ストライクウィッチーズ 大空の傭兵の軌跡 (sontakeda)
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プロローグ 思い出の写真

1946年、春。

7年前、ベルリンはネウロイの手によって侵略され、人々は国を、家を捨てた。しかし、現在はそんな侵略された国の復興が進められてる。そう、ベルリンからネウロイの巣が消えたことにより、また平和が訪れた。ネウロイの巣が勝手に消えたわけではない。数々のウィッチ部隊のおかげで、ネウロイの巣は葬り去ったのだ。どのウィッチも死闘を繰り広げたのであろう。しかし、個人的主観で注目するのであればこの部隊であろう。

 

501統合戦闘航空団 通称「ストライクウィッチーズ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~、やぁーっと休憩だー」

 

復興の手伝いをしていた少年。休憩をもらったらしく、瓦礫周辺の邪魔にならないところで、どかっと座って休憩していた。

 

「こりゃ一体何年かかることやら………」

 

周辺の惨状をみながらつぶやいた。ベルリン全域はネウロイの手によって破壊しつくされてしまった。これら全て建て直すとなると何年、何十年かかることなのかと、途方も無い年数に考えてしまう。

 

「ま、いつかは終わるか。一歩ずつ進めば……」

 

「あ、進也くーん!!」

 

遠くの方から大きな声で、少年の名前を呼ぶ声がした。声がする方向に向けると、こちらに向かってきているのが確認された。青い花の髪飾りを付けた扶桑の少女とみつ編みをしたブリタニアの少女だった。

 

「お、芳佳にリーネか。お前らも休憩か?」

 

「うん!バルクホルンさんからいい加減に休憩行ってこい!!って怒られちゃって……」

 

「芳佳ちゃん、いっぱい頑張ってたもんね」

 

「まーたぶっ倒れても知らねぇぞ?」

 

「あはは………」

 

「あははじゃねぇ!!」

 

進也の冗談に芳佳は何も言えず、照れ隠しのように笑ったが、進也にツッコミが入り、そのやり取りにリーネは思わず笑いが溢れた。

 

「私も一緒に休憩もらったけど、お邪魔じゃないかな?」

 

「えー?そんなことないよ?」

 

「でも……二人とも恋人だから……二人っきりが良かったかなって……」

 

少し頬を赤らめ、イタズラっ子ぽい顔をしながら確認をするリーネ。

 

「そ、そそそんなことないよ!!ねっ!?進也くん!!」

 

「まぁ、寝る前にいつも雑談してるぐらいだから別に居てもいいんじゃね?」

 

「っっ!!????」

 

「そうなの!?芳佳ちゃん!!」

 

恥ずかしすぎて茹でダコになりそうなくらい赤面する芳佳に対して、リーネはお宝を見つけたかのようなキラキラした目になっていた。

 

「進也くんの意地悪ぅ~!!!!」

 

芳佳の恥ずかしさから出た叫びに、進也とリーネの笑い声が混じっていた。

 

「そういえば服部は?」

 

一通りイジったことに進也は満足して、ふと思ったこと切り出してみた。

 

「静夏ちゃんは買い出しに行ってるよ?まだ本調子じゃないのに、自分から行くって」

 

「………どっかの誰かさんみたいだな」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「?」

 

進也の発言に、リーネには想像がついてるようで同意し、芳佳は全く分からなかった。

 

「ま、俺もその誰かさんに影響されてるんだけどな」

 

そんなセリフを言いながら、進也は黒い軍用ズボンのポケットから1枚の写真を取り出し、見つめていた。

 

「それなんの写真?」

 

「懐かしい写真だ」

 

そう言って進也は芳佳に写真を渡した。

 

「わぁ~懐かしい!」

 

「これ、みんなでブリタニアに居たときの写真ですよね?」

 

芳佳とリーネが見た写真は、2年前、ガリア開放ためにブリタニア連邦で作られた、501基地を背景にストライクウィッチーズ全員が集まって撮った写真である。芳佳の左隣には、どこかやりきった感じがする顔つきの進也の姿もあった。

 

「いま思うと、俺達最悪な出会い方してるんだよなぁ……」

 

「あはは………」

 

「私も……最初のほうは足立さんが怖かったです……」

 

「まぁその……すまん」

 

当時のことを思い出すと、進也は自分がしたことに申し訳無さがでてきて、謝罪の言葉が漏れた。

 

「でも、この出会いがあったから、いまここにいるんだよね」

 

「………ああ、そうだな」

 

写真を見つめる芳佳。その顔を見て進也はホッとするような、安心する気持ちになりながら当時のことを思い出していた。

 

 

 




初めまして。こういう書物は慣れていませんがそれでも楽しめたら幸いです。

ストライクウィッチーズ1期が放送されてからこういう妄想はしてたんですが書物にする気は無かったです。ですがこのサイトを見つけたら多くの方が、ストライクウィッチーズのSSを書いてて驚きました。それならば自分も、と思い書き始めました。

物語は一応RtBの終盤まで書くつもりです。それまでに4期が決定したら4期分も書こうと思っています。よろしくお願いします。


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第1章 ストライクウィッチーズ編
第1話 人間ネウロイ Aパート


アニメ1期4話後からの話となります


1944年、5月。

第501統合戦闘航空団、ストライクウィッチーズ基地、執務室にて。白い軍服を着た少女と緑色の軍服を着た少女達が、険しい顔をしながら話していた。

 

「ネウロイが消える?」

 

「ええ」

 

ありえない、と言いたげな顔をしてるのは坂本美緒、階級は少佐。冷静な顔をして話しているのはミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、階級は中佐。

 

「逃がしたとかじゃないのか?」

 

「いいえ、さっきも言ったとおり、出撃要請があって現場に向かうと、もうそこはもぬけの殻になってたみたいよ」

 

ミーナは、机の上の報告書を広げながら説明した。

 

「観測班の誤報かと思って調べてみたけど、間違いはなかったわ」

 

「ふむ……」

 

坂本は書類を見ながら顎を指で抑え、考えるような仕草をとった。

 

「ただ、面白い報告もあるわ」

 

「と言うと?」

 

「ネウロイが現れた現場に行くと、地面にネウロイの破片が確認されたの」

 

「ネウロイの破片があって、ネウロイが消えた………」

 

事実を確認して考えうる答えを察した坂本。

 

「まさか……ネウロイが倒されたのか!?」

 

「その可能性があるわね」

 

坂本と同じく、ミーナもその考えに行き当たったらしく同意した。

 

「一般人には無理だろ?」

 

「私もそう思ったわ、けどこの消えた日には、他のウィッチが出撃した形跡はないのよ」

 

「………ネウロイ狩りでもやってるのか?」

 

「だったら私達はお払い箱ね」

 

坂本の冗談にミーナは呆れた様子で軽くあしらった。

 

「とにかくそういう不可解なことがあるから、念の為気をつけてね」

 

「ああ、わかっ……」

 

坂本が返答しきる前に、基地全体に響き渡るようなサイレンが鳴った

 

「敵か!!」

 

坂本はすぐさま襲撃準備に向かった。

 

 

 

 

 

 

場所は森林地帯、その上には6人のウィッチが飛んでいた。

 

「敵は大型が1機だ、油断するな」

 

坂本は他のウィッチに注意を促した。

 

「ふぁ~、早く帰って寝たいなぁ~」

 

「少佐がいま油断するなと言っただろ」

 

「だって~」

 

眠そうに欠伸を手で覆い隠す仕草をしたのは、エーリカ・ハルトマン中尉。これでもスーパーエースのひとり。隣で緩みきった態度を叱っているのは、ゲルトルート・バルクホルン大尉。ふたりはカールスラント出身で相棒でもある。

 

「リーネ、宮藤、ペリーヌ、お前らも1機だけなら、だとは思うな。コアを破壊して消滅するまでは安心できないぞ」

 

『了解!』

 

坂本の忠告に気を引き締める3人。リネット・ビショップ軍曹と宮藤芳佳軍曹、そしてガリア出身のペリーヌ・クロステルマン中尉。3人の中では彼女が実力者だ。

 

「特に宮藤さん、これは訓練ではないのですわよ?もしあんな飛び方をしたら許しませんからね?」

 

「わ、わかってますよ!」

 

ペリーヌの余計な一言にムッとする宮藤。それもそのはず、初めての戦場で初めてストライカーユニットを履き、訓練も無しに一発で離陸に成功し、戦場に貢献したという逸話があるが、訓練ではその力を発揮されず、やはりというべきかド素人レベルだった。

 

「ったくお前ら……ッ!!」

 

坂本が再び注意しようとしたところ、長年ネウロイと戦ってきた経験か、気配を感じ取り右目の眼帯を外して魔眼を発動させた。

 

「いたぞ!距離4000!!大型ネウロイを確認!!」

 

坂本がおおよその距離を報告すると、ウィッチたちは真剣な表情になり、戦闘モードのスイッチが入ったようだ。

 

「どうやら今回はいるようだな……」

 

「?、どうかしたんですか?坂本さん」

 

「いやこっちの話だ、いくぞ!!」

 

「はい!!」

 

「!!、待って!!」

 

坂本の掛け声で一斉に飛び出そうとした瞬間、ハルトマンの視界の隅で、森林からネウロイに向かって何かが飛び出してくるのが見えた。

 

「なんか森から飛んでるよ!?」

 

「ウィッチか!?」

 

困惑するハルトマンとバルクホルン、その横で坂本が魔眼で謎の飛行物体を確認する。

 

「アレはウィッチじゃない!!」

 

「じゃあネウロイ!?」

 

「いや、ネウロイでもないぞ!?」

 

宮藤の発言を否定する坂本。リーネがその乗っている物体を確認する。

 

「なにか……白い板に乗って飛んでるみたいです!」

 

「ストライカーユニットじゃないのか!?」

 

リーネの報告に驚愕するバルクホルン。

 

「全機待機!!このまま様子を見る!!」

 

「て、手伝わなくていいんですか?」

 

「敵か味方か分からないからな、味方なら無線に報告が入るはずだ」

 

「な、なるほど」

 

(仮に例の犯人だとしたら……あの大型は……)

 

宮藤の疑問に坂本は理由を話した。そこには坂本の思惑があった。出撃前のミーナの話を思い出し、ネウロイが消える犯人だとしたら、ここであの大型ネウロイを倒せるとふんだ。

 

白い板に乗った謎の人物、顔は黒のローブで隠されてて確認できなかったが、その実力は只者では無かった。わかりやすく表現をするならば、人間とハエである。ネウロイが黒ローブの人物に赤いビームを浴びせようとするが、針の間を縫うかのごとく避けられる。目の前にビームの壁があっても急停止し、ほぼ直角に横に避け、ギリギリで当たらない間合いを維持していた。

 

「アイツ、すっごく上手くない?」

 

「あぁ、そこらのウィッチのレベルではないぞ」

 

ビームの避け具合に感心するバルクホルンとハルトマン。

 

「す、すごい……」

 

「あんな動き……見たことないです……」

 

「見事ですわね………」

 

後衛の3人も、素人目から見てもその動きは逸脱してることを理解した。

 

(あんな動き、ウィッチの動きではない………一体何者なんだ……?)

 

坂本はそのウィッチでもない飛行物体に不信感を抱いた。

 

様子を見続けてると、ある変化があった。黒ローブの人物は、腰に下げてる刀を抜刀していた。

 

「刀だと!?」

 

「近接でやり合う気か……!!」

 

意外な武器を取り出してきたことに驚愕したバルクホルンと坂本。刀でネウロイに攻撃するならば、ネウロイの目の前まで近づいて切りつけなければならない。つまりは銃で攻撃するより危険な攻撃方法なのだ。

 

しかし、そんな難しさも感じさせないように、黒ローブの人物は次々にネウロイを切り刻んで表面の装甲を破壊していった。すると、ネウロイの中からコアが発見された。コアを確認すると黒ローブの人物は急旋回し、コアに向かってトップスピードで突っ込み、すれ違うのと同時にコアを切り裂いた。

 

『………………』

 

「ひとりで……倒しちゃった……」

 

ひとりで大型ネウロイを倒したことに唖然とし、誰もが言葉が出てこなかったが、宮藤は思ってることが口に出てしまった。

 

ネウロイは白い破片となって消えていくのを確認すると、黒ローブの人物は森の中へ消えていこうとしていた。

 

「あ!帰ろうとしてるよ!!」

 

「逃がすな!!確保するぞ!!」

 

『了解!!』

 

坂本の指示に全員は、謎の人物の消えていった方向に飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

ひと仕事を終えたかのように、黒ローブの人物は白い板は布を被せ背中に背負うようにし、刀も鞘に収め森を出発していた。

 

「今日も1機、しかもなーんか様子おかしかったんだよなぁー」

 

独り言を言いながら今日の戦ったネウロイについて考えいるようだった。

 

「大型がこんなとこに単体で来るなんて………なにか意味があったのか………?」

 

そんな考え事をしていると、遠くの方からエンジン音が聴こえてきた。

 

「あ?ウィッチ?」

 

エンジン音が近づいてくるのが分かったのと同時に、黒ローブの人物は走り出していた。

 

「やっべ、流石に今回は出るの遅かったからなぁ、そりゃ近くにいるわな」

 

少しでも隠れられそうな場所が無いが探すがどこも見当たらない。すると、目の前で大きな声が響いた。

 

「止まれ!!」

 

「!」

 

黒ローブの上から現れたのは坂本だった。その大声に急停止した。

 

「ようやく捕まえたぞ」

 

坂本が足止めしていると、後から続いていたウィッチが全員集まり、謎の人物を囲むように銃を向けた。

 

「げっ、こりゃ……流石にどうしようもないか?」

 

「武器を捨て、手を上げろ!!」

 

「はいはい、しょうがねぇな」

 

「………………」

 

黒ローブはあっさり坂本の忠告を受け、刀を地面に投げ捨て、白い板が入ってる袋も置いた。坂本の予想ではてっきり抵抗するかと思ったが、今はその様子は無いようだ。

 

「んで?どうする気だ?」

 

「………………」

 

四方を銃に囲まれて怯える様子もない。むしろ余裕があるように見える。坂本はなにか裏があるんじゃないか、と勘ぐってはいたが、一番気になること確認した。

 

「そのフードを取れ」

 

「………へいへい」

 

(さっきから………この声って………)

 

宮藤は銃を構えながらやりとりを見ててひとつ思ったことがあった。声が低い。ウィッチであれば聞き慣れた女性の声が聞こえてくるはずだが、宮藤はその違和感に気づいた。

 

「なっ!?」

 

『えぇっ!!??』

 

黒ローブを取ると、その顔は男だった。見た目は宮藤達と変わらなそうな顔立ち、黒のタンクトップに軍用の黒いズボンも履いてるのが分かる。意外な正体にウィッチたちは困惑した。

 

「………男の……子……?」

 

宮藤は人間とわかると銃の構えを解き、確認するようにまじまじと凝視した。

 

「いったい何者なんだ……お前」

 

「ただの一般人だ、って言ったら見逃してくれるか?」

 

「ふざけるな!真面目に答えなければ撃つぞ!」

 

少年が楽観的な態度をみるや、バルクホルンは両手に持ってる銃を改めて突きつけた。

 

「なら……心臓を狙えよ?」

 

「なに!?」

 

「………なぜ心臓だ?」

 

予想外な答えに困惑するバルクホルン。少年の発言に違和感を感じ、質問をする坂本。

 

「それは撃ってみればわかるんじゃないか?」

 

「………………」

 

「坂本さん………」

 

ホントに撃ってしまうのではないかとハラハラする宮藤。しかし、坂本は考えていた。なぜ心臓を狙えと言ったのか。楽になりたければ頭を狙え、と言えばいいはず。なのに心臓を指定してきた。なにか意味がる、と考えた坂本はあることを思いついた。

 

「いやそんなまさか………」

 

坂本の考え、そんなバカバカしいことがあるはずない、と思いつつ自身の眼帯を外し少年を見た。

 

「ッッ!?これは………!?」

 

「どうかなされたんですか?坂本少佐!」

 

「坂本少佐!」

 

坂本の反応に心配するペリーヌとリーネ。

 

「アンタ、魔眼使いか?」

 

「………………」

 

「ハハッ、なら話が早いな。俺を殺すか?」

 

坂本が魔眼使いとわかった瞬間、少年は真剣な目に変わり坂本に質問を投げた。

 

「………いや、連行する」

 

『ええっ!?』

 

「ホントに!?」

 

「本気ですか!?坂本少佐!!」

 

全員が驚いた声を出し、ハルトマンとバルクホルンが聞き返す。

 

「ああ、コイツは基地に連れて行く、いろいろ聞きたいことがあるしな」

 

「………………」

 

少年はてっきり殺されると覚悟をしていたが、予想とは違う答えが返ってきて少し驚いた様子。そしてそれは、運命の分岐点だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

基地に帰還した501メンバー。坂本は少年を連行してミーナが居ると思われる執務室へ。それ以外は休憩を取ろうと思い食堂へ集まっていた。

 

「男が空を飛んでネウロイを倒したぁ?ホントかよそれ」

 

「ウッソだぁ~!」

 

バルクホルンからの話を聞いて半信半疑な反応を見せたのが、シャーロット・E・イェーガー中尉。そして完全に信じてない顔をしてるのが、フランチェスカ・ルッキーニ少尉。

 

「本当だ!」

 

「正体見たときはビックリしたよ~」

 

そのときの感想を話すハルトマン。

 

「なんで、男性の人が空を飛べたんですかね?」

 

「男じゃなくて実は女だったりとかしナイカ?」

 

リーネの疑問に、タロット占いをしながら可能性を投げかけたのは、エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉。そのとなりで椅子に座りながら眠ってるのは、サーニャ・∨・リトヴャク中尉。

 

「いや、声質的にも体格的にも完全に男だった」

 

「男の人って、ホントは空を飛べないはずなんですよね?」

 

「そんなの当たり前ですわ、そもそも、魔法力を持つのは女性だけって決まってましてよ?」

 

宮藤の確認にペリーヌが答えるものの、どこかトゲがあるような言い方だったが、宮藤はいつもどおりのことだと思いスルーした。

 

「唯一気になるのは、少佐が魔眼で何を見たか、だな」

 

「それで?その男はどうしたんだよ?」

 

「………この基地に連行してある」

 

 

 

 

 

執務室。執務室の椅子には、両手を顎の前で握り、困惑している表情を浮かべいるミーナが座っていた。その机の前には、手錠をされて手の自由を奪われた少年が立っていた。坂本は壁の付近に立っており、いつでも刀が取り出せるように、足の横に杖の代わりみたく立てていた。

 

「………ホントに、あなたが例のネウロイ消失事件の犯人ですか?」

 

「……犯人かどうかは知らねぇけど、「倒した」のは事実だ」

 

「………まさか男の子だったなんて………」

 

ミーナも同じく信じられないという反応。

 

「そもそも、どうやって空を飛べたの?」

 

「コイツに乗ってるからだ」

 

坂本は少年が乗っていた白い板のボードを一緒に持ってきていた。

 

「それは?」

 

「ストライカーボードだ」

 

「ストライカーボード?聞いたことないわね」

 

初めて聞く単語にミーナは眉をひそめる。

 

「私も最初は気づかなかったが、コイツは宮藤博士の研究チームがストライカーユニットを作る前に考案したひとつのユニットだったが、バランスや性能に問題ありとなって頓挫したやつだったんだ」

 

「………なんでそんなもの?」

 

ミーナは少年に目を向けた。

 

「たまたまあったやつを、ちょーっと借りただけで……」

 

「ウソだな」

 

「チッ……」

 

少年の明らかな嘘に坂本は遮断する。

 

「まぁでも、今その話は別として、どうして貴方はストライカーで飛べるの?」

 

「そこの……えーっと、坂本……少佐?が察してると思うぜ?」

 

「………どういうこと美緒?」

 

坂本はミーナの方に向き直し、息を整えて発言した。

 

「……単刀直入に言う、コイツの心臓にコアを発見した」

 

「ッッ!?それホントなの!?」

 

思わず椅子から立ち上がるミーナ。

 

「ああ、理屈はわからんがひとつだけ分かることある」

 

坂本は人差し指を顔の前に立てながら話した。

 

「ネウロイのコアがあるからヤツはストライカーで飛べるということだ」

 

「そんな無茶苦茶な………」

 

「事実そうなってる」

 

事態に理解が追いつかないミーナと坂本。だが坂本は冷静に、今起きている事実を受け止めていた。

 

「………生まれた時からそうなの?」

 

ミーナは自分を落ち着かせ、改めて少年に別の質問をした。

 

「いーやまさか、5年前の11の時からだ」

 

少年は目を閉じ、嘲笑うかのような口調で話した。

 

「5年前……第二次大戦が始まった年か」

 

「ああ、7歳の時までは扶桑に居たんだが、親父の仕事でこっちにきて5年後にネウロイの攻撃で、俺も一緒に死んだ」

 

「……死んだ?」

 

坂本は眉をひそめた。

 

「死んだ、と思った。けど俺は目が覚めたんだ、奇跡かと思ったさ」

 

少年は淡々と話を続けた。

 

「けど身体はボロボロ、とても動けるような状態じゃなかった。だが、胸に違和感を感じたんだ」

 

手錠に掛けられた手を、自分の心臓の位置にもっていき、親指で自分の心臓を指した。

 

「その時だ、自分の心臓にコアが埋め込まれてるって知ったのは」

 

「………………」

 

「そっからだ、俺がネウロイを倒すようになったのは」

 

少年が一通り話し終えると、先程のように楽観的な表情に戻った。

 

「………母親は?」

 

「いねぇよ、俺を生んですぐに死んだ」

 

「なら親戚の人は………」

 

「いねぇよ誰も」

 

「えっ!?」

 

少年の返答に驚きを隠せなかったミーナ。

 

「親も親戚も、親の兄弟や親族も、もういねぇし」

 

「それってまさか………」

 

「天涯孤独、ってやつだな」

 

「………………」

 

少年はミーナに笑いかけるような笑みの表情で返すが、その笑みはどこか悲しそうな感じがした。

 

「さーて、俺のことはだいたい知ってもらえたかな?」

 

少年はおちゃらけた言い方でミーナと坂本に聞いた。

 

「そこでひとつ、提案をしたいんだが?」

 

「提案?」

 

「ああ」

 

少年はミーナの前に顔をズイっと近づけて言い、その表情はなにか企んでる様子でもあった。

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

「そんなこと………認めることなんてできるわけが!!」

 

「ありゃ、やっぱダメか?」

 

少年の提案にミーナは否定的だった。

 

「いや待てミーナ」

 

「美緒!?」

 

「確かに普通はありえない、が、戦力に目を向けるならばアリかもしれん」

 

「戦力の前に彼は……!!」

 

「一個だけ聞きたい、なぜネウロイを倒すんだ?」

 

坂本の言葉に少年は、真剣な表情で返した。

 

「それが俺の出来る事だからだ」

 

「………………」

 

少年の表情に偽りはないと坂本は認識した。

 

「ミーナ、私は賛成だ」

 

「ホントに言ってるの美緒……?」

 

「少なくとも私達の敵ではない、と思うが?」

 

「………私は反対だわ、他の隊員たちを危険に晒せない」

 

「ハハハッ!!これじゃあ永遠に決められねぇな!だったらもうひとつ、提案があるが?」

 

二人のやり取りを見て少年は笑いがこぼれて、またひとつ、提案してきた。

 

「………どんな提案だ?」

 

「いまの俺の話を踏まえて、他のウィッチたちに聞いてみたらどうだ?」

 

「ウチの子たちに?」

 

「……確かに、お互いが譲らないのであれば、それがいいかもな」

 

「………分かったわ、それでいきましょう。ただし、こっちから条件があります」

 

少年の提案に坂本は乗り気でミーナはついに折れた。だが、少年の提案に条件を付けてきた。

 

「なんだ?」

 

「もし、ひとりでも反対の人がいたら、その話は無かったことにします」

 

「ひとりでもって、ミーナそれは流石に……」

 

「いいぜ、それで」

 

「!」

 

坂本の言葉を遮り、承諾する少年。

 

「わかりました、では他の子たちをブリーフィングルームに集めてくるから、待っててください」

 

「はいよ~」

 

ミーナは椅子から立ち上がり、執務室を出ようとした時、肝心な質問をし忘れてることを思い出し、ふり返りながら少年に聞いた。

 

「最後に聞き忘れてたけど、あなたの名前は?」

 

「……足立進也だ」

 

足立はミーナと同じく、顔だけふり返りながら自分の名前を言った。その表情は絶望的な顔ではなく、挑戦的な顔だった。

 

 

 

 

 



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第1話 人間ネウロイ Bパート

急遽、ブリーフィングルームへ招集されたウィッチ達。それぞれ席に座って待ってるが、なんの為に招集されたのか疑問に持つ者もいた。

 

「なんで私達が集められたんだ?」

 

「さぁな、だがあの男に関係してることでは違いないだろう」

 

シャーリーの質問に腕を組みながら答えるバルクホルン。

 

「まさか公開処刑とか?」

 

「んなわけあるか」

 

ハルトマンは楽しそうな声で冗談を言ったがバルクホルンがそれを呆れたような声で否定する。

 

(いったいなんだろ………なんか嫌な予感がする………)

 

不安そうな顔をする宮藤。しかし、彼女が胸騒ぎを感じてると、部屋の扉が開く音がした。顔を扉の方に向けると、坂本、足立、ミーナの順に並んで入ってきた。ウィッチたちは扉の方に顔向けると、物珍しさに驚く者がちらほら見かける。しかし足立はそんなことはお構いなしに、部屋の中を見渡すように顔を動かしていた。すると、一番後ろに座っていた宮藤と目が合った。

 

「!」

 

宮藤の目に写った足立は、どこにでも居そうな黒い瞳の扶桑の少年に見えた。しかし、どこか少年らしからぬ、貫禄のある雰囲気を纏ってるようにも見えた。

足立も宮藤と目が合うと、確保された時にいた少女なのを思い出したが、別に何とも思わぬように顔を前に戻した。

 

教壇まで行くと、教卓が片付けられてて足立を中心に、左隣に坂本、右隣にミーナと挟んだ状態で立っていた。足立の手元は変わらず手錠が掛けられ、まるで囚人のような姿だった。

 

「さーて、どっから話せばいいんですかね?ミーナ中佐」

 

開幕早々にへらへらした態度でミーナに聞いた。

 

「………みなさん、いま集まってもらったのは、彼からみんなにある提案を受け入れてくれるかどうか、を聞いてもらう為です」

 

「提案だと?」

 

ミーナが今回集まってもらった趣旨を話すとバルクホルンは怪訝な顔した。

 

「ああ、それには順を追って事情を話し、コイツに自己紹介をしてもらう」

 

坂本は段取りをつけ、先程の執務室で話したことをウィッチ達に話した。ネウロイ消失の件、コアの事、ストライカーボードの事、足立の生い立ちを。

 

 

 

 

 

 

「心臓にコアが!?」

 

「坂本少佐が驚いたのはそれだったのですね……」

 

驚愕する宮藤、坂本が魔眼で見た時の反応で腑に落ちたペリーヌ。

 

「じゃあネウロイってことナノカ?」

 

「正直、調べてみないと分からないな」

 

「いーや、俺はネウロイだよ」

 

エイラと坂本の疑問に答えるように足立が言った。

 

「少佐、刀を抜いた状態で、俺に向けてくれないか?」

 

「なにをする気だ?」

 

「実際に見てもらおうと思ってな、ネウロイって証拠を」

 

そう言って坂本は、足立に言われた通り抜刀した状態で足立に向けた。その様子に怯える宮藤とリーネはハラハラした顔をしていた。すると次の瞬間……。

 

「よっ」

 

足立の手は手錠に繋がれたまま、握手をするかのように刃の方を握った。

 

「なっ!?」

 

『えぇ!?!?』

 

突然の出来事に驚愕する一同。足立の握った手から血が少量流れ落ちた。

 

「何をしているんだ!!」

 

坂本が怒鳴ると同時にパッと手を離す足立。

 

「治さないと!!」

 

滴る血を見て宮藤は席から立ち上がり、すぐさま足立に駆寄ろうとした。

 

だが足立はその様子を見て、血が流れてる右手の掌を見せるようにし、「来るな」という意思表示をした。

 

「えっ………」

 

「これが証拠だ」

 

出血をしている掌を見せていると、次第に出血量が少なっているのが目に見えてわかる。

 

「傷が治っていくぞ!!」

 

「ネウロイの再生能力か!」

 

その様子に驚きを隠せないシャーリーと坂本。もちろん他のウィッチたちも驚愕した。

 

「幸か不幸か、皮肉なことに小さめの傷なら再生出来ちまうんだ、深くやられたら流石に無理だと思うぜ」

 

手の傷が完全に治ると、足立は掌を開いたり閉じたりし、問題なく動くことを表した。

 

「他になにかあるか?」

 

「………あの……」

 

足立が他になにか質問が無いか確認すると、リーネが申し訳なさそうな動きで手を上げた。

 

「さっきのお話の中で言ってた、天涯孤独って……ホントですか?」

 

「そうそう!そのテンガイコドク?ってなに?」

 

リーネが気になったのは、足立がホントに独り身なのかを確認したかった。その聞き慣れない言葉にルッキーニは意味も分かってなかった様子。

 

「天涯孤独とは、家族や親戚、身寄りが一人も居ないってことだ」

 

「じゃあ……つまりそれって………」

 

「独りぼっち………」

 

坂本が簡潔に説明し、意味が分かると宮藤は憐れむような表情をし、サーニャがポツリと言葉が出た。

 

「そういうこった、まぁ今までもほぼほぼ一人だったから、あまり実感は沸かないけどな」

 

「………………」

 

足立は気にしてない様子だったが、今の足立の姿に宮藤は泣きそうな表情をしていた。

 

「さてと、だ。こっからが本題だ、俺はお前達にあるお願いをしたいんだ」

 

「お願いだと?」

 

足立は息を整え、ニヤリ顔で話した。

 

「俺をこの部隊に入れさせてくれ」

 

『………ええぇぇぇっっ!!??』

 

予想通りの反応。ウィッチたちの声は部屋中に響き渡るかのような驚きだった。

 

「ふたりには話したんだが、少佐は賛成で、中佐は反対になって、決まらないから隊員のお前達に聞いてみることにしたんだ」

 

「坂本少佐が!?そんなこと言うはずが……!!」

 

「ホントだ」

 

「少佐!?どうして……!!」

 

「いろいろあるが、まず戦力が上がる。お前も見ただろ?ペリーヌ」

 

「確かに……実力は見事ですけど……」

 

「それにこの男には、ネウロイを倒すという意思の根幹を私は見た。だから仲間に入れてもいいと思ってる」

 

「………………」

 

坂本の理由にペリーヌは押し黙った。

 

「ミーナは?」

 

話を聞いていたハルトマンがミーナに理由を求めた。

 

「部隊の安全面を考えての反対よ、生い立ちは不幸な事だけど、コアがある以上、危険すぎて部隊では扱えないと判断したわ」

 

「同感だな」

 

「そう?私は面白いと思うんだけどなぁー」

 

「面白くないだろ馬鹿者!!」

 

腕を組みながらバルクホルンはハルトマンに激を飛ばした。

 

「私も面白いと思ったんだけどなぁ」

 

「私もー!」

 

シャーリーとルッキーニはまんざらでも無さそうな反応。むしろ興味が勝ってると言えるであろう。

 

「真剣に考えてますの!?確かに坂本少佐のお言葉は最もですけど………部隊の安全面を考えたら……ちょっと……」

 

ふたりの不真面目さにペリーヌが激を飛ばし、普段なら坂本少佐の言葉を肯定するはずが、今回は反対派に回った。

 

「どっちにする?サーニャ」

 

「………私はどちらでもいい………」

 

「ダヨナァ〜、でもまぁ入ったら面白そうではあるんだけどナ」

 

「だから真剣にお考えなさってくださいまし!!」

 

「どう思う?……芳佳ちゃん……」

 

「………………」

 

どうすればいいか分からなく、宮藤に意見を求めるも、宮藤自身もどうすればいいか判断がつかない状態だった。

 

「………反対が二人、このままだと、さっきの約束通りになるけど?」

 

「………………」

 

ミーナが挑発するような言い回しをすると、足立は黙り込んだ。自分の手錠を見て、次に反対派のウィッチ達に視線を移し考え込んだ。

 

(堅物そうなカールスラント軍人……ツンツンしてそうなガリアお嬢様……ふたりの共通点……)

 

足立はふたりが先程どういう意見を言ってたかを思い出し、共通点を見つけた。

 

「なーんだ……案外簡単そうじゃねえか」

 

「えっ?」

 

ポツリと呟くと、ミーナは呆気に取られた声が出た。

 

「なぁ反対派のお二人さん」

 

足立の言葉に反応し、視線を向けるペリーヌとバルクホルン。

 

「どうして俺の入隊を反対なんだ?」

 

まるで今までの話を聞いてなかったような質問を足立はぶつけてきた。

 

「どうしてって……それは危険で怪しいからですわ!」

 

「コアがあるというのなら尚更だ」

 

「ハハッ……だったら尚更賛成でいいじゃねぇか、気づかねぇのか?」

 

『!?』

 

不敵な笑みを浮かべる足立に、ペリーヌとバルクホルンは皆目検討もつかなかった。

 

「俺の心臓にコアがある、てーことはいつでも殺せるってことだぞ?」

 

足立は自分の心臓を強調するように胸を叩く。

 

「つまり俺の命はお前らに握られてるようなもんだ、だいたい……どこに危険があるってんだ?」

 

「あ、あなたが裏切ったり不意打ちをして、攻撃を仕掛けるかもしれないじゃないですの!!」

 

「ハッ、んなことは100億%ねぇよ」

 

「なぜそう言い切れる」

 

足立の自信に満ちた顔にバルクホルンは怪しんだ。

 

「メリットがねぇからだ、今ここでお前らを全滅させても余計面倒になるだけで、そんなバカなマネはしない」

 

「………それを信用しろ、ってことですの?」

 

「初めて会った相手に信用なんて出来るわけねぇだろ、だから疑い続けろ」

 

「疑い……続ける……?」

 

意味が掴めないペリーヌに対し、飄々とした表情で話していた足立が、真剣な顔に変化した。

 

「仲間になったとしても、全力で俺を疑い続けろ、いつどんな時でも、疑われるのが俺なりの信用だ」

 

(………なるほど、信用出来ないなら疑い続けろ、か)

 

さっきまで足立の事を怪しんでたふたりだったが、今の話を聞いて多少の警戒は薄れたみたいだ。足立の説得に坂本は感心した。

 

「んで?まだ反対なのか?」

 

「ぐっ……」

 

「……確かに筋は通ってるが……認めたわけではないぞ!」

 

グウの音もでないペリーヌに、バルクホルンも返すことが無いようだ。

 

「別にそれでもいいさ、反対派がいないなら俺が入隊できるわけだしな」

 

「残念だけど、そうはいかないわ」

 

「………あ?」

 

反対派はもういないと思った足立だったが、その横にいるミーナから冷たい言葉がかけられた。

 

「……まさかアンタまで納得させろってか?」

 

「さっき言ったとおりよ、ひとりでも反対派がいれば、この話は無かったことになるわ」

 

「……ウィッチの隊長とは思えないほど汚い人だなアンタ、嫌いじゃねぇけど」

 

「なんとでも言いなさい、私には……この子たちを守る義務があるのよ」

 

(………何を言っても変わらない、か。こりゃどうしようもないか……?)

 

ミーナの強い瞳に説得しようがないと思った足立は諦めかけていた。

 

「ミーナ、もうその辺で……」

 

「あの!!」

 

「!」

 

坂本が仲介に入ろうとした瞬間、席から立ち上がった宮藤の声が部屋に響いた。その声に、ミーナと足立、坂本は宮藤の方に向いた。

 

「芳佳ちゃん……?」

 

「あの……もし入隊できなかったら、どうなるんですか……?」

 

心配そうに見つめるリーネに、恐る恐る質問をする宮藤。

 

「……詳しくは分からないけど、総司令部に報告をして、身柄を拘束させます」

 

「なんとも言えないが、良いようには扱われないだろうな、最悪死刑だってありうる」

 

『死刑……!?』

 

あまりの事の大きさに、ウィッチたちは驚いた。

 

「そりゃそうだ、こんな得体のしれない怪物がいたら始末しとくのが一番だ」

 

(……まぁ、捕まった時から覚悟はしてるんだがな……)

 

なんでもなさそうに自分の後のことを話す足立だが、その顔は何かを悟ったような顔にも見えた。

 

「………ミーナ中佐!」

 

今一度、宮藤は声を響かせ、ミーナの名を叫んだ。

 

「やっぱり私には、この人がネウロイには見えません……!!」

 

「……ッ!?」

 

(コイツなに言ってんだ……!?)

 

予想外の発言に足立は思わず、声が漏れた。

 

「宮藤さん、気持ちは分かるけど、あなたも見たでしょう?ネウロイ特有の再生能力を」

 

「それでも……私にはひとりの男の子にしか見えないです……」

 

ミーナに諭されようとしても、なお自分の意見を曲げない宮藤。

 

「それにこのまま反対にしたら、私達は見殺しにしたってことになるんじゃないですか!?」

 

「!!」

 

「私そんなの嫌です!誰かを守るためにウィッチに入ったのに、見過ごすことなんてできません!守りたいんです!」

 

「ッ!!」

 

宮藤の守りたいという言葉、それはミーナにも、他のウィッチたちにも伝わっていた。彼女の飛ぶ理由は、その全てに詰まっているからである。

 

「だからお願いしますミーナ中佐!!この人を、この部隊に入れてあげてください!!お願いします!!」

 

宮藤が深々としたお辞儀は誠意が全力で伝わってきた。嘘や偽りのない、純粋なお願いだった。

 

「………………」

 

「お前の負けだな、ミーナ」

 

「美緒………」

 

「私達はひとりの少年を見殺しにするところだった、それを宮藤が私達に気づかせてくれた。それで十分じゃないか?」

 

「………認めたら、後には引けないわよ……?」

 

「ああ、元より覚悟はしてるさ」

 

「………………」

 

ミーナは目を閉じしばらく沈黙した。そして目を開き、言葉を発した。

 

「………わかりました、足立さんの仮入隊を認めましょう」

 

「!!、ありがとうございます!!ミーナ中佐!!」

 

「………………」

 

(宮…藤……?)

 

まるで自分のことのように喜ぶ宮藤。それに対し足立は、神妙な顔をし宮藤という名について考えていた。今日はじめて会ったふたり、だが足立には聞き覚えがある名前だった。

 

 

 

 

 

 

一騒動を終え、執務室の椅子にぐったりと座るミーナ。その様子を見て苦笑する坂本。

 

「はぁ………」

 

「だいぶお疲れのようだな」

 

「当たり前よ………またひとり問題児を抱えたようなものなのだから……」

 

ミーナはムスッとした顔で、愚痴を吐くように言った。

 

「だが後悔はしてない、だろ?」

 

「………そうね、宮藤さんには感謝しないといけないわね」

 

宮藤の説得を思い出し、少しだけ笑顔になるミーナ。

 

「多分、あのまま反対を押し切っていたら、私や部隊は崩壊してたかもしれないわね」

 

「初めてのことだ、仕方あるまい」

 

「そう言ってもらえるとありがたいわ」

 

「ところで、仮入隊させるのはいいが、上層部がすんなり入隊させるか?」

 

「ふふっ、悪知恵が働くのは私だけじゃないみたいよ?」

 

「ほう……」

 

ミーナの言葉に坂本は何か策があるなと察した。

 

 

 

 

 

 

「ほぉー、久々にまともな部屋を見たわ」

 

足立は宮藤の案内で、今後足立が寝泊まりできる客室にきていた。そこはベッドがひとつのみポツンと置いてあった。

 

「ベッドもあるし、最高だなこりゃ」

 

「………………」

 

(こんな人がネウロイだなんて……やっぱり信じられない……でも……)

 

「そういえばさっきは助かった、サンキューな、えっと……」

 

「あ!、わたし宮藤芳佳って言います。よろしくお願いします!」

 

「………ああ、よろしくな、宮藤」

 

「!」

 

宮藤が笑顔で握手を求めると、足立もなんの抵抗なく宮藤と握手した。すると、足立の手は、冷えた鉄みたいな冷たさだった。その冷たさに少しビックリした宮藤。

 

「どうした?」

 

「あ、いえ!なんでもないです!」

 

「?」

 

握手をし終えると、足立は話し始めた。

 

「そうだ、助けてもらった礼にひとつ、言っておいてやる」

 

「?、なんですか?」

 

「俺のことは信じるな」

 

「………えっ?」

 

足立が真剣な表情に対し、宮藤はポカンとした表情だった。

 

「俺がネウロイなのは変わらないし、さっき言った事も口約束だしな。その気になればいつでも攻撃ができるわけだ」

 

「そんな……!?」

 

「お前はお人好しな感じがするからな、だからストレートに言っておくわ」

 

宮藤に背を向け、ベッドに向かっていく足立。

 

「………あの」

 

「あ?」

 

「……どうして、わざわざ教えてくれたんですか………?」

 

「………………」

 

足立は少し沈黙したが、振り向きざまにこう言った。

 

「俺はウソがつけねぇんだ」

 

「………………」

 

そう言った足立の顔は、今まで見せてきた笑顔でも悪意が感じられない笑顔だった。宮藤はその笑顔を見ると、どこか寂しそうな表情にも見えた。

 

 

 

つづく

 




お疲れ様です。

オリジナル主人公登場というわけですが、登場シーンが1番悩んだ話でした。コアを途中から植え付けられるシーンも考えましたが、自然な話が浮かばらず最初から植え付けられていることにしました。100億%はただ言いたかったセリフです。


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第2話 信じてますから Aパート

足立の忠告を聞いたあと、宮藤はしょんぼりした状態で部屋から出てきた。

 

「芳佳ちゃん!」

 

「あ!リーネちゃん!」

 

「心配で待ってたんだけど、大丈夫だった?」

 

「うん、ただちょっと………」

 

廊下を歩きながら、宮藤は足立に言われたことをリーネに話した。

 

「そんなことがあったの?」

 

「うん……どうしてなんだろ……」

 

「うーん………芳佳ちゃんが命の恩人だからかな?」

 

「私が?」

 

「うん、だって芳佳ちゃんがあそこで言ってなかったら、足立さん大変な目にあってたと思うよ?」

 

リーネは人差し指を頬の近くに立てながら理由を述べた。

 

「そう考えたら、自分はネウロイだからって理由で芳佳ちゃんを遠ざけてるんじゃないかな」

 

「………そうかもしれない……」

 

宮藤は部屋を後にする前の足立の笑顔が頭をよぎった。

 

「足立さん……顔は笑ってたけど、どこか寂しそうだったもん……」

 

「芳佳ちゃん………」

 

「何か出来ることないのかな………」

 

自分になにかできることはないのか、宮藤は模索するが思いつかなかった。自分の非力さに悲しみを感じた。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。宮藤とリーネは食堂で夕飯の支度を準備し、テーブルの席にそれぞれ夕飯を並べていた。すると続々とウィッチたちが集まってきた。

 

「おっ、今日は扶桑料理か」

 

「やったー!」

 

扶桑料理に気に入ってるシャーリーとルッキーニ。だがひとり、ペリーヌはなにか不満気な様子だった。

 

「って宮藤さん!まーたあなたはこんな腐った豆を並べてるんですの!?」

 

「腐った豆じゃないです!納豆ですよ!」

 

「どちらも同じでしょうが!!こんなの食べるのは扶桑の人だけですわ!!」

 

「身体にいいのに納豆………」

 

宮藤はしぶしぶ納豆を、坂本と自分の席にだけ置いといた。ウィッチたちが全員集まり、食事をしようと思った時、宮藤はあることに気がついた。

 

「あれ?足立さんが来てない?」

 

「変だな、夕飯の時間は伝えてあるはずなんだが」

 

「じゃあ私呼んできます!」

 

「芳佳ちゃん、私も一緒に行ってあげようか?」

 

「ううん、大丈夫!ありがとうリーネちゃん!みなさんは先に食べててください!」

 

そう言って宮藤は足立の部屋まで小走りで向かった。

 

 

 

 

 

 

「足立さーん!夕飯の準備ができましたよー?」

 

足立の部屋の前で大きめの声で準備ができたことを言うが、返事は返ってこなかった。

 

「?、足立さん?」

 

変な感じがした。宮藤は直感的に思いドアノブに手をかけると、鍵は開いていた。

 

「……は、入りますよ?」

 

恐る恐る扉を開くと、電気が点いておらずベッドに横たわってる足立に気がついた。

 

「足立さん………?」

 

近くまで行くと、小さい寝息が聞こえてきた。どうやら眠っていたようだ。

 

「なんだ……よかった……眠てただけで……」

 

(よく眠ってるけど、疲れてたのかな……?)

 

眠っている足立の顔を見て、宮藤はホッとして胸をなでおろした。足立の寝顔を見ていると、ゆっくりとまぶたが開くのを目にした。

 

「んあ………?宮……藤……?」

 

「あっごめんなさい!起こしちゃいましたか?」

 

「いや……なんか用か?」

 

「夕飯の用意ができたので呼びに来たんです」

 

「あー……そうか……」

 

「?」

 

足立は起き上がり、後頭部をかきながら苦い顔をしていた。

 

「悪ぃ、部屋まで持ってきてくれないか?」

 

「えっ!?どこか具合が悪いんですか!?」

 

「いんや、俺はひとりのほうが好きなんだ」

 

「………………」

 

 

 

自分はネウロイだからって理由で芳佳ちゃんを遠ざけてるんじゃないかな?

 

 

 

先程のリーネの言葉が宮藤の頭の中でよぎった。

 

「わかりました!」

 

そう言って宮藤は足立の部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました!」

 

「………は?」

 

明るくなった足立の部屋には、中央に小さめのテーブルと椅子が用意されており、その上に今日の夕飯のお盆が2つ並んでいた。

 

「………なんだよこれ」

 

「扶桑料理ですよ?」

 

「見れば分かるわ!!なんで二人分あるんだよ!!」

 

「足立さんと一緒に食べようかなって……ダメですか?」

 

「………ダメじゃねぇけど……人の話聞いてたか?」

 

宮藤におちょくられてるんじゃないかと思うぐらい、足立は額にシワを寄せながら頭を下に向けた。

 

「ったく………」

 

「あっ!」

 

足立が目の前の椀を取ろうとした時、宮藤から何かを指摘するような声が漏れた。

 

「あんだよ?」

 

「ちゃんと挨拶しないとダメですよ?」

 

「………………」

 

注意されてあからさまに嫌そうな顔をする足立だが、間違ったことは言ってないと思い渋々従うことにした。

 

「………いただきます」

 

「はい!召し上がれ!」

 

宮藤が元気に返すのと同時に、足立は椀を取り中の汁をすすった。

 

「!、味噌汁か」

 

「はい!お口に合いますか?」

 

「あぁ、懐かしいな」

 

「ホントですか!!良かったです!!」

 

味噌汁が好評で嬉しい宮藤。そして自分も食事をしようと、足立とは向かい側の席に座った。

 

「私も食べようっと、いただきまーす!」

 

「………………」

 

(………なんでコイツ無警戒で食えるんだよ……)

 

そんな疑問が頭に浮かぶが、いまは食事にありつこうと優先した。

 

「コイツも久々だな」

 

「?」

 

「納豆。ニオイは好きじゃねぇけど、味はウマいんだよな」

 

「いいですよね納豆!それなのにペリーヌさんが「こんな腐った豆なんか食べられますか!!」とか言うんですよ……」

 

「あのガリア貴族のお嬢様か。ハハッ、確かに勧めるには無理がありそうだな」

 

「………そういえば、懐かしいって言ってましたけど、今までどんなご飯を食べてきたんですか?」

 

「………こんな身体になってからは、川魚や自然で取れる食材を一通り食べてきたんだ」

 

「へぇ〜」

 

「文字通りサバイバルってわけだ」

 

いつの間にか足立と宮藤は談笑を交えながら食事をしていた。先程ひとりのほうが好きと言っていた足立だが、宮藤には今こうやってふたりで話してる時のほうが楽しんでるように感じた。

 

夕飯を食べ終わると、足立は満足そうな顔をした。

 

「ごちそうさん」

 

「お粗末様です、ふふっ」

 

「………なんだよ?」

 

「足立さん、すごく楽しそうに話してたなぁって思って」

 

「………たまたまだ」

 

足立はそっぽを向きながら言った。

 

「明日は皆さんと一緒に食べませんか?」

 

「………………」

 

足立は少し沈黙したあと、いつものようなおちゃらけた様子で言った。

 

「悪ぃけどそれは無いな。俺の中で決めたことなんだ。ウィッチとはほとんど関わらないって」

 

「………私達を傷つけないため、ですか?」

 

「……ハハッ、ずいぶん前向きな捉え方だな」

 

「だって、口で言っててもそういう素振りが無いですから」

 

「無駄に鋭いな。まぁいいや、悪ぃけど明日も持ってきてくれないか?」

 

「………はい、分かりました。明日も持ってきますね」

 

宮藤がお盆等を片付け、部屋を後にしようとした時、足立にある質問をした。

 

「足立さん」

 

「あん?」

 

「寂しくないですか?」

 

「………んなもん……」

 

宮藤の質問に一瞬、言葉が詰まったがいつも通りの調子で返答した。

 

「慣れたに決まってるだろ」

 

「………………すごいですね」

 

やはり足立の表情には寂しさが残ってるように見える宮藤。その表情に宮藤は胸が少し苦しくなる感覚がした。その苦しさを押し殺すように、なにか言わなくてはと思い、やっとの思いで出たのが褒め言葉。いま言えるのはそれしかないと考えた。

 

足立の部屋を出た後、宮藤は自分のした質問に後悔した。

 

「……バカだ私……寂しいに決まってるよ………」

 

涙ぐむ宮藤。分かりきっている質問を聞けずにいられなかった自分に嫌悪感を抱いた。

 

(いや、違う………私らしくないぞ宮藤芳佳!だったら今できることを考えないと……!!)

