小説版:【仮面ライダーゼロワン】~天津課長はお食事会を開きたい~ (YURitoIKA)
しおりを挟む

【───刃 唯阿───】

新連載です


 ───仮面ライダーエデン/エスと或人達を巡る、楽園騒動からはや数ヶ月____

 

 

 

 事態は順調に収まり、街の復興も進みつつある。

 

 概念と化したアークと、アズとの決着は未だ着けられていない。───が、それでも人類はいまある今日を生きていく。一旦の平和の中で____

 

 

 

 というのだが、ここに一人、平和の中で(もが)く人間が。

 

 

 

「誰かとご飯を食べたい」

 

 ____ずばりこれである。

 自分の中の素直な気持ち。天津垓にとっては、これ以上にない願い。

 

「どう思う?さうざー」

 

 犬型ロボット計五匹、さうざー達にチラリと視線を送る。

 するとさうざーは、『ワンワンワンワン!!』と可愛げな鳴き声をあげる。

 

「うむうむ。やはりそう思うか。私も同意見だ。事件が終息しつつある今、必要なのは打ち上げ、パーティー。息抜きだ。

 ____だから私は、お食事会を開こうと思う。そう、名付けて“皆の為に、()()()()お食事会開こう大作戦”だ。サウザー課諸君、異論ある者は?」

 

『ワンワンワンワンっ、ワンワン!!』

 

「よし、決まりだな。それでは早速支度(したく)を始めよう」

 

 残念ながら、サウザー課において歯止めの“は”の字も無いのである。

 

 ┗┓┗┓┗┓

【刃 唯阿/仮面ライダーバルキリー編】

 

 

 

 AIMS本部休憩室にて____

 

「なんの用だ」

 

「私とお食事会を開かないか?いや、開きたくないか?」

 

「断る」

 

「よし、そうか」

 

 ___________________完。

 

 

 

「じゃないじゃないじゃない。何故断るんだ、ゆあ」

 

「何故もなにも、お前とはそういう関係ではないからだ」

 

 きっぱりと切り捨てる唯阿。半分程残っていたコーヒーを一気に飲み干して、すぐにその場から立ち去ろうとする。そこに、

 

「分かっているとも。私がアークを生んだ元凶であることも、私が君達を散々苛酷な扱いをしたことも。それについては反省している。しかし、反省したところで許されるわけではないし、だからこそ私なりの出来ることをやってるではないか、ゆあ。お食事しよう」

 

 立ち去ろうとする唯阿を、早口で塞き止める垓。

 しかし、一向に唯阿は顔色を変えない。ひたすらに、軽蔑した表情。

 

 ____実際のところ、天津垓の法的処置はかなり難しい。

 被害を考えれば、死刑もおかしくはない。が、今は人類のデータ化も、ヒューマギアという技術革新さえ起こされた新時代。往来の法律も、極端に変更されている部分もある。

 

 法律の改定が進みつつある、この不安定な世の中は、日本だけに広がるものではなく、世界各地で起こっている。それにより、紛争の数も増え、武力介入を起こすテロリストも増えつつある。

(レイドライザーの量産は、そのような軍事的責務、対テロリスト用の計画でもある)

 

 新時代という言葉は、聞こえは良いが、世論、世間においては厄介事の積み重ねだ。

 

 そうした一面と、ZAIA及び飛電インテリジェンスの内部摘発のこともあり、彼の処置は厳重監視というもの。もっとも、誰が監視してるかは、天津垓本人も知らされていない訳だが。

 

 

「知っているとも。確かに、お前のおかげで助かった一面もあった。」

 

 天津垓の活躍は、アーク事件に大いに役立った。というのは、正論で間違いない。(元凶だが)

 

「けど、それはそれ。これはこれだ。仕事においての共闘関係。それ以上も、それ以下もない。食事なんてもっての他だ」

 

「......、わかったわかった」

 

 両手をぶらぶらと振って、降参の意をみせる垓。しかし、まだ道は塞いだまま。

 

