サイバー流系メスガキinデュエルアカデミア (カイナ)
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サイバー流系メスガキinデュエルアカデミア

 未来のデュエルエリートを育てる事を目的とし、ある孤島に設立された学園──デュエルアカデミア。

 その島の浜辺に早朝、突然ジェットスキーが滑り込む。見事に砂浜にダイブし、辛うじて転倒はせずに停止。そのジェットスキーに乗っていた人間がそこから飛び降りた。

 

「んっふふ~。デュエルアカデミアにとうちゃ~く♪」

 

 朝日に煌めく銀色の髪を緩くウェーブのかかったショートヘアにし、紅色の瞳をした少女。そして先ほどジェットスキーに乗っていたものの見た目はとても幼く、高等部であるデュエルアカデミアだが彼女は中学生か下手をすれば小学生とも思えるほどに小柄だった。さらに着用しているのが黒色のネコミミパーカーというのが余計に彼女に幼さを感じさせる。

 

「さ~ってと。あのジジイ達に見つかる前にあ~そぼっと♪」

 

 ニヤリ、と口元から八重歯を覗かせながら笑い、彼女はジェットスキーをそのままに浜辺を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 豪華な室内。それもそうだろう、ここはデュエルアカデミアの校長室。早朝からここに集まっている恰幅の良い禿げ頭の男性と色白で長身に痩せ気味の男性と青色の髪に精悍な顔つきをした制服を着ている事から生徒だと分かる青年は無言で、禿げ頭の男性は椅子に座って前にある机の上で手を組んで顔を隠し、色白の男性がなんとも言いづらい顔で沈黙、青年も目を瞑って腕組みをしていた。

 

「……ついに今日、ですね」

 

 そしてようやく青年が口を開く。

 

「ええ。我がサイバー流最大の問題児、柳里(やなり)彩葉(あやは)君が我がデュエルアカデミアに来てしまう日が……」

 

「ところで、ワタクシーはそのシニョーラ彩葉に会った事がないんデスーガ、そんなに問題児ナノーネ?」

 

「ええ……今まではデュエルアカデミア中等部に行っていたんですが……」

 

 青年の言葉に禿げ頭の男性が漏らし、続けて色白の男性が尋ねると、禿げ頭の男性は机の中から何枚かの紙を取り出す。何かの手紙らしく、色白の男性は禿げ頭の男性から渡されたそれに目を通した。

 

「な……」

 

 そして大口を開けて絶句する。それらはかなり柔らかい表現でフィルターをかければ要するに「もう手に負えません」「中等部のレベルを超えています」「どうか高等部で引き取ってください」という内容だった。

 

「シ、シニョール亮、サイバー流ということは貴方も同門なんですヨーネ? これは一体……」

 

「サイバー流にいた頃から、奴は自分より強いと思った相手にデュエルを挑んではボコボコにして煽り倒していたんです……」

 

 三人の頭の中に、一人のデュエリストが死屍累々を築いてその頂点で笑っている姿を幻視される。

 

「免許皆伝の実力もあるんですが、彼女はサイバー・エンド・ドラゴンの継承を拒み、代わりにあるデッキの所有を希望したんですが……まあ、それは置いておきましょう」

 

 ふぅ、と禿げ頭の男性が一つ息を吐いて間を置いた。

 

「そういうわけで、彼女は本来まだ中学二年生なんですが幸か不幸かデュエルアカデミア高等部に編入できる程度の学力・実力を備えています……こうなればいっそ私の手元で監視──もとい教育し直した方が世のためというものです……」

 

「師範。心中お察しします……」

 

 禿げ頭の男性が手を組んでひどくうつむいて大きくため息を漏らしながら呟き、亮と呼ばれた青年がそう答える。

 

「ともかく、今日この日曜日にデュエルアカデミアにやってくる定期船に乗ってデュエルアカデミアまで来るように通達しています。サイバー流の門下生だった教員数人がかりで彩葉君を捕まえて私の元まで連れてくるよう指示を出していますし、今はそれを待つと──」

 

 禿げ頭の男性がそう言っていた時、突然机に置いていた電話が鳴り出す。男性が「失礼」と断って受話器を取った。

 

「もしもし、何かありましたか?」

 

[大変です校長! 定期船に柳里さんの姿が見えず、船長に確認を取ったところそんな女の子は乗せていないということで……]

 

「なんですって!?」

 

 部下である教員からの報告に校長と呼ばれた禿げ頭の男性が声を上げる。何かあったのか、もしや船に乗る前にトラブルに巻き込まれたか。そんな想像が校長の頭の中を駆け巡る。

 

「会議中失礼します! 鮫島校長! 警備員から、浜辺に不審なジェットスキーが放置されていたと連絡が! もしかしたら学園に不審者が入り込んだかもしれません!」

 

「……ジェットスキー」

「不審者……」

「そして船に彩葉の奴はいない……」

 

 さらに校長室に入ってきた教員から報告が続き、三人が声を漏らす。そして校長と亮の中でそれらの情報が繋がった。

 

「「あいつはぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

 二人の叫びが校長室内に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミアのブルー専用デュエルリング。そこを使うのを許される生徒の証であるブルー寮の制服を着た青年──万丈目準は、取り巻き二人を従えてデュエルするわけでもなく苛立たし気な顔をしていた。

 

「あの忌々しい遊城十代め……この俺を一度ならず二度までもコケにするとは……」

 

「そうですね。月一試験一つで調子に乗って、ははは……」

「次があれば今度こそ万丈目さんの勝利ですよ、へへへ……」

 

 万丈目のぼやきに取り巻き二人がゴマすりしながら彼を持ち上げる。しかしその目はどこか万丈目を見下しているようにも見え、例えるならいつか目上の相手の寝首を掻こうとしている部下のような様子が伺えた。

 

「あのぉ……高等部入学主席の、万丈目準さんですかぁ?」

 

「あん?」

 

 そんな女の子の声が聞こえ、万丈目とその取り巻き二人がそっちを向く。

 そこには黒色ネコミミパーカーを着用した銀髪紅眼の女の子が、お淑やかな笑みを浮かべて立っている姿があった。

 

「見覚えのない顔だな……誰だ貴様は?」

 

「わたしぃ、今度高等部に編入することになったんですぅ。そこでぇ、入学主席の万丈目準様とぜひ一度デュエルしたいと思いましてぇ……」

 

「消えろ。俺は今虫の居所が悪いんだ」

 

 めちゃめちゃ猫なで声で話しかけてくる女子に万丈目がフンと鼻を鳴らして追い払うように言い放ち、しっしっと手を振る。しかしその瞬間女の子の笑みの質が変わった。

 

「あれぇ? もしかしてこんな女の子一人に──ビビってるんですかぁ?」

 

「……なんだと?」

 

 八重歯を見せてニヤリとしたその微笑みに、相手を見透かすように薄く開いた目、それは相手を見下している特有の気配を見せていた。

 ちなみに女の子の台詞を聞いた取り巻き二人が小さく笑い声を漏らしていたが、万丈目は気づかずに女の子に睨みを利かせていた。その「もう一度言ってみろ」という様子の言葉も語気が強くなっている。

 

「あははこわーい♪ おにーさんってば、こんな冗談を真に受けちゃってー……もしかして図星でしたぁ?」

 

「……いいだろう。貴様の挑発に乗ってやる……リングに上がれ、少し目上のものに対する態度というものを教えてやろう」

 

 挑発に乗った万丈目はリングを指して促し、席を立って歩き出す。

 

「……キャハッ☆」

 

 そんな彼の後姿を見た少女は口角を吊り上げ、口を歪めて笑う。

 その笑みを見た万丈目の取り巻き二名は背筋にぞくりとした感覚を覚えるのだった。

 そしてデュエルリングに上がった二人は向かい合ってデッキをセットしたデュエルディスクを構える。

 

「俺は虫の居所が悪いと言った通りだ。手加減はせんぞ」

 

「そんな事言ったら、負けた言い訳出来ないよ? だいじょーぶ?」

 

 眉間に皺を寄せて睨みつける万丈目に笑みを零して切り返す少女。万丈目の額に青筋が一つ浮かんだ。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして二人の声が重なり合い、デュエルの幕が上がるのだった。

 

「先攻は俺だ! ドロー!!」

 

 先攻となった万丈目が勢いよくカードをドロー。手札の一枚を取った。

 

「俺は[地獄戦士(ヘルソルジャー)]を攻撃表示で召喚!」

 地獄戦士 攻撃力:1200

 

「地獄戦士? 防御しながら相手に戦闘ダメージを与えたいんなら、[アマゾネスの剣士]の方がいいんじゃないのぉ? あ、もしかして持ってないとか? だったらごめんなさ~い♪」

 

「好きに言っていろ。俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ!」

 

「私のターン、ドロー……ニヒ☆」

 

 万丈目の場に鉈のような太い刃の剣を持ったずん胴の戦士が現れるも、その効果を知っているのか少女は別の上位互換的効果を持っているカードを使えばいいんじゃないかと不思議そうに問うた後、わざとらしく謝る。

 しかし万丈目は苛立たし気に舌打ちを叩いたのみで終わらせ、さらにその後ろに一枚のカードが伏せてターンエンドを宣言した。

 そして少女──柳里彩葉にターンが回り、彼女はカードをドローすると八重歯を見せて怪しい笑みを零した。

 

「私は[アックス・ドラゴニュート]を攻撃表示で召喚!」

 アックス・ドラゴニュート 攻撃力:2000

 

 彩葉の場に出現するのはその名の通り両手持ちの斧を持った黒い竜人。「攻撃力2000!」「万丈目さんの場のモンスターの攻撃力を上回った!」と、万丈目の取り巻き二人が合いの手を入れた。

 

「バトル! アックス・ドラゴニュートで地獄戦士を攻撃!」

 

「く……」LP4000→3200

 

 黒い竜人の振るった斧が地獄戦士の剣を弾き飛ばし、そこに牙を剥いて噛みつき地獄戦士を噛み千切る。地獄戦士が破壊され、その際に生じた衝撃波が万丈目にダメージを与えるが、彼は僅かに怯んだのみで左手をかざした。

 

「リバースカードオープン[ダメージ・コンデンサー]! 自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を一枚捨てる事で、受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター一体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する! 俺が受けた戦闘ダメージは800! よって攻撃力700の[ヘルゲート・ディーグ]を特殊召喚!

 さらに地獄戦士が戦闘によって破壊されたことで効果発動! このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える! この800ダメージ、貴様にも負ってもらうぞ!」

 ヘルゲート・ディーグ 攻撃力:700

 

「っ、成程、こんな手が……」LP4000→3200

 

 アックス・ドラゴニュートの斧に弾き飛ばされた地獄戦士の剣が落ちてきて彩葉を傷つける。その僅かなダメージに彼女が小さく驚きの声を上げると共に万丈目の場に小さな悪魔が出現した。

 これが万丈目の狙い。地獄戦士の効果は戦闘ダメージを相手に跳ね返すアマゾネスの剣士と比べれば、自分もダメージを受けるという点では確かに下位互換ではあるが、万丈目はその効果を逆に利用して後続の展開に繋げてみせたのだ。

 

「……ふふ。転んでもただじゃ起きないんだね、おにーさん。けちくさーい♪」

アックス・ドラゴニュート 攻撃力:2000→守備力:1200

 

 なおその間にアックス・ドラゴニュートは自身の効果により守備表示に変更されて守りの構えを取り、相手が後続に繋げてきたのに対してニヤニヤ笑いで煽る彩葉に万丈目も顔をしかめるが、そこで下手に口を出せば相手の思うつぼだと理解しているのか黙るのみ。彩葉は「ちえー」と声を漏らした。

 

「黙られちゃったら面白くないなー。メインフェイズ2、私は手札から[タイムカプセル]を発動。デッキからカードを一枚選択して、そのカードをタイムカプセルに入れる。発動後二回目の自分のスタンバイフェイズ時にタイムカプセルは破壊され、中のカードは私の手札に加わる。何が入るのか楽しみにしててね♪ 私はカードを一枚セットしてターンエンド」

 

「ふん。要はこれから二ターン来る前に貴様を倒せば何の意味もないカードというわけだ。俺のターン、ドロー!」

 

 彼女の場に出現した棺型のタイムカプセルに一枚のカードが封印され、タイムカプセルは地中に姿を消す。

 キャハ、とあざとく笑う彩葉に対して万丈目は速攻で終わらせればいいだけだと切り返し、カードをドロー、己のターンを進める事を宣言する。

 

「俺はヘルゲート・ディーグを生贄に捧げ、[地獄詩人ヘルポエマー]を召喚!」

 地獄詩人ヘルポエマー 攻撃力:2000

 

 ヘルゲート・ディーグの腹から繋がる地獄への門が開かれ、そこから地獄の詩人が姿を現して人間では聞き取り切れない奇怪な言語で詩を詠み始める。ヘルポエマーを呼び出すことで力を使い果たしたヘルゲート・ディーグはその詩を聞きながら消滅していった。

 

「バトルだ! ゆけ、ヘルポエマー! 呪いの詩でアックス・ドラゴニュートを呪殺しろ!」

 

 万丈目の指示を受けたヘルポエマーが口ずさむ詩がおどろおどろしいフォントになって実体化、アックス・ドラゴニュートを包み込むと、竜人は苦し気な悲鳴を上げて絶命。消滅した。

 

「俺はリバースカードを二枚セットし、ターンエンドだ!」

 

 そして万丈目はカードを二枚伏せてターンエンドを宣言。地獄詩人は相変わらず奇怪な言語で詩を詠っていた。

 

「私のターン、ドロー」

 

 相手の場に攻撃力はそれほどでもないとはいえ上級モンスターが存在し、さらに二枚の伏せカードで守りを固めている。対してこちらの場にモンスターはいない、という状況にも関わらず彩葉はニヤニヤ笑いを崩さずにカードをドロー。四枚になった手札をじっと見た。

 

「き~めた☆」

 

 そしてニシシとした笑みで呟き、手札の一枚を取る。

 

「私は魔法カード[融合]を発動!」

 

「融合だと!?」

 

「あれぇ? おにーさん、融合も知らないの? 仕方ないなぁ教えてあげるね? 融合はね、手札またはフィールドから融合素材として決められたモンスターを──」

黙れ!! 融合ぐらい知っているわ! とっとと進めろ!」

「──ハーイ。私は手札の[ベビードラゴン]と[融合呪印生物-闇]を融合! 赤子の竜よ、呪いの力により、千年の時を経て成長せよ! [千年竜(サウザンド・ドラゴン)]!!」

 千年竜 攻撃力:2400

 

 再び彩葉が万丈目を煽ろうとするも万丈目が一喝、彩葉はぺろりと舌を出した後に口上を開始。彼女の場に老体と言っても過言ではないドラゴンが姿を現した。

 

「あ、あれは伝説のデュエリスト、城之内克也さんが使っていたモンスター!」

 

「でも待てよ。あれの融合素材はたしかベビー・ドラゴンと時の魔術師のはず……なんで時の魔術師も使っていないのに融合召喚出来たんだ?」

 

 取り巻き二名が彩葉の操るモンスターを見てざわつき出し、二人の間で「まさかイカサマか?」なんて台詞が出た途端、彩葉がにやぁっと八重歯を口元から出して微笑んだ。

 

「わー♪ おにーさん達ってば融合素材代用モンスターも知らないのぉ? 融合呪印生物-闇にはねー、融合モンスターカードにカード名が記された融合素材モンスター一体の代わりにできるっていう効果があるんだよー? そんなのも知らないでよくオベリスクブルーなんて入れたよねー☆」

 

 

「な、なんだとこのガキ!?」

 

「万丈目さん! そんな奴やっちまってください!」

 

 彩葉の煽りを受けた取り巻き二人の内一人が彩葉に怒り、もう一人が万丈目に彩葉を倒せと叫ぶ。それに万丈目が「貴様らに言われるまでもないわ!」と怒鳴り返している間に、彩葉は最後の手札を魔法・罠ゾーンにセットしてから、彼の場のヘルポエマーを指差して千年竜を見た。

 

「バトルだよ、千年竜。ヘルポエマーを攻撃! サウザンド・ノーズ・ブレス!」

 

「ぐううぅぅぅっ……」LP3200→2800

 

 千年竜がけだるげに鼻息を噴き出すが、永い時を生きたドラゴンの鼻息はそれだけでも魔力を帯びたブレスに等しく、それを受けたヘルポエマーは断末魔の詩を詠いながら消滅する。

 

「チッ! だが戦闘で破壊されたヘルポエマーが墓地に存在する限り、相手はバトルフェイズ終了ごとに手札を一枚ランダムに捨てなければならない! これから貴様はバトルする限り碌に手札を持てないと思え!」

 

 戦わなければ勝つ事は出来ず、さりとて下手に戦えば手札が減らされる。この二者択一を相手に強制するコンボに万丈目は得意気な顔を見せた。が、彩葉は特にプレッシャーなど感じていないようにニヤリと笑っているのだが。

 

「まあ私の手札はゼロ枚だから関係ないけどねー。私はこれでターンエンドだよ☆」

 

「いくぞ、俺のターンだ! ドロー!」

 

 彩葉のターンエンド宣言を聞いた万丈目が勢いよくカードをドロー。ドローカードを見てニヤリと笑った。

 

「揃ったな。このターンで決めてやろう。俺は魔法カード[死者蘇生]を発動! 自分、または相手の墓地からモンスターを一体特殊召喚する!」

 

 

「だけど、今あのガキの墓地にも万丈目さんの墓地にも、千年竜を越えるモンスターはいないはず……」

 

 

「だから青いというのだ貴様らは。我が地獄から這い上がれ──」

 

 万丈目が天を指差すように腕を掲げた時、彼の場の床にヒビが入ったかと思うとそこから炎が噴きあがり、さらにヒビ割れて炎が噴き出たことで生じた穴から巨大な腕が伸びる。

 

「──[炎獄魔人ヘル・バーナー]!!! フ、フフ、フハハ、フハハハハハハ!!!

