戦姫予測シンフォギア 〜未来へのREAL×EYEZ〜 (絆蛙)
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総集編
原作前 総集・・・編・・・?


「どうも皆さま。おはようございます。こんにちは。こんばんは。どの時空、どの世界、どの時間、あなた方は一体いつ見てるのでしょう? ふふ・・・えぇ、そんなのはどうでもいいのでしょうね」

 

ある()()()()空間にて、一人の少女がくすくすと笑いながら立っていた。その少女の容姿はとても可愛らしく、小学生と見間違えるほどに小さい。外見年齢的には、小学3〜5年生くらいだろうか? 

服装としては紅色と薄紅色の市松模様の着物を着ており、ミモレ丈スカート位の緑色の女袴(おんなばかま)---行灯袴(あんどんばかま)を履いている。さらに見えにくいが、着物の下には着込まれているのか襟元からフリルデザインらしきものが見え、長袖なのか袖口から袖が見えていた。さらにクリーム色のフリルエプロンをその上から身につけているのが特徴的だろう。

そしてその少女は赤い瞳に、鈴の飾りを着けたツインテールのオレンジ色の髪を持つ少女だった。

何よりも、手には()()()()()が大事そうに抱えられている。

 

その視線は何処か前を見ておらず、まるで()()()()に話しかけている。

否---そうとしか思えない。

彼女は一体何者なのか、それは---

 

「あぁ、私のことですか? それは今知る権利はありませんよー。あなた方にとってはいつかの未来(みらい)、私を知ることでしょうから」

 

少女は見た目から想像出来るような可愛らしい声と共に、まるで分かっていたように、先回りして答える。

 

「分かってますからねー。ふふ、このまま()()()()で私を表現するというなかなかに面白い方とお話するのもいいですけど、今は()()()()()()()のお話をしましょう。先ほど、彼の過去を知ってお話したくなったんですー」

 

クスクス、と笑ったのちに少女が言ってくる。

 

どうやら少女は見た目に反して色々と詳しいようだ。

彼、というのはこれから話すはずだった一人の男性のことなのだろう。何故彼女がそれを知っているのか分からないが、任せる方が賢明なのかもしれない。

 

「一言多いですよー。まぁ、いいです。それじゃあ、お話しましょうか。ある世界に存在する、とてもとても面白い一人の物語を---」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある所に、感情を持たぬ一人の少年が居ました。

いつも独りで、孤独で、周りから怖がられていて、虐められて、それでも無感情で瞳に何も映すことなく感情を理解することすら出来ないまま生きていた一人の少年が、確かに居たのです。

容姿は悪くなく、どちらかといえばかっこいい、に分類されますね。黒髪に黒目の少年でした。

その彼の名は、『アルト』。それが本当の名なのか知るものはいませんし、苗字を知る者すらいないでしょう。

 

---なぜなら、本人ですら知りませんからね。つまるところ、記憶喪失です。

 

ただ、それでも一つ、おかしいことがありました。

彼の家には、銀と赤の矢印型の装飾、右側に環状の黄色パーツが付いていて、横にスロットのようなのがあるグラフィックボードみたいな物体。

2が描かれている同じような物体。明らかに異質な物体が一つあったのです。

他にもこの物体に使用するらしきもの、長方形のようなモノが()()ありました。

 

「この時の彼には、それが何なのか分かってませんでしたが、記憶喪失なので仕方がないでしょう。後に物体は二つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を使うことになりましたよ。ある事件を機に、ね」

 

 

 

 

 

話を戻すとして、そんな彼と深い関わりを持つことになるのが『立花響』と『小日向未来』。そしてこの世界にとってのイレギュラーな存在である『石動惣一』という男性です。

 

 

 

「イレギュラーな石動惣一ですが、正体は皆さまもご存知ではないでしょうかね? ()()()()から来た、()()()()()()()からすると、とてもとても迷惑極まりない存在ですもの」

 

 

 

 

 

 

そんな立花響と小日向未来が高校一年生と仮定すると、六年前です。計算的には、小学四年生の頃になります。

その時にアルトが立花響と小日向未来が通う小学校に転校してきて、三人は出会いました。

出会いは突然で、最初は立花響が猫を助けようと木登りした時。落ちた猫を抱えて大怪我をすると思われた立花響を庇うように、アルトが下敷きになったのです。

それによって怪我をしたアルトは病院送りとなったのですが、それが最初の出会いでしたね。

 

 

 

 

「果たして、その時からなのでしょうかね? え? 何が? ふふ、今は知る必要はありません。さて、次に行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

二度目の出会いは、小学校となります。

同じ年齢で同じ学校ともなれば、クラスが違えど出会う可能性はあるでしょう。

運命という力は強いもので、その時は同じ学校と知らなかった立花響と小日向未来でしたが、再会してしまいます。立花響が廊下でぶつかった時ですね。

他の生徒とは違って、子供らしさの欠片もない妙に大人びたアルト。

しかし、能面でした。本当に()()()()()ように。

 

とにかくも、アルトと再会した立花響と小日向未来は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で誰かを巻き込まないようにする、不器用な優しさを見せる彼と話すようになり、自然と仲良くなっていきます。

三人は家が近いこともあって、一緒に遊んだり出かけたり、石動惣一のカフェでご飯を食べたり飲み物を飲んだりしていました。

 

 

 

 

 

「さて、ここで一つ、重要な話を挟みましょうか。それはアルトと立花響、小日向未来が海へ行った時です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海へ遊びに行った時、何処までも青く、洪波洋々(こうはようよう)と広大に広がる海。上を向けば、鮮やかな空。下を見れば鮮やかな海。さらに雲一つないと言えるくらいに晴れていたり、その影響で真夏特有の眩い太陽の光が、海の水に反射しています。

海ということもあり、風に乗ってくる潮の香りやら焼けた砂浜もあるのにも関わらず、彼は()()()綺麗だと感じる海の景色に目をくれず、パラソルやクーラーボックスなど設置していました。

 

「まぁ、それから海で泳ぐことになって彼が泳げないと知ったり、知った二人が泳ぎを教えて短時間で覚えるなどあるのですが、そこはどうでもいいので一気に飛ばしましょう。次に話すのは、海から帰る時の話になりますよー」

 

 

 

 

 

海から帰宅する前、彼は突如として遊んだ後でも元気よく、明るく話す立花響を()()と表しました。

それに合わせるように、今度は立花響が小日向未来を()()()()と表したのです。

では、彼は? それはそれは、とても簡単でした。

彼女たちは彼のことを、()()と例えたのです。陽だまり(小日向未来)を守り、太陽の輝き(立花響)を守る()()、と。

普段から優しくないと無表情で否定しつつも、お人好しな彼。すぐに二人以外も手助けする姿に、二人はそう例えたのでしょうね。

 

「ええ、彼は彼女たちの希望となったわけです。そう、ここが重要なポイントですよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、平和な日常がいつまでも続くと思われた時---事件が起きました。

 

 

 

 

 

その事件こそが、世間を動かし、一時的に話題で持ち切りとなっていたあるライブです。

誰の記憶にも残る、忌々しい記憶。多くのものに傷を残した、とてつもない事件でした。

生存者たちからすると、トラウマでもある日---つまり、ツヴァイウィングという人気ユニットの公演日だったのですよ。

ここは簡単に述べさせて貰いますが、小日向未来は用事で行くことが出来ませんでした。アルトと立花響はそのライブに客として来ていましたけどね。

その時、猫を追って列から抜けたアルトが立ち入り禁止と書かれた区域に入り、ツヴァイウィングの一人である『天羽奏』と出会い、話したりするのですが、ここではいらないでしょう。

知り合いになった、と覚えていただければ、ね。

 

さてさて、それで無事に会場へ帰ることが出来たアルトはツヴァイウィングのライブで一曲目である『逆光のフリューゲル』を見ました。

そこで次の曲へと移行しようとした時に突如爆発とともにノイズが発生しました。

それはネフシュタンの起動実験というものなのですが、この時には『特異災害対策機動部二課』という組織に入っていない立花響には分かりません。

もちろん、アルトは存在自体知りませんが。

 

そして突然の爆発に呆然としていた立花響はアルトに引っ張られる形で逃げます。

ですが、アルトは立花響だけを人混みに入れることで逃がそうとしました。彼なりの約束、『後悔しても知らない』ということを言った際に、『その時はアルトくんが守ってね』という立花響の言葉と『男の子なんだもの。女の子二人くらい守ってよね』という小日向未来の言葉を覚えていたからかもしれません。

 

それよりも、アルトは一人だけツヴァイウィングの二人がシンフォギアというものを纏い、ノイズという災害と戦う中、彼だけは大勢の人々を助けながらノイズの攻撃を避けてました。

 

 

 

 

「そういうところ、面白いですよねー。まさか、本当に自分を勘定に入れてない行動をしたり、ノイズの攻撃を()()して避けてるんですもの。その姿はまるで---こほん。秘密ですよー」

 

 

 

 

 

ですが、立花響が人混みから抜けて向かった時には、彼女の存在に気づいた彼は頭から血を流しながらも、胸に入れている猫と響の手を引っ張って再び逃げようとします。

しかしノイズが通り過ぎた時に破壊された会場の建築材料が、破壊された時の衝撃で凄まじい速度でアルトを傷つけたのです。

立花響はアルトが投げ飛ばしたことで、猫はその時に渡したお陰で傷つくことはありませんでしたが、この時には既にアルトはかなりの出血をしていました。

なによりも、右足と左肩には柵が突き刺さっているのですからね。

そしてそれだけではなく、立花響の足元が崩れるとボロボロなのにも関わらずアルトは助けようとし、彼の足場まで崩れた際には自ら下になって立花響を庇ったのです。

それから二人に迫ったノイズを天羽奏が倒し、大型ノイズの動きを止めている間に逃げようとした立花響の胸に天羽奏が持つガングニールの破片が突き刺さったのでした。

 

 

 

 

 

 

そこから彼は、意識が失った立花響を出口近くに座らせ、絶唱を歌おうとしていた天羽奏を止めるためにボロボロな肉体に鞭を打って、『仮面ライダーゼロワン』の『シャイニングアサルトホッパー』という形態に変身してもう一人のツヴァイウィングの風鳴翼と一緒にノイズを倒した訳ということです。

 

 

 

 

「んー♪ 初戦闘で一度も攻撃を受けることなく圧倒するなんて凄いですよね、強すぎますよね。それも彼の()()なのかもしれませんねー。まぁ、『シャイニングアサルト』という形態になっていたから、というのもあるんじゃないですかね? ですが、代わりに・・・ふふふ」

 

 

 

 

その後、変身を解いた彼は置いてきた立花響の元へなんとか戻り、生きてるか確認した後に立花響を守るために崩れゆく瓦礫から身を呈して守ったのです。

天羽奏と出会う前にアルトが捕まえ、足を応急処置してあげた猫が鳴き声で場所を知らせ、ツヴァイウィングの二人が病院に運びました。それがなければ、間違いなく見つけることは出来なかったでしょう。

少なくとも、片方は死んでいたでしょうね。

そして普通なら死んでいても不思議ではなかったはずの彼ですが、生存し、立花響も目を覚ましました。

彼が目覚める前、ボロボロな姿を見て小日向未来は自身の恋心に気づきましたが、それは軽くだけ言っておきます。

あまり乙女の心を暴露する訳には行きませんからね。

 

そして恋心については関係なく、ライブでの出来事は自分が悪いというちょっとしたすれ違いが立花響と小日向未来、アルトの三人の中で起こっていたのですが、石動惣一の介入もあって無事に仲直りして終わりました。

 

 

 

「という訳だけで終わらないんですけどねー。残念ながら、本番はここからなのです。なかなか()()()()()()んですよねー。くすくす・・・所詮多くの人間はそんなものですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例の事件、ライブ会場に居合わせた10万人のうち、死者・行方不明が『10201』人にのぼる大惨事。

問題はそこではなく、その後に起きた事件---()()()()()()()()()()()()でした。

立花響は精神面的に追い詰められ、アルトは肉体共々、追い詰められてしまいます。

しかし、当のアルト本人は慣れているお陰か虐めに関しては全く気にしていませんでしたが、立花響にとってはそうではありません。

何度も追い詰められ、その度にアルトが立花響を助けます。

小日向未来が助ける時もありましたが、誰よりも近くで立花響を守っていたのはアルトだったのです。

悪意によるバッシングは激しく、学校では生徒と教師ですら。家では知らない人達までも立花響たちの家族にバッシングを向けていました。彼には家族が居ないので、せいぜい肉体が傷つけられるか家の窓ガラスが割られたり悪意ある言葉が書かれている紙を貼られるだけでしたけどね。

そして一番の事件は、後に起きました---。

 

 

「あぁ、そうでした。ちなみに、この時よりも前から彼はノイズと戦うようになっていますよ。病院で目覚めた時から、戦っています。立花響が虐められてることが分かったのも、ノイズの位置が分かるのも、()()()()()したからなのです。ノイズの場合は、襲われた人々の恐怖ですけどね」

 

 

ただし、ノイズを倒して人助けした彼に向けられる言葉は感謝ではなく、批判や暴言、罵倒、怨言---簡単にいえば、悪意ある言動しか取られなかったのです。

そして彼は悩みました。戦う目的も理由も、守るべきモノすら分からない自分はなんのために戦えばいいのだと。

感情のない彼には、とても難しいことなのでしょう。『歴代の仮面ライダー』を継ぐ新たな戦士として、他の仮面ライダーのようにどう戦うべきなのか比べたのかもしれませんね。

それでも、彼は()()()()()()()()()()()()()()()戦い続けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、それでは立花響の家族が失踪したあとになります。

既に肉体面で限界を迎えそうになっていたアルトが姿を消してしまいました。

 

その理由はとても簡単。

立花響や生存者たちを守るために己を()()()()()とするためにアークゼロに変身し、情報操作を行うことで悪意を一気に()()()()()()()()()()()()に向けたのでした。

彼はこのままでは長くなく、同時に立花響の精神も危ういと踏んだのです。

一度自分に対して吐かせることで、立花響の精神の消耗を減らしたのですが、時間稼ぎに過ぎないと理解していました。

だからこそ、小日向未来に立花響を任せ、最後に石動惣一に二人を守るようお願いしてから、彼は消えたのですね。

 

「おっと、忘れてました。限界を迎える前、三人はとある約束をしたのです。小日向未来は流れ星を三人で見ること、立花響は三人で居ること、そしてアルトは夢がないため、夢を見つけることを目的にして、いつか教えるという約束をしました。残念ながら、叶うことなく姿を消してしまったようですけどねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにですが、立花響たちがアルトが消えたことを知ったのは、次の日です。

いつもは立花響の家に集まるマスコミが一切居らず、その時は立花響は気にしていませんでした。

立花響が気づいたのは、母親からの言葉。アルトという名前が出た時には外に出て、小日向未来と合流。

事情が分からないまま、心配が先走ったようで、アルトの家に向かうと、そこに待っていたのは燃え盛るアルトの家でした。

その時は突撃しようとした立花響を小日向未来が何とか止めましたが、冷静になってから真っ黒に全焼したアルトの家に入ると、残っていたのは何も無い空間。

そう、アルトの存在は---何処にもなかったのです。死体すら見つからず、捜索が打ち切られて行方不明に。

最後に立花響はそこで小日向未来の言葉により、自身の恋心に気づいて小日向未来とともに立花響は彼を探す決意をしました---。

 

 

「ここでひとつ重要なのが、小日向未来は()()()()()()()を拾います。さてさて、これが必要となることはあるのでしょうか〜?」

 

 

 

 

 

()()()()として認識させたアークゼロは、森の中を()()()()()のように彷徨います。

まるで力尽きたように倒れたアークゼロは、両腕には包帯を巻かれ、頭にも包帯を巻かれていて、()()()()()()の少年に戻りました。

ここでは敢えてアークゼロと表させていただきますが、()()()()()()()()()を地面に発生させながら、アークゼロは自分自身が誰なのか分かりませんでした。

何故かボロボロで、血を吐く姿。記憶すらなく、なんのために存在しているのかすら分からない。

そのまま彼は森の中で一人彷徨い続けるのか死ぬのか、と思われた時---たった一人だけ女性が近づいてきます。

黒髪で長髪の赤いメッシュが入っている女性、その女性の名は『アズ』と言うようです。

 

 

「彼女は、彼の存在を()()()に知ってるんですよね〜。そして、『運命を変えにきた』と。ただ言えるのは、彼女は彼、アークゼロに惚れている---それだけは()()言えます。さてさて、それもこれも、どうしてなのでしょうかねー?」

 

ふふ、と無邪気に、純粋に笑う少女の姿は、傍から見ると、とてもあどけないだろう。

しかし、いくらなんでも()()()()()()()()()()()()彼の過去についての内容を話した彼女は詳しすぎる。

仮に未来(みらい)から来た少女だったとしても、そこまで知っているはずがないのだから。

それ以外にも、まだ含みを持たせている様子もあり、ますます彼女の存在が謎になっていく。

 

「えー? 私のことですかぁ? さてさて、私は何者なのでしょう! ()()()()で私を眺めてるお人っ?」

 

ただ一つ、言えることは---誰もがわかったはず。

彼女は()()()()()()()()()ということだ---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「あはっ」

 

自然と笑みが浮かぶ。

彼の過去のひとつ、彼の起点、彼の始まり。彼の選んだ分岐点のひとつ。彼の選択。彼の運命が大きく動き出した日。

彼の仮面ライダーとしての人生、彼の存在、彼の記憶、彼の性格、()()()()()()()()()()彼の言動、様々な要因に自然と笑みばかりが浮かび上がる。

 

「あはは。あはははは!」

 

同時に思う感情が二つほど---。

 

楽しい。楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい。タノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイタノシイ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイオモシロイ、ホントウニ---オモシロイッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハ、アハハ、アハハハハハハハハハハッ! もっと、もっともーっと私を楽しませてね。()()()()()()()()()♪ 退屈なんてさせたら---あっさりと殺しちゃうんだから♡ でも、殺さずに()()()()()()()()()傍に居させるのもありだなぁ・・・♪」

 

ふふん、と鼻歌を歌いながら、これからの彼の姿を思い浮かべると、必ず楽しませて貰える、という確信と連れていくのもありかも、という思考が私の頭を占める。

どうせ殺しても彼は特に良いリアクションをしないだろうし、なにより、その方が---オモシロイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふふ、これからも期待してるよ? せいぜい、失望させないでね? さて、それじゃあ・・・もう一つの記憶を見ようかな。姿を消したあとの姿を、アークゼロとなった後の話を、ね。あはっ、あなた達もどう? 一緒に見ない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネエ? ワタシヲ、マダミテルカタガタ・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇???
小学3〜5年生と思われる年齢と身長で、身長はだいたい135〜140cmほどと思われる。
紅色と薄紅色の市松模様の着物を着用し、ミモレ丈スカート位の緑色の女袴、行灯袴を履いている。
着物の下に着込まれているのは実際のところは、襟元と胸元や前面のフリルデザインが特徴的なゆったりとした桜色の長袖を着ており、腰部には薄ピンク色の紐で絞られている。
さらにクリーム色のフリルエプロンをその上から身につけていて、まるで店番の格好だ。
そして赤い瞳に、鈴の飾りを着けたツインテールのオレンジ色の髪を持つ少女である。

     ↑
※イメージ容姿は『東方Project』の『本居小鈴』です。
春河先生のをイメージしました。画像はガイドライン引っかかるらしいんで、分からない人は調べてみてください。
ちなみに作者は紺珠伝までしか知識にないです。
  


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特別編
メイドの日



書きたくなったから二、三時間くらいで高速で書き上げた小説です。対して見直しもしてませんが、特別回ということで---。
メイドの日は終わってる?一分ぐらい誤差だ、気にするな。





 

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」

 

「お、お帰りなさいませ!ご主人様・・・ッ!」

 

「・・・ガリィの仕業だな?」

 

「なんでそうなるッ!」

 

用事を済ませ、しっかりとテレポートジェムで帰ってきたシンはメイド服を着ているアズとセレナを見てため息を吐き、犯人であろう人物に視線を向けていた。

視線を向けられたガリィは心外、とも言うように顔を歪ませ、怒鳴りつけた。

 

「いや、普段のガリィからしてやりそうだったし。違ったんだったら悪かったな」

 

「当たり前だろッ!そもそもどうしてあたしたちまでやらされないといけないんだよ・・・」

 

「素が出てるぞ。・・・でも、確かにそれもそうだな」

 

シンが見渡すと、オートスコアラーの面々もメイド服やらそれっぽいものへと変わっている。

しかし、シンは何故こうなってるのか分からず、首を傾げるしかなかった。

 

「もー、アークs・・・ご主人様?無視しないでよ〜」

 

自分たちの相手をせず、ガリィと話していたシンに頬を膨らませたアズは腕を引っ張る。

シンが気づいてそれに謝ろうとすると、再びもう一つの腕を引っ張る感触に視線を向けた。

 

「し、シ---ご主人様。どう、でしょうか・・・?」

 

顔を赤く染め、身長差的に上目遣いで見つめる形になってしまうセレナ。恥ずかしいのか、名を呼ぶ時の言い方は何処かたどたどしい。

 

「あぁ、二人とも似合ってると思うぞ?ただ、なんでその格好をしてるのかオレは聞きたいが」

 

因みにだが、アズのメイド服はクラシックと呼ばれる一般人がよく目にするメイド服であり、セレナはミニスカのメイド服だ。

 

「ご主人様は知らないんだ?今日は五月十日、人々の間ではメイドの日って言うらしいわ。日本記念日協会には認定されてないけどね」

 

「それでやってみた・・・と。なるほど、そういう記念日に乗るのは自由だからな。オレは記念日とかその辺には疎いし、知らなかったから少し驚いたよ」

 

「じゃあ、大成功ね。あ、ガリィやみんなもありがとう」

 

ふふん、と嬉しそうに笑ったアズは、協力してくれた面々に感謝を述べる。

 

「なら、あたしはもう行くわ。わざわざメイド服見せに来たわけじゃないし」

 

「なんか悪いな」

 

「別にいいわよ。興味がなかったわけではないもの」

 

そう言って、踊るように去っていったガリィを見送る。

 

「・・・私たちも地味に行かせてもらおう」

 

「では、シンさん。ごゆっくり」

 

「う〜これ動きにくいんだゾ・・・」

 

「ミカ、気をつけて」

 

すると、ガリィが去っていった後に次々とオートスコアラーたちはどこかへ行く。

シンが思い出の摂取に関しての問題を解決しているため、待機することなく自由に動けることからそれぞれ自由な行動を取っている。もちろん、何もかもが自由というわけではないのだが。

 

「ご、ご主人様っ!」

 

「ん?」

 

オートスコアラーたちを見送っていると、いつものように自然と隣に居て腕を絡めているアズを視線から外して声が響いた方---セレナの方へと視線を向ける。

 

「あ、あの、えっと・・・そ、そのぉ・・・」

 

そんなセレナは顔をぽふっと音でも鳴ったかのように瞬時に真っ赤に染め、もじもじと躊躇うように指を動かしている。

 

「ほら、セレナ。頑張って、ね?」

 

そんなセレナに苦笑いしたアズがセレナの背後に行き、支えるように両肩に手を置く。

 

「・・・よく分からないが、無理はしなくていいからな?」

 

とりあえず、と言った感じでシンが呟くと、覚悟を決めたように首を左右にセレナが振る。

 

「い、いえ・・・申し訳ございません、ご主人様。あの・・・わ、私なんかで良ければ・・・あの、えと・・・」

 

「・・・・・」

 

頑張って、と応援するアズの声が聞こえているのだが、シンは聞かなかったことにしながらセレナを見守る。

 

「あ、朝までご一緒させて頂いても・・・よろしいでしょう、か?」

 

「・・・あぁ、そうだな。じゃあ、今日は一日付き合ってくれ。ちょっと忙しいし、な」

 

「は、はいっ!ご主人様のメイドとして、精一杯頑張りますね!」

 

ぱあぁっと嬉しそうに満面な笑みを浮かべるセレナ。

対するシンは、ほっと安心していた。主に選択を間違えなかったことに対して。

流石に彼もこういう時に『いつも一緒に居るだろ?』などと言った無枠な発言はしなかった。

 

「あ、私は明日頑張るから。明日は任せてね、ご主人様♡」

 

「・・・終わってないか?それ」

 

「いいのいいの。ちょっとくらい、ね?」

 

「まぁ、好きにしたらいい。記念日とはいえど、決めるのは自分たちだし、二人がいいなら特にな。・・・流石に毎日その格好は外に出る時困るからやめて欲しいが」

 

仮に出たらと考えると、間違いなく注目を浴びるという考えがシンの脳内に浮かぶ。それどころか、身内贔屓を抜いたとしてもアズとセレナの容姿は間違いなく優れている。セレナは姿が子供とはいえ、()()()歳上だし、美人になることは想像に容易い。そんな二人が外で一緒に歩いたりでもしたら、ただでさえ注目になりやすいのに完全に注目の的になる。

それは出来れば勘弁願いたい---とシンは表に出さないようにしながら思う。

 

「さ、流石に今日だけ、です。それに見せるのはシンさんだけですし・・・

 

「私は今日と明日だけ。外に出る時は着替えるから安心して?」

 

「・・・? そうか。そういえばキャロルは?エルフナインも居ないようだが」

 

セレナの声が最後まで聞き取れずにシンは首を傾げるが、アズの言葉に頷き---この場に居ない人物を思い出して聞いた。

 

「エルフナインはまだ見てないけど、キャロルなら・・・『着るかッ!』とか言って作業に逃げてたわ」

 

「だろうな・・・。とにかく、オレもキャロルの所に向かうことにする。セレナ、来てくれるか?」

 

「は、はい!一日だけですけど、ご主人様のメイドですから、何でもご命令くださいね!」

 

「私は邪魔したら悪いし・・・うん、料理とか諸々任せて」

 

「分かった、なら頼む」

 

「うん♡」

 

シンがアズに近づいて頭を撫でると、アズが嬉しそうに微笑んで部屋を出ていく。その姿を見送り、セレナに視線を送った。

 

「行くか」

 

「そ、そうです---承知致しました!」

 

「・・・慣れないなら、無理はしないようにな」

 

「だ、大丈夫です」

 

セレナの返答にシンはそうか、と呟くとキャロルが居るであろう場所へと向かっていった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何故オレがこんなことを」

 

和ロリと呼ばれるメイド服を着てみたキャロルは、頭を振る。

 

「やめだ。日本の文化とやらに興味はあったが、これは必要ないはず」

 

すぐに着替えようという思考に至ったキャロルは、誰も居ないうちにいつもの服へと着替えようとする。

しかし、すぐにノック音が響いた。

 

「キャロル、入るぞ」

 

「なっ・・・!?」

 

すぐに声に反応し、キャロルは時間を確認する。すると、帰ってくると言っていた時間にちょうどなっていた。

慌てて『開けるなッ!』と口にしようとするが、時すでに遅し。扉は開かれる---

 

「きゃろ・・・る?」

 

「・・・・・・」

 

開け放たれた扉の外には、見た瞬間に申し訳なさそうな表情をするシン。一方でキャロルは無言となっていた。

 

「あっ・・・その格好、とても似合ってますよ!可愛いですッ!」

 

「・・・な」

 

「・・・な?」

 

素直にセレナが褒めると、キャロルは何かを呟き、シンが首を傾げる。

 

「返事も待たず開けるやつがいるかッ!それに、お前は見るなッ!」

 

即座にキャロルが手のひらから錬金術を発動し、火と風の混合技がシンに向かって飛んでいく。

 

「あ、ちょっ!?」

 

気づいたシンが慌ててセレナをオーラで包み込むと、ガードが出来ずに吹き飛んでいった。

その時、僅かに顔が赤くなっていたように見えたのだが---シンは火がそう見えただけだろうと思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---おまけ----

IFルート、アルトくんと幼馴染。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・待て、何があった」

 

「えへへ、どう?似合う?今日は私が作ってみましたッ!アルトくんのために頑張って練習して頑張って作ったんだよ?ほら、あーんしてあげる♡」

 

「いや、似合う、とは思う。でも、その格好---ご飯は、有難いが・・・」

 

「あぁ、これ?メイド服って言うんだよ。お召し上がりください、ご主人様---なーんてね♡」

 

現在、アルトのリビングにある机の上には、美味しそうな料理の品々と何故かメイド服を着ている響という状況だった。

 

「・・・そうか。なら、いただきます」

 

色々と聞きたいこと、分からないことがあったアルトだが、彼が出した結論は諦めるということだった。

もはやよく分からないことに慣れすぎているのか彼の思考は、考えるのをやめていた。それよりも、空腹となっている腹を満たす方が大事だと判断したのだろう。

 

「あ、待ってね。はい、あーん♡」

 

「・・・むぐ」

 

口元に持ってこられた箸にあるおかずを食べる。今日はハンバーグらしく、肉特有の肉汁が彼の口内に溢れる。

箸があるのに、何故食べさせられているのだろうかという思考が一瞬だけアルトの脳裏に過ぎるが、結局深くは考えずに持って来られたら食べる、という動作を繰り返す。

 

「美味しい?」

 

「ああ」

 

「よかった。えへへぇ・・・♡」

 

嬉しそうに微笑んだかと思えば、突如顔を赤めながら蕩ける響に首を傾げるが、自分で食べていいと判断したのかアルトは自分自身で食べることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---だから、気づかない。響の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルくん、おかえり」

 

「・・・お前もか」

 

響が午後から訓練があるからと着替えてから渋々帰り、しばらく外出して帰宅したアルトは、またしても何故かメイド服で居た未来に何処か呆れた様子を見せる。無表情なのだが。

 

「どう・・・かな?」

 

「・・・似合ってると、思う」

 

無難な返答をし、靴を脱いで室内へと完全に入る。

 

「そっか・・・フフ、嬉しい♡」

 

「・・・ん」

 

無難な答えにも関わらず、嬉しそうな表情で笑みを浮かべた未来は、一緒にリビングへと向かい、向かい合わせに---座らず、アルトの隣に座った。

 

「さっきまで響が来てたんだよね?」

 

「ああ。未来は行かなくて、いいのか」

 

「うん、私は今日はお休みなんだ。もっと早くに来れたら響と会えたんだよね・・・残念」

 

「引き留めるべき・・・だったか」

 

「ううん、平気。仕方がないしね。それに---」

 

アルトの言葉に大丈夫だと言うと、一度言葉を区切る。

アルトは顔を未来に向け、首を傾げた。

 

「---アルくんと二人っきりなれたから♡」

 

「・・・そうか」

 

未来に対して、アルトは喜んでるならいいか、と思いつつ相槌を打つ。

 

「アルくん」

 

「・・・なんだ」

 

「命令、して欲しいなぁって」

 

「何故・・・命令?」

 

「だって私、メイドでしょ?だったらアルくん---ご主人様に命令されたいなぁって。あ、誤解しないでね?誰でもいいってわけじゃなくてアルくんのしか聞かないから」

 

何処か納得させられる言葉を言われ、アルトは突然言われたことに悩む。ない、と言えば良いのだが、お人好しであるアルトは普段からお世話になっている未来のお願いは無碍には出来なかった。

 

「・・・寝るから、何かあったら起こしてくれ」

 

「そんなことで---ううん、分かった。なら、はい♡」

 

あまり迷惑掛けたくない---と考えたアルトは、お腹が膨れたのもあって僅かに眠気はあった。そのため、特に何もなさそうなのを言ったのだが、何故か膝を開けてポンポンと叩く未来にキョトンとする。

 

「膝枕、だよ?ご主人様を床に寝させられないし、この方が起こしやすいでしょ?」

 

「いや、でも・・・痛くなる、かもしれない」

 

アルトは自分の部屋に帰ればいい、という思考にも至るが、結局部屋に入ってくるだろうということが想像出来たため、言わなかった。

 

「大丈夫。それとも、私がする膝枕は嫌・・・?」

 

「・・・・・」

 

何処か悲しげな表情をされ、そこまで言われてしまえばアルトは断ることが出来なくなる。そのため、断念して素直に膝に頭を置いて寝転ぶことにした。

 

「わ・・・ふふ、ゆっくり休んでね」

 

「・・・ああ」

 

アルトは最後に笑顔でそう言った未来に頷き、目を閉じた。

未来はそんなアルトの頭を撫で、暫くするとアルトの静かな寝息が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---アルくんは可愛いなぁ、もう。もっと別のことでも良かったんだよ?例えば、エッチなこととか。アルくんが求めてくれるならいくらでもするし、私から襲ってもいい。それなのにこんなことでいいだなんて、本当に優しいよね。だからこそ、私が居ないとダメなんだ。アルくんは優しいしかっこいいんだもん。だからすぐに()が寄ろうとするってこと分かってるのかな・・・。アルくんの事だから、他人の為なのは分かるけどね。・・・()()()()なのは嫉妬はしちゃうけど・・・でも、そういうところも私は好きだよ。だから私が出来る限り()()()()()()はさせないから、安心して。私がアルくんを他のヤツらから守るから。その時は、ご褒美をくれるかな?撫でてくれるだけでもいい、優しい言葉を掛けてくれるだけでもいい、それだけで私は頑張れるの。だからずっとずぅっと私が守ってあげるから、心配しないで?-----あぁ、でも、それにしたって本当に良い匂い・・・♡少し汗かいちゃった見たいだけど、汗の匂いだけでドキドキさせられる・・・フフ、今だけ。今だけはこの匂いも、感触も、声も、顔も、全部全部全部全部---私だけのなんだよね。それに、安心して身を委ねてくれてるのも嬉しい・・・。エヘへ、これからもずっと、ずっと私が居るから・・・安心して居てね?アルくん♡絶対にこれからもナニガアッタッテモ、ダレニモワタサナイカラ・・・♡」

 

未来はアルトの頬に一度だけ口付けを落とし、愛おしそうに撫でながら見つめ続ける。

しかし、それ以上のことはしようとせず、ただ見つめるだけだった---

 

 

 

 

 

 







えぇ、途中からメイドから遠いた気がしますが、メイドの日です。因みに、IFルートは分かる人は分かったと思いますが、一期は終わってます、というか二期と三期も終わってるかもしれない。
メイドのはずがヤンデレになってしまった・・・誤差だな!!


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原作開始前 希望(ゼロワン)への覚醒
第一話 カレは一体何者なのか



ほーん、ゼロワン映画Twitterで調べたら検索一覧に『最高』とか出てるじゃん。まぁどんだけ良くともゼロワンロスにはならないしな、どうせ(視聴前)


(視聴後)うぉぉおおおおお!?なんだあの展開!クッソ良いじゃん!やべえ!余韻が凄い!Blu-ray絶対買うわ!!(Twitterでネタバレせずに感想たくさん書く)

(新年明け)はぁ・・・最悪だ・・・ゼロワンドライバー買うべきだったなぁ・・・ゼロワンロス凄い・・・とりあえず小説読むか・・・(ゼロワン二次創作好きな内容の全然ないなぁ)しゃあない、暇じゃないけど暇だからFate読も・・・ゼ ロ ワ ン め っ ち ゃ 書 き た い (今)
待て、Fate読も、から何があったんだ俺!?とにかく!ゼロワン映画見てから書きたくなったので書きます!あくまで趣味なので!ゼロワンロス抑えるためなので!頑張ります!!!

因みにオリ主なので、仮面ライダーはオリジナル(特撮本編の変身者)じゃないと嫌!って方はバック推奨します




---少年には、幼馴染が居た。

 

その幼馴染はとても大切な、二人の少女だった---

 

その少女は、陽だまり、とても暖かく、居場所であって帰る場所。

 

その少女は、太陽。陽だまりを照らし、光り輝く太陽。

 

そして、少年は---■■から■■となった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に意識が浮上してきた時、少年には記憶がなかった。いや、正確には()()()がなかった。なぜなら言語や、一般常識、金銭などは分かる。そして、家に何があるのか、などそういったものは記憶に残っている。

だが、思い出がないということは両親が誰かもわからず、自分自身の名前さえ分からない。

だから少年は自分自身で名前を名乗ることにした。

家に残されていた名前---そう、少年は自分自身のことを『アルト』と名乗ることにしたのである。

 

だが、名前を考え終わったあと、少年は考えた。『何故自分がここに居るのか・・・そして、何故学校に行ってないのか』と。

 

なによりも---少年が気になったのは目の前のテーブルに置かれている銀と赤の矢印型の装飾、右側に環状の黄色パーツが付いていて、横にスロットのようなのがあるグラフィックボードみたいな物体だった。

それだけじゃなく、2が描かれているさっきと同じような物体、明らかに異質な物体が一つあった。

他にもこの物体に使用するのか長方形っぽいモノが()()ある。

当然、()()を少年は何も知らない。何かの玩具なのだろうか、そんな程度だ。

だが、何故かその少年は異質な物体・・・黒色で、赤い目玉のような、それでいて血管のような装飾のモノは危険だと、そう感じた。

何故なのかは分からないし、理由はない。ただ、()()()()()のである。

 

分からないものは仕方がない、と少年は思考をバッサリ切り捨て、持ち歩くことにはする。目の前にあったということは、きっと大切なものだから。

 

兎に角にも、少年は何も分からない。家族も居なければ、知り合いの記憶もない。そもそも何をすればいいのかも分からない。

だから少年は---学校に行くことにした。

そう、何を隠そうかこの少年、頭は良かったのだ---それが、少年の幸運だったのかも知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月日は流れ、少年は『アルト』としての生を過ごして行った。彼は持ち前の頭の良さのお陰か、生活に苦労することは無かった・・・いや、正確には家事が下手でもなんとか出来たのだ。支払いに関してはあった金のおかげで全然問題ないものの、家事はそんな得意なタイプじゃないらしい、と少年は気がついた。

 

そして、少年にとっては学校が一番の問題かもしれない。何故なら、誰も彼には関わらず、近寄らないのだ。

別に彼の容姿が酷いというわけではない。むしろ、彼はカッコイイに分類されるタイプの人間だ。

ならば何故か? それは周りと少年自身が原因だろう。

彼は頭は良い、なぜならテストでもどんな問題でも一瞬で答えられるから。だけども、彼は頭が良いだけで、何を隠せば良いのかなんて分からなかったのである---ここで、彼の転校したばかりの挨拶を振り返ろう。

彼は、挨拶の時にこういった。

 

「今日からこの学校で一緒に学ばせていただく『アルト』です。よろしくお願いします」

 

これだけなら良い、問題は次である。

 

「なんで苗字がないの?」

 

と、誰かが言った。理由が分かる先生は、止めようとしたものの、素直に答えてしまったのだ。

 

「両親が居ないから」と。そうして彼は、孤児として学校中に知られてしまい、誰もが彼に遠慮してしまったわけである。

だけども、彼は気にしない。いや、そもそも彼に関わらない理由はもう一つ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼には()()がない。

 

例えば、虐め。彼の味方が居ない環境、それに優れた容姿的に狙われても可笑しくない。だから狙った者は当然居た。バケツで水をかけたり、上級生ならば実力で。さらに靴を隠したりノートを破ったり・・・そんなことをされても、彼は無表情。

何も感じず、何も言わずにただただ不気味な存在としてしか周りには映らなかったのだ---つまり、機械のような、人形のような、人ではない()()()にしか見えないほどに不気味過ぎて虐める方が逆に恐怖を感じて辞めてしまうわけである。当たり前だ、人間というのは理解出来ないモノに恐怖を感じるのだから。

 

しかし、この辺りはどうでもいいだろう。彼だって他人に自分がどう思われてようが、他人に一切興味を持たず、頭の中からバッサリと他人に対する思考を切り捨てていたのだから。

それに、彼の運命が大きく回り出すのは数年後なのだ---

 

 

 

だが、彼に変化が訪れる日はそう遠くなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、何年も経った。彼は既に上級生。もうすぐ中学生の仲間入りだ。

それだけじゃない、彼の環境にも変化が訪れていたのである。

 

「あはは、ごめんね?また付き合わせちゃって」

 

「気にしてない」

 

アルトは相変わらず無表情でぶっきらぼうに答える。しかし、そんなアルトに対して話相手はにっこりと笑った。

 

「アルトくんはやっぱり優しいなぁ」

 

「・・・変な奴」

 

今、アルトと一緒に歩いている彼女の名前は『立花 響』明るく前向きで、周りに流されやすい性格の持ち主だ。

なによりも、嘘や隠しごとが下手なのである。それはもう、感情がないと言われたアルトがため息を吐くレベルで。自分とは真逆だ、とアルトは密かに思った。

そして、今は困ってる人が居たために代わりに先生へと渡す紙を一緒に持っていってるわけだ。

---尤も、彼も響が大変そうにしてる所を見てわざわざ手伝った時点で彼の人の良さが分かるが。

 

それに、アルトは彼女が嫌いじゃなかった。なんだかんだ会話に付き合ったり、この二年間ずっと居たり遊んだり、出掛けたりなどしてる時点で彼が嫌ってないというのは分かると思うが。

 

「私、変じゃないよ!?」

 

「・・・」

 

「えぇ!? なにその無言!? 本当に変じゃないからね!?」

 

「・・・分かったから早く行くぞ・・・。アイツに怒られるのは好きじゃない」

 

むす、と思い出したのかアルトは不機嫌そうな雰囲気を出している。無表情だが。

 

「確かに、未来を待たせるのも悪いしね、行こっ!」

 

「・・・だから言ったろうに」

 

はあ、と今日何度目かのため息を吐き、先に言ったはずのアルトより進んでる響に追いついた。

さて、ここで彼らの出会いを遡るとしよう---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼、アルトは今日も今日とてやることがなかった。感情がないと言われてるだけあり、彼は特別欲しいと思うことも何かを気にするタイプでもない。むしろ、食えるならば雑草でも食うし、飲めるなら泥水でも平気で飲む。服もそうだ。彼にとって着れるならなんでもいいと言う。

 

そんな彼は暇つぶしに公園へと歩いていた。

公園に着くと、どうやら木の所に人集りが出来ている・・・というか、やけに騒がしい。

別に騒がしいのは気にしないが、暇だし見てみるか、と見に行ってみることにした。

そしてそこに居たのは---

 

 

 

 

 

 

 

 

「響ー! 大丈夫!?」

 

「へいき! へっちゃらだよ!」

 

彼女の知り合いだろうか、黒髪の女の子が名前を呼んでいる。視線を上に向ければ、かなり高い位置に居る茶髪の女の子が木登りしていた。

アルトは何故木登り?と思うと、目を細める。

少し、黒いナニカが動いた。

 

「あれは・・・猫か」

 

どうやらあの少女は猫を助けるために木登りしているらしい。

お人好し・・・その言葉がアルトの脳内に浮かぶ。

 

その間にも、少女は猫に向かって手を伸ばしていた。しかし、手が届かない。

当たり前だ、とアルトは思った。なぜなら彼の脳内では距離と身長から必要な分を『予測』したからだ。そして、少女が仮に猫を助けるならば、飛ばないと不可能という()()が出る。

つまり、あの少女はどれだけ手を伸ばしても届かない。素直に諦めるだろう、そう思った。何故なら飛んだら自分が怪我するのだから。

 

だが、少女は諦めない。必死に手を伸ばすものの---運命というのは残酷な物だろう。少女の努力を無駄にするかのように、ボールがかなりの速度で、なおかつ猫の近く辺りに当たった。当たってしまった。

 

『にゃぁああ!?』

 

ただでさえ震えていた猫はそれでバランスを崩す。慌てて木の枝を掴むが、その木の枝は折れかけているのだろう。ピキピキと音を鳴らして持たないことを証明していた。

アルトは何処かそれを諦めたように一度目を伏せて、見つめる。

どうせ、誰も助けないのだろう、と。

結局、誰も彼も見てるばかり。何かしようとしてるのは知り合いらしい黒髪の少女だけか、と一瞬で判断する。

アルトは、はあ、とため息を吐くと、仕方がないとでも言うように前に出た。そして、猫が落ちる。

そこで---

 

 

 

 

 

 

 

 

少女が飛んだ。そう、自分のことなんて気にも留めずに、飛び出したのだ。当然、周りはそれに悲鳴を挙げる。黒髪の少女も慌てていた。

それだけじゃない。その行動にはアルトも目を見開いた。

いくら助けようとしていた少女でもそこまですると思わなかったからだ。だけども、このまま落ちれば彼女は間違いなく大怪我する。猫を大事に抱えてる所から見て、猫は無事だろうと推測を立てた。

そして、少女は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ!」

 

 

怪我をしなかった。正確には、推測を立てながらも飛び出していたアルトが、下敷きになったのだ。当たり前だ、彼はまだ非力な子供。いくら同年代くらいの女の子とはいえ、鍛えてもない彼が受け止めきれるはずがない。だからこそ、彼は即座に少女の身長+落下の速度から受け止められるか計算し、無理だと判断したからこそ自分を犠牲にしたのだろう。

 

「あれ・・・?」

 

少女は自分が何ともないことに、疑問に思った。あの場所から落ちれば、大怪我・・・それも骨折してもおかしくなかった。

だけども、感じたのは少しの痛みのみ。腕の中の猫も無事だ。ただお尻に違和感が---と思ったようで、下を見る。

そこには一人の男の子がダウンしているのだ。それに少女は慌てて退きながら、心配を含ませた申し訳なさそうな表情で見つめ---そこでアルトの意識は途切れる。

 

 

 

 

それが、初めての出会い。

そこから、初めて学校で出会って話した。

そして、その時から気がつけば年月が経ち、ずっと一緒に居るようになった。それだけだ。

その二年間の間にも、アルトは困ってる未来を助けたり響の人助けを手伝ったり・・・色々とした。

 

なんだかんだ、アルト自身もあまりにもの不気味さから恐怖されてる割に響と同等か、それ以上のお人好しなのである---

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来、お待たせ!」

 

「時間、かかった」

 

時刻はもう夕暮れ、残ってる人も帰り始めてる中、次々と頼み事を解決した響と巻き込まれ続けたアルトはようやく、終えたのである。

 

「もう、また人助け?アルくんもお疲れ様」

 

元気いっぱいの響の隣には、いつもよりテンションがさらに下がって暗いアルトが居る。まさに左右対称である。

そんな彼を労わった黒髪の少女は『小日向 未来』彼女も幼馴染の一人であり、アルトのことを『アルくん』と愛称で呼んでいる唯一の人間である。愛称で呼んでることからして、未来との仲の良さも分かるだろう。響に関しては人助けを途中で放棄せずに最後まで付き合ってる事から言わずもがな。

 

「軽く十人くらいはやった・・・本当に疲れた」

 

「それは・・・本当にお疲れ様」

 

「・・・ん」

 

「アルトくん、未来! そろそろ行かないと日が暮れちゃう!」

 

アルトは今すぐ帰りたい、といった雰囲気を出しつつも、無表情なのには変わりはなかった。

 

「じゃあ、そろそろ行こっか。アルくん本当に今日いいの?」

 

そんなアルトに気づいているのか、未来は首を傾げて聞いていた。

 

「学校、休みだし二人とも親に許可貰ってるなら問題ない」

 

そんな未来に気にしたような様子もなく、告げる。

 

「それじゃあ、私たちは準備しないと」

 

「そうだね。といってもアルくんと私たちの家、結構近いけど」

 

「・・・早いに越したことはない」

 

実際、彼らの家は近い。徒歩で行ける距離とはいえ、アルトと二人の家が離れてるだけだ。三分も掛からずに着くために、近所で良いだろう。

 

「れっつごー!」

 

「・・・はあ」

 

「あはは・・・」

 

因みにテンションの高さについていけないアルトのため息とそんなアルトに対する未来の苦笑いである。





あぁ、平和だ・・・なんか最初の辺りにいきなり不穏なアイテムがあった気がしなくもないけど気の所為だから平和だ。

ヒロインはひびみくなのはやりやすかったのもあります。百合の間に男を挟むのはそこまで好きじゃないけど本編で十分満足出来るくらい百合百合してたのでヒロインにした感じでもあるかな。
百合じゃないのも好きだからね、仕方がないね

あ、それと一応アンケート取りますが、あくまで参考程度であって確定ではありません。その辺はご理解お願い致します。アンケートはあくまでゼロワン時空ではなく、この世界のオリジナル、としてです。といっても特に変わりはないんですけどね。

あと、タイトルは仮名なのでもしかしたら変えることもあるかもしれません


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第二話 カノジョ達と少年の出会い


※前回、何故か物体(隠す意味なし)を起動状態で表現していたため、修正しました。

今回は続けて読むことをおすすめします。そういう構成にしました。
でも、時間ない人用には分けてるのでそういう人は後ででも構いませんから読んでいただければ嬉しいです。
それと、予め言っておきますが、仮面ライダーには『まだ』変身しません。






私は、彼は()()()と思っている。

彼は、いつも独りだ。二年前くらいに、彼は私と響とは仲良くなった・・・といっても、その時はまさか同じ学校だとは思わなかったけど。

仲良くなったのは間違いなく、最初の出会いのおかげ。

響が猫を助けるために木登りをした時。猫を助けるために木から飛んだ響を庇うように彼は下敷きとなった。

あの場で、誰も動かず、私も慌てながらもどうすればいいか分からなかったのに、彼だけは違った。彼だけは自分がどうしたら響を助けられるのか、分かってたのだと思う。私は響を助けてくれたお陰で、響が無事なのは嬉しかった。

だけど、それ以上に自分を犠牲にしてまで響を助けた彼には響と似たような感じがした。

病院まで付き添った私たちは病院の先生から親と一緒に話は聞いた。

幸いなことに、骨折までは行かなかったらしく、安心したけど、怪我させたために私たちは彼に謝った。

もちろん、彼の両親にも謝るべきだからこそ、両親のことを聞いてしまったのだ。

 

「両親は居ない。怪我も大したことない。別に気にしなくていい。金も自分で払う」

 

無表情で彼は答えた。そう、まだ私たちと同年代くらいの男の子なのに彼は、寂しそうにすることもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

当然、聞いていた両親は困惑するしかなかった。

そんな彼を見て、私は---酷く悲しくなった。胸が痛んだ。そう、これは同情なのかもしれない。

けど、私は彼の在り方を見て、彼の()()()を見た。それと同時に怒りを覚えたのだと思う。

だって、彼は---

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな気がする。

幼馴染の響を助けてくれたとはいえ、いくら同年代でも初対面で、異性の彼にそんなことを思うのは分からなかった。

結局、私と響は両親に言われて彼とは別れたために、彼が両親と何を話したのかは分からない。

でも、きっと彼は必要なら自分をバッサリと切り捨てるのだろう・・・そう思わざる得なかった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と再開したのは偶然。廊下を響と話して歩いている時、響が誰かとぶつかって尻もちを付いた。本来なら互いに謝り、それで別れるのが普通。

でも---

 

「ご、ごめんなさい」

 

「・・・こちらこそ、すまなかった」

 

互いに謝っていた。本来ならそれで何事もなく終わり---それが、関わったことのない人ならば。

 

「ありがとう---あぁっ!」

 

彼は響に手を差し伸べ、響はそれを掴んで立ち上がった。その時に、彼の姿を見て、私と響は驚いた。

 

「この前助けてくれた人!」

 

「同じ学校だったんだ・・・」

 

「・・・・・誰だ?」

 

しかし、彼は覚えてなかった。いや、興味がなかったのだと思う。

 

「え?覚えてない? 私は立花響! ここの学校の小学四年生で、10歳! 好きなのはご飯&ご飯だよ! こっちは幼馴染の未来」

 

「えっと、小日向未来です。この前は響を助けてくれて本当にありがとう」

 

「・・・ああ、あの時か。気にしなくていい。・・・それと、ここの学校なのはここに居る時点で分かる」

 

お礼を言うものの、彼は気にした様子を見せずに答え、響に対してはバカなのか? とでも言いたげに見つめていた。

 

「あ、そっか! えへへ。貴方の名前は?」

 

「・・・アルト」

 

その名前を聞いて、何処か聞いたことのある名前に思わず考える。

 

「アルトくん、でいいかな?」

 

「好きにすればいい」

 

その間にも彼は、響にぶっきらぼうに答えていた。

 

「ね、アルトくん。私たちと一緒に行かない? お礼も言いたいし、話したいから!」

 

「俺は構わない。・・・そっちは?」

 

「え、私?」

 

思い出せないでいると、彼は私に向かって聞いてきた。

 

「その子、幼馴染で友達なんだろ。俺が居てもいいのか、ってこと」

 

「う、うん。私は良いけど・・・」

 

「・・・そうか」

 

無表情で言ってるのにも関わらず、私は彼の気遣いに驚いていた。無愛想と言えるくらいなものなのに、私にまで確認を取ったのだから。

 

「じゃあ、一緒に行こう!」

 

「・・・ん」

 

「そう、だね」

 

響の言葉に従うように歩く。

そして、響は彼にたくさん質問していた。普段は何してるのか、趣味は、誕生日は、テストはどうだったとか。

彼はそれに、律儀に全て答える。

 

「アルトくん、頭良いんだね」

 

「そうなのかもしれない」

 

なんでも彼はテストは100点取っているらしい。それに凄い、と思う。それに私より点数が高いのに彼には全く嫌な気持ちにはならなかった。それはきっと、純粋に答えただけで自慢げに言ってないからだと思う。

 

「私からしたら未来も十分高いよ〜・・・私は全然だったもん」

 

「響はもっと勉強しないとだね。今度付き合うから」

 

「未来、ありがと〜! あ、それならアルトくんもどう?」

 

「あ、確かに。私も分からないところあるし一緒なのは助かるかも」

 

「・・・任せる」

 

響の提案に、彼はそう答えた。

 

「じゃあ決定だね! 何時にしよっか?」

 

「うーん、テストはもう少し先だから三日前くらいがいいんじゃないかな」

 

「ならその時で! アルトくんはその日、大丈夫?」

 

「問題ない」

 

「なら、その日は問題なさそうだね」

 

「うん!」

 

そうして、勉強会を決定した時だった---ひそひそとした声が聞こえたのは。

そこで、彼は()()()

 

「やっぱり、やめる」

 

「えっ?」

 

「えっ!? なんで!?」

 

当然、唐突にそう言った彼に私と響は驚いた。

 

「・・・迷惑」

 

彼がそう言うと、ひそひそとした声が大きくなったのか聞こえてきた。

聞こえたの声は---

 

「あれが例の孤児?」

 

「らしいよ。それに暴力的で怖い六年生の山田くんが怖がって逃げたんだって。しばらく休んだみたいだし、返り討ちにあったのかな」

 

「え?なにそれ怖い」

 

「もしかしたら近づいたら不幸な目に遭うかも」

 

「何かあったら嫌だし、近づかないでおこう」

 

「噂いっぱいあるし、不気味だもんね・・・」

 

他にも、たくさん聞こえた。だけど、聞こえてるはずの彼はそれでも無表情だ。

私はそれを見て、ふつふつと心に何かが浮かんできた。

 

「こんな感じ。俺が面倒臭いことになる。だからやめる」

 

()()、不思議と彼の言葉は違うと思った。最初の言葉もそうだ。

彼は面倒臭いとかは恐らく思ってない。だって、それじゃないと響を助けてないはずだから。助けたらそれこそ面倒臭いことになる。

他にも私たちと話すことも無く、断れば良かった。

だから、きっと私と響に悪い噂が付くかもしれないから。迷惑だという発言も実際には迷惑掛けるから、だと何故か確信出来た。

 

「そんなの関係ないよ。アルトくんはもう友達だし!」

 

「・・・俺は思ってない」

 

「私が思ってるの! それともアルトくんは私たちと居るのが嫌なの!?」

 

「さぁ」

 

「むむ・・・」

 

私が思考してる間にも、何度も響は彼を説得しようとしていた。

 

「・・・とにかく、面倒だ。俺は行く」

 

そう言って、来た道を戻ろうとしていた。

 

「ちょ、ちょっと待って!?」

 

慌てて響が手を引っ張るものの、彼は煩わしそうに手を振り払っていた。

 

「---ふざけないで」

 

その様子を見ながら、私は自然と言葉が出ていた。

 

「未来・・・?」

 

「・・・?」

 

響が驚いたように見つめてきて、彼は振り向いて無言で見つめてきた。

 

「アルトくんがどう思われてるかなんてそんなの知らない。だって、私は今のアルトくんしか知らないもの。でも私の知ってるアルトくんはさっきの噂とは全然違う。それに噂通りなら私たちを庇おうなんてしないでしょ!」

 

自然と言葉が出ていた。おそらく、私は放っておけなかったのだと思う。

それに、このまま別れたら彼には悪い噂が増えるかもしれない。でも彼は否定しないのだろう。だって、彼は自分のことを視野に入れてないから。

不器用、そしてお人好し・・・私にはそんな言葉が浮かぶ。

 

「なぜ、気づいて---いや、面倒だから、だ」

 

無表情なのに、目を見開いて驚いたような雰囲気を醸し出していた。そして失言したのを気づいたように口を一度閉じると、それでも突き通そうとする。

 

「っ! 本当にそうならどうして止まったの? このまま離れることは出来るし、今こうやって会話する必要もないよ?!」

 

「それは---」

 

初めて言葉に詰まった。そして彼は、首を傾げる。

 

「・・・何故だ?」

 

分からない、と言いたげに無表情のまま首を傾げたままだった。

 

「・・・別にいいんだよ。私たちと一緒に居たって。響はどう思ってる?」

 

「私はアルトくんと居たいかな。だってアルトくん優しいし! それに、初めて出来た男の子の友達だからね!」

 

「だって。私も同じ気持ちだよ」

 

響の言葉にくすっ、と笑い、私は彼の手を握る。

 

「それでも嫌だったら、お願い。私たちと友達になってくれないかな」

 

「私も!」

 

「-----」

 

そう言って、もう片方の手を響が握る。

彼はそれで無言となり---

 

 

「・・・任せる。後悔しても、知らない」

 

()()()

 

「じゃあ、その時はアルトくんが守ってね」

 

「男の子なんだもの。女の子二人くらい守ってよね?」

 

「え---」

 

響が言った言葉に、私が便乗するように言った。それに彼は予想外だったのか、無表情だが困惑したような様子を見せる。そんな姿に私たちはどこかおかしくて笑ったのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

二年が経ち、彼と、アルくんと今はしっかりと友達といった関係になれたと思う。正直、あの時の行動は今考えても良くやった、と自分自身で思っている。お陰で、彼がとても()()()だと分かったから。

それでも、彼は()()だ。私と響が居る時は、彼は()()ではない。でも私と響が居ない時は彼は間違いなく()()なのだ。そもそも、私と響以外誰も彼に近づかないからだろう。

だけど、彼はそれを気にしない。興味がないから、何とも思ってないから。

アルくんは、本当に感情がないと思うくらいに無表情、でも、雰囲気でだいたいのことは分かるし優しい。

そして、必要なら簡単に自分でさえも切り捨てる。そんな彼の危ないところが私は心配。きっと、それは()()()()---

 

 

 

 

 

 

 

「手伝い、いるか?」

 

今日はアルくんの家でお泊まり。勉強もあるが、遊ぶためでもある。普通、まだ中学生ではないとはいえ、大人が居ない男の子の家に泊まるのはやっぱりその、色々な意味で心配されるだろうけど・・・両親も私も特に心配はしていない。

だって、アルくん女の子が二人居るのに、全く気にしないもん。・・・それは本当はいい事なんだろうけど、ちょっと不満かな。多分女の子として扱ってくれてはいるのだろうけど・・・。

とにかく、今はエプロンをして、準備をしている間にふと最初の出会いを思い出していた時だった。

アルくんが手伝いがないかと聞いてきた。

別に休んでてもいいのに、彼は手伝いに来てくれるし、困っていると助けてくれる。本人に言ったら否定するから言わないけれども、アルくんは本当に優しい---

 

「ううん、大丈夫だよ。あ、でもせっかく来てくれたんだしお皿、出してもらってもいいかな?」

 

「ん」

 

こくり、と頷いて彼はお皿を取り出していた。

その後ろ姿を見て、くすり、と私は笑ってしまう。

 

「・・・どうして笑う?」

 

きょとん、と首を傾げて見つめてくる。

 

「ううん、何でも。あ、そうだ。アルくん最近はちゃんと食べてる?」

 

料理をしながら、私はアルくんに聞く。

アルくんは家事は一応出来るらしいけど、普段は全然やらないみたい。それどころかご飯を食べない時なども多いらしい。何か忙しいのか、それともやる気がないのかは分からないけど。

 

「・・・・・食べてる」

 

「嘘」

 

私はすぐにアルくんの言葉を否定する。

 

「何故そうだと・・・」

 

「うーん・・・勘、かな」

 

理解出来なさそうに聞いてくる。

そう言うってことはやっぱり食べてなかったらしい。

 

「勘で分かるものなのか」

 

「どうだろ・・・? 私、響とアルくんのことなら結構わかるんだよね」

 

私自身、勘はそこまで鋭いとか思ってない。響のことは長く居たからだけど、アルくんのことが分かるようになってきたのもつい最近だし。

 

「限定的」

 

「ふふ、そうだね」

 

味噌汁を作ってると、アルくんが隣に来た。

 

「そういえば、響は?」

 

「勉強教えてたら寝た」

 

「そっか。じゃあ寝てる間に作らなきゃ」

 

「・・・材料、出す」

 

「ありがとう」

 

結局、自ら手伝えることを考えて手伝おうとするその姿に、私は微笑んだ---

 

 



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第三話 カレはどんなパーソナリティ?

 

私は彼が()()()()()と思っている。

も、もちろんかっこいいというのは見た目の話じゃなくて・・・み、見た目もかっこいいけど、行動というか、なんというか・・・。

と、とにかく彼というのは、二年前くらいに大怪我は間違いなくするはずだった私を助けてくれた人で、学校で偶然出会ってから一緒に過ごすようになった男の子だ。

名前は『アルト』くん。優しくて、無表情で分かりにくいけど私を助けてくれたり、未来を守ったり手伝ったりしてくれる男の子。

私が趣味としてる人助けも、なんだかんだ最後まで付き合ってくれて私が大変そうな作業は引き受けてくれてる。

だからきっと、私たちを助けてくれるヒーローみたいな感じ・・・なのかな? 多分、()()()()()()()()()()()からなのかもしれないけど・・・。うーん・・・言葉では難しいね・・・。

 

でも、そんなアルトくんには、両親が居ない。私や未来にはちゃんとした両親もいる。でも、彼には居なくて、それでも彼は気にした様子もなかった。

寂しくないのか聞いても、アルトくんは首を傾げることしかしない。

それにアルトくんは私が見た限りでは、私と未来以外に一緒に居るような友達も、周りに誰かいることもなかった。

私はいつもお世話になってるし、少しでも一緒に居てあげたいって密かに思ってる。アルトくんに言ったら絶対「要らないお節介。必要ない」とか言うと思うからね。

 

だけど、彼には本当に世話になりっぱなし。いくら私が趣味が人助けとはいえ、私では無理なこともたくさんあるから。

例えば重たいものを持つ時とか、私も女の子だから重たいのは持つのが難しい。そんな時、アルトくんは手伝ってくれる。

そして勉強面でもアルトくんは教えるのが上手くて、私や未来に教えてくれるのだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトくんっ」

 

「・・・なんだ」

 

これは初めて会った時から一年くらい経った時のお話。

未来が用事があるために早く帰り、私は居残りしていた時にようやく終わったと思って帰ろうと廊下を歩いてると、偶然空いていた窓から一人教室に残っている姿が見えて、話しかけた。

 

「一緒に帰ろ?」

 

「分かった」

 

「やった♪」

 

素っ気ない返事だけれど、会った時からこうだったために私は気にしない。

そして、アルトくんがランドセルを背負ったのを見て一緒に歩き出した。

 

「アルトくんはどうして残ってたの?」

 

私は好奇心によって、聞いてみることにした。

 

「特に理由はない。ただ---」

 

「ただ?」

 

言葉を区切ったアルトくんに、首を傾げる。

 

「・・・楽しそうだな、と思ってから、楽しいとは何か、考えてた」

 

「む、難しいこと考えてたんだ・・・」

 

私はそれしか返せなかった。

でも、確かにまだ帰宅時間じゃないからか外で遊んでる人たちは多い。

 

「・・・でも、どうだっていい」

 

「え?」

 

「俺には必要がない」

 

「そっか・・・」

 

どう言えばいいのか分からない。だって、私や未来には()()()()()。だから、考えなくとも『感覚的に』楽しいとか分かる。でも、アルトくんには感情がない・・・らしい。そこは噂通りなのかもしれない。でも、そうだったとしても--

 

「アルトくんはアルトくんだよ」

 

「・・・俺は俺?」

 

「私と未来の大切なお友達で幼馴染。それだけは変わらないと私は思うよ?」

 

「そうか」

 

私の言葉に、彼はぶっきらぼうに答える。

 

「それに優しいし!」

 

「それは関係ないし優しくない」

 

「えー」

 

優しいのに、と心の中で呟いた。だって、それじゃないと私のお手伝いとか普通しないもん。いくら言っても認めないと思うけど・・・。

 

「・・・そっちは何故?」

 

「私? 私はちょっと居残りで・・・あはは」

 

「そうか」

 

「むぅ、もうちょっとないの〜?」

 

聞かれて答えたのに短く返されたため、頬を膨らませてみる。

 

「・・・バカ?」

 

「ひどい!?」

 

すると、予想外の言葉で流石に(しょ)げた。

 

「・・・間違えた。お疲れ」

 

「間違えた!? 何処に間違える要素があったの!?」

 

「さぁ」

 

「アルトくんが言ったんだからね!?」

 

投げやりの言葉に益々むっとしてきた。

 

「それよりも、分からないところでもあったのか」

 

「えっと、そういう訳じゃないんだけどね」

 

「?」

 

話を変えるよう聞いてきたアルトくんに、バツが悪そうにそう答える。

 

「ええと・・・」

 

「なんだ」

 

煮え切らない私の言葉に、促すように言葉を続けてきた。

 

「・・・宿題が・・・」

 

「そうなのか。だが、前のはやったはず。手伝った記憶がある」

 

「い、いやぁ、うっかりしちゃって・・・」

 

「・・・?」

 

「無くしちゃった」

 

目を逸らして言った私に、はあ、とアルトくんはため息を付いた。

 

「気をつけるべき」

 

「うう、返す言葉もございません・・・」

 

そう言いながら靴を履き替え、外に出て一緒に帰り道を歩く。

少しの間、その場を沈黙が支配する。そもそも、アルトくんはそこまで喋るタイプじゃない。基本的には私から振ったりするから。

それでも、黙っていても嫌な感じはしない・・・けど、どうせなら何か話したいために考える。

 

「あ・・・」

 

「・・・?」

 

ふと、声に出した私に反応してかアルトくんは私の目線の先を追う。

私が見たのは---

 

 

「うぅ・・・おかあさん、おにいちゃん・・・どこぉ・・・?」

 

泣いている少女だ。多分幼稚園ぐらいの年齢。

迷子、なのかな?

 

「・・・」

 

「ね、ねえアルトくん・・・」

 

申し訳なさそうに、私がアルトくんの方を見ると彼は頷いてくれた。

 

「ありがとうね!」

 

「別に」

 

そう言って、少女の元へ私たちは走っていく。

 

「ね、どうしたの?」

 

泣いている少女の前に着いた私は、目線を合わせて聞いてみた。

 

「ふぇ・・・おねえちゃん、だれ・・・?」

 

「私は立花響。こっちのお兄ちゃんはアルトくん」

 

「よろしく」

 

自己紹介し、傍に居るアルトくんも紹介する。

 

「ひぅ・・・!」

 

「・・・」

 

すると、少女が泣き出しそうになっていた。

多分、アルトくんが無表情だったからかな・・・?

 

「えっと、それでどうしたのかな?」

 

笑顔で話しかけてみる。

 

「お、おかあさんとおにいちゃんとはぐれちゃって・・・」

 

おどおどしつつ答えてくれたものの、不安なのか再び泣きそうになっている。

それに思わず私は慌てる。

 

「泣くな」

 

「ちょ、ちょっとアルトく---」

 

しかし、そんな女の子の様子を見てるのに、いつもの態度で話すアルトくんを注意しようとすると---

 

「泣いてもいいことは無い。手伝う、だから泣くな」

 

そう言って、何処からか取り出したのか飴を取り出した彼は、目線を合わせて差し出していた。

 

「これ、やる。だから探そう」

 

「いい、の・・・?」

 

泣き出しそうになっていた女の子は、アルトくんに聞いて、彼は頷く。

いつの間にか女の子からは泣きそうだった様子は消えていた。

 

「いい。だから立つ」

 

「う、うん・・・!」

 

飴玉を受け取り、女の子はアルトくんの手を取って、アルトくんは優しく立ち上がらせていた。

 

「あ・・・ふふっ」

 

「・・・?」

 

「おねえちゃん?」

 

「ううん、なんでもないよ。それより、お姉ちゃんも手伝うね」

 

思わず、そんなアルトくんの姿に笑ってしまった。

やっぱりアルトくんは優しいな、と。

 

「じゃあ、行こっか」

 

そう言って、私は立ち上がって女の子と手を繋ぐ。

 

「そうだな」

 

「・・・・・」

 

アルトくんが返事をしたために、探しに行こうとすると少女が止まったままじーっとアルトくんを見つめていた。

 

「・・・なんだ?」

 

「おにいちゃん、手つないでくれないの・・・?」

 

女の子は、アルトくんの裾を掴んでそう言う。それは何処か、不安そうに。

 

「・・・・・・」

 

「アルトくん」

 

「・・・分かった」

 

どうするか悩んでた様子を見て、私が名前を呼ぶと観念したかのように女の子と手を繋いで、女の子は嬉しそうに笑っていた。

 

「じゃあ探そう!」

 

「うん!」

 

「・・・ああ」

 

帰り道とは全然違う方に行ってしまうけれど、女の子にどこら辺で迷子になったか聞きつつ、私とアルトくんは女の子の身内を探す。

その間にも、女の子のお母さんとお兄ちゃんについて、聞いてみた。

すると、嬉しそうにぶらぶらと手を揺らして女の子は喋ってくれる。それに相槌を打って答えるアルトくんを見て、もし子供が居たらこんな感じなのかな---と考えたところで、顔が熱くなってきた。

 

「---ちゃん。おねえちゃん?」

 

「へ? な、なにかな!?」

 

女の子に名前を呼ばれ、現実へと引き戻される。

な、何考えてるんだろう私!? いくらアルトくん以外の異性と関わらないからってアルトくんを見て、そんなこと考えちゃうなんて・・・

 

「うう、これもアルトくんが悪い・・・」

 

「待て、何故だ」

 

なんで心の声が聞こえてるの!?

 

「おねえちゃん、声に出てる・・・」

 

「ええ!?」

 

どうやら声に出てたらしい。

ご、ごめんね、アルトくん。と心の中で謝る。

 

「何か考え事でもしてたのか」

 

「おねえちゃん、私できることあるなら手伝うよ!」

 

「だ、大丈夫だよ。気にしないで」

 

ダメだダメだ! この子のお母さんとお兄ちゃんを探さないとなのに私が心配かけちゃった。しっかりしなきゃ!

・・・私がそうしてる間にも、アルトくんが普通にしっかりと探してくれてたみたいだけど。

 

「えっと、それで何だったかな?」

 

「うん。でね、おにいちゃんが---」

 

気を取り直して、女の子の話を聞く。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---見つけた。あの二人で、合ってるか」

 

「ほんと!? どこ? ぜんぜんみえないよ?」

 

今にも日が沈み、夜になりそうな時間帯になっている。流石にそろそろ警察に届けるべきか、と考えてると、アルトくんが発した言葉に女の子が手を離してぴょんぴょんとジャンプして探そうとしていた。

 

「右斜め前方。服の色、特徴的に合ってる」

 

そう言いつつ、女の子が見えるようにか、アルトくんが抱き上げていた。

言われた通りに私も見てみると、信号を挟んで何処か不安そうに慌てているような様子の男の人と、女の人が居た。

 

「見えたか」

 

「うん! おかあさんとおにいちゃんだ!」

 

すると、合っていたようで嬉しそうにはしゃいでいた。

 

「良かった。でも、向こうはまだ気づいてないみたい。信号が変わったら行こうか」

 

「うん!」

 

「ああ」

 

それに安心しつつ、一応女の子と手を繋ぐ。

そして信号が変わると、道路を渡り---

 

 

 

 

 

 

 

「もう、大丈夫だ」

 

「おかあさーん! おにいちゃーん!」

 

無事に渡った後、アルトくんの言葉を聞いた女の子は走って男の人と女の人に飛びついていた。女の子の声に反応したのか、お母さんらしき人は抱きしめ、お兄さんらしい人は私たちに気づいたようで、会釈してくれた。

 

「良かったね」

 

「・・・帰るぞ」

 

それを見たのか、もう用はないと言わんばかりにアルトくんは来た道を戻ろうとしていた。

 

「あっ、もう・・・」

 

冷たく冷淡と取れるような態度、それでも優しい彼に私は苦笑いし、隣に並ぶ。

 

「アルトおにいちゃん! ヒビキおねえちゃん! ありがとー!」

 

「今度は迷子にならないようにね〜!」

 

私は振り向いて、大きく手を振る女の子と感謝を示すようにお辞儀をする女の子のお母さんとお兄さんを見ながら、会釈しつつ手を振り返した。

ふと、気になって視線を横に逸らせば、アルトくんは会釈しながらも目線だけは女の子をしっかりと捉えていた。

それにくすっ、と私は笑う。

 

「アルトくんっ」

 

「・・・なんだ?」

 

「ふふん、なんでもなーいっ」

 

「・・・・・・?」

 

きょとん、とする彼の手を掴んで、私は帰り道を歩く---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---き」

 

声が聞こえる。

 

「--き-ろ---」

 

声が聞こえ、揺すられるような感覚に陥る。でも、このまま寝たいという睡眠欲もあって---

 

「---起きろ」

 

何度も聞いたことのある男の子の声に、意識が浮上した。

 

「んんぅ・・・?」

 

「やっと、起きたか」

 

瞼を開けると、ぼんやりと目の前の景色が見え出し、私の前には無表情の人型が形成され---

 

「アルト、くん・・・?」

 

「ご飯、出来てる」

 

「んん、ありがとう・・・」

 

脳が目の前の人物を認識すると、口元に少し違和感を感じる。でも、まだ完全に意識が回復したわけじゃないために目を優しく擦る。

どうやら寝てたようで、さっきのは夢だったらしい。これはまた懐かし夢を見た気がする。

 

「・・・ティッシュ」

 

「ありがとー・・・」

 

彼も私が違和感を感じてることが分かってたのか、私にティッシュを差し出してくれて、違和感があった口元を拭いた。

そして、ティッシュが濡れたことからして、それが涎だと分かると---

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

「・・・?」

 

「っ〜!!」

 

「なにを---」

 

「で、出ていって! お願いだから!」

 

顔が急激に赤くなるのを感じながら、彼の、アルトくんの背中を押して自分の家ではないと分かってるけれども、部屋から出す。

 

けど、今はそんなことを気にしてる暇はなかった。

だって、見られたから。私も女の子だ。恥ずかしいのは恥ずかしい。特に、私たちはまだ小学生だけど、もうすぐ中学生だ。同年代の男の子の家で安心して涎を垂らしてる所なんて見られたら恥ずかしいに決まっている。いくら私が悪いとはいえ---

そもそも、何故未来が来てくれなかったのだろう。多分、アルトくんが起こしてくるとか言ったからだろうけど、いくら友達で幼馴染とはいえ、男の子が乙女を起こしにくるのは・・・って、アルトくんの場合全く気にしないもんね・・・じゃなきゃ、この歳で男の子の家には泊まれないよね。

アルトくんも女の子としては扱ってくれてはいるのだろうけど・・・。なんかこう、ちょっと不満だ。

 

「・・・何故出された?」

 

そんなことを考えてたせいか、外でそんな反応をしてることには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

---まぁ、そもそも感情がないと言われてる彼に理解なんてできるはずがないんだが。

出来てたら彼は多分ぼっちじゃないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の家なのに部屋から追い出された憐れなアルトは、とりあえず待つことにした。

すると、一分くらいで響が出てきて、申し訳なさそうにアルトに近づく。

 

「ご、ごめんね? 出て行かせちゃって」

 

「いや・・・何か、すまなかった」

 

アルトは本能的にか、自分が悪いことをしたのかもしれないと思ったらしく謝る。

 

「う、ううんさっきのは私も悪かったから!だからお互い様ってことで」

 

「分かった」

 

響の言葉にアルトが頷くと、「あいつが待ってる」とだけ言い、先にリビングに戻っていく。それに響もついて行った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遅かったね。何かあった?」

 

「・・・なんでも」

 

「う、うん気にしないで!」

 

「? 二人がそう言うなら・・・。それより、ご飯出来てるよ」

 

「未来のご飯、楽しみ!」

 

「ん」

 

とりあえず誤魔化した二人は、席に着く。未来も同じように席に着き---

 

「それじゃあ、いただきます」

 

「いただきます!」

 

「・・・いただきます」

 

手を合わせて、ご飯を食べ始めた---

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、未来の手料理、美味しいなぁ」

 

「・・・美味」

 

「ふふ、ありがとう。あ、ちょっと待って、アルくん。口元にご飯粒が---」

 

「・・・悪い。感謝する」

 

「どういたしまして」

 

 





ということで、今のアルトくんをどう思ってるのか、って感じですね。ぶっちゃけ幼馴染に男の子が居たら、一期の初心な所から寝顔だけでも恥ずかしくなると思います。
最後の未来さんの正妻感が出てた気がするのは多分気のせい。

そしてみんな大丈夫?アーク様はともかく、滅亡迅雷netに接続してるよ?平気?いやまぁ---そういうの、(お巫山戯)好きだけどね


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第四話 カレの周りはそれでも変わらない


サブタイトルゼロワン風にするの難しい・・・ま、それっぽかったらいいか。

正直、この話だけはするべきだと思った。後々大事になるしな・・・でも俺、思ったんです。一話から『なんか暗くね?』この小説、多分映像でイメージすると、アマゾンズフィルターかかってると思います。無表情感情分からない系主人公だからネタに行けねぇからなぁ・・・そして未来さんと響はめっちゃ書きやすい。主人公も書きやすいけど。
でも仮面ライダー要素が(今回と一話しか)ねぇ!ちゃんと変身するところは決まってるので今は彼らの平和な日常を見てくださいな・・・!



 

 

 

少年は歩く。

太陽が地平線の下に沈み、暗闇が支配する真っ暗な道を歩く。

別に、彼に何か特別な目的があるわけでも、誰かと約束したからでもない。

ただ暇だから、気が付けば道を歩いてる。それだけだ。

 

そして、しばらく歩いていると少年は森を出た。

そこは周囲が木に囲まれていて、上空は開けている場所。

ふと目線を空へ向ければ星が、キラキラと輝いていた。

普通の人間なら、それを見て何か感想を述べるだろう。しかし、少年は何も感想を述べない。それどころか、空虚に見つめていた。

少しの間見つめた後、少年は自身の家へと戻っていく。

 

「・・・俺には、分からないな」

 

彼がわざわざ来たのは、暇だから今日未来と響が言っていた言葉を聞いて星を見に来た。

結局、星を見ても何も思うことのなかった少年は、「暇潰しにはなった」それだけを呟き、戻ったのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間というものは進むことが早い。

気が付けば彼は小学生を卒業し、中学生となっていた。

それでも彼の関係は進むことも、変わることも無い。

そして、少年---アルトに変化は訪れなかった。何故なら、中学生となっても彼は()()だからだ。

中学生となったのであれば、当然それに伴って頭も良くなる。もちろん、関係だって愛想や話のネタなども必要になっていくだろう。

しかし、アルトはここでも不気味がられている。周りが成長したからこそ、彼の存在はより一層恐ろしく見えるのだ。

同じく小学校から来た人が噂を流したのもある、それとは別に単純に何があっても無表情な彼は不気味な存在としか映らない。

だから彼と関わる者が居るならば、それはきっと---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトくーん!」

 

「アルくん」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「なんだ」

 

「一緒に帰ろ!」

 

「予定があるなら、言ってね」

 

クラスが違うために、二人はわざわざアルトのクラスに来て、帰りを誘う。これは()()()の光景。

そして未来は、来る度にアルトと周りの様子に何処か悲しげに見つめていた。

 

「構わない」

 

相変わらずの無愛想な返答にも、響と未来は微笑む。

 

「やった!」

 

「良かった。じゃあ帰ろうか」

 

「ああ」

 

一応言わせて貰うと、成長したのもあってアルトはますますと男らしさはある。容姿は悪い所か、かっこいいに入るために()()()()()()()()問題ない。

響と未来もそうだ。彼女たちも成長しているために、元々容姿が良かったのもあって美少女と言っていい。何処がとは言わないが、女性としての凸凹もしっかりと出てきている。

だが、問題はアルトの存在だ。あくまで良いのは容姿だけ。彼の無表情さと雰囲気。噂はそれこそ、真実を知らない人からすれば、果たしてどう映るのか・・・。

 

「な、なぁ・・・危ないし、そんな奴に関わる必要なんて」

 

当然、こういう者が出てくる。

 

「え?」

 

「・・・・・・」

 

響はきょとんとするだけで、よく分かってない様子。しかし、未来の方は何処か雰囲気が変わっていた。

 

「・・・・・」

 

「ひっ!?」

 

そして、アルトがその男に目線を送るだけで、彼は何処か怖がる。

アルトの名誉のために言わせてもらうと、別に彼は何もしていない。勝手に恐怖してるだけである。

 

「アルくんは私たちの幼馴染で友達なんです。気にしないでください。二人とも行こっか」

 

「? うん」

 

「・・・・・・」

 

()()()()()()言葉を述べると、響とアルトの手を取って教室を出る。

響はよく分かっておらずに首を傾げていたが、アルトはただただ無言で無表情。雰囲気からも何も感じとれなかった。ただ彼の耳には---

 

 

 

「弱みを握られているんじゃないのか?」

 

「あんな子に構う必要ないのに」

 

「もしかして騙されているとか?だったら可哀想・・・」

 

等と言った、相変わらずの散々な言葉がしっかりと聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう! なんでアルくんは何も言わないの!」

 

場所は変わり、公園に三人が居た。

ベンチに座っているアルトに対して、未来は目の前に立ってさっきのことを何も否定もしなかった彼に怒っていた。

 

「必要ない」

 

「このままだとずっと悪い噂が増えていくんだよ?!」

 

「別に、問題はない」

 

それでも、彼は無表情だ。それどころか、気にするのがよく分からないといった雰囲気が出ている。

 

「み、未来? とりあえずはその辺で・・・」

 

「でも---はぁ・・・」

 

響が流石に止めようと未来の名前を呼ぶと、未来はアルトの雰囲気からして意味ないと判断したのかため息を吐いた。

 

「え、ええと。何処か寄り道する?」

 

「任せる」

 

「そうしようか・・・」

 

空気を変えるために提案した響の提案に、二人は乗る。・・・片方は任せてるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またまた場所は変わって、今はカフェ、もとい喫茶店。

ここは不味い珈琲を作るマスターが有名なお店で、何故喫茶店にしてるのかとかいう噂は流れているものの朝食用のランチとかは喫茶店じゃなくていいレベルである

喫茶店の名前は『nascita(ナシタ)

 

「アルトくん、美味しい?」

 

そして、アルトはフレンチトーストとその不味いと評判の珈琲を飲んでいた。

 

「食ってみるか」

 

「うん!」

 

美味しいか聞いてきた響に、アルトは無愛想ながら聞くと、響が頷く。

そんな彼女に対して、彼は()()()()のフレンチトーストを渡していた。

それに、未来が僅かに顔を赤めてるのだが---

 

「はむ・・・んー♪美味しいッ!」

 

「そうか」

 

間接キスになってることには互いに気づかなかった。未来だけは気づいているが。

 

「そ、それにしたって、アルくんよく飲めるね・・・」

 

分かってはいるが、わざと言わなかった未来は話を変えるようにアルトのコーヒーカップを見つめる。

因みに「それはそれで、二人の反応見るのもありだけど・・・」と小声で呟いていた未来の声は誰にも聞こえなかった。

 

「・・・? 飲むか?」

 

「い、要らないかな」

 

アルトに聞かれた未来は、何かを思い出したかのように顔を少し青ざめていた。

アルトはきょとん、と見つめるが、気にせずに平気そうに飲む。

 

「私も---にがぁい!?」

 

すると、いつの間にかアルトに許可を貰って飲んだ響がわかりやすい反応をした。

 

「うん、響の反応が普通なんだよね・・・」

 

「・・・?」

 

響の反応に首を傾げながら、なんの反応も見せずに無表情で飲むアルト。流石は泥水でも飲める人物である。

余談であるが、偶然それを目撃した未来にアルトは正座をさせられて何時間か怒られた。響は心配するということをしていたが、結局女の子を怒らすと大変なのである。

 

「アルくんって、好き嫌いあるのかなぁ・・・」

 

響に自身のお水を渡しながら、思わずそう言う未来だった。

 

「わからん」

 

「ぷはぁ! 生き返ったぁ・・・アルトくんって、なんでも食べるよね。私アルトくんの嫌いな食べ物は見たことないよ」

 

お水をごくごくと勢いよく飲んだ響は復活し、その言葉に未来は引っかったのか聞く。

 

「好きな物は分かるの?」

 

「うん。未来の手料理だと思う」

 

「え?」

 

あっさりと答える響に、思わず驚いて未来はアルトの方を見つめる。

 

「・・・・・・」

 

どうやら、本当なのかアルトは否定せずに無表情でコーヒーを飲んでいた。

 

「そっか・・・良かった。じゃあ、これからも作ってくるね」

 

「・・・ん」

 

安心したように微笑んだ未来に、アルトは頷きながら思い出したかのように弁当箱を渡す。

そう、中学になってから弁当と給食、どちらでも良いのだが、給食を食べる気も弁当作る気もなかったアルトに未来が代わりに作っているのである。因みに響も同じ。

 

「おまたせー」

 

やけに綺麗に包まれてる弁当箱を受け取った未来がカバンに収納してると、マスターが注文したものを持って、それをテーブルに置く。

 

「いやぁ、アルトくんだけはいつも俺のコーヒー飲んでくれるから、サービスしちゃうよ」

 

来たのはナポリタンとオムライスで、オムライスに至ってはふわふわしていて見た目が完璧だ。中は恐らくトロトロしているのだろう。

ナポリタンの方はといえば、もう色々と凄い。何が凄いかと言うとお皿の範囲余裕で超えてるどころか、物理法則無視してるレベルで大量にある。

そして、パフェがあることからしてサービスはこれだろう。

 

「すみません、ありがとうございます。ほら響、料理来たよ」

 

「うん、ありがとう!」

 

ナポリタンを未来は響のところに置き、オムライスを自分の所に置いた。その間に、さらっとアルトはパフェを響に押し付けていた。元々誰の、とかではないからいいのだが。

それに対して二人にお礼を言ってから早速美味しそうに食べる響である。

 

「うんうん、響ちゃんも美味しそうに食べてくれるし未来ちゃんはいい子だから俺も見てるだけで嬉しいよ。なによりアルトくんには感謝しかないね」

 

「マスター、おかわり」

 

「はいよ」

 

「あ、アルくんまだ飲むんだ・・・」

 

アルト、本日三回目のおかわりである。気に入っているのかも知れない。

因みにだが、マスターが名前を知っているのは三人とも何度か来ていて、話す機会が多かったからである。最近は常連と化している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間というのは勝手に過ぎていく。

 

あれから数日、彼の噂はさらに増えた。それでも、響や未来はアルトから離れようとしない。もし、二人が彼を拒絶すればアルトは二度と関わろうとしないだろう。だが、二人は拒絶せずに誘い続ける。

それにアルト自身も、噂を否定しようとしない。そもそも興味さえ持っていなかった。

そんな日を続けている時だった。

 

 

「・・・帰るか」

 

彼は珍しく、二人を待たずに教室を出る。

何時もなら誘われてから、または帰宅時間ギリギリまで残って誘われて帰っているのだが、買い物に行っておいて欲しいと未来に頼まれてたのを思い出した為だ。

それに、未来は部活に入っている。だから一緒に帰れない日もあるのである。

ふと、窓を覗けば、短距離走で走っている未来の姿が見えた。

 

「・・・・・・」

 

その姿は必死。少しでも速くゴールしようと、少しでも他の人に差を付けようと、必死に走る姿がある。

これがどうでもいい人なら、あっさりと興味を無くして帰っていただろう。でも、アルトは止まったまま未来の姿を見つめ続ける。彼の無表情からして何を考えてるのか当てるのは---不可。

 

「・・・何かに打ち込む、か」

 

彼の脳内に浮かぶのは、人助けを続ける響と部活に打ち込む未来の姿。

 

「やっぱり、分からない」

 

一度、未来に何かやらないのか聞かれた時、彼は何もしないと答えた。感情のない彼からすれば、何かに打ち込む気持ちは理解は出来ないのである。別に、彼の身体能力が悪いって訳ではなく、彼は普通だ。

 

「あぁ、でも---」

 

窓から入ってくる風が、彼の黒髪を靡かせる。

 

()()()

 

不思議と脳内に浮かんだセリフを、彼は呟いて外に向かう。

---その前に、本来遠くて聞こえないはずなのに、彼は未来が自分の方を見て、頷いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

アルトはだるそうに買い物袋を持ちながら帰り道を歩いていた。両手には大量の荷物がある。なお、片方の袋には大量のカップラーメンがあるため、料理する気がないのが見て分かる。

買い物だけでここまで時間かかったのは、珍しく遠いところにある別の街に遠出をしたらセールだったために、飲み込まれたのである。恐るべしバーゲンセール。

なによりも、弁当コーナーの近くを通ったら人が吹き飛んできたのはアルトも予想外だった。しかも、その後は標的だと認識されたのか狙われる始末。

---しかし、人外のような動きをした相手を瞬時に予測して回避したアルトは無視して買い物だけ済ませたわけだ。何故なら彼は正直、強くない。それに、攻撃されてもアルトには興味がなかった。

それよりも太陽はもう沈みかけ、そろそろ夜になるのだろう。

 

「・・・早く帰ろう」

 

そう呟いたアルトは、そのまま帰り道を歩く。

家に着くと、彼は鍵で開けて家に入る。そこには---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おかえりなさい。アルくん」

 

「遅いよ〜!」

 

何故か響と未来が居た。

 

「・・・・・・何故いる?」

 

思わずそう言った彼は間違ってないはず。

 

「これのお陰だよ?」

 

そう言って、響は合鍵を取り出して見せる。

 

「昨日言ったでしょ? 部活終わったら向かうって。メールも送ったはずだけど・・・」

 

「・・・確かに」

 

カップラーメンが大量にある袋を()()()()()()()()()アルトは、言われた通りに携帯のメールを見る。

『両親に許可を貰ったから、今日響と一緒に夜に向かうね』と書いてあった。因みに携帯を持っている理由は、響と未来に持っておいてと言われて買ったからである。

 

「と・こ・ろ・で・・・アルくん?」

 

「な、なんだ・・・?」

 

携帯を仕舞うと、未来の雰囲気が変わる。

怒っている、間違いなく怒っている。

 

「・・・」

 

「が、頑張ってね」

 

確信したアルトは響に視線を向けて助けを求めるが、流石に趣味が人助けとはいえ、止められる自信がないらしい。それに、響も怒られたくないのかあっさり見捨てた。

 

「ちょっと・・・オハナシ、しよっか?後ろに隠した荷物について、ね?」

 

「・・・」

 

自分の家=逃げ場なしである。完全なチェックメイトだ。

 

「じゃあ、響。簡単な作業だけはしておいてくれる?」

 

「う、うん。分かった。アルトくんごめんね・・・私には止められない・・・!」

 

「休みたい」

 

何処か諦めたように虚無感丸出しで呟いたアルトは、響に荷物を回収されてから未来によって連れていかれたのだった---

 

 

 

 

 

 

 





シンフォギアってこんな平和だったっけ?そして狼さん混じってますよ 半額弁当の取り合いするなら自分たちの世界でやって、どうぞ
因みに主人公変身してませんけど、既にノイズさんはヒャッハー!してるという。本来は遭遇率災害に合うレベルで低い(だった気がする)し会わないのはしゃあない。

ところで皆さん。今は全くの平和だけど原作開始が高校一年生、()()が二年前・・・今は中学一年生・・・あとは分かるな?もう少しで、シリアスさんが起きるぞ・・・!

あと、これ休みの時に一日で全部書き上げてるので、ストックないです。この話も今日(昨日)書き上げたので、明日(今日)からは遅くなるかと・・・変身するまでは早めに投稿するつもりですが。

追記、滅亡迅雷netに接続しすぎ問題。なんか接続者増えてね?そういうの好きだよもっとやれ


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第五話 夕暮れのコトバ


※ちょっと過去の話全て修正しました。内容に変化は一切なく、後々の展開に絡むだけのほんの些細な・・・もの?なので気にしないで大丈夫です。

リアルが忙しかったり色々で日曜日間に合わなかった、キレそう(半ギレ)
遅れてすみませんでした!色々と調べながら書いてたせいで余計にね・・・。
さて、今回もまたまた季節外れの重要な回。シンフォギアって過去話は全然明かされてないからオリジナルが書きやすいんだよね 特に未来。
あ、とりあえず甘いのが無理な人はいつでも砂糖吐けるようにした方がいいんじゃないんですかね。




何ヶ月か経ち、今は夏中頃と言うべきか。セミが鳴く真夏くらいの時だった。学生は今や夏休みで休みを謳歌しているであろう。

そんな中、アルトは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()。何処までも青く、洪波洋々(こうはようよう)と広大に広がる海。上を向けば、鮮やかな空。そして下を見れば鮮やかな海。さらに、雲一つないと言えるくらいに晴れているために、真夏特有の眩い太陽の光が、海の水に反射している。

海ということもあり、風に乗ってくる潮の香りやら焼けた砂浜もある。

 

「・・・・・・」

 

だが、彼は、そんな海の景色などに一切目もくれず一人厚めのビニールシートを地面に敷いたり、パラソルを設立していた。

さらにはクーラーボックスを置いたり、荷物を置いたりなど一人だけ作業に勤しんでいる。

周りはといえば、当然の如くみんなはしゃいでいる。

子供ならば走ったり、カップルならば一緒に居たり、家族なら家族で楽しんでいたりと・・・そんな場なのにも関わらず、一人だけ別の世界にでも取り残されているんじゃないかと思うくらい、アルトの周りは静かで楽しそうな雰囲気すら感じられない。

 

「・・・・?」

 

そのせいか、視線がたまにアルトの方に行き、理由が分かってないせいで視線に気づいても、アルトは首を傾げている。

 

「アルトくん、どうしたの?」

 

「お待たせ。アルくん」

 

そんなことをしている間に、後ろから声が聞こえる。

 

「・・・いや、なんでもない」

 

そのため、返答しながらアルトは振り向いた。

 

そこには、薄紫色のスカート付きワンピースを着ている未来と、黄色のキャミソール形状の腰丈くらいの短いトップス、そして青色のショートパンツ。つまり、タンキニと呼ばれる水着を着ている響が居た。

 

「・・・・・・」

 

「あ、あれ? 未来、私何処か変な所でもある!?」

 

「それは大丈夫だと思うよ響・・・。それよりアルくん、何か感想はないの?」

 

響にそう言いつつ、二人を見て固まったアルトに何処か未来が不満です、と言ったような表情で見つめていた。響も響で安心してから気になるのか興味津々とアルトを見つめている。

 

「あ、いや・・・なんだ」

 

「なになにっ?」

 

何処か歯切れが悪そうな様子を見てか、響がきょとんとしたように聞いていた。

 

「・・・似合ってると、思う。いや、可愛い・・・って言葉がいいのか・・・?」

 

無表情ながらも、どう言うべきか分からないといった雰囲気は出して誤魔化そうと顔を逸らすが、以前マスターに言ってやれと言われた言葉が浮かび、アルトがそれを言った。

 

「へっ!?」

 

「そ、そうかな・・・」

 

アルトから予想外の言葉を聞いたからか、響と未来は思わず顔を赤める。

しかし、アルトは顔を逸らしていたために気付くことはなかった。

 

「・・・それより、日焼け止めは塗ったのか」

 

「う、うんそれは未来に言われたから・・・」

 

「なら、いい」

 

話を変えるように聞いたアルトに、響が少しぎこちなく答える。

 

「え、えっと・・・アルくんは準備してくれてたの?」

 

「・・・ああ。やること、なかったから」

 

それに乗るような形で未来が聞くと、アルトはいつも通りに返答した。

 

「もっと景色とか見たら良かったのに・・・」

 

「興味がない」

 

「もう・・・」

 

そんな様子を見たからか、いつも通りに戻ると未来は相変わらずのアルトに苦笑いをした。

 

「じゃあ、興味を持ってまた来たいって思えるように楽しもっか!」

 

「うん、ならアルくんを楽しませるのを目標にしようかな」

 

「遊んで来たらいい。俺はここに居る」

 

そう言って、アルトはビニールシートの上に座っていた。

 

「えぇ!? ちょ、ちょっとアルトくん!」

 

思わず驚いた響は、座ったアルトの手を引っ張って立たせようとする。

しかし、アルトは全然動かなかった。

彼も筋肉は付いてるために、力はあるのである。

 

「んー!」

 

「・・・・・・」

 

必死に引っ張ろうとする響と、全く反応を示さないアルト。

 

「う、動かない・・・未来も手伝って〜」

 

「うーん・・・」

 

がっくり、と肩を落とした響は助けを求めるように未来を見つめる。

すると、未来は何かを考えるように唸っていた。

 

「未来?」

 

「あ、ごめん・・・ちょっと考えてたんだ。それで思ったんだけど・・・もしかしてアルくん。泳げないの?」

 

「・・・」

 

その言葉にアルトは僅かにピクリ、と反応を示す。

 

「え、そうなの?」

 

「だって、アルくんいつも見学してたでしょ?だから泳げないのかなーって思ったの」

 

「あ、そういえば泳いだところ見たことないような・・・?」

 

未来の言葉に思い出すように、響は首を僅かに傾げて呟く。

 

「アルトくん。どうなの?」

 

「・・・別に泳げる」

 

「本当に? だったら私たちと一緒に遊んでもいいよね、せっかく来たんだし・・・」

 

「・・・はあ」

 

二人の言葉に引き下がらないと判断したのか、アルトは溜息とともに立ち上がる。

 

「そこまで言うなら一緒にやる。・・・なにするんだ」

 

「本当!? やった」

 

「うんうん、それでいいんだよ」

 

嬉しそうに喜ぶ響と、満足気に頷く未来。

その二人に何処かアルトは目を細めて見つめていた。

 

「・・・世話好きな奴ら

 

「何か言った?」

 

「なんでもない」

 

「アルトくん、未来。早く行こう!」

 

アルトが小声で呟いた声に反応した未来が聞くが、すぐに首を横に振る。

そして、響が二人の手を引っ張って行くのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、なにするんだ」

 

「うーん・・・あそこら辺まで泳いで競走とか?」

 

そう言って響が指を差したところをアルトが見ると、岩がある。そこをラインの目印とするらしい。

まぁ、目立つものといえばそれしかないため、仮になければ永遠と泳ぐ羽目になるだろう。

 

「分かった」

 

「私も大丈夫」

 

「なら決定だね! もし超えちゃって気づかなかったら誰か声を掛ける感じで---」

 

「それ、自分が忘れるかもしれないからでしょ」

 

「そ、ソンナコトナイヨー・・・」

 

「説得力皆無」

 

「うぐ・・・こういう時、アルトくんの言葉が一番効くよ・・・」

 

うう、と響は落ち込んだ様子を見せる。

 

「・・・頑張れ」

 

「何を!?」

 

「知らん」

 

「えぇ・・・?」

 

アルトがとりあえず、と言った感じで言った言葉に逆に困惑する響。

 

「あはは。確かにアルくん容赦なく本当のこと言うからね」

 

「そうなんだよね〜・・・」

 

「・・・?」

 

納得してる様子を見たアルトは理解出来ない、といった雰囲気を出す。

 

「まぁ、それよりも泳ごうか」

 

「だね。準備はいい?」

 

「ああ」

 

しっかりと準備運動をした三人は、海に足が付いて、なおかつ邪魔にならない場所に入る。

周りとは少し離れているので誰も迷惑にはならないだろう。

 

「じゃあ・・・3、2、1・・・スタート!」

 

響のカウントダウンが終わるのと同時に、全員が泳ぐ。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、えぇーっ!?」

 

「あ、アルくん!?」

 

泳いでいたはずの二人は、不思議と追いついてこないことに疑問に思い、ちらっと後ろを見ると何かが浮かんでいたのだ。

響と未来はすぐに頷き合ってから泳ぐのをやめ、慌てて引き返すと、アルトは死人の如く背中だけ浮かび上がっていたのである。

 

「・・・」

 

だらーんと脱力したかのように動かないアルトを二人は引っ張って引き上げていく。

本来は溺れてる人を引き上げるのは危険なのだが、足が着くところからあまり離れてないために、大して問題はなかった。

兎にも角にも、簡単に言えば---()()()()()()()()のである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬかと思った」

 

「ある意味私たちが死ぬかと思ったんだからね?」

 

「驚きでね・・・」

 

しばらくしてあっさりと目覚めたいつも通りのアルトに、ほっ、と安心したように息を吐きながら二人は苦笑いしていた。

 

「というか、アルトくんって泳げなかったんだ」

 

「アルくんって運動神経は悪くなかったから私も普通に泳げるかなって思ってたよ」

 

「・・・俺も、知らなかった」

 

アルトの言葉に、え?と驚きを示す二人。

 

「今日泳いだのが初めて。いつもは、俺が入るとみんな怖がるせいで無理だった」

 

「あ、もしかして見学だった理由って・・・?」

 

「そう、授業にならない。・・・興味がなかったのもある」

 

「そんな理由だったんだね・・・でも、アルくん泳げるって言ってたのはなんで?」

 

「泳げると思った」

 

「えぇ・・・?」

 

まさかの返答に、未来は驚愕するのではなく、困惑するしかなかった。

 

「迷惑掛けたのは、悪い。すまなかった。俺はここにいるから、二人で遊んでたらいい」

 

自分で設立したパラソルの下に居るとアルトが言う。

 

「ダメだよ」

 

しかし、そんなアルトの言葉を響が否定した。

 

「何故だ」

 

「響の言う通り。せっかく来たんだからアルくんも楽しまないと。泳げないなら私たちが手伝うし、ね?」

 

「・・・」

 

「それとも、アルトくんは嫌?」

 

「・・・任せる」

 

頑なしに連れて行こうとする響と未来に、何処か諦めの雰囲気を出しながらいつもの返事をする。

 

「じゃあ泳げるように頑張ろ!」

 

「そうだね」

 

「分かった」

 

響の言葉に未来は頷き、アルトは少し頷いた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、いい感じだね」

 

あれから時間が経ち、交互に響と未来が手を引っ張って泳ぐ練習をしていた。

今は未来が手を引いていて、ちょうど終わったところらしい。

 

「もう一人で行けそうかな?」

 

「手を引いた感じ、大丈夫だとは思うけど」

 

「・・・ああ。だいたいわかった」

 

響と未来の言葉にアルトは感覚を掴んだ、とでも言うように頷いた。

 

「私たちは見てるから、とりあえず泳いでみよっか」

 

「見た感じ問題なさそうだけどねッ!」

 

「ああ」

 

こくり、とアルトが頷くと、泳ぐ準備をする。

そして、自分のタイミングで顔を水面に付け、体を沈める。両手を前に広げ、船でも漕ぐような感覚で体が動き出した。

彼が泳いでる方法は、左右対称で手を胸の前で掻き、足を後方に一蹴りという動作を繰り返す---『平泳ぎ』と呼ばれる泳ぎ方だった。

アルトはその動作を何度も繰り返し、途中で両手で交互に水をかき、両足を交互に上下に動かす泳ぎ方---『クロール』と呼ばれる泳ぎ方に変えたり、両腕は同時に前後に動かし、両脚は同時に上下に動かして泳ぐ。腕、脚ともに、交互に動かしてはならない泳ぎ方---『バタフライ』など。

様々な泳法へと変え、響と未来たちの元へ戻っていた。

 

「終わった」

 

「アルトくん凄い! もう出来るようになってる!」

 

「あっさりとマスターしちゃったね。合格だよ」

 

まるで自分のように喜ぶ響と、優しく微笑みかける未来。

 

「たぶん、二人のお陰。・・・感謝しておく」

 

そんな二人に、アルトは無表情ながらも、少し言葉を考えたような動作の後にそう答えた。

 

「えへへ。どういたしまして!」

 

「どういたしまして。でも、アルくんの努力の成果でもあるんだよ?」

 

「・・・そうしとく」

 

流石に体力を使ったからか、言葉を返しながらも地上へとアルトは上がる。

 

「ちょっと休む」

 

「うん、体しっかり休めてね」

 

「ああ」

 

「未来、私たちは競走だー!」

 

「はいはい、ちょっと待ってね」

 

そう言って、響と未来はアルトから離れていく。

二人が泳ぐのを見届けたアルトは、砂浜に座って周りをぼんやりと見つめる。

 

「・・・・・・」

 

それは、さっきと変わらない景色。

しかしながらも、優しさ、幸せ、愛情---基本的に、負の感情ではなく、正の感情で溢れている。

それはまるで---

 

「・・・()()()()

 

不思議と、そう言葉を紡いでいた。

 

「アルトくん?」

 

そんなことをしていると、いつの間にか終えたのか、泳いでいたために髪と体を水で濡らしながらも響と未来はアルトの近くに戻ってきていた。

 

「・・・いや、思い(ふけ)っていたらしい」

 

それに気づいたアルトは立ち上がって砂を叩く。

 

「そっか」

 

「何か悩み事?」

 

「そういうわけでは、ない」

 

未来の言葉にそう返しつつ、しばらく休むらしいために設立したパラソルのところで三人は休むことにした。

 

「そういえば---」

 

ブルーシートに腰を降ろした響がふと、アルトの体をじーっと見つめていた。

 

「・・・?」

 

「どうしたの?」

 

アルトは首を傾げ、未来もどうしたのかと聞いていた。

 

「う、ううん。そのぉ・・・色々とアルトくんの体って男の子って感じがするなぁって」

 

「・・・は?」

 

何言ってるんだこいつ---見たいな雰囲気を出しつつマジトーンなアルト。

 

「え、ええと響? どういう意味で---」

 

響の言葉が言葉だったせいか、顔を赤める未来。

 

「へっ? あっ!? ち、違うからね! 変な意味じゃないから!」

 

自分の言葉を思い返して顔を赤くしながら慌てる響。

まさにカオスだった。

 

「わ、私が言いたかったのは変な意味でじゃなくて! さっきの言葉だったらそう聞こえてもおかしくないと思うけど、そういう目的のために見つめたり言葉にしたわけじゃなくて確かに他の男の子よりも全然安心出来るし優しかったり見た目的にも行動的にもかっこいいなとも思うし一緒に居て楽しかったりとかはするけどそれを言いたかったわけじゃ---」

 

ぐるぐると目を回しながら混乱したように早口で捲し立てる響。言わなくていいことまで言っていた。

 

「落ち着け」

 

そして、何故か言われている本人が異常に落ち着いているという状況が完成している。

 

「そ、そうだよ響。アルくんの言う通り落ち着いて。混乱しちゃってるから・・・言う必要のないことまで言っちゃってるよ」

 

「あうう・・・」

 

二人の言葉で、さらに顔を真っ赤にした響だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どういうことなの?」

 

「う、うん。私が言いたかったのはアルトくんって筋肉もしっかりあるし手だって女の子みたいに柔らかい訳じゃなくて、男らしいから・・・」

 

少し時間が経ち、ひとまず落ち着いた響は、言いたかったことを言った。

 

「あ、確かに。アルくんって部活やスポーツしてるわけじゃないのにだらしない体じゃないというか・・・引き締まってるって言うのかな?」

 

「そう! それが言いたかったんだ」

 

「・・・?」

 

実際に、アルトの体は中学生と考えると引き締まっていて、それでいて筋肉がたくさんついてるわけでもあまりないわけでもなく・・・万人受けしそうな体なのである。

中にはもっと鍛えた方がかっこいい、もっとだらしない方がいい、という人も居るかもしれないが一部の人だけであろう。

なお、当の本人は首を傾げて分かっていなかった。

 

「アルくんって鍛えてる?」

 

「・・・ある程度、力は付けるつもりだった」

 

何処か別の方を見て、アルトはそう呟く。

 

「ええと・・・踏み込まない方が良かった?」

 

「いや、ただ---()()()()()()()

 

「え?」

 

おずおず、と聞いた響にアルトは小声で呟いた。

聞こえなかったからか、響と未来は互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 

「なんでもない。ただやることがなかったからだ」

 

「アルくんのお家、ゲームとかそういうの全然なかったもんね・・・ほとんど私たちの荷物になっちゃってるし」

 

「確かに! アルトくんの家に最初に行った時は驚いたなぁ」

 

「・・・そうか?」

 

思い出したかのように言う未来と響は苦笑いする。

 

「「そうだよ(からね)!?」」

 

思わず、自覚無しのアルトに二人して突っ込んでいた。

 

「・・・最近はちゃんとある」

 

「私たちが言ってからだよね、自分の荷物増えたの。それでも少ないけど・・・私生活に使うものばっかりじゃない」

 

「携帯だって結構最近だったもんね・・・」

 

「・・・・・・」

 

何も言えなくなったのか、アルトは無言となった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方。さっきまでたくさん居たはずなのに、今はもう人が少ない。しかしながらも、砂浜から見る夕陽は普段とは違う美しさをあった。

夕陽の影響か、海も色の()せた鈍い光沢を放つからだろう。

 

そんな中、既に着替えを終え、一瞥(いちべつ)したアルトは片付けに入っていた。

あれから時間がある限り遊び尽くしたため、今は帰るための準備中だ。

 

「アルトくん! 手伝うことあるっ?」

 

声が聞こえた方をアルトが向くと、私服に着替えた響は走って聞いてきて、未来はこちらに歩いて向かってきていた。

 

「いや、問題ない」

 

あれだけ遊んだのに全く疲労を見せずに明るく、元気に言う響に、アルトは体力バカか?と密かに思いつつも、作業を片付ける。

 

「そう?何か出来ることなら言ってね!」

 

「・・・はあ」

 

「なんでため息!?」

 

アルトは、今日何度目かのため息を吐く。

 

「どうしたの?」

 

すると、未来がいつの間にか傍に来ていた。

 

「・・・いや、こいつの明るさには着いていけないと思った」

 

「あはは。アルくんとは真逆だもんね・・・響は凄く明るいけどアルくんは暗いというよりは冷静というか・・・平静(へいせい)?」

 

「分からない。だけど・・・こいつはまるで---」

 

アルトが言葉を区切り、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()

 

そして、そう呟く。

 

「へっ? なんで太陽? 私太陽じゃないよ?」

 

「・・・それくらい明るいってことだ。あの光り輝く太陽と同じくらい」

 

「例えってことだね。響にはちょうどいいかも。私たちにとってもそう思えるし」

 

理解出来てない響に、説明するアルトと未来。

 

「そっか。私は太陽かぁ・・・じゃあ---」

 

「・・・?」

 

「響?」

 

何処か考えるように響がうーん、と唸りながら顔を上に向ける。

そんな響の様子を見たアルトと未来は不思議そうに見つめる。・・・片方は雰囲気だけしか感じ取れないが。

 

()()()()()()()だね!」

 

「えっ!? 私?」

 

「うん! 私とアルトくんの居場所って感じかな? とても暖かい帰る場所!」

 

響の言葉に未来は驚きを表す。

そんな未来に対して、響は説明した。

 

「陽だまりと太陽。まるでセット。・・・それこそ陽だまりを照らす太陽、か」

 

その言葉を聞いてか、アルトが呟く。

 

「なるほど・・・私たちにとって響は太陽、二人にとって私は陽だまりなんだ」

 

「私はそう思うよ? アルトくんはどう思う?」

 

「ああ・・・別に、いいんじゃないか。(かげ)りを消すという意味でも、二人にはピッタリだ」

 

いつも通りにアルトはぶっきらぼうにそう答える。

 

「でもそれだとアルくんはどうなるんだろ?」

 

「うーん、何かあるかな・・・ピッタリな言葉」

 

「・・・別に要らない」

 

終わりかと思ってたのか、悩む二人に何処か無表情なのにも関わらず、呆れたような様子を見せる。

 

「ダメだよ。アルくんだけ省くなんて出来ないもん。それは私怒るよ?」

 

「未来の言う通りだよ!アルトくんも大切な幼馴染で友達だからね。それに、最初に私のこと太陽って言ったのはアルトくんだから最後まで聞かなきゃダメ」

 

今にも怒りそうな雰囲気を感じ取ったのか、アルトは諦めたようにため息を吐く。

 

「何かあるかな・・・あ、月とか?」

 

「アルトくんには別のが良いと思うけど・・・海、は違うし---」

 

「・・・・・・」

 

悩む二人にどうすればいいのか分からず、無言となるアルト。

 

「うーん。やっぱりアルくんは・・・」

 

「アレしかないよね」

 

同じ考えに至ったのか、響と未来がそう言っていた。

 

「・・・付けるなら早くしてくれ。なんでもいい」

 

早く帰りたいのか、そんなことを言う。

 

「響も同じ?」

 

「多分! イメージとしてはピッタリだからね」

 

「じゃあ同時に言おっか」

 

「うんっ!」

 

そんなアルトの言葉を聞いてるのか聞いてないのか、響と未来はそう言っていた。

 

「それじゃあ、一緒に。アルくんは---」

 

「うん。アルトくんは---」

 

「・・・・・・」

 

アルトは無言でやっとか、と言ったような雰囲気を出しつつも、素直に聞くことにしたらしい。

 

「「()()、かな(だね)!」」

 

「・・・えっ」

 

予想外過ぎた言葉に、呆気に取られるアルトだった---

 

 

 

 





○アルト(本名不明)
百合の間に挟まった無感情無表情のやべーやつ。百合至上主義者に出会ったら間違いなく殺される(アルトが殺されるとは言っていない)
実は泳げなかった。頭は今からでも高校入学出来るほどクソ良いけど実は常識など以外何も分からないポンコツ。
何気に毎話響にため息吐いてるかもしれない。
体は引き締まってるらしい。

○立花響
お人好しのバカで太陽。でも趣味が人助けのやべーやつ。アルトに逆に助けられたり、アルトと未来を色々と困らせてる。
でも可愛い。
アルトがどう思ってるかはアルトが感情がないために雰囲気で判断してる。
ほんへでも言ってる通り、未来と同じくらいアルトを大切に思ってる。
愛は重たいと思う。
次から()()の予定なので作者はもうこの子書きたくない

○小日向未来
嘘を見抜けるやべーやつで陽だまり。
なお、アルトと響に対してしか対応してない。たまにガチで心読む。
同じく、アルトに対しては雰囲気で判断してる。
怒るとめっちゃ怖い。愛も重い。だけど可愛い。
既に母性を感じる。
スカート付きのワンピースは似合うと思った。作者が(水着のことに無駄に詳しくなったし調べてたため)投稿間に合わなかった原因(自業自得)


アンケートはそろそろ閉じるかも。滅亡迅雷netに接続してる人多いから(現在57人)分のマギアでも出してやろうかと思った

追記 仮面ライダーとウルギャラで情報量多すぎて死にそうでした、まる


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第六話 ライブの前準備


サブタイトルとりあえずカタカナ一つでもあればゼロワンのサブタイトルだろ、とかいう雑な解釈

意地でも書きたくねえ!って思ってたら切りが良かったのでまだ行きません。良かったね、俺!でも短いです。
しかし文字数ってどれくらいがいいんですかね、基本的には4000〜6000だけど7000くらいの方がいいのかな?
あ、50人お気に入り登録ありがとうございました。見てくれるって嬉しいよね



 

 

 

海に行った日から数ヶ月が経ち、彼らは既に二年生だった。あれからも何度も映画やら買い物に付き合わされたり色々なところにアルトは連れて行かれていた。

ちなみに最初の頃は断ろうとしていたのだが、何かと理由を付けてくるために途中から諦めて素直に連れて行かれていたのである。

その時、親や頼み事などを使うのは狡いと、アルトは思ったらしい。

彼はなんだかんだお人好しなのである。

 

「アルトくん、おはよー!」

 

「アルくん、おはよう」

 

「・・・ああ。おはよう」

 

学校に向かってアルトが歩いてると、響と未来が追いついて挨拶をする。

それを彼はいつも通りに挨拶した。他人からすれば彼の返事は冷たいかもしれない。

だが、既に何年も一緒に過ごしている二人にとっては些細なことで、相変わらずの幼馴染の姿に精々微笑むだけだった。

そして、響と未来がアルトを挟むように隣に来ると、通学路での取り留めのない話に加わる。いつもと変わらない、見慣れた日常の風景である。

 

「そうだ、響。これ」

 

そんな中、未来が思い出したかのようにCDを響に差し出していた。

 

「ありがとう、未来」

 

「それは」

 

「うん、ツヴァイウィングっていうアイドルグループの曲だよ」

 

響がCDを受け取り、アルトが聞くと未来は丁寧に教える。どうやらアルトが知らなかったことは予想内だったらしく、すぐに返ってきた。

一応言わせてもらうと、『ツヴァイウィング』というアイドルグループはかなりの人気で、有名だ。

むしろ今では知らない人でも名前ぐらいなら知ってるんじゃないかと思われているレベルで。

当然、未来はファンで二人に勧めてたわけなのだが---

 

「そうか」

 

流石は感情がないと言われてるだけあって、アルトは興味を持つことはなかった。

 

「アルくんも試しに聴いてみたら?かっこいい曲だし」

 

「・・・分かった」

 

それでも、未来に言われた彼は素直に頷いた。

完全に興味はないが、聴くだけ聞こうみたいな感じである。

 

そして、時間があまりないことに気づいた三人は、僅かに通学路を急ぐ---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何事もなく家に帰ったアルトは、未来たちを見送った。

その手には、渡されたCDがある。

それを興味なさそうに見つめるが、聴くための準備を始める。

まず、CDレコーダーを引っ張ってきて、そこに渡されたCDを入れる。ヘッドホンを装着すれば、後は再生を押すだけだったので、アルトはポチッと押した。

その瞬間には、イントロが聴こえ始める。

それは軌道、軌道拍子。

曲はどちらかといえば明るい系でなく、暗い系でもない。どれかと言えばクール系の曲と言えるだろう。

それを、アルトはただただ無言で聴いていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

曲を終えると、アルトはヘッドホンを外してCDディスクを元のケースに入れ、返すために安全な場所へと置いてCDレコーダーを閉まった。

そして---寝た。

 

「・・・分からない」

 

寝る前に、それだけをこぼして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルくん、どうだった?」

 

次の日、アルトはCDを未来に返していた。

 

「よく、分からない」

 

「そうなんだ・・・」

 

未来は少し、残念そうな表情で肩を落とす。

もしかしたら、何も興味を持たないアルトでもツヴァイウィングの曲を聴けば興味を持つのかもしれないとでも思っていたのかもしれない。

 

「わ、私は良かったって思うよ!」

 

そこで、フォローするかのように響がそう言っていた。

 

「あはは・・・それは良かった。アルくんも興味待つと思ったんだけどな」

 

「・・・悪い」

 

「ううん。アルくんは悪くないよ。それに、興味持たなかったとしてもアルくんはアルくん。それに変わりはないもん」

 

「・・・そうか」

 

それだけ言い、彼は未来の手料理お弁当を静かに食べる。

さらっと女子の手料理弁当を食べてるのに突っ込む人材は、ここにはいない。

既に慣れきった光景なために誰も気にしないし、そもそも最初から気にしてる人は居なかったのだから当然だろう。

 

「あぁ、そういえば---」

 

鞄を自分の膝に置いたアルトは、鞄のファスナーを開けて雑誌を取り出していた。

取り出したものは音楽雑誌だ。その表紙はツヴァイウィングの2人組、特集記事が組まれており、かなりの紙面が使われているあたりその人気が伺い知れる。

 

「あれ、ツヴァイウィングの雑誌? 買ったんだ?」

 

「ああ、やる。俺に必要はない」

 

思わず響がそう言ったためにアルトは頷き、そのまま未来に差し出していた。

 

「ありがとう。これまだ買ってなかったんだよね」

 

「そうか」

 

それだけだったのか、それ以降は鞄を傍に置いてご飯を食べる。

別に彼が音楽雑誌を買ったのは興味があるわけでもなく、欲しかった訳でもない。ただ単に売ってたから買ってみた、それだけの理由だった。

 

「あ、そうだ。響、アルくん」

 

「どうしたの?」

 

「・・・?」

 

何かを思い出したかのように、雑誌を傍に置いた未来が鞄を探った。

響とアルトはそれに首を傾げる。

 

「これ、一緒に行かない?」

 

そう言って差し出してきたのは、今週末くらいに行われるツヴァイウィングのライブチケットを三枚。つまり、一緒に行かないかと誘っているのだろう。

未来が三枚手に入れた経緯は知らないが---

 

「構わない」

 

アルトとしては別に断る理由は一切ないし---どうせ連れて行かれると諦めてるのか、あっさりと頷いた。

 

「私も大丈夫! ライブって初めてだから楽しみかも」

 

「じゃあ、渡しとくね」

 

「うん! ありがとう!」

 

「ああ」

 

未来に渡されたアルトは鞄の中に入れる。

そして、ご飯を食べるのを再開したのだった。

 

「時間には遅れちゃダメだよ?」

 

「はーい」

 

「分かってる」

 

そう返事をしながら、いつも通りの会話に戻って響と未来が笑ってる様子を、アルトは無表情ながら見つめていた。

 

「・・・・・・」

 

「アルくん?」

 

「いや、なんでもない」

 

それにきょとんと首を傾げた未来が聞くと、即座に反応した。

実際に何も無かったのか、昼休みの間は彼が口を開くことはなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって喫茶店。

いつもの場所へ来たアルトは一人店に入る。

響と未来には一応言っているため、特に問題はないだろうとの判断だ。

 

「いらっしゃい。ってアルトくん?」

 

「マスター、いつもの」

 

「はいよ。今日は響ちゃんと未来ちゃんは?」

 

「・・・部活と多分家。今日は一人」

 

「そうか・・・いつもは一緒なのに珍しいな」

 

カウンターの席へ座ってるからか、アルトにマスターと呼ばれてる男が話しかけながらコーヒーを作っていた。

 

「・・・そうか?」

 

「そうだよ。はいコーヒーひとつ」

 

「ああ。悪い」

 

敬語を使うことも、会話的にも、何処か親しげな二人の様子。

どうやらマスターもアルトの態度は知ってるのか、彼の冷たい態度に何とも思わずにコーヒーを出していた。

 

「・・・」

 

そして受け取ったアルトはコーヒーを飲む。

 

「しかしアルトくんももう中学二年生なんだっけ?」

 

「・・・・・・」

 

コーヒーを飲みながらも、マスターの言葉にアルトが頷いた。

 

「早いねぇ・・・まずっ!」

 

そして何故かマスターは自分で淹れたコーヒーをマズいというのだった。

何故自分でマズいと思ってるのにコーヒーをメニューに入れてるのだろうか、とふと浮かんだアルトの考えは間違いじゃないはずである。

 

「別に。何も、変わらない」

 

「俺はアルトくんはもっと青春するべきだと思うよ。ほら、例えば響ちゃんと未来ちゃん。どっちが好きとかあったり?」

 

「・・・好きってなんだ?」

 

「そこからかぁ〜・・・というか本当にまずっ! 誰だよ作ったの!」

 

きょとんと首を傾げたアルトにマスターは肩を落としてまたコーヒーを我慢して飲んでいた。

意地でも捨てないのは店をやってるものとしてのプライドだろうか?そんなことを思いながらたわいのない話をしばらくし、アルトはコーヒーを飲み終える。

 

「マスター、金は置いとく。また来る」

 

未だに我慢して飲んでいるマスターを見つめながら、アルトはお金を置いて店の出口へ向かった。

 

「いつでも待ってるからな」

 

「ああ」

 

何処か受け入れてるかのようなその言葉に、アルトはちらっと見つつも返事をした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時に集合だったりする話のためもあってアルトの家でご飯を食べた未来と響を見送ったアルトは、家の奥にある金属製の扉を見つめる。

それは、意識が浮上した時から記憶の中にあった扉。最初は何も無かったのだが、アルトは隠す場所として使っていた。

覚えているパスワードを入力し、金属製の扉のロックが解除されたら中に入る。

中は広いというわけではなく、人一人が生活出来るか出来ないかの狭さである。

その中も、特別何かあるってわけでもない。あるのは三つの物体と五つのそれに使うアイテムらしきもの。

 

「・・・分からない」

 

未だになんなのか分からない()()を手にして、アルトはしばらく見つめるが、結局は一つの物体と一つのアイテムらしきものはポケットに入れた。

毎回一つは持って行っているらしい。

 

「・・・相変わらず、何故入るんだ?」

 

と、入れた本人も首を傾げるが、入るならいいと気にせずに詰め込んでおいて、アルトは明日の準備を全て済ませておいた。

忘れ物がないかも確認しつつ、目覚ましをかけるように設定したアルトは寝る体勢に入る。

 

「・・・・・・」

 

寝る前に、彼の脳内には響と未来の姿が浮かび上がった。今日見た、昼休みで笑い合う二人の姿。

そんな二人を思い出した彼は---

 

「太陽と陽だまり・・・か」

 

何処か懐かしむような雰囲気で、その言葉を最後に、彼の意識が途切れるのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---彼は知らない。この先、どんな未来が待ってるのかを。

否、それは誰も知らないのだろう。

 

少なくとも、言えることがあるならば一つ、()()()()()

運命の分岐点は刻一刻と彼に迫る。それは、歴史が変わるほどにとてつもなく大きな分岐点。彼の運命を大きく変える日々の始まり。

彼はどんな選択をし、どんな行動を成すのか。少なくともそれは、本人にしか分からないであろう---

 

 

 

 

 

 





○アルト
百合の間に挟まるやつ。
最近はもうどうせ連れて行かれると悟ったせいで諦めてる。でも律儀に行く。多分今回断っても響に連れて行かれてた。
百合の間に挟まりやがって爆発しろ
アイテムがポケッツに入るのはご愛嬌。仮面ライダーに突っ込んでは行けない。

○立花響
今回あんま出番なかった。ごめんね。
次回からキミにとっても地獄だから安心して♡(鬼畜)

○小日向未来
アルトにツヴァイウイングの曲勧めたけど興味持たれずに失敗した。
さらっと毎回弁当作って渡してる。ヒロインかよ

○マスター
自分でも飲めないクソマズ珈琲を生産するやべーやつ。
アルトは飲んでくれるので嬉しいけど上手く出来たと思って自分も飲んだら不味い。
たまにえぐいほど苦い。でも飯は美味しい。
趣味でコーヒー(喫茶)店やってる。
パスタが苦手でタコは嫌い。ウォシュレットも怖い。
容姿は石動惣一。
こんなイケてる悪者がいるわけねえと思う

挿入歌『ORBITAL BEAT』
アニメ本編ではきりしらが二期で歌ってたやつ。意味は知らない。ふつーに単語で訳したら軌道拍子(叩きつける)になるな、と思ったのでそう表現した。作者はこっちより逆光のフリューゲルの方が好き


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第七話 ソイツは新たな時代に生まれし始まりの一号


一万文字超え・・・だとぉ!?めっちゃ気合い入れて書いたからなぁ・・・。
というか、今更ながら主人公の容姿って書いてましたっけ・・・?覚えてないから軽く乗せます。

〇アルト
黒髪黒目 The 日本人って感じ。あとカッコイイ。でも常に無表情。感情は雰囲気で感じ取れ(無理難題)

本編どうぞ!さあ、地獄を楽しみな!(ゲス顔)





 

 

 

 

 

「あっ! アルトくん!」

 

「・・・ああ。居たのか」

 

ライブ当日の日、約束の時間より早く来てしまったアルトだが、どうやらそれよりも早く居た響が見つけたようで、駆け寄っていた。

響は女の子らしい格好をしていて、対するアルトは赤いパーカーに黒いジャケット。それから黒ズボンという服装である。

ちなみに、この服を選んだのは未来と響であった。

まぁ、そもそも服にも興味がない彼のことを考えれば、二人が選ばなければ悲惨なことになることは想像に容易いだろう。下手をすれば文字Tシャツという相応しくない格好になる可能性もある。

 

「うん。アルトくんは未来見た?」

 

「見てない。時間はまだだが、あいつのことだから遅刻はないと思う」

 

見当たらないもう一人の幼馴染の姿を響が聞くが、アルト自身も、未来の性格は理解してるのかそう答えていた。

 

「じゃあ、私が電話してみるね」

 

「ああ」

 

そう言ってから、響は携帯で電話を掛けていた。

 

「未来、今どこ? 私とアルトくん、もう会場に来てるよ?」

 

「・・・ん?」

 

「えっ、どうして!?」

 

突如、響が素っ頓狂な声を上げ、少ししてから電話を終えたのかため息を吐きながら閉まっていた。

 

「アルトくん。未来は叔母さんが怪我しちゃって家族で向かうことになったんだって。だから来れないみたい---」

 

そう言いながら、響は隣を見た。

 

「ってあれぇ!? アルトくん!? あれ、さっきまで居たよね!? 私、呪われてるかも・・・」

 

気がつけば、アルトの姿は()()()()()()、響はそう呟くのだった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、問題のアルトといえば---

 

「そっちに行くな」

 

()()()()()()()()

列に並んでいる時、偶然見えたために走ってきたのである。

 

「にゃぁ・・・」

 

「・・・何処だここ」

 

そして、きょろきょろと周囲を見てみると、見たことの無い場所に気がつけば入っていた。

そう、彼は()()になったのだ。

 

「あぁ---」

 

そのまま考えると、アルトはふと思い出す。

()()()()()()()()()()()』と書かれている場所に入ったことを。

 

「・・・バレないうちに戻っておくか」

 

どうやら警備員は会場が空いてないからか、はたまた警備範囲じゃないのか居ないらしい。なので、アルトはとりあえず来た道でも戻れば良いだろうという考えで、怪我してる猫の足にハンカチを巻きながら戻ろうとしていた。

バレなければ犯罪では無いのである。

 

「〜〜♪〜〜〜♪〜〜♪」

 

しかし、そんな彼の耳に、()らしきものが聞こえる。

それはアカペラ。しかし、澄んだよく通る声だった。

 

「・・・?」

 

もしかして自分と同じく迷い込んだのか、と思いながらアルトは歌に導かれるようにその道へ行く。

 

「〜〜♪〜〜〜♪」

 

その声の正体は、数mはあるくらいの距離にあった資材などの搬入を行う場所だった。

どうやら気がつけば、中に入ってしまったらしいと幼馴染のせいで慣れてしまった暴れる猫をアルトは落ち着かせながら心の中で考える。

 

「〜♪〜〜♪」

 

ふとアルトが視線を上にあげると、少しせり上がった段の上に自分より年上で、学生くらいと思われる少女がそこに居た。

ふんわりとボリュームのある赤毛に白いマントのようなものを羽織っていて、マントのせいで服装や体形は見えない。

 

「〜〜〜♪〜〜♪〜〜〜♪」

 

「・・・」

 

アルトの存在に気づくことはなく、その少女は楽しそうに歌っている。

それを聴いていたアルトは、不思議と()()()()()()()()()()()()、そう思った。

 

「~〜〜♪〜〜〜♪・・・」

 

少女は最後の詩をのびやかに歌い切った直後---

 

「うにゃぁぁぁ」

 

「・・・あっ」

 

「ッ!? 誰だ!?」

 

こっそり去ろうとしていたアルトの腕の中で丸まった猫が、欠伸をした。

そのせいで少女に気づかれる。

その少女は驚いた(のち)に警戒心を(あらわ)にするが、腕の猫と自分より年下のアルトを見たからか、警戒心は僅かに薄まった。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

思わず、無言となる二人。

アルトに至ってはどうしてくれるんだ、と言った雰囲気を纏いながら猫を見つめていた。そして知らないふりをして眠る猫。

少ししてから、少女がため息とともにアルトと同じ場所にまで降りた。

 

「あんた、警備の人でもないだろ。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」

 

「・・・すみません」

 

無表情のまま、アルトは頭を下げて謝る。

 

「あたしだったから良かったものの・・・その猫でも追ってきたのか?」

 

少女の言葉に、アルトは頷く。

 

「内緒にしておいてやるから、もう入ってきちゃダメだぞ」

 

「・・・そっちは? 関係者以外立ち入り禁止だと、言ったのに居るのは---」

 

「プッ・・・アハハハハ!」

 

アルトの言葉の途中に、唐突に少女が笑い声をあげる。

 

「・・・何がおかしい?」

 

それにきょとんとするアルトだった。

 

「いやぁ~・・・なんて言うか、あたしらもかな~り有名人になったと思ってたけど、まだまだなんだなぁって。というか、あんたはあたしらのライブを見に来たんじゃないのかい?」

 

「・・・ライブ? ということは---」

 

その言葉に、アルトは理解したのか目の前の少女をじぃっと見つめた。それに対して、少女はニイッと笑う。

 

「そう、あたしの名前は天羽(あもう)(かなで)。今日このドームでライブをする『ツヴァイウィング』の片翼だ!」

 

「へえー」

 

「って、それだけ!?」

 

得意げに言ったのに、アルトの反応が棒読みで興味が無さそうだったからか思わず奏はずっこけた。ファンには見せれない光景であった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ〜あんた、その年で中々苦労してるんだね・・・特に人助けをする幼馴染に」

 

「・・・別に」

 

結局、暇つぶしに話すことになった二人は出口辺りで座って話すこととなった。

ファンにとっては嬉しいことなのだが、残念なことにアルトは全く覚えてなかったほど興味を持ってなかった人間である。

話した内容については、名前を伏せて幼馴染たちのことを話したらしい。まぁ、それ以外に他と関わらない彼には話せる話題がないというのもあるが。

 

「あんたは、何故歌う?」

 

理解できない、といった雰囲気を纏ったアルトが聞く。

 

「奏でいいよ。それで、あたしが何故歌うかって? ・・・まぁ、簡単に言えばさ、あたしにはどうしてもしたいことがあって、そのための手段で死に物狂いで歌ってた。それが気付いたらこんなでっけぇ場所で歌うことになってたってわけ」

 

何処か遠い目をして言う奏に、アルトは何も言えなくなった。

 

「・・・アハハ! 悪いね、空気悪くしちゃって」

 

「いや、いい。俺には()()()()()()分からないからな」

 

空気を変える様に朗らかに笑う奏に、アルトは無表情で答える。

 

「そっか。あんた感情ないって言ってたね・・・」

 

「・・・ああ。だけど、さっきのあんたは今言ってたこととは違った」

 

奏の言葉に、頷きながらアルトはそう呟く。

 

「え?」

 

「さっきのあんたからは()()()()だと感じ取れた。今のあんたには『別の目的』が出来ているんじゃないのか。少なくとも昔のあんたは知らないが、今のあんたからは()()()はあまり感じれない」

 

アルトの言葉に、奏は心底関心したような、驚いたような表情をする。

しかし、すぐに微笑んだ。

 

「へぇ〜これは驚いた・・・凄いね、感情がないって言ってた割にはあたしのことに気づいてる。確かに、最初はただ死に物狂いで歌ってたけど、いつの間にか誰かに歌を聴いてもらうのが楽しくなってきてるよ。今じゃ翼――相方とずっと歌っていたいって思ってるから。目的のための手段だったはずなのに、今じゃ歌うことの方があたしの生きる目的になってるかもしれねぇ」

 

「・・・そうか。それがあんたの()()なら、いいんじゃないのか。『復讐心』に囚われるよりは、いいと思う。・・・だから、何を焦ってるかは知らないけど()()()()()()

 

そう言いながら、アルトは猫を抱えながら立ち上がった。

 

「ッ!?」

 

「そろそろ、準備があるんじゃないのか」

 

二度目の驚愕の表情を見せる奏に視線を向けず、アルトは猫を見つめて言っていた。

 

「あっ!? やべっ! ホントだっ!?」

 

アルトの言葉に気づいたのか、時計を確認した奏も立ち上がった。

 

「ここまで案内してくれて、感謝する」

 

「いや、いいよ。あたしも楽しい話や面白い話も聞かせてもらったし」

 

「そうか。じゃあ、俺は戻る。幼馴染があんたのライブ、楽しみにしてるんだ。頑張ってほしい」

 

「ハハハ、言われなくともみんなのために頑張るよ。それにしても、感情ない割には他人を気遣ったりして・・・あんた優しいんだな」

 

無表情のまま言うアルトに、奏は微笑みながら言った。

 

「・・・優しくはない」

 

それを、アルトはいつものように否定するが、そんなアルトの姿を奏は微笑んだままだった。

 

「そういうことにしておくさ。それじゃ、最後にあんたの名前教えてくれないかい?」

 

「・・・アルト」

 

そう言いながら、アルトは携帯を取り出し、『先に入ってるよ!』というメールを見ながら向かおうとする。

 

「アルト!」

 

そんなアルトの姿を見て、奏が名前を呼んだため、アルトは振り向いた。

 

「・・・なんだ?」

 

「アルトもいつか、みんなと同じように感情を理解出来て、顔に出るようになるといいな!」

 

「・・・・・・」

 

それだけ言い、手を振って戻っていく奏の姿をアルトは何を考えてるのかは分からないが、無言で手を挙げ、踵を返したのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトくん、遅い! 何してたの? 心配だったんだからね?」

 

無事に響と合流したアルトは、早速頬を膨らませた響と対峙していた。

 

「・・・悪い」

 

「って、あれ? その猫・・・」

 

「しまった・・・」

 

そして、時間が時間であったため、直接向かったせいか服の中に入れて猫を持ってきたままのアルトである。

とりあえずもう始まるせいで真っ暗になるために、アルトは諦めて猫が息出来るように再び位置調整していた。

 

「あ、暗くなった! 仕方がないから静かにしてくれること祈って、ライブに集中しよ?」

 

「ああ・・・それにしても、人気なんだな」

 

アルトがそう言いながら周囲を見ると人、人、人で、何処を見ても人だ。この状況で暗い中動けば、猫を外に出す前に大変なことになるだろう。

ハチマキみたいなのを巻いて、法被を着ながらもペンライトを全力で振ってるガチ勢が居るが、アルトは興味がなかったので視線をツヴァイウィングに移した。

 

そして、ライブが始まる。

ツヴァイウィングの二人は落ちるようにやってきた。その際に見えたリボンはまるで翼。

二つ揃うことによって、羽ばたける両翼。

それだけで、アルトは奏が片翼と言っていた言葉に何処か納得した。

 

「いぇーい!」

 

響がサイリウムを振って盛り上がってるのがアルトの視界に映るが、気にせずに見つめる。

 

曲がサビに入る---既に大盛況と言えるくらいに、会場の盛り上がりは凄くて、アルトでさえも目が離せなくなっていた。

さらに、曲がサビに入ると同座に天井が開き、夕焼けがいい味を出している。

客も、それに合わせるようにヒートアップし---

 

一曲目が終わる。

 

「すごい! ドキドキする・・・これがライブなんだね!」

 

「これが、今のあんたの()()なんだな」

 

「えっ!? なんて!?」

 

「なんでもない」

 

客の盛り上がりのせいか、アルトの普通の声音だったためにか聞こえなくて響が聞き返す。

それを、アルトはなんでもないと知らせるように首を振った。

 

「まだまだ行くぞぉーっ!」

 

奏の声と同時に、会場からとてつもない歓声が沸き起こり---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、なに!? 演出!?」

 

「違う。・・・『嫌な予感』がする」

 

突然の爆発に周りは慌てたり、困惑したり、悲鳴を上げて逃げようとする。

しかし、アルトは隣にいる響から目を離さないようにしつつ、いつも通りに無表情で冷静に見つめていた。

 

「ノイズだぁぁぁぁぁ!」

 

誰が叫んだのか、そんな声が聞こえた。

 

ノイズ、この世界における絶望の象徴。認定特定災害とも呼ばれており、突然現れては人々の平和を脅かす、まさに『()()』と呼ぶべき存在。全てにおいて謎。人類にとって共通の天敵。

その特徴はカラフルな色とマスコットのような見た目。しかし、見かけによらず恐ろしい存在だ。何が恐ろしいかと言うと、人間のみ襲い、触れた人間をノイズごと炭素の塊に変換し炭化させるという力がある点だ。

 

何よりも恐ろしいのはノイズの特性である『()()()()()』が挙げられる。

位相差障壁とは、ノイズの存在を人間の世界とは異なる世界に跨らせることで、通常の物理法則下のエネルギーによる干渉をコントロールする能力である。

ノイズ自身の「現世に存在する比率」を自在にコントロールすることで、物理的干渉を可能な状態にして相手に接触できる状態、相手からの物理的干渉を減衰・無効化できる状態を使い分ける。

 

要するに、ノイズは物理法則から切り離された状態で活動できるのである。

 

これにより、人間の行使する物理法則に則った一般兵器では、ノイズに対してゼロから微々たる効果しか及ぼすことができない。

ただし、存在比率が増す瞬間にタイミングを合わせたり、効率を考えず間断なく攻撃を仕掛ける長時間の飽和攻撃によって殲滅は可能。

しかし、どちらも効率的・有効な対策とは言えず、特に後者に関しては周囲にノイズよりも深刻な被害をもたらす結果となった事例も報告されている。

つまりは、要約すれば、ただの人間では対処が出来ない相手なのだ。

だが、本来は人が一生のうちノイズに遭遇する確率は、東京都民が一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率を下回るとされている。

 

当然、それについて知らない者はこの世界には余程な限り居ないだろう。

それは彼も例外ではなく、興味はなかったが知識としては身につけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げるぞ」

 

「あ、アルトくん!?」

 

その間にも逃げ惑う人々にノイズが突撃して炭化させるが、アルトは無表情で響を逃がすように手を引っ張る。

恐怖でか、はたまた状況を整理出来てないからかアルトに引っ張られるままだが、当然の如く()()()()人がいっぱいだ。

殴り合うものさえも出てきたり、人が倒れても踏みつけてお構い無し。それは()()()()()()()。いや、そもそもこの場で誰かを助ける方がおかしいのかもしれない。

それに、なによりも今この空間には間違いなく『()()』など一切なく、『()()』に満ちている。

 

「・・・っ」

 

それを見たアルトは、何とも言えなくなるが、ほんの少しの迷いのうちに、止まって響を見つめた。

 

「アルトくん・・・?」

 

「お前は逃げろ」

 

「えっ・・・? アルトくんも一緒に---」

 

「お前には()()()()が、『両親』が居る。()()()()()。だからお前は生きなければならない。今なら()()()()()からなら逃げられる」

 

無表情で、どう思ってるかなどの雰囲気でさえ何も感じ取れない。そして---

 

「な、何言ってるの!? ノイズだよ!? それに、アルトくんは私たちの---ひゃっ!?」

 

()()()。アルトが響の背中を押し、響は人に流される。

 

「ま、まっ---!」

 

その瞬間には、アルトは()()()()()()()()に走り出した。だが、彼の表情には絶望も恐怖も何も無い。

そもそも、何も感じることなく、その先は地獄だというのにも関わらず走る---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)---』

 

 

『--- Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)--』

 

 

 

歌が聞こえる。それは、()()()()。しかし、それでも足りない---

 

「ま、待って・・・助け---」

 

「こっちだ」

 

そして響と離れたアルトは、倒れた人を助け起こしたり他の人を()()()()()へと行かせるようにしていた。

そんな彼は、()()。間違いなく()()()だ。

 

「ッ・・・!」

 

当然、助け起こしてる間にも鳥型のノイズは槍状に、人型のノイズは紐状になって獲物を見つけたかのように突撃し---

 

 

 

 

 

 

 

 

()()』したかのようにアルトは避けた。

 

「・・・触れたらアウト、か」

 

回避されたノイズは地面にぶっ刺さり、土煙を起こす。その間にアルトは助ける。全員は助けられないと分かっていようが、彼は動いていた。何体も突撃してくるノイズに対しては、ひたすら『()()』して避ける。

ふと、アルトが視線を奏が居たところに移すと、彼女たちは戦っていた。鎧のようなものを身に纏い、槍と剣を携えて。

しかも、ノイズをしっかりと倒している。だからだろうか、気づかなかったのは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトくん! 後ろぉ!!」

 

「・・・!」

 

予想外、それはアルトにとって予想外の声。聞き慣れてる声に反応して横に飛ぶ。同時にノイズが壁を破壊し、その際にかなりの速度で飛んできた岩に頭をぶつける。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「何故、来た・・・」

 

頭から血を流したアルトは抑えながらも見た。

そこには、涙目になっている響。当然だ、何人も死んだ姿を目にしたはずなのだから。

 

「だって、アルトくんは私と未来にとって()()なんだよ!? 置いていけるわけないよ・・・!」

 

「・・・バカが。早く行くぞ。お前も今回ばかりは暴れるな」

 

「にゃぁ」

 

呆れて何も言えないアルトは、既に助けられる人が居ないからか響の手を引っ張って逃げる。

未だに本能的にか震えてる猫を支えて。

 

「アルトくん! 血が---」

 

「・・・無理はするなと言っただろ」

 

「えっ!?」

 

響の言葉を無視したアルトは、奏の方を見ながらそう呟いた。

 

「・・・!」

 

「わっ!?」

 

そして、『嫌な予感』を感じ取り、アルトは猫を響に強引に抱えさせ、容赦なく前方に投げ飛ばした。

その瞬間に、ノイズが通り過ぎて目の前にある壁と鉄の柵のようなものを破壊し---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とてつもない速度で飛んできた鉄の柵が、アルトの右足と左肩にぶっ刺さった。恐らく、外れた際に尖った折れ方をしたのだろう。さらにコンクリートの石礫を掠ったのか横腹からも血を流して、いくらか直撃していた。

 

「がっ・・・」

 

どれだけ感情がないと言われようが、彼だって人間。

力が入らず、痛みによって倒れる。

 

「えっ・・・? ある、と・・・くん・・・?」

 

響は倒れたまま、目の前で倒れ、地面を血で濡らしている幼馴染の姿に思考が止まり---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()

 

「きゃっ!?」

 

思わず、と言った感じで響は目を閉じてしまう。だけどいつまで経っても痛みは来なくて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ・・・ぁあ・・・」

 

無理矢理体を動かしたアルトが、響の手を強く握っていた。

 

「アルトくん・・・!? だ、ダメ、離して! それ以上は・・・!」

 

落ちるはずだったのに、痛みを感じなかった響は気になって目を開き、驚愕した。

なぜなら倒れた際にか、はたまた直撃したせいなのか両腕にまで血が出ているアルトが手を握っているのである。その影響で血を伝ってきたため、響はアルトに離すように言っていた。

 

「っ・・・太陽は、陽だまりのところに・・・」

 

「な、何を言ってるの!? 今は---」

 

だが、運命というのは残酷だ。

不運とも言うべきなのか、響を離すまいと力強く握っていたアルトの足場でさえ、壊れる。

その瞬間、せめてダメージを下げるためか視界が半分赤く染っているアルトは響を抱き抱え、ステージ側へと落ちた。

 

「ッ・・・がは・・・」

 

本来ならば、そこまで高くないために打撲程度で済むだろう。だけども、アルトは自分を下敷きにしたのだ。

それも、既に傷だらけなのにも関わらずに。

そうなれば、彼のダメージ量は計り知れない。

 

「ッ!? アルトくん、しっかりして! アルトくん!!」

 

それに気がついた響は慌てて退き、声を掛ける。

 

「まだ、間に合う・・・」

 

響に言葉を返さずに、アルトは何かを呟く。

無表情ではあるが、彼の纏う雰囲気は何処か焦っている。それは、自身の限界か、それとも流石にこれ以上は響を庇えないことなのか分からないが、焦っている。

それでも立ち上がり、足を引き摺りながら響の手を引っ張っていた。

 

「ノイズは、()()()ステージ側に、集まっていた・・・だから、なるべく上に・・・」

 

「アルトくん、ノイズがもうっ・・・!」

 

アルトは片目を閉じてる影響か、足元がおぼつかなく、さらには視野も狭まっている。

そこに追い打ちをかけるように響が指を指した方を見ると複数のノイズがいる。

もはや、今のアルトに回避する術はない。だからこそ---

 

「行け・・・俺が、()()()()()

 

アルトは、自分を犠牲にする。それは・・・彼は知らないが、未来が危惧していた結果と同じ。()()()()()()()()()()()行動。

 

「だ、ダメ! 一緒じゃなきゃ!」

 

「そんなこと・・・言ってる場合、じゃない・・・だろ・・・」

 

「でも---」

 

そんな言葉を言い合ってる間にも、ノイズは迫ってきていた。

よもや、今逃げても互いに簡単に炭化させられるだけ。つまり、ゲームオーバー・・・チェックメイトだった。

 

「・・・流石に、無理か」

 

アルトはせめて、最後まで引きつけようと前に出ようとした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらぁぁああ!」

 

「・・・! お、まえ・・・」

 

絶対絶命のピンチ。そんなアルトを助けたのは、ライブ前に偶然出会った天羽奏だった。槍でノイズを切り裂いたのである。

 

「なっ!? なんで・・・いや、今は駆け出せ!」

 

「今、行くしか・・・ない・・・ぞ」

 

「あ、アルトくんっ!」

 

ノイズを片付けた後、奏は振り向いた際に、驚愕したような表情をするが、すぐに前を向いた。

そして、響がアルトの名前を呼んで代わりに引っ張っていく。

血の流し過ぎた影響なのか、今にも息が絶えていて、体力が無くなりかけてるアルトは響に引っ張られながらも奏の方を見つめ続けた。

飛んできたノイズを奏は槍をくるくると回すことで炭化させる。

しかし、芋虫型のノイズが体液のようなものを吐き出し、追い打ちを掛けていた。

このままでは耐えれないと判断したのか、奏は雄叫びを上げながら槍の回転速度を上げた。

しかし、奏の纏う鎧がボロボロと崩れ始め――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少しで出口、と行ったところまで到達した時。激しい爆発音と砂煙が巻き起こる。

その際に止まったことが行けなかったのだろう。

響の()()()()が刺さり、おびただしい量の血が吹き出す。

 

「えっ・・・」

 

「なっ・・・」

 

そして、響は倒れる。

力が抜けたせいか、響の中から猫が離れていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

既に、分かっていた。もう自分が限界だということは。

今日はあくまでライブをするだけ、それだけだったからLiNKER(リンカー)の投与はしていない。

だから、翼とは違う時限式のあたしはいつもより早く制限時間を迎えてしまっていた。

それでも、全力を出せないだけでノイズを倒すことは出来る。

そう考えて槍を振るってノイズを切り裂いていた。

 

「おらぁぁあああ!」

 

ふと、少しでも数を減らすために次のノイズに行こうとしていた時、まだ残っていて、なおかつ逃げれてない男女が見えたあたしはすぐに助けに入った。

例え全力を出せなくとも、二人だけでも救うために。

必死だった。だから、助けた相手が誰かなんて気づけなかった。

 

「・・・! お、まえ・・・」

 

さっき聞いた事のあるような声が聞こえて、思い出そうとするのを後回しにする。

そのまま後ろの二人を逃がすために言葉を紡ごうと振り向いた。

 

「なっ!? なんで・・・いや、今は駆け出せ!」

 

当然、驚いた。当たり前だ。

なぜならその少年は、あたしより幾つか年下で、無表情で愛想がないけども何処か優しさを感じたり、意外に他人を見てたり、初めて会ったのにも関わらずあたしがノイズに抱いていた感情を見抜いたやつ・・・アルトがボロボロだったのだから。

両腕と横腹からは血を流しているが比較的マシで、左肩と右足に至っては鉄の柵のようなモノが刺さったままだ。

なにより、頭からも血を流して左目なんて血で見えなくなっていた。

恐らく、傍の少女を守っていたのだろう。

 

 

 

 

実はあたしはあの時、ライブ前に話して思ったことがある。こいつにはもっと生きて感情を理解できるようになって欲しいと。

だって、あたしたちよりも年下なのに感情も理解出来ないなんて悲しすぎるだろ。

いつか、感情が理解出来るようになって欲しい・・・だからアルトを殺させる訳には行かなかった。

そのためにも、あたしは人を助けるために、時間稼ぎを目的でノイズの攻撃を受け止め続ける。

でも---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に時限式の限界を超えてたあたしのギアは破損していく。

さらに、戦闘の余波で飛び散った破片の一部がアルトが守ってきたであろう少女の胸に突き刺さり、赤い花が咲いた。

 

「なっ・・・」

 

「あっ!? おい、しっかりしろ!」

 

自分の身に纏う鎧が見る影も形もないこと自覚していたが、周囲のノイズを薙ぎ払ったあたしは急いで少女に駆け寄る。

 

「・・・っ」

 

もう限界が近いはずなのにアルトは、無表情だが何処か必死そうな様子で血溜まりの中に倒れる少女にハンカチを押し当てていた。

 

「おい、死ぬな! 頼むから、目を開けてくれ!」

 

だから、あたしも諦められなくて必死に声を掛ける。

 

()()()()()()()()()!!」

 

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うっすらとだが、目を開けてくれたことに安堵するのと同時に、あたしはアルトと女の子を見て、覚悟を決めた。

()()を使うことを。

 

シンフォギアに備えられた最大最強の攻撃手段。それが『絶唱』。

増幅したエネルギーを一気に放出することで得られる攻撃力はまさに最強の一撃。

しかし、それは代償なしには放てない。高めたエネルギーはバックファイアとして装者にも襲い掛かる諸刃の剣だ。

 

既にボロボロな自分が使えば、耐えれずに死ぬことは分かっていた。それでも、この二人の命は未来(みらい)に繋げなければならない。あたしの命ひとつで助けられるのだったら、それはきっとやるべき事なのだろう。

 

「アルト。この子を頼めるか?」

 

「・・・あん、たは?」

 

今にも、キツそうなアルトに申し訳なく思いながらも、自分は彼女を連れて行けないためにお願いする。

 

「あたしは---()()()()さ。あたしさ、いつか、心と体・・・全部空っぽにして思いっきり歌いたかったんだ。今日はこんなにも聞いてくれる奴らが居るんだ。ノイズなのが残念だけど・・・あたしは全力で歌う」

 

「・・・そう、か・・・」

 

それだけ言うと、この場でも、今の状態でも表情の変わらないアルトにあたしは苦笑いした。

だけど、理解してくれたのか彼は少女を抱えて出口へと向かっていく。

距離からして、きっと大丈夫だろう。

それでも、ここで戦わなければノイズは二人を殺してしまう。

 

だからあたしは自身の槍を手にして、前を見据えた。

 

「・・・もし、届くなら最後まであたしの歌、あんたも聴いてくれよな。アルト」

 

今のあたしなら、何でも出来そうな気がした。

あぁ、でも・・・叶うならば、翼ともっと歌いたかったな。アルトは、感情を理解して、みんなと同じようになれるのだろうか、あの少女は最後まで無事なのか、弦十郎のダンナや了子さんたち、みんなは無事なのか、そんなことは浮かぶし死ぬのはあたしも怖い。

何よりも、あたしがいなくなった後の翼が心配だ。翼はいつも真面目で、固い。だから、そのうちぽっきり折れてしまいそうだから。

でも、もうこれしかないんだ。だからせめて、最後はあたしの歌を、この場の全員に届かせるだけ!

 

そう思うのと同時に槍を頭上へ掲げ、深呼吸をする。

そしてあたしは覚悟を決めて目を閉じ---()()()()

 

「---Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

今、口にしている歌は()()()()()()()()()()。翼ですら、病院で暫く休むことは確実の絶唱をあたしは()()も持たず、『投薬』で引き上げた上に制限時間を過ぎてるあたしが耐えられるはずがない。

それでも、歌うしか無かった。これならばここに居るノイズは片付けられるから。

 

「---Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

「いけない奏ぇっ! 歌ってはダメェェェ!!」

 

相方の、翼の声が聞こえる。それでも、やめるつもりはなかった。

なぜならこのまま戦っても、LiNKERがないあたしは戦えない。翼一人に負担をかけさせて、翼も危なくなる可能性だってある。

ごめんな、翼・・・。

 

「---Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

これは、命を燃やす・・・最後の歌だ。

 

「---Emustolronzen fine el---」

 

そして、あたしは絶唱の最後の詠唱である一節部分を---

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Warning,(警告)warning.(警告)

 

 

 

 

 

 

それは、警告。

果たして、ノイズに向けられた警告なのか。それとも、奏に向けられた警告なのか、それとも第三者に向けられたものなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

This is not a test!(これは試験ではない!)

 

次に流れた一節は、これは試験ではない。試運転でもないと取れる言葉。つまりは、テストでは無いということ。

 

「な、なんだ!?」

 

何処からともなく、ネイティブな英語が聞こえたからか、それとも正体不明の声にか、奏は思わず()()()()()()

 

「歌・・・ではない? ・・・ッ! 奏ッ!」

 

何処からか聞こえた正体不明の音声のようなモノのお陰で、奏の絶唱が止まったことに安堵しつつ翼が駆け寄った。

 

「翼・・・」

 

「なんで、なんで絶唱を使おうとしたの!? もし使ったら奏は・・・!」

 

「それは---ごめん・・・でも、今は」

 

涙目となっている翼を見たからか、奏は申し訳なさそうに謝り、ノイズを見た。

 

「分かってる。奏は休んでいて。さっきのが何なのか分からないけど、ここは私が---」

 

そう言った翼が話を後にして剣を手にしながら向かおうとした時だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイブリッドライズ!

 

 

何処からもなく、さっきと似たような声が聞こえたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャイニング!アサルトホッパー!

 

そして、()()は上空から物凄い速度で落下してきて、地面にクレーターを作った。

当然、土煙が出てきて()()の姿は見えなくなる。だが、風に吹かれて土煙が消えていくと---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()。一言で済ませるならば、()()()()()()だ。

素体が真っ黒。しかし、所々に蛍光(けいこう)イエローの装甲が付いてるからか、禍々しさを一切感じさせずに何処か明るく感じられる。

そして、足りない装甲を補うかのように蛍光(けいこう)イエローの装甲を挟むように深縹(こきはなだ)色の装甲が付けられていた。

何よりも、目は赤くて、胸部の中央には同じような 深縹(こきはなだ)色の丸とそれを囲うような小さな赤い円があるのが特徴的だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 "No chance of surviving this shot."(この一撃から生き残る術などない)               』

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の音声が流れ、()()の登場とともに、夕陽の輝きが強まる。

まるで()()の出現。()()()()の輝きを守って、()()()()を照らしているようにでさえ、錯覚してしまう。

それだけじゃない。()()からは()()()()のような、()()()も何処か感じられる。

 

「なっ・・・!? 貴方は、一体何者!?」

 

「あんたは・・・!?」

 

しかし、突然現れた()()に対して、二人の装者は、警戒するしかない。それはそうだろう。もし敵であるならば、今の状況だと間違いなくやられるのだから。

だが、()()は自分の正体を知らせるように、声を発する。

 

「・・・ゼロワン、()()()()()()()()()()。それが俺の名だ」

 

()()は静かにそう名乗ったのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、伝説の始まり。

とある世界で、旧時代の歴史を塗り替え、新時代の幕をあけた令和の象徴。

新たな時代に生まれた始まりの一号。最古から受け継がれてきた仮面伝説を受け継ぎ、旧世代と並び立つ新世代の伝説を創りし者。

果たして、伝説は塗り替えられるのか---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇アルト
そのうち未来予知しそう(小並感)
実はクソボロボロ。本当になんで生きてんだ、こいつ
今の服装は飛電或人。
奏の中にある復讐心には気づいてた。何に無理してるかは知らない。
感情はなくとも心はあるので人間。だから痛覚もある。人の心を無くしたら人じゃない(怪人)って一般魔法使いの兄ちゃん(操真晴人)も言ってたから、それ。

〇立花響
原作では観客席ずっと居たけどこの作品ではアルトのお陰で本来なら逃げれてた。
でも、アルトのことが大切なので戻った。
原作通り破片ぶっ刺さる。
でも生きてる。

〇小日向 未来
誘ったけど原作通りの事情で無理だった。
なお、来てたら(作者が自分の精神を犠牲に)もっと酷いことにしてるので何気に最善。
危惧してたことが合ってた。つおい

〇天羽奏
元より生存させるつもりだったし、あのシーンはこの小説書く時から決めてた。
実はタグが生存予定から生存に変わってる。
なんで生存したのか詳しい理由は次回明かされるはず。

〇風鳴翼
アルトと全く関わりないけど原作通り。この頃の防人が作者的には一番可愛くて好き。

▼ゼロワン
令和一番目の仮面ライダー。令和の象徴。新時代の幕をあけた始まりの一号。祝え!
並び立つは、ひらパーのセリフから。
今回出たシャイニングアサルトホッパーは本編と変わらない。
ゼロワン本編で二重の意味で出れなくなったの悲しい。
ずっとこのシーン書くために書いてた。
※バカみたいな色間違えしてたので修正


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第八話 オレが希望で仮面ライダー


※前回クソみたいな色の間違いしてたので既に直してます。アサルトウルフの色調べてやってたのですが、寝ぼけてたから許してやってください。誠に申し訳ございませんでした。

ちなみにアルトくんの容姿、黒髪黒目以外は決まってないのでイメージは皆さんにお任せします。絵を描きたいけど私は棒人間か謎の生命体しか書けないので無理です。すみません。

ゼロワンというか、ハーメルンは黄色使うと見えづらいと思うから工夫しなきゃね・・・。ところでそろそろ俺が辛いから終わんない?・・・終わんないね、これ終わっても暗いもんね、ちゃんと描写する気なので実質0.5期ですね なのでちょい長くなると思います・・・俺の心がウルトラ辛いぜ。

あ、私のとこまたコロナ出たらしいので自分もかかるんじゃないかなと内心ビクビクしつつ小説書く時にはそんなことすっかり忘れてる私ですが皆様も本当にお気をつけて。







頭が痛い。意識が消えそうになる。

いくら感情がなくとも、痛覚が無いわけじゃない。

当然痛い。

左目なんて血で濡れてるせいで見えない。

両腕や横腹からは血が出てる。

右足と左肩なんて鉄のモノがぶっ刺さってる。

右肩だって、左足だって痛い。

人の悪意を、感じた。

人の死を、見た。

醜いところを、見た。

地獄を、見た。

負の感情ばかりを、感じた。

 

あぁ、だけど---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

興味なんてないし、死の恐怖もない。

ただ、自分の目的を成すだけ。

俺に出来るのは、それしかないから。

 

()()()()()()()()()()

 

ライブ前に出会った人が、幼馴染の一人に言っていた。

その人も、今はボロボロ。無理はするなと言ったのに、どうやらやったらしい。

とにかく、俺にはやれることがないから、ハンカチで抑えるしか出来ない。

それでも、そいつは目を開けてくれた。生きるのを諦めないでくれた。

 

「アルト。この子を頼めるか?」

 

「・・・あん、たは?」

 

目を覚めたからか大丈夫と判断したようで、ボロボロなのにも関わらず、何処か覚悟を決めたようにこちらを見つめてくる。

だから聞いた。喋れるほどの体力がないから、目でどうするのかと。

 

「あたしは---()()()()さ。あたしさ、いつか、心と体・・・全部空っぽにして思いっきり歌いたかったんだ。今日はこんなにも聞いてくれる奴らが居るんだ。ノイズなのが残念だけど・・・あたしは全力で歌う」

 

「・・・そう、か・・・」

 

それしか、言えなかった。

ただその人から感じたのは『恐怖』と『覚悟』

それはきっと、良い事ではないのかもしれない。

だけど、俺には分からないから、俺は幼馴染の一人を抱えながら出口へと向かう。

 

「・・・もし、届くなら最後まであたしの歌、あんたも聴いてくれよな。アルト」

 

そんな声が、最後に聞こえた。それはまるで、死を悟い、最後の力を振り絞るかのように---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ああ、分かってる」

 

出口へと到達した。真っ直ぐ行けば、外にノイズが居ない限り病院に行くことなんて出来るだろう。しかし幼馴染の一人を傍に置いて、その人の両手を握る。腕に痛みを感じるが、気にしなかった。

 

「ここに、居ろ。必ず・・・()()()()()()には、帰す」

 

それだけ言い、手を優しく離した後にさっきまで居た方を向いた。

 

「ある、と・・・く・・・」

 

そんな声が聞こえたが、気にせずに歩いていく。

()()()()()()()()()()()()

もう、分かってる。分かっていた。

自分も覚悟とやらを決めるべきなのだろうと。

 

だから自身のポケットに手を突っ込み、()()()を取り出した。

分からない、けど不思議と()()()だと分かった。

手にした時、歩きながらも目を閉じた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・任せる。後悔しても、知らない』

 

『じゃあ、その時はアルトくんが守ってね』

 

『男の子なんだもの。女の子二人くらい守ってよね?』

 

『え---』

 

それは、かなり昔の話。だけども、この日のことを忘れたことは無かった。もしかしたら、この時に俺は二人に救われたのかもしれない。

だからこそ、約束として守ろうと思ったのかもしれない。

だから、鍛えもした。

でも、今は守れていない。いや、守り切ることが出来なかった。もっと、最善の選択をすれば良かったのかもしれない。俺には、そのための力はあった。

だから間違いなく、彼女が死にかけた原因は---俺だ。

怪我をしたから、足を引っ張った。

きっとあいつだけなら逃げられたはず。でも、俺のせいで死にかけている。

 

だから、選択しなければならない。

この力を使えば、自分がボロボロになっても戦い続けなければならないような、そんな気がする。でも、誰かを守ることは出来る。

だけど、そこに、何時もの日常というものはない。

そして、その結論の先に、何が待っていて何があるかなんて分からない。もしかしたら、破滅の未来(みらい)なのかもしれない。

でもそれは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

だから、目を開けて一度振り向き、見えなくなったが、後ろに居るはずの一人の幼馴染の方へ視線を向けた。

その後に、前を向いてベルトを腰に宛てがう。

そうすると、ベルトが勝手に腰に巻き付けられた。

 

『ゼロワンドライバー!』

 

俺はただ、約束を果たすだけ。自分が勝手に約束だと決めつけただけ。でも、俺自身あの二人と居るのは嫌じゃない、そうじゃないと一緒には居ない。

ライブ前に出会ったアイツも、同じだ。アイツを死なせるな、と何かが叫ぶ。

もしかしたら、ない記憶かもしれないし俺が助けたいと思ったからなのかもしれない・・・でも、()()を、()()()()を見つけた人間は、まだ生きるべきだ。

 

だから、アイテムを出した。

それは、グリップ。長方形のモノにくっついている・・・『()()()()()()()()』と呼ばれるやつらしい。

ベルトから、そんな知識が入ってきた。

再び、歩きながらも目を閉じる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---こいつはまるで---()()

 

それは、一年前くらいの時のこと。

 

『へっ? なんで太陽? 私太陽じゃないよ?』

 

『・・・それくらい明るいってことだ。あの光り輝く太陽と同じくらい』

 

『例えってことだね。響にはちょうどいいかも。私たちにとってもそう思えるし』

 

『そっか。私は太陽かぁ・・・。じゃあ---()()()()()()()だね!』

 

『えっ!? 私?』

 

『うん! 私とアルトくんの居場所って感じかな? とても暖かい帰る場所!』

 

『私たちにとって響は太陽、二人にとって私は陽だまりなんだ・・・。でも、それだとアルくんはどうなるんだろ?』

 

『うーん、何かあるかな・・・ピッタリな言葉』

 

『・・・別に要らない』

 

この時、正直例えで言っただけだった。だから、どうでもよかった。

そのために、そう言った。

 

『ダメだよ。アルくんだけ省くなんて出来ないもん。それは私怒るよ?』

 

『未来の言う通りだよ! アルトくんも大切な幼馴染で友達だからね。それに、最初に私のこと太陽って言ったのはアルトくんだから最後まで聞かなきゃダメ』

 

でも、お人好しなこの二人がそれで止まるならば、今頃俺に関わってないと分かっていた。

 

『それじゃあ、一緒に。アルくんは---』

 

『うん。アルトくんは---』

 

そして、この二人は俺の事を---

 

『『()()、かな(だね)!』』

 

希望だと、例えた。

 

『---えっ』

 

理解出来なかった。

その言葉は、理解が出来なかった。こんな感情もなくて、無表情な俺が、何故希望なのかと理解出来なかった。何故、そうなったのかと。

 

『・・・何故、そうなる・・・?』

 

だから、聞いた。

理解出来なかったから、理由が分からなかったから。

 

『何故って言われても・・・ね?』

 

『うん、だってアルトくんの行動がいつもそうだもん』

 

『・・・は?』

 

そう言われても、分からなかった。

 

『だからね、さっきの例えをまとめて言うと---響は太陽。陽だまりを照らして、光り輝く太陽なんでしょ? それで---』

 

『未来が陽だまり。私とアルトくんの居場所、とても暖かい帰る場所だよ』

 

『・・・そこは分かる』

 

自分で言ったことも入ってるのだから、そこは知っている。

聞きたいのは、何故俺が希望なのかということ。

 

『何故、俺が希望なんだ』

 

『アルくんが希望なのは簡単』

 

『いつも私たちを守ってくれたり、助けてくれるから希望がいいかなって』

 

『・・・それでか?』

 

『うん、そうなるなら陽だまり()を守って、太陽の輝き()を守る()()になるかなと思ったんだよ』

 

『えっと、もしかしてアルトくん。嫌だったり・・・?』

 

『ダメ・・・かな?』

 

その説明を聞いて、何処かストンと入ってきた。何故かは今でも自分でも分からない。

だけど俺は---

 

「・・・いや、それで、構わない」

 

嫌じゃないと、ダメじゃないと言うように首を横に振る。

何故か、不思議と、嫌じゃなかったから。

 

『じゃあ、決定ってことで・・・いいよね?』

 

『うん、アルトくんは私たちの希望・・・えへへ、なんだか嬉しいかも』

 

『・・・ああ。好きに、しろ』

 

その言葉を最後に、嬉しそうに笑った二人の姿を見た俺は何処か暖かくなった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあって俺は、二人にとって希望らしい。だから、太陽の輝きを失わせることなく、陽だまりの元へ戻さなければならない。二人の輝きを守るためにも。

だからこそ、庇った。守ったつもりだった。

でも、このままでは・・・まだダメだ。

陽だまりの元へ太陽を帰せないから、そのためにも、希望として俺は---()()()()()()()

 

「力を、貸せ・・・」

 

不思議と、使い方が分かる。どうすればいいのか、この前までは触っても何もわからなかったのに、今なら分かった。

 

「・・・ラーニング、完了」

 

一秒にも満たない時間で、使い方が全て頭の中に入ってきた俺は、その言葉を最後に、プログライズキーに付いてあるグリップのトリガーのボタンを押した。

 

ハイパージャンプ!