「つまりそういうことだな、ゆあ」

 

「っ?つまりとはなんだ」

 

「____いや、元から知ってはいたさ。ずばり君は......ツンデレなんだな?」

 

 その場一帯の空気が固まる。

 

「............は?」

 

「いやはや、私も最近の“流行り”というモノには敏感でね。雑誌やネットを駆使して調べているのだよ。普段はツンツンしてるけど、たまにデレるアレ。そう、ゆあ。君はまさにそのツンデレだろう」

 

「言ってる意味が分からない」

 

「隠さなくてもいい。彼にもよく発揮してるじゃないか」

 

「か、彼とは誰のことだ」

 

 唯阿にも心当たりが在るのか、少し声に動揺がじる。

 

「不破諌だよ」

 

「............何故アイツの名前が出てくる 」

 

「ほほぅ。なぜ、か。知っているぞぉ?不破君が施設で寝ているとき、君が隙をついて彼の頭をモフモフしていることを。さぞかし幸せそうな顔をしていたなぁ」

 

「......」

 

 遂には黙り込む唯阿。図星である。

 垓は言葉の猛攻を止めない。続けて、唯阿の黒歴史(見られちゃアカンやつ)を晒け出す。

 

「あと不破君の寝顔を専用フォルダに保存しておいたりとか。あと君が毎日書いている日記には毎回不破君が登場することとか。あとは不破君が主人公の二次創作小説を五六本投稿した───」

 

「や、やめ、やめろぉ!!」

 

 

 唯阿は絶叫をあげるが、垓は未だ尚余裕の笑み。

「いやぁ、別に───」と優しく彼女の肩に手を置き、

 

「そういうのが嫌いなわけじゃないさ。つまり君は私にも“ツン”を発揮しているのだろう?安心したまえ。いつでも“デレ”てくれていい。よし、お食事会を____」

 

「ッッッ!!

 

 い

 い

 か

 げ

 ん

 に

 し

 ろ ブ ラ ス ト フィ ー バ ー」

 

「ッッ!?───ケバブゥ─────ッゥ!!?」

 

 唯阿の右手から繰り出される、対人間用とは思えない豪快フルスイングパンチ。

 垓はなす術もなく、後ろへと吹き飛ばされた。

 

「____な、なに、を......ぅ」

 

「帰れぇ!!」

 

 最後にこれ以上にないほどの叫び声をあげて、唯阿は立ち去るのであった。

 

 

 

 ┗┗┗【今回の結果:失敗】┓┓┓

 

 

 

 ┗┓┗┓┗┓

 サウザー課本部にて____

 

 

 

 殴られた左頬を保冷剤で冷やしながら、さうざー達と反省会を開く。

 

「みりー、今回は何が悪かったと思う?」

 

 さうざー組次男、みりーは『ワォン』と吠える。

 

「そうか、今回はシチュエーションの問題か。確かに要求するだけでは駄目だな。私としたことが甘かった......それではどうすれば───ん?」

 

 ふと、垓は置いていた新聞に目線を向ける。そこには、流行りの作品、『不滅の刃』の記事があった。

 

「......っ、............んん!そうだ、良い案を思いついたぞ。びりー、さっそくテレビをつけたまえ」

 

 

 

 

 

「待っていたまえ、不破諌......フフフ」

 

 

 ───つづく───

 

 




天津課長が捕まっていない理由をずらずらと
書きましたが、ここら辺の深掘りはまた後程ということで。

今回のストーリーの上で、
「なんでこいつ捕まらんのや!」と思われる方が
一定数いると思うので、その方々の為に設定を
付け足しました。
____あくまでほのぼのストーリーなので、
最後まで足湯に浸かっている気分でお楽しみください。

ではでは(・/-\・)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【───不破 諌───】

第二話です!