 炎獄魔人ヘル・バーナー 攻撃力:2800

 

 そして万丈目の場に奇怪な姿の悪魔が姿を現し、万丈目はその姿に高らかに笑い声を上げ始めた。

 

「炎獄魔人ヘル・バーナー!?」

 

「あんなモンスター、破壊されたところなんて……」

 

 

「なるほどねー。ダメージ・コンデンサーのコストで捨てちゃってたんだー。ヘル・バーナーの召喚には攻撃力2000以上のモンスターを生贄にしなきゃいけない上に手札を全て捨てるっていうデメリットがあるから、先に墓地に捨てておいて蘇生カードを使った方が効率いいもんね。まあ、オベリスクブルーのエリートだっていう人達ならこんなの分かって当たり前だよねー☆」

 

 困惑する取り巻きに対して彩葉がすらすらと説明、にやぁっと煽るような微笑みを取り巻き二人に向けると、気づいてなかったらしい二人が顔を赤くしてぐぅっと唸り声を上げる。

 

「フン、ヘル・バーナーの召喚条件を知っていたか。ならばこれも知っているだろう? ヘルバーナーは相手フィールド上のモンスター一体につき攻撃力が200ポイントアップする! 貴様の場のモンスターは一体だが、それでも充分だ!」

 炎獄魔人ヘル・バーナー 攻撃力:2800→3000

 

「なるほどー」

 

 万丈目の宣言通りヘル・バーナーの攻撃力が上昇、彩葉がふんふんと頷いた後、リバースカードを翻した。

 

「じゃあ私は速攻魔法[神秘の中華なべ]を発動するね☆ 千年竜を生贄に捧げる事で、その攻撃力2400ポイント分、私のライフを回復。これでヘル・バーナーの攻撃力もダウンするね。残念でした♪」LP3200→5600

 

 千年竜が巨大な鍋に被さって消滅、上空で振られる鍋から降り注ぐ光が彩葉のライフを大幅に回復させ、同時に彩葉の場のモンスターがすべて消えた事でヘル・バーナーの攻撃力も元々の2800へと減少した。

 

「フ、所詮はガキか。その程度で逃げられると思っていたとはな……」

 

 しかし万丈目は、今度は自分が煽る番だと彩葉に見下した視線を向けながら、手札のカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「俺は装備魔法[巨大化]をヘル・バーナーに装備! 自分のLPが相手より少ない場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる! よってヘル・バーナーの攻撃力は──」

 炎獄魔人ヘル・バーナー 攻撃力:2800→5600

 

 ヘル・バーナーの身体が巨大化し、攻撃力が倍増。それを示すように大きな咆哮をデュエルアリーナに響かせる。しかしそれだけではない。

 

「攻撃力5600!」

「あのガキのライフと丁度同じだ!」

 

 その攻撃力は地獄戦士によるバーンや千年竜による回復を経た彩葉のライフと丁度並んでいた。

 

「今、俺とお前の実力の違いを分からせてやる! バトルだ! 炎獄魔人ヘル・バーナー! ダイレクトアタック!!」

 

 ヘル・バーナーの巨大な口から地獄の火炎が噴き出され、彩葉に襲い掛かる。そして彼女の場が一気に炎に包まれた。

 

フハハハハハハ!! 編入生だかなんだか知らんが、これで己の身の程が分かっただろう!? そうだ。俺が奴に負けたのはたまたまだ。遊城十代、今度こそ──

 

 勝利を確信して高笑いをする万丈目は、この勝利で自信を持ち直したか十代に負けた事をたまたまだと言い、彼へのリベンジを誓う。

 

「ねーねー。もーいーいー?」

 

 そこに彩葉の能天気な声が聞こえてきたかと思うと地獄の火炎が消滅する。その炎の中にいたはずの彩葉は無傷のまま、ニヤニヤと笑って小首を傾げていた。彼女の場で、最初のターンに伏せられていた最後のリバースカードが翻っていた。

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「私はダメージ計算時にトラップカード[パワー・ウォール]を発動したんだよ♪ 相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動できて、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき一枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。私が受ける戦闘ダメージは5600、これが0になるように500ダメージにつき一枚、つまり十二枚のカードを墓地に送って、今回の戦闘は無傷で終了。残念でしたー☆」

 

 たしかに彼女の周辺に十二枚のカードがばら撒かれており、彼女は演出のつもりだったのかばら撒いたのだろう十二枚のカードを一枚一枚拾って改めて墓地に送っていた。

 

「なるほどな、しぶといのは褒めてやる……だが、これで貴様の場、そして手札にカードはない! この俺の地獄のコンボはまだ終わっていない! トラップカードオープン[火霊術-紅]発動! 自分フィールドの炎属性モンスター一体を生贄に捧げる事で、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える! 地獄の炎の弾丸と化せ、ヘル・バーナー!!」

 

「防ぐカード──」

「などないに決まっているだろう! 2800のダメージをくらえ!!」

「──きゃあぁぁっ!!」LP5600→2800

 

 ヘル・バーナーが火の霊術によって炎の弾丸となり、僅かに焦った顔を見せた彩葉に直撃。一気に彼女のライフを半分削った。

 

「ふ、ふふふ……で、でも~、もう場にモンスターはいないでしょ~? 焦って子供でも出来る計算間違えちゃいました~?」

 

 悲鳴を上げた彩葉ははっとした顔になって再び嘲るような笑みを見せ、今度は万丈目の場からモンスターが消えたと笑う。

 

「リバースカードオープン」

 

 だがそれに万丈目は言葉ではなくプレイングで反論を開始した。

 

「永続罠[リビングデッドの呼び声]発動。墓地のモンスターを一体、攻撃表示で特殊召喚する」

 

「え?」

 

「再び戻って来い、[炎獄魔人ヘル・バーナー]」

 炎獄魔人ヘル・バーナー 攻撃力:2800

 

「え?」

 

 死者蘇生で呼び戻され、巨大化して攻撃し、火霊術でバーン、そしてリビングデッドの呼び声によって、再びヘル・バーナーが出現した。まさかの展開に彩葉はついていけてないのか呆然としている。

 

「バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターにも攻撃の権利はある。ま、言うまでもないだろう? そして貴様のライフは残り2800だ」

 

 次のヘル・バーナーのダイレクトアタックで終わり。と言外で言う万丈目は、顔を青ざめさせた彩葉を見て嗜虐的に笑う。対して彩葉もきゃはっと、しかし引きつった笑みを浮かべた。

 

「お、おにーさんってば、女の子に対しておとなげなーい♪」

 

「最初に言ったはずだ、手加減しないとな。やれ、ヘル・バーナー。奴に身の程というものを分からせてやれ」

 

 彩葉の煽りもなんのその、万丈目は静かに言い捨ててヘル・バーナーに攻撃を指示。再び放たれた地獄の火炎が、場ががら空きで防御手段もなくおろおろしている彩葉を焼き尽くそうと迫っていく。

 

 

 

 

 

「なーんちゃって」

 

 その時、彩葉が静かに呟く。その口元にはおろおろしていたりピンチに引きつっていたとは思えない笑みが浮かんでいた。

 

「墓地の[ネクロ・ガードナー]を除外して効果を発動。相手ターンに墓地のこのカードを除外する事でこのターン、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする。ヘル・バーナーの攻撃を無効」

 

 彩葉の眼前にプロテクターで全身を固めた戦士が半透明の出現し、その身を挺して地獄の火炎から彩葉を守り、地獄の火炎が消えると共に消滅する。

 

「ば、馬鹿な……」

 

「どーしたの、おにーさん? もう終わりー? ねーねー。このターンで決めるんでしょー?」

 

 攻撃力5600のダイレクトアタック、2800ダメージのバーン、そして再び攻撃力2800のダイレクトアタック。通れば合計ダメージ11200。相手の初期ライフを二回消し飛ばしてお釣りがくる程の大ダメージを与えられたはずの必殺の地獄のコンボを受けて生き残っている彩葉の姿を見た万丈目が絶句するが、彩葉は絶句している万丈目に対してニヤニヤ笑いで煽るように言葉を突きつける。

 ぐぅっと万丈目が唸り声を上げる。既に彼に手札はなく、場に未知のカードもない。つまりこれから先、彼がデュエルを進めるために行えるのはたった一つだけ。彼は悔しそうに拳を震わせ、うつむきながら口を開く。

 

「ターンエンドだ……」

 

「えー? なにー? 聞こえなーい☆」

 

ターンエンドと言ったんだ! だが、貴様の場にカードはない! 手札は次にドローする一枚のみ! 俺の場にはヘル・バーナーが残っている! 次のターンで今度こそ終わりだ!」

 

 小さな声でのエンド宣言にわざとらしく聞こえないと、よく聞かせてというように耳に手を当ててその耳を万丈目に向けるジェスチャーをする彩葉に苛立った万丈目が怒鳴るようにターンエンドを宣言し直し、彩葉の場と手札もない事を指摘、次のターンで今度こそ終わらせると告げた。

 

「……場にカードがない?」

 

 しかし彩葉はきょとんとしながらターン開始を宣言するようにカードをドローする。その瞬間彼女の場の床がひび割れ、そこから棺型タイムカプセルが出現、それを見た万丈目と取り巻き二人の目が見開かれる。

 

「し、しまった!?」

 

「タイムカプセル発動後、二回目のスタンバイフェイズ。私はタイムカプセルを破壊し、棺に入れたカードを手札に加えるよ♪」

 

 彼女の場に密かに残っていたカード──タイムカプセル。それが破壊され、棺の中に封印されていたカードが彩葉の手に渡った。

 

「おにーさんとのデュエル、けっこー面白かったよ。だから私も、ちょっと本気出してあげるね。キャハッ☆」

 

 そう言って彩葉はタイムカプセルに封印していたカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「魔法カード[サイバーダーク・インパクト!]を発動! 自分の手札・フィールド・墓地から、[サイバー・ダーク・ホーン]、[サイバー・ダーク・エッジ]、[サイバー・ダーク・キール]を一枚ずつ持ち主のデッキに戻し、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]一体を融合召喚する!」

 

 

「サ、サイバー・ダークだって!?」

 

「そんなカード今まで一枚も……」

 

 

「……そうか、パワー・ウォールはそのために……」

 

 彩葉の発動したカードの効果を聞いた取り巻き二人が困惑するが、万丈目は先ほどのターンに使った防御カード──パワー・ウォールの真意を悟る。十二枚もカードを墓地に送れば狙いのカードが入っていてもおかしくはない。

 さらに言えばあの神秘の中華なべでライフを回復しつつ場を空け、ダイレクトアタックを誘ったのも自身が受ける戦闘ダメージを増やすことで墓地に送るカードを増やすための布石だったのだろう。

 

(馬鹿な……こいつ、どこまで計算して……)

 

 そこで万丈目はようやく目の前にいる相手がただのガキではない、計算し尽くした緻密なプレイングを行うデュエリストだと判断した。

 

「墓地のホーン、エッジ、キールでサイバーダーク・インパクト! 現れろ、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]!!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000

 

「こ、攻撃力1000?」

 炎獄魔人ヘル・バーナー 攻撃力:2800→3000

 

 出現した機械竜の攻撃力に万丈目が困惑。あそこまで計算して呼び出したのだろう切り札に見合うとは思えない攻撃力だが、取り巻き二人は「ただの見掛け倒しか」と笑っていた。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンの効果発動! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備。このカードの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地の[比翼レンリン]を装備、その元々の攻撃力1500、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力がアップ」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000→2500

 

 機械竜──サイバー・ダーク・ドラゴンの身体のケーブルが地中に伸び、そこから引きずり出された双頭の竜がサイバー・ダーク・ドラゴンに取り込まれるように装着。繋がれたケーブルからエネルギーを取り込んだのか、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力が一気にアップした。しかしその攻撃力はヘル・バーナーに及ばず、万丈目は困惑の顔を見せた。

 

「攻撃力2500だと……」

 

「まだ終わらないよ☆ サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は装備したモンスターの攻撃力だけじゃなく、自分の墓地のモンスターの数×100アップする。私の墓地のモンスターはアックス・ドラゴニュート、ベビー・ドラゴン、融合呪印生物-闇、千年竜、ハウンド・ドラゴンの五枚。よって攻撃力はさらに500ポイントアップ」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:2500→3000

 

「攻撃力が並んだ……」

 

 元々の攻撃力と比べればゆうに三倍。だがそれでやっとヘル・バーナーに並んだ程度で、万丈目の困惑顔は晴れない。

 

「バトル! サイバー・ダーク・ドラゴンでヘル・バーナーに攻撃!」

 

「なんだと!? く、迎撃しろ! ヘル・バーナー!!」

 

 攻撃力が同等のモンスター同士でのバトル、ここまでやって相殺狙いか、と万丈目が困惑しつつ迎撃を命令。サイバー・ダーク・ドラゴンの放つブレス型レーザーとヘル・バーナーの放つ地獄の火炎がぶつかり合う。

 

「この瞬間、墓地の[スキル・サクセサー]の効果発動! 墓地のこのカードをゲームから除外することで、自分フィールド上のモンスター一体の攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:3000→3800

 

「な、なんだと!?」

 

 パワー・ウォールで墓地に送ったのはモンスターだけではなく、墓地で発動するカード全般を利用するため。それにようやく気づいた万丈目が声を上げるが既に遅く、勢いを増したレーザーが地獄の火炎を押し返し、ついにヘル・バーナーを貫いて破壊した。

 

「ぐあああぁぁぁぁっ! ぐ、だがこれで貴様の攻撃は終わった! まだ勝負はついていない!」LP2800→2000

 

 万丈目は切り札は破壊されたがライフは尽きていない以上まだ勝負はついていないと諦めない様子を見せる。

 

「ざんねーん☆」

 

 だが彩葉はニヤニヤと笑い、彼女が従えるサイバー・ダーク・ドラゴンもまだ戦えるというように咆哮していた。

 

「な、に……?」

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンが装備した比翼レンリンには、装備カードになった時初めて発揮される効果があるんだよ☆ このカードの装備モンスターの元々の攻撃力は1000になり、一度のバトルフェイズ中に二回攻撃できる」

 

「な……」

 

 サイバー・ダーク・ドラゴンの元々の攻撃力は元々1000なんだから前半の効果は実質意味がない。だが後半の効果により、サイバー・ダーク・ドラゴンはもう一度攻撃が出来る。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は3800、おにーさんのライフは残り2000……もう分かるよね。おにーさん☆」

 

「そ、そんな……そんな馬鹿な……この俺が……」

 

 にぱっと可愛く笑う彩葉。だが万丈目にとっては己を敗北に導く悪魔の顔に見え、彼は呆然としながらレーザーのエネルギーチャージを再度開始したサイバー・ダーク・ドラゴンを見上げる事しか出来なかった。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンでダイレクトアタック!! フル・ダークネス・バースト!!!」

 

「ぐああああぁぁぁぁぁっ!!!」LP2000→0

 

 そしてサイバー・ダーク・ドラゴンの放ったレーザーブレスが万丈目のフィールドに直撃。彼の場を黒煙が包み込み、その煙が晴れた時、万丈目のライフは0を、即ち彼の敗北を示していた。

 

 

「今の攻撃はフル・ダークネス・バースト……ということは……」

 

 その時、デュエルアリーナの外からそんな声と複数人の足音が聞こえてくる。

 

「いた! こっちです!!」

 

「シ、シニョール万丈目!? 一体どういう事ナノーネ!?」

 

「デュエルリングを囲め!!」

 

 デュエルアリーナに飛び込んできた亮が入り口に向けて呼びかけると一斉に教員がなだれ込み、クロノスはデュエルリングで膝をついている万丈目を見て驚愕。その間に教員達がまるで彩葉を包囲するようにデュエルリングを取り囲んだ。

 

「キャハッ☆ おじさん達数人がかりなんて情けなーい、恥ずかしいとか思わないのー?」

 

「お前を逃がす方が後々面倒だと判断したまでだ」

 

 デュエルリングを囲まれ、逃げ場を失った彩葉はしかし笑って周りの教員を煽る。だがその時、デュエルリングに亮が上がって彩葉と対峙した。ちなみに万丈目はクロノスに連れられてデュエルリングを降りている。

 

「彩葉、大人しく校長室まで一緒に来て師範から説教を受けるか。それとも、ここで俺とデュエルをして負けて無理矢理連れていかれるか……好きな方を選べ」

 

 亮は彩葉を睨みつけてデュエルディスクを構える。カイザーと呼ばれる男が本気になったと察した万丈目の取り巻き二人が言葉を失って動けないというように固まり、亮に睨まれた彩葉は僅かに黙った後、ひょいと両手を上げた。

 

「まー、もう戦って満足しましたしー、カイザーと戦って分からせられるなんて勘弁してほしいですしー、了解でーす」

 

 大人しく降参した様子の彩葉を見て亮がふぅと息を吐き、彼女はまるで護送される犯人のように教師に取り囲まれて校長室に向かうように歩き出す。

 

「あ、そうそう」

 

 しかし彼女は思い出したように足を止め、デュエルリングから降りて呆然とうつむき、流石にどうするべきか困っておろおろしているクロノスを横にしている万丈目を見た。

 

「おにーさん☆ 楽しいデュエルだったよ。またやろーね♪」

 

 そうとだけ言い残してまた歩き出す。教師の包囲されている彼女の隣を歩くように亮が立った。

 

「お前は相変わらず、相手へのリスペクトがなっていないな」

 

「私なりのリスペクトだよ?」

 

 亮の注意に彩葉はニシシと笑いながら答え、相変わらずな妹弟子に亮は言っても無駄かと諦めたように顔を逸らす。

 

「中等部を追い出されるレベルで暴れ回った件、ジェットスキーでデュエルアカデミアに乗り込んだ件、その他諸々で師範はお怒りだ。しばらく説教を覚悟しておくんだな」

 

「聞こえなーい☆」

 

 呆れ声の亮とネコミミパーカーを被って現実逃避という名の誤魔化しをする彩葉、そして彩葉を取り囲んで連行する教員達。この珍妙な集団の行列は校長室まで続くのだった。




初めましての方は初めまして、こんにちはの方はこんにちは。カイナと申します。
皆様「(裏)サイバー流系メスガキinデュエルアカデミア」ご読了いただき誠にありがとうございます。え、タイトルがおかしい?何のことですか?(すっとぼけ)

今回は思いついたというか、別の作品の感想返しでメスガキ的な返しを~とかの話をした時に唐突にメスガキ主人公というネタを思いついて
その感想があった作品の原作であるインフィニット・ストラトスで書こうと思ったんですが、どうにもネタが纏まらなかったというか纏まったといえば纏まったんですが原作設定的にどうよこれってなったので没にして
でもせっかく思いついたんだしメスガキネタで一本書きたいなって思った時になんとなく「裏サイバー流デッキを使うメスガキデュエリスト」というネタを思いついたので今回の話を書かせていただきました。

相手が万丈目なのはなんというか「ざーこざーこ♡」ってやって、一番いいリアクション取ってくれそうだと思ったんですが……話が一年目&月一試験後&サンダー前の時間軸になったこの段階で「ざーこざーこ」やらさせたら割と洒落になりそうにねえなと書きながら判断したのでマイルドに留めました。(汗)

まあその辺差し引いても所謂「メスガキ」という属性がこんなもんなのかよく分からない部分もあるので、その辺の感想などいただけたらありがたいなと思います。要は男を見下して弄ぶ系の女の子と解釈して書いたつもりではあるんですが……。

あと一応言っておきますが短編です。主人公のキャラ属性すらちゃんと理解してないのに長編で書けとか絶対無理です。(汗)
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


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IF:サイバー流VS裏サイバー流

「彩葉、大人しく校長室まで一緒に来て師範から説教を受けるか。それとも、ここで俺とデュエルをして負けて無理矢理連れていかれるか……好きな方を選べ」

 

 デュエルフィールドで、亮が彩葉を睨みつけてデュエルディスクを構える。カイザーと呼ばれる男が本気になったと察した万丈目の取り巻き二人が言葉を失って動けないというように固まり、亮に睨まれた彩葉は僅かに黙った後、にひっと笑みを見せてデュエルディスクを構える。

 その意味を理解したというように亮は周囲を囲んでいる教員達に目配せ、「ここは俺に任せてください」という意図を示す視線に教員達もこくりと頷く。その後二人の視線が再び交錯した。

 

「「デュエル!!!」」

 

 そして二人の声が重なり合い、デュエルの幕が上がるのだった。

 

「私の先攻、ドロー!」

 

 彩葉が先攻を取ってカードをドロー。六枚になった手札をさっと見てその内の一枚を取った。

 

「私は手札から[サイバー・ダーク・カノン]を捨てて効果を発動するよ。デッキから機械族のサイバー・ダークモンスター、[サイバー・ダーク・ホーン]を手札に加えるよ。そしてそのまま[サイバー・ダーク・ホーン]を召喚!」

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:800

 

 彩葉の場に現れるのはその他の通り巨大な(ホーン)が目立つ機械モンスター。しかしその攻撃力はたった800であり、観戦している万丈目の取り巻きは「サーチしといてこれか」とどこか嘲るような微笑を見せる。

 

「サイバー・ダーク・ホーンの効果発動。このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備し、このカードの攻撃力はこのカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地のレベル3のドラゴン族、サイバー・ダーク・カノンを装備するよ」

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:800→2400

 

 サイバー・ダーク・ホーンの腹部に格納されていたケーブルが地面へと伸び、先ほど墓地に送られたサイバー・ダーク・カノンを引きずり出すと腹部に装着。そのエネルギーを吸い取って己の攻撃力を上昇させる。

 一気に上級レベルにまで跳ね上がった攻撃力を見た万丈目の取り巻き二人の表情が固まった。

 

「実質手札一枚で攻撃力2400……やるな、彩葉」

 

「あれれ~? まさかカイザーともあろうものがこの程度で驚くなんて言わないよね~? 私はカードを二枚セットしてターンを終了するよ♪」

 

 サーチ効果を持つモンスターを利用してキーカードをサーチして召喚、さらにサーチに使ったモンスターを利用して自分の有利な状況を作る。

 無駄のないプレイングを亮が賞賛すると彩葉はニヤニヤ笑いで煽りつつ、カードを伏せてターン終了を宣言した。

 

「ふ。相変わらずだな……俺のターン、ドロー」

 

「この瞬間、リバースカードを発動するよ」

 

 彩葉の煽りを聞いた亮がどこか懐かしむような笑みを浮かべ、自身のターンを宣言してカードをドローする。すると早々彩葉がリバースカードの発動を宣言し、その宣言通りリバースカードが翻る。

 

「[おジャマトリオ]を発動。相手フィールドに[おジャマトークン]三体を守備表示で特殊召喚する。カイザー、再会を祝して私からのプレゼントだよ♪」

 

「む……」

 おジャマトークン ×3 守備力:1000

 

 にこっと可愛らしい笑みを浮かべる彩葉の場のリバースカードから、奇妙なモンスターが三体飛び出して亮の場を占拠。その光景に亮が僅かに苦い顔を見せた。

 