 

「………よし!」

 

だが、自分らくしないと考え、袖で涙を拭い何かを決心した顔つきになった。

 

 

 

 

 

 

宮藤が退出したあと、足立はベッドに寝っ転がり天井を見つめていた。

 

(宮藤芳佳………とんだお節介なヤツだな……)

 

今日の宮藤と話したことを思い出していた。そしてその中に響く言葉があった。

 

 

 

足立さん、すごく楽しそうに話してたなぁって思って

 

 

 

(………悪くない気持ちだな………)

 

足立は思わず鼻で笑うような声を抑えつつ、笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

宮藤が食堂に戻ると、みんなはすでに食べ終わったばかりで、リーネは食器を洗っていた。

 

「あ、おかえり芳佳ちゃん!」

 

「うん!ゴメンねリーネちゃん、洗い物持ってくるの遅くなっちゃって」

 

「それはいいんだけど………」

 

「いきなりアイツの部屋で食べてくるって言うもんだから何事かと思ったよ」

 

「なんか文句言われたの?」

 

リーネに洗い物を渡している横から、シャーリーとルッキーニがやってきた。

 

「ううん、むしろ優しかったし面白い話も聞かせてもらったよ!」

 

「へぇ~、それは意外だな。どんな話してたんだ?」

 

「サバイバルでの生活についてです」

 

「……それ面白いノカ?」

 

遠くで椅子に座って聞いていたエイラがツッコまずにいられなかった。

 

「でもなんでアイツの部屋で食べてるの?食堂にくればいいじゃん」

 

「………足立さんがみんなと食べたがらないんです……」

 

ルッキーニがさも当たり前そうに言うと、宮藤の顔は少し暗くなった。

 

「それは我々とは食べたくないって意味なんじゃないか?」

 

「トゥルーデやペリーヌがいるしね」

 

「いえ!そういうのじゃないんです!」

 

バルクホルンの推論に宮藤は否定した。

 

「足立さんは、自分がネウロイだからって理由で、できるだけ私たちに関わらないようにしてるんです」

 

「なら別に放っていてもよくって?」

 

「それじゃダメなんです!!」

 

「ッ!?」

 

宮藤の大きな声にペリーヌがびくっとした。

 

「足立さんは今までずっとひとりだったんです……ここで放っておいたらまた独りぼっちになっちゃうんです!」

 

宮藤の言葉に熱が入る。

 

「ミーナ隊長、前に言ってましたよね?この部隊は仲間であり、家族でもあるって」

 

「ええ」

 

「なら足立さんも家族の一員のはずです。家族を独りぼっちにさせたらダメだと思うんです!」

 

「宮藤さん………」

 

「だからせめて、ご飯の時だけでも一緒にいてあげるのが、私にできることだと思ったんです」

 

「………なるほどね」

 

シャーリーは納得した顔をしていた。すると、宮藤の後ろから肩を掴まれる感覚がして振り返ってみた。

 

「坂本さん……!」

 

「ある意味じゃアイツはお前の同期でもあり後輩でもある。お前の好きなようにやってみろ、宮藤」

 

「……はい!!」

 

坂本の後押しに、先程まで暗かった宮藤の顔が明るくなり、元気な返事をした。その元気な様子に周りも少し明るい空気に変わった。

 

 

 

 

 

 

翌日の午後。足立は特殊な例で入隊希望のため、今は自室でしか過ごせなかった。疲れきったような顔をしながら、自室のベッドに座っていた。

 

「………なんなんだよアイツ………」

 

アイツとは宮藤のことだ。

 

「朝も昼も食べに来やがって………意味わかんねぇ………」

 

どうやら朝食も昼食時も足立の部屋で、宮藤と一緒に食事をした様子。足立にはなんの意図があってのことなのか理解出来なかった。

すると、足立の部屋の外側から声が聞こえた。

 

「足立、いるか?」

 

「………誰だ?」

 

「私だ、坂本だ」

 

「あーアンタか。どうぞ」

 

坂本は扉を開け足立の部屋に入ってきた。

 

「入って大丈夫だったか?」

 

「絶賛暇で暇で最高だね」

 

「はっはっはっ!そうか!」

 

足立の冗談に坂本は大笑いした。

 

「ところでだ、宮藤の事をどう見る?」

 

「あぁ?どういうことだよ」

 

「率直な感想を聞いているんだ」

 

「………お節介なお人好しってとこだな」

 

「………………なるほどな」

 

「なんだよ?」

 

坂本は予想通りと言わんばかりの顔をしていた。

 

「あいつは戦争が嫌いだったんだ。だがある日を堺に銃を握った、その原動力はなんだと思う?」

 

「………………」

 

足立はじっくり考えた。宮藤の行動を思い返して答えを探した。そしてヒントらしき言葉を見つけてハッとした表情で坂本に顔を向けた。

 

「…………守りたい?」

 

「少し違うな、父親との約束だ」

 

坂本は腕を組みながら話した。

 

「宮藤の父親、宮藤博士はストライカーユニットの開発者なんだ。だが戦災に遭い亡くなっている」

 

「…………………」

 

足立は自分の生い立ちと重ね合わせていた。

 

「その墓標にはこう書かれていた。「その力を多くの人を守るために」と。宮藤は約束を守るため、みんなを守るために戦っているんだ」

 

「………だからなんだよ」

 

「そのみんなを守る、にお前も入っているんだぞ?」

 

「!」

 

「境遇が似ているだけに、自分と重ねてたかもしれんな。だから放っておけなかったんだろう」

 

「…………………」

 

(ただのお節介、じゃなかったってことか…………)

 

宮藤の行動に附に落ちた足立。

 

「そして、お前に忠告しに来たんだ」

 

「忠告?」

 

「近いうち、お前は選択をすることになるはずだ。現状維持の為に停滞するか、そこから抜け出す為に進むか、どちらかだ」

 

「なんだそりゃ、占いか?」

 

「いや、ただのカンだ。はっはっはっ!!」

 

「………それはよく当たりそうなことで」

 

足立は坂本の冗談だと思い、軽くあしらった。

 

「用はそれだけだ、邪魔したな」

 

「ご忠告ありがとさん」

 

坂本がドアノブを握り出ていこうとしたが、直前で立ち止まった。

 

「……あまり深く考えるなよ、ここの奴らはみんな素直だ」

 

「………………」

 

そう言い告げると坂本は部屋から出ていった。

 

(………意味深なこと言っておいてどっちだよ………)

 

坂本の最後の言葉に足立は余計混乱し、モヤモヤした状態で夜まで過ごした。

 

 

 

 

 

 

その夜、足立の部屋では昨日と同じように、宮藤と一緒に食事をしていた。

 

「………………」

 

その足立の様子は、しかめっ面になりながら食事をしていた。別に怒っているわけではなかった。坂本の話について考えていた。

 

(ありゃどういった意味だ?少なくともあの坂本ってやつはこれから何が起こるのか分かってるような口ぶりだった。てことは俺の身に何かが起こるのか……?)

 

足立は警戒していた。基地に来てからの行動を全て思い返しながら、何かヒントになることは無いのかを探していた。すると、宮藤の視線に気づいたのか顔を向けた。

 

「………なんだよ?」

 

「い、いえ!怖い顔してて………やっぱりご迷惑でしたか?」

 

「いまさら人の話聞かずに食べてるやつがなに言ってんだよ、考え事してたんだよ」

 

「考え事?」

 

「あぁ、昼間に坂本ってやつが………」

 

そこまで言うと、足立は口が止まった。

 

「?、坂本さんがどうかしたんですか?」

 

「いや、ちょいと意味深なこと言ってたから考えてただけだ」

 

(全部は話さなくてもいいだろ)

 

足立はあえて詳細までは喋らないようにした。

 

「そうなんですか。私も基地に来る時坂本さんに言われました。「お前は必ず私の元へくることになる」って、そしたらホントにそうなっちゃって……」

 

「なんでだ?」

 

「………お父さんから手紙が届いたんです。その中にお父さんと坂本さんが写ってて、お父さんが生きてるんじゃないかって思って坂本さんに付いていったんです」

 

宮藤はその時のことを思い出しながら顔を下に向けた。

 

「けど、やっぱり亡くなってました。立派なお墓も建てられてて………」

 

「………………」

 

涙目になる宮藤。それを見かねた足立は口を開いた。

 

「………良かったじゃねぇか、親父さんに会えて」

 

「えっ?」

 

「その手紙が無かったら、墓すら見られなかったんだろ?親父さんも墓の前で大喜びしてるさ」

 

「………っ!、はい!そうですね!」

 

足立のフォローに嬉しくて少し涙が溢れそうになったが腕で拭い、足立の前でいつもどおりの元気な声で返した宮藤。

 

「………私と足立さんって、似た者同士ですね」

 

「そうか?宮藤の方がマシだと思うぜ?」

 

「私がですか?」

 

「帰れる家や家族が居るじゃねぇか」

 

「ッ!!、ごめんなさい!!私………!!

 

「わーってるわーってる!悪気はないんだろ?気にすんな」

 

「………でも」

 

「?」

 

「帰れる家なら、足立さんにもありますよ?」

 

「どこだよ」

 

「ここです、この基地です」

 

「!」

 

宮藤は両手を広げてにこやかに言った。

 

「今はここが、私たちの家です!」

 

「………バカだろお前」

 

「ええ!?なんでそんなひどいこと言うんですか!?」

 

「真っ先に思ったことを言っただけだ」

 

「うぅ……ひどいです……足立さん……」

 

「そう思ってくれて結構」

 

足立の暴言にしょんぼりする宮藤。だが足立はお構いなしに食事を続けた。

 

「あ、そうだ!足立さん何かリクエストありますか?」

 

「あぁ?リクエスト?」

 

「はい!明日の晩ごはんは足立さんのリクエストにしようかなって」

 

「そんなん急に言われても………」

 

足立は返答に困りそうになったが、少し考えあるモノを思いついた。

 

「………なら、扶桑の代表料理を頼む」

 

「扶桑の代表料理……ですか?」

 

「あぁ、納豆とかおにぎりとかは無しで、ちゃんとしたおかずって条件でな」

 

「………………わかりました!」

 

宮藤は少し考えた後に自信満々で返事をした。

 

「明日楽しみにしててくださいね!腕によりをかけます!」

 

「気長に待つさ。メシだけが唯一の楽しみだからな」

 

「あはは!」

 

足立の言い回しに宮藤は笑った。

 

食事を終え、お盆を抱えたまま出てきた宮藤。廊下には宮藤が出てくるのを待っていたリーネがいた。

 

「あ、リーネちゃん!」

 

「お盆ひとつ持ってあげるよ芳佳ちゃん」

 

「ありがとう~」

 

ひとつずつお盆を持ちながら食堂に向かい、その途中リーネに先程の話をした。

 

「扶桑の代表料理?」

 

「うん」

 

「……納豆、とかじゃないよね?」

 

「ううん、ちゃんとしたおかずになるものって言ってたから」

 

「そしたら何があるんだろう………?」

 

「えへへ、実はもう考えてあるんだ」

 

「そうなの!?」

 

「うん、多分リーネちゃんやペリーヌさんも好きになってくれるはずだよ!多分……スープに近いはずかな?」

 

「そうなんだ!楽しみ~!」

 

明日の料理に期待するリーネ、それを聞いてハッとした表情で宮藤に向けた。

 

「そうだ芳佳ちゃん!!さっきシャーリーさんと話してたんだけど………」

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

「それいいね!!」

 

「でしょ!」

 

「じゃあ明日は忙しくなるね!頑張ろ!リーネちゃん!」

 

「うん!」

 

リーネと宮藤は何かを企ててた様子。だがその様子を見る限り、ふたりはとても楽しみしている表情だった。

 

 

 



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第2話 信じてますから Bパート

翌日。突然、ネウロイの襲来警報が基地内に鳴り響いた。時間は朝方、ウィッチたちは起きたばかりだが出撃に向かった。

 

「………ふぁ~……………ネウロイか?」

 

ただひとり、足立だけは遅れて目覚めた。

 

身支度をし、急ぐ様子もなく足立はブリーフィングルームのドアを開けて入った。そこには宮藤、リーネ、ペリーヌ、エイラと席に座り、ミーナが教卓の前で立っていた。

 

「あー………遅れてすいません……ネウロイか?」

 

「なにを呑気なことを言ってるんですの!!!」

 

「ペリーヌさん、今はいいわ」

 

足立のずぼらさにペリーヌは激怒するが、いまはその時ではないと判断したミーナ。

 

「大型ネウロイが海上に2機現れたわ。超低速でこちらに向かってるけど、このままなら問題なく迎撃できるはずだわ」

 

「なんだ、問題ねぇじゃねえか」

 

「そういう問題じゃなくってよ!!」

 

「今回も予測とズレてるんですよね?」

 

リーネがミーナに質問をした。

 

「ええ、一昨日のズレもあったし、こんなに頻繁にくるなんて早々ないわ」

 

「………………あ?」

 

その時、足立の目の色が変わった

 

「おい中佐、いまなんつった?」

 

「えっ?」

 

「ネウロイってのは周期的にやってくるものか?」

 

「え、えぇ、一応周期的に計算して来る日を予想して備えているわ、それがなにか?」

 

「………偶然が2つ………んなわけ……」

 

足立がそうつぶやくと、顎を指で抑え、顔を地面に向けながらブツブツと言いながら考え始めた。

 

「あ、足立さん……?」

 

「なんだなんだ?コワイぞ……」

 

その姿に宮藤とエイラも少々怖がっていた。

 

「一昨日のネウロイ、今日の大型ネウロイ2機、手応えの無さ、超低速………」

 

そして足立はなにかに気づいたのか、顔を上げるといつもの不敵の笑みを浮かべていた。だが、そこに少し冷や汗が流れた。

 

「………コイツは……ちょっとマズイかもな………」

 

 

 

 

 

 

「大型ネウロイ2機確認!」

 

ガリア方面の海上に現れたネウロイを迎撃すべく出撃した坂本、シャーリー、ルッキーニ、バルクホルン、ハルトマンの5人。

 

「なんでこんなに来るのかな?」

 

「なんでもいい!現れたのなら倒すまでだ!」

 

ハルトマンの質問に投げやりに返すバルクホルン。

 

「準備はいいか?ルッキーニ!」

 

「あいさー!!」

 

シャーリーの確認にやる気満々のルッキーニの声が響く。

 

「全機攻撃を開始する!!」

 

『了解!!』

 

それぞれが二人一組になり、坂本が単身で攻撃を開始した。がしかし、攻撃を開始した直後、異変に真っ先に気づいたのはハルトマンだった。

 

「ねぇ!なんかおかしくない!?」

 

「攻撃をしてこないだと!?」

 

「どういうことだ……?」

 

坂本は咄嗟に魔眼でコアがどこにあるか確認するが……。

 

「ッ!!コアがない!?」

 

「えぇっ!?」

 

「てことは……囮か!?」

 

シャーリーはどういうことか意味を瞬時に理解した。

 

「くそッ!!ミーナ!!聞こえるか!!」

 

「ええ、聞いてたわ!」

 

管制塔から坂本の無線を拾い交信するミーナ。

 

「陽動だ!!本体のネウロイはどこに……!!」

 

「その心配はないわ」

 

「なにっ!?」

 

「今さっき、サーニャさんと私以外は出撃させたばかりよ」

 

「ホントか!それは助かる!」

 

「お礼なら彼に言ってあげて」

 

「!、アイツが?」

 

「えぇ」

 

坂本に返答するとミーナは微笑み、先程のやりとりを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

足立たちが出撃する5分前。

 

「陽動!?」

 

「あぁ」

 

足立の答えにミーナは声を上げた。

 

「ど、どうしてそんなことがお分かりで?」

 

「まず怪しいのが、襲来予測のズレが短期間で2回も起きたこと。こんなの何かあるに決まってる」

 

足立は指をひとつずつ立てながら理由をひとつずつ話した。

 

「んで2つ、大型2機が超低速でこっちに向かってる?囮になる気満々じゃねぇか」

 

足立の仮説に聞き入るウィッチ達。

 

「そして3つ、一昨日のネウロイの手応えの無さ。自分で言うのもアレだが、大型でひとりだといつもギリギリで倒してるんだ、だがそれが余裕で倒せた」

 

「つまりどういうことナンダ?」

 

「もったいぶらずにおっしゃりなさい!!」

 

「中佐、アンタなら分かるんじゃないか?手応えのないネウロイの正体が」

 

「手応えのないネウロイ………」

 

ミーナは足立の話を整理しながらか考えた。そしてハッとした表情でなにかに気づいた様子。

 

「偵察!?」

 

『!?』

 

「あぁ、俺が倒したのは偵察機。てことはどこから来るんだ?」

 

「!、一昨日の森の場所!?」

 

「その通りだ」

 

リーネの答えにニヤリとする足立。

 

「……………………」

 

「さてどうする?隊長。俺の推理を信じるか否かはアンタしだ………」

 

 

「全員、出撃準備をしてください。サーニャさんは夜間哨戒で魔法力を使い切ってるので待機でお願いします」

 

足立の問を無視するかように、隊員に指示を出した。

 

「一昨日は酷いことを言って申し訳なかったわ。虫がよすぎるのも分かってる。けど今は……隊長と隊員としてあなたを信じるわ」

 

ミーナは申し訳なさそうな顔をしたあとに、最後は足立に微笑みながら返した。その様子に足立は唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

ブリタニア内陸部バルトランド方面にて。森の上を飛ぶウィッチたち。彼女らは銃火器を持つ中、足立だけは刀を持って飛んでいた。

 

「ホントにこっちに来るのカヨ〜」

 

「もし冗談とかでしたらただではすみませんわよ?」

 

「なーに、外れたらそれだけのことだ」

 

「少しは自分の言ったことに責任を持ってくださいまし!!!」

 

足立のいい加減さにイライラするペリーヌ。するとリーネが地平線の向こうで何かを発見した。

 

「!!、ネウロイを発見しました!!」

 

『!!』

 

リーネの声に反応して全員警戒体勢に入る。

 

「ミーナ中佐聞こえますか!?」

 

「ええ、聞こえるわリーネさん!数はどのくらいなの?」

 

「それが………………」

 

発見したネウロイの数にリーネは少しは戸惑ったが、ありのまま報告した。

 

「小型が約20機以上、大型が1機です!」

 

「随分大勢連れてきたわね………」

 

予想より多く現れて冷や汗をかくミーナ。

 

「………ワタシの未来予知みたいダ………」

 

「ふ、ふん!あんな数、わたくしの固有魔法で一網打尽ですわ!!」

 

「いや小型やっても本体倒さないと意味ないダロ………」

 

「なら本体も一緒に倒してみせますわよ!!」

 

「いやそれはムリダロ」

 

ペリーヌとエイラが痴話喧嘩する中、リーネは困惑していた。

 

「あのぅ………喧嘩してる場合じゃ………」

 

その中、宮藤は傍観している足立に近づき、あることを言い放った。

 

「足立さん!」

 

「あ?」

 

「私を……使ってください!!」

 

『!?』

 

宮藤の発言に全員驚いた。

 

「昨日坂本さんに言われたんです。もし、足立さんと一緒に出撃して、どうしようもなくなったときは足立さんを信用しろって」

 

「!」

 

宮藤の言葉に熱がこもっていた。その時、足立の頭には昨日の坂本が言っていた言葉を思い出していた。停滞するか進むか、その言葉の意味を理解し始めた。

 

「けど、私はそんな必要はありませんって言いました。なぜなら………」

 

宮藤は自然と銃を握る力が強くなった。

 

「私は最初から足立さんを信じてますから!!」

 

「宮藤………………」

 

「だから足立さん!!私を使ってください!!」

 

宮藤の言葉に周りは押し黙ったままだが、次に口を開いたのはリーネだった。

 

「あの!!私も使ってください!!」

 

「リーネちゃん!!」

 

「さっきの推理を聞いて、私も足立さんを信じてもいいと思いました!だから私もお願いします!!」

 

普段おっとりしたリーネだが、宮藤に感化されてか発言に熱がこもっていた。

 

「…………………あーもう!!!坂本少佐の命令なら仕方ありませんわね!!今だけは従ってあげますわ!!」

 

「オマエラ本気かよ………無茶な指示だけはスンナヨ?」

 

「ペリーヌさん!エイラさん!」

 

「………………」

 

賛同してくれる仲間に喜ぶ宮藤。その対照に足立は、左手で額を抑え顔を伏せていた。

 

「足立さん………?」

 

その様子は周りから見たら嫌な予感が感じられた。それに対し宮藤は心配になった。だが………

 

「………見つけたぜ、あのネウロイの攻略法が」

 

「足立さん!」

 

顔を上げるのと同時に額を覆っていた左手をどけると、足立の表情は何かを企てる笑顔になっており、宮藤も安心した様子。

 

「ペリーヌ、エイラ、お前らは小型相手に時間稼ぎ。リーネと宮藤と俺はコア本体をぶっ潰す」

 

「ワタシとツンツンメガネがか!?」

 

「誰がツンツンメガネですの!?」

 

「エイラ、お前は未来予知が使えるんだろ?てことは攻撃をかわすのや時間を稼ぐのに向いてる」

 

「!」

 

「ペリーヌ、あの雑魚どもを一網打尽にできる固有魔法があんだろ?だったらそれでエイラと時間を稼いでくれ」

 

「え、えぇ……」

 

「リーネお前は………」

 

足立はリーネの持ってる銃を見ながら考え、それを言い当てた。

 

「そんなバカでかいライフル撃ったら反動がデカイから、それを抑えるための安定させる固有魔法か?」

 

「は、はい!私の固有魔法は弾道を安定させる魔法です!」

 

「なら援護にピッタリだな」

 

足立は固有魔法を言い当てそれぞれふさわしい役割にふっていくのを見て唖然としていた。

 

「宮藤、お前は?」

 

「わ、私は……治癒魔法しか……」

 

自分の固有魔法は戦闘向きではないことで少し自信がなくなってしまった宮藤。しかし、そこにリーネがフォローに入る。

 

「芳佳ちゃんの魔法力は基地で一番です!なのでシールドも私たちより大きいのが張れます!」

 

「リーネちゃん……」

 

「シールドか………ハハッ!」

 

すると足立は、宮藤に向かって足立自身の心臓部を叩きながらこう言った。

 

「最高にピッタリな魔法じゃねえか」

 

「!」

 

「俺を守ってくれ」

 

「……はいっ!!」

 

足立から役割をもらうと、宮藤は再び元気な様子に戻った。

 

「とっととぶっ潰すぜ!!いくぞッッ!!」

 

『了解!!』

 

足立が合図を出すと、ネウロイの大群に向かって前進し始めた。

 

「このまま突っ込むから死ぬ気で付いてこいよ!!ふたりとも!!」

 

『はいっ!!』

 

密集している小型ネウロイに向かって突入することを足立は大げさに表現したが、宮藤とリーネは覚悟を決めていたため、構わず返事をした。

 

「あの中に突っ込む気ナノカ!?」

 

「いくらなんでもそんな無茶な!」

 

そんなエイラとペリーヌの言葉を無視するかのように、足立たちは少しも減速せずネウロイの密集地帯に突っ込もうとすると、ネウロイのビームの雨が迫ってきた。

 

「ハッ!!」

 

だが、そんなビームの雨でもかすりもしなかった。巧みに間を抜け、隙間を縫うように進んでいく。宮藤もリーネも足立に付いていくのでいっぱいいっぱいだった。

 

「ッ!!」

 

リーネは隊列から少しはみ出てしまいビームをかすりそうになりシールドを何度か使っているが、前の宮藤は一回も使っていなかった。

 

(やっぱりすごいや芳佳ちゃん……!ちゃんと足立さんの軌道に付いて行けてる!)

 

普段の訓練とは別人のように、宮藤は足立の後ろをピッタリ付いて行けていた。時折足立が後ろを確認すると、宮藤とリーネが居ることに心が踊った。

 

(おもしれぇヤツらだなオイ!)

 

まるで子供がおもちゃで遊ぶ感覚で足立はワクワクしていた。

 

そんな気持ちでいると、足立たちの視界はいっきに白く広がった。目の前の下方に大型ネウロイ1機が留まっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

宮藤とリーネは肩で息をしていて、疲れが目に見えて分かる。

 

「!!、後ろから攻撃きます!!」

 

先程抜けてきたネウロイの群れの一部から、ビームを発射しようとしてるのをリーネが気づいた。だが……

 

「問題ねぇな」

 

足立がそう言うと、ビームを発射しようしていたネウロイが、銃弾の雨で次々と破壊されていった。

 

「あっ!」

 

「後ろは任せてあるんだ、問題ねぇ」

 

破壊したのはエイラとペリーヌだった。気づかぬうちに小型ネウロイたちは、ふたりを取り囲むように威圧していた。

 

「コレ相手にしろって、なかなか無茶ジャナイカ?」

 

「あら、あなたの魔法に自信が無くって?」

 

「自信が無いのはそのムネダロ?」

 

「あなたって人は!!なんて失礼なことを言って……!!」

 

「あ、よっと」

 

エイラが何かを避ける体勢になると、先程までエイラがいたところにネウロイのビームが通った。そしてそれはペリーヌの顔の横をギリギリを通ったでもある。

 

「あ、あなたねぇ!!!」

 

「お、オイ、これはちょっとヤバイんじゃナイカ?」

 

呆れを通りこして怒り心頭のペリーヌだが、エイラはネウロイがビームを一斉射撃しようとしてることが分かった。

 

「トネールッ!!!」

 

ペリーヌが固有魔法を使うと、周りに雷を発生させその場にいるネウロイたちは次々と破壊されていった。

 

「ふふん、どうですの?」

 

「すっげぇ……」

 

満足げなペリーヌに感心するエイラ。しかしペリーヌの髪はところどころ静電気をまとい、ぴょんぴょんハネていた。

 

「ペリーヌさんもエイラさんもスゴイや……」

 

ペリーヌたちとは遠くにいるリーネはそう声が漏れた。

 

「宮藤、ひとつだけ言っておく」

 

「はい?」

 

「俺が合図したら自分の足元を射て」

 

「足元ですか?」

 

「ああ」

 

「……わかりました!」

 

足立の意図が分かってない宮藤だったが理由は聞かなった、必要が無いと判断した。

 

「リーネは隊列から少し離れて援護射撃だ、できるか?」

 

「できます!!」

 

「なら……行くぜッ!!」

 

足立がそう言うと3人は、大型ネウロイに向かって突撃していった。

 

大型ネウロイからも当然ビーム攻撃が来るのだが、先程の攻撃量と比べたら大した事はないと言わんばかりに避ける足立。宮藤も機関銃で攻撃を加えながら、後を追う形で付いていってる。

 

「させない!!」

 

リーネは足立たちから少し離れ、ビームが発射される箇所を寸前で撃ち落とし、援護していた。次々と当てていき、攻撃を最小限に食い止めていた。

 

(けどこれじゃあ………)

 

「足立さん!コアの位置が分からないと長くは持たないです!」

 

「あぁ?んな心配いらねぇよ!」

 

「えっ!?」

 

無線越しの足立からの返答はあっさりしており、リーネは一瞬耳を疑った。

 

「コアは………右羽翼の中央部だッ!!」

 

「ッ!!、コアの位置が分かるんですか!?」

 

「まぁな!!」

 

そう話していると、目的の右羽翼の上にまで来ていた。

 

「今だ宮藤!!」

 

「はいっ!!」

 

先程言われた通り宮藤は自分の足元にある右羽翼に向かって、機関銃を撃ち続けた。すると、ネウロイの装甲が剥がれていくと、宝石のような赤いコアが露出されたの確認した。

 

「コアですっ!!」

 

「ッ!!」

 

宮藤がコアを発見するのと同時に、足立の先にビームを発射しようとしてるのが見えた。

 

「危ないッ!!足立さん!芳佳ちゃん!」

 

リーネは他の攻撃を防いでいて気づくのが一歩遅かった。

 

「ッ!!」

 

「!!」

 

足立と宮藤は目が合った。するとふたりはお互いの背中を利用しながらスムーズに入れ替わり、宮藤は巨大なシールドを展開した。

 

「くっ!!!」

 

その巨大なシールドのおかげで、ビームは防がれた。そして今の宮藤は防ぐことに集中した。

 

「オラァァァァァッッ!!!」

 

足立はゼロスタートからの超加速で、流れ星みたくコアに突っ込みながら切り裂いた。すると、ネウロイはうめき声らしきものを発しながら破片となって砕け散った。

 

「やった………やったあああぁぁ!!」

 

「芳佳ちゃーーーん!!」

 

「リーネちゃん!!」

 

ネウロイが撃墜したことを喜ぶ宮藤、その元にリーネは真っ直ぐ向かってきた。

 

「はぁー、ホントに倒したのカ!」

 

「なかなか……やるじゃありませんの」

 

コアを破壊したことにより、ペリーヌたちの小型ネウロイも一緒に破壊され破片となっていた。

 

「やったね!!芳佳ちゃん!!」

 

「うん!!」

 

「………宮藤」

 

「はい?」

 

「最後、何も言わず入れ替わってたが、お前には俺がしたいことを分かってたのか?」

 

「……えっと……なんとなくなんですけど、足立さんと目が合った時にこうしたいのかなって思って………」

 

「……アイコンタクトってやつかな?」

 

「あいこんたくと?」

 

リーネから聞き慣れない言葉に宮藤は首を傾げた。

 

「………ぷっ、あっはははははは!!!」

 

「っ!?」

 

「あ、足立さん!?」

 

突然笑い出した足立に戸惑う宮藤とリーネ。

 

「宮藤、お前やっぱりバカだな!いや、大バカだ!あっははは!!」

 

「えぇっ!、一生懸命やったのになんでそんな酷いこと言うんですか!?」

 

「褒めてやってるんだよ」

 

「褒められてないですよ!!」

 

「アハハ………」

 

(初見で組んでいきなりアイコンタクトだぁ?新米が簡単にできる事じゃねぇんだぞ……!)

 

足立はわざと宮藤の凄さを口に出さず、茶化すように濁した。意味が分かってない宮藤はただの悪口にしか聞こえず足立に怒りを飛ばし、リーネはそのやりとりを見てるだけだった。

 

そして足立たちは無事に基地に帰投したのであった。

 

 

 

 

 

 

その夜、足立は食堂の前の扉に立っていた。

 

「………少佐が言ってたのって案外これかもな、ハハッ」

 

足立は珍しく、今日は食堂で晩飯を食べようと思っていた。今日の戦いを見て、ウィッチ達に対する気持ちが少し変わった様子。

 

「ま、覚悟を決めますか………」

 

そう言って足立は扉を開けようとした瞬間。

 

「!」

 

扉が勝手に開いたと思ったら、反対側から宮藤が先に扉を開いた。

 

「足立さん!!」

 

「………よう」

 

「来てくれたんですね!!」

 

「たまには、な。ダメだったか?」

 

「そんなことないです!むしろちょうど良かったです!!」

 

「あ?」

 

足立が来てくれた事を心から喜ぶ宮藤に対し、いつも通りの調子。そして予想外の事を言われ足立は一瞬、声が漏れた。

 

宮藤に手をひかれて食堂に入っていくと、そこはきらびやかな装飾がされており、テーブルの上も豪華な夕飯が並べられていた。

 

「………えっと、お前らはいつもこんな豪華なモン食べてるのか?」

 

「ふふっ、違いますよ!今日は特別なんです!」

 

「特別?」

 

「あれを見てください」

 

リーネが指を指す方向を見る。

 

「歓迎会?」

 

「そ、宮藤が来たときにまともな歓迎会やってないなって思ってね。だったら一緒にしたらいいんじゃないかなって」

 

前からきたシャーリーが理由を打ち明けてくれる。

 

「シャーロット・E・イェーガーだ。よろしくな」

 

「あたしはフランチェスカ・ルッキーニ!にしし〜」

 

「……ああ、よろしくな」

 

それぞれ自己紹介をし、握手をする足立。その顔はいつもより固くなかった。

 

「リネット・ビショップです。よろしくお願いします」

 

「リーネは愛称か。いやだったか?」

 

「いえ!これからもそう呼んでください!」

 

リーネは嬉しそうに返してくれた。

 

「ペリーヌ・クロステルマンですわ。その……一昨日の件については……」

 

「あーツンツンメガネか、よろしくな」

 

「なっ!!だからその呼び方はやめてくださいまし!!」

 

足立とペリーヌのやりとりに笑い声が聞こえた。

 

「エイラ・イルマタル・ユーティライネンだ」

 

「サーニャ・v・リトヴャクです……」

 

「ああ、よろしくな」

 

足立がエイラと握手し、次にサーニャと握手しようとすると、エイラがそれを阻止してきた。

 

「あんだよ?」

 

「言っとくがサーニャには触れるナヨ?」

 

「は?」

 

「サーニャには悪い虫が付かないようにしてるんだカラナ!」

 

「エイラ………」

 

「……あー了解了解」

 

エイラの言葉にあっさり引いた足立。

 

「エーリカ・ハルトマンだよー、よろしくね!」

 

「ああ、この部隊じゃ1番強いんだってな」

 

「強いってだけなら私だけじゃないかな?ほら!トゥルーデ!」

 

みんなが自己紹介で駆け寄ってる中、バルクホルンは席に座っていたが、ハルトマンに呼ばれ渋々やってきた。

 

「ほら、自己紹介」

 

「わかってる!………ゲルトルート・バルクホルンだ」

 

「ああ、よろしくな」

 

握手を求めようとするが、バルクホルンは手を出さなかった。

 

「言っとくが、私はお前を認めたわけじゃないぞ」

 

「………ああ、それでいい」

 

そのままふたりは握手をしなかった。バルクホルンはそのまま席に戻った。

 

「ごめんなさいね、悪気はないのよ」

 

「別に構わないさ、ああいうのは居たほうがいい」

 

やってきたミーナはバルクホルンの代わりに謝るが、足立はなんとも思っていない様子。

 

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケよ、ようこそ。ストライクウィッチーズへ」

 

「はいよ、中佐」

 

爽やかな笑顔で握手を求めるミーナに対し、足立はミーナとは違った笑顔で返し握手をした。

 

「坂本美緒だ、今日の活躍は宮藤たちから聞いたぞ。よくやったな」

 

「褒めるならアイツらだろ。言ったことをやってくれたんだから」

 

「はっはっはっ!!もちろん褒めてやったさ!そしてお前もやってくれたひとりだ。褒めないわけないだろ」

 

「へいへい、ありがとさん」

 

足立はぶっきらぼうにお礼だけは言っといた。

 

「さぁ、自己紹介も終わったところで、みんな食べましょう。今日は豪華なんですから」

 

ミーナが仕切り直すと、全員席に着き待ってましたと言わんばかりの喜びよう。

 

「今日は足立さんのリクエストで作りました!」

 

みんなの席の前には、椀がひとつ蓋をされていた。

 

「足立のリクエスト?なんなんだよ」

 

「扶桑の代表料理って言ってたみたいですけど」

 

「開けてみてください」

 

シャーリーが珍しそうに聞くとリーネは聞いたことを話した。宮藤に言われ全員蓋を開けた。すると、椀から美味しそうに湯気がたちのぼった。

 

「!」

 

「!、こいつは………」

 

蓋を開けた瞬間、足立が嗅いだことある匂いに目を見開いた。坂本はひと目見てなんの料理なのかピンときた。

 

「うわぁ美味そうな匂いだな!」

 

「なにこれ美味しそう!!」

 

匂いに食欲がそそるシャーリーとルッキーニ。他のみんなも好評な様子。

 

「これってなんて言う料理なのかな?」

 

「肉じゃがだ」

 

リーネの質問に足立が先に答えた。

 

「はい、扶桑では家庭料理の定番なんです。家庭によって味付けが少し変わってくるので、それぞれの味が楽しめて面白いですよ」

 

「なるほど、たしかに扶桑の代表料理かもしれないな」

 

「…………………」

 

足立は肉じゃがを見つめたまま箸を取った。

 

「………いただきます」

 

「はい!」

 

足立は煮たじゃがいもを一口、くちに運び食べ、味わい、飲み込んだ。

 

「………………」

 

みんなが心配そうに足立を見るが、足立はずっと黙ったままだった。と思った瞬間、ようやく口が開いた。

 

「………ははっ」

 

最初に出た言葉が笑い声だった。

 

「俺、肉じゃがは人生で初めて食うんだ。今までまともな料理なんか食べたことなんてあまりなかったしな」

 

足立はポツポツと語りだした。

 

「なのに……コイツは懐かしい味がする………あたたかい味だ………」

 

「……少しでも扶桑のことを思い出して頂けるかなと思って、今日は出しました」

 

「そうか………」

 

宮藤の理由に、足立は腑に落ちしばらく肉じゃがを見つめたままだった。かと思ったら今度は椀を手に取りがっつくように食べ始めた。その様子に宮藤も、他のメンバーも自然とにこやかになった。そして足立の椀はあっという間に空になりそれを宮藤の方に向けた。

 

「おかわり、あるか?」

 

「はい!」

 

足立はおかわりを要求し、宮藤は喜んで椀に肉じゃがを注いだ。この日食べた肉じゃがを501メンバーはずっと忘れないだろうと足立も宮藤も思った。

 

 

 

 

 

つづく




お疲れ様です。

第2話ということで実質宮藤回ですね。好きなキャラなだけあってすんなり話作りがスムーズに書けました。これを書いてる頃は美味しんぼを見ていたのもあって食がキーワードになってしまいました。けど料理が好きな宮藤には丁度いいかなと。


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第3話 もうこわくない Aパート

某日。ミーナはブリタニア連邦総司令部の作戦司令室に呼び出されていた。そこは薄暗く、正面の豪華そう椅子に座ってる年配の者がふたり座っていた。ひとりはブリタニア首相、もうひとりは空軍大将、トレヴァー・マロニー。ふたりは怪訝な顔をして、対面に立たせているミーナに問いかけた。

 

「この報告書はホントかね?」

 

「はい、間違いありません。坂本美緒少佐の魔眼で、ネウロイのコアがあることを確認しました」

 

首相の問いに簡潔に答えるミーナ。

 

「だとしたら、すぐに身柄を拘束して差し出せば良かったのでは?」

 

「はい、私も最初はそう考えました。ですが、上層部の安全性を考えた結果、私たちストライクウィッチーズで監視し匿うのが最良かと至りました」

 

「それはどうしてかね」

 

「コアを持った足立進也は、驚異的な身体能力を持ち、ネウロイの再生能力まで持ち合わせています。厳重に拘束したとしても、暴れて被害が出るか、逃走を図ると思います」

 

ミーナは真剣な顔で淡々と理由を述べていった。

 

「ですが、私たちウィッチーズがいれば、足立進也も手出しできない。むしろ泳がせていれば戦力にも繋がります」

 

「なるほど………」

 

首相は納得した表情だったがマロニーは解せない顔をしていた。

 

「しかし、戦力を独り占めするのはどうかと」

 

「お言葉を返すようですが、マロニー大将はその少年とふたりきりで食事ができますか?」

 

「なに?」

 

ミーナとマロニー大将は睨みをきかせる。それを見かねた首相は咳払いをし、ミーナに一言いった。

 

「理由は分かった。特例を認めよう」

 

「ありがとうございます」

 

「首相!いいのですか!?そんな未知な者を迎え入れて!」

 

「なにかあったときの為のウィッチーズ隊、ではないかね?」

 

「ぐっ………」

 

首相の言い分にマロニー大将は言い返せなかった。

 

「ご安心ください。私たちウィッチーズが全力を持ってお守りします」

 

「うむ」

 

首相のふたつ返事を頂くとミーナは作戦司令室から退出した。その司令部の廊下でミーナはこう思った。

 

(まさかホントに上手くいくなんて………)

 

そう、これは足立の作戦だった。足立がやってきた日、基地に留めておくことに懸念を感じていた。上層部が認めるかどうか、だがそれは足立にとって問題ないと思っていた。その時、彼はこう言っていた。

 

 

 

 

 

 

「上がバカじゃなきゃこの入隊は問題なく通るさ」

 

「どういうこと?」

 

「考えてみろ、こんな危険人物をどこに置いておくのが1番安全なのか。保身の為だったらありがたく此処に置いてくれるだろうさ」

 

「そうかしら………」

 

「あと、アンタが俺を大袈裟に言ってくれれば完璧だな、ハハッ」

 

 

 

 

 

 

(全ては彼の手のひらで踊ってる、ってわけね……)

 

ミーナはそのやりとりを思い出しながら、足立への疑念を抱く。歓迎会では歓迎していたが、完全には信用できていない様子。

 

(もしもの時は………覚悟したほうがいいみたいね)

 

ミーナの目は何かを決意する目に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

快晴。雲がほとんど見当たらない基地の滑走路では3人で走ってる人物がいた。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………」

 

「も………もうダメぇ………」

 

滑走路を息を切らして今にも倒れそうに走っているのはリーネと宮藤だった。

 

「ペースが落ちてるぞ!!」

 

その様子を監督していたのは坂本だった。

 

『は………はいぃぃ………!!』

 

坂本の激を喰らってリーネと宮藤は姿勢を正してなんとか走り直そうとした。

 

「て………てか………なんで俺も………何だよッッ!!」

 

そして宮藤たちより早いペースで走っていたのは足立だった。自分もなぜ訓練参加させられているのか疑問に思った。

 

「お前は正式に部隊に入隊したからな!宮藤たち同様の扱いをするのも当然だ!」

 

坂本は聞こえてるかも怪しい理由を述べていた。

 

「だからって…………なんで宮藤たちの3倍あるんだよッッ!!」

 

宮藤たちの滑走路15往復に対し、足立は45往復することになっていた。

 

「お前も扶桑の男だろ?だったら大和魂を魅せてみろ!」

 

「んなもん……関係……ねぇだろうがぁぁぁぁ!!!!」

 

足立はそんな叫びを上げながら滑走路を往復していた。

 

 

 

走り込みを終え、リーネと宮藤は息を切らしながら地面に倒れるように休んでいた。

 

「仕方あるまい、次の訓練は午後からだな」

 

「は………はいぃ……」

 

宮藤はかろうじて返事をしたが、リーネは声も出ない様子。その直後にドサっという音が聞こえてきた。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………も……もう………無理だ………」

 

足立が近くで大の字で倒れ込む音だった。

 

「ほう!キチンと走りきったじゃないか」

 

「う…………うっせ………」

 

疲弊しきった足立は坂本の言葉に少々イラッときた。

 

「午後の訓練も期待してるからな。はっはっはっ!!」

 

坂本が基地に向かって歩くが足立は疲労困憊でなにも言い返せなかった。

 

 

 

 

 

 

訓練を終え、宿舎の廊下を歩く足立と宮藤とリーネ。足立はひとりイラついた顔をしながら話し始めた。

 

「あの少佐、ぜってぇ俺のことキライだろ……」

 

「そんなことないよ。坂本さんはいつもあんな感じだよ?」

 

「それにしたって3倍はねぇよ……」

 

「ふふっ」

 

「笑うなよ!!!」

 

宮藤がクスッと笑うと足立はツッコミをいれた。

 

「ねぇリーネちゃん、汗いっぱいかいちゃったから一緒にお風呂行こ?」

 

「あ、うん、そうだね」

 

宮藤と足立のやりとりを見ててリーネは一瞬反応が遅れた。

 

「あ、でも足立くんもお風呂使いたいよね?」

 

「俺はあとでいいから使い終わったら教えてくれ。部屋で時間つぶしてるから」

 

「わかった!ありがとう!」

 

宮藤は元気いっぱいな笑顔で返した。それを見ていたリーネは、なにか気にしているような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

「ん~!やっぱり訓練のあとのお風呂は気持ちいいよねリーネちゃん」

 

お風呂場にやってきた宮藤とリーネはとても大きい浴槽に浸かりながら疲れを癒やしていた。

 

「………ねぇ芳佳ちゃん」

 

「うん?」

 

「気になってたんだけど……足立さんを「くん」づけで呼んでたけど……アレって……」

 

「あぁ、歓迎会のあと足立くんが同じ扶桑出身だから敬語なんて使わなくていいって言うから。歳もリーネちゃんと同じだし、私もこっちのほうが話しやすいしね」

 

「……な、なんだぁ………」

 

「?、どうしたのリーネちゃん?」

 

(てっきりすごく仲良くなってるからそういう関係になってたかと思ってたけど……違ったんだ……)

 

リーネの気になることが解消されて、いっきに気が抜ける顔をしていた。その表情に宮藤は頭にはてなマークを浮かべていた。

 

「いいなぁ芳佳ちゃん。足立さんと普通に話せて……」

 

「なんで?」

 

「私、あまり男の人と話したことなくて、足立さん相手だと緊張しちゃって……」

 

リーネが話し始めると、その表情は次第に暗くなっていってしまった。

 

「もっと気楽に話せればいいんけどな……」

 

「なら一緒に練習しようよ!」

 

「練習?」

 

「リーネちゃんが足立くんに緊張しなくなるまで付き合ってあげるよ!」

 

「芳佳ちゃん……」

 

宮藤の優しさにリーネは感謝の念を送った。

 

「……でも練習ってどうするの?」

 

「えっ?えっと……うーん……」

 

宮藤は頭を少し捻りながら唸った。そしてハッとした表情でリーネに提案をした。

 

「そうだ!リーネちゃんの得意分野があるよ!」

 

「私の……得意分野?」

 

「うん!」

 

心当たりが思いつかないリーネは首をかしげた。その作戦を話し合った後にふたりはお風呂場から上がっていった。

 

 

 

 

 

 

午後の訓練の後、宿舎のオープンカフェにて。ひとつの円卓のテーブルに、宮藤、リーネ、ペリーヌ、足立と揃ってお茶会をしていた。

 

「んで?言われた通り来てやったけど、これは?」

 

「親睦会だよ!」

 

「は?」

 

足立は内容を知らされずやってきたみたいで、宮藤から内容を聞くと腑抜けた声が漏れた。

 

「せっかくだからみんなでお茶して仲を深めようってことで……」

 

「またなんか企んでるだろお前」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

図星を突かれたことに宮藤は少し動揺した。

 

「それに、なんでわたくしもですの?わたくしはお茶会をするってことできたんですが?」

 

「ペリーヌさんも仲間外れにしたらかわいそうかなって……」

 

「あ、あなたはどれだけ上からモノを言ってるんですの!?」

 

「ち、違いますよ!そういうつもりで言ったんじゃなくて!」

 

宮藤とペリーヌは相変わらず水に油の関係である。

 

「ったく、とにかくお茶飲んでればいいんだろ?」

 

「あ、あの……」

 

宮藤とペリーヌのやりとりに呆れる一歩手間になりながら、足立は半ばやけくそな言い方をするとリーネが割って入りテーブルに小さいカップケーキのような焼き菓子を出してきた。

 

「良かったら、これも食べてみてください…」

 

「菓子か?」

 

「うん!とにかく食べてみて!」

 

宮藤に勧められるまま足立は、手に取りそのまま一口かじった。

 

「………………」

 

「……ど、どうですか?」

 

リーネは恐る恐る聞いてみた。

 

「……美味いな」

 

「!、ホントですか!?」

 

「ああ!菓子類はあまり食べたことなかったけど、こりゃ何個でも食べたくなるな」

 

「だって!リーネちゃん!」

 

「うん!」

 

足立の絶賛の言葉に、宮藤とリーネは歓喜した。

 

「ホントに、紅茶とよく合いましてよ。どこのお店のやつですの?」

 

「これ、リーネちゃんが作ったんですよ」

 

「まぁ!」

 

「へぇー、すげぇな」

 

「そ、そんなことないです……」

 

ふたりは素直に感心し、リーネは恥ずかしいという気持ちが出てきて赤くなった。

 

「お茶会ってのは時々やってんのか?」

 

「は、はい!定期的にみなさんで集まってやってます!」

 

「なら、今後の楽しみが増えたな」

 

「えっ?」

 

足立の発言にリーネは目を丸くした。

 

「こんな美味いものが出るんだったら、参加してもいいんじゃないかって思ったんだ」

 

「わたくしも、これなら喜んで参加しますわ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「えへへ」

 

「………………」

 

リーネの笑顔をみて、宮藤は一緒に喜んだ。その様子を見た足立は何かを察したのか、口元がふっとにこやかになった。

 

「なぁリーネ、これなんて言うんだ?」

 

「はい!それはスコーンって言うお菓子で……」

 

リーネは嬉しそう声で足立に話し始めた。そして楽しい親睦会は成功で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

夕食後。みんなはブリーフィングルームに集まっていた。明日のネウロイ迎撃の作戦についての話し合いで招集された模様。

 

「明日の迎撃作戦の確認だ」

 

教卓の前にはミーナと坂本が立っており、黒板には説明がしやすいよう地図を張っていた。

 

「敵はカールスラント方面からやってくる。大型が1機、小型が5機。おそらく大型の護衛機だろう」

 

坂本の話を淡々と聞いてるみんな。しかし、宮藤の横にいる足立は、机に肘をつきながら顎を手で支え、聞いてるのかも怪しい顔をしていた。

 

「出撃するのは私とミーナ、バルクホルンとハルトマン、足立とリーネでロッテを組む」

 

「!」

 

リーネは足立と組むと聞かされると顔を足立の方へ向けた。しかし足立は表情ひとつ変わらなかった。

 

「大型は私とミーナでやる。その他の者は小型が邪魔に入らないようフォローを頼む。以上が作戦だ、なにか質問はあるか?」

 

坂本の作戦になにも不満はないと思った。だが、今まで静かにしていた足立が、ゆっくり手を上げるのを坂本は確認した。

 

「!」

 

「足立くん……?」

 

「なんだ足立、言ってみろ」

 

そう言って足立は椅子から立った。その様子をみんな凝視した。

 

「その偵察隊の報告書って見せてくれるか?」

 

「………ああ、構わない」

 

坂本はなにか考えがあるのかと一瞬、頭をよぎり承諾した。そして足立は教卓の前まで歩き、たどり着くと坂本から資料に目を通し始めた。

 

「………………」

 

「……なにか問題でも?」

 

たまらずミーナは聞いてみた。

 

「いんや、全然、完璧だ。問題なく完璧な作戦だ」

 

足立の感想は気持ち悪いほどべた褒めだった。それを見た坂本は業を煮やし足立に問い詰めた。

 

「言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

「ホントに完璧な作戦だって思ってる、ただ……」

 

足立は再び資料に目をやった。

 

「完璧すぎてなにかあるんじゃないか?って思っただけさ」

 

まるで脅すような言葉に、坂本とミーナは目を合わせた。

 

「もしかして、またなにかあるっていうの?」

 

「それは分からないさ、実際戦ってみたわけじゃないし。ただ最悪のシナリオは考えおかないとな」

 

「最悪のシナリオだと?」

 

「例えば小型機相手に全滅するとか」

 

「それは無いわ。坂本少佐をはじめ、バルクホルンやハルトマンが付いてるもの。そうなる前に撤退だって視野に入れてるわ」

 

足立の思いつきはミーナに一蹴された。

 

「なるほど、なら安心して戦えるってわけか。失礼しました、中佐、少佐」

 

足立は敬意がこれぽっちも感じられない敬礼をし、席に戻っていった。

 

「………………」

 

(全滅は無い……ないがそれ以外になにがあるって言うんだ?)

 

坂本は足立の最後の言葉に疑問を持った。これ以上の最悪のシナリオが他にあるのか、今の坂本には思いつきもしなかった。

 

 

 

 

 

 

翌日。前日の作戦通り、坂本たちはカールスラント方面に向かいながら飛んでいた。先頭には坂本とミーナ、間にはバルクホルンとハルトマン、後方は足立とリーネで隊列を組んでいた。

 

「足立、聞こえるか」

 

耳に付けているインカムを抑えながら坂本は足立に話しかけた。

 

「ああ、聞こえてるぞ」

 

「お前にとっては初めてのロッテだ。二番機のことを考えながら戦うんだ」

 

「わーってるよ、連携とって潰せばいいんだろ?」

 

「そういうことだ」

 

話が早くて助かる坂本は、心配はなさそうとわかり口をニッと笑った。

 

「てーことだリーネ。この前みたいな援護よろしくな」

 

「は、はい!」

 

(足立さんの足を引っ張らないようにしないと!)

 

昨日の親睦会で足立と少しだけ距離が縮まったのもあり、リーネは迷惑をかけまいと真剣な表情になった。

 

「!、敵機確認!!」

 

「作戦開始よ!!」

 

『了解!!!』

 

ミーナの掛け声により、それぞれロッテを組みながら散開した。そして作戦通り、それぞれの相手にするネウロイに向かっていき攻撃を開始した。

 

「まずはコイツらを離すぞ!!」

 

「はいはーい!おりゃあ!!!」

 

バルクホルンとハルトマンは2機の小型機に攻撃し、あえて大型から離すように移動しながら応戦していた。

 

「リーネ!すれ違いざまに片方撃て!」

 

「はい!!」

 

もうひと塊になっている小型機2機の間を飛行し、右側のネウロイをリーネの対装甲ライフルで撃ち抜き、左側のネウロイを足立が刀で切り刻みながら通過した。

 

「どうだリーネ!追ってきてるか?」

 

足立の言葉にリーネは後方を確認する。すると、小型機2機とも足立たちに向かってきているのをが見えた。

 

「2機とも追ってきてます!!」

 

「成功だ!釣られやがった!!」

 

バルクホルン組と足立たちのおかげで、大型と小型1機だけが孤立した形になった。チャンスと言わんばかりに坂本はミーナと連携を取った。

 

「よし!ミーナ!雑魚は任せるぞ!!」

 

「ええ!!」

 

坂本は魔眼を使いながらビームを防ぎ、コアの位置を特定した。場所は下方部、魚で言う腹にあたる部分だった。

 

「そこか!!」

 

コアの位置が分かると、坂本は一目散に飛んでいった。

 

「邪魔はさせないわよ!!」

 

小型ネウロイが坂本にビームを発射しようとしたが、寸前でミーナの攻撃によりビームの位置が外れた。

 

「どこに居ようとお見通しよ」

 

そう、ミーナの固有魔法は空間把握能力。範囲内の敵の位置を把握することができるのだ。

 

一方、バルクホルンたちはそう時間も掛からないうちに、小型2機を難なく破壊してしまった。

 

「ミーナたちは!?」

 

「多分大丈夫なはず!それよりアッチのほうが……」

 

ハルトマンが気にかけていたのは足立たちだった。様子を見てみると、ネウロイ2機に追いかけられてる様子だった。

 

「どうしましょう足立さん!!」

 

「んなもん決まってるだろ!!」

 

リーネの前方を飛んでいた足立は、乗っているボードを手で前面に持っていき、そのまま宙返りをした。

 

「えっ!?」

 

突然の出来事にリーネは呆気を取られ、足立はそのまま追ってきたネウロイに向かっていった。

 

「さっさとぶっ潰すぞ!!!攻撃だ!!」

 

「は、はい!!」

 

突発的な切り替えにリーネは少しもたついたが、体勢を建て直すと援護する構えに入った。

 

ネウロイに向かって突進する足立。敵も傍観するわけもなく、ビームを数発発射してきた。しかし慣れた足立は一発も当たらない。

 

「誰が当たるかよ!んなもん!」

 

そして再び、すれ違うのと同時に攻撃を入れていく足立。

 

「次で仕留めるぜ!!」

 

順調そうな足立に対して坂本たちは少々苦戦していた。

 

坂本が大型のふところに潜り込んだのがいいが、ビームの雨でなかなか近づけられなかった。

 

「クソッ!警備は硬いみたいだな!!」

 

「美緒!大丈夫!?」

 

「今のところな!!だが長くは持たん!!」

 

ミーナも小型ネウロイに苦戦していた。ミーナの実力不足ではない、この小型機は俊敏性に特化したタイプだからである。

 

「ネウロイがこんな作戦をしてくるなんて………」

 

前日言っていた足立の発言が脳裏によぎったがすぐに振り払ったミーナ。ビームを防いでいる坂本も同じことを思っていた。最悪のシナリオが起きるんじゃないかと。

 

「これは……まずいか……ッ!!」

 

「シュトゥルム!!!」

 

坂本が撤退を考えようとした時、、ネウロイの前を風の塊が通り過ぎた。その塊の正体はハルトマンの固有魔法だった。彼女の固有魔法は疾風(シュトゥルム)、自身に強力な嵐を起こすことである。その固有魔法のおかげで、大型のネウロイのコアが露出した。

 

「!!、コアを発見した!!」

 

「今です!!少佐!!」

 

「ああ!!助かる!!!」

 

合流したハルトマンとバルクホルンのおかげで活路が開き、坂本はコアに向かって扶桑刀で一刀両断した。

 

「はああああああああ!!!」

 

コアは真っ二つに切られ、大型のネウロイはうめき声を上げながら白い破片となって破壊された。そしてミーナが苦戦していた小型ネウロイも一緒に消滅した。

 

「コアの破壊を確認!!」

 

「やったぁ!!!」

 

「よし!!」

 

「ッ!!待って!?」

 

ミーナだけはひとり神妙な表情をしていた。

 

「まだリーネさんたちが戦闘中だわ!!」

 

「なに!?」

 

「コアは破壊したじゃん!!」

 

「とにかく合流するぞ!!」

 

『了解!!』

 

4人は坂本の指示によりリーネたちのもとへ向かっていった。

 

一方、足立たちは、大型ネウロイを倒したのにも関わらず、小型機2機がまだ生き残っていた。

 

「リーネ!!お前のタイミングで仕留めろ!!」

 

「はい!!」

 

動きが素早い小型ネウロイで、リーネの狙撃で当てるのは困難。しかしそんなそんなことを言ってる暇はなく、リーネはどうすれば当たるのか考えた。

 

(どうすれば………そうだ!芳佳ちゃんの時みたいにやれば……動きは素早いけど動き方は単純、だったらそこを予測すれば………いける!!)