 

 

 

「『ブレイクホーン!』......変身」

 

 

 

 暗闇に、五つの黒光が駆ける。

 

「『パーフェクトライズ!───Presented byZAIA』」

 

 サウザー課のスーツ(ライダースーツ)に身を包み、垓はアタッシュケースを手に取る。これにて、出勤の準備は完璧である。____出勤もなにも、彼が今から行うことが、果たして仕事といえるのか分からないが。

 

 サウザー専用のバイク、“マシンカイザー”に乗り込みエンジンを吹かす。

 

 コーカサスオオカブトを模したゴールドとマットブラックのボディに、メタリックパープルのライン。その姿は、古来の獣を思い出させる。

 ZAIAエンジンHQ-1000による大音声が、闇夜に轟く。

 

 ____二輪の金獣が、動き出す。

 

 

 

「さぁ、サウザー課の仕事を始めよう」

 

 

 

 ┗┓┗┓┗┓

【不破 諌/仮面ライダーバルカン編】

 

 

 

 抖抖抖荘二階。不破の部屋____

 

 ビンボーンっと、壊れかけのインターホンが鳴る。まるで貧乏と言われているようで、不破は腹を立てるが、実際彼はそこまで貧乏ではない。

 

 A.I.M.S.時代の給料もあり余ってるし、趣味が無い為に、そもそも支出が少ない。

 現在は、現A.I.M.S.部隊からの仕送りもある。彼にしてみれば、一人暮らしを始めたばかりの大学生みたいで気にくわないが。

 

「こんな時間に......なんのっ、用だぁ......?」

 

 ボロアパートといえど、彼の部屋は綺麗だ。不要な家具が全く無いのもあるが。

 ____不破は、ベッドから起き上がり、おぼつかない足取りでドアを目指す。

 

 現在の時刻は深夜の三時。いったい誰が____

 

 

 

 ガチャリッとドアを開ける。すると、

 

「やぁ」

 

 ドアを閉める。

 見覚えのある変な金ピカ仮面がいたが、気のせいだろう。

 

 ドアを開ける。

 

「やぁ」

 

 ドアを閉める。

 深夜三時だ、疲れているし、眠いのだろう。そういえば、A.I.M.S.隊員の尾野から貰ったメロンがあったな。あれで糖分補給でもしよう。

 

 そんなことを考えながら、再度ドアを開ける。

 

「言っておくが、私は君がアクションを起こすまで帰らないからな」

 

 今度は閉めない。

 かわりに、ハァとため息をつく。

 

「ZAIAの社____いや今はサウザー課の課長か。なんの用だ?変身までして。───もしかして敵か!?」

 

 仮面ライダーサウザーこと天津垓は、首を横に振る。

 

「いいや、今日ここに来た理由は敵襲ではない。もっと単純なものだ」

 

 不破は、アァ?と首を傾げる。

 垓は、そんな彼を意に介さずにアタッシュケースを開く。中には、なにやら見覚えのある鬼の覆面が。

 

「なんだ、それ」

 

「素晴らしい提案をしよう。ゴリラくん。君も鬼にならないか?」

 

「─────」

 

 唖然。不破は、“開いた口が塞がらない”という言葉の意味を、この場で理解した。

 

「なんだ、何故そんな驚くのだ。今の流行りだろう?」

 

「そもそも俺は流行りをしらん、あとゴリラ言うな」

 

「あ」

 

 垓は自分の失態に気づく。

 そうだ、この野良ゴリラが流行りに乗るわけがない。

 

「まぁいい。知らなくてもいいんだ。一緒に鬼の格好をして、お食事会を開こ───開きたくないか?」

 

「んなわけねぇだろ!こんな時間に部屋に突撃されて“はい、いいですよ”なんて言うヤツがいてたまるか!あとお前のどこが鬼なんだよ!」

 

「なんだと?しっかりとその目で見たまえ。サウザーの美しきこの五本の角、まさしく鬼だろう。おかげで子ども達には大人気さ」

 

「嘘が下手だな、お前」

 

 不破はもう一度、大きなため息をつく。

 

「上弦の鬼ならぬ、最上弦の鬼だな。角五本もあるし。ハハハハ」

 

「お前、多分だがちゃんと見てないだろ」

 

「何を?私は誰よりも流行りに乗る男だぞ。死に戻りの呼吸、千の型───領域展開!!

