雲居の空 (くじぃらぁす)
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伝えたかった言葉

「咲夜姉さん僕をおいていかないで、ひとりにしないで」

違うんだ違うんだ、咲夜姉さん。こんなことが言いたいんじゃないんだ、でも言ってしまうと、すぐにでもいなくなってしまう気がして、だからずっと言えない言葉がある。

涙が溢れ出してきて止まらない、笑ってないといけないのに、もう泣かない涙は見せないと決めた。

「夜去、泣かないで。姉さんも悲しくなる」

 

「咲夜姉さんも泣いてる」

 

「そうね、あなたの成長を見れないのが悲しい」

 

「僕毎日会いにいくよ」

 

「嬉しいな」

と言って僕の手を握ってくれた。

おばあちゃんを殺され、鬼から逃げていた僕を助けてくれた時に繋いでくれた暖かい手ではない。

だから、今度は僕が姉さんの手を包み込むように握った。

 

「夜去、冨岡さんと不死川さんと宇髄さんと三人で少しお話をさせて?」

僕は首を縦に振り、お辞儀をして外に出た。

 

 

縁側に座って、お話が終わるまで待っていた。

「夜去、伝えたいことは伝えられた?」

そこにいたのは4年前に亡くなったもう一人の姉がいた。

 

「どうして、輝夜姉さんが」

「伝えられてない、怖くて言えないんだ。言ってしまうといなくなってしまう気がして。だからあの時も伝えられなかった。ごめんなさい、ごめんなさい」

 

「ちゃんと伝わってたよ、でも夜去に言ってほしかった。咲夜もそう思ってるはず、大丈夫姉さんもついて行くからいっしょに行こ」

そう言って僕の手をとってくれた。

 

「ありがとう、僕行くよ」

そっか咲夜姉さんを迎えに来たんだね。

 

────

「お前はまだ生きないとダメだろうがぁ」

 

「不死川さん、私はもうダメみたいです。夜去を可愛いがってくれてありがとうございました」

「稽古と言って連れ出しては色々なところに連れて行ってくれてたこと知ってますよ?」

 

「夜去、全部言ってたのかよ」

 

「冨岡さんも、宇髄さんも本当にありがとうございました」

 

「夜去は俺(達)の弟、当たり前だ」

 

「いや、違いますよ冨岡さん私達の弟です」

 

「夜去は、明月達に似て顔がいい、俺が派手ないい男にしてやる。だから安心しろ」

 

「それは、見てみたいです宇髄さん」

 

どんどん衰弱して行く私を見て笑顔を失う夜去を鬼殺隊だったみんなが心配してくれた。

夜去のことをお館様はじめ、鬼殺隊のみんなが家族のように想い大切にしてくれた、それが私たちは本当に嬉しかった。

 

「同じ柱として、あなた達と一緒に戦えてよかった」

「姉さんのようにはできなかったけど、それでも私はみんなの力に私はなれたでしょうか」

 

「ああ、お前ら姉妹は本当にすごい、多くの命を救った」

 

よかった。私も姉さんのように沢山の人を助けられたんだ。

 

「三人に最後にお願いがあります」

「夜去のことをどうかよろしくお願いします」

最初は私たちの時の呼吸を継承してもらうつもりだった。

けどできなかった、あなたが私たち二人の宝物だったから。

時の呼吸は使うのは本当に辛かった、でもね夜去あなたがいたから、私と姉さんはどんなに辛くても前を向けたんだよ。

普通の生活をしてほしい。

鬼のいない世界で長生きをして、好きな事を見つけて、そして好きな人と結婚をして、そんなふうに生きてほしい。

これが私たち二人の姉の願いだ。

だからどうかあの事を知らないで、知ってしまうとあなたは絶対その道を選んでしまう、あなたはみんなが大好きでとても優しいから。

三人はわかったと言ってくれた。あの事を知っているのは私たち姉妹、柱、お館様だけだ。

 

もう大丈夫、何も思い残すことはない。

息を引き取るところは見せたくない、悲しませたくないから。

廊下からバタバタと走ってくる音が聞こえる。廊下は走ったらダメと姉さんと二人で言ったのに。

やっぱりダメだ最後にもう一度会いたい。

 

────

輝夜姉さんが急ぐよと言って走り出したので僕も走った。

いつもなら廊下は走らない、でも今日だけは許して欲しい。

部屋の前について息を整えていると、中から義勇さん実弥さん天元さんが出てきて終わったら呼んでくれ外で待っているからと言って三人は行ってしまった。

 

「夜去、廊下は…なんで姉さんが…」

やっぱり見えているんだ。

 

「咲夜、夜去が伝えたいことがあるんだって」

 

「僕を、僕を」

落ち着いてと言って二人が僕の手を握ってくれた。

この二人の手はとても安心する、あの時助けてもらい二人に繋いでもらった手だった。

もう泣かないとさっき決めたのに、涙が止まらない。

 

「僕を二人の弟、家族にしてくれて一緒にいてくれてありがとうございました。僕はとても幸せでした」

本当によかったそう言って二人の姉は、泣いて喜んでいる。

やっと伝えることができた、伝えられなかったらまた後悔していた、今言えて良かったという気持ちと悲しい気持ちが混合している。

もうすぐ二人の姉は天国に行ってしまうとわかっているから。

 

「咲夜、夜去おいで」

輝夜姉さんに僕たち二人は頭を撫でられ、抱き寄せられた。

咲夜姉さんは顔が赤くなっていた、昔だったら恥ずかしいからやめてと言っていたのに今日は言わない。

 

「あら、今日は甘えんぼさんが二人も。かわいいわねぇ」

 

「もぉ姉さん、久しぶりに会えたらまた揶揄って!今日だけはいいでしょ」

久しぶりに三人で笑った、もうこんな日が来ることはないと思っていた。

それから縁側に出て、輝夜姉さんの肩に僕と咲夜姉さんは頭をおき日向ぼっこをした。

昔もよくお昼に三人でこうしていた、懐かしい。

時間が巻き戻ったみたいだ。時間を戻れたら、大切な人たちを救えるだろうか。

みんなと笑い合える未来は来るだろうか、そんなことできるはずもないのに考えてしまう。

 

「夜去、忘れないで私たちはいつも一緒にいる、他のみんなだっている。あなたは一人じゃない。自分を大切にして、そしてみんなを大切にしてね」

はい、と返事をして目を開けると三人で繋いでいた手のひとつはなく、もう一つの手は冷たい。

お疲れ様でした、ゆっくり休んでください、どうか天国で皆さんとお幸せにそう心で思った。

咲夜姉さんをお布団に運んでそっと寝かせた。

 

 

それから、僕は義勇さん実弥さん天元さんを呼びに行った。

三人は僕の顔を見て逝ってしまったか、そう言って僕を抱きしめてくれた。

溢れ出しそうな涙を我慢した。

 

「義勇さん、男なら男に生まれたなら涙は流すなですよね」

義勇さんには男なら涙を見せるな、どんな苦しみにも耐えろとよく言われた。

その言葉は義勇さんも、亡き親友の錆兎さんによく言われたらしい。

 

「今日だけはいいんだ、俺が許す」

そう言って頭を撫でてくれた、実弥さんと天元さんは黙って僕の手を握ってくれていた。



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僕の選んだ道

翌日、咲夜姉さんのお葬式が行われ親しかった人達が来てくれた。

その日は、カナヲさんとアオイさんが作ってくれた夜ご飯をみんなで食べた。

これほど賑やかなのは久しぶりだ。僕はそれが嬉しくて気付けば笑っていた。

みんなも僕の笑った顔を見て安心したようだった。

 

「夜去ちょっと」

カナヲさんが呼んでいる、カナヲさんとアオイさんはよく僕の面倒を見てくれた。

しのぶさんと咲夜姉さん、カナエさんと輝夜姉さんが仲が良かったからだ。

二人は僕のことを弟のように思ってくれいる、僕もまた姉のように思っている。

 

「もしよかったら、蝶屋敷で一緒に暮らさない?」

カナヲさんとアオイさんは、僕が一人になったら呼ぼうと考えてくれていたらしい。

嬉しかった、この屋敷で一人でいることを考えるととても寂しい、でも僕は断ることにした。

 

「ありがとうございます。でもこの時屋敷を守らないと、姉さん達との思い出の場所だから」

 

「うん、夜去はそう言うと思った、でもアオイときよとすみとなほと毎日来るからご飯はみんなで食べよ」

僕はとてもその言葉が嬉しくて、笑みがこぼれた。

かわいいと言って頭を撫でられてすごく恥ずかしい、すぐにでも顔を隠したい。

カナヲさんとアオイさんはまた明日来るねと言ってその日は蝶屋敷に帰った。

 

その夜、義勇さん達から姉さん達が使っていた日輪刀と羽織を渡された。

鬼殺隊員はそれぞれが自分の日輪刀を持っている。でも姉さん達だけは違った。

輝夜姉さんは先代から受け継いだと言っていたし、咲夜姉さんは輝夜姉さんから受け継いでいた。

それと二人は刀を二つ持って任務に行っていた、だから一度聞いたことがある、なんでふたつ刀を持っているのと。

二人は言っていた、この日輪刀は大切な人を守るために抜くんだと。

僕はその日輪刀をぎゅっと抱きしめてその日は寝た。

 

 

目が覚めると和室に立っていて、ここはすぐに現実でないとわかった。

真ん中の机の上に木箱が置かれている以外に何もなく、木箱を開けると時の書と書かれた書物が入っていた。

僕はその書物を呼んで姉さん達が痣が出ていないのに衰弱した理由、日輪刀を二本持っていた理由、そして僕を継子にしてくれなかった理由がわかった。

 

「姉さん達は、僕に時の呼吸を使わさせないようにしていたんだね」

これを使ったらみんなを助けれるかもしれない、でも姉さんたちは教えなかった。僕に生きてほしいから。

その書物を読み終えると目が覚めてしまった。みんなは寝ていた、まだ日も登っていない。

 

履物を履き、姉たちの着ていた羽織と日輪刀を持ち、二人の姉が好きだった庭に植えられているヤドリギの木の下にきた。

姉さんたちの羽織は晴れた日の青空を連想させる。

花に花言葉があるように、木にも木言葉があり、ヤドリギの言葉は困難に打ち勝つだ。

 

「姉さんたちは僕には時の呼吸の才能がないと言ってたけど嘘だったんだね」

僕も昔は稽古をつけてもらっていた、でもある日いきなり言われた。才能がない時の呼吸を使うのは諦めてと。

僕がどれほど絶望したことか、みんなから与えてもらってばかりで僕は何も返せない、そう思ったから。

その日、初めて輝夜姉さんから本物の日輪刀を持ってみると言ってもらい持たせてもらった、するとその日輪刀の刃の部分は透明になり柄の部分しか見えなくなった。

それを見た二人から才能がないと言われたし、次の日から稽古していても関心すら示されなくなった。

でもそれは二人の姉の優しさで、僕には時の呼吸の才能があったんだ。

 

「みんなを助けたい、僕が戻ったところで助けられないかもしれない。でも過去に戻って未来を変える、みんなを助ける努力をしたいです」

 

「僕は悪いです、二人の願いを叶えさせなくするんだから」

 

姉さんたちが望んでいたように長生きや普通に生きていくことはできないかもしれない、でも幸せは長さでは決まらない誰といるか、誰と何をするかだと思う。

「夜去、夢はないの?夢を持つことは大事なことよ」

とよく言われた。僕は夢というのがあまりわからなかった、だから姉さんたちにはないのと聞くと二人は夢は持たないと言っていた。

 

今僕には夢ができたんだ。

姉さんたちが普通の夢を持つことができて、寿命のことなど誰も気にしなくてよくて、鬼殺隊のみんなが大切な人と笑い合っている未来で僕も一日一日を生きるという。

伝えたいことは全部伝えることができた。二人には届いていると思う、だっていつも近くにいると言ったから。

 

「夜去、一度決めたらどんなことがあっても諦めないで、途中で逃げ出したり、後ろを向くこと中途半端なことは許さないわよ」

 

「大丈夫あなたならみんなを助けられる、だって私たちの弟、明月夜去だもの」

 

「頑張って」

前のように姿は見えなかったけど、でも確かに二人はそこにいた。そして二人に背中を押された、けっして大きくない、細い手で。

この手で沢山の鬼と戦い、多くの人を助け、僕の心まで救ったんだ。改めて姉さんたちは偉大だと思った。

今、姉さんたちはどんな気持ちで送り出しているのか考えると胸が痛い。だから決めた、どんなことがあってもここに、戻ってこようと。

 

「行ってきます」

 

日は昇り始めて、戻るとみんな起きて朝食の準備をしていたので僕も手伝った。

食べている時に、多分この事を知っているであろう義勇さん実弥さん天元さんに後でお話しがありますと伝えた。

三人は今じゃダメなのかと言っていたが、炭治郎さんたちは多分このことを知らない。だから心配をかけさせたくないから、後でお願いしますと言った。

炭治郎さんたちは少し戸惑っていたと思う。

 

 

「どうしたんだ」

四人になり沈黙が続いている中、最初に声を出したのは天元さんだ。

 

「僕には時の呼吸・一の型 遡時というのが使えて時間を戻ることができるんですよね?」

姉さんたちでさえ使えなかった型がなんで僕に使えるかはわからない。それが使えたのは初代、時の呼吸の使い手だけみたいだ。

三人は度肝を抜かれたようだった。

僕はあの書物に書いてあることが事実であるということを改めて確信した。

姉さん達は僕にあの書物を見せないために、現実世界の書物を燃やしたらしい。

でもその書は写しで、本物は日輪刀の中にあったみたいだ。

 

「使えたとしてどうする」

実弥さんが低い声で聞いてきた。

 

「僕はみんなを助けれるなら助けたい。だから戻りたいです」

みんなを助けるなんて無理なことだと思う、戻れる時間も八年と書いてあった。

それより前に亡くなった人たちは助けられない、でも助けられる命は確かにあるはずだ。

 

「夜去、お前は時の呼吸が寿命を削って使う呼吸だということを知っているのか?その型を使ったら鬼の首は切れなくなるなるんだぞ。戻ったところで何ができる」

義勇さんから、いつにもなく流暢に言葉が発せられた。

その型を使って戻った時点で筋力が低下して鬼の首を切るほどの力はなくなる、でも鬼の首が切れなくとも勇敢に戦っていた人を僕は知っている。

僕も姉さん達のように寿命を削って時の呼吸を使えば、鬼の首は切れなくともみんなを守ることができるかもしれない。

 

「それでも僕は行きたい。痣のことなんて誰も気にしなくてよくて、大切な人と鬼のいない平和な世界で笑って生きていてほしい」

義勇さん実弥さん炭治郎さんは痣のせいで夢を持つことを諦めている。天元さんは自分が戦えなかったことを悔いている。

大切な人を失いそれでも懸命に生きている人だってたくさんいる。

大切な人と未来を生きてほしい、今日が終わって明日が来てそんな日々を送ってもらいたい。

 

しばらく沈黙が続いた、そして部屋の外で話を聞いていた炭治郎さん達が飛び込んできた。

その目には、涙が浮かんでいて何も言わずに僕を抱きしめた。すごく暖かくて太陽のような人だ。

そんな人が家族を殺されて、自分も寿命のせいで大切な人をおいていかないといけない、そんなことあっていいわけないじゃないか。

 

「夜去は明月たちの弟だ、あいつらと同じように俺たちがどれほど止めても自分の決めた道は進み続けるだろ」

「行け、俺は止めない。派手に送り出してやる」

天元さんはいつもそうだ、僕の背中を真っ先に押してくれる。

 

「そうだな、あの二人には止めて欲しいと頼まれた。でもお前たちが一番わかっているだろ、夜去を止められないことなんて」

「男に生まれたなら、前だけを向いて進むんだ、そしてどんな苦しみにも耐えろ」

また言われた、でもこの言葉が僕に勇気をくれる

 

「行くのは許す。でも俺たちと約束しろ、必ず戻ってくると」

この約束は絶対に守らなくてはならないと思った。そして指切りを実弥さんとした。

それから時の呼吸は、上弦の鬼以外には使わないことを約束した。

 

まだこの事を伝えないといけない人がいるんじゃないと炭治郎さんに言われた。

僕のことを一番心配してくれている人で、姉のような人だ。

絶対すごく反対されると思う、でも精一杯の気持ちを伝えよう。

みんなに背中を押されて、僕は蝶屋敷に走った。

 

────

「大きくなったな、夜去は」

 

「そうだな宇髄、初めて会った時は、喋らないし笑わなかった、ずっと明月たちの後ろに隠れていた。」

「大きくもなったし、強くなったよあいつは」

 

「宇髄に不死川、夜去はあまり大きくないと思うが」

 

「富岡さん、身長の話じゃないと思いますけど」

 

「じゃあ、なんのことだ炭治郎」

炭治郎、善逸はもちろんのこと、伊之助までもが呆れてしまった。



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花蝶花夜

蝶屋敷には来るのは久しぶりだ。

いつもなら普通に呼ぶことできた、でも今日はそれがなかなかできない。

蝶屋敷に来てしばらく玄関の前にいると、中からアオイさんが洗濯物を持って出てきた。

 

「夜去じゃない、どうしたの?」

 

「ちょっとカナヲさんとアオイさんにお話があって」

 

「洗濯物を干してからでいい?」

僕も手伝い二人で洗濯物を干した。そのおかげか、少しだけ落ち着くことができた。

その間は他愛もない会話をした、蝶屋敷はとても落ち着く場所だ。

 

二人でカナヲさんの部屋に行くと、カナヲさんは驚いていた。

 

「どうしたの夜去」

 

「私とカナヲにお話があるんだって」

それから僕は時の呼吸を使って過去に戻れること、そして戻ってみんなを助けたいということを伝えた。

話を聞いた時、二人はとても驚いていた、でも何も聞き返さずに黙って最後まで聞いてくれていた。

時の呼吸が自分の寿命を使って使う呼吸だとはなかなか言えなかった。でもそれは僕の口から伝えないといけない。

もしそれで2人が行くことを許したら、二人は死ぬほど後悔することになると思うから。そんなことは絶対あってはならない。

だから僕は、小さな声で言った。

過去に戻っても鬼の首を切れなくなること、そして時の呼吸は寿命を使って使う呼吸だということを。

それを聞いた途端、二人の顔が変わった。

 

「絶対に行かせない、許せるわけない」

カナヲさんのこんなに大きな声は初めて聞いた。

 

「カナヲの言う通り、私も絶対行くことを許さないわ」

アオイさんにこれほど強く言われたことは今までない。

 

そのあと何度も行かせてほしいとお願いした、平和な世界でみんなに笑っていてほしいと伝えた。

カナヲさんやアオイさんには、カナエさんとしのぶさん、きよちゃん、すみちゃん、なほちゃん、蝶屋敷のみんなで笑っていてほしい。

二人はすごく悩んでいた、でも言われたのは行かせないという言葉だった。

二人は昼食を作るからと言って立ち上がったので、僕も帰ろうとしていたら、ご飯は食べて行ってと言ってもらったのでありがたく頂くことにした。食べている間は何も話すことができなかった。

食べ終わり片付けを手伝い、帰ろうとしていると二人に夕方行くからねと言われた。

 

────

「しのぶ姉さん、カナエ姉さん、私間違ってないですよね」

私は姉さんたちみたいに導くことができているだろうか。姉という存在になれているのだろうか。

私の選択が正しいかなんてわからない。でもひとつだけわかっていることがある、それは夜去に後悔してほしくないということ。

 

「姉というのは難しいですね、カナエ姉さん、しのぶ姉さん」

────

 

時屋敷に戻り二人からは、行かせないと言われたことを伝えた。みんなはこうなることがわかっていたみたいだ。

炭治郎さんから、カナヲさんと、アオイさんが僕のことをいつも心配していて、二人がすぐに僕の話をすることを聞いた。

二人は大切だから行かせたくないし、大切だから行かせたい、だからその間で迷っているんだと思うと言われたけど、その意味があまりわからなかった。

みんなは僕が戻ると同時に帰っていった、少しは一人になる時間も大事だと言われた。

 

 

夕方カナヲさんとアオイさんが来。、きよちゃんと、すみちゃんと、なほちゃんはいない。

カナヲさんは僕の持っている日輪刀を見ていた。今持っている日輪刀は透明になっていて柄の部分しか見えない。

 

「輝夜さんと、咲夜さんと同じだね。でも夜去のは何も見えない」

姉さん達は、刃の部分の半分が透明だったらしい。

 

「ねえ夜去、お昼に言ってたじゃない。みんなに笑顔でいてほしいって、そこに夜去はいるの?」

カナヲさんの質問に僕はすぐに答えることができなかった、でもみんなと約束したことを話した。

必ず戻ってくること、そしてもう一つ約束していたこと。それは戻ってきて、今度はみんなでご飯を食べること。

 

「はい、みんなと約束したんです。必ず戻ってくること、それとみんなでご飯を食べることを」

僕が笑顔で伝えると、カナヲさんと、アオイさんにも笑顔が戻った。

この二人には笑顔が似合う、だから笑っていてほしい、この先何十年も大切な人たちと。

あの後ずっと考えていたらしい。本当は行かせたくない、でも後悔をしてもらいたくないだからすごく悩んだと言っていた。

二人が僕のことをとても大切にしてくれていることがわかった、僕はそれがとても嬉しい。

姉さん達の言う通り、僕は一人じゃない、たくさんの人に支えてもらっている。

 

カナヲさんと、アオイさんとも本当に危ない時以外は、時の呼吸を使わないことを約束した。

時の日輪刀で使えるのは時の呼吸だけ、だから姉さん達は二本の日輪刀を持っていた、上弦や下弦の鬼以外の時は、寿命を消費しないためにしていたんだ

僕ももう一本造ってもらわないといけない、日輪刀ができるまでにどのくらいかかるんだろうと考えているとカナヲさんが僕に日輪刀をくれた。

 

「これ、カナヲさんのじゃ…」

 

「うん、そう。私たちは何もできない、祈ることしかできない」

「だからせめて、私たち(日輪刀)を連れてって」

何もできないことなんてない、カナヲさんとアオイさんが背中を押してくれる。それだけで勇気が湧いてくるんだ。

 

「カナヲさんと、アオイさんまで一緒にいてくれたら僕、どんな困難にも立ち向かえる気がする」

カナヲさんの目を見ると片目は見えていない、渡された日輪刀の柄の部分は血で黒くなっていた。それは戦いが過酷だった証でもある。

それを見て、僕は急に未来でまたこの人たちと会うことができないのではないだろうかと考えてしまった。

足がほんの少しだけ震え始めた、二人にはバレないようにした。

でも二人は震えに気付いて、僕を抱きしめながら大丈夫、大丈夫と言ってくれた。二人がそうしてくれたおかげで足の震えはいつのまにか止まっていた。

 

「夜去、今日は何が食べたい?」

カナヲさんに聞かれた。僕はおにぎりが好きだからおにぎりと、お味噌汁と、お魚が食べたいと言った。

 

「私の、握ったのでいいの?」

 

「カナヲさんのは石みたいだから、アオイさんのがいいなー。アオイさんのは柔らかくてすごく美味しいしさ」

僕はカナヲさんに拳骨をされた。いやこれが本当に痛かった、身長が少し縮んでしまったと思う。

三人で笑って、三人でご飯を食べた。昔、二人の姉と暮らしていた時のようだった。

カナヲさんの作る料理も本当は大好きで、すごく美味しい。でも少し弄ると反応が面白いからたまに言ってしまう。

でも僕はどんなものでもいいんだ、みんなとご飯を食べることができたなら、例えそれが石でも。

 

 

二人が泊まっていくと言ってくれたけど、蝶屋敷にいるきよちゃん達が心配だったから今日は大丈夫ですと言った。

アオイさんだけ蝶屋敷に戻り、カナヲさんは泊まることになった。

縁側に出て、お茶を飲むことにした。今日は満月でお月様がとても綺麗。

 

「夜去、今日はお月様が綺麗だね」

この言葉をよく言っていた人を知っている。

僕がしのぶさんに初めて会った時カナエさんはまだ生きていた。

あまり笑うことが多い方ではなかった、どちらかというと怒ったような表情の方が多かった。けどたまに見せる笑顔がとても好きだった。

しのぶさんはたくさんお話を聞かせてくれた。植物のこと、外国のこと、食べ物のこと、他にもたくさん。

たまに薬の話を聞かされることがあった、その話が始まると逃げていたな…すぐ捕まってしまいお話を聞かされた、大人気ない。

カナエさんが亡くなった日から、しのぶさんは変わってしまった。

いつも僕の好きだった笑顔ではない笑顔を見せるようになった。

カナエさんと、しのぶさんが亡くなった理由を知りたい。知ることで助けることができるかもしれない、けどカナヲさんに辛い記憶を思い出させてしまうと思い聞けずにいた。

 

「カナエ姉さんもしのぶ姉さんも童磨という鬼に殺された」

僕の思っていることに気付いたのか、自分から話してくれた。

カナエさんが上弦の弐の童磨と朝まで戦い続けたこと、しのぶさんが自分を犠牲にして、童磨を倒したことを聞いた。

その鬼の血気術のことも詳しく教えてくれた。氷を使うということ、吸い込んでしまうと肺が凍るということ。

二人とも肺が凍っても何度も立ち上がり戦ったらしい、そんな2人の勇姿を僕は時間が経つのも忘れて聞いていた。

 

────

「みんなを助けたいからといって自分一人では絶対に戦わないで」

「仲間を信じて、仲間を大切にして」

これは姉さん達に教わったとても大事なことだから。今度は私が夜去に伝える番だ。

仲間を大切にしたら助けに来てくれた、みんながいなければ倒せなかった。だから、夜去にも自分1人では戦わないでほしい。

はい、という大きな返事を聞いて私は心の底から安心した。

 

 




読んでくれている方々ありがとうございます。

友達に読解力や文章力をつけるなら小説を書いてみるといいと言われたので、自分の好きな鬼滅の刃で書くことにしました

他の人たちの小説も読ませてもらって、少しずつ勉強しています。
改めて小説を書いている人たちはすごいと思いました。

まだまだ全然下手ですが、頑張るのでよろしくお願いします!


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いってきます

「義勇さん、実弥さん、天元さん、カナヲさんとアオイさんも行っていいと言ってくれました」

 

「わかった、でもいくのは一週間後だ。」

 

「俺たちが夜去を鍛える」

夜去は、ずっと稽古を続けているだろ。だからある程度の基礎はある。この六日間で全集中の呼吸を所得してもらう」

三人に稽古をしてもらうのは久しぶりだ。全集中の呼吸を所得するには骨身を削りながら修練を重ねる他ない。

 

 

一日目は天元さんとの体の動かし方、走り込みを徹底的に行なった。

天元さんは僕だけを走らすのではなく一緒に走ってくれた、とても優しい人だと思う。

日の出とはともに稽古を始めて、終わったのは日が沈んだ頃だった。ちょうど十二時間ぐらい稽古した。

その日、ぼくは稽古が終わるとお風呂で寝てしまっていた。

目が覚めた時にはご飯が並べられていた、僕を運んでくれたんだ。

天元さんと、天元さんの奥さん達と夜ご飯を食べた。

 

「夜去は腕も細いし、筋力もあまりない、だからたくさん食え。そして鍛えろ」

体も細いし、あまり背も高くない、天元さんみたいに大きくなりたいな。みんなが安心して僕に任せれるように大きくなりたい。

その日はたくさんご飯を食べた、生まれて初めてこんなに食べたと思う。

 

 

ニ日目は義勇さんに剣術と呼吸の使い方を教わった。

義勇さんの説明だとわかりにくいと言うことで、炭治郎さんも教えに来てくれた。

午前中は刀の振り方、刀の持ち方、踏み込みなどをもう一度確認した。

そして午後から、二人の日の呼吸と、水の呼吸を見せてもらった。あまりにも凄すぎて、僕は言葉にできなかった。

僕は鬼殺隊の人達が自分に合った呼吸で戦っていることは知っていた。でもその技を自分の目で見たことはなかった。

僕も試したかった、でも試すことができない、寿命を使ってしまうから。

他の呼吸を試してみたけど、全部出来なかった。

稽古が終わって義勇さんには錆兎さんと真菰さんの話を聞いた。八年前に戻ったら二人はまだ生きている、義勇さんの大切な人たちを守りたい。

炭治郎さんには家族と杏寿郎さんの話を聞いた。炭治郎さんの大切な家族は絶対に失わせない、家族全員で平穏に暮らしてほしい。

杏寿郎さんは、炭治郎さんたちの道標になった人だ。自分より力ない人を守るそんな姿がとてもかっこよく、僕も憧れた。大丈夫、杏寿郎さんとも笑って沢山のお話ができる未来にするから。

 

 

三日目は実弥さんと無限に打ち込みをした。

実弥さんとの稽古が一番辛かった。

実弥さんの優しさで、僕を絶対に鬼に殺させないようにしようという思いが伝わってきたから、僕も必死で食らいついた。

 

「夜去、食べるか?」

後ろから言われたが、何を食べるかと言ってくれたかは見なくとも分かってしまう。

実弥さんはよく連れて行ってくれたから。おはぎを食べている間2人でお話をした。

 

「なぁ、昔の俺に伝えてくれ、素直になれって」

玄弥さんと実弥さんは僕をとても可愛がってくれた。僕はそんな2人が好きだ。

二人は大切に思っていたからこそ、すれ違ってしまった。

失わせない絶対に。二人で時に喧嘩しながら、でも支え合って、何気ないことで笑って、生きてもらうんだ。

それが二人から、沢山与えられた僕にできることだから。

 

「わかりました」

「僕、玄弥さんも実弥さんも大好きです」

 

「何、いきなり言ってるんだ。俺の分のおはぎはやらねえぞ」

 

「俺もお前が好きだよ、夜去」

なんて言ったんだろう、声が小さくて聞こえなかった。

 

「実弥さん、何て言ったんですか???」

 

「何もねえよぉ、稽古だ稽古」

 

 

四日目、僕は全集中・常中を所得することができた。

あとは模擬戦を行なった。何度も負けた、でも最後に一本取ることができた、三人の優しさで負けてくれたことは分かっていた。

僕に自信をつけようとしてくれたんだと思う、手加減してたとはいえ三人に勝利することができたということは少しだけ僕の自信になった。

何より三人が僕を認めてくれたこと、それが心の底から嬉しくて嬉し涙が溢れた。前に泣かないと決めたけど嬉し涙はいいだろう。

 

「夜去、お前はよく頑張ったよ。俺たちの誇りだ」

 

「これで俺らとの稽古は終わりだ」

あと三日残っているが後の三日は誰と稽古するんだろう。

 

 

次に稽古をするのはカナヲさんと言われた。

 

「カナヲさん、次はカナヲさんに稽古をつけてもらえと言われました」

 

「うん、私が稽古をつけるよ」

「夜去にはね、しのぶ姉さんの突きを覚えてほしいの」

それは僕がしのぶさんのように鬼の首が切れなくなるから。

しのぶさんは本当にすごいと思う。首が切れないと諦めるのではなく自分の戦う方法を見つけた。それは毒を作ることであったり、切るではなく、突くということだったりと。

 

まず模擬戦をすることになった。僕は少しカナヲさんの相手になれると思っていた。

でも違った、カナヲさんに当てることすらできなかった。

 

「夜去、全然ダメ。それでみんなを守れるの?生きて戻れるの?笑わせないで」

「私と約束したでしょ、絶対に戻ってくるって」

「相手の顔を見て戦って、どんなに追い詰められている状況でも、いつか反撃できる時は必ずくるから」

もっと強くならないといけない、心配させないように。

そのあとはただ、ガムシャラに、カナヲさんの顔を見ながら戦った。

さっきまでは一方的に負けていたけど、少し余裕を持ち、食らいつくことができた気がした。

お昼からしのぶさんの突きを習う予定だったのが、僕があまりにも弱すぎたから一日中、模擬戦やら、戦い方などを教えてもらった。

 

「カナヲさん、ごめんなさい」

僕のせいで、明日一日でカナヲさんは突きを教えないといけなくなってしまった。

 

「何言ってるの、今悪いところに気付けたことはいいこと」

竹刀で頭を優しく叩かれた。

 

「明日、がんばろ?ね」

 

翌日、僕はカナヲさんが道場に来る前から、昨日、カナヲさんから習ったことを復習していた。

カナヲさんが来てしのぶさんの突きを見せてもらった。目では追えないぐらい速かった、これ一日でできるようになるのかな。

 

「しのぶ姉さんのはもっと速かった、夜去にはこれぐらいまではできるようになってほしい」

突き技のコツは、体に力をあまり入れないことだった。すると突き技に才能があったのか午前中のうちにはカナヲさんと同じぐらいのスピードでできるようになった。これも全集中・常中のおかげだと思う。

 

「あともう少ししたら、今日はもう終わりにしよ。夜去、朝早くからしてたでしょ、私知ってるよ」

 

────

「僕、もっとカナヲさんと稽古したいです」

夜去がそう言ってくれて、私は凄く嬉しかった。

しのぶ姉さんもあの時、こんな気持ちだったのかな。

 

「今日はもうダメ」

この一週間、夜さりはすごく頑張っていると思う。朝、日が登る前から、夕方、日が沈むまで。

休んでいるのなんて、ご飯を食べている時と寝ている時だけではないだろうか。

咲夜さんと輝夜さんに稽古をつけてもらえなくなった後も、夜去は毎日、柱の人たちや私のところに来て稽古をしてくださいと言っていた。

柱の人たちでさえ稽古をつけなくなった後も、一人で竹刀を振っていた。今思えば、教えるのが嫌になったのではなく、輝夜さんと、咲夜さんが教えないでくださいとお願いしたんだと思う。

その頑張りが間違いなく今の夜去の力になっている。

輝夜さん、咲夜さん、あなた達の弟は本当に立派です、見守ってあげてください。

 

「カナヲさんの呼吸を見せてください。お願いします」

夜去が私の呼吸を見たいと言った、時の呼吸以外使えないのに何故だろうと思いながらも、私は全部見せることにした。

あまりにも真剣な顔で見ていたから私は少し恥ずかしかった。

 

「よく頑張ったね」

私との稽古は今日で終わりだ。

 

────

一週間稽古の最終日、連れてこられた場所は、よく僕の親友と来た場所だった。そしてある約束をした場所だ。

 

「夜去」

この優しい声を僕はよく知っている。一緒によく稽古をしていたから。

一人で稽古していた僕を一緒に稽古しようと外に連れ出してくれた、君は日輪刀の色が変わらない自分を恥じていたのかもしれない。

でもずっと一緒にいた僕が言うんだ間違いない、恥じることはない。君は絶対に諦めなかった、努力することをやめなかった。

僕はそんな君に憧れた。ずっと君は僕の太陽であり道標なんだ。

 

「千寿郎…」

 

「最後の稽古は僕と一緒にしよう」

懐かしい、咲夜姉さんが元気な時はいつも一緒に稽古していた。

 

「夜去、約束覚えてるよね」

 

「杏寿郎さんのように、弱き人、助けを求めている人を助けれるぐらい強くなろう」

「兄のように、弱き人、助けを求めている人を助けれるぐらい強くなろう」

忘れるはずない。二人でした大切な約束だから。

──

千寿郎と稽古をしているところに杏寿郎さんが来た。初めて会った時は怖くて姉さん達の後ろに隠れてしまい何も話すことができなかった。

でも、その日話してみるととても暖かい人だと思った。その日から僕たち二人の稽古をたまに見に来てくれた。

杏寿郎さんは僕のことも本当の弟のように接してくれた。三人でよく焼き芋を食べたのを覚えている。

 

「千寿郎も夜去も強くなる。でも手に入れた力で人を傷つけてはならない。その力は弱き人、大切な仲間のために使わないといけない」

「約束してくれるか?」

 

「はい!」

 

「わっしょい!わっしょい!わっしょい!」

杏寿郎さんはとてもかっこいい人だった。僕もあなたみたいになりたいと思った。

また次会った時も、また同じように稽古をつけてもらおうと思っていた。でも杏寿郎さんに稽古してもらうことはできなくなってしまった。

杏寿郎さんが亡くなったという、知らせを姉さんからきいて涙が止まらなかった。

でも列車に乗っていた人、炭治郎さん、伊之助さん、善逸さん、禰豆子さんを守り通したことを聞いて、僕は涙を拭き、姉さんに行かないといけないところがあると言い竹刀を持って走り出していた。

その場所では竹刀を持った千寿郎が稽古をしていた。

 

「千寿郎」

 

「夜去、僕、僕」

 

「千寿郎、二人で強くなろう」

「約束しよう、杏寿郎さんのように弱き人、助けを求めている人を助けれるぐらい強くなるって」

 

「うん、約束するよ。兄のように強くなる」

千寿郎は泣いていた。だから僕はずっと背中をさすっていた。

 

「千寿郎と夜去が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない」

 

「俺が死んで泣くのは今日だけにしろ

俺は沢山の人を守れたんだ悔いはない」

 

「心を燃やせ、

歯を食いしばって前を向け

後ろを向きたくなっても俺が背中を押すだから、安心して前を見て進み続けろ」

 

「夜去、千寿郎を頼む。千寿郎、夜去を頼む

そして兄は弟を信じている。自分が正しいと思う道を進んでくれ」

「二人は俺の自慢の継子だ」

杏寿郎さんは最後に僕たちに伝えにきてくれた気がした。

二人でたくさん泣いた、明日から泣かないためにも。

──

「時間を戻れるって本当なの」

 

「戻れる」

 

「夜去は大丈夫なの?」

過去に戻るという行為は未来を変えることができるかもしれない、そんなこと何の代償もなくできるはずがない。

 

「鬼の首は切れなくなるし、寿命を使わないと時の呼吸は使えない」

 

「そうなんだ…でも僕は止めないよ」

やはり何か代償はあると思っていたが寿命だったとは。

夜去は一度決めたことは絶対やめない。それは親友の僕が一番分かっている。

だから絶対に止めない。いってらっしゃいと言って送り出す、それが親友の僕にできることだと思う。

本当は夜去に寿命を使ってほしくない、ずっと側にいてほしい。

僕の大切な大切な親友だから。

でもここで僕が止めたら夜去は苦しんでしまう。

 

「ありがとう、千寿郎。帰ってきたら、また稽古しようよ。焼き芋も食べよ、三人で」

できたらどれほどいいだろうか。夜去の見ている未来には兄もいる。

それが嬉しい。

 

「僕も夜去のことを信じる、約束ね」

兄が僕を信じてくれたように、僕も夜去を信じる。

指切りをしその後は2人で昔していた稽古を一通りして、焼き芋を食べた。

 

────

二人の姉の羽織を着て、二人の姉から継承した日輪刀を手に持ち、もう1人の姉からもらった日輪刀を腰に差した。

 

「夜去、必ず帰ってきて。ずっと待ってるから」

カナヲさん絶対戻るから、守らないといけない約束が沢山ある。

 

「夜去、みんなでご飯食べれるように待ってるから」

アオイさんの料理をみんなで食べれるなんて、想像したら幸せが溢れてる。

 

「自分を大事にしろよ」

天元さん、分かってます。みんなに助けられた、僕だけの命じゃない。

 

「どんな苦しみにも耐えろ、夜去。男に生まれたなら」

義勇さんに言われると勇気が湧いてくる、どんな苦しみにも耐えてみせる。

 

「死ぬんじゃねぇぞ」

実弥さん、大丈夫です。稽古をしてくれた、もう姉さん達の後ろに隠れていた時の僕じゃない。

 

「頑張れ、頑張れ、夜去ならできる」

炭治郎さんに言ってもらったらできる気しかしないです。

 

「夜去はおれぇだじのほごりぃだよぉ」

善逸さん、泣かないでください。みんなの誇り、その言葉がが本当に嬉しい。

 

「夜去は俺の子分だ。子分の帰りを親分は待ってるぞ」

伊之助さんの子分なら僕、嬉しいや。親分、待っててください。

 

「どんな時も前を向いてね夜去」

はい禰豆子さん。絶対に後ろは向かない、前だけを向きます。

 

「夜去、千寿郎は僕の親友だ。だから帰ってきてね、またたくさんお話しよう」

輝利哉の家族も僕が守る、今度は家族の時間を過ごせるように。

 

「夜去、心を燃やせ。戻ってくるの待ってるよ」

その言葉は僕たちに勇気をくれる言葉、心の灯火は絶対に消えない。

 

「夜去、いってらっしゃい」

いつものように時屋敷から外に行く時のように二人の姉が背中を押してくれた。

 

「輝夜姉さん咲夜姉さん、みなさん。行ってきます」

 

「時の呼吸・一ノ型 遡時」

 

「夜去、これを」

カナヲさんが何かを背中にかけてくれた。それはカナヲさんの羽織だった。

「ありがとうございます、カナヲ姉さん」

 

────

白い光に包まれた。私は手を伸ばしたがそこに夜去の姿はなかった。

ありがとうございます、カナヲ姉さんと聞こえた、渡すことがができたんだ。

そして私のことを姉さんと呼んでくれた、それが心の底から嬉しかった。

遅いよ、また夜去に姉さんと呼んでほしい。

 

「夜去をどうか、どうか守ってください。お願いします、お願いします」

私は何度も何度も天に、姉さんたちに祈った。



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星飛ぶ

過去編、始められました。
これからもよろしくお願いします。


「鱗滝さーん、錆兎ー、義勇ー、朝ごはんできたよ」

 

「おはよう真菰、朝ごはんを作ったり洗濯などは儂がするから」

 

「私がしたいいんです、させてください」

鱗滝さんは、孤児だった私と錆兎を引き取ってくれた、私たち二人はとても感謝している。

だから、ご飯を作ったり、洗濯物を干したりなどのことはさせて欲しい。

義勇もお姉さんを鬼に殺されて一人だったところを鱗滝さんに助けられた。だから私たちと同じように感謝している、

私たちは鱗滝さんが大好きだ。

そして、家族を奪った鬼が憎い、鱗滝さんに辛い思いをさせる鬼が憎い。

 

「明日から、最終選別だ。今日の稽古は少しにしよう」

明日から、私たちは鬼殺隊員になるために試験を受けに行く。

怖くないと言ったら嘘だ、鬼は怖い。でもそれ以上に許せないという気持ちが大きいだから私は鬼殺隊に入ることを選んだ。

 

「鱗滝さん、今日は何をするんですか?」

 

「今日の稽古は儂と模擬戦をしてもらう。それで明日の最終選別に行ってもよいか判断する。」

「まずは錆兎からだ、二人は見学だ」

鱗滝さんは呼吸を使ってもいいと言った。錆兎は私たち三人の中で一番強い。

 

────

「鱗滝さん、俺はあなたに感謝している。だからあなたに勝って明日行かなくてはならない」

「水の呼吸・弍ノ型 水車」

俺の技を鱗滝さんは素早く避けその勢いで、手を叩かれてしまった。あまりの痛さに声をあげてしまいそうだ。

俺は負けるわけにはいかない、明日絶対に行くために。義勇や真菰は俺より水の呼吸の才能がある、だから絶対に合格をもらって明日行ってしまう。

俺はあいつらより早く生まれた、だから守らなくてはならない。大切な二人をなんとしてでも。

 

「もう終わりか?」

 

「一回負けたからと、諦めるわけには行かない。俺は絶対に明日行くんだ」

「水の呼吸・壱ノ型 水面斬り」

今までで一番、威力を出せたと思った。でも鱗滝さんは正面から受けたきった。そして俺の首に竹刀をそっと当てた。

 

「俺は、弱いままじゃないか。沢山の事を教えてもらったのに」

たくさんのことを教えてもらった。稽古もたくさんつけてくれた。鱗滝さんは俺たちのために時間をたくさん使ってくれた。

俺は、教えられたことを自分のものにできていないと感じた。

 

「錆兎は少し焦っているところがある。落ち着いたらお前はなんでもできるやつなんだ」

「何も焦る必要はない、人生は長いんだ。ゆっくりゆっくりで良い、地に足をつけてゆっくり進め」

「錆兎の努力を儂は知っている。努力できる者がこの世で一番強い。だから自分に自信を持て」

 

「義勇や真菰は俺より水の呼吸の才能がある、だから先に鬼殺隊に二人が入ってしまえば俺は二人を守ることができない」

「だから俺は焦っていました」

もう大切な人を失わずにいたい。一緒にいたい。

 

「錆兎、お前には二人を守ることができる」

 

「でも、俺は鱗滝さんに勝てなかった。だから明日行くことができない」

 

「誰が勝たないと行かせないと言った」

俺は一瞬わからなかった。でもその言葉を理解した瞬間、声をだして喜ぼうとした。

でも、それより先に二人が俺に飛びついてきた。

 

「錆兎、すごいよ一発で合格するなんて。私も二人を守るよ」

 

「錆兎なら合格することはわかっていた。俺も二人を守る」

俺だけがお前たちを守る必要はなかったんだな。みんながそれぞれを守る、それが一番いいに決まってる。

ずっと気付くことができなかった、俺は二人を抱きしめた。四人でいつまでも、いられるように強くなろう。

 

「鱗滝さん、俺わかった気がします」

 

「やっと気付くことができたか」

鱗滝さんは俺の頭を撫でてくれた。この手が俺は好きだ、大きくて、硬い手だ。でも優しさ、暖かさで溢れている手が。

 

────

「次は義勇だ、きなさい」

 

「はい」

俺は姉さんに助けられた。姉さんは明日祝言をあげる予定だった。相手の人もとても優しかった、弟の俺にもすごく優しくしてくれた。

だから、俺は二人が本当に大好きだった。

姉さんにはたくさん苦労をかけた心の底から二人には幸せになって欲しいと思っていた。だから明日の祝言が待ち遠しかった。

でも、それは叶わなかった。その日生きていたのは俺だけだったから。

 

「水の呼吸・拾ノ型 生生流転」

この型は水の呼吸で最強の技だ。今はまだこの型を錆兎と真菰は使うことができない。

鱗滝さんに止められないと俺は思っていた。でも、鱗滝さんは錆兎の時より簡単に止めた。

そして、足を竹刀で叩かれてしまい、膝をついてしまった。

 

「なぜ、止められたかわからないか?」

「義勇、お前は自分があの時、死ねばよかったと思っているだろう」

そうだ。あの時、俺を置いて二人は逃げていれば幸せになれてたんだ。けど2人は、俺を最後まで守り、逃してくれた。

なぜ、二人は目の前にある幸せを捨ててまで、俺を守ってくれたんだ。

 

「義勇、真菰と錆兎が鬼に襲われているとしよう。二人は戦うことができなかったとして、お前は二人を置いて逃げるか?」

逃げるわけない、二人を置いて逃げれるわけがない。

 

「逃げない、俺は戦う」

 

「それは何故だ?」

そんなのは決まっている、二人がとてもとてもた…

なんでそんなことがわからなかった、俺は大馬鹿者だ。なんで二人の思いに気付けなかった。俺は声をあげて泣いていた。

 

「やっとわかったか。二人はお前のことがとても大切だったんだ」

俺も姉さんたちにも戦う力がなかった。だから二人は全員が助かる道を諦めたんだ。

その時、自分たち二人の命、幸せな未来と、俺の命を天秤にかけた。それでも、二人は俺の命を選んだんだ。

ごめんなさい、ごめんなさい。俺は二人が繋いでくれた命を、俺が死ねばよかったと思ってしまっていた。

 

「二人はお前がこれから、どんな風に生きて、何をなすかとても楽しみに思っていると思うぞ」

「義勇は何をしたい?二人に伝えてやれ、二人も聞きたいはずだ」

何をしたい、俺はそんなこと考えたことがなかった。ただ憎い鬼を殺すことだけを考えていたから。

 

「俺は、錆兎、真菰、鱗滝さんとずっと一緒にいたい。そして、もう誰も幸せな日常を奪われて欲しくない」

俺も姉さん達が守ってくれた、この命でたくさんの人たちを守りたい。だから二人とも俺を見ていてください。

 

「義勇、あなたにならできる」

「義勇君、君にならできるよ」

風とともに聞こえた気がした。懐かしい声だ、二人の優しい。そして幸せそうな声だった

 

「義勇、今度自分が死ねばよかったなどと行っならば、俺がお前を殴る」

もう、そんなこと言わない、言えるはずがない。

 

「義勇、私たちはずっと一緒だよ」

そうだずっと一緒にいよう。二人を守れるぐらい強くなろう。

 

「合格だ。試験に行くことを許す」

三人で喜んだ、それを見て鱗滝さんも微笑んでいた。この笑った顔が俺は好きだ。

 

────

「最後は真菰だ。さあ、きなさい」

 

「はい」

二人とも、合格してしまった。

いつも私は二人に置いて行かれている気がしていた。今日だってそうだ、二人はいつも私の先を行ってしまう。

私は二人に追いつきたくて、並んで歩きたくて努力した。

錆兎は私と義勇は水の呼吸の才能があるというが、そんなことはない

でも私は、錆兎みたいに威力を出せるわけでもない、義勇みたいな才能があるわけでもない。

ただ、水の呼吸が使えるだけ、優れているところなんて一つもない。

 

「水の呼吸・肆ノ型 打ち潮」

わたしが1番得意な技で、淀みない動きで斬撃を繋げる技だ。

でも、鱗滝さんは全部かわした。しかも錆兎と義勇の時みたく攻撃してこない。

やっぱり私は弱いから、攻撃もされないんだ。

 

「真菰は自分の長所をわかっていない。短所ばかりに目をつけている」

私の長所、長所なんてあるはずないどれもみんなと同じか、下だ。

 

「漆ノ型 雫波紋突きをしてみろ」

水の呼吸で最速の突き技だ。私は鱗滝さんに言われるままその技をした。

 

「水の呼吸・漆ノ型 雫波紋突き」

私のその技は鱗滝さんに当たった。でも鱗滝さんは直前でこの技の威力をかき消すように、竹刀で防いでいた。

大丈夫そうだったけど、私はとても不安だった。まさか自分の技が鱗滝さんに当たるとは思わなかったから。

 

「大丈夫ですか???ごめんなさい」

鱗滝さんは笑いながら、大丈夫大丈夫と言って頭を撫でてくれた。

 

「真菰、お前は三人の中で一番速い。それは間違いなくお前の長所だ」

「戦い方は一つじゃない。自分に合った戦い方を探したら良い」

わたしにも優れているところがあったんだ。私の長所速さ、それを活かして戦える方法を見つけよう。

 

「真菰の笑顔、明るさに何度も何度も儂たちは救われた」

私は三人に助けてもらってばかりだと思っていた、私もみんなの助けになれてたんだ。

 

「そうだな、真菰は水面に咲く睡蓮みたいだ。儂の水面はずっと暗かった」

「錆兎と義勇が太陽であり水面を照らしてくれ、真菰が儂に色を与えてくれた」

「お前たちは、儂に感謝しているとよく言うが、儂の方こそお前たちに感謝しているんだ。ありがとう」

私たち三人は、助けられてばかりではなかった。鱗滝さんを助けれていたんだ。

それが私たちは嬉しく、鱗滝さんに抱きついていた。

包み込むように抱きしめてくれる腕が私は好きだ。とても安心する、生きて戻ろう、ここ(狭霧山)へ

 

「全員、行くのを許可する」

「今日は何が食べたい?好きな物を作るぞ」

 

「みんなで作ろうよ」

鱗滝さんがそうしようと言ってくれた。

その日はみんなで料理を作れる、それが私は楽しみで楽しみで仕方なかった。

 

 

今日は義勇と錆兎の好きな、鮭大根を作ることにした。私はみんなと食べることができたならなんでも良いんだ。

 

「錆兎は大根の皮を剥いで切っててよ」

 

「錆兎、大根の皮に身が沢山ついてるじゃないか。勿体ないぞ、儂が教えてやる」

錆兎と鱗滝さんは二人で話しながら、剥いでいた。

 

「俺は何をすれば良いんだ?」

 

「義勇は私と鮭を捌こうか」

わたしがしているのを義勇はずっと見ていた。

 

「やってみる?」

 

「俺はいい、真菰にやらせてあげる。」

あれ、まさか。

 

「怖いの」

 

「怖くなどない。俺は男だからな。錆兎に男なら強くあらねばならないと言われている」

「でも、真菰の方が早く生まれている。だから、譲ってあげるんだ」

そう、二人はよく男ならば男ならばと言って竹刀を振っている。

私はそれがおかしかった。笑うと義勇が笑うなと言って拗ねてしまった。幸せだ、お母さん、お父さん、私は今幸せです。

 

 

その夜は、みんなで星を見た。

鱗滝さんは私たちに、厄除の面をくれた。そして必ず戻ってこい、ここで、この狭霧山でずっと待っていると言った。

流れ星が沢山流れ、私は願った

「錆兎と義勇を守れますように。また四人でご飯を食べて星を見れますように」

みんなは何を願ったんだろう。

 

 

「義勇と真菰を守れますように。また、ここに鱗滝さんの元に三人で戻れますように」

 

 

「錆兎と真菰を守れますように。また四人で鮭大根を食べれますように」

 

 

 

錆兎と義勇と真菰がそれぞれ何を願ったかを聞いていた。三人ともが笑っていた。

 

「錆兎と義勇と真菰がいつまでも三人で笑顔でいられますように」

 



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朝明の風

真菰と錆兎と義勇は一緒に最終選別を受けた設定にしました。

戦闘描写がすごく下手です。これから頑張るのでよろろしくくお願いします。


今、私と義勇と錆兎は鬼殺隊に入るための最終選別を受けに来ている。

人はそんなに沢山はいないだろうと思っていたけど、思ってた以上にいた。

みんなの顔は緊張と恐怖に満ちていた。私も、緊張と不安胸が一杯だった。

 

「錆兎、義勇、すごく緊張するね」

 

「大丈夫、三人でなら乗り越えられる」

 

「そうだな、錆兎」

そんなことを話していた。一人の少年が来た。私たちよりも年齢は少し下だと思う。その子は周りの人達のことを見ていた。

私は何故かはわからないけど、すごくその少年のことが気になった。

 

「ねえねえ、あの子」

 

「俺らよりも年下に見えるな。どうした、気になるのか?」

気にならないと言ったら嘘になる、だって彼は不安そうに誰かを探していた。はぐれてしまったのだろうかと思った。

そして、私たち三人と目があった、彼は心の底から安心したように笑った。私たちは声をかけてみることにした。

 

「こんにちは、君名前はなんていうの?」

 

「明月夜去といいます」

 

「私は真菰、こっちが錆兎、こっちが義勇、よろしくね」

よろしくお願いしますと夜去が大きな声で言ったから、私たちは周りの人にすごく見られた。

夜去は錆兎に声が大きいと言われていた。義勇は喜んでいた、自分に弟分ができたことを

私は何故かはわからないけどこの子を守りたいと思った。私も義勇と同じで嬉しかったのかもしれない、弟分のような存在ができたことが。

 

「ただいまより鬼殺隊、入隊の最終選別を始めます」

合格条件はこの山で一週間生き残るという内容だった。

 

「それではいってらっしゃいませ」

 

 

一日目から鬼にあったが私と義勇は鬼が怖くて戦えなく、全て錆兎が全ての鬼の首を斬ってくれた。夜去も二つある刀の一つを抜いて戦っているが、まだ鬼の首を切れていない。

私はこのままじゃいけないと思った、錆兎に守ってもらってばかりで何もしていない。

 

 

「最近人間を、喰えなかったんだよ。四人も若いのが食えるよ」

「まずはその小さな女からだ」

 

「そんなことはさせない、真菰下がってろ」

「錆兎、大丈夫。私が倒すよ」

こんな鬼になんて負けちゃいられない。守るって決めたじゃない。

私の長所をいかして、戦う。

 

「水の呼吸・漆ノ型 雫波紋突き」

鬼の首はきれなかった。でも鬼は痛がっていた。

 

「いてぇ、いてぇな、女許さねえ。絶対殺して喰ってやる」

 

「水の呼吸・壱ノ型 水面斬り」

鬼の首を切ることができた。錆兎が褒めてくれた。義勇はすごい、すごいと言ってくれた。

1度切ることができたら、私も錆兎のように次々と倒すことができた。

毎日こんなに集中して過ごしたことはなかった、だから時間の流れが早かった、気付けば四日が過ぎていた。

まだ、義勇と夜去は鬼の首を切れていない。義勇は落ち込んでいたので、私と錆兎は励ました。

何もなく順調に過ごせていた。

 

 

五日目に問題が起きた。助けてという声が、それぞれ違う方向から聞こえた。

錆兎と夜去はそれぞれ逆方向に走った。その時、私と義勇は錆兎の方について行ってしまった。

私たちが行った方の鬼はあまり強くなく、すぐに倒すことができた。

 

「ねえ錆兎、夜去大丈夫かな?」

 

「わからない、あいつはまだ鬼の首を切れていない。だからわからない」

探さなくちゃ。私たちがあの子を守らないと死んでしまう。必死に探した、でもその日、見つけることはできなかった。

次の日も、探した。会って助けた人たちに刀を二つ腰に差した少年を見ていないか聞いて回った。

みんなそんな余裕はなく、わからないと言われた。

 

「もしかして、あいつ」

 

「義勇!何言おうとしたの」

義勇の言おうとしたことはわかっている。あいつ鬼に喰われたんじゃないかと言おうとしたんだ。

言わせない、絶対に。

 

「真菰、覚悟はしておけよ」

嫌だよ、せっかくできた友達なのに。弟分なのに。絶対生きている、私たちが信じてあげなくてどうするんだ。

 

「あの、刀を二つ差した少年と会いました」

その人は村田さんという人だった。

 

「彼は、俺を助けてくれました」

「そして…」

彼は泣いている。私はその続き聞きたくないと思ってしまった。

 

「他の人を助けに行きました。自分の怪我なんて気にせずに」

「俺に、助けてくれてありがとうございます。鬼の首を村田さんが斬ってくれないと僕は死んでいましたと言って。助けてもらったのは俺の方なのに」

もしかして、夜去は鬼の首が切れないのかもしれない。

でも、私たちとひとつかふたつぐらいしか変わらない。体格もそんなに変わらない私でも切れるのだから、夜去にも切れると思った。

よかった夜去はまだ生きている、早く探そう。

その日もたくさん鬼を斬った、何人か人も助けることができた。

でも会うことはできなかった、夜去、生きていてね、明日終わって、絶対に会おうね。

 

 

最終日、残りわずかとなっていた時だった。大きな足音と共に悲鳴が聞こえてきた。私たちは急いで悲鳴が聞こえた方向に走った。

その鬼は、青年に手を伸ばして捕まえようとしていた。間に合わない捕まえられると思った。

でも、錆兎がその腕を斬った。

 

「逃げろ、ここは俺たちがなんとかする」

青年が逃げることができた。

 

「なんだお前たち。まあいい、一人減ったのが三人になった」

 

その鬼は私たちに手を伸ばして捕まえようとしていた。錆兎はその手を避けながら、鬼の手を斬っていた。

義勇も鬼の首を切れていないものの、その腕を避けながら斬撃を与えている。私は避けるので精一杯だった。

 

「お前たち、よくよくみるとそのお面。鱗滝の弟子かぁ?」

なぜ、お前が鱗滝さんを知っている。その鬼は満面の笑みを浮かべていた。

 

「鱗滝もバカだよなぁ。そのお面をあげたせいで、自分の弟子たちが死んでいくのに」

「俺は今まで鱗滝の弟子を、たくさん食べてきた。あいつどんな顔してたぁ?」

お前、お前だったのか。鱗滝に辛い思いをさせていた鬼は。鱗滝さんは私たちを送り出す時、私たちに不安を与えないようにお面の下で笑っていた、でもどこか辛そうだった。

それは、私たちもお前に殺されるかも知れないと思ったからだと思った。

それにこのお面のおかげで私たちは今日まで戦えた、馬鹿にするな。

 

「鱗滝さんのことを悪く言うな」

私たちの大切な人を傷つけたお前を許さない。

 

「俺たちの師匠を馬鹿にするな」

錆兎も義勇も同じように怒っていた。でも3人とも冷静さを失っていた。

 

「お前たちじゃ、俺の首は斬れない」

高い声で笑っていた。私と義勇が沢山ある手を斬った。私のスピードにこの鬼はついてくることができていない。

義勇の水の呼吸が効いている。錆兎今ならいける、首を斬って。

 

「水の呼吸・壱ノ型 水面斬り」

斬った、そう私たちは思った。でも次の瞬間、義勇は手で飛ばされ木で体を打った。私は手足を掴まれて、鬼の顔の目の前に持っていかれた。そして、錆兎は頭を掴まれ、私と同じように、鬼の目の前に持っていかれた。

私は死を実感した。また鱗滝さんに弟子を失うという辛い思いをさせてしまう。死にたくない、生きて戻りたい、でもそれはもう叶わないとわかっている。

義勇は背中を打ったものの、起き上がり刀を持っていた。立ち上がるのでさえ、苦しいはずだ。錆兎もなんとか抜け出そうともがいていた。

誰か私たちを助けて、私は心の中で叫んだ。その声が少し漏れていた。

その言葉を聞いて鬼は笑った。

 

「あひゃ、ひゃひゃひゃ。助けなんてこないよ。みんな俺が怖いんだ」

「お前たちはもう、鱗滝の元には帰れない。ここで死ぬんだよ」

 

 

「時の呼吸・二ノ型 朝明の風」

鱗滝さん、本当にごめんなさい、三人で帰れそうにありません。そう私は心の中で思った。

死んだと思った。目を開けると、さっきまで私と錆兎の前にあった鬼の顔はなく、目の前に立っていたのはまるで晴れた日の空のような羽織と、その下に白の羽織着た少年。そして片手には柄の部分しかない刀を持っている夜去だった。

 

「夜去」

 

「遅れてごめんなさい。どんな時でも、最後まで諦めてはいけません」

「3人を絶対に生きて帰します、あの場所へ、あの人の元へ」

そう言って振り返った彼の顔はとても綺麗な笑顔だった。今この状況で笑顔でいられるのを私はすごいと思った。

その笑顔に私たち3人は勇気をもらった。夜去は鱗滝さんのこと私たちのことを知っているようだった。

 

 

 

 



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明日へ

みんなに背中を押され、カナヲ姉さんから羽織をかけてもらった。

次に目を開けた時、僕は千寿郎と稽古していた場所にいた。

おばあちゃんに会える、姉さんたちに会える。

今の僕を見ても誰かわからないかも知れない。あの時守ってくれてありがとう、みんなと会えて幸せだったと伝えたい。

でも現実は残酷だった、家があった場所は何もなかった。

 

嫌な予感が走る、それは輝夜姉さん、咲夜姉さんもいないのではないかという。

大切な姉たちとの思い出の場所、時屋敷の場所に僕はまた走った疲れなど感じない。

 

嫌な予感はあたっていた、そこには何もなかった。

周りに住んでいる家の人にも聞いた、姉さんたちは美人で優しかったから周りに住んでいる人からは人気で知らない人はいなかった。

人々の返事は聞きたくなかった、姉さんたちの事を誰も知らなかった。

ここは過去なんだろうか、僕の守りたかった人たちはいないのではないだろうか、守れないのではないだろうか。

そんなことを考えてしまい、怖くなった。それでも考えている時間はない、明日には最終選別がある。

僕は最終選別の会場へと重い足を動かした。

そこに助けたい人たちがいる、生きてほしい人たちがいると信じて。

 

 

最終選別の会場に着くと、意外とたくさんの人がいた。

僕は探した、今年の選別にいるはずの、錆兎さん、真菰さん、義勇さんを。

そして、お面をつけた三人を見つけた。三人はこっちを見ていて目が合った。

心の底から嬉しかった、三人が一緒にいることが。そしてこちらに近づいてきた。

挨拶をしていると、選別が始まった。

選別内容は一週間生き残ること、そして三人が手鬼に会うのは最終日だ。

 

 

三人が一緒に行こうと言ってくれたから、僕もついていくことにした。

錆兎さんは、初めて鬼と戦うのに、臆することなく戦っていた。義勇さんが言ってたように錆兎さんはかっこいい人だ。

僕もカナヲ姉さんから、もらった日輪刀で戦った。でも鬼の首を斬れないことを改めて実感させられた。

そんなことを気にしていても斬れないものは斬れない、三人の手助けをしようと思った。

真菰さんも鬼を倒した、真菰さんはとても速かった。自分にあった戦い方を見つけて戦っている、僕もそれを見習いたい。

 

五日目、僕たちは離れ離れになってしまった。それぞれ違う方向から助けを呼ぶ声が聞こえた、だから離れてしまった。

助けを求めていた人を僕が見つけた時、その人は今すぐにでも殺されそうな状態だった。

助けたい、この選別で誰にも死んでほしくない。

カナヲ姉さんからもらった刀を抜いて、鬼に斬りかかった。

 

「なんだ、この餓鬼」

 

「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

 

「大丈夫、助かった。ありがとう」

 

「無視するんじゃねえ。」

鬼の攻撃は単純だった、全部避けられた。この人が逃げる時間を稼ごうと思い、鬼の手や足を斬っていた。

僕が鬼の攻撃を避けながら攻撃していると、さっきまで襲っていた人を鬼は攻撃した。

その人はひどく怯えて、動けなくなっていた。それもそうだ、五日間も全神経を研ぎ澄ませて疲れも溜まっている、それに殺される寸前のところまで行っていたんだ。

 

「危ない」

彼を手で押した。その時腕を鬼に引っ掻かれて、たくさん血が出始めた。僕が油断したせいだ、呼吸を使おう。

そう思った時だった、彼が鬼の首を斬ってくれた。恐怖に打ち勝ち、自分自身に勝った、そして僕を守ってくれた。

守るつもりだった、でも守られたのは僕だ。

 

「すまない、俺のせいで。俺を庇ったせいで」

 

「大丈夫です。名前はなんて言うんですか?」

 

「村田だ」

この人が村田さんなのか。炭治郎さんがとても信頼していていた人だ。

頼もしい人だとも言っていた、僕もそう思った。

 

「僕を助けてくれてありがとうございます。鬼の首を村田さんが斬ってくれないと死んでいました」

 

「けど、俺が動けなかったせいで君は怪我をした」

 

「村田さんが助けてくれなかたったら、今ここに僕はいません。あなたのおかげです、あなたが戦ってくれたから生きていられます」

僕はお礼をした。

 

「君がそう言ってくれると、俺も救われる」

 

「すいません、村田さん後は大丈夫ですか?僕は他の人のところに行きます」

 

「あぁ、もう大丈夫だ。俺も助けられる命を助けるよ」

 

「はい!選別が終わった時また会いましょう。約束です」

本当に頼りになる。僕が守れない人も村田さんが助けてくれるかも知れない。

 

「約束だ」

僕は血がたくさん出ている手に手ぬぐいを巻き、助けを求めている人を探した。

 

 

最終日、錆兎さん真菰さんが殺され、義勇さんが一生後悔する日になった。

前日から三人を探していたが、なかなか会えない。

最終日も残りわずかとなった。僕は焦っていた、二人の命がなくなる時間が近づいている。

心を落ち着かせ、戦っている音が聞こえるかも知れないと思い耳を澄ませた。

 

「誰か私たちを、助けて」

もう、どこか生きるのを諦めてしまったような、でも生きたいという思いも混じっている声。

今にも消えてしまいそうな、弱々しい声で助けを求める声が聞こえた。

僕の守りたい人たち、生きて鱗滝さんの元に戻って欲しい人たち。

 

手鬼を見つけた、錆兎さんと真菰さんが手鬼の顔の前で捕まえられている。そして鬼は笑っている。

義勇さんは、木に打ち付けらていたが、二人を守るために立ち上がっていた、やはり義勇さんは錆兎さんと同じくかっこいい。

躊躇してはダメだ、呼吸を使おう。時の日輪刀を抜いた。少しずつ透明になり始めている。

 

 

「時の呼吸・二ノ型 朝明の風」

寿命をあまり削らずに使える、時の呼吸、基本の技。自分の時間を速く進めて、目で追えない速さで動く。

2人が捕まえられている、手を斬り二人を義勇さんの前に下ろした。

 

「夜去」

 

「遅れてごめんなさい。どんな時でも、最後まで諦めてはいけません」

教えられたことだ、どんなに追い詰められている状況でも、反撃できる時は必ず来る。だから絶対に希望を捨てちゃいけない。

 

「三人を絶対に生きて返します、あの場所へ、あの人の元へ」

僕は三人を安心させるべく笑顔を見せた。三人を絶対に連れていく、一人も失わずに明日へ。

 

 

「お前、いつのまにその男の餓鬼と女の餓鬼をそこまで連れて行った」

「お前の速さは、その女のガキと比べものにならない。でも、いい食える人間が一人増えたからな」

どうやってこの鬼に勝つ。錆兎さんでも斬れなかった鬼の首を誰が斬る。

この鬼の手を防いで時間を稼ぐしかない。三人が逃げる間の時間を稼ごう。

鬼は捕まえようとして、たくさん手を出してきた。でも今は全て遅く見える。

 

「お前は速くて捕まえられない。ならそこの三人を捕まえよう」

三人は僕の後ろにいる。後ろを見た、そこにいたのは錆兎さんと真菰さんだけだった。

 

「義勇さん」

鬼の首を斬ろうと、手鬼の横まで詰めていた。今まで鬼の首が斬れていなかったから焦っていたんだと思う。

手鬼は気付いていないふりをしているが、わかっていると思う。なぜなら満面の笑みだったからだ。

義勇さんに伸ばされた手を僕は日輪刀で受け、手鬼から距離をとった。

 

「お前は助けると思ったよ、狙いはこの二人だ」

錆兎さんと真菰さんはまで動けずにいる。鬼の手は、二人の目の前まで迫っていた。この距離はもう間に合わない。

また義勇さんに大切な人たちを失わせてしまう。

僕もその手を斬ろうと動いた、その手を斬ったのは僕ではなく、村田さんだった。

そして、今まで錆兎さん達が助けた人たち、僕が助けた人たちが錆兎さん真菰さんの前に立って守ってくれている。

 