「なんだあいつ? 雑魚とはいえカイザーの場に三体もモンスターを出しやがった」

「何考えてんだ?」

 

 万丈目の取り巻きも彩葉のプレイングに頭の上にクエスチョンマークを出している。

 

「まったく。相変わらずですね、彼女は」

 

 その隣にいつの間にか座っている男性がぼそりと呟く。その男性の姿に取り巻き二人がぎょっとした顔を見せた。

 

「「こ、校長先生!?」」

 

 まさかのこのデュエルアカデミアの校長である鮫島の登場に取り巻き二人が慌て出す。が、鮫島は気にしないようにというように穏やかに微笑んだ。

 

「こんにちは。亮が彩葉君とデュエルをすると聞いて飛んできてしまいましたよ」

 

「そ、そうですか。あはは……」

「そ、それより、その、これには何か狙いがあるとでも?」

 

 校長の登場に驚き、引きつった笑みを浮かべる取り巻きAと、話を逸らそうとデュエル内容を示す取り巻きB。その質問に鮫島はうむと頷いた。

 

「もちろん。亮、そして我がサイバー流のメインモンスター[サイバー・ドラゴン]。あれは“相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、手札から特殊召喚できる”という効果を持ちます。ですが見ての通り、今亮の場にはおジャマトークンが存在する事になります。

 これによってサイバー・ドラゴンは己の効果による特殊召喚が封じられ、さらにおジャマトークンは生贄召喚のための生贄にも出来ない。これはサイバー・ドラゴンを封じ、亮の初手を挫くための一手と言っていいでしょう」

 

 これ自体はデュエルに大きく影響を与えるとは言えない。しかし相手の得意な戦術を崩し、相手の調子を狂わせる事で己を有利に持っていくための一手。鮫島は彩葉の狙いをそう評した。

 

「成程。ならば──」

 

 だが亮は不敵に笑いながら手札を取る。

 

「──俺は手札から[サイバー・ドラゴン]を捨て、[サイバー・ドラゴン・ネクステア]を守備表示で特殊召喚する。

 この瞬間サイバー・ドラゴン・ネクステアの効果発動。このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、攻撃力または守備力が2100の、自分の墓地の機械族モンスター一体を特殊召喚する。俺は攻撃力2100の機械族モンスター[サイバー・ドラゴン]を墓地から特殊召喚!」

 サイバー・ドラゴン・ネクステア 守備力:200

 サイバー・ドラゴン 攻撃力:2100

 

「ただし、この効果の発動後、ターン終了時まで自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。だよね?」

 

「その通りだ」

 

 彩葉の妨害もなんのその、というように亮はサイバー・ドラゴンの展開をしてみせる。彩葉はニコニコと笑いながらサイバー・ドラゴン・ネクステアの効果のデメリットを諳んじ、その言葉を亮は肯定、さらに手札を一枚取った。

 

「だが、逆に言えば機械族モンスターなら特殊召喚可能ということだ。俺は魔法カード[融合]を発動! サイバー・ドラゴン・ネクステアはフィールド・墓地に存在する限りカード名を[サイバー・ドラゴン]として扱う!」

 

 つまり実質フィールドにはサイバー・ドラゴンが二体存在する事になる。万丈目の取り巻き二人が「来るか!」と盛り上がった。

 

「ざんねーん♪」

 

 そこに水を差すように彩葉の声が響き、またも彼女の場の伏せカードが翻る。

 

「永続罠[融合禁止エリア]発動。このカードが存在する限り、お互いのプレイヤーは融合召喚をする事ができないよ」

 

「っ!」

 

 フィールド全体に不可思議なエネルギーの網が張られ、そのエネルギーの網に融合召喚のエネルギーが阻害される。結果融合の魔法カードはその効力を発揮できないまま墓地に送られてしまった。

 

「ねーねーどうどう? 一発逆転を狙った融合召喚を邪魔されちゃって、今どんな気持ち~?」

 

「お前……本当に相変わらずだな……まったく」

 

 そしてニヤニヤ笑いで煽ってくる彩葉に亮は呆れたような苦笑で返してため息を漏らす。

 

「俺はリバースカードを二枚セットしてターンエンドだ」

 

 そして手札から二枚伏せてターンエンドを宣言した。

 

「私のターン、ドロー。私は[ハウンド・ドラゴン]を攻撃表示で召喚するよ」

 ハウンド・ドラゴン 攻撃力:1700

 

 彩葉の場に出現する新たなモンスター。これで彩葉の場に亮の場の二体のサイバー・ドラゴンの攻撃力・守備力を上回るモンスターが二体揃った。

 

「バトル! サイバー・ダーク・ホーンでサイバー・ドラゴン・ネクステアを攻撃!」

 

 彩葉の攻撃指示を受けたサイバー・ダーク・ホーンがサイバー・ドラゴン・ネクステアに攻撃を仕掛けた時、亮の場のリバースカードが翻る。

 

「そうはいかん! リバースカード発動[サイバネティック・オーバーフロー]! 自分の手札・墓地及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、サイバー・ドラゴンを任意の数だけ選んで除外し、除外した数だけ相手フィールドのカードを選んで破壊する!」

 

「っ!?」

 

「俺はフィールドのサイバー・ドラゴン・ネクステア(サイバー・ドラゴン)とサイバー・ドラゴンを除外し、サイバー・ダーク・ホーンと融合禁止エリアを破壊する!」

 

「く……でもサイバー・ドラゴンを一体除外できたのは大きいはず……」

 

 二体のサイバー・ドラゴンが亮の場で翻ったカードに吸収され、放たれる閃光の光線がサイバー・ダーク・ホーンと融合禁止エリアの核となるカードを貫き、粉砕。同時にフィールドを覆う融合召喚を阻害するエネルギーも消失していった。

 同時に彩葉はバトルフェイズを終了、メインフェイズ2に入る事を宣言して手札を一枚取った。

 

「魔法カード[タイムカプセル]を発動。デッキからカードを一枚選択して、そのカードをタイムカプセルに入れる。発動後二回目の自分のスタンバイフェイズ時にタイムカプセルは破壊され、中のカードは私の手札に加わる。そしてカードを一枚セットしてターンエンドだよ」

 

「俺のターンだ、ドロー」

 

 彼女の場に出現した棺型のタイムカプセルに一枚のカードが封印され、タイムカプセルは地中に姿を消す。亮はそれをちらりと見て、己のターンを宣言しカードをドローした。

 

「俺は[サイバー・ヴァリー]を召喚し、魔法カード[機械複製術]を発動! 自分フィールドの攻撃力500以下の機械族モンスター一体を対象とし、デッキからその表側表示モンスターの同名モンスターを二体まで特殊召喚する。俺はサイバー・ヴァリーをデッキから一体特殊召喚!」

 サイバー・ヴァリー ×2 守備力:0

 

「げ、やば……」

 

 おジャマトークンが三体いる以上、残るモンスターゾーンは二つ。その二つをサイバーモンスターで埋め、その姿を見た彩葉の表情が引きつった。同時に亮もフッと笑う。

 

「お前からのプレゼント、有効活用させてもらおう。サイバー・ヴァリーの効果発動! 自分のメインフェイズ時に発動でき、このカードと自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を選択して除外し、その後デッキからカードを二枚ドローする! 俺はサイバー・ヴァリーとおジャマトークンを除外し、二枚ドローする!」

 

 

「え? おジャマトークンはそういうのに使えないんじゃあ……」

 

「いえ。おジャマトークンはあくまで生贄召喚のための生贄にする事が出来ないだけ。そしてトークンはルール上、効果として除外する事は可能です。さらにこれは“破壊”ではなく“消滅”のため、おジャマトークンの効果、おジャマトークンが破壊された時にそのコントローラーは一体につき300ダメージを受ける。という効果も上手く受け流しました」

 

 亮のプレイングを見た、すっかり観客になっている万丈目の取り巻きAの疑問の言葉に対して鮫島が解説。

 その間に亮は二体のサイバー・ヴァリーの効果を使って二体のおジャマトークンを排除しつつ合計四枚のカードをドローした。

 

「よし。俺は[サイバー・ドラゴン・ツヴァイ]を召喚し、効果発動! 一ターンに一度、手札の魔法カード一枚を相手に見せる事で、このカードのカード名はエンドフェイズ時まで[サイバー・ドラゴン]として扱う。俺は魔法カード[融合]を見せる」

 サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 攻撃力:1800

 

 亮が見せる魔法カードに彩葉が嫌な顔を見せる。これからする事は分かるな、と言いたげな亮が、そのまま見せていた融合の魔法カードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード[融合]! フィールドのサイバー・ドラゴン・ツヴァイ(サイバー・ドラゴン)と手札の[サイバー・ドラゴン]を融合! 出でよ、[サイバー・ツイン・ドラゴン]!!」

 サイバー・ツイン・ドラゴン 攻撃力:2800

 

 先ほどのターンは邪魔された融合召喚を今度こそ成功させ、亮の場に双頭の機械竜が出現する。万丈目の取り巻き達も「おお!」と盛り上がった。

 

「きゃは☆ 相変わらずだねカイザー。諦め悪ーい♪」

 

「俺はこれを貫くのみだ。いくぞ、バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンでハウンド・ドラゴンを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

「く……」LP4000→2900

 

 双頭の機械竜の口から放たれたエネルギー砲がハウンド・ドラゴンを飲み込み、そのまま粉砕。その余波が彩葉にも大ダメージを与えた。しかも双頭の機械竜のもう一つの口にもエネルギーはチャージされている。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンは一度のバトルフェイズに二回の攻撃が出来る! ダイレクトアタックだ! エヴォリューション・ツイン・バースト、第二打ァ!」

 

 この一撃を受ければ敗北こそ避けられるものの致命傷。だがその時彩葉の場のリバースカードが翻った。

 

「トラップカード[パワー・ウォール]! 相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動でき、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき一枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。私が受ける戦闘ダメージは2800、これが0になるように500ダメージにつき一枚、よって六枚のカードを墓地に送るよ」

 

 デッキの上から居合い抜きのように抜いて投げつけた六枚のカードが壁になってエヴォリューション・ツイン・バーストの直撃を防ぐ。そして彩葉は投げたカードをさささっと拾って墓地に送った。

 

「ふふ~んどうしたのカイザー? まさかこの程度~?」

 

「このターンはな。メインフェイズ2に入る」

 

 そして上手く相手の攻撃をかわしつつ墓地肥やしをした彩葉がニヤニヤと笑いながら煽るが、亮はさらりと受け流して手札を取った。

 

「魔法カード[タイムカプセル]を発動する。説明はするまでもないな?」

 

 亮が発動したのはさっきのターンにも彩葉が使用した棺型のカプセル。その中に一枚のカードが封印され、カプセルは地中へと消えていく。そして亮は静かに「ターンエンド」と宣言した。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 一気に状況をひっくり返され、しかし彩葉は余裕そうな笑みを浮かべながらカードをドロー。ドローカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード[壺の中の魔術書]を発動! 互いのプレイヤーはデッキからカードを三枚ドローする! カイザーも遠慮しなくていいからね?」

 

「ふ。ではお言葉に甘えてドローさせてもらうとしよう」

 

 互いに三枚のカードをドロー、一気に手札を四枚まで増強する。

 

「私は[サイバー・ダーク・エッジ]を召喚し、効果発動。このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備し、このカードの攻撃力はこのカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地のレベル3のドラゴン族、サイバー・ダーク・クローを装備するよ」

 サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:800→2400

 

 彩葉の場に現れた新たなサイバー・ダークモンスタ──―サイバー・ダーク・エッジの腹部に格納されていたケーブルが地面へと伸び、さっきのパワー・ウォールで墓地に送られたのだろうこちらも新たなサイバー・ダークモンスタ──―サイバー・ダーク・クローを引きずり出すと腹部に装着。そのエネルギーを吸い取って己の攻撃力を上昇させる。

 

「バトル! そしてサイバー・ダーク・エッジは攻撃力がダメージ計算時にのみ半分になる代わりにダイレクトアタックが出来る! ダイレクトアタック!」

 サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:2400→1200

 

「く……」LP4000→2800

 

「サイバー・ダーク・クローの効果発動。このカードを装備カード扱いとして装備しているモンスターが戦闘を行ったダメージ計算時に発動でき、融合デッキからモンスター一体を墓地へ送る。私は[F・G・D]を墓地に送るね。リバースカードを二枚セットしてターンエンド」

 サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:1200→2400

 

 半減したとはいえ1200の戦闘ダメージ。その一発だけでライフ差が僅かにとはいえ逆転し、さらに彩葉はモンスターをデッキから墓地に送り、伏せカードを増やして次の手の布石を打ちターンエンドを宣言する。

 

 

壺の中の魔術書

通常魔法(漫画オリカ)

互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。

 

 

「俺のターンだ、ドロー」

 

 亮は彩葉のカードの効果と、さらにこのドローも含めて五枚になった手札をじっくりと確認する。

 

「バトルだ」

 

 そして何もせずにバトルフェイズを宣言した。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンでサイバー・ダーク・エッジを攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

 

「く……だけどこの時、サイバー・ダーク・エッジの効果! このカードが戦闘で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する!」LP2900→2500

 サイバー・ダーク・エッジ 攻撃力:2400→800

 

 サイバー・ツイン・ドラゴンの放ったレーザーがサイバー・ダーク・エッジを貫こうとした時、サイバー・ダーク・エッジはケーブルを動かしてサイバー・ダーク・クローを盾にするように展開。サイバー・ダーク・クローの破壊の代わりに自身の破壊は免れた。

 

「そして破壊されたサイバー・ダーク・クローの効果発動! モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地のサイバー・ダークモンスター一体を手札に加える。私は[サイバー・ダーク・カノン]を手札に加えるよ」

 

 さらにサイバー・ダーク・クローの置き土産として彩葉は墓地からサイバー・ダーク・カノンを手札に加えた。

 

「だが、サイバー・ツイン・ドラゴンにはもう一度攻撃権が残っている! 第二打ァ!」

 

「きゃあああぁぁぁぁっ!!」LP2500→500

 

 しかし続けての攻撃を防ぐことは出来ず、二発目のレーザーにサイバー・ダーク・エッジが粉砕、爆破。その際に発生した衝撃波という形で一気に大ダメージが彩葉を襲い、彼女の悲鳴が響く。

 

「俺はリバースカードを二枚セットし、ターンエンドだ」

 

「ふ、ふふ……流石はカイザー、全力だねー☆」

 

「お前が相手だからな。手加減など出来ん」

 

 彩葉がにぱっと微笑んで言うのに対し、亮は静かに答える。

 ま、それもそうだよね。と彩葉は笑いながらカードをドローし、同時に彼女の場の床がひび割れ、そこから棺型タイムカプセルが出現した。

 

「タイムカプセル発動後、二回目のスタンバイフェイズ。私はタイムカプセルを破壊し、棺に入れたカードを手札に加えるよ♪」

 

 タイムカプセルに徐々にヒビが入り、ついには破壊。同時に棺の中に封印されていたカードが彩葉の手に渡った。にひ、と彩葉の口角が吊り上がる。

 だがしかしその出番はまだ早い、というように、彼女は棺の中に封印されていたカードを手札に封じ、別のカードを手に取った。

 

「手札から[サイバー・ダーク・カノン]を捨てて効果を発動、[サイバー・ダーク・キール]を手札に加える」

 

 さっきのターン手札に加えたカードの効果により、さらに新たなサイバー・ダークモンスターが彩葉の手に渡る。そして彼女は棺の中に封印されていたカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

「魔法カード[サイバーダーク・インパクト!]を発動! 自分の手札・フィールド・墓地から、[サイバー・ダーク・ホーン]、[サイバー・ダーク・エッジ]、[サイバー・ダーク・キール]を一枚ずつ持ち主のデッキに戻し、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]一体を融合召喚する!

 墓地のホーン、エッジ、手札のキールでサイバーダーク・インパクト! 現れろ、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]!!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000

 

「来たか、裏サイバー流の切り札……」

 

「これだけじゃすまないっていうのはもちろん知ってるよね☆ サイバー・ダーク・ドラゴンの効果発動! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備。このカードの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私はさっきのターン墓地に送った[F・G・D]を装備、その元々の攻撃力5000、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力がアップ」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000→6000

 

 攻撃力6000。まさしく桁違いの攻撃力に観客となっている万丈目の取り巻き二人が悲鳴を上げ、鮫島が「彩葉君、ここまでやるようになりましたか」と感心したように頷いた。

 

「さらにサイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は自分の墓地のモンスターの数×100アップする。私の墓地のモンスターはサイバー・ダーク・カノン、ハウンド・ドラゴン、サイバー・ダーク・クロー、ベビードラゴン、強化支援メカ・ヘビーウェポンの五体! よって攻撃力がさらに500ポイントアップ!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:6500

 

 

「こ、攻撃力6500だって!?」

「あんなモンスターの攻撃を受けちまったら、いくらカイザーでも……」

 

 万丈目とのデュエルで見せたものとは大違いのとんでもない攻撃力に万丈目の取り巻き二人が頭を抱え悲鳴を上げる。落ち目の万丈目はともかくもしやカイザーと呼ばれる亮までも敗北するのかと二人が息を飲む横で鮫島は静かに見守っていた。

 

「まさかカイザーが、こんな程度で終わっちゃうのかな? サイバー・ダーク・ドラゴンでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃! フル・ダークネス・バースト!!」

 

 F・G・Dから吸収したエネルギーをレーザーのエネルギーに変換。高出力のレーザーがサイバー・ダーク・ドラゴンの口から放たれ、抵抗を許すことなくサイバー・ツイン・ドラゴンを貫き、粉砕。大爆発が亮のフィールドを包み込んだ。

 

「カ、カイザー!?」

「嘘だろ、まさか本当に……」

 

 万丈目の取り巻き二人が席から乗り出して目を剥く。そして大爆発によって生じた煙が晴れていく。

 

「ふ……」LP950

 

 そこにはライフを僅かに残して立つ亮の姿があった。

 

「……あは☆ さっすがカイザー。この程度で終わっちゃうなんてありえないもんねー……[ダメージ・ダイエット]で守ったんだね」

 

「その通りだ」

 

 彩葉の言葉に亮が首肯。

 ダメージ・ダイエット。発動したターン、コントローラーの受ける全てのダメージを半分にするトラップカード。

 これによってサイバー・ダーク・ドラゴンとサイバー・ツイン・ドラゴンの戦闘によって受ける戦闘ダメージ3700が半減して1850になり、本来なら即死となる攻撃を生き残ったという仕組みである。

 

「でも、これでサイバー・ツイン・ドラゴンは倒した。このまま押し切れば私の勝ちだよ? 私はカードを一枚セットしてターンエンド」

 

「そうでなくては張り合いがないというものだ。俺のターン、ドロー」

 

 彩葉は勝利を確信したように笑いながらターンエンドを宣言。亮がカードをドローした時、彼の場にも先ほどのターンの彩葉と同じ棺型のカプセルが出現、砕け散って彼の手に封印されていたカードを加えさせる。

 

「──このタイミングで、リバースカードオープン」

 

 そこに彩葉が仕掛けた。

 

「[マインドクラッシュ]を発動。カード名を一つ宣言し、そのカードが相手の手札にある場合は相手はそのカードを全て捨て、ない場合は私が手札をランダムに一枚捨てる」

 

 もっとも私の手札はこの一枚だけだけど。と補足、ジッと亮の手札を見た。

 

「私が狙うのはタイムカプセルで手札に加わったカード。それは間違いなく、[パワー・ボンド]!」

 

 パワー・ボンド。カイザー亮を象徴するキラーカードと言っていいだろう。タイムカプセルによるサーチを狙ったコンボに万丈目の取り巻き二人がざわつき、鮫島が上手い使い方だというように頷く。

 

「俺の手札は[救援光]、[魔法石の採掘]、[強制転移]、[死者蘇生]、そして──」

 

 亮は正々堂々と一枚ずつ己の手札を公開、そして最後の一枚を微笑と共に公開した。

 

「──[サイバー・ドラゴン]だ。残念ながら、俺の手札に[パワー・ボンド]は存在しない」

 

「な!? そんな、嘘!?」

 

 タイムカプセルでサーチしたのはパワー・ボンドではなかった。その事実に彩葉が狼狽すると亮はふっと笑みを浮かべた。

 