 ____ほら、これで合ってるだろう?」

 

「絶対に違うと思うぞ」

 

「えぇ......」

 

 垓は一度肩を落とすが、それでも挫けない。

 不破の肩に、ポンと手を置く。

 

「とにかくだ、ゴリラくん。私とお食事会を開きたくないか?」

 

「......あのなぁ、なんで“開きたくないか”なんだよ。そこは“開こう”じゃねぇのかよ。あとゴリラ言うな」

 

「なんでも何も、私はサウザー課の課長だぞ?他人にお願いをするなど論外のろろろんだ」

 

「そんなんじゃ一生お食事会は出来ないぞ、じゃあな」

 

 不破は、ガチャンッ!と思いきりドアを閉めた。

 ____暗闇の中ぽそりと取り残される、金色の仮面ライダー。

 

 

 

 

 ┗┗┗【今回の結果:失敗】┓┓┓

 

 

 

「やはり私では駄目なのか......とりー、どう思う?」

 

 さうざー組四男坊、とりーは『ワン!』と吠える。

 

「そう、か......やはり強気すぎたのか。もっと柔らかい姿勢で───柔らかい、姿勢......?」

 

 顎に手をあてて、考え込む垓。

 数分程「う~ん」と唸ったあと、頭の上に電球がピカりと光る。

 

「柔らかい姿勢、和み。和みと言えば、笑顔。笑顔と言えば____」

 

 彼の脳裏によぎる、一つの単語と一人の男。

 

ギャグ(飛電或人)だっ!!」

 

 天津課長の閃きに、さうざー達は『ワォォン!』と称賛の鳴き声をあげる。

 

「待っていろよ、飛電或人。───よし、そうと決まれば特訓だ。くわっど、ネットからありとあらゆるギャグの資料をかき集めるんだ」

 

 天津課長の命令に、くわっどは『ワォン』とまた吠える。

 

 

 

 

 

「はい、天津じゃ~~~ナイトぉぉ!!

 ____うむ、キレが足りないな」

 

 

 

 また、波乱の予感。

 

 

 

 ───つづく───

 

 




予定だと、次で最終回です。(元々短編なので)
天津課長はみんなとお食事できるのか、
彼の勇姿を、最後まで見守ってあげてください。



____ではでは!(・/-\・)/


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【───飛電 或人───】

最終回です。


【仮面ライダーゼロワン/飛電 或人】

 

 

 

「お疲れ様です。或人社長、コーヒーです」

 

「あぁ、イズ。ありがとう」

 

 飛電インテリジェンスの社長室には、暖かな日光が差し込んでいた。

 

 煌めく朝日。

 照らされるデスク。

 ちらりと横を見れば、そんな朝日よりも明るい、秘書の笑顔。

 

 二文字にして“平和”。

 ____となれば、この平和な朝に感謝の意を込めて一発ギャグでもかましますか───!

 

「そうだな、新イズにはまだ見せてないあのギャグを......」

 

「どうしましたか?或人社長」

 

「ふむふむ。イズ、俺の名刺取ってくれない?」

 

 或人は、デスクの端っこに置いてある名刺に指を差す。

 

 イズは、“僅か数十センチ手を伸ばせば届く距離なのに、何故私に頼むのか”____と疑問を抱きつつ、「はい、かしこまりました」と無駄のない動作で名刺を取り、或人社長に渡すのだった。

 

「ありがとう。では一発。─────」

 

 大気中の酸素という酸素を体に取り込み、身体中の血という血を沸騰させ、赤血球という赤血球にまで魂を込めて____

 

「名刺を見つめる、名シ───」

 

 が、

 

 

 

「はいドーォォォォンンッッ!!」

 

 

 