「村田さん、なんでここに」

 

「助けられる命が前にあったからな」

村田さん、みなさん本当にありがとうございます。人は1人でできることは限られている、でも仲間がいると計り知れない力を出せる。

 

「錆兎さんと真菰さんは戦えません、そしてこの鬼の首はすごく硬いです」

 

「俺は戦える。大丈夫だ夜去、心配かけたな」

 

「私もまだ動ける、一緒に戦う」

 

「俺も一緒に戦いたい」

錆兎さん、真菰さん、義勇さん、あなたたちは本当に強い。一人で切れない首も三人でなら、三人一緒になら切れると思う。

僕たちが鬼の手を斬ろう、三人が首に届くように

 

「鬼の首を斬るのをお願いしていいですか。僕たちが三人の道をつくります」

 

「あぁ」

三人を守るように動き、三人が首に届くように道を開けた。

 

「水の呼吸・拾ノ型 生生流転」

三人が一緒に技を出して鬼の首を斬った。

 

「やった、勝てたよ。鱗滝さん」

真菰さんは泣いていた。義勇さんと錆兎と真菰さんが抱き合っていた。

生きている、三人が。それが嬉しくて、またみんなが助けにきてくれたことが嬉しかった。

 

「ありがとうございます、錆兎さん、義勇さん、真菰さん、村田さん、みなさん」

 

手鬼は泣いていた。

昔、カナエさんに言われた。鬼も元は人間、相手の気持ちを考えて、寄り添ってあげてと。

手鬼は手を繋いで欲しそうだった。今、僕がしてやれることは手を握ってやることしかできない。

でも、手鬼は手を握るとどこか安心したように笑ってくれた。

この人の次の人生が幸せで溢れていますように。いなくなるまで祈り、僕はずっと手を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 



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帰るべき場所

選別は終わり、集合地点まで手鬼と一緒に戦った人たちと一緒に帰った。

その間はこれからの話をした。鬼殺隊に入って、鬼と戦い人々を守ると決めた人や、自分に合った道で人々を支える道を選んだ人。

僕は全員を応援したいと思った、自分の選んだ道を信じて進んでほしい。

 

 

戻ると、輝利哉とかなたがいた。

僕はいつも遊ぶ時のように、名前を呼んでしまいそうだった。

二人は少しびっくりしていた、なぜなら最終選別でこんなに生きて戻ってこられることはない。

鬼殺隊に入らないと決めた人たちが、それを二人に言って帰って行っている。

その時、僕と錆兎さんたちは言われた。助けてくれてありがとうと。

僕たちも、あなた達が勇気を出して助けにきてくれたからここにいる。

 

「こちらこそ、助けてくれてありがとうございます」

その人達が見えなくなるまでお礼をした。

 

まずは、体の寸法を測った。隊服を作るためで、隊服は後日届くらしい。

次に階級の説明をされて、一人一人に鎹鴉が降りてきた。僕にだけ鎹鴉が来てくれない、まさか嫌われている?少し悲しくなった。

最後は日輪刀を造る鋼を選ぶと言うことだった。でも僕は輝利哉とかなたに言った。

 

「僕は、この二つの日輪刀を使いたいです。なので、鋼は選ばなくてもいいですか?」

 

「はい、大丈夫です。明月さんは、自分の持っている日輪刀を使用するとことは伝えておきます」

 

「ありがとうございます」

 

「夜去は、その刀を使うの?でも一つは柄の部分しかなかったよね」

僕は焦ってしまった。歯がついてない刀を持っていたらなにか疑われるかも知れない。

 

「大切な人から、もらったんです。だから肌身離したくなくて。それに僕の背中を押してくれるんです」

嘘は言っていない、全部本当のことだ。

 

「大切にしないとダメだな」

はい義勇さん。義勇さんが、僕に渡してくれた刀でもあるんですよ。

 

 

全員が鋼を選び終えると、選別は終わり皆が帰路につき始めた。

また、どこかで会おうとみんなで約束をした。みんなはそれぞれ帰るべき場所に帰っていった。

 

「夜去、お前のおかげで俺も強くなれた気がする。一緒に手の届く範囲の人を守ろう」

 

「はい!村田さん」

村田さんも帰って行った。村田さんにも帰るべき場所がある。

僕はどこに帰ろう。帰るべき場所なんて、過去に戻った今はない。そう思いながら立ち尽くしていた。

 

「何をしている。夜去、一緒に帰るぞ」

「戻る場所がないんだろ、お前には俺たちがいる。鱗滝さんにも俺たちが説明する」

「その代わり、鱗滝さんの家は広くはないぞ」

錆兎さんがそう言ってくれた。

いいんだろうか。今回は皆さんのおかげで3人を助けることができた。

僕は、言ってしまったら異物のようなものだ。3人と深く関わることで、何か三人に悪いことが起きてしまうのではないだろうか。

 

「来い」

錆兎さんと義勇さんが僕の手を取り、真菰さんが背中を押している。

本当はこうだったのではないか思った。

義勇さんには、よく水屋敷に誘拐された。急に時屋敷に来たと思えば、僕の手を取って、水屋敷に連れて行かれた。

繋いだ手は片方だけ。

水屋敷に着くと、義勇さんが作った鮭大根を食べた。

僕と義勇さんの二人で。

姉さん達が夜迎えに来ると、夜は鬼が出るから危ない。だから泊まらないといけないと言われてよく泊まっていた。

そして二人で布団を敷いて、大きくはないけど、二人だからとても大きく思える部屋で寝た。

二人でも僕は幸せだった。義勇さんのことが僕は大好きだったから。

でも本当は、空いた片方の手は錆兎さんが繋いでくれて、後ろから真菰さんが押してくれていたのかもしれない。

二人じゃなく四人で鮭大根を食べて、四人で寝る。でもその部屋は四人だからとても窮屈に感じてしまっていたのかもしれない。

 

断らないといけないのかもしれない。一緒にはいけませんと。

でも、その言葉を口に出すことはできなかった。だって義勇さんがこんなにも笑っている。

僕と二人の時もたしかに笑っていた、その笑顔には幸せと悲しみが混じっていた。

でも、この笑顔は違い、幸せに満ち溢れている。だから、もう少しだけこの笑顔を見たいと思ってしまった。

日は沈み初めて暗くなり始めている、でも僕は眩しかった、三人の笑った顔が。

僕はまた泣いてしまった。泣かないのなんて無理だった、僕は泣き虫だ。三人にこの涙は見せたくない。

 

 

 

私と義勇と錆兎は、夜去が村田さんと話をしている時、夜去は帰るべき場所がないのではないかと話をしていた。

二人と話し合うつもりだった。でもそんなことは必要なかった、二人とも私と同じように鱗滝さんのところに一緒に連れていこうとしていたからだ。

みんなを送り届けるまで、夜去は動かなかった。送り届けた後の夜去の顔からは、少し悲しみが感じられた。

 

錆兎が一緒に帰ろうと声をかけた。でも、夜去はなかなか一緒に来ようとしない。

それを見て義勇と錆兎が手を繋ぎ、私は夜去の背中を押した。

どこか迷っているようだった、だから私が押して、錆兎と義勇が手を繋ぎ引っ張った。

少しすると夜去は自分で歩き始めた。それが私たち三人は嬉しく笑った。

私たちのそんな笑顔を見て、夜去は涙を流していたと思う。なぜかはわからない、でもこの涙は嬉し涙だと感じた。

 

 

「鱗滝さん、ただいま」

 

「鱗滝さん、ただいま戻りました」

 

「ただいま」

 

「おかえり、真菰、錆兎、義勇。よく戻った」

「その、少年は?」

鱗滝さんに生きてまた会うことができた。私たち三人は鱗滝さんに抱きついていた。

夜去を見ると、嬉しそうに笑っていた。

 

「明月夜去と言います」

錆兎が三人を代表して、選別であったことを話してくれた。

手鬼を倒したこと、一人では無理だったことが三人でできたこと。

夜去が助けにきてくれたこと、夜去だけじゃない私たちが助けた人も、私たちを助けに来てくれたこと。

 

「儂の大事な三人を、助けてくれて本当にありがとう」

 

「頭を上げてください、助けてもらったのは僕も同じです。3人はたくさんの人を助けていました」

 

「そうか。三人はたくさんの人を助けたのか」

「夜去、任務がくるまでここにいるといい。決して広くはないぞ」

 

「ありがとうございます」

私と錆兎と義勇は夜去を連れて家の中に入った。

 

 

 

 



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夜明け

少し息抜きの回にしました。こんな感じが少し続くかもです。


私は親方様の伝言を伝える鎹鴉だ。

毎年、選別の結果を親方様に伝えてもいる、その時、私はとても辛い。

顔には絶対に見せない、涙も絶対に見せない。親方様も私から、その報告を聞くのは辛いと思う。

選別で亡くなった子供達のお見舞いも欠かさずにいっている。その時、ごめんね、ごめんねと謝っている。

それを見て、私はとても苦しかった。

私は今年の結果を、早く親方様に伝えたい。今年は子供達が全員、生きて戻ったと。

 

「今年ノ選別デハ、誰モ死ヌコトナクナク、全員ガ生キテ戻ッテ来テクレマシタ」

 

「それは、本当かい?」

親方様はまだ、信じられない様子だ。今まで、一度もなかった。全員が生きて戻ってきてくれることなんて。

その逆で、誰も帰ってこなかった年は沢山ある。

今年あったことを伝えよう。

四人の子供達が命を懸けて、他の子供達をたくさん助けたこと。

その四人が危ない時、助けられた子供達も、また命を懸けて四人を守ったこと。

 

「…」

親方様が珍しく何も言わない。声を出さずに涙を流していた。

 

「ごめんね、涙は流さないと決めていたけど。あまりにも嬉しくて」

「鬼殺隊、当主でもある私がみっともない姿を見せてしまったね」

 

「親方様、今ハ誰モ見テイマセン。涙ヲ流サナイト親方様ガ壊レテシマイマス」

親方様が涙を流したところを初めて見た。

今は素直に涙を流してほしい。

 

「少しだけ、少しだけいいかな」

親方様はそのあと、本当に少しの時間泣いて言った。

 

「その四人の子供達、そして生きて戻った子供達のこれからがとても楽しみだよ」

「四人はどんな子達だったのかな?」

 

「三人ハ水ノ呼吸ヲ使ッテイマシタ」

「モウ一人ノ子ハ、私モヨクワカリマセンデシタ」

それでも、あの子からはとても優しい感じがして。また、遠くの未来を見ている気がした。

そして、あの子の相棒の鎹鴉は、とても心に傷を負っている。大丈夫だろうか、私はそれがとても気がかりだ。

あの子なら、その鎹鴉の心でも変えてしまいそうだ。私はなぜかそう思ってしまった。

 

「水の呼吸、一門が三人も。とても楽しみだね」

「もう、一人の子もすごく気になるね。その四人、そして今年入った子供達は鬼殺隊にいい風を与えてくれると思う」

「早く、私も会いたいよ」

あの子達は、絶対に柱まで登ってくる。そして、この先の見えない世を照らす灯になると思う。

 

 

「今年も、選別が終わった。次の私の相棒はあの子か」

他の鎹鴉達はすぐに、新しい相棒の鬼殺隊士のところに降りていった。

私は、それができない。相棒が今まで、何回も鬼との戦いで死んで変わった。あの子もどうせ、鬼に殺される、そんなことを考えるとあの子の元に行けなかった。

もう、この仕事をしたくない。相棒が鬼との戦いで死ぬのは耐えられない。

だから、最近は仲良くならないようにした。伝言だけ伝えて、あとは離れることにしていた。

けど、今年の選別は誰も死んでいない。今年は少し違うのかなと思った、けど私はそんな希望持たないことにした。

あの子は三人について行った。明日会いに行こう。

 

あの子は、朝起きて四人で稽古をしていた。今まで、相棒になった人も毎日稽古をしていた、鬼の首を斬るためだけに。

あの子が、一人になった時、挨拶だけ行こうと思った。

そして、あの子、以外の三人がお昼ご飯を作りに行った。

 

「はじめまして、私が今日からあなたの相棒です。あなたに親方様や、他の隊士からの伝言を伝えます。あなたの伝言も私が、皆さんに伝えます」

「これからよろしくお願いします。それでは私はこれで」

前までは、夢はありますか?とも聞いていた。でも全員、答えは一緒だった。それは鬼の首を斬ること。

鬼を斬ることだけを考えているのもわかる。大切な人を殺されて、復讐だけを考えているのはわかる。

でも、私は鬼を滅ぼした後、何をしたいのかを聞きたかった。

鬼が滅んだ時、夢がないと生きる意味が亡くなってしまうのではないかと思ったからだ。

この子も同じだろう。そう思い帰ろうとしていた。でも、その子からは待ってと止められた。

 

「僕は明月夜去、夜去って呼んでよ。君の名前はなんて言うの?」

 

「私に名前などないですよ。お好きなように呼んでください」

名前などない。今まで相棒になった人からも、おい、お前などでしか呼ばれたことはない。

 

「僕がつけていいの。気にいるかはわからないけど、朝なんてどうかな?」

私が朝なんて呼ばれていいのだろうか。私は暗いところの方がお似合いで、朝なんて私と正反対だ。

 

「あの、何で朝なんですか?」

私は気になった。そしてこの子と少しお話をしてみたいとも思ってしまった。

深く関わりたくない。失う時に傷つきたくないから。

 

「僕が夜去。君が朝。僕と君の二人揃えば、暗い夜が明ける感じがしない?」

夜去という少年は少し顔を紅くして、嬉しそうに話した。

こんなこと言われたことは今までない、生まれてきて一番嬉しいかもしれない。

 

「私がそんな名前をつけてもらっていいのでしょうか?」

「私と相棒になった人は全員亡くなっています。だから私がそんな明るい名前など」

 

「いいに決まってるよ。僕は絶対、戻ってくる。君の元へ。みんなの元へ」

その言葉を私はずっと聞きたかったのかも知れない。私は泣いていた、涙などというものを忘れていた。

 

「何で朝は泣いてるの…朝も僕と一緒で泣き虫なの?」

「泣き虫だ、絶対!泣き虫二人組だね」

 

「私は泣いたことなど数えるほどしかありませんよ」

 

「えぇー、ならダメだね」

この子と一緒なら私も泣き虫でいいと思ってしまった。

この子なら、他の隊士と違う夢を持っているかも知れない。

 

「夜…あなたに夢はありますか?」

返事が怖い。この子も鬼の首を斬ることというかもしれない。

 

「夜去って呼んでよ。夢はね…」

「たくさんあるよ、全部聞いてくれる?」

夜去が言ったのは、今までの人とは全然違った。

誰も大切な人を失わずに、笑っている未来で自分も生きること。

誰もが、自分の夢を持てるようにすること。

そして、みんなでご飯を食べること。

鬼の首を斬るという、言葉はでてこなかった。

いい夢だ、夜去は未来を見ている。

 

「朝の夢は?」

私も聞くばかりで、自分の夢は持っていなかったのかもしれない。

でも、今できた。夜去とずっといっしょにいること。

 

「夜去とずっと一緒にいること」

私はとても小さな声で言った。

 

「照れるよ。僕も朝といたいな」

夜去は照れて、顔をまた紅くした。それがどうしようもなく愛おしい。

 

「それと、夜去とたくさん綺麗な景色を見たい。一緒にご飯も食べたい」

今まで、鬼殺隊の仕事ばかりで綺麗な景色など見に行ったことなどない。

ご飯も一人で食べてばかりだった。私は他の鎹鴉と違って真っ白で、他のもの達とは違う異物だと思ってしまい、なかなか話しかけることができずいつも一人だ。

 

「うん、わかった。二人の約束」

守れるかはわからない。でも私は夜去を守りたいと思った。

 

「最後に一ついいですか?」

「夜去は鬼が憎くないんですか?」

 

「憎いよ。大切な人をたくさん奪った」

「だからといって相手の気持ちに寄り添ってあげないのは違うと思う。相手の気持ちを考えないのは、弱い者がすることだと思うから」

「僕は強い人になると、大切な友達と約束したんだ」

夜去はどこまで優しいんだ、ずっと一緒にいたい。私はそんなことを考えながら夜去の肩に降りた。

 

 

 

 

 

 



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大切な記憶

自分の書きたいことがうまく書けないです。

これから、がんばります…



「錆兎さん、真菰さん、義勇さん見てください」

「僕にも相棒ができました。朝って言います」

今日は鱗滝さんが街に行って帰ってこないので、この家で四人でいる。

 

「よかったね、夜去。自分だけ、降りてこないから嫌われてるかしれないって言ってたもんね」

僕のところにだけ、来てくれないだもん。それは思うよ。

 

「それにしても、綺麗な白色だな」

 

「はい」

 

「綺麗なんて、言われたことないですよ」

普通に綺麗だと思うけどな。朝が相棒でよかったな。

それから、3人と朝と僕でお昼ご飯を食べた。

お昼からは特にすることもなかったので、少し稽古をして後は4人がごろごろとしていた。

 

 

「鱗滝さんがいないといって、夜更かしはダメだ」

「そろそろ、布団を敷いて寝るか」

四人で布団を敷いて、好きなもののお話などをしながら眠りについた。

寝る時は、いつも近くに二つの日輪刀を置いて寝ている。

姉達がいるようで安心するんだ。

 

 

目が覚めると、時の書が置かれていた部屋にいた。

前のように座って時間が経つのを待つことにした。

ここはとても静かな部屋、一人でずっといたら寂しい所だと思う。

 

「はじめまして、夜去」

心臓が飛び出るかと思った、誰もいないと思っていた部屋でいきなり声をかけられたからだ。

 

「怪しい、者じゃないですよ

驚かしてごめんね」

その女性は僕が姉さん達からもらったのと同じ羽織を着ていた。

 

「少し、お話をしませんか。夜去」

 

 

「私は、初代、時の呼吸の使い手、明月入夜と言います」

この人は姉さん達の御先祖様なんだ、二人の似て本当に綺麗な人だ。

 

「姉さん達の御先祖様だったんですね」

 

「私は夜去の先祖にあたりますね」

 

「僕は輝夜姉さんと咲夜姉さんに助けてもらいました

そして二人は僕のことを本当の家族のように大切にしてくれました」

 

「やはり覚えていませんか。

あなたが二人に助けられたように、あの二人もまた夜去の母に助けてもらったんですよ」

僕は母の顔を覚えていない、一緒に過ごした思い出もない。

 

「あの二人は親を鬼に殺されました

自分たちもその鬼に殺されそうなところを夜去の母に助けられたんです」

その後も入夜さんは昔のことを話してくれた。

僕は、おばあちゃん、母、父、輝夜姉さん、咲夜姉さんと一緒に昔は過ごしていた。

そして、おばあちゃんも母も父も鬼殺隊士だったこと、母と父は、鬼舞辻無惨と会い戦い死んだこと。

 

おばあちゃんが殺された時、それ以前の幸せな記憶を忘れていたんだ。

時の呼吸を継承するのは僕だったことを聞いた。

でも僕はまだ小さかった。

だから、輝夜姉さん、咲夜姉さんが自分達が受け継ぐと言ったらしい。

大きくなったら僕に時の呼吸を継承させるように祖母から二人は言われていたみたいだ。

なぜなら明月家の血筋ではない二人は、時の呼吸を使う時に信じられないほどの痛みに襲われるからだ。

 

「あの二人はそれができなかった、するつもりもなかった

夜去あなたが一番大切だから」

 

「二人は決めていたんです

鬼との戦いを終わらせて、夜去には鬼のいない世界で生きてもらうことを」

薄ら薄らと記憶が蘇る、横にはいつも優しい二人の姉がいた。

母さん、父さんが亡くなった時に二人は居なくなってしまった。

時の呼吸を受け継ぎ、それを使い鬼殺の道を進むからだ。

次に二人にあったのはおばあちゃんが殺された時だ。

 

「間に合わなかったことをずっと、後悔していた」

 

「夜去に昔のことを話そうともしたと思います、思い出して欲しかったはず

でもしなかった、辛い記憶を思い出して欲しくないから」

忘れていた。母さんと、父さんと、おばあちゃんと、姉さん達と過ごした毎日、大切な記憶を。

どれほど感謝しても足りない、二人がいなかったら僕はおばあちゃんが殺された後ずっと一人だった。

大切な人達と会えなかった。

本当にありがとうございます、輝夜姉さん、咲夜姉さん。

 

「入夜さん。姉さん達、おばあちゃんはなんでいないんですか?」

今より前に亡くなった、母さんと、父さんがいないのは助けられないのは心のどこかでわかっている。

 

「ここは、過去であって過去でないと思う」

「時の呼吸を使った者は存在しないんだと思う、時の呼吸のことは誰も知らない」

 

「助けれないんですか……?」

 

「輝夜と咲夜は助けることができる、あの二人はこれから後に時の呼吸を使ったから

あの二人の寿命は取り返せる」

おばあちゃんは今より前に使っていたから寿命は取り戻せないのか、助けれないんだ…

ごめんなさい、おばあちゃん助けられなくて。

誰よりも優しかった僕の祖母は言うだろう、私はいいから姉さんたちを助けてと。

 

「僕はなぜ、遡時を使えたんですか?」

 

「夜去は、私と同じだからかな」

入夜さんも大切な人を、失ったんだ。

過去に戻りたいと心から願った。未来を変えたいと思ったんだ。

 

「ありがとうございます入夜さん

大切な記憶を思いださせてくれて」

家族との思い出を失くしたままだった。

母さん、父さん、おばあちゃん、輝夜姉さん、咲夜姉さんで過ごした幸せな毎日をなかったことにしていた。

 

「夜去、私もあなたに私の夢を託してもいい?」

私は守れなかったから、私も力にならせて欲しい」

 

「入夜さんの想いも僕が持っていきます」

 

「ありがとう

そろそろ目が覚める時間だね」

 

「入夜さんは、ここに一人でいるんですか?」

 

「そうだね、ずっと昔から」

 

「また来てもいいですか?もっとお話したいです」

 

「来てくれると、私も嬉しい」

 

 

 

夜去はいなくなった。

とても優しい子だ。私が一人でずっといるからまた来ると言ってくれたんだ。

輝夜、咲夜、あなた達が自分を犠牲にしてまで、守りたいと思ったのがわかる。

 

「夜去、夢を叶えてね

私は守れなかった」

 

「そして救ってあげてほしい

私の大切な人、珠世姉さんを」

 




時の呼吸を使った者は過去に存在できないと言うことが言いたかったです。
戻った過去に時の呼吸は存在しなくて、使っていた人もいない感じですね。

わかりづらくてすみません!

書きたいことの説明が難しい…またどこかで、こんな回があるかもしれないです。



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萌芽

「夜去、どうした?怖い夢でも見たのか?」

義勇さんの腕にしがみついていた。

腕を僕が強く抱くものだから、義勇さんも目が覚めたのだと思う。

 

「ごめんなさい、起こしてしまって」

「怖い夢じゃないんです。暖かい夢でした」

 

「そうか。俺の布団に入るか?」

「まだ、日の出までは長いぞ」

水屋敷に泊まった時もこんな感じだった。

夜中に目が覚めて、寝付けずにいると一緒に寝るかと言ってくれた。

昔から義勇さんは変わらないんだ、とても優しい。

 

「いいんですか?」

 

「構わない」

錆兎さんと真菰さんを起こさないように布団に入ろうとした。

 

「義勇だけ、ずるいよ」

 

「あぁ、そうだな真菰」

 

「ごめんなさい、起こしてしまって」

二人は初めから起きてたみたいだ。寝ている間に、僕が泣いたから三人は起きたみたいだ。

 

「夜去は、よく泣くんですね」

 

「朝、泣いていたつもりはないんだけど」

むしろ、僕には幸せな時間だった。忘れていた、大切な思い出を、思い出せたんだ。

 

「私も夜去と、一緒の布団で寝たいよ」

少し恥ずかしかった、同世代の女性と寝ることなんてなかった。

姉さん達や、カナヲ姉さんとはよくあったが。

四人で一緒の布団で寝ることになった。でも順番は錆兎さん、僕、義勇さん、真菰さんだ。

 

「なんで、私が端っこなの」

 

「僕、変わりますよ」

 

「夜去が変わったら、意味ないじゃん」

なんでだろう、僕と変われば真ん中になれるのに。

 

「錆兎か、義勇変わってよ」

 

「それは、できない。俺は夜去の横が…いや、玄関に一番近い所で寝ないといけない。不審なやつが来たらすぐ対処できるように」

錆兎さんはやはりかっこいい、早生まれだから二人を守ろうとしているんだ。

 

「俺もできない、もし天井から入ってきた時、俺が全員を守るために真ん中じゃないといけない」

そんなことあるんだろうか、でも鬼は高く飛べるからありえないこともないのかもしれない。

 

「二人とも、夜去の横がいいだけじゃん」

二人は寝てしまった、真菰さんは少し機嫌が悪いみたいだ。

 

「夜去は、人気者ですね」

 

「どうしたの朝。ここ来る?」

 

「自覚ないんですか。でもお邪魔します」

とても幸せだ。未来でも一緒にいられるだろうか。

一緒にいられるように、守れるように強くなろうと改めて思った。

 

 

 

朝起きると、義勇さんと、錆兎さんはまだ寝ていた。多分、夜中に起こしてしまったせいだ、心の中で謝った。

真菰さんは、朝ごはんの準備に行ったんだと思う。

 

「真菰さん、手伝います」

 

「ありがとう、夜去」

「お味噌汁のお野菜切ってて」

置かれていたのは、大根と白菜と牛蒡だった。

 

「夜去、何か隠してることない?」

野菜を切っていると、さりげなく聞かれた。

時の呼吸のことは、絶対に言ってはいけない。

みんなさんは優しすぎる。僕に使わせないために、自分が無理して戦ってしまう。

鬼の首が斬れないことを話そう。

 

「真菰さんは、すごいですね。僕、鬼の首が斬れないんです」

これも、僕の隠していることではある。だから嘘は言っていない。

 

「やっぱり、そうなんだ」

「私も一回思ったの。でも、私と体格も変わらないから、そんなことはないと思ってしまった」

錆兎さんと義勇さんにも話したんだろうか。できれば心配させたくないから、知ってほしくはない。

 

「錆兎さんと、義勇さんは知ってますか?」

 

「まだ、二人には言ってないよ」

 

「二人には、言わないでくれませんか?心配させたくないんです」

 

「二人の秘密だね。わかった、私になんでも相談してね。私はお姉さんみたいなものだから」

 

「ありがとうございます。真菰さんはすごく頼りになります、心強いです」

そう言うと、真菰さんはすごく嬉しそうだった。

真菰さんには、なんでも話してしまいそうだ。でもそんなことは絶対できない。

 

「夜………か…か……ね」

なんて言ったんだろう、よく聞こえなかった。

けど、僕はその言葉をもう一度、聞くことができなかった。

野菜を切り終わったので、次は何をするかを聞いた。

 

「おにぎり、握ろっか」

 

「僕、おにぎり大好きです」

不器用な、もう一人の姉が僕のためにとよく作ってくれた。

形は良くない、でもそれが僕はこの世界で一番美味しく、一番好きだった。

 

「夜去はおにぎりが好きなんだね」

 

「はい!」

真菰さんと二人で作った。でも僕のはカナヲ姉さんと同じで、形が良くなかった。

カナヲ姉さん、ごめんなさい。僕も上手じゃなかった。

義勇さんと錆兎さんを起こして、朝ご飯にした。

 

「いただきます」

 

「真菰、このおにぎり形悪くないか?」

「俺のもだ」

 

「それ、僕が作りました。真菰さんのもあります」

 

「いや、いい。夜去が作ってくれたのなら、ありがたく頂くよ」

そう言って二人は食べてくれた。もっと上手に作れるようになりたいと思った。

僕のは真菰さんの握ったのだからとても綺麗だ。

今度、真菰さんに教えてもらおう。そしてカナヲ姉さんにいつか食べてもらいたいと思った。

 

 

お昼に、鱗滝さんが帰ってきた。

そして一緒に刀鍛冶さんも来た。三人の日輪刀を持ってきたみたいだ。

三人とも水の呼吸にふさわしい綺麗な青系の色だった。

鱗滝さんは、それを見てとても嬉しそうだった。

 

「夜去の、日輪刀は何色なんだ?」

「見せてくれないか?」

鱗滝さんに言われた。刀鍛冶さんも楽しみそうにこちらを見ている。

カナヲ姉さんさんの方を抜いてみたが、やはり色は変わらない。本当は綺麗な桃色なのに。

 

「もう一つの方は、どうなんだ」

刀鍛冶さんがすごく興味ありげに聞いてきた。

これを見せると、何かに気付かれてしまうかもしれない。

入夜さんが、この過去に時の呼吸を知ってる者は存在しないと言っていた。でも、僕はまだ見せる勇気がない。

 

「この刀は、柄の部分しかありません」

今ここで、抜いてくれと言われたら、終わりだ。

 

「夜去にとってその刀はとても大切なの。だから、柄の部分だけだけど、持ち歩いてるの」

真菰さんが言ってくれた。

真菰さんが言ってくれたおかげで刀は抜かなくて済んだ。

 

その夜、鬼殺隊の隊服が届いた。

隊服に袖を通し、カナヲ姉さんの羽織を着て、その上に、輝夜姉さん、咲夜姉さんの羽織を着た。

 

 

全員を助けるなんて夢物語だと言われると思う。

それでも、僕はこの物語を綴る。

英雄譚、そんなだいそれた物語などではない。

今から、失うもの、そして守れるものもあると思う。それでも、地に足をつけてゆっくり進んでいく。

ここから始めよう。

夢物語の萌芽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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日の下で

「夜去、東の村で任務です。向かいましょう」

隊服が届いた次の朝、それぞれに別の任務がやってきた。

鬼殺隊としての、初任務がとうとうやってきた。

 

「錆兎、真菰、義勇、夜去、頑張るんだぞ。お前達なら大丈夫だ」

返事をして、狭霧山の麓まで共に歩いた。

 

「錆兎さん、真菰さん、義勇さん、またどこかで」

ここから先は、それぞれ別の任務に向かう。

鬼殺隊は数の多い組織ではないので、多くの任務が一人当たりに割り当てられるので、次会えるのは何ヶ月後とかになるかもしれない。

三人は、その間にどんどん成長して、強くなる。三人と肩を並べて歩けるように、置いていかれないないようにしよう。

 

 

「朝、この村でいいんだよね?」

あまり大きな村ではなく、人もあまりいない。

大きな村ではないこともあり、村に住んでいる人達の仲がとても良く、いい村だと思った。

 

「夜まで、少し時間があります。話を聞いてみましょう」

村の人たちには、刀を持っていたこともあり不審者と思われ、快くお話を聞かせてくれる人はいない。

それでもわかったことは、この村で街に買い出しに行った男の人が帰って来なくなったということだ。

 

「あの、帰って来なくなったのは私の旦那なのですが、何かに襲われたのでしょうか?」

鬼以外に襲われた可能性もある、でもここで任務と言われたからには、この近くで鬼が出ているんだと思う。

いきなりこの世界には鬼がいると言われた、あなたの旦那さんはその鬼に襲われたかもしれませんなどと、言われても信じられないと思う

なんて言えばいいか迷った。

でも言わないといけない。大丈です、絶対に助けます、という言葉を簡単に口に出すことはできない。

 

「旦那さんは鬼に襲われた可能性があります」

 

「鬼なんてこの世にいるんですか?」

 

「います、鬼は夜に行動します。そして人を喰います」

日が沈んできたので、女性には家の中に入っていてくださいと伝えて、鬼が出るのを待つことにした。

 

村の周りを鬼が出ないか歩いて回っていた、もう真夜中だと思う。

鬼はぜんぜん現れなかった。鬼に襲われたのではなく、もしかすると獣に襲われたのか、帰ってこられない事情があるのかもしれない。

でも、そんなことはなかった。

 

 

闇に包まれていたが、目の前に何かがいた。

日輪刀に手を添えて、目の前にいるものが何か見える位置まで近寄ると、そこにいたのは男性だった。

 

「大丈夫ですか?」

返事は返って来ない、どこかふらふらと歩いている。それでもなんとかこの村まで戻ってきたみたいだ。

 

「夜去、この男性は鬼です」

気付くことができなかった、この男性からは血の匂いが全くしなかったから。

日輪刀を鞘から抜いて、戦う準備をした。

そして、男性は襲いかかってきた。朝日が昇るまで、男性と戦う必要がある。

この男性に、この村の人は絶対に殺させない。

 

「あなた、どこに行ってたの?」

話を聞かせてくれた女性がやってきた、外でずっと待っていたのだろうか。

 

「女もいたのか。女の方が美味しそうだ」

男性はいきなり声を出した。

ダメだあなたはこの女性だけは絶対に襲ってはいけない。あなたが、世界で一番大切に思っている人だから。

 

「ダメです。この女性を襲ってはいけません」

 

「なぜだ、俺は鬼だ。人を見ると喰べたくてたまらない。それに女は特にだ」

 

「あなたは、覚えていないかもしれませんが、あなたにとって掛け替えのない人です」

頭痛がしたのだろうか、男性は頭を抱えている。そして女性は蹲って泣いていた。

 

また襲いかかってきたらどうしよう、この女性の前で旦那さんを斬ってしまえばこの女性はそれに耐えられるだろうか。

でもどこも斬ることなく朝まで凌ぐことができるのか。

 

「思い出せない、この女が何なのか。なぜ俺はここにいる。俺の言葉からはこの言葉が離れない」

「幸」

この男性は思い出そうとしている、鬼になる前の記憶を。

 

「あなた、それはあなたがつけてくれた名前」

 

「うるさい、うるさい。喰べさせろ」

男性はまた女性に襲いかかってきた。歯に日輪刀を当て、動きを止めている。

 

「絶対にさせない。あなたに人は襲わせない」

「話を少し聞いてください。何か、何か、思い出せるかもしれないです。大切な記憶を」

この男性からは、血の匂いがしなかった。今まで、誰も襲うことなくここに戻ってきたんだ。

 

「あなたがつけてくれたじゃないですか。私達の子供に、数多くの幸せがありますようにといって幸という名を」

男性は襲いながらも涙を流している。苦しいんだ、思い出せないことが。

女性は男性に、お腹を触らせに近づいてくる。僕は止めようとした、でもしてはいけないと思った。

これが最後だと思ったから、この男性が思い出すことができる。

 

「何をする!」

女性は男性の手をとりお腹に持っていった。

男性は傷つけないようにしたんだと思う、少し触って飛びのいた。

 

「美雪と幸」

 

「そうですよ。近字さんの家族です」

近字さんという男性は思い出したようだった。そしてその男性はあったことを話し始めた。

 

「俺は、買い出しに行った帰りに山賊に襲われた。あまりに沢山のものを持っていたから金持ちに見えたんだと思う」

「金を持ってないのを知って、俺を襲った山賊はすぐにいなくなった」

「だから、俺は生きる希望を捨てなかった。そんな時、一人の顔のいい男が現れた」

胸がざわめく。その男は、僕の母と父、そして沢山の人々を殺した鬼ではないだろうか。

鬼舞辻無惨。

 

「その男に笑いながら言われた、生きたくないかと。俺は藁にもすがるおもいで言ったよ。生きたいと」

「その男は、たくさん人を喰って私に貢献しろと言っていた。そして大切な人も喰えともね」

この人を襲った山賊も許せない。それと同じようにその男も許せない。

生きたいという人の思いに漬け込んで。この人が大切な人を襲うところを想像して楽しんでいたんだ。

この人はただ、会いたかっただけだ、大切な家族に。

僕には何もしてやることができない、それがとても苦しい。

 

「俺は生きていてはいけない。今は美雪のおかげで自我を保てているが、いつ襲うかもわからない」

「あなたは鬼狩りさんなんだろう。鬼は首を斬られるか、日に当たると死ねるんだろう。なんとなくわかっている」

 

「はい、でも僕は首が斬れません。僕が首を斬れたらあなたに苦しい思いをさせなくて済むのに。ごめんなさい」

 

「いいんだよ。あなたのおかげで俺は、美雪と話が出来て、幸ともう一度会うことができた。お腹の中だけど」

この人は、僕が傷つかないようにしてくれている、なんて優しい人なんだ。

 

「あなた、お味噌汁飲まない?」

 

「美雪のが飲めるのか?鬼狩りさんいいか?」

 

「大丈夫です。あなたには誰も襲わせません」

 

「頼もしい、ありがとう」

近字さんと、美雪さんと、幸ちゃんのお家にお邪魔した。

二人は、会話しながらお味噌汁を飲んでいた。これが普通だったんだ。

今僕が座っている位置には、いつか幸ちゃんが座って三人でご飯を食べている。

でもそれは、もう叶わない。なんで、なんで、こんな優しい人ばかり奪われてしまうんだろう。

姉さん達もこんな気持ちだったのか、間に合わなかった時、助けれなかった時。

 

「夜去君、ありがとう。君のおかげでもう一度、お味噌汁を飲めた」

「俺は幸せ者だ。もう会えない、話なんてできない、そう思っていた。でも君と美雪と幸のおかげだ」

「あの男に感謝はしない、大切な人を襲うなら俺は行きたいなどと望まなかったからな」

僕なんて何もしてやれていない、感謝なんてされるべきではない。

 

「そろそろ、日の出だな。二人とも置いて行ってすまない。でも俺はお前達の幸せをずっと願っている」

美雪さんは中で待っているように伝えていた。それは近字さんの優しさだ。

僕と二人で外に出てきた。

 

「夜去君、これを渡しといてくれないか?」

 

「いやでも、これは自分で渡さないと」

 

「恥ずかしいんだよ、最後の俺のお願い聞いてくれないか?」

 

「わかりました、渡しておきます」

 

「夜去君、君は優しい。だから、自分をたくさん責めると思う。でも俺は君の優しさに救われた、鬼の俺にまで寄り添ってくれた」

「君はこれから、沢山の人を救える人になるよ」

「でもね、助けれない命もあると思う。そんな時、あまり自分を責めないでほしい。」

「助けれなかった人の中にも感謝している人は必ずいるから、俺のようにね」

そのあと、近字さんは日の下に自分で歩きだした。とても苦しそうに燃えて、消えていった。

美雪さんが中から出てきて、大声で泣いている。

 

 

「美雪さん、これ近字さんからです」

それは簪だった。自分の大切な人、愛している人に渡すもの。

それを受け取ると、美雪さんは簪を抱きしめて、ありがとう、ありがとうと言っている。

それを聞いて、ほかの家から村人の人達が出てきた。

 

「お前、美雪さんに何をした」

石を投げられ、頭に当たり血が流れ出した。でも全然痛くない。

今はそれより胸がどうしようもなく痛い、とても苦しい、張り裂けてしまいそうだ。

 

「違うんです、夜去さんは」

 

「いいんです、僕を庇うと美雪さんも何か言われるかもしれません。中に入っててください」

石が美雪さんに当たったら大変だ、僕は早くこの村から去ろう。

 

「皆さん、お騒がせしてすみませんでした」

「二人をどうか、よろしくお願いします」

僕が言うべき言葉ではないと思う、でも伝えないとこの場からさることができなかった。

 

「早く出て行け」

これぐらい、遠ざけてくれた方がよかった。あんなに感謝なんてされるべきではなかった。

僕が願うのもおかしいかもしれませんが、どうか幸せに暮らしてください。

 

「夜去、血が。すごい出てる」

 

「大丈夫、大丈だから。心配しないで?」

 

「今日は、藤の花の家紋の家に泊まりましょう。少し休まないと」

朝にうまく返事できているだろうか、不安にさせてるかもしれない。

 

「ごめんね、朝」

「ちょっと、耐えられない」

涙は出ないが、歩けない。前に進むことができなかった。

その間、朝はずっと肩に乗ったまま、何も言わずに待ってくれた。

 

 

 

任務は初め緊張したが、鬼の首を直ぐに斬ることができた。

私は、今藤の花の家紋の家で晩ご飯ができるまで転がっている。他にも隊士の人がいるかと思ったが、誰もいなかった。

おばあさんがここの家で、料理、洗濯などをしてくれていた。

そのおばあさんの、おかえりなさいという声が聞こえてきた。

誰か隊士が来たんだと思う、仲良くなれるかな。

 

「こんにちはって、夜去じゃない」

「またすぐ会っちゃったね」

 

「真菰さん、そうですね」

あれ、夜去元気ないのかな?

おばあさんが、晩御飯を作ってくれたので夜去を連れて行く。

 

「夜去の好きなおにぎりだよ。食べないなら私が、全部食べちゃうよ」

 

「はい、あまりお腹が空いてないんです」

やっぱり、絶対に元気がない。私に無理して笑っている、心配かけないように。

 

「夜去、食べないと。何も食べてないでしょ」

 

「朝、ごめん。食べれない、喉を通らないんだ」

「お風呂、入ってくるね」

夜去がいなくなるのを待って、私は朝に何があったのかを聞いた。

 

「朝、何があったの?」

 

「鬼にされた男性に会いました。その男性は、鬼でしたが自我を取り戻しました」

鬼が自我を取り戻した、そんなことありえるのだろうか。

鬼は家族関係なく襲って、喰べてしまう。

 

「夜去は、その男性が愛する女性と少しの時間ですが、一緒に過ごせるように二人を見守りました」

「二人はとても感謝していました。でも夜去はそう思っていない」

「助けれなかった自分、鬼の首を斬れなく日の下で苦しみながら殺してしまった自分のことを、感謝されるべきではないと思っています」

「そして村の人から、その女性に何かした人だと思われ、たくさん石を投げられ、罵詈雑言を吐かれました」

そんなことがあったのか。夜去は特に優しいからすごく気にしていると思う。

でも、村の人もそれはないだろう思った。夜去は守ったのに、村の人、その女性と男性を。

 

その話を聞いたあと、私は何も声をかけてあげることができなかった。

お布団を敷いてもらい、別の部屋で寝ることになった。

私は、おばあさんにご飯はないかと聞くと、まだあるよと言っていたので、おにぎりを作って持っていくことにした。

鬼の男性の話を考えながら握っていると、すごく大きくなってしまった。

 

「流石に、大きすぎたかな」

「夜去中いる?入るよ」

でも部屋に夜去の姿はなかった。

どこ行ったんだろう、朝もいないし。

探していると、縁側で座って空を見上げている夜去がいた。

 

「朝、僕は鬼の首を斬れなくとも、みんなを助けられると思ってた」

「でも鬼になってしまった人達のことを、ぜんぜん考えてなかった」

「僕が鬼の首を斬れないから、すごく辛い思いをさせてしまった」

「相手に寄り添ってあげない人は、弱い人と言っておきながら、僕もその弱い人だったよ」

「僕は、ぜんぜん強くなんてなれてなかったんだ」

夜去ほど鬼のことまで考えている鬼殺隊員はいないと思う。それが、夜去の良いとこであり、悪いところでもあると思う

けど、私はその言葉を許さない。

 

「夜去何言ってるの!あなたは弱くなんてない」

「鬼に大切な人を奪われて、それでも鬼にやさしくなんてできない。夜去も大切な人を奪われたんでしょ?でもあなたは、鬼のことまで考えてあげられる、それは強いってことだよ」

「その男性は夜去に感謝してたんでしょ?なら、あなたが否定してどうするの!」

 

「感謝なんてしてほしくなかった。ありがとうなんて言われたくなかったよ」

私は夜去の顔を叩いていた。

 

「そうして欲しかったよ、二人にも。でも二人は、二人はありがとうって」

 

「二人は、本当に感謝してたんだよ。最後に少しの間だけでも、家族で過ごせたんだもん」

「夜去はどうしてあげたかった?」

 

「せめて、せめて苦しくないように、首を斬ってあげたかった」

 

「わかった、ならこれから夜去と一緒に任務に行く。あなたが斬れない首を私が斬る」

何か言いたそうだったけど、私は話させずに口におにぎりを突っ込んだ。

 

「黙って、食べて」

私は夜去を優しく抱きしめた。

夜去は、涙をぼとぼとと落としながら、おにぎりを食べていた。

やはり、朝がいってたようにこの子は泣き虫だ。でも人のために涙を流せる、とても優しい子。

私がこの子を支えよう。この子にできないことを私がしてあげよう。

放っておくことができない、錆兎と義勇もそうなんだろう。そして、二人とも夜去のことが好きだ、私も好きなのかもしれない。

いや大好きなんだと思う。

すごく大きかったおにぎりを全部食べて、そのまま私に抱きついたまま肩で眠ってしまった。

 

「真菰さん、ありがとうございます。夜去は、真菰さんがいないと壊れていたかもしれません」

 

「大丈夫だよ、夜去は今からどんどん強くなっていく」

これから、何度も何度も、挫けて、転んで、後悔して。でも立ち上がって、進んでいくと思う

今、流したたくさんの涙は次の糧に間違いなくなる

私は信じてるよ、夜去

 

 




オリジナルの敵はやめました。

でも、これだけは必要でした。真菰ちゃんと任務に行くために。

鬼の首を斬れないことを僕が一番甘く考えてた。朝まで戦うしかないんだもん。
急遽いれた話だから少しおかしいかも…

読んでいくれている方々、ありがとうございます、これからも頑張るのでよろしくお願いします。

感想や評価をしてくれると励みになりまず。


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あなた達の笑顔を守りたい

────時間の流れは早く、あの日から早くも一年が過ぎていた。

忘れることなんてできない、でも今は二人の感謝を素直に受け止めることができている。

真菰さんにはこの一年、たくさん助けてもらった。あの時も真菰さんがいてくれたから乗り越えることができた。

 

「夜去、今日の任務終わったから泊まる所にいこっか」

あれからは二人で任務を行ない、真菰さんが鬼の首を斬り僕はその手助けをしている。

この一年でたくさんの鬼に会い、倒してきた。

錆兎さんと義勇さんも同じように倒し、つい先日下弦の鬼を倒して柱になったと聞いた。

やはり二人はどんどん先に行く。背中を追いかけて、追いかけて、並んだと思ってもまた離される。

 

「ついた〜」

藤の花の家紋の家には泊まらせてもらうことになった。

鬼殺隊員の人とはよく一緒になることがある。そんな時、真菰さんは誰とでも仲良くなることができるのですごいと思う。

玄関に行くと履物が置かれていた、もう先に隊士の人がいるんだと思う。真菰さんはとても嬉しそうだ。

その隊士の人とは寝室が別だったこともあり、なかなか顔を合わすことができない。

そしてお風呂に入り、晩ご飯の時間まで真菰さんとお話をしたりしていた。

 

「ご飯の準備ができました」

二人で、ご飯を準備してくれている部屋に急いだ。

 

「仲良くなれるかなー。女の子だったら嬉しいな」

真菰さんはどんな人とでも仲良くなれるから大丈夫だと思うけど。

仲良くなった男の人は、全員真菰さんを好きになっているんだと思う、だから僕はいつもその人達に押しのけられる。

僕は嬉しい、真菰さんが男女関係なくみんなから好かれていることが。

 

「大丈夫ですよl仲良くなれます」

真菰さんが障子に手を開けようとした時、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。

 

「しのぶ、隊士の方とは仲良くしないとダメよ」

 

「別にいいでしょ、姉さん。私は姉さんだけいればいいの」

 

「あらあら、可愛いこと言って」

 

「頭を、撫でないで!」

そして中からおしとやかな笑い声が聞こえてきた。

この人達といる時の姉さん達は、どこか嬉しそうで楽しそうだった。

この障子を開けると二人に会えるのかな、普通に接することができるだろうか。

気付けば、障子にかけている真菰さんの手を握っていた。

 

「どうしたの夜去??

緊張してる珍しいね」

心を落ち着かせ、真菰さんと一緒に障子を開けた。

そこに蝶の髪飾りをつけた二人はいた。とても優しかった二人笑顔がとても似合う二人。

ずっと会いたかった、カナエさん、しのぶさん。

溢れ出しそうな涙を堪え二人に近づいていく。

 

 

真菰さんが真っ先に二人に近寄り挨拶をしている、名前を名乗り、階級を言った。

カナエさんが柱というのを聞き真菰さんがすごく驚いている。

僕の階級は己、真菰さんは丁になっている。

しのぶさんは僕と同じ歳なのに、僕たちより階級が上の丙だ。

カナエさんと真菰さんは階級なんて関係なく、年齢が近いこともありすぐに意気投合してしまった。

ご飯を食べ終わると二人からは、少し大人の話をしてくるから子供の二人はここで待っててねとニコニコしながら言われた。

しのぶさんは額に青筋を立てていた、僕も少し子供扱いされたことが嫌だった。

二人はどうせ恋の話をしてくるんだと思う。真菰さんはそう言う話が好きで、カナエさんもまたそういう話が好きだったから。

 

「待って…

二人にしないでください」

つい口に出してしまった、怒った時のしのぶさんはとても怖いんだ。

しのぶさんを怒らせたと思い真菰さんとカナエさんは一目散で部屋から出て行った。

僕は怒った顔を見ることができるのが嬉しかった、あの日からしのぶさんは一度も怒らなくなった。

 

とても辛そうだった、どんどん遠くにいってしまうしのぶさんに手を差し伸べることができなかった。

僕が子供だったから。

胡蝶カナエになってしまった、胡蝶しのぶを失わせない。

絶対にあなたの大切なカナエさんを守る、貴方に二度とあんな思いをさせたくない。

 

「何、笑ってるの!」

 

「なんでも、ありません

そんなに怒ると老けてしまいます」

 

「なかなか言ってくれますね

私の方が階級は上ですけど」

 

「ごめんなさい」

素直に謝るとしのぶさんは笑った。

あなたのその笑顔が好きだった、時々見せてくれるその表情が。

 

 

「いつになったら戻るの!!!」

 

「二人のところに行きますか?」

女性二人が話しているところに行ってもいいんだろうか。

でもこのままじゃ本当にまずい、待たされることがしのぶさんは嫌いだから。

やっぱり行こう、しのぶさんの手をとり二人で歩きだした。

 

────

何故だろう、私は男性があまり好きではないが、夜去だけは違った。

同じ歳だと言われたが、そんな気が全くしない。

とても昔に会ったような、どこか懐かしい気がした。

私と姉さんは辛い思いをさせてしまったのだろうか、夜去は私たちを見て涙を堪えている気がしたから。

 

姉さんはいつも笑顔で誰にでも優しい、そんな姉さんと私は違い短気で可愛げなんて全くない。

だから他の隊士の人とも仲良くなることができない。

でも私はそれでもいいと思っている姉さんと蝶屋敷のみんながいてくれれば。

短気の私なんて受け入れてくれるのは、姉さんと蝶屋敷のみんなだけだと思った。

でも夜去は違った、怒った私にも姉さんのように接してくれる。

夜去となら、もしかすると友達というのになれるのかもしれないと思った。

 

夜去に手を握られた時、ものすごく恥ずかしかった。

男性に手を握られるなんて、嫌なものだとばかり思っていた。あまり嫌という感じはしない。

私はそこまで男性のことを毛嫌いしていたわけではなさそうだ。

でも姉さんが時々言っていた、好きな人に握られるのは違うのかもしれないねと。

 

────

しのぶさんとカナエさんが泊まる予定の部屋に二人はいる。

これは僕が開けてもいいものなのだろうか。

 

「しのぶさん、開けてくださいよ」

 

「一緒に開けませんか?怒られるなら二人での方がいいでしょう」

そんなことないと思うけど、だってカナエさんは優しいし、真菰さんも怒った時はあの時だけだけだから。

 

障子を開けると、布団の上に座り恋の話で盛り上がっている二人がいた。

 

「なんで、夜去来ちゃったの!」

「待ってって、言った!」

 

「結構、待ちましたよ」

 

「夜去、今日は一緒の部屋で寝てあげないからね」

それを聞いてるカナエさんはとても嬉しそうだった。

真菰さんとは同じ部屋で寝ないことになったので、僕は別の部屋に布団を敷いてもらった。

今まで寝るときには隣に真菰さんがいた、でも今日はいない。

落ち着かない、それに寝れない。

 

 

「全然、寝れない…縁側で暖かいお茶でも飲もう」

暖かいお茶を入れて、縁側に向かうと長い髪を蝶の髪留めで留めている女性がお月様を見ていた。

あの日もこんな感じだった、蝶屋敷に泊まった時なかなか寝付けなかったので縁側に行くとカナエさんがいた。

その時にカナエさんの想いと、夢を聞いたんだ。

 

「こんばんは、夜去君

真菰さんがいないから寝られないんですか??」

 

「私が一緒に寝てあげましょうか?」

真菰さんがいないと寝れないということは認めたくない、カナエさんには満面の笑みで問いかけられる。

そんなことをしたのなら僕に明日は来ないだろう。

 

「大丈夫です、しのぶさんに…」

口に出すだけで怖くなってきた、やめておこう。

少しの沈黙が続いた後、カナエさんが口を開いた。

 

「夜去君になら話してもよさそうな気がします

不思議です、今日初めて会ったのに」

初めてカナエさんから、その想い、夢を聞いた時は意味がわからなかった。

何故鬼に寄り添ってあげないといけないのか、なんで鬼と仲良くなりたいと思っているのか。

でも今ならわかる。

 

「カナエさん、僕から少しだけいいですか?」

カナエさんはなかなか話せずにいる、鬼殺隊、それに柱がそんな夢を口にしたらなんて思われるかは目に見えている。

僕にも夢を否定されると思っているんだと思う。

 

「はい…いいですよ」

 

「僕はある人に言われました

鬼も元は人間、だから鬼にも寄り添ってあげてって」

その言葉を言われるまでは、鬼を一方的に恨み鬼の気持ちなんて考えたことなんてなかった。

カナエさんに鬼と仲良くなりたいと言われた時、僕はなれますとは言えなかった言いたくなかった。

でも今は違う、その言葉はすぐにでも返せます。

 

「カナエさん、優しい心を持った鬼はいます

いつの日か夢は叶います」

優しい心を持った鬼に僕は二度も会った。

いつの日かを迎えてもらうためにも絶対に助ける。

前はお別れなんてできなかった、今度はお別れなんてしなくてもいいように。

 

「私の夢を知っているんですか?」

 

「カナエさんにとても似た人を知ってます……」

「その人はとても笑顔が似合う人で、誰にでも優しい人でした

お花のような人だったんです」

 

「鬼の気持ちににまで寄り添ってあげられる誰よりも優しい人で、強い人でした。

僕もその人のようになりたいと思っています」

憧れた、カナエさんのように相手の気持ちによりそってあげられるようになりたいと今でも思っている。

 

「その人は、偉大な人ですね

私もそんな人になりたいな」

もうなってるんです、それはカナエさんだから。

涙を流しながら、月を見上げている横顔はとても綺麗だった。

顔が熱くなったこともあり、僕は下を向いた。

 

────

夜去君には全て話してしまいそうだ。

何故かはわからない、でもいつかも話したことがあるようなそんな気がしたからかもしれない。

でもあの言葉を口に出すことはなかなかできない。柱の私がそんなことを言ったなら失望されると思ったから。

私は異常だと思う、鬼に大切な家族を殺されたのに仲良くしたいと思う人はいないだろう。

誰も認めてくれなかった、妹であるしのぶにさえ怒られる。

でも夜去君は違った。

 

初めてだった、優しい心を持った鬼がいるといってくれた人は。

そして私の夢は叶うと言ってくれた、私の夢を知っている理由のが不思議だ。

でも今は考えることができなかった、初めて認めてくれる人がいて嬉しいという思いで一杯だった

 

落ち着くとやはり夢を知ってるのが気になり聞いてしまった。

私に似ている人を知っているからだと言ってくれた、その人の話をしている夜去君は嬉しそうだった。

私も夜去君の憧れの存在になりたいな。

 

 

 

 

 




きたああああ、ヒロイン人気の胡蝶姉妹。


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白昼夢

「私は花の呼吸、しのぶは蟲の呼吸を使うの。二人はどんな呼吸を使うの?」

 

「私は錆兎と、義勇と同じで水の呼吸だよ

夜去の呼吸は私もあまりわからない」

これはよくない流れだ、呼吸の話になってしまった。

みんなが見せている流れで僕だけ見せなかったらなんて思われるだろう。

ここであれを使えば一石二鳥だ、その作戦しか今の状況を打開する方法はない。

 

「自分の日輪刀を取ってきます」

三人の前で鞘から抜くなんてできない、泊まっていた部屋で刀を抜き三人の元へ急ぐ。

初めて使う型だ、お願いだから変な事は起きないでほしい。

 

「お待たせしました…それじゃあ、いきますよ」

 

「時の呼吸・三ノ型 白昼夢」

周りにいる人の未来を見る型だと記されていた。

ここで会えたのはいいことだ、本当はこちらから蝶屋敷に伺おうとしたがここで会えたおかげで二人の未来を疑われることなく見れる。

明後日カナエさんは上弦の弐と会ってしまう、ここでも変わらないのかな。

 

あまり先を見すぎると体に影響が出る、今この場で血なんて吐いたものなら心配されてしまうからあまり遠くは見られない。

未来が見えたがあまり驚きはない。過去にも戻ることもできたし自分の時間の流れを早くもできるからだ。

瞳に二人の未来が映し出される、今日も明日も何もない。

二人とも、今日も明日も蝶屋敷で過ごすみたいだ。

 

「はじめまして、綺麗なお姉さん」

 

「こんな綺麗な女性に会えるなんていい夜だ

名前を聞いてもいいかな?」

 

ここから先は見たくない、見なくていいこんな未来になんてしないから

見たところで耐えられるはずがない。傷つきたくない自分の弱さで先を見なかった。

 

「夜去、鼻血すごいでてるよ?なんか変なこと考えてたでしょ。カナエちゃんとしのぶちゃんずって見て!」

変なこと…か。

悪い方向にいってしまい、また同じように繰り返してしまったらと。

そんなことを考えてしまっていた、守ると決めたのに弱気になっていた。

 

「考えてました」

真菰さんに嘘は通用しないことはよくわかっているつもりだ。

 

「夜去の変態!!!一人ならいいけど二人はダメだよ

いや、やっぱり一人でもダメ!」

言っている意味が僕にはあまりわからなかった。

もやもやしていた僕の心を一気に照らしてくれた、真菰さんはやはりすごい。

 

「鼻血を拭いてください、姉さんで変な事を考えているなんて許せませんね」

「もちろん、私もダメですからね」

 

「私は全然いいのよ???」

カナエさんは美人なんだからしのぶさんと同じくらいしっかりした方がいいと思った。

こんなに悩んでいる僕が馬鹿馬鹿しくなってきた。なんとしてでも守るそれでいいんだ。

 

「夜去

私も…」

 

「大丈夫です」

真菰さんがほっぺを膨らませて怒っている。

 

「夜去、時の呼吸とか言いながら何も起きてないじゃん」

 

「確かに何かしました?」

 

「私もわからなかった」

わからなくていい、今はそれでいいんんだ。

使えない呼吸を口に出して言っていると思ってほしい。

よかった気付かれてなくて、隠し通すことができるならそうしたい、でもいつかは気付かれると思う。

 

「自分で今考えたんです」

 

「私達を揶揄っているんですか」

 

「そうかもしれません」

あなた達に気付かれないためなら、どんな嘘でも言いますよ。

 

────

「私達は蝶屋敷に帰るから、二人ともいつでもきてね」

 

「夜去は姉さん目的で来たら入れさせてあげませんからね」

 

「カナエさん目的で行きます、待っていてください」

カナエさんは少し恥ずかしそうに下を向き、二人からはすごい目で見られてしまった。

しのぶさんは勘違いしていると思う、カナエさん目的と言うのは蝶屋敷の家族の元に連れて帰るという意味だ。

 

「またね、カナエちゃん、しのぶちゃん」

これが三人で会える最後のなんてことには絶対しない。

 

 

一日、また一日と過ぎていきとうとう来てしまった。

真菰さんをあの場所に連れて行っていいものか、悩んだ末に真菰さんの未来も見た。

あんな光景は見たくなかった、あれを見て連れて行けるほど僕の心は強くはない。

二人とも生きていてほしいから連れて行かない、二人を守るなんて今の自分にはできない。

仲間を信じてないわけではない、でも僕は自分を信じることができていないんだ。

これを相談できる人もいない、言ってしまうと呼吸のことも言わないといけないから。

 

「真菰さん、今から出ても大丈夫ですか?」

 

「なにか、用事あるの?」

「いいけど、早く帰ってこないとダメだよ」

朝までは絶対に戻れない、明日は任務がないからゆっくり休んでいてほしい。

 

「はい」

 

「朝

何があっても、真菰さんとこの部屋にいて

約束してくれる?」

 

「私も行きますよ」

 

「鬼殺隊はいつ何があるかわからないから

お願い」

 

「わかりました」

戦うんだ蝶が花に再びとまれるように、その美しい花が枯れないように。

 

 

 

 

 

 

 




次回、童磨さん降臨します


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月下に咲く涙花

「アオイ、カナヲ、蝶屋敷をお願いね。姉さんは見廻りに行ってくるから」

早く帰ってきてあげなくては、しのぶも今日は任務に行っている。

夜の見廻りはとても大変だ、鬼に会うことだって頻繁にある。

私としのぶのような思いをする人がでないようにするために鬼殺の道に進んだ。どれほど大変でも、街の人を守れていると思うと頑張ることができる。

いつか、仲良くできる鬼がいると信じて今日も暗い街に向かう。

 

今日は珍しくも鬼に全く遭遇しない。

いいことなのだが、それが嵐の前触れのようで私は気持ちが悪かった。

こんな時こそ、楽しいことを考えよう。

 

「そういえば、しのぶは今日の任務が終わると、階級が上がるわね」

帰ったら、みんなでお祝いしてあげなくちゃ。

しのぶの好きな生姜の佃煮も作ってあげよう。私はあまり料理が得意ではないから、アオイに教えてもらいながらだけど…

喜んでいる顔が想像つく、あなたの笑った顔が姉さんは一番好きよ。

何をあげたら、喜んでくれるかな。しのぶは少し難しい所があるから、ものすごく悩む。

それにしても蝶屋敷はとても賑やかになった。今では、蝶屋敷のみんなが私の大切な家族。

あなた達からたくさん元気と勇気をもらっている。笑顔でいられるのもみんなのおかげ、本当にありがとう。

 

 

今日もお月様がとても綺麗だ、そう思いつつ空を見上げていると体に寒気が走った。

今まで、沢山の鬼と会ってきた。それなりに実力もあると思っている、だから柱にまでなることができた。

こんな感じは初めてだ。体の震えが止まらない、今すぐにでも逃げてしまいたい。

前を向くと底には、血がかぶったような模様をした白橡色の長髪に、虹色の瞳をしており左目に「上限」右目に「弐」の文字が刻まれた男が立っていた。

この男は見なくとも鬼とわかってしまう、血の匂いが嫌というほどしたからだ。見たことはないがその鬼は閻魔様を彷彿とさせる。

 

「今日はとてもいい日だ。綺麗な月が出ているし、こんなに美人な女性にも会えた。君の名前を聞かせてくれない?」

 

「私は、花柱 胡蝶カナエ」

 

「カナエちゃん、いい名前だね。久しぶりだなあ柱は。俺の名前は童磨」

「友達になれると思わない?」

鬼と仲良くなりたいという夢がある私でも、この鬼のことを拒絶している。

沢山の人を殺している、この鬼からはなんの感情も読み取ることができない。

 

「あなたとは友達になりたくありません」

 

「んー、そっか。なら君も救済してあげる」

「怖がることはないよ。俺が君を喰べることで、君は俺の中で永遠に生き続ける。とても幸せなことじゃない?」

幸せ?何を言ってるんだ、こいつは。それは人を殺すということに他ならない。

それを救済と呼んでいるのか、この鬼は。怒りを通り越して、呆れてしまった。

 

「私はあなたの救済など求めていません」

「あなたの言葉はとても軽い。幸せを本当に感じたことがありますか?誰かと一緒にいたい、笑顔を見たい。そんなことを考えたことはありますか?」

この鬼はしあわせというものをわかっていない。永遠に生き続けることが幸せなんかじゃない。

大切な人がいない永遠など欲しくない、それなら大切な人といられる一秒を私は選ぶ。

 

「考えたことないな、そんなこと。生まれた時からずっと」

この鬼は可哀想なんだ。大切なものがない、命を懸けてでも守りたいものがないんだ。

私は、その鬼を憐れむような目で見つめる。

 

「あなたはとても可哀想ですね」

鬼は私を笑顔のまま見つめている、その笑顔の下には狂気が込められていることを感じる。

けど私は臆しない、鬼の心に響く言葉を放つ。

 

「あなたは感情がないんですよ、幸せを感じれない。本当に気の毒です。あなたに生きている意味なんてありません、私が斬ってあげます」

けど私の体が言っている、この鬼には勝てないということを。上弦の鬼それは柱3人分に匹敵する、その中の上から弐番目。

それでも、私は逃げない。

花柱、胡蝶カナエがここで死んだとしても、この鬼の特徴をみんなに伝えてもらう。負け戦でも、戦うことに意味があるんだ。

 

「そんなこと言われたの初めてだよ。なんでそんな酷いことをいうのかな」

日輪刀に手を添え、ゆっくりと鞘から抜く。

 

 

「花の呼吸・弐ノ型 御影梅」

童磨は扇子で私の攻撃を弾いてみせた。

 

「カナエちゃんは俺と戦うの?君じゃ勝てないよ。柱なんだろうけど、今まで、喰べた柱より弱いもの」

私は柱の中で一番弱いかもしれない、だけどこの鬼には言われたくない。

私達の今までの努力を馬鹿にされているようだ。刀を振り続けた、どんなに苦しくても。もう誰も私達のような思いをしなくて済むようにと。

 

「君は美人なんだから。普通に生きてたらよかったのに。鬼殺隊とかいうイかれた集団に入らなくてもよかったのに」

鬼殺隊を馬鹿にするな。悪鬼からたくさんの人を守っている、自分の命を懸けてでも守りたいもののために戦っている。

私も、そんな鬼殺隊の一員であれることに誇りを持っている。

普通に生きれたらどれほど良かっただろう。お母さん、お父さん、しのぶとで毎日いられたらそれで良かった。

あの日普通の人生を歩む事を諦めた、私は大切な人のために戦う。

 

「もう喋らないでほしい。声も聞きたくない」

 

「ひどいなぁ。決めた、君を喰べてあげる」

童磨は扇を構えた、やっと戦う準備をしたか。

 

 

目を一瞬閉じた瞬間、目の前に童磨が迫っていた。

少し遅かったら致命傷だった、冷や汗が止まらない、戦いに集中しないと。

柱の中でも速さになら自信がある、でも童磨も速い、さっきの攻撃は瞬間移動したみたいだった。

 

「カナエちゃん、速い、すごいよ。弱いなんて言ってごめん」

ものすごく馬鹿にされている感じがする。あまり怒らない私でも怒りを覚えた。

童磨は再び、血鬼術を使うことなく、扇で斬りかかってくる。

さっきの攻撃で、こいつの速さはもうわかっている。地面を蹴り、攻撃を避けて反撃にでる。

 

「花の呼吸・伍ノ型 徒の芍薬」

九連撃の攻撃を放つ型。童磨はこれを知らない。

童磨の体を日輪刀が切り裂いた、斬った部位からたくさん血が出たそれでも満面の笑みを崩さない。

即座に傷は塞がった、その速さに驚きを隠せない、下弦の鬼とは次元の違う速さだ。

私の感がここで攻撃を続けないといけないと告げる。

 

「花の呼吸 陸ノ型 渦桃」

花の呼吸、最大威力の型。これで、童磨の首を斬る。

ここを逃せばもう私に勝ち目はないと肌で感じる。

それほど上弦の鬼が甘くないということは分かっている、でも私の鎹鴉が鬼殺隊に「上弦の弐」のことを伝えてくれたら誰かが倒してくれる。

柱として後輩のために、たとえ私がここで死んだとしても。

しのぶ、カナヲ、アオイ、きよ、すみ、なほ、ごめんね。あなた達と過ごせた時間はとても幸せだった。

 

「血鬼術 蓮葉氷」

首にあと少しで届いた、でも鬼の血鬼術により片脚が凍らせされ目の前に跪いた。

呼吸をすると肺が痛い、眼球も凍らされて目の前が暗闇に包まれる。

私はここで死ぬんだ。死ぬのはやはり怖い、死ぬことというよりお別れが怖い。

ここにいるのがしのぶじゃなくてよかった。昇級を祝えなくてごめんね、一緒にいてあげられなくてごめんね。

 

「よく頑張ったよ、カナエちゃん。あまり強くないのに、ここまで。痛くないように君を救済してあげるからね」

 

「幸せになってね、しのぶ」

願ったのはしのぶの幸せ、蝶屋敷にいる私の大切な家族の明るい未来。

 

 

「血鬼術 蓮葉氷」

先程、肺と脚と眼球を凍らされた血鬼術が聞こえる。

そんな時私は浮遊感を感じた、息をするだけで辛かった肺が辛く感じない、動かなかった足が動く。

少し先を予知したのだろうか。

目を開けると少年にお姫様抱っこをされていて、童磨から遠ざけたところでゆっくりと降ろされた。

私の夢を初めて受け入れてくれた人、背中を押してくれた人。私と身長がそれほど変わらない、手足も細い、背中だって大きくなかった。

それでも今はとても大きく見える、私に童磨を見させないように立っている。

私が守らないといけない、鬼殺隊の後輩。

 