 

リーネは前に宮藤と一緒に倒した時の、偏差射撃をやろうとしていた。動き方のパターンを見極め、当てられるタイミングを図っていた。

 

「撃ちます!!」

 

「これで、終わりだ!!!」

 

足立もリーネとは別の小型機を狙っており、攻撃範囲内に収まろうとしていた。その時………!

 

「ッ!?」

 

(なんだ?この違和感………)

 

足立は攻撃する直前、嫌な予感が走った。しかしその正体は掴めない。確認するため、後方を横目で確認した。

 

(まさかッ……!!)

 

リーネが狙っているネウロイが、足立の後ろにいたのである。小型とはいえリーネに近づいている為、先にいる足立の存在は見えていない。

 

「撃ってはダメ!!リーネさん!!」

 

合流しかけたミーナが固有魔法で状況を把握し、リーネに指示を仰ぐが遅かった。無線とのタイムラグもあるが、狙撃に集中していたリーネは反応が鈍く、ミーナが言い終えるのと同時に狙撃してしまった。

 

「ッッ!!!」

 

足立の後ろにいたネウロイは見事撃ち抜いたが、先にいる足立にも弾丸が飛んできた。しかし足立は事前に察知しており、身体を捻りながら避けようとしたが、わずかに脇腹を掠めた。だが怪我の功名か、突き抜けた弾丸は足立が狙っていたネウロイにも当たり、撃破した。

 

「…………えっ?」

 

リーネからは脇腹を抑える足立の姿が見えた。何が起きたのかすぐには理解出来ず呆然としていた。

 

「足立君!!」

 

「足立!!大丈夫か!!」

 

合流したミーナと坂本は、脇腹を抑えてる足立のもとにやってきた。

 

「なんとかな。こんなかすり傷はすぐ治せるさ」

 

傷を最小限に抑えたことにより、大事には至らなかったみたいだ。

 

「それにしてもリーネはよくやってくれたとおも……」

 

「足立さん!!!」

 

傷を負いながらもリーネを讃えようとした時、一際大きな声が響いたのはリーネの声だった。状況をようやく理解し、足立の側に寄った。その時リーネは全身が震えていた。

 

「あ、あの………私……わたし………」

 

その表情は、赤ん坊が今にも大泣きしそうな、目に涙を溜めていたリーネの表情だった。

 

「かすっただけだろ?そんな泣きそうにならな………」

 

足立なりに気を使ってか余裕そうに見せようとすると、リーネは足立の左手を両手で握り自身の額に当てながらこう呟いていた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい………」

 

「………リーネ……」

 

顔は伏せたままだったが今のリーネの表情はおおよそ察せた足立。リーネからは大粒の涙が噴水のように溢れ出て、そのままひたすら謝罪していた。

 

 

 



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第3話 もうこわくない Bパート

ネウロイを撃墜させたメンバーは無事に基地に帰投した。足立の傷も大したことはなく、基地に戻る最中に再生され完全になくなっていた。そしてその夜、リーネはシャワーで汗を流した後、自室に籠もったままだった。ベッドで横になり、自分がしてしまったことを強く悔やんでいた。

 

「私が……足立さんを……」

 

まぶたを閉じると、先程の光景が思い出される。自分の引いた引き金で仲間を誤射してしまったことに。リーネは罪悪感で潰されそうになった。そんなことを考えていると、リーネの部屋の扉からノックする音が聞こえてきた。

 

「リーネちゃん、大丈夫?」

 

「芳佳ちゃん………」

 

来客は宮藤だった。恐らくリーネが心配で様子を見にきた節だろう。

 

「入っていいかな?」

 

「……いいよ」

 

リーネの了承を得て、宮藤は入室した。

 

「リーネちゃん………」

 

「芳佳ちゃん………私…足立さんを傷つけちゃった……」

 

リーネがベッドから起き上がると、ベッドに座る形になり宮藤もリーネの隣に座り、そのまま話を聞いた。

 

「私が……撃たなかったら……足立さんは……」

 

「そんなことないよ、リーネちゃんが足立くんを守ったんだよ」

 

「……芳佳ちゃんは優しいね」

 

「ううん!みんなも思ってるよ!足立くんだって、リーネちゃんのこと心配してるし……」

 

「………ありがとう……芳佳ちゃん……」

 

宮藤の優しい言葉にリーネは少しだけ肩の荷が下り、精一杯の笑顔で宮藤に少しでも心配かけまいと振る舞った。しかし、自分で傷つけたという事実は変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

リーネが落ち着くまで話を聞いた宮藤は、みんなが集まっている食堂まで戻った。

 

「宮藤さん、おかえりなさい」

 

「どうだった?リーネは」

 

宮藤が入ってきたことに気づいたミーナ。坂本はリーネの様子が気になるみたいだ。

 

「はい、今は落ち着いてました。ただ………やっぱり足立くんを傷つけたのを気にしてるみたいです……」

 

「やはりか………すまないな、こんなことを頼んで」

 

「いえ!大丈夫です」

 

坂本に頼まれて宮藤はリーネの様子を見てきたのであった。

 

「リーネさん……大丈夫……じゃないわよね……」

 

「味方への誤射か、リーネなら尚更こたえるな……」

 

「リーネちゃんの気持ち分かります。私も……同じことをしたらと思うとゾッとします……」

 

3人は暗い顔をしながらリーネを心配していた。しかし、ひとりムスッとした顔をした人物が、椅子に座り腕を組みながらこう言った。

 

「やられたな、あのネウロイに」

 

足立だった。

 

「あのネウロイの仕業だと言うのか?」

 

「そうとしか考えられない」

 

「待て」

 

坂本と足立の話の間にバルクホルンが割って入ってきた。

 

「ではなにか?あの誤射はネウロイのせいで、自分は悪くないと言うのか?」

 

「ちょっとトゥルーデ……」

 

今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気にミーナは止めに入りろうかと思った。しかし、足立は拳を強く握りこう発言した。

 

「………一番悪いのは俺だ」

 

「!」

 

意外な発言にバルクホルンは少し驚いた。それもそのはず、いつも軽口を叩く足立が自ら反省しているのだから。

 

「一番機二番機なんて、使うか使われるか程度に考えていたけど……甘かった」

 

「足立くん……」

 

「おれは考えるのを放棄したんだ……だから……」

 

下に向いていた目線を足立は前に向けた。

 

「だから俺が責任を持って連れ戻さないといけないんだ」

 

「足立……」

 

坂本は足立の目が、どこか宮藤と似ているような雰囲気に見えた。

 

「連れ戻すってまさか……」

 

「ミーナ中佐、お願いがあるんだ」

 

足立は席を立ちミーナの前まで来て、お願い事をした。

 

「次の襲撃のときは、俺とリーネを使ってくれ」

 

「えぇ!?」

 

その提案に一番驚いたのは宮藤だった。

 

「それはできないわ。今のリーネさんは精神的に不安定で、戦える状態じゃないわ」

 

「もし、アイツが自分から言ってきたら?」

 

「!」

 

いつもの軽口を叩く表情ではなく、真剣そのものだった。

 

「今ここで、アイツが戦場に出なかったら、二度と戦場に戻れなくなる」

 

足立の握る拳がまた強くなる。

 

「それは、リーネもそう望んじゃいないはずだ」

 

足立はリーネの涙を見た。それを見て足立は何を思ったか。傷つけて悲しんでいるのか、怒られると思って泣いたのか、ずっと考えていた。そしてひとつの答えにたどり着いた。二度と誰かを守れなくなるんじゃないかと思ったのではないか。だからこそ、足立は偽りなくミーナに言った。

 

「………分かったわ。リーネさんが出撃したいと言ってきたら、貴方たちを出すわ」

 

「…サンキュー、中佐」

 

いつにない真剣な言葉にミーナは認めた。

 

「だがリーネをどうする気だ。今の状態では……」

 

「…宮藤、リーネってどんなやつなんだ?」

 

「どんな?」

 

突然の質問に宮藤は困惑した。

 

「リーネの親友はお前だろ?お前の感じたまんまで言ってみろ」

 

「………リーネちゃんは、いつもみんなに優しくて、がんばり屋さんで、お菓子作りが得意で……それで……」

 

宮藤はこれだけは言っておく必要があることを溜めて言った。

 

「勇気がある子だよ」

 

「……ハハッ、それだけ聞けりゃ十分だ。望みはある」

 

乾いた笑いが足立から聞こえる。そしてそれは真剣な宮藤の顔を見たからでもある。お世辞のひとつもない純粋な言葉に足立は笑ってしまったのである。

 

「宮藤、お前も手ぇ貸してくれるか?」

 

「うん!もちろん!」

 

足立の協力に宮藤は快く了承した。どうやっていまのリーネから戦場に復帰させるのか、今ここにいるメンバー立ちには見当もつかなかった。

 

 

 

 

 

 

翌日。例の事件から一夜明けたリーネは、身体は重苦しいものの着替えを済まし、準備を完了した。しかし部屋から出るのが怖くなってる様子で、手に力が入る。

 

「……………………」

 

(……また…あんなことが起きたら………)

 

「リーネちゃん!起きてる?」

 

「!、芳佳ちゃん?」

 

廊下から宮藤が呼びかける声がした。リーネはハッとした表情で呼び返した。

 

「ごめんね朝早くから。いま大丈夫?」

 

「うん、どうかした…の……」

 

リーネがベッドから立ち上がり扉を開け要件を聞こうとした時、宮藤の後には足立が立っていたのだ。

 

「よっ」

 

「あ、足立さ……」

 

足立が手を上げ挨拶し、宮藤の前に出てきた足立はリーネが驚いてる間に手首を掴んだ。

 

「へっ?」

 

「いまヒマなんだろ?だったらちょっと付き合ってもらうぜ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!なんなんですかいったい!」

 

目的が分からないリーネは本能的に足立が引こうとしてる手に抵抗した。

 

「なにって射撃の訓練すんだよ。それ以外なにがあるんってんだ」

 

「しゃ、射撃!?私行くなんて一言も!!」

 

「さっきヒマって言ってたろ?」

 

「言ってないですぅ!!!」

 

足立がリーネの手を引っ張ろうとする姿に宮藤はアワアワしていたが、事前に足立から横槍を入れるようなことはするなと、釘を刺されているのだ。

 

「とにかく!訓練しにいくぞ!」

 

「い・や・で・す!!」

 

「なんでだよ!!!」

 

「そ、それは………」

 

抵抗が感じられなくなると、足立はリーネの手を無理やり引こうとするのを止めた。リーネの話を聞こうとしたからである。

 

「……昨日のことを思い出して……引き金を引くイメージができないんです…」

 

リーネは視線を下に向けたまま話した。

 

「だから……今は銃を握ることさえ……」

 

「それはネウロイが目の前にいても言うのか?」

 

「!」

 

足立は背中越しでリーネに問いかけた。

 

「宮藤から聞いたぜ?お前がどんなやつなのか」

 

「えっ?」

 

「おっちょこちょいでノロマで天然で、それでいてオドオドしてて……」

 

「ちょ、ちょっと!!わたしそんなこと言って……」

 

前日で言っていたことがまるっきり違うことに宮藤は抗議しようとした。

 

「けど芯はある。勇気があるやつだって聞いた」

 

「…………………」

 

リーネは足立の後ろ姿をじっと見つめた。

 

「いまここにいるリーネは、本当のリーネじゃないと思ってる」

 

「……本当の……私…?」

 

「それを確かめるためにも、撃ってくれ」

 

顔が見えないはずなのに、妙に重く凄みが感じられたリーネ。その言葉に少しだけ、ほんの少しだけ心が軽くなったような感覚がした。

 

 

 

 

 

 

滑走路の一番先にて。リーネはライフルを手で支え、床に伏せた状態で構えていた。その後には、宮藤と双眼鏡を持った足立が立っていた。

 

「いいか、俺が合図したら撃てよ?」

 

「…………………」

 

足立の言葉が聞こえていないのか、リーネからは返事がなかった。無意識にも引き金を引く指も震えていた。

 

「リーネちゃん………」

 

「………リネット・ビショップ!!!!」

 

「は、はいっ!!!」

 

突然、足立の大きな声が響き渡り、さすがのリーネも耳に入って反射的に返事をした。

 

「撃てッ!!!!」

 

「はいっ!!!!」

 

驚いてるヒマもなく、流れるように指示を出す足立にリーネはこれまた反射的に引き金を引いた。いつも坂本に怒鳴られるのと同じく本能的に反応したんだろう。

 

リーネの放った弾は、遙か先の的を大きくズレて通過した。

 

「引けたじゃねえか」

 

「………引けた……」

 

リーネ自身も驚いていた。足立の喝のおかげで引けたこともあるが、先程まで悪いイメージが浮かび恐ろしくなり引けなかったはずなのに、あっさり引けてしまったことにリーネは目を丸くしていた。

 

「つっても人ひとり分くらいズレてるから話になんねぇけどな。つーわけでだ」

 

持っていた双眼鏡を宮藤に投げ渡すと、手を腰に当てながら言った。

 

「一日50発で、あの的に10回連続で当たるまで続けろ」

 

「!!」

 

「10回もっ!?」

 

宮藤は声に出して驚いた。

 

「弾数は気にすんな。ミーナ中佐からは話してあるから何発でも撃てるぞ」

 

「……………………」

 

リーネは押し黙ったままだった。

 

「んじゃ、宮藤、お前はリーネの監視役な」

 

「私が?」

 

「もしかしたらリーネがサボるかもしれないだろ。あとはよろしく」

 

足立はリーネ達に背中を向けながら話し、基地の方へと向かっていった。

 

滑走路の入口まで戻ると、そこには坂本が立っていた。

 

「仕返しのつもりか?」

 

「そりゃな、危うく死にかけたんだから」

 

坂本の冗談に足立もノッた。

 

「そういえば、次の襲撃っていつなんだ?」

 

「5日後だ」

 

「……忙しねぇなぁ相手も」

 

「それまでに戻ると思うか?」

 

「俺に出来ることはしたさ。あとは本人次第」

 

「ふっ、確かにそうだな」

 

坂本は鼻で笑うような言い方をした。

 

「それと、少佐。頼みたいことがあるんだ」

 

「ほう?いったいなんだ」

 

「少佐と、あと2、3人は協力がほしいかな」

 

足立は何かを見据えた目をしていた。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。結局リーネは50発全て撃ち尽くしたが、連続で的に当てられたのは2回だけだった。やはり精神的に影響を受けているのは間違いなかった。

 

夕飯の準備が終わり、リーネを呼びに部屋まで向かっていた宮藤。部屋に着くとさっそく呼びかけた。

 

「リーネちゃん!ご飯の準備出来たよー!」

 

しかしリーネの返事はなかった。

 

「……リーネちゃん?」

 

宮藤は首を傾げた。

 

ところ変わって、夜の滑走路の先にリーネは立っていた。何かを思い詰めるような表情で、地平線の向こう側を見つめていた。

 

「…………………」

 

「リーネちゃーん!!やっぱりここだったんだー!」

 

「芳佳ちゃん………」

 

パタパタと駆け寄ってくる宮藤にリーネは気づいた。

 

「夕飯の準備が出来たから呼びに行ったらいなくて、もしかしたらここかなって、えへへ」

 

「………ねぇ芳佳ちゃん」

 

「うん?」

 

「私……足立さんに嫌われちゃったのかな……」

 

「えぇ!?なんで……」

 

「だって、今の私にこんなことしても、今までみたいに戻ると思えない……」

 

「リーネちゃん………」

 

「やっぱり……私が守ることなんて…もうないのかな………」

 

「…………………」

 

(……ごめん、足立くん)

 

諦めかけているリーネを見て宮藤はなんとかしよう思い、足立から言われてることを破ろうとした。

 

「リーネちゃん、聞いて」

 

「えっ」

 

「実は足立くんはね………」

 

宮藤は前日の夜の経緯を話した。足立が責任を感じてること、そしてリーネが何を望んでいるのか、このままではリーネが戻れなくなってしまうこと、そしてふたりで出撃すること、全てを話した。

 

「………足立さんが?」

 

宮藤の話を聞いて目をぱちくりさせるリーネ。

 

「うん、だから絶対嫌いになんてならないよ」

 

「………すごいや足立さん、なんでわかるんだろう」

 

「えっ?」

 

「足立さんを傷つけたのは凄いショックだけど、1番怖かったのは、守ることが出来なくなることだったの」

 

「……わたしもわかる気がする。ストライカー履く前は自分に出来る事が無くて怖かったな」

 

「えっ、でも芳佳ちゃんには治癒魔法があるよね?」

 

「まだちゃんと安定してなかったからちゃんと使えなくて……」

 

自分の失敗談を軽く笑い話にするかのように話す宮藤。その話を聞いてリーネは先程まで暗い顔をしていたのが明るい顔になっていった。

 

「……ありがとう芳佳ちゃん。おかげで元気が出てきたよ」

 

「ううん、落ち込んでるリーネちゃんを見たくなかったから」

 

「ふふふ、あっでも、その話して良かった…のかな?」

 

「バレたら怒られるよね……あはは……」

 

足立に怒られる想像する宮藤、するとリーネが口元をニッと笑わせながら言った。

 

「なら、一緒に謝ろうっか」

 

「!、うん!ありがとう!」

 

リーネの笑顔に宮藤もお礼を言いながら笑顔になった。そしてふたりの笑い声が聞こえてくるのも感じた。

 

 

 

 

 

 

翌日、宮藤は朝食の準備に食堂に向かおうとしたとき、宿舎の廊下でムスッとした足立に出会った。

 

「あ!足立くんおは……」

 

「み・や・ふ・じ、お前リーネにネタばらししただろ」

 

「えっ!?」

 

宮藤の顔の前にズイっと近づき、間髪入れず質問してくることに宮藤はドキッとした。

 

「今朝、リーネがサボらず訓練に行ってるか様子見に行ったら部屋にいなくて、外を見たら昨日とは別人のようにやる気出してんだよ」

 

「え、えっと……ごめんなさい!!」

 

観念した宮藤は深々とお辞儀をし、正直に謝った。

 

「ったく、ネタばらししたら意味ねぇだろうが。大方、お前のお節介で言ったんだろ」

 

「すごい!どうして分かったの!?」

 

「感心すんな」

 

「は、はい………」

 

本気で怒ってるわけではなさそうだが、約束を破った宮藤は少々反省していた。

 

「反省してんなら、さっさと準備してリーネの監視に行ってこい、お前に出来ることだろ?」

 

「うん!」

 

どこか優しい言い方がする足立の言葉に宮藤はつい先程まで反省していた顔とは裏腹に、今では笑顔で返事をした。返事を返した宮藤はパタパタと急いで食堂に向かった。宮藤の後ろ姿を見て足立は、口元をニッと笑った。

 

 

 

 

 

 

そしてリーネの射撃の勘を取り戻す訓練が始まった。前日の迷っていた目とは違い、今は的に当てることだけに集中していた。足立の期待に応えるために、自分がまた守れるようになるためにと想いを込めながら、一発一発を撃ち続けた。そしてその日、連続で当てられたのは4回だった。

 

3日目、手に痛みが感じると思い見てみると、手や指にマメができていた。銃を持つのも少し辛い様子。それを見かねた宮藤は、リーネの手に治癒魔法をかけた。するとリーネの手のマメは無くなった。宮藤の優しさにリーネは微笑み、宮藤も治療が成功して笑顔になった。その日の連続で当てられた数は5回だった。

 

4日目、ネウロイの襲撃予定の前日。青空が広がる午後に、リーネは変わらず訓練をしており、本日の最後の一発を撃ちきった。

 

「わぁー!!リーネちゃんすごいよ!!今日は7回連続で当たったよ!!」

 

双眼鏡で覗いていた宮藤は、最後の一発を的に当たると双眼鏡から目を離し、自分の事のように喜び、リーネに報告した。

 

「うん、でもこれじゃまだ………」

 

「……また明日頑張ろうよ!次は成功するよきっと!」

 

「………うん、ありがとう。芳佳ちゃん」

 

宮藤の励ましに元気を貰えるリーネ。自然と笑顔になった。

 

すると、上空でプロペラ音が聞こえてきた。

 

「あ!足立くんたちだ!」

 

宮藤の目に映ったのは基地に帰投するウィッチたちだった。足立と坂本は何やら話してる様子。その後ろにはシャーリーとルッキーニ、坂本と話してるのが気に食わなそうな表情をしてるペリーヌもいた。

 

「最近ずっとみんなで飛んでるよね」

 

「うん、なにしてるんだろう…?」

 

リーネが疑問に思ってると、突然基地内のサイレンの音が響き渡った。

 

「ネウロイ!?」

 

「…………行かなきゃ」

 

「あ!リーネちゃん!!」

 

サイレンの音を聞いてリーネの目つきが変わり、一目散に基地に走っていった。

 

場所は変わってブリーフィングルーム。そこにエイラとサーニャ、1番前には足立が座っており、教壇の前にはミーナが立っていた。

 

「ズレがあるとは言え、間に合わなかったわね……」

 

「………案外そうでもなさそうだぞ」

 

「えっ?」

 

残念そうにしてるミーナに対し、足立は席で頬杖をついて窓を見ていた。すると、バンッと扉が開く音と共にリーネと宮藤が入ってきた。

 

「リーネさん!」

 

「ミーナ中佐!私も出撃させてください!!」

 

入ってきて早々にリーネはミーナに出撃願いを出した。

 

「今わたしが行かなかったら……きっと後悔すると思うんです!!」

 

その言葉を聞いた足立は席を立ち、リーネの前で質問をした。

 

「リーネ、何回当てられたんだ?」

 

「………7回です」

 

「的の中心に連続で当てられたのは?」

 

「えっと………2回…です」

 

想定外の質問にリーネは少し戸惑ったが、正直に覚えてることを言った。

 

「そんな命中率で俺の命を預けろって言うのか?」

 

「………足立さんの言う目標には届きませんでした。けど……」

 

リーネのその目は何かを決意した目だった。

 

「けど怖がってばかりじゃ何も変わらないと思ったんです!!このままじゃ前の私になってしまうって!!」

 

「リーネさん………」

 

「だから足立さん!!私と一緒に飛んでください!!」

 

その決意に足立はしばらく押し黙っていたが、答えはもう決まっていた。

 

「……そこまで言われたら、俺も命を張らねぇとな。なぁ中佐?」

 

「……………早く準備してきなさい」

 

「ッ!!、了解です!!」

 

ミーナがにこやかに言うとリーネも元気な返事をした。

 

「宮藤さん、あなたもリーネさんと一緒に出撃もらえるかしら?リーネさんの監視役、まだ終わってないでしょ?」

 

「はい!!」

 

そして、取ってつけたような理由で宮藤も出撃させた。ホントは前回の経験を得て、いつでもフォローに入れるよう宮藤を投入したのだろう。

 

 

 

リーネ、宮藤はハンガーに着くと自分達のストライカーユニットが設置してるところに目掛けて飛んで履いた。すると使い魔の尻尾と耳が生え、ストライカーユニットの下には大きな青い魔法陣が現れた。

一方、足立も自身のストライカーボードに飛び乗ると、ネウロイみたく白い線の光が脚から頭まで走り、目を開くと瞳の色が黒から赤色に変わった。そしてストライカーボードの下には赤い魔法陣が現れた。

 

「出るぞッ!!!」

 

足立が出撃の合図を出すと3人は一斉に基地から飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、交戦中の坂本たちは、残り1機の大型ネウロイと戦おうとしていた。

 

「残りはアイツだけか!!」

 

坂本が大型のほうに向きなおし体勢を立て直そうとすると、大型ネウロイの上部から何かを射出した。

 

「にゃ!?なんか撃ってきたよ!?」

 

「いやアレって……ネウロイか!?」

 

突然の攻撃にルッキーニとシャーリーが驚くが、シャーリーは冷静に判断し見極めた。ネウロイの中からネウロイが飛び出していったということになる。

 

「じゃあそれって……」

 

「分離型タイプか!!」

 

「んにゃろう!!逃がさない!!」

 

バルクホルンとハルトマンは敵の狙いを察し、シャーリーは自慢のスピードで飛び出したネウロイを追いかけようとすると、インカムから声が聞こえてきた。

 

「おっと!!ソイツは俺らでやるぜ?」

 

「!!、その声って………」

 

シャーリーが聞き覚えある声に動きが止まった。

 

「私たちがそのネウロイを撃墜させます!!」

 

「皆さんもそっちを頑張ってください!!」

 

「足立にリーネに宮藤か!!」

 

出撃しないと思われた者たちがそこに現れたことにシャーリーは歓喜した。

 

「足立!!聞こえるか!?」

 

「ああ?どうした少佐」

 

「恐らくそっちに向かっていったネウロイにコアがあるはずだ!!お前たちで確実に落とせ!!」

 

『了解!!』

 

「………へへっ、了解だ!少佐!」

 

坂本の命令に珍しくもやる気がある足立だった。その顔は獲物を狩るのを楽しむような表情だった。

 

 

 

 

 

 

坂本と通信して30秒も経たない間に、リーネが何かを発見した。

 

「高速で移動するネウロイを発見しました!!」

 

「アイツか」

 

「すごく速いよ!!」

 

足立も宮藤もそのネウロイの姿を確認した。今にもぶつかってきそうな勢いで足立に向かってくる、と思ったその時。

 

「えっ!?」

 

リーネが見たものは、高速で移動するネウロイが、更に3機に分裂した。

 

「3つに増えた!?」

 

「………元々小型だったってことかよ」

 

「どうしよう足立くん!?」

 

「相手が悪かったな」

 

「えっ!?」

 

弱気な発言に聞こえた宮藤は耳を疑った。しかし実は真逆で、敵ネウロイに同情した発言だった。

 

「宮藤!!お前は左のネウロイに注目してろ!リーネの邪魔させるな!」

 

「は、はいッ!!」

 

足立の指示に従い、宮藤は機関銃を構え直した。

 

「リーネ!!俺たちが狙うのは右側のネウロイだけだ!!」

 

「!、真ん中のネウロイはどうするんですか!?」

 

「途中で落とす!!」

 

「!!」

 

途中で落とす、この発言でリーネはおおよその察しがついた。どれにコアがあるのか、それは右側のネウロイだと言うことに。

 

「行くぜッ!!」

 

『了解!!』

 

今まで立ちながら空を飛んでいた足立が、ウィッチたち同様のうつ伏せのスタイルで飛ぶと更に加速した。リーネと宮藤はそれに必死に付いていった。

 

すると前方からネウロイ達の攻撃が迫ろうとしていた。その時、足立は右手を背中にやると指で左方向を指した。

 

(左?)

 

すると足立が左方向に移動しようとしてる予備動作にリーネは気づいた。

 

「!!、芳佳ちゃん!左に避けるよ!!」

 

「!、うん!!」

 

リーネは意図を察し、足立が移動する左方向に付いていくと、先程までいた場所にビームが通った。

 

「すごいや!リーネちゃん!」

 

「えっと、私じゃなくて……ッ!」

 

目を足立のほうに向けると、今度は左手で右方向を指していた。

 

「今度は右だよ!!」

 

「うん!!」

 

リーネの指示通りに動くと、ネウロイのビームをスムーズに次々と避けていった。前回とはまるで違う動きにリーネは驚いた。

 

(すごい……動きやすい………足立さんのおかげで、何がしたいのか分かる…!!)

 

そんなリーネが驚いていると、右のネウロイが飛び出し、足立たちを1番近くで狙ってきた。

 

「宮藤!!」

 

「はいッ!!!」

 

宮藤が返事をすると同時に飛び出し、足立とリーネをネウロイのビームから巨大なシールドで守った。

 

「くっぅうううう!!!」

 

「ありがとう!!芳佳ちゃん!!」

 

食い止めてくれている宮藤にリーネがお礼言うと、そのまま足立とリーネは残りの2機に向かった。

 

「リーネ!!前回のアレで真ん中を落とすぞ!!」

 

「!、了解です!!」

 

足立とリーネは、2機が並列に並んでいるネウロイの間に入り込んだ。

 

「オラァッ!!」

 

足立が回転しながら入り込むのと同時に刀を居合抜きのように抜刀すると、真ん中のネウロイは足立が通ったところの装甲が剥がれていった。すると今度はリーネが、ボーイズライフルをほぼ至近距離で撃ち抜いた。

 

「やった!!」

 

ライフルの弾が当たり真ん中にいたネウロイは失速していった。

 

「ターン!!」

 

足立が掛け声をだしリーネとそのまま宙返りをすると、1番上まで到達し、その場でロールしながら体勢を立て直すと、残りの右側にいたネウロイの後ろに付いた。

 

「残りはアイツだけだ!!」

 

そう言うと足立は出力を更に上げ、1番前のネウロイに追いつこうとした。しかしリーネは足立のスピードに追いつけなかった。

 

「足立さん速い……!!これ以上は………あっ!!」

 

リーネが諦めかけている目の前で意外なものが現れた。それは先程失速していったネウロイだった。リーネを狙わず、足立を追ってまたも挟みうちをしようとしていた。

 

「足立さん!!後ろ!!」

 

「ッ!!」

 

呼びかけに足立は反応し、顔だけ振り向くと後ろのネウロイに気づいた。しかし足立はこの状況を待っていましたと言わんばかりの顔をしていた。

 

「リーネ!!」

 

「俺が合図したら俺に向けて撃て!!」

 

「えっ!?そんなこと!!」

 

「なにがなんでも撃つんだ!!いいな!!」

 

(足立さんに……?なんで?そんなことしたらまた足立さんを………あッ!)

 

リーネは気がついた、足立の意図を。

 

(分かりました………足立さん!!)

 

「………へへっ、ホントの答えは、こっちなんだろッッ!!!」

 

そう言うと足立は急停止し、後ろのネウロイに標的を変えた。すると刀を構え、ネウロイにのスピードの推進力だけで、後方のネウロイを切り裂いた。

 

「今だッ!!リーネッッ!!!」

 

「はいッ!!!」

 

(もう、怖くないッ!!)

 

ダンッ!!!

 

リーネは引き金を引いた、足立に向けて。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()撃ったのだ。

 

「ハハッ、大当たりだ」

 

切り裂かれたネウロイの間に足立が見え、その顔の横に寸分狂いなく弾が通り、足立の前にいたネウロイに命中した。すると同時にコアも破壊され白い破片となって消えた。

 

「…………やった……?」

 

ネウロイは消えた。しかしリーネにはまだ実感が沸かなかった。

 

「リーネちゃーーーーん!!!」

 

「芳佳ちゃん!!!」

 

食い止めていた宮藤も駆けつけた。

 

「リーネちゃん!!やったんだね!!」

 

「うん………うん!私やれたよ!!芳佳ちゃん……!!」

 

宮藤に言われ、遅れながらもようやく自分で守ったという実感が沸き、涙目になりながら歓喜し、宮藤と抱き合った。

 

「その様子だと無事に倒せたようだな」

 

「!、坂本さん!」

 

「坂本少佐!!」

 

ふたりが喜び合っていると、先に戦っていた坂本たちが合流してきた。

 

「ふたりの練習の成果もあったんじゃないのか?」

 

「えっ、ふたりって………」

 

「わたしは何もしてませんよ?」

 

「いーや、リーネと………アイツだよ」

 

シャーリーが指したのは足立のほうだった。

 

「リーネが訓練し始めた当初から、足立も編隊飛行の訓練をしていたんだ」

 

「アタシたちも協力してさ」

 

「そうそう!!」

 

「せっかくですから、というわけですわ」

 

「…………………」

 

訓練に協力していた者たちが一言ずつ述べると、リーネは足立の方に近付いた。

 

「あの!足立さん!!」

 

「あ?」

 

「いろいろありがとうございました!!これからもよろしくお願いします!!」

 

以前のリーネだったらどこかオドオドしていた様子だったが、今はその影もなく真っ直ぐな素直な表情をしていた。

 

「………また誤射だけはカンベンな」

 

「はい!!」

 

足立の冗談にリーネは笑顔になった。元のリーネに戻ったことにより他のメンバーも和やかな雰囲気に包まれ、無事に基地に帰投した。

 

 

 

つづく




お疲れ様です。

第3話ということでリーネちゃん回です。宮藤程ではないですがすんなり書けました。というより1番悩んだのがどんなネウロイを出すか悩んでいたのですが、1期もいろんなネウロイは出てきましたが特別強いネウロイがいた訳ではなかったので、平均的なネウロイになってしまいました。

作者はお風呂シーンは好きですがどう書いたらいいかは苦手です。


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第4話 だいっきらい Aパート

そこはとある研究所の一室。そして研究に没頭している白髪に白衣を着た父親と、それをつまらなそうに見ていた息子がいた。

 

「どうだ?これすごいだろ?」

 

「………何が?」

 

父親が手にして見せたのは、白い板の形状をした機械だった。

 

「ストライカーボードって言うんだ。俺のアイデアだぞ?」

 

「……けどダメだったんだろ?」

 

「そ、それは言うなって!」

 

息子の痛いところを突く発言に父親は聞きたくなかった。

 

「絶対いつか、ウィッチ達を空で自由に飛ばせられるものを作るんだ。宮藤博士とな」

 

「……………………」

 

そう言って諦める様子はなく、次の試作の研究を考える父親だった。その息子は父親が作ったストライカーボードをただただ見つめていた。

 

「……お前も飛んでみたいのか?」

 

「いや別に………」

 

息子の視線の先に気づき父親は提案したが、息子は仏頂面で顔色ひとつ変えず否定した。

 

「……ならオレが作ってやるよ!お前でも飛べるようなストライカーを!」

 

「それ無理だろ」

 

「今はな。けどウィッチ達が飛べるようになったら、今度はそっちの研究だ!へへっ」

 

父親は楽しみが増えたかのように話した。

 

「……なんでそんな楽しそうなんだよ」

 

「考えるのが好きだからな。それに、子にプレゼント出来ると思ったら、親は楽しみになるさ」

 

「……………………」

 

「だから、楽しみにしとけよ?進也」

 

息子に振り向いた父親の顔は、眩しいくらいの笑顔だった。

 

が、次の瞬間、目の前が光に包まれ次に映った光景は、その研究所の成れの果てだった。辺りは破壊され火災も発生しており、そこには足立の父親も倒れていた。

 

「オヤジ………」

 

足立はボロボロの身体で辛うじて生きてる状態だった。なぜ自分が生きているのか分からないくらいだった。だが、すぐに判明した。ガラスに映った自分の上半身の心臓部に、赤いコアが光っていたことに。

 

「なん………だよ……これ……」

 

そして足立は気を失った。

 

 

 

 

 

 

夜中、部屋で眠っていた足立は目を見開いた。

 

「………なんつー夢見てるんだか」

 

半笑いで自分が今しがた見た夢に呆れる足立。思い出したくないわけでもないが、良い思い出でもない。

 

「………いったい誰なんだ?コアを埋め込んだのは……」

 

足立も誰がこんな身体にしたのか分からなかった。しかしそれが、足立の飛んでいる理由かもしれない。誰がこんなことをしたのか、それを突き止めるために飛んでいるんだと。

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ〜〜ねっむ………」

 

翌朝、食堂に向かおうと足立は大きな欠伸をかきながら宿舎の廊下を歩いていた。

 

「あ!足立くんおはよう!」

 

「おはようございます。足立さん」

 

「ん?ああ、おはようさん」

 

後ろから挨拶してきたのは宮藤とリーネだった。

 

「足立くんなんか眠そうだね?」

 

「久しぶりに寝れなくてな」

 

「寝癖までついてますけど……」

 

「別にほっときゃ直るだろ」

 

「ちょっと待っててください!」

 

「あ、オイ!」

 

リーネがそういうと自分の部屋まで戻り、取り出してきたのはブラシだった。取ってきたブラシでリーネは足立の寝癖を取り始め、あっという間に寝癖が無くなった。

 

「これで大丈夫です!」

 

「別に寝癖のひとつやふたつどうってことないだろ………」

 

「しっかりしないと坂本さんとかに怒られちゃうよ?」

 

「へいへい」

 

宮藤の話を聞き流すかのように足立は返事を返した。すると前の食堂の方面からバルクホルンが歩いてくるのが見えた。

 

「あ、バルクホルンさん!おはようございます!」

 

「バルクホルン大尉、おはようございます」

 

「ああ、おはよう」

 

宮藤とリーネはバルクホルンに挨拶すると、穏やかな挨拶で返してくれた。

 

「…………………」

 

「…………………」

 

しかし、足立とバルクホルンはお互い見つめたままだったが、切り出したのは足立からだった。

 

「どうも、おはようございます。バルクホルン大尉」

 

「………………………フン」

 

相変わらず足立の敬語を使うときは茶化したような言い方になり、らしくもなく敬礼もしていた。しかし気に入らなかったのかバルクホルンは鼻を鳴らしてそのまま自室の方へと向かった。

 

「ありゃ、こりゃ相当嫌われてるな」

 

「そうじゃないと思うんですけど………」

 

「いいの足立くん…?このままで……」

 

「いいんだよあれで、中にはああいう警戒してるのが1人や2人居たほうが安心するってもんだ」

 

「足立くん………」

 

足立はそう言い残すと、スタスタとひとりで食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、執務室にて。書類作業に追われてるミーナの前には、不機嫌そうなバルクホルンが立っていた。

 

「……そんな顔してると、おばあちゃんになっちゃうわよ?」

 

「こうもなるさ。アイツがいる限りは」

 

「そんなに気に入らないの?」

 

「ああ。ミーナ、お前もそうは感じないのか?」

 

「………現段階じゃ、彼が何をしようしているのかは分からないけど、私たちを助けてくれたのは事実よ」

 

冷静に今まで起こったことを分析するミーナ。

 

「しかしネウロイと分かってる以上、泳がせとくのも危険過ぎるだろ」

 

「ふぅ………」

 

作業が進まないことにミーナは少しイラつき、ペンを置いた。

 

「ならどうしろと言うの?」

 

「すぐに身柄を拘束して送るべきだ」

 

「ひとりの少年を?」

 

「アイツは………」

 

「彼が言ってたわよね?私たちはコアの位置を知っていて、いつでも破壊できるって」

 

真剣な眼差しでバルクホルンを説得するミーナ。

 

「けどそれをしないって事は、アナタもひとりの少年として、人間として見ているからじゃないの?」

 

「ッ!!」

 

図星を突かれたような顔をするバルクホルン。

 

「宮藤さんも言ってたでしょ?見殺しになんて出来ないって。ネウロイには見えないって。あのまま反対していたら、私もアナタも後悔していたわ」

 

「………私には、コアがある時点でネウロイとしか見れない」

 

バルクホルンは何かを思いつめた顔で視線を下に向けたまま言った。

 

「ネウロイは一匹残らず倒さないといけないんだ………」

 

そう言い残すとバルクホルンはミーナの部屋から扉の音を大きく立てて出ていった。

 

「全く………変なところで生真面目なんだから………」

 

悪態をつくような言い回しでミーナは言うが、本心は心配していた。これ以上彼女がひとりで背負ってしまうのではないかと。

 

 

 

 

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ」

 

「あ、坂本さん!」

 

「うん?宮藤にリーネか。どうした」

 

海岸付近で刀を素振りしている坂本を宮藤とリーネは見つけた。

 

「あの、バルクホルンさんと足立さんについてなんですけど……」

 

「あのふたりがどうかしたのか?」

 

「ふたりとも仲があんまり良くなくて、どうしたらいいのかなって思って坂本さんに相談しにきました」

 

「足立とバルクホルンか………」

 

素振りを止め、宮藤たちの相談に耳を傾け考えるが、坂本の答えはあっさりだった。

 

「すまないが、それは私にどうこう出来る問題ではないな」

 

「えっ!?」

 

坂本ならなにかいい解決方法があると思っていた宮藤にはこれは意外な答えだった。

 

「もっと言えば、恐らく当人以外は誰にも解決出来ない問題でもある、ということだ」

 

「ど、どうしてですか?」

 

発言の意図が見えないリーネは困惑した。

 

「例えばだリーネ。今日からお前の部屋にとある虫と一緒に過ごしてもらう。しかも放し飼いだ、そんなの耐えられるか?」

 

「そ、それはちょっと……ムリですね………」

 

「つまりはそれと同じだ。故郷を追われ、妹が意識不明、そんなヤツが簡単にネウロイと過ごしたいと思うか?」

 

「……………………」

 

坂本の言っている意味を理解したリーネは悲しげな表情をしていた。

 

「で、でも足立くんは……!」

 

「ああ、分かってる。ヤツは人間だ。血を流していた。血を流すのは人間か動物のみだからな」

 

扶桑刀の切っ先を見ながら、初日に足立がしたことを坂本は思い出していた。

 

「しかし頭で分かっていても、身体が拒否しているんだろうな」

 

「……拒否してる?」

 

「バルクホルンは戦争が始まった時から戦っており、そして軍規に重んじるカールスラント軍人だ。なおさら良いようには見ないだろう」

 

「そんな………」

 

坂本の話を聞いて宮藤も悲しげな表情に変わってしまった。

 

「今は時間が解決するのを待つしかなさそうだ。お前らも、あまり首を突っ込むことはするな。いいな?」

 

『はい………』

 

ふたりは落ち込みながらも、坂本の命令には返事をした。しかしその返事にはいつもの元気さは残ってなかった。

 

 

 

 

 

 

その日の午後。襲撃の警報が鳴り響き、ネウロイの迎撃に出た501メンバー。向かったのはバルクホルン、ハルトマン、坂本、宮藤、足立、ペリーヌのメンバーだった。

 

目標のネウロイは300m級の超大型。左右には巨大な羽翼がついており、海上を進んでいた。

 

「いいか!!私とバルクホルンとハルトマンで本体を叩く!足立は宮藤とペリーヌたちでサポートを頼む!」

 

「俺がか?」

 

「上官命令だ」

 

「………了解了解」

 

いつもの本体を倒す役目ではなく、サポートに回る事に渋々返事をする足立。

 

「くるぞッ!!」

 

坂本の掛け声と共に、ネウロイのビームが通過してきた。そしてそれは次第に多くなり、ウィッチたちも応戦し始めた。

 

「いくぞ!ハルトマン!」

 

「はーい」

 

バルクホルンとハルトマンのふたりは、戦闘を開始するとネウロイのビームの雨をモノともせず、MG42の銃弾を叩き込んだ。

 

「足立くん!!私たちはどうすれば!!」

 

「んなもんテキトーに空いてるとこに当てればいいんじゃねぇか?」

 

「そんないい加減な指示に従えますか!!!」

 

「つってもなぁ…………ん?」

 

いい加減な指示に怒号を飛ばすペリーヌを尻目に足立は、バルクホルンの動きが気になった。何度か一緒に戦って動きは把握していたが、いつもと違う感じがした。

 

「…………………………」

 

「ちょっと!!聞いてますの!?」

 

「宮藤、ペリーヌ、お前らは少佐に付いていけ」

 

「えっ!?」

 

足立はさっきまでとは違う真剣な表情になっており、ペリーヌも思わず驚きを隠せなかった。

 

「足立くんは!?」

 

「ちょっと離れるわ」

 

「えぇっ!?」

 

宮藤が驚いて、そう言うと足立は宮藤とペリーヌを置いてひとりあさっての方向に飛んでいった。

 

「な、なんなんですの全く!!!!」

 

「とにかく坂本さんのところに行こう!!」

 

隊員とは思えないテキトーさに怒り心頭のペリーヌに対して、宮藤は冷静に足立が言ってた事を従うことにした。

 

「この分だと、楽勝だね!」

 

「ああそうだな!!」

 

「ッ!」

 

いつものハルトマン軽口に同意を示したバルクホルン。しかしハルトマンにはこれがいつもと違うと気づいた。いつもなら慢心するな等を言って気を引き締めるはずだのだが、今日はそれが無い。

 

「そこだ!!バルクホルン!!」

 

坂本が魔眼で見たのは、バルクホルンが攻撃している位置にコアがあった。そこで坂本はインカム越しに指示をした。

 

「うおおおぉぉぉ!!!」

 

両手に持ったMG42の銃弾の雨をこれでもかというぐらい浴びせ続けると、表面の装甲が破壊され赤いコアが確認された。

 

「コアを確認!!これで終わりだ!!」

 

コアを確認し、再びMG42を構え直すバルクホルン。

 

がしかし、その直後に別の部位からバルクホルンに向かってビームを発射しようとしてるのを、ハルトマンは気づくのが遅かった。

 

「ッ!トゥルーデ危ないッ!!」

 

「!?」

 

ハルトマンの掛け声に気づき、自分の置かれてる状況を理解したが、攻撃体勢に入ってる状態でどうすることも出来ないと悟った。このままビームを受けきるしかないと、覚悟を決めたそその時。

 

ザンッ!!