 

そんな音声が鳴り、気にせずに認証装置らしい右側の環状の黄色パーツにプログライズキーを翳す。

 

オーバーライズ!

 

キーを開け、頭上に『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』のグリップを右手で持ったまま、掲げた。

すると、キーからバッタのライダモデルというものらしいのが、俺の頭上で浮遊する状態で現れた。蛍光イエロー色と深縹(こきはなだ)色のバッタ。

それを確認すると、両腕をクロスするように下げ、左手でベルトを支える。

 

「・・・歌」

 

その間にも、聴こえていた。確かに、澄んだよく通る声。聞き覚えのある、歌声だ。

 

「---Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

興味はない。そんな自分でも、何処かさっきとは違う、美しさと危険を備えたモノだと分かる歌が聞こえる。

 

「---Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

「いけない奏ぇっ! 歌ってはダメェェェ!!」

 

必死にやめさせようと、歌ってはダメだという女の人の声が聞こえた。

 

「---Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

止めなければならないと、そう思った。これ以上は、取り返しが付かなくなると、ダメだと。俺の中の予感が、とてつもない速度で頭の中で警報を鳴らす。

 

「---Emustolronzen fine el---」

 

だから俺は、走った。

痛い、両足が、両腕が、両肩が、頭が、落ちたせいもあって、色々な箇所がとてつもなく痛い。もしかしたら、何処かは動かなくなるのかもしれない。骨折だってもうしているのかもしれない。

でも、どうでもよかった。感情がない自分にとって、何が起ころうがどうだっていい。痛覚など()()()()()()()

ただ俺とは違って、アイツには目的も、感情も、希望もある。そんなアイツを死なせる訳には行かないと、そう思って走った。

 

頭上に浮遊しながら付いてくるライダモデルに視線を向けると、何故か『何時でも行ける』と頷いた気がして、俺は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身」

 

()()()()()()()()()()()()と共に、シャイニングアサルトホッパープログライズキーをベルトのスロットのような場所へ挿した。

その瞬間、保安機構と呼ばれるモノが動き、ベルトの中央に0の形が現れる。

 

『プログライズ!』

 

さらに、音声ともに、頭上にあるライダモデルから光が発せられ、俺自身の体が何か黒いスーツのようなモノへと変換される。

それは、素体。『()()』するために必要な素体。

 

Warning,warning.

 

その次に鳴ったのは、警告。

それは、俺自身に向けられたものなのか、ノイズに向けられたものなのか、アイツに向けられたものなのか。

それは俺にも分からない。

 

This is not a test!

 

次に流れた一節は、これは試験ではない。試運転でもないと取れる言葉。つまりは、テストでは無いということ。

それは、殺し合い。それは、実戦。それは、現実。それは、練習でも訓練でもない。それは、本当の殺し合い、生きるか死ぬかの戦い。

 

それでも俺は、どうでもいい。と心の中で呟く。

 

ハイブリッドライズ!

 

そんな音声が聞こえると、頭上にあったライダモデルがバッタの形から鎧のような形へと変化する。

それと同時に、さっきまで居た場所に辿り着いた俺は、両足へと力を入れた。

 

シャイニング!アサルトホッパー!

 

次に、その音声が流れる。

さらに鎧がスーツに装着されるのと同時に全力の速度で飛び---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物凄い速度で落下してクレーターを作った。

着地地点は、鎧を纏う二人と、ノイズとの間。

風が吹き、風がクレーターを作った際の土煙を消した。

 

『"No chance of surviving this shot."』

 

最後の音声が聞こえ、夕陽の輝きが強まる。

 

「なっ・・・!? 貴方は、一体何者!?」

 

「あんたは・・・!?」

 

そんな声が聞こえて、センサーで確認すれば二人は無事だということに気づいた。

でもここで正体を言えば、面倒臭いことになる。

だから---

 

 

「・・・ゼロワン、()()()()()()()()()()。それが俺の名だ」

 

浮かび上がった名前を名乗った。

ベルトの情報から考えるには、この姿を『仮面ライダー』と呼ぶらしく、この力は『ゼロワン』らしい。

だから、『仮面ライダーゼロワン』なのだろうと、推測した。

 

「仮面ライダー・・・」

 

「ゼロワン・・・?」

 

二人が、打ち合わせでもしたかのように声を出していた。

 

「・・・さあ、行かせてもらうぞ」

 

そんな二人を無視して、俺はそうノイズたちに呟いてから駆け出した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

「お、おい! ノイズ相手にただの人間は---」

 

「待ちなさい!」

 

奏が注意をしようとし、翼はゼロワンを止めるために急いで駆け寄ろうとする。

しかし、ゼロワンの速度には追いつけない。なぜならゼロワンは一瞬でノイズの目の前に立ったのだから。

 

「くそっ! 翼ッ・・・!」

 

「ダメ、間に合わない!」

 

「・・・ふっ」

 

そして、そんなゼロワンに対して人型のノイズは容赦なく体を紐状にして突撃し、ゼロワンの体が炭化するように黒く---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

消滅したのは、ゼロワンではなくノイズただ一人。

何をしたかと言えば、ただ右拳で横に弾いた。それだけだ。しかし、その動作は間違いなく、ノイズに触れる。

だけども、炭化することなくただ一方的にノイズを炭素の塊にさせただけだ。

 

「はぁ!?」

 

「えっ!?」

 

当然、予想外のことで二人は驚いた。翼に至ってはゼロワンを助けるために走っていたため、思わず足を止めた程だ。

 

「お前たちの動きは、ラーニング済みだ」

 

その言葉とともに、ゼロワンの目が赤く光った。

瞬間、何体もののノイズが紐状にして突撃してくる。

普通ならば、避けきれないかもしれないだろう。しかし、ゼロワンはラーニング、つまりは学習した、と言っていた。

となれば---意思がないものでは彼に攻撃を当てることなど、出来やしない。

一瞬のうちにゼロワンは姿を消し、背後、真横、上空、あらゆる箇所からノイズを炭素の塊へと戻していっていた。

そして、気がつけば奏や翼の元へ帰ってきている始末である。

 

「・・・悪いが、手伝って貰いたい」

 

「は・・・? い、いやなんでノイズに触れて、倒せるんだ!? シンフォギアじゃない・・・よな?」

 

いつの間にか居たゼロワンの姿に驚きつつも、奏は聞く。

それはそうだろう。この世界であれば、本来は聖遺物が無ければノイズを倒すことなど出来ない。

奏たちが纏うシンフォギアは、歌によって位相差障壁を操り、物理攻撃を無力化するノイズの存在を調律し、強制的に人間世界の物理法則下へと固着させることでノイズを倒すことを可能としているのだ。

しかし、ゼロワンにはそんな歌など備わってはいない。

 

「シンフォギアとは?」

 

「なら、違うのか・・・?」

 

「奏、今はそれよりもノイズを・・・」

 

返ってきた答えに、困惑したように呟く奏。そんな奏に翼がノイズについて言っていた。

つまり、話は後回しと言うことだろう。

 

「そう、だな。あんた、翼と一緒に頼めるか?」

 

「ああ、分かった。・・・構わないな?」

 

「ええ・・・今回ばかりは仕方がありません。話は後にして、正体不明の貴方が不安ですが不承不承ながら一緒に戦わせて貰います」

 

未だに警戒をしたように厳しい視線をゼロワンに向ける翼。

そんな翼に対して奏は苦笑いし、ゼロワンは特に何も言わずに、頷いた。

 

「行くぞ」

 

瞬間、ゼロワンの姿がブレた。

 

「参るッ!」

 

そして、翼も剣を携えながらもノイズ相手に向かっていく。

一瞬にしてノイズの目の前に行ったゼロワンはその速度のまま飛び蹴りをぶちかまし、ノイズを炭化させる。

着地した瞬間には上空から鳥型のノイズが槍状となって迫るが、当たる前にゼロワンの姿が消えたかと思えば、いつの間にか鳥型のノイズの後ろを取って上空に蹴り飛ばして炭化させていた。

 

「ハアッ!」

 

翼の方と言えば、ゼロワンのような機動力はないが、磨かれてきたであろう剣術でノイズを捌いて切り伏せていた。

しかし、そんな二人の活躍があっても未だに数は尽きない。

そこで、大型の芋虫型のノイズが動き出した。

 

「・・・!」

 

この場で最も厄介だと感じたのか、ゼロワンに対して体液を吐き出す。それをゼロワンはバックステップで回避するが、逃がさないとでも言うようにゼロワンが避けた方に継続させて放つ。

そのまま芋虫型のノイズの体液がゼロワンに向かっていき---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オーソライズバスター!』

 

『ガンライズ!』

 

武器を取り出してガードしたゼロワンに防がれた。

それは()ではない。()だ。シャイニングアサルトホッパーの装甲に付けられている深縹(こきはなだ)色をメインとしている大型の銃である。

 

「トドメだ」

 

『ゼロワンオーソライズ!』

 

オーソライズバスターの認識装置に、ゼロワンドライバーの認識装置を合わせると音声が鳴る。

それは危険だと、自分たちを殺すものだと感じたのか、小型の人型、カエル型ノイズは突撃してきて、上空からも鳥型のノイズは突撃してくる。さらに、大型の芋虫型のノイズは体液を吐き出した。

 

「遅い」

 

それをゼロワンは横に回転するように体液とノイズを避け、芋虫型のノイズの方へ向くのと同時に、トリガーを押した。

 

ゼロワンダスト!

 

黄色いバッタ型のエネルギー弾を発射し、それが芋虫型のノイズを貫通させた。

 

ゼロワン

            ダスト

 

貫通した大型の芋虫型ノイズは爆発を起こし、炭素の塊へと変換される。

 

「奏ッ!」

 

声が聞こえ、ゼロワンが振り向く。

そこを見れば、奏がいつの間にか立ち上がって壊れかけの槍を手にしていた。彼女にはもう、戦えるほどの力はあまりないだろう。数体相手するのは間違いなく厳しい。

その目の前にはノイズ。そして奏が立っているその方角は---()()だ。

 

「ッ!」

 

奏が迫るノイズにボロボロな状態で立ち向かおうとしている。

当然、ゼロワンは知っている。そこに誰がいるのかを。そして、何故彼女がそこに立ったのかを。

 

「ここは任せた」

 

「ッ・・・!? ・・・お願い、奏を!」

 

「ああ・・・シャインシステム、起動」

 

ゼロワンや翼たちの目の前にはまだノイズが居るが、翼が引き受けたためにゼロワンは高速で動く。

しかし、離れすぎているためか、僅かに時間が足りない。このままでは今の状態で奏は戦わなければならないだろう。

()()()()()()()()

 

「これは!?」

 

近づいてきたノイズに対して、槍を向けてた奏は驚いた。

何故なら、目の前には青いエネルギー波動弾・・・クリスタルのようなものが、回転して自分を守った上にノイズを炭化させたからだ。

 

「こっちだ」

 

さらにゼロワンがそう言うと、近くにいた周囲のノイズは一瞬で炭化しする。

 

「ゼロワン・・・あんたのか?」

 

「・・・その状態で無理をするな」

 

「そうだね・・・それ、さっき別の人に前にも言われたよ」

 

頷いたゼロワンに奏は何処か思い出すように苦笑いした。

 

「そうか」

 

ゼロワンはそれだけ返し、クリスタルだけ残して一瞬にして翼の元へ戻った。

残りの数は、せいぜい十体ほどだ。

 

「待たせた」

 

「・・・ありがとう」

 

「・・・」

 

奏を二度も救ってくれたことに、翼はお礼を言うが、それに対してゼロワンは何も答えなかった。

 

「・・・終わらせる」

 

「分かった・・・ならば、道は私が開くッ!」

 

そう言って、翼はノイズに突っ込んでいく。

迎撃するように、人型のノイズとカエル型ノイズ、鳥型のノイズは翼を狙う。

しかし、槍状となって突撃する鳥型のノイズは一瞬にして焼かれて消えた。

何故なら奏の傍にあるクリスタル状の物がエネルギー波、つまりビームを放って焼き放ったからだ。

それを操ったのは当然、ゼロワンである。

 

「今だッ!」

 

その言葉を聞いて、ゼロワンは真正面を向いた。

ちょうど全ての小型ノイズは切り伏せられており、大型の芋虫型のみとなっている。

さらに、翼が引き寄せてるお陰かゼロワンに背後を取られてる状態だ。

 

「これで終わらせる・・・」

 

それを見たゼロワンが、しっかりとグリップを握りながら、アサルトグリップのトリガーを押した。

 

アサルトチャージ!

 

そのまま、ゼロワンはベルトに付いているシャイニングアサルトホッパープログライズキーをさらに押し込む。

 

シャイニングストームインパクト!

 

音声と共に、しゃがみこむように構え、ゼロワンの目がより強く赤く発光する。

そして、ゼロワンが飛んだ。

それに気づいたのか大型の芋虫型ノイズが翼を無視してゼロワンに体液を吐き出す。

 

「はぁああっ・・・ハァーッ」

 

それをゼロワンは真正面から打ち砕くべく、ライダーキックを繰り出す。

その蹴りは自身の装甲と同じ深縹色と蛍光イエローのエネルギーを纏った蹴り。

ゼロワンの必殺のライダーキックは、芋虫型のノイズが吐き出した体液と拮抗することもなく、あっさりと大型の芋虫型ノイズを貫いた。

 

シャイニングストームイ

               

               

               

               

 

 

 

爆発が起こり、ノイズが全て炭素の塊と化した。

ノイズを貫いたゼロワンは着地し、そのまま立ち上がる。

 

「・・・ぐっ・・!?」

 

そのゼロワンは炭素の塊を無言で見つめたあとに、突如頭を抑えた。

 

「がっ・・・はぁ・・・」

 

それは、ほんの僅かな時間。十秒にも満たない時間。

収まったゼロワンは踵を返そうとした。

 

「待て!」

 

しかし、それを止めるように接近していた翼が剣をゼロワンに対して向ける。

 

「・・・なんだ?」

 

「協力には感謝します。でも、貴方のような力を持つ人間をみすみすと逃すわけには行きません」

 

当たり前だ、彼女たちにとってはゼロワンの力は未知の力。本来触れることの出来ないノイズに触れられた完全な正体不明の存在だ。

まぁ、それはゼロワンの方からすれば、彼女たちの方が未知の力を持つ存在なのだが。

 

「なら、どうする」

 

「私たちについてきてもらいます。貴方には話して貰いたいものがたくさんあるので」

 

「・・・断る、と言ったら?」

 

「その時は---」

 

「おおーっと! 待てって翼」

 

すぐにでも戦闘に入りかけた翼に、奏が慌てて止めに入った。その奏に、翼は視線を向ける。

 

「奏・・・でもッ!」

 

「少なくとも、あたしはアイツは悪くない奴だと思うんだよ。あたしを助けてくれたし、翼とも協力してノイズを倒した。まぁ、確かに力については気になるけど・・・少なくともアイツについて弦十郎のダンナからは何も指示を貰ってないだろ?」

 

翼を説得するように、奏が言葉を紡ぐ。

 

「・・・だけど、国を守る防人としては、このような存在を見逃すわけには---」

 

「真面目が過ぎるぞ、翼。それに、もう居ないしな」

 

「えっ!?」

 

その奏の言葉を聞いて、すぐにゼロワンが居た方に翼が視線を移せば、既に姿形もない。

簡単に言えば、目にも見えない高速スピードで離れただけなのだが。

 

「いつの間に!? って、もしかして奏・・・」

 

「ああ。あたしが逃げるように言った。いやぁ、アイコンタクトが通じて良かったよ」

 

「もうっ! それがどういう意味か分かってるの!?」

 

アハハ、と笑う奏に、翼は何処か怒ったように迫っていた。

 

「わ、分かってるって。でも、あたしももう限界だし翼もこの状態で戦闘に入ったらあの強さの相手は無理だろ? ノイズ相手に一度もダメージを受けることもなくて、あたしたちの目でも追えない速度の持ち主にはさ」

 

「そ、それはそうだけど・・・」

 

少なくとも今の状態では間違いなく勝てないと分かったのか、翼は渋々と引き下がった。

 

「それより、まだ出口の方に生き残ってるやつが居ると思うんだ。だから、早く向かわないと手遅れになってしまうかもしれねぇ・・・」

 

「そうなの? なら、早く行きましょうか・・・司令には絶対に報告するからね」

 

「えぇ!? それは勘弁してくれよぉ〜」

 

「報告はしっかりしなきゃダメでしょ?」

 

「い、いや、でも---」

 

出口へと向かっていく翼に必死に説得しようとする奏。

そんな奏に翼は融通が利かない態度で答えていく。

だけども、そんな二人の間には険悪な空気はない。

二人の間には、穏やかな良い空気で、間違いなく()()があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、この笑顔を守ったのは間違いなく、『仮面ライダー』だろう---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

「がはっ!? ぐっ・・・はぁ・・・」

 

血を吐く。地面に、血を吐いてしまう。変身した影響か、それとも動いてる間に体内の何処かが破損したのか血を吐いていた。

()()はもはやボロボロ。立ち上がることさえ、動くことさえキツイだろうに動いていた。

()()の正体はアルト。先程、仮面ライダーとして戦った少年だ。

彼は、壁に手を当てながらも足を引き摺って無理矢理動いていた。

 

「あと・・・すこ、し・・・」

 

まだ、足を引き摺る。地面を見れば分かるだろうが、歩いてきた場所には血が付着している。

それだけじゃない。左目はさっきと変わらず血のせいで見えずに、両腕と両肩、両足からは出血の量が増えている。特に、右足と左肩に刺さっていた鉄の柵が外れているために、そこは一番出血していた。

当たり前だ、人間というのは適切な処置もせずに無理に引き抜いたら大量に血が出てくるのだから。

刺さったモノが止血してくれているようなものなのである。

それでも、彼は動く。

 

「はぁ・・・がふっ! はぁ、はぁ・・・」

 

体力もなく、吐血しながらも息切れを起こしているボロボロな状態のアルトが辿り着いた場所の目の前には、壁に持たれている響がいる。

実際にはそう置いたのはアルトなのだが、そこはいいだろう。

 

「・・・無事、か・・・」

 

そう言ったのは、ノイズに消されてしまう可能性もあったからだ。いくら響の方へ行かせないようにしてたとはいえ、一体くらい逃してた可能性もある。

 

「ぐっ・・・い、息、は・・・?」

 

もはや意識さえ保つのがやっとなのか、目はうっすらとしか開いていない。

それでもアルトは無理矢理自身の体を動かして響に近寄り、顔を近づけた。

 

「あ、ある・・・」

 

次に、アルトは脈も測った。

動いている。それに気づいて、アルトは完全に力が入らなくなったのか壁に体を預けた。

 

「あぁ---うご・・・かないと・・・」

 

まだ、まだ助かった訳では無い、とアルトは声に出す。

だが、彼はもう動けない。出血のし過ぎで血を失いすぎているのもあるが、ボロボロな状態で戦ったのだ。むしろ動けている時点で異常。

 

「・・・・・・」

 

うっすらと薄れていく意識の中、アルトは響を見つめる。

痛覚がなくなっているのか痛みで声も出さなくなったアルトは響の手を握った。

 

「これで、いい・・・か。俺は、希望・・・なんだろ・・・?」

 

そんなことを聞いても、響は返事をしない。

意識がないのだから、当然だ。

 

「ぁあ・・・せめて、こいっつ・・・だけっ・・・でも---びょ・・・いんに・・・連れて、いかっ・・・ない・・・と」

 

消える、意識が消える。

長く意識を保っていたアルトの意識が、消えていく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、()()()()()()

ピキピキ、とアルトの行動を、アルトの成したことを嘲笑うかのように何かが割れる。

それに気づいたのか、アルトは無理矢理自分の腕を強くて掴んで意識を取り戻す。そのまま、目を開いて---最後の気力を振り絞って庇うように響を抱きしめた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「-い!? -こに--!?」

 

「-て--そ---が!」

 

「--!? -さか----!?」

 

薄れゆく意識の中---

 

「にゃー? にゃぁん」

 

「-い! --夫か!?」

 

「すぐに------いかないと!」

 

「--ってる! --ぞ! ---死ぬ--絶対に。生き--を諦めな--くれ!!」

 

アルトの耳には、そんな声が聞こえた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






〇アルト/仮面ライダーゼロワン
クソボロボロな状態で変身した。シャイニングアサルトは負担が無くなる訳では無い。・・・あとは分かるな?
百合の間に挟まるのは罪だし爆発しろと言ったが、そこまでやれとは言っていないしそうじゃない。
主人公補正仕事しろ

〇立花 響
ほぼ原作と同じ。
幼馴染が死にかけてるしこんなんトラウマ不可避。主人公補正まだ仕事してた

〇小日向 未来
回想のみ。回想は水着回の続き。

〇天羽 奏
生き残れた理由はアルト視点の本編通り。最初の出会いが不可欠で、なければアルトは戻る必要がない。仮に響救出後だと戻る前に変身するにしても絶唱のタイミング的にギリギリ間に合わない。
正体は気づいてない。

〇風鳴 翼
まだ胸がある。ゼロワンは危険なことに変わりはないので拘束はしようとした。
でもやっぱこの防人口調よくわかんねぇわ・・・

〇猫
足に怪我してるからハンカチ巻いてる。飛んでくる岩とかからアルトに守られていたので最後に猫の恩返し。有能


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第九話 ワタシのこの気持ち(想い)はきっと---

今回はライブ後の話です。ぶっちゃけこれで半分の予定だったのに一話使うとは思いませんでした。医者の話とかは昔見た記憶がある『Dr.DMAT』などのドラマからのイメージです。症状なども詳しくないので、可笑しくとも特に気にしないでください。

それにしても・・・遠いぜ!原作!いつ行けるんだろうね!原作前あまり飛ばさずにやると、やらないと行けないフラグ回収が多すぎる・・・アークゼロ早く出したい・・・。そして、お気づきでしょうか?さらっとタグ増えてます()
あと感想いつも書いてくれる人はありがとうございます!(今更)途中でちょっとサボろうみたいな思考にならないのはそういう感想や評価、お気に入りなどのお陰なのでとても有難いですし嬉しいです!

では、本編どうぞ!・・・それと、人によっては暗いと思うのでお気をつけを・・・



 

テレビでニュースを見た私はすぐに両親を説得し、両親も同じ気持ちだったのか叔母さんの要件を終えた後に車で戻ってきた。

今は『()()()()()()』があった所の近くの病院の中で、今すぐ走って確かめに行きたい気持ちを抑える。

そして胸の中で高鳴る心臓の響きと同じくらいの速度で、早歩きで少しの間歩いた。

すると、手術室の目の前まで来た。

その近くには、響の両親たちが居る。その姿を確認した瞬間、私は我慢できなくなった。

 

「響は、響は無事なんですか!?」

 

病院だと言うのに、思わず大きな声で聞いてしまう。

 

「あ・・・未来ちゃん。それがまだ・・・」

 

私の姿に気づいた響のお父さん、洸さんが私を気遣ってくれてか、不安そうな表情を隠すように言ってきた。

 

「そう、ですか・・・」

 

そのことに、不安な気持ちが胸に広がる。

 

「・・・あれ?」

 

そして、()()を忘れている気がして周囲を見渡す。だけども、そこには何も無い。でも、何かが足りない気がして---すぐに気づいた。

それは、いつも無表情で無愛想にしてるけど、本当は他人を気遣える優しい男の子。私や響を何度も助けてくれた幼馴染で()()であるアルくんの姿がないことに。

 

「あ、あの---」

 

それに気づいた私は、私よりも早くにいた響の両親に聞こうと口を開こうとした。

 

「ッ!?」

 

その瞬間に、手術室のライトが消えたと思ったら少しして扉が開く。そこから一人の医者と思われる人が出てきた。

 

「ど、どうだったんですか!? 響は、響は無事なんですよね!?」

 

洸さんがこの場の誰よりも早く反応して近づき、遅れて私たちも反応して医者の人を見た。

私はアルくんのことにさらに不安になりながらも開こうとした口を閉じ、今は響のことについて聞くことに集中することにする。

そして胸の鼓動がさらに五月蝿くなるのを感じる。きっと不安で仕方がないから。私に出来るのは無事であることを祈るだけ・・・。

 

 

「焦る気持ちは分かりますが、落ち着いてください。まず、これだけは言っておきます。立花響さんの手術は無事終えました」

 

「本当ですか!? ・・・良かった・・・」

 

その言葉を聞いた瞬間、不安だった気持ちが少し晴れ、ほっと息を吐く。

洸さんたちも同じだったのか、先程の表情から一転して、ほっとした表情となった。

それはこの場の誰もが安心したと思う。

 

「もちろん、油断は許されない状況ではありますので、このまま経過を見ていきます」

 

「そうですか・・・。どうか、どうか響をよろしくお願いします・・・!」

 

その言葉に先程よりは安心出来たものの、表情が引き締まった。

 

「はい。ですが、目覚めるのには時間を要すると思います」

 

「でも、命に別状はないんですよね?」

 

「えぇ」

 

洸さんが聞いた言葉に、医者の人が頷いた。

 

「今はそれだけでも良いです。響ならきっと大丈夫ですから・・・」

 

それはきっと、響のお父さんだから言えた言葉なのかもしれない。

でも、私もそう信じるしかない。いつも無茶をする響なのだからきっと、今回も私たちの元に---

 

「・・・そうですか。それでは、実はもう一つお話があります。それは、立花響さんと一緒に運ばれてきた子なのですが・・・その子の方が不味い状況となっているんです」

 

「・・・え?」

 

その言葉に、物凄く()()()()を感じた。

だって、響と一緒に運ばれてきた子ってそれはきっと---

 

「彼のご両親は何処か分かりますか? 話さなければならないでしょう」

 

「それが・・・彼には両親は居ないんです・・・」

 

「そうでしたか・・・。ということは、知り合いなのですよね? なら、代わりに話しておきます」

 

「ま、待ってください・・・!」

 

頭が真っ白になりそうになるけれど、私は首を振って先々と進んでいく話を遮るように、慌ててそう言っていた。

 

「貴女は・・・」

 

「私は響の幼馴染で友達です・・・恐らく、その子も・・・」

 

不安がまた広がる。

でも、こんなこと考えるのはダメだと分かってるのに、叶うなら別の人であることを願ってしまう。

 

「そうでしたか・・・でも、子供に聞かせるのは・・・」

 

「お願いします。この子も同席させてあげてください」

 

医者の人が私を見て、悩む素振りを見せたが、洸さんが頭を下げてお願いしてくれた。

 

「お願いします・・・! 私は平気ですから・・・!」

 

だから私も同じように頭を下げてお願いする。

 

「・・・分かりました。ですが、覚悟はしておいて下さい」

 

「はい・・・それで、その子の名前って・・・アルくん、『アルト』って名前の男の子・・・ですか?」

 

ほんの少し悩んだ後にそう言われたため、頷いた私は早速本題へと入った。

 

「はい。彼を運んできた女性が『アルト』と名前を呼んでいたので、間違いないでしょう」

 

「そう・・・ですか・・・」

 

認めたくなかった。きっと彼なら、なんだかんだでひょっこりと現れる可能性もあったと思ってたから。

でも、洸さんの言葉で薄々と彼だということは分かっていた自分もいる。可能なら外れて欲しいと、願ってたから。

それにアルくんは響の両親と面識もあるし、響の両親も何処かアルくんを自分の子供ように歓迎していた。

当然、アルくんに両親が居ないのを知ってるから。

 

「それで、彼の容態なのですが・・・」

 

その言葉に、来た、と心の中で呟いて願う。

どうか、無事でありますように・・・と。

 

「・・・見てもらったほうが早いかも知れません。こちらに」

 

その言葉に、思わず顔を見合わせたが、案内してくれる医者の人たちに私たちはついて行く。

その間にも、あのライブの被災にあった人達なのか、治療されている姿やベッドに寝込んでいる姿も見える。

そして暫く歩いた後には、部屋の一番奥に付いた時に医者の人が立ち止まり、私たちを見つめた。

 

「今からお見せしますが、大声を出すのは控えてください」

 

医者の言葉に、私たちが頷いたのを確認したからかドアが開かれ、中に入る。

そこには---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドに仰向けに眠らされていて、見た感じではほとんど全身に包帯が巻かれているアルくんの姿があった。

それこそ、髪と顔以外巻かれており、顔には湿布やら絆創膏などの最低限としか貼られていなくて、額にはぐるぐると包帯が巻かれている。

病衣のせいで中は分からないけれど、少なくとも足と腕には巻かれていて、さらに人工呼吸器や栄養剤を注入する物だと思われるチューブや血液パックなど様々な物や、首にはギブスが巻かれていたり、目を閉じているその姿は、まるで死人のようで---

 

「未来ちゃん・・・?」

 

その姿を見た私は、足元が真っ暗になったかのように錯覚して、座り込んでしまった。

 

「・・・まず、運ばれた時には彼の肉体は既に()()()()の損傷が酷かったんです。無理矢理引き抜いたのか、それとも抜けてしまったのかは分かりませんが、刺さったモノを引き抜いたと思われる跡がありました」

 

何処か辛そうな面持ちで、医者の人がそう告げる。

 

「さらに、過剰な出血をしていましたが、それよりも彼の肉体はそれこそ、『人間のリミッター』の解放・・・いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()全身の筋肉にダメージが残ってます。他にも、骨にヒビが入ってはいますが、こちらは特に後遺症もなく問題ないでしょう」

 

「ということは・・・」

 

「えぇ。一番の問題はそこではありません。頭を何度か強くぶつけてしまったのが原因なのか、意識が回復する様子もなく、昏睡状態となっています。もしかしたら、このまま永遠と目覚めることも無く・・・死ぬ可能性すら、有り得ます」

 

「なっ・・・!? 彼が、助かる可能性は・・・?」

 

話の内容が頭に入ってくる度に、頭の中が真っ白になって何も考えられなくなっていくのを感じる。

ただ考えられるのはその不運について。

なんで・・・なんでアルくんと響がそんな目に合わなくちゃ行けなかったの? 二人は何もしてない・・・ううん、それこそ何人も、何人もたくさんの人を助けて、たくさんの人を()()にして()()()きた。

いったい、二人が何をしたと言うの?なんでそんな目にあったの?どうしてこんなことになったの・・・?

・・・分かってる。本当は、原因は私。だって私がライブに誘わなければこんなことになることはなかった。いくらノイズが出るなんて予想出来なかったと言われても、結局、それは可能性の話。結果として二人が危険な目に合ったのは私のせい・・・。

 

「私も一人の医者です。出来るなら助かって欲しいと願っていますが・・・可能性としては、とてつもなく低いと思います。それこそ、二、三割もあるかどうか・・・。それに、意識が戻ってきても何処かしら身体機能に異常を来たしてしまう可能性すら有り得るでしょう。もちろん最善を尽くしましたが、ここまでの治療となると現在の医療技術では不可能なんです・・・」

 

返ってきた言葉は、希望を塗り潰すかのような残酷な言葉。医者の人も辛そうに言っていたため、本当に最善を尽くしたのだろうと分かる。

だけど私は、聞こえてくる度に胸の中で絶望が広がっていく。

 

「そんな・・・どうにも出来ないということですか・・・?」

 

「そうなります。でも、これだけは言わせてください。私も聞いた話なのでどうかは分かりませんが・・・例えどの結果になろうが彼は・・・()()()()()、なのかもしれません」

 

「・・・えっ? どういう、こと・・・ですか?」

 

胸中(きょうちゅう)に絶望が広がる中、医者の言葉に反応した私は自然と顔を上げて、そう聞いていた。

 

「さっきも言いましたが、これは聞いた話です。なんでも彼は、最後の最後まで彼女、立花響さんを守ってたらしいんです。彼を連れてきた女性が言うには天井が崩れて瓦礫に閉じ込められていたのに、発見した時には彼女を抱きしめて瓦礫から守っていた・・・と」

 

「あ・・・」

 

その言葉を聞いて、気づいた。あの地獄とも言えたであろう場所でも彼は私たちの『()()』であったのだと。また、守ってくれたのだろうと。

 

「なら、響が無事だったのって・・・?」

 

洸さんが驚いたような、罪悪感のような感情が混じったような表情で聞いていた。

 

「彼が守ったからこそ、これ以上の悪化がなかったのだと思います。もしかしたらそれが無ければ手遅れになってたかもしれません。・・・彼は本当に、凄い人間だと私は一人の人間として言わせてもらいます」

 

「っ・・・あの・・・アルくんと二人っきりにして貰っても・・・いいですか?」

 

その言葉を聞いた私は、堪えそうにない感情を必死に抑え込みながらこの場の人たちに頭を下げた。

 

「未来ちゃん・・・」

 

「・・・今はそうした方がいいでしょう。それに、ちょうど話したいこともありますから。ですが、もし彼の容態が悪くなったりしたならば、すぐに呼んでください」

 

「・・・はい。ありがとう、ございます・・・」

 

私の気持ちを含んでくれたのか、医者の人がそう言ってくれ、感謝の意味も込めて頭を下げたまま全員を見送った。

そして扉が閉まると、この場に居るのは目を閉じたまま寝たっきりのアルくんと私。

二人っきりにしてくれた。

 

「・・・アルくん」

 

私は彼に近づき、置いてあった椅子を近くに置いて座る。

 

「また、響を助けてくれたんだよね・・・? お陰で響、命に別状はないんだって。目覚めるって言ってたよ」

 

包帯で肌の見えない右手にそっと触れる。感じたのは柔らかい感触ではなく、ゴツゴツとした男の子の手。

 

「大丈夫・・・だよね? 戻ってきてくれるよね・・・?」

 

そんなことを言っても、当然何かが返ってくるわけでもなく、沈黙が訪れる。

 

「・・・っ」

 

苦しい。胸が締め付けられるように苦しくなる。現実を受け止めたくなくとも、受け止めないと行けない。

 

「・・・ごめんね。私のせいで・・・」

 

言っても、何も返ってくるわけじゃないと分かってるけども、自然と口に出していた。

もし目覚めていたとしても、彼は私のせいじゃなくて、興味無さそうに自分のせいだと言うのだろうという姿は容易に思い浮かぶ。

だからか、考えたくないのに、最悪の場合でさえ考えてしまう。もし、このまま目が覚めなかったら。もし、このまま彼がいなくなってしまったら。

それに、今の私の胸の気持ちを素直に明かすならそれはきっと---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会いたい・・・また、話したい」

 

そう口にした瞬間、自分自身の手に()()()()()()()()()()

 

「ぁ---」

 

思わず頬に触れてみると、それは()。すぐに目元を拭いてみても、溢れてきて止まらなくなる。

 

「止まっ・・・らない・・・」

 

何度拭いても、涙は流れてくる。

その度に私の頭の中には彼の姿が浮かんできた。

アルくんの無愛想な姿。他人を気遣う姿。自分では優しくないと言うけれど、本当は優しい姿。手伝ったり、助けてくれる姿。不器用だけど誰かを笑顔にする姿。様々な姿が私の胸の中を締める。

なによりも---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の作った弁当を食べる姿や、私たちのためにわざわざ行動してくれて、私たちと話す姿。時々、とても優しい雰囲気や暖かい雰囲気を醸し出してたり・・・それに、遊びに行ったり買い物に連れていこうとしたら行きたくないって言っても、なんだかんだで最後まで付き合ってくれる。

そんな彼がどんなものよりも好きで、愛おしくて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ---そう、だったんだ・・・」

 

思えば、()()()()だった。どうして今まで気づかなかったんだろう。どうして、今だったんだろう。なんで、今気づいちゃったんだろう・・・。なんで、失いそうになってからなんだろう・・・。

 

「わたしの・・・バカ」

 

いつも分かりにくくて、ぶっきらぼうだけど優しくて、無表情。普段は頭が良いのに、時々抜けてるところがある。

でも、興味が無さそうにしていても、誰かを助ける時には自分のことを考えずに、数に入れてない行動で助ける・・・そんな部分だけは心配。だけど、私はそんな()()()()が、とても愛おしくて・・・考えるだけで暖かくなって、熱くなって・・・掛け替えのないほど大切な存在で・・・私のこの気持ち(想い)はきっと---

 

 

 

 

 

 

 

 

()なのだと思う。私は、いつの間にか彼のことが()()()()()()()んだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたら、初めて会った時かもしれない。もしかしたら仲良くなってしばらくした時なのかもしれない。もしかしたら、相談した時や出掛けたり、お泊まりした時なのかもしれない。

でも、私も・・・きっと響も彼が傍に居ることが当たり前の日常になっていて、だからこのままずっと一緒に居るんだろう、そう思ってたのかも・・・。だって、きっと高校生になっても彼は私たちが願ったらなんだかんだで一緒に来てくれるから・・・。

私のこの思いはきっと、いつかの未来(みらい)に気づいた可能性はあるかもしれない・・・。

それでも、今気づいてしまった私には抑えれそうになくて---

 

「ぅ---ぁぁああああああああぁぁ・・・!!」

 

私は気がついたら、今日の響と彼の話を聞いて抑えていた感情を抑えれなくなり、彼の傍で声を出しながら泣いていた---

 

 





〇アルト
意識不明の重体。昏睡状態なう・・・。
『力の前借り』を『最小限』にしたアサルトでこれなので、普通のシャイニングなら後遺症は絶対残ってたと思う。実は協力を頼んだ理由はこれ。変身しなければ、そこまではならなかった。早く目覚めて・・・

〇立花響
原作通り。でもアルトが庇ってなかったらやばかった。
少なくとも、こちらは時間が掛かれど必ず目覚める。

〇小日向 未来
自分が誘ったせいで二人が重傷を負い、アルトに至っては『死ぬ』可能性すら高いために、めっちゃ辛い。
失ってしまいそうな幼馴染を見て、思い出が脳裏に過ぎり、いつの間にか惹かれて『恋心』を抱いていたことに気づく。だが、それは遅く・・・後悔も含めて泣いてしまった・・・。

〇立花洸
まだ良い人。響が無事で安心したけどアルトが重体となってるせいで喜べずに罪悪感さえある。

〇響の母親、祖母
名前は公式で不明。名前思いつかない。他は洸と同じ。

〇医者
外科医。ただの一般聖人名医ニキ。人の命はとても重たいものだと考えている。ちゃんと響の胸の傷について話はした。


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第十話 希望(キボウ)の目覚め


どうも、今週は本来投稿するつもりはありませんでした。
でも、どうやらランキングに入ってたらしくて、これはやるしかねぇ!とやる気出たので投稿しちゃいました。お気に入りや評価、感想はこんな感じで影響与えるってことですね。ちなみに感想くれた人は名前ある方は覚えてます。
っと話を戻して・・・ランキングは二次創作限定だと、46位。(確か)総合順位では58位まで入っていた見たいです。
大したことねぇな!おい!とか思われると思いますけど、私からすれば十分すぎるほど嬉しいです。

しかもランキングに入ってから評価が赤バー、しかもほぼ9で、お気に入り登録者が軽く100人くらい増えてたようで・・・見た時は流石に驚きました。本っ当にありがとうございます!プレッシャーががが・・・。

正直、私個人としては映画見た後のゼロワンロスが苦しくて書いただけの作品ですが、まだまだ頑張って行くのでぜひぜひ、読んでいってください!

あ、余談ですけど、章分けするなら次から最終章です。あと3〜5話ぐらいで原作入る予定なので、どんな結末を迎えるのか・・・暇な人は予想してみてくださいね!
では、本編をどうぞ!

※まだ出すかは決めてませんが、一応アンケートは貼っておきます



 

 

あれから・・・あのライブの惨劇から二ヶ月と少し経った。

もう何日も過ぎてるのに、二人は未だに目覚めない。

それでも、私は通い続けるしかなかった。それしか、出来ることがないから。

 

()()()()()書類を提出して、少し話した後に目的の場所へ歩く。

かなり歩くと、奥の方にある一人部屋の目の前に着いた。

私は一度深呼吸し、扉を潜る。すると---

 

 

 

 

 

 

「また来たよ、アルくん」

 

以前とは違って、すっかり包帯の数も減り、今はもう左肩からかけて左腕まで包帯で覆われてるのと、右脚と額だけになってるアルくんの姿がある。

なんでも、お医者さん曰く肉体は順調に回復してるらしく、意識だけが()()()()()ように目覚めないとか。

だからまだ安全とは言えず、危険なことに変わりがないらしい。

それでも、肉体だけでも治ってきてることに私は少し安心した。

 

そして私はいつも通り、椅子を彼の近くに置いて座り、彼の手を握って話し始める。

 

「今日はね、響のこと聞いてきたんだ。それでね、響は順調に回復してるからもうすぐで目覚めるんじゃないかって言ってたよ。アルくんのお陰でもあるんだから・・・」

 

きゅっと優しく彼の手を握りながら、私は目を閉じたままの彼の姿を見つめる。

 

「アルくんも目を覚ましてね・・・? 二人が起きたら、また何処かに行ったり一緒に食べたり話したり・・・たくさんしたいことあるんだ。他にも、星を見たりとか。それにアルくんの世話、これからは私がするから・・・」

 

当然、そんなこと言ったって何か返事が返ってくることはない。それでも、何かは伝えたかった。

正直、今の彼の姿を見てるだけで胸が物凄く痛む。それはきっと、自分の気持ちに気づいたからこそ、より彼の姿を見ると痛むのだと思う。

もちろん、罪悪感もあるし、申し訳なさでいっぱい。それでも、いつか彼の声や行動を前みたいに見て行けるなら私はまだ頑張れる。

それに二人には起きた時には謝らないと行けないから・・・二人とも私のせいじゃないと言うと思うけど、それでも謝りたい。自己満足だと言われようが思われようが、私にとって二人はとっても大切で、かけがえのない存在だから。

だからそれまで---

 

「一人でも頑張るよ・・・私。アルくんが()()してくれたから。それに、()()()二人が言ってくれたから・・・戻ってくるまで頑張るね」

 

それだけ言うと、無言となって居続ける。

時間が無くなるまで傍に居続け、時間になると私は名残惜しいけれど、手を離して椅子を元の場所に動かした。

 

「またね。アルくん・・・待ってる」

 

そして、扉から出る前に一度だけ見つめ、すぐに帰り道を歩く---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

二週間が経った。

 

「いらっしゃ---って未来ちゃん?」

 

「こんばんは。()()さん」

 

今の私は前まで二人と一緒によく来ていたお店に通っていた。

今挨拶した人はこのお店のマスターで、本名は『石動(いするぎ)惣一(そういち)』って名前らしい。来る度に話していた人だからか仲は良いと思う。

それに、惣一さんもアルくんのことは気に入っていて、アルくんも何処か気に入ってるようには見えるくらいに関係性は出来てたから・・・。

 

「・・・今日もまだ?」

 

「はい・・・まだ、響とアルくんの意識は目覚めないらしいです・・・」

 

「・・・そうか。本当は俺も見に行きたいんだけど・・・」

 

「あはは・・・仕方がないですよ」

 

残念そうな、それでいて悔しそうに複雑な表情で言う惣一さんに苦笑いしながら答える。

 

惣一さんもアルくんや響のことは知っていて、二人が()()()()()の被害にあったということも知っている。

といっても、最初は私の心が晴れずに暗いままお店に来た時に、事情説明しただけなんだけど・・・。

 

「それにしても、アルトくんが来ないと本当に誰が俺のコーヒーを飲んでくれるんだか・・・。響ちゃんの元気な姿にも結構助かってたんだけどなぁ」

 

はぁ、とため息を付きながら、惣一さんは作業をしていく。

 

「そう・・・ですね・・・」

 

そんな惣一さんな姿を見ながら、出してもらったオレンジジュースを頂く。

あれからかなり経つけれども、未だに私の心の中は晴れない。それだけでどれだけあの二人が私にとって大切な存在だったのかと、分かる。

 

「・・・何かあった?」

 

「・・・え?」

 

そして、惣一さんが私の心を見透かしたかのように真剣な表情で向き合ってきた。

私はそのことに驚く。

 

「いやさ、二人が居なくて暗くなってるのは分かるんだけど・・・最近は以前よりも酷くなってると言うか・・・ずっと思い詰めてるような、悩んでるような、そんな感じがするんだよ。まぁ、俺の気のせいって場合もあるけど」

 

「そんな分かりやすかった・・・ですかね・・・?」

 

学校や両親の前などでは無理矢理表情を取り繕ったりしてきたのだけど、どうやら顔に出ていたらしい。

 

「お店をやってたら人の顔色を見るのは慣れるもんさ。何年もやってたら、この人疲れてるな、とか悩んでるな、とか分かるようになるからな」

 

「そうでしたか・・・」

 

「頼りないかもしれないけど、未来ちゃんよりかは大人だ。相談くらいには乗れるぜ?」

 

そう言って、何処か自分の子供でも見るように慈しみを含んだ優しい表情で見つめてくる。

そんな風に見つめられていたからか、私は気がつけばポツポツと語り始めていた。

 

「・・・私、どうすればいいか分からないんです」

 

「・・・」

 

話し始めると、惣一さんは無言で聞いてくれる。それのお陰で不思議とすらすらと話せる。

 

「別にそんなことか、と思われそうですけど、二人が帰ってきたとして、私は二人に何かしてあげれるのかなって・・・考えないようにしてても考えちゃうんです。やりたいことはたくさんあっても、それは私がやりたいことだから・・・」

 

「・・・そうか。うーん」

 

話終えると、惣一さんは何処か悩む素振りを見せる。

 

「わ、分からないですよね? すみません・・・忘れてください」

 

我ながら難しいことを聞いたと自覚があったので、そう言ってしまう。

 

「・・・いやさ、ちょっと知り合いの話になるんだけど・・・構わないか?」

 

「え? それは構いませんけど・・」

 

しかし、惣一さんから返ってきた言葉はそれで、返ってくると思ってなかったために少し驚いた。

 

「じゃあ早速話すか・・・ある所に()()()()()()()が居た」

 

「記憶喪失の・・・?」

 

「ああ。ソイツはある男に拾われた。その男に拾われてから、ソイツは『自分の信じる正義のため』に()()()をすることにした。頭が良かったってのもあるのかもな・・・色々と悩むことは多かったし、ソイツは『科学者』だから発明にも時間を注いでいた。それでもな、ソイツは自身の記憶などよりも『人助け』を優先するほど『お人好し』だったんだ。人助けなんてしても自分には何も得がないのに。だけど、ソイツはそんなこと分かっていたし見返りを期待せずにさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ってたよ」

 

その言葉を聞いて、浮かんだのは響とアルくんのこと。でも、どちらかというと響よりもアルくんの方がその男性と()()だと思った。

 

「もちろん、その男性にも『帰る場所』があった。最初は一人の女性と一人の男性しか居なかったけど・・・それでも、『人助け』でソイツがどんなにボロボロになって帰って来た時も、二人が()()()()と。その一言だけでソイツは嬉しそうに笑顔になったんだ。そんな風にさ、待つ方も苦しいけど、その分戻ってきた人にとっては、その一言だけで『帰る場所』があると実感して救われた気持ちになるものさ・・・どれだけ地獄を見てもな。ま、今はソイツはたくさんの人に囲まれてるだろうけど」

 

何処か懐かしみを含む表情で、惣一さんは言う。

 

「その人は、もう一緒じゃないんですか・・・?」

 

「そうかもなぁ・・・。でも、なんつうか・・・未来ちゃんもさ、何もしてやらなくていいと思うんだよ」

 

「・・・え? でも・・・」

 

「ただし! 何もやらなくていいとはいえ、帰ってきた時に笑顔で迎えてやることは大事だ。きっと、二人もそれだけで嬉しくなると思う・・・そうだな、簡単に言えば未来ちゃんが『居場所』になってやればいいんだよ。あ、でもアルトくんは無表情だから嬉しいかは分かりにくいか」

 

場の空気を変えるためか、苦笑いして茶化すように言う惣一さんに不思議とくすっと笑える。それと同時に、私を『例えた』時のことを思い出した。

私のことを陽だまりって言ってた。帰る場所で、居場所だって。

 

「おっ! やっと笑ったじゃん! マジ良かったし!」

 

「ふふっ・・・なんですか、それ」

 

「店に来てた子が今日言っててな? 真似してみた」

 

「そうだったんですね。でも、ありがとうございます。お陰で何処か吹っ切れました・・・二人が戻ってきたら、言われた通りにしてみますね」

 

今の私は多分、自然と笑えてると思う。

自分でそう思えてしまうくらい、惣一さんの言葉は胸の中にストンと入ってきた。本当に、相談して良かったって思った。忘れちゃってたことを、思い出せたから。

だから私は、二人が戻ってきた時には絶対にそうしようと心の中で決意する。

 

「あ、そうだ。明日は俺も行っていいかな?」

 

「え!? そ、それは二人も喜ぶと思いますけど・・・良いんですか?」

 

そんな決意を一人でしていると、突然言われたことに驚きながら首を傾げる。

 

「明日、店は元から休むつもりだったから、俺もお見舞いに行こうかなってな?」

 

なるほど、と納得する。それに、アルくんは何処か惣一さんと一番仲が良さそうに見えたし、アルくんも嬉しいかも。

 

「じゃあ、一緒に行きますか?」

 

「そうだなぁ・・・お願いしちゃおうかな」

 

「はい、なら行くときにまたここに来ますね」

 

「おう。あ、そうだ。未来ちゃんも今日はマスター特製ブレンド---」

 

「きょ、今日はお腹いっぱいなので・・・」

 

「つれねえなぁ・・・ま、アルトくんに起きた時に飲んでもらうかね」

 

・・・本当になんでアルくんは平気だったのだろう、そう思わずには居られなかった---

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「惣一さん、早くしてください」

 

「ごめーん! ちょっと待って! 今特製コーヒー作ってるから!」

 

次の日、いつも通りとは行かないが、比較的元気となった未来は昨晩言った通りに惣一を待っていた。

 

「そ、それどうする気ですか・・・?」

 

「いやぁ、アルトくんが目覚めた時に一番に飲んで欲しくってさ」

 

お店の中から、水筒らしきものを二つ持った惣一が出てくる。

 

「まぁ・・・アルくんなら嫌がらないと思いますけど・・・目覚めた瞬間に、飲ませようとするのは『絶対』しないでくださいね?」

 

「わ、分かってるって・・・」

 

何処か圧を感じさせる未来の姿に、大人である惣一が身を引いて苦笑いしながら答える。

 

「それじゃあ、案内します」

 

「頼むよ」

 

「はい」

 

そう言って、未来と惣一は病院までの道を歩く---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここは、何処だ?」

 

色々と、疑問があった。

でも、今は周りを見渡しても()()()()()()に居ることが一番の疑問だった。

ただこの空間にも、あるものはある。それは『01』・・・と思わしき数字。

 

『------』

 

「・・・衛星、ゼア?」

 

俺が呟いた声に、 ()()()が反応した。

ふと自身の腰を見れば、『ゼロワンドライバー』が巻かれている。

 

「なぜ、俺が生きている・・・?」

 

『------』

 

()()()()、というここに居るらしい『存在』に聞いてみる。

すると、返ってきた言葉は『死にかけていたところを、意識だけこちらに送った』らしい。

つまりは---

 

「・・・あんたが居なきゃ、死んでたのか?」

 

『-----』

 

返答は、YES。『肉体のダメージが大きく、あのままならば回復が追いつかずに死んでいた可能性が高い』と。

 

「・・・・・」

 

その事で疑問が浮かんでくる。

何故、俺なんだ?『あの会場』に居た人達には、希望も、目的も、()()()()という気持ちさえあった。

だから、俺は()()()()()()俺よりも他の人の方が生きるべき、そう思った。

だからこそ、助けた・・・そのはずだった。

 

『------』

 

「・・・?」

 

次に来たのは、問いかけ。

『何のために、あの中で助けたのか』という問いかけ。

 

「俺より生きるべき者が居た」

 

『-----?』

 

そう答えると、次は『あの少女、立花響のことなのか』という質問が来る。

 

「・・・そうかもしれない。少なくとも、()()()()は生きるべきだ」

 

『------?』

 

「俺はソコに入ってないのか? ・・・俺には、生きたいという欲も、感情もない。だから、()()()()()()()()()()()()

 

誰に話してるかは俺も分からないが、聞かれたことに答えていく。

少なくとも、コイツからは()()()()()しない。それどころか、俺に()()()()()存在だと分かる。

 

『-----』

 

「分からない」

 

『なら、これからどうする?』という質問にはそう答えるしかなかった。

 

『-----』

 

「仮面ライダー・・・戦う・・・理由?」

 

『------』

 

まとめて『昭和ライダー』、『平成ライダー』、『令和ライダー』と呼ばれる仮面ライダーたちが居たらしい。

その人たちは、誰もが目的があったり、信念を貫いてきたと。例えば、『1号』と呼ばれる人は人間の自由のために。『クウガ』と呼ばれる人はみんなの笑顔の為に。『令和NO.1』の仮面ライダーは人と()()()()()()と呼ばれる存在が笑い合える世界(みらい)を築くために。

 

『----?』

 

次に来たのは『貴方(アルト)にはないのか?』という質問。

 

「あの時は()()()()()()()が居た。そして、()()()()に言われた言葉を守るために戦った。それだけ」

 

それに対して、素直に答える。

 

『------』

 

「・・・探せ、と?」

 

『------』

 

返ってきたのは『YES』。そして、『それが力を持つ者の宿命』という答え。

 

「・・・その前に、俺より生きたい人が、たくさん居たはずだ」

 

『・・・・・』

 

沈黙。そして---

 

『------』

 

『命は平等。肉体もなく、意識しかない人工知能である自分に救えるのは、()()()()()貴方(アルト)だけだった』らしい。

 

「・・・運が悪かった、か」

 

『-------』

 

『そうとしか言えない』と返ってくる。それだけでコイツが悪くないということは分かった。

救いたくとも、救えないならば・・・それは仕方がない。

俺も、コイツも()では無いから、全てを守ることも、何かをしてあげることも出来ない。既に亡くなった人は、運が悪かったとしか、言えない。

でも---

 

「聞きたいことがある」

 

『----?』

 

そう言うと、『何を?』と返ってくる。

これだけは、聞かなきゃならない。そんな気がした。

 

「・・・俺の行動は、意味があったのか」

 

見返りは期待してない。求められたから、手を伸ばした。きっかけを作った。ただ、それだけ。

 

『・・・-----』

 

「・・・そうか」

 

返ってきたのは、あまりにもの規模の大きすぎた回答。『あのライブ会場には10万を超える人間が居合わせており、 死者、行方不明者の総数が、1()0()2()0()1()人にのぼる大惨事』と。

そして、『あの行動がなければ、12874人の死者、行方不明者が出ていたことが()()()()だった』と返ってきた。

つまり、通常の出口から逃がしたことも、助け起こしたことも意味があった、と言いたいのだろう。

それなら、聞きたいことは聞いた。後は話を戻すだけ。

 

「じゃあ---戻って、なにすればいい?」

 

『-------』

 

さっき言われた通り、戦う理由を探せと言われても、俺には結局これといって生きる目的はないし、感情もない。

すると、『好きにすればいい。そこは、貴方が決めること』と返ってくる。

 

「そうか・・・戻る方法は」

 

『------』

 

なら、ここに居ても意味が無いのだろう。

だから戻る方法を聞く。居ても意味の無いなら、必要がない。

そして聞いてみると『変身すれば戻れる』と返ってきた。ふと手を見れば『シャイニングアサルトホッパープログライズキー』が右手にある。

恐らく、あのライブでもこれしか持ってなかったからだと思う。

 

『-------』

 

『またいつか、再び』と言われる。

 

「・・・ああ」

 

俺はそれを受け入れ、キーを起動した。

 

ハイパージャンプ!

 

「俺は拒まない。あんたが望むなら、好きにすればいい---」

 

そう言いながら変身するのと同時に、俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、空間が一瞬『()()()()()()』、『()()()()()()()()』が浮かび上がって雑音が走る---

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルくん、今日は惣一さん・・・マスターを連れてきたんだ」

 

昨日と同じように、アルトの手を握りながら未来が呟く。

その惣一は未来の後ろに立っていて、悲しげに見つめていた。

 

「・・・アルくん、マスターのコーヒーをよく飲んでたよね。今度は、私も一緒に飲んでもいいかな・・・?」

 

「・・・・・」

 

しかし、それでも何も言葉は返ってこない。

やっぱり、といった表情と共に、未来の表情には悲しみの表情が現れる。思わず、未来は手を繋ぐようにした。

 

「未来ちゃん・・・」

 

「・・・平気です。いつものことですから」

 

「そうか・・・」

 

心配してか、惣一が呼んだ声に、繋いだ手を離さないまま未来はそう返す。

 

「分かってる・・・こんなことして、目覚めるわけがないって。それでもね、私はアルくんのことをいつまでも---」

 

そう、未来が言葉を紡ごうとした時だった。

 

「・・・」

 

「・・・え?」

 

未来の手に握り返されたかのような感触と、乗せられている布団と敷かれているシーツが()()()

 

「お、おいおい・・・マジか・・・?」

 

「アル・・・くん?」

 

それを見た二人は、当然驚いたように見つめる。

そして---

 

 

 

 

 

 

「・・・未来? それに、マスター・・・」

 

目を開けた。うっすらとしか開かれてないが、確かに目を開き---名前を呼んだ。他者の名前を()()()呼んだ。

 

「おはよう」

 

そして、場違いな言葉とともに、()()()()()体を起こして首を傾げる。

まるで、なんで驚いている?とでも聞くように。

 

「も---・・・かなり、寝坊だよ・・・?アルくん・・・っ」

 

「まったくだ・・・心配かけさせやがって!」

 

「・・・? そう、なのか?」

 

惣一が顔を隠すように上を向き、未来は瞳に涙を貯め、言葉を飲み込んでからそっと抱きつく。アルトはそれに首を傾げたまま、されるがままとなった。

 

「アルくん・・・」

 

「なんだ」

 

抱きついていた未来が少し体を離し、アルトの名前を呼びながら見つめる。

そんな彼の様子は、以前と同じで変わらない。

 

「おかえりっ・・・!」

 

「・・・? あぁ---ただいま」

 

涙を貯めながらも笑顔でそう言う未来に、ほんの少しの迷いを見せた後にアルトが理解したように返す。

その姿を見た惣一は笑い、さらっと水筒を取り出していた---

 

 





〇アルト
ゼアが意識を自身の空間に移動させていたため、生きてた。意識がない分、肉体に自然治癒力が全て注がれていたために、早く回復出来たらしい。

〇立花響
順調に回復。もう目覚める

〇小日向 未来
前回から特に変わらない。
悩みを打ち解けた。

〇マスター
本名は石動惣一
そして間違いなく、今回の話で誰でも分かったであろう・・・。
はい!せーのっ!

エボルトォオオオォォオオオ!!!

〇衛星ゼア
予め言っておくと、この世界では『衛星ゼア』は打ち上げられてない。あったら絶対完全聖遺物と認定されてクソ政府が権限を奪う。
他のライダーの情報はあったらしい。
本作では、イズが居ないためにベルトを通して喋った。


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第十一話 テキか、それともミカタか


調ちゃん!誕生日おめでとうッッッ!!(大遅刻)

えー二週間かな?遅れて推しを祝う適合者のクズですが、REAL×TIMEの円盤が4月21日に発売決定しました!(ぱちぱちぱち!)もちろん作者は豪華版で予約しましたよ。映画行けなかった人も行けた人もこの機会に見よう!俺も見たんだからさ(同調圧力)

はい、話を戻して・・・小説投稿出来ず、申し訳ありませんでした。がっこうぐらしのRTA読んでたら遅れた---とか休みの日に一日中寝てた---とかクソみたいな言い訳は置いておきます。
まず注意点として今回はイジメが---まだないです!ただ、新しい導入として掲示板形式をやってみました。

あと本編ね、早く行けと思う方も居ると思うんですけど・・・Vシネ始まるまで書けないのが辛いんですよね。まあ、26日までには原作前完結させます。・・・予定です。お気に入り登録してくださった278人様(編集終了時)と読んでくださってる方には申し訳ありませんが、もう少しだけお付き合いくださいませ!
では、長々お知らせしましたが、本編どうぞ!







 

未来が医者を呼びに行っている間に、惣一がいつものコーヒーではなく激甘コーヒーを飲ましたらしく、長い間寝ていたせいで飲んだ瞬間に噎せるアルトの姿を見た未来が惣一に叱るという出来事はあったものの、検査した結果として無事に()()()()()()()()アルトは数日間の安静を言い渡されて終わった。

なお、あれだけ重傷で寝てた人と思えないくらいの姿を見て医者の人達は驚いていたが。

 

ともかく、一応の様子見として安静を言い渡され、アルトが目覚めた日から次の日には響も目を覚まし、しばらくしたらリハビリに入るとアルトは未来から聞いていた。

 

因みに彼が響と会えないのは絶対安静なために手洗い以外動くことを禁止されているからで、アルト自身もわざわざ怒られるために動く気はないのか基本的には未来の話を聞いて返すことぐらいしかしてない。

そんな日々が数日経ち、今日もまだそれは変わらず、面会時間が過ぎると彼は一人になる。

そして消灯時間となった頃だろうか。彼は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()病院を脱走していた。

まるで痛みに堪えるように頭を片手で抑えながら走りつつ、あるアイテムを取り出す。それは、プログライズキーと呼ばれるもの。

アルトは起動ボタンであるライズスターターを押し、ベルトの認証装置に翳す。

 

 

 

 

シャイニングジャンプ!『オーソライズ!』

 

「・・・変身」

 

自然と口に出した言葉と共に『シャイニングホッパープログライズキー』を展開した後、ベルトのスロットのような場所へ挿入する。

すると、保安機構と呼ばれるモノが動き、ベルトの中央に0の形が現れた。

 

『プログライズ!』

 

The rider kick increases the power by adding to brightness!

 

現れた巨大なバッタがオンブバッタのように小さなバッタを背負ったライダモデルとして現れる。

それをアルトは右手で左から右に向けて振るうとデータネットが捕らえ、二体のバッタを捕まえたネットにアルトの肉体が包まれると真っ暗な素体の姿に変わる。

 

シャイニングホッパー!

 

そんな音声とともに、体に金色のラインが走り、胸部と両肩には蛍光イエローのバッタの脚を思わせる意匠が施され、目の部分にも同じような蛍光イエローの触角が脚のように折りたたまれて装甲のようにくっついた。

 

When I shine,darkness fades.

 

以前の深縹色が入っている装甲とは別で、金色のラインがあり、黒をメインに蛍光イエローが入っている姿へと変化する。

 

 

「・・・!」

 

そして彼は即座に前を見据えると脚に力を入れ、とてつもない速度で動き---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高速道路に現れた瞬間には、恐怖でか座り込んでいた女性の目の前に立って前方の『人型ノイズ』を殴り飛ばして炭化させてみせる。

 

「・・・っ」

 

そのまま振り向くのと同時に女性を守るように立つが---彼の周りには誰かが持ってたであろう鞄、物、携帯、様々なものが地面に落ちていた。

それは、()()()()()()()()()()。傍には・・・()()()()()()()でさえ落ちていた。

 

「・・・・・」

 

果たして、その赤い瞳には何を映していたのか---そんなことを知る者は誰も居なく、ゼロワンはノイズたちを見据えて人間では追えない高速スピードで次々とノイズを炭化させていく。

 

「---Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)---」

 

 

「--- Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)--」

 

すると、戦い始めて数秒経った頃には歌が聞こえ、槍と剣を持った二人の女性が鎧を身に纏いながらゼロワンと離れた位置にいるノイズを倒していた。

 

「・・・!」

 

一瞬だけ離れた箇所を見たゼロワンはすぐに高速移動によって次々と倒して小型ノイズを掃討した。そんなゼロワンに、鋏型の手を持つ巨人型ノイズが自身の腕をゼロワンに向かって不意打ちで叩きつける。

土煙が起こり、流石に当たったかと思われたが---巨人型のノイズが叩きつけた腕を上げた瞬間、()()()()()()()()()()

思わず巨人型ノイズが周囲を見渡せば、ゼロワンは既に背後に居て、巨人型ノイズは即座に後ろに振り向いて叩きつける。しかし、叩きつけた瞬間にはゼロワンの姿は一歩隣にあり、何度も何度も叩きつけようとしても、捕まえようとしてもゼロワンの姿は捉えられない。

 

当たり前だ。ゼロワンのシャイニングホッパーには『敵をラーニングすることで行動を予測して約25000通りの対処パターンを算出、約0.01秒で最適解を導き出すことができる』という特殊能力があるのだ。ましてや、ただのノイズでは万全な状態の彼に攻撃を当てることなど不可能。万全じゃなくとも()()()()()がある彼に対して、ただのノイズが勝てる道理などない。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャイニングインパクト!

 

シャイニングホッパープログライズキーを押し込み、ゼロワンが走った。

 

「・・・ッ!」

 

蛍光イエローのオーラを右腕に纏い、腕を引きながら勢いよく突き出すことで『ライダーパンチ』を行う。その必殺の一撃は緑色の回路のようなエフェクトとともに巨人型ノイズを貫く---

 

 

 

 

 

 

 

    

             

              

               

               

              

 

 

 

 

 

 

 

巨人型ノイズが爆発し、炭化する。

それをゼロワンは興味無さげに確認することもなく、振り向いた。

その視界にはノイズなどは居なくて、二人の装者が槍と剣を手に近づいて来ていた。

 

「なぁ、あんた---」

 

槍を持っている一人が、ゼロワンへと話しかけようとする。

しかし---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでッ! なんでもっと早く来てくれなかったんですかッ!!」

 

「・・・・・・」

 

一人の女性がゼロワンの背後から涙まじりに叫んだ。ゼロワンが振り向くと、そこに居たのは来た時に助けた女性。

その女性の手には---()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あなたが、あなたがもっと早く来てくれたら瑠々は()()()()()()()()のにッ! なんで、なんで私だけ助けたの・・・ッ!! 娘が目の前で死んで、私だけが生き残るくらいなら・・・死んだ方がまだ良かったッ!!」

 

「・・・・・・ッ」

 

それだけ言い終えると、女性は地面に崩れ落ちて兎のぬいぐるみを抱えらながら泣き喚く。

その姿を見たゼロワンは顔を逸らしたかと思うと---振り向き様に槍を持った女性に視線を向けた。

まるで『任せた』とでも言うように。

 

「へ? お、おいっ!」

 

静止させるような声を無視し、ゼロワンは去っていく。剣を持った女性がちらっと睨むように見つめていたが、生存者を優先して宥めていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が・・・ぁ・・・うっ・・・」

 

無事に離れたゼロワンは()()()()()()()()()()保安機構を半円の状態に戻し、プログライズキーを抜いた。

すると、そこからゼロワン・・・ではなく、一人の男---アルトが姿を現す。病院を脱走・・・もとい、手洗いに行くと嘘を付いてノイズが現れた場所で戦ってた男の子である。

 

「・・・こっそり、帰らないと」

 

さっきの出来事に関して何も表情を浮かばさず、ただ無表情で戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

そんな日々をアルトが続けながら数日が経つと、すっかりと退院したアルトは---未来に手を繋がれていた。

今は病院へと向かっており、アルトは退院して以来初めて自分から向かっていた。

 

「アルくん、聞いてる?」

 

「ああ」

 

退院をしてからまだ一週間も経ってないが、退院して次の日には未来がアルトの手を繋いだまま離れなくなっている。もちろん、トイレやら風呂の時、食事の時等など離れなければならない時は離しているのだが・・・。

 

「・・・響、大丈夫かな。手伝えることあるといいんだけど・・・」

 

「・・・」

 

未だに長く寝ていたためにリハビリが必要で、問題なくなるまでは続けなければならないらしい。

といっても、後数日で問題ないとは言われているのだが・・・。だからこそ、必要のなかったアルトに医者たちは驚いていたわけである。

 

「アルくんは何か良い案ある?」

 

「ない。・・・でも」

 

未来に聞かれたことにアルトは答えるが、一度言葉を区切った。

 

「でも・・・?」

 

「笑顔。それで居てやれば・・・いいんじゃないか」

 

「あ---ふふ」

 

「?」

 

答えたことに何故か笑われたためにアルトは首を傾げる。

 

「ううん、なんでもないっ」

 

「そうか」

 

()()()()を経験しても変わらないアルトを見てか、数日前の出来事を思い出してか未来は嬉しそうに手を引っ張って病院へ向かっていく。その手は、引っ張りながらも決して離されることはなかった。

 

「笑い合える未来(みらい)、か。俺は・・・この力で、一体・・・何を・・・」

 

だからか、何処か深刻そうに小さく呟かれたアルトの悩みの言葉は、未来には届かなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

場所は変わり、響がいる病室の前に来た二人は声を掛けてから病室に入る。

 

「あ・・・」

 

「・・・・・・」

 

すると、休んでいたのかベッドに座ったまま入り口に視線を向けて何処か気まずそうな表情をしている響と無表情のアルト、そんな二人を見て苦笑いしている未来となっていた。

 

「えっと・・・ひ、久しぶり・・・?」

 

「ああ」

 

おずおずと言った感じで言った響の言葉に、いつも通りに返したアルトが近づく。

そんなアルトの姿を見てか慌てて立とうとしたせいで足が(もつ)れてしまった響が体勢を崩した。

 

「わぷ・・・」

 

「座っておいて、良い」

 

しかし、アルトが響の体を支えた為、何処かにぶつけたりすることもなく響はベッドに座らされた。

だが、すぐに沈黙が場の空気を支配してしばらく無言が続く。

 

「・・・響」

 

その空気を壊したのは、珍しく最初に発したアルトだった。

 

「う、うん」

 

何を言われるのか分からないからか不安そうな面持ちで響が返事する。

そんな響に対してアルトは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かった」

 

「・・・へ?」

 

謝罪の言葉と、頭を下げるという行動をしたのだった。

当然、予想外のことで響は困惑し、未来も驚いた表情を見せていた。

 

「ま、待って。どうしてアルトくんが・・・?」

 

「・・・簡単なこと」

 

頭を下げたまま、アルトが呟く。

 

「お前がそうなったのは俺のせい。あの時、一緒に逃げてればそうはならなかった。それか俺が怪我をしなければ、無事だった。それは変わりようのない事実」

 

淡々と事実を述べるようにアルトが話していく。こうなっているのは自分のせいだと、自分が悪いのだと。

 

「・・・違う!」

 

「・・・?」

 

「アルトくんのせいなんかじゃない。悪いのは・・・私。ごめんね・・・?」

 

響がアルトの言葉を否定する。その手に握られた毛布は彼女の気持ちを表すかのように強く握られていた。

 

「何を・・・」

 

「だって、アルトくんが怪我をしたのって、私を庇ったせいだよね? 未来から聞いたんだ・・・アルトくんは私と違って二度と目覚めない可能性があったって。私はそれを聞いて物凄く怖くなった・・・アルトくんがいなくなっちゃうんじゃないかと思って。すぐに未来が目覚めたことを言ってくれたから安心したけどね。・・・それに最後も私を守ってくれたんでしょ? だから、足を引っ張った私のせいだよ・・・」

 

話している響の表情は、申し訳なさと後悔、様々な感情を含んだ表情だった。

 

「それこそ、違う。お前が居なければ、俺はノイズにやられていた。俺は、お前に助けられた」

 

「でも---」

 

「待って」

 

「・・・未来?」

 

「・・・?」

 

互いに自分が悪いのだと言い合いになりそうになっている所で、未来が二人に近づいて止めた。

 

「響・・・アルくん・・・。ごめんなさい・・・っ!」

 

「?」

 

「え?」

 

予想外の言葉にか、二人は同時に未来に視線を向けながら首を傾げていた。

 

「二人が原因じゃないの・・・。結局は二人が怪我をしてこうなったのは私のせいだよ。だって、二人を誘ったのにライブに行けなかったのは私だから・・・私が誘わなかったら二人が怪我をすることなんて・・・」

 

「何を言っている?」

 

「未来は悪くないよ? ライブに行けたことは私良かったって思ってるから。それはきっと、アルトくんも」

 

「だ、だけど---」

 

二人の言葉にそれでもと言おうとする未来だったが---

 

「・・・誰も予想出来なかったこと。俺は気にしてない。お前が悪いとも思ってない」

 

「私もアルトと同じ意見。未来が悪かったなんてそれだけは絶対ないからね?」

 

響とアルトの言葉に未来が開こうとした口を閉じた。

 

「あぁ---心配かけて、悪かった」

 

「ごめんね、未来」

 

それだけではなく、むしろ逆に未来が響とアルトに謝られることで困惑する。

 

「な、なんで?」

 

「不安にさせてしまったかと・・・思った。違う、のか?」

 

「それは・・・違わないけど・・・」

 

「だったら、悪いのは俺たちだ。お前は一切悪くない」

 

そんなアルトの言葉に未来が何かを言いかけようとした時だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

「---別に誰が悪いとかそういうのは違うんじゃないの?」

 

この場に居ない声が聞こえ、全員の視線が病室に入り口へと注がれる。

 

「よっ!」

 

「マスター」

 

「惣一さん・・・」

 

「あっ・・・惣一おじさん」

 

「おじ・・・まぁいいけどね?」

 

手を上げながら入ってきたのは、石動惣一。響の呼び方に苦笑いしながらも、近くに寄っていく。

 

「それで、どういうことだ」

 

「あぁ、そうそう。簡単なことだろ?」

 

近づいてきた惣一にアルトが聞くと、惣一は言葉を紡いでいく。

 

「未来ちゃんが誘ったのは別に悪いことなんかじゃない。むしろ、予想できる人間なんて居なかっただろうさ。そんなのはただの偶然だ。お前たち二人もそうだろ?俺は見てないから分からないが・・・アルトくんは響ちゃんに助けられ、響ちゃんはアルトくんに助けられた。結局の所、全てが偶然から始まったのだから誰も悪いことなんてしてないでしょうが。運が悪いとしか言えないし、終わりよければすべてよしって言葉もあるくらいなんだぜ?」

 

「・・・」

 

「それは、そうですけど・・・」

 

「惣一おじさんの言う通り・・・なのかな」

 

「ま、それでも悪いと思ってるなら全員が悪い! それで全員謝ったんだから終わりでいいだろ? 誰々が悪いとか言ってたらキリがないんだしさ」

 

最もなことを惣一が言い、説得力のある言葉に全員が渋々と納得した様子で、何も言えなくなったのか無言となる。

 

「・・・待て」

 

「アルくん?」

 

「どうしたの?」

 

だが、途端に呆れたような雰囲気を醸し出しながらアルトが言葉を発し、惣一を見つめた。

その様子に二人が首を傾げる。

 

「あんた、一体どこから聞いていた?」

 

アルトの言う通り、今の惣一の言葉はまるで全て知っていたかのような口振りだ。

それでもある程度予想ができているのかアルトが呆れたような雰囲気を纏っているわけである。表情は無表情だが。

 

「え? それは・・・アルトくんが響ちゃんを熱く抱きしめた所から?」

 

「抱きっ!?」

 

「・・・はあ」

 

予想通りだったのかアルトはため息を吐き、響は顔を赤めていた。

 

「そ、それってほとんど最初からじゃ・・・?」

 

「出るところ、伺ってたのか」

 

「ま、まっさか〜あはは・・・ほら、それよりどうよ。俺のコーヒー! 今日は上手く出来た自信があるんだよ!」

 

未来とアルトの言葉は図星だったようで、惣一がヒューヒューと口笛を吹いた後に話を切り替えた。

 

「貰う」

 

「あ、やっぱり貰うんだ・・・」

 

「うう・・・なんでアルトくんは何とも思ってる様子がないの・・・」

 

しかし、惣一のお陰でいつも通りへと戻ったのか、無表情の一名を除いて全員に笑顔が戻った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、あの後は全員が悪いということになって謝り、アルト以外がコーヒーをまずいという流れまで出来ていたが、元通りに戻った響と未来、アルトは惣一と一緒に面会時間の最後まで病室で話をして別れた。

 

そしてアルトは今の時間が夜なのもあり、そろそろ深夜に入る時間帯だからか睡眠を取ろうとアルトはベッドに入ろうとする---

 

「う・・・。ッ・・・!」

 

しかし()()()()()()()()()()()()()窓を見つめると、即座に窓を開けて家から出るように飛び出す。

それと同時にゼロワンドライバーを装着してプログライズキーを挿し込んだ。

 

 

 

 

シャイニング!アサルトホッパー!!

 

「・・・!」

 

今日も彼は、ノイズを相手に戦い続ける。---戦う理由もなく、『知らない人』に助けを求められたら手を伸ばし、ただ人を助ける。その末に、何を言われようが、何をされようが、罵倒されようが、悪く言われようが、感謝をされなかろうが、怖がられようが、どれだけ身勝手な言葉を吐かれようが。

だが、そんな姿は()()()()()()()だと---彼に注意できる人間は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『朗報 俺氏、未確認生命体の写真を複数枚撮ることに成功する』

 

1:名無しの一般人 ID:OTfhGjsFv

これなんだと思う?

〔添付:空中から飛んてきたベルトを付けて仮面を被っている何かの写真〕

 

2:名無しの一般人 ID:bGxgbGDHj

>>1

なにこれ

 

3:名無しの一般人 ID:07fuDY8lp

>>1

どうせただの合成でしょ。コスプレにも見えるけど人間が飛べるはずがない

 

4:名無しの一般人 ID:FhUV6knqQ

というかイッチはどうやって撮ったんや

 

5:名無しの一般人 ID:OTfhGjsFv

ノイズが出てきて逃げてたらなんか現れたから止まって撮った

 

 

6:名無しの一般人 ID:BJ3gjpRCn

いやなんで撮ってんだよ、逃げろよwww

 

7:名無しの一般人 ID:otTaC73d5

ノイズに触れられたら死ぬのにわざわざ止まって撮ったのか・・・(困惑)

 

8:名無しの一般人 ID:Kgub46fng

イッチのメンタルおかしくて草 俺なら間違いなく逃げてるね

 

9:名無しの一般人 ID:09+hAthiSs

そら逃げるやろ。マジでイッチがおかしい

 

10:名無しの一般人 ID:OTfhGjsFv

好奇心に駆られてしまって・・・みんなも撮るでしょ?

 

11:名無しの一般人 ID:Tak4HagU0

否定はしない

 

12:名無しの一般人 ID:GvhEG57f

肯定もしない

 

13:名無しの一般人 ID:Mki5A25hB

>>11 >>12

どっちだよw

 

14:名無しの一般人 ID:Rvo39Mabu

>>1

結局これってなんなん?地球外生命体?どっかの国が作った軍事兵器?

 

15:名無しの一般人 ID:5djYCfhpY

まぁ、普通に考えたら合成かコスプレ。またはなんかの撮影

 

16:名無しの一般人 ID:Ha91BKliN

撮影にしたっておかしいんだよなぁ・・・そもそもノイズの本物使ってる時点で撮影にならない

 

17:名無しの一般人 ID:OTfhGjsFv

>>15

それはないと思う。ほい

〔周りにある炭素の塊と散乱している物、パンチでノイズを炭化させた何者かの画像〕

 

18:名無しの一般人 ID:kYAhcz72T

は?

 

19:名無しの一般人 ID:XCh4Dfyxu

え?

 

20:名無しの一般人 ID:Vgj68DjmP

はい????

 

21:名無しの一般人 ID:cJbe0hO1Z

>>17

えっ、なにこれ。おかしくね?

 

22:名無しの一般人 ID:deDKsqEt1

ノイズって殴れましたっけ・・・?

 

23:名無しの一般人 ID:Rvo39Mabu

>>22

いや、無理。それこそ当たる直前の0.1秒の隙に殴るとかしたら行けるらしいけど武器かなんかないとこっちも死ぬ。

一度兵器で波状攻撃やって周囲に甚大な被害が出たし弾薬とかの消費がエグかったとか。

 

24:名無しの一般人 ID:Dv4KXDfv1

>>17

これ本物なん?

 

25:名無しの一般人 ID:BxgPF73kb

いくらなんでもこれは合成や加工じゃないと思う。でもそう考えるとおかしいよなぁ・・・

 

26:名無しの一般人 ID:ZF4KxuOpd

それな

 

27:名無しの一般人 ID:aj46EwJfL

あれな

 

28:名無しの一般人 ID:Knj+eVJOs

どれだ

 

29:名無しの一般人 ID:2Thu15HSa

アレだよアレ

 

30:名無しの一般人 ID:Bo6TsBopA

そうだよ(便乗)

 

31:名無しの一般人 ID:vK3DhcxuI

おまいら遊びスギィ!

 

32:名無しの一般人 ID:OTfhGjsFv

ママエアロ。話を戻すゾ。

どうやらこの生物?生命体?人間?なにかは分からないけど他にも居るらしい

 

33:名無しの一般人 ID:Meg17ChlT

なん・・・だと?

 

34:名無しの一般人 ID:THe2lpT98

勝ったな、沖縄飲んでくる

 

35:名無しの一般人 ID:Weg3tv46e

33-4

 

36:名無しの一般人 ID:VudUbeipF

>>35

な阪関無

 

37:名無しの一般人 ID:Of5DCfuzA

画像はよ

 

38:名無しの一般人 ID:BdjoSHi5Zd

誰もイッチの心配してないの草生える。一応言っておくと、ノイズに遭遇する確率は一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率を下回るからな

 

39:名無しの一般人 ID:hDy64jcFh

>>34

おい待て、俺も行くぞ!

 

40:名無しの沖縄民 ID:okI0Okidy

>>34 >>39

やめルルォ!ってか沖縄は海だけじゃないぞ・・・ノイズより化け物じゃねぇか

 

41:名無しの一般人 ID:OTfhGjsFv

はーいよ

〔クリスタル状のモノをバリアにしたりビームを撃ったり、離れた場所からブレていつの間にか飛び蹴りをしている深縹色が追加されていた何者かの画像〕

 

42:名無しの一般人 ID:KitvcAtTL

なんでもありやんけ・・・これで高速移動出来るとかチートじゃん

 

43:名無しの一般人 ID:AgeNkEk10

かっけええぇ!まさにロマン武器投入してやがる・・・作ったやつ男心分かってるな

 

44:名無しの一般人 ID:17HSoVIsA

ヒーローって感じですな。ただなぁ・・・

 

45:名無しの一般人 ID:DGxHO+MMO

うほっ♂︎

 

46:名無しの一般人 ID:Xf28F4G8c

>>45

ホモは帰って、どうぞ

 

47:名無しの一般人 ID:d:FhUV6knqQ

>>41

イッチ、またノイズに遭遇したんか・・・もう呪われてね?ってかイッチはコテハン付けて♡

 

48:名無しの一般人 ID:Kfa5zHdpY

きもい

 

49:名無しの一般人 ID:RHOpdwhbD

きっしょい

 

50:名無しの一般人 ID:V6gs5DjQy

ぴえん

 

51:名無しの一般人ID:ChunSgvVS

>>47

IDだけだと分かりにくいもんな・・・。でもコテハン付けてって言っただけなのにボッコボコに言われてて可哀想。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・気持ちわりぃんだよ!!(豹変)

 

52:名無しの一般人 ID:OFDdkTuvD

オーバーキルやめてやれ

 

53:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

そんで、どう思いますかね

 

54:名無しの一般人 ID:Cjfy3DpoS

さらっと呪われた付けてんの草

 

55:名無しの一般人 ID:aAfcpPLfh

実際そう何度も遭遇してる時点で呪われてるゾ。よく死なねぇなイッチ

 

56:名無しの一般人 ID:BlpeHdiDe

まま、話戻そうぜ。とりあえずは味方ってことで、ええんか?

 

57:名無しの一般人 ID:cXcFdJIWV

分からん。情報量が少なすぎる

 

58:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

俺が見た感じ人を守ってたぞ。ノイズと戦える理由は知らんけど俺も実際守られたし。でもなぁ・・・

 

59:名無しの一般人ID:/maZ+Ka+X

でも?

 

60:名無しの一般人 ID:1ShGclJf5

でもってなんだよ

 

61:名無しの一般人 ID:Zfhy78Dfg

でもはでもだよ

 

62:名無しの一般人 ID:FjvgjKdc7

でもってなんだっけ

 

63:名無しの一般人 ID:XghUGKv0n

デモ起こすぞ

 

64:名無しの一般人 ID:cHis7/Dz3

やめろ、近所迷惑だろ

 

65:名無しの一般人 ID:lmFpgQhvW

ごめんなさい

 

66:名無しの一般人 ID:ZHoskKfAp

そんで、渋るってことは不安なとこあるんか?

 

67:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

まず助けられた側としては何か怖い感じがしたわ。本能的に震え上がる感じ?ノイズをただ機械的に殺してる感じで、人間だったであろう炭素の塊を見ても何とも思ってる様子がなかった。仮面付けてるから表情が分からないってのもあったろうけどさ。それに俺らからすればノイズ殺してくれるのは有難いし助かるけど・・・

 

68:名無しの一般人 ID:epgeEBjdI

あーなんか言いたいこと分かったわ

 

69:名無しの一般人 ID:hLkiN5Dxb

俺も

 

70:名無しの一般人 ID:jUdpGcsjY

お、俺もわかったで

 

71:名無しの一般人 ID:ZobiX

俺も俺も

 

72:名無しの一般人 ID:wAkxryU90

絶対分かってないやつ居るだろw

 

73:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

俺が言いたいのはこの力が俺らに向けられたら?攻守可能なクリスタルのようなもの、目で追うことの出来ない高速移動、アスファルトを簡単に砕ける脚力。ノイズの攻撃さえ効かない装甲。そうしたらノイズ以上の脅威になるかもしれない。実際、助けられた人は基本的に感謝じゃなくて怒鳴ったり泣き叫んだり、怨言を叫んでたからなぁ

 

74:名無しの一般人 ID:CbjdauA1

あー確かに。姿はかっこいいけど普通に異形だしな

 

75:名無しの一般人 ID:g6hZd1joaS

なるほどな、イッチの言葉も最もだよね。ノイズに対抗出来る時点でその可能性も捨てきれないか・・・

 

76:名無しの一般人 ID:/go+ipTFh

もし人間だとして、悪意ある人間だとやばいよな

 

77:名無しの一般人 ID:I9S4VIdip

ってか助けられた側はおかしいだろ。感謝はともかく怨言まで叫ぶか?

 

78:名無しの一般人 ID:VidAi89fj

あれじゃないかな、家族とか大切な人が目の前で死んだからとか

 

79:名無しの一般人 ID:GC0uoSmQl

>>77

例えば婚約者や恋人が目の前で死んだら悪くないと分かってても俺らも同じことすると思うぞ。人間ってのはそんなもんだろ

 

 

 

 

 

 

俺には居ないけどな!

 

80:名無しの一般人 ID:ChelsUaVv

>>73

イッチの警戒も分かるな。正体が分からないから人間かどうかも分かららんし

 

81:名無しの一般人 ID:mlfSyJAVo

というかそれって大丈夫なのか?多分政府とかも調べてるだろうし・・・

 

82:名無しの一般人 ID:AuPLdwEnb

あっ・・・

 

83:名無しの一般人 ID:jcTo7/e2k

あっ(察し)

 

84:名無しの一般人 ID:bkut5d+Ah

おいおい、アイツ死んだわ

 

85:名無しの一般人 ID:gRtreXAtR

無茶しやがって・・・

 

86:名無しの一般人 ID:VopSIesvc

>>79

現実突きつけるのやめろ

 

87:名無しの一般人 ID:wtFgAIbxT

>>79

やめろォ!(建前)ヤメロォ!(本音)

 

88:名無しの一般人 ID:QuEsiuTA

というか、この異形の人型の名前決めね?呼びにくいじゃん

 

89:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

おまいら勝手に殺すなw

 

>>88

その案いいね。じゃあ俺は仮面戦士で

 

90:名無しの一般人 ID:jcT96TJgd

>>88

バッタヒューマン

 

91:名無しの一般人 ID:BaPodBhf3

>>88

バッタマン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミ〇キー

 

92:名無しの一般人 ID:PAinfiyDq

>>88

パッ〇マン

 

93:名無しの一般人 KhiSa/y88

仮面・・・騎士?

 

94:名無しの一般人 ID:3gSf2BKda

バットマ〇

 

95:名無しの一般人 ID:umdFvPTqL

スパイダ〇マン

 

96:名無しの一般人 ID:Xc5Hi+fgY

>>92 >>94

パック〇ンとバット〇ンとかただのパクリやんけ。というかモザイクの位置的に一瞬どっちか分からなかった。

 

97:名無しの一般人 ID:LUcsRepfS

おい待てw誰だよ、蜘蛛男にしようとしたやつw

 

98:名無しの一般人 ID:AGmaubGMa

>>93

俺的にはこれがいいな

 

99:名無しの一般人 ID:dhvWyicYU

>>92 >>94 >>95

少なくともお前らの案はダメだってことは分かった。あと>>91はマズイですよ!消される!夢の国に連れて行かれる!

 

 

100:名無しの一般人 ID:EvGadP/oL

仮面ライダー

 

101:名無しの一般人 ID:fYiDgcS1h

おっ?

 

102:名無しの一般人 ID:HdhWrDBgh

ん?

 

103:名無しの一般人 ID:5sG/Jd+3F

ええやん

 

104:名無しの一般人 ID:CHi7kswKb

ああ、なるほど。>>93の意見を>>100が変えたのか。仮面はそのままで、騎士は英語では『Knight』。でも『騎士』を中国語にすると『騎士』は『ライダー』になるからな

 

105:名無しの一般人 ID:buLtSprys

>>100

ってかこの中だと一番マシだよなw他に良いの>>93とイッチだけやんけ。遊び心ありすぎだろ

 

106:名無しの一般人 ID:DchaujFkO

>>100

記念すべき100やしな。なんかこう、しっくり来たし決定じゃね?

 

107:名無しの一般人 ID:IBNsoVstZ

運命感じたわ

 

108:名無しの一般人 ID:RuGliNdfJ

>>104

中国語に詳しい博識ニキ居るやんけ!なんでライダー?と思ったけど納得したわ。ありがとナス!

 

109:名無しの一般人 ID:myfsEjLgV

>>107

運命、感じるんでしたよね

 

110:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

じゃあまとめるからちょい待てな

 

111:名無しの一般人 ID:8Fc9dHkD0

おけ

 

112:名無しの一般人 ID:KgUibVSg2

それにしても本当に>>1と>>41は何者なんだろうな。同一人物か?ほら、よくある強化フォームみたいな

 

113:名無しの一般人 ID:xbiS9ZkDp

ヒーローものでありがちなやつだよな。情報が少なすぎて分からんけど

 

114:名無しの一般人 ID:Pg1qKdeYu

敵対しなければいいけど・・・こいつ、仮面ライダーを倒すにはそれこそ水爆やら核使わなきゃダメなんじゃないか

 

115:名無しの一般人 ID:3Fut4gbKa

戦車なんて簡単にクリスタルビームで壊されそう

 

116:名無しの一般人 ID:d/gGjdkGy

銃弾に至っては掴んで落とすとか弾いたり出来そう

 

117:名無しの一般人 ID:2XgUtyQjH

というかいつの間にか階段降りさせられてそう

 

118:名無しの一般人 ID:JdklFsHSf

そもそも人間の目では追えない速度らしいもんな

 

119:名無しの一般人 ID:kdU+dgTOu

>>117

何処の吸血鬼だよw

 

120:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

待たせたな!

とりあえず現状分かることまとめてみた。

 

呼称、『仮面ライダー』

 

金色のラインがあって蛍光イエロー?と黒がメインで、腹筋やら胸筋がムキムキの仮面とベルトを付けている仮面ライダー

深縹色の装甲が追加されている仮面ライダー

同一人物説があって、高速移動やクリスタルからビーム放ったりシールドに出来る

目的は人助け?でも敵対する可能性もある

敵対されたら人類滅ぶ(?)

恐らく核クラスが必要

何故かノイズを倒せる

 

こんなもんかな?

 

 

121:名無しの一般人 ID:rtOudSjds

おつ

 

122:名無しの一般人 ID:eWvjsDAQhp

乙ゥ!

 

123:名無しの一般人 ID:iThDh5g/F

わかりやすい+114514点

 

124:名無しの一般人 ID:VjeywHYgt

結局、この仮面ライダーは半々って感じなんやな

 

125:呪われた一般人 ID:OTfhGjsFv

果たして味方なのか敵なのか・・・今のとこ半分だね

 

126:名無しの一般人 ID:SyafibnLk

まぁ、これからもこれを見た人が情報提供してくれるだろうしそれで敵なのか味方なのか考えないとな。行動と見た目的には間違いなく異形で怪しいけど

 

127:名無しの一般人 ID:BkfyiAhPU

せやな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ・・・」

 

真っ暗な部屋の中、一人の男性が携帯を片手に何かを見ていた。その視界の先には、すっかりと雑談になってしまった先程の掲示板がある。

実は、『仮面ライダー』と提案した100番目に投稿した人物だ。

 

「まさか()()()()にも()()()()()()が居たとはなァ」

 

その男性は、片手に()()()()()()を持って振っていた。

 

()()()()では()()()があったから何もするつもりはなかったが・・・それにしても、皮肉なモンだねェ」

 

シャカシャカ、と手に持つ()()()()()()()()()で音を鳴らしながら、その男性は何処か嘲笑うように口角を上げながら独り言を呟く。

 

「行動からしてこの仮面ライダーも人の為に戦ってるだろうに・・・悪く思われてるとは、まるで()()()と同じだなァ。なぁ? この時、お前ならどうする---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()ォ?」

 

そう聞くように男性が呟くが、どうするのか分かってるような表情を浮かべ、懐かしそうに笑った---

 

 

 

 

 

 

 







〇アルト/百合の間に挟まった処か、泣かせた罪人
未だにゼアの質問に悩んでおり、日々戦う理由や目的を探している。
だが、助けた人からは感謝ではなく批判や暴言、罵倒などの悪口を吐かれることが多い。これがエボルトゼミちゃんですか
ちなみにゼアから得た情報でグリップを外せることを知った。あれ以降ゼアがアルトの睡眠中に意識呼んで何度か話しているらしい。
変身前と変身解除後には()()()()()頭痛が発生している。その理由は果たして・・・?

〇立場響
関係性が戻った。
そもそも、互いが互いを思って起きた話なので惣一が居なくとも戻ったであろう。

〇小日向未来
もう笑顔が戻ってる。
本来は響に依存するはずだが、この世界では幼馴染であり異性のアルトに対する依存度がアップしている。だがアルトが『仮面ライダー』ということを上手く隠しているため、そこは気づいてない。

〇エボ・・・石動惣一
関係性を直した有能。()()()を見つけたから何もするつもりないらしい(?)
・・・エボルトォォオオオオォォォオオ!!

〇掲示板
オタク


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第十二話 悪意のバッシング


キャロルちゃんッ!誕生日おめでとうッッッ!!
アアァアアアアァアア!!お雛様キャロルちゃん可愛すぎるだろ!反則か!?それにアンリミブログのキャロルちゃんが---ごほん。

はい、一番の推しの誕生日なのでギリギリ一週間以内に間に合わせる適合者の鑑です。べ、別にメモヒやっててギリギリになったとかそんなのじゃないんだからね!バイトあるのについ二日でストーリーとトロコンしたとかそんなのでもないからね!!オーズとW好きな人は泣けると思います。

まぁ暴走する前に話を戻しまして、今回は彼らにとっては『地獄』の始まりです。それに伴い、イジメ描写が---自分でも引くぐらいやってしまったので修正して暴力表現のみあります。苦手な方はご注意を。
そして、原作前は次とエピローグで終わります!予定です!ちょうどアニメ分(13話とcパート)だね!
では、ほんへどうぞ

・・・どうでもいいけど7人のジオウ見ました


 

 

 

最近はノイズが全くといっていいくらいに現れていない。そして()()が起きることも無い。何故なのかは知らない・・・。

ただひとつ、分かるのは()()()からノイズが現れたら場所が分かるようになったのと、■■を感じれるようになった。それはシャイニングアサルトホッパーを使()()()()()()、より強くなっていく気がする・・・それだけだ。

 

・・・俺は、このまま戦い続けて、答えを見つけられるのだろうか。()()()を何に使うべきなのか・・・何も掴めてない。

そもそも---誰かを守る必要なんて、あるのか。『仮面ライダー』は誰かのために戦ってきた。俺は対抗する手段があるから戦ってきた。あの時は、やるしかなかったから。でも俺が戦ったところで、救った人からは悲しみ、絶望、怒り、憎悪、殺意・・・そんな負の感情を()()()ことばかりだ。

---教えて、欲しい。俺は何のために、誰のために、どうしたら、いいんだ---ゼア。

こういう時、感情があれば・・・別だったのだろうか---?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

ノイズによるライブ会場の惨劇、人々は『ノイズ』だから仕方がないと諦めのような感情で処理し、いつもと同じ日々を人々は過ごしていく。だが、そう簡単に『仕方がない』で済むだろうか? いいや、それは否。断じて否だ。

なぜなら世間や人は感情を冷静に処理したわけじゃない。ただ心の奥底に無理矢理沈めていただけだ---ジッと狩人の如く『獲物』を待ち、溜め込んできた()()を生贄にぶつけられるその瞬間を---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響のリハビリが終わったため、響は無事に退院し、アルトや未来たちとこれまで通りの変わらない日々が戻ってくる---だが、運命は残酷というものだ。

 

『10201』それがライブ会場での被害者の数。ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/5程度であり、 残りは混乱による逃走時の将棋倒しによる圧死や避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死であることが報道されたことが原因だ。

 

死者の大半がノイズによるものではなく人の手によるものであることから始まる『生存者に向けられたバッシング』。そして被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、民衆による『正義』が暴走を始めた。

 

まず、アルトが居る学校でライブの被災にあった被害者はたったの三人。アルトと響、そしてサッカー部のキャプテンだった。そのキャプテンはノイズによって殺されたため炭となり、遺品すら回収されていない。

そんなキャプテンを慕っていたとある少女のヒステリックな叫びが始まりだった。

 

「なんでキャプテンは死んだのにあんたたちは五体満足で生きてるの!? キャプテンは将来嘱望されていたのに・・・! どうせあんたたちは誰かを犠牲にして生き残ったんでしょ、この人殺し!」

 

「・・・何を言っている? 響に出来るわけがない。大怪我をしていたこいつに、そんなことは出来ない。それに、証拠がない」

 

当然、理解出来なかったアルトは()()()()()()()()()()()()()()()さりげなく響を守るように立ち、反論する。その行動は彼が()()()()()()()()から成されたいつもの行動、というものだろう。

 

「怪我をする前に人を殺して生き残ることは出来るでしょ! それにニュースでやってたんだから証拠なんて無くてもやったに決まってる! それに、あんたならやりかねないじゃない!」

 

そのことにアルトがいくら口を開こうが、「絶対やったに決まってる!」「実は恨んでたんでしょ!」など話にならない言葉ばかりを少女が吐き出していく。

本来ならば、そんなことは無視すれば勝手に収まり、たったの一人の言葉で全てが動くことなどありえない。しかし、その根拠の無いヒステリーを世間が後押しした。

アルトや完治して間もない響に押し寄せるマスコミ。その報道がまた『生存者バッシング』を煽るような内容で、それを見た学校の生徒が『正義』として迫害を行ってくる。教師たちも『正義』として、その迫害に加担していく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「・・・ッ」

 

頭が痛くなり、両手で頭を抑えながら飛んでくる拳を『予測』した後に()()()()()て地面に倒れる。

 

「なに勝手に倒れてんだよ!」

 

「・・・」

 

「ちっ、相変わらず不気味なやつ・・・だなッ!」

 

倒れた体を取り巻きの二人に両腕を掴まれて立ち上がらされ、何度も、何度も何度も殴られる。

蹴られ、吹き飛ばされようが何度も地面に転ばされようがその度に無理矢理起こされ、暴力を受ける。膝を着けさせられると地面に頭を擦り付けらされ、囲まれて蹴られたり殴られたりした。中には、バットや武器で殴ってくるやつもいる。

それは間違いなく『悪意』のある暴力。

俺はそれを受けながら()()()()()

 

ただ痛む頭を必死に抑えようとする。ノイズに比べれば、遅すぎる。だけど、回避する訳には行かない。こうでもしなければ、こいつらの暴力が『アイツ』に向く可能性がある。それはする訳には、行かない。

 

「今日はこの程度にしてやるよ」

 

そう言われ、最後に壁に思い切り叩きつけられた。

ふと前方を見ると、飽きたのか去っていく姿が見えた。これは()()()の光景。

 

「・・・あぁ---うぐっ・・・ガアァッ・・・!!」

 

抑える。ただひたすら抑える。耐えて、堪えて、我慢して、抑え続ける---

 

 

 

 

 

 

 

「次は、そこか・・・。間に合わなく・・・なる前に、まも・・・らないと・・・」

 

痛む頭を抑えながら俺は前だけを見つめて壁に手をつき、教室を目指した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・間に合った」

 

()()()()()()()に辿り着いた俺は、一人の机の前に立ち、掛けられている鞄を持つ。すぐに中身を()()出したあと、()()()()()

 

「・・・もう、来る」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が少しずつ、確かに少しずつ近づいてくる。その度に、俺の頭にはズキっとした痛みが走る。

思わず頭を抑えながら、鞄を持ったまま廊下に出て隠れる。

すると、少しも経たないうちに何人かの『女子生徒』が教室へ入り、その姿を見た瞬間には、教室をこっそりと覗き込んでみた。

その中では()()()()()()()()()に女子生徒たちが集まり、鞄をぶちまけてノートや机に落書きしてるのが見える。

 

「悪意・・・本当に、危険なもの・・・だな」

 

興味を無くした俺は、廊下を歩く。鞄を手に持ちながら、しばらく歩き---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰るぞ」

 

昇降口の近くに居た響に鞄を渡して、そう言う。

 

「あ、ありがとう」

 

「別に」

 

「・・・アルトくん。鞄は?」

 

手ぶらとなった俺の手を見て、響が聞いてきた。その響の腕の中にあるのは()()()()

 

「捨てた」

 

「えっ・・・」

 

「行くぞ」

 

「あっ、ちょっと・・・!」

 

手を引っ張りながら学校から離れていく。

俺がやったことは、自身の鞄の中身と響の鞄の中身を入れ替えた。それだけだ。

なぜなら()()()は抵抗が出来ない。男が暴力であるなら女のいじめは陰湿でねちっこく、そして精神的に追い詰めていくもの・・・らしい。最近となって知った。だから、()()して予め潰すことにしている。()()()()()()()で済むなら安い。・・・本当は、もっと早く気づくべき・・・だった、から。

 

「え、えーっと・・・未来は部活だっけ?」

 

「ああ」

 

「・・・アルトくんは変わらないね」

 

「・・・お前に言われたくはない」

 

大変な状態で、苦しいはずなのに、しんどいはずなのに、そう笑えて、誰かを救おうとするのは強い、と思う。・・・感情がない俺にはわからないが、それはきっと、とても難しいことのはず。

 

「えへへ・・・アルトくん」

 

「・・・?」

 

腕が抱かれるような感触を感じて見てみると、響が俺の腕を抱きしめていた。

動きにくい。歩きにくい。傷が痛い。

 

「アルトくんが居てくれるから私、笑顔で居られるんだ。本当に、アルトくんは私の希望、()()()()()()()()・・・だよ」

 

「そうか」

 

突如言われた言葉にいつも通り答える。

・・・希望。俺はその資格が、あるのだろうか。俺には、『仮面ライダー』の力があっても救えない人が、多いのに。

 

「ん・・・この手だけは、ずっと離したくないなぁ・・・」

 

「・・・俺が困る。マスターのコーヒー、飲めなくなる」

 

「じゃあ、私が飲ませるッ」

 

「自分でやる」

 

むう、と頬を膨らませた幼馴染の姿を見つめ、もう一人の部活をしているであろうもう一人の幼馴染を浮かべた。

未来はこんな状況でも常に俺たちの味方をしてくれている。何も言わなければ部活だって休むだろうと分かる。

・・・だから、こいつと未来だけは、救ってやりたい。そう思った。

---例え、その末に()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

「いら・・・なんだ、アルトくんと響ちゃんか」

 

「・・・」

 

「こんばんはッ」

 

家に直接帰らず、寄り道をした。響の祖母や母親に頼まれたからには、早く帰れない。だが・・・響の家族が響を気遣ってるのは分かる。でも、父親が酒に溺れてるとも聞いた。このままじゃ『嫌な予感』がする。・・・俺には何が出来るのだろうか。

 

「おーい?」

 

「アルトくん。どうしたの?」

 

そんなことを考えていると、呼ばれていることに気づいた。

 

「なんでもない」

 

「そっか・・・」

 

「まあ、なんだ。無理はするなよ?」

 

「ああ。分かってる」

 

とりあえず話すことでもないだろう。

それにしても---

 

「あんたは気にしないんだな」

 

「ん?」

 

目の前でコーヒーを淹れているマスターの姿を見ながら、ふと声に出していた。

引き返せない。

 

「・・・俺とこいつ、響のこと知ってるだろ。あんたにも被害が行くかもしれない」

 

あのライブ会場での生き残り、知っている者は多い。だから帰り道に石を投げられたりすることもあるし、殴られることも多い。・・・響の前だとやられる前に『予測』して逃げているが。

 

「あぁ〜確かに記事とかで見たなぁ」

 

「なら何故・・・」

 

思い出すかのように首を捻っていたマスターを見つめる。その間にも不安なのか響が手を握ってきたが、気にしない。

 

「はぁ・・・本当に今更だな。バカかよ?」

 

「バカは俺の隣に居るやつだ」

 

「え、ひどい!?」

 

思わぬ流れ弾にか嘆くような様子を横から感じるが、一瞬だけ視線を移せば、響の表情は不安そうな表情から、いつも通りへと戻っていた。

マスターへと視線を向ければ、狙ってやったのだろうと分かる。実際、コイツには暗い顔よりも、今の方が似合ってると、思う。

 

「まあ、それで、だ。話を戻すが俺は別に世間の話とか信じてないし気にしてないさ。だって、アルトくんは分かりにくいが、響ちゃんには人殺しなんて不可能だろ? 分かりやすいし。むしろ響ちゃんを見て人を殺せるって思う方が不思議だと思うなぁ」

 

「同感」

 

「え、えぇ・・・? 褒められてるの・・・?」

 

困惑したような表情を浮かべてるのが見える。

少なくとも、貶してはないと思う。

 

「はは。それにな、お前たち二人・・・未来ちゃんも入れて三人だ。お前たち三人はな、俺にとってはただの客ではないんだ。じゃなきゃ、こんな風に接しないしどっちかというと守る方だからな。それとさ・・・なんというか、好きなんだよ。お前たちと話すのはな」

 

そう言うマスターは、遠い目をしながら、何かを思い出しているのか思い馳せていた。まるで、眩いものでも見るように目を細めて。

 

「あと、お前たちは俺の知ってるやつに少し似てるからこそ、そんなことはしないって確信出来るのかもな。あの場でも人を助けてそうだし」

 

「・・・そうか」

 

「惣一おじさん・・・」

 

どうやらお人好しはここにも居たらしい。関係を切れば、何も問題ないはずなのに。

 

「まぁ、アルトくんは俺のコーヒーを唯一毎回飲んでくれるからな。親しいってのもあるが、そんなやつを手放すのは惜しいってもんだ。それに? 俺からすればお前たち三人の話や行動は ()()()から飽きないしねぇ?」

 

「まだ、俺以外に居ないのか・・・?」

 

「あはは・・・」

 

美味いと思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

流石に時間が過ぎると帰らなければならないため、悟られないように警戒しながら無言で帰り道を歩く。

 

「・・・みんな、別人のように見えたけど惣一おじさんは変わらなかったね」

 

「ああ」

 

思い返すのは先ほど話していた時。俺はマスターと話していた時に、何故かシャイニングホッパープログライズキーを()()()()()()()()()。それはきっと、底知れない()()()』を感じたから。悪意でもなく、敵意でも、負の感情でもない。今までは感じなかったのに、突然()()()を感じた。・・・シャイニングアサルトの使用は、控えるべきなのかもしれない。

でももし、俺の予想が正しいのであれば・・・きっと、マスターは、人間では---

 

「今日、アルトくんと一緒に寝てもいい?」

 

「ああ」

 

「やった」

 

・・・思わず返事したが、どうやら響も未来も来ることは確定してるらしい。

でも、仕方がない。責任は果たす。二人がこうなってるのは、俺が原因だ。未来はきっと、俺と響が一度死にかけたから、不安なのかもしれない。響は俺が目の前で死にかけ、今も虐めが行われていることが原因・・・だと思う。正直、未来はともかく、響の今の状態は危険だ。いつも通り『へいき、へっちゃら』と言っていても『(マイナス)の感情』は、俺には・・・分かる。

そういった面では、感謝するべき、なのだろうか・・・頭が痛くなるのは、勘弁して欲しいが。

 

「・・・早く帰るか」

 

「うんっ」

 

腕を絡められるが、歩いていく。

腕、痛いが、好きにさせるしか、ない。感情のない俺には『つらい』というのは分からない・・・だから、少しでも俺が何かを出来るなら、なんでもやろう、と思ってる。何をしてやれば良いのか、分からない俺にとって『コイツら』が喜ぶなら、少しでも『つらさ』を減らせるなら、それはするべき、なのだろう---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

シャイニング!アサルトホッパー!

 

自然発生したと思われるノイズ。その目の前に現れたゼロワンは大型の斧を空中から落下の勢いを活かして斬り付け、大型ノイズを炭化させた。

小型のノイズは槍と剣を携える二人が殲滅し終えたらしく、炭素の塊を見つめているゼロワンに近づく。

 

「相変わらず、来てくれるんだな」

 

「・・・・・」

 

槍を持った女性が背中を向けているゼロワンに話しかけた。しかし、ゼロワンは無言を突き通している。

 

「あんたのことはまだよく分かってないけどさ、アタシは味方だと思ってる。ありがとう、お陰で翼と一緒に居られるからさ」

 

「・・・・・・」

 

「まだ『ツヴァイウィング』は休止中だけど・・・もし、再開するようになったらあんたも見てくれよ」

 

「・・・・・・」

 

話が終わったと理解したのか、ゼロワンは脚に力を入れ、跳躍して姿を消していく。

そんな後ろ姿を剣を持つ女性---風鳴翼が不満そうな顔で見つめていた。

 

「どうしたんだよ、翼?」

 

「奏・・・私はやっぱり、あの人を信じられない。何が目的なのか、何故ノイズを倒せるのか・・・それが分からないと不安で仕方がないから」

 

翼は奏に自身の胸の内を打ち明けた。

奏と呼ばれたのは、槍を持った女性---天羽奏だ。『本来』は()()()()()()()()である。

 

「アタシは何だか、勘かな・・・? 大丈夫だと思ってるけど、確かに翼の不安も分かるよ」

 

「じゃあ、なんで・・・」

 

「でもさ、今までの行動からして信じてみたくならないか? 少なくとも、ゼロワンにアタシが助けられたのには変わらないし、ね」

 

「・・・まぁ、奏がそう言うなら」

 

むすっ、とした態度を取りつつ、渋々と翼は納得する。そんな翼に奏は苦笑いしていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づかない。()()は、誰も気づくことはないだろう。()()は変身者である彼でも、気づくことはないだろう。

跳躍して戻っているゼロワンの瞳が、いつもよりも赤く発光し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

なによりも、その瞳の中には『()()()()()』が浮かび上がっていることには---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇アルト/百合の間に挟まったら依存された男
結構ボロボロ。
正確には『負の感情』を探知して向かったらそこにノイズが居るだけ。
ちなみに、今更だけどアルトくんの性格などは『火野映司』と『贋作者(衛宮士郎)』などの自己犠牲キャラ、そして無感情キャラをバーン!としてグリグリ、ドッガーン!ドゴーン!(つまり混ぜた)して完成したため、自己犠牲のやべーやつになってる。
マスターの『ナニカ』に気づいたらしいが・・・?

〇立花響
父親は『まだ』蒸発してないけど『同族』のアルトに依存。辛いけど耐えれてるのはそれのお陰。アルトが暴力振られてるのには気づいてるけど心配しつつもわざわざ話題には出さない。

〇小日向未来
実はさらっと毎回アルトの家に居る。二人に対して何も出来ないのが辛いらしい。アルトが暴力振られてることは知ってるけど、何もするなと言われた。自分のことを思ってのことと気づいてるため、手当てしか出来ない。

〇エボルト
ぶっちゃけ現状だとコイツが人類殺しても文句言われないんじゃなかろうか


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一人の少年が居た。その少年は間違いなく『仮面ライダーの素質』を備えた者だった。
だが、彼には戦う理由も目的も分からなかった。守るべきでモノさえ、何なのか分かってなかった。いや、正確には気づかなかったのだろう。
もし彼が()()()()()()()()()に気づくことが早ければ、ナニカが変わっていたかもしれない。
だが、気づくことがなかったのは仕方がないとも言える。何故なら彼には感情がないのだから。
果たして、何故感情がないのか?それすら少年は知らない。
皮肉なことに、少年はそのお陰で『自分を犠牲にする』という選択肢を入れることが出来た。なぜなら傷つかないから。傷つくという感情がないから。傷ついてたとしても、気づかないから。
だからこそ、少年は()()()を選んだ。
もし、少年が()()()()()()()ためという、戦う理由や価値を見出すことが出来たならば、また運命が変わっていた可能性はあるだろう。
果たして、少年が選んだ道は間違っていたのか?正解だったのだろうか?
()()()()未来(みらい)に一体どういう影響を及ぼすのか、それは誰も知ることは無い・・・。それでも時は、非情なことに進んでゆく---







 

 

 

 

 

 

もしあの時、彼を止めることが出来たなら・・・私は大好きな人を()()ことはなかったのだろうか。

少なくとも、未来(みらい)は変わってた・・・私はそう思う。

何故なら私の大切な幼馴染である彼は、一人で戦っていた。自分自身の身を犠牲にして、どれだけボロボロになっても、私たちと変わらないのに、全ての悪意を小さな体一つで受け止めて。それは私たちに被害が来ないようにするために。

彼にも『心』はあるのに、私は何もしてあげられることは出来なかった。

もしあの時、私が気づいてあげられたなら---ずっと、傍に居られたなら・・・彼は全てを抱えて、『あんなこと』になるなんて、なかったのかもしれない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「アルくん、響」

 

「・・・?」

 

「どうしたの?」

 

雲に覆われ、星空ひとつ見えない夜空を見上げながら、一人の黒髪の少女---未来がアルトと響の名前を突如として呼んだ。

 

「あ、えっと・・・」

 

「なんだ」

 

言葉を詰まらせた未来にアルトが聞く。

そんな彼の体には、頭と両腕に包帯を巻かれ、顔には所々に絆創膏など貼られている痛々しい姿だ。何故そうなっているのか? それは『ライブ会場での生き残り』。それだけで理由が十分に分かるだろう。

 

「・・・うん。それなんだけどね、アルくんと響に聞きたいことがあるんだ」

 

「聞きたいことって?」

 

響が未来に聞いていた。彼女も同じく『生存者』なのだが、傷一つ付いていない。ただし、彼女が持つ鞄にはカッターかなにかで切られたような跡など残っているのだが。

 

「二人には夢ってあるのかなって」

 

「夢?」

 

「・・・」

 

きょとんとする響と、何処か悩むような雰囲気を醸し出すアルト。そんな二人に未来はくす、と笑う。

 

「うん、夢。聞いたことなかったなーって思ってね」

 

「うーん、夢かぁ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「もし、ないなら何か目標とかやりたいこと・・・願い事でもいいかな?」

 

中々思いつかない二人を見てか、未来が二人にそう言う。

 

「あ、それなら」

 

すると、響が声を上げた。アルトは未だに無言だが。

 

「何かあるの?」

 

「うん。願い・・・になるのかな。このまま私と未来とアルトくん。三人でこれからもずっと居られたらなぁって」

 

夜空を見上げたまま響がそう答えた。見れば、雲だけで覆われていた夜空が僅かに晴れたようにも見える。

 

「なんだか、響らしい願いだね」

 

「そうかな?」

 

「うん、私はそう思うよ」

 

夜空から未来に視線を移した響は首を傾げると、未来は何処か安心したように微笑む。

 

「・・・・・」

 

そんな二人の姿を見ていたアルトは、視線を暗闇へと移す。そこには何もない。外が暗いのもあって真っ暗だ。あるのは、()()()()()()()()()()()()()()

 

「アルくんはある?」

 

「・・・未来の方こそ、どうなんだ」

 

聞かれたからか、アルトは視線を未来に移し替える。

 

「私?」

 

「ああ」

 

「そういえば、未来も何かあるの? 聞いてきたのは未来だし・・・」

 

最初にこの話になった理由を思い出していたのか、僅かに視線を上に向けていた響が未来に聞いていた。

 

「・・・うん。あるよ、たくさんある」

 

そのことに未来は悩んだ末、そう答えた。

 

「欲張り・・・?」

 

「そ、そんなことないよ!?」

 

きょとんと首を傾げて呟いたアルトの声に、未来は僅かに頬を赤めながら即座に反論する。

 

「そうか」

 

誤解されなかったことにか、未来がほっと息を吐いた。

 

「えっと、それで未来はどういうのなの?」

 

「あ、うん。私はこの三人でいつか流れ星を見たいなぁって思ってるんだ。今はそれが一番の夢かな」

 

「流れ星・・・確かにいいかも?」

 

「でしょ?」

 

響から共感を得られてか嬉しそうに未来が笑う。

 

「アルトくんは?」

 

すると、未だに何も答えてないアルトに響が聞いていた。

 

「ないな」

 

「えぇ!?」

 

「アルくんもいつも通りだね・・・」

 

悩んだ末に出した答えにか、響が驚いたような声を出し、未来は苦笑いしていた。

 

「ど、どうしてもないの?」

 

「ああ。やりたいこと、願い、目標。なにもない」

 

「むむ・・・確かにアルトくんって昔から何かを欲したりとかそういう目的、決めたことなかったもんね・・・」

 

「・・・」

 

うーと何故か響が唸り、その姿を見たアルトが首を傾げていた。恐らく、何故か響が考えているからだろう。

 

「んーじゃあ、こういうのは?」

 

口元に指を持って行って考えるような仕草をしていた未来が、提案と言った感じで話し出す。

 

「・・・?」

 

「アルくんの目標は夢を考えるってことにするの」

 

「夢・・・」

 

「なるほど・・・流石未来! うん、アルトくんには難しい目標になりそうだけど・・・ピッタリかも」

 

アルトが反芻するように呟き、響がうんうん、と名案と言うように頷いていた。

 

「ふふ、ありがとう。アルくん、もしそれが決まったら・・・いつかは教えてね?」

 

「・・・そうだな、考えておく」

 

「うん、約束だよ」

 

未来が満足気に頷き、他愛もない話へと戻っていく。そこには確かに笑顔がある。雲に覆われていた夜空は僅かに、少しずつ晴れ、彼らを照らすかのように月が少し覗いていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな日々でさえ長く続かない。彼らにまた、新たな事件が起こる。それはまるで、運命が彼らを逃がさないようにしてるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

いつもと変わらず、暴力を受け、糾弾され、響を迎えに行き、未来とたまに帰ったり、未だに人助けをする響を手伝ったり朝早くに起きて響の家に貼られている紙を丁寧に剥がしたり、響の家の窓に目掛けて投げてくる石などを受けたり、弾いたりなどしていた。

俺の家にも紙は貼られるし、窓は割られているが、どうでもいい。

そんな日々を、ただただ続けていた時だった。

ある日、響の父親が失踪した。家族が居ない俺はともかく、響には家族が居た。そこまで迫害が向かうのは、想定するべき、だった。

・・・自分のことを考える。そんな()()()()()()()()()()など捨て、予想するべきだった。俺はまた、間違えてしまったらしい。取り返しのつかないことを、してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響の父親が失踪してからどれくらい経ったのか・・・今は分からない。それでも、迫害は酷くなっていた。

今日もなんとか骨にヒビが入らずに済んだ足を引き摺りながら、響を探すために学校の廊下を歩く。

 

・・・俺がアイツを探す理由としては、大人は信頼できない。ヤツラはむしろ、攻撃する側だ。だから無理してでも、俺しかアイツを守れない。響の両親にも、頼まれた。父親はもう失踪したが。

唯一大人で信頼できるマスターは、学校には来られない。未来はあまり危険な目に合ってしまうと、引っ越しの可能性すらあり得る。・・・そうなったら、響が持たなくなる。それは、避けなければならない。

 

「・・・負の、感情?・・・悲しみ、か?」

 

ふと感じた感情によって、より酷くなってきた頭痛を抑えようとし・・・両腕が上がらないため、諦めた。『殺意』などの『悪意』でないなら、そこまで痛くない。

場所は―――何処かの教室。

 

 

「ここ」

 

しばらく転けたり階段から落ちたりしたものの、どの教室か確認のために上を向く。見れば自身のクラスらしい。

ナニが待っているか分からないため、少しだけ扉を開けて覗き込む。

そこには―――

 

「へいき、へっちゃら・・・」

 

必死に泣かぬまいと、口癖になっている言葉を呟きながら片付けている響の姿があった。

その瞬間、俺は迷わず教室を開けていた。

 

「ッ!?」

 

ビクッ、と響が驚いて振り向いてきた。俺だと確認できたからか、ほっとした様子で後ろを向いて目を拭くような動作が見えた。

 

「・・・」

 

その姿を見ながら無言で教室を突き進み、響の近くに寄る。そして―――

 

「ご、ごめん・・・待たせちゃったよね、すぐおわらせ―――」

 

()()()()()

 

「え・・・?」

 

響が困惑したような、当惑したような様子を見せる。まるで、どうしたらいいのか分からないような。

俺もよく、分かってない。ただコイツが寝てる俺に対していつもやっていて、安心した様子を見せるから。それだけだ。

 

「あ、アルトくん? どうしたの・・・?」

 

「・・・」

 

()()()()()()()()()()()上げ、響の頭を撫でる。むかし、未来に言われた記憶がある。安心できると。

 

「ね、ねぇ・・・お願い、だから・・・離して」

 

僅かに抵抗されるが、痛みごと無視する。コイツは()()に染まらすわけには、行かない。太陽は、輝くからこそ、意味がある。こういう時だけ、今は感謝する。頭痛がうざいが。

 

「き、聞いてる・・・?」

 

「ああ」

 

撫でる。動かすたびに痛いが、撫でる。抵抗されても、離さないように抱きしめる。

もし、俺に感情があれば・・・別のことが出来たかもしれない。言葉で安心させられるかも、しれない。でもそれは・・・俺には不可能だ。これで嫌われようが、拒絶されようが、()()()()と続けるつもりだ。

 

「じゃ、じゃあ・・・」

 

「断る」

 

「ッ!?」

 

断らなければ、ならない。俺に出来ること。今出来ることは一つ・・・。

 

「ど、どうして・・・」

 

「吐き出せ、我慢するな。抑え込むな」

 

コイツに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・」

 

「俺を頼れ。同じ境遇の俺なら、頼りやすいだろ。その感情は、俺が()()()()()()()

 

「ッ・・・で、でも・・・」

 

「俺は、希望なんじゃないのか。お前らの、希望なんだろ。だったら、頼れ。そのつらさも、悲しみも、恐怖も、苦しみも、全て吐き出せ」

 

コイツがこうなってるのは、そう我慢するからだ。母や祖母に迷惑をかけられない。頼れる父親は居なくなった。周りがほとんどが敵。未来たちにも心配かけられない。だから痩せ我慢する。

もう、誰も受け止められない・・・()()()()()()()()()。元々の性格も相俟って、そうなんだろう。

 

「・・・ずるい」

 

抵抗が完全になくなった気がした。だけど、続ける。

 

「ああ」

 

「・・・ちょっと、胸借りても・・・いい?」

 

「好きにしろ」

 

「・・・うん」

 

背中に手を回される感触を感じ―――俺は次第に泣き声を漏らして叫ぶ響をひたすら抱きしめ、撫で続けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめん・・・ありがとう」

 

「別に」

 

顔を真っ赤にしている響を見つめながら、コイツから負の感情が少し消えてることを感知した。

 

「そ、そう・・・?」

 

「ああ。つらかったんだろ、苦しかったんだろ。・・・だけどこれからも苦しいこと、つらいことは続く。だから、もう少しだけ我慢しろ」

 

「えっ・・・?」

 

「響。俺がお前の、お前らの()()()()()になってやる」

 

だから、終わらせよう。この惨劇を。彼女たちが苦しいであろう、毎日を。・・・その前に()()()()()()がある、か。

 

「アルトくん・・・?」

 

「帰るぞ」

 

「あっ・・・うん」

 

それだけを言い、パッパッと片付けて荷物を持ち、廊下を出ていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・先行ってくれ」

 

「どうかしたの?」

 

「忘れ物」

 

もう少しで学校を出るはずだったが、俺は響にそう言った。

 

「じゃあ、待っておくね」

 

「それは、任せる」

 

()()を装いながら、来た道を戻り―――曲がった瞬間には()()()

時間が時間なお陰か、人は少ない。お陰で見られずに済んだが、立ち上がって目的のために歩く。何度も転んでも、立ち上がって歩いていく。

 

歩いているのに転ぶまでなったのは、無理をし続けた結果。当たり前だ。感情がなくとも俺は人間。肉体をボロボロにされ続け、『変身』し続ければ、限界は・・・訪れる。

・・・最近となっては、『力の前借り』がなければノイズ相手にさえ、きつい。

でも、止まれない。アレをするためには、止まれない。

・・・()()くらいは、アイツらのために・・・。答えは、見つけられそうにない。それでもアイツらの希望として、役目は・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「そこに、居たか」

 

「あれ、アルくん? 響は・・・?」

 

「未来、お前に頼みがある―――」

 

そうだ、俺が()()()()()前に響のことを、任せなければならない―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響や未来を家に帰し、俺は一人傘を差さずに大雨の中、店が閉まっていく時間帯に歩いていた。

正確には()()()()()()が正解だが。力の前借りによる、代償だ。学校でボロボロにされてるのにノイズとの戦闘を少しも休まなかった、せいだろう。どうせ死ぬ可能性が高い賭けをするつもりだから、構わない。

 

そして帰る前に会った未来に頼んだこと、それは簡単なこと。響を支えてやってくれ、と。首を傾げていたがそれでいい。アイツは俺の嘘などは簡単に気付く。だから()()()()()()()()()した。

それに正直響に弱音を吐かせたが、それは時間稼ぎに過ぎない。このままでは響の心に大きなダメージを残す。

だから、最後の()だ。それが必要になる。切り札、そうともいえる。これからどうなるか分からない。彼女たちを守る()()()が必要になる。考えてる策をすれば、俺は傍に居られないから。

 

「着いた」

 

『nascita』と書かれている店に入っていく。店は開いていない。

 

「いらっしゃい。だけど今日はもう―――」

 

「マスター」

 

片づけをしている姿を見ながら、いつものように呼ぶ。

 

「ん? ってアルトくん? どうしたの、そんなびしょ濡れになっちゃって!」

 

「雨が降ってた」

 

「そうか・・・ってそうじゃないからな!? ほら、早くこっちに来い!」

 

慌ててタオルを持ってきたマスターに髪を拭かれる。ボロボロなせいで、それも痛い。

 

「ほら、ついでに風呂も入って入って。風邪引いちゃうぞ」

 

「・・・すまない」

 

連れて行かれたため、素直に風呂に入らせて貰う。・・・やっぱり、全身が痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうしたんだよ? こんな時間に」

 

「・・・」

 

()()になるであろうマスターのコーヒーを飲みながら、マスターを見つめた。

 

「うわ、まじぃ・・・今日も失敗かぁ・・・いや、アルトくんが飲んでるし成功か? いや、ダメだ・・・わかんなくなってきた」

 

「心配しなくとも、いつもと変わらない」

 

「そうか?」

 

「間違いなく、な」

 

相変わらず変なマスターだ、とは思う。・・・だからこそ、信頼出来るが。

 

「本当にびっくりしたんだぞ。突然濡れてきたんだから」

 

「悪い。・・・けど、あんたに頼みたいことがあったんだ」

 

俺は『希望』で居られない。最後まで、希望として居ることは出来なかった。だから最期くらいは、果たしてみせる。

だから---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルトくん・・・後悔しないんだな?」

 

「ああ」

 

店を出る前、マスターに聞かれた。俺が()()()()()ことと、■■■■■ことを伝えたから、だろう。

 

「何故なら」

 

「ん?」

 

「あんたになら、任せられる。例えあんたが()()でも、俺が知るあんたは、信頼出来る。過去に何があったのかは知らない。だが、今のマスターなら・・・違うはずだ」

 

「・・・・・」

 

「だから、マスターの場所も、アイツらの居場所も、俺が全て守る。()()()()()

 

そう言って、俺は店を出る。

ほとんど、準備は終わった。・・・あとは少し、体を休めるだけだ。ノイズ相手はあの人たちに任せれば、いいだろう。吐血しながらは死ぬ。流石に俺も、死ぬつもりは・・・『まだ』ない。何も出来ずに死ぬのは・・・いやだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日が経った。やはりと言うべきか、迫害は止まらない。響の家に行った時、もう母親も祖母もかなり憔悴しきった様子だった。それでも俺に心配をかけまいか、比較的明るく振舞っていた。

響もそうだ。何故か前よりくっつかれるが、限界は近いだろう。

だから、終わらせよう。全てを。この事件を、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

目の前にある、ゼロワンドライバーではなく、真ん中に赤い目のようなものがある黒いドライバーを見つめる。

それを見ながら、ゼロワンドライバーを腰に巻いて目を閉じた。

 

「ゼア」

 

目を開けると、別の世界に居た。ゼアの中だ。

ゼアの名を呼ぶと、『答えは、見つかった?』と聞かれる。

 

「見つかってない。けど、あんたに礼を言いに来た。ありがとう、俺に力を与えてくれて」

 

『今更何故?』と聞かれる。

本当にそうだろう。でも、ゼアと話すのは嫌いではなかった。

 

「何故、だろうな。けど・・・」

 

目を閉じると、すぐに思い出す。響の笑顔やバカみたいな行動、未来の世話焼きなところや心配するところ、マスターのおどける姿や、コーヒーを淹れる姿。本当に、色々なモノを。

そして貰った。()()()()()()()()()()()()のに、すぐに思い出せるほど、()()()()()()()()()

 

「俺にも、大切・・・なモノはあったらしい。あんたが居なければ、気づけなかった」

 

力があった。戦うための、守るための力を貰えた。だから色々な人を、守りたいと思ったのだろう。俺は『他の仮面ライダー』みたいに、誰かを救うこと出来なかったし、答えは見つからなかった。でも気づけた。こんな俺でも、そう思えたということを。

『今なら、引き返せる。犠牲にならなくとも・・・』と言われた。やはり、大体は気づいてるのだろう。

 

「それは出来ない。・・・俺は、償わなければならない。仮面ライダーとして救えないものが、多すぎた。きっと俺の知らないところで・・・今も暴力を受けたり、虐められているはず。もう心も、体も、ボロボロになっている生存者が多いはず。人生を、狂わされた人も」

 

ゼアからは、何も返ってこない。

 

「俺が今しても遅すぎた。でも戻れる人は、居るはずだ。救われる人も、居ると・・・思いたい。その方法は生存者は悪くない、と証明すればいい」

 

『それは、どうやってするつもり?』と聞かれた。

 

「・・・時に、人間が争いあい、止まらない戦争があったとする。その時、人類はどうやって戦争を止めると思う?」

 

『・・・誰かが止めるか、終わらせる?』と返ってくる。

だが、それは半分が正解。

 

「簡単なこと。バッシングをする者たち、生存者。両方が協力するように()()()()を作ること。人類は、そうやって仲良くなったり、分かり合えなかった者とも、分かり合えるようになる。俺が暴力でやられてたように、な」

 

『それはつまり・・・』と言っているため、完全に気づいたらしい。なら、話は終わりだ。

 

「・・・ゼア。お前と話す日は、悪くなかった。少しの間だけど、仮面ライダーとしても戦えた。感謝する」

 

何も返ってこない。

 

「じゃあ・・・」

 

意識を戻そうとした時。

『・・・待って欲しい』と言われる。

だから、待った。

 

すると、『人工知能である私と話してくれて、人間のように接してくれた。アルトはもう、友達』と言われた。

 

「・・・ああ。そう、だな。あんたも・・・友達だ」

 

だから、そう返す。

友達だと認めてくれるなら、俺は肯定するだけだ。

そして『いつか、また』と言われる。

まるで、最初のようだ。そう思った。

 

「もし、生きてたら・・・俺は拒まない。あんたが望むなら、好きにすれば、いい」

 

だから、俺も同じようにそう返した。

そして意識が戻る---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界を、変える」

 

意識が現実世界に戻ると、ゼロワンドライバーを外して黒いドライバーを掴み取った。

まるでいつでも行ける、と言うように赤い目のようなモノが発光している。

 

「ッ・・・!? ごぉ・・!? げほっ! がほっ・・・!」

 

腰に巻こうとした瞬間、()()した。大量の血塊が地面に落ち、体の力が入らなくなって、倒れる。

 

それでも、後戻りはしない。・・・もし()()()()がバレたら、怒られるだろうか。何故、ここまで無理をしたのかと、自分を大切にしろと、数に入れて、と泣いて怒られるだろう。それは・・・好きじゃない。でも、しなくちゃならない。

 

「響、未来、マスター・・・」

 

こんな俺でも、傍に居続けてくれた。大切だと言ってくれた。相手をしてくれた。心配してくれた。迷惑をかけてしまった。

---やっと、気づいたんだ。俺にとって、()()()()()()()()()であることに。もしこのまま居られたなら---答えを、見つけられたかも、しれない。

 

「ありがとう・・・また、な」

 

---可能なら、()()。だけどこの事件を、惨劇を終わらせる。これしか、俺にはすることが出来ない・・・。俺はもうこっちの道を選んでしまったから。それでも後悔するつもりは、ない。

あぁ---でも、夢を考えて、教えるって約束。果たせない・・・か。

そんな俺でも・・・最期には、彼女たちの希望に・・・なれただろうか---

 

そんなことを考えながら、最後に()()()()()の顔を思い浮かべ、吐血しながら立ち上がった俺は、『アークドライバーゼロ』を腰に巻き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

アークドライバー・・・

 

「・・・・・」

 

アルトはベルトを巻き付け、アルトの()()()()()()()()。しかし、()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・・・・」

 

だが、そんなカレの足元には黒い沼が広がっていた。真っ黒な、闇のようなものだ。

 

「・・・変身」

 

顔を上げたアルトの瞳は、赤色になったり黒色になったりと点滅を繰り返し---最終的には、黒目に戻っていた。

そんなカレはバックル上部のボタンを押す。その瞬間、赤い目玉のような部分が一瞬だけ強く発光する。

 

アークライズ・・・

 

棘のような黒色のモノと赤いオーラがアルトの前方に現れ、棘のようなモノが次第に黒い沼になって人型のナニカを作る。

周囲は血のような、雨のように悪意の文字が飛び散り、直ちに全てが重なった。

 

オール・ゼロ・・・

 

現れたのは、全体的なフォルムはゼロワンに近く、黒一色のボディ、片方しかないアンテナ、左目が剥がされたかのようなマスク。ベルトであるアークドライバーの中枢部に似た形状の、禍々しく輝く赤い瞳を持っている。

左半身は胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸び、配線や内部パーツが剥き出しになっているなど、ライダモデルを無理やり剥がされたかのような痛々しい外見の『仮面ライダー』だ。

()()()は、何も動かず、何も喋らず、何もせず、ただただ不気味に立ち、赤い瞳を輝かせた。

そう、()()()()だ。それだけなのにも関わらず、今日この日、この時間。間違いなく()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---少年には、幼馴染が居た。

 

その幼馴染はとても大切な、二人の少女だった---

 

その少女は、陽だまり。とても暖かく、居場所であって帰る場所。

 

その少女は、太陽。陽だまりを照らし、光り輝く太陽。

 

少年は、希望。陽だまりを守り、太陽の輝きを守る希望。

 

だからこそ、希望として彼女たちを守るために、少年は力を行使した。

だけど、その少年は『希望』として居続けることが出来なかった。何故なら、少年には()()()()()()()()()()()()()()()()だと、分かっていたから。

 

だからこそ少年は、自らを犠牲にし、希望から絶望となった。

 

そう、少年は()()()()()を救うには、善意(ゼロワン)では救えないと理解した。ならば、ソレとは正反対の性質を持つ力ならば?

偶像(ヒーロー)は『正義の味方』であるべき存在。間違いなく、『仮面ライダーゼロワン』は正義だった。

だから、正義(ヒーロー)ではない、悪魔に魂を売ったのだ。

その相手は、()()。『仮面ライダーアークゼロ』と呼ばれる。まさに、()()()()()()()()大いなる悪意(アーク)になることによって---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ・・・。なぁんだ、()()に居たんだ。ずっと()()()だったせいで気づけなかったんだから、仕方がないよね?」

 

ある所に、一人の少女が居た。その少女は()()()()()()()()()()()()()をするかのように申し訳なさげに呟いていた。

 

「あーあ、それにしても可哀想・・・()()は何もしてないのに。『あの場』で()()をも超える人類の()()()()()()()を、()()()()()()()()()()()だけなのに。誰にも理解されないなんて・・・。だけど、お陰でやっと感じれた」

 

その少女は、申し訳なさそうにしていたさっきとは一転し、雰囲気も表情も打って変わっていた。

そんな彼女は何処か嬉しさと喜びに満ちている表情をしている。僅かに、頬を赤めながら。

 

「きっと()()()()のことは誰も理解出来ない。誰も理解しようとしない。だけど大丈夫。貴方は一人になることなんてないわ・・・そのために、私が貴方のことをずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、探してたんだもの。あぁ、本当に、やっと見つけたよ---」

 

少女が()()が居るであろう場所を見つめ、歓喜に包まれるかのように両手で胸を抑えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のアークさま♡」

 

その少女は、興奮を抑えられないかのように顔を紅潮させ、嬉しそうに、狂気的に、それでいて妖艶に笑っていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな悪意(アーク)が生まれしとき、カレらは引き合う。果たして、それが成される意味とは何か? 新たな未来(みらい)が創造されるのか、それとも破滅の未来(みらい)なのか。または別の---?

少なくとも、止まらない。運命の歯車が狂い始め、()()がこの世界に誕生した。

そう、間違いなく、誕生してしまった。それは人類が行った()()()()()。同じ星で生まれたのにも関わらず、やり場のない怒りなどを()()()()()()をぶつけたのが、原因。誰も悪くないのに、誰かを責め、誰かを傷つけ、誰かの命を奪った愚かな人類の選択。()()()()()()()

希望が絶望に染まりし時、新たな物語が紡がれる---彼らの待つ未来(みらい)は希望か、それとも絶望か、それは誰にも分からないだろう---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪意(アーク)への覚醒

 

第十三話 「オレが絶望で仮面ライダー」

 

 

 
































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エピローグ



一人の少年がいました。その少年は()()でした。善意と希望(仮面ライダー)の力を身に宿し、人々を守る力がありました。
なので少年は理由もなく、戦う目的もなく、ただただ力があるから、と人々を守っていました。
しかし、人々はそんな彼を責め続けました。やり場のない怒りを()()とも見える彼に、ぶつけることで少しでも収めたかったのでしょう。ですが、少年はそんな人々を責めません。むしろ、逆でした。何故守れる力があるのに守れないのだと、救えなかった人たちに償わないと、と自分を責め続けました。
だが、そんな彼は力に悩んで自分を責めながらも()()()()を支え続け、守っていました。しかし、彼には時間がありませんでした。だから少年は最後に、自分が現状用いることが出来る全てを行いました。今も、傷つく人々を、()()()()から守るために。ただし、そこに()()は居ません---さて、人知れず人々を守り、最後に傷つく人を守ってみせた少年はどうなったのでしょうか? そして、そんな彼を()()()()()と思っていた()()()()はどうなるのでしょうか---





 

 

 

 

 

静かだ。いつもなら騒がしく、寝起きでさえも安心出来ない日々だったのに今日は珍しく静かだと思った。

ううん、違う。静かではないけど家の前に来るマスコミとかが()()()居ないんだ。私の家では無くて、何処か別のところから騒がしい声はうっすらと聞こえてくる。

サイレンの音も聞こえるし、何かがあったのかもしれない。けど、久しぶりに平和そうな様子に私は安心した。

サイレンの音は気になるけど、ただの中学生である私ではいくら趣味を人助けにしてたとしても出来ないことはある。だから気にしない方が良いのかも。

・・・でも、何故か嫌な予感がする。なんだが怖い感じがして、こういう時いつもアルトくんが居てくれたから安心出来たけど、今日・・・というか昨日は用事があるから家には泊めれないと言われたから彼は傍に居ない。

私が今も()()()()()()居られるのは、彼が傍に居てくれるからなのに。

・・・そう思うと、胸が痛い。彼が居なくなるだけで、胸にぽっかりと穴が空いたような感覚に陥る。

他にも彼が誰かと話してるだけで、無性にこう、胸がモヤモヤする。未来と話してる彼の姿を見ても問題ないのに、他の女の人だと苦しくなって、いつもすぐに終わらせて彼と一緒に離れる。

それに、抱きしめられた時とかもそうだ。あの時、心臓がいつも以上に高鳴ってよく分からない感覚に陥った。でも、彼の温もりや匂いを感じると安心出来て、同時にもっと感じたくなったり・・・心が磨り減った時とか、彼が傍に居ると元に戻る。

無理をしてる彼の姿を見るのは苦しいけど・・・逆に離れたくないって感情が日に日に強まってる。

---いや、そうじゃないよね。本当は怖いんだ。彼が消えてしまいそうで、居なくなってしまいそうで、怖くて怖くて・・・私が油断しても彼が居なくならないように、くっついちゃう。

そんなことないはずなのに、彼が私たちを置いていくはずないのに、無理をして何処かに居なくなりそうで・・・。もし、彼が居なくなったら私には耐えれない、と思う。私が今こうして居られるのは、彼のお陰。彼が居るから笑顔で居られる。彼が居るから元気な私で居られる。彼が居るから苦しくとも耐えられる。きっと、あと少しの我慢で治まるはずだから、と自身の心に叱咤出来る。だって、彼は私の希望だから。私が輝けるのは、()()()()()()のお陰。未来が私が安心出来る場所だとしたら、彼は私が私で居るための光。私が笑顔で居られるのは、その光のお陰。

 

「・・・うん、今日も頑張らないと!」

 

また、学校に行ったって辛い目に合うのだろう。でも、大丈夫。私には彼が、アルトくんが居るから。どれだけ辛くとも、耐えられる。

だから今日も元気に彼の元に---

 

「響! 大変・・・!」

 

「え?」

 

突然、お母さんが慌てた様子で部屋に入ってきた。思わず見ると、おばあちゃんは暗い顔をしていた。

もしかして何か---

 

「アルトくんの家が---」

 

「ッ!」

 

「響!?」

 

私はお母さんの声を最後まで聞かず、急いで家を出た。

その胸に、朝から感じている嫌な予感と焦りを抱えながら---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来・・・?」

 

「あっ、響!?」

 

家を出ると、たまたま一緒だったのか同じくして未来が出てきた。

私を見つけると、すぐに駆け寄って来るけれど、未来の表情も慌ててるように見える。

 

「もしかして、未来も?」

 

「うん・・・話を聞かずに思わず出てきちゃったけど、心配で・・・」

 

「私も未来と同じで---って・・・長く話してる暇ないよね、早く行かないと!」

 

いつもの癖で話しそうになるけど、頷きあってから彼の家を目指して走る。僅かに後ろからお母さんの声が聞こえたけど、今は気にしてる暇がなかった。

彼の元に一刻も早く行きたい。これからも一緒に居て、いつか流れ星を見るっていう夢と、アルトくんの夢を聞かせて貰うって約束が---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、これ・・・」

 

私と未来。どっちが声に出したのか、分からない。

ただ理解が追いつかなかった。彼の家の前には、()()()()()と救急車と救急隊、通行止めなどをしている警察官とパトカーと思われる車、そして---()()()()()とそれを鎮火しようとする消防車と消防士だった。

それを見た私は、嫌な予感が当たったと理解するのと同時に地面に座り込む。

 

「ここって・・・」

 

「アルトくんの、お家・・・」

 

分かる。だって、何度も泊まったから。何度も入ったことがあるから。何度も見たことがあるから。

でも、なんで? なんで燃えてるの? 偶然火事になった? それとも付けっぱなしかなにか? ううん、有り得ない。昔は知らないけど、私たちと出会ってから彼は一人で料理なんてしたことなかった。基本的に私たち三人はずっと一緒に居たから知ってる。料理はいつからか、ずっと未来がやってた。未来が作らない日なんてアルトくんは食べないかコンビニで済ませるくらい。

それに、彼は頭が良い。()()()()()の前から彼は先生にも高校には必ず入れるくらい賢い、と言われてたから。そんな彼がそんなミスをするはずがない。

そうだ、そもそも---アルトくんは、何処?

 

「・・・何処?」

 

「響・・・?」

 

抜けた足に力を入れる。未来もショックが大きいはずなのに、自分自身のことより青ざめた状態で心配してくれる。けど、今は返事する余裕がなかった。ただ彼の無事を確かめないと。大丈夫、彼は私の、私と未来()()の希望だもん。居なくならない。居なくなるはずがない。

 

「何処?何処・・・何処何処何処何処何処何処---ッ!」

 

周りを見渡しても見えない。前に出ないと行けないと判断すると、野次馬の群れを押し分けるように通り抜けていく。その時、未来も着いてきてるのが見えた。子供という体格を活かして、前に進むと---

 

 

「・・・居ない?」

 

姿が見えない。救急車に乗せられている方を見ると、アルトくんじゃない。多分、巻き込まれたのか煙を吸ったのが原因だと思う。

 

「響、大丈夫!?」

 

「ぁ・・・未来・・・」

 

すると、未来が疲れた様子でやってきて、心配そうな顔で見つめてきた。

 

「居ない・・・」

 

「えっ?」

 

「居ない居ない居ない居ない・・・ッ! どこにも、どこにも居ないのっ・・・!!」

 

野次馬の人々を見渡しても居ない。彼なら私たちを見かけたら近づいてくるはず。じゃあ、なんで居ない? ここには居ないということ。つまり、外に居ない? じゃあまだ中? 消防士の人が鎮火しようとしてるけど消える気配はない。

 

「行かないと・・・」

 

「ひ、響・・・?」

 

このままじゃ、助からないかも・・・そんなの嫌だ、嫌だ。イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ・・・! 助からない? つまり、失う? 誰を? アルトくんを? 私たちの希望を? なんで? こんなことで? ダメ、イヤだ! 失いたくない! 彼がいるから辛くても耐えられたのに、苦しくとも支えてくれたから耐えられたのに、彼が居るから安心出来るのに、彼が居るから胸が暖かくなるのに! アルトくんが居ない日常なんて、そんなの嫌に決まってる・・・ッ!

 

「行かないと・・・!」

 

「だ、ダメ!」

 

前を見据えて今にも走り出そうとした私を、未来が後ろから抱きしめてきた。

 

「離して、未来・・・!」

 

「嫌ッ! このままじゃ響まで行っちゃう! まだ、まだアルくんが居るって決まったわけじゃないんだよ!?」

 

未来の言う通りだ。でも---

 

「居るかもしれない! 今にも苦しそうにしてるかもしれない・・・!」

 

「そ、それは・・・だけど、行かせれない!」

 

未来もそう思ってるのか、言葉に詰まったけど、それでも離してくれない。

 

「お願い、離して! アルトくんは、動けないかもしれない・・・! だって、アルトくんはボロボロだもん! 私が行かないと・・・行って、助けなきゃ!」

 

私を、ううん私たちに被害が行かないために抵抗してないって、私と未来も気づいてる。もう、かなりボロボロだってことも。前なんて、腕から血が出て紫になってた。頭から血を出して、病院に行ったことだってあった。

だから今度こそ助けないと、次は私が---

 

「響ッ!」

 

「ッ!?」

 

大声で名前を呼ばれ、思わず驚いた。すると、その隙に振り向かせられ、正面から抱きしめられる。

野次馬が騒がしいからか、未来の声はあっさりと騒音の中にかき消された。

 

「お願い・・・落ち着いて」

 

「でも---あっ・・・」

 

血が昇って冷静な判断が出来なかった頭が、未来の今にも泣き出しそうな顔を見て急速に冷えていく。

 

「・・・ごめん」

 

「・・・ううん。響の気持ち、私にもわかるよ」

 

一度冷静になると、この中を突っ込もうと行動するはずもなく、ただただ時間が過ぎていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、私と未来はその日は学校を休んだ。私は時間がいくら経とうが、大好きなご飯でさえ喉を通らず、何も食べることはなかった。

そして次の日になると真っ黒になったアルトくんの家の中を未来と一緒に捜索した。私の家の前には今日も()()()()()()()()()()けど、どうでもよかった。

それよりも家の中を調べようが、出来る限り情報を調べてもアルトくんに関する情報はなにひとつなかった。死体さえ、見つかることはなかったため行方不明となってる。

だけど、アルトくんの家の中には一つだけ焼けずに綺麗だった私物と思われる()()()()()()()を未来が見つけた。それにはボタンがあったため、私物を弄るのを申し訳なく思いつつも手がかりが欲しくて押したら何も反応を示すことはなかった。つまり、彼に関する情報は一つも手に入れることは出来なかったということになる。

ただ、アルトくんの家は両隣に家があるってわけでもなく、空いてるからか被害は出なかった・・・それくらいの情報くらいは手に入ったけど、それも彼に関する情報じゃない。

 

「・・・ねえ、未来」

 

「・・・?」

 

何も得られず、暗い顔をしている未来に話しかける。私に関しては、酷い顔をしてるかもしれない。

 

「アルトくんはね、私の希望だったんだ」

 

「うん・・・知ってる。それは、私もそうだから」

 

「だよね・・・あはは」

 

二人してこんな状態だと、きっとアルトくんにため息を吐かれる。だから無理に笑おうとしたけど、空笑いになった。

 

「・・・私、どうしたらいいのかな。アルトくんが居ない世界なんて、私には・・・」

 

耐えれない。そう思っても、口には出せなかった。私が口に出したら、きっと未来も耐えれなくなっちゃう。

 

「響」

 

「なに・・・?」

 

そんな私を見てか、私の名を呼んだ未来が手を握ってきた。

 

「私ね、アルくんのこと好きだったんだ」

 

「---え?」

 

突然、未来が突拍子もないことを言ってきて驚いた。

 

「その、友達的な意味じゃなくて・・・異性として、恋愛的な意味で、アルくんのことが好きだったの」

 

「ま、待って? 急に---」

 

「うん、分かってる。急にこんなこと言ったって困惑することくらい。でも聞きたいの---響は、どうだった?」

 

私? 私は・・・どう、だったんだろう。突然言われて、頭は混乱してる。

でも、私はアルトくんのことは・・・好き、だったとは思う。でも、友達として? 異性として? 彼は初めて出来た男の子の友達で、未来と一緒で喧嘩をすることなんてなかったくらい仲が良かった。彼と関わったことの無い人は悪く言うけど、彼は実際にはとても優しくて、人を思いやれる子で、頭は良いのに時々常識外れのことをするけれど、勘が鋭くて誰よりも強い、そんな子だった。

無表情なのは確かに分かりにくいけど、心は確かにあって、彼の姿を見ると胸が高鳴るし向こうから手を握られると顔が熱くなったり鼓動が早まったり---時々、彼のことをずっと考えたり、他の人と話してるところを見ると嫉妬しちゃって取られたくないって---

 

「ぁ---」

 

「やっと、気づいた?」

 

「・・・うん」

 

本当は、そうだったんだ。私は怖いと思ってた。彼を失うのが怖いからくっついちゃうんだろうって。心の支えだったから、失いたくないって。でも本当は違った。私はアルトくんのことが好きで、異性として意識してたからこそ、失いたくないって、取られたくないって思ってたんだ。

これはそうじゃなくて、一人の異性として彼のことが好きだったから・・・支えてくれて、ずっと傍に居てくれて、守ってくれたから。他にも、たくさん理由はあるけど、私はいつの間にか気づかないうちに彼のことが好きになってた・・・いつからか、分からないけど自覚してなかっただけで、恐らく・・・かなり前から。

 

「私も、未来と一緒だ。アルトくんのことが好き。でも、遅かった・・・今気づいても---」

 

そうだ。結局、彼が居なくなったことには変わりはない。むしろ逆に胸が苦しくなってくる。居なくなったと、希望が失われたと自覚して、苦しくなってきた。

思わず、私は苦しくなってきた胸を両手で抑える。

 

「大丈夫」

 

すると、未来が私の両手を包み込むように両手を添えてきた。

 

「え・・・」

 

「響は、アルくんが死んだと思ってるの? 彼は私たちの希望だよ? それに、一度昏睡状態から目覚めないかもって言われてたのに、目覚めたんだよ。私は諦めない。だって、この気持ちを伝えてないから・・・約束を、果たせてないから」

 

「やく、そく・・・?」

 

「うん、アルくんの夢。そして、三人で流れ星を見るって」

 

そうだった。約束したのに、アルトくんはまだ守ってくれてない。それに、私も諦めたくない。だって、彼のことが好きだもん。

なにより、アルトくんは希望。()()()()()になるって言ってくれた。だから---

 

「「だから、一緒に探そう?」」

 

一緒のことが浮かんでたのか、同じ言葉に顔を見合せ---笑った。

 

「ふふ、同じだね」

 

「うん。探さないと! アルトくんは絶対無事だから・・・今度こそ、約束を果たすんだ」

 

「うん、響らしくなってきた。これからも辛いことがあるかもだけど・・・一緒に乗り越えようね」

 

「もちろん、ありがとうね?未来。()()()()()()を見つけるまで、()()()()()()探そう! おー!」

 

「お、おー?」

 

「あはは、待っててね・・・アルトくん」

 

絶対、絶対見つけるから。ダレニモワタサナイカラ、ネ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「縺ゅ=縺ゅ≠縺√≠縺ゅ≠縺ゑシ?シ」

 

()()は森を彷徨っていた。まるで何かを探すように、何かを見つけるように、何かを求めるように。ソノ姿は、まるで()()()()()

だがそんな様子とは別で()()は全面的なフォルムは『ゼロワン』に近く、禍々しさを表すかのような黒い姿をしていた。そう、()()()は『アークゼロ』と呼ばれる仮面ライダーだ。

そのアークゼロは突如地面に倒れ、赤いオーラが身を包み---男の子の姿となった。

両腕には包帯を巻かれ、頭にも包帯を巻かれている。そして()()()()()()()の少年だった。

 

「グホッ!? うっ・・・グハッ!?」

 

少年は()()()()()()()で血を吐き、今にも閉じそうな()()()を開けて周囲を見渡していた。

 

「っ・・・ここは、何処・・・だ?」

 

立ち上がれないのか、腕を動かすことで匍匐前進し、少しでも移動しようとする。彼が動く度に、地面には血が引き摺ったような跡を残し、彼の足元には()()()()()()()()()が浮かんでいた。

 

「オレは、()なんだ・・・?」

 

その少年は、答えを求めるように呟くが、返事は返ってこない-----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 

「あー! もう、探したよ? ご主人様♡」

 

「ッ!?」

 

突如聞こえた少女の声に反応して、少年は立ち上がろうとし---すぐに倒れた。

 

「大丈夫?」

 

そんな少年に少女が近づくと、ワンピースのスカートを抑えながら座り込んだ。そして心配そうな顔で覗き込むように見つめる。

 

「キミ、は・・・誰だ・・・?」

 

立ち上がれないのを諦めたのか、少年は怪訝な()()で同年代くらいと思われる少女の顔を見つめる。

 

「えぇー? 私のことを忘れちゃったの? ひっどーい・・・あんなにもずっと居たのに・・・」

 

「そう、なのか・・・? それは、すまな・・・ッ!?」

 

悲しそうな表情となった少女に、申し訳なさそうな()()をした少年が、謝ろうとするが、その前に顔を伏せて血を吐く。

 

「ふふ、冗談なのに・・・かわいい♡ んん、そうじゃなくて、安心して? 私が()()()()知ってるだけだから。それより本当に大丈夫?」

 

「そう、か・・・。すこし、休めば・・・治ると、思う」

 

「そう・・・お疲れ様」

 

気を取り直した少女は、突如正座をして少年の頭を自身の膝に置いた---膝枕というものであった。

 

「なに、を・・・?」

 

「男の人ってこれで喜ぶって聞いたから、アークさまも喜ぶかなって思ったの。・・・違った?」

 

「わか、らない・・・それ、より・・・あーく?」

 

「そう、アークさま。それが貴方の名前。愛しのアークさま♡」

 

ますます困惑したような()()をした少年は、少女を見つめた。

 

「うーん? ああ---記憶がないの?」

 

察したような顔になった少女は首を傾げて聞いていた。長髪に、赤色のメッシュが入っている髪が揺れる。それだけで、絵になる一枚だった。

 

「そう、らしい・・・オレが、誰なのかさえ分からないし、この場所さえも、なんで居るのかも・・・キミは、何か知ってるのか?」

 

「うん、私は知ってるよ。そして()()()()()()()()()()()()も、ね」

 

「・・・どう、いう?そもそも、キミは・・・」

 

「あ、自己紹介してなかったもんね。私は『アズ』。貴方の専属秘書・・・ってとこかな? うん、()()違うけどね?」

 

嬉しそうな表情で自己紹介をする少女---アズと名乗った少女に少年ははてなマークを浮かばせていた。

 

「うっ・・・!?」

 

「そろそろ、限界かな。ね、アークさま?」

 

「っ・・・なん、だ?」

 

今にも目を閉じそうな少年を見て、アズは彼の名前を呼んだ。

 

「私と一緒に来る? 私なら、貴方を助けられるよ? ううん、()()()無理なの。貴方は()()()()だもん」

 

「オレが・・・敵?」

 

「そう、貴方は何もしてないのに、悪くないのに。敵になってるの。()()()()()()()()()()()のにね?」

 

「・・・・・」

 

よく分からない、と言った()()を少年がする。そんな彼の頭を、アズは慈愛に満ちたような表情を浮かべながら撫でていた。

 

「・・・オレは、敵なのか。人の、人間の敵なのか」

 

()()()()()()みたい」

 

少年は真剣そうな表情で、アズに聞く。そんな彼に彼女はすぐに返答した。

 

「だったら、キミは・・・何故、こんなオレの味方を---」

 

理解出来ない、といった()()をした少年は聞いていた。

 

「んー、それは今は秘密♡ でも誤解しないでね、私はアーク様の味方よ」

 

「なら・・・もく、てきは?」

 

少年は質問を変える。少しでも、()()を知るために。

 

「目的はたくさんあるよ? けど、一つだけ・・・これだけは信頼してもらう為に話すね。私の目的の一つはアークさま、貴方の運命を変えに来たの」

 

「オレの・・・?」

 

「そう、今話せるのはここまで。だってアーク様疲れたでしょ? 苦しいでしょ? 痛いでしょ? そんな貴方に私は今からでも休んで欲しいくらいだもん。だから、話を戻すけど・・・一緒に来る?」

 

アズは心配そうな顔で少年の頭を撫でながら先程の問いかけをしていた。

すると、少年の()()が諦観したかのようなものとなる。

 

「どうせ、連れて行くんだろ・・・じゃなきゃ、ここまで来るはずが、無い。さっきの言葉から考えるに、探してたんだろ? オレを。だったら、ついて行く。どうせ目的も、行く宛てもないんだ」

 

「あらら、バレちゃってた? 流石アークさまね。()()()()()()()()()()なのに、あっさり見抜くなんて・・・ますます愛しく感じちゃう♡」

 

特に驚いた表情をする訳ではなく、感心したように頷いたアズは、頬を赤めながら少年の頬を撫でた。

 

「はあ・・・ごめん、だけどさ・・・もう、限界。だから・・・ここまで・・・」

 

「はーい。じゃあ、アークさま。ゆっくり休んでね?」

 

ため息をつき、今にも限界そうな瞳が閉じられかけた少年はアズにそう言う。そんな彼にアズはそう言って、美しく微笑んだ。

 

「---おやすみなさい♡」

 

「---ん」

 

アズは少年の耳元で囁くように言うと、少年を膝元から大切そうに胸元に持っていって抱きしめ---少年は眠りに着くように目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう離さないよ、アークさま♡」

 

そんな少年を少女は壊れ物に触れるかのように愛おしそうに撫で、彼を連れて行く---

 

 

 

 

 

 

 

 

 








繧「繝シ繧ッ讒倥→蜻シ縺ー繧後◆蟆大ケエ
白髪縺ァ赤逵シ縺ョ蟆大ケエ。記憶蝟ェ失ら縺励>讒子だったが・・・菴墓腐險俶?縺後↑縺のか、菴墓腐アークゼロに変身していたのか。蠖シ縺ッは一体---?


〇アズ
彼女曰く、()()()()を変えに来たらしい。
何が目的なのか、何をするつもりなのか、それは彼女しか知らない。
見た目はゼロワン本編とは違い、幼なくなっていて性格なども幼なくなっている。そもそも彼女はオリジナルのアズに近い似た存在なので、並行世界のアズとでも見るべきだろう。
ちなみに少年と同年代。だが()()()()()()おかしくて・・・?


〇立花響
アルトくんのことが好きだったけど気づいてなかった・・・というより気づく暇もなかった、が正しい。それでも未来以上に依存してたらしく、恋心に気づいた今、彼女は彼を見つけるために行動し始めるだろう。

〇小日向未来
アルトくんの私物と思われる()()()()()()を持っている。まるで形見のようにずっと持つようになるが、()()は一体---?
響の気持ちには実は薄々と気づいていたため、励ます意味でも気づかせる為にも恥ずかしさを我慢しながら響に話した。

〇アークゼロ
()()()()()()()()()()()()()の犯人。逃げようとしていた生存者を()()()。そして()()()()()()()()()()と全人類のネットワークに証拠も何も残さずにハッキング、()()()()()()()()した。当然、()()の情報がある方が人間は信じてしまうため、本当のことを知るものは誰も居ないが、情報が改竄されていることに気づいた状態で原因を探してるのは()()()()だけだろう。
ちなみにバッシングを受けた者たち、つまり生存者は世間がぎゃあぎゃあと騒いでる内に身も心も疲弊してたために自然と流され、犯人を『アークゼロ』という存在にした。なので、原作よりかはバッシングが続いていない。
実はアルトの家燃やしたやつはコイツ。

〇アルト
消息不明(?)


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無印編 ルナアタック事変
第一話 覚醒の鼓動


仮面ライダー50周年おめでとうございます!そして、風都探偵アニメ化配信2022年夏決定おめでとうございます!仮面ライダーBLACK SUN2022年春決定おめでとうございます!CSMタイフーン制作決定おめでとうございます!ゲンムズも配信おめでとうございます!神様(がっくん)もお誕生日おめでとうございます!!2023年3月、シン・仮面ライダー公開決定おめでとうございます!いや、情報量多くない・・・?

ちなみに本小説は日曜日投稿です。あとセレナめっちゃ人気やんけ(今更)
では、本編どうぞ!