「逃げて、夜去君。そいつは上弦の弐。あなたじゃ勝てない」

「柱の私が時間を稼ぐから、だから逃げて」

私は彼を心配させないように、いつものように笑った。

お母さんと、お父さんが鬼に殺された日以来、しのぶに心配をかけさせないように笑顔でずっといる、いつしかそれが普通になった。

人前で涙を流したことはない、でもたまに辛い時は一人で泣いている、誰にも見つからないように。

今だってそうだ。みんなと会えなくなることを想像してしまい、今すぐにでも泣き出してしまいそう。

でも泣いてはいけない、しのぶの姉として、花柱として。

 

「逃げれるわけありません、そんなに苦しそうに笑うカナエさんを置いて」

「笑わなくてもいい、涙を見せてもいい、苦しいことは全部吐き出していい、僕が全部受け止めます」

「柱でも助けを求めてもいい、泣いていい。あなたの助けを求める声が聞こえたら、どんなに離れていても、どんなに強い相手のところへでも行きます」

「今日勝てなくていいんです、何度負けてもいいんです。いつか倒しましょう、みんなで」

後輩に言われるなんて思ってもいなかった。笑わなくてもいいんだろうか、涙を見せてもいいんだろうか。

受け止めてくれる、その一言が心に響く。

柱なら、後輩のために命を懸けるのは当然のことだ。後輩に助けを求めるなんて、あってはいけないことだと思う。

それでも本当にこの子なら来てくれそうだ、どんなに絶望に満ち溢れている場所へでも。

でも、夜去君には逃げてもらわないといけない。

 

「私のことはいいから、逃げて」

 

「そんなに、泣きながら言われたら尚更逃げれませんよ」

「違うでしょ、カナエさん。他に伝えたい言葉はないですか?僕は待ちますよ、とても意地悪ですからね」

私は今泣いているのだろうか、泣くという感覚を忘れていた。

この少年は、悪意に満ちた笑みを浮かべて言ってくる。でもその笑顔は太陽のように暖かく、先程までの冷たい周辺の空気を暖めてくれる。

童磨の笑顔とは全く違う。

私の伝えたい言葉、柱になってからは言ったことがない言葉。

 

「私は、また蝶屋敷のみんなに会いたい、蝶屋敷に帰りたい。だから、だから……………私を助けて………夜去」

子供のように泣きながら、しのぶと同じ歳の少年に抱きついていた。

私は頭を撫でられたいる後輩に。今とても恥ずかしい姿を晒している、それでも涙がとめどなく溢れ出す。

 

「はい、帰りましょう」

私に自分の羽織を被せて、夜去は童磨に近づいていった。

 

 

「君は、誰なのかな。俺が折角カナエちゃんを救済してあげようとしてたのに、邪魔しないでくれる?」

「あと少しで幸せになれてたんだよ?」

 

「カナエさんを幸せにできるのは、貴方じゃない」

 

「それじゃあ、君とでも言うのかな?」

 

「そんなこと言いません。カナエさんを幸せにできるのは、蝶屋敷のみんなだから」

 

「ふーん。まぁ、どうでもいいけど。君じゃ俺に勝てないよ」

 

「勝てないかもしれない。でも僕は倒れません、後ろに守る人がいる限り」

守る人と言われことは柱になってから一度もない。柱は常に守らないといけない存在だから。

 

「カナエちゃんは柱でしょ。柱は君みたいな弱い後輩を守るんじゃないの?」

 

「十分守ってもらった、何度も、何度も。

柱の人達、鬼殺隊の皆さんには数え切れないほど。そこにはカナエさんも含まれているんです」

 

「僕がなります。柱を守る柱に」

やはり私は夜去とどこかで会っているのだろうか。どれほど考えてもこの少年との記憶はない。

でもそれはとても懐かしく、暖かい記憶だと思う。忘れられない、でも忘れてしまった記憶。

私は夜去を本当に守れたのかはわからない、でもそれが本当ならどれほど嬉しいことか。

だんだんと瞼が下がっていく。また会いたい、夜去の笑顔を………また見たい。

 

 

 




D磨さんと夜去の戦闘、難しいなぁ。
少し時間空くかもしれません、よろしくお願いします。


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日日是好日

カナエさんごめん、もう少し早く見つけることができたなら辛い想いはさせなくて済んだ。

入夜さんに、時の呼吸の二つの型を教えてもらっていて良かった。

あの型がないと、カナエさんをまた失っていた、使ったことに後悔は全くない。

 

「君が柱を守る柱に?面白いこと言うね」

童磨が笑っている、笑われて当然だ。

柱の皆さんに追いつけるのはいつなんだろう、そして隣に並んで戦える日は来るんだろうかと思う。

でも一度決めたら、絶対に諦めない。

(夜去、一度決めたらどんなことがあっても諦めないで、途中で逃げ出したり、後ろを向くこと中途半端なことは許さないわよ)

大切な姉さん達と約束したんだ。

 

「夢は人を変えます、貴方に夢はないんですか?」

 

「ないなぁ、夢なんて俺はいらないかな」

その言葉にとても腹が立った。夢が持ちたくても持てない、わざと持たない人たちを知っている。

先のない未来に二人は夢なんて持たないと決めていたんだ。

未来の話を聞きたかった。

 

「夢を持ちたくても、持てなかった人もいます

未来に自分たちはいないから、生きられないから」

 

「だったら、鬼になったら?ずっと生きていられるよ」

なれるわけがない、自分の親が鬼に殺されたんだから。

二人は何があっても鬼になんてならない。

もういい、この鬼と話すのは疲れる。

 

「早く殺しに来ないと朝になりますよ?」

 

「そんなに、救済して欲しいならしてあげるよ」

 

 

「血鬼術 蓮葉氷」

この蓮の花の氷に触ったら、触れた場所が凍結する。

童磨は確かに動きが速い。でも時の呼吸を使った僕から見たら遅い。

 

「時の呼吸・二ノ型 朝明の風」

氷がカナエさんに当たらないように‘斬る。

 

「そんなのしかできないの?君弱いよ。カナエさんの方が強いし、かっこいい」

童磨の顔から笑顔が消えた。君にも怒りという感情があったのかな、それなら良かったね

 

「すごく癪に触るよ君は。名前を聞かせてよ、忘れないから」

 

「怒りの感情があったんだんですね

明月夜去」

 

「血鬼術 結晶ノ御子」

「血鬼術 冬ざれ氷柱」

「君は守ることができるかな?カナエちゃんを」

自分の分身を出して、そこから他の血鬼術も使うことができるのか。

絶対に守る、カナエさんにあれほどまで言わせたんだ。

連れて帰るんだ、しのぶさんの元に、蝶屋敷の皆さんの元に。

 

「時の呼吸・四ノ型 可惜夜」

周りにいる者の時間の流れを遅くさせる型

今、童磨は分身がたくさんいるから安心している。

童磨に斬りかかろうか悩む、人間の痛みを感じて欲しい。

分身から出されている、氷の柱を全部切り落とし、童磨の首を狙いに行く。

首に刀が当たり、静かな夜に嫌な音が響く。

 

「君はなんなんだ。どうやって、あれほどいた分身、氷柱を破壊した」

「それに今、僕の首まで迫っていた。全く見えなかった」

童磨の目でさえ追えない速さで動いている、ただそれだけのことだ。

僕は時の呼吸を使わないと追いつけない。でもカナエさんは普通の状態でこれをしていた。

やっぱりすごい弱くなんて絶対にない。

 

「君首が斬れないでしょ?今のでわかった」

「君は救済しなくてもいい。カナエちゃんだけは絶対に救済していくよ」

絶対にさせない、連れて帰るんだ、みんなのところへ、大切なあの場所へ。

童磨は笑っている、何か作戦があるのか。隙を見せるな、安心するな。

 

「これは、どうかな?」

「血鬼術 凍て曇」

この氷の中で目を開けていたら、眼球が凍ってしまう、それに肺も凍りつく。

カナエさんをもっと遠くに逃がさないと。

前が見えない、どこにいるかわからない。いくら周りの時間を遅くしても冷気だけは止められない。

肺が凍り始めている、息をするのが辛い。それでもこの痛みに今耐えられる、守りたい人がすぐ目の前にいるから。

 

「夜去、どこにいるの?」

聞こえたのは来てほしくなかった人、止めるって約束したのに。

今は二人と朝をここから遠くへ行かせないと。

声を発するのが辛くても真菰さんと朝に届くように、痛みを隠して叫ぶ。

 

「真菰さん僕は大丈夫です、カナエさんを遠くへ連れて行ってください」

前が霞んで見えなかったけど、遠くに離れていく気配が感じ取れた。

来てくれて良かったのかもしれない、真菰さん、朝ありがとう。

 

「辛いよね。肺が凍ってしまったら、息をするだけで辛いだろう。そこで倒れてな」

「もう一人、可愛い子が来たから。二人とも救済してあげよっ」

 

「なんで辛いのに立つの?」

守らないといけない人がいる、絶対に行かせられない。

二人の元へ向かう足を失ったとしても、見たい人の笑顔を見るための目が凍結してでも、大切な人達と繋ぐ手を失ったとしても。

それでも僕は守り抜く。

自分に誓い、未来の皆さんと約束をしたんだ。

 

「これで終わらしてあげるよ」

「血鬼術 枯園垂れ」

近接技を使う今しかない、ここで童磨を退かせる以外に助けられる道はない。

 

「時の呼吸・五ノ型 日日是好日」

斬った相手の部位に時間をかける型、時間をたくさんかける分寿命をたくさん使う。

朝までの残り時間をかける、それまで斬られた部分は再生しない。

少しでも人間の痛みを思い出してほしい。

そしてわかってほしい失う怖さ辛さを、それを背負って戦っている鬼殺隊がどれほど偉大なのか。

 

日輪刀を持っていた方の手に扇が当たった、氷始めているもう少しだけ動いてほしい。

扇を当てられながらも、何とか童磨の右腕を切り落とした。

今片腕だけではダメだ、ここで退かせないと二人の方へ行ってしまう。

 

もう片方の腕にも刃が入ったが斬れない、腕が凍り動かない使えなくなってもいい、だからあと少しだけ動いて。

扇が顔の前まで来たこの距離はもう避けられない、二人は遠くに逃げてくれただろうか。

扇が顔の前で止まり目の前には桃色の日輪刀がある、それはカナヲ姉さんからもらった日輪刀に何処か似ている。

 

そして童磨の左腕に食い込んでいた刀が自由になる。

一人では斬れない、でも仲間となら斬られた。

鬼は後ろに退いた、表顔には先程までの余裕はなく冷や汗すら流れている。

 

「なんで、再生しない。何をした」

「なぜ助けに来たの、死ぬかもしれないのに」

 

「大切な仲間だから」

カナヲ姉さんの言ってくれたように、仲間は助けに来てくれた。

仲間を信じていなかったのではない、ここに呼ぶことができなかったのは僕が自分を信じれていなかった。

また失ったらと思うと、怖くて怖くて仕方なかった。

よく夢を見る、僕が関わったことで生きていた人も全員いなくなる夢。

大切だった人は全員いなくなり、そして大きな屋敷で一人でいる夢だ。

 

「明月夜去、次会った時は必ず殺す」

鬼の言葉は全く怖くなかった。

 

「帰りましょう」

二人が笑っていることが奇跡のようだ。

真菰さんが冷えきった腕を温めてくれ、カナエさんはずっと涙を流しながら手を握ってくれているが感覚はない。

 

鬼殺隊員がたくさん走ってきている、まだ日h昇っていない。

早く童磨を退かせることができてよかった、この人達が殺されていたかもしれない。

カナエさんが見せていた涙を拭き、隊士の皆さんに指示を出している。

 

「カナエさんは強がりです」

 

「どうしたの、夜去?」

 

「秘密です」

 

「なに、なに!?気になるよ」

この話は先にしのぶさんに聞かせてあげないと、真菰さんにはまた今度だ。

 

「カナエちゃん、夜去と何があったの??

なんで、顔赤くなってるの!?」

やっぱり恥ずかしかったんだ。

 

息をするのが辛い、腕に感覚がない。痛みで今すぐにでも倒れそうだ。

しのぶさんは笑顔を見せてくれるだろうか。

早く会いたい、しのぶさんの本当の笑顔をもう一度見たい。

 




次回、しのぶさん視点。


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蟲柱 胡蝶しのぶ

「花柱、胡蝶カナエ 上弦の弐と遭遇」

上弦の鬼は、柱三人分の実力。それなら、姉さんはどうなる?考えたくない。

早くこの鬼を倒して、姉さんの元へ向かいたい、この鬼を無視してでも。

鬼に上手く攻撃できない、いつもならこんな雑魚鬼すぐに倒せるのに。

息が上手にできない、呼吸も上手く使えない。

でも私hここから逃げることを許されない、それは姉さんとの約束があるからだ。

(しのぶ、私達のような思いを誰もしなくていいように、私達が守れるようになろう)

姉さん、私逃げないよ。この鬼を倒して向かうからそれまで待ってて。

 

「姉さん、姉さん。今帰るから」

上弦の鬼がなんで、今まで姿すら現わさなかったのに。

考えてはいけない、いけないとわかっている、でも頭からこの考えが離れない。

姉さんがその鬼に負けてしまっている光景が、頭から離れないんだ。

私を置いていかないで、姉さんがいない世界で私は………生きていける自信がない。

涙で前が見えない、まっすぐ走れない。

なんでこんなに遠いの、任務に来る時とても近く感じたのに。

 

角を曲がれば蝶屋敷に着く、帰ったらしのぶおかえりと言ってくれるはずだ。

私の大好きな笑顔で、待ってくれていると思う。

 

「アオイ、カナヲ、カナエ姉さんは!?」

なんでそんな顔をするの、いつものように戻ってきてくれるよね。

探しにいかないと、もう日は昇っているから戦いは終わっているはずだ。

探しにいきたいのに、立ち上がることができない。アオイとカナヲが肩を貸してくれた。

アオイが泣いているのを見て、私もまた泣いてしまいそうだ。カナヲは、涙は流さないものの、たくさん汗をかいている。

 

 

「アオイにカナヲ、姉さんを探しに行ってくるから。蝶屋敷を、きよ達をお願い」

玄関を開けると、そこには三人が立っていた。

声を出すことができない、涙だけが流れて止まらない。生きていてくれた、帰ってきてくれた。

姉さんと、真菰さんに目立った傷はない。でも夜去からは呼吸をするたびに肺から妙な音が聞こえる、それに片腕が動かないみたいだ。

 

「私、もう帰ってきてくれないかと思った」

「おかえり、姉さん」

 

「夜去が守ってくれたの。私と真菰ちゃんを」

「ただいま、しのぶ」

やっぱりそうだったんだ、体を見た時からわかっていた。

命をかけて私の大切な人を守ってくれたんだ。

 

「ありがとうございます、本当にありがとうございます。大切な姉さんを助けてくれて。何かお礼をさせてください、なんでもします、させてください」

私の大切な姉を助けてくれたんだ、なんでもする。どんな要求にだって答えるつもりだ。

すると夜去は私の頬をつまんで言った。

 

「しのぶさんの笑顔で笑ってください、それだけでいいんです、ほかにお礼はいりません」

夜去はなんのために戦っているんだろう。鬼殺隊の隊士はそれぞれ何かを求めて戦っている。

鬼を滅ぼすため、お金をもらうため、力を手に入れるため。でも夜去はどれとも違うと思う、なんのために戦っているんだろう。

私の笑顔だけでいいなんて変だ。可愛げがない、無愛想な私の笑顔を見て誰が嬉しいんだろう。

でも、なんでもすると言ったからには断れない。私はぎこちない笑顔を夜去に見せた。

 

「なんで、夜去が泣いてるの」

 

「しのぶさんのその笑顔をもう一度見れたことが嬉しいんです

「ぎこちないですね、しのぶさんの本当の笑った顔は」

なんで、夜去は私の笑顔なんかでここまで喜んでくれるのだろうか。

姉さんの方が断然いいに決まってるのに。でもその言葉に嘘は混じってなかったと思う、全部本心だった。

不思議でたまらない、ついこの間会ったばかりではないような気がする。もっと昔に会っていたような気がして仕方ない。

前は失わせてしまったみたいな言い方だ、でもそんなこと気にしている時間はなかった。

夜去がひどい熱を出して、倒れてしまったからだ。

 

 

上弦の弍の撃退は、親方様を始め鬼殺隊全員の耳に届いた。

上弦の鬼を一人の柱と二人の隊士が撃退したということは、鬼殺隊の士気を上げた。

その士気を感じられない人がいる、倒れた後一週間も起きていない、もっとお話ししたいのに、お礼を言いたいのに、早く起きてよ夜去。

真菰さんが看病をしている慣れない手つきで、そして二人の水柱様もよく蝶屋敷に来る。

 

「しのぶちゃん、カナエちゃんの所に行ってあげて」

姉さんはあの日から、前のように笑わなくなった、どこか苦しそうに笑っている。

それでも涙は絶対に見せなかった、あの日以来、姉さんの涙を見たことはない。

あの眩しい笑顔をもう一度見たい、太陽のような笑顔がみんな好きだった。

 

「姉さん、大丈夫?」

 

「しのぶ、大丈夫だよ」

大丈夫じゃないということは声でわかってしまう、今までずって一緒にいたから。

私には何もできない、かけるべき言葉が見つからない。

しばらくすると水柱様と真菰さんが来て、任務に行くから夜去を頼むと言われた。

 

「胡蝶、あまり自分を責めるな。夜去はそんな胡蝶を見たら悲しむぞ」

 

「でも、私のせいで………」

 

 

「動いてはいけません。安静にしていないと」

アオイの声が近づいてくる、また誰か、無理して任務に行こうとしているのだろうか。

二人がこの部屋に入ってきた時、私達は声を失った。

 

「カナエさん、しのぶさん」

ずっと目を覚まして欲しかった人、お礼を言いたかった人。

声を出すのさえ辛いはずだ、歩くのもアオイに肩を貸してもらっている。

二人の水柱が頭をよくやったと撫でている、真菰さんは嗚咽をもらして手を握りしめていた、もう二度と離さないようにと。

 

「しのぶちゃん、カナエちゃん。夜去をお願い、私も任務を終わらせて早く帰ってくるから」

三人とアオイがいなくなり部屋には、私達だけになってしまった。

 

「私のせいで、ごめんなさい、ごめんなさい」

今の姉さんを変えれられる人はいない、前の姉さんにはもう二度と戻らないと思う。

謝り続ける姉さんを見て、夜去が悲しそうな顔をしていた。

何か閃いたんだと思う、その顔は悪戯をする子供のようだった。

姉さんの手の平に何か文字を書いて、悪意に満ち溢れた笑顔で笑っている。

 

「いじわる…でも私のせいで……」

 

「しのぶさんカナエさんが言ってました」

 

「言わないで、言わないでお願い」

私の知らない姉さんを知っているのだろうか、すごく気になる、聞きたくて仕方がなかった。

 

「何かあったんですか?私にも教えてくださいよ、気になります」

 

「やめて、やめて、その話はもういいから!しのぶも聞かないの」

こんな姿を見たことがない、恥ずかしがっている姿なんか今まで一度も、いつも余裕の表情で私のことを揶揄ってきた。

今しかない姉さんに今までの鬱憤を晴らす機会はない、私が揶揄ってやる。

夜去もその気が満々のようだった、そのあとは二人で姉さんを弄り倒した。

 

「二人とも許さない、ご飯なしだからね」

 

「ごめんなさいカナエさん

でも僕は病み上がりです」

 

「そうね、夜去には食べさせてあげないとね。しのぶはなしだけど」

夜去は最後まで姉さんの秘密を話してはくれなかった、優しすぎると思った、お人好しすぎる。

ちょっと待って、今なんて言った?

 

「私だけなしなの?なんでよ、ずるいよ」

 

「残念ですねしのぶさん」

優しいなんて嘘、やはり意地悪だ。

 

「夜去、後で傷に染みる薬塗ってあげる。楽しみにしててね」

姉さんはそんな私達、二人の会話を聞いて前のように笑っていた。

夜去は姉さんの暗く閉ざされた心さえこじ開けて、照らしてしまった。

 

「ご飯食べましょう、カナエさん、しのぶさん。あ、しのぶさんはなしか」

私と姉さんの手を取り歩き始めた。

手を握られたことが私は嬉しい、嫌なんかじゃ全然ない。この手が私は好きなんだなと感じた。

知らないうちに惹かれていたんだと思う、あなたの笑顔を目で追ってしまう。

夜去の笑顔は雪のようだ。とても美しい、でもいつか溶けて消えてしまう気がする。

ずっと一緒にいたい、この手を離さないでほしい。こんな感情初めてだ、これはなんという感情なんだろう。

大切な人を守るために何ができるんだろう。鬼の首が切れない私に。

 

 

ご飯を食べている間に考えた結果、これしかないと思った。

三人でも倒せなかった上弦の鬼に鬼の首が斬れない私にできること、毒でしか鬼を殺せない私にできること。

それは私自身が毒になり、童磨という鬼に喰べられることではないだろうか。

今日から藤の花の服用を始めよう、二人に見つからないように。

今日は初めてだから、少量にしておいた方がいいかな…

口に入れることができない、あと少しなのに。

守るときめた大切な人達を。

 

「何をしてるんですか?」

なんで今来てしまうの、あと少しだったのに。

そんな顔しないでほしい、貴方にその顔は似合わないから。

 

「今日から、藤の花を摂取しようと思いましてね」

ごめんなさい、私には貴方達を守る力がない、この方法以外ないんです。

どうか許してください、貴方達にはなんとしてでも生きてもらいたいんです。

 

「何で、そんなことするんですか!」

 

「私が鬼殺隊の皆さんから、なんて思われているか知っていますか?鬼の首が斬れない女隊士ですよ」

「私だけなんです、鬼殺隊の中で首が斬れない隊士は。そんな私に何ができますか?」

昔は鬼の首が斬れないことをよく馬鹿にされた。それでも私は諦めたくなくて、見返してやりたくて鬼を殺す毒を作った。

毒は鬼をすぐには殺せない、首を斬れたらすぐ殺せるのに。

本当は今でも馬鹿にされていることはわかっている、姉さんが柱だから何も言われないだけだ。

 

「藤の花なんて摂取しないでください

しのぶさんにできることはたくさんあります」

夜去に何がわかる、私が今までどれほど絶望したことか。

鬼の首を斬れないことをどれほど馬鹿にされたことか。

 

「夜去に何がわかるの?知ったようなこと言わないでよ!」

なんでそんな悲しそうな顔をするの、今辛いのは私の方だよ。

ずっと鬼殺隊士の中で浮いた存在だった。

ずっと孤独を感じている、鬼の首を斬れないということに。

 

「痛いほどわかります、でもしのぶさんは本当にすごいんです。

「いつか柱になってしまうんです。鬼の首が斬れなくても関係ない、たくさんの人を助けれると貴方が証明するんです」

「貴方の戦う姿が勇気をくれたんです、だから僕は今戦えています」

「しのぶさんにできることは沢山あります、だから明日まで待ってください」

痛いほどわかるなんて嘘だ。

私が柱になる?何を言っているのだろうか。そんな日は来るはずがない。たくさんか人を助けれると証明する?できたらどれほど嬉しいことだろうか。

勇気なんて与えたはずがない、最近会ったばかりじゃないか。

明日までに何かあるのだろうか、明日になっても私はこの決断を決して変えない。

二人の間に静かな時間が訪れた。

 

「夜去、戻ったよ。錆兎と義勇が夜去についていてやれって、二人も心配性だね」

 

「優しいですね、二人とも。真菰さん少し一緒についてきてくれませんか?」

 

「わかった、しのぶちゃん行ってくるね」

心を落ち着かせないと、夜去に怒ってしまった嫌われてしまったと思う。

でもそれでいい、そうしたら私が藤の花を摂取しても何も思わないだろう。

 

 

たくさんの怪我人が来て夜去と話す時間がない、決意は変わらないと伝えたいのに。

 

「首が斬れない隊士だ。やっぱり上弦の弍を倒したのも花柱様なんだ、やっぱり柱はすごいな」

横になっている鬼殺隊士の人達が話をしている。いつもはあまり話は聞かない、でも今日だけは聞かないわけにはいかなかった。

(鬼の首が斬れない隊士)という言葉が聞こえたから。私のことを言っているのだろうか?久しぶり言われたこともあり少し腹が立った。

 

「誰の話をしているんですか?」

 

「胡蝶さん、あの少年ですよ」

「すごいですね、花柱様は鬼の首を斬れない隊士と、その相棒を守りながら戦った

柱はやはりすごいな、俺もなれるかな」

「知らないんですか?昨日、親方様から、鬼の首を斬れない男隊士がいると鎹鴉から知らせが来たんですが」

そんな知らせ来ていない、私の他にも首が斬れない隊士がいるのか。私と同じ思いをするはずだ、支えになってあげなくては。

その人が指を指す方向にいたのは、私が話したかった少年。真菰さんと二人で歩いている夜去だった。

治療を全て終え夜去の元へ駆けつける。

 

「夜去、貴方も首が斬れないの?」

 

「斬れません。だから貴方の気持ちが痛いほどわかります」

だから昨日、言ったのか。私はそんなこと知らずに酷いことを言ってしまった。

 

「しのぶさん今の僕の話なら信じてくれますか?」

私は頷くことしかできない、信じれないわけがない。

 

「しのぶさんは本当にすごいんですよ、鬼の新しい倒し方を見つけた」

「それは他の隊士では成し得ませんでした、貴方にしかできなかったんです」

今ならこの言葉を素直に受け止めることができる、夜去の笑った顔が涙で歪んできた姉さん以外で私を認めてくれたのは夜去が初めてだ。

 

「一緒に倒しましょう、しのぶさんは一人じゃないんですよ?」

 

「夜去や姉さん達を失いたくない、ずっと一緒にいたい」

 

「僕も一緒にいたいです

だから毒なんて摂らないで生きてください」

私が悲しい想いをしないためにとばかり考えていた。私もみんなにそんな想いさせることを考えていなかった。

何を言われてもこの決断を変えないと決めていたのに、でも夜去とならこの道を進んでいけるのかもしれない。

 

「わかった、藤の花の摂取なんてしない。他の道を探す、絶対に諦めない、みんなを守ることを、自分も生きることを」

 

「うん、僕の知っている蟲柱、胡蝶しのぶですね

最後まで諦めない、苦しくても立ち上がる。

そんな貴方に憧れています、ずっと尊敬しています」

何を言っているんだろう、それにしても蟲柱って、姉さんは花で綺麗なのに。

けど嫌な思いはしない、私の大切な人に言われたんだから。

 

「何言ってるの蟲柱とか。もっといいのはないの?」

「私に信じてもらうために首を斬れないことをみんなに言ったの?」

 

「いつかはわかることです」

 

「私は姉さんがいるから何も言われないけど、夜去は辛い思いをすると思う」

今から馬鹿にされるかもしれない、それに耐えることができるだろうか。

 

「大丈夫です、いつか蟲柱 胡蝶しのぶのようになりますと言える日が来ます」

「誰もそれを聞いたら、馬鹿になんてできなくなります」

私も柱を目指してみようと思う、階級が一つ上がれば柱になれる条件の甲になれる。

夜去も今回の童磨との戦いで階級は飛躍的に上がると思う、夜去が先に柱になったら私も言おう。

何柱がいいんだろう、そういえば時の呼吸と言ってたような。

 

「夜去が先に柱になったら私も言う、時柱 明月夜去のようになりたいって」

二人で指切りをした、もう大丈夫だ、私は前を向いて進んでいける。

ありがとう夜去、そしてだい………はまだ言えない。

 

 

 




次日常回にしようと思います、その後から鬼滅の刃、原作の始まりかも。


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贈り物

「夜去、ちょっと相談いい?」

上弦の弍との戦いから、一ヶ月が過ぎようとしている。未だにカナエさんとこうしてお話をできることが夢なのではないかと思うことがある。

まだ体が完全には治ってない僕は蝶屋敷お世話になっており、真菰さんも一緒に泊まらせてもらっている。

錆兎さんや、義勇さんもたまに来て一緒にご飯を食べている。とても賑やかで毎日が幸せだ。

 

「どうしたんですか??」

 

「しのぶの昇給祝いに何をしてあげたら喜ぶかなと思って。色々落ち着いたから、何かしてあげたくて」

 

前のしのぶさんは今頃何をしていたんだろうか。

僕はあの日から、変わってしまったしのぶさんに会うのが怖くて逃げてしまっていた。

でも今はカナエさんがいる、幸せな時間をみんなで過ごして欲しい。

 

「しのぶさんの欲しいものはカナエさんと同じだと思いますよ」

 

「私と同じ??私、あまり欲しい物はないわよ?」

「お願い夜去、教えてよ」

 

「まだ、教えません。もう少し考えてよ、カナエさん」

でもどうしたらいいかな………あ、いいこと考えた。

 

 

「しのぶさん、僕に怪我の手当てとか色々教えてくれませんか?」

しのぶさんには、昼食後に薬を塗ってもらい、診察もしてもらっている。

たくさんの医学、薬学の本がある、それは努力をした何よりの証拠だ。

 

「どうしたのよ、いきなり。別に私はいいけど」

 

「内緒です。今日からお願いできますか?」

しのぶさんは、勘付いてしまいそうだから下手に喋れない。

 

「私に隠し事?まあ、いいけど」

よかった早く覚えよう、蝶屋敷の皆さんが笑っている光景が浮かぶ。

これはしのぶさんだけではなく、カナエさんや蝶屋敷のみんなへの贈り物でもある。喜んでくれるといいな。

 

「何、ニヤニヤしてるのよ。また変な事考えてるの??」

本当のしのぶさんが目の前にいる、これもまた信じれない時が未だにあるんだ。

 

 

「朝、手紙書いたからお館様にお願い」

首が斬れないことを真菰さんと伝えに行った時は隠の人に言って伝えてもらった。

僕たちはお館様にまだ会えない、柱と数人の隠の方しか会えないからだ。

その後お館様から手紙が届いた、カナエを助けてくれたお礼がしたい、欲しいものが見つかったら伝えてと。

今日もしのぶさんの仕事を見に行こう、部屋を出ると真菰さんとカナエさんがいた。

 

「夜去、最近しのぶちゃんの部屋ばかり行って何してるの?」

 

「真菰さんにカナエさん、びっくりさせないでください」

 

「夜去、何してるか教えてよ」

 

「真菰さんは少し来てください」

カナエさんには教えられない、しのぶさんに似てカナエさんも鋭い。

二人に見つからないようにしたい、蝶屋敷みんなへの贈り物だから。

 

「私には教えてくれないの??夜去の意地悪」

 

 

「……………で過ごしてほしいんです。だから僕は、しのぶさんに怪我の手当てなどを習ってます」

 

「夜去は本当に優しいんだね。わかった、私も手伝うよ」

僕じゃない、優しいのは真菰さんだよ。いつも手伝ってくれ、支えてくれる、何かお礼をしたい。

 

「ありがとうございます」

 

 

「このぐらいと思う。多分もう一応のことは大丈夫よ」

少しは治療できるようになった、蝶屋敷の仕事内容は一通り教えてもらった。

あとは親方様からの許しは出るかどうかだけどやっぱり僕なんかじゃ頼りないかな。

 

「夜去、お館様から手紙だよ」

 

「朝!ありがとう」

 

──

夜去へ

大丈夫だよ。明日、一日君に蝶屋敷を任せるよ

夜去はカナエの夜の見廻りもすると書いてあったけど、傷が治ってないよね

義勇が、受け持つって言ってくれたからそれは義勇に任すね。

カナエと、しのぶには、私から伝えておくから

本当に優しいんだね、早く私も夜去に会いたいよ

──

 

「ありがとうございます、義勇さん。お館様」

許してもらえてよかった、お館様に少しは信頼されているのかな、だったら嬉しいな。

僕も早くお館様に会いたい、会わないといけない病気の進行を遅らすためにも。

家族みんなで、鬼のいない世界で過ごしてほしい。幸せになってほしいんだ。

 

ご飯の時間になった、お館様から二人は聞いたのかな?見る感じまだ聞いてないと思う。

 

「胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ。お館様からの伝言だ」

二人の顔に緊張が走った。何を言われるんだろう、そう思っているんだと思う。

身構える必要なんてない、大丈夫だから。

 

「明日、二人は一日休みにする。蝶屋敷は夜去に任せる」

 

「どういうこと夜去?」

カナエさんとしのぶさんが同時に驚いた顔で聞いてきた。

 

「カナエさんがしのぶさんにお祝いしてあげたい、何が欲しいんだろうって言ってましたよね?」

「それは蝶屋敷のみんなと一緒にいる時間だと思います。違うしのぶさん?」

蝶屋敷のみんなが思っていることだと思う。カナエさんも言ってた、みんなと一緒にいたいと。

 

「欲しい物なんてない。みんながいてくれればそれでいい」

しのぶさんは顔を赤くしながらも言っていた、それに他のみんなも答えているカナヲ姉さんだけ伝えれず下を向いていた。

 

「カナヲさん、今伝えられなくてもいい。いつか伝えてあげて」

「大丈夫、誰も失わせないから。ゆっくりでいいんです」

僕も伝えられなかった、でも姉さん達が勇気をくれたから言うことができた。

カナヲ姉さんに何をしてあげれるだろう、僕はたくさんの事をしてもらい、たくさん教えてもらった。

 

「カナヲさんにこれを預けるね」

これはあなたが僕の背中に羽織らせてくれた羽織、僕の宝物です。

 

「これは?」

 

「これはね、とても勇気を与えてくれる羽織。大切な姉さんがくれた物、その人は本当に優しい人だったんだよ」

僕の大切な人、戻ると約束した人、それは未来の貴方だ。

 

「そんな大切なものを私がいいの?」

 

「カナヲさんに預かっててほしい。どう、勇気が湧いてこない?」

手を握りしめカナエさん達の方を向き、深呼吸をしている。

頑張って伝えようとしているようだったけどなかなか言えないみたいだ。

 

「無理しなくてもいいよ。みんな待ってくれてるから」

絶対に二人を守るから、カナヲ姉さん達の元に連れて帰るから。

 

「明日はみんなで一緒にゆっくり過ごしてください」

「みんなで着物を着て、街に行くのもいいんじゃないですか?」

着物を着て、普通の女の子のように過ごしてほしい、明日だけは鬼殺のことを忘れて。

二人は普通の女の子の生活は諦めたと言っていた、でも諦めなくていいんだ。

鬼に恐怖する事なく笑いあえる日は必ず来るんだから。

 

「私達に着物なんて似合うかな?それに着ていくようないい物持ってない」

 

「似合いますよ、似合わないはずがないよ。街の人達なんてびっくりしますよ」

「まだ間に合います。ご飯食べてみんなで行きましょうよ」

ご飯を食べ終わっても、カナエさんとしのぶさん以外は立たなかった。

 

「行こ、みんなで。僕はみんなにたくさん助けてもらった、だから贈り物させてよ」

みんなにはたくさん助けてもらった、このくらいさせてほしい。

僕はあまりお金を使っていないからみんなに贈れると思う。

 

「いいんですか?私達まで」

 

「明日、着物姿見せてください」

みんなの手を取り日が沈み始めた街に出て行く。

 

 

まだ開いているお店がなかなかない、やっぱり遅かったかな。

 

「夜去、もう帰ろう。もういいよ」

 

「しのぶさん……」

 

「夜去、あったよ。開いているお店」

 

「本当ですか?真菰さん」

────

「お兄ちゃん、幸せそうだね。あのお嬢ちゃん達、綺麗な笑顔だ」

お店に行くと、みんな着物に夢中になっていた。うん、やっぱり普通の女の子だよ。

お店の主人からも、そう見えているなら安心だ。本当に綺麗な笑顔だ。

 

「それは良かったです。普通の女の子に見えますよね?」

 

「見えるよ」

────

「これにする、夜去」

みんな似合うんだろうな、それにしても選んだのが似てる、姉妹のようだ

お金は………着物って結構高いんだ、ぜんぜん払えるんだけども。

お金になんて変えられない、貴方達の笑顔を見れたんだ。お金を払ったのにそれ以上の物が帰ってきてしまった。

 

 

「真菰さん、いつもありがとうございます」

「僕が選びました、よかったら使ってください。安物ですけど」

いつも髪を留めずに任務に行ってるから、カナエさん達みたいに髪を留めたらいいかなと思った。

 

「安物なんて関係ない。夜去がくれた物だもん、すごく嬉しい」

「ありがとう、夜去。一生大切にするね」

喜んでくれてよかった。

これは僕の皆さんへの感謝の気持ちだ、いつもありがとう、これからもよろしくお願いします。

 

 

 

 



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想いを言葉に乗せて

今からこの姿を夜去に見せるのか、すごく恥ずかしい。私おかしくないかな?しのぶも夜去に見せるのを恥ずかしがっているみたいだ。

今まで私は男性に対して特別な感情を抱いたことなどなかった。

でもあの日から、夜去のことを考えると胸が痛い。

貴方が私を助けてくれた、本当の私、胡蝶カナエを見つけてくれた。

みんなの心を照らしてくれる太陽に、私は恋をしてしまったんだ。

 

「カナエちゃんにしのぶちゃん。障子開けるよ???」

真菰ちゃんは私達を揶揄うように言っている、まだ心の準備ができていない。

変に思われないだろうか、変なところはないだろうか。

しのぶと私は真菰ちゃんの手を止めようとするが、それはもう遅く障子を開けてしまった。

 

「とっても似合ってます。着物姿がこれほど似合う人いませんよ」

「楽しんできてくださいね」

顔を紅くしながら言ってくれた、本当に思ってくれているんだと思う。

私達もいつか普通の女の子の生活を送ってもいいのかな。

そんな日を迎えることができたら伝えたいな、この私の想いを。

夜去、あなたの事を愛していると。

 

「夜去、何したらいいかわからないよ」

みんなで街に出掛けるなんて初めてだから、何をしたらいいかわからない。

 

「何をするか、みんなで考えるのも楽しいと思いますよ?」

「いつか、こんな毎日が普通になった時困りますよ?今日で練習してきてください」

夜去はいつかこの日常が訪れることを確信しているんだ、明るい未来を見ている。

 

「うん!夜去に真菰ちゃん、いってきます!」

 

「はい、いってらっしゃい」

お父さんとお母さんも私としのぶが街に出掛ける時に言ってくれた。

とても懐かしい、今日だけはいいのかな。普通の女の子に戻っても。

 

「手繋いで行こ?みんなで」

私の守りたい人達、そして私の大切な家族だ。

 

────

姉さんがこんなに嬉しそうに笑うのはいつぶりだろう。

もう見れないと思っていた笑顔を、夜去が取り戻してくれた。

街の人達に手を繋いでいた私達はものすごく見られてしまった。とても恥ずかしい、でもこの繋いだ手を絶対に離さない。

 

「どこ行きたい、しのぶ??」

 

「どこがいい?アオイ」

 

「私ですか?カナヲはない?」

 

「カナヲさん私達を見てもわかりませんよ〜」

誰も決めれないじゃない。どうするのよ、これ。

誰も決めれずに、全員が悩んでいる光景が可笑しく、みんなで笑っていた。

夜去の言ってた意味がわかった、みんなで何をするか考えるのも楽しい。

この事を忘れていた。昔は姉さんと二人で今日は何をして遊ぶか、何を勉強するか、どこへ行くかを考えていた。

その日々は楽しかった、そんな日々もなかったことにしていたんだ。

思い出させてくれてありがとう、そしてまたみんなとそんな日を過ごさせてくれてありがとう夜去。

今なら言えます、私は夜去、あなたの事を心の底から愛しているんだ。

いつか伝えることができたらいいな、今はまだ恥ずかしくて本人には言えないけど。

 

「お昼だから、ご飯でも食べる?」

お鍋を食べれる所に来た、みんなで一緒に食べれるからだ。

 

「しのぶ、生姜の佃煮あるよ。頼まないの?」

お母さんの作ってくれるのは世界で一番美味しく、大好きだった。

でもあの日、以降に食べるのは何かが違う気がした。

 

「今日は、大丈夫」

 

「頼もうよ。ね??」

そこまで言われたら断れないでしょ、姉さんはずるい。

 

「はい、あ〜ん」

昔みたいにしないで、恥ずかしい。もう十五歳で、もう大人よ、背はあまり高くないけど……

すごく美味しい、何でこんなに美味しいんだろう。

──

「お母さんの生姜の佃煮は、何でそんなに美味しいの?」

 

「お母さんは別に何もしてないよ。いつかしのぶも美味しくなる魔法に気付けたらいいね」

 

「魔法なんてないよ、絶対何かあるんだ。待ってて、私が絶対に見つけるから」

 

「絶対にあるよ〜。うん、待ってるね」

──

お母さん、私やっとわかった。

大切な人と一緒に食べる、それが美味しくなる魔法だよね。

最近は忙しく、みんなでゆっくり会話をしながらご飯を食べる機会も減っていた。

お母さんの言ってた通り、これは魔法だった。

 

「しのぶ、どうしたの?泣くほど美味しかった?」

 

「うん、とっても美味しい。それにずっと分からなかった事が分かったの」

「一日。一食はみんなでご飯を食べない?」

 

「一食なんて言わずに、三食にしよ〜」

幸せだな。夜去もそこにいればいいのに、怪我が治ったら居なくなってしまうのだろうか。

ずっと一緒にいてほしいな、頑張って伝えてみようかな。

 

────

カナエ姉さんと、しのぶ姉さんに蝶屋敷に連れて来てもらった時は何も感じることができなかった。

今は感じないわけではないんだ、でも言葉に出す事ができない事がたくさんある。

辛い思い出しかない、親から暴力を振るわれる毎日。でもそんなのもいつの日か辛くなくなった。

全部どうでもよくなった、自分じゃ決められない、このコインがないと決められない。

でも今日なら伝えられるのではないだろうか。それに今日言えなかったら、この先も言えない気がする。

勇気を出さないと、でもあと少しの勇気が出ない。

そんな時、夜去さんが私に預けてくれた羽織が背中を押してくれたような気がした。

 

「カナエ姉さん、しのぶ姉さん、アオイ、きよ、すみ、なほ」

呼んでしまった、手汗がすごい。なんて言ったらいいんだろう、なんて言えば伝わるだろうか。言葉が出てこない、みんなが心配そうに私を見つめている

夜去さんも言っていた、ゆっくりでいい、ゆっくりで言いんだ。私の想いを聞いてもらおう。

 

「私は……みんなと…過ごせる日々が……とても幸せです」

「蝶屋敷の…みんな……のことが………………とても私は大好きなんです」

とても聴き取れるような声ではなかった、みんなには届いいないと思う。

下を向いた顔を上げれない。どんな顔をしているのかな。

 

「カナヲの本心を初めて聞けた気がする」

「姉さん、とっても嬉しい」

顔を上げるとそこには、みんなの笑った顔があった。下を向いていつもみなかった笑顔。

こんなにも綺麗だったのか、私もこんな風に笑えるのかな。

 

「カナヲ、今笑ったよね??いつもとは違う笑顔だった」

 

「アオイ、私が?」

私は笑えたのだろうか、いつも人には笑顔を向けるようにしている、作った笑顔を。

笑顔というのは作る物ではないんだろうか、ふとした拍子になってしまうものなのかな。

私もみんなのように笑えているといいな。

 

夜去さん、私伝えることができたよ、本当にこの羽織は私に勇気をくれた。

この羽織を夜去さんに預けた人は、とても大切な人で、とても優しい人で、姉さんのような人と言ってたな。

どんな人なんだろうか、私もなれるかなその人のように……

何故かわからないけど、夜去の事は兄ではなく、弟みたいな存在だと思ってしまう。

私よりも背が高いのに、私よりも年上なのに、なんでだろう今度聞くことができたら聞いてみよう。

でも私は夜去のことがとても大切な存在だと思ってしまう、さっきから呼び捨てにしてしまったいた………

何か約束をしなかったっけ、とても大切な。

 

「姉さん、私は夜去さんの事を弟のように思ってしまうんですよね」

「自分よりも背が高いのに、年齢が上なのに」

 

「カナヲ、それならしのぶは妹になるね」

 

「………」

 

「カナヲ??どうゆうことかな?詳しく聞いてもいい?」

 

「……わかりません」

怖い、怖い、しのぶ姉さんがとても怖い、走って逃げるがすぐに追いつかれてしまった。

私は今怖いという感情を感じることができた、これから沢山の事を感じれたらいいな、蝶屋敷のみんなと過ごしていく中で。

 

────

「蝶の髪飾り、今日の記念としてみんなで新しいのにしよう〜」

私はその蝶の髪飾りをつけてもいいのかな、私は自分が怖いという理由で鬼殺から逃げた。

弱い未熟者の私が、貴方達と一緒にいてもいいのかな。

 

「これは、アオイの分ね」

 

「私がこれを受け取っていいのでしょうか?」

「私は、自分が怖いという理由だけで鬼殺から逃げました。カナエさんや、しのぶさんとは正反対です」

 

「アオイ、そんな事ないよ。貴方は自分のできる事を精一杯してくれてるじゃない。鬼殺隊のみんなは貴方に助けられているのよ」

「人間それぞれできないことがある、それは誰かが補ってあげたらいいこと」

 

「アオイが鬼と戦えないなら私達が戦う。だから、私や姉さんができないことはアオイに頼んでもいい?」

 

「私達もお手伝いしますよ、アオイさん」

 

「アオイ、私にできることない?できることは少ないけど」

夜去さん貴方の言ってた通りだ、みんな私を認めてくれている。私がみんなを信じていなかった。

──

「アオイさん手伝いますよ」

 

「大丈夫です、私にできることはこのくらいですから」

 

「そんなことないと思うけどな、アオイさんはすごいと思うよ」

「怪我しても貴方がアオイさんがここにいてくれるから、安心して任務に行けるんじゃない?」

 

「そんな事ないですよ、私なんか」

 

「なんかじゃないよ、アオイさんはすごい。僕は貴方に助けてもらったんだ。今はわからないと思うけど、たくさん、たくさん」

「心の底から感謝してるんですよ。そんな人が沢山いる、今も近くに何人かいると思うよ」

「もっと先の未来にはさ、そんな人が両手では収まらないんだ、数え切れないほどたくさんいるんだよ?」

──

夜去さんを助けたことがあるんだろうか、怪我していた間のお世話の事を言ってるのだろうか?それもしのぶさんや真菰さんがしてたから少しだったのに。

すぐ近くにいる、それは蝶屋敷のみんなの事だったんですね。

未来で私に感謝してくれている人はたくさんいるのか。でも何故そんな事を知っているんだろう、未来なんてわかるはずもないのに。

 

「カナエさん、蝶の髪飾りつけさせてもらいます」

 

「よかった〜気に入ってくれて」

今日からまた頑張ろう、私がみんなにできる事を。美味しい料理を一杯食べてもらおう。

──

「僕さ、アオイさんの料理がとっても大好きなんだ。鬼のいない未来でさ、みんなで食べれたらって想像したら幸せが溢れてるよ」

「アオイさんの料理は人を幸せにする、それは他の人にはできない」

「いつか、みんなで食べたいな

 

「わかりました、その時はたくさん作りますね。。腕に磨きをかけておますね」

──

夜去さんとの約束もある、私の料理が好きということは顔を見れば嘘をついていないこともわかる。

夜去の好きなおにぎりたくさん作ってあげないとって、夜去さんはおにぎりが好きなのだろうか?なんで今、頭に浮かんだんだろう。

それに私もカナヲと同じように弟のような気がしてしまう、なんでだろう。

でも一つだけわかることそれは、夜去のことが大切だということ。呼び捨てにしてしまった今度から気をつけないと。

 

「蝶屋敷のみんなが私も大好きです」

日が沈み始めた、帰ろう私達の戻るべき場所、蝶屋敷へ。

 

──

 

「帰ろう、きよ、すみ、なほ」

みんなそれぞれが自分の想いを伝えられている。

私達三人はまだ子供だから、継子にもなれない、アオイさんみたいにお手伝いもあまりできない。

カナエさんやしのぶさんの足手まといになってるんではないだろうか。

二人が私達を蝶屋敷に置いておく理由は特にないと思う。

──

「夜去さん、私達はカナエさんやしのぶさん、カナヲさんやアオイさんの足手まといになってないでしょうか?」

 

「なんで、そう思うの?」

 

「だって私達、お仕事お手伝いも子供だからまだできません。カナエさんとしのぶさんが蝶屋敷に置いていてくれる理由がわかりません」

 

「すごく、わかる。子供だから何もできない気持ちは」

 

「やっぱり、私達は……」

 

「でも、しのぶさんやカナエさんは三人のことそんなに思ってないよ絶対に。アオイさんとカナヲさんだってね」

 

「蝶屋敷のみんなの事好き?」

 

「大好きです、とても優しくて、あんな風に私達もなりたいと思っています」

 

「四人も三人のことが大好きだと思うよ。君達に元気をもらってると思うな僕は、実際に僕も元気をもらってる」

「少しずつ、何か自分のできることを見つけていくといい。まだまだ人生長いからね」

「三人はすごく器用だから、すぐ見つかると思うけどね」

──

「カナエさん、しのぶさん、アオイさん、カナヲさん。もっと四人のお手伝いがしたいです、私達は」

四人には大丈夫とまた言われてしまうのだろうか。

その言葉は私たちのことを想ってのことだと言うことはわかる、でも遠ざけられているような気がして寂しい。

 

「きよ、すみ、なほには辛い想いをさせてたね、ごめんね。でも私達は貴方達に、普通の女の子のように幸せな生活してほしかったの」

 

「私達は四人といられるだけで幸せなんです。これからも蝶屋敷にいさせてください、お願いします」

蝶屋敷にいさせてほしい、蝶屋敷のみんなと一緒にいたい、もう離れるのは嫌だから。

 

「当たり前じゃない、蝶屋敷は貴方達のお家でもあるのよ、ほら帰ろう私たちの蝶屋敷へ」

「今日から、三人にも少しずつお手伝いしてもらってもいい?」

 

「はい!やらせてください!」

私達の蝶屋敷、その言葉がすごく嬉しい。夜去さんの言った通りだった、四人は私達のことを足手まといなんて思っていなかった、大切にしてくれていた。

想いを言葉にするのは大事だ、蝶屋敷のみんなとの時間を作ってくれてありがとうございます、夜去さん。

 

──

「夜去、真菰ちゃん、戻ったよ」

早く二人に今日あったことを伝えたいな、色々お話しできた、夜去は全部こうなることがわかってたのだろうか。

 

「みんなお帰り〜」

「お帰りなさい……」

夜去疲れているのかな、元気があまりない。

けど私は理由を聞けずにいた、何かあったのではないかと思ったからだ。

 

「夜去何かあったの?」

しのぶはこういう時、素直に聞くことができるから羨ましいと思う。

 

「聞いてくれるんですか??診察に来た隊士の方達、しのぶさんとカナエさんいないからって帰るって人ばっかりなんですよ」

「僕、今日診察した人、一人もいないんですよ???全員真菰さんがいいって言うし、男は辛いです」

なんだ、そんなことか心配した私が馬鹿馬鹿しくなった、声に出してしまっていた、私としたことが。

 

「なんだ〜そんなことか。心配した私が馬鹿だった」

 

「カナエさんはそんなこと言うんだ、優しくないよ、女神なんかじゃないね、みんなが言うように」

「誰か怪我した人いませんか、診ますよ僕が」

優しい、女神のようだとよく言われる、こんなこと言われたことはない。

たまにはこう言われるのもいいな、夜去に言われてるかもしれないけど。

 

「残念ながら、大丈夫かな」

 

「………せっかく覚えたのに、もういいですよ!

「それよりお話し聞かせてください、楽しかったですか??」

今日あった事の話を話していると、夜去は頷いて自分の事のように喜んでいた。

 

 

夜の見廻りも富岡君が代わってくれたから、特に用事もないので縁側でお茶を飲んでいる。

今日は本当に楽しかったな、またいつか行きたいな、今度は真菰ちゃんと夜去も一緒に。

 

「冷えますよ、どうぞ僕の羽織ですけど」

夜去の大事にしている羽織だ、返そうとしたが寒いから着ていて止められた。

 

「今日とっても楽しかったよ、みんなの想いも聞けた。嬉しかったな」

それと一緒に怖くもなった、この日常を奪われてしまったらと考えたら、死んでこの楽しかった日を忘れたりしたら。

 

「同時にすごく怖くなった、この幸せな日常が壊れると考えたら。前も夜去がいなかったら私は、今いない」

私は強くなんてない、みんなの前では強い自分を演じているが本当は怖がりなんだ。

 

「怖いと思ったら、泣きたいと思ったら泣いても大丈夫。僕が受け止めるって言ったじゃん」

「少し、頼りないけど僕の胸なら貸しますよ?」

「大丈夫、大丈夫。助けを求めてよ、四肢を失ってでも守るから。」

「僕は柱になる人間だから四肢なんて失わずともみんなを守るけどね」

夜去の胸に顔を埋めて声を上げて泣いている、夜去は前言ってたようにどんな私も受け入れてくれる。

やっぱり私は、あなたのことがどうしようもなく愛おしい。

言ってる相手を柱と思ってないな、夜去は。夜去の前では柱でいなくともいい気がした。

 

「あ、いいこと考えた。今日初めての患者さんはカナエさんだ。診断は泣き虫病ですね」

「薬は僕でいいですか?」

 

「揶揄ってるの??ほんとうにたまにすっごく意地悪になるよね夜去は」

 

「カナエさんは泣いた姿も美人ですね」

 

「お世辞でも、ありがたく受け取っときますね。もう寝るよ、意地悪な人と一緒にいられません、夜去も早く寝ないとダメだよ」

本当は恥ずかしかったんだ、美人と言われたのが。嬉しい、顔が熱くなるのを感じたから逃げるように部屋に戻った。

普通の女の子を夢見てもいいんだろうか、その時が来たら夜去に想いを伝えよう。

羽織を持ってきてしまった。返しに行かないと。

 

「輝夜姉さん、咲夜姉さん、僕もっともっと強くなる。いつか二人のようになれるかな?」

夜去のお姉さん達は、輝夜さんと咲夜さんというんだ。どんな人なんだろう、夜去と一緒で顔が整っているんだろうな。

 

「カナエさんは輝夜姉さんには、涙を見せてたの?」

「しのぶさんも咲夜姉さんには、弱い自分を曝け出していたの?」

「僕は二人の拠り所になれてるかな、姉さん達のように」

私としのぶが夜去のお姉さん達と親しい間柄だったかのように話している?私たちの知っている人でそんな人達がいた記憶はない。

 

「あれ、寝ちゃってた。なんか夢見てたような」

寝言を言ってたのか、可愛い……姉に憧れているのかな、今度してあげようかな。

でも二人を知っているような、二人の名前を私達は呼んでいたような。多分街で誰かが呼んでいた名前が耳に残っているんだろう。

 

「夜去、羽織持って行ってた。寒いから背中にかけとくよ」

 

「ありがとうございます、おやすみなさい」

 

 

「危なかった…いつか言わないといけないのに。でも言えないよ、今日は」

「こんな幸せな日に言えない、いつか僕も笑顔で伝えられるといいな」

 

 

 

 

 

 

 



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ずっと一緒にいて

夜去は今日から機能回復訓練を始める。

その間に言わないといけない。ずっと一緒にいたい、一緒にここで暮らそうと。

でもなかなか言えない、とても恥ずかしい、男性を自分から誘うなんてことしたことがない。

夜去を見ると心臓の鼓動が速くなり、周りにいる人に聞こえているのではないかと思うほど、心臓の音が自分にも聞こえる。

 

「夜去は意外と体柔らかいんだね」

 

「そうですか?昔地獄のような柔軟をある人からさせられたからかもしれません」

何でだろう、その人が気になってしまう。夜去をこんな笑顔にする人はどんな人なんだろう。

 

「どんな人なの??」

 

「桃色の長い綺麗な髪の人でした。そして幸せそうにご飯を食べる人です」

桃色でご飯をたくさん食べる人………それって蜜璃さんと一致するのは気のせいだろうか。

ご飯をとても食べるし、よく一人でご飯を食べに行ってる。

 

「夜去はその人と二人でご飯を食べに行ったの?」

多分その人は女性だ、だから嫉妬しているんだ。夜去が誰かと笑っていたり、話をしているだけで少し心が痛い。

私も夜去の笑顔がみたい。

 

「いいえ、二人じゃなかった。僕たち二人の食べるところを見ててくれる優しい人がいましたから」

二人では行ってなかったんだ、安心した。まさかもう一人も女性なんじゃ………

聞いてもおかしいと思われないかな、でも聞かずにいられない。

 

「もう一人も女性なの?夜去は二人が好き?」

 

「男性ですよ、二人のことは大好きです」

「二人に言えなかった、二人と食べるご飯は美味しい、また連れて行ってくださいと。いつも食べ終わるとその言葉を待っているようにしてたのに」

「しのぶさん、いつか伝えられるかな」

 

「伝えられるわよ、私も伝えられたから」

絶対に伝えられる、夜去のおかげで蝶屋敷の全員が想いを伝えられた。私も何かしてあげたいな、桃色の髪の人が羨ましいな、夜去にこんな風に想われていて。

髪を伸ばしたら私を見てくれるかな、どうしたらいいんだろう。

 

「夜去、私も髪を伸ばした方がいいかな?」

姉さんのように綺麗な長い髪なら、振り向いてくれるかもしれない。

 

「しのぶさんはそのままでいいと思うけどな。でも伸ばしたいなら止めないよ」

「でも僕は今のしのぶさんも伸ばしたしのぶさんも好きだけどね」

そんなに純粋な目で言わないでほしい、絶対に顔が紅くなっている。

すごく嬉しい、どんな私でも好きと言ってくれたことが。

いろんな女性にこんな風に行ってるのだろうか、少しイラッとしたから背中を押している手を強くした。

 

「痛い、痛いよ。しのぶさん、強すぎるって蜜……っと一緒」

ちょっと強すぎたかな、今蜜って言った?まさか本当に蜜璃ちゃんなの、二人は知り合いなの?

負けたくない、一緒にいようと今伝えよう。

 

「夜去、もしよかったらだけどここで一緒に暮らさない?」

 

「いいんですか?カナエさんに聞いたんですか?」

聞いていない私の独断だ。姉さんは絶対にいいと言う、だって姉さんも夜去のことが好きだと思うから。

 

「あらあら、しのぶから誘うなんて珍しいわね。夜去のことが好きなの?」

揶揄うように言ってくる、姉さんも本当は好きなのに。

好きですよ、大がつくほどに。

 

「姉さん、それは……」

 

「僕は二人とも大好きですよ」

 

「どっちなの?!」

「どっちが?!」

心臓の音が大きい、姉さんと言われたらどうしよう、私は諦められるだろうか。

でもその返事を聞いて安心した、諦めなくてもいい少しずつでいいと思った。

 

「みんな大好きです!鬼殺隊のみんな」

これが夜去なんだ。私はこんな貴方に恋をしたんだ、いつか振り向いてもらおう。

まずはこれが第一歩だ。

 

「一緒に暮らそう。姉さんいいよね?」

 

「私もそれを言おうと思ってたの。先に言われちゃったな」

 

「二人がいいならお願いします。一ついいですか?」

それは勿論だ。私たちもそのつもりだった、真菰さんも夜去にとってかけがえのない人だもの。

 

 

──

しのぶちゃんとカナエちゃんと夜去のお話の内容を聞いてしまった。

二人は一緒に暮らそうと言っていた、それを夜去も了承していた。それを聞いて逃げるようにその場から離れた。

ずっと一緒にいれると思ったのにここでお別れなのかな、そのあとも何かお話していたけど聞くことができなかった。

なんでこんなに涙が出るの、夜去が幸せになる嬉しいはずなのに。

なんでこんなに胸が痛いの、この感情が恋なのだろうか。

カナエちゃんとよく恋話しをしているが、私は恋などしたことなかった。

これが恋なのかな、胸が痛くて、涙が出る、ただ辛いだけじゃないか。

 

 

「真菰さん、灯消しますよ?」

 

「いいよ」

今日一日、夜去に話しかけられても逃げてしまっていた。蝶屋敷で暮らすと言われることが耐えられそうにないから。

離れ離れになると改めて実感する気がして怖いんだ。

 

「真菰さん、少しお話しいいですか?」

寝ているふりをしようか、でも向き合わないといけないよね。

絶対に涙を流さない、離れ離れになってもまた会えるんだから。

辛い、心が張り裂けそう、手汗がすごい、震える声で返事をした。

「いいよ、どうしたの?」

 

「僕、蝶屋敷にお世話になろうと思っています」

「あの、それでなんですけど……一緒にいてくれませんか?」

やっぱりそうだよね、うん私はそれを止めてはいけない。

んんんん、今なんて言った。もう一度言ってもろらわないと理解できなかった。

 

「もう一回言って?よくわからなかった」

 

「もう、一回で聞いてよ!真菰さんがいないと寂しいんですよ」

「ずっと言えなかったけど、夜も真菰さんが近くにいないと寝れないんです」

「僕を一人で置いていったら、不眠症になります。だから一緒にいてください、どこにも行かないで」

涙は頬を伝わるのを感じる。やはりこれは恋だ、私は夜去が大大大好きだ。

恋は辛いものじゃなかった、こんな幸せを今まで感じたことはない。

 

「そう思ってたんだ、かっわいいね!!私の布団くる?」

 

「そう言われると思ったから、言うの嫌だったんですよ!今日だけならお邪魔してあげますよ」

今日はいつにも増して素直だな〜。いつも誘っても顔を紅くして反対を向いて寝るのに。

けどカナエちゃんとしのぶちゃんは許してくれるかな、明日にでも言わないと。

 

「カナエさんとしのぶさんは真菰さんも誘うつもりだったと思います。僕が真菰さんも一緒がいいと言ったら当たり前じゃないって言われたから」

カナエちゃんにしのぶちゃんは私のことまで。嬉しいな私にできた初めての女の子の友達だ。

二人のことも大好きだ、夜去と同じくらい好き。でも二人には絶対に負けない。

 

「わかった、一緒にいよっか」

 

「はい、安心したら眠たくなりました。おやすみなさい」

 

「うん、おやすみ」

これからも夜去と一緒にいられるんだ。ずっと一緒にいられるといいな。

鬼殺隊は何が起こるかわからない、一日一日を大切に生きようと思う、私の大切な人達と。

 

「真菰さん、どこにも行かないで、置いていかないで…」

「姉さん、みんな待ってよ。どこ行くの、僕も一緒にいく」

「置いていかないで……」

夜去は私の腕を掴んだまま寝ている、怖い夢でも見ているんだろうか。

離れないよ、ずっといるからここに夜去の横に。

すごい汗をかき、涙を流していた。その悪夢が終わるまで私は頭を撫でていた。

いつか一人で抱えていることを私に話してね。

 

「夜去、大好きだよ」

 




次回は有無。
これが終わったら、本当に鬼滅の本編行きます。
なんども伸ばしてごめんなさいいいい、戦闘より日常の方が書きやすいなぁ


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空白の時間を

両親が死んだのは、十歳の時だった。

母さんは風邪をこじらせて肺炎で死んだ。そんな母を助けるために、嵐の中薬を取りに行った父は崖から落ちて死んだ。

それから僕は兄と二人だ、でも兄とはある日を境に会話もしなくなった。

父さんは言っていた、情けは人のためならずと。人のためにすることは巡り巡って自分のためになると言っていた。

でも兄に言われた、人のために何かしようとして死んだ人間の言うことはあてにならないと。

無一郎の無は無意味の無、無一郎の無は無能の無だと兄から言われた。

兄はとても言葉のきつい人だった、母さんと父さんがいた時はそんなことなかったのに。

兄と二人の暮らしは息が詰まるような毎日だ、僕は兄に嫌われていると思うし、兄はとても冷たい人だと思うから。

 

 

春頃に僕たちの元に綺麗な女性が来た、その人は鬼殺隊という組織の親方様の御内儀だ。

僕たち二人は一番最初の呼吸を使う剣士の子孫で、鬼殺隊に入らないかという勧誘で来ていた。

僕は嬉しかった、鬼に苦しめられている人を助けれると思ったから。

兄に剣士になろうと言った、すると兄からは罵倒を浴びせられた。

──

「人を助けるなんてことは選ばれた人にしかできないんだよ」

「先祖が剣士だからと言って俺たちに何ができる」

「教えてやろうか俺たちにできること?犬死にと無駄死にだよ、母さんと父さんの子供だからな」

──

この日から、僕たちは口を利かなくなった。

ずっと家へ通ってくれるあまね様に、兄が水をかけた時だけ一度喧嘩をしたくらいだ。

 

 

今日はとても暑い、苛々する。

何か外にいる気配がする、獣などではない異様な存在に兄も気付いているようだ。

玄関の扉がいきなり開いた、そこに立っていたのは人の姿をした化け物だった。

ひどい血の匂い、何人も人を殺しているとすぐにわかる。

兄が僕を庇って前に出てくれている、兄が殺される。嫌だ、一人になってしまう。

誰か助けて欲しい、鬼殺隊は僕たちのような弱い人を助けてくれるんじゃないの?

 

「どうせお前らみたいな貧乏な木こりは何の役にも立たないだろ」

「いてもいなくても変わらない、つまらねぇ命なんだよ」

この鬼の言うように、いてもいなくとも変わらない命なんだろうか。

兄の言ってた通りだ、僕たちは人の役になんて立てないんだ。

僕たちは選ばれた人間なんかじゃない、そして僕は無能なんだと実感させられる。

 

 

鬼が爪で切りかかるとあたりに血が飛び散った。

でもその血は兄の血ではなかかった、兄を庇ったでいで爪がその人の腕を引っ掻いたんだ。

背中に滅の字が刻まれた隊服を着て、晴れた日の空のような羽織を着ている人を。

僕たち二人の前に立ってくれたその人は決して大きくない、腕も細い。

でも僕はすごく大きく感じた、それに安心したんだ。

 

「二人を馬鹿にしないでください。つまらない命などない」

「今の言葉を訂正してください、その言葉を絶対に許さない」

この人は僕たちのために本気でこの鬼に怒ってくれている。

僕はやっぱり、鬼殺隊に入りたい。兄に何と反対されようともこの人のように弱い人を助けれる人になりたい。

 

「事実を言って何が悪い?」

 

「その、鬼の言う通り俺はいてもいなくても変わらない。でも、無一郎だけは違うんです」

「無一郎は、助けを求めている人に手を差し伸べられるすごいやつなんです。だから、どうか無一郎だけは助けてください、お願いしす」

 

「兄さん……」

兄さんはこの人が鬼に負けると思っているんだ、自分が時間を稼ぐからその間に僕たち二人を逃がそうとしている。

今まで誤解していた、兄さんは冷たい人なんかじゃない、僕を嫌ってなどずっといなかった。

でも自分が兄だから弟の僕を守らないといけないと思っていた、だから無理をしてでも冷たくしていたんだ。

 

「貴方は弟さんを命を懸けて守った、弟さんは貴方をいてもいなくても変わらない存在だと絶対に思ってない。それに僕も思ってません」

「安心してください、僕は負けませんから」

「後ろに守りたい人が二人もいるんです、だから大丈夫です」

兄はその人の言葉に心打たれたかのように、胸に手を当てている。

そう言って笑ったその人の顔を見れば、兄も僕もこの人なら大丈夫と安心した。

 

「鬼滅隊の下っ端が調子に乗りやがって。三人とも殺して喰ってやるよ」

鬼が喋り終わるのと同時に、今駆けつけたもう一人の鬼殺隊の人が鬼の首を斬った。

兄さんも生きている、みんな生きている、よかった。

 

「夜去、腕の傷すごく深いよ」

夜去さんって言うんだ、女性が夜去さんの腕に包帯を巻いている。

 

「大丈夫ですよ、このくらい。ありがとうございます」

兄さんを庇った時に引っ掻かれた傷だ、たくさん血が飛んだ深い傷じゃないわけない。

なんて謝罪しよう、お金もないから何も夜去さんに何もしてやれない。

 

「ごめんなさい、俺を庇ったせいで貴方が深い傷を負ってしまった」

「俺は何でもします、だから無一郎のことはどうか許してやってくれませんか?」

兄さんは何を要求されるんだろう、兄さんは僕を庇ってくれたんだから、それは僕の役割だ。

 

「兄さんは僕を庇ってくれたんです、だから許してください、僕が何でもしますから」

 

「ちょっと待って待って、僕は何もいらないから。この傷だって、そんなに深くないよ」

「僕、そんな風に見えるのかな…」

自分は何も求めずに、命を懸けてまで他人の命を守る人を初めて見た。

腕の傷が浅いわけない、僕たちに罪悪感を持たせないために痛いのに我慢して笑顔を見せている。

 

「でも、何か返さないと貴方に悪いです」

「何でも言ってください、僕たちにできることは少ないですけど」

 

「え〜それじゃあ……ここに泊まっていいですか?」

この人にはもっといい家があると思う、こんな見窄らしい家でいいのかな。

 

「こんな家でいいんですか?中なんて狭いし美味しい食べ物もだせません」

 

「大丈夫です、よろしくお願いします」

 

「夜去、蝶屋敷に戻らないと二人からまた何か言われるよ」

「この一週間でわかったでしょ?二人は夜去の帰りを待ってるんだよ」

 

「そこをお願いします真菰さん。二人には上手に説明してくれませんか?」

「僕だけじゃないよ、真菰さんの帰りも待ってるよ」

この人はみんなに好かれているんだ、今日初めて会ったばかりだけど僕もこの人が好きだ。

仲良くなりたい、お話もしたいな。

 

「今日だけだよ、明日早く帰ってこないとダメだよ。一人で夜寝られる?私がいなくても大丈夫?手を握らなくても大丈夫?」

 

「言わないで!手なんて最近だけじゃん」

女性は揶揄うだけ揶揄って、ニコニコしながら帰って言った。

顔をすごく紅くして下を向いている、さっきまであんなにかっこよかったのに。今は可愛い、弟のように思えてしまう。

でもよく見たら、僕ともそれほど年齢変わらないのかな?身長もあまり高くないから尚更そんな風に思ってしまう。

でもそれだけではない、夜去を知っているような以前に会った人なら僕は忘れないけどな。

 

「名前はなんて呼べばいいでしょうか?」

 

「夜去って呼んでください」

 

「助けてもらった人に、呼び捨てなんてできません」

 

「夜去、中入ろう」

この人をこんな風に呼んでいたような気がする、だからすぐに呼べた。

兄さんは少し呆れた顔で後から家の中に入ってきた、兄さんと少しだけ仲直りできた気がする。

また前みたいに仲良く暮らしたい、今日でたくさん話せるといいな。

埋めていきたい、空白の兄さんとの時間を。




時任家に泊まる話が次一話あります。


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二人で歩む

今日も木を切りに行かないといけない、俺と無一郎の二人が生きていくために。

木を切るのはとてもしんどい、でも生きていくには働かないといけない。

夜去さんを一人にしていくのは申し訳ないけど行かないといけない、夜ごはんは少しでも良い物を食べてもらいたいから。

 

「夜去さん、俺と無一郎は木を切りに行ってきます。小さい家ですがゆっくりしていてください」

 

「僕も二人と一緒に行っていいですか?」

 

「いいですけど、腕は大丈夫なんですか?」

 

「ほら、もうこんなに動きますよ」

無理しなくていいのに、痛いと言っていいのに、夜去さんは相手のことを一番に考えている。

父さんのようだ、俺も本当は父さんに憧れていた、無一郎と同じように。

でも無一郎を守るために、母さんや父さんの事を悪く言った、ごめんなさい。

 

「行きましょう、どっちですか??」

父さんも俺と無一郎の手をこんな風に繋いで連れて行ってくれていた。

今からでも俺は父さんのようになれますか?母さんのように優しくなれますか?