「彩葉。お前はふざけているように見えて計算高く抜け目がない。そんなお前なら、俺がタイムカプセルでパワー・ボンドをサーチし、そこを見計らって手札破壊カードとのコンボを仕掛けてくる……それを俺が読めないと思ったか? マインドクラッシュの効果で手札を捨ててもらうぞ」

 

「っ……」

 

 亮が静かに、だが力強く断言。相手の行動を読み、敢えて自らが得意とするプレイングを崩して相手の読みを外させるプレイングに彩葉は息を飲んで唇を震わせつつ最後の手札を捨てる。

 

「には☆」

 

 そして彼女は煽るような笑みを浮かべた。

 

「でも~。これで私の手札はたしかにゼロだけど、カイザーも場がボロボロなのは変わんないよね~?」

 

「そうだな。なら一つずつ解決していくとしよう。俺は魔法カード[救援光]を発動、ライフを800支払い、ゲームから除外されている光属性モンスター[サイバー・ドラゴン]を手札に加える。次に[死者蘇生]を発動、墓地の[サイバー・ドラゴン]を特殊召喚」LP950→150

 サイバー・ドラゴン 守備力:1600

 

「んふふ。防御で手一杯かなぁ?」

 

 これで場と手札にサイバー・ドラゴンが三体揃ったが、肝心の融合カードが存在しない。これならサイバー・エンド・ドラゴンはもちろんサイバー融合モンスターが来る心配はないと笑う彩葉だった。

 

「ああ。抜け目のないお前が相手だからな、俺も奇策を行うしかお前の読みと計算に太刀打ちできなかった。例えば──」

 

 そんな彩葉に対し、亮も静かに頷いて話し始める。それと同時に、亮が最初のターンに伏せていたリバースカードが翻る。

 

「──敢えて[パワー・ボンド]を伏せておく。とかな」

 

「…………」

 

 どこか悪戯っぽい微笑を浮かべた表情な亮の場に翻った魔法カードは間違いなく[パワー・ボンド]。

 そのカードを見た彩葉の目が点になり、あんぐりと開いた口からは微妙に長い無言の後、「え? ちょ、は?」と声にならない声が出ていた。

 

「お前の事だ。サーチしてきたカードを手札破壊カードで叩き落としてくるだろうとは読んでいた。その中でピーピングされてパワー・ボンドを握っているとばれて警戒されるよりは、敢えてお前の目が届かない場所に置いて油断させるのも手かと思ってな」

 

 彩葉の戦術を予測し、それを崩すために敢えて手札に握っておくべきカードを伏せておく奇策を選んだ亮。それが見事に成功し、三体のサイバー・ドラゴンが融合する。

 

「出でよ、[サイバー・エンド・ドラゴン]!! パワー・ボンドの効果で攻撃力は倍になる!!」

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000→8000

 

 

「攻撃力8000! これならあいつのモンスターにも勝てる!」

「この攻撃が通ればカイザーの勝ちだ!」

 

 亮の場に現れる、サイバー流免許皆伝の証にしてカイザー亮の切り札──サイバー・エンド・ドラゴン。

 その圧倒的な攻撃力に万丈目の取り巻き二人が盛り上がり始める。

 

「んふふ、ざ~んねんでした♪」

 

 しかし、そこに彩葉が歌うように割り込む。

 

「サイバー・エンド・ドラゴンの融合召喚に成功した瞬間、トラップカード発動[ヘル・ポリマー]。自分フィールド上のモンスター一体を生け贄に捧げる事で、その融合モンスター一体のコントロールを得る。サイバー・ダーク・ドラゴンを生贄に捧げ、サイバー・エンド・ドラゴンのコントロールを得るよ」

 

「そう来るか……」

 

 サイバー・ダーク・ドラゴンが黒い煙となって消え、その煙がサイバー・エンド・ドラゴンにまとわりつく。そしてその煙が消えた時、サイバー・エンド・ドラゴンは彩葉を主とするように彼女の場に立ち、亮に敵意を向けていた。

 

「カイザーのサイバー・エンド・ドラゴンが!?」

 

「それだけではありません。亮はパワー・ボンドを使ってサイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚しています」

 

 万丈目の取り巻きAが驚愕の声を上げると鮫島が解説を始める。

 パワー・ボンド、機械族の専用融合魔法であり、融合召喚したモンスターの攻撃力を倍加させる爆発力のある融合カード。だがその代償としてエンドフェイズに融合召喚したモンスターの元々の攻撃力、つまり今回の場合は4000ダメージを受けてしまう。

 墓地から除外する事で効果ダメージを半減させられるダメージ・ダイエットを併用したとしても今のライフでは耐えきれないダメージだ。

 

「よしんば耐えたとしても、その時は次のターン、攻撃力8000のサイバー・エンド・ドラゴンが亮に牙を剥く。亮も彩葉君の動きを読んでいましたが、彩葉君もまた亮の動きを読んでいたというわけですね」

 

「な、なるほど……」

「だけどあいつ! さっきから卑怯な手ばっかり使いやがって!」

 

 このまま何も出来ずにターンを終了すればパワー・ボンドの反動により敗北、もしそれを耐えられたとしても攻撃力8000に貫通効果が加わるサイバー・エンド・ドラゴンのパワーの前では小手先の技などどうにもならないという二段重ねの策。

 そんな鮫島の解説を聞いた万丈目の取り巻きAが頷くと、万丈目の取り巻きBが憤る。

 おジャマトリオで亮の展開を妨害しようとしたり融合召喚を融合禁止エリアで妨害したりタイムカプセルに合わせたマインドクラッシュを使ってくる。亮の行動を妨害していくスタイルに憤る万丈目の取り巻きに、その声が聞こえたのか彩葉が「には☆」と笑みを見せた。

 

「卑怯なんて人聞き悪いな~? これ、私なりのリスペクトデュエルなんだけどね~?」

 

 

「これのどこがリスペクトデュエルだ卑怯者!」

「恥を知りやがれ!」

 

 彩葉の言葉に万丈目の取り巻きが腕を振り上げてブーイングを出す。

 

「彩葉、お前のリスペクトデュエルは付き合いの長い俺から見ても少々分かりにくいぞ」

 

「こんなに単純なのに?」

 

 ブーイングに見ていられなくなったのかぼやく亮に、彩葉はきょとんとしながら首を傾げる。

 

「相手の力に敬意を払い、私の全力でそれを打ち砕き勝利する。自分のカードに敬意を払い、勝利のために最大限活躍させる。それが私のリスペクトデュエルだよ?」

 

 相手を認めリスペクトする、だからこそ全力で勝つ事を目指す。

 にひっと笑いながらそう言う彩葉の表情は純粋で、思わず万丈目の取り巻きが二人とも黙りこくる横で鮫島もうんうんと頷いた。

 

「私達の信じるリスペクトデュエルとは少々考え方が違うものの、それもまた相手に対するリスペクトに変わりはない。そう信じたからこそ、私は彼女にサイバー流の免許皆伝を与え、彼女ならば新たなリスペクトデュエルの道をサイバー流に見せてくれると信じ、我がサイバー流ではリスペクトに反するとされて封印されていた裏サイバー流デッキを託しました……」

 

 

「だが……」

 

 鮫島と亮は、彩葉のリスペクトデュエルに理解を示しつつ、苦い表情を彼女に向ける。

 

「その煽り癖はどうにかならないのか? そのせいでお前は相手へのリスペクトが分かりにくいんだ」

 

「趣味だもん♪」

 

 どんがらがっしゃん、と万丈目の取り巻き二人がずっこけるのだった。

 

「で、どうするのカイザー? 自爆する? それともなんとか耐えて次のターンサイバー・エンド・ドラゴンにやられる?」

 

「どっちもお断りだ。と返そう」

 

 相変わらずニヤニヤ笑いで煽ってくる彩葉に亮はそう答え、その意志を示すように一枚のカードを発動した。

 

「魔法カード、[強制転移]発動。互いのプレイヤーは自分フィールドのモンスターを一体選び、そのモンスターのコントロールを入れ替える。俺はおジャマトークンを選択」

 

「私は……サイバー・エンド・ドラゴンを選択する」

 

 互いにフィールドのモンスターは一体ずつ。そのコントロールが入れ替わり、亮の場に再びサイバー・エンド・ドラゴンが戻ってくる。

 ギリ、と彩葉が悔しげに表情を歪ませて歯ぎしりする。

 

 

 

 

 

「……なんてね」

 

 その顔に不敵な笑みが浮かび、リバースカードが翻る。

 

「トラップ発動[トロイボム]。自分フィールド上のモンスターのコントロールが相手のカードの効果によって相手に移った時、そのモンスター一体を破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」

 

 

「サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は8000!」

「あいつ、ここまで罠を張ってたのかよ!?」

 

 じっとしていればパワー・ボンドの反動で自滅、パワー・ボンドの反動を耐えてもサイバー・エンド・ドラゴンの猛攻に晒される。そしてサイバー・エンド・ドラゴンを取り戻せばそれを想定していたメタカードで破壊され、さらにダメージを受けて敗北する。

 二重ではない、三重の罠に万丈目の取り巻き二人がまたも悲鳴を上げ、そしてサイバー・エンド・ドラゴンの内部からエネルギーが奔流する。このままでは自爆するのは時間の問題だ。

 

「……惜しかったな、彩葉。バーンは蛇足だった」

 

 それに対し、亮がふっと笑い、彼の場のリバースカードが翻る。

 

「カウンタートラップ、[ダメージ・ポラリライザー]。ダメージを与える効果が発動した時に発動する事ができ、その発動と効果を無効にし、お互いのプレイヤーはカードを一枚ドローする」

 

「な……」

 

 ダメージ・ポラリライザーのカードから漏れ出る光がサイバー・エンド・ドラゴンの自爆を防ぎ、正常な状態に戻す。その迷いのないプレイングに彩葉が絶句していると亮が口を開く。

 

「お前がマインドクラッシュを使い、俺の手札を確認した時点でコントロール奪取カードへのメタカードを伏せている事は想定していた。[強制転移]を見ていたのにお前は何の迷いもなくヘル・ポリマーでサイバー・エンド・ドラゴンを奪取してきたからな」

 

「く……」

 

 相手の僅かな仕草からも相手の戦術を推測、相手が行ってくるだろうあらゆる可能性を想定して己が今出来る手段で最善の対策をする。これもまた相手に対するリスペクトだろう。

 そのまま二人はカードをドロー、亮はドローカードを見てふっと微笑んだ後、彩葉をキッと睨みつけた。

 

「いくぞ、彩葉! 俺は装備魔法[エターナル・エヴォリューション・バースト]をサイバー・エンド・ドラゴンに装備し、バトル! この瞬間エターナル・エヴォリューション・バーストの効果! このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分バトルフェイズ中に相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない」

 

「っ!? それじゃあ……」

 

「本当に抜け目がなかったな、お前は。これにより、効果発動タイミングがバトルフェイズに限られる、お前の墓地の[超電磁タートル]は効果が発動できない……まったく、転んでもただでは起きない奴だ」

 

 マインドクラッシュのデメリットで捨てたのだろう。最後まで抜け目ない妹弟子に苦笑を漏らしながらも、亮は彩葉をビシッと指差した。

 

「ゆけ、サイバー・エンド・ドラゴン!!! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!!」

 

 亮からの指示を受け、サイバー・エンド・ドラゴンが三つ首の頭部、その口からエネルギーのレーザーを彩葉の場に異動したおジャマトークン目掛けて撃ち込む。その一撃におジャマトークンは呆気なく粉砕され、レーザーは勢い衰えぬまま彩葉へと突き進む。

 

(ごめん、サイバー・ダーク・ドラゴン、皆……あなた達の勝利のための献身を無駄にした……)LP500→0

 

 彩葉は心中にてエース、そしてこのデュエルで力を貸してくれた全てのカードへの謝罪を行いながら、エターナル・エヴォリューション・バーストの光に呑み込まれるのだった。

 

 

 

 

 

「「……」」

 

 彩葉ががくりと膝をつき、亮は緊張の糸が切れたというようにふぅ、と息を吐いて肩を撫でおろし身体の力を抜く。

 観客になっていた万丈目の取り巻き二人が、最後の攻防に目を剥いて動けない中、鮫島が静かに立ち上がって観客席からデュエルフィールドへと降りていく。

 

「素晴らしいデュエルでしたよ。亮、彩葉君」

 

「師範」

「げっ」

 

 さりげなくデュエルフィールドにまで上がってきた鮫島の姿に亮と彩葉が真逆の反応を見せる。

 

「亮。相手の僅かな仕草から戦術を予測し、対応する。相手に対するリスペクトが伺えるデュエルでした」

 

「ありがとうございます」

 

「彩葉君。今回は亮が一歩上回りましたが、いかなる状況においても最後まで勝利を諦めない姿勢。亮の全力に己も全力で応え、それを上回ろうとする勝利への意志。あなたのリスペクトデュエルを見せてもらいました」

 

「あ、あはは~ありがとうございます校長先生では私はこれで……」

 

 鮫島からの総評を受けた亮は恭しく頭を下げ、彩葉は引きつった笑みを漏らしながら言葉をまくし立ててそーっとその場を逃げようとする。しかし鮫島に背を向けた瞬間、彼女の肩ががしりと掴まれた。誰に、など言うまでもない。

 

「いえいえ彩葉君、あなたにはまだ話がありますよ?」

 

 鮫島だ。その顔にはニコニコとした笑顔が浮かんでいるものの、額には二つ三つでは済まない数の怒りマークがついていた。

 

「中等部を追い出されるレベルで色々やらかしている件、私が言った通り大人しく船に乗らずどこからかジェットスキーをかっぱらってデュエルアカデミアに不法侵入した件、そして前々から言っているその言葉遣い! 趣味と言っていたのが聞こえましたよ! 今から説教もとい私が直々に特別講義をしてあげましょう!」

 

 鮫島にずりずりと引きずられる彩葉。流石におじさんとはいえ大人と年齢的には中学生女子では力の差は明らかで、彩葉は何も抵抗が出来ずに引きずられる中必死で亮に手を伸ばす。

 

「い~や~! 助けて亮お兄ちゃん鮫島師範にわからせられちゃう~!」

 

「少しは反省しろ。俺もお前の言葉遣いだけは相手に対するリスペクトがなっていないと思っていたんだ」

 

 しかし彩葉の助けを求める声に亮は呆れたように目を細めて答え、彩葉が鮫島に引っ張っていかれるのを腕組みして見守るのみ。

 そして彼女が鮫島と共に去っていくのを見送った後、ふぅと息を吐いた。

 

「まったく、相変わらずの問題児だな。あいつは」

 

 とはいえ妹弟子である事に変わりはなく、少しは世話を焼くのもいいだろう。

 亮はそう考えてこれから彼女が編入する高等部一年の知り合いである明日香に女子寮にいる間だけでも彼女の世話を頼もうかと、あと彼女と一応は幼馴染に分類されて子分扱いされていた()に注意を呼び掛けておこうと思い至り、携帯電話を取り出すのだった。




《後書き》
「ストラクチャーデッキ-サイバー流の後継者-」及び「サイバー流・奥義相伝パック」発売決定おめでとうございます!(挨拶)
 というわけで、それをお祝いして&最近あるサイバー流アンチ系GXものにハマったのにあって彩葉VS亮のIF話を書いてみました。時間軸的には本編で彩葉が万丈目を打ち倒した後、亮からデュエルを挑まれたのに乗った場合というIFになります。

 そして書いてみた結果、今回はメスガキ成分はやや抑えめになりました。カイザーを相手にすると彩葉も煽る余裕がないし、亮も相手の事をよく知ってるから煽りや挑発に乗ったりしなくて煽りがいがない。
 そんなわけで今回はむしろ彼女なりのリスペクトデュエルを語る形になりましたが……実はこの作品、前身といえる設定がありまして。
 元々彩葉は「遊戯王GX~裏サイバー流列伝!~」という、たしかサイバー・ダーク・カノンやサイバー・ダーク・クローみたいなサイバー・ダーク新規が登場したのを機に思いついて書こうとした小説のオリ主として考えたキャラで、そちらではメスガキ成分はなくむしろ「相手と対等に認め合い、全力で戦って勝利を目指す。それこそがリスペクトデュエルである」という、遊戯王GXで掲げられたリスペクトデュエルとは異なる考え方のリスペクトデュエルを目指すキャラという位置づけでした。
 なおその作品内では彩葉は「サイバー流で修行していた頃、サイバー・ダーク達の戦いたいという声を聞いて裏サイバー流デッキを奪い取って逃げ出したせいでサイバー流から破門された」というトンデモ設定でした。(汗)
 そしてデュエルアカデミア入学を機に亮と戦い、己の目指すリスペクトデュエルを鮫島に認めさせ、デュエルアカデミアに己のリスペクトデュエルで波乱万丈を巻き起こす物語……を予定していたんですが色々ありまして頓挫。

 そしてこの作品を思いついて彩葉にメスガキ成分を追加して作ったのが本作になります。
 だからメスガキを表に出す余裕がなかったら自分なりのリスペクトと勝利を追い求める求道者モードになるのも当然といいますか……。(目逸らし)

 あとは今回の話を書こうと思い至ったきっかけがサイバー流アンチものだったので、彩葉のリスペクトデュエル像を出してみたかったというのもあったりしますね。(笑)

 まあそんな感じの今回のお話でした。続きがあるのかどうかは分かりません。多分ないと思います。
 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


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『柳里彩葉君。君のデュエルはリスペクトに反しています』

 今回の話は交響魔人先生(以下先生)の作品「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」(以下先生の作品)とのコラボとなっております。
 作品内容に関しては先生に監修していただいておりますが、今回のお話は先生の作品とは平行世界という設定になっており、こちらで明示された設定が先生の作品に反映されるとは限りません。
 また、こちらの設定と先生の作品の設定に齟齬や矛盾が発生する可能性も大いに存在します。

 あくまでも今回のお話は平行世界であったかもしれない物語であり、先生の作品の世界線とは一切関係ありません。予めご了承ください。


 デュエルフィールドに立つ二人のデュエリスト。

 一人はこのデュエルアカデミア本校の校長――才災校長に「才村」と呼ばれていた、オベリスクブルーの制服を着たサイバー流の門下生。もう一人は見た事がない、銀色の髪を緩くウェーブのかかったショートヘアにした、紅色の瞳の猫目な女子。

 口元にはニヤニヤとした笑みを浮かべており、オシリスレッドの制服そのものではないが、手作りなのだろうかそれを模した紅色の服をまるで何かの当てつけのように着用。その上から黒色のネコミミパーカーを羽織っている。

 

「中学生……いや、小学生か?」

 

「中等部一年生……のはずよ」

 

 俺――猫崎俊二が呟くと、俺の隣に立つ女子――才波光里がぼやいた。

 

「知ってるのか?」

 

「一応ね……彼女は柳里(やなり)彩葉(あやは)。人呼んで“サイバー流最大の問題児”よ」

 

 随分と物々しい二つ名だった。

 彼女の話によるとサイバー流の免許皆伝には至っているのだが素行に問題があり、他の門下生にデュエルを吹っかけては散々に煽りまくるというリスペクトの欠片もない行動を繰り返しており、本人は「私なりのリスペクトデュエル」と言い逃れしていたそうだが才災が師範になってから激突。ついには彼女がサイバー流を去ったということだ。

 

「鮫島前師範は、彼女にサイバー流免許皆伝の証であるサイバー・エンド・ドラゴンの継承の代わりにあるデッキを託したそうなんだけど……そこまで詳しい事は知らないわ」

 

「というか、そもそもなんで中学一年生がここにいるんだ?」

 

「さあ?」

 

 そんなこんなの間にデュエルが開始された。

 

「柳里彩葉! お前のリスペクトのないデュエル、この俺のリスペクトデュエルで打ち砕いてやる!」

 

「んふふ☆ よろしくお願いしまぁす♡」

 

 血気盛んに叫ぶ才村に対し、彩葉は猫目を細めてんふふと余裕そうに笑い、形だけでも礼儀正しく頭を下げる。その余裕が癪に障ったのか、先攻になった才村は額に怒りマークをくっつけながらカードをドローした。

 

「俺はモンスターをセットしてターンエンド!」

 

「……? え、それだけ?」

 

「黙れ! 次のターンになればそんな減らず口なんて叩けなくしてやる!」

 

 しかし才村が行うのはセットモンスターを一体出すだけの静かな立ち上がり。それを見た彩葉がややきょとんとした顔で呟くと才村の方も怒号で返し、彩葉は「はいはい」と受け流しながらデッキからカードをドローした。