 

ビームの発射口が切られたように破壊された。

 

「足立だ!!」

 

「今だッ!!やれ!!」

 

「ッ!!はああああぁぁぁ!!!」

 

現れたのはどっかに行ってしまわれたと思った足立だった。意外な現れ方をして歓喜するハルトマン。足立がチャンスを作ると、バルクホルンは再びコアに向かって銃弾の雨を降らした。

 

すると赤いコアは破壊され、超大型ネウロイも白い破片に弾けた。

 

「やっるじゃーん!!足立ぃ!!」

 

「どわっ!!なんだよオイ!!」

 

足立の後ろから抱きついてきたのは、歓喜をあらわにしたハルトマンだった。

 

「美少女からのハグだぞー?嬉しくないの?」

 

「その前に鬱陶しいから離れろ!!」

 

「えー、やーだよ♪」

 

「だあああ離せぇぇぇ!!!」

 

女の子からハグされるという経験が無い足立にとっては、未知な体験だが嫌な気持ちにはならなかった。むしろ少し赤面をしていたぐらいだった。

 

しかし一方のバルクホルンは何も言わず、ただただ足立を冷たい目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

出撃に出ていたメンバーが無事に基地に帰投すると、ハンガーでストライカーを降りた直後に、ペリーヌに鬼のような形相で足立が問い詰められた。

 

「あ・だ・ち・さん?」

 

「どうした?そんな怖い顔して」

 

「どうしたもこうしたもありませんわよ!!わたくしと宮藤さんを放って置いて!!自分は何をしてらしゃったの!?」

 

「あー……まぁいろいろとな」

 

ペリーヌの問に足立は何故か正直に答えようとはしなかった。

 

「私はふたりと一緒にサポートしろと言ったはずだが?」

 

「まさかあの状況でサボっていた、なんてございませんわよね?」

 

「…………あのなぁ」

 

「足立はサボってなんかないよ?」

 

ペリーヌと坂本の疑問にハルトマンが割って入ってきた。

 

「ハルトマン中尉!」

 

「どういうことですか?ハルトマンさん」

 

「トゥルーデがやられそうなところに、足立が助けてくれたんだよ?」

 

「えぇっ!?そうだったんですか!?」

 

予想外な答えに宮藤は目を丸くしていた。

 

「そんな庇うようなご冗談を………」

 

「ウソじゃないよ?ねっ?足立!」

 

「………そういうこった」

 

足立も観念し、ハルトマンの言ったことを認めた。

 

「………ホントですの?」

 

「なーんだぁ、わたしてっきり足立くんがネウロイから逃げちゃったかと思ったよ〜」

 

「宮藤、お前はあとでぶん殴る」

 

「えぇッ!!?」

 

宮藤は本気で悪げなく言ってるのでタチが悪いと思い、足立はそれなりの処罰を発言した。

 

「しかし、それならそうと報告しなければならないな」

 

「反省点ってところか?次からは気をつけますよ、少佐」

 

「まったく………」

 

相変わらずへらへらした態度の足立で坂本も呆れる始末だった。

 

「ほら、トゥルーデもお礼言ったら?助けてもらったんだし!」

 

「……………………」

 

ハルトマン言われ、1番遠く居たバルクホルンは冷たい視線で足立に向かい、そして足立の前に立ち、最初の発言をした。

 

「どうして命令に従わなかった」

 

「!」

 

ピシャリと氷のような無機質な声にも聞こえるトーンでバルクホルンは足立に問いた。その状況に他のメンバーもザワつき出した。足立も一瞬目を丸くしたが、すぐにいつもの楽観的な表情になった。

 

「お説教か?報告しなかったのは本気で反省してるんだ…」

 

「どうして命令に従わなかったのかと聞いているんだ!!」

 

「ッ!?」

 

「バルクホルンさん………」

 

「………………………」

 

突然の怒鳴り声にペリーヌと宮藤はビクッした。まるで自分が怒られているかように聞こえたのだから。そして足立は楽観的な表情から目をつむり、再び開いた時にはバルクホルンと同じような冷たい表情に変わっていた。

 

「様子がおかしかったからだ。アンタのな」

 

「私が?」

 

心当たりがない表情をするバルクホルン。もしくは気づいていないだけかもしれない。

 

「アンタとは何度か一緒に戦ってるからどういうレベルかある程度は把握してる。すげぇよ、並の強さじゃないってのはすぐにわかった」

 

足立は淡々とバルクホルンの強さを褒める。

 

「が、しかしだ。今日のアンタを見てたらなーんか様子がおかしかった。いつもの動きのキレがなかった」

 

「!」

 

足立の指摘を聞いてハルトマンもバルクホルンの違和感に気づきはじめた。

 

「そんで嫌な予感がしたんで、アンタのところを飛んで観察しながら戦ってたら予想的中、ネウロイの攻撃を喰らいそうになってたから手助けをした。ってなわけ」

 

「………それが命令を無視した理由か?」

 

「ああそうだ」

 

一通りの話聞いたバルクホルンは変わらず冷たい声だった。しかし、今度は怒りが混じってるようにも聞こえた。バルクホルンの問に今度は迷いもなく答えた。

 

「なら今すぐ部隊から降りろ。命令を守れないヤツが軍隊にいる資格などない!!」

 

「………………………」

 

足立は押し黙ったままだった。

 

「そもそもだ!仲間を放りだして独断専行とは何事だ!!軍隊ではあるまじき行為だぞ!!いつもいつも自由にしてるからそんな行為に走るんだと……」

 

「クッ…フフフ………」

 

本格的なお説教が始まったかと思ったら、足立は突然笑い出した。

 

「何がおかしい」

 

「いやぁ、なんとなーく分かっちまった気がしてな。アンタがネウロイにやられそうになったのが」

 

「なに?」

 

不気味な笑いに何かを見透かしたような目の足立に、バルクホルンは警戒した。

 

「軍規や規律を守れ守れ守れ。正にカールスラント軍人の鑑だアンタは」

 

「何が言いたいんだ」

 

「軍人の鑑過ぎてセオリー通りにしか動けなくなったんじゃないか?」

 

「なんだと!?」

 

「ちょっとトゥルーデ!!」

 

「ふたりともやめないか!」

 

足立の挑発めいた発言にバルクホルンは一瞬手が出そうになったが、ハルトマンと坂本の手によって抑えられた。

 

「それとも、俺に恐れているか。だな」

 

「私がお前に恐れているだと!?そんなことあるわけが!!」

 

「無い、かもしれないな?まぁアンタが何考えてるのかは別にいいとして、ひとつ忠告しとくわ。そのまま変なことを考えながら戦ってると………」

 

足立はバルクホルンに近づきながら言い、そして眼前でこう言った。

 

「いつか死ぬぞ?アンタ」

 

最高の挑発だった。あのバルクホルンを暴走させるには十分過ぎるぐらいの挑発だった。そして必然的にハルトマンと坂本の手を振りほどき殴りかかるモーションに入っていた。

 

「お前に……私の何が分かると言うんだああああッ!!!!」

 

そうハンガー中に響く声を上げながらバルクホルンは、足立の頬を力いっぱい殴り飛ばした。

 

「っ!!」

 

「足立くんッ!!」

 

「落ち着けバルクホルン!!!」

 

あまりの衝撃にペリーヌは思わず口を手で覆い、宮藤は人形みたく吹っ飛ばされた足立に駆け寄り、坂本は再びバルクホルンを抑えた。

 

「大丈夫!?足立くん!!」

 

「………………………」

 

「足立くんッ!!」

 

返事がない。まるで電池が切れたかのように動かない足立に宮藤の不安は高まった。がしかし、悪い予感は外れた。

 

「………あー………うっせぇよ………宮藤………」

 

「!!」

 

ようやく返事を返してくれた足立は、意識が朦朧としてるのか、上半身だけ起き上がろうとすると、フラフラな状態だった。

 

「あまり動かさないほうが……!!」

 

「……………………」

 

足立は満身創痍の状態ではあったが、視線の先はバルクホルンだった。

 

「ハァ………ハァ………ハァ………」

 

ハルトマンと坂本に抑えられているバルクホルンは肩で息をしていた。そして、殴った事により次第に落ち着きを取り戻しつつあった。

 

「………頭に上ってた血は引いたか?………バルクホルン」

 

「!」

 

殴られて口を切り出血もしているのにも関わらず、足立は挑発めいた事を口にした。

 

「多分………アンタの悩みは……これじゃ解決しないんじゃないか……?」

 

「私の………悩み……?」

 

言われて初めて気づいた。バルクホルンのモヤモヤした考え事は悩んでいるのではないかと。嫌悪感ではなく、悩みだと。

 

「解決したかったら………ま……た………話そ……う……ぜ………」

 

「あっ足立くんッ!!」

 

意識が再び無くなり倒れそうになる足立を宮藤は受け止めた。

 

「……………………」

 

意識を無くした足立を、バルクホルンはただただ見つめるだけだった。自分がしたことを、自分が抱えてる悩みは一体なんなのか。色々な感情が流れ込んできたが、その表情はひどく悲しそうだった。

 

 

 



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第4話 だいっきらい Bパート

「……………ん……」

 

「足立くん!!」

 

その夜、ピアノやソファが置いてあるミーティングルームに、

足立はソファに寝かせられていた。そして目が覚めると、目の前には心配そうに見つめていた宮藤の顔が視界に入ってきた。

 

「良かったぁ………目が覚めて………」

 

「………別に死にはしないだろ」

 

「だって…………」

 

起き上がると、バルクホルンとエイラとサーニャ以外のメンバーが揃っていた。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「ご覧の通り、すっかり治ってるだろ?」

 

「それは宮藤の治癒魔法のおかげだからな」

 

状態の確認する坂本に足立は両手を広げながら自慢するかのように言うが、真実は違ったようだった。

 

「宮藤の?」

 

「怪我を見てたらいてもたってもられなくて……えへへ……」

 

「…………まぁ礼は言っとく」

 

足立からしてみたら「なんでそんな無意味なことを………」と思いかけたが、彼女の優しさを汲み取り、あえて口に出さなかった。

 

「美緒やエーリカから聞いたわ。貴方がトゥルーデに殴られたって」

 

「あのバルクホルンに殴られてよく生きてるな!ははは!!」

 

「あたしだったら逃げちゃうのにね!」

 

「………ふたりとも、ちょっと黙っててもらっていいかしら?」

 

『………はーい』

 

シャーリーとルッキーニの茶化す発言に呆れたミーナはふたりを口止めするよう黙らせた。

 

「足立さんが先に挑発したって聞きましたけど………なんでそんなことを…?そんな事をする人じゃ……」

 

「リーネさんの言うとおりよ。貴方はいつも何かしら考えて行動してる節があるわ。もしかして……今回も?」

 

「…………ああ、ありゃわざとだ」

 

『えぇ!?』

 

「思ったとおり………どうしてそんなことを?」

 

一同が驚いてる中、ミーナは予想通りの顔をしていた。それに対して足立は開き直った態度だった。

 

「頭に血が上ってたからだ」

 

「…………それだけなの?」

 

ミーナは拍子抜けした表情をした。

 

「軍人てのは頭に血が上りやすいやつばっかりって聞いてたからな。あの大尉もそうなんじゃないか?」

 

「まぁ、間違ってないな」

 

頷きながら肯定するシャーリー。

 

「そんなんじゃまともな会話も出来ないって思ったから、一発ぶん殴らせて落ち着かせたってわけだ」

 

「ずいぶん手荒なマネをするな………」

 

「あそこじゃあアレが1番手っ取り早いって思ったんだよ」

 

呆れる坂本に対して足立は笑い話するかのように語った。

 

「ていうかさ、聞いた話だけどバルクホルンの悩みって何だ?足立知ってるのか?」

 

「そういえば……そんな事も仰ってましたわね」

 

シャーリーの疑問にペリーヌは思い出したかのように肯定した。

 

「………知らないさ。けど、大方見当はついてる」

 

「と言うと?」

 

「俺さ」

 

「!、足立くんが?」

 

意外そうな顔をした宮藤。しかし、ミーナは心当たりがある顔をしていた。

 

「俺の存在が悩みの種ってとこだろうな」

 

「…………多分、そうね……」

 

視線を下に落としながらミーナは肯定した。

 

「今朝も、私のところに相談しに来たわ」

 

「だろうな」

 

「バルクホルン大尉は……やっぱり足立さんことが嫌いなんでしょうか……」

 

「……………………」

 

(たぶん嫌ってないんだよなー………)

 

なにか言いたげそうなハルトマンだったが、ここはあえて口に出さなかった。

 

 

「………嫌いかどうかはしんねぇけど、俺が引っかかってるってのは事実だ。そんな悩みを、一発で解決する方法もある」

 

「そうなの!?」

 

足立の前に居た宮藤は目を丸くした。

 

「気を失う直前に言ってたな。解決したければまた話し合おう、と。なにか秘策があるのか?」

 

「くっふふふ………ミーナ中佐」

 

不気味な笑い声を上げながら、足立はミーナの名を呼んだ。

 

「俺を部隊から……いや、俺を拘束して機関に差し出せ」

 

『ッ!?』

 

あまりにも突拍子もない発案にその場にいた全員が声にならない驚きをした。

 

「………どういうことなの?」

 

「まさか足立くん!バルクホルンさんのために自分をッ……!!」

 

「焦んな、これは条件付きだ」

 

「条件?」

 

条件と聞くとミーナは、反射的に足立を怪しむ目で見た。

 

「もしバルクホルンが、俺のことをまだ嫌い、憎いって思っているなら拘束して機関に差し出せ。けどそうじゃなかったら、俺は今までどおりここに居座るぜ」

 

「それは条件でもなんでもないのではないか?」

 

「立派な条件さ。俺とバルクホルンのケジメをつけるための」

 

「ケジメ?」

 

意図が見えない坂本は聞き返した。

 

「アイツは苦しんでる。俺が居ることによってな」

 

「苦しむ…………」

 

その言葉を聞いてミーナは今朝の部屋から出ていくバルクホルンの顔を思い出していた。

 

「そんな俺がいて、あの大尉が死ぬんだったら本末転倒だろ?だから大尉がどうしたいかを決めさせる」

 

「………貴方の意見はないの?」

 

「俺は………どっちでもいいんだ」

 

「えっ?」

 

足立は目をつむりながら清々しさを感じさせるほどのトーンで言った。

 

「俺は死ぬ気はさらさら無い。けどな、ウィッチにだったら別にいいと思ってる」

 

「どうしてそんな……」

 

「俺は本来存在しちゃいけないやつだ。だから、ネウロイを倒すウィッチにだったら文句はねぇよ」

 

足立は淡々と冷静に、自身の覚悟をしていることを打ち明かす。

 

「存在しちゃいけない……?」

 

「俺は元々死人だぞ?それをコアのおかげで生きながらえてるだけだ。死人は死人らしく、眠っていたほうがいい」

 

「……………それでも」

 

「?」

 

視線を下に向けたあと、再び足立に視線を戻す宮藤。その顔は真剣だった。

 

「それでも……自分は死んでいいなんて思っちゃいけないと思う。だって足立くんは、今もこうやって生きてるんだから」

 

「……………………」

 

「宮藤………」

 

「芳佳ちゃん………」

 

宮藤は真っ直ぐな目で足立に言った。その真っ直ぐな瞳に足立も坂本もリーネも、ここにいる全員が心を打たれた。

 

「………その話、受け入れるわ」

 

「ッ!!、ミーナ中佐!!」

 

「安心して宮藤さん。彼も言ってたじゃない、死ぬ気はさらさらないって」

 

「そうですけど………」

 

今までの話を聞く限りでは宮藤にとって安心出来る要素はなかった。

 

「トゥルーデに聞く前に、私からもひとつお願いがあるの」

 

「ん?なんだ?」

 

「トゥルーデに謝ってちょうだい」

 

「……………は?」

 

予想外な要求だった。足立は思わず間の抜けた声が漏れた。

 

「今までの話を聞く限りじゃ、悪いのは貴方のほうよね?」

 

「命令違反もしてるしな」

 

嫌味のように、ニッコリとした顔で言うミーナと余計な事を口にする坂本。

 

「そうですわね。私達を置いてけぼりにした罪もありますし」

 

「アハハ…………」

 

「そういえばそうだね」

 

置き去りにしたことを根に持っているのかペリーヌも嫌味ったらしく言い、リーネも思わず苦笑いし、ハルトマンも便乗し同意した。

 

「だってさ。どうする?足立」

 

「どうすんの?」

 

「うっせ!!」

 

シャーリーとルッキーニにからかわれてるように聞こえた足立はふたりに向かって吠えた。

 

「!、ねぇ足立くん!」

 

「あぁ?」

 

「私も一緒に謝ってあげようか?」

 

「……………………」

 

ひとりで謝りに行くのは恥ずかしいのかなと思った宮藤は、満面の笑顔で提案したが、足立にとってはバカにしてるようにしか聞こえないばかりか、ついには宮藤の額に力いっぱいのデコピンを喰らわせた。

 

「いっっったああい!!!なにするの!?」

 

「お前がバカにしてるからだろ!それにさっきの件もあったしな!」

 

「バカになんかしてないよ!!」

 

額を抑えながら涙目になりかけた宮藤は足立に抗議するが、足立もそれなりの理由を述べて正当化しようとしていた。

 

「それで、どうなの?」

 

「……………………わーーったわーーった!謝ればいいんだろ!謝れば!!」

 

「ふふ、そうそう。素直が1番だわ」

 

ミーナの圧力に屈した足立は渋々謝ることを決定し、足立の素直(圧力)さにミーナはニッコリとした。その場にいた全員はミーナの圧力の恐ろしさを垣間見たのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、バルクホルンは自室のベッドで考え込んでいた。自分が何に悩んでいるのか、そして足立を殴った時の感情はなんだったのか。延々と頭の中で考え込むが、答えが見つからない。

 

(………アイツが言っていた悩み………私自身が気づかないことなのか……?)

 

足立が気を失う直前に言っていた言葉が引っかかっていた。

 

「解決したかったら話し合おう……か……」

 

(いったい今更何を話す気なんだ……?)

 

ベッドで横になっているバルクホルンは腕で目元を隠すように塞いだ。

 

すると、自室の扉から誰かがノックをしてきた。

 

「私よ、トゥルーデ。入ってもいいかしら?」

 

「………ああ」

 

バルクホルンの部屋に入ってきたのはミーナだった。入室するのと同時にバルクホルンは起き上がり、ベッドに腰掛けた。

 

「落ち着いた?」

 

「ああ………すまない。騒ぎを起こして」

 

「貴方は悪くないわ。彼のほうにキツく言っといたから」

 

優しい表情でウソをつくミーナ。実際は足立のほうに非があると認めたのでそこまで怒っていなかった。

 

「………ミーナ」

 

「なぁに?」

 

「私は……どうしたらいいのか分からない………」

 

バルクホルンの表情は酷く悲しげに落ち込んでいた。視線は下に向いたまま、いつもの元気さの面影もなかった。

 

「アイツを殴るまでは、人間の皮を被ったネウロイだって認識していた。だが………殴った感触は………人だった」

 

「…………………」

 

「倒れ込んだ姿を見て初めて気づいた。私が殴ったのはネウロイではなく、人間だったんだと……」

 

先程の出来事思い出しながら思ったこと口にしていくバルクホルン。それをミーナは真剣な表情で聞いていた。

 

「私は………アイツをどんな風に見ていいかもう………」

 

「……………………」

 

バルクホルンの握りしめる拳が強くなる。そんなバルクホルンを見てて辛い気持ちが込み上げてくるミーナは、ある決断をした。

 

「………さっき、足立君が言ってたわ。自分を拘束して機関に差し出せって」

 

「なんだとッ!?」

 

ミーナは足立が言っていた話し合いの件を先にバラしてしまった。

 

「どうしてそんな………ッ!!まさか!?」

 

「えぇ、貴方のためと思っての提案よ」

 

「私のため………?」

 

「自分が存在することによって、トゥルーデに被害が出るのなら、自らを差し出すのをいとわないみたいだわ」

 

「そんなの……………バカげてる………」

 

理由を聞いて動揺を隠せないバルクホルン。そしてミーナは続けて話した。

 

「ホントに………バカげてるわね。どっかの誰かさんみたいに」

 

「………?誰のことだ?」

 

キョトンとした顔でミーナに聞いた。

 

「貴方よ。宮藤さんに出会う前の」

 

「宮藤に、出会う前……?」

 

バルクホルンは自分が宮藤と出会う前が、どんな人間だったのかを思い出そうとしていた。

 

「貴方は戦争で妹さんを守りきれなくて酷く落ち込んで、あまつさえ死に場所を探していたでしょ?」

 

「…………ああ」

 

「彼と似てると思わない?死に場所を求めていた貴方と、味方になら殺されてもいい足立君と」

 

「!!」

 

そう言われてバルクホルンは閃くかのように気づいた。自分がなにに悩んでいたのか、ネウロイ以外の理由で足立を嫌っていた理由が浮上してきた。

 

今までの足立の言動を思い出していた。最初に出会い、心臓を撃ち抜けと言ったこと。独断専行をしていたこと、そして、味方になら殺されてもいいこと。ほとんどが自分に似ていることにバルクホルンは気づいた。

 

「そうか………そういうことだったのか………」

 

「トゥルーデ………」

 

バルクホルンのセリフに心配そうに見つめるミーナ。

 

「……………ありがとう、ミーナ。気づかせてくれて」

 

「!」

 

顔を上げたバルクホルンは憑き物が取れたかのように、明るい表情になっていた。

 

「私は、つまらないことで悩んでいたのかもしれないな」

 

「………そうかもね」

 

バルクホルンの表情を見て安堵したミーナは同意した。

 

「アイツは今どこにいるんだ?」

 

「もう寝てる時間よ?」

 

時刻は23時過ぎを指していた。とっくに就寝時間は過ぎている。

 

「そ、それもそうか………」

 

「……そんなに慌てなくても、彼は貴方に決めさせたいみたいよ?」

 

「私に?」

 

「貴方の決断なら文句は無いらしいわ」

 

「…………ふっ、全く。覚悟を決めているのか信用してくれているのか分からんな」

 

「ふふふっ、そうね」

 

久しぶりにふたりが笑った。ここ最近はひりついた空気が続いていたが、いまこの空間は暖かな雰囲気に包まれていた。

 

 

 

 

 

 

「んで、なんでお前もいるんだよ」

 

「なんか目が覚めちゃって」

 

「そういうことじゃねぇよ……」

 

翌日の早朝。宮藤と足立が並んで宿舎の廊下を歩いていた。まだ誰も起きてないと思い足立は部屋を出たが、偶然廊下を歩いていた宮藤と出会ってしまい、事情を聞くと宮藤も付いていくことになった。

 

「足立くんが謝りに行くって昨日聞いて、懐かしい夢を見たんだ」

 

「夢?」

 

「うん。小さい頃お母さんとケンカしちゃって、私そのまま家から飛び出しちゃったんだ」

 

「ふーん」

 

夢の内容を楽しそうに語りだした宮藤に対し、足立は興味なさそうな相槌をうった。

 

「けど、冷静になって考えたらお母さんは私のために叱ってくれたんだなって思って、謝らないとって思ったの」

 

「…………………」

 

「それで夜になって家に帰ると、また怒られるんじゃないかなって思ったんだけど違ったの」

 

「違った?」

 

「お母さんは泣きそうな顔で心配しててぎゅうって抱きしめてくれたんだ」

 

「…………怒ってなかったのか」

 

「うん。私も泣きながら謝ってたんだけど……えへへ。お母さんも言い過ぎたって言って謝ってた」

 

自分の過去を宮藤は頬をかきながら照れくさそうに話していた。

 

「とんだ自慢の親子愛ですこと。俺への自慢か?」

 

「ち、違うよ!そうじゃなくて!」

 

自分に向けられた嫌味に宮藤は怒りで眉がつり上がった。

 

「バルクホルンさんも謝りたいんじゃないかなって」

 

「!」

 

「ホントは仲直りしたいんじゃないかなって思うの」

 

「…………どうだかな」

 

(………また訳のわからないことを言いやがって………)

 

足立が基地に来て1週間以上は経過したが、未だに宮藤には慣れない様子。抜けたところがあるかと思いきや鋭いところを突いたりもして足立には理解し難かった。

 

バルクホルンの自室に向かって廊下を歩いていると、意外な人物に出会った。

 

「!」

 

「バルクホルンさん!」

 

「…………………」

 

何かを決意したかのような表情でやってきたのはバルクホルンだった。

 

「………丁度良かった、大尉に用があったんだ」

 

「奇遇だな。私もキサマに用があったところだ」

 

「ハハッ、てことはミーナ中佐から話は聞いてるってことだな?」

 

「あぁ、全て聞いた。私が決めていいんだな?」

 

「そういうこった。俺が決める権利なんて無いからな」

 

「…………………」

 

ふたりの会話には張り詰めた空気が漂っていた。

 

「………ただ、決める前に言っとくことがある」

 

「?、なんだ」

 

「………あー……その…………なんだ………」

 

「足立くん!頑張って!」

 

「うっせ!!分かってら!!」

 

「?」

 

足立が何かを言い淀んでいると隣にいる宮藤がエールを送るが、足立には余計なお世話だったらしい。その様子をバルクホルンは首を傾げながら傍観していた。

 

「…………その……悪かった……」

 

「!」

 

不満そうな声でやっと出せた謝罪の言葉。それを聞いてバルクホルンは目を丸くしていた。

 

「……アンタを怒らせたのはわざとだ。殴らせて落ち着かせるためのな」

 

「………………」

 

「けど、アンタに酷いことを言ったのは事実だ。それは変わらない。だから……謝る。悪かった」

 

謝罪することに慣れてないのか、足立の謝罪は端切れが悪かった。

 

「………足立くん、謝ってるのになんかエラそうだよ?」

 

「ちゃんと謝ってるだろうが!!他にどう謝れってんだよ!!」

 

宮藤の横槍に足立が噛み付いた。その噛みつきように宮藤は少したじろいだ。

 

「………ふっ…ふふふ……」

 

『………?』

 

笑いを堪えるかのように口元を指で抑えるバルクホルンに宮藤と足立はポカンとしていた。

 

「いや、同じことを考えていたなと思ってな」

 

「同じこと?」

 

「私もすまなかった。怒りに身を任せたとはいえ、殴ったのは事実だ。そして………もうひとつ」

 

「…………もうひとつ?」

 

宮藤の予想通りで少し驚いていた足立だが、その先は予想外だったようだ。

 

「私がお前を拒絶していたのは、前の私を見ていたようだからだ。宮藤と出会う前のな」

 

「私に出会う前……ですか?」

 

「ああ、私は故郷も妹も守れなくて荒んでいた。そしてついには死に場所を探していた」

 

「……………………」

 

バルクホルンと足立の表情は真剣そのものだった。

 

「私には何も残っていないんじゃないかって考えていたとき、宮藤が現れた」

 

「あっ………」

 

宮藤は何かを思いだしたかのような声が出た。

 

「瀕死になった私を宮藤は見捨てなかった。妹のために戦えと言われたとき、私は目が覚めた。私が何故戦うのかを思い出させてくれたんだ。ありがとう、宮藤」

 

「いえそんな………」

 

照れくさそうに反応をした宮藤。そんな横にいる足立は正反対に眉間にシワを寄せていた。

 

「…………んで?どこが似てるんだよ?」

 

「似ているだろ?死にたがりのところが特に」

 

「俺は別に死にたがりじゃ……」

 

「ウィッチになら殺されてもいいのにか?」

 

「………………」

 

事実を突きつけられて黙り込む足立。

 

「死に場所を探す私と、殺されてもいいと思うお前。考え方は違うが、同じ死に向かっている。似たもの同士だとミーナに言われたさ」

 

次第に表情が暗くなり顔を伏せるバルクホルン。だが、次に顔を上げたときは元の真剣な表情に戻っていた。

 

「だからこそ、お前を見ないように、目を背けてしまったんだ。ホントにすまかった」

 

「バルクホルンさん………」

 

「………………」

 

深々とお辞儀をし謝罪するバルクホルンに、宮藤に、足立にも真剣さが伝わってきた。

 

「………私の答えを言う前に、上官として……ひとつ命令をきいてくれないか」

 

「……なんだ?」

 

「……ウィッチになら殺されてもいいなんて思うな。私たちは……仲間だ」

 

「!!、バルクホルンさん!!」

 

その命令の意味に、宮藤は喜んだ声で名を呼んだ。

 

「………拒否権は?」

 

「上官命令だ」

 

「…………ふっ」

 

バルクホルンがしたり顔で返すと、足立は目をつむり、不敵の笑みを浮かべ鼻で笑った。

 

「………ハハハ、なーんだそりゃ……命令でもなんでもねぇじゃねぇか……」

 

目元を手のひらで覆い顔を上げながら、足立はあざ笑うかのように言った。しかしその手で覆ってる中にキラリと光る何かが見えた気がした。

 

「けど………命令は絶対、なんだよな?」

 

「そうだ」

 

その確認の意味は無意味に等しかった。しかし、足立は確認したくてしょうがなかった。その命令に従う意味をハッキリさせるために。少し黙り込んだのちに、足立は口を開いた。

 

「…………了解だ。バルクホルン大尉」

 

覆っていた手を離すと、そこには何か吹っ切れたようにスッキリとした足立の表情があった。それを見て宮藤とバルクホルンは安堵した表情を浮かべていた

 

しかしそれは突然やってきた。襲撃のサイレンが基地全体に鳴り響いた。

 

「ネウロイ!?」

 

「連日に襲ってくるだと!?」

 

「お早いこった!!」

 

足立がハンガーに向かって走り出すと宮藤とバルクホルンはそれを追いかけるように走った。

 

 

 

 

 

 

カールスラント方面から現れたネウロイに向かって出撃したのは坂本、ミーナ、バルクホルン、宮藤、足立の5人のみだった。

 

「今飛べる者がこれだけとはな」

 

「仕方ないわ。連日に襲ってくるなんて想定外だもの」

 

悔しそうな声でメンバーを見渡している坂本と、なだめるように今の状況を受け入れるミーナ。十分な戦力ではないことに少々不安が募っていた。

 

「いや、これだけいれば十分だ」

 

「わ、わたしも…頑張ります!!」

 

「とか言って、既に疲れてんだろ」

 

「そ、そんなこと………!!」

 

図星を突かれて必死に否定しようとする宮藤だが、魔法力が回復しきってないせいもあって、肩で息をしているのが伺える。足立はその様子を見逃さなかった。

 

「宮藤、あまり無理をするな。でないと事故に繋がりかねないからな」

 

「で、でも………!!」

 

宮藤のことを思い、バルクホルンは止めようとするが、意固地な宮藤は無茶をしてでも戦おうとしていた。

 

「坂本少佐、ひとつ提案があるのですが」

 

「なんだバルクホルン」

 

「私と足立で先行させてもらえませんか?」

 

『えっ!?』

 

唐突な提案にミーナと宮藤は思わず声を上げた。

 

「………大尉、マジで言ってるのか?それは」

 

「私はいつだって大真面目だぞ」

 

「………へっ!どうなっても知らねぇからな!」

 

バルクホルンと足立は共に不敵の笑みを浮かべていた。その様子を見た坂本も安心したのか口元がニヤけた。

 

「よし、許可しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

バルクホルンがお礼を言うと、足立と共に先にいるネウロイに向かって飛んでいった。

 

「ちょっと美緒!!ホントにふたりだけで行かせるの!?」

 

相談も無しに決められ、声を荒げるミーナ。しかし坂本の表情は正反対に笑っていた。

 

「心配するなミーナ。あのふたりの顔を見ただろ?」

 

「それはそうだけど………」

 

「バルクホルンはもちろん、足立もエースを張れる実力を持っている。普段と変わらないってことさ」

 

普段と変わらない。それはハルトマンとバルクホルンのエースふたりが組むのと同義という意味を示していた。

 

先行していったバルクホルンが先頭で進んでいくと、先にいるネウロイの大群をその目で確認した。

 

「ネウロイを確認!小型が複数!!どうみる?足立」

 

「まぁまぁ数はいるが、少佐の訓練に比べたら楽だな」

 

「全く……口が減らない男だなお前は……」

 

いつもの軽口に戻っている足立にバルクホルンも呆れる様子。だが、不思議と今は気分が悪いとは感じなかった。

 

「んで?何か作戦あるのか?」

 

「そうだな、足立、自由に飛んでみろ」

 

「………は?」

 

バルクホルンらしからぬ命令に思わず間の抜けた声が出てしまった足立。

 

「お前は縛られて飛ぶタイプじゃないはずだ。だから自由にやってみろ。私が合わせてやる」

 

「………そりゃつまり、俺には簡単に付いてこれるってハナシか?」

 

「ふん、当然だ」

 

足立の飛行は暗に容易いと言いたげそうな言い回しで、得意げな顔でバルクホルンは鼻を鳴らした。しかし足立はそれが逆に胸を高鳴らせる起爆剤となった。

 

「ハハッ!!言ったな?後悔しても知らねぇからな!!!」

 

ストライカーボードの魔導エンジンが唸りを上げると、足立は飛び出すように加速させた。

 

「相変わらずの加速力………だが……」

 

バルクホルンもそれを追うようにストライカーを加速させた。

 

「それより早いヤツを私は知っている!!」

 

1機目のネウロイにぐんぐんと近づく足立。ネウロイがビームを放とうとしたときには足立の射程圏内、いや、切り裂ける圏内に入っていた。

 

「オラァッ!!」

 

身体とボードをコマのように回転させ、そのまますれ違うのと同時に斬りつけた。しかも1機だけでなく2機同時に倒していた。

 

「次だッ!!」

 

息をつく暇もなく次のネウロイに標的を合わせた。

 

「伊達にひとりで戦ってきただけはあるな!だが………!!」

 

足立が次のネウロイに向かおうとした時、別のネウロイから狙われているのをバルクホルンは気づき、それを両手のMG42で撃ち落とした。

 

「倒す順序を間違えているぞ!」

 

「それはアンタが倒してくれると思ったから無視したんだよ!!」

 

「そんなのは言い訳にしかならんぞ!!」

 

ふたりはケンカするような言い合いをしてるが、動きはしっかりネウロイを仕留めている。お互いの動きを見極め、初めて組むとは思えない働きをしていた。

 

「ッ!!足立!!後ろだ!!」

 

「!!、ならそっちやらせてもらうぜッ!!」

 

お互いの後ろにネウロイがいることを確認すると、互いの場所を入れ替わり、それぞれのネウロイを撃破した。

 

「アイツで最後だッ!!」

 

「俺がやるッ!!」

 

バルクホルンの視線の先には残り1機だけになったネウロイがポツンと残っていた。足立は切り落とすために向かうが、ネウロイのほうが先にビームを発射した。

 

「へっ!!今更そんな攻撃………ッ!?」

 

足立は辛うじてビームを避けたが身体に痛みを感じた。特定の部分、コアのある心臓部に痛み走ってきた。

 

「ぐっ……!!おいおいマジかよ………!!」

 

「足立ッ!!」

 

足立の異変に気づいたバルクホルンは、足立からビームの攻撃を守り、最後のネウロイに向けて銃口を向けて撃った。

 

「うおおおおおおッッ!!今だ!!足立ッ!!」

 

「……了解だッ!!!はあああああッ!!!」

 

バルクホルンのおかげでコアが露出し、足立は再び刀を強く握り直すと、最後の力を振り絞るかの如く、コアを切り裂いた。

 

「コアを破壊したぞッ!!」

 

胸の痛みを抑えながら、インカムでコアを破壊したことを伝える。

 

ネウロイを倒したと報告を受けた3人はポカンとした表情で驚いていた。

 

「………ふたりだけで……」

 

「とんでもないわね………」

 

「はっはっはっ!!頼もしいじゃないか!!」

 

唖然とする宮藤、その驚異に驚くミーナ、前向きに捉える坂本とそれぞれ別の反応を示していた。

 

ネウロイを倒したのち、バルクホルンは足立の様子がおかしかったことを心配し、すぐさま駆け寄った。

 

「足立!!大丈夫か!?なにかあったんじゃ……」

 

「あーあ、余計なことをしてくれやがって」

 

「………は?」

 

なにかあったんじゃないかと心配するバルクホルンを他所に、足立は愚痴を吐くように口を開いた。その様子にバルクホルンは呆気に取られた。

 

「今のは俺ひとりでも倒せてたのに。ま、礼は言っとくよ。バルクホルン大尉」

 

「…………き」

 

「?」

 

「キサマというやつはああああああッッ!!!」

 

まるで心配していた自分がバカみたいに、バルクホルンの怒りは爆発した。

 

「上官に対する敬意というものはないのかキサマはッ!!!」

 

「そんなのあるわけないだろ」

 

「開き直るなバカモノッ!!!」

 

インカム越しでケンカする2人を、3人は聞いているしかなかった。

 

「もう、せっかく仲良くなろうとしてたのに……」

 

「いや、あれはあれでいいかもしれないな」

 

「良くないわよ……全く………」

 

呆れ果てるミーナを他所にふたりは未だにケンカしていた。そして最後にはバルクホルンの本心がインカム越しからじゃなく、直接耳に届いて聞こえた。

 

「やはりお前なんか……だいっきらいだあああああああッッ!!!」

 

それがバルクホルンの本心、いや、照れ隠しに近い本心なのかもしれない。今までとは違う拒絶の仕方だった。口に出して、本心を伝えたのだから。この日からふたりは、互いを隊員同士と認め合ったのだった。

 

 

 

つづく




お疲れ様です。

第4話ということでバルクホルン回です。ここまでで1番悩みました。昔からだったんですがシャッキーニとバルクホルンが1番話作りが苦手なんです……
ですが決して嫌いなキャラじゃないので楽しくなるように頑張って書こうと思います。


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第5話 ふるいのとやわらかいの Aパート

アニメ1期 本編5話の後の話となります。


大事なひとり娘に別れを告げ、ひとり欧州へ向かうために船に乗った。メガネを掛けた壮年の男性はそんな娘のことを思いながら、甲板の先の地平線を見つめていた。

 

「あのー、すいません……もしかして……」

 

メガネの男性の後ろから声をかけてきたのは、白髪に紺色のスーツをきた初老の男性と、目つきが悪そうに見える小さい男の子の姿あった。

 

「宮藤博士……ですか?」

 

「…はい。あなたは?」

 

「!!、俺!同じ研究チームの足立宗次郎って言います!感激だぁ!!」

 

本物の宮藤博士を前に宗次郎は興奮が収まらない様子だった。

 

「同じ研究仲間でしたか。宮藤一郎と申します。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ!よろしくお願いします!!進也!お前も挨拶しろって!」

 

「…………………」

 

ふたりは握手をした後、進也に挨拶を促すが、一郎を見つめたままだった。

 

「……あの、失礼ですがこの子は……?」

 

「ウチの息子です。母親はもういなくて、家にひとりにさせるのもアレだったんで、無理言って連れてきました。ははっ」

 

宗次郎は気にする様子もなく笑い飛ばすかのように話した。

 

「そうだったんですね、失礼しました」

 

「いやいや!そんなことより、いつまで博士に睨みつけてんだお前は!!」

 

「……………………」

 

一郎をじっと見つめたままかと思いきや、そっぽを向いてどっかに行ってしまった。

 

「いやすいません……アイツ人見知りなヤツで………」

 

「いえ、構いませんよ。私も似たようなモノですから」

 

「そう言って頂くと、助かります」

 

宗次郎は申し訳なさそうに後頭部をかきながら感謝した。そのふたりが楽しそうに話をしているのを、進也は振り向きざまに確認した。

 

 

 

 

 

 

「足立くん?聞いてる?」

 

「あー、聞いてる聞いてる。海が楽しかったんだろー?」

 

「やっぱり聞いてない!昨日のシャーリーさんの話だよ!」

 

午後、食堂で休憩を取っていた足立に、昨日の話を聞かせていた宮藤とリーネ。

 

「昨日、シャーリーさんがもの凄いスピードで、ネウロイを追いかけたんですよ」

 

「途中で飛ばされちゃいそうになったよね!」

 

「そりゃ衝撃波ってやつだ」

 

「しょうげき…は?」

 

聞き慣れない単語に宮藤は首を傾げた。

 

「すっげぇ簡単に言えば、音速を超えたら出る空気の衝撃だ」

 

「へぇー」

 

「じゃあ、シャーリーさんはあの時点で音速を超えたってことですよね?」

 

「おそらくな」

 

「それって……夢が叶ったってことだよね!?すっごーい!!」

 

宮藤はまるで自分の夢が叶ったかような喜びを見せた。

 

「それでネウロイとぶつかって倒しちゃうのも、ある意味すごいよね……」

 

「俺よりムチャクチャだろそれ……」

 

いつもデタラメな戦い方をする足立が、呆れた口調で感想を言い述べた。

 

「それでふたりで担いできたってわけか」

 

「ッ!!」

 

「えっと………」

 

本来ならシャーリーの救出に行ったふたりだったが、何故か宮藤は言い淀んだ。

 

「………どうした?」

 

「担いだって言うか………担がれたって言うか………」

 

「アタシの胸を堪能してたんだよなぁ?」

 

「そうそう!……ってシャーリーさんッ!?」

 

いつの間にか入ってきてたシャーリーが、宮藤とリーネの席の後ろに立っていた。

 

「アタシが疲れきって動けないことをいい事に宮藤は……」

 

「ち、違いますよ!!アレはわざとじゃなくて!!」

 

「でも良かったんだろ?」

 

「それは………ふへへ……」

 

「よ、芳佳ちゃん……」

 

シャーリーの胸の感触を思い出す宮藤は、とても幸せそうな顔をしていた。

 

「………なんだそりゃ……」

 

心底どうでも良さそうな顔で宮藤達を見つめる足立だった。

 

「そういえば、足立は海に居なかったけど何してたんだ?」

 

「俺は基地で留守番だ。中佐の命令でな」

 

「なんだ、それは残念だったな」

 

「?、何がだ?」

 

「私達の水着姿が見れなくて残念だったなってことさ」

 

自分を含め、リーネや宮藤を指しながら得意げな顔で足立に言った。

 

「……残念がることないだろ」

 

「なんだよノリ悪いなー、そんなんじゃモテないぞ?」

 

「必要なし」

 

「ちぇ、少しは女の子に興味持てよな」

 

ノリが悪いと思いながらシャーリーは、食堂の冷蔵庫から食料を片手に持てる程の量を持ち出した。

 

「あ、シャーリーさん、もうすぐお夕飯の準備しますよ?」

 

「これくらい大丈夫大丈夫!整備のお供にほしいだけさ。んじゃ」

 

リーネの忠告を流し、そう言ってシャーリーは食料を持ち出して部屋を出ていった。

 

「お夕飯前に食べて大丈夫なのかな?」

 

「アレぐらい普通なんだろ。身体も俺たちよりデカイしな」

 

(身体だけじゃないような気も………)

 

リーネは自身の胸とシャーリーの胸を比べながら思ったが、口には出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、執務室ではミーナと坂本は報告書を見ながら睨んでいた。

 

「今月でもう10回は出撃してるわね」

 

「明らかに現れる頻度が多くなっているな」

 

そこにはネウロイを撃墜したと書かれた報告書が10枚以上あった。

 

「それも彼が現れてから、ね。宮藤さんが来てからも多少のズレがあったけど……」

 

「今ではズレだけでは解決されない事態だな。どう見る?」

 

「………少なくとも彼が敵じゃないって言うのは分かったわ」

 

「と言うと?」

 

ミーナ引き出しから別の書類を取り出した。その書類を坂本に手渡した。

 

「これは?」

 

「彼の身辺調査をした報告書よ。読んでみればわかるわ」

 

「……………………なんだとッ……!!」

 

そこには足立についての情報が書かれていたが、1番に目に止まったのが、足立宗次郎という父親の名前。そしてストライカーユニット開発の協力者であるということ。

 

「宮藤博士と同じ研究者だったってことね」

 

「だとしたらあのボードも合点がいくな。しかし妙だな………開発の協力者ならなぜ私が知らないんだ……?」

 

「テストパイロットの貴方なら知ってるかと思っていたけれど、だとしたら………」

 

「まだ知らない真実がある、ってことか」

 

「恐らくね」

 

ふたりは顔を見合わせながら神妙な表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

再び食堂の様子を見ると、宮藤とリーネは夕飯の支度を終えようとしていた。

 

「できたぁー!手伝ってくれてありがとうリーネちゃん!」

 

「ううん!こちらこそ!」

 

完成した夕飯を運ぼうとしたとき、食堂扉が開くとバルクホルンが入ってきた。

 

「あ、バルクホルンさん!」

 

「丁度いまお夕飯が出来たところなんです」

 

「そうか、ご苦労だったな。ところで、足立は見なかったか?」

 

「えっ、足立くんならあそこに……」

 

宮藤が指を指す方向を見ると、奥の席でポツンと座っている足立と目が合った。

 

「ほう、それは丁度良かった」

 

「何がだー?」

 

動こうとしない足立はテーブルに肘を付きながら頭を支える形で返答した。

 

「シャーリーのところまで運んでほしいものがあるんだ」

 

バルクホルンが床にドサっと置いた箱は3つ。中身が見えてるのもあり、何かのパーツらしきものがぎっしり詰まっていた。

 

「………これなんのパーツだ?」

 

「さあな。あのリベリアンの私物だ。自分のところに運べと言ったのに丸っと忘れていってだな………全く」

 

「……まさか全部運べってか?」

 

「そうだ」

 

1つならまだしも3つともなると、流石の足立も顔が引きつりそうな表情をしていた。

 

「いやムリだろ流石に」

 

「男だろ?」

 

「関係ないだろそれ!!」

 

「上官命令だ」

 

「なっ!!汚ぇぞ!!」

 

「あの〜……だったら………」

 

 

 

 

 

 

 

ふたりの言い合い結果、宮藤とリーネと足立で一箱ずつ持っていく事になった。

 

「ったく、途中まで持っていけるなら最後まで持っていけよな」

 

「いいじゃん、夕飯の準備が終わって丁度よかったし、ね?リーネちゃん」

 

「うん、私達に頼って良かったんですよ?」

 

「へいへい、次からは頼みますよ」

 

「ふふっ」

 

先頭の足立がぶっきらぼうに言うと、リーネと宮藤はお互いの顔を見合わせながら、言動が照れ隠しだと思いクスッと笑った。

 

足立たちがやってきたのはハンガーだった。ストライカーの整備をしているシャーリーならここに間違いないとふんで訪れた。

 

「やっぱここか」

 

「シャーーリーーさーん!!」

 

「ん?その声……宮藤か!」

 

宮藤の叫ぶ声に反応して、シャーリーはストライカー発進ユニットからヒョコっと顔を出した。

 

「ってお前ら、揃ってどうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたも、アンタのおかげで使いっぱしりにされてるんだよ」

 

シャーリーの前まで行くと、足立はドサっとパーツが詰まった箱を雑に置いた。

 

「おいこれ!アタシのモノじゃないか!もうちょっと丁寧に扱ってくれよ!」

 

「だったら次から忘れないようにしてくれ」

 

「……へっ?」

 

「バルクホルン大尉から頼まれたんです。シャーリーさんの代わりに運ぶようにって」

 

リーネが訳を簡潔に伝えるとシャーリーはハッとした表情で頼まれた事を思い出した。

 

「あーそっか!悪い悪い!すっかり忘れてたよ!」

 

「やっぱりか………」

 

「ココに置いとけばいいですか?」

 

「ああ、あとはアタシが運んでおくから。お前らにはお礼しないとな」

 

『お礼?』

 

お礼と聞いて首を傾げる宮藤とリーネ。すると次の瞬間、シャーリーがふたりを包み込むように抱きしめた。

 

「わぁッ!!」

 

「しゃ、シャーリーさん!?」

 

「荷物を運んでくれたお礼さ。ありがとうなふたりとも」

 

「どう……いたしまして……」

 

「ふえへへ………」

 

「よ、芳佳ちゃん……!」

 

少し苦しい様子のリーネだが、宮藤にとっては天国の空間だったようだ。

 

「あーー!!ふたりともずるいーーー!!」

 

ハンガーの上部から響き、そう言って上から降ってきたのは、ルッキーニだった。

 

「ルッキーニちゃん!?」

 

「そこはあたしの場所なの!!」

 

「はいはい、ルッキーニにもやってやるから。ほら」

 

「やったーーー!!!」

 

ふたりにハグをし終えるシャーリーは、ルッキーニに向かって迎え入れるように両手を広げた。するとルッキーニは迷わずシャーリーの胸の中に飛び込んだ。

 

「んー……ぱふぱふ………」

 

「はははっ!!ホントにコレが好きだなルッキーニは!!」

 

「………いいなー……」

 

「芳佳ちゃん………もう………」

 

ポツリと呟いた宮藤に流石のリーネも顔を赤くしながら呆れた。

 

「……………………」

 

「ん?おっそうだ、足立もしてほしいか?」

 

「………アホらし、俺は先に戻ってるぞ」

 

「ッ!!ちょ、ちょっと待った足立!!」

 

「あぁ?」

 

何かを思い出したかのようにシャーリーは足立を引き止めた。その声に足立も振り向いた。

 

「悪いルッキーニ、ちょっと離れてくれ」

 

「えー………分かった………」

 

抱きついていたルッキーニは残念そうに離れた。

 

「なんだよ」

 

「お前に一生の頼みがあるんだ」

 

「頼み?」

 

そう聞くと足立は神妙な顔をした。それほどの重要な事なのかと勘ぐっていた。

 

「……………お前のストライカーボードを見せてくれないか?」

 

「…………は?」

 

「頼む!!お前のストライカーボードの中身が気になって仕方ないんだ!!だから頼む!!」

 

「やだ」

 

シャーリーの必死な頼みに2文字で一蹴する足立。

 

「そこをなんとか!」

 

「断る」

 

「ホントにダメなのか?」

 

「ダメ」

 

「そうか………なら……しょうがないな……」

 

断り続けて諦めてくれたかと思い食堂に向かおうとした足立。その瞬間、後ろから何者かに抱きつかれる感覚がした。

 

『あっ!!』

 

「なッ!?」

 

「頼むよー足立ぃー。マジのお願いなんだからさー」

 

その正体はシャーリーだった。自分の武器でもある胸を押し当てるかのように後ろから抱きつき、またも頼み始めた。

 

「ちょ、お前!!離れろ!!」

 

「足立が良いって言うまで離れないぞー」

 

「ウザい!!しつけぇ!!やめろ!!」

 

「そう言ってる割には顔が赤くなってるが?」

 

「なっ!!」

 

確かに足立の顔は赤面していた。足立も男であり、女性に抱きつかれたと必然的に羞恥という感情が働いた。

 

「なぁいいだろー?頼むぜー足立ぃー」

 

「………だああああああ!!!わぁーーったよ勝手に見ればいいだろちくしょッ!!!」

 

「ホントか!?やったぜ!!サンキュー足立!!」

 

「………シャーリーさんって……スゴイね……」

 

「………うん………」

 

シャーリーの行動の大胆さに、宮藤とリーネは赤面しながら同意した。

 

「さぁーて、そう決まったら………」

 

「あ、シャーリーさん!もう夕飯の準備が出来てるんですけど」

 

「ああ、中をパッと見るだけだからすぐ済むさ」

 

忠告する宮藤にそう言って、シャーリーは足立のストライカーボードの魔導エンジンが積んである装甲の表面を、慣れた手付きで蓋の止め具を外していった。

 

「さぁて、中はどうなってるかな〜?」

 

わくわくした気持ちでストライカーボードの中を開けると、シャーリーは固まった。

 

「…………………」

 

「どったのシャーリー?」

 

固まったシャーリーを見て宮藤とリーネとルッキーニは首を傾げた。

 

「これ……最初期の魔導エンジンじゃないか……?」

 

「最初期って………ストライカーユニットが開発された時のことですか?」

 

「ああ。今じゃ滅多に見られない、こりゃテスト用のエンジンだぞ……!」

 

「それがどうかしたんですか?」

 

「出力や馬力、スピードがアタシ達とは段違いに悪いってことさ。アタシが使ったら宮藤にすら置いていかれるだろうね」

 

「そんなにですか………」

 

シャーリーの例えで宮藤は驚きの意味を理解した。

 

「それをアタシ達と同じ、もしくはそれ以上のスピードで飛ぶんだ。足立の力は想像以上ってことさ」

 

「………スゴイのは俺じゃない。コイツだ」

 

話を聞いていた足立は、自身の心臓を部に親指を立てながら指した。

 

「ネウロイのコアか……」

 

「コイツが無かったら、俺はただの一般人。まともに飛べもしないってことだ」

 

「!、シャーリー!あたしいい事思いついた!」

 

「うん?なんだ?」

 

足立の言葉に何かを閃いたルッキーニ。その提案をシャーリーに報告した。

 

「ネウロイのコアがあったらもっと速くなるんじゃない?」

 

『ええっ!?』

 

「ッ!!」

 

「……面白そうだなそれ。けどルッキーニ、それは………」

 

「んな馬鹿なことは考えるなッ!!!」

 

『っ!?』

 

突然、足立の怒号がハンガー中に響き渡った。その大声にその場にいた全員がビクッとした。

 

「…………………」

 

「あ、足立くん……?」

 

宮藤の呼びかけに足立はハッと表情で正気を取り戻した。

 

「………見終わったら元に戻しとけよ。俺は先に戻ってる」

 

やってしまった、という雰囲気に包まれた足立は、その場に居るのが気まずく感じたのか、逃げるようにハンガーを後にした。

 

「もーなんなの!?急に大声なんか出して」

 

「……冗談じゃないってことさ」

 

「えっ……?」

 

理不尽に思えたルッキーニだが、シャーリーは何か思うところがあるみたいだった。その言葉に宮藤とリーネとルッキーニはシャーリーの顔に向いた。

 

「謝らないといけないな、これは」

 

ストライカーボードの魔導エンジンを見ながらシャーリーはそうつぶやいた。

 

 

 



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第5話 ふるいのとやわらかいの Bパート

足立に怒鳴られた夜、気にしてないかのように鼻歌交じりでシャワーを浴びるシャーリーに、バツが悪そうな顔立ちで湯船に浸かっているルッキーニ。

 

「♪~」

 

「………ねぇシャーリー」

 

「うん?なんだ?」

 

「あたし、なにか悪いことしたのかな?」

 

「……さっきのことか?」

 

「うん………」

 

どうやら、ルッキーニはあの時の足立の言動が気になっていたようだった。

 

「そうだなー。なんとも言えないけど、足立には良くないように聞こえたのかもな」

 

「…………………………」

 

シャワーを浴び終えたシャーリーはルッキーニの隣に座り込んできた。

 

「悪いことしたって思ってるのか?」

 

「…………………うん」

 

「なら、一緒に謝りに行こうか」

 

「シャーリーも?」

 

「ああ、アタシもちょいと悪ノリしたし。それに、アイツそんなに怒ってない思う」

 

「どうして分かるの?」

 

「女の勘ってやつ、さ」

 

「えー、なにそれ〜」

 

「アハハハッ!!」

 

シャーリーは雰囲気を和やかにしようと、ルッキーニの前でワザとふざけた。

 

「それと、私はコアに頼らないよ」

 

「なんで?」

 

「だってそれってズルだろ?ズルで速くなっても、嬉しくもなんともないさ」

 

手をひらを前に出しながらシャーリーは語った。

 

「私が求めてるのは純粋なスピード。人間の手でどこまで速くなるのかを探してるんだ」

 

「………………」

 

「だから、せっかくのルッキーニのアイデアだけど、それはナシだ。ごめんな?」

 

「……ううん、シャーリーの方が正しいよ。ズルしても面白くないもんね」

 

「ああ、そういうことさ」

 

ルッキーニの解釈にシャーリーが同意するとふたりは笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

『いつまで続けるつもりだ?』

 

「……………………」

 

どこか分からない暗闇の世界。どこからともなく足立に語りかける者は、存在が見えない。

 

『いい加減仲良しごっこもいいんじゃないか?』

 

「……………………」

 

『ホントは気づいているんじゃないか?アイツらがお前を憎んでいることに』

 

「………………うっせ」

 

今まで無視し続けた足立だが、しびれを切らして反応した。

 

『今なら油断している。お前の力なら誰にも負けない』

 

「………うっせぇ…………」

 

『手始めに、あの「宮藤」とか言うのを殺してはどうだ?』

 

「うっせぇうっせぇうっせぇッッ!!!」

 

『アイツもお前を信用していない、強いものに媚びてるだけだ』

 

「黙りやがれぇぇぇッッッ!!!!」

 

絶叫するかように足立は叫んだ。そのどこからともなく聞こえてくる声を拒絶するように。

 

「ッ!!」

 

すると足立は、目をカッと見開いた。自分の部屋のベッドに寝ており、外の様子を見るともう朝だった。

 

「…………………………」

 

変な汗が滝のように流れていることに気づいた。よほどうなされていたことが伺える。

 

「…………ハハッ……やっぱ慣れねぇなこれは………」

 

足立を目元を手のひらで隠し、乾いた笑い声が出た。そのまま再び眠りに入りそうになったとき、廊下から声が聞こえた。

 

「足立くーん、起きてる?」

 

「………宮藤?」

 

声の正体に気づき、足立は重苦しい身体を無理やり起こし、部屋の扉を開けた。

 

「あ!足立くん!おはよう」

 

「……なんだ?」

 

「ミーナ中佐と坂本さんが呼んでたよ。執務室に来てって」

 

「…………すぐ行くわ」

 

「……………………」

 

宮藤は足立の顔をジッと見て何かを感じ取った。

 

「……足立くん?」

 

「あぁ?」

 

「具合いでも悪いの?なんか顔色が良くないような……」

 

「……………………」

 

先程の夢のような幻聴が、脳裏によぎる。宮藤はただ媚びているだけなのか、それともホントに心配しているだけなのか。足立の中で少し考えたが、後者を選んだ。

 

「足立くん?」

 

「……あぁ、ちょっと夜ふかししてな。あんま寝てないだけだ」

 

「なんだぁ!あんまり夜ふかししちゃダメだよ?」

 

「……はいよ」

 

(………あんな戯言を信じるな………)

 

 

 

 

 

 

 

足立は支度を整えると、執務室に訪れた。

 

「入るぞ」

 

ノックをした後、すぐさま扉を開けた。

 

「おはよう、足立君」

 

「?、どうかしたのか?」

 

入ってきた足立に対し、坂本はすぐに足立の状態に気づいた。

 

「……いやなんでも。で、いったいなんだ?」

 

「アナタに聞きたいことがあるの」

 

「足立宗次郎、お前のお父上についてだ」

 

「…………………」

 

父親の名前が上がると、足立は察した表情をした。

 

「………バレちまったってことか」

 

「事実なんだな」

 

「どうして言わなかったの?」

 

「言ったところで信じないだろ。アンタ達も裏が取れたから今聞いたんだろ?」

 

「…………………………」

 

正論を叩きつけてふたりを黙らせる足立。

 

「アンタ達はいいヤツかもしれない。けど、完全に信じたわけじゃない。だから全部を話す気もない」

 

「しかしだな………」

 

「分かったわ。今はそれで」

 

「ミーナ……!」

 

「ただ、ひとつだけ言わせてちょうだい」

 

「………?」

 

「アナタの参加を反対していた私が言えたことじゃないけど、ひとりで全部抱え込まないでほしいの」

 

「………………」

 

「なにかあったら相談して?私達は、アナタの味方だから」

 

「………んなもんねぇよ」

 

足立はそう言い残して執務室を出ていった。

 

「………めずらしいな。ミーナが引き下がるなんて」

 

「彼の顔色見たでしょ?日に日に悪くなっていってるわ」

 

「体調でも悪いのか?」

 

「それは分からないけど、今は話してくれるのを待つしかなさそうね」

 

「それしかないか」

 

腕を組みながら考えた込む坂本は、その案に妥協した。

 

 

 

 

 

 

 

朝食を食べに食堂に現れたシャーリーとルッキーニ。その様子からわくわくしてる様子だった。

 

「おはようー」

 

「あ、おはようございます!シャーリーさんルッキーニさん」

 

「おっはよう芳佳!」

 

「あれ、足立のヤツは?」

 

「朝から見てないゾー」

 

「そういえば朝から姿を見てないな」

 

シャーリーの質問に受け答えるエイラとバルクホルン。

 

「足立くんなら、今朝坂本さん達に呼び出されて執務室に行った以来ですけど」

 

唯一姿を見た宮藤は、ルッキーニ達の分の朝食を用意しながらシャーリーに報告した。

 

「なにかあったのかな……」

 

「どうせ、なにかやらかしてお説教でもされてるのでは?」

 

「まるでペリーヌみたいだね」

 

「どうしてわたくしが出てくるんですの!?」

 

「あはは………」

 

ハルトマンの言い方にペリーヌは食いついた。その様子をリーネは苦笑いした。

 

その時、再び食堂の扉がガチャと開き、坂本とミーナもやってきた。

 

「みんなおはよう」

 

「うん?そんなとこで突っ立ってどうしたシャーリー」

 

「いや、足立の姿が見ないなって思って」

 

「足立が?」

 

「さっき用は済ませたはずだけど……」

 

「こっちに来てないというわけだな」

 

「ふーん。じゃ、しょうがないか。ルッキーニ、後で探そうか」

 

「うん!」

 

「シャーリーさん!私も一緒に探します!」

 

「ホントか?そりゃ助かる!」

 

この基地内を二人で探すのは少々大変かと思ったが、宮藤の手伝いを借りられて喜ぶシャーリー。3人は朝食を食べ終えた後に、探すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

外のオープンカフェにて、壁の塀の上であぐらをかいて地平線の先を見つめる足立。

 

「…………………」

 

(なにかあったら相談しろ、か)

 

先程のミーナの言葉が、足立には引っかかってるようだった。

 

「幻聴が聞こえなくするにはどうすればいいか、なんて聞けるわけねぇだろ……」

 

足立は愚痴を吐くようにつぶやいた。

 

「……あ!あそこ!!」

 

「おっ、あんなとこにいたか!」

 

足立の後ろからルッキーニとシャーリーの声が聞こえてきた。当然足立にも、その声と気配には気づいていた。

 

「おーい!足立ぃー!」

 

「………………………」

 

「ったく朝食に来ないから基地中探したぞ」

 

「…………なんだよ」

 

足立は振り返らず、そのままの状態で聞いた。

 

「ルッキーニから言いたいことがあるってさ」

 

「…………………」

 

「あのね………昨日はゴメンナサイ………足立が嫌がることを言っちゃって………」

 

「…………………」

 

ルッキーニの謝罪に対し、足立は黙ったままだった。

 

「アタシからも謝るよ。ごめん。ちょっとふざけ過ぎたのもあるし、私に免じてルッキーニを許してやってくれないか?」

 

「…………………」

 

するとそこに偶然、シャーリー達の後ろ姿を発見した宮藤が通った。

 

「あそこに居るのって、シャーリーさん達だ………!足立を見つけたんだ!」

 

(………でもなんだろ、真剣な話をしてるような……)

 

宮藤が駆寄ろうとしたとき、何か重いような雰囲気を感じ取り、近づけなかった。

 

「………別に怒ってねぇよ」

 

「……えっ?」

 

後頭部をかきながら足立は言った。その返答にルッキーニは目を丸くした。

 

「ただ、コアには興味を持つなってことだ」

 

「どういうことだ?」

 

「……コアの力は確かに凄い。人間には出来ない事を平然とやってのけてしまう。こんな風にな」

 

足立は徐ろに、塀の上で逆立ちをし始めた。すると今度はゆっくりと、片手で支え始めた。

 

『………………………』

 

超人的な力とバランスに唖然とするシャーリーとルッキーニ。そして後ろにいる宮藤もだった。

 

そして支えていた片手を塀から弾き返すようにすると、1回転して塀の上に立った。

 

「だけどこれは呪いみたいなもんだ」

 

「呪い?」

 

「コアを持つってことは、人間やウィッチを辞めるってことだ」

 

「!」

 

「人間を辞めれば、普通の生活は出来なくなる。人に隠れながら生きていかなくちゃいけない」

 

「なんで?誰かに相談したらいいんじゃ……」

 

「ハハッ、自分はネウロイになったからどうすればいい?って聞いて回るか?」

 

「あっ………そっか………」

 

「だから『呪い』ってことか」

 

「そういうこった」

 

(呪い…………足立くんはそれを5年間も………)

 

5年間もひと目に付かず生活するのは並大抵事ではないと、宮藤も感じ取った。

 

「…………なーんだ。やっぱ優しいヤツじゃんかお前」

 

「……なんだよいきなり」

 

「てっきりシャクに触ったかと思ったけど、アタシたちを心配して言ってくれたんだろ?」

 

「そういうわけじゃ……」

 

「じゃなくてもだ。それがお前の本心なんだろ?サンキューな足立」

 

「うん!ありがとう!アダチ!」

 

「………勝手に言ってろ……ったく」

 

(俺の本心……か………そういえば、あんな大声を出したのは初めてだったな)

 

前日の怒鳴った日を思い出す足立。それが自分の本心だと言うことに気づき始めた。

 

「……良かった。仲直り出来たんだね」

 

シャーリーとルッキーニがワイワイと話してる姿を見てホッとする宮藤。

 

そう思ったのも束の間。基地のサイレンが響き始めた。

 

「来たな」

 

「ネウロイ!?」

 

「この前きたばっかりじゃん〜!!」

 

「んなことは関係ないってこった」

 

足立は塀から跳ねるように、カフェの出入り口まで飛んだ。着地すると、出入り口付近にいた宮藤と目が合った。

 

「!」

 

「足立くん……!」

 

「……さっさといくぞ」

 

「うん!」

 

何か戸惑いを感じつつも、足立は宮藤たちと出撃に向かった。

 

 

 

 

 

 

出撃したのは足立、宮藤、シャーリー、ルッキーニ、坂本の5人。海上を飛行していた。

 

「まさか高速移動するネウロイの残党がいるとはな」

 

「なんでもいいさ。私達からは逃げられないし」

 

「……………………」

 

「どうかしたのか?足立。機材トラブルか?」

 

「いや、なんでもねぇ」

 

(違和感がある。けど悪い違和感じゃない。良くなってるのか……?)