 

世間はアークゼロという存在がノイズを操る力があり、ライブの事件の犯人だということを信じた。しかし、当然姿を見たことも無い人たちが多いため、ネットなどでは様々な議論をされていた。

例えば、噂になっていた仮面ライダーと関係があるんじゃないかと。また、別のところでは本当は誰かが作り上げた偽の情報なんじゃないか、と。他にも何処かの国が作った生物兵器なんじゃないか、仮に操ってるのが事実だとして、目的は人類を消すことなんじゃないか---日が経つことに冷静となった人々は本当に『アークゼロ』が居るか疑問に持つものも居た。

しかし、そんな人々の考えは()()()()によって覆され、アークゼロこそが人類の敵で、倒すべき悪だと証明された。

そのある事件とは、アークゼロの話題から三ヶ月ほど経った時に起こったある出来事。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()したという事件が起こったのだ。

映像にはアークゼロが街を破壊し尽くし、甚大な被害を出した姿があった。しかし、疑問として思われたのが死人が()()()一人も出ることはなく、怪我人や重傷で済んだという。しかも、対応として派遣された自衛隊たちでさえ、武装が破壊されただけで殺されることは無かった---そして、人々は理解した。これは宣戦布告なのではないかと。アークゼロという存在が人間などいつでも消せるという、殺せるという恐怖を植え付けるために()()()殺さなかったのではないかと。

そのうち、その姿を見た人々によって情報は拡散され、アークゼロの存在に信憑性が増して知らない者は居なくなった。さらに、生存者はあくまで被害者。巻き込まれただけであり、悪くなかったと証明される。そしてアークゼロはノイズと同様---いや、ノイズ以上に危険な存在かも知れないと、アークゼロはこの世界に本当の『悪』として君臨した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これでよかったの?」

 

一人の少女があらゆるアークゼロの情報が書かれているものを見ながら、不服そうな表情で一人の少年に問いかけていた。

 

「あぁ、()()がやったことではない。だが、オレが人類の敵であることに変わりはない・・・なら、いっそのことだ。そうだと完全に信じさせ、バッシングを受ける生存者とやらを完全に助けるべきだと判断した。それに、オレが動かなくとも、どうせ存在することにされて人類の敵にされてたんだろ?」

 

そんな少女に、少年は何とも思ってなさそうに返事をする。その手に、黒いドライバーと()()()()()()()を手にしながら。そして、少年の視界には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がある。

 

「むぅ・・・それはそうなんだけどー・・・。でも、その未来(みらい)は私が望む未来(みらい)じゃないよ?」

 

頬を膨らませ、少女が明らかに不満、と言った様子を見せながら、少年にそっと寄り添う。

 

「悪いとは思ってる。けど、()()の完成には悪意を集める必要があるからちょうどいい。流石に()()してる状態でも()()()()には負けないが、対策はするべきだ。まだ不調なのか少し肉体が怠くなるし、な」

 

寄り添う少女に対して少年は優しそうに赤い瞳を向けながら、少女の言葉に答えていく。

 

「そもそも、()()()()もなく変身出来るのはアークさまだけだもの。普通は()()()があるし、それ以前に()()()()()()か命を落とす可能性が高いって聞いたわ。うん、それを問題なく使用出来るなんて・・・流石私のアークさま♡」

 

「らしいな・・・。というか、褒めてくれるのは悪くはないが・・・何でもかんでも褒めすぎじゃないか・・・?」

 

少女の言葉を聞いて、少年は思わず苦笑いした。

 

「えー? だってアークさまが凄いことには変わりないし・・・むしろアークさまを悪く言う人々を私は今からでも消し---」

 

「いや、やめろよ?」

 

「はーい」

 

「・・・本当に思ってるのやら」

 

少女の後ろにとてつもないほどの黒いオーラのようなものが見え、少年は少女を止めながらはぁ、とため息を吐いた。そして少年は少女から視線を外すと窓を見つめる。果たして、その赤い瞳には何を写してるのか・・・ただ一つ、分かることは---これが終わり。これが本当の終わり(エピローグ)

そして、次に始まる出来事こそが、物語の真の始まり。長きに渡る、本当の始まり(プロローグ)だということ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年月が流れ、桜が散る道の中、一人の高校生と思われる白髪と赤眼の少年が歩いていた。その少年は春だというのに黒色のパーカーを着ており、フードを被りながら歩いている。お陰で仕事に行く人、主婦の人、様々な人々から注目されているぐらいである。

そんな少年はある場所を見つめ、そちらに歩いていった。そこには---

 

 

「わわっ、大丈夫。へいきだから!」

 

暴れる猫を宥めてる一人の少女の姿がある。何故か木の上に登って。

フードを被って顔を隠したまま見上げた一人の少年は、無言で見つめながら、少し首を傾げる。

そして少年が周囲の人を見渡すと、知らぬふりをするだけですぐに去っていき、何もしようとしない。

 

「当然か」

 

少年は予想通りだったのか小さく呟く。その後に、一度目を閉じると少ししてため息を吐き、目を開けて前に出た。

少年が動き出したその瞬間には風が吹かれ、木が大きく揺れる。そのことに驚いた猫が落ちそうになって少女が慌てて抱えると、重力に従うように落下し、地面に---

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちなかった。

なぜなら一人の少年が少女を受け止めたからだ。その少年は、()()か不確定だったはずなのに落下地点に居り、受け止めたのである。すぐに少女を降ろした少年は、少女が何かを言うよりも早く離れていった。

 

「あっ、待ってください! あの---」

 

しかし、その声は少年に届くことも無く、人混みの中に消え、少年の姿はない。

 

「あれ・・・居ない? でも、なんでだろう・・・あの人からは()()感じがしたのは・・・ううん、気の、せい? 匂いも、違ったし・・・私が()()()()はずないから---ってやばい!?」

 

少年の姿が見えなくなったからか、少女は何かを呟く。そして、聞こえてきたチャイムの音に慌てて学園に走っていった。恐らく、学生服を着てることから学校だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがもしかしたら・・・か。今のところはオレの()()()()だが、覚醒は近いな」

 

その姿を、先程のフードを被っている少年は眺めて、小さく呟いていた。

 

「アークさま?」

 

そんな少年に一人の少女が近寄る。そして、すぐに頬を膨らませた。

 

「ん?あぁ、来た---どうかしたか?」

 

「・・・女の匂いがする」

 

何処か黒い感情を出しながら、少女が少年の匂いを嗅いでいた。その後、じぃっと少年を見つめる。

 

「匂い? そんなの分かるのか?」

 

「レディーにはそういうの分かるの。女の勘・・・とも言うけど。アーク様、何かした?」

 

「オレが何かした前提なのはおかしいと思うが・・・人助けしただけだ。顔も見られてない」

 

「・・・本当?」

 

妙に疑う少女の姿に、少年は苦笑いしながら少女の頭に手を置いた。

 

「本当だって。ただ()の可能性があるやつを救っただけ、だけどな」

 

「ふーん・・・嘘言ってなさそうね。じゃあ、信じるけど---えいっ」

 

少年の言葉に納得したような様子を見せた少女だが、不満そうな表情は一切隠すことなく、少年の腕と自身の腕を絡めてくっついた。

 

「うおっ・・・全く。動きにくいぞ?」

 

「ふふん、私は気にしないから」

 

「・・・だったらいいけどな」

 

何故か得意げな表情で言う少女に少年は諦めたのか素直にされるがままとなる。

 

「それより、敵の可能性があるってことは?」

 

「あぁ、多分予想通りだよ。もうすぐで()()するだろうな」

 

「・・・消す?」

 

「いや、()()()の計画にもあの子は必要だろうし無視でいい」

 

何処か物騒なことを少年少女は話し合ってるが、二人の話を聞くものは居ない。

 

「あと、アークさまって言うのはやめてくれ・・・外でそれ言われると流石に不味いからな」

 

「あ、ごめんなさい・・・。えーっとシンさま・・・だったよね?偽名って」

 

「あぁ、正体を隠す必要があるからな・・・っとオレたちも行くか。愛乃(アイ)

 

「うんっ。あ、でも離れないよ?」

 

「はいはい・・・学校に着くまでは好きにしろ」

 

仲が良さそうに二人は歩いていく。その姿は誰がどう見たって()()()()()()にしか見えない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

入学式を終えると、その日の夜に二人の装者がノイズと戦う姿をオレは見ていた。

もちろん、普通はオレは学校に行くことなど出来ない。本来は戸籍がないからだ。しかし、情報の改竄などお手の物なので、戸籍を作らせてもらった。名前は偽名だが『亜無威(アムイ) (シン)』と名乗り、お陰で入ることが出来たということだ。

両親は既に故人ということにしており、家族も居ない。名前は珍しい名前だとは思われるだろうが、まあ70億人の中にはそんな珍しい人は沢山いるし問題ないだろう。

そして同じようにアズにも偽名があり、『鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)』にしている。アズの場合はバレたら危険だから、という理由だが。

 

そもそもオレには()()()()()からな。戸籍やら学校に行くためには作る必要があったから作った、それだけだ。

アズ曰くオレは()()()らしいが。

 

「・・・あくまで力がそうであって、オレはアークではないと思うんだけど」

 

一度言ったら、それはそうだけどそれは違うと言われたし、結局は名前なんてどうでもいいが。

そんなことを考えていると、爆発が起こった。ふと視線を移す。

 

「終わったか」

 

どうやら槍と剣を持つ装者がノイズたちを倒したらしい。

 

「今日の所は・・・良いか」

 

わざわざ戦う必要はない。戦闘狂でもないし、あくまで偶然近くに居たから見に来ただけだ。そろそろ帰らないと怒られる・・・そっちの方が面倒・・・か。

そう思うと、オレは踵を返して去っていった。ただし、漂っている()()という()()()()は回収させて貰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来〜・・・まだかかりそう?」

 

「もうちょっとかな。あ、今日はツヴァイウィングのCD発売なんだっけ? 今時CDじゃなくて良いと思うけど」

 

「初回特典の充実感が違うんだよ〜」

 

課題と思われしきものを書いている黒髪の少女---小日向未来と顔を伏せている茶髪の少女、立花響が話していた。

 

「だったら早く行かないと売れ切れちゃうんじゃない?」

 

「あっ・・・!? 本当だ!」

 

「もう・・・慌てたら逆に危ないよ。ちょうど終わったし、行こっか」

 

「う、うんありがとう」

 

慌てて鞄に物を詰め込む響の姿に、未来は苦笑いしながら自身の物を鞄に入れながら手伝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「CD! 特典! CD! 特典! CD! 特典!」

 

「本当に好きになってるね、響」

 

「うん、あの時見た日から、ハマったんだ」

 

「そっか・・・」

 

走りながら、お店へと急ぐ響と未来。その間に未来は一つのワードを聞くと何処か辛そうな、暗い面持ちを一瞬だけするが、すぐに元通りへと戻る。

すると二人がようやくお店に辿り着いた時、一筋の風が何かを乗せて吹いた。その風に乗せられた物は何処か灰のように黒い。

それが気になったのか、二人は周囲を見渡した。周りにはまるで何かを炭にしたかのような塊があり、お店の中にもある。それから考えられる可能性は一つ---

 

「ノイズ・・・!?」

 

響が声を出した瞬間、誰かの悲鳴が辺りに響き、すぐに響が走り出す。

 

「あっ!? 響!?」

 

炭化した塊を見て、堪えていた未来は響が走り出したのを見て、慌ててついて行った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響と未来は悲鳴が響いた場所に辿り着くと、一人の女の子の手を取って走っていた。その後ろの方にはノイズが居て、彼女たちを追っている。

 

「響! こっちにはシェルターは・・・」

 

「わ、分かってはいるけどノイズが居て行けない・・・!」

 

彼女たちの言う通り、シェルターは真反対の方にある。しかし、そこへ行くにはノイズを避けなければならない。ノイズが一体だけならば逃げられるかもしれないが、複数体居ることからそれは不可能だろう。

さらに、彼女たちが路地裏から出てくると周囲がノイズに囲まれる。ノイズが居ないのは、響と未来の目の前に広がる川くらいだった。

 

「おねえちゃん・・・!」

 

「大丈夫、お姉ちゃん達が一緒に居るから・・・。未来!」

 

響が女の子を支え、未来に視線を移す。すると通じたのか未来も女の子を支え、二人は一緒のタイミングで川に飛び込む。

即座に顔を出すと、自分たちより小さい女の子の顔が出るようにしながら先に女の子を上に上げ、響と未来も陸へと上がった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

私の方が速いから、という理由で未来が女の子を背負った為、 負担をかけることに申し訳なく思いながら一緒に工事地帯を走り、梯子を登る。

もう時間的に夜なのか、周囲がだんだんと暗くなっていて太陽が沈んできている。

けど、諦めちゃダメだ。あの人は言ってくれた。私に『生きるのを諦めるな』って。あの時、私は間違いなくあの人に救われた。私を救ってくれた人はとても優しく、力強い声を口ずさんでいたのを覚えている。

そして、私にも諦められない理由がある。生きるのを諦められない。死ねない。()()居ないと、ダメなんだ。誰かが欠けたりしたら意味が無い。ここで諦めたら()()()()()()を探せない・・・!

 

「響・・・大丈夫・・・?」

 

「へいき、へっちゃらだよ・・・未来の方こそ、大丈夫?」

 

梯子を登り終え、平気だと笑いながらも息を整える。

 

「私も、大丈夫・・・」

 

でも、お互いに分かってる。そんなこと言っていても本当は体力はもうないってことぐらい。

 

「私たち、死んじゃうの・・・?」

 

すると、女の子が不安そうな顔で聞いてきた。

 

「大丈夫、きっと大丈夫だから・・・」

 

「私たちがついてるからね。・・・こういう時、彼なら---」

 

私は安心させるように女の子に微笑み、未来が小さな声で考えるかのように呟いていた。

()ならきっと、こんな状況でも諦めたりはしない。それどころか、なんとかしてみせるはず。

 

「ひゃぅ・・・!」

 

女の子が悲鳴を出しながら近くに居た未来に抱きつき、未来が女の子を優しく抱きしめている。何故なら周りには、ノイズだらけで何処にも逃げ場はない。でも、それでも彼なら諦めないと確信が出来る。そうだ。きっと私にだって何か、何か、できることがあるはずだ・・・彼みたいに、()()()()()()のように、何か・・・! なにより---

 

「生きるのを諦めないで!」

 

私が諦められない! まだ彼を、アルトくんを見つけれてない・・・ヒントでさえ、本当に生きているかどうかさえ、何も見つけられてないんだ! 彼の情報さえ何も分かってないのに、約束を果たせてないのに・・・。

 

『---Balwisyall Nescell gungnir tron』

 

こんな場所で死ぬようなことは、私には出来ないからッ!!

気がつけば、私は胸の中に浮かんだ歌を、口ずさんでいた。

すると、私の胸の、心臓付近から黄金の光が天へと迸り、暗い夜の中、光が周囲を照らした。

 

「うっっ-----ぁあああああああぁぁぁああああぁあああぁぁああああッ!!」

 

「ひ、響!?」

 

未来の心配するような声が聞こえたけど、私には何かを返す余裕がなく、痛みに堪えるように四つん這いになりながら体中を(むしば)む激痛に耐える。

『ナニカ』が私の中で暴れ、『ナニカ』が動く。

痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ---とてつもない痛みに、意識を手放したくなる。嫌だ。痛い、泣きたくなる。でも---死にたくない、私はアルトくんを探して、見つけないと行けないから・・・ッ

 

「ぅぁ--ああぁぉあああああああぁぁああ!!」

 

脳裏に()と未来の姿が浮かび上がる。それだけで力が湧いてくる。それだけで、生きるという気力が湧いてくる。それだけで諦めるという思考が、何処かに吹き飛んだ。

そして、()()()が装着される。それが()()()なのかは分からない。それでも私に()()()が装着されると、途端に痛みが消え、立ち上がれた。それに何処か力が湧いてくる。

 

「ッ!? 響、前ッ!」

 

「ぁ・・・!? ッ・・・!」

 

よく分からないことが起こり、未来に視線を移せば心配するような、驚いたような、困惑したような表情を浮かべていた。そして慌てた様子の未来の声に反応するように、思わず拳を振り抜く。()()()()()()()()ノイズ相手に、振り抜いてしまい---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ・・・?」

 

自分ではなく、ノイズだけが炭化したことに私が困惑する側だった。

 

「響・・・? 何とも、ないの?」

 

「う、うん・・・へいき、だけど」

 

目を瞑っていた未来が驚いた様子で言葉を振り絞ったのか、私に聞いてくる。

私も色々と分からなくてなんて返したらいいのか分からなかったけど、異常がないことは事実だったため、素直に言う。

 

「良かった・・・ッ!」

 

未来の今にも泣きそうな姿を見ながら、胸の中に()()()が浮かぶ。

 

「お姉ちゃん・・・かっこいい・・・!」

 

「へっ!? あっ・・・」

 

立ち上がった女の子と未来が私を見つめてくる。その視線を受け、気づく。

そうだ、なんでノイズに触れたのに私が炭化せず、ノイズだけが炭化したのかは分からない・・・でも、この力は誰かを守れる。私の大切な人を、守れる力なんだ。

だったら、私は変わらない。私は私のために、戦える。私が守りたいものを守るために・・・!

 

「この子にも、未来にも絶対に触れさせない・・・ッ!」

 

決意とともにノイズ相手に両拳を構え、胸の中に浮かぶ歌を私は口ずさんだ---

 

 

 

 








〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)/まだ百合の間に挟まってない男
白髪縺ァ赤眼の少蟷エ。彼の目逧??荳?菴とは?荳?菴菴者なのか?ただ、蝓コ譛ャ逧?↓繝代?繧ォ繝シを着用して、フードで顔を髫?縺励※縺?k。
半減縺ョ諢丞袖縺ィ縺ッ?

〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
アーク様大好き。かわいい。
もしアーク様が人類滅ぼせと命令しようものなら、すぐに行動に出る。

ちなみに、役者と名前似てるのは割とマジで偶然。アイにした理由はアズ→『as』、『azu』 イズ→『is』、『izu』で頭文字を取る→『as』、『azu』+『is』、『izu』=『AI』→エーアイ=aiなのでローマ字読みで『アイ』。漢字は『愛』を付けたい→愛で検索→愛乃(アイ)って読むのか・・・気に入った!あれ、でも役者の人ってどんな感じ?→反対にしただけやんけ・・・まぁええか。みたいな感じなので、本当に奇跡と偶然。苗字は必然と運命。

〇立花響
痛そう
何気に戦う理由をあっさりと見出しているため、アルトくんとは対極と言えよう。

〇小日向未来
この時に一緒にいるのは珍しいと思う。ついて行った理由としてはアルくんを失ってる影響で、響が心配だったから。


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第二話 不穏な空気と一人の少女


えー・・・っと、500人突破致しました!ありがとうございます!まだ一期ですけど、ゆっくりとやって行きます。
では、本編どうぞ!



 

 

何処か戦士のような装備を身につけた響は、前方に居るノイズ目掛けて構えていた。素人らしい構え方だが、彼女の後ろには守るべきモノがいる。だからこそ、彼女は自身の恐怖でさえも押し殺して見据えていた。

そしてノイズが動く。紐状型に変形させたノイズが、響に向かって一斉に飛びかかった。

 

「うわぁ!? み、未来! その子お願い!」

 

それを見ながら、響は明らかに戦闘慣れをしてない動きで回避しつつも未来と女の子に向かってしまうノイズだけ拳を突き出して炭化させた。

 

「っ・・・! 分かった・・・!」

 

状況が状況だからか、すぐに判断した未来が女の子をしっかりと抱えていた。

 

「この場合なら・・・きっと、広い場所に出るはず!」

 

未来の行動に安心した響は何かを考え、思いついたかのように言葉に出したあと、すぐ未来に近づいた。

 

「舌噛まないようにしてて!」

 

「へっ!? わっ!?」

 

「わぁああああ!?」

 

響は一言だけ言うと、女の子を抱えている未来を抱え、屋上から軽くジャンプした---つもりだった。

 

「えっ・・・? えぇぇえええぇぇえええ!?」

 

驚いたような叫び声を出しながら、かなりの高さから落下する。慌てて空中で体勢を立て直した響は地面に足を付くが、土埃が舞った。

 

「あっ・・・響! 上!」

 

目を閉じてた未来が開けると、上から落ちてきているノイズに反応して響に教える。すると響も上を見て、即座に横へ飛んだ。そのタイミングでノイズが落下し、響は未来たちを降ろして再び構える。

 

「私が私じゃないみたいだ・・・それに、なんで歌が浮かぶのだろう・・・?」

 

そう、彼女は『無意識』に歌を歌いながら、ずっと行動してきている。理由も何も分かってないが、歌っていたのだ。

 

「響、大丈夫・・・?」

 

「まだへいきだよ!」

 

後ろから未来の心配する声が聞こえた響は、彼女にそう返答する。しかし、状況は芳しくないことではあるだろう。戦い方も知らない女子高生と、人を害することしかしないノイズ。守るべきモノがある方がハンデを背負ってるように見えなくもない。

 

「おねえちゃん、すごい・・・!」

 

だが、人とは守るべきモノがあるからこそ、強くなれる。

現に、女の子はキラキラとした瞳で響を見ており、響はそんな女の子に微笑んだ。

 

「任せて、お姉ちゃんが必ずお母さんの元に帰すからッ!」

 

勇気を貰ったのか、今度は響自らがノイズに向かって走る。その間に未来は周囲を見渡し、女の子と響から離れすぎない距離までは離れた。

 

「解放全開ッ!!」

 

響が歌を歌いながら、大振りな拳をノイズにぶつける。それだけで炭化するが、相手は複数体。一体を炭化させた響にノイズが向かっていく。

それをなんとかしゃがんで、前回りで回避した響は、起き上がりともに横蹴りを放ってノイズをまとめて炭化させた。

 

「進むこと以外、答えなんて---うわっ!?」

 

だが、結局は素人の戦闘。隙のあった響に巨人型のノイズが鋏型の手で攻撃した。その攻撃を無意識にガードした響だったが、未来たちの近くまで吹き飛ばされてしまう。

 

「響!?」

 

「い、痛い・・・けど、そこまで痛くない・・・!」

 

未来が響に近寄ろうとするが、響は首を横に振って自ら立ち上がり、未来たちの目の前に立って構える。

 

「でも、このままじゃ---」

 

そう言おうとした時だった。ナニカが聞こえる。ソレはエンジン。エンジン音が聞こえ、響の目の前にいるノイズの群れを吹き飛ばしていた。そして爆発が起こり---

 

 

「---Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)---」

 

 

「--- Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)--」

 

透き通るような、それでいて心に染み渡る綺麗な歌声が辺りに響いた---

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

よく分からないことだらけだった。ただ分かることはノイズを倒せたこと、未来や女の子を守れるってこと。胸の内に浮かんだ歌を歌いながら、必死に戦い、このままではやられる---そう思った時、二人の女性が私の目の前に降り立った。一人は刀を携えた青髪の女性、もう一人は撃槍を構えた赤髪の女性。

私にはそんな二人に見覚えがあった。見間違えるはずがない。なぜならその二人は---

 

「ツヴァイウィングのお二人がどうして・・・?」

 

今や知らない人など居ない程の知名度を誇る人気ボーカルユニット『ツヴァイウィング』の二人だったからだ。ノイズによって戦場と化したこの場に降り立った二人は自分と酷似している鎧を身に纏っている。

 

「・・・貴女には聞きたいことが山ほどある。でも、今はそこで二人を守ってなさい。貴女に出来ることはそれだけよ」

 

そう青髪の女性の『風鳴翼』さんに冷たく言い放たれ、萎縮してしまう。確かに、私が戦いにいっても正直あの量を倒せそうにない。むしろ足を引っ張ってしまうだろう。

だから何も言い返せずに、はい、とだけ答えるのが精一杯だった。

その後すぐに赤髪の女性の『天羽奏』さんに翼さんが脇腹を小突かれて変な声が一瞬だけ聞こえたけれど、気のせいということにしておいた。

そして結局、二人が撃ち漏らしたりでもしたらノイズが来るかと身を構えていたけれど、そんなことはなくお二人のお陰でノイズはすぐに全て全滅させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

自衛隊と特異災害対策機動部二課と呼ばれる二課の職員達による事後処理が行われている中、響と未来は再開した女の子と母親の姿を見て、安心したように息を吐き、笑顔で手を振った。

 

「ねぇ、響。さっきのって・・・」

 

「ごめん・・・私にも分からない。諦められないって思ったら急にあんなことになって・・・」

 

「そっか・・・でも、響のお陰だね」

 

「えっ?」

 

「あの女の子と私。今も居るのは響が居てくれたからだよ」

 

「っ・・・うん。あっ!?」

 

未来の言葉に嬉しそうに返事をした響は翼と奏の姿を見て、即座に走る。

 

「あ、響!? もうっ・・・」

 

突然何も言わずに走り出した響の姿に不満そうに声を漏らしながら、未来もついて行く。

 

「・・・あの、危ない所を助けていただき、ありがとうございました! これで二回目なんです。お二人に助けられたの」

 

「・・・二回目?」

 

「・・・やっぱりか」

 

翼が首を傾げると、奏は何処か納得したように頷いていた。

 

「響?」

 

そんな空気の中に未来が来ると、翼と奏に頭を下げながら響を呼ぶ。

 

「あ、私はここで---」

 

「待ちなさい」

 

「は、はい・・・?」

 

それに気づいた響は未来と離れようとするが、翼に引き止められて止まる。

その間に奏はどこからとも無く手錠を取り出し、響に近寄っていった。

 

「あ、あの奏さん。それは・・・?」

 

「あたしも不本意なんだけどさ、しなくちゃダメなんだ。ごめんだけど我慢してくれ」

 

そう言いながら、手錠を片手にジリジリと近寄る奏。響は手錠と奏を交互に見ながら後退りしていたが、少しして奏に捕まり、両手に手錠を付けられる。

その事に驚きを隠せず、パニックに陥る響が視線を未来に移すと、未来までも手錠に掛けられていて困惑した様子を見せていた。

そして互いに顔を見合わせても状況を理解することは敵わず、車に乗せられていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

車に二人の少女が乗せられて連れて行かれるところを、ある二人が見ていた。

 

「---これも予測通り?」

 

「ああ。予測通りの結果だ。もしもの時は()()()()()()()らしいから助けに入る必要があったが・・・どうやら問題もなかったようだしな」

 

一人は白髪の髪をしている高校生くらいの男の子だった。その少年の腰には黒いベルトのようなものが巻かれており、ベルトは何処か不気味さを感じさせる。

そしてもう一人はそんな白髪の髪をしている少年と同年代らしき女の子であり、赤いメッシュがある綺麗な長髪をしていた。間違いなく、少女の容姿は街中ですれ違った人が見れば、百人中千人が振り返るほどの美貌を持っている。

その少女は少年に腕を絡めており、嬉しそうにしている。

 

「じゃあ、報告しに行くの?」

 

「そうだな・・・近々行くか」

 

「私はアークさまに任せるわ。私の()()には関係ないからね。・・・まぁ、()()()()()手伝うけど」

 

()()()もそう思ってるだろうけど・・・()()()、素直じゃないからな」

 

「本当にね・・・でも、可愛いとは思うかな」

 

「・・・それ、本人の前で言ったら怒るぞ。まあ、帰るか」

 

「うんっ」

 

()()の会話のようにも聞こえる二人の話だが、当然聞くものはいない。否、聞けるものなど、存在しない。仮にここに監視カメラなどがあろうが、衛星からの情報だろうが、聞く処か、認識することすら出来ない。

そんな二人は突如としてその場から姿を消す----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

リディアン音楽院。音楽の授業に力を入れており、そこに通う学生は女性のみという、言うまでもなく女子校である。

時刻は夜、先のノイズ襲撃から少し経った頃だった。二つ目のガングニールの反応源であり、実質三人目の装者となる少女『立花響』と彼女の幼馴染であることから知ってしまったために連れてこられた『小日向未来』はエレベーターに乗せられていた。

皆を乗せたエレベーターは、少しするとすぐに止まり、長い通路を歩いた先にある扉の前に立ち止まる。

緒川という男性が先導して扉を開け、響と未来が恐る恐る中に踏み入ると---

 

 

 

 

クラッカーの破裂音と歓迎の声が響き渡り、『愛想は無用』と事前に言われていた二人は、ただただ困惑するしかなかった。

なにより、天井からは『熱烈歓迎! 立花響様☆小日向未来様☆』と『ようこそ二課へ!』と書かれた垂れ幕と横断幕に何故か不思議と視線が行ってしまう『必勝!』と書かれている赤いダルマがあるのだから、困惑する方が当然といえよう。

そんな二人の後ろには翼は頭が痛いとでも言うかのようにため息と共にこめかみを抑え、緒川は苦笑いを、奏はため息を付いて呆れていた。

そうこうしている内に、歓迎会が開かれ、赤いカッターシャツに筋骨隆々の大柄の男性---風鳴弦十郎と、白衣を着ている女性である『櫻井了子』をメインとして自己紹介をした。

ちなみにだが、『二課の前身は大戦時に設立された特務機関で、調査などお手のもの』と言ったのにも関わらず、二人の名前を知っていたのは純粋に鞄を調べたからであった。その時に、手錠も外されている。

さらに二人は了子によってメディカルチェックとして連れて行かれていた。未来は付き添いと、怪我がないか調べるためである。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「翼・・・」

 

「あっ、奏・・・」

 

あたしは何処か暗い表情をしている翼に近寄る。翼はその手を固く握りしめていて、今にも涙を流しそうでもあった。

 

気持ちは分かるんだけどな・・・あたしだって、暗い表情をしているはずだ。それでも、その『罪』は翼が背負うようなものじゃない。結局はあたしが原因だってことには変わりないのだから。---まあ、不機嫌ってのもあるかもだけど。あたしと同じガングニールを纏っていたのが許せないって感じかな?

とにかくだからこそ、言わなきゃ行けない。翼は真面目だから考える時間は必要だ。

 

「翼が気に病むことじゃないんだ。アレは、響が纏っていたガングニールは、あたしの背負うべき罪なんだからさ」

 

「でも・・・ッ!」

 

翼がその先に何を言うのか分かったあたしは、人差し指を翼の口に添えて遮る。突然そんな事をされた翼は固まってしまったが、そんなのはお構い無しだ。何年もコンビを組んでたら、今の翼の次のセリフくらいは分かる。

そのままあたしは翼に喋らさずに言葉を紡いだ。

 

「翼が言いたい事は分かってるよ。あの時あたしが救った命が目の前に居て、しかもあたし達と同じ力を得てしまった。それに加え、響の行動力は目を見張るけど、裏を返せば身を滅ぼしかねない危険なもの。だからといって響を止める事は無理だろ? だったら、あたし達がするべき事は一つなんじゃないか?」

 

「・・・立花を、護るってこと?」

 

「そう。シンフォギアを纏って戦いに身を投じている先駆者として、装者として。なによりも響の先輩としてさ。折角できた後輩なんだしな」

 

あたしがそう言うと、翼は何処か悩むかのように無言となっていた。

その姿を見て、やっぱり時間が必要だな・・・と思っていると、メディカルチェックを終えたらしい響と未来が出てきて響はあたしらを見つけた瞬間には駆け寄ってきた。

何処か妹が居ればこんな感じなのかもしれない、そう思った。

 

「あの・・・私、戦いますッ! まだまだ翼さんや奏さんには敵いませんし素人ですが、精一杯頑張ります! だから、その・・・よろしくお願いします!」

 

そう言い、あたし達に手を差し出しながら頭を下げる響。あたしはすぐに手を取ったが、翼は悩んだ挙句そっぽを向いてしまった。

どうやら、まだ無理らしい。

その後、了子さんによる聖遺物の講座が開かれたが、やはりというべきか疲弊している様子の響の姿を言えば、メディカルチェックの結果と共に後日話す事となった。

それに、未来も何処か表情が納得してないようにも見えるし、幼馴染らしいから心配なのだろう。まだ全然関わってないあたしが言っても意味ないだろうから何も言えないけど・・・その辺はもう、本人同士で解決して貰うしか方法がない。整理する時間も、必要のはずだ。

 

「響くん。未来くん。少しいいだろうか?」

 

「あ、はい。なんでしょうか?」

 

「はい・・・私も構いません」

 

翼と共に二課から寮へと戻ろうとしていた響と未来に弦十郎のダンナは声をかけて引き止める。二人は弦十郎のダンナに向き直っていた。

 

「このことは他言無用でお願い出来るだろうか? シンフォギアの存在はあまりにも大きすぎる・・・。知ってしまった人達を危険に晒す可能性が非常に高いんだ。つまり、親しい人や身内が人質にされる可能性が高まるんだ。俺たちが守りたいのは機密じゃない。人の命なんだ・・・強制はしないが、よく考えて欲しい」

 

「ッ・・・分かりました」

 

「私も・・・まだ、響のこととかよく分かってませんが、その辺は・・・分かりました」

 

そんな二人の姿に申し訳なさそうに弦十郎のダンナは頷き、二人が翼と一緒に出ていく姿が見える。

 

「あっ」

 

そこであたしは思い出した。いや、むしろ何故今まで忘れてたのかさえ分からないくらい。多分、ゼロワンや黒いやつのせいだが。

でも、そうじゃないか。響は二年前、あそこに居た・・・けど、()()()()。彼女を守っていた、男の子の姿がないということに。確か・・・アルトって名前のはず。アイツはなんだかんだ少ししか話してないけどお人好しだ。響の近くに居ても不思議じゃないような・・・よく良く考えれば、幼馴染と言っていた子は響に一致する部分が多い。でも何故居ないのだろうか?

・・・まあ、今度でいいか。あの二人も今は混乱してそうだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

ある所に、一人の少女が居た。その少女は橙色がかかった茶髪の髪をしており、エプロンを付けながら料理をしていた。

その時に聞こえる鼻声は、とても綺麗で彼女自身の優しさでも現すかのような、透き通ってるかのような、妖精の歌のようにでさえ聞こえる。

 

「ふんふんふーん♪」

 

楽しそうに歌いながら、料理する少女の姿は見る人にとっては癒されるだろう。

そんな少女は料理を終えると、火を消した。そのタイミングでインターホンの音がなり、手を洗った少女は慌てて出る。

 

「はい? あっ、少し待ってくださいね!」

 

知り合いなのか声を聞いた瞬間には、とても嬉しそうな声音で返事をし、その少女はエプロンを脱いで畳む。エプロンを綺麗に置くと、即座に走って玄関に向かい、鍵を開けた。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、あぶないぞ」

 

「おかえりなさい! シンさん、愛乃姉さん・・・!」

 

一人の男の子に、抱きつきながら咲いた花のような満面の笑顔で出迎える。

 

「あ、()()()。それは危ないから気をつけてね。あと、アークさまに迷惑かけちゃだめ」

 

「・・・アズ。心配しなくとも、予測済みだ」

 

橙色がかかった茶髪の少女---セレナと呼ばれた少女を白髪の髪の少年、亜無威(アムイ)(シン)という少年がセレナの頭を撫でていた。

そんな姿を見ながらも、愛乃姉さんと呼ばれた綺麗な長髪の黒髪をした少女、鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)---アズと呼ばれた少女がシンの隣で腕を絡めたまま居る。まるで自身の定位置がそこだと言わんばかりに。

 

「えへへ・・・ごめんなさい」

 

「ううん、アークさまじゃなかったら危ないから注意しただけよ」

 

それを気にせず、いたずらっ子のように可愛らしく謝るセレナに、アズは子供をあやすかのように優しく言っていた。さらにセレナの髪の毛をそっと撫で、撫でられたセレナは気持ちよさそうに目を細める。

が、すぐに玄関だということに気づいてか離れた。

 

「さて、じゃあ話は後にするか」

 

「はい!」

 

「はーい」

 

それを見たシンが言葉を紡ぐと、家に入って鍵を閉め、家でも相変わらず離れないアズの姿にシンが苦笑いしながら軽く撫でる。

それにきょとんとするアズだったが、理由に気づいたようで渋々離れた。

 

「あ、料理はちょうど出来ました! それに、何か私に出来ることがあるのなら、なんでも---」

 

「あぁ、ありがとうな。でも、そっちはアズにしてやってくれ。俺は気にしないが、異性の前で着替えるのは一般的に、な」

 

「あっ!? す、すみません・・・! で、でも私は---」

 

「私はアークさまなら別に幾らでも見ちゃうし、見られてもいいのだけどね?」

 

着替えだと言われたセレナは自身の行動に顔を赤め、何かを言おうとすると、アズが先に言っていた。

 

「・・・発言を間違えたな。俺が勘弁して欲しい」

 

「あぅ・・・」

 

「何故今ので顔を赤める・・・?」

 

さっきの言葉を訂正したシンが、顔を真っ赤にしたセレナに困惑する。

 

「ふふ・・・じゃあ、アークさまを揶揄うのはやめて行きましょうか」

 

「え、えぇ!? 今の本気じゃなかったんですか!?」

 

「当たり前でしょ? 流石に私にも羞恥心というのはあるんだもの。アークさま以外の男には一切興味無いしどうでもいいけど」

 

さらっと一般人が聞いたら突き刺さるようなことを言ったが、それを気に止めるものは居らず、セレナとアズは部屋に向かっていった。

 

「・・・ま、これもありかもな。---こんな未来(みらい)()()にはなかったかもしれないし」

 

二人の姿を見たシンは、感慨深く呟き、自身の部屋に向かう。

理由としては、学生服から部屋着に着替えるために---

 

 

 

 

 

 





〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
本編で語ることはないので言いますが、偽名はアルトくんの初期案であり、どちらにするか迷った結果の没案。
※↓は名前解説です。

亜無威 (アムイ) (シン)→名前を移動→『亜心』→『亜』を上に、『心』を下で漢字を合わせる→『悪』→『(アーク)
『威』→『イ』漢字変換→『意』→『悪』と『意』→『悪意』→『悪意(アーク)
この意味を知ったアズ曰く、『私好みの名前で気に入ったから好き』らしい。
ちなみに、他にも『シン』を英語から日本語に直すと・・・?

〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
新しく発見されたお姉ちゃん属性(?)。アーク様をからかってるけど、セレナが一番被害を受けてる(ほぼセレナの自滅)。
アーク様のことは好きすぎて他の男に一切興味を示さないほど。むしろ、この世界にいらないとさえ思ってそう。

〇セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
橙色がかかった茶髪の少女。誰にでも穏やかで礼儀正しい態度で接する。どうやらアズのことを愛乃姉さん、シンのことをシンさんと呼んでるらしいが、果たして関係性は・・・?
どうやら二人に懐いてる様子(?)


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第三話 未知の仮面ライダー


サブタイトルのネタが切れてきててヤヴァイ・・・。アーク様ドライバー買ったからやる気は溢れてんだけどな・・・。なかなかどうして展開が思いつかん・・・というか途中から本編から一時的に離れそうなんだよなぁ・・・そこは飛ばして番外編で書くべきかな?まあ、そんな悩みは未来の私に任せて(いつもの)おきます。
ってか感想でゼロワン本編のメンバー出さねぇから!みたいな事言ったくせに多分出すんじゃないですかね・・・ま、まあ深くは関わらないし?あるキャラ一人(?)だけだし?せーふ!
さて、それじゃ本編どうぞ! アズチャンカワイイヤッター!




 

 

 

ソノ人は、独りだった。

ソノ人は、ボロボロだった。

ソノ人には、味方が居なかった。

それでも、ソノ人の行動は、間違いなくソノ人にとっては『正義』と言えるモノだった・・・けど、裏切られ、傷つき、奪われ、責められ、利用され、裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ裏切られ---そして、()()()。ううん、違う。()()()()。人に、救ってきた人々による、()()に。

だけど、私にとってソノ人は()()()()()()()()と言えた。なぜなら、()()()()()()()()()()()()私にとって、救いとも言えるモノだったから。例えそれが、()()()()()であっても。ソノ人のことを知って、見つけたから。答えを、()()()()()を。

少なくとも、私が知るソノ人は優しさを捨てずに孤独なまま戦い続けた。自分自身の目的はないのに、ただただ気がつけば()()()()として君臨した人。それでも、ソノ人の生き様は、とても綺麗で美しかった。けれど、同時に哀しみと物寂しさに溢れてるように、私は感じた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜・・・?」

 

目が覚めると、私はゆっくりと体を起こす。時間を見れば、ちょうどいいくらいの時間帯。色々と準備が必要だから、早めに起きる必要がある。

 

「・・・アークさま」

 

久しぶりに見たある夢。あの時から、私は救われた。やっと見つけた、()()()()()

 

「早くしないとね」

 

寝起きの頭でも、深く考えたら思考の海に沈んじゃう。だから私は、すぐに準備に取りかかる。大好きな人の前では、少しでも可愛いと思って欲しいし、魅力的に感じて欲しいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備を終えた私は、迷うことなくアークさまの部屋に---行かず、リビングに向かった。

そしてキッチンに向かうと、一人の少女が少しうとうと、と船を漕ぎながら料理をしている。私はそんな彼女にそっと話しかけた。

 

「セレナ。大丈夫?」

 

「んん・・・はっ!?ね、寝てませんよ!?」

 

「・・・何も言ってないよ?」

 

「あ、愛乃姉さん・・・」

 

慌てて振り返ってきたセレナに私は苦笑いをしながら、返す。

別に無理をしなくとも、私がするのに・・・。

 

「眠たいなら無理しないで、ね?」

 

「い、いえ・・・大丈夫です。私には出来ること、これくらいしかありませんから」

 

「・・・そう? セレナはもっとあると思うけどね。実際、()()を今も学んでるんでしょ?」

 

「はい。ですけど・・・」

 

何処か言い淀む言い方に、私は首を傾げる。

 

「その・・・もっと力になりたいなぁって」

 

「それ以上アークさまは望まないと思うけど・・・本当に、セレナは優しいのね」

 

だからこそ、アークさまはきっと巻き込みたくないのだろうけど・・・とは思う。

アークさまの行動は、他人のとって褒められるモノでも、許されることでもない。アークさまの為なら、例え罪を被ることだとしても、なんだってする私とは違って心優しいセレナにとって、厳しいだろうから。

 

「あと、料理焦げちゃうから気をつけて。私はアークさまを起こしてくるから」

 

「へっ・・・? あっ・・・!? 忘れちゃってました・・・!」

 

慌てて向き直るセレナの姿に、優しく微笑んだ私はアークさまの元へ急ぐ。

アークさまの部屋に着けば、そっとドアを開けて部屋に入った。

 

「・・・」

 

部屋に入るとすぐにベットに向かって、しゃがむ。

その状態で耳を澄ませ、顔を近づけるとアークさまの規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

「アークさま・・・」

 

アークさまの頬をそっと撫でて、しばらくの間見つめる。

寝顔を見れるだけで幸せな気持ちになれるけれど、同時にますますと欲しくなっちゃうのは惚れちゃったから・・・かな? それに、無防備な姿を見ると、独り占めしたくなるし、襲いたいって気持ちも少し湧く。

もちろん、嫌われたくないからそんなことは決してしないし、一人の女の子としてはアークさまからして欲しい気持ちもある。振り向いて欲しいし・・・。結局は、アークさまが幸せになれるのなら、私はなんだっていいけど。

 

「起きて、朝よ?」

 

いつまでも見ておきたいものの、起こさないとならないため体を優しく揺する。

しばらくすると、アークさまは目が覚めたのか目を擦りながら起き上がった。

 

「あぁ、アズ。おはよう」

 

「うん、おはよう」

 

寝起きのアークさまも良いという気持ちは心の奥底に眠らせておいて、挨拶を返す。

 

「アークさま、昨日も夜遅くまで?」

 

「・・・あー、まぁ、そんな感じ・・・かな。初めて調整することだから、色々と難しいんだよな。いくら衛星アークの力を利用しても、元の力が力だからか情報はどこにもなかったし」

 

「む・・・ちゃんと休んでよ? アークさまが倒れたら私も倒れちゃう」

 

「いや、その時は倒れるんじゃなくて普通に介抱してくれよ・・・」

 

だって、それくらい大切なんだもん。私にそれで手伝えることがない分、余計に・・・。()()()()()の力を使っても無理なのだから、私には間違いなく出来ないし。

 

「・・・まあ、ありがとうな。心配してくれて」

 

そう言って、優しそうな瞳で見つめてきたアークさまが私の頭を撫でてくれた。その手が気持ちが良くて、離そうとしたアークさまの手を掴んで見つめ返す。すると、苦笑いしながらも続けてくれたため、堪能しながら微笑む。

 

「私がアークさまのことを心配するのは当然でしょ? 私にとって、アークさまが()()なんだから」

 

「それは嬉しいけど、自分のことは入れろよ?」

 

「あ・・・そうだった。じゃあ、アークさまと自分が全て・・・?でも、セレナも大切だし、うーん?」

 

「大切なものが全て、でいいと思うが」

 

「それもそうね・・・流石アークさま♡」

 

悩む私に、教えてくれたアークさまに抱きついた。ぎゅーっとして、アークさまの体温を感じる。突然した私に、アーク様は離そうとせずに抱きしめてくれる。

 

「昨日のセレナみたいだな。どうしたんだ?」

 

「・・・別に〜?」

 

決して、我慢してただけで羨ましかったわけではない。・・・ちょっと良いなぁ、とは思ったけど、セレナだったし。他の人だったら私はアークさまから引き剥がしてたけど。

 

「あの、料理出来ましたよ・・・? って、愛乃姉さん、シンさん? どうして抱きしめ合ってるんですか!?」

 

「いつも悪いな。こうなったのは・・・流れ、か?」

 

突然セレナが入ってきて驚いたような声を出てたけど、私はアークさまから離れない。

でも確かに、流れでなってたとは思う。

 

「セレナも来ないの?」

 

なので、誘ってみる。

 

「えっ? ・・・じゃ、じゃあ失礼して・・・」

 

「・・・何故に?」

 

セレナがアークさまに近づくと、アークさまの背中に抱きついていた。

困惑するアークさまが見えるけど、気にせずにしばらくの間、抱擁し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

()()は独りだった。自分に与えられた使命として、人が人を滅ぼすために作られた、一匹の存在。

しかし、何の偶然なのか()()は迷っていた。ソレは周りに誰もいないことを気づくと、周囲を見渡す。しかし、自分と同じような見た目をする存在が居なくて、首を傾げた。

ふと、体を横に向ける。オレンジ色の人型として作られたソレは()()()を見る。まるで魔力でも漂ってるかのように、魅力的に思えてしまったソレはナニカに近づく。ナニカは()()()()()としか表現出来ないが、ソレは近づく。もし、それが人であるならば、炭化させるために---そう、ソレは人型(ヒューマノイド)ノイズだった。

そのノイズは、ナニカに触れる。いや、()()()しまった。

ノイズが後悔したのは、その後のことだ。崩れる。自身の肉体が、人間に触れた訳でもないのに崩れる。否、崩れてる訳では無い。()()していく。オレンジ色の肉体が、漆黒に染まり、ナニカに従うかのように周囲を爆発させ、何かを考える素振りをしたソレは行動をし始めた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---『スパイトネガ』。すなわち、人間の悪意が、一匹のノイズを変えてしまったのだ。先程までの従う意志のない。自我を持つ、一つの進化体として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然、そのことに気づいた者は居た。

 

「・・・あー、そんな感じになったか」

 

「あれもノイズ・・・?」

 

「多分な。オレのスパイトネガに勝手に触れたみたい・・・だな。回収し忘れたから来たんだが、まさか適合するとは・・・。普通は崩れてもおかしくはず・・・特殊個体か? それとも()()が操ったのか・・・」

 

黒いベルトを身につけた少年---シンは()()()()()()()()が飛んでいくのを見て、考えるように独り言を零した。

 

「アズは何か知ってるか?」

 

「うーん・・・私も分からない。流石にあんなノイズ見たことないんだもの。アークさまの力を宿してはないみたいだけど・・・」

 

シンは傍に居て、同じく眺めていたアズに聞いてみるが、アズも分からないのか首を傾げていた。

 

「はぁ・・・どちらにせよ、面倒なことになった。アレ、明らかに意思持っちゃったよな。今人類滅ぼされても困るんだが」

 

「まさに偶然の産物ね・・・どうするの? 消してもらう? それとも---」

 

「無理だろうな。計画の邪魔になるだろうし・・・なら、オレの出番・・・ってことだ。自分の不始末は自分で片付けないとな。ついでに、新しい装者と装者二人。両方の力も試してみるか・・・」

 

「じゃあ、追う?」

 

額に手を翳して、ノイズだったモノが飛んで行ったところを眺めるということをしていたアズが、見えないからかやめてシンを見ていた。どうするのかと確認するように。

 

「そうだな・・・ まったく。こっちは仕事があるってのに・・・」

 

「頑張りましょ。アークさまがどうしても疲れたなら膝枕とかしてあげるけど? ううん、むしろさせて」

 

「いや、アズが疲れるだろ? 遠慮しておくよ」

 

「アークさま・・・もー、好き♡」

 

「・・・追えないんだが」

 

そう言いつつも、抱きついたアズを自分からは離さずに、シンは撫でるという行動をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

立花響がシンフォギアを纏い、メディカルチェックを終えた次の日の出来事。

再び響と未来は二課の元へ案内され、説明を受けていた。理由としては響のメディカルチェックの結果を発表するためであり、了子が出したのは響のX線写真。心臓付近をよく見て欲しい、との事で皆が注目して見ると、その付近には本来なら有り得ないものが存在している。

響の心臓付近には普通の人には無い複数の破片が存在していたのだ。調査の結果、奏のガングニールと同じものという事が判明した。

 

「結論から言うと、響ちゃんの身体、手術で摘出不能な心臓付近に奏ちゃんのガングニールの破片が突き刺さってたわ。これが反応してシンフォギアとして発現したというわけ。で、その破片の出所なんだけど・・・」

 

「あの時のライブ・・・だよな?」

 

「そうよ」

 

言おうとしていた了子を遮り、奏が聞く。そのことに了子は肯定を示した。

二年前のライブの時に損傷した奏のガングニールの破片が響を貫いたということが起こった。その時の破片が響の身体に融合し、力が引き出されてシンフォギアとして発現したということになる。

そしてシンフォギアとして発現させるために欠片にほんの少し残った力を増幅して、解き放つ唯一の鍵が、特定振幅の波動---つまり、歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形で再構成したものが、アンチノイズプロテクター、シンフォギアと呼ばれるモノだと了子から説明を受ける。

つまり、響の場合は奏や翼のようにペンダントを必要としないイレギュラーな装者、ということだ。

さらに次に説明されたのは聖遺物のことだった。

聖遺物とは、世界各地の伝承に存在する現代では製造不可能な異端技術(ブラックアート)の結晶のことであり、多くは遺跡から見つかるが経年劣化によって本来の力を持つものは少ないと、説明をされる。

 

「どうかしら? 少しは分かった?」

 

「すみません・・・全然分からないです」

 

「私もその・・・全ては・・・」

 

了子の言葉に、響と未来がそう返す。

すると、周りは予想通りだったのかやっぱりか、といった様子を見せた。

 

「はは・・・まあ、仕方がないさ。最初から了子さんの難しい話を理解出来る人なんて多分居ないからな」

 

「ちょっと〜奏ちゃん? 確かに難しいことだけどこれでも簡単に説明した方なのよ?」

 

奏の言葉に不満げに呟かれる了子の言葉。

だが了子の言葉とは裏腹に、周りにいる二課のメンバーは確かに、と肯定を示すだけである。

 

「響。ちょっといいか?」

 

「あ、はい!」

 

がくり、と項垂れる了子を他所に、奏は響に近づいて話しかける。

 

「戦いに巻き込んでごめんな・・・響には響の日常があるのに」

 

「へ? ぁ---いえ、へいき、へっちゃらです。昨日も言いましたけどあの時、お二人に助けられたから今の私がここに居るんです。むしろ、奏さんのガングニールがなければ、今の私と未来はここに居ることありませんでしたから」

 

そう言って、響は笑顔を見せるが、奏は逆に申し訳なさそうな、後悔の念に駆られたかのような表情になっていた。しかし、すぐに気を取り直してうりうりと響を撫で回して髪の毛をボサボサにしていた。

 

「あっ、か、奏さん!? 髪が・・・!」

 

「あ、ごめんごめん」

 

「うぅ・・・未来〜」

 

「もう、こっちに来て」

 

あははと奏が笑い、先程までの空気が吹き飛んだ。

そして響が未来の名前を呼ぶと、未来は響の髪の毛を整えていた。奏は翼の元へ戻っており、悔やんでる様子の姿を宥めていた。

---そんな中、空気が読めないのか突如として本部内にノイズ出現を報せるサイレンがけたたましく鳴り響く。

その瞬間、先程までのほのぼのとしたムードから一転、緊迫した空気に変わる二課本部。

二課所属のオペレーター、藤尭朔也と友里あおいの二人がノイズ出現位置を特定し、モニターへと映し出す。今回は二課本部がある"私立リディアン音楽院"からそう遠くはない場所。

幸いにも一課が住人の避難を徹底してくれたおかげで住人の被害は無いようだが、ノイズに対抗出来るのはシンフォギア装者の三人のみである。

奏と翼は、位置を把握した瞬間には現場へ赴こうとし、響が続こうとした。

 

「待つんだ、響くん・・・! 君はまだ・・・!」

 

そこを二課の司令である風鳴弦十郎が静止しようと呼びかけ、引き止める。

 

「私の力が誰かの助けになるんですよねッ!? 奏さんや翼さんと同じように戦える力が私にはあるんですよねッ!? だったら、行きます! 行かせてくださいッ!」

 

「しかし・・・ッ!」

 

覚悟を決めた響の表情を見てか、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる弦十郎。そこに響を援護するような言葉が投げられる。

 

「お願いします! 響を行かせてあげてください・・・!」

 

その言葉を紡いだのは、未来だ。

 

「未来・・・」

 

「響。私、今更響の人助けを止めようとは思ってないし、止められないって分かってる。だから、一つだけ約束して? 絶対に無事に帰ってくるって。・・・響まで居なくなったら、耐えられないよ」

 

不安そうな表情で、未来は響の手を握る。そんな未来の姿を見て響は少し驚きながら手を握り返した。

 

「分かった・・・! 約束する。絶対無事に帰ってくるって。それに、私自身まだ死にたくないからね」

 

そう言って響は安心させるように微笑んだ。その様子を見た未来は、響にうん、と頷く。

 

「弦十郎のダンナ。響は止められないよ。ダンナの気持ちも分かるけど、あたしらに任せてくれないか? 先輩として、きちんと守るからさ」

 

「・・・叔父さま。私も、同じ気持ちです。戦えるからという理由で危険に晒す真似をしたくないっていうのは分かりますが、私たちが居ないところで戦うよりかはマシだと思います」

 

「・・・すまない、二人とも。響くんの事、任せたぞ」

 

流石に奏と翼にまで言われると、やむ無しにと弦十郎が頷く。

そして、翼と奏の二人は弦十郎の言葉に頷いて響を連れ、現場へと向かった。

後に残された弦十郎と了子の二人は響の事が心配でならなかった。

 

「響ちゃんの事が心配?」

 

「嗚呼。あの子は奏くんと翼とは違い、先日まで一般人だった筈だ。それなのに、力を手にした今は、二人より先に現場へと向かおうとしていた。『困っている誰かを救う』。ただその一心で、だ。果たして、それは『普通』と言えるのか・・・」

 

普通であれば、最悪の場合は命を落とす危険性が高い場所に赴く時は必ず一回は足を止めて躊躇う。しかし、響は違った。足を止める事も、躊躇う事もせず、ただ前へ進む。例えそれが日常から非日常へと進む道だとしても。そんな事を先日まで一般人だった彼女が平気でやっているのだ。おかしいと思わない方がおかしいだろう。

 

「つまり、あの子も私達と同じくこっち側という事ね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場に到着してすぐの道路に現れたノイズ。それを見据えるのは奏、翼、響の三人。両翼の二人は何度も戦場に出ている為、戦場に立つのは慣れているが、響は先日を除けば今回が初めての戦場である。

ただでさえ緊張しているのに、傍らには憧れの二人が並んでいる。その事実が更に緊張を加速させていた。そんな響を見かねた奏は響の背中を軽く叩く。当然、突然のことで響は驚いた。

 

「緊張しなくても大丈夫だ、響。アタシ達がちゃんとサポートするからさ、思いのままに戦っていいんだよ」

 

「・・・えぇ。私達に任せて」

 

「あ、はい! ありがとうございますッ!」

 

響が本調子に戻った事を確認した二人は各々聖詠を紡ぎ、シンフォギアをその身に纏う。一瞬遅れて響もまた同じように聖詠を紡ぎ、シンフォギアを身に纏った。

ノイズ蔓延る戦地に三人の戦姫が降り立ち、各々構える。そして翼が先陣を切る形で、戦闘は始める。

三人の眼前に広がるのはノイズの群れ。翼が先陣を切ってノイズの群れに突っ込み、後に続くように奏と響もノイズへと立ち向かう。

とはいえ、昨日を除けば響は今回が初めての出撃である。慣れない構えで立ち向かう様は見ていて、少し危なかっしいからか翼に前線を任せ、奏が響のサポートに回ることにしていた。

そのお陰か最初こそ危うさで心配になるほどの響の戦いぶりも、戦っていく度にマシになっていた。ベテランとも言える二人がいるからこそ、安心して戦えるのもあるだろう。

そうこうしてるうちに、ただのノイズでは敵うことなく、あっさりと数を減らした。

そして最後のシメとして、翼の大技『天ノ逆鱗』が炸裂し、現場は再び静寂を迎え---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()が飛んできた。

 

「翼!」

 

「ッ!?」

 

大技を放った後の、明らかに隙を狙った攻撃。奏の声に反応した翼は、飛んできた瓦礫を避ける。

 

「何者だッ!?」

 

既に戦闘状態であるため、防人となっている翼は剣を携えながら警戒をする。

奏は周囲を見渡しながら、響の傍から離れようとせずに警戒をしていた。そんな響も何かが起こってることは気づいてるのか、警戒をしている。

そんな中、()()()が降ってきた。土煙を起こし、派手な登場をしたのは、漆黒色の人型ノイズ。しかし、蟷螂のような鎌を持っており、明らかに凶悪そうな腕だ。

 

「ノイズ・・・?」

 

「初めて見る個体だな・・・」

 

見たことも無いノイズの姿に、当然翼と奏は油断せずに警戒をする。

二人が警戒する中、ノイズが翼に顔を向ける。すると、動き出した。

紐状となったノイズが、鎌を向けながら翼に向かって回転する。それに気づいた翼は自身の剣で受け止めるが、弾くことが出来ないのか少しずつ後退しながら何かに気づくと驚愕の表情を浮かべ、翼が剣でノイズを逸らし、横に飛んだ。

その瞬間、ノイズの胸から光線が放たれる。

 

「これは!?」

 

「翼ッ!」

 

「・・・!」

 

奏の声に反応した翼が、剣を横薙した。それに反応したノイズは鎌でガードし、ノックバックを受ける。その隙を付いた奏の槍が、ノイズを炭化させ---

 

 

「なっ!?」

 

られなかった。鎌で受け止めたノイズは、反撃と言わんばかりに脚蹴りを放つ。思わぬ攻撃に、奏が驚くが後ろに飛ぶことで回避に成功する。

 

「私も・・・!」

 

「立花!? 待て!」

 

二人が苦戦してるのを見てか、響がノイズに向かって飛び出した。それに気づいた翼が響の後を追う。

響は先にノイズの近くに辿り着くと、ノイズに向かって拳を突き出す。ノイズはそれを鎌で逸らし、蹴りを放たれても横に飛んだ。その行動は、明らかに先ほどの翼の動き。

避けられたため、隙が出来た響に鎌が放たれる。翼が即座に間に入ると、鍔迫り合いに入り、奏がノイズに向かって上空からノイズに向かって突き刺そうとする。それに気づいたノイズが、後ろに飛んだ。

 

「本当にノイズか、アイツ!?」

 

「まるで私たちの動きを学んでるみたいね・・・」

 

「す、すみません・・・!」

 

三者三葉の反応を示すが、響だけは悔しそうな表情で拳を握り締めていた。

 

「響。まだ二回目なんだから仕方がないさ。気にする事はないって」

 

そのことに、奏が気づいたため、フォローするかのような言葉が入る。

 

「で、ですけど・・・」

 

「・・・貴女はよくやってる方よ。それでも気負うのであれば、次に向けて訓練でもすればいいわ」

 

「・・・はい!」

 

明るく返事をする響の姿に、翼が頷き---何処かニヤニヤとしている奏を見て、そっぽ向いた。

その間にノイズが胸から円状なエネルギーを形成しており、先程とは比べ物にならない量の力を貯めている。

 

「翼、生半可な力じゃあれは消せない。力を合わせて行くぞ!」

 

「アレね・・・分かったわ」

 

「え?」

 

「貴女は見てなさい。そしてこれからも戦場(いくさば)に立つかは貴女が決めることよ」

 

何かを貯めてるノイズに気づいた翼と奏はそう言って前に出る。そんな二人の姿をノイズは見据え、エネルギーをチャージし終えたのか、巨大なエネルギー波が放たれ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アークライズ・・・

 

オール・ゼロ・・・

 

そんな機械的な音声が聞こえた瞬間、巨大なエネルギー波はあっさりと消え伏せ---そこにあったのは、黒がメインで蛍光イエロー色が入っている『アタッシュカリバー』と呼ばれる片刃の剣が、ノイズを貫いて炭化させている姿だ。

その犯人は、黒一色のボディに片方しかないアンテナ、左目が剥がされたかのようなマスク、左半身は胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸び、配線や内部パーツが剥き出しになっている---何よりも、赤い瞳を輝かせている。今では、知らない人が少ないであろう存在。人類の敵と認定された---アークゼロと呼ばれる、存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「・・・」

 

後片付けをしたため、オレは後ろを向く。しかし、その時には剣を持つ装者が目の前で剣を向けていた。

 

「貴様・・・今更なんのつもりだ・・・?」

 

「自身の不始末を、片付けただけだ」

 

「なに・・・?」

 

「あぁ---だが、要件はもう一つ」

 

アタッシュカリバーを消し、白銀と紫、黒の武器---アタッシュアローの矢を剣を持つ装者の後ろにいた武器を持たない装者に放った。

 

「なっ・・・立花!」

 

「えっ・・・?」

 

「おっと・・・!」

 

自身に矢が放たれたのに動かない装者を槍を持つ装者が守っていた。

 

「お前たちの実力を、確かめに来た」

 

覚醒したてとはいえ、反応出来てなかった時点で武器を持たない装者の今の実力は分かった。残りは、二人だ。

 

「貴様・・・ッ!」

 

「その距離で敵に対して剣を向けたとして・・・何も出来ないと思うな」

 

脳内に情報として展開された『予測』。それによって、剣による連撃を冷静に避けていく。

 

「一体何が目的だ・・・!」

 

「人類を滅ぼすこと・・・としたらお前如きに何が出来る?」

 

「そんなことさせるわけないだろう!? 簡単なことだ。貴様を斬るッ!」

 

「ふん、()()利用価値のある道具如きが、私に勝てるとでも言うのか?」

 

少しずつ早くなっていく剣技。アタッシュアローの刃の部分で全て捌きながら、オレは剣を持つ装者の脚をかけて()()()大振りで投げ飛ばした。

 

「結論を予測した」

 

その隙を狙ったのか背後から放たれた槍を、後ろも向かずに受け止める。

 

「な・・・ッ」

 

「・・・その程度か」

 

槍ごと装者を剣を持つ装者に投げ飛ばし、武器を持たない装者を見つめる。

 

「どうした? 来ないのか?」

 

「ッ・・・私、は---」

 

「何をしようが、お前たちの思考は読めている---」

 

飛んできた斬撃と竜巻を片手で受け止め、消し飛ばした。そして武器を持たない装者に矢を放つ。

 

「うわ・・・ッ!?」

 

武器を持たない装者が慌てて回避した姿を見ながら、手を横に振るい、周囲に飛び散ってる瓦礫を向かわせた。それを二人の装者が守るように防ぐのが見える。

 

「あ、ありがとうございます・・・!」

 

「サポートするって言っただろ? でも、流石にコイツは強いな・・・翼。まだ行けるか?」

 

「えぇ。でもまずいわね・・・向こうにはダメージを与えれてないわ」

 

「まだまだ・・・その程度では、()()には勝てない」

 

「ヤツ・・・?」

 

今の実力を理解したオレは、この場から引くために右腕を上空に翳した。すると、巨大なエネルギーの赤黒い弾が形成される。

 

「少なくとも、今のお前たちでは私に勝つことなど100%不可能だ」

 

オレはそれを、殺さない程度に貯めたエネルギー弾を容赦なく三人に向かって放ち、三人の装者に---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソイツは困るなァ・・・」

 

直撃する前に、()()かがオレの攻撃を遮り、エネルギー弾が消し飛ばされた。

 

「なんだと・・・? お前は一体---」

 

「あんたは・・・」

 

「よっ、二課の装者たちと---仮面ライダー?」

 

ソイツは、オレが()()()()()()()()()()()付けており、そこにはボトルのようなモノが二本突き刺さっている。ベルトにはレバーのようなものとあって、派手なカラーリングだ。

何より、ソイツの見た目がコブラを思わせる見た目で赤・青・黒・金と様々なカラーリングがある姿だった。

 

「だ、誰・・・?」

 

「---仮面ライダーエボル。フェーズ1」

 

ソイツは、武器を持たない装者の言葉にそう名乗り、確信する。

やはりコイツは間違いなく、仮面ライダーだということを---

 

 





〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
縺ェ縺ォ繧?i色々と知って縺?k讒伜ュだが・・・もく縺ヲ縺阪?・・・?
縺倥▽縺ッ戦う縺ィ縺阪?縺ークのロールを演じて縺?k繧峨@縺。
()()とは・・・?

〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
アーク様が幸せになれるのであれば、何でもいい。でもアーク様大好きだし独占したいし振り向いて欲しいとは思ってる。ヤンデレに近いかもしれない。
彼女にとってはアーク様が全てだが、セレナも大切な様だ。
カレのベルトのことを『衛星アーク』と呼んでいるらしいが・・・?

〇セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
アレとは・・・?
基本的には料理などの家事担当。本人がやりたくてやってるだけで、シンに言われてやってるわけではない。だが、彼女自身は力になりたいようだ。

〇立花 響
まだ弱いが、精神力が強い

〇小日向未来
心配だけど止めれないと理解してるため、響を援護して向かわせた。

〇ツヴァイウィング
先輩として行動中。しかし、如何せん相手が悪すぎる。

〇漆黒色のノイズ
シンの回収し忘れていた()()()()()()に触れて変質したノイズ。普通ならば崩れるが、適合すると()()()のようなノイズのような見た目と共に、相手の動きをラーニングし思考する力を手に入れる。今回のはベローサマギア(ゼロワン第一話の敵)
ただ、現状最強のAIにして最強の予測と最強の学習能力持ちが相手だったので、アークゼロに不意打ちであっさりとやられた。

〇エボルト
フェーズ1で登場。登場の仕方がまるでヒーローみたいだぁ。果たして、何故アークゼロから装者たちを守ったのか、ここに来た理由は・・・?
最後に、せーのっ!(久しぶりの)エボルトォォオオオオォォオオオ!!


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第四話 最終兵器と悪意のストラッグル


エボルト視点が思ったより長引いたぜ・・・彼がこの世界に来た経緯やらアルトくんに対してどう思ってたのかとか色々書いてたからね。仕方がないね。
あと本っ当に評価やらお気に入り登録、感想ありがとうございます!見る度に目から鱗ですよ、本当。
では、本編どぞ!



俺が()()()()に来て十年くらいか・・・()()()()と同じように、喫茶店を経営しながら生活費を稼ぐ日々を過ごしていた。朝から夜まで経営し、夜には情報収集。

 

俺が()()()()に来た理由は、はっきり言うと偶然だ。破滅型の快楽主義者である俺の兄『キルバス』を万丈龍我と桐生戦兎たち仮面ライダーと一時的な共同戦線を貼り、キルバスを倒した。

キルバスを倒した俺は力を蓄えるために地球を去ったはずなのだが、何の偶然かこの世界に来ていた。

宇宙で()()()のようなものが開いていて、巻き込まれた感じだ。

最初は戦兎たちのいる地球かと思ったが、ノイズとかいう存在が居たり年代が違ったり、仮面ライダーの情報が何処にもなかったりと---つまり、別の世界に来たと理解した。

最初は地球を滅ぼす・・・のもありだとは思った。だが、ビルドのような仮面ライダーが居ないとも限らないし情報が少ないのに動くのは悪手だ。

まずは情報を集める必要があると思っていると、お人好しなじいさんが俺を拾い、俺の正体を見たくせに家に住ませてくれた。

当然、そんなことに今更毒されたりはしないが、人間を舐めるという認識はもうしていない。そのじいさんは結局程なくして寿命で死に、経営していた喫茶店を死ぬ直前に俺に譲った。

 

実際に最初は消そうか迷ったが、今回は俺は何もしていない。アイツらに関わったせいなのか、それともじいさんの善意にやられたのか・・・その辺は分からないがな。

 

その後、喫茶店を譲り受けた俺は情報を集めつつ旧世界と同じように喫茶店をやって過ごし、久しぶりの地球を何年も堪能していた。

ノイズという脅威はライダーシステムで対応が可能だと試したし、この地球を滅ぼすかどうかは、いつでも出来るから後回しにしてたってのもある。

だが、もしこのまま何にも価値もなく、醜い世界だったのであれば、俺は自身の力を蓄えるための犠牲としてすぐに滅ぼしてただろう---()()()()()()()()()

 

それは突然の出来事だった。何気ない日常ではあるが、俺からしたら運命の出会いとも言える。

ある時、小学生くらいの一人の男の子が入ってきた。何処か機械のような感情のない表情で座り、無機質な瞳は人にとっては恐怖を感じかねない。そんな瞳で俺を見つめてきた。

 

『・・・コーヒーを、一つ』

 

『はいよ』

 

落ち着いたような声で注文してくる。それだけで冷やかしではなく、客だと理解する。そしてコーヒーだけ評判の低い俺のコーヒーを、ソイツは頼んできた。評価が高い喫茶店をしていたじいさんにも辛辣な評判を頂いたコーヒーだ。・・・俺はブラックホールのような黒々とした色を目指してるだけなのにな。

 

『砂糖は?』

 

『いい』

 

何処か子供とは思えない姿に少し凝視するが、ソイツは無感情のまま何も言わない。ただ視線に気づいてるのか、首を傾げるだけだ。

なるほど、演じてた頃の俺に似ている・・・と思った。だが、決定的に違うのは表情などを演じることが出来た俺だが、コイツは()()だということ。演じることでさえ出来ないのだろう。

 

『そうか』

 

何はともあれ、注文されたなら出すのが店主としての役目。俺は今日もブラックホールのような黒々とした色に満足しつつもソイツにコーヒーを差し出す。

 

『・・・』

 

すると、ソイツは暫く見つめた後、コーヒーを手に取って飲んだ。期待半分で見つつも、先の展開はおおよそ予想出来るため、布巾を用意していると---

 

『・・・美味い』

 

『は?』

 

予想外の言葉に、思わず声が漏れたがソイツの表情を見つめる。からかってるのであれば、何かアクションがあるはず。

しかし、ソイツは特にアクションを起こすことも無くぐびぐびと飲んでいる。

もしかして、今度こそ完璧に出来たのではないか---? そう思って俺も自身に淹れて飲んだ。

 

 

---不味かった。誰だろうか、こんな苦いものを作ったのは。

作った本人である俺ですらそう思ってると、いつの間にか飲み干したソイツは、コーヒーを置いて一言言った。

『おかわり』と。不思議なヤツだと思った。俺から見ても人間だが、何処か普通の人間に見えない。()()()()相手でも予想外の事態はあったが、ある程度は読めた。だが、コイツは思考が全く読めないというか、なんというか---分かることは一つ。()()()。心の底から思った。

何より、俺のコーヒーが本当に美味いのか何杯も飲む姿は気に入った。人間なのに感情が無いのがよくわからないが、ソイツ曰く()()()()()()()そうだったらしい。

名前は『アルト』というのだとか。自分からはあまり話しかけて来ないが、質問を返したら律儀に返す。そんな人間だ。

しかし、どうにも腑に落ちない。普通、人間というのは何らかのトラブルにでも遭わない限り、感情というものは生まれた時から必ず持ち合わせる。それこそ、表情筋が硬いなどの人間は別だが、アルトはその領域などでは収まらない。

正直、人間ではない機械か人形だと言われても違和感はないだろう。

 

『・・・あんたは』

 

『ん?』

 

そう考えてると、何処か悩むような()()()を醸し出して、何かを聞いてくる。

 

『あんたを、どう呼べばいい』

 

『あぁ、自己紹介してなかったな』

 

雰囲気でだいたい察することができるのか、と理解した俺はじいさんにも名乗った時の名前を名乗った。

 

『石動惣一。ここのnascitaのマスターだ。好きに呼んでくれて構わないよ』

 

『なら、マスター』

 

『なんだ?』

 

旧世界での憑依先の名前を借りると---というか、姿は擬態とはいえ石動惣一まんまだが、アルトはマスターと俺のことを呼んできた。

 

『・・・また来る』

 

『客なら誰でも歓迎だ』

 

律儀にまた来ると報告してきたアルトは、お金をちょうど置いて店を出ていった。

これが、俺とアルトの始まりだ。この時はまさか、長い付き合いになるとは思わなかったが・・・その日から来る度に色々と話した。ある時は普段の生活。ある時は幼馴染を連れてきたため、三人と会話。ある時はアルトの行動を見たり、ある時はやけにボロボロになってくる。

まあ、ボロボロになってる点は聞けば、動物やら人を庇った怪我らしい。

それを聞いた俺は、気になった。()()()は見返りを求めないヒーローという『こうでありたい』自分を自身で創り上げ、最後に偽りのヒーローから仲間と共に()()()()()()()()()()()()()としてヒーローになった。

だから聞いたんだ。『お前はなんで見返りがない人助けをするのか---』と。

すると、ソイツは何と答えたと思う? 簡単だ。

 

『・・・理由は、ない。見返りは、必要あるのか?』

 

と。まるで人助けが当然だと言うように。見返りなど求める必要があるのかと。確信した。アルトは間違いなく()がある。良くも悪くも、俺が知る仮面ライダーってのは馬鹿な連中だ。褒められたりすることもないのに、誰かのために戦う。もちろん、褒められることもあれば感謝されることもある。だが、基本的にはされない。それでも、誰かのために戦える連中が仮面ライダーだ。

だからこそ、コイツも同じように資格があると感じた。

 

あぁ---面白い。本当に面白い。

仮面ライダーってのはどいつもこいつも基本的には()()はあったし誰かを、何かを愛していた。

だからそうありたい。こうしたい、と言った行動をするし怒りに呑まれたりすることもある。でもアルトには感情はない。ない上で、誰かのために行動出来る。しかも、心の底からそう思ってる。自身がどうなるかなど迷うこともなく、だ。悪く言うのであれば、自身を勘定に入れてない人間---つまり、自分の命など関係なく、他人のために自己犠牲をする人間なのだが---。

本当にコイツは俺を楽しませてくれる。予想外の行動に出たり言葉を発したり、妙に鋭い、など本当に色々だ。そんな行動には期待出来るだろう。

だからこそ、辞めた。この地球を滅ぼすことは完全に辞めた。俺はコイツの行く先を見ようと思った。コイツはいつか何か大きなことをする。それこそ、桐生戦兎と万丈龍我でさえなし得なかったかナニカか、全く別のナニカを---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてアルトや響ちゃん、未来ちゃんと知り合ってから何年も経った。すっかりと仲良しとも言える仲となり、常連と化してくれてる三人と話したりした日常を過ごしていると、()()()()が起こった。ツヴァイウィングと呼ばれるユニットのライブに、ノイズが現れたのだとか。

アルトは響ちゃんを庇い続け、生死を彷徨ったらしい。

聞いた限りでは、あの状態から目覚めるなどほぼほぼ不可能だ。だが、アルトに死なれるとコーヒー飲むやつが居なくなるし、響ちゃんたちも面白いが、アルトが死ぬとより面白さが減る。そのため、寄生して復活するように活性化させてやろう---と思っていたら、やはり予想を超えて目覚めた。しかも、()()()()()()()、だ。

脳にダメージを受けてたはずだから後遺症がない方がおかしい。でも、ない。そもそも何故、あの場で生き残れた?『予測』能力は高いらしいが、永遠と避けるのは不可能に近いだろう。

そして日々が続く。来る度にボロボロになっているアルトと話しながら質問をした。『何故反撃しないのか』と。

ボロボロになってたのは、バッシングの影響で虐められてたらしいが、それでもアルトならば反撃すれば返り討ちは可能だ。

 

『必要ない』

 

だが、返ってくる言葉はそれだ。痛めつければ相手が恐怖を感じることは理解しているはずなのに、それだった。

まあ、未来ちゃんや響ちゃんに被害が行くってのもあったのだろう。

結局、アルトは一度も抵抗することはなかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある雨の日を迎えた。もはや肉体は限界が近いと言えるくらいボロボロとなっているアルトは何処か悩んだ末に答えを見つけ出したような覚悟した目をしていた。

 

『悪い。・・・けど、あんたに頼みたいことがあったんだ』

 

『・・・どうした?』

 

そう言ったアルトの瞳を見ると、揺らぎようの無い覚悟を決めた瞳をしている。だから頼みは受けるかどうかは別として、聞くことにはした。

 

『まず、あんたに言うことは全部、あの二人には秘密にして・・・欲しい』

 

『響ちゃんと未来ちゃんか?』

 

『ああ』

 

『理由は?』

 

『心配かけたくない』

 

『・・・分かった。じゃあ話してくれ』

 

二人に内緒で俺にわざわざ頼みに来ることならば、きっと良くないことなのだろう。だが俺は止めない。コイツの行く末がどうなろうが俺は見守るだけだ。自分の道は自分自身で道を切り開いて運命を決めて貰わなければ困る。俺が決めた結末とコイツ自身が決めた結末。どっちの方が面白いのかなんて明白だ。

 

『じゃあ、まず---』

 

アルトから話されたことは三つ。まず、アルトが『仮面ライダーゼロワン』に変身する仮面ライダーだということ。病院を脱走していた姿は稀に見ていたし、予想出来たお陰か、すっと入ってきた。

もちろん、少しは驚いたが。同時に生き残れた理由にも納得。

そして二つ目。もう長くないということ。原因は分からないが、日に日に自身の()が限界ということを理解しているらしい。

なにより、本題の三つ目---()()()()()()()()()()()()ということだ。自身の力なら何とか出来るかもしれないらしい。しかし、それをすれば響ちゃんや未来ちゃんの傍には居られなくなる。だからこそ、俺に守って欲しいんだとか。

 

『頼む。俺は、長くない。これ以上は、守れない・・・だけど、見捨てることも出来ない』

 

見捨てるというのは、二人だけじゃなくて生存者のことも含まれてるのだろう。アルトが悪いという訳では無いのに、何故か庇うために全てを引き受けようとする。

その時思った。---それはただの一介の人間がやるべき事ではない、と。だが、覚悟はヒシヒシと伝わってくる。例えその頼みを聞かなくとも、行動には移すだろう。

 

『アルトくん・・・後悔はしないんだな?』

 

『ああ』

 

即答だった。店を出る前、返事も待たずに出ようとするアルトに聞けば、迷うことの無い即答だ。間違いなく、俺が取り込んだ時の戦兎や万丈のように自分自身を犠牲にするだろう。その行動が褒められることでなくとも。誰に感謝されることがなくとも---アルトはやはり、()()()()だ。

 

『何故なら』

 

『ん?』

 

止まって振り向いたアルトが言葉を一度区切る。

 

『あんたになら、任せられる。例えあんたが()()でも、俺が知るあんたは、信頼出来る。過去に何があったのかは知らない。だが、今のマスターなら・・・違うはずだ』

 

『・・・・・・』

 

続きを紡いだアルトの口からは、明らかに()()()()に勘づいている言葉だ。

流石の俺も姿を見られてないのにその言葉には大いに驚いた。

 

『だから、マスターの場所も、アイツらの居場所も、俺が全て守る。()()()()()

 

その間にも喋り続け、アルトは店を出ていった。それ以降、アルトが来ることはなく、響ちゃんと未来ちゃんから聞いた限り消息不明となったらしい---ただ、何をしたかまでは分からないが、生存者のバッシングを消し去ったからか、あの時の言葉通りに俺や二人の居場所を守ってみせた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、なにをしてるのかねぇ・・・」

 

シンフォギアと呼ばれるノイズとの対抗手段で戦ってる装者三人。女性にしか纏えないものらしいが、それを纏う三人・・・ツヴァイウィングの天羽奏、風鳴翼。そして、立花響。その三人と敵対している相手は()()()()()()()()だ。

 

「やれやれ・・・」

 

戦況を見る限り圧倒的だった。黒の仮面ライダーは一度もダメージを受けることなく、まるで子供でも相手するかのように余裕に戦っている。おそらく半分の力すら出していないだろう。だからこそ、このままでは間違いなく敗北だ。

それを見ながら俺は、手回し式のレバーに円盤型のパーツの付いた派手なカラーリングの機械---『エボルドライバー』を腰に宛てがう。

 

『エボルドライバー!』

 

久しぶりの感覚に懐かしさを感じながらも赤色で、コブラの刻印がある『コブラエボルボトル』と刻印がライダーズクレストで黒色の『ライダーエボルボトル』を俺は取り出し、惑星のマークがあるキャップを横から正面に固定した。

そしてコブラエボルボトルを右に挿し、ライダーエボルボトルを左に挿し込む。

 

コブラ!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

レバーを回すと、EVライドビルダーからハーフボディが靄のかかったような状態で形成される。

それを見ながら胸元にクロスするように両手を持っていって重ね、指を広げる。同時に腰を落として重心を低くした。

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

 

胸元からゆったりと両手を広げ、そのときには前後からハーフボディが重なる。

 

コブラ!コブラ!エボルコブラ!

 

『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

そして俺は、本来の姿である『仮面ライダーエボル』へと変身を果たす。

 

「さぁーって・・・行くかァ」

 

これからオレがやることを、仮に戦兎や万丈が見たらどんな反応をするのか。怪しまれるか、それとも---まァ、どちらでもいい。どちらにせよ、オレの取る行動の反応をいつかは見たいもんだなァ・・・それは楽しみにしておくとしよう。

変身をし終えた後に、そんな考えが脳内に浮かんでいたら黒の仮面ライダーが巨大なエネルギー弾を形成しているのが見えた。

なので、オレは思考を遮ると即座に飛んで行く。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソイツは困るなァ・・・」

 

三人の装者に直撃する前に着地と共に、エネルギー弾を此方からも放って相殺した。

 

「なんだと・・・?お前は一体---」

 

「あんたは・・・」

 

「よっ、二課の装者たちと---仮面ライダー?」

 

情報を調べてた時に知った特異災害対策機動部二課の装者たちと正体や目的などの()()()()()()()()()仮面ライダーに挨拶をする。

しかし装者たちの方は向かずに、黒の仮面ライダーの方を見る。

何故なら頼み---いや、()()を果たすつもりだからだ。その方が面白いし、まだアイツの行く末を見ておきたいんでね。なら、その方がいいだろう?

 

「だ、誰・・・?」

 

後ろから響の声が聞こえ、名乗ってないことに気づいた。彼女に警戒されるのは面倒臭いことになるだろう。

 

「---仮面ライダーエボル。フェーズ1」

 

だからこそ、自己紹介も兼ねてオレはそう名乗った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

赤色の瞳を輝かせたアークゼロと呼ばれる仮面ライダー。そして、先ほど突然現れたコブラの仮面ライダー・・・いや、仮面ライダーエボルは互いに動かず、相手の動きを見てるだけだった。

否、正確には()()()()のである。アークゼロは未知のライダーに警戒を、エボルはアークゼロの動きに警戒を。互いに『強者』であるからこそ、相手が『強い』ということを理解しているのである。

そんな膠着状態が続いている中、最初に動き出したのは---

 

「---お前は何者だ・・・?」

 

アークゼロの方だった。突如現れたからか、エボルに質問をしている。

 

「お前さんと同じ仮面ライダーだ。それに、名乗るなら先に名乗るってのが常識だろう?」

 

「・・・アークゼロ」

 

「そいつがお前さんの名前か・・・なるほどねェ」

 

戦いではなく、会話をする二人。そんな二人の姿を見てエボルの後ろにいる装者は行動が出来ない。それはそうだろう。見た感じでは、エボルは明らかに自分たちを守った。だが、それだけで味方とは言い切れないのも事実。身元や目的が分からない以上、下手に動くより傍観が一番なのである。

しかし、会話をする二人だって会話をするためだけにいるのでは無い。奏と翼は戦ってきた経験のお陰か、会話はしているが互いに隙を探っていると理解していた。その通り、アークゼロとエボルは互いに行動に移せる隙を探している。

 

「あ、あの、エボル・・・さん? どうして・・・」

 

だが、響はまだ本格的に戦うのは初めてで、今回が初陣と言える。よく分からない空気に思わず言葉が漏れた。

 

「ん? あぁ〜その辺は後だ。今は---」

 

顔を響に向けたエボルは聞かれたことに答え、()()出来る。

それを捉えたアークゼロは即座にアタッシュアローから矢を放った。

 

「コイツとの話し合いがあるんでね」

 

しかし、隙を付いたはずの攻撃をあっさりとエボルは掴み、矢を握り潰す。その間に近づいていたアークゼロはアタッシュアローを振り翳すが、エボルは体を横に逸らして固く握った拳をアークゼロの胸辺りを狙って突き出した。

 

「その程度は---」

 

それでも、あっさりと食らうものならば強者とは言えまい。見てから瞬時に回避して見せたアークゼロが、エボルに反撃の足蹴りを放つ。その攻撃をエボルが避け、左から拳を向かわせた。その攻撃をアークゼロが逸らし、アタッシュアローを横に振るう。エボルは刃を手で掴み取り、投げようとした。それに気づいたアークゼロが一瞬でアタッシュアローを消すと、距離を引き離す。

そんな中、距離を離されたにも関わらず、冷静に見ていたエボルの手にはいつの間にか銃がある。拳銃型のものだ。

 

炸裂音が響く。真紅の炎を纏った弾丸がアークゼロに向かい、アークゼロは受け止めずに体を逸らして避けた。その瞬間、アークゼロの後ろで爆発が起こる。一体どれだけの威力が込められていたのか分かるだろう。

 

「次はこっちからやらせてもらおうか!」

 

エボルの声と共に、エボルが赤いオーラを身にまとって瞬時にアークゼロに近づいた。高速移動と呼ばれるものだ。

懐に入ったエボルから放たれるのは、銃弾。ゼロ距離から放たれたそれを何発も受けたアークゼロが後退るが、離れる直前にエボルに向かって指先からビームのような光線を放っていた。

エボルがそれに気づくと回避しようとし---後ろを見た瞬間、受け止める判断をする。

お陰で互いに距離が再び離された。

 

「・・・なるほど、お前は()()()()ことか」

 

「・・・・・・」

 

何かに気づいた様子を見せたアークゼロに、エボルが黙り込む。

 

「だが、今ので分かった。お前は()()にとっても、()()()にとっても厄介な存在だ。今すぐ消し飛ば----チッ」

 

赤い瞳をより強く輝かせたアークゼロがベルトの上部を押そうとし---上空から飛んできた()()()に気づいた瞬間には、大きく飛び退いた。

その時、とてつもない亀裂と一緒に周囲のアスファルトが一気に砕け散る。

 

「今のを躱すかッ!」

 

そこに居たのは、地面に拳を突き出したままアークゼロの方に顔を向けたのは赤いカッターシャツを着て、筋骨隆々な大柄の男性---二課の司令である風鳴弦十郎である。

 

「叔父さま!?」

 

「弦十郎のダンナ!? うわぁ・・・」

 

「す、すごい・・・」

 

突然現れた自身の組織の司令である弦十郎の姿を見て、翼と奏は驚き、奏に至ってはやっぱりかぁ、みたいな感じで頬を引き攣らせており、響はあまりにもの光景に目が点になっていた。

 

「言ったはずだ。不意打ちだろうが、お前たちの思考は読めて---ッ!」

 

最後まで言わず、途中で何かに気づいたアークゼロが周囲を見渡した。()()()。先ほどまで戦っていたはずの、仮面ライダーであるエボルが何処にも居なかったのだ。

逃げたのか、それとも隠れているのか。どちらかと考えたアークゼロは警戒し続け---

 

『Ready Go!』

 

真後ろから気配を感じ取り、アークゼロが即座に振り向きと共に、拳をぶつけようとする。

 

「結論を---ッ!?」

 

しかし、エボルはその拳を真横に移動することで回避し、アークゼロが突如驚愕して困惑したような様子を見せ、硬直した。

明らかな隙。それを逃すエボルではなかった。

エボルが足元に星座早見盤を模したフィールドを発生させ、エネルギーを右足に収束させる。

 

エボルテックフィニッシュ!

 

「しま・・・!?」

 

気づいた後には既に遅く、右足から放たれた強力な蹴りがアークゼロに直撃し、とてつもない速度で飛んでいく。

 

『チャオ!』

 

「一旦引くぞ」

 

「む? 君は---」

 

「話は後だ」

 

それを見ずに、装者と男性に近づいたエボルは長く話すつもりがないのか最小限のことだけを言い、銃から煙を巻き起こしてその場から姿を消した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

一方で、吹き飛ばされたアークゼロ---シンは人気のない場所で夜空を見上げながら倒れていた。

 

「---あ、見つけた。アークさま・・・大丈夫?」

 

程なくして、乱れた息を整えながら心底心配、と言った様子でアズが慌ててシンを抱き起こしていた。しかし、シンは沈黙しながら困惑したような、混乱したような表情をする。

 

「アークさま? もしかして怪我を---」

 

「---いや、ごめん。大丈夫だ」

 

不安そうな表情となったアズの頭を撫でると、シンは座り込む。

 

「・・・何かあったの?」

 

「・・・さっきの奴、予測出来なかった。違うな、()()()()()()()が正しい」

 

「それって・・・あの仮面ライダーみたいなの?」

 

「あぁ」

 

見ていたのか、アズがそれらしき存在を口に出すと、シンが頷いた。

 

「オレの予測では、あの後装者たちは動けないくらいのダメージは入るはずだった。あの男が途中で来ることは知っていたが、エボル・・・と言ったか。ソイツの存在だけは予測になかった」

 

「アークさまの予測にない存在? それは有り得なさそうだけど・・・()()()()()()()のは確かね」

 

「事実、有り得たしアズでも知らないなら、オレも知らないな。それに最後の一撃もそうだ。あの時、予測して回避しようとしたら---」

 

「出来なかったというわけね・・・それで動きが止まったんだ」

 

再び、アズの言葉にシンが頷く。

 

「理由は分かってるの?」

 

「理由はわかってる。ついでに()()()()()。どうせアズも知ってるだろ? オレが予測出来ない相手はただ一人。本っ当に・・・厄介な切り札(ジョーカー)を潜ましてくれてたもんだ」

 

「思い出したの部分が気になるけど・・・うん、厄介ね」

 

シンはため息を吐き、その姿を見ながらスカートを抑えてアズが隣に座り込む。そんなアズにシンは気にせずに手を空に伸ばした。

 

()()()()。・・・どうやら、アイツが関わったようだな。果たして偶然か、それともオレがこうすることを知っていたのか・・・オレには分からないが、面倒な存在だ。()()()のために報告しておくか」

 

「それは良いけど・・・今はダメ」

 

「ん?」

 

伸ばした腕の手の甲を額に当て、夜空を見ながら悩むような素振りをしていたシンの手をアズが重ねる。

何かと思ったのかシンが視線を向けた瞬間、シンの体は横に倒れさせられ---膝枕をされていた。

 

「アズ?」

 

突然のことであっさりと倒されたシンがアズを見つめる。そんなシンをアズが愛おしそうに見つめ、頭を撫でていた。

 

「今はゆっくりしてて。問題はないと思うけどダメージはあるだろうから」

 

「・・・そう、だな。じゃあ、後は頼む」

 

「うん、任せて。アークさま♡」

 

右腕を自然と抑えたシンは、目を閉じる。そんなシンの頭をアズが撫でていると、シンは少しして眠りについた。

 

「---私がやることは変わらないけど、もしもの時は私が守るから。安心してね? アークさま。貴方は私にとって()()だから」

 

アズはシンの額に掛かってる髪を優しく分けると、額に口付けをし、携帯を取り出して電話を掛ける。

 

『あ、セレナ? 私だけど。位置情報送るからちょっと来てくれない? 流石に私一人ではアークさまをここから連れて帰るのは難しいから・・・うん、お願い』

 

電話を終えると、携帯を戻したアズはただひたすらに頭を撫でながら、シンの顔と夜空を見ていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

エボルと共に、二課へと戻ってきた風鳴弦十郎と装者たち三人は、明らかに怪しいエボルと向き合っていた。

 

「まず、彼女らを助けてくれたことに感謝をするべきだな。ありがとう。それで君のことについて聞きたいんだが・・・」

 

「そうだな・・・なら、こっちの方が話しやすいか」

 

弦十郎の言葉を聞いたエボルは自身のベルトにあるボトルを引き抜く。すると、長身の男性---石動惣一が現れた。

 

「えっ!? 惣一さん!?」

 

「わぁ、本当だ! なんで!?」

 

その姿を見た瞬間、よく通っている響と未来は見知った姿に驚きを顕にしていた。

 

「あら? 知り合いなのかしら?」

 

「は、はい・・・『nascita』って喫茶店をやってる店主なんですけど・・・」

 

「まっ、自己紹介は必要かね。俺は石動惣一。みんなは基本的にマスターって呼ぶが、好きに呼んでくれ」

 

惣一が自己紹介をすると、二課の面々は理解して貰うためか各々自己紹介をしていった。

 

「それで、マスターは何処でその力を? アークゼロと互角に渡り合っていたが・・・」

 

「ん? あー・・・なんだ。偶然拾ったんだよ。ノイズも倒せるみたいだけど、かなり昔に拾ったものだから何にも分からないし覚えちゃいない」

 

早速、と言わんばかりに本題に入った弦十郎に惣一が全く分からない、と言う風に両手を広げてやれやれと振っていた。

 

「ノイズを・・・? どういう---そうだ、だったらちょーっと貸してくれなぁい? 心配しなくとも、壊したりはしないから、ね? いいでしょう?」

 

が、そんなことを言えば当然、天才である彼女が反応しないはずもなく、視線をベルトに向けながら聞いていた。

 

「いやいや、早速会ったばかりの人に貸してくれと言われて貸すやつは居ないんじゃないの? 俺はあんたらのことを全然知らないしな。響ちゃんと未来ちゃんについては結構話したりしてるから分かってることは多いけど・・・響ちゃんがあんなことをしてたとは思わなかったけどね」

 

「私も惣一さんがあんな姿になれるとか知りませんでしたよ? 私がこうなったのは昨日ですし・・・」

 

「それはまた、唐突だな」

 

腰に巻かれてるベルトを取られる前に懐に隠した惣一が響から聞いたことに苦笑いをする。

しかし、すぐに纏う雰囲気が変わった。

 

「まぁ、このまま雑談するのもありだが・・・本題は違うだろう? ダンナ。あんた達は俺に何を要求したい?」

 

一直線に向けられる惣一の視線。そこに居るのは、二課の司令である弦十郎。正面から受け止めた弦十郎は惣一の言葉を理解したのか頷いた。

 

「そうだな。我々のことは話すが、一般の人や誰かに言いふらすのはやめて欲しい。そしてマスターに言いたいのは我々に協力してくれないか、ということだ」

 

真剣な顔で弦十郎が協力を要請する。

しかし、そう言われても目的などは不明だろう。だからこそ先ほどの三人が纏っていたのがシンフォギアと呼ばれるモノで、それがなければ現状ノイズに対抗手段がないこと、特定の人間でしか纏えなく、子供に頼ることをしなければならない申し訳なさと共に様々なことを語っていた。

何より、人を救うためには手が足りなく、我々はそのために力を使いたいと。

 

「マスター。我々がノイズ相手に出来ることは裏方作業などしかない。戦える力があるからと頼るのは本当に申し訳ないのだが、出来るのであれば---」

 

頼む、と頭を下げようとした弦十郎の肩を惣一が叩く。

 

「ダンナ、心配しなさんな。元々逃げることも出来たのにあんた達と接触したのはそのつもりだからだ。()()()()()()しな」

 

気づかれないように響と未来に視線を送った惣一だが、すぐに視線を弦十郎に戻す。

 

「ということは、我々に協力してくれるということでいいのか?」

 

「もちろん。あ、でも喫茶店の営業は続けさせてくれよ?」

 

顔を上げた弦十郎が期待を込めたように見つめると、惣一は頷くが、おちゃらけた言動を取る。

 

「それはもちろんだ。協力を要請したからとはいえ、マスターの生活を奪う訳では無いからな」

 

「じゃ、これで成立ってわけだ。よろしく頼むぜ? ダンナ」

 

「ああ。こちらこそ」

 

惣一の出した手を弦十郎が握り、弦十郎を含め、二課のメンバーたちが次々と現在の状況と装者たちのことの話をした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

そんな中、話が区切りが着いたタイミングで、一人の二課のメンバーと思われきし人が入ってくる。

 

「ん?」

 

「あれ・・・?」

 

「知らない人だね」

 

三人を覗いた人達は、来たかといった様子を見せるが、初めて見た響と未来、惣一は首を傾げるしかない。

 

「あー、お三方はまだ知らないんだっけ?」

 

「昨日は居なかったから、仕方がないと思う」

 

気づいた奏がそう言うと、補足するように翼が続きを話した。

 

「そういえばそうだったな。彼女は我々二課の技術顧問だ」

 

「初めまして。技術顧問の『亡』です。よろしくお願いします」

 

丁寧なお辞儀と言葉遣いをしながら、亡と名乗る。それに釣られるように三人も自己紹介をした。

 

「亡くんは何でも知り合いを探してるらしくてね、技術顧問として働いてくれてる代わりに我々も探しているってわけだ」

 

「・・・その話は今はいいかと。それより『()()』に異常はありませんでした」

 

「そうか・・・それは良かった」

 

アレと呼ばれたものに弦十郎だけではなく、二課のメンバーたち全員が安堵の息を吐く。

それが何か分からないからか、惣一が代表して聞くことにした。

 

「アレって?」

 

「そこは私が説明させて貰うわ」

 

了子から語られたのは、『ギャラルホルン』と呼ばれる二課が保有する完全聖遺物のことだった。

ギャラルホルンには2つの似て非なる世界を繋ぐ力を持つが、人間が世界間を移動するためにはシンフォギアを纏う必要がある。つまり、並行世界と自分たちが今いる世界を繋げるための鍵ということだ。暴走が起きればどんなことが起こるか分からないため、空いている時間があれば確認してるとのこと。

 

「そんなものが・・・」

 

「なるほどなぁ・・・って響ちゃん、大丈夫か!?」

 

「全然分かりません・・・」

 

あはは、と苦笑いする響に了子が暴走したら危険だけど普段は安全なモノだということを簡単に伝えている。

 

「そういえば、新しい仮面ライダーと装者が現れたそうですが」

 

そんな二人を他所に、思い出したかのように亡が口に出す。

 

「うむ、ガングニールを纏う立花響くんと仮面ライダーエボルと言う仮面ライダーに変身するらしい---」

 

「石動惣一だ。喫茶店をやってるからマスターって呼んでくれても構わないけどな」

 

「そうですか。もう一つのガングニール・・・それに()()()()と何か関係が?」

 

「ゼロワン?」

 

亡の言ったゼロワンと言う存在を知らないため、いつの間にか戻ってきていた響が聞く。未来も知らないようで、視線が集まっていた。惣一は何となく視線を向けている。

 

「あたしらの方が知ってるかな。響には思い出させちゃって悪いんだけどさ、二年前のライブに突如として現れた仮面ライダーがそのゼロワンってわけ。あたしが絶唱・・・簡単に言えば諸刃の剣といえる奥の手のことだけど、それを使おうとした時に現れたんだ」

 

「二年前・・・」

 

「響・・・。あっ、その方は今は居ないんですか・・・?」

 

心配といった表情で響を未来が見るが、一度も見てないことに気づいて居ないのかと聞いていた。

 

「ある時から突如として姿を消した。私と奏は何度かゼロワンと共闘することが多かったけど、暫くは見たことがない」

 

「それじゃあ、アークゼロってのはゼロワンと同じようなもんかねぇ?」

 

「そこは分からないけど、明らかに行動が違うわね」

 

「アークゼロって何を目的なのか分かってないんだよね。さっきだって本当かどうか分からないし」

 

「まあ、その分ゼロワンは人を守ってたようだったけど」

 

画像やら情報を出していた友里と藤尭が了子の言葉を補足するように呟く。

 

「僕たちでも探れてきれてないので未だに謎の存在です」

 

「兎に角、だ。そうだとしても俺たちのやることは変わらない。---っと。もうこんな時間か・・・今日は何も無いから解散してくれ。特に、響くんや未来くん、翼は学校もあるからな」

 

「じゃ、俺も店に戻るか・・・」

 

言っておきたい情報は全て話したからか、弦十郎の言葉でお開きとなり、寮へと戻っていく者や、学生組が帰る中、惣一も帰ろうとしていた。

 

「あぁ、マスター。もし遠いならば我々の方で拠点となる家を用意しておくが・・・」

 

「いや、その言葉だけで十分さ。じゃあな」

 

「そうか。なら困ったことがあったら何か言ってくれ」

 

「その時はそうさせてもらうよ」

 

惣一は歩きながら手を後ろで振り、その場から去っていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アークゼロ・・・か。最後の俺の一撃。あの一瞬でガードするとはなァ・・・。もしかしたら()()()を早めに使えるようにしないと行けない、か」

 

帰り道、惣一が取り出したモノは石化しているナニカの()()()()らしきモノ。先ほどの戦闘を思い返しているのか、それを見つめ、少しして懐に入れた。

 

「それにしたって・・・アルトのやつ、この展開を予想してたのか? 敵に回るつもりはなかったが、つくづく敵に回したくないやつだよ。・・・全く、何処に行ったのやら。死んでなけりゃいいんだがなぁ」

 

小声で独り言を呟いていた惣一は、死んでたら楽しみが減るし、と付け加えた後にお店へと戻って行った。

 




偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
記憶繧貞叙繧戻したら縺励>縺特に変わっ縺溘%縺ィ縺ッ縺ェ縺みたいだ。なので、影?ゥ縺ッ縺ェいだろう。

偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
想定よりもメインヒロインしてるよ・・・アーク様が怪我したのではないかと心配。

エボルト
エボルトォォオオオォォオォオオォォ!!
ま さ か の 味 方 ル ー ト
キルバス撃破後。
アルトは感情がない点で似てるようで似てなく、戦兎たちに近い心持ちをしているので期待している。お気に入りらしい。
アークゼロ戦は互いに全力を出していない(スペック半減状態VS2%)
二次創作特有の弱体化&トリガー石化中


ゼロワン本編の亡ではないため、並行世界(この世界)の亡。
便宜上三人称では『彼女』。

風鳴弦十郎
OTONA代表。
アークゼロの行動に危険を感じたから仕方なく不意打ちで攻撃。地面がやばい事になってる。

ギャラルホルン
完全聖遺物。
ゲームの異変(イベント)はコイツのせい。世界を繋げるやべーやつ。シンフォギア知らない人のために仮面ライダーで説明すると、エグゼイド達とビルドの世界を繋いだエニグマをめっちゃ安全にしたやつ。

アルト/百合の間に挟まった男
最後の最後で行った行動により、アークゼロが予測不可能となっていた。現在は(響たち視点だと)消息不明。


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第五話 不法侵入


うわぁ、サブタイトルのネタ切れ感半端ねぇ・・・。
そしてこの話書いてて自分でも思ったんですけど・・・シンくん、君ほんとに人間?自分で書いててそう思うとか訳わかんねぇなこれ()





 

 

『---りん■■浮か■だ■■■・・・』

 

暗い、暗い何処か。不安で、辛くて、怖くて、それでもやらなくちゃ行けなくて、毎日毎日と続くナニカ。

だけど、どうしようもなく怖くて耐えれなかった時。いつも()があった。誰かの、温もりがあった。

 

『--りん■■落っ■■た地べ■■・・・』

 

その人はいつも真っ白で、顔も姿も霧がかかったように見えない。

私はその歌が、歌声がとても好きで、聴くだけで安心することが出来た。

けれど、私にはソレが何なのかは、一切分からない。そして今日も夢が覚める。覚めてしまうと理解した瞬間、そこで真っ暗な世界へと切り替わった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---?」

 

声が聞こえる。男の人の声だ。

でも、確かに温かくて、月の光に包まれているように安心出来る・・・そんな優しい声。

 

「お---セレ---?」

 

体が優しく揺らされ、もう少しだけ意識を沈ませていたい気持ちを少し抱きつつも、欲に従わずに逆らい、意識を浮上させる。

 

「セレナ。ご飯出来て---」

 

「ッ!?」

 

「あ、おい!?」

 

ぼーっと朧気になっている意識から少しずつ鮮明になる視界。

ある程度見えるようになると、かなり近い位置にあった男の人の顔に驚いて、慌てて下がり---思い切りヘッドボードに頭を打った。

 

「痛っ!?」

 

「ちょ・・・大丈夫か?」

 

「ぁ---は、はい」

 

打った箇所を抑えながら顔に熱が籠るのを感じつつ、心を落ち着かせる。

先ほどの衝撃で目が完全に覚めた私は、その人を見た。白髪で赤い瞳、それだけだと少し怖い印象を与えるだろうけれども、私を見るその人の瞳はとても優しい。それに、頭をぶつけただけなのに少し大袈裟な様子には思わず笑ってしまう。

()()()()()()()()()()()()

 

「とりあえず、なにか冷やすものを---」

 

「いいえ、大丈夫です。ちょっとぶつけちゃっただけですから」

 

このままだと無駄に心配かけてしまうため、素直に言っておきます。

なにより、今はこの人に迷惑を掛けたくないから。

 

「そうか・・・ちょっと失礼」

 

「わっ」

 

だけど、その人は私に一言だけ入れると私の頭に触れる。

手から感じる温もりに安堵と嬉しさを感じるが、撫でるように触れられた手がすぐに離れて少し寂しく感じた。

 

「確かに、大丈夫そうだな」

 

「あはは・・・今のシンさんより大丈夫です。私の方は、ほぼ痛み消えましたし」

 

「・・・否定出来ないな」

 

表に出さないようにしながら苦笑いした彼---シンさんの左腕を見て、次に右腕を見る。

左には包帯が丁寧に巻かれていて、右腕にはギブスが付けられていた。

両腕は()()()()()で怪我をしたらしく、特に右腕が紫色になってました。それを知った時には慌てて治療した記憶があります。

実際には骨は折れてないみたいだけど、心配した私たちが無理矢理した感じ・・・だったような。

 

「まあ、着替えとかあるだろうし外で待っておく」

 

「あっ・・・そ、そうですね。少し待ってください!」

 

部屋を出ていく後ろ姿を見ながら、慌てて返事する。

手を振りながら部屋を出ていったその後ろ姿も、先ほどの様子も、()()()()()()()ことに安心しました。

 

「・・・良かった」

 

もし、彼が変わっていたらどうしようって思ってたから、本当に良かった。私が知る人が別人になってたら? それほど怖いものは無い。私は今のシンさんしか知らないから、別人になってたらどう対応したらいいか分からなくなると思う。

もちろん、()()()()()()のは良かったとは思うし私だって()()()()()ので他人事じゃないですが・・・。ただシンさんにも昨日まで記憶がなかったらしいです。

同じ境遇の私たちだったけど、昨日思い出したと聞いて少し不安でした。

 

「着替えなきゃ」

 

あまり待たせるのも申し訳ないため、慌てて部屋着に着替えて髪の毛などもしっかり確認。何も乱れてないと分かると、部屋を出る。

 

「お待たせしましたっ!」

 

「じゃ、行くか。アズ待たせてるしな」

 

「はい!」

 

先に行ってくれても良かったのに、待っててくれたことに心が温まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそーい」

 

「悪いな、アズ」

 

リビングに戻ると、シンさんにアズと呼ばれた愛乃姉さんに頭を下げる。

 

「ごめんなさい愛乃姉さん。私が頭打ってしまって・・・」

 

「そうだったの? 大丈夫?」

 

「はい、平気です」

 

シンさんと同じように心配してくれたことに、嬉しいという思いがふつふつと湧き上がってくるのを感じる。

 

「ん、それならいいけど。じゃあ、食べましょうか」

 

「そうですね!」

 

私とシンさんも席に着き、手を合わせて頂きます、と感謝を込めて言います。

今日の献立は鮭と味噌汁、目玉焼き、白米と言ったモノです。愛乃姉さんは家事も得意ですし、美人さんなので少し羨ましかったりします・・・。『家事は理由があって昔出来なかったけど、アーク様の為に必死に練習した』と愛乃姉さんは言ってましたけど。

 

「・・・やっぱり食べづらいな」

 

両腕が怪我してるため、左手でも少し食べづらそうにしてるシンさんの姿が見える。

すると---

 

「はい、アークさま♡」

 

「いや別に後で---」

 

「あーん♡」

 

「・・・・・」

 

気づいた愛乃姉さんが、有無を言わせずに口元に近づけ、少し迷いつつシンさんが食べている姿があった。

 

「アークさま、おいしい?」

 

「・・・ああ」

 

質問の答えを聞くと、ニコニコと愛乃姉さんが嬉しそうに見つめていました。

 

「・・・シンさんっ」

 

「なん---むぐ?」

 

名前を呼ぶと、此方に顔を向けながら口を開けたタイミングで、息を吹きかけておいたご飯をそっと口の中に入れる。

 

「どう・・・ですか?」

 

「---いや、味は変わらないし美味しいが、先に食べててもいいんだぞ?」

 

むぅ・・・そういう訳で聞いた訳じゃないんですけど・・・。この場合優しいというべきなのか、それとも・・・?

 

「アークさまにも食べて欲しいんだもの。あ、それとも恥ずかしい? そんなアークさまも可愛いけど♡」

 

「・・・うん、まあそれでいいか」

 

あ、もう諦めたような表情をしてます。愛乃姉さん、こういうの強いからなぁ・・・。下手に口出して何度からかわれたことか・・・でも、愛乃姉さんがそんな愛情表現と言えることをするのはシンさんだけ、というのは分かってます。

実はそんな一途な愛乃姉さんも可愛いなぁ、とは密かに思ってますけど・・・シンさんも嫌ではなさそうです。普段はしないけど愛乃姉さんが顔赤めるくらいの反撃をたまにしてて凄いと思ってますし。

 

「そ、そういえぱ・・・その、記憶って・・・?」

 

何か話題を逸らそうと考え、浮かんだのはやはり記憶でした。昨日は思い出したとは聞きましたが、全ては聞けませんでしたから・・・。

 

「ん、ああ。全部ではない・・・というか全部は思い出せない、が正しいか? オレの記憶にあるのは二年前のライブ。それと、どういう経緯で()()()()()か、だ。結局、全部思い出そうが出さなかったとしてもオレがオレであることには変わらない。だから安心してくれ」

 

そう言って、見抜かれていたのか私の頭を撫でながら優しい眼差しで見てくる姿に少しドキッとする。

 

「そ、そうですよね・・・えへへ、良かったです」

 

心地よい感覚に身を委ねがら、自然と笑みが浮かぶ。

そして先ほどの言葉を考えると・・・こうなった、というのは恐らく・・・()()()()、となってることでしょうか。シンさんは別に悪いこと・・・いや、一つ街は破壊したらしいですけど、それも生存者? を守るためにしたみたいですし実際に私にも優しくしてくれるのに、どうしてシンさんを・・・。

 

「滅ぼす? ---アークさまを私だけのにするなら---まあセレナはいいにしても・・・

 

綺麗と思えるほどニコニコとした笑顔なのに、物騒な事と一緒にぼそぼそと何かを呟いてる愛乃姉さんから、凄く黒いオーラのようなものが見えます・・・。

 

「いや、まだやる気は・・・あぁ、そうだ。明日はアイツの所に行くが、セレナも来るか?」

 

「いいんですかッ!?」

 

物騒な言葉については忘れ、シンさんの言葉に体が前のめりになる。

 

「お、おう・・・」

 

「あっ、すみません・・・」

 

身を引くシンさんを見て、自らかなり接近していることに気づくと、顔が赤くなるのを感じながら席に座る。

 

「・・・まぁ、何か準備するならしといてくれ。どちらにしてもオレは行かないといけないし」

 

「はい!」

 

元気よく返事をするが、先を考えるとちょっとだけ暗い気持ちになる。

正直、私は戦って欲しいとは思ってないですし私自身も戦いたいとは思ってません。でも、もし戦わないといけないのなら、きっと---どちらにせよ、私自身も強くはならないといけませんよね・・・出来るなら傷つけるなんてしたくないけど、するかどうかは別として自分や大切な人を守るための力は必要になる。

だから明日は()()を持っていって修行を付けてもらわないと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「さて、じゃあ準備は良いな?」

 

次の日になると、少しはマシになったのか両腕の包帯やらギブスを外したシンが、黒のベルトを付けて二人に聞いていた。

 

「はい!」

 

「私も大丈夫」

 

明るく返事するセレナと、特に変わらず返事するアズ。

そんな二人の対比に苦笑いしたシンは、ベルトの上部を押してアークゼロへと変身を遂げる。

変身を終えると、傷つけるものではなく、二人を護るためにオーラで身を包み込んだ後、抱えて飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ここで一つ。

皆さんは特に約束したわけでもなく、事情や経緯などを話した訳ではなく、唐突に家に来て遊ぼうなどと言われて『良いよ』と答えられるだろうか? 幼い頃ならそれは出来ただろう。

しかし、成長すると自然とやりたいことなども出てくるのが人間。

例えば大人。仕事などで忙しいのに突然来た友達に言われたら、予定を潰してても遊ぶ人などたくさんは居ないだろう。

特に、現代社会はゲームという娯楽や動画がたくさんある。もちろん、遊ぶ人もいるだろうが、申し訳なく思いつつ断る人も居るはずだ。

分かりづらいのであれば、会社で例えよう。

有名な会社の社長にアポを取らずに会えると思うだろうか? それは否。普通は追い返されるだろう。

アポを取らずに会える場合もあるだろうが、フィクションだろうが大抵は帰らされる。無理矢理入ろうとしたら物理的に帰らされることもあるかもしれない。

他にも、裏口からの侵入・・・つまり不法侵入者が居たとしよう。人によっては警察に連絡を。人によっては倒そうとするだろう。

じゃあ、もし己に人智を超える力があるなら? 相手は泥棒、または目的の分からない相手、もしかしたら人を殺すことに快楽を覚えた殺人鬼かもしれない。

そんな相手をそのまま放置する? いいや、力があるなら当然、捕まえるためにも自身を守るためにも、逃げるためにも迎撃する。

つまり、だ。何が言いたいのかと言えば---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た---うおっ!?」

 

当然、侵入者は迎撃されるのである。

 

「シンさーん!?」

 

変身を解除した瞬間、明らかにシンだけを狙った攻撃---とてつもない突風がシンだけを吹き飛ばしていった。

 

「セレナ、大丈夫よ。アークさま受け止めてたし」

 

アズの言葉通り、シンは変身解除したにも関わらず手からバリアのようなモノを貼っており、ただ風に吹き飛ばされただけだ。

いや、正確には完全に防ごうとしてセレナとアズを優先したからこそ、間に合わずに一人だけ吹き飛んだのだが。

そしてアズは特に慌てるようなことも無く、シンを吹き飛ばしたであろう犯人が居る方を向いた。

そこには---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい・・・オレはお前に()()()()()()()()を渡してるだろうッ! 何故()()()侵入する形で入ってくる!? そもそもどうやってここを探し出してるんだッ!!」

 

「もー怒らないの。そんな怒ってもアークさまは吹き飛んじゃったから答えられないと思うのだけど? ね、()()()()?」

 

「・・・ふん」

 

何処か不機嫌そうな表情で見下ろすのは、赤いドレスに金色の綺麗な髪を三つ編みにし、顔は整ってるといえる童顔の一人の少女---キャロル・マールス・ディーンハイムだった。

 

 





〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
エボルトの縺帙>縺ァ両腕諤ェ我中。
莠コ髢捺?でバリアを貼繧九↑

〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
物騒なことをよく言ってるが、純粋にアーク様が大好きなだけ。
セレナは認めてるというかアズからしたら妹感覚。

〇セレナ・カデンツヴァナ・イヴ
記憶喪失らしいが、何故記憶喪失なのかは不明。しかし、夢でそれっぽいのは何度か見てる。
シンが何か変わってないか心配だったけど全く変わってなかったから安心。
因みにシンの何気ない優しさや気遣いにドキッとすることが結構ある。
アレってなんですか

〇キャロル・マールス・ディーンハイム
シンくんが何度か言ってたアイツこそがキャロル。
彼女からしたら見つけることの出来ないはずのシャトーに家にでも帰ってくるような感覚で何度も侵入されてるから、我慢出来ずにふっ飛ばすのは仕方がないね。
(殺さないようにかなり手加減されてる)錬金術で(変身解除してるとはいえ)シンくんをあっさりと吹き飛ばしてる点から彼女の強さが分かるだろう。


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第六話 カレラの関係性は


今回はシンくんの目的とかちょっとは分かるんじゃないですかね・・・日常編やってもいいのですけど、いらんって人も居そうなのであと一話ぐらいやったらあの子が出るとこまで行くと思います。
いるなら番外編辺りでやるかな・・・これからキャロルちゃんは出るだろうけど・・・たぶん。

ところで皆様、覚えてますか?週一投稿無理になるという発言・・・ええ、そうです。作者自身が昨日まで忘れてましたが、これが投稿無理詐欺です。むしろ増えてるんだよなぁ・・・()最近スランプ地味なので今回こそ落ちるかも
では、本編どうぞ





 

 

 

 

「派手に飛んできたものだ」

 

「何をしてるんだゾ? お昼寝ならあたしも一緒にするゾ」

 

「レイアの言う通り派手だが、これが昼寝に見えるならオレはミカに気のせいだと言いたいのだが?」

 

先ほどチフォージュ・シャトーに侵入して吹っ飛ばされ、寝転んだ状態の少年---シンは黄色が目立つ女性、レイア・ダラーヒムと無邪気さを感じさせる表情でシンの顔を首を傾げながら見てる赤色の巨大な爪を持つ少女、ミカ・ジャウカーンを見てため息を吐いていた。

 

「なんでオレは吹き飛ばされたんだ・・・酷くないか?」

 

「勝手に侵入したあんたが悪いと思うわよぉ? 吹っ飛び方は中々に笑わせて貰ったけど」

 

「相変わらず性根(しょうね)が腐ってるな、ガリィ」

 

寝転んだ状態から片膝を立てて座ったシンは青色が目立つ少女、ガリィ・トゥーマーンを見て名を呼んだ。

 

「仕方がないでしょ? ガリィはマスターの思考パターンを一部引き継いでるだけですし☆」

 

「・・・キャロルに同情するよ」

 

心なしか、シンの表情が僅かに嫌そうな表情になるが、すぐに苦笑いへと変わる。

 

「それよりシンさん。マスターがお呼びですわ」

 

「あぁ、ファラか。分かった・・・ってかオートスコアラー全員集合か」

 

緑が目立つ女性---ファラ・スユーフを見てシンは立ち上がって見渡すと、囲んでるような位置に全員が居る。

 

「いやぁ〜だって一人じゃ心細いですしぃ? きゃー私、性的に襲われるの困っちゃう〜」

 

「そんな棒読みで言っても意味が無いし、誰が襲うか。絶対にやらないけど仮にしたらオレは殺されるだろ・・・」

 

「アハハハ。ま、あたしらを襲ったらその後にあの子とおチビちゃんに報告してあげるわよ〜♪」

 

「・・・生まれてこの方、初めて誰かを叩きたいと思ったかもしれない」

 

「戦いならあたしは大歓迎だゾ」

 

「そうじゃないんだけどなぁ・・・」

 

珍しく困った表情をして頬を掻いたシンは、主にガリィの相手をするのを諦めてファラの案内について行くことにした。

因みにシンの腰にはベルトが付けられたままであるが、足元に黒い沼や文字などは発生してない。

オートスコアラーたちに影響を与えるからか、はたまた純粋に邪魔だからか、制御してるかのように終始微塵も発生していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? 貴様はオレが渡したテレポートジェムを使うのを忘れて、オレに無駄に警戒させるだけさせたということか?」

 

「いや、侵入する形になってそうさせたのは申し訳ないと思ってるが・・・記憶戻ったせいで混乱してたのは少しある。貰ってたこと忘れるくらいには」

 

この場には高級そうな椅子に座って肘を付き、何処か怒ってる少女、キャロルと申し訳なさそうにしながら座り込んでるシンの姿があった。

 

「なに? ・・・いや、そうか。だったら今回だけは見逃してやる---ただし! 次はないと思えよ?」

 

「分かってるって。その代わり()()()ちゃんと()()()はやるし」

 

「当然だ。ただ遊びに来ただけなら追い返しているからな」

 

ただの知り合いではなく、何処か親しげ、というより信頼してる同士のようにも見える空気で話してる二人。

その一方で---

 

「今日はやるのか〜? あたしはいつでもいいゾ?」

 

「あ、ミカさん! 鍛錬お願いしたいんですけど・・・もう少しだけ待ってくれませんか? シンさんが居ないとまだ不安で・・・」

 

「お熱いわねぇ〜大切な人が居ないと不安・・・まるで恋する乙女って感じかしらぁ?」

 

「へっ!? が、ガリィさん・・・ち、違います!」

 

「あらら、顔を真っ赤にしちゃって答えを言ってるようなものじゃない。まあ、こんなガリィでもマスターを想う気持ちはしっかりとありますしねぇ」

 

「あ、あうぅ・・・」

 

羞恥心でか、顔が真っ赤になったセレナはガリィに揶揄われている。しかし、傍にいるのは純粋なミカなせいで彼女を止められる人間が居なかった。

まあ、ミカからしてみれば、自分もマスターであるキャロルは好きだということしか考えてないかもしれないのだが。

 

「・・・地味な会話だ」

 

「分かりづらい言葉やめて欲しいのだけど」

 

そんなセレナたちを見ても止めることはせずに見守るのが保護者組---ではなく、レイア、ファラ、アズだった。

だが、アズは明らかに早く向かいたいと言うように視線はシンから外れてない。

 

「ふふ」

 

「なにかあった?」

 

突然ファラが笑ったからか、アズは一度、それはもう仕方がなくと言うほどに視線をファラに移すと首を傾げていた。

 

「いいえ、ただ『主人』に従える身としてやはり似ていると思っただけですから」

 

「ふーん・・・まぁ、確かに。貴女たちからもマスター・・・この場合キャロルに対する想いだけど、十分伝わって来るわ。・・・キャロルとアークさま、少し似てるからかもね」

 

興味を無くしたのか、視線をシンとキャロルに移したアズは何処か意味深なことを口にした。

 

「えぇ、私たちはオートスコアラー。マスターの命令を遂行するための存在ですが、皆マスターの幸せを願ってますからね」

 

「私たちに出来るのは地味に手伝うだけだ」

 

「・・・ほんっと、悲しくなっちゃう。全部全部、人間が悪いのに。似た者同士、か・・・」

 

まあ、私も人間だけど、と付け加え、アズは何処か悲しげに二人を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「立花響、それに仮面ライダーエボル・・・前者は予想通りとは言えど、後者は厄介だな」

 

「ああ、後者はオレの予測が通用しないわ、半分の力しか出せないとは言え、オレと互角に戦ってきたし・・・邪魔な存在になるぞ、アイツ」

 

「お前にそこまで言わせる相手とは・・・何者だ? ソイツは」

 

「さぁ? 戦ってみた感想としては現在の技量的にはラーニング能力があるオレより高そうだし宇宙人---地球外生命体とか、そんな感じじゃないか?」

 

彼女たちがそんなことを話してることなど知らず、此方は真面目に現れた存在などについて話し合っていた。

 

「どちらにせよ、邪魔か・・・」

 

「逆手に取るならば、アイツが存在する限り装者の命は保障されるだろうな。オレから守ってたし」

 

「確かにその手はあるが・・・」

 

「相手も予想してるかもしれない、だろ?」

 

「ああ」

 

シンの言葉に頷いたキャロルは深く考え込むように俯く。

 

「まあ、いざとなればオレが全力で戦うし心配するなって」

 

「心配などしてない・・・それと撫でるな」

 

「撫でやすい身長なせいでつい・・・」

 

「バカにしてるのか?」

 

「まさか。可愛いらしいと思うぞ、うん」

 

撫でるのをやめたシンは今にも怒りそうなキャロルに苦笑いしつつ『どうどう』と宥めていた。

それのせいで逆に怒ってシンが叩かれたのだが、そこはご愛嬌。

 

 

「・・・なぁ、キャロル」

 

「・・・なんだ?」

 

すると、先ほどの雰囲気から一転し、真面目そうな表情で立ち上がったシンはキャロルを正面から見つめた。

それを見たからか、キャロルも怒りを鎮めて真面目な顔となる。

 

「・・・本当に気持ちは変わらないのか? まだ引き返せるはずだ。確かにお前の過去は知ってるが、オレは---」

 

「それ以上喋るな」

 

「・・・・・・」

 

シンの口からそんな言葉が出てきた瞬間、一気に空気が重たくなる、キャロルからシンに向かって放たれた圧で重たくなっているのだ。

 

「・・・オレもオートスコアラーたちの起動をし続けられていることに感謝はしている。だが、それ以上は言うな。オレがやることは変わらない・・・奇跡は殺すッ! それだけだ」

 

「全てが憎い、か・・・。でもお前は()()になる必要はないんだぞ」

 

「・・・ふん」

 

「一つ、オレは可能性を捨てて欲しくない。確かにオレは人間の悪意によって生まれ、悪意によって殺されたような存在。でもオレを救ってくれたやつもいる・・・お前を含めてな。だからもっと世界を知って、人間を知れ。それで知った答えが本当に今お前が成したいこと、答えなら---オレが代わりに全てを滅ぼしてやる。オレはアーク、人類の敵で()()()()()()なんだから」

 

それはすなわち、キャロルの手は汚させないと、全ての罪を引き受けるという言葉。

 

「けどまあ・・・やるかやらないかはお前が決めることだ。どちらにせよ、協力はする」

 

そんな言葉を最後に掛け、シンはアズやオートスコアラーたちの元へと向かっていく。

 

「・・・相変わらず、食えないやつだ。だがオレも少しは影響された、か」

 

シンの背中を見つめながらキャロルはそんな言葉を口にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「アークさま、大丈夫? 何か怒らせてたみたいだけど・・・」

 

「まぁ、ちょっと・・・別に何かあったってわけじゃないから気にしないでくれ」

 

「それならいいけど・・・」

 

すぐに駆け寄ったアズは先ほどのことを心配するが、シンが平気そうに返したからか深く追求はしなかった。

 

「あー、もうびっくりさせないでくれない? 色々な意味で死ぬかと思ったわよ・・・あんた、自殺願望なんてあったっけ?」

 

「離れてたのにここまで来るのは流石あたし達のマスターだゾ・・・」

 

純粋に驚いたというミカと明らかに文句を言いに来たであろうガリィの姿にシンが苦笑いした。

 

「確かに完全に怒らせたらやばそうだけど自殺願望はない。・・・まぁ、戦うつもりはないけど、な」

 

「当然でしょ、もしマスターを傷つけるなら---」

 

「殺す、だろ。その時は素直に殺されるが」

 

「ちょ、ちょっと・・・アークさま!?」

 

会話を聞いていたアズが珍しく慌てた様子を見せ、シンがぽふ、と頭に手を置き撫でて落ち着かせていた。

 

「それならいいのよ。まぁ・・・一応、感謝はしてるけど

 

「え?なんだって?」

 

「うっさいッ! 殺すわよッ!」

 

「いや、理不尽だな!?」

 

「戦うのか? だったらあたしがやるゾ!」

 

「アークさまアークさま・・・」

 

「これは、オレにどうしろと・・・?」

 

「派手に行ってきたらどうだ?」

 

「さ、流石にシンさんが大変そうなのでやめておきます・・・」

 

「モテモテですね、シンさん」

 

不安となったアズがシンに顔を押し付けたまま離れなくなったり、シンがガリィからは理不尽なことを言われ続けたりミカが余計に話を拗らせたりしたのだが、キャロルが戻ってくるまで続いたという---ちなみに、その時にはシンは疲れ切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アークライズ・・・

 

オール・ゼロ・・・

 

シャトー内部にある広大な広さだけが特徴のその部屋は、シャトーの主たるキャロルでさえもその部屋の存在を忘れかける程に誰にも使われる事がなかった。

最初は倉庫・・・と言えば聞こえが良いのだが、本当はいらない物をただ押し込めただけの汚部屋。つまりゴミ箱みたいな場所なのだが、そんな部屋を掃除して整理し、今はある目的の為に利用されている。

 

「いくゾ〜♪」

 

「来い」

 

禍々しさを感じさせるほど黒い仮面に身を包んだ少年---アークゼロは迫ってくる存在であるミカ相手に構える。

彼女は当たれば凶悪そうな巨大な爪をアークゼロに向かって容赦なく引っ掻こうとする。それを正面から受け止め、迫ってくるもう一つの爪に至っては身を逸らして避け、受け止めてる爪を弾こうとしてミカが跳ぶ。

空を跳んだミカに対し、アークゼロは指先をミカに構える。そして放とうと---

 

「そこですッ!」

 

せず、背後から気配すら殺して近づいたはずだったセレナの攻撃を、いつの間にか手にしていたアタッシュカリバーで受け止めた。

 

「予測済みだ」

 

「ッ! でも・・・!」

 

力では勝てないと理解してるのか、セレナは自身の持つ剣でアタッシュカリバーを滑らすように逸らし、もう一度振るう。そこへ空中から落ちてきたミカがアークゼロにカーボンロッドを振り下ろした。まさに不意打ちの一撃。

 

「おっと・・・上手いな」

 

しかし、その攻撃はアークゼロのバリアによって防がれ、アークゼロは即座にミカの上部に向かって三発光線を放ち、避けきれなかったのかミカの頭の上から破裂音が響いた。

 

「あー!? 忘れちゃってたゾ・・・む〜」

 

「思い出が満タンじゃないのによく出来た方だと思うが・・・ミカがルール忘れてなかったら不味かったかもしれないな」

 

ルールというものは、もとよりアークゼロはオートスコアラーであるミカを壊す訳にも行かず、かといって傷つける訳にも行けないしセレナを傷つけられるのも避けたい。ということで悩んだ末にセレナが提案した案を採用したわけだ。そのルールは簡単。ただただ風船を割れば勝ち。

しかし、どうでもいい欠点を挙げるならば、アークゼロに付けられるというのは中々に滑稽である・・・ということぐらいか。

 

「さて、残りはセレナだが---居ないな」

 

アークゼロが周囲を見渡すと、セレナの姿は消えていた。それでも警戒したまま居続け、暫くすると僅かにだが警戒が緩む。

 

「いま・・・!」

 

すると、何処からか現れたのかセレナが壁を蹴り、凄まじい速さでアークゼロへと迫る。そんなセレナに対してアークゼロは動かず、変身を解いた。

理由としては---

 

「ふにゃ!?」

 

アークゼロ・・・シンが居た位置より僅かに逸れ、そのままの速さで顔から地面に落ちたからである。

もし位置が合ってたのであれば、先に割ることも出来たかもしれない。

 

「終わりっと」

 

すると歩いてセレナに近づいたシンは風船を中指で弾き、それで風船が割れる。

 

「うぅ・・・いたい・・・」

 

「ほら、大丈夫か?」

 

「は、はい・・・」

 

シンが声をかけながら手を差し伸べると、セレナはその手を取って立ち上がる。だが起き上がったセレナは勢いが強すぎたせいか額と鼻は赤くなっており、若干涙目となっている。

 

「あー・・・ミカ。ちょっと待っててくれ」

 

「分かったゾ! でも早く続きがしたいんだゾ・・・」

 

「はいはい。セレナ動けるか?」

 

「はい・・・」

 

「じゃ、こっち来てくれ」

 

相変わらずのミカに苦笑いしながらシンはセレナの手を取ったままゆっくりと連れていく。少し離れた位置に行くと、その辺にあった椅子を引き寄せてセレナを座らせた。

そしてガサゴソと捜索して救急箱を見つけると、ガーゼを取り出して額と鼻に優しく貼る。

 

「これでよしっと」

 

「すみません・・・」

 

「いや、まだ作ってそんなに経ってない力だ。それに神話として語られてる力と一致してないし、別に謝ることじゃない。だけど、女の子なんだから顔は大切にしろよ?」

 

シンはセレナに言葉を返しつつ救急箱を元あった位置に戻し、ついでにと言わんばかりに綺麗にしていた。

 

「そ、そうですよね・・・」

 

「あぁ、特にセレナは可愛いんだし。・・・あまり言いたくないが、ここに居るヤツらは美人やら可愛いやつばかりだとは思うが」

 

「か、かわ・・・!? あぅ・・・」

 

シンにとっては平気そうに言ってることから、なんてことの無い言葉なのだろうが、セレナはこれでも記憶はなくとも恋愛経験はなさそうな行動をする。そのため、彼女は顔を赤めた。

 

「あれ、セレナ・・・?」

 

「うぅー・・・そういうとこですっ!」

 

「褒めたらダメなのか・・・」

 

「そ、そういうわけでは・・・ええと、もう行きますね? ミカさん待ってますし・・・!」

 

「あぁ、ならオレは今日はもう付き合えないって言っておいてくれ」

 

「わかりました」

 

そう言ってセレナが戻っていく姿をシンは見つめ、そのまま部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()とファウストローブ、か・・・セレナが()を使うことになるのは運命ってやつかもな。ただアガートラームとかいうモノは神話通りでは右腕だったような・・・? 何か理由が・・・?」

 

ふと振り返り、今もセレナの鍛錬に付き合ってるあろうミカが居る部屋を見つめながら思い出すように考えて唸るが、結論が出なかったのかシンはキャロルが居るであろう場所へと向かっていった。

 

 

 





〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
なにやら濶イ縲?→知っている讒伜ュだが・・・?
繧ケ繝代う繝医ロ繧ャの制御縺後〒縺阪※縺?kっぽい。

〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
この子は一体何を知ってるんだろう・・・アーク様好きということしか分かんね()

〇セレナ・カデンツヴァナ・イヴ
可愛い。

神話詳しい人は分かると思うが、分からない人に解説させて貰うとアガートラームというのはケルト神話の主神・ヌァザ(ヌアザ)を称える異名(神格)の『ヌァザ・アガートラーム(銀の腕のヌァザ)』を意味し、医療の神であるディアン・ケヒトと、工芸の神ゴヴニュが作った銀製の義手(右腕)を身に付け、王の座に返り咲いたと言われている。
シンフォギア見た人は分かるだろうけど実はそのアガートラームは・・・?
ちなみにファウストローブは錬金技術の粋によってプロテクターとして錬成ッ!したやつ。

〇キャロル・マールス・ディーンハイム
シンくんたちと何があったのかは過去編見て♡(※ないです)




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第七話 それでもカレは、カノジョたちの幸せを


えー、メイドの日にその話を急ピッチで仕上げて頭痛に襲われるという馬鹿なことをしましたが、今回は此方です。

そして!なにやら(編集終了時点で)お気に入り登録者600人近いようで・・・ありがとうございます!気がつくと、100人以下だったのにランキング入りしてからここまで来ました!初期から読んでる人は古参と言っていいと思います!ずっと付いてきてくれてる人には本当に感謝しかないです。特に毎回感想くれる方にはマジで感謝としか言えません。許可なしなので、名前は挙げませんが。
もちろん、最近になって登録してくれたりしてくれる方にも感謝です!
なので!600人が近いということもあり、目標を決めました。まず、完結までに評価者を50人以上---つまり、評価バーをMAXにする。出来れば一期か二期中に30人超えを目指します。あ、別に超えてもただただ作者のやる気が上がるだけで、終わりませんので御安心を。この小説は、死んでも完結させます。
そして個人的には赤バーでMAXにしたいなぁと思ってますが、そこはもう私の技術と読者様の評価次第です。
さて、500文字を超える前に、本編どうぞ!






 

 

 

 

 

---セレナの朝は早い。

といっても、特別に早い訳では無い。彼女にとってそれが()()なのだ。

だいたいは6時前には起床し、身支度は整えて洗面所で顔を洗って目をしっかりと覚ます。それは普段彼女たちが暮らしてる家でも、シャトーであろうが変わらない。もちろん、いつもそうしてる訳では無く、疲れ切った時などは心配したシンが無理矢理寝させたりなどはする。

だが、彼女にとっては早起きするのは当然になっているし健康的な生活ではあるだろう。

 

「よし・・・今日も頑張らないと」

 

しっかりと何度か確認して身支度を整えたセレナは、今日の朝食はどうしようかと呟きながら大きい部屋を出る。

セレナが使ってる部屋は四、五人くらいは一緒に暮らしても問題ないくらいに大きい。そもそもシャトーという巨大要塞とも言えるものなのだから、部屋などは大きいに決まってるのだ。普通くらいの小さな部屋もあるのだが---

 

『既にアイツらも使ってるが、同じ反応をするな。小娘に遠慮されるほどオレは小さくない』

 

という見た目には似つかわしくない大人なキャロルの言葉により、流石にそこまで言われると断るのも(はばか)られる・・・ということで素直に受け取ったのがセレナだった。

 

「とりあえずこの中なら---」

 

セレナはキッチンへと直行し、食材やら昨日の残りであるスープを確認。

すると、悩むように首を傾げ、使えるであろう食材をピックアップしていく。

取り出したものはパン、卵、ベーコン、サラダ---ホットサンドの材料とまさに朝食といったものだった。

作るものは五人分の朝食。なぜならオートスコアラーは食べる必要がないため、食べる必要がある五人分でいいのである。

もう一人は誰なのか?と言われると、それはまだ秘密だ。

 

「あまり朝食で食べすぎてもダメですし・・・これで良いでしょうか」

 

セレナは唯一の異性で男性であるシンのことを思い浮かべる。

そんなセレナは多めにした方がいいのかな? でも健康を考えると食べ過ぎるのも---とまるで主婦のように思考してしまう。

結局、悩んだ末にもう一枚だけ増やそうと考えたセレナはエプロンを着用し、パンを取り出す。

そして先に卵から焼くことにした。

 

「セレナ、おはよ。手伝うことはある?」

 

すると、焼く前にアズがいつの間にか来ており、セレナに聞いていた。

 

「あっ、愛乃姉さん。おはようございます! ホットサンドの予定なので・・・ベーコンとパンをお願いします」

 

「はーい」

 

挨拶を返しながら、セレナは卵・・・目玉焼きを作っていく。その間にアズはパンをポップアップトーストに入れ、ベーコンを焼いていた。

あまり時間が経たないうちにサラダなども作り、焼き終えた後はパンに挟んで完成---と初心者ではない二人にとって、あっさりと終えた。

セレナとアズは完成したそれを持っていき、皿を置いておく。

そしてセレナは時計を確認した。

 

「そろそろでしょうか?」

 

「多分ね」

 

傍に居たアズに確認すると、ちょうど部屋の入口からノックする音。

はーいとセレナが返事し、パタパタと扉の前に行くと開ける。そこには眠そうな顔をしたキャロル。

 

「・・・メニューは?」

 

「ホットサンドとサラダです! あっ、でも昨日の残りのスープが冷蔵庫にありましたけど、温めましょうか?」

 

「・・・そうか。頼む」

 

そう言うと、今にも寝落ちそうな足取りで動くキャロルの姿にセレナは苦笑いしてスープを温めに行く。

 

「ほら、こっち」

 

「・・・あぁ」

 

ふとセレナが視線を移すと、エスコートするようにキャロルの手を取ってアズが洗面所へと案内していた。

それを見たセレナは、やっぱり愛乃姉さん。優しいなぁ・・・と心の中で呟くとスープの様子を見る。

熱すぎず、冷たすぎず、となった頃合には火を止め、そのタイミングで再びノックの音が響く。

すぐ行きます! と声を上げたセレナが開くと、そこには---

 

「おはよう・・・」

 

「あっ、シンさん。おはようございま---って大丈夫ですか!?」

 

ボロボロとなってるシンが居た。

といっても、服は着替えてきたのか新品と言えるくらい綺麗であるが、顔には黒い汚れがあり、髪に至っては少しボサボサになっている。

 

「あぁ、爆発しただけだから、気にしなくていい・・・」

 

「そ、それで流せることではないと思うのですが・・・?」

 

あっさりと流す様子に困惑しながら、セレナはタオルを持ってきてシンに渡していた。

 

「さんきゅ・・・」

 

何処か眠たそうにシンが顔を拭くが、動作がやけに遅い。・・・というか止まっていた。

 

「シンさん、こちらに・・・」

 

「・・・? あぁ」

 

それを見たからか、セレナがシンの手を取って椅子に座らせると、汚れを拭くように水に濡らしたタオルと拭く用のタオルを持ってシンの目の前に立つ。

 

「目、瞑ってくださいね?」

 

「・・・ん」

 

素直に目を閉じた姿に優しく微笑んだセレナは、痛くさせないように優しい手付きで顔の汚れを拭いていく。

 

「痛くないですか?」

 

「・・・ん」

 

セレナが聞くと、シンは僅かに頷くだけ。

あぁ、また無茶したんだな---とセレナは苦笑いしながらも、その手は止まらない。綺麗にしようと拭き、濡らしたところの水を取るため、濡れてないタオルで拭く。

 

「・・・悪い」

 

「いえ、少しはお手伝い出来て良かったです」

 

申し訳なさそうに謝るシンに対して、セレナは微笑むだけだった。

 

「お待たせ、キャロル座れる?」

 

「・・・当たり前だ」

 

アズが椅子を引くと、キャロルはそこに座る。が、やはり眠たそうだ。

一方でアズも座り、セレナも座る。

この場には今にも寝落ちしそうなのが二人、普通に平気な二人と見事分かれていた。

 

「お二人共、大丈夫ですか?」

 

「ここで寝るのはダメよ? ベッドに行かないと体痛めちゃう」

 

流石にその姿を見てか、セレナとアズが言うが---

 

「大丈夫だ・・・三日徹夜でも、まだいける・・・」

 

「寝ておらん・・・目を閉じてるだけだ」

 

シンとキャロルはそう返すだけだった。

 

「それを寝てるというんですよ・・・?」

 

「アークさまも流石に三日以上はやめた方が・・・むしろ私が傍に居て寝かせてあげるべき?

 

ボソッと、何かを呟くアズの姿を他所に、セレナは一度手をパンっと叩いた。

 

「とりあえず、ご飯は食べちゃいましょう? シンさんと()()も食べないと栄養食で済ましそうですし」

 

「・・・楽だし」

 

「・・・時間短縮で尚且つ必要な栄養だけをな」

 

「私的には健康的に食べて欲しいのだけど・・・あとキャロルもそれだと体壊しちゃうわよ?」

 

「とにかく、食べましょう!」

 

明らかに健康を一切考えてない二人にアズとセレナは色々と言うが、このまま居ても変わらないため、いただきますという言葉ともに食べるようにした---なお、シンとキャロルは食べる動作すら遅かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ここはあるひとつの一室。

そこに居るのは、シンとキャロル。先ほどの寝落ちしそうな状態が嘘のように真剣な表情で互いに作業に勤しんでいる。

 

「キャロル、手伝おうか?」

 

「・・・作業は終えたのか?」

 

手に持つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を収納したシンは、キャロルに近づいてそう口にする。

それに対し、キャロルは目だけをシンに移して自身のは終えたのかと聞いていた。

 

「一応今日の所はな。あまり集中してやっても出来ないものは出来ない。気分転換は必要だし・・・それにそっちの方が大変だろ? 機械系統はともかく錬金術は分からないが書類ぐらいなら出来る」

 

「・・・そうか。ならこの辺りを頼む」

 

「分かった」

 

そんなキャロルに終えたことを伝えたシンは、キャロルに言われた書類を目に通すことから始めていく。

二人の間には作業をしてるからか、そこに会話というらしきものは一切ない。それでも険悪な空気はひとつも漂うことはなく、ひたすら作業に没頭する。

ただ大事な書類があるかもしれないのに、手伝うと言ったシンに任せていることからシンとキャロルの信頼関係が築かれているのは想像に容易いだろう。

 

「・・・ッ」

 

そんな中、少しの時間が経つと限界が近くなったのかキャロルが一瞬船を漕ぐ。すぐに首を振って気を取り直してるのが見えたシンは苦笑いし、そのまま書類をキャロルの手から奪い取った。

 

「おい・・・!?」

 

「そろそろ寝てろ。今日やらないと行けないことはやっておいてやるから」

 

「だが・・・」

 

奪い取ったシンに文句を言おうとしたキャロルだったが、気遣いだと分かると躊躇いが生まれる。

 

「寝ないなら無理矢理寝させるぞ? 物理的に。それかセレナ辺りにでも言った方がいいか?」

 

「ハァ・・・分かった。仮眠を取る」

 

「それでいい。お前に無茶されるのは困るし、監視やら警戒も任せて体をしっかり休めてくれ。・・・といっても、オートスコアラーがいるから必要なさそうだが」

 

シンの脳内に浮かぶのは、個性的だが実力は確かだし優秀ではあるオートスコアラーの四人と大きいせいで入れないレイアの妹。だが、性格に難がある・・・主にガリィ。

 

「そうだな・・・。しかし、その・・・お前も無理はしなくていい」

 

「・・・終わらせるものを終わらたら休む。キャロルは気にせずに休んで、な?」

 

何処か言いづらそうに話すキャロルに、シンは安心させるように告げる。

 

「あぁ。そうさせてもらう」

 

「あ、休むなら・・・ベッドはないな。こっちの方が良いか」

 

周囲を見渡し、その辺にあったソファーに手を翳してキャロルの近くに置く---簡単に言えば、念動力(サイコキネシス)だ。ただし、神秘的な透明なオーラでもなく禍々しい赤黒いオーラではあるが。

 

「・・・後は任せる」

 

「あぁ、任せろ。おやすみ」

 

慣れてるのか、それを見たキャロルは何とも思ってない無表情でソファーに横になり、目を閉じた。

それから暫くすると、普段の威厳を感じない可愛いらしい寝息が聞こえる。

 

「・・・オレからしたら、一人の女の子にしか見えないけどなぁ・・・こういう所とか。人間の悪意ってのがなかったらキャロルもそう生きていけたかもしれない・・・。流石に()()()()()の力でも年号が分からなければ数百年前の過去にまでは戻れないし、どうしようもないが」

 

毛布を持ってきたシンは、キャロルにそっと被せる。

 

「---いつか、()()()()()()普通の、本当の日常(幸せ)を過ごせるようになると良いな。キャロルはもちろん、アズも、セレナも、オートスコアラーのみんなも、()()()()も。・・・はっ、人類の敵らしくない発言か」

 

自身の発言に自虐を込めた笑みを浮かべたシンは、キャロルの頭を優しく一度だけ撫でると、作業へと戻る。

 

「---パパ」

 

キャロルが見てるであろう夢で呟いた寝言は聞かないことにして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンさん、師匠・・・?」

 

時間が過ぎ、太陽が沈んでいく頃合になった時、鍛錬を終えたセレナは未だに作業をしているのかと二人が居るであろう部屋へと入る。

 

「夕食---」

 

「セレナ。しっ」

 

出来ましたよ?と言葉を最後まで紡ぐことが出来ず、人差し指で口を抑えられて聞き覚えのある声にセレナは口を閉じる。

セレナが視線を移すと、アズが優しそうな表情で前方を見つめている。それに気づくと、セレナは視線を其方へと移した。

そこには---

 

「・・・すぅ・・・」

 

「・・・・・・」

 

作業を終えたのか安全な場所に綺麗にまとめられた書類やら道具があり、寝ているキャロルのソファーに持たれる形でシンが眠っている。アズがやったのか、シンにもキャロルとは別の毛布が掛けらていた。

 

「アークさま、キャロルの分もやったみたい。休ませてあげましょう?・・・本当に、()()()()()()優しいんだから

 

「愛乃姉さん?」

 

「何でもないわ。ただ起きたらお腹空いてるかもしれないし、作り置き出来るモノでも作って置いておきましょうか。作ったモノは大丈夫?」

 

「あっ・・・そ、そうですね。今日作ったモノは明日までは行けるでしょうし朝食にすれば・・・全く問題ないと思います」

 

起こさないように元々小さな声で話してるため、セレナはさらに小さい声で呟いたアズの声が聞こえなかったのか首を傾げていたが、言われたことに頷き、思い出しながら答える。

 

「そう・・・ごめんね。作らせちゃったのに」

 

「いえ・・・お二人が頑張ってるのは知ってますし、忙しいのに師匠からはたまに錬金術も学ばせて貰ってますから。シンさんも自分のことだけで大変なのに私の力を調整とかしてくださってるので・・・せめてこれくらいはしたいです」

 

「うん、本当にいい子ね・・・。それじゃあ、静かに出ましょ」

 

「はい」

 

アズがセレナの頭をそっと撫で、二人は部屋から出ると音を立てずに閉める。

その後、部屋に残ったのは仲良さそうに同じ部屋で大人しく寝ているキャロルとシンだけだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
自虐霎シ繧√◆隨代∩繧呈オョ縺九?繧九′縲、間違い縺ェ縺、彼女達のことは『螟ァ蛻?↓』想っている

〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
このまま少しずつ、明かされていくと思う。もちろん、目的なども。
関係性的には---
アーク様→好き
セレナ→妹
キャロル→友人
って感じ

〇セレナ・カテンツヴァナ・イヴ
これは間違いなく、セレナママン。バブみを感じる。
錬金術は一応学んでる。女子力あるよ

〇キャロル・マールス・ディーンハイム
これはもう家族では? そのまま幸せになって、どうぞ
シンくんのことは大事な資料を任せて寝るくらいには信頼している。
本当の命題を早く知って♡



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第八話 ネフシュタンの鎧


何故早まったかと言うと、感想貰えた、評価・・・それも高評価(多分ハーメルンの計算的に高評価は8以上らしい)して頂いたのでヒャッハー!投稿してやるぜー!って感じでやる気出たからですね。これが評価&感想パワーです(真顔)スタンドパワー全開で全力全開に書いてしまったからね、仕方がないね。
ってかアークワンタグ外した方がいいかなぁ・・・多分二期三期まで出ないんだよね・・・。







 

 

 

 

 

---あれから一ヶ月。

流石にそれくらい経てば、いくらSAKIMORIを精神としている風鳴翼でも整理が付いたのか、響と協力し合えるようになっていた。奏は元々肯定的だったが、今となれば一緒に戦えなかった日はあれど一ヶ月も一緒に戦ってきたのだ。ツヴァイウィングの二人にとって響は『守るべき妹分』から『戦場で背中を預けるに足る後輩』へと変化しつつあった。

もちろん、それだけではない。仮面ライダーエボル---石動惣一がアドバイスや戦闘でのアシストなどしてた為、実際には一ヶ月も経ってなかったりはするのだが、どちらにせよ良いだろう。

それだけではない。響と惣一は司令を務める風鳴弦十郎、デキる女こと櫻井了子、二課のオペレーター、藤尭朔也と友里あおい、技術顧問を担当する亡、その他の職員とも打ち解けていた。

そして今はノイズの出現頻度がこの一ヶ月間異常とも言える状況についての議題だ。

 

「どう思う?響くん」

 

「ん、いっぱいですね」

 

弦十郎の問いかけに対し、ノイズ発生地点を記したマップを前に身も蓋もないことを言う響。しかし、その答えもあながち間違っていない。表示されたマップは点がいっぱい、つまり赤いのだ。

 

「確かに響ちゃんのその通りだが、ダンナが言いたいのはそういうことじゃないんだろ? この数は異常って言いたいわけだ」

 

「そういうこと。まるで何らかの作為が動いてるようにね」

 

「---中心点はここ、私立リディアン音楽院高等科。我々の真上です。つまり---」

 

「つまりは、サクリスト-D『デュランダル』を何者かが狙ってノイズを仕向けている・・・その証拠になるってことになるね」

 

「「デュランダル?」」

 

翼が自分の言葉を取られた、と言わんばかりにむくれるが、ごめんごめんと謝った奏の聞きなれない単語に響と惣一が首を傾げる。

 

「デュランダルってあれか? 中世のフランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する不滅の名を冠する剣・・・だったか。何故それが?」

 

過去の記憶を探り、思い出したのか惣一が疑問を呟く。

その疑問には、友里と藤尭が答えた。

 

「この二課の司令室よりも更に下層、『アビス(深淵)』と呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究している、ほぼ完全状態の聖遺物。それがデュランダルよ」

 

「翼さんの天羽々斬や奏さんと響ちゃんのガングニールのような欠片は、力を発揮するのにその都度装者が歌ってシンフォギアとして再構成させないと、その力を発揮できないけれど、完全状態の聖遺物は一度起動した後は100%の力を常時発揮し、さらに装者以外の人間も使用することができるであろうとの研究の結果が出ているんだ」

 

更に言えば、それを提唱したのが今ここに居る、櫻井了子その人である。その理論は『櫻井理論』と呼ばれ、装者の三人が纏っているシンフォギアに活かされている。しかし、一度起動してしまえば一般人でも扱えるとされている完全聖遺物には一つだけ大きな問題があった。

 

「実は完全聖遺物の起動にはそれ相応のフォニックゲインが必要なのよね」

 

完全聖遺物はシンフォギアに組み込まれている聖遺物の欠片より強大な力を秘めている代わり、起動には大量のフォニックゲインが必要となる。

二年前のツヴァイウィングのライブの裏でも、ネフシュタンの鎧と呼ばれる完全聖遺物の起動実験が行われていた。しかし、実験途中にノイズが大量発生し、実験どころの話ではなくなった上にその混乱の影響か、ネフシュタンは跡形もなく消失してしまったのだ。

現状では今も存在してることすら不明である。

 

「あれから二年、奏と翼の歌なら或いは・・・」

 

小さく呟いた弦十郎の言葉に、二人はなんとも言えなさそうな表情をする。

 

「そもそも、起動実験に必要な日本政府からの許可って下りるんですか?」

 

「いや、それ以前の話だよ。安保を糧に、アメリカが再三のデュランダル引き渡しを要求してきてるらしいじゃないか。起動実験どころか、扱い自体に慎重にならざるを得ない。下手打てば国際問題だ」

 

「まさかこの件、米国政府が糸を引いているという事は・・・」

 

「調査部からの報告によると、ここの数か月における本部コンピューターへのハッキングを試みた痕跡が数万回に及んで認められているそうだ。さすがにアクセスの出処は不明。それらは短絡的に米国政府の仕業とは断定出来ないんだ」

 

「結局は分からないってことだな」

 

話を聞いていた惣一が単純明快な結論を述べる。

 

「風鳴司令、お話の途中すみません」

 

「ん? ・・・嗚呼、もうそんな時間か。すっかり話しこんでしまったな」

 

緒川に声をかけられた弦十郎は時計を見やり、頬を二、三回掻きながら呟く。続いて緒川は奏と翼の二人に目線を向けた。

 

「翼さん、奏さん。今晩はアルバムの打ち合わせが入っています」

 

「あ、もうそんな時間だったか・・・。それなら仕方ない、翼早く行こうか」

 

「分かったわ、奏。では、お先に失礼します」

 

既にエレベーターへと歩き出している緒川を背景に、奏と翼は弦十郎達に頭を下げて司令室を後にする。

流石に三人も抜けてしまえば、ミーティングは難しいだろうとのことで今夜は解散となった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、夕闇が迫るリディアン音楽院、その職員室から響が出てくると、待っていた未来が駆け寄る。

 

「先生、なんて?」

 

「壮絶に字が汚いって。まるでヒエロなんとかみたいだって言ってた・・・」

 

少し落ち込んだように、明るさがあまりない声で未来の言葉に答える響。

 

「いや、そうじゃなくって。レポートは受け取ってもらえたの?」

 

返答が違ったからか、未来は修正して不安そうに聞く。

すると、響はすぐに笑顔になって答えた。

 

「今回だけは特別だって。イェーイ! これで今夜流れ星見られそうだっ!」

 

職員室の前なのにも関わらず、喜びを抑えきれないのか大きな声でハイタッチしようとすると、当然の如く中に居るであろう先生の注意され、声を抑える。

 

「やったね、響。ここで待ってて。私が鞄を取って来てあげる!」

 

そう言って嬉しそうに教室へ走っていく未来の背中を響が見つめていた時、ポケットの携帯端末から呼び出し音が鳴る。

 

「・・・はい」

 

硬い表情で電話に出る響。その時点で何処か予想していたのか中身は響の思った通り、二課からのノイズ出現による出撃の話だった。

---ようやく、時間が取れるはずで星を見るという約束をしていた二人。しかし、残酷なことにささやかな約束すら、叶うことはない---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『響? 何処に行ったの?』

 

『未来、ごめん。ノイズが現れたみたいで、今日は行けそうにないんだ』

 

場所は変わり、現場である地下鉄の入り口で電話をしている響が居た。だが、響だけではなく地下鉄の入り口は急遽呼び出された石動惣一が監視している。

 

『・・・そっか。じゃあ、仕方がないよ。部屋の鍵は開けておくから、遅くならないようにと、無理しないようにね』

 

『うん・・・ごめん』

 

申し訳なさそうに響が謝り、時間がないということもあって電話を切る。そのタイミングで、惣一が響に近づいた。

 

「響ちゃん、悪いがそろそろ時間だ」

 

「あ、はい。すみません、任せちゃって」

 

「いいって。未来ちゃんとの約束だろ? 星を見るって言ってたやつ。果たせなくなったのは残念としか言えないが、今はこっちをなんとかするしかないな」

 

謝る響に気にした様子を見せず、石動は背後に親指を向けて言う。

そこには特徴的な音を鳴らしながら地上に出ようとしているのか階段を登ってくるノイズが居た。そんなノイズを響は睨むように見つめ、頬を叩いて気持ちを入れ替えると『行きます!』と声を掛け、聖詠を口ずさむ。

 

『---Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

一方で、惣一は取り出したコブラエボルボトルとライダーエボルボトルのキャップを正面へと固定すると、コブラエボルボトルを右に挿し、ライダーエボルボトルを左に挿し込んだ。

 

コブラ!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

ベルトが二つのボトルを認識し、レバーを回すと、『EVライドビルダー』からハーフボディが靄のかかったような状態で形成される。

すると、惣一は胸元にクロスするように両手を持っていって重ね、指を広げた。

同時に、腰を落として重心を低くする。

 

『Are You Ready?』

 

「変身」

 

胸元からゆったりと両手を広げ、そのときには前後からハーフボディが彼の肉体に重なり---

 

コブラ!コブラ!エボルコブラ!

 

『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

現れたのは、『ガングニール』という聖遺物をシンフォギアで纏う響と天球儀や星座早見盤など宇宙に関連する器具がモチーフなのか全身にあしらわれていて、複雑かつ凶悪そうなコブラの仮面ライダー、---仮面ライダーエボルとして姿を現す。

 

「さて・・・今日も今日とて、『正義の味方』らしく行きますかねェ」

 

「ッ・・・!」

 

響が歌い出すのと同時に、エボルと響はノイズが居る地下鉄の入り口に飛び込み、戦いが幕を開ける。

まず、響が人型ノイズに飛び込むと殴ることで炭化させ、横にいた蛙型ノイズには蹴りをお見舞いする。

最初の頃に比べれば、マシにはなっている戦い方。だが、歴戦のメンバーからすればまだまだ足りないだろう。

現に、隙が出来ている響にノイズが紐状となって突撃する。それをエボルが割って入り、上空に蹴り飛ばして炭化させた。

そんなふうにエボルがカバーするように戦っていると、司令部から通信が入る。

それは『小型ノイズの群れの中に一際大きい反応があるが、もうすぐで奏と翼がそちらに合流するため、それまで耐えて欲しい。但し無茶はするな』というものだった。

 

「分かってます! 私は、私に出来ることをやるだけです!」

 

駅の中へと入るとそこには他のノイズとは明らかに見た目が違い、ブドウの房のような物体を付けたノイズに出くわす。

恐らく、そいつが反応の大きい個体なのだろう。

 

響は駅の改札口を高くジャンプして乗り越えるようにして人型のノイズにタックル。向かってきたカエル型には右脚の蹴りで吹き飛ばして着地する。

一方でエボルは、バルブが装備された『スチームブレード』と呼ばれる片手剣で入り口方面の敵を殲滅し、響に追いつく。

そこで、葡萄型のノイズが動き出した。葡萄型のノイズが全身を震わせ、いくつか離れた房が響たちの方へ飛んできて、一つが爆発する。

 

「えっ!?」

 

「おっと、そういうタイプね」

 

即座に房の正体に気づいたエボルが、響にしゃがむように指示を出すと房が連鎖して爆発を起こし、崩れる天井の瓦礫を見据えて斬り裂いた。

しかし、その先に葡萄型のノイズは階段を下り、降りていく。

 

「響、大丈夫かァ?」

 

「・・・たかった!」

 

「ん?」

 

エボルが声をかけると、響が何かを呟く。聞き取れなかったエボルは首を傾げるが---

 

「流れ星、見たかったッ!」

 

動きは素人。しかし、怒りの形相を浮かべた響は一人、ノイズに突っ込んで人型ノイズを殴り飛ばす。

 

「未来と一緒に---」

 

即座に背後を振り向き、蛙型のノイズを殴り飛ばした。

 

「流れ星が見たかったッ!」

 

さらに振り向き様に横蹴りを放つことでノイズは炭素の塊へと還る。

 

「うぉぉぉあぁぁぁぁああぁぁあああぁああああ!!」

 

その暴れ様は凄まじく、次々とノイズを吹き飛ばしていき、あっという間に周囲のノイズを炭化させた。

 

「オイオイ・・・」

 

明らかな変化。先ほどまでの様子が嘘のような響の姿を、エボルはただ見つめていた。

一方で、地下鉄のホームにて、葡萄型なノイズは房の球を回復させ、なおも逃走を図る。その時、葡萄型のノイズはまるで”人間が操っている”かのように人間臭い動きで逃げていた。

その姿を見た響が、ホームの駅を意味もなく殴り、罅を入れる。

 

「あんた達が、誰かの約束を侵し・・・!」

 

葡萄型ノイズが球を切り離して新たなノイズを呼び出す。

 

「嘘の無い言葉を・・・争いの無い世界を・・・なんでもない日常を・・・剥奪すると、言うのなら---ッ!」

 

「なんだァ?」

 

様子の可笑しい響を見て、エボルは何処か訝しげに見つめる。

何故なら響の姿が何処か黒くなり、凶暴性が増した動きで即座にノイズに近づくと引きちぎり、拳で貫いたかと思えば、地面に叩きつける。

その戦い方はいつもの響ではなく、それは獣---

 

「チッ・・・!」

 

何処か()()()()()姿()に見覚えがあるからか、舌打ちしたエボルは響を全力で引っ張って後ろへ投げ飛ばす。

その瞬間、葡萄型ノイズが転がしてきたであろう房が、エボルの目の前で爆発する。

 

「ぁ・・・惣一おじさん!?」

 

「全く・・・世話を掛けさせる」

 

爆発が晴れると、何もなかったかのように平気なエボル。

当たり前だ、エボルの装甲には()()()()では傷一つ付けることなど出来やしない。

だが、そうこうしている内に葡萄型ノイズは遂に自らの身体から房のような物体を離し、爆発させる。

天井へ穴を開けた葡萄型ノイズは俊敏な動きで地上へと登っていき、倒そうとしていたエボルは攻撃を中止する。二人が見上げると---

 

「「はああああッ!!」」

 

大量の槍と斬撃が飛来したからだ。

その攻撃は葡萄型ノイズの体を貫き、追いついた二人の戦姫によって討伐された。

すっかりと正気に戻った響は、エボルと共に穴から出てくる。だが響は奏と翼に合わせる顔が無いからか、俯いたままだった。

そんな響の姿を奏と翼は何処か心配するような表情で見つめ、エボルは見守る。

 

「---へぇ? これはまた、随分な大所帯じゃねえか?」

 

そんな時、突如として響き渡った聞き慣れない声。声の主を探すべく警戒を緩めず辺りを見回す三人。

少しすると、その声の主と思われる少女を雲に隠れていた月が姿を見せ、月光が少女を照らす。

そして、奏と翼の二人は息を飲んだ。少女が纏っているものがなんなのか、すぐに分かってしまったからだ。それは、二課でモニターしている弦十郎達も同様だった。

 

「まさか、それは・・・」

 

「『ネフシュタンの鎧』だって・・・!?」

 

当然、正体を知っている二人は今まで以上に警戒心を露にする。何故なら少女が纏っている白い鎧こそ、二年前のライブの惨劇の最中に消失したとされていた筈の()()()()()だったからだ。

 

「私を忘れているのか?」

 

「おおっと!?」

 

さらに、再び声が聞こえると、一番後ろに居たはずのエボルに拳が飛んでくる。エボルはそれを受け止めると、反撃と言わんばかりに蹴りを放ち、距離を引き離した。

 

「アークゼロ、お前も居たとはなァ・・・」

 

「・・・ふん」

 

「遅いぞ、あんた」

 

「・・・・・」

 

少し遅れてやってきたからか、文句をネフシュタンを纏う少女に言われるが、アークゼロは興味がなさそうに無言で隣に並ぶ。

こうして場は整えられた。完全聖遺物を身に纏う少女と、シンフォギアを纏うツヴァイウィングの二人---そして、二人の仮面ライダー。避けられない戦いが今、始まる---

 

 

 

 

 

 

 





〇立花響
基本的には今のところは原作通り。
戦闘力も同じ。理由はアルトくん居ないし生存すら確認してないせいでヤンデレバフ等などない為。

〇小日向未来
原作とは別で、響がノイズと戦ってることは知っている。しかし、心配であることに変わりはない。というか、原作以上に力になれない事と 過去(アルくん)のことで悩みを・・・

〇天羽奏
さす前作系主人公。翼が響を完全に認めたのは描写してないだけで奏のフォローやら諸々のお陰。流石姉御肌だぜ。

〇風鳴翼
響を共に戦うべき仲間と認めているため、響が普通に暗い顔してて内心クソ心配してる。主にどんな言葉を掛けるべきか。

〇石動惣一
真名 エボルト
あくまでアルトの約束(響たちを守る)を行ってるだけで、響を強化したりはしてない(寧ろどう自分で成長するのか楽しんでる)
でも全力出せないアーク様と2%の出力で互角に戦うどころか不意打ちで反撃しないで♡
・・・ってか、この小説ビルドだったっけ?
おのれエボルトォォオオオォォォォオオオォ!!(いつもの)

〇ネフシュタンの少女
みんなご存知あの子。ようやく出せました

〇アークゼロ
何故いるのかとかは次の話で明かされる。しかし、協力的では無いようだが・・・?


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第九話 ソレゾレの戦い---そして、絶唱


エボルトさんが出ると感想が普段より貰えるので嫉妬しちゃう。もっと感想やらお気に入りやら評価くれても・・・ええんやで?(欲張り)

えーということでですね、明かされます。色々。主にラスト。
あと、シンフォギア原作とは違う展開になっておりますので、ご了承ください。まあ、アークゼロとエボルト、セレナやらアズなどが関わってるから歴史変わらんと可笑しいし・・・ね?
ではでは、本編どうぞ!あ!評価下さった方、本っ当にありがとうございました!