 

「えーっとそうだなー……じゃあ、まずは[サイバー・ダーク・クロー]を捨てて効果を発動♪ このカードを手札から捨てて発動でき、デッキからサイバーダーク魔法・罠カード一枚を手札に加える。私はこの効果で……[サイバネティック・ホライゾン]を手札に加えるよ☆」

 

 

「ふざけるな! そいつのカード名には“サイバーダーク”がないだろ!」

「リスペクトもなければルール違反もする卑怯者め!」

「お前の反則負けだ!」

 

 彩葉がデッキからカードをサーチした途端、周りのサイバー流門下生から怒号のようなブーイングが響く。

 しかし周りから聞こえてくるそれらに対し、彩葉は「あは☆」と一笑いで応えてみせた。

 

「サイバー流のおにーさんもおねーさんも知らないの? サイバネティック・ホライゾンは“このカードはルール上「サイバーダーク」カードとしても扱う”っていう効果外テキストがちゃんと書かれてるんだよ? サイバー流に関わるカードのテキストも把握してないなんて。それでもサイバー流なのぉ?」

 

 ほらほら見てごらん、というようにサーチしたサイバネティック・ホライゾンのカードを見せつける彩葉と空気を読んだのか見せびらかすサイバネティック・ホライゾンのカードを巨大モニターに映すカメラ。

 ニヤニヤと笑いながらのその言葉に先ほどブーイングを出していた門下生が揃って顔を赤くして黙り込む。だが……

 

「いきなり観客を煽ってきたな、あの子……」

 

「ええ……」

 

 サイバー流最大の問題児と呼ばれる所以が分かった気がする。だがあの子の言う「サイバー流に関わるカードのテキストも把握してないなんて」という言葉には一理ある。流石に全てのカードのテキスト・効果を把握するなんて不可能だが、自分がメインで使うカードに関するカードの効果くらいはおおよそでも把握しておくのはデュエリストとして当然だろう。

 そんな事を考えていた時にふと視界の端にちらりと見えたが、丸藤亮がこめかみを押さえながらうつむいていた。才波によると彼は彼女がサイバー流にいた頃によく世話を焼いていたらしい、彼も苦労するな。

 

「じゃあ私は[サイバネティック・ホライゾン]を発動。手札及びデッキからそれぞれ一体ずつ、ドラゴン族・機械族のサイバーモンスターを墓地へ送って発動でき、デッキからドラゴン族・機械族のサイバーモンスター一体を手札に加え、融合デッキから機械族のサイバー融合モンスター一体を墓地へ送る。

 ただし、このカード名のカードは一ターンに一枚しか発動できず、このカードを発動するターン、私は機械族モンスターしか融合デッキから特殊召喚できない。

 私は手札から機械族の[サイバー・ドラゴン]を、デッキからドラゴン族の[サイバー・ダーク・カノン]を墓地に送り、デッキから[サイバー・ダーク・ホーン]を手札に加え、融合デッキから[サイバー・ツイン・ドラゴン]を墓地に送るよ」

 

「お前、サイバー・ドラゴンを墓地に送るなんて、仮にも元サイバー流としてサイバー・ドラゴンへのリスペクトはないのか!?」

 

リスペクトしてるからこそ、なんだけどなぁ……私はさらに魔法カード[竜の霊廟]を発動。デッキからドラゴン族モンスター一体を墓地へ送り、この効果で墓地へ送られたモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、さらにデッキからドラゴン族モンスター一体を墓地へ送る事ができる。

 ただし、このカード名のカードは一ターンに一枚しか発動できない。

 私はドラゴン族の通常モンスター[トライホーン・ドラゴン]を墓地に送り、さらに[比翼レンリン]を墓地に送るよ」

 

 まだ手札は二枚しか減っていないのに既に墓地には六枚もモンスターが送られている。しかし自ら墓地にモンスターを送るという行動自体が引っかかるのか、周りからは「リスペクトがない」「所詮はサイバー流を追い出された卑怯者」などぼそぼそと彼女への陰口が飛んでいた。

 

「私は[サイバー・ダーク・ホーン]を召喚し、効果発動。このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備し、このカードの攻撃力はこのカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地のレベル3のドラゴン族、サイバー・ダーク・カノンを装備するよ」

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:800→2400

 

 彩葉の場に現れるのはその他の通り巨大な(ホーン)が目立つ機械モンスター。その腹部に格納されていたケーブルが地面へと伸び、先ほど墓地に送られたサイバー・ダーク・カノンを引きずり出すと腹部に装着。そのエネルギーを吸い取って己の攻撃力を一気に上級モンスターレベルにまで上昇させた。

 

「サイバー・ダーク……やっぱりリスペクトの欠片もないだけあるな! そんな不気味なデッキを使うなんて!」

 

 才村が我が意を得たりとばかりに彩葉の場のサイバー・ダーク・ホーンを指差して声を上げ、同時に周りのサイバー流門下生からも「サイバー流の恥さらし!」とか「所詮は落ちた鮫島の下にいた奴だ!」とか「さっさと負けちまえ!」とかの暴言が飛び始める。

 その言葉に対し、彩葉は猫目を細めて貼りつけたような笑みを浮かべつつ、才村の場を指差した。

 

「バトルだよ。サイバー・ダーク・ホーン、あの守備モンスターを攻撃。サイバー・ダーク・ホーンは貫通効果を持つよ」

 

「ぐああっ! く、破壊された[シャインエンジェル]の効果発動!デッキから[プロト・サイバー・ドラゴン]を特殊召喚!」LP4000→2400

 プロト・サイバー・ドラゴン 攻撃力:1100

 

 貫通効果を持つサイバー・ダーク・ホーンの一撃が大きく才村のライフを削るが、相手もプロト・サイバー・ドラゴンを出す。次のターンの布石だろう。

 

「サイバー・ダーク・カノンの効果発動。このカードを装備カード扱いとして装備しているモンスターが戦闘を行ったダメージ計算時に発動でき、デッキからモンスター一体を墓地へ送る。私は[サイバー・ダーク・エッジ]を墓地に送るね。リバースカードを二枚セットしてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 彩葉がターンエンドを宣言し、才村がカードをドローすると途端に彼は得意気な笑みを見せる。

 

「見せてやる! これがリスペクトデュエルの頂点ってやつだ! 俺は魔法カード[融合]を発動! フィールドの[プロト・サイバー・ドラゴン(サイバー・ドラゴン)]と手札の二体の[サイバー・ドラゴン]を融合! 現れろ、[サイバー・エンド・ドラゴン]!!」

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000

 

 才村の場に現れるサイバー・エンド・ドラゴン。だが奴はまだ終わらないというように手札を取った。

 

「魔法カード[融合回収(フュージョン・リカバリー)]発動! 墓地から[融合]と[サイバー・ドラゴン]を手札に加える。手札から[プロト・サイバー・ドラゴン]を召喚し、もう一度[融合]を発動!

 フィールドの[プロト・サイバー・ドラゴン(サイバー・ドラゴン)]と手札の二体の[サイバー・ドラゴン]を融合! もう一体現れろ、[サイバー・エンド・ドラゴン]!!」

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000

 

 

「よっしゃあ! いいぞぉ才村!」

「二体のサイバー・エンド・ドラゴン!」

「リスペクトデュエルに反する恥知らずなんてこれで終わりだ!」

 

 手札を全て使い切ったが二体のサイバー・エンド・ドラゴンが並び、サイバー流門下生から声援が響く。だが彩葉の余裕そうな笑みは消えていなかった。

 

「そんな空元気の笑い顔もこれで終わりだ! サイバー・エンド・ドラゴンでサイバー・ダーク・ホーンを攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

 

 攻撃指示を受けたサイバー・エンド・ドラゴンがサイバー・ダーク・ホーン目掛けてレーザーを発射する。しかしその時、サイバー・ダーク・ホーンがケーブルを動かしてサイバー・ダーク・カノンを盾にするように展開する。

 

「サイバー・ダーク・ホーンの効果。このカードが戦闘で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊するよ。さらに破壊されたサイバー・ダーク・カノンの効果発動。モンスターに装備されているこのカードが墓地へ送られた場合、私はデッキからカードを一枚ドローする」LP4000→2400

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:2400→800

 

 

「モンスターを墓地に送って、無理矢理装備して、しかも盾にするなんて卑怯者が!」

「だけどたかが一時しのぎに過ぎないわ!」

「あんな雑魚やっちまえ!」

 

 

「ああ! もう一体のサイバー・エンド・ドラゴンでサイバー・ダーク・ホーンを攻撃!! これで終わりだ!」

 

 周りのサイバー流門下生のヤジ交じりの声援に応えるように、二体目のサイバー・エンド・ドラゴンがレーザーを放つ。今のサイバー・ダーク・ホーンは実質ただのノーマルモンスター、ステータスの差は歴然、この一撃を受ければ勝負は決まる。

 

「ざんね~ん♪」

 

 だが彩葉の煽るような笑みと共に彼女の場のリバースカードが翻った。

 

「トラップカード[パワー・ウォール]。相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動でき、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき一枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。私が受ける戦闘ダメージは3200、これが0になるように500ダメージにつき一枚、よって七枚のカードを墓地に送るよ」

 

 デッキの上から七枚のカードを抜いて前方に放り投げ、そのカードが壁になったようにサイバー・エンド・ドラゴンの放ったレーザーを防ぐ。サイバー・ダーク・ホーンを守ることこそ出来なかったものの自分のライフは1ポイントたりとも削られていない。

 

「ねーねーおにーさん。もう終わりー? あんなに偉そうに言っておいてまさかそんなわけないよね~?」

 

 投げた七枚のカードをすぐさま拾って改めて墓地に送った後、彩葉はニヤニヤと笑いながら才村を煽り始める。才村もぐぬ、と唸り声を上げた。

 

「お前、自分を守るためだけにデッキをそんなに削って! どこまでリスペクトがなければ気が済むんだ!?」

 

「あは☆ 何それ負け惜しみ~? ダッサ♪ 攻撃反応型のトラップなんだから先にサイクロンで割っとくなりトラップカードなんだからトラップ・ジャマーで防げばいいだけなのに、何もしないなんてそっちの怠慢じゃん☆ ねーねー、まだ何かする事あるんなら早く進めてよ~♪」

 

「ぐ、ぐぎぎ……」

 

 才村の煽りに彩葉も煽りで応える。その言葉に才村が再び唸り声を上げた。

 というのも彼に手札はなく、伏せカードもない。つまり既に彼にこのターンやれる事はなく、デュエルを進行させるために出来るのはたった一つだけだ。

 

「タ……ターンエンド」

 

「きゃはっ☆ じゃあ私のターンだね。ドロー。魔法カード[貪欲な壺]を発動、墓地からモンスターを五体選んでデッキに戻してシャッフルし、デッキから二枚ドローする。私は[サイバー・ドラゴン]、[サイバー・ツイン・ドラゴン]、[サイバー・ダーク・クロー]、[ベビードラゴン]、[比翼レンリン]をデッキに戻してシャッフル。二枚ドローするよ」

 

 先攻ワンターン目での墓地肥やし以外にもパワー・ウォールの効果で大量にカードが墓地に送られた。貪欲な壺に使うモンスターに事欠くこともなく彩葉は手札を増やしている。

 

「魔法カード[アームズ・ホール]を発動。デッキの一番上のカードを墓地へ送って発動でき、自分のデッキ・墓地から装備魔法カード一枚を選んで手札に加える。私は装備魔法[自律行動ユニット]を手札に加えるよ。

 ただしこのカードを発動するターン、自分は通常召喚できないんだけど……まあ問題はないよね」

 

 そう呟いて、彩葉はニヤリと笑みを見せた。

 

「魔法カード[オーバーロード・フュージョン]を発動! 自分のフィールド・墓地から、機械族・闇属性の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター一体を融合デッキから融合召喚する

 私は墓地の[サイバー・ダーク・ホーン]、[サイバー・ダーク・エッジ]、[サイバー・ダーク・キール]でオーバーロード・フュージョン! 現れろ、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]!!」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000

 

 さっきのターンで戦闘によって破壊されたホーン、カノンの効果で墓地に送られたエッジ、そしてパワー・ウォールで墓地に送られたと推測できるキール。この三体が爆発的な融合エネルギーに包み込まれ、サイバー・ダーク・ドラゴンが彼女の場に降臨した。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンの効果発動! このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備。このカードの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地の[トライホーン・ドラゴン]を装備、その元々の攻撃力2850、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力がアップ」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:1000→3850

 

「はっ、大層な方法で召喚しておいて攻撃力はサイバー・エンド・ドラゴンより下だ! そんな奴次のターン俺のサイバー・エンド――」

 

「さらに、サイバー・ダーク・ドラゴンの攻撃力は自分の墓地のモンスターの数×100アップする。私の墓地のモンスターは[サイバー・ダーク・カノン]と[ネクロ・ガードナー]の二体」

 鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン 攻撃力:3850→4050

 

「――で……な、あ……」

 

「バトル♪」

 

 合計攻撃力4050。そう、40()0、たった50だがサイバー・エンド・ドラゴンを上回った。

 その光景に才村が絶句している中、彩葉は純粋な笑みでバトルを宣言。サイバー・エンド・ドラゴンを指差した。

 

「サイバー・ダーク・ドラゴンでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃! フル・ダークネス・バースト!!」

 

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!」LP2400→2350

 

 サイバー・ダーク・ドラゴンの放つレーザーがサイバー・エンド・ドラゴンの一体を撃ち抜き、爆散させる。同時にまさかサイバー・エンド・ドラゴンがやられるとは思わなかったのか周りのサイバー流門下生から困惑の声とざわめきが広がった。

 

「だ、だがたった50だ! 強化カードの一枚も来ればそんな奴……」

 

「メインフェイズ2に入るね。私は装備魔法[自律行動ユニット]を発動。ライフを1500ポイント支払い、相手の墓地のモンスター一体を自分フィールドに攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。私が特殊召喚し、自律行動ユニットを装備するのは当然[サイバー・エンド・ドラゴン]」LP2400→900

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000

 

 

「サ、サイバー・エンド・ドラゴンが奪われた……」

「相手のカードを奪うなんて卑怯者!」

「正々堂々と戦いやがれ恥知らず!」

 

 

「……きゃは☆」

 

 サイバー流最大の切り札がやられたどころか奪われた、その光景にサイバー流門下生からの怒号が彩葉へと浴びせかけられる。だが彼女は何も気にしていないというように目を細めて笑い、さらに一枚のカードを見せる。

 

「魔法カード[パワー・ボンド]を発動。機械族モンスターを融合召喚するよ」

 

「な、なに!? だがお前の場にいるのは……っ、ま、まさか!?」

 

「そう。私は[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]と[サイバー・エンド・ドラゴン]を融合!!!」

 

 バチバチとフィールドに電流が走る。サイバー・ダーク・ドラゴンとサイバー・エンド・ドラゴン、表裏のサイバー流の切り札が光に包まれて混ざり合う。

 

「現れろ[鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン]!!! パワー・ボンドの効果で攻撃力は倍になる!!!」

 鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン 攻撃力:5000→10000

 

「こ、攻撃力……10000……」

 

 紫電のようなエネルギーを身体中に走らせながら現れるのは、ビジュアル的にはサイバー・ダーク・ドラゴンの腹部にサイバー・エンド・ドラゴンを装備したような姿とでも言おう巨大なモンスター。

 サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力を倍以上上回る、文字通り桁違いの攻撃力に才村は引いていた。というか隣の才波もポカンと口を開いているし、周りのサイバー流門下生もおおよそ似たような反応である。いや、唯一亮だけはまるで妹の成長を目の当たりにした兄のように嬉しそうな表情を僅かに見せていた。

 

「く、くはっ、はははっ!!」

 

 だが突然才村が笑い出した。

 

「策士策に溺れる。いや、ただ攻撃力が高いモンスターを出したくて焦ったな! パワー・ボンドはエンドフェイズ時、融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける! だがお前はもうバトルを終えている、そうなれば攻撃力10000だろうがなんの意味もない!」

 

 そう。パワー・ボンドの効果でこのターンのエンドフェイズに、彩葉は5000ポイントのダメージを受けなければならない。だが今はバトルフェイズが終了した後に行われるメインフェイズ2。既に彼女に攻撃の権利はなく、何もしなければこのままエンドフェイズに5000ポイントのダメージを受けて彼女の負けだ。

 周りからも「所詮はリスペクトのないデュエルだ!」、「卑怯者にはお似合いの末路ね!」、「さっさとターンエンドして負けちまえ!」などとヤジが飛ぶ。

 

「リバースカードオープン」

 

 そのヤジに彼女は言葉ではなくプレイングで応えた。

 

「[レインボー・ライフ]。手札を一枚捨てて発動でき、このターンのエンドフェイズ時まで、私は戦闘及びカードの効果によってダメージを受ける代わりに、その数値分だけライフポイントを回復する」

 

 そう言って彩葉が最後の手札を捨てた時、彼女を守るように虹色の膜が包み込む。

 

「え……? だ、だめーじが……かいふく……?」

 

 その言葉を聞いた才村がぼんやりとした声で呟く。まるで彼女の言った言葉を信じたくないように。

 

「あ、そーそー。サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの効果を発動するね、一ターンに一度発動でき、自分・相手の墓地のモンスター一体を選び、このカードに装備する。私は[サイバー・ダーク・カノン]を装備するよ☆」

 

 サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンにサイバー・ダーク・カノンが装備されるがもはや才村はそれどころではないというように無反応。

 そして彼女が「ターンエンド」と宣言した時、本来以上の力を得たサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンが、反動となるその余剰エネルギーの放出を開始。

 しかしそれを浴びる彩葉は苦しそうではなく、むしろ虹の膜に守られている事で本来ならダメージとなるエネルギーが回復へと変換されていた。

 

「ごちそーさまでした☆」LP2400→7400

 

「こ、攻撃力、10000で……しかも、あいつのライフは7400……は、はは……あはははは……」

 

 にへ、と笑う彩葉のライフは自爆するどころかむしろ初期ライフの倍にはちょっと届かないくらいにまで膨れ上がっており、例えダイレクトアタックを決めるとしてもパワー・ボンドかリミッター解除で攻撃力を倍加したサイバー・エンド・ドラゴンクラスでないと削り切れない。

 その上彼女の場には攻撃力10000のサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンが存在していた。もはや戦意喪失していてもおかしくはなく、実際に才村は顔を引きつらせて変な笑い声を出し始めていた。

 

「ほらほら、どーしたのおにーさん? おにーさんのターンだよ☆」

 

 だが才村が心折れて膝を屈しそうになった直前、彩葉が口を開く。まるで戦意喪失なんて許さないとでも言うように。

 

「正々堂々、攻撃力を上げて立ち向かうのがサイバー流(あなた達の戦い方)なんでしょう? ほら、がんばれ♡ がんばれ♡」

 

 最後には手拍子を打って可愛らしい笑顔と可愛らしい声で応援する彩葉。なかなかの美少女である彼女に応援されれば男としてはやる気が出そうなものだが、才村は軽く涙目になりながら、サイバー流という最後の矜持だけで己を支えているかのように震える手でカードをドローする。

 

「お、お……俺は……モンスターをセット、して……サイバー・エンド・ドラゴンを、守備表示に変更……ターン、エンド……」

 サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000→守備力:2800

 

 だが才村が出来たのはモンスターのセットとサイバー・エンド・ドラゴンを守備表示に変更し、守りを固めるのみ。

 無理もない、ドロー前のあいつの場のカードはサイバー・エンド・ドラゴン一体のみ。それで攻撃力10000の大型モンスターを除去するにはリミッター解除ですら足りない。効果による除去の方が手っ取り早いが、この場にいる才村のような才災校長の教えを受けたサイバー流の門下生は相手のカードを効果で除去するカードの使用を批判しているし、攻撃を封じるカードにも否定的だ。

 そこで新たにドローする一枚のカードのみで場をひっくり返せというのは無茶な相談にも程がある。それを可能にするにはそれこそ十代のようなチートドローが必要だろう。

 

「私のターン、ドロー」

 

 さっとカードをドローし、彩葉はサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを見上げる。

 

「サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの効果発動。あなたの墓地から[サイバー・エンド・ドラゴン]を装備するね」

 

「え、あ……待て、待って……やめろ……」

 

 サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンにサイバー・エンド・ドラゴンが装備される。サイバー流最大の切り札、それが奪われて相手の切り札の融合素材にされただけでは飽き足らずさらに装備カードにさせられるのに才村は呆然としながらも弱々しい声で拒否しようとするが、それも許されなかった。