無一郎は人のために無限の力をだせる、兄として弟が誇らしい。俺は無一郎のようにはなれないとわかっている。

でも俺も憧れてもいいんだろうか沢山の人を助けるということに。

 

「夜去、逆だよ。こっち、こっち」

 

 

木を切る場所に着くと、なぜか夜去さんも一緒に木を切ることになった。

腕が心配だ傷が開いてしまわないか、無一郎は夜去さんを見て笑っていた。

 

「全然切れませんよ。僕のだけなんか切れ味悪くないですか」

「二人で何かしましたか?」

 

「してませんよ、夜去さんの力がないんですよ……」

 

「有一郎さんは味方だと思ったのに!二人みたいに僕もしたいですよ」

 

「手伝いましょうか?」

 

「はい!よろしくお願いします」

三人で一つの木を一緒に切った。いつもは苦しくて、しんどいだけの時間が今日はとても楽しい。

こんな時間を過ごしたのはいつぶりだろう、母さんと父さんが生きていた時以来だ。

無一郎の笑顔を久しぶりに見た、やっぱり俺は無一郎のことがとても大切だ。

自分の命を失っても、何をしてでもお前を守りたいんだ。

無一郎と夜去さんが持ってきたご飯を食べながら笑っている光景を見て俺も嬉しくなった。

そこに俺はいなくてもいい、俺は二人の笑顔を見ているだけで幸せなんだ。

 

「有一郎さんも来て、一緒に食べようよ」

 

「俺はいけません、二人の元へは」

二人は眩しすぎる、俺が二人の横に立つことは許されない。

無一郎には守りたいという理由でもたくさんひどい事をしてきた、俺の事は嫌っているだろう。

 

「じゃあ、僕たちが行きますよ」

「有一郎さんが何に悩んでいるか聞かせてくれませんか?僕でよければですけど」

なんでここまで優しくしてくれるんですか夜去さんは。あまね様もそうだった、何度怒鳴っても、水をかけても通ってくれた。会えるならば謝りたい。

 

「無一郎は人を助けるために無限の力を出せるやつなんです。でも俺にはそんな力はないんです、俺はどうしたらいいんでしょうか?」

 

「兄さん、そんなことないよ」

そんなことあるんだ、俺は選ばれた人間ではない、でも無一郎は違う。多くの人を助けることができるすごいやつなんだ。

俺のことは気にしなくてもいいから。

 

「そんなことありませんよ」

 

「どういうことですか?」

 

「有一郎さんも、さっき無限の力を出していましたよ?」

俺がいつそんな力を出していた、そんなわけない俺は冷たいやつなんだ人を助けるために力なんて出せるはずがない。

 

「大切な弟を助けるために出していました。間違いありません、あの場で貴方が誰よりも強かった。選ばれた人間でなくてもいいんです」

「無一郎さんが自分を守れない時、有一郎さんが無一郎さんを守る、そうすれば二人は無敵ですよ」

夜去さんは胸に響く言葉をたくさん投げかけてくれる、夜去さん以外の人から言われたら信用できないような言葉でもこの人から放たれた言葉なら信じられる自分がいる。

俺が無一郎を守るために力を出せていたんだ、俺の進む道が見えてきた気がする。

 

「兄さん、二人で鬼殺隊に入ろうよ。二人ならできるよ、沢山の人を守ろうよ」

 

「考えが甘い!と今までは言っていたが、そうだな」

「二人で頑張ってみるか、昔のように」

父さんが生きていた時は重たい木を二人で協力して運んでいた。

でもそれをいつからか自分一人で運んでいた、昔は疲れなかったが今は疲れるのは協力していなかったからだ。

 

「僕も二人を守りますから。安心してください」

 

「夜去さんも守れるように頑張ります。木を切れない人は少し不安ですから」

「僕も夜去と兄さんを守れるように強くなる!」

 

「木を切れないのは……あれはなしです」

そんなに悔しかったのか、夜去さんは俺たちより手足が細いから仕方ないよ。

でもあの細い手足であんな力を出せるなんてやっぱりすごいんだろうな。

俺も貴方のようになりたい、憧れてしまった。貴方は俺の英雄だ。

 

「やっと笑った。もう悩みは大丈夫ですか?」

 

「もう大丈夫です。俺は夜去さんのようになりたい」

「僕も僕も。夜去みたいになりたい」

 

「照れてしまいます、僕よりすごい人なんて鬼殺隊にたくさんいますよ?」

 

「いいえ、貴方がいいんです」

他の誰でもない夜去さんのようになりたいんだ。困っている人を助けれる、相手の事を思いやることのできる人に。

 

「そうですか、なら僕は二人を応援します」

この人が沢山の人に好かれる理由がわかる。とてもかっこいい、顔だけでなく心まで。

そして相手の閉じてしまった心を開いて照らしてくれる太陽なんだ。

さっきの女性、そして蝶屋敷という所にいる女性の気持ちに夜去さんは気付いているのかな?

貴方たちはすごい人に恋をしましたね、太陽に恋をしてしまったんだ。

この人を好きになってしまうのはしょうがないことだと思う、恋愛感情ではないものの無一郎と俺も……

太陽は絶対に誰か一人のものにはならない、誰かがこの人と結ばれる日は来るのだろうか。

 

「夜去さんは、絶対にたくさんの人に好かれています。その中の二人に俺と無一郎も入っています」

 

「そうかな??二人からそう言ってもらえると嬉しいな」

やっぱり気付いていないんだ、この人は恋というものに疎いんだ、鈍感とも言える。

 

「夜去さんは恋を知った方がいいですよ」

 

「恋ぐらい僕も知ってますよ!一緒に街に出かけたり、ご飯を食べに行ったりするんです」

 

「知ってましたか、てっきり」

 

「僕も恋を……してみたいとは思います。でもできない、してはいけないんです」

どうして、そんな暗い顔をするんですか、貴方には明るい顔が似合うのに。

自分が女性から好かれていないと思っているのだろうか、絶対にそんなことはないのに。

 

「恋してはいけない人なんていませんよ!」

そんなに無理をして笑わないでほしい、何故できないかは言ってくれなかった。

何か隠していること、一人で抱え込んでいることがあるんだ。

いつか夜去さんの抱えている事を俺も一緒に抱えられるくらい強くなろう。

 

「日も落ちてきましたから、そろそろ戻りますか?」

今日は木を切ったお金で、食材を買いに行って夜去さんに美味しいものを食べてもらおうと思ったのに。

家にあるものではいつものようなご飯しか作れない。

 

「街に行って食材を買ってきます」

 

「いいですよ、二人と食事できたらそれでいいです」

「帰りましょう」

この歳になって男が手を繋ぐなんて恥ずかしいことなのかもしれない、でもこの人とは手を繋いでいたい。

無一郎も絶対に同じことを考えている。

 

一緒に夜ご飯を作った。質素なものだったけど、夜去さんは美味しいと言って食べてくれた。

三人で布団を敷いて一緒に寝た、今日はすごく楽しかった。今日という日は、俺の宝物だ。

 

 

「夜去さん、俺たち二人で鬼殺隊に入ります。いつか二人で会いに行くので待っていてください」

 

「はい、ずっと待ってます」

 

「夜去、またね。すぐに会いに行くから、また一緒にご飯食べよ」

 

「食べましょう、また一緒に」

「二人なら絶対に大丈夫です」

 

 




次から鬼滅の本編に行きます!!!


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夢幻泡影

有一郎さん、無一郎さんと会って半年が経った。二人は鬼殺隊に入ったかな、早く会いたいな。

炭治郎さんと禰豆子の家族が鬼に殺されてしまう日、そして禰豆子さんが鬼にされてしまう日がもうそこまで来ている。

二人から話は聞いていたが、どんな鬼に襲われたかは分からなかった。

人間を鬼にできるというのは鬼の中でも位が高い鬼だと思う。

僕一人じゃ守れる命も守れない。でも明日、僕の知っている人達はみんな任務がある。

真菰さんとしのぶさんとカナエさんは共同の任務が明日はある、下弦の鬼と同等の鬼と言っていたけど三人なら絶対に大丈夫だ。

三人以外に話せる人といえば、今はまだ二人しかいない。

錆兎さんと義勇さんに相談を聞いてもらうために、水屋敷に行くことにした。

 

 

「錆兎さん、義勇さんいますか?」

中から走ってくる音が聞こえる、そんなに急がなくてもいいのに。

僕を待たせないようにしてくれているんだと思う、二人は本当に優しい。

 

「どうした?泊まっていくか?」

 

「少し相談したいことがあって来ました。泊まりたいですけど、蝶屋敷の皆さんに帰って来いと…」

 

「夜去も大変だな。俺たちも夜去と一緒に少しは過ごしたい」

錆兎さんと義勇さんにそう思ってもらえているなら嬉しいです。

今度水屋敷で一週間ぐらい泊まりたいな、説得するのはとても大変だと思うけど頑張ろう。

 

「それで相談とはなんだ?真菰や胡蝶たちにも言ってないのか?」

 

「三人には言えませんでした。明日任務もありますし」

三人に心配をかけていつも通り戦えなかったら大変だ。

人はその時の心の持ちようで、強い相手に勝てることもあるし、また逆もまたありえる。

三人にはいつも通り任務に行って欲しい。

 

「俺たちが先か、勝ったな」

何に対しての勝ったなのだろう、蝶屋敷の皆さんと何か勝負でもしてるのかな。

 

「二人は明日、任務はありますか?」

 

「義勇と俺で明日は東の方に行かないといけない。合同の任務だ、鬼が最近多く出ているらしいから柱の俺たちが行く」

東の方なら炭治郎さんの家に来てもらえるかもしれない。

 

「明日、ある家族が襲われてしまうんです。僕は先に向かっているんで、錆兎さんと義勇さん来てくれませんか?

「お願いします、僕一人だと守れる命も守れない」

 

「夜去、成長したな。助けを求めることを、前までは絶対にしなかっただろう」

「わかった、二人で行く。それまで守れるか?」

今は仲間を信じている、自分を信じている、それを教えてくれたのは鬼殺隊の皆さんだ。

なぜ襲われると知っていると二人は聞いてこなかった、二人からしたら僕の話は信じることも難しいはずなのに。

 

「ありがとうございます!絶対に守ります」

二人にそう言われたんだ、絶対に守る。

 

「よく言った、ご飯食べていくか?」

何が出てくるかはもうわかる、絶対に鮭大根だ。

二人の作る鮭大根はとても美味しい、食べて行きたいな。

──

「どこいくの?女性のところ?」

 

「三人とも顔が怖いですよ。錆兎さんと義勇さんの所ですよ」

 

「お昼には絶対帰って来てね?お昼ご飯作って待ってるから」

 

「もし食べていかないか?って言われても」

 

「ダメ、戻って来て」

 

「はい…」

──

三人には俺たちが伝言を伝えておくから大丈夫だと言われた。

本当に大丈夫かな、帰って怒られないといいけど。

カナエさんもみんなには優しいけど僕にだけたまに怒る時あるからな。優しい人の怒った時が一番怖い。

しのぶさんは…考えないでおこう。

真菰さんはいつも怒られる時、守ってくれるから好きだ。夜寝る時、手を繋がないと機嫌が悪くなるけど。

 

「夜去、たまには水屋敷に来い。俺たちは胡蝶や真菰のようにはしないぞ?」

 

「どういうことですか??」

 

「まだ夜去には早いか。子供だもんな」

 

「二人もそう言うんですね。もう、いいですよ」

でもいいか、二人にこうして甘えることができるなら子供でも。

 

三人でご飯を食べてお昼寝をしていたら、夕方になっていた。

これは嫌な予感がする。蝶屋敷のみんなはご飯の支度をしてもうすぐ食べる時間だ。

絶対に怒られる、少しでも怒られない方法はないかな。

二人が一緒に来てくれれば少しは怒られなくて済むかも。

 

「錆兎さん、義勇さん」

 

「すまない、俺たちは今から用事がある」

え?嘘だよ、絶対用事ないよね。三人が怖いからだ、二人がいないと僕はどうなるの。

帰ろう、何かお土産でも買って。

 

 

蝶屋敷になかなかは入れない、前にもこんなことあった。

あの時は過去に戻りたいと伝える時だったな、あれからすごく時間が経った。

未来はどんな感じなんだろう、みんな元気かな。

待っててください、みんなを絶対に未来に連れていくから。

玄関の扉を音が鳴らないようにゆっくりと開け、履物を脱いでいた、

 

「お帰り、遅かったね?」

背筋が凍った、声にいつもの優しが感じられない。

三人とも無理に笑わないで、怒った顔の方がまだましだよ。

 

「ただいま、遅くなってごめんなさい」

 

「早く帰ってきてって言ったよね?私たちはとても心配なの、夜去はいつかいなくなってしまいそうで」

「私たちから見える場所にいてよ、側に蝶屋敷にずっといて、私たちから離れないで!」

「私たちが夜去の分も戦うから、任務にも行くから」

三人にこんな思いをさせていたのか、本当にごめんなさい。

でもそれはできない、僕にも守りたいものがたくさんあるから。

 

「本当にごめんなさい、辛い思いをさせてごめんなさい」

「でも、それはできません。三人にだけ、皆さんにだけ戦わせて自分だけ戦えないのはもう嫌なんだ」

「そんなに泣かないで、帰ってくるから絶対に」

 

「もう知らない、任務にでも何処へでも行けば」

僕は三人に嫌われてしまったのかな、それもそうか約束破ったんだもん。

これが喧嘩というものなのかな、謝りたい。今日の間には仲直りしたい、明日から離れ離れになってしまうから。

 

その日三人には話を聞いてもらうことができなかった。部屋の前まで行った時三人の泣いている声が聞こえた。

僕は心配ばかりかけてしまう、ごめんなさい。

 

「カナヲさん、アオイさん三人が戻ったらこれを渡しておいてくれませんか?」

昨日のお土産の中に、手紙を入れておいた。三人は今日の夜から任務なのでまだ寝ている。

 

「そういうのは自分で渡した方がいいですよ」

 

「渡したかったんですけど、少し仲違いしてしまいました」

帰ってきたら三人と仲直りして、たくさんお話をしよう。

 

「行ってきます、アオイさん、カナヲさん」

 

「はい、帰ってきてくださいね。蝶屋敷のみんなで待ってます」

「夜去、絶対に戻ってね」

絶対に戻ります、未来の二人とも約束したから。

行ってきます。真菰さん、カナエさん、しのぶさん。

 

──

なんであんな酷いことを言ってしまったんだろう。

任務にでも何処へでもいけばなんて思ってない。離れてほしくない、私の横にいてほしい。

ただの嫉妬だ、富岡君と錆兎君に嫉妬してしまっていた。男子同士なのに、仲良くしているのを想像すると心がとても痛い。

誰かが夜去と結ばれた時私は喜べるのかな。でもそんなことはないと心の中で安心している。

夜去は絶対に一人を選ばない、私も夜去以外の人を選ぶ気は全くない、他の人なんて嫌だ、夜去がいい。

それほどに貴方のことを想ってしまっている。

 

「カナヲ、夜去は?」

 

「さっき出かけて行きましたよ」

こんな朝早くにどこに行ったんだろう。昨日あんなこと言ったからかな、帰ってきてくれるよね。

謝りたい、昨日何度も部屋の前で謝っている夜去の声をずっと聞こえないふりしていた。

 

──

姉さんと同じことを言おうとした、何処にでもいけばいいと。でも姉さんが先に口に出したから私は言わずに済んだ。

私もそんなこと思っていないように、姉さんも思っていないはずだ。

姉さんの言うように、私たち三人は思っている。離れないでずっといてほしいと、見える場所にいてほしいと。

貴方はいつかいなくなってしまいそうだから、ずっと見ていないと感じていないと不安になる。

こんなにも好きになる人がこの先の人生で現れるのだろうか。いや絶対に現れないし、現れなくていい。

そんな人、夜去だけでいいんだ。

 

「アオイ、夜去は?」

 

「今、出掛けましたけど」

どこに行ったの、帰ってくるよね?心配で胸が押しつぶされそうだ、今日の任務大丈夫かな。

部屋の前で謝っている夜去をずっと無視していた、素直になれなかった。

ごめんなさい、帰ってきたらたくさんお話ししたい。

 

──

カナエちゃんは少し強く言いすぎと思ったが、私も同じことを言おうとしたからそんなこと言えない。

夜去はいつになっても、一人で抱えていることを話してくれない。私は信用されていないのかなと思ってしまう。

ずっと一緒にいるって決めたのに、夜去から離れていったらどうしようもないじゃん。

消えてしまいそうなんだ夜去は、目を離してしまうと。だから見えるところにいてくれないと不安になる。

夜去の全部が好きだ。そう言ったら嘘のように聞こえるかもしれないけど、その言葉以外に見つからない。

最初は弟のような存在だと思っていた、でもそれがいつの日か好きと言う感情になり、それが大好きになり、今は愛しているという感情になった。

夜去がいなくなったら、もう私は恋という感情はいらない。だって夜去以外の人に恋は絶対にしないから。

 

「夜去、こんな朝早くからどこ行ったの?」

寝る時、夜去から珍しく繋いでくれた手を昨日は離してしまった。

嬉しかったのに本当は繋いでいたかった、どんな顔をしていたんだろうか。

そのあとは謝る声が何度も聞こえたが、私は寝たふりをしていた。私も謝りたい。

 

「夜去、戻ってくるよね?」

神様一度だけでいい、私の願いを叶えてください。

夜去を私の元に戻してください、お願いします、お願いします。

 

 

 

 

 



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哀しみを超えて

「炭治郎、顔が真っ黒じゃないの。こっちにおいで」

「雪が降って危ないから行かなくてもいいんだよ」

正月にはみんなに腹いっぱい食べさせてやりたい、いつも無理させてばかりだから。

竹雄と花子が一緒に行きたいと言っているが今日は連れて行けない。荷車を引いて行かないから二人が休みたいと言っても乗せてあげれないからだ。

何かお土産を買ってきてあげよう、そのためにたくさん炭を売らないと。

竹雄には悪いことをしたな、一緒に木を切る約束をしたのに。

 

「お土産買ってくるから、母さんの手伝いをして待っていてほしい」

父さんが死んでしまってから母さんはすごく頑張っている、少しでも楽をしてほしい。

 

「わかった、兄ちゃん早く戻ってね。いってらっしゃい」

 

「いってきます」

手を振ってくれる家族に手を振りながら、街の方へと歩く。

 

「兄ちゃん、いってらっしゃい」

禰豆子は六太を寝かせてくれていたのか、本当に働き者だと思う。

禰豆子の将来の旦那さんは、どんな人なんだろうか。とても落ち着いていて、温厚で、真面目な人だと俺は思うんだけどな。

逆もありえるのかな?どちらにせよ将来がとても楽しみだ、まだ早いと思うけど。

 

生活は楽ではないけど、本当に幸せだな。

父さんが死んでしまって寂しいけど、みんながいてくれるから毎日が幸せだ。

これ以上の幸せは何も望まない、この生活が続いてくれるだけでいいんだ。

でも人生は空模様のようなものだから、ずっと晴れ続けることもないし、雪が降り続けることもない。

良い事ばかりは起きないし、悪いことばかりも起きない。

 

そして幸せが壊れる時には、いつも血の匂いがする。

 

 

今日は雪が降っていることもあり、炭がよく売れる。これなら早く帰ることができるかな。

でも街の人が助けを求めてきたら断れない、人のために何かすることは好きだし、母さんと父さんにもよく困った人がいたら助けてあげてと言われたから。

 

「たんじろぉ〜、皿を割った犯人にされたんだ。匂いを嗅いでくれ。

俺は鼻がよく利くから、何か手助けできたらいいけど。

猫の匂いがしたと伝えると信じてくれた。よかった疑いが晴れて。

そんなこんなで気付けば夕方になっていた。早く帰ると言ったのに、急いで帰ろう。

 

「こら、炭治郎。お前今から山に帰るつもりか?危ねえから、泊まっていけ」

 

「俺は鼻が利くから平気だよ」

 

「うちに泊めてやる、いいから来い、戻れ」

それでも戻らないと心配させてしまうと思い、断っていると真剣な顔で言われた。

 

「鬼が出るぞ」

鬼…本当にこの世にいるのだろうか、何かの例えかな?山賊とか強盗とかだろうか。

あまりにも顔が真剣だったから、三郎爺さんの家に泊まることにした。

明日、朝早く帰ればいいと言われた。それもそうだな、日が登る前に帰ろう、みんなの待っている家へ。

 

「鬼は家の中に入ってくるのか?」

鬼のことが頭から離れないので三郎爺さんに、さっきから鬼の話ばかり聞いている。

 

「いや入ってくる、鬼狩り様が鬼を斬ってくれる昔から」

入ってくるのか、じゃあ鬼狩り様という人たちがいないとみんな喰われてしまうのか。

昔から伝わっている、夜に子供達が外を出歩かないようにするために伝わっている話なんだろうな。

三郎爺さんは家族を亡くして一人暮らしで寂しいのかな、今度みんなで来てあげよう。

怖がらなくても大丈夫、鬼なんていないから。

でもそういえば、うちの婆ちゃんも死ぬ前に同じことを言っていたな…

 

昨日の鬼の話が気になり、夜が明ける前に目が覚めてしまった。

家族が鬼に殺されてしまっていたらどうしよう、早く帰ってみんな生きていることを確認したい。

布団を畳んでいると三郎爺さんが起きてしまったので、帰りますと伝えた。

急ぎ足で家に帰っていると、微かに血の匂いがした。

鼓動が速くなり、胸騒ぎがする、本当に鬼がいて家族は鬼に殺されているのではないか。

 

 

「何故守る?お前はそんなに傷を負ってまで。こんな家族置いて逃げれば、お前は助かるんだぞ。

「弱いものを助ける英雄にでもなったつもりか?なにかの主人公にでもなったつもりか?お前は所詮、鬼の首が斬れないイカれ集団の底辺だ」

背中に滅の字が刻まれた服を着て刀をもっている人を、ここら辺では見たこともない服を着た成人男性が攻撃していた。

成人男性の方からは血の匂いが嫌というほどして、鼻がおかしくなりそうだった。

 

「この人たちは絶対に守らないといけないんです。僕の大切な人の大切な人たちだから」

「英雄、物語の主人公なんて思ってない。けど憧れた、弱き人を助ける鬼殺隊の英雄たちに。誰にでも優しく、相手のことを想いやることのできる物語の主人公のような人に」

「英雄のように一人で全員を守ることもできない、物語の主人公のように誰も勝てない相手を倒すことも僕にはできない」

この人からはとても優しい匂いがする、涙が溢れ出しそうなほどに。

実際その人の後ろにいる、俺の家族はみんな泣いていた。

どれほどの時間一人で戦って、俺の家族を守ってくれていたんだ、俺が三郎爺さんの家でぬくぬくと寝ていた時からだろうか。

血がたくさん出ている、あんなに出てしまったら立っているのさえ辛いはず。

 

「よくわかってるじゃないか。ならさっさと逃げろ、邪魔だ」

 

「わかっていても逃げない、憧れた人たちは絶対にここで逃げない。守り抜く、約束したから」

あの人の憧れた人たち、その人たちは本当にすごい人たちなんだろうな。

あの人の感情を少しだけ読み取ることができた。

その人たちは自分の命を犠牲にしてまでたくさんの人々を守ったんだ、そしてその人たちを守りたいと思っている。

でも自分の命を犠牲にしてでもたくさんの人々を守った人たちを守りたい?その人たちは、もう亡くなっているんじゃないのか?

少し矛盾しているような、今は血の匂いが濃すぎて鼻がおかしくなっているのかもしれない。

 

「もういい、日の出も近いから遊びも終わりだ。殺してやる」

もう、木の間から黙って見ているのは嫌だ。俺もあの人と一緒に、大切な家族を守りたい。

 

「おい、お前!」

持っていた斧をその男に投げつけた、斧が刺さらないあの男はそれほど硬いんだ。

男は俺のことをすごく睨んでいる、ものすごく怖い、この人と今まで戦っていたのか。

 

「もう、一人いたのか。なら、お前からだ」

久しぶりに死を実感した。前にも一度、熊にあった時に実感したことがある。

その時は父さんがまだ動けて、俺を守ってくれた。懐かしいな、どれほど前になるんだろう。

 

「炭治郎さん!なんでこんな早くに」

「時の呼吸・六の型 常永遠」

俺の目の前まできていた触手を、刀で防いでくれたが勢いを消すことが出来ず二人とも飛ばされてしまった。

あんなに遠くまでいたのにいつの間にここまで来たんだ、俺と同じように鬼も驚きを隠せていない様子だ。

それほど速かったんだ、いや速いとかいう次元ではない、時間を止めて動いていたとしか思えない。

今わかることだがこの人は手足がとても細い、少しでも衝撃を与えれば折れてしまいそうなほどに。

瞬きして次に目を開けると、目の前に立っていたその人は吐血し膝をついていた。呼吸もどこかおかしい、とても苦しそうだ。

 

「終わりだな、この家族は鬼にする」

やめてください、お願いしますと何度も何度も頭を下げながら前で言っている。

でもその人は口の中にたくさん血がたくさん溜まっていて、息も上手に出来ていないから上手く言えていなかった。

やめてくれ、俺の大切な家族を奪わないでくれ。他のものは何もいらないからお願いだ。

 

 

夢でも見ていたのか、そう思い目を開けるとあれは夢でなかったことがわかった。

家の中には大切な家族の死体があり、血飛沫が壁や床に散っている、あの鬼に殺されたんだ。

涙が溢れ出してくる、幸せな日常は壊れてしまったと実感する。お土産を買ってくると言ったのに、腹一杯食べさせてあげると言ったのに。

親孝行なんてできていない、お兄ちゃんらしいことなんてしてやれていない。

禰豆子と俺たちを守ってくれた人がいない、家族には置いていくことを悪いと思いながら二人を探した。

体が悲鳴をあげていることも忘れて、二人を探した。

 

「夜去、なぜ庇う?そいつは鬼だ」

 

「僕の…せいな…んです。二人が………来てくれるまで…守るといいった…のに」

「鬼に…されて…しまいましたが…優しい人…なんです。お願いします、錆兎さ…ん、義勇…さん」

夜去さんという人だったのか、禰豆子が鬼に…確かに匂いが違う、本当に鬼にされてしまったんだ。

2人に土下座をしながら禰豆子のことを庇ってくれている、夜去さんに助けてもらってばかりじゃないか。

禰豆子もそんな夜去さんを見て涙を流している、二人も鬼が涙を流している光景を見て驚いていた。

 

「もう、いいわかったから。喋らなくていい、動かなくてもいい。自分の傷の深さに気付いていないだろ」

 

「夜去のせいじゃない、俺たちが遅れたせいだ、本当にすまない」

「義勇の言う通りだ、大人しくしていてくれ頼むから」

「他の家族は全員殺されたのか?」

 

「僕の事は…あとで…いいですから。もう一人の…男の人を…」

俺なんてたいした傷はしていない、夜去さんの方が傷だらけじゃないか。

なんでそこまで俺たちのことを考えてくれるんだ、わからない、わからないよ。

 

「わかった。義勇、夜去の事を頼んだぞ」

 

「俺はここにいます」

三人の前に出て行くと、夜去さんは何度も何度も涙を流しながら俺に謝り始めた。

あなたが守ってくれたのに、禰豆子と俺の事を。大切な家族のみんなも感謝しているはずです。

だからそんなに何度も謝らないで欲しい、謝らないといけないのは俺の方なのに。

あそこで自分の弱さ知らずに出ていってしまった。だから家族を失ったんだ、だから夜去さんにそんな酷い傷を負わせてしまった。

 

「そんなに謝らないでください、夜去さんにたくさん助けてもらった。それに禰豆子の事を鬼にされた今でも優しい人だと言ってくれた」

それでも謝り続ける夜去さんを黙らせて義勇さんという人がお姫様抱っこをしている。

名前を聞かれたので、俺と禰 豆子の名前を伝えた。そして今から二人の師匠の所に行くことになった。

埋葬だけはさせて欲しい、あのままでなんていけない。

 

「家族の埋葬だけはさせてください。それに少し話したいので」

夜去さんは気を失っていた、逆に今まで目を開けて立っていたのが不思議だ。

義勇さんと錆兎さんは想いを伝えてこいと言って、禰豆子と俺の二人で家に行かせてくれた。

 

「妹を太陽の元に連れ出すなよ」

 

 

「母さん、竹雄、花子、茂、六太…ごめんなさい」

でも謝っていると家族からは謝らなくていいと言われた気がした。

俺の家族は絶対に責めたりはしない、幸せを願ってくれているはずだ。

 

「炭治郎、禰豆子の事をよろしく頼むわね」

「兄ちゃん、姉ちゃんの事をお願い」

 

「置き去りにしてごめんね、二人の幸せをずっと願っているから。いつか全部終わったら、ここに貴方達の家に戻ってきて」

聞こえたのは家族の声だった、慣れ親しんだ声、間違うはずがない声。これが幻聴ならそれでいい、でも家族の思いはしっかり届いた。

禰豆子を守るために、俺たちのような人を出さないために、夜去さんのような人になりたいと思った。

いつかまた会えますよね、その時は感謝の気持ちを改めて伝えたい。

夜去さんは自分は英雄なんかじゃないと言っていたが、そんな事はない。

あんなに傷だらけの状態でも、立ち上がり守ってくれた。貴方以外にその言葉が似合う人はいません。

俺も貴方に心惹かれてしまった。あの二人、錆兎さんと義勇さんもきっとそうなんだろうな。

本当にかっこよかった、男の人にこんな感情を持つのはおかしいのかもしれないけど。

夜去はいつか消えてしまいそうな気がする、それは何故かはわからないけど。

 

「行こう、禰豆子」

先程まで雪が降っていたのに、太陽が出て雲ひとつない。

絶望してずっと下を向くのはやめる、今から前を向いていく。

戦うんだ、幸せになるために。

 

 

 

 

 

 

 




一回書いてたのに消えてた-_-

この人たちは守れなかった…


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ここでずっと

頭の下に柔らかい感触がある、そして先程までは体中が痛く、呼吸も上手く出来なかったのに今はできる。

とても暖かい場所で、とても安心する場所、でもどこか悲しいような場所。入夜さんが一人でずっといる場所だ。

 

「夜去、起きた?」

頭の下の柔らかい感触は入夜さんの太腿だった、今僕は膝枕をしてもらっている状態だ。

顔を見られたくない、今僕はとても酷い顔をしていると思う。

炭治郎さんと禰豆子さんの家族を守れなかった、二人と守るって約束したのに。

 

「入夜さん、僕守れませんでした」

二人の間に沈黙が訪れる、声を上げずに顔を手で覆い泣いた。

入夜さんが頭を優しくずっと撫でていてくれたこともあり、溢れ出る感情を抑えることができなかった。

あの時もう一度、時の呼吸を使えていたら炭治郎さんの家族をを守れていた。

あのあとすぐに来てくれた錆兎さんと義勇さん、二人に繋ぐことができたのに。

僕のせいで二人にも辛い思いをさせてしまった、間に合わなかったという後悔を与えてしまった。

 

「あの時、もう一度時の呼吸を使ってたら死んでたよ?」

「夜去を心から待っている人たちがいる、それは絶対に忘れないで」

死んでいた…使っていたら助けられた、

でも使っていたらみんなとの約束を破っていたのか。

カナエさん、しのぶさん、真菰さん、待ってくれている人たちにどんな想いをさせていただろう。

じゃあ僕はあの時どうしたらよかったんだ、正解がわからない。

 

「僕はどうしたらよかったんですか?どちらも守ることはできなかったんですか?」

 

「正解なんて誰にもわからないよ。自分の選んだ道を正解にするしかない」

「どちらも守れるのは選ばれた人たち、力がないとどちらか選ばないといけない」

 

「悔しい、弱いままの自分が嫌いです」

 

「そんなことない、夜去は二人を守った」

守ったなんていえない。禰豆子さんは前と同じように鬼にされてしまったし、炭治郎さんにも前と同じように険しくて、苦しい道を歩ませてしまうんだから。

日の出まであと少しだったのに、僕があと少し鬼舞辻無惨と戦えていれば。

時間を巻き戻してもう一度やり直したい、でもあの日から一週間が経ったことを聞いた。

それほど経ってしまったら、もう戻ることはできない。

 

「助けれなかった人たちも、夜去の事を恨んだりしてない。感謝していたでしょ?」

──

「やめてください、お願いします、お願いします」

 

「鬼狩りが鬼に頭を下げるのか、本当に情けない」

 

「鬼狩りさん。私たちを守りながら戦ってくれてありがとうございます」

「貴方のおかげで炭治郎に会えた」

「鬼狩りさんのおかげだよ、兄ちゃんにもう一度会えたのは。ありがとう」

──

今から殺されるというのに笑ってありがとうといってくれた。

死ぬ前に笑顔で言ってくれたんだ、僕への感謝の気持ちを。

炭治郎さんのように暖かい人たちだった、だからあの家で幸せに暮らしていて欲しかった。

 

「夜去はここで蹲って泣いて、力がないからと諦め、逃げだしてしまうの?輝夜と咲夜と約束したこともあるんじゃない?」

──

「鬼狩りさん、炭治郎と禰豆子をよろしくお願いします」

「三人の幸せを私たちは願っています」

──

泣いてなんていられない、二人を守ると約束したんだ。

諦めれるはずがない、逃げだせるわけがないよ。

二人との大切な約束もある、それはどんなことがあっても諦めないこと。

今ここで逃げだして生きて戻っても、姉さん達からは怒られてしまう。

二人なら自分の決めた道を進む、二人の弟ならばここで道を曲げ逃げてしまう事は許されない。

 

「前へ進みます」

「もっと、もっと強くなりたいです。もう誰も大切な人を失わないでいいように」

 

「夜去なら大丈夫。だって輝夜と咲夜、二人の弟だもん」

「泣きながら言うのそれ??でも絶対に強くなれるよ」

「私も輝夜も咲夜も夜去と一緒に戦うから。時の呼吸の継承者はあなたの努力をいつも見てる、みんな夜去のことを誇りに思ってる」

姉さん達はいつも一緒にいると言っていた、今までもいてくれたのかな。

一緒に戦うその言葉に僕がどれほど勇気を貰っただろう。そこに存在を認識できなくても、いてくれると思うだけで力が湧いてくる。

ずっと見ていてくれたのかな、お母さん、お父さん、おばあちゃん僕ちゃんとできてるかな。

今まで時の呼吸を継承した人たちにも誇りに思われていることが嬉しかった。

 

「入夜さん、もう大丈夫です」

 

「顔が変わった。まぁ可愛いことに変わり無いけどね」

「みんな待ってるよ、早くいってあげて。また来ても膝枕はしてあげるし、慰めてあげるから」

 

「わかりました、みんなの元に戻ります。あまり揶揄わないでください」

 

──

夜去、失った時にどうするかが大事だよ。そこで諦めてしまうのか、もう同じような人をださないためにもう一度立ち上がり戦うか。

夜去は立ち上がったんだね、私は諦めた方だから。前は私と同じと言ったけど訂正する、貴方は私なんかよりずっと強い。

あの時、立ち上がっていれば絶望して諦めていなければ珠世姉さんを助けれていたのかな。

 

「夜去…いつか…私と…珠世姉…さんの…こと…も助けて…くれる?」

 

「どうしたんですか?入夜さん、悲しいことでもありましたか?」

声にだしてしまっていた、戻って行こうとする夜去を引き留めてしまった。

 

「何もないよ、またね」

 

「入夜さんいつか聞かせてください」

「入夜さんも入夜さんの大切な人も僕が絶対に助けます、貴方は僕にとってかけがえのない人なんです」

本当に助けてくれるんだね、夜去は私の英雄だ。

夜去に伝える時は、夜去が時の呼吸の事、未来から来た事を鬼殺隊のみんなに話した時にしよう。

そんな恥ずかしい事をよく普通に言えるね、朝屋敷で一緒に暮らしている三人も苦労するわけだ。

 

「夜去ちょっと来て!私貴方より、ずっと年上だけど」

「でも、ありがとう」

私は夜去のことを抱きしめた、手足や体がこんなに細いのも時の呼吸の影響だね。

恥ずかしいからやめてくださいと言っているけどやめない、ここには二人しかいないもの。

本当はここにいるのは私一人でいいんだ、夜去は来なくていい。

でも夜去は出ることができる、それはつまりそういうことだ。

 

「入夜さん、いつかここから連れ出します

外の世界を一緒に見ましょう、美味しい食べ物を沢山食べましょう、会わせたい人も沢山いるんです」

「それに、もう一度会いたい人もいるんですよね?」

外の世界を一緒に見て回って、美味しい物も一緒に食べることができればどれほど幸せだろうか。

輝夜と咲夜にも会いたいな、二人は無意識に私と会話をしてくれていたから。

もう一度会いたい人が私にはいる。今も苦しんでいるはずだ。会って謝りたい、一度でいいから話したい。

 

「いつの日か入夜さんに手を差し伸べます、その日まで待っていてください」

顔を紅くし、早口で言って帰っていった。私はその言葉を聞いて笑いが止まらない、それと同時に涙も溢れ出してくる。

いつ以来かな、こんなに笑ったのは涙を流したのは。それはもう千年ほど前になるのかな。

あんなの告白みたいなものだよ。私も夜去に惹かれてるんだね、可愛くて、愛おしくてしょうがない。

 

「私はここでずっと待ってる、夜去の手を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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命を懸けてでも

「カナヲ、アオイ、夜去は戻った?」

 

「戻っていません…」

任務が長引いているのかな、いつも夜去さんは任務がある時は真菰さんと一緒だから一人で行くことはないと思うけど。

カナエ姉さん、しのぶ姉さん、真菰さんからは明かりが消えかかっている。

私も不安でたまらない、でも絶対に戻ってきてくれる。

また名前を呼んで欲しい、もっとお話もしたい。私と一緒にいても何も楽しくないのに任務のない日は一緒にいてくれる、夜去さんといられる時間がとても好きだ。

 

「夜去、もう帰ってこないのかな。何かあったんだ、私たちのせいだ、私たちのせいで」

三人は自分をすごく責め、もう夜去さんが帰ってこないと言っている。

それを聞いて私はすごく腹が立った、三人が信じてあげないでどうする。

今まで姉さんに反抗したことなどない、でも今日は自分の感情を抑えることができそうにない。

 

「なんで信じてないの…」

 

「カナヲ?」

アオイが心配して私の顔を見ている。

大丈夫だよアオイ、この羽織があれば私は勇気が湧いてくる。

三人に言わないといけない、信じろと必ず戻ってきてくれると。

 

「夜去は帰ってくるよ!私はいくら三人でも夜去のことを信じないのは許さない」

私と夜去とアオイで約束した、必ず帰ってくると。

いつの約束かわからない、どこから帰るかもわからない。でも約束したのだけは忘れない、それだけはずっと心に刻まれている。

みんな驚いていた、私が今まで自分から進んで行動したことはなかったし、思っている事を口にしたことがなかったから。

 

「なんでカナヲは信じられるの?夜去は消えて、いなくなってしまいそうと思わない?」

 

「私も姉さんと一緒。だから割れ物のように扱ってしまう、ずっと隠していたいと思ってしまうの」

 

「私もカナエちゃんとしのぶちゃんと一緒だよ。夜去は雪みたいなんだ、とても儚くて綺麗」

 

「でも……」

なぜ信じられるかを答えられない、でも私は信じられるんだ。

三人と同じように消えてしまいそうだと私も思う、それでもまた会える気がする。

一度消えても太陽のようにまた昇って、みんなの凍った心を照らしてくれるんだ。

会った時からそうだった、夜去はみんなの太陽で癒しだった。私はそんな夜去が可愛くて、愛おしくて、何よりも大切なんだ。

この理由を三人に言葉で説明するのは無理だ、それにこの理由が通じるのは私だけだと思うから。

 

「これを夜去さんから三人へ渡しておいてくださいと」

──

カナエさん、しのぶさん、真菰さん心配をかけてごめんなさい。

僕が弱いから、力がないから三人に不安な想いばかりさせてしまって本当にごめんなさい。

でも弱くてもみんなと戦いたい、もう僕だけ戦えないのは嫌なんです。

鬼殺隊の皆さんと未来を生きたい、鬼のいない世界で一日一日を笑いあっていたい。

それはすごく険しい道のりだということはわかっています、でもこれは僕が初めて持った夢なんです。

どれほど険しい道のりでも僕は諦めません、途中で逃げません。二人の大切な姉と約束したことだから。

それにもう一人の大切な姉とも約束したんです、必ずその姉の元に、皆さんの元に戻ると。

だからカナエさん、しのぶさん、真菰さん僕を信じて待っていてほしいです。

追伸

これ美味しそうだったので、みんなで食べてください。

怒ってばかりだと老けます、三人ともお嫁さんにいけなくなりますよ。

僕は怒った女性は苦手です、もっと物静かで優しく包み込んでくれる女性がいいです。

なので甘い物でも食べて、怒りを鎮めてください、

──

先程まで不安しか感じられなかった三人の顔からは安堵と怒気が感じられる。

私でもわかるよ、三人がお嫁さんに行きたいのは夜去さんだよ、まだ気付いてないんだね。

三人もお姉さんがいたんだ。私も夜去さんの姉でありたいと思ってしまう時がある、歳は下なのに。

 

「帰ってきたらお仕置きが必要ですね。姉さん真菰さん」

 

「そうねしのぶ。乙女心を持て遊んでる夜去にはお仕置きが必要ね」

 

「夜去は本当に天然なんだから、私がお嫁さんに行きたいのは…」

「なんでカナエちゃんもしのぶちゃんも、怖い顔で私を見るの??」

 

「なんでもないよ真菰ちゃん、少し気になっただけだから」

「いいえ、何もありません」

三人に少し元気が戻った気がする。

戻ってきてね夜去、蝶屋敷のみんなでずっと待っているから。

 

 

三日、四日、五日と経ったが夜去さんは帰ってこなかった。

カナエ姉さん、しのぶ姉さん、真菰さんからは日に日に暗くなっていった。

ご飯も喉を通らないからと言って食べていないし、隊士の人たちからも元気がないと心配されている。

今日も二人の水柱様が蝶屋敷に薬を受け取りに来ていた、夜去さんが出掛けた次の日から毎日来ている。

私はすぐに二人が何か隠していることに気付いた、いつもの姉さんたちならすぐ気付けるのに、今はそれができない。

二人の柱の前に私は飛び出て行った、怖くて足が震える。でもこの羽織が私に勇気をくれる。

 

「二人は!何か…隠してます……教えてください」

やはり怖い、柱に楯突いてしまったようなものだ。

 

「胡蝶の継子か…………わかった、ついて来い」

どこに行くのだろうか、カナエ姉さんに少し出掛けると伝えて二人について行くことにした。

着いた場所は水屋敷だった、二人は誰か怪我人の薬をもらいに来てたんだ。

確信した、その怪我人は夜去さんであることを。会うのが怖い、先程の震えとはまた違う震えが私を襲った。

部屋の中に入ると布団の中で夜去さんが寝ていてた。汗をたくさんかき、身体からは痛々しい傷がたくさん見える。

痛いんだ、今も顔から激痛に耐えているのが伝わる。その痛みは体だけの痛みではない気がした。

二人は何故こんなに酷い怪我の夜去さんを蝶屋敷に連れていかないのかわからない。

いつも近くで見いているからわかる、しのぶ姉さんが渡しているのは軽い傷に使う薬だ。

 

「なんで蝶屋敷に連れていかないんですか?こんなに酷い怪我をしているのに」

 

「俺たちも連れて行こうとした。でも倒れる前に夜去が言ったんだよ」

「こんな体で運ばれたら三人は自分を責めてしまう、だから自分の足で歩けるようになってから帰りたいと。そうしたら三人はただの家出だと思うでしょってな」

夜去さんは優しすぎるよ、三人が自分を責めないために今も痛いのを我慢している。

でもその傷はしのぶ姉さんに見てもらわないと絶対にダメだよ、手遅れになってしまう。

ごめんなさい、私は心を鬼にしてでも貴方を連れていかないといけない。

 

「水柱様

蝶屋敷に連れて行きます?いいですよね」

 

「あぁ、俺たちも誰かにそう言って欲しかったのかもしれない。

俺と義勇が運ぶよ」

そんな時、夜去さんから手を握られた。その手は弱々しく、男性のものとは思えないほど細かった、とても綺麗な硝子細工のような手。

 

「お願いします、僕は大丈夫です

こんな傷ぜんぜん痛くありません、三人が自分を責めることの方が痛くて苦しいです」

 

「絶対にダメだよ、見てもらわないと。いつも近くで見てるからわかる、すごく傷が深い」

夜去さんは上弦の弐を撃退したのだから、こんな酷い怪我を負うなんて相当強い鬼だったんだと思う。

もしかすると姉さんたちとの仲違いしてしまったせいでこんな傷を負ってしまったのかもしれない。

今は後者の方が考えられる、それを隠すために蝶屋敷に行かないんだ。

そのことを三人に知られないようにしているのか、三人には笑顔でずっといてほしいから。

ごめんなさい、貴方の願いを壊してしまう。そうしてでも蝶屋敷に連れていかないといけないです。

 

「三人が笑っていないのはもう嫌なんです、失ってほしくないんです、三人には笑顔が似合うんだもん」

でも私の選択は変わらない、貴方を連れて行く。

 

「カナヲ姉さん、お願いします」

 

「……!」

涙を流しながら何度もお願いしますと言っている。

私はカナヲ姉さんと言う言葉が頭の中で何度も響く。ずっと言ってほしかった言葉だと思う、私にとってとても大切な言葉。

その言葉を聞くと夜去の願いを聞かずにはいられなかった、本当は今すぐにでも連れて行きたい。

 

「わかったから夜去、ゆっくり休んで。落ち着くまでここにいるから」

夜去は安心したように眠った、握った私の手を絶対に離さないようにしている。

大丈夫ここにいるから、絶対に離れないからゆっくり眠って。

 

「自分の傷なんて後回しなんだ、いつも相手のことばかり考えている。だから鬼殺隊の全員で守ってあげないといけないと思ってしまう、少し大袈裟かもしれないけどな」

「多分、これから会うと思う柱たち、鬼殺隊に関わる人、親方様までもが夜去のことを大好きになる。それに少し俺たちは嫉妬してしまうがな」

私もみんなで守ってあげないといけないと思う。私も早く鬼殺隊に入ろう、夜去を守れるようになりたい。

たしかに二人の言う通り少し嫉妬してしまう、でも私は姉さんと呼ばれたから皆さんよりはすこし上だ。

私は何を競ってるんだろう。嫉妬という感情も初めてだ、夜去が私にたくさんの事を教えてくれる。

 

「水柱様。今日泊まってもいいですか?帰れそうにないです」

頭を撫でていると夜去の顔は少しだけ痛みが引いたように安らかになった。

どうしよう今日は帰れそうにない、握った手を離してくれないし、ずっと頭を撫でていたい。

 

「俺たちが変わるぞ?頭を撫でることぐらいできるからな、それに手も繋げる」

 

「大丈夫です。私がします。していたいんです」

二人の柱は拗ねてしまった、嫉妬している。

二人の水柱様をこんな風にさせる夜去が恐ろしい、二人だけではない姉さんたちのことも…

今から会う人も、みんな夜去を好きになるのか……少しだけ複雑な気分だな。

 

「胡蝶には俺が伝言を伝えておく、今日は泊まっていけ」

 

「ありがとうございます」

 

 

夜になったが夜去はまだ手を離さなかった、夜去が離しても私が離さないから大丈夫。

何か幸せな夢を見ているのかな、すごく嬉しそうな顔をしている。みんなは絶対にこの顔を知らない、私だけが知っている顔。

 

「カナヲ姉さんのおにぎり僕は好きです、やっぱりアオイさんの方がいいです…」

「アオイさん助けて虐めてきます」

どんな夢を見てるの、私のよりアオイの方がいいんだ。なんか少しだけ嫌だ、練習しておこう。

私が何をしてるいるの、とても気になる。

 

「カナヲ姉さん絶対に戻るから、待ってて。

……姉さんさんがくれた羽織と日輪刀が僕に勇気をくれた、ありがとうございます」

やっぱり私は約束していたんだ。夜去と一緒の夢を見ていたのかな、偶然ってあるんだ。

私はずっと、ずっと帰りを待つよ。

この羽織は今度返さないといけない、夜去が私にかけてくれたように今度は私がかけてあげたい。

聞き取れなかったけど、お姉さんからもらったんだ。夜去はそのお姉さんが大好きなんだね、その人が羨ましい。

羽織と日輪刀をくれたお姉さんのことが少しだけ気になった、それより気になったのは障子を少し開けてこちらを見ている二人の水柱様だ。

 

「二人は何をしているんですか?」

 

「気付いていたか、少しな。まぁ言えば、家の見張りだ」

この家はこの部屋しかないのだろうか、私が見た時はとても大きな屋敷だったと思うけど。

二人は部屋の見張りをその後もやめなかった、流石に見廻りの時間が来たら渋々出掛けて行ったけど。

 

 

「夜去、蝶屋敷に戻るね。また薬持ってくるから、姉さんたちや真菰さんに見つからないようにするから安心してね」

私は帰る寸前まで手を握っていた、手を握っていると安心したように眠っている。

水柱様に頼んでおこう、私が戻るまで手を握っておいてくださいと、少しだけモヤモヤするがこれは夜去のためだ仕方ない。

二人はすぐに了承してくれて、ゆっくりでいいぞと言い、部屋の方へ走って行った。

どんなに夜去の事が好きなの、私も言えないけど…

 

「ただいま戻りました」

 

「珍しいわね、カナヲが水屋敷に泊まりなんて。何かあったの?」

 

「カナエ姉さん

少しお手伝いをしていました」

 

「偉いわね、カナヲが自分で行動できるようになった事が私は嬉しい」

カナエ姉さんは無理して笑っている、もう少しで戻ってきてくれるから待ってあげて。

 

しのぶ姉さんがいない間に薬の置いてある部屋に行き、深い傷に効く薬を持ち出すんだ。

今しかない、怪我をした鬼殺隊士の診察に行った。

前に夜去さんが上弦の弐との戦いで怪我した時に使ってた薬はどこだ、この棚に置いてあるはずなのにそれがない。

 

「カナヲ何をしてるの?」

 

「えっと…」

 

「これを探しているの?」

手に持っているのは私の探していた薬だ、深い傷に塗る薬。

なんで今日に限ってそれを持って歩いているの、いつも棚に置いてあるのに。

 

「カナヲ何を隠しているの!?話してくれたらこの薬もいくらでもあげるから」

その声を聞き、蝶屋敷にいた人がほとんど駆けつけて来た。

 

「しのぶどうしたの?しのぶらしくないわよ」

 

「姉さん、カナヲが何か隠してるの。この薬はひどい怪我にしか使わない、だから誰かが大怪我をしている」

 

「それは誰なの!?」

カナエ姉さん、しのぶ姉さん、真菰さんから何度も聞かれた。

でも言えない私の大切な弟の願いだから、ここで三人に言う訳にはいかない。

 

「絶対に言えません。お願いです薬をください」

 

「カナヲ少し部屋で頭を冷やして。言ってくれれば薬は渡すから」

私は冷静だ、今でも落ち着いて物事を考える事ができる、落ち着いていないのは三人の方だと思う。

早く持って行かないと行けないのに、やっぱり話さないと薬をもらえないなら話すしかないのかな。

 

 

「カナヲこれでしょ」

「持って行って夜去に怪我してるんでしょ、私が三人の気を引くから」

どうやって薬を持ち出そうかと部屋で考えていたら、アオイが私の元へ薬を持ってきてくれた。

 

「アオイ、なんで…」

 

「カナヲが初めて自分の意思で行動したいと思ったんだもの、私はそれを応援したい」

「それに夜去の事だから、カナエさんやしのぶさん真菰さんを想ってのことなんだと思う」

「私も夜去のことを弟だと思ってしまう、大切な存在なの。だから私にも協力させてよ」

本当にありがとうアオイ。そう夜去はいつも三人のことを想っているの。

私とアオイ二人の弟だ。私たち二人にとって、とても大切な存在。

 

「ありがとう、アオイ行ってくる」

 

「いってらっしゃい」

水屋敷に急いだ、私の大切な弟が待つ場所へ。

夜去は二人の柱に手を繋いでもらい、ぐっすり眠っていた。とても穏やかで綺麗な寝顔だ、ずっと見ていたいとも思ってしまう。

深い傷に持ってきた薬を塗ると傷に滲みてとても痛がっていた。もう少し我慢して。治るから、みんなの元へ戻れるから。

 

「胡蝶の継子、夜去の近くにいてくれないか。俺たちは任務に行かないといけない、ここから離れたくないが」

「夜去を絶対に一人にしてはいけない。さっき言ってたんだ、置いていかないでと」

「頼めるか?」

 

「はい、大丈夫です」

喜んで引き受ける、治るまで私が近くにいる。いや治ってからもずっと一緒にいる。

絶対に離れないし置いていかない、一人になんてさせるものか。

 

 

「夜去今日はお月様が綺麗だね」

まだ眠っているから、聴こえてないか。

 

「カナヲさん?」

 

「……目が覚めたの?痛むところはない?水飲んで、お粥もあるから」

「他に何かしてほしいことはない?私にできることならなんでもするよ」

顔を紅くしている、何か恥ずかしいことなんだろうか。

なんでも言ってほしい、私はあなたになんでもしてあげたい。

 

「手を……握って…ほしいです。前のように…」

前のように?寝ている間も手を握っていたことがわかっていたのかな。

少し恥ずかしい、頭もたくさん撫でていたし。

そんなことでいいんだ、顔を紅くしながら言う夜去を見て可愛いと思ったし、少し意地悪をしたいとも思った。

前ならば淡々と言われたことを行うだけの私だったのに、すごく変わったと自分でも思う。

 

「どうしようかなぁ」

夜去は恥ずかしさと繋いでくれないという心細さで目に涙を浮かべている。

そして布団に顔を隠して丸くなった、拗ねている可愛いな…

 

「私を呼ぶ時はカナヲさんなの?あっちの方で今から呼んでくれたら繋いであげるよ」

本当はただ呼んでほしいだけ、これからもずっと。

歳が上でも関係ない、夜去は私の弟のような存在。

 

「前は優しかったのに、カナヲさんは意地悪になりました」

 

「また、そっち??繋いであげないよ?」

 

「繋いでください、カ……ナ…ヲ…姉さん」

手を繋いであげると、顔は満面の笑みに変わった。

そんなに繋いで欲しかったんだ、私も同じ気持ちだけどね。

いつでも繋いであげるから、姉の私の元へ来ていつでも来て待ってる。

 

最終選別に行こう、そして鬼殺隊に入り強くなりたい。

命を懸けてでも守りたい存在ができた。

夜去あなたは私の宝だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




次から少し日常回で他の柱の皆さんとも会わせてみようかなと思ってます。


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かぐや姫

「夜去帰ろう蝶屋敷に」

カナヲさんが薬を持ってきてくれたおかげで二日もすれば歩けるほどに回復した。

まだ体は痛む、傷も完全には治りきってはいない。

でもこれ以上三人を待たせてはいけない。それに僕も蝶屋敷の皆さんに早く会いたい。

 

「水柱様にちゃんとお礼を言った?二人も夜去のことををすごくお世話してくれたんだよ」

二人は自分を責めるな悪いのは俺たちだと言っていたがそんなことはない。

二人は約束を守ってくれたんだ、だから悪いのは約束を守れなかった僕の方。

僕は一生自分を責めると思う、あの日の選択を悔いると思う。

でも蹲るのはやめる、前に進むんだ。そして強くなるんだ、柱の皆さんのように。

二人にその事を伝えると何故か抱きしめられた。そして今度はゆっくり泊まりに来いと言われた、真菰さんも連れて来たいな、きっと二人も喜ぶはずだ。

 

「言いましたよ、それよりカナヲさん何か変わりました?なんか姉さんみたい」

カナヲさんが姉さんのようになっている、今は僕の方が歳上なのに。

寝ている間に何かあったのかな、隠していることを話してないといいけど…

頭にあるのは恥ずかしいことを言った記憶、手を繋いでとかなんとか。いや夢だと信じよう、言ってないよ絶対に言ってない。

 

「私は夜去のお姉さんだよ。蝶屋敷まで手繋いであげるから手を出して?歩くの辛かったらおんぶしてあげるから」

隠していることは話してないみたいで一安心した。

姉さんになったの?いつ?僕が寝ている間かな。でも恥ずかしくてカナヲ姉さんとは呼べない、いつか呼べるといいな。

未来ではよく手を繋いでもらっていたし、それにおんぶもしてもらってたな…懐かしい。

 

「大丈夫だから!手を繋ぐのは恥ずかしいし、それに一人で歩けますから。早く帰りましょ」

 

 

「夜去、助けが必要だったら私に言って。姉さんが助けてあげる」

蝶屋敷に着いたが中に入れない、なんて言ったらいいのかな。水屋敷にお世話になっていたでいいのかな…

蝶屋敷に入れないのは何度目だろうか、これからも何度もこんな事がある気がする。

でも今回は一人じゃない、カナヲさんも一緒にいるとても心強い。

 

「ただいま戻りました」

カナヲさんの着物を掴み、背中に隠れながら一緒に玄関に入った。

一週間帰らないだけでとても懐かしく感じる、やっと戻れたんだ。

 

「カナヲ一昨日はごめんね、私たちが落ち着いていなかった…夜去が戻ってこないから冷静じゃなかった」

どんな顔をしたらいいのかな、カナヲさんの着物を掴む手が強くなった。

僕のせいで何かあったんだ、謝りたいでも怖くてカナヲさんの背中から出る事ができない。

 

「夜去、ただいまを言わないといけないよ」

「私に隠れてないで、三人は目の前にいるよ?姉さんの助けがいる?」

 

「カナエさん、しのぶさん、真菰さん。ただいま……」

三人の目の前に出て行くと、三人は状況を理解できていなかった。

 

「…………………………!」

 

「夜去!!怪我してるんでしょ?早く私に診せて!」

しのぶさんはわかるんだね、痛むけどもう大丈夫なんだ。

傷を診せるとすぐに手当てをしてくれた、しのぶさんはやっぱりすごいな。沢山の人を助けられる、とてもかっこいい。

 

「一人で夜寝れた?夜去は私が手を繋いであげないと寝れないから。今日から私がまた一緒に寝てあげるから安心して」

真菰さん寝れたよ!カナヲさんも錆兎さんも義勇さんもいてくれたから。でもやっぱり一人では寝れないのか僕は。

今日どうしよう、少し気まずいなぁ…恥ずかしいけど真菰さんがまたそう言ってくれた事が嬉しい。

 

「どこ行ってたの…心配した。もう帰って来てくれないかと思った。もう一人でどこへも行かないで」

「夜去、ごめんなさい。あんな事を言ってしまった、本当は思ってないの。ずっと一緒にいて欲しいの」

気にしなくてもいいのに、カナエさんのせいじゃないから。僕の方こそごめんなさい、たくさん待たせてしまって。

三人には泣きながら抱きしめられた。僕も男子だから女性に抱きしめられたら恥ずかしいよ。

どこで何をしていたのかを何度も聞かれた、やっぱり言わないといけないよね。

 

「鬼と戦った後、水屋敷の大好きな二人にお世話になっていました。それに少し戻りにくかったんです、心配をかけてごめんなさい」

二人からは蝶屋敷に少し戻りたくなかったから、水屋敷の大好きな二人にお世話になっていたと言えと言われた。

錆兎さんと義勇さんの言った事を言うと怒られる事がよくあるから少し心配だけど。

 

「水屋敷…?大好きな二人??」

「夜去、ちょっとお話を聞かないといけないかもしれない」

三人の雰囲気が変わった気がしたけど、何か悪い事言ったかな。

この感じはすごく嫌です、聞かれたくありません。やっぱり二人の言った事を話すとこうなってしまうんだ、誰か助けて。

カナヲさんさっき助けてくれると言いましたよね、助けを求めよう。

 

「カナヲさん助けてください…」

 

「カナヲさんなの?あっちで呼んでくれないと助けてあげないよ」

前と全然違うじゃん、自分に正直すぎるよ。

でもカナヲさんが自分の感情を正直に表に出す事ができ、自分のしたいようにしている事が僕は嬉しかった。

本当は表情豊かで優しい人なんだ、辛い過去のせいで自分の心に蓋をしてしまっていた。あなたにはもっと自分に素直になって、自分の思うままに生きてほしい。

未来ではカナヲ姉さんより歳下の僕がこんな事を言うのは生意気かもしれない。僕はカナヲ姉さんに大切な人たちと幸せになってほしい。

 

「カナヲ姉さん、助けてよ」

 

「わかった」

そんなに嬉しかったの?僕はすごく恥ずかしいけど。

カナエさんたちも驚いているし、これでまた変なことにならないといいけど。

 

「どういうこと??夜去にカナヲ、二人はそんなに親しかった?」

やっぱり変なことになった、どうするんですかカナヲ姉さん。

でも三人は何を心配しているのかな、錆兎さんと義勇さんのところでお世話になっただけなのに、迷惑もあまりかけてないと思うけど。

 

「夜去は私の大切な弟です、あまりいじめないであげてください」

 

「でも弟とは結婚できないから。夜去は誰と恋をしたい?誰と結婚したい?」

カナエさんとしのぶさんと真菰さんから聞かれた。

三人は結婚願望があるのかな?三人にはいつか素敵な恋をして、鬼のいない世界で結婚をして幸せな家庭を築いてほしいな。

僕には恋も結婚も許されないよ、まず未来まで待たせてしまう年齢だって離れてしまうんだ。

それに寿命を使っているから相手の方を置いて逝ってしまう、相手の方に辛い思いをさせてばかりだから。

置いていかれるのは辛いからそんな思いをさせたくない。

 

「僕には恋も結婚も許されません…相手の人をたくさん待たせてしまって、置いていってしまうかもしれない」

三人は少し暗い顔をした後、笑顔で僕に言った。

 

「それでもいいと言ったら?」

いいんだろうか、僕が好きな人を見つけてその人と幸せになりたいと思っても…

僕だけ幸せな思いをして相手の方には辛い思いをさせるのに。そんな事を考えていると、ある日大好きな二人に言われた事を思い出した。

──

「俺は好きな人と結ばれる事、幸せになる事を許されないが夜去は違う」

「夜去はいつか好きな人を見つけて幸せになってほしい。俺はそれを心の底から願っている」

 

「私も願ってる!夜去の好きな人か、どんな人なんだろう。私が見てあげなくちゃね!」

 

「好きな人ならたくさんいます。小芭内さんも蜜璃さんも大好きです」

 

「子供にはまだわからないか…俺も夜去のことが大好きだ、甘露寺のことも……」

 

「照れちゃう、私も夜去のこと大好き。可愛いすぎるよ夜去、伊黒さん何て言ったの??」

 

「二人とも子供扱いしないでよ!」

 

「子供だろう、甘露寺と俺に手を繋いでもらって喜んでるじゃないか」

 

「私は嬉しいよ、夜去と手を繋げて」

 

「……嬉しいけど…子供じゃないから」

──

小芭内さんが何故好きな人と幸せになってはいけないと言ったのかあの時はわからなかった。

それが今なら少しだけわかる気がする、相手の方に辛い思いをさせてしまうからだと思う。

でもそんな事ないよ、小芭内さんは幸せになってもいいんだ、なってほしい。

相手を僕は誰か知っている、二人はとてもお似合いだった結ばれてほしい。

もう二人から未来を奪わせない、僕は二人からたくさんの物をもらった。

だからお返しをさせてほしい、二人からたくさん与えてもらった僕にできることはこれぐらいしかないから。

 

「許されるなら、恋をしたいです…」

それは二人が心の底から願ってくれた事だから。

許されるなら恋をして二人に好きな人ができましたと伝えに行きたい、喜んでくれるかな。

早く会いたいよ、またご飯を一緒に食べに行きたい。

 

「よかった、私たち恋も結婚も諦めないといけないかと思った」

 

「三人は諦めなくてもいいですよ、好きな人を見つけてその人と…」

三人から口を塞がれた、カナエさんもしのぶさんも真菰さんも顔を紅くしている。

 

「心に決めた人がいるの、その人以外は考えられない」

「その人が大好きなの、愛してるの。夜去の馬鹿、鈍感」

何で僕がそんなに言われるの、三人をそれほどまで言わせてしまう人がいるのか会ってみたいと思った。

 

「もういいよ、ご飯食べましょう。みんなで」

よかった三人の機嫌が治ったみたい、それに仲直りできた。

 

「はい!」

 

──

夜去の側から離れたくなかかった、でも見廻りには行かないといけない。

今日はみんなで一緒の部屋で寝ることになったから早く帰りたいけど、そんな事はできない。

しのぶと真菰ちゃんが羨ましい、今もずっと一緒にいるんだ。

 

「胡蝶、夜去はどうしてる?」

富岡君がどうしてここにいるの?私の担当区域なのに…

 

「多分今は寝てるかな、しのぶたちと一緒に」

富岡君や錆兎君に夜去を取られるわけにはいかない、私たちはいつからか夜去のことを取り合っていた。

 

「そうか………今日は俺が見廻りをする、夜去の元へ戻ってやれ」

何でそんな事をしてくれるかわからない、私も夜去を狙っている一人なのに…

とても嬉しい、ありがとう富岡君。

 

「寂しがり屋だからな、俺は胡蝶たちの知らない夜去の寝顔を知ってるからいい」

私も寂しがり屋ってことぐらい知ってるよ!