 

 

 

 

---時は、数時間前に遡る。

 

「やっと完成か・・・。ゼアの力さえ使えれば、簡単に出来るのにな」

 

彼、アークゼロに変身するシンの目の前にあるのは、ベルトらしき物とプログライズキー。そして何らかの注射器だった。

 

「アークさま。時間よ?」

 

すると、時間を確認してきたのか、長髪の黒髪に赤いメッシュが入ってる少女---アズが傍に寄りかかる。

 

「あぁ、時間か。ちょうどいいな・・・『フィーネ』の手伝いに行くか」

 

「私、行きたくないんだけど・・・嫌いだし」

 

「そう言うな。装者を強くするのに扱いやすいしオレもフィーネのやつも互いに仲間だとは思ってないからな。利害の一致・・・利用し合う仲って感じか」

 

「まぁ・・・アークさまが良いなら良いけど」

 

シンの言葉にアズはむむ、と悩ましい唸り声をあげ、諦めたように腕を絡める。

それを気にした様子を見せず、シンは苦笑いをしながらアズの頭を優しく撫でた。

 

「オレの()()通りなら今日が一番やりやすい。だから、アズには仕事を頼みたいんだ。これをあるヤツに渡してくれ・・・知り合いなんだろ?」

 

シンは目の前にあるベルトらしきものとプログライズキーをアズに差し出した。

 

「・・・これ、アークさまが使うものじゃないんだ。私は良いけど、本当にいいの? たぶん、アークさまの敵になるよ? アイツとは幼い頃に少し話した程度だけどアークさまの敵になるのは想像に容易いんだもの」

 

受け取ったアズは、シンの顔を覗き込むようにしながら首を傾げて見つめる。その瞳は、『本当に渡していいのか』と問い掛けているようだった。

 

「その程度なら問題ない。心配しなくとも、きっとアズが望む未来(みらい)にはなる・・・もう二度と、一人になることはない」

 

「ん・・・そうよね。ふふ、アークさまが居てくれるなら、私は何でもいいけどっ」

 

シンが優しそうな表情でアズを撫でていると、彼女は嬉しそうに、それでいて幸せそうな笑みを浮かべて立ち上がった。そして、スカートを叩くとしっかりと受け取ったものを収納する。

 

「っと、アズはちょっと待っててくれ---セレナ」

 

少し待つように言うと、シンは立ち上がって別室の聞かないように気遣ってか、離れた箇所にいる橙色がかかった茶髪の少女---セレナに話しかけた。

 

「は、はい!? シンさん、私、何か悪いことでも---」

 

突然話しかけられ、セレナは驚いて何かしたのかと申し訳なさそうな表情をするが、シンが苦笑いしているのを見て、関係ないと判断したのか首を傾げた。

 

「いや、アズについて行ってあげて欲しい。簡単にいえば、護衛。アズにはギアを纏う力はないけど、セレナにはあるだろ? あくまで守るだけでいいから。ただ、もしもの時はこっちも使っていい」

 

そう言って、彼は()()()()()をセレナの首にそっと掛ける。

それは間違いなく---()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「えっ? これって・・・」

 

「アガートラームと呼ばれるシンフォギアだ。きっと、力になってくれる。ただし、あくまでそれを使うのは最終手段。基本的にはファウストローブを纏ってくれ」

 

「アガートラーム・・・?」

 

淡々と説明するシンの言葉に、何処かで聞いたことがある単語が含まれてたのか、うーん? と首を傾げるセレナにシンがしゃがんで顔を合わせると、手を握った。

 

「ふぇ!? し、シンさん!? あ、あの・・・っ」

 

「一つ言うなら、無理はするな。もし戦うことになったとして、戦いたくないなら戦わなくていい。逃げるってのは悪いことではないんだ。セレナは人間だろ? 機械ならともかく、人間は命はひとつしかない。だから、命がある方が大切だ。・・・例外はあるが」

 

「・・・はい。私、頑張りますね!」

 

「あぁ」

 

再び、優しい表情へなったシンは素直なセレナを一度撫でる。それを気持ち良さそうにセレナは撫でられていたが、だからこそ気づかなかった。

---シンが何処か、安心したような表情になったことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---時刻は現在。

 

そんなこんなでアークゼロの姿で合流した彼は、ネフシュタンを纏う少女について行くことになった。

あくまで、目的の手伝いとして---

 

 

 

「---へぇ・・・その反応から察するに、あんた達はこの鎧の出自を知ってんだ?」

 

「・・・嗚呼。その鎧の事、あたし達はよぉぉぉく知っているさ。なぁ、翼」

 

「えぇ、その通りよ・・・。二年前の不始末で奪われたもの・・・私の、いえ・・・私達の不手際で失われた多くの命。それを一時だって忘れられるものかッ!」

 

二人が構える槍と刀のアームドギア、それを握る手に力が込められる。ネフシュタンの鎧は『アビス』にて厳重管理の元保管されているデュランダルと同じ、完全聖遺物の一つ。そして、二年前のあの日に消失、行方不明となっていたものだ。

あの惨劇によって、多くの罪なき人々の命が奪われた。

その後、惨劇を生き延びた生還者達がメディアの憶測によるバッシングを受けた事も当然ながら知り、罪は今も尚、彼女達の肩に重くのしかかっている。例えそれが、()()()()()()()()()()とはいえ、バッシングを受けたことには変わりはない。

だからこそ、罪を背負いながらも、今までこうしてノイズと戦ってきた。例え、自分達の存在が政府によって隠蔽されようとも。今を生きる人々に理解が届かなくても。

 

「・・・一つ問わせて貰おう。貴様らの目的はなんだ? まさか、自首しに来た訳でも、その鎧を返しに来たなどといった生ぬるい話ではないのだろう?」

 

アークゼロとネフシュタンを纏う少女。その二人に対して、防人となった翼は刀を向ける。

 

「ハッ、流石に分かるか。そうだ、アタシの目的はコイツをあんたらに返しに来た訳じゃねぇ。ソイツだよ」

 

何も答えるつもりのない無言のアークゼロはともかく、ネフシュタンの少女は嘲笑を浮かべた後、とある人物に答えだと言わんばかりに指を指し示す。ネフシュタンの少女が指を向けた先には---

 

「えっ? 私・・・?」

 

響が居た。突然の名指しで困惑する響を置いて、話は進む。

 

「何故、立花を狙っている・・・?」

 

「さぁな。アタシはコイツと協力して連れて来いって言われただけだ。それ以上の事は分からねぇよ。コイツの目的もな」

 

聞かれたことに律儀に話す少女は、アークゼロを親指で指差しながら答えていく。そんな少女に指差されても尚、アークゼロは無言で何の動作も取らない。

 

「話は終わったか」

 

しかし、突如としてアークゼロが声を発する。何の感情も込められていない、作業をする機械の如く。

ただし---そこから放たれた威圧感に、即座にこの場の誰もが臨戦態勢となる。味方であろうネフシュタンの少女ですら。

そんな緊迫な空気の中、今にもちょっとした触発で戦いの開幕が開かれるはずの均衡を破った少女が一人、この場にいた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいッ! 奏さんも翼さんも、相手は同じ人間なんですよッ!? 同じ人間なら、話し合えばきっと---」

 

「「戦場(いくさば)で何を馬鹿な事をッ!」」

 

「---ッ!?」

 

人間同士で戦う所を見たくない、その一心で割って入った響は何故か声を揃えたネフシュタンの少女と翼に怒鳴られ、その身体を強ばらせる。

ちなみに、エボルはその姿を見て『やれやれ』と両手を振りながら強引に響を下がらせ、アークゼロは興味が無いのか、視線をエボルに向けるのみで反応をしない。

 

「・・・ハモったな」

 

「・・・ハモったわね」

 

先程の一言が被った事により一瞬だけ気が緩んだものの、互いに表情はすぐに戦闘時のものへと切り替わる。

そして話は終わりと言わんばかりに奏の足が地面を砕き、翼が続くように前へ出る。奏は右にいるネフシュタンの少女に、翼はアークゼロへと向かっていくが---

 

「お前に用はない」

 

「何っ!?」

 

アークゼロは攻撃を仕掛けに来た翼を軽々と避けると、ネフシュタンの少女に投げつけ、無視してエボルの元へと歩んでいく。

 

「チッ、おいッ! なんでアタシに投げた!?」

 

「・・・・・・」

 

ネフシュタンを纏う少女が飛んできた翼を避けながら文句を言うが、返事はない。

無視されたからか翼も翼で何処か怒りを込めた瞳でアークゼロを見つめるが、斬りにかからないのは奏のお陰だろう。

 

「あんたの仲間じゃないのかい?」

 

「違ぇよ。さっきも言ったが、協力しろと言われただけでアタシは何が目的なのか知らない。---本当にどいつもこいつも、アタシをイラつかせるッ!」

 

イラついた様子のネフシュタンの少女から放たれたのは、鞭。

その鞭の挙動は生き物と見間違えるくらいに不規則であり、反応した二人は紙一重で躱すも二撃目、三撃目が迫る。

エボルの強さを知る二人は、今はアークゼロよりも優先するべきは少女と判断したのか長年培われてきたコンビネーションで最小限に抑える。

そんな二人のコンビネーションを厄介だと感じたのか、少女が翼に向かって飛んで蹴りを放ち、奏が割って入って庇った。

---瞬間、とてつもない衝撃が奏を襲い、彼女を一気に数メートル先まで吹き飛ばした。

 

「奏ッ!?」

 

翼が心配する声を上げた。その視線の先には、二、三回とまるでボールのように弾み、近くの木の幹に背中から叩きつけられる奏。

すぐに起き上がることが出来たからか、翼は即座にネフシュタン少女に視線を変え、空中に飛んだ。

何故なら、鞭が飛んできたからだ。

攻撃を回避した翼は、空中で一回転して体の向きを変え、蒼い雷のようなものを剣に纏う。

 

蒼ノ一閃

 

翼から放たれたのは、強力な斬撃。明らかに生半可な相手ではあっさりとやられる一撃を、ネフシュタンの少女は不敵な笑みを浮かべ、軽々と斬撃を弾いた。

僅かに翼が驚きの表情を顕にさせるが、隙を埋めるように復帰した奏がネフシュタンの少女に槍を振り降ろす。

しかし、その攻撃をバックステップで避け、翼が着地したタイミングで二人は同時攻撃で少女に仕掛ける。

流石に同時攻撃は分が悪いはずなのだが---鞭による薙ぎ払いで二人を纏めて弾く。

 

「これが完全聖遺物のポテンシャル・・・!?」

 

「ネフシュタンだけの力だと思わないでくれよッ!」

 

翼の驚愕に反応した少女が、鞭を再び振るう。

その攻撃は簡単に避けられるが、隙が出来る。

 

「お前はコイツらの相手でもしてなッ!」

 

ネフシュタンの少女が響に視線を向けると、何かを取り出した。それは、杖のような不思議な形状をしたもの。それが光を放つと、そこからノイズが現れて響を取り囲む。

それだけで、この場にいる二人---いや、三人を除いて衝撃が走った。

 

「ノイズが・・・操られてる?」

 

「それがこの『ソロモンの杖』の力なんだよ! 雑魚は雑魚と戯れてなッ!!」

 

そう叫ぶネフシュタンの少女だが、すぐに体勢を立て直した奏と翼に接近を許す。

 

「「戦いの途中で余所見とは・・・随分と余裕があるんだなッ!!」」

 

「のぼせ上がるな、人気者共ッ! このアタシがあんた達に負ける訳がねぇからだ!」

 

再び、攻防一体の戦いを繰り広げる三人。

その一方で、現れたノイズを不慣れな動きで少しずつ響は倒していた。しかし、如何せん数が多い。

そんな時だった---

 

 

 

 

 

 

 

『アイススチーム・・・!』

 

機械から発せられた音が響き、響の周囲に居たノイズが氷を纏った剣撃によって炭化させられる。

 

「惣一おじさん!」

 

「ふぅ・・・危なかったなァ。で、お前さんは見てるだけか?」

 

周囲のノイズを片付けたエボルは、何もしないアークゼロを見つめる。

 

「・・・相手なら全力でする。お前が厄介なのには変わりないが、()()は別にある」

 

「へぇ・・・目的ってのは?」

 

「教えると思うか?」

 

「それもそうだ」

 

まるで旧友と話すように語る二人だが、当然ながらそんな関係ではない。

---瞬間、エボルが駆け出し、アークゼロが一歩も動かずに拳を突き出した。火花が散り、拳とスチームブレードと呼ばれる片手剣が衝突したのだ。

次に放たれたのは、冷気。アークゼロの拳を凍らすかの如く冷気が襲いかかるが、アークゼロは焦ることもせずに赤黒いオーラを拳に纏い、片手でスチームブレードを()()()

 

「はっ? おいおい、マジかァ!」

 

流石に予想外だったのか、驚きの様子を見せるエボル。しかし、あっさりと胸に向かって放たれた拳を叩き落とし、距離を引き離す姿は流石だろう。

 

「前戦った時とは別物じゃねぇか。騙してたってか?」

 

「・・・本来の力を引き出せないだけだ」

 

「へぇ・・・?」

 

興味深そうにアークゼロを見つめるエボル。しかし、油断をしていない。

その時だった。

 

「隙ありってな!」

 

使う暇が出来たのか、ネフシュタンの少女がソロモンの杖を響の傍に召喚し---瞬く間にダチョウのようなノイズが粘液で響を拘束した。

 

「こっちを忘れて貰っては困るなッ!」

 

「ちっ・・・!」

 

すぐに立ち向かう奏と翼の攻撃に、苛立ちを感じてるのか荒々しく防いでは反撃していくネフシュタンの少女。勝負は明らかに互角だった。

 

「ああーッ!? ・・・まぁいいかァ」

 

「えっ!? ちょ、惣一おじさん!?」

 

「大人しくしといてくれ。こういうのも経験ってやつだ」

 

アークゼロの相手をしてる間に拘束された響を見て、エボルはあちゃーと仰ぐが、ノイズがそれ以上何もしないのを見たからか慌てる響にヒラヒラと手を振った。

 

「それで? 目的は?」

 

「語る必要はない---すぐに判明する。私の予測通りならば、な」

 

「そうかい・・・だったら、素顔でも見させて貰おうか!」

 

新たに生成したのか、再びスチームブレードを構えて突撃していくエボル。

そんなエボル相手にアークゼロもアタッシュカリバーのブレードモードで受け止め、エボルの横腹を蹴り、吹き飛ばした。

 

「うおっ・・・なるほどなァ。これは分が悪いか?」

 

「・・・・・・」

 

アークゼロは特に動かず、ただただ不気味にエボルを見つめるが、ふと響に視線を移すとアタッシュカリバーを消してアタッシュアローに変え、矢を放つ動作をした。

 

『フルボトル!』

 

『スチームアタック!』

 

矢を放たれた瞬間、響の前に現れた()()()()()()()()が矢を防ぐ。

原因は、トランスチームガンと呼ばれる銃を手に持つエボルが防いだからだ。

 

「・・・やはり、面倒だ」

 

アークゼロが何処か心底面倒そうに視線を変え、瞬時にエボルの懐へ入る。

 

「おっ!?」

 

反応したエボルが片手で拳を受け止めるが、威力が高いのかエボルの足元が僅かに地面から離れる。すると、一度拳を引いたアークゼロが再び拳を突き出して右、左、右、左とガトリングの如く連打を与える。

次第に受け止めきれなくなったのか、エボルが吹っ飛んだ。

 

「やるねェ・・・俺が戦ってきた中でも、お前さんは上位に入るな」

 

すぐに復帰したエボルだったが、ダメージは通っていたのか胸辺りを摩っている。

 

「無駄に硬いようだな」

 

「生憎、そう簡単に負けると顔向け出来なくなるやつが居るんでね」

 

『ライフルモード!』

 

『フルボトル!』

 

何処からともなく、青いボトルのようなものを取り出したエボルがトランスチームガンとスチームブレードを合体させてライフルモードに。

そこにフルボトルと呼ばれるものをスロットに挿入すると、引き金を引いた。

 

『スチームアタック!』

 

放たれたのは、大砲。『戦車(タンク)』のような砲撃が、アークゼロに迫る。そんな砲撃に対し、アークゼロは手を翳すだけ。

それだけで、あっさりと打ち消された。

 

「それだけだと思うなよ?」

 

エボルの声が聞こえると、赤い光弾が放たれる。それを腹に受けたアークゼロだったが、ダメージに堪えるように腹を抑え、アタッシュカリバーを手に瞬時に斬りかかり---

 

「・・・時間切れだな」

 

アークゼロが呟いた瞬間、エボルはアタッシュカリバーを握り締めていた。

 

「・・・そういうことかァ。お前、制限か何か付けられているな?」

 

「・・・」

 

何かに気づき、納得した様子のエボルが、アークゼロへ声を掛ける。

その問いには、図星と言わんばかりに返事をしない。

 

「沈黙は肯定ってやつだ。さっきの全力を引き出せないという発言、それはどう考えても()()()している」

 

「・・・そうだとして、お前に何が出来る?」

 

強まる力。エボルが握り締めているはずの手は、あまりにもの威力に火花が出ているほどに。

 

「まァ・・・すぐに倒すことは不可能だろうなァ。だが見た感じ、()()されていて、これだろう? そして時間切れと全力で相手するという言葉。()()()()()()実力が()()()()()()()()()、違うか?」

 

「・・・そうだ、それが()()()()()()()()出せる()()()()。お前も同じだろ? それが全力である筈がない。だが、何故わかった?」

 

アークゼロが武器を消して距離を離すと、今までの機械的な状態から少し認めるような感情の乗った言葉が発せられた。

 

「速度や威力が突如下がれば、バカでも分かる。後はお前の言葉さえ整理すれば、それがブラフじゃないこともな」

 

自身が全力かどうかは答えず、エボルは問いかけに答える。

アークゼロはそんな姿を見て確信したように顎を引くが、言葉に出すことは無かった。

 

「そうか」

 

ただ一つ、呟かれた言葉は感情の込められていない言葉。

 

「さて、どうする? 正直、お前の方が不利だと思うが?」

 

「・・・前提を書き換え、結論を予測し直した」

 

「何?」

 

感情の込められていない言葉を気にせず、聞いて返ってきた言葉は、理解に苦しむ言葉。

エボルは中で怪訝そうな表情をしているのか、発言の意味を見抜こうと見つめる。

 

『" Progrise key confirmed. Ready to utilize." 』

 

しかし、アークゼロはいつの間にか作成したのか手にしていたアタッシュカリバーに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を挿し込んでいた。

 

シャイニングホッパーズアビリティ!

 

アークゼロの禍々しさを現す黒い肉体などには不釣り合いな光り輝くエネルギーを、稲妻の如くアタッシュカリバーが纏う。

 

シャイニングカバンストラッシュ!

 

アークゼロがトリガーのようなものを押した瞬間、光の斬撃が複数エボルへと向かった。

 

コブラ!

 

『スチームショット!』

 

それに気づいたエボルは、即座に手に待つライフルモードとした武器にコブラエボルボトルをスロットに挿し込み、トリガーを放つことで相殺する。

 

「んん?」

 

しかし、その際の爆風が消えると、アークゼロの姿は何処にもなく---

 

「・・・仕方がないかァ」

 

諦めたようにため息を吐くと、後ろを見ずに響を拘束していた二体のノイズに撃ち、炭化させた。

その時だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

『---Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

「・・・歌?」

 

呆然としている響の耳に、懐かしい歌が聞こえたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

少し時は遡り---

 

「なぁ・・・再生って狡くないか?」

 

「あれが、ネフシュタンの能力見たいね・・・」

 

奏と翼は二人がかりでネフシュタンの鎧を纏う少女と戦っていた。しかし、向こうは傷などが再生しており、此方は傷がつく一方。

何よりも、翼はともかく奏には()()()()という概念がある。

正式な装者ではない奏は『LiNKER』と呼ばれる制御薬にて無理矢理引き上げている。だからこそ、二年前よりも融合係数が上がってるとはいえ、時間があることに変わりはなかった。

そして翼も翼で、体力の限界が近かった。

当たり前だ、少女にはノイズを呼び出せる『ソロモンの杖』があるのだから。この二人にノイズは無視することなど、出来はしない。

 

「悪いが、そろそろ終わらせてもらうぜ?」

 

だが、少女も少女で()()という力に負担がないという訳では無かった。

その為、少女は終わらせようと鞭の先に白い玉に黒い稲妻があるエネルギーを集めている。

 

「こうなったら、()()を使うしか・・・」

 

「奏? アレって・・・まさか!? それなら私の方が---ッ!」

 

少女が力を貯めていることに気づくと、奏は小さな声で呟く。

それを理解した翼は、自分の方がマシだと引き受けようとするが、奏は首を横に振る。

 

「翼は今倒れたらダメだ。響の面倒を見ないとだし、残るのは限られた中でしか戦えないあたしより翼の方がいい。大丈夫だって、今なら死ぬことはないしさ」

 

「でも・・・」

 

「それとも、あたしを信じられないか? 死ぬためにやるわけじゃないんだ・・・まだ、翼と歌いたいしな」

 

奏から翼に向けられた瞳は、真剣な(まなこ)。ただし、その瞳の中には『死ぬ』覚悟など一切なかった。そこに込められているのは、信頼と覚悟。

 

「・・・」

 

それを受け止めた翼は、心配と躊躇い---だが、時間が無いことは理解してたのか、渋々と頷いて少女の方向へ向くと、小刀を持つ。

そんな姿に、奏は微笑む。感謝するように。

 

「覚悟は決まったか? だったら、これでおしまいだッ!」

 

NIRVANA GEDON

 

放たれるのは、巨大なエネルギー弾。そこに込められているエネルギーはかなりのものだと言うことは想像出来る。

それを前にして槍を構える奏の前に、翼が出ると大型の剣へと変えて剣腹で受け止める。

 

「ちょっせぇ!」

 

受け止めている翼に対し、ネフシュタンの鎧を纏う少女は押し込むようにもう一発放つ。受け止めきれないと即座に理解した翼は奏に視線を向け、奏が跳躍した。

同時に爆発が起こり、翼は吹き飛んでいくが信頼してるのか、奏が振り向くことはなく---

 

「ッ!?」

 

ネフシュタン鎧の纏う少女が驚き、鞭を()()()()()()()横に薙ぎ払う。

何故なら、吹き飛ぶ寸前に翼が小刀を投げていたからだ。三本投げたうち、二本はどこかへ弾かれ、一本はネフシュタンを纏う少女の後ろに弾かれた。

 

「ハッ、無駄だ! あんたもこれで---ッ?」

 

「気がついたみたいだな!」

 

奏がネフシュタンを纏う少女の前に着地すると、ネフシュタンを纏う少女は攻撃のチャンスがある奏に攻撃をしない---いや、出来なかった。

 

「なっ・・・動けねぇ・・・!?」

 

それに気づいた少女はハッ、と気づき、ふと後ろを見ると先ほど弾いたはずの小刀が地面に刺さり、少女の影を刺していた。

 

影縫い

 

「こんなもんでアタシの動きを・・・けど、封じたとしてたった一人で何が出来るッ!?」

 

「確かに、その通りだ。だから決着を付けようか---空が覆われる前に」

 

鎧がある限り、少女を追い詰めることは出来ない。

奏もそれは理解出来ており、ゆっくりとだが、歩みを進めた。

 

「まさか、お前・・・絶唱を・・・!? そんなことしたら、お前もタダでは---」

 

『---Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

武器を向けず、歩んでくる姿から察したのか顔を驚愕に染める少女の言葉に返事せず、奏は歌う。

 

『Emustolronzen fine el baral zizzl---』

 

慌てるように手を動かし、ソロモンの杖を手にした少女は杖からノイズを生み出す。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal---』

 

しかし、奏は警戒するように槍を構えるだけで、歌うことをやめなかった。

その間に少女はなんとか抜け出そうと足を必死に動かそうするが、小刀が取れることは無い。

 

「く、クソッ! どうすれば・・・!?」

 

瞬間、焦るように動こうとしていた少女は驚く。

何故なら、赤黒いエネルギーが抑えていた小刀を何処かへ吹き飛ばしたのだから。

奏もそれに気づいたのか、周囲を即座に見渡し---少女と同じく犯人に驚きながらも最後の詠唱を、歌った。

 

『Emustolronzen fine el zizzl---』

 

「いけ」

 

「お前ッ!? 今まで・・・ッ」

 

少女を庇うように降り立ったのは、仮面を纏い、禍々しさだけを感じさせる---アークゼロだ。

急に助けられ、理解出来ないといった表情をする少女に対し、機械的に呟かれた『いけ』という言葉。逃げろ、という意味を込められているのに気づいたのか少女は、言いたいことを我慢するように歯軋りをしながら、言われた通りに飛んでいく。

 

「ぐっ・・・!?」

 

一方で、奏が歌い切ったのは、絶唱。奥の手と言える諸刃の剣であり、発動条件が完了した奏の肉体をバックファイアが襲いかかり、口元から血を流していた。

当然、少女が逃げていくのが見えた奏は負荷に耐えながらアークゼロを睨み、槍を向けた。

そこから放たれるのは、竜巻と炎。二つの性質が融合し、凄まじい威力を物語るように周囲のノイズが衝撃波だけで炭化する。

それを見たアークゼロは、悪意のオーラを身に纏いながら突っ込み、奏は槍を振り下ろす。そしてアークゼロは、()()()()()()()

 

「っ・・・予測通りの、結論だ」

 

「なっ・・・お前。何を---ッ!?」

 

瞬間、竜巻と炎だけではなく、絶唱によるエネルギー波が周囲を巻き込み、アークゼロは手を伸ばして---エネルギー波と共に何処かへ吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---そこに残ったのは、唖然とした表情をする奏のみであり、彼女は槍を地面に刺して倒れ込む。

 

「う・・・はっ!? 奏ッ!」

 

すると、衝撃波で目覚めたのか起き上がった翼は慌てて奏の傍に寄る。

 

「奏、奏・・・! 大丈夫!?」

 

「あ、あぁ・・・なんとか」

 

体を揺すられると、()()()()()があるが、意識がある奏は返事しつつ困惑した表情をしていた。

 

「良かった・・・! 絶唱は歌わなかったんだ・・・」

 

「いや、あたしは---」

 

歌ったはず、と発言しようとしたが、心配するような明るい声が響く。

奏たちが視線を移すと、駆け寄ってくる響と歩いてきたエボルが居た。

 

「奏さん! 翼さん!」

 

「・・・」

 

響が奏と翼を心配して話してる中、まるで、思考するかのようにアークゼロが吹き飛んで行った場所を見つめるエボル。

 

「アイツ、まさか奏を---?」

 

何かに気づき、小さな声で呟かれたエボルの声は風に乗って消えた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

「ガハッ!? うっ・・・いっ・・・つつ」

 

先ほど奏の絶唱をまともに受け、シンは木に体を思い切り打ち付けていた。そこに彼を守るための装甲も、仮面もない。

 

「げほ・・・あぁ、これやったかもなぁ・・・」

 

軽く口から血を吐きつつ、彼は苦笑いをしながら背中を木に預けた。

 

「---見つけましたッ!」

 

痛みでか空を見上げていたシンは暫くすると、可愛いらしい声が響いて視線を横に向けた。

そこには、ほっとした表情で見つめるセレナの姿があった。身に纏っているものは、シンフォギアに近い。

 

「・・・終わったのか?」

 

「はい。愛乃姉さんも少ししたら来ると思いますけど、何事もなく終わりました」

 

「そうか」

 

心配していたのか、息を吐いたシンにセレナは笑みを浮かべ---固まった。

 

「・・・ん?」

 

シンが気づくと、首を傾げる。セレナの表情はみるみる笑顔から無表情へ変わっていき---物凄い速度でシンに近づいた。

・・・彼ですら見えないレベルで。

 

「け、怪我してるじゃないですか! また、無茶したんですか・・・!?」

 

「・・・あー、言ってなかったか。それを込みで実行したんだが」

 

「聞いてないですよっ!? どうしてそこまで---ん」

 

セレナの表情がだんだんと悲しそうな表情へとなっていくが、シンはセレナを撫で、少しふらつきながら立ち上がった。

 

「・・・オレは()()()なモノだからな。ヤツを抑えるために本来の力を使うと、こうなることくらい予測済みだ。だが、オレは天羽奏に絶唱を使()()()()()()があった。・・・後は---」

 

「大丈夫よ、成功したみたい」

 

セレナに今更ながら話していると、シンの言葉を遮っていつの間にか現れたアズが報告する。

 

「・・・絶唱の負荷は?」

 

「最小限って感じ? 次からは酷いだろうけど・・・使っても、正式な装者と同じくらいで済むと思う。・・・アークさまのこと以外、全然知らないから分からないけど」

 

「そうか。なら、良い」

 

アズの報告を聞いて頷いたシンは、気づかれないようにエボルの攻撃を受けた腹を自然と抑えた。

しかし、血が付着してるのは誤魔化せないようで、にっこりとした笑顔をアズはシンに向ける。

 

「・・・アークさま、それよりも無理しないでって言ったよね?」

 

「・・・」

 

思わず無言となるが、シンは目を逸らすのみ。その先にはセレナか居たのだが、普段も優しい彼女ですら、じーっと非難を込めた瞳で見つめている。

 

「・・・私、アークさまの為なら、何でもするけど無茶はしないで? あと、他の女に色目を使うのもダメ。さっきの行動、理解はしてるけど今も嫉妬しちゃってるのよ? アークさまは自分の為だけに生きてくれたら良いのに、誰かの為に行動しなくていいの。・・・何があっても私だけは死んでも傍に居るのに。・・・じゃないと、どうせアークさまはいつか、居なくなっちゃうじゃない・・・

 

アズは何処か、悲しみに溢れるような、怒りや不安・・・といった様々な表情を浮かべる。

 

「・・・何か、悪い」

 

「・・・分かってくれたらいいの。うん、じゃあ行こっか。アークさま、セレナ」

 

「シンさん、私もしっ---怒ってますからね?」

 

「・・・今度埋め合わせするから、勘弁してくれ」

 

いくら人類の敵と言えど、変身さえしなければ錬金術師のような特異な力が僅かに使える人間。

だが、怒らせた女性にはやはり敵わないらしく、シンは先に行く二人を見つめる。

そんな彼の足元には黒い沼と悪意の文字が浮かんでいた。

 

「・・・好意、か。オレには受ける資格など---」

 

「アークさま?」

 

「シンさん、もしかしてお怪我が・・・?」

 

止まったシンを心配してか、二人が駆け寄る。

足元の沼と悪意の文字を消したシンは首を横に振り、歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

---ある山奥にある豪邸ともいえる場所に、少女は居た。

赤いドレスに身を包む白髪の女の子だ。彼女こそ、ネフシュタンの鎧を纏っていた少女。

 

「フィーネは?」

 

そんな彼女は、近くにいる存在に話しかける。

 

「居ないよ。まだ戻ってきてないんだと思う。それより・・・クリス。大丈夫だった?」

 

「あたしがあんな奴らに負けるかよ」

 

彼女の名前は、クリス。『雪音クリス』という名前。

そんな少女を心配する男の声があるが、彼女はそっぽ向いて答える。

しかし、その態度を取る彼女に男は安心したように息を吐いた。

 

「よかった」

 

「そっちは平気だったのか? 何かに襲われたりとか---」

 

「してないよ、大丈夫。心配してくれてありがとう」

 

「う・・・そ、それならいいんだよッ」

 

照れているのか、顔を赤めたクリスはズカズカと奥へ歩みを進めていく。

そんなクリスに、男はあはは、と無邪気さを含む表情で笑っていた。

 

「・・・どうしたら、いいんだろうな」

 

ふと無表情へと変わると、男は懐から二つのアイテムを取り出す

それは、()()()と---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何やってんだ? 先行ってるぞ---()

 

「あぁ、ごめん! 今行く!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

クリスに呼ばれ、返事した男---迅は隠すように懐に収納し、彼女に追いつく。

 

 

 






〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
補足:本来の力=アークゼロの本来のスペックやら力。しかし、切れると半減状態からより弱体化する。直で受けたのでシンフォギアの絶唱で変身解除された。


〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
ちょーっと不穏になってきた気がする。何気に彼女が一、二を争うイレギュラーかもしれない。でもヤンデレ要素あんま出してねぇな・・・もっと出したいぜ

〇セレナ・カデンツヴァナ・イヴ
(シンくんの名誉の為に言うと、利用されてるわけでは)ないです。
詳しくは一期終わったら分かると思う。
でも、シンくんが見えないスピードとかバケモンだぜ?コイツ・・・。ついでに現在アガートラーム有り

〇立花響
エボルトォ!に見捨てられた子

〇天羽奏
絶唱の負荷が何故しょぼかったのかは次回分かる。
絶唱技はオリジナル

〇風鳴翼
頑張ったけど、此方では絶唱は発動しなかった。少しは読者様を騙せたかな?

〇エボルト
エボルトォォォオオオオオォォ!!(いつもの)
一人だけ何やら、気づいた様子。流石に2%だと二回戦目で、その上本来のスペック持ちアーク様には(カタログで負けてるし)押される。


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第十話 サクリストD


えー、どうもこのままじゃセイバー完結前に一期すら終わらねぇと絶望している地獄絶望蛙です。誰か一ヶ月くらい休みくれませんかね・・・?一ヶ月あれば三十一・・・十五話は投稿出来るわい!
ぶっちゃけると一期は二十四話で終われると・・・いいなぁってくらい長いんで()



 

 

 

 

あれから一週間。念の為病院に入院し、退院を果たした奏と弦十郎に弟子入りを果たした響、そして翼と石動惣一は二課へ集められていた。

その理由としては、何故絶唱を歌ったはずの奏が軽傷で済んだのか、そしてメディカルチェックなど検査した結果を話すためだった。

 

「検査の結果が出たわ。端的に言うと、奏ちゃんはLiNKERを介せずにギアを纏えるようになったようね」

 

「・・・え?」

 

一体誰が声を出したのか、この場にいる全員が驚いた様子で了子を見つめる。

しかし、そんな彼女ですら難しい顔をしていた。

 

「原因は分かったのか?」

 

「それが全然。奏ちゃんの場合、足りない適合率を『LiNKER』で人為的に引き上げてたはずなのに、()()()使用せずして翼ちゃんと同等レベルに引き上げられているのよね」

 

弦十郎の問いかけに、了子は手に持つ資料を見ながらため息を吐いて答えた。

 

「ということは、後天(こうてん)的装者から正規装者になっているってことですか?」

 

「そういうこと」

 

「一体何が・・・」

 

藤尭の疑問に了子は頷いて答える。この場の誰もが思ってることを、友里が呟いていた。

 

「・・・つまり、あたしは時限式じゃなくて無制限で戦えるようになった、ってことか?」

 

「そこは調べて行かないと詳しくは分からないけれど、今のところはそう思ってていいわ」

 

「それは喜ばしいことだけど・・・奏。何処か体調が悪くなったりとか、体に異変はないの?私ですら、絶唱を使えば入院はかなりの時間必要だと思うのに」

 

「いや、むしろ元気が有り余りすぎてるくらいなんだよな」

 

「えーっと・・・?」

 

「響ちゃんに分かりやすく言うなら、奏ちゃんはお前たちと一緒で時間切れになることも薬を使う必要もなくなったってことだよ」

 

「なるほど」

 

翼と奏、他の人たちの話についていけてなかった響に、惣一が分かりやすく教える。すると、納得したように頷いていた。

 

「ですが、不可解ですね・・・僕たちで調べておくべきでしょうか」

 

「いや、必要ないさ」

 

緒川が聞くと、弦十郎が答えるよりも早く惣一が遮る。

その瞬間、何か知ってるのかと全員の視線が注がれた。

 

「どういうことだ?マスター」

 

「あの時、見たんだよ・・・アークゼロが奏ちゃんに何かしたのがな」

 

全員の視線を受けた惣一が頭を掻きながら、答える。

 

「惣一おじさん、何かって・・・?」

 

「それは奏ちゃん自身の方が知ってるだろ?」

 

「・・・ああ」

 

惣一に言われた奏は、思い出すように頭に触れると頷いた。

 

「あたしが絶唱を使った時、アークゼロは攻撃を避けなかった」

 

「これのことでしょうか」

 

すると、亡が画面に写したのは、奏が槍を振り下ろし、何者かに攻撃を与えている所。

その何者かはアークゼロなのだが、復元することが出来なかったのか、はたまた撮れてなかったのか乱れていて見えない。

 

「俺がアイツと戦った時は、一時的に本来の力を出せるとか言っていたが、全力を使えなくともアイツなら避けることぐらい容易いだろうな」

 

「あたしもそう思ってたんだけどね・・・それで、攻撃を与えた後、アークゼロはあたしに何かを打ったんだ」

 

「何かを?」

 

「そういえば、現場に何らかの注射器のようなものがあったと報告が上がってます」

 

打たれた箇所がそこなのか首元を抑えた奏が言うと、緒川が証拠を挙げる。

 

「つまり、その薬か何かが奏ちゃんの適合率を一気に引き上げた・・・と。LiNKERとは別の系統だとは思うけど、そんな易々と作れるはずはないでしょうし・・・」

 

「そもそも、アイツがなんで奏ちゃんを助けたのかって疑問もあるが・・・何か分かってることはないのか?」

 

「それは・・・」

 

その疑問には、誰もがなんとも言えない表情となった。

 

「・・・こういう風に、どうやっても必ずジャミングを受けるせいで、何も。誰かを追わせたとしても、戻ってきた時には()()()()()ということで、情報が得られません」

 

亡が話しながら画面を拡大させるが、どうやってもアークゼロは見えず、音声ですらくぐもった声で聞き取ることが不可能だった。

 

「だったら仕方がない。・・・もしかしたら内海(アイツ)と同じかもな・・・」

 

「惣一おじさん?」

 

「なんでもないって。じゃ、話は終わりだろ? 俺は店開けないと行けないから帰るとするよ」

 

「ああ、突然すまなかったな」

 

ひらひら、と手を振りながら惣一は去っていき、了子が分からないことが多いため、これからは戦いが終わる度にメディカルチェックはする---という結論を述べて、解散となった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

ある山奥に聳え立つ豪邸があった。

そこには、一人の女性が座っており、何者かと連絡をしている。

 

『ソロモンの杖・・・我々が譲渡した聖遺物の起動実験はどうなっている?』

 

『ご報告の通り、完全聖遺物の起動には相応レベルのフォニックゲインが必要になってくるの。簡単にはいかないわ』

 

相手は日本人物ではなく、外国人なのか女性が流暢(りゅうちょう)な英語を口に出していた。

 

『ブラックアート・・・失われた先史文明の技術を解明し、ぜひとも我々の占有(せんゆう)物としたい』

 

この豪邸は彼女の隠れ家なのか、山奥に立っているため、豪邸の割に人が居ない。

いや、この場は身を隠すための拠点にして起点なのかもしれない。

でなければ、誰もが彼女の姿に目を奪われていただろう。

まるで天然のような長い髪に金髪。そしてドレスに近い服を着ている。

 

『ギブ&テイクね。あなたの祖国からの支援には感謝しているわ。今日の(かも)撃ちも首尾(しゅび)よく頼むわね』

 

『あくまでも便利に使う腹か。ならば見合った動きを見せてもらいたいものだ』

 

『もちろん理解しているつもりよ。従順な犬ほど長生きするというしね』

 

その言葉を最後に女性は電話を切る。

 

野卑(やひ)下劣(げれつ)。生まれた国の品格(ひんかく)そのままで辟易(へきえき)する。そんな男にソロモンの杖が既に起動していることを教える道理はないわよね」

 

女性が立ち上がって歩みを進める。そこには何らかの巨大な装置があり、二人の男女が居た。

ネフシュタンを纏っていた少女の正体であり、クリスという名の少女が苦しげに肩で息をしていた。

そんな少女を支えていたのが、黒いスーツを着用している男性---迅だ。

何故クリスが苦しそうにしているかと言うと、ネフシュタンの鎧によるデメリットだ。

 

ネフシュタンの鎧という完全聖遺物には、完全に粉砕されても復元するという再生力がある。しかし、皮膚まで傷つけられると傷口から侵入してきたネフシュタンの組織が、身体もろとも取り込んで再生する危険性や体内に食い込んで鎧の破片が増殖する危険性があった。

そのため、女性がクリスに対して行ったのは電流を流すことだった。

電気にて一時的な休眠状態とし、除去する措置である---もちろん、女性の『痛みだけが人の心を絆と結ぶ』という哲学やら彼女の歪んだ嗜好なども含まれているが。

 

「クリス、平気・・・?」

 

「・・・大丈夫だ」

 

心配そうに見つめる迅に、問題ないとクリスが笑う。

そんな二人に女性が近づくと---()()()()()()()()()が地面に広がり、この場にいる全員の足元を通り過ぎた。

 

「・・・お前か」

 

それに気づいたのか、何処か腹立たしそうに女性が振り向く。

そこには---

 

 

 

 

「---相変わらずのようだな。フィーネ」

 

黒い仮面と黒一色しかないボディ、片方しかないアンテナや左目が剥がされたかのようなマスク、左半身は胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸び、配線や内部パーツが剥き出しになっているなど見る人によっては恐怖しか与えない外見の持ち主、アークゼロが居た。

そんな彼の後ろには、秘書のように傍にいる一人の女性。黒い長髪に赤いメッシュが入っている女性で、アズだ。

 

「ちょうどいい。貴様に聞きたいこともあったことだ」

 

「天羽奏の件については、お前には関係がない。計画に支障が出ることもないはずだ」

 

フィーネと呼ばれた金髪の女性が睨みつけるように言うと、分かっていたのかアークゼロが感情を一切乗せていない機械的な声で答える。

 

「それに、力は貸しているし渡したはずだが? その程度で影響を及ぼすなら、それまでだ。お前には()()()だということ」

 

「貴様---」

 

「戦うことはおすすめしない。---ゼア(ヤツ)の力を持たないお前など、私を倒すことはできないのだからな。お前如きが起こす事象は、全て予測出来る」

 

アークゼロの言葉に、フィーネは無言となると舌打ちを一つするだけで、戦うことはしないようだ。

しかし、そんな姿から分かる通り、フィーネは間違いなくイラついてるのだが、アークゼロの後ろにいるアズがニコニコとした良い笑顔をしているのも原因かもしれない。

---彼女からすれば、煽ってる訳ではなくアークゼロの姿を見て、笑顔なだけなのだが。

事実、アズは頬を赤く染めつつアークゼロにしか視線を向けていない。

 

「それに、私はソイツの負荷を取り除きに来たに過ぎん」

 

それだけ言うと、アークゼロは無言となっているフィーネを通り過ぎる。

もちろん、アズはアークゼロの後ろに付いている。

そしてアークゼロは巨大装置の前に座り込む二人の男女のうち、クリスに手を翳し、黒いオーラがクリスの身を包み込んだ。

それにクリスは呻吟(しんぎん)するが長引くことなく短い間に終え、すぐに混乱した表情となっていた。

 

「なっ・・・何をっ?」

 

「痛みが・・・消えた?」

 

アークゼロが行ったことが理解出来ず、迅とクリスは疑問をぶつける。

 

「---早く覚悟を決めろ。彼女がどれほど傷ついてもいいならば、使()()()()()いいが」

 

「ッ!?」

 

彼女たちの疑問に答えることはせず、脈略のない言葉を吐き捨てるとアークゼロは踵を返した。

 

「またね? クリス、それと迅。アークさまに迷惑は掛けないで貰えると嬉しいけど」

 

「アズ」

 

「はーい」

 

遠回しに非難するアズをアークゼロが呼びかけると、彼女は返事をしながら二人はこの場を去っていく。

 

「相変わらず不快な連中だ。だが、いずれはヤツらも---」

 

フィーネが小声をで独り言を話すが、それを聞くものは居ない。

何故なら、困惑したクリスと俯いて悩む迅しか残されていなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

---響が弦十郎に弟子入りしてから一ヶ月。

その間に奏も響と一緒に鍛えてもらったり、エボルと実戦形式で響や奏、翼が戦ったりなど様々なことがあった。

ちなみに、それを見ていた弦十郎が飛び入り参加してエボルと戦い、周囲を悲惨なレベルで破壊したのは余談だった。

勝敗は戦える環境じゃなくなった為、ドローとなったが。

そして今は、広木防衛大臣が殺害され、連絡が取れずに心配していた二課のメンバーが受領した機密司令を無事入手し、帰ってきた了子の姿に安心した所である。

連絡が取れなかった理由として壊れてた、らしい。

その時、ケースに付着していた赤い血のようなものに気づいたのは弦十郎と惣一しか居なかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私立リディアン音楽院高等科。つまり特異災害対策機動部二課本部を中心に頻発しているノイズ発生の事例から、その狙いは本部最奥区画深淵(アビス)に厳重保管されている・・・サクリストD。デュランダルの強奪目的と政府は結論付けました」

 

現在は機密指令についての議題であり、了子が大きいモニターの横で説明する。

そこには人がたくさんいて、二課に所属している人達が集まっていた。会議室のようなものだろう。

もちろん奏や翼、響と惣一の姿もある。

 

「デュランダルって、あれがですか?」

 

デュランダルの画像を見た響が疑問を浮かべていたことに気づいたのか、はたまた最初から説明する気だったのか了子が説明する。

 

「EU連合が経済破綻した際、不良債権(ふりょうさいけん)の一部肩代わりを条件に日本政府が管理保管することになった数少ない完全聖遺物の一つ」

 

「移送するって、ここの方が・・・いや、そうか。リディアンがあるからだな?」

 

「あぁ。だからこそ深淵(アビス)に代わる新たな保管場所。永田町地下の特別電算室---通称『記憶の遺跡』に運搬することが今回我々に与えられた任務だ」

 

惣一が疑問を抱くが、即座に思い立ったように聞くと弦十郎が頷く。

しかし、何処かいつもより顔に力がない。

 

「デュランダルの予定転移日時は明朝0500。詳細はこのメモリーチップに記載されています」

 

0500。つまり朝の5時00分からと言うことである。

 

「いいか、作戦決行にあたり、あまり時間は残されていない。各自持ち場へついて準備を進めるようにッ!」

 

了解ッ!という皆の息の合った一言と共に各自が準備を進める中、響達は手渡された資料に目を通しながら、予定時刻まで束の間の休息を取る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

そして作戦決行当日、決行時間十分前。

二課では作戦の最終確認を含めたミーティングが行われていた。

 

今回の任務はデュランダルを強奪しようとしている相手を攪乱(かくらん)する為、デュランダルを乗せた護送車と、それを護る護衛車を四台用意し、記憶の遺跡に一直線に向かうというもの。

これには永田町へ向かう必要があるため、永田町に繋がる橋を使う。

その対策として、橋には既に広木防衛大臣殺害の犯人を検挙するという名目の上で検問を配備している。

つまり、一般人に被害を及ぼすことなく運搬任務を遂行出来るという事だ。

 

「これぞ、私考案の運搬作戦。名付けて・・・『天下の往来(おうらい)独り占め作戦』よッ!」

 

「・・・了子くんのネーミングセンス云々はよしとして、今回の作戦に当たり、道中デュランダルを奪うべくネフシュタンの少女やノイズ。そして恐らく、アークゼロによる妨害が予想される。その際は同じ『仮面ライダー』のマスターと装者である響君達に足止めをお願いしたい」

 

この場にノイズはともかく、アークゼロと戦えそうな例外がいるとはいえ、力を持たない常人には太刀打ち出来ない相手はいる。

ならばどうするか? と問われれば、力を有する相手には、此方も似たような力を有する者をぶつければいいという簡単な結論だ。

だからこそ、それを受け持つのが装者の三人と石動惣一を含めた四人。

編成としては技術者としての技量があるため、念の為に亡は弦十郎と共にヘリに乗り、異常を感知次第報告。惣一はバイクがないので、同じくヘリに乗るが異常が感知されればすぐに出撃。

その他のメンバーの配置に関しては、響は了子の駆る護送車に乗り、奏と翼の二人はバイクにて護衛車と共に護送車の護衛。

残るメンバーは二課に待機し、現場に異常が無いかを確認する事となった。

 

最終確認として何か質問が無いか確認し、司令室に居る皆から了承の声を聞いた弦十郎は頷いて、右拳を天井に向け高らかに突き上げる。

 

「さぁ、ミッション開始だッ!」

 

弦十郎の一言により、了子命名。作戦名『天下の往来独り占め作戦』が決行される事となった---。

 

 

 

 

 

 





〇天羽奏
(二次創作特有の)LiNKER(の出番)が死んだ!このひとでなし!
絶唱のバックファイアが全くなかったのはアークゼロが外に放出させた(その分絶唱の威力が上がった)んじゃないですかね(適当)
半減からさらに弱体化してたとはいえ、変身解除させるレベルの威力ですしおすし。

〇フィーネ
あれってネフシュタンの治療の為だったんですねぇ・・・。
相手が悪い。逆さ鱗おばさん可哀想。

〇エボルト
エボルトォォオオオオオォォ!(テンプレ挨拶)
コイツ、色んなことに気付きすぎだろ、有能なチートかよ。チートだったわ()

〇アークゼロ
一 期 の ラ ス ボ ス を 如 き 呼 び す る な
流石チート。これでまだ一段階変身を残しているゾ・・・。
アークゼロの真似(口調)、シンくん視点じゃなきゃ作者なりにやってんですけど出来てるかは不安です。最近は第三者ですけど!

〇アズ
傍から見たら完全に煽ってるようにしか見えないけど実際にはアーク様かっこいいみたいな感じです。


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第十一話 新たなライダーはトリ


前回、特別編に投稿してたようで申し訳ございませんでした!
多分疲れてたんです!信じてください!

ごほん。さておき、気がつけば一期も後半戦・・・まだ行ってねぇわすみません。セイバー完結するまでに一期は終わらせますからッ!たぶん!!

では、本編どうぞ!

あっ、スーパーヒーロー戦記映画化7月22日決定、おめでとうございます!(今更)




 

二課の本部を出発地点に、明朝(みょうちょう)五時にデュランダル護送任務は開始した。

護送車と護衛車の四台、奏と翼が乗っているバイクに弦十郎と亡、惣一が乗っている上空のヘリ。

それぞれが役目を忘れずにしっかりと監視する完全体制だが、永田町へ繋がる橋に差し掛かった頃までノイズのノの字も見かけない。

それが却って不気味な様を醸し出しているのだ。

 

そしてようやく都市部を繋ぐ橋に差し掛かった時、車列前方のアスファルトにヒビが入ることで地面が割れて橋の一部が崩落した。

 

エボルコブラ!フッハッハッハッハッハッハ!』

 

即座に反応した惣一が上空のヘリにて変身し、弦十郎に視線を向ける。

弦十郎はその視線で理解したのか頷くと、エボルとなった彼は穴を避けきれずに落下していく一台の護衛車に乗り、ルーフを破壊して搭乗員たちを回収。爆発する前に無事に脱出を果たしていた。

 

「惣一おじさん!」

 

「ん? おおっ!?」

 

搭乗員を地上へ降ろした瞬間、響の声に反応したエボルは即座に横蹴りを放つ。すると、ノイズが炭化されるが囲まれていた。

 

「足止めってわけね・・・アイツの仕業か?」

 

舌打ちを一つすると、エボルは周囲のノイズを殲滅する活動へと入り始めた。

 

『下水道に注意してください。ノイズの反応をキャッチしました』

 

『此方も目視で確認した! 前方にノイズの群れがあることから奏と翼はノイズの迎撃をッ! マスターが戻ってくるまでの時間、三人で守ってくれ!』

 

時間はかかれど、必ず合流すると信頼しているのかエボルをその場に置いていく。

そして上空のヘリから弦十郎たちの連絡を受けると、即座にシンフォギアを纏った奏と翼が護送車より先行し出した。

連絡を受けた通りに大量のノイズが居た為、翼が運転して奏が炭化させているのだが異様に数が少なく、護送車が通る頃にはノイズはいなくなっていた。

しかし護送車と一緒に来ていた護衛車はいつの間にか四台から二台へと減っており、下水道を通しての攻撃で一台は吹き飛んでしまったのだろう。

 

「ダンナ、このままだと危険だ! どうにかならないのか!?」

 

『そう言うと思って、亡くんと相談して回避ルートをそちらのナビと奏の通信機に転送した。確認したらその通りに向かってほしい!』

 

弦十郎の言う通り、回避ルートが奏の通信機へと送られてきた。回避ルートの先にある目的地を見た奏は眉を顰める。

目的地に設定されていたのは工場地帯だったからだ。

それこそ、一歩間違えでもしたら大惨事になりかねない場所を弦十郎は目的地に設定していたのだ。顔を顰めるのも致し方ないだろう。

 

「奏、叔父さまたちから送られてきた目的地はどう?」

 

「・・・かなりヤバい場所だ。でも、ダンナたちが示してくれた目的地だし、行くしかない。ルートは戦いながら知らせるから運転の方は頼んだッ!」

 

「分かったッ!」

 

時を同じくして了子もまた弦十郎が示したルートの目的地を見て眉を顰め、弦十郎に問いかけていた。

 

「弦十郎くん、このルートはちょっとヤバいんじゃない? この先にある薬品工場で万が一爆発でも起きたら、デュランダルは・・・」

 

『分かっているッ! ノイズが護送車を狙い撃ちにしているのはデュランダルを破損させないために攻撃をさせるよう、制御されている筈だ。敵の狙いがデュランダルの確保であるなら此方から敢えて危険な地域に滑り込み、敵の攻め手を封じるって算段よッ!』

 

「それなら一つだけ聞かせてちょうだい。勝算はあるのかしら?」

 

『ふっ・・・思いつきを数字で語れるものかよッ!』

 

司令官にあるまじき言葉を通信越しに言う弦十郎。

『風鳴弦十郎』という存在と大して関わって来なかった相手ならば呆れてものが言えないものだが、長い間関わってきた了子にとってはそれでこそ彼だと思い、自然と笑みを零した。

 

「了解・・・弦十郎くんを信じてあげるわッ!」

 

弦十郎の指示の元、翼達が乗るバイクをナビとして残り護衛の車が一台となってしまった二両は工場地帯へと向かうため、突っ込んでいく。

すると、再び目の前のマンホールが吹き飛んだ。

また水が来ると思われたが、今度は水ではなくナメクジのようなノイズが前方にあった護衛車に飛びかかる。

そのまま車の前を隠すようにノイズが上に伸し掛り、制御を失った護衛車はノイズ乗せたまま建物に激突し、車から爆発が起こった。

護衛車に乗っていた搭乗員は爆発が起こる寸前に飛び降りることで爆発に巻き込まれなかったが、ノイズから逃げるように慌てて離れていく。

そのノイズはすぐに奏と翼により炭化させられたのだが---

 

「---それだけじゃねぇよッ!」

 

何処からともなくネフシュタンの少女と思われる声が響き渡る。

次の瞬間、了子は響にしっかり掴まっている事を伝えた後に勢いよくハンドルを切った。

ハンドルを切ったのがあまりにも急だったせいか、護送車は横転する。

しかし咄嗟の判断が幸をそうしたようで、先程まで護送車が居た位置にネフシュタンによる刃の鞭が叩きつけられ、地面に小さなクレーターを作り上げていたのだ。

 

「響ッ! 了子さんッ!」

 

横転した車に奏と翼はバイクから降りて駆け寄る。

少しして了子の助けを借りて響が出てきたが、背後から気配を感じて奏と翼の二人は振り返った。

そこには、ネフシュタンの鎧を纏った少女が立っていた。

 

「ネフシュタン・・・久しぶり、というべきか」

 

アームドギアの切っ先を向け、睨むようにして翼が見つめる。対するネフシュタンの少女は、ツヴァイウィングの二人を見て苛立ちを隠さず地面に鞭を叩きつけた。

 

「またアタシとやるってか? 二人がかりでも勝てなかったくせに懲りねぇな」

 

「お生憎様(あいにくさま)。その鎧は返してもらいたいんでね」

 

ネフシュタンの少女と奏が相対する中、翼は響の方に振り返って声をかけた。

 

「立花、ネフシュタンは私達に任せてデュランダルをッ!」

 

「は、はいッ!」

 

その一言を告げた翼は奏と共に地を蹴り砕き、ネフシュタンの少女に向かっていく。

デュランダルを任された響はデュランダルの入ったケースを持とうとするのだが、完全聖遺物であるデュランダルの重さはとてもじゃないがうら若き乙女が一人で持てる重量ではなかった。

それでもなんとか一人で運ぼうとするが、なかなか上手く運べない。

 

「り、了子さん・・・これ、すっごく重いです・・・ッ!」

 

弱音を吐きながらもなんとかして運ぼうとする。

そんな響を見ていた了子は、ここまでデュランダルを運んできた人物とは思えない悪魔の囁きと言える一言を響に言い放つ。

 

「だったら、いっそここにそれを置いて私達は逃げましょう?」

 

「そんなの駄目ですッ!」

 

その一言を響は即答で否定する。

その直後だった。了子が響に前を向くように告げると、響は言われるがままに前を向く。

そこには少女が召喚したであろうノイズが紐状に変化してまさに襲いかかろうとしている所だった。

それに気づいた響は慌てて聖詠を紡ごうとするが、ギアを纏う前に間違いなく触れる---すなわち、死。

奏と翼もネフシュタンの少女と激闘を繰り広げてることから一瞬で戻ってくることは不可能。

まさしく、絶対絶命。

思わず目を瞑った響は、どれほど経っても変化が無いことに疑問を感じ、恐る恐る目を開き、視界を広げた。

そこには---

 

「え? 了子・・・さん?」

 

広げた右手から紫色の波動---バリアのようなものを出して、自分達を炭化させようとしてきていたノイズを消滅させている了子が居た。

さらに爆風と衝撃で眼鏡と髪留めが外れたのか、いつもとは違った印象を持たせる了子。

本来、戦う力を持たないはずの了子が何故ノイズを消滅させられたのか、その事について考えを巡らせようとした響だったが、その考えは一旦切り捨てた。

 

「響ちゃん。貴女は貴女のやりたい事を、やりたいようにやりなさいッ!」

 

「---私、戦いますッ!!」

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)---』

 

了子の一言に頷いた響は聖詠を紡ぎ、シンフォギアを纏う。

胸に浮かぶ歌を口ずさみながら、まずは正面にいるノイズを殴り飛ばす。そのまま突っ込もうとした瞬間、足に違和感を覚えたのか響は視線を足元に移した。

そこにはヒールを履いている自分の姿があり、ヒールが邪魔だと判断したのか震脚を二回繰り返す事でノイズの群れを一掃する。

同時に両足のヒールを破壊し、踵まで地に足を付けられるようになったことで動きやすくなった響は更に機動力を増してノイズを倒していく。

その姿を見ていたネフシュタンの少女は、響の動きが前と全く違う事に驚いたことで一瞬だけ隙を見せてしまった。

そこを奏と翼の二人に突かれ、遠くへと吹き飛ばされる。

 

「戦いの最中に余所見とは、余程余裕があるのか私たちを舐めているのか・・・それとも、立花が気になりでもしたか?」

 

「響は前とは違う。もちろん、あたし達もな。前と一緒だと思ってるなら足元を掬われるぞッ!」

 

「ちっ!」

 

舌打ちしたネフシュタンの少女は、油断することなく迎撃へと入り、ノイズは響が修行の成果を見せていくことで二課が圧倒的に有利に思われた。

そもそも装者三人も居ることから、戦力差は圧倒的---そんな時、了子の耳に聞き慣れない異質な音が届く。

聞こえてきた方向を向けば、そこにあるのはデュランダルが入っているケース。

だが、ケースのランプが点滅していることからデュランダルに異変が起きている事を視覚的に示していた。

 

「デュランダルの封印がッ!?」

 

突如ケースをこじ開けるように飛び出して重力を無視するように空中で制止したのは、石色の巨大な剣。

今、この場に居る全ての者の視線を奪ったその剣こそが、二課の地下に安置されていた完全聖遺物、デュランダル。

しかし、ここで謎が一つ浮かび上がることがある。

それは何か? と問われれば、完全聖遺物の起動には大量のフォニックゲインが必要ということ。

幾ら装者達が歌い、戦っているこの場にフォニックゲインが集まっていたとしても起動に必要なフォニックゲインには達していない・・・でなければ、いつでも起動出来るのだから。

それならば考えられることはただ一つ---

 

「まさか・・・響ちゃんのフォニックゲインに反応したというの!?」

 

複数人ではなく、立花響という一人の人間が完全聖遺物を起動させたことに了子は驚くしか無かった。

 

「あれさえあれば・・・!」

 

「させるかッ!」

 

「立花!」

 

空中に静止されているデュランダル。少女の目的はそれを入手すること。

そうすれば、彼女はある人物に認められる---しかし、それを許すほど二人は甘くなく、奏が抑えている合間に翼は響に呼びかけた。

 

「はいっ! デュランダルを---ッ!?」

 

「---その結論は予測出来ている」

 

両足に力を入れ、跳躍してデュランダルを掴もうとした響は、一瞬にして凄まじい速度で飛んできた黒い物体に叩きつけられた。

 

「がは・・・ッ!?」

 

「お前は触れるな」

 

威力が威力だったのか、肺から空気が抜ける程の衝撃に咳き込んでしまう響。

それほどのダメージを与えたのは、悪を象徴するかの如く黒一色のボディを持ち、パイプやらパーツが剥き出しになっていて左目が割れたようなマスク---さらに赤い瞳を輝かせたアークゼロだ。

 

「立花ッ!?」

 

「そらよッ!」

 

「ぐっ!?」

 

予想外のタイミングで来た存在に、思わず反応する翼。

そんな翼にネフシュタンの鞭が叩きつけられ、翼が吹き飛ばされた。

そこですぐに奏が鍔迫り合いに持ち込み、槍と鞭による衝突が繰り広げられた。

 

「しかし、僅かの期間にここまで成長するとはな---私の攻撃を受け止めたか」

 

「・・・どうして」

 

失った空気を取り戻すように息を吸う響から小さな声が漏れる。

 

「どうしてあなたはこんなことを・・・ッ!? 同じ人間なら、話し合うことできっと---」

 

「お前と私は道が違う。お前は言わば、正義の味方。私は人類の敵---戦場(せんじょう)でどうしてなど語り掛けるな。話は終わりだ---ッ?」

 

アタッシュカリバーを手にしたアークゼロが響へ攻撃を仕掛けようとすると、アークゼロは身を逸らす。

というのも、アークゼロが身を逸らしたタイミングで響の背後から放たれた銃弾が先程まで居たアークゼロの横を通過したからだ。

 

「お〜やってるなァ。オレも混ぜてもらおうか?」

 

「・・・またお前か」

 

放たれる銃弾を下がりながら次々とアタッシュカリバーで斬り落とし、アークゼロが何処かエボルをうざったらしそうに見つめた。

 

「まぁいい。---まとめて相手してやる」

 

「おい、あんた・・・聞いてないぞ」

 

アークゼロによる圧力で凄まじい重圧感に支配される中、奏と翼は響とエボルに合流し、ネフシュタンの少女はアークゼロの傍へと来ていた。

 

「私が勝手にしたことだ」

 

「そうかよ。邪魔だけはすんなよな。ただでさえ人数差はあるってのに」

 

「無理なら退けばいい」

 

「ハッ、何をッ! この程度屁でもねぇよ!」

 

冷たく言葉を返すアークゼロに対して、利用するだけ利用しようという考えなのかネフシュタンの少女は一度見てから視線を響たちに移す。

 

「響。ネフシュタンの少女はアタシと翼で抑える」

 

「あなたはデュランダルを掴みなさい」

 

「じゃあ、オレがアイツの相手ってことかァ」

 

「わ、分かりましたッ!」

 

「作戦会議は終わったか」

 

律儀に待っていたのか、それとも余裕があるのかアークゼロは動くことなく佇んでいた。

 

「お陰様でね・・・あんたがあたしの適合率を上げて何がしたいのかは全く分からなかったけれど、邪魔をするなら相手をするだけさ」

 

「・・・」

 

「適合率を上げる? どういう---いや、今のアタシの目的はアレを手に入れるだけだッ!」

 

無言となったアークゼロと奏の言葉に疑問を浮かべたネフシュタンの少女だったが、未だに上空に静止しているデュランダルを見つめ、集中するように頭を振った。

 

「とにかく、やるとするかァ」

 

腕を回し、エボルが一歩足を動かした瞬間、その足元の先に銃弾のようなものが音を鳴らした。

 

「・・・なんだ?」

 

気分を害されたと言わんばかりに、エボルは銃弾の方向を見つめる。そこには、アークゼロ---という訳ではなかった。

 

「・・・どうやら、覚悟は決まったようだな」

 

アークゼロが小さく呟くと、アークゼロとネフシュタンの少女がいるさらに後ろから一人の男が歩いてきていた。

 

「あぁ、僕も戦うよ。---友達の為にね」

 

「なっ!? お前・・・!?」

 

「新手か・・・!?」

 

「どちらにせよ、警戒をした方がいいわね・・・」

 

「男の人・・・?」

 

ネフシュタンの少女と奏たちが驚く中、アークゼロは赤い瞳をずっと向けていた。

その覚悟は本当なのか、と言うように。

 

「ハァ・・・何者だ?」

 

「僕はコイツと同じだ。アークゼロとね」

 

ネフシュタンの少女がいる隣に立つと、男はベルトらしきものを取り出した。

 

「何しに来た!? お前は---」

 

「ごめん。見てるだけは、やっぱり嫌なんだ。・・・僕も一緒に戦わせて欲しい」

 

「・・・ちっ、無理はするなよ」

 

「うん」

 

男は辛そうな面持ちでネフシュタンの少女を見つめたかと思うと、少女が顔背けて小さな声で呟いたのに反応して笑顔で返事する。

そしてベルトを腰に宛がった。

 

フォースライザー

 

すると右手側にレバーが付いている黒と白銀、黄色のベルトが男に巻かれる。

 

「・・・行くよ」

 

深呼吸し、覚悟を決めたように小さく呟かれた言葉。

男はマゼンタ色のハヤブサが描かれているプログライズキーを起動させた。

 

ウイング!

 

起動させたプログライズキーを展開することなく、男はベルトの右側の枠に装填する。

すると、警告音のようなものがベルトから発せられた。

 

「変身・・・!」

 

右手側のレバーを引くと、プログライズキーが強引に開かれることで展開される。露出した接続ポートに強制接続されると色のないハヤブサのライダモデルが現れ、男を包み込んだ。

 

フォースライズ!

 

フライングファルコン!

 

ハヤブサのライダモデルが砕けたかと思うと、男にはマゼンタ色のスーツが着用されており、ライダモデルが装甲に縛り付けられることで変身を完了する。

 

Break Down・・・

 

 

現れたのは、アーマーカラーがシルバーであり、マスクは鋭利な形状をした隼を模していて、アーマーの配置は一見すると疎らだが、衝撃を受けやすい部位のみを集中的に保護している---アークゼロやエボルとは違う、全く別の仮面ライダーだった。

 

「あれって・・・!?」

 

「仮面、ライダー・・・か?」

 

「惣一おじさんと一緒の・・・?」

 

「いや、オレも知らない仮面ライダーだ」

 

二課のメンバーが驚く中、ネフシュタンの少女も同じくして目を見開いていた。

唯一驚いていないのはアークゼロのみであり、変身した本人ですら両手を開いたり自身の体を見ていた。

そして---

 

「・・・仮面ライダー迅。それがしっくり来るかな」

 

新たな仮面ライダーは、そう名乗った---

 





〇立花響
全然分かり合えない・・・。そもそもシンフォギアって作品、基本的に誰も対話しようとしねぇからな!

〇エボルト
ちゃんと人を助けている・・・だと?
エボルト は 正義 に 目覚めた (?)
冗談はやめて、ここで見捨てたりしたら怪しまれたりするし動きにくくなるからね仕方がないね。
あくまで頼まれたのは響と未来の護衛だけとはいえ。

〇クリス、迅
一期中にコイツらの過去編(出会い)も書かなきゃならないのか・・・。
でもようやく、仮面ライダーに変身させられました。一応迅の設定上は人間ですしフォースライザーは(人間用にシンくんが独自で頑張ったお陰で)負荷はないです。

〇アークゼロ
妨害するマン。
シンフォギアでは珍しい戦場(いくさば)読みをしない。
最近、シンくんの視点にならないせいで(行動はともかく口調や雰囲気は)本当にアーク様になってるね君・・・


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第十二話 ソノ目的とは、一体?

最近帰ってきたら寝落ちが多くてデイリーすら受け取らないレベルなので小説書く時間がマジでなくて困るぜ・・・。
あっ、どうでもいいんですけど私、最近大人セレナがめっちゃ来てるんですよね。私の中でブームです。なんでだろう?確かに実装された時から良いなぁとは思ってましたけど何故急に・・・くっ!書きたい!書きたい・・・んだけど三期書き終えるまでネタバレなしの特別編はきついッ!三期四期が主人公について、って感じ(予定)ですからねぇ・・・一期は伏線やら装者、二期はあの人たちって感じですし(作者は)お寿司食べれない。
とまあ、なので誰か私に世界やら星の白金などのスタンドをください。時間止めて書きます(片方は正確には止めてないけど)

じゃ、どぞー今回はタイトル通り分かると思いまーす。色々ね?



 

 

---時は一ヶ月と一週間前に遡る。

アークゼロとネフシュタンの少女---クリスが二課の装者とエボルとの激闘を繰り広げている中、彼女たちはゆったりと歩みを進めていた。

 

「どうかした?」

 

ふと、橙色がかかった茶髪の少女---セレナが立ち止まったのに気づいたのか黒の長髪で一部に赤のメッシュが入ってるもう一人の人物---アズは首を傾げた。

 

「あ、いえ・・・こうやって見ると、本当に愛乃姉さんって魅力的だなぁって思って」

 

じーっと視線を向け、セレナはアズを見つめる。

 

「そう?」

 

「はい、仕草とか動作とか・・・スタイルも良いですし、ちょっと羨ましいです」

 

「そう言われても、私にとっては自然体だからね。まぁ・・・()()()()()()()()()()時から、というのもあるけど」

 

アズの言葉が理解出来なかったのか、セレナは首を傾げる。

 

「ん、気にしないで。それより急にどうしてそんなことを?」

 

「あっ、そうですよね・・・ええと」

 

疑問は思ったようだが、深堀はするつもりないのか素直に話を戻したセレナは何処か言いづらそうな様子になる。

 

「・・・実は最近、シンさんに子供扱いされてるような気がするんです。だから、愛乃姉さん見たいな感じになればその・・・見てくれるかなって」

 

「あー・・・アークさまからすると、子供扱いはしてないと思うよ? ただアークさまは優しいから心配してるんだと思う。セレナはセレナのままの方がアークさまも私も、キャロルも良いと思うけどね」

 

「そうでしょうか・・・?」

 

「セレナにはセレナの良さがあるから。気にしないの」

 

「・・・分かりましたっ」

 

「じゃあ、仕事果たしに行きましょうか」

 

「はい!」

 

アズの言葉に明るく返事をしたセレナは、再び一緒に歩みを進めていった。

場所は---あるところにある豪邸。

なお、その道中でセレナがシンのことでアズに揶揄われたのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セレナはここで待っていて」

 

「分かりました。気をつけてくださいね」

 

「もちろん」

 

何度か来たことがあるのか、周りを見渡すセレナとは別でアズは迷うことなく一直線にある部屋の前に辿り着いた。

アズがセレナに待機するように言うと音も立てずに部屋へと入っていく。

部屋へ入ると、少し周りを見渡してから足音を殺しながら歩みを進める。

そして目的の人物を見つければそこへ歩いていき、声をかけた。

 

「そんなにクリスが心配?」

 

「誰だ!?」

 

気づいてなかったのか男が懐から取り出した拳銃を向けるが、顔を驚愕に染めた後に拳銃を落とした。

 

「久しぶりね、迅」

 

「お前は・・・アズ・・・か? なっ、なんでここに?」

 

「私はアークさまからのお届け物を届けに来ただけ。他に用なんてないわ」

 

驚く迅とは別で、無表情でそう返したアズは懐から取り出したフォースライザーとプログライズキーを投げ渡した。

突然投げられたため、思わず反応して受け止めた迅はそれを見つめる。

 

「これは・・・?」

 

「クリスが心配ならそれで一緒に戦うといいわ。渡すものは渡したから。じゃあね」

 

冷たい態度で必要な情報だけを最小限話すと、アズは踵を返して去ろうとする。

 

「ま、待って! アークって・・・? それにどうして僕にこれを?」

 

「・・・アークさまはあなたも見たことあるでしょ。フィーネと話してた黒い仮面ライダーのこと。渡した理由については簡単よ。アークさまからの指示。私はあなたがどうなろうが興味もないしどうだっていいんだもの」

 

呼び止めてきた迅に対し、ため息を吐いて顔だけを向けたアズは心底どうでも良さそうな表情で見つめていた。

 

「用はそれだけ? だったら帰らせてもらうわ」

 

「いや・・・最後に」

 

「なに?」

 

仕方がなくと言うようにアズは去ろうとせず、迅から発せられる次の言葉を待つ。

すると迷いがあったのか一度俯いた迅は覚悟を決めたように上げ、続く言葉を発した。

 

「なんでお前が()()()()()()んだ・・・? それは良いことだけど、聞いた話ではお前はタダでさえ安静にしないと行けなかったのに、ある時---」

 

「行方を眩ませた?」

 

「・・・あぁ」

 

顔だけ迅へと向けていたアズは体も反転させて正面から見つめる。そして、続くはずの言葉を自ら喋ることで遮っていた。

先程とは別で、無表情ではなく嫌なものでも見るように。

 

「親しくもなかったあなたにとって、どうでもいいでしょう?」

 

「それは・・・でも、同じ孤児院で---」

 

「暮らした仲間とでも? 私はお前たちとは違う。一緒に生きてきたわけでも、暮らした訳でもない。だけど、一つだけ答えてあげましょうか。私が生きてる理由は生きるための希望を見つけたから。それ以上、話すつもりはない」

 

「希望・・・」

 

再び俯いたのを見たからか、アズは興味を無くしたようで再び踵を返して出口へと向かっていく。

 

「そうだ、滅は、皆は何処に行ったか知ってる!?」

 

「・・・アークさまのこと以外、興味はないわ。私に聞かないで」

 

今度は振り向くことすらせず、アズはその場を去っていった。

残っていたのは、立ち尽くしたままベルトとプログライズキーを見つめる迅だけだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

そして現在---

 

「仮面ライダー迅・・・ねェ。またこれで戦力差はほぼ互角に持っていかれたわけだ」

 

二課の装者は三人と仮面ライダーが一人。対する相手はアークゼロと仮面ライダー迅、ネフシュタンの少女。

 

「・・・まるでラスボス戦だな」

 

「でも、人数はこちらに分がある。私たちはサクリストD、デュランダルの回収をするだけで倒す必要性はないわ」

 

状況を整理する奏と翼。

しかし、この場の全員がそれぞれの武器や拳を握る中、一人---アークゼロだけは何も動作を取ることなく、静かに佇むだけだった。

 

「だったら---こういうことかァ」

 

瞬間、誰もが油断することなく居たのにも関わらず、エボルはネフシュタンの少女の目の前に居た。

 

「なっ!? コイツ、いつの間に・・・!」

 

そして驚愕するネフシュタンの少女が反応する前にエボルは拳を握り締め、そのまま拳を突き出そうと---

 

「っ、させない!」

 

する前に反応した迅がライダーキックを放つが、エボルは避けて反撃の蹴りを繰り出す。それをギリギリのところで迅は避けるが、僅かに掠ったのか少し飛ばされ、着地を果たした。

それが皮切りとなり、ツヴァイウィングはネフシュタンの少女に。迅はエボルに挑みに行く。

そうなると、残されるメンバーは・・・。

 

「回収させてもらう」

 

「・・・ッ。させない!」

 

一瞬の躊躇い。しかし、確かな意志を持って響はアークゼロの前に立ち塞がる。

だが、アークゼロは視線を向けず、未だに静止を続けるデュランダルを見ていた。

 

「好きにすればいい---守れるのであればな」

 

アークゼロは指先から荷電粒子砲を放ち、響がギリギリのところでそれを避ける。

するとアークゼロがデュランダルに向かって跳躍しようとした。

響は即座に妨害しようと殴り掛かり---躊躇った。

 

「遅い」

 

その隙を逃されることなどなく、響はあっさりと投げ飛ばされる。

 

「翼!」

 

「分かってる!」

 

翼が振り向きざまにアークゼロに斬撃を放つが、アークゼロはただの蹴りで逸らした。

そこでネフシュタンの少女が翼に鞭を放つ。

それを奏が受け止め、大きく弾くと---

 

「避けて!」

 

「・・・ッ!」

 

ネフシュタンの少女がわざと倒れ、奏に対して迅が突撃した。

 

「うわっ!?」

 

飛行能力を利用した突撃のため、ギリギリのところで身を逸らす奏。

そこをネフシュタンの少女が鞭を横薙ぎするが、剣を巨大化させた翼によって受け止められ、アークゼロがアタッシュアローから翼に対して放った矢をエボルがスチームブレードで叩き落とす。

 

「今度こそ!」

 

「待て!」

 

翼を剣ごと吹き飛ばしたネフシュタンの少女が跳躍しようとし、奏がそれを追う。

しかし跳躍した瞬間に迅が迂回して回り込んできてたのか背後から奏にタックルを仕掛けた。

 

「邪魔はさせないよ!」

 

「くそっ! いや---まだだっ!」

 

「なっ!? 後ろ!」

 

戦闘経験の差故か落ちながらも奏は槍を構え、槍を投擲する。

自ら得物を離したことに迅が驚き、迅の警告と共にネフシュタンの少女へ槍は一直線に飛んでいく。

 

「ぐぅ!?」

 

即座に反応したネフシュタンの少女は咄嗟の判断で槍を弾くが、空中に居たため、槍を弾いた際の衝撃でデュランダルの位置からズレてしまう。

 

「・・・邪魔をするな」

 

「これが任務なんでね」

 

「このまま行けば、この場の全員が滅びるぞ」

 

「・・・何?」

 

取っ組みあっていたアークゼロとエボルだったが、意味深なことを呟かれたからかエボルが怪訝そうに聞く。

そんな時だった。

 

「立花!」

 

「はい!」

 

チャンスが舞い降りてきたからか、翼が声を上げる。

それに気づいた響が再び跳躍し---アークゼロがエボルを無視して同じく跳躍した。

 

「・・・間に合わない、か」

 

「とどっ・・・けぇえええ!」

 

翼が放ってきた斬撃を軽々と弾くが、その動作は一秒以上掛かってしまう。

諦めたかのようにアークゼロの口から呟かれ、時を同じくして響がデュランダルを掴み取った---否、()()()()()()()

 

「新たな結論を予測した・・・ッ!」

 

アークゼロが地面に降り立つと、同じくして着地した響に振り向き、今まで見せたことのない()()()()()()を響に向けた。

そして---

 

「ウゥ・・・ゥウウウゥウゥゥゥウ・・・!!」

 

響が両手で持つ剣は石色から黄金色の大剣へと変化しており、それはデュランダルの起動を意味している。

天高く雲を貫く黄金の光。だが、間違いなく異常事態だった。

 

「響!?」

 

「立花、何が!?」

 

全く余裕のない表情でデュランダルを握り、響の上半身が黒く変質して獣の如く雄叫びを上げ、理性の飛んだような淀んだどす黒い感情の渦巻く視線で獲物を探すように周囲を見渡した。

 

「アァアアアアアァァァ!」

 

「そういうことか!」

 

「・・・まずい」

 

そんな響の様子に最も早く気がついたのは二人。エボルとアークゼロ。

次に響の明らかな異変に気づいた奏と翼は近づこうとするが、味方であるにも関わらず響は近づく存在を敵だと判断したようでデュランダルを横に薙ぎ払った。

 

「なっ!?」

 

「くっ・・・!」

 

二人は即座に避けようするが巨大な剣なだけあり、範囲が大きく間に合わない。

咄嗟に二人は自身が持つ得物でガードしようとするものの、その程度では完全聖遺物を防ぐことなど不可。間違いなく、デュランダルの斬撃が通った逕路(けいろ)同様、肉体は抉れる---死。

 

ロケット!クリエーション!』

 

『Ready Go!』

 

すると、即座にコブラエボルボトルをロケットフルボトルに入れ替え、レバーを回したエボルが凄まじい速度で奏と翼の居る位置まで向かい---

 

ロケット!フィニッシュ! チャオ!』

 

当たる寸前に抱えることで空中に行き、躱すことに成功する。

そして別の位置に降ろしていた。

 

「全く・・・死ぬ気か!?」

 

「た、助かった!」

 

「す、すみません・・・ですけど、このままだと立花がっ!」

 

「それは分かっているが、ありゃ一体・・・うん?」

 

デュランダルによる一撃をエボルが間一髪のところで助けたため、難を逃れた二人。

そして翼の言葉に思考しようとしていたエボルは何かに気づいたように声を出していた。

何故なら、デュランダルの範囲から逃れたのはたったの三人・・・つまり、残りはまだデュランダルの範囲内に居り、横薙ぎによる一撃は止まらずに刻々とネフシュタンの少女と迅へ迫っていた。

 

「や、やばっ---」

 

迅はすぐに慌てて避けようとするが、動かないクリスを見て行動を中止し、彼女の傍に寄る。

だが、その合間にデュランダルはすぐ目前まで来ている。今から回避行動を取っても無事では居られないだろう。

()()()()()()()の話、だが。

 

「早く避けろ」

 

「なっ!?」

 

「お前、何を・・・!?」

 

離れていたはずのアークゼロが目に追えぬ速度で二人の傍に行き、範囲外まで蹴り飛ばす。

ネフシュタンの少女と迅はそれによって吹き飛び、範囲外から逃れるがデュランダルの一撃はアークゼロに向かっていた。

それを見据えたアークゼロは腕に悪意のオーラとも言える赤黒いエネルギーを纏うことで、防御の体勢に入り---物凄い速度でエボルたちがいる場所よりも遥か先に地面を削りながら吹き飛ばされる。

 

「ッ!?」

 

さらに肉体からは小さな爆発のように連鎖的に火花が散っていて、自然と止まる頃には仰向けに倒れていた。

 

「コイツを使うしかないかァ・・・?」

 

その威力を見て流石にキツいと思ったのか、石化しているトリガーのようなものを取り出したエボルは響を見つめる。

 

「こいつ、何を・・・!? そんな力を見せびらかすなッ!」

 

そんな中---アークゼロが吹き飛ばされたのを見た後、とある人物を見て歯軋りしたネフシュタンの少女が動き出し、ソロモンの杖を手にして響に向かって放った。

 

「ダメだ! 逃げるよ!」

 

「ウゥゥゥ・・・ガァァアアアアァァ!」

 

新たな敵と判別したのか響がデュランダルを再び天へと掲げる。

それを見た迅がネフシュタンの少女の手を取り、背中から展開した翼を利用して離れようとする。

しかし、まるで逃さないと言うように響がデュランダルをゆっくりと振り下ろしていた。

 

「このまま人殺しをさせちまうと、アイツに合わせる顔がなくなるな・・・」

 

それを見たエボルが仕方がないと言わんばかりにため息を吐き、トリガーを押すが起動がしない。

ならば、と駆けつけようとし---()()()()()()誰よりも早く直撃する前にデュランダルの真正面に立っていた。

その正体はアークゼロであり、アークゼロは全身に赤黒いオーラのようなものを纏い、拳を振り上げる。

それだけで、先程とは違う威力なのかデュランダルの一撃は()()()()()()

 

「グァ・・・? ウゥウウアアァァアアアッ!」

 

打ち消されたことに響が驚いた様子を見せたが、デュランダルのエネルギーはその程度で止まることは無い。

何故ならデュランダルには『不滅不朽(ふめつふきゅう)』という意味があり、膨大なエネルギーを無尽に生み出す為、エネルギー切れということは有り得ないのだ。

攻撃を辞めさせるには手に持つ装者の意識を奪うか、殺すか。はたまたデュランダルを手から離れさせるしかない。

そして今度はデュランダルから今まで以上のエネルギーが集められていた。まるでアークゼロの存在を警戒してるかのように。

対するアークゼロベルト上部にあるボタンを中指で弾くように押し込む。

 

オールエクスティンクション

 

アークゼロの腕に今まで以上の赤黒いオーラが纏わりつく。

同じくしてデュランダルの一撃が再び放たれ---アッパーカットの要領でアークゼロはデュランダルにぶつけた。

 

「・・・静まれ」

 

地面にクレーターを作り、明らかにアークゼロが押されている状態。

そんな中でも焦ることも無く冷静に見つめ、アークゼロは()()()を取り出した。

それはプログライズキー。しかし迅が持っていたプログライズキーとは別で()()()()()()()が描かれたプログライズキー。

アークゼロはデュランダルによる攻撃と拮抗しながら、プログライズキーの起動ボタンを押す。

 

マリスラーニングアビリティ

 

その瞬間、響の足元から()()()()()が出てきてアークゼロが持つプログライズキーに吸収され---

 

「あっ・・・!?」

 

響が元に戻り、ぐらりと足を縺れたことで倒れそうになる。

そしてデュランダルが離された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オール

    エクスティンクション

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。離された為、威力を失ったデュランダルのエネルギーが凄まじい威力で打ち上げられ、大爆発が起こった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ? 私・・・」

 

大爆発が起こり、爆風が収まると響は完全に意識を取り戻していた。

 

「心配しなくとも、全員無事だ」

 

「ギリギリって感じだけどね」

 

「ネフシュタンの少女と仮面ライダー迅、アークゼロは逃したが、立花が無事でなによりだ」

 

そんな響にエボルと奏、翼は声を掛ける。

全員が無事なのを見て、響は安心する。しかし暗い顔をしていた。

 

「わ、私・・・今、全部壊れろって・・・体が勝手に---ッ」

 

「分かってるよ。誰も響を責めちゃいないって」

 

「響ちゃんの歌声で起動したデュランダルの力ね。だけど残念ながら作戦は中止よ」

 

了子はそれだけ言うと、電話に出ながら工場地帯だった場所を事態の収拾にやって来た一課と二課のメンバーと共に片付けに入る。

不幸中の幸いと言うべきか、工場地帯は既に人が出払っていた。

しかしデュランダルとアークゼロのぶつかりあった一撃により、工場地帯---それも薬品を扱ってる場所だったのもあって大爆発が起こったのである。

そんな中で了子を翼が。奏が逃げ遅れた二課の面々を。

そしてエボルが響を助けたからこそ、無事に被害が出ることがなかった。

ただし---周囲は悲惨な光景になっているのだが、先の爆発による死者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

---場所は変わり、アークゼロとデュランダルの一撃によって爆発が起こった直後、二課のヘリでは爆発による黒煙で何もかも見えずに居た。

何も見えず、消えない煙にもどかしさを感じていた弦十郎はふと、ある場所を見た。

それを見て一瞬悩むように躊躇するが---亡に後を任せることを伝え、頷く亡を見てから地面に降り立つ。

 

「待ってくれ!」

 

そして即座にある人物に近づき、声をかける。

その人物はゆっくりと振り向くが、そんな動作すら恐ろしさを感じさせていた。

 

「・・・二課の司令か。なんのようだ」

 

相手は、アークゼロ。

先ほどのダメージが効いているのか腕を抑えているが赤い瞳は色褪(いろあ)せて居らず、ここで戦闘に発展しようものなら今すぐにでも戦いは始まるだろう。

 

「目的は、君の目的はなんだ? 何のためにこんなことをする!?」

 

「・・・」

 

弦十郎の問い掛けに、アークゼロは沈黙で答える。

 

「頼む、話してくれ。君と戦うつもりは無い---俺は奏を救った行動にも、誰も死者を出すことをせず街を破壊した行動にも何か理由があると見ている」

 

弦十郎は言葉通り、拳を構えることすらせずに、ただアークゼロを正面から見つめる。

そんな姿を見たからか、アークゼロは口を開いた。

 

「・・・二課の司令。たったの一人で堂々と私の前に出てきた肝に免じて、答えてやる。私の目的は---()()()()()()()()()()

 

「人類を、見極める・・・?」

 

アークゼロから返ってきた言葉に弦十郎は理解出来なかったのか、アークゼロと同じ言葉を呟いていた。

 

「そうだ。人類が悪意を撒き散らし続け、奇跡を消し、悲しみを生み続け分かり合うことすらしない。そして希望すら覆う愚かな人類なのか---共に歩み続けられる存続の道を往き、手を繋ぎ笑顔を作ることの出来る希望を見い出すことが出来るか---つまり人類が救うに値する、本当に滅ぼすべき存在か滅ぼすべきではない存在。それを見極める必要がある」

 

「・・・仮に、仮に滅ぼすべき存在ならば、君はどうするんだ?」

 

「---その時はこの世界を、いや・・・()()()()()()()()()

 

それだけ言い放つと、アークゼロは用がないと言わんばかりに踵を返す。

弦十郎はそんな姿を見つめるだけで、攻撃は仕掛けようとしない。彼はやらないと言っておいて不意打ちを仕掛けるほど小物な人間ではないからだ。

 

「・・・俺たちは、分かり合うことは出来ないのか?」

 

「---可能性を見せてみろ」

 

望んで呟いたはずではない言葉。

しかしアークゼロの足は止まり、感情を込めた言葉を弦十郎に言い放った。

 

「どういう・・・ッ!?」

 

アークゼロに言葉の意味を聞こうとした弦十郎は、突然やってきた凄まじい突風によって目を覆った。

突風はすぐに消え去ったが、既にアークゼロの姿は何処にもなく---

 

「可能性とは、どういうことだ・・・?」

 

残されたのは一人、アークゼロの言葉を思い返すように呟いた弦十郎のみだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




○エボルトォ!
玩具持ってないので音声合ってるか分かんないです・・・。でも有能。

○仮面ライダー迅
初陣の相手が悪すぎるだろ!いい加減にしろ!よく頑張った・・・。

○アークゼロ
ただの拳で一度は完全聖遺物を完全に打ち消す変態。
あまりにもの化け物っぷりにデュランダルさんが原作本編以上の全力を引き出したが、アークゼロの悪意回収キーが強かった。
目的が発表されました。なお、誰も一つだけとはいっていない。

○アズ
察した人は居そうで怖いですねぇ!あるアニメをちょい参考にしてたりします。番外編作品ね。
彼女の全部が分かるのは四期だと思うけど。

○セレナ・カデンツヴァナ・イヴ
今回、単純に遠回しにシンくん大好き表現しかしてなくね・・・?ちゃ、ちゃんと出番作るから大丈夫(震え声)


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第十三話 秘められた答え


日曜日に間に合わなかったので自身の誕生日に投稿する投稿者の鑑。
セイバーの俳優さんがクランクアップしたらしく、これはもうセイバー完結前に終わらないなと諦めモードに入ってますが文哉くんが声だけなのかは分からないけど出るみたいなのでテンションは上がりました。
ついでにトリガーにゼットさん出てくるので楽しみです。
そしてこの小説---そろそろ赤バーから引き摺り降ろされそうなんですけどー!やーめーてー!やる気減るからぁ!赤バーからオレンジになるのめっちゃキツいねん・・・(経験談)
お気に入りは700人行きそうですけど、やっぱランキング入りしないと中々増えませんね・・・悲しい。俺の文章力がもっと良ければッ!

とまあ、モチベを保つためにも必要なので下がりそうで嘆いていましたが本編どうぞ



 

どことも知れない湖畔(こはん)、その桟橋(さんきょう)で少女は1人湖を眺めていた。

彼女はネフシュタンの鎧の少女であり、今はネフシュタンの鎧ではなく、赤いドレスのような服を着ている。

そんな彼女は昨日のことを思い出してか、歯噛みしていた。

 

彼女はフィーネから完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲインが必要だと聞いていた。

それなのに自身ですら完全聖遺物であるソロモンの杖に半年も掛かったことを、同じ完全聖遺物であるデュランダルの起動に融合症例である少女があっという間に成し遂げた・・・。そればかりか、無理やり力をぶっ放したのだ。

 

「化け物めッ! このアタシに身柄の確保なんてさせるくらい、フィーネはアイツにご執心ってわけかよ」

 

目を瞑り、彼女の脳裏に浮かぶのは自身の過去---紛争地帯で両親を亡くし、奴隷として売られたにも関わらず生き抜き、ようやく縋り付ける相手を見つけた。

それがどうか? 融合症例と言う存在により、自分自身の立場すら危うくなっている。

完全聖遺物を纏っている自分の方が有利だと、そう思っていたはずなのに蓋を開けてみればアークゼロはともかく、仮面と鎧で身を包んでいるコブラのような戦士と人気者の二人---最初の時より強くなっていた赤髪の女性とこの前とは段違いのスピードと攻撃力を以て追い込んできた青髪の女性。

さらに完全聖遺物を一瞬に起動させ、その力を強引に振るった融合症例。

完全聖遺物であるネフシュタンを纏っていても尚、力の差を見せつけられたということ。

それどころか、初めて変身したはずの迅に助けられる始末だ。

 

夜明けで地平線の彼方へ沈んでいた太陽が昇ってくるのを見つめていた少女は悔しそうに拳を強く握る。

その時、ふと自分以外の気配を感じて振り向いた。

そこには金髪の女性が変装でもしているのか黒いドレスのようなモノと帽子を被っており、静かに佇んでいた。

そして少女は女性にソロモンの杖を投げ渡し、女性に向かって宣言する。

 

「こんなものがなくたってあんたの言うことくらいやってやる。奴等よりもアタシの方が優秀だって事を証明する。そしてアタシ以外の力を持つものを全部ぶちのめしてやる! それがアタシの目的だからよ」

 

「それはいいけどアークゼロの存在。そしてコブラの仮面ライダーについてはどうするのかしら?」

 

「アタシが言ってるのは特機部二(とっきぶつ)の装者達だ。ソイツらは専門外だしあんたの協力相手を潰したりはしねぇ」

 

「そう。貴女の好きにすればいいわ。貴女が戦うのなら、きっと彼も戦うでしょうし」

 

「・・・」

 

女性が呼んだ彼という人物がすぐに思い立ったのか少女は心配を含んだ表情になるが、すぐに表情を隠して顔を逸らした。

女性はそんな様子を気にも留めず、屋敷へと歩みを進めた。

 

「・・・何にもしなくたって、アタシ一人で十分だってのに」

 

「クリス? クリス〜!」

 

思うことがあるのか一人小さく呟く少女---クリスは自身の名を呼んで見つけた瞬間に笑顔で駆け寄ってくる存在を見て、首を振っていつも通りへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

デュランダルの力。完全聖遺物の一撃はアークゼロの装甲を持ってしてもダメージは通るらしい。

悪意---簡単に言えば強化(バフ)を自身に付与されることで半分ではない本来の力、それ以上の力を無理矢理引き出すことが出来るのだが、デュランダルとの激突の際に貯めてきた悪意をほぼ全て使い切ってしまった。

だがまだ問題ない。いざとなればアレを使えばいい。

 

動かす度に僅かに痛みが残る腕に顔を顰めつつ、オレは心の中で考えながら歩いていた。

今から向かうのは、学校。学生であるオレにも当然向かう義務とやらがある。といっても、高校は人に寄るが。

今すぐにでも辞めたければ脳へ干渉することによってオレの存在を無かったことにすればいいけど、年齢的には行くべきだろう。

それに---

 

「シンさま、腕は大丈夫?」

 

「大丈夫だ。少し痛いだけで折れちゃいない」

 

オレはアズの付き添いみたいなものだからだ。

やりたいことがあるなら、それをさせてやりたいとは思っているからな。それが彼女たちにとっての幸せとやらなら、オレは支援するだけ。

それに学校というのは人間が集まる場所でもある。

人類を滅ぼすべき悪なのかどうかを見極めるにもやりやすい。

 

「ん、ならいいのだけど・・・」

 

「それより、行ってやったらどうだ?」

 

学校に距離が近づくと、正門前で制服を着ている女子が二人手を振りながら居るのが見えたので言う。

するとアズも気づいたのか此方をチラッと見てきたので頷いた。

 

「行ってこい」

 

「はーい」

 

手を振りながら駆けていくアズの姿を最後まで見届け、仲良く談笑しているのが見えると大空へと視線を移す。

視線の先には眩しいと思えるほどの輝く太陽があり、祝福のようだとすら思う。

だけど---

 

「・・・オレには不釣り合いだな」

 

オレの存在は真反対だ。オレに太陽は似合わないが、彼女たちの幸せを祝福してくれるのであれば良いかもしれない。

アズのやりたいことは分かる。だけど後、セレナとキャロル、アイツらは---

 

「いてっ」

 

深く考え込んでたからか突如と叩かれる感触に体が前のめりになる。

すぐに体勢を立て直すと、同級生だと思われる奴が居た。

 

「今日も今日とてうちの学校のアイドル的存在の鶴嶋愛乃ちゃんと一緒に登校するとは羨ましいぞ」

 

「・・・」

 

叩いた本人の名前を思い出せず、俺はソイツをまじまじと見つめる。

オレとは別で黒髪の少年。容姿は優れた訳でもなく、悪い訳でもない。だが、優しさは感じさせるようなヤツ---

 

「な、なんだよ?」

 

「あぁ、蓮か」

 

「忘れてたのかよっ!」

 

朝から元気な奴だな、と思いつつ周囲からの視線には気づいていた。

アズは容姿が優れている。入学当時も一緒に居るだけで騒がしくなっていたのだから予想は出来ていたのだが、いつの間にかアイドル的存在になっていたらしい。

実際、告白した奴も居るらしいがあっさりと振られたのだとか。

 

「俺にも紹介してくれませんかっ!」

 

「・・・お前は、雁夜だったか? がんばれ」

 

「そんな!?」

 

次々と紹介してくれやら羨ましいとかの発言が聞こえてくるが、無視する。

まったく、学校というものは考える時間をくれないみたいだ・・・けど、アズの目的の一つは達成出来てるのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩。

ここの学校は屋上が開放されているらしく、屋上でセレナが作ってくれたご飯を食べていた。

そしてこれからどう動くべきか、少し悩む。

キャロルの目的を成すにはやるにせよやらないにせよ、装者が誰か一人でも欠けるのは最悪の状況だ。二課の司令に対して可能性を見せてみろとは言ったが---どんな選択を取るかは彼次第だ。どちらにせよ、見極める選択のひとつにもなる。

装者の件についてはオレからしても力を持たない一般人と力を持つ人間なら力を持つ人間の方が人類を見極めるにもやりやすいから死なれるのは困る。キャロルがやらなかったとしても。

・・・まあ、本当だったら滅ぼしてたんだろうけどな。

見極めようとすることなんて、なかったはずだ。

 

「シンさま?」

 

深い思考の海に沈んでいたからか、いつの間にかアズが背中から手を回してきたことに気づけていなかった。

もしこれが戦場の場であるなら不味かっただろう。アズやセレナ、キャロルたちぐらいにしかこんなふうに油断は見せないが。

 

「どうかしたか?」

 

「んー、なんでもない。ただ離れていた分、シンさまを補給しておかなきゃって」

 

「それはどういうことなのか、よく分からないな」

 

アズから返ってきた言葉に苦笑いしつつ、頭を撫でてみる。

心地よさそうに笑う彼女を見ながら、ふと聞いてみることにした。

 

「目的の一つくらいは達成出来たか?」

 

「うん。友達も出来たし、シンさまと一緒に学校に来ることが出来たから楽しいんだもの」

 

「・・・そうか」

 

それを聞けて内心で安心すると、気にせずにご飯を食べることにした。

アズは昔から学校というものに行ったことがないと言っていた。

だから『普通』の女の子というものに憧れでもあったのかもしれない。

それを出来たなら、良いんじゃないかと思う。

 

「シンさま」

 

「ん?」

 

「んふふ、大好き♡」

 

「・・・相変わらずだな」

 

一応公共の場なのにも関わらず、好意をぶつけてくるアズにある意味尊敬の念を抱く。

でもそれが彼女にとって幸せなら好きにすればいい。

人類の敵と認定されたオレにとって、表立って誰かの幸せを作ることは出来ない。

正義の味方でもないオレには身内くらいにしか手を伸ばせないが、手の届く範囲の人たちが幸せになれるならオレはいくらでも悪の道に行くだろう。

---それがオレの罪滅ぼしでもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

私は体力作りとしての訓練として、ギアを纏わずに走り込みをしていると昨日のことを思い出していた。

 

デュランダルを握ったあの時、私は力が抑えられなくなった。

デュランダルの制御が出来なかったことが怖かった訳じゃなくて、私はその力を奏さんや翼さん、あの子たちに躊躇なく振り抜いてしまったことが怖かった。

もし惣一おじさんが居なければ? 少なくとも、奏さんや翼さんに怪我を負わせてたかもしれない。それどころか、最悪---あの子たちだって、そうだ。アークゼロという仮面ライダーが居なければ私は間違いなくデュランダルの一撃を与えていた。

あの時はよく分からなかったけど、意識は急に戻った。それはいつだって起こることじゃない。

私が弱いからダメなんだ。アームドギアも出せないまま今も過ごしている。

私はもっと強くならないと行けない・・・強くなって、誰かを守れるようになって、()()()()アルトくんを私が守らなきゃダメなんだ。

彼については探してるけど全然ヒントも痕跡も、生きてるかすらも分かってない。でも生きてるって信じてる。

だけど、生きてたとしてもこのまま見つけたって私が弱かったらまた失っちゃう・・・それだけは嫌だ。

もっと、もっと遠くを目指さなきゃ。二度と彼が私や未来の分を背負わなくてもいいくらい。彼の負担が、少しでも減るように。

 

「響・・・?」

 

そうだ、ゴールで終わることなんて出来ない。

その先に行かないと行けないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、響?」

 

「未来、なに?」

 

考え事をしていたせいか、自分の限界を忘れてヘトヘトになっていると未来が話しかけてきた。

 

「何か悩んでる? 何処か焦ってるように見えるよ」

 

表情に出ていたのか、未来は私が焦ってることに気づいていたらしい。

やっぱり未来に隠し事は出来ないな、と苦笑いすると私はポツポツと話し始めた。

デュランダルという完全聖遺物の破壊衝動に塗り潰され、その力を奏さんや翼さん、ネフシュタンという完全聖遺物のギアを纏う女の子や新しい仮面ライダーに振り抜いてしまったこと。惣一おじさんが居なければ奏さんや翼さんが危なかったこと。アークゼロという仮面ライダーがデュランダルの一撃を相殺してくれたお陰で助かったこと。

なによりも聖遺物の形態や装者の心象によって形作られる他、装者の使用方法などに応じての形態変化も可能な万能武器であるシンフォギアの主武装といえるアームドギアが現出することがないこと。

 

「そっか・・・」

 

「うん・・・だから暗闇に飲み込まれかけたんじゃないかって」

 

私が悩んでいること、思っていることを素直に未来に全て話した。

すると未来は何処か考え込むようにうーんとした声をあげる。

本来、私たちのことは一般人には話してはいけない。その力を狙うものが居たら危険が及ぶからだ。

でも、未来は民間協力者という扱いをされているため、ノイズについてや私たちのことは知ってる。だからこうやって相談みたいな感じで話すことが出来た。

 

「・・・響は何のために戦って、何を思ってるの?前は私と女の子を助けてくれるために戦ってくれたよね。じゃあ、普段はどんな風に?」

 

考え込んでいた未来は思いついたようで、私にそんな疑問をぶつけてきた。その疑問について私は考えを巡らせる。

 

「私は・・・」

 

私は・・・何でだろう? 昔から人助けというものはやってきた。誰かの笑顔を見るのは好きだし、幸せを感じるのは良いと思う。

だけど、よりするようになった一番のきっかけはアルトくんが居たから。

そしてもうひとつは二年前のライブ。大勢の人が亡くなった中で、私の手を引いて逃がそうとしてくれたアルトくん。私を助けてくれた奏さん、そして今も偶然とはいえ、奏さんのシンフォギアの破片が私に力を貸してくれている。

アルトくんと奏さんのお陰で生き残ったといっても過言ではない私は未来や新しく出来た友達とも毎日笑ったりご飯を食べたり出来てるからこそ、せめて皆の役に立ちたくて、明日も笑ってご飯を食べたい。

それを言葉にするなら、それは---

 

「私はなんでもない日常を守りたいと思ってる。皆が泣いて笑ったりするそんな普通の日常が大切だから、この手で守りたいんだと思う。それがきっと、奏さんや翼さんと同じ力を手にした理由なのかも」

 

「響らしいポジティブな理由ね。それじゃあ、響が戦うとき思ってることは?」

 

「ノイズに襲われてる人が居るなら、一秒でも早く助けたい。()()()()()()()()()最速で最短で真っ直ぐ、一直線に駆け付けたい。それで戦う相手がノイズじゃないなら、私は胸の中を想いを、その人にぶつけたいって思ってるッ!」

 

「ふふ。響、もう答えが出てるじゃない。それが響の戦う理由なんでしょ? 私はシンフォギアを纏ってないから分からないけれど、その想いが響がアームドギアを具現化させる道標になるんじゃないかな」

 

胸の内を明かした私に未来はそう笑いかけ、同時に自分自身でも思った。

そうだ、私の戦う理由は簡単なものだったんだ。一度失ってしまった日常。それを無くしたくなくて、言葉の通じる相手なら分かり合えると信じてるからこそ、私の想いを届けたい。

 

未来の言葉と自身が思っていたことを心の中で整理し、答えを見つけた時だった。

ふと通信機が鳴り、即座に私は出る。

 

『たった今、ネフシュタンの鎧を纏った少女が現れた。市街地からそう遠くはない森林に居るが、少女が市街地に向かうのも時間の問題だ・・・直ぐに向かってくれッ!』

 

「分かりましたッ!」

 

師匠から話された内容を理解すると、通信機を切って走ろうとし---未来の方を見つめる。

 

「ごめん、未来。私行かないと行けなくなっちゃった。でも、未来のお陰で気づけたことがあるんだ。ありがとう!」

 

「ううん。気にしないで響は響がしたいことをしてきて。私待ってるから、頑張ってねッ!」

 

「うん!」

 

未来の声援を背に私は走っていく。

今度こそ、あの子に私の想いをぶつけるんだ---

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

「・・・響のことを守ってあげてね、アルくん」

 

未来は自身の鞄に付けている()()()()()()()を握り締め、彼女を見送った。

 

「---私だって、力になれないかな。ねぇ、アルくん・・・何処にいるの?」

 

響を見送った後、未来は何処か寂しそうな、悩むような表情で、そう小さく呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 




〇偽名:亜無威 (アムイ) (シン)
本名:アーク(?)
螂ス諢上↓縺阪▼いるため、鈍感縺ァ縺ッないと思わ繧る。
少なく縺ィ繧ょスシ縺ォ縺、縺?※は三期縺四期で譏弱°される予螳。

〇偽名:鶴嶋(ツルシマ)愛乃(アイ)
本名:アズ
高校生らしい生活をしているが、容姿が優れていたり高スペックなのでモテる。
いくら告白されようがアーク様以外と付き合うつもりは無いので絶対に断る。
めっちゃイチャつくやんけ・・・でも彼女に何かしようとしたら間違いなくソイツに待ってるのは死ゾ。

〇アークゼロ
補足:簡単に説明するならば、ゼロワン本編に出てきたアークゼロの本来の力を発揮する=悪意オーラで無理矢理引き出している力のため時間経過で弱体化する。
さらに強引にスペック以上を引き出すことも可能だが、一時的にしか力を出せなく、あのままデュランダル相手に戦ってたら弱体化してやばかった。
つまり、一度きりの奥義みたいなものでこういう設定は一期装者勢じゃボコボコにやられるからその為のオリジナル。
ただし、所々に伏線は貼られてたりする。・・・はず。



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第十四話 撃ちてし止まぬ運命のもとに


すみません。自身の誕生日に投稿してから二週間くらい投稿出来てませんでした。燃え尽きてたのもありますけど、魚の骨を喉に詰まらせてピンチになってたりテスト期間(勉強してるとはいっていない)だったりテスト(勉強してない)だったり寝てたり(大半がこれ)で全く書けてませんでした。
これからも全く書けないと思いますけど休載にはしません。ただもし私が三ヶ月以上も投稿しなくなったら『あっ、こいつ浪人したな』と思ってください。突然いつも通りに戻ったら『あっ、こいつ受かったな』と思ってくださいね。ちゃんと完結させたいので受かるといいなぁ・・・まあ受かるつってもまだ何も決まってないんですけど(おい)
最後に久しぶり過ぎて書き方変わってるかもしれないです

では、本編どうぞ!



未来に見送られた響はネフシュタンの少女が現れたと報告のあった場所へ向かい、飛んでいく姿を捉えた。

響は一度深呼吸をし、覚悟を決めたように集中する。

そして彼女はシンフォギアを起動させ、ネフシュタンの少女に向かって跳躍した。

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)---』

 

「ッ!? お前はッ!」

 

聖詠を唱え、ガングニールを身に纏った響はネフシュタンの少女に抱きつく感じで地上へと落ちていき、開けた森の中に共に落下する。

一瞬で距離を離したネフシュタンの少女は鞭を響にぶつけるが、響は腕でしっかりと防ぐ。

 

「どんくせぇのがやってくれる!」

 

「どんくさいなんて名前じゃない!」

 

挑発のためか威勢が良い表情をしていたネフシュタンの少女が、響の否定の言葉に反応する。

 

「私は立花響、15歳! 誕生日は9月13日で血液型はO型! 身長はこの間の測定では157cm、体重は・・・もう少し仲良くなったら教えてあげる! 趣味は人助けで好きなものはごはん&ごはん! 後は---」

 

突然の自己紹介にか、ネフシュタンを纏う少女は固まっている。

そんな中でも何時でも反応出来るようしっかりと見据えながら、響は続きを紡いだ。

 

「好きな人は居るけど彼氏いない歴は年齢と同じッ!」

 

「な、何をとち狂ってやがるんだ。お前はッ?」

 

ネフシュタンの少女が最もなことを言うが、響は彼女を知るために自分のことを話すべきだと判断して自己紹介をしたのだろう。

彼女からしてみれば、謎の行動ではあるが。

 

「私たちはノイズとは違って言葉が通じ合うんだから、ちゃんと話し合いたい!」

 

「なんて悠長! この期に及んでッ!」

 

自分の気持ちを伝えようとする響にネフシュタンの少女は聞く耳を持たず、問答無用と言わんばかりに鞭を振るう。

響は間一髪といったところで避け、次々と振るわれる鞭を全て避けていく。

その姿を見て、何処か変化を感じさせる響の姿に彼女は表情に出して驚いていた。

 

「話し合おうよ! 私たちは戦っちゃいけないんだ! だって、言葉が通じていれば人間は---!」

 

「うるさいッ! 分かり合えるものかよ人間が! そんな風に出来ているものか! 気に入らねえ・・・気に入らねえ! 気に入らねえ気に入らねェッ! 分かっちゃいねぇことをベラベラと知った風に口にするお前がァァァ!」

 

激昂したように一口で捲し立てた彼女は肩で息をし、怒りの形相を浮かべていた。

そんな彼女に響は気圧され、彼女は血走った怒りの目で言葉を続ける。

 

「お前を引きずって来いと言われたがもうそんなことはどうでもいい・・・! お前をこの手で叩き潰す! 今度こそお前の全てを踏みにじってやるッ!」

 

宣言した彼女は拳を握りしめ、ネフシュタンの鞭を振り上げると鞭の先端にエネルギーを収束させ、黒い稲妻を迸らせた光球が形成される。

 

「吹っ飛べえぇっ!」

 

NIRVANA GEDON

 

「くっ!」

 

裂昂の叫びともに放たれる光球。

回避が不可能だと理解した響は両腕をクロスさせ、直撃を耐える。

凄まじい圧力が響を襲い、歯を食いしばってガングニールの防御力で衝撃が消えるまで耐えようとしていたのだが---

 

「もってけダブルだッ!」

 

もう一発放たれたNIRVANA GEDON。

一発だけでも精一杯だった響にとって、二発目は受け止めきれる筈がなく響は光球に押し潰され、爆発が起こる。

 

「・・・ッ!?」

 

しかし爆発による煙が風に乗って消えると、爆発の中心点には響は無事に両手に光の何かを形成していた。それは暴発し、響は吹き飛ぶがすぐに起き上がった。

ネフシュタンの少女はそれを見てアームドギアの形成だということに気づくと、驚きの表情を顕にする。

この短期間にアームドギアすら手にしようというのだから当然だろう。

 

「これじゃダメだ・・・! ならッ!」

 

自身の思いを届けるためにも、アームドギアを形成出来ないのであればエネルギーを直接打ち込めばいい、と考えた響はエネルギーを握りしめた。

 

「させるかよッ!」

 

兎に角にもアームドギアを形成されることを防ごうとしたネフシュタンの少女から響に向かって鞭が繰り出される。

それを響は見ることなく掴み取ると雷を握り潰すように握り潰し、一気に引き寄せる。

 

「なんだと!?」

 

二本纏めて握り潰され、引き寄せられたネフシュタンの少女は想定外の出来事に対応など出来るはずもなく、響に引っ張られる。

対応が遅れ、尚且つ空中にいる彼女に避けることなど不可能。

右腕を大きく引きながら腰部のバーニアを展開。

瞬間的に加速した響はほんの数秒も経たずに少女の目前へと迫る。

今の響にある想いはただ一つ。

 

(最速で、最短で、真っ直ぐ、一直線に---!)

 

「胸の響きを、この想いをッ!」

 

腰を捻り、振り絞った右腕を振りかぶる。

真っ直ぐに一直線へとネフシュタンの少女へ伸びていく響の腕。

狼狽する少女にそれを防ぐことなど敵わず。

 

「伝えるために---ッ!」

 

突き進む槍の如く少女に右拳が突き刺さる。

パイルバンカー方式で拳をぶつけて同時に打ち込む事で、事実上の二段攻撃を実現させた響により、少女の体を衝撃が突き抜けて鎧にヒビが入る音と共に吹き飛ぶ。

装甲が分厚い敵を貫徹し、有効なダメージを与える用法であるパイルバンカーと同じ用法なのだ。

さらに本来はアームドギアに利用されるエネルギーも合わさり、ダメージは計り知れない。

それこそ、絶唱に匹敵しかねないほどだ。

 

石垣に叩きつけられ、凄まじい威力に砕け散った瓦礫に背を持たれさせながらネフシュタンの少女は焦る。

なぜなら今の一撃で砕けたネフシュタンの鎧が再生を始めたからだ。

自身ごと食い破られる前に片を付けなければならないと理解したネフシュタンの少女は追撃が来ることも考え、痛みに堪えながら立ち上がる。

 

「なっ・・・」

 

しかし、ネフシュタンの少女の考えは目の前の光景に否定された。

ほんの数メートル先に構えることをせず突っ立っている響。ネフシュタンの少女はそれを見て怒りを覚えた。

 

 

「お前、バカにしてんのかッ!? このアタシを・・・雪音クリスをッ!」

 

「そっか。クリスちゃんって言うんだ」

 

怒りに身を任せ、思わず名乗ってしまった少女---雪音クリスは想定外の言葉が返ってきて僅かに呆然とするが、変わらずに笑みを浮かべる響の姿に苛立ちを募らせていく。

 

「ねぇ、クリスちゃん。こんな戦いもう止めようよ。ノイズと違って、私たちは言葉を交わすことが出来る。ちゃんと話をすればきっと分かり合えるはず! だって私たち、同じ人間だよ!」

 

「・・・くせぇんだよッ! 嘘くせぇ・・・青くせぇッ!! お前なんかにアタシの何が分かるッ!」

 

紛れもない響の本心。

されどクリスに届くことはなく、逆に怒りを爆発させたクリスは正面から響に迫って殴り飛ばし、さらに蹴り飛ばす。

その際に響はクリスの攻撃を両腕で防御をしていたが、吹き飛ばされた先でさらに蹴り飛ばされる。

そのまま追撃を行おうとしたクリスだったが、一番ネフシュタンの鎧のダメージが大きかった腹部が再生を再び始める。

人際強い痛みから自身の身体を蝕んでいることを知ったクリスは僅かに悩む様子を見せるが、決意した表情を見せた。

 

「ぶっ飛べよ! 装甲分解(アーマーパージ)だ!」

 

自身の身体を蝕んでいるネフシュタンの鎧の各パーツを周囲に放出することで脱ぎ捨てる。

欠片一つが鎧であり、完全聖遺物であることから木々が折れたり地面が土埃を起こして響を覆い隠す。

 

 

 

 

 

『---Killiter Ichaival tron

 

「この歌って・・・!?」

 

両腕で顔を守った響は土煙で見えない中、自分がよく知っているものが聞こえてきて驚く。

それは聖詠でシンフォギアを纏うために必要なもの。

今は見えないが、土煙の先にいるクリスが歌ったと思われるのだ。

 

「見せてやる。イチイバルの力だ」

 

そして土煙が消えると、赤を基調とした響や奏、翼と似た鎧を身に纏ったクリス。

彼女の言葉から、それこそ彼女が響たちが纏うシンフォギアと同じく聖遺物のひとつ。『イチイバル』ということだと察するのは想像に容易い。

 

「歌わせたな・・・! アタシに歌を、歌わせたなッ! 一つ教えてやる。アタシは歌が大っ嫌いだ!」

 

ネフシュタンを纏っていた時よりも苛立ちを見せ、叫んだクリスは両の手に握られたクロスボウを響へ向ける。

クリスが容赦なくトリガーを引くとクロスボウから一斉に五本の光矢が放たれる。

高速で響の足元へ飛来すると地面を抉り、小さな爆発を起こす光矢に響は逃げ惑うことしか出来ない。

それでも全て避け切った響に対し、クリスは狙っていたのか先回りして響を蹴り飛ばす。

吹き飛ぶ響に対し、クリスはアームドギアをクロスボウからガトリング砲に変形する。3砲身2連装のガトリング砲、それが両手に1基ずつで2基。

 

BILLION MAIDEN

 

ガトリングによる、弾丸の嵐。

響は身を屈めながら避けていく。

それで終わることなどなく、ダメ押しと言わんばかりにクリスが両腰部のユニットを展開。生成された小型ミサイルを一斉に放つ。

 

MEGA DETH PARTY

 

周囲の被害を考えずに放たれたミサイル。

障害物に当たらず、響の元へ不規則に蛇行しながら迫っていく。

直後、大爆発が起こるがクリスは爆撃の後も手を休めずにガトリング砲を撃ち続ける。

感情のまま撃つ姿は、まるで何かに怒りをぶつける姿と思えてしまうほどだ。

そして肩で息をするほど攻撃を続けたクリスは、爆発によって自身の目前に広がる黒煙を見つめるが、何かを感じ取ったのか前のめりになって観察する。

すると次第に晴れていく煙から巨大な壁のようなものが現れた。

 

「・・・盾?」

 

「---剣だッ!」

 

声が響いた方向に、クリスが視線を上へ向けると翼が立っていた。

盾と思っていた巨大な壁---否、巨大な剣が地面に突き刺さっていることから、それが響の身を守ったのだと理解出来る。

 

 

「槍も忘れないでくれよな?」

 

さらに聞こえてきた声にクリスが響の方へ視線を向けると、響と似たものを纏う奏が彼女を支えて起き上がらせていた。

人数差を感じ取ったのか、それとも響が無事だったからかクリスは舌打ちをした。

 

「翼さん! 奏さん!」

 

一方で、駆けつけてくれた二人に対して嬉しそうに名前を呼ぶ響。

そんな彼女に剣の柄部分で仁王立ちしていた翼は剣を小型化し、傍へ着地する。

 

「立花。私達が駆けつけるまでの間、よく持ちこたえてくれた」

 

翼の言葉に響は笑顔を浮かべ、奏に下がるように言われて素直に下がる。

すると、何度目かとなるツヴァイウィングとクリスの対面。

クリスはまたか、といった面持ちでアームドギアを構え、ツヴァイウィングの二人も同じくしてアームドギアを構え直す。

 

「僕も参加させてもらう」

 

そんな中、走ってきた一人の男がいた。

その男は既に腰にフォースライザーを巻いており、クリスの加勢に来たということが分かる。

気づいたクリスが一瞬驚くが、状況を考えて素直に頷く。

 

「迅・・・来たのか?」

 

「やっと追い付いたからね・・・。それじゃ、変身」

 

フライングファルコン!

 

ずっと走ってきたのか、一度深く呼吸した迅はプログライズキーを起動し、装填してレバーを引く。

強引にプログライズキーがこじ開けられ、ハヤブサのライダモデルが砕けたかと思うと、迅にはマゼンタ色のスーツが着用される。

さらにライダモデルが装甲として縛り付けられることで変身を果たす。

 

Break Down・・・

 

「これで二対二だ」

 

「翼」

 

変身した迅の言葉に反応することなく、奏が翼の名を呼ぶ。

すると翼は無言で頷き、奏も頷いた。絡み合った短時間な視線で互いの行動を理解したのだろうか。

奏が即座に槍を迅に振るい、迅はそれを避ける。

翼はクリスへ肉薄すると一閃。後方に飛んで避けたクリスは翼へとガトリング砲を撃つが、翼は見切ったように弾き、避けて上段からの振り下ろし。

クリスは撃つのを諦めて躱すが、離しても即座に近距離で持ち込まれて追い込まれていく。

 

「以前とは違うのか!? クソっ!」

 

「あたしらも日々成長してるんでね---ッ!」

 

槍による振り下ろし、突きなど様々な箇所からくる攻撃を躱して反撃の蹴りを繰り出す迅。

それが奏に受け流され、反撃の拳を受けて僅かに後方へ下がる。

 

「クリス!」

 

迅が奏に向かって飛行すると見せかけて刀を担ぎ、刃をクリスに向けている翼に突撃した。

翼は自身を呼ぶ奏の声に反応してクリスから距離を離し、斬撃を飛ばす。それに対して迅は背中から翼を広げて身を包むことでガードした。

 

「クリス、平気!?」

 

「あ、あぁ。助かっ---ッ!?」

 

互いに距離が離れた状況。再び第二ラウンドが始まるかと思われた刹那、空からナニカが飛んできてクリスのガトリング砲を両門とも破壊する。

 

『なっ!?』

 

予想外の出来事に驚き、空を見上げる一同。そこには、ノイズがいた。

元々三体居たのか二門を破壊したノイズとは別で、もう一体のノイズが不意打ちを受けた影響で隙が出来て無防備となっているクリスへと襲いかかるが、迅が翼を広げてクリスを抱えて距離を離す---ことが出来ず、身を挺して代わりに受けたことで地面を摺りながら倒れた。

 

「迅!? お前、何やって・・・!?」

 

「と、友達だから・・・守るに決まってる」

 

仮面ライダーとしての装甲のお陰か、少々のダメージで済んだようで、迅が立ち上がる。

 

「さっきまで一匹も居なかったのに。どっから現れた!?」

 

「奏さん!」

 

次々へと飛んでくるノイズを奏が槍で斬りつけ、周囲にも現れたノイズを響と翼がすぐに殲滅する。

そして二人の事よりもノイズを優先と判断したのか周囲を警戒し---見知らぬ声が辺りに響く。

 

「---命じた事すら出来ないなんて、貴女はどこまで私を失望させれば気が済むのかしら?」

 

この場の誰でもない女性の声。全員が声の主に視線を向けると、長い金髪の髪にハット、サングラスを掛けた女性がノイズを使役することの出来る『ソロモンの杖』を握り締めていた。

 

「フィーネ!?」

 

「なんでここに・・・!?」

 

「フィーネ・・・? 終わりの名を持つ者・・・?」

 

知り合いと思わしき迅とクリス。

クリスが呼んだ名から翼が記憶にある情報からそう判断する。

 

「こんなやつがいなくたって、戦争の火種くらいアタシが消してやる! そうすればあんたの言うように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

 

「クリス・・・」

 

響に一瞬だけ視線を移し、フィーネに向かってクリスが叫ぶ。

そんなクリスを何処か心配を含んだような様子で迅が見つめるが、対するフィーネから返ってきたものはため息だった。

 

「もうあなた達に用はないわ」

 

「な、なんだよ、それ!?」

 

「どういうことだ!?」

 

フィーネの言葉に見ていた迅も声を上げるが、フィーネは何も語ることなく手を翳す。

するとクリスがイチイバルを纏うために脱ぎ捨てたネフシュタンの鎧が粒子となってフィーネの手に集まり、やがて消失した。

目的を達成したからか、フィーネがソロモンの杖からノイズを召喚して奏たちを囲む。

その隙に背を向けて姿を消した。

 

「待てよ! フィーネェ!」

 

「クリス! 一人だと危険だ!」

 

フィーネの言葉が信じられずにフィーネの後を追うクリス。

一人だと先程みたいに狙われるかもしれないと迅も共に向かっていき、即座にノイズを倒した奏たちは同じく追おうとすると---

 

「これはッ!?」

 

数本の紫色の矢が奏たちの足元で小さな爆発を起こして立ち止まるしかなく、さらに()()()()()()()()()()()()()()()赤黒い壁のようなものがクリスたちが去っていった方向に行かせんと出来上がっていた。

試しに奏が槍を全力で振るうと強固なようでアームドギアである奏の槍すら弾く。

 

「アイツの仕業か。これ以上は無理みたいだな・・・」

 

「クリスちゃん・・・」

 

これを行ったのが誰か察した奏は諦めたように呟くと、翼も同意見なのか刀を納める。

最後に残ったのは響の心配を含んだ声のみだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反応ロスト。これ以上の追跡は不可能です」

 

「こっちはビンゴですよ」

 

一方で二課の司令室では、映像に突如としてジャミングが入ることで余計に追跡することも不可能になっていた。

しかし藤尭は身元を調べることに成功したようで、画像を出す。

そこに居るのは、先程までイチイバルを纏っていたクリスだった。

 

「雪音クリス、現在16歳。二年前に行方知らずとなった、過去に選別されたシンフォギア装者候補の一人です」

 

藤尭の言う通り、元々クリスは装者候補として名の上がっていた少女だった。

しかし内戦に巻き込まれて以来、突如として失踪したといった経緯があった。

 

「・・・亡くん。大丈夫か?」

 

今はこれ以上何も分からないと分かると、弦十郎は話に入ってくることも無く無言のままいる亡に声をかけた。

 

「すみません。少し外の空気を吸ってきます」

 

「・・・分かった」

 

この場の誰もが理由を分かってるからか、誰も引き止めようとはせずに亡は司令室から出ていく。

 

「ようやく見つけた知り合いが敵対してるんだもんな・・・」

 

「流石に掛ける言葉が見つからないわ」

 

「俺たちには俺たちが出来ることをするしかない。・・・無理はするなよ、亡くん」

 

司令室を出ていった亡の方向を僅かに見て呟いた後、弦十郎は指示を出し始めた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出てきた亡は、ベンチに座って街を見ていた。

その手には缶コーヒーが握られている。

 

「迅。一体何があったのですか・・・? 滅は一体どこに・・・それに誰よりも平和を願っていた貴方がどうして・・・? 彼女に手を貸すのにも何か理由があるのでしょうか」

 

誰も居ないからか、悩むように呟かれる言葉。

そんな中、当然の如く返ってくる答えなどない---

 

 

 

「知りたいなら、自分で聞いてみたら?」

 

()()()()()

亡は声が聞こえてきた方に即座に振り向く。

そこには、黒髪に赤いメッシュが入っている少女が笑みを浮かべながらいつの間にか立っていた。

両手に握られているのは、ホワイトシルバー色の一匹の()()()()が描かれている()()()()()()()()と迅が持っていたフォースライザー。

 

「貴女は確か・・・アズ?」

 

「正解」

 

亡が僅かに驚いたような表情を見せながら思い出すように言うと、アズは器用にベルトとゼツメライズキーを脇に挟んでパチパチと拍手をする姿があった---

 

 

 

 

 

 

 





迅→いい子
亡→迅が敵対していることに、僅かにショック中
エボルトさん→喫茶店のお仕事中
アーク様→遅刻(原因は次回)だけど妨害
アズ→アーク様の指示通りアイテムお届け(亡が二課から出てきたから渡せる)
でした。

とまあ、今回はいつものやつないですが、ちょいとどうでもいい報告をば。
滅亡迅雷が届きました!
まずプログライズキーandユニット→かっこいい!でも変身音なんて言ってるか分からんけどかっけぇな。
本編→アズを出して幸せにしてやろうという決断したけど未だにあのシーンだけは嫌い。
滅亡迅雷については、まだ見直してないけど悪だった存在が『悪になるしかない』って悲しいよね・・・。

次にスーパーヒーロー戦記の前にセイバー。
デザストと蓮の回、マジでセイバーで一番好きかもしれないです。内山昂輝さん好きだし。

スーパーヒーロー戦記→学校から予定が入らないことを願いながら初日に行きます。俺は未だにマイナビを許してねぇからな?(Foreverの件)。でも映画限定フォーム使い回しだよね?俺的にはだs・・・げふんげふん。文哉くんと奥野くん出るので死んでも行きます。サプライズ期待したいけどなければライブラリーにしてくれないかな。歴代戦士達。

では、リアルが忙しくていつになるか分かりませんが、また次回!



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第十五話 ワタシのヒーロー


スーパーヒーロー戦記とかジオウ小説とか色々言いたいことはあるんですけど、長くなるのでやめておきます。
本題に入ると、今回はオリジナル回になります。というのも、セレナ出してるのに何もしなければ意味ありませんからね。二期に繋がるんじゃないかな・・・(瞬瞬必生精神なので何も後のことを考えていない)
ただひとつ、分かることはありました。---マシで感想ってかなりやる気に繋がってたのか。いや、言い訳させてもらうとっ! 勉強はしてましたよ? 他者の小説を読むという勉強を!
でもそのせいか、なんかまた書き方変わってんだよな・・・何故だ? 私的には今回の方が好きですけど()
ということでほんへ、どうぞ。





 

 

 

今日も私は朝食を作ったり、作りに行ったりします。

家事などは私の仕事で、シンさんは師匠の所にいるか、何処かに出掛けてますし。

愛乃姉さんはシンさんの傍にいつもいます。

・・・私も本当はシンさんについて行きたいのですが、我儘は言えません。

ただ昨日は珍しくシンさん一人で帰ってきて、疲れていたのかすぐに寝ていた。

私は洗濯などを済ませるとシンさんの傍に居ましたけど、シンさんって寝てる時は本当に無防備なんですよね。普段はかっこいいのに、寝顔は可愛いです。

ただ起きると私に一言掛けてから慌てて何処かに行く姿がありました。言ってくだされば、起こしたのですが・・・。

 

今日も今日とて、シンさんと愛乃姉さんは居ないです。学校なので、それは仕方がないです。

私は部屋の中などを掃除していると、テーブルに視線が行きました。

そこには、今朝作った弁当が置かれています。

・・・シンさん、忘れたみたいです。最近は色々な所に行ってるようなので、余裕がない、とか? 前だって師匠から錬金術に必要だからと何らかの動物っぽいものの毛皮を取ってきて欲しいとか頼まれてました。

私も錬金術は師匠から習ってますけど、最近なので勉強中であまり使えません。

 

とりあえず学校に届けるべきですよね・・・。忙しいならご飯は大事ですから。あまり一人で外出しないように言われてますけど、仕方がないと思います。

 

「よし!」

 

そうと決まれば、早速服を着替えます。

もちろん、外出用です。私はただでさえ身長が低いので少しでもアピールしないと妹みたいに思われそうです。大きくなったら、愛乃姉さんみたいになれるでしょうか。

愛乃姉さんは私にとって、血は繋がってないですがお姉さんです。可愛くて、綺麗で、素敵な女性。

シンさんのことになると周りが見えなくなったりしますけど、気持ちは分かります。ですけど、シンさんのことになると凄く可愛いんです。

でも普段は優しくて暖かくて、姉のような感じがするので愛乃姉さん。

積極的な所は私も参考にしたいです。

 

服を着替え終えて鞄を持ち、必要なものを入れると部屋を出て玄関に。

そして靴を履くと、家を出て鍵をしっかり閉める。

 

シンさん曰く、許可した知り合い以外が勝手に入ったらアークの力でどうなるか分からない。とよく分からないことを言ってましたが、念の為です。

 

それから以前教えられた学校への道に歩みを進める。

全く来たことがないため、新鮮さを感じて周囲を少し見渡しながら歩いていると何処か観光してるような気分になってくる。

 

「・・・あれ?」

 

しばらく歩くと、違和感を感じる。

慌てて周囲を見渡すと、学校が見えずに首を傾げる。

確か言われた場所はこっちだったような・・・? もしかしてこっち? それとも向こう? 

 

「・・・どうしよう」

 

道が分からなくて、迷子になりました。

とりあえず連絡しようと鞄に手を入れると、携帯が見つからない。

となると、家に置いてきたのだと理解して焦りが出てきた。

一応帰るためのテレポートジェムはあるけれど、こんなことに使ったら少し恥ずかしい。

周りにいる人に聞くのもありかと思っても、大人の人に聞く勇気は持てなかった。

それにシンさんからあまり知らない人に不用心に近づくなとも言われています。理由を聞けば、『アズやセレナは特に考えを持っていた方がいい』と言ってましたけど、よく分かりませんでした。

とにかく来た道を戻り、再び周囲を見渡す。それから別の道を歩き出してみると---

 

「わぷっ」

 

「あっ、ごめんなさい! 大丈夫? 怪我とかしてない?」

 

横路から出てきた女性とぶつかってしまう。

慌てて謝ろうとするより先に向こうから謝られてしまったので言い出しにくく、とりあえず怪我はしていない事を説明すると、安心したかのように息を吐いた。

 

「良かったぁ・・・。急に飛び出しちゃって、ごめんね」

 

「い、いえ。こちらこそごめんなさい」

 

二度も謝られてしまったので、私も謝る。

流石に相手に謝って貰うのは申し訳がない。いくら迷子に---なってたとはいえ。とりあえず公衆電話か何処かでシンさんに連絡しないと・・・。うぅ、力になるところが、迷惑を掛けることになりそうです。

 

「えっと・・・間違ってたらごめんね。もしかして、迷子かな? 良かったら私も一緒に探してあげる」

 

「あ・・・ちが---いえ、そのちょっと道がわからなくて・・・」

 

思わず見栄を貼りそうになり、すぐに修正する。

正直、今会ったばかりの人を頼るのはどうかと思うけど、シンさんに向かいに来て貰う訳にはいかないので素直に言うことにした。

それに、目の前にいる優しそうな女性の好意を無下には出来ないので、甘えることにする。

 

「それなら道案内してあげるよ。安心してね」

 

「あ、ありがとうございます。えっと---」

 

視線を合わせて優しく微笑んでくれる女性。

どうして親切にしてくれるのかな、という考えが過ぎるが、頭を振って考えを無くす。もしもの時は逃げるけど、親切な人にそれは失礼だったから考えないようにした。

そして感謝して礼を言おうとすると名前が分からないことに気づく。

 

「あ、私の名前は小日向未来。友達からはヒナだったり未来って呼ばれてるけど、好きに呼んでいいからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来と名乗った女性の道案内でシンさんがいる学校に向かってる最中、私は嘘をつくことに罪悪感を感じつつ、本音も混ぜて話す。

 

「シアちゃんはこの街に初めて来たんだ」

 

「はい。今お世話になってる人の所にお弁当を届けようとして道が分からなくなっていたんです」

 

シンさん自身も偽名を使ってることから、知られるとなにかマズイのかと思った私は名前を聞かれた際に慌ててシアと名乗った。

シンさんの『シ』と愛乃姉さんの『ア』から借りた名前だけど私がセレナだってことは分からないと思う。

 

「偉いね」

 

「そうでしょうか・・・?」

 

私が偉いと言われたことに疑問で返すと、未来お姉さんは頷いてくれた。

流石に少し照れるので、笑顔で返す。

ちなみに今、手を握られた状態なので迷子の子供みたいに見えるかもしれない。

 

「あそこかな?」

 

「あっ、そうです!」

 

未来お姉さんが指を差すと、シンさんから聞いた特徴の校舎が見えて頷く。

時刻はそろそろ昼食の頃なので、間に合ってよかったと安心する。

そういえば未来お姉さんは学校大丈夫なのかと考えるが、昼前に終わったのかもしれない。

とにかくお礼を言うと、学校が違うので待ってるという未来お姉さんに頭を下げて入っていった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

自身をシアと名乗った少女をお世話になっている人がいるという学校へ届けた未来は、関係者ではないので入る訳にも行かずに()()()()()()()()として鞄に掛けている()()()()()()()に触れながら待っていた。

すると、騒がしくなったかと思えば唐突に静まり、未来お姉さんと呼ぶ声が聞こえて慌てて鞄の中に収納してから体を向ける。

 

「お待たせしました」

 

そこにはぺこりと頭を下げるシアの姿がある。

 

「しっかり届けられた?」

 

「はい!」

 

「そっか」

 

未来の疑問に嬉しそうに答えるシア。

未来は何処か自分自身と親友に似た感じがするシアに安堵しながら慈愛の籠った眼差しで見つめた。

 

「? あの、何か付いてますか?」

 

「あっ、ううん。なんでもないよ」

 

一瞬、未来は目の前にいる少女に自身を重ね、行方不明のままで想いすら伝えれない()の姿を考えたが、悟られないように首を振って密かに少女を応援しておくことにした。

 

「なら、いいのですが・・・」

 

とりあえず目的は達成したため、二人は今からどうするか相談する。

何処に行くか、それとも道が分かるところまで行くか、等など。

しかし時間的には昼食ときで、互いにお腹が空いてきていることを共有する。

すると未来が美味しくてよく食べに行くところがあるから行かないかと誘った。

シアは邪魔でならないなら、と承諾し、お店の名を聞く。

そのお店の名は『ふらわー』という名で、お好み焼き屋なのだという。商店街の一角にあるお店とのことで、二人は商店街へ向かうことにした。

 

「未来お姉さんはよく商店街に行くんですか?」

 

「うん。場所的にね」

 

「なるほど・・・」

 

他愛もない話をしていると、いつの間にか商店街へ辿り着いていた。

そのままお店へ向かい、それらしきものが見えてきた。

本来なら、お店の中でご飯を食べて、話して、解散になるはずだった。

 

 

 

 

 

 

---だが、それは突如として鳴り響く。

この地域全体に鳴り響きそうな程に高々と鳴り響く警報。

未来は全身を硬直させ、シアは理解できない様子でその音に驚愕していた。

 

「あの、この音は一体・・・?」

 

シアの純粋な問い。

それに対して未来はただシアの手を強く握り、そして駆け始めた。

 

「知らないの!? ノイズ警報だよ! はやくシェルターに逃げないと・・・!」

 

必死に手を引っ張ってシェルターに一緒に逃げようとする未来と慌ただしくシェルターに行こうとする周囲の人々を見て、シアは見渡す。

誰もが恐怖の対象であるノイズの出現に様々な感情を顕にしている。恐怖、絶望、怒り、焦燥、不安---。

そんな中、シアは悩んでいる暇はないと小さな声で謝り、未来の手を離した。

未来は突然手から温もりが無くなることで戸惑いの声を漏らす。すぐに振り向くと姿を見ることは出来たがシェルター目掛けて増えていく人混みの中に埋もれるようにして消えていき、シアは流されないように横路に姿を隠した。

 

「どうしましょう・・・」

 

人が一人も居なくなった商店街で、一人シア---セレナは考える。

渡されたシンフォギアを纏うことやファウストローブを纏えばノイズを倒すことは出来る。しかし、その際に出してしまう波長で影響を与えてしまうかもしれないと考えると考え無しに纏うことは出来ない。

そもそもの問題、自分にはノイズの位置が分からないために対処法がないことに気づく。

 

「・・・?」

 

結局振り出しに戻ったと思うと、ふと視界の隅に入ったのは炭。

風に漂うように視界に入ったそれを自然に追いかけていき---

 

『----』

 

数多くある炭の中を歩くノイズの姿がそこにあった。

色とりどりで様々な形状を持つノイズ。

ノイズもセレナがいることに気づいたのか、顔らしき箇所をセレナに向け---

 

「ッ!?」

 

紐状となったノイズが凄まじい速度でセレナに突撃する。

それを反応したセレナは即座に避けて胸元からペンダントを取り出し、触れる。

 

「・・・ダメ。出来ませんッ!」

 

セレナの胸に浮かぶ歌。それを口に出してしまえば、間違いなく目の前のノイズは倒せる。

だがセレナにその選択は出来ずに、ならば、と邪魔にならないよう胸元にペンダントを入れながら人々が逃げていった所に向かわせないように別方面へと走り、逃げようとする。

当然、ノイズは目の前の何も出来ない一人の少女を狙おうと追っていくが、セレナは計算のうちに入れながら商店街からノイズを引き付けて離れさせようとしていた。

その行動は誰から見ても、無茶で無謀な行動。一人の小さな少女がノイズ相手に逃げれるのであれば、誰も苦労はしない。

それでもセレナには戦うための手段を持ちながらも、纏うことは出来なかった。

そんな時、ギアがダメならファウストローブなら? と考える---が、シャトーの中にあることを思い出したセレナは使えないと判断し、己の体力が持つ限り諦めずに足を動かす。

同時に、ノイズに触れないように最大限に警戒しながらセレナは状況を打破するために思考していた。

ファウストローブはシンフォギアを元にしているため、アウフヴァッヘン波形が出てしまうとシンに説明されたことを思い出す。

だからこそ、シャトー内部かアークの力を持つシンが居なければ誤魔化すことも使うことも不可。何故なら、彼らが敵対関係にある組織に見つかってしまうから。

そして、ある物を使えば()()()()()()逃げることは可能だと理解していた。

だが、そうすれば自分を見失ったノイズは手当り次第に移動して、見つけ次第誰かを炭化させるのだろうということは想像に容易い。

しかしそれはそれで、自分の体力もあまり長くはなく---

 

「きゃああぁあぁぁ!」

 

「ッ!?」

 

いつの間にか路地から出てきたセレナは、小さな子供の声らしきものが耳に届く。

瞬時に足を止めてノイズの位置を確認。まだ距離があると理解すると周囲を探す。

 

「ひっ・・・」

 

周囲を見渡すと、お店の看板に隠れるように地面に座り込んでいる少女が居た。

ノイズが近くにいる恐怖からか、涙を流している。

何故一人で居るのか? 母親はいないのか? 他に家族は? などと言った思考がセレナの脳裏を一瞬だけ過ぎるが、考えてる暇もなくセレナは少女の手を取った。

 

「こっちです!」

 

「ぁぇ・・・!?」

 

セレナに引っ張られる形で、少女が足を動かす。

その時に気づかれたのかノイズが突撃してくるが、曲がり角のお陰で難を逃れる。

それでも追ってくることは予想出来るようでセレナは足を止めずに少女に声を掛けていた。

 

「大丈夫。絶対、貴女をお母さんの元に返しますから!」

 

「お、おねえちゃん・・・う、うん!」

 

「ッ---?」

 

一瞬。ほんの一瞬の出来事。

ほんの僅か、数秒にも満たない刹那。

遠いような、懐かしいような、昔のような、大切なような記憶が脳内を駆け巡った。

 

『----さん。私たち、どうなのかな・・・』

 

『大丈夫---には私が居るから・・・』

 

「おねえちゃん・・・?」

 

「ぁ・・・ごめんなさい。私は平気だから」

 

慌ててそんな場合ではないと頭を振り、浮かんだことを忘れる。

そしてセレナは走りながら背後を見る。

少女の後ろにもノイズは居なくて、周囲にも居ない。

 

(撒けた? それとも他のところに?) 

 

そんなふうに追ってこないノイズにセレナが疑問を抱くと、嫌な予感を感じ取って上空を見た。

 

「まさか、上ッ!?」

 

セレナは太陽を遮られ、夜でもないのに暗くなったのに違和感を感じるとノイズがプレスするように落下してくるのが見えた。

恐らく、家やマンションなどを使って回り込んできたのだと理解すると少女を抱いて横に飛ぶ。

ノイズによる一撃で地面は砕かれるがセレナたちは広い場所に出た---いや、出されたの方が正しい。

倒れてる少女を優しく起き上がらせると逃げようとするが、次々とノイズは囲むようにして逃げ場を防ぐ。

人間の身で触れられないことから、正面突破は不可。

周りは既に囲まれていて、そう遠くない時間にノイズは襲いかかってくるだろう。

 

「お、おねえちゃん。こわいよぉ・・・」

 

涙を貯め、セレナの裾を掴んでくっつく少女。

そんな少女を見て、セレナは迷うことも無く覚悟を決めて胸元のペンダントを取り出した。

 

「泣かないで。私が必ず助けますから・・・! ごめんなさい、シンさん・・・!

 

少女を安心させるように頭を撫でると、小声で謝ったセレナは力強く握りしめ、口ずさむ---

 

Seilien coffin airge---

 

「必要ない」

 

声が響く。

どこからとも無く響いた声。ノイズたちの足元を()()()()()が通り過ぎ、セレナたちの前方にいるノイズを拘束して次々と上空に縛り上げる。

見覚えのあるものにセレナは驚き、振り向いた。

 

「やっと追いついた。流石に監視カメラを全て消しながら追うのは苦労させられた」

 

やった犯人の声は間違いなくセレナたちの背後から聞こえた。

その主を探そうとするが、ノイズが邪魔で見えない。

ただひとつ、分かることはノイズは()()を見つけた。囲んだ獲物より愚かなことに近くに来た存在を優先し、セレナたちの背後にいたノイズたちは一斉に飛びかかった。

そのお陰で姿が見える。冬でもないのに黒いフード付きのパーカーを着こなし、フードで顔を隠している声からして男の声。

セレナは聞きなれている声に安心と喜びを含む表情を見せる。

 

「フィーネが操ってると考えたが、こんな使い方はしない。自然発生か? それとも、錬金術・・・? いや、()()()()はこんなことをするはずがない」

 

「お、おにいちゃん!」

 

災害であるノイズが迫っているというのに、何も行動せずに独り言を言う姿に少女がこれから訪れるであろう光景に目を閉じた。

 

「残念ながら、予測済みだ。ただの自然発生ならば興味はない」

 

まるで未来(みらい)でも一度見たかのように避けていき、片手を振るうと波動が発生して避けきれないノイズを吹き飛ばす。

 

()()()だと生身では倒せないか・・・」

 

「シンさん!」

 

普通は出来ないことを小声で呟いた男、シンは嬉しそうにセレナに名を呼ばれた。シンはセレナを見て、隣の少女を見ると目の前までノイズを吹き飛ばしながら行く。

 

「悪い、遅れた。・・・もう大丈夫だから、安心して欲しい」

 

セレナに一度目を向けてからしゃがんで少女に目を合わせて言う。

その時、警戒させないためかフードを外した。

フードが外れると顕になったのは年老いた訳でもないからか日本では珍しい綺麗な白髪の髪に、赤い瞳。整った顔。

フードを取ったシンは安心させるように笑いかけ、少女の頭を撫でた。

シンの素顔を見て固まっていた少女は撫でられて気がついたのか恐怖を感じていた表情から笑顔になり、こくりと頷くのを見たシンは立ち上がってセレナと少女を後ろに下げる。

そして腰には突如現れたドライバーが巻き付けられていた。

 

アークドライバー・・・

 

「変身」

 

慣れている動作なのか、彼はバックル上部のボタンを押す。その瞬間、赤い目玉のような部分が一瞬だけ強く発光した。

 

棘のような黒色のモノと赤いオーラがシンの前方に現れ、棘のようなモノが次第に黒い沼になって人型のナニカを作る。

周囲は血のような、雨のような、雪のように悪意の文字が飛び散り、直ちに全てが重なった。

 

オール・ゼロ・・・

 

現れたのは、人類に悪と認定された仮面ライダー。

その名を、仮面ライダーアークゼロ。

 

「すぐに終わらせる」

 

赤い瞳を輝かせ、向かってくるノイズに対して佇む。

何も行動しようとしないアークゼロをノイズは悍ましく感じることも恐怖を感じることも無く正面から突撃する。

アークゼロは一体のノイズを鷲掴みし、握りつぶす。そして次々と飛びかかってくるノイズに対して歩みを進め、蹂躙が始まった。

囲んだところでギリギリのところで避けられ、反撃を受ける。突如として現れたアタッシュアローから放たれる矢は、巨人型ノイズですらあっさりと貫く。

そう、ノイズは一度もアークゼロに触れることすら叶わない。例え偶然近くにいたノイズが、少女二人を狙ったところでアークゼロが先回しして消滅させるほどだ。

そして数秒持ったかすら分からないほど、短時間で殲滅させられた。

そもそも、いくら半減しているアークゼロといえど、本来のスペックは他ライダーを圧倒出来るほどのポテンシャルを秘めている。装者を相手にしても半分の力で余裕そうに戦えてることから言わずもがな。

さらに変身者によっても力量が変わり、彼はアークゼロの力をスペック以上に引き出せることからこの戦いは最初から決まりきった結果だった。

それを抜いたとしても、思考出来ないノイズでは勝つことなど不可能。もしノイズに思考する力、そして感情というものがあれば別だったかもしれない。

 

「セレナ。離れるぞ」

 

「あっ・・・はい」

 

人類にとって災害とまで言われているノイズですら蹂躙された惨状を見てか、セレナは苦笑いしながらも返事し、少女の頭を撫でてから離れることを伝える。

 

(こ、これで半分の力しか使えないと言っていたのが信じられない・・・。本来の力なら一体・・・?)

 

セレナにはそんな思いが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって街中を歩く。

アークによる力で証拠や記録すら全部消したことから、誰もアークゼロの正体には気づけないしセレナたちのことも分からないだろう。

元々、アークというものは明らかなオーバーテクノロジーなAIが搭載されている力だ。ハッキングなんてお手の物だし、都市機能すら操るのは可能。

それをしないのは人類を見極めているのか、信じているのか、はたまた別の理由か---。

 

「シンさん。学校があるのにご迷惑を・・・」

 

「流石に普通はノイズは予想出来ないし迷惑ではない。セレナが無事なら来てよかったが・・・ギアの力は使わなかったのか」

 

現在、変身を解除してフードを再び被っているシンは背中に先程まで居た少女を背負っていた。

彼が高校生じゃなければ間違いなく事案だった。しかも、隣にいる少女はセレナで明らかに誰もが美少女と言うほどの容姿。

これがもし老いた人だったり、ちょっとアレな体型の人だったら誤解でも通報待ったナシである。だが傍からみれば、お似合いの夫婦か恋人に見えているかもしれない。シンの顔がフードで見えないから怪しくも見えてしまうが。

 

「あと少しで纏うところでしたけど・・・」

 

「・・・セレナが危険なら使ってくれ。もしもの時はオレがなんとかする。キャロルのやつともそういう契約だ」

 

「はい。それにしても、寝ちゃいましたね」

 

普段、アークゼロと戦っている面子が居たら拍子抜けしそうな優しく心配を含んだシンがセレナに言うと彼女は素直に頷いた。

自分を心配してのことだと理解してるからだろう。嬉しそうな表情をしつつ、誤魔化すように話題を変える。

 

「まだ幼い少女だからな。彼女の母親がいる場所は見つけた。名前だけでも分かれば、情報を探して衛星か国家のコンピューターにアクセスしたり何かで探ればいいだけだし」

 

「シンさん。さらっととんでもないこと言っているのに気づいてますか?」

 

全くもってその通りである。むしろ、今の会話を聞いたのがお偉いさんだったら椅子からひっくり返りでもしそうだった。

セキリュティの高いであろう場所を証拠も侵入した跡すらなく抜き取るな、と。

 

「悪用するわけじゃないし、良いだろう。・・・たぶんな。まぁ、どちらにせよ興味はない」

 

「でも確かに、何処にいるかは分かりませんし・・・今回ばかりは仕方がないですね」

 

はぁ、とセレナは困ったようにため息を吐く。

彼女は、アズほどシンの全てを最終的に肯定する訳では無い。悪いことすれば注意はするし、無理や無茶なことをすれば怒る。人間としては当然であり、むしろ文句や不満は言っても全肯定するアズが可笑しいだけなのだが。

 

「そうだな。この子は悪くないし、そもそも子供に罪はない。子供は大人の責任だ。だからオレはこの子を母親の元に送ってやりたい。子供というのは大人が良いように育てれば良くなるし悪くもなる。・・・()()()()()()と一緒だな」

 

「なるほど・・・。ところで、あの、ひゅーまぎあって?」

 

「いや・・・気にすることじゃないよ。それより、この子の記憶も消さないとな」

 

セレナが聞いた『ヒューマギア』という単語を誤魔化すようにセレナの頭を優しく撫で、シンは少女を見た。

セレナは少し恥ずかしげにするが、『記憶を消す』という言葉に少し暗い表情をする。

 

「やっぱり、するんですね・・・」

 

「何も、全部削除するわけじゃない。ノイズに一度襲われたことがあるという恐怖は時に力になるが、足枷にもなる。幼い子供に、それは荷が重い。トラウマにでもなられたら大変だしな」

 

「そうですけど・・・」

 

そうじゃないと言いたげにセレナはシンを見つめるが、彼は彼なりに少女のことを思ってのことだろうと二度目のため息を吐いた。

 

・・・いつになったら、自分のことを視野に入れてくれるのでしょう

 

「何か言ったか?」

 

「いえ・・・シンさんらしいなぁ、と」

 

クエスチョンマークを浮かべるシンにセレナは、なんでもないです、と言うとふと周囲を見渡す。

そして思い出すように聞いた。

 

「そういえば、愛乃姉さんは居ないんですね」

 

「あぁ、学校にいるよ。レイアかファラ、どちらかが護衛してるし問題ないはずだ。あそこの学校に実力者はいない」

 

「それなら安心です」

 

ほっと安心したように息を吐くセレナを横目に、シンはそろそろか、と呟くと眠っている少女を一度そっと降ろした。

シンは少女が倒れないように支えながら頭に手を置き、少ししてから起こさないように抱える。

 

「これで・・・いいか。もう少しだからセレナも頑張ってくれ」

 

「私は全然平気ですっ」

 

「・・・? それならいいが」

 

むっ、と拗ねるように顔を逸らすセレナを見て、シンは首を傾げるが気にせずに歩みを進める。

少しすると、ノイズによる警報も消えたからか周囲に徐々に人が増えていき、一人の女性が焦った様子で何かを探していた。

 

「・・・あの人か。悪いけど、話しかけてくれるか? オレが行っても警戒されそうだし」

 

「あぁ・・・フード被ってますもんね。分かりました」

 

「すまない」

 

申し訳なさそうにするシンを見て、くすっと納得しながら笑うとセレナは母親らしい人に話しかけた。

 

「あの、那由ちゃんのお母さん・・・で合っていますか?」

 

「ッ!? え、えぇ・・・どうしてうちの娘の名前を?」

 

「えっと・・・」

 

母親らしき人が驚いた様子を見せるが、セレナはチラリとシンに視線を移す。理解したように彼は少女・・・那由を既に起こしていたのか、立たせた。

 

「おにいちゃん・・・?」

 

「ほら、お母さんだ」

 

眠たげに目を擦る那由をシンは母親の方へ向かせ、背中を優しく押した。

 

「わっ・・・おかあさんっ!」

 

「那由・・・!」

 

シンに言われて気づいたのか、眠たげにしていた那由は母親の方へ飛び込み、母親は抱きしめた。

それを見ていたセレナは入る訳には行かないとシンの隣に立ち、顔を見上げる。

フードで隠れて見えないだろうが、下から見上げる形で見ているセレナには彼がどんな表情をしているのか読み取ることが出来た。

 

「今度は迷子にならないようにな。では、これで」

 

「一人だともしものことがあったら大変ですから、気をつけてくださいね」

 

()()()()()()と理解したセレナはシンに話を合わせ、那由に手を振りながら微笑んだ。

 

「うん! ありがとう。かっこいいおにいちゃんとやさしいおねえちゃん!」

 

「本当にありがとうございました・・・!」

 

母娘のお礼を背中に受けながら、二人は離れていく。

しばらくして姿が見えなくなると、シンは疑問に思ったのか首を傾げる。

 

「・・・ かっこいいお兄ちゃんって、誰だ?」

 

「シンさん・・・自分の評価って低いですよね」

 

「いや・・・正義の味方でもない奴をかっこいいって言わないだろう」

 

「那由ちゃんからしたら、正義の味方だとは思いますよ?」

 

セレナの言葉に、シンはどうだかな、と言うと空を見上げる。

空にある太陽は真上から少し斜めになっていることから、少しずつ昼ではなくなっていっているのだろう。

 

「セレナは昼食はまだなのか?」

 

「あ、はい。実は・・・」

 

「だったら、行くか」

 

シンは返事を聞くように見上げていた視線をセレナに移すと、目をパチパチと瞬きするが、聞いてるのだと理解すると花が咲くような笑顔でセレナは返事をする。

 

「はい! あの、その後は予定・・・ありますか?」

 

「特には・・・ないな」

 

「なら私、シンさんと色々なところを見て回りたいです。ダメでしょうか・・・?」

 

「いや、問題ない」

 

シンの返答にセレナは嬉しそうにしながら手を握る。

一瞬だけシンは呆けるが、迷わないようにか、と間違いなく違う答えを出して手を委ねた。

 

・・・私からすれば、私の正義の味方(ヒーロー)なんですからね

 

「・・・ん? 悪い。聞こえなかった」

 

「いえ。なんでもないですよ。それより、早くデートに行きましょう!」

 

周囲の音で掻き消されたからかシンはセレナの言葉が聞き取れなかったが、セレナは誤魔化すように笑って手を引っ張っていく。

シンは携帯でアズに終わったら先に帰るようにメールだけ送り、引っ張られる形で連れて行かれた。

 

(昼食を食べて、見て回るんじゃなかったか?)

 

世間では一般的にそれを『デート』とも言うのだが、シンは嬉しそうなセレナを見てフードを深く被りながら『まあ、いいか』と自分で勝手に納得することにした。

 



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第十六話 新たな仮面ライダーは戦場を駆けるニホンオオカミ


圧倒的サブタイトルの下手くそさ。ネーミングセンスない人間が上手いタイトルを思いつくわけないだろ!
えー、ハーメルンで好きな仮面ライダーの小説の人に触発されたのか、モチベが上がってリバイス(新ライダー)始まるまでには一期を終了近くまでいきたい! ということで書けたので投稿します。
最初から見直して思ったのですけど、最初はお気に入りしてくれた人50人とかでクソ喜んでたなぁって。今でも一人でも増えたら嬉しいのですが。ただここまで増えちゃうと減っては増えてはしちゃうんですよねぇ。
さて、長々話してもあれなんで、本編どうぞ。もっとお気に入り登録や感想や高評価(8以上)してくれてもええんやでというかお願いしまああぁす!ランキング入りたいゾ・・・高評価+評価の数で決まるらしい(?)←投稿歴一年半なのにまだ分かってない蛙





 

どことも知れない場所にある屋敷。屋敷の主であるフィーネは何処かに電話で会話をしていた。

そこに吹き飛ばす勢いで扉が開かれ、クリスと後ろの方に迅が居た。

 

「アタシらが用済みってなんだよ!? もう要らないってことかよッ! あんたも物のように扱うのかよッ!?」

 

否定して欲しいという想いを込められた叫び。

そんなクリスを心配を含んだ表情で見ながら、迅も聞きたいのかフィーネに視線を送っていた。

フィーネは鬱陶しそうにため息を吐いて電話を切ると椅子から立ち上がる。

 

「どうして誰も私の思い通りに動いてくれないのかしら」

 

言うと同時に、フィーネが手にした杖のようなものから緑色の光が発射される。

それが床に着弾すると、ノイズとなりクリスたちの前に現れた。

その行動がフィーネの意思---つまり捨てられたのだと理解する。

クリスは目の前に召喚されたノイズを見てペンダントに触れるが、聖詠を紡がない。

しかし迅がクリスを後ろにし、プログライズキーを取り出していつでも使えるようにする。

 

「フィーネ、どういうことだ!? 僕たちはずっとあんたの言うことに従ってきたはずだ!」

 

「・・・流石に潮時ね」

 

「なんだって・・・!?」

 

フィーネの言葉を聞いた迅は、怒りを抑えるように拳を握りながら、フィーネを睨みつける。

 

「あなた達のやり方じゃ、争いを無くすことなんて出来やしないわ。せいぜい一つ潰して、新たな火種を二つ三つばら撒くことぐらいかしら?」

 

「ッ・・・あんたが言ったんじゃないか!? 痛みもギアもあんたがアタシにくれたものだけが・・・!」

 

「与えられた力と私が与えたシンフォギアを纏いながらも毛ほども役に立たないなんて・・・そろそろ幕を引きましょう」

 

クリスの言葉を遮るように、フィーネの手のひらに青い光が集まっていく。それが徐々に形になっていった。

 

「私もこの鎧も不滅。未来は無限に続いていくのよ」

 

「・・・! ネフシュタンの鎧・・・!?」

 

「クリスが纏っていたものと同じ!? でも、色が違う・・・?」

 

フィーネが纏っていたものは、クリスの身につけていた完全聖遺物の『ネフシュタンの鎧』だ。

しかし迅の言う通りクリスが白銀だったのに対し、フィーネのそれは黄金に輝いている。

 

「『カ・ディンギル』は完成しているも同然・・・。もうあなたたちは必要ないわ」

 

「カ・ディンギル・・・?」

 

「あなたたちは知りすぎたわ」

 

クリスが知らない単語に疑問を浮かべる中、フィーネが杖を向けた。

同時に迅はプログライズキーを起動と同時にすぐさまレバーを引いた。

 

フライングファルコン!

 

Break Down・・・

 

「させるかッ! クリス、一旦退こう!」

 

翼を広げた迅が羽を発射し、周囲のノイズを消し飛ばす。

しかし次々とフィーネがノイズを召喚するせいか、処理しきれず、フィーネの元に向かって妨害することすら許されない。

クリスは迅とフィーネを見て逡巡とするが、歯を噛み締めると迅の言葉に従うように迅が倒し切れず、襲ってきたノイズを躱して屋敷のバルコニーへと転がり出る。

その時振り向いたクリスが見たのは、まるで邪魔な虫けらでも潰すかのような嗜虐的な笑みを浮かべるフィーネだった。

 

「っ・・・ちくしょう! 迅!」

 

「分かってるよ! こんの!」

 

既にだだっ広い部屋全体を埋めるかのように存在するノイズを自身の道だけ開けると、翼を広げてクリスを抱えて空に飛び出す。

フィーネは無言でノイズに追うように指示をし、鳥型のノイズに至っては他のノイズよりも先に追うように空を飛んで行った。

それを見届けたフィーネはふと気配を感じ取り、ネフシュタンの鞭を二つ背後に放つ。

凄まじい速度で向かったはずの二つの鞭は、左右で責めたにも関わらず両手ではなく()()であっさりと受け止められた。

 

「無意味だ」

 

「・・・貴様か」

 

現れたのは、アークゼロ。

フィーネは面倒な相手を見たような視線でアークゼロを見つめる。

 

「カ・ディンギル・・・月を穿つため、か。おすすめはしない」

 

「・・・何処でそれを知った?」

 

アークゼロに対し、カ・ディンギルのことは一切教えてなかったはず。それなのに当てて見せたアークゼロにフィーネは警戒しながら怪訝そうに見つめる。

 

「貴様の思考など、読むことは容易い。警告はした---それでもするなら、好きにすればいい」

 

「・・・ふん。私の目的は変わらない」

 

「そうか。だったら---さっきの二人に何をしようが、構わないだろう」

 

「処分したければ、勝手にしたらいいだろう。ただし、私の邪魔をしなければな」

 

無機質な視線からは何も感じ取れないが、アークゼロは言質を取ると二人が逃げていった先を見つめる。

 

「邪魔をするつもりはない。ただ人間を舐めない方がいいと警告はしておこう」

 

「人間風情に私が負けるはずがない。誰であろうが、何人たりとも私の邪魔はさせるものかッ!」

 

フィーネの言葉に一切興味が無さそうに反応しなくなったアークゼロは、そのまま飛んでいった。

その後ろ姿を見ながらフィーネは苛立ちを募らせながら姿が消えるまで憎々しげにアークゼロを見つめる。

 

(間違いなく、全力で放った攻撃。奴は軽々と私の攻撃を受け止めてみせた。未だに見えてこないが、奴は一体何者だ?)

 

フィーネは不意で放ったはずの完全聖遺物の攻撃にすらあっさりと対応して見せたアークゼロを思い出して舌打ちすると、考えることをやめて目的に集中することにした。

邪魔をしないのなら、どうでもいい存在だと思いながら---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 

一人の少女が、暗く雨の降る中走っていた。

少女の背中には自身の身長を超える男性を背負っており、男性は気を失っているようだ。

少女は落とさないように抱えながら人目のない路地を走って逃げる。

そんな少女の後ろを追うのは、ノイズ。

逃げている少女は雪音クリスであり、背中に背負っている人物は迅。

数時間前にフィーネから逃げ出した二人である。

迅が気を失っているのは、屋敷を覆い尽くすほど以上のノイズと戦ったせいだろう。いくら仮面ライダーの力があれど、体力というものはあるのだから。

 

「うわっ!?」

 

しかしそれはクリスも同じだった。ほとんどのノイズは近距離で戦う迅が引き付けて戦っていたが、いくらイチイバルを纏っていたとしても逃げる際に疲労で倒れた迅を抱えてここまで来た。

そのせいかクリスは足が縺れて地面に倒れてしまう。

迅もクリスが倒れた影響で離れた箇所に落ちるが、意識を取り戻す様子がない。

 

「くそっ・・・!」

 

体力の限界と、消えかける意識。

倒れたまま体を動かして迅の傍に行くが、背後にはノイズが追いかけてきてるのが見える。

クリスは拳を強く握り締めると、迅を見つめた。

 

「ここまで付き合わせて、悪かったな。せめてこいつらだけでも道連れにしてやる・・・ッ!」

 

拳を強く握り締めたことで消える意識を無理矢理保っていると、体だけ起こして一矢報いるために迫ってくるノイズを睨みつけた。

そしてノイズはクリスたちに向かって跳躍し---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスの目の前で、ノイズが炭化した。

 

「は・・・?」

 

突然の出来事に唖然とするが、何が起こったのかどうであれ、一番警戒しなければならなかったノイズが居なくなり命の危機が去ったからか、緊張の糸が途切れてしまう。

張り詰めていたモノがなくなり、クリスの意識は薄れ---意識が消える前、()()()()()が近づいてきていたのが最後に見えた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「まったく・・・面倒を掛けさせる」

 

オレがアークゼロになってノイズを炭化させるとクリスたちの傍に着地し、見下ろす。

クリスはギアが解除されて赤いドレスの格好になっており、迅はスーツ姿になっている。ギアを纏う前と変身する前の格好に戻っているということだ。

 

オレは二人の意識が無くなってることを確認すると、変身を解除する。そして上空に手を翳して雨を防ぐと、二人を見下ろしたまま悩んだ。

このまま放置してしまうのもいいが、風邪を引かれても困る。だがオレが保護したところで意味がないし、来た目的すら意味が無くなる。

雨くらいなら今みたいに雨を防げばいいが、何時までも居る訳にも行かない。

となれば、誰かに保護して貰うしかないか・・・。とりあえずオレたちに関する重要な記憶だけは完全に消させてもらおう。

 

「少しでも不確定要素は消さないとな」

 

二人の頭に手を翳して、重要な部分と繋がるところだけを消す。

わざわざ繋がる部分も消すのは違和感を持たれたら面倒なことになるのは想像に容易いし怪しまれる可能性もあるからだ。

まあ、アークゼロの姿は世間にバレているからそこは問題ない。

 

記憶について解決すると、再び空に手を翳して雨を防ぎながら悩む。

とりあえず替えの服は必要だろう、と予め持ってきた鞄を本人の傍に置いておく---といってもスーツを掻っ攫ってきたから迅の方しかないが。

そして一番はどう彼女たちを預けるか、だ。二課に直接渡す訳には行かないし、知らない奴らに持っていかれたらダメだ。特に人気のない場所なのもあって変なやつがいるかもしれない。それに責任は取れないし取りたくもない。

 

「装者に死なれても困るしなぁ・・・」

 

はぁ、とため息を吐くとオレはフードを深く被りながら路地から顔を出して---全然人が居なかった。

雨の日だからか、外出してる人が全然居ない。だけど視線の先にピンクの傘を持った学生が見えた。

彼女で良いか、と適当に決めたオレは、外からはみ出ないギリギリにクリスと迅を座らせる。

 

『キャロル。ちょっといいか?』

 

『・・・なんだ?』

 

白いリボンを付けた少女が来る前に、キャロルに貰った連絡手段を使って連絡する。

なんだか不機嫌そうな声だ。これが終わったらシャトーに行くか。

 

『女性の服ってどうすればいい?』

 

『・・・・・・は?』

 

困惑と殺意が籠ってそうな声音にオレは少し真剣だった。

いくらオレでも、女性の服はまったく分からない。でも濡れたままだと風邪を引かれて戦いに影響が出ると面倒だ。所詮装者はギアがなければただの少女だからな。

アズやセレナでは頼んでも一瞬で持ってくることは出来ないだろうから相談してみたのだが---

 

『・・・・・・』

 

『キャロル?』

 

『知らん』

 

容赦なく切られてしまった。

・・・相談相手を間違えたのかもしれない。こういうのは、どっちかというとガリィが得意そうだし。

 

「仕方がない。彼女に任せるか」

 

歩いてきてる学生が近くに来たのが見えると、即座に屋根に跳んで着地する。

そして鈴を落とすと、チャリンといった音が鳴る。

突然聞こえた音に傘を持った学生が反応し、クリスたちに近寄ったのを見ると、オレは役目を終えたと言わんばかりにテレポートジェムを叩きつけた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてシャトーに戻ると、キャロルに怒られた。

・・・埋め合わせをしなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

何処かの家と思われる室内で、クリスは目が覚めた。

知らない天井なのを確認したからか、クリスは目を開いて即座に体を起き上がらせる。

しかし頭が痛いのか、片手で抑えていた。

 

「あ、クリス。起きたんだ・・・良かった」

 

「・・・迅? ここは?」

 

近くにいた存在に気づくと、自身がよく知る人物だったので安堵の息を吐いたクリスは迅に何処か聞く。

 

「分からない。でも僕たちを助けてくれた子が言うには、お好み焼き屋の二階らしい」

 

「・・・そうか。路地に逃げたあとの記憶が無いのは意識を失ったからか・・・ノイズを倒した後にアタシも気絶したみたいだ」

 

あ、その子は一般人だよと付け足すように状況を説明してくれる迅の言葉を聞くと、頭痛が収まった後にクリスは倒れる前の記憶を思い出したかのように呟く。

そんな時、何処かの学校の制服を着て白いリボンを付けてる黒髪の少女と中年の女性がやってきた。

 

「お友達の具合はどう?」

 

「えっと・・・さっき目を覚ました---ました。ありがとうございます」

 

中年の女性に聞かれた迅はいつも通り喋りそうになって慌てて敬語を使うと、中年の女性は気にしてないと言わんばかりに笑った。

 

「気にしないでいいんだよ。あ、二人のお洋服、洗濯しておいたから」

 

「て、手伝う---います。ごめん。クリスのこと任せていいかな?」

 

「あ・・・はい。大丈夫です」

 

クリスが会話に入っていない間に進み、迅は中年の女性の手伝いに行った。

残されたのは黒髪の少女とクリスだが、自分に気遣って手伝いに行ったのだとクリスは気づいた。

 

「じゃあ、体を拭くから」

 

「あ、あぁ・・・ありがとう」

 

融合症例ならともかく一般人ともなるとクリスは何もしない。

そのため、黒髪の少女に従うように背中を向けて体を拭かれる。

クリスの背中などには痣などがあるのだが、黒髪の少女は何も言わなかった。

 

「何も聞かないんだな」

 

「うん、話したくないことなら聞かないよ」

 

「・・・」

 

黒髪の少女の言葉に、クリスは黙り込む。

暫くすると拭き終わり、返してもらった赤いドレスの服をクリスは着て先程まで着ていた体操着を黒髪の少女に返す。

迅は黒髪の少女に任せることにしたのか、襖の先にいて待っている。

 

「・・・・・・あのさ。地球の裏側でパパとママを殺されたアタシはずっと一人で生きてきたんだ」

 

無言が室内を占める中、クリスは立ったまま少し迷う様子を見せ、ポツポツと自分自身のことを自ら語り始めた。

 

「ずっと友達はいなかった。そこにいる迅は、唯一信頼出来るあたしの仲間だ。でも迅が来るまでアタシは一人だった。たった一人、ソイツ以外にも理解してくれると思った人もアタシを道具のように扱うばかりだった・・・。大人はどいつもこいつもクズ揃いだ。痛いといっても聞いてくれなかった。やめてと言ってもやめてくれなかった。アタシの話なんて、これっぽちも聞いてくれなかったッ!」

 

自身のことを語っていく内に過去の記憶を思い出したのか、クリスは誰にでもなく怒りをぶちまける。

しかし後ろにいる黒髪の少女は怒りをぶちまけたクリスを気にした様子はなく、立ち上がって近づいていく。

 

「ねぇ、えっと---」

 

「クリス。雪音クリスだ」

 

命の恩人でもあり、負い目もあるからかクリスは名前名乗ってないことに気づくと、黒髪の少女に名乗る。

 

「私は小日向未来。もしもクリスが良いなら、私はクリスと友達になりたい」

 

「・・・何故だ?」

 

クリスが右手に暖かな感触を感じて視線を移すと、黒髪の少女---未来が両手で包み込んできた。

突然友達になりたいと言ってきた未来にクリスは疑問が口から出てしまうが、未来の表情は真剣だった。

 

「私ね、昔大切な人が居たんだ」

 

「・・・今は、居ないのか?」

 

突然語り始めた未来に神妙な顔つきでクリスが聞く。

すると未来は悲しそうな、寂しそうな表情で頷く。

 

「その人は、ずっと私ともう一人の子を守るために傷ついてたの。私は何もすることが出来なかった。力になりたかったのに、何かをする勇気がなかったんだと思う。その人はね、いつもボロボロだったの。怪我はしてるし酷い時には重傷と言えるくらいだった。味方してくれた人は・・・指で数えれる程度だった。むしろ、大人も同い年の子もみんなが彼を傷つけてたんだ。そこはクリスと似てるのかも」

 

「それは・・・」

 

「そして結局、その人はある日を境に消えた。今も何処にいるか分からないし生きてるのかも分からない。少なくとも、最後に見た時の姿は傷だらけで酷かった---ずっと後悔してる。なんで力になってあげられなかったんだろうって」

 

「・・・」

 

「だからもう何も出来なかった、ということを二度と繰り返したくない。私はクリスの友達になりたい。友達になって、過去を塗り替えられるほどたくさん楽しい思い出を作りたいんだ。少し話しただけだけど、分かるよ。あの迅って人と話す時もそうだったけど、クリスは優しいってこと」

 

目を逸らさずに真剣に言ってくる未来の姿にクリスは迷いと戸惑いが生まれ---手を振り払うことでしか何も出来なかった。

 

「・・・アタシはおまえたちに酷いことをしたんだぞ」

 

「えっ?」

 

その意味が理解出来ていないのか、首を傾げる未来。

次の瞬間、ノイズの出現を報せる警報が辺りにけたたましく鳴り響く。初めて聞く警報にクリスは戸惑い、迅や中年の女性---店主も一緒に四人は外に出た。

 

「この音は!?」

 

「一体なんの騒ぎだよ?」

 

「何って、ノイズが現れたんだよ! 警戒警報、知らないの?」

 

我先にとシェルターへ向かう人々や泣き叫ぶ子供。

今までフィーネと居たクリスと迅に知る由もない。同時に、自分たちがやってきた事の罪の深さがどれほど大きいのかを再確認する事となった。

その光景をみて、クリスはギリッと歯を軋ませ、人々とは真逆の方へ走り始めた。

 

「クリス!?」

 

「クリスは任せて! その人のこと、お願い!」

 

「えっ!?」

 

クリスの後を追うように迅も走り出し、未来は昨日の出来事を一瞬だけ思い出すが、すぐに店主のおばちゃんを頼まれたため連れていく。

そして迅が人を避けながら追いかけてる中、クリスが先に商店街を抜けて道路に出る。

 

「アタシのせいで、関係の無いヤツらまで・・・! アタシがしたかったのはこんなことじゃないのに・・・。いつだってアタシがやることは・・・いつもいつも・・・!!」

 

息を整える事を忘れて膝をつき、残酷なまでに青い空を見上げて泣いて蹲る。

しかしそんな時間を与えないと言うように、ノイズが現れた。

 

「アタシはここだ。だから関係の無いヤツらの所まで行くんじゃねぇ!」

 

立ち上がり、振り向いたクリスに対し、ノイズが紐状となって突撃してくる。

クリスはそれを避けていきながら、イチイバルのペンダントを握り、起動句である聖詠を---

 

「Killiter---しまった!?」

 

歌い終わる前に咳き込んでしまう。

雨の日に戦ったのと全力疾走で来たのが原因だろう。体力と酸素が足りずに声が出なかった。

そのせいもあり、我に返ると上空にいるノイズが槍状となって迫ってくる。

 

---死ぬ。

 

クリスの脳裏にはその二つの文字が浮かび上がり---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!」

 

何者かの声が轟いた次の瞬間、アスファルトの地面が迫り上がる。

それが大きな盾となってクリスを護り、アスファルトが砕け散ることで散弾と化す。

倒すことは敵わなくとも、怯ませることには成功していた。

そのクリスを守ったのは、二課の司令である風鳴弦十郎である。

彼はノイズを見据えて構えると、右側から飛んでくるノイズに対してさっきやったのと同じように地面を踏み砕き、アスファルトを盾として使う。

ノイズがそれに拒まれてる間にクリスを抱え、弦十郎はひとっ飛びで屋上まで飛んでみせた。

 

「大丈夫か?」

 

何故二課の司令が自分を守ったのか、そもそもどうやって生身でアスファルトを砕いたのか、生身で人を抱えて屋上まで飛べるのか、ノイズの実体化するタイミングに合わせてコンクリートの壁を作るというコンマ単位の誤差も許さない方法で防ぐこの男は何者かと色々と聞きたいことはあったクリスだが、生身の人間にこれ以上守られる訳には行かないと今度こそ聖詠を紡ぐ。

 

Killiter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)---』

 

イチイバルをその身に纏ったクリスはアームドギアであるクロスボウから矢を発射し、空中にいるノイズを撃ち抜く。

自分たちを追ってきた相手を倒すと、クリスは一度弦十郎を見る。

 

「こいつらはアタシが相手してやるッ!」

 

それだけ言い残すと、ガトリング砲に切り替えたクリスは屋上から飛び上がり、弾丸を乱射する。

 

BILLION MAIDEN

 

「ついてこい、クズどもッ!」

 

真下にいるノイズをガトリングで殲滅すると、クリスは地上を走る。

その時、空から羽を飛ばして上空のノイズを殲滅している姿をクリスは捉えた。

 

「ごめん! 遅れた!」

 

「行くぞ!」

 

変身した迅が合流すると、二人はノイズとの戦いを始める。

地上から向かってくるノイズを迅が近接で吹き飛ばし、クリスが処理しきれないノイズを撃ち抜く。

クリスに対して空中にいるノイズが突撃してくるが、クリスが避けた先にもノイズ。

迅が翼を広げてクリスを回収し、クリスは地面に突き刺さるノイズに矢を発射して炭化させた。

そして次のノイズへ向かおうとすると---

 

 

川の近くなのもあり、地面が石だからか足音が聞こえる。

人の靴が鳴らす音にクリスと迅は驚いて視線を向けた。逃げてない人がまだいるのかと。

 

「ようやく会うことが出来ました」

 

「・・・えっ? 亡!? どうして・・・!?」

 

ノイズの相手をしていた迅はあまりにもの衝撃に、動きが止まってノイズの攻撃を受ける。

ノイズの攻撃に怯みながら反撃するが、視線は亡から外れない。

 

「今はノイズを殲滅するのが最優先・・・」

 

すると亡は迅に集中するように視線を送り、迅と同じく右手側にレバーが付いている黒と白銀、黄色のベルトを腰に巻き付けた。

そして哺乳類の絶滅種『ニホンオオカミ』が描かれているホワイトシルバーの()()()()()()()()を取り出して左手に持ち、起動した。

 

フォースライザー

 

ジャパニーズウルフ!