 だが周りはブーイングを出さない。彼女の戦い方を肯定しているわけではない、ただ、ここで声を出して彼女に目をつけられる。それを恐れているのはさっきまでヤジを飛ばしていたサイバー流の門下生が揃ってドン引いたような恐れた表情を見せている事から簡単に伺えた。

 

「さらに装備魔法[ジャンク・アタック]をサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンに装備。装備モンスターが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える」

 

「……だ、大丈夫だ、サイバー・エンド・ドラゴンを戦闘破壊されてもダメージは2000、まだライフは残る……次のターン、まだ、次のターンが……」

 

 才村はまだ負けていないと必死に自分に言い聞かせている……ここまで来ればどうやっても命尽きるのが数ターン遅くなるだけのような気がするんだがな。

 

「あ、そーだ言い忘れてた。ごめんねおにーさん♡」

 

「え?」

 

 てへ、と舌を出して両手を合わせ、可愛らしく謝る彩葉に才村はぽけっとした顔を向ける。

 

「サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()☆」

 

「……へ?」

 

 今、サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンに装備されている装備カードはサイバー・ダーク・カノン、サイバー・エンド・ドラゴン、そしてジャンク・アタックの三枚。つまり三回攻撃が可能というわけだ。

 その言葉が事実だと証明するように、サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの四つの頭の内、サイバー・エンド・ドラゴン部分の三つの頭の左右の二つの頭にエネルギーが集中していく。

 

「バトル。サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンでサイバー・エンド・ドラゴンに攻撃」

 

「ひぃっ、あああぁぁぁぁっ!!」LP2350→350

 

「サイバー・ダーク・カノンの効果でデッキから[超電磁タートル]を墓地に送るね」

 

 放たれたレーザーにサイバー・エンド・ドラゴンが抵抗も出来ずに呑み込まれ、爆散。

 守備表示だから戦闘ダメージは受けないが、ジャンク・アタックの効果でバーンダメージは発生。これで次の守備モンスターの攻撃力が700以上ならその時点で敗北。仮にそれ未満だとしても……。

 

「守備モンスターを攻撃」

 

「つぅっ……」LP350→200

 

 破壊されたモンスターは攻撃力300のサイバー・ジラフ。ギリギリで踏み止まったがこれであいつの場はがら空き、手札も伏せカードも何もない。そもそも妨害カードを批判・否定している以上その手のカードも存在しないだろう。

 

「ダイレクトアタックだよ、サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン。エターナル」

 

「や、やめろ……」

 

「フル」

 

「やめてくれ……」

 

「エヴォリューション」

 

「いやだ」

 

「ダークネス」

 

「おれは」

 

 彩葉の言葉と共に、サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの四つの頭の内、サイバー・ダーク・ドラゴン部分の頭にエネルギーが溜まっていく。

 もはや防ぐ手段は何もなく、何も出来ずにサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを見上げる才村は完全に涙を流しながら震え、うわごとのように何か呟いている。

 

「バーストォ!!!」

 

「まけたくないいいぃぃぃぃっ!!!」LP200→0

 

 サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンから放たれたレーザーに才村が呑み込まれ、周りが完全にドン引きしている事によって生まれた静寂の中、才村の敗北を示すブザー音だけが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 デュエルが終わった途端、どこに待機していたのか才災校長がデュエルフィールドに上がると、まるで親の仇でも見るような厳しいどころではない目で彩葉を睨みつけた。

 どう考えても大人の男が中学生になったばかりの女の子に向けるような視線ではない。

 

「君のデュエルはやはり、リスペクトに反しています」

 

 ああ、やはりか。

 俺は才災校長のセリフをある程度予想していた。

 

「第一に、デュエル中の態度が悪いです」

 

 え? それお前が言うの? ブーメランというレベルでは無いぞ?

 

「相手を見下すような傲慢な言動……そこに私はリスペクト精神を感じられませんでした。さらに、元とはいえサイバー流で教えを受けておきながら、サイバー・ドラゴンを自ら墓地に送りにするだけでは飽き足らず、相手のサイバー・エンド・ドラゴンを奪って融合素材にする、装備カードにする……実に残念としか言いようがありません」

 

 本当に、本当にもうこの校長は救いようがない。

 

「パワー・ウォールのようなモンスターとの絆を断ち切るような罠カードや、ジャンク・アタックなどというバーンカードは言うまでもありませんが……」

 

 一呼吸おいて、才災校長は言葉を続ける。

 

「ラストターンで、高攻撃力の連続攻撃で反撃するチャンスすら与えず蹂躙するデュエルに、リスペクト精神はありません」

 

 そうなると、キメラテック・オーバー・ドラゴンもリスペクト精神を持たないカードになるが……。

 もしかして、使用を禁じているのか?後で才波に聞いてみるか……。

 

「……ごめんなさい」

 

 彩葉が頭を下げて謝罪の言葉を口にする。先ほどの煽りまくっていた姿と相反するあまりにしおらしく素直な態度に才災校長の方が目を白黒させていた。

 

「私は普通にやっていたつもりなんですが……サイバー流の方々が色々と言ってくるので、てっきり才災師範の教えているサイバー流ではこれがデフォルトなのかと思い、郷に入っては郷に従うつもりで……」

 

「い、いけしゃあしゃあと……」

 

 要は「このデュエルで先に煽ってきたのはてめーらだろ」だ。

 たしかに思い返せば彼女は本性はどうあれデュエル開始前はきちんと頭を下げて「よろしくお願いします」と挨拶しているのに対し、才村の方は「お前のリスペクトのないデュエル、この俺のリスペクトデュエルで打ち砕いてやる!」と彩葉を煽っているように聞こえなくもないし、サイバネティック・ホライゾンを発動した時も観客のサイバー流門下生が次々と彩葉にブーイングを出してきた。これも煽りと取ればたしかにこのデュエルにおいて先に煽ってきたのはサイバー流側である。

 才波の話によれば彼女はサイバー流に所属していた頃から似たようなものらしいが、ここはサイバー流の道場ではなくデュエルアカデミア。当然話に聞いているだけの俺を含めて当時の彼女の事を知らない生徒も多く、そういう生徒から僅かに「たしかになぁ」とか「あの子だけ責められるのは可哀想かも……」という彼女に同情的な声がほんの僅かながら出ていた。

 

「で、ですが才村君のサイバー・エンド・ドラゴンを奪ったり、パワー・ウォールというカードとの絆を断ち切るカードやジャンク・アタックのようなバーンカードを使うというリスペクトが感じられないプレイングをしていたのは事実!」

 

「そこはまあ、リスペクトデュエルの解釈違いです」

 

 続けてカードに対するリスペクトのなさを標的にする才災だが、彩葉はけろりとそう返していた。会場内がざわつく。

 

「そもそも私の使う裏サイバー流……もとい、サイバー・ダーク達は墓地にいるモンスターを装備する事で攻撃力を上げ、デュエルを優位に進めるモンスター」

 

「それらを使うためにモンスターを墓地に送る! それがリスペクトのない行動だと言っているのです!」

 

「私はそうは思いません」

 

 気づけば、彼女は才災校長と真正面から言い合いを行っていた。

 

「たしかにデュエルモンスターズにおいて、モンスターはフィールドに出て相手モンスターと戦う事で相手のライフを削り、自分のライフを守るのが主な役目」

 

「その通り! そのモンスターを戦わずして墓地に送るなどモンスターの役目を最初から放棄させるも同然! そんなものモンスターへのリスペクトを欠いた行動と言わざるを得ません!」

 

「ですが。デュエルモンスターズは進化し続けています」

 

 そう言い、彩葉が提示するカード。そのカード名はネクロ・ガードナー。

 

「ネクロ・ガードナーは墓地にある時、このカードを除外する事で相手モンスター一体の攻撃を無効にする。即ち()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

 

 そう。ネクロ・ガードナーはフィールドに出せばリクルータークラスの攻撃さえ防げない程度のステータスだが、墓地にあればサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃でさえ一発は確実に防ぐことが出来る。

 墓地がルール上公開情報である以上存在が相手にばれる事は避けられないため奇襲性はないが、場に伏せているわけではないのでサイクロンなどの汎用的な除去効果は通じないしフィールドを圧迫するわけでもない、そういう部分であればその手の防御カードを上回る。

 

「私の使った[オーバーロード・フュージョン]もその一枚。闇属性・機械族モンスターに限定されるものの墓地にモンスターがいさえすれば、融合よりもコスパを良くして融合モンスターを融合召喚出来ます。今回それで出したサイバー・ダーク・ドラゴンや、サイバー・ドラゴンが墓地に残っていて、もっと機械族モンスターが墓地にいればキメラテック・オーバー・ドラゴンの融合召喚も狙えました」

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴン……あんなサイバー・ドラゴンを食い物にした挙句、相手に反撃を許さないリスペクトに真っ向から反するモンスターまでも採用しているなど! あなたはどこまでリスペクトがないんですか!?」

 

「いえ。これが私のリスペクトデュエルです」

 

 彩葉の語る言葉を己の理念に合わないと否定する才災校長。だがそれに対し彼女は強く言い切った。

 というか、やっぱりキメラテック・オーバー・ドラゴンもリスペクト精神のないカード扱いなんだな。

 

「墓地のドラゴン族を装備する事で攻撃力を上げるサイバー・ダーク。これを主軸にするためには墓地にモンスターを送る事が最も効率がいい。そんなデッキなら、墓地にいてこそ真価を発揮するモンスターも活躍できる。私はそのモンスター達をリスペクトし、このデッキを作りました。即ち、これこそが私がサイバー流でリスペクトデュエルを学び、その殻を破る事で辿り着いた境地を示すデッキ」

 

 守破離という言葉がある。弟子はまず師から教わった型を「守り」、修行・鍛錬を行う事で一人前になっていく。そして修行の中で身に着けた型を研究してより自分に合った型を模索していく中で師から教わった既存の型を「破る」。そしてその上でさらに修行を重ねていく事でやがて既存の型に囚われることなく「離れる」事になる。という考え方だ。

 そう考えれば才災校長と話が噛み合わないのも当然だろう。サイバー流を学んでいない俺が言うのもなんだが、彼女のデュエルは既にサイバー流に有ってサイバー流に非ず。その型を破り、新たな境地に至るために既存のサイバー流の型から離れようとしているのだから。

 ……まあもっとも、才災校長のリスペクト精神を曲解したデュエルをしているサイバー流を既存の型と言っていいのかは疑問が残るわけだけど。

 

「全てのモンスターを、いえ、全てのカードをリスペクトし、それらを勝利のために最大限に活躍させる。そして相手を対等と認めリスペクトする。だからこそその相手に勝つために全力を尽くす。それが私のリスペクトデュエルです」

 

 格下と相手を見下さず、格上と己を卑下せず、対等であると認める。だからこそそんな相手に勝利するために全力を出す。か弱い兎を狩るにも全力を尽くす獣の王たる獅子を思わせる言葉に才災校長が一瞬ぐぬっと言葉を詰まらせた。

 

「あ、あの相手を小馬鹿にする言葉も、そうだというのですか!?」

 

「あ、いえあれは趣味です」

 

 どんがらがっしゃん、と生徒達が昭和のコントのように一斉にずっこける。台無しだった。

 

「ぐ、ぐぬぬ……認めません! 私はそんなリスペクトから外れた邪道のデュエルなど!」

 

 一緒にずっこけていた才災校長もすぐに立ち上がって再び彩葉を睨みつけて外を指差した。

 

「今すぐに出ていきなさい! 私が校長の座にいる限り、あなたがこのデュエルアカデミア本校に入学・転入できるなど思わないように!」

 

 おいおい、今の台詞って自分の考えに従わない奴はデュエルアカデミアに入学させないっていう圧力にしか聞こえないぞ……

 

「は~い。ちょっと面白そうだったから遊びに来ただけですし~了解で~す」

 

 だがそんな才災校長の言葉に対して彩葉は両手を頭の後ろで組んでくるりっと周り、デュエル場から出ていこうと歩き出す。

 

「あ~でも」

 

 デュエルフィールドから降りようとした時、彼女は才災校長の方を振り返る。猫目が細まり、口元にも怪しい笑みが浮かんだ。

 

「別に入学についてはご心配なく。私が進学を考えなきゃいけない頃にはもう全部終わってるだろうし♪」

 

 そう言い残すと彼女はネコミミパーカーのフードを被り、「にゃは☆」と無邪気な笑顔を観客席にいる俺達にサービスして悠々とデュエル場を出ていく。その間、誰一人として何か捨て台詞を残すどころか一言も喋れず、身じろぎ一つせずに彼女を不気味そうに見送るしか出来なかった。




《後書き》
 前書きで申し上げた通り、今回のお話は交響魔人先生の作品「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」とのコラボです。
 改めて交響魔人先生、快いコラボの許可及び執筆へのご協力ありがとうございました。

 今回のお話は、あちらの作品のサイバー流門下生曰く「効果によるバウンス(つまり効果除去)は卑怯」「攻撃力を上げて戦え」等がリスペクトデュエルとのことでしたので「じゃあ圧倒的な攻撃力で蹂躙するなら問題ないよね?」という、いわば才災流リスペクトデュエルへのアンチ小説としての意味合いも込めて執筆いたしました……交響魔人先生、本当に執筆へのご協力ありがとうございました。(深々)

 重ねて申し上げますが、今回のお話は特に才災校長による彩葉の批判部分に関しては交響魔人先生にご協力いただき、先生のご厚意による多少開示された設定を元に執筆いたしましたが、今回の話に合わせて多少変化した部分もありますので先生の作品の設定と矛盾や齟齬が発生する可能性が大いに存在します。あくまでも今回の話は先生の作品の世界線とは平行世界であり、世界観やストーリー的には一切関係ありません。
 この話と先生の作品の間で設定的な齟齬や矛盾が発生しても私及び交響魔人先生は一切責任を持ちませんのでよろしくお願いいたします。

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


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猫シンクロGX23話Another:IF DUEL

《前書き》
 今回の話は交響魔人先生(以下先生)の作品「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」(以下猫シンクロGX)とのコラボであり、猫シンクロGXの「第23話!さらば、デュエルアカデミア!丸藤翔、退学!」の彩葉VS翔のデュエルパートを「もしも彩葉がサイバー流デッキで翔とデュエルしたら」という題材にちょっとした+αを書き下ろしで追加して書かせていただきました。
 もちろん先生からの許可は取った上で、作品内容に関しては先生に監修していただいております。

 そのため猫シンクロGXを読んでいただいた上で読んだ方が楽しめると思います。
 少なくとも本作投稿時点で猫シンクロGXで丸藤翔が登場している第11話と第23話だけでも読んでおいた方が「どうして翔はこんな事になってるの?」という理由がある程度でも分かると思います。


 ある小さなデュエルモンスターズの大会の準決勝戦。大きなブーイングの中――準決勝に入るまでさんざん対戦相手のルール上問題のないプレイングを「リスペクトがない」と批判してきたのだから是非も無し――で、才災の教えを受けたデュエルアカデミアの卒業生でサイバー流の一人――才盾(さいじゅん)は既に数ターン経過したこのデュエルで己の勝利を確信したかのように笑いながら手札を取る。

 

「魔法カード[パワー・ボンド]! 手札の[サイバー・ドラゴン]三体を融合し、現れろ[サイバー・エンド・ドラゴン]!! さらにパワー・ボンドの効果で融合召喚されたモンスターは元々の攻撃力分、自身の攻撃力がアップする!」

サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力:4000→8000

 

 出現するのはサイバー流の切り札であるサイバー・エンド・ドラゴン。さらにその攻撃力は倍になり、才盾はクククと笑って対戦相手である黒ネコミミパーカーを着てネコミミ付きフードを被った少女を見た。

 

「これでトドメだ! サイバー・エンド・ドラゴンでゲート・キーパーを攻撃! サイバー・エンド・ドラゴンは貫通効果がある! いくらお前が未だに無傷でも、守備力1800のゲート・キーパーでは耐えきれまい! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!」

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの三つの頭から放たれる光線がゲート・キーパーを一撃で粉砕、勢い衰えぬまま黒ネコミミパーカーの少女へと向かっていく。その瞬間彼女の場の伏せカードが翻った。

 

「ダメージ計算時にトラップカード[パワー・ウォール]発動♪ 相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動できて、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき一枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。私が受ける戦闘ダメージは6200、これが0になるように500ダメージにつき一枚、つまり十三枚のカードを墓地に送って、今回の戦闘は無傷で終了。残念でしたー☆」

 

 十三枚のカードによって形成された障壁がエターナル・エヴォリューション・バーストの一撃から少女の身を守る。だがその光景に才盾が目を剥いた。

 

「自分の身を守るためだけに自分のデッキを破壊するなんてリスペクトに反する行為だぞ! 恥を知れ!!」

 

「あはは☆ 何それ攻撃が通らなかったからって文句言わないでよー。対策取ってない方が悪いんじゃん♪」

 

「リスペクトに反する奴が開き直るなんて見苦しい。だが、これでお前の場の(ガラクタ)は消えた。ゆけ、三体のサイバー・バリア・ドラゴン! トリプル・エヴォリューション・バリア・ショット!!」

サイバー・バリア・ドラゴン ×3 攻撃力:800

 

「く……」LP4000→1600

 

「俺はメインフェイズ2に[サイバー・ジラフ]を召喚し、リリースをして効果発動。このターン俺が受ける戦闘ダメージを0にする。これでパワー・ボンドのデメリットは実質無効になる」

 

 なんだかんだでパワー・ボンドでの自爆はしないように立ち回った才盾は、自慢げに笑いながら己の陣形を見せびらかすように両手を広げた。

 

「どうだ、俺の鉄壁の布陣! パワー・ボンドにより攻撃力が倍になったサイバー・エンド・ドラゴンと、それを守る三体のサイバー・バリア・ドラゴン! このターンはしのがれたが、サイバー・ジラフの効果でこのターン受ける俺の効果ダメージは0! 次のターンこそ終わらせてやる! ターンエンドだ!」

 

 サイバー・バリア・ドラゴンは攻撃表示で場に存在する時、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする。それが三体、つまり三回相手の攻撃を無効にすることが出来る。

 そして今才盾の相手である黒ネコミミパーカーを着てネコミミ付きフードを被った少女の場にモンスターはいない以上、この防御を破るだけでも至難の業。かと言って守備を固めても次のターン、貫通効果持ちのサイバー・エンド・ドラゴンで終わりになる可能性は極めて高い。まさしく絶体絶命という状況だ。

 

「……クスッ」

 

「ふん、負けを理解しておかしくなったか?」

 

 少女の口から漏れた笑い声を聞いた才盾の言葉に、少女は答える。

 

「守りはサイバー・バリア・ドラゴン三体だけ、伏せカードはなし、展開に必死になりすぎて手札もなし。この程度で鉄壁の布陣なんてお笑いだな~って思っただけだよ。おにーさん☆」

 

「な、なんだと貴様!?」

 

「私のターン、ドロー」

 

 少女の答えに才盾が憤るも、少女は構わずにカードをドロー。彼の攻撃の中でも温存していた事で保持に成功したドローカード含めて五枚の手札と二枚の伏せカードをちらりと確認、続けて僅かに口角を持ち上げて微笑。

 

「このターンで決めてあげるね♪」

 

 そして深く被ったフードの奥から赤い眼光を覗かせて勝利宣言。辺りがわぁっと盛り上がった。

 

「ふはははははは! 俺の鉄壁の布陣を破れる者などいるはずがない!!」

 

「あは♪」

 

 彼女の言葉を冗談か負け惜しみの類と受け取ったか高笑いをする才盾に対し、少女も口元を歪ませて笑みを見せる。

 

「私は魔法カード[黙する死者]を発動。墓地から通常モンスター[振り子刃の拷問機械]を守備表示で特殊召喚」

振り子刃の拷問機械 守備力:2000

 

 少女の場に現れるのは拷問機械の名を持つ一体のロボット。しかしその守備力はサイバー・エンド・ドラゴンには遥か及ばず壁にもならない。と才盾は勝ち誇った笑みを見せている。

 

「魔法カード[トランスターン]。自分フィールドの表側表示モンスター一体を墓地へ送り、墓地のそのモンスターと種族・属性が同じでレベルが一つ高いモンスター一体をデッキから特殊召喚する。私は振り子刃の拷問機械を墓地に送り、機械族・闇属性のレベル7モンスターをデッキから特殊召喚する」