 

自分の乗っているストライカーボードをチラチラと見る足立。いつもとは違う感覚を感じ取った。

 

「あ!アイツだ!」

 

ルッキーニが叫ぶと、前方に目標のネウロイが飛んでいるのを確認した。

 

「敵機確認!!囲んで叩きに行くぞッ!!」

 

『了解!!』

 

坂本達が追いかけようとしたとき、ネウロイも坂本達の加速に合わせて更に加速し振りきろうとした。

 

「なっ!アイツ!!」

 

「逃げる気か!!」

 

「このままじゃ逃げられちゃいます!!」

 

「させるかよッ!!」

 

出力を最大まで上げると、ストライカーボードのエンジンから唸り声みたく音があがった。

 

すると、坂本達を置いていくかの如く、あっという間に加速していった。

 

「わっ!!!」

 

「うわっ!まるでシャーリーみたい!!」

 

「あの加速、シャーリーに負けてないな………ん?シャーリーは?」

 

「あれ?さっきまで一緒にいたはずですけど……」

 

加速していくストライカーボード。その速さに足立の違和感は確信に変わっていた。

 

(こりゃ勘違いじゃなさそうだな……)

 

「調子良さそうだなぁ!!」

 

「!」

 

足立がボードに目を目移りしていると、横から声を掛けられた。それはシャーリーだった。

 

「なんかいい事でもあったか?」

 

「……………そういうことか」

 

「なんの事だ?」

 

「話は後だ。それよりは………」

 

そんなやりとりをしていると、高速移動しているネウロイに追いついてしまった。

 

「コイツを倒すぞ」

 

「そりゃ賛成だね!」

 

賛同するシャーリーを横目に、足立はネウロイのビームをかわしながらネウロイの下に潜り込んだ。

 

「はぁぁッッ!!!」

 

抜刀した刀を逆手に持つと、足立はネウロイを下から上へと切り上げた。真っ二つに別れたかと思ったが、片側の方からコアを露出した小型のネウロイが、足立から逃げるように飛び出した。

 

「チッ!そっちか!」

 

「任せろ!!」

 

反応が一瞬遅れた足立だったが、シャーリーがそれをカバーし、コアが露出したネウロイの背面を取った。

 

「逃さない!!」

 

M1918を構えると、コアに向かって銃弾の雨降らせた。そして見事、銃弾がコアに当たり砕け散った。

 

「コア破壊確認っと!」

 

シャーリー報告を坂本達は無線越しで聞いていた。

 

「やったー!」

 

「すごいです!!」

 

「どうやら私達の出番は無さそうだな」

 

喜び合うルッキーニと宮藤。そして冗談っぽく言いながら笑みを浮かべる坂本だった。

 

「聞いてはいたけどすげー戦い方するなぁ!」

 

「……んなことよりだ」

 

「ん?」

 

「シャーリー、俺のストライカーボードに何かしただろ」

 

「……ああ、したよ」

 

足立の問いかけに、一拍置いてからシャーリーは答えた。

 

「……あのなぁ……」

 

「ただ勘違いしないでほしい。消耗品のパーツを新しくしただけさ。それ以外改造はしてないよ」

 

「!」

 

シャーリーの話を聞いて、足立は意外そうな顔をした。

 

「素人メンテにしちゃ悪くなかったけど、苦労したよ〜」

 

「……なんで」

 

「うん?」

 

「なんで改造しなかったんだ?メカ好きのアンタならしたかったはず……」

 

「………それ、大事なモノなんだろ?」

 

「…………………あぁ」

 

答えるかどうか迷った足立だったが、本能的に肯定した。

 

「だからだよ。私だってお気に入りのバイクが勝手に改造されてたら嫌だしな」

 

「…………………」

 

「大事なモノなら出来るだけ長く使っていたいだろ?相当使い込まれてるみたいだし、ソイツも喜んでるんじゃないかな?」

 

シャーリーに言われ、足立はストライカーボードと共に過ごしてきた自分の人生を思い返していた。ストライカーボードが無ければ、今もこうやって飛んでいないと思いながら。

 

「………シャーリー」

 

「ん?」

 

「…サンキューな」

 

「……ああ!」

 

少し照れくさそうな、それでいてぶっきらぼうな言い方をしながら足立は礼を言い、シャーリーはそれを真っ直ぐ受け止めた。この日から足立は、自分のストライカーボードに少しだけ、向き合うようになったのだ。

 

 

 

つづく




今回はシャーリー回です。
正直シャッキーニは自分の妄想の中だと極端に関わりが少なくてどうしようかと悩んでましたが、スッキリした話に出来たかと思います。
5話の本編にしようかと思いましたが、どうも話に合わないなと思い断念しました。
ここまでありがとうございました。次回はみんな大好きサーニャ回です。


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第6話 見つけた Aパート

アニメ本編6話を改変したものになります。サーニャとエイラで仲良くなるのはこの回以外思いつかなかったです……


夜間哨戒、星空が一面に広がる中で、雲の上を鼻歌交りで飛んでいる少女がいた。

 

「♪〜」

 

サーニャだった。いつもと変わらない夜空と思ってた矢先、サーニャの魔導針が何かを捉えた。

 

「っ!」

 

しかし慌てる様子もなく、サーニャは魔導針が捉えた方向に向かった。すると見つけたのは輸送機だった。外出していた坂本やミーナ達が乗っている輸送機みたいだ。

 

その中には、不機嫌そうな坂本と本を読んでいるミーナ、外の夜空を見ている宮藤と隣で刀を抱えて目を瞑っている足立が座っていた。

 

「不機嫌さが顔に出てるわよ。坂本少佐」

 

「わざわざ呼び出されて、何かと思えば予算の削減だなんて聞かされたんだ。顔にも出るさ」

 

「彼らも焦っているのよ。いつも私達に戦果を挙げられて、尚かつイレギュラーな事態も発生しているし」

 

ミーナは足立に目線を送るが、足立は微動だにしなかった。

 

「連中が見ているのは自分たちの足元だけだ」

 

「戦争屋なんてあんなものよ。もしネウロイがいなかったら、あの人たち、今頃人間同士で戦い合ってるのかもね」

 

「……さながら世界大戦だな」

 

坂本は冗談っぽくニヤリと言った。

 

「皮肉過ぎて笑っちまうな」

 

今まで黙っていた足立も坂本の話に乗っかってきた。

 

「すまなかったな宮藤」

 

「えっ」

 

「せっかくだからロンドンの街でも見せてやろうと思ったのだが……」

 

「いえそんな……私は、軍にも色んな人が居るんだなって……そんなことより、わたし足立くんが堂々としててびっくりしちゃった」

 

申し訳なさそうな坂本に宮藤はフォローをする。そして総司令部に呼び出された足立の立ち振舞に感心していた。

 

「ただの偉ぶってる爺さんの集まりだろ。別段気にすることはねえさ」

 

「絶対目の前でそんな事言うなよ……」

 

「そうよ………こっちもヒヤヒヤしてるんだから……」

 

「了解了解」

 

「あはは………」

 

坂本とミーナは真剣な顔で忠告するが当の本人の足立は重要性のかけらも感じない返事をした。その返答に宮藤は苦笑いした。

 

すると、輸送機の無線から、歌声が聞こえてきた。

 

「あれ?なにか聞こえない?」

 

最初に反応したのは宮藤だった。

 

「……これサーニャか?」

 

「ああ、これはサーニャの唄だ。基地に近づいたな」

 

「私達を迎えに来てくれたのよ」

 

ミーナの方の窓に宮藤が駆け寄ると、まるで妖精のような姿に見えるサーニャを確認した。

 

「ありがとう!」

 

「ん…………」

 

無線越しでお礼を言う宮藤と目が合うとサーニャは雲の中に隠れてしまった。

 

「サーニャちゃんってなんか照れ屋さんですよね」

 

「うふふっ、とっても良い子なのよ。歌も上手でしょ……あら?」

 

サーニャのことを話していると、サーニャの歌声が聞こえなくなっていた。

 

「どうしたサーニャ」

 

『誰か……こっちを見ています』

 

「報告は明瞭に、あと大きな声でな」

 

『すみません、シリウスの方角に所属不明の飛行隊、接近してきます』

 

注意を受けたサーニャは、先程よりもハッキリ聞こえる報告をした。

 

「ネウロイかしら?」

 

『はい。間違いないと思います。通常の航空機の速度ではありません』

 

「!」

 

その報告を聞いた足立は目を開けると立ち上がった。

 

「私には見えないが?」

 

眼帯を上げ、目標を見ようとする坂本。しかし彼女の目には捉えられなかった。

 

『雲の中です。目標を肉眼では確認できません』

 

「そういうことか」

 

理由を聞いて納得する坂本。しかし慌てる者もひとりいた。

 

「ど、どうすればいいんですか!?」

 

「どうしようもないな」

 

「そんなぁ!!」

 

「俺が叩いてくるか?」

 

「ストライカーも無いのにどうやって戦うのよ………っ!まさかそれを狙って!?」」

 

「ネウロイがそんな回りくどいことをしないさ」

 

落ち着いていいる3人とは対象的に宮藤ひとりはあわあわした状態で3人を見ていた。

 

『目標は依然、高速で近づいています。接触まで約3分』

 

「サーニャさん、援護が来るまで時間を稼げればいいわ。交戦はできるだけ避けて」

 

『はい』

 

サーニャはミーナの指示に従うと、フリーガーハマーの安全装置を外した。

 

『目標を引き離します』

 

「無理しないでね」

 

輸送機を巻き込まないよう、サーニャは上昇し始めた。

 

「よく見ておけよ」

 

「は、はい!」

 

坂本に言われ、宮藤はじっとサーニャの姿を追った。

 

「サーニャちゃんには、ネウロイがどこにいるのか分かるんですか?」

 

「ああ、アイツには地平線の向こう側にあるものだって見えているはずだ」

 

「へぇ~」

 

「それでいつも夜間の哨戒任務に就いてもらってるのよ」

 

「お前の治癒魔法みたいなもんさ。さっき歌を聞いただろ?あれも魔法の一つさ」

 

「歌声でこの輸送機を誘導していたのよ」

 

目を瞑っているサーニャ。魔導針がネウロイを捉えると、サーニャはすぐさま構えた。そして間髪入れずフリーガーハマーを発射させた。そしてロケット弾が爆発すると、雲に大穴が空いた。その光景に宮藤は唖然としていた。

 

「反撃して……こない?」

 

疑問に思うサーニャだったが、その後も数発、ロケット弾を発射させた。

 

「流石ね、見えない敵相手によくやっているわ」

 

「敵に回したくねぇ相手ってこったな」

 

「私にはネウロイなんて全然……」

 

「サーニャの言うことに間違いはない」

 

坂本はサーニャの戦いによほどの信頼をしている様子だった。

 

「サーニャ、もういい。戻ってくれ」

 

「でも……まだ……!」

 

息を切らしながらサーニャは任務を遂行しようとしていた。

 

『ありがとう。ひとりで、よく守ってくれたわ』

 

無線越しでミーナはサーニャの功績を労った。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ウィッチ達はミーティングルームに集まっていた。雨天の中で出撃した者おり、シャワーを浴び、部屋着や寝間着姿をの者もいた。そして、ルッキーニは既に椅子の上で猫のように丸くなりながら寝ていた。

 

「それじゃあ今回のネウロイはサーニャ以外誰も見てないのか?」

 

シャワーから浴び終え、髪を拭きながらバルクホルンは今回の件を聞いた。

 

「ずっと雲に隠れて出てこなかったからな」

 

「けど何も反撃して来なかったって言うけど、そんなことあるのかな?それホントにネウロイだったのか〜?」

 

「…………………」

 

純粋に疑問に思うハルトマンだが、サーニャは申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「恥ずかしがり屋のネウロイ!」

 

『……………………』

 

「……無きにしもあらず、0.01%以下だけどな」

 

「ですよね………ごめんなさい………」

 

場を明るくしようとしたリーネだが、周りは無反応な上、足立がトドメを刺し、リーネは縮こまってしまった。

 

「だとしたら、似たもの同士、気でもあったんじゃなくて?」

 

「っ!べー」

 

嫌味を言うペリーヌに、ピアノの椅子に座っているサーニャの隣のエイラがムッとすると舌をだした。

 

「ネウロイとは何か。それが明確になっていない以上、この先どんなネウロイが現れてもおかしくは無いわ」

 

カップを回しながら、ミーナは悟るように言い聞かせた。

 

「仕損じたネウロイが連続して出現する確率は極めて高い……」

 

「そうね。そこで、しばらくは夜間戦闘を想定したシフトを敷こうと思うの。サーニャさん」

 

「はい」

 

「宮藤さん」

 

「あっはいっ!!」

 

自分が呼ばれるとは思っておらず、ドキッとした宮藤。

 

「あと、足立君」

 

「はいよ」

 

「当面の間、アナタ達3人を夜間専従班に任命します」

 

「えっ!?私もですか!?」

 

「今回の戦闘の経験者だからな」

 

「私はただみてただけ……どわっ!?」

 

宮藤が謙遜するような素振りを見せようとした瞬間、後ろにいたエイラが宮藤を上から覆うように押しのけた。

 

「はいはいはいはい!!ワタシもやる!!」

 

「いいわ。じゃあ、エイラさんを含めて4人ね」

 

押しつぶされそうになっている宮藤をみて、リーネは心配そうな顔をしている。

 

「ごめんなさい……私がネウロイを取り逃がしたから……」

 

「!、ううん!そんなことをを言ったんじゃないから」

 

申し訳なさそうに謝るサーニャに、宮藤は勘違いさせてしまったと思い訂正しようとしていた。

 

そんなミーティングを終え、謎のネウロイに備えてこの日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

1944年、8月17日。今朝、足立は食堂に向かっていると、宿舎の廊下で宮藤と出くわした。

 

「あ、足立くん!おはよう!」

 

「あぁ」

 

素っ気ない挨拶を返す足立。その時、後ろからも声が掛かった。

 

「おっ、宮藤ジャンか」

 

「エイラさん!おはようございます!」

 

「ああ、おはよう」

 

「おはよう……ございます……」

 

声の正体はエイラだった。その隣には眠そうに目を擦るサーニャもいた。

 

「今日はよろしくね!サーニャちゃん!エイラさん!」

 

「やけにハリキってるなぁ宮藤は」

 

「うん!だって夜間飛行ってなんだか楽しそうだし!」

 

「……遊びに行くわけじゃないんダゾ?」

 

「あ、うん……そうなんだよね……えへへ」

 

「…………………」

 

注意するエイラにしょんぼりする宮藤。サーニャはそのやりとりを傍観しているだけだった。

 

「事故さえなければいいけどな」

 

「じ、事故?」

 

「夜は暗いから……昼間よりも気をつけて飛ばいないといけないの……」

 

「そ、そうなんだ………」

 

サーニャの説明で足立の言っている意味を理解した宮藤。

 

「ま、最近はまともに飛べるようになってるから問題ないはず」

 

「ホント!?」

 

「下手くそだけどな」

 

「うぅ~………足立くん、ハッキリ言うんだから………」

 

褒められたかと思い喜んだが、すぐに悪態を突かれ涙目になる宮藤。

 

「じゃあ自分はウマイって言うのカ?」

 

「………………いや、下手くそさ」

 

「えっ?」

 

「あんなムチャな動きしといて下手って……ナニサマだよオマエ………」

 

足立は何かを思い出すかのように、その先を見ていた。

 

朝食を食べ終え、坂本は夜間専従班の4人を集めた。

 

「さて、朝食も済んだところで………お前たちは夜に備えて寝ろ」

 

「…………え?」

 

坂本の指示に宮藤はキョトンとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

サーニャの部屋にて。もしくは臨時夜間専従班詰め所と今はなっている場所に、寝間着姿の4人が集まっていた。

 

「さっき起きたばっかりなのに………」

 

電気は消えていて、カーテンなどで光が入って来ないよう封印されており、部屋は薄暗い状態になっていた。

 

「なにも部屋の中まで真っ暗にすることないよね」

 

「暗いのに慣れろってことダロ」

 

ひとつのベッドに腰掛ける宮藤、うつ伏せになりながらタロットカードで遊ぶエイラ、その横で大きい人形を抱えながら横になっているサーニャ。そして足立は、ベッドには入り切らないためベッドを背もたれにしながら腕を組み、床に座りながら目を瞑っていた。

 

「ごめんね?サーニャちゃんの部屋なのにこんなにしちゃって」

 

「……別に、いつもと変わらないけど」

 

「あぁそうなんだ」

 

サーニャの事情を聞いてちょっと意外そうな反応する宮藤。

 

「でも、なんかこれ御札みたい」

 

「オフダ?」

 

カーテンになどに留められている紙を宮藤は、一枚手元に持ちながら言った。紙には魔法陣が描かれていた。

 

その言葉にエイラは身体を起こしながら反応した。

 

「お化けとか、幽霊とかが入ってきませんようにっておまじない」

 

「私、よく幽霊と間違われる……」

 

仰向けになりながらサーニャは言った。

 

「へぇ、夜飛んでるとありそうだよね」

 

「ううん、飛んでなくても言われる。いるのかいないのか分からないって……」

 

「あはは……」

 

自虐的な発言に宮藤は苦笑いした。

 

「ツンツンメガネの言うことなんか気にスンナ。ヒマだったらタロットでもやろう」

 

「タロット?」

 

「占いダヨ。私は未来予知の魔法が使えるンダ。ま、ほんのちょっと先だけどな」

 

そう言うと、エイラがベッドの上でカードを並べ始めた。そして宮藤がその中から一枚を手にとった。

 

「どれどれ………ふーん」

 

宮藤の引いたカードを覗き込むエイラ。そのカードには、輪の周りにウィッチが飛んでいる絵だった。

 

「良かったな。運命の人に出会えるかもしれないってヨ」

 

「そうなの!?……でも、それって誰のこと?」

 

「さぁ?そこまでは流石にワタシでも分からないサ」

 

「そっか〜、楽しみだなぁ」

 

タロットの良い結果に楽しみが増えた宮藤だった。

 

「そうだ!足立くんも占ってもらったら?」

 

「俺はしねぇぞ。んなめんどくさいの」

 

「えー……」

 

ベッドの先にいる足立の方向に身体を向き、ベッドの先っぽの部分に掴みながら宮藤は提案したがあっさり断られ、がっかりした様子だった。

 

「占うのがコワイのか~?」

 

「あ?」

 

「まぁコワイってなら別にいいんだけどナ~」

 

「…………………」

 

あからさまなエイラの挑発に足立は乗るまいと思っていた。が、数秒後には足立も宮藤の隣に座りながら占っていた。サーニャも起き上がり、エイラの横に人形を抱えたまま座っていた。

 

「結局占うのかヨ」

 

「挑発してきたやつが何いってんだ」

 

エイラを睨みながら足立は返した。

 

「さっさとしろヨ」

 

「ったく………」

 

足立は不本意ながら、六芒星の形のように並べられたカードから、左下のカードを選び、その場でひっくり返した。

 

「!」

 

そのカードは、女性が木に吊るされている絵だった。

 

「うーん、あんまり良くないカードを引いたナ……」

 

「えっ、そうなの?」

 

カードの絵を見て怪訝な顔をするエイラ。それに反応する宮藤。

 

「近いうち会いたくないヤツに会うかもしれないゾ」

 

「……………………」

 

エイラの結果を聞いて足立はカードを見つめたままだった。その間、足立の脳裏に過ぎったのは自分がネウロイにされた日のことだった。

 

「足立くん……?」

 

「どうか……しましたか…?」

 

心配そうにする宮藤と、不思議そうに見るサーニャ。

 

「いや、やっぱ占いなんてくだらねぇなって思っただけだ」

 

「なっ!人に占ってもらっておいてナンダヨその言い草!!」

 

「信じるかどうかは自分次第だろ?占いって」

 

「そりゃそうだけどナ………!!」

 

言い合うふたりの横で宮藤は、いつもの足立に戻って少しホッとした表情に戻った。

 

その時、偶然にもあるもに目が入った。

 

「あれ?」

 

カレンダーだった。今月の18日には、オラーシャ語で何かが書かれていた。しかし宮藤にはそれを読めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「夕方だぞー!おっきろー!!」

 

「…………………………んあ?」

 

ベッドの上に3人、床に1人と寝ていたが、ベッドの上で寝ていた宮藤は辛うじて廊下から声がするルッキーニの声に反応した。

 

そして4人は起床し、食事をするため身支度をし食堂へ向かった。

 

「なんか暗いね」

 

薄暗くなっている食堂に入り、隣の席のリーネに話しかけながら着席した。

 

「うん。暗い環境に目を合わせる訓練なんだって」

 

そして各席に出されたのは、何かの紅茶のようなものだった。

 

「これは?」

 

「マリーゴールドのハーブティーですわ!!」

 

そう自信満々で高らかに発言するのはペリーヌだった。

 

「これも、目の働きを良くすると言われてますのよ!」

 

「あら?それって民間伝承じゃ………」

 

「失敬なッ!!これはお祖母様のお祖母様そのまたお祖母様から伝わるものでしてよ!!!」

 

「ご、ごめんなさい………」

 

「どっちもどっちだろ………」

 

リーネの民間伝承扱いされたのが気に食わなかったのか、噛み付くペリーヌ。その気迫に圧倒されて謝罪するリーネ。するとポツリと呟く足立であった。

 

そして全員飲み始めてみた。

 

「なんか山椒みたいな匂いだね」

 

「さんしょう?」

 

扶桑独自のお茶の例えをする宮藤だが、リーネには伝わらなかった。当のペリーヌは真顔になっていた。

 

「芳佳!リーネ!もっかいべーして!」

 

『んべ』

 

横からひょこっと現れたルッキーニに、宮藤とリーネは舌を出した。しかし、色はなにも変わっておらずそれに対しルッキーニは不服そうな顔をした。

 

「つんまんなーい!つんまないつまんないつまんない!!!」

 

「…………………………」

 

「ドッチラケ」

 

「ッ!!べ、別にウケを狙った訳ではなくてよ!!」

 

エイラの嫌味にペリーヌはカチンと来た。

 

(………………不味い)

 

「………………マズイ」

 

サーニャが思った事と足立が口に出したのがほぼ同時だった。それに気づいたサーニャは、向かい側にいる足立の方を見た。

 

「!、なんだよ?」

 

「………いえ……」

 

サーニャの視線に気づいた足立が問いかけるが、サーニャは首を横に振った。しかし、彼女には少しだけ親近感を感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

夜の滑走路。誘導灯が光り始めると、そこは神秘的な雰囲気に思えた。

 

「わっ………ふ、震えが止まんないよ……」

 

カタカタと震える宮藤はそう言った。

 

「なんでダ?」

 

「夜の空がこんなにも怖いなんて思わなかった……」

 

「無理ならやめる……?」

 

怖がっている表情をしている宮藤の為と思い提案してみるサーニャ。

 

「………て、手繋いでもいい?サーニャちゃんが手を繋いでくれたらきっと大丈夫だから!」

 

「…………………………」

 

それを聞いたサーニャの表情は変わらなかったが、魔導針が緑からピンクに変わった。恐らく内心は喜んでいるはずだった。その様子にエイラはムッとした表情をしていた。

 

宮藤の要望どおり、サーニャは宮藤の右手を握った。

 

「あ、足立くんもお願い!手繋いでもほしいな………」

 

「あ?なんで俺もなんだよ」

 

後方にいる足立にもお願いする宮藤。しかし当然の如く足立も乗り気じゃない様子。

 

「だ、だって〜!!お願い!!」

 

「……………………ったく」

 

涙目でお願いする宮藤に、ラチがあかないと思った足立は観念して宮藤の左側に立ち、左手を軽く握った。

 

「これでいいか?」

 

「!!、うん!ありがとう!!」

 

手を握った瞬間、宮藤は笑顔になった。

 

「それじゃ、イクゾ!」

 

「えっ!?ちょ、ちょっと!?心の準備が!!うわ!!ああああぁぁ〜っ!!!」

 

エイラの合図と共に発進する4人。しかし宮藤は心の準備が出来ておらず、発進するタイミングがズレた。そして上昇していくと雲の中に入っていった。

 

「手離しちゃダメだよ!!絶対離さないでね!?」

 

「だったら騒ぐな」

 

「もう少し我慢して。雲の上に出るから」

 

呆れる足立に、冷静に報告するサーニャ。その姿にいつもとは違うサーニャと感じた宮藤だった。

 

すると、雲の上に出るとそこは、満天の星空が広がっていた。その景色が視界に入ると、宮藤は手を離し、自由に飛んだ。

 

「すごいなぁ〜!私ひとりじゃ絶対こんなところに来れなかったよ!ありがとう!足立くん!エイラさん!サーニャちゃん!」

 

「へいへい」

 

「ヨカッタな」

 

「いいえ、任務ですから……」

 

素っ気ない態度で返す足立、楽しそうな顔をみて少し安心したエイラ、そして表情を変えないサーニャ。しかし、その表情は少し頬を赤く染めていて、喜んでいるようにも、宮藤には見えた。

 

そんな初の夜間飛行は無事に終わった。

 

 

 



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第6話 見つけた Bパート

1944年8月18日。

 

食堂にはなにやら怪しい灰色の飲み物が、おちょこに一杯それぞれ置かれていた。

 

「これは?」

 

怪訝な顔で質問するペリーヌ。その隣には謎の一斗缶を持った宮藤が現れた。一斗缶には「肝油」と書かれていた。

 

「肝油です。ヤツメウナギの。ビタミンたっぷりで目に良いんですよ!」

 

「スンスン……なんか生臭いぞ?」

 

「魚の油だからな。栄養があるなら味など関係ない」

 

異様な匂いに流石のハルトマンも怪しむが、隣のバルクホルンは軍人らしく動揺せず宣言した。

 

「おっほほほ!!いかにも宮藤さんらしいチョイスですこと!!おっほほほ!!」

 

「いや、持ってきたのは私なんだが………」

 

宮藤の隣にやってきた坂本は言った。それを聞いてペリーヌは血の気が引いた感覚がした。

 

「ありがたく頂きますわ!!」

 

慌てておちょこを手に取り、それを一気に飲み干してしまったペリーヌ。しかしそれは悪手だった。

 

「う"っ!!」

 

それはとてもマズイということ。表現出来ぬほどのマズさに顔面蒼白にもなるレベルだった。

 

「うぇ〜何これ〜」

 

「エンジンオイルにこんなのがあったな……」

 

味見するレベルでもダメなルッキーニと、ツッコミたくなるような表現をするシャーリー。

 

「ぺっぺっ!!」

 

「………………………」

 

エイラに至っては受けつけない様子、サーニャはその場で固まってしまうレベルだった。

 

「私も新米の頃に無理矢理飲まされてな。往生したもんだ」

 

「お気持ち……お察し致しますわ…………」

 

頭をかきながら笑い話にする坂本。その話を聞いて悶絶しながらも同意するペリーヌ。

 

「もう一杯♪」

 

そんな中、ひとり美味しそうにおかわりを貰おうとするミーナの姿があった。それを見たハルトマンは引いてた。ちなみに、先程宣言していたバルクホルンだが、この肝油には勝てず暗い顔をしながら小さい声で「不味い……」とつぶやいていた。

 

 

 

 

 

 

 

食堂が騒がしくなってる中、ひとり遅れて食堂に向かおうと部屋から出てくる足立の姿があった。

 

「ふぁ~、寝坊した」

 

半目になりながら欠伸をし、足立は独り言をつぶやいた。

 

「とっとと食べて寝るか~…………ん?」

 

足立が食堂に向かおうとした時、リーネの部屋から何か廊下の様子を伺おうと顔を出しているリーネを発見した。その様子は怯えた様子だった。

 

「なにしてんだアイツ……」

 

意を決してリーネに近づく足立。

 

「おい、どうしたんだ」

 

「っ!!あ、足立さんっ!?」

 

「なにビビってんだよ?」

 

「い、いえ!そのあのっ!!なんでもな……!!」

 

リーネが扉を閉めようとした時、足立は扉を掴み引きこもらないよう抵抗した。

 

「ど・う・し・た・ん・だ・?」

 

「うぅぅっ……!!」

 

まるでホラー映画の一種かの如く、足立は悪い顔をしながら問いただした。その表情に怯えるリーネ。

 

リーネは仕方なく部屋に連れ込み、訳を話してくれた。

 

「んで?なにかあったのか?」

 

「実はその……今朝、食堂に肝油があって………」

 

「………カンユ?」

 

聞き慣れない足立はリーネに聞き返した。

 

「むかし東洋の薬って言われて小さい頃に飲まされたんですけど、それがものすごく美味しくなくて………ちょっとトラウマなんです……」

 

「…………つまり肝油にビビって引きこもってた、と?」

 

「はい………」

 

「………………………」

 

(……俺は運がよかったってことか?)

 

足立は横目になりながら今日の寝坊がいい方に働いたと思うことにした足立。

 

「……足立さん?」

 

「いや、今日は運がいいなと思っただけだ」

 

「?」

 

足立の言動にイマイチ掴めないリーネだった。

 

その時、廊下から聞き覚えのある声がした。

 

「リーネちゃーん?起きてるー?」

 

「っ!?よ、芳佳ちゃん!?」

 

「…………………」

 

(これは……かなりヤバいんじゃないか……?)

 

声の主は宮藤だった。リーネも突然の来訪にしどろもどろな状態だった。足立も外見は冷静を装っているが、内心は冷や汗をかくぐらいの、とんでもない状況だと理解していた。リーネもその事態にすぐ気がついた。

 

(いまこの状態で宮藤が入ってきたら絶対誤解される……どうすれば………)

 

「ど、どうしましょう足立さん!?」

 

宮藤に声が聞こえない程度で足立に耳打ちをするリーネ。足立は少し考えた後、あることに気が付きその打開策を思いついた。

 

(……肝油……薬……そうか、その手があったか!)

 

「……リーネ、お前はベッドに寝とけ」

 

「えっ!?で、でも足立さんは!?」

 

「俺は正面から出ていっても問題ないさ。だから言うとおりにしとけ」

 

「は、はい……」

 

どこから出てくるかわからない自信。その姿にリーネは言う通りにするしかなかった。

 

「?、リーネちゃー……」

 

宮藤がもう一度呼びかけようとした時、ガチャッと足立が扉から出てくるのを目撃した足立。

 

「あれ?足立くん?なんでリーネちゃんの部屋にいるの?」

 

「あぁ、いいタイミングだ。食堂向かう途中、リーネが体調悪そうにしてたから、無理やりベッドに着かせたとこさ」

 

「えっ!?そうなの!?大丈夫リーネちゃん!?」

 

リーネの部屋に入るなり心配に顔を見に行く宮藤。そこは掛け布団で下半身を覆い起き上がっているリーネの姿があった

 

「う、うん、そんなに悪くないから、安心して芳佳ちゃん」

 

「そうなの?でも無理しちゃダメだからね?」

 

「う、うん」

 

「そうだ!いま坂本さんから扶桑から持ってきた薬があるんだけど……!」

 

「ひっ!!!」

 

「?、リーネちゃん?」

 

扶桑の薬と聞いて身構えるリーネ。恐らく肝油のことだと察しがついた。しかし、事情を聞いていた足立はすぐさまフォローを入れた。

 

「あー、肝油ってやつだろ?そんなのブリタニア人には効かねぇぞ」

 

「えっ、そんなことないよ。ビタミンたっぷりで目にもいいし……」

 

「だとしてもそんな刺激物を飲ませられないだろ……」

 

「うーん……言われてみればそうかも……」

 

「病は気からって言うくらいだし、好きな紅茶でも飲ませて休ませればいいんじゃないか?」

 

「うん。足立くんの言う通りかもね。ありがとう!わたし紅茶作ってくるね!」

 

「う、うん。ありがとう芳佳ちゃん」

 

「うん!待っててねリーネちゃん!」

 

宮藤はパタパタと紅茶を作りに食堂へ戻った。

 

「……ど、どんなもんよ……」

 

「ありがとう……ございます……」

 

足立の対応力に感心しつつも、お互い気苦労で朝からドッと疲れた様子だった。

 

その一方、紅茶を作りに行った宮藤は途中であることに気がついた。

 

「そういえば……足立くん、なんで肝油のこと知ってるんだろ?」

 

そんな疑問を抱く宮藤だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~あぁ………」

 

朝食後。昨日と同じく、サーニャの部屋のベッドで3人はぐったりしていた。特に宮藤はこの暑さに少しやられれいた。ちなみに、足立は部屋の隅で壁にもたれながら座り瞑っていた。

 

「ねぇ、エイラさんとサーニャちゃんの故郷ってどこ?」

 

「ワタシスオムス」

 

「オラーシャ………」

 

暑さを紛らわせようと、二人に故郷の話題を振る宮藤。

 

「えっと……それってどこだっけ……?」

 

「スオムスはヨーロッパの北の方。オラーシャは東」

 

「そっかぁ………!、ヨーロッパって確かネウロイにほとんど襲われたって……」

 

「うん……。私のいた街もずっと前に陥落したの……」

 

「じゃあ……家族の人たちは…?」

 

宮藤は恐る恐る聞いた。

 

「みんな、街を捨ててもっと東に避難したの。ウラルの山々を越えて、ずっと向こうまで……」

 

「そっかぁ…………よかったぁ」

 

サーニャの話を聞いてひとりホッとした宮藤だった。

 

しかしエイラが黙っていなかった。3人は起き上がりながら話し始めた。

 

「なにがイイんだよ?話聞いてないのかオマエ?」

 

「だって、今は離れ離れでも、いつかまたみんなと会えるってことでしょ?」

 

「あのな、オラーシャは広いんだゾ?ウラルの向こうたって、扶桑の何十倍もあるんダ。人探しも簡単じゃないゾ」

 

「うん…」

 

再びベッドに寝転び、呆れた様子で説明してくれるエイラ。その様子を理解し、うなずく宮藤。

 

「大体その間にはネウロイの巣だってあるんダ」

 

「そっか…………そうだよね……それでも私は羨ましいな」

 

「強情だなオマエ……」

 

意見を変えない宮藤に対し再び起き上がったエイラは、少し呆れた様子で宮藤に対し感心した。

 

「だって、サーニャちゃんは、早く家族に会いたいって思ってるでしょ?」

 

「うん…」

 

「だったら、サーニャちゃんの家族だって、ぜったい早くサーニャちゃんと会いたいって思ってるはずだよ」

 

「うん…」

 

「そうやってどっちも諦めないでいれば、きっといつかは会えるよ。そんな風に思えるのって素敵なことだよ!」

 

「…………………」

 

前向きに捉える宮藤を見てサーニャは不思議に思えた。しかし、それが宮藤という人間の象徴なのかもしれない。

 

「………気の長い話だな……」

 

それを聞いていた足立はポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

夕刻。宮藤たちは汗をかきながらサーニャの部屋から出てきた。

 

「あ~、汗でベタベタ」

 

「じゃ、汗かきついでにサウナに行こう」

 

「サウナ?」

 

「ほー、宮藤はサウナ知らないのカ」

 

それを知ったエイラはニヤッと悪い顔をした。

 

「あ、オマエは来んなよナ!」

 

「当たり前だ」

 

足立は当然のように言って自室の部屋に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

サウナ、そこは蒸気で蒸された空間。汗を流し新陳代謝を良くすると言われている。そんな空間に頭と身体にバスタオルを巻いた宮藤は、足をパタパタとさせながらうつ伏せになってうなだれていた。

 

「う〜……これじゃさっきと変わんないよ……」

 

「スオムスじゃ風呂よりサウナなんダゾ?」

 

二段目の腰掛けに肘を付きながら、エイラは説明した。その隣のサーニャは姿勢を正しく、人形みたくピシッと座っていた。

 

その姿をまじまじと見ていた宮藤はあることを口走った。

 

「サーニャちゃんの肌って白いよね」

 

その言葉に反応したサーニャはチラッと宮藤の見た。

 

「ドコ見てんだオマエ」

 

宮藤の視界にズイっと割り込み睨みつけるエイラ。

 

「いっつも黒い服を着てるから、余計目立つよね」

 

そんなエイラをお構いなしに、再びサーニャの方に合わせて言うと、サーニャの視線は前に向いていた。それを聞いていたエイラはワナワナしながらこう叫んだ。

 

「サーニャヲソンナメデミンナナァァッ!!!」

 

エイラの叫びは基地に響きわたりそうなぐらいだった。

 

 

 

 

 

 

「こっちこっち」

 

「ホントに大丈夫なの?」

 

エイラと宮藤が来たのは、サウナと隣接してある人工的に作られた池だった。ふたりはサウナから出たあと、素っ裸のまま来ていた。

 

「サウナの後は水浴びに限るんダ」

 

「確かに冷たくて気持ちいいけど………」

 

「恥ずかしがるなヨ!女同士ダロ?」

 

少し赤面しモジモジしている宮藤にエイラはイラッとし、声が大きくなった。その声に宮藤もビクッとした。

 

「だって………」

 

すると、どこからか歌声が聞こえてきた。

 

「!」

 

ふたりは歌声がする方向に向かっていき、岩陰から覗いた。そこにいたのは、足首に水を浸けながら、岩の上で座り身体を冷ましていたサーニャがいた。あまりの美しさにふたりは魅入っていた。

 

「♪~」

 

「なぜだろう………なんかこう、ドキドキしてこないカ?宮藤」

 

「うん……」

 

エイラの感想に同意する宮藤。ふたりの視線に気づいたサーニャは、ふたりの方に顔を向けた。

 

「!」

 

「あっ…あぁ…ご、ごめん!」

 

「?、なんで謝るの?」

 

咄嗟に謝ってしまった宮藤に、サーニャは立ち上がりながら聞いた。

 

「いや、邪魔しちゃったから………あの……」

 

宮藤はすぐさま言いたかったことがあった。

 

「素敵だね、その歌」

 

「……これは、むかしお父様が私のために作ってくれた曲なの」

 

「お父さんが?」

 

サーニャは幼い頃の記憶を思い出しながら話してくれた。

 

「小さい頃、いつまでも雨の日が続いてて、私が退屈して雨粒の音を数えていたら、お父様がそれを曲にしてくれたの」

 

その姿は、ピアノを弾いている父の曲に、喜ぶように駆けつける幼いサーニャがあった。

 

「サーニャはお父さんの勧めで、ウィーンで音楽の勉強をしてたんダ」

 

「素敵なお父さんだね」

 

「宮藤さんのお父さんだって素敵よ」

 

「えっ、なんで?」

 

3人は岩に腰掛けながら休んでいた。

 

「オマエのストライカーは、宮藤博士がオマエのために作ってくれたんだろ?それだって羨ましいってことダヨ」

 

「えへへ、だけど……せっかくならもっとかわいい贈り物のほうがよかったかも」

 

「贅沢ダナー、高いんだぞアレ?」

 

「あはは…………」

 

「ふっ……ふふふ……」

 

『ふふ、ははは……!!』

 

サーニャが笑い出すと宮藤とエイラも笑い出し、その場は3人の楽しそうな笑い声だけがあった。

 

「あとで足立くんにもこの水浴び場教えてあげようっと」

 

「いやアイツ使わないダロ男だし」

 

「あっそっか。あはは………」

 

「……………ねぇ宮藤さん」

 

「ん?なに?」

 

足立の話題を出した時、サーニャは物悲しげな表情をしながら宮藤に訪ねた。

 

「宮藤さんって足立さんと仲がいいよね……?」

 

「えっ?うーん……仲がいいのか分からないけど、なんで?」

 

「……足立さんと、どうやったら仲良くできるかなって思って……嫌いじゃないけど、なんだか怖くて……」

 

「あんな不気味なヤツほっといていいダロ」

 

「ダメよ、同じ部隊の仲間だし……私達は家族なのよ?」

 

「うぐっ………」

 

サーニャの最もな意見にエイラはグウの音もでなかった。

 

「うーん……どうすればいいんだろう………」

 

「……宮藤さんは、どうして足立さんが優しい人だって思ったの?」

 

「えっ?えっと………握手した時かな?」

 

「アクシュ?」

 

エイラは首を傾げながら繰り返した。

 

「うん。部屋で会った時に自己紹介して握手したんだけど、その時の足立くんの手がものすごく冷たかったの」

 

「……ソレ関係あるのか?」

 

「前にお母さんに教えてもらったの、手が冷たい人は心が温かいって」

 

「素敵なお母さんだね……」

 

「うん!お母さんの言う通り、足立くんは優しい人だったよ」

 

「……………………」

 

笑顔で言う宮藤にサーニャはつられてサーニャも笑顔になった。その時、サーニャの中で何かを思いついた。正確にはあることに気づいた。それを実行しようと、サーニャは決意を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、夜間飛行訓練を始めようとハンガーに夜間哨戒メンバーが集っていた。宮藤やエイラが準備する中、サーニャは足立に近づいた。

 

「あの………」

 

「!、なんだ?」

 

サーニャの声に足立は気づいた。宮藤もエイラも足立の声でようやく気づき、サーニャ達のほうに顔を向けた。

 

「きょ、今日の夜間飛行訓練……よろしくおねがいします」

 

「……なんだ?改まって」

 

「足立さんとは、まだちゃんとした挨拶してなくて……だから……」

 

「律儀だな、お前」

 

「……………………」

 

足立の言い草に少し表情が曇るサーニャ。やはり迷惑だったのかと考えそうになった時、足立から次の言葉を掛けられた。

 

「夜はサーニャの方が詳しいんだ。こっちがよろしくだ」

 

いつも通りのぶっきらぼうな言い方で、足立は握手を求めた。

 

「!、は、はい……!」

 

思ってもみない言葉にはサーニャは少し動揺したが、すぐに返事をし握手をした。そして足立の手は、宮藤の言うとおりすごく冷たかった。

 

ふたりの様子を見ていたエイラは少々不満げな顔をし、宮藤はにこやかな笑顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ聞いて!」

 

飛行中、宮藤はサーニャとエイラの上を飛び始めると唐突に話し始めた。

 

「今日はね、私の誕生日なの!」

 

「えっ……?」

 

「なんで黙ってたんだヨー!」

 

びっくりした顔をするサーニャに、楽しみを黙っていて怒るように聞き返すエイラ。

 

「私の誕生日は、お父さんの命日でもあるの」

 

「あっ………」

 

その理由にサーニャは納得し察した。

 

「なんだかややこしくて、みんなに言いそびれちゃった」

 

「バカだなぁオマエ。こういう時は、楽しいことを優先したっていいんダゾー?」

 

「そういうものかなー?」

 

「そうだヨー」

 

エイラが宮藤の更に上を飛びながら、エイラなりにフォローを入れる。

 

「なら両方やればいいじゃねぇか」

 

後衛に飛んでいた足立が言い放った。

 

「両方?」

 

「お前らで祝ってやって、墓に花でも供えてやればいいだろ?」

 

「へー、アダチもたまには良いこと言うジャン」

 

「うっせ」

 

「………お前らって、足立くんは?」

 

「俺はパス」

 

「えーっ!?なんで!!」

 

腕を頭の後ろに組みながら、足立はやる気なさそうに言った。その発言に宮藤はショックな反応をした。

 

「お祭りごとはお前らに任せる」

 

「もー!!」

 

頬を含まらせて怒りを顕にする宮藤。その時、サーニャが宮藤の隣に飛んできた。

 

「宮藤さん。耳を澄まして」

 

「えっ?」

 

そう言うとサーニャの魔導針の受信波が別のものを捉え始めた。宮藤たちのインカムからはとこかの曲が聴こえてきた。

 

「あれ?なにか聴こえてきたよ?」

 

「………ラジオの音……」

 

不機嫌そうな言い方になるエイラ。

 

「電波を拾ってるのか」

 

「夜になると空が静まるから、ずっと遠くの山や地平線からの電波も、聞こえるようになるの」

 

「へぇー!すごいすごーい!!こんなことできるなんて!!」

 

「うん。夜飛ぶ時はいつも聴いてるの」

 

「ふたりだけの秘密じゃなかったのカヨ?」

 

サーニャの右隣に飛んできたエイラは、サーニャに耳打ちをする。

 

「ごめんね?でも、今夜だけは特別」

 

「ちぇ………しょうがないナー」

 

「えっ?どうしたの?」

 

「うん。あのね……」

 

「あのな!今日はサーニャも……!」

 

エイラが割り込もうとしたその瞬間。サーニャの魔導針が何かの声らしきものを捉えた。

 

「っ!?」

 

「どうした?……………ん?なんだ?」

 

「……なんだこりゃ……?」

 

「これ、歌だよ!」

 

「……どうして…?」

 

 

 

 

 

 

 

一方、基地の管制塔からも謎の声が聞こえていた。管制塔にいる坂本とミーナは戦慄していた。

 

「これが、ネウロイの声…?」

 

「サーニャを真似てるってのか?サーニャは!?」

 

「夜間飛行訓練中のはずよ。宮藤さんたちと一緒に」

 

「すぐ呼び戻せ!」

 

焦るように指示をする坂本だが、肝心のレーダーが使い物になっておらず、サーニャたちの位置がわからなかった。

 

「ムリよ!この状態じゃどこにいるかも…!!」

 

「そうか……!敵の狙いはッ!!」

 

坂本の脳裏にある考えが浮かんだ。敵はサーニャの歌を真似て攻撃を仕掛けようと考えているのではないかと。そんなシナリオが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「どうして…?」

 

サーニャには分からなかった。なぜネウロイが歌うのか。その狙いが何なのかまだ気づかなかった。

 

「敵か!?サーニャ!!」

 

「ネウロイなの!?どこ!?」

 

「落ち着け。戦闘準備だ」

 

そういうと足立は、坂本から借りた機関樹を手に持ち、構える準備をした。

 

「3人とも避難して…!!」

 

サーニャの魔導針に更にノイズが走る。

 

その時、サーニャはようやく敵の狙いを理解した。理解したのと同時に、サーニャはエンジン音をふかし出力を最大まで上げ急上昇した。

 

「あっ!!」

 

「アイツっ!!!」

 

サーニャが急上昇した時、雲の中から遠距離でネウロイのビームがサーニャに向かって飛んできた。がしかし、間一髪サーニャはそれを避けた。正確には左足のストライカーを破壊されたが、黒のストッキングも破れ白い足が顕になっていたが、なんともない様子だった。

 

「サーニャっ!!!」

 

エイラと宮藤と足立はすぐさまサーニャに駆け寄り、落ちそうなになったところをエイラはなんとかキャッチしサーニャの肩を掴んだ。

 

「バカッ!!ひとりでどうする気だヨッ!!」

 

「敵の狙いは私!間違いないわ!」

 

エイラに掴む手が強くなるサーニャ。

 

「私から離れて……一緒にいたら……」

 

「バカッ……なに言ってんダ!!」

 

「そんなことできるわけないよ!!」

 

「だって………………」

 

迷惑を掛けたくないと思ったサーニャだった。その表情はまるで親に叱られている子の顔だった。

 

その時、足立はサーニャの頭をノックするかのように1回叩いた。

 

「!、足立さん……」

 

「隊長格が先に死にに行ってどうすんだ。仲間が居るなら頼りやがれ。サーニャにはそれができるだろ」

 

「私に……できる………」

 

宮藤とエイラがニッと笑うと、エイラがサーニャのフリーガーハマーをやや強引に取り、サーニャはなんとか片足で飛行していたが、宮藤の肩を掴みながら飛んでいた。そしてエイラは右手にフリーガーハマー、左手にはMG42を持ち構えた。

 

「どうするの!?」

 

「サーニャはワタシに、敵の居場所を教えてくれ。大丈夫、ワタシは敵の動きを先読みできるから、やられたりしないよ」

 

エイラは振り向きながらサーニャに言った。その姿はサーニャを守る意志が伝わってきた。

 

「アイツはサーニャじゃない。アイツはひとりぼっちだけど、サーニャはひとりぼっちじゃないだろ?ワタシたちは、絶対負けないよ」

 

心配そうに見つめるサーニャに、自身の肩に手をかけてるサーニャの手を握り返す宮藤。

 

「うん」

 

そして安心させるために宮藤は、サーニャにとびっきりの笑顔で応えた。その笑顔を見てサーニャは不思議な安心感を持った。

 

「んじゃそっちは任せた。俺は後ろのヤツをやるよ」

 

「えっ!?他にもいるの!?」

 

「ええ……実は後方にも2機現れてて……」

 

「マジかよ……」

 

1機だけなら、と思っていたエイラも流石に余裕の顔ではなくなりつつあった。

 

「そこで俺の出番だろ?」

 

「でも、相手は雲の中です……姿なんて全く……」

 

「んじゃ任せたわ~」

 

「あ!」

 

サーニャの話を途中で切るかのように足立は離れてしまった。その唐突さに宮藤も声が出てしまった。

 

「相変わらずムチャクチャなやつだナ……でもま、任せるしかないナ」

 

「うん。足立くんなら大丈夫だよ」

 

「………うん」

 

エイラも宮藤も足立の実力はもう既に知っているため、その実力を信用することにした。サーニャも覚悟を決めて目の前の敵に専念することにした。

 

「ネウロイは、ベガとアルタイルを結ぶ線の上を、まっすぐこっちに向かってる。距離、約3200」

 

「こうか?」

 

夜空の星を目印にサーニャはエイラに的確な指示を与える。

 

「加速してる。もっと手前を狙って……そう。あと3秒……」

 

「当たれよ!」

 

エイラの持つフリーガーハマーのロケット弾が3発発射されるのと同時にネウロイのビームも向かってきた。しかし、エイラの未来予知のおかげで、それを避けた。

 

一発、二発と間隔を刻みながら着弾するロケット弾。そして三発目、一際大きな爆風が見えるのと同時にネウロイの悲鳴を聞こえた。倒したのかと思い様子を見る3人。しかし、ネウロイはエイラ達の下の雲の中を泳ぐように飛んでいた。

 

「外した!?」

 

「いいえ、速度が落ちたわ。ダメージを与えてる」

 

すると、雲の中にいたネウロイは急旋回をし、エイラたちに向かってきた。サーニャも自身の固有魔法でその動きを先に探知した。

 

「戻ってくるわ!!」

 

「戻ってくんナッ!!」

 

一発二発と雲の中にロケット弾を発射させるが、今度はネウロイが弾を回避した。

 

「避けたっ!?」

 

「クソッ、出てこい!!!」

 

ダメ押しで最後の一発を発射させたエイラ。しかし、その足掻きが良かったのか、ダメ元で撃ったロケット弾がネウロイに直撃した。

 

『出たっ!!!』

 

爆風で周りの雲が無くなると、ネウロイの本体が見えた。そして本体が見えたかと思った次の瞬間には、ネウロイはエイラたちに特攻を仕掛けてきた。

 

弾が尽きたフリーガーハマーを捨て、エイラはもう一つ持っていたMG42を構え、特攻してくるネウロイに乱射し始めた。

 

「エイラ!!ダメ!!逃げて!!!」

 

「そんな暇あるか!!!」

 

徐々に削れるネウロイの装甲、しかしこのままではぶつかってしまう状態だった。その時、エイラの前に巨大なシールドが張られていた。

 

「!、気が利くな宮藤」

 

宮藤だった。彼女も今の自分にできることをしたかったのだ。

 

「大丈夫、私たちきっと勝てるよ!」

 

「それがチームだッ!!」

 

「…………………………」

 

各々が自分にできることをしていく姿を見てサーニャは何かを思った。自分も変わりたい、できることをしたい、そんな色々な感情が混ざりあった中で、サーニャは一番にこう思った。

 

私も守りたい

 

そんな感情が飛び込んできたサーニャは真っ先に行動に移した。宮藤の支えから離れるのと同時に、宮藤の機関銃を半ば奪い取るように掴むと、サーニャも援護に参加した。

 

『!!』

 

サーニャが自ら行動したことに一瞬驚いた表情を見せたふたり。だがそんなのは気にせず、自分たちの仕事に専念した。

 

ネウロイの装甲がさっきより早く破壊されていった。そしてついにコアが見えた。そのコアが見えるのと同時に、弾幕の雨により破壊された。エイラたちの前で破壊されたが為に、破片が目の前で飛び散るはずだったが、宮藤のシールドのおかげでそれが免れた。

 

ネウロイの破壊により、雲が大きく穴が空いた状態になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おー、いたいた」

 

エイラたちが悪戦苦闘してる一方、足立は雲の中。視界良好とは真反対な中で足立はネウロイ2機を発見した。正確には姿は見えてないが、コアを感じ取ることが出来るので、それを頼りにさがしていた。

 

(しかし速いな……俺よりちょっと飛ばしてる感じか?)