 バリリンッ!と粉砕される社長室のウィンドウ。

 飛び散る硝子と共に、或人社長の士気も熱気も吹き飛ばされる。

 

 一方イズは、かつてないほど目を丸くしている。

 

「だ、誰だあん───あん?」

 

 吹き飛んだ硝子の猛攻に、デスクを盾にして難を逃れた或人だっが、しばらくしてひょっこりとデスクから顔を出せば、そこにはバイクに股がる見慣れたライダーの姿。

 

 金色のスーツ。五つの角。睨むような紫の複眼。

 

 この姿にいい思い出はあまり無いが、それはそれとして、否が応でもその名を知っている。

 

「仮面ライダー、サウザー......天津課長っ!?」

 

「その通り。いつもであれば花丸な反応だ。が、今回は違う」

 

「いや、なんでバイクでここに......?」

 

「まぁ聞いておけ。私の渾身のギャグを____」

 

 一瞬の沈黙。

 マシンカイザーは咆哮を上げ(エンジン音)、ヘッドライトで或人達を照らす。

 

「チャリで来たならぬ............バイクで来たッ!!」

 

「─────」

 

「はい!天津じゃぁーーーーーナイトォォォ!!」

 

「ッ─────、......」

 

 またも沈黙。

 あたかも世界の時間が止まったようだが、“コチコチコチッ”と鳴り続けるデスク上の置時計がそれを否定する。

 もはや悪夢だ。悪夢と現状の違いは、これが現実ということだけ。

 

「どうした?笑わないのか?それともあまりの面白さに悶絶しているのか?そうだな。腹筋が崩壊した場合は、救急車を呼ぶべきなのか......?」

 

 検討外れにしては外れすぎな問題に、真剣に悩む垓。

 ただただ状況が理解できず、思考停止する或人。

 イズは____

 

「帰ってください」

 

 静かに、冷淡に、死刑宣告を告げるイズ。

 だが、そんなことでサウザー課の課長は食い下がらない。

 

「そう、か。さてはお前もツンデレなのだな?イィズゥ?」

 

「貴方の言っている意味が分かりません。あと帰ってください」

 

「ツンデレはみんな、指摘されるとそう言うのだ。つまりは図星。煮干し。ロボ要素にツンデレとは、なるほど新境地だな。実に面白い」

 

「意味が分かりません。あと帰ってください」

 

 ハッハッハッと笑う垓に対し、イズはますます不快な表情に。

 

 ちなみに、或人社長は未だに白目を剥いている。よっぽど垓のギャグがつまらなかったのか。

 ____いや、違う。どちらかといえば、“ブーメランが返ってきた”という表現の方が正しい。

 あの勢いの強さに比例する、ギャグのつまらなさ。もしかして自分のギャグも─────?

 

 そんな自問自答を繰り返しているうちに、白目になったというのが事の顛末である。救い用は、ない。

 

 

 

 しばらく垓とイズの睨み合いが続いたあと、或人社長はようやく我に返った。

 

「で、なにしにきたんですか」

 

「単刀直入に言えば、食事会を開き、開、開きたくないか?と思ってだな。ギャグは私からのプレゼントだ」

 

「食事会って......そこは“開かない?”じゃないんですか。あと窓は弁償してくださいね」

 

「私から誘うなど、あり得ない。私はいつだって誘われる側だ」

 

「じゃあ学生時代の時とか、友達から誘われたりしたんですか?」

 

「..........あぁ、もち、勿論」

 

 或人社長の質問に、垓は口ごもる。

 

「学校の休み時間とかなにして過ごしてました?」

 

「MDで音楽を聴い───じゃなくて、みんなで鬼ごっことかだな。良い思い出だハッハッハッ」

 

「正直に、言って、ください」

 

 ズイと垓に踏み寄る或人。鋭い眼差しによる圧力を前に、いくら課長といえど後ずさるしかなかった。

 

 “これは、地獄(ヘル)を彷徨った人間の眼だ____”

 

 

 

「───ない」

 