 

 振り子刃の拷問機械が魔法陣の中に消え、その中から新たな機械モンスターが出現する。黒光りする機械的な身体に頭部と両腕が銃になっている、いわば機械龍(マシン・ドラゴン)とでもいうべき外見だ。

 

「おいで、[リボルバー・ドラゴン]。さらに魔法カード[死者蘇生]発動、墓地から[ブローバック・ドラゴン]を特殊召喚」

リボルバー・ドラゴン 攻撃力:2600

ブローバック・ドラゴン 攻撃力:2300

 

「リ、リボルバー・ドラゴンにブローバック・ドラゴンだと!? それはリスペクトに反するカードだ!」

 

「リスペクトに反する?」

 

「その通りだ! コイントスを三回して、二回表を出すだけでなんのデメリットもなくモンスターやカードを破壊する。戦闘すらせずに効果破壊なんてリスペクトに反するに決まっているだろう!」

 

 才盾がまるで親の仇でも見ているような目でリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンを睨みつけ、糾弾する。しかし周りの観客から同意は得られず、むしろ嘲笑が向けられて才盾がぐぬぬと唸り声を上げた。

 

「心配しなくてもリボルバー・ドラゴン達の効果は使わないであげるよ? その代わり――」

 

 ため息一つと共に、少女の場のカードが翻る。

 

「――トラップカードオープン、[ロスト・プライド]。手札の魔法カード一枚を墓地に送り、相手の墓地にある魔法カード一枚を手札に加える。私は魔法カード[オーバーロード・フュージョン]を墓地に送る。そして、あなたの墓地から[パワー・ボンド]を手札に加える」

 

「お、俺のパワー・ボンドを奪うだと!? お前にはリスペクト精神がないのか!?」

 

 再び才盾の批判が始まる。審判から「ルール上何も問題ありません、デュエルを続けてください。デュエルを不当に遅らせる場合、あなたを失格とします」と注意されては唸り声を上げながら黙るしか出来ず、少女はフードで顔を隠しながら、才盾からパワー・ボンドを受け取ると才盾に背を向けて元の位置へと戻っていく。

 そして彼に背を向けたままくるりと振り返って、パワー・ボンドのカードを今にも口付けそうな程に唇に近づけながら微笑んで言葉を紡ぐ。

 

「このカードをプレイした時、1000ポイントのダメージを受ける……じゃあさっそく[パワー・ボンド]を発動。ロスト・プライドの代償により私は1000ポイントのダメージを受ける」LP1600→600

 

「まさか、貴様! 俺のパワー・ボンドで!!」

 

「効果は説明するまでもないよね? 私は場のリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンを融合!」

 

 才盾が声を荒げるが少女はフードで隠れていない口元をニヤつかせながら、ロスト・プライドの代償によってダメージを受けつつも気にも留めずに場の二体の機械龍による融合を宣言。

 

「現れろ、[ガトリング・ドラゴン]!! パワー・ボンドの効果で攻撃力は倍になる!」

ガトリング・ドラゴン 攻撃力:2600→5200

 

「リスペクトに反するモンスターを素材にリスペクトに反する方法で召喚されたモンスター、絶対にリスペクトに反する悪どいモンスターに決まっている……」

 

 そして融合召喚されたのは三つの首の頭部にガトリング砲がついた機械龍。その姿を才盾が再び怒りに燃えた目で睨みつけた。

 

「ガトリング・ドラゴンの効果発動。一ターンに一度、自分のメインフェイズにコイントスを三回行う。そして表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する」

 

「ひ、卑怯だぞ! つまり三回表が出ればデメリット無しでモンスターを三体も破壊できるって事じゃないか!」

 

「うん。だってそういうカードだもん」

 

「リ、リスペクト精神があればそんな卑怯なカードなんてデッキに入れないはず! お前にはやっぱりリスペクト精神がないんだな!」

 

「そういう言い訳は聞き飽きたなー。じゃ、ガトリング・ドラゴンの効果発動。ガトリング発射準備」

 

 ガトリング・ドラゴンの三つの首を示すように、三つのコインのソリッドビジョンが出現。弾かれたように回転して上空に跳び、回転しながら重力に従って落下。

 思わず息を飲んでコインを見守ってしまう。そして落ちたコインの内二つが表を示す金色を、一つが裏を示す銀色になって着地していた。

 

「ハ、ハハハハハ! ざまぁみろ! これでサイバー・バリア・ドラゴンが残る! 攻撃さえ防ぎきればパワー・ボンドのデメリットでお前の負け! リスペクトがないからこう――」

「はいバーン」

「――え?」

 

 パァンッと乾いた銃声が響き、それに合わせて銀色の面を示していたコインが再び跳ねると表を示す金色の面を見せて着地した。

 そして、いきなり「バーン」とか言い出した少女は、右手にいつの間にか握ってコインの方に向けていた拳銃をくるくると弄び、その拳銃でフードの端を軽く持ち上げた。なんだかやけに様になっている格好である。

 

「はい、これで三つとも表。よってガトリング・ドラゴンの効果により、フィールドのモンスターを三体破壊するね」

 

「ふ、ふざけるな! どう見ても今のはおかしいだろう!? イカサマだ!」

 

 才盾先輩の糾弾の叫びや流石におかしいとざわつく観客に対し、少女は全く動じてない様子でソリッドビジョンだったらしい拳銃を消して、いつの間にかその手に握っていた罠カードを提示する。

 

「ガトリング・ドラゴンの効果発動にチェーンして、墓地の永続罠[銃砲撃(ガン・キャノン・ショット)]を除外、効果を発動してたんだよ。そのコイントスの結果を全て表が出たものとして扱う……つまりこのコイントス、最初から結果は決まってたの」

 

「ひ、卑怯者が!」

 

「そういうコンボだって言ってほしいな? さあ、ガトリング・ドラゴン。全力掃射!!」

 

 ガトリング・ドラゴンの三つの頭部に装備されているガトリングが急激に回転を開始、そしてガガガガガッと連続した銃声と共にガトリングから放たれる弾丸が才盾の場を襲い、三つの爆発が彼の場を覆う。

 そしてその爆発によって生じた煙が消えた時、才盾の場から三体のサイバー・バリア・ドラゴンが消えていた。

 

「お、俺の鉄壁の布陣が……」

 

 才盾がわなわなと震える。だが直後ギリッと歯を噛みしめて少女を睨みつけた。

 

「ひ、卑怯者め! 真っ向から攻撃せずに効果破壊をするとは何事だ!?」

 

「こんなの禁じられた聖杯の一つでも使ってれば防げた事態でしょ~? それもしないで卑怯者~なんて言わないでほしいなー」

 

「だっ、黙れ卑怯者!! 真っ向勝負で勝てないからってこんな汚いリスペクトの欠片もない手段を使うとは!」

 

 才盾のまたも批判に対し、少女は肩をすくめて悪びれる様子もなく、そもそも悪いことなどしていないのだから当然だが堂々としている。

 

「だ、大体貴様の負けに変わりはない! 俺の場のサイバー・エンド・ドラゴンは攻撃力8000! 同じパワー・ボンドで融合召喚したところで元々のステータスが違うんだ!」

 

「うん、そうだね。でも……これなら問題ないよね?」

 

 そう言って女の子が提示したカードを見た才盾が固まり、同時に彼女が発動したその魔法カードがソリッドビジョンに映し出される。

 

「[リミッター解除]。これでガトリング・ドラゴンの攻撃力は倍になるよ」

ガトリング・ドラゴン 攻撃力:5200→10400

 

「な……いやでも俺のライフは4000、この攻撃さえ耐えられれば……」

 

 そう。いくら攻撃力が高くなり、サイバー・エンド・ドラゴンを破壊したとしても、才盾のライフさえ残ればエンドフェイズにパワー・ボンドで彼女のライフは尽きる。

 

「バトル! ガトリング・ドラゴンでサイバー・エンド・ドラゴンに攻撃! ジャックポット・ガトリング・ラッシュ!!」

 

 その攻撃宣言と共に再びガトリングが回転をし始めた。ギャリリリリと先程よりも速い、まさに制限(リミッター)を解除したかのような速度での回転からズガガガガと耳をつんざくような爆音と共に強烈な連射が開始される。

 次々と排出される薬莢が、まるで漫画とかでのスロットで大当たり(ジャックポット)が出てコインが溢れ出るように地面に落ちて景気の良い金属音を立て続ける。

 だがそれはそれほどの数の弾丸が放たれたという事でもあり、実際にその弾丸の暴風雨に晒されたサイバー・エンド・ドラゴンがついに耐えきれず爆散した。

 

「ぐあああぁぁぁぁっ!!!」LP4000→1600

 

 そしてサイバー・エンド・ドラゴンを破壊してなお飽き足らないといわんばかりの弾丸が才盾を襲ってライフを削る。だがライフは尽きていない。これでエンドフェイズ、パワー・ボンドの効果で少女の負けが確定した。そう確信した才盾がざまあみろと彼女の場を見た時だった。

 爆発の勢いによってかネコミミ付きフードが外れ、緩くウェーブのかかったショートの銀髪を露わにしている少女の場の最後の伏せカードが翻っており、ガトリング・ドラゴンの姿が消え、その代わりにというように二体のモンスターが現れている。

 

「速攻魔法[融合解除]。ガトリング・ドラゴンの融合を解除して融合素材である[リボルバー・ドラゴン]と[ブローバック・ドラゴン]を墓地から特殊召喚」

リボルバー・ドラゴン 攻撃力:2600

ブローバック・ドラゴン 攻撃力:2300

 

「な……」

 

 そのモンスターの姿を見た才盾が絶句する。いや、彼の目線はむしろフードの取れた少女へと向けられていた。

 

「もちろん知ってるよね? バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターにも攻撃の権利はある」

 

「あ、あ、あ、あ……」

 

 少女の赤い瞳を宿す猫目が才盾を射抜く。それと同時にリボルバー・ドラゴンの三つの銃口が、ブローバック・ドラゴンの頭部の銃口が向けられ、才盾の顔が青くなる。

 

「ファイア♪」

 

「うわあああぁぁぁぁぁっ!!!」LP1600→0

 

 そしてそこから放たれた弾丸を浴びた才盾のライフが0を示した。

 

「き、貴様……やはり貴様には、リスペクトがない……」

 

「これが私のリスペクトだよ。せ・ん・ぱ・い♡」

 

 負けたショックで尻もちをつきながらも、対戦相手である少女を睨みつける才盾に対し、少女は尻もちをついている彼の元に歩き寄ると、彼の顔を上から覗き込むようにしながら煽る笑みを向ける。

 

「ううん……ざぁこ♡」

 

「ぐ、ぬ……」

 

「ざぁこざぁこ♪ せっかくデュエルアカデミアを卒業できたっていうのに、プロデュエリストにもなれず、サイバー流の失墜で職にもつけず日銭稼ぎ♪ 挙句の果てにあんなに自信満々だったくせに中学三年生にワンショットキルで負けちゃうなんて恥ずかしくないのぉ?」

 

「う、ぐぐぐ……うああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 真正面から煽りを受け、周りからも嘲笑を向けられた才盾は頭を抱えて発狂したかのように叫び声を上げる。

 そして少女は自分と同じく決勝戦へと勝ち上がった相手をチラリと見る。勝利の美酒に酔いしれ、得意気に笑いながら準決勝で戦った相手の戦術を偉そうに否定して悦に入る。決勝戦で戦う相手の事なんて見てもいないその相手に対し、彼女はどこか寂し気な目を向けていた。

 

 

 

 

 

 そして来たる決勝戦。

 黒ネコミミパーカーの少女は、同じく決勝戦に勝ち上がったデュエリスト――丸藤翔の対戦相手として立ちはだかる。その姿に翔が目を見開いた。

 

「あ、彩葉(あやは)……ちゃん……」

 

「久しぶり、翔おにーさん♪」

 

 絶句する翔に対し、煽るようなニヤニヤ笑いで久しぶりと答える少女の名は柳里(やなり)彩葉(あやは)

 翔とは一応幼馴染といえる関係であり、サイバー流の元門下生である彼女は翔とはかつて兄妹弟子だったが、サイバー流の師範が才災に変わった後教えられるようになったリスペクトデュエルを良しと出来ず才災やその派閥と激突、最後にはサイバー流から去っていった過去を持つ。

 ちなみに現在はデュエルアカデミア中等部三年生、卒業後は高等部への進学を希望しているが、才災は校長だった頃に彼女の入学だけはなんとしても阻止しようと計画していたという噂がまことしやかに囁かれているのは余談である。

 そんな彼女が決勝の相手であることに翔は苦虫を噛み潰したような表情を見せ、対して彩葉は幼馴染であり元とはいえ兄妹弟子である彼との再会を喜ぶような笑みを浮かべる。

 

「デュエル、見てたよ。相変わらず才災おじさんの教えを守ってるんだね」

 

「あ、当たり前ッス! 才災師範の教えは、正しいッス!」

 

「正しい、かぁ……」

 

 翔の主張に対し、彩葉は笑顔を消して、とても、とても悲しい眼を彼へと向けた。

 

「相手のエースモンスターや、練り上げた戦術を批判・否定するのがリスペクトデュエルなの?」

 

「当たり前ッス! 攻撃力2500のモンスターがエースとかレベルが低すぎるッス! そして恐竜族をドンドン除外するような戦術なんて批判されて当然っス! 僕は、正しい事をしているッス!」

 

 翔の主張を聞き、ふぅと控えめなため息を一つ。そして彩葉は決心する。

 審判にデッキ調整を申告してサイドデッキを取り出し、メインデッキ及びエクストラデッキから神の宣告、リボルバー・ドラゴン、炸裂装甲、ブローバック・ドラゴン、奈落の落とし穴、ガトリング・ドラゴン、パワー・ウォールなど才災師範の言う「リスペクト」に反したカードやそれらのサポートカードを抜き、それによって不足したスペースにサイドデッキに入れておいた「リスペクト」に則ったカードを投入。デッキをシャッフルした後、デュエルディスクにセットする。

 

「だったら……サイバー流の元兄妹弟子として、その正しい・リスペクト・デュエルで引導を渡してあげるよ」

「ふ、フン! サイバー流を追い出された癖に偉そうに! 卑怯なカードさえ使われなければ、僕が負けるはずが無いッス!」

 

 ニヤニヤ笑いを消し、どこか憐れむような瞳をしながらデュエルディスクを構える彩葉。それに対して翔もデュエルディスクを構える。

 

「「デュエルッ!!」」

 

 そして二人の声が重なり合った。

 

「先攻は譲るッス!」

 

「なら遠慮なく。私のターン、ドロー! モンスターをセット! カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

「僕のターン、ドロー! よし、僕は[パトロイド]を召喚!」

パトロイド 攻撃力:1200

 

「パトロイド……」

 

 モンスターとカードをセットし、相手の攻撃を警戒するように基本に忠実な一手を取る彩葉に対し、翔はパトカーがモチーフとなったビークロイドを召喚。そのモンスターを見た彩葉が警戒するように自分がセットしているカードを見た。

 

「バトル! パトロイドでセットモンスターを攻撃っス、シグナル・アタック!」

 

「え?……セ、セットしていたのは[サイバー・フェニックス]! 反射ダメージを受けてもらうよ!」

サイバー・フェニックス 守備力:1600

 

「えっ?! う、うわああああああああっ!」LP4000→3600

 

 サイレンを鳴らしながら突進するパトロイドだが、彼女の場にセットされていた機械の不死鳥が姿を現し、己の身を守るように構えていた翼でパトロイドを受け止めるとそのまま弾き飛ばし、弾かれたパトロイドが直撃した翔のライフが削られた。

 思わぬ反射ダメージに怯む翔だが、くっと唸って彩葉を指差した。

 

「く、ひ、卑怯ッス!」

 

「そう? そもそもパトロイドは、相手の場にセットされているカードを確認する効果があるよね。なんで使わないの?」

 

「うっ、そ、それは……」

 

セットモンスター(サイバー・フェニックス)に対して使っていれば、反射ダメージは防げたはずだよね?」

 

 居丈高に彩葉に批判の言葉を浴びせる翔だが、彩葉がジト目で答えた後鋭く指摘を返すと途端に言い淀み、やや考え込み始める。

 

「あ、相手のカードを確認するのは、リスペクト違反だからッス!」

 

「なら、なんでそのリスペクト違反のカードを入れてるの?」

 

「うぐっ!」

 

 とってつけたような言い訳のようだがその通り、話の矛盾をついてやればすぐボロが出る。

 デュエルアカデミアに行ったから成長したのかと思っていたが、逆にプレイングが劣化しているし挙句にプレイングミスをリスペクトだと言い張り、自分の未熟をリスペクトデュエルに責任転嫁している。

 一体何を学んでいたというのか。そんな事を考えてしまい、年上相手にする態度としてどうかと思うが、幼馴染の醜態に彩葉は頭を抱えて呆れてしまうのを隠せていなかった。

 

「ぼ、僕はカードを二枚伏せてターンエンドっス!」

 

「私のターン、ドロー! 私は、サイバー・フェニックスをリリースして、[サイバー・オーガ]をアドバンス召喚!」

サイバー・オーガ 攻撃力:1900

 

「サ、サイバー・オーガ!? なんでそれを彩葉ちゃんが!?」

 

「ちょっと訳あってね?」

 

「ふ、ふん! でも攻撃力は1900、そんなモンスター怖くもなんともないッス!」

 

 彩葉の場に現れる機械の鬼、サイバー流の中でもマイナーだが鮫島元師範が使っていたという事で一部では有名なモンスターの存在に翔はぎょっとするものの、すぐに虚勢を張り始める。

 

「バトル! サイバー・オーガで、パトロイドを攻撃!」

 

「くっ、罠発動[スーパーチャージ]! 僕の場のモンスターがロイドと名のつく機械族モンスターのみが存在する場合、相手の攻撃宣言時に発動できるッス! カードを二枚ドロー!」

 

「ならこっちも手札の[サイバー・オーガ]の効果発動。このカードを手札から墓地に捨て、自分フィールド上に存在するサイバー・オーガ一体が行う戦闘を一度だけ無効にし、さらに次の戦闘終了時まで攻撃力は2000ポイントアップする」

サイバー・オーガ 攻撃力:1900→3900

 

「はぁ? 自分の攻撃を自分で止めるなんて何考えてんスか?」

 

 サイバー・オーガの前に新たなサイバー・オーガが出現、その攻撃を受け止める。

 その光景を見た翔が訳が分からないとどこか見下した様子でぼやくと、彩葉はやれやれとかぶりを振った。

 

「こう考えてるの。速攻魔法発動[ダブルアップ・チャンス]。モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスター一体を対象としてこのバトルフェイズ中、そのモンスターはもう一度だけ攻撃できる。そしてこの効果でそのモンスターが攻撃するダメージステップの間、そのモンスターの攻撃力は倍になる」

サイバー・オーガ 攻撃力:3900→7800

 

「こ、攻撃力7800!?」

 

「くらえ、ダブルアップ・エヴォリューション・スマッシュ!」

 

 先程攻撃を止めたサイバー・オーガが、最初にいたサイバー・オーガと共にパトロイドの方を見る。その協力による攻撃力はサイバー流最大の切り札であるサイバー・エンド・ドラゴンの倍にも迫り、今度は二人がかりで攻撃を仕掛けるという様子でパトロイドに襲い掛かった。その姿に翔がひっと声を上げる。

 

「ひっ、ト、トラップ発動[ダメージ・ダイエット]! このターン受けるダメージを半分にするッス!」

 

「あれ? そういうのリスペクト違反じゃないの?」

 

「ダ、ダメージを半分にするだけで0にしたり攻撃を無効にしてるわけじゃないから問題ないッス!」

 

 発動したカードは才災の教えていたリスペクトデュエルではいい顔されないはずの防御カード。それを見た彩葉の言葉に翔はどこか言い訳がましく答えるも、彩葉はひょいと肩をすくめるだけでそれを終える。

 

「まあいいや、戦闘破壊させてもらうね。当然半減したとはいえダメージも受けてもらうよ」

 

「わあああああっ!」LP3600→300

 

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

サイバー・オーガ 攻撃力:7800→1900

 

 二体のサイバー・オーガの拳にパトロイドが粉砕され、衝撃波が翔に襲い掛かって彼のライフを削る。しかしなんとか首の皮一枚繋がった翔だった。

 

