キングダム〜蒙花婉の章〜 (白鳥エルザ)
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一話
真っ暗で暖かくて居心地のいいところから、狭くて苦しい道を通ってやっと出てきたと思ったら、周りがとてもざわざわ騒がしい。いきなり逆さ吊りにされて背中を数回叩かれた。
おえっ。げほっげほっ。何すんのさ!痛いよ!と文句を言いたかったのに、私の口から出たのは詰まっていた大量の水とほんのか細い泣き声だけだった。
私の足を掴んでいた女性が、安堵したように「ああ!姫様が息を、吹き返しました!玉妃様!おめでとうございます!なんと愛らしい姫様でしょう!」と呼びかけ、清潔な匂いのする布で私を包むと、柔らかなおそらくベッドらしき場所に置いてくれた。玉妃様とやらが私のお母さんなのかな。玉妃、ギョクヒ…うーん?なんか日本じゃなさげじゃない?
えっ。嘘だぁ。これ夢小説で100億万回くらい読んだやつやん。ちょっと待ってよぉおお。そう声に出したくても、私の口から出るのは相変わらずか細い泣き声のみである。まじ詰んだ。泣くしかない。
* * * * *
それからはお母様と乳母、たまに現れる二人の兄上たちに面倒を見られながらなんとか成長していった。噂にきく自我のあるきっついバブ時代のことは、幸いあんまり憶えていない。赤ちゃんってさ、すぐ眠くなるじゃん?考え事とかする余裕あんまりなくて。それが逆に助かった。
先日三歳になりました。やっと幼いゆえの衝動や感情の波の激しさに振り回されたりすることが少なくなり(まだ多少はやっちゃうこともあるけど許して、だって三歳だもの)、落ち着いて色々考えたりできるようになった。
令和に生きていたJKだった筈が、何がどうなったかわからんけども、今世の私の名前は花婉(かえん)と言う。とても可愛い幼女です。鏡見てびっくりした。そして、姓は蒙。もう買えん、じゃなくて、蒙花婉。さらに私が生まれたこの国はなんと!秦という中華が統一される前にあった国でした。父の名は蒙武。めっちゃ厳ついでっかい人で、初めて会った時怖すぎてギャン泣きしたった。許して父上!私母上似でよかったァ!セーフ!娘に泣かれた父上は慌てて母上にパスしてた。心なしかちょっとしょんぼりしていた気がする。ちなみにお爺ちゃんもすごいでっかくてお髭がすごい。とにかくすごい(語彙力の喪失)。
そうだよ。読んだことある人はわかるね?
私ってば、蒙恬と蒙毅の妹。
ていうかここキングダムの世界。(宇宙猫顔)
大好きだけど、どうせ転生するならもうちょっと治安のいい世界がよかったですぅ!ハイキュー!!とか。流行ってたツイステとかさ。色々あんじゃん?なぜ中国春秋時代だよ。死亡フラグ立ちすぎててうける。泣きたい。
ちなみに私の前世での推しは昌平君と松左さんだった。このままだと確実に二人ともお亡くなりになっちゃう。いや史実を基にしてるからこの先どうせみんな死ぬし、なんなら蒙家滅びるから私もやばいのではって感じだけど。
これはやっぱり私が好きに動いたらバタフライなんちゃらして、世の中めちゃくちゃになってしまうんだろうか?何とかしたいんだけど。
原作には出てこなかったはずだけど、美しく優しい母上。これは親ガチャ大勝利。兄上たちもとても優しい。虫とかカニとか取ってきてくれる。あまり会えないし顔は厳ついけど、よく気にかけてくれてる父上やお爺ちゃん。
このまま、歴史のとおりに進んでいくのは嫌だなって。
思ってしまったんだよ。だって私は今ここで生きているから。
頑張って、蒙家を救いたいと思います。
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