 

ゼツメライズキーを起動させると左から右に動かし、右手にゼツメライズキーを落とす。

そのまま起動させたゼツメライズキーを展開することなく、ベルトの右側の枠に装填した。

自身の名である『亡』の文字を描くような形だ。

そして警告音のようなものがベルトから発せられる。

 

「変身」

 

亡が右手側のレバーを引くと、ゼツメライズキーが強引に開かれることで展開される。

 

フォースライズ!

 

ジャパニーズウルフ!

 

露出した接続ポートに強制接続されると、亡の体を吹雪のようなエフェクトが包み込み次第に晴れてゆくと、黒のスーツが着用されておりアーマーカラーはホワイトシルバー色の迅に似た仮面ライダー。

迅が翼であるなら、亡は爪。ウルフを思わせる長い爪が特徴的だった。

 

Break Down・・・

 

変身を完了させると亡は物凄い速度で地面を駆け、バラバラの位置にいるにも関わらずノイズを一気に爪で切り裂いた。

その姿と速さに迅とクリスが驚く。

 

「迅と同じ仮面ライダー・・・!?」

 

「速い・・・! それに何処でそれを!?」

 

「貰い物です。先に殲滅しましょう」

 

「・・・分かった。色々言いたいことはあるけど、話は後だ。クリスもいい?」

 

「あ、ああ」

 

色々と驚くことはあったが、突然飛んできたノイズを見て数が増えたからかクリス、迅、亡の三人は構えた。

商店街の方から飛んできたノイズは明らかに自分たちを狙っている---つまりフィーネの仕業だと理解したクリスと迅は考えるよりも先に殲滅することを選ぶ。

亡も亡で話したいことはあるが、数が増えたノイズに初陣なのもあって集中する。

そして三人によるノイズとの戦いが始まった---

 

 

 

 





〇小日向未来
やっぱり彼女に深い傷を残してるジャマイカ・・・彼は百合の間に挟まったくせになんてことをするんだ。

〇風鳴弦十郎
我らが代表するOTONA。
シンくんも似たようなことはしてるけど、やはりこの男は化け物かもしれない。

〇亡
ようやく変身したが、弦十郎や二課の者たちは変身出来ることをまだ知らない。

〇フォースライザー、正式名称は滅亡迅雷フォースライザー
何度したか分からない説明だが、本作ではシンくんが本来の滅亡迅雷フォースライザーを人間用に徹夜したり頑張ったりして、なんとか人間でも負荷が最小限になるように作成した。
そのため、本作では人間である迅、亡が持つ滅亡迅雷フォースライザーはゼロワン本編よりも負荷がないというオリジナル要素。


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第十七話 陽だまりを救う影


セイバー完結ですねぇ。といってもこれが投稿される9時間後ですが・・・。
うーん、はっきり言わせて貰います。無理です、これリバイス放送前に終わんねぇ! ま、まぁ?12月までには一章完結するし・・・まだ一期ってマジ? 少なくとも4月までには二期終わらせたいところ。ゆっくり頑張っていきますよ。
では、どうぞ。今回は短い(5000字)です。




 

---時は、一年前に遡る。

フィーネに連れられている一人の男がいた。

その男性は迅であり、クリスと向かい合っていた。

 

『新しいお仲間よ。クリス、仲良くしなさい』

 

『別にアタシ一人で十分だろ!? アタシ一人では不満だってのか!?』

 

『計画をより成功させるためよ。どうやらイレギュラーが紛れ込んでるようだから』

 

『えっと・・・歓迎はされてないみたいだけど僕は迅。よろしくね』

 

『・・・雪音クリスだ』

 

『そっか、じゃあクリスだね』

 

『いきなり馴れ馴れしいっ!』

 

突然フィーネが連れてきた男。

クリスは不機嫌そうに返すが、当の本人はニコニコとした笑顔で話しかけてくる。

まるで純粋な子供のようで、何処か子供でもない。

態度が悪いけど、何処か脆そうで優しそうな少女。それが二人が抱いた印象であった。

 

最初は、不仲だった。

否、一方的にクリスが閉ざしていた。毎日毎日、飽きもせずに迅は話しかける。それをクリスが拒否し、次の日も次の日も話しかける。

迅はクリスが怪我をしたり、疲労で倒れそうになった時は何もしないフィーネに文句を言いながら手当たりしたり看病したりし---自身になんのメリットもないのに、拒絶されているのに毎日そのようなことを繰り返していた。

 

そして、クリスは聞いた。

 

『なんでお前は、アタシばっかり構うんだ』

 

数ヶ月経っても、構い続ける迅に少しずつ心を許していた自覚があったクリスは、熱で倒れている自分を看病する迅に対して本音をぶつけていた。

熱があった影響で素直になれたのか、どう思われているのか怖かったのか---どんな思いで聞いたのかは、クリス本人にしか分からない。

そして迅は答える。

 

『クリスは放っておいたら壊れそうだからね。お友達にもなりたいし、雷や滅なら、きっと放っておかないよ』

 

返ってきた言葉は、クリスをただ純粋に心配する言葉。

 

『余計なお節介だ・・・』

 

『だとしたら、勝手にやらせて貰ってもいいよね?』

 

『・・・ちっ。勝手にしろ』

 

例え拒絶しようが、何を言おうが離れようとしない迅に諦めがついたのかクリスは体を横にして背中を向ける。

 

『分かった。クリス、もしも何かあったら僕を頼ってくれ。・・・ノイズは倒せないけど、他だったらなんでもするから』

 

『・・・ふん』

 

『それじゃ、おやすみ。しっかりと体を休めて』

 

背中を向けたままのクリスを見て、今日はダメだなと苦笑いした迅は毛布をしっかりと掛け直して出ていこうとした。

 

『・・・こんなアタシのために、いつもありがとうな』

 

ぼそり、と小さな声で呟かれた言葉。

驚くように迅が振り向くが、クリスは顔を向けない。

しかしそれだけでも満足だったのか笑顔を浮かべて、小さな声で『うん』と頷いた。

その日から、クリスと迅は共に行動する日が増え、気がつけばクリスは迅を信頼するようになって、互いに過去を話するほどの仲となった---

 

 

 

 

 

 

 

 

---川辺にてノイズの殲滅を終えたクリスと迅、亡は向かい合っていた。

 

「なるほど、迅。貴方にはまだ『フィーネ』という人に話さないと行けないことがあるのですね」

 

「あぁ。だから、ごめん。まだ行けないんだ」

 

「いえ、貴方は貴方の使命を。その少女のために今まで行動していた---とも知れば安心出来ました。後の始末は此方でしておきますので、先に行ってください」

 

迅は今までのことを全て亡に話した。

フィーネに拾われたこと。クリスと最初は話せなかったけど何度も話すうちに仲良くなれたこと。クリスの戦争を無くすという目的に同調し、一緒に頑張ってきたがフィーネに捨てられたこと。

ある程度は伏せたが、自身の行動理由を話した迅に亡は安心したように頷いた。

 

「ありがとう。行くよ、クリス」

 

「・・・いいのか? お前が探してた奴だろ」

 

「僕がクリスを置いて自分だけ居場所を求めると思う? 仮に行くとしても、クリスと一緒だよ。クリスが行かないなら僕も行かないし着いて行く」

 

「迅・・・そうかよ」

 

照れたように顔を逸らしたクリスは、亡に一度視線を送るが、亡も引き止めようとはしない。

それを見たクリスは先に跳んで離れていくが、表情には嬉しさを我慢するような笑みを浮かべていた。

 

「良いお友達・・・パートナーに出会えたようですね」

 

「そうだね。クリスは最高のパートナーだよ。だから僕が守らなくちゃ。それと亡、きっと僕らはキミのところでお世話になると思う。でも僕はフィーネにクリスと会わせてくれたこと、拾ってくれた恩もある・・・僕は僕が出来ることを最大限やることにしたんだ」

 

「何か出来ることがあれば、手伝います。少なくとも二課の方々には敵ではないことだけ言っておくので」

 

「うん。ってクリス! 待って!」

 

名残り惜しそうに少しチラッと見るが、先々行くクリスに迅は慌てて翼を広げて追った。

それを見送った亡は、自身の仕事を全うすることにする。

まずは司令に説明と、一課などに連絡して炭の片付け---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

クリスと迅という人が人混みから離れて何処かに行ったけれど、私にできることがないから『ふらわー』の店主---おばちゃんと避難しようとした。

しかしタコのようなノイズに追われた時に逃げ込んだ廃ビルがノイズによる攻撃で崩れ、私は無事だったけどおばちゃんが目覚めない。

すぐに隠れたのもあってか、ノイズは私たちの場所には気づいてないけれど、身動きが取れなかった。

 

そして少しすると建設途中だったのか、廃れてしまったのか分からないけれど、石柱が少し剥がれて地面に落ちた。

その瞬間、上のビルを陣取っているタコのようなノイズが反応して石を砕くのが見える。

 

今のは・・・音に反応した? つまり、音を出さなければノイズにはまだ見つからないことになる。

それだけ分かったとしても何も出来ないけど、多少の余裕が生まれたからかこんな時にも関わらず、私はクリスたちを心配していた。昨日はシアちゃんの行方が分からなくなって無事かどうか心配なのに、クリスたちまで・・・。

ううん、今はこの場を切り抜けないと。

どうすればいい? 音を出さずに逃げることは? ---不可能。私が今動いてしまうと、おばちゃんが危険になる。

どうしたら・・・どうしたらいいの? 響に連絡・・・は無理だよね。話せないし、下手をすると携帯の着信音でバレちゃう。

今は切ってるから音は鳴らないけど、電話やメールは無理だった。

 

私は無意識に手に持つ鞄に音を出さずに触れた。

鞄越しに硬い()()()()()()()を触る。アルくんの家にあった、唯一の形見。

私のお守りみたいなものだけど、これがあるとアルくんが傍に居て力を貸してくれる錯覚に陥る。

いつも落ち着かせてくれるし、いつも彼のことを思い出せる。

でもやはり、彼がここに居たらこういう状況をあっさりと打破して見せるのだろう・・・そんな姿も思い浮かぶ。

本当に、どうしたらいいのだろう。

 

「アルくん・・・」

 

小声で思わず呼んでしまって慌てて口を塞ぐが、ノイズは反応しない。

もしかして小さすぎる音には反応しない・・・? これ以上試す気にはなれないけど、バレなかったことにほっと息を吐く。

本当に、私は何も出来ないんだ。響は戦う力を手に入れた。

私には何もないから、待つことしか出来ない。でも、それは昔と変わらなかった。待つことしかしなかった私はアルくんを失ってしまって、後悔した。

ずっとずっと、思っていた。響が戦う力を手に入れて、また待つだけの立場になったことに無力感と悶々とした感情。

 

「誰か! 誰かいま---ッ!?」

 

その時、声が聞こえて凄まじい破壊音と共に誰かが落ちてきた。

聞き慣れた声に、何度も見た事のある姿。幼馴染の響だった。

響はノイズに気づいたのか、声を出そうとしていた。

私はゆっくりと音を立てずに近づいてたため、今すぐにも声を出してしまいそうな響の口を手で抑える。

響は此方に視線を向けてきた為、シーっと指でジェスチャーする。

そしてスマホを取り出して、文字を打った。

 

『静かに あれは大きな音に反応するみたい』

 

響が一通り目を通せるまで待つと、再び携帯を打ち直した。

 

『あれに追いかけられて ふらわーのおばちゃんとここに逃げ込んだの』

 

出来る限り短くして状況を説明すると、響は考えるように目を俯かせていた。

きっとノイズを倒すために必要なシンフォギアを纏えないことだ。シンフォギアを纏うためには、聖詠と呼ばれる歌を歌う必要があると、この前聞いたことがある。

なら、私に出来ることは・・・! 

 

『響聞いて わたしが囮になってノイズの気をひくから そのあいだにおばちゃんを助けて』

 

私はお守りを大切にポケットに入れると打った内容を見せる。

響も急ぎで携帯を取り出したかと思うと、打った文字を見せてくる。

 

『ダメだよ そんなこと未来にはさせられない』

 

『元陸上部の逃げ足だから何とかなる』

 

『なんともならない!』

 

『じゃあ なんとかして』

 

こんな風に会話をしていても、ノイズは待ってくれない。

私は携帯を閉じると、響の耳元に顔を近づけて耳打ちする。

 

「私、ずっと思ってたの。響はノイズと戦う力を手に入れたのに、私はまた待つだけの立場になってることに。アルくんの時、私は何も出来なかった。響よりも気づける余裕があったはずなのに、気づけなかったんだ。だから今度は響一人に背負わせない。私も一緒に背負う」

 

「未来・・・」

 

覚悟を決めるようにポケットに入れたお守りに触れる。

立ち上がって一度深呼吸し、自身の呼吸とこれから行うことによる緊張を和らげる。

---その程度で収まるはずがないのに、不思議と落ち着いた。

 

「私も一緒に戦いたい! 私はもう---間違えたくないからッ!」

 

私の声に反応するように、ゆっくりと動いていたノイズが機敏となる。

放ってくる攻撃を必死に見ながら避けていき、私はビルを出ていった。

大丈夫、これで響がシンフォギアを纏える。私にはノイズを倒せないけど、これくらいなら力になれる・・・!

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)---』

 

シンフォギアを纏った響はおばちゃんを抱え、跳躍するとタイミング良く緒川が運転する車が現れた。

 

「響さん!」

 

「緒川さん! おばちゃんをお願いします!」

 

緒川の声に反応すると、響は即座に着地して車から出てきた緒川におばちゃんを預けて再び跳躍。

地上から見て行くと、時間が間違いなく足らない。ならば、空中から見ればいいという考えだろう。

響は次々と屋上や電灯などを伝っていくと、悲鳴が聞こえた。

それが大切な友人の声だと理解した響は空中に大きく躍り出て、ブースターで着地し、再び跳躍する。

そして脚部からジャッキが展開される。地面とは逆方向に伸びるパワージャッキが蹴り出すと同時に縮んだバネの反動で一気に元に戻るほどの勢いで戻る。

地面とぶつかるようになったジャッキは跳躍の手助けとなり、響はまるで弾丸の如く空へと飛び出す---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(もう走れない・・・)

 

未来の頭の中には、諦めにも近い考えが浮かび上がっていた。

どれだけ走ろうが、ノイズには体力という概念がない。何処までも追いかけてくる。

体力が着き、前のめりに倒れた未来に獲物を仕留めんとばかりに迫ってくるノイズ。

ペース配分を考えずに全力で逃げてきたのが影響しているのだろう。足が休息を求めるように動かず、立ち上がることすら億劫になる。

 

(よく頑張った。おばちゃんを助けることも出来たし、時期に響が到着してノイズを倒すはず。二次災害は起きないし人気のない河川敷近くまでノイズを引きつけることが出来た)

 

もう諦めてもいいんじゃないか、と未来がそんな思考に至った時、ふと手がポケットに触れた。

鞄を持ってこれないからと、財布も含めて自身が一番無くしたくないお守りを入れたポケット。未来にとって、これだけは何があっても無くす訳には行かなかった。

そのお守りは、彼女の()()()()の物だ。

それに気づいた時、未来はお守りを握り締め、ハッと顔を上げた。

顔を上げると先程まで追いかけてきたノイズが跳んだのが見える。

陽を遮り、覆い隠すように翳を作る。そのまま、何もしなければ未来は踏み潰させるようにプレスされて死ぬだろう。

しかし彼女の表情は打って変わって、生きるという確かな意思を宿していた。

 

「約束を果たすためにも、彼にまた()()()()()ためにも---死ねないッ!」

 

足が悲鳴を上げる。

走り続けた代償として足に痛みが走るが、未来は痛みに堪えるように唇を噛み、地面に手を付きながらも立ち上がる。

ノイズが落下してくる。距離からして、下手をすれば当たってしまうかもしれない速度。

それでも未来は前へと出て---ほんの一瞬だけ、ほんの一瞬の刹那にも満たない一瞬。ノイズの動きが空中で()()した。

そしてノイズが地上へ落下する。未来が前へと出たのが功を成したのか、ノイズは未来本人ではなく未来の背後にある影を踏み潰し、アスファルトが砕けた。

当然、近くにいる未来は巻き込まれることになって、戻る手段がない未来は地上へと戻ることは出来ずに落下を---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

()()()()()()

いや、正確には落ちたはず。落ちたはずなのに、いつの間にか坂の上へと座り込んでいた。まるでワープでもしたかのように。

助かった安堵ではなく、分からない現象に困惑する未来の視線の先にはシンフォギアを纏った幼馴染がノイズに対して右手のガジェットを引き、その拳がノイズを穿った。

貫いたノイズは一気に炭化し、響が拳をもう一度空気に撃つことで未来の近くに着地する。

 

「未来-----ッ!!」

 

響は即座にギアを解除し、無事なのを認識した瞬間には未来に抱きついていた。

一体何が起こったのか理解してなかった未来だったが、幼馴染と再び出会えたことに生きているという実感を感じたのかホッと息を吐き、泣きついてくる響の頭を撫でた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人の姿を両目がある内、一つの()()()()()()()()()()()が捉えていたが、()()は興味が失せたように身を翻すと何かを叩きつけた。

その瞬間、()()()()()()()()()はその場から姿を消した。

---地面に発生していた、()()()()()()と共に。

 

 

 

 

 

 





〇小日向 未来
何気に一番精神的に参ってるのは彼女かもしれませんね・・・。居なくなった彼氏(ではない)お守り(落し物)を肌身離さず持つとかマジ? 重すぎるだろ・・・。

〇雪音クリス
想定してたのより簡易になりましたが、だいたい迅とはあんな感じで仲良くなったよーってことです。

〇迅
子供版?と復活後の性格が合わさってるのもあって純粋な子供じゃない子供なんです。これも滅パパの教育のお陰かもしれない・・・。

〇赤い瞳を輝かせたナニカ
イッタイダレナンダー


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第十八話 少女はシンフォギア装者と出会う

 
はーい!唐突に始まりました!セイバー完結記念&リバイス第一話放送記念ー!ぱちぱち!
やることは簡単!リバイス二話が始まるまでに一期を終わらせるぜ!読者様に分かりやすく言うと、今日から来週の日曜日まで毎日更新しますっっ!!
や、やってやるよ!それくらいあれば多分一期終わる!(白目)
さあさあ、意地でもリバイスが(本格的に)始まるまでに一期を終わらせたい作者の足掻きを是非ともお楽しみくださいませ!





 

どうしてこうなったのでしょうか?

私は私の周囲を囲む人たちを見ながら、揉みくちゃにされていた。

 

「未来、こんな可愛い子と知り合いだったの!? 少し話は聞いてたけど、想像以上に可愛いなぁ〜!」

 

「立花・・・あまり騒がれると困る」

 

「シアだって、嫌なら嫌だって言えばいいんだぞ?」

 

「もう響・・・。ごめんね、引き止めちゃって」

 

「あはは・・・いえ。急ぎではありませんでしたから」

 

私の周囲には、元気いっぱいの立花響さん。有名人であり、最近ファラさんがハマっているとシンさんが言っていたツヴァイウィングというグループの二人。天羽奏さんと風鳴翼さん。

そして、あの時出会った未来お姉さんが居た。

出会いは物凄く簡単で、今日も忙しい様子でご飯すら食べないシンさんのために晩御飯は気合いを入れて作ろうと買い物に出かけていたら、未来お姉さんとばったり出会って心配されたり無事だったことに安心されたりしたのが始まりだった。

そこから自己紹介することになり、今に至るということになる。

 

「ほら、シアだって迷惑してるだろ? そろそろやめときな」

 

「はーい・・・ごめんね」

 

「いえいえ・・・」

 

この場で一番年上である天羽さんはお姉さんって感じで立花さんに注意して離してくれた。

正直、私だって女の子だから可愛いと言われたら当然嬉しい。一番言って欲しい相手には中々言われない分、たまに自信を無くすときはあるにはあるし・・・。

それにひたすら抱きしめられていた私は愛想笑いするしかなかったけれど、立花さんから感じた温もりは、温かくてとても心地が良かった。

 

「でも、いいんですか? 私なんかがお邪魔しちゃっても? 未来お姉さん達も何かしらの用事があったんじゃあ・・・」

 

私の不安はそれだった。私のせいで邪魔をしてしまったなら申し訳ない。

私のその質問に---

 

「全然! 気にしなくていいよ。未来の友達なら私にとっても友達だからね」

 

「あの時の続きとして出かけられるし、私も仲良くなりたいなって思ってたから」

 

「私も構わない、元々遊びに行く予定であったのだ。そこに1人加わろうとも何ら問題ないだろう」

 

「そうそう、どうせなら賑やかな方が楽しいからね。一人、賑やかなすぎる子がいるけど」

 

彼女たちは否定した。

心優しく、手を伸ばす事に躊躇がなく、他者と結ばれる縁を恐れない心の強い人達。

どこか眩しくて、羨ましいとさえ僅かに思える程に優しい人達。

世界中の人間がこんな人たちのようだったら、きっと世界は平和なんだろうなとも思う。

それにこんな人たちが傍に居たなら、きっとシンさんだって・・・。

 

私は悲しみを表に出さないようにしながら、伸ばされた手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

これはダメだなァ・・・。

ノイズとの戦いを響ちゃんたちに任せて改めてアルトの存在、ゼロワン、アークゼロについて、様々なことを調べてみた。

しかし何処も繋がりを消されてしまってるせいか、侵入する方法がない。

情報を探すために()()姿()で組織かどこかに潜り込めると一番良いのだが、不可能そうだ。

せめてアークゼロについての情報を一部でも探れたら良かったのだが、予想通りと言うべきか、ない。

なによりも調べていて不可解だったのは、アルトだ。

何故かアイツの経歴、出身地、家族構成、あらゆる情報が()()()()()()。普通、何処で生まれたのか、何処で育てられたのかなどは分かるはずだ。それなのに、何も無い。

他にも何処で仮面ライダーの力を手に入れたのか? 何故変身出来るのか? 名字は? 色々と分からない。正式な年齢や生年月日すら出てこないのは()()()()()()()()()()。例え別世界から来た俺みたいな存在でも戸籍などがなければ色々と困る。それなのにも、ない。

一体何がどうなってやがる・・・?

 

もちろん、変身出来るのかについてはビルドのように変身するために条件が必要とは限らないから一概には条件が必要とは言えない。が、結局は情報量が少なすぎる。

分かるのは、知り合いだったのもあってライブの被害者だということだけ。後は何処で撮っていたのか、ゼロワンがライブ会場に居たノイズを蹂躙していた映像だけだ。

それも、アルトが初戦闘というのを感じさせない強さだったが。

 

確かに俺だって全ての仮面ライダーを知っているわけではない。仮面ライダーゼロワンという存在は知らなかったし、アークゼロも同じだ。

見た目や変身アイテムからして繋がりがあるのは確かなんだが・・・やはりアイツ---アークゼロから全てを聞き出す必要がありそうだ。

何故奏ちゃんを助けて適合率を上げたのか、そもそもどうやってLiNKERというものに似たような物を作ったのか、目的はなんなのか、気になることは多い。

 

やれやれ・・・せめてフェーズ1以降になれれば変身を解除させるまで追い込めそうだというのに。

力の取り戻し方はビルドたちの時のようにしてしまえば良いと言えば良い。だが、アルトはそれを嫌いそうだし()()()()()()()()()のような存在はそういないだろう。万丈に至っては俺の遺伝子がなかったらただの人間だ。それにアレは10年以上掛けてだしな・・・。

だとしたら間違いなく時間が足りないし、二課に身を置く側からすると絶対に面倒なことになる。

自然に戻ることに期待するか、何か方法があるのか---とにかく何も分からないのであれば、現状の目的を決めることにしよう。

目的は装者の強化、力を取り戻すこと、アークゼロの正体を暴くこと・・・そこからアルトに繋がればよし、無理ならどうしようもない。

その時は・・・まぁ、腹いせで滅ぼすのもありかもしれない。アイツが居なければ、この世界で楽しむ価値はあまりないからな。

立花響と小日向未来の存在はアルトに一番近づいていた存在だから興味はあるが。

 

そんなふうに俺は喫茶店を経営しながら、これからの目的を定めていた。

そんな時、二課から連絡が来た。

どうやらノイズが出たらしく、行けるのであれば手伝って欲しいとのことだ。

確か今日はツヴァイウィングが海外に進出し世界の舞台で歌うということを発表する大事なコンサートらしい。

なら今回は行かないと行けないか・・・。まったく、こんな時に()()()()が居てくれたら何か分かったのかねぇ・・・。

ま、居たとしても協力はしてくれないだろうけど。

 

それに軽く調べてみて気づいたことがある。デュランダルの時、広木防衛大臣が殺害された時、明らかに怪しかったのは櫻井了子という存在だ。

俺なりに調べてみたが・・・間違いなく黒。何を企んでるかまでは分からなかったが、ろくでもないことに変わりはないだろう。

だが明らかに信頼されているヤツを俺が何か言っても信じられることもないし、下手をすれば俺が黒幕だと思われても仕方がない。

つまり、ヤツが本性を現すか二課の誰かが気づかなければ何も出来ないだろう。

後手に回ってしまっているが、そもそもこの世界で本来は何もするつもりなかったからなぁ・・・。エボルドライバーやフルボトルを調べさせなかった過去の俺を褒めてやりたいが、やはり今はあまり二課に行きたくはない。

だが何も出来ないのだから仕方がない。素直に泳がせておくか。

 

そんなこんなので、ため息を付いた俺はエボルドライバーを腰に巻き付け、お店をOPENからCLOSEDに変える。

そのまま俺は自らの姿を仮面ライダーエボルへと変身させ、指示された場所に向けて飛んで行った---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

エボルが現場に到着すると、何故か響とクリス、迅の三人が協力して大量のノイズと戦っていた。

敵対していたはずのメンバーが一緒に戦ってることに、流石のエボルも首を傾げるしかない。

 

「・・・これはどういうことだ? オレが居ないうちに何があった?」

 

「あ、そう---エボルさん!」

 

そんなエボルの所に、一度後ろに飛ぶことでエボルの傍に着地した響が名前を呼ぶ。

エボルが視線を向けると、これはまた気がつけば昔の響からは想像も出来ない成長となっている。

 

(ん? 最後に見たのはデュランダルの時だが、また成長したらしいな)

 

今も警戒する響を見て、エボルはそう思った。

しかしながら、今はそれを知りたいわけじゃない。なので疑問を口に出した。

 

「どういう状況だ? なんでお前らが一緒に戦ってる?」

 

「僕らがノイズと戦ってた時にそこの装者が突然来ただけだよ!」

 

エボルの疑問に答えたのは響ではなく、迅だった。

その迅は要塞型のノイズが弾丸型のノイズを撃ち出しているため、空中を飛び回りながら地上のノイズを攻撃していた。

そんな迅を援護するように要塞型にクリスがミサイルを放つが、効いた様子を感じれず、響がクリスに向かっていった小型ノイズを蹴り飛ばした。

着地した響にノイズが迫るが、今度はクリスがガトリングで一掃する。

 

「クリスちゃん!」

 

「貸し借りはなしだ!」

 

現状の状況を理解したエボルは、飛び回って避けている迅の手助けをしてやることにし、ライフルモードで撃ち抜く。

さらに自身に迫るノイズをスチームブレードで斬り裂いていて倒していく。

この場で一番戦い慣れているのはエボルらしく、エボルが参加してからノイズの殲滅がスピーディーになっている。

 

「響、奴の体勢を崩せるか?」

 

「はい!」

 

敵の数が減ると、大型を倒すべくエボルが走る。

響は目の前に居た人型を殴り飛ばすと、即座に腕のガジェットを引っ張る。

エボルが視界の端でそれを捉えると、彼はレバーを引いた。

 

『Ready Go!』

 

「はああああああぁっ!」

 

響が地面を叩き、凄まじい衝撃波を生み出してノイズの足場を崩す。

同時にエボルが跳躍し、かかと落としの要領でノイズを地面に叩きつける。

 

エボルテックフィニッシュ!

 

『チャオ!』

 

地面にクレーターを作り、要塞型のノイズを炭化させたエボルはネビュラスチームガンで残りのノイズを撃ち抜き、殲滅を終えた。

戦いが終わると響がエボルに近づくが、クリスと迅は既に姿を消している。

 

「流石です、エボルさんッ!」

 

「それより、オレが居ない間に何があったのか説明してくれねぇか?」

 

「あ、はい。というか、エボルさんは何を・・・?」

 

残りの処理を二課が手配してくれた人たちに任せ、本部へと二人は向かう。

その間にエボルは響に話そうとし---彼女を支えている存在のことでもあるということを察して営業とコーヒーの勉強をしていた、と濁した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

はぁ、とベンチに座りながらアタシはため息を吐いた。

迅のやつはご飯を買ってくると行って買いに行った。

相変わらず最初会った時と全く変わらないお節介なやつだが、今では唯一信頼出来る存在となっている。表立っては恥ずかしくて言わないが、アタシが今も冷静で居られるのは彼奴がいるからだと思う。

アタシは迅の仲間というやつのこと、さっきの戦闘で何故敵である融合症例を助けたのか、そしてフィーネについて考えていた。

迅は昔、孤児院で滅亡迅雷netという名前だけだと物騒な名前の四人グループで仲良く一緒に居たらしい。それぞれの名前から取ったらしいのだが、亡というのはその時の一人だろう。

自分にとって家族同然の存在と一緒に居られるチャンスだったのに、一緒に来てくれた。

確かに嬉しいという気持ちがあったのは認める。でもそのまま居た方が彼奴にとって幸せだったのではないか? と思うと複雑な感じだ。

アタシの未練のために付き合わせるのは・・・。

 

「あの・・・大丈夫ですか?」

 

そのように考えていると、ふと声が聞こえた。

迅かと思ったが、女の声と喋り方からして違うと否定される。となると、アタシが知ってるのは小日向未来という一般人くらいなのだが、何処か幼い声となると当てはまらない。

考えても分からなかったアタシは、声が聞こえた方に視線を向けた。

そこには橙色がかかった茶髪の女の子だった。

身長はアタシより低いが、その女の子は純粋に心配しているというように見つめてきている。

何かを考えて近づいてきたのでは---と思うのがバカバカしくなるほど純粋な瞳を向けてくるため、アタシはとりあえず答えた。

 

「あぁ、別に何ともねぇ。大丈夫だから、警察に見つかる前にそろそろ帰った方がいいんじゃないか?」

 

「むっ・・・って、そうじゃなくてですね。ほら、そこです」

 

アタシの年齢ならともかく、目の前の少女は恐らく年下だ。

この時間帯だと補導される可能性もあったから言ったのだが、目の前の少女は頬を一瞬だけ膨らませたかと思えば、何故かアタシの足に指を指す。

そこへ視線を向けると、擦りむいたのか血が流れていた。

さっきの戦闘で爆風に吹き飛ばされた時に怪我をしたのか、それともギアを解除した後に何処かで怪我をしたのか・・・とにかく血を流していたから、この少女は心配してくれたのだろう。

 

「いつの間に・・・」

 

「少し待ってくださいね」

 

考え事をしていたのもあって、気づかなかったのだろう。

思わず口に出したアタシを気にせず、目の前の少女は大きめのハンカチを取り出して怪我をしている箇所に巻いてくれた。

 

「あ、ありがとう」

 

「いえ、こんなものですみません。本当はちゃんとした物がいいのですけど、これしか手持ちになくて」

 

善意で行ってくれたことから、少し照れくさいが感謝を述べる。

目の前の少女は気にした様子を見せず微笑むと、逆に謝ってきた。

どうやら根が優しい女の子らしい。

だからだろうか?

 

「・・・お前、名前は?」

 

アタシは何故か、目の前の少女に名前を聞いていた。

出会うことは、ほとんどの可能性でないだろうに。

 

「えっ? あ、はい。私はセレ---こほん。シアです」

 

「・・・そうか。アタシは雪音クリスだ」

 

「よろしくお願いしますね、クリスさん」

 

一度咳き込んだのが気になったものの、突然聞いたアタシも悪かったので、それが原因だろう。

アタシはよろしく、と短く返す。

 

「ところで、その・・・お聞きしていいのか分からないのですが・・・」

 

「なんだ?」

 

おずおずと言った感じで切り出してくるシアに首を傾げる。

彼女は悩むように無言となるが、覚悟を決めたように口を開いた。

 

「悩み事あるのでしたら、私がお聞きしましょうか?」

 

「・・・は?」

 

「あぁ、えっと・・・お節介だということは分かってるんです! でも放っておけないというか、寂しそうな表情をしていたというか、とにかく深刻そうに悩んでいたようなので何かお力になれないかなぁと・・・!」

 

困惑するアタシを他所に、何処か言い訳するようにあたふたするシアを見て何を思ったのか、アタシは気がつけばフィーネのことについて一般人には話せないことを伏せながら話した。

 

「なるほど・・・そんなことが」

 

アタシが話すと、シアは暗い表情になる。

流石にこんな小さい子に話すべきじゃなかったかもな・・・。

なかったことにしてもらおうと謝ろうとする---その時だった。

 

「クリスさんはその人と仲直りしたいんですか?」

 

「え?」

 

シアから発せられた言葉が口に出そうとした言葉を止めたのは。

 

「仲直りして対等な関係などになりたいのか、それとも以前の関係に戻りたいのか・・・そこをハッキリさせないとダメだと思います。正直、依存するのは構わないと思います。そこは人それぞれですしとやかく言うつもりはありません。ですが、クリスさんの場合、以前の関係に戻りたいと願うなら---私は止めます。その先に待つのは間違いなく、破滅ですから」

 

こいつの言葉を聞いていると、何処か何度も対峙した融合症例---人気者ではないガングニールの少女を連想させられる。

 

「もし戻りたいわけではなく、対等な関係になりたいのでしたら、一緒に居たいと願うのであればクリスさんの本当の気持ちを伝えれば良いと思います。怖くても気持ちを伝える---それが悪い結果に繋がるかもしれないしいい結果になるかもしれない。そこはどうなるかは分かりませんけど・・・想いを伝えるというのはこれからクリスさんが生きていく上で一歩を踏み出す勇気に繋がると思います」

 

アタシの本当の気持ち・・・。フィーネは確かにあたしを捨てた。辛いこともあったし苦しいことも痛いこともたくさんあった。けど、その出会いが全て悪いと言われれば・・・それは違う。

アタシは今まで捨てられないようにするために行動してきた。ただ従い、臆病なアタシには踏み出す勇気はなかったから。

確かにこいつの言う通り悪い結果になるかもしれねぇ。

でもアタシは、叶うなら---。

 

「・・・うん。今のクリスさんなら問題ないと思いますが、少なくとも私は応援しますよ。私にも傍に居たいと願う人が居ますからね」

 

アタシの顔を見てくすっ、と笑ったシアは小さな声でボソッと呟いたが周りが静かなのもあって聞こえていた。

・・・コイツにも居るんだな。いや、他の人たちも同じなのかもしれない。誰かと居たいと願って、それでも勇気を踏み出せない人や踏み出せる人。色々な人が居るんだろう。

だけど・・・覚悟を貰えた。年下のコイツには相談するのはどうかと思ったが、良かったかもしれない。

 

「な、なんだ・・・その、ありがとうな」

 

「いえ、お節介ですから」

 

さっきの何処か大人染みた雰囲気が嘘のように年相応な笑顔を見せる姿を見ながら、ふと時間を見た。

迅のやつがまだ帰ってきてないが、時間は結構遅い時間となっている。

流石に子供を一人で帰らせる訳には行かねぇよな・・・と思ったアタシが視線を向けると---

 

「あれ? おい・・・?」

 

そこには誰も居なかった。

まるで誰も居なかったように消えていたが、帰ったのだろうか。

助言をしてくれた小さな少女が無事に帰れることを願い、アタシはベンチから立ち上がった。

 

「クリス、お待たせ---って何かあった? さっきと打って変わって、何処か表情が明るくなってるけど」

 

声が聞こえた方を見ると、袋を手に持ちながら首を傾げる迅の姿があった。

暗い顔をしていたのか・・・と思いつつアタシは相談に乗ってもらったことを教えた。

そして話しているうちに思ったが、コイツはフィーネのことをどう思っているのだろうか。恨んでるのか、それとも別の考えを持っているのか。

 

「なるほど・・・そんなことがあったんだ。その子にはお礼を言いたかったな」

 

「あぁ。・・・少し聞いてもいいか?」

 

「ん? いいけど。僕でも答えられることだったらね」

 

「いや、迅はフィーネのこと、どう思ってるのか気になってさ」

 

アタシ一人で答えを決めたとして、それはダメだろう。

言うならば、迅はアタシと同じ被害者でもあるのだから。

 

「そうだね・・・フィーネには文句は言ってやりたいけど同時に恩も感じてる。クリスが出した答えに従うよ。それはきっと、僕がやりたいことだ」

 

「・・・そうか」

 

文句を言いたいというのに同感だと思ったが、本当に無理だとしたら止めてくれるであろう相棒の姿にフッと笑ったアタシは行くことだけを伝えて歩を進めた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「うぅ・・・髪の毛がボサボサです。シンさんのあの包むやつって、こういうのを想定して守ってくれてたんですね」

 

「すまない。地味に動くとこれが限界だった」

 

先ほどクリスたちが居た場所から離れたビルの屋上でシア---セレナは抱えられていた。

セレナはお礼を言うと自らの足で立って髪の毛を整えたり服についた汚れを払うことで落とす。

 

「まぁ、レイアさんが居なければ離れることが出来なかったのは確かですので文句は言えませんが・・・」

 

髪を整え終わるとうん、と満足したように頷き、やっぱり私たちのことをちゃんと考えてくれてたんだなぁ・・・と少し嬉しそうに深々と呟くセレナ。

レイアがやったことは簡単で、一瞬のうちにオートスコアラーであるからこそ出来る人外の力でセレナを抱えて跳躍しただけ。

その時の風圧が襲い掛かり、髪型や服がぐちゃぐちゃになったわけである。

 

「ところでその、シンさんは怒ってませんでしたか? 会ったことはありませんでしたけど、シンさんはよく関わってたようなので・・・もし計画に支障が出たりとかだったら・・・」

 

おずおずと今にも不安そうな眼差しをセレナがレイアに向ける。

そんなセレナにレイアは首を横に振ると、口を開いた。

 

「問題ないと言っていた。むしろ私たちのマスターが腹を空かせてるから早く帰ってきてくれと」

 

「そ、そうですか・・・なら良かったです。それなら早く帰らないとダメですね」

 

安心したように息を吐いたセレナはテレポートジェムを取り出す。

その時、一度だけ振り向くと小さな人影が二人どこかへ向かう姿があり、小さな声で『頑張ってください』と言ってからレイアと帰還した---

 

 





〇セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
気がつけば装者全員と関わりを持ってた件について。
あかん、セレナの精神死ぬぅ!
実はシンが居ない時はオートスコアラー四人のうち、必ず誰か一人が本人の知らない所で護衛してるので、安全な要素しかない(大抵レイアかファラ)

〇エボルト
最近出番なかった理由。ここから多分たくさん出ます。
でも、なんでこいつ謎を追う主人公みたいになってんの? なんで主人公の知らないところで主人公の謎出してくるの?
でも結局滅ぼそう思考なので安心出来るね!! アルトくん居なきゃ地球滅んじゃう^〜。この世界にはあまり興味無いからね仕方がないね。
ちなみに変身後のボイスは金尾哲夫で、石動惣一の時は石動惣一の声。

〇滅亡迅雷
迅たちも含め、孤児院ということを明かされた。
というか、今思い浮かんでるVシネマ編やるなら、なんとか彼らを救済するにはこれしかないんや・・・。(なおバルカンの方は見てないしネタバレ意地でも避けてるので滅亡迅雷の後の話が円盤来るまで知らない)


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第十九話 繋いだ手だけが紡ぐもの

二日目です。リバイス面白かったですね。これは不味い。ゼロワンロスのお陰で書けてる俺がリバイスに塗り潰される可能性が出てきた・・・問題はどれだけ早く四期まで行けるかが勝負だ。
でも、きりしら出てきたらやる気は出そう。


 

 

 

廃墟と化した部屋を借り、夜を明かせた二人は昼くらいの時間帯にフィーネの屋敷にやってきていた。

クリスと迅、二人は中へ入ると、驚きで立ち止まる。

 

「どうなってやがるんだ・・・!?」

 

「酷い有様だ・・・これは、米国の部隊兵士?」

 

ガラスは割れ、壁や置いてあった機械や装飾品すら壊されている。

複数の人が血だらけとなって倒れている---いや死んでいた。

死体となった中を二人は歩いていくが、突如として入り口方面から足音を感じ取る。

ほぼ反射的に迅がクリスを後ろにしてプログライズキーを握るが、視線の先に居たのは赤いカッターシャツを着用している筋肉隆々の男性、二課の司令である風鳴弦十郎だった。

その後ろにはサングラスを掛け、黒いスーツを着た者たちが拳銃を手に持っていた。

その者たちが次々へとクリスたちに向かっていく。

 

「ち、違う! アタシらじゃない! やったのは---」

 

「やるしかないのか・・・!?」

 

プログライズキーを強く握りしめ、迅がまさに変身しようとした時---黒いスーツを着た者たちは迅やクリスを通り過ぎ、米国兵士に近づいていった。

捕まえに来たのではないかと思っていたクリスと迅は困惑すると、弦十郎がクリスたちに近寄る。

 

「誰もお前たちがやったなど疑ってはいない。全ては君たちや俺たちの傍にいた彼女の仕業だ」

 

「やっぱり、フィーネが・・・」

 

弦十郎の言葉を聞いた迅は真っ先に思い浮かんだ存在の名を上げると、弦十郎が顔を向ける。

迅はまだ安心するのは早いと警戒を含めた視線を送る。しかしそんな視線を向けられた弦十郎は苦笑いするだけだった。

 

「君が迅くん・・・で合っているだろうか? 亡くんから話は聞いている。彼女もずっと君を探していたようだからな」

 

「そうか・・・だけど、あんたはなんでここに?」

 

僅かに警戒心を解いた迅の言葉に弦十郎が一度頷くと、今度は視線をクリスに向けた。

 

「ヴァイオリン奏者、雪音雅律とその妻、声楽家のソネット・M・雪音が難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのが8年前。残った一人娘も行方不明となった」

 

「・・・・・・」

 

弦十郎が突然話し出したことにクリスは無言となるが、迅は気づいたようで心配するような視線をクリスに向けていた。

 

「その後、国連軍のバル・ベルデ介入によって事態は急転する。現地の組織に捕らわれていた娘は発見され、保護。日本に移送されることとなった」

 

「ふん、よく調べているじゃねぇか。そういう詮索、反吐が出る」

 

聞いていたクリスが鼻で笑い、睨みつけるように見つめる。

しかし弦十郎は気にした様子を見せなかった。

 

「当時の俺たちは適合者を探すために音楽界のサラブレットに注目していてね。天涯孤独となった君の身元引受先として手を上げたのさ」

 

続く言葉を紡ぎながら、だが、と一つ息を入れて区切ると弦十郎が再び口を開く。

 

「君が帰国直後には消息不明。俺たちも慌てたよ。二課からも相当数の捜査員が駆り出されたが、この件に関わった者の多くが死亡、あるいは行方不明という最悪の結末で幕を引くことになった。俺はその子を救いたかった。引き受けた仕事をやり遂げるのは、大人の務めだからな」

 

「はっ、大人の務めと来たか! 余計なこと以外いつも何もしてない大人が偉そうにッ!」

 

吐き捨てるような物言いのクリスに弦十郎が沈黙する。

そんな時、『風鳴司令!』と呼ぶ声が聞こえる。

その声に全員の視線が一つの死体へ向けられた。そこに貼られている紙には『I LoVE YoU SAYoNARA』という言葉---

 

「・・・あれ? 見にくいけど何か糸のようなものが---」

 

「あぁ、それだけじゃねぇ。辺りに張り巡らされてるみたいだ」

 

「まさか・・・ッ!?」

 

ふと気づいたように迅とクリスが口に出したこと。

その言葉の真意を聞こうとした弦十郎が何かに気づいたように声を張り上げる。

視線の先には、既に紙を剥がそうとしている姿。

 

「全員ッ! 今すぐ伏せろッ!!」

 

「何かが起きるッ! クリス!」

 

距離がある弦十郎やクリスたちにも届くほどの大きさの糸が切れる音。

弦十郎は忠告し、迅はクリスがギアを纏うのは時間が掛かるため間に合わないと判断して押し倒すように倒れさせる。

瞬間、凄まじい轟音と爆発があちらこちらから発生した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発による煙が消えると、部屋全体が明るくなった---いや、天井そのものが消えていた。

ただでさえボロボロだった部屋は壁すら無くなり、所々は天井が崩れたのもあって瓦礫に埋もれたり積もったりしている。

なによりも異質なのは、巨大な天井の破片と思われしきものをクリスと迅を守るように片手で受け止めている弦十郎の姿だった。

 

「うっ・・・どうなってやがるんだよ!?」

 

「衝撃は発勁でかき消した」

 

「そうじゃねぇよ!」

 

「ほ、本当に人間・・・?」

 

クリスを守ろうとしていた迅だったが、無事だったことに安堵---するわけではなく、弦十郎の言葉を聞いて頬を引き攣らせることしか出来なかった。

---全くもって意味がわからない。

少なくとも、風鳴弦十郎という規格外の存在をよく知らないクリスと迅は心の中でそう呟くしかなかった。

 

「・・・なんで、なんでアタシらを守ったんだ?」

 

「俺が君らを守ったのは、お前らよか少しばかり大人だからだ。例え君たちがギアを纏えたり変身出来たりしたとしてもな」

 

考えるのをやめて一度冷静になったクリスは立ち上がると疑問をぶつける。

その疑問に弦十郎は『大人だから』という理由を述べた。そのことにクリスは僅かに怒りの形相を浮かべる。

 

「大人だからだと!? いいか、アタシは大人が嫌いだ! 死んだパパとママも大嫌いだ! とんだ夢想家で臆病者! アタシはあいつらと違う! 戦地で難民救済? 歌で世界を救う? いい大人が夢なんか見てるんじゃねえよ!」

 

「大人が夢を、ねぇ・・・」

 

「本当に戦争を無くしたいのなら、戦う意思と力を持つ奴を片っ端からぶっ潰していけばいい! それが一番合理的で現実的だ!」

 

会話に入れない迅だったが、クリスの言葉に思うことがあったのか渋い表情をする。

冷静な彼だからこそ、以前のようにやったとしても何も変わらないのだろうと察したのかもしれない。

そもそもの問題、仮に戦争を無くせるとしたらある人物と似たようなことをしなければならないかもしれないだろう---ただし、その人物はあくまで戦争を無くす訳ではなく誰かのために()()()()()()()()()()だけだが。

 

「そいつがお前の流儀か。なら訊くが、そのやり方でお前は戦いを無くせたのか?」

 

「それは・・・」

 

クリスが言い淀む。

迅は予想通りといった表情しか出来ないが、周囲の警戒だけはして見守ることにしていた。

 

「そうじゃない。大人だからこそ、夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし力も強くなる。財布の中の小遣いだってちったぁ増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も、大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親はただ夢を見に戦場に行ったのか? 違うな。歌で世界を平和にするっていう夢を叶えるため、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」

 

「なんで、そんなことを・・・」

 

「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられるという揺るがない『現実』をな。お前が嫌いと吐き捨てた両親は、きっとお前のことを本当に大切に想っていたんだろうな」

 

そのセリフを聞いたクリスが堪えるように涙ぐむと、弦十郎の力強い手で引き寄せられて分厚い板に顔を埋める。

それによって決壊してしまったのか年相応に涙を流し始めた。

そんなクリスを太陽の光が差し込み、何者かがクリスを祝福するように照らしていた。

傍に居た迅は柔らかく微笑むと、少し複雑な表情をしながらも間違いなく救ってみせた弦十郎を見て、誰かを思い出すように遠い場所を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発で瓦礫の山と化した部屋をあらかた捜索した黒服たちは、慌ただしく乗ってきたであろう車に乗っていく。

そんな中、弦十郎とクリス、迅は最後まで対面していた。

 

「やっぱりアタシらは・・・」

 

「一緒には来られないか?」

 

「ごめんだけど、まだ・・・無理そう」

 

元々、迅はクリスのために行動していたのもあるし二課には亡がいるためそこまで気にはしていない。

しかしクリスのことを考えると整理も必要だろうとクリスを見ながら、迅が答える。

 

「そうか・・・。今はまだ、君たちはそれぞれひとりひとりの道を進んでいるかもしれない。だが、その道はいつか俺たちの道と合流すると信じている」

 

「今まで戦ってきた者同士が一緒になれると言うのか? 世慣れた大人がそんな綺麗事を言えるのかよ?」

 

「本当ひねくれてるなぁ・・・」

 

「クリスはいつもそうだから」

 

苦笑いする弦十郎に迅が肯定すると、クリスはキッと睨む。

ごめんごめん、と迅が謝ると、ふと弦十郎がクリスに何かを投げた。

 

「うわっ、これは通信機・・・?」

 

「それがあれば限度額内なら公共機関にも乗れるし買い物もできる。便利だぞ」

 

渡した後に、そんな便利なものを仲間でもない存在に渡したことにクリスは僅かに呆れる。

一方で弦十郎は車に乗り込んでエンジンをかけていた。

そんな弦十郎に、クリスは例え望んでなかったとはいえ、借りを返すために声をかけた。

 

「カ・ディンギル!」

 

「ん?」

 

「フィーネが言ってたヤツだよ。僕らは教えられてないから分からないけど、もう完成しているみたいなことを言っていた・・・はずだ」

 

貸し借りを無くすためにもクリスが提供したのは唯一持っている情報。

迅がクリスの言葉に続いて説明すると弦十郎が反芻するように呟く。

 

「後手に回るのは終いだ。こちらから打って出てやる」

 

弦十郎が真剣な表情でそう言い、車列を率いて去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弦十郎が本部へ戻ると、最近顔を出していなかった石動惣一が手に持つコーヒーを飲みながら声をかけた。

 

「よっ! ダンナ。久しぶりだが、後で少し時間を貰えるか?」

 

「マスターか。久しぶりだな。時間? それは構わないが・・・先に収穫があったから伝えておきたい」

 

「はいよ。じゃ、後で話しますかね」

 

急いで話すことではないのか弦十郎から離れて椅子に座ってコーヒーを飲み始める惣一。

ちなみにだが、缶コーヒーである。喫茶店の店主としてそれはいいのだろうか。

 

『ダンナ、何かあったのか?』

 

通信が繋がったのか、奏と翼、響の声が聞こえるが雑談に入る前にか奏が要件を聞こうとする。

 

「収穫があった。・・・了子くんは?」

 

弦十郎が話そうとしたところで、一人連絡も繋がってないことに気づくと友里が答える。

 

「まだ出勤していません。朝から連絡不通でして・・・」

 

「そうか・・・」

 

弦十郎が何処か考えるように顎元に手をやるが、その間にも明るい声が響く。

 

『了子さんなら大丈夫だと思いますよ。だって、私を守ってくれましたしドカーンとやってくれますよ!』

 

『いや、戦闘訓練も碌に受講していない櫻井女史にそのようなことは・・・』

 

『え? 師匠や了子さんって人間離れした特技とか持っているんじゃないんですか?』

 

『あぁ、ダンナはともかく了子さんにそんなものはなかったはずだよ。少なくともアタシらは知らない』

 

缶コーヒーを飲みながら口を出さずに成り行きを見守っていた惣一が一人目を鋭くする。

その近くでは亡も居るが、違和感を感じ取ったのか僅かに眉を寄せて首を傾げていた。

 

『やぁっと繋がったぁ。ごめんね、寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が良く無くて』

 

少しして新しく聞こえてきた声は、確かに櫻井了子の声だ。

しかし弦十郎も惣一と同じく瞳を鋭くしながら声だけの通信に返答する。

 

「無事か、了子くん、そっちに何も問題は?』

 

『寝坊してゴミは出せなかったけど、何かあったの?』

 

『良かったぁ』

 

『流石に寝すぎだぞ、了子さん・・・』

 

安心するような響の声と苦笑いする奏の姿がある。

惣一はさらっと立ち上がりながら缶コーヒーを飲み終え、会話を聞くことに集中し始めた。

 

『ならば良い。それより、聞きたい事がある』

 

『せっかちね。何かしら?』

 

「・・・・カ・ディンギル。これが意味することは?」

 

真剣に尋ねる弦十郎。

数瞬の間の後、了子からの答えが返ってきた。

 

『・・・『カ・ディンギル』とは古代シュメールの言葉で『高みの存在』。転じて、天を仰ぐほどの巨大な塔を意味しているわね』

 

「何者かがそんな塔を建造していたとして、何故俺たちは見過ごしてきたのだ? だがまぁ、ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば、勝利も同然だ。相手の隙に、こちらの全力を叩き込むんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな」

 

それぞれの承諾する返事が聞こえると通信が消えた。

 

「・・・別名、バベルの塔だったか。まさかこの知識が役に立つとはねぇ」

 

会話を聞いていた惣一が小さく呟いた声は、誰にも聞こえなかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「些末な事でも構わん、カ・ディンギルに関する情報を搔き集めろ」

 

何かを知ってそうな惣一について気づかず、二課では『カ・ディンギル』なる塔の事について、職員全員が全力で情報を搔き集めていた。

だが、突如として警報が鳴り響く。

それはノイズ発生のアラートである。

 

「どうした!?」

 

「飛行タイプのノイズが大型ノイズが一度に三体・・・いえ、もう一体出現!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

「今は人を襲うというよりも、ただ移動していると・・・はい。はい」

 

翼と奏が先に向かったという連絡を受けた響は傍に居た未来に視線を向ける。

 

「響、大丈夫なの?」

 

「平気。私と翼さんや奏さんも居るし、惣一おじさんもいる。だから未来は学校に戻って。いざとなったら地下のシェルターを解放して、この辺の人たちを避難させないといけない。未来にはそれを手伝ってもらいたいんだ」

 

「う、うん分かった」

 

仮にノイズが出たとしたら、誘導役の人が居た方がより安全に避難することが出来る。

何も分からないままよりも、指示を出す者がいた方が従いやすいものだ。特にノイズとなれば、触れたら終わりなのだから。

 

「ごめんね、巻き込んじゃって」

 

「ううん、巻き込まれたなんて思っていないよ。私がリディアンに戻るのは、響がどんなに遠くに行ったとしても、ちゃんと戻ってこられるように、響の居場所、帰る場所を守ってあげる事でもあるんだから」

 

「私の、帰る場所・・・」

 

響は未来に意表を突かれたかのように呆気に取られる。

 

「そう、だから行って。私も響のように、()()()()大切なものを守れるくらいに強くなるから」

 

ほんの僅かに後悔が含まれている言葉。

しかし安心させるように微笑む未来に響はゆっくりと歩み寄って手を取る。

 

「小日向未来は、私()()にとっての『ひだまり』なの。未来がとてもあったかい所で、私()()が絶対帰ってくる所。これまでもそうだし、これからもそう! だから私は絶対に帰ってくるッ!」

 

そう、自信満々で言いきって見せる響。

その『たち』というのはきっと■■■■■■という意味なのは彼女たちのみしか知らないだろう。

 

「響・・・」

 

「それに大切な約束がまだまだ果たせてないからねッ! じゃあ、行ってくるよ!」

 

未来に見送られ、響はその場から走り去る。

しかし何処に行けばいいか分からないのは明白で、通信機を取り出そうとした響に二課の方から連絡が入った。

 

『ノイズ進路経路に関する最新情報だ。計四体の大型ノイズは、四方から東京スカイタワーへ向かって侵攻している!」

 

そう言われても、ここからの距離では走って向かったとしても間に合わせることは不可能---という響の思考を読んだように、ふと上空からけたたましい風切り音が聞こえてきた。

響が見上げて見れば、そこには---

 

『なんともならない事をなんとかするのが、俺たちの仕事だ』

 

ヘリがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「カ・ディンギルが塔を意味するのであれば、スカイタワーはまさに、そのものじゃないでしょうか?」

 

「スカイタワーには、俺たち二課が活動時に使用している映像や交信と言った電波情報を統括・制御する役割も備わっている・・・。とにかく三人とも、頼んだぞ」

 

通信が切れたからか、弦十郎に惣一が小声で声をかける。

 

「ダンナ。話したいことはあったが、どうやら気づいてるようだから必要ないだろ? 櫻井了子のことだ」

 

「あぁ・・・信じたくはなかったがな」

 

「ま、それは今はどうしよう出来ない。ダンナに任せるとするよ。それで俺はどうする? 罠だと分かっているが、俺も行った方がいいか?」

 

周囲を気遣って小声にしたらしいが、もう必要ないと分かると惣一は弦十郎に聞く。

響や翼と奏の協力に行った方がいいのか、ということだろう。

 

「・・・いや、マスターには残っていて欲しい。向こうには、協力な助っ人がいる」

 

「そうか。分かった」

 

弦十郎はもしものことを考え、惣一に待機させることにすると惣一は分かっていたことなのか笑みを浮かべて素直に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)---』

 

 

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)---』

 

 

響よりも先にヘリで到着した奏と翼はそれぞれのギアを纏い、空中にいる飛行機型の巨大ノイズに対して竜巻と斬撃を放つが、他のノイズによって威力が削がれて消滅する。

 

「翼と二人で戦うのも久しぶりだな」

 

「えぇ。けれど、頼もしい仲間がまだ居る。私たちは到着するまでに出来る限り数を減らそう」

 

頷き合った二人は早速ノイズを倒していくが、一体の飛行機型の巨大ノイズならともかく、複数いるせいで倒す速度よりも増える速度の方が早い。

となれば、飛行機型の巨大ノイズを倒す手段を探すしかなく---

 

「相手に頭上を取られるのが、ここまで立ち回りにくいとは・・・!」

 

「こうなったらヘリで・・・なっ!?」

 

言いかけた奏の目の前で、今しがた自分たちを運んでくれたヘリがノイズの攻撃を受けて爆発し、火の玉となって落下していく。

 

『---Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)

 

周囲に歌が聞こえると、先程爆発したヘリから響が着地して操縦者を地上へ降ろした。

爆発する直前、シンフォギアを纏いながら救出したのだ。

 

「響! ナイスタイミング!」

 

「お待たせしました!」

 

早速襲ってくるノイズを殴り飛ばした響は、奏と翼に合流する。

しかし合流した後にノイズが時間をくれるはずがなく、ノイズが襲いかかってきて、それぞれの得物で倒す。

それが次々と来て数を減らしているはずなのに、減っているように感じない。

 

「空飛ぶノイズ・・・どうすれば・・・」

 

「臆するな立花。防人が後ずされば、それだけ戦線が後退するという事だ」

 

「せめて周りのノイズが居なければな・・・」

 

奏の言う通り、今も数を増やしている飛行機型の大型ノイズ。

襲いかかってくるノイズを倒しても、上空の敵への攻撃は出来ないのが現状だ。

それが出来なければ、疲れというものがあるこちらがジリ貧になる。

そしてあれこれ考えている間に、鳥型ノイズが槍状となって向かってきた。

一先ずはそれに対処しようとした三人だが、未然に終わった。

なぜなら---

 

 

 

 

 

 

 

フライングファルコン!

 

Break Down・・・

 

何処からか低音声のようなものが聞こえたかと思えば、三人の背後から鳥の羽のようなものと銃弾が向かってきていたノイズを一気に殲滅したからに他ならない。

思わず三人が振り返ると、そこには見慣れた少女とアーマーカラーがシルバーの人型の鳥のような姿をしている仮面の戦士がそこに居た。

 

「コイツがピーチクパーチクうるさいからちょっと出張ってきただけ。それに勘違いするなよ。お前たちの助っ人になったつもりはねえ!」

 

「まぁ、素直じゃないだけで助っ人なんだけどね」

 

「おい!」

 

クリスが顔を赤めながら迅に文句を言うが、言われてしまったものは否定出来ずに顔を逸らした。

 

『そうだ。第2号聖遺物『イチイバル』を纏う戦士、雪音クリスと仮面の戦士、仮面ライダー迅だ』

 

「クリスちゃーんっ! 分かり合えるって信じてたよ!」

 

「この馬鹿ッ! アタシの話を聞いてなかったのかよ!」

 

クリスが抱きついてきた響を引き離す。

すると、翼と奏も近づいてきた。

 

「とりあえず今は連携してノイズを・・・!」

 

「勝手にやらせてもらう! 邪魔だけはすんなよな!」

 

「あ、おい!? まったく、どうしてみんなこうなるのかね・・・」

 

「ごめんね、クリスは素直になれないから。でも賢い子だから今のクリスならきっと、言葉の全てを理解出来るはずだよ」

 

クリスが一人アームドギアを展開してノイズと戦いに行く。

その姿を見ながらそう一言だけ残した迅は空中からクリスの援護に向かった。

 

「・・・とにかく私たちは地上のノイズを倒しましょう」

 

翼の言葉に頷くと、三人は地上のノイズを殲滅すべく次々と薙ぎ払っていく。

空中のノイズも迅が可能な空中戦とクリスのガトリングによる攻撃で瞬く間に減らしていくのだが---

 

「うわ!?」

 

「あ!?」

 

一旦退いて態勢を立て直そうとした翼の背中に、同じく敵をより多く捕捉するために下がっていたクリスの背中が当たる。

 

「何しやがる! すっこんでな!」

 

「貴女こそいい加減にして。この場は貴女一人の戦場(いくさば)じゃないわ」

 

「・・・確かにアタシたちが争う理由なんてないのかもな。だからって、争わない理由もあるものかよ。アタシらはこの間までやりあってたんだぞ。そう簡単に、人と人が---」

 

そんな言葉をぶつける中、クリスの手を包み込む温もりがあった。

そこに割り込んできたのは、響。

いつの間にか近くに居たようだ。

 

「出来るよ。誰とだって仲良くなれる」

 

「響の言う通りだ。最初は翼と響もダメだったのに、今は仲良くなれてる。それはきっと、クリスとも出来るはずだから」

 

「奏・・・」

 

クリスと繋いだ響。そこに奏が入ってきて、響と翼の手を取った。

 

「どうして私にはアームドギアがないんだろうってずっと考えてた。いつまでも半人前はやだなぁって。でも、今は思わない。何もこの手に握ってないからこうやって手を握り合える。仲良くなれるからね」

 

「誰かと手を繋ぎ合える。それはきっと、これからのあたしらに必要となる力でもあるんじゃないかな。少なくとも、あたしはもう許してる。クリスのことを」

 

そう笑顔で言ってのける二人を翼はしばらく見つめるが、やがてその手の剣を地面に突き立てる。そして突き立てる事で空いた手を、クリスに伸ばした。クリスは迷うように戸惑うが、恐る恐る手を伸ばす。

が、どうにもじれったいのか、ばっと掴んでしまいクリスはそれに驚いて手を引っ込めてしまう。

 

「こ、この馬鹿に当てられたのか!?」

 

「そうだと思う。そして、貴方もきっと」

 

「・・・冗談だろ」

 

あっさり肯定し、指摘する翼にクリスは白い頬を赤くしながら、消え入るような声で悪態を吐いた。

 

「・・・良いところだということは分かるんだけど、ちょっといいかな? 流石に僕一人じゃキツイんだけど・・・」

 

今まで何とか一人で抑えていた迅だったが、数が増えて抑えきれないと判断したのか申し訳なさそうに降りてきて四人に言う。

 

「あぁ、大丈夫だ。アタシに考えがある。イチイバルの特性は『長射程広域攻撃』。派手にブッ放してやるッ!」

 

「まさか、『絶唱』を?」

 

「馬鹿。アタシの命は安物じゃねえ」

 

響が知っている広範囲で強力な攻撃である絶唱。それを口にするのではと危惧するが、クリスは一瞬でそれを否定した。

 

「でもクリス、いくら僕たち二人でも上空のノイズを纏めて消し去ることは出来ないよ?」

 

「分かってる。だからこそギアの出力を引き上げつつも、放出を抑えることで行き場のなくなったエネルギーを臨界まで溜め込んで、一気に放出することで解き放つことを行う!」

 

「なるほど。だけどチャージ中は丸裸も同然。これだけの数を相手にする状況なら危険すぎる」

 

「それを守るのが、あたしらって訳だ。こっちは四人もいる。手分けすれば四方向から来ても守ることは出来るよ」

 

「そうですね! 行きましょう!」

 

頼まれてもいないこと。しかしこの場にいる者が頷き合い、うじゃうじゃと蠢き集まるノイズを見据えて飛び込んでいく。

そんな姿を見たクリスは自然と不敵な笑みを浮かべていた。まるで引き下がれないと言わんばかりに。

 

「本当に・・・良い人達ばかりだな。クリス、僕は空中から向かってくるノイズを倒すから託したよ!」

 

「分かってる。心配は要らないだろうけど、無茶だけはすんなよ」

 

「うん!」

 

迅も三人に続くように背中の翼を広げる。

空に今にでも突撃せんとばかりのノイズを見据え、地面を蹴ることで跳躍と共にノイズを蹴り飛ばす。

 

「---なんでなんだろ。心がグシャグシャだったのに、差し伸ばされた温もりは嫌じゃなかった・・・」

 

クリスが歌い始めると、ギアの出力を引き上げられていく。この場のノイズを殲滅するために、彼女の目的のために、守りたい者のために。

何よりも、彼女を信頼して共に戦ってくれる者の為にクリスは今---

 

「光が・・・力が・・・魂を---ぶっ放せッ!!」

 

クリスのシンフォギアが変形する。

三連四門のガトリング砲、小型ミサイルポッド、四基の巨大ロケットミサイル---彼女が持つ完全武装を使い、クリスはその身に溜め込んだエネルギーを解き放つつもりだった。

そんな彼女に対し、彼女らは---

 

「「「託したッ!」」」

 

「今だ!」

 

MEGA DETH QUARTET

 

放たれるのは大火力。

クリスの攻撃に合わせるように迅が空中から凄まじい速度で地面に降り立ち、羽を飛ばすことで邪魔をするノイズを消し去る。

そこに放たれた四基の大型ミサイルと小型のミサイル。小型ミサイルからはさらに同じように小型ミサイルが現れ、巨大ノイズへの道のりをガトリングと共にこじ開け、四基のミサイルはそれぞれ巨大ノイズ四体へと直撃し、爆発を起こす。

 

「---My song、未来の歌。やっと・・・見えたと・・・気づけたんだ。きっと届くさ、きっと---」

 

彼女の歌の終わりと同時に空中、地上のノイズを殲滅し終え、それぞれの得物で最後のノイズを倒した面々は増えてこないノイズに気づいて巨大ノイズを見た。

 

「やった、のか・・・?」

 

「みたいだな」

 

「ったりめーだろ!」

 

自信満々に言うクリス。そんな彼女の言葉を裏付けるように、空から風に乗って灰が落ちてきていた。

 

「やったやったーッ! 勝てたのはクリスちゃんのお陰だよー!」

 

戦いが終わると、ギアと変身を解除した響たちと迅は集まっていた。

そんな中、クリスに響が抱きつき、クリスは文句を言いながら引き離す。

 

「お前たちの仲間になった覚えはない! アタシはただフィーネと決着をつけて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだ!」

 

「夢!? どんな夢!? 聞かせてよー!」

 

「うるさいバカ! しつこいんだよ!」

 

鬱陶しそうに再び抱きつく響をクリスが引き離し、蚊帳の外にいる三人は微笑ましそうに見つめていたのだが、突如として響のポケットから着信音が聞こえる。

同時に翼は何か可笑しいと感じたのか、怪訝な表情をしていた。

 

「翼?」

 

「おかしい・・・。本部に繋がらない」

 

「は?」

 

「はい」

 

『響!?』

 

翼の言葉に思わず間抜けた返事をする奏だが、響は少し気になりつつも電話に出ていた。

響の耳から聞こえてきたのは、切羽詰まった未来の声。

 

『学校が、リディアンがノイズに襲われ---』

 

その声を最後に、プツンと通信が途切れた。

 

「・・・え」

 

次に聞こえたのは、響の茫然とした声だった。

 

「おい、何が---」

 

「・・・まさか。僕たちは罠にかかったんだ! フィーネの目的は別で、ここに居たノイズは僕たちをここに押し留めるための時間稼ぎ・・・!」

 

タダならぬ様子の二課の装者たちにクリスが何があったのかと聞こうとすると、迅が気づいたように声を上げる。

その迅の言葉にクリスも気づき、舌打ちした。

 

「とにかく、リディアンに戻るしかないね・・・!」

 

奏が苦虫を噛み潰したような表情をするが、流石年長者と言うべきか冷静な案を出し、この場にいる全員がリディアンに向かっていく。

---それぞれ無事であることを願いながら。

 

 

 

 

 

 

 





〇雪音クリス
ようやく仲間になった・・・。

〇迅
友達を守っている。そこはヒューマギアを守っていた本編と変わらず。

〇OTONA
人外。
櫻井了子の件について、既に気づいている。

〇石動惣一
少し気づいているらしい弦十郎に話そうとしたが、気づいているようなのでやめた。

〇亡
立場上、あまり出れない。
因みに了子は彼女が変身出来ることは知らない。

〇立花響、小日向未来
所々話してる時に闇を出してくる系キャラ。影響力受けすぎぃ!

〇ツヴァイウィング
何かと有能だし助かる。


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第二十話 月を穿つ

リバイスドライバー届いたんですけどアレやばいですわ。回転ギミックが楽しすぎて壊しそう。リバイスドライバー! と流れないのに寂しさを感じるのは・・・多分あれだな、発光だけで音が鳴らないからなんでしょうね。バイスタンプは意外と大きくて、それでもベルトとか楽しいのでこれは期待出来そうですわ。
そして三日目です。アンケートなんですけど、みんなアークワン好きすぎでは? 安心してください、作者の脳内では二期で出てます(ネタバレ)






 

 

装者が街に出てノイズを対処している間に、リディアンはノイズの襲撃を受けていた。

そのノイズに自衛隊が対応しているが、通常兵器ではノイズに一切効かないどころか干渉自体出来ないため、ただ無駄に弾を消費する事しかできない。偶然倒すことも出来ない訳では無いが、まぐれと言えるほどの確率。

そんな時、彼らの耳には機械から発せられた音声のようなものが聞こえた。

 

コブラ!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

フォースライズ!

 

『Are You Ready?』

 

二つの影が自衛隊たちを突っ切り、ノイズに走っていく姿を捉える。

その姿を見た自衛隊の部隊長らしき者はすぐさま避難の誘導へと切り替える。

 

「変身!」

 

「変身・・・!」

 

ジャパニーズウルフ!

 

Break Down・・・

 

エボルコブラ!フッハッハッハッハッハッハ!』

 

それぞれのベルトの操作を行うと、二つの影は姿を変える。

異形をも倒す力を持ち、人々を守り、時にぶつかり合う正義と悪。表裏一体を象徴する仮面の戦士へと。

ノイズの目の前で変身を完了させた二人---仮面ライダーエボルと仮面ライダー亡は腕を突き出すことでノイズを炭化させる。

ノイズが認識した瞬間、大量のノイズが二人へ襲いかかった。

亡は爪で、エボルは空手徒拳で対処していく。

 

「まさかお前も変身出来たとはなァ・・・」

 

「ええ、報告する暇がありませんでしたから。相手にとっても想定外でしょう」

 

「だったら、さっさと倒しますかねェ」

 

倒したはずなのに、次々と湧いてくるノイズの濁流。

面倒臭そうに腕を回したエボルは足に力を込め、高速移動を行う。

それを見た亡も同じく凄まじい速度で地上を駆け、ノイズの殲滅へと踊り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

---突然のノイズの襲来に、混乱するリディアンの生徒たち。ノイズの被害は世界規模で警戒されており、シェルターの作成やら避難訓練など国家は怠らず実施していた。

当然リディアンの生徒たちも避難訓練に参加している。それでも自分たちにノイズの脅威が迫ってくるなど露にも思わなかったのだろう。

 

「落ち着いて、シェルターに避難してください!」

 

そんな中、自衛隊員共に冷静に避難を促す小日向未来の存在は避難する同じリディアンの生徒たちに一定の冷静を与えていた。

もし彼女がいなかったら、混乱が起きていたかもしれない。

 

「落ち着いてね・・・」

 

「ヒナ・・・」

 

避難誘導を自衛隊員に任せつつ、生徒たちを宥める未来に話しかけてくる者が三人居た。

黒鉄色のショートカットが特徴的な『安藤(あんどう)創世(くりよ)』。

長い金髪が特徴的なお嬢様の『寺島(てらしま)詩織(しおり)』。

そして髪の毛をツインテールにした『板場(いたば)弓美(ゆみ)』。

いつも未来や響と一緒にいる同級生の少女たちだ。

 

「あっ、みんな」

 

「どうなってる訳? 学校が襲われるなんてアニメなんじゃないんだから・・・」

 

アニメを比喩として使う彼女だが、彼女の言葉も最もだ。今まで街に出現したり山などの他の場所で出現することはあったが、学園に出ることなんて一度もなかったのだから。

 

「みんなも早く避難を!」

 

「小日向さんもご一緒に・・・」

 

寺島の言葉に未来は首を横に振る。

 

「先に行ってて。私、他に人が居ないか見てくる!」

 

「ヒナ!」

 

よく特徴的な呼び名を付ける安藤が呼び止めるも、未来は止まることなく行ってしまう。

 

「キミたち!」

 

そこへ避難誘導に当たっていた自衛隊員の一人が走ってくる。

 

「早くシェルターに向かってください! 校舎内にもノイズが---」

 

一瞬の出来事だった。

三人に避難を促すように走りながら話そうとしていた自衛隊員を、窓から突っ込んできたノイズが窓を割りながら自衛隊員を貫いていた。

ガラスの破片が飛び散る中、一秒も経たずして炭素の塊となり、崩れていく。

そして---

 

「---いやぁぁああぁぁぁぁああぁぁ!」

 

目の前で人が死ぬという、誰が見てもショックである光景を見た板場の悲鳴が響き渡った---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の中で、生存者がいないか走り回る未来。

流石に元陸上部故か、その体力はまだ衰えていない。

 

「誰かー! 残ってる人はいませんか・・・・きゃ!?」

 

地面が小さく揺れて、未来は悲鳴を上げる。

窓の外を見てみれば、小型ノイズや大型ノイズが大量にいる。リディアンを破壊するノイズに対抗するように二人の仮面ライダーがノイズを倒しているのだが、数が多すぎて対処出来てなかった。

一応自衛隊も引きつけるように攻撃はしているのだが、相手にはされていない。

そもそもの問題となるが、ここまで大規模となると当然、まともに戦えるのが二人だけの時点で数が足らないのである。仮面ライダーは常人からすれば、常時人外とも言えるほどの力を持つが、ノイズを一瞬で消し去る力までは持たない。

消し去る術があるとすれば、それは()()を出した時が一番当てはまるだろう。

仮面ライダーは常識を逸する力があるが、学園の被害、人々の安全、自衛隊員の無事。様々な要因が重なると全力を出そうにも出せないのだ。仮に出すことが出来るのであれば、()()()()問題なく殲滅出来るだろう。---そこに()()()()()()()()が前提となるが。

 

「酷い・・・。このままだと学校が・・・響の帰る場所も・・・!」

 

自身に力がないことから、未来は目の前の惨状を見ても何も出来ないことに歯痒くなる。

---もし私に力があるなら、守りたいのに。

そのような思いを抱いてしまうが、そんな未来は今自分に出来ることをしようと場を離れようとした---

 

 

 

 

 

 

その時だった。

近くで戦闘があったのか、爆発が起こる。砲弾が近くへ着弾し、爆発の衝撃が未来を襲う。

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

予想せず来た爆発の衝撃に未来の華奢な身体が吹き飛ばされ、そのまま校舎の壁へと叩きつけられてしまう。

一般人である彼女では避けることや打ち消すことなんてことは出来ず、未来は頭を強く打ったのか、気を失う。

そんな彼女の声に気がついたのか、ノイズが獲物を見つけたと言わんばかりに窓から飛び込んできた。

ノイズにやられて終わったのか、それとも避難出来たのか、近くで砲弾が着弾して爆発する音はもう聞こえない。

そう、どちらにしても未来に不幸が降りかかった。

ノイズは倒れている未来を見つけると、にじり寄ってくる。

当然、彼女がすぐに意識を取り戻すなんて奇跡は起きることなく、ノイズは未来に触れ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()

そして倒れる未来の体を通り過ぎた()()()()()()()()()()()()がノイズを吹き飛ばし、泥沼からは鋭利な槍のものが形成される。

槍のようなものはノイズを貫き、炭化させられた。

残るノイズが何かに反応すると、倒れている少女ではなく彼女の後ろの存在へ突撃する。

()()()()()()はずのノイズが()()()ように攻撃に向かったのだ。

そのノイズの攻撃に、黒い色のパーカーを着てフードを被る男性は視線を横に向けながらノイズをただ横に振るうだけで吹き飛ばす。

()()()()()()()()吹き飛ばしたのだ。視線は横のまま、戦闘が行われている窓の方へ向けられている。

 

「アークさま。なんか倒れてるけど・・・」

 

「・・・ん?」

 

まだノイズが生きているのに、全く恐怖を感じることもなく普通に日常会話をしているような空気感の中、傍に居た女性が未来の存在に気づいた。

黒いパーカーを着こなし、フードを被っている男性、アークと呼ばれたシンはそれに気づくと傍に寄り、脈を測った。

 

「意識がないだけだな。強く頭を打ったんだろう」

 

「置いてく?」

 

「・・・いや、手遅れならともかく放っておくのは不味い。見た感じここの学生だし、居なくなると面倒なことになりそうだしな。誰かに渡そう」

 

妙に軽く話す二人。そんな時、シンに対してだけノイズが再び突撃してくる。

全く警戒もしてなく、気づいてる様子も無いはずの姿。しかしノイズの攻撃は一切当たることも、掠ることもなく避けられた。

 

「それにしてもフィーネのやつ、何処に行った?」

 

「もしかしたら地下に向かってるかも」

 

「月を穿つためにカ・ディンギルの起動か・・・。まぁそれはどうでもいいが」

 

心底どうでも良さそうに呟くと、倒れていた未来を座らせたシンはフードを深く被ったままノイズを見た。

ノイズは変形し、紐状となって懲りずに突撃する。

そのノイズをシンが鬱陶しそうにアタッシュカリバーを泥沼から大量に生み出すことで炭化させる。

 

「・・・人が来るな。アズ、隠しといた方がいい」

 

「はーい」

 

何かに気づいたようにシンがアズに言うと、彼女は顔を隠すように帽子を取り出して深く被った。

そしてさらっと炭素の塊を動かし、ノイズが居たという証拠を消すシンだった。

 

「まだ人が・・・!? 貴方たち、早く避難を・・・!」

 

急ぐように走ってきたのは、二課のエージェントの忍者である緒川慎次だった。

緒川は避難せず突っ立っているシンとアズに避難するよう促す。

 

「すみません。倒れてる彼女を見つけたので。彼女のことを任せます」

 

シンはすぐさま未来を抱えると、緒川に渡した。

緒川はシンが言った彼女が未来だったということに驚くが、気絶してるだけと分かると安堵の息を吐く。

 

「じゃあシェルターに行くので・・・。シェルターは向こうですよね?」

 

「はい。一番近いのはそちらです。彼女のことは、ありがとうございました」

 

「いえ」

 

ノイズがまだ居るのに、妙に落ち着いてるシンの姿に緒川は僅かに違和感を持つ。

しかし冷静にシェルターの方へ歩いていく姿から、何かと似たような経験があるのだろうと見送り、未来を抱えながらエレベーターがある方向へ走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、マギアっぽいノイズはどこへ行ったのやら」

 

「実験にラーニングさせてたからかなり強くなってるもんね。街に行ったなら大変なことになっちゃうわ」

 

既に割れている窓から外に出たシンとアズは、ノイズが溢れる外へ探し物を求めて歩いていった。

---実は人類の敵と遭遇していたなど、緒川たちは知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「ここは・・・」

 

「目が覚めましたか?」

 

「緒川さん・・・」

 

エレベーターに乗り、降り始めたタイミングで未来が目を覚ます。

緒川が居ることに気づくと、助けられたのだと理解したようで、頭を下げた。

 

「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしたみたいで・・・」

 

「いえ、僕も避難者中の方に未来さんを預かっただけですから」

 

事情を説明しつつ緒川は通信機器を取り出して本部へと連絡を取ろうとしていた。

 

「その方は・・・?」

 

「シェルターに向かいましたよ。ですが、フードを被っていたので顔は見えませんでした。分かるのは・・・男性だということと、女性を連れていたことしか」

 

「そうですか・・・。お礼を言えないのが残念ですけど、無事で居ますように・・・」

 

願うように呟く未来の姿を横目で見つつ、連絡が繋がったと分かると緒川は司令である風鳴弦十郎と会話をする、

 

『はい、リディアンの破壊は依然拡大中です。ですが、未来さんたちのお陰で被害は最小限に抑えられています。これから未来さんを、シェルターに案内します』

 

外では二人の仮面ライダーが活動してるのもあって、自衛隊の被害も少ないだろう。

なにより、生徒の犠牲という最悪の展開は避けられたと思われる。

 

『分かった。気をつけろよ』

 

『それよりも司令。カ・ディンギルの正体が判明しました。物証はありませんが、カ・ディンギルとはおそらく---ッ!?』

 

弦十郎へ報告しようとしていた緒川だったが、エレベーターに衝撃が走り、窓にヒビが入ることに気づくと息を飲む。

 

『きゃぁぁあぁぁああ!』

 

「ぐっ!?」

 

未来の悲鳴と共に通信機器が破壊され、エレベーターの天井を破壊して侵入してきた何者かに緒川はエレベーターの入口に押し付けられ、首を絞められる。

 

「こうも早く悟られるとは、何がきっかけだ?」

 

それを行った犯人は、フィーネだった。

黄金色の鎧---ネフシュタンをその身に纏い、完全聖遺物の力を持ってして天井を破壊したのだろう。

 

「っ・・・塔なんて目立つものを、誰にも知られる事なく建造するには、地下へと伸ばすしかありません・・・。そんな事が行われているとすれば・・・特異災害対策機動部二課本部・・・そのエレベーターシャフトこそ、カ・ディンギル・・・・そして、それを可能とするのは---」

 

「漏洩した情報を逆手に、上手くいなせたと思っていたのだが・・・」

 

上では、人々ですら気づく。

しかし下ならば? 誰にも悟られることなく、誰にも気づかれることなく建造することが可能となる。

そしてエレベーターが最下層に着いた時の音ともに緒川の背後の扉が開き、緒川は拘束を解く。

その瞬間、身軽な動きで距離を取って飛び上がると同時に脇のホルスターから拳銃を抜き出して発砲。その数、三発。

それら全てがフィーネに直撃するが、突き刺さった弾丸がまるで削り取られたかのように落ちていき、一方のフィーネの体には傷一つついていなかった。

 

「ネフシュタン・・・!?」

 

返答の代わりか、フィーネはネフシュタンの肩にある刃の鞭を操る。

ネフシュタンの鞭は緒川を一瞬で拘束し、空中で持ち上げた。

 

「ぐぁぁあぁあ!?」

 

「緒川さん!」

 

空中で身動きが取れないように締め上げられ、絶叫する緒川。

 

「ぐぅ・・・あぁ・・・・未来・・・さん・・・逃げ・・・て・・・」

 

今自分が危ない状況であるのに、他人を逃げるように促す緒川。

しかし未来はそのまま棒立ち---せずに、フィーネに体当たりをかました。

だが、あまり効果がないのかほんの僅かに体が揺れただけで、ぶつかってきた未来にフィーネは肩越しに視線を向けた。

 

「ひっ・・・」

 

向けられた目線に思わず未来は後退る。

フィーネは緒川の拘束を外すと未来と向き合い、彼女の顎に手を当てる。

 

「麗しいな。お前たちを利用してきた者たちを守ろうというのか?」

 

「利用・・・?」

 

「何故二課本部がリディアンの地下にあるのか。聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前たち被験者から集めていたのだ。その点、風鳴翼という偶像は、生徒を集めるのによく役立ったよ」

 

意味が分からないという未来に対し、フィーネは語ると嘲笑って振り返ってから離れていく。

 

「---嘘を吐いても、本当のことを言えなくても、どれだけ悩んで背追い込もうとも、誰かの命を守るために自分の命を危険に晒している人たちが居ます! 私はその人たちを・・・そんな人たちを信じてる!」

 

フィーネの後ろ姿を見ていた未来から発せられた啖呵。

女性で、なんの力も持たない一般人である彼女がちっぽけな勇気振りかざして反論していた。

 

「---ッ!」

 

それが癪に障ったのか、フィーネは未来の頬に一発平手打ちをすると、すかさずその胸倉を掴んでもう一度引っ叩いた。

未来はそのまま崩れ落ちる。

 

「まるで興が冷める・・・!」

 

忌々し気に呟いたフィーネは、そのままデュランダルが保管されている場所へ向かう。

どこで手に入れたのか二課の通信機を取り出し、認証パネルにかざそうとした寸前でどこからか飛んできた弾丸によって通信機が破壊される。

 

「デュランダルの元にはいかせません・・・!」

 

振り返れば、そこには拳銃を構える緒川の姿があった。

 

「この命に代えてもです!」

 

銃を投げ捨てて格闘戦を挑もうとする緒川。

しかしフィーネはまるで冷めた目で緒川を見据え、ネフシュタンの鞭の刃を振るおうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---待ちな、()()

 

どこからとも無く聞こえてきた声。

すぐに突如として天井が粉砕され、瓦礫と共に何かが落ちてきた。その際に大量の土煙が発生し、そこから現れたのは---

 

 

 

 

 

「---私をまだ、その名で呼ぶか」

 

「女に手を挙げるのは気が引けるが、二人に手を出せば、お前をぶっ倒す!」

 

---特異災害対策機動部二課の司令、風鳴弦十郎だった。

かなりの硬い筈の鋼鉄の壁をぶち抜いてここまでやってきたのだろう。

 

「司令・・・」

 

人間業と思えない移動法に、緒川はともかく未来は茫然としていた。

むしろ一般人なら茫然としない方がおかしいのかもしれない。

 

「お前の正体や行動にはとっくに行き着いていた。あとは燻り出すため、あえてお前の策に乗り、シンフォギア装者を全員動かしてみせたのさ」

 

「陽動に陽動をぶつけたか。食えない男だ。だが、この私を止められるとでも---」

 

「応とも! 一汗掻いた後で、話を聞かせてもらおうか!」

 

なんの迷いもなく、戸惑いもなく答えて見せる弦十郎。

すかさず地面を蹴り、前に出る弦十郎。その進行を阻止すべく刃の鞭を振るうも弦十郎は速度を殺さずに避けることで当たらず、二撃目は跳躍し天井の出っ張りを掴むことで回避する。

そしてそのまま体を持ち上げて天井に足を付けたと思ったら一気に落下。

そしてそのまま拳を振り下ろしてくる弦十郎にフィーネはギリギリの所で避けるも僅かに掠ったのか鎧にひびが入った。

地面に至っては、砕けている。

 

「なに・・・!?」

 

思わず驚いて距離を取るフィーネ。

鎧はすぐさま修復するが、フィーネは未だ険しい顔で弦十郎を睨む。

 

「肉を削いでくれる!」

 

そしてすかさず刃の鞭を弦十郎に叩きつけようとするも、いとも容易く掴み取られて引っ張られる。

さらに鎧によって重量が増している筈のフィーネを軽々を引っ張り出し、そのままどてっぱらに渾身の一撃を叩き込んだ。

 

「が・・・ぐあ・・・。完全聖遺物を退ける・・・!? どういう事だ・・・!?」

 

弦十郎の背後に落下するフィーネは呻き声をあげる。

フィーネの言葉も最もで、シンフォギアも纏わず、変身もせず、ただの生身の人間でこれなのだ。

仮に変身でもしていれば、この時点でやられているかもしれない。

 

「しらいでか! 飯食って映画見て寝る! 男の鍛錬はソイツだけで充分よ!」

 

「なれど人の身である限りは・・・!」

 

立ち上がったフィーネはすぐさまソロモンの杖を取り出し、ノイズを召喚するために向ける。

 

「させるか!」

 

目的を理解した弦十郎はすかさず床を踏み砕き、飛び散った破片を蹴り飛ばすことでソロモンの杖を弾き飛ばされた。

弾き飛ばされたソロモンの杖は天井へと突き刺さる。

 

「ノイズさえ出てこないのなら---ッ!」

 

すぐさま飛び上がった弦十郎は、拳を握りしめた。

力強く握られた拳が振り下ろされようとする。このまま行けば、フィーネは間違いなく拳が直撃するだろう。

しかし---

 

 

 

 

 

「---弦十郎くん!」

 

「---ッ!?」

 

一瞬だけだが、フィーネの顔が了子のものとなる。それを見た瞬間、弦十郎の動きが完全に止まった。

そして動きが止まった弦十郎は当然隙だらけになってしまい、真っ直ぐ硬化した刃の鞭が、弦十郎の腹を貫いた。

 

「司令・・・!」

 

緒川が思わずと言った感じで声を漏らす中、腹を貫かれた弦十郎はそのまま血を吐いてはまき散らし、地面に倒れる。

 

「いやぁぁぁああぁああああ!!!」

 

未来の叫びが響き渡り、弦十郎の体を中心に血溜まりが広がった。

 

「抗うも、覆せないのが運命(さだめ)なのだ・・・!」

 

フィーネは傍に倒れる弦十郎のポケットから通信機を奪い取り、ソロモンの杖を鞭で回収する。

手に持ったソロモンの杖の鋭利な箇所を弦十郎へ向けるが、何もしない。

 

「殺しはしない。お前たちにそのような救済など施すものか」

 

そう言ってフィーネは振り向くと歩いていき、デュランダルが保管されているアビスへと続く道を開ける。

そしてそのまま、扉の向こうに消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令部にて装者たちと仮面ライダーの戦いを固唾を飲んで見守る職員たち。

その最中で扉が開いたかと思いきや、ぐったりとした状態で緒川と未来に運ばれる弦十郎がいた。

 

「司令!?」

 

「応急処置をお願いします!」

 

緒川の指示で、すぐに友里が応急処置を行う。

 

「本部内に侵入者です。狙いはデュランダル。敵の正体は---櫻井了子」

 

応急処置をして席を離れてる友里に代わり、緒川がその席に座って端末を操作しながら事のあらましを簡潔に述べる。

 

「な・・・!?」

 

「そんな・・・」

 

本部内に動揺が広がるが、その間も緒川はコンソールを操作して響たちに回線を繋げた。

 

「響さんたちに回線を繋げました」

 

「響? 学校が、リディアンがノイズに襲われてるの! あっ・・・」

 

緒川の言葉を聞いた未来がすぐに呼びかけるが、周囲の照明が落ちて通信が消えてしまう。

 

「なんだ!?」

 

「本部内からのハッキングです!」

 

「こちらかの操作を受け付けません!」

 

あっという間に二課の職員たちが扱う機器が使用不能となっていく。

 

「こんな事・・・了子さんしか・・・」

 

藤尭が信じたくなかったモノに気付かされたようにそう呟く中で、他の職員たちも確信したかのような表情となる。

 

「響・・・・」

 

未来はただ茫然と、その様子を見ている事しか出来なかった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

日が沈み、月が完全に昇った頃、響たちはリディアンに到着した。

 

「これは・・・」

 

リディアンの惨状を見て、全員が茫然とする。

それもそうだろう。学園の校舎は崩れ去り、グラウンドは荒れ、破壊された戦車が置き去りにされており、気配は一人もいない。

 

「未来ー! みんなー!」

 

響が呼びかけるも、返事は返って来ない。

響はただその場で膝を着くしか出来なかった。

 

「リディアンが・・・」

 

「あれは・・・了子さん!?」

 

翼が茫然と呟く中、奏が真っ先に見上げた先の校舎の端に一人の女性が立っているのに気付く。

 

「フィーネ!?」

 

「フィーネ・・・お前の仕業か!?」

 

高笑いする了子の姿に、二人だけが全く反応が違うことに気づくと翼が声を上げる。

 

「そうなのか・・・その笑いが答えなのか!? 櫻井女史!」

 

「あれはフィーネの仮の姿だ! 本当の姿を僕たちは知ってる・・・!」

 

迅の言葉と共に、了子が眼鏡を外し、髪を解くと青白い光に包まれる。

そこから現れたのは黄金の鎧、ネフシュタンを身に纏う金髪の女性だった。

了子---否、フィーネはその場に佇む。

 

「・・・嘘ですよね。そんなの嘘ですよね? だって了子さん、私を守ってくれました!」

 

信じられないというように尋ねる響。しかし、そんな響に対して返ってくる言葉は非情な言葉だった。

 

「あれは希少な完全状態の聖遺物であるデュランダルを守っただけのこと」

 

「嘘ですよ。了子さんがフィーネだって言うのなら、じゃあ、本当の了子さんは?」

 

「櫻井了子の肉体は、先だって食い尽くされた・・・いえ、意識は12年前に死んだと言っていい。超先史文明期の巫女『フィーネ』は、遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引く者がアウフヴァッヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力が再起動する仕組みを施していたのだ。そして十二年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、同時に実験に立ち会った櫻井了子の内に眠る意識を目覚めさせた。その目覚めし意識こそが、『フィーネ(わたし)』」

 

信じられず否定をし続ける響に、自ら正体を話すフィーネ。

それは、現代科学では不可能な技法だった。一番近いのはクローンか、投影か---どちらにせよ、科学では有り得ない全く別の技術。

 

「あんたが了子さんを塗り潰したわけか・・・!」

 

「まるで過去から蘇る亡霊・・・!」

 

「フフフ・・・フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される偉人、英雄。世界中に散らばた私たちはパラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた・・・」

 

顔を険しくする奏と翼だが、フィーネは笑みを絶やさない。余裕があるようにただ何も知らないこの場の者に説明するだけ。

 

「シンフォギアシステム・・・!」

 

「そのような玩具、為政者からコストを捻出するための福受品に過ぎぬ」

 

「アタシや迅を拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!?」

 

「そう! 全てはカ・ディンギルの為!」

 

はっきりと利用してきたことを何の悪びれもなく肯定したフィーネが、両腕を広げる。

その瞬間、突如として地面が大きく揺れて地面なら何かが突き破ってくる。それは、巨大な塔。

二課のエレベーターシャフトから見えていた壁画のような飾りが施されており、その巨大さは、まさしく名の意味の通り、天を仰ぐほど程。

 

「これこそが、地より屹立し天にも届く一撃を放つ・・・荷電粒子砲カ・ディンギル!」

 

聳え立つは、星もを穿つ巨大な塔---いや、巨大兵器と言った方がより正確だろう。

 

「これがカ・ディンギル!? これでバラバラになった世界が一つになるって言うのか!? こんなの、絶対におかしい・・・!」

 

「可笑しくはない。今宵の月で穿つことで一つになるということだ」

 

明らかに世界を一つにするものではない兵器のようなもの。

迅の言葉を否定し、月を穿つというスケールの大きいことを言ってのけるフィーネに装者たちが驚く。

 

「月を・・・!?」

 

「穿つと言ったのか・・・!?」

 

「なんでさ!?」

 

「何のために月を!?」

 

装者たちから疑問をぶつけられる中、フィーネの顔が今まで見たこともない見せたことも無い切実な顔に変わった。

 

「・・・私はただ、あの御方と並びたかった・・・。その為に、あの御方へと届く塔を、シリアルの野に建てようとした・・・。だがあのお方は、人の身が同じ高みに至る事を許しはしなかった。あの御方の怒りを買い、雷帝に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる・・・果てしなき罰、バラルの呪詛を掛けられてしまったのだ」

 

まるで恋焦がられる一人の少女のように、切実に語るフィーネ。

それこそが今を生きる人たちが知らぬ真実であり、カ・ディンギル---別名『バベルの塔』の真実なのかもしれない。

 

「月が何故古来より『不和』の象徴と伝えられてきたか・・・それは、月こそがバラルの呪詛の源だからだ! 人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破壊する事で解いてくれる! そして再び、世界を一つに束ねる・・・!」

 

そう月に向かって手を伸ばし、伸ばした手をフィーネは握り締める。

それと同時に、カ・ディンギルにも変化が訪れる。

突如として光出したかと思えば、やがて稼働するかのような音が鳴り響き、その砲塔の中ではエネルギーが充填されていく。

このままチャージされ、放たれてしまえば月は破壊されるのだろう。

そんな時だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、貴女を止めれば解決するということですか」

 

「分かりやすくて簡単じゃねぇか。はっきりと条件が分かった方がやりやすい」

 

二人の影が装者たちと迅に合流する。

 

「亡!? 無事だったか・・・!」

 

「亡さん! それにマスターも!」

 

迅と奏が呼びかけ、この場の全員が二人の無事に安堵の息を吐く。しかし奏と翼、響は亡の腰に巻きついているベルトに驚いた。

なぜなら、迅が持つベルトのフォースライザーと同じだったのだから。

そう、合流したのは装者や迅がリディアンに来るまでノイズと戦い、殲滅した後に此方に向かってきた石動惣一と亡。

話のあらましを聞いていたのか、状況を理解しているようだ。

 

「櫻井了子---いえ、フィーネ。貴女のやりたいことは分かりました。ですが、私たちは貴女の行動を認める訳には行きません。何より---貴女の同僚として止めます」

 

「ふん、永遠を生きる私が余人に歩みを止められる事などありえない」

 

「だったら言ってやろうかァ・・・。これはオレが知る偽りの英雄(本物のヒーロー)の言葉だが、どんな奴が相手でもヒーローってのは逃げるわけには行かないんでね。お前が月を穿つというのなら、その計画は仮面ライダーとシンフォギア装者が止めてやる」

 

彼の過去を知る者が居るなら、どの口が言うんだとしか思えない発言。

しかし惣一の言葉に呼応するように、響たちも覚悟を決めて響は胸元に触れ、奏や翼、クリスはペンダントを握りしめた。

迅と亡はそれぞれのプログライズキーとゼツメライズキーを装填し、右手側のレバーを引く。

 

『Are You Ready?』

 

この場の全員へと向けられたのは、覚悟はいいか? というこれから訪れる戦いへの問いかけ。

それに言葉ではなく、答えるようにそれぞれが力を使うための言葉で答える。

 

Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)---』

 

Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)---』

 

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)---』

 

Killiter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)---』

 

シンフォギア装者は聖詠を唱えることで、シンフォギアを。

そして---

 

「「「変身ッ!」」」

 

コブラ!コブラ!エボルコブラ!

 

『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

フライングファルコン!

 

ジャパニーズウルフ!

 

Break Down・・・

 

三人はそれぞれ全く別の仮面ライダーの姿へと変身シークエンスを完了させることで言葉の通りに変身した。

装者や仮面ライダーを含めると、総勢七人。状況的には、七対一になるのだが---

 

「フィーネ、僕は必ず止める・・・!」

 

「アークゼロ。奴は厄介なものを生み出してくれたものだ。だが、貴様ら仮面ライダーの相手は私ではない」

 

「貴女ではない・・・?」

 

その言葉に疑問を抱くが、フィーネが答える前に証明される。

 

「■■■■■■■■---ッ!!」

 

「チィ!?」

 

突如として迫ってきた、()()()()()

エボルを狙ったもので、彼の培われてきた勘が寸前で避けることに成功する。

 

「なんだ!?」

 

「あれは、ノイズ・・・!? しかしアレは以前装者の方々が戦った個体・・・?」

 

驚く迅と亡だが、亡は一度見た事があるからか記憶にある存在を呼び起こす。

 

「いや、あたしは以前とは別の個体だと思う・・・」

 

「私たちの動きを学んで、互角に渡り合った敵。あの時はアークゼロに始末されたノイズだが・・・しかし、何故?」

 

それは奏と翼によって否定されるが、彼女たちが持つ疑問も正しい。

あの時はアークゼロが自身の不始末という形で始末したが、今回ばかりは彼の姿は見当たらない。

何よりも、アレから何日、何ヶ月も経っているのだからもっと早く出すことも可能であるはずなのに今までこのような個体が出てくることはなかったのだから。

 

「私が何も対策をしていないとでも? もう一人、仮面ライダーが存在していたのは驚いたが、イレギュラーにはイレギュラーをぶつけるだけだ。アークゼロから何も言わずに勝手に持ち出したものだがな」

 

『■■■イ■ー■■末■る---』

 

「ノイズが、声を・・・?」

 

「もはやノイズではないナニカ、だろう。アークゼロ・・・アークノイズとでも言うべき存在かァ?」

 

完全に意識を持つ存在と化しているノイズ。何処か機械的な声を発していた。

本来、ノイズとは意志を持たぬ存在である。だからこそ、恐怖を感じることもないし平気で人類を襲う。

そんなノイズだがノイズではないナニカに、エボルがアークゼロが深く関わっていることからそう名付けた。

 

『■■■■■■---ッ!』

 

再び声にならない叫び声のようなものを発すると、上腕部からグレネードを装者たちと引き離すように仮面ライダーに()()放った。

散開するように離れるが、お陰で装者と引き離されてしまう。

 

「この姿---もしや、絶滅した鳥類の、()()()()ですか!?」

 

避けたのち、亡が正体に気づいたように声を上げる。

そう、ノイズ---否、このアークノイズは頭部がクチバシ内部から人間の骨格部分らしき箇所が露出しており、さながらノイズを髑髏にしたとしたらそんな感じなのだろう、と思わせるモノをくわえたドードー鳥のような恐ろしげな見た目に変貌している。

本来は普段と変わらないノイズのはずが、人間と同じような姿にまで変質しているのだ。

さらに『改』と書かれた胸部装甲に、背部マガジンとマシンガンが6門装備され、肩部には先程放ったグレネード弾や発煙弾を発射するための装置がある。

そのような装備のほか、頭部には対空砲2門と格闘戦用衝角があり、後頭部からは尖った複数のトサカ状のパーツ、側頭部からは長髪のような装飾が垂れている。

下半身のみが鳥の足を思わせる装甲に覆われており、両手には羽根を模した剣が二本装備されていた。

---そう、彼らは知る由もない。素体がノイズに変わっているだけでこれは別の世界で、『ある仮面ライダー』と『他のライダーたち』が共に戦い、何度も戦って苦戦し敗北したことのある相手。()()()()()()()()と呼ばれる存在。

それの、進化態だった---。

本来の存在から掛け離れた存在から、ドードーノイズ改とでも言うべきか---。

 

「響たちはフィーネを止めろ。コイツはオレたちを所望しているようだからな」

 

「そっちは任せた!」

 

「分かりました・・・!」

 

迅がドードーマギア---いやドードーノイズ改に突撃し、大きく離した。それを追ってエボルと亡が向かう。

 

「あたしらは了子さん---フィーネを止めるよ!」

 

「言われなくとも!」

 

「あぁ!」

 

奏がすぐさま戦況を理解すると、ドードーノイズ改は仮面ライダーたちに任せて自分たちは自分たちの相手をすることにした。

奏の言葉に頷いた装者は、動き始める。

クリスがクロスボウから四本矢を生み出して放ち、フィーネがそれをカ・ディンギルの近くから降りてくることで回避する。

着地したフィーネに響と奏、翼が同時に攻撃を仕掛けるが、フィーネは刃の鞭を操ることで弾き、弾かれた三人は地面に着地する。そこをフィーネがもう片方の鞭で攻撃するが、三人は後ろへ飛ぶことで避けた。

 

「うああぁぁぁぁぁぁ!」

 

MEGA DETH PARTY

 

放たれる数の暴力。小型のミサイルをクリスがバラ撒くが、フィーネは鞭を横に一閃するだけで全て破壊する。

爆発による黒煙でフィーネから見えない中、クリスが他の者へ視線を向けた。

その視線を受けて、意図を直接聞く事もなく全員が動き出す。

 

「はぁあああ!」

 

奏の槍が誰よりも早くフィーネに向かう。

フィーネはバックステップで避け、そこに響が握りしめた拳で殴りかかった。

フィーネは冷静に見極めると最小限に躱し、連続の蹴りも軽々避ける。

フィーネが反撃に出ようとした所で響が跳躍し、響の後ろから走ってきていた翼が刀を上段からの振り下ろしで斬りかかった。それをすぐにフィーネが硬化させた鞭で受け止める。

鍔迫り合いになるはずが、硬化が解かれた鞭が絡みつくように翼の刀に巻き付き、上空へ刀を弾いた。

武器を奪い取られ、無防備となった翼に振るわれる鞭。

しかし翼はバク転の要領で逆立ちし、横回転することで脚部のブレードを展開することで恐ろしいほどの超回転で足のブレードを連続で叩きつける。

それに対してフィーネは鞭を振り回して回転し、翼の高速回転に対抗する。

だが、これは一対一の戦いではない。響と奏による同時攻撃がフィーネに迫る。気づいたフィーネは腕で受け止め、跳ね除けて距離を離す。

 

「本命はこっちだッ!」

 

そう、三人の行動は時間稼ぎ。本命は別で、クリスの巨大ミサイルだ。

放たれるミサイル。即座に跳躍して躱すフィーネだったが、そのミサイルはどういう訳か、しつこく軌道を変えて追尾する。

 

「ロックオンアクティブッ!」

 

フィーネがミサイルに追い回されている間に、続けざまにもう一つのミサイルをカ・ディンギルに向ける。

 

「スナイプ! デストロイィィィ!」

 

意図に気付いたフィーネは舌打ちしながらすぐさま態勢を立て直す。

そしてクリスの必殺の一撃が放たれ、撃ち放たれたもう一つのミサイルが真っ直ぐカ・ディンギルに飛んでいく。

 

「させるかぁぁぁあああ!」

 

すかさずフィーネが刃の鞭を使ってミサイルを両断する。

両断されたミサイルはあっさりと爆発するも、いつの間にかフィーネを追っていたはずのミサイルは何処にもなかった。

 

「もう一発は・・・!?」

 

何処にも無かったために焦るように周囲を見渡していたフィーネが、ふと気づいたように空に視線を向ける。

そこにはミサイルに乗って、天へと突き進むクリスの姿があった。

 

「クリスちゃん!?」

 

「何のつもりだ!?」

 

「なんであんな所に!? まさか、カ・ディンギルを迎え撃つつもりか!?」

 

三人が突如として行ったクリスの行動に驚くが、奏が気づいたように声を張り上げる。

その予想は的中しているようで、クリスは自らの身を挺してカ・ディンギルの前に立ってその砲撃を迎え撃つつもりだ。

けれども、敵は月を穿つ程の威力を備えた荷電粒子砲。

 

「足掻いた所で所詮は玩具! カ・ディンギルを止める事など・・・!」

 

カ・ディンギルの射線上に月が重なったその時---

 

 

 

『---Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

聞こえてきた歌の名は---

 

「この歌・・・」

 

「まさか・・・!?」

 

「絶唱!?」

 

『Emustolronzen fine el baral zizzl---』

 

ミサイルから飛び降りて、月を背にカ・ディンギルの前に立つ。

 

「この歌・・・まさか、クリス!? ダメだ! 歌ったら---あっ!?」

 

ドードーノイズ改と戦っている迅にも聞こえたようで、反応するように空を見上げた。

そこに襲いかかるドードーノイズ改は、迅を岩の壁に叩きつけ、凄まじい音とともに人型の穴が空く。

 

「迅!」

 

助けるように亡が爪で攻撃を仕掛けるが、()()()()()()()()()ドードーノイズ改が避けて蹴り飛ばしていた。

そこで亡が蹴り飛ばされるのと代わるようにエボルは飛び蹴りを放つが、ドードーノイズ改は警戒するように後退する。

彼らが一切装者たちの助けに行けないのは、これが原因だ。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal---』

 

迅に亡、エボルが戦ってる中でもクリスは歌い続け、腰のプロテクターから無数のエネルギーリフレクターを展開し、取り出した二つのハンドガンから、それぞれ一発ずつのエネルギー弾を発射。

放たれたエネルギー弾は、リフレクターに反射されると同時に増幅され、それが無数に引き起こされて行き、ほぼ無限に力が増幅されていく。

そのエネルギー弾が反射する度に光は強さを増していき、やがてその形が蝶の羽を象っていく。

 

「退けぇぇぇえええ!」

 

聞こえてくる歌に穴から出てきた迅がドードーノイズ改に翼を広げながら突撃するが、半身を逸らすことで避けられ、両手に持つ二本の剣で斬り裂かれる。

連撃を受けた迅は地面に落下し、踏みつけられる。

必死に立ち上がろうとするが、相手の力が強いのか立ち上がれない。

 

『ライフルモード! フルボトル!』

 

『スチームアタック!』

 

エボルが即座にスチームブレードとトランスチームガンを合体させてフルボトルを装填。

魚雷型の弾丸の嵐が、反応したドードーノイズ改を襲う。

ドードーノイズ改は剣をクロスさせることで耐えるが、威力が威力なのもあって後退させられた。同時に解放された迅が翼を広げて空へ駆け昇る。

 

『Emustolronzen fine el zizzl---』

 

その最中で、クリスが歌い切ってしまった。

クリスは手に持ったハンドガンを前方のカ・ディンギルに向け、そして手にバスターキャノンを形成する。

カ・ディンギルのエネルギーの方も最大まで溜まり、クリスも溜める。

 

「間に合わない!? やめろぉぉぉおおおぉぉ!!」

 

迅の絶叫が迸り---同時にカ・ディンギルが発射される。

それに対して、絶唱を発動させたクリスが迎え撃つ。

渾身の砲撃は、カ・ディンギルのエネルギーと真正面から衝突した。

二つの強力なエネルギーが衝突し合い、その際の衝突によって起こった眩い光が周囲を照らす。クリスの元へ向かおうとしていた迅は凄まじい威力のぶつかり合いにその場に踏み留まるしか出来なかった。

 

それでもクリスの砲撃は確かに、カ・ディンギルを食い止めていた。

 

「一点収束・・・!? 押し留めているだと!?」

 

月を穿つ一撃を押し留める光景に、フィーネが信じられないというように叫ぶ。

だが、それは長く続くはずもない。

 

 

(ずっとアタシは、パパやママの事が、大好きだった)

 

バスターキャノンにヒビが入っていき、エネルギーもだんだんと尽きていってるのか、少しずつ消えていく。

 

(だから、二人の夢を引き継ぐんだ。パパとママの代わりに、歌で平和を掴んで見せる・・・)

 

それだけには留まらず、ギアでさえビビが入っていく。彼女の口元からは血が流れ、絶唱によるバックファイアが彼女の体を蝕んでいく。

 

(私の歌は、その為に---!)

 

僅かに。彼女のその思いにギアが答えるように、ほんの一瞬だけ押し留めることに成功するが、クリスは光に飲み込まれた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・あ」

 

それは、誰が漏らしたか。

カ・ディンギルの一撃を受けた月は---その一部を欠けさせるにとどまった。

 

「し損ねた・・・!? 僅かに逸らされたのか!?」

 

その事実にフィーネが、驚愕に目を見開く。

そして小さな光を巻き散らしながら、落ちてくる少女が一人。

 

「あ・・・ああ・・・」

 

「な・・・っ」

 

「・・・」

 

翼と奏はそう声を漏らす事しか出来ず、響はただ、言葉を失う。

 

「嘘、だろ・・・? クリス・・・クリスぅ------ッ!!」

 

悲痛な叫び声を上げる迅は、堕ちていくクリスを見て力が抜けていったのか徐々に高度が下がり、地面に両膝を着いた。

そして、クリスが---堕ちた。

森の中に、堕ちて---しまった。

 

「---ああああぁぁぁあああああぁぁぁああああっ!!」

 

さらに響の悲鳴が、辺りに響き渡る---。

 

 

 

 

 

 





〇命名、アークノイズ
個体名・ドードーノイズ改。
人型に変質してるからノイズに変えただけのただのマギア。
偶然の産物ではなく、オリジナルの存在な上に本来のスペック持ちアークゼロをある程度ラーニングしてるので前回とは比にならない強さを持つ(エボルのコブラフォームでは完全に押し切れない強さ)
学習能力は以前の個体を遥かに凌ぎ、既に最終進化体。
当然そのことから元ネタはみんな大好き暗殺ちゃん(ゼロワン本編第7話、第8話、第10話、第11話に掛けて活躍したドードーマギア)
チェケラではない。ついでにチェケラは悪くない!

〇アークさま
ついに何も見ずに避けたり生身で倒す手段を見つけたやべーやつ。
なお、とんでもないやつを創り出してくれた。これは人類の敵ですわ間違いない(適当)

〇フィーネ
一応強いんだけどね、こうでもしてドードーノイズ改を出さないとフィーネがリンチされる未来(みらい)しか見えなかった。

〇迅
まぁ、頑張ったよ・・・。手段はあったのに届かなかったのが一番辛いんだよなぁ。

〇雪音クリス
あのカ・ディンギル受け止めるシーンすき

□使用フルボトル
潜水艦、コブラエボルボトル、ライダーエボルボトル。


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第二十一話 ツヴァイウィング


はい、四日目です。マジで貯めてないのにこんな企画するとかバカなんじゃないか?
アンケ取ったらバカになるか、これからもやれ、になりそう。それはしぬ。
流石にハイペース過ぎるか? でもこのまま突っ切って一期終わらせますよ。任せてください、地獄の名に相応しい(作者が)地獄(の)パワーを見せてやります。






 

リディアンの地下。そこにある一室に、未来たちはいた。

あの後、フィーネによって二課の施設の機能を全て殺され、重傷を負った弦十郎を抱え移動。

そのままリディアンの電力施設のすぐ傍にある部屋にて、藤尭の情報処理能力によって、どうにか監視カメラなどの映像を見る事が出来ていた。

さらにそこには、未来や響の友人たちもいる。どうやら逃げ遅れてここに急いで避難したらしい。

当然、映像を見ることが出来たということはクリスが堕ちるところも、彼女たちが戦っているところも、全て見ていた。

 

(さよならを言えずに別れて、それっきりだったのよ。それなのに、どうして・・・・?)

 

映像で堕ちていってしまったクリスの生き様を見て、未来はただ言葉を失っていた。何処か、無力感に支配されるように力強く拳を握りながら。

 

(お前の夢・・・そこにあったのか? そうまでしてお前がまだ夢の途中というのなら、俺たちはどこまで無力なんだ・・・!?)

 

そして弦十郎は、ただただ悔しがる事しか出来なかった。自身の無力さに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「そんな・・・せっかく仲良くなれたのに・・・。こんなの・・・嫌だよ・・・嘘だよ・・・」

 

「クリス・・・!」

 

泣き崩れる響と、悔しそうに拳を握りしめ、行き場のない感情を発散するように地面を殴る迅。

 

「もっとたくさん話したかった・・・。ケンカすることも、今より仲良くなることも出来ないんだよ・・・! クリスちゃん、夢があるって・・・。でも私、クリスちゃんの夢聞けてないままだよ・・・」

 

目の前の現実が直視出来ない響はその場に手を着いて己の無力さに打ちひしがれる。

その姿に、奏と翼は何と声を掛けるべきか分からなかった。迅の方に至っては、亡が気にかけているものの、目の前の相手と戦うだけで精一杯なのか声を出すことすら敵わない。

 

「自分を殺して月の直撃を防いだか・・・ハッ、無駄なことを。見た夢も叶えられないとは、とんだグズだな」

 

しかしフィーネは冷徹な言葉を投げかけるに留まらず、彼女の行為を嘲笑った。

 

「笑ったのか・・・? お前は彼女の行動が無駄だとせせら笑うのか!?」

 

「アイツは大切なものを守るために命を燃やしながらも守り抜いた・・・! それがどれだけ凄いことなのかあたしには分かる・・・! それをあんたは否定するのか!?」

 

翼と奏は二年前のライブを思い出し、奏は自身が命を燃やしてでも守るつもりだったからかフィーネに誰よりも怒りを抱いていた。

 

「・・・それガ」

 

「「「---ッ!?」」」

 

突如として聞こえた、()()()()()()()()()

それはこの場の誰もの視線も集めた。フィーネの言葉に反応するように顔を上げていた迅、戦っているドードーノイズ改、亡、エボルですら、視線を声が聞こえた方向へ向けていた。

 

「夢ト命ヲ握リシメタ奴ガ言ウ事カァアァァアアアアァァアアア!?」

 

まるで獣のような咆哮が、その場に轟く。

そしてその変化を見たフィーネの口元が、歪んだ。

 

「アレは・・・デュランダルの時と同じか?」

 

『仮面ライダー・・・殺す・・・!』

 

「チッ、本当に苦労させられる約束だなァ!?」

 

響の元へ向かおうとしていたエボルを、ドードーノイズ改が防ぐ。

舌打ちを一つしたエボルがスチームブレードで斬り掛かるが、相手は両手に持つヴァルクサーベルと呼ばれる剣で互角に渡り合う。だが二刀流の相手に対して、一本の剣のみでエボルが押していた。

そして横から迫ってきた亡がドードーノイズ改の腰を掴んでエボルから引き離す。

 

「貴方は立花響を! あの状態の彼女は、フィーネを相手している装者たちでは厳しい!」

 

「・・・クソっ! 亡、僕も手伝う! あんたは彼女のことを止めてやってくれ!」

 

亡を邪魔だと言わんばかりにドードーノイズ改は叩きまくるが、亡は離さない。それを見ていた迅は悩むのをやめ、動きを止めるように相手の両腕を掴んでいた。

 

「いいのか? クリスとやらは大切な仲間なんだろう?」

 

「クリスはきっと無事だ! それにあんなことは望まない・・・!」

 

「そうかい・・・。こっちは守らなきゃ行けない約束ってのがあるんでねェ。そっちは素直に任せるとしよう・・・!」

 

エボルらしくない誰かを気遣う言葉のように聞こえるが、正確には戦えるのか、と聞いていた。言葉の裏に気づいているのか、迅が返すとエボルは思考しながら任せることにする。

 

(オレと互角に渡り合う相手。最初の頃は押されるだけの立場だったのに今はオレと互角くらいに戦えてやがる。アークとやらの力の影響か? どちらにせよ、響のやつをとっとと止めるとしよう。あの状態は前の世界でよく見たものと同じだからなァ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で起きた響の変化。翼と奏は驚くが、フィーネは口元を歪ませていた。

 

「おい立花・・・!?」

 

「一体何が・・・!?」

 

「融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ。制御出来ない力に、やがて意識が塗り固められていく・・・」

 

何も知らない様子の二人に、フィーネがどういった状況なのかをわざわざ教える。

 

「まさか、響で実験をしていたのか!?」

 

「フッ、見てみたいと思わんか? ガングニールの翻弄されて、人としての機能が損なわれていく様を・・・」

 

「そんなことで立花を!?」

 

「お前・・・! あたしらの可愛い後輩になんてことしやがる!」

 

怒りを我慢出来ないと言わんばかりに歯軋りし、強く槍を持った奏がフィーネに攻撃を仕掛けるが、フィーネは鞭で受け止める。

 

「そこへ居て良いのか?」

 

「立花!? 奏・・・!」

 

「ッ!?」

 

フィーネの言葉に奏は訝しげな視線を向けるが、翼の声に反応して振り向くと暴走している響が飛びかかって来ているのが見えた。

 

「ウウウウウゥウゥゥゥ!!」

 

「響の相手は任せてもらいますよってなァ・・・!」

 

唸り声を上げて両拳を奏ごとフィーネに叩きつけようとしていた響だが、そこにエボルが響を蹴り飛ばして奏から引き離す。

 

「マスター!?」

 

「こういう相手は慣れてるんでね。お前たちはカ・ディンギルの次の装填を防げ。アレは一発で終わるようなもんじゃあない---だろう?」

 

「ほう、気づいていたのか? その通りだ。如何にカ・ディンギルが最強最大の兵器だったとしても、ただの一発で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。必要である限り何発でも撃ち放てる。その為にエネルギー炉心に不滅の刃『デュランダル』を取り付けてある。それは尽きる事の無い無限の心臓なのだ・・・」

 

エボルの言葉に感心したような声を漏らすフィーネ。

クリスにデュランダルを奪わせようとした理由も、そのための布石だったのだろう。

 

「だが、お前を倒せば、カ・ディンギルを動かすものはいなくなる・・・!」

 

「だったら、あたしらがフィーネを倒せばいいって訳だ・・・!」

 

翼が刃を向けると、隣に降り立った奏が槍を向ける。

剣と槍。翼と奏---ツヴァイウィングの二人が、フィーネと戦うことになったのは何の因縁か、それとも運命だったのか---。

 

「やれるものならやってみるといい」

 

「翼、行くぞ!」

 

「ええ!」

 

奏が自身の片翼である翼に呼び掛け、フィーネとの戦いに挑む。

一方でエボルは暴走する響を引き連れ、奏や翼の邪魔をさせないように離れた場所で対峙していた。

 

「さぁて・・・こっちも始めるとするか!」

 

「グガァァアアァアアァァァァアアアアァァァアアアアァァアアアアアァアア!」

 

響が絶叫を挙げて、エボルへと襲いかかった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「どうしちゃったの響・・・!? 元に戻って!」

 

エボルに襲いかかる響の姿を見て、未来が声を挙げる。

映像の向こうにいる響には届かないが、その響はエボルに容易く吹き飛ばされた。しかしそれでも立ち上がり、ただ本能のままにエボルへと襲い掛かり、また吹き飛ばされる。

暴走している響を相手に、エボルは何処か考えながら余裕そうに相手をしていた。

 

「もう終わりだよ・・・私たち・・・。学園もメチャメチャになって、響もおかしくなって・・・」

 

そこで板場がそのような声を漏らす。

突如として非日常に放り込まれたのだから、弱気になるのも仕方がないといえよう。

画面の向こうではエボルに地面に叩きつけられてすぐに立ち上がる響の姿があり、エボルの一方的な戦いになっていた。

 

「終わりじゃない。響だって私たちを守るために---」

 

「あれが私たちを守る姿なの!?」

 

未来の反論の言葉を、真っ向から否定するように瞳に涙を貯めながら、怒鳴る。

それと同時に、画面では響がついにエボルを地面に押し倒して跨っていた。そこでエボルを何度も何度も殴るが、エボルは何もしようとせずに見つめるだけだ。

その様子を安藤も寺島も恐ろし気に見ていた。それでも、未来は言う。

 

「私は響を信じてる」

 

暴れ狂う響の姿から、目を逸らすことなく真っ直ぐに見つめて。

 

「・・・私だって響を信じたいよ・・・この状況はなんとかなるって信じたい・・・でも・・・でも・・・!」

 

それでも板場は、泣き崩れる。信じたくとも、目の前の光景がそうさせてくれない。何より絶望感を増しているのは他の映像も影響しているのかもしれない。

 

『殺す・・・全て始末する・・・!』

 

『ぐっ!?』

 

『僕たちの動きを読んでる!? 強い・・・!』

 

「亡くん、迅くん・・・!」

 

弦十郎たちの視線の先には、ノイズではない別の何か。エボルが名付けたのを借りるのであれば、アークノイズに苦戦する亡と迅の姿もある。

 

「板場さん・・・」

 

「もうやだよ・・・誰かなんとかしてよ・・・! 怖いよ・・・死にたくないよぉ・・・! 助けてよぉ・・・響ぃぃい・・・・!」

 

寺島が心配そうに名を呼ぶが、板場は目の前の現実に耐えらないというように頭を抱えて泣き喚き、蹲る。

 

『おい響ィ---お前の力は・・・このためのじゃないだろうッ!?』

 

エボルの怒鳴り声共に、手から放たれた赤いエネルギーのようなものが響を打ち上げ、響は地面に落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「オリャアアアア!」

 

奏がフィーネに槍を持って攻撃を仕掛け、鞭で防がれる。

しかし奏はそのまま身を屈めると、横薙ぎして鞭を弾いた。そこに翼が剣での連続攻撃を行うが、フィーネは後ろに下がることで避ける。

そこで奏は即座に槍を携えながら前に突き出すことで突っ込み、もう片方の鞭でフィーネが防ぐ。

 

「無意味なことを・・・」

 

「どうかな・・・!」

 

ずっと前の奏だったならば、確かに翼よりも適合係数が低くて全く敵わなかったかもしれない。

だが翼と同等レベルに引き上げられた奏は凄まじく、高速に振るわれる槍にフィーネの鞭が徐々に追いつかなくなっていた。

 

「なんだと!?」

 

「伊達に死にかけてないんだよ、あたしはな!!」

 

長年翼よりも低い適合係数で足を引っ張ることなく共に戦ってきた奏。そんな彼女が翼と同等の適合係数を持ったとすれば? LiNKERという負荷が大きい物もなく、時間制限も関係なくに戦えるのであれば? そんな彼女は当然、焦る必要もなく冷静に戦える。

さらにノイズ相手では取りきれない戦闘データが存在し、今ここで彼女の戦闘センスがより彼女の力を飛躍させる---!

 

「これでどうだぁぁぁああああ!!」

 

「ぐうっ・・・!?」

 

槍で鞭ごとフィーネを大きく退けさせ、隙だらけとなったフィーネに奏は槍から竜巻を発生させて放つ。

しかしフィーネは即座に反応してみせ、鞭で陣を作り出すことでバリアを貼る。

 

ASGARD

 

「言っただろう? 無駄だとな・・・!」

 

「いいや、届いたさ」

 

驚くことなく、まるで防がれることを予想していたと言わんばかりの奏。

その様子に違和感を持ち---フィーネは気づいた。

---もう一人は何処へ行った? と。

 

「まさか!?」

 

「遅いッ!」

 

気がついたフィーネが振り返るが、翼は既に剣を振るい終えていた。

そこから放たれるのは、何度もノイズを打ち倒してきた翼の技---

 

蒼ノ一閃

 

白縹色の斬撃がフィーネの鎧と顔を貫き、削る。

翼の技は見事直撃したようで背中を反らしていたフィーネだが---何事もなかったかのように元に戻り、傷や鎧は消え去っていた。

 

「人の在り方すら捨て去ったか・・・!」

 

「私と一つになったネフシュタンの再生能力だ。面白かろう?」

 

「あれだけじゃ倒せないって訳ね・・・」

 

ようやく有効打として与えれたと思っていたダメージがあっさり回復したことに、奏が顔を顰める。

そんな時、近くのカ・ディンギルが変化を起こした。

先程消えていたエネルギーが光として現れ、チャージを再開したのだ。

 

「なんだ!?」

 

「まさか、もうチャージが始まったのか・・・!?」

 

「その通り。さあどうする? 急がなければカ・ディンギルは再び発射されるぞ?」

 

挑発するフィーネだが、翼は覚悟を決めた防人の目をしていた。

その瞳を翼が奏に向けると、奏は驚愕するが少しの迷いと共に頷く。

そして同時刻では、赤いエネルギーが響を打ち上げていた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「お前の力は何のためにある?」

 

仮面ライダーエボルではなく、『エボルト』が有する力を使ってもなお立ち上がる響を見て、エボルは問う。

 

「その拳は、何のために今まで拳を振るってきた!」

 

響が雄叫びを挙げながら飛びかかり、拳を突き出す。

エボルはその拳をガッチリと掴むと、容赦なく横腹を蹴りつけた。

 

「ガァッ!?」

 

エボルが拳を離すと、響はダメージの大きさにか横腹を抑える。

 

「守りたいものがあったんじゃないのか!? 誰かを悲しませるためのものなのか? 破壊するための力だったのか!? お前の手は誰かと繋ぎ合うために、束ねて重ねる力だったはずだろう! それとも、お前が誰かを助けたいと願う想いは全部偽りだったのか!」

 

「ウガァァァァァァァ!!」

 

何処か怒りではなく悲しみを含む叫び声を出す響は真正面からエボルへと突っ込んでいく。

エボルは拳を握りしめ、響が突き出すのと同時にその拳を脳天に目掛けて---

 

 

 

 

「お前はまた、()()()()()()()()()()()()()()()()()のか!? 今のお前をアイツが---()()()が喜ぶとでも思っているのか!?」

 

「ガァ!?」

 

エボルが出した名前。

それを聞いた瞬間、突き出していたはずの響の拳がエボルの胸に()()で止まっていた。止まった拳を見たエボルは拳を開くと、何もせずに手を降ろす。

さらに響は瞳から涙を流し始め、突如として響を覆っていた黒が消えていく。

そして黒が完全に引くと、響は膝を折った状態で涙を溢れさせる。

その姿はシンフォギアではなく制服姿に戻っていた。

 

「あ・・・あぁ・・・。ご、ごめん・・・なさい・・・。こ、この力は、みんなを・・・アル、トくんを・・・っ。守りたいと・・・思って、たのに・・・! そ、惣一・・・おじさんを・・・傷つけて・・・!」

 

「おいおい・・・まだお前程度の拳じゃ、俺には届かないんだがなァ。俺を止めたかったから愛と平和を謳うバカ(桐生戦兎)俺の半身である筋肉バカ(万丈龍我)を連れて来て貰うぐらいは必要だぜ?」

 

年相応の、小さな子供のように怯えながら泣く姿にエボルは呆れたように両手を広げて首を横に振るうと、響の頭に手を乗せた。

 

「まァ。戻ってこれただけ、間違えずに済んで良かったって話だ。一度間違えて罪を背負えば、それは一生付き纏う」

 

どの口が言っているのやらと言わんばかりにエボルは自身の心の中で自嘲するが、表には出さなかった。

そして---

 

 

 

「響ぃぃぃぃいいぃぃいいいいい!!」

 

「立花ぁぁぁああぁぁあああああ!!」

 

翼と奏の叫び声が、エボルと響たちがいるところまで響き渡り、二人が反応するようにカ・ディンギルの方向を見た---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「---奏と居るとき、いつも安心する。一緒に歌う時は楽しくなったり、色んな感情が渦巻く。今だから話せるよ。あのライブの日、もう一緒に居るなんて出来なくなると思ったから、凄く怖かった・・・」

 

「違うだろ?」

 

「えっ?」

 

まるで最期だからこそ本音を話すような姿の翼に、奏は苦笑いを浮かべながら否定する。翼はそれを疑問で返した。

 

「あたしらは死なない。今日この戦いを終えて、また明日を生きる。あたしらの歌を届けるために。世界の舞台で歌って、世界中に笑顔を届けるためにさ」

 

「・・・そうだね。フィーネを倒して、カ・ディンギルを止める! この(つるぎ)を持ってしてッ!!」

 

睨むようにしてフィーネを見つめ、剣を向ける翼。奏も槍を構えることでいつでも戦えるようにしていた。

 

「どこまでも『(つるぎ)』といくか」

 

「折れて死んでも、明日に人として歌うために。風鳴翼が歌を歌うのは、戦場ばかりではないと知れ!」

 

フィーネの言葉に、そう言い放つ翼。

 

「人の世界が(つるぎ)を受け入れる事などありはしない!」

 

「いいや、受け入れられる! ただの『(つるぎ)』ではない『風鳴翼』という一人の人間---あたしの唯一無二の片翼(相棒)である限りッ! 少なくともあたしは、翼の全てを受け入れてるからね!」

 

蛇のように唸った刃の鞭が、翼に襲い掛かる。

即座に翼の前に出た奏がそれを弾くと、翼が飛び上がる。即座に脚部のブレードを展開。

地上にいる奏ではなく、身動きの取れない翼にフィーネがすかさず刃の鞭を叩きつけようとする。

しかしその刃の鞭による攻撃を、翼は脚部のブレードで迎撃。

弾いたところで剣を巨大化させて『蒼ノ一閃』による一閃を放つ。

その一撃をフィーネが刃の鞭の切っ先で迎撃し、相殺する。

空中の翼に気を取られていたフィーネは奏が向かってきていることに反応が遅れ、奏は叩きつけるようにフィーネを吹き飛ばした。

 

「ぐあぁぁああぁああ!?」

 

吹き飛ばされたフィーネはカ・ディンギルの外壁に激突し、落下する。

そこで奏が翼の名を叫んだ。

 

「翼ッ!」

 

「---去りなさい! 無想に猛る炎!」

 

地上へ一度着地していた翼は飛び上がりながら刀を空中へ投げ、凄まじく巨大な大剣へと変形させる。

さらにその柄頭を蹴りながらフィーネに向かって突撃していた。

 

天ノ逆鱗

 

天ノ逆鱗が、フィーネに向かって突き進む。

それに対してフィーネは舌打ちしながら顔を上げる。即座に鞭を操ることでASGARDを三重に展開し、そのASGARDに翼の天ノ逆鱗が叩きつけられた。

凄まじい衝撃が迸り、周囲一帯に暴風が吹き荒れる。

だが翼の天ノ逆鱗はASGARDを貫く事はない。それも翼は分かっていたのか、剣を一気に直立させる。

そのまま直立した巨大な剣は重力に従うようにカ・ディンギルに向かって倒れていき、巨大化した剣の上に乗る翼は二本の刀を携えて飛ぶ。

そしてその双剣から赤い炎を迸らせ、翼はカ・ディンギルに向かってさらに飛んだ。

 

炎鳥極翔斬

 

「初めから狙いはカ・ディンギルか!?」

 

フィーネは狙いに気づくと、翼を撃ち落とすために鞭を伸ばす。

そのままカ・ディンギルに向かって飛んでいく翼だが、追いかけてくる鞭から必死に逃げようとするも、鞭が翼を捉えて逃さない。

そして左右からクロスするように向かってくる鞭に、直撃してしまう。

当然、直撃してしまった翼は落ちていき---

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ・・・!? やはり、私一人では---ッ!」

 

「---弱気なこと言ってる場合じゃないだろ?」

 

翼は自身の体が落ちていく感覚に諦めかけて目を閉じると、耳元から翼を支えるような力と声が聞こえて翼は目を開く。

そこに居たのは---

 

「奏!?」

 

そう、奏だった。

彼女はフィーネの攻撃を阻止するには届かないと判断し、翼の天ノ逆鱗を利用して一気に跳躍することで翼がいる空中まで飛んでみせた。

 

「心配するなって。あたしが翼を支えるよ。たとえ一人では飛べなかったとしても、あたしと翼、両翼揃ったツヴァイウイングなら---」

 

「・・・うん。両翼揃ったツヴァイウィングなら!」

 

「「どんなものでも、超えてみせるッ!」」

 

もう翼が一度剣を抜いたかと思うと、炎を纏いながらカ・ディンギルにある足場を二人が踏み、同時に飛び上がって翼と奏は飛ぶ。

本来、翼が扱う炎鳥極翔斬は誰かに付与させる力などない。

しかし今この場には翼の炎と奏の竜巻が融合し、速度をより上げていた。

 

「させるかぁぁああ!」

 

なおも妨害しようと鞭が翼と奏の二人を捉えて襲い掛かってくる。このまま行けば、二人はさっきの翼の二の舞だろう。

しかし---

 

「響ぃぃぃぃいいぃぃいいいいい!!」

 

「立花ぁぁぁああぁぁあああああ!!」

 

自身の力を継ぐものを、そして自身の相棒であり、親友の力を受け継ぐ少女の名を、奏と翼は咆える。

すると竜巻と炎が凄まじく吹き荒れ、二人の体を蒼炎を纏う鳥のような姿に炎が形成する。

しかしそれだけでは無い。フィーネの鞭に寄る攻撃を、(蒼炎)支える(守る)ように(竜巻)が鞭を弾き、より速度を引き上げた二人はついに鞭の追尾を通過し、カ・ディンギルにその一撃を叩き込んでみせた。

---その現象は、まるで彼女たちだからこそ起きた現象。

融合した二つの力は、まるで彼女たちを・・・ツヴァイウィングを象徴するもののようだった---

 

 

「ああ・・・!?」

 

「翼さん・・・奏さん・・・!?」

 

「自ら破壊したってわけか・・・」

 

「お二人とも、まさかカ・ディンギルを破壊するために!? うっ・・・!」

 

フィーネが目を見開き、爆発を目撃した響とエボル、亡が反応するが余所見してしまったのもあって、亡が吹き飛ばされる。

追撃させないように迅が近接を挑むが、まるで当たらない。

 

『既にラーニングは済んでいる・・・!』

 

「くそっ!」

 

此方の攻撃は当たらず、相手の攻撃だけは当たる。それでも必死に攻撃していると、稀に当たる時もあった。

そんな戦闘をしている傍で、二人が突撃していったカ・ディンギルが爆発を起こした---

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の想いは・・・またも・・・!!」

 

もはや修復不可能なまでに破壊されたカ・ディンギルを見上げて、フィーネは呆然と呟く。

 

「そん、な・・・。翼・・・さん・・・奏・・・さん・・・」

 

響は、翼と奏が消えたカ・ディンギルを見上げながら膝を着く。

一人絶望するように。

 

『・・・聖遺物反応途絶。目標、仮面ライダーのみの撲滅に再設定』

 

今まで狙いすらしなかったドードーノイズ改は状況を知らせるように何かを呟き、再度亡と迅にターゲットを絞っていた。

まるで装者は後で消すつもりだったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「・・・天羽々斬・・・ガングニール・・・反応、途絶・・・」

 

場所は代わり、藤尭が絞り出すようにそう告げる。

その現実に、友里は思わず涙を流して目を逸らしてしまい、弦十郎は、拳から血が滲みそうな程に握りしめる。

 

「身命を賭して、カ・ディンギルを破壊したか・・・。奏、翼・・・お前の、お前たちの歌・・・世界に届いたぞ・・・。世界を守り切ったぞ・・・!!」

 

堪えるように弦十郎がズボンを力強く握り締める。

果たしてそれは悲しみか怒りか、それとも悔しさか、それは本人にしか分からないだろう。

 

「・・・分かんないよ」

 

そんな中で、板場が呟く。

 

「分かんないよ! どうして皆戦うの!? 痛い思いして、怖い思いして、死ぬために戦ってるの!?」

 

まるで理解出来ないと涙を流しながら喚き散らす。

 

「分からないの?」

 

そんな板場に、未来も涙を流しながら言う。

そのまま未来は板場に歩み寄り、その肩を掴んで引き寄せる。

そして真っ直ぐに板場を見据えて、もう一度言う。

 

「分からないの?」

 

アニメという非現実的なものを見ていて、それが大好きな彼女なら分かる筈なのだ。

ただ死ぬためにでは無く、誰かの為に戦っていることを。

やがて、板場の泣き声がその部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「---何処までも忌々しい!」

 

まるで怒りを発散するかのように、フィーネが地面に鞭を叩きつける。

 

「月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす。惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、狼狽え、そして聖遺物を振るう私の元に基準する筈であった・・・!! 痛みだけが、人の心を繋ぐ()! たった一つの真実なのに・・・!」

 

そう喚き散らすフィーネ。そんな彼女に対してこの場に何も言う者は居ない---

 

 

 

 

「そんなことして、何が面白いのやら。人の心ってやつを繋ぐのは、痛みなんてモノよりも繋ぐモノがあるだろうに」

 

なんてことはない。

エボルは一切闘志が消えることなく、一人真っ直ぐにフィーネに向かって歩みを進めていた。

だが彼から感じる空気は、怒りや悲しみなんかではなく、本当に()()()()()()()()()なのが異常だろう。

まるでくだらなすぎて何も面白くないと言わんばかりに。

 

「なんだと・・・? 私は数千年もかけて、バラルの呪詛を解き放つ為に、一人抗ってきたのだ・・・! かつて唯一創造主と語り合える統一言語を取り戻し、いつ日か胸の内の想いを届けるために・・・! それなのに、お前たちは・・・!! 恋心を知らぬお前には分からないだろう!?」

 

「あぁ。これでも長年感情を理解出来なかったんでねェ。だが、オレは誰よりも愛と平和を願う一人の戦士を知っている。お前の目的に比べれば、ソイツらの目的の方が立派だし数千年よりも価値はあるということだ」

 

「貴様・・・私を愚弄するかッ!?」

 

隠すことなく怒りの表情を顕にするフィーネに対し、エボルは余裕の態度で答える。

 

「来いよ。お前の相手はオレがしてやろう」

 

「良いだろう・・・お前は私が消し去ってやる!」

 

挑発するように指をクイッと曲げるエボルにフィーネが挑発に乗り、立ち向かう。

今この場で戦う者は、エボル対フィーネ。そして亡、迅対アークノイズだ。

 

 

 

「クリスちゃん・・・・翼さん・・・奏さん・・・」

 

だが一人だけ、絶望したまま膝を着いてる少女が居た---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇天羽奏
実はクソつよ。
融合係数が翼と同レベルまで上がったせいで、戦闘経験的にも対人戦闘なら、もしかしたら現状最強かもしれない。流石に融合症例の響よりかは融合係数が低いが。

〇風鳴翼
何気に精神状態が良いせいで、一期はただの有能だったのでは?

〇立花響
アルトくんの名を出したら(居なくなったことを思い出させたら)暴走止まるとかマジ? やっぱり深い傷じゃないか・・・。
百仮面ライダー合は罪深い。どの作品でも罪深いゾ。
でも別の意味で原作より精神が脆くなってるため、二度知り合いを失うとなると耐えられない。

〇エボルト
有能だけど、強過ぎて困る。ビルド見直したら改めて化け物だな、って思ったけど見直してから今回の話読んだらどの口が言ってんだよ、お前。
それになんでこいつは最後にラスボスみたいになってんだ・・・?


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第二十二話 シンフォギア

五日目です。毎日更新終了まで三日・・・! まぁ感想くださった方は返信されてなかった時点で分かると思うんですけど、実は昨日寝落ちしました()
それにしてもアレですね、マジで囚われずに自分の好きな小説書くのは楽しいですね。悪く言えば読者さまのことを一切考えてないとなるんですけど、囚われたせいで前作でやらかして凍結する羽目になったので今作はほんと自由に行きます。自分の好きを入れていきますよ〜。
俺はもう止まらない・・・!(トップギア)





---ある場所にて、崩壊したリディアンを見下ろしている影があった。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・?」

 

見下ろしている影は三つあり、エボルとフィーネ、亡と迅相手に戦うアークノイズとの戦闘を見ているようだ。

そのうちの一人は首を傾げるが、二人は反応しない。

黒いパーカーにフードを被っている男性は興味なさげに見つめており、もう一人のワンピースを着た可愛らしい少女が似つわしくない暗い顔をしているだけ、だろうか。

 

「・・・なに、この空気?」

 

長髪で赤いメッシュが入っている綺麗な女性が異様な空気感を漂わせる空間にため息を吐く。

彼女の名はアズ。迅や亡に変身アイテムを届けた人物で、もはや配送係みたいになっている女性だった。

 

「辛いか?」

 

「・・・あっ。い、いえ全然・・・」

 

ふと男性が顔を上げてワンピースを着る少女に目を向けると、少女は気づいたように首を横に振る。しかし表情が暗いままであった。

暗い表情をしているのが、セレナ・カデンツァヴナ・イヴという少女でシアと名乗って未来と響、翼や奏にクリスと話したことのある少女でもある。

そして---未来以外がシンフォギア装者だということを、この場に来て初めて知った。

 

「・・・そうか」

 

セレナに対して心配するような声を掛けながらも、戦いを興味無さそうに見ているのは、シンという男性。

黒いパーカーを着て、顔を隠していることから見た目だけでは怪しさしかないのだが、彼こそが圧倒的な力と情報力など様々な力を持つ故にノイズより危険視されている人類の敵---アークゼロに変身する者である。

ただし、装者たちや二課の仮面ライダーは誰も彼が変身するということを知らないが。

 

「アークさま。行かなくていいの?」

 

「始末するつもりだったが、問題ないだろう。これを乗り越えられないのであれば、あの二人は用済みだ。フィーネについてはオレは警告した。---ヤツが相手なら勝てないだろうが」

 

アズの言葉にそう返したシンは、興味無さそうにしていたはずなのに、エボルだけには鋭い目を向ける。

 

「・・・相変わらず、予測出来ないか。ヤツが別の目的のために戦わない限り予測が出来ないのか、それともゼアが干渉し続けているのか---どちらでもいいか」

 

理解出来ないという表情をするが、結局は興味を無さそうにしてアークノイズに視線を向ける。

 

「アレって・・・シンさんが実験として育ててたノイズですよね」

 

「人々を炭化させられると困るからその機能を抜いた時点でノイズと呼べるのか・・・不明だが。少なくとも、マギアのようになっている。ゼツメライズキーでなしで生み出せたのはスパイトネガ---つまり人間の悪意が成したものだ。ラーニングさせていたのはオレだが、今のオレだと倒すのに時間が必要だろう」

 

セレナに言われたシンは素直に答えていくが、視線の先では迅と亡は二人でなんとか食らいついているほどだ。

倒すのにはきっかけか、成長か、()()が必要だろう。

 

「元々は見つけたら倒すつもりだったからね〜。あのエボルって仮面ライダーと他のライダーと戦ってたら勝手にあそこまで成長するでしょ。あの個体は前のとは違ってラーニング速度が早いみたいだし・・・」

 

「心配しなくとも、もしもの時は倒す。問題は---フィーネと装者だ。装者には立ち上がって貰わなければ、困る。ここで立ち止まられたらキャロルの計画が台無しだ」

 

表情を繕う訳でもなく、素で困った表情をするシン。

 

「・・・やっぱり師匠については結構考えてますよね、シンさんって」

 

「アークさまは優しいからね」

 

答えになってない返答をするアズだが、当のシンは気にした様子は見せない。否定する訳でも肯定する訳でもないのは必要ないからか、諦めているのか、それは定かではないが。

 

「さて・・・この状況はどう切り抜ける? 地球外生命体、エボルト---そして亡と迅、シンフォギア装者たち」

 

()()()()()()()()()()()様子のシンはそう言い、腰には中心部に真っ赤な瞳のようなものがある黒いドライバーが現れる。

だが変身することはせず、ただただ見下ろすだけだった。その瞳に、期待という感情を込めながら---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「ハァッ!」

 

ドードーノイズ改と戦う迅は、空中からの勢いを乗せた踵落としを放つ。

それをドードーノイズ改は腕で受け止めるが、地面が陥落した。

そこを亡が高速で爪による連撃を食らわせるが、相手は怯むだけで大きなダメージにはなっていない。

 

「これは厄介ですね・・・」

 

「早く倒して、フィーネを何とかしないと・・・」

 

『無意味だ。お前たちだけでは超えられない』

 

「まだまだ、やってみないと分からないだろ!」

 

もはや喋ることに疑問を持たなくなっているが、ノイズはただの素材と化しているのかもしれない。

迅は言葉を返しながら相手の剣を避けつつ、通過することで背中の翼による攻撃を与えていく。

地上では亡が駆けることで相手を錯乱させつつ攻撃し、空中では迅が不規則に与える。何の作戦を言うことなくコンビネーションを成功させてはいるのだが、いい加減鬱陶しくなってきたのかドードーノイズ改は6門のマシンガンを亡に向かって放っていき、迅に対しては上腕部のグレネードを放つ。

 

「ぐああっ!?」

 

「うわっ!?」

 

出鱈目に放たれてしまえば、ガトリングともなると凄まじい連射速度なのもあって地上のみだと当然の如く受ける。特に周囲は平坦でガトリングを防げる障害物は中々ない。離れすぎると迅だけに対象が向くのもあって、離れることは出来ないのだ。

さらに空にいるはずの迅にはグレネードが追尾し、包囲した後に爆発を引き起こした。

迅と亡はドードーノイズ改の遠距離攻撃を受け、地面に倒れ伏す。

そこで限界を迎えたのか、二人を覆っていた鎧が消える。仮面ライダーの装甲を無くした彼らは一撃でも受けてしまえば死ぬだろう。

むしろ、エボルと互角近くに渡り合えるほどの強さを持つドードーノイズ改とここまで戦えているだけでも頑張った方なのかもしれない。

 

『抹殺---!』

 

「させると思うか?」

 

今にも剣を振り下ろそうとしていたドードーノイズ改に、エボルが高速移動で近づく。

反応したドードーノイズ改の剣を、エボルが軽々と避けると通り過ぎるのと同時に後ろ蹴りで吹き飛ばした。

その瞬間、凄まじい爆発が起こる。

その理由はクリスが過去に使ったことがあるNIRVANA GEDONを同じ完全聖遺物であるネフシュタンを纏うフィーネが出来ないはずがなく、それをエボルが高速移動で連れて来ながらドードーノイズ改にぶつけた、という簡単にいえばガードベントだった。

 

「すばしっこい奴だ・・・だが、貴様はもう一人になってしまったようだな?」

 

口元を歪ませ、有利に立ったような表情をするフィーネ。傍では少しのダメージを受けているドードーノイズ改がいるのだが、即座に立ち上がって見せた。

 

「あれでも倒せないか・・・。面倒なものを残してくれる」

 

そんな中でも、やれやれと余裕そうな仕草で呆れる以外は冷静に分析してみせるエボルはまさに歴戦の戦士とも言えるだろう。

 

『脅威レベル最大に変更』

 

「ん?」

 

突如としてドードーノイズ改の空気が変わる。

腕上部からグレネードを大量に準備し、マシンガンを向けて一斉発射する。

 

「乱射か! だがその程度---いや、考えたな?」

 

避けようとして背後を見ると、倒れたままの迅と亡。

仮に避けてしまえば二人が死ぬことからエボルは回避行動を辞め、両腕を振るうことで光弾を連射してグレネードを相殺する。さらにガトリングは巨大なエネルギー弾で弾ごと粉砕するが、横から地面を伝ってきた鞭に腕を絡め取られた。

 

「ぐおっ!?」

 

思わず片腕が塞がったのに反応すると、両腕を鞭によって塞がれたエボルは全身で受ける羽目になる。

大量のガトリングとグレネードにより爆発が起こり、近くなのもあって迅と亡は吹き飛ばされた。

 

「うっ・・・。何が・・・!?」

 

「爆発? 何故---」

 

爆発による衝撃で意識を取り戻したのか、二人は痛む肉体を抑えながら立ち上がると、黒煙で前が見えない。

暫くすると風によって黒煙が消え去り、地面に座っているエボルの姿があった。

普通は変身解除に追い込まれるはずの威力なはずだが、全く効いていないのかピンピンとしてる様子だ。

 

「あーイテテ・・・。守りながら戦うのは楽じゃないな」

 

まだまだ余裕と言った感じでのっそり起き上がったエボル。

 

「バケモノめ・・・」

 

「そりゃあないだろォ? 俺はこれでも立派な()()()喫茶店のマスターなのに・・・」

 

しくしくと泣く演技をする余裕まであるようで、既にネフシュタンとの融合で不死身に近い存在となっているフィーネにバケモノ扱いされる始末だった。

 

『■■■■■■■■!』

 

「ノリの悪いことで---フン」

 

声にならない叫びを挙げ、両手の剣を持って突っ込んでくるドードーノイズ改の腹に高速移動で近づいたエボルは手を当て、凄まじい赤色の衝撃波で吹き飛ばす。

即座にフィーネから鞭が放たれるが、スチームブレードで叩き落としてトランスチームガンで五発フィーネの胸に直撃させた。

だが再生されるお陰で決定打には決してならない。

 

「無意味だ! 貴様がどれだけ強くとも所詮はネフシュタンと一体化した私の相手ではない! 貴様らには分からないだろう・・・! バラルの呪詛がある限り、人と人は決して分かり合えぬことを! 月を破壊し、バラルの呪詛を解き放たない限り、人が繋がることはありえないのだ! だというのに、貴様らが私の計画を全て無駄に・・・!」

 

思い出すだけで腹立たしいと言わんばかりに睨むフィーネの姿に、聞いていた迅が立ち上がりながら反論する。

 

「違う! 僕とクリスが証拠じゃないか! フィーネは誰よりも近くで僕たちを見てきたはずだろ!? 最初は分かり合うことが出来なかった僕たちだったけど、僕とクリスは分かり合うことが出来た! それだけじゃない。二課の人たちとも分かり合うことが出来ているんだ・・・!!」

 

そう、迅やクリスの近くには利用していたとは言っても、誰より近くにいたのはフィーネという女性だ。

そんな彼女は見ていたはずのである。クリスと迅が少しずつ仲良くなっていくその様を---。

 

「バラルの呪詛というものがあったとしても、私たちのようにきっと分かり合えます。誰かと手を取り合うことで生まれるのが絆ではないのですか? 手を取り合うことが出来るなら、また貴女もやり直すことを出来るはず・・・!」

 

「言われちまったが、だってよォ?」

 

「黙れ! お前たちは何も知らない! ただあのお方と並び立ちたかった私の気持ちを、年月を、その苦しみを! 何も知らぬお前たちが『絆』を語るなァ!」

 

フィーネではなく、櫻井了子と共に技術者として働いていた亡。

そんな彼らの言葉を聞いてもなお、再び憤怒の形相を浮かべたフィーネが鞭を放つ。さらに戻ってきたドードーノイズ改が彼らに襲い掛かった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奏さん・・・翼さん・・・クリスちゃん・・・。学校も壊れて・・・誰もいない・・・。私は、私は何のために戦って・・・?」

 

項垂れる響の瞳に光はなく、ただあるのは再び誰かを失ったという強い絶望感。

掠れた声で目の前の現実を嫌でも理解し、胸中で広がるのは希望も何も無い絶望。

響はエボルたちが戦ってる姿すら見えず、自分が戦う意味も失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

画面の中でフィーネの攻撃を捌きつつ、ドードーノイズ改を対処するエボル。しかし亡と迅は変身することは叶わず、生身で挑んでいた。

 

「司令、周辺区画のシェルターにて、生存者発見しました」

 

変身しているエボルはともかく、生身で戦う無茶な姿に学生四人が呆然とするが、複数の足音ともに緒川が扉から入ってきた。

そこに居るのは、彼が報告した通りにいた他のシェルターの生存者たちだ。

安全のためにも連れてきたのだろう。

 

「そうか! よかった・・・」

 

「あっ・・・おかあさん! かっこいいおねえちゃんだ!」

 

そのことに弦十郎は心底安堵するが、ツインテールの少女が藤尭の前にあるモニターを見て声をあげると近づいていく。

 

「あ! ちょっと待ちなさい!」

 

母親らしき人が警告するが遅く、モニターの近くにツインテールの少女は既に立っていた。

 

「あ、もう一人のおねえちゃん!」

 

「私? ・・・あっ。あの時の女の子!? 良かった・・・ずっと無事だったんだね」

 

モニター近くに立った時に未来を見て気づいたのか、声をかける。一瞬だけ未来は思考するが、すぐに思い出した。

初めて響がシンフォギアを纏った時。

シンフォギアを纏うことになったのも、未来が二課の存在を知ったのも、全てはこの少女との出会いが始まりだ。もしこの少女が居なければ、響はいつか覚醒していただろう。

未来の知らぬ中で戦い、そしてすれ違いを起こしていた世界もあるかもしれない。

 

「すみません・・・」

 

「ヒナと知り合い? ということは、ビッキーのことを知っているんですか?」

 

安藤が母親に尋ねると、その母親はしばし考える素振りを見せ、やがて答えた。

 

「ええ。詳しくは言えませんが、うちの子が、あの人とその方に助けていただいたんです。自分の危険を顧みず、助けてくれて。きっと、他にもそういう人たちが・・・」

 

「響の・・・人助け・・・」

 

それは彼女が趣味としていることで、それが巡り回って今この状況を作り出したのだろう。

 

「ねぇ、おねえちゃん。あのかっこいいおねえちゃんは助けられないの?」

 

「助けようと思ってもどうしようもないんです・・・。私たちには何も出来ないですし・・・」

 

少女に返答に困ることを聞かれ、未来が何と答えるか迷っていると寺島が代わりに答える。

一方で、映像の向こうではエボルがフィーネの行動を妨害しつつもドードーノイズ改を抑えるが、フィーネは変身させる気がないのかギリギリのところで妨害していた。お陰で混戦状態から抜け出せずにいる。

 

「じゃあいっしょにおうえんしよう! ねえ、ここから話しかけられないの?」

 

「う、うん出来ないんだよ・・・」

 

純粋な子供だからこその言葉。しかし、その子供の純粋さは時に---

 

「あ・・・応援・・・? ここから響たちに私たちの声を、無事を知らせるにはどうすればいいんですか? 助けたいんです」

 

「助ける?」

 

「学校の施設がまだ生きていれば、リンクしてここから声を送ることが出来るかもしれません」

 

「っ・・・それなら!」

 

希望の光を灯す。

未来の言葉に弦十郎の代わりに答える藤尭。その言葉で、未来の瞳には希望が灯っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「何故だ・・・何故貴様らは諦めない!? どうして戦い続ける!?」

 

全然変身解除まで追い込めないエボルは、まだ分かるだろう。今もドードーノイズ改と打ち合っているのだから。

しかし迅と亡の二人は変身することが叶わないまま、生身でフィーネに挑み続けていたのだ。絶対に敵わないと分かっているのに。

その姿はフィーネに理解することが出来なかった。

 

「僕は・・・まだ諦めるわけにはいかないんだ。僕が折れたら、クリスが帰る場所が無くなる! それに僕はまだ探さなくちゃ行けない人が二人もいるんだ! こんなところで諦めて、死ねない・・・!」

 

「ええ。私たちが揃ういつかの日まで---そしてまたみんなと笑い合える明日を過ごすという、小さな夢のためにも・・・!」

 

「そんなちっぽけな夢のために、私に抗い続けるというのか・・・? 既に散っていった者の為に、貴様らは戦い続けるのか!?」

 

「分からないのだったら、教えてやろうかァ?」

 

先程と打って変わってエボルの実力(ハザードレベル)が上がったのか、ドードーノイズ改を蹴り飛ばし、連続で斬りつけた後にフィーネの傍に雑に投げつける。

エボルはゆっくりと歩み寄りながら、迅と亡を指差した。

 

「仮面ライダーというのは、何かのために戦ってきたヤツらだ。バカだとは思うが、全員が間抜けというわけじゃあない。以前存在していた仮面ライダーも(おんな)じだ。守りたい誰かのために戦い、ボロボロになりながらも前に進む---この二人だって何かのために戦う。仮面ライダーに理由なんて必要ないんだよ。見返りを求めずに戦うヒーローもいるんだからな」

 

自身に一番関わりのある存在を思い浮かべたエボルは、僅かな懐かしさを覚えながらもフィーネに言ってのける。

そう、どれだけくだらない理由でも、思いでも仮面ライダーは戦う。例えば()のように市民に批判されようが、暴言を吐かれようが、罵倒されようが、感謝されることなく悪意をぶつけられてもなお、()()()()()()()()()()()()()()守ろうと戦う者だって---。

 

 

 

 

 

 

 

---はっきりと言い切ったエボルのその姿は、果たしてどう映ったのか。

 

彼らの耳に、突如として何かが聞こえた。迅は知らないだろうが、亡は仕事の関係上知っており、エボルですら聞いたことがある。

ならば、それを一番近くで聞いていたものならば---?

 

 

---仰ぎ見よ太陽を よろずの愛を学べ

 

 

 

「コイツは---」

 

「リディアンの校歌、ですね・・・」

 

「校歌?」

 

「なんだ・・・この耳障りな・・・何が聞こえている・・・!?」

 

聞こえてきた歌はリディアンという学院で、何度も、何年も歌われてきて、培われてきた校歌である。

フィーネはそれが何なのか、分からなかった。

 

---朝な夕なに声高く 調べと共に強く生きよ

 

その歌声は、確かに響にも届いていた。

絶望しかなかった胸中が、少しずつ晴れていく。

その声の中には大切な幼馴染で、同級生である未来や、友達の板場、安藤、寺島の声さえもあるのだから。

 

「なんだ・・・これは・・・」

 

フィーネは、その意図が何なのか理解出来ていなかった。

 

---遥かな未来の果て 例え涙をしても

 

この歌は彼女たちを助けるためにも未来たちが必死に行動し、決死の想いで繋げた強い意志。

なによりも、未来から彼女らに対する、一つの思いが込められていた。

 

(響、私たちは無事だよ。みんなが帰ってくるのを待っている。だから、負けないで)

 

そんな短く、小さな応援メッセージが。

 

---誉れ胸を張る乙女よ 信ず夢を唄にして

 

「どこから聞こえてくる・・・この、不快な歌・・・!?」

 

そこで、ようやくフィーネが正体に気づく。

今まで聞こえてきたもの。それが歌ということに。

 

「・・・聞こえる。みんなの声が・・・」

 

夜が明け、夜明けの日差しが降り注ぎ、響の心に共鳴するように周囲を光が照らす。

 

「---良かった。私を支えてくれる皆は、いつだって側に・・・!」

 

絶望しかなく、戦う意味すら無くしていた響の手に力が入り---

 

「皆が歌っているんだ・・・だから・・・!」

 

響の瞳に、ついに()()という輝きが戻った。

さらに響は自分の中にある胸の歌を、解き放つ。

 

「まだ歌える---頑張れる---戦えるッ!」

 

突如として放たれた光を纏い、響は立ち上がる。

 

「まだ戦えるだと!?」

 

折れていたはずの響。そんな彼女が戦えると言ってのけたことにフィーネが驚愕する。

さらに---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだァ!?」

 

突然光り始めたエボルの肉体。

過去の現象にも一致せず、一度だけ()()()()()で戦った際と同じ光がエボルを包んでいた。

流石の彼も混乱する中、()()()()()()()がエボル---いや、エボルトの全身を輝かせる。

その光はエボルトの腰、すなわちフルボトルホルダーへ集まりだして二つのフルボトルを形成した。そのうちの一つ、蒼いフルボトルが打ち上がり、エボルトの手に渡る。

それは、過去にエボルトが自身の半身である万丈龍我の肉体を乗っ取ることで、遺伝子から創造した一つのフルボトル。後に奪われたことで彼の変身能力を復活させることになったが、そこで失われてしまったはずの力だった。

その名は----『ドラゴンエボルボトル』。

蛇は、龍を喰らう---。

 

「ハハハ・・・! 万丈ォ! 俺に力を貸してくれるってか? これが人間の力、人間の想いかァ! いや、()()()の言葉を借りるならば---()()だなァ!」

 

普段の彼からは考えにくい、高揚したような、納得したような、理解したような言葉。

それはそうだろう。彼にとっては奇跡を何度も起こし、自身を打ち倒すまで至った力の源を感じることが出来た。それが、人が起こす想い。奇跡なのだと。

 

「馬鹿な・・・! 何を支えに立ち上がる!? 何を握って力へと変える!? 鳴り渡る不快な歌の仕業か・・・?」

 

フィーネにとって、予想外なことばかりで情報量がとても多く、頭の整理が追いついてなかった。

それでも一つだけ言えることがあるとするならば---人の想いが、奇跡を起こした。いや、創ったのだろう。

 

「そうだ・・・お前が纏っているものはなんだ・・・? ・・・何を纏っている? 何を握っている!? それは私が作ったものか!? それは私の知っているものなのか!? お前が纏うそれは一体なんだッ!? お前たちが付けているものはなんなのだ!?」

 

『未知のエネルギーを探知。不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明---エラー。情報にありません』

 

その問いかけに答えるように、響が顔を上げた。

次の瞬間、四つの光が柱のように立ち昇り、天を突いた。

 

一つは、蒼。蒼天色の、風鳴翼の放つ光。

 

一つは、紅。紅蓮色の、雪音クリスが放つ光。

 

二つは、黄。黄金色の、立花響と天羽奏が放つ光。

 

それだけではなく---

 

 

 

 

 

 

「クリス・・・無事だったんだ・・・!」

 

「ならば私たちも---」

 

「あぁ、行こう!」

 

迅と亡は何度も変身妨害されていたが、フィーネが驚いている隙にフライングファルコンプログライズキーと、ニホンオオカミゼツメライズキーを起動させる。

 

ウイング!

 

ジャパニーズウルフ!

 

亡は自身の『亡』という字を書くように左から右に動かして右手に落とし、そのまま起動させたゼツメライズキーを展開することなく、ベルトの右側の枠に装填した。

迅も勢いよくベルトの右側の枠にプログライズキーを展開することなく装填する。

二人のベルトから警告音のようなものが、ズレつつも流れ出した。

 

「さぁ・・・実験を始めるとしよう」

 

一方でエボルはフルボトルを抜き取ると、その名の通り、蒼いエボルボトルに白いドラゴンが描かれている『ドラゴンエボルボトル』と刻印がライダーズクレストで黒色の『ライダーエボルボトル』二本を惑星のマークがあるキャップを横から正面に固定する。

そしてエボルドライバーの『EVボトルスロット』にドラゴンエボルボトルを右、ライダーエボルボトルを左に挿し込んだ。

 

ドラゴン!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

エボルはハンドルを操作し、ベルトからベートーベンの交響曲第9番という独特な音楽に似たものが流れ、ハンドル操作をする度にエボルボトルの下部のパーツが上下に動く。まるで咀嚼するかのように。

ある程度操作したエボルは、胸元にクロスするように両手を持っていって重ね、指を広げる。

 

そして迅と亡は変身に必要不可欠である右手側のレバーを引くと、プログライズキーとゼツメライズキーが強引に開かれることで展開される。

 

『Are You Ready?』

 

フォースライズ!

 

「変身」

 

「「変身!」」

 

「シンフォギアァァァァアアァァアアアアァァア!!」

 

声が重なり、響、翼、奏、クリス、迅、亡、エボルの全員が変身する。

 

ドラゴン!ドラゴン!エボルドラゴン!

 

『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

フライングファルコン!

 

ジャパニーズウルフ!

 

Break Down・・・

 

エボルは胸元からゆったりと両手を広げ、そのときには今までとは違う、新しく形成されたドラゴンのハーフボディが前後から重なり、一瞬だけ暗闇に姿を消すと蒼炎が周囲に散る。

そこから現れたのは、ドラゴン。

頭部と肩部がアーマーが蒼いドラゴンに変わり、胸部パーツの一部が消えた以外はコブラフォームと同じ姿だ。

 

「フェーズ2、完了・・・」

 

迅の方には、ベルトに展開されたプログライズキーが露出した接続ポートに強制接続されると色のないハヤブサのライダモデルが現れ、迅を包み込んだ。

その状態でハヤブサのライダモデルが砕けたかと思うと、迅にはマゼンタ色のスーツが着用される。

さらにライダモデルが装甲として縛り付けられた。

 

亡の方も同じく、ベルトに展開されたゼツメライズキーが露出した接続ポートに強制接続されると、亡の体を吹雪のようなエフェクトが包み込み次第に晴れると変身を完了させていた。

 

同時に、七つの光が飛翔する。

白き純白の装束と翼を羽撃かせ、響、翼、奏、クリスは飛ぶ。

迅はいつも通り背中の翼を広げ、亡は空を飛ぶのではなく、どちらかというと跳んでいる。彼女を包む謎の吹雪のようなオーラがそれを為しているのであろう。

因みにエボルは普通に飛んでいた。

 

そして姿を変えたエボルと何故か空を跳べるようになった亡の変化だけではなく、四人のシンフォギア装者も変化を成している。彼女たちが成したのは、ありったけの歌の力『フォニックゲイン』によってシンフォギアに施された三〇一六五五七二二のリミッターを全てアンロックすることで成し得る。最終決戦形態。

 

その名も ---XD(エクスドライブ)

 

一人は力を取り戻し、二人は装者たちに呼応されるような少しの変化を。装者たちは奇跡を引き起こし、最終決戦形態へと変化することが出来た---。

 

 

 

 

 





○セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
初めてここで出会った人たちが装者ということを知る。
辛すぎん?