自慢してくる富岡君に少し腹が立った、私の知らない夜去の顔を知ってることが嫌だ。

 

「本当に代わってもらっていいの?」

富岡君の返事が返ってくるのを聞いた瞬間、蝶屋敷に急いで帰った。

 

 

「ただいま」

みんなが起きないように静かに玄関の扉を開けた。もうみんな寝てるよね、お風呂に入って私も寝よう。

寝室の部屋を開けると、しのぶと真菰ちゃんとカナヲがまだ起きていた。いつもなら寝ているはずなのに、やっぱり寝れなんだね。

 

「起こしちゃった?夜去は」

 

「私たち寝れないの、夜去をずっと見ていたくて」

 

「姉さんが戻るまで起きてるって言ってたけど寝ちゃった。夜去と手を繋ぎたいから、負けないよ真菰さん」

そんな事を言ってくれてたの可愛い。しのぶもそんな事を言うようになったんだ、前まで男の子が苦手みたいに言ってたのに。

カナヲが夜去と手を繋いで頭を撫でている、本当にカナヲなの?すごく変わった、貴方も夜去に変えてもらったのね。

 

「今からしのぶちゃんと夜去のもう片方の手を誰が繋ぐか決めようとしてたの、カナエちゃんもする?」

絶対にする、カナヲが羨ましい。手も繋いで頭も撫でている。

 

「私もする。カナヲは何でもう繋いでるの?」

 

「私はお姉さんだから」

お姉さんなら手を繋げるの?それは少しずるくないかな。でも姉になったら結婚できない、それはそれで嫌だ。

じゃんけんで決める事になったが運が良かったのか私は二人に勝つことができた。

二人は手を繋げなかったからか夜去の頭を撫でている、カナヲは手を繋いだまま寝てしまった。

みんなに好かれすぎではないだろうか、いやこれからも増える気がする。

男性も夜去のことを好きになってしまうから、少し頭が痛くなった。

 

「姉さん、真菰さん夜去の体を見て。深い傷がたくさんある、また無理したんだと思う」

「それに男性でこんなに手足、体が細いのも異常だと思う。体重もすごく軽いし…」

しのぶの言う通りだ、何かを隠している。

私たちに知られないようにずっと、でもそれがどんな事かは想像もつかない。

 

「夜去は何か隠してるよ、会った時から気付いてた。でも私は夜去が話してくれるのを待ちたい」

真菰ちゃんは私たちより前から知ってるもんね。そして信じてるんだ、私も信じたい。

三人で指切りをした、絶対に夜去を死なせない事を守り抜く事を。

 

「どんな人を好きになるのかな?」

 

「誰か一人を好きになるのかな。二人に言っておきたいの、私は夜去のことが好きで好きでたまらない」

言ってしまった、二人も同じ気持ちだと思う。

二人のために身を引こうかと思った時もある、でもそんな事はできなかった、できるわけがなかった。

 

「私も姉さんと同じ、夜去の事を…あ…いしてるの。夜去が最初で最後の好きな人なの」

しのぶもそうなんだ私たちやっぱり似てるね、姉妹なんだね。

 

「私も同じだよ、大好きで離れたくない。夜去がいなくなったら恋という感情はいらない」

三人の女性がこんなにも横で言ってるのにぐっすり眠ってるなんて馬鹿と言いたい。

でもその顔を見ると愛おしいという感情で埋め尽くされてしまう。

 

「夜去はかぐや姫みたいじゃない?」

しのぶの言う通りだ。みんなから好かれるし、消えてしまいそうだし、違うのは性別くらいだ。

私たちはかぐや姫に恋した貴公子だ、物語では誰とも結ばれなかった私たちはどうなるのかな。

結ばれなくても夜去とずっと一緒にいられたらそれでいい、やっぱりできることなら結婚をしたいな……

私たちは死ぬまで貴方の事を想ってます、いや死んでも想ってると思う。

 

 

 



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一生の宝物

「入夜さんって誰なの!?その人に膝枕してもらったんだね、その人が好きなんだ…」

何故か僕は三人に正座させられている、朝起きると同時にカナエさんの部屋に連れてこられた。

アオイさんがさっきからご飯ができたと言ってるのに…それにお腹が空いた、三人は空いてないのかな…

最近はよく入夜さんに会うために、あの場所によく行っている。入夜さんが泣いていたから、一人にさせたくないんだ。

 

「カナエさんそれは……えっと…してもらいましたけど…慰めてもらっただけですよ…」

「入夜さんは僕にとっても大切な人です」

僕にとっても姉さんにとっても大切な人だ、そして助けたい人。

ずっと一人で苦しんでいる、大切な人を助けれなかった事を後悔している。

 

「嬉しかったんでしょ?あんなに嬉しそうな夜去を私たち見たことない」

「私たちより好きなの?」

 

「恥ずかしかったんです、どっちかなんて選べません」

嬉しかったというか恥ずかしかった、どちらも好きという選択肢はないのかな。

一人なんて選べない僕はみんなの事が好きだ、手を差し伸べ救ってくれたみんなが大好きで憧れなんだ。

 

「私も膝枕した事ないのに!最近、夜去手繋いでくれないし…」

 

「それも恥ずかしいんですよ…」

真菰さんがもし普通の女の子の生活を送っていたら、そろそろお見合いとかをする年齢だと思う。

僕が夜に眠れないという理由で真菰さんの手を繋ぐのは違うと思った。

真菰さんもいつか好きな人ができてその人と手を繋ぐ時がくると思う、その手を繋ぐ相手は僕ではない。

 

「私たちのこと本当に愛してるの!?手紙に書いてたよね?本当なら証明してよ」

 

「絶対に書いてません」

「それに、どうやって証明するんですか?言ってくれれば僕にできることならします」

愛してるなんて書いてない、それはだって恋人とかに言うやつだと思う。僕は恋人にはなれないし、なってはいけない。

恋人とかなら口付けをしたりするって有一郎さんが言ってたな、でも僕たちは違うし。何をしたらいいいか全然わからない。

 

「自分で考えて!アオイたちに聞くのもダメ」

絶対に無理だ、他に頼る人いないし。

錆兎さんと義勇さんに聞いてみようかな…やっぱり二人に聞くのはやめておこう、また三人に怒られるから。

一日猶予があるなら街にでも出てみようかな、何か手掛かりがあるかもしれない。

 

 

やっぱり街には人が沢山いる、お店も沢山あるし。

贈り物とかがいいんだろうか、日頃の感謝の気持ちも込めて。でも何を贈ろうかな…

何をあげたら喜んでくれるかな、女性が喜ぶものなんてわからないし…

 

「ごめんなさい!前を見ていませんでした、大丈夫ですか?」

下を向いて考え事をしながら歩いていたこともあり女性に当たってしまった、それに情けないことに僕の方が転んでしまった。

天元さんにたくさんご飯食べろと言われたから、頑張ってご飯食べているのに。

どんどん細くなっているような気もするし、もしかすると時の呼吸の影響かも…

 

「私の方こそ、ごめんね!大丈夫??」

聞き覚えのある声、その女性が僕の手を取ってくれたことで誰かがわかった。忘れるはずがない、桃色の綺麗な髪の女性。

顔を上げたくない、僕は泣いていると思うから。見られてしまったら転けて泣いている人と思われてしまう。

鬼舞辻無惨との戦いの前の日もご飯を三人で食べに行った、また一緒に行きたいですと言いたかった。

二人はその言葉を待っていたのに言えなかった、それは恥ずかしかったからだ。

また次に言えると思っていた、でも次なんてなかった考えが甘かった。二人の聞きたい言葉を僕はずっと言うことができなかった。

 

「大丈夫です、本当にごめんなさい」

 

「泣いてるよ!痛かったんだね…私、普通じゃないから……」

泣いてるのは貴方に会えたから、蜜璃さんにもう一度会えたからなんだ。今はまだその事は言えない。

蜜璃さんは普通の人と私は違うと言っていた。そんな事ないよ、蜜璃さんは食べる事が好きで、髪の色が綺麗な桃色の普通の女性だ。

みんなを笑顔にできる、仲間の事を大切にできる心優しい人。

僕は小芭内さんと蜜璃さんと食べるご飯が大好きだった、二人やみんなが大切な人と食べるご飯の美味しさを教えてくれたんだよ。

 

「僕は普通の女性だと思います。普通でも貴方はみんなを笑顔にできる女性です、僕はその事を知っています」

「泣かないでくださいよ、僕が泣かせたみたいじゃないですか…」

周りにいた人にすごく見られている、泣いてるのを見られるのは嫌だよね。

僕の羽織を蜜璃さんにかけて二人でその場所から離れることにした。

 

「君、鬼殺隊の隊士なのね!名前はなんて言うの??」

「私は恋柱・甘露寺蜜璃って言うの!情けないところを見せてごめんね!」

日輪刀を見たから気付いたんだ、やっぱり柱になってるんだ。柱の方たちには一生追いつけないのかな…最近は昇級できてないから。

もしかして今日、小芭内さんとご飯でも食べに行く予定とかあったのかな。

 

「明月夜去と言います」

 

「夜去??あぁぁ!しのぶちゃんとカナエちゃんの…」

どうしてそんなに驚くの。びっくりして心臓が飛び出るかと思った。

 

「今から柱の人とご飯を食べに行くんだけど、夜去も行かない?」

相手は絶対に小芭内さんだ、一緒に行きたい。

でも涙を堪える事が絶対にできない、だから言ってしまうと二人に変な人だと思われてしまう。

返事ができずに下を向いていると、蜜璃さんに行くよと言われ強制で連れて行かれた。

 

「僕はお邪魔ではないですか?」

僕は思っていたんだ、二人の邪魔をしていたのではないだろうかと。

小芭内さんは蜜璃さんが他の男性が関わっていると怒っていた、だから僕も本当はいない方が良かったと思う。

 

「邪魔じゃないよ!伊黒さんも大丈夫だと思う!」

前はそうでも今は違う気がする、蜜璃さんと関わっているだけで僕は小芭内さんからいいようには思われないだろう。

けど蜜璃さん言ってたな、小芭内さんも僕をご飯に連れて行きたがっていると恥ずかしいから自分で誘えないんだと…

二人がそう思ってくれている事が本当に嬉しかった、でもやっぱり僕は邪魔だったと今は思う。

小芭内さんが蜜璃さんを好いている事がわからなかった、あの時は恋というのがわからなかったけど、今ならわかる。

 

「伊黒さ〜ん!」

 

「甘露寺どうした遅かったな。それより手を繋いでいるのは誰だ!?」

やっぱり小芭内さん機嫌が悪いよ、前に他の人に向けていた目を僕が向けられたのが悲しい。

そう思っていると小芭内さんは前のような優しい目を僕に向けてくれた、なんで僕のことを知らないはずなのに。

 

「夜去って言うの!可愛いでしょ!?」

 

「可愛いな…それに何故だか懐かしい感じがする。夜去は俺と会ったことがあるか?」

二人によく可愛いと言われた、揶揄われているようで少しだけ嫌だった。頭も撫でられたし、いつか二人の身長を追い越してやろうとも思ったな…

 

「私も思ってたの!夜去また泣いてるよ?どうしたの?」

 

「どうして泣いてるんだ??どうしたんだ??」

 

「可愛いはやめてください、本当になんでありません、僕たちは会っていません」

僕の幸せを心の底から願ってくれた優しい二人、たまに意地悪をされるけど僕は二人が大好きだ。

伝えたい言葉がたくさんあった、今度は絶対に伝える。

絶対に変な隊士と思われてるよ、会っていきなり号泣する変なやつと思われてる。

 

「甘露寺に夜去いつもの定食屋でいいか?」

 

「私はいいよ!夜去もいいでしょ?」

いつも三人で行っていた所かな、僕は一人で食べれなかったから二人のを分けてもらっていたな…

最後に行ってからすごく時間が経った、でも三人で食べたあの味を忘れた事なんてない。

 

「はい、願いします」

 

 

「夜去、一人で食べれないよね?私と伊黒さんのを半分にしてあげる!」

 

「そうだな、一人で全部は食べられないだろう」

今なら食べれますよ、昔は食べられなかったけど。

それになんで二人がその事を知ってるんだろう、記憶はないはずなのに。

 

「食べれます、見ててください」

食べてやる、成長した姿を見せてやるんだ。二人にはわからなくてもいいから僕の成長した姿を見てもらいたい。

出てきた定食を見て先程までの威勢は消えた、こんなに多かったかな?絶対に食べれないと思った。

それでも頑張って食べようとはしたが食べられなかった、二人は先に食べ終わり僕の事を見ている。

食べている僕のことを見ている蜜璃さんと小芭内さんはいつも笑っていた。前のように二人が笑っている、その光景が懐かしく嬉しい。

ここの定食屋は残すと怒られるんだよね、食べないとと思うけどが箸が進まない。

 

「無理でした…ごめんなさい…」

 

「やっぱりね。もう、私が食べてあげる」

 

「今度からは俺と甘露寺の分を半分にしてやる」

今度…また一緒に来てもいいのかな、二人の邪魔じゃないのかな僕。

 

「二人の邪魔じゃないですか?」

 

「全く邪魔じゃない、夜去も連れて行きたいんだ」

二人にそんな風に思ってもらえる僕は本当に幸せ者だ。

やっぱり僕は小芭内さんと蜜璃さんのことが大好きだ、今度はたくさんお話しをしたい。

今日街に出てきてよかった、なんで街に来たんだっけ…

 

「小芭内さん蜜璃さん、愛してるとか大好きという感情を証明できる方法を知りませんか?」

忘れていた、どんどん時間がなくなっている。二人なら何か知っていると思う、自分で考えてと言われたがもう無理だ。

 

「きゃぁぁ、キュンキュンするわね!!どうしたの!?誰かそういう人がいるの?」

二人も知ってる人ですよ、キュンキュンはしません、バクバクします。

早く証明しないと、また怒られてしまうから。

 

「証明してと言われたので…何か知りませんか?贈り物がいいかなと思ったんですけど…」

 

「簪とかどう?大好きな人に贈るのにはいいと思うよ!」

簪を贈ったら三人は許してくれるかな、蜜璃さんが言うなら間違いない簪にしよう。

本当に助かりました、まだお話しをしたいけど今日はもうできない。

 

「二人と食べるご飯はとっても美味しいです。僕はまた二人とご飯を食べに行きたいです」

ずっと言えなかった、いつか言いたかった言葉。

僕の幸せを願ってくれた二人には伝えないといけない、幸せですと。

 

「小芭内さん、蜜璃さん。僕は本当に幸せです」

 

「そうか…」

「うん!」

 

 

──

「甘露寺も俺と同じで夜去のことを懐かしく感じるか?」

 

「うん、なんでかはわからないけど…一目見た時からすごく大切な人と感じたの…伊黒さんも同じ?」

 

「俺もとても大切に思ってしまう、会ったこともないのに。それにこの定食屋の事も何故か知っていた」

 

「そうそう!夜去とは定食を分けていたような気がする」

「夜去、好きな人見つけたのかな?その人に会わないと!私が見てあげるって言ったような…」

 

「不思議だな…でも俺は夜去の幸せを心の底から願ってしまう、こんな感情初めてだ」

 

「私も同じ、夜去には幸せになってほしい!」

 

「また三人で食べに行こうか」

 

「行こっ!伊黒さんと私と夜去で」

 

「夜去の幸せですという言葉を聞いた時から涙が溢れ出すんだ甘露寺」

 

「私もだよ伊黒さん…なんでだろう…すごく嬉しいの」

──

 

「ただいま戻りました」

選んでいたら夕方になっていた、帰りが遅くなると前みたいに怒られてしまうから危ない危ない。

カナヲさんとアオイさんにも最近は帰りが遅いと怒られ始めた、今は一応二人よりは歳上なんだけどな…

 

「おかえり夜去、答えはでたの?」

 

「はい!カナエさんとしのぶさんと真菰さんにこれを」

悩んだ三人にどれが似合うのか、気に入ってくれるといいけど。今は付けれなくてもいつかそれを付けて外に出掛けてほしい。

お店には恋人で買いに来ている人が多かったから、男一人の僕はすごく浮いていて恥ずかしかった…

 

「夜去、簪はどんな人にあげるものか知ってる?」

 

「はい、大好きな人にあげる物だと聞きました」

 

「約束だからね?」

なんの約束だろう…でも今は指切りをしないといけない気がした。

 

「はい、約束します」

 

「とても嬉しい。ありがとう夜去、一生大切にする!」

よかった三人が喜んでくれて、それに機嫌が治った。入夜さんのことも上手に隠すことができたから一安心だ。

 

──

夜去から簪をもらったことがとても嬉しい、今も枕の横に置いていある。この簪は私の一生の宝物。

簪の意味を本当に知ってるのかな…でも約束したから、絶対に守ってね。

私の心に決めた人は夜去なんだから、他の人では絶対にダメなんだよ?

 

「夜去、久しぶりに手を繋がない?」

今日も繋いでくれない、前までは手を握ってきてくれたのに。

 

「僕が夜寝れないと言うだけで真菰さんと手を繋いではいけない気がします」

「いつか真菰さんは好きな人と手を繋がないと…」

やっぱり夜去は簪の意味を知らないんだ、大好きな人にあげる物と言っていたけどその好きは多分違う。

 

「なーんだ!そんな事を気にしてたんだ、それなら大丈夫だよ。だから繋ご?」

まだ気付いてないんでしょ天然だから、夜去が自分に恋をする事は許されないと言ってたけど大丈夫だよ。

私はどんな理由でも受け止める、夜去がいなくなっても貴方だけを愛している。

 

夜去は静かに私の手を握ってきた、やっぱり可愛い。

前より指が細くなっているような気がする、私が力を入れて握ると壊れてしまいそうだ。

そう思っていると夜去がぎゅっと握ってきた、絶対に私の手を離さないようにと。

やっぱり離してほしくないんだ、夜去が離しても私が離さない、この先もずっと。

 

「やっぱり繋いで欲しかったの??」

 

「早く寝てください」

素直だな、本当に可愛すぎるよ。今日寝れないかも…頭撫でてようかな。

 

「私はね夜去の事が好きなんだ、いや大好きな人なんだよ…」

夜去が寝たのは確認して私の想いを言葉に乗せた。

 

 

 



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憧れの憧れ

「姉さん私すごく緊張してきた、どうしよう…」

 

「大丈夫、しのぶは下弦の鬼を一人で倒したんだもん。絶対にみんな認めてくれる」

お館様から柱として力を貸してほしいという手紙が届いた、鬼の首が斬れない私にこんな日が来るとは誰も思ってもいなかっただろう。

それを一人だけずっと馬鹿みたいに信じていた人がいた、夜去の為に私は今日柱になる。

 

「しのぶさんは僕の憧れです」

私の方こそ夜去に憧れている、どちらも憧れているのを少し可笑しく思う。

 

「ありがとう、夜去のおかげ。あの日、貴方がいなかったら私は…」

毒を飲む事をやめていなかったら、私は今こんな風に笑えていただろうか、生きていられただろうか。

あの時から夜去が私の特別な存在になった、これから先もずっとこの気持ちは変わらない。

 

「しのぶさんが立ち上がったからだよ、貴方はどんなに苦しくても諦めずに戦ったんですよ」

 

「そんな事ない」

夜去は少し大袈裟に言い過ぎだと思う、なんでそんなに言えるの?

私は姉さんのようには戦えないし、他の柱の皆さんのようにも戦えない。

姉さんには大丈夫よと言われたが、柱の役割を果たせるか心配だ。

 

「しのぶさんならどんな壁でも乗り越えられるよ」

「だって、ずっと僕が憧れている蟲柱・胡蝶しのぶなんだから」

 

「もう、わかったわよ!本当に蟲柱になったらどうするの!?」

「私は別にいいけど…」

夜去はいつだって私の背中を押してくれる、いつか私も押してあげる側になりたい。

貴方を守れる柱になるから、待っててね。

 

 

お館様の屋敷に着くと、他の柱の方もいた。

迫力が凄すぎて押しつぶされそうだ、横にいる姉さんでさえいつもと違く感じる。今にも消えてしまいそうな夜去と柱は正反対だ。

鬼の首が斬れない隊士という事もあり、柱の方からはよく見られる。

でも負けない、私は明月夜去の憧れだから。

 

「しのぶちゃん!おめでとう、柱としてこれから一緒に頑張ろうね!」

 

「蜜璃さん、まだ早いと思いますけど……」

「でも、ありがとうございます」

蜜璃さんとは前の任務で一緒になった時から文通をしていた。

私の恋の話、夜去の話もたくさん聞いてもらっている…

今日は私ともう二人柱になるみたいだ、一人じゃなくて少しほっとした。

 

「みんなよく来てくれたね」

心に直接響く声が聞こえた、お館様の声は相手を心地よくさせる、目を閉じていると宙に浮いているような感覚がする。

お館様が現れた瞬間にその場にいた全員が膝をついた。

新しく柱になる私たち三人だけ少し遅れてしまい、私は慌てて横の姉さんの真似をした。

 

「しのぶに有一郎に無一郎、十二鬼月の討伐おめでとう」

「しのぶは新しい鬼の倒し方を見つけ、下弦の鬼を倒した。有一郎と無一郎は鬼殺隊に入って二ヶ月で下弦の鬼を倒した。三人は本当にすごい、私の自慢の子供たちだよ」

 

「お褒めに預かり光栄です……」

声が震えているのがわかる、上手に言えたか心配だ。

 

「緊張しなくていいよ、私は鬼殺隊の皆を我が子のように思っているからね」

「しのぶ、有一郎、無一郎、柱になりどうか力を貸して欲しい」

お館様が微笑むのを見て、体の震えが収まった。お館様にも認められていることを私は嬉しく思う。

私たちは柱となり鬼殺隊にこれまで以上に力を貸すことを親方様に誓った。

 

「霞柱・時透有一郎、時透無一郎」

「蟲柱・胡蝶しのぶ」

「これから鬼殺隊を柱として支えてね、みんな三人に色々教えてあげてほしい」

私と姉さんは驚きを隠せなかった、夜去の言っていたように蟲柱となったからだ。

夜去は未来がわかるの?そんな人いるだろうか、私は信じられない。でも信じられなかった魔法は存在した、絶対にない話ではないと思う。

柱就任が終わると柱合会議がそのまま始まった、私と姉さんは夜去のことが気になりすぎて会議の内容が頭に入ってこない。

 

「カナエ、しのぶどこか上の空だけど、どうかしたのかな?」

 

「すみませんお館様、私が蟲柱になると前から言っていた人がいるんです…」

親方様は少し驚いた顔をして、先程の顔に戻った。

 

「その子の名前はなんて言うのかな?」

 

「明月夜去と言います」

その場にいた全員が驚いていた、お館様も今度は驚きを隠せていない。

夜去の事を知らない柱もいるのに、何故か全員知っているようだった。

沈黙が訪れた空間に、水柱の声が響く。

 

「俺と義勇と真菰は最終戦別の時、夜去に助けられたんだ。夜去がいなかったら俺たち三人は生きていない」

 

「義勇と錆兎と真菰が最終戦別に行った時は誰一人として死者が出なかった年だね」

最終戦別で死者が出ていない、あの選別でみんな生きて帰れた年があったのか…そこに夜去もいた…

次に話を始めたのは姉さんだった、姉さんが助けられた事は私も知っている、私も夜去に助けられた。

 

「私も夜去に助けられた。夜去は私を守るために上弦の弐と朝まで戦ってくれた。肺を凍らされても、腕を凍らされても立ち上がった、私と真菰ちゃんのために」

「私の夢を初めて応援してくれた人で背中を押してくれた人なの」

「そして私のあい…」

姉さんそれ言ってたら恥ずかしさで死んでたよ?私も同じだから……言いたくなるのもわかるけど、今は我慢しよう。

 

「逆じゃないのか!?胡蝶が夜去少年を守ったんじゃないのか!?他の隊士から言われているのに、その少年は何故否定しない!」

炎柱さんと音柱さんが声を荒げて姉さんに聞いている、ずっと周りから思われている首を斬れない隊士が花柱に守られたと。

それでも夜去は何も言わなかった。何で言い返さないのかと聞いた事がある。

夜去はカナエさんとしのぶさんがその笑顔を見せてくれるなら、そんな事どうでもいいと言ったんだ。

その笑顔というのが胸にずっと引っかかっていた、けどそれは聞いてはいけない気がしてずっと聞けていない。

 

「夜去が言ってたの、私としのぶがその笑顔を見せてくれるなら別にどうでもいいと…」

蜜璃さんが泣いている、本当にお人好しすぎるよね、馬鹿がつく程。

そんな部分も含め、夜去の全部が私は大好きなんだ。

 

「私がね夜去にカナエを助けてくれたお礼がしたいと言ったら、夜去は何を要求したと思う?」

「カナエとしのぶが蝶屋敷のみんなと過ごせる時間を一日でいいからくださいと言ったんだよ」

だからあの日、いきなり私と姉さんが休みになり夜去が蝶屋敷の仕事を任されたんだ。

夜去のおかげで蝶屋敷のみんなの想いを聞くことができた。

どうしてそこまでしてくれるの?私たち何か夜去にしてあげられた?何もしてないよね…

人の前で泣く恥ずかしさも忘れて、私と姉さんは泣いてしまった。

いつの間にか姉さんも涙を見せてくれるようになった、夜去が姉さんを取り戻してくれたんだ。

私たちはよく夜去に泣かされるから、帰ったら何か仕返しすることを姉さんと約束した。

 

「俺と無一郎も夜去さんに助けてもらいました。そして俺たち二人をまた繋いでくれた、夜去さんのおかげで進む道が見つけられたんです」

「あの人のようになりたいと思っていたら、柱にまでなった。柱になってもこの想いは変わらない夜去さんは俺と無一郎の憧れです」

柱と偶然にもこれほど繋がる事があるんだろうか…

 

「有一郎と無一郎のことも助けていたんだね。夜去はすごい子だね、私も会ってみたい」

 

「夜去はずっと心を閉ざしていた鎹鴉の心も照らした、誰もその鎹鴉の心を照らせなかったのに…あの子は簡単にそれをした、本当にすごい子です」

親方様の鎹鴉が舞い降りてきて話を始めた。

夜去と朝は深い絆で結ばれているとずっと思っていた、そんな過去があったんだ。

いつも一緒にいるしあれほど鎹鴉と隊士が仲睦まじくお話をしたり、遊んでいるのを私は見た事がない。

 

「私も夜去の事をとても大切に思ってしまう!それは伊黒さんも同じなの。前三人でご飯を食べに行った時もないはずの記憶が頭の中に浮かぶの!」

夜去と会った人は全員が同じ現象にあっていたんだ、私だけではなかった。

前三人で食べに行ったと言っていた、やっぱり蜜璃さんの事だったんだね。

それより女性とご飯を食べに行ったことを何故私に言わないの?今日詳しくお話を聞かないといけない。

私も一緒に行ったことないのに、今度二人で絶対に行こう。

 

「伊黒が甘露寺と一緒にその少年を連れて行くなんて、派手に珍しいな!というかありえないだろ…どんなやつなんだ」

 

「うるさいぞ宇髄。夜去は俺にとって甘露寺と同じくらい大切な存在だ、それにとても可愛い」

「俺と甘露寺は夜去に幸せになってほしいと思ってる」

 

「……!」

姉さんが言ってたのに、蛇柱の伊黒さんは蜜璃さんと男性が関わるのを嫌っていると。夜去だけは許される、これもまた異常な事だと思う。

 

「夜去は小芭内にそこまで言わせてしまうんだね」

柱合会議の殆どが夜去の話になってない?大丈夫なのかな?蝶屋敷で今何をしているのか気になる…

今、夜去と二人で過ごしている真菰さんが羨ましい、姉さんも同じことを考えている、顔からいつもの余裕が感じられない。

あまり話すことが多くなかった事もあり、柱合会議はその後すぐに終わった。

 

 

お館様が屋敷の中に入って行った後、柱だけの話し合いが始まった。何の話かと思えば今日の親睦会の話しだった。

私と姉さんは早く帰りたかった、冷めているのではなく夜去に早く会いたいからだ。

煉獄さんと宇髄さんと蜜璃さん以外あまり乗り気ではない気がする、二人が次に言った言葉で他の柱はみんな親睦会に参加すると言い始める。

 

「夜去という少年に会いたい、蝶屋敷で親睦会をしよう!」

 

「派手に賛成だな、誰が行く??」

 

「私も夜去に会いたい!伊黒さん、夜去いるのに行かないの?」

蜜璃さんは少し危ないな、夜去が惹かれて好きになってしまうかもしれない。

私に勝てる要素なんてない…けど夜去が言ってたな…

私は背が低くて可愛いと、それに美人とも言われた…他の人から言われれたら腹の立つ言葉だけど夜去に言われたらすごく嬉しい。

 

「なら俺も行く…」

夜去に会うためだけに?伊黒さんも夜去が好きなんだ…

 

「夜去がいるなら俺と義勇が行かないわけにはいかない」

いや別にそんな事はないと思いますけど、絶対にこの二人は会いたいだけだ。

私と姉さんが一番危険視している二人、隙があれば夜去を水屋敷に連れて帰り泊まらせている。

 

「俺と無一郎も行かせてください、久しぶりに会いたいです」

二人は絶対に同性だけど夜去の事が好きだ。私と姉さんにはわかる、水柱を知っているから。

 

「俺も参加してやるよぉ」

「なに物珍しく見てる、俺を見るな!!」

不死川さんが親睦会に参加するのが珍しかったのかみんな驚いていた。

夜去に会うために参加するのかな…本当にどれほど好かれるのよ、嫉妬で頭がおかしくなりそう…

 

「私も参加させてもらう」

悲鳴嶼さんまで!?悲鳴嶼さんは私と姉さんの恩人だ。悲鳴嶼さんと夜去が一緒にいるのは想像がつく。

正反対な二人。目を離すといなくなりそうな夜去と、いつでもその場所にいてくれそうな悲鳴嶼さん。

 

「蝶屋敷大丈夫かしら…壊れないといいけど…」

みんな来るの?絶対みんな夜去に惹かれてしまう…泊まるみたいな事にならないといいけど、頭が痛くなってきた。

姉さんも焦っている今でさえ二人の水柱と夜去を取り合ってるのに。もっと増えてしまえば一緒にいる時間が少なくなるからだ。

夜去もこんなに沢山の柱に会ったら恐怖を感じるはずだ、私も最初存在感だけで足が震えたから。

 

夜去の事をこんなに想ってくれてる人がいるんだよ、まだまだ沢山いる。

だから一人で抱えなくていい。貴方が消えてしまいそうなら私が抱きしめる、そして離さない。

夜去が私に手を差し伸べてくれたように今度は私がするから。私はどんなことでも受け入れる。

夜去がどんな風になっても、例えいなくなっても貴方だけを愛す。

すごく恥ずかしいな…でもいつか私の口から伝えるから待ってて。

 

 



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み空に大雨

結局蝶屋敷で親睦会をすることになったけどよかったのかな…

私は夜去を取られてしまわないかとても心配。

しのぶのお祝いに何かお料理を作ってくれてると思うけど、倍以上作らないといけなくなった。帰ったら私も手伝わないといけない。

蝶屋敷が見える、ただいまと言うといつも玄関まで迎えに来てくれる。それがとても嬉しいし、本当に可愛い。

今日だけは来ないでほしいと思う、柱全員で押しかけでもしたら夜去に恐怖を与えるからだ。

本当は可愛い夜去を見せたくないんだけど…

 

「夜去という少年に会うのが楽しみだ!!思うよな!宇髄に不死川!」

 

「煉獄珍しく意見が合うな。夜去は俺が派手ないい男にしてやろうと思っている」

 

「上弦の鬼と一人で戦ったんだ、気になって仕方ねぇよ」

柱全員が一人の隊士にここまで興味を示すなんてしんじられない。

私は嫉妬で可笑しくなりそうだ……

絶対に私が夜去の事を一番大好きなのに!しのぶと真菰ちゃんにも負けない自信がある。

 

「夜去はいるんだろうな?」

伊黒君をここまで想わせるなんて…夜去の事が本当に大切なんだね、蜜璃ちゃんと同じくらい大切な人なんだ。

蜜璃ちゃんにも同じように想われているし、皆から好かれすぎてない?それを自覚していないのが夜去だけど…

 

「蝶屋敷で夕飯の支度をしてると思うわ」

 

「夜去ご飯作れるんだ!定食は一人で食べれなかったよ、今度行くときは伊黒さんと私の分を分けてあげるんだ!」

伊黒君が蜜璃ちゃんと一緒に夜去を連れて行ったの??

それより三人でご飯を食べに行ったの?私、それ聞いていないけど?今日の夜話を聞かないといけないわね。

最近は二人でお話しできていない、真菰ちゃんは夜一緒に寝ているから沢山お話しできていると思う。

少しでもいいから二人だけでお話ししたいな…

 

 

「ただいま」

他の柱の人には外で待っててと言ったのに、早く会いたいからと言い一緒に入ってきた。

一般隊士が私たち見てしまったら腰を抜かすと思う。

夜去泣かないといいけど、私に泣き虫と言うけれど夜去が一番の泣き虫だから。

中から走ってくる音が聞こえる、夜去とカナヲの声が近づいてくる。

 

「カナエさん、しのぶさんおかえりなさい。しのぶさんのお祝いにおにぎり作ったんです………」

夜去は自分の作ったと言う上手とは言えないおにぎりを持ったまま、顔を見られないように下を向いた。

私たち柱は夜去が泣いている事にすぐ気付いた、足元に大粒の涙がとめどなく落ちてくる。

何か声をかけてあげないといけないと思ったが、夜去が泣いている姿が綺麗で私たち柱とカナヲは見ることしかできなかった。

 

「すまない夜去少年…怖い思いをさせてしまった」

煉獄君が謝ったのをきっかけに他の柱も頭を下げている。

夜去は何かを言いたそうに顔を上げたが、声が出ていない。

自分の想いが伝わっていない事が分かると、夜去はその場から逃げて自分の部屋に閉じこもってしまった。

 

「夜去どうしちゃったのかな…カナエちゃんにしのぶちゃん。私たち柱が怖かったのかな…」

 

「わかりません、でも何か言いたそうだった」

しのぶの言う通りだ、何か一生懸命伝えようとしていた。

 

「胡蝶待っていいか?夜去が来てくれるのを」

夜去もそれを願っていると思う、感情の整理ができたら出てきてくれるはず。

 

お料理を作る人、机を出したりする人に分かれ準備を始めた。

意外にも早く終わり夕方には親睦会を始められるようになったが、夜去は部屋から出てきてくれなかった。

しのぶと真菰ちゃんが夜去を呼びに行きたいと言っていたが、蝶屋敷の主の権限を使って私が呼びに行くようにした。

 

 

「夜去大丈夫?」

部屋の中からは鼻を啜る音が聞こえる、今も一人で泣いてるんだ。

だから外に出てきてくれないんだ、私たちに涙を見せないように、不安にさせないようにしている。

 

「入っていい?」

障子を開けると壁際に座っている夜去がいた、その姿を見て私は抱きしめてあげたくなった。

夜去の前で泣くといつも揶揄われるから、私が今度は意地悪してあげよう。

 

「何で泣いてるの??もしかして私たちが怖かった??」

夜去を抱きしめ頭を撫でていると、私の肩に顔を埋めて先程以上に泣き始めた。

本当は男性が女性にしてあげる事だと思うけどね、いつか私にもしてよね…

 

「怖くなんてない、会えた事がすごく嬉しかった……それを伝えたかったのに、声が出なかった…」

「またみんなの前で声を出せないと二度も傷つけてしまう…それが嫌だったから部屋から出られなかったんです」

「いつも伝えられない、あの時も姉さんがいたから伝えられた…」

気にする事ないのに、みんなわかっていた夜去が何か伝えようとしてくれていたことは。

あの時というのがわからないけど、お姉さんが勇気をくれたのかな、手を引っ張ってくれたのかな。

仕方ない今日だけは私が夜去の姉になろう。

私がいるから一緒に行こう、みんなも夜去の想いを聞きたいはず。私も一緒に行くから伝えられる。

 

「大丈夫、私もついて行くからいっしょに行こ」

「手を繋いであげよっか?泣き虫さん」

 

「うるさい、カナエさんも同じでしょ泣き虫」

前言ってたでしょどんな私でも受け入れてくれるって。それは私も一緒どんな夜去でも受け入れる。

だからこれからも一緒に泣いて、一緒に笑って。なんか告白みたいで恥ずかしくなってきた、夜去が言ってくれないなら私から言うから待ってて。

こんなに好きと思える人ができるなんて幸せなことだと思う。

生きていてよかった、この人とずっと一緒にいたい。

 

「私の方が年上で階級も上だけど?柱の命令に逆らうの?」

命令とは私と手を繋ぐこと、夜去は顔を紅くしながら何か文句を言っているが繋いでくれるまで何も聞いてあげない。

 

「カナエさんは意地悪です。他の人には女神のように優しいのに」

「繋ぐよ、みんなの前では離して」

 

「好きな人には意地悪したくなるものよ?夜去は私のことどう思ってるの?」

「どうしよっかな〜」

好きと言ったのにわかってないんでしょ、夜去は私のことをどう思ってるのかな。

どうしようと言いつつも離す気はない、みんなに見せつけてやるつもりだ。

それに恥ずかしがっているところを見たいのも少しある。

 

「カナエさんはとても意地悪な人。帰るの少し遅れただけで色々言ってくるし、入夜さんの名前出しただけで怒るし、それに怒ると一番怖い」

本当にわかってない!それは私が貴方を愛してるからなのよ、ほんっと天然なんだから女心を勉強して?

ちょっと待って、それで終わり?いいところ一つも言ってないよ?

 

「でも僕はカナエさんが大好きです、貴方の笑顔が大好きです」

「相手の事を想いやる事のできる、カナエさんを心から尊敬しています」

 

「……」

 

「カナエさん照れてる!顔紅くなってるよ?」

それは反則だと思う、夜去にそれを言われてしまったら私は嬉しさ隠しきれない。

すごく笑われている、さっきまで泣いていたのに…私を揶揄う人なんて夜去の他にいない。

私を揶揄って楽しんでいる事は絶対に許さない、手を絶対に離してやらないと決めた。

夜去と繋いだ手はこの先も離さない、貴方が離して言っても離さないから。

 

「夜去覚悟してね?」

 

「え…カナエさんはごめんなさい、許してください」

 

「もうダメ、許さないから安心して」

手を引いてみんなが待っている部屋に夜去を連れて行く。

部屋の前まで着くと、手を離してと子供のように駄々をこねる人が横にいたけど無視をした。

私と繋いだ手も解けないほど力がないのかな…私を守ってくれた時はあんなに力強そうにしていたのに。

私が絶対に離さないから夜去を見失うことはない、どこにいても見えなくても貴方を見つけだす。

 

「連れてきたよ今日の主役」

もう今日の主役は夜去だと思う、みんな親睦会のことは頭にない。

部屋にいた全員が私たちを見ている、夜去の顔を見たあと私と繋いでいる手を見ていた。

 

「主役じゃないから!それに手離して……みんなの前では離すって言った」

 

「かわいいね夜去は、そんなこと言った??それより、みんなに言いたいことがあるんじゃないの?」

 

「あります………怖くて泣いてたんじゃないんです、会えた事が本当に嬉しくて泣いてしまったんです」

「皆さんは僕に手を差し伸べてくれた、暗い場所から救い出してくれたんです。本当にありがとうございます」

「ずっと会いたかった。皆さんは僕の憧れで、僕にとっての英雄なんです」

自分たちが怖いから泣いたのではない事を聞き、柱は安心した。

私にはわからない事を夜去は一人で話していた。頭でではわからないけど、心ではわかった気がする。

私たちが知らない事を知っている、それは辛くて悲しい現実なんだと思う。

夜去は一人でずっと抱えている、話してしまうと私たちの心が折れてしまうかもしれないから。

私の心が折れる時、それは夜去を失った時だ。

その場にいた全員が思った、夜去を守ってあげないといけないと。

 

 

「僕はどこに座ればいいですか?」

そこからは夜去の取り合いになってしまった、私が一番恐れていた事だ。

 

「夜去少年は俺の横がいいという顔をしている!俺の横に来るといい、たくさん話をしよう!」

「夜去と千寿郎を一緒に稽古をつけてあげたい!いや、していたような…むぅ、いつしていたのだろう!」

どんな顔なんですか?そんな顔はしてないと思いますけどね煉獄君…

稽古をつけていたら煉獄君の継子になってるでしょ、夜去はお師匠とかいるのかな?

 

「俺の横に来い、派手ないい男にしてやる」

「約束したからな夜去を派手ないい男にしてやると…誰とした約束だ?まぁ、いいから俺の横に来い」

誰とした約束かぐらい覚えてて?夜去はいい男の子になってると思うけどな、少し頼りないところもあるけど…そこも可愛くていい。

 

「ここに来い…」

不死川君から誘うなんて珍しい、座布団をぽんぽんと叩きながら呼んでいる。

不死川君も夜去を好きになったんだ。

みんなから好かれすぎよ?その中でも私が一番なんだけどね。

 

「夜去、私と伊黒さんの間に来てよ!ご飯食べさせてあげるよ、前食べられなかったでしょ」

 

「俺と甘露寺の間に来るといい、胡蝶みたいに夜去を縛らないぞ」

どういうことかな夜去?前は食べられなかったから蜜璃ちゃんに食べさせてもらったの?

伊黒君の言葉を聞き二人の方に行こうとした夜去を抱きしめた、二人の元に行かせないために。

失礼な事言わないでほしい、縛っているんじゃない。いなくならないように、消えてしまわないように離さないだけだから!

 

「僕二人のところがいい…」

 

「行かせないよ?行ってもいいけど、ずっと手を繋いでいるんだから私も行くよ?」

しのぶと真菰ちゃんが慌てている、今日は二人にも夜去をあげない。

 

「夜去、俺と義勇の間に来るか?」

 

「夜去、俺の膝の上が今は空いている」

水柱の二人は一番注意しなくてはいけない、今日なんて夜去を連れて帰りそうな気がする…

膝の上が空いていない人なんて今いないから、私だって空いてる。

 

「夜去、僕と兄さんと一緒に食べようよ」

霞柱の二人も水柱の二人と同じような感じがする。第二の水柱として要注意しておかないといけないと思った。

 

「私のところへおいで。夜去」

悲鳴嶼さんに言われてしまったら私は何も言えない。悲鳴嶼さんは私としのぶの命の恩人だから。

それに夜去と悲鳴嶼さんは対照的だ、二人が仲睦まじくしているのが想像できる。

悲鳴嶼さんだけじゃない、鬼殺隊全員に可愛がってもらい、笑い合っている夜去の姿が、鮮明に頭の中に浮かぶ。

 

「姉さんいつまで夜去を抱きしめてるの!手も離してあげて、困ってるから!夜去私のところに来て」

しのぶがすごく怒っている、困ってないと思うけど?しのぶの気のせいじゃないかしら。

 

「カナエちゃんずるい、夜去は私の横がいいはずだよ」

真菰ちゃんだけにはずるいと言われたくない、いつも二人で寝てる、手も繋いでるでしょ。

 

「夜去どこに座るの?私は夜去の横だけど」

 

「姉さんずるい。姉さんだけ絶対横になるじゃない」

しのぶに続いて他の柱も言いだした、夜去と会う前は、遠慮をして誰かに譲ってたんだと思う。

でも夜去のことになると誰にも譲ることができない、諦められない。

 

「私は夜去の横だから、手を繋いでおくって約束したから」

「約束したよね?それでどこに座るの?」

どこに座るか、誰の横を選ぶのかすごく気になる。

 

「座布団あと二枚ありますか?」

丁度二枚あったけど…誰か他に来るのかな。

帰ってきたら私とまた手を繋ぐ事を約束して、夜去は座布団をとりに行った。

 

「ここに二枚置いてもいいですか?」

いけないと言う人はいない。けどその場にいた全員が驚いた、夜去が誰のためにしているのかわからなかったから。

不思議そうにしている私たちを見て、夜去は話を始めた。

 

「二人にも幸せな時間を過ごしてもらいたい…自分の席がなかったら二人は悲しいと思うから、忘れられたままだと辛いから。二人も皆さんとお話をしたり、一緒にご飯を食べたいと思いますけ」

「いつも一緒にいてくれるんです、そうですよね輝夜姉さん、咲夜姉さん」

二人のお姉さんも夜去が弟で心から嬉しいと思う、自慢の弟で大切な家族なんだ。

いつか私も二人に挨拶をしたい、結婚相手として。

夜去は本当に優しい、愛おしすぎてまた抱きしめてしまった。夜去のお姉さんの前なのに…恥ずかしいことしちゃった。

 

「カナエちゃん夜去の事がそんなに好きなんだ……また会えたら、夜去の好きなところや、惚気話をたくさん聞かせてね」

「カナエちゃん今度は蝶屋敷のみんなと夜去と幸せになって、そして私と咲夜の大切な夜去をどうかよろしくお願いします」

とても懐かしく優しい声が私には聞こえた、その声を私は知っている。

誰かは思い出せない、でも私にとってとても大切な人だと思う。

周りを見渡しても誰もいない、夜去に聞いてみる事にした。

 

「夜去、声がきこえなかった?すごく優しい声」

「私はその人のこと思い出せない…この先もずっと思い出すことができないのかな?」

 

「私も聞こえた」

「知っているのに、わからない。早く思い出したい、忘れていたくない」

 

「絶対に思い出せます。カナエさんとしのぶさんの親友だから」

いつか思い出し鬼がいなくなったら、笑ってお話しをしたい、二人で普通の女の子のように遊んでみたい。

大切な夜去をよろしくお願いしますと言われてしまった、夜去との結婚を認めてくれたってことかな?

 

「しのぶは何て言われた?」

しのぶも同じような事を言われている気がする。

 

「今度はカナエさんと蝶屋敷のみんなと夜去と幸せになってって。そして私と輝夜姉さんの大切な夜去をよろしくお願いしますって言われた」

絶対そうだと思った、二人とも結婚を認めてもらったってこと?私としのぶは、今度はという言葉が妙に引っかかった。

 

「夜去のお姉さんがね、結婚を認めてくれたの」

 

「姉さんだけじゃない。夜去、私も認められた!」

 

「どういう事ですか?絶対に違うよ、まだ早いし……絶対に輝夜姉さんと咲夜姉さん言わない」

「二人はわかってるはずだから……」

認められたよ、ですよね輝夜ちゃん。久しぶりに名前を呼んだ、とても懐かしい。

何がわかってるの?夜去は結婚や恋の話になるといつも悲しそうな顔をする。

 

「カナエちゃんとしのぶちゃんは賢いけど、たまに天然なところがあるよね」

「夜去に結婚の話はまだ早いよ…」

「いつか夜去が自分から話すと思う。それを一緒に背負ってがあげてください、お願いします」

よく輝夜ちゃんには慰めてもらっていたような気がする、私にとっては親友で姉のような人だったんだろうな。

結婚の許しではなかったんだ、でもいつか認めてもらいたいな…

輝夜ちゃん大丈夫だよ安心して、私はどんな夜去でも私は受け入れるから。

 

「ありがとう、カナエちゃん…」

輝夜ちゃんは泣いていた、夜去にすごく似ている。

三人はすごく似ているんだろうな、夜去が美形だから輝夜ちゃんも咲夜ちゃんも綺麗な人なんだと思う。

 

「夜去どういうこと!私も夜去のお姉さんと仲良くなれるかな?」

 

「はい!真菰さんなら絶対に仲良くなれます」

 

「よかった!」

話に夢中になり今とても大事なことに気がついた。

さっきまで横にいた夜去がいない、繋いでいた手も離れている、そして反対側の煉獄君たちの横に座っている。

もう私に気付かれないと思い何事もなかったかのようにお話をしている。

 

「夜去…わかってるよね?手を繋ぐって、離さないって約束したよね?」

「今日は私と同じ部屋で寝ようね。聞かないといけないことも沢山あるし」

 

「胡蝶、夜去とは俺が手を繋ぐから大丈夫だぞ!」

 

「大丈夫ですよ煉獄君。夜去わかった?」

 

「カナエさんわかったから…怒らないでよ?」

 

「大変だな、胡蝶姉妹もこんなになるのか…」

 

「助けてください天元さん。カナエさん他の人には優しいのに、僕にだけ怒ったり、意地悪してくるんですよ」

 

「夜去、これは私の気持ちの現れなんだからね?わかった?」

夜去だけでいいの、私がこんな風になってしまうのは…

 

 

 



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未来には

「うまい!うまい!この味噌汁はうまい!」

杏寿朗さんの横で一緒にご飯を食べている事が夢のようだ。今度は千寿郎も一緒がいいな。

やはり声は大きく、どこを見ているのかはわからなかった。

何も変わらない僕の知っている杏寿朗さんだった。

 

「杏寿郎さん、さつまいものお味噌汁好きですもんね」

 

「夜去はなぜ俺の好物を知っているんだ?超能力か何かか?」

超能力か…今そういうことにしておこう。

この幸せな時間を壊したくない、今日だけは暗くしたくない。

僕の我儘で本当にごめんなさい、いつか笑顔で自分の口から伝えるから。

 

「夜去は未来が分かるんでしょ?」

カナエさんとしのぶさんには気付かれている、しのぶさんが蟲柱になると前から言っていたからだ。

でも気付かれているのは、それだけだと思う。

 

「そうなんです、僕超能力が使えるんです。好きなものを当てたり、少しなら未来が分かります」

 

「本当か!試しに俺の未来を予想してくれないか!」

杏寿郎さんの勇敢な姿、誰も死なせず全員を守ったこと、その姿に僕と千寿郎を含め沢山の人が勇気をもらったことを伝えたい。

心を燃やせという言葉に僕と千寿郎がどれほど背中を押してもらっただろう。杏寿郎さんから多くの事を教えてもらった。

僕の持っている力は大切な仲間のために、助けを求めている人のために使います。

これは貴方が教えてくれた、とても大切な事だから。

 

「杏寿郎さんは仲間の為、助けを求めている人のために最後まで戦います。誰も死なせない、守り抜きます」

「そんな姿に二人の少年は憧れるんです、沢山の人に勇気を与えます」

「鬼がいなくなったら、お父さんと弟さんとたまに親子喧嘩をしながらも、三人で仲睦まじく暮らしていると思います」

最後のは僕の願いだけど…二人は杏寿郎さんの帰りを待っています。

今度は三人で幸せな未来を生きてください。

千寿郎、安心して絶対に守るから。

 

「俺はちゃんとできているだろうか…俺の責務を全うできるのだろうか……」

「父上と千寿郎とか…それはいい未来だ」

千寿郎もお父さんもお母さんも杏寿朗さんの事を誇りに思っている。

今の自分に自信がないんだ、杏寿朗さんにもこんな時があったんだ。

 

「杏寿郎さん、心を燃やすんです」

「絶対に大丈夫です、杏寿郎さんなら絶対に守れます」

杏寿郎さんは驚いていた、それは僕がこの言葉を知っていたからだと思う。

僕は知っているんです、貴方が成し遂げた事を。

 

「ありがとう夜去、そうだな!時間の流れは止まってくれない、下を向いてなどいられないな!」

本当に何も変わらない、やっぱり貴方はすごい。

僕なんかすぐに下を向いてしまうのに。

 

「ところで夜去、二人の少年とは誰なんだ?」

それは僕と千寿郎のことだけど、貴方に憧れ二人で毎日稽古をしたんです。

 

「それは……内緒です。恥ずかしくて言えません」

いざ本人に言うとなると恥ずかしい。

いつか二人で言いたいな。三人でまた稽古もしたい、そして焼き芋を食べるんだ。

これは親友の千寿郎との大切な約束。

 

「とても気になる!夜去がなぜ照れている、可愛いな!」

「俺は夜去が好きだ!胡蝶」

可愛いはやめてもらいたい、全員から言われる一人ぐらいかっこいいとかにしてよ。

いきなり好きだと大きな声で言うからびっくりした。

僕も同じです、杏寿郎さんの事が好きです。

 

「ダメですよ煉獄君」

 

「むぅ…」

 

 

「煉獄と面白い話をしているじゃないか」

「俺の未来はどうなる?夜去」

天元さんは自分だけ最期の戦いに参加できなかった事をずっと後悔していた。

自分だけ痣も出ずに生きてしまった事を気にして、夢を持つ事を姉さんたちのように諦めていた。

諦めなくていいんです自分のしたい事をしていいんです、お化粧の仕事は辞めた方がいいかもしれないですけど…

天元さんに、お化粧をしてもらった事が嬉しくて輝夜姉さんと咲夜姉さんの元に行くと二人はとても嬉しそうに笑っていた。

あの時の二人の笑った顔は今でも忘れない。

あとで気が付いた、僕の顔があまりにも酷かったから二人は笑っていたんだ…でも嬉しかった、二人が笑ってくれた事が。

随分と前の事なのに昨日の事のように思える。

 

「天元さんは仲間と協力して強い敵に打ち勝ちます」

「鬼のいない世界で夢を見つけ、大切な奥さんたちと平和な日々を過ごしていると思います」

 

「俺にできるのか?俺は他の柱のように才能がない、強くもない」

「そんな未来だったらいいのにな…」

できます、天元さんには柱の皆さんと同じように多くの才に恵まれている。

そして仲間のために命を懸けることができる、強くて優しい人です。

僕も何度も貴方に背中を押してもらった、みんなから反対されても天元さんだけは送り出してくれた。

 

「天元さんは仲間のために命を懸けれる強い人です」

「天元さんはわからないと思うけど、僕は何度も貴方に背中を押してもらったんです、支えてもらったんです」

「本当にありがとうございます」

 

「本当か?本当に俺が夜去の支えに?それはいつなんだ?」

 

「はい!もう少し先ですけど、いつかわかります」

「天元さん、ありがとうございます」

先じゃないよ、ずっと前から貴方は僕の支えでした。

天元さんに頭をくしゃくしゃとやられた、大きな手で頭を乱暴に撫でてもらうのが僕は大好きだった。

その大きな手で背中を押してもらった。だから一歩踏み出すことができたんです。

感謝をどれほど言っても伝えきることはできないと思う。

成長した姿を見せたい、それが僕にできることだから。

久しぶりに頭を撫でてもらい、嬉しくて顔は気持ち悪いくらいの笑顔だと思う。

 

「夜去は可愛いな!俺の家に連れて帰りたい」

 

「胡蝶」

 

「ダメです」

 

 

「俺の未来を教えてくれ夜去」

実弥さんと玄弥さんは僕の事を弟のように可愛がってくれた。

二人が連れて行ってくれた場所はよく被っていた、二人は誰がなんと否定しようとも兄弟なんだよ。

最初実弥さんに会った時は怖くて泣いてしまった、でも次にあって少しお話をすると僕は実弥さんのことが好きになっていた。

実弥さんは僕を外に連れて行ってくれた、綺麗な景色を見たり、二人で美味しいもの食べたりした。それが楽しくて嬉しかった。

実弥さんと玄弥さんには二人で時に喧嘩をしながらも、二人で笑い合いながら生きてもらいたい。

それに今の実弥さんには言わないといけないことがある。

 

「実誠さんは最後まで柱として、仲間のため、弟さんのために戦います。風のように沢山の人の背中を押します」

「鬼のいない世界で実誠さんは弟さんと二人で喧嘩をしながらも、笑い合いながら一日一日を生きてほしい」

 

「俺が柱としてか…」

「弟はいねぇ、一人だ」

やっぱりだ、二人は勘違いをしている。一人じゃないよ、玄弥さんもいる、僕たちもいます。

 

「実弥さんによく似ていた人を知っています。その人から伝えてほしいと言われました」

「素直になれと」

実弥さんに伝えてくれと言われた、やっと伝えられた。どちらかが勇気を出したら二人は仲直りできる。

二人とも相手の事を大切に思っている、どれほどすれ違ったとしても昔のように仲直りは絶対にできます。

 

「実弥さん、今じゃなくてもいいです。弟さんのお話も聞いてあげてください、想いは同じはずです」

 

「何で夜去が泣くんだ、俺が泣かしたみたいじゃねぇか。わかった、わかったから。でも今はまだ無理だ」

「でも、いつか三人で行くか……おはぎを食べに」

三人で行ったことなんてない、実弥さんと二人で、玄弥さんと二人でなら行ったことがある。

きっと賑やかなんだろうな、二人はおはぎの取り合いになりそう。

 

「はい!行きたいです」

 

「あぁ、約束だ」

新しい約束ができた、僕には守らないといけない約束が沢山ある。

 

「俺も夜去のことが好きだ…」

あの時もそう言ってくれたのかな、そうだったら嬉しい。

僕も同じです、優しい実弥さんが玄弥さんが好きです。

 

 

「夜去、私の未来はどうなるの!?」

蜜璃さんは自分は人とは違って異常だと言っていたがけど、異常なんかじゃない。

でもひとつだけ特別な事がある、それはみんなを笑顔にできる事。

自分では気づいていないかもしれないけど、蜜璃さんがいると明るくなるんだ、貴方はみんなの明かりなんです。

蜜璃さんを幸せにしてくれる人はすぐ近くにいます、誰よりも貴方のことを想っています。

 

「鬼のいない世界で蜜璃さんは優しい人と結婚をして幸せに暮らしています。二人で定食屋を始めているかもしれないです」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ、本当なの?私にそんな人が現れるの?私は人とは違うのに…こんな私を認めてくれる人いるの?」

人と違っていいんです、それは蜜璃さんのいいところだと思います。

小芭内さんはどんな蜜璃さんでも受け入れてくれます。

小芭内さんや僕を含め蜜璃さんのことを認めている人はたくさんいます。

 

「蜜璃さんは確かに特別です…」

そんな暗い顔をしないでください、僕が伝えたいのはこの後なんです。

 

「それはたくさんの人を笑顔にできる。貴方にしかできない特別な事です」

「みんな蜜璃さんんの事を認めています」

「蜜璃さんを幸せにしてくれる人はとても近くにいますよ?」

今度は二人で未来を生きてほしい、来世とかじゃなくて今世を二人で。

二人が願ってくれたように僕にも願わせて、蜜璃さんと小芭内さんの幸せな未来を。

 

「夜去……ありがとう。私やっぱり夜去のことが大好きだよ!」

 

「僕も同じです」

「恥ずかしいからやめて、みんな見てますよ」

蜜璃さんに抱きしめられた。それをみんなが見ている、小芭内さんも見てるし。

でも小芭内さん嬉しそうに笑っていたけど、どこか悲しそうだった。

他の人だったらどうなっていたんだろう…

 

「もう離さないんだから、本当に可愛い。独り占めしたくなっちゃう!」

 

「蜜璃ちゃん夜去恥ずかしがってるから離してあげて?伊黒君あれ許していいの?」

 

「蜜璃さん離してあげてください、かわいそうですよ!」

 

「カナエちゃんもさっき同じことしてたよ?しのぶちゃん変わりたいの?二人にも譲らない!」

「あのこと夜去に言っちゃうよ?」

 

「それは…何もありません」

 

 

「夜去俺の未来も聞かせてくれ。自分ではわかっている、俺の未来なんて…だからこそ夜去の口から教えてほしい」

小芭内さん今なら僕は貴方が幸せになっていいと断言できる、あの時は言えなくてごめんなさい。

貴方が幸せになる事がいけないわけがない、小芭内さんは蜜璃さんと一緒に未来を生きて。

過去がどうであろうと関係ない。小芭内さんが幸せになってはいけないと言う者がいるなら、僕が殴り飛ばす、絶対に許さない。

 

「小芭内さんは大切な人と二人で幸せに暮らしています、誰かは言わないでおきますね」

 

「そんなことありえない、俺は幸せになってはいけない人間だ」

 

「誰か言ったんですか?小芭内さんが幸せになってはいけないって」

僕に沢山の幸せを与えてくれた人が幸せになってはいけないはずがない、お願いだからそんなふうに思わないで。

 

「自分でわかっているんだ、だから夜去が泣く必要はない」

 

「貴方は沢山の幸せを僕に与えてくれた、なんで幸せを手にしちゃいけないの?お願い、お願いだから、そんなふうに思わないでください」

「僕がそんな世の中は変えるから、小芭内さんを助け出すから。だから自分も幸せになりたいと、好きな人と生きたいと願ってよ」

小芭内さんが泣いているのを初めて見た、僕の想いが届いていたらいいな。

 

「夜去にそれほど泣きながら言われたら断れないな…俺を救い出してくれるのか……」

「夜去は俺にとっての英雄だ」

「こっちに来い」

小芭内さんの方に行くと、蜜璃さんと同じように抱きしめられた。やっぱり二人は似ている、とてもお似合いですよ。

頭も天元さんのようにぐしゃぐしゃと撫でられた。

 

「小芭内さん恥ずかしい、頭もそんなに撫でなくていいから」

 

「ありがとう夜去」

感謝するのは僕の方なんです、こちらこそ僕に沢山の幸せをくれてありがとうございます。

 

「それでさっきの話なんだが…俺は本当に…甘露寺と……」

絶対にそうなります、二人は両思いなんだから。でも言ってしまったら面白くないよね。

蜜璃さんとの幸せを願っていてほしい。

だから誰かは言わないし、さっきのも嘘と言うことにした。

 

「そんなこと言いました?忘れてしまいました、小芭内さんに未来は絶対に教えません!」

 

「言ってもいい嘘といけない嘘があるぞ、逃げるな夜去!俺の元に戻ってこい、お仕置きで俺の膝の上に座らす」

 

「一つだけ、小芭内さんの未来は明るくて暖かくて幸せが溢れています」

 

「そうか、俺は夜去を信じる」

 

 

「俺と義勇の未来はどうなる?」

 

「錆兎さんと義勇さんは水柱として戦い抜くんです」

「そして、錆兎さん義勇さん真菰さん鱗滝さんで仲良く暮らしていると思います」

義勇さん、もう一人で抱え込まなくてもいいんです。錆兎さんに真菰さんもいる三人そろえば無敵だから。

僕がいなくても、一人でご飯を食べなくてもいいんです、大きな部屋で一人で寝なくてもいいんです。

 

「俺は錆兎のようにはできない、水柱を務める事ができない」

それぞれの出来ない事を補い合っていけば大丈夫です。

今度は一人じゃないから二人で、いや三人で乗り越えていけばいいんです。

 

「二人でなら務められますよ、二人でならどんな困難も乗り超えていけると思います」

 

「買い被りすぎだ、俺も義勇もそれほど大した人間じゃない」

二人は僕の憧れだ、でも僕に憧れられても嬉しくないよね。

 

「僕は二人のようになりたいです、勝手に目標にさせてもらっています、憧れなんです。僕にとって二人は偉大な人です」

「僕に憧れられても、目標にされても嬉しくないよね…」

 

「いや、俺たちには一番嬉しい言葉だ。待ってるから追いついてこい」

絶対に追いつきます、柱の皆さんに。そして横に並びます、真菰さんと一緒に。

義勇さんと錆兎さんは僕を膝の上に座らせて、頭を撫でている。二人といると安心する、姉さんたちのようだ。

そう思っていると背筋が凍るような嫌な視線を感じた。

 

「あははは……カナエさんにしのぶさんに真菰さん、どうしたんですか?」

 

「いいのよ、気にしないで。後でね?」

絶対に後で何か言われるな…覚悟しておかないといけない…

 

「錆兎さん義勇さん、カナエさんとしのぶさんどうにかしてよ…真菰さんはまだ優しいけど二人はすごく怖いんです」

 

「いつでも水屋敷に逃げてこい、俺たちが匿ってやる」

「俺たちにとって夜去は弟のような存在だ」

 

「ありがとうございます、錆兎さんと義勇さん」

怒られた日は水屋敷に逃げることにしよう。

部屋に連れて行かれ正座で話し合いになるから…入夜さんの名前を出した時なんて…思い出したくない。

二人が弟のように思ってくれていることが嬉しい。姉さんたちのような感じがしたのも、僕が二人を兄さんのように思っていたんだ。

 

「何か言った?よく聞こえなかったけど」

「夜去わかってるよね?蝶屋敷からは逃げられないわよ?柱が二人いるんだからね」

大丈夫ですよ、柱二人が迎えに来てくれるんです。

ですよね錆兎さん義勇さん!二人の顔を見てそんな希望は儚く消えた。

 

「自分の足で逃げて来ないと、夜去のためにならない」

なんで棒読みなの……

 

 

「夜去さん、俺と無一郎の未来も教えてください」

二人は沢山の人を助けれために無限の力を出す事ができるんだ。

手に入れた力を杏寿朗さんのように助けを求めている人、弱き人のために使う事ができる。

二人は血の滲むような努力をしたんだ、だから二ヶ月という短な期間で柱になった。

 

「有一郎さんと無一郎さん弱き人、助けを求めている人に手を差し伸べることができます」

「二人はとても仲がいいから、支え合って楽しく生きてると思います」

 

「俺と無一郎は始まりの呼吸の子孫だから、二ヶ月という短な期間で柱になれた。あれほど強い夜去さんより先に柱になれるなんて、俺たちがすごいんじゃなく、流れている血がすごいだけなんです」

始まりのの呼吸の子孫だからすごいんじゃない、二人自身がすごいんですよ。

血の滲むような鍛錬を続けた、それは普通の人ではできない事です。

僕なんかと比べなくていい、二人は柱の皆さんと同様にもっと高い場所にいるんだから。

 

「始まりの呼吸の方の子孫だからすごいんじゃない、有一郎さんと無一郎さんがすごいんですよ」

「もっと自信を持っていいと思います、自分がわからなくなったら言ってください。二人のすごいところを嫌というほど話しますから」

 

「夜去さんの言う通りです。無一郎はすごい奴なんです。無一郎の無は無限の無だから」

「俺の有には特に意味がない」

名前の意味は絶対にあります、両親は絶対に名前に意味を込めてくれています。

例えなかったとしても自分で作ったらいいんです。

 

「有一郎さんの有は有り難うの有だよ。有一郎さんも無一郎さん同様、沢山の人を助けれます。そしてその方達から感謝を述べられるんです」

「僕も言いたいです、有一郎さん無一郎さん有り難う」

 

「なんで夜去が感謝するの?僕も有り難う兄さん、夜去!」

有一郎さんの涙を見て、無一郎さんも貰い泣きをしていた。あれ…さっきから泣いてる人多いような、気が僕もだけど…

 

「有り難う、夜去さん、無一郎。俺の名前の意味、有一郎の有は有り難うの有……とてもいい言葉ですね」

すごくいい言葉ですよ、人を幸せな気持ちに、暖かい気持ちにできる言葉。

 

「夜去さん…俺も無一郎と同じように呼んでもいいですか?」

無一郎さんと同じように…あ、夜去って呼んでくれるのかな。

 

「全然いいですよ!」

「今度、僕に恋のこと教えてくださいよ。友達として」

 

「夜去は好きな人ができたの?」

違いますけど…僕も気になる年頃ですよ…僕のことを受け入れてくれる人がいるならば…許されるならば恋をしてみたい

それに小芭内さんと蜜璃さんの願いだから。

 

「時透君、夜去との恋の話は私にも教えてね?」

 

「絶対に教えないでください、絶対に何かされるから…」

嫌な予感がした、部屋でまた正座させられるのはもう嫌です。

 

「夜去は天然で鈍感だ。俺は伝えれます、夜去の事が好きだよ」

 

「僕も僕も!兄さんと一緒、夜去の事すき」

僕も二人と同じ気持ちです。

有一郎さんと友達になれた、無一郎さんは前は心を閉ざしていたのに今はこんなにも明るい。

心を閉ざしているときでも、時屋敷に誰もいない時は僕が眠るまで側にいてくれた柱は忙しいのにも関わらず。

二人でずっと仲良く、今のように笑って生きて。

 

 

「夜去、私も未来を聞いてもいいか?

行冥さんは柱の中の柱として鬼舞辻無惨と戦うんだ、鬼殺隊を背負うというのはお館様同様すごく荷が重いはずだ。

でも決して逃げ出さない、人々が平和に暮らせる未来のために。

 

「行冥さんは鬼殺隊を最後までお館様と導きます。子供たちが笑える未来のために最後まで戦います」

「行冥さんに感謝している人は沢山います。カナエさんにしのぶさんもそうです、僕もそうだから」

前に行冥さんの屋敷に泊まった時に言われた、私は感謝して欲しかったと。

守れなかった子供たちも感謝しているはずです、きっと何か理由があったんだと思う。

行冥さんが助けた女の子がいつか伝えに来てくれます、ありがとうって。

 

「感謝してもらいたかった、沙代にだけは…」

「他の子供たちも私を信じずに逃げてしまった…」

沙代さんも感謝しているはずです。他の子供たちも行冥さんを信じていなかったのかな…いや信じていたと思う。

 

「行冥さんが信じてあげないでどうするんですか?」

「絶対に感謝してるはずです。いつか想いを伝えに来てくれるから信じて待ってあげてください」

 

「一番信じていないのは私の方か…夜去の言うように待つ。沙代がいつか会いに来てくれるのを」

「夜去は私が怖くないのか?」

行冥さんに初めて会ったのは…そうだ輝夜姉さんと行冥さんの屋敷に行った日だったな。

初めて会った時は怖くて姉さんの後ろに隠れてしまった、でも行冥さんは僕の手を握り目を見て話してくれた。

全然怖くなんてなかった、優しさに溢れている人だった、暖かい人だった。

次に目が覚めると行冥さんにおんぶしてもらっていた、その背中がとても好きだった。

それからはよく泊まりにも行った、炊き込みご飯美味しかったな、また食べたい。

 

「怖くなんてないですよ、優しい事を知ってるから」

 

「そうか…ありがとう夜去」

「夜去は他の者の言うように可愛い。何か私にしてほしい事はないか?」

してほしい事は沢山ある、おんぶもしてほしい、泊まりにも行きたい、炊き込みご飯も食べたい。

 

「お泊りに行きたいです…行冥さんの炊き込みご飯も食べたい」

おんぶしてほしいとは恥ずかしくて言えなかった。

 

「わかった、全部しよう。私の背中に来るといい」

「いいな、カナエにしのぶ」

昔と変わらない、安心する背中だった。僕も行冥さんのように大きくなりたかった、頼ってもらえる、安心させられる人になりたかった。

 

「はい…夜去は行冥さんに甘え過ぎ、私たちにももっと甘えてよ!」

 

 

とても賑やかだった、久しぶりに大勢でご飯を食べた。

最後にみんなで食べたのは、咲夜姉さんのお葬式の日だった。

またみんなで食べられるよね、その時に話そう未来の事、時の呼吸の事を。

輝夜姉さん、咲夜姉さん、その時は僕に勇気をください。

二人が一緒にいてくれたら、笑顔で言える気がします。

 

「大丈夫だよ夜去、私たちはいつも一緒にいるって言ったでしょ」

「夜去ありがとう、今日はすごく楽しい、幸せだよ」

ありがとう輝夜姉さん、咲夜姉さん。

早く二人に会いたいよ、笑顔を見たい、手を握ってもらいたい。

 

「甘えん坊さんだね夜去は。私たちも早く会いたい、貴方に触れたい」

「夜去は私たちの世界で一番大切な存在。世界で一番大好きだよ夜去」

すごく嬉しいけど、すごく恥ずかしい。

顔を見られない事をいいことに二人は…お陰で僕は顔が真っ赤だよ……

僕も二人のことが世界で一番大好きで、世界で一番大切な存在なんだ。

 

「嬉しい、夜去を抱きしめたい…」

たくさん抱きしめて…

未来で。

 

 

 

 

 



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明日も明後日も

「カナエ姉さん、しのぶ姉さん。私を最終選別に行かせてください」

生きて戻れる保証はない、みんなが待っている蝶屋敷に生きて帰ってこれないかもしれない。

でも私が何よりも怖いのは夜去を失うこと。

ずっと笑顔でいてほしい、幸せになってもらいたい。

私は姉として、夜去の幸せを何よりも願っている。

 

「カナヲ………まだ行かせられない」

姉さんたちには反対されると思っていた、それは二人が私のことを心配してくれているからだ。

いくら二人から反対されても私の意思は変わらない。

もう夜去には傷ついてもらいたくない、前みたいな姿を見るのはもう嫌だ。

夜去は一人で背負ってしまうから、今でも私たちには想像もつかない事を一人で抱え苦しんでいる。

夜去は無理をしてでも自分を犠牲にしてでも助けを求めている人、仲間を守る。だから誰かが夜去のことを守ってあげないといけない。

その誰かが私でありたいんだ。

 

「お願いします」

その後も姉さんたちには反対されてしまった、私がまだ花の呼吸を完璧には使えないから。

カナエ姉さん、しのぶ姉さん本当にごめんなさい。

私は二人には内緒で最終選別に行くことを決めた、明日の朝早く蝶屋敷を出よう。

 

 

「夜去、今日は私と一緒の部屋で寝ない?」

考えたくないが頭をよぎる、もう夜去の顔を見れないかもしれない、手を繋げないかもしれないと。

だから今日だけはずっと一緒にいたい。

 

「カナヲさん……」

上手く笑えているかな、不安な気持ちにさせていないかな。

夜去にも最終戦別に行くことを伝える気はない、いや反対されるのが怖くて言えない。

いつもなら顔を紅くして、今度ねと誤魔化されるのに…今日は一緒に寝ますと言われ嬉しかった。

まだ自分から姉さんとは呼んでくれない、いつか自分から呼んでくれるかな、それを聞く事はできるかな。

 

二人で布団を敷き、床に就く準備をした。

本当の事を言えば、たくさんお話をしたい。もしかするとこれが最後になるかもしれないから。

夜去はこういう事には感が鋭いから気付かれてしまいそうで言えない。姉さんたちの好意には全く気付いてないのにね。

少し前に部屋から出て行ったっきり戻ってこなかった。何してるんだろう、早く帰ってきてよ…

 

「カナヲさん、少しお話ししない?暖かいお茶持ってきたから」

二人でもう少しお話しできると思うと心が躍る。

もしかして気付かれてしまっているのかな、それなら夜去は何でもわかってしまうんだね。

 

「カナヲさん、今日はお月様が綺麗だね」

本当だ、今日は満月でお月様がとても綺麗だ。こんなにも明るく暗い夜を照らしてくれているのに気付けなかった。

 

「カナヲさん僕に話してくれない?」

不安と恐怖に包まれていた私の心をお月様のように照らしてくれる。

私だけではない、姉さんたち、柱の皆さんも夜去に救われた。

話すつもりはなかったのに、でも夜去に言われたら私は断れない。

 

「私ね……」

反対されたらどうしよう、そんな事を考えてしまい怖くて聞けない。

夜去にだけは反対してほしくない、夜去が私の背中を押してくれたらどんな事だって乗り越えられる。

でも今の私を信用はできないと思う、安心させられるほどの力があるわけではないから。

 

「カナヲさんゆっくりでいいから」

夜去は私の手を握ってきた、いつもなら恥ずかしがるのにこういう時だけ…

いつもなら細くて小さく少し頼りない手だけど、今はすごく安心する手だった。

 

「明日から最終選別に行くの」

言ってしまった、怖くて顔を見れない。

姉さんたちと同じように、不安と恐怖が顔には浮かんでいるのかな。

 

「カナヲさんが自分で決めたの?」

すぐに反対されると思っていた私にとっては意外な返答だった。

 

「そう、私が自分で決めた。姉さんたちにも内緒で行くつもり」

姉さんたちに反対されても諦められなかった。

命を懸けて夜去を守ると決めた、だった私の大切な大切な弟だから。

 

「自分で決めたのなら僕は応援します」

「カナヲさんを信じて待っています」

私の事を信じてくれている事が嬉しく、夜去の胸に顔を埋めて泣いてしまった。

 

「なんで私を信じてくれるの??」

 

「ずっとずっと前から信じています。それにカナヲさんも僕を信じて今も待ってくれているから」

夜去は時々意味のわからない事を言う、わからないのには変わりないけど何故か私には分かる気がする。

自分でもあまり何が言いたいのかわからない。

 

「それに……僕の姉さんは弱くなんてない」

今のは私の事を姉さんと言ってくれたの?