「はい?」

 

「───誘われたことなど、私には無い!」

 

 膝をつく天津課長。

 そうだ。唯阿と不破に追い返された時から、既に彼の心は限界だった。

 

「私は、私は、ずっと.......」

 

 誘われたかった____

 泣きすがるような声で、呟いた。その言葉には高貴さもない。甲高い笑い声すら混じらない。ただ普通の───人間の()()だった。

 

 はじめての、心からの叫び声だった。

 

「課長____」

 

「笑いたまえ。無様だろう。君の察する通り、私には友達もいない。生まれ持った才能を、我が人生に注ぎ込んだ。学力、次に貢献。名誉、名声。気持ちの良い、心地の良い言葉の響きが、私を包みこんだのさ。だが、次第に友人や、努力なんて言葉も消え失せた。この耳に、この頭に、この心に、そんなモノはいつしか存在しなくなっていたのさ」

 

 サウザーの変身が解かれる。

 それはさながら、彼が自分の心を晒け出すのを、具現化したようだった。

 

「最後の最後に生み出したのが、あの惨劇の渦(アーク)だ。そうだ、最初から私に食事会をする権利など......無かったのさ」

 

 これは自分への言葉でもある。

 現実を見ろ。弔いを知れ。大勢の笑顔を奪った貴様に、笑顔になる資格も、笑顔を求める資格も───無いのだと。

 

 だらしなく、泣き叫ぶ。

 かれこれ何十年もの間、彼は泣いていなかった。

 自分が正しい。自分が全て。自分が絶対。

 

 あの一年間でさえ、変わるに変わらないように見えたこの価値観だったが、もはや崩壊寸前だったのだ。

 そんなボロが、今現れただけ。

 

 溢れる涙。許されるはずがない。

 彼には、涙を流す資格さえも、無いのだから。

 

「これが最後じゃあ、ないでしょう」

 

 泣き叫ぶ彼に、一つの手が差し伸べられる。

 

「───」

 

「貴方は罪を犯した。けれど、まだ生きている。こうしてベルトを持っている。まだ、戦っている。するべきことは決まってるじゃないですか。そりゃあ性格に難はあるけど、それがあんたらしさなのは、何度も戦った僕がよく知っています。ね、イズ」

 

「───難がありすぎるようですが、確かにそうですね。実際、天津課長の活躍のおかげで、楽園騒動も無事収束しましたし。元凶は貴方ですが」

 

「あぁ、そうだよイズ。でも、この世には終わり良ければ全てヨシ───ていう言葉がある。さすがに現実だとヨシとはならないかもだけど、やることに意味がある。実際そうしてるだろ、あんたは」

 

「私は────」

 

 差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。

 

「それに、課長。あんたは、一歩踏み出してるんじゃないか?」

 

「......っ、何をだ」

 

「話を聞けば、昔なら同級生を誘うこともしなかったのに、今回は誘った。───誘うにしては、遠回しすぎるけどな。それでも一歩は一歩だ」

 

「─────」

 

「仲間も、いるしな」

 

 優しい笑顔をみせる或人。

 そんな彼につられるように、マシンカイザーから五匹の愛犬───さうざー達がひょっこりと顔を出す。

 

「さう、ざー?」

 

 名前を呼ばれて、ワォンと吠える。彼の笑顔は、昔から(いつだって)変わらない。

 

「よーし、こんな暗い話はやめたやめた!天津課長、言うこと、あるんじゃないの?」

 

「すまな......かった」

 

「そうじゃなくてさ。ほら、()()やりたいんじゃないの?」

 

「......っ、............」

 

 ふらふらとよろめきながらも、垓は或人を見つめ直す。

 

 覚悟の表情。

 過去との決別。

 自分らしさがなんたるか、アイデンティティなんて聞こえの良い自分は、捨てた。

 

「お食事会を開こう。みんなで、一緒に」

 

 言って───ごくりと息を呑む。

 否定されてもいい。言ったことに、意味があるのだから____

 