〇エボルト
蛇は、龍を喰らう---。
失われた力を取り戻し、成長してしまった。
だが、彼が元の世界で感じることがなかった奇跡は、『アルトを見守るために約束を果たす』という目的がある故に力を貸したのかもしれない。
思わずテンションが上がるのは仕方がないね。
まぁさらっと実力(ハザードレベル)が上がったり、普通に空を飛んでいたり主人公見たいに強化されたけど、主人公なんかではなく一応準レギュラーです。

〇仮面ライダー迅、亡
実力的に変身解除されるのは仕方がないね。
迅は空飛べるから良かったけど、亡が飛べないことに気づいた私は困ったらスーパーサ〇ヤ人みたいなオーラ纏わせとけば良いだろ、という思考なのでそれで跳べるようにしました。一応スペックは上がってるんで。

跳ぶ元ネタは、本作でよく参考にされている某作品のシリーズに出てくる美遊です。

〇装者
原作通りエクスドライブ。
なので特に説明無し。



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第二十三話 流レ星、堕チテ燃エテ尽キテ、そして---

六日目です。そして、一期終了となります。頑張ったよ!
うーん、でも申し訳ないことに最後は歌のシーン消すしかないから最後は展開早いです。仕方がないな。歌詞は権利的なやつで改変しちゃダメだからどうしようも出来んかった・・・。すまぬ。
ただ一つ言うなら、今回も賛否両論だと思いますが、私の小説はこんな風に自由に行くスタイルなので・・・怒らないで、見捨てないで()




「---みんなの歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる。クリスちゃんや翼さん、奏さんにもう一度立ち上がる力をくれる。私たちだけじゃない。この場の全員に力をくれた。歌は戦う力だけじゃない---命なんだ」

 

「高レベルのフォニックゲイン・・・。こいつは二年前の意趣返し・・・?」

 

《---んなことはどうでもいいんだよ!》

 

突如として頭に響くクリスの声。それは装者だけじゃなく、仮面ライダーにまで影響を与えていた。

 

「おっ? オレにもちゃんと聞こえるんだな」

 

「念話までも・・・限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か!?」

 

元の力を取り戻しただけなんだが、と小声で呟くエボルを他所に、フィーネが取り出したソロモンの杖でノイズを大量に召喚する。

 

《またノイズか! しつこいことで・・・!》

 

《世界に尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか!?》

 

《ノイズとは、バラルの呪詛よりにて相互理解を失った人類が同じ人類のみを殺戮するために作り上げた自立兵器・・・》

 

飽きもせず同じ手段を扱うフィーネに奏は呆れつつ、翼の念話による問いかけに、フィーネは念話で返して答える。

 

《人が、人を殺すために・・・》

 

《バビロニアの宝物庫は、扉が開け放たれたままでな、そこからまろびいずる十年一度の偶然を、私は必然へと変え、純粋に力と使役しているだけの事》

 

《なるほど、ノイズの発生源は開かれたままだと・・・》

 

《つまり、ソロモンの杖を使うことでノイズの入り口を開閉可能にしてるってこと?》

 

《そうなるんじゃねぇのか? 流石のオレでも専門外だが、話を聞く限りでは全ての操作はソロモンの杖にあるようだからな》

 

仮面ライダーの三人組がフィーネの言葉をよりわかりやすい現代風にまとめる。

そこで先程召喚された大量のノイズが装者と仮面ライダーに襲い掛かった。

それぞれ避けるために一度散開することでそれを回避することに成功するが、その間に隙が出来る。

 

「応じろ---ォ!」

 

その瞬間、フィーネが真上にソロモンの杖を掲げた。

するとソロモンの杖から発せられた光が天へと昇り、弾けたかと思えば、一気に拡散する。

拡散した光は様々なところへ着弾し、そこにはおぞましい数のノイズが街などに出現し出す。

小型ノイズや大型ノイズが空や街全体を埋め尽くすほど大量のノイズが、この街に跋扈していた。

それは、もはや一種の災害ともいえる光景だろう。

 

「あっちこっちから・・・!」

 

「ひゃー、凄い量だ。一生分のノイズなんじゃないか?」

 

「それだとむしろいいのだけど・・・」

 

「よっしゃ! まとめてぶっ飛ばしてやる!」

 

「僕も手伝うかな」

 

先に向かおうとするクリスに迅は追っていく。その姿を見て翼と奏は笑みを浮かべると、後ろから追うことにした。

 

「私も向かいます」

 

「そうだなァ・・・お前たちはノイズの相手をしてくれ。まだ残っているアークノイズはオレがやることにしよう」

 

「分かりました。そちらは任せましたよ」

 

流石に街のノイズを放っておくことは出来ず、ならば一人で対処出来る自分がアークノイズに対抗するべきだと冷静に戦況を見極めたエボルの手により、誰がノイズの殲滅に躍り出るのかが決まった。

エボル以外の、全員だ。

 

「あの、惣一おじさん・・・私・・・」

 

「ん?」

 

亡も向かい、エボルは地上に向かおうとすると響が呼び止める。

それに反応して止まったエボルは響が言わんとしていたことを理解した。

 

「気にしてなくていい。ああいうのは慣れているし、まだマシな方だ。それよりも今やるべきことはそうじゃねぇだろォ?」

 

怒りのままに暴れ狂う響。まるで()()のように目の前のものを破壊するまで止まらず、的確に急所のみを効率よく狙ってくる相手。

どちらがやばいかというと、後者だ。

だからこそ響の攻撃に大してダメージを受けてなかったエボルは気にした様子がない。

 

「・・・はい!」

 

今やるべきこと。それに力強く頷いた響は、クリスたちを追う。

それを見送ったエボルは地上へと降り立とうとして、ドードーノイズ改が何故か飛んでいた。

本来、忠実通りのドードーなら飛べないはずだが、よくよく見てみれば背中には飛行型ノイズが融合したかのようにくっついている。

 

「なるほどなァ・・・そういうことも出来るのか」

 

『まっさ---ッ!?』

 

だが如何せん、相手が悪すぎた。

エボルドラゴンとなったエボルの強ささは先ほどよりも上昇しており、ドードーノイズ改の腹に拳が入った瞬間には、街のボロボロになっている家にまで物凄い速度で吹き飛ばされる。

やったことは簡単。拳による連打を放ち、最後に力強く殴ることで吹き飛ばしたのだ。

ドードーノイズ改の不運は相手が悪かったこと、何よりも格闘特化の形態になっていることだろう。

 

「お前の相手をするのをいい加減煩わしくなってきた。これで終幕と行こうか!」

 

崩れ去った家の近くに降り立ったエボルに、出てきたドードーノイズ改がガトリングを放ちながら接近する。それを全て歩きながら躱し、剣を振るわれるとエボルは壊しながら胸を殴り飛ばす。

さらに顔を掴み、地面に叩きつけては踏みつけて蹴り飛ばした。

今までのダメージも含めて効いてきたのか、立ち上がるのも遅くなっていたドードーノイズ改がグレネードを放つ。

その攻撃は、トランスチームガンによって目の前で爆発させられてさらに吹き飛んだ。

他にも近くのノイズに放たれた金属球がドードーノイズ改のクローンとして変質するが、エボルに向かった瞬間には消し飛ばされる。

倒れ伏した際に頭部の対空砲2門をエボルへと放ったとしても、軽々と相殺される。

そう、ドードーノイズ改が持ちうるありとあらゆる全ての武装を持ってしても、敵わない。

その様子は---圧倒的な蹂躙。

 

『Ready Go!』

 

レバーを回し、エボルが歩み寄ってくる。

既にドードーノイズ改の足は機能を停止し、武装は全て破壊されていた。

 

『馬鹿な・・・ラーニングが追いつかない・・・?』

 

「まァ。兵器としてなら中々使える存在だったよォ」

 

エボルテックフィニッシュ!

 

右腕に青い炎を収束させたエボルは、目の前のドードーノイズ改に容赦なくパンチを放つ。

その拳はドードーノイズ改をあっさりと貫き、断末魔を挙げる暇もなく爆発を起こした。

エボルとある程度戦えただけでも、奮闘したとも言える。

しかしそれはアークゼロの実力を超えるには至っていなかった。ドードーノイズ改を実験としてラーニングしたのはアークゼロであり、そのアークゼロですら勝つまで至っていないエボルには、残念なことに元々勝てる要素が何一つ、なかったのである---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

エボルが戦ってる中、装者と迅、亡も戦っていた。

装者の歌が響き、ノイズが蠢く地上を駆ける亡が止まると、時間差で一気にノイズが炭化する。

やったことは簡単で、ノイズに対して外すことなく正確な爪裁きにより、認識されるより早く駆けた。

その結果が時間差による炭化したノイズに起きた現象である。

 

そしてその上空にいるノイズを、高速で空を動き回る迅が回転しながら羽による攻撃で消し去っていた。

地上にいる亡が空から襲われなかった理由は、念話さえも必要なく分担して見せた二人の連携によるだろう。

 

一方で、エクスドライブによって飛行が可能となった響のパイルバンカーナックルによる一撃が巨大ノイズを貫通し、直線状にいた巨大ノイズが纏めて消し飛ぶ。

 

《やっさいもっさい!》

 

 

MEGA DETH PARTY

 

さらにクリスはまるで飛行ユニットのようなアームドギアを展開し、そのアームドギアから追尾性のあるレーザーを乱射し、一切外すことも無く上空のノイズを一網打尽にしていった。

 

《すごい! 乱れ撃ち!》

 

《全部狙い撃ってんだよ!》

 

《だったら私が乱れ撃ちだあああぁぁああぁぁああ!!》

 

腕のギアのバンカーを拳を叩きつけることによってアームドギアのエネルギーを前方に拡散、地上にいるノイズに散弾銃の如く叩きつける。

だが忘れてはならない。その場には---

 

《オレもいるんだがなァ・・・》

 

《・・・私もです》

 

《あ、ああーっ!? ご、ごめんなさいっ!》

 

ちょうど戦いが終えたエボルの元に、アームドギアのエネルギーが降ってきたのである。

それをさらっと避けたエボルは流石だった。

亡の方はといえば、周囲が凸凹と化した場所にいる。冷静に安全な場所を探し当て、そこへ待機したらノイズごと地面が抉れたのだろう。一歩間違えたら当たっていたことになる。

 

そんな中で、上空へ飛び上がった翼はその大剣を掲げて、二体の飛行機型の大型ノイズに向かって蒼い斬光を放つ。

 

蒼ノ一閃

 

斬撃がノイズを貫き、地上のノイズごと炭化させる。

そして翼が炭化させた飛行機型の大型ノイズが居た場所を通過し、奏が槍を凄まじい速度で回転させながら突撃した。

風が纏われ、奏が通った箇所に居た小型ノイズが一気に殲滅させられる。

 

その調子で装者と仮面ライダーはたちまち炭化させていく。

空を自由に駆ける迅が、地上を駆け回る亡が、向かってくるノイズを迎撃するエボルが、クリスの飛行ユニットに乗る響が、クリスの一斉砲火と共に腕のアームドギアから放たれる拳の一撃が放たれ、何十ともいえるノイズを消し飛ばす。

それだけではなく、翼の大剣が放つ斬撃と奏の槍が起こす竜巻が上空のノイズを蹴散らし、ノイズはその数を減らしていった。

 

「どんだけでようが、今更ノイズ・・・!」

 

ある程度ノイズを殲滅し終え、装者や仮面ライダーたちが集った時にクリスがそう呟く。

その瞬間、今まで攻撃すらして来なかったフィーネがついに動いた。

なんと、ソロモンの杖を自身の腹に向けていたのだ。

 

「何をする気だ!?」

 

「何かを企んでるのか・・・!?」

 

翼と奏が呟いた途端、フィーネは自身の腹に向けていたソロモンの杖を自分自身の手で突き刺した。

 

「なんで自分を・・・!?」

 

「じ、自殺・・・!?」

 

「いえ、あれは---」

 

フィーネが取った行動にエボル以外が驚くが、迅と響の言葉を亡が否定する。

なぜなら、突き刺したフィーネの体の一部が伸び、それがソロモンの杖に引っ付いて、侵食するようにヒビが入ったからだ。

さらに、フィーネがソロモンの杖がノイズを召喚する際に発生する緑色の光からノイズを増やしたかと思えば、自分に向かってどんどん集め出して融合していった。

 

「ノイズに取り込まれてんのか?」

 

「いいや、アレは取り込んでる方だろうな」

 

クリスの疑問にエボルが答えると、フィーネと融合するように集合したノイズが装者たちと仮面ライダーに体を伸ばす。それを軽々避けるが---

 

「来たれ・・・デュランダル!!」

 

そう叫んだ瞬間、カ・ディンギルの最奥にあるデュランダルを取り込んでどろどろの液体となった体で取り込み、その体を巨大な化け物に変容させる。

 

その姿は、まさに伝承にあるヨハネの黙示録に登場する赤き龍。『緋色の女』または『大淫婦』とも呼ばれた女『ベイバロン』に使役された滅びの聖母の力を持つ獣だ。

 

そして黙示録の赤き竜が口に何かを溜めたかと思えば、光線を吐く。

その光線が迸った瞬間、街は一瞬にして焼かれ、凄まじい熱気と衝撃を撒き散らした。

威力からも分かる通り、黒煙が空を覆い尽くすぐらいの煙さえも発生している。

 

「街が!?」

 

『---逆さ鱗に触れたのだ。相応の覚悟は出来ておろうな?』

 

装者たちが街中を気にしてる間に、フィーネが呟く。

再び、赤き竜がブレスを吐いた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

---時は少し遡り、フィーネが黙示録の赤き竜に変貌する前。

一つ、違和感を感じなかっただろうか? いくら装者や仮面ライダーが多くとも、フィーネは()()()()にノイズを召喚した。

ある程度倒したとはいえ、フィーネの元にはノイズが()()()()()()集まることはなかったのだ。

その理由としてはとてつもなく簡単で---

 

 

 

 

 

 

 

 

『" Progrise key confirmed. Ready to utilize." 』

 

大量に押し寄せる大型ノイズの波。中型や小型の姿もあってその様子は、自分たちの脅威を全力で打ち倒そうとする姿。ノイズのスタンピードともいえよう。

それをアークゼロは無機質な赤い瞳で見据え、焦ることも慌てることも無くただ機械の如く()()()()()()()()()()()()()()()()()()を手に持つアタッシュカリバーのブレードモードのまま、ライズスロットに挿し込んでいた。

 

『Charge Rize!』

 

『FULL Charge!』

 

ブレードモードから一度アタッシュモードへ切り替え、再びブレードモードに切り替える。

そこでフルチャージを発動させた。

 

SHINING KABAN DYNAMIC!

 

眩いほどの光り輝くエネルギーが巨大な刀身を作り、さながらその輝きは伝承にある王の剣(エクスカリバー)

漆黒の姿とは真反対の光を持ってして振るわれると、大量のノイズを一瞬というべき時間で消し去り、巨大な刀身は光を失って元のアタッシュカリバーの刃に戻る。

 

「・・・」

 

「こちらのノイズは終わりました!」

 

赤い瞳で炭素の塊を無言で見つめていたアークゼロに、()()()()を纏ったセレナが近づく。

セレナの手に握られているものは、()()()。おそらく、それでノイズを倒したのだろう。

 

「大丈夫だったか?」

 

「はい。ノイズを全て引き寄せたので逃げ遅れた人々は無事にシェルターに逃げることが出来たようです。シンさんは---心配する必要すらなさそうですね・・・」

 

山でも作れるんじゃないかと積もるほどの炭素の塊を見て、セレナは思わず頬を引き攣らせる。

その量は数えるのが嫌になってしまうほどの量だろう。

 

「アークさま。終わった?」

 

「残るは装者や仮面ライダーたちの方だ。そっちも終わったようだが」

 

近くで隠れていたアズがアークゼロの傍に寄り、アークゼロは視線を空中で爆発が起きているところに向ける。

ちょうど装者や仮面ライダーたちが集っているところだ。

 

「なら問題なしね。でも、あの個体はエボルって仮面ライダーにやられたみたい」

 

「始末してくれたならもういい。だが・・・フィーネも面倒なことをしてくれたな」

 

彼がアークゼロとなって戦っている理由。

それは深い理由がある訳ではなく、ただただフィーネが無造作に放ったソロモンの杖の影響で彼らの近くまでノイズが召喚され、襲いかかってきたから殲滅した。それだけのことであり、あくまで自己防衛だ。

何故か彼にだけ物凄い数が集っていたが、アークゼロは人類にだけではなくノイズにすら恐怖の対象なのかもしれない。

果たしてノイズに恐怖というものがあるか定かではないが。

 

「あ、アレは一体?」

 

「フィーネだろう。オレの傍から離れない方が良い」

 

「もちろん、可能なら私はずっと離れないけど?」

 

セレナが空に視線を向けると、そこには緑色の光。

その光が何かに収束され、どろどろの液体から巨大な黙示録の赤き竜となったフィーネ。

アークゼロは変わらずに興味がなさそうにしているが、セレナは驚いていた。アズに至っては驚かずに欲望に忠実だったが。

 

「---結論を予測した。怪我をしたくなければ離れるな」

 

「え? は、はいっ」

 

「はーい」

 

アークゼロが二度の忠告をする。

そのタイミングで、離れた位置にいるアークゼロたち---いや、街に向かって光線が放たれた。

徐々に迫ってくる光線にセレナは気づくと、言っていた意味を理解して離れないようにアークゼロの手を握る。

それを気にした様子を見せず、アークゼロは飛んでくる光線に向かって手を翳した。

---()()()()()、光線は彼らの周囲のみを焼き払うだけ焼き払い、アークゼロたちには一つの怪我もダメージも負わせることがなかった。

 

「さすがアークさま♡」

 

ぎゅーっと抱きついていたアズはその姿を見て笑みを浮かべ、アークゼロは再び飛んでくる光線の対処を作業の如くしていた。

まさか街を一瞬にして焼き尽くす一撃を、作業感覚で防がれているとはフィーネは知る由もあるまい---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

赤き竜のブレス。

装者と仮面ライダーたちはそれぞれ避ける先が被らないように退ける。

 

「このぉ!」

 

「はあぁ!」

 

すかさず避けたクリスと迅が遠距離攻撃で狙うが、首辺りにいたフィーネを守るように外壁が閉じ、クリスと迅の攻撃が防がれる。

そして、反撃の砲撃。

 

「そんな攻撃---追尾!?」

 

「うわ―――ぁあぁぁああ!」

 

反撃の砲撃を二人は避けるが、次々と追撃してきた砲撃を直撃で受け、よろめく。

 

「ハア!」

 

翼が蒼ノ一閃を放つ。それが竜の顎らしき部分へと直撃し、装甲を削ることに成功したかと思えばすぐさま回復し、修復されてしまう。

 

「はあああぁぁ!」

 

「うぉおおぉぉおおお!!」

 

次に奏の槍と響の拳が竜を撃ち抜くが、やはりというべきか同じように修復され、無かったことにされるように傷はない。

 

「やはり効いていない・・・何か別の手段を見つけないと」

 

「そうは言ってもねェ・・・。再生を凌駕する必殺技をぶつけるくらいか?」

 

四人の攻撃が全くと言っていいほど効いていない様子を、亡とエボルが観察しながら呟く。

 

《いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具。完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな》

 

そんな者たちに絶望を突きつけるようにフィーネが呟いた。

 

《聞いたか?》

 

「チャンネルをオフにしろ」

 

フィーネの言葉に気づいた様子のクリスが皆に聞く。

翼は念話だとフィーネに聞こえてしまうため、切るように言った。

 

「言われてみればアレがあったな」

 

「ええ、問題は一つだけですが・・・」

 

「そうだね・・・」

 

「・・・?」

 

奏と亡、迅も気づいたようで視線を背後に向けた。

そこには、理解出来ていない響がいる。

 

「響にも分かるようにいえば、お前が鍵って訳だな」

 

「私が・・・」

 

「どうする? やってみるかァ?」

 

「・・・はい!」

 

エボルが分かりやすく言うと、響は一瞬悩む。

しかしやるかどうか問いかけられると、覚悟を決めたように力強く頷いた。

そこで赤き竜から砲撃が轟く。それを躱しながら奏、翼、クリス、迅、亡は前に出た。

エボルは待機しつつ、腰にあるもう一つの赤い色のフルボトルを手に持つ。

それは過去に完全に力を取り戻すため、ハザードレベルが人間の限界値を超えた桐生戦兎を乗っ取った際に遺伝子から生み出したモノ。

その名は---『ラビットエボルボトル』。

 

「ええい、ままよ!」

 

「私たちで露を払う!」

 

「全力でやるぞ!」

 

「言われなくとも分かってる!」

 

「もちろんです!」

 

クリスと迅、亡が突っ込み、後方では翼と奏が自身のアームドギアに意識を集中させる。

エクスドライブによって解放された力を、さらなる力を実現させたかのように翼の大剣はさらに巨大となる。

奏に至っては槍の突端からオレンジ色のエネルギーが集わせていた。

 

「あたしの全力だ!」

 

「ハァァァ---ァァアッ!」

 

COSMIC∞WING

 

蒼ノ一閃・滅破

 

全てを貫通させるエネルギーと全てを断ち切る斬撃が必殺の一撃となりて赤き竜に直撃する。

必殺の一撃は装甲を吹き飛ばし、中のフィーネを曝け出した。

その瞬間、突っ込んでいたクリスと迅、亡が修復する前に侵入を果たす。

フィーネが驚きを隠せない中、クリスが密閉された空間で砲火しまくって黒煙を巻き散らした。

それをフィーネが振り払い、周囲を警戒した時---

 

「迅!」

 

いつの間にかフィーネの近くに移動していた亡がデュランダルを奪い去る。

即座にフィーネが奪い返そうとするが、亡がデュランダルを投げた。そこで迅は回収し、同時に外から奏と翼の一撃によって再び穴が開く。

 

「これをッ!」

 

迅が穴が修復される前にデュランダルを投げ、羽を飛ばすことで落とすことなく外へ吹き飛ばす。

 

「そいつが切り札だ!」

 

「勝機を零すな! 掴み取れ!」

 

奏と翼が叫び、脱出を果たしたクリスと迅と亡は外から攻撃を加え、少しでも修復に時間を取らせる。

デュランダルは羽によって運ばれていき---響が掴み取った。

そして肉体が黒く染まり、強烈な破壊衝動に塗り潰され掛ける。

 

「グゥ・・・ゥぅゥ・・・うぅゥゥ・・・!!」

 

飲み込まれ掛ける意識、塗り潰そうとする破壊衝動、心を食いつぶそうとする闇。その全てに抗っているのか響は以前と違い、全身が黒く染っていない。

だがそれほどのもの、抑え込むのは簡単なことではない。

このままフィーネが修復が完了すれば、待っている結果は一つ---

 

 

 

 

 

 

 

「正念場だ! 踏ん張り処だろうがッ!!」

 

破壊音と共に、聞き覚えのある声が聞こえる。

破壊衝動に抗う響が視線を向けると、そこにいるのは戦闘の指南をしてくれた師匠である弦十郎だった。

 

「強く自分を意識してください!」

 

「昨日までの自分を!」

 

「これからなりたい自分を!」

 

弦十郎だけではない。いつも支えてくれていた二課のメンバーである緒川、藤尭、友里の叫びが聞こえる。

 

「大丈夫だ、響! あたしらが傍に居る! 支えてやる!」

 

「そうだ。お前が構えた胸の覚悟、私に見せてくれ!」

 

「お前を信じ、お前に全部賭けてんだ! お前が自分を信じなくてどうすんだよ!」

 

意味がないと分かっていても、奏と翼、クリスが一緒に寄り添って響に向かって叫ぶ。

 

「貴方のおせっかいを!」

 

「アンタの人助けを!」

 

「今日は、あたしたちが!」

 

響が高校生になって出来た友人たちの声も聞こえる。

 

(かしま)しい! 黙らせてやる!」

 

フィーネが怒鳴り、黙示録の赤き竜が装者たちに向かって触手を伸ばす。

その触手は、迅と亡によって全て切り伏せられた。

 

「敵だった僕たちとも繋いでみせたその力は、お前だけの力だ! だから信じて、闇を乗り越えろ!」

 

「今までやってきたことを思い出してください! そして破壊衝動に負けてはいけません! 貴女が持つ夢のために!」

 

「グァアァ---アァァッ!」

 

意識が遠のき、全身が闇に包まれる。

そして響は、破壊衝動に飲み込まれ---

 

 

 

 

 

 

 

「---響ぃぃぃぃいいいぃぃいいいいぃいいいい!!」

 

破壊衝動に飲み込まれかけた響に、未来が響の名を呼んで叫ぶ声が胸に響いた。

 

「ビッキー!」

 

「響!」

 

「立花さん!」

 

響を信じてその名を呼ぶ友人と、ただひたすらに信じて見守る親友。

そこで響は気づいた。

 

---そうだ。今の私は、私だけの力じゃない。だったらこの衝動に、塗り潰されてなるものかァ!!

 

破壊衝動を抑え込み、闇を塗り替える。

その瞬間、デュランダルから黄金の光が迸り、響はその光の翼を広げ、翼と奏、クリスと共に不滅の大剣を掲げた。

 

「Good! 上出来だ!」

 

ラビット!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

『Are You Ready?』

 

「ここは戦兎の力しかないよなァ・・・? 変身・・・!」

 

成功したと見なせば、今まで待機していたエボルが動き出す。

ドラゴンエボルボトルとライダーエボルボトルを抜き取り、新たに赤い色に白いウサギが描かれている『ラビットエボルボトル』を右に、『ライダーエボルボトル』を左に挿し込んでレバーを回すと、新たな姿へと進化した。

蛇は、兎を取り込む---

 

ラビット!ラビット!エボルラビット!

 

『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

ドラゴンからラビットに姿を変えたエボルは、左手で左の複眼のアンテナに指を滑らせる。

 

「フェーズ3、完了・・・!」

 

さらにエボルがレバーを回すと、咀嚼するようにエボルボトルの下部のパーツが上下に動く。

 

『Ready Go!』

 

エボルの右足が赤いエネルギーを纏い、響たちが持つデュランダルが黄金の光の刀身を作り出す。

 

「その力・・・何を束ねた!?」

 

「響き合う皆の歌声がくれた---シンフォギアでぇぇええぇえええ!!」

 

その光景に目を見開くフィーネに、響が答えるように叫びながらデュランダルを振り下ろした。

同時に、エボルが飛ぶ。

 

Synchrogazer

 

エボルテックフィニッシュ!!

 

赤いエネルギーを纏いながらライダーキックを放つエボルの背中を、デュランダルの光が炸裂する。

本来、ダメージを受けるその光は響の束ねる力が合わさったと言わんばかりにエボルの速度を加速させ、黙示録の赤き竜に直撃させる。

 

(完全聖遺物同士の対消滅・・・!? なぜ、何故このようなことに・・・!?)

 

「一つ簡単なことを教えてやるよォ。あまり人間を舐めると痛い目に合うってことだ---チャオォ!」

 

まるでフィーネの心の内を呼んだかのようにエボルが叫ぶ。

それは奇しくも、アークゼロに警告された時と似たような言葉。

その警告通り、エボルの右足のエネルギーが赤から金へと変わり、凄まじい威力を発揮して黙示録の赤き竜を貫く---

 

「どうしたネフシュタン!? 再生だ! この身、砕けてなるものかぁぁあぁぁあああぁぁぁぁああああぁぁぁぁああああ!!」

 

フィーネが叫び、黙示録の赤き竜はその姿をついに消滅させた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街は破壊され、いわゆる廃墟と化していた。

夕焼け色に染まる空の下、激戦を繰り広げた跡地にて、エボルがフィーネを連れてきていた。

 

「お前、何を・・・」

 

「クライアントとの契約だ。お前さんに適用されるかは分からんが、誰彼構わず助けていたアイツなら救うだろうからな」

 

近くの岩に腰掛けさせると、自分自身の出番は終わったと言わんばかりに二課の元たちがいる場所に行き、通り過ぎるのと同時にあとは任せたと響の肩を叩いた。

そんなエボルの姿を見守ると、響がフィーネに近寄る。

 

「もう終わりにしましょう、了子さん」

 

「私は・・・フィーネだ・・・」

 

「でも、了子さんは了子さんですから」

 

フィーネは何も答えない。そんなフィーネに、響は続けて言う。

 

「きっと私たち、分かり合えます」

 

「・・・」

 

先ほどと変わらず、フィーネは何も答えない。

しかし、ふと立ち上がった。

 

「ノイズを創り出したのは、先史文明期の人間・・・統一言語を失った我々は、手を繋ぐ事よりも相手を殺す事を求めた・・・そんな人間が分かり合えるものか」

 

「人が、ノイズを・・・」

 

「だから私は、この道しか選べなかったのだ・・・・!」

 

最後まで否定し、刃の鎖を握り締めてフィーネは、辛そうにそう告げた。

そんなフィーネに、響の隣に行った迅が声をかける。

 

「だったら、一緒にやり直そうよ。今までのフィーネだったら、分かり合えなかったかもしれない。でも今は違うんじゃないのか? 僕は確かに、フィーネがやったことは許せない。他の人を傷つけたし、クリスを傷つけた。だけど---同時に本当の家族が居ない僕にとって、フィーネは母親だとも思ってたんだ。利用するためだったとしても、僕を拾ってくれた感謝は一度も忘れたことはないよ」

 

「アタシも同じだ。アタシはまだフィーネと一緒に居たい。今度は対等な関係として・・・! 確かにフィーネは、アタシは利用する為だけに連れてきたのかもしれない。だけど、フィーネがアタシを救ってくれたことには一切変わりはないんだよ・・・!」

 

背中を向けるフィーネに対して、迅が真っ直ぐに気持ちを伝え、クリスは様々な感情が混ざった表情で真っ直ぐ見つめる。

すると、フィーネがほうっと息を吐くのを感じ取った。

そして---振り向き様に刃の鞭を振るう。

 

「ハァァ!!」

 

フィーネの顔は狂気に歪み、笑っていた。

その一撃を迅とクリスが横に避け、響は躱しながら前に出てフィーネの懐に入り込み、その拳を寸止めで止める。

そこで終わるかと思われたが---

 

「私の勝ちだァ!」

 

「!?」

 

フィーネは余裕の笑みを崩さなかった。

刃の鞭が、天に向かって伸びているからだ。

その方角にあるのは、月。

 

「てぇやぁぁぁあぁあぁああ!!」

 

次の瞬間、まるで何かを引っ張るかのように、振り向き様に刃の鞭を引っ張る。

その反動のせいか地面が砕けているにも関わらず、雄叫びを挙げて、ネフシュタンを砕きながらもフィーネは何かを引っ張る。

さらに確信したような顔で、その行為の真意を明かした。

 

「月の欠片を落とすッ!」

 

「「「なッ!?」」」

 

「私の悲願を邪魔する禍根は、ここでまとめて叩いて砕く! この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからな! 聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇る! どこかの場所! いつかの時代! 今度こそ世界を束ねる為に・・・!」

 

ネフシュタンは徐々に壊れていってるのか外れていく。

フィーネが持つものは、とてつもない執念。

例え今ここにある全てを破壊しようが、彼女は決して止まりはしないのだろう。

 

「アハハ! 私は永遠の刹那に存在し続ける巫女! フィーネなのだぁぁ---」

 

狂ったようにそう叫ぶフィーネに、響が彼女の胸にコツンと拳を当てた。

小さな風が吹き、フィーネの髪を靡かせる。

 

「・・・うん、そうですよね」

 

響は何処か納得したように頷き、拳を引いた。

 

「どこかの場所、いつかの時代、蘇る度に何度でも、私の代わりに皆に伝えてください」

 

その顔は、彼女のいつも通りの元気な笑顔だった。

 

「世界を一つにするのに、力なんて必要ないってこと。言葉を超えて、私たちは一つになれるってこと。私たちは、きっと未来(みらい)に手を繋げられるってこと。私には伝えられないから、了子さんにしか、出来ないから」

 

「お前、まさか・・・」

 

フィーネの言葉は続かなかった。ただ、その言葉に目を見開いただけだ。

 

「了子さんに未来(みらい)を託すためにも、私が今を、守ってみせますね!」

 

はっきりとした確固たる決意を持って、響は宣言した。

その言葉にフィーネは呆れ返り、ふっと笑った。

 

「本当にもう、ほうっておけない子なんだから」

 

次に見せた彼女の表情は、フィーネではなく、今まで彼女たちが見てきた櫻井了子の顔だった。瞳の色も、僅かにだが元に戻っていた。

フィーネは、響の胸に指を当てる。

 

「---胸の歌を、信じなさい」

 

そういったフィーネは、果たして櫻井了子の人格なのか、それともフィーネのものなのか---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に終わるつもりか?」

 

「ッッ!?」

 

「了子さん!?」

 

一瞬のことだった。

上空から声が聞こえると、フィーネが響を押すことで引き離し、響が数歩下がる。そこに地面へ降り立ったナニカがフィーネの首を掴んで絞めながら持ち上げていた。

 

「了子ッ!」

 

「邪魔をするな。邪魔をしたら殺す」

 

怪我を負った状態でもなお、誰よりも早く近づこうとした弦十郎が足を止める。

なぜなら---地面に真っ黒な泥沼と悪意の文字を発生させながらフィーネを掴んでいるアークゼロが居たのだから。

フィーネの心臓があるであろう箇所には、アタッシュカリバーが向けられている。

 

「・・・私を殺す、か」

 

「そんな()()()()()ものの為にわざわざ来たりはしない」

 

「アークゼロ!? お前、なんのつもりだ!?」

 

「フィーネを離せ!」

 

シンフォギアや変身をまだ解いてないクリスと迅がいつでも攻撃出来るように準備しながら睨むが、アークゼロは興味がなさそうに無視する。

 

「私は時期に消える・・・」

 

「だろうな」

 

「だとしたら、なんのつもりで・・・ッ!?」

 

アークゼロが首を離し、フィーネが地面に落ちる。

首を絞められていた影響で咳き込むフィーネを無視しながら、アークゼロが困惑する二課の面々を見つめた。

そこで、コブラフォームに戻りながら寝転んでいたエボルが出てくる。

 

「まさか、ラスボスの登場ってか?」

 

「月の破片はもう時期地球へ落ちてくる。仮に阻止出来なければここら一帯は纏めて吹き飛ぶだろうな」

 

「大丈夫です。そこはなんとかしますから!」

 

会話になっていないエボルとアークゼロだが、警戒はしながらも明るく言ってみせる響。

そんな響に一度視線を向け、言うことは終わったとアークゼロが二課の面々に背中を向けた。

アークゼロは再び、フィーネに視線を向ける。

 

「二課の司令。以前の話を覚えているか?」

 

「・・・あぁ。可能性をみせてみろ、というものか?」

 

「可能性って・・・随分曖昧だな。というか、ダンナは話したことあったんだ」

 

フィーネを人質のように取っていない今がチャンスではあるが、弦十郎は怪訝そうにしながら意図が分からない質問に答える。

そこに奏が突っ込んでいたが、今は広げる場合じゃないだろう。

 

「そうだ。だからこそ来た---だが、私()()の記憶は消させてもらう」

 

フィーネの頭をアークゼロが掴むと、そこから禍々しいオーラがアークゼロの手に纏わりつく。

 

「ぐっ!? 何を・・・!?」

 

「---前提を書き換え、結論を予測し直した」

 

クリスと迅が動く。

エクスドライブとなっているクリスの攻撃は、今までの比ではない。迅も迅で装者に呼応されるように動きが全然違うのだが、アークゼロは軽々と避けてフィーネを二課の司令に対して容赦なく投げ飛ばした。

 

「了子!?」

 

「・・・」

 

「殺してはいない。眠っているだけだ」

 

傷が開いたのか、顔を顰めながら意識のないフィーネを弦十郎が受け止める。そして攻撃を仕掛けたクリスと迅以外に、響とエボルを除いて装者と亡も僅かに構えていたが、アークゼロの言葉を聞いて呆気に取られすぐに意図を聞き出そうとする。

 

「どういうことだ!? 櫻井女史に何をした!?」

 

「時期に分かる。---そんなことよりも、月の破片を早く何とかするといい。死にたくないならな」

 

翼の言葉に対して短く答え、それだけ言い終えるとアークゼロは誰かに攻撃される前に空に向かって飛んで行った。

 

「・・・何がしたかったのでしょうか?」

 

「分かりませんけど・・・あの人の言う通り、まずは月の破片をなんとかしましょう!」

 

亡が誰もが思っていることを代表して言うが、響が問題の方に戻す。

 

「やれやれ・・・地球を破壊されても困る。行くかァ」

 

「そうだね・・・殺していないなら、今は目の前のことを片付けようか」

 

その言葉に頷いた装者たちと迅、亡は空に目をやり、瞬く間に飛んで行った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

『Emustolronzen fine el baral zizzl---』

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal---』

 

『Emustolronzen fine el zizzl---』

 

装者たちが絶唱を歌い、軽々と大気圏を突破した装者と仮面ライダーたちは、ただ一直線に月の破片へと向かっていく。

 

《解放全開! いっちゃえ! (ハート)の全部で!》

 

響の叫びとともに、装者は手と手を繋ぎ合い、ブースターを展開して飛翔能力を促進。

仮面ライダーたちは月の破片を見据えながら装者の歌を聞き、加速した。

 

《皆が皆、夢を叶えられないのは分かっている。だけど、夢を叶える為の未来(みらい)は、皆に等しくなきゃいけないんだ》

 

《命は、尽きて終わりじゃない。尽きた命が、残したものを受け止め、次代に託していく事こそが、人の営み。だからこそ、剣が守る意味がある》

 

《歌は誰かを元気づけさせることが出来る。復讐のために歌って何もかもが見えなくなるより、誰かと一緒に楽しい時間を過ごす方が、大切になる。それをみんなにも知らせていきたい。今を大切にして欲しい、と》

 

《例え声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさない。夜明けを告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れ!》

 

月の破片へ向かう光が、七つに分かれる。

 

《これが私たちの、絶唱だァ------ッ!》

 

響、翼、クリス、迅、亡、エボルがそれぞれ己が持つ力を爆発させる。

エボルの能力である天体の構造を把握するという力によって、効率よく破壊するためにそれぞれの位置が指示され、立ち位置に着く。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翼は、その手に山をも断ち切れるほどの巨大な剣を。

 

 

クリスは、あらゆるものを殲滅させるほどの大量の大型ミサイルを。

 

 

奏は、天をも貫き通す巨大な撃槍を。

 

 

響は、両手足のガジェットを限界まで引き絞り、繋ぐためのではなく、破壊せんとする絶対的な破壊の拳を。

 

迅と亡、二人はそれぞれデータとして入っている生物の力を最大限に引き出し、仮面ライダーの必殺の一撃であるライダーキックを。

 

エボルは、宇宙空間でも違和感が全くない星座早見盤を模したフィールドを右足に収束させ、数々の強者を倒してきた必殺技の一撃を。

 

『Ready Go!』

 

エボルテックフィニッシュ!

 

フライングディストピア!

 

ゼツメツディストピア!

 

そして、月の欠片は---跡形もなく消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

流れ星。巨大な爆発が地球上でも観察出来たが、七つの光がフィーネと決着を着けた場所へ帰還する姿があった。

 

『おい・・・一体どういうことだ!? 説明しろ!』

 

「し、シンさん。師匠が怒ってます・・・大変です・・・」

 

「・・・・・・」

 

あわわと慌てるセレナがいるが、アークゼロとしてではなく、亜無威心の姿へ戻った彼は、聞こえてくる声に反応せずに遠い目をしていた。

 

「まぁまぁ・・・怒らないで、ね?」

 

『怒ってなどいない! 事情を説明しろとオレは言っているんだッ!』

 

アズが宥めようとするが、本人の声は完全に怒鳴り声となっている。

声量的にも怒ってないという方が無理があるかもしれない。

 

「大丈夫だ」

 

『・・・本当だろうな? とにかくこっちに来い。話は後だ』

 

このままだとずっと続くんだろうなと察したシンが呟くと、声が聞こえなくなる。それは向こうが切ったと言うことだろう。

アズは苦笑いを浮かべた。

 

「うーん、説教ルートね。これ」

 

「まったく・・・確かにフィーネとの戦いに干渉したオレが悪いが」

 

「ご、ごめんなさい。私のわがままで・・・」

 

「気にするな。装者が危うくなったら参加しろとは言われていたし、問題ないだろう。月の破片もオレは必要なかったようだからな」

 

空を見れば、既に流れ星は消えている。

何もかもが終わり、今頃二課は大円団を迎えていることだろう。

 

「---さて、帰るか」

 

「はい・・・」

 

「お説教待ってるけど」

 

暗い顔をするセレナの頭を撫で、アズの言葉に僅かに顔を引き攣らせながらため息を吐いたシンは、テレポートジェムを地面に叩きつける。

すると、三人の姿はそこから消えた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇アークゼロ
街を焼き尽くす一撃を作業感覚で防ぐチート。さらっと巻き込まれる・・・これは主人公ですね間違いない(必死)
とまぁ、アークゼロさんが何やら色々としたらしいですが、帰還後はキャロルによる説教を受けたよ。

〇アズ
アークゼロの近くに居たので、ノイズに襲われても問題ない範囲にいた。

〇セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
まぁ彼女の性格からして誰かを助けちゃうよねって話。

〇キャロル・マールス・ディーンハイム
最後に持っていくキャロルちゃん。かわいい。

〇エボルト
蛇は、兎を取り込む---。
もう一つの新たな進化形態になり、仲間の力を使ってラスボスの最終形態にトドメを刺して地球を救ったよ。これだけなら主人公じゃん・・・。

〇立花響
メンタル戻ったらアークゼロに堂々と言うレベルだから強い。

〇小日向未来
響を支えている人物の一人なので、原作よりマシでも強いのよ、彼女。

〇雪音クリス
本来、フィーネにこんなことは言わなかったのですが、セレナが干渉した影響がここに来たってわけですねぇ!

〇迅
彼にとってはフィーネはママンだったわけなんですよね。だから話したいことがある=手を伸ばしたい。になるわけです。

〇風鳴弦十郎
アークゼロが来た瞬間には誰よりも了子を助けようとしたのは流石である。
それと伏線回収(可能性を見せてみろのやつ)

〇フィーネ
勝てるわけないだろ! いい加減にしろ!
最後にエボルトの煽りキック受けた。どんまい。


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戦姫予測しないシンフォギア
戦姫絶唱しないシンフォギア



七日目です。後日談みたいなもので、本編で出来なかった話を入れていきますよー。
『しない』はだいたい前日談、後日談、本編でできなかった話、日常系統になります。
今回だけは一応ちょっと例外で・・・まぁ原作前の総集編みたいな感じですかね。
あとこれを機に原作前読み返すのが面倒な人や読むより本編いきたいって人のために、このままだと早速ネタバレがあるので、そこのみだけ切り取って重要なシーンを纏めつつ特別編枠に置いておきますね。





 

---フィーネの存在

 

 

「と、言う訳で改めての紹介だ。雪音クリスくんと迅くんだ。第二聖遺物のイチイバルの装者と仮面ライダーにして、心強い仲間だッ!」

 

「ど、どうも。よろしく・・・」

 

「よろしく。クリスと仲良くしてあげてね」

 

「誰目線で言ってるんだよ!」

 

早速クリスの突っ込みが炸裂していたが、弦十郎がごほんと注意を引くために空咳をすると、再び声を挙げる。

 

 

「さらに本日をもって装者四人と仮面ライダー三人の行動制限も解除となる」

 

「師匠、それってつまりッ!」

 

「そうだ。君たちの日常に帰れるのだッ!」

 

「やったーッ! これで皆とも会えるーッ!」

 

「ようやく営業に戻れるか・・・まったく、最近は誰も飲んでくれなくなったからな」

 

装者たちが喜ぶ中、一般職員たちが何よりも喜んでいた。

行動制限が掛かっていたのは二週間。その間に彼らは一週間、石動惣一が淹れる()()()()()()を飲んだのだ。残る一週間は誰も飲まなくなっていたが、何度も勧められる地獄から抜け出せるのはなによりも嬉しかった。涙を流している者すらいる。

一応、二課は技術面か実力面、どちらか二つが優秀な選ばれた者達が集まっているのだが、そんな彼らでも惣一のコーヒーには勝てなかった。

しかも、不味いくせに眠気はエナジー系統や薬、普通のコーヒーよりも消えるという・・・どんなものよりも効果覿面といった無駄な高性能なのが悔しいが腹立たしい。

徹夜するには味は保証できないが、もってこいだった。

 

「まぁまぁ、中々独特でいいと思うわよぉ?」

 

「俺は自分なりにコーヒーを淹れてるだけなんだがなァ・・・。そうだ、景気づけに淹れようか」

 

その言葉を聞いた瞬間、二課の職員たちが一斉に動いた。

ある者は自ら淹れにいき、ある者は缶コーヒーを取り出す。ある者は別の飲み物を。

これぞ精練された動き。彼らの判断は、凄まじく強化されたのだ。

ようやく休めるというのに、惣一のコーヒーを飲んでオールしたくないのだろう。

 

「あれはマトモに人間が飲めるものじゃない・・・」

 

「あはは・・・」

 

普段は冷静で感情の乏しい亡ですら顔を真っ青にして言うのだが、響からすると好んで飲む人を一人だけ知っているため、乾いた笑い声を挙げるしかなかった。

 

「さて、オレたちはまだやることはあるが、装者と仮面ライダーたちは自由にしてくれ」

 

「あっ、響ちゃんと奏ちゃんだけは定期的にメディカルチェックを受けにきなさい。私ほど不安定という訳ではないけど、何かがあってからだと遅いもの。大丈夫だとは思うけど、奏ちゃんに至っては突然正規な装者となったのだしね」

 

「はい!」

 

「分かったよ」

 

弦十郎の言葉で解散となるが、響と奏だけは了子に呼び止められ、了承の返事を返す。

ここで一つ、気になっていることがあるだろう。

何故櫻井了子、フィーネが二課に居るかについて。

簡単に説明すると、櫻井了子の中のフィーネは激戦の後、デュランダルの一撃にて魂ごと何処かに消えたと言う設定にして、今は櫻井了子として生きているのだ。クリスや迅はフィーネに攫われ利用された被害者として扱うことで、表向きには三人を守ったことになる。

もちろん、櫻井了子とは言っても本当の中身はフィーネなので内実的にはあまり変化は無いのだが、彼女は既に過去に囚われる亡霊なんかではなく、前へと進んでいた。

だからこそ、もうあのようなことはしないだろう。

それに事件をフィーネのせいだけになっているのは、責任を取りたいという了子の言葉に弦十郎が折れたからだ。

本来は誰も悪くないようにしようと思考していたのだが、それはやはり難しかったからだろう。

どちらにせよ、彼女たちは戻る。いつもの日常へと---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---響と未来の幼馴染---

 

 

 

「なぁ、響。あたしずっと気になってたんだが・・・ちょっといいか?」

 

「はい。いいですよ」

 

この場には今、装者たちが全員居る。もちろん仮面ライダーの面々も居るのだが、忙しいのに引っ張り出された亡は疲れるような息を吐いていた。

理由としては、改めて事件を思い返そうみたいな感じである。未来の姿があるのは、まぁ民間協力者扱いされているし深く関わっているので問題はないだろう。

 

「アルトって、今何してる?」

 

「・・・えっ」

 

「・・・ッ!」

 

奏がその名を出した瞬間、笑顔だった響の表情が突如として固まった。

さらに未来は辛そうな暗い顔をし、惣一は警告するの忘れてた、みたいにあちゃーと額に手をやっていた。

事情を知る一名はともかく、奏の言葉に固まった響と暗い顔をした未来の姿には奏本人も含めて困惑するしかない。

同時に、居心地が悪くなる。

なぜなら---異常に空気が重い。今までの響を知るものからすると、余計にそう感じるだろう。

 

「わ、悪い! 聞いちゃマズイことだったか・・・?」

 

「・・・間違いないかも」

 

そんな空気を壊すように奏が謝るが、翼は肯定するしか出来なかった。ちなみに、一応翼は話したことはないが名前と姿だけは知っている。

アルトと響を病院まで連れて行ったのは、彼女たちなのだから。

 

「・・・アタシには誰だが分からないんだけど」

 

「僕にも分からないから心配しないでいいよ」

 

「私も知りませんね」

 

そしてここに着いてこられない者が三人居た。

実は亡は正体はともかく、変身した後の存在なら映像として見て知っているのだが、彼女はそれを知らない。

そもそも、その存在の正体は響や未来ですら知らず、知るものは惣一以外に居ないから仕方がないのだが。

 

「・・・そうですよね。奏さんと翼さんはあの場に居ましたから、知ってても不思議じゃありませんよね」

 

そんな時、固まっていた響から声が発せられる。

表情はいつもの笑顔ではなく、暗い表情となっている。さらに声も覇気が感じられないが、響は未来に視線を向けた。

 

「うん・・・一応、話しておいた方がいいかも。クリスと迅さんにはちょっと話したことがありますけど、聞いて貰えますか?」

 

その視線を理解したのか、未来は頷いてこの場の全員に語りかけた。

さっきと打って変わって重たいシリアスな空気しかないが、未来の問いかけに断れるものは居なかった。

 

「未来が私の幼馴染ってことは、みんな知ってますよね」

 

「あぁ」

 

「当然。今は雪音ですら知っている」

 

「まぁな・・・」

 

響の言葉に装者が返しつつ、惣一と未来以外が頷いた。

そんな彼女らを見渡して、覚悟を決めたように響が語り始めた。

 

「でも、本当は未来だけじゃないです。私と未来にはもう一人、とても大切な幼馴染が居ました---」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある所に、感情を持たぬ一人の少年が居た。

いつも独りで、孤独で、周りから怖がられていて、虐められて、それでも無感情で瞳に何も映すことなく感情を理解することすら出来ないまま生きていた一人の少年が、確かに居た。

その彼の名は、『アルト』。それが本当の名なのか知るものはいないし、苗字を知るものすらいない。

高校生一年生である響と未来たちから計算すると、六年前だろう。計算的には、小学四年生の頃だ。

その時にアルトが響と未来が通う小学校に転校してきて、三人は出会った。

出会いは突然で、最初は響が猫を助けようと木登りした時。落ちた猫を抱えて大怪我をすると思われた響を庇うように、アルトが下敷きになった。

それによって怪我をしたアルトは病院送りとなったのだが、それが最初の出会い。

 

 

 

 

二度目の出会いは、小学校。

同じ年齢で同じ学校ともなれば、クラスが違えど出会う可能性はある。

その時は同じ学校と知らなかった響と未来だったが、再会したのは響が廊下でぶつかった時だ。

他の生徒とは違って、子供らしさの欠片もない妙に大人びたアルトだったが、昔から変わらない能面だった。

とにかくも、アルトと再会した響と未来は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で誰かを巻き込まないようにする、不器用な優しさを見せる彼と話すようになり、自然と仲良くなっていった。

三人は家が近いこともあって、一緒に遊んだり出かけたり、惣一のカフェでご飯を食べたり飲み物を飲んだりしていた。

そんな日がいつまでも続くと思われた時---事件が起きた。

 

 

 

 

 

その事件こそが、世間を動かし、一時的に話題で持ち切りとなっていた二年前のライブ。誰の記憶にも残る、忌々しい記憶。多くのものに傷を残した、とてつもない事件。

生存者たちからすると、トラウマでもある日---すなわち、ツヴァイウィングの公演日だった。

簡単に述べると、未来は用事で行くことが出来なかったが、アルトと響は二年前のライブに客として来ていた。

一曲目である『逆光のフリューゲル』が終わり、次の曲へと移行しようとした時に突如爆発とともにノイズが発生。

それはネフシュタンの起動実験だったのだが、当然まだ二課に関わっていない響たちはそれを知らない。

 

突然の爆発に呆然としていた響はアルトに引っ張られる形で逃げたが、アルトは響だけを人混みに入れることで逃がそうとした。

響はアルトが何をしていたかまでは分からなかったが、響が人混みから抜けて向かった時には頭から血を流し、響の手を引っ張って再び逃げようとしていたところ。

しかしノイズが通り過ぎた時に破壊された会場の建築材料が、破壊された時の衝撃で凄まじい速度でアルトを傷つける。

響はアルトが投げ飛ばしたことで傷つくはなかったが、その時には既にアルトはかなりの出血をしていた。

なによりも、右足と左肩には柵が突き刺さっていたのだから。

そしてそれだけではない。響の足元が崩れるとボロボロなのにも関わらずアルトは助けようとし、彼の足場まで崩れた際には自ら下になって響を庇った。

それから二人に迫ったノイズを奏が倒し、大型ノイズの動きを止めている間に逃げようとした響の胸に奏が持つガングニールの破片が突き刺さる。

 

 

 

 

そこからの話は惣一以外知らないが、アルトは響を抱えて外に出ようとし、絶唱を歌おうとしていた奏を止めるためにボロボロな肉体に鞭を打って、『仮面ライダーゼロワン』に変身して翼と一緒にノイズを倒した訳である。

 

 

 

 

 

 

そして普通なら死んでいても不思議ではなかったはずだが、アルトは生存し、響も目を覚ました。

その後にちょっとしたすれ違いが三人の中で起こっていたが、仲直りして終わり---という訳には行かなかった。

 

 

 

ライブ会場に居合わせた10万人のうち、死者・行方不明が『10201』人にのぼる大惨事。

問題はそこではなく、その後に起きた事件---()()()()()()()()()()()()だった。

響は精神面的に追い詰められ、アルトは肉体共々、追い詰められていた。

当のアルト本人は慣れているお陰か虐めに関しては全く気にしていなかったが、響にとってはそうではない。

何度も追い詰められ、その度にアルトが響を助けた。

未来が助ける時もあったが、誰よりも近くで響を守っていたのはアルトだったのである。

悪意によるバッシングは激しく、学校では生徒と教師ですら。家では知らない人達までも響たちの家族にバッシングを向けていた。

そして一番の事件は、後に起きた---。

 

 

 

 

 

 

響の家族が失踪したあと。

既に肉体面で限界を迎えそうになっていたアルトが姿を消したのだ。

 

 

こればかりは響たちや惣一ですら知らないが、その理由は響や生存者たちを守るために己を()()()()()とするためにアークゼロに変身し、情報操作を行うことで悪意を一気に()()()()()()()()()()()()に向けたのである。

 

 

 

 

 

 

響たちがアルトが消えたことに知ったのは、前日が大雨だった次の日。

いつもは響の家に集まるマスコミが一切居らず、その時は響は気にしていなかった。

響が気づいたのは、母親からの言葉。アルトという名前が出た時には外に出て、未来と合流。

事情が分からないまま、心配が先走ってアルトの家に向かうと、そこに待っていたのは燃え盛るアルトの家。

その時は突撃しようとした響を未来が何とか止めたが、冷静になってから真っ黒に全焼したアルトの家に入ると、残っていたのは何も無い空間。

そう、アルトの存在は---何処にもなかった。死体すら見つからず、捜索が打ち切られて現在も行方不明---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来が陽だまりなら、彼は・・・アルトくんは私たちにとって()()だったんです」

 

「響を()()って例えたのも、アルくんでした。でも今話した通り、アルくんは行方不明で、生きてるかどうかすら未だに掴めてません・・・」

 

話が終わると、その場の空気はどんよりとした重苦しい雰囲気だった。

誰も言葉を発することは出来ず、せいぜい普通なのが缶コーヒーを飲んでいる惣一くらいだろう。

 

「で、でも大丈夫です! まだ死んだと決まった訳じゃありませんし、きっと今でも生きてると思うんです! それならどうして私たちに会いに来ないのか分かりませんけど・・・アルトくんはすぐに無理をしますから」

 

そんな空気を、見栄を貼るように笑顔を貼り付けた響が打ち消そうと明るい声を挙げるが、逆に重たくなる。

 

「ええと・・・」

 

「本当に大丈夫です。アルくんは・・・確かに無理をする響以上に無理をするのでアレですけど、信じてますから。会いに来ないなら、私たちから行こうって決めてるんです」

 

「ほらほら、二人がそう言ってんだからお前らがそんな暗い顔をなさんなって。この二人がそう決めてるんだから、お前たちは応援でもしてやればいい」

 

話を聞いていた惣一が缶コーヒーを飲むのをやめると、パンっ! と手を叩いて空気を変えるように言う。

すると、その通りとも思ったのか僅かに空気が戻った。

 

「ごめんよ、響。()()()()()()()()()()()()()()()から、響が幼馴染であることは分かってたけど・・・。でも、ただでさえ大変な目に合わせてしまったのに、あたしらのせいでもっと大変な目に合わせていたなんて・・・!」

 

「あぁ・・・私たちに出来ることがあれば小日向も何でも言ってくれ。罪滅ぼしになるか分からないが・・・やってみせる」

 

奏が響を抱きしめ、髪を撫で回す。

そんな奏はともかく、翼が申し訳なそうな表情で未来に言っていた。

 

「奏さん!? 本当に大丈夫ですから! また髪がっ!?」

 

「あはは・・・翼さん。大丈夫ですよ」

 

一人大変なことになりかけているが、未来は苦笑いしながら返答する。

 

「以前に言っていたアタシと似てるって、そういう事か・・・。アタシより立派だしかっこいいじゃねぇか」

 

「ちょっと会ってみたいな」

 

「そのようなことがあったとは・・・」

 

知らなかった三人がそれぞれ聞いていた感想を述べる。

先程まで重苦しかった空気は、何処かに飛散していたが、髪を整えた響は奏に向き合って、何処か重たい空気を纏っていた。

 

「ところで奏さん。一つ聞いていいですか?」

 

「ん? どうした?」

 

話を変えるように名前を呼ぶ響。

そんな響に、奏はどういったことを聞かれるのか皆目見当が付かずに、首を傾げる。

そして---

 

 

 

 

 

「アルトくんとはどんな関係ですか?」

 

「・・・へ?」

 

想像の斜め上を、響は行って見せた。

思わず、ぽかんと呆気に取られる奏。周囲も想像していたような質問ではなかったため、惣一を除いて困惑していた。

しかし、思い返して欲しい。奏はなんと言った?

---()()()()()()()()()()()()()()()と言ったのだ。

当然、それを聞いた時には、彼女は内心で反応していたのであった。

そして彼女が反応したということは、もう一人---

 

 

 

 

 

「どんな関係ですか?」

 

「それは私も気になります。奏さん、どうなんですか?」

 

先程とは打って変わり、まるで別物だが、心の底から恐怖を感じさせるような雰囲気と笑顔を浮かべた響と未来に、たじたじになって自然と後退る奏。

 

「どんな関係ですか?」

 

「奏さん、早く教えてください」

 

機械のように同じようなことを聞く響と、早く話すように圧を感じさせながら催促してくる未来が、より恐怖を加速させる。

しかも二人とも笑顔で、徐々に語気が強くなっているのだから尚更だ。

 

「べ、別に大した関係じゃないから! あたしが相談に乗って貰ってちょっと話しただけだから!」

 

奏は慌てて大声を挙げ---響と未来に一から百まで思い出せるアルトと交わした会話を、全て吐かされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事に終わると、戦闘する時やライブの時よりも疲弊した奏は思った。

---この二人に、アルトの話は禁句だと。

その様子を見ていた惣一を除く他の面々ですら、顔を引き攣らせながら同じ思考に至ったレベルである。

 

しかも憎いことに、惣一が面白いと言うように爆笑していたのだから尚更だろう。

根掘り葉掘り喋らされた時に、敵わないと分かっていても、マスターを今すぐにでも殴りたいと思ったとは奏談だ。

 

 

 






〇ひびみく
※これでまだ未覚醒です。

〇天羽奏
マスターを殴っていいよ。
でも本編で言わなくて良かったね・・・ひと段落着いてたから良かったものの。

〇マスター
やっべ、面白ぇみたいな感じじゃね?
コーヒー飲んでくれなくなって内心悲しんでたと思う。

〇二課の職員
被害者。
でもその激マズコーヒーを好んで飲める存在ってビルド世界にすら居なかったのに、この世界に一人居るんですよね。

〇フィーネ
櫻井了子として生きているが、自身の罪は一番自分が分かっているので罪滅ぼしをするつもりで頑張っている。
最初にクリスや迅を庇うために、フィーネの名を使って罪を背負った。
もう月の破壊を目論んでない。
でもシンフォギア世界で彼女を失うのは物凄く痛手なのよね・・・。
しかし、このせいでウェル博士・・・いる? 一応、いるか・・・。


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予測しない


八日目、最終日デース! もう関西特有の最終回まで怒涛のラッシュみたいな毎日投稿は二度とやりません(フラグ)
一応報告しておきますが、原作前の総集編を置く予定です。それは水曜日に投稿します。
これから先のことを考え、重要な話だけピックアップしてるので、わざわざ13話くらいの見返したりせずに済むかと。作者も時間ない時に助かるし、読者さまも助かる・・・! これがウィンウィン・・・? いや、自分の中では今まで書いた小説の中で一番好きだから普通に見直してるけど()




---シャトーでの鬼ごっこ

 

「アハハ! こっちだゾ〜♪」

 

「は、早いです!」

 

「おチビちゃんが遅いのよ」

 

「・・・」

 

シンの目の前では、鬼ごっことしてオートスコアラーであるミカとガリィに追いつこうとするセレナが居るが、身体能力的に無理があった。

容赦なく動くその姿に半分呆れながら眺める。

 

「それなら私だって・・・!」

 

「ちょっと、ファウストローブをそんなことに使うなんて恐らく前代未聞よ!?」

 

「面白くなってきたゾ!」

 

何故か鬼ごっこでファウストローブを纏い、オートスコアラーと同じ速度に加速するセレナが居る。

手に触れられまいとガリィが踊るように躱し、ミカは楽しそうに避けていた。

すると、少ししてセレナの手がミカが触れ、立場が逆転する。

 

「ガリィ、逃がさないゾ〜♪」

 

「相変わらず手加減を知らないわねッ!」

 

「ちょ、ちょっとそれはやばいです!?」

 

「・・・はぁ」

 

高圧縮カーボンロッドを投げつけ、周囲を破壊するミカ。

ガリィが氷で防ぎ、水流が吹き飛ばす。セレナは自身が持つ剣で逸らすように弾き、地面が破壊された。

それを見て、ため息を吐くシン。

 

「元気ね」

 

「今までシンさんが来るまでは、私たちは動くことが出来ませんでしたからね」

 

彼の傍にいるアズとファラが話しているが、シンは気にした様子はない。

 

「アハハハハハ♪ 捕まえたゾ☆」

 

「んなっ・・・待ちやがれッ!」

 

「うわぁ!?」

 

もはやただの鬼ごっこではあらず、異能バトルと言えるだろう。

一般人が参加どころか、観戦してるだけで死にそうな状況である。

何故なら、たまに飛んでくるカーボンロッドや、剣から放たれるエネルギー、水流や氷をシンが両手を駆使して傍にいるアズとオートスコアラー二人を守るために禍々しい赤黒いバリアを貼っているのだから。

シンが居なければ大変なことになってるに違いない。

ついでに変身することなく、オートスコアラーやファウストローブの攻撃を防ぐな。と突っ込める人も居なかった。

 

「随分派手に動く」

 

「お前らは自分で避けられるだろ・・・」

 

変なポーズは取る割に動かないレイアを見て、ジト目で見つめるが、飛んできた鋭利な氷柱をシンは見ることなく首を逸らすことで避けた。

 

「これでどうよ!?」

 

「だ、ダメです。それは流石に死にますから!」

 

「楽しいんだゾ〜♪」

 

「やれやれ・・・」

 

楽しそうでなにより、と言った感じの視線を向けながら、シンは終わるまで三人を守り続けるのだった。

果たして、これは鬼ごっこと呼べるのか---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---もう一人のキャロル?

 

「入るぞ?」

 

「あっ・・・ま、待ってください! わぁああ!?」

 

「・・・」

 

ある日、シンはある一室でノックをしながら中にいるであろう人に声をかける。

すると慌てたような声と何かが倒れる音に次々と落ちる音。

それを聞いてドアの前に立ったシンに選ばれた選択肢は、苦笑いするしかなかった。

 

「うう・・・すみません。お待たせして」

 

「気にしていない。それより大丈夫か?」

 

「はい・・・慣れてますから」

 

それはそれでどうなんだ、と思うが、シンはドアを開けてもらって赤黒いエネルギー、念力で先程まで落ちたであろう本を記憶しているのか元の位置へ戻していた。

そんな彼にお礼を言いながら頭を下げるのは、キャロルと瓜二つの容貌を持つ少女。違うとすれば、髪色が薄いのと三つ編みを無くしたキャロルと言った感じか。

その名を---

 

「エルフナインは全然変わらないな」

 

「そうでしょうか・・・? 以前に比べたら、少しは成長したと思いますけど・・・」

 

きょとんとするエルフナインを、シンはそうじゃないと返して彼女の頭を軽く撫でた。

 

「オレには錬金術は分からないが、頑張ってるんだな」

 

「はい。ボクにはボクにやれることをしようと思ってるんです」

 

「そうか」

 

そう言って両拳を作るエルフナインに、シンは納得したように頷いてから箱を差し出した。

その行為にエルフナインが呆然とする。

 

「これは・・・?」

 

「前に言っていたから買ってきただけだ。別に毒は入っていない」

 

「そ、そのようことは思ってません! その・・・ボクなんかに良いのですか? いただいても返せるものなんて・・・」

 

申し訳なさそうにして受け取れないというエルフナインの姿に、シンは一度悩むが、すぐに思い立ったというように見つめた。

 

「じゃあ、こうするか。オレ一人では食えないから手伝ってくれ。オレの頼みだし、それならいいだろう? あくまで()()()だ」

 

理屈は通っているが、動機を作るための理由ではあるだろう。

そんな理由を付けられてしまうと、エルフナインもエルフナインで断ることは出来ずに頷いた。

 

「それでしたら、ボクで力になれるか分かりませんが・・・頑張ります!」

 

「いや、そこまで頑張ることじゃないんだが」

 

妙に気合いを入れるエルフナインに、選択を間違えたかと考えつつも、シンが箱からシュークリームを取り出して差し出す。

 

「これがシュークリーム・・・。知識としては知ってますけど、どんな味なのでしょうか・・・」

 

「食べたら分かる」

 

「そうですね。いただきます!」

 

受け取ったエルフナインは、好奇心に負けたようにシュークリームを一口齧る。

すると、突如として目を輝かせた。

 

「わぁ・・・甘くて美味しいです! 生クリームとカスタードクリームの味が上手いこと合わさっていて、それでいてシュークリームの生地もあっさりと食べられてしまいますし---」

 

「それは良かったが、口にクリーム付いてるぞ」

 

食べた感想を述べるエルフナインだが、よくありがちな口元にクリームが付いてるのを見て、シンが口元のクリームを指でそっと拭う。

そして口に含み、手を拭いてから開けたままだった箱を閉じた。

 

「あっ・・・。す、すみません。ありがとうございます」

 

「まぁ、それほど美味しかったと思っておく。エルフナインは程々に糖分摂るべきだろうしな」

 

いくら頭を使うからといって、糖分を摂りすぎるのは良くない。だからといって、逆に糖分を全く摂らないのもダメなのだが、笑顔でシュークリームを頬張る姿をシンは見ると、言う気は失ったのか無言となってエルフナインをただ見つめる。

 

「も、もしかしてまたクリームが付いてますか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「そうですか・・・」

 

会話が途切れ、手持ち無沙汰になったシンは周囲を見渡す。

色々な資料があり、散らかってる箇所はかなり散らかっている。

とりあえず分かるものだけ念力で動かして綺麗に整頓することにした。

 

「シンさんって・・・本当に優しいですね」

 

「突然だな」

 

軽々と片手で動かしつつ、エルフナインに言葉を返す。

 

「だって、わざわざボクなんかの部屋に足を運んで、今みたいに片付けしてくれますから。もちろん、それは申し訳なく思ってますけど・・・」

 

「それはオレの暇潰しとでも思ってくれたらいい。お前と話すのも良いが、ドジする所は傍から見ると少し面白いしな」

 

「ぼ、ボクだってしたくてしてるわけじゃありませんからッ!」

 

拗ねたように顔を逸らすエルフナインに、笑いながら謝るとシンは立ち上がった。

 

「さて、ある程度は整理したからオレは戻る。残りのシュークリームは時間があったら食べてくれ。無理しない程度に、な」

 

「はい。結局シンさんは食べてませんが・・・」

 

「クリームは食べたからいいだろう。誰もシュークリームを食べるとは言っていない」

 

確かにシンは『手伝ってくれ』とは言ったが、誰もシュークリームを食べるとは言っていなかった。

そしてシンの言葉で思い返したのか僅かにエルフナインが頬を赤めるが、シン自身は気にした様子はなく扉の方へ向かっていった。

 

「あの・・・また来てくれますか?」

 

「あぁ、暇潰しに来る」

 

少し不安そうに聞いてくるエルフナインに、シンは一度視線を向けてからそう答えた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---カレは意外と世話を焼いている。

 

「今日はやけに騒がしいな」

 

「まぁ、そんな日もあっていいだろう。それともどうだ、気分転換にでも今度一緒に出かけるか? オレ的にはもっと外を見て欲しいんだが」

 

「・・・相変わらず不思議なやつだな。貴様は」

 

自然と誘うシンの姿に、キャロルは呆れたように見つめるが、彼は首を傾げるだけだ。

 

「オレは普通だと思うけどな」

 

「オレの錬金術を防ぐお前が普通なら、他のヤツらはどうなる?」

 

「・・・確かに、他の錬金術師に失礼だったか」

 

何百年を生きるキャロルとキャロルの錬金術もだが、そもそもの問題として『普通』は念力やらバリアなど貼れないものである。

中には飯食って映画見て寝るという意味が分からない鍛錬で爆発をかき消したりアスファルトを打ち砕いたり、忍術を使う人外も確かに居るのだが・・・。

 

「オレが言いたいのは、お前の行動は理解出来んということだ。お前がどういった行動をするのか、皆目見当がつかん」

 

「まぁ、オレの行動を読める人物はそうそう居ない。心配しなくとも、キャロルの手伝いは何があってもするさ」

 

シンは近くにある書類を纏め、場所を考えてわかりやすいところに置く。

最重要、重要、少し必要になるかもしれない、と言った感じでいつでも見られるよう綺麗に置いてるのである。

 

「・・・何故そこまでオレの手伝いをする?」

 

「別に深い理由はない。お前と初めて会った時はまさかここまで居着くことになるとも思わなかったし、ここまで仲良くなれるとは思わなかったからな。偶然ってやつだろう」

 

「・・・そうか。だからこそ---かもしれんな」

 

「何か言ったか?」

 

キャロルはシンの言葉に否定することなく、何かを呟いた。シンは聞こえずに聞き返すが、キャロルはただ神妙な顔つきで何でもないと言い、背中を向けて作業するシンに声をかけた。

 

「おい、気が変わった」

 

「ん?」

 

「今度一緒に出掛けてやる。護衛しろ」

 

「分かった。何が来ても守ってやる」

 

シンが思わず、目をぱちくりと瞬きしてキャロルを見るが、少しすると笑みを浮かべてそう言った。

 

「ほら、今日は休め。作業は既に終わった。食事の時間になったら起こしてやる」

 

「・・・そうさせてもらおう。---感謝しておく」

 

素直に従うようにキャロルがドアの前に立つと、油断して聞いていれば聞こえないくらいの声音で呟いて出ていった。

小さく呟くように言われた言葉。素直ではないキャロルらしい上から目線なお礼だが、シンはフッと笑う。

そして何処か思い返すように視線を天井に向け、誰の気配もないところで独り言ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の娘は凄いな。無茶をする所はアレだが、オレの出来る範囲では最期まで彼女は守る。本当の命題とやらも、見つけられるようにな---()()()()。ただ、いつも思うのはオレに頼むのは間違ってると思うんだがなぁ・・・」

 

誇らしく、自慢するような声と否定されるような声が聞こえたような感じがして、苦笑いしたシンは部屋を出ていった。

---その部屋の中には、()()()()()が輝いていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---何かと尾行が多い。

 

「・・・」

 

「・・・はぁ」

 

錬金術で姿が変わっているように周囲の人々には見せ、外を歩くキャロル。その傍をシンが珍しくフードを付けずに護衛するように歩いていた。

しばらく話しながら目的地に向かって歩いていたのだが、ふとキャロルが頭が痛いとでも言うようにこめかみを抑える。

ちなみにだが、シンには本来の姿として認識出来ているので自身より身長の低い少女が突如ため息を吐いたようにしか見えない。

理由は分かっているので、なんとも言えない顔をするしかなかったが。

その理由は---

 

 

 

 

 

「マスターは何をしてるんだゾ? 楽しいならあたしもしたいゾ!」

 

「静かにしろ、聞こえるだろうがッ!」

 

「師匠、ずるいです。私も前にしましたけど・・・」

 

「私まだしてないのだけど・・・。アークさま、私ともしてもらわないと・・・」

 

「マスター、楽しそうですね」

 

「ででで、デートですか・・・! ち、知識としては知ってますけど、世間では男女が一緒に出掛けたり、逢い引きするものだと・・・!」

 

「地味だな・・・。派手に動きたいものだ」

 

騒がしいからである。一応、認識阻害は貼られているのか一般人は気づきすらしない。

それでも錬金術師として実力が高いキャロルとアークゼロの力を持つ二人にはバレバレな尾行である。

 

「・・・アレは尾行する気があるのか?」

 

「気づいてないフリをしてやれ。というか、何故エルフナインまで来てるんだ?」

 

「・・・知らん」

 

純粋な疑問をシンにぶつけるキャロルだが、当の本人はいらない優しさを見せていた。

---ちなみにだが、結局最後はミカとガリィが騒がしくなってバレ、全員で遊びに行ったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---カレは顔が広い。

 

「アークさま。今日はどうするの?」

 

「そこまで考えてないな。あー、だがそろそろ支援をしに行かないと大変なことになってそうだ」

 

「じゃあ買い物しなきゃ」

 

「・・・いや、アズ。その前に着いてこい」

 

「うん」

 

やることを決めたシンとアズは買い物をするためにショッピングモールに向かおうとするが、アズの手を引いてシンが人気のない路地裏へ入る。

そしてしばらく歩き、角を曲がったとき---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

「おっと・・・気づかれていたのかな、早くに」

 

首元に突きつけられるアタッシュカリバーを見て、一人の男性が両手を挙げて言った。

白いタキシード姿に白い帽子、倒置法を使う独特な喋り方をする男性は---

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の用だ? ()()()。『錬金術師協会』の()()()()がこんなところで油を売っていたら、また()()()()()()()()()に何か言われるぞ」

 

「いやはや、変わらないものだね。キミも。素晴らしいものだ。その力も」

 

「お前がいい加減過ぎるんだよ。学べ。あとオレの力関係なく意外とバレバレだ」

 

アタッシュカリバーを手から削除し、冷たい視線をシンがアダムに向ける。

そんな視線を向けられてもアダムは何ともなさそうに受け流していた。

()()()()()()()()()パヴァリア光明結社の局長である存在であり、()()()()()()錬金術師協会の統制局長、アダム・ヴァイスハウプト。それが彼の名であり、ぶっちゃけると人望も錬金術師としてのセンスもなく、いい加減な上におおよそ組織のトップに立てるような器ではない。組織の長としては無能である。

 

「なんの用? 邪魔しないで欲しいんだけど?」

 

「すまないね。お邪魔だったようだ」

 

「それなら早くどこかに行って欲しいんだけど」

 

「聞きたいことがあったのだよ、なに。すぐに終わることさ」

 

いや、冷たく返すアズに対しても、特に気にした様子を見せないのは大した器かもしれない。

 

「で、なんだ?」

 

「元気か聞きたくてね、キャロルのことを」

 

「あぁ、元気にやってる。むしろ無茶をするほどだ」

 

「変わらないね、何年も前から」

 

「どういうことだ?」

 

「こっちの話さ」

 

本当にそれだけだったのか、アダムはそれだけ言ってこの場を去っていった。

一体何をしに来たのか分からなかったシンは怪訝そうに見つめるが、その内どうでも良くなったのか買い物に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---少女たちは、カレの力が気になる。

 

「邪魔するぞ」

 

買い物を終えたシンは、アズを帰してから、アークゼロとなって侵入を果たす。

もちろん完全に侵入する前には変身を解除してフードを被っているが。

 

「そろそろ尽きる頃かと思ってきたが---」

 

「あ、お兄さんデス!」

 

「切ちゃん、今はダメだよ」

 

「・・・よかった、のか?」

 

「ああ、いつも悪いな。助かるぜ」

 

誰よりも早く金髪のショートヘアーの明るい少女がシンの存在に気づくと、大人しそうな外見をした黒髪をツインテールにしている少女に止められる。

そして一人の男性が大量の袋を空中に浮かせるシンから受け取っていった。

 

「お兄さん、今日は何しに来たデスか?」

 

「見て分かる通り、物資の補充だ。食べ盛りだろうしな」

 

「ありがとう。それと、切ちゃんがごめんなさい」

 

金髪のショートヘアーで、語尾に『デス』と付ける独特な少女が、『暁切歌』。

お礼を言いながら切歌のことで頭を下げて謝ったのが大人しそうな様子の黒髪のツインテールをしている少女、『月読調』。

 

「わ、私まだ何もしてないデスよ!?」

 

「シンさんに突撃しようとしていた」

 

「・・・してないデス」

 

じとーと見つめる調に、切歌は目を逸らす。

そんな光景を見つつ、念力という便利な力で仕分けするシンと両手と目で分けて仕事する一人の男性。

 

「そ、それにしても、お兄さんのそれ、便利そうデスね・・・!」

 

「あっ、逃げた」

 

「逃げてないデース! 戦略的撤退デスよ、調!」

 

「結局逃げてないか、それ」

 

「お兄さんまで!?」

 

ガーンと騒がしい空気を出しながら落ち込む切歌だが、その空間は笑いに包まれていた。そして、本人も釣られるように笑顔を浮かべる。

といっても、シンの場合は隠しているために表情は見えないが。

 

「あぁ・・・それと、これは意外と便利じゃないぞ」

 

「そうなの?」

 

「油断するとこうなる」

 

調も気になっていたのか、視線がシンに向けられる。

シンはその視線を受けつつ、懐からペンを取り出して上に投げた。

手を翳すと、そのペンに赤黒いエネルギーが纏わりつき---

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・怖ぇな」

 

開いた口が塞がらないというように、口を開けたまま呆然とペンを見つめる二人。

男性は少し頬を引き攣らせていた。

 

「まぁ、人間にやってもなるんじゃないか」

 

「ぜ、絶対しちゃダメデス!」

 

「色々な意味でダメ」

 

「分かってる」

 

必死にダメだと言う二人に、シンが苦笑いしながら二人の頭を撫でて落ち着かせる。

実際、彼は今までも人間に対して向けたことは無い。向けたことはあったとしても、守るための加護みたいなもので念力ではない。

他にもノイズに対しては似たようなことを向けたことはあったが、それでも吹き飛ばす程度だ。

とにかくにも、彼は色々と顔が広いしその力は軽々と扱う本人からは感じさせないほど危険なのである---。

 

 

 

 

 

 

 





〇亜無威心
ついに百仮面ライダー合になってしまった。やはり変わることの無い運命か・・・。

〇アズ
デート(?)邪魔されたら怒るよね、仕方がないね。

〇キャロル・マールス・ディーンハイム
だいたいシンくんに対するツン、デレの割合は6/4くらいだと思います。

〇オートスコアラー
なんだかんだで仲良しだし楽しそうでなによりです。

〇アダム・ヴァイスハウプト
おや、アダムの様子が・・・?

〇男性
二期からのレギュラーです(大ヒント)

〇きりしら
この二人楽しいせいで書いてたら止まらないようになるから困る。


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戦姫予測しないシンフォギア


※総集編で出てきたキャラクターは本編には出ません。予め言っておくと、本編終了後に出す予定のキャラです。遅くなりましたが、誤解されてもアレなので今言っておきます。

今回も同じく『しない』となります。二期の構想を考え中なのでこれを最後に多分期間空くと思います。アンケート通りに日常編として『しない』を投稿してもいいんですけどね・・・。




◆戦姫絶唱しないシンフォギア

 

 

---フルボトル

 

「そういえば、惣一おじさんだけベルトやアイテムが違いますよね」

 

「あぁ、僕と亡は()()()()()()()()()()()()()()()()()を使うからね。確かにマスターとは違うかも」

 

「マスターはフルボトルとやらを使うと言っていたな」

 

「まぁ、お前たちとは製作者が違うからなァ。ちなみにフルボトルの製作者は俺だ」

 

二課の装者と仮面ライダーたちは休憩中なのか、響の言葉から始まった。続くように迅、翼が呟くと惣一がとんでもないことを言った。

製作者が惣一だというのだから、一同は驚いたのである。

 

「へぇ、確かに。なんか、ウサギと戦車があったり、ドラゴンがあったりするよな。後はロボットとクロコダイルと蝙蝠か?」

 

「なになに? 私に調べさせてくれるの?」

 

「うわ、フィーネ!? 何処から現れた!?」

 

「クリス、今の私は櫻井了子よ」

 

奏の言葉を聞いて何処からか来た了子は、興味深そうにフルボトルを見ていた。

クリスは驚いてしまうが、了子に注意される。

 

「そう言われても・・・なぁ」

 

「あはは、分かるよ」

 

微妙な表情をするクリスに、迅が同調する。

二人からしてみれば、櫻井了子としてではなく先史文明期の巫女、フィーネとして居る時間の方が圧倒的に長いのだから仕方がないだろう。

 

「まぁ、今は良いけど私の正体を知らない人が居る時はお母さんとでも呼びなさい。それよりこれは何を意味するの? ウサギと戦車・・・繋がりがあるようには見えないけど。せいぜい多産であるウサギに比べて、戦車は『兵器』として命を奪うことくらいかしら」

 

さらっと重要なことを言っているが、クリスと迅のことよりも好奇心が強いのかフルボトルのことを惣一に対して了子は聞いていた。

 

「おっ、ビンゴ! 簡単に言えば、フルボトルというのは有機物と無機物。その命を奪うもの同士がベストマッチになってるというわけだ。と言っても、例外は数多く存在するがな」

 

「なるほどね・・・興味深いわ。見た限り、私の知らない物質を扱ってるようだし、うーん。探究心が刺激されちゃうわねぇ」

 

「勝手に抜け出して何をしているんですか・・・。行きますよ」

 

「あ、ちょっと!? 亡ちゃん。私はまだ聞きたいことが---」

 

「了子さん・・・抜け出してきたのか」

 

「あはは・・・」

 

亡に連れていかれ、姿が見えなくなった了子に呆れる奏と苦笑いする響。

 

「あれ、惣一さん。でもこれは違いますよね。似てるけど、他のとは違う・・・」

 

何故か当然の如く居る未来が、他のボトルとは違うボトルに触れる。

それは、エボルボトルである。

 

「あぁ、これは俺の変身用だ。他のは俺が使うようなものじゃねぇからな。一応言っとくと、お前らは危険だから間違っても変身しようとするなよ」

 

「危険? 変身するとどうなると言うんだ?」

 

「最悪死ぬ」

 

そもそもの問題としてエボルドライバーが()()()()扱えないのだが、惣一は聞いてきた翼にさらっと答えた。

聞いた瞬間、みんなの表情が引き攣ったのは当然であろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ハザードレベル

 

「そういえば、お前たちは何の負担もなく扱えるんだな」

 

「あぁ、何故か分からないけどね」

 

「渡された時に、()()()()調()()()()()()()とは言われましたが・・・」

 

「人間用? じゃあ本来は人間が扱うものじゃないってことかい?」

 

いつの間にか了子を連れていった亡が来たが、ちょうどよかったと惣一が訊く。

そして答えた迅と亡の言葉に、奏が反応した。

 

「さて、どうでしょうか・・・一応私のもとで解析してますが、見事にロックされています。それを解くとなると、これについて何の知識もない私には・・・」

 

「それは仕方がありません。それより何の負担もなく・・・ということはマスターには何か?」

 

亡でお手上げなら、どうしようもないだろう。そもそも、了子と亡はシンフォギアや他のことにも集中しないと行けないし、メンテナンスぐらいしか出来ないのである。

あとは、ギャラルホルンにも注意しなければならないのはあるだろう。

 

その事情から翼が疑問を惣一にぶつけていた。

 

「俺は問題ないんだがな。本来俺のベルトを扱うにもハザードレベルというものが必要だ」

 

「ハザードレベル?」

 

「って、なんだよ?」

 

未来とクリスが首を傾げる。

というより、全員が首を傾げていた。

 

「仮面ライダーに変身するために必要な数値だ。ハザードレベルが上がることに俺は強くなれるということ。その二人にはないみたいだが・・・ハザードレベルを身につける方法は知らない方がいい」

 

「名前の通り、ゲームのレベルアップみたいな感じなんですね」

 

「響ちゃんにはその方が分かりやすいか」

 

「私、そんなバカじゃありませんよ!? って、え? な、なんで皆無言になるの〜!?」

 

バカじゃないという発言に、何とも言えない空気になった響は大声を挙げた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆予測しない。

 

---カレは理解するのが難しい。

 

 

「お兄さん!」

 

「切歌か。どうした?」

 

ここはある大型ヘリ。

本来は見つけることも入ることも難しいそこへ、シンは遊びに来るような感覚で今日も侵入した。とんでも要塞であるシャトーですらキャロルの許可無しで侵入出来る彼に、セキリュティなど意味無いのである。

そんな彼は、早速物凄い勢いで飛びついた切歌を受け止めていた。

子供を落ち着かせるように彼女の綺麗な金髪を撫で、優しい声音で訊く。

 

「聞いてくださいデス!」

 

「何をだ?」

 

「私、分かったんデスよ!」

 

切歌が何を言いたいのか来たばかりで分からないシンは、首を傾げるしかない。

そんな彼の姿に何故か切歌は渋るように空白を開けたのち、ついに口を開いた。

 

「---デザートは別腹ということデス!」

 

「・・・そうか。分かって良かったな」

 

「えへへ〜♪」

 

渋るようなことでもなかったのでは? という思考がシンの脳裏を巡るが、彼は褒めるように頭を撫で続けた。

それに気持ちよさそうに撫でられる切歌だが、間違いない---シンは思考を完全に停止させていた。とりあえず褒めておいたらいいだろう、みたいな思考である。

そもそも、シン自身はご飯とデザートは別腹と思っていないため、彼には理解できない。膨大な知識が女性はデザートを別腹扱いするという傾向が多いと訴えてくるが、甘いものが好きの人も別腹扱いするらしいので中々難しい話である。

 

「あ、私はプリンを食べてくるデス。・・・お兄さんもどうデスか?」

 

「オレは良いから食べて来い。だけど食べ過ぎには注意な」

 

「デェス!」

 

返事するような声とともに騒がしく、それでいて明るさ全開で元気よく、楽しそうに離れていく切歌。

そんな彼女を見送りながら、困窮していた頃を思い出したシンは苦笑いしていた。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンさん」

 

「うおっ。どうした?」

 

気がつけば背後に立っていた姿に僅かに驚くが、彼は新たに来た人物に対応する。

新しく来た少女は、先ほどの元気いっぱいな少女に比べて大人しめの少女。調だ。

 

「シンさんはどっちが好き?」

 

「悪い、何がだ?」

 

これはまた唐突な質問で、彼はまたしても首を傾げるしかない。

そもそも、今の一言で判断出来る存在は心が読める存在しか不可能である。

 

「こっちか、こっち」

 

そんな彼は、調の言動に頬を引き攣らせた。

そう、ノイズを生身で倒せる力を持ち、念動力を操ることやバリアを張ることでノイズを吹き飛ばしたり攻撃を防ぐことが出来るのが、シンという存在。

なおかつアークゼロに変身することで装者や仮面ライダー、完全聖遺物の攻撃すら防ぎ、戦える存在。さらに最強とも呼べるほどの予測能力を持つ彼が、だ。

それだけではない---ここに来て、彼は初めて冷や汗をかきながら動揺していた。

一体、そんな人外なバケモノ相手に、調は何を見せたのか。彼がここまで焦る理由とは---

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちのワンピースは、可愛くて良さそう。でも、こっちのラッフルフリルの襟付きブラウスとスカートも良さそうだし、お洒落」

 

服だった。

彼は服で今までの戦いよりも焦っていた。もはや戦った者が居れば唖然と見てしまうほど、彼は内心で焦っていた。

調が見せたのは、ピンクのシンプルだがリボンが付いているノースリーブのワンピース。そしてラッフルフリルの袖付きブラウスは黒色で、スカートは明るそうな桜色のスカート。

しかも、調本人はどちらも良さそうと思っているのである。

これは誰もがとは言えないが、漫画や小説、物語によくある展開。

もしかしたら経験することもあるであろう、最悪ともいえる難しい究極の選択肢---デートでありがちな、『どっちが似合う?』だ。選択を間違えれば相手を傷つけ、不機嫌にしたり、機嫌を損ねる場合がある。

シチュエーションが違うとはいえ、膨大な知識力を持つ故に、彼にはとても難しい選択肢。

一応彼の名誉のために言わせてもらうが、普段から同じ服を着てる彼はファッションセンスが皆無な訳では無い。興味がないからであって、服装は基本的にアズかセレナに選ばれるからである。無論、ちゃんとパーカーの下は選ばれた服を着ている。

しかし、そんな彼であってもこれは難しい。とてつもなく難しいのだ。そもそも女性の服についてまったく分からなくてキャロルに相談しようとしたぐらいである。そのような彼が判断出来るはずもなく、これなら切歌に付き合った方が良かった、と後悔するレベルであった。

 

「服か・・・。何故オレに訊くんだ?」

 

「切ちゃんやマリア、マムに訊くより、シンさんの意見が聞きたい」

 

「いや待て。同性は無理でも、異性はオレ以外にいるだろう」

 

「私、シンさんに聞きたいの。ダメ?」

 

必死に誰かに投げ出そうとするシンだが、調は折れない。むしろ不安そうに見つめてきた。

だが、実は彼は意外とお人好しなのである。人類の敵がお人好しという時点で意味分からないが、キャロルや他の明らかに面倒臭い連中と関わりを持ったままでいるほど、お人好しなのである。しかもここへわざわざ変身して侵入し、変身解除してから物資を届けるほどお人好しなのだ。

もう人類を見極めるとかいっていた人物とは思えないだろう。

 

「・・・分かった。満足するまで付き合うよ」

 

「本当? じゃあこっちで選んで」

 

「・・・ん?」

 

手を掴まれ、連れていかれるシンは自身の言葉を思い返していた。

そして後悔する。これ、選択を間違えたのでは、と---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにシンは全力で切り抜けたのだが、今までの戦闘よりも疲れ切って今晩は泊まったらしい。

残念ながら、人類の敵でアークゼロに変身する彼にも女性のファッションというものはなかなかに強敵のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---少女たちは、カレの正体を知らない。

 

「ん? 今日も来てたのね」

 

「あぁ」

 

やってきたのは、猫耳のような特徴的な髪型をしたピンク髪の女性。

『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』といい、デビューから二ヶ月ほどで米国チャートの頂点に昇りつめた気鋭の歌姫である。

そんな彼女と話してもなお、シンは何も表情を変えない。

 

「あ、マリアも来たデス」

 

「もういいの?」

 

「えぇ。マムとの話は終わったわ。それより、何をしていたの?」

 

テーブルを囲むような形で、切歌と調、シンが座っている。

それについて聞きたいのだろう。

 

「さっきまで勉強を教えて貰ってた。シンさんの教え方、分かりやすいから」

 

「やっと終わったところなんデスよ・・・」

 

何処か嬉しそうに言う調に対し、切歌は思い出すだけで疲れたのか、テーブルに顔を伏せる。

 

「そう・・・ありがとう。二人の相手をしてくれて」

 

「別に高校生までの問題なら分かるからな。気にしないでいい」

 

「貴方、幾つだったかしら」

 

「十六・・・だと思うが。オレも分からん」

 

「・・・しっかりしてるのね」

 

年齢の割に、全然しっかりしているシンを見てかマリアは苦笑を零す。

と言っても残念ながら本人は高校に通っているから年齢を多分、で言っただけで正確な年齢ではない。というか、本人は年齢すら知らないのである。

それでも高校生三年生の問題までなら全て()()()()()の力なしで解けるのが彼であった。もはや高校に行く意味が無さすぎるくらいだ。

 

「そうデス! そもそも、お兄さんって何者なんデスか!?」

 

「オレか?」

 

「あ、それは私も気になる」

 

顔を上げた切歌が、シンに問うと調も興味津々と言った感じで見つめる。

 

「そう言われても、オレはただの超能力者なだけでお前たちと変わらないぞ。マリアとナスターシャ教授にもそう説明してある」

 

「えぇ。確かにそう言われたわね」

 

「それにしては・・・」

 

「うん、()()()()()()()()()()()()()のデス!」

 

じーっと自身の姿を見て見つめる切歌と調に、シンは困った表情をしながら考え込み、思いついたように口を開いた。

 

「まぁ、そういう特殊能力もあるんだよ」

 

「くっ・・・!」

 

「マリアがダメージを受けた・・・」

 

「大丈夫デスか!?」

 

「切歌・・・貴女はまだ若いから分からないわ」

 

「いや二十一歳は若いだろ。何言ってるんだ・・・?」

 

「シンさん。女性に年齢の話は、禁句」

 

この場で一番歳上なのが、マリアである。

そんな彼女が姿は変わらないなんて聞いたら当然ダメージを軽く受けるわけで、若いと言い放つシンに調が注意していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---記憶の行方。

 

 

「最近夢を見る?」

 

「はい・・・」

 

ここはシャトーにある一室。

そこには、キャロルとシン、セレナが居た。

いつも通り、キャロルは赤いワンピースを来ており、同じくシンは黒いパーカーを。

セレナはベージュ色のノースリーブに黒いリボンを蝶結びし、青色のミニスカートを履いていた。

 

「どういった夢だ?」

 

「えっと・・・」

 

相談のような形でセレナと話しており、キャロルは場を無言で見つめるだけで今は一言も発していない。

そして言いにくそうなセレナにシンは待つことにしたらしい。

 

「色々なことなんですが・・・一番記憶に残るのは見覚えがないのに、聞いたことのある、懐かしい声と歌が聞こえるんです。それに・・・」

 

「それに?」

 

「・・・とても、怖い夢を」

 

「そうか」

 

思い出すだけで怖いのか、僅かに体を震わせるセレナ。

シンはただ一言だけ言うと、彼女の頭を撫でながら抱きしめた。

 

「怖い夢なら、誰しも見る。オレだって怖い夢は見る」

 

「シンさんも・・・?」

 

「当たり前だろ? あいにく、オレの精神は大丈夫でも体は休む必要性があるからな。キャロルも同じだし、アズもそうだ。だから怖いなら傍に居てやる。寝れないなら、今日でもオレか別の人の部屋に行くといい。少しでも安心出来るだろう」

 

まるで子供を宥める親のようにシンはセレナを撫でていた。

セレナはそのお陰か、体の震えが止まっていた。

 

「・・・二人の世界に入るのは良いが、オレの居ないところでやってくれ」

 

「なんだ、キャロルも怖い夢を見るならやろうか?」

 

「いらんっ!」

 

キャロルが疲れたようにため息を吐くと、シンが揶揄うようにキャロルに対して言っていた。

キャロルは怒声とも言える声で拒否するが、セレナは思い出したように顔を赤くしながら抜け出す。

 

「す、すみません・・・ありがとうございます。えっと、その・・・もう大丈夫ですから、私先に行きますね!」

 

「あぁ」

 

早口で捲し立てるセレナに、シンは微笑を浮かべながらセレナを見送る。

そのままセレナが居なくなると、シンの表情は無表情へと変わっており、キャロルに関しても同様だった。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何時まで隠し通すつもりだ」

 

「・・・なんのことだ?」

 

キャロルは僅かに睨むようにして、シンを見つめていた。

見つめられた本人が浮かべる表情は、無表情。しかし瞳の中には悪意なんかではなく、心配といったものが含まれている。

そんな彼は、キャロルの言葉に誤魔化すように口元に笑みを浮かべた、のだが---

 

「惚けるな。ヤツの()()()()()()のは---お前だろう? シン。記憶を消せる存在なんて、お前ぐらいしかおらん」

 

「・・・」

 

キャロルは、容赦なく言葉をぶつける。

シンは図星なのか口元の笑みは消え、真剣な表情となってキャロルと向き合う。

 

「オレは記憶が無くなる辛さというのは一番理解しているつもりだ。お前がやってることは、アイツの為でもあまり褒められたものではない」

 

「・・・あぁ、だろうな。記憶ってのは大切なデータだからな。オレだって好き好んで記憶を消した訳じゃない。お前はオレが好き勝手に記憶を弄ってることを言いたいんだろ? 目的のためでもなく、ただの私情でやってることを」

 

僅かに感情が込められたキャロルの言葉。そんなキャロルに対するシンの返答に、キャロルは無言で示す。

つまり、肯定。

 

「だが、記憶を消すしかないだろ。セレナはまだ・・・精神が成長しきっていない。もし()()()()が蘇ると、どうなるか分からないんだ。特にこの結果を知れば、な」

 

投げるように、キャロルに何らかの報告書と思われしきものを二冊の束で渡すシン。

それを見たキャロルは、目を通してから苦い表情をした。

 

「・・・これは、お前が調べた資料か。確かにこれの通りならば、そうだろうな。だがあの様子では時間はあまりないぞ」

 

「分かってる。その時はその時だ。どうせいつかは知らなければならない---特に、本人は『セレナ』という名前以外に記憶はないが、本当はたった一人だけ家族がいる。その人のためにも、な。彼女は彼女の道を往くべきだ。その時が来たら、出来る最低限はやる」

 

「お前なりに考えがあって、か・・・。ならオレが口を出すのは野暮だな。こればかりはオレもお前もイレギュラーなことだ。シン、貴様の力---()()()()()()()出来事なんだろう?」

 

「・・・あぁ」

 

キャロルの言葉に、シンは頷く。

彼の力---そのひとつが予測能力。つまりは()()()()()()()()()()()()()ということに等しい出来事。

それが記載されているのが、キャロルが持つ紙。それに示される数多くある文字の中から一番、()()()()()()()()()()()()文章を引き出すなら---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『セレナ・カデンツァヴナ・イヴは()()()()()()()()

 

『セレナ・カデンツァヴナ・イヴは()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 





〇石動惣一
ラビット、戦車、ドラゴン、ロボット、クロコダイル、コウモリ、このフルボトルを使う者が誰か分かれば、エボルトのビルドネタということが分かるゾ。

〇フィーネ
ママにジョブチェンジでもしました?
フルボトルは気になるよね、仕方がないね。

〇暁切歌
あぁ^〜マジかわ。かやのんはいいぞ・・・。切ちゃんもいいぞ・・・。

〇月詠調
調たそもいいぞ・・・。ナンジョルノ(南條)さんもいいぞ・・・。
でも服は作者が女性じゃないのでマジ難しいからあんまり描写したくない。

〇セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
最近になって記憶の欠片を見ることが多くなっている。忘れていたが、本人は実は『セレナ』という名前しか知らない。

〇キャロル・マールス・ディーンハイム
何気にアズを除くと、一番アーク(シン)さまを理解したり知っているのは彼女だったりする。


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G編 フロンティア事変
第一話 ソノ胸に宿った違和感



おまたせしましたー。構想考えてるとか言っておいて結局考えずに投稿になりました! わーい! これもアマプラで配信されたジョジョが悪いんだ・・・ジョジョ書きたい(真顔)
とまあ、それは置いておいて私が投稿していない間によく参考にしてる作品がXDUとコラボしていたり、リバイス面白すぎて草だったりトリガーようやく面白くなってきたけど内容難しいなーだったりしましたけど、ようやく二期です。二期は一気に駆け抜けたいですね・・・。そして多分中盤にアークワン出ます(ネタバレ)というか二期に絶対出します(揺るがぬ意志)
今回は何気に初めての仮面『ライダー』要素がありますよー。
では本編どうぞー。ちなみに三週間前くらいに受かっております()






先史文明期の巫女、フィーネが荷電粒子砲カ・ディンギルによって月の破壊を目論んだ事件、『ルナアタック事変』から三ヶ月後---。

 

降りしきる豪雨、夜空を照らす雷鳴。

暗闇に満ちた世界を駆ける1つの列車があった。

その列車は軍事用装甲列車であり、現在は『ソロモンの杖』を米国連邦聖遺物研究機関と共同で研究が行われる事が決定し、 特別輸送列車にて岩国の米軍基地に搬送される予定である。

 

本来その列車は安保理や条約によって縛られる日本国内での使用例は少ないが、日本政府が自衛隊とは別に保有する数少ない武器を搭載した列車だ。

日本国内の数少ない使用例の大半は重要物資等の輸送。

重火器を保有し、大抵の攻撃であればびくともしない装甲を持つこの列車にはうってつけの任務だろう。

ただしそれが通用するのは人間相手であり、いくら弾丸の雨が襲いかかっても、ノイズ相手には意味はなく、列車は襲撃されている。

 

だがそれに対抗するためにか、乗っているのは護衛者を守るために米国の精鋭部隊に所属する部隊とノイズに対抗するために二課からシンフォギア装者として立花響、雪音クリスが乗っていた。

そしてもう一人、仮面ライダーに変身することが出来る迅が乗っている。友里あおいも乗っているが、彼女は本部の報告を伝えるためだ。

そんな彼女たちが護衛するのが、『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』通称ドクターウェル。

米国の連邦聖遺物研究機関から出向してきた生化学を得意とする研究者で、その学歴はかなりの物。櫻井理論解析に携わっている研究者でもあり、天才というべき存在だ。

 

「まったく・・・なんでオレがやらなきゃいけない?」

 

そして彼、アークゼロはそんな列車とキャロルから貰った情報に目を通しながら今回は情報をジャミングしてないのもあり、襲ってくるノイズを倒す訳には行けないことから無視して避けながら列車を見つめている。

彼がやることはせいぜい列車を見失わないようにしつつ自身の存在を気付かれないようにすることだが、こんな暗闇の中でただでさえ黒いボディを持つアークゼロなど装者に見つけることは不可能だ。

まあそもそもの問題として、実はこの犯行はドクターウェルの仕業で、ソロモンの杖を衣服の下に隠し持ってこの襲撃を自作しているということを彼は知っていたりする。抱えているアタッシュケースに何も入っていないことも。

 

 

『仕方がないだろう。オレは動けないんだからな』

 

「だと言っても、バイクくらい支給して欲しいところなんだが」

 

『持っていると思うか?』

 

「免許持ってなさそうだしな。自分で生成するとするか」

 

そう言った彼は何者かと会話をしつつ、ベルトから自らバイクを作り出した。それだけでは意味が分からないが、彼は武器やらアイテム、あらゆるものを生成することが可能なのである。

アークゼロはバイクに跨がうと、エンジンをかけて早速かなりの遠い距離から列車を追う。

正直なところ、アークゼロが出せる速度ならば別にバイクに乗る必要はないが、一応列車を超えることなく近づきすぎることもないようにするためにバイクに乗っているので、選択は間違っていない。

 

「それで、米軍が扱うルートや正規ルート以外の密輸ルートで聖遺物や欠片、医療物資などの大量の物資を搬入しているんだったか」

 

『ああ、数日の滞在にしてはあまりにも膨大な荷物だ。何よりも、隠してまで搬入する意図が分からん。きな臭いウェルとやらがどうなろうが良いが、装者に負傷されでもしたら計画に支障が出るかもしれん』

 

「まぁ・・・確かにセレナは目立つし、オートスコアラーでも無理か。それにオレなら見られても怪しまれはするだろうがソロモンの杖を狙ってると思われるだけで済む。記憶だって改変すれば問題なくなるし、そういうわけだな?」

 

『そういうことだ。・・・貴様を信頼してなければ任せん』

 

「ん? ・・・念話(テレパス)でも声が聞こえない時があるのか。悪い、もう一度言ってくれ」

 

『なんでもない。とにかく、装者のことは任せたぞ』

 

「あぁ。といっても、オレの出番はなさそうなんだが」

 

人間では捉えるのが不可能なほど離れている距離で列車を追うアークゼロの視線の先には、シンフォギアを纏った装者が対応しており、空を飛ぶ仮面ライダー迅の姿がある。

しかし飛べるのは迅だけなのもあり、多くいる小型ノイズの殲滅は時間がかかりそうだ。

その間にも何やら装者の二人がコンビネーションがあれば、だったり未完成のとっておきがあるやらフィーネ戦で発動させたエクスドライブがあればモタつかないみたいなことがアークゼロには聞こえていたが、装者は閃光を出す高機動な戦闘機型のノイズに苦戦しているようだ。

残念ながらアークゼロはバイクで追っていても簡単に目で追えるし一発で消し飛ばせるため、特に脅威に感じない。

 

『何も無ければそれでいい』

 

「そうか。っと、ちょっと待て。結論を予測した---なるほど、トンネルという閉鎖空間で、相手の機動力を封じた上で、なおかつ遮蔽物の向こうからの重い一撃、か。しかも電車の連結部を壊して利用。考えたな・・・キャロル、どうやら大丈夫のようだ。そっちに帰る」

 

トンネルに列車が入っていく姿がアークゼロから見えたが、彼は納得したように呟くと変身解除と共にバイクを消し、トンネルに入ることなく見つめた。

キャロルからは了承の念話が届いたが、最後まで見守るつもりなのか帰還はまだしないようだ。

そして---

 

フライングディストピア!

 

「さて、帰るか」

 

どうやら迅の拳と響による一撃がノイズを殲滅したようだが、シンは手を翳してバリアを貼ると、電車とノイズをまとめて消し飛ばしたであろう衝撃による爆発を防ぎながらテレポートジェムを地面に叩きつける。

すると、彼は傷一つ負うことなくシャトーに帰還した---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

風鳴翼と天羽奏によるユニット、ツヴァイウィングとマリア・カデンツァヴナ・イヴの今夜限定の合同ライブをやるらしく、世界各国の首都を中心に生配信もされる大イベントがある。

 

「〜♪」

 

そんな中、今回の主役の一人であるマリアはステージのセットが行われている様子を鼻歌を歌いながら眺めていた。

 

「いつになく落ち着いているようだな」

 

鼻歌を歌うマリアに話しかけながら背後に立って同じく眺める一人の男性が居た。

 

「そんなことないわよ、()。何せ今日は私たちにとって大切な日。失敗は許されないんだもの」

 

「それもそうだな」

 

マリアに滅と呼ばれた男性は、これからやるべきことを反芻するように目を伏せ、隠してある刀に触れる。

 

「聖戦の時は、近い」

 

滅がそういったのと同じタイミングで、マリアの携帯に連絡が一つ入った。

 

『こちらの準備は完了。サクリストSが到着次第、始められる手筈です』

 

「ぐずぐずしてる時間はないわけね?」

 

聞こえてきたのは、一人の女性の声。

マリアは立ち上がり、答えた。

 

「OK、マム。世界最後のステージの幕をあげましょう」

 

『任せましたよ』

 

それを最後にマリアはマムと呼ばれた女性との通話を切る。

 

「どうやらあの男は上手くやれたようだな」

 

「ええ、私たちも行きましょう」

 

「ああ、そうしよう」

 

マリアの言葉に滅は頷き、歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

夕焼けの色に照らされる街。その影のある場所に一つの車両があった。

その中に居るのは、一人の初老の女性と白衣を着た男性、見た目的に高校生くらいの二人の男女である。

片方は黒いパーカーを着てフードで顔を隠しており、まあ言わずともシンである。

ということは、もう一人は当然ながらアズとなるのだが、彼女も顔を隠していた。

 

「流石は世界の歌姫『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。大盛り上がりですな」

 

「しかし、彼女の歌を持ってしてもアレを起動させられないのは事実です」

 

褒め称える男に、女は塩辛く対応する。

 

「やれやれ・・・。しかし、貴女も意地汚い。彼女にとって忌々しいあの聖遺物を起動させるなんて事を・・・」

 

「そうでもしなければ、世界を救えません」

 

男の言葉に車椅子に座る女が冷酷に答えたとき、モニターに一つのメッセージが届いた。

曰く、『Sl ()Vis Pacem,(平和を欲せば)Para Bellum(戦いへの備えをせよ)

 

「ようやくのご到着、ずいぶんと待ちくたびれましたよ」

 

女はその顔に笑みを浮かべ、男はくつくつと小さく笑い声を上げた。

フードを被る男性と仮面で表情が見えない女性はそれを見ると、車両からこっそりと出ていく。

ある程度距離が離れ、聞こえないところまで離れたシンはアズに問いかけた。

 

「・・・目的は知っていたが、アークゼロであることを明かせばどういう手段を取るのかは明かしてくれたのか?」

 

「無理ね。まずアークさまの力が下手すると利用されるわ」

 

「それはダメだな」

 

シンは疑問を傍にいるアズにぶつけたが、彼女の言葉に即座に言えないことを悟る。

そう、彼は一応スパイみたいな立ち位置で『協力者』としているのだが、あいにくどんな手段を取るのかは話されていないので知らない。

目的くらいは話されてはいるが、流石に作戦にそこまで参加する予定のない者には全てを教えることは出来ないのだろう。

まあ彼もアークゼロに変身出来ることは隠しているし、そもそも知るものはいない。

せいぜい正体を知るものはキャロルなど彼と深い関わりを持つ者だけだ。

それは二課ですら知らないのだから。

 

「それにしてもアレって・・・まさか」

 

「えぇ。()()()()聖遺物よ、アークさま」

 

「・・・はぁ」

 

気づいたように声を上げるシンに、アズは答えた。

それを知った瞬間、シンは嫌な予感でも感じ取ったように嫌な表情をしたのだが、アズは気にせずにシンに腕を絡ませながらライブ会場へと向かっていく。

シンはそのまま抵抗することなく、連れていかれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

はぁ・・・と一人の少女が困ったようにため息を吐いていた。

彼女の名はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。またの名をシア。

と言っても、彼女自身は自分で名乗った『シア』はともかく、フルネームは知らないので『セレナ』という名しか知らないのだが。

そんな彼女は色々と悩まされていた。

まず、断片的に思い出す記憶。雑音の影響で上手く聞き取ることも出来ず、また映像は疎らで理解不能。そんな彼女を気遣ってか、一切目的も教えてくれず、協力も手伝いすらさせてくれないシンとアズたち。

そしてもうひとつ---

 

 

「シアちゃん、これでいい? ジュースなんだけど・・・」

 

「は、はい」

 

彼女の傍にいる、小日向未来という存在だ。

別にセレナは未来が嫌いな訳ではなく、未来も何も悪いことはしていない。

ただの個人の感情によるもので、誰も悪くなかったりする。

しかし、彼女の立場になって考えて欲しい。

 

彼女は先日の件で、小日向未来の友人関係である立花響、風鳴翼、天羽奏、雪音クリス等などがシンフォギア装者であることを知ってしまった。

仮面ライダーの方は特に関わりがないのでともかく、彼女自身は装者四人と関係を結んでしまっているのである。

このままセレナがシンやキャロルについて行くならいずれ敵対する。

そんな彼女たちにセレナはどんな顔をして会えばいいのか。

しかも一方的に知ってる分、騙すようになっているため、笑顔で自身を友と呼ぶ彼女たちと会うのは罪悪感も大きい。

仮にこのまま正体を隠しても話したとしても、友人関係である装者たちとセレナは争うことになるのは変わりはないだろう。セレナがシンやキャロルのために戦うのであれば。

 

だが、いずれ戦うことになったとしてもセレナは喜んでしまったのだ。

反発し合う感情に板挟みとなりながらも、セレナは連れてこられた。『Queens of Music』という奇しくもシンたちが向かっている会場を個室化された席---つまり特等席から盛り上がるところを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜それにしてもこんなギリギリでヒナの友達と出会えるなんてね」

 

「本当に良かったですね、せっかく風鳴さんから招待されたのにみんなで来れなければ申し訳ありませんから」

 

「こんなにギリギリだとアニメみたいよね」

 

「あはは・・・すみません」

 

「ううん、気にしなくていいよ。みんな、あの事件でどこも大変なのは知ってるから」

 

あの事件とは、ルナタック事変だろう。

特等席として用意された席に座るのは5人。

小日向未来とその友人である安藤創世、板場弓美、寺島詩織。

そしてセレナの5人。

これだけの人数がいてもまだ余裕があるのだから、セレナはなんとも言えない表情をするしかない。

 

「早く始まらないかなぁ。楽しみすぎてあまり寝れなかったから昼寝して来ちゃったんだよね〜」

 

「分かる分かる・・・私も眠りが浅かったのよね。だから昼寝してきたわ」

 

「み、皆さん同じなんですね。・・・私もしちゃいました」

 

「「えっ!?」」

 

「わ、私だって皆さんと同じことするんですよっ」

 

「いやー・・・詩織はしないイメージが強くて」

 

驚く板場と安藤に、ムクれる寺島。

彼女たちも響や未来の友人であることからか、その場は温かい。

騙していることに申し訳なく思いつつもそんな環境に居たいと願うセレナは、その場から逃げ出すことなど出来ずにただただライブ会場を眺めることしか出来なかった。

 

「うーん、そろそろメインイベント始まりそうだけど、ビッキーから連絡は来ないの?」

 

時間を見て気づいた安藤が未来に聞くと、彼女はスマホを取り出して連絡が来てないか確認するが、連絡は入ってこない。

装者としての仕事の影響で遅れているのだろうと信じる未来は頷いた。

 

「まだ来てないね。このままだと間に合わないかも」

 

「流石アニメみたいな世界で生きてる子ね」

 

「見逃してしまうのはお辛いでしょうね・・・」

 

あの時、フィーネとの決戦の場に離れた位置から見ていたセレナは、彼女たちが装者たちの存在について知っているということはわかっていた。

だが、誰もが心配することなく信頼するその姿に、セレナは何処か眩しく感じ---同時に未来の携帯を見て電話をしていないことに気づいたセレナは慌てて立ち上がる。

 

「ご、ごめんなさい。ちょっとお手洗いに行ってきます」

 

「あ、うん。場所は分かる? 分からないなら私が一緒に・・・」

 

「いえ、大丈夫です」

 

未来の心配をありがたく思いながらその気持ちだけ受け取ってセレナはその場を離れる。

確かに普通の人間と電話する分には離れなくとも問題ないのだが、いくら今まで誤魔化したり隠しているとはいえセレナが電話する相手は『人類の敵』となっているアークゼロ、つまりシンである。

もし何らかの拍子で迷惑をかけたり、正体がバレてしまえば全てが台無しになる。

なったとしても彼なら何とかしかねないが、いくら可能なら装者たちと戦いたくないと願っていても、彼らの目的を壊す訳にはいかなかったのだ。

だからこそ人気のないところで話す必要があったが---ライブがそろそろ始まるのもあって客足が一気に外から中に動き、なかなか人が居ない場所がない。人気のユニットとアーティストがコラボするのもあるのだろう。

このまま客足が止まるのを待っていたらライブが始まるため、何処か良い場所がないか見渡すと、ふと見つけた。

『スタッフ専用』と書かれた通路を。

こっそりとセレナは覗いてみるが、ライブが始まりそうなのもあってスタッフが総動員で準備に取り掛かっているのだろう。全く人気は無く、きっと問題ないだろう。

そこでセレナは周囲を見て、此方を誰も見てないことを確認すると少しの迷いの後に中に入る決断をした。

 

「本当は入っちゃダメなんでしょうけど・・・少しだけ。ごめんなさい」

 

小さく謝り、その道に入って駆けていく。

---ただ、彼女は知らない。その先に行くことによって、一つの、自身に深く関わりがある出会いがあることを---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「・・・ふぅ」

 

これから自身がやることを思い返すと、緊張しているのを自覚した。

いや、そもそも今から私がやることは誰だって緊張するはずのことだ。

世界を敵に回す---言葉に言葉にすれば呆気ないが、実際はとてつもない事である。

全てが敵になるのだ、その恐怖は考えれば考える程に恐ろしさを増していく。せいぜい、孤独じゃないだけマシと言えよう。

その点、アークゼロという存在の凄さも今の私にはよく分かっていた。

周りは敵だらけ。味方はいるかどうかは分からないが、ノイズ以上の脅威とすら言われており、これからの計画にとって私たちが一番現れて欲しくない相手でもある。

なんでも、アークゼロは人類の敵とされているのに今でも活動しているというのだ。

きっとその正体はとても心身共に強くて、長年生きているのだろう。その強さは、羨ましくも思う。

だが、そんな弱音なんて吐いていられない。全てはこの日の為に用意されてきた。

歌姫マリアも、フィーネとして演じる自分も、全ては今から始まる全ての為に。失敗は許されない。許されることは、無い。

 

「・・・そうよ」

 

思い返すのは、あの惨劇の日。

暴走するネフィリムを止める為に絶唱を奏で、自身にとって全てだった最愛の妹であるセレナが亡くなったあの日。

亡くなった妹よりもネフィリムを心配し、誰もが妹に目を向ける事さえ無く、やっと目を向けたかと思いきや、貴重なサンプルを失ったとだけ語った大人達に怒りを覚えたあの日。

この世に正義だけでは守ることの出来ない物が存在すると知ったあの日---。

 

ポケットから取り出したのはーーー()()()()()()()()()()()のペンダント。

此処に来る前にマムから手渡された。

これにはシンフォギアとしての機能はなく、作戦に取り組むことは無いからお守り代わりに持ちなさい、と優しい言葉と共に渡されたペンダント。

 

「お願いセレナ・・・私に貴女のような勇気を・・・」

 

祈るようにそっと握ったペンダントから、当然何も帰ってこない。

家族としてのお世辞なしでも心優しい彼女は私がやろうとしていることを許さないだろう。

それでも、進むしかない。永遠に恨まれることになっても、セレナみたいな犠牲者を減らすために---

 

「マリアさん! そろそろお願いします!」

 

部屋の外から聞こえてきたスタッフの声に、覚悟を決める。

これから始まるのは歌姫としてのマリアが終わり、フィーネとして演じるマリアの始まり。

歌姫として過ごしてきた日々が名残惜しいが、私は止まれない。

歌姫としての最後のステージ。せめてそれだけは悔いのないように終わらせよう、そう胸に想いながら部屋の扉を開けた。

 

「・・・?」

 

ふと聞こえてきた通路を駆ける音。

別に何かを感じたわけでも、何かを見つけた訳でもない。何気なく、ただ物音に気を取られるのと同じように向かい側の通路を見た---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---え?」

 

目が合った。

()()と目が合い、考えていた全ての思考が飛散して停止する。

私そっくりの色をした瞳を、いつも整えてあげていたあの髪を、見ているだけで癒されたあの笑みを、聴くだけで落ち着かせてくれる優しい歌声を、愛らしいその姿を見て---

 

 

 

 

 

 

 

 

---紛うことない私の妹である、セレナ・カデンツァヴナ・イヴの姿が私の瞳に映った。

 

 

 

私だけは忘れない、見間違えるはずない、何度後悔したことか、何度代われればと願ったことか、何度もう一度会えたらと思ったことか。

セレナを守らないといけないという想いだけで辛い研究施設での生活に耐えて耐えて耐えて---失った。

燃え盛る炎の中、ネフィリムの暴走を止める為に絶唱を奏で、血を吐き、血涙を流し、傷つきながら、()()()()()()セレナの姿がこの胸に刻まれた、最後の姿。

手を伸ばそうとして、向かおうとして、届かなかった・・・。

私の手も、体も、近づくことすら出来ずに、彼女の姿は壊れゆく実験場の瓦礫で()()()

助けることが出来たのに、ほんの少しの勇気を振り絞れば向かうことが出来たのに。

あの子は、最後の最後まで私を信じていたのに、家族である私が行けなかった。

静まり返ったあと、岩をどれだけ退かして探してもなお---残っていたのはセレナが残したと思われる破損したギアのみだった。

 

 

『マリア、どうしたのです。そろそろライブの時間ですよ』

 

突如聞こえたマムの通信。

それにハッとした私は開いた部屋を即座に出て見渡す。しかし、見えたはずの彼女の姿は何処にもなく、私は焦りながら周囲を見渡す。

スタッフらしき人物が不思議そうに見つめてくるが、今は気にしている暇はない。

 

「マムッ! 居たの・・・! あの子が---セレナが、セレナが確かに居たのッ!!」

 

『・・・なにを---何を言っているのですか。マリア、そんなはずがありません。それは幻---』

 

「そんなこと・・・ッ! だって、だって確かに---ッ!」

 

最後に見た時と姿()()()()()()()()()()()()けれど、あれは幻なんかじゃなくて、セレナだった。

原因は分からない。でも、あの姿は、あの目は、間違いなく私にとって大切な一人の---

 

 

 

 

「マリア」

 

ふと肩を握られ、驚きで体をぴくりと震わせた私は即座に振り向くと、滅が見ていることに気づいた。

 

「・・・お前の妹は、既に死んでいるはずだ。死人が蘇るなんてことは、ない」

 

「・・・ッ」

 

そう言われて昂っていた感情が一気に冷静さを取り戻した。

切歌と調、そしてマムと一緒に()()()()()()()()粗末な墓を作ったあの日を、思い出す。

泣き崩れる調と切歌を、声も無く静かに涙を流すマムを。セレナの死を受け入れられずに、粗末な墓の前でただ涙を流し続けるしか出来ない無力な自分を。

 

『その通りです、マリア。これから成すことを前に緊張するのは分かりますが、彼女はもう居ないのです。貴女にどれだけの負担を掛けているか理解していますが、あの子の死を無駄にしないためにも私たちは遂行しなければなりません』

 

・・・そうだ。第一、セレナが生きているなら、彼女はもっと成長していないと()()()()。それはつまり、幻だったのだろう。きっと追い詰められていた精神が生み出した、偶然。これからやることへの罪の意識。

そう思うことする。そうしないと、私は立ち上がれなくなる。

 

「・・・ごめんなさい。ステージに向かうわ。滅も悪かったわね」

 

「構わない。お前たちが抱えているものは知っているからな。俺も配置につく」

 

滅の言葉に頷いた私はスタッフたちになんでもないと言ってから案内に続く。

そこから先に待つのは、歌姫マリアの最後とフィーネとしてのマリアの始まりの道---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「ば、バレなかったでしょうか・・・」

 

そして彼女、セレナは冷や汗をかいていた。

誰も居ないと思って走っていたら、思い切り関係者であろうライブの衣装を着ていると思われる女性と目が合ったのだ。

その瞬間に全力疾走で走ったが、追われることはなかった。

動いていなかったため、スタッフじゃない人間が通っていたのに驚いたのだろう、とセレナは考えた。

 

「と、とにかくシンさんに居場所を伝えないと・・・」

 

全力疾走したのもあって、乱れる息を深呼吸して落ち着かせる。

特に、目が合った時はどうなるか分からなかったため、緊張もあったのだから落ち着く意味ではちょうどよかった。

良かった、はずなのだが---

 

 

 

 

「・・・?」

 

セレナは自身の胸に手を当て、複雑そうな表情になる。

モヤモヤとした、何か。知らない人と目が合っただけなのに、今まで感じることのなかった違和感。

何処か()()()()()に似てるようで、見たことあるようで---

 

「もしかして、有名な方らしいですしチラシかどこかで見たんでしょうかね?」

 

彼女は、記憶にあるものからそう納得させた。

言ってみれば、あのような人が描かれたポスターがあった気がすると頷き、呼吸を正常に戻したセレナは今度こそ周囲を見渡して誰もいないことを確認すると、隠れるように横通路に身を潜めて携帯を取り出した---

 

 

 

 

 

 

 

---ただ一つ、決して消えることのなかった胸に残る何かを抱えながら。

 

 

 

 

 





〇あーくさまとアズちゃん
もう鋭い人はいきなり察してそう。『しない』が大ヒントゾ。

〇滅
滅パパです。Vシネやる予定だけど、今思えば滅亡迅雷メンバーたちは本編後に出してもよかったかもしれない。
衣装は本編後のやつ。

〇マリア・カデンツァヴナ・イヴ
うっわ、つっら

〇セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
誕生日おめでとう。でもこれは・・・暗くなりそう・・・?
あと(有名すぎて能力とかバレるから)やりたくなかったけどファウストローブの名前、変えます・・・。性能は変わらないので悪しからず。
変更前→ヌアザの剣
変更後→クラウ・ソラス


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第二話 三つ目の撃槍


うーんやばい。早く終わらせないとリバイスに先行かれそうだ・・・。面白いけどね?
それよりもお待たせしました。二週間ぶりの投稿です。感想が200行きそうですねぇ! うれしー! 新規の方もどの話数でもバンバン送ってくれたら気にせずに返すので遠慮せず送ってくださいな。
というか、今思ったけど私の小説のアークさま、とことんチートですね・・・。一応無双しないように対策はしてますが(装者いらないだろ展開を避けてる)





「すみません、迷っちゃって遅れてしまいました・・・」

 

「あぁ、やっぱり・・・ごめんね。着いて行った方が良かったよね」

 

「広いから仕方がありませんよ」

 

結局通話することが出来ずに諦め、何とか元の座席に戻ることが出来たセレナは謝る。

そんなセレナに未来たちは気にした様子を見せずに逆に申し訳なさそうにしてくるため、セレナは慌てて手を横に振って否定する。

一方で既に会場の明かりは暗くなり始め、それに合わせて客席のボルテージが上がっていく。

それを見たセレナはとりあえず席につき、子供のように目を輝かせてペンライトを振る板場にライブとはそのようなものなのだと誤解し、見様見真似で小さく振り始めた。

 

「・・・あ」

 

そんな時、ふと声を漏らす。

風鳴翼と天羽奏。ツヴァイウィングの二人を見て、思わず出てしまったのだ。

一度一緒に遊んだことがあり、自身を友と呼んでくれた人たちでもある。

そしてもう一人、『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』が現れていた。

たったの数か月で全米チャートにランクインし、今や世界の歌姫として

活動している有名な人物である。

結構話題になっていたのをセレナは今更朧気に思い出していた。

 

そんなふうにセレナが三人の存在を思い返していると、日本のトップアーティストであるツヴァイウィングと世界の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴによる今夜だけのライブが始まりを告げた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

『協会は関係を切った---いや、向こう側から切ったようだな』

 

「だろうな。オレが日常品の物資は送っていたし、必要なくなったのだろう。こっちはよく分からなかったが、()()()()()()()()()フロンティア計画という単語が出てきた。流石にバレずにやると一瞬すぎて関係ある単語を一つ抜き出すしか出来なかったが・・・」

 

()()()()()関係しそうな単語をひとつでも抜き取っただけでもおかしいのだが、おかしいと思う人は居ない。というより、おかしいと思ってはいるが何を言っても出来たとしか言えないので無駄だと諦めている。

 

『それだけでも十分だ。引き続き装者の監視を頼む。・・・気をつけろよ、お前はいつ狙われても可笑しくない』

 

「分かってる。オレの力を盗んでも意味ないと思うがな」

 

キャロルが忠告したのはアークとしての力だろう。それを分かっているのか、シンは顔を顰める。

彼の持つ力は確かに強大であり、キャロルや結社と関わりを持つことから分かるかもしれないが、結社に入っていない錬金術師や内通者やら裏切りをする者がいるわけで、彼の力を狙う存在は当然いる。

なぜなら錬金術師にとっては魅力的な力だ。錬金術師じゃなくとも、街を軽々破壊出来る力は犯罪者や復讐を願うものは魅力を感じるだろう。当然結社としては()()()()()『良い関係』として居るためにもシンの警護をしていたりもするが、必要なかったりもする。アダムの指示ではあるものの、警護するなら結社の近くに居る時や依頼の時だけにしてくれ、とシンが言ったのである。

まあ彼の()()に負ける時点で警護なんて当然必要ないし錬金術師や他の者が奪えるはずもなく、逆にどう奪うのか気になるくらいだが。

生身に勝てたとして、そもそも変身後のアークゼロに『普通』は勝てないだろう。アークゼロを超えるほどの圧倒的な力を持つ者や予測能力を潰せるほどの大火力を放てる者ならば、勝てるかもしれないが。

 

「アークさまの力は簡単に扱えるものじゃないからね〜。もし奪おうものなら死ぬと思うけど」

 

「まぁ、錬金術師は表に出てこないだろう。そういう情報はないんだろ?」

 

『あぁ。そんなことする暇があるなら実験とかしているだろうな。今回の件に突っ込むやつは居ないと見ていい。そもそもそんな奴が居れば、アダムのやつが動いてるかもしれんが。とにかく頼んだぞ』

 

その言葉を最後にキャロルとの念話が途切れる。

そこでシンは悩むように頭に手を当てながら天井を見た。ライブ会場なのもあって、天井は遠い。

 

「さて、アダムは・・・たぶんサンジェルマンたちが苦労してるだろうから同情はするとして、今はこの場合どう動くべきか・・・。裏切りが居たら協会側は自身で対処するだろうし、問題はこっちだ。オレの正体を明かしてないから動きづらい、ことだな・・・。明かしたら余計に動きづらくなるだろうし、うーん・・・」

 

「応援に向かう?」

 

「悩ましいが・・・そうだな。エボルトが居なければ生身でも対処出来る。調や切歌たちが心配だし、ちゃんとマリアと合流させるために援護に行くか」

 

色々と悩んでいたが、これでも協力者という扱いなため、シンは調たちがいるであろう場所に向かっていく。

三人の歌姫の歌を聞こえる中で熱狂に包まれるライブ会場を、二人は後にした---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

三人の歌姫による歌が聞こえる。

それはライブ会場だけではなく、配信されている世界各国にも聞こえており、全世界の人々を魅力していく。

ある者は歓声をあげ、場を一緒に盛り上げ、またある者はコラボライブを見れた感動にか涙を流し、またある者はただ見惚れ---まさに多種多様。

子供大人関係なく、あらゆる者を、世界中を魅力するライブと言えよう。

 

だが---ナスターシャだけはその歌声を暗い面持ちで聴いていた。

 

「マリア・・・」

 

彼女の視線の先にはステージ上で歌を奏で、本心から楽しそうに見える---いや、本心から楽しいのだろう。

歌姫マリアは偽りのために生み出された偶像。計画のために作り出されただけに過ぎない偽の立場てあるにも関わらず、全力で心の底からマリアは楽しんでいた。

そう思うと、ナスターシャには罪悪感が沸く。

何故なら今から行うことは、彼女からそんな楽しみを奪うこと。

それだけではなく、彼女はこれから毎日、悪として後ろ指を指されることになるだろう。

マリアだけではなく、調や切歌、優しい人たちですら---。

 

---きっと、その重圧と負担がマリアに幻を見せたのだろう。

 

「セレナ・・・」

 

過酷な研究所での生活。

その環境に適応する為に誰もが心を殺していくあの地獄の中で、セレナは心優しく純粋な心を持ち続けた。

争い事を嫌っていた人が争いを行うようになったり、他人を心配する余裕もなく自分だけで精一杯の子供たちが居た中、セレナだけが違ったのだ。

彼女だけは変わらずに争い事を嫌い、他人の為に手を差し伸ばし、自身が辛くても心配させまいと笑顔を忘れなかった---。

シンフォギアを纏えると分かった時も、同じだ。

争う事を嫌っているのに、戦いにギアの力を用いることに抵抗があったのに、この力で誰かを守れるならと進んでシンフォギアを纏う道を選び、そして彼女は()()()()()()()の暴走を止めるために---

 

「・・・私達大人はなんて無力なのでしょう・・・」

 

子供に頼るしかなく、厳しく当たる度に子供たちの辛そうな泣きそうな顔を見るしかなかった、毎日。

それでも彼女には、世界を相手にした過酷な使命を達するためには厳しくするしか選択肢はなかったのである。

 

ナスターシャは幾多も思い、考え、嘆いた。

この身がシンフォギアを纏えるのであれば、あの優しい子たちが犠牲になるなんてことはなかったのに、喜んで彼女達の代わりとなったのに、それは大人の自分たちがやるべきことなのだと。

だが現実は、これである。ナスターシャには無力感に支配されながらも、頼るしかない。シンフォギアを纏えない者にはそうするしか、ないのだ。

それに彼女の身に巣食う病魔が、彼女の命を日々刈り取ろうとする。

 

---もし私が死んでしまったら、あの子達に罪を残して、去ってしまうだろう。全てをあの子達に押し付けて去ってしまうこの身の弱さを、大人として最低な行為であると実感しながら。

 

無力感に支配されるナスターシャの唇から噛み締めた影響か血が溢れ、彼女は零れる血を拭う。

 

「・・・それでも、成さねばならないのです」

 

そう、もう止まれない。

人間というのは、一度行動に移してしまえば、やるしかないとなれば、止まれない。止める者が居るなら別だが、止めてくれる人は居ない。

彼女たちは正義だけでは救えない人々を、力ある者だけが救われる間違えた世界を正す為に、成さねばならないのだ。

例え身が朽ち果てようとも、例え地獄に落ちようとも、挫折することなく必ず成さねばならないのだから---

 

「マリア、聞こえますか。計画を予定通り始めます」

 

---それ故に、始めるしかない。人類を救うための残された選択肢を果たすために。

優しい子達を間違えた道に引き摺っていると理解しながらも、ナスターシャは計画始動をマリアに伝えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「---了解したわ、マム」

 

計画始動の合図を受けたマリアは聞こえないよう小さな声で呟き、それと共に覚悟を決める。

今から始まるのは全世界を敵に回す行為。

愚かであったとしても、進むべきではないと分かっていたとしても、一部の権力者だけが救われ、残りは切り捨てられる。

そんな間違った世界を正す為に、1人でも多くの人間が救われる道を進むため---

 

「---そして、もうひとつ」

 

歌姫マリアが終わり、フィーネとしてのマリアが始まる。

 

---さようなら、私。

 

歌姫マリアとしての別れを告げた彼女は、手を振るう。

彼女だって、作戦の為に偽りの歌姫としてステージに立ったとは言えど、楽しくなかったわけじゃない。歌が嫌いなわけじゃない。彼女の歌やパフォーマンスで、ライブを見て、楽しんだり盛り上がってくれるオーディエンスたちもいる。その姿は彼女にとっても嬉しかった。

それでも、誰かがやらねばならない。誰かが行動しなければ、守れるものも守れない。誰か一人でも、行動に移さなければならないのだ。

 

 

突如として観客席にノイズが出現する。

その瞬間、観客席は悲鳴、怒号、叫び声---パニック状態に陥る。

奏と翼が突然のノイズの出現に呆然としているなか、会場に満ちた歓声は何処かに消え、マリアはパニックになっている観客を鎮めるための言葉を紡ごうとし---

 

 

観客席の中では際立って目立つ特等席。

来賓や関係者、高いチケット代だけを払える人物のみが座れるその席に再び、誰かと一緒に座る妹を見た。

 

---やっぱり、貴女は私を止めるのね。許してはくれないのね。だけど・・・私は許して欲しいなんて言わない。そんな甘えたことを言う資格は、ない。だからこそ、永遠と罪を背負うことになっても、せめてこれ以上は貴女みたいな人は出さないから。

だから---

 

 

 

 

 

 

 

「---狼狽えるなッ!!」

 

その言葉を叫んだ瞬間、パニック状態となっていた会場が一気に静まり返る。

マリアはふと特等席を一瞥すると、居たはずの幻が姿を消したのを認知した。

そしてマリア自身は誰に伝えたのだと自虐しながらも今度こそ完全に覚悟を決める。後戻りが出来ない道へと---。

 

 

 

 

マリアの一喝と周囲にノイズがいるからか、観客の人たちは恐怖しながらも襲う意思がないのもあって身動きを取らないでいた。

その時、隠すように着けていた首の衣装を取る事でギアを纏うためのペンダントを出し、奏と翼がマリアの隙を探る。

 

「怖い人たちね。この状況にあっても私に飛びかかる機を窺ってるなんて」

 

奏と翼は、歴戦の戦士ともいえるほどに戦闘を行ってきた。

だからこそ、大胆不敵に佇むマリアの動きを睨むように見ていたのだが---

 

「でもはやらないの。観客(オーディエンス)たちがノイズの攻撃をを防げるとでも思って?」

 

「くっ・・・」

 

「・・・否定は出来ないな」

 

一般人がノイズに触れた瞬間、炭化してしまう。仮に今ここでシンフォギアを纏ったとして一般人に触れられる前に倒せるかどうかと言われれば、不可能だ。

二人居たとしても間違いなく犠牲者が出てしまう。

だからこそ迂闊に動くことも出来なければ、悔しがるように歯噛みするしかない。

 

「それに---」

 

マリアが会場に取り付けられた世界中のニュースを映すモニターに目をやる。

 

「ライブの模様は世界中に中継されているのよ。日本政府はシンフォギアについての概要を公開しても、その装者たちについては秘匿したままじゃなかったかしら? ねえ、天羽奏さん、風鳴翼さん?」

 

挑発的なマリアの言葉に、翼が毅然と返す。

 

「甘く見ないでもらいたい。そうとでも言えば、私が鞘走る事を躊躇うと思ったか!?」

 

「例えバレることになっても、見捨てていい命なんてないからな!」

 

その手に剣型のマイクを向け、悠然と答える翼。

それに続くように奏も答える。

 

「貴女たちのそういう所、嫌いじゃないわ。貴女たちのように誰もが誰かの為に戦えたら、世界はもう少しまともだったかもしれないわね」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

「どういう・・・!?」

 

切実そうに語るマリアに対し、言葉の裏が分からない翼と奏は困惑するしかない。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・貴様は一体・・・」

 

「そうね、そろそろ頃合いかしら?」

 

先程の様子は何処へ行ったのか、いつもの口調と様子に戻ったマリアは手のマイクを軽々と回転させて掴み取り、口元に近づけた。

そしてマイク越しに宣言する。

 

「私たちは、ノイズを操る力を持ってして、この星の全ての国家に要求するッ!」

 

高らかに告げられるマリアの言葉。

その言葉に、誰よりもマリアの近くに居た翼と奏は驚愕の表情を浮かべる。

なぜならそれはまるで---

 

「世界を敵に回しての交渉・・・!?」

 

「宣戦布告・・・!!」

 

そう、世界を敵に回す宣戦布告だ。

 

「そして---」

 

それだけではなく、マリアは手に持つマイクを天高く上げ---

 

 

 

 

 

 

さらに、聖詠を歌う---。

 

「---Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた情熱)

 

「まさか・・・!?」

 

「この聖詠は・・・ッ!」

 

会場に響き渡った聖詠。

瞬間、ライブ衣装に身を包まれたマリアの体が黒い鎧を纏い、黒いマントを靡かせた世界の歌姫。

その姿は二課が持つものと同じ『シンフォギア』。

これ以上ないと思われるもうひとつの、いや、三つ目の---

 

「黒い、ガングニール・・・!?」

 

「なんでガングニールが・・・!?」

 

二人が茫然となる中、ガングニールを身に纏ったマリアはマイクに口元を近づける。

 

「私は---」

 

そしてマリアは高らかにその正体を告げた。

 

「私たちは()()()()! そう・・・『終局(終わり)』の名を持つものだ!」

 

今、世界を賭けた新たなステージが開かれるのと同時に、正義と正義がぶつかり合う戦いの幕が、あがる---

 

 





〇サンジェルマンたち
たぶん所長の忘れたものや盗まれたやつを取り返してる。たまにシンくんが手伝ってるよ! 実は原作みたいに(人を)殺ってないです。

〇ナスターシャ
この人どうやったら生存させられるんだろ、と作者は考えてる。
本人はめっちゃ辛い。
悲しいけど、これが現実なのよね




さて、最後にお知らせというか宣伝です! 今回のお話短いのでそれの代わりみたいな。
まず、本作失踪しないので安心してくださいとだけ言って新作小説読んでくださあああああい!(※予約投稿時には投稿していないため、0時にこの小説を開けた方は反映されてない可能性があります)

https://syosetu.org/novel/272371/


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第三話 偽善と正義と


ついにオーズ完結編ですねぇ! CSM再販してくれぇ!!
ちょっと見直すのもありかもですね! 是非ともまだの方は映像作品のみならば、オーズ本編(泣く)→運命のガイアメモリ(重要)→CORE(覚えてない)→単独映画(オーズのテーマを表してる)→お祭り(特別見なくてもOK)→MEGA MAX(重要)→Final(薔薇生える)→Forever(重い)で見てください!

えー、そしてすみません。ちょっと本編行く前にこれだけ言わせて頂いてもいいでしょうか。答えは聞いてないんですけど。
えっとですねぇ---









やっべえ詰め込みすぎた!(アニメ丸々一話分&約二万字)





 

 

 

黒いガングニールを纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

その存在は、この場にいる翼や奏以外にも二課の面子全員を驚かせていた。

 

『我ら武装組織『フィーネ』は、各国政府に対して要求する』

 

マリアは全世界へ報道されている中継に向けて告げる。

 

「そうだな・・・差し当たっては、国土の割譲を求めようか?」

 

「馬鹿な・・・・」

 

「一体何を考えてるんだ・・・?」

 

その行動に、翼と奏は呆然と立ちすくむ。

 

『もしも二十四時間以内に、こちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう』

 

「一体どこまでが本気なのか・・・」

 

『私が王道を敷き、私たちが住まうための楽土だ。素晴らしいとは思わないか?』

 

「アイドル大統領・・・ってか?」

 

「何を意図しての騙りか知らぬが・・・」

 

奏はマリアの意図を探るように見つめている中、翼がその手のマイクを握り締める。

 

「私が騙りだと?」

 

その言葉にマリアはマイクを使わずに応じる。

 

「そうだ! ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろ!」

 

そう叫び、翼が聖詠を唱えようとする。

それに気づいた奏は慌てて翼を止めた。

 

「---Imyuteus amenohaba---ッ!」

 

「翼ダメだ! この状況で纏ってもただ被害が増える!」

 

「でも・・・!」

 

もちろんシンフォギア装者としてバレることは芳しくない。だが何よりも、奏の言う通り支配権は相手にあるのだ。仮にシンフォギアを纏って戦ったとして、相手がノイズを一斉にでも動かせば翼と奏は為す術なく大勢の観客が炭化---つまりは死んでしまう。

 

冷静に見極めていた奏はそれを理解しており、だからこそ止めるしかなかった。

翼自身も理解をしているのか理解はしているが、行動に移せないことに歯噛みする。

そんな時、一つの通信が二人に入った。それを聞いた二人は気づかれないように頷き合うが---

 

『会場にいるオーディエンスたちを開放する!ノイズたちに手出しはさせない・・・速やかにお引き取り願おうか!』

 

「なっ!?」

 

「何が狙いだ!?」

 

マリアの予想外の言葉に奏と翼が驚く番だった。

 

 

 

 

 

 

 

---もう一方で、マリアの方にも通信が入っていた。

 

『何が狙いですか? 此方の優位を放棄するなど筋書きにはなかったはず。説明してもらえますか?』

 

その厳しい口調に、マリアは装者に聞こえないよう小さな声で答える。

 

「このステージの主役は私・・・人質なんて、私の趣味じゃないわ」

 

『血に汚れる事を恐れないで』

 

強い口調で、相手が言う。しかし暫しの沈黙の後---

 

『・・・ふう、調と切歌、そして()を向かわせています。作戦目的をはき違えない範囲でおやりなさい』

 

「了解、マム。ありがとう」

 

その言葉を最後に、マリアはマムとの通信を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

マリアがオーディエンスたちを解放する少し前。

 

「ちょ、ちょっとシアちゃん!?」

 

セレナは困惑する未来の手を取って走っていた。

背後から聞こえる戸惑う未来に構うことなく、板場、安藤、寺島の全員が一緒に付いてきてるのを確かめ、会場の出口へと駆けていた。

 

---ノイズが自然出現したとすれば、出来すぎている・・・。つまりこれは何者かが狙って行動したこと・・・。シンさんはこれを知ってる? それとも知らない? 恐らくマリア・カデンツァヴナ・イヴという人と何者かはノイズを操る力を持っている。それはソロモンの杖を何らかの理由で所有していると暗に表しているということ---。

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴの言葉に示し合わしたかの様な演技染みた出現の仕方。ノイズを操る力を以て全世界に対し国土の割譲を要求した生放送映像。

その二つの要因を考えると、ソロモンの杖の存在を知るものならば、簡単に辿り着けることの出来る答え。

 

ソロモンの杖は二課が所有していたはずなのをセレナは知っているため、それを理解したセレナは無意識に唇を噛み締めていた。

どういう経緯で盗んだかは分からないが、必ず荒事になったのに違いはない。そしてきっと犠牲が出たということも---。

 

「皆さん、あと少しで出口ですッ!」

 

しかし、セレナには今は戦うことは出来なかった。どれだけ怒りを抱こうが、この危険な状況から彼女達だけでも脱出させる為には自分が離れてはならないと理解したからだ。

しかし出口に近づくに合わせて、見えてきた光景に思考を中断せざるを得なくなった。

 

「はぁはぁ・・・どうしたの---ッ?」

 

セレナは未来の疑問に静かに、口に指を当て言葉なくそう伝えると同時に関係者でもない自分たちが唯一知っている出口に向かうための道を指差す。

そこには、ノイズが居た。

脱走防止の見張りだろうか? 数こそ少ないがノイズが数体確認できる。

セレナの背後からは息を飲む声が聞こえるが、それも当然だ。

数こそ少ないがあそこにいるのはノイズ。

人類だけを殺す事だけに特化した認定特異災害ノイズであり、ただの人間が敵うような相手ではない。ましてや、何の武器も持たぬうら若き少女たちにとってはよりそう思えるだろう。

---この場に、ノイズと戦える術を持つ者が居なければ、だが。

ファウストローブ、シンフォギア、ノイズに対抗出来る力としてこの二つを持つセレナにはそれが可能だった。

だが、仮に纏う場所を見られてしまえば、いずれキャロルやシンについて辿り着くかも知らない。

ならば、セレナにすることはただ一つ---

 

一度深呼吸したセレナは小さな声で伝える。

 

「皆さん、私が囮になって時間を稼いでいる間に逃げてください」

 

そんなセレナの言葉にいち早く飲み込んだ未来は、誰よりも早く返した。

 

「そんな危ないことさせられないよ。囮なら私が・・・」

 

危険だと分かっているはずなのに、自ら志願する未来。セレナは言いたいことを理解してから一度目を伏せ---覚悟を決めたように目を開いた。

 

「・・・私の連絡先です。未来お姉さん、ごめんなさい」

 

「え・・・」

 

ふとメモ用紙にペンを走らせたセレナはそれを未来に押し付け、謝罪と共に自らノイズに向かって走り出した。

 

「---ッ! ノイズの皆さん! こちらですッ!!」

 

大声を出し、自らに視線を集める。

一人の標的を見つけたノイズたちは一瞬で標的を捕捉し、ノイズの群れがセレナに襲いかかる。

かかった、と見れば未来たちが居た逆方向へと駆け出し、ノイズの群れを引き寄せていく。

 

「シアちゃんッ!」

 

その場に残ったのは、届くことのなかった手を伸ばした小日向未来の手と手に握られたメモ用紙。

そして動くことの出来なかった己の無力さと守られるしかない己に対して怒りと後悔。

 

(どうして・・・? 私に力があれば、力があったなら、守る事が出来る力があれば、今も昔も力があったら誰かを守ることが、大切な人たちを守ることが出来たのに。もう()()()()()()()()誰かを失うことはないかもしれないのに・・・)

 

---小日向未来の胸中にはその想いがより強く芽生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

一方で、世界中の視線に晒されている奏と翼を開放するために緒川は奔走していた。

彼女たちがシンフォギアを纏えないのは中継が行われているからであり、それは二課の者はみな理解していた。

 

だからこそ、それを阻止するために走っていた緒川だったのだが、ふと見えた人影に避難出来てない人がいるのかと思った緒川は時間がないと理解していながらもそちらへと向かった。

 

「やっべえアイツこっちにくるデスよ!」

 

小声で耳打ちする金髪の少女は、『(あかつき)切歌(きりか)』。

 

「大丈夫だよ切ちゃん。いざとなれば・・・」

 

そんな切歌に対して胸のペンダントを取り出して見せる黒髪ツインテールの少女が『月読(つくよみ)調(しらべ)』。

 

「待て。ここで騒ぎを起こしたら意味がねぇだろ。ここは穏やかに対応するしかねぇな・・・」

 

「でも、どうするの? 雷さん」

 

そして調に雷と呼ばれた成人してると思われる男性がもう一人いる。

 

「そりゃあ・・・何とかするしかないだろ」

 

「と、とにかく仕舞うのデス!」

 

まさかの全くの考え無しの発言に一度時間が止まったように固まるが、だんだんと近づいてる気配を感じたため、切歌が調が手に持つペンダントを慌てて仕舞わせると---

 

「どうしたんですか!?」

 

「うぇえ!?」

 

そうこうしている間に緒川に見つかる。

 

「早く避難を!」

 

「あーえっとデスね~」

 

切歌がどう言い訳しようかと考えていると、何故か調が緒川をじーっと見つめているため、切歌が体で隠す。

 

「あー・・・実は道に迷っちまって今から避難しようとしていたんだよ」

 

切歌が調の行動を防いでいる間に雷が誤魔化そうと嘘を言い放つ。

 

「そうでしたか・・・。では案内しますから一緒に行きましょう」

 

「い、いやそれはあんたにも迷惑が掛かるだろ」

 

「そ、そうデス! 私たちのことは気にしないで平気デスよ!」

 

しかしその嘘は逆効果である。

二課の職員たちはお人好しの集まりだ。そんな彼らがあっさりと見捨てるかどうかと言われれば---否である。しかも道に迷ってるということは道が分からないという証明なのだから。

 

「いえ、ですが---」

 

当然緒川も二課の一員であり、エージェントであることから彼女たちを何とかして出口へ連れていこうと言葉を述べる---前に新たな声が響いた。

 

「まだ避難が終えてない方が!?」

 

若い男の人と思わしき声が聞こえ、足音が二人分聞こえてくると、出てきた男の人が緒川に近づく。

そして男の人がちらりと切歌たちを見て、再び緒川を見つめた。

 

「この方たちは私が案内しますから、貴方はお先に」

 

「あなたは?」

 

「ただのアルバイトです。上からの指示でお客様の避難を誘導しろと言われて探していたら、見つけたんです。一般人である私にはこれくらいしか出来ませんが・・・場所は全て記憶してます。ノイズがまだ居ない道から行きますからお任せ下さい」

 

突如現れた男性の姿に緒川は聞くと、その者はアルバイトだという。

若さからして高校生くらいで服装も受付などの方と同じような服装なのだから、間違いはないのだろう。

 

「・・・分かりました。ここはお任せします。でも、気をつけてくださいね?」

 

「はい」

 

緒川は急いでいるのもあり、関係者であるなら大丈夫だろうと判断して男の人に任せるとその場を走り去っていった。

その姿を横目で男性は見つめ、完全に居なくなったのを見ると切歌たちに視線を送る。

 

切歌たちは結局何も変わってないことに気づき、調が言ってた通りに武力行使するしか---などとか物騒なことを諦めて考えていた。

 

「え、えっとデスね・・・? 私たちのことは気にしなくて---」

 

「うん、平気」

 

「あぁ。あんたも先に避難してくれ」

 

しかしながら出来る限り穏便に済ませたい三人は説得をしようと試みると---突如として男性の姿が黒いモヤに包まれる。

 

 

「意外と気づかれないものなのね・・・」

 

男性が黒いモヤに包まれている間に、ゆっくりと出てきた女性が隣に立つと、三人は誰が見ても分かるように動揺する。

 

「お前は・・・アズか?」

 

「ということは・・・」

 

「もしかしてお兄さんデスか!?」

 

女性の正体に雷が気づいたように声を出すと、二人はその隣にいる男性のことについて大声で驚き、男性を包んでいた黒いモヤは消えるのと同時に黒いパーカーを着たシンが姿を現した。

 

「正解だ。演技するのは初めてだが、意外と行けるものだな」

 

「気づかなかった・・・」

 

「デス・・・」

 

「・・・素顔見たことない俺には分からねぇよ。さっきは声も違ったしな」

 

そう、今のシンは珍しく素顔である。基本的には顔を隠していたりフードで隠していたりするのだが、今回は何も無く白髪と赤い瞳が思い切り見えていた。

 

「ふふん、シンさまの素顔はとてもかっこいいでしょう?」

 

「久しぶりに見たから覚えてなかったデスよ・・・」

 

「でも、確かに整ってる。かっこいい・・・と思う」

 

何故か胸を張ったアズによって、褒められたりして会話が何処かへ行きそうな雰囲気になっているのが分かったシンはため息を一つ着くと、額に手をやって注意する。

 

「・・・ほら、早く行け。装者たちがもう少しで到着するぞ」

 

「うげっ、それはマズイデス!?」

 

「悪いな。行くぞ、二人とも」

 

「うん。シンさん、また」

 

「ああ、頑張れよ」

 

慌ただしくマリアが居るであろう場所に走っていく姿を苦笑いで眺めたシンは再び額に手をやると---僅かながら表情を曇らせる。

 

「アークさま、何か悪い予測でも?」

 

「・・・いや、なんでもない。まったく、面倒な役割を押し付けられたもんだな・・・。とにかく、今回のオレたちは基本的には傍観者だ。帰るぞ」

 

「ん、はーい」

 

軽い返事をするアズを一瞥すると、シンは一度切歌や調たちが向かった方とは別の方向を見つめる。

その視線の先には一体何があるのか、それとも居るのか---それは彼にしか分からないが、シンとアズは会場から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「観客は皆退去した。もう被害者が出る事はない。それでも私と戦えないというのであれば、それは貴女たちの保身の為。貴女たちはその程度の覚悟しか出来てないのかしら?」

 

「言ってくれるな・・・ッ」

 

マリアに指摘され、歯噛みするしかない奏と翼。

奏が睨みつけるようにマリアを見つめるが、当の本人は気にした様子を見せない。ギアを纏わないただの人間には負けないという自信からか、それとも純粋に負けないという理由があるからか、それは奏や翼には知る由はない。

 

「・・・フッ!」

 

「翼ッ!」

 

そんな時、まるで抜刀するような動作を剣型のマイクでやり、構えたマリアがギアによって強化された脚力を持ってして翼に突きつける。

奏が呼びかけたの同時に、翼は瞬時にそれを逸らした。

 

「だったらあたしが・・・ッ!」

 

ギアを纏うにはステージ裏に行くしかない。

ガングニールならばステージ裏からでも正体を見られることなく槍で攻撃することは可能。

だからこそ向かおうとし---

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!? 奏ッ!」

 

「うおわぁ!?」

 

マリアの攻撃を逸らしていた翼がふと見えた人影に反応し、名前を叫ぶ。

奏も気づいたようで、手に持つ剣型のマイクで弾くが圧倒的に相手の威力が高かったのか、ステージ内に吹き飛ばされる。

 

「なんだ!?」

 

コンクリートの粉塵が舞い、先ほどまで居た奏の位置にナニカの影が見える。

その影は起き上がると、こちらに向かって歩み始め、姿が見えるようになるとそこには---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スティングスコーピオン!

 

バイオレットをメインに、白銀と漆黒の装甲を衝撃が受けやすい部位のみに集中させた一人の戦士が居た。

さらに腰には見覚えのあるベルトと()()()()()()()()()()()

その正体はまさに---

 

「別の・・・仮面ライダー!?」

 

「・・・ハッ!」

 

何も答えることなく、奏に斬り掛かる仮面ライダー。

その手に持つものは、アークゼロが使っていた武装と同じ弓の形状をした武器---即ち、アタッシュアローだ。

 

「くっ!?」

 

奏は転がるように躱して起き上がると、横目で翼を見る。

その翼は後退しながらマリアの連撃を防ぎ続けていたのだが、突如としてマリアがマントを翻した。

そのまま回転し、そのマントの裾を一陣の刃の如く振るう。

それを剣で受け止めるも、予想以上の切れ味に翼は思わず体を逸らして躱し、バク転して距離を離す。

それでどうにか距離を取るが、その手の剣はマイクだったのもあって折れて使えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中継されている限り、翼さんと奏さんはギアを纏えない・・・!」

 

一方で翼と奏がいるライブを映した中継をヘリで見ながら、響はそう声を挙げる。

 

「僕たちと同じベルト!? 変身者は誰だ・・・? それにアレはもしかしてアークゼロが渡したのか・・・? くそっ! 結局辿り着けないと意味が無い!」

 

「おい! もっとスピードあがらないのか!?」

 

「あと十分もあれば到着よ!」

 

未だ何も出来ない事態に、彼らはただ戦いを見る事しか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奏と翼はマイク型の剣が無くなったために逸らすことが出来なくなり、ただひたすらに剣筋を見極めて下がりながら避けていた。

猛攻を躱しながらも考えていることは同じなのか、互い左右のステージの端に辿り着いて視界にステージの裏側へ続く通路を見つける。

カメラの眼の外に出てしまえば、ギアを纏えると奏は右肩のマントを、翼は左肩のマントを目隠しのように脱ぎ捨てそれぞれに向かって投げる。

そして相手の視界が遮られると同時に、奏と翼はステージ裏に向かって走り出した。

マントを振り払い、それを見たマリアは翼に向かってその手のマイクを投げる。

仮面ライダーの方はマントを斬り落とし、即座に弓形に変形させて奏に対して矢を何発か放った。

翼は飛んで躱し、奏は身を捩りながら跳躍してそのままステージ裏に駆け込もうとする。

しかし踏み出した足の靴のヒールが---折れた。

 

「な・・・」

 

「ヒールが・・・!?」

 

「貴女たちはまだ、ステージを降りる事を許されない」

 

一瞬の動揺。それによって許してしまった、マリアと仮面ライダーの接近。

仮面ライダーの方は変わらず無言だが、奏に対して蹴りを放つ。

寸前のところで腕を挟み込んだが、仮面ライダーの力は常人が防ぎ切れるものではなく、奏は一瞬にしてステージの外へ身を投げ出される。

翼の方はシンフォギアを纏った脚力を横腹に受けることで大きく蹴り出され、ステージから出されてしまう。

そこで二人は吹き飛ばされたのが同タイミングだったのもあり、奏と翼は合流するがノイズが待ち構えていた。まるで二人に群がるように、だ。

 

「!?」

 

「ッ!? 勝手なことを!」

 

それを見て仮面ライダーとマリアは驚き、奏と翼はそのまま重力に従うように落ちていく。

その状況の中、刹那にも満たぬ時間で視線が交差した翼と奏は頷き合った。

それは歌女であることを決別することに、諦めることにしたということだ。

そして二人が叫ぶ。

 

「望み通り聴かせてやる!」

 

「防人の歌をッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---翼と奏が落ちていく最中、突如として映像が切れ『NO SIGNAL』と表示される。

 

「ええ!? なんで消えちゃうんだよぉ!」

 

その瞬間を響たちは見ていた。

響は驚いてテレビの故障かなにかとテレビに齧りつく。

 

「現場からの中継が切断された?」

 

友里が携帯端末を見て、そう呟いた。

 

「待って。二人がギアを纏えなかったのは映像があったからだよね?」

 

「って事はつまり・・・?」

 

「ええ」

 

「え?え?」

 

響だけは唯一分かっておらず、他の者たちは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映像が途切れ、誰も見ることが敵わない中、奏と翼が歌を唄う---

 

「---Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)

 

「---Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

 

光が迸り、その身に夕焼けと蒼き鋼の装甲を纏う。

シンフォギア『ガングニール』と『天羽々斬』の起動である。

 

シンフォギアを纏うことで非装着という弱点を克服し、両翼揃ったツヴァイウイングに恐れるものは何もない。

自らノイズの集団を駆け巡り、その一陣の槍と刃を振るう。

会場を埋め尽くしていたノイズの集団を、洗練されたコンビネーションによって駆逐し尽くしていく。

 

「中継が遮断された・・・!?」

 

そしてマリアは今起きている事態に驚いていた。

奏と翼がシンフォギアを纏うためには世間の視線を断つ必要がある。

だからこそ、その優位性のままにマリアは翼を追い詰めようとしていたが、それが遮断された事によって翼は身軽に刃を振るう事が出来る。

 

 

さらに映像を管理している施設に、緒川はいた。

 

「シンフォギア装者だと、世界中に知られて、アーティスト活動が出来なくなってしまうなんて、天羽奏と風鳴翼のマネージャーとして、許せる筈がありません・・・!」

 

息を挙げて、緒川はそう言った。

そう、彼女たちがギアを纏っても誰にもバレることがなかった理由は彼が動いて映像を断ち切ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして全てのノイズを殲滅後、再び二人がステージの上に立つ。

刀の切っ先を向け、翼はマリアに。奏は槍を構えて仮面ライダーと対峙していた。

翼と対峙しているマリアは笑いながら見つめる。

 

「いざ、推して参る!」

 

「行くぞ!」

 

声を張り上げた奏は先ほどとは打って変わった速度で仮面ライダーに接近する。

 

「来るぞ」

 

「ええ、分かってるわ」

 

冷静に見ていた仮面ライダーは初めて声を発すると、奏の槍を最小限の動きで避けていく。

翼の振るう剣の連撃を躱すマリア。

そして、攻撃の瞬間に生まれた隙にマントの一撃を叩き込んで下がらせる。

攻守優れる随分と使い勝手がいいマント。何より、翼の刃に叩きつけられた一撃に翼は思い知る。

 

「このガングニールは、本物!?」

 

「ようやくお墨をつけてもらった。そう、これが私のガングニール! なにものをも貫き通す、無双の一振り!!」

 

マリアが仕掛ける。

マリアのマントから繰り出される一撃一撃を、翼はその技量をもって凌ぎ、マントを回転させることによる連撃を受け止めながら威力によって一歩ほど下がらされる。

 

「だからとて、私が引き下がる道理など、ありはしない!!」

 

その一方で、奏と謎の仮面ライダーの戦いも熾烈を極めていた。

仮面ライダーとシンフォギアのスペックはそれぞれ別であり、シンフォギアにはシンフォギア。仮面ライダーには仮面ライダー。そんな目には目を歯には歯をのような対策方法が一番良く、少なくとも現状は奏が押されているのは目に見えてわかる。

なぜなら仮面ライダーは元々の決まったスペックと技量。シンフォギアには装者の技量と歌、適合係数が深く関わる。

つまり仮に適合係数が圧倒的にスペックを超えるほどに勝っていたとしても---

 

「コイツ・・・ッ!?」

 

「フッ・・・!」

 

変身者の技量によっては、押されるということ---。

槍と弓の刃でぶつかり合っていると、奏の動きを読んだかの如く突如として仮面ライダーの動きが変わった。

槍を逸らし、すぐさま矢を連続で放つ。それらは全て足元に集中しており、奏は慌てたように上空に高く跳ばざる終えなかった。

そこを狙うのは、弓を引っ張っている仮面ライダーだ。

迅も含め、彼が使うフォースライザーには本来は組み込まれていない相手をラーニングする機能が組み込まれている。それを上手く利用することが出来るのであれば、動きを読むことは容易くなる。

そして---チャージされた矢が弓から離れる。

 

「ぐうぅ!?」

 

刹那の間、ギリギリのところで槍を矢に這わせることに成功した奏は凄まじい貫通力に槍が手から離れそうになりながらも、逸らすことに成功する。

しかし完全に逸らせてなかったようで、頬から一筋の血液を流しながら奏は着地する。

そのまま追撃を---といったところで、仮面ライダーの動きが止まった。

 

『マリア、滅、お聞きなさい。フォニックゲインは、現在二二パーセント付近をマークしてします』

 

マムからの通信に滅は冷静にまだまだ足りないことを捉え、マリアは八十八パーセント足りないことに動揺して隙を見せてしまった。

 

「私を相手に気を取られるとは!」

 

取り出した二対の剣、その柄を連結させて双身刀にするや、掌の上で高速回転。その切っ先に炎を燃え上がらせ、まるで輪入道のように振るう。

そして足のブースターによって床を滑り、一気にマリアに突っ込む。

その回転と炎を纏ったまま、マリアを一刀の下斬り伏せた。

 

風輪火斬

 

それと同時に、動きが止まった仮面ライダーに対して奏が動いた。

 

「今だっ!」

 

「・・・! しまっ---」

 

気を取られていた仮面ライダーは奏の行動に一歩遅れ、槍による下からの攻撃に対して寸前のところで受け止めようとするが、当たる直前で槍の軌道が変わり、弓が横に向けさせられる。

そこに奏の拳が胸に当たり、その隙に槍による連撃を受けて最後の刺突で吹き飛んで床に転がる。

 

「話はベッドで聞かせてもらう!」

 

そして翼は止めを刺すべくマリアに二撃目を叩き込もうとするが---

 

「ッ!? 翼、後ろだ!」

 

「ッ!?」

 

背後から迫る無数の円盤。それらが翼に向かって襲い掛かる。

奏の警告によって翼は立ち止まり、その円盤を火炎纏う双身刀を回転させることで防ぐ。

 

「―――首を傾げて 指からするり 落ちてく愛をみたの」

 

 

α式 百輪廻』

 

歌が、響き渡る。

それは静謐にして過激な歌。

薄紅と黒のシンフォギアを纏った少女の頭部に取り付けられたギアから放たれる無限軌道の鋸。

その少女の背後から、今度はダークグリーンと黒のシンフォギアを纏った少女が鎌を携えて飛び上がる。

そしてその刃を複数に分けて、構える。

 

「行くデス」

 

その刃を鎌を振るうのと同時に放たれる---

 

切・呪リeッTぉ

 

放たれる二つの刃。

それが弧を描いて鋸の乱射を防いでいる翼に迫る。攻撃を防いでいた翼は迫る攻撃に気づかず、当たると思われた時。

奏が横から翼を掻っ攫い、直撃を避けることに成功した。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「あぁ」

 

そしてもう一人、ドードー鳥を模した頭部を持ち、同じベルトを付けている赤色の仮面ライダーが紫の仮面ライダーに手を貸して起き上がらせていた。

 

「装者が三人・・・!?」

 

「それに仮面ライダーが二人・・・か」

 

奏と翼は武器を構える。

戦力的に考えるのであれば五対二。客観的に見ても不利である。

しかし、実際には違う。LiNKERを介してギアを纏えているマリアたちにとって、制限時間が存在していた。

一見優勢に見えても内情では押されているのはマリア達であるのは明白である。

 

「・・・マズイデスね」

 

「・・・まだきてない」

 

計画では装者達との戦闘にて発生する膨大なフォニックゲインを以て眠れる巨人をーーーネフィリムを目覚めさせる事こそがマリア達がこの場で戦闘を始めた理由。

そう、響たちが居ない今、マリアたちの目的を達成することなど()()()以外に不可能だ。

逆に言えば、現状奏と翼を助けてくれる味方など居るはずがなく---

 

「やるしかねぇだろ」

 

「マリア」

 

「ええ---貴女たちの実力はこの程度なの!」

 

マリアたち装者の傍に向かった赤と紫の二人の仮面ライダーが言うと、マリアは頷き、煽るように言い放った。

 

「言ってくれるな・・・。まだ行けるか?」

 

「もちろんよ。次こそは終わらせるッ!」

 

敢えて乗る---否、逃走が許されない奏と翼には選択はなく、二人の言葉を聞いたマリアは笑みを浮かべ再び衝突---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「------♪」

 

 

ーー-今にも戦いを再開しそうになった時、聴こえてきた歌声にその場にいた全員が動きを止めた。

その歌声は優しく、温もりと美しさを兼ね備えている。だが何処か悲しさも含まれているような歌声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・後ろかッ!」

 

最初に気がついた紫の仮面ライダーが背後に向かって矢を放つ。

迷いなく、一瞬で放たれた矢を避けることなど容易いことではなく当たる---筈なのにも関わらず、その矢はあっさりと弾かれ、即座に接近した()()は紫の仮面ライダーを飛び越えて中央に降り立った。

ソレは黒。黒い軽装に黒い仮面、唯一手に持つ薄らと輝く剣だけが黒ではないが、身体の線から女性である事だけは分かる。

黒に染まったその人物はどちらにも反応出来るようにか、左右をマリアたちと奏と翼に向け、双方に視線を向けた。

そして---

 

「---初めまして。双方とも武器を収めてください。これ以上続けるのであれば---実力行使に出ます」

 

まるで戦いを止めに来た、と言わんばかりに宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

ふぅ、と小さく息をついたのは、未来たちを逃がすために自ら囮となり、ノイズを引き付けた後にファウストローブを纏うことで戦闘していたセレナである。

彼女の周囲に炭化したものが集まっていることから勝敗は分かるが、ただの蹂躙である。

そんな彼女は紫の仮面ライダーと戦う奏と先ほどまでツヴァイウイングと歌っていたマリア・カテンツァヴナ・イヴの戦いを見ていた。

そして、今二人の装者と赤の仮面ライダーが乱入したところも。

 

「・・・」

 

悩む。セレナ自身の想いに従うのであれば、一度遊んだだけとはいえ知り合いとなった翼と奏を助けたい。

しかしそれをするならば間違いなく迷惑をかけてしまう。

それでも、だがそれでも---セレナは知ってしまった。二人がどれだけ心優しく、心の底から歌が好きだと分かる歌声を。魅了されるほどの歌を。彼女たちがどれだけ親切で、お人好しなのかを。

 

そんな時、まるでタイミングを図ったかのようにファウストローブを解除したセレナのポケットから音がなり、携帯が震えるのを感じた。

セレナは携帯を取り出して---慌てて出た。

 

『セレナ』

 

携帯を耳に当てると、聞こえてくるのは男の声。しかし隠し切れない優しさを感じさせる声音だ。

その正体は---

 

『・・・シンさん?』

 

シン、すなわち---アークだ。

 

---先ほど離席した時に電話を掛けたのにも出なかったことから用事が済んで掛け直してきたのだろうか? 