夜去の顔を見ると顔を紅くし下を向いていた、とても可愛い、可愛すぎる。

もっともっと聞きたい、カナヲ姉さんと呼んでくれるのを聞くためにも絶対に戻る。

私は絶対に負けない、だって私は胡蝶カナエと胡蝶しのぶの妹であり、明月夜去の姉だから。

 

「カナヲさん、最終選別ではこれを使ってください」

私は夜去から日輪刀を渡された、私が受け取っていいものなんだろうか。

これも大切な人からもらった大切な日輪刀だと思う、手離さずにいつも持っているから分かる。

 

「大切な人のだよね?」

 

「はい。姉さんが使っていた日輪刀です」

夜去にはお姉さんが二人いると言っていた、だから二つの日輪刀を持ってたのかな…

いつも日輪刀と羽織を肌身離さず持っている、それほど大切な物なんだ。

よくこの日輪刀を使っているから最終選別を終えたら返そう。

そういえば、もう片方の日輪刀を使っているのを私は見たことがないな…

 

「一緒には行けないけどカナヲさんの事を想ってるから、一緒に戦いたい」

私もいつも夜去の事を思っている、それは一緒だね。

夜去が一緒にいてくれるなら、私はどんな困難も乗り越えられる。

 

「夜去、本当にありがとう」

私は気が付くと夜去を抱きしめていた、カナエ姉さんたちの気持ちがわかる。

抱きしめると細いのがよくわかる、蝶屋敷に来る私たちと同じ年頃の人を見るともっと筋肉がある。

自分が傷つきながらも、この細い体で沢山の人を助けてきた。

これからは私が夜去を守る。

 

「恥ずかしい!早く寝ようよ、明日早いんでしょ!」

 

「照れてるの?手も繋いで寝るんだよ、私の布団においで」

そう言ったら何も言わずに私の布団に少しだけ入ってきた、顔を覗くと見ないでと怒られてしまった。

これを見ると誰でも独り占めしたくなってしまう。本当に可愛すぎる、愛おしすぎて仕方ない。

夜去が寝たのを確認し、少しだけ寝顔を見たあと手を繋ぎ、私も目を閉じた。

 

 

夜明け前には目が覚めた、横では夜去が私の手を握り寝ている。

無意識の内に頭を撫でていた、起きていたら恥ずかしい!とか言うんだろうな。

もっと手を繋いでいたい、顔を見ていたい、頭を撫でていたい。でも行かないと、みんなが起きてしまう。

手を離すと夜去の顔は曇り、うなされていた。怖い夢を見ているんだと思う、なかなか夜去の側を離れられない。

 

「夜去、一人にさせてごめんね。帰ったらまた手を繋ご、その時はもう離さないから」

「行ってきます」

夜去の日輪刀と羽織を持ち、足音を立てずに玄関へと向かう。

履物を履き扉を開けると、寝ているはずの蝶屋敷のみんながいた。

 

「なんで……」

 

「夜去に言われたの。カナヲさんを信じて、応援してあげてほしいって」

「カナヲの事を私たちは信じていなかった……本当にごめんね」

寝たふりをして、私が寝た後で姉さんたちの元に行ってくれたんだ。

信じれなくて当然です、まだ姉さんたちのようには戦えないから。

 

「カナヲ一度決めたらどんな事があっても逃げ出さないで」

「頑張ってきなさい、応援してるから。信じて待ってるから」

私は絶対に逃げないよ、夜去の未来を守るって決めたから。

姉さんたちに黙って行く事がどこか心に引っ掛かっていた、今は清々しい気持ちだ。

絶対に生きて戻ろう、夜去の元に、姉さんたちの元に。

 

「これ夜去と私から」

「私も夜去と同じ。カナヲの事を信じてる、帰ってきて」

渡された物はおにぎりだった、私の為に二人で…

まだ暖かい、夜去はずっと起きてたの?もしかして今日寝ていないの?

朝横にいないと私が心配するから、私の横にいてくれたのかな。

私の為にここまでしてくれたんだ、ありがとう。

直接言いたいけど今はゆっくり寝て休んでほしい。

 

「ありがとう、アオイ」

もう大丈夫だ、私の事を待ってくれている人が沢山いる。

帰ってくる以外の選択肢は私にはない。

 

「行ってきます」

蝶屋敷がどんどん離れていく、手を振ってくれているみんなが小さくなっていく。

角を曲がれば蝶屋敷が見えなくなる、その前にもう一度手を振ろうとしたその時。蝶屋敷から空のような羽織を着た夜去が私を追いかけ来るのが見えた。

私は今歩いて来た道を、走って戻った。

 

「夜去どうしたの!?裸足だよ、すごく血が出てる」

 

「いってらっしゃいと言いたかった。起きてようと思ったんだけど…」

起きてなくてもいいんだよ、ゆっくり寝ててほしい。

 

「ありがと夜去。しのぶ姉さんに手当てしてもらわないとダメだよ?」

「それから…いってきます」

夜去はまだ何か言いたそうにしていたけど下を向いてしまった。

帰ってきたら聞いてあげよう、その為にも生きないと。

 

「カナヲ姉さんなら絶対に大丈夫です。絶対に戻ってきてください」

「いってらっしゃい」

夜去から姉さんと言ってくれた!?それがずっと言いたかったの!?夜去が自分から姉さんと言ってくれた今が一番幸せだ。

夜去は言った後で恥ずかしさが押し寄せたんだと思う、下を向き手を握り占めていた。

また私は無意識で抱きしめていた、やはり私は夜去の事が何よりも大切なんだ。

 

「戻ったらまた一緒のお布団で寝よ、たくさんお話もしようね」

 

「恥ずかしいよ……一緒のお布団は僕が眠れないです!」」

 

「夜去が約束してくれたら、姉さん頑張れる気がする」

私もカナエ姉さんたちと同じだ。夜去の反応が可愛いから、意地悪をしてしまう。

 

「なんでみんな僕に意地悪するの?」

「約束したら頑張れるの?それなら約束します…」

みんな夜去の事が大切なんだよ、私もその一人なんだ。

指切りまでしてくれるとは思わなかった、楽しみが一つできてしまった。

 

「夜去、夜は早く寝るんだよ?ご飯もしっかり食べてね、任務も無理はしないで」

「それから…」

 

「わかったよ…カナヲ姉さん。僕の方が年上なのに…」

 

「夜去は私の大切な弟だから。貴方のことが何よりも大切なの」

「そろそろ行くね」

ここで逃げることは許されない、夜去を守るということはもっとずっと険しい道のりになる。こんなところで挫けている暇は私にはない。

一週間後に笑顔で会おう、絶対に戻るから待っててね。

 

 

一週間はあっという間に経った。

私は最終選別を突破できたんだ、生き残った人は私を含め片手で数えられるくらいだった。

夜去が受けた年は誰も犠牲者がでていない、沢山の人を守る力を夜去は持っている。

でもその力を自分自身に使うのはいつも後回しだから心配で仕方ない。

体中が痛い、疲れていないわけではない。それでも蝶屋敷に走る足は止められない、早く会いたい、触れたい。

この日輪刀と羽織にたくさん助けられた、夜去が近くにいてくれると思ったら勇気が湧き一歩踏み出せた。

今何をしているんだろう、ご飯を作っているのかな?夜去に言わないと、おにぎり美味しかったって。

 

角を曲がると蝶屋敷が見えた、暗くてよくは見えないけど蝶屋敷の前で誰かが立っていた。

見えなくても誰かわかる、私の世界で一番大切な人。

私を外で待ってくれていたの?寒いから外で待たなくてもいいのに、風邪を引いてしまう。

体の痛み、疲れなど忘れ夜去の元へ走った。

 

「夜去ただいま」

 

「カナヲ姉さん!おかえりなさい」

とても嬉しそうに綺麗に笑った。私はこの笑顔を守りたい、ずっと笑顔でいてほしい。

 

「なんで外で待ってたの!風邪引くよ?」

「手もこんなに冷たい…どのくらい外で待ってたの」

外で待ってくれていたことはとても嬉しい、でも少しだけ姉として言わないと。

 

「早く会いたかったから…」

「みんな待っています。暖かいご飯を作ったから、みんなで食べましょう」

夜去はずるい、早く会いたかったからと言われてしまったら私は何も言えない。

 

「カナヲおかえり」

姉さんたちからはよく頑張ったねとたくさん褒められた。少し恥ずかしかったけど、嬉しかった。

暖かいご飯をみんなで食べながら、他愛もない会話をした。

一週間の苦しかった事、辛かった事も全て吹き飛んだ。

私は本当に幸せだ。

 

 

蝶屋敷に戻り三日が過ぎた日だった。隊服が届き、刀鍛冶の里からは日輪刀を持ってきてくれた。

私よりも姉さんとアオイが興奮していた。夜去はどこかに行ってしまって今はいない。

鬼殺隊士になれた実感が湧いてくる。これで一緒に戦える、守ることができるんだ。

鬼殺隊士の持っている日輪刀は誰一人として同じ物はない。

 

「これが貴方だけの日輪刀です」

刀鍛冶さんが渡してくれた日輪刀は夜去の渡してくれたのと瓜二つだった。

同じ物はないはず、なのに何故まったく一緒なの?

体に悪寒が走る、夜去の隠している事が想像もつかない。

 

「カナヲどうして泣いてるの?」

 

「夜去………」

「全く同じ日輪刀は存在しますか?」

私たち一人一人に合った物を一からつくっているので、同じ日輪刀は存在しないと言われた。

でもこの日輪刀とまったく同じものを使っている人を私は知っている。

 

「カナヲどういうこと!?夜去がどうかしたの!」

姉さんたちからは不安と恐怖の感情が読み取れた、私も姉さんたたちと同じ気持ち。

 

「夜去の持っている日輪刀と全く同じなんです…」

「夜去何を隠してるの…」

夜去を失ったら私は二度と立ち直れない。

夕方になって蝶屋敷に戻ってきた、何をしていたかというと迷子になった子猫を家族の元に連れて行っていたみたいだ。

カナエ姉さん、しのぶ姉さん、真菰さんにどこか行くときには伝えて行ってと怒られていた。

誰も同じ日輪刀を使っている理由を聞けなかった、聞くのが怖かったんだと思う。

 

「姉さんたちにまた怒られたね。こっちにおいで」

「今日は私と一緒に寝よっか。話したい事もあるし」

半泣き状態の夜去を私はしばらく慰めた。三人が怒るのは、夜去の事が大好きで大切だからなんだよ。

同じ日輪刀を持っている理由、隠している事を怖くても聞かないといけない。

 

 

「私たちに隠している事ない?自分一人で抱えこんでない?」

繋いでいる手を握る力が強くなり、一緒に寝ている私のお布団に潜ってしまった。

疑心が確信に変わった、私たちに何かを隠している。

 

「今はまだ話せない?でもいつか話して、姉さんはいつでも夜去の味方だから」

無理矢理聞くことはできなかった。

絶対に自分から話してくれると私は信じている。

夜去の事を傷つける者を私は絶対に許さない。

 

「夜去は一人じゃない、一人で抱えている事も私が半分抱える」

「もう泣かないで?私がずっと一緒にいるから大丈夫」

絶対に一人にしない、一人にさせてはいけない。私がずっと一緒にいるんだ。

 

「おやすみ、私の大切な夜去」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先の方まで考えてたら出すの忘れてました!


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宿り木

今夜から那田蜘蛛山掃討作戦が始まる。

しのぶさんと義勇さん二人の柱が参加する事からも十二鬼月の鬼との戦いになるとわかる。

僕と真菰さんカナヲ姉さんもしのぶさんと一緒に行く予定だ。

那田蜘蛛山では大勢の犠牲者が出た。

僕は全員を助けたい、無謀な事を言ってるのは自分でもわかっている、でも諦めたくない。

 

「夜去、準備できた?そろそろ出ようと思う」

しのぶさんにとっては柱になり初めての大きな任務だ。

緊張していると思う、不安なはずだ。だから心配させないようにする、迷惑をかけないようにしよう、出来れば支えてあげたい。

 

「わかりました」

姉さんたちの羽織と日輪刀を抱きしめ、立ち上がり玄関の方へと向かう。

三人の手に背中を優しく押された気がした、それは輝夜姉さん、咲夜姉さん、入夜さんだとすぐにわかる。

頑張ってきなさい、僕にならできると言ってくれている気がした。

 

「ありがとうございます。輝夜姉さん、咲夜姉さん、入夜さん」

「いってきます」

救える命がたくさんある、守りたい命がたくさんあるんだ。

誰にも泣いてほしくない、辛い思いをしてほしくない。

絶対に諦めない、そして誰も死なせない。

 

「夜去絶対に戻って来てね。私待ってるから」

カナエさんにはまた不安な思いをさせてしまう気がする。

でも前とは違いカナエさんは僕を送り出してくれた。カナエさんに認められた気がして嬉しかった。

 

「はい!みんなで絶対に戻ってきます」

 

「絶対だよ?私は夜去に言いたいことがあるんだからね!?」

お話を聞くためにもカナエさんの元に戻ってきます。

 

「夜去、私も言いたい事あるんだから…姉さんだけじゃない」

 

「私もあるの。まだ言える気はしないけど…」

カナヲ姉さんは何故か呆れている、そして優しく頭を叩かれた。

叩かれた理由はわからないけど、みんなが笑っていた。それが嬉しくて理由を聞くのは忘れていた。

 

「いってきます」

 

 

那田蜘蛛山に着くと、刺激臭のある匂いが周辺に漂っていた。

血の匂いが嫌というほどしてくる、沢山の人がここで亡くなっている。

ここで命を失ったのは、人々の幸せな生活を守るために戦った鬼殺隊士または平穏に暮らしていただけの人たちだ。

鬼殺隊士の皆さんの想いは僕が受け継ぎます、だからどうかゆっくりしてください。もう誰も貴方たちのような辛い想いをさせません。

僕にできる事なんてこのくらいだ。

どうか安らかに眠ってくださいと心から祈った。

 

「夜去は優しすぎる、それが私はとても心配」

 

「大丈夫です、しのぶさん」

 

僕と真菰さん、しのぶさんとカナヲ姉さんの二手に分かれて行動することになった。

一緒に行動する鬼殺隊士の皆さんは最終選別で一緒に戦った人たちばかりだった。

懐かしい全員に生きて会えた事が嬉しい。皆さんが助けに来てくれて、一緒に乗り越えたあの日の出来事は一生忘れられない。

任務が始まって、一時間が経つが犠牲者はまだいない。それはあの時のように助け合ってきたからだ。

別の場所にいる人たちの事を心配していると皆さんに言われた。

僕なら沢山の人を助けられると、俺たち私たちなら問題ない大丈夫だからと行け。何より次に言われた言葉が何よりも嬉しかった。

 

「夜去が危ない時はまた全員で助けに行くから」

真菰さんともここで少しのお別れだ、真菰さんはこの班を任せられているから離れられない。

 

「無理は絶対にしないで夜去。絶対に生きて会おうね。また手を繋いで一緒に寝ようね」

 

「言わないで…言わないでよ!」

最終選別を一緒に乗り越えた人たちにも笑われ、頭を撫でられた。今までで一番恥ずかしいかもしれない。

その後も真菰さんには意地悪をされた、抱きしめられたり頭を撫でられたりと散々だった。

 

「夜去は私たち全員の希望。貴方なら絶対に大丈夫、私たちは知ってるから」

今度は沢山の人に背中を押してもらった。

多くの人が僕のことを信じてくれている、少しは姉さんたちに近づけたのかな…

 

「夜去自分を信じて進んで」

後ろを向かない事、下を向かない事、そして自分を信じて進む事を真菰さんと指切りをして誓った。

 

「夜去……大……き」

真菰さんは顔を紅くしている、声が小さくて聞こえなかった。

なんて言ったんだろうか、今度聞くことにしよう。

 

 

悲鳴が聞こえる方向へと急ぐ、日輪刀に手を添えていつでも戦える態勢に入る。

悲鳴の聞こえる場所で見た光景は、鬼殺隊士が他の鬼殺隊士を攻撃する光景だった。攻撃している人たちは蜘蛛の糸のような物で繋がれ操られていた。

その人たちは僕に言った、仲間を殺してしまう、傷つけてしまう。だから自分たちを殺してくれと。

絶対にできない、僕にできる事は貴方たちを助けることだけだから。

 

「時の呼吸・一ノ型 朝明の風」

蜘蛛の糸を斬り、操られていた人を僕の後ろに座らせた。他の人からすればほんの刹那。

驚くのも無理はない、瞬間移動を体験したようなものだから。

 

「殺すことなんてできません、僕にできる事は貴方たちを助ける事です」

「もう少しの辛抱です。みんなで乗り越えましょう」

時の呼吸を使い何度も繋がれそうになる蜘蛛の糸を斬った、このままだといつまで経っても状況は変わらない。

何かこちらから動かないといけない、そんな時二人の隊士が来た。

一人は僕のせいでまた鬼殺の道に歩ませてしまった心優しい人、もう一人は僕の事を子分として可愛がってくれた親分だった。

 

「夜去さん…!?」

 

「なんだあのひょろひょろの女は!」

二人が来てくれたんだ、二人なら絶対に倒してくれるここは任せるしかない。

 

「炭治郎さん!伊之助さん!どこかにこの蜘蛛の糸を操っている鬼がいるはずです、二人にお願いをしてもいいですか?」

 

「わかりました夜去さん!俺と伊之助に任せてください!」

炭治郎さんと伊之助さんなら絶対に果たしてくれる、それまで絶対にここは守り抜く。

二人が去ってからしばらくが経つと蜘蛛の糸は来なくなった。それは自分たちは無事です、勝ちましたという知らせでもある。

まだまだ他で戦っている人たちがいる、でもこの人たちを置いてはいけない。

 

「夜去なのか!?」

僕の名前を呼んでくれたのは村田さんだった、最終選別以来の久しぶりの再会だ。

村田さんともお話をしたいが今は時間がない。

 

「村田さん!この人たちを任せてもいいですか?僕は他の人の元へ向かいます」

「手の届く範囲に助けられる人が沢山いるんです」

 

「俺を覚えて……」

「ああ大丈夫だ。ここは俺に任せて行け」

二人で約束をした手の届く範囲にいる人を助けると、僕はその約束を今でも忘れていない。

村田さんも僕の背中をばしっと叩き送り出してくれた、今日は送り出してもらってばかりだな…

時の呼吸をたくさん使っているから体は限界のはずなのに体はいつもより軽い。

一度決めたら最後までやり通す、途中で折れてしまえば姉さんたちに怒られる。

僕は二人のようになりたい、そのためにも前へと進む。

次会う事が出来たら、頭を撫でて褒めてくれるだろうか、よく頑張ったねと言ってくれるだろうか。

僕は輝夜姉さんと咲夜姉さんの誇りでずっとありたいんだ。

 

────

ずっと気になっていた夜去は今何をしているのだろうと、変わってしまってはいないだろうかと。

きっと俺より遥か上に行ってしまう存在、あの時の約束も俺の事もきっと忘れている。でもそれでもいいと思っている、俺だけは絶対に忘れないから。

今日の那田蜘蛛山掃討作戦でもしかすると会えるかもしれないと思った。

多分犠牲者がたくさん出る、その中に俺が入る確率はとても高い。そう考えると山になかなか入れなかった。

それでも夜去に会えるかもしれないと思えば一歩踏み出す勇気が湧いたんだ。

弱いながらも手の届く範囲の人を守るために、臭いがきつくなる方向へと足が勝手に動く。夜去と会うまでの俺なら考えれなかった事だろう。

 

「夜去なのか!?」

青空のような羽織を見た瞬間すぐにわかった。

俺のことは覚えてないと思う、それでも声をかけてしまった。それほどずっと会いたかったんだ俺は夜去に。

 

「村田さん!この人たちを任せてもいいですか?僕は他の人の元へ向かいます」

「手の届く範囲に助けられる人が沢山いるんです」

夜去は何も変わっていなかった。いつも人の心配ばかりをして、自分の事は後回しにする心優しいままだった。

そして俺の名前を今でも覚えてくれていた、約束までも覚えてくれていたんだ。

人生で初めて涙を流した、これは嬉し涙だ。

俺に今できるのは夜去が守ったこの人たちを守る事、そして夜去を送り出してあげる事。

 

「俺を覚えて……」

「ああ大丈夫だ。ここは俺に任せていけ」

やっぱり夜去は先を行ってしまう。

でもいいんだ。俺は夜去を追いかけたい、そしていつか横に並びまた一緒に戦いたい。

だから行け、そして守り抜いてくれ。

 

「あの女性は誰なんですか?」

 

「女性……夜去は男だぞ?」

確かにそう言えば綺麗になっていたな…いやいや夜去は男だ、かっこいいの方がいいのか?まあ可愛いにしておくか。

 

「夜去って…あの鬼の首が斬れない隊士!?」

俺もそれを聞いた時は驚いた、でも俺の想いは変わらない。

一度だけ夜去を悪く言う奴を殴った、全く後悔はしていない。

誰にも夜去のことを馬鹿にはさせない。

 

「そうだ。それでも誰よりも仲間のために戦っている、馬鹿にする奴は俺が許さない」

「お前たちもわかっただろ?」

 

「はい、何度も何度も私たちを助けてくれました」

夜去はそうなんだ、本当にすごいんだよ。

多くの鬼殺隊士は柱に憧れているのかもしれない、でも俺は違うんだ。

誰が何と言おうと、いつになっても変わらない。

俺の憧れは明月夜去なんだ。

 

────

とても酷い臭いがする方から嫌な感じがする。

あまりに臭いが酷いから行きたくない、でもここで行かなければ一緒後悔する。

助けを求めている人がいるんだ、行く以外の選択肢を僕は選ばない。

そこには蜘蛛の鬼と戦っている何人かの鬼殺隊士がいた。

 

「逃げて!この鬼には勝てない、私たちは毒に侵されているけど貴方はまだ大丈夫だから」

この人たちはもう救えないのだろうか、時の呼吸を使えば毒の進行を遅らす事ができる。

もしかしたらしのぶさんなら治す事ができるかもしれない。

この人たちは無理だと諦め逃げるか、しのぶさんを信じて待つか選ばないといけない。

でも僕の答えはすでに決まっている、しのぶさんを信じて待つ方だ。

 

「僕は逃げません、絶対に諦めない。皆さんを助けたい、僕も一緒に戦わせてください」

「時の呼吸・四ノ型 可惜夜」

周りにいる人の時間経過は遅くした、自分の体への負担は計り知れない。

とても苦しくて辛い心臓が張り裂けそうだ、時の呼吸の使いすぎだと思う。こんなに苦しいのは上弦の弐そして鬼舞辻無惨と戦った時以来だ。

姉さんたちは僕のためにいつもこれに耐えていたんだ。

輝夜姉さん、昨夜姉さんのことを思えばここで折れてなんていられない。

二人は何度も僕の見えないところで助けてくれていた、また会って感謝を伝えたい。

ずっと四ノ型を使えるわけではない、限界も近いと自分でわかる。

 

「何なんだお前は!なぜ俺の攻撃が当たらない、俺より速いっていうのか?」

決して早くはないんです、ただ僕にしてみれば貴方は止まっているように感じる。

四ノ型が使えなくなったら、この鬼の速さに僕は付いていけない。そうなってしまえば僕はこの鬼に殺されるだろう、一番嫌なのは毒に侵されている人たちを助けれないという事だ。

そんな時また大きな悲鳴が聞こえた、他にも助けを求めている人が…でも今はいけない……

やっぱり僕は姉さんたちのようにはなれないんだ…

 

「へぐっ……!」

「何あのでかいの!俺お前とは絶対口聞かないから!!」

悲鳴の正体は僕のことを誇りだと言ってくれた人。

誰よりも速い善逸さんは光だ、暗い状況を変えれる力を貴方は持っている。

 

「あんなの無理無理無理無理無理!」

 

「善逸さん、僕と一緒に戦ってくれませんか?」

 

「えっ!?すっごい美人、顔だけで食べていけそう!何で俺の名前を美人さんが知ってるの!!!もしかして俺に惚れたの?」

「こんな綺麗な女性に言われたら俺あの気持ち悪いのとも戦えるかも!」

伊之助さんもひょろひょろ女って言ってた、あれは僕を言ってたの…?

善逸さんは何故か闘気に満ち溢れている、今は男性だと言ってはいけない気がした。

嘘をついて本当にごめんなさい、次会う時に謝らないと。

 

「お前はもう毒に侵されている」

 

「毒!?どうなるの、死ぬの!?」

「やっぱり無理無理」

善逸さんも毒に侵されていたのか…

お願いします、もう少し時の呼吸を使わせてください。

 

「雷の呼吸・壱ノ型 霹靂一閃」

その後は本の一瞬だった、蜘蛛の鬼の首を目に追えない速さで斬ってしまった。

絶望的な状況を変える姿がとてもかっこよく、憧れた。でもこれだけはどれだけ努力をしても僕には一生できないこと、憧れのままなんだ。

物語の主人公のように助けを求めている人の前に現れ、救いだす事は僕には一緒できない。

 

「どこに行くの!?」

 

「行かないと…守れないのはもう嫌だから」

僕が行ったところで時間稼ぎにしかならない。

でも自分にできる事をしたい。僕にできるのは命を繋ぐ事、仲間を信じて守り抜く事。

 

「最後にあの金髪の少年を庇って貴方も毒を…」

力が使える以上、僕は行きたい。

ここで諦めてしまうのはとても簡単なことだ、ここ乗り越えれば皆で生きて帰れる。

 

「あと少しなんです、僕なら大丈夫です」

「皆さんも絶対に大丈夫。しのぶさんが助けてくれる、僕はしのぶさんを信じてるから」

辛くても進め、進む以外の道はない。

 

────

真菰さんから夜去が他の人を助けに行ったと聞き、私とカナヲは必死に探した。

探している途中で隊士にあった、怪我をしている者はいたが死者はいなかった。

夜去どこにいるの、お願いだから私の前に現れて。夜去に会いたい、触れたい。

 

「もしもし、大丈夫ですか?」

金髪の少年と複数の隊士が倒れていた、おそらく鬼の毒に侵されているんだと思う。

でもこの人達は毒が体に入りあまり時間が経っていなかった事もあり進行が遅い。

解毒薬がある今、ここにいる全員を助けられる。

 

「私たちを守り戦ってくれた人がいたんです…」

「その人は今も毒で苦しみながらも仲間のために戦っています。お願いです助けてください」

私とカナヲは背筋が凍った、自分が苦しみながらも仲間のために戦う心優しい人をよく知っている。

まだ確定したわけではない、どんな人だったか聞かないといけない。

 

「どんな人でしたか?何か言っていましたか?」

青空のような羽織を着た綺麗な人、それを聞き夜去だと確信をした。

毒が体に入ってから、まだ時間は経っていない筈だ。早く解毒薬を飲ませないと手遅れになる。

夜去が私を信じ戦ってくれた事を聞いた。一人だけ馬鹿みたいに私を信じてくれている、ずっと私が柱になるとか沢山の人を救うとか言っていた。

夜去が信じてくれている事が私は何よりも嬉しかったんだ。

 

「あの人がいなくなってから結構時間が経ったんです、早くしないと…」

この人たちは何を言ってるの?毒が体に入り時間があまり経っていないから進行が遅いはず。

もしそれが違えば、辻褄が合わない。何が起きてるのかわからない、でも夜去が何か関わっているのは確かだ。

 

「カナヲ、夜去の元に行くよ」

カナヲは私が言う前に自分から行動をしていた、カナヲは夜去の事を何よりも大切に思っている。

どこか遥か遠くへ行ったとしても、例え夜去の事を忘れてしまったとしても、それでも見つけ会いに行くから。

私は夜去のためになら何でもできる、愛している夜去のためになら。

今行くから、待ってて。

 

────

体体中が痛く、呼吸も上手くできない、とても苦しい。時の呼吸はもう使えないと体が言っている。

今の僕に何ができるだろうか、行ったところで迷惑になるだけかもしれない。

今の僕は鬼殺隊士の中の誰よりも弱く力がないとわかる。

でも千寿郎と二人で特訓した日々を、カナヲ姉さん、義勇さん、実誠さん、天元さんに炭治郎さんと稽古の日々を信じたい。

何よりずっと努力をして来た自分を今は信じてみたい。

 

「カナヲ姉さん力を僕に貸してください、一緒に戦ってください」

カナヲ姉さんは何もできないと言っていたがそんな事は全くない。

今も僕を支えてくれている、勇気を与えてくれる、ありもしない力が湧いてくるんだ。

 

「だめだよせ!!君では…」

聞こえる炭治郎さんの焦った声、一人の鬼殺隊士に鬼の蜘蛛の糸が向かっている。

時の呼吸は使えない今あの人を守ることができないのかな…

いやカナヲ姉さんが教えてくれたじゃないか、速く動けるしのぶさんの突き技を。

突きで蜘蛛の糸を切ることができると、少しは傷を負うものの命は助けられる。

カナヲ姉さんと稽古した日を思い出す、コツは体の力を抜くだった。

 

「夜去さん!」

あと少し遅ければ僕もこの人もバラバラになっていた。

僕が助けた人は山を降りて行ってしまった、よかった助けられて。

カナヲ姉さんのおかげで助けることができました、ありがとうございます。

 

「炭治郎さん一緒に戦ってくれますか?」

僕も炭治郎さんも限界が近い、二人でここは乗り越えるしかない。

 

「夜去さん体から血が沢山出てます…休んでください俺が戦います」

 

「僕なら大丈夫ですよ、炭治郎さんが一緒に戦ってくれるなら」

 

「……わかりました!一緒に戦います、戦わせてください」

 

「ありがとうございます」

僕と炭治郎さんの前にいる鬼は十二鬼月だ。

二人とも手負いだ、長期戦になれば僕たちに勝ち目はない。

 

僕はその鬼の蜘蛛の糸から自分と炭治郎さんを守るので精一杯だった、炭治郎さんはまだこの鬼の糸の速さを目で追うことができていない。

時の呼吸を使っていない状態では全部の糸を斬れなかった、すると禰豆子さんが箱から出てきて炭治郎さんを守った。

鬼は妹が兄を守った兄弟の絆に感動していた、そして提案をしてきた。

妹を渡したら、僕たちは二人の命だけは見逃してやるという提案だった。

僕が守れなかったから、この道にまた進ませてしまったんだ。

炭治郎さんと禰豆子さんは何があっても引き裂かせない。

 

「ふざけるのも大概にしろ!!」

禰豆子さんが鬼の糸に捉えられてしまった、たくさん血が出ている。

糸を切ってあげたい、でも体が動かない。立ち上がらないといけないのに、立つことができない。

体への負担は自分の思っていた以上だった。

 

「夜去さん、もう大丈夫です。あとは俺に任せてください、今日も夜去さんに俺と禰豆子は助けてもらった」

貴方になら任せてもいいかもしれない、薄れそうな意識の中で炭治郎さんと禰豆子さんが一緒に戦い鬼の首を跳ねるのを見た。

二人の兄弟の絆は誰にも引き裂くことはできないだろう、二人ならきっと大丈夫だと思った。

 

鬼の首は跳ねたはずなのに、鬼は立ち上がり動けない炭治郎さんに血気術を使おうとしている。

お願いします。あと少しだけ動いてください、もう後悔したくない。

輝夜姉さん、咲夜姉さん、カナヲ姉さん、入夜さん僕に力を貸してください。

 

「夜去にならできる、私たちはいつも一緒」

力の入らないなのに日輪刀を持てている、一緒に持ってくれているから。

今は動かない足なのに立ち上がっている、体を支えてくれているから。

前にはもう歩けないのに炭治郎さんの元に迎えている、背中を押してくれているから。

 

「血気術 殺目籠」

炭治郎さんの周りを包囲していた蜘蛛の糸を切ることができた。

 

「なにお前、一度防いだからなに?」

鬼はもう一度血気術を使おうとしている。もう本当に動けない、毒の進行も遅くはしているが体に回り始めた。

誰か二人を助けて。

 

「俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ」

「よく頑張ったな夜去」

優しく頭を撫でてくれた、憧れの人に褒められたのがとても嬉しかった。

後は義勇さんに任せてもいいのかな、どうか二人をよろしくお願いします。

 

しのぶさんとカナヲ姉さんの声が聞こえる、僕の顔に沢山の雫が落ちてくる。

僕は大丈夫だよと伝えたい、でも声が出せない。僕にできた事は顔に置かれていた手を握る事だけだった。

二人に伝わったかな…少し疲れました、ちょっとだけ休んでもいいかな…

 

────

夜去もう少し待ってて、姉さんがすぐに行くから。

早く行かないと私の一番大切な人がこの世からいなくなってしまうかもしれない。

辺りに大きな音が鳴り響く、誰かが何処かで激しい戦闘をしているんだ。多分そこに夜去はいる。

姉さんは日輪刀に手を添えた、鬼の気配がしたからだ。

何人か人がいる、目の良い私にはわかる。水柱様と最終選別で一緒だった人、そして私の大切な夜去がいた。

 

「夜去!!」

しのぶ姉さんと私は倒れている夜去の元に走った、そして解毒薬をすぐに飲ませた。

夜去の顔にしのぶ姉さんと私の涙がたくさん落ちる。きっと夜去は泣かないでと言うんだろうけど無理だった。

夜去は私たちの手を弱々しく握った、私や姉さんよりも細い手だ。血がたくさんついている、今日どれだけの人を守ったんだろう。

 

「しのぶ姉さん!夜去大丈夫ですよね!?」

 

「気を失ってるだけだとは思う、夜去も毒の進行は遅かったから」

気を失っている夜去を私としのぶ姉さんは抱きしめた、少しは自分の心配をしてよ。

命に懸けてでも守ると誓ったのに、守れていない自分に腹が立った。

 

「富岡さん、なんで鬼を庇っているんですか…?

鬼を庇うのは隊律違反ですよね?」

さっきから鬼の気配がしていた、もしかして夜去を襲った鬼なの?

そうなら私は絶対に許さない、それを庇っている柱も同じだ。

 

「ああ隊律違反だ。でもこの二人は夜去が命を懸けてでも守った二人なんだ」

そんな時親方様から炭治郎と禰豆子の両名を本部に連れて帰れという伝令がきた。

私と姉さんは追求をしたい気持ちを抑えた。

 

「夜去終わったよ。帰ろう蝶屋敷に」

しのぶ姉さんが夜去を背中に担いで、私が手を握り蝶屋敷への帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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碧落一洗

「カナヲ、真菰ちゃん、夜去をお願いね」

しのぶに担がれた血だらけの夜去を見た時は頭が真っ白になった。

とても危ない状況だった、解毒が遅れていれば命に関わっていただろう。

 

本当は夜去の側にいたい、離れたくない。

でも親方様に呼ばれた今、柱の私としのぶはお館様のお屋敷に行かないといけない。

 

お屋敷までの道中しのぶと私は何も言葉を交わせなかった。

しのぶも私も夜去のことで一杯一杯だった。

 

お館様から柱合会議の前に大切なお話があるとの知らせがあった、それは鬼を庇う鬼殺隊士のお話だと思う。

鬼と仲良くなるのが夢の私にとってはとても興味深いお話で、いつもなら気になっていたと思う。

でも今だけは違う…夜去のことが一番気になる、逆にそれしか考えられない。

 

お館様のお屋敷に着いたのは私としのぶが柱の中で最後だった。

空気が重い、いつもならお館様が来るまでは雑談などをしているのに、今日は誰も会話をしていない。

 

「カナエちゃん、しのぶちゃん夜去は!?大丈夫だよね!?」

 

「蜜璃ちゃん…今は落ち着いて寝てるよ」

大泣きする蜜璃ちゃんの頭を撫でた、私も本当は泣きたい。

でも夜去はきっと言う、泣かないで、笑顔を見せてって。

夜去の状態を聞き少し安心したんだと思う、皆の顔が少し明るくなった気がした。

 

私の前には手足を縛られた鬼殺隊士がいる、この子が鬼を庇う隊士で裁判にかけられるんだとすぐにわかる。

皆が落ち着くと、しのぶは今回の那田蜘蛛山での出来事を詳しく話し始めた。

柱の皆はしのぶの話を聞くと、手足を縛られている隊士に自分の想いをそれぞれがぶつけた。

夜去がこんな私たちを見たらどう思うだろう、お願いだから辞めてよ。

 

「富岡はどうするんだ。胡蝶めの話によると隊律違反は富岡も同じだろう」

 

「……夜去の元へ富岡も胡蝶ももっと早く行けなかったのか?ずっと一人で戦っていたんだろう、どんな想いで戦っていたんだ…」

俺の大切な大切な夜去を傷つけた鬼は許せない、そして何よりも許せないのは何もできなかった俺自身だ」

伊黒君の言葉が柱全員の胸に刺さる、私も何もできなかった自分が一番許せない。

ここにいる柱全員が夜去を大切に思っているんだ。

しばらくの沈黙が続いた後、手足を縛られた隊士が話し始めた。

 

 

兄は竈門炭治郎、そして鬼にされた妹は竈門禰豆子と言った。

妹は鬼になって二年間、人を喰っていない。そして自分は妹を治すために鬼殺隊に入ったとも言った。

 

「くだらない妄言を吐くな、身内なら庇って当然

俺ははお前を信用しない」

 

「ああ、鬼に取り憑かれたているのだ。早くこの哀れな子供を殺し解放してあげよう」

 

「あの……このことを親方様は知らなかったのでしょうか…」

 

「俺は妹と一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えます」

夜去と会った日に言われた言葉が鮮明に思い出される。

優しい心を持った鬼はいますと、いつの日か私の夢は叶うと言ってくれた。

ねえ夜去…夜去の言ってたのは禰豆子さんのことなの?

 

「おいおい、面白いことを言うな」

不死川君は日輪刀を抜き、禰豆子さんが入っている木箱を持っている。

ここにいる誰もが冷静ではない、鬼を連れた隊士が現れたからだ。

それよりも夜去が傷つき、倒れてしまったことが何よりも私たちの胸の中を掻き回し動揺させている。

 

「不死川さん勝手なことはしないでください」

しのぶが珍しく夜去と私以外に怒っている、少し怖いと思ってしまった。

不死川君が日輪刀を木箱に突き刺そうとした瞬間、二人の水柱が止めに入った。

二人が止めた理由がわからない、鬼を憎んでいた二人が何故…

 

「お願いだ不死川傷つけないでくれ」

 

「夜去が命を懸けて守った二人なんだ。鬼を信じることは俺もできない、でも俺たちは夜去を信じたい」

 

「何を言っている…?ふざけたことを言うな!夜去が命を懸けて守った二人だと?」

誰もが驚きを隠せない、不死川君も木箱に日輪刀を突き刺すのを辞め問いただす。

夜去が守ったなんて誰も知らない、私の知らないところで……置いていかれている気がした、とても胸が苦しい。

皆の目が炭治郎君に集まる、話を聞こうと思った時だった。

 

「お館様の御成です」

荒れていた場が静かになり柱全員が膝をつく。

不死川君が柱を代表して挨拶をした。

 

「お館様会議の前にここに居る鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じあげますがよろしいですか」

 

「まず炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そして皆にも認めてほしい」

私はもう認めている。だって夜去が言った人だと思うから。

認めれない人、どういしたらいいか答えが見つからない人もいた。

 

「では手紙を」

それは元柱の鱗滝さんからの手紙だった、禰豆子さんは鬼になって一度も人を食べていない、そしてもし人を襲い喰ってしまった時は…

鱗滝さん、炭治郎君、錆兎君、富岡君が腹を切ってお詫びするという手紙だった。

皆の心が揺れた、四人の命が懸けられている。それでもまだ認めれない者もいた。

 

「切腹するからなんだと言うのだ。何の保証にもなりはません」

 

「不死川の言う通りです!人を喰い殺せば取り返しがつかない!!殺された人は戻らない!」

そんな時、空から真っ白の鎹鴉が舞い降りてきた。その白い鎹鴉は夜去と深い絆で結ばれている朝だった。

朝はとても綺麗な白色の鎹鴉だ、夜去と朝はどこか似ている。どちらも綺麗で神秘的だからかもしれない。

 

「お館様、明月夜去からの手紙を持って来ました」

全員の視線が朝と夜去からの手紙に集中した。

 

「私が読ませてもらうね」

 

 

──

朝がこの手紙を届けてくれたということは、僕は自分の口から伝えられないんだと思います。

もしかすると僕は皆さんに不安な思いをさせてしまったり、苦しめてしまっているかもしれません。

だからまずは謝らせてください、本当にごめんなさい。

 

炭治郎さんが鬼殺の道に進んでしまったのは、禰豆子さんが鬼にされてしまったのは、そして二人が大切な家族を失ってしまったのは僕のせいなんです。

ただ幸せに暮らしていただけなのに、ある日突然幸せな日常を壊されてしまったんです。二人は絶望したと思います、逃げ出したいと思ったはずです。

それでも二人は前を向き戦っています。仲間のために戦うことのできる、本当に優しい人たちなんです

まだ二人を信じることができない人もいると思います。

でも炭治郎さんと禰豆子さんを見守ってあげてほしいです、いつの日か二人を信じることが鬼殺隊と認めれる日が必ず来ます。

 

絶対にありえない話ですが、もし禰豆子さんが人を襲い喰ってしまった時は明月夜去も腹を切ってお詫びします。

──

 

「私は夜去を信じています。二人を認めますお館様、そして信じます」

私は夜去の信じた人を信じたい、そして夜去を何より信じたい。

 

「ありがとう、カナエ」

 

「私はまだ二人を姉さんのように信じれない。でもいつか信じたい、夜去が信じた二人を

いいよね夜去……私は私で…姉さんと違っても」

 

「ありがとう、しのぶ」

 

「夜去が言うんだ、お前たち二人を見守る。もしお前たちのせいで夜去が傷つくことがあれば俺はお前たち二人を絶対に許さない

それだけは覚えておけ、絶対に忘れるなよ」

 

「ありがとう、小芭内」

 

「夜去が信じ守った二人だもん私は信じたい!私も認めますお館様」

「ありがとう、蜜璃」

 

「俺と無一郎も認めます。友の夜去が信じた二人だから、きっと大丈夫です」

「ありがとう、有一郎、無一郎」

 

「今はまだ二人を認めてない。でも俺は派手に夜去を信じている、だからいつか俺に証明しろ」

「ありがとう、天元」

 

「俺は正解がわからない!!でも夜去が信じた二人だ、いつか俺にも鬼殺隊の一員として認めさせてほしい!」

「ありがとう、杏寿朗」

 

「あぁ、私も夜去が信じた二人を見守ることにする」

「ありがとう、行冥」

 

「夜去にそこまで言われたら俺は………見守る…

でももしお前の妹が人を襲い喰って、夜去が腹を切るようになったら俺はお前たち二人を楽には死なせない」

「ありがとう、実弥」

 

「夜去…は何度も二人を救っている。自分のせいだもう言わないでくれ、一人で背負わないでくれ、お願いだ」

錆兎君と富岡君の言う通りだ、今も夜去は二人を救ったんだよ。

一人で背負ってる悲しみ苦しみを私に分けてほしい。

 

「炭治郎は鬼舞辻と遭遇している

私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない」

柱ですら誰も遭遇していないのに…!

鬼舞辻は鬼の頂点に君臨する者で前に私が遭遇した上弦の弐より何倍も強い。柱何人分の力を持っているか想像もつかない。

炭治郎君への質問攻めが始まるとお館様は唇に人差し指を当てた、それを見て柱は黙り静寂が訪れる。

親方様が話すよりも前に、炭治郎君が言葉を発する。実弥君が止めても、それでも諦めない。

 

「実弥いいよ。炭治郎どうしたんだい?」

 

「俺だけじゃないんです……夜去さんも鬼舞辻無惨と遭っているんです」

夜去が鬼舞辻と遭っているのを誰も知らなかった、それはお館様も知らない情報だった。

炭治郎君は涙を流しながら、自分が家族を失った日の出来事を話してくれた。

 

「夜去さんは俺の家族を守るために、ずっと一人で戦ってくれていたんです。

血がたくさん、たくさん出ていました。俺にはあの時の夜去さんの苦しみ、辛さは想像もできません。

自分がどんなに傷ついても、辛くても俺の家族を守るために何度も立ち上がって戦ってくれていたんです。

夜去さんは自分のせいだと言うけど違うんです。

俺のせいなんです、俺が自分の弱さも知らずに鬼舞辻の前に出て行ったから…夜去さんは俺を守り致命傷を負ったんです、朝まだ本当にあと少しだったのに。

鬼舞辻の攻撃で俺と夜去さんは吹き飛ばされました。その時夜去さんは吐血し膝をついていました、呼吸もおかしく苦しそうだった。

俺はそこで気絶してしまった、でも夜去さんは違いました。血を吐きながらも鬼舞辻にやめてください、お願いしますと何度も頭を下げてくれていたんです。

薄れいく意識の中で見たその光景は絶対に忘れません」

 

夜去のことを想うと涙が溢れ出してくる、今は泣かないと決めていたのに。

しのぶは下を向いているが、地面には沢山の涙が落ちている。

 

「炭治郎それは本当なのかい!

俄には信じがたいことだけど……夜去は一人で鬼舞辻と戦いそして守ったんだね……」

お館様までも声が震えていた、親方様のこれほど大きな声を聞いたのは初めてだ。

驚かないなんて無理だった、今の柱は歴代最強と言っても構わない。

それでも鬼舞辻を倒せない、戦っても勝てないとまで言われた。

でも夜去は炭治郎君の家族を一人で守りながら戦った。それがどれほどすごいか、いやすごいで済ませるなんてできない。

今から私はお館様とても失礼なことを言うと思う、そうしてまででも夜去に早く会って抱きしめたい。

 

「お館様とても失礼なことだと分かっています。

でもお願いします、私に蝶屋敷に帰る許可をください」

「私は今すぐ夜去に会いたい」

私としのぶは同時に言った、やっぱり私たち二人はとても似ている。

いつもなら他の柱に許されないと言われたと思う、でも今日は誰も何も言わない。

 

「カナエ、しのぶ戻ってあげて」

「今日の柱合会議は蝶屋敷でしようと思う、私も夜去に会いたいしね」

柱合会議をお館様のお屋敷以外でするなんて初めてだ。

お館様にもこんな風に言わせてしまう隊士は夜去だけだと思う。

 

「皆は先に行っていて、私も準備を整えて行くから」

隠の人が炭治郎君と禰豆子さんは蝶屋敷に運んできてくれると言った。

 

柱は皆蝶屋敷に走った、足を止めることなく。

待ってて夜去、すぐに戻るから。

 

 

蝶屋敷に戻り夜去の寝ている部屋に行くと沢山の鬼殺隊士がいた。

夜去の元に行きたいのに、あまりに人が多すぎて近づけない。

 

「真菰ちゃんなんでこんなに人がいるの?」

 

「今回の任務で皆、夜去に助けられられたんだって。

ありがとうって言うために、会いに来たんだよ。それにもう一度会いたかったって…」

夜去はこんなに多くの人を助けたんだ、沢山の人が夜去を慕っている。

早くいつもの笑顔を私に見せて、顔を紅くして私の手を握ってよ。

 

しばらくすると柱全員が後ろにいることに気づき、お見舞いに来てくれた隊士は何か用事があるのだと察して部屋から出て行ってくれた。

 

「夜去…皆いるよ…お館様も来てくれるんだよ?

本当によく頑張ったね、夜去はみんなを守ったんだよ」

私としのぶは夜去の手を握り、頭を撫でた。とても細い指だ男性の手とは思えない。

この手で日輪刀を持ち大切な仲間を守るために戦っているんだ。

寝ているのに、起こしたら悪いのに私としのぶと真菰ちゃんとカナヲは夜去を抱きしめた。

少し強く抱きしめてしまい夜去を起こしてしまった。

 

「………カナエさん?…しのぶさん?………真菰さん?…カナヲ姉さん?

………!!皆さんは大丈夫ですか……?」

弱々しく私たちの名前を呼ぶ声が聞こえる。

それは吹けば消えてしまいそうな弱々しい火を連想させる。

自分の心配より他の人の心配をしていた、夜去が一番傷ついているのに。

 

「夜去の馬鹿!!貴方の傷が一番酷いんだよ、いつも相手のことばかり。もっと自分の心配をしてよ!

すごく、すごく心配した、胸が張り裂けそうだった!」

こんなことが言いたいんじゃない、でも言わずにはいられない。

とても、とても嬉しい、そして幸せだ。夜去が目を覚ましてくれたことが、私たちの名前をまた呼んでくれたことが。

本当に言いたい言葉はね……

おかえり夜去。

 

「守れたんだ…よかった…」

「ごめんなさい、でももう大丈だよ……

ただいま」

夜去の笑顔は世界で一番美しい、ずっと隣で見ていたい。

抱きしめていた手にまた力が入る、みんなが見ているのに今日は恥ずかしい離してとは言わない。

もし言ったとしても離す気はないけれど。

 

「今日は甘えんぼさんなんだね…こっちの夜去も可愛くて私は大好きよ」

 

「言わないでください……柱の皆さんの前ではこんな姿見せられません…」

え……後ろにいるんだけど。夜去はまだ気づいていないんだ、どうしよう……

お願い!!今は何も声をかけないで、離してと言われるから。

 

「俺と錆兎もいるぞ?いや他の柱もいる安心しろ夜去、もう大丈夫だ」

 

「おい、義勇。今は声をかけたらダメだろ隠れていないといけないだろ」

その場にいた全員が思った、富岡君は本当に空気が読めないと。

抱きしめているからわかる。夜去の体温はどんどん上がり、他の柱の存在に気付き顔を紅くして涙目になった。

 

「え…何で皆さんが……お願いします、離してください…!」

この恥ずかしさに僕は耐えられません…」

さっき夜去に会いに来ていた隊士の殆どの女性が夜去に惚れて恋をしていた。惚れていた人の中には男性もいた…男性なのに綺麗すぎるよ……

私は今とても嫉妬している、だから少しだけ意地悪をする。

好きな人には意地悪をしたい、反応も可愛いからすぐに揶揄いたくなる。

 

「絶対に離さない。もっと見られて反省して」

反省してもらいたいのはすぐに相手を惚れさせてしまうこと、そして自分を犠牲にしたり自分の事を後回しにしてしまうことだ。

 

「ずるい!!私も抱きしめたい!」

蜜璃ちゃんは魅力的な女性だから、夜去が惚れてしまわないかとても心配だ。

前に伊黒君と三人でご飯を食べに行ったとも言ってたし、今度食べさせてあげるとも言っていた。私がしてあげるんだから…

夜去は私たちの腕から抜け出そうとしていたが力が弱く抜け出せていない。

しばらくすると恥ずかしさのあまり泣いてしまった。

流石に可哀想だと思った私たちは手を離した、皆が帰ったらまた抱きしめよう。

そして夜去は布団の中に潜った、もっと意地悪をしたい、可愛くて仕方ない。

 

「夜去はもうお嫁には行けないな」

 

「夜去は派手に綺麗だからな、いや綺麗すぎる。俺がもらってやりたい」

 

「うむ!男などと関係ない。俺は夜去が大好きだ、できるならば奥さんにしたい!!」

 

「お嫁になんていかせない!

夜去はどこにも行かせない、ずっと一緒にいるんだから。絶対に誰にも渡さないんだから!!」

私としのぶと真菰ちゃんが同時に言った、蜜璃ちゃんはそれを聞き大喜びしている。

言って恥ずかしくなった。でもどうせ気付かない、いつか嫌と言うほどわからせてやる。

夜去を愛しているということを。

 

「僕は男性です!!そもそもお嫁になんていけません!

変なこと言わないで…」

布団の中から叫ぶ声が聞こえる。

でも夜去は綺麗すぎるからな…お嫁さんでもいける気がする、絶対にいかせないけど。

そして布団の中に手を入れると手だけは握ってくれた。やっぱり繋ぎたいんだ、誰にも見られなかったら素直だな…

私は夜去のこんなところがどうしようもなく愛おしい。

 

 

一時間が経った頃、蝶屋敷に天音様と御子息を連れたお館様が来た。

 

「夜去はどこにいるのかな?」

今も布団の中に潜っている、何て説明をしよう。

お館様の前で布団に潜っているわけにはいかない、肩を揺すっても出てきてくれないので布団をゆっくりとはいだ。

とても綺麗な寝顔で寝ていた、その場にいた全員が目を離せない。

この世の人とは思えないほど綺麗だ、とても近くにいるのに遠くにいる人のように感じる。

 

「カナエ起こさなくてくいいよ、ゆっくりさせてあげて」

 

「はじめましてだね

ずっと私は会いたかった」

 

そしてお館様は夜去の頭を撫でながら言った。

 

「今回の那田蜘蛛山作戦で私は多くの犠牲者が出るのを覚悟していた。

心のどこかで仕方ないと思ってしまっていたんだ……

でもね皆が生きて帰って来てくれた。私は今でも信じられない、夢ではないかと思ってしまうんだ」

 

「夜去に守ってもらったと多くの人から聞いたよ

皆を救ってくれてありがとう、本当にありがとう

よく頑張ったね¥

信じられない、十二鬼月がいたのに誰も死亡者がいないなんて。

夜去の受けた最終選別に並ぶぐらいの奇跡だ。

お館様が泣いていることに誰もが気付いた、天音様もそんなお館様を見て涙していた。

 

「一人で抱えていることをいつか私たちに話してほしい。

きっと私たちには想像もつかないことだと思う、それでも私たちはなりたいんだよ」

力になりたい、支えてあげたい、苦しみを背負いたい。

輝夜ちゃんと咲夜ちゃんとした大切な約束もある。

きっとまだ私たちには話してくれない。

私はずっと待つよ夜去のこと。

 

「私は夜去にいつの日か鬼殺隊を支える柱になってもらいたいと思っている」

「私はその日が来るのを待ってるよ」

鬼舞辻無惨と一人で戦った夜去には柱以上の実力がある、でも柱になる条件を満たしていない。

柱になったら蝶屋敷から出て行くのかな…ずっと一緒にいたい、離れたくない。

でも言っていたな……柱を守る柱になるって。

夜去なら大丈夫、絶対になれる。

私も信じてその日が来るのを待ってるよ。

 

 

雨の後大空が澄み渡りからりと晴れた、碧落一洗の空はあまりに綺麗で美しい。

それは今の私たちを映しているかのように思う、涙の後に見る世界は夜去はあまりにも美しく綺麗だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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平穏

俺は今療養のため蝶屋敷に運ばれている。

手紙を思い返すと涙が溢れ出す、俺と禰豆子を信じ命を懸けてくれている人が四人もいたんだ。

やはり夜去さんは俺と禰豆子を何度も救ってくれています、感謝を何度しても足りません。

 

柱の皆さんは夜去さんのことをとても大切に想っていて、大好きなんだと感じた。

夜去さんは多くの人から愛され、信じられている。俺もその内の一人だ。

蝶屋敷に行けばまた会えるのだろうか、憧れの人に心惹かれた人に。

とても綺麗になってたな…そう考えたら会うのが少し恥ずかしくなってきた。

 

着くとアオイさんという女性が俺と隠の人を病室まで案内をしてくれた。

蝶屋敷は柱合会議をしているせいかとても静かだと思ったのは病室に入るまでだった。

 

「五回!?五回飲むの!?一日に!!」

「ていうか薬飲むだけで俺の手と足は治るの!?」

病室に響く友のうるさい声、その声を聞けることが今は嬉しくてたまらない。

俺は反射的に声をかけていた。

 

「善逸!!山に入って来てくれたんだな…」

 

「た、炭治郎!!

聞いてくれよ、臭い蜘蛛に刺されるし、あの女の子にガミガミ言われるし。

いいことなんて何もないよ…!!そう言えばひとつだけ……俺に惚れて、俺のことが好きになったとても綺麗な人に会ったんだよ!」

今は善逸の妄想だろとは言わないでおいてあげよう、それだけが心の支えのようだから。

毒に刺されているせいか蜘蛛のようになっており、笑い方も少し気持ち悪くなっていた。

それでも善逸が俺の横にいてくれることがとても幸せだ。

 

善逸の隣の人を見ると…頭に猪の頭を被っていた、変わった人も…

 

「伊之助!!無事でよかった、助けに行けなくてごめんな!!」

二人で一緒に苦難を乗り越えた、伊之助がいたから立ち向かい勝てんたんだ。

一人では絶対に無理だった。

 

「イイヨ、キニシナイデ」

 

「…」

伊之助は喉を潰されているらしい、でも治ると聞き心がほっとする。

自身に満ち溢れていない伊之助は伊之助じゃなかった。

でもすぐに前を向くはずだ、伊之助が強いことを俺は知っているから。

 

病室を見渡すが俺が一番に会いたい人、感謝をしたい人はいなかった。

でもその人はいない、どこにいるんだろう…

 

「あの……アオイさん…」

 

「どうしたんですか?」

アオイさんはとても忙しそうだった、前の任務でたくさんの人が怪我をしたからだろう。

善逸にも手を焼いているみたいだ、申し訳なくなってきた…

 

「夜去さんも蝶屋敷にいますか?」

アオイさんは少し驚いていた、俺が夜去さんを知っていたからだと思う。

 

「夜去もいますよ、怪我が酷いので個室にいます」

怪我が酷いの俺を守ったせいだ…

 

「その人にだけ優しくない!?声が優しくなったし!俺と態度違くない!?アオイさんにとってどんな人なの!」

確かに善逸の時とは声が違う、善逸は耳がいいから俺よりも感じるだろうな…

先程まで怒っているような顔だったアオイさんは笑顔で言った。

 

「夜去は私とカナヲの大切な弟です」

二人はあまり似ていないと思う、本当の兄弟ではないのだろうか。

それでもアオイさんの今の笑った顔は夜去さんにとても似ていた。

 

お昼を過ぎると村田さんが会いに来てくれた。

今回の任務の報告のために柱合会議に召喚されたみたいだ。

柱が怖すぎる、地獄だったと愚痴ばかり言っていた。確かに柱の皆さんは少し怖かったし存在感が凄かった…

 

「でも寝ている夜去が見れた…綺麗だったな……俺が女だったら惚れてた」

村田さんは少し照れながら言った、村田さんもなんだ…

俺も見たいと思ってしまった、でも個室にいるのなら会いにはいけない。

 

「こんにちは、何か言いましたか?」

そこには満面の笑みを浮かべた蟲柱のしのぶさんがいた、何処か狂気を感じた。

笑っているのに笑っていない、村田さんはしのぶさんの笑顔に恐怖してそそくさと帰っていた。

 

「どうしたんでしょうか……

どうですか体の方は?」

 

「かなり良くなってきてます

ありがとうございます」

 

「では二、三日後には昨日回復訓練に入りましょうか」

昨日回復訓練…何か始まるみたいだ……

 

 

明日から機能回復訓練に入る、でも今日は何もする事がない。

俺も善逸も伊之助もとても暇をしている、夜去さんに会いに行ければいいんだけどな…

しのぶさんが看病しているから聞くといいですよとアオイさんに言われたが少しだけ怖くて聞けない。

善逸はしのぶさんを女神とか可愛いとずっと言っている。確かに美人だと思う、お姉さんもとても綺麗な人だった。

善逸が会えばどうなるんだろう少し心配だ。

 

「炭治郎さん」

俺の名前を呼ぶ声の方を向くと、俺の会いたかった人がいた。

病室にいた全員が目を奪われる、善逸は空いた口が塞がらない。

 

「夜去さん……会いたかったです…」

お日様に照らされた夜去さんの笑顔はあまりに眩しかった。

俺のベッドの横にゆっくりと座った、会いたかったのにいざとなれば何を話していいかわからずあたふたしてしまった。

俺がまず伝えないといけないのは感謝だ、何度も救われた。今も夜去さんは自分のせいだと思っている、それは絶対に違う。

 

「俺と禰豆子は何度も夜去さんに救われた……

夜去さんのせいじゃないです、もう自分のせいだと言わないでください。

そして……ありがとうございます、本当にありがとうございます」

 

「炭治郎さんに言ってもらったら僕も救われます

でもあの日の自分を僕は一生責めると思います、それでも守るために進みます絶対に挫けません」

 

「もう誰にも同じ想いはさせません、それが今からの僕に出来ることだと思います」

やっぱり夜去さんはかっこいい、俺も貴方のようになりたい。

今回の任務で誰一人として死なせなずに守り抜いたと聞いた。

強くなったつもりでいた、俺も一緒に戦える土俵に立ったつもりだった。

でも夜去さんや、柱の人たちは遥か上で戦っているんだ。

いつか横に並び一緒に戦いたい、だから俺も強くなります。

 

「炭治郎は美人さんと知り合いだったの?!?」

何を言っているんだ、美人さんって……善逸の言う綺麗な人って夜去さんのことだったのか!

確かに美人ではあるし、女性に間違っても仕方ないと思うけど…

善逸は夜去さんが自分に惚れて好きになったと言っていたがそれは違う、いや違っていてほしい!

というかあり得ないだろう。

 

「夜去ちゃん俺と結婚してください!お願いします、幸せにします」

何をいきなり言いだすかと思えば、夜去さんは男だぞ…

でも夜去さんは否定しなかった、何故かと思い顔を見ると真っ赤にして拳をぎゅっと握っていた。

え……照れてる夜去さん可愛い、可愛すぎる。

廊下の方から誰かが夜去さんを呼ぶ声が近づいてくる。

 

「炭治郎さん少しお布団の中に隠れさせてもらってもいいですか?」

すごく慌てている、どうしたんだろう?

 

「いいです……」

病室に入って来たのはしのぶさんとカナエさんと真菰さんだった。

善逸は美人が三人もいると興奮していたが俺にそんな余裕はない。

三人は夜去さんを探しているんだ、そして夜去さんは俺の布団の中に今隠れている。

言った方が絶対にいい、冷や汗が止まらない。

何とか誤魔化せたと思ったのはほんの束の間だった。

 

「隠れてていいんだ…

夜去はね夜寝る時に…」

三人が何かを言おうとした時、夜去さんは勢いよく布団の中から出て来た。

目に涙を浮かべながら三人を見ている姿は可愛かった、善逸はその姿に胸を撃ち抜かれたようだ。

 

「夜去部屋に帰るよ?おんぶしてあげよっか??」

 

「歩けます…皆さんの前では言わないで…」

夜去さんは部屋に連れて帰られた、もっとお話ししたかったな…

明日からは機能回復訓練だし、なかなか会えないだろうな。

 

「炭治郎さん明日から一緒に頑張りましょう」

夜去さんも明日から俺たちと一緒に機能回復訓練を受けるんだ。

嬉しい明日が早く来て欲しい、待ち遠しすぎる。

今日は早く寝ようと思った。

 

「蝶屋敷は美人が多くない。炭治郎と夜去ちゃんすごく仲良いし」

 

「あのな善逸……夜去さんは男だぞ?間違うのも無理はないけど」

 

「え……嘘だよな、嘘だと言ってくれよ」

善逸は唯一の希望を失ったようだった、今は背中をさすることしかしてやれない。

でも善逸の立ち直りは意外にも早かった。

 

「男でも関係ない。俺は夜去ちゃんならいける、ありがとう炭治郎」

善逸がいけても夜去さんが無理だろう、それよりなにより三人が許さないと思う。

でも今は言わないであげよう…

 

 

──

カナエさんとしのぶさんと真菰さんが最近とても怖い、どこか機嫌も悪いし。

僕がまた何か気に触ることをしたのかな…

しのぶさんが診察をする部屋が僕の病室になっている。

皆さんと同じ病室でいいのに…

 

僕は三人がいない間に逃げ出した。炭治郎さん、善逸さん、伊之助さんに会うために。

炭治郎さんとゆっくりお話もしたかった、僕の想いは伝えられたと思う。

 

あの日の自分を一生責める、自分のせいではないとはどうしても思えない。

でもそれでいいんだ、忘れたくない。あの日の苦しみ、締め付けられるような胸の痛みを。

体の傷なんて痛くも辛くもなかった、それよりも大切な人たちが泣いていることが何よりも辛かった。

もう誰にも同じ想いはさせないと、あの日固く心に誓ったんだ。

 

「夜去なんで逃げたの?詳しく聞かせてくれる?」

しのぶさんは怒っている、笑顔なのが怖さを倍増させる。

今は同じ歳なのにいつも僕が怒られてばかりだ…

 

「夜去は怪我人なんだから。私の見える位置に、近くにいて…」

僕が怪我人だから、しのぶさんは診察部屋にいる時ずっと僕を見ているのか…

仕事に集中できないと思い申し訳なくなった。安静にしていよう…

 

「はい、しのぶさんの近くにいます」

 

「うん…」

 

 

僕としのぶさんの二人しか今は部屋にいない、とても静かだ。

何かお話しをしないと少し気まずいな…

 

「会った日のことを思い出しませんか?」

しのぶさんは書類の整理を終えると、僕の寝ているベッドに座った。

 

「僕たち二人、カナエさんと真菰さんに子供扱いされて、置いていかれましたよね…

あの日もしのぶさん怒っていた気がします」

時間の流れはとても早い、最近のことのように思う。

あの時は本当に嬉しかったな二人にまた会えたことが。

 

「そうだった、私たち二人は置いていかれたんだった…

夜去が私に老けるなんて言うからでしょ馬鹿」

確かに言ったと思うけど、言う前から絶対に怒ってましたよ?