 しかし、或人社長は、彼の決意を無駄にはしない。

 

「あぁ。いいとも。なら今やっちゃおう───ッ!」

「───なに?」

 

 瞬間、

 

「ようやく出番か」

 

「待ちくたびれたぜ。俺は、待つのは嫌いなんだ」

 

「僕たちは~ヒューマギアだから~~ご飯なんて食べれないけどさ、パーティーなら、人数が多い方がいいよね!」

 

「迅の保護者は俺にしか務まらん」

 

「唯阿隊長がどうしても、と言うので」

 

「がやがやうるせぇなぁ。雷落とすぞ」

 

 社長室のラボが開くと、そこにはみんなが。

 

「な、ぜ、?」

 

「俺が呼んどいたんだよ。唯阿さんから、課長がお食事会を開こうとしてるって聞いてさ」

 

「君は─────」

 

「理由なんてどうでもいいじゃない!ほら、イズ、案内頼むなっ!」

 

「はい、かしこまりました。或人社長。天津課長もこちらへ____」

 

 

 

 ┗┓┗┓┗┓

 飛電インテリジェンス/レストランルーム____

 

 

 

「へい、魂の一貫!師匠に負けませんよ!」

 

「は、馬鹿弟子が。お前はまだまだ半人前だ」

 

 レストランでは、まごころ寿司の師弟コンビネーションによる寿司が振る舞われていた。

 

「ん~~~やっぱおいひぃーー!」

 

「刃、お前......そんな顔するんだな」

 

「あ」

 

「雷兄ちゃん取りすぎぃー!」

 

「ヒューマギアにも味覚機能が追加できるなんてな、こりゃすげぇ」

 

「......美味しい」

 

「おい迅、立って食べるな。座って食べなさい」

 

 かつての争いの面影は無かった。

 今在るのは、確かな和み。

 

「よ~し、ここはイズと俺の一発ギャグを!」

 

「だ、や、やめろ社長」

 

「......いや、いいぞ飛電或人。不破がどう笑うか見てみたい」

 

「おい刃!?」

 

「仕返しだ」

 

「俺のギャグを仕返しの道具にしないでぇ!?」

 

 

 

 ____一方、天津垓は黙々と寿司を食べている。

 今まで経験したことのない、大人数での食事。あまりにも騒がしい、憩いの場。

 

「どう?課長。楽しいだろ?」

 

 黙々と食べる課長に気づいたのか、或人は垓に声をかける。

 すると____

 

 

 

「あぁ、1000パーセント、最高だ───っ!」

 

 

 

 確かな笑顔が、其処には在った____

 

 

 

 ┗┓┗┓┗┓

 

 

 

 デイブレイクタウンの壁上____

 

 

 

 “静”に満ちた暗き夜。

 輝ける満月。

 

 広がる星々の元に、一つの影。

 

 否、六つの影。

 

 

 

 狼にしては小さい。五つの小さな影は、“ワンワン!”と吠える。

 

 それを従えるのは、黄金の獣。

 

 

 

「いい夜だ」

 

 戦いの始まり。

 いや、“これから”ではなく、彼の戦いは既に始まっている。

 

「罪の償い。一人でも多くの、1000パーセントの笑顔を守る。それが、仮面ライダーサウザーだ」

 

 誰に対する誓いでもない。

 自分への忠誠。迷い無き、彼の決意。

 

 

 

 

 

「さぁ、サウザー課の仕事を始めよう」

 

 

 

 

 

 これが、サウザー課の夜明け____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───おしまい───

 

 

 

 

 




ここまでお読みくださった方々に、
感謝感激雨あられちゃん。

はい、なんとか今日中に投稿出来ました。
長いようで短いお話でしたが、天津ロスの方々の寿命を延ばせることが出来たのなら幸いです。
あとはVシネを待ちましょう!w

次回作ももう決まっていますので、
それに関してはTwitterにてお知らせします。



____ではでは!(・/_\・)/


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。