 

そう思ったセレナは口を開こうとして---次の言葉で驚く。

 

『セレナ。今回ばかりはお前の好きに動くといい。オレは大して関わらないしキャロルの計画に支障は出ない。だから自由に動け、いいな』

 

『ッ!? シンさん、それってどういう---ッ!』

 

まるで自身の思考を読んだような言葉に聞こうとしたセレナだったのだが、言いたいことはそれだったのかあっさりと着信が切れる。

携帯を見て切れたのを見ると、セレナは僅かに見つめ---ため息を吐いた。

 

「・・・本当に敵いませんね・・・。ありがとうございます、シンさん」

 

彼が誰よりも優しく、他人を思いやれる存在。

そのことをセレナは知っている。だからこそ、自身の迷いを断ち切るために言ってきたのだと考えると恐ろしさよりも先に感心を覚える。

そして、セレナはわざわざ電話を掛けて言ってきたシンの言葉を思い返し、覚悟を決めたように顔を上げる。

 

(もしかしたら、戦うことになるかもしれない。それでも、今のこの戦いを止めるために---)

 

顔を隠すために貰った黒い仮面を身につけ、セレナは戦場へと足を向ける。

例え誰と戦うことになったとしても、止めると誓って。

 

「ごめんなさい。そして・・・行きます!」

 

小さく謝り、完全に覚悟を決めたセレナは駆け出し---シンと一応錬金術を学んでることから、師匠であるキャロルが創った()()()()()()()のファウストローブを纏った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「さっきと話が違うじゃねぇか!」

 

「まだ着かないの!?」

 

「早くしないと翼さんと奏さんが・・・!」

 

本来ならあと数十分もあれば着いていたはずの響とクリス、そして迅。

三人は未だに会場に着くことは叶わず、ヘリに居た。

思わず叫び声に近い声を狭いヘリでクリスが挙げ、続くように迅と響も声を挙げる。

 

「無理ですよ!! 速くて後5分程度はかかります!!」

 

ヘリを操作するパイロットの返答にちぃッ!とぶつける先のない拳をクリスが握る。

何故遅れる羽目になったのかといえば、あくまで()()()()()()()で行けば、の話である。

そのままライブ会場に直進しようとしていたヘリだったのだが、向かう先で小規模とはいえ、大火事が起こっていたのである。

当然お人好し組織である二課のメンバーや装者と仮面ライダーが放っておけるはずがなく、避難が遅れた人たちを助け終わった後にヘリで向かうことになった。

つまりはまあ、運がなかったのだ。

これはノイズが関わっていることでも他者が関わっていることでもなく、純粋に事故みたいものだった。

 

「こんなことなら惣一おじさんにライブ居てもらった方が良かったかも・・・」

 

「今日は店が忙しいから行けないと言ってたけど・・・無理してお願いするべきかもね。二人とも大丈夫かな・・・」

 

「あの先輩たちだ! 簡単にやられっかよ!」

 

少し不安そうに口にする迅にそう語るクリスだが、内心では彼女も焦っていた。

映像が中断されてから既に結構な時間が経っている。だからこそ急行するヘリの中で彼女たちに出来ることは無事であることを祈るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「ッ・・・!」

 

迫る二人の攻撃。

その攻撃に対し、セレナは弓を弾き、拳を避ける。

戦いを止めるために介入したのは良かったものの、彼女は苦戦を強いられていた。

セレナは仮面ライダーを作った存在はアークゼロ、つまりはシンだということは知っている。そして二人が持っているということは、純粋にデータを盗まれたのかシンかアズのどちらかが渡したかに絞られるのだが、恐らくは何らかの目的があって渡された---つまりは後者なのだということは理解出来る。

その辺は正直セレナに出来ることはないが、予想外なのはそこではない。

赤の仮面ライダーはともかく、紫の仮面ライダーが厄介極まりないのだ。もちろん、今の半減しているアークゼロよりも弱い。

しかしラーニング機能を誰よりも上手く扱えているのか、それとも仮面ライダーのスペックに慣れたのか、二対一とはいえ本気を出していないセレナ相手にも戦えている。

彼女は彼女でアークゼロやオートスコアラーに鍛えられているため、かなり強いのだが・・・連携プレイもあって仮面ライダー二人を抑えるだけで精一杯だ。

最初はマリアや他の二人が攻撃を仕掛けてきたが、若干優勢に戦えていた。

しかし相手が仮面ライダーともなると想定して作られたファウストローブではないため、相性が悪かった。

近遠距離と分かれているのもあるが、これならばシンフォギアを纏った方が良かったかもしれない、とセレナは戦って思ったくらいだ。

このまま戦ったとしても、正直決着は着かない---それは両者とも分かっていた。

 

「厄介だ・・・」

 

「時間がねえ・・・」

 

「・・・」

 

互いに距離を離し、相手の出方を窺う。

そんな時---マリアたちと奏、翼が戦っている方向で変化が起きていた。

ガングニールとガングニール。二つの撃槍がぶつかりあい、鎌と鋸の連携に剣が拮抗する。

仮面ライダーと装者、双方とも含めてどの戦闘とも決め手に欠けていたのだが、ふと奏と翼が笑みを浮かべた。

 

「何が可笑しい!?」

 

「いいや、頼りある助っ人(後輩)たちに嬉しくなっただけさッ!」

 

奏がマントを大きく弾くと、すぐにマリアから距離を離す。翼は翼で千ノ落涙で鋸と刃を相殺すると、距離を引き離した。

 

「引いたデス・・・?」

 

「もしかして・・・」

 

「お前ら、上だ!」

 

気がついた赤の仮面ライダーが大声で叫ぶ。

マリアと調、切歌はいつの間にか集まらされていて、大声に反応して上空を見た。

すると---

 

 

 

 

 

 

 

 

「土砂降りな! 十億連発!」

 

BILLION MAIDEN

 

クリスから放たれるガトリング砲の嵐。

それを調と切歌は左右に避け、マリアはマントを硬質化させて弾丸の雨を防ぐ。

紫の仮面ライダーが弓で射撃しようとすると、凄まじい速度で飛んできた蹴りによって中止させられることになった。

 

「させないよ!」

 

「くっ・・・!」

 

その正体は仮面ライダー迅であり、紫の仮面ライダーを妨害するように突撃して互いに転がっていく。

 

「ようやくのお出ましってわけか・・・」

 

装者が来た、ということを理解した赤の仮面ライダーはそう呟き、マントで身を守っていたマリアが新たに降りてきた装者の拳を避けた瞬間にその装者に攻撃を仕掛けるが、防がれて奏と翼に合流させてしまう。

 

「・・・もう大丈夫そうですね」

 

誰にも聞こえないように小さく呟いたセレナは、戦況を見て、そしてこれ以上巻き込まれると離れるのが難しくなるからそろそろ帰還した方がいいとの通信が来たため、気配を消して誰にも気づかれることなくその場から姿を消す。

 

そして紫の仮面ライダーに吹き飛ばされる形で装者に合流した迅が地面に着地すると、響、奏、翼、クリスの四人の装者と仮面ライダーが一人、相手にはマリアと調、切歌の装者三人と仮面ライダー二人が向かい合う形になり、響が会話を切り出した。

 

「やめようよこんな戦い! 今日出会った私たちが争う理由なんてないよ!」

 

戦いではなく、説得を試みる響。

しかしその言葉が、調の琴線に触れた。

 

「ッ・・・そんな綺麗事を・・・」

 

「え・・・」

 

「綺麗事で戦う奴の言う事なんか、信じられるものかデス!」

 

調の言葉に響がふと発した合間に切歌が、刃を向けてそう叫ぶ。

 

「そんな、話せば分かり合えるよ! 戦う必要なんて---」

 

「---偽善者。この世には、貴方のような偽善者が多すぎる・・・!!」

 

あくまで話し合おうとする響の態度に調の怒りの籠った言葉が響く。

 

「---だからそんな世界は伐り刻んであげましょう!!」

 

調の歌が鳴り渡り、放たれた無限軌道の鋸の機関銃弾が放たれる。

茫然と立ち尽くす響に向かって放たれたそれを翼が響の前に立ち、両剣を回転させることで防ぐ。

 

「ぼさっとするな立花!」

 

クリスが右側に躍り出て銃弾を放つと、装者と仮面ライダーがそれぞれ分かれた。正面から向かってくる切歌にクリスの弾丸が防がれ、接近されたところで入れ替わるように奏が槍で鎌を弾く。

 

「こっちはあたしがやる!」

 

相性が悪いことを一瞬で判断した奏が切歌と打ち合い、クリスは即座にそれぞれの場所を把握。二人を相手に戦う迅の援護を行い、翼はマリアと再び戦闘に入る。

その最中、調は響を集中的に攻撃していた。

その頭のアームドギアを展開し、巨大な無限軌道の鋸を高速回転させて響を切り刻むべく振るう。

 

「わ、私は、困ってる皆を助けたいだけで、だから---」

 

「それこそが偽善・・・!」

 

何とか避けながらも戦わずに会話をしようとする響に調のなおも厳しい言葉が突き付けられる。

 

「痛みをしらない貴女に、誰かの為になんて言ってほしくない!!」

 

γ式 卍火車

 

今度放たれたのは巨大な円盤鋸。

 

「あ・・・」

 

それが響に向かって迫る。

その円盤鋸が響に直撃する寸前に奏と翼が割って入り、槍と剣で弾き飛ばす。

 

「考えるのは後だ!」

 

「気持ちを乱すな!」

 

「は、はい!」

 

二人に叱咤され、響が頷く。

 

「ああもう!」

 

「こいつら、戦い慣れてやがる・・・!」

 

その間にも、クリスと迅は苦戦していた。

紫と赤の仮面ライダーは上手くクリスに射撃されないように動き、近寄ることに成功すると近接攻撃をしてくる。クリスのシンフォギアは近距離も出来ないことは無いが、遠距離だからこそ真価を発揮する。

だからこそ近接に来られてしまうと使える武装は限られてしまい、クロスボウから矢を放つことで距離を離しながら、迅がフォローに入っていた。

しかし迅の拳を紫の仮面ライダーは顔を逸らすという最小限の動きで避け、逆に迅が胸に拳を受け、下がる羽目になる。

そこから赤の仮面ライダーが追撃して蹴りを放ち、迅が吹き飛ばされてしまう。

それ以上はさせまいとクリスの遠距離攻撃が飛んでくると、二人の仮面ライダーは追撃をするのをやめて躱す。

奏や翼たちの方もまた戦っていると、そこでステージ中央に緑色の光が迸った。

そして見るも大きなノイズが出現する。

 

「わぁぁあ・・・・何あのでっかいイボイボぉ!?」

 

「・・・増殖分裂タイプ・・・」

 

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!」

 

「マム」

 

響たちが驚く中、相手側も何も聞いていなかったようで、マリアが指示を聞くように通信機に意識を集中させる。

 

『五人とも引きなさい』

 

「・・・分かったわ」

 

連絡を聞いたマリアが視線を張り巡らせると、理解したと言わんばかりに二人の仮面ライダーが頷き、マリアたちの方に跳躍して戻る。

そこでマリアが動いた。

その手のアームドパーツを変形させ、それを一振りの槍へと変形させる。

 

「アームドギアを温存していただと!?」

 

すかさず、マリアが槍を出現した巨大ノイズに向ける。

その槍の穂先から粒子の砲撃が放たれ、ノイズを穿った。

 

HORIZON♰SPEAR

 

貫かれたノイズは、そのままあっさりと爆発四散する。

 

「なんで!?」

 

「おいおい、自分らで出したノイズだろ!?」

 

何故そのような行動を取るのか分からずに迅とクリスが声を挙げるが、

四散したノイズは、その体を無数にばら撒く。

その最中で彼らは逃げていった。

 

「ここで撤退だと!?」

 

「だけど今なら---いや、そういうことか!」

 

散らばったノイズが増殖し、急速な細胞分裂でも行ってるかのようにどんどんと大きくなっていく。

そのノイズに対して奏と翼の攻撃が炸裂するが、炭化するより増殖する速度の方が速い。

 

「コイツの特性は、増殖分裂・・・!」

 

「際限なく溢れるってこと!?」

 

「放っておいたらそのうちここから溢れるぞ!」

 

「まずいね・・・まだ観客も残ってるはずだ!」

 

奏の言う通り、すぐに緒川から連絡が入る。

避難したばかりの観客がまだ居るという一つの連絡が。

 

「観客・・・皆が・・・!」

 

その連絡に響はこのライブに来ていた友達の事を思う。

 

「迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ」

 

「どうすりゃいいんだよ!」

 

「一番手っ取り早いのは一気に消し飛ばす高火力・・・か?」

 

「・・・絶唱」

 

装者たちが厄介な特性を持つノイズにどうすればいいか分からない中、響がふと呟いた。

 

「絶唱です!」

 

「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」

 

「増殖力を上回る破壊力にて一揆殲滅・・・。理には叶っている」

 

「でもそれって、負担が大きいんだよね?」

 

「流石に慣れていない今、キツいと思う。あたしなら引き付け役にはもってこいだ。迅とあたしで抑え込むから、その間に響たちはアレを!」

 

奏の言葉にそれぞれが頷くと、響を中心にクリスと翼は手を繋ぐ。

その三人の邪魔をさせないように近づくノイズに対して分裂しない程度のギリギリを見極めて風圧で吹き飛ばす奏と、一つ一つ確実に倒せる全力で攻撃する迅。

 

「行きます!『S2CA・トライバースト』!」

 

そして彼女たちは、歌う。

 

『---Gatrandis babel ziggurat edenal』

 

 

S2CA---正式名称『Superb Song Combination Arts』---『超絶合唱技』。

 

『Emustolronzen fine el baral zizzl---』

 

『トライバースト』装者三人の絶唱を重ね合わせ、協奏曲として調律・制御するS2CAの最大の大技。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal---』

 

『手を繋ぐこと』を己がアームドギアとし、力を束ねる事に特化した響にしか出来ない必殺技。

 

『Emustolronzen fine el zizzl---』

 

だが、そんな強力な技---いや、強力な大技だからこそ一つ、欠点があった---

 

 

 

「---セット! ハーモニクス!」

 

 

 

ハーモニクス―――弦楽器の弦を正しく、絶妙な位置にて軽く押さえる事で発生する、超高音の名を冠し、その絶大な力を発動する。

三人の周囲を、絶唱の三段重ねによって引き起こされた虹色の光を纏った衝撃波が吹き荒れ、増殖しようとしていた増殖型ノイズを一気に吹き飛ばす。

その強大なエネルギーは、響一人だけから放たれている。

 

そう、その事から分かる通り、S2CAの欠点はその負荷が全て立花響に掛けられるという事。

 

「ぐ・・ぅ・・・あぁぁあああぁぁあああぁぁあぁぁああああ!!!!」

 

体中を苛む痛み。それに響は絶叫を挙げて悶え苦しむ。

 

「耐えろ、立花!」

 

「もう少しだ!」

 

翼とクリスが響に呼びかける。

 

「あれか!?」

 

「多分ね!」

 

中央辺りを指を差す迅。

衝撃波によって吹き飛んだことにより、分裂増殖型のノイズが居た場所がはっきりと見えるようになっている。

そこには、核と思われるノイズが佇んでいた。

 

「今だ!」

 

「レディ!」

 

響のギアに変化が生じ、まるでエネルギーを放出するための準備とでもいうように割れる。

そして両手のギアを合体させて、巨大なガントレットとして形成する。その瞬間、上空に突き上げられた右腕に虹色の光が響に収束していく。

 

「ぶちかませ!」

 

「これが私たちの---」

 

クリスの叫びを背中に受け、構えた響は飛ぶ。

バーニアによる加速を利用し、少しづつ大きくなっていっているノイズに急速に接近し、響がノイズに拳を叩きつける。

 

 

「---絶唱だぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 

そして超速回転してエネルギーを増幅させた一撃が、ノイズに叩き込まれ、天に虹色の竜巻となって吹き荒れた。

その虹色の光は、星の輝く夜空に天高く昇って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、『フィーネ』の装者たちは見ていた。

 

「なんデスか、あのトンデモは・・・!?」

 

「綺麗・・・」

 

「あんな技があるなんてなぁ・・・」

 

「こんな化け物もまた、私たちの戦う相手・・・」

 

それぞれ別の反応をしていると、紫の仮面ライダーは隣で歯噛みするマリアを見やり、もう一度光の竜巻が吹き荒れるステージの方を見た。

 

「・・・いつの間にか消えていた、か」

 

自身が戦った見た目は黒ばかりだというのに、武器である剣だけは光の剣だった少女。気がつけば姿を消しており、見失った相手でもある。

何処か違和感---いや、()()()()()()()()()()()()()を感じ取った紫の仮面ライダーは考えるようにそう、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてまた、『COMPLETE』という文字を前に、マムと呼ばれた女性はほくそ笑んだ。

 

「夜明けの光ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ・・・そんな綺麗事を・・・』

 

『痛みをしらない貴女に、誰かの為になんて言ってほしくない!!』

 

その場で膝をついて空を仰ぎ見ている響が思い返すのは、薄紅と黒のシンフォギアを纏った少女の言葉。

 

「無事か!? 立花!」

 

そんな響に、翼たちが駆け寄る。

振り返った響は笑っていても、その双眸からは涙を流していた。

 

「へいき・・へっちゃらです・・・」

 

涙を拭い、響はなんでもないとでも言うように言った。

しかし、その様子から見ても明らかに大丈夫じゃない。

 

「へっちゃらなもんか!? 痛むのか? まさか、絶唱の負荷を中和しきれなくて・・・」

 

そんなクリスの憶測を、響は大きく、何かを振り払うかのように横に振った。

 

「・・・私のしてる事って、偽善なのかな・・・?」

 

そして胸の中にある想いを吐露する。今にも張り裂けそうなくらいに苦しく、締め付けられるようなその胸の内を。

 

「胸が痛くなることだって・・・知ってるのに・・・・う・・ひっぐ・・・」

 

「響・・・」

 

響の小さな嗚咽が、鳴り渡る。

奏は声をかけようとするが、なんと言うべきか分からずに悩ましそうに名を呼ぶしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・みなさん」

 

また一方でセレナたちもその光景を見ていた。

 

「あれが立花響が持つ特性・・・。まともに当たれば()()()な今のオレのアークゼロの装甲を持ってしても危ういか・・・」

 

()()()()()凄まじい威力ね。傍で見る分には綺麗なのだけど」

 

フードを取った状態でシンは見上げていた。一方で、傍にいるアズは座り込んで眺めている。

 

『同じ人間なら、話し合うことできっと---』

 

シンが思い出すのは、デュランダルの時に立花響に言われた言葉。

 

「そろそろ、覚悟を決める時かもしれないな。---悪意を乗り越えてもなお変わらないのなら、託せる」

 

彼は手にしたモノはアークゼロ---いや、()()()()()()が描かれたキー。『アークワンプログライズキー』を握りしめた。

 

 

 

 

 

 





〇セレナ
うっっわつっよ()
SANチェックならない? 大丈夫?
すぐ撤退したけど居なかったら奏と翼が詰んでました。

〇響
痛みを知らない(原作より幾分かマシとはいえバッシング+初恋相手が消息不明)

〇未来
ごめんね、とある回までに君の無力感を原作以上に強めなきゃならないんだ(クズ)

〇ツヴァイウイング
有能としか言えることがない

〇調
本編でもそうだと思うけど、純粋に救われなかったからこその八つ当たりでしょうね。

〇マリア
マリア・カデンツァヴナ・イヴゥ! 君が戦った相手はァ・・・亡くなったはずの妹だァ! ヴァハハハハ! みたいなこと言いたい(クソ野郎)
今のうちにダイス振っとこうね。

〇滅
現時点でゼロワンが持つあらゆるハイブリッドライズと互角以上に戦える(シャイニングには押し負けるかも?)くらい。
本編とは違って悩まないのでクソ有能。

〇雷
任務時は後半の姿。
日常は雷電。

▼余談
言ったか分からないので一応(自分用)
奏→あたし
クリス→アタシ
で分けてます。

作品知らない人にも分かるように違和感ない解説入れてこれからは投稿するから良かったら見てね。宣伝です。

https://syosetu.org/novel/272371/


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第四話 終焉を望む者、終焉の名を持つ者


このペースだと・・・多分合計15話ぐらいで終わりそうですね、長い。
そういやデモンズドライバー凄いですね、やっぱり買いますわ。それにリバイスが不穏すぎる空気から変わらない・・・流石ですね公式さん。
それとバルカン見ました! もうある意味BADENDだ! わーい! でもすき! だけど社長居ないとゼロワン世界終わるとかマ? この小説の行方が心配ですね・・・BADENDにならないか。
では本編どうぞ。





 

次の日の夜。

前日にノイズと遭遇するという自体に見舞われた未来は響や他の二課の者に心配されたりはしたものの、無事だった。

そんな彼女は今、電話を掛けていた。

---二回目。既に一度かけても電話が通じることがなかったが、未来は心配な面持ちで待つ。だが、やはり反応はない。

 

「シアちゃん・・・」

 

掛けている相手は、自分たちの代わりに囮としてノイズを引き連れてどこかへ消えた少女。

未来はその先どうなったのか分からないため貰った電話番号で掛けていたのだが、留守電を求めるメッセージだけが返ってくるだけだ。

 

「無事だといいんだけど・・・」

 

前日にも掛けたが、同じ状況。

それで今日もこれだと()()()()()を考えなければならないのだが、未来は無事であることを願う。

もう誰かを失いたくない、という気持ちを抱きながら、三度掛けても出なかった携帯を机に置こうとして---

 

 

 

ピロロロロ、と着信が鳴る。

慌てて携帯を取り出した未来は表示された相手を見て、即座に出た。

 

『あ、もしもし・・・未来おね---』

 

「シアちゃん!? 無事なの!?」

 

思わず大声を立ててしまい、驚いたのかキャッと可愛いらしい声が未来に耳から聞こえる。

それで僅かに冷静に戻った未来は、シアに謝った。

 

「あっ・・・ご、ごめんね」

 

『い、いえ。今まで出れなかった私が悪いですから。それで・・・本題に入りますけど、怪我もなく無事です。ご心配をおかけしたようでしたなら、すみません』

 

「そっか・・・良かった。本当に心配したんだよ?」

 

返ってきた返答に未来はほっ、と安堵の息を吐く。

どうであれ、無事なら良かったのだろう。

 

『あはは・・・実は逃げてた時に突然ノイズが逃げていったんです。なんでかは分からないんですけど・・・』

 

「それは・・・不思議だね」

 

状況が知りたい気持ちを組み込んだのか、偶然なのかは分からないが、シアは起きた出来事を未来に説明する。

未来は響たちから聞いていた無くなったソロモンの杖でノイズを回収したのではないか---という考えが浮かぶが、それを一般人に言うことは禁じられてるため、そう返すしか無かった。

 

『そうなんですよね、未来お姉さんは無事ですか?』

 

「うん、おかげさまで」

 

無事であることを互いに確認したからか、話題を変えるように別の話に移っていく。

そして未来は響が帰ってくるまでシアと話続けたのだった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

フィーネという組織が世界に宣戦布告してから一週間がたった。

その間、各国への交渉、騒動、犯行などは一切無く、派手なパフォーマンスで自分たちの存在を知らしめただけで目的が全くと言って良い程見えてこなく、足取りすら掴めなかった。

そして突如現れた謎の少女のことすら。

 

「ことをあたる連中にしては似つかわしくない・・・か。了子くん、何か覚えていることは?」

 

「分からない。いや、正確には()()()()()()()なのに()()()()()が正しい。唯一分かるのは、私に関係してることは確実。分からない理由は恐らくはあの時、アークゼロの手によって消された・・・それしか考えられない」

 

フィーネという組織は先史文明期の巫女の名でもある。だからこそ、表では死んだ扱いになっているフィーネとして弦十郎は聞いた。

もし手がかりがあるなら知りたいからだ。しかし返ってきた答えはおおよそ予想通りの言葉。

仮に覚えているなら()()彼女ならば協力してくれると理解しているからだ。

 

「ただ、そうね・・・。きっと彼女たちも()()()()()()()()()ことがあるのだと思うわ。そうすることによって()にされたとしても、誰かがやらなくちゃいけないことを」

 

「そうか・・・それはどういった見解で?」

 

「女の勘よ。弦十郎くん」

 

フィーネではなく、()()()櫻井了子として答える。

その返答を聞いた弦十郎はならば納得、と言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、極道の宅。

 

「風鳴司令」

 

『緒川か。そっちはどうなっている?』

 

そこで緒川は二課に連絡を繋げていた。

何故極道の宅に居るかというと、組織の方のフィーネが使っていたと思われる乗り捨てられていたトラックからその所在を突き止め、結果ヤクザの事務所に突入しているというわけである。

 

「この野郎ッ!」

 

「ちょちょ、やめろって! この服気に入ってんだよ。皺になっちゃうだろ!」

 

そして現在、調査に連れてこられた石動惣一は掴んできたヤクザを意識ごと体を叩き落としていた。

凄い音が聞こえるが、多分生きている。

 

「辿り着いたとある土建屋さんの出納帳に、架空の企業から大型医療機器や医薬品、計測機器などが大量発注された痕跡を発見しまして」

 

『医療機器が?』

 

ヤクザを相手している惣一をバックに書類を見ながら報告する緒川。

ここで重要なのは『医療機器』という単語だろう。

 

「くそ! なんだこいつら!?」

 

「本当に人間か!?」

 

「超能力使いだと・・・!」

 

「こいつに至っては忍術を使うぞ!?」

 

銃弾が防がれ、ナイフに至っては掠りもしない。

片方は若く見えないにも関わらず人間離れしたような力で薙ぎ払ってきたり片方は若いとはいえ忍者の如く分身したりして、ただの人間であるヤクザでは勝つことなど出来ず、全員伏せてしまった。

 

「日付はほぼ二ヶ月前になります。こちらの方々は資金洗浄に体よく使っていたようですが・・・。この記録、気になりませんか?」

 

ようやく見つけた手がかりらしきもの。

それを司令に報告しながら緒川は笑みを浮かべていた。追っていけば、近いうちに探し出せる可能性が生まれたからだ。

 

『追いかけてみる価値はありそうだな』

 

弦十郎も同じことを考えていたようで、緒川は返事を返してから通信を切る。

生きてるかどうかぺちぺちとヤクザを叩いていた惣一は通信を切ったのを見ると、緒川に近づいた。

 

「ったく。俺はただのカフェのマスターなんだがねぇ・・・」

 

「すみません。仮にノイズが出てきてしまえば、僕では民間人を守りきることは出来ませんから」

 

「ま、他が学校だし仕方がないか。唯一動けるのは迅と奏ちゃんくらいだが、奏ちゃんはアイドルだし迅は残っていれば機動力的に現場に駆けつけられるしな」

 

ただのカフェのマスターが生身で銃弾を防ぐのはおかしいのだが、忍者がいる時点でなんとも言えない。

それでも、緒川は自分のことを棚に上げて惣一は仮面ライダーとはいえども、おかしいと僅かばかりに思っていた。

同時に敵対してないことに安心すら。

 

「それで? アジトはわかったのか?」

 

「そこまでは至っていませんが、辿り着ける可能性は出てきました。それにしても、流石ですね」

 

基本的にヤクザの相手をしていたのは惣一だったため、情報を聞くと惣一は成果があっただけでもマシか、と頷く。

そこで緒川は倒れ伏している大量のヤクザを見ると、少しばかり苦笑いを浮かべた。

 

「最近の店の店長はこれくらいやるもんだ」

 

「・・・そ、そうですか」

 

流石にそれはないという考えを表に出さずに飲み込んだ緒川は正しくエージェントだった。

そんな彼は惣一と共にさらに情報を探りに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「でねッ! 信じられないのは、それをごはんにザバーッっとかけちゃったわけデスよッ! 絶対におかしいじゃないデスかッ! そしたらデスよ」

 

『それ』が一体なんなのかは分からないが、切歌が明るく軽快に喋っている。しかし調の方を向いた瞬間、切歌の言葉が途切れた。

シャワーから降りかかる温水に打たれながら、調は神妙な面持ちで俯いていたからだ。

 

「・・・まだ、アイツのことを、デスか?」

 

アイツとは、立花響のことだろう。

お世辞にも『甘い』としか言えない彼女の言葉が、つい最近の出来事なのあって再生される。

 

『話せば分かり合えるよ! 戦う必要なんて・・・!』

 

「何にも背負ってないアイツが、人類を救った英雄だなんて。私は認めたくない」

 

「うん。本当にやらなきゃならない事があるなら、例え悪いと分かっていても背負わなきゃいけない物だったり」

 

感情を押し殺すように聞こえたその言葉は、切歌にも痛いほど理解できる。

切歌がシャワーを止めると、ドン、と音が聞こえる。

声を荒げる代わりに、調が力の限り壁を叩いたのだ。溢れ出る感情を晴らすように。

 

「困っている人たちを助けるというのなら、どうして・・・ッ!」

 

込み上げてくる怒り。そして脳裏に浮かぶ()()()()()()()()()

調も彼女は関係なく、どうしようもないということは冷静な部分で理解している。それでも、感情というのは簡単なものではない。

そんな調を落ち着かせるように、切歌は自分が傍にいる事を誇示するかのように、切実に手を握る。

 

「神様でもない限り、全てを助けるなんて真似は不可能よ。それに()()()()()()()()()()()()()()もいるもの」

 

そこに話を聞いてただけで会話に一切入ってこなかったアズがただ現実を突きつけるように会話に参加する。

 

「助けたいのに、デスか・・・。それはお兄さんのことデスか?」

 

「さて、どうかしらね」

 

「・・・愛乃さんは、認めるの?」

 

何処か投げやり気味に答えるアズの姿に切歌は疑問を浮かべるが、調は真っ直ぐに見つめて聞く。

 

「私からすると、どうでもいいが正解ね。ア---シンさまさえ居れば何だっていいし。ただ、みんな何かを背負ってるんじゃない? 貴女たちも、向こうの装者も、ね。それとも、答えがあって知ったとして・・・貴女たちは止まる?」

 

「・・・そうね。止まることはないわ。私たちは私たちの正義とよろしくやっていくしかない。止まってる時間も、振り返ってる時間も残されていないのだから」

 

「マリア・・・」

 

そこへもう一人、マリアが温水を浴びながら言う。

調は二人の言葉を聞いてただ一言、名を呼ぶしか出来なかった。

 

 

 

 

 

そんな会話が成されていたシャワー室の前では、座り込みながら色んな道具を手にしているシンがこれはまた珍しいラフな格好で作業していた。

終えたのか、ふうと息をつくといつものパーカーを着てフードを深く被る。

 

「メンテは終わった。これでキーも問題無いはずだ」

 

「感謝する」

 

「それにしてもよく知らないものを手際よく弄れるな、お前」

 

「機械は得意なんだよ」

 

最低限礼を言う滅と珍しいものでも見るように見ていた雷。

一方で、シンからすると秘密にしてるだけで自身がアークでもあり、フォースライザーを人間用に調整した存在でもあるので、ドライバーを介さなくともこれくらいわけなかったりする。

 

「そういうものか。相変わらずよく分からねぇなぁ・・・」

 

「分からないと言われても、オレはただの協力者だ。アークが渡したものが機械なら多少は弄れる。その分、機械じゃなかったら協力しようにも出来ないからお手上げだが」

 

律儀に言葉を返すシンだが、ふと誰よりも早く()()()()を睨みつける。

警戒体勢に入ったシンに触発されるように滅と雷も警戒するが、突如として警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

施設内の鉄製のドアが次々に閉められ、厳重に封鎖させる。それを行ったのは、一人の車椅子に乗った初老の女。その右目には眼帯をしており、何か怪我のようなものを抱えている事が分かる。

彼女の名は『ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ』。

マリアたちフィーネの頭目にして科学者だ。

そんな彼女の目の前にあるモニターにて、何かを貪るこの世の生物とは思えない何かが映し出されていた。

その生物は、まさに異形、怪物。

伝承にも描かれた共食いすら厭わぬ飢餓浄土。自立型完全聖遺物だ。

今は()()をしているが、一心不乱に餌を食らう姿は人間に扱えるものなのか疑惑が浮かび上がる。

 

「人の身に過ぎた先史文明期の遺産・・・とかなんとか思わないでくださいよ」

 

部屋の暗闇から歩み出てきたのは、メガネを掛け、白衣を着た一人の男性だった。

 

「ドクターウェル・・・」

 

「例え人の身に過ぎていても、英雄たる者の身の丈にあっていればいいじゃないですか」

 

芝居がかった仕草と、やけに優し気な口調でウェルが言うと、部屋に駆け込んでくる者たちがいた。

 

「マム! さっきの警報は!?」

 

既に寝間着姿になっているマリア、切歌、調。

そして後からやってきたのはメンテが終わったらしいベルトを手に持つ滅と雷。

さらに後からゆっくりと歩いてきた顔を隠した状態のシンとアズもいるが、シンだけはフードの奥でネフィリムをひと睨みすると、どうでも良さそうに目を伏せた。

 

「次の花は未だ蕾故、大切に扱いたいものです」

 

「心配してくれたのね。でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ。隔壁を降ろして食事を与えているから、時期に収まる筈」

 

ウェルの言葉を聞き流してナスターシャが説明すると、大きな震動が起きる。

暴れている様子に、本当に大丈夫なのか、とでも言いたげな目線を送ってくるマリアをナスターシャは制した。

 

「対応措置は済んでいるので大丈夫です」

 

「それよりも、そろそろ視察の時間では?」

 

ウェルがふと『視察』の提案をする。

その提案はそう無視出来るものではなく、()()の視察に向かわねばならない。

もちろん決して今日しなければやらないという訳ではのだが、重要なことに違いはない。

 

「フロンティアは計画遂行のもう一つの要・・・。起動に先立って、その視察を怠る訳にはいきませんが」

 

「こちらの心配は無用。留守番がてらに、ネフィリムの食糧調達の算段でもしておきますよ」

 

「では、調と切歌を護衛につけましょう」

 

「こちらに荒事の予定はないから平気です。むしろそちらに戦力を集中させるべきでは?」

 

近いうち、特機部二の捜査が入る可能性が高いというのはウェルもナスターシャも理解している。

裏があるとも言いきれないため監視も含めての提案だったが簡単にあしらわれてしまう。

 

「こっちは五人---約六人はいる。もし襲撃を受けてしまえば、()()()()()()では対応しきれない可能性が高い。()()()()()()も考えて、俺と雷が残ろう」

 

「悪いが、オレたちは後で用事があるから別行動だ。だからお前たち二人は残った方がいいかもな」

 

滅の言葉は()()()としてはありえる。しかしそれだけでは足らないかもしれないため、シンがフォローするように言った。

そもそも、()()()()でわかっているのもあるが。

 

「別に大丈夫なんですがね」

 

「確かに、ここまでの大人数で行く必要はありません。では、滅と雷はここに残り、私は三人をつれて視察にいくとしましょう。貴方たち二人も、出来れば早く戻ってきていただけると助かります」

 

ウェルはやれやれ、と言った風に首を振る。

ここまで理由付けされてしまえば、断ることは出来ないと優秀な頭で理解しているからだろう。

 

「では後はお願いします」

 

ナスターシャは最後にそう言い、装者三人連れてを部屋を出ていく。

その様子を見送り、滅とウェルが見つめ合う。

 

「・・・貴方たちも行ってくればよかったのに」

 

「餌を巻いておいてよく言う。気付かれてないとでも思ったか?」

 

「・・・バレてるというわけですか」

 

「やっぱ荒事を起こすつもりだったのか」

 

確信した表情で言う滅に自白したウェル。

雷は冷めた表情で見る。

 

「どちらにしろ、僕の計画の邪魔にだけはならないでくださいよ」

 

「計画によるがな」

 

滅はウェルにそう返すと、思案する。

あの少女は来るのか、そして邪魔をしてきた仮面ライダーについて。

 

「・・・行くか」

 

それを黙って聞いていたシンは踵を返し、腰にアークドライバーゼロを出現させながらアズを連れて出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

夕方。

学校が終わり、これから少しずつ太陽が落ちてきて、徐々夜にやっていくであろう時間。

翼は久方ぶりの()()()日常、学生らしい日々を過ごせていた。

荷物を持ち、廊下を歩く。手に持つそれは秋桜祭の準備を手伝っており、その材料だ。

その材料を持ちながら歩いていると、曲がり角を曲がったところで飛び出してきた誰かとぶつかり、その衝撃で材料が飛び散る。

 

「脇見しつつ廊下を駆け抜けるとは、あまり関心できないな・・・」

 

勢いがあったためか、ぶつかった際に互いに尻もちをついてしまったようで翼は腰を軽く擦ると起き上がるのと同時にぶつかってきた相手を見る。

 

「雪音か・・・。何をそんなに慌てて?」

 

飛び出してきてぶつかった相手は、クリスだった。

リディアンの制服を立派に着こなしているが、汗を流して表情も戦いの場にいるかのように切羽詰まったような表情だ。

 

「奴らに・・・奴らに追われてるんだ。もうすぐそこにまで・・・!」

 

「何ッ!?」

 

そう言って壁を背にするクリス。

翼はもしやフィーネと名乗った組織がクリスを狙っているのではないかと周囲を素早く見回す。

だが、特に不審な人物がいるわけでもなく、いたって平和な光景しか目に映らない。

部活に励む生徒や、ベンチに座って話し込んでいる生徒。とても組織の刺客がいるとは思えない光景だ。

 

「・・・特に不審な輩は見当たらぬようだが」

 

「そうか・・・。上手く撒けたみたいだな」

 

「奴らとは一体?」

 

クリスがここまで警戒するような相手。

気になった翼は聞いてみることにした。

 

「なんやかんやと理由を付けて、アタシを学校行事に巻き込もうと一生懸命なクラスの連中だ」

 

脅威となる存在から逃げていた訳ではなく、なんとも可愛いらしい後輩の姿に翼は口元に笑みを浮かべていた。

すると、遠くでクリスを呼ぶ声が聞こえる。クラスメイトの人達だろうか、こちらを見ることなく何処か別の向こう側へと行ってしまった。どうやらクリスを見失ったらしい。

 

「フィーネを名乗る武装集団が現れたんだ、アタシらにそんな暇は・・・って、そっちこそ何やってんだ」

 

「見ての通り、雪音が巻き込まれかけている学校行事の準備だ」

 

散らばったビニールテープなどの材料を拾いながら答える。

翼がそんなことをしているとは思わなかったのか、呆気に取られたような表情で見上げてくるクリス。

そこで良いことを思いついた、というように翼が提案する。

 

「それでは、雪音にも手伝ってもらおうかな」

 

「何でだッ!?」

 

「戻った所でどうせ巻き込まれるのだ、ならば少しくらい付き合うのもいいだろう?」

 

「なッ・・・」

 

クリスは言い返すことができないからか、口を噤む。

これ幸いと翼はクリスの手を引き、教室まで連れて行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

クリスを教室まで連れ込んだ翼は一緒に輪っかの飾りや花を紙で作っていた。開催まであと三日ということもあり、残っているのは細かい作業だけだ。

既に何個か完成しているようで、机に置かれている。作業するだけで沈黙が続く中、それをどう思ったのかクリスが話しかけてきた。

 

「なあ、アンタ。アークゼロのことどう思う?」

 

「どう思う、とは?」

 

「ほら、前回---フィーネの時とは違って、今回は全く姿を現してなかっただろ? いつもなら姿を現しても不思議じゃなかったのに。アタシもあんまり絡んでなかったから分からないだけどさ」

 

話題の対象となったのは、アークゼロについて。

組織ではないフィーネと共に一緒に活動していた時、クリスと迅は少し絡んだりしたことがあった。

といっても、一方的に言われたり言ったりしただけだが。

 

「まあ、常に把握している訳では無いということだろう。それと・・・やつに関しては未だに消えるはずだった櫻井女史---()()()()()()()()理由も正直分かっていない。・・・だが」

 

フィーネが未だに消滅していない理由。

それは了子自身も分かっておらず、対消滅で完全に消滅するはずが不安定になっているとはいえ、生きている。それはアークゼロが何かをしたんじゃないかと言われているのだ。

翼はそれを言うと、一度区切る。

 

「だが?」

 

「私と奏はアークゼロに何だか・・・少し、()()()()()()()気がするんだ。何者かまでは分からないけれど。ただ本当に世間で言われているほど人類の敵・・・といえる行動はしているようには見えない。真意が分からない今は判断出来ないだろう。少なくとも邪魔をしてくるのなら戦うしかない」

 

聞き返してきたクリスにそう返した翼は、何ともいえない表情をしていた。

未だに目的が見えない存在なのだ。それこそ、組織の方のフィーネよりも。

 

「後は・・・あの少女のことも気になる。私たちが知らないシンフォギア・・・にも見えるものを纏っていた」

 

「あぁ、アタシはあんま見てねぇけど、突然乱入してきたんだったか」

 

「実力も高く、あのような少女が居るならば知られていても不思議じゃないはず・・・しかしマリアたちとも敵対しているようだった」

 

「結局、分からないことが多いわけだな」

 

思い出すように話す二人だったが、その通りだ、と翼が頷くと話が終わったからか再び少しの間、沈黙が場を支配する。

しかし今度は翼からクリスに話しかけていた。

 

「そうだ、雪音。まだこの生活に馴染めていないのか?」

 

「急だな・・・。けど、まるで馴染んでない奴なんかに言われたく無いね」

 

「確かにそうだ。しかしだな・・・」

 

痛いところを突いてくるクリスに続く言葉を言おうとした途端、後ろの扉が勢いよく開かれた。

 

「あっ、翼さんいたいた! 材料取りにいったまま戻ってこないからみんな探してたんだよ?」

 

「でも心配して損した。いつの間にかかわいい下級生連れ込んでるし」

 

「皆、先に帰ったとばかり・・・」

 

「だって翼さん、学祭の準備が遅れてるの自分のせいだと思ってるし」

 

「だから私たちで手伝おうって」

 

「私を手伝って?」

 

翼のクラスメイトのようで、三人が翼とクリスが座っている場所に近づく。

どうやらなかなか戻ってこなかった翼を探していたらしい。

 

「なんだ、案外人気者じゃねえか」

 

その様子を見て、正面の翼に頬杖を突きながら呟くクリス。

クラスメイトたちは四角く合わせた机の残りの椅子に座ってくる。

 

「でも昔はちょっと近寄り難かったのも事実かな」

 

「そうそう。孤高の歌姫って言えば聞こえはいいけどね」

 

「初めはなんか、私たちの知らない世界の住人みたいだった。そりゃあ芸能人でトップアーティストだもん」

 

「でもね。思いかけて話しかけてみたら、私たちと同じなんだってよく分かったんだ」

 

一緒に残っている作業をしながら、今まで言えなかったこと本音を暴露するように本人の目の前で言うクラスメイトたち。

翼は自分自身がいるところで直に聞けて良かったと思う反面、はにかんでしまう。

 

「みんな・・・」

 

「特に最近はそう思うよ」

 

「ちぇっ、上手くやってらぁ」

 

「面目ない、気に障ったか?」

 

翼の言葉に頬杖を再び突きながらさてね、と言うクリス。

だが思うところがあったのか---

 

 

 

 

「・・・だけどあたしも、もうちょっとだけ頑張ってみようかな」

 

「・・・そうか」

 

視線を何処かに向けながら、消え入るような大きさで呟くクリス。

翼はクラスメイトたちと顔を見合わせ、その様子を微笑ましく思った。

そしてもうひと頑張り作業する五人だった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか、今夜中に終わらせるぞ!」

 

通信の相手は弦十郎。その夜、響達はとある廃墟にいた。

 

「明日も学校があるのに、夜半の出動を敷いてしまいすみません,」

 

その廃墟とは、浜崎病院。

規制緩和にて外国企業の国内医療分野への参入が認められた直後に新設された医療更正施設。

医療費の価格破壊を掲げ、 開院当初こそ入院希望患者が後も絶たないい状態であったが、 度重なる医療ミスと、院長である浜崎・アマデウス・閼伽務という人物が事故に見せかけて患者を殺害するという凶行によって事件となり、 ほどなくして閉鎖となった経緯がある。

そこから廃病院となって久しいのだが、 近隣では怪人出没の噂の絶えない有名な心霊スポットとなり、 若いカップルや暴走族の新人メンバーの肝試しの場として利用されていたりもするとは余談であろう。

 

「気にする事は有りません。これが私達、防人の務めです」

 

「街のすぐ外れにあの子達が潜んでいたなんて・・・」

 

そう。ここは武装組織フィーネのアジトとも思われる場所。

緒川からの情報を元に割り出したこの施設。組織の伏魔殿である可能性が一番高いのだ。

 

『ここは、ずっと昔に閉鎖された病院なのですが、2ヶ月前から少しずつ物資が搬入されているみたいなんです』

 

「ただまぁ、現段階ではここまでの情報しか分からなかったんだがな。まったく、こんなおじいちゃんにそんなことさせるかね・・・」

 

「おじいちゃんって・・・。 そんなこと言ってる割には僕よりも強いじゃないか。まだ一勝も出来てないし」

 

「若者にあっさりとやられたら威厳がなくなるからな」

 

自分をおじいちゃんという惣一に対して、半分呆れを含んだ目で迅が突っ込んでいた。

威厳なんて既にコーヒーのせいで消えかけてることに惣一は気づいてないのだろうか。

 

「とにかく、尻尾が出てないからこちらから引き摺り出すまでだ!」

 

「そうだな、結局はやるしかない。行くよ!」

 

そう言うと先導するように奏が走り出し、その後クリスに続いて翼と響、迅とおじ---惣一も走り出す。

 

 

 

 

 

その様子を監視カメラで見ているウェルたちもいた。

 

「おい、滅。あれって・・・」

 

雷が気づいたように声を上げる。

その隣にいる滅は、誰がどう見ても僅かに動揺していた。

 

「何故お前が・・・迅」

 

「おもてなしと行きましょう」

 

拳を握る滅を他所に、ウェルはそう呟いてキーボードのEnterを押す。

すると、病院内に赤い霧状の何かが散布された。

 

 

 

 

 

 

 

病院の中は薄暗く、赤い煙のようなモノが立っている様子を、響たちは物陰に隠れながら見ていた。

 

「やっぱり、元病院ってのが雰囲気出してますよね・・・」

 

「なんだ? ビビってるのか?」

 

「そうじゃないけど、なんだか空気が重いような気がして・・・」

 

「まあ、確かにそうかもしれないな」

 

「とりあえず僕は変身出来るようにはしておこう・・・」

 

「・・・以外に早い出迎えだぞ」

 

会話をしていた響とクリス、奏と迅は翼の言葉に、通路の奥を見る。

すると、そこからノイズが何体か来ているのが見えた。

その中、惣一だけは一人だけ誰よりも気づいていたようで、サングラスを外す。

 

「さて、今回はこっちで行くか。お前は無理に突っ込むなよ?」

 

「流石に分かってるよ」

 

『エボルドライバー!』

 

フォースライザー

 

惣一と迅はそれぞれ違うベルトを腰に巻き付けると、これはまた別種のアイテムを取り出す。

一人は鳥が描かれた手のひらサイズの四角い物体、一人は二本のボトル。

起動するために必要な動作を迷いなく行う。

 

ウイング!

 

ドラゴン!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

惣一がフルボトルを二本差し込み、迅が勢いよくプログライズキーをベルトに差し込む。

そこで惣一はレバーを回し、迅はレバーを引く。そして---

 

『Are You Ready?』

 

フォースライズ!

 

「変身」

 

「変身!」

 

Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)---」

 

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)---」

 

Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)---」

 

Killiter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)---」

 

ドラゴン!ドラゴン!エボルドラゴン!

 

『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

フライングファルコン!

 

Break Down・・・

 

気合いを入れるという意味も、戦うという意味も、戦う意志を纏うそれぞれの言葉と歌を呟いた。

それにより、纏われたのは仮面ライダーエボル、ドラゴンフォームとフライングファルコンで変身した仮面ライダー迅、四人のシンフォギア装者だ。

そして始まるのは、ノイズとの戦い。最初に仕掛けたのはクリスだった。

 

「---挨拶無用のガトリング! ゴミ箱行きへのデスパーリィー!」

 

クリスの放つ両手に握られる四門のガトリング砲。『BILLION MAIDEN』がノイズの群れへ殺到する。

何体かは直撃し、あっさりと炭化してしまう。

 

「やっぱり、このノイズは・・・」

 

「制御されているね・・・」

 

「という事は・・・」

 

「ここが正解だったってことか!」

 

順番に響、奏、翼、迅が確信したように言うと、奥の方からクリスが減らした数を補充するかのように緑色の光が新たなノイズを生み出されていた。

 

「とりあえずはクリスのカバーは迅と翼、響がやれ。俺と奏は囲まれないように対処だ」

 

「わかったよ!」

 

エボルの指示に従うように五人が前に出る。

襲い掛かるノイズをクリスが先陣を切って蹴散らし、そのフォローに迅と翼、響が。

背後と横をエボルと奏が警戒しつつ、援護するという形だ。

 

そしてクリスがアクロバティックに動きながらボウガンを撃ちまくり、そのクリスを死角から襲おうとしている敵を響が拳で叩きのめし、翼が斬り飛ばす。上空のノイズは飛べる迅が叩き落とし、エボルは格闘。

奏は槍を振りながらそれぞれの死角を守るように動く。

しかし響がいくら殴り、蹴り飛びそうが、翼が斬撃で吹き飛ばそうが、クリスが射撃しようが、威力が足りないようにノイズが再生して倒しきれない。

唯一まともに倒せているのは迅とエボルのみであり、奏は翼とクリスと同じなのに()()()二人よりかは倒せている感じだ。それもほんの少し程度であまり差はないのだが。

 

「これは・・・何らかの影響が発生してるのか? 仕方がない、俺たちが出るぞ」

 

「え? あ、うん。わかった!」

 

迅が疑問を浮かべてる間に判断したエボルの指示により、二人がノイズの群れに突っ込む。

奏は影響を受けている自覚があるため、自分より苦しそうにしている響たちの元でノイズの攻撃を防いでいた。

 

「何があったの!?」

 

「ハアッ・・・わかんねぇよ! なんでこんな手間取るんだ・・・!?」

 

「このようなことになろうとは・・・ッ」

 

「これは・・・ギアの出力が落ちてる? でもなんであたしだけマシなんだ?」

 

「ま、それなら仕方がないんじゃないか?」

 

「ハア・・・ハア・・・すみません・・・」

 

ノイズと戦いながら大声で迅が聞くが、何故こうなっているのかは分からない。

そして翼の剣が大剣から初期状態から戻る。いや、戻されたが正解だ。

その姿から分かる通り、この場にいる装者全員のギアの出力が低下している。即ち、適合係数の低下。

ノイズに苦戦する理由を理解した装者たちだったが、何が原因かまでは分からない。

それに奏は第一種適合者である翼とクリスはともかく、融合症例の響すら影響を受けているのにその響よりも、誰よりもマシなことに疑問が浮かぶ。

エボルは原因はここ(病院)にあるとは思っているが、やや疲れた様子で悔しそうに顔を歪ませる装者を見つつ迅の援護をしていた。

 

「これで最後ッ!」

 

迅が最後のノイズに蹴りの一撃を繰り出し、心配なのか装者たちの方を見る。

しかし、ふとこちらを見た響が叫んだ。

 

「気をつけて! 後ろ!」

 

迅の背後から何かが飛び掛かる。

エボルが真っ先に気づき、蒼炎を纏った一撃をアッパーカットの要領で上空に吹き飛ばす。

しかし、すかさず天井のパイプに足をついたかと思えば再度突撃。

それをエボルは冷静に対処し、回し蹴りで一気に吹き飛ばした。

 

「た、助かった・・・けど、こいつは!?」

 

「炭素になっていない・・・!」

 

「まさか、ノイズじゃない・・・?」

 

「しかもマスターの攻撃を受けてもダメージを受けるくらいで済んでる・・・!」

 

「あの化け物は一体なんなんだよ!?」

 

装者たちが驚いた相手はおおよそ、この世の生物とは思えない、四足歩行の化け物。

体色は灰色、体にマグマのような筋が通っており、そのサイズは大型犬以上。

あんな生物は彼らの記憶には存在しなかった。

そんな相手に戸惑っている中で、ふと誰かが拍手するような音が聞こえてきた。

それに全員が身構え、化け物の奥の暗闇に目を凝らす。

 

「え・・・!?」

 

「ウェル博士!?」

 

「なんで!? 確か岩国基地が襲われた時に・・・!」

 

現場にいた響とクリス、迅が驚愕する。

エボル以外が驚いているが、それでも三人が一番驚いていた。死んだと思われる存在が生きていたのだから、当然驚くだろう。

その間にもあの化け物はウェルの横にあったケージの中に入っていく。

 

「話を聞いた時から思っていたが、やっぱり生きていたみたいだなァ・・・。大方、ソロモンの杖はケースの中じゃなく、その服の下でも隠してたっことだろォ?」

 

「どうやらあなたは賢明な方のようですね。ええ、全くその通りです」

 

「そりゃあ、どーもォ」

 

一人驚いて居なかったのは予想していたからというらしく、何故か褒められたエボルは全く嬉しくなさそうに適当に返していた。

つまりはあのライブ時も、岩国基地の時も、全部強奪したソロモンの杖でノイズを呼び寄せた犯人がウェル博士ということだ。

 

「ソロモンの杖を奪うため、自分で制御し、自分を襲わせる芝居を打ったのか・・・?」

 

「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し、制御する事を可能にするなど、この杖をおいて他にありません」

 

翼の言葉を肯定するかのように言うウェル。

その間にも手に持つソロモンの杖からノイズを召喚していた。

 

「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそが相応しい・・・そう思いませんか?」

 

「思うかよ!」

 

クリスが否定し、すぐさま小型ミサイルを展開、発射態勢に移る。

 

「ッ!? ダメだ! 今の状態では・・・!」

 

奏が気づいたように止めようとするが、クリスはそれを無視してミサイルを発射する。

その直後、侵攻するノイズに放たれたミサイルはいつものように全弾ノイズに炸裂するはずが---

 

「ぐ、ぅあぁぁあぁあああ!!!」

 

ミサイルを発射したと同時にクリスが顔を苦痛に歪め、悲鳴をあげる。

全身を駆け巡る衝撃は激痛へと転化し、予想だにしない痛みに狙いが外れた。

幸いなことにノイズは殲滅することが出来たようだが、室内の壁や天井が壊れて夜空が見える。

さらに崩れた瓦礫で機動力が下げられてしまう、という最悪とまでは行かないが、良い状況とは言えない状態にもなってしまった。

しかも目の前にいたウェルは無傷だった。

 

「クリス!?」

 

「クソっ! なんでこっちがズタボロなんだよ・・・!」

 

迅がすぐに近づいて肩を貸し、クリスは起き上がるがダメージが抜き切らない。

 

「バックファイアが高くなってるのか・・・」

 

「つまり、大技を使えば使うほど身を削るということ・・・。この状況で使い続けてしまえば身に纏うシンフォギアに殺されかねない・・・!」

 

奏と翼が気づいたように言うが、それを知ったところで変わることなどない。

それにクリスの場合は装者の中でも特に高い適合係数を有する『第一種適合者』。その分、バックファイアがより強くなっているのだろう。

 

「・・・! あれは!」

 

ふと響が何かに気付いて空を見上げれば、そこには、あの化け物が入ったケージを運ぶノイズの姿があった。

ウェルからすると、そのお陰で身軽になったのもあってもう少しデータを取りたい所だと考えていたが、

響と翼と奏の三人がウェルの方へ構えていた。

 

「仕方がない・・・あのケージは何とかする! 響、翼、マスターはそっちを頼んだ!」

 

「あ、おいッ!? ったく・・・一応これを持っとけ」

 

「うわっ!? あたしにも使えるのか・・・?」

 

槍を携えながらすぐに向かおうとする奏に対して投げたのは、トランスチームガンとフェニックスのフルボトル。

武器として使え、という意味だろう。

受け取った奏は頷くと、素早く走って逃走するノイズに向かっていく。

 

「おっと、そういえばあなた方には別のお相手がいるんでした」

 

「相手だと・・・?」

 

少々の黒煙が舞う中、二人の人影が見える。

黒煙が風に流され、その二人が見えるようになった瞬間、あからさまに動揺した人物が一人居た。

---いや、正確には()()だ。二課のモニターで見ている一人の人物も動揺していた。

 

「なんで・・・なんで二人がそっち側についてるんだよ!? 雷・・・滅・・・!!」

 

そう、その正体とは滅と雷。

迅や亡にとって探していた人物でもあり、友であり家族のような存在。孤児院に居た時から、例え離れ離れになったとしても決して消えぬ絆で結ばれていたはずのグループだ。

そして---

 

「行くぜ、滅」

 

「ああ、分かっている」

 

二人が取り出したのは、フォースライザー。正式名称、滅亡迅雷フォースライザーを腰に巻き付ける。

 

フォースライザー

 

さらに雷は鳥類の絶滅種(ドードー)のスカーレット色の データイメージ(ロストモデル)が保存されているゼツメライズキーを手にし、右下に手を向けながら親指で起動スイッチ(ライズスターター)を押す。

滅の方はパープル色のサソリがデータイメージ(ライダモデル)として保存されているプログライズキーを手にし、刀で斬るように右手を横に向ける。

そこで横向きから表側にし、親指で起動スイッチ(ライズスターター)を押した。

 

ドードー!

 

ポイズン・・・

 

雷が右下に向けていた腕を頭より斜め上に上げ、同時にドードーゼツメライズキーの向きを変える。

そして自身の名の通り雷、つまりは『稲妻』描くように動かすとフォースライザーにドードーゼツメライズキーを差し込む。

滅の方は無駄のない最低限の動きなのか、スティングスコーピオンプログライズキーを直線的に動かすことでフォースライザーに差し込んだ。

その瞬間、ベルトから発せられるのは警告音のようなもの。

 

「「変身」」

 

二人が同時にフォースライザーの右手側のレバーを引くと、プログライズキーが強引に開かれることで展開される。

 

フォースライズ!

 

スティングスコーピオン!

 

露出した接続ポートに強制接続されると、雷は右手を横に向けながら手のひらを開き、ロストモデルは出ずに雷のようなエフェクトを纏いながらアーマーが装着される。

滅の方は滅亡迅雷フォースライザーから出現した色のない灰色のサソリのデータイメージ(ライダモデル)が滅の胸を刺し、そのまま尾を軸にして背後から覆い被さり、鎧として分解されてアーマーが装着された。

 

Break Down・・・

 

現れたのは、先日のライブでも現れた仮面ライダー。

迅と同じく、胴体や脛等の攻撃を受けやすい部位のみに集中させるという割り切った配置により最低限の防御力を確保しつつ機動性と追従性を極限まで高めた白銀と漆黒のアーマーであり、ドードー鳥を模した頭部を持つ赤色の仮面ライダーとバイオレットをメインに、同じく白銀と漆黒の装甲が最低限にアーマーとして装着されていて、左腕に蠍の毒針を思わせる武装がついている紫の仮面ライダーが姿を現した。

その名を、『仮面ライダー雷』と『仮面ライダー滅』だ。

 

「雷落としてやるぜ!」

 

「聖戦の時だ・・・」

 

「そんな・・・ッ!」

 

二人の正体が仮面ライダーであることを知った迅はクリスを休ませるように傍に置いた後、仮面の下でショックを受けたような動揺と表情が現れていた。

 

「新たな仮面ライダー、ねェ・・・?」

 

その一方で、一体誰がこんなことをさせたのか見当がついたエボルはやれやれ、と両手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷と滅が仮面ライダーになる少し前、奏はケージを持って逃げ去ろうとしているノイズを必死に追っていた。

誰よりも負荷が少なかった自分が行くべきだと判断してのことだったが、このままではまずい。

奏の心象を歌にした音楽がコンバーターから流れており、歌を口ずさむことで低下したフォニックスゲインも上昇する。

だからいずれ追いつけることは出来るだろうが、海上に出られてしまうとXD(エクスドライブ)を発動できない今、手出しの仕様がない。

しかし今跳躍したところで海。届くかどうかと言われるとまだ届かないし、仮に外してしまえば終わりだ。

足場がなければ何も出来ないことには変わらず、二人いるなら協力出来ただろうが、ここまで追いつけているのは奏のみ。

であるならばどうするか、と思考しようとした時---

 

 

 

 

 

『そのまま飛べ! 奏ッ!』

 

『奏さん、僕たちを信じて海に向かって飛んでください!』

 

「飛ぶ!? だけど---いいやッ!」

 

そんなとき、耳元から聞こえてきたのは頼りになる大人の声。

海に飛び込む理由について一瞬疑念が過ぎるが、奏は信じる。

こんなときに限って、彼らは無駄なことを、無意味なことをしないと知っているからだ。

 

「いつだって信じてるさ・・・頼んだ!」

 

地面と海面の境目。少しでも足を踏み外せば海面へ転落するギリギリを見極め、両足に全力込めて跳躍した。

同時にスラスターを展開することで滑空を試みるが、一手足りない。

そんなときこそ、どうにしかしてみせるのが二課という頼れる存在なのだ---

 

 

『---仮設本部、急速浮上ッ!』

 

海中から轟音と共に飛び出してきたのは、巨大な潜水艦。

三ヶ月前の激闘によって消えてしまった二課の本部に変わる新たな特異災害対策機動部二課の人類守護の最後の砦『移動式仮設本部』だ。

奏は突き出してきた潜水艦の艦首に落下し、高さも地上とは比べ物にならないほど十分となった艦首から再び大跳躍する。

 

『フルボトル!』

 

先ほど、エボルが渡されたトランスチームガン。

使い方を以前説明された奏は迷いなくフルボトルを装填し、トランスチームガンと槍を二つ同時に構える。

槍は矛先が凄まじい回転を起こし、トランスチームガンのトリガーを押した。

 

『スチームアタック!』

 

放たれたのは不死鳥の弾丸。

さらには奏自身の竜巻がより弾丸を加速させ、音速の域に達した不死鳥の弾丸がノイズを一気に焼き払う。

焼き払われたノイズは炭化し、当然支えがなくなったケージが落ちていくが、奏は海に落ちる前にそれを回収しようと追いかけ、あと少しというところで手を伸ばし---

 

 

 

言い寄らぬ悪寒を感じ取り、奏が思わず身を翻す。そして、彼女の目の前を何かが横切り、吹き飛ばした。

 

「うわぁ!?」

 

吹き飛ばされた奏は海面に落下してしまい、すぐに海面から顔を出す。

一瞬、海面に落下する刹那で奏はソレを見た。いや、正確には()()()()()()()からこそ、理解していた。

そう、奏がよく知っている得物といえばただひとつ、そして先の戦いの終盤に満を持して開帳されたアームドギア。

夜が明け、昇る太陽の輝きを背に海面に浮き立つ槍の上に佇む一人の女性。

 

「アイツは・・・ッ!?」

 

「マリア・・・!」

 

「あたしと同じ、ガングニール・・・!」

 

地上で彼女の姿を見たクリスと翼は目を見開いた。

その女性の名は---『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』。

そして女性の足元にある武器は奏の言う通り、紛うことなき---ガングニールに他ならないのだから。

 

「時間通りですよ。フィーネ」

 

「・・・フィーネ?」

 

地上から様子を見ていたウェルが、衝撃的な言葉を漏らす。

二課の一同は疑問が浮かび上がるが、ウェルは関係なしと言わんばかりに言葉を続ける。

 

「終わりを意味する名は、我々組織の象徴であり彼女の二つ名でもある」

 

「フィーネって・・・え? あの人が・・・?」

 

こちらの動揺を誘っているのかどうかは分からないが、少なくともここにいる装者はウェルが言っている意味が分からなかった。

反射する眼鏡のせいでその瞳に映る感情は計り知れないが、彼は間違いなくフィーネと言った。

 

 

「新たに目覚めし、再誕したフィーネですッ!」

 

そう高らかに宣言するように嘯いたウェルだったが、ここに居る装者と迅に浮かんだのは間違いなく---クエスチョンマークであることに違いない。

なぜなら、フィーネが生きているということを彼女たちは知っているからだ。

ただまあ---

 

 

 

 

 

 

 

 

「あァ〜・・・」

 

一人だけ、察したようなドラゴンが居たことは余談なのかもしれない。

 





〇エボルト
(人間態で無茶苦茶し出して、もう色々と)なんだこいつ

〇翼
こいつ一期から有能なことしかしてねぇなぁ! もう安定期間なので五期まで有能のままでいそう。
アークゼロのことはフィーネとの最終決戦で怪しんでいて、本当に敵なのか?と思ってはいる

〇響
融合症例なので出力低下は翼とクリスよりはマシ

〇奏
響よりも()()()マシ。
果たしてその理由とは・・・?

〇クリス
この回の文化祭準備はいるかどうか悩んだけど後々考えるとやらないとね・・・?

〇フィーネ
アークによって記憶が消されたため、FISのことを覚えていない。朧気に関わっていた気がする・・・くらい。

〇滅亡迅雷
孤児院でグループとして存在していた。
なんやかんや親しくなっていたが、何故かそれぞれ別れることになってしまい、現在に至る。
滅亡迅雷の過去編は正直存在してることが重要なだけで、そこまで重要じゃないのでやるならVシネ編



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第五話 譲れない正義とモノ

海上に浮かぶ二課仮設本部内、司令室の中では今までにないほどの困惑で満ちていた。

 

「フィーネ・・・だと?」

 

いつもの弦十郎なら叫んでそうなものだが、今回ばかりは反応が芳しくない。

当然だ、彼らの組織には『本来のフィーネ』が生きている。しかし向こう側もフィーネと名乗っている。

それはフィーネという存在が二人居ることの証明に他ならない。

 

「えっと・・・つまりは異端技術を使うことから組織の名になぞらえたわけではなく・・・」

 

「蘇ったフィーネそのものが、組織を統括している・・・という筋書きでしょうか」

 

友里と藤尭が状況を整理する。

纏めるとなると、そうなるのだろう。フィーネが二課にいる以上は、名を偽る彼女たちの信憑性は0に等しい。

だが今は考察するよりも、弦十郎は目の前の状況を打開するように意識を切り替える。

 

「雷、滅・・・。何故・・・?」

 

そして食い入るように映像を見る亡の言葉はただ虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、槍の上に佇むマリアを何処からか見ている存在が居た。

 

「悲しいものだな・・・」

 

「行くの?」

 

誰と言わずとも分かると思うが、安定で黒いパーカーを着てフードを被りながら顔を隠しているシンとアズである。

アズはしみじみと言うシンに対して聞くが、ベルトが既に存在していることから、どう行動するのかは分かる。

 

()()()()()()()()()が何度も苦戦させられたエボルト。その力を見極めるのと・・・装者の死は絶対に避けなければならないからな」

 

「そっか。気をつけてね、アークさま」

 

ただ無機質に、無表情に。

目的を達成する機械のように言葉を発するシンにただ気をつけるように言うだけで止めることはしないアズ。

そのことにシンはただ頷くと、一歩足を踏み出し---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジリリリリーン!』

 

けたたましいベルの音に足を止め、シンは心の底からのため息を吐いた。

一体何処から現れたのか、()()()()()()なのに固定電話が出現していた。しかも繋げる線がないにも関わらず関係ないと言うように鳴り続けており、シンは無視しようかなどと考えていた。

 

『ジリリリー・・・ジリリリーン! ジリリリーン! ジリリリーン!』

 

「ねぇ、アークさま」

 

『ジリリリーン! ジリリリー--』

 

「・・・分かってる。アイツ絶対面倒ごと持ってきやがったな・・・。絶対ぶん殴る」

 

『ジリリ! ジリ! ジリリ! ジリリン! ジリリリ、リリリリリン!!』

 

しつこく永遠と鳴り続ける電話にアズもため息をつくと出て、というように視線を向けていた。

何度も鳴り続けられて、しかも途中から歌のように鳴り出した電話に流石にイラついたシンは嫌そうな表情で電話を取り、耳に当てた。

 

『何の用だ。後で殴る』

 

『おや。酷いじゃないか、出てくれないなんて。それに、随分物騒だね』

 

シンの耳から聞こえてくるのは、男性の声。

普段の人間なら使わない倒置法を使うことからおおよそ予想は出来るが、アダム・ヴァイスハウプトだ。

彼は早速聞こえてきた物騒な発言にやれやれと言いたげな声音で話していた。

 

『オレは忙しいと言ったはずだが? お前とは長い付き合いだから予想は容易いがサンジェルマンはどうした? というかお前がやれ・・・といってもやらないんだろうな。オレはキャロルの件で精一杯だとあれほど---』

 

『奪われたのだよ』

 

『・・・は?』

 

出来るなら断りたいという思いを一切隠さないことから()()()()()というのは想像に難くないのだが、突如言われたことにシンは困惑する。

 

『待て、何を奪われた? お前のことだからどうせ管理もしてなかったんだろうが・・・まさか』

 

『予想通りさ、キミのね』

 

『・・・・・・今すぐぶっ壊してもいいか?』

 

『やめて欲しいと言っておこう』

 

珍しく焦るような、ガチの低いトーンで告げるシンに、電話からは冷静に返ってくるアダムの声。

しかし割とシンは本気であったりしたのだが、素直に諦めた。

 

『・・・はぁ。まあお前を完全破壊しようものなら全てを出し切って何とか相打ちに持っていくことしか出来ん。それで、予想通りってことは』

 

『十分だと思うがね・・・まったく。他の錬金術師が卒倒してしまうよ、僕と同等の強さを持つなんて。ああ、()()()()()が奪われた。キミも予想出来ただろう』

 

『おい』

 

こいつ反省してないな、と心の中で付け足しつつ、頭を抑える。

---なんでコイツは世界を壊す気なんだ?

そう思わざるを得ないシンだった。

 

『それでサンジェルマンたちは・・・苦戦中か?』

 

『そのようだね』

 

『そのようだね、じゃねぇっての。世界を壊す気か? なんで()()()()のオレよりやる気なんだよ。絶対立場的に逆だろ、何のための組織だよ』

 

『人類を陰ながら見守り、支えるために作った錬金術師協会だ、無論ね』

 

『耳かっぽじってさっきまでの言動を見直せ』

 

『痛いものだね、正論というのは』

 

何故かドヤ顔をする姿まで幻視したシンはただ怒りのままに言い放つが、半分ほどは呆れ返っていた。

まるで()()()()()()()()()()()会話でもあるのだから。

 

『行けるかな、今は』

 

『・・・ちょっと待て。予測するから』

 

『お願いしよう』

 

「アズ・・・近いんだが」

 

「聞こえないから」

 

電話から耳を離すと、シンは意識していなかったからか、いつの間にか密着するほど近いアズに驚きつつ苦笑して目を閉じる。

ニコニコと笑顔でいる時点で絶対それだけじゃないだろうな、とシンは思いながらもベルトの力を脳内に送り、約0.01秒で()()()()の予測を行う。

本来、『未来予知』ならともかく、0.01秒で数億通りの予測をしようものなら、人間の頭では記憶貯蔵庫がパンクを起こしても不思議ではない。しかしシンはそれをあっさりとやってのけ、再び電話を耳に当てた。

 

『問題ない。どうやらこっちはオレが居なくとも影響はないらしい。場所は?』

 

『英国』

 

『やっぱりお前喧嘩売ってるのか? 日本からイギリスってどれだけ離れてると思ってるんだ・・・。飛行機でも13時間くらいは必要になる。帰りはジェムを使えば一瞬だが、いくらアークの力でも行くのに数4、5時間くらいはかかるぞ・・・』

 

『心配ない。こちらに来てくれるかな』

 

『・・・殴るついでに行く』

 

『・・・反対じゃないかい?』

 

『生身だから安心しろ』

 

『はは、遠慮したいね、出来れば。待ってるよ、それじゃあ』

 

シンはいきなり日本からイギリスへと行ってくれ、という報告に若干殺意が湧いたが、電話が途切れると耳を離す。

勝手に電話がなくなったことに一切気にしないままため息を零した。

 

「変更?」

 

「イギリス行きだ。あれをなんのために使うつもりかは知らないが、世界を破壊する可能性も秘めた力だし、流石に阻止しないと下手すると地球が滅びる」

 

全く関係のないところで世界の危機が起こりかけているが、そもそも今の装者たちを優に超える実力を持つサンジェルマンたちが苦戦するほどの相手。

捜索が難しかったり、実力のどちらかまでは分からないが、どちらにせよ危ういのは確かで、予測でこの場は切り抜けられると知ったシンは結局向かうしかないのである。

世界を守るために。

 

「だったら仕方がないけど、アークさまは下僕でもなんでもないのに言い様に使って・・・。アダムなんてセンスもないし服は脱ぐし実力しかないくせにアークさまを使うなんて・・・あぁ、考えるだけでイライラしてくるかも。第一そんなことをするくらいなら私がアークさまを独り占め---」

 

「アズ?」

 

「なぁに?」

 

突然ぶつぶつと言い出したアズの姿を見てシンが呼びかけると、さっきの様子が嘘のように可愛らしく首を傾げながら笑顔を向ける。

凄まじい切り替えの早さについて関心しながら、シンはベルトを起動させた。

 

「行くぞ」

 

「はーい」

 

一瞬で姿をアークゼロへと変えた彼は、アズを所謂お姫様抱っこと言われる抱え方をすると、地面を砕きながら一気に跳躍した。

さっきと打って変わって、アズは嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

実は二課すら察知出来ていない世界の危機に立ち向かう仮面ライダーがいることを知らず、此方は此方でまた混乱の渦に巻きこまれていた。

 

「いや、だって了子さんは今・・・」

 

「リィンカーネーション・・・・・・。遺伝子にフィーネの刻印を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システムです。貴女達も直接聞いたことはあるでしょう?」

 

「馬鹿な・・・それなら、あの時、あのステージで歌っていたマリアは・・・!?」

 

「さて、それは自分も知りたい所ですね」

 

お互いの認識のズレに気づくことは残念ながらなく、唯一察した人物は教えることは無い。

理由は至極簡単---その方が面白いからである。実際、隠すように後ろを向くドラゴン(エボル)がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

(ネフィリムを死守できたのは僥倖・・・。だけどこの場面・・・次の一手を決めあぐねるわね・・・)

 

マリアが今の戦況を考えて思考する中、海の中から奏が飛び出し、水面を文字通り滑りながら一気に跳躍。

槍を構えると、そのまま一直線に突撃した。

その攻撃をマリアは首を動かすことで冷静に避ける。

 

「甘くみるなよ!」

 

奏の持つ槍から竜巻が起こると、それを一気にぶつける。

マリアはマントでそれを防いた。

 

「甘くなど見ていない!」

 

その勢いで攻撃してくる奏を一気に潜水艦の場所まで吹き飛ばす。

吹っ飛ばされた奏は潜水艦に体を打ち付けるが、すぐに着地する。

それを見たマリアはネフィリムが入ったケージを上に投げ、なんとケージが無くなったように消えた。

マリアも船体に上がり、その手に槍を携えた。

 

「だからこうして私は全力で戦っているッ!」

 

橙色の撃槍(ガングニール)VS黒い撃槍(ガングニール)---。同じ聖遺物を纏う同士の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ!」

 

「ハッ、俺を指名ってか?」

 

未だギアの出力低下が残っている中、翼が雷に斬り掛かる。

その攻撃を雷は正面から受け止め、仮面越しでも笑っているのが分かるほどの声音で話しかけるが、翼はもう一度剣を振るう。

しかし雷は肉体を後ろに曲げることで避け、同時にその体勢から蹴りを繰り出す。

翼はすぐさま剣を戻すが、弾き飛ばされてしまう。

 

「この実力・・・! ギアの出力だけではない・・・!? ならばッ!」

 

弾き飛ばされた翼はすかさず着地と共に逆立ちとなり、一気に回転して足のブレードで斬りかかる。

 

逆羅刹

 

「おらよッ!」

 

その攻撃に対して、かつて戦ったドードーマギアが所有していたヴァルクサーベルを取り出した雷がたったの一振することで防ぐどころか、翼を吹き飛ばした。

 

「何ッ!?」

 

「だったらあたしが---ぐっ!?」

 

さっき放った大技による負荷は残っていたのか、放とうとしたクロスボウを降ろしてしまうクリス。

そこに弓矢が飛んでくるが、迅が防ぎ切った。

 

「滅! どうして・・・どうしてこんなことをするんだ!? なんでそっちに・・・!」

 

「譲れないものがある。それだけだ、迅」

 

ただ目的のために行い、そのために行動する。

それは双方共同じであり、譲れないものだ。だからこそ滅は迅に対して武器を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この胸に宿った 信念の火は 誰も消す事は出来やしない 永劫のブレイズ---」

 

マリアの歌が潜水艦の艦上に響き渡り、奏は突っ込む。

撃槍と撃槍が錯綜し、激しく打ち合う。

 

「やっぱりアタシと同じってわけね・・・!」

 

奏が持つ撃槍と拮抗するマリアの黒い撃槍。

それはすなわち、以前言っていた通りマリアの持つガングニールもまた()()だということ。

 

「なっ!?」

 

槍を打ち合い、鍔迫り合いに持っていくと、奏が突然槍を手から離した。それを見て、マリアが驚く。

力を込めていたマリアは当然すぐに体勢を戻すことなど出来るはずもなく、肉体が前のめりになる。そこを奏は蹴りを繰り出そうとして、マントの動きを見て即座に槍を掴んで横にする。

瞬間、マリアのマントが奏を弾き飛ばすが、ガードに成功したお陰で軽く離されただけだ。

ギアの出力低下を少しは受けている奏と、バトルポテンシャルが向上しているマリア。

 

「ちっ・・・!」

 

それに気づいた奏は舌打ちと共に、自分が来た判断は間違ってなかったということも理解した。

お世辞にも響はノイズ相手ならともかく、対人戦は無理だろう。翼とクリスに至ってはギアの出力低下があり、エボルは例外として、迅に至ってはまだ仮面ライダーの性能を理解しきれてないのか未熟ともいえる。

だからこそ、自分で良かったと思っていた。

しかし自身が戦っている場所は二課の仮設本部であり、潜水艦を傷つけられる度に生まれる焦り。

このままでは潜行に支障が出るかもしれない---その点では焦りがあった。

唯一の救いは、Linkerが必要なく、制限時間が必要としない点だろう。

 

『奏! マリアを振り落とせ!』

 

「わかった!」

 

すると弦十郎の声が聞こえ、奏は槍を握る手に力を込める。

おそらく潜水艦が傷つけられたことによって、損傷が出てしまっているのだろう。

そして奏が動く。一気に甲板を蹴り、凄まじい速度でマリアに突撃する。

その姿は弾丸---そう言えよう。

しかしマリアはそれを受け流すように逸らす。そのまま攻撃しようとしたところで、奏が逸らされることを想定していたように地面を蹴って空中で回転。ボレーキックのようにマリアへ足蹴りを行い、マリアは寸前にマントで防ぐことに成功した。

奏はマントを蹴り飛ばして地面に着地し、蹴り飛ばされたマリアは衝撃に少し後退してしまう。

怯んだ隙に向かおうとし---

 

「ぐっ!?」

 

足に力を込めた際に、突如として痛みが走った。

それは、ケージを回収しようとした際に受けた一撃。どうやら今になって響いたらしく、奏の動きが止まった。

 

「もらったッ!」

 

「こん・・・のッ!」

 

いつの間にか接近したマリアが、槍を持って振り翳し、一気に振り下ろしてきた。

奏は避けることが不可能と見ると、槍による一撃を肉体を逸らして受ける箇所を最小限にしながらカウンター気味に槍を斜め上に振り上げた。

 

「ぐあっ!?」

 

「ぐふ・・・!?」

 

奏は吹き飛ばされ、地面に肉体を打ち付けてしまった。

 

 

 

 

 

 

その姿をクリスと響は見ていた。

 

「やっぱり最初に受けたのが効いてる!」

 

「だったら白騎士のお出ましだ!」

 

確信を持つように呟く響にクリスはマリアに向かってクロスボウを構え、そして---

 

 

 

 

 

飛んできた円盤鋸に反応した響がウェルを押すことで避けさせるのと同時に自身も避け、気づいたクリスもソロモンの杖を手にしながら避ける。

次々と飛んでくる円盤鋸を見極めながら回避する響と敵を探そうとするクリスに対し---

 

 

「なんとイガリマァァァア!!!」

 

クリスに向かって鎌を振り下ろす切歌。

 

「---警告メロディー 死神呼ぶ 絶望の夢Death13」

 

「おっと、そいつはやめともらおうかァ!」

 

攻撃が当たる寸前、鎌を受け止めるのはエボル。

ふとクリスが横を見ると、滅が起き上がる姿が見えた。迅は今は翼の援護に向かってなんとか戦えているようだが、エボルは滅を吹き飛ばしてきたのだろう。

 

切歌がエボルを攻撃している間に、調は響に向かって脚部のホイールを使い、さながらスケート選手の如くアスファルトを駆け抜ける。

そして再び円盤鋸『α式 百輪廻』を響に向かって放つ。

 

「はっ、たっ、たぁっ!!」

 

放たれた百輪廻を、響はその拳でもって叩き落す。

そしてすかさず調は輪型の鋸を展開し、巨大な車輪として、響に突進した。

 

非常Σ式 禁月輪

 

「う、うわぁぁあああ!?」

 

あまりにも殺意マシマシな攻撃に流石の響も驚きを隠せず回避する。

その一方で切歌の攻撃を防ぎながら、エボルは滅の攻撃も防がなければならないという難しいことをあっさりとしていた。

クリスもクリスで援護しようとしているのだが、飛んでくる矢に関しては流石にエボルも追いつかないらしく、避けるので精一杯だった。

 

「クリス!」

 

「余所見は危ないぜ、迅ッ!」

 

「うわあ!?」

 

「させん・・・!」

 

戦いに集中できず、クリスの方へ向かおうとする迅に対してブーメランのように剣を飛ばす雷。

その剣を翼が大剣で弾くが、どちらが援護しにきたのか分からない状況だ。

そして滅がクリスを吹き飛ばしたが、追撃をしようとしたところでエボルがアスファルトを砕いて浮いたコンクリートを蹴り飛ばすことで妨害。

 

「クリス!」

 

「クリスちゃん! 大丈夫!?」

 

「悪ィが守るのは慣れてなくってなァ・・・」

 

クリスに駆け寄る迅と響だが、二人を相手にクリスを守りながら戦っていたエボルはちょっとした凡ミスしたらしい。

そして何故迅が駆け寄れたかというと、滅と雷はウェルのところに向かって合流したようだ。

そんな中、気がつくと回収されていたソロモンの杖を手に握る調はローラーで滑りながら桟橋の近くに行くと止まるが、通り過ぎ様にウェルが呟く。

 

「時間ピッタリの帰還です。お陰で助かりました。むしろこちらが遊び足りないくらいです」

 

「・・・助けたのは貴方のためじゃない」

 

「いやぁ・・・これは手厳しい」

 

返ってきた調の言葉にやれやれと言うふうに両手を広げてそう返すウェルだった。

そんな会話がなされていた中、クリスは迅と響に肩を借りて起き上がられせてもらっていた。

 

「クソッ、適合係数の低下でまともに体が動きやしねぇ・・・」

 

「だが徐々には回復してきている・・・」

 

嘆くように言うクリスに対し、確信を持つように返答する翼。

 

「それにしたって、一体何処から・・・」

 

「滅と雷はともかく、他二人は何処から来たんだ・・・?」

 

「ま、普通に考えれば俺たちの知らぬ異端技術でも使用したんだろう」

 

そして見渡す限り、隠れるところが一切ない場所。

そのため、何処から現れたのか予想すら出来ない響の呟きに迅が同調し、エボルは奇しくも二課内で語られたことと同じことを言っていた。

 

「くっ・・・」

 

一方で、マリアは足を抑える奏に対して客観的に見れば有利に立っている状況だが、横腹を抑えながら歯を噛み締めていた。

 

(こちらの一撃に合わせて反撃してくるなんて。技量は私よりも圧倒的に上ということか・・・!)

 

ギアの出力低下が他の装者よりも少ないとはいえど、弱体化しているのは確実な奏だが、マリアの考えている通り、奏の方が技術が上回っていた。

当然だろう、奏は何年も前から既に戦場(いくさば)で戦ってきたのだから。さらに奏は下げられたとはいえど、万全ならば翼と同じくらいの適合係数まで()()しているのだから、言うならば鬼に金棒である。

そして同時に、奏も翼と同じく、低下した適合係数が徐々に回復してきているのを実感していた。

 

(行けるか?)

 

このまま行けば、間違いなく完全回復することは出来るだろう。だがある程度回復した今なら撤退くらいさせることは可能かもしれないと奏は甲板に置いてある槍に手を置く。

 

「はぁ・・・はぁ・・・(ギアが重い・・・)」

 

出力が回復している一方で、マリアは息切れをしていた。

先程とは違い、マリアの肉体に負荷でもかかっているのだろう。マリアは油断すればすぐにでもなくなってしまいそうなギアを維持していると、通信が聞こえてきた。

 

『適合係数が低下しています。ネフィリムは回収しています。戻りなさい』

 

「くっ! 時限式ではここまでなのッ!?」

 

「時限式、だと・・・!?」

 

聞こえてきたマリアの言葉に、奏が驚く。

何故ならそれは、アークゼロによって適合係数を上げられる前まで奏も使っていたLinkerを使うことで無理矢理適合係数を引き上げてシンフォギアを纏う存在。

後天性適合者に他ならないのだから。

 

「うわっ!?」

 

そんな思考をしていると、突如風が吹き荒れる。

思わず顔を庇う奏だが、その隙にマリアは飛び上がり、見えない何かに捕まっていた。

疑問を抱く前に奏が見上げれば、プロペラ式の垂直離着陸機がいつの間にか現れていた。

奏は驚いている合間に飛行機が装者と仮面ライダーがいる場所に向かっていくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、翼とクリスは敵と対峙する。

 

「お前ら、一体何が目的だ!?」

 

「・・・正義では守れないものを、守るために」

 

「え・・・」

 

クリスが怒鳴り気味で問いかけるが、返ってきた調の言葉に響は戸惑う。

 

「正義では守れないもの、ねェ・・・」

 

「それは一体、どういう---ッ!?」

 

何かを思い出すように呟くエボルと意味を問いかけようとする翼だったが、どこからとも無く風が吹き荒れるとウェルを抱えた装者、そして仮面ライダーがロープを掴み取り、そのまま飛行機に回収され、太陽がある方向へ飛んでいく。

 

「逃がすかよ!」

 

すぐさまクリスがその飛行機を撃ち落とすべくギアを狙撃銃スナイパーライフルに変え、ヘッドギアを狙撃用のスコープへと変形させ、対象を狙う。

 

RED HOT BLAZE

 

「ソロモンの杖を返しやがれ・・・!!」

 

執念で狙いを定めようとするクリス。

しかし---

 

ロックオンした瞬間、その姿が虚空に消え去った。

 

「なんだと・・・」

 

「・・・消えた?」

 

目の前で消えた敵の飛行機。

一体どういう原理か理解出来ずにクリスと迅が呟くが、ふとエボルが口を開く。

 

「超常のステルス性能・・・だろうな。直接見ている俺たちから姿を眩ませて、レーダーすらにも映らない・・・これが、敵の持つ異端技術ってわけだ。まったく、これだから科学の行き着く先は破滅って言ったんだ。なぁ、戦兎ォ

 

それほどの技術を有するには、『科学』という力が必要。逆をいえば、異端技術を所有出来るほど人類は成長してしまったのだ。あの兵器が仮に人類に害を成すものだったなら、終わっていただろう。

だからこそ、エボルは小さな声でそう呟いた。

 

例えると古代の機械、古代の技術、未来の技術、未知の機械、それを全て使うには、結局行き着く先は『科学』なのである。

人類が成長するに必要なのも科学、人類が何かを開発するのに必要なのも、科学。

人類にとっては科学というのは切っても切れない縁であり、同時にそれは悲劇や破滅、様々なものを生み出すものだ。

それは残念なことに間違ってなどなく、科学が発展して良いことはあっても犠牲の上に成り立ったもの。例えば銃が作られることがなければ? 戦争は少しくらいはマシになったかもしれない。例えば戦車が作られることがなければ? 戦争がより長期化することはなかっただろう。逆に船が作られることがなければ? 人類は交流することも難しくなり、輸入や輸出、遥か昔に遡るのであれば、香辛料や鉄だって入手出来なかっただろう。飛行機がなければ? 今頃我々人類は外国に行くことなんて出来なかっただろう。

戦争が起こる度に、人類は科学で何かを開発してきた。科学が発展する度に、人類は戦争を起こしてきた。

どちらにせよ、開発しなくても遠くない未来(みらい)に開発し、作られることがなくても別のものを作っていただろう。

それを彼も知っており、だからこそエボルは思った。

 

(今のお前がこの世界を見たら、どう思うんだろうな。まァ・・・お前はもう揺らがねぇか・・・)

 

仮面の下で予想出来る姿に自然と笑みを浮かべたエボルは去っていた飛行機があった場所を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

その飛行機のコクピットにて、ナスターシャは目の前にある聖遺物を見つめていた。

 

「『神獣鏡(シェンショウジン)』の機能解析の過程で手に入れた、ステルステクノロジー・・・。私たちのアドバンテージは大きくても、同時に儚く、脆い・・・) ッ!? ごふっ! ごほっ!」

 

突然、激しく咳き込むナスターシャ。そうして抑えた手を広げてみれば、そこには、口から吐いた血が握られていた。

 

「急がねば・・・儚く脆いものは、他にもあるのだから・・・!」

 

ナスターシャは、その何かの野望に満ちた目で、移り行く景色を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ・・・。あのエボルというのは何者だ・・・? 俺の攻撃が通じなかった」

 

滅は思い返すように胸を抑えながら目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、迅と戦っている時に乱入してきたエボルの姿。

どれだけ攻撃しようとも、変えようとも、遠距離から放とうとも、策を生じようとも、全て防ぎ、潰してきた相手。

ラーニングしようとはしていたが、ほんの少し出来た程度であり、あの場で誰よりも強く、誰よりも戦ってきた者だと滅は理解していた。

 

「迅の野郎もかなり強くなってたな。あの装者よりかはまだ技術は磨けていないが・・・」

 

「・・・あれもアークが渡したのだろうな」

 

滅と雷は互いに戦ってきた。

そうして今日まである程度の強さを身につけ、戦いに挑んだのだが、他はともかくエボルには二人で行っても勝てないことは察していた。

同時に、迅が持っていたベルトとキーは自分たちと同じもの---つまりはアークゼロが渡したものだと。

二人の記憶にもよく残っており、同時にあれこそがまさしく『人類の敵』だということも既に理解していた。

 

それは滅たちが保護されて暫くたち、マリアたちがシンフォギアに適合した日からそんな遠くない時---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・俺たちに出来ることは何も無い、か』

 

『シンフォギアというものは纏えないからな。だが・・・それでもアイツらだけに戦わせるのは違うだろ。滅亡迅雷netは世界の悪意を見張り続ける組織だ。それを成すには・・・』

 

『ああ、力がいる。どうにかして聖遺物でも使用出来れば---』

 

ナスターシャに『計画』については話されていたものの、何も出来ない滅と雷は一般的なものしか出来なかった。

刀の技術を磨いたり、戦闘の技術を磨いたり---せめてギアを纏う前の彼女たちを守るために。

それでも、相手が同じ力を持つとなると生身の自分たちでは勝てないとずっと知っていて、それがただ悔しかったのだろう。

そして、力を求めた。完全聖遺物ならば、人間でも扱える。一般人でも扱える。ノイズと戦うことだって出来る。

しかし何も無ければ戦えない。力がなければ戦えない。彼女たちを守れない。自分たちを拾ってくれたナスターシャに恩を返すことも出来ない。

せめて一緒に背負い、傍に居続けることだけ。それを二人は望んでなどなく、共に有るために望み---

 

 

 

 

 

『その必要はない』

 

()()()()()()

その瞬間、今まで訓練してきた甲斐もあり、滅と雷はすぐさま武器を構えた。

しかし滅と雷が立っている地面を()()()()()とも言えるものが通り過ぎ、彼らの目前には暗闇の中から歩みを進めるナニカが居た。

片方しか光っていない赤い瞳のみが見え、そのものは黒いオーラとも呼べるものを纏いながら、光がある場所に止まった。

 

『何者だ!?』

 

『なんだ・・・この威圧感は・・・ッ!』

 

黒一色のボディに片方しかないアンテナ、左目が剥がされたかのようなマスクに左半身には胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸び、配線や内部パーツが剥き出しになっているなど痛々しい外見になっている姿。

それは『死』。今まで感じることもあった『死』よりも何よりも感じる『死』だ。

訓練してきた、力を身につけた、生きてきた、それを全て否定するような、全てを呑み込んでしまいかねないほどの殺意と敵意、あらゆる『悪意』が内包されたような姿を見て、滅と雷はただ理解した。理解されられた。理解するしかなかった。

 

---殺される。勝てない。戦うことすら認められない。

 

そう、理解されられたのだ。

戦意を削り、喪失させるまでの威圧感。恐怖を心の奥底から感じさせ、息をすることですら辞めてしまいたくなるほどの重圧感。

それは強者。圧倒的な強者。後に知ることになる、()()()()と呼ばれる存在の、『仮面ライダーアークゼロ』と呼ばれる存在だった。

 

対峙して理解する。これこそが、まさしく悪意の権化なのだと。

ゲームで例えるならば、まるでレベル1の勇者がカンストの魔王へ挑むほどの無謀さ。

それほどの差を感じて、しかしそれでもこの存在はこれ以上行かせる訳には行かないと滅と雷は恐怖を押し殺して睨みつけ、武器を構える。

今や訓練で体力の消耗しているだろう彼女たちは彼ら二人にとって『守るべき存在』。

その存在のため、滅と雷は恐怖を押し殺したのだ。

そして、ふとした瞬間に消えた。死を覚悟していたのに消えたことに困惑する滅と雷だった。

何故なら不意に威圧感や恐怖感、あらゆるものが消え、普段通りの空気感に戻ったのだから。

 

『ッ!? さっきのは気のせい、か・・・?』

 

『・・・楽になった、な』

 

『気のせいではない』

 

滅の錯覚ではないか、と言うように呟いた言葉を否定するのはアークゼロ。

しかし、さっきと打って変わって殺意も殺気も悪意もあらゆる重い雰囲気ですら消え去っていた。

 

『・・・どうやってここに入ってきた?』

 

『普通に。あんなセキリュティ如きオレに破れないとでも? いや、お前たちは知らないのか・・・まあ、人類の敵と呼ばれてる存在だ。詳しくは調べたら出るんじゃないか? 我ながらやりすぎたと今では思ってるからな』

 

返ってきた言葉は、規格外の言葉。

一応この施設はそんな誰かがポンポンと入ってこれるところはないのだが、滅と雷は分かっていた。

この存在は()()だと。本気で言っているのだと。まるで隙がなく、武器をこちらが持っているにも関わらず、余裕に、律儀に返してくるのだから。

あれだけの殺意を発することが出来る時点で分かっているものだが。

 

『じゃあ、何しに来たんだ? ここは何かの用がが入ってくる場所じゃねぇ』

 

『力が欲しいんじゃないのか?』

 

雷の言葉に、アークゼロは問いかける。

何処か見た目からしても悪魔の囁きにしか聞こえないものだが、滅は疑問で返す。

 

『・・・どういうことだ?』

 

『察し悪いな。言葉通りだ。それにしたってお前は・・・なんか矛盾と対話から拒絶し逃避した結果、最悪な展開にして悪意を伝染させてそうな感じだな・・・。滅・・・だったか』

 

『煽られてるじゃねぇか』

 

『・・・・・・』

 

さっきの恐怖が嘘のように浮かび上がってくる感情に滅は刀を持つ力を少し入れるが、頭は冷静で斬り掛かることはしなかった。

冷静な部分が勝てないと理解させているからだ。むしろ一撃で殺されると。

 

『まぁ、どうだっていい。オレからのプレゼントだ、お前たちは()()したからな』

 

『プレゼント? 合格? 何を言ってやがる?』

 

『そこも気にするな、ほら。いらないのか?』

 

雷のその疑問には答えることなく、差し出してくるのは、ベルトと四角いナニカだ。

それを見て、滅と雷は顔を見合わせて再び視線をアークゼロに向ける。

 

『・・・心配しなくとも何も無い。ただの力の器であり、どう扱うかはお前たち次第だ。どう使うかまでは勝手にすればいいし安心安全設計にしてある。オレから言えることはただひとつ、手にした時にお前たちは()()()()と並び立ち、守れる力を手にするということだ』

 

『・・・嘘は言っていないようだ』

 

滅は見極めるようにアークゼロを見るが、嘘をついているような雰囲気も声音でもない。

 

『本当ってことか・・・いいぜ、乗ってやる』

 

『おい、雷・・・』

 

『心配すんな。こいつはお前も言ってた通り、嘘をついちゃいねぇよ。第一、それならこんな回りくどいことしなくても別の目的があるなら俺たちを殺すか無理矢理させればいい話だろ』

 

そういった雷はアークゼロに近づくと、迷うことなくベルトと四角いナニカを手にした。

四角いナニカはスカーレット色をしており、絵柄はドードーだった。

 

『ゼツメライズキーを選んだか。いや、何らかの運命操作か・・・? どっちでもいいか。それで、お前はどうする?』

 

『・・・分かった。素直に信じよう。本当に力が手に入るならば、ないに越したことはない』

 

そう言った滅もアークゼロからベルトと四角いナニカを手にする。

四角いナニカはパープル色で、絵柄はサソリだった。

そして手から何も無くなったアークゼロは手を降ろして、滅と雷はただ仮面越しにも関わらず、笑った---ような気がした。

 

『使い方はベルトを付ければ分かる。怖いなら今すぐ変身するといい。オレを殺せる()()()()()()し、ここでなら治すことは出来る。オレを信じるか信じないかはお前たち次第だが』

 

半信半疑になりつつ言われた通り、滅と雷はベルトを腰に巻き付ける。

 

フォースライザー

 

するとベルトの名前らしきものが機械音声で読み上げられ、二人の脳裏に使い方が一気に浮かんだ。

 

『なるほど・・・確かに言った通りだ』

 

『ああ、試運転と行くか』

 

使い方が浮かんだ雷と滅は信じることにし、雷は鳥類の絶滅種(ドードー)のスカーレット色の データイメージ(ロストモデル)が保存されているゼツメライズキーを手にし、右下に手を向けながら親指で起動スイッチ(ライズスターター)を押す。

滅の方はパープル色のサソリがデータイメージ(ライダモデル)として保存されているプログライズキーを手にし、刀で斬るように右手を横に向ける。

そこで横向きから表側にし、親指で起動スイッチ(ライズスターター)を押した。

 

ドードー!

 

ポイズン・・・

 

雷が右下に向けていた腕を頭より斜め上に上げ、同時にドードーゼツメライズキーの向きを変える。

そして自身の名の通り雷、つまりは『稲妻』描くように動かすとフォースライザーにドードーゼツメライズキーを差し込む。

滅の方は無駄のない最低限の動きなのか、スティングスコーピオンプログライズキーを直線的に動かすことでフォースライザーに差し込んだ。

その瞬間、ベルトから発せられるのは警告音のようなもの。

 

『『変身』』

 

二人が同時にフォースライザーの右手側のレバーを引くと、プログライズキーが強引に開かれることで展開される。

 

フォースライズ!

 

スティングスコーピオン!

 

露出した接続ポートに強制接続されると、雷は右手を横に向けながら手のひらを開き、ロストモデルは出ずに雷のようなエフェクトを纏いながらアーマーが装着される。

滅の方は滅亡迅雷フォースライザーから出現した色のない灰色のサソリのデータイメージ(ライダモデル)が滅の胸を刺し、そのまま尾を軸にして背後から覆い被さり、鎧として分解されてアーマーが装着された。

 

Break Down・・・

 

そうして現れたのは、胴体や脛等の攻撃を受けやすい部位のみに集中させるという割り切った配置により最低限の防御力を確保しつつ機動性と追従性を極限まで高めた白銀と漆黒のアーマーであり、ドードー鳥を模した頭部を持つ赤色の仮面ライダー---仮面ライダー雷とバイオレットをメインに、同じく白銀と漆黒の装甲が最低限にアーマーとして装着されていて、左腕に蠍の毒針を思わせる武装がついている紫の仮面ライダー--仮面ライダー滅だった。

 

『これでお前たちは力を手にした・・・後は好きにするといい』

 

そう言って背中を向けるアークゼロはただ歩みを進め、姿を消した。

その後ろでは、自身の肉体を確かめるように手を開いて握ったりなどする姿があったのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い出すだけで恐怖が帰ってくるな・・・」

 

「まったくだ」

 

死を覚悟したレベルの出来事を思い出し、色々と疑問はあるが力を授けてくれたことには雷と滅は感謝していた。

無論、何故渡してきたのか、人類の敵と呼ばれていたアークゼロがあの場に居たのか分からない部分は多いのだが。

 

二人がそんなことを話していたその一方では、切歌に殴り飛ばされるウェルの姿があった。

その場には滅と雷もいるが、傍観し、マリアと調も居た。

 

「下手打ちやがって。連中にアジトを抑えられたら、計画実行までどこに身を潜めれば良いんデスか!?」

 

「おやめなさい。こんな事をしたって、何も変わらないのだから」

 

「胸糞悪いです」

 

そんな切歌をマリアが咎め、切歌は従うようにウェルにそう言って胸倉を掴み上げていた手を離す。

 

「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですか?」

 

まるで悪気の無いウェルの態度に切歌はまた怒り出すが、雷は手で制する。

放っとけ、というように。

そしてそんな間に、その部屋のモニターにナスターシャが映る。

 

『虎の子を守れたのが勿怪(もっけ)の幸い。とはいえ、アジトを抑えられた今、ネフィリムに与える餌がないのが、我々の大きな痛手です』

 

「今は大人しくしてても、いつまたお腹を空かせて暴れ出すか分からない」

 

そう言って、調は光の格子に閉じ込められているネフィリムを見る。

実際にネフィリムは暴れることも無く、ただじっとしていた。

 

「持ち出した餌こそなくなれど、全ての策を失ったわけではありません」

 

そう言ったウェルは切歌たちが首にかけるシンフォギアのペンダントを見て、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

戦いを終えた装者たちや迅に対して珈琲を作ろうか迷った惣一だったが、残念ながら遠慮されたことにため息を零し、さっき聞いた情報をまとめることにした。

 

防衛省の斯波田事務次官から聞いた話に寄ると、F.I.S---『米国連邦(Federal )聖遺物(Institutes)研究(of)機関(Sacrist)

 

米国における聖遺物研究所であり、謎の武装組織『フィーネ』が逸脱した組織。

フィーネの構成員は、大方がそこの研究員であり、その統率を離れ暴走したということらしい。

そしてソロモンの杖輸送任務で行方不明となり、再び現れたウェル博士もまた、F.I.Sの研究者の一員だったのだと判明した。

さらに噂程度ではあるが、日本政府の情報開示以前より存在している、と。

だからこそ、テロ組織の名に似つかわしくないこれまでの行動も存外周到に仕組まれているのかもしれない。組織にフィーネの名を冠せる道理もあるかもしれない---ということまでしか二課は知ることは出来なかった。

こちらにフィーネがいるため、記憶さえあれば全て解明できるのだが、思い出せないとなるとどうしようもなく、結局新たな情報が分からなければこれ以上の情報が出てくることはないのだろう。

 

「やれやれ・・・これならスタークにでもなっておくべきだったか。まぁいい。それよりも今は---」

 

潜伏していたならもっと情報が分かったことに少し後悔しつつ、もとよりそのために動いてる訳では無い惣一は思考を変え、響に向かっていく。

 

「響ちゃん、ちょっといいか?」

 

「あ、はい」

 

響に時間があるか聞いた惣一は響を外に連れ出した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? 何を迷ってるんだ?」

 

外では作れないため、仕方がなく缶コーヒーを投げ渡し、惣一がいきなり本題へ入る。

響は慌てて投げられた缶コーヒーを受け取り、驚く。

 

「な、なんのこと?」

 

「はぁ・・・お前は昔からわかりやすいんだよ。誤魔化せると思ってるのか? 多分、未来ちゃんも気づくぞ」

 

「・・・やっぱり惣一おじさんには敵わないなぁ」

 

あはは、と口では明るく言って笑いながら手すりを掴んで景色を眺める響の姿を惣一は手すりに背中を預けながら、見つめる。

惣一から見れる響の表情は、明るくなかった。

そして、ポツポツと胸の内を語り始めた。

 

「実は・・・偽善って言われたんです」

 

「・・・」

 

「誰かを失う悲しみも、胸が痛くなることも知っているのに・・・困っているみんなを助けたいって、嘘偽りない私が戦う理由を偽善って言われたんです」

 

「・・・そうか」

 

それは、響の本音。

誰にも言えなかった胸の内で抱えてきた思いを惣一とは親しい仲なのもあるが、響は語った。

それを聞いて、惣一は懐かしいものを思い出すように口角を上げていた。

 

「私の想いって・・・偽善なのかな、惣一おじさん」

 

「だろうな」

 

そして響の言葉に、惣一は容赦なく肯定した。

響が思わず惣一を見るが、至って真剣な表情をしており、惣一は眼鏡を拭きながら続く言葉を述べていく。

 

「今のままじゃ、そんな想いはただの偽善だ。うわべだけの善行と言われたって不思議じゃない。そうだな、ちょっとした昔話をするか」

 

「・・・昔話?」

 

突拍子もない昔話の話と聞き、きょとんと首を傾げながら響が聞くと、惣一はああ、と頷いた。

 

「これは俺も聞いた話なんだがな---」

 

最初にそれだけ述べると、惣一は語っていく。

あまり詳しくないとはいえ、響ですら一度も、いいや()()()()()()()()()()小さな、小さな英雄の短い話を。

 

「むかしむかし、あるところに小さなバッタがいたんだよ。そのバッタは同胞を守るため、善行を行っていた。しかしそのバッタに向かって飛んでくる声は同胞からの罵声。時に命をかけ、時に守り、時にボロボロになってもなお、感謝されることは一度もなかった。それでもバッタは折れることはなかったんだ。自分がやるべきだと、例え誰に感謝されることがなくとも、それでもやると。まるで善意の塊のようなバッタは何度批判されようが、何度悪口を言われようが、何度殺意をぶつけられるようが、何度敵意を向けられようが、どれだけボロボロになろうが、バッタはそれでも己の全てを賭け、ついには同胞に追放されてしまい、姿を消したんだ。しかしバッタは最後に残せたものがあった。それは自身が善行を行い、悪意を引き受けたお陰で自然と()()()()()()()()と同胞を守ることに成功した」

 

惣一が語った昔話。

それは救済される話でも、大団円な話でもない。

結局のところは、バッタが同胞のために善意による行動で助け続けたのに、裏切られ、追放されてしまった悲劇の昔話だ。

 

「それは・・・どうなったの?」

 

「さぁな。そこまでは聞いちゃいない。でも、そのバッタは最後までどうだった? バッタは自分のために行動したか? 見返りを求めたか? 中途半端で終わったか?」

 

そう言われて、響は聞いた話を思い返す。

バッタは最初、同胞を守るために善行を行っていた。それは最初から最後まで、一切ブレることがなかったのだ。

 

「ううん、最後までずっと誰かのために行動してた」

 

「それで良いんだよ」

 

「えっ?」

 

響の言葉にその通りだ、とフッと笑った惣一は言う。

その意味が分からなかった響は首を傾げるが、そうなることは分かってたのか惣一は紡ぐ。

 

「人間ってのはどいつも偽善の塊だ。結局のところ、そうじゃないだろ? 例え誰に言われても、否定されようとも、お前が信念を曲げない限りそれは偽物なんかじゃない。お前が止まらない限り、やめない限り偽善になりはしないってことさ。偽りではない本物の想いだ。じゃあ、お前の想いはなんだ? 何のために戦う? お前の手は何のためにある? それとも、偽りの想いで偽りの理由で今日まで戦い続けてきたか?」

 

そういう風にお前はどうなんだ、と問いかける惣一に対し、響は迷うことなく、力の籠った瞳で答える。

 

「・・・違う。違う! この想いは、誰かのじゃない! 偽りなんかじゃない! 私だけの想いだ! 私が守りたいから、私がやりたいからしてる! 本当の、嘘のない本気の想い! もう誰かを失うのが嫌だから、同じ思いをして欲しくないから、誰かを守りたいんだ! 私の手は繋ぎ合うため---最速で最短で一直線に胸の想いを伝えるためッ!」

 

「それでいい。見返りを求めたら、それは正義とは言わねぇぞ---俺の知る、偽りの英雄(本物の英雄)の言葉だ」

 

覚悟を決めたような、譲れないという表情をする響の姿を見て、惣一はいつもの人の良さそうな笑みを浮かべながらそれだけ言い、手を振りながら『チャオ〜』と言いつつ去っていく。

その姿を見た響は、ふと気づいた。

 

「あ・・・惣一おじさん。ありがとうございましたッ!」

 

去っていく惣一の姿に響は頭を下げた。

響が迷っていることを察して、わざわざ言ってくれたのだろう。

答えを教えるのではなく、自ら出させた。

そして響が出した答え。彼女自身がそれを捨てない限りは、偽物じゃない、うわべだけの想いではないということは相手にも伝わるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まァ・・・まだ続きがあるんだがな。一人、追放されたバッタは一体何処へ消え、何をしているのか---。少なくとも、アルトは最期まで貫き通したぞ、響ちゃん」

 

 

最後に話したことを思い出した惣一はまだ響が居るであろう場所を見つめると、今度こそ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

シャトーに帰還したアズはシンを見送ると、セレナを探しに行く。

その手にはパンフレットがあり、秋桜祭と書かれている。それを持ちながら探しているようだ。

 

「んー・・・」

 

どこにいるか聞いてないため、どうやって探そうかと歩くアズはふと騒がしくなってきたのに気づく。

このまま歩いていると騒ぎの元に辿り着くだろうと思っていると、騒がしい声が近づいてきた。

 

「待てやああああああぁぁ!」

 

「あははー♪」

 

「・・・・・・」

 

追っているらしいガリィと、楽しそうにしてるミカを見た瞬間、アズは引き返した。

見なかったことにしたのである。正直止めれる相手なんてキャロルかシンしかいないので、正解なのだが。

 

「あら・・・? アズさん。シンさんはどちらへ?」

 

反対からファラとレイアもやってきたようで、アズを見て話しかけてくる。

アズは今も氷を飛ばしたりロットを飛ばすあの二人よりは話せる分マシなので素直に受け答えした。

 

「アークさまはサンジェルマンたちのところに救護しにいったわ。私はセレナを探してるんだけど、知らない?」

 

「ふむ・・・いや、ワタシたちはまだ見てないな。何処かにはいるはずだ」

 

「そう・・・じゃあ、私は探してくるから。あ、これアークさまからの贈り物。ツヴァイウイング?のCDらしいわ」

 

「これは・・・あとでお礼を言わなくてはなりませんね・・・」

 

思い出したように取り出したアズはそれをファラに渡すと、実はハマりつつあるファラは受け取り、そう呟いた。

渡すものは渡したとアズはそのまま---未だに暴れるガリィとミカに話しかけることなくセレナを探しに行く。

アズはせいぜい後でキャロルに怒られるだろうなーくらいとしか思ってないが、わざわざ止める必要もないのである。

 

 

 

そしてアズはまたシャトー内を歩く。

しかし闇雲に探しても埒が明かないため、とりあえず作業部屋へ向かおうと角を曲がり---

 

「きゃっ」

 

「わぷ!? ご、ごめんなさいごめんなさい・・・!」

 

誰かとぶつかってしまう。

ぶつかったと気づいたひと目では間違えてしまいそうなキャロル似の人物はただひたすら申し訳なさそうに頭を下げて謝る。

アズはそんな彼女に苦笑すると、頭を撫でた。

 

「へっ・・・?」

 

「大丈夫よ、エルフナイン。それよりセレナ知らない?」

 

「あ、アズさん・・・。えっと、すみません。まだお会いしてなくて・・・あの、シンさんは居ないのでしょうか・・・?」

 

撫でられたエルフナインはきょとんとするが、すぐに聞かれたのだと理解すると答え、きょろきょろと周囲に視線を巡り合わせるとおずおずといない人物について聞く。

 

「・・・アークさまはちょっと忙しくて。何か用事があるなら言っておくけど?」

 

「い、いえ大丈夫です! ちょっと相談があっただけですし、ボクなんかに時間は取らせるのは・・・」

 

「そういうのはいいから、帰ってきたら言っておくわ」

 

「あぅ・・・。あ、ありがとうございます・・・」

 

見た目から分かる通りキャロルとは真反対な内向的で気弱な性格のエルフナインを見てため息を吐くと、アズは落ちたであろう物を拾って渡す。

 

「じゃあ、またね」

 

「あ・・・はいっ!」

 

元気よく言うエルフナインの声を背に受けながら、別れを告げたアズは作業部屋へと向かう途中に思う。

 

---アークさま。改めて思うけど、モテすぎでは?

 

「・・・はぁ」

 

孤独なまま生きるより人望が出来たのは嬉しいものの、乙女心としては複雑なアズはため息を吐きながらセレナがいるであろう作業部屋へと辿り着き、ノックする。

 

「セレナー?」

 

「わぁ!? は、はーい!」

 

「・・・えぇ・・・」

 

ノックした瞬間、爆発のような音が終わると声が聞こえたアズは入りたい気持ちが消え去ったが、仕方がなく待つことにする。

そして少し片付けるような音が聞こえると、セレナが扉を開けた。

 

「お、お待たせしました。愛乃姉さん・・・!」

 

「うん、ボサボサだし顔とか汚れてる時点で急いでたのだけは分かるわ」

 

何をしてたかは分からないが、アズはとりあえず要件を言う前にハンカチでセレナの顔を拭いたり髪の毛をそっと整えたりする。

その間、セレナは申し訳なさそうにされるがままだった。

 

「はい、終わり。後で風呂入るのよ」

 

「は、はい・・・すみません。ありがとうございます。ええと、どうぞお入りください」

 

わざわざ身だしなみを整えてくれたアズにお礼と謝罪をして素直に頷いたセレナは作業部屋に招き入れる。

アズは部屋に入り、急いでたのもあって少し雑くなっている部品などを踏まないように入ると見渡す。

シンがよく利用しているだけあってよく分からない機械があるが、アズもある程度しか分からなかった。

 

「セレナはここで何をしてたの?」

 

「あ、えっとですね。私って師匠に錬金術・・・知識だけですけど学ばせて貰ってるじゃないですか? ですからその知識を利用して何かシンさんにプレゼントでも作りたいなーと。ちなみにさっきの爆発はシンさんが作った機械に火薬が入っちゃって起こったやつです」

 

「あぁー・・・なるほど」

 

どうやらいつもお世話になっているのもあってお礼として作っているらしく、アズは合点がいったというように頷き、主に自分が入って何か踏んだら爆発するような危険なものを作っていないことについても安堵の息を吐くのだった。

 

「そういえばシンさんはどこへ・・・?」

 

「・・・・・・えい」

 

「ふぇ!?」

 

ふと気づいたようにセレナがアズへと聞くが、アズはまたかと言うような目をすると八つ当たりするようにセレナの頬を摘んでむにむにと動かす。

 

「ひょ・・・あ、愛乃姉ひゃん・・・!?」

 

「みんなしてアークさまアークさま・・・。アークさまの周りに集まってくるのは嬉しいけどこのままじゃアークさまを取られちゃうわ。セレナもそれでいいの? 仲がいいのは良い事だけどアークさまだって忙しいのに。特にあのアダムなんてアークさまをいいように使って・・・! あぁ、私もついていくべきだったかも。そうしたら一回ぐらい嫌がらせは出来たかもしれないのに。ほんっとムカつく・・・ッ! というかなんであの男はあそこまで管理出来ないの? これでアークさまが向かうのは果たして何回目なのよ。二人とも互いを友人とは言ってるけどアークさまは優しいから文句言わないだけでとても大変忙しいことをみんな理解するべきだと思うの。セレナもそう思うでしょ? まったく、私なんてもっとアークさまとしたいことたくさんあるし傍に居たいのにセレナだって---」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長々と途中から文句よりも魅力的なところやドキドキさせられるところなど、恋バナのようなエピソードを語り始めたアズにセレナは知らない話を聞けたことには喜びがあったが、流石にここまで暴走されてしまうとどうするべきか分からず、ただただ困惑していた。

 

「あ、あのぉ・・・」

 

「---というところがとても良いと思うの。うん、自然と守るようにしてくれるところも・・・どうしたの?」

 

「・・・愛乃姉さん落ち着いてください。途中からシンさんのことしか語ってませんから。気持ちは分かりますけど、シンさんは嫌がって行ってるわけじゃありませんよね、たぶん」

 

「・・・あぁ、最近こういうことが多くてつい。ごめんなさいね」

 

鬱憤を晴らしたかったのかな、とセレナは苦笑すると、気にしてないと言うように首を振る。

普段はしっかりしているものの、アズは時々暴走というか黒いオーラのようなものを出し始めるのである。実際には出てないのだが、背後にそのようなものが見えるのだ。

 

「うん、目的を忘れていたわ。はい、これ」

 

「相変わらず愛乃姉さんって切り替え早いですよね・・・。いいですけど、これは・・・秋桜祭?」

 

「そ、本当はアークさまがセレナを誘って行くと言ってたんだけど無理そうだから楽しんでこいって言ってたわ。私も行くつもりだけど、セレナはどうする?」

 

パンフレットを渡されたセレナは目を通す。

名前からはわかりにくいが、どうやらただの学園祭であり、一般開放もしているようだ。

 

「出来れば行きたいですけど・・・いいのでしょうか?」

 

「いいんじゃない? アークさまが言ってるし問題ないでしょ。それにアークさまはセレナの自由を奪ってるわけじゃないし好きにすればいいと言ってたでしょ?」

 

信頼度が限界突破してるんじゃないかというくらい問題ないという謎の理論を言うが、実際予測とは言ってる割に全く外れないことから裏の住民たちにはアークゼロは未来予知が出来ると言われてたりチートと言われてたりする。

実際には本当にただの予測なのだが。

セレナはアズの言葉に納得しつつ、実際に拘束されてるわけでもなんでもないので、素直に行くことにした。

 

「それじゃ、当日は一緒に行きましょうか」

 

「はい、少し楽しみですね」

 

「えぇ、そうね」

 

まだ行くわけでもないのに、ワクワクとした空気感を出すセレナに微笑んだアズはその場に残って、セレナの作成を手伝うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

話題の中心というより、頼られてるのがはっきりと分かるのくらい話に出ていたシンは今---

 

「ようやく来たワケダ」

 

「もう、かなり待たされたわよ?」

 

「いや、プレラーティ、カリオストロ、流石にそれはオレに無茶ぶりし過ぎだろ・・・。日本からイギリスは流石にオレでも辿り着けないんだが? 文句ならお前らの所長に言え。少なくともオレは一発は殴った」

 

「すまないな。わざわざ来させてしまって」

 

文句を言われていた。

ぬいぐるみを抱えた眼鏡をかけた小柄な少女で『ワケダ』という独特な口調をつけるのはプレラーティ。やけに露出度の高い格好をしているのがカリオストロ。

唯一悪いと言ったのは男装をしている麗人、サンジェルマンだけである。

しかしながら所長を殴ったという発言に誰も文句を言うことはなく、むしろよくやったといった表情をしているのは何故だろうか。

その理由はまあ、彼女たちも苦労ばかり掛けさせられてるからだろう。実力がある分、殴ることすら難しいのである。

 

「まぁいい。それより---手遅れになる前に行くか」

 

アークライズ・・・

 

オール・ゼロ・・・

 

ベルトの上部を押すと、瞬時に黒い泥沼から人型のようなものが何体か生まれると崩れ、シンの肉体が悪意の文字に包まれるとその姿をアークゼロへと変える。

そして赤く輝く結晶体を三つ、それぞれ三人へ渡した。

 

「相変わらず禍々しい姿なワケダ・・・」

 

「その割には()()()()()よねぇ」

 

「ラピス・フィロソフィカスまで取ってきてくれたのか・・・感謝する。私たちも行くとしよう」

 

「気にするな。・・・それにしても、個性的な連中ばかりだな、本当に」

 

もはや何を言われてもツッコム気は無いのか、ラピス・フィロソフィカスを纏う三人を見届けながら周囲の気配を探り、目的を探す。

周囲に誰もいないと分かると、アークゼロは三人の言葉から場所を探しながら、殴られた時の所長の反応など様々な質問や雑談に受け答えしながら元凶を倒すために動くのだった---

 





〇エボルト
(面白いから)言わないでおこう
(でも迷ったまま戦闘に入られるとアルトとの約束守れないから)エボルト相談室を開き、解決。
実際に昔話なんてなく、ただの小さなバッタ(アルト)が生きていた話を内緒にして話しただけ。

〇響
迷いが吹っ切れ、偽善と言われても、もう迷わないだろう。
彼女が、その想いを持ちづける限り。

〇奏
対峙して、マリアが持つガングニールが本物だと気づいたが、同じ後天性だと知って複雑な状態。

〇滅、雷
アークゼロの殺意に耐えたことで彼に『合格』として力を貰ったが、一応言うと常人が受けたら死ぬ。
『守りたい存在』が居なければ人格崩壊が起きてもおかしくなかったという。

〇アズちゃん
アークさまがひとりじゃなくなったのは嬉しいけど、乙女心として複雑。
が、アダムはアークさまをすぐ使うので嫌い。

〇セレナ
知識のみなため、当初はキャロルを先生と呼ぼうか悩んでいたなどという余談。
記憶について悩みはあるが姉のような存在と行けることに楽しみ。

〇アークさま
闍ヲ蜉エ莠コ
螳溘?繧ォ繝ェ繧ェ繧ケ繝医Ο縺ョ險?縺??縺ッ逧?r蠕励※縺?k

〇錬金術師協会
すみません、XD読み直したら結社じゃないやんけ、と変えました。

〇アダム
一発殴られたアダム。
そら(管理ガバいしさらっとやばいの盗まれたので)仕方がないね。

〇苦労人錬金術三人
またか・・・と思いながら探し中。
一度見つけたが、ラピスなかったので逃げられてしまった。


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第六話 あたしの帰る場所


シンフォギア10周年、おめでとうございます!
あと、あけおめことよろです。もう心の声を諦めて『()』使うことにしました。すでにたぶん、全部修正しました。その時に気づいたんですけど・・・ヤンデレ要素マジで消えてるな。まぁ、四期ぐらいから再発するのでご安心を。
ここからだんだんと、どちらかというと機械的だった主人公の本当の思いや人間性?人間味?が出てきます。
前半は・・・ただのヒロイン回なんであまり気にしなくてもいいですけどね。ちなみにアークワンもうすぐ出ます(ネタバレ)








 

秋桜祭。

私立リディアン音楽院で開催される学祭であり、共同作業による連帯感や、共通の想い出を作り上げる事で、 生徒たちが懐く新生活の戸惑いや不安を解消することを目的に企画されたものだ。

しかしながら一般開放もされていて、規模としては街中の人は勿論、遠くの方から来る人までいる位だ。どちらかと言えば街の大行事みたいな盛り上りなのだが、その理由はリディアンが国家が保証している学校だから、というのが大きいかもしれない。

だが、視界一杯に映る華やかな飾り付けや嗅覚を刺激する出店から漂う多種多様な美味しそうな香りなど、学校でやるものと思えないほど豪華なのもあるのかもしれない。青春を思い出すことも出来るから、来る人も多い可能性だってある。

そこへ普段は学生と関係者しか入れないリディアン音楽院の校門を通り抜けた二人の男女が居た。

 

「これが学祭ってやつか・・・なるほど、悪意を全く感じない」

 

「・・・・・・」

 

「オレのところはここまで大規模じゃないし、休むことは多いからな。こういうお祭り行事は初めてかもしれない。とりあえず何かを買って食べ歩きでもするべきか・・・あんまり立ち止まってると目立つかもしれないしな」

 

「・・・・・・」

 

大勢の人々が避けながら続々と露店へ向かっていく中、立ち止まっている二人の男女はなんだかんだ目立っていた。

理由としても単純。

男女の容姿が明らかに良すぎるのだ。

黒いパーカーを着た男性と何処にもありそうな私服を来た女性。

はっきり言って服装は普通だが、それを着ている人物が服をより際立たせていた。

そんな男性はさっきから話しかけるように喋っていたのだが、女性の方は口を噤みながら機嫌が悪そうに見える。

 

「カップルかな?」

 

「ちょっと険悪な感じがする・・・」

 

「お似合いだけどねー」

 

目立ってるせいか、時々そのような声が二人の耳に入る。

他にも褒めるような言葉や男性を咎めるような声が聞こえるが、それは善意でのことだろう。

悪意を一切感じない言葉に男性---シンは苦笑した。

 

「で、どうしたんだ? キャロル?」

 

「どうしたもこうかもあるか。何故オレを連れてきたッ!」

 

何も言葉を発さない傍にいる女性---キャロル・マールス・ディーンハイム。

実は何百年とも言えるほど生きている高度な錬金術を扱うことの出来る錬金術師だ。

そんな彼女は綺麗な金髪の髪を靡かせながらシンの襟元を掴み、激しく揺らして怒鳴っていた。

 

「ち、ちょ・・・ぐ、ぐる・・・じい・・・! め、めだ・・・ってる!」

 

「チッ!」

 

勘弁してくれ、というように両手を挙げるシンに対し、キャロルは舌打ちしながら突き放すように離すが、さらっと離す時に歪んだ襟元を直していた。

そんなキャロルに困ったような表情をしながらシンは近づいた。

 

「だって仕方がないだろ? オートスコアラーのみんなは無理だし、ガリィとミカは問題起こしそうだ。ファラとレイアは問題なさそうだが、何か引っかかるものがあるかもしれないからな。てか、人間なら殺りそうで怖い。そしてアズとセレナは既にいるわけで、だからといってアダムは嫌だしサンジェルマンたちは報告しにいった・・・キャロルしか居なかったんだよ」

 

「オレじゃなくてもよかっただろう。お前なら一人でも問題なかろう?」

 

「オレも人間だから寂しく思う時だってあるんだぞ? まあ、純粋にキャロルとだから、キャロルじゃないとダメだったってのもある」

 

あまり聞こえてはならない単語なため、小声で話す二人だが、キャロルは鋭い目付きでシンを睨み、ふと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ほう、その理由とは? チャンスを与えてやる」

 

「・・・ちなみに外すと?」

 

「心配するな。吹っ飛ばすだけだ」

 

「割と洒落にならないやつじゃねぇか・・・」

 

その言葉の裏を四大元素(アリストテレス)を使うということを理解したシンは頬を引き攣らせたが、キャロルの表情からして本気だということが分かるとひとつ、ため息を吐いた。

 

「まぁ・・・なんだ。もっと世界や周りを知って欲しいのもあったんだが、目的としてはデートだな」

 

「・・・は?」

 

言いにくそうに呟くシンの言葉にキャロルは呆気に取られる。

はっきり言うと、シンから発されることがなさそうな言葉だったからこそ、驚いたのだ。

そんなキャロルの様子を見たシンは目の前に立つと、両肩を掴んで見つめた。

 

「じゃあ正面から言ってやる。オレは()()()()()デートがしたい」

 

「なっ!? お、お前急に何を---」

 

「よし! じゃあ今日は()()()として楽しもうか」

 

思わず顔を赤くしたキャロルに笑いかけると、シンはキャロルの手を取って握ると走り出した。

シンに引っ張られる形でキャロルは走るが、シンはそれも想定したように速度を遅めにしていて、それが理解できないキャロルではない。

彼女は相変わらず目の前の、考えがよく読めない存在を後ろから見ながら、何処か嫌な気持ちを抱いていない自身に違和感を持ちつつ---今はいいと、頭を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央区にまで行くと、やはり一番買う人が多いからか、露店と屋台、模擬店、ミニゲームなど、とにかく文化祭でありそうなものは全部あれば並ぶ者も多い。

教室に至っては展示もしているらしく、見て回るだけで大変そうだった。

 

「随分たくさんあるな・・・何か食べたいやつとかあるか?」

 

「特にはない。お前こそ何かないのか?」

 

「うーん・・・ま、たこ焼きとか定番なのにするかな。ロシアンでもいいが、オレがロシアンすると不正になるからなぁ」

 

すっかりと気を取り直したキャロルと()()()()()()()シンは歩いていると、ふと視界に入ったたこ焼きが目に映る。

ロシアンルーレットもあるらしいが、自身の力を知っているシンは何とも言えなそうな表情をしながら視界から逸らした。

 

「オレはこの手のものがよく知らないが・・・それはなんだ?」

 

「ロシアンルーレット。元々は回転式拳銃(リボルバー)に1発だけ実包(弾薬)を装填し、適当にシリンダーを回転させてから自分の頭---特に顳顬に向けて引き金を引くゲーム。たこ焼きはそれの派生で、1つだけハズレがあるというルールは流用したまま、命の危険性が伴わないようにアレンジされたものだな。食べ物だと香辛料、基本的にはわさびとか・・・からしを大量に入れたもの、風船ならば水などといった風にしている。人によるが、ハズレを当たりだと思う人も居るしハズレはハズレだと思う人もいるよく分からんゲームだ」

 

全く知らない様子のキャロルにシンは人間版ウィキペディアみたいな風に説明をしていた。

元々、キャロルはこう言った経験はないため、知らないのは仕方がないだろう。

シンの方もお祭りなど行く時間もなければ暗躍ばかりしていたので、自由な時間はほとんどなかった。然しながら知識はインターネット以上にあるシンは脳内から引っ張り出したのだろう。

 

「・・・バカなのか?」

 

「実際本家では死者が出たことがあるらしい。こればかりはオレもそう思うよ。それでも人類は自身で生み出したもの安全化して、今も楽しめられるようにされている。その辺でプラマイゼロになるかな」

 

聞いていたキャロルが呆れた表情をするが、同感と言うようにシンも頷いていた。

最後には人間のフォローをしていたが。

 

「それにしても・・・なるほどな。だからお前は不正になるということか。お前のここが原因で」

 

「そういうこと。百発百中で当てることが出来て、回避出来るオレが相手でいいなら、やってもいいが?」

 

キャロルがシンの顳顬を指で突き、正解とでも言うように頷く。

 

「誰がやるか。普通のやつを食うぞ」

 

「だよな。オレもそれの方がいいと思う。正解が分かっているのにやっても面白くないし。普通に買うか」

 

そう言うと思っていたようにシンはキャロルの手をそっと引っ張りながら店に並ぶ。

既に何人か買い終えていたからか特に時間がかかることもなく目の前まで来ることが出来た。

そのため、一歩前にシンが出る。

 

「たい焼き六個入り一つお願いします」

 

「わー・・・」

 

「・・・あのー」

 

客側なので敬語をしっかり使いながら注文するが、何故かぼうっとした様子で見つめてくる学院の生徒らしき女性に見つめられてシンは困惑しつつ声を発する。

 

「あっ、は、はいっ! 六個入りですね、少々お待ち下さい」

 

「・・・なんだったんだ?」

 

「・・・はぁ」

 

ハッとした女子生徒が慌てた様子で箱に入れてたのを見たシンは首を傾げるが、キャロルは理解してるのかため息を吐いていた。

 

「お、お待たせしました。ありがとうございました!」

 

シンがたこ焼きの箱を受け取りながら値段ちょうどで払い、会釈してから背を向けて歩き出す。

手に持つ箱から開けてないのにも関わらず、香ばしい匂いが溢れ出てることから美味しいのには間違いないだろう。

 

「そういえば、認識阻害ちゃんと効果あるんだな」

 

何故普段は幼い見た目をしているキャロルが今回は何も言われないのか、カップルだと思われたのか、不思議なことではあろう。

それはキャロルが腕に付けている腕輪が認識阻害の効果を持っているからだ。太い腕輪ではなく、違和感のないように薄く細い腕輪で黄色のもの。

 

「ふん、当然だ。誰が作ったと思っている? ただ玩具程度の効力であるのとオレ自身どんな姿になってるかは分からないがな」

 

「オレにもいつも通りなキャロルにしか見えないが、他の人の反応から察するに高校生くらいなのかもな」

 

カップルだと思われた点からして、シンの見た目通りの年齢と同じと思っていい。

なので、そう予想を立てた。

一般人からすると、キャロルの体は高校生くらいなのだろう。シンからすれば、いつもと変わらぬ幼い少女にしか見えないのだが。

 

「まぁ、問題ないなら良いだろう。それよりたこ焼き食べてみるか。ほら」

 

「・・・何故近づける?」

 

シンは箱を開けると串を指し、たこ焼きをひとつ食べるのではなく、キャロルに近づける。

キャロルはたこ焼きとシンを見て疑問をぶつけた。

 

「この方がデートっぽいだろ? 知識内では恋人同士はこういう風に食べさせたりするらしいからな」

 

「わざわざ実践しなくてもいいッ!」

 

「そう言わずに、な?」

 

「自分で食べられ---んぐっ」

 

シンはふぅふぅと息を吹きかけ、冷ましたたこ焼きをキャロルが口を開けたタイミングで入れる。

口の中に入れられてしまえば、捨てることも出来ずにキャロルは素直に咀嚼する。

それをシンは優しそうな表情で見ていた。

 

「どうだ?」

 

「・・・まぁまぁだな」

 

「そうか・・・うん、美味い」

 

顔を背けながら言うキャロルにフッと笑い、自分も食べる。

当然ながらプロと比べると味は落ちるが、学祭で出すには十分な焼き加減と味。

それからしっかりと掛けられたソースなど一般的なたこ焼きだが、美味しいと断言出来るものでもあった。

 

「ほら、キャロル」

 

「んっ」

 

喋らずとも理解しているように火傷しないよう冷ましたたこ焼きをもう一度近づけると、諦めたような表情をしてキャロルが一つ頬張る。

それを、シンは満足げに微笑んでいた。

 

「な、なんだ?」

 

「いや、やっぱりキャロルと来れて良かったな、ってな」

 

「そ、そうか・・・」

 

視線に気づいたキャロルは疑問をぶつけるが、シンはなんの恥ずかしげもなく言ってみせ、キャロルは複雑な表情をしつつ周囲に視線をやる。

そんなふうにたこ焼きを食べさせる感じで3個ずつ食べ終えたシンはゴミ箱にしっかりと捨て、キャロルの手を簡単に取っては繋ぐ。

 

「さて、次はどうしようか」

 

「この際手を繋ぐことはもうツッコムことはせんが、何も決めていないのか? お前らしくない」

 

「アークゼロとしては正しくないだろうけど、さっきも言った通り今のオレとキャロルはアークでも錬金術師でもないただの男女だ。一般人だからな。見て回って、やりたいのを、食べたいのを食べる。それがいいんじゃないかと思ってたんだ。・・・こういうのは基本的にアズが引っ張ってくれたから正直分からないし

 

最後の部分を僅かに小さい声で呟くが、キャロルには当然聞こえたようで、その光景がありありと浮かんでいた。

 

「とにかく、それなら見て・・・ん?」

 

考えても仕方がないため、とりあえず移動しようとしていたその時、ふと大声が聞こえてきた。

 

「響! このままじゃ板場さんたちのステージに間に合わないのは分かるけど、危ないよ!」

 

「ちょっと響ちゃん。俺の歳を考えてくれてもいいんじゃない?」

 

「だ、だってお腹が空いてて・・・!」

 

背後を見てみれば、まだ遠いがリディアンの制服を着た二人の生徒らしき人と、サングラスを掛けた中年の男性が走ってきていた。

周りの何の騒ぎかと視線が集中しているが、キャロルは自身の体が覆われるのを感じた。

 

「お、おい・・・!?」

 

「静かに」

 

ふと顔を上げれば、シンがフードを深く被ってキャロルを隠すように抱きしめていた。周りから見れば抱きしめてるようにしか見えないが、認識阻害が発動しない二人にとってはキャロルがシンのお腹辺りに顔を埋めて抱きしめ合っているような状況。

だが、シンの至って真面目な様子にキャロルは何も言えず、自身の顔が熱くなるのを感じながら言われた通りにしていた。

そうしていると、走っている女子生徒と中年の男性は二人を通り過ぎていった。

 

「・・・そういえば装者居たんだったな。危なかった」

 

シンは思い出したように軽く片手で頭を抑えるが、バレなかったことに安堵の息を吐く。

正体を見せてないとはいえ、いつバレるかは分からない。認識阻害も装者たちに効果を見せるか分からないため、キャロルの顔や体を隠すためにも抱きしめたのだろう。

 

「っと。キャロル、ごめん。大丈夫か・・・?」

 

「っ・・・あ、あぁ」

 

「・・・?」

 

気づいたようにキャロルの体を離すが、顔を合わせることなく体を後ろに向けたキャロルにシンは意味が分からずに首を傾げる。

シンからして、キャロルの顔は見えない。

だからこそ頬を赤めていることも、何処か、ほんの僅かにだが温もりがなくなったからか寂しげにしていたのは見えることがなかった。

 

「もしかして、何処か打ったか?」

 

「な、なんでもない! 行くぞ!」

 

「あ、ちょっ」

 

心配するような様子で伺おうとすると、キャロルがシンの背中に回って体を押していく。

最後まで表情が見えることがなかったが、シンは従うように押されるのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてフードを被った男性と同じくらいの身長を持つ女性を通り過ぎたリディアンの生徒---響と未来は何故か止まり、背後を見ては周囲に視線を送っていた。

突然の様子に怪訝そうに中年の男性---惣一が話しかけた。

 

「響ちゃん、未来ちゃん? 何か落し物か?」

 

「あ・・・う、ううん気のせいかも」

 

「す、すみません。分からないんですけど、なんだか・・・懐かしい感じがして・・・でも気のせいだったみたいです」

 

「そうか。ちなみにだが、止まったせいであと5分だ」

 

二人も理解していないが、懐かしい感じがして止まったという。

気のせいだと結論に至った二人に対し、惣一は注意するように最悪か状況になりかねない一言を述べた。

 

「う、うわぁーん! や、やばいよー! 待たせてる奏さんにも申し訳ないし!」

 

「もう! 響がずっと食べてたからでしょ!」

 

「まったく、飽きさせない二人だな。それにしても・・・懐かしいもの、ねェ」

 

慌てて走り出す響と未来を見て惣一は笑うと、二人が感じた気配の先を見るが、何も無い。

考え得る選択が複数浮かんだが、惣一は次の言葉で思考をかき消した。

 

「惣一おじさん、早く!」

 

「間に合わなくなりますよ?」

 

「おっと、悪い悪い」

 

響と未来の言葉に惣一も駆け出す。

少なくとも、誰も気づくことはなかった。

しかし何の問題もないだろう。

彼ら、彼女らが交差する運命は、もっと先の未来なのだから---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何故か合流出来たわけだ。バラバラに動いてなんか悪かったな」

 

ただ行き先を決めるわけでもなく、色々買って食べ歩きしていたシンとキャロルだったが、キャロルの口元に付いたクレープのクリームを取るというちょっと事件だけは起きたものの、何事もなく偶然にもアズとセレナと合流していた。

 

「こっちはこっちで楽しんでたから大丈夫よ。それよりキャロルが来てるなんて意外だったけど・・・」

 

「連れてこられただけだ」

 

平気というように首を横に振るアズは隣にいるキャロルに視線を送るが、キャロルはぶっきらぼうに顔を逸らして言う。

そんな様子に苦笑いしつつ、シンはセレナに視線をやる。

 

「セレナも・・・楽しめたようで何よりだ」

 

景品を当てたのか落としたのかは分からないが、やけにたくさんのぬいぐるみを抱えるセレナがいた。

シンは彼女の頭を撫でると、セレナは照れたように笑う。

 

「はい。愛乃姉さんと遊ぶのは楽しかったです」

 

「そうか。でも、ちょうど良かった。キャロルを任せていいか?」

 

「それはいいけど、アークさまは?」

 

「ちょっとした仕事・・・だな。そういえばカラオケ大会はあるみたいだから、二人も出てみたらどうだ? 二人なら優勝出来るだろ?」

 

シンはキャロルを託してから先ほど歩いていた際に眼鏡を掛けた知り合い二人の場所を把握し、思い出したかのように言う。

 

「オレの歌は高くつくぞ。こんなところでやらん」

 

「わ、私も緊張してしまうと思うので・・・」

 

「キャロルは想定内だが、セレナは意外だな。いい歌声なのに」

 

「あはは・・・そう言われるともっと恥ずかしいです」

 

心の底から思っているのか、少し残念そうな表情を見せたが、シンはすぐさま意識を切り替えた。

 

「じゃ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、アークさま」

 

「頑張ってくださいね」

 

「・・・気をつけて、な」

 

「・・・ああ」

 

まさかキャロルから素直にそう言われると思わず、少し驚くが笑みを浮かべて返事を返すと、シンは見送られながら走っていった。

 

「それじゃあ、セレナ。カラオケ大会、行きましょうか?」

 

「え?」

 

「オレは観戦に回るとしよう」

 

「え? え? えぇぇえええぇぇ〜!?」

 

にっこりとした可愛いらしい笑みを浮かべながらアズはセレナを連れていくために手を握る。

確かに出ないとは一言も言ってないが、まさかの状況にセレナは困惑し、止める様子のないキャロルと助かる道がなさそうな状態に驚きの声を挙げるしかなかったのだった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことが行われていることも知らずして、シンは眼鏡を掛けた知り合いに追いついてみせた。

ちょうど校舎の近くの木々に居て、近づくと声が聞こえてくる。

 

「私たちの任務は学祭を全力で満喫することじゃないよ、切ちゃん」

 

「わ、分かってるデス! これもまた捜査の一環なのデス!」

 

「・・・捜査?」

 

「人間誰しも美味しいものに引き寄せられるものデス。学院内の美味いもんマップを完成させることこそが捜査対象の絞り込みには有効なのデス」

 

明らかに言い訳のような言葉だが、約一名引き寄せられていたことから間違ってないことの証明になる。

しかし結論であり、そもそも出会ってないことから結局意味は無いといえる。

そんな切歌に調は頬を膨らませながらじーっと胡乱げに見つめていた。

 

「わ、分かってるデス。この身に課された使命は一度も忘れてないデス」

 

「なんで居るんだと思ったら、そういうことだったか」

 

「わっ!?」

 

「あ・・・シンさん」

 

納得した様子でシンが声を掛けると、切歌は身体をびくっと震わせて驚きながら振り向く。

調もまさか居るとは思わなかったのか、少し驚いた様子だ。

 

「で、何をしようとしてるんだ? 手伝う前に情報が欲しいんだが」

 

「いいの?」

 

「そういう契約だ」

 

「助かるデス! えっとデスね---」

 

シンの言葉を聞いて、二人は事情を説明する。

あの後、アジトを抑えられたせいでネフィリムに与える餌である聖遺物の欠片が残り僅かとなってしまったこと。

ウェルの提案から二課の装者たちのギアペンダントを餌としようとなり、フィーネに魂を塗り潰されかねないマリアの代わりに二人が任務を成そうとしていること。

雷と滅には念の為にマムの傍で待機してもらっていること。

マリアを守るため絶対に失敗できないこの任務であること。

学祭の賑わいに紛れペンダントを掠め取ろうと意気込んだはいいものの、予想以上に人が多くてこの中から特定の人物を探し当てることができていないこと。

ついでに切歌が美味いもんマップを完成させようとしていたこと。

 

「・・・なるほど。だから学祭に来たわけだな。それと切歌、美味いものなら後で食わしてやるから今は我慢しろ」

 

「うっ・・・わ、分かってるデス」

 

「それにしてもペンダントを取るか・・・中々難しい任務だ」

 

二人がいる理由について納得し、切歌も目を逸らしながら頷いたのを見たシンは心の中で困っていた。

 

(流石にシンフォギアのペンダントを餌にされるのは困るな・・・キャロルの計画に支障が出るしオレも困る。正直フィーネは生きてるから絶対有り得ないんだが、表向きは死んだ扱いになってるし信じられないだろう。となると・・・二人の任務的にも回収した際に複製して複製品を食わすしかない。大丈夫だ、アガートラームを既に作成したしそれと同じように・・・)

 

「でも、やらないと行けない」

 

どうするか心の中で決めていたところで、真剣な調の様子を見てシンは安心させるように頭に手を置いた。

 

「そんな気負うな。オレも手伝うし、な?」

 

「・・・うん」

 

「よし、じゃあ装者を探そうか」

 

調の頭を撫でると、シンは切歌と調に視線を送りつつ、軽く気配を探る。

すぐ近くに()()()の反応があり、一瞬疑問に抱くが学院だということを思い出して納得する。

 

「あ・・・シンさん、切ちゃんカモネギ!」

 

「って、おい!?」

 

調が何処かへ歩いていく翼の姿を見つけ、向かおうとしていたところを慌ててシンが抱き寄せることで影に隠す。

 

「さ、作戦も心の準備も出来てないのにカモもネギもないデスよ調・・・!」

 

「もっと慎重に行こう。危険しかないし、仲間と合流するかもしれない」

 

「・・・確かに。ごめんなさい、二人とも」

 

見つからなかったのが幸いだが、相手はシンフォギア装者。

戦場(いくさば)で戦い続けた戦士なのだから、警戒に越すことはない---のだが。

 

「・・・(何なんだろうか。オレ一人でやった方がいい気がしてきた)」

 

木の影から建物の影に隠れた二人についていきながら、翼が歩いていった場所を覗き見して、慌てて隠れる姿を見て心の中で呟く。

そもそもアークの力さえ使えばシンフォギアを纏わせる前に気絶させることくらいなら出来そうであるので、あながち間違ってないのかもしれない。

 

「ギアのペンダントだけ奪うなんて土台無理な話かもしれないデス・・・」

 

「だったら・・・いっそ力づくで」

 

「いやいや、そんな短時間で出来るものじゃないって」

 

いきなり物騒な思考になるのを苦笑しながら止める。

 

(というか・・・ここでされると一般人が巻き込まれる。流石に死人を出されるのは困るんだが)

 

心の中ではぁ、とため息を吐きながら、シンはとりあえずストッパー役として二人に着いておく。

そんなふうに隠れながら動きを観察していると、向こうの方で変化があったようだ。

 

「うわっ!?」

 

真っ直ぐ歩いていた翼だが、突然視界の横から何かが飛び出して真正面から衝突したのだ。

 

「いってぇ・・・」

 

「またしても雪音か。何をしてそんなに慌てているんだ?」

 

相手はクリスで、同じ相手なのもあって翼は以前にもあったことを思い出しながら、疑問をぶつける。

その疑問にクリスは警戒しながら答える。

 

「っ! 追われてるんだ! さっきから連中の包皮網が少しずつ狭めまれていて・・・」

 

「雪音も気づいていたか・・・! 先刻よりこちらを監視しているような視線を私も感じていたことだ」

 

(流石二課の司令の姪だというべきか、風鳴の人間というべきか・・・。それにしてもオレが言えることじゃないが、しっかりと会話するべきじゃないか? 話が食い違ってるような気がする)

 

いよいよ実力行使に出るしか、みたいなことを言い出した二人を手で制しながら心の中では呆れるシン。

そして三人ほどの気配が迫ってくるのを感じながら、問題ないと判断して動かない。

すると---

 

「見つけた、雪音さん!」

 

「げっ」

 

クラスメイトと思わしき三人が調や切歌、シンに一切気づくことなく翼やクリスの元へ走っていった。

 

「お願い! 登壇まで時間がないの!」

 

それを聞いて、シンは思い出す。

というより自身には興味が無いものだったので視野から外れていたのだろう。

カラオケ大会があり、そこで優勝すれば景品として生徒会権限の範疇で何でもしてくれるとか生徒からの声を聞いた記憶が残っていた。

そんなふうに思い出していると何やら会話していたようで、クリスはクラスメイトたちに背を向けながら俯いていた

 

「一体どうしたんだ?」

 

「勝ち抜けステージで、雪音さんに歌って欲しいんです!」

 

「だから、なんでアタシが・・・!」

 

「だって雪音さん、凄く楽しそうに歌を唄ってたから」

 

隠れながら聞いていたが、果たして自分たちが居ていいのだろうかと思ったのだろう。

調と切歌が困ったような表情をして、シンは無意識に唇を噛み締め---二人の手を取って移動を始める。

 

「シンさん?」

 

「ど、何処に行くデスか?」

 

「ステージかな。どうせ装者は行くみたいだから先回りしていた方がいいだろう」

 

「それもそう」

 

「流石デス!」

 

最もなことを言っているが、それは所詮出てきた言い訳に過ぎない。

それでもこの場から離すためにも、三人は移動した。

 

(・・・本当に。全部救えるなら良かっただろうな。アイツも)

 

ただ一瞬、後ろの方に居る二人には気づくことは出来ないが、シンは何処か悲しそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってカラオケ大会が開催されているホールにて。

 

「さあて! 次なる挑戦者の当時です!」

 

司書と書かれたリストバンドを腕につけた少女がマイクを片手にテンション高めに言っていた。

その会場の席には友人である板場たちのステージを見るために来ていた響と未来の姿があり、惣一と変装している奏もいるが二人は連れてこられただけだ。

ちなみに、板場たちの結果は惨敗である。

実は離れた位置にもシンや調と切歌。さらに別の場所ではアズとセレナ、キャロルが居るなど会ってしまったら争いが起きそうな面子ばかりが集まっているのだが、綺麗に出会うことなく何の争いも起きてはいなかった。

人が多いのもあるのだろう。実際、会場内は歓声に包まれていた。

そんな歓声の中、出てきたのは一人の少女。

その姿を見て、響と未来は驚き、惣一と奏は興味深そうにしていた。

 

「響、あれって!?」

 

「うっそぉ!?」

 

「へぇ・・・」

 

驚く未来と響、興味深そうにする惣一に対して答えるものがいた。

 

「私立リディアン音楽院、雪音クリスだ」

 

「翼・・・そうか。アイツも歌ってくれるようになったんだな」

 

「うん。きっと雪音の声はみんなを魅力するはず」

 

隣に座る翼に視線を送り、頷いた姿を見た奏は何処か安心したような、期待するようにステージへ視線を向ける。

彼女たちは、クリスの歌を知っている。クリスが本当は歌が好きだということも。

だが一方のクリスは顔を赤くしたままその場で佇んでいる。

既に曲が流れているにも関わらず、どうにも歌い出せでいる。

 

「よかった・・・間に合った!」

 

そこで走ってきたのか息を整えつつ会場内に迅が駆け込む。

彼も学祭を楽しんでいたらしく別行動していたのだが、ステージで唄う綺麗な白髪の子がいるとの噂を聞いてもしかして、と思ったのだろう。

しかし異変に気づく。

既に歌は始まっているのだろう。それでもクリスはまだ歌い出すことをしていなかった。

 

(やっぱり、いきなりなんて・・・)

 

横眼でステージ横にいるクラスメイトの方を見る。

そんな彼女たちは、頑張れ、とクリスを応援しているが、どうにも歌い出さない。

どうすれば、などと考えていたその時---

 

「クリス---!」

 

クリスの耳に聞きなれた声が聞こえる。

ふと見上げてみれば、そこには急いだのだろう。汗を掻いた迅の姿があり、その声はクリスの耳によく届いていた。

 

「じ、迅!?」

 

来るとは聞いてなかったため、目を見開いて驚くクリス。

 

「クリスの歌の良さは僕が一番よく分かってる! だからクリスはクリスの好きなように歌えばいいよ!」

 

まるで勇気を与えるように、笑顔でそう言って見せた。

この場で、大勢の人々が居る中で歌い出せないクリスのための応援。

その声にクリスは恥ずかしがって---そして、ほんの少しの勇気を貰った。

 

「---誰かに手を差し伸べて貰って」

 

少し遅れてからの、歌い出し。

しかし一度歌ってしまえさえすれば、全て関係ない。恥ずかしさなど、もうなかった。

ただひとつ、ここはもうクリスの独壇場---雪音クリスという少女の世界(ステージ)なのだから。

 

「---傷み(いたみ)とは違った傷み(いたみ)を知る」

 

その綺麗な歌声が、一瞬で会場を魅力する。

普段の彼女の歌を知るものですら。

 

「---モノクロームの未来予想図」

 

徐々にリズムに乗るように動き始め、歌に乗り、自分の世界を広げるように、夢中になるように歌も加速していく。

 

「---絵具を探して…でも今は---」

 

その最中でふとクリスはリディアンに来た時のことを思い出した。

何故かは分からないが、今浮かんできたのだ。

 

『学期の途中ですが、編入してきた生徒を紹介します』

 

『ゆ、雪音クリス・・・』

 

初めてのことで、何処か慣れず緊張しながら初々しい感じが出てしまいながら自己紹介をした。

 

 

 

---何故だろう、何故だろう

 

 

 

 

----色付くよゆっくりと 花が虹に誇って咲くみたいに

 

 

 

唄えば唄うほど、初めての学園生活のことが呼び起こされる。

 

『雪音さん!』

 

『一緒に食べない?』

 

学期の途中で編入してきたというのに、話しかけてくれたクラスメイトが居た。

自身をここへ連れてきてくれたあのクラスメイト三人だった。

 

『悪ぃ・・・用事がある』

 

そんな彼女たちを前にして、クリスは用事もないのに思わず逃げてしまった。

 

 

---放課後のチャイムに 混じった風が吹き抜ける---

 

 

 

本当のことを言えば、一緒に食べたかった。

でも気まずくて、複数人で食べる---そんなことに慣れていなかった。

一人で黙々とあんぱんと牛乳を頬張る日---

 

 

 

---感じた事無い居心地のよさにまだ戸惑ってるよ---

 

 

歌を唄うほど自分の想いが表に出てしまう。溢れてしまう。

歌を唄ってるときだけが、素直に本当の自分を出せる。音楽に嘘をつくことなんて出来ず、こうして笑顔でいる。

歌の授業で歌にめり込んで、いつの間にか体を動かして見られたのは恥ずかしかった。

それでも---

 

 

 

---ねぇこんな空が高いと 笑顔がね…隠せない---

 

 

 

 

 

いつもそうだった。

捨てられたくなくて、必死に縋り付くように、人形のように命令を聞くしかなかった自分。

だけど、傍に居てくれた人がいた。いつも、勇気を与えてくれた人が居た。引っ張ってくれた人がいた。それはかけがえのない仲間となった者達よりも前から、ずっと居てくれた。

それは今も、変わることなくこうしてまた勇気を貰って唄うことが出来ている。

笑顔なんて浮かぶことも、歌を嫌いと自身がどれだけ言っても---

 

『クリスが嫌いって言うなら、僕がクリスの歌を好きって言うよ。ずっと、何があっても。クリスが自分の歌を本当に好きで唄う、その瞬間まで』

 

何も出来ない自分が悔しいと言っているのに他人のことばかり気にして、肯定して、笑顔を向けて、それは何処か嫌な気持ちになることなかった。

何故か隠せない笑みをただ背けることしか誤魔化せなかった。

それは果たして、今も変わらずに好きと言ってくれるのだろうか。

もう隠すことなんて出来ない、心の底から歌が大好きだとバレてしまう自分を見ても。

だけどやっぱり、この気持ちは抑え切ることなど出来なくて---

 

 

 

『---笑ってもいいかな 許してもらえるのかな---』

 

 

 

その結果が、これだ。

抑え切ることなんて出来ず、全てを解放してしまっている現状。

だが、クリスが大好きなその歌は、全てを出してしまっている歌は会場を魅了していた。

響を感動させ、未来を震わせ、翼を漲らせ、奏を高揚させ、離れた位置にいるシア---セレナを興奮させる。

さらに調と切歌は目的のために来たはずなのに目的を忘れさせるまで魅了させていた。

唯一感情に大きく変化がないのは惣一とシン、アズ、キャロルのみだが、シンとキャロルの二名を除いて、惣一は笑みを浮かべ、アズは目を離せず。

キャロルは無表情で、シンはただ---拳を強く握っていた。

そして何より、迅はクリスの歌を誇らしそうに、嬉しそうに見ていた。

 

 

「---あたしは、あたしの---」

 

 

だから、この想いは届かせるべきなのだろう。

 

(ずっとずっと、歌を肯定してくれて、傍に居てくれたことへの感謝と---)

 

 

 

「---せいいっぱい、せいいっぱい…こころから、こころから…---」

 

 

 

『雪音は歌、嫌いなのか?』

 

 

翼が、あの場で尋ねたこと。

もし嫌いって言えたなら、どれだけ楽だったのだろうか。

それでもあの場で言えなかったのは、変えられたからだろう。好きと言ってくれた人の存在を、思い出したからだろう。

それに否定出来なかった理由のひとつは---

 

 

 

(アタシは・・・歌が、心の底から大好きだから---)

 

 

 

「---あるがままに---」

 

 

 

何よりも、例え理解されてなかったとしても、この想いは---

 

 

「---うたってもいいのかな…!---」

 

 

 

(一度も変わることなく、迅が好きって言い続けてくれた、この歌が、私は---!)

 

 

 

歌の力が、想いの力が、爆発する。

 

 

 

「---太陽が教室へとさす光が眩しかった---」

 

 

 

その瞬間、会場にいる全ての人間に、ある光景を映した。

晴天の空の下、赤い花々が咲く、野原。

 

 

「---雪解けのように何故か涙が溢れて止まらないよ---」

 

 

それはきっと、彼女の心の世界。心象風景。悲しみひとつない、曇ることもない平和の世界。

彼女が歌うことで、会場に見せている彼女の幻想。

 

歌に乗せられた、想いの力。歌に込められた、言葉のひとつ。

ただ綺麗で、美しく、凍らされた心を優しく、そっと溶かすような暖かな世界。

まるで全てを許してしまうような、そんな世界。

現実を塗り替えるほどの、秘められた想い。どれだけ難しくて、どれだけ遠いか分からないが、その風景こそ---理想郷。

 

 

 

「---だからこんな暖かいんだ…---」

 

 

 

 

赤い花々の花弁が、風に舞い、風に乗せられて彼女の周りを花吹雪となって飛び回る。

その光景は、その風景は、その姿は、その様子はまさしく---

 

 

 

「---あたしの帰る場所---」

 

 

 

彼女の、彼女だからこそ合う光景と歌なのだろう。

 

 

 

「---あたしの帰る場所---」

 

 

 

飛び回っていた花が彼女の足元から拡散するように上空へ上がっていき、人際大きな歓声が会場を包み込む。

 

(楽しいな・・・)

 

その花は、まるで客の歓声を示すかのように最期まで使命を果たしていた。

 

(アタシ・・・こんな楽しく歌を唄えるんだ・・・)

 

曲が終わったからか、会場を魅了した彼女の幻想世界は消え去ってしまった。

それでも、全てがなくなったわけではない。ステージを見てきた者たちには、しっかりと記憶に深く刻み込まれ、余韻がすぐに消えることなどなく残り続けるのだから。

 

(そうか・・・)

 

この会場に連れてきてくれたクラスメイト三人がステージ横で感動し、この会場にいる響や未来、翼、奏、惣一たち仲間が、友人関係であるセレナが、敵対関係にあるはずの調や切歌までもが激励を持ってクリスを拍手する中で、ただ一人安心したような寂しいような、何よりも自分の事のように得意げに笑った迅の姿をクリスは口角を上げながら見上げた。

 

(ここはきっと・・・アタシが、居ても良い所なんだ・・・)

 

その余韻の嵐に吹かれながらも、クリスはひとり、そう思った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歓声が止み、余韻に浸かる時間を開けた後。

結果が発表される。

果たして、その結果は---

 

「勝ち抜けステージ! 新チャンピオン誕生!」

 

スポットライトに照らされたクリスを見れば、結果は分かるだろう。

当の本人であるクリスは呆気に取られていた。

 

「さあ! 次なる挑戦者は!?」

 

冷静になると、こんな大勢の中であのような歌を唄い、スポットライトに照らされたままというのは恥ずかしいだろう。

しかし当事者ではないからか司会はクリスの事情などお構い無しに進めていく。

 

「飛び入りも大歓迎ですよー!」

 

そう司会の少女が叫ぶ中、シンはただ真っ直ぐに見つめ、頭を抑える。

間を挟むように隣にいる調と切歌は頷き合っていた。

あのような歌を聴いてしまっては、触発されてしまうのは無理もなかろう。

 

「切ちゃん、行こう」

 

「もちろんデス! お兄さんはどうするデスか?」

 

「いや、頭が痛いから遠慮しておく・・・。二人で行ってこい」

 

元々装者でもなければ歌が特別得意というわけではないシンは楽器なら問題なくとも、歌は無理だろう。

まぁそれも言い訳で、本当の理由は別にあるのだから。

 

「分かった」

 

「お大事にデスよ」

 

「ああ」

 

頭を抑えたままこっそりと立ち、シンは身を屈めながら出口を目指す。

それを見送った調と切歌は再び顔を見合わせ、切歌が手を挙げる。

 

「やるデス!」

 

位置が分かったからか、スポットライトに当てられ、照らされる。そのお陰で暗い会場でも姿がはっきりと分かった。

立ち上がった人物は金髪と黒髪の二人の少女。

 

「アイツらは・・・!?」

 

当然、視界に捉えたクリスが驚愕の表情を顕にする。

何故ならその人物こそが自分たちと敵対している組織のメンバーの二人---

 

「チャンピオンに」

 

「挑戦デース!」

 

暁切歌と月読調。

先程まで掛けていたメガネを取り、立ち上がって堂々とクリスに挑戦するという言葉を叩きつけた。

それを会場を出る前に、頭を抑えることなく無機質な目でシンが見ると、ため息を吐く。

その理由は切歌や調に対するものではなく---

 

(本国、米国軍がマリアたちを見つけたか・・・間に合うか?)

 

自身が見た、予測による未来(みらい)

それに対してのため息であり、切歌や調に一言も言わなかったのはあのような表情を見たシンの気遣いなのかもしれない。

彼は即座にアズに通信を繋げながら、マリアたちが隠れているであろう場所へ急いでいた---

 

 

 

 

 

 

 





〇亜無威 心/アークさま
デート繧偵@縺ヲ縺?◆縺キャロルを諤昴▲縺ヲのこと。
実は・・・・・・■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■------(閲覧不可能)

〇キャロル
無理矢理来させられたが、認識阻害で周りから見たら高校生(シンより少し低い程度)の身長でカップルにしか見えない。
色々と一緒に過ごすうちに今日だけで自分の心情に疑問を抱くことが多かった。
クリスの歌のとき無表情だったのは厄介になりそうだ・・・みたいな感じ。たぶん。

〇鶴嶋愛乃/アズ
セレナたちをなんとなく強制連行したが、悔しいことにクリスの歌を良いと思っていた。

〇セレナ
連行された子。
しかし来てよかったと興奮した。

〇ひびみく
ナニカを感じた。しかし、それがなんなのか分からなかった。
もしぶつかったり、もし顔を見ることがあったなら---変わっていたかもしれない。

〇クリス
ちょくちょく過去を明かされてるが、ここまで来たら分かる通り一応迅のヒロイン。
というのも、この時空では滅亡迅雷がいるために主人公が関わることが出来る要素がなく、仮に主人公のヒロインにするなら並行世界しか無理(居なければ主人公が全部解決していた予定だった)

〇迅
実は来ていた人。
クリスが歌を!?と駆けつけたら唄えてなかったので、応援。
クリスの歌はフィーネと暮らしていた時代に一度聞いてから好きになったまま変わらない。
余談だが、滅亡迅雷の中でも、滅と迅は裏の裏の裏の裏の主人公みたいな感じである


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第七話 世界中の愛を言葉にして


お久しぶりです。待ってる方居るか知りませんけどお待たせしました。
いつの間にやら赤から落ちてるようで。
さて、正直ぶっちゃけるとウルトラマンの方にイメージ持っていかれててこっち想像しても映像浮かびませんでした。
もっと言うと、リアル忙しくて何とか書き終えたくらいです。ほんと、スイッチ入れば関係なく終わるんですけどね・・・。
まぁ、次回もいつになるか分かりませんが、気長にお待ちください。
それでは、長々語ってもあれなので本編どうぞ。



突如としてカラオケ大会の場に姿を現した調と切歌。

当然そうなると、敵対している二課所属の者たちは皆、警戒していた。

 

「翼さん、奏さん、惣一おじさん。あの子たちって・・・」

 

「あぁ、だが何のつもりで・・・」

 

「流石にここでおっぱしめるってことはなさそうだけどね」

 

「まあまあ、下手に動かずに見てみようじゃないの。一体何をするのか、な」

 

僅かな警戒する装者と面白そうだと笑みを浮かべて見つめる惣一。

だが言ってることはまともだった。

ここで下手に動いたりすれば、生徒全員が人質になる可能性もあるのだから。

 

「響、あの子達を知ってるの?」

 

「え・・・うん。 あのね、未来・・・」

 

「彼女達は、世界に向けて宣戦布告し、私達と敵対するシンフォギア装者だ」

 

響がどう説明すべきか悩みながら未来に言おうとした時、翼が自分達と敵対する存在するだと言う事を代わりに説明した。

 

「じゃあ、マリアさんの仲間なの? ライブ会場でノイズを操って見せた・・・」

 

「そうなるな。でも流石にあたしらの存在を知ってるかどうかは分からないけど、二人しか居ないなら分が悪いにも程があるが・・・」

 

「案外、戦いのために来たんじゃねぇのかもなァ・・・あの様子だと」

 

ただただクリスの歌に触発されて出てきたのでは、とでも惣一は推測しているのだろう。

その答えは一応当たっている。

 

 

 

 

 

 

 

その一方で、港近くの倉庫内にて、フィーネの所有する飛行機は隠されていた。

アジトを抑えられたマリアやナスターシャにとって、今や隠れられる場所はこの飛行機しかない。

 

『マリアが力を使う度、フィーネの魂が強く目覚めてしまう。

それは、マリアの魂を塗り潰してしまうってこと。そんなのは、絶対にダメ!』

 

『アタシ達がやるデス! マリアを守るのは、アタシ達の戦いデス!』

 

その中で、マリアは自分の為に戦うと言った調と切歌の言葉を思い出していた。

 

「後悔しているのですか?」

 

俯いていたマリアに何かを感じたのか、ナスターシャが口を開く。

 

「大丈夫よ、マム。私は、私に与えられた使命を全うしてみせる」

 

そんなナスターシャにマリアは大丈夫だと首を横に振りながら言うが、その直後にアラームが鳴り始めた。

即座にナスターシャがモニターを起動すると、モニターに4分割された映像が投影され、銃で武装した人間達が映っていた。

 

「今度は本国からの追っ手・・・」

 

「もうここが嗅ぎ付けられたの!?」

 

そう、彼らは米国からナスターシャ達を拘束する為に送り込まれた特殊部隊だ。

 

「異端技術を手にしたとしても、私達は素人の集団。訓練されたプロを相手に立ち回れるなどと思い上がるのは虫が良すぎます」

 

「どうするの?」

 

「踏み込まれる前に、攻めの枕を抑えにかかりましょう。 マリア、排撃をお願いします」

 

「排撃って・・・相手はただの人間・・・! ガングニールの一撃をくらえば・・・!」

 

ナスターシャの排撃という命令に躊躇するマリア。

いくら敵でも相手は人間だ。シンフォギアの攻撃を受ければ確実に死ぬ。

それは大半の人間に当てはまること。

 

「そうしなさいと言っているのです。ライブ会場占拠の際もそうでした。マリア、その手を血に染めている事を恐れてるのですか?」

 

「マム・・・私は・・・・・・!」

 

マリアは何も言わずにただナスターシャの目を見つめていた。

そしてその会話を、部屋の外から聞いている者たちが居た。

 

「雷・・・行くぞ」

 

「ああ、覚悟はいいのか?」

 

「当然だ。罪を被るのは俺たちだけでいい」

 

腰に携える刀に手をやりながら、滅は敵が待っているであろう場所へ歩んでいく。

その後ろを雷がついていった。

 

 

 

 

 

 

 

明かりの灯った会場にて、調と切歌の二人が階段を降りてステージに向かってくる。

そして、切歌はクリスに向かって目の下を引っ張って舌を出した。

 

「べー!」

 

「ッ!」

 

完全にこちらを馬鹿にしている行為にクリスは思わず頭にくる。

しかしここで暴力に訴えかける程彼女も愚かではない。

 

「切ちゃん、私たちの目的は?」

 

「聖遺物の欠片から作られたペンダントを奪い取る事デース」

 

「だったら、こんなやり方しなくても・・・」

 

調が切歌に自分達が来た目的を聞くと、その返答に調が呆れたように言う。

その一方で、納得したような反応を示す人物が居た。

 

「ふん、なるほどな」

 

「え?」

 

「正直、アークさまのいない偽っているフィーネ側、装者三名と滅と雷。フィーネ本人にエボルト、装者四名と亡と迅がいる陣営。第三陣営として、アークさま。

どっちが優勢かなんて簡単でしょう? いくらノイズを召喚出来ても所詮ノイズ。ぶっちゃけアークさま一人で殲滅出来るからね、フィーネ側。で、ここで戦わないってことは---」

 

「シンフォギアを纏うために必要な聖遺物の欠片を奪えばいい。お前が付けているペンダントと同じな。そうすれば戦わずして相手の戦力を減らすことができる」

 

「なるほど・・・確かに」

 

キャロルとアズの言葉に理解したようにセレナは頷くと、ステージを見る。

特に何かが変わったような様子はないが、セレナは少し悲しそうにしていた。

 

(あの子たちもライブ会場に居た・・・どうして争わないといけないんでしょうか。装者同士、話し合えば変わると思うんですけど・・・まあシンさんのことだって、誤解してる人が多いですもんね。本当はとても優しくて、良い人なのですが。

そう簡単には行かない・・・のかな)

 

話し合えば良い。

言葉だけでは簡単だが、それはとても難しいことだ。

だが少なくとも、この時だけはセレナの思ったことが立花響と似たようなことだったというのは誰も知らない。

ただ誰もが言葉だけで繋がれたなら、争いもないのだろうか。

 

「聞けば、このステージを勝ち抜けば、望みを一つ叶えてくれるとか。このチャンス逃す訳には・・・」

 

「面白ぇ、やりあおうってんならこちとら準備は出来ている」

 

「あ、やっぱり受けるんだ・・・だよね」

 

切歌に対してクリスが勝負を受けて立つと宣言しているところを迅は聞こえたのか、呆れた様子で眺めていた。

一応、なにかあったら駆けつける準備はしてたのだが。

 

そんな中で、調の溜息が一つ。

 

「特別に付き合ってあげる。でも忘れないで。これは・・・」

 

「分かってる。首尾よく果たして見せるデス!」

 

切歌が不敵に言って見せる。

そうしてマイクを手にステージの上に立つ調と切歌。

 

「それでは歌っていただきましょう! えーっと・・・」

 

「月読調」

 

「暁切歌デース!」

 

リディアンの生徒ではないため、名前を知らない司会が困ったように言葉を濁すと、二人は自身の名を晒した。

 

(あっ、名乗るんですね)

 

(名乗っちゃダメなんじゃ? あぁ、でも二人は名前は大丈夫なんだっけ。アークさまのことじゃないからあんまり覚えてない・・・)

 

そこへ思わずセレナとアズが心の中でツッコミを入れていた。

一人だけ曖昧な記憶のようだが。

ちなみにキャロルは特に何もなく無表情である。

 

「オーケー! 二人が歌う、『ORBITAL BEAT』! もちろんツヴァイウィングのナンバーだ!」

 

司会の声が響き渡り、流れる前奏に、観客席の響達は驚く。

響たちだけではない。この曲は、知っている人々も多いはずだ。

 

「この歌・・・!?」

 

「翼さんと奏さんの・・・」

 

「あぁ、あたしらの曲だ・・・まさかここで歌わられるなんてね」

 

「なんのつもりの当て擦り・・・!?」

 

「挑発なのかもな。あえてツヴァイウイングの曲を歌うことで」

 

そして、調と切歌による、二重奏(デュオ)が始まる。

チャンピオンに挑戦するチャレンジャーの実力は以下なものなのか、それは今分かるだろう---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ナスターシャ達が身を潜め、飛行機を隠していた倉庫が爆破されると、特殊部隊が突入してきた。

 

「始まりましたね。さぁ、マリア!」

 

モニターを見ていたナスターシャがマリアに呼びかけるが、マリアは動けずにいる。

まだ覚悟が足りていない様子に、ナスターシャは自身の感情を押し殺して再び口を開こうとして---

 

『その必要はねぇよ。俺たちでやるからな』

 

『ガングニールを纏うにもLiNKERが必要だろう。俺たちで十分だ』

 

「雷に滅!? どうして・・・!」

 

『分かりました。頼みますよ、二人とも』

 

ナスターシャの言葉を聞いてから通信を切ると、滅と雷は特殊部隊を見下ろす。

倉庫内は既に火の手が上がっており、明るさが確保されていた。

これなら双方ともに戦いやすいだろう。

 

「さて・・・何人殺せばいいか」

 

「とにかく殺るしかねぇとしか言えないな。けど、出来るなら殺すなよ」

 

「分かっている。それはマリアが嫌がりそうなことだ」

特殊部隊は銃を持っていたり、ちゃんとした防具を身につけている。

一方で、こちらは仮面ライダーの力がなければ一般人。

人の身でありながら、ノイズの攻撃を回避出来た何処ぞの誰かとは違う。

それでもここでやらなければ、間違いなくマリアが戦うしかなくなるだろう。

だからこそフォースライザーを身につけて、いつでも迎撃出来るように警戒しながら、滅と雷は話していた。

 

「ん? あれは・・・」

 

「・・・ウェルだと?」

 

戦う前に別部隊が居ないかどうかもしっかりと周囲の警戒していた二人だったが、ふと視線の端で捉えた人物に驚いたように視線を送る。

ウェルも気づいたのか、ふっと笑みを浮かべてから手に持つ杖を構えた。

その動作で、何をするつもりなのか理解する。

ノイズを召喚する気なのだろう、と。

それを理解した瞬間、ノイズは既に召喚されていた。

ソロモンの杖の効果は、完全聖遺物なために誰でも扱うことが出来る。やろうと思えば無限と言えるほどのノイズを召喚することすら可能なのだ。

 

「ノイズ!? 撃て! 撃てぇてえええええ!」

 

「チッ、行くぞ」

 

「あぁ」

 

兵士たちが銃を発泡し始め、いつまでも同じところに居られない滅と雷は即座に跳躍し、地面に着地する。

既にウェルによって召喚されたノイズが発砲していた兵士のうちの一人へ触れると、兵士が真っ黒な塵となって消滅した。

その光景は、モニターで見ていた監視カメラの映像で彼女らも捉えており、見覚えがあった。

 

『炭素・・・分解・・・・だと?』

 

繋がれた通信から聞こえるマリアの声。

その通り、ノイズが触れることによって起きる炭素分解。

そもそも戦闘員たちを炭素分解させられるものなど、この世に一つしか存在しない。

 

『でしゃばり過ぎだとは思いますが、この程度の敵、僕一人で十分ですよ』

 

通信越しに聞こえる、ウェルの声。

生身で兵士たちの意識を奪っていた滅と雷にも聞こえており、どちらかというと隠密している滅と雷よりも、兵士たちは姿も見えていて狙えるウェルに向かって集中砲火する。

しかしその放たれた弾丸はノイズたちによって阻まれ、また別のノイズが彼らに近付き、そして触れた瞬間から一気に炭素分解していく。

モニターから聞こえくる声に、マリアが歯を食いしばって、必死に耐えて見ているのも知らず、滅と雷、そしてウェルとノイズによって特殊部隊の戦闘員たちは殺戮---

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ、本当に---でしゃばりすぎだ』

 

される、はずだった。

凄まじい威圧感がゆっくりと、ゆっくりと歩んでくる。

兵士も、ウェルも、ノイズも、滅と雷も、モニターから見ているマリアとナスターシャですら、全員が動きを止め、全員からの視線が降り注ぐ。

その中を、一人仮面で顔隠しながら火に照らされる黒いボディを持つ人物が堂々と歩いてくる。

 

「あ・・・」

 

誰が漏らしただろう。

たった一言。

その一言だけで、プロである彼らに明確な()()を与えた。

片方しかないアンテナに左目が剥がされたかのようなマスク。

片目のみ禍々しく輝く赤い瞳を、兵士に向けた。

それだけ。

()()()()()()()()だというのに、向けられた兵士は恐怖のあまり『殺さなきゃ殺れる』と手に持つライフルで弾切れになるまで連射した。

 

『無駄だ』

 

短な言葉。

単純で、簡易で、無機質な発言。

まるで言霊にでもなっているかのように、銃弾が直撃する直前で時間が止まったように停止し、ぐにゃり、と空間ごと歪んだ。

 

『滅、雷。戻れ。さもないと---殺す』

 

興味を失せたように兵士たちから視線を逸らすと、今にも変身しようとしていた滅と雷に警告する。

死にたくなければ、戻れと言っているのだろうか。

 

「そんなこと言われて引き下がるとでも・・・」

 

「いやここは戻るぞ。滅、俺らが束になっても今のままでは敵わねぇ」

 

「・・・」

 

仮に攻められると、殺すことになるのはマリアしかいない。

だからここで全滅させるまで引き下がるつもりはなかったが、雷に言われて渋々と滅は一緒に戻っていく。

視線を一瞬移すと、既に赤い瞳を兵士たちに向けていたのを滅は見た。

 

(やはり・・・目的が分からない。何のつもりだ、アーク)

 

そう、その姿の全貌は、左半身が胸部装甲を貫くように銀色のパイプが伸びており、配線や内部パーツが剥き出しになっているなど、ライダモデルを無理やり剥がされたかのような痛々しい外見をしている---この世界の、人類の悪。

仮面ライダーアークゼロだった。

 

「アークゼロを撃て! 奴は敵だ! 殺せぇ!!」

 

少し経ったからか、部隊長と思われる者が兵士たちに指示を出す。

上司の命令に恐怖を多少柔いだのは流石プロと言うべきか、次々へと恐怖に取り込まれていた兵士たちが意志を取り戻し、拭おうとすべくアークゼロに向かって一斉射撃する。

 

『ふん』

 

左手を横に振るい、右手でパチン、と音を鳴らせる。

左手から放たれた凄まじい衝撃波は人間を無視し、ノイズだけを炭化。

そして音。

それだけで、兵士たちが一斉に全て倒れた。

 

「これはこれは・・・」

 

『死んではいない。記憶と意識を奪っただけだ。お前も戻れ、ノイズは邪魔だ』

 

「素直に従っていた方が良さそうだ。ですが、一つだけ質問させていただいても?」

 

アークゼロの危険性は知れ渡っている。

だがこうやって間近で目撃すると、その強さは噂以上。

ノイズでは太刀打ち出来ないどころか、ただ殺されるだけとウェルも理解させられた。

だからこそ、素直に従う選択をしたのだが、気になったことを尋ねようとするウェルにアークゼロは暫し沈黙すると、口を開いた。

 

『・・・答えられることなら、いいだろう』

 

「それでは、貴方はどうしてここへ?」

 

限定的ではあるが、許可されたウェルは少し悩み、真っ直ぐ見て問いかける。

 

『私が何処へ行き、何処へ現れ、何処で何をしようが、私の勝手だ』

 

「それはそうですね。ええ、それでは戻らせて貰いますよ」

 

『・・・ふん』

 

目的は聞けそうにない、と素直に諦めたようで、振り向き、出ていくために歩むアークゼロを飛行機へ戻ろうとしながらウェルはその後ろ姿を横目で見た。

隙だらけ。

ノイズを使役して攻撃すれば、間違いなく攻撃を与えられる。

しかし不思議と、ウェルは通用するとは思えなかった。

まるで何が来ても対処出来る、そう言った雰囲気を感じさせる。

 

(ですが、素晴らしい力。シンフォギアだろうが、ノイズだろうが何もかも避け付けないあの力は英雄たる僕に相応しい・・・!)