 

「もう私は大人だけどね。夜去はよく泣くし、手を繋いでもらったら喜ぶ可愛い子供だけどね!」

誇らしげに言うあたり少しだけ腹が立った…しのぶさんもまだ子供だと思います。

 

「しのぶさんの方が僕より身長低いんですけど?可愛いですよしのぶさんも」

 

「夜去?私がなんだって!?」

しのぶさんは怒っている顔をしていたけど、どこか嬉しそうだった。

やっぱり笑顔がとても似合う人だ、前のではなく今の笑顔が。

よかった今も貴方が笑っていてくれて…

 

「夜去なに?恥ずかしい」

しばらくしのぶさんの笑顔を眺めてしまっていた。

恥ずかしいと言いながらも顔を紅くし僕の手を握ってくれた。

いつも揶揄っているけど僕と一緒だと思う。

 

「ねぇ?今帰って来てみたら二人とってもいい雰囲気じゃない?何かあったの?」

 

「しのぶ顔が紅いよ?どうかした??」

カナエさんと真菰さんの機嫌がまた悪くなった気がする。

明日からの機能回復訓練は大丈夫なのかな…心配になってきた。

今は何か楽しいお話をしないと、少しでも雰囲気を明るくしたい。

 

「さっきね…結婚してくださいって言われました…

すごく恥ずかしくて、すごく緊張しました。三人も絶対に僕みたいになりますよ?」

初めて結婚してくださいと言われた。多分冗談だと思う、それに言われたのは男性からだけど…

断らないといけないのに、恥ずかしくて何も言えなかった。

善逸さんには女性と嘘をついていたことを謝らないといけないのに忘れていた、次に会える時にはにしっかりと謝りたい。

 

「はい?誰から言われたの?」

三人の笑顔からは狂気が感じられ背筋が凍る。

少しは笑い話になり場が和むかなと思ったのに…何故か逆になってしまった。

今は逃げてもいいよね姉さん……

 

「忘れてください何もありません。歩きに行ってきます、体動かさないと…」

 

「何言ってるの夜去?私たちとお話しするのよ?私もしのぶもお仕事終わったから、真菰ちゃんも大丈夫よ?」

腕を力強く掴まれた、少し痛い。

今の三人とお話をするのは嫌だと体が抵抗している。

カナヲ姉さん、アオイさん助けてください。

 

 

お話と言う名の尋問が終わり、ご飯を食べてベッドで寝転がっている。

善逸さん本当にごめんなさい…三人に誰から言われたか言ってしまいました。

多分大丈夫だと思う、いやきっと大丈夫だよ…

 

しのぶさん今日はこの部屋に泊まるのかな、夜も医学、薬学の本を読んでいる、本当に努力家だと思う。

全部が終わったら僕も蝶屋敷の皆さんのように人の手助けをしたり、怪我を治療する仕事をしたいと思っている。

きっと僕に残される時間は長くはない…それでも残された時間でしたいと思っている。

 

「僕も全部が終わったら蝶屋敷の皆さんのように

人を支えたり、怪我を治療するお仕事がしたいです」

振り返ったしのぶさんはとても嬉しそうに微笑んでいた。

 

「夜去こっちに来て一緒に勉強する?

私が教えてあげる」

沢山のお話を聞かせてくれた前を思い出し胸が熱くなる。

あの時は膝の上に座ってお話を聞いていたけど今は絶対にできない、恥ずかしすぎて死んでしまう。

ベッドに横に置かれた椅子を持ちしのぶさんの元へと急ぐ、明日から機能回復訓練だからあまり夜更かしはできない。

 

「ここに来て

教えにくいでしょ」

膝を指さしている、明かりに照らされたしのぶさんの顔はとても紅い。

え……なんで覚えているの…

前の記憶は絶対にないはずなのに、たまに皆さんも覚えているかのように思う時がある。

 

「何恥ずかしがってるのよ!座って早く始めるよ」

恥ずかしい、普通は男女するのは逆なのに…

全く頭に入ってこない。絶対に顔は紅くなってる、それに体は熱い。

誰にも見られたくない、でも今は大丈夫だよね…

 

 

──

夜去が全部が終わったら私たちのようなお仕事をしたいと言ってくれた時は嬉しかった。

鬼殺隊が終わっても私たちと一緒にいてくれると言ってくれた気がしたから。

生きていられるかはわからない、でも何としてでも生きたいと思った。

 

勢いで一緒に勉強をしようと言い膝の上に座ってとまで言ってしまった。

恥ずかしさで死ぬかと思ったけど、座ってからは恥ずかしさよりも幸せの方が大きかったな…

これから一緒に勉強しようかな…一緒に居られる時間が増えるし…

 

「夜去?起きてる?」

私の膝の上に座ったまま寝てしまった。

今日は疲れたと思う、それは私たちのせいだけど。でも結婚してと言われたなんて言うからだから。

夜去は誰にも絶対に渡さない、そして私もいつか言うんだ。

 

それに明日からは機能回復訓練が始まるからゆっくり休まないとね。

 

膝にずっと座らせたままでも疲れない、体重が心配になるほど軽いから。

私より身長が高いのに、私よりも軽い気がする…

 

しばらく夜去の頭を撫でていると、私も眠たくなってきた。

今日はこのまま寝ようかな…夜去の背中に顔を埋めた。

夜去の匂い、心臓の鼓動、全てを感じる。ここに居ると感じとても安心する。

男性をここまで愛しく想うとは思いもしなかったな…

 

「おやすみ夜去…また明日ね……」

この平穏な日々がずっと続いたらいいと思うが、そんなに上手くはいかないとわかっている。

一人では駄目かもしれない。

でも皆となら乗り越えられるはず。

夜去とならきっと大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくれている方々ありがとうございます!!!
これからも頑張ります、一話一話を長くしたので少し投稿は遅れるかもしれません…


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機能回復訓練

今日から機能回復訓練が始まる、何をするのかとても気になる。それに炭治郎さんたちと一緒にできるので楽しみだ。

カナヲ姉さんとアオイさんが最初は教えてくれるらしい、一週間の稽古を思い出す。

あの日々が僕を支えてくれている、多くのことを教えてもらった。

きっと今回も学べることが沢山あるはずだ、頑張ろう。

 

「私たちも途中で参加するからね?」

カナエさんにはしのぶさんの膝の上で寝ているところが見つかった、今も笑顔だが怒っているのがわかる。

今日から参加じゃなくて本当によかったと心の中で思う。

それにしのぶさんには売られた、僕から膝の上に座ってきたと言われたんだ。

しのぶさんから言ったのに…あの時の悪意に満ち溢れた笑顔は一生忘れません

 

「ゆっくりでいいですよ?無理しないでください」

 

「わかったわ、できるだけ早く参加するようにするね?」

僕にはい意外の選択肢は残されていない。

 

返事をして炭治郎さんと伊之助さんが待っている病室へと向かった。

 

 

アオイさんから機能回復訓練の内容を教えてもらった。

まずは硬くなった体をほぐす柔軟をした後、反射訓練を行って、全身の訓練である鬼ごっこをするというのが訓練の全般だ。

 

最初の柔軟は大丈夫だと思う、蜜璃さんに前たくさん鍛えてもらったからだ。

機能回復訓練の柔軟はそれに比べれば、少しは我慢できるものだと思っている。

 

「今日は柔軟を教えにある人が来てくれています」

炭治郎さんと伊之助さんは誰だ誰だと辺りを見渡している。

誰が来てくれているかは薄々気づいている。

今からあれをまた受けるの…病み上がりなのに?

 

「夜去!!!」

来てくれたのはやはり蜜璃さんだった、そしてもう一人は真菰さんだった。

二人とも体が柔らかい、だから二人は思いもよらない動きができる。

僕ももっと体が柔らかかったら、二人のようにしなやかな技を出すことができたのかな…

 

「夜去、私にも手伝わせて」

今度は真菰さんも一緒にできるということがとても嬉しかった。

笑顔で僕の手を握ってくれている、その手はとても暖かかい。

 

「じゃあ夜去は私としよっか!!」

今日は耐えられる気がしない。

あの地獄のような柔軟を今はしたくない、してはいけない気がする。

 

「僕は真菰さんとが今日はいいです…」

真菰さんはとても嬉しそうに笑っていた、お願いします蜜璃さんのより優しくあってください。

 

「残念だったね蜜璃ちゃん!夜去は私がいいって」

 

「今日はって言ったよ?明日は私と一緒にするんだよ」

二人はとても仲が良くなっていた、友達になったんだと思う。

前は会ったことがあったのだろうか、友達になれたのだろうか…

蜜璃さんと真菰さんが笑って話している光景を見ていると目頭が熱くなった。

 

「じゃあ炭治郎君と伊之助君は私と一緒にしよっ!」

 

「はい!」

「おう!」

二人が蜜璃さんとするようになった、心の中で何度も謝った。

頑張ってください…

 

二人を応援しようと思っていた、でもする余裕なんてなかった。

真菰さんも蜜璃さんと同じくらい厳しかった。

どっちを選んでも地獄だったんだ、今僕は普通に泣きそうです…

炭治郎さんと伊之助さんは痛すぎて泣いている、蜜璃さんは喜んでいるし地獄絵図だ。

 

「痛い夜去?泣いてもいいんだよ?私が慰めてあげる」

痛いですよ真菰さん、これ病み上がりの人にしていいんですか?

絶対に泣きません。

真菰さんは僕に優しいと思っていたのに…

 

どんなに苦しい時間でも必ず終わる、時間が進むのがとても遅かった。

僕が時の呼吸を使っているのかと思った、一つ目から厳しすぎる。

 

蜜璃さんは柔軟の時だけ明日からも来てくれて、真菰さんは僕と一緒に機能回復訓練を受けてくれる。

僕たちの為に忙しいのに時間を作ってくれている、ありがたいことだ。

 

 

お昼ご飯を食べ、暫く休憩をしてから反射訓練が始まった。

湯呑みの中に入っている薬湯を相手にかけるのだが、この薬湯の匂いが本当にきつい。

カナヲ姉さんとアオイさんに勝つことはできた、でも薬湯をかけることはどうしてもできなかった。

二人は炭治郎さんと伊之助さんに容赦なくかけていたけど…

 

僕が勝つと二人は嬉しそうに頭を撫でる、それが恥ずかしく嬉しい。

二人に成長した姿を見せることができたのかな…だから頭を撫でてくれるのだろうか、そんなはずはないのに。

カナヲ姉さんとアオイさんにはわからないと思う、でも二人には成長した姿を見せたい。

そして伝えたいんだ。

二人のおかげです、ありがとうございますと。

 

「カナヲ姉さん、アオイさん

本当にありがとうございます」

 

「どうしたの夜去?」

 

「なんでもないです、続きやりましょう」

今はまだ二人には言えない、笑って伝えれないと思うから。

過去に戻ったこと、時の呼吸のことを伝えたらカナヲ姉さんやアオイさんを含め、皆さんはどう思うだろうか。

きっと辛く、悲しい思いをさせてしまう。

その時僕も悲しい顔をしていたら、皆さんは過去に行かせたことを後悔し、自分を責めるかもしれない。

そんな風に思わせるのだけは絶対にいけないんだ、あってはいけないことだ。

だから僕は笑顔で伝えるんだ。

 

僕も炭治郎さんと伊之助さんのお手伝いをしながら、皆で機能回復訓練を行った。

カナエさんが道場に来てくれるまで夕方になっているのに気付かなかった。

 

 

機能回復訓練が始まり一週間が経った、今日からはカナエさんとしのぶさんが参加する。

絶対にもっと厳しくなる、覚悟を決めないといけない。

 

毎日のように炭治郎さんと伊之助さんを呼びに病室へ急ぐ。

 

「夜去ちゃん、俺も今日から参加するよ!よろしくね」

善逸さんには僕は女性ではないことを伝え、謝ったのにずっと夜去ちゃんと呼ばれている。

また賑やかになるんだろうな、少し楽しみだ…

 

「俺ちょっと怖いんだ

炭治郎たちがいつもげっそりした顔で戻ってくるから」

柱が三人に増えるから今日からはもっと厳しくなると思う。

今日が初日になるのは運が少し悪いと思ってしまった。

 

「善逸さんなら大丈夫ですよ

炭治郎さんも伊之助さんもいます」

三人は多くの困難を乗り越え、鬼舞辻無惨を皆と倒したんだ。

努力家であること、決して諦めないことを僕は知っている。

だから大丈夫です。

 

「ありがとう!!!

夜去ちゃん」

 

「善逸!!!

夜去さんに抱きつくな!離れろ」

 

道場に行くまではとても賑やかだった、帰りはこんなに気力残ってないだろうな…

今日は善逸さんが初めてということで、アオイさんから内容を聞かされた。

話を聞き終えると、炭治郎さんと伊之助さんの二人を連れ外へ行った。

 

「正座しろ正座アァ!

この馬鹿野郎共」

外からは罵声が聞こえる、道場にいた全員が少し驚いた。

 

「あんなに綺麗な女の子がたくさんいるのに

天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねえぇえぇぇ!

お前ら夜去ちゃんとも一緒にしていたんだろ!

あぁ羨ましい」

皆さんにも聞かれている、そんなに大きな声で言わないでほしい。

本当は一緒に外に連れて行かれる側じゃないのかな…僕は女性じゃなくて男性だから。

今聞いたことは全部忘れよう、何も聞いてない。

 

恐る恐るカナエさんたちの方を見る…

終わった…いつもの何を考えているかわからない笑みを浮かべ僕を見ていた。

 

善逸さんが戻ってからはすごかった。

蜜璃さんの柔軟にも余裕で耐え、鬼ごっこではアオイさんを一瞬で捕まえていた。

でも三人ともカナヲ姉さんには勝てなかった、多分全集中の呼吸をやっていないからだと思う。

きよちゃんたちに伝えてもらおう、僕では上手に教えてあげられる気がしない。

 

「今日は私としのぶが相手よ夜去

呼吸を使ってもいいよ、私たちも呼吸を使って全力で相手になるから

手加減しないで、本気でして」

なんか怒っていませんか?大丈夫かな…

 

「炭治郎君たちも集中して見てた方がいいよ!

夜去は今鬼殺隊の中で一番私たち柱に近いから、いや私たちよりも…」

今日は蜜璃さんも訓練に最後まで付き添ってくれている。

 

「わかりました!」

炭治郎さんたちやカナヲ姉さんには僕じゃなくて、カナエさんやしのぶさんの方を見てほしい。

僕を見ても何も参考にならないし何も教えてあげられない。

でも二人からは大切なことを沢山学べると思う。

 

時の呼吸を使わなければ、二人には手も足もでないとわかっている。

炭治郎さんたちにカナエさんやしのぶさんの動きを見せるために時の呼吸を使う。

今僕がしてあげられることはこれしかない、何か三人の手助けになればいいとな…

 

「炭治郎さん、伊之助さん、善逸さん

カナエさんとしのぶさんの動きをしっかり見ていてください」

 

「時の呼吸・二の型 朝明の風」

アオイさんの始めの合図で試合が始まった。

自分だけ時の流れを速くしている今は周りの人の動きはとても遅く感じる。

それでもカナエさんの動きが速いことは感じた、柱の中で一番速い。

しのぶさんと真菰さんと善逸さんはカナエさんに次いで速い人たちだと僕は思っている。

しばらくカナエさんの持つ湯呑みを押さえ、僕からはかけられないので押さえてくれるのを待つ。

結構時間は経ったと思う、時間の流れを元に戻して最後はカナエさんの頭の上に湯呑みを乗せた。

 

しのぶさんともそのあと行った、カナエさんと同じくらいの速さを感じる。

僕はしのぶさんが隠れて稽古をしていることを知っている。

やっぱり薬湯をかけることはできなかった。

 

「夜去の勝ちです……」

本当は負けようと思っていた、でも二人の手加減しないでという言葉が胸に引っかかった。

ここで僕が勝ったら、二人は負けず嫌いだからもっと成長すると思う。

だから卑怯とわかっていても、僕の勝ちなんかではないけど。

今は勝つという選択をした。

 

「夜去の動きが私には何も見えなかった

呼吸を使ったのに…」

 

「私も姉さんと同じ…

横で見ていてもわからなかった」

時の呼吸はずるみたいなものだ、だからそんなに落ち込まないでください。

でもカナエさんの花の呼吸、しのぶさんの蟲の呼吸や皆さんの呼吸は違う。

死ぬほど努力をして手に入れたものだ、僕も努力をしてないわけではないけど。

僕と皆さんは違うんです。

 

「蜜璃ちゃん見えた?夜去の動き」

 

「私も見えなかった…

柱の中で一番速いカナエちゃんに勝つなんて…」

 

「僕は勝ってなんかいませんよ、ずるいんです…

それより炭治郎さん、伊之助さん、善逸さん何かわかりましたか?」

 

「はい…

皆さんは呼吸が俺たちとは違う気がします」

三人とも気付いたみたいだ、よかった三人の力になることができて。

 

「そこに気付けたらもう大丈夫です

頑張ってください」

 

「はい!」

 

「夜去!!明日は絶対に負けない!」

二人とも負けず嫌いだな、明日からは二人に負けるとわかっている。

次に時の呼吸を使うのは…もう少し先になる。

それにカナヲ姉さんとアオイさんと約束したこともあるからあまり使いたくない。

 

「僕も絶対に負けません」

 

案の定次の日からは薬湯をかけられる毎日が続いた、負けるのは悔しい…

僕も二人に勝てるようになりたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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繋ぐ

「やっと今日も終わったぁあぁぁあ!」

道場に善逸さんの叫び声が、奇声が轟く。

今日の機能回復訓練は終わった、僕も喜びのあまり叫びたいが声を出す気がおきない。

 

「お疲れ様です

明日と明後日は訓練をお休みしたいと思います、ゆっくり休んでください」

機能回復訓練が始まって以来、初めての休みだ。

炭治郎さんと伊之助さんと善逸さんは涙を流しながら喜んでいる。

明日と明後日はゆっくり休んでほしい。

 

「夜去ちゃん!!!

明日は何をするの?俺と一緒に何処かに行かない?」

 

「善逸俺も一緒に…」

 

「夜去とお出掛け?

どういうことなのかな???」

カナエさんとしのぶさんと真菰さんから狂気のようなものを感じる。

早く帰ろう、この場から逃げたい。

 

「何でもないです…」

 

「そう!よかった」

 

「早く夜去帰ろ?」

カナヲ姉さんとアオイさんと一緒に道場を出る、いや逃げ出した。

何故か炭治郎さんと善逸さんの二人が怒られているのが聞こえる。

 

明日と明後日は休みなのか。

僕には会ってお話をしたい人がいる。二日もあればどちらか一日は会えるかな…

その人は善逸さんの兄弟子の獪岳さんだ。

 

──

「俺の前では泣いてもいいんだよ?

咲夜さんい辛い想いをさせないために、笑ってる違う?」

 

「善逸さん…

僕が泣いたら咲夜姉さんは悲しむと思います……辛い想いをさせたくありません……」

 

「夜去は優しいね

大丈夫だよ、大丈夫

俺が落ち着くまでずっと側にいるからさ」

 

「夜去がね輝夜さんと咲夜さんのことを大好きなようにさ

二人も夜去のことが本当に大好きで、世界で一番夜去のことを思ってるんだよ

夜去が側にいてくれたから二人は頑張れたんだと思う、決して遠くになんて行かないよ

いつも見守ってくれてる、いつも側にいてくれるはずだよ

俺みたいにさ!!」

 

「俺にもさ…兄弟子がいたんだ…

兄弟子が大好きだったんだ、俺のことは大嫌いだったと思うけど

一緒に肩を並べて戦いたかった…爺ちゃんの元へ二人で帰りたかった…」

 

「それはもう叶わないんだ……

兄弟子とさ爺ちゃんともっと一緒に過ごしたかった、三人でもっと笑っていたかった

だからね夜去には輝夜さんと咲夜さんと過ごせた楽しい時間を

これから咲夜さんといられる一日一日をたいせつにしてほしいんだ。

その想い出は三人の中では永遠なんだよ、決して消えない。

わかった??」

 

「わかりました

善逸さん」

 

「夜去今日は具合がいいから私がお昼ご飯を作るね…

あれ善逸君、久しぶりだね…

美味しくお昼ご飯作るから食べて行って」

 

「あ……あ………咲夜さんお久しぶりです!!!

食べます、食べます、食べさせてください」

 

「おいおいおいおい夜去、夜去、夜去

咲夜さん綺麗すぎない!?綺麗すぎるよ、あんなの誰でも惚れちゃうよ……

輝夜さんも同じくらい綺麗だったんでしょ?会ってお話ししたかったな…

ああ羨ましいな!それに夜去は綺麗な人にたくさん好かれてるしさ、俺はどうなるのお??

カナヲちゃんとアオイちゃんも夜去のことばっかだよ?

まぁ俺もだけどさ」

 

「僕は幸せ者です、ありがとうございます」

 

「あぁぁぁ!可愛い、大好き

もう少ししたら輝夜さんや咲夜さんのように綺麗になるんだろうな…

いいこと考えた

その時はさ俺と結婚しよ!?約束ね?」

 

「姉さんのお手伝いをしてきます」

 

「俺から逃げてる?何もしないよ夜去ちゃん!

あ!俺も咲夜さんを手伝うよ、一緒に行こう〜」

──

 

あの時善逸さんが泣いていたのを僕は知っている、不安にさせないために必死に笑顔を作っていた。

僕は何もしてあげることができなかった、善逸さんは僕にたくさん声をかけてくれたのに。

善逸さんの願いを叶えたい、今度は二人で肩を並べて戦ってほしい、ただいまとお爺さんの元へ二人で帰ってほしい。

 

「善逸さん?」

 

「なになに!?明日一緒に出掛ける!?」

善逸さんの顔に元気が戻る、カナエさんたちに怒られていたから落ち込んでいたんだろう。

 

「また今度出掛けませんか??」

無理矢理小指を掴まれ指切りをさせられた。

その時は炭治郎さんと伊之助さん禰 豆子さんも一緒に行きたい

 

「それで夜去ちゃん

何か俺に用事があったの?」

 

「はい…少しお話をしませんか?

お聞きしたいことがあるんです」

 

────

夜去ちゃんから俺に話があるなんて!何の話かな…もしかして告白だったらどうしようか!

いい匂いするな夜去ちゃん、とっても綺麗だし。横顔だけで白飯を食べられる気がする。

 

多分、炭治郎は俺に嘘を言っている。夜去ちゃんは絶対女の子だよ、こんなに綺麗な男の人がいたら怖い。

あと炭治郎も夜去ちゃんのことが好きなんだ、それよりすごいのはカナエさんたちだ。

あの人たちは夜去ちゃんのことが大好きで大好きでたまらないんだ、俺も負けないぞ。

 

「夜去ちゃん俺に聞きたいことって?」

 

「それは…」

どうしたんだろう夜去ちゃん、聞きにくいことなのかな?

遠慮しなくてもいいのに、俺にぶつかって来てよ、受け止めるからさ!

 

「善逸さんの……

兄弟子さんのことがお聞きしたいんです……」

何で……夜去ちゃんが獪岳のことを知ってるの!?

獪岳のことは炭治郎と伊之助にも話してないのに。

俺の閉じ込めている想いを夜去ちゃんには話してしまいそうだ、でもこれを言ったら俺は楽になるのかな…

 

それから俺は夜去ちゃんに獪岳の話を色々とした、夜去ちゃんは俺の話を静かに頷きながら聞いてくれていた。

獪岳の心の中の幸せを入れる箱には穴が開いている。だからどんどん幸せが溢れていく、俺では塞いであげることができなかった。

ごめん、本当にごめん。

 

俺は壱ノ型しか使えない、獪岳は壱ノ型が使えない。だから爺ちゃんは俺たち二人が協力して、肩を並べ戦うことを望んでいると思う。

ごめん爺ちゃん、それはできないんだ。俺は獪岳に嫌われている、俺がどれほど好きであろうと、獪岳は俺のことが大嫌いなんだ。

爺ちゃんじゃないか、そう呼んだらいけないんだよね獪岳。

ごめんなさい先生、ダメな弟子で。

 

できることなら二人でただいまと笑顔で戻りたい、一生叶わない夢だとわかっていても望んでしまう。

 

「こんな感じだよ、夜去ちゃん

他に聞きたいことは?」

 

「最後に…

善逸さんは獪岳さんのことをどう想っていますか?

それと善逸さんの夢を聞かせてください」

 

「俺は…………

獪岳のことがとっても大好きで、心の底から尊敬しています

一緒に肩を並べ戦いたい、爺ちゃんの元へ二人で一緒に帰りご飯を食べたい!」

誰にも話す気はなかった、でも夜去ちゃんには自分を曝け出してしまう。

炭治郎からは泣きたくなるような優しい音が聞こえる。

夜去ちゃんの音も似ている、それにとても懐かしく、暖かいんだ。

そして俺にとってとても大切な人だと音が俺に伝えるんだ。

本当に不思議な人だ、もしかして女神様なのかな…

 

「その言葉を僕は聞きたかったんです

大丈夫です善逸さん!」

俺の手を夜去ちゃんは握ってくれた。

夜去ちゃんの指は細かった、女の子より細いんじゃないかな。

俺も強く握り返そうとしたが、折れてしまいそうだったのでそれはやめた。

 

「鼻血が出てますよ?大丈夫ですか!?」

 

「え?大好きです……

大丈夫、大丈夫!気にしないで!

 

「そうですか??

お話を聞かせてくれてありがとうございました」

夜去ちゃんは俺の大好きと言う言葉を聞き、逃げるように俺から離れた。

俺は何もしないのに…それとも何か嫌な気配を漂わせていたのかな…

て俺は鬼じゃないからね!

 

────

「稲玉獪岳さんですか?

明月夜去の伝言を伝えに来ました」

俺の名前を呼ぶ声が聞こえる、後ろを向くととても綺麗な白色の鎹鴉がいた。

明月夜去…人の名前をあまり覚えない俺でもその名を覚えている。

鬼の首が斬れない隊士なのに今一番柱に近い隊士と言われているからだ、だから名前を覚えていたし気になっていた。

 

そんな人が俺なんかに何のようだ、鎹柄の伝言を聞くと会って話がしたいというものだった。

いつもなら断っていただろう、でも俺は了承していた。

まぁ明日は何も用事がないし暇だったし…本当は話の内容が気になって仕方ない。

 

 

俺は集合場所の団子屋に向かっている、集合時間よりだいぶ早く着くと思う。

失礼があってはいけない、俺より階級が上の人だから。先に着いて待っているのは当たり前だ。

団子屋に着くと大空のような羽織を着た綺麗な人がいた、その人の近くの席に座って明月さんが来るのを待つことにした。

 

集合の時間になっても明月さんは来ない、呼んでおいて来ないのかよ。

流石に遅すぎるので帰ることにした時だった、先程の綺麗な女性とぶつかってしまった。

 

「すいません、俺が余所見していたせいで」

 

「大丈夫です、こちらこそごめんなさい」

 

「誰かを待っているんですか?」

 

「はい、今日会う約束をしたんですが…

初めて会う人で顔がわからなくて…」

俺と同じような状況の人だな、手を差し伸べてやりたいと思った。

この店は人が一杯いるから一人で探すのは大変だろう、俺も手伝ってあげよう。

 

「名前は何て言う人ですか?」

 

「…… 稲玉獪岳さんという人なんです」

その人が言ったのは俺の名前だった。

待て待て…

もしこの人が明月さんなら俺より早く来て、階級が下の俺のことを待っていたのか?

 

「獪岳それは俺です」

 

「え……

ごめんなさい、僕の方から呼んで待たせてしまって

顔がわからなくて、それにここのお店人が多くて…」

意外と天然な人なのだろうか、それにしても綺麗な人だな…

 

「確かに人が多いですね、店を変えましょうか」

それから俺と明月さんは人があまりいない店を探すことにした。

 

 

店を見つけ注文をして、挨拶を終わらせた。階級はもちろん、柱と同じ甲だった。

 

「明月さん

俺に何の話があるんですか?」

 

「はい……

獪岳さんは善逸さんのことをどう想っていますか?」

善逸は俺の弟分だ、昔からつらくあたっていた。

それは俺のようになってほしくなかったからだ、それとあいつに嫌われるために。

 

「あんな出来損ない大嫌いですよ

毎度毎度、修業から逃げだすあんな弱虫

見ているだけで不愉快でした」

大嫌いなんかじゃない、本当は逆なんだ。

でも俺はあいつを好きになってはいけない、側にいたらいけない存在なんだ。

確かにあいつは毎日のように先生から逃げていた、でも諦めなかった弱虫なんかじゃない。

 

「俺はあいつとは違う!

あんなやつと一緒にしないでください

先生は何で俺とあいつを一緒にしたんだ

大嫌いだ、あんな奴!本当に大嫌いなんだ」

俺の目を見て静かに聞いてくれる明月さんを見ると、心の中を覗かれている気がした。

明月さんに隠していることがバレないように言葉を見繕い、大声で発していた。

 

俺と善逸は違う、一緒にしないでほしい。

俺は自分が助かるためにしてはいけないことをした、でも善逸は違う多くの人を助けるために刃を振るうことのできる存在なんだ。

だから一緒にしないでほしいんだ。

 

「それは本心ですか?」

 

「本心です」

この想いは俺が墓場まで持っていく、誰にも知られてはいけないんだ。

 

「嘘ですよね?

だって獪岳さん泣いてます、本当の想いを聞かせてください」

気付かなかった、俺の握った拳の上には涙が溢れ落ちていた。

 

「俺はどうしたらいいんですか?貴方には絶対にわかりません

俺は決して許されないことをした、自分が助かるために八人を犠牲にしたんです

そんな人間が善逸とあいつと肩を並べていてもいいわけがない」

貴方も俺に幻滅してください、俺に手なんか差し伸べなくていいんです。

他の人に手を差し伸べてあげてください、俺は一人でいいんです。

 

「僕と一緒に考えませんか?

確かに獪岳さんのしたことは許されないことだと思います

でももし僕が同じ立場だったら貴方と同じ選択をしていたかもしれない」

何で俺に幻滅してくれないんですか、俺は手を差し伸べられるべき人間じゃない。

 

「一人で抱え込まないでください、貴方には善逸さんもお師匠さんもいます

今日会ったばかりですけど、頼りないかもしれませんが僕もいます」

俺に優しい言葉をかけてくれる、この人は本当に優しい人だな、心配になるくらいお人好しな人だ。

自分が傷つきながらも助けを求める人を救う人だとわかる。

貴方なら俺と同じ立場でも自分を犠牲にして守っていたとはずです。

 

「俺が殺した八人は絶対に俺を許しません、ずっと憎んでいます

それでいいんです、そうじゃなくてはいけないんです

俺は贖罪で鬼殺隊に入りました、俺が殺した人に償えることは鬼の首を斬ることしかありません

それも償いにはなっていませんけど」

 

「獪岳さんならわかるんじゃないんですか?

その人たちは今の獪岳さんを見ても、まだ許しませんか?憎んでいるんですか?

しっかり向き合ってあげないと

会いに行ってあげましたか?想いを聞いてあげてください!」

墓参りなど一度も行っていない、いくべきではないと思ったから。

行くのが怖かったんだ、どう想われているのかわかっていたとしても聞くのが怖かった。

 

「謝りにいきましょう

獪岳さんの想いを伝えにいきましょう」

団子が届く前に明月さんは俺の手を握り店を飛び出していた。

俺の手を握ってくれる明月さんの手はとても細い、女性の手はこんなにも細いのか…

俺は握ろうとした手をゆっくりと緩めた

 

 

俺と夜去さんは岩柱の悲鳴嶼さんの屋敷に着いた。

お墓の場所を知っているのは悲鳴嶼さんだけだろう、聞かないといけない。

でも怖くて一歩を踏み出すことができないでいると、明月さんが一緒に行こうとしてくれた。

 

「一人で行きます、俺だけで行かなくてはいけません」

 

「はい

ここで待っています」

 

玄関で名前を呼ぶと、大きい足音がどんどんと近づいてくる。

俺を見た瞬間に殴り飛ばしてほしい、そうしてくれた方が楽だ。

 

「獪岳なのか…?」

 

「はい…」

俺は頭を地面につけて土下座をした、こんなことで許されることではない。

 

「獪岳頭を上げろ、謝るのは俺にじゃないだろう?

みんな待っているぞ、しっかり謝ってこい。

そうしたら俺たちとまた一緒にご飯を食べよう」

俺の頭を大きな手で撫でてくれた、溢れ出す涙が止まらない。

悲鳴嶼さんのこの大きな手に撫でられるのがみんな好きだったんだ、そんなことも忘れていた。

お墓の場所を聞き、全速力で向かう。

 

「本当にごめんなさい、ごめんなさい」

一人一人の前で長い土下座をした、こんなことで許されないけど土下座以外に何をすればいいのかわからなかった。

俺の周りに誰かがいる気がする、それは俺が殺した人たちだとすぐにわかる。

土下座をしている今は顔を上げられなくわからないが。

 

「俺を責めてくれ、一生許さないでくれ、ずっとずっと憎んでくれ」

 

「何言ってるの?ふざけないでよ」

 

「責めてないよ獪岳のこと!

仕方なかったんだよ、私たちでもそうしていたと思う!

ずっと前から許してる、憎んでなんかない

獪岳が鬼殺隊に入ると決めた、あの日からね」

 

「なんで…」

今日は泣いてばかりだ、ごめん俺なんかがみんなの前で涙なんか流して。

 

「何泣いてるのよ?だらしないよ

私たちに聞かせて?」

 

「俺は……

鬼に苦しめられている人を助けたい、人々を鬼から守れるような人になりたい

もう一度あの時のような場面になった時、戦い守る選択肢を選べる人間になりたい!」

 

「獪岳なら大丈夫

私たちみんな信じてるから」

俺の頭を撫でてくれている、色々な手が頭の上に乗せられている。

そこにはこれからという小さな手もある、全部俺が奪った人の手だ。

 

「ごめん、本当にごめん」

ありきたりの謝罪の言葉しか出てこない。

 

「もう!怒るよ!

それより私たちが獪岳を憎んでるって思ってたんだ!

そこにみんな一番怒ってるんだからね」

なんで俺に優しくしてくれるんだ、俺はみんなの命を奪った人間だ。

 

「なんで俺に優しくしてくれるのかと思った?

わかるでしょ??」

 

「大切な家族だからよ

だから獪岳の幸せを願っているんだよ、私たち全員」

 

「ごめ……」

今言わないといけない言葉はこれではない、俺が今言うべき言葉は…

 

「ありがとう」

 

「うん!

悲鳴嶼さんのところに帰ろう、私たちもお腹空いた!」

みんなで一緒に悲鳴嶼さんの元へ戻った、こんな日が来るとは思っていなかった。

俺にできることをしないといけない、俺が下を向き止まっているなんてことは許されない。

 

「ただいま悲鳴嶼さん」

 

「おかえり

ご飯をみんなで食べよう」

 

「明月さんも呼んできてもいいですか?」

 

「夜去も来ているのか!?」

悲鳴嶼さんと俺は、屋敷の前で待つと言っていた明月さんの元へと走った。

するとそこには誰もいなかった、下を見ると地面に何か文字が書かれている。

 

──

皆さんならきっと大丈夫

 

今日は皆さんだけで、僕は帰ります

 

獪岳さん善逸さんにも会いに蝶屋敷に来てあげてください、お願いします

──

ありがとう夜去さん、貴方のおかげです。

貴方がいなかったら俺はみんなの想いを踏み躙っていた、気付くことができなかった。

 

「ありがとう夜去

夜去は私たちを繋いでくれたんだな」

 

「夜去さんって綺麗な人ですよね…」

蝶屋敷にいるんだろうか、善逸もいるし会いに行こうかな…

 

「夜去は美しいな、初めて見た時は私も驚いた」

 

「あんなに綺麗な女性初めて見ました…」

 

「何を言ってる、夜去は男だぞ

女性に間違えても無理はないが」

え………夜去さん男だったのか…

あんなに綺麗な男性いるのか?指なんて細すぎた、髪も少し長かったし。

会いに行こう善逸と夜去さんへ。

 

そのあとは皆でご飯を食べた、周りから見れば二人だったのかもしれない。

でも確かにそこに皆はいたんだ。

 

────

機能回復訓練がないと暇だな…

いやいやいや、あの日常に慣れている俺が怖い。

ああ暇っていいな、最高。

 

夜去ちゃん昨日はどこに行ってたんだろうか…

俺とは出掛けないと言ったのに、まさか誰か別の人と…嫌だ考えたくな、記憶を消してくれ。

夜も眠れそうにないよ、睡眠薬もほしい。

 

「善逸暴れるな!発狂もするなよ!

アオイさんに迷惑をかけるな!?

 

「善逸さん!」

病室の入り口から顔を少しだけ出して俺の名前を呼ぶ人がいる。

あ、俺の天使夜去ちゃんだ。いつにも増して笑顔だな、癒される。

 

「こっちに来てよ〜夜去ちゃん俺の横へ〜」

 

「善逸!夜去さんを困らすな、それと変な目で見るな!」

夜去ちゃんは早く早くと誰かを呼んでいる、その人と親しくない?

誰なのその人、早く出てこい!俺に顔を見せろ、羨ましい!

 

俺の目に入ったのは兄弟子だった、手紙をずっと送っているが返事は帰ってこなかった。

俺に会いに来たのかな…いやそんなはずはない、だって獪岳は俺が嫌いだから。

 

「二人とも黙らないでくださいよ

言葉にしないとわかりません」

二人の間に沈黙が訪れる、夜去ちゃんこれいじめ?何かの罰?

 

「善逸すまなかった

俺はお前に嫌われようとしていた、お前には俺のようになってほしくないから。

お前のそばに俺はいてはいけないと思っていたんだ

お前は弱虫なんかじゃない、絶対に諦めなかった。お前は強いよ善逸」

獪岳の過去の話も全部聞いた、そんな事想ってたのかよ。

話して欲しかった、だって俺たち家族だろ。

 

「俺のことは今までのように嫌っていてくれ

今日はお前に謝りに来たんだ、手紙もいつも読んでいる

ありがとうな善逸」

ふざけるな、逃げるな、絶対に許さないぞ。

 

「自分の言いたいことだけ言って帰ろうとするな!俺の話も聞け、馬鹿兄貴!

俺は兄貴のこと嫌ってなんかいない」

今日ほど嬉しいことはない、獪岳が俺のことをこんな風に想ってくれていたなんて。

俺も胸に閉じ込めていた想いを全て吐き出した、ぶつけてやった。

周りの目なんか気にしていられない、するとカナエさんたちが俺の大声を聞き駆けつけてきた。

それでも止められないんだ。

 

「俺は兄貴のことが大好きだ大切なんだ、会った日からずっとずっと!

俺の憧れなんだ、心の底から尊敬している

夢なんだよ、あんたと肩を並べ一緒に戦うことが!爺ちゃんの元へ二人で笑ってただいまって帰ることが

爺ちゃんは俺と兄貴に一緒に戦ってほしかったんだと思うんだ!」

 

「そうだったのか…

俺もだ善逸、お前が大好きで大切だった。だから突き放した、本当にごめん」

 

「これからは一緒だ落ちこぼれ同士

一緒に乗り越えよう」

これは夢なんじゃないかな、頬を引っ張っても目が覚めない。

おかしい、絶対におかしい。布団の上に大粒の涙が溢れ落ちる。

また迷惑をかけるな、アオイさんに…

 

「今度帰るか二人で爺ちゃんの元へ」

爺ちゃん……恥ずかしそうに爺ちゃんと言う兄貴を見ると嬉しさのあまり抱きついていた。

離せ離せと俺を引き剥がそうとするが絶対に離さない、離すもんか。

もう二度と離さないから、掴んだこの手を。

 

「うん!約束ね」

 

「あぁ、約束だ

おい馬鹿弟、お前の鼻水をつけるな

汚いだろ!離れろ」

 

「嫌だ兄貴!

兄貴兄貴……!」

 

「もうわかったから」

俺の家族は爺ちゃんと獪岳だ。

大切な大切な人たち、もう見失わない。

 

夜去ちゃんは抱きしめあっている俺と兄貴を見て嬉しそうに笑っていた。

もしかして昨日、兄貴に会いに行ってくれていたの?

ありがとう夜去ちゃん、俺の家族を繋いでくれて。

 

──

俺は家族の暖かさを忘れていた、こんなにも暖かく幸せなのに。

夜去さんのおかげで俺は寺のみんなと、善逸と、爺ちゃんと向き合えた。

 

このまま行けば、俺はまた大切な人を傷つけていたと思う

大切な爺ちゃんと馬鹿な弟を。

俺は…………

 

 

 

 

 

寺のみんなが、爺ちゃんと馬鹿な弟が、そして夜去さんのことが大切で

大好きなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雷の呼吸一門には幸せになってもらいたいです

絶対にこうじゃないけど

こんな風に想っていてほしかった


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親友へ

炭治郎さんたちよりも先に機能回復訓練を終え、任務もまだない僕はしのぶさんのお手伝いをして毎日を過ごしている。

でも今日はお休みをくれた、少し嬉しい反面何をしようか悩んでいる。

 

「夜去は今日何するの?」

今日の予定が決まっていない僕はカナエさんへの返事に困っていた。

そんな時、朝と真菰さんの鎹鴉が親方様からの伝令を伝えに来てくれた。

 

「夜去

一週間後、真菰さんと炎柱様と合同の任務

場所は無限列車」

朝からの報告を聞き、目を瞑ると二人との思い出が鮮明に思い出される。

三人で稽古をした苦しくとも楽しかった毎日、そして大好きな兄を失い涙する親友の姿。

 

一緒に任務に行けるようになってよかった、これで同行したいと自分から言う必要もなくなった。

 

「夜去が任務……」

蝶屋敷の皆さんから僕は笑顔を奪ってしまった。

いつも大怪我をして帰ってくる、皆さんにはいつも辛い思いばかりさせてしまうからだ。

 

今度は自分の足で戻ろう、元気よくただいまと言えたらいいな。

 

「大丈夫です

真菰さんも杏寿郎さんもいます

必ず戻ります」

 

「夜去の言う通り

きっと大丈夫」

真菰さんも一緒に言ってくれたおかげで、笑顔が少しだけ戻った気がする。

もっと明るい話をしたい、暗い空気でご飯を食べても美味しくない。

何よりこの楽しい時間と皆さんの笑顔を奪いたくない。

 

「夜去!!!!!!!」

名前を呼ぶ大きな声が玄関から聞こえる。

あまりにも大きすがる声に皆が驚いた。

 

「誰こんな朝早くからから!」

しのぶさんは額に青筋を浮かべ、何故か僕の手を握り玄関へと向かった。

 

手を繋ぐのが自然になってない?

恥ずかしがる仕草もないし、僕は普通に恥ずかしいのに。

カナエさんと真菰さんは頬を膨らませていたし、カナヲ姉さんとアオイさんには溜息を吐かれるし、キヨちゃんたちは黄色い声をあげるし。

 

でもよかった、いつもと変わらない蝶屋敷の日常が戻って。

 

 

玄関に着くと杏寿郎さんが立っていた。

しのぶさんに繋いだ手を離してと言っても離してくれない、逆に強く握られた。

見られて顔を紅くしているなら、恥ずかしいなら離してくれてもいいのに…

 

「胡蝶、夜去と話をいいか!?」

内容は合同の任務があるから親睦を深めようということだった。

それなら真菰さんとも一緒に行きたい、杏寿朗さんにそのことを伝えると勿論だと言ってくれた。

 

「夜去なんて?煉獄さんは」

 

「しのぶさん…

杏寿郎さんと今日はお出掛けしてもいいですか?」

3度目くらいに渋々了承してくれた、今日は僕にお休みくれたはずなのに…

また手を握る力が強くなるのを感じたが触れないことにした。

 

「あら、煉獄君!どうしたの?」

 

「少し夜去に用事があってな」

 

「カナエさん…

今日は杏寿郎さんとお出掛けしてもいいですか?」

 

「いいよ?でも戻ったらしっかりお話は聞かせてね?」

少しだけ鳥肌が立ったのは内緒にしておこう、カナエさんはしのぶさんよりも怖いと感じる時が多々ある。

僕にも皆さんのように優しくしてほしい、でもそれを言ってもいつも夜去だけは特別と言われるだけだ。

 

「真菰さんも一緒に行きましょう」

 

「真菰ちゃんも一緒に!?」

「真菰さんも一緒なの!?それは聞いてない!」

そこまで驚かなくても…合同任務には真菰さんも一緒に行く、だから真菰さんも一緒がいい。

本当は炭治郎さんたちとも一緒に行きたかったけど、今はまだ機能回復訓練を頑張っている最中だから誘えない。

それに炭治郎さんたちも任務に参加する未来を知っているのは僕だけだ。

 

「嬉しい

行こ夜去!」

とても嬉しそうな真菰さんを見ると、僕も笑顔が溢れた。

 

「わかってるね夜去?

帰ったら…」

今日は戻りたくなくなった、また怒られるんだともうわかるようになってきた。

二人に何かいいことが起きて、戻った時には機嫌が直ってますようにと心の中で祈った。

 

「大変だな夜去も色々と」

 

「はい…」

 

「夜去の馬鹿

早く帰ってきて」

そんなに言わなくても…

少しだけ傷ついた、出来るだけ早く戻るようにしよう。

 

準備を整え杏寿郎さんの待っている玄関へと急ぐ、真菰さんはもう少し時間がかかるみたいだ。

玄関へ行くとカナヲ姉さんが待っていた。

 

「忘れ物はない?気をつけて行ってね?

それと夜去、楽しんできて」

 

「わかりました」

本当は僕の方が歳上なのに、今ではすっかりカナヲ姉さんが歳上みたいになっている。

僕も一度でいいからお兄さんのように接してみたい。

外に出掛けるときはよくこんな風に言われていたな…懐かしい

 

「それなら私も安心」

頭を撫でながら言われるのはすごく恥ずかしかった、それと同じくらい嬉しかった。

 

「カナヲちゃん安心して

私も一緒にいる、煉獄さんも一緒だから」

 

「はい、私の大切な夜去をどうかよろしくお願いします」

僕のことを本当に大切に想ってくれている。

いくら感謝をしても足りないけど、心の中で何度も感謝した。

 

「うむ!」

 

 

「杏寿郎さん何処へ行くんですか?」

 

「皆でご飯へ行こうかと思う!!

俺の家に少し寄ってもいいか?

弟も連れて行きたいんだ、それに夜去にも会ってもらいたい」

胸が熱くなるのを感じる、僕は千寿郎に再開して涙せずにはいられないと思う。

 

千寿郎は真っ暗闇の僕の世界に、明かりを灯してくれた。

時屋敷に閉じこもっていた僕の手を握り外へと連れ出してくれた。

 

恥ずかしくてずっと言えなかった、いつか伝えたいことがある。

千寿郎は僕にとって太陽なんだ、ずっと憧れの存在で道標なんだ。

 

「弟さんがいらしたんですか…

僕も会いたいです」

大切な親友を知らないわけがない。

知らないことにするのは本当はとても苦しい、でも疑問に思われないために今は知らないふりをしないといけない。

 

二人で杏寿郎さんのように強くなろうと約束をし、毎日一緒に稽古をした。

あの稽古をした君との日々は僕の掛け替えのない思い出なんだ。

あの日々があったから僕は戦えている。

 

千寿郎が待っている煉獄家が近づいて来た。

どんな顔をして会えばいいのだろうか、笑顔で初めましてと言えるだろうか。

 

「あ!煉獄さん…それに夜去と真菰ちゃんもいる!

会いたかったよ!!」

機能回復訓練で会っていたけど終わってからは暫く会えていなかった。

僕も蜜璃さんと同じ気持ちです、真菰さんもきっと同じはず。

 

「むむ!甘露寺もいたのか!

それならば今日は五人で昼食を食べに行こうか!」

杏寿郎さんも蜜璃さんも沢山食べるからな…美味しそうに食べる二人の姿が僕は好きだけど。

お金は大丈夫かな、僕も少し多く持って来たから多分大丈夫だと思う。

 

「やった!!」

 

 

「初めまして

煉獄千寿郎と言います」

この声をよく知っている、前を向き顔を見ることができない。

二人でたくさん笑った、二人で悔しくて涙した日も数多くあった。

 

絶対に泣かないと決めていたのに涙が止まらない、強くなると約束したのにこれじゃあ格好がつかないな…

僕はまだまだだね千寿郎。

 

「どうしたんですか!?」

 

「ごめんね千寿郎君…

夜去は泣き虫なんだ」

 

「何でもないです、真菰さん言わないで…

初めまして千寿郎さん

明月夜去と言います」

初めましてなんて言いたくない、本当は前のように君の名を呼びたい。

でも今の僕には許されない。

僕は前から千寿郎に隠しごとができなかった、今も前と同じように何かに気がついてしまうかもしれない。

だって君は僕の親友だから。

 

過去に戻ったことを知れば自分を責めてしまうかもしれない。

なんで送り出してしまった、引き止めておけばと思わせてはいけない。

 

千寿郎はあの時無理矢理笑っていた、僕に苦しい思いをさせないためになんだよね。

君は僕の弱々しい背中を強く押してくれた、だから勇気を出せたんだ。

 

「早く行こ!

もう私お腹ぺこぺこ」

 

「もうお昼ですもんね…

行きましょう」

 

 

しばらく歩き蜜璃さんのおすすめする定食屋さんに来た、ここも量が極端に多いお店じゃないよね…

注文を終えてお料理が来るのを待っている間は他愛もないお話をした。

とても楽しく、幸せな時間だった。

千寿郎と杏寿朗さんが一緒に笑っている姿は僕の胸をいっぱいにさせた。

僕は二人のこんな未来を守りたい。

 

「夜去さんは少食なんですね」

 

「今日は胸がいっぱいで…

お腹までいっぱいになりました」

でも最近食べられる量がほんの少しだけ減った気がする、前からたくさん食べれる方ではなかったけど。

これも時の呼吸の影響だったりするのかな…

 

「夜去ほら私の言った通りに半分にしてよかったでしょ?

私が食べさせてあげよっか?」

蜜璃さんのを半分にしても千寿郎より多いです、僕は結局全部は食べられませんよ…

 

「夜去残すのは良くないぞ!

俺が食べさせる、口を開けるといい!」

ですよね残すのは良くないですよね、頑張って残さず食べよう。

 

「絶対にダメ!煉獄さんも蜜璃ちゃんも!

私が食べさせるから」

さっきから触れなかったけど、真菰さんまで…

僕は自分で食べられます。

三人とも千寿郎の前で恥ずかしいことを言わないでくださいと心の中で思った。

 

「僕も少しは手伝うよ夜去

………あ、ごめんなさい!呼び捨てにしてしまって」

あまりに自然過ぎたから僕まで前のように呼んでしまいそうになった。

笑って僕の名前を呼んでくれる千寿郎が大好きなんだと改めて思った。

 

「気にしないでください、そう呼んでほしいです

少しと言わないで半分くらい食べてくれても…」

 

「ダメです、夜去さんが食べてください」

元気が出ません、力もつきませんよ」

前と何も変わらない親友の姿がそこにはあった。

僕と違いしっかりとしている、自慢の親友だ。

 

「千寿郎君と夜去すごく仲良いね

今日が会ったの初めてでしょ?」

 

「はい

でも夜去さんと会うのが初めてだとは思えないんです」

その言葉を聞けるだけで僕は嬉しい。

でも言わないといけない、言うのはとても辛いけど。

 

「初めてですよ千寿郎さん

これからよろしくお願いします

多分、僕に似た人を見かけたんだと思います」

 

「夜去ほど綺麗な人はあまりいないぞ?

甘露寺と真菰も綺麗だがな!」

揶揄わないでください杏寿朗さん。

二人の方がずっとずっと綺麗です、鬼殺隊の多くの人が二人に心惹かれている。

それに僕は一人でいいからかっこいいと言ってもらいたいな…

 

「夜去は私たちから見ても綺麗だもん、羨ましいな!

いいこと思いついた、もう女の子になる?」

蜜璃さんが僕の頭を撫でながら言った。

何でそんな恥ずかしいことを言うの…何も言い返せない。

 

「私は女の子になった夜去でもいいよ?

どんな夜去でも受け止めるから、私の胸においで夜去」

顔を紅くするなら言わないでよ、僕まで巻き込まないで。

恥ずかしさで体が熱くなってきた、そこに千寿郎が追い討ちをかけてくる。

 

「女性じゃないんですか?」

 

「え……

そんなに驚かないでください、女性じゃないです

僕を揶揄いすぎです」

前から千寿郎には揶揄われることがあった、何も変わってはいなかった。

たくさん笑った、そんな楽しい時間はすぐに終わってしまう。

 

杏寿郎さんと千寿郎に誘われたこともあり、僕と真菰さんは二人のお屋敷に泊まることになった。

でも蝶屋敷に着替えを取りに行かないといけない、カナエさんとしのぶさんは許してくれるかな…

 

「私が行ってくるから大丈夫だよ、先に行って待っててすぐに戻るから

カナエちゃんとしのぶちゃんにも言ってくるね」

 

「ありがとうございます

カナヲ姉さんにも心配しないでと伝えておいてください」

 

「うん、伝えてくる

夜去もカナヲちゃんが大好きで。大切なんだね」

僕は首を縦に振り、頷くことしかできなかった。

 

 

二人のお屋敷に着くとまず槇寿郎さんに挨拶をしに行くと、部屋の中でお酒を飲んで寝ていた。

本当は熱い人だと知っている。

杏寿朗さんがいなくなった後は僕と千寿郎にたくさん稽古をつけてくれた、やっぱり三人は親子でそっくりだと何度も思った。

 

槇寿郎さんは二人のことを誇りに思い、愛し大切に思っている。

それを前は伝えれなかった、でも今度は伝えてあげてほしい。

 

僕が絶対に守ります。

だからよくやったと頭をたくさん撫で、抱きしめてあげてください。

 

「昔はああじゃなかったんだがな…

俺がどれほど頑張っても父は喜んでくれない、どうでもいいとのことだ!

それでも俺の心の炎が消えることはない!挫けることはない!」

震えている声からすぐに杏寿郎さんの本当の想いは伝わる、でも強い人であるために無理をしているんだ。

力になりたい、頼りないけど貴方の拠り所になりたい。

 

きっと杏寿郎さんの頑張りを聞くと胸が高鳴っている、杏寿朗さんの日々の報告が何よりも嬉しいんだ。

でもそれを言葉にして伝えれない、恥ずかしくて本人の前では言えないんだ。

僕にもその気持ちがわかる。

 

「きっと大丈夫です、三人なら

想いはいつか届きます」

 

「夜去が言うのならきっと大丈夫なのだろう

よかった…」

 

 

挨拶を終えると杏寿朗さんと蜜璃さんは二人で柱のお仕事を始めた。

柱の人たちは本当に忙しい、姉さんたちも忙しいはずなのに僕と過ごす時間をたくさん作ってくれた。

輝夜姉さん、咲夜姉さん、少しでいいから会いたい。

お話をしたい、手を繋ぎたい、抱きしめてほしい。

今は叶わないけどいつの日か…

 

真菰さんもまだ来ていない今は一人だ。

千寿郎の姿が見えなかったので探していると、庭で竹刀を振っていた。

一人で稽古をしている、君はいつも僕の隣にいてくれたのに…

 

「千寿郎さん

一緒に稽古をしませんか?」

これは君が部屋に閉じこもっていた僕にかけてくれた大切な言葉。

君は太陽だそれは今も変わらない、あの日暗い部屋を千寿郎という太陽が暖かく照らしてくれた。

 

「いいんですか!?

迷惑でないなら、お願いします」

 

こうして毎日二人で稽古をしていたんだ。

辛かった、苦しかった、時に絶望した、二人で涙した日も数えきれない。

でも隣に君がいてくれた、何度折れても手を差し伸べてくれた。

だから前を向けた、立ち上がることができた。

ありがとう千寿郎。

 

「才能ないですよね…日輪刀の色もどれほど頑張っても変わらないんです、弱いままなんです

それでも僕は兄のように助けを求めている人を救いたい…

そんな叶わない夢をずっと見ているんです」

薄々気づいていた、千寿郎が今の自分を恥じていることには。

僕も日輪刀の色は変わらなかったから、二人で沢山泣いた。

でも今の千寿郎は一人で泣いていたんだ。

 

隣にいられなくてごめん。

 

────

夜去さんも僕の才能の無さがわかったと思う。

僕は煉獄家の落ちこぼれなんだ、どれほど努力をしても強くなれない。

ずっと弱いままなんだ、兄のように鬼殺隊士の皆さんのようにはなれない。

 

「千寿郎さん

約束しましょう」

夜去さんはただ指を出しただけだった、でも僕はこの約束を知っている気がする。

 

歳上の人にさん付けをしないのは失礼だとわかっていても、何故か夜去と呼びたい。

今日初めて会った人なのにずっと一緒にいたような感じがする、そしてこれからもずっと隣にいたいと思ってしまう。

夜去さんは本当に不思議な人だな。

 

「約束します…」

この約束は僕にとって何よりも大切な約束なんだと心が訴えかけてくる。

 

「それにね千寿郎さん

君はもう一人救ってるんだよ?

千寿郎さんが覚えてなくとも、相手はずっとずっと覚えています

ありがとうございます」

天を仰ぎ何かを思い出しながら言う夜去さんを見ると、本当に僕は誰かを救ったのかもしれないと思ってしまった。

そんな夜去さんの姿は儚く美しかった。

僕が助けた人は大切な人なのだろうか、少しだけ心がもやもやとした。

 

「お礼を言うのはこっちです、ありがとうございます」

屈託なく笑う夜去さんは今まで見た女性の中で一番綺麗だった。

女性じゃないんだ…今でも信じられない。

 

「綺麗ですね

夜去さんは」

恥ずかしがる姿を見るともっと言いたくなってしまった。

二人でたくさん笑った、こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。

 

僕の隣にずっといてください夜去さん。

今は言えないけど、いつか言えたらいいな。

 

────

すぐ戻るって言ったのに遅くなったな…

カナエちゃんとしのぶちゃんを説得するのにとても時間がかかったからだ。

二人とも夜去のこと好きすぎだよ、私が言えることじゃないけど…

夜去ごめんね帰ったら二人に怒られるかも、その時は私も一緒に怒られるから安心して。

 

カナヲちゃんは夜去のことをとても心配していた。

夜去のことを一番に考え、何よりも大切に想っているんだ。

 

「真菰ちゃん!こっちこっち」

蜜璃ちゃんがとても嬉しそうに私を呼んでいる、煉獄さんも隣で微笑んでいる。

どうしたんだろう…

二人が見ていたのは…夜去と千寿郎君が笑っている姿だった。

二人は歳が離れているけど、全くそれを感じさせない。

 

「とっても嬉しそう

夜去が笑ってくれると私も嬉しい、ずっと私の隣で笑顔を見せて欲しい」

 

「うん!二人とも本当に嬉しそう

え…真菰ちゃんそれ告白!?

私困るよ!誰を応援したらいいの!」

蜜璃ちゃんには色々と相談に乗ってもらっているから、私の想いを知っている。

いつか言えるかな夜去に伝えられるのかな。

 

「千寿郎があんなに笑顔なのは久しぶりだ。千寿郎が笑ってくれると俺も嬉しい!

それに夜去の笑顔は綺麗だ!

俺は好きだ…」

 

「真菰ちゃん早く言わないとね!」

夜去のことを好きな人多すぎるよ、自信がなくなってくる…

 

「うん」

夜去は柱に今一番近いと言われている、どんどん遠い存在になっている。

柱になっても私と相棒でいてくれるかな?隣にいてくれるのかな?

最近はそんな心配ばかりしている。

 

────

「夜去そろそろ帰る?

カナエちゃんとしのぶちゃんには早く帰るからって行ってきたし…

カナヲちゃんは心配しすぎて昨日の夜は寝れてないかも、早く帰ってあげよ?」

 

「夜去、真菰、ありがとう

また五人で一緒に出掛けたいな!そのためにも任務を共に頑張ろう」

杏寿朗さんは嬉しそうに笑った、僕と千寿郎と稽古をする時もこの笑顔を見せてくれた。

守りたいこの先も笑っていて欲しい、貴方に生きて欲しい。

 

上弦の参がどれほど強くても、何が起ころうとも必ず守る。

杏寿朗さんの心の炎は絶対に消させやしない。

 

「真菰さん少し待っていてください」

今は槇寿郎さんの部屋の前にいる、貴方に伝えないといけない。

貴方がどれほど後悔したか僕は知っている、もう後悔して欲しくない。

 

「槇寿郎さんありがとうございました

このままでいいのでお話を聞いてくれませんか?」

 

「後悔をしないでください

想いを伝えられないということは本当に辛いことです

だから伝えてあげてください、二人はずっと待っていますよ?」

返事はないけど聞いてくれていると思う。

だって槇寿郎さんは、杏寿郎さんと千寿郎の竹刀を振る音と掛け声を耳を澄まして聞いているから。

その音と声を聞くのが大好きなんだ。

 

「夜去と言ったか?

………俺たちはまだやり直せるか?」

 

「はい

家族の絆は永遠です、絶対になくなりません」

 

「そうか…

ありがとう」

家族の絆はなくなるものじゃない、何度でもやり直せます。

勇気を出して向き合うことができたなら。

でも今の槇寿郎さんは向き合おうとしている。

 

杏寿郎さんが戻ったら沢山頭を撫でてあげてください、抱きしめてあげてください。

三人でご飯を食べて、稽古をして、そんな家族の時間を取り戻してほしい。

 

 

「どうしたんですか?

僕に聞かせてください、力にはなれないかもしれないけど隣にいます」

真菰さんの元へ戻ろうとした時、一人で泣いている千寿郎を見つけた。

さっき杏寿朗さんと蜜璃さんと稽古をするために道場に行ったはずだなのに、何か辛いことでもあったのかな…

 

「兄上が天国に行ってしまう夢をみたんです

暖かい兄上の手が冷たくなって帰ってくる夢だったんです

僕は兄上にずっと一緒にいてほしい、兄上のことが大好きなんです…」

千寿郎の言葉に胸を衝かれる、僕と会ってしまったことでそんな夢を見たのだろうか。

 

今の僕には泣いている千寿郎を抱きしめてあげることしかできない。

涙が止まるまでずっと抱きしめ、頭を撫でた。

 

「千寿郎さん、指を出してください」

 

「え……」

声には出さずに心の中で言った。

 

僕が杏寿朗さんを必ず守り抜くと約束する。

杏寿朗さんのように強くはなっていないけど、千寿郎を安心させてあげることはできないかもしれないけど。

 

帰ってきたら三人で稽古しよう、焼き芋を食べよう、できなかったことをたくさんしよう。

今度は杏寿郎さんにたくさん甘えて、たくさん困らせてあげて。

それから未来を歩くんだ、きっと沢山の幸せが待っている。

明るくて暖かい、いや煉獄家には暖かいじゃなくてちょっと熱そうな未来なのかもしれないね。

だから泣かないでよ千寿郎、笑ってお帰りなさいと迎えてあげてほしいんだ。

 

「大丈夫です

必ずここに杏寿朗さんは帰ってきてくれます

だから戻る日には、さつまいものお味噌汁を作って待っててあげてください」

 

首を縦に何度も振る千寿郎はとても可愛かった。

千寿郎の笑顔を見ると心が暖かくなる、君の笑顔は優しく暖かい。

僕は君のそんな笑顔を守りたいんだ。

 

 

 

 

こんなこと恥ずかしくて言えない、心にしまっておこう。

言ったら絶対に笑われるし、揶揄われる。

千寿郎はとっても優しけど、意外にも意地悪なところもあるからね。

それも親友だからわかることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

──

親友へ

僕はいつも千寿郎の幸せを願っています

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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柱とは

「お見送りはできませんが

これからも頑張ってくださいね」

最後の診察を終え、しのぶさんから任務に出てもいいという許可をもらえた。

本当に蝶屋敷の皆さんにはお世話になった。

 

「はい!

ありがとうございました」

診察の間もいつもと変わらない笑顔を浮かべていた。

でもいつもの笑顔とはどこか違う、心の底から笑えてはいない。

 

夜去さんが任務に出てからの、しのぶさんは帰るべき花を失った蝶のようで、カナエさんは太陽を失った花のように思えてしまう。

蝶屋敷の皆さんからも不安と恐怖が感じとれた。

 

「無理をしていませんか…?

夜去さんのことですよね…」

少しの驚きを見せた後、またいつもの表情に戻った。

 

「炭治郎君はすごいですね…」

 

「怖いんです……

夜去は笑顔で大丈夫です、必ず戻りますと約束してくれたけど

この笑顔をもう見れないかもしれない、もう私の元へ帰ってきてくれないかもしれないと思うと」

大切な人を、助けを求めている人を守るためなら夜去さんは自分がどれだけ傷ついても戦い続けるだろう。

それをしのぶさんも知っているから怖いんだ。

 

鬼殺隊の皆が夜去さんは強いと知っている。

でも不安なんだ、どこか危うげなところがある、目を離してしまえばいなくなってしまうような気がしてしまう。

こんな風に思ってしまうのは俺だけではないはずだ、気のせいであってくれと心の底から思っている。

 

「俺たちはまだ弱いです

でもいつか隣で戦いたい、支えられる存在になりたい

しのぶさんも同じ気持ちですよね?」

 

「……私もまだまだですね…

強くならないと、夜去に何か言われてしまいますね」

先程までとは表情も変わり、その目からは強い意志が伝わってくる。

きっと夜去さんと最後まで一緒に戦い抜く、側で支え一緒にいると心に改めて誓ったんだと思う。

 

しのぶさんもカナエさんも夜去さんに心を奪われた一人なんだ、誰もが美しく優しい夜去さんに心惹かれる。

 

「しのぶさん一つ聞きたいことが…

ヒノカミ神楽って聞いたことありますか!?」

俺は詳しく事情を話したが、あまり力になれないかもしれないと言われた。

でも詳しくはわからないが、炎柱の煉獄さんなら何か知っているかもしれないらしい。

しのぶさんが煉獄さんに鎹鴉を飛ばしてくれた、色々としてもらってばかりだ。

 

「夜去に会えたら伝えておいてください

生きていてと

生きてさえいてくれれば、私が夜去を必ず助けると」

 

「はい!

俺が責任を持って伝えておきます」

任務に行く時には言葉にして伝えれなかったんだ、俺が責任を持って伝えよう。

 

善逸と伊之助にも旅立ちの準備をさせないといけない。

もう一度お礼をして診察室を後にした。

 

 

別れは悲しかった、長い時間を共に過ごしたからその分だけ寂しさもあった。

ここで多くのことを学んだ、全集中の呼吸も取得することができた。

訓練した日々を一生忘れないだろう、どれこれも俺の大切な思い出だ。

 

蝶屋敷の皆さんを少しは安心させてあげることができただろうか。

俺たちが守り支えますと、自信を持って言えるように強くなりたい。

 

まだ俺には雲の上のような存在の人だけど、いつか共で一緒に戦いたい。

 

 

「えーーっ!

まだ司令来てなかったのかよ!!

居て良かったじゃん、カナエさんやしのぶさんの元に!!」

 

「あんな悲しい別れをしなくてもよかっただろう!」

 

「いや司令が来た時……

それに炎柱の…

夜…」

俺が何度話そうとしても善逸に遮られた、話をさせてくれないみたいだ。

夜去さんの名前を聞けば落ち着いてくれると思ったが、名前すら言わせてもらえない。

煉獄さんと夜去さんと真菰さんは一緒の任務だとしのぶさんが言っていたから、会えるかもしれないと思うと心が躍る。

最近お別れをしたばかりなのにもう会いたい。

 

「なんだあの生き物はー!!」

俺と伊之助は列車というものを知らなかったこともあり度肝を抜かれた、善逸は都会育ちだから驚きはしなかった。

無限列車っていうのに乗れば煉獄さんに会えるはずだけど…この列車であっているのかな…

 

「この列車でいいのか?

じゃあ切符買ってくるから静かに待ってるんだぞ」

今日はいつもの俺の役割を善逸が担ってくれている。

いつもは少し頼りない善逸だけど、今日はとても心強く頼もしい。

ありがとうな善逸。

 

「柱だっけ?その煉獄さん」

顔とかはちゃんとわかるのか??」

 

「うん

派手な髪の人だったし、匂いもちゃんと覚えてる」

話をしていると煉獄さんの匂いが近くなってきた、それと同時にあと二人の匂いも近くなった。

やはりこの列車に乗っているんだ。

 

「うまい!うまい!うまい!うまい!」

弁当を一口食べてはうまいと叫けぶ煉獄さんの姿が視界に入る。

一つ目の弁当かと思えば、横には大量の空き箱が積まれている。

大丈夫かな……

 

「うん、美味しいけど…

煉獄さん食べすぎ、夜去は食べなさすぎ!」

 

「真菰はもう少し食べないといけない

身長が伸びないぞ?」

 

「それは言わないでよ!」

煉獄さんと真菰さんの会話はこちらまで聞こえてきた、二人のそんな姿を見て微笑む夜去さんから俺は目を離せなくなっていた。

列車に乗っている人なんて夜去さんに釘付けだ、善逸が気付ば変な目で見るなと怒る気がする。

まぁ善逸の方が変な目で見ていると俺は思うけど…

惹かれてしまうんだから仕方ないよな。

 

「ちょっと待て待て

夜去ちゃんの音がするぞ!

まさかこの列車に乗ってるの!?なあ炭治郎もしかして知ってるのか」

暴走寸前の友を落ち着かせないといけない、乗客の迷惑になってしまう。

善逸は耳がいいから音でわかるんだな、どんな音がするのか今度聞いてみたい。

 

「善逸落ち着いてくれ会えるから」

珍しく善逸は首を縦に振り、俺の言う通り静かになってくれた。

 

 

「煉獄さん、夜去さん、真菰さん

こんばんは」

 

「三人も一緒の任務だったんだ!