 

見つけたネウロイの背後を追うが、追いつける感じがしなかった。

 

(しょうがねぇ、付き合うか)

 

足立はストライカーボードの出力を上げ、ネウロイとほぼ同じ速度に合わせた。それはシャーリー程ではないが、それに類する速度だった。

 

「もらったぜ!」

 

ネウロイの背後を完全に取り、射程圏内に収めた坂本から借りた機関銃構え発射させた。ネウロイのコアが感じる方に乱射させた。が、しかし………。

 

「なっ、一発も当ってないかよ!?」

 

当たった感覚がなかった。コアは確かにあった、しかし問題があるとすれば足立の腕だ。銃をまともに握ったことすらほぼほぼ無かったのだから、命中率も頗る悪いはずだ。

 

その銃声で2機のネウロイに気づかれ、二手に別れられてしまった。

 

「…………やっぱ銃はナシだなこりゃ」

 

足立はその場に留まり、機関銃を背に担ぎ、使い慣れている刀を抜刀した。

 

(気づかれた………てことは絶対オレのことを狙ってくるはず。むやみに移動しても宮藤たちの方に引き寄せちまう。だったらここは………留まって様子を見る)

 

どこから攻撃が来るか分からない。圧倒的に不利な状況だが、足立にはいつも通りな感覚だった。

 

その時、雲の奥から赤い光が見えた。足立は即座に避ける動作に入っていた。

 

「っと!」

 

するとネウロイのビームが、足立の横を通った。しかし、避けても次のビームが足立を狙っていた。

 

(次から次に……!めんどくせぇな!)

 

間一髪で全てのビームをかわしているが、それも長くは持たない。足立はこの打開策を考えた。

 

(考えろ……考えろ……こんな視界の悪いところなんだ………お互い姿は見えてないはずだ………だったら……)

 

足立は片方のネウロイに突っ込んでいった。するとすぐにネウロイの姿を発見出来る程の距離まで近づいた。

 

「ハッ!そのスピードだったら付いてこられるんだろッ!?」

 

挑発するかのようにネウロイを後ろに付かせた。しかしそれでもネウロイの攻撃は止まない。避け続けながら足立は移動していた。

 

「じゃあな!」

 

次のビームが来るのと同時に足立はそう言って急降下した。すると、足立を追っていたネウロイの前にはもう片方のネウロイのビームが迫ってきていた。そして2機ともビームによって破壊された。

 

「…………武器なんて要らなかったなこりゃ」

 

刀の刃を見ながら収め、足立は3人の元へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ聴こえる」

 

「なんで?やっつけたんじゃ………」

 

音に気づいたエイラと宮藤。まだ敵がいるのかと身構えそうになった。

 

「違う………これはお父様のピアノ……!」

 

父のピアノをもっとよく聴こえるようにと、サーニャは片足のまま上昇し始めた。

 

「そうか!ラジオだ!この空のどこかから届いてるんだ!すごいよ!奇跡だよ!」

 

「いや、そうでもないカモ」

 

「えっ?」

 

エイラは嬉しそうな顔をしながら話してくれた。

 

「今日はサーニャの誕生日だったんダ。正確には、昨日かな?」

 

「え?じゃあ私と一緒?」

 

「サーニャのことが大好きな人なら、誕生日を祝うのは当たり前ダロ?」

 

その間にも、サーニャは月に吸い込まれるように上っていった。

 

「世界のどこかに、そんな人がいるなら、こんなことだって起こるんダ。奇跡なんかじゃない」

 

「エイラさんって優しいね」

 

「そんなんじゃねぇよ……バカ……」

 

「バカって………」

 

エイラの照れ隠しが宮藤には悪態をつかれたように思えた。

 

「お父様……お母様……サーニャはここにいます……ここにいます……!」

 

ラジオの向こう側に語りかけるように言うサーニャ。しかしそれが届かないのは自身が一番知っている。それでも、言わずにはいられなかった。

 

すると、サーニャを周りにはオーロラのような波紋が広がるのが見えた。それはまるで幻想的な光景だった。

 

「お誕生日おめでとう。サーニャちゃん」

 

「あなたもでしょ?」

 

「え?」

 

「お誕生日おめでとう。宮藤さん」

 

「おめでとナ」

 

「………ありがとう!」

 

自分にも言われるとは思っておらず、宮藤は涙を浮かべながら笑顔で礼を言った。そしてサーニャも涙を浮かべながら祝った。

 

ここで無事に帰還できれば、彼女たちにとっては感動的なお話で終わった。そういう世界線があったかもしれない。しかし、ここにはイレギュラーが紛れ込んでいる。そして、それは今、唐突に現れた。

 

「ッッッッッ!!!!!!!!」

 

奇怪な鳴き声。それは、サーニャの更に上空にはトンボのような、巨大なネウロイが現れた。その大きさは300m級だった。

 

「っ!?」

 

「ネウロイッ!?」

 

「どっから現れたんダヨ!?」

 

突如だった。ふたりがサーニャに目を奪われてる間の隙に視界に入ってきた。サーニャもラジオの音に油断していたせいもあり、すぐに探知できなかった。

 

唖然としているとサーニャの真上で赤く光始めた。

 

「!、サーニャッ!!!」

 

「サーニャちゃん危な………!!!」

 

二人が危険を伝えようとしたの同時に、宮藤の横で何かが通り過ぎ急上昇していった。

 

「足立くん!?」

 

物凄い速度でサーニャに近づく足立。その表情は険しかった。

 

「間に合えッ……!!!」

 

そう願っていると、ビームが発射された。まるで一本の赤い柱が降ってきた感覚だった。宮藤とエイラはその勢いに飛ばされそうになりながら耐えた。

 

「サーニャ!サーニャ!!!」

 

「足立くんッ!!!」

 

ビームの勢いが収まると、ふたりは名を呼んで安否を確認した。その視線の先には、サーニャを抱きかかえた足立の姿があった。

 

「よかった!ふたりとも無事だ!!」

 

二人の姿を確認するとエイラと宮藤は安堵した。

 

一方のサーニャは目を瞑っていたが、直後にゆっくり開くと足立の顔がすぐ近くにあり、少々驚いていた。

 

「あ……ありがとうございます……足立さ……!」

 

状況を理解しサーニャは足立にお礼を言おうとしたその時。足立の顔は目を丸くし、口を少し開け、唖然とした表情でネウロイに向かってこう言った。

 

「見つけた………!」

 

それは、足立の探し求めていたものだった。

 

 

つづく




お疲れ様です。

6話本編をベースに考えましたが、ちょっと長くなってしまいました。日本語がちょっとおかしい部分もあると思いますが許してください………

できるだけ伏線を回収できるように努めていきます。


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第7話 私たちのするべきこと Aパート

改変7話です。アニメでは伝説の7話とされていますが、ここではちょっと遅れます。


月の明かりが隠れてしまうほどのネウロイ。その下にいる足立は、サーニャを抱えながら呆然と飛びながら直立不動になっていた。

 

「見つけた………」

 

ネウロイを見ながら足立はポツリと言った。それは無意識に口に出てしまったようだ。

 

「あ、足立さん……?」

 

様子がおかしい足立にサーニャは呼びかけるが、まるで聞こえていなかった。すると、離れていたエイラと宮藤が足立に近づいてきた。

 

「サーニャ!大丈夫カ!?ってオマエ!!いつまでサーニャを抱えてるんダヨ!!!」

 

「大丈夫!?足立くん!!」

 

安否を確認する宮藤と、サーニャに触れていることに不満を持つエイラだった。そして当のサーニャはそう言われ意識し始めると頬を赤く染めていた。

 

そして足立は、次のことを言った。

 

「宮藤」

 

「?」

 

「サーニャとエイラを連れて基地に帰れ」

 

「!、足立くんは!?」

 

「…………コイツをぶっ潰す……!!」

 

足立は上にいるネウロイを目を離すことなく、力強く言った。

 

「足立くんひとりで!?」

 

「そんなのホントにムチャだろ!!」

 

「先に引けってつってんだよッッ!!!!」

 

『!!』

 

今まで聞いたこと無いような足立の怒鳴り声にビクッとする3人。宮藤に支えさせるようにサーニャを預けると、足立は更に上昇していった。その間も、ネウロイの攻撃は激しい数のビームが雨の如く撃ってきた。しかし足立はそれを全部かいくぐっていった。

 

(ここで……ここでコイツを仕留めれれば……!!)

 

足立は集中力を最大限にし、ついにはネウロイより上に出れた。左右に二枚ずつ、合計四枚の翼、全長が縦長なことながら昆虫のトンボようだった。

 

「コアは………あそこかッ!!!」

 

コアの気配を感じ取ると、場所は頭に当たる部分だった。分かった途端、足立は即座に全力で頭部と思わしき方に向かった。しかしネウロイもただ見過ごすこともなく、ビームの追従をやめなかった。

 

「ッ!!」

 

その時、一発のビームが頬を掠め、血が流れた。しかしそんなことを気にしている足立ではなかった。執念に取り憑かれたかのように頭部に向かった。

 

「これで、終わりだッッ!!!!」

 

得意のコマのように斬りつける回転斬りを、コアのある頭部に切りつけたその時。

 

ガキンッ!!!!!

 

「なっ!!!?」

 

切れなかった。ただその場に、金属音が響いただけだった。思わぬ出来事に足立も動揺していた。

 

「クソッ!!!だったらもう一回……ぐっ!!!!」

 

体勢を立て直しもう一度切り込もうと準備した時、心臓部に激しい痛みが走った。

 

「なんだよ……まだいけんだろッッ!!!!」

 

心臓部が痛くなるにつれ、イライラし始めてきた足立。自分の身体のはずなのに言うことがきかなくてもどかしい気持ちになっていた。

 

「ここで!!!コイツを倒させてくれッッ!!!!」

 

自身の心臓部に拳でドンッと叩く足立。その瞬間、後ろから赤い光がくるのが分かった。ネウロイのビームだ。振り向きざまに足立は悟った。避けれない、間に合わないと。痛みに伴って反応速度も鈍っていた。

 

(間に合わない………クソッ!!!)

 

死を覚悟した。自分ビームがゆっくりとが迫ってくるように感じる中で足立は、自分の弱さを悔いた。しかし、いくら悔いたところで変わらない。数秒後には塵となっているのだから。

 

…………彼女が現れなければ。

 

「ッ!!」

 

足立の前には巨大なシールドが現れた。その巨大なシールドは何度も見慣れたものだった。

 

「なんで………なんでお前がいるんだよ………宮藤ッ……!!」

 

そう、宮藤だった。必死にネウロイのビームを防いでくれているのは宮藤だった。

 

「仲間だから!友達だから……見捨てることなんてできないよ!!」

 

ビームを防ぎながら答える宮藤。それは、宮藤本人の本質だった。父を失った彼女にとって。友人も、誰も失ってほしくないという気持ちで動いているのであった。

 

「私達もいます……!!」

 

「!!、サーニャ……エイラ……!!」

 

エイラの肩を借りながら現れるサーニャ。ふたりが現れるのと同時に、ビームは一旦止んだ。

 

「足立さんが戦うなら、私達も戦います。けど……今の状態じゃ……」

 

「そうだヨ!弾も魔法力も無いのにどうやって戦うんだヨ!!」

 

「俺ならまだっ………!!!」

 

足立が未だに交戦しようとすると、インカムから声が聴こえてきた。

 

『聞こえるか!?宮藤!サーニャ!エイラ!足立!』

 

「坂本さん!!」

 

それは坂本の声だった。

 

『4人共、いますぐ撤退して!!魔法力や弾数を考えて、今の状態で戦うのは無理よ!!』

 

先程エイラが言ったことと同じことをミーナは言った。

 

「少佐ッ!!!俺はまだ戦えるッ!!!だからッッ……!!!」

 

『これは命令だ!!仲間のことを考えろ!!』

 

「ッ!!クッソ………クッソォォォォォッ!!!!」

 

「足立くん………」

 

命令に従うしかなかった足立は叫んだ。怒り、悔しさ、どこにぶつければいいか分からない感情が溢れ出て、叫ぶことしかできなかった。そしてその様子を宮藤は悲しげに傍観していた。

 

 

 

 

 

 

 

300m級のネウロイから無事に撤退し、基地に帰投できた4人。ハンガーに戻ると坂本とミーナが迎えてくれていた。

 

「サーニャさん!?その足!!」

 

「私は大丈夫です。みんながいてくれたから………」

 

「ならいんだけど………」

 

「足立は?」

 

坂本の言葉にエイラとサーニャはハンガーの入り口の方を振り返った。心臓部を掴むように抑え、呼吸が荒くなっている足立と心配そうに見つめる宮藤が入ってきた。

 

「ハァ……ハァ……ぐっ!!」

 

「足立くん!!」

 

ついには膝をついてしまった足立。こんな様子を見るのは初めてだった。見ていられない宮藤は手を貸した。

 

「大丈夫か!?」

 

心配になり駆け寄る坂本。

 

「ちょっと待ってて!!」

 

すると宮藤は耳と尻尾を生やし、治癒魔法で足立を治し始めた。

 

「やめろ………ほっとけよ……」

 

「ダメだよ!だってずっと具合悪そうなんだもん……!!」

 

「ほっとけってつってンだよッ!!!!!」

 

「っ!!」

 

苛立ちのあまり、払い退けようと足立は宮藤に手が出てしまった。

 

しかし、それは宮藤の顔がぶつかる寸前で止まった。足立は気づいてハッとした表情で少しの間、宮藤をじっと見ていた。そして宮藤も驚きのあまり、治癒魔法が中断されてしまった。すると足立は、座りながら足を立て、顔を伏せる形でポツポツと話し始めた。

 

「…………コアの電池切れだ……」

 

「えっ?」

 

「……コアを酷使し過ぎると痛み出すんだ。まるで割れるかのように……恐らく、無理したら死ぬだろうな……」

 

「!!」

 

初めて知る事実に驚愕した宮藤。周りも驚きを隠せなかった。

 

「……でも、ま……安静にしてたらすっかり回復してるさ。そこら辺はアンタらウィッチと一緒ってことだ……」

 

ニッとした表情を無理矢理作りながら、足立は皮肉そうに言った。

 

その時。坂本はある質問をした。

 

「足立。ひとつ聞いていいか?」

 

「?」

 

「お前が執拗に固執していたネウロイ、会ったことがあるのか?」

 

「…………あるよ」

 

坂本の質問に少し間を置いてから答える足立。

 

「………そういやまだ話してなかったな。なんで俺が、空を飛んで戦ってるのか」

 

「!」

 

それは坂本とミーナが一番知りたがっていた情報だった。なぜ彼が空で戦う必要があるのか、最大の疑問だった。

 

「……ちょうどいいや、全部話してやるよ……」

 

足立は自身の過去の話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

休息も兼ねて場所を移動させて、ミーティングルームにて。それぞれがソファーに座りながら、足立はひとり用の椅子に足を組みながら座っていた。テーブルには全員に飲み物があったが誰も手に取っていなかった。

 

「まずは……俺の親父についてだな。つってもアンタらふたりは知ってるよな?」

 

「ああ、足立宗次郎博士だな」

 

「えっ?足立くんのお父さんって………」

 

「宮藤さんのお父さん、宮藤博士と同じ職場だったのよ」

 

『ええっ!?』

 

エイラとサーニャと宮藤は当然の如く、目を丸くして驚いた。

 

「んであのボードは親父の自信作な。すぐダメ出し食らって採用されなかったみたいだがな」

 

「…………足立くんは……お父さんと知り合いってこと?」

 

宮藤は恐る恐る聞いてみた。

 

「……ああ。全然話したことはないがな。怒ってるか?黙ってたままで」

 

「ううん」

 

足立の質問に頭を横に振りながら素直に返答する宮藤。

 

「アナタは研究所にいたの?」

 

「行くところもやることも無かったからな。親父の研究の手伝いをさせられまくった。主に雑用な」

 

手を広げながら、当時のことを思い出しながら話した。

 

「他の研究者と比べて頭悪いくせに、言うことだけは偉そうなんだ。『考えることが人間の武器だ』とかな」

 

「立派な考えだな」

 

坂本は微笑みながら褒めた。

 

「………そんな親父は、突然帰ってこなくなったんだがな……」

 

「えっ……」

 

「後から知った話じゃ、親父はチームを外されたみたいだ。唐突にな」

 

「理由も無しにそんなことを!?」

 

理不尽な事に声を荒げるミーナ。

 

「なんの圧力が掛かってたか知らんけど、俺はそんな事を知らずに、バカみたいにずっと研究室で待ってたんだ。いない間は、宮藤博士が声を掛けたりしてくれたっけな……」

 

「お父さん………」

 

「その居ない間にストライカーユニットは完成されたってわけだ。そしてほぼ同時期に、親父も帰ってきた。あの日にな………」

 

「あの日……?」

 

今までの聞き入ってたサーニャが首を傾げながら聞いた。

 

「第二次大戦か」

 

「……あぁ。ネウロイが侵攻してくる前に……親父は帰ってきた。唐突にだ」

 

今までの他人事かのように話していた足立だったが、今度は視線を床に落とし、声が少し暗くなった。

 

「白衣も親父もボロボロ。いろいろ聞きたくて怒鳴ろうともした。けど、親父は拳を握りしめながら何かを言おうとしてた。だが、間に合わなかった………そこでヤツらが攻めてきた……」

 

「………そこで博士も足立君も………」

 

「あぁ…………少し長くなっちまったな。本題はこっからだ。俺が最初に目覚めたときだ。話したろ?目覚めたらコアがあったって」

 

「そういえばそんな話を最初にしてたナ」

 

腕を組みながら最初の自己紹介の時を思い出すエイラ。

 

「実はそんとき、気を失う前に見たものがあるんだ」

 

「それがあのネウロイと言うのか?」

 

話の流れを察して、坂本は推測した。

 

「そういうこった。研究所の穴の空いた天井からな」

 

「ちょっと待てヨ、それってそん時見たネウロイと全く同じなのカ?ほら、量産型とかだったら別のやつかもしれないダロ?」

 

「実はそうでもないわよ。特徴的なネウロイであれば全て記録されるわ。そして、さっき話を聞いた限りじゃ、初めて聞くネウロイだわ」

 

「翼が4枚で胴体が縦長………まるでトンボみたいだな」

 

ネウロイの特徴を確認するようにつぶやく坂本。

 

「……その唯一記憶に残ってる手がかりに、俺はある仮説を立てた」

 

「仮説?」

 

ミーナは神妙な顔をした。

 

「そいつを倒せば俺の身体は元に戻れるんじゃないか、ってな」

 

『!!』

 

足立の発言にウィッチたちはざわついた。

 

「それは……確証があるのか?」

 

「ハッ、んなわけねぇだろ。実験もそんな論文も見つかってないわけだし」

 

真意を確かめる坂本だが、足立は鼻で笑うように返した。

 

「ただ………この先ネウロイとして生きて終わるのは……地獄だと思ったんだ。だから………だから俺は、可能性のある希望にすがったんだ。元に戻れるかもしれない希望に」

 

自身の握る拳を見つめながら、足立は力強く言った。

 

「これが俺の5年間。俺が空を飛ぶ理由だ……」

 

『……………………』

 

「……なら」

 

周りが押し黙ったままの中、沈黙を破ったのは宮藤だった。

 

「なら私も手伝うよ!一緒にあのネウロイを倒そうよ!」

 

「宮藤さん……」

 

「宮藤……」

 

「私も手伝います……!私にできることならなんでも……!」

 

「そういうことならもっと早く言えヨナ。全く……」

 

宮藤に続き、サーニャとエイラも協力する気だった。しかし、当の足立は険しい表情で次のことを言った。

 

「………そりゃムリだ」

 

「えっ!?」

 

「なんでだヨ!オマエひとりだって倒せなかったダロ!!」

 

「そういうことじゃねぇ。あの仮説には続きがあるんだ」

 

「続き?」

 

宮藤はキョトンした表情で聞いた。

 

「ネウロイを倒したら元に戻るかもしれない、けど逆の可能性もあるんだ」

 

「逆の可能性だと?」

 

「………俺が消えるかもしれない」

 

『っ!?』

 

「足立くん……が!?」

 

周りが驚愕している中で、宮藤は口にしていた。

 

「そうか……親玉のネウロイをやれば………」

 

「当然、子のネウロイも消滅する……そういうわけね」

 

「そういうこった。さて、それを踏まえた上で聞きたい」

 

足立は立ち上がり、宮藤、サーニャ、エイラが座っているソファの前に立った。

 

「お前ら、何の躊躇も無く引き金を引けるか?」

 

『ッ!!』

 

足立の倒したいネウロイを一緒になって戦う、それは足立自身を消してしまうかもしれない事に加担するのと同義。そんな意味を突きつけられて、3人は固まったままだった。

 

『……………………』

 

「…………つまりはそういうこった」

 

3人が何も言えないのを確認すると、足立はそのまま自室に戻ろうとした。しかし、出ていく直前で立ち止まり、振り返らずにこう言った。

 

「………悪かったな、怒鳴ったりして」

 

その声はいつもより小さく、優しい雰囲気の声で聞こえた。そしてミーティングルームを後にした。

 

残された者たちは、ただただテーブル上を見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「進也、お前好きな子とかいないのか?」

 

「は?」

 

研究の資料を見ながら、宗次郎は進也に話題を振った。しかし話題を向けられた進也は怪訝な表情だった。

 

「いきなり気色悪い話題出すな」

 

「まぁそう言うなって。もしも、だ。そういう子が出来たなら、死んでも守ってやれ。それが男としての役目だ。俺は………それが叶わなかったからな………スマン……」

 

「………………」

 

妻の死を宗次郎は今でも悔やんでいた。研究者の自分ではどうすることも出来なかった。そんな力不足な事を思いながら、なんの意味もない謝罪を進也にした。

 

「……それと、女の子には手を出すなよ?絶対だぞ?どんなにムカついても、手を出したらクズ同然だからな!」

 

「……いきなり何力説してんだこのアホ親父は……」

 

「ハハハッ!!お前には紳士に育ってほしいからな!」

 

「寝言いってろ」

 

進也はくだらない話だと思い、ソファに寝っ転がった。

 

「宮藤博士にも、お前と近い歳のウィッチの子がいるそうなんだ」

 

「……………………」

 

「博士はその子のために、ストライカーユニットを開発してるみたいなんだ。ホントは戦争なんかに出したくないハズなんだがな……」

 

やりきれない気持ちに宗次郎は声の大きさが小さくなった。

 

「ぜめて、オレたち男が戦いに参加出来たらな……」

 

「……科学者が夢語んな」

 

「なに言ってんだ?科学者は夢語ってこそだぞ。夢を口にしなきゃ、実現できるものもできないんだぞ」

 

「………理解できねぇ」

 

「ハハハッ!そりゃお前!まだお子様だからな!ハハハッ!!」

 

「…いつかぜってぇぶっ殺す」

 

「おーおー言ってろ言ってろ。怖い怖い」

 

宗次郎にバカにされた進也はイラつき悪態をつくが、宗次郎にとっては猫とじゃれるような感覚だった。それが、ふたりにとってのいつもの日常だった。それが唐突に壊れるとも知らずに………。

 

 

 

 

 

 

 

月明かりに照らされている宿舎廊下で、足立は宗次郎との日常を思い出していた。そして自身の手のひらを見て、先程の宮藤に手をあげそうになった瞬間が、脳裏によぎった。

 

「………どうして思い出すんだか……めんどくせぇな………」

 

宗次郎の言葉が、深く足立の中に響いていた。

 

「約束は守ったからな………クソ親父………」

 

足立は拳を強く握りしめ、自室に向かった。

 

 

 



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第7話 私たちのするべきこと Bパート

1944年8月19日。深夜のネウロイ襲撃から日が昇り、お昼過ぎにてブリーフィングルームに501部隊のウィッチ全員が集められていた。理由は足立の話についてだ。全員が知っておいた方がいいと坂本が判断したため、招集されたとのこと。

 

「そんなことがあったのか………」

 

「アダチかわいそう………」

 

話を聞いたシャーリーは険しい表情をしていた。隣にいたルッキーニは、足立の気持ちを察し哀れんでいた。

 

「前に私と一緒に戦ったときも、一瞬苦しそうに見えたが、そういう理由だったのか」

 

「そうなの?」

 

納得するバルクホルンと、まるで興味なさそうに相槌を打つハルトマン。

 

「足立さんがみんなに手伝わせないのって、周りに背負わせないためなんですよね……?」

 

「ええ、リーネさんの言う通りよ」

 

「ネウロイをやればアイツが消えるかもしれない、そんな気持ちで戦わせたくないんだろうな」

 

「お気持ちは分かりますけど……でも……」

 

それぞれ分かっていた。足立のしたいこと。それは周りに罪を背負わせないこと。自分が加担したことにより足立が消えてしまった、そんな罪を背負わせないために、足立は周りを頼らなかった。

 

そんな意地を張りやすいペリーヌには痛いほど気持ちが分かった。

 

「アイツひとりでも倒せなかったのに、いったいどうするんダヨ」

 

「…………………」

 

後頭部に手を組んで天井を見上げるエイラに、悲しそうな表情で机を見つめるサーニャ。

 

「………あの!」

 

「!、なんだ宮藤」

 

「……えっと………その……」

 

「?、ハッキリと言え、宮藤」

 

「…………ごめんなさい……思いつきませんでした……」

 

宮藤の行動に、全員が目を丸くしていた。

 

「声に出せば……なにか足立くんを救える方法が思いつくかなって、思ったんですけど……なにも思いつきませんでした……」

 

「!」

 

「芳佳ちゃん……!」

 

宮藤の理由を聞いていると、宮藤からは大粒の涙が流れた。隣にいたリーネはそれに気づいた。

 

「私……ウィッチになって、大勢の人を救おうって決めたのに………目の前にいる友だちも救えないって考えたら………悔しくて……情けなくて……」

 

自身の気持ちを語っていると、宮藤の涙は止まらなかった。

 

「私……どうしたらいいのか………分からなくて………」

 

「芳佳ちゃん…………」

 

「宮藤さん……」

 

隣で側にいることしか出来ないリーネ、その気持ちを痛感するミーナ。しかし、坂本はある覚悟をした表情で宮藤に問いた。

 

「…………………宮藤」

 

「………はい」

 

「足立を救いたい、それは間違いないな?」

 

「はい……間違いないです……」

 

「なら、私達の取る道はもう決まっている」

 

「えっ?」

 

呆気に取られたような表情をした宮藤に、坂本は近づいてこう答えた。

 

「ネウロイを倒すことだ」

 

「っ!?」

 

誰もが悩んでいたことを坂本は正面から言った。その堂々とした表情に宮藤は固まっていた。

 

「待ってください坂本少佐!!それじゃ足立さんが………!!」

 

「なら見逃せ、とでも言うのか?リーネ」

 

「そうじゃ……ないですけど………」

 

坂本の力強さにシュンと縮こまったリーネ。

 

「私たちがウィッチである限り、ネウロイとの戦いは避けられない。これは必然的だ」

 

「……………………」

 

物悲しい表情で宮藤は顔を伏せたままだった。

 

「宮藤、足立が何故あのネウロイを5年間も追っていたか分かるか?」

 

「………もとの身体に戻るため……です……」

 

「それもあるが、実はそれだけじゃない」

 

「えっ?」

 

坂本の言葉に宮藤は顔を上げた。

 

「自分が消える可能性もあるのに戦う、それは……自分があるべき場所に還ろうとしてるんじゃないか?」

 

「自分があるべき場所………」

 

繰り返し言葉にすると、宮藤はその意味を考えた。

 

「足立は本来死人だ。それは間違いない。しかしコアのおかげで生きながらえてる。これはある種の呪いみたいなものだ。小さな傷でも再生してしまう不死身の力、いつまでも父親に会えないということだ」

 

「!!」

 

坂本は理解していた。このコアのおかげで生きながらえてる本質を。それは、便利な力ではなく、恐ろしい呪いだと言うことに。

 

「そんな呪いを解くことができるのは、私たちだ」

 

「…………でも、足立くんが……消えちゃうじゃないですか………」

 

「……そうとも限らない」

 

「えっ……?」

 

涙目になりながら言う宮藤に坂本はニッと微笑みながら言った。

 

「宮藤、さっきお前が言ってただろ?足立は元の身体に戻すために戦ってると」

 

「!!、坂本さん………」

 

「いま、私たちがすべきことはなんだ?宮藤」

 

「私は………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

電気も点けず、ベッドの上で横になっている足立。自室に戻ってからずっと待機していた。そしてその顔は、険しく苦しい表情だった。

 

「…………………………」

 

 

仕損じたネウロイが連続して出現する確率は極めて高い

 

 

(バルクホルンはそう言っていた………だとしたら、次もヤツに会えるかもしれない。その時がきたら今度こそ………)

 

足立は瞳に闘志を燃やしていた。例のネウロイに遭遇することを願いながら、次の作戦を考えていた。しかし、その頭の片隅には、彼女らの悲しそうな顔が思い浮かんでいた。

 

(………アイツらには荷が重すぎる。中途半端な戦いをしたら、絶対に死人が出る………だから俺がやらなきゃいけない………!!)

 

強く誓う足立。それは、無関係な彼女たちを巻き込みたくなかったのだ。自分の私情で戦死でもされれば、今度こそ立ち直れなくなる。足立はそう思っていた。

 

そして、そんな強い願いが届いたのか、基地に襲撃のサイレンが響き渡った。そう、ネウロイが現れたのだ。

 

「来やがったか………!!」

 

足立はベッドから飛び出すように、自室から出ていった。廊下に出ると一心不乱でハンガーに走った。

 

(アイツらより先に……!!先に行って潰せば全部解決だ!!)

 

どうしても巻き込みたくない。足立はソレばかりを考えていた。

 

そしてついに、ハンガーの入り口にやってきた

 

「誰もいない!これで………」

 

誰とも会わずにやってきたので、自分が一番乗りだと思った足立。しかし、そこには衝撃の光景があった。

 

「なっ………!?」

 

「あ、やっときた」

 

「少し遅いんじゃないか?足立」

 

「早いとこやっつけちまおうぜ!」

 

「にしし~」

 

「何をすっとんきょうな顔をしてますのかしら?」

 

「私たちもお手伝いします!」

 

「足を引っ張らないように、協力します……!」

 

「今更来るなって言われても遅いカラナ~」

 

そう、ハンガーにはストライカーを履き襲撃準備が整ってる501メンバー全員が揃っていた。

 

「なんで………お前ら………」

 

「彼女が言い出したことよ」

 

「っ!!」

 

ミーナが視線を向けたのは、真剣な表情をしていた宮藤だった。

 

「宮藤………お前が……!?」

 

「……足立くん、言ってたよね?あのネウロイを倒せば元の身体に戻るって」

 

「そりゃ……可能性の話で……」

 

「だったら私はそれを信じるよ!」

 

「!!」

 

「あの時、足立くんに言われてちょっと怖くなっちゃった………でも………」

 

宮藤は自身の手を前に持っていき、強く拳を握った。

 

「坂本さんに言われて気づいたの。まだ希望はあるって!」

 

「希望……!!」

 

「足立くんが信じられないなら私たちが信じるよ!その可能性に!」

 

「…………………」

 

強い真っ直ぐな瞳。決して強がっているわけではない。信頼、そんな言葉がふさわしかった。足立は理解できなかった。ネガティブな意味ではない。なぜそこまで他人を信頼できるのか不思議でならなかった。

 

「だからみなさんにお願いして集まってもらったの!足立くんを助けるために!」

 

「………………」

 

「足立くん…………」

 

一向に黙ったまま呆然と立ち尽くしている足立。顔は伏せていて表情が見えなかった。その様子に宮藤は心配になった。それでもひとりで出撃するかもしれない、と。しかし、そんなのは杞憂だった。

 

「生意気なんだよ!!バカ宮藤がっ!!」

 

「ひゃっ!!!」

 

突然、顔を上げたかと思えば、いきなり罵声が飛んできて驚き仰け反った宮藤。足立の表情はいつもとは変わった様子だった。怒っているようにも見えるが、笑っているようにも見えた。

 

「ド素人のお前がどーやって俺を助けんだよ!」

 

「そ、それは………その……」

 

足立の質問にしどろもどろになる宮藤。

 

「なにか策があって言い出したんじゃないのか?ん?」

 

「うぅ………」

 

「ちょっとアナ……」

 

宮藤への暴言を見てペリーヌが言い掛けた瞬間、坂本が遮った。すると首を横に振り、様子を見ることを暗に伝えた。

 

「少佐………」

 

ペリーヌも坂本の意図を理解し、その場を見守った。

 

「…………………」

 

足立の言葉に完全に萎縮してしまった宮藤。それを見た足立は次にこう言い放った。

 

「………お前は黙って俺の後ろについて来ればいいんだよ」

 

「……えっ?」

 

足立の思わぬ言葉に、ハッとした宮藤。その意味は次のセリフで理解した。

 

「背中は任せた、宮藤」

 

「!!、うんっ!!」

 

宮藤とすれ違う瞬間言った。足立は宮藤を信頼することにした。宮藤もその言葉に嬉しそうな顔をしながら大きな返事が返ってきた。その様子を見ていた隊員たちは、ホッとしたような表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネウロイの出現にとり海上に出た501メンバー。向かいながら今回の作戦を立てていた。

 

「足立によれば、コアは頭部、しかし想像以上の硬さであり切れなかった、と」

 

坂本は足立の経験を元に確認した。

 

「他のネウロイより硬さが増しているってことかしら」

 

「あまり試せなかったからなんとも言えないけど、多分そうなんだろうな」

 

足立は険しい表情をしていた。あの時倒せなかった悔しさをまた思い出していた。

 

「それなら、うってつけのやつがいるじゃないか」

 

「ええ、そうね」

 

ミーナと坂本は顔を見合わせてニッと笑った。

 

「リーネ!サーニャ!お前たちが今回の作戦の要だ!敵の装甲はいつも以上に硬い!その装甲を破壊するのがお前たちの仕事だ!!いいな!」

 

『了解!!』

 

「他の者は、ふたりが破壊しやすい位置に取れるようフォローをしろ!」

 

『了解!!』

 

それぞれの役目が決まるとさっきまでとは違った雰囲気になっていた。みんな真剣だった、この戦いで、足立の命運が決まるのだから。

 

「宮藤、お前は足立のフォローを頼む。シールドが無いアイツは危険すぎる」

 

「はい!!」

 

「聞こえてんぞ少佐!嫌味か!」

 

「冷静な判断だ。宮藤のシールドがなかったら今頃お前は生きてないだろ?」

 

「うぐっ………それはそうだけどよ………」

 

正論を叩きつけられた足立は返す言葉もなかった。すると、サーニャの魔導針になにかを捉えた。

 

「ネウロイの反応を捉えました!!距離4000!!こちらに向かって来てます……!」

 

「こっちから出向く手間が省けたな」

 

「ん?もしかしてアレか?」

 

皮肉を言うバルクホルンの横で、シャーリーは額に手を当て地平線の先を見た。すると距離があるにも関わらず黒いポツンとした物体が確認できた。

 

「この距離でも大きさがありますわね………」

 

「作戦を伝える!リーネ!ペリーヌ!シャーリー!ルッキーニは右翼側を!サーニャ!エイラ!バルクホルン!ハルトマンは左翼側を!残りの私たちはコアがあると思われる頭部で持ちこたえる!全ての羽を折ったら、全総力で頭部のコアを叩く!いいな!」

 

『了解!!』

 

「作戦開始よ!!!」

 

坂本から作戦が伝えられ、ミーナの合図と共にメンバーはそれぞれの持ち場に移動した。それと同時にネウロイからのビームの弾幕が飛んできた。

 

「くっ!!」

 

「こりゃすごいね!」

 

ネウロイの上空から左翼側に近づこうとするバルクホルンとハルトマン。しかし、ビームの数が多くてなかなか思うように進められなかった、だが、そんなのを気にせず進むウィッチたちもいた。

 

「あっぶないなナァ!大丈夫かサーニャ!?」

 

「うん。大丈夫……!」

 

サーニャと手を繋ぎながらビームの雨をかわしていくエイラ。未来予知のおかげでビームの弾幕すらもものともしない。

 

「やるねぇふたりとも!」

 

「私たちも負けてられないぞ!」

 

「えぇ~のんびりやればいいのにー」

 

ふたりの凄さを目の当たりにしたバルクホルンは俄然やる気をだしたが、ハルトマンの方は相変わらずだった。

 

一方、右翼側のリーネたちも苦戦を強いられていた。

 

「これじゃ近づけられないぞ!!」

 

「数が多すぎぃ!!」

 

先程のバルクホルンたちのように、ビームの弾幕により翼に近づけられていなかった。

 

「お二人共!!リーネさんを守るようにシールドを張ってくださいまし!リーネさんのライフルが、一発でも当たれば状況は変わるはずですわ!」

 

「おお!ペリーヌにしては良い作戦だな!!」

 

「めっずらしい!」

 

「おだまりさない!!!リーネさん!出来ますわね!?」

 

「は、はい!!」

 

ふたりの茶化し具合に苛立ったペリーヌは、半ば八つ当たりのようにリーネに狙撃するよう命じた。

 

ペリーヌの作戦どおり、3人がリーネの盾となり、右翼の一枚を撃ち抜こうと構えていた。

 

「3人でも結構持たないぞこれ!!」

 

「もう~!!!」

 

「リーネさん!!」

 

「いきますッ!!!」

 

準備が整ったリーネはライフルの引き金に指かけた。その時、左翼側のサーニャたちも同じ状況だった。

 

「エイラ……!!ここまででいい……!!」

 

射程圏内まで近づけられると、誘導してくれたエイラに止まるように言った。

 

「分かった!!でもサーニャが……!」

 

「私たちに任せろ!!」

 

「大尉にハルトマン!!」

 

エイラたちの前に現れたのは、シールドを張るバルクホルンとハルトマンだった。

 

「やっちゃえサーにゃん!!」

 

「はい…!!」

 

サーニャに対して乗り気なハルトマン。そして、ほぼ同時にリーネとサーニャは引き金を引いた。リーネのライフルの弾は真っ直ぐ右翼を撃ち抜き、サーニャのロケット団は左翼に命中すると爆発した。その結果、どちらとも装甲を破壊した跡になっていた。

 

『やったぁ!!』

 

双方、同時に歓喜した。倒せない相手ではないと分かると周りの士気も上がった。そして、この攻撃のおかげかネウロイからの攻撃が少し弱まった。

 

「今がチャンスですわ!リーネさん!その調子で繰り返していきますわよ!!」

 

「はい!!」

 

「よっしゃ!いくぞルッキーニ!!」

 

「うん!!!」

 

自分たちの戦いやすい状況になるとテンションが上がるシャーリーとルッキーニ。

 

「今度は私たちの番だな。サーニャ!チャンスがあればどんどん撃ち込んでいけ!」

 

「了解です……!!」

 

「ちぇ、今回は楽できるかなって思ってたのに」

 

「流石にそれは無いダロ……」

 

ハルトマンの発言にエイラは横目で眉をひそめた。

 

 

 

 

 

 

「すげぇ………」

 

ネウロイの頭部と思われる場所付近にいる足立たち。今の所ネウロイからの攻撃が来ていないために、501メンバーたちの戦いぶりを見ていた。

 

その様子を見ていた足立は思わず言葉を漏らした。

 

「あれが、お前ひとりでは出来なかったことだ」

 

「ひとりじゃダメでも、仲間がいればどんな困難だって乗り越えられるのよ。宮藤さんも覚えといてね」

 

「はい…!!」

 

足立を諭すように、坂本とミーナは優しく言った。

 

「さて、こっちはこっちの仕事だ。足立、コアは頭部の方にあるんだな?」

 

「ああ、気配を感じたのは頭側だ」

 

「どれどれ………」

 

足立の言う通り、コアがあるかを確認するため、坂本は眼帯を上げ魔眼を使った。

 

「…………………」

 

「どう?美緒」

 

「………どうもなにも……」

 

坂本に詰め寄ると、怪訝な表情をする坂本がいた。

 

「なにも無いぞ!コアの欠片さえ!」

 

「えぇ!?」

 

坂本が見えたのはなにもないネウロイの空洞部分だった。そこにコアの影も形もなかった。その意外な回答に宮藤は声を上げた。

 

「そんなはず……!!確かにそこに気配があるんだ!!」

 

「だが私には何も見えないぞ!!」

 

「どういうことなの………?」

 

坂本と足立の食い違いに神妙な顔をするミーナ。そんな疑問を抱いていると、坂本たちに気づいた大型のネウロイが攻撃を仕掛けた。

 

「くっ!!あまり長話してるヒマもなさそうだな」

 

ビームをシールドで防いだ坂本は冗談めいた発言をした。

 

「そうね。まずはコアを探すことに集中しましょう」

 

「よし。足立と宮藤は私の後に続け!一瞬でも気を抜くんじゃないぞ!!」

 

「はい!!…………足立くん?」

 

返事がなかった足立に振り向いた宮藤。そこには、何かに気づいたかのように目を丸くしている足立がいた。

 

「足立くん!どうかしたの!?」

 

(……少佐が見たのと俺の気配の感じ方が両方正しいとしたら………ここにいるコイツのコアは………)

 

「どうした足立!!返事がないぞ!」

 

まるで電池が切れたかのように反応しない足立に、怒鳴るように声をかける坂本。それを見ていたミーナと宮藤は不安そうな顔をしていた。しかし、足立は次の瞬間、驚くような事を口走った。

 

「少佐……コアの場所が分かった………」

 

「えっ!?」

 

「スゴイや足立くん!!」

 

「一体何処なんだ!?」

 

早く聞かせろと言わんばかりに、坂本は足立に詰め寄った。すると足立は、左手の親指で自身の心臓部を指した。

 

「………えっ?」

 

宮藤は一瞬理解が追いつかず、間の抜けた声が出た。あとの二人は真逆に、その意味を瞬時に理解した。

 

「それって…………」

 

「………ホントなのか?」

 

「……今この場にあるコアはここだけだ。つまりはそういうこった」

 

足立は冷静に淡々と説明した。自分の命とも言えるコアなのに、失うことに戸惑いの様子はなかった。

 

「少佐と俺の言い分が正しいとするならこうだ。俺のコアは元々アイツのモノだった。だから俺が元あった場所に反応してる…………筋は通ってるだろ?」

 

「確かにそうだけど………」

 

足立の言うとおり、筋は通っているが自身を納得させるには抵抗を覚えるミーナ。

 

「つーわけだ。少佐、銃を貸してくれ。手っ取り早くすんぞ」

 

「…………いや、私がやる。これは私の役目だ」

 

「……やっぱ強ぇなアンタ」

 

坂本の覚悟を決めた表情に、足立はフッと笑う声が出そうな、冷めた笑顔になってた。そして坂本は機関銃を足立に構えた。

 

「ま……待ってくださいッ!!!」

 

すると、今まで黙っていた宮藤が叫んだ。

 

『!』

 

そう叫んだ宮藤は、今度は大型ネウロイの頭部に向かって飛んでいった。

 

「宮藤さん!?」

 

「くっ!何をしてるんだ宮藤!!戻れ!!」

 

宮藤が行動にミーナは理解出来ず、坂本はインカムで必死に呼び戻そうとした。

 

「なにやってんだ!!バカ宮藤!!んな無駄なことすんじゃ……」

 

『諦めちゃダメだよ!!足立くん!!』

 

「!!」

 

あの足立も必死になって呼び戻そうとするも、宮藤から足立に向けて喝を入れられた。それを聞いた足立はハッとした表情をした。

 

「………諦めるもなにも……もう答えは決まってんだろ……」

 

『決まってないよ!!足立くんは言ってたでしょ!!あそこにコアがあるって!!』

 

シールドで防ぎながら攻防を繰り返しつつ、宮藤は前進していった。

 

「だからそれは俺のコアが……」

 

『私はその可能性を信じるよ!!』

 

「はぁ!?」

 

ムチャクチャな理論、理論かどうかも怪しいモノだが、足立にはまた理解出来ないものだった。

 

『それに!!さっき言ったもん!!足立くんが信じられないなら、私たちが信じるって!!』

 

「っ!!」

 

「宮藤さん……」

 

「宮藤……」

 

そう、先程宣言したのだ。宮藤は足立のことを信じると。だからこそ、一番初めの可能性を信じた。頭部にコアが眠っているのではないかと。坂本の魔眼で無いことは確認済みだが、それでも足立の言葉を信じようとした。

 

「くっ!!やあああああぁぁぁッ!!!」

 

なんとか頭部にたどり着けた宮藤。そしてがむしゃらに機関銃を撃ち続けた。しかし、この攻撃は無意味だった。前情報の通り、通常の硬さでないため、装甲はほぼ無傷だった。

 

「そんな!?」

 

わずかの希望になれば、と思った行動だったが自分には力不足だったと分からせられた宮藤。その時、インカムから声が聞こえた。

 

『芳佳ちゃん!!そこから離れて!!』

 

『私たちに任せてください……!!』

 

「リーネちゃん!!サーニャちゃん!!」

 

リーネとサーニャの声だった。宮藤は指示通りにその場を離れた。足立たちがいる方向に身体を向けると、いつの間にか501メンバーが合流していた。

 

「みなさん!!」

 

その光景に宮藤は歓喜した。

 

「ヤツの翼は全部折った!!」

 

「あとは頭だけだ!!」

 

「待って!あのネウロイのコアは………」

 

最終目標までたどり着き高ぶるバルクホルンとシャーリー。しかし、ミーナが水を差すようで申し訳無さそうに、メンバーに真実を言おうとしたその時、遮るようにハルトマンは言った。

 

「知ってるよ。さっき聴いてたしね」

 

「!」

 

そう、501メンバーはインカムを通じて全て知っていた。その上でコアがあると思われる頭部を破壊しようしていた。

 

そして、サーニャの持ってるフリーガハマーのロケット弾が、3発と着弾した。爆風でしばらく見えなかったが、煙が消え去ると装甲は壊れていなかった。

 

「壊れない………!!」

 

「私に任せてください!!サーニャちゃん!!」

 

サーニャの武器でさえも壊れなかった装甲。だが、よく見るとヒビようなものが入っていた。リーネはそれを見逃さなかった。全神経を集中させて、ヒビが入った場所に引き金を引いた。

 

「当たって!!!」

 

リーネが撃った弾は見事ヒビの場所に当たり、その部分の装甲が破壊された。

 

「やった!!」

 

『おおっ!!!』

 

「……………………」

 

喜ぶ宮藤と周りの501メンバー。しかし足立は浮かない顔をしていた。それもそのはず、そんなことをしても結果は変わらないと思っているのだから。

 

「コアは!?」

 

坂本が急ぐようにリーネに聞くと、リーネは悔しがるように声を震わせながら報告した。

 

「……………あ、ありません………」

 

「そんな…………」

 

リーネの報告に宮藤はおろか、周りはさっきまでの歓喜は消え去ってしまった。希望などなにもなかっただと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その行動は奇跡に繋がった。

 

「……………っ!?ねぇ!!あれ!!!」

 

最初に気づいたのはルッキーニだった。ルッキーニが指を指した方向は、先程破壊した装甲の場所だった。

 

「なッ……!!!!」

 

足立自身も信じられない光景だった。破壊した装甲の場所には、コアが現れ始めた。

 

「コアだ!!コアが出たぞ!!」

 

シャーリーが声を大にして驚いた様子だった。他のみんなも空いた口が塞がらなかった。

 

「どういうことなの………!?」

 

「………こんな初めてだ……」

 

ミーナも坂本も混乱していた。魔眼で見れなかったモノが、いま目の前に現れたのだから。

 

「だが、これで目標がハッキリしたな」

 

「アレがアイツのコアだね」

 

バルクホルンとハルトマンは目的を再確認した。その言葉に周りの空気も緊張が走った。

 

「………………」

 

「足立くん!!」

 

「宮藤……!」

 

放心状態の足立に話しかけてきたのは宮藤だった。

 

(……そういや、なんでバカ宮藤って言ってたか忘れてたわ………コイツは……)

 

「くっははは……!」

 

「えっ、な、なに足立くん?」

 

「いや、やっぱ……バカだろお前」

 

足立のその言い方は、初めて共闘した時と同じ、優しさが混じっている言い方だった。

 

「な、なんでいきなりそんなこと言われなくちゃいけないの!?」

 

「褒めてんだよ」

 

(仲間を絶対に信じるヤツだったってな……!!)