 

愚かで、滑稽。

その選択だけは、間違いでしかないことをウェルは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

調と切歌の歌が終わりを告げ、会場からクリスの時と同様の歓声があがる。

その歓声に調は呆然とし、切歌は素直に受け取っていた。

そんな二人の様子に、彼らは戸惑いを隠せなかった。

 

「翼さん・・・」

 

響が翼に尋ねる。

 

「・・・何故、歌を唄う者同士が、戦わねばいけないのか・・・」

 

「・・・譲れない信念が、それぞれあるもんだ。あたしがシンフォギア装者になった時のように」

 

その切実な想いに、奏がどこか分かるような、分かってしまうような表情で調と切歌を見ていた。

話して分かるものじゃない。

やらねばならない。

自分たちが---と。

人間とは、簡単に分かり合えるものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なぁ。今のって・・・」

 

そう言って、倉庫の中を影で怯えた様子で見ていた子供たちが居た。

 

「は、早く練習に行かないと」

 

「そ、そうだな。監督に怒られるし、気のせいだって。早く行こうぜ」

 

怯えてはいたが、すぐに離れるべきとこの場の誰もが判断していた。

互い互いに頷き合い、見なかったことにして自転車で逃げようとすると、何かが、路地裏から出てきた。

次々と山のように積もる灰。

さらに隣には人間が積もっており、ゆっくりとアークゼロが歩んできた。

 

『死にたくなければ逃げろ。そして---忘れるといい』

 

「え?」

 

唖然と自身を見つめる子供たちに、アークゼロはただ手のひらを翳す。

そして子供たちが球場へ向かうのを見届けると、アークゼロは変身を解いた。

 

(・・・子供たちは帰った。でも、犠牲者が多すぎたな)

 

積もる灰は、風に流されて散っていく。

かなりあった灰からして、数十人は間違いなくノイズに殺られた。

生き残っている兵士たちも最初に比べて少数だった。

 

「・・・・・・」

 

最後に兵士たちを見ると、シンは無言で歩いていく。

そうしてシンの姿が監視カメラでは捉えることの出来ない場所へ着くと、監視カメラは復旧した。

 

 

 

 

 

歓声と拍手が収まらぬ中、その中心人物である調と切歌に、司会が賞賛を送る。

 

「チャンピオンもうかうかしていられない、素晴らしい歌声でした! これは得点が気になる所です!」

 

確かに、クリスの時もそうだったが、彼女ら二人の歌もすさまじかった。

クリスの歌が野原のように穏やかなものであるなら、彼女らの歌はまさしく烈火の如き勢いのあるもの。

対極ではあれど、その凄まじさはクリスのものと引けを取らない。

特にソロとデュエットではパートナーとの協調性が大切なのだから、凄さが分かるだろう。

 

「二人がかりとはやってくれる・・・!」

 

一方のクリスもそれは認めていた。

その事に得意気になろうとした所で、二人の通信機に連絡が入り、連絡を聞き逃さないように耳を抑えた。

 

『アジトが特定されました』

 

「「ッ!?」」

 

『襲撃者を退ける事は出来ましたが、場所を知られた以上、長居は出来ません。私たちも移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう』

 

「そんな、あと少しでペンダントが手に入るのかもしれないのデスよ!?」

 

『緊急事態です。命令に従いなさい』

 

有無を言わせぬ言動で、通信を切られる。

それに、二人は悔しそうに俯く。

まだ採点結果も聞いていない。

これで勝っていたら、彼女たちの目的は達成されるというのに。

 

「さあ、採点結果が出た模様です・・・ってあれ?」

 

結果発表といったところで、観客も視界も含めて調が切歌を連れてさっさと壇上から降りていくのを目撃する。

 

「ッ!? おい! ケツをまくるのか!?」

 

思わずクリスが言葉を投げかけるが、その声に目もくれず、二人はさっさと出ていこうとしていた。

 

「調!」

 

「マリアや滅さんと雷さんもいるから大丈夫だと思う・・・。でも、心配だから・・・」

 

千載一遇のチャンスではあるが、それは調も分かってはいるのだろう。

しかしアジトがバレたということは怪我をした可能性だってある。

だからこそ、そう言われると、切歌は何も言えなくなってしまった。

 

「追わなくていいのか?」

 

「いや、追う。翼、響、行くよ」

 

「無論だ」

 

「分かりました・・・未来はここにいて」

 

惣一が会場から出ていく二人を見ながら、奏や翼に向けて言うと、彼女たちは立ち上がり、響は未来にここに居るように言った。

 

「もしかしたら、戦う事になるかもしれない」

 

「う、うん・・・」

 

そんな彼女たちを見送り、惣一がやれやれ、と言った様子でついて行く姿を見ながら、未来は両手を合わせて呟く。

 

「響・・・やっぱり、こんなのって・・・・」

 

俯いて呟く未来の声は、誰にも届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の敷地内を走る調と切歌。

その前をふと、大きなくじらの模型が通り過ぎている。正確には運んでいるのだが、二人は、それを茫然と見る。

 

「くそ・・・どうしたものかデス・・・!」

 

通ることが出来ず、悩むことも増えた切歌が、悔しそうに言う。

そうして運ばれていたクジラの模型が通り過ぎると行こうとしたろを、翼と奏に遮られ、後ろからクリス、響、惣一と迅の四人が塞ぐ。

 

「・・・切歌ちゃんと調ちゃん・・・だよね?」

 

響がそう尋ねる。

先ほど、そう名乗っていたから当然なのだが、確認のためだろうか。

 

「六対二・・・。数の上ではそっちに分がある・・・だけど、ここで戦う事で貴方たちが失うものの事を考えて・・・」

 

そう言って、調はこの場に来ている民間人を見る。

家族連れの人や、カップル。

大勢のなんの力も持たぬ一般市民を。

 

「お前、そんな汚い事言うのかよ!? さっき、あんな楽しそうに歌ったばっかで・・・!」

 

(そうするしかないから、だろうな。この場面だと)

 

惣一は元々人質を取れば大人しくなるやつも居たことを知っている。

正義のために戦っている彼女たちには効果が絶大だということも。

だから一人だけ察していたが、切歌はクリスに言われたことにしばし考えた後、苦し紛れにある事を言い出す。

 

「ここで戦いたくないだけ・・・」

 

そしてびっとクリスたちの方を指差して宣言する。

 

「そうデス! 決闘デス!」

 

「どうしてそうなったんだ!?」

 

「しかるべき決闘を申し込むのデス!」

 

思わずツッコミを入れる迅が居たが、確かに彼の言うとおりなぜそうなったのか分からない。

 

「別に会えば戦わなくちゃいけないって訳でもない訳でしょ?」

 

「どっちなんだよ!? う・・・」

 

「どっちなんデス!? あ・・・」

 

被った事が恥ずかしいのか顔を赤くするクリスと切歌。

よくありがちな、恒例行事だった。

 

「決闘の時はこちらが告げる。だから・・・・」

 

調は切歌の手を取って、さっさと行ってしまう。

そこを誰も追うことはせず、見逃したのだった。

もしここで戦えば、調の言っていた通り民間人が危ないからこそ、下手に追うことも出来なかったわけだが。

 

 

『六人ともそろっているか?』

 

その時、ふと彼女たちが携帯しているインカムから連絡が入り、弦十郎の声が聞こえた。

耳に手を当て、話を聞く。

 

『ノイズの出現パターンを検知した。まもなくして反応は消失したがな。念のために周辺の調査を行う』

 

「その方が良さそうだな」

 

「だね」

 

「「はい」」

 

「ああ」

 

「分かった」

 

六人は指示を聞いて、了承の声を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ところかわって、カラオケ会場。

すっかりチャンピオンとチャレンジャーが離脱して、このままでは盛り上がったのが無駄になる。

さらにチャンピオンがいなければ優勝者が誰もおらず、イベントとしても成り立たない。

その前にチャンピオン候補となっていた人達は既に会場を後にしており、呼び戻すのは難しい。

そして彼女たちの歌を聴いた後に、そんな自信満々にやりますなどと宣言出来るはずもないだろう。

 

「はい、出番」

 

「え?」

 

「オレも聴いてやる。早くしないと終わるぞ」

 

「え、えぇええええええぇぇ!?」

 

そんな中、手を挙げさせられたセレナに向かって、スポットライトが彼女を照らす。

助けを求めるようにキャロルに視線を向けると、これはまた面白いと言わんばかりに笑みを浮かべるだけ浮かべるキャロル。

アズを見れば、彼女はニコニコと楽しみにしてるような表情。

しかも既にスポットライトに照らされているせいで、ここでやめますと言えば会場はより白ける。

 

「安心して、アークさまも聴いてるから」

 

「え・・・ッ」

 

逃れることは出来ないため、仕方がなく立ち上がるセレナはアズの一言で一瞬固まった。

そんな様子を無視して、軽く背中を押され『頑張って』というアズの一言を背中に受けながら、緊張した面持ちで仕方がなくマイクを手にステージへ立つ。

 

「はーい! まさかのチャンピオン候補がいなくなってしまいましたが、此処で新しいチャレンジャーの登場でーす!!」

 

司会の人の言葉で、一斉に向けられるスポットライトと視線の雨。

手に握るマイクを強く握り、乾いた笑みを浮かべていた。

ステージの上に立つセレナの脳裏を支配するのは後悔という二文字。

 

(こうなるのは分かってたような気はしますけど・・・)

 

視線を上げれば、大勢の視線が向けられる。

そのことに、ふと既視感をセレナは感じとってしまった。

全身が硬直し、脚が自然と僅かに震える。

冷や汗を流し、何かがフラッシュバックする。

会場ではない、別のどこか。

知らないはずの場所だが、視線の雨に晒されながらただ恐怖という感情があったことだけを思い出していた。

それが誰なのか、自分だったのかすらも分からない。

ただ恐怖を感じていたことだけを思い出して、無意識にこの視線の雨から逃れようとセレナは一歩下がる。

別にやる必要はないと、降りればいいと、自分の中の弱い感情が口を開き、その誘惑に負けるようにマイクを置こうとして---

 

 

 

 

 

 

『歌え』

 

「ッ……!?」

 

頭の中に響いてきた声に逃げようと、置こうとしていた体が戻り、ふと顔を上げる。

セレナが視線を向ける先には、キャロルとアズが居た。

遠くて聞こえないが、アズの口からは頑張ってという言葉を読み取ることが出来る。

 

『歌えば恐怖なんぞ無くせる。特に、お前たち装者はな』

 

『キャロルの言う通りだ。

セレナ、お前が歌いたいなら歌えばいい。無理なら退けばいい。

ただひとつ、お前の本当の心に従え。

歌が好きなら、歌いたいなら歌えばいいんだ。そこに居なくとも、オレは聴いてるからな。

歌わなかったとしても、誰も文句は言わない。

ただ自分で選択した答えなら、それはお前が選んだ選択だ。自分を信じろ』

 

『・・・普通に念話(テレパス)に割り込むな』

 

それ以降、聞こえてくることはなくなったが、最後に諦めたようなため息が聞こえたのはキャロルのものなのだろう。

まぁ、一人を対象にやったというのに錬金術師でもないただの仮面ライダーが軽々割り込んでるのだから仕方がないといえる。

ただそれでも---

 

(シンさんも聴いてくれる・・・。私は歌いたい? 歌は好きだけど、別に無理してここに立つ必要はなかったのに。じゃあ、なんで私は今、この舞台に・・・? それはきっと、私は---)

 

不思議と恐怖感は薄れ、恐怖という暗い感情が明るい世界へと変わっていく。

脳裏には、暖かな光を感じさせる映像が浮かんできた。

みんなが居て、笑っている世界。

そこに欠けて居るものなんて、誰一人いない。

さらに---

 

 

 

 

「頑張って! シアちゃんッ!」

 

立ち上がって応援するのは、小日向未来。

不思議そうに見詰めてくる人々の視線など気にした様子もなく、応援するその姿は勇気がある行動だ。

 

「頑張れ、シアちゃん!」

 

「頑張ってください! ファイトですよ!」

 

「敗退したあたしらの分の仇討ちをあんたに託すよ! だから頑張って!」

 

その未来の行動を見ていた安藤に寺島や板場が頷き合うと、未来と同じく立ち上がって、声援を与える。

驚いたようにセレナが見ると、セレナは自然と笑みを浮かべていた。

 

(このまま行けば、彼女たちとも敵対するかもしれないけど、今は・・・。今だけは、敵味方関係なく、私の歌を届けたい。

シンさんに情けないところを見せないために。何よりも、シンさんに私の想いを届けたい。

だから・・・ッ!)

 

マイクを強く握り、セレナは俯いて表情を引き締めると深呼吸をひとつ置き、顔を上げると誰もが静まった。

降り注ぐ視線の中を、セレナは真剣な様子で口を開く---

 

 

 

 

 

 

 

 

「---聴いてください、世界中の愛を言葉にして」

 

 

誰かを想い、一人のための歌を、独りにしないという思いがある歌を、セレナは歌い始める。

観客全員を魅了する、感情が強く籠った歌を。

誰にも止めることの出来ないその、秘められた想いを。

 





いつものやつはなしで余談:君の夢は私の夢(玉藻前CV:堀江由衣)てしたが、こっちの方が合ってるなということで変更しました。
ちなみに前者は幻想神域ってゲームですが、知ってる人居んのか・・・?
歌詞は前者も割とリンクしてましたけど気になる方はそちらへ。確か元は初音ミクだったかな。忘れた。


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第八話 決闘、目覚め



記念すべき50話。夏の暴走祭り




 

 

 

 

ただ一人、空を見上げて目を閉じながら聴こえてくる歌声を聴いている男性が居た。

夕陽に照らされ、夜の時間が近くなってきた時間帯。

工場の近くでフードを被る、はっきり言って怪しい人物だった。

 

『アークさま。セレナ、いい顔で歌ってるわ』

 

『そうか』

 

携帯電話を使ってる訳でもないのに、通信越しに聴こえてくる女性の声に、シンは冷たく返す。

しかし電話越しの相手はアズであり、彼女は分かっているようで特別気にした様子はない。

 

『一応撮ってるけど、後で見る?』

 

『いや、いい。ただ、声で分かる』

 

実は録画されているらしい。

が、流石に本人の許可もなく見るつもりはないらしく、聴こえてくる歌声から察していた。

 

『・・・やはり、オレは---』

 

『アークさま?』

 

『いや、なんでもない。オレは行くところがある。戻る時はキャロルと戻ってくれ』

 

『はーい』

 

何かを悩んでいるようだったが、アズはそれを追求せず、シンは通信を切った。

無論、セレナの歌を終えてから。

 

(歌、か・・・オレには、よく分からないものだ。良し悪ししか分からないからな。それはオレだけじゃなかった、か・・・)

 

息を吐き、シンは未だに残り続ける太陽の方へと向かっていく。

その時、アークドライバーゼロが赤く輝き点滅するとシンは頭を抑えた。

それはもう面倒くさそうに今度はため息を吐いてから歩みを進める。

沈む時間は、もう間近だ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、響達はノイズの出現パターンを検知した弦十郎から招集がかかり、二課へと集合していた。

 

(遺棄されたアジトと、大量に残されたノイズ被災者の痕跡。そして()()()()()アメリカの特殊部隊の人間・・・。これまでと違う状況が、一体何を意味しているのか・・・)

 

顎に手をあてて、弦十郎は思案する。

そこへ、藤尭が弦十郎にある事を報告する。

 

「司令、永田町都心部電算部による、解析結果が出ました。モニターに回します」

 

そう言って、正面モニターに映し出されたのは、奇妙な形をした図形。

それが、アウフヴァッヘン波形だ。

それが二つ、全く同じ形の色違いの図形がそれぞれ映し出された。

 

「誤差、パーツは、トリオンレベルにまで確認できません」

 

つまり、全く同じだと言う事。

それは、響と奏が持つガングニールの波形と、マリアのガングニールの波形と全く同じだという事を意味していた。

 その事実に、彼らは一様に驚愕した。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの纏う黒いガングニールは、奏や響君のものと寸分違わぬという事か・・・」

 

「だろうね、あれは本物だ。戦ったあたしには分かる」

 

「考えられるとすれば、私ね。記憶は残念ながらないけど米国政府と通じていたわけだし」

 

本人の口からそう言われてしまえば、誰もが納得してしまうもの。

しかしそれはそれで米国政府の方に謎がある。

米国政府は了子の研究を狙っているが、F.I.Sという機関があり、シンフォギアが作られているならば、もう狙う必要などどこにもない筈なのだ。

しかし、現在F.I.Sは暴走している。

これから考えられることは---

 

「まァ・・・米国政府にすら聖遺物に関する情報を秘匿・独占している。

そしてその管理下から離れ、独自判断で動いているって考えるのが普通だ」

 

「F.I.Sは、自国の政府まで敵に回して、何をしようと企んでいるのだ・・・」

 

やれやれと呆れたように推察した惣一は自分ならもっと上手くやれるのにな、となかなかに物騒なことを考えていたが、思ってただけなので誰も気づくことはなく、弦十郎の問いかけには誰も答えるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ステルス機能で姿を消している飛行機の操縦室の中で檻に入ったネフィリムをナスターシャがモニターで見ていた。

 

(遂に本国からの追っ手にも捕捉されてしまった・・・だけど以前ネフィリムの成長は途中段階。フロンティアの起動には遠く至らない)

 

ナスターシャがモニターを切り替えると、ソロモンの杖を持ったウェルが映し出された。そしてもう一度切り替えると、今度はペンダントを持つマリアの姿がある。

 

(セレナの意思を継ぐ為にあなたは全てを受け入れた筈ですよマリア。もう迷っている暇など無いのです)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現代から遡り、とある事件が起きた六年前のこと---

 

 

 

 

F.I.S.研究所にて、ネフィリムの起動実験が行われていた。

しかし、歌を介さずしての起動ではネフィリムは制御出来ず、今現在暴走状態に陥っているのだ。

司令室には警報が鳴り響いており、そこに幼いマリアと1人の少女が居た。

似たような顔立ちに橙色がかかった茶色の髪をした彼女の名はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。

名前から分かる通り、マリアの妹だ。

 

『ネフィリムの出力は以前不安定・・・。やはり、歌を介さずの強制起動は完全聖遺物を制御出来るのではなかったのですね』

 

強化ガラス越しに暴走するネフィリムを見つめるナスターシャが呟いた。

ナスターシャの表情は読み取ることが出来ず、一体どんなことを思ってるのか分からない。

しかしネフィリムはこれでも幼体。もしこのまま暴れ続ければ、いずれはナスターシャたちを食い殺しに来るだろう。

そんな中、セレナは周りの喧騒とは反対に静かに閉じていた目を開いた。

まるで思い返していたように。

そしてセレナが、ついに口を開く。

 

『私、歌うよ』

 

目を開けるなり、そんなことを言った。

それがどんな意味を持つのか理解できないマリアではなかった。

 

『でも、あの歌は・・・!』

 

『私の絶唱で、ネフィリムを起動する前の状態にリセット出来るかもしれないの』

 

『そんな賭けみたいな・・・! もしそれでもネフィリムを抑えられなかったらッ!』

 

マリアは反対だった。最愛の妹を危険な目に合わせたくなかったからだ。しかし、セレナは首を横に振る。

 

『その時は、マリア姉さんが何とかしてくれる。F.I.S.の人達もいる。私に勇気を与えてくれた人も居る・・・私は私だけじゃない。一人じゃない。だから、何とかなる!』

 

大切なものを抱えるように胸に両手をやり、花が咲くような笑顔で、それでいて力強さを感じさせる声でセレナはそう言う。

 

『セレナ・・・』

 

『ギアを纏う力は、私が望んだ物じゃないけど、この力でみんなを守りたいと望んだのは私なんだから』

 

そういうと、地獄のような様になっている実験場へとセレナは走り出した。彼女を止めようと追いかけようとするマリアを引き止めるナスターシャ。

力がないからこそ、どうすることも出来ない。頼れる存在に頼るしか選択がないのだ。

それでも、それでも寂しそうな笑顔を見てしまったからには止めねばならなかった。

望まぬ力を手にした妹を止める術がなくとも。

だからこそ振り払い、駆けて駆けていく。

崩れていく通路をただひたすらに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして実験場では、セレナは妖精のような白を基調としたシンフォギアを纏い、燃え盛る炎の中、自身を遥かに超える体格と恐怖を感じさせるまさに化け物のような姿をしているネフィリムと対峙していた。

そんな彼女は、ただみんなを守るために恐怖と立ち向かい、歌う。

 

『Gatrandis babel ziggurat edenal---』

 

透き通るような綺麗な歌声。

聴くものを魅了するような、可愛らしい声。

この歌を、知っていて彼女は歌っていた。

絶唱---シンフォギアの力を限界以上に解放する歌、装者の負担が大きいそれだが、セレナは正式な装者。

故に、発動しても死ぬことはない。

 

『Emustolronzen fine el zizzl---」

 

そしてセレナを中心に---いや、アガートラームを中心に凄まじい閃光が起こり、共に爆発が起こる。

研究員たちを守っていた強化ガラスは砕け、この場にいる全ての人間の視界が塞がれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わり、視界が回復する頃には天井は崩れ去り、炎は燃え盛り、ありとあらゆる機器が派手に壊れていた。

そしてその惨状の中、実験場に一人佇む少女がいた。

シンフォギアが解除された彼女はただの人間。

しかしそんな彼女の両手には淡く光る物体---ネフィリムの幼体が。

 

『セレナ!』

 

赤熱の扉を何とか開け放ち、辿り着いたマリアが炎の中セレナの元へ向かおうとした。

しかし、行く手を拒むように炎が阻む。

 

『貴重な実験サンプルが自滅したか・・・』

 

『実験はタダじゃないんだ』

 

『どうしてそんな事が言うのッ!? あなた達を守る為に血を流したのは私の妹なのよ!?』

 

助けられたくせに実験を優先し、心のない侮言にマリアが憤って上階の研究者たちに首を向けようとした時---

 

『良かった・・・マリア姉さん・・・』

 

振り返ったセレナは白い頬が血涙によって赤く染まり、見開かれた瞳は焦点が合わず口からも血を流している。

それでもなんとか笑顔であろうとしている年端のいかない妹の姿が、幼いマリアの目に焼き付いた。

 

『セレナッ! セレナッ!!』

 

駆け寄ろうとしたマリアを誰かが後ろからかは庇うように押し退ける。

燃える瓦礫が次々へと堕ちていき、ついにはセレナが立っていた天井の部分から巨大な瓦礫とかした岩が堕ちた---

 

『セレナァァァァァァッ!』

 

どうすることも出来ず、何も出来ず、幼いマリアの目に映ったのは天井から落石がセレナが居た場所を潰す直前、()()()()()のようなものがセレナの元へ高速で向かうのを幻覚として捉えてしまっただけだった。

そう、自分は何も出来ず、彼女が唯一出来た叫びだけが燃え盛る研究所に響き渡っただけ。

マリアの最愛の妹、セレナ・カデンツァヴナ・イヴは暴走するネフィリムを鎮める為に命を燃やして血を流して歌い、13歳の生涯を閉じたのだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現代。

カ・ディンギル---かつて、旧リディアンの校舎があった地であり、二課の本部があった場所。

そこから、フィーネらの合流地点(ランデブーポイント)だった。

飛行機が着陸すると、飛行機の外にはリディアンから撤退した調と切歌の姿があった。

 

「マリア! 大丈夫デスか!?」

 

「ええ・・・」

 

出てきたマリアに対して、切歌が心配そうに疑問を投げかけるとマリアはその言葉に短く返した。

 

「フィーネの魂に塗り潰されたら、もう会えなくなるから・・・」

 

「フィーネの器となっても私は私よ。だから心配しないで・・・」

 

「マリア・・・!」

 

何処か異変があるわけもなく、無事だと分かった調と切歌は、揃ってマリアに抱き着く。

 

「二人とも無事でなによりです」

 

「ああ、本当にな」

 

そこへナスターシャと雷と滅、ウェルもやってくる。

雷は怪我もなさそうな調と切歌を見てほっとしたように、滅は周囲を警戒していた。

 

「さあ、追いつかれる前に出発しましょう」

 

「待ってマム!」

 

ナスターシャの言葉に待ったをかける切歌。

いくら警戒しているとはいえ、急いで離れなければ追いつかれるかもしれない。

 

「私たち、ペンダントを取り損なってるデス! このまま引き下がれないデスよ!」

 

「決闘すると、そう約束したから・・・・」

 

調がそう言った直後に、ナスターシャが調の頬を引っ叩く。

 

「マム!」

 

すかさず庇いに入った切歌だが、その切歌にもナスターシャの掌が叩きつけられる。

 

「いい加減にしなさい!」

 

ナスターシャの叱責が二人に飛ぶ。

雷や滅はそれを止めようとはせず、ナスターシャの大人なりの責任と分かって止めずに見過ごしていた。

 

「マリアも、貴方たち二人も、この戦いは遊びではないのですよ!」

 

彼らが行っているのは、まさしく下手をすれば死に直結しかねない戦いそのものだ。

しかしそんなナスターシャの叱責を、ウェルが止める。

 

「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況ではないですし。ねえ? それに、その子たちの交わしてきた約束、『決闘』に乗ってみたいのですが・・・」

 

一体何を考えているのか、決闘に乗ってみたいと言い出したウェルにナスターシャは訝しげに見つめるが、何も分からない。

 

「だったらやればいいんじゃないかな。滅と雷のライダーシステムには戦えば戦うほど強くなれるように調整されているみたいだし」

 

「!?」

 

「・・・何処から来た?」

 

気がつけば居た。

ここにいる全ての人間が、耳で聞いてようやく存在を認識していた。

ウェルの言葉に肯定を示したのは、シンだ。

全員が驚く中、警戒していた滅が問う。

 

「あー、まぁ気にするな。ちょちょいと・・・な」

 

「・・・はぁ、まったく。分かりました。貴方が居ればもしものことがあっても平気でしょう」

 

「さて、それはどうかな」

 

メリットとデメリット。

ここでウェルの意見を突っぱねること自体は簡単だが、もし決闘に乗らなければ、いずれ何かをしでかすかもしれない。

シンの存在を含めてその二つを考え、ナスターシャもまた決闘に乗ることを選んだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、二課ではノイズの反応がカ・ディンギルの跡地から出た事を察知し、そのことから決闘の狼煙が上げられた事を意味することを二課は重々理解していた。

 

カ・ディンギル跡地---フィーネとの戦いによって、崩壊したリディアンを移転するに伴って、しばしカ・ディンギルの撤去工事やらをするために、立ち入り禁止となった場所だ。

そこに、六人はやってきていた。

響、奏、翼、クリス、迅に惣一といったいつものメンバーだ。

亡は技術職員としての立場があるため、緊急事態にでしか出ることは出来ない。

 

「決着を求めるに、おあつらえ向きの舞台と言う訳か・・・」

 

「確かに了子さん---フィーネと決着をつけた場所でフィーネを名乗る者たちと・・・か」

 

「憎いねェ・・・ん?」

 

何か考え深いのだろう。

翼と奏の言葉に惣一はフッとした笑みを浮かべながら呟くと、見上げた。

それに気づいて全員が視線を向けると、既に相手はいた。

ソロモンの杖を携えたウェルとフォースライザーを巻いている滅と雷。それからギアを纏う調と切歌だ。

 

「滅・・・」

 

「ライダー同士はライダー同士でやった方が良さそうだな。響ちゃんたちは装者同士戦うなり喋るなりするといい」

 

惣一の言葉に響たちは頷き、惣一はその手にドライバーを手にすると、迅も同じくベルトを取り出した。

それを腰に二人は宛てがう。

 

『エボルドライバー!』

 

『フォースライザー!』

 

「行くぞ」

 

「分かってる」

 

それぞれの変身するためのアイテムを取り出す。

滅はスコーピオンプログライズキーを、雷はドードーゼツメライズキーを、迅はフライングファルコンプログライズキーのライズスターターを押すことで起動し、惣一はコブラエボルボトルとライダーエボルボトルを取り出すと、全員が各々のベルトに装填する。

 

ポイズン・・・

 

ドードー!

 

ウイング!

 

コブラ!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

仮面ライダーたちが準備を終えると、それに続くようにウェルがノイズを生み出し、装者たちは聖詠を唄う。

 

Balwisyall nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)---』

 

Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)---』

 

Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)---』

 

Killiter Ichaival tron(銃爪にかけた指で夢をなぞる)---』

 

『Are You Ready?』

 

惣一がレバーを回すと、EVライドビルダーからハーフボディが靄のかかったような状態で形成される。

それを見ながら胸元にクロスするように両手を持っていって重ね、指を広げて腰を落として重心を低くした。

そして三人のフォースライザーから同時に流れる、警告音のようなもの。

仮面ライダーに変身するための言葉を四人は叫ぶ。

 

「変身」

 

「・・・変身」

 

「「変身!」」

 

惣一を除く三人はフォースライザーの右手側のレバーを引くと、プログライズキーが強引に開かれることで展開される。

 

フォースライズ!

 

スティングスコーピオン!

 

フライングファルコン!

 

滅は色のない灰色のサソリのデータイメージ(ライダモデル)が滅の胸を刺し、そのまま尾を軸にして背後から覆い被さり、鎧として分解されてアーマーが装着された。

露出した接続ポートに強制接続されると、雷のロストモデルは出ずに雷のようなエフェクトを纏いながらアーマーが装着される。

迅には色のないハヤブサのデータイメージ(ライダモデル)が現れ、親鳥が雛鳥を守るように覆いつくし、鎧が分解されてアーマーが装着される。

一方で惣一は胸元からゆったりと両手を広げ、そのときには前後からハーフボディが重なっていた。

 

Break Down・・・

 

コブラ!コブラ!エボルコブラ!『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

戦うための鎧をその身に纏った仮面ライダー。

そして響、奏、翼、クリスの四人が、シンフォギアをその身に纏う。

F.I.Sのライダーと二課のライダー、シンフォギア装者がついに対峙する。

最初に動いたのは雷と滅だった。

取り出したアタッシュアローから矢を放ち、雷はヴァルクサーベルで切りかかる。

 

「先手必勝ってな!」

 

「おっと、危ない危ない」

 

スチームブレードで矢をエボルが前に出ることで切り落とし、雷の攻撃を受け止めるとそのまま鍔迫り合いにもっていく。

口では軽口を叩いているが、必死に力を入れる雷を意に返さず、エボルは余裕そうだ。

 

「ちっ・・・気に食わねぇ!」

 

「そいつは悪かった・・・なぁ!」

 

勝てないと見たのか武器を戻し、横に振るう雷だが、エボルは横に振られた剣を受け止めることなく武器越しに直接蹴り飛ばすと滅へと向かう。

それに気づいた滅は自ら距離を離しながら矢を連発するが、その連射をエボルは身を逸らすことで避けていくと、空から迅が滅を押し倒すように倒し、くるくると回りながら1対1へと持っていっていた。

 

「滅は僕が相手する!」

 

「はいはいっと」

 

それを見て、エボルはやれやれと背後から襲いかかってきた雷の攻撃に振り向くことなく対応していた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今更ノイズ如き四人の相手ではなく、ノイズを掃討した響たちは二人の装者とウェルを見つめていた。

 

「何を企てる!? F.I.S!」

 

翼が怒鳴り気味に問う。

未だに分からない敵の目的を。

 

「企てる?人聞きの悪い。我々が望むのは、人類の救済!」

 

「救済? どうしてお前たちの行動が救済になるんだ!? こんなの間違ってるよ、滅!」

 

「いずれ、お前にも分かる」

 

滅と組み合っていた迅が思わず口を挟むが、それを気にせずウェルは、夜空に昇る欠けた月を指差した。

 

「簡単なことさ。月の落下にて損なわれる、無辜の命を可能な限り救い出す事だ!」

 

「月の・・・!?」

 

そのウェルの言葉に、彼女らはただ驚く。

月の落下が始まっているなど、彼女たちはまだ聞いてない。

 

「月の公転軌道は、各国機関が、三ヶ月前から観測中、落下などという結果が出たら黙っていな---」

 

「黙っているに決まってるじゃないですか?」

 

なんとも厭味ったらしい口調でウェルは翼の言葉を遮る。

 

「対処方法の見つからない極大災厄の対処法など、さらなる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠蔽する理由など、いくらでもあるのですよ」

 

「まさか、この事実を知る連中ってのは、自分たちだけ助かる算段を立てている訳じゃ・・・」

 

「だとしたらどうします? 貴方たちなら」

 

言っていることが正論であるため、ウェルの言葉に大きく反論することが出来ずクリスの言葉に、ウェルは聞き返す。

 

「対する私たちの答えが・・・ネフィリム!」

 

そうウェルが叫んだ瞬間、既に乱闘になり、滅と雷相手に余裕で戦っていたエボルたちの足元が大きく揺れた。

 

「ん? おっ!?」

 

「地面が揺れてる・・・? なにか来る!」

 

なんだとこの場の全員が足元を見ると、突如として地面が砕け、滅と雷は左右に転がることで避け、エボルはその場で跳躍することで軽々回避するが、反応の遅れた迅は吹き飛ばされる。

 

「ぐぁああああ!」

 

「あ、助けるの忘れてたか」

 

それは、廃病院に現れた時の怪物だった。

エボルは忘れていたことを思い出しながら地面に着地し、興味深そうに怪物を見つめる。

 

「あれがネフィリムだ」

 

「へぇ・・・」

 

その場で咆哮を上げるネフィリムを一瞥し、再びアタッシュアローとヴォルクサーベルをエボルに向けるが、エボルの興味はネフィリムにあるようで、構えることすらしていなかった。

 

「っぁ・・・!?」

 

「迅!」

 

一方で、ネフィリムに打ち上げられた迅は頭から地面に落下し、クリスが駆け寄る。

何故か切歌と調はそれを止めず、奏たちも続こうとする。

 

「あの時のやつか! あいつはあたしと翼が---」

 

「行かせないデス!」

 

「貴女たちの相手は、私たち」

 

「行けないようね・・・」

 

するとついに二人が動き出し、奏と翼相手に立ち塞がる。

恐らく遠距離攻撃を持つクリスを何処かに行かせたかったのだろう。彼女たちからすれば、マリアと互角に渡り合えるこの二人の相手は厳しいのだから。

そして迅の元へ辿り着いたクリスが迅の体を起こすが、そこへ突如出現した駝鳥型ノイズが強力な粘液を放出、迅とクリスを拘束する。

 

「くっ、こんなもので・・・!!」

 

どうにかもがいて脱出しようとするが、動けば動くほど粘液は体に絡みついてくる。

 

「人を束ね、組織を編み、国を建てて命を守護する! ネフィリムはその為の力!」

 

ネフィリムが咆哮を上げて駆け出す。エボルを無視し、向かってくるネフィリムを響が真正面から迎え撃つ。

 

「おいおい無視ってのは良くないだろ」

 

片手でアタッシュアローの斬撃とヴォルクサーベルを受け止めたエボルはトランスチームガンで響を援護するように銃弾を放つ。

響の得意の格闘術で翻弄されていたネフィリムは遅れてやってきた銃弾をその身に受けるが、ノイズじゃないからか、あまり効果がないように見える。

 

「ルナアタックの英雄よ! その拳で何を守る!?」

 

ウェルが、戦う響に尋ねる。

しかし響は歌を唄いながら無視、両腕のアームドギアのガジェットを引き起こし、左のバンカーをネフィリムのどてっぱらに叩きつける。

 

「だったらこいつでどうだァ!」

 

『フルボトル!』

 

紫色の蜘蛛が描かれたフルボトルを装填し、ネフィリムに対して放つ。

 

『スチームアタック!』

 

放たれた弾丸はネフィリムに直撃後、蜘蛛の糸のように広がることでネフィリムの動きを制限し、動けなくさせる。

 

「我々を無視するか・・・!」

 

「忘れんなっての!」

 

「響ィ! そっちは任せる!」

 

ある程度援護し、大丈夫だと判断したエボルは流石に無視し続けるのは無理になったようで、連携して攻撃してくる滅と雷に視線を送りながら、簡単に対応していく。

 

「はい!」

 

動きが止まったネフィリム。エボルの援護に感謝しながらそこへ、響が飛び込む。

腰のブースターを噴射させ、一気にネフィリムへと突っ込む。

しかしすかさずウェルがノイズを響とネフィリムの間に呼び出して道を阻んだ。

 

「そうやって君は、誰かを守るための拳で---」

 

そのノイズを一気に蹴散らして、響はネフィリムへ拳を叩き込もうとした瞬間---

 

「---もっと多くの誰かをぶっ殺してみせる訳だァ!!」

 

その時、響の脳裏に、あの時調に言われた言葉を思い出す。

 

『それこそが偽善』

 

その言葉は、今でも響の胸につっかえている事だ。

ただ、ただそれでも---

 

「---違う!!!」

 

その言葉に、立花響は真正面から否定してみせる。

いや、否定しなければ、彼女の全てが否定されてしまう---からこそ否定する。

 

「例え、誰かに否定されても、誰かに偽善と罵られようとも---!!」

 

ネフィリムが、大口を開けるのが見えた。

同時に、響の脳裏にある少年の姿が浮かんだ。

どれだけ孤独でも、みんなに悪口を言われようとも、誰かを助けて、自分を助けてくれていた、一人の少年。

 

「この想いは私だけの想い! 私だけの答え! もう誰かを失うのが嫌だから、同じ思いをして欲しくないから---」

 

ネフィリムの行動を見た響は、すぐさま反応し、ブースターをより加速させながら腕を捻り---

 

「---だから、私は誰かと手を繋ぐという想いを、何があっても絶対に曲げないッ!!!」

 

下から上へ。

突き出した拳は大口を開けたネフィリムの口を無理矢理閉じさせ、その顎に強烈な一撃をお見舞いする。

 

「私はこの想いを最後まで貫き通す! それが私のシンフォギアだぁあああああああ!」

 

響の予想外の攻撃にウェルは目をむく。

 

「あいつ・・・!」

 

その響の雄姿に、クリスと翼と奏は笑い、内心でエボルは成長を嗤って見ていた。

ぶっ飛ばされたネフィリムはそのまま吹っ飛ばされて地面に落ち、後輩に負けてはいられないと、翼と奏は切歌と調の一撃を弾き、一気に吹き飛ばしていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡り、ファウストローブを纏いながらセレナは走っていた。

一度戻ってみれば、響たちがノイズとフィーネを名乗る装者たちが戦ってる姿が見えて、飛び出してきたのだ。

ノイズを操るウェルのことは気になるが、今は戦いを止めなければならない。

 

(連絡もなしに来ちゃった・・・シンさん、許してください)

 

今向かっているのは、カ・ディンギル跡地。

彼が今何をして何処にいるか聞いてないため分からないが、セレナはそれでも止めるために走る。

聴いたのだ。

彼女たちの歌を。姿を見た。

()()()()()()()()()()()()()彼女たちは、きっと利用されているのだと。されてなかったとしても、戦うことの意味を問いだしたかった。

そんなふうに走っていると、カ・ディンギル跡地は目の先だった。

 

『おい、セレナ! お前は今何処にいる!?』

 

あと少し、と力を込めたところで、聞こえてきた声にセレナは一瞬悩み、すぐに答えた。

この念話は、キャロルのものだったからだ。

 

『カ・ディンギル跡地です!』

 

『なっ・・・アイツ何も言ってなかったのか・・・! バカが・・・! 早く戻れ、決して見るな!』

 

何処か慌てたような、必死に飛ばしてきた警告だが、それは遅すぎた。

セレナは辿り着き、見た。

怪物が吹き飛んでいたところを。

翼と奏が切歌と調を吹き飛ばしたところを。

 

「え・・・」

 

それから少しして、誰かの叫び声と焦る声が聞こえる。

敵も味方も関係なく、皆が見ていた。

真っ赤な鮮血が、一つの戦場で舞うところを。

その瞬間、染まる。

頭が真っ白になり、纏うファウストローブがより真っ黒に染まる。

この場に居た、誰もがそこへ注目していた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネフィリムが、口を開けていた。

あれほどの一撃を受けてもなお、無事なネフィリム---はいいとして、突然すぎる行動に誰もが止まり、ハッと気がついたように動き出した。

 

「なっ、どうしてネフィリムが---」

 

「切ちゃん!」

 

まるで制御下から外れたように、一番近かった切歌の聖遺物(ギア)を狙って口を開けていたのだ。

予想外。

調だけでなく、奏や翼も攻撃をしようとするが、間に合わない。

響がブースターを使って向かうが、間に合わず、滅やエボルの遠距離攻撃ですら間に合わない速さ。

 

「チッ・・・! 武器借りるぞ! その未来(みらい)は困る・・・!」

 

()()()()()()()()だ。

高速で駆ける、何かが居た。

切歌が持っていたアームドギアを奪い、その誰かは反転するのと同時に切歌を押すことで身代わりになるようにネフィリムの元へ体が浮く。

 

「!? お兄さ---」

 

この場にいる、ほとんどの全員が誰かは分からない。

ただ正面に居た切歌と近くにいた調、見ていたナスターシャとマリア、それから---セレナだけは知っていた。

いつもと何ら変わらない黒いフードを被る、一人の少年の姿を。

だが、それも一瞬。

切歌が尻もちを着くのと同時に、がぶり、とネフィリムの大口が少年を喰らい、この戦場に一つの鮮血が舞った。

 

「喰ったぁぁぁあ!!」

 

まるでこの場の時間が止まったようにほぼ全員が絶句する中、ウェルの歓声が上がった。

 

「ついに聖遺物を喰ったぁぁぁあ!!!」

 

見れば、なんとネフィリムは少年が切歌から奪い取ったイガリマをバリボリと喰っていた。

しかし所々に血が着いていることから、ネフィリムとアームドギアに付着する血が何かを予想するのは容易で---

 

「お、お兄さん・・・?」

 

唖然とアームドギアを食べるネフィリムを、切歌は見上げていた。

だが中から返事が返ってくるはずもなく、ネフィリムの口から垂れる血と地面に溜まりを作る血液が答えだ。

誰も戦うことをせず、誰もが見る中、ウェルはそれはもう嬉しそうに口を開く。

 

「完全聖遺物『ネフィリム』は! いわば自立稼働する増殖炉。他のエネルギー体を暴食し、取り込む事でさらなる出力を可能とするぅッ!!」

 

その時、ネフィリムの体全体が赤く光り出し、その体の形を変化、増大させていく。

 

「さあ始まるぞ!! 聞こえるか? 覚醒の鼓動・・・!! この力が『フロンティア』を浮上させるのだぁぁぁぁあ!!」

 

「・・・フロンティアだって?」

 

「・・・嫌な予感がするなァ」

 

ウェルの言葉を聞き取った奏が再び呟き、エボルは無性に嫌な予感を感じ取る。

その間にネフィリムはさらに大きく、禍々しくなっていった。

全長が成人が見上げる程であり、腕はさらに肥大化し、その図体もずんぐりとなっていた。

 

「あ・・・ああ・・・」

 

与えた影響はそれだけでは無い。

響は今、少年が食べられる姿を見て、何故か思い出していた。

蘇る、心的外傷(トラウマ)---()()()()()()()()

脳裏に映る、大切な人がボロボロになっていき、死にかけていたところを。

死ぬかもしれないと言われていたことを。

否---今ここで食べられた少年の姿を見て、響が探している大切な少年が死ぬ姿を、幻視してしまった。何故かは分からない。

ただそれでも、人が死ぬところを見て、響の胸の中から溢れ出てくる、別の感情。

その感情はまさしく---

 

「ウ・・・ウウッ・・・ガアァアアアアアアアアアア!!」

 

()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()中、増長させられた憎しみはギアを覆う。

響のギアも肉体も真っ黒に染まる以前起きた現象のひとつ---立花響の暴走。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや・・・」

 

見た。

見て、しまった。

脳裏に蘇る、ひとつの感情。

それは恐怖。

知らないはずなのに、知るはずもないのに異形に対して恐怖する。

計り知れない恐怖を抱いてしまう。

 

「いや・・・いや・・・」

 

炎が見える。建物に満ちた炎の中に立つのは一匹の異形。

異形は少女を眺めていた。

相対する少女を眺めていた。

対等な関係ではなく、()()()()見ていた。

 

「あ・・・あぁ・・・あ・・・」

 

思い出す。

思い出す。思い出す思い出す---あの時の恐怖を。少女の脳裏を巡る、失われた数々の記憶。全てを思い出す。

やるしかなくて、自分しか居なくて、自分が動くしかなくて、動いて立ち向かった。

そして自分は---命を引き換えに、異形を止めたのだと。

 

「あぁ・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああ!!」

 

だが今は、奪われた。恐怖などどうだっていい。

ただ大切な人を。またしても、奪われたのだ。

大切な人を、居場所を。何かを。

いつもならば大丈夫だと確信出来たはず。

しかし冷静さを失った少女は自分にとって新しく出来た大切な居場所を奪われたことに対し、自身が慕う大切な人を失うことへの恐怖と怒りに悲しみ、燃え上がる復讐心を胸に抱いた。

目の前の下劣な存在を捻りつぶせ、と何かが呟く。

彼女の纏う()()は悪意の文字と共に変化させていく。

真っ黒に。それでいて真っ赤に。

両腕の部分が赤く染まり、メインのファウストローブと光る剣は濁ったかのような漆黒へ。

この場に、立花響と同じく暴走を引き起こしたものが1人、増えてしまった。

 

「おい・・・」

 

誰が声を出したか。

その瞬間、ビュンッと何かが駆けた。

狙われたはずの対象は無傷だが、背後にある岩が切れたことから斬撃だということだけがうっすらと分かる。

全員が斬撃が飛んできた場所を見れば、ただ真っ直ぐに歩いてきた漆黒の少女が存在していた。

 

「あの時の少女・・・?」

 

「チッ、急げ! 離れろ!」

 

「どういう---おいッ!?」

 

「ちょ、うわあ!?」

 

翼が思い出すのは、マリアと戦ってきた時に()()()()()してきた少女だが、まるで印象が違う。

以前の何処か甘さが捨て切れてない少女ではなく、全てが敵と認識してるかのような雰囲気だった。

それを見てか、エボルは駝鳥型ノイズを一瞬で蹴散らしてクリスと迅をまとめてぶん投げた。

 

「なんだ・・・?」

 

「チィ、おい切歌に調! それと滅! 俺らも退くぞ!」

 

「っ・・・切ちゃん、こっちに」

 

「ま、待つデス! 私のせいで--」

 

「良いから早くしろ!」

 

違和感を感じた滅がネフィリムを見つめ、調と雷が切歌を連れてこの場から離脱する。

その理由は---大きくなっているからだ。

ネフィリムがまた、よりまた大きくなる。

今や人間を優に超え、全長何mあるのか考えるのすら億劫になるほど大きくなっていき、例えるならば神話に登場する巨人族だろうか。

周囲の熱に至っては考えるのが嫌になるほどの高温で、漆黒の少女が放つ斬撃は直撃するよりも前に溶ける。

違う、地面すらも溶けていた。

このまま行けば、全てを溶かすまで熱を発するかもしれない。

 

「な、なんだ? どうなっている!? こんなの有り得るはずが・・・計算上このようなことになるなんてことはありえない! 成長するにしても聖遺物ひとつでこれは次元が違いすぎる・・・!」

 

聖遺物をひとつ、たったのひとつしか取り込んでいないのに、それもアームドギアだというのにネフィリムの成長が止まらない。

どうやら犯人であるウェルですら知らないようで、狼狽えていた。

だがネフィリムは止まることを知らず、突如として膨らみ出した。

風船に空気を入れるように、どこまでもどこまでも膨張し出し、超大型のボールのように全幅が広がって針でも少し刺せばとんでもないことになりそうな見た目へと変化していた。

そして---()()()がうっすらと、膨張したネフィリムの腹から響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---シンギュライズ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな、とても小さな音。

油断すれば聴き逃してしまいそうな、とても小さな音だった。

この場の誰もが息を呑み、誰もが警戒した眼差しで見つめる。

それは暴走する少女ふたりですら、あの地球外生命体ですら最大限の警戒をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場に存在する全員の足元から、()()()()()が溢れ出てきて、一箇所に集まった。

そしてネフィリムの肉体を、()()()()()()()()

全てを覆うような、全ての悪を詰め込んだかのような真っ黒な泥。人の悪意を詰め込んだかのような憎悪の言葉の数々---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---破壊・・・』

 

 

 

 

それは、全てを破壊する泥。

それは、全てを破壊するために生まれてくる前兆の文字列。

それは、人間であろうが、機械だろうが、化け物だろうが、星だろうが、神だろうが全てを破壊する究極の闇---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『破滅・・・』

 

 

それは、全てを終わらせる大いなる悪。

何者であろうとも生き残ることすら許さない全てを絶滅させる力。

その、源。

生きるという行動をやめない限り、無限に続く破滅への道。

破滅へと導く者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絶望・・・』

 

 

 

それはこの世の希望を食らいつくし、覆い尽くす絶望。

一株の希望すら抱かせず、それには兵器であろうとも科学であろうとも何も通用しない。

それは最強。存在する限り成長をし続け、決して止まることを知らない。

どんな者が相手だろうと成長し、何度も蘇る。

ソレは人が生み出した、生み出してしまった人間の全て。

人間の醜さの象徴。

人間の、罪。

人類の罪深さのひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『滅亡せよ・・・!』

 

 

 

 

さぁ、絶望せよ世界。

今宵この戦場より生まれ(君臨せ)し者は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()

既に使えたはずだというのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ソレは最凶にして最恐。

()()()()()()()()、全てを滅亡へと導く、一つの完成形。

ソレは誰も敵わず、誰も勝てず、飛翔せし希望(ゼロワン)と対極を成す存在---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コンクルージョン・ワン・・・』

 

 

 

いずれ究極にして死ぬことの無い最凶の神へと至る者が、ネフィリムを内側から破裂させながら悪意を大量に放出した。

エボルを除く、全員の戦意が一気に削がれ、油断すれば気絶してしまいそうな濃厚な気配と重圧が彼ら彼女たちを襲い、意識を保つだけでも精一杯だった。

足が震え、見ることを、目を背けたくなるほどの圧力。

唯一まともに動けるのはエボルのみであり、問いかけられるのもエボルのみだった。

 

「何者だ・・・?」

 

その問いかけにソイツは応えない。

ただ姿も見えず、真っ赤な瞳をエボルに向けたということだけは分かった。

向けられたのはエボル。しかしその動きだけで、全員が気圧される。

そしてソイツはエボルから視線外し、破裂して倒れたネフィリムを()()()()()を見るかのように一瞥していた。

振るう。

土煙が漂う中、ただ見えたのは白い装甲に覆われた左腕。

それだけだというのに、この場の全員が吹き飛び、()()()()()()()()()()()

二課の奏や翼、クリスのシンフォギアすら解除され、F.I.S組の切歌や調のシンフォギアすら解除されて元の服装へと戻り、さらに滅や雷、迅ですら仮面ライダーの装甲が無効化され、ただの人間へと戻された。

唯一無事だったのは、暴走した響とセレナ。

そして、エボルのみだった。

 

「余波だけでこれって・・・!?」

 

「敵味方なく、ほとんどの仮面ライダーと装者を・・・一体何者!?」

 

「どうなってやがるんだよ!?」

 

「こいつ、やばい・・・!!」

 

()()()()()()()()()()のみでやられたことに奏が驚き、敵味方関係なくまとめて蹴散らしたことに翼が正体を突き止めんと。

クリスが意味不明と言いたげに叫び、迅はただ恐怖を生まれて初めて感じていた。

 

「大丈夫か?」

 

「こっちはな・・・」

 

「アレは・・・何?」

 

「わ、分かるわけないデス・・・」

 

状況が状況なだけあって、流石に目の前のことを警戒せざるを得ない。

切歌の表情は相変わらず優れないが、腕ひとつでこの場の全員がほとんどやられてしまった。

果たして一体何者かと、全員が恐怖に支配されかけながら腕を振るった犯人を見て---

 

 

 

 

 

 

 

 

「アーク、だとォ?」

 

エボルが、正体を看破した。

同時に、衝撃が走る。

物理的な意味でも、精神的な意味でも衝撃が走った。

エボルが蹴りを繰り出し、衝撃波を打ち消す。

しかし周囲一体を破壊し、全員が目を見開きながら見つめる先---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには見たものを恐怖へと落とす、絶対的な神が姿を現していた。

黒い素体を覆う白い装甲に左の赤い瞳と涙のアイライン。

かつて都市伝説として扱われ、現実に存在していた仮面ライダーゼロワンに似ながらも「色」を失ったその姿は骸骨や亡霊にも見え、恐ろしくも痛々しい見た目の仮面ライダー。

多くの人々を絶望と驚愕に突き落とした悪意の権化、人類の敵。

その化身。

ソイツに付けられた名を---悪意の化身(アークワン)と呼ぶ---

 

 

 

 

 

 



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第九話 悪意の化身(アークワン)

俺の書いてる二作品がコラボした…おめでとう。
石3000個あるので負ける気がしませ…負ける気がしねぇ!




 

シャトー内部にて、その姿は映っていた。

何処までもおぞましい、亡霊のようなアークの姿が。

それらはこの場にいるキャロルやオートスコアラー、アズも見ている。

 

「あれが本当のアイツの力か・・・しかしセレナのはどういうことだ? あのような力はなかったはずだが」

 

「さぁ・・・私にはさっぱり。そこはアークさまに聞かなきゃ。けど、ひとつ言うなら・・・()()は私たちの知るアークさまなんかじゃない」

 

立ち上がったアズはアークワンの姿を一度見つめ、シャトーから出るために行動しようとする。

 

「何しにいくつもりだ?」

 

「アークさまの元。セレナも心配だけど、アークさまも心配なの。あの人は私にとって大切な人だから・・・失いたくない」

 

迷いなく答えたアズの表情は危険も承知で向かおうとしていることがキャロルの目から見ても分かっていた。

あの場は危険すぎる。ちょっとしたことで死ぬ危険性もあり、アズは変身能力を持たない。

それでも彼女は、愛する者の元へ向かうだろう。

キャロルは一瞬悩み---答えを導き出した。

 

「待て、オレも行く。アイツらを失うのはデメリットの方が大きい」

 

「キャロル・・・」

 

「か、勘違いするな。あくまでオレのためだ! お前のためでもアイツらのためでもない」

 

嬉しそうな声音でキャロルを見つめるアズから逃れるようにキャロルは目を逸らすが、口ではそう言っていても心配なのだろう。

 

「マスター、私たちも同行しますか?」

 

「ん? あぁ・・・ガリィだけで十分だ。大勢で動くと目立つ。あくまで隠密して行く」

 

「はぁーい。ツンデレなマスターのためにもガリィちゃん頑張ります」

 

「誰がツンデレだ!」

 

ちゃんと考えてはいるらしく、隠密の方向で行くようだが揶揄うように言ったガリィにキャロルは怒鳴り気味に返し、赤いドレスの上にいつもの錬金術師としてのローブを身に纏い、帽子を被っていた。

 

「行くぞ」

 

「うん、アークさまのことだから大丈夫だとは思うけど・・・」

 

「・・・そうだな」

 

アズの呟きに短く返し、キャロルたちはシャトーから姿を消していた。

少なくとも肯定したのは、キャロルの信頼の証と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また別のところで、アークワンへと変身した姿を見ている者たちが居た。

 

「局長。何処へ?」

 

「準備さ。約束してるからね」

 

白いシルクハット帽を被り、派手なスーツを着ている一人の男性---錬金術師協会の局長であるアダム・ヴァイスハウプト。

問いかけたのは白髪で男装している一人の女性、サンジェルマンだ。

 

「局長自ら? 珍しいわね」

 

「明日には雨でも降りそうなワケダ」

 

水色の髪にかなり露出度の高い格好をしている女性であるカリオストロが驚いたように、黒髪で小柄な眼鏡を付けている女性であるプレラーティが珍しそうにアダムを見て呟いていた。

 

「酷い言われ様だね」

 

「今までの行動を思い返せば分かるワケダ!」

 

「あーしたちだけじゃなくて、あの子(シン)にも迷惑かけてるわけだしねぇ」

 

「・・・それより、約束とは?」

 

このままでは話が一向に進む気配が見えず、サンジェルマンが本題を問いかけると、アダムは画面に移るアークワンを見つめた。

 

「なに、今すぐ行くわけじゃないさ。ただ言われたのだよ」

 

「アイツのことか? それなら心配するだけ無駄なワケダ」

 

「確かに彼は彼で無茶苦茶だものね。あーしらは見てないけど、局長と互角に渡り合ったとか」

 

「しかしそんなカレが局長に約束を取り付けるほどのことがあった・・・ということ。考えられるとしたら---今のアレは私たちの知るカレではないってことかしら」

 

不気味に佇むアークワンの姿。

そう、佇むだけで何もしていない。

普段のカレを知る彼女たちから見ても、おかしいのだ。

 

「流石、聡いものだ。()()したら止めてくれとね。全く無茶な注文をしてきたものだよ」

 

「ラピスの輝きでも・・・恐らく無理か」

 

「簡単に止められたらアークなど今頃存在してないさ。心配はしてないけどね、カレならば問題ないだろう」

 

「・・・むしろ問題があるところを見てみたいワケダ」

 

「まぁ納得したわ。もしものことがあれば局長が出るつもり・・・ってわけね。でも、それなら彼女たちも動くんじゃない?」

 

「だろうね、だから僕が動くのは最後だ」

 

未だに何もしないアークワンだが、アダムやサンジェルマンたちは動作を一切見逃さず、その姿をただ見ていた。

---無論、いつでも迎えるように最大限の準備はして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのような人たちが居ることはしらず、カ・ディンギル跡地にて。

それは絶望。

希望なんかではなく、ソイツはいずれ破滅を呼ぶ、放っておけば人類を絶滅させる。

全てを滅亡させる存在---そう思わせるような、何かがあった。

ただ振るっただけなのだ。

腕を横に凪いだだけで、ほとんどの存在がその身に纏う力がなくなってしまった。

歩く。

白い仮面ライダーがついに一歩、たった一歩だけ歩いただけだというのに、ほとんどの者が無意識に後退していた。

ソイツは周囲を一瞥し、原型がほぼ崩れているネフィリムに視線を送ると、ネフィリムは飛びついた。

首を下に向け、アークワンは見つめる。

()()()()()()()()()

ネフィリムが反応した---()()()だと。これは()なのだと。

そしてネフィリムは自身の餌を再び食らうべく、口を開け---()()

ソイツはアーク。

アークに()()()()()()()が触れることすら烏滸がましい。

自身を襲ってきた雑種を蹴散らすべく、アークワンは手を翳す。

それだけでネフィリムの巨体が持ち上がり、圧縮される。

ネフィリムが赤黒いオーラ---スパイトネガに覆われながら小さく、小さく小さく圧縮されていき、拳を突き出した。

ただの拳。だが、それは破壊の一撃。

その一撃だけで、圧縮されたネフィリムの腹が貫通し、力を失ったネフィリムは高速で吹き飛び、何処かへと消えた。

 

「一撃・・・!?」

 

誰が声を出しただろう。

その声が周囲へ響く頃には、動いていた。

 

『グガアァアアアアアア!』

 

「立花!?」

 

「おいおい、ソイツは不味いだろ・・・ォ!」

 

飛びかかる。

理性の失った獣は化け物(アークワン)へと襲いかかった。

それだけじゃない。黒い少女ですら動いており、響とほぼ同時に攻撃を仕掛ける。

ソイツに挑むのは愚策だと、エボルが駆ける。

 

「・・・・・・」

 

襲いかかってきた()()()()()()()()()()

アークワンは興味がなさそうに首を傾け、響の攻撃を回避する。

そして黒い少女の剣を指一本で弾き、無視して歩く。

駆けながら放たれたエボルの拳。

だがアークワンは迫るエボルの一撃すらも無視し、身を逸らすことで避ける---

 

「なんてなァ・・・!」

 

ところで、エボルが足を上げ、予想外の形で蹴りを繰り出した。

既にアークワンは行動し、絶対に避けられない一撃。

だというのに、アークワンは逆再生したかのように体がブレ、気がつけばエボルの体はアークワンと交差し、アークワンの左腕が当たった。

軽く押しただけにも見える動作---しかしながら肉体に掛かる圧は凄まじく、エボルの体は地面に倒れるところで、エボルは器用に前転して起き上がるのと同時にバイブを回す。

 

『アイススチーム!』

 

バルブを一度180°回転させたエボルは冷気を纏うスチームブレードを振り向くのと同時に振り下ろし、弾かれた少女がエボルの反対側から偶然襲いかかった。

挟み撃ちとなった攻撃。

その攻撃を---

 

『アタッシュショットガン』

 

何処からか生まれたか青い銃口がスチームブレードを受け止め、黒い少女の一撃をまたしても生み出されていたアタッシュショットガンのアタッシュモードが受け止めていた。

アークワンは何もしておらず、スチームブレードを受け止めていた銃口から散弾が放たれた。

 

「なんだと・・・!?」

 

すぐに避けるように回り、銃弾を冷気を纏う片手剣で落とすが、アークワンはやはり何もしてこない。

 

『---滅亡せよ』

 

ただ一言。

それだけを発すると、傍に鎮座していたアタッシュショットガンを片手で掴み取り、黒い少女に対してアタッシュモード越しに蹴り飛ばし、手に掴み取ったショットガンを背後に放った。

 

「チィッ、面倒だ・・・!」

 

気がついたエボルは、高速移動で背後からアークワンに攻撃を仕掛けていた暴走する響を蹴り飛ばし、散弾を赤い光弾を放つことで相殺する。

 

「おい、どういうつもりだ?」

 

『人類を絶滅させる。道具が抗うか・・・お前たちに勝ち目は、万が一にもない』

 

「ったく、こっちも立て込んでるってのに・・・」

 

鬱陶しそうにエボルはアークワンを見つめ、その手にあるフルボトルを取り出して交換する。

 

ドラゴン!ライダーシステム!』『エボリューション!』

 

『Are You Ready?』

 

ドラゴンエボルボトルをベルトに装填し、レバーを回すことで新しく形成されたドラゴンのハーフボディ。

 

ドラゴン!ドラゴン!エボルドラゴン! 『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

前後からドラゴンのハーフボディが重なり、頭部と肩部がアーマーが蒼いドラゴンに変わって胸部パーツの一部が消えていた。

エボルが持つ、ひとつの変化。

エボルドラゴン。

格闘に特化した形態へ変身したエボルは手に蒼炎を纏い、突き出した。

しかしアークワンはその一撃を避けることすらせず受け、一歩も下がることなくエボルの腕を掴んだ。

 

『破壊する』

 

「される訳にはいかないんでね」

 

エボルの腕を潰さんとスパイトネガを手に纏い、エボルは蒼炎の出力を上げていた。

互いにぶつかる強力なエネルギー。

その中を、黒い少女が乱入する。

アークワンに対して振り下ろされる剣。

それをアークワンは一瞥し、片手で受け止めた。

 

『私の力が組み込まれている・・・が、無意味だ。お前たちの思考は既に予測出来ている』

 

受け止めた剣を掴み、剣ごと少女を持ち上げると、地面へ投げ飛ばした。

そこを、エボルが蹴り飛ばした響が再び襲いかかってくる。

人差し指を向け、指先に荷電粒子砲がチャージされていく。

 

『Ready Go!』

 

エボルテックフィニッシュ!!

 

それを見たエボルはレバーを回し、右腕に纏う蒼炎を突き出した。

必殺の一撃。

その一撃を、アークワンは一瞬で戻した腕でガードし、後ろへ自ら跳ぶことでダメージを軽減しながら地面へと着地した。

 

「悪いが、約束があってな。ソイツを殺られるのは困るんだよ」

 

アークワンが吹き飛んだことで代わりにエボルの元へ響が向かうが、エボルは足を引っ掛けて地面に倒し、アークワンを見つめた。

表面上は普通だが、エボルは内心で舌打ちする。

自身の技を受けてもなお、アークワンにダメージと言えるダメージが入ってないからだ。

そのアークワンは近くに居た黒い少女に視線を送る。

 

『前提を書き換え、けつろ---結論を予測し直した』

 

変化が訪れる。

エラーが起きたように言葉が詰まり、繰り返して呟かれた。

それだけではなく、アークワンの動きが鈍くなっているようにも見える。

しかし関係ないと黒い少女へゆっくりとその拳を振り上げ、アークの瞳が赤い点滅を繰り返す。

 

『これは・・・()()()()か』

 

「時間切れ・・・?」

 

アークワンは頭に手をやると、睨みつけるように周囲を見つめながら呟く。

それはどういう意味かと問いかける前に、アークワンの赤い瞳が一度消灯し、脱力したように手を下に向けて俯いていた。

何があったのかと、アークワンを全員が油断なく見据えていると、顔を再び上げたアークワンの瞳は点灯していた。

 

「・・・前提を書き換え、結論を予測し直した」

 

顔を上げたアークワンは、黒い少女を無視して響を見ると、高速で響の元へ向かう。

 

「おい、そこの連中と奏たち! 警告はするぞ、巻き込まれても責任は取れないからなァ!!」

 

ラビット!ラビット!エボルラビット! 『フッハッハッハッハッハッハ!』

 

もはやなりふり構って居られない。

この場の全員に離れるように警告だけ飛ばしたエボルは全力を出し、同じく高速移動を駆使しながらフルボトルを変え、ラビットのハーフボディが重なるのと同時にアークワンの行く先へと先回りする。

 

「邪魔だ」

 

「はいそうですかと言って譲れるわけねェだろうが」

 

拳を振るうアークワンの一撃を、エボルは下に逸らす。

逸らされた拳から放たれた衝撃波は地面を砕き、素早くアークワンは拳を捻って下から上へと方向を変えた。

それをエボルは足で腕を蹴り、流れるように回し蹴りを放つ。

それに対してアークワンは身を仰け反らせることで避け、拳をエボルの胴体へ突き出す。

エボルは同じく拳を突き出すことで対抗するが、拳がぶつかりあった瞬間、空気が爆発する。

互いの体を飛ばし、無事に着地するアークワンと転がるようにして着地するエボル。

その二人の背後から、暴走する二人が襲いかかる。

 

「あぁ、クソ。戦兎のやつを思い出す・・・!」

 

襲いかかってきた響をエボルは掴み取り、手加減しながら地面へと弱めに叩きつけた。

暴れ狂う姿を見て、後頭部を掴みながらエボルは無意味だと知りながら声をかける。

 

「おい響! 同じことを繰り返したってアイツは帰ってこないぞ。いい加減目を覚ませェ!!」

 

『ゥ・・・グァアアアアアア!』

 

返ってきたのは咆哮。

槍状のものを作り出した響は後頭部を掴むエボルへ振るい、その一撃をエボルは離すことで避ける。

一方で、背後から襲われたアークワンは黒い少女の剣を背中に受ける。

 

「・・・悪かったな」

 

『・・・ぁ。シ・・・さ・・・』

 

小さく呟かれた声。

ダメージを一切負っていないアークワンは背後の少女にだけ聞こえるように呟くと、彼女は一瞬意識を取り戻したかのように名を呟いていた。

そしてアークワンは振り向くのと同時にドライバーを叩く。

 

『悪意・・・』

 

手を翳し、黒い少女の体と剣から吸い出される悪意の力。

漆黒に染まった剣は、文献通りの輝きの剣へ。少女を纏う復讐の力は収まり、元に戻った彼女は力を使い果たしたかのようにその場に崩れ落ちる。

アークワンがやったのは、悪意の感情を吸い出した。

ただそれだけであり、その感情はアークワンの元へ全て集まり、消失する。

少女の無事を見届け、アークワンは手を再び翳して少女を守るようにスパイトネガの壁を作ると、再び振り向いて響を見る。

そこにはエボルが殴らないように捌いていた。

それを見てアークワンは歩く。

響の元へ歩みを進め、気がついたエボルが響を後ろへ押す。

 

「邪魔をするな」

 

「そればかりだな。目的を聞いてわざわざ響に近づかせるとでも?」

 

「・・・・・・」

 

「沈黙は肯定だ」

 

エボルの言葉は正しい。

例の黒い少女は無力化されたようだが、此方からすれば無事なのかどうかすら分からないのだ。

もし響に同じことをするつもりだったとしても、彼女に何の負担がないとも言いきれないし、そもそも人類を滅ぼすつもりだったやつの言葉なんて聞けない。

故に---

 

 

 

 

 

 

『Ready Go!』

 

『パーフェクト・コンクルージョン』

 

 

二人の行動は正確だった。

言葉は不要。

互いに持つ技を放つべく、片方はレバーを回し、片方はベルトからはみ出ているアークワンの顔の部分をベルトにさらに押し込む。

エボルの右足には赤いエネルギーが収束し、アークワンの右腕にはスパイトネガが収束する。

 

エボルテックフィニッシュ!!

 

 

『ラーニング・1』

 

放たれるのはライダーキックとライダーパンチ。

最凶と最凶の必殺技がぶつかり、辺りに凄まじい爆発を巻き起こしながらもその決着は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹部に突き刺さる腕が答えだった。

エボルの足はアークワンの体より上に突き出されており、懐へ潜ったアークワンがその拳を叩きつけた、というのがこの状況を生み出していた。

 

「お前の思考は予測済みだ。今の私ならば、読むことは容易い」

 

そしてアークワンの一撃はエボルを一気に吹き飛ばす。

 

 

パーフェクト

 

 

コンクルージョン

 

 

 

「チッ・・・!?」

 

吹き飛ばされたエボルは地面に片手を着きながら着地し、地面を削りながら勢いを殺すことですぐに立ち上がると、受けたダメージの痛みを無視して向かおうとする。

 

『アァァアアア!』

 

だが、遅い。

その動作をしてる間にアークワンに襲いかかる響がいる。

エボルは追撃してこないことに訝しげにアークワンを見つめるが、彼はもう一度ベルトの上部を叩いていた。

 

『悪意・・・』

 

アークワンは襲いかかってくる響を冷静に見つめると真っ直ぐ手を突き出すことで響の首元を掴む。

暴れる響だが、スパイトネガによって強化された手の拘束を解くのは難しく、彼女の体から黒い瘴気のようなものが流れ出ていき、苦しそうに呻き声を出す響の黒く染っていた体は少しずつ元のギアの色を取り戻していた。

 

『ア・・・アアッ・・・ウァアアアアアぁぁああ!?』

 

そして元のシンフォギアへ戻ったとき。

アークワンは容赦なく響を投げ飛ばした。

 

「うおっ!?」

 

そこにはエボルが居り、驚いたように受け止めると響の無事を確かめ、意識がない以外に外傷が特にないことに気づくと、アークワンを不審に見つめる。

 

「どういうつもりだ・・・?」

 

「・・・退け。出なければ、お前たちを滅ぼす」

 

エボルの問いかけに答えることなく、アークワンはただ機械的にそう呟いた。

 

(・・・この強さ。本気じゃないな。間違いなくジーニアスフォームやクローズマグマに匹敵・・・それ以上か? 奇跡の力(クローズビルド)レベルの強さかもしれない。少なくとも・・・今の俺だと守りながらだと不利であることに変わりはない)

 

「・・・・・・」

 

何もしない。

ただ何かをしようとするならば、アークワンは動くのだろう。

未だに目的が見えないアークワンに警戒の眼差しを向けながら、エボルはトランスチームガンを取り出し、響を抱えて奏たちの方へ向かう。

 

「今回は一旦退くぞ。どうやら・・・戦うような様子でもないしな」

 

「・・・それがいいかもしれないね」

 

「くっ・・・そうだな。立花が最優先だ」

 

F.I.S組たちの様子。

何よりアークワンの一撃でエボルを除く者たちは消耗していて、響は意識がない。

そのエボルも---間違いなく最強の戦力であるのにアークワンと互角に渡り合うだけで精一杯だった。

このまま戦っても良い結果にならないのは簡単に想像でき、エボルの提案に奏と翼は肯定を示した。

そもそも戦おう者なら、今度こそアークがどんな行動を取るのか分からないのだから。

 

「滅・・・! 僕はまだ滅と話さないといけない! 理由を聞かなくちゃ!」

 

「迅、落ち着けって! 今は無理だ!」

 

「離してクリス! 僕は、僕は---」

 

いつもからは考えられない、駄々をこねるような子供のように叫ぶ迅をクリスは止めているが、今にも変身して向かいそうな様子だ。

 

「仕方がねぇか・・・おい迅」

 

「なに---ぐっ!?」

 

「なっ・・・!? お前・・・!」

 

大人しくさせるようにエボルは迅の名を呼び、反応した瞬間には腹に拳を練り込ませていた。

変身した状態ならともかく、迅は生身。

エボルの一撃で意識を失い、静かになったところでクリスが文句を言いたげに、それでも納得が含まれてる半々の感情でエボルを見ていた。

 

「悪いな、行くぞ」

 

一言謝ると、エボルは辺りにスチームトランスガンの煙幕を撒き散らし、二課の面々はカ・ディンギル跡地から撤退する。

エボルは自分が最後に離れる前、何も動かないアークワンを見つめる。

それに気づいたのかアークワンも視線をエボルに送り、二人の視線が交差した。

 

(あの体格・・・姿・・・雰囲気。顔は隠してたが、やっぱりお前なのか? アルト)

 

エボルが心の中で呟く。

しかし確信もなければ口にも出てないことをアークワンが答えられるはずもなく、エボルの姿もこの場から消えた。

残るはF.I.S組。

アークワンが視線を送る---お前たちはどうするのかと。

 

『滅、雷。切歌と調を連れて撤退です。私たちの手に負える様な相手ではありません』

 

「・・・承知した」

 

「分かってるって」

 

これで会ったのは、二度目。

相も変わらず不気味で、それでいて底知れない強さを持つアークを二人は睨みつけると、調と切歌に呼びかける。

 

「聞いてただろ。撤退するぞ」

 

「急げ。今の俺たちでは奴には勝てん」

 

エボルですら勝てなかったというのに、そのエボルに手も足も出なかった雷は特に理解していた。

 

「うん・・・切ちゃん行こう」

 

「で、デスけど・・・!」

 

「大丈夫。シンさんは簡単に死ぬような人でもない。不思議な人だから。

だから私たちが信じよう」

 

「・・・うん」

 

目の前だった。

しかも自分を庇って食われたのだ。

突如アークが現れたお陰でネフィリムという存在は消されてしまったが、目の前で失ったことに対する思いは切歌が一番感じている。

気持ちは分かっていても、切歌のその思いは調でも決して分からない。

 

「・・・きっと無事デスよね」

 

「うん・・・きっと」

 

切歌も立ち上がり、調に支えられながらこの場から離れていく。

アークワンは赤い瞳を輝かせながらその姿を眺めており、滅や雷、切歌も調も一度だけ振り向いてアークワンを見る。

やはり、何も分からない。

何もしなければ何も感じとれず、例の黒い少女だけを残して二課もF.I.S組もこの場から痛み分けとして離れることになった。

 

「・・・お前はどうする」

 

いや、まだ一人だけ居た。

岩場に姿を隠しながらアークワンを見つめる、一人の男だ。

分かっていると教えるように指先から放たれた荷電粒子砲が岩を砕く。

 

「ヒ、ヒィィイイイイッ!?」

 

「答えろ。死ぬか、逃げるか」

 

手に持つソロモンの杖をアークワンに向けるが、尻もちを着いているだけでなくソロモンの杖を持つ手が震えている---ウェルがまだ居た。

 

「今なら逃がしてやるが?」

 

殺気。

答えなければ問答無用で殺すといった常人ならば気絶するほどの殺気。

しかし---ウェルは普通じゃなかった。

 

「・・・す」

 

「・・・ん?」

 

何かを呟く。

聞き取れなかったアークワンは何処か訝しげにウェルを見つめるが、ウェルは体を震わせ、俯いていた。

しかし良く耳を澄ませば、笑い声が聞こえる。

 

「ふ、ふふ・・・ハハハ、素晴らしいッ! あぁ、そうだ。これだ! 僕が求めていたモノっ! 圧倒的な力ッ! 英雄に相応しいその力、実に素晴らしいッ!!」

 

「・・・は?」

 

顔を上げたウェルは恐怖で震えているわけでもなく、恍惚とした表情でアークワンを見ながらそんなことを叫んでいた。

ウェルの性格からして逃げるとでも思っていたのだろう。

ここに来て初めて、アークワンが人間らしい困惑した様子---というかあまりにもの気持ち悪さにガチ引きしていた。

こんなの、億通りも出来るアークの予測になければ変身者であるカレの予測にすらない。

だからこそ、予想外なことに困惑している。

アークは確かにカリスマだ。

圧倒的な力。圧倒的な強者のオーラ。圧倒的な恐怖を持つ者。

悪の頂点として君臨するアークのことを崇める狂信者や世界の崩壊を望むものだっている。

アークの知らないところで、そういった狂気に魅入られた人間は必ず居るのだ。

アークという存在を知っていてなお、自ら近づいたアズは例外だが。

 

「英雄になりたい・・・今までそう思って動いていました。しかしッ! 今日ここで貴方に出会い、僕は惚れたッ! この気持ちは・・・まさしく愛だと!

そして確信したッ! 貴方は英雄! 貴方こそ英雄になるに相応しい存在ッ! 故に僕は貴方を()()()()としてこの世界に名を---」

 

「・・・興味ない」

 

先程のまでの様子は何処へやら。

恐怖を抱くことも無くアークワンに近づき、語り出したウェルを面倒そうにアークワンが腕を振るう。

 

「関係ありません。それでも僕は貴方に---ぐへぇ!?」

 

衝撃波が走り、ウェルの体を吹き飛ばした。

変身も特にしていないウェルは生身なのもあり、アークワンの一撃を受けて何処かへと転げ落ちていく。

それを見たアークワンは---多分無事だろうと考え、黒い少女をそっと抱える。

 

(・・・セレナ。お前は今日、ここで記憶を・・・)

 

ウェルの興味は一瞬で消え、意識のない彼女の頭を撫でて、アークワンは一瞬だけ手にスパイトネガを纏う。

が、すぐさま消した。

 

(・・・これ以上記憶を消すのは苦か。それに負担も大きい。

オレは間違ってたのだろうか、分からない。何も分からない。ただそれでも、目的は違えない)

 

どうやら記憶を弄ろうとしたようだが、アークワンはやめたようだ。

ただ意識を失ったままのセレナをお姫様抱っこの形で抱えながら起き上がる。

 

「・・・ん?」

 

その瞬間、アークワンを覆う何かがあった。

大きな空洞を作るように大きくアークワンを覆い、周りの温度は著しく低下する。

それは氷。

氷の壁がアークワンを包み込んだ。

無論、破壊しようものなら簡単に壊せるが、アークワンは理解した。

 

(この力は・・・なるほど。()()()()()()()())

 

これは自分たちの存在を隠すために貼られた簡易な結界のようなものだと。

そしてこの力が、誰の力なのかも理解し、嬉しそうな、安心したような様子だった。

 

「アークさまっ!」

 

事実、アークワンに駆け寄ってくる女性を見て、カレは振り向くだけ振り向いた。

 

「アークさま、アークさまっ」

 

ぺたぺたとアークワンの体を怖気つくともなく触りまくるアズの姿を見て、アークワンは思わず固まる。

もし腕が当たってしまえば、人間なら普通に吹き飛ぶのだが。

 

「大丈夫? 平気? なんか変なやつに絡まれてたみたいだけど何もされてない!? セレナは!?」

 

「いや、アズもウェルとは何度も会ってるんだが・・・」

 

「え? あー・・・あんなやつ興味ないもの」

 

アズの質問攻めに、アークワンはウェルに少し同情し、答えていく。

悪意を吸収するためにセレナの意識を一時的に奪っただけということ。ネフィリムは思わずぶっ飛ばしたこと。特に何もされてないこと。

 

「よかった・・・」

 

「ああ。それよりだいたい聞かなくても分かるが、アズはどうやってきた?」

 

「あ、それはね」

 

アズは背後を見て、アークワンは釣られるように視線を送る。

そこには仏頂面で此方を見つめる金髪の少女の姿があり、アークワンは苦笑した。

 

「やっぱりキャロルだったか」

 

「・・・来る必要はなかったようだな」

 

「・・・?」

 

何処かおかしい。

いつもなら何かを言われても不思議ではなく、特に自らネフィリムに突っ込んだのだから小言を覚悟していたのだが、何も言ってこないキャロルにアークワンが不思議そうに見ていた。

 

「はぁ、あいっ変わらず鈍いわねぇ」

 

「うげ・・・ガリィ」

 

「うげってなによ。思い出食らうわよ」

 

「やめとけ。それよりどういうことだ?」

 

やめろ、ではなく軽く警告を飛ばすアークワンだが、彼女の言葉の意味が分からず、ガリィに問いかけていた。

 

「やれやれ・・・マスターは拗ねてるってわけ。せっかく来たのに来てみれば全て終わってたって状況だったしぃ?」

 

「・・・・・・」

 

心做しか、そんなのも分からないのかと小馬鹿にしたような口調と表情で言ってきたガリィに若干、それはもう若干イラついたが、アークワンは無言になった。

 

「やめろガリィ。口から出任せを言うな」

 

「えー? そんなこと言って本当はマスターも頼りにされたかったんじゃないですかぁ?」

 

「くっ、こいつ・・・うるさい。いい加減にしろ」

 

喋らなくなったアークワンの代わり、というよりこのままでは本当にそういうことになってしまいそうなことに危機感を覚えたキャロルが口を出すが、こうなったガリィは強かった。

それ故に、キャロルは圧力で黙らせる。

 

「はーい。あんまりマスターを怒られてもアレだし・・・ただ」

 

「・・・? おい」

 

「・・・ん?」

 

一瞬でアークワンに近づいたガリィは、耳元へ顔を近づけた。

何をするつもりだといった感じで声に出すキャロルと純粋に何か分からずにじっとするアークワンに、耳打ちした。

 

「マスターが否定してなかったってことは事実ってことよ。その辺はちゃんと分かってなさいよ」

 

「・・・あぁ」

 

納得と言った感じで頷くとガリィは満足したように離れた。

なお離れてるキャロルにはガリィが何を言ったか分からなかった。

 

「・・・まぁいい。それよりセレナは無事なのか?」

 

過ぎたことは仕方がなく、キャロルはアークワンに近づきながら抱えられているセレナに視線を移す。

 

「ああ、呑み込まれていた悪意を吸収しただけだからな。アズ、セレナを頼んだ」

 

「あ、うん。それはいいけど・・・アークさま?」

 

キャロルの疑問にすぐ答え、アークワンはアズにセレナを渡すと、アズは若干ふらつきながらセレナを抱きしめていた。

アズの力では流石に持つのは無理らしい。

それはともかく、そのまま連れて帰ればいいだけなのに渡してきた姿に流石に不審に思い、アークワンを見つめる。

 

「キャロルが来てくれて本当に助かった。感謝する。もちろんアズもな・・・それとガリィ」

 

「・・・なんだ、藪から棒に」

 

「私がアークさまの近くにいるのは当然よ?」

 

「ついで扱い?」

 

突然すぎる感謝の言葉に訝しげに見つめながらそれぞれ言葉を投げかける。

それに答えるようにアークワンの体が傾いた。

 

「だから・・・後は託した」

 

「お、おいっ!?」

 

アークワンプログライズキーを抜き、シンの体は力尽きたように前方へ倒れる。

咄嗟に抱きしめるように受け止めたキャロルだが、それ故に気づく。

 

「お前・・・この状態で動いてたのか」

 

血だらけ。

頭から血を流しつつ黒い服装は真っ赤に染まっていて、特にフードなんて黒のはずなのに赤黒にしか見えない。

それほどボロボロで生きてるのが不思議なほどに出血している。

恐らくネフィリムに食われた際のダメージを負ったままアークワンとして戦闘していたということだろう。

つまり助かったというのは、安心して倒れられるということだろうか。

 

「あ、アークさま!? すごい怪我・・・ど、どうしたら? えっと、こういうときは、こういうときは・・・」

 

「落ち着け、とりあえずセレナとコイツを連れて戻るぞ」

 

「了解でーす」

 

いつもの冷静さは何処へやら。

珍しく慌てるアズの姿があるが、比較的冷静なキャロルは特に慌てたりすることなく、ガリィが取り出した赤いジェムを地面に叩きつけて割る。

その瞬間、五人の姿はカ・ディンギル跡地から消え、何事もなかったかのように氷の壁も消えるのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

気がつけば()()()のことが頭に過ぎる。

これは夢だと、理解していた。

何処へ行っても罵詈雑言を浴びせられ、自宅には心ない言葉が書かれた紙があちこちに貼り付けられる。

自分が何かをしたわけでもないのに、ただ生きたいと願っただけなのに。

立花響は()()()のツヴァイウイングのライブに居て、惨劇を生き残った者---正確に言えば、ある戦士のお陰で助かったのだが。

だが、失われた命があまりにもの多すぎた。

未来は周囲から離されていたが、響にとっての支えであり、味方なのは未来と家族と喫茶店のマスター、そしてある一人の男の子だけだった。

特にその男の子は、自分と同じライブ会場の惨劇を生き残った同士であり、同じ目にあっている人物なのだから、響は誰よりも彼を支えにしていた。

そしてその日も、響の家の外から大声で悪口を言うものがいて、人殺しだと言うものがいて、何かがガラスにぶつかり、ガラスが割れる。

祖母に抱きしめられ、響は震えることしか出来ず、母親は子を守るためにガラスから外を覗く。

 

『---なんだこいつ!』

 

『ば、バケモノ・・・!』

 

『うわ、逃げろ! 殺されるぞー!』

 

響の親が出ると、流石に石を投げたり出来ないらしく家の前で騒いでいた人物たちは急いで逃げていく。

それを見届け、怯える響の元へ向かおうとしたところで響の母親は気づいた。

 

『---アルトくん!?』

 

『え・・・』

 

慌てたように家から出ていき、響は知っている男の子の名前を聞いて、呆然と佇んでいた。

そして暫くすると、母親が背中に誰かを背負いながら戻ってくる。

何かに殴られたのか、頭から血を流して、所々に打撲の傷がある。

母親がアルトを降ろすのを見て、響は血の気が引いたように慌てて近づく。

 

『アルトくん、しっかりして・・・!』

 

『なんともない・・・気にするな』

 

目を開けたアルトは軽く響の母親に頭を下げ、出ていこうとする。

しかしその体はふらついており、誰がどう見ても大丈夫ではない。

 

『・・・?』

 

体が動かず、アルトは思わず何らかの感触を感じた方向を見ると、自分に抱きつく響の姿があった。

 

『響、動けない』

 

『嫌・・・ここに居て。居なくならないで・・・離れないで・・・』

 

『俺はまだ・・・いや分かった。だから落ち着け』

 

何かを言おうとしたところで、アルトは言葉を呑み込んだ。

響の体が震えているのを見て、今にも泣き出しそうな姿を見て、彼は彼女の傍に居ることを選んだ。

 

『大丈夫だ、さっきのやつらは追い払ってくれた---そしてもう来ない。だから安心しろ』

 

分からない。

泣きそうな意味も、自分を止める理由も、感情のないアルトには分からず、ただそれでも、響を安心させるように気遣ってるような雰囲気を纏って話していた。

 

『---生きてくれてるだけでよかった。きっとお前の母親も祖母も、そう思ってくれてる。だから元気出せ。それまでは居る』

 

アルトが視線を移せば、響の母親も祖母も頷いている。

それを見て、再び響に視線を変えた。

 

『・・・うん、分かってる。ありがとう、アルトくん。私はね、アルトくんが居てくれたら・・・きっと大丈夫だから』

 

『・・・そうか』

 

一体何を考えているのか。

一瞬詰まったように見えたが、響はそれに気付かず。

ただアルトの体温をその身で感じていた。

 

『アルトくん、とりあえず応急処置だけでもするから響のことお願いね』

 

『・・・はい』

 

こくりと小さく頷き、アルトは抱きついたまま離れない響に何をしたらいいか分からず、そのままの体勢で固まっていた。

そして後で聞けば---アルトが負った怪我は()()()()()()()殴られたからが原因らしく、決して殴り返すこともしなかったらしい。

何をしても倒れず、そんなアルトを不気味に思ったやつらがさっき逃げたらしく、一種の恐怖を感じた彼らは来ないだろうという推測だった。

しかし---この数ヶ月後。

アルトは響の目の前から消え、その代わりに響は苦しみから解放されるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢が醒める。

懐かしく、悲しく、辛く、それでも今も胸に残り続ける思いを改めて深く感じた響は目が覚める。

目覚めた響は周りを見渡し、治療室に運ばれたということを理解した。

覚えている。

自分が意識を失う前に思い出したこと。その後に何処か暖かいような、言葉にできない何かを感じたことも。

そんな響はふと横を見ると、そこには『早く元気になってね』と書かれた未来からのメッセージがあった。

 

(どうして・・・アルトくんのこと思い出したんだろう)

 

意識が飲まれる前。

黒い服を来た男の子が飛び出したの見て、食べられたのを見て、救えなかったことに何かを感じなかった訳では無い。

ただ何よりも、その姿を見て何故かフラッシュバックしたのだ。

今はいるはずのない、大切な人が死にかける姿を思い出したのだ。

 

(もう二年だよ・・・アルトくん。ねえ、どこにいるの? 会いたいよ・・・)

 

響のその思いは誰にも届かず。

絶対に探すと決めたあの日から、募っていった不安が一気に押し寄せてきていた。

思い出してしまって、誤魔化しきれなくなってきた。

信じたくはない。けれど---もうこの世には居ないんじゃないかと。

ずっと、ずっとずっと探してきた。

何かの手がかりでも見つかれば、と。

でも、何も見つからない。何も無い。まるでアルトという人間が存在してた痕跡を全て消されてるような、そんなことを感じさせるように、全ての証拠が消えている。

唯一残ってるのは、未来が持っている形見と思われるものだけ。それ以外は取り壊される前のアルトの家には何も残っていなかった。

 

(会いたい・・・会いたい・・・ただ、会いたい。ずっとずっと傍に居て欲しい。居て欲しかった。アルトが居てくれたら、居てくれるだけで良かった。アルトくんが居なければ意味がないのに。私が助かった代わりに、大切な人を奪われた・・・)

 

事件は、アークゼロが全ての元凶ということで世間に浸透した。

何故突然元凶として現れたのか、そもそもアークゼロの情報は何処から漏れたのか。それは二課や政府すら分からず、アークゼロが現れたことによって正しいと証明された。

故に、全ての人間がアークゼロが敵と認識し、人類の敵となった。

しかし二課の人たちはルナアタック事変の際にアークゼロと何度か対峙して違和感を感じている。

実際響もアークゼロによって助けられたものだが、自分が助かった代わりに大切な人を失ったという事実は彼女を苦しめてるのだろう。

 

(何処にいるの・・・何してるの・・・? あの手だけは、離すべきじゃなかった・・・私が居れば、ずっとずっと傍にいれば、きっとアルトくんは居たのに。私の傍に、私たちだけの傍に、居てくれたのに。

気持ちが溢れていく・・・会いたいって)

 

募っていた思いが、溢れていく。

我慢していた思いが、思い出という形で思い返してしまった響は無性に会いたいという純粋な気持ちで溢れ、会えないという現実に打ちのめされる。

そうして締め付けられるような痛みに、響は思わず胸に手をやって---何かが落ちた。

それに視線を向ければ、そこには黒い何かがある。

 

「・・・かさぶた?」

 

思い当たるものを述べて見たが、その割には体に目立った傷も痕もない。

少し考えてみたが、結局何も分からなかった響は気のせいと思うことにしたのだった---



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第十話 チカラの代償

始まりはいつだっただろうか。

それは分からない。知らない間にベルトがあって、必要なキーは知らない間にあった。

いつ、どこで、どうして、なぜ、あらゆるものは分からず。記憶すらなかった。

ただわかるのはこの世界に仮面ライダーゼロワンという正義の味方が生まれ、そして光が強くなれば闇も強くなるように、仮面ライダーアークゼロという人類の敵が生まれた。

何故誕生したのか、何故突然動き出したのか、目的はなんなのか、それは誰にも分からない。

ただ---その悪意に満ちる電子世界には、映像が存在していた。

そこには仮面ライダーゼロワン、シャイニングアサルトホッパーが戦い、打ち勝ち、密かにノイズと戦うことになった日。

何処かを駆け抜け、向かおうとした姿。

必殺技(ライダーキック)を決める姿。

そして何より---()()()()()()()()()()()()()()姿。

きっと始まりは---そこだったのだろう。

あの時、仮面ライダーゼロワンが生まれなければ。あの時、ある男の子が仮面ライダーゼロワンに変身しなければ。あの時、仮面ライダーゼロワンが戦わなければ。

あの時、一人の少女のために戦う道を選ばなければ。あの時、何もしなければ。

きっと、世界は、歴史はもっと別へ動いたはず。

しかし時は既に遅く。

仮面ライダーゼロワンは誕生し、アークゼロが変わるように生まれてしまった。

あれ以降、仮面ライダーゼロワンという存在は世間から噂程度で消え、もはや都市伝説の領域。

唯一知っているのは、二課とエボルト、アークくらいなものだ。

もはや居るのかすら分からず、アークを止めることが出来る存在は、果たして居るのか---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭がクラクラして、意識を取り戻す。

うっすらと視界に映ったのは傍に居て何かをしてくれている、一人の少女の姿だった。

まだ朧気な意識で分からないが、思い当たる人物をシンの名を呟く。

 

「キャ・・・・・・ロル?」

 

「あ・・・気が付きましたか!?」

 

否。

その人物はキャロルではなく、躯体に選ばれず、欠陥を備えた劣化コピーとしてキャロルに似た容姿を持つホムンクルス---廃棄物としての烙印を押されたエルフナインだった。

 

「その声・・・エルフナインか。悪い、まだ意識が朧気で・・・ってエルフナイン?」

 

声で判断したシンは自ら体を起こそうとしたところで、ふと衝撃が全身に走り、激痛を感じるが、なんとか表に出さずにエルフナインを見つめた。

 

「よかった・・・ご無事で何よりです・・・! シンさんが運ばれてきたとき、もうダメなんじゃないかってボク不安になってしまって・・・!」

 

「・・・そうか。何があったかは流石に分からないが、悪かったな」

 

何の治療もされてなかった状態を見たのだろう。

泣きつくエルフナインをシンは背中を摩る。

そもそもの問題としては、むしろ変身したとはいえ、食べられた後に戦って生きてた方が十分やばかったりもするのだが。

 

「それで、セレナは? それとどうしてエルフナインがここに?」

 

「あ・・・えっと、セレナさんはまだ目覚めてないだけで無事で・・・。ボクはシャトーを歩いてたら偶然キャロルに会って、それでシンさんの様子を見るように言われたんです」

 

「なるほど・・・それはなんというか、迷惑かけて悪かった」

 

ある程度落ち着いたと見ると、シンは本題に入って事情をエルフナインに聞くと、一言謝罪した。

 

「そ、そんな・・・むしろボクなんかが役に立てたかどうか・・・」

 

「十分だ。ありがとうな」

 

相も変わらず謙遜なエルフナインの姿を見て苦笑すると、シンはエルフナインの頭を撫でながらお礼を述べた。

 

「・・・・・・えへへ」

 

「・・・あぁ、そうだ、悪いけど水持ってきてくれるか? 流石にあんまり動けそうになくってな」

 

エルフナインの頭を少しの間撫でると、嬉しそうにする彼女の姿にフッと笑ってからシンはエルフナインにお願いした。

まだ肉体は回復しておらず、水分が欲しくなったのだろう。

 

「あ、は、はい。すぐに持ってきます。あの・・・なので無理しないで寝ててください!」

 

「・・・・・・ああ」

 

それを聞いたエルフナインは、バッと立ち上がって振り返って一言だけ言うと、部屋を走って出ていく。

---が、すぐに大きな音が聞こえたのは気のせいだろう。

 

「さて・・・」

 

アークドライバー・・・

 

それを見届けたシンは頭痛に顔を顰めるが、朧気な視界の中、腰にドライバーを出現させる。

 

「・・・やっと、()()()

 

そのまま周りを見渡し、自分の体を見れば服が変わっており、何故か新品になっている黒いパーカーを見つけると、シンは引力を操ることで引き寄せ、ドライバーを隠すようにパーカーを着込む。

 

(セレナはオレの力が原因で取り込んだから問題ない。しかし立花響はもうこれ以上ギアを纏わせるわけにはいかないか・・・ヤツが居なくなるとオレの目的が果たせない。しかし融合を止めることは聖遺物を理解したオレでも防げない。

さて、どう侵食を消すか・・・やはり奴らが持っている()()()()()しかないか)

 

そう考えたところでアークドライバーゼロが勝手に予測し、脳内に強制的に情報を入れられたシンは軽く頭を抑え、ふと何も無いところを見つめた。

そして誰もいない場所に向かって、口を開く。

 

「おい、いつまで姿を隠すつもりだ---アダム」

 

「・・・流石と言っておこうかな」

 

呆れたような様子でシンが何も無いところに呟くと、ふとアダムがいつもの姿でその場に現われた。

何故こうも、どいつもこいつもシャトーへあっさり侵入するのか。

キャロルが居たら、間違いなくキレてる場面だった。

 

「で、何の用だ?」

 

「無事を確かめにね。キミの。心配だったんだよ」

 

「嘘つくな。絶対心配してないだろ・・・ったく。要件は知らんが、今日は任務は無理だぞ。オレも本当に肉体動かないからな。それにそんな時間はないし、エルフナインが戻ってくる」

 

もしこれでして欲しいことがあると言った瞬間、間違いなくアダムに拳が飛んでいくが、どうやら今日はそのためではなく、分かってると言いたげに頷くと口を開く。

 

「なら本題に入ろうか。君は言っていたね、()()()()()()、と」

 

「・・・それが?」

 

どうやらシンが呟いたことは聞こえていたようで、その言葉を言った瞬間、カレはアダムを睨んでいた。

 

「だとすれば、キミの肉体に()()()()()()()()はずだ。一体何を失い、何があった?」

 

「・・・さて、なんのことか」

 

睨むのをやめたシンは、ただ誤魔化すようにアダムから目を逸らした。

その姿を見てか、アダムは少し笑みを浮かべる。

 

「・・・相も変わらず、嘘が下手だね、キミは。心配せずともボクはキミの()()()()()友のことが心配なだけさ」

 

「・・・・・・はぁ」

 

がしがし、と後頭部を掻き、諦めたように息を吐いたシンはお手上げといった感じで両手を上げていた。

 

「その言葉が嘘だったなら・・・話す必要もなかったのにな」

 

「なに、例え他の言葉が嘘であったとしても、この言葉だけは嘘を付かないさ。キミはボクの友人でもあり、()()()()でもあったのだから」

 

「・・・・・・・・・」

 

何を思ったのか、シンは少し遠い目で扉の先を見ると、目を閉じて黙る。

ただ分かるのは、手を強く握りしめてることから、少しの後悔だ。

 

「・・・すまない、話が逸れたね。今はそれよりも・・・いいのかな、その言葉は話してくれると取っても」

 

「・・・ああ、そうだな、構わない。

でも何があったってキャロルだけには決して話すな。話した瞬間、お前の顔面を破壊して不細工に修復してやる」

 

「・・・恐ろしいね、それは」

 

流石のアダムも話を戻すべきだと思ったのか、話題を戻すと殺気をほんの少しだけ漏らしながら睨むシンにアダムは肩を竦めた。

それだけは勘弁して欲しいと言いたげだ。

 

「・・・()()()()()。色覚に異常が発生している。それが今のオレの現状だ。今はアークドライバーゼロを介して色覚を取り戻してるが、これがなければ全てが灰色にしか見えない」

 

あっさり語った、自分の身に起きている異常。

シンがキャロルとエルフナインを判断するために声で判断した理由が、これだ。

エルフナインはそもそもキャロルの躯体として作られた存在。

だからこそ似てるのは当然であり、違うのは髪色と髪の長さくらいだ。

そのため、意識も朧気だったシンは間違えたということ。

 

「原因は?」

 

「アークワンになったからだろう。オレはアークゼロならば何の負担も負荷なく変身出来るが、あの形態はオレですら危うい。

これは予想だが元々()()オレは正式な変身者じゃないんだろうな。だからこそオレは変身するたびに身体機能のひとつを失うのかもしれん。もしかしたら、記憶ですらも」

 

どうやら原因を理解しているらしいが、淡々と語るカレの言葉からは、興味がないといった感情が節々に込められている。

まるで、自分のことはどうでもいいと言いたげに。

 

「オレは不完全だ。不完全だからアークゼロの力を半分までしか引き出せない。全力を引き出すには吸収してきた悪意の力を使わなくちゃいけないし、制限時間もある。

でもな、アークワンは別だ。アレに変身すれば()()以外は予測できるしオレの力は不完全ではなくなる。アークだけではなく、()()()()()()()()でも本気を出せる。

だが・・・不完全な存在が完全な力を使えばどうなる? 不完全で力を引き出せない者が、強引に引き出せばどうなる?」

 

「代償を支払うことになる・・・か。なるほど、あの姿はキミにとって力の前借りを成す力。その分、力は強力だ。それこそ、このボクですら止めることが難しいほどにね。

理解したよ、だからキミは()()()()()()()()()()と言ったんだな」

 

強大な力を扱いには、それ相応の対価が必要となる。

シンにとってそれは、身体機能を捧げること。やけに自身を不完全だと言っていたのは、アークワンの力をまともに使いこなせず、代償が必要からなのだろうか。

そして、それがアダムが言われた()()()()()

あの場ではアダムはサンジェルマンたちに止めるようにと頼まれたと言ったが、本当は違う。

シンに言われたのは、殺すことだ。

 

「・・・そういうことだ。お前の力なら安心出来る。任せられる。

お前なら殺す気だったら、暴走しているオレを確実に殺せる可能性がある。()()()()()()()()()()()()をな」

 

「しかしキミは・・・」

 

「・・・言っただろ、オレは不完全だって。それで目的が達成出来るならば、安いものだ。オレにとってその目的だけは・・・絶対に果たさなくちゃいけない。けどその前に全てを終わらせたら、終わりだ」

 

あの時、いつものシンとは違った理由。

それは意識を乗っ取った()()()()()がシンの体を使っていたからだ。

だからこそ、シンはセレナを殺そうとしたし立花響やエボルトに対しても一切手加減がなかった。

 

「フッ・・・それは完全になれば解決出来るものだと思うが・・・しないんだろうね、間違いなく」

 

「・・・ああ」

 

結局のところ、それだ。

何が不完全で何をしたら完全になるかは知らないが、不完全という言葉から察するに、完全になればシンは何の代償もなしにアークワンの力を、それ以上の力を引き出せる可能性がある。

だがどうやらするつもりはないようで、アダムは分かっていたように笑みを浮かべていた。

 

「・・・終わりのようだね、もう少し話したかったのだが」

 

「・・・気配がするな。バレたら面倒なことになるぞ」

 

「帰るよ。ただ---キミはもう少し自分を大切にすべきだと思うけどね、余計なお節介かもしれないけど。でもキミを大切に想う人を忘れないでくれ。ボクだってそうなんだから」

 

「・・・気持ち悪いこと言うな。その言葉だけ聞くと変な捉えられ方をされるぞ」

 

若干頬を引き攣らせ、嫌そうな表情を浮かべたシンは近くにあった枕を掴み取って軽くスパイトネガを纏わせて投げるが、ただアダムは笑いながら枕を木っ端微塵に破壊すると、帽子を深く被って戻ろうとし---振り向いて口を開く。

 

「ああ、そうだ。最後にひとつだけいいかな」

 

「・・・手短にな」

 

徐々に迫ってくる気配に、申し訳なく思いながらシンは扉にオーラを纏わせて開かないようにしてアダムに短く返す。

 

「ならば---キミは一体、いつまで()()()であるつもりなのかな」

 

「・・・そんな偉大なもんじゃないよ、オレは。

本当の抑止力は、ヒーローはもっと別に居るからな」

 

真剣な表情で述べるアダムに、シンはただ自嘲的な笑みを浮かべて、何処か複雑な表情を浮かべながらそう返すと、アダムは一度目を伏せる。

 

「・・・そうか。悪かったね、ボクは帰らせてもらう。ゆっくりと休むとい」

 

「さっさと帰れ。サンジェルマンたちにあまり迷惑はかけるなよ」

 

「善処しよう」

 

それだけを言い、アダムはこの場から姿を消す。

どうせ変わらないんだろうな、と思いつつシンは扉を開けられるように力を霧散させるのと同時に、扉が開く。

 

「お、お待たせしました・・・!」

 

水を持ってきたエルフナインが入ってきて、駆け寄る。

それに対してシンは手を挙げることで返事し、水を受け取っていた。

 

「あの・・・」

 

「ん?」

 

「さっきまで誰か居たりとか・・・しました? 内容までは分からなかったのですが・・・シンさんの声が聞こえた気がして」

 

「あー、ちょっとシミュレーションをな」

 

「あぁ・・・」

 

エルフナインの疑問にシンは誤魔化すように理由を述べると、彼女は納得したように頷いていた。

どうやら日常的にシミュレーションをすることがあるようだ。

 

「それより、本当に助かった。また今度、なにかお礼する」

 

「い、いえいえボクは言われただけですし・・・シンさんと話せるだけでボクは十分です! こんなボクにいつも気遣ってくれて、相手してくれて、それだけで嬉しいですから」

 

「オレがやりたいからやるだけだ。何かあったら言ってくれるだけで構わない。出来ることならなんだってしてやる」

 

話題を変えたシンは恩を返そうとするが、エルフナインは遠慮する。

そんな彼女の性格を知っているシンは彼女が遠慮しないように理由を述べていた。

 

「でも・・・」

 

「いいから、な?」

 

「・・・分かりました。その、本当に何だっていいんですか?」

 

「ああ、約束は破らない」

 

恐る恐る、といった感じで上目遣いで聞くエルフナインにシンはただ頷く。

キャロルとは違い、内向的な性格を持つエルフナインにはこうでもしなければ、彼女は何も言わない。

だからこそ、さっき理由をつけたのだ。

 

「でも、流石に今は勘弁してくれ。まだやることがある」

 

「は、はい。大したことではないので、大丈夫です。それよりやることって・・・?」

 

「キャロルの元へ行く。セレナの様子見。アズに謝る。それから仮面ライダーと装者の様子見。思い出を分け与える。ミカの遊び相手、くらいかな・・・ああ、あとは依頼があればやったりとか---とにかくやることは今は多い」

 

途中で考えるのをやめたのか、大雑把に答えたシンは今出来ないことに申し訳なさそうにしながらも立ち上がり、ふらつく。

 

「ま、待ってください。その体では危険です。まだ休んでおかないと---」

 

「いや、オレはまだ止まるわけにはいかな・・・」

 

ふらつきながらもその歩みは止めず。

エルフナインの制止する声すら聞かないままシンは扉まで歩き、体が後ろへ倒れる。

 

「あ、あぶない・・・!」

 

慌ててエルフナインが駆け寄り、シンの体を後ろから支えるが、非力な彼女ではキツいらしく、必死に力を入れるが体重がかかっているのもあり、やはり支えきれずに尻もちをついた。

しかし咄嗟にシンの頭は守っていたようで、シンが無事だったことにエルフナインは安堵の息を吐いた。

 

「あ・・・やっぱり、無理していらしたんですね・・・」

 

全然そう見せようとしなかったが、シンの意識が失われていることに気づいたエルフナインは少し悲しそうにシンを見つめていた。

本人の表情も、何処か苦しそうだ。

 

「キャロルの目的・・・パパの命題・・・それから、シンさんの目的・・・。

取り返しになる前に、何とかしたい・・・」

 

無理をしてでも何かをしようとしているシンの姿。

ずっと探している答え。自分に出来ること。

それらを考えながらも---エルフナインには一つの想いだけが、気がつけば宿っていた。

 

(皆さんと・・・キャロルやシンさんたち。みんなとこれからも過ごしたい)

 

そう、エルフナインとキャロルの仲は悪くない。

エルフナインが自ら部屋に籠ってるのが原因なだけであって、話す時は普通に話す。

無論、他のオートスコアラーたちも。

だがそうやって話すようになったのは、間違いなくシャトーに変化を起こした者が居たからだ。

なぜなら本来であるならば、エルフナインという存在はチフォージュ・シャトー建造の為の労働力として限定的な錬金術の知識を与えられ、その詳細を知らされないまま装置の建造に加担する---それだけのはず。

キャロルや他のオートスコアラーたちと今みたいな暮らしなんて、なかったはずなのだ。

歴史は、現れたイレギュラーの手によって既に外れてしまっている。

しかし大きく変わらないのは、原点(原作)通りに最終的に動いてるから。

 

(本当に、本当にボクは感謝してるんです。だからせめて・・・シンさんやキャロルたちには普通に過ごして欲しい。命題に拘らずに、大切なものを見つけて欲しいって、思ってるんです)

 

例え話しても、変わらない。

だからこそ、エルフナインは探し続けるしかないのだ。

みんながこうやって、自分を含めて過ごせるように。

何もしなければ---いずれ、バラバラになってしまうから。

キャロルの目的は、そうさせてしまうものなのだから。既に、知ってしまっているから。

そう改めて自分の思いを自覚し、とりあえずカレを休ませるために枕を探したが、何故か枕は悲惨なことになっていた。

 

「どうしたら・・・あっ」

 

そして、深く考えようとして今をどうにかしようとしたエルフナインは思い出した。

ふと気になったとき、エルフナインは知識の探求のために聞いたのだ。

いつもシンの傍に居て、いつも支える一人の少女に。

その少女---アズがシンを膝枕している姿に偶然出会し、それに何の意味があるのかと。

そして返ってきたのは---

 

『勝手にしてるだけだけど、この方がアークさまが痛くないでしょ? あと地面がうらやま---じゃなくて大切な人にするものだから。この方が、大切な人の顔を見れるから・・・かな? 他にも理由はあるけど、エルフナインもしてみたら? 貴女の膝枕なら気持ちよく休めそうだけど、少なくとも私の気持ちは分かるかもね』

 

と、そう言った答えを言われたのだ。

エルフナインにとってはシンという人間は大切な人でもあり、怪我人の彼が地面に寝転ぶとなると寝返りの際に怪我が悪化するかもしれない。

理論としてはあながち間違ってなければアズの言葉も一つの意味としては正確。

故に、純粋な彼女は行動に出た。

その方が合理的と判断し、アズがやっていたのを記憶から呼び起こしながら自身の膝にシンの頭を乗せた。

 

「これでいいんでしょうか・・・」

 

間違ってないが、あくまで記憶の再現に過ぎない。

エルフナインは少し不安にしつつも、記憶の中の行動を思い出してそっと触れるように頭を撫でてみた。

いつもは身長的な意味でもされる側で、自分から出来ることはなかったのだが、意外と撫で心地がよかったようで、エルフナインは撫でるのを続ける。

暫くそうしていただろうか、ふと、エルフナインは思った。

今のエルフナインは露出は高くなく、しっかりとした服---というか会った当初はほぼ下着の状態だったのだが、後々アズやセレナに怒られて改善させられた。

今はちゃんとしたワンピースを着ている。

エルフナインに本来の性別はないが、キャロルを元に作られたのもあって誰もが女性として扱っていて、自分も自然とそう思っていた。

故に、不安もなくなって冷静になるとこの状況を分析してしまい、見る見るエルフナインは顔を赤くしていく。

目の前の男の子を一人の異性という認識をし、女の子としての感情が今のエルフナインを作り出していた。

 

「っ・・・で、でもボクがやりたいから・・・」

 

羞恥心が今更やってきたが、やめればいいだけの話。

しかし不思議と、自分でも理解出来ない胸の中で、知らない感情が何かを渦巻く。

普段あまり時間は取られないため、こうして世間一般でいうスキンシップを取ることはエルフナインは少ない。

そのせいなのか、何故かやめたくないと、続けたいという想いが芽生え、満足感のようなものが生まれていた。

シンの顔を見てみれば、彼は苦しそうにしてた時と違って、エルフナインが膝枕してからは安らかな表情で眠っている。

 

「・・・こういう、ことだったんだ」

 

あの時は会ってそんなに経ってなかったため、正直衝撃な場面ではあったのだが、エルフナインはアズの気持ちを理解したような、そんな気がした。

キャロルを元に作られたとはいえ、エルフナインは個の存在。人工生命でも既にエルフナインという人格が形成されている。

だからこそ、自分が抱くこの思いは自分のものだと気づいていた。冷静な分析が、自分の中のナニカをうっすらと理解していた。

 

「・・・ボクも、助けてみせますから。きっと、シンさんを」

 

自分に出来ることは戦いではなく、研究。

勉強し、助けるだけ。

少なくとも科学の力をアークは超越しており、何をしても無駄・・・というより、わからなかった技術などをシンに聞いたら即答で返ってきたため、可能性として考えられるのであるなら、対抗手段は錬金術のみ。

いつも助けてくれて、守ってくれて、世話してくれるカレのためにも。

何よりも胸の中に芽生える、辛くとも苦しくとも温かくて、こうしているだけで早くなる鼓動を抑え、エルフナインは一層頑張ろうという決意をしたのだった---

 

 

 

 

 

ちなみに、アズは様子見で覗いていたのだが、若干嫉妬しつつも空気を読んでキャロルの元へ向かったとか。

変わりたいという思いはあっても、彼女は自分の思いよりシン第一なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

弦十郎によって呼び出された翼と奏は呼び出された要件を聞いた。

そこには一部記憶のないフィーネこと、櫻井了子や亡も共に居り、この場にいないのは響とクリス、迅と惣一のみだ。

それはさておき、翼の手に渡されたシャーレを奏が覗くように見ると、中には何らかの石のようなものがあった。

鉱物か、それとも結晶か。

一体なんなのか分からずに二人は顔を上げると、壁面にはレントゲンが映し出されていた。

心臓を中心に渦巻く歪な影が奔っているレントゲンは、一体誰のものか。

それに関して、了子と亡が答える。

響の対組織の一部であること。

シンフォギアとしてエネルギー化と再構成を繰り返した結果、体内の侵食進度が進む---つまりは一時期の(フィーネ)と同じようなことになっていると。

つまりは、聖遺物との融合。

あれほどの爆発力を発揮出来たのも融合症例として起きたこと。

 

問題はそこじゃない。

確かに驚いたが、翼と奏はこのまま行けば響がどうなるのかを弦十郎に問いかけた。

響のガングニールの欠片は摘出は不可能。

なんの影響も与えないならばよし。与えるならばそれは---だが、弦十郎から返ってきた言葉は残酷な言葉だった。

遠からず死ぬ、と。

信じたくはない。

特に弦十郎だって思うことはあるようで拳を強く握っており、奏に至っては普段の様子からは考えられないほどに歯を噛み締めては悔しそうにしている。

翼はそんな奏の様子が心配だったが、気持ちは同じだ。

あの罪は---もう姿を現さなくなった仮面ライダーゼロワンという存在のお陰で最悪のケースは回避されたが、奏や翼が忘れられない罪なのだから。

誰が、なんと言おうとも。乗り越えた過去であっても、忘れてはならないのだから。

 

それでも、伝えねばならない。

このまま融合が進む---すなわち、ギアを纏えば纏うたびに立花響は立花響でなくなるのとを亡は二人に告げた。

それを聞いた翼と奏は覚悟を決め、自分たちが代わりに戦うことを選ぶ。

無論、このような状況になってしまえば立花響という存在は戦力的にも大きかった。

今のF.I.S.に対抗するには温存することも戦力を残すわけにもいかず、特にあのように冷静さを欠く迅が居ると考えればなりふり構っていられない。

亡も戦場へと駆り出されることが決まったのだが---そんな会話を、実は、それはもうこっそりと、聴いてた者がいた。

 

(やれやれ・・・一難去ってまた一難ってやつか。まァ・・・今回ばかりは俺には何も出来ないことだがな。

俺はアイツ(戦兎)にはなれないんでね)

 

部屋には侵入していないが、人間のように振舞っているというか誰にも---否。一人、二人だけ地球外生命体ということを当ててきた人物以外にはバレてない石動惣一にはこれくらいのことは造作もなく、聴くことに成功していた。

だが、聴いた程度で何も出来ない。

そもそも立花響という人間を惣一は似たタイプを何人も知っているため、止めても無駄だと理解している。

 

(だったら・・・そろそろ正体を掴ませて貰おうかね。ヤツに近づけば、恐らく俺の力も取り戻せるしな・・・なぁ、アーク?)

 

故に、惣一は何も心配していない。

ここで終わるなら所詮はここまでの存在。だが---惣一は解っているのだ。

彼女のことを頼み込んできた少年は、この自分が認めた存在。面白いと思った人間。

ならば、その少年の近くにいる少女はここで終わるはずもないし、彼女の目的が未だに達成されてないのだから死ぬはずもない。

だったら、自分がそろそろ気になっているアークの正体と()()()()()を先に知って、もし事実であるならどうにかするために動くために、惣一はついに本格的に動き出すことを決めた。

---アークの正体が、自分の知る少年なのか。はたまた別なのかを確かめるべく。

もしそうであるなら---前までの自分ならば殺すこと一択だったのに、今やどうするか分からない自分に---いや、あの少年ならば、()()()()()()()()()()()()()という感情が芽生えている自分に混乱しつつ。

 

 



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第11話 歪んだ願望

激クソ久しぶりです。覚えてる人はいますか?作者は覚えてましたけど書いてませんでした(自首)
とりあえずは去年書いて止まっていたストックを完成させました。詳しくはあとがきで書きます。
……てかこの小説エボルト居たんだったな。




 

 

 

カ・ディンギル跡地からそう離れていない荒野。

この場所は数ヶ月前のルナアタックによって生命の芽生えぬ土地になった場所だが、そのような場所に完全聖遺物を杖代わりによろよろと彷徨う男が一人。

当然ながら、アークに吹っ飛ばされたウェル博士だった。

彼はつい数ヶ月前までは野心に燃えていたというのに、今や焦燥した姿だった。

それでも彼は、何かを探すようにソロモンの杖を先行させて地面につくことで支えにしながら歩く。

 

「ヘェッ・・・へエッ・・・なッ、ぬォわァァァ!?」

 

しかし不運が起きたのか、何故か杖代わりにしていたソロモンの杖は空振り、そのままウェルの体は空中で投げ飛ばされた。

他の化け物連中ならともかく、所詮は頭が良いだけの人間であるウェルは空中に投げ出された体を戻すことも出来ず、転がるように落ちていく。

体中が痛むが、無事で済んだウェルはなんとか立ち上がると、ソロモンの杖を回収して顔を上げて前方を見た。

そこに、斜面の奥には洞穴が空いており、風化しかかっているのかパラパラと小さな土塊が降ってくる。

好奇心か、それとも何も考えていないのか、ウェルは何をするでもなくただ諦めずに足を前へ、前へ動かしていた。

そんな彼の苦労が報われたのか、悪運が強いというべきか()()はあった。

 

「あ、あれはッ!?」

 

ここまで来た疲労も、今までの疲労が二の次レベルになるくらいに疲れが吹き飛び、さっきまでの速度が嘘のように俊敏な動きで飛びかかったウェルは大切そうに抱え込む。

それは赤く鼓動する人の頭部ほどの大きさをもっていた。

まるで自分のだというように強く抱きしめたウェルは立ち上がり、心なしか焦燥して老けていたのに今は20歳くらいの若返ったようにも思えるほどに調子を取り戻していた。

 

「ウヒ、ウヒヒッヒヒヒヒ・・・こんなところにあったのかぁ〜!」

 

洞穴から這い出て、朗らかな(狂気的)な笑みを浮かべながらソレ---()()()()()()()()を空高く掲げた。

そう、それはネフィリムの心臓。

あのとき、アークワンに瞬殺されてしまったネフィリムだが、運が良いことにアークワンの一撃は心臓を避け、体だけが木っ端微塵に吹っ飛んだ。

脅威にもならないネフィリムについてはアークワンが見逃した---という解釈も出来るが、どちらにせよ心臓さえあればネフィリムは無事だ。

むしろ必殺技でもないのに拳一発でネフィリムを消し飛ばしたアークワンの強さがどれだけ異常---アークゼロの比ではないのかが伺い知れる。

 

「き、きひひ・・・これさえあれば、()()()()()献上出来る!英雄の誕生の瞬間を目撃出来る! 栄光への道を手伝える!ボクなんかじゃ辿りつくことのできない領域---ウヒヒ、カレこそが英雄だぁ!」

 

酷く濁った瞳から爛々とした輝きを取り戻し、生命力に満ち溢れたかのようにウェルは小躍りしていた。

英雄の誕生を、自分が手伝えることに対して。

もはや今のウェルは前までのウェルではなく、自ら英雄へと至りたいと思っていなかった。

悪のカリスマとして君臨したアークゼロの信者のひとり、と言える。

だが違うところかあるとすれば、アークゼロに()()()()()()()()()()()と圧倒的な力を持ちながらも私利私欲に使わず、何らかの目的のために使うアークワンに()()()()()()()()()()()()()()()()()という違いか。

ただ滅びを望むのではなく、ウェルはアークゼロの英雄としての姿を見たいのだ。

その後に滅ぼそうとも人類を導こうとも、ウェルはどうでもいい。

ただ自分の理想像と一致した英雄を自分の手で手伝いたいのだ。

---それが、カレが最も嫌うことであることに気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---りんごは うかんだ お空に……

 

無機質な天井が目に映り、ナスターシャは意識を取り戻した。

自身を苛む病によって意識を失ったが、日に日に酷くなっていることを自覚していた。

それでも自分が何をしていたのかを思い出すと、ふと視線を横に移した。

そこには目を閉じて背中を壁に預けながらも、歌を口ずさむマリアの姿があって、看病してくれていたのだろう。

 

---りんごは 落っこちた ちべたに……

 

それはマリアたちの故郷に伝わっていたらしい歌で、セレナが生きていた頃もF.I.S.施設で一緒に歌っていたのをナスターシャは何度も聞いたことがあった。

懐かしい記憶を思い返し、同時にナスターシャは思ってしまう。

 

(優しい子・・・。マリアだけじゃない。私は優しい子たちに十字架を背負わせようとしている・・・滅や雷の善意ですら、利用して)

 

---星が生まれて歌が生まれて ルルアメルは笑った 常しえと……

 

マリアの歌からは優しさと思いやりが満ちている。

ナスターシャが目覚めたことに気づかないまま歌を口ずさむマリアの声を、ナスターシャは目を閉じて聞く。

 

---星がキスして 歌が眠って

 

(私が間違えているのかもしれない)

 

上体を起こし、あれだけ覚悟を決めていたというのに後悔が芽生えるナスターシャだった。

もっと別の手段があるのでは、と。

しかしそんな時、壁面に取り付けられたモニターが音を出し始めた。

フィーネだということを押し付ける形になったのもあって、色んな負担をさせてしまっているマリアを今は休ませてあげたい気持ちがあるナスターシャは代わりに出ることにした。

 

「私です」

『っとと、もしかして、もしかしたらマムデスか!?』

 

ナスターシャが出ると、通信越しから切歌の戸惑った声が聞こえてくる。

 

『具合はもういいの?』

「マリアの処置で急場は凌げました」

『そうか。

それだったら本来なら待機を命じられてる俺たちだが、二人。悪く言わないでやってくれ。

滅がそっちで待機してるのもあって俺たちはドクターを探している』

「分かっています。私の容態を見れるのはドクターウェルのみ・・・そういう事でしょう?」

 

雷の言葉から探している理由を察せられたナスターシャは本当に優しい子たちだと思いながらも、怒ったりするようなことはなかった。

 

『ああ、話が早くて助かるぜ』

『デスが、連絡が取れなくて・・・』

「三人ともありがとう・・・では、ドクターと合流次第、連絡を。合流地点(ランデヴーポイント)を通達します」

『了解デス!』

 

どこか無理を感じさせるような声音でそう答える切歌だが、対面していない彼女たちには分からず、通信が切れる。

それと同時に、扉が開く音が響いた。

 

「・・・起きていたのか」

 

やってきたのは、バンダナを巻いている一人の男性---滅だった。

彼はナスターシャの姿を見て、少し驚いたように眉が上がっていた。

 

「滅? どこにいってたの?」

「警戒態勢と訓練をしていた。それよりもナスターシャ、体は平気なのか?」

「今は安定しています。私よりも()()の行方は?」

 

誰を指すのか、それはこの場の誰もが理解出来ていた。

ウェル・・・なんかではなく、今まで物資の提供やメンテナンスをしてくれていた協力者だ。

 

「マム。カレはあのとき・・・」

「いやあの戦場には血痕の跡が残っていた。偶然か、それともアークの一撃をネフィリムが受けた時に吹き飛ばされたのか。

どちらにせよ、生き残っていると見ていいだろう」

 

そう、実はあの場で誰もカレがアークワンへと変身したところは見ていない。

あくまで突然ネフィリムが破裂したように見えただけ。

それに普段のあの少年の影響か、不思議と誰もが()()()()()()()()()()()()()()

まるで、思考が、印象が操作されているかのように。

 

「そうですか・・・捜索も視野に入れておきましょう」

 

「ああ、それがいい。

あまり離れることはしないが、この周辺なら俺が探ろう。よく分からないやつだが、やつが居なければベルトの修理や戦闘にも支障が出る」

「頼みました」

 

あまり時間を取れないが、今みたいな空き時間くらいならば捜索の時間へ割り当てることができる。

しかし護衛も兼ねて待機しているのもあって、滅はこの周辺しか探せないのだが---まぁカレはもうここにはいないのだから、ある意味時間を割けないのはいいことなのかもしれない。

 

「滅、でも貴方もまだアークに受けた傷が・・・」

「心配するな。直撃を受けた訳では無い。

お前こそ休んでいろ、マリア。お前は作戦の要だ」

「・・・分かったわ」

 

平気だというように小さく口角を上げて言う滅に、これ以上は野暮だと思ったのかマリアはただ納得したような言葉だけを述べる。

ただ、納得してなければ心配といった表情が隠せてなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこか心ここに心在らず、といった様子で響は学友たちと歩いていた。

思い出されるのは前日の夜。

暴走した自分。そして一人の少年の姿。

立花響が立花響である限り追い求め続ける人物。

二年。もう二年も経っている。

ある日を境に消え、全ての繋がりを断ち、生死すら分からない幼馴染のこと。

いつだってどんな時だって、忘れることは無かった。

けど、考えないようにしていた。

考えれば考えるほど、何かに締め付けられているように胸が苦しくなる。

 

(会いたい・・・)

 

考えてしまえば、封じた想いが溢れ、今も尚思ってしまってる。

立花響という少女は、元々は一人の少年に依存してしまった。

不安なとき辛いとき。何があったって傍に居てくれた少年は既に居ない。

それでも、思い出してしまった。

一度思い出し、溢れてしまった気持ちは抑えることなど容易ではない。

一言でもいい。一目でもいい。ただ無事なのかどうか、それだけでも知りたいと。

 

(アルトくん・・・アルトくん・・・)

 

それでも現実は思い通りに行くことなどない。

もし今、傍に居てくれたなら。ずっと居てくれたなら。響はこうも胸を痛めることも苦しくなることもなかっただろう。

きっと、照らしてくれたはずなのだから。

 

「しっかしまあうら若きJKが粉モノ食べすぎじゃないですかね〜・・・ねえってば」

「え・・・あ、ああ〜そ、そうだね・・・」

「・・・響?」

 

いつもならば違った返しをするはずだが、肯定するような言葉に未来だけではなく板場や安藤、寺島も違和感を感じたらしい。

顔を見合せていた。

 

「な、なんでもないよっ!いやぁ〜相変わらずおばちゃんのお好み焼きは美味しかったね!」

 

慌てて取り繕おうとする響だが、流石にバレバレだったのだろう。

未来を除く三人は苦笑していた。

 

「立花さんが何を考えてるかは分かりませんけど・・・」

「あんまり無理はしたらダメだよ、ビッキー」

「え、っと・・・ごめん・・・」

 

あまりにも分かりやすいのもあるだろうが、言葉に詰まる響は皆が心配そうな表情を浮かべていることに気づき、ただ謝罪の言葉を述べることしか出来なかった。

 

「ねえ響・・・」

「な、なに?」

「もしかして---」

 

唯一事情の知る未来が、僅かに悩むように躊躇しながら彼女にとっての()()()を握りしめながら確信を得ているかのように言葉を紡ごうとして---

 

『ッ!?』

 

ふと目の前を通り過ぎた三台の黒い車に目を奪われる。

その車の中には見覚えのある、黒スーツの男達が乗っていた。

それがどこか只事では無いことを知らせるように凄まじい速度で過ぎ去っていき、角を曲がって見えなくなったところで突如爆発音が鳴り響いた。

 

「今のって・・・」

「くっ!」

 

響が走り出し、それに未来たちが続く。

距離はそれほど離れておらず、少女たちの速度でもすぐにたどり着く。

そしてその先で見た光景は、悲惨だった。

先ほどまで新車のようだった黒い車の装甲はひしゃげ、へこみ、その周囲には元は人間のものであっただろう黒い炭素の山。

そしてその周囲にはノイズと---ウェルがいた。

 

「ウェヒヒ・・・誰が来ようと、これだけは絶対に渡さない・・・」

 

片手にソロモンの杖、そしてもう一方の片手には、何か布に包まれたもの。

 

「ウェル・・・博士・・・!」

 

その人物が誰かを、すぐに理解した響がウェルを睨みつけるとウェルも響の存在に気づいたのだろう。

怯えと驚愕を顕にする。

 

「な、何故お前がここに・・・!?」

「ここで何を・・・!?」

「お、お前には関係ない!邪魔をするなぁぁぁ!」

 

風貌も含めてあまりにも情けないが、明らかに怯えている彼は半狂乱になってノイズを差し向ける。

 

「あ・・・・!?」

「未来たちは下がってて!」

 

響がその手に持っていた荷物を投げ捨て、そのノイズに向かう。

真正面から走り、間違いなくノイズと当たるだろう。

 

---Balwisyall Nescell gungnir tron(喪失までのカウントダウン)ッ!!

 

それでも響は走るのをやめず、聖詠を唄い()()()()()()()()()()()()()()()()()

本来なら、それは死に直結してしまう行為。

 

「響ッ!?」

「人の身で・・・ノイズに触れた・・・!?」

 

それは、本来ならありえない事。まさかの行動をした響にこの場の誰もが呆気に取られる。

普通ならばその行為は自殺行為であり、その身が炭化する。

しかし炭化することがなかった。

有り得ないはず。だが現実で起きており、次の瞬間、その身を対ノイズ戦の戦闘装束へと変える。

そしてそのまま正中を捉えた拳を押し込み、ノイズを一気に消し飛ばす。

 

「おぉぉぉおお---ッ!!」

 

吹き荒れる衝撃。

あまりにも強風が直線状を駆け抜ける。

その最中で、響は拳を握りしめて叫ぶ。

 

「この拳も、命も---シンフォギアだ!」

 

その身が今自らの戦う力に蝕まれている事を、彼女はまだ知らない。

だけど護るために。

人助けのために、彼女は手を伸ばし続ける。

何があったって必ず、何年かけようとも探し出すと決めた少年に、誇れるように。

 

 






はい、ここでお知らせします。
失踪します!!とは宣言しません。
まず言い訳させてください。
投稿できなかった理由として作者の心が単純に折れてました。てか当時はセイバー神!ゼロワンゴミ!とかでセイバー信者とゼロワンアンチにメンタル殺されたしリバイスに先にやりたいことやられたので絶望してましたし。
まぁそもそも日に日に評価も得られなくなったし赤バーから落ちた上に低評価押されるし…と書く意味があまり感じられなかったんですよね。結局一番は評価なんですが、それでも感想くれた方のために頑張ってました。
でもやっぱ心折れてゆゆゆネクサス書いてましたし。それに今はアウトサイダーズでアーク出たしさぁ。滅出てるしさぁ。ゼインなんか出たしさあ。何やっても素人小説は霞む。
でもさ……やっぱ好きなんだよシンフォギアと仮面ライダー。ギーツを見て書きたい欲が回復してました。俺ツイ書いてたけど。
まぁ改めて見直したらやっぱ文章ゴミだな!!と思いましたけどねっ!
ということで、あまりにも小説を複数書いてるのでこれからも遅れると思いますけど、どうするかは残ってる方が居たらその方たちに任せようかなと思います。
ですのでお願いします。またアンケートを取らせてください。正直ヤンデレ要素もアズ以外消えてるしなこれ…それは近くにいないアルトくんのせいだけど()
もしあれなら小説ごと消します。



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第十二話 熱気


どうもお久しぶりです。タイトル思いつかん。
ところでなんかファイズがコラボしたみたいですね。やっとかという気持ちと公式でやってしまったかという感情があります。
というか早く三期行きたいんですが。
ぶっちゃけ多少の変化はあれど二期までは基本原作沿いだからなあ・・・。
あとアウトサイダーズのアーク様、久しぶりにかっこいい姿見れて満足です。そもそもスラッシュライザーって生成できたのか・・・()
まあウルトラマンも1章が終わってひと段落したのでゆっくりやっていくんじゃないですかね、アンケでも割と続けて欲しい人いるみたいなんで



 

 

(力が・・・漲る・・・)

 

鎧であるシンフォギアから---否。

()()()放たれた熱気が、風に揺られ落ちてきた木の葉を灼く。

 

 

 

「この熱気・・・」

「立花さんが!?」

「どうなっちゃってんの?」

 

響から発せられる熱気は離れた位置にいる未来や板場たちにも届いている。

それほどに強いのだろう。

しかし響には声が届いていないのか、その言葉に反応がない。

 

「いつもいつもッ!都合のいいところで、こっちの都合をひっちゃかめっちゃかにしてくれるお前はああああ---ッ!」

 

叫びながら次々とノイズをソロモンの杖で召喚していくウェル。

対する響はただその拳を握りしめ、攻撃を避けながら拳を叩き付ける。

 

「―――ヒーローになんて なりたくない」

 

襲いかかってくるノイズは脅威になり得ない。

彼女の拳が、蹴りがノイズを蹂躙する。

ノイズが響に攻撃したところで反応されて避けられ、反撃の拳が消滅させる。

ただ一方的な展開になるのみ。

 

「いつもいつもいつもいつもいつもぉぉぉぉおお!!!」

 

ウェルが狂乱したかのように腕を振り回す。

その度に彼を取り巻くノイズの密度は増していく。

響の拳には敵わず、着実にその数を減らしていくがキリがない。

いつまでもノイズと戦ったところで、ただ増え続けるだけで消耗していくだろう。

だからこそ、響は一気に勝負に出る。

 

 

右手のギアを巨大なナックルに変形させて、腰のブースターとギアのブースターを掛け合わせ、回転炉によってエネルギーをチャージ。

 

「行っけぇぇぇぇええぇぇええぇえええええ!!!」

「うわあぁぁぁぁ!?」

 

そのまま前に飛び出し、目の前のノイズを一気に消し飛ばす。

どれほどノイズが重なったところで彼女の進路を妨げることはできず、一直線に突き進む拳は擊槍の如く。

そうして響の拳がウェルへと---

 

 

 

 

 

 

「盾ッ!?」

「なんとノコギリ」

 

高速で回転する盾・・・ではなくノコギリ。

それが響の拳を防いだ正体。

その力を使えるものも武器を持つものも響はただ一人しか知らない。

 

「調ちゃんッ!?」

「この身を鎧うシュルシャガナはおっかない見た目よりもずっと、汎用性に富んでいる。防御性能だって不足無し」

「それでも、全力の二人がかりでどうにかこうにか受け止めてるんデスけどねッ・・・!」

 

調の背後には支えるように切歌が居て、調のヒールに装着されているローラが負荷で悲鳴を上げている。

もし切歌が射出したアンカーを地面に突き刺してなければ、調の防御も突破されていただろう。

二人でようやくなのだから、一人だと当然だ。

 

 

 

 

 

キャリー内部ではノイズ発生によって場所の把握が完了したナスターシャたちが現場へ急行していた。

 

「櫻井理論に基づく異端技術は、特異災害対策機動部の占有物ではありません。ドクターがノイズを発生させた事で、その位置を絞り込むことなど容易い・・・」

「だけどマム・・・」

「分かっています。こちらが知り得たという事は、相手もまた然りです。急ぎましょう」

 

だが敵はこちらと同じ戦力を有しているのだ。こちらがノイズ発生によって位置を知れたならば相手もまた然り。

それに戦力的には敵が上だ。

だからこそあまり時間はない。唯一秀でている部分があるとすればエアキャリアという移動手段か。

 

「聞こえてるわね?二人とも」

『ドクターを回収して速やかに離脱』

『それはもちろんそうなのですが・・・ッ!』

 

 

 

 

 

 

抑えることで精一杯。

もし力を緩めようなら、攻撃によって吹き飛ばされるだろう。

しかし今は拮抗していても、追い詰められているのはギリギリ防げている調たち。

 

『あぶねぇぞ!』

 

ドードー鳥の羽根を模した一刀の剣が拮抗していた間へ落ちてくる。

声のおかげで気づけたのか、調と切歌、響は互いに弾かれるように距離を引き離す。

ヴォルクサーベル---つまり増援。

そのお陰で咄嗟に切歌がウェルを回収したようで、場は再び膠着状態へとなってしまう。

 

『何とかって感じだな。俺なら可能かもしれねぇが・・・』

 

遅れてやってきたのは仮面ライダー雷。

だが状況はそこまでいい訳ではないらしく、今の響が出せる火力は仮面ライダーの装甲を持ってしても防げないだろう。

しかし突如として響が両膝を着く。

胸を押さえて、何処か苦しそうに。

 

「頑張る二人にプレゼントです」

「「ッ!?」」

 

突如苦しみ出した響を油断せずに目を離さないでいるが、あまりに唐突すぎて警戒するように訝しむ。

そのせいか誰も気づかなかった。

いつの間にか背後にいたウェルは、調と切歌の首に何かを押し当てた。

それは緑色の液体が入った注射器。ガンタイプの注射器で簡単に投与出来るもので、首筋を抑えながら慌てて離れる二人。

 

「何しやがるデスか!?」

「LiNKER・・・」

「効果時間にはまだ余裕があるデスッ!」

 

そう、それはLiNKER。

第二種適合者がシンフォギアを扱うにあたって必要不可欠な薬品。

足りない分の融合係数を引き上げるために使うものだ。

 

 

「だからこその連続投与です!あの化け物が対抗するには、今以上の出力でねじ伏せるしかありません。その為にはまず、無理矢理にでも適合係数を引き上げる必要があります・・・!」

 

眼鏡のブリッジを上げ、得意気に語って見せるウェル。

さっきまでビビっていたというのに、今はそんな様子など微塵も感じさせない。

 

「でも、そんなことをすれば、過剰投与(オーバードーズ)の負荷で・・・うっ」

 

言いかけた所で、調がめまいを覚える。

薬品とは用量が決まっているものだ。

過剰に摂取してしまえば副作用によって体調不良を引き起こしてしまう。

それは彼女たちが服用するLiNKERだって例外ではない。

 

「ふざけんな!なんでアタシたちが、アンタを助ける為にそんな事を---」

「するデスよ!」

 

切歌の怒鳴りをウェルはすかさず言い返して見せる。

しかも不快なことにわざわざ口調まで真似ている。

 

「いいえ、せざるを得ないのでしょう!貴方たちが、連帯感や仲間意識などで、私の救出に向かうなど到底考えられない事を!」

 

どうやら、互いの事をよくわかっているようだ。

あくまで利害の一致状の関係。利用し利用されの関係であり、仲間意識はないのだと。

 

「大方、あのオバハンの容態が悪化したから、おっかなびっくりかけつけたに違いありません!病に冒されたナスターシャには、生化学者である僕の治療が不可欠・・・。さぁ、自分の限界を超えた力で、私を助けてみせたらどうですか!」」

 

狂ったように喚き散らすウェル。

だが言ってることはただ助けを求めるだけの小物なのだが。

しかし否定できないのも事実。

 

『お前ッ・・・!』

「ひいっ・・・い、いいのですか?僕が居なければ治療は無理だとさっき言ったはずですが・・・」

 

それでも身を削る選択を迫られたことに納得が出来ないのだろう。

雷がウェルの胸倉を掴んで拳を握りしめている。

 

『・・・チッ』

 

頭は冷静なようで、突きつけられる事実にやるせない感情を抑えるように雷が掴んだ胸ぐらを突き離すと、ウェルは着地することも出来ずに情けなく尻餅を着く。

 

「・・・やろう、切ちゃん・・・!マムのところにドクターを連れて帰るのが、私達の使命だから!」

「絶唱、デスか・・・」

『お前ら・・・』

 

言い切る調に、何をするか理解した切歌が正規装者でも危険である行動を口にする。

しかしシンフォギアシステムの中に残された誰でも使える必殺技のような手段はそれしかない。

この場を打開するにはエボルやアークのような圧倒的な強さを持たぬ限り、不可能。

守らねばならない立場(大人)なのに止められないことにただ痛くなるほど拳を握るしか雷には出来ない。

 

「そう!YOU達歌っちゃえよ!適合係数がてっぺんに届く程、ギアからのバックファイアを軽減できることは過去の臨床データが実証済み!だったら、LiNKERブッこんだばかりの今なら、絶唱歌い放題のやりたい放題ぃ!」

 

起き上がったウェルが舞台上の俳優のように両手を大きく広げて大仰な仕草で力説する。

澱みなく放たれるのは状況を打開するために『絶唱』を唱えということ。

 

「やらいでか・・・デェェェスッ!」

 

そうして二人は---歌う。

 

「「---Gatrandis babel ziggurat edenal 」」

「こ、の歌・・・絶唱・・・!?」

 

それを聞いた瞬間、響が一気に青ざめる。

なぜならそれがどんなものかを、彼女は知っているのだから。身をもって経験したのだから。

 

「「Emustolronzen fine el baral zizzl---」」

 

これは---自身の全てを燃やし尽くして放つ、シンフォギアの最終決戦技『絶唱』。

美しい歌。同時に滅びの歌。文字通り命懸けの歌なのだ。

 

「「Gatrandis babel ziggurat edenal---」」

「ダメだよ・・・LiNKER頼りの絶唱は、装者の命をボロボロにてしまうんだッ!!」

 

何とか絞り出せた響の言葉も虚しく、二人には届かない。

かつて天羽奏がある戦いにおいて歌おうとし、乱入者のお陰で未然に済んだものの結局別の戦いで発動した。

本来であればその時に奏は大変なことになるはずが---その時も別の乱入者のお陰で負荷が消された。

だが、先天的な適性を持つ装者ですら負荷の大きいものがLiNKERで強引に引き上げている者が使えばどうなるかなど想像に容易い。

 

「「Emustolronzen fine el baral zizzl---」」

 

しかしあぐねるうちに、とうとう二人の口から最後の歌詞が紡がれた。

瞬間、爆発的に膨れ上がったフォニックゲインがエネルギーとして可視化される。

 

「シュルシャガナの絶唱は、無限軌道から繰り出される果てしなき斬撃。これで膾に刻めなくとも、動きさえ封殺できれば---」 

「続き、刃の一閃で、対象の魂を両断するのが、イガリマの絶唱。そこに物質的な防御手段などありえない。まさに絶対に絶対デス!」

 

絶唱のエネルギーでそれぞれのアームドギアが変形、巨大化する。

二人の絶唱は現代に戦女神が蘇ったといっても差し替えない。

通常の相手であれば鋸によって原型も残らない程度に切り刻まれ、生命を停止する。

相手がシュルシャガナの攻撃を全て防ぎ、避け切ったところで連続で放たれるイガリマは対象の魂を両断する力がある。

イガリマの防御不可な一撃はシュルシャガナの斬撃によって回避手段を取れなくした瞬間に襲いかかるのだ。仮にイガリマを避けたところでシュルシャガナが切り裂く。

女神ザババの振るう二対の神の刃。それがシュルシャガナとイガリマ。これほど相性の良い必殺技は稀にないだろう。

これには格上相手だろうと通じる。それこそ理不尽な存在でもない限り。

そしてまた---

 

 

---Gatrandis babel ziggurat edenal

 

相手が『融合型症例第一号(立花響)』でなければ。

 

「エネルギーレベルが、絶唱発動まで届かない・・・あ!?」

「減圧・・・うわ!?」

『まさか・・・束ねたってのか?中途半端な絶唱で・・・!』

 

驚くのも束の間、絶唱形態に変形させたギアが、急激に元に戻っていく。

切歌のギアすらも元に戻る。

そう、やったことは簡単だ。

 

「---セット・ハーモニクス!!」

 

歌ったのだ、響も絶唱を。

ただし()()()()()()()で。

収束したエネルギーが解放させられる。二人分の絶唱。波長のあったものでもなく、強引に束ねたS2CA・ドライバースト。

 

「二人に・・・絶唱は使わせない・・・!」

 

そういう彼女の足元からは火が発生していた。

フォニックゲインの光ではない、立花響という一人の少女が発光している。

季節は夏でもないのに、この周辺の気温だけは異常に高い。

そして響は両腕のガントレットを右腕に連結させる。

パーツが回転し、束ねた絶唱のエネルギーが勢いよく上空に放たれた。

虹色の竜巻が空にも届かんとばかりに舞い上がる。

すぐにエネルギーは消失したが、辺りには微量の炎が灯っている。

S2CAを放った響はその場から動かない。

動かない、というよりは肉体にかかった負荷の影響が大きいようにも見える。

 

『聞こえて?ドクターを連れて、急いで帰投しなさい』

「けど、まだ・・・」

『そちらに向かう高速の反応が三つ!おそらくは、天羽々斬とイチイバル。それともうひとつのガングニール!』

 

通信機に手を当て、調と切歌、雷にはそのようなことが聞こえていた。

おそらく操縦席のモニターで確認していたのだろう。

確かに響は今無防備だ。狙うならチャンスだが、深追いは危険という言葉もある。

それだけじゃない。仮に響を倒したところで三人も向かってきてるということから、もし来られたら不利になるどころか逆にやられるかもしれない。

 

「仕方がねぇ、ここは退くぞ」

「はいデス・・・」

 

だからか、冷静に物事を見ていた雷がウェルを首根っこを雑に掴み、エアキャリアが現れると同時に伸ばされたロープに三人は掴むと、エアキャリアの中に入って消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虹色の竜巻を見たとき、未来は無性に不安に駆られてしまった。

響が何処かへ行ってしまうと思ったのだろう。だからこそ、脚は自然と向かっていた。

何故か分からない。もしかしたら似た経験を一度したからなのかもしれない。

思い出されるのは、未だに忘れられない過去のこと。

二年前の出来事。

 

(アルくん・・・)

 

いつものように、幼馴染の家に残っていた唯一の()()()()()()を握る。

どうしてそれだけがあって、残っていたのか。無論のこと知らない。

ただ握ると不安な心が落ち着く。

それでも思い出される。

あの時も同じだったのだ。

 

『未来、お前に頼みがある』

 

いつもとは妙に雰囲気が違って、表情は無表情だったが何かを決めたような覚悟をしたかのような様子を感じさせた少年の姿。

あの時は理解出来なかったが、今では後悔している日のこと。

 

『響のことを頼む。お前なら、任せられる』

 

未来が彼の声を聞いたのは、それが最後だった。

返事をした後にどうかしたのかと聞いてもはぐらされて、あの時もっと追求しておけば。ちゃんと話していれば、また変わったはずだろう。

あの時も未来は今と同じ感覚があった。

でも信じたくなかったのだ。彼がいなくなることが。きっと大丈夫だと、思っていた。

結局彼は---アルトという少年は姿を消した。

 

(嫌・・・また、また同じことを繰り返すのだけは、絶対嫌ッ!)

 

ただでさえ大切な、自身が恋慕を向ける相手を失ったのに。

もし大切な親友を失うなんてことがあれば、間違いなく未来は立ち直れない。

 

「響---ッ!?」

 

膝をついた響へ駆け寄ろうとすると、火にでも触れたかのような熱さに脊髄反射が起きる。

思わず下がってしまったが、それすら無視して駆け寄ろうとした。

 

「よせッ!火傷じゃ済まないぞ!」

「でも響がッ!」

『熱ッ!ダメだ、僕でも近づけない!』

 

現場に到着したクリスが未来を止め、既に変身していた迅が触れようとしたが、無理だった。

二人だけ早くたどり着いたのは恐らくヘリに乗っていた迅が変身し、同じく乗っていたクリスを連れてきたといったところか。

しかしどこかに連れていこうにも触れないなら移動させることも出来ない。

万事休すか---そう思われたとき。

 

『---Imyuteus amenohabakiri tron(羽撃きは鋭く、風切る如く)

『---Croitzal ronzell gungnir zizz(人と死しても、戦士と生きる)

 

二つの光が迸る。

一瞬のうちに天羽々斬とガングニールを身に纏う翼と奏がバイクに乗りながら向かっていた。

翼がアクセルを全開にし、後ろでしがみついていた奏はバイクの上で立つ。

すると翼が脚部ブレードを展開させ、バイクの側面と脚部のブレードを結合し、巨大な刃状に展開する。

一本の巨大な剣となったバイクは大きく跳躍。市街地屋上の貯水タンク。

 

『騎刃ノ一閃』

 

すれ違いざまに貯水タンクを斬り裂くと、内部の水は下界へと溢れ出ていく。

奏が仕上げと言わんばかりに風を槍から発生させ、重力と風によって響へ殺到した。

それによって熱気が蒸発し、水が引いた頃にはギアが解除され、制服姿となった響が倒れていた。

最悪は避けられたが、 翼は悔しそうに拳を強く握りしめていた。

 

「私は・・・立花を護れなかったのか・・・?」

「いや・・・今出来ることはやったさ。悔やむのは後でいい」

 

近くに居た奏にだけは翼の消え入るような声は聞こえたらしく、それだけ告げた奏はすぐに響の体を抱える。

上空からは、ヘリがやってくる音だけが聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれを近くの屋上で見下ろすように、二人の少年少女が眺めていた。

何が起きたのか。何があったのか。ノイズが発生したというのに、そんな場所で。

 

「あの様子、だいぶ聖遺物との侵食が始まってるみたい。あれはアーク様でも無理よ?」

『ああ、分かっている。ならば---新たな結論を予測するまでだ』

 

誰も気づかない中。

何を目論んでいるのか、考えているのか、それは本人たちしか知らない。

だが装者たちを見ていた()()()()()は計画の修正を完了させると姿を消す。

それと同時に、止まっていたカメラは何も無かったかのように再び機能を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦線を離脱したエアキャリアが止めた場所は自然に囲まれた場所だった。この場所でならば、 木々や山が邪魔になって二課から捜索が来たとしても時間は稼げる。

そしてウェルの適切な治療のおかげで、ナスターシャの容体は安定していた。しばらくは持つであろう。

 

「では本題に入りましょう」

 

そうしてウェルがモニターで見せたのは、脈打つ何かだった。

 

「これは、ネフィリムの・・・」

 

そう、アークの手によって吹き飛ばされた時に()()にも見つけたもの。

一撃でやられたからか心臓まで傷はいってなかったらしい。

 

「苦労して持ち帰った覚醒心臓です。必要量の聖遺物を餌として与える事で、ようやく本来の出力を発揮できるようになりました。この心臓と貴方が五年前に入手した・・・」

 

ふと、ウェルがマリアに向かって何かを言いかけ、それにマリアが怪訝な様子を一瞬見せる。

理解したようにすぐに顔を引きしめたが、不審感を与えたらしい。

 

「お忘れなのですか?フィーネである貴方が、皆神山の発掘チームより強奪した神獣鏡の事ですよ」

「え、ええ・・・そうだったわね・・・」

 

ウェルの言葉にマリアが妙に歯切れ悪く答えるとそれを庇うようにナスターシャが口を挟む。

 

「マリアはまだ記憶の再生が完了していないのです。いずれにせよ聖遺物の扱いは当面私の担当・・・話はこちらにお願いします」

「これは失礼」

 

ウェルが仰々しく頭を垂れる。

 

「話を戻すと、『フロンティア』の封印を解く『神獣鏡』と、起動させる為の『ネフィリムの心臓』がようやくここに揃ったわけです」

「そしてフロンティアの封印された場所ポイントも先だって確認済み・・・」

「そうです!すでにでたらめなパーティーの準備は整ってる訳ですよ。後は、私たちの奏でる狂想曲によって、全人類が踊り狂うだけ!ウェハハハハハ!!!」

 

ウェルが拍手で答え、先の未来を想像でもしたのだろうか。

気持ち悪い踊りをしながら高笑いをしていた。

 

「・・・近く計画を最終段階に進めましょう・・・ですが今は少し休ませていただきますよ・・・」

「・・・・ふん」

 

ナスターシャは、そう言って部屋を出ていくと、少ししてマリアたちも退出していく。

後に残ったウェルは鼻で笑うと、口元を歪ませた。

明らかに何かを企んでいるかの様子。だがこの場には誰もいない。

それぞれがまた別々の考えを持ったまま、ひとまず会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議から一夜明けると、切歌と調は買い出し係としてとあるスーパーマーケットに訪れていた。

正確にはその帰りである。

いつもは物資を提供してくれる者が居たのでやってくれていたが、ネフィリムに食われた以降姿を全く見せていない。

居なくなる前に援助はしてくれた後だったので資金はあるが、無駄遣いは出来ないだろう。

 

 

「楽しい楽しい買い出しだって、こうも荷物が多いとめんどくさい労働デスよ!」

「仕方がないよ。過剰投与したLiNKERの副作用が抜けきるまではおさんどう担当だもの」

 

切歌と調の両手には膨らんだレジ袋がある。

するとふと横目で調の顔を見た切歌が彼女の前に出ると、向き合って口を開く。

 

「?」

「持ってあげるデス! 調ってばなんだか調子が悪そうデスし」

「ありがとう。でも平気だから」

 

LiNKERの副作用による後遺症か、調の様子に気づいた切歌が代わりに持つ提案をするが、断られてしまう。

こうなれば頑固であることをよく知っているため、切歌は別の提案をする。

 

「うーん・・・じゃあ、少し休憩していくデス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

建設が一時中止された工事現場で休むことにした切歌と調。

切歌は先程買ったレジ袋からメロンパンを取り出し、包装を破って頬張る。

 

「嫌な事もたくさんあるけど、こんなに自由があるなんて、施設にいたころには、想像できなかったデスよ」

「うん・・・そうだね・・・」

 

何処までも自由に広がる空を見上げて呟かれた言葉に、調はそう答える。

 

「・・・フィーネの魂が宿る器として、施設に閉じ込められていたアタシたち・・・アタシたちの代わりに、フィーネの魂を背負う事になったマリア・・・。

自分が自分でなくなる怖い事を、結果的に、マリア一人に押し付けてしまったアタシたち・・・」

 

彼女たちは、レセプターチルドレン。フィーネの器として、非合法に集められた子供たち。

そのうち装者としての才覚を見出されたのが、彼女らだ。

フィーネの魂が宿ること。それはすなわち、マリアの存在がなくなるということ。

切歌にとっても調にとっても、マリアは家族だ。

もしその日が訪れてしまったら、受け入れることができるだろうか。

 

そんなことを考えてたからだろう。

メロンパンを流しこんだあとに、遅れて気づいてしまった。

調の息が荒く、肩で呼吸している。

明らかに普通ではなく、異常だ。

 

「調!?ずっとこんな調子だったデスか!?」

「だいじょうぶ・・・ここで休んだから、もう・・・」

 

口ではそう言うが、誰がどう見ても大丈夫な様子では無い。

辛うじて苦しげに立ち上がる調だが、立ち上がるだけで精一杯だった。

余力などあるはずもなく、数歩覚束無い足取りで歩いた後に壁にもたれかかるようにして倒れた。

それが運の尽きだったのだろう。

工事現場なのもあって鉄棒の束が動いてしまい、頭上に置いてあった鉄棒が一気に降り注ぐ。

 

「調ッ!!」

 

重力に従って落ちてくる鉄の塊。

全力で駆けた切歌は調を守るように覆い被さるが、いくら彼女だってこの先の未来(みらい)が分からないほどバカではない。

良くて重傷。悪ければ二人共々死。

死の恐怖はあったが、調の体調を見抜けなかった責任がある切歌は万が一でも調が生き残れる可能性に賭けた。

それでも死の恐怖というのは到底耐え切れるものでもなく、目を閉じてしまう。

その結果、鉄の塊が降り注いだ調と切歌は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの時出現したアーク・・・。もしやつがあの場の人間を殺す気だったなら、間違いなくやられていた。だが分からないことがある。何故アイツは・・・誰も殺さなかった?)

 

世間では最低最悪の頂点として、厄災そのものとして扱われているアーク。

その一方で悪のカリスマとしても一部から支持を受けたりはしているが、自分たちに力を貸したこと、あの場で全員を相手にしたこと。

全ての言動が全く一致せず、目的すら見えてこない。

アークから渡されたプログライズキーとドライバーは未だ滅の手にある。

これがなければ自分たちは戦えなかっただろうということも解るが、やはり分からないのだ。

 

(迅・・・)

 

そしてふと思うのが、ある一人のこと。

滅にとって---いや滅たちにとっては大切な存在であった者の一人。

今は敵対する関係にあるが、譲れないものは互いにある。

 

(例えお前が相手だろうと・・・アークが相手だろうと容赦はしない。俺の信念を貫くまでだ・・・ん?)

 

剣を手に、覚悟を決める。

知らぬ仲ではないが、戦場で躊躇すれば負けるのはこちらだと、理解しているから。

改めて覚悟を決めて警戒のために歩いていた滅は、ナスターシャとマリアの姿を捉える。

報告も兼ねて近づこうとしたところで---

 

 

「貴方にこれ以上、新生フィーネを演じてもらう必要はありません」

そんな言葉が、聞こえた。

思わず聞き入る。

 

「マム、何を言うの!?」

「貴方は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・フィーネの魂など宿していない・・・ただの優しいマリアなのですから・・・」

 

その言葉が、意味する事。その言葉の真意。

それはつまり---

 

「フィーネの魂は、どの器にも宿らなかった。ただそれだけのこと---」

 

そう、フィーネの魂など宿ってなかった。

いや最初から宿ることなど有り得ない。

当たり前だ、なぜならそもそもフィーネという存在は、生きているのだから。

それを知っているのは、二課とアークのみだが。

 

(・・・そうか。異端技術の先端を所有している事を示すことでウェルを引き入れることが出来たからか。マリアにフィーネは宿らない。ならば俺に出来ることは---)

 

だが滅には十分だったらしい。

何故フィーネを名乗ることにしたのか、何故そんな計画にしたのか、全てを察した滅は空を見上げ、息を吐くと剣を力強く握りしめて去る。

自身のやるべきことを、定めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音が響く。

辺りは鉄の塊が落下した影響で土煙に覆われ、何も見えない。

もう死んでしまったのだろうかと痛みが一切感じないことを不思議に思いつつ、切歌は観念するように目を開いた。

視界の先。広がるのは意識を失っている調と目を閉じる前と変わらない土の床。

 

「潰れて・・・ない?」

 

そのことを認識するにどれほどの時間を有したのか。

間違いなく即死だったはず。例え当たりどころが良くて死ななくとも、ギアを纏わなければただの少女でしかない切歌と調は動けなくなるだろう。

こうも無傷など、有り得るはずもない。

じゃあ鉄の塊はどうなったのだろうか。自分たちが潰れてないなら夢でもない限り鉄の塊は存在するはずなのだ。

まだ視界は悪いし調が心配だったが、切歌は周りを見渡して---

 

「おに・・・さん?」

 

一人の少年が、右手を上空に翳した状態でその場に立っていた。

白髪にフード付きの上着。身長はそれほど高くはなく、切歌とあまり変わらないだろう。

だが手を翳しているその先。切歌たちの真上には落ちてきていたはずの鉄の塊は空中で静止しており、動く気配すらない。

状況を理解する前に、色んな思考や感情が頭を埋め尽くす。

助かったという安堵やあの状況で生きていたことに対する喜び。どうなってるのかという困惑や体の心配。どうしてここにいるのかという疑問。

考えれば考えるほど増えていく。

 

予測完了・・・

 

だからだろう。

消え入るような小さな声で呟かれた言葉を、切歌は聞き逃した。

そして少年が右手と入れ替えるように左手を向けると、工事現場に置いてあった鉄の棒は()()()に戻される。

 

「さて・・・大丈夫か?」

 

全てを元通りにした後に、少年が振り向く。

目を惹くほどに目立つ赤い双眸が切歌に向けられ、ようやく切歌も理解が追いついてきた。

 

「ど、どうして・・・お兄さんが?」

「それはこっちのセリフだ。看板には立ち入り禁止と書いていただろ。なのに入っていく姿が見えたから追ってきたんだ」

「あ・・・」

 

今更ながら思い出したような反応をする切歌にため息をひとつ零すと、シンは視線を動かすと意識がないのか身動きひとつ取らない調を見る。

 

「まぁ・・・過ぎたことを言っても仕方がないだろう。それより・・・LiNKERの影響か?いつまでそんなとこで寝かしても休めるものも休めない。調を連れて行くぞ」

「は、はい・・・ごめんなさいデス・・・」

 

結局シンは答えることはなく、誤魔化すように話を変えると腰を下ろして調の両足に左腕を通しながら右腕で肩を支えると、そのまま持ち上げる---所謂お姫様抱っこと呼ばれる抱え方をすると反省してるのか若干元気を失う切歌を見て、再び眠ったままの調を見た。

 

・・・元はと言えばオレのせいだからな

「・・・お兄さん?」

「いや、気にするな。なんでもない---()()()()()()()

 

その一言はあまりにも小さく。

ただ何かを喋った、ということだけは分かった切歌が首を傾げるが、シンは首を横に振る。

そして笑いかけながらゆっくりと歩いていく。

その後を切歌は慌ててついて行った。

 

(フィーネの魂は()()ならば調の中に存在する。だからこの時に表に出るはずだった・・・しかしフィーネが生きている時点でそれは有り得ない。もし間に合わなかったら・・・最悪の事態になっていたな)

 

そう思っていることも、そもそもカレの正体がアーク本人など知る由もなく、大人しく戻っていく。

なお調は軽い方とはいえ、ネフィリムに食われた際の傷が癒えてないシンは実はキツかったりした。



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