よろしくね」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

炎柱の煉獄さん、柱と同じ階級の夜去さんと真菰さんの呼ばれる任務。

それは十二鬼月もしくはそれ以上の力を持つ鬼が潜んでいることを意味している。

この前の那田蜘蛛山の任務を思い出すと弱気になってしまう。

今度の鬼はもっと強いかもしれないと思うと、体の震えが止まらない。

 

弱気になんてなるな、俺たちは鍛えてもらったじゃないか。

全集中の呼吸もできるようになった、前とは違うんだ。

もっと自分に自信を持て、一緒に戦い支えると決めたのなら。

 

「僕は四人の仲間が来てくれてとても心強いです」

夜去さんは禰 豆子のことも鬼殺隊の仲間として数えてくれていた。

あの日の手紙が脳裏を過り、俺は目頭が熱くなった。

 

「ありがとうございます」

夜去さんに伝えないといけない言葉がある。

 

「しのぶさんから伝えてくださいと言われました」

 

「生きていて

生きてさえいてくれれば、私が必ず夜去を助けると」

夜去さんは少し悲しそうな笑顔を見せた、先程のしのぶさんの笑顔にどことなく似ている。

感情を読み取ろうとしても何故か読み取れない。

 

「今度は自分の足で蝶屋敷へ戻ります

笑顔でただいま戻りましたと言い玄関を開けたいです」

 

「夜去それはいい!

元気なことが一番だ」

 

「カナエちゃんもしのぶちゃんもカナヲちゃんも皆が喜んでくれるよ

私もすごく嬉しいんだよ?夜去がそう言ってくれて!」

真菰さんは目に涙を浮かべている、しのぶさんとカナエさんと同じように夜去さんに惹かれているんだ。

多くの人に愛されている、思いは皆同じ生きていて欲しいんです、ずっと一緒にいたいんです。

 

 

「煉獄さん少しお話を聞いてもらえますか??」

俺は煉獄さんにもしのぶさんの時と同じように詳しく事情を話した。

ヒノカミ神楽のこと、父さんがやっていた神楽のことを事細かく説明した。

 

「うむ!そういうことか

だが知らん!ヒノカミ神楽というのも初耳だ!

君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたい

この話はコレでお終いだな」

煉獄さんも何も知らなかった、振り出しに戻された気分だ。

もう少しお話を聞かせてほしかった、でも継子になれ面倒を見てやると言い俺の声は届いていない。

面倒見がいい人だな…煉獄さんに鍛えてもらえればもっともっと強くなれる気がする。

この任務が終われば稽古してもらいたい、その時は伊之助も善逸も一緒に。

 

「溝口少年

君の刀は何色だ!」

 

「俺は竈門です!色は黒です」

 

「黒刀か!それはきついな!」

鱗滝さんと鋼鐵さんと同じ反応だ、やはり黒刀では色々と厳しいのだろうか…

いやいや落ち込むのは一瞬にしよう、俺に落ち込んでいられる暇なんてない。

煉獄さんと真菰さんの刀の色はなんとなくわかる、夜去さんは何色なんだろう…

 

「夜去さんの刀は何色なんだろう??」

心のどこかでずっと気になっていた、何故柄の部分しかない刀を使うのか。

だから二本日輪刀を持っているのかなと今は思っている、多分どちらも大切な人の使っていた物だと思う。

 

「俺も知らないんだ溝口少年」

そう言って夜去さんを見守る煉獄さんの目は優しく暖かかった。

何処を見ているのかわからない目だったけど、今は違い夜去さんの姿がしっかりと映しだされていた。

 

 

「夜去ちゃんずっと会いたかったよ

俺に会いたかった!?」

 

「何言ってるの!?

私、善逸君にも夜去を渡す気ないからね!」

真菰さん顔を紅くして言った、とても綺麗で可愛い人だなと改めて思う。

もうそれは告白しているようなものですよ、俺と善逸の顔が曇る。

でも夜去さんは真菰さんの想いに気付いていないと感じた、それがわかると俺たちは何故か安心した。

 

「うおおお!

俺をほわほわさせるな、お前を見るといつもこうなる!

俺と昔に会ったか!?思い出せねぇ!」

それは伊之助も夜去さんのことが大好きなんだよ、心に嘘をつけない隠せないんだ。

俺も伊之助と同じでずっと前にあったような気がするけど、俺たちの気のせいだろう。

あんなに綺麗な人を忘れるはずがないじゃないか。

 

「いつ鬼が出るかわからない!

気をつけておくように」

 

「え?嘘でしょ?

鬼出るんですか、この列車!?」

嫌だ嫌だ俺降りる、夜去ちゃんも一緒に降りよう」

短期間の内にこの汽車で四十人以上の人が行方不明になっている、数名の隊士を送ったが誰も帰ってこなかったと聞かされた。

だから柱である煉獄さんたちが来たんだ。

 

「僕は降りれません

大切な人を守りたいんです」

夜去さんの見つめる先にいたのは煉獄さんだった。

守りたい人とは煉獄さんのことなんじゃないかな…まさかここで命を落としたりしないよな…

そんなことを考えたのも本の僅かな時間だった。

きっと大丈夫だ、これからも鬼殺隊を支える柱としてずっと活躍する人だから。

 

「夜去にそれほど想われている者は幸せだな!」

 

 

車掌さんが切符の拝見に来た時だった。

鬼の嫌な匂いがした、辺りを見渡すが鬼は見当たらない。

 

「車掌さん!危険だから下がってくれ!

火急のこと故、帯刀は不問にしていただきたい!」

煉獄さんと同じく、夜去さんと真菰さんも日輪刀に手を添えた。

 

「夜去、真菰

大丈夫」

その言葉を聞き、二人は安心したように再び席に座った。

さっきまではそこにいなかった鬼が煉獄さんの前に姿を表した。

 

「炎の呼吸・壱ノ型 不知火」

鬼の首を斬るまで一瞬だった、俺たちは首を斬ったことにも気付けなかった。

改めて柱の人たちが戦っている場所の遠さを実感させられる、背負っているものが俺たちとは違う。

煉獄さんの一撃からは血反吐を吐くほどの努力をしたことが伝わってくる、人々を守るために来る日も来る日も稽古をしてきたんだ。

守るために刃を振るう煉獄さんの姿が俺たちの心に焼きついた、その姿を俺は一生忘れないだろう。

 

「立派な剣士にしてやろう!

みんなまとめて面倒みてやる!!」

あまりにも強い煉獄さんの姿を見た俺たちは弟子にしてくださいと叫んでいた。

すんなり了承してくれたのを聞き改めて面倒見のいい人だと思った。

 

 

「自分を見失わないでください

どんなに苦しくとも、どんなに辛くとも

自分を信じてください、大切な人たちを信じてください」

睡魔が突然訪れた、全然眠たくもなかったのに。

夜去さんの言葉を聞き、俺は煉獄さんの肩に頭を預け目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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鬼の血鬼術により現実のような夢を見せられること、上弦の参が襲来することを未来の炭治郎さんたちから聞いていた。

初めは全てをを伝えようとした、でも僕にはそれが出来なかった。

全部を話すことによって炭治郎さんたちの成長の場を奪ってしまうかもしれない、杏寿郎さんとの大切な思い出をなかったことにしてしまうのではないかと思ったから。

三人が杏寿朗さんのお話を聞かせてくれた時の顔は輝いていた、今でも胸にずっと刻まれている。

前と同じようにこの任務が三人を強くしてくれる、また心に灯った炎はいつまでも燃え続けるはずだ。

 

だから自分を信じ、大切な人を信じてくださいとだけ伝えることにした。

僕がこんなことを言わなくても皆さんならきっと乗り越えられる、その言葉は弱い自分に言い聞かせるために言ったのかもしれない。

 

今度は優しく哀しい思い出にはさせない、何が起きようとも守り抜く。

誰も涙を流さなくてもいいように、そして三人が再び憧れの炎と肩を並べて戦えるように。

槇寿郎さんと千寿郎がおかえりと迎えられるように。

 

必ず守ると心に誓っている、それでも僕は強い人間ではないから少し怖いんだ。

この世に必ずはない、もしかすると守れないかもしれない、また辛く悲しい想いをさせてしまうかもしれないと考えると。

拳を固く握り震える体に落ち着けと言い聞かせるが止まらない手を真菰さんが握ってくれた。

 

「夜去なら大丈夫

それに私たち二人ならどんな困難も乗り越えられる」

僕はいつも貴方に助けてもらってばかりだ、会った時からずっとずっと。

会えてよかった、救えてよかった。

 

いや違う、救ってもらっているのは僕の方だな…

真菰さんがいなかったら何度も押し潰されていた。

 

「真菰さん

何度も何度も僕を救ってくれて、隣にいてくれて

ありがとうございます」

眠る前に伝えておきたかった、そろそろ夢の世界に入ってしまう。

 

「お礼を言うのは私の方

それと夜去これからも一緒

ずっと隣にいる一人にさせない!わかった?」

 

「嬉しいです

僕も真菰さんの隣にずっといたいです」

 

「その言葉が私はずっと聞きたかった」

できるならばずっと隣にいたい。

でも僕は真菰さんの隣にずっとはいられない、繋いでくれるこの手も離さないといけない日が訪れる。

そんな事を考えながらゆっくりと目を閉じた。

 

 

───

「おはよう夜去」

懐かしく優しい声、聞いただけで涙が溢れそうな声。

ゆっくりと目を明ける、太陽の眩しい光と共に瞳に映ったのは二人の姉さんの姿だった。

 

涙が溢れ言葉を紡げない、どれだけ拭ってもお布団の上に雨のように落ち続けている。

成長した姿を見せてあげたかった、こんな情けない姿は見せたくなかった。

 

「どうしたの?怖い夢でも見た?

そんなに泣いたら可愛い顔が台無しだよ」

 

「もう仕方ないなぁ…

おいで夜去」

困ったように笑い、か細い両腕を広げ待ってくれている。

いつも泣く僕の名前を呼び抱きしめてくれた、それが恥ずかしく嬉しかった。

 

現実ならどれほど幸せで、嬉しいだろうか。

でも夢だと分かっている、これは鬼の血鬼術であり幻想だと気が付いている。

 

 

「美味しい夜去?

今日の朝ごはんは私が作ったんだよ」

僕とは違い二人は本当にお料理が上手だ、味覚がなくても家族の味だと感じられる。

最後に一緒にご飯を食べたのはいつだろう、昨日のことのように思えるのに何年も前になるのか。

忙しいのにご飯はいつに一緒に食べてくれた、僕と過ごす時間をどれだけ忙しくても作ってくれていたんだ。

 

「はい、とっても…

姉さんたちが一緒だから美味しいご飯がもっと美味しく感じます」

 

「どうしたの夜去?

今日はそんなに可愛いこと言って…」

熱があるのではないかと姉さんたちはとても心配していた。

前もいつも心配かけていたな、帰りが遅くなり怒られたことだって何度もあった。

 

「私と咲夜にとって夜去とご飯を食べられる時間、一緒にいられる何気ない時間が宝物なの」

 

「夜去がいるから私と姉さんはどんなに辛くとも前を向けるんだよ?

一緒にいられる間は三人でご飯を食べようね」

言葉に込められた想いに昔の僕は気が付かなかっただろう。

そして二人の姉は悲しそうに笑った、もう姉さんたちがこんな風に笑わなくてもいい未来にしたい。

 

「私も咲夜に賛成」

明日も明後日も一緒にいたい、でも此処にはいられない。

例え夢の中の幻想の二人だとしても、守れない約束はしたくなかった。

 

本音を言えば、この幸せな世界にずっと身をおいておきたい。

それほどまでに幸せで残酷な夢だった。

 

夢から覚め命を落とせば二度と会えない。

考えるだけで怖い、それでも戻る選択をする、また会うためにお別れをするんだ。

 

命を懸けてでも戦う理由がある、幸せになってもらいたい人たちが沢山いる。

大切な人たち、助けを求めている人を守りたい、輝夜姉さんと昨夜姉さんを救いたい。

 

 

「今日は人が来るから

準備しないとね」

 

「何かあるんですか?」

 

「鬼殺隊の皆さんとご飯を食べるんだよ

夜去が一番楽しみにしてたのに忘れてたの!?」

気持ちが揺らぐ、朝ごはんを食べ終えたら戻ろうと思っていた。

あと少しだけ此処にいてもいいのだろうか、決めた皆さんとご飯を食べ終えたら今度こそ帰ろう。

その時は誰にも気が付かれないように。

 

夢の中の人たちだとしても、この先も幸せな時間が続いてほしい。

僕がいなくなるということで悲しい思いをしてほしくないんだ。

だから僕のことは忘れてほしい、初めからいなかったと思ってくれてもいい。

忘れられるのはとても怖く苦しいことだけれど、輝夜姉さんと咲夜姉さん、大切な人たちが悲しい思いをするのに比べれば何ともない。

 

「準備は私と咲夜がするから

夜去は玄関で迎えてあげて?」

 

「僕も二人のお手伝いがしたいです

今日は一緒にいたいです…」

自分の想いを隠したくない、もう伝えられないのは嫌なんだ。

それに練習をしておきたい、いつか伝えられる時に言えなかったら前と同じだから。

 

「今日は本当に素直だね…可愛すぎて心配になる

姉さんたちの元に来て?抱きしめたくなっちゃった」

今は甘えてもいいのだろうか、こんな幸せが許されるのだろうか。

まだ死にたくはないのに恥ずかしさで今すぐに死にそうだ。

 

「でもお願い

みんな夜去のことが大切で大好きなの

だから迎えてあげてほしい」

 

「終わったら私と姉さんの元へおいで」

上手く誘導された気がする、これもお手伝いに入るよね。

外に行こうとした時に寒いからと青空のような羽織を着させてくれた。

 

「とっても似合ってる

でも今はまだ少し大きいね…

その羽織はいつか夜去にあげるからね」

何度も何度も勇気をもらった、羽織っているだけで力が湧いてくる。ー

いつも肌身離さず持っている僕の宝物。

 

現実の世界で姉さんと同じくらいには背が伸びたんだ、もう羽織も大きくはないんだよ。

まだ二人のように勇敢でもないし、多くの人を守れるだけの力もない。

それでもいつか姉さんたちのようになりたい、まだまだ先の話だと思うけど。

 

天国に旅立つ時に成長を見れないことが悲しいと姉さんたちは言った。

だから今の少しは成長した姿を見せてあげたかったんだ。

少しは誇らしく思い、また少しは喜んでくれるのかな…

 

 

玄関に座り、雲一つない空を眺めながら皆さんを待っている。

しばらくすると柱の皆さん、炭治郎さんたち、親方様もが家族を連れて来てくれた。

玄関では抱きしめられ、頭を撫でられるのが続いた。

夢の中でも変わらないのか…

 

「夜去はどこに座るのかな?」

親方様が問いかける、すると柱の皆さん、炭治郎さんたちが隣においでと手招きして呼んでくれている。

前にもこんなことがあったような気がする。

親方様の人差し指を唇に当てる動作で賑やかな空間に静寂が訪れた。

 

見つめる先にいたのは困っている僕を見て優しく笑う二人の姉さんの姿だった。

ここにいられるあと少しの時間は隣にいたい。

 

「姉さんたちの隣にいたい、離れたくない…

輝夜姉さんと咲夜姉さんが世界で一番大好きなんです…」

気が付いた時には手遅れだった、心の中で想っていたことを全て吐き出していた。

全て伝えると言ったけど、大勢の前では言いたくなかった。

夢の中でも皆さんに聞かれた事が堪らなく恥ずかしい、あまりの恥ずかしさにその場に立ち尽くしたまま泣いてしまった。

情けない僕の姿を見て、輝夜姉さんと咲夜姉さんは大笑いしている。

 

「夜去

今日はいつにも増して甘えん坊なんだから」

僕の名前を呼び、ぽんぽんと膝を叩き呼んでくれている。

涙を拭いながら二人の元へと歩む、涙で目が霞み転びそうになった時にはカナヲ姉さんが支えてくれた。

そして危なっかしい僕の手を握り二人の元へと連れて行ってくれた、もう一人の大切な姉さんは此処でも変わらなかった。

 

「ありがとうカナヲちゃん

夜去のことを大切に想ってくれて」

 

「私も輝夜さんと咲夜さんと同じなんです

夜去には幸せになってもらいたい、ずっと笑顔でいてほしい

私の命に代えてでも守りたい存在なんです」

 

「カナヲちゃん…」

 

「そう言ってくれるのは嬉しい、でもカナヲちゃんには夜去の隣にいてあげてほしいんだ

寂しがりで、泣き虫だから」

 

「でも…」

 

「私たちには叶わないから…

だからね…私と咲夜と約束してくれる?」

カナヲ姉さんは僕を一人にさせないようにと前も姉さんと約束してくれていたのかもしれない。

これほどまでに想われている、幸せになってほしいと多くの人が願ってくれていた。

本当に幸せ者だと改めて思った。

 

「カナヲちゃんがお姉さんになってくれるなら

私も姉さんも安心…きっと大丈夫」

姉さんたちは僕の未来を守るために酷烈な人生を歩み天国に行った。

泣いたらいけないとわかっていても二人の想いを聞くと涙が溢れてくる。

呼吸が上手くできない、足元にぼたぼたと涙が落ち続けている。

 

「今は私も咲夜も隣にいる

だから泣かないで姉さんは笑った顔が見たいな」

 

「私も姉さんも笑った顔が大好きなんだ

泣いてる顔も好きだけどね」

大好きだといってくれた笑顔を絶やしてはいけない。

苦しくても辛くても笑っていたい、僕が笑顔でいることが三人の姉さんの願いなんだから。

 

「私と咲夜の大切な夜去

 

私と姉さんはいつでも一番に夜去を想ってる

 

私たちは夜去のことが世界で一番大好きなんだよ、知らなかったでしょ?」

 

この鬼の血気術はあまりにも幸せで、あまりにも残酷すぎる。

心を掻き乱し、引き裂いてくる。

こんな状態で戻ったら大切な人を守れないかもしれない、残された時間で乗り越えないといけない。

 

 

ご飯がなかなか喉を通らないこともあり僕はお箸を置き目の前に広がる幸せな光景を見ていた。

大切な人たちの笑顔で満ち溢れていた、その光景で胸もお腹も一杯になっていたんだ。

 

「輝夜と咲夜はまた告白されていたよな?

お前らは本当に綺麗だから多いな」

天元さんの一言を聞き善逸さんの目の色が変わった、少しだけ怖いと思ってしまった。

姉さんたちは綺麗だから心奪われるのも無理ない。

でも善逸さんの横には禰豆子さんが座っている、二人はお似合いだと僕は思っている。

 

「輝夜ちゃんも咲夜ちゃんも本当に綺麗だよね

私が会った人の中で一番綺麗だよ…」

 

「お断りしました

蜜璃さんは大袈裟です…」

二人は生きられないから、自分たちには未来がないから断っているんだと思う。

姉さんたちには幸せになってほしい、幸せになるべき人なんだ。

 

「それは…時の呼吸のせいか」

小さい声で義勇さんが言ったのを聞き、皆の表情が暗くなる。

 

「違いますよ」

 

「輝夜姉さんと昨夜姉さん…

夢はなんですか?」

誰も姉さんたちに言葉を掛けられない中、静寂を切り裂き質問をした。

何もないと言う二人に言葉をかけられない昔の僕ではない。

言ったくれた夢を持つことは大事なことだと、そんな二人の夢が聞きたい。

 

「私たちにはないかな…

夜去が幸せで笑顔でいてくれたらいい、それ以外は何も望まない」

輝夜姉さんと咲夜姉さんが、鬼殺隊の皆さんがいる未来で一日一日を生きたい。

それが僕の幸せなんだ、二人がいない未来で僕は心から笑えない。

 

「姉さんの歩いた道を今度は僕が歩きます

自分に嘘をつかないで、想いを聞かせて姉さん」

珍しく目に涙を浮かべている僕は姉さんたちに似たのかもしれない。

二人が何かを伝えるか伝えないかで悩んでいるのは表情から読み取れた。

 

「姉さんたちは僕を何度も救ってくれた、多くの幸せをくれたんです

一度くらい二人を救わせてください」

 

「………

ありがとう夜去」

 

「でも一つだけ

夜去が背負うものは私たちも背負う、一人で辛く険しい道は歩ませない」

いつも僕を支えてくれている、見えなくても側にいてくれる。

また少し悩んだ後に初めて自分の夢を語ってくれた。

 

「私たちの夢は…

夜去とずっと一緒にいること」

言葉を失った、もっと他にないのかな…

そう言ってもらえて嬉しい僕も同じ気持ちだけど。

蜜璃さんのように好きな人を見つけるとか、他にも何かしてみたいことはないのかな。

 

「もっと聞かせてください

他にはないんですか?」

 

「うん

ないよ」

 

「輝夜も咲夜も夜去が大好きなんだ

好きな人も見つけないだろ、結婚もしないだろうし」

天元さんの言うことは当たることが多い、二人には素敵な人を見つけて幸せになってもらいたいのに。

 

「結婚したら夜去と離れないといけないからね

輝夜ちゃんと咲夜ちゃんにとって夜去を超える存在はいないんだよ」

蜜璃さんは嬉しそうに言った、離れても会いにはいけるのに。

 

「三人で一緒にいられたらいいの」

隣で僕の頭を優しく撫でる姉さんをゆっくりと見た。

今日の二人の笑顔はいつも以上に綺麗に思えた、二人の本当の笑顔はこれほどまでに綺麗なんだ。

僕と同様にその場にいた全員が姉さんの姿に目を奪われてしまった。

 

そして皆の顔に笑顔が戻り、明るく幸せな時間が戻った

 

 

とても楽しく、幸せな時間を過ごさせてもらった。

そろそろ現実に戻ろう、守りたい人が帰りを待ってくれている人がいる。

誰にも見つからないように戻ろうとしたが、姉さんたちに隠し事はできないらしい。

 

「夜去

どこに行くの?」

 

「大切な人を守りに行ってきます」

二人の姉さんが珍しく泣いている、僕も言いたい泣かないでと。

 

「輝夜姉さん、咲夜姉さん泣かないでください

また必ず会えます」

時屋敷を出ると隊服を着て羽織を羽織り、二人から受け継いだを日輪刀を差している今の自分になっていた。

成長した姿を見たいと言ってくれた二人に見せたかった、時の呼吸の影響で細くて頼りない姿だけど。

 

「隊服は似合ってますか?姉さんたちと同じくらい大きくなったんです」

 

「夜去なの………

その日輪刀、まさか時の呼吸を…」

今度は涙を流す二人の姉を僕が抱きしめた、大丈夫ですと心の中で何度も言い華奢な背中をさする。

二人の涙が止まるの確認して、時屋敷から逃げるように離れた。

このまま姉さんの前にいたら、帰れなくなってしまうと思ったからだ。

 

 

後ろを向きたい手をもう一度振りたい、でも振り返ればきっと僕は逆に進んでしまう。

 

「隊服と羽織とっても似合ってる、私と咲夜に似てる

可愛かったのに綺麗になったね」

歩いているとそよ風と共に二人の姉さんの声が届いた。

綺麗になったとは言わなくてもいいと心の中で思った、でも姉さんたちに似てると言われたのは心から嬉しかった。

 

「……

大好きだよ夜去」

 

「次は私たちが夜去を抱きしめたい、繋いだ手はもう二度と離さない

今度は三人で未来を明日を生きようね」

 

「約束です」

 

「綺麗になったのは姉さんたちに似たのかもしれません

二人の弟だから…」

 

「あらあら、私たちにも言うようになって

でも綺麗になっても、私と咲夜の可愛い夜去は何も変わってなかった」

 

「変わってないよ姉さん、だって泣き虫のままだった

それとね、私と姉さんの夢は本当にあれだけなんだ」

見えないからってまた意地悪をする、次会った時に絶対にもっと夢を聞くからね。

 

「いってきます」

またね輝夜姉さん、咲夜姉さん。

振り返り時屋敷の前にいる、二人に笑顔でもう一度手を振り道を曲がった。

 

現実世界に戻る方法は教えてもらっていた、あとは自分の首を斬るだけだ。

怖くないと言えば嘘になる、これが正解だと思っても手を動かせない。

でも僕は炭治郎さんたちを信じている、ゆっくりと深呼吸をして日輪刀を首に当て引いた。

 

 

「邪魔しないでよ、あんたたちのせいで

幸せな夢を見せてもらえないじゃない!」

目が覚めると炭治郎さんが罵声を浴びせられていた、掛けてあげる言葉を必死に探している。

この人たちは鬼に幸せな夢を見せてあげると言われたんだ、幸せな夢を見たいという気持ちは痛いほどわかった。

あんな夢を見られるのなら人を傷つけようとも思ってしまうのかもしれない。

 

「僕もあの幸せな夢をずっと見ていたかったです」

 

「でも生きることを諦めないでください

幸せを願ってくれている人、生きてほしいと願ってくれている人が一人は必ずいます

例えいなくても僕が一人目になります」

この人たちが何を抱えているのかはわからない、どうにもならないこともあると思う。

でも最後まで諦めないでほしい、何が起こるかは誰にもわからないんだから。

 

「生きていると辛いことも多くあります、でもそれ以上の幸せが待っていると思います

何度も失敗と後悔をして、それでも踠き立ち上がり進んで行くんです

生きるのは時に辛いです、でもいつか幸せが必ず訪れます」

今まさに苦しみ悩んでいる人に僕が出来ることは、手を差し伸べてあげることだけだ。

力強く暖かい手で勇気を与えてあげたい、真逆の僕の手では手ではできないと思いながらも打ちひしがれた皆さんの前へ手を出した。

 

「貴方のように言ってくれる人はいなかった…

ごめんなさい、本当にごめんなさい」

優しい人たちなんだ、本当の自分を見失っていただけなんだ。

 

「最後まで踠いてみます

貴方のように諦めず戦ってみようと思います」

明日を生き戦うと言ってくれたんだ、この人たちの明日を僕は何としてでも守りたい。

夢の中の姉さんたちがしてくれたように抱きしめ背中を何度もさすった。

 

炭治郎さんが繋いでいた縄を燃やしてくれていた、杏寿郎さんたちが目覚めるのは時間の問題だと思う。

 

「炭治郎さん

汽車全体が鬼になっていると思います、鬼の首が斬れない僕には倒せません

この役目をお願いしてもいいですか?」

杏寿郎さんの代わりを務めることはできないと思う、でも杏寿朗さんが起きるまでは僕が道標にならないといけない。

今鬼の首を切れるのは炭治郎さんだけだ、お願いをするしかない。

 

「任せてください夜去さん!」

 

「俺もいるぜ!」

早くも伊之助さんが目を覚ました、やはり親分はすごい…

 

「二人ともお願いします!」

お辞儀をして後方の列車に移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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光芒

「よもや、よもやだ」

横を見るが溝口少年はいない、真菰と一緒にいた夜去もいない。

鬼の血気術にかかり眠ってしまうなど柱として不甲斐ない、穴があったら入りたいくらいだ。

 

眠っている間に不思議な夢を見た、それはどこか懐かしく暖かくて哀しい夢。

二人の少年と稽古をする夢だった、一人は弟の千寿郎、もう一人は誰かわからなかった。

今どれほど思い出そうとしてもその少女のような少年にだけ靄がかかっている。

それでも一つだけわかる、あの子は俺にとって千寿郎と同じくらい大切な存在だということだ。

 

三人で稽古をする幸せな日々がずっと続くと思っていた、でも次に見たのは弟たちが涙を流している姿。

隣でどれほど声をかけても届いていないようだった、俺は二人を置いて遠くへ逝ってしまったんだと悟った。

何も出来ずに、寄り添い涙する二人を見ていると一生消えないとさえ言った心の炎が消えかけた。

 

「千寿郎、二人で強くなろう

約束しよう、杏寿郎さんのように弱き人、助けを求めている人を助けれるぐらい強くなるって」

聞き覚えのある声で親方様と同じように心に響く声だったことは今でも覚えている。

久しぶりに涙が流れた柱なのに情けなく号泣していたんだ、最後に俺が泣いたのは母を失った日だった。

 

「うん、約束するよ

兄のように強くなる」

俺は二人の憧れの存在になれたんだ、道標になれたんだと思うと自分がほんの少しだけ誇らしかった。

母に胸を張って頑張れましたと言えるような気がした、そして消えかけていた心に今まで以上に熱く強い炎が灯ったんだ。

 

二人に触れることは出来ないが何度も頭を撫で抱きしめた。

そして俺の想いであり願いを二人に贈った、俺の言葉が届いていたかはわからない。

 

「心を燃やせ

歯を食いしばって前を向け

後ろを向きたくなっても俺が背中を押すだから、安心して前を見て進み続けろ」

例え伝えなくとも俺の自慢の二人の弟であり継子は自分の歩むべき道を力強く進んでいくはずだ。

 

それでも二人が心配だった俺はしばらく側で見守ることにした。

でもその必要はなかった、何故なら俺がいなくとも千寿郎ともう一人の少年は手を取り合い共に稽古をしていたからだ。

 

何度も折れ絶望していた、でも諦めなかった自分の弱さを受け入れそれに抗おうとしていた。

涙を流していた日は数え切れない、でも俺のようになろうと言い努力するふたりを見ると目頭が熱くなっていた。

 

二人のそんな姿が自分のことのように誇らしかった、誰が何と言おうと俺の自慢の継子であり大切な弟だ。

 

 

「杏寿郎さん」

夢の中で俺の名前を呼んでいた少年と似た声が後ろから聞こえる。

 

「僕では乗客の皆さん全員を守れません

これは杏寿郎さんにしか成し得ないことです」

夢の中で千寿郎と共にいた少年は…いや、そんなはずない。

夜去は俺たち柱より遥かに強い、それなのに俺たちを憧れの眼差しで見ていることをずっと不思議に思っていた。

 

俺にしか成し得ないか…不思議と勇気が湧いてくる。

母が言ったくれたように人々を助けたい、二人の弟の憧れの存在であるためにも俺は自分の責務を果たす。

 

「ありがとう夜去

俺に勇気をくれて

後方五両は必ず守る、真菰と夜去は前方を頼む」

真菰もすぐに目を覚ますだろう、必ず守り抜いてくれると仲間を俺は信じている。

 

────

目が覚めた時は列車の中が肉肉しくなり、鬼の匂いで満たされていた。

隣にいた夜去の姿がない、辺りを見渡してもどこにもいない。

 

私が探しに行かないと、何処にいても絶対に探しだす。

一人にはさせないと決めた、ずっと隣にいると約束をした。

 

「真菰さん」

振り向けば私の探していた人、相棒であり人生でただ一人の想い人が立っていた。

心臓の音を聞くために夜去のか弱い胸に飛び込んだ、心音が私に大丈夫ですと訴えかけている。

 

「心配した」

 

「僕は大丈夫です

笑顔で蝶屋敷に戻らないといけません、自分の足で必ず戻ります」

夜去は私の背中を優しく撫でてくれた、とても安心するずっと抱きしめていたい。

少しの時間で変わった気がする、細い腕からは何か強い意志が感じとれる。

 

「恥ずかしいです…そろそろいいですか?」

顔を見ればいつものように頬を紅く染めている、何も変わってなどいなかった。

それにしてもまた綺麗になった気がする、どんな夢を見たのか気になるな…

 

「今は離してあげる

でも任務が終わったらまた抱きしめさせてね」

何も言わずにただ首を縦に振る夜去は珍しく素直で、いつも以上に愛おしかった。

 

「僕と真菰さんは前方にいる乗客の皆さんを守ります

行きましょう」

夜去は私の手を取り走り出した、この手が私は大好きなんだと改めて思った。

 

 

乗客を守りながら夜去に起きていることを聞いた。

列車が鬼になっているとは信じ難いけど、この内装の変わりようを見れば信じざるを得ない。

炭治郎君と伊之助君が鬼の首を探し、煉獄さんは後方五両にいる乗客を一人で守っている。

そのお蔭で私たちは鬼の攻撃から容易に乗客を守ることができていた。

 

夜去は見ると何かに備えているように思えた、それに遥か先を見ているように思える。

 

しばらくすると凄まじい断末魔と共に列車が傾き始めた、鬼の首を斬れたことが私たちにも伝わってきた。

そして横転するまでは一瞬の出来事だった。

 

砂埃がすごく夜去が見つけられない、名前を呼んでも返事が返ってこない。

一度落ち着き耳を澄ますと夜去の話し声が聞こえてきた。

 

「泣かないでください

足に少し木片が刺さっただけです、僕は全然大丈夫ですよ?」

 

「私は自分が幸せになるために、貴方を夢の中で殺そうとしたんですよ

他の乗客を守るのでさえ精一杯だったのに、なぜ私のことまで庇ってくれたんですか…」

 

「明日を生きたいと、もう一度戦ってみようと思うと言ってくれました

その言葉が本当に嬉しかったんです」

 

「それに僕は貴方たちの幸せを願ってます、このくらいさせてください」

助けられた女の子は涙を流し夜去に抱きついていた、少し長くないかと思ったけど今回だけは許そうと思う。

誰だろうと関係ない助けを求めている人が助ける、私の愛した人は馬鹿がつくほどお人好しで優しい。

 

「それに大切な人と約束したんです…」

 

「貴方たちならきっと大丈夫です

僕はそろそろ行きますね」

夜去に助けられた人全員が心配して此処にいて言っている、いつもなら何を言われても歩みを止めない、でも今の夜去はこの場から動けなかった。

怪我をしている人たちが心配で置いていけないからだ。

 

「そんなに血が出てる足でどこに行こうとしてるの!?」

 

「真菰さん…

行かないと、救いたい人がいるんです……」

この人たちのようにいかないでと私も言いたい、体を押さえつけてでも引き止めたい。

夜去を押さえようと思えば私の細い体でも可能だろう、でも今の私は相棒として送り出してあげたいという気持ちが勝っている。

 

「必ず私の隣に帰ってきて

それが約束できるなら怪我した足を出して!」

慌てたように怪我をした足を出す夜去の姿が可笑しくて場違いなのはわかっているけど笑ってしまった。

刺さった木片を抜き、いつも手放さずに持っているお母さんから貰った形見の手拭いを足に巻いた。

 

お母さん私のこの世で一番大切な人を守ってください、何度も夜去の無事と私の想いを大切な手拭いに込めた。

 

「大切なものですよね…

ごめんなさい」

 

「うん

夜去と同じくらい大切で大好きな人から貰ったものなの

私もたくさん願いを込めた、きっと夜去を守ってくれる」

 

「ありがとうございます

本当に僕は真菰さんに支えてもらってばかりですね、隣にいてくれないと何もかもダメです」

太陽のようのような笑顔を私だけに見せて言ってくれた、この笑顔を見て心奪われない人などいない夜去は本当にずるい。

私だけがこの笑顔を知っていると思うと嬉しさが込み上げた、それと同時に溢れそうになった涙を必死に堪えた。

 

「そうだよ!

泣き虫な夜去を支えて、受け止められるのなんて私だけだからね

大切にしないとダメだよ?私が夜去を旦那さんとして迎えてあげよっか?」

 

「真菰さんの言う通りです…

ずっとずっと前から貴方は僕にとっての大切な人です、それはこれから先も変わりません」

その言葉が嬉しく両の手で火照る顔を隠した、今はまだ見せてあげない。

こんな言葉を何も気が付かずに言ってくる、嫌になるくらい鈍感な人。

 

「もっといい人が真菰さんにはいます

僕はやめておいてください」

そんな風に言わないで私には夜去しかいないんだから。

いくら突き放してもダメだから、この夢だけは誰に何を言われようとも絶対に諦めない。

 

「絶対に諦めないよ?

覚悟しててね」

 

 

「行ってらっしゃい夜去」

弱々しい背中を力一杯押したと同時に堪えていた涙が溢れ出してくる、地面に雨のようにぼたぼたと落ちている。

夜去は何歩か歩いた所で立ち止まり後ろを振り向こうとした。

 

「後ろを見ることは絶対に許さない

前だけを見なさい明月夜去」

誰よりも優しいから、涙を流している私を見れば胸を締め付けられるような思いをする。

自分の選択を後悔してしまうかもしれない、私は夜去に自分の思いのままに進んで欲しい。

私が受け止め支えるから、何度挫けても手を差し伸べる。

 

夜去の歩んだ道を落ちた血が示している。

本当は声が出るほど痛いんだよね、どれだけ一緒にいたと思ってるの。

でもそれを我慢してでも守りたい人がいるんでしょ、私は背中を押す選択肢以外選べないよ。

 

夜去の歩いたところだけ明るく見える、暗く寒い夜を照らす一筋の光のように思えた。

この光を消せる者は絶対にいない、朝までこの光は続いているような気がする。

夜去の名前に込められた想いがわかった。

 

地を揺らすほどの衝撃と共に風に乗って血の匂いが漂ってくる。

夜去の向かった方からだ、今は無事を祈ること信じることしかできない。

私にできることをしよう、怪我をしている乗客の手当てと避難を行うんだ。

 

生きて夜去

私の最愛の人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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母の教え

列車が横転し怪我人は大勢いるものの死人は誰一人としていないと鎹鴉の要が知らせてくれた。

目の前にいる竈門少年と猪頭少年は疲労困憊だ、下弦の壱と戦ったのだから無理もない。

 

「全集中・常中ができるようだな!

感心感心」

呼吸による止血方法を教えた、あまりの飲み込みの早さに俺は再び感心をした。

 

竈門少年の妹が黄色い髪の少年と共に鬼から乗客を守る姿が脳裏に鮮明に焼き付いている。

夜去の言っていた通りだった、俺は竈門少年の妹を信じ鬼殺隊の一員として認める。

命をかけて鬼と戦い人々を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。

これほど頼もしい後輩が鬼殺隊にはいる、四人の成長を俺は柱として見届けたい。

 

竈門少年と猪頭少年が落ち着いたのを見てもう一度辺りを見渡した。

夜去と真菰は無事だろうか、柱に近い実力を持っていると知っていてもやはり心配だ。

 

何故か夢で見た二人の弟が涙する姿が頭を過る。

やはり俺は千寿郎ともう一人は夜去だったのではないかと思っている、鬼の見せた幻想だから真実かどうかわからない。

朝が訪れ世去に会えたら聞いてみよう。

 

 

ドン

 

轟音と共に目の前に砂埃が広がる。

砂埃が晴れるとそこには武道を極めたような鬼が立っていた、両の目には上弦と参の文字が刻まれている。

鬼の襲来で安堵に包まれていた周りに緊張が走る。

 

「炎の呼吸・弐の型 昇り炎天」

傷を負い横になっている竈門少年を狙い攻撃してきた、何故手負いの者から狙うのか理解できない。

腕は斬ったと同時に再生している再生速度も他の鬼とは比にならない。

 

「俺は弱い人間が大嫌いなんだ

弱者を見ると虫酸が走る」

 

「だがお前は違う…

お前も鬼にならないか?」

鬼は満面の笑みを浮かべ俺に問いかけてきた。

手に入れた力で人を傷つける鬼が嫌いだ、力ある者は弱き人、助けを求めている人を助けないといけない。

 

「ならない」

返事を聞き鬼の殺気が先程よりも増した。

後ろにいる竈門少年と猪頭少年は恐怖と不安に包まれていることだろう。

何も怖がる必要はない、俺が命に代えてでも守る、若い芽は絶対に摘ませない。

君たちは鬼殺隊の希望だ、今日のようにこれからも多くの人を救っていく此処で散っていけない。

 

「お前…柱だな?

その闘気練り上げられている

至高の領域に近い」

俺はまだまだ未熟だ、力になり支えてあげたくとも今の自分にはできない。

俺の大切な人は鬼の言う至高の領域など通り越し遥か先を一人で歩んでいる。

 

「俺は炎柱 煉獄杏寿郎」

 

「そうか…俺の名は猗窩座だ

杏寿郎、何故お前が至高の領域に踏み入れないか教えてやろうか?」

 

「人間だからだ

老いるから、死ぬからだ」

 

「それは違う

俺は知っている、お前の言う至高の領域など通り越している勇敢な人を」

夜去は誰よりも勇敢で、誰よりも優しい。

きっと血の滲むような努力をしたはずだ、大切な人や助けを求める人を救うために。

 

「そんな人間はいない、限られた時間の中では限度がある

だから、杏寿郎鬼になれ」

鬼の言葉は胸に響かない、何を言われようとも俺の心は動かない。

 

「老いることも死ぬことも

人間という儚い生き物の美しさだ」

老いるからこそ死ぬからこそ愛おしく尊い。

儚く限られた人生だからこそ人は夢に向かい真っ直ぐ進めるんだ。

大切な人と過ごせる時間も限られているからこそ、俺は一緒に過ごせる僅かな時間をも大切にしたい。

 

「それと少年たちは弱くなどない

何度でも言おう、俺は如何なる理由があろうとも鬼にはならない」

 

「そうか

鬼にならないのなら殺す」

 

「術式展開 破壊殺・羅針」

 

「炎の呼吸・壱ノ型 不知火」

後ろには怪我をしている人々がたくさんいる、俺が負ければ皆が殺されてしまう。

そんなことは絶対にさせない、二人の師範であり憧れの兄であるためにも必ず守り抜く。

 

────

鬼に面と向かって俺たちは弱くなどないと煉獄さんは言ってくれた。

その言葉に俺たちの心をどれほど救われただろうか。

 

俺と伊之助は目の前で繰り広げられる戦いを黙って見守ることしかできない、共に戦えないこと助太刀できないことが悔しい。

隙がなく入れない、動きが速すぎて目で追うので精一杯だ。

煉獄さんからは来るなと遠回しに言われているような気さえした。

 

「どう足掻いても人間では鬼に勝てない」

手足に力が入らない、傷のせいもあると思うがヒノカミ神楽を使うといつもこうなる。

夜去さんなら助けに来るなと言われ歩みを止めるだろうか、列車の中での夜去さんの言葉が頭に浮かんだ。

 

「素晴らしき才能を持つものが醜く衰えてゆく

俺は耐えられない、死んでくれ杏寿郎強く若いまま」

 

「破壊殺 空式」

鬼の攻撃を煉獄さんは目にも見えない速さで防いでいる、それでも少しずつ傷を負っている。

このままいけば、いつか致命傷を負ってしまう気がする。

俺が本の一瞬目を閉じた時には鬼の目の前まで煉獄さんは詰めていた。

激しい戦いの中でも周りが見えている、外から見ていたからこそ俺は長い戦いが不利だと気がついた。

 

「この素晴らしき剣技も

失われていくのだ杏寿郎、悲しくないのか!」

 

「誰もがそうだ!

人間なら」

日輪刀を持ち鬼と戦う煉獄さんの姿は夜去さんと何処か似ている、背中も大きく折れてしまいそうなほど腕も細くはない。

二人が師弟のように思えた、夜去さんが煉獄さんを師範と呼んでいる姿が何となく想像できる。

 

今の状況は無惨と一人で戦っていた夜去さんと同じだ、もうあの時と一緒は嫌なんだ。

一緒に戦いたい煉獄さんの力に少しでも俺はなりたい、足に力を込めゆっくりと立ち上がった。

 

「動くな傷が開いたら致命傷になる!」

待機命令!!」

俺と伊之助の動き出した足に歯止めがかかる、やはり力ない俺たちは見ているしかできないと思い知らされた。

 

「弱者に構うな杏寿郎!

俺に集中しろ」

 

「破壊殺・乱式」

 

「炎の呼吸・伍ノ型 炎虎」

 

────

竈門少年と猪頭少年が俺の手助けをするため立ち上がってくれた時は嬉しかった。

鬼殺隊の仲間のために行動できる優しい少年たちだ、二人がそう思ってくれただけで嬉しい。

でも俺は止めなければいけなかった、二人をここで死なせないためにも。

きっとこの鬼には勝てない、もし勝てたとしても自分の命を犠牲にしないといけないだろう。

 

でもいいんだ例え此処で死んだとしても、乗客全員と未来ある二人の勇敢な隊士を守れたのなら。

母の願いに応えられたのなら自分の責務を全うできたのなら死ぬことなど怖くない。

 

鬼の言う通り内臓は傷つき肋骨は折れた、俺が鬼に喰らわせた斬撃も既に完治している。

 

「どう足掻いても

人間では鬼に勝てない」

不思議と体は限界なのに力が湧いてくる、次の一撃が最後になると自分でわかる。

先程死ぬのは怖くないと言ったがあれは少し嘘になる、本当のことを言えば夜去と千寿郎、父上にもう一度会いたい。

 

俺は夢で見たように、二人を泣かせて悲しく辛い思いをさせてしまうのだろうか。

この場所から逃げてしまえば生きて帰れる、でもそうしたのなら二人の憧れの存在ではいられない。

俺はずっと憧れの存在であり道標でありたい、だから最後の最後まで戦い抜く。

 

「俺は俺の責務を全うする

ここにいる者は誰も死なせない」

一瞬で多くの面積を根こそぎえぐり斬るしかない。

鬼もこの戦いに決着をつける気でいる、今まで以上の技を使ってくるだろう。

 

「素晴らしい闘気だ

それほどの傷を負いながらも、一部の隙もない構え

やはりお前は鬼になれ杏寿郎!」

 

「そして俺と永遠に戦おう」

鬼の声など俺の耳には届いていない、聞こえるのは二人の弟が俺の名を呼ぶ声だった。

これからも返事をしてやりたい、稽古をつけてやりたい、でもそれはできなくなるだろう。

でも心配しなくていい、悲しまなくともいい、俺はいつも二人を見守っているから。

 

「破壊殺・滅式」

 

俺は母上の教えのような立派な人間になれただろうか、強く生まれた者の使命をを全うできただろうか。

父上と母上の子供として、炎柱として誇り高く生きられただろうか。

 

母上は強く優しい子の母になれて幸せでしたありがとうと言ってくれました、でも感謝するのは俺の方なんです。

母上のような心優しい人に産んでもらい、父上のような強き人に鍛えてもらった。

そんな二人に愛してもらって俺は本当に幸せでした。

 

「炎の呼吸 奥義 ・玖ノ型 煉獄」

ありがとうございます

母上、父上

ありがとう

千寿郎

 

 

 

 

 



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変わらないもの

鬼の襲来を知らせる衝撃が届くと同時に、怪我をした足に走る激痛に気がついた。

止血のために巻いてくれた綺麗な色の手拭いは真紅に染まっている、真菰さんの大切なものを血で汚してしまった。

血で濡れた手拭いに触れると真菰さんの笑顔を思い出す、一度も言えてはいないけど僕は貴方の笑った顔が大好きです。

そんな笑顔を奪わないためにも必ず生きて戻ると改めて誓った。

 

「夜去…」

朝にもいつも心配や苦労をかけてばかりいる、本当にごめんね。

でも安心して僕は君をおいていかない、また一人ぼっちには絶対させないから。

大空を自由に飛び、友達ができるその日までは僕が朝の拠り所でありたい。

 

「気を抜くと少し痛いだけだから

心配しすぎだよ」

 

「また案内をお願いしてもいい?」

 

「夜去に言われれば私は断れません

でも一つだけ、これからも私を隣にいさせてください

貴方を失ったら私は…」

君と出会えて本当によかった、共に過ごせた毎日は僕にとって掛け替えのない時間なんだ。

最期の最期まで一緒にいてと僕からお願いしたい、もしその先があるなら朝と一緒に生きていきたい。

 

「朝は僕の家族だから…

これからもずっと一緒にいてね」

 

「私が夜去の家族…

ありがとう」

朝は涙を隠すように、ゆっくりと空へと舞い上がっていった。

 

 

「杏寿朗さん…」

血だらけになり傷を負いながらも、乗客の皆さんや炭治郎さんたちを守る師範の姿が目に映る。

貴方のように弱き人々を助けられる、強く心温かい人に僕はずっとずっと憧れている。

 

「時の呼吸・六の型 常永遠」

二人とは距離が離れすぎている時の流れを遅くしても間に合わない、他の型を使う未来を見たが全て前と同じになった。

六と七の型は特に寿命を多く使う、でも後悔は全くない大切な人を助けれるのだから。

先程までの殺気と緊張は消えた、目を開けると飛んでいる鳥、揺らいでいた木々も止まっていた。

何度体験しても慣れる気がしない、止まっている光景を横目に見ながら二人の元へと急いだ。

 

拳は杏寿朗さんのみぞおちの前で止まっているのを確認して、ほんの少しだけ安堵した。

僕に鍛え上げられたこの鬼の腕は斬れない、助ける方法は間に割り込み防ぐ他にない。

 

日輪刀を両手で持ち力一杯握りしめ、二人の間へと割り込んだ。

鬼の鍛え上げられた腕は僕の腕の倍近くある、いつもなら弱気になっていたはずだ、でも今日は不思議と怖くない。

きっと今も二人の姉さんが見守り側にいてくれている、そして真菰さんの大切な手拭いが僕を守り杏寿朗さんを守ってくれるはずだから。

 

「千寿郎

必ず守るから…」

こんな状況でも嬉しいこともある、それは成長した姿を親友と二人で努力した日々の成果を師範に見せられることだ。

 

「夜去…

心を燃やせ」

旅立ちの日の親友の言葉が昨日のことのように思い出される。

それは師範が最後に言ってくれた僕たちに勇気をくれる大切な言葉、この夜を乗り越えられたらもう一度言ってもらいたい。

 

そろそろ時が流れ始める、もう一度日輪刀を強く握った。

 

 

「何をしているんだ……

夜去……」

 

「杏寿朗さん、すみません

勢いを殺せませんでした…」

鬼の一撃は凄まじく勢いを殺せなかった、気がつけば炭治郎さんたちの近くまで吹き飛ばされていた。

幸い動けない今を狙って鬼も攻撃をしてこない、きっと皆と同じく起きたことに驚いているからだ。

 

「夜去さん

血が…血が…」

鬼の攻撃を受け吐血が止まらない、きっと内臓が傷ついたのだろう。

前のように呼吸を何度もは使えなくなるかもしれないけど、命に別状はない大丈夫ですと伝えたい。

 

「夜去!

何故、俺を庇ったんだ…」

師範の震える声はいつもの声とは違い、少しだけ可笑しかった。

杏寿朗さんが僕の名前を何度も何度も呼んでくれていることが心から嬉しかった、それは大切な人が今も生きているといるという証だったから。

庇う理由、助ける理由も全て貴方が僕に教えてくれたんです、約束も教えも全て大切に胸に留めている。

 

「お前は誰だ?

何処から現れた?」

上弦の鬼の声は歓喜に震えている、そして不気味な笑みを浮かべ問い掛けてきた。

朝までの時間を繋がないといけない、戦える人は此処に僕以外残っていない。

日輪刀を持ち鬼の元へと歩もうとした時、誰かに強く手を握られた。

それは師範の手だとすぐに気がついた、稽古をする時に添えてくれた暖かく大きな手だったからだ。

 

「少し行ってきます…

炭治郎さん、伊之助さん

お願いします」

一緒に来てくれようとした二人に杏寿朗さんを守ってくださいという大切なお願いをした。

僕が勢いを殺せなかったせいで杏寿朗さんは肋骨が折れた、身体中の傷も深くこれ以上戦えば命に関わるかもしれない。

 

ぼろぼろと涙を流している二人からいつもの元気なお返事を聞くことはできなかったけど、強い心を持っている人たちだからきっと大丈夫。

後ろは振り向かず、固く僕の腕を握る師範の手をゆっくりと地面に置き前へと進んだ。

立ち上がろうとした杏寿朗さんの腕を炭治郎さんたちは離さないように、来ないように握ってくれていたのを見て安心できた、

 

 

「名前を聞かせてくれ

俺は猗窩座だ」

呼吸が使えずに戦えない今、何をしてでも朝までの時間を繋ぐしかない。

目の前にいる上弦の鬼に不思議と嫌悪感はなく、お話をしてみたいとさえ思った。

 

「明月夜去です」

 

「夜去

俺は弱者が嫌いだ

虫唾が走り、反吐が出る」

この鬼の気持ちが少し僕にもわかる、大好きな姉さんたちの力にもなれず、大切な人も助けることのできない、過去に戻る前の何者でもない自分が嫌だった。

過去に戻っても助けられない人たちも大勢いた、今でも昔と変わらない泣き虫で何度も心折れる弱いままだ。

でも救えなかった人も含め多くの人がありがとうとこんな僕に感謝してくれた、だから今では本の少しだけ自分が好きになれた。

 

「俺はもっともっと強くなりたい

夜去も鬼になり俺と一緒に戦い高め合わないか?」

鬼になれば普通に暮らしている人たちの幸せな日常を奪ってしまう。

僕は人々の幸せな日々を守れる人でありたい。

 

「猗窩座さんの気持ち、少し僕にもわかります

でも鬼には絶対になりません」

きっと人だった時、命に代えてでも守りたい大切な人が猗窩座さんにもいたんだ。

この人に大切な記憶を取り戻してほしい、相手もきっと望んでいるはずだから。

 

「杏寿朗と同じだな

何故ならない?鬼になれば何年でも鍛えられる

強くなれる、至高の領域に踏み入れるんだぞ」

どれだけ鍛えても超えられない壁が誰にでもある、でもその壁を誰もが越えられる時があるんだ。

それは大切な人のために自分の力を使う時、その時人は猗窩座さんのいう至高の領域に踏み入ることができる気がする。

 

「力だけが強さではないと思います」

 

「夜去は杏寿朗に似ているな

俺と意見は合わないなら、死んでくれ」

攻撃の構えを取るのを確認して、もう一人の姉から受け継いだ日輪刀を鞘から抜いた。

 

「忘れられるということは悲しいことです

きっと優しい貴方の帰りを待ってくれている人がいます…」

やはりこの人の拳からは大切な人を守りたかったという想いがひしひしと感じる。

 

「俺の何がわかる

人だった時の記憶など遠の昔に捨てた」

力のこもった一撃を喰らい手からは日輪刀は落ち、立っているられなけなった。

意識を保っているのが限界だ、感覚を失い身体はもう痛くない。

 

「太陽か…

次に会った時は決着をつけよう」

鬼殺隊士として思ってはいけないことかもしれない、でも僕はこの人を救ってあげたい長い暗闇から解放してあげたいと思った。

カナエさんのように鬼にも寄り添える強い人になりたい、この救いたいという想いは間違っているんだろうか。

 

「……いつか

聞かせてください…」

太陽の光から逃げるように森の方へと走って行く姿を見届けた。

 

 

杏寿朗さんが二人の肩を借り此方に来てくれているのが見える、傷が開いたら大変だから無理して動かないでほしい。

目を閉じていると僕の顔に暖かい手が添えられた、隠そうと思い目を瞑っていたのに涙が溢れ出してきた。

 

「目を開けてくれ

すまない一人にして、本当にすまない」

そんなに謝らないでほしい、僕が聞きたかったのはその言葉じゃない。

 

「僕たちは

杏樹郎さんに…のような人にずっとずっと」

 

「話したらダメだ

これ以上傷が開けば夜去が危ない、お願いだ」

杏樹郎さんと共に炭治郎さんたちも僕を止めている、でもこの想いを伝えられずにはいられなかった。

 

「多くの人を助けられる、…強く心温かい師範のような人に…なりたかった

そんな杏樹郎さんのような人に…

僕たちも少しは…なれたでしょうか?」

ずっと聞きたかった、これは親友と僕の約束であり夢だから。

 

「当たり前だ 、夜去は俺を守り此処にいる者全員を守ってくれた!

誰よりも強く…誰よりも心温かい」

これは僕と千寿郎の二人に贈られた言葉、二人で努力した日々を褒めてくれ気がした。

そして大きな手で優しく頭を撫でてくれる師範がいた、言葉にできない想いが全て涙に変わり溢れてくる。

 

「俺は責務を果たせなかった…

夜去を守ることができなかった」

 

「そんなことはありません

杏樹郎さんは…僕を守り、救ってくれました…」

今こうして笑顔でいられることが、杏樹郎さんが僕を救ってくれた何よりの証拠だ。

だから自分を責めないでほしい、責務を全うした自分を誇ってほしい。

貴方の勇姿を見て沢山の人が勇気をもらった、僕もその一人なんです。

 

「……」

 

「煉獄さん」

下を向く杏樹郎さんを見て炭治郎さんたちも心配をしている。

内臓が傷つき呼吸をするだけで胸が痛い、きっと少し大きな声を出すだけで痛いだろう。

それでも、僕はこの言葉を師範に伝えたかった。

 

「心を…」

 

「…燃やせ」

最後まで言わなくても師範が続きを言ってくれた。

下を向いていた顔は自然と上がっていた、この言葉を僕が知っていることに少しだけ驚いているみたいだ。

 

「これからも…

杏樹郎さんの背中を…追いかけたいです

師範はこの先もずっと…僕たちの」

 

「憧れです」

 

 

「朝みんなに届けてあげて」

朝には杏樹郎さんや炭治郎さんの勇姿を届けてほしい。

もう誰の元へも訃報は届かない、誰も届けなくていい。

 

「夜去は本当に…」

朝が飛んで行くのを見届け、ある女性が来てくれるのを隠の人に無理言って待たせてもらっている。

その人が来てくれるまでは意識を保っていたかった。

 

「夜去…」

震えている声で僕の名前が呼ばれた、こんな傷だらけのぼろぼろの姿でごめんなさい。

 

「……」

真菰さんの僕を胸に抱き寄せ、細い腕で優しく抱きしめてくれた。

片腕で冷たい体を温めるように背中を撫で、もう片方の手で頭を撫ででくれた。

血で汚してしまうからあまりしないでほしい、それに周りの人に見られて恥ずかしい。

 

「ありがとう

私の元へ帰ってきてくれて」

 

「お帰りなさい夜去」

甘く優しい真菰さんの匂いに包まれると、急に眠たくなってきた。

心の中でただいまと言い、意識を保つのを諦め真菰さんの胸で眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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紡ぐ

「ただいま…」

目が覚め隣を見ると、カナヲ姉さんが僕の腕を握ってくれていた。

眠っている横顔からは疲労を感じる、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

声を聞きたい、話したいことが沢山あるが起こすことはできない。

負担をかけてしまう、寝ている時間だけでもゆっくりと休んで欲しい。

 

この部屋は重症の人が運ばれる場所だが、隣に置かれているベッドの上は綺麗な状態のまま保たれていた。

静かだった鼓動は速くなり、冷や汗が出てくる。

全てが夢だったのかもしれない、嫌な考えが何度も脳裏をよぎる。

 

まだ本調子ではない体をそっと起こし、握ってくれていた手をゆっくりと離す。

華奢な背中に毛布をかけ、出来るだけ音を鳴らさないように部屋を後にした。

 

内臓が完治していない状態で走ったせいか、呼吸が少し苦しい。

他の病室を探し終えると、不思議と訓練場の方へと足が動いていた。

近づくにつれて、竹刀と竹刀の当たる音がどんどん大きくなっていく。

履物を履くのも、呼吸が苦しいのも忘れ訓練所の中が見える下窓の元へ走った。

 

「煉獄さん

悔しいです…」

目の前に靄がかかっている、拭っても視界は晴れない。

頬を強くつねると痛みが襲う、この痛みが現実だと証明してくれる。

 

「俺も同じだ…

だがどれだけ泣き言を言っても時間は止まってくれない

前を向き、生きていくしかない」

三人が向ける眼差しは昔と何も変わっていない、憧れの炎を見る瞳は星のように輝いている。

継子にしてもらいたかった、共に戦いたかったと話してくれた時の悲しそうま顔は今でも忘れられない。

 

「助けられるように強くなろう

心配しなくていい、俺が必ず導く」

成長を見届け、また共に戦いたかったと思う。

今度こそ杏寿朗さんのようになりたいと、成長していく姿を見届けてあげてください。

 

「煉獄さん…

よろしくお願いします」

鮮明に焼きついた憧れの炎が、記憶の中だけでなく手の届く所で導いてくれる。

何も心配することはない、強く逞しい人たちだと知っているから。

 

傷の心配はあったが、四人が共に稽古する姿から目を離せなくなっていた。

邪魔しないためにも声はかけない、いや外からこの光景を見られるだけで僕は本当に幸せなんだ。

 

────

手の中にあった温もりがなく、急いで目を開けるが離さないように握っていた腕はない。

少し肌寒いかと思い掛けた毛布は私の背中に掛けられている。

 

真菰さんが傷だらけの夜去を担いで帰ってきた時は頭の中が真っ白になり、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。

私は側にいることしかできない、目を覚ました時寂しくないように声をかけてあげたかった。

それすらもできなかった自分に苛立ちを感じる。

 

「何処なの夜去…」

思い当たるところは探したが姿はない、先程までの苛立ちが不安へと変わり恐怖へと変わり始める。

私にとって夜去を失うということは、何よりも恐ろしい。

 

訓練場に近くで庭にある足跡に見つけ、無事を願いながら足跡を辿る。

最近は炭治郎たちが炎柱様と稽古をしていた、安静にしないといけない四人は姉さんによく怒られている。

でも今はカナエ姉さんも、しのぶ姉さんも外に出ていていないので思う存分稽古に励んでいると思う。

 

足跡の終わりに、蝶屋敷の入院着を着た最愛の弟の姿が見えた。

両足を抱え込むように座り、訓練場の中を覗き涙を流しながらも笑っていた。

その表情を見れるだけで、私は幸せだ。

 

「夜去」

名前を呼ぶと慌てるように振り向くと、しばらく両手で顔を覆い下を向いた。

隣に座り一緒に訓練場の中を覗く、少し私からしたら見慣れた光景だが夜去には違って見えるのかな。

我慢しなくてもいいのに、声を押し殺して泣く夜去を強く抱きしめた。

 

「カナヲ姉さん

杏寿郎さんいますよね…」

 

「うん

夜去が守ったんだよ

炎柱様の未来、家族の笑顔、そして炭治郎たちの心も」

皆を守るために、一人で朝まで戦い続けていたことを聞いた時は胸が苦しかった。

二度と一人で戦わせたくない、夜去が傷つくのに私は耐えられない。

 

「よかったです…」

頭を撫でていると、落ち着いたのか体を預け眠ってしまった。

まだ安静にしていないといけない、早く病室へ運びゆっくり休ませよう。

 

黙っていなくならないでと、次に目を覚ました時に怒らないといけない。

どれだけ心配したか、私にとって夜去がどれほど大切な存在かわかって欲しい。

 

何よりも先に言わないといけない、言葉を忘れてしまっていた。

 

「おかえり夜去」

 

────

「しのぶさん

杏寿朗さんたちはどうですか…?」

やれやれとため息が溢れる、自分が一番重症なのにも関わらずいつも四人の容態を聞いてくる。

安静は必要だが四人の怪我は治っている、でも夜去は内臓まで傷ついていたこともあり今も満足に動けない。

そして前のように呼吸を何度も使えない体になった、このことは心配をかけたくないという夜去の願いで誰にも話していない。

 

「四人とも元気、少し大人しくしてほしいくらい

それに比べて夜去は…」

四人が元気だと聞き嬉しそうに笑う、もっと自分のことを心配してほしい。

屈託なく笑う、愛らしい姿を見ると私も強く言えなくなる。

 

でもカナヲから黙っていなくなったことを聞き、一度は私と姉さんで怒っている。

私たちの言葉は届いていると思う、なので今日は何も言わないであげよう。

 

「元気です」

少し頬を膨らませ、拗ねたように言う姿は可愛く、可笑しい。

張り詰めていた心が和むのを感じる。

 

「だから

会いに行きたいです…

元気になり、心の準備をして会いたいからと四人を拒んでいた。

それも全て相手を想ってのことで、夜去の優しさだと知っている。

 

 

「今日じゃなくても

明日も明後日もあるから…」

病室の前に来ても中に入ろうとしない、私の後ろに隠れ中を覗いている。

手は冷たく震えているいるのに、首を横に何度も振り私の提案を断った。

外から見守るつもりだったが、今の夜去を一人では行かせられないと感じた。

 

「私も診察があるから

一緒に行ってもいい?」

申し訳なさそうな顔をするので、額を痛くないように優しく叩いた。

弱いところを見せてほしい、私は夜去の強いところばかり見たくない。

 

────

「また稽古に行くんですか?」

 

「胡蝶か…

うむ、そのつもりだ!」

もっと強くならないといけない、今の自分では隣に立ち戦うことさえできなかった。

いつもより声色が明るい、気のせいだろうか。

 

「もう少し待ってあげてください」

困ったように笑い言った、珍しく背筋の凍る笑顔ではないことに驚きを隠せない。

帰ろうとする見舞いに来てくれた千寿郎を呼び止め、言われた通り待つことにした。

 

「体は…もう……大丈夫ですか?」

胡蝶の背後から弱々しい声が聞こえる、誰かがいる気配は感じなかった。

声を聞いただけで涙が出そうになる、お館様と同じで胸が温かくなる声。

 

「すっかり元気だ」

未だ体中に包帯が巻かれている、自分が一番酷い怪我なのに俺たちの心配をしている。

嬉しそうに笑う姿は、太陽に照らされ神々しいまである。

眩しく目元に手を持って行くまで自分が涙していることには気が付かなかった。

 

「夜去

……本当にすまなかった」

結果として誰も死んではいない、それでも上弦の鬼と戦うべきなのは柱である俺だった。

希望の若い芽を摘ませないためにも、柱として前に立たないといけなかった。

 

「謝らないでください」

傷だらけの姿を見て、申し訳なさと後悔が波のように押し寄せてくる。

謝罪の言葉しか浮かんでこなかった。

 

「僕のお願いを、一つ聞いてください

それで全部なしです」

 

 

「胡蝶…

本当にあんなことでよかったのだろうか…」

俺が自分を責めないように、言ってくれたことだと知っている。

何もできない自分に落ち込む、最愛の弟の心さえも夜去は照らした。

 

友達になってくれませんか?

 

三人で一緒に稽古がしたいです

 

「幸せそうな、あの笑顔が答えだと思いますよ」

両腕で目元を覆う、夜去がここにいなくて幸いだ。

こんな自分の情けない姿を見てほしくない、どんな時も格好いい姿だけを見ていてほしい。

 

「お人好しすぎますよね…」

夜去の話をする時、いつも顔を紅潮させる。

色恋に疎い自分でもわかる。

 

「胡蝶も惹かれてるんだな」

 

「なにを……

はい…どうしようもなく…」

いつもの冷静さが嘘のような慌てぶりだ。

もやもやとした気持ちはあるが、素直に応援したいと思った。

 

後ろに倒れ込み天井を見上げる。

自分が死んでいたらと考えると体の震えが止まらない。

幼い弟にどんな思いをさせていただろう、息子に先に旅立たれる父の気持ちはどれほどのものか。

 

「稽古にいかないと」

成長を見届けたい後輩ができた、もう一度父とわかり合いたい、何より夜去と千寿郎の笑顔をこの先も見守りたい。

今は生きたいと、死にたくないと強く感じる。

だからと言って自分の信念を曲げ逃げるつもりはない、俺には母との大切な約束があるから。

 

「あまり無理はしないでくださいね」

守る存在でありたい、いつの日か夜去をこの手で救いたい。

 

瞳を閉じると、優しい母の姿が浮かんだ。

美しく、強く、心優しい母は誰かを連想させる。

 

「そういうことか…」

だから心奪われ、惹かれてしまうんだな。

天にいる母に新たな約束を誓い、竈門少年たちが待つ訓練場へと急いだ。

 

────

任務を終えて、数日ぶりに蝶屋敷に戻った。

藤の家で休むことなく家路を急いだが、すっかり真夜中だ。

顔を見たかった、任務の間も夜去が気がかりで仕方なかった。

 

蝶屋敷に中へ入ろうとした時、ふと見上げると屋根の上で満月に照らされる人影が見えた。

 

「こんな姿で会えないよ…」

高鳴る胸を手で押さえ、身だしなみを整えるため浴室へと急いだ。

こんな私でも、夜去には綺麗な姿を見てほしい。

 

「夜去」

驚き屋根の上から転げ落ちそうになるから、私まで慌てて隣に駆けつけた。

 

「カナエさん…

おかえりなさい」

隣に腰を下ろし自分の鼓動の大きさに気がつく。

夜風に当たり肌寒いはずなのに顔と体は驚くほど熱い。

 

「ただいま

私がいない間も大人しくしてた?」

涙を浮かべながらも、幸せそうに今日の出来事を聞かせてくれた。

夜去をこんな風に笑顔にできる人が心から羨ましい。

 

 

「カナエさんと初めて話した日も満月でした」

 

「そうだったね…

何かあった?私に聞かせて」

 

「隠し事はできませんね」

下を向いたまま、震える自分の手を抑えている。

例え私に話せなくても、少し嫌だけど他の誰かには相談して欲しい。

一人で抱え悩み、苦しむことが一番いけないことだから。

 

「あの人はきっと多くの人を殺し、喰べています

それでも僕は救いたい、長い長い暗闇から解放してあげたい

これは鬼殺隊の一員として、持ってはいけない感情ですよね」

悲しそうに話す夜去の姿は、夢の話をした日の自分のようだった。

私以外の人に相談できるはずがない、誰かには相談してほしいと思っていた先程の自分を恨んだ。

鬼のために苦しみ悩み涙を流せる人、私の愛しい人は強くどこまでも優しい。

 

「多くの人から間違ってると言われ、軽蔑されるかもしれない

でも途方に暮れている人を救いたいという夜去の想い

私は間違ってるって絶対に思わない」

ぼろぼろと涙する夜去を胸に抱き寄せた。

他の人には理解できない想い、受け止め支えてあげられるのは自分だけなんだ。

例え鬼殺隊士の皆を敵に回しても、私だけはずっと味方。

 

「僕に救えるでしょうか…」

 

「大丈夫、大丈夫だよ」

誰にも話せず溜め込んでいたと思うと心が痛む。

今日だけ夜去の姉でありたい、絶対に離れない一人にさせない。

 

「一緒に歩いていこ」

鬼を救いたい、鬼と仲良くなりたい、似た夢を持った二人。

同じ道を歩めることが嬉しい、夜去が心折れそうになった時は私が支えるんだ。

鬼殺隊士が鬼を救うという奇跡を、私はずっとずっと信じる。

 

「ありがとうございます」

やっぱり私は夜去が狂おしいほど好きで、心から惹かれている。

全てが終わる日までこの先も想いを隠せていられるだろうか。

 

まずは今日を姉として姉として乗り越えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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