 

「褒められてないよ!!」

 

怒りを顕にする宮藤に対し、足立は次第にいつもの調子を取り戻しつつあった。それを見た坂本は安心したのか、指揮を取り始めた。

 

「……よし。お前ら!!よく聞け!!」

 

周りに集まっているウィッチたちは坂本の声に傾聴し始めた。

 

「ヤツの弱点が現れた!あとはアレを破壊するだけだ!誰でもいい!!ヤツを絶対逃がすな!!」

 

『了解!!』

 

坂本の掛け声にメンバー全員が返事をすると、散り散りになりながら大型ネウロイに向かっていった。

 

翼を折ったはずのネウロイだったが、それでも攻撃は緩まなかった。だが旋回速度などが低下しているため、逃すはずは絶対になかった。

 

「リーネさん!!回り込んで狙いないかしら!!」

 

「やってみます!!」

 

ミーナの指示通り、みんなとは正反対のほうに回り込み、ライフルを撃った。しかし………

 

「えっ!?」

 

リーネの撃った弾は、着弾する前にビームによって消し炭にされた。

 

「リーネの攻撃をを撃ち落としたのか!?」

 

「より鉄壁になった、というわけね」

 

予想外の防衛に驚くバルクホルン、その横で冷静に分析するミーナ。その顔は険しかった。

 

「あんなのどうやって当てろっていうんダヨ!?」

 

『なら……答えは決まってんだろ!!』

 

「!?」

 

インカムから足立の声がしたかと思った瞬間、ミーナの横を通過していったのは、足立とその後ろに付いていってる宮藤の姿だった。

 

「足立君!?宮藤さん!?」

 

「そういうことか!!ミーナ、足立に付いていくぞ!!」

 

「ちょっと美緒!もう!」

 

足立の作戦の意図に気づいた坂本は宮藤の後ろに付き、ミーナも渋々坂本の後ろに付くことにした。

 

「!、坂本さん!ミーナ中佐!」

 

「ハッ!アンタらふたりなら丁度いいや!!ギリギリまで近づくぞ!!」

 

「分かった!!」

 

「私達は何をすればいいの!?」

 

最後尾にいるミーナは足立に聞いた。先程の「丁度いい」ということは何か作戦があっての口ぶりだとミーナは推測した。

 

「………壁役だ!」

 

『!!』

 

「……はっはっはっ!隊長と副隊長を壁扱いか?」

 

予想外の役割に坂本は大笑いした。

 

「ギリギリまで近づけられるのはアンタらレベルだろ?最後はオレ一人で十分だ」

 

「!、…………分かったわ。アナタに従うわ!」

 

一見冷たい言い方にも見えるが、足立の性格から考えると、仲間のことを思ってのことだと理解したミーナ。足立の意思をを汲み取り、ミーナは足立の作戦に従った。

 

「宮藤!お前は俺に捕まってろ!」

 

「えっ!?足立くんに!?」

 

「お前は最後の切り札だ!最後にいなかったら話になんねぇんだよ!」

 

「わ、わかった!」

 

足立の言う通り、宮藤は足立から離れなように、腰に腕を回し、しっかり自身の腕を掴んでいた。宮藤は少し頬を赤らめていた。

 

「こ、こう?」

 

「あぁ!絶対ぇ離すんじゃねぇぞ!!」

 

「うん!」

 

宮藤が返事をするのと同時に、足立は加速した。

 

「すごい加速ね…!」

 

「我々も置いていかれるな!」

 

「えぇ!!」

 

坂本もミーナも足立の加速に追いつくように追いかけた。

 

そして当然、ネウロイからの雨のようなビームの攻撃が始まった。通常、これを全てかわしきるのは至難の技。しかし、足立はそれを難なくやってのけた。正確には紙一重、宮藤を連れているとはいえ、読みを一歩間違えれば共倒れになってしまう。そんな中、足立はやってのけ、宮藤は信じきるしかなかった。

 

「シールドを張っていたらタイムロスが出るなこれは!!!」

 

「それを彼はいつもやってのけているのよ!!」

 

坂本もミーナも足立に追いつくのに必死だった。いかに足立が並外れたことをやっているのか痛感した。

 

そして、先程リーネの弾を撃ち落としたエリアまで近づけた。

 

「来たぜ………中佐ッ!!」

 

「!」

 

「右だッ!!」

 

足立が示す方向に身体を向けると、例のビームが足立に向かって飛んできていた。

 

「させないわッ!!」

 

撃ち落とすビームはミーナのシールドによって防がれた。

 

「助かるミーナ!!」

 

『ここは任せて!!』

 

ミーナをその場で守らせ、足立たちは更に接近した。

 

「あとは近づくだけ……なわけないか」

 

「流石少佐、俺もそう思ってる。俺ならそうする。一回だけで防衛するわけないってな……!!」

 

足立がそう言うと、視界の左隅で赤く光る瞬間が見えた。

 

「少佐ッ!!」

 

「了解だッ!!!」

 

掛け声と共に、まるで阿吽の呼吸の如く坂本は左から飛んできたビームをシールドで防いだ。

 

「あとは頼むぞ!!宮藤!!足立!!」

 

残りのビームを避けつつ、コアに近づきつつある足立。坂本の言葉に返事もしないほど、前だけを見ていた。そう、背後からの攻撃が迫ってきていても。

 

「ッ!!足立君!!」

 

「足立ッ!!!」

 

ミーナと坂本はいち早く気づいたが、足立は振り向きもしなかった。聞こえてないわけでも、気づいてないわけでもない。背後は心配など最初からしていないのだ。なぜなら………

 

「……宮藤っ!!!!」」

 

「!!」

 

 

背中は任せる、宮藤

 

 

「任せて!!足立くん!!」

 

名を叫ばれた宮藤は、出撃前に言われたことを脳裏に思い出し、自分のすべきことを理解した。足立の背中を守ること。それが今の彼女のできることなのだ。

 

宮藤は足立から離れ、巨大なシールドを張った。

 

「ッッ!!!!!」

 

いくつものビームが迫ったが、その巨大なシールドのおかげで全てを受け止めきれてる宮藤。

 

「あとは………お願いッ!!足立くんッ!!!」

 

「………ああッ!!」

 

全ての関門を突破した足立。刀に手をかけ、コアはもう目の前、邪魔をするものはなにもない。

 

「今度こそ……終わりだッッ!!!!」

 

そして、コアとすれ違う瞬間、居合斬りの如くコアを斬った。

 

コアを斬られたネウロイは、どのネウロイとも同じく、うめき声を上げながら白い破片となり、辺りに砕け散った。

 

「……ネウロイの消滅を確認しました……」

 

「やったのか!!アイツ!!」

 

サーニャの報告を聞いて喜ぶシャーリー。

 

「あ、足立さんは…!!」

 

『!』

 

リーネの一言で、周りはざわついた。一番の問題、このネウロイを倒したことにより、足立にどんな変化をもたらすのか。まだ誰も知らない。

 

「足立くんッ!!!」

 

「…………………」

 

一番に足立に駆け寄る宮藤。ミーナと坂本はそれを見守ることにした。

 

「…………」

 

「足立くん……身体の方は……」

 

俯いている足立に宮藤は不安な顔になっていた。しばらく黙ったままかと思いきや、顔を上げ宮藤に振り向いた。そしておもむろに、宮藤の前に指を構えた。

 

「……えっ?」

 

呆気に取られた次の瞬間、宮藤の額にデコピンがクリーンヒットした。

 

「いっっっっったあああああいぃぃぃ!!!」

 

「おお、触れるみてぇだな」

 

インカム越しでもなく宮藤の悲鳴は全員に聞こえた。一瞬身構えた者いるが、少し様子を見た。当の足立はなにやら実験に成功したような言いぶりだった。

 

「いきなり何するの!?」

 

「いや、幽霊的な存在になったのかと思ってちょいと、な」

 

「確かめるためだけにやったの!?」

 

「おうよ」

 

「っっ!!!もーッ!!!足立くんなんか知らないっ!!!!」

 

「ありゃりゃ……」

 

宮藤の怒りは頂点に達し、ついには顔も見たくないという意思表示で足立に背中を、向けてしまった。足立はやりすぎたかと思い、少し反省した。

 

「………ま、これだけは言わせてくれ、宮藤」

 

「ふん!!」

 

「………結果は……なんにも変わってねぇや」

 

「…………えっ?」

 

足立の報告に宮藤は無視しようとしたが、耳に入ってきたのは意外な答えで、宮藤は思わず振り向いてしまった。

 

「今まで通り身体もあるし、コアもある。そして飛べてる。つまり、進展はナシってことだ」

 

「じゃ、じゃあ………足立くんが消えることも……」

 

「とりあえず今は無いみたいだな」

 

「っ!!!」

 

今まで消えるかと思っていた友人が消えなかった。そう思った宮藤は自然と涙が流れた。

 

「マヌケな結果にはなったが………ありがとう。宮藤」

 

「……うん……良かったね……足立くん!!」

 

「………あぁ」

 

涙を流しながら笑顔で歓喜する宮藤。足立も今まで誰にも見せなかったような、満面の笑顔で宮藤にお礼を言った。それを聞いていた501メンバー達も喜んでいる様子だった。

 

気がつけば、もう日が落ちかけ夕方になっていた。そんな夕日を背に501メンバーは基地に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ミーナと坂本は宮藤一郎の墓標の前に立っていた。

 

「サーニャの時と今回のネウロイ。明らかに何かを狙って現れた様子だったな」

 

「そうね、今回の事で上層部も無視できないはずよ」

 

「連中はどこまで知っているのか………まだまだ闇は深いということか」

 

「だとしても、私たちは飛び続けるしかないわね」

 

「ああ、そうだな。飛び続けるしかなさそうだ」

 

上層部が何かを隠しているのではないか、ふたりはそう疑っていた。しかし、だとしても彼女らのすることは変わらなかった。空を飛び、ネウロイを倒す、それに変わりはなかった。

 

そんな険しい顔をしていると、墓標の下にある沢山の花に目が入った。その中には1枚の写真が添えられており、ミーナと坂本はその写真を見てクスッと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

30分程前。

 

「なんで俺まで………」

 

「だって、足立くんもお父さんの知り合いなんでしょ?」

 

「そりゃそうだけど………」

 

沢山の花束を抱えた宮藤と足立。宮藤一郎の墓標に向かっていた。墓標に供えるため、ふたりで運んでいた。

 

「あ、見えた!」

 

崖の上の墓標が見えると、宮藤は大きな声が出た。宮藤の後を追いかけるように、足立は付いていった。

 

「………ただいま、お父さん……」

 

宮藤は墓標の前にしゃがみ込み、花束をお供えすると、そこに宮藤一郎がいるかのように墓標に語りかけた。

 

「ただいまって言ったら、なんか変かな?あはは………私ね、ウィッチ隊に入ったんだ」

 

その語りかける様子を、足立は遠くから傍観していた。

 

「部隊の人たちがみんな優しくて強くて面白い人たちで、私なんかみんなに追いかけるのでいっぱいいっぱいだよ。ははは………」

 

照れくさそうな笑いが、宮藤から聞こえた。

 

「けどね、それでも私頑張れるんだ。お父さんとの約束を守るために、大勢の人を助けるために………だから………」

 

そこまで言いかけると、宮藤の目尻から涙が出そうなになっていた。これ以上話していると、きっと止まらなくなる。宮藤はそう思っていた。その時、宮藤の視界から花束が落ちてきた。

 

「!、足立くん……!」

 

花束を乱暴に置いたのは足立だった。墓標に話していると足立の存在を忘れていた様子だった。

 

足立は宮藤の横に立ち、墓標を見つめながら語りかけた。

 

「久しぶりだな。博士」

 

足立の顔は険しく、堂々とした表情だった。

 

「ホントなら、俺もそっち側にいたはずなんだけどな。どういうわけか残ってるわけだ。アンタの娘のおかげでな」

 

「!」

 

宮藤は自分の事を指しているのを察した。

 

「どんだけ可能性が低くても、どんだけ自分を信じられなくても、ソイツは信じてくれるんだ。それに俺は救われた」

 

嫌味でもなく、素直に自身の本音を伝える足立。

 

「そういや、アンタもそうだったな。親子揃って世話になってやがるわ」

 

「足立くん……」

 

「だから今度は俺の番だ。俺が飛んでる限りは、アンタの娘を死なせはしない。それが俺なりの借りの返し方だ」

 

「!」

 

決意に満ちた表情、覚悟を決めた足立。また足立も、宮藤の行動で心を動かされたひとりなのかもしれない。その決意に宮藤は驚いていた。

 

「そういうことだから、安心して眠りやがれ。博士」

 

「………………」

 

口が悪い言い方だが、彼なりの優しい言葉だった。それを聞いた宮藤は、無意識に微笑んでいた。

 

そう言い残した足立は、墓標から離れていった。足立を追いかけようと立ち上がった宮藤だが、あるもの供え忘れていたのをに気づき、花束の前に置いた。

 

「じゃあまたね、お父さん」

 

宮藤の別れの挨拶には優しさが残った言い方だった。またここに来れるよう祈るように。

 

「待ってよー!足立くーん!!」

 

墓標の前には写真が置かれていた。その写真には坂本とミーナ以外の501メンバーが写った写真だった。その様子からは、宮藤とサーニャの誕生会を祝っている写真だった。それぞれが笑顔に写っているのに対し、足立は少々不満そうな顔をしていた。

 

その写真にはメッセージが書かれていた。

 

『15才になりました 芳佳』

 

『サーニャちゃんは14才です!』

 

 

 

つづく




お疲れさまです。

思ったよりも投稿が遅れたと思っております………構成はずっと前から出来てましたが、戦闘の流れを主に見直していたら違和感ありまくりでずっと考えていました。

もはやプロポーズに近い宣言をしましたが本人たちはそうは思ってないです。


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第8話 裸の付き合い Aパート

どうしてもこういう回は入れたいなと思い半ばムリヤリ入れました。ネウロイはお休み回です。


 

 

 

燦々と照らす日差し。雲ひとつない快晴に海もキラキラ光っていた。そんな海岸のシートとパラソルの元で、足立は刀を手に持ちながら立っていた。上は半裸、下は膝丈ぐらいまであるサーフズボンを履いていた。

 

「……どうしてこうなった………」

 

海で遊んでいるウィッチたち、泳いで自主トレをしているウィッチ。みなそれぞれ満喫している様子だった。

 

そんな姿をみて足立は呟くように言った。

 

「たまの休みにはみんなで海もいいだろ?」

 

「前にやったばっかりだったろ……」

 

足立のもとに現れたのは、海軍ウィッチ御用達のスク水姿の坂本と、ワインカラーのビキニの上に白い羽織り物を着ているミーナが現れた。

 

「今回は全員休日扱いよ。だから今日はめいいっぱい遊べるってこと」

 

「……そりゃお元気いっぱいのヤツらも泣いて感謝だな」

 

最大限の皮肉を足立は吐き捨てた。

 

「まぁ本来の目的は、お前のためでもあるんだがな」

 

「俺?」

 

「真の意味で私たちは仲間になったんだ。だったら裸で語り合おうじゃないか。流石に風呂では無理だがな!はっはっはっ!!」

 

「…………少佐、それ絶対俺たち以外のとこで言うんじゃねぇぞ」

 

「ホントにもう………」

 

足立とミーナは呆れた様子で顔を伏せていた。

 

「それと……ちょいと勘違いしてるとこがあるぞ」

 

「と言うと?」

 

「お前らはウィッチ、俺はネウロイ。そういう関係だ」

 

険しい表情で足立は言いきった。この前の全員出撃の時に仲間意識が高まったかと思いきや、足立は完全には仲間と思ってなさそうだった。

 

そんな会話をしていると、海で遊んでいるスク水姿の宮藤と、胸元にフリルの付いたピンクの水着を着ているリーネたちの声が聞こえた。

 

「足立くーん!!足立くんも遊ぼー!!」

 

一生懸命に手を振る宮藤に足立は苦い顔をした。

 

「ふふっ、呼ばれてるわよ?」

 

「絶対行かねぇ」

 

「なら命令よ、宮藤さんたちと遊んできなさい」

 

「はっ!?これ仕事じゃねぇだろ!?」

 

「上官命令だ。つべこべ言わず行ってこい」

 

「なんだよそれ………」

 

あまりの理不尽な命令に、流石の足立も困惑した。そんなやり取りをしていると、宮藤から催促の声が聞こえた。

 

「足立くーん!!はーやーくー!!」

 

「だぁー!!行けばいいんだろ行けば!!!」

 

足立は持っていた刀を砂浜に勢いよく刺すと、イライラした雰囲気で早足に宮藤たちのほうに向かった。

 

足立が自分から離れていったのを見送ると、ふたりは話始めた。

 

「………まだ気にしているみたいね……」

 

「コアがある限り気にするだろう。アイツは優しいからな」

 

物悲しげな表情をするミーナに、何かを悟るような顔で足立を見つめる坂本だった。

 

「んで、なんなんだよ」

 

バシャバシャと水の抵抗を受けながら向かうと、太もも辺りまでの水位にいる宮藤とリーネにたどり着いた。

 

「あ、足立くん!こ、ここの海の中がすごいんだよ!!」

 

「よ、芳佳ちゃん……」

 

「海の中?」

 

ふたりの表情を見ると、心配そうにオロオロと見つめるリーネと、どこか落ち着かない様子に見える宮藤だった。そんな二人を怪しむも、足立は言われたとおり海の中を見ようと水面に顔を近づけた。

 

「……………………」

 

しかし、見えたのはなんの変哲もない貝殻が転がっている絵面だった。

 

「なんにも無い………」

 

足立が水面を見ながら感想を言おうとした時、何かに足を引っ張られた。身体をバシャンッ!!と大きい音を立てたのち、水面に叩きつけられ水中に消えた。

 

「やったー!!大成功ー!!」

 

「やったねルッキーニちゃん!!」

 

「あ、足立さん……」

 

水面からバシャっと現れたのは、白地に黒のラインが入ったタンキニタイプの水着を着たルッキーニだった。喜ばしい表情を見る限り、宮藤と協力していた事が分かった。当の宮藤の満足の様子だった。リーネはルッキーニによって水中に引き込まれた足立を心配していたが、それも問題なかった。

 

なぜならルッキーニの背後に、水中に引きずり込まれた足立がゆっくりと立ち上がっていたのだから。

 

「ルッキーニちゃん!!後ろ!!」

 

「にゃっ!?」

 

危険を知らせるために宮藤がルッキーニの名を呼ぶと、背後を振り返るルッキーニ。そこには癖っ毛の髪をしていた足立が、濡れたおかげかまるで別人のようなストレートな髪型になっている姿があった。

 

「………十分楽しめたか?オメェら………」

 

「え、エヘヘ……」

 

「ちょ、ちょっとは………かな?」

 

抑揚の無い静かな足立の声が、ルッキーニと宮藤には怒りのオーラが見えていた。そして宮藤の冗談混じりの返しに、足立の怒りはラインを超えた。

 

「オメェらブっ殺すッッ!!!!」

 

「わっ!!逃げろー!!!」

 

「待ってよルッキーニちゃん!!」

 

「な、なんで私もなの〜!!!」

 

足立が鬼のような形相で追いかけ始めると、ルッキーニと宮藤はすぐさま逃げ始め、巻き込まれたリーネも一緒に逃げていた。

 

「元気だねぇアイツらも」

 

「怒らなくていいの?トゥルーデ」

 

「今日は休日扱いだ。とやかく言う必要はないだろ」

 

「じゃあ私も!!」

 

「お前は手伝え」

 

なにやら荷物を抱えて現れてきたのは、軍から支給された水練着姿のバルクホルンとハルトマン、その豊満な身体がハッキリわかるかのような赤いビキニタイプの水着を着ているシャーリー。そしてその後ろには、紫を基調とし真ん中には黒いリボンが付いているペリーヌもいた。

 

「全く、誰がこんなことを言い出して……」

 

「坂本少佐らしいよ?」

 

「しょ、少佐が!?」

 

驚きのあまりに荷物を落としそうになったが、なんとか持ちこたえたペリーヌ。あの訓練好きな坂本からそんな発言があるとは予想もしてなかったのだろう。

 

荷物を持ってきた一行は、坂本とミーナがいるシートの場所にドサッと置いた。

 

「これで全部だ。ミーナ」

 

「みんなありがとう」

 

隊員たちに労いの言葉をかけるミーナ。

 

「ペリーヌもすまないな」

 

「いえ!坂本少佐のご命令であればなんでも!!」

 

「さっきまで文句言ってたくせに……」

 

「キッ!!!」

 

ハルトマンのつぶやきに、聞こえたペリーヌは睨むような視線を送った。

 

「それで、キャンプ道具を揃えてどうするんだ?」

 

「そのうち分かるさ。あとで全員に手伝ってもらう」

 

シャーリーの質問に坂本はあえて答えを明かさなかった。

 

「シャーリー!!助けてっ!!」

 

「おっと!どうしたルッキーニ?」

 

助けを求めるようにシャーリーのもとに飛びついてきたルッキーニ。理由を聞くも、息を切らした足立もやってきた。

 

「ハァ……ハァ……こっち来いルッキーニ……!!!」

 

『うぅ~………』

 

鬼のような形相をしている足立はルッキーニを寄こす手振りをした。そして足立の後ろには、額を抑えて苦悶な表情をしている宮藤とリーネの様子があった。

 

「べー!やだよー!」

 

「お前なぁ……!」

 

「まぁまぁ。ルッキーニのやることだし、私に免じて……な?」

 

「なんでそうな………」

 

シャーリーが宥めようと仲裁に入り、それを納得しない足立がいい返そうとした時。足立には見慣れないモノが視界に入り言い淀んだ。

 

そう、シャーリーの豊満な身体に一瞬魅入ってしまったのだ。

 

「………………………」

 

「どうした?足立」

 

「い、いや……別に………」

 

足立の表情に疑問を持ったシャーリーだったが、足立はそっぽを向きながら否定した。その表情から、少し赤らめている事が分かった。

 

「もしかして~、シャーリーの身体に見とれちゃったの?」

 

その様子にいち早く察したハルトマンはイタズラ顔っぽく足立に言った。

 

「なっ!んなわけっ!!」

 

「なんだそんな事か〜、足立もオトコの子だな」

 

「やーい、むっつりー」

 

足立は必死に否定しようとするも、シャーリーとハルトマンはそれに乗じてからかい始めた。

 

その時、足立の怒りの矛先が増えた。

 

「………おいオメェら……」

 

「……あり?」

 

「ど、どうした?足立………」

 

呟くように囁いた足立の言葉に、怒りのような気配を感じ取ったハルトマンとシャーリー。ふたりは次に来る行動を予想して身構えた。

 

「そこでブン殴らせろッッッ!!!!」

 

「あはは!!怒った怒ったー!」

 

「落ち着けって足立!!」

 

「にゃあーー!!!」

 

足立がシャーリー達に駆け出したのと同時に、3人は一斉に逃げ出した。

 

「おいシャーリー!!ハルトマン!!自分たちの仕事を放り出すな!!!」

 

「元気な子たちねぇ」

 

ふたりに怒号を飛ばすバルクホルンとは裏腹に、ミーナは笑みを浮かべながら見守った。

 

「全く………宮藤!リーネ!手伝ってもらっていいか?」

 

「あ、はい!」

 

「もちろんです!」

 

坂本が宮藤とリーネに手伝いを願うと、額をさすってたふたりはシャキッと切り替わり、元気な返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

砂浜で体育座りをしながら海の地平線を眺めている、黒い三角ビキニを着たサーニャと、色違いの水色のビキニを着てるエイラ。サーニャは低血圧な事もあり、あまり海では遊びたがらないのであろう。エイラはサーニャの事を思い、側に居たのであった。

 

『!』

 

そんなふたりの近くでドサッと音が聞こえた。気づいたふたりは音のを向くと、誰かが仰向けで倒れているのが見えた。

 

倒れていたのは、息を切らした足立だった。

 

「ハァ………ハァ………」

 

「………大丈夫……ですか?」

 

「なにやってンダ?お前」

 

ふたりは足立に歩きながら駆け寄り、心配そうな声をかけた。

 

「ハァ………ハァ………なんだ………オマエらか………」

 

倒れた目線から見上げると、覗き込むように見ているふたりの顔を確認出来た。

 

「オマエら……こそ………なにしてんだよ………」

 

「……海を見ていました」

 

「こんな暑いのに、よく遊べるよナー」

 

「…………遊ばねぇのか?」

 

息を整えながら、足立はなにも考えず聞いた。

 

「………見ているのが好きなので………それに………」

 

「……それに?」

 

「………眠いので………」

 

「………なるほどな」

 

いつも眠そうな顔をしているサーニャの顔を思い出し、その説得力に納得した。

 

「あ、みんなー!!」

 

3人が会話をしていると、遠くの方でサーニャ達に向かって声をかけてきたのは宮藤だった。

 

「ちょっと手伝ってもらっていいーー?」

 

『??』

 

座りながら起き上がった足立も含め、3人は頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 

 

 



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第8話 裸の付き合い Bパート

宮藤に言われて、全員のいる場所に戻ってみると、少し大きめのタープが置かれていた。その下では、なにやらウィッチたちがキャンプ道具を広げていた。よくよく見ると、それらは料理に使うものばかりだった。

 

「なんだこりゃ?」

 

「お、来たか」

 

怪訝な顔をする足立を発見した坂本。

 

「屋台でも始めるつもりか?」

 

「はっはっはっ!!それも悪くないが、残念ながら違うぞ」

 

足立の皮肉混じりの冗談を坂本は大笑いした。だが、足立の予想とは当然違った。

 

「んじゃなんなんだよ」

 

「みんなで昼食を作るぞ」

 

「………………は?」

 

それは足立の予想の斜め上の答えだった。食事は当番制で決めていたが、みんなで作る、というのは初めて聞いた。

 

「いつ如何なる状況で食事を摂るのも、軍人として大事な事だ」

 

「今日は休日じゃなかったのかよ………」

 

「あら、立派なレクリエーションの一環じゃない」

 

「モノは言いようじゃねぇか………」

 

少しノリ気なミーナの言い方に、足立は納得がいかない表情をしていた。

 

「でも、いったい何を作るんですか?」

 

足立の隣に居た宮藤は頭を傾げながら聞いた。

 

「カレーライスだ」

 

『………カレーライス?』

 

知らない事はなかったが、意外な料理にウィッチ達はキョトンとした。

 

「ご飯にルーをかけて食べる……あのカレーライスですか?」

 

「そうだ」

 

リーネは念の為、一応聞いてみると坂本は首を縦に振った。

 

「わぁ〜!それならみんなで作れますね!!」

 

「作り方知ってるの?芳佳ちゃん」

 

「うん。滅多には作らないけど、何回かお母さんと一緒に作ったことあるから」

 

「じゃあ宮藤が知ってるなら安心じゃないか?」

 

経験者がいるということでシャーリーは安心した。しかし、坂本の話はまだ終わってなかった。

 

「そんな事はないぞ。ここからはチームに分かれて作るんだからな」

 

「チーム?」

 

「全員で作るのも良いが、今回は戦場での想定だ。必ずしも全員一緒という訳ではないからな。そこで、こちらの方でチーム分けをさせてもらった」

 

今回の趣旨を話す坂本、すると一人ひとりの名前を挙げていった。

 

「第一班、坂本、ミーナ、ペリーヌ。第二班、シャーリー、ルッキーニ、バルクホルン。第三班、サーニャ、エイラ、ハルトマン。第四班、リーネ、宮藤、足立。以上だ」

 

 

「少佐と一緒に……!!」

 

「シャーリーと一緒だー!!」

 

「リベリアンと同じ班か」

 

「足引っ張るなよ〜?」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

「よろしくね〜サーにゃん」

 

「…よろしくお願いします、ハルトマンさん」

 

「さ、サーにゃんッ!?は、ハルトマン中尉!!オマエ……!!」

 

「頑張ろうね!リーネちゃん!」

 

「うん!よろしくね芳佳ちゃん!」

 

それぞれの班決めで一喜一憂するウィッチたち。しかしその中でひとり、気が進まない者もいた。

 

「足立くんも一緒に頑張ろうね!………あれ?」

 

宮藤の横に居たと思われる足立が忽然と消えたかと思った。しかし、後ろを振り返るとその場から立ち去ろうとする足立を確認出来た。

 

「足立くん!!どこ行くの!?」

 

「悪ぃけど、そういうことはオマエらでやってくれ。俺はパスだ」

 

「足立くん………」

 

「………………………」

 

足立は振り向かず、そのままスタスタその場を後にし、宮藤はそれを見ているしか出来なかった。そしてもうひとり、その様子をハルトマンも見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

各々料理の準備を始め、宮藤の班は仕方なくふたりだけで料理をすることになった。だが、足立が居なくとも問題はさほど無いとは思われる。

 

そんな時、サーニャの班のハルトマンがある事に気づいた。

 

「あれ?ねぇサーにゃん」

 

「……どうしたんですか?」

 

「カレーってお水使うんだよね?」

 

「スープみたいにするんだから当たり前ダロ?」

 

「けど無いよ?」

 

気まぐれのハルトマンがたまたま材料を確認すると、自分たちの班にだけ水が無いことに気づいた。

 

「ホントだ」

 

「どうしよう………」

 

「………………」

 

いつもだったら面倒ごとを誰かに押し付けようとするハルトマン。しかしそこは気まぐれ、意外な発言が出た。

 

「私が取ってきてあげようか?」

 

「えぇっ!?ハルトマン中尉が!?熱でもあるんじゃないカ……?」

 

「私をなんだと思ってるのさ!もう!」

 

親切心で言ったことが貶されたように聞こえ、不機嫌な顔をするハルトマン。

 

「……お願いしてもいいですか?」

 

「いいよ!ちょっと待ってて」

 

サーニャにお願いされると、さっきまでの不機嫌さが消え、身軽にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

水を取りに基地の方まで戻ろうとするハルトマン。その時、岸辺で見知った人物を発見した。

 

「!、あれって………」

 

座りながら釣りをしている姿は足立だった。その後ろ姿には、哀愁が漂うな雰囲気があった。

 

「……………………」

 

その姿が気になり、ハルトマンは足立に近づいた。

 

「なーにしてんの?」

 

「…………ハルトマンか」

 

ハルトマンの声掛けに足立は素っ気ない返事返した。

 

「お腹減ってるならみんなと一緒に作ればいいのに」

 

「………そうもいかねぇさ」

 

「なんで?」

 

純粋に疑問に思ったハルトマン。

 

「俺はネウロイだ。みんなでワイワイする資格なんてありゃしねぇんだよ」

 

「そうかな〜?さっきまで私たちを追いかけ回してたけど?」

 

「……………………」

 

先程までの行動を思い返してみると、足立は何も言えなくなってしまった。

 

「それに、もう誰も足立がネウロイだなんて思ってないと思うよ?」

 

「根拠は?」

 

「ネウロイは怒ったり笑ったりなんかしないよ」

 

「…………」

 

ハルトマンの根拠を否定しなかった。内心、その通りだとも思った。ハルトマンは足立の横に立ちながら話し続けた。

 

「それに、私は感謝してるんだよ?足立に」

 

「俺に?」

 

ハルトマンを横目に足立は聞き返した。

 

「トゥルーデを助けてくれたじゃん」

 

「……ありゃたまたまで………」

 

「たまたまでも変わりないって。ありがとう、足立」

 

「…………………」

 

(感謝か………)

 

足立にとって、この基地に来るまでに感謝されたことは父と母以外いなかった。それもひとりで生きようと思っていたからだ。だから足立にとって感謝される事は、新鮮なように感じた。

 

「それと、多分宮藤も楽しみにしてたんじゃないかな〜?」

 

「?、何がだよ」

 

「一緒にカレーを作ることだよ」

 

「……そんなわけねぇだろ」

 

先程の宮藤の顔を思い浮かべる足立。その顔は確かにワクワクしていそうな表情だったが、足立は無理矢理にでも認めなかった。

 

「ホントだよ〜、ウソだと思うなら戻ってみたら?」

 

「…………………」

 

ニヤニヤしながらみんなのところに戻そうと促すハルトマンだが、足立は動く様子はなかった。

 

「まぁ気が向いたらおいでよ。来たほうが楽しいからね」

 

そう言ってハルトマンは足立の側から離れた。残った足立は海を見ながらあることを考えていた。宮藤が楽しみしていること、自分に楽しむ資格など無いと言いつつ、少しばかりの罪悪感が芽生えた。

 

「………めんどくせぇなオイ……」

 

宮藤かハルトマンかに言うような呟きだったが、もしかしたら自分の事に対して漏れた呟きなのかもしれない。そして足立は釣りを中断した。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

サーニャとエイラの下に帰ってきたハルトマン。その言い方からにとても軽そうな言い方だった。

 

「おかえりなさい……」

 

「ちょっと遅く無かったカ?………てか……」

 

エイラはある事に気づいた。

 

「水は?」

 

「………………あ」

 

エイラに指摘されて自分も忘れていた事に気づく。当初の目的を忘れていたのだった。

 

「何しに行ってきたんだヨ………」

 

「えへへ〜ゴメンゴメン」

 

見た目は軽そうだが、一応謝罪する気持ちもあるようだった。

 

「……みなさんに分けてもらうのはどうかな?」

 

「それがいいカモナ」

 

「いいね!それ私に………」

 

「絶対任せないからナ」

 

サーニャの提案にふたりは快く賛成し、サーニャも笑顔になった。ハルトマン汚名返上とばかりに名乗りあげようとしたが、エイラに釘を刺されてしまった。

 

「!」

 

ふと、宮藤たちの班の方に視線を移すと、とある事が起きていた。

 

宮藤とリーネはそれぞれいつもどおり、食事を支度する感覚で準備を進めていた。そんな時、宮藤の背後に気配を感じ振り返ると、そこには一杯の水が入った容器を持った足立が立っていた。

 

「足立くんっ!?」

 

宮藤の声に反応してリーネも振り返ると、確かにそこに足立が立っていた。

 

「戻ってきてくれたんだね!」

 

「うっせ。サボる方がめんどいだけだ」

 

「!、あの、そのお水は……?」

 

リーネに指摘された水を足立はサーニャたちのいる方向に差し出した。

 

「あ!その水!私たちのだゾ!!」

 

「持ってきてくれたんですか……?」

 

「なんか忘れてんじゃないかって思って確認したらこれがあったんだ。正解だったみたいだな」

 

「わーい!!サンキュ!足立!」

 

足立が持ってきた水をハルトマンに渡した。そして足立は宮藤に向かい合いこう言い放った。

 

「んで……何を手伝えばいいんだ?」

 

自ら進んで手伝おうする姿に、宮藤は満面な笑顔で俄然やる気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいリベリアン、少し雑に切りすぎなんじゃないか?」

 

「こんなもんだろ?そっちが几帳面過ぎなんだって」

 

「シャーリー!!お米が炊けたよー!!」

 

「おっ!よくやったルッキーニ!!」

 

シャーリーの班では、ルッキーニがお米担当、シャーリーが野菜担当、バルクホルンが味付け担当になっていた。野菜のバラバラな大きさになっていることに少々気になるバルクホルンだが、大きな問題はなさそうだった。

 

「お水の量ってこのくらいかしら?」

 

「もう少し多くて良いんじゃないか?その方が美味しく炊けそうだぞ」

 

お米に入れる水の量を確認するミーナ。その横に様子を見ながら意見を述べる坂本。

 

「さて、私は何をすればいい?ペリーヌ」

 

「わ、私が指示を!?そ、そんな大それたこと……」

 

「この中でまともに作れるのはお前ぐらいだ。普段の飛行演習だと思って指示をくれ」

 

「ッッ!!しょ、承知致しました!!ペリーヌ・クロステルマン!誠心誠意務めさせてもらいます!」

 

「ああ」

 

坂本の頼みとあってはモチベーションが上がらない訳がなかったペリーヌ。そのやる気が空回りしなければ問題は無さそうだった。

 

「……ボルシチみたい…」

 

「サルミアッキも入れてみるか?」

 

「なにそれ?美味しいの?」

 

「やめといたほうがいいと思う………」

 

カレーの材料にサルミアッキを入れようとするエイラをサーニャは止めようとした。一口チョコみたいな形をしており、ハルトマンは興味津々だった。

 

「…………………」

 

宮藤の班はでは、足立がジャガイモの皮を黙々と切っていた。ただ、やはり慣れていないのか所々に切れてない皮があったり、身を削り過ぎたりしているところがあった。心なしかだんだん不機嫌な表情にも見えてきた宮藤とリーネ。それを見かねて声をかけた。

 

「あ、足立さん……?」

 

「良かったら手伝ってあげ……」

 

そう声を掛けようとすると、足立はふたりの方に睨むように顔を向けた。

 

『ひっ!』

 

恐怖で小さな悲鳴が漏れたふたり。しかし、足立は次の瞬間、持っていたジャガイモをふたりの前に差し出してこう言った。

 

「………見せてくれ」

 

「……えっ?」

 

「見本」

 

それは意外なことに、足立は見本を見せてくれと要求してきた。プライドが高いのかと思いきや、案外謙虚なのかもしれない。

 

足立からの要求に宮藤とリーネは戸惑いながらも、皮むきの手本を足立の前で実践してくれた。

 

「……………」

 

「こう……あまり指に力を入れないでやるといいよ」

 

「わかった」

 

(指の角度……力の入れ方……動かし方……)

 

まるで穴が開くかと思うほど、足立は宮藤たちの指の動かし方を凝視していた。ふたりも多少の戸惑いがあったものの、気にせず続けていた。

 

そして宮藤たちから教わり、すぐさま実践に移動した足立。教えてあげたふたりもドキドキしながら見守ることにした。すると、先程のぎこちなさが嘘のようにスムーズに皮を剥いていった。

 

「そうそう!」

 

「見本を見せただけなのに、器用ですね」

 

「いいや不器用だ。俺は」

 

「え?」

 

リーネの褒め言葉を足立は皮を剥きながら否定した。そして一通り剥き終えると、宮藤たちの前に差し出し確認させた。

 

「これでいいのか?」

 

「うん!バッチリ!」

 

「この調子で野菜を切っていきましょう!」

 

「あいよ」

 

抑揚のない返事をする足立だが、ふたりはそれでも楽しそうな顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

『できたぁ!!』

 

それぞれの班からは、グツグツと煮えたカレーの匂いがしてきた。全員無事にカレーを完成させたようだった。

 

「全班完成せさせたようだな。それぞれ味見しつつ昼食にしよう」

 

坂本の指揮により、全員自分のお皿にカレーとライスを盛り付け始めた。

 

『いっただきまーす!!!』

 

そして一口、口に運ぶと周りのウィッチたちは好評な様子だった。

 

「美味しいね!」

 

「うん!上手くいって良かったね!」

 

宮藤とリーネは顔を見合いながら感想を述べた。

 

「結構簡単に作れるもんだな」

 

「ああ。材料の調達は置いとくとして、練習しといて損はなさそうだ」

 

「辛いけど美味しい!」

 

シャーリー達もこれには好評だった。

 

「美味しい……」

 

「美味しいけど、暑いに日に食べなくても良くないカ………?」

 

「おかわり!!」

 

食欲旺盛なハルトマンも二杯目を食そうとしていた。

 

「でも、なんでカレーを作ろうと思ったの?」

 

ミーナは坂本に問いた。

 

「いやなに、昔同期のふたりと3人で一緒に作らされたことがあってな。まぁ……褒められた物ではなかったな」

 

苦笑いしながら過去を思い出す坂本。

 

「しかし私はそれがいい経験だと思ってる。違う個性でも違う道でも、目的が同じなら必ず達成できると思った」

 

力強く説く坂本。その姿に全員は魅入っていた。

 

「その経験を、お前たちにもさせたかったんだ」

 

「そう………」

 

今回の目的の理由を聞いて、ミーナは微笑みながら納得した。他の者も今の話を聞いて、今回作ったカレーの事を思い返していた。

 

「そして………足立」

 

「あ?」

 

「お前に頼みたいことがある」

 

坂本は正座しながら足立の方に向き直した。

 

「私たちと一緒に、ネウロイを倒してはくれないか?」

 

「…………………」

 

おかしな頼み事だった。足立は既に501のみんなとネウロイを倒してくれいるはずなのに、改めてお願いされた。その疑問にエイラが口火を切った。

 

「ん?足立はもう私たちと一緒に倒してるじゃないカ」

 

「それは捕虜としての処遇だ。足立自身からの意思ではない」

 

そう。足立が501のメンバーと一緒に戦う理由は、捕虜として確保し、その処遇として戦わせてるに過ぎなかった。坂本はそのことに気づいていた。

 

「……一見無傷に見えるが、その実は無数の傷が刻まれてるんじゃないか?」

 

「…………………」

 

坂本の問いかけに返事をせず、足立はカレーを食べ続けた。

 

「正直、私はその力がお前に宿っていて良かったと思っている。もしその力が、他の不届き者に渡っていたら、今頃人類は三つ巴になり、私達は絶望しただろう」

 

「その通りね……」

 

目をつむりながらミーナは肯定した。

 

「しかし、お前には正義の心がある」

 

「………正義?」

 

「守りたいという正義だ」

 

「どこにそんな………」

 

「お前は救ってくれたじゃないか。リーネやバルクホルンやサーニャを」

 

「…………………」

 

「そういう性格なのさ。お前は」

 

(…………考えたこともなかったな………)

 

今まで家族以外と過ごした事がなかった為に、客観的に自分を見る機会がなかった。仲間から指摘されて初めて気づき始めた足立だった。

 

「その正義の心を持った者として、仲間として、ネウロイを一緒に倒してはくれないか?」

 

坂本のお願いに沈黙した。足立は考えていた、坂本の言葉の意味を。

 

(仲間か………)

 

足立は考えていた。自分がホントに仲間として相応しいのか。そんな資格が自分にあるのか。しかしそこであることに気づいた。

 

「俺だけ………か」

 

答えが漏れた。そう、自分だけが許そうとしなかったのだ。自分だけが責めていたのだった。周りのウィッチ達を見回してみると、過ごしたいろんな顔を思い出されていた。その表情は、人間として、仲間としての笑顔があった。

 

そして足立は覚悟を決めた。

 

「いいぜ、少佐。協力してやる」

 

「ホントか!」

 

「ただし、条件がある」

 

「条件?」

 

足立の返事に坂本は前のめりになりかけたが、足立は話を続けた。

 

「仲間だったらお願いとかするな。命令してくれ」

 

「……ふっ、条件が多い男だな」

 

何かと警戒した自分がバカみたいと思った坂本は、冗談で悪態をつきながら手を差し出し、足立に握手を求めた。すると足立も、躊躇なく握手を交わした。

 

「ようこそ、ストライクウィッチーズへ」

 

「ああ」

 

その言葉は2度目だったが、意味が違っていた。これは、足立が真の仲間として迎え入れた日になったのだった。周りのウィッチ達も笑顔になり、快く歓迎してくれていた。

 

握手を交わした足立も、口元が笑っていた。

 

 

 




お疲れ様です。

ストライクウィッチーズと言えば折返し地点になると神回が鉄板ですが、自分はそのような話を作ることが出来ませんでした………

正直キャッキャウフフを書くのも苦手です(全然嫌いではないです)

なので今回はムリヤリ水着回にしてそれっぽい話にしました。ながくなって申し訳ないです。


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第9話 君を忘れない Aパート

原作のミーナ回とほぼ同じ話になります。


ある日、宮藤はストライカーの整備をしてくれている整備兵の下に扶桑のお茶菓子を持ってきていた。

 

「いつもありがとうございます!」

 

「!」

 

整備兵達が宮藤の姿に気づいた。

 

「お菓子作ってみたんですけど、みなさんで食べてください」

 

「……………」

 

労いや感謝の意味を込めて作ってきたおはぎ。宮藤は笑顔で渡そうとするが、整備兵たちは宮藤の言葉を無視、作業を再開した。その反応に宮藤は驚きを隠せず、話を続けた。

 

「あ、あの、これ扶桑のお菓子で……」

 

すると、ひとりの整備兵が口を開いた。

 

「すいません。ミーナ隊長から、必要最低限以外はウィッチ隊との会話を禁じられてますので」

 

「えっ……!?」

 

そんな事は初耳だった。宮藤はしばらく驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

快晴の青空。そんな基地の下に、シーツやらの洗濯物が干されていた。どうやら宮藤とリーネが家事をしていた。

 

「ふあ~!!今日は風が強いね!」

 

「そうね、でも洗濯物も早く乾きそう」

 

今日は風が強く、宮藤やリーネの服が強くなびいていた。そしてふと、宮藤は先程の出来事を思い出した。

 

「そうだリーネちゃん、さっき格納庫でね……」

 

「うん?」

 

手で風を塞ぐ仕草をしながらリーネは横目で宮藤の話に返事をした。

 

洗濯物をすべて干し終えたふたりは、近くの岩場に腰掛けながら宮藤の話を聞いた。

 

「へぇ~、そんなことがあったの」

 

「なんで、ミーナ中佐はそんな規則を作ったんだろう……?リーネちゃん知ってる?」

 

「わたしも命令があるのはしってたけど……あまり気にしてなかったから」

 

「えーー!!こんな命令絶対変だよ!変すぎる!リーネちゃんもそう思わない?」

 

納得のいかない宮藤はリーネに同意を求め訪ねた。

 

「えっ……私、兄弟以外の男の人とほとんど話したことなくて……足立さん以外は……」

 

リーネは恥ずかしそうモジモジしながら答えた。

 

「ふーん。学校とかは?」

 

「ずっと女子校だったから……」

 

「そうなんだ」

 

「うん……ごめんね……」

 

「ううん」

 

申し訳なさそうに答えるリーネに宮藤は怒っている様子もない返事で返した。

 

「でも………足立くんとは普通にメンバーのみんなと話せてるんだよね」

 

「多分、特例だと思うよ。一応捕虜の扱いだし……」

 

「そっか……」

 

宮藤は納得しきれていない様子だったが、捕虜扱いと聞いて少しショックを受けた。

 

「あっ」

 

そんな相談をしていると、海辺に見えている軍艦に宮藤は目が入った。

 

「ほら!あれ赤城だよ!!」

 

「赤城?」

 

「うん。私の乗ってきた艦。修理してるって聞いたけど、直ったのかな?」

 

以前、宮藤がブリタニアに向かってる最中にネウロイに襲われた際、赤城は酷い損傷を受けた。その間、修理をされていたみたいだ。

 

すると、視界の隅の方からルッキーニとシャーリーが現れるのが見えた。

 

「あぁいたいた!芳佳ー!!」

 

「ミーナ中佐が呼んでたぞー!」

 

「あ、はーい!!………なんだろう?」

 

呼ばれた理由に心当たりがなく、宮藤とリーネはお互い首をかしげながら見合わせた。疑問に思いながらも宮藤は言われた通り、ミーナがいるブリーフィングルームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しまーす」

 

ブリーフィングルームに入り、一声挨拶し中を見回すと、坂本とミーナ、坂本と同じ白い軍服を着た中年の男性が立っていた。その声に気づいた男性は振り向くと、宮藤に声をかけた。その手には紫の布に包まれたなにかを持っていた。

 

「宮藤さん。お会いしたかった」

 

そう言うと男性は宮藤に近づこうとしたが、それをミーナは防ぐかのように横入りしてきた。

 

「こちらは、赤城の艦長さんよ。ぜひあなたに会いたいとおしゃって」

 

「杉田です。乗員を代表して、あなたにお礼を言いに来ました」

 

「お礼?」

 

「あなたのおかげで遣欧艦隊の大事な艦を失わずに済みましたし、なにより多くの人命が助かりました。本当に感謝しています」

 

杉田という艦長はその時の様子をしみじみに思いながら宮藤に感謝を述べた。

 

「いえ……私はなにも……あのときは坂本さんと他の人たちが………」

 

宮藤は自分の力ではないと謙虚さと恥ずかしさを持って言った。

 

「いや、確かにあのとき、お前がいなければ全滅していたかもしれん。誇りに思ってもいいぞ。宮藤」

 

「そうかなぁ~へへ」

 

一緒に戦った坂本に褒められ、宮藤の顔は照れながらもにやけた。すると、杉田は宮藤に紫の風呂敷で包まったものを渡された。

 

「全乗員と話し合って決めました。これをあなたにと」

 

予想もしてなかった展開に、宮藤は杉田の顔と風呂敷を交互に何度も見合わせた。

 

「あらあら、良かったわねぇ」

 

「ありがたく受け取っておけ。宮藤」

 

ミーナも坂本も笑顔で宮藤に受け取るよう促した。

 

「はい!ありがとうございます」

 

その風呂敷は宮藤に渡った。すると、杉田はさっきまでの優しい顔とは裏腹に、貫禄が出る戦場での真剣な顔つきに一瞬で変わった。

 

「反攻作戦の前哨として、我々も出撃が決まりました」

 

「ついに……ですか」

 

杉田はミーナに報告すると、待ってましたと言わんばかりの言い回しだった。

 

「反抗作戦……?」

 

宮藤は初耳な発言に怪訝な顔をした。

 

「ええ。今日はその途中で寄らせていただいたのです。明日には出航なので、ぜひ艦にも来てください。みなが喜びます」

 

「え………はい!」

 

急な申し出で宮藤は一瞬戸惑ったが、自分としてはお礼を言いたいと思い、快く返事をした。しかし、それを許さない者もいた。

 

「残念ですが、明日は出撃予定がありますので」

 

「!」

 

「そうですか……残念です」

 

ミーナの断りが入ると、宮藤の顔は沈んでしまった。どうしてもお礼を言いたかったのだろう。

 

「それでは、私は失礼します」

 

「はい、本日はありがとうございました」

 

「宮藤さんも、それでは」

 

「あ、はい………」

 

ミーナと坂本は杉谷敬礼し、杉田本人は部屋から立ち去ろうとした。宮藤は先程の元気な様子とは違い暗い顔をしていた。その時、ブリーフィングルームの扉が開くのに全員が気づいた。

 

「中佐いるかー?バルクホルンがアンタに渡しといてくれって書類が………」

 

そう言いながら入ってきたのは足立だった。周りもこのタイミングで入ってくるとは思わず、空気が凍った感覚がした。

 

足立の目の前には杉田と相対する形になっり、足立は杉田のことをジロッと見た。

 

「………………」

 

(少佐と同じ服………海軍?しかも扶桑人……)

 

どういう人物か推測する足立だが、余計な詮索は無駄だと思い、すぐに話し続けた。

 

「……取り込み中だったか?」

 

「い、いえ、その書類を頂けるかしら?」

 

「はいよ」

 

足立はミーナの下に行き、片手で渡した。ミーナも表情が苦笑いしている様子だった。

 

「んじゃ、確かに渡したからな~失礼しやした~」

 

「………あ!待ってよ足立くん!し、失礼しました!!」

 

後ろ姿で手を振りながら足立は退出し、宮藤も呆気に取られながらもお辞儀をしつつ、足立の後を追うように退出していった。

 

「……ミーナ中佐、もしかして今のが?」

 

「………はい」

 

お叱りの言葉を受けるかと思い、ミーナも覚悟をしていた。しかし、予想は外れた。

 

「……ハッハッハ!!!」

 

「す、杉田艦長?」

 

突然の笑い声に坂本も驚いた様子を見せた。

 

「いや、すみません。我々上層部と基地内の者にしか伝えられてない情報で、どんな人物かと思ったら意外な子でした」

 

「……恐縮です」

 

「それで、どんな子でしたか?」

 

「…………………」

 

ミーナはどう答えようか一瞬考えたが、杉田という男を考えた結果、素直に答えることにした。

 

「不器用ですけど、とても仲間思いの子です」

 

「なるほど……ミーナ中佐が言うのであればそうなのですな」

 

杉田とミーナは共に微笑みながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

ブリーフィングルームを後にした宮藤と足立、それと待っていてくれたリーネ達が中庭の方を歩いていた。

 

「それで……艦長さんの前で書類を……?」

 

「へぇ〜艦長だったのか。あのおっさん」

 

「か、艦長さんは大佐だから、ミーナ中佐より偉いんですよ!?」

 

「そんなに偉い人だったんだ……」

 

足立の興味なさそうな様子にリーネは驚きを隠せず、宮藤は改めて知り事の重要さを知った。

 

「でも、艦長さんが代表してお礼に来てくれたなんて、すごいね!」

 

「えへへ………」

 

「宮藤さん!!!」

 

「ふぇっ!?」

 

リーネに褒められ照れていると、突然宮藤とリーネの前に少年兵が現れ宮藤を名指した。宮藤は思わず間の抜けた驚いた声が出てしまった。

 

「さ、先の戦いでの宮藤さん勇戦敢闘には、大変敬服致しました!!艦を守っていただき、た、大変感謝してます!!」

 

「は、はい……どういたしまして……」

 

この少年兵は赤城の乗員みたいだった。その時の宮藤の戦う姿を見てお礼を言いに来たのだった。しかも手紙付きで。少年兵は手紙を差し出しながら感謝を述べ、宮藤も戸惑いながらも言葉を返した。

 

「あの………そのですね………これ、受け取ってください!!!」

 

「えっ?………あの……」

 

「ラブレターじゃない?」

 

少年兵の手紙を見てリーネはワクワクした顔になった。

 

「ラブレター?」

 

「うん!受け取ってあげたら?」

 

「えっ……えっ?」

 

そう言うとリーネは宮藤が持っていた荷物を変わりに持ってあげた。宮藤は次第に理解していくと、事の恥ずかしさに顔を赤らめていった。そして観念し、少年兵の手紙を受け取ろうとしたその時。

 

『あっ!!』

 

突然の風。手紙は宙を舞い、飛んでいってしまった。

 

「待てー!!!」

 

少年兵が追いかけていくと宮藤も一緒に追いかけて行ってしまった。

 

「わぁー!わぁー!!」

 

「………楽しんでないか?リーネ」

 

宮藤たちの後ろにずっといた足立は、リーネの目の変わりようにアホらしく思えた。

 

手紙を追っていったふたり。すると、中庭の壁に挟まっているのが見えた。

 

「よかった」

 

少年兵が安堵の声を漏らすと手紙を取ろうとした。その時、宮藤も一緒に取ろうとすると、ふたりの手はお互いに当たってしまった。

 

『あっ』

 

ふたりはお互いの顔を見合わすと頬を赤らめ、手を引っ込めてしまった。すると、風が再び吹き、手紙が宙に舞ってしまった。そしてその着地先は、運悪くミーナの手元に落ちた。

 

「ミーナ中佐!!」

 

どこから現れたか知らないミーナに宮藤は驚いた声が出た。

 

「このようなことは、厳禁と伝えたはずですが」

 

ミーナは毅然とした態度で言った。

 

「すいません……ぜひとも一言……お礼を言いたくて……」

 

「そうです。なにも悪いことなんてしてません……」

 

宮藤も少年兵も怒られると思い、必死に弁解しようとした。しかし、ミーナは一瞬目を閉じ、再び開けると少年兵の下に近づいた。

 

「ウィッチーズとの必要以上の接触は厳禁です。従って、これはお返しします」

 

そう言うとミーナは、手紙を少年兵に返した。

 

「申し訳ありませんでした………」

 

「あっ………」

 

少年兵は手紙を渡せず、その場を足早と去っていった。その姿に宮藤は悲しんだ。

 

そして宮藤とリーネと足立は宿舎の廊下を歩いていた。その宮藤の姿に元気がなかった。

 

「ミーナ中佐怖かったね………」

 

「うん………」

 

「手紙、なんだったろうね」

 

「うん………」

 

「芳佳ちゃん……?」

 

「うん………」

 

リーネが何を言っても宮藤は俯瞰になりながら元気がない様子だった。

 

「…………………」

 

(ウィッチとの接触は厳禁………か)

 

後ろを歩く足立は上を見上げ、手を後頭部辺りに組みながら考えていた。ミーナがなぜ接触を禁じているのか。なぜ自分はいいのか。今はまだ理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

少年兵の手紙を突き返したミーナは部屋に戻り、窓辺から基地の向こう側に見える大陸を見つめていた。その名前はパ・ド・カレー。以前、ネウロイによって破壊し尽くされた場所なのだ。

 

そしてミーナにとっては、とても思い出深い場所だった。

 

「……………………」

 

その見つめる先は、過去を思い出していた。炎の海となったパ・ド・カレー。その様子を見ることしか出来なかったミーナ。悔やんでみ悔やみきれなかった。まるでそこに何かを置いてきたかのように………。

 

「聞いたぞ」

 

昔のことを思い出していると、いつの間にか日が落ちていた。すると、月明かりで照らされた部屋に、聞き覚えのある声が響いた。その声に反応して振り返ると、坂本が立っていた。

 

「美緒………」

 

「手紙を突き返したそうだな」

 

「そういう決まりだもの」

 

ミーナは堂々とした態度で言い、再び窓の外を見た。

 

「まだ忘れられないのか?」

 

気にかけるように声をかけ、坂本も一緒に窓の外を眺めていた。ふたりはそれ以上会話を続けることは無かった。

 

しかし、そんな沈黙はすぐに破られた。

 

コンコン

 

ミーナの部屋からノックする音が鳴った。

 

「俺だ。中佐いるか?」

 

確認をとって扉を開けると、訪ねてきたのは足立だった。

 

「……夜に女性の部屋を訪ねてくるなんて、感心しないわね」

 

ミーナは足立の方を見ながら言った。

 

「お邪魔だったか?」

 

「冗談よ。それで、なにかしら?」

 

先程までの悲しい顔とは裏腹に、ミーナは含み笑いしながら聞いた。

 

「いやなに、純粋な疑問なんだ」

 

足立は両手を広げながら答えた。

 

「なんでそこまで男と関わらせないんだ?」

 

「!」

 

その質問にミーナはドキッとしたが、表情は崩れなかった。

 

「そしてもうひとつ。なんで男の俺は自由にさせてるんだ?」

 

「それは………」

 

「ミーナは規則に従ってるだけだ。必要以上に関わる必要がないからな」

 

「美緒………」

 

坂本はミーナを庇うように代弁してくれた。

 

「……じゃあ俺は?」

 

「お前は特例だ。上にも、あえて自由に泳がせることにしてるんだ」

 

「………なるほど、ね」

 

足立は坂本の言い分に無理やり納得させた。これ以上は何も聞き出せないと思った。

 

「聞きたいことはそれだけか?」

 

「ああ、つまんねぇこと聞いた。じゃあな」

 

「待って」

 

部屋を去ろうとする足立を呼び止めたミーナ。そして足立にこんな質問をした。

 

「………宮藤……さんは?」

 

「……いつもよりは静かだったな」

 

「そう………」

 

「じゃあな」

 

そう言い残して足立はミーナの部屋から退出した。

 

「……後悔してるのか?」

 

「……そんなわけないじゃない」

 

坂本の質問にミーナは強がるような言い方で返した。

 

一方、宮藤とリーネは宮藤の部屋で、杉田艦長から貰った品を開けていた。

 

「わぁ~!扶桑人形だ!!」

 

「かわいい」

 

中身は扶桑のウィッチを模った扶桑人形だった。ふたりには好評な様子だった。しかし………

 

「…お礼……言いたいな……」

 

宮藤はどうしてもお礼が言いたかった。その気持ちだけが心残りだった。

 

 

 



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第9話 君を忘れない Bパート

翌日。昼間の基地には警報の音が鳴り響いていた。招集がかかり、メンバーたちはブリーフィングルームに集められた。

 

「ガリアから敵が進行中のとの報告です」

 

教壇の前に立つミーナは毅然とした表情で言った。

 

「今回は珍しく予測が当たったな」

 

席に座っていた坂本はニヤリと笑った。

 

「ええ。現在の高度は1万5000。進路はまっすぐこの基地に向かっているわ」

 

「よし、ルーチンの迎撃パターンで行けるな」

 

坂本は席を立ち、教壇の前に立つと本日の出撃メンバーが書いてある紙を読み上げた。

 

「今日の搭乗割は、バルクホルン、ハルトマンが前衛。ペリーヌとリーネが後衛。宮藤と足立は、私とミーナの直衛。シャーリーとルッキーニ、エイラとサーニャは基地待機だ」

 

「お留守番~お留守番~♪」

 

「ユニットのセッティングでもするか~」

 

「すぅ…………すぅ………」

 

待機組のメンバーたちは相変わらずの警戒の無さが目立った。しかし、それはいざという時の余裕の現れでもあった。

 

「よし、準備にかかれ!」

 

坂本の指示に従い、出撃メンバーはすぐさま格納庫に向かった。

 

ストライカーを履き、一斉に発進する様は圧巻だった。隊列を組み、そのまま上空へと飛び立った。

 

「いってらっしゃ~い」

 

格納庫の入り口で、手を振りながら見送るルッキーニとシャーリー。

 

 

 

 

 

 

 

海上の上空を突き進むウィッチたち。その中でも、いち早く、敵の存在を感じ取った者がいた。

 

「!、敵発見!!」

 

はるか遠くにいるネウロイを、坂本は誰よりも早く確認した。

 

「タイプは?」

 

「確認する!!」

 

どんな種類かミーナは聞き、坂本は眼帯を外し魔眼を発動させた。すると正体は、巨大なキューブ状のネウロイだった。

 

「300m級だ。いつものフォーメーションか?」

 

「そうね」

 

「よし!突撃!!」

 

坂本の合図とともに、バルクホルンとハルトマンは目標に向かって降下し、続いてリーネとペリーヌもそれに付いていくように降下し始めた。そして、ハルトマンがネウロイに狙いを定めた。しかしその時……!

 

「っ!」

 

ハルトマンは異変に気づいた。キューブ体のネウロイが一瞬光ったと思うと、無数の小型機にバラけ始めた。

 

「なにっ!?」

 

「分裂した!?」

 

「こりゃ骨が折れそうだ」

 

バルクホルンと坂本は驚きを隠せなかったのに対し、足立は全く動じなかった。むしろ、ワクワクすると言った意味で笑った顔をしていた。すると、ミーナは固有魔法を発動していた。空間把握の能力を使い、ネウロイの数を数えていた。

 

「右下方80、中央100、左30」

 

「総勢210機分か。勲章の大盤振る舞いになるな」

 

「そうね」

 

坂本の冗談にも動じない返事をしたミーナ。

 

「で、どうする?」

 

「あなたはコアを探して」

 

「了解」

 

「バルクホルン隊中央」

 

「了解」

 

「ペリーヌ隊、右を迎撃」

 

「了解!」

 

ミーナは冷静に淡々と、隊に指示を出した。流石の隊長と言ったところだった。

 

「宮藤さん!あなたは坂本少佐の直衛に入りなさい」

 

「了解!」

 

「いい?あなたの任務は、少佐がコアを見つけるまで敵を近づけないこと」

 

「はい!」

 

新人の宮藤に対しての配慮か、ミーナは宮藤に目的を明確にした。

 

「足立君、あなたは私と左を迎撃よ」

 

「あいよ」

 

ミーナはそう言うと降下していき、ネウロイの群れの中に入っていった。足立もそれに付いていく形で向かった。

 

四方八方からネウロイの攻撃が来るのにも関わらず、ミーナはそれらを全て避けきり、1機1機確実に落としていった。

 

「へぇー流石は中佐だな。っと!」

 

後に付いて行ってる足立もすれ違うネウロイを1機も逃さず切り裂いていった。

 

「あまり飛ばすと、後で疲れるわよ!」

 

「へいへーい!」

 

ミーナの忠告にも雑な返事をするが、トリッキーな動きは相変わらずだった。

 

「これで10機!!」

 

「こっちは12機!!」

 

エーズ二人のハルトマンとバルクホルンも、ネウロイに囲まれながらも巧みな空中戦で次々と撃墜していった。

 

「久しぶりにスコアが稼げるな!」

 

「ここのところ全然だったからね!」

 

ふたりはニヤリと笑いながら背中合わせになり、軽口を叩けるほどの余裕があった。

 

「いいこと?貴方の銃では速射は無理だわ!引いて狙いなさい!」

 

「はい!」

 

「私の背中は、任せましたわよ!」

 

ペリーヌはリーネに的確な戦い方を教え、自分は急降下しながらネウロイの群れに突っ込んでいった。

 

「これを使うと、あとで髪の毛が大変なのよね………トネールッ!!!」

 

ペリーヌが愚痴をこぼしながら固有魔法を使うと、体中に電気を纏わせ、周りにいるネウロイに放った。当然ネウロイたちは木っ端微塵に消えていった。

 

「ふぅ、私にかかればこのくらい………」

 

固有魔法を使ったことで髪の毛が跳ね上がり、周りのネウロイを倒した事で慢心が漏れたペリーヌ。それと同時に、背後にいたネウロイが倒された。

 

「っ!?」

 

振り返ると、もうい1機撃墜されるところを確認した。その正体はリーネの援護射撃だった。

 

「はぁ………はぁ………」

 

息が切れそうな状態でリーネはペリーヌの援護に努めていた。

 

「や、やるじゃない」

 

意外な表情をするペリーヌは、上からな褒め言葉を呟いた。

 

メンバーが戦っている中で上空から見下ろす宮藤と坂本。坂本は本体のコアを、この無数の中から探していた。

 

「みんな……すごい………」

 

「………………」

 

感心する宮藤。魔眼を見開いた状態で探す坂本。だがしかし、コアは見つからない。

 

「はっ!?」

 

宮藤は近づいてくるネウロイを見つけた。すると、いち早く機関銃を撃ち、見事数機のネウロイを撃墜させた。

 

「その調子で頼むぞ!!」

 

「はいっ!!」

 

宮藤も懸命に任務を全うしていた。その中で、足立は嫌な予感が頭の片隅に浮かんだ。

 

「中佐、こりゃこのままだと………」

 

「ええ、まずいわね……」

 

足立とミーナはお互いの言いたいことが分かっていた。消耗戦になり長引くとこちらが不利になることを危惧していた。

 

ミーナは一、坂本の下へと戻った。

 

「コアは見つかった?」

 

「ダメだ」

 

「っ!?まさかまた陽動!?」

 

以前の作戦でしてやられたこともあり、ミーナは過敏になっていた。

 

「違うだろう。コアの気配はあるんだ。ただし、どうもあの群れの中にいない」

 

「……戦場は移動しつつあるわね」

 

無数のネウロイを3人は見下ろしていた。そして気づくと、戦場は陸地の方へと近づいていた。

 

「ああ、大陸に近寄っているな」

 

そう感想を述べるかのように呟く坂本。とその時、宮藤は更に上空のほうで気配を感じると振り返った。

 

「ッ!!上!!」

 

「ッ!!!」

 

宮藤の声で上空を確認する坂本とミーナ。すると、そこには数機のネウロイが飛んでいるのが確認できた。

 

「クソッ!見えない…!!!」

 

太陽の背に飛んでいるため、逆光のおかげで上手くコアを確認することができなかった。

 

「いきますっ!!!」

 

宮藤が積極的に応戦に入った。シールドで守り、隙が出来れば機関銃で応戦。何機か見事に撃ち落としていた。ミーナも宮藤に続き、ふたりで応戦に応じた。

 

「よしいいぞ!もう少し頼む!!」

 

「はいっ!!!」

 

宮藤は命令通り、近づかせないよう撃ち続けた。太陽を見ないよう、なんとかネウロイを観察し続ける坂本。すると………

 

「………っ!!見つけた!!」

 

ついに見つけた、コアを持った本体が。しかし、本体は宮藤たちとすれ違うように抜けていった。本体のネウロイは大陸方面に逃げるように向かった。

 

「あれなの?」

 

「ああ!」

 

「全隊員に通告。敵コアを発見、私たちが叩くから他を近づけさせないで!」

 

『了解!』

 

ミーナはインカムで隊員たちに報告した。

 

「行くわよ」

 

『了解!!』

 

宮藤と坂本はミーナに続くように、コアを持ったネウロイに向かった。雲を抜けると、目の前にそのネウロイはいた。

 

「いた!」

 

ミーナが発見し、撃ち始めると二人も同時に撃ち続けた。すると、なんとかネウロイに掠った程度で当たったが、そのまま旋回し逃げようとしていた。

 

「宮藤逃がすなッ!!!」

 

「はいッ!!!」

 

なんと、宮藤は背面になりながらもネウロイに喰らいつきながら撃ち続けた。徐々に、徐々にネウロイに照準をあわせながら撃ち続けると、見事ネウロイ本体に当たり砕け散った。砕け散ったネウロイの破片に当たらないよう、3人はシールドを展開した。

 

しかし………

 

「っ!?」

 

「ッ!!美緒ッ……!?」

 

坂本のシールドは貫通した。当たりはしなかったものの、坂本とそれに気づいたミーナは衝撃を隠せなかった。

 

「芳佳ちゃんすっごーい!!!」

 

横から飛んできたリーネは、宮藤に抱き止められながらやってきた。他の隊員や足立も宮藤たちの下に集ってきた。

 

「ふん、あんなのマグレですわよ」

 

「いや、不規則空中の敵機に命中させるのはなかなか難しいんだ」

 

ペリーヌがマグレで片付けようとするも、バルクホルンが如何に難しい芸当をしたか説明した。

 

「宮藤やるじゃ~ん!」

 

「えへへ……そ、そうかなぁ」

 

「マシになった、程度だけどな」

 

ハルトマンやバルクホルンが褒める中、足立は水をさすような事を宮藤に投げかけた。その言葉に、宮藤は頬を膨らませ足立に言い寄った。

 

「もう!みんな褒めてくれるのにどうして足立くんは素直じゃないの!!」

 

「十分褒めてるだろ」

 

「褒めてるように聞こえないよ!!」

 

ふたりのやりとりにクスっと笑うリーネに、足立の言う通りと言わんばかりにペリーヌはうんうんとうなずいていた。

 

ネウロイの破片はキラキラと大陸に降り注ぐ光景にウィッチたちは見とれていた。その光景に宮藤はつぶやいた。

 

「きれい………」

 

「ああ、こうなってしまえばな」

 

坂本は宮藤の感想に肯定した。

 

「綺麗な花には棘が……って言いますわね」

 

「……自分のことか~?」

 

ペリーヌの言い例えにハルトマンは茶化してきた。

 

「し、失礼ですわね!!………まぁ、綺麗ってとこは認めて差し上げてよろしいですけど」

 

「棘だらけってか~?」

 

「っっ!!!貴方って人はどうして人の揚げ足ばかり取ってばかり!!」

 

「やーい棘だらけ~」

 

「……………………」

 

ハルトマンとペリーニが漫才をしている中で、ミーナは物悲しげに大陸の方を見つめていた。すると、目線の先は1台の車だった。しかしそこはすでにネウロイの攻撃によって荒れ地になっているところだった。

 

するとミーナは、その車に向かって飛んでいった。

 

「ミーナ?」

 

バルクホツンの掛け声によってペリーヌはミーナの方に振り向いた。

 

「えっ?おーい!どこに…!」

 

「待て」

 

「?」

 

ハルトマンが追いかけようとすると、坂本が横手で静止させた。

 

「ひとりにさせてやろう」

 

「………そうか、ここは……パ・ド・カレーか………」

 

バルクホルンと坂本は何かを察し、ミーナを一人にさせるようにした。そんな時、足立はある疑問が浮かんだ?

 

「ん?少佐、中佐はカールスラント出身だろ?なんでパ・ド・カレーなんかに……」

 

「足立、お前が昨夜知りたがっていた答えが、ここに全て詰まっている」

 

「全て……?」

 

少佐の意味深な言葉を聞いて、ミーナとパ・ド・カレーを眉間にシワが寄るぐらいじっと見つめた。ネウロイの攻撃によって陥落した街。そしてミーナがなぜ男女との規則に厳しいのか、考えた。そして、ある道理が思いついた。

 

「………そういうことか……」

 

「?、何がですか?足立さん」

 

足立の納得したような顔だったが、スッキリしたような表情ではなかった。リーネは足立が何に納得したのか聞いたが答えてはくれなかった。

 

「事故は未然に防ぐ……てことだろ?少佐」

 

「………さぁな」

 

「ねぇ足立くん、どういうことなの?」

 

「帰ったら教えてやるよ」

 

結局足立は、その場では答えを言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ネウロイの攻撃によって何もかもが無くなってしまったパ・ド・カレー。しかし、そこに1台の車が残っていた。ミーナはその車の側に降り立ち、車の扉を開け中を覗いてみた。

 

「っ!!」

 

ミーナは声にならない声で驚いた。それは、助席のところにある包が置いてあった。

 

「…………………」

 

ミーナはその包を見ながら昔の事を思い出していた。

 

 

 

数年前、ミーナはある任務に付くために、パ・ド・カレーにいた。しかしひとりではなかった。なぜなら、恋人のクルト・フラッハフェルトが一緒だったからである。そんなふたりは同棲している程の中だった。そんなある時、ミーナが最前線に転属が決まった日にクルトも整備兵として志願したのだった。音楽家としての夢も捨て、ミーナと一緒にいることを決めたのだった。

 

そしてダイナモ作戦当日、ミーナの出撃準備にクルトがあたっていた。ミーナが出撃する際にクルトはこう言っていた。

 

 

ミーナ!後で渡したいものがあるんだ!!

 

 

それ以降、彼の姿を見たものはいなかった。その後のネウロイの攻撃によって、パ・ド・カレーの港湾基地は壊滅されたのだった。

 

 

 

辛く悲しい記憶が蘇る中、ミーナは包みを開いた。中身はワインカラーのドレスと手紙だった。音楽家を目指していたミーナに贈ろうとしていたと分かると、ミーナは涙が溢れてしまった。

 

「うっ………うっ………」

 

ミーナの涙はしばらく止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

涙が落ち着くまで待つと、刺してあったストライカーの側に坂本が待っていた。

 

「…もういいのか?」

 

坂本の声はいつもより優しい声に聞こえた。

 

「ええ………」

 

いつものミーナらしい覇気のある声ではなかった。しかし………

 

「基地に帰還します」

 

「了解。ふっ………」

 

次の瞬間にはいつもの凛々しい姿に戻った。その姿に坂本も安堵の息が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

出向した赤城。ストライクウィッチーズの基地を眺めながら残念そうにしているあの少年兵。

 

「やっぱり来なかった………」

 

ほんの少し、期待はあったかもしれないいがそれが叶わなかった。がしかし……

 

ブロロロロ……

 

少年兵の帽子が飛ばされるのと同時に、プロペラ音が同時に通り過ぎていった。

 

「っ!!!」

 

少年兵が見たものはウィッチだった。宮藤、リーネ、坂本が並列に並んで飛んでいる姿だった。

 

「宮藤さん!!」

 

大きく旋回したと思われると、赤城の横に付き船員たちに手を振る宮藤。

 

「みんなありがとうー!!頑張ってねー!!!私も頑張るからー!!!」

 

「芳佳ちゃん。良かったね」

 

「うん!ちゃんとお礼言えた!」

 

「世話になったからな」

 

「はい」

 

宮藤からのお礼を受けると、船員たち歓喜し手を振り返してくれる者もいた。このお見送りで船員たちの元気のもとになったのは違いなかった。

 

「みんな嬉しそう」

 

「良かった……」

 

船員たちの顔を見て、宮藤は満足そうなつぶやきが出た。

 

「基地に戻るぞ」

 

『はい!!』

 

坂本の帰還命令で3人は基地に戻ろうとした。がその時。

 

「?」

 

坂本のインカムから別の通信が入ってきた。その通信は赤城の船にも伝わっていた。

 

「艦長、通信が入っています」

 

「?、繋げ」

 

艦長の杉田は不明の通信を艦長室に聞こえるよう繫いだ。すると音声からは歌声が聞こえてきた。

 

『いとしのーリリー・マルレーン……』

 

「!、これは……!全艦に繋げ!」

 

杉田は誰が歌っているのかが分かると、全艦にこの歌声を乗せるよう指示した。その歌声は全艦に響き渡っていた。

 

基地のミーティングルームでは、ワインカラーのドレスを着てスタンドマイクの前で、魅了されるような歌声で唄っているミーナの姿があった。BGMにピアノが聴こえ、弾いているのはサーニャだった。その横には目をつむりながら聞いているエイラもいた。バルクホルンはその映像を残すためカメラを、シャーリーはその歌声を外に乗せるべく通信機器を。ソファには心地よく聞いてるルッキーニがうつ伏せになっていた。

 

その歌声を乗せながら、宮藤たちは夕日に向かう艦にむかって手を振りながら基地に帰還した。

 

再び基地に映すと、普段騒がしいハルトマンやペリーヌも目をつむりながら聴いていた。足立ももちろん、壁にもたれかかりながら、普段と変わらない仏頂面で目を瞑って聴いていた。すると、帰還した宮藤、リーネ、坂本がミーティングルームに入ってきた。坂本が帰ってきたのに気づくペリーヌ、しかし宮藤と共に目に入ってくると、ムッとしたような顔になるペリーヌだった。

 

後から来た宮藤も魅了して口が開いたままだった。そして、最後まで綺麗な歌声で歌い終えると、ウィッチや整備兵のみんなは拍手喝采だった。そしてミーナは一礼した。

 

「とっても素敵な歌でした!!」

 

「ありがとう」

 

ミーナに近づき感想を述べる宮藤。両指を組むほどの感動だったのだろう。ミーナは大人な笑顔でお礼を返した。

 

「ん!んぅ~~っ!!」

 

すると、宮藤の後ろからエイラが両端の口元を引っ張り始めた。

 

「何するんですか~!!」

 

「サーニャのピアノはどうした?サーニャの!」

 

「と、とっても素敵でした」

 

「えーいもっとホメろー」

 

「褒めてますってば~!!」

 

サーニャのピアノを半ば強制的言わせようとしていたが、宮藤が感じた感想は本心なのであろう。褒められたサーニャは恥ずかしそうになると、顔を下に向けた。

 

「ちょっと!離してくださいー!!」

 

「いーやまだまだダー」

 

「いたっ痛いですエイラさん!!」

 

半ば楽しみ始めたエイラ。周りからは笑い声が上がってきて、ミーナも先程の悲しい顔が嘘のように、ひとりの少女の笑顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

(あ、そういえば………)

 

「ね、ねぇ足立くん!」

 

「!」

 

エイラに頬を引っ張られつつあるが、ちゃんと話せる状態にまでは力が弱まっていた。そして思い出したかのように、エイラにつままれながら壁際にもたれ掛かっている足立に話しかけた。

 

「さっき何か分かったみたいだけど、何が分かったの?」

 

「…………あくまで俺の推測だから、100%信じるんじゃねぇぞ」

 

「う、うん」

 

足立はもたれ掛かるのをやめ、腰に手を当てながら話し始めた。宮藤は足立が改めて話始めようとするのを見てつばを飲み込んだ。そして、足立の話に興味があるのかエイラはつまむのをやめ、サーニャとペリーヌも聞き耳を立てた。

 

「あのパ・ド・カレー。ミーナ中佐にとって大事なヤツ、もしくは同じ職場の恋人が居たんじゃねぇか?」

 

「こ、恋人!?」

 

「声がでけぇ……!!」

 

「ご、ごめん………」

 

周りが驚く中、宮藤は思わず大きな声が出てしまい、足立に叱られた。

 

「だからあくまで推測だ。んで、その後どうなったかは……分かるな?あの惨状」

 

「あ………」

 

パドカレーの惨状を思い出して、なんとなくの察しがつく宮藤。

 

「おそらく、助からなかった。中佐はそんな経験をしたはずだ」

 

「………………」

 

足立の話を聞いて落ち込む宮藤。まるで自分のことかのように感じていた。

 

「んで、ここからが本題だ。もし仮に整備兵の恋人を失った中佐がそんな辛い経験をした。じゃあそんな辛いことを二度と起こさないようにするにはどうすればいいと思う?宮藤」

 

「えっ………あ!」

 

「もしかして……」

 

足立の質問に宮藤はすぐに答えが出てこなかった。しかし、昨日の出来事を宮藤とリーネは思い出した。思い出したリーネはそのまま続けた。

 

「ミーナ中佐は、そんな辛いことを起こさないために厳しくしていた………ってことですか?」

 

「辻褄は合うだろ。違うか?少佐」

 

「………さぁな」

 

隣にいる坂本に確認するが、坂本ははっきりとした答えは言わなかった。

 

「ミーナ中佐………」

 

宮藤は自分を恥んだ。自分のつまらない理由で怒っていたのが恥ずかしくなるぐらい悔やんだ。ミーナ中佐は誰よりも優しい人物だと再認識した。

 

「しかしまぁ、なにがあったかはしんねぇけど、最後は見送りを許してくれたみたいだけどな」

 

「………………」

 

足立と宮藤は他の者と談笑しているミーナを見ながら、感傷に浸る思いをした。そんなミーナの笑顔を見た宮藤は、気づくとミーナの下に駆け寄っていた。

 

「芳佳ちゃん!」

 

「ったくアイツは……!」

 

足立はやれやれと感じながらも宮藤の後を歩いていった。

 

バルクホルンやハルトマンと話しているミーナ。すると、誰かの息が切れるような声が聞こえ振り返ると、なにやら悲しそうな顔をして息切れしている宮藤が立っていた。

 

「宮藤……さん?どうかしたの?」

 

「み、ミーナ中佐!あ、あの……すみませんでした!!」

 

「!」

 

宮藤は突然、ミーナに深々とお辞儀をし謝罪した。

 

「私……ミーナ中佐の事なにも考えてなくて……ミーナ中佐はみんなの事を考えて厳しくしてたんですよね……?」

 

「宮藤さん………」

 

「それなのに私……自分のことしか考えてなくて………それで……」

 

「そこまでだ」

 

宮藤が話を続けようとすると、宮藤の肩にポンと静止させるように手を置いてきたのは足立だった。

 

「足立くん………」

 

「何度も言ってるけどよ、あくまで俺の推測だ。確証なんてひとつもないんだ。それをお前は何の疑いもせずに……」

 

「だって………」

 

宮藤が更に余計な事を言わないように止めようとする足立。何の話かと一瞬戸惑ったミーナだったが、昨日の出来事を思い出した。すると、ミーナは微笑みながら二人の間に口を挟んだ。

 

「宮藤さん」

 

「!」

 

「私も、宮藤さんの頃はそんな風に思っていたわ。なぜ軍はルールに縛られないといけないのか……って」

 

「……………」

 

宮藤は黙ったままミーナの話を聞いた。

 

「でもみんなを守る立場になって気づいたの。みんなを守るためのルールだったって。その事に貴方は今日気づけたの。立派だわ」

 

「そんな………」

 

「それにね宮藤さん。貴方にはそのままでいてほしいの」

 

「えっ?」

 

意外な一言に宮藤は目を丸くした。

 

「貴方のその優しさ、いつまでも忘れないでいてほしいの。戦っている今も、これからも……ね?」

 

「………はい!!」

 

ミーナの笑みにはまるで母性のような雰囲気が感じられ、宮藤も自然と笑顔で返事をした。

 

「貴方もよ。足立くん」

 

「!」

 

足立は自分に話を振られると思っておらず、少し驚いた表情をした。

 

「特別な人生を歩んできて、これからも壁に当たると思うわ。けど、貴方ならきっと乗り越えられると信じているわ。それを信じて……疑わないで」

 

「…………ああ」

 

「……ふふ、ふたりとも、ありがとうね」

 

照れる様子もなく、真剣な表情で足立は返事を返した。ふたりの表情を見比べながら、ミーナは笑顔でお礼を言った。そして、一夜限りの公演会は無事終了した。

 

 

 

 

 

 

 

みんながそろそろ就寝に付く時間の頃。電気も点けずミーナは窓の外を見ていた。月明かりが照らす部屋には赤いドレスが目立っていた。

 

「…………………」

 

すると

 

コンコン

 

「!」

 

ドアのノックする音が聞こえ、振り返ると扉が開いたままの状態で坂本が立っていた。

 

「良い歌だった」

 

「ふふ、ありがとう」

 

ミーナは満面の笑みでお礼を言った。すると、坂本は昨日のようにミーナの隣で窓の外を見始めた。

 

「見送りの許可を出してくれて感謝している」

 

「貴方も行きたかったんでしょ?」

 

「ああ、世話になった船だからな」

 

ミーナは坂本の顔を見ると、再び窓の方へと向けた。

 

「あの人を失った時……本当に辛かったわ。こんな思いをするなら好きになんてならなければ良かったってね………でも、そうじゃなかった」

 

「………………そうか」

 

ミーナは悲しげな表情をしながら語った。坂本はミーナを思いやるような受け答えをした。

 

「………でも失うのは今でも恐ろしいわ」

 

そしてミーナの口調は少し強くなった。

 

「それなら……失わない努力をすべきなの」

 

キリッとした表情、覚悟を決めたような顔をしたミーナだった。すると、坂本に向けて伸ばした手にはあるものが握られていた。

 

 

 

 

拳銃だった。

 

 

 

 




お疲れさまです。

1期のお話を昨年中に終わらせようと思ったら過ぎてしまいましたね………今年は程々に更新ペースを上げていきたいと思っています。

この世界の足立は一応上層部と基地の中の人達だけにネウロイとバレている設定ですがいろいろと問題があるようにも見えますね。男性とウィッチとの接触は厳しいのになぜ足立だけ特別なのか、それも後に書こうと思っています。

1/20追記
誤字脱字指摘ありがとうございます


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第10話 対話 Aパート

「………………」

 

突如、ミーナに拳銃を突きつけられた坂本。だが、当の坂本は動じることもなく、ミーナに向き合った。

 

「……なんだ?ずいぶんと物騒だな」

 

「約束して……もうストライカーには履かないって……」

 

「……それは、命令か?」

 

坂本はミーナの目をじっと見ながら聞いた。

 

「…………………」

 

「ふっ………そんな格好で命令されても、説得力が無いな」

 

ミーナの赤いドレス姿を指摘する坂本。

 

「私は本気よ!今度戦いに出たら……きっと、あなたは帰ってこない!」

 

「だったらいっそ自分の手で………というわけか?矛盾だらけだな。お前らしくもない」

 

「違う!違うわ!!」

 

坂本の指摘にミーナは必死に否定するが、その表情は物悲しさを語っていた。

 

「……私は……まだ飛ばねばならないんだ」

 

「…………………」

 

坂本はそう言い残し部屋から退出しようと移動した。その間ミーナは、坂本に銃を向けたままだったが最後まで引き金は引けなかった。そのミーナの心には、安心と後悔が同時に生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝から書類作業に勤しむミーナの姿があった。しかし、その表情には元気が無かった。

 

「…………………」

 

昨日の出来事を思い出しているのか、手があまり進んでいなかった。

 

(美緒………)

 

思い出されるのは昨日の坂本の決意だった。魔力が衰えているにも関わらず、出撃を決意した彼女の事が気が気でなかった。そんな時。

 

コンコン

 

「!」

 

ドアのノックでミーナはハッとした表情になった。入ってきたのは坂本と、なにやら資料を運んできた宮藤と足立の姿だった。

 

「ちょっといいか?」

 

「よいしょっと」

 

落ちそうになる荷物を宮藤は持ち直した。

 

「悪いな、便利に使って」

 

「いえ!このくらいへっちゃらです」

 

「ただの資料………じゃないよな?」

 

「ああ、データだ。この前出たネウロイのな」

 

「ほー」

 

興味が無さそうな素振りを見せる足立に対し、ミーナは怪訝な顔をした。

 

「8月16日と18日に襲来したネウロイだが、ヤツが出現した時に、各地で謎の電波が傍受されてる」

 

ミーナの机の上に資料を広げて見せた。そのまま坂本は説明し続けた。

 

「周波数こそ違うが、サーニャの歌っていた声と波形が極めてよく似ている」

 

「えぇ」

 

「歌……!」

 

ミーナは生返事ような声で返すの対し、宮藤はサーニャの歌と聞いて先日のサーニャとエイラとでの戦闘を思い出した。

 

「それと気になるのは………足立。お前だ」

 

「俺?」

 

宮藤と一緒に並んでいた足立にも声がかかった。

 

「お前が対峙してきたネウロイ達、アレはお前の意思で呼んでいるわけではないのだな?」

 

「だとしたらとっととこの基地を乗っ取ってるわ」

 

呆れた様子で足立は両手を広げながら言った。

 

「だとしたら、最近の異常なまでの出現は、足立のコアによるものだろうな」

 

「足立くんの?」

 

宮藤は足立の顔を見直すような素振りをした。

 

「どういう理屈かは分からんが、ネウロイのコアには互いに引き合うモノがある、のだろう」

 

「お仲間を呼ばれまくりだな」

 

相変わらずの皮肉に坂本はムッとした表情をしたがこれをスルーした。

 

「とにかく、分析の規模を広げよう。もしかたらコアについても新しい情報が得られるかもしれん。しばらくは忙しくなる

ぞ」

 

「……そうね」

 

坂本の提案にミーナは肯定するが、やはり元気が無さそうだった。少なくとも、宮藤にはそう映っていた。

 

「バルクホルンやハルトマンにも、今のうちに知らせておきたいな。ふたりここに………」

 

「あの……!」

 

「!」

 

宮藤の声に坂本とミーナは振り向いた。

 

「バルクホルンさんなら今日は非番です。夜明け前に出ていきましたよ」

 

「どこへ?」

 

「ロンドンです」

 

「ロンドン?」

 

「意識不明だった妹さんが、目を覚ましたって」

 

宮藤は今朝方の状況を説明してくれた。

 

「バルクホルンさん、慌ててストライカーを履いて出ていこうとするのを、私と足立くんで止めたんですよ。いつもはあんなに冷静な人なのに……ふふっ」

 

バルクホルンの慌てぶりを思い出すと宮藤は思い出し笑いするかのようにクスっと笑った。

 

「……無理もないわ。バルクホルンにとって妹そのものが戦う理由だもの。誰だって……自分にとって大切な……守りたいものがあるから、勇気を振り絞って戦えるのよ」

 

「は……はい」

 

ミーナは無表情のまま、自分の経験を語るかのように言い聞かせた。まるで今の、過去の自分照らし合わせるかのように。その語りに坂本は自分ことのように思えた。

そして宮藤はその言葉に重みを感じ呆気に取られた表情で、返事するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリタニアのとある病院、広い敷地に堂々と建っていた。その一室に、慌てて飛び込んできた者がひとりいた。

 

「わぁ!!」

 

扉が勢いよく開き、病室にいた看護師が思わず驚いた声が出た。

 

「病室ですよ!お静かに!」

 

「あ………あぁ!すみません……急いでいたもので……」

 

看護師に怒られているのはバルクホルンだった。ここが病室だと気づくと恥ずかしく思いながら謝罪した。その後ろには病室の患者に向かって手を振っているハルトマンの姿もあった。

 

そしてそのベッドで起きている患者はクスクスと笑っていた。そう、バルクホルンの妹、クリスだった。容姿は宮藤にそっくりだった。

 

「クリス………」

 

夢でも見ているのか、バルクホルンには信じられない光景だった。夢ではないかと確かめるかのように、バルクホルンはクリスに近づき抱きしめた。

 

夢ではない。現実だった。ふたりはようやく安心した。

 

「……お姉ちゃん、わたしが居なくて……大丈夫だった?」

 

「なっ……何を言う!!大丈夫に決まっているだろ!私を誰だと……」

 

「あーもう全然ダメダメ、こないだまでは酷いもんだったよ」

 

ベッドの横の椅子跨りながら座っているハルトマンが遮った。

 

「やけっぱちになって無茶な戦い方ばっかりしてさぁ」

 

「おねぇちゃん………」

 

クリスは心配するような目で姉を見た。

 

「お前!!今日は見舞いに来たんだぞ!!そういうことは……!!」

 

「だってホントじゃん」

 

「ないない!そんなことは無いぞ!!私はいつだって冷静だッ!!」

 

クリスに向かって姉のバルクホルンは、自分の失態を隠そうと必死だった。頼られる姉でいたい気持ちがあるのだろうか。

 

そんな表情を見てクリスはあることを思った。

 

「おねぇちゃん、なんか楽しそう」

 

「そ、そうか?」

 

バルクホルンにとって思いがけない言葉だった。

 

「それは宮藤のおかげだな」

 

「ミヤフジ…さん?」

 

「うん。こないだ入った新人でね」

 

バルクホルンはベッドに腰掛けながら話した。

 

「お前に少し似ていてな」

 

「私に!?会ってみたいな~」

 

「そうか。では今度来てもらおう」

 

「ホント!?お友達になってくれるかな?」

 

「ハハハッ。かなりの変わり者だが、いいやつだ。きっといい友達になれるさ」

 

宮藤のことをそう言うバルクホルンの表情は優しさに満ちていた。クリスが楽しみしているように、バルクホルン自身もふたりに会わせるのが楽しみなのだろう、だが………

 

「あ、似ていると言っても、当然お前のほうがずっと美人だからな?」

 

「………姉バカだねぇ」

 

その通りだ。

 

 

 

 

クリスのお見舞いを終えると、自分たちの車に戻ってきたふたり。すると、ワイパーになにやら手紙が挟んであった。

 

「なんだこれ?」

 

ハルトマンが先に気づき手に取ると、バルクホルンに手渡した。

 

「なんでこんなものが………」

 

バルホルンは手紙の宛先を確認した。すると、少し表情が曇った。

 

「どったの?」

 

気になったハルトマンもその宛先を確認した。

 

「"ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ殿”」

 

「……ミーナ宛……?」

 

ふたりは疑問に満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、坂本の使いを終わった宮藤と足立、そしてリーネが訓練の為にペリーヌを呼びに行こうと宿舎の廊下を歩いていた。

 

「ったく、人使いが荒いんだよ。あの少佐は」

 

足立は不満を漏らした。

 

「そんなことないと思うけどなぁ」

 

「坂本少佐も色々忙しいから………」

 

足立に対し、ふたりはフォローするような言い方になった。

 

「基本的に好きじゃないんだよ。上の人間は」

 

「何でなの?」

 

まるで嫌いな食べ物を目の前に出されたような顔をする足立に宮藤は疑問の目で覗かせた。

 

「常に見下しで偉そうにしてるからな」

 

「それなら足立くんも偉そうにして……なんて………」

 

「あぁ?」

 

「ご、ごめんってば!!」

 

宮藤の冗談が足立には通じなかったようだ。

 

「でも、それなら坂本少佐には当てはまらないような………」

 

「その通りですわ!!」

 

『!』

 

リーネの意見に同調するように、3人の後ろから声が上がった。同時に振り向くとそこにはペリーヌの姿があった。

 

「ペリーヌさん!」

 

「丁度よかった~、今ペリーヌさんを呼びに………」

 

「聞き捨てならない事をおっしゃいましたね!足立さん?」

 

宮藤のセリフには聞く耳は持たないようで、ペリーヌは遮るように喋り足立に睨み付けるように近づいた。

 

「上官に対する侮辱は軍規に反しましてよ!」

 

「別に侮辱はしてないだろ」

 

「いま言ってたじゃありませんの!!坂本少佐の悪口を!!」

 

「俺は少佐に対して悪口は言ってないぞ?上官が好きじゃないって事だからな?」

 

「どっちも一緒ですわよ!!」

 

足立はペリーヌに対し、指をさしながらしかめっ面で説明するが、ペリーヌの少佐好きがそれをまともに聞き入れない。そんなやりとりを宮藤とリーネはドキドキしながら見てるしかなかった。

 

「ったく、やっぱ貴族のお嬢様ってとこだな………」

 

「な、なんですって……?」

 

そっぽを向き呟くように足立が言うと、ペリーヌはそれを聞き逃さなかった。

 

「ガリア貴族のお嬢様ってのは、自分の思いどおりにならないとすぐわめき散らすのが性分なんだろ?違うか?」

 

「ッ~~!!よくもそんな事が言えますわね!!!自分が常に一番だと思ってる自尊心の塊のクセに!!!」

 

「ンだとッ!?」

 

「なんですのよ!?」

 

ペリーヌと足立の言い争いは一触即発だった。

 

「ど、どうしよう………」

 

「と、お二人共とりあえず落ち着いて……」

 

「何をしているッ!!!」

 

『!!』

 

リーネがオロオロと止めに入ろうとした瞬間、ふたりの後ろから聞き慣れた渇の声が聞こえた。その時、ペリーヌと足立もハッとした表情で声の方に向いた。

 

「坂本さん!」

 

宮藤とリーネの後ろには坂本が立っていた。

 

「どうした?お前たち。私には何か言い争っているように聞こえたが?」

 

「え、えっと……それは………」

 

「…………………」

 

ペリーヌは先ほどとは違い、オドオドした表情で何から話していいのか困惑していた。一方足立は、話す気が無いように視線をそらしていた。

 

「……………足立、何があったか言え」

 

「………俺がペリーヌをバカにした。それだけだ」

 

「っ!」

 

ペリーヌは驚いた表情で足立の顔を見た。もちろん、それだけじゃないはずなのに。それを見ていた宮藤とリーネもハッとした表情をしていた。

 

「………それだけか?」

 

「そうだ」

 

足立は視線を坂本に合わせ、じっと見つめていた。それは坂本も同じだった。

 

「………わかった。後で反省文を書かせる。訓練も倍だ。いいな?」

 

「っ………はいよ」

 

如何にも嫌そうな顔をする足立だが、自分から言い出し事で引くに引けなかった。

 

「それとだ」

 

「あぁ?まだなんかあるのかよ………」

 

「ペリーヌに謝れ。いいな……?」

 

「…………………」

 

坂本が最後に追加した提案だけは優しく聞こえた。しかし足立はそれを無視し、来た方向に戻り訓練に向かおうとしていた。

 

「あ、足立くん!!」

 

宮藤が呼び掛けると、足立は立ち止まりこう言った。

 

「………悪かったな。ツンツンメガネ」

 

「……………」

 

後ろ姿で表情は見えないが、先ほどのイラついたような声ではなかった。その差にペリーヌはなにも言えなかった。

 

「もー、足立くん!」

 

宮藤も呆れたような声で呼びながら、足立の後を追った。

 

「あ、よ、芳佳ちゃん!」

 

リーネも遅れてふたりの後を追った。

 

「まったく………ペリーヌ、訓練に行かないのか?」

 

「えっ?あ………は、はい………」

 

坂本に言われるまでボーっとしていたペリーヌ。小走りで走り出すが、その表情はなにかやりきれない表情だった。

 

「……………ペリーヌ!」

 

「!」

 

坂本に呼び止められて立ち止まるペリーヌ。そして振り向くと、優しい顔をした坂本からこう言われた。

 

「さっきはありがとうな。ペリーヌ」

 

「っ!?い、いえ!!」

 

何故お礼を言われたのか、ペリーヌは一瞬分からず赤面した。あこがれの坂本からお礼を言われたのが相当嬉しかったのだろう。照れ隠すようにその場を後にした。

 

「………ウソは言えない……か………」

 

坂本はそう呟いた。もしかしたら、坂本は全てを見ていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

基地の離れで訓練をするウィッチたち。しかし今回はロッテを組んでの模擬戦のようだ。ペリーヌと宮藤、ルッキーニとシャーリーがペアだ。そして、ペリーヌペアは追いかけられている状況だった。

 

「宮藤さん!後ろを取られてましてよ!」

 

「う、うん!」

 

宮藤に警告するペリーヌだが、宮藤は妙にどこか落ち着いていた。前までならば慌てていたはずなのに。

 

「へっへーん!いっただき~!!」

 

ルッキーニが照準を宮藤に合わせ撃とうとしたその時。

 

「へっ?」

 

ルッキーニの照準から突如宮藤が消えた。が、それは錯覚。宮藤は左側に捻りこむよう急旋回をし、ルッキーニとシャーリーの背後を取った。そしてふたりを射程に捉えた宮藤はそのままペイント弾を二人のストライカーに当てた。

 

「あ~!」

 

「おー!?」

 

ルッキーニとシャーリーは宮藤の奇策にあっさりやられてしまった。

 

「あの技は………」

 

そしてペアのペリーヌは、今の宮藤の技をどこかで見たことがある様子だった。

 

ふたりがやられたことによって、審判であるリーネの笛の音が響いた。

 

「ペリーヌ、宮藤ペアの勝ち!すごいよ芳佳ちゃん!!」

 

自分のことのように喜ぶリーネは宮藤の下に駆け寄った。

 

「やられた~!」

 

ルッキーニの顔は悔しいそうな表情を浮かべていた。

 

「おかしいな~、絶対後ろに付いてたはずなのに」

 

「だいぶ成長したな宮藤」

 

「そうですか!?えへへ」

 

シャーリーに褒められて素直に喜ぶ宮藤。自然と笑顔になった。すると………

 

「わぁっ!?」

 

宮藤の身体に異変が起こった。何かに触られる感覚、それはルッキーニが宮藤の胸を鷲掴みしていた。

 

「なにするの!!?」

 

「ざーんねん、こっちはちっとも変わりなーし」

 

「ん、見りゃわかる」

 

「もー!こらー!!!」

 

ルッキーニとシャーリーの悪ふざけに宮藤は腕を上げながら憤慨していた。

 

「でも、腕を上げたのは確かだな」

 

「ほんとですか?」

 

「でも高高度じゃこうはいかないからね~」

 

ルッキーニはあくまで高高度戦では負けないと宣言した。

 

「私たち案外良いペアなのかも」

 

「ご冗談を……」

 

宮藤がペリーヌに良い可能性を投げ掛けるが、ペリーヌは本意ではない様子だった。

 

「なぁ足立、お前もそう思うだろ?」

 

「マシにはなってる……が」

 

上空にいる足立は言葉を濁らせた。

 

「……まぁ、ひとつアドバイスをくれてやるなら……」

 

宮藤の目の前に現れた足立は細めた目で言い放った。

 

「今が一番気を付けろ、だな」

 

「えっ…?」

 

そう言い放った足立は次の模擬戦のためにリーネの下へ移動した。言われた宮藤はキョトンとした顔で意味を理解出来なかった。

 

「次は俺たちか」

 

「はい!」

 

リーネと足立が準備に取りかかろうとした時、インカムからノイズが混じりの別の通信が入った。

 

「あーあー、聞こえるか?足立」

 

「少佐?」

 

ノイズ混じりで話している相手は坂本だった。

 

「訓練中のところ申し訳ない。今すぐ中断して基地に戻ってきてくれないか?」

 

「やっと出番が回ってきたのにか?」

 

「そう言うな、少しばかり緊急なんだ。いいな?」

 

「………へいへい」

 

訓練と言えど実践に近い模擬戦に足立は少し楽しみにしていたみたいだったが、目の前でお預けをくらった。その表情は苛立ちが募っていた。

 

しかし坂本の緊急と聞いて足立は一旦冷静になり、自分を抑えた。抑えた声で返事をすると、坂本との通信は切れた。

 

「なんだとよ。訓練は中止みたいだぜ」

 

「は、はい……いったいなにが………」

 

リーネも坂本の通信を聞いていて不安になった。

 

「ねぇ足立くん!今の通信って………!!」

 

「俺もよくわかんねぇよ。緊急とか言ってたけど」

 

「なんかやらかしたんじゃないの?」

 

「まさか処分が決まった、とか?」

 

ルッキーニとシャーリーはいつものふざける感覚で足立を茶化した。

 

「んなわけあるか、お前らじゃあるまいし」

 

足立もふたりの話をバカバカしいとしか思わなかった。しかし、足立は妙な胸騒ぎを覚えた。

 



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