「ぼ、僕のターン、ドロー! よし。魔法カード[パワー・ボンド]を発動! 僕は手札のスチームロイド、ドリルロイド、サブマリンロイドを融合! 現れるッス! [スーパービークロイド-ジャンボドリル]! パワー・ボンドの効果で攻撃力は倍になる!」

スーパービークロイド-ジャンボドリル 攻撃力:3000→6000

 

 翔の場に地面からドリルで穴を開けて登場するスーパービークロイド。その圧倒的な攻撃力を見た翔が自慢げに胸を張り背を反り返らせる。

 

「この攻撃で僕の勝ちっス! バトル! ジャンボドリルでサイバー・オーガを攻撃!」

 

 勝ち誇る翔の指示を受けたジャンボドリルが真正面からサイバー・オーガに突撃。しかしその時彩葉の場のリバースカードが翻った。

 

「罠発動[ホーリー・ジャベリン]! 相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃力分ライフを回復!」LP4000→10000

 

「?! そ、そんなカードに何の意味があるッス?!」

 

「その後、ジャンボドリルとの戦闘によってサイバー・オーガは破壊される……」LP10000→5900

 

「い、一体何を考えているんスか……バトル終了! メインフェイズ2に[サイバー・ジラフ]を召喚! このカードをリリースして、僕が受ける効果ダメージを0にするッス! カードを一枚伏せてターンエンドッス!」

 

 翔が彩葉の不可解な行動にぼやく。ライフを回復したとはいえただの一時しのぎ、モンスターはいなくなった以上ジャンボドリルに勝つ事は不可能。しかもジャンボドリルには貫通効果があり、守備モンスターを出してきてもそれを倒しながらライフを削っていけばいいだけ。いや、そこらのモンスターなら貫通攻撃の余波だけで倒せるかもしれない。

 なんにしてもこれから彩葉がやるのはただの悪あがき、そう考えた翔は勝利を確信してニヤリと笑みを漏らしていた。

 

「私のターン、ドロー! モンスターをセット。そして魔法カード、[太陽の書』を発動! さっきセットした[メタモルポット]を反転召喚! メタモルポットのリバース効果発動、互いのプレイヤーは手札を全て捨てて新たに五枚ドローする」

メタモルポット 攻撃力:700

 

「僕の手札も0だから、五枚ドローするッス! ウヒャヒャ!!」

 

 引いたカードを見て馬鹿笑いする翔。

 単純に手札が増えたのが嬉しいのか、それとも切り札を引き当てたのか。でも恐らく関係ないだろう。彩葉はそう半ば確信しつつも、最後まで油断しないように手札を取った。

 

「速攻魔法[サイクロン」を発動! その伏せカードを破壊!」

 

「引っかかったっスね! これは罠カード[ワンダーガレージ]! このカードが破壊された事で、手札からレベル4以下のロイドと名のつく機械族モンスター[ジャイロイド]を守備表示で特殊召喚するッスよ!」

ジャイロイド 守備力:1000

 

 邪魔な罠を排除しようとしたところ、逆に罠を作動させて一ターンに一度戦闘では破壊されないジャイロイドを呼び出した。ざまあみろと笑う翔に対し、彩葉はふぅと安堵の息を漏らしていた。

 

(一応妨害を警戒してたけど、ブラフだったね……これで懸念事項は消えた)

 

 伏せカードはこれで消えた。手札はまだ四枚もあるが、そもそも翔の守っている才災の教えでは妨害はリスペクトに反するとされている。それでも念のため警戒はしていたが、もはや彼女を止めるものは何もない。

 

「速攻魔法[サイバネティック・フュージョン・サポート]! ライフポイントを半分払い、このターン、自分が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に一度だけ、その融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分の手札・フィールド上・墓地から選んでゲームから除外し、これらを融合素材にできる!」LP5900→2950

 

「へん、何を呼び出そうとジャンボドリルに勝てるわけがないッス!」

 

「それならとくと御覧じろ! 魔法カード[融合]を発動! サイバネティック・フュージョン・サポートの効果により、墓地からサイバー・オーガ二体を除外し、これらを融合素材にする! 融合召喚、[サイバー・オーガ・2]!!」

サイバー・オーガ・2 攻撃力:2600

 

 彩葉の場に現れるのは鮫島の切り札でもあった進化した機械の鬼。しかしその攻撃力はたった2600、と翔は勝ち誇った笑みを崩さない。

 

「リバーストラップ発動[メタル化・魔法反射装甲]! このカードを攻撃力・守備力300アップの装備カード扱いとしてサイバー・オーガ・2に装備!」

サイバー・オーガ・2 攻撃力:2600→2900

 

「ハーッハッハッハ! それでもたった2900! パワー・ボンドを使わなかったとしてもジャンボドリルに敵わないッス!」

 

「んふふ、それはどうかな? バトル! サイバー・オーガ・2でスーパービークロイド-ジャンボドリルに攻撃!」

 

「ははははは! 敵わないと見て潔く自滅の道を選んだッスか!?」

 

 攻撃力の差は倍以上、つまりサイバー・オーガ・2が破壊され、その攻撃力の差3100のダメージが彩葉に入れば勝負は決まる。その未来を見て翔は高笑いをし始めた。

 

「サイバー・オーガ・2の特殊効果! このカードが攻撃を行う時、攻撃対象モンスターの攻撃力の半分の数値だけこのカードの攻撃力をアップする!」

サイバー・オーガ・2 攻撃力:2900→5900

 

「残念、ギリギリ足りないッスねぇ! 彩葉ちゃん、いや彩葉! これから僕の事をアニキって呼ぶことを許してあげるッスよ!」

 

「さらに! メタル化・魔法反射装甲の効果! このカードの効果でこのカードを装備したモンスターの攻撃力は、モンスターに攻撃するダメージ計算時のみ、その攻撃対象モンスターの攻撃力の半分の数値分アップする!!」

 

「…………え?」

 

 彩葉の連続した言葉を聞き、最初は笑っていた翔の笑みが引きつる。

 サイバー・オーガ・2自身の効果で攻撃対象モンスターであるジャンボドリルの攻撃力の半分の数値がサイバー・オーガ・2の攻撃力に加わる。そしてメタル化・魔法反射装甲の効果によってさらにジャンボドリルの攻撃力の半分の数値分サイバー・オーガ・2の攻撃力がアップする。つまり……

 

「サイバー・オーガ・2の攻撃力は実質ジャンボドリルの攻撃力分アップする!」

サイバー・オーガ・2 攻撃力:5900→8900

 

「あ、あわわわわ……」

 

 一気に攻撃力が逆転。その光景に顔を青くした翔は彩葉を批判しようとしたが……出来ない。

 何故ならこのデュエル中、彩葉が使用したカードに『正しい・リスペクト・デュエル』に反するカードは無い。

 

「ま、負ける……? 正しい・リスペクト・デュエルをしている相手に?」

 

「才災おじさんの正しい・リスペクト・デュエルに乗っ取ったデッキだよ? これなら何の文句もないよね? 翔おにーさん☆」

 

「う、うぐぐぐぐ……!」

 

 がしり、とサイバー・オーガ・2がジャンボドリルを掴み、その身体が赤熱したように赤くなっていく。

 にぱっ☆と無邪気な微笑みを向ける彩葉に翔は顔を青くしたまま唸り声を上げる。

 

 才災に師範が変わり、サイバー流の中で教えられていたリスペクトデュエルが様変わりした事で、彩葉はサイバー流から離れた。

 それからデュエルアカデミアの中等部に通ってデュエルの基礎を学び直しながら、色々な場所に出かけて様々な大会に参加、武者修行をしていく中で色々なデュエリストに出会った。

 多彩な戦術に、戦略に出会った。自分が使いこなせるとは思えなかった低攻撃力なモンスターをエースとして活かす戦略を見た。自分では思いつかない程に練り上げられた戦術を見た。何度も勝って何度も負けた。しかし負けても相手を卑怯だと断じる事はせず、自分にない戦い方をリスペクトし、それを超えようと、勝利しようと努力を続けた。

 それこそが「己のカードをリスペクトし、共に勝利を掴むために最大限に活躍させる」、「相手をリスペクトし、だからこそ勝つために全力を尽くす」という、己の考えるリスペクトデュエルの道なのだと信じて。

 

 その間翔がしていた事と言えば、テスト前には祭壇を作って神頼みを行い、相手をリスペクトに反すると批判・否定するだけであった。

 

「……打ち砕いちゃえ、サイバー・オーガ・2♪」

 

 赤熱した片手でジャンボドリルを掴んで動きを封じ、もう片手を振りかぶって今にも燃え上がらんばかりに熱された拳を握り込む。

 

「エターナル・エヴォリューション・スマッシュ!!!」

 

 そしてジャンボドリルの頬を抉り抜くようなストレートがジャンボドリルに突き刺さり、ジャンボドリルが爆発。

 

「うぎゃあああああああああっ!!!」LP300→0

 

 その衝撃波を受けてライフが尽きた翔はその場にへたり込み、目の前の光景が信じられないという様子の放心状態になるのだった。




《後書き》
 前書きで申し上げた通り、今回のお話はまたも交響魔人先生の作品「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」とのコラボです。
 まあコラボというか、23話で彩葉ちゃんを出してくれたお礼にと今回のお話の原型を寄稿して、好評だったから許可を取って加筆修正して投稿したというか……。
 ちなみに話の流れがほとんど23話と同じになるので「盗作行為」判定されるか不安で一回投稿を中止、それから数日後「運営に聞けばいいじゃん」と思いついて運営に質問、「元作品の作者の許可済みであれば問題ございません。」という回答をいただいたので投稿したという裏話があったりします。

 そして今回のお話の内容ですが。前回の“『柳里彩葉君。君のデュエルはリスペクトに反しています』”は本作の世界観寄りの平行世界だから彩葉もサイバー・ダークデッキを使ってたけど、本作は元々猫シンクロGXへの寄稿という形で作っため猫シンクロGXの世界観寄りなのでサイバー・ダークは封印されているという設定で、だから彩葉も別のデッキを使う事になりました。それがガトリング・ドラゴンやサイバー・オーガになります。

 ちなみに前座になった才盾に関しては、今回のお話は元々「猫シンクロGXコラボへのお礼とあわよくば寄稿という形で投稿してくれないかな?という下心」で送ったので、彩葉が翔に対しては「道を踏み外した元兄弟子に引導を渡す」という意志でデュエルしてたからメスガキキャラは封印した形になっていたため、猫シンクロGX読者で彩葉ちゃん初見になる方が「彩葉はクールキャラ」と勘違いされたら申し訳ないと思って、メスガキマシマシで書いてみた結果になります。
 そうしたらなんかやっとこいつデュエル終わった後にメスガキらしい煽りをしてくれた……。(万丈目:メスガキの「ざぁこ」煽りしたら洒落になりそうにないと封印。亮:煽る余裕なかったし負けた。猫シンクロGXコラボ第一弾:デュエル終わった途端才災との問答フェイズ入って煽れなかった。という感じでデュエル終了後のメスガキ煽りする余裕がなかった)
 

 もしも今回のお話で興味を持っていただけたなら交響魔人先生の「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」もよろしくお願いします。
 それでは今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


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ギャンブラー系メスガキin地下デュエル場

 逃げ場のない牢屋の中、まるでコロシアムのように金網で囲まれているその中で一人の20代半ばから後半くらいだろう青年が目を血走らせて、目の前に立つ中学生くらいの少女を睨みつけていた。

 黒いパーカーを着ていてフードを被り、そのフードにネコミミがついていることからまるで黒猫を思わせるような猫目の少女はニヤニヤと笑いながら、ニット帽とベストを着用したワイルドな風貌をした青年を見つめていた。

 

「悪く思うなや嬢ちゃん。お前に勝てばワイの借金はチャラになるんや……」

 

「んっふふふ♪ 楽しもーねー♪」

 

 青年の言葉に少女はゆらゆらと揺れながら余裕綽々な様子で笑いながら答える。その様子に青年がチッと舌打ちを叩いた。

 

「さあ、本日のメインイベントォ! デスマッチデュエルを開催するぜぇ!」

 

 スピーカーからそんな実況が聞こえ、牢獄コロシアムの外でまるで見世物のように二人を見物してワインや軽食を嗜んでいる仮面をつけた男女が牢屋を見る。

 

「赤コーナー。若いなれどデュエルセンスは超逸品のラッキーガール。ヘルキャット彩葉!」

 

「応援よろしくお願いしまーす♡」

 

 紹介を受けた少女──彩葉が観客に媚びを売るように手を振って挨拶、彼女のファンなのか知らないが観客の一部が「おおおぉぉぉっ!」と盛り上がる。

 

「いいぞー彩葉ちゃーん!」

「君にまた大金を賭けたんだー!」

「また面白いデュエルを見せてくれー!」

 

 黄色い声を上げる観客に青年が忌々しそうな舌打ちを叩き、実況が続いて青コーナー、と口にした瞬間彼の声が響く。

 

「紹介なんぞどうでもええわ! とっととデュエル始めんかい! ワイはこんなクソガキとっとと倒して借金チャラにしたいんや!!」

 

「……えー、ではまあ。省略いたしましょう」

 

 青年の怒号に実況は彼の紹介を省略。

 

「あっはははは!」

「いいぞーチャレンジャー!」

「大穴でお前に賭けたんだー! 勝ってくれよー!」

 

 彩葉に対する声援に比べると嘲るような笑い声が混じった応援に青年がイライラしたように歯ぎしり。そう思っていると突然牢屋に入ってきたグラサン黒服のいかにもな男達が、青年の両腕や首に何かの装置を嵌め始めた。

 

「お、おい、なんやこれ!?」

 

「衝撃増幅装置。僅かなダメージでも全身に苦痛が走ります」

 

「なんやて!? そんなもん聞いとらんぞ!?」

 

 シルクハットにコート姿な痩躯の男性の言葉に青年が声を上げるがお構いなし。「これが地下デュエル」と締めくくるのみだった。

 

「ちぃっ! まあええわい。約束通り、このクソガキを倒せばワイの借金チャラにしてくれるんやろうなぁ?」

 

「お約束いたします」

 

 青年の言葉に痩躯の言葉はそう返すのみ。青年はだったらいいと言いたげな様子で、慣れたように件の衝撃増幅装置を装着した彩葉を再び血走った目で睨みつけた。彩葉もニヤニヤ笑いをしながら青年を見て、二人はデュエルディスクを構える。

 

「「デュエル!!!」」

 

「イッツァ、ショーターイム!!!」

 

 そして二人の掛け声とデスマッチデュエルなる地下デュエルの開始を宣言する実況の声が重なり合った。

 

「先攻は私だよ、ドロー」

 

 先攻を取ったのは彩葉。彼女はカードをドローすると手札を取る。

 

「私は[一撃必殺侍]を召喚して、カードを五枚セットしてターンエンドだよ」

 一撃必殺侍 攻撃力:1200

 

「はぁ!? いきなり手札全て使うやと!? 嬢ちゃんデュエルの定石知らんのか? まあええわ、ワイのターン。ドロー!」

 

 

 青年は彩葉のプレイングに呆けた声を出しつつ、だがそんな雑魚相手ならさっさと勝って借金チャラにしようと思ったのか深くツッコまずにドロー……その瞬間、彩葉がニヤリと笑った。

 

「おにーさん、手札今何枚?」

 

「はぁ? 六枚に決まっとるやろうが?」

 

 彩葉の言葉に青年がまた呆けた声を出す。後攻ワンターン目、手札は初期の五枚のまま、そこに一枚ドローしたから合計六枚。わざわざ計算するまでもない程単純な足し算だ。

 

「そっかー六枚かー。私の手札はゼロ枚なんだー」

 

「お、おう……」

 

「だからー……これを発動するね?」

 

 ニヤニヤ笑いの彩葉の場の伏せカードが一枚、翻る。

 

「トラップカード[ギャンブル]! このカードは相手の手札が六枚以上、自分の手札が二枚以下の場合に発動する事ができる。コイントスを一回行って裏表を当て、当たった場合、自分の手札が五枚になるようにデッキからカードをドローする。ハズレの場合、次の自分のターンをスキップする」

 

「なぁ!? ワンターン目からギャンブルカードやと!?」

 

 彩葉の大胆なプレイングに青年が騒然としていると、フィールドの中央に巨大なコインのソリッドビジョンが出現。表を示す目玉が一つある向きと裏を示す無地の向きが交互にくるくると回転して表示される。

 

「表」

 

 彩葉が自分の出目を宣言し、指をパチンと鳴らすと同時にコインが弾かれたように上空に飛ぶ。そして落ちてきたコインは彼女の宣言通り表向きを示していた。

 

「ギャンブルせいこー♪ ギャンブルの効果により手札が五枚になるように、五枚のカードをドローするね♡」

 

「ちぃっ! やけどそれがどうした! ワイは手札から──」

「あ、待っておにーさん。メインフェイズに入る前に、スタンバイフェイズにこのカードを発動するね」

「──なんやまだあるんかい!?」

 

 青年は彩葉が一気に五枚もカードをドローしてきたが、そんな事で流れを取られるものかと動き出す。が、腰を折るように彩葉が再びカードを発動する。

 

「永続罠、[死神の巡遊]を発動。相手ターンのスタンバイフェイズ時にコイントスを一回行って、表なら相手はエンドフェイズ時まで召喚・反転召喚する事ができず、裏なら私は次の自分のターン召喚・反転召喚する事ができない」

 

「チッ、またギャンブルカードかい……」

 

 再びフィールドの中央にコインのソリッドビジョンが出現。今度は出目を当てるのではなく出目によって決まる効果のためか彩葉は何も言わずに指パッチン。またもコインが上空へと飛んだ。そしてそのコインの出目が決まった途端、彩葉の場の死神の巡遊のカードから黒い霧が吹きだし始める。

 

「く、くそっ!?」

 

「あは♡ ラッキー♪ 表が出たことでこのターン、おにーさんは召喚・反転召喚出来ないよ♪」

 

 青年の表情が歪んだことからも分かるように出目は表。青年のフィールドを黒い霧が覆うが、青年はだったらと動く。

 

「だったらワイは手札から[俊足のギラザウルス]を特殊召喚! こいつは手札から特殊召喚が可能、その代わり特殊召喚に成功した時、相手は墓地からモンスターを無条件で特殊召喚できるが、お前の墓地にモンスターはない!」

 俊足のギラザウルス 攻撃力:1400

 

 つまり実質デメリットなしでの特殊召喚というわけだ。さらに青年はもう一体[俊足のギラザウルス]を特殊召喚。召喚が制限されたにも関わらず二体のモンスターを展開してみせた速さに観客が「おぉ~」と歓声を上げた。

 

「どうせギャンブル使いたさに苦し紛れで伏せたカードやろ! 三枚の伏せカードにビビるワイやないで! バトルや! 俊足のギラザウルスで一撃必殺侍に攻撃!!」

 

「この瞬間、一撃必殺侍の効果発動! このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動してコイントスを一回行い、裏表を当てる。当たった場合、その相手モンスターを破壊する」

 

 突進するギラザウルスに応戦しようと槍を構える侍、その頭上でコインがくるくると回転し始めた。

 

「表だよ」

 

 そして彩葉が宣言すると同時にコインが弾かれ、侍も槍を構えながらギラザウルス目掛けて突進。ギラザウルスの爪が振るわれ、侍の槍が突き出される。

 そして僅かな硬直の後に倒れたのは侍の方。彼の頭上のコインは裏を示していた。

 

「きゃああぁぁぁっ!」LP4000→3800

 

「へっ、ざまあみい。ギャンブルなんぞに頼るからそうなるんや。ゆけ、俊足のギラザウルス! ダイレクトアタックや!」

 

 ギラザウルスと一撃必殺侍の戦闘が行われたことによるダメージが発生。黒い電流が彼女の身体を流れ、ライフが削られる。苦痛に悶える彼女を見ていい気味だと笑う青年はもう一体のギラザウルスに追撃を指示、しかしその時彼女の場のカードが翻った。

 

「永続罠発動[リビングデッドの呼び声]! 墓地の[一撃必殺侍]を攻撃表示で特殊召喚!」

 一撃必殺侍 攻撃力:1200

 

「性懲りもなく! 叩き潰せギラザウルス!」

 

 再び現れた一撃必殺侍の頭上でコインが回転開始。彩葉がまたも「表!」と宣言してギラザウルスと侍が交差。そして今度倒れたのはギラザウルスの方だった。彼の頭上のコインは表を指している。

 

「一撃必殺侍の効果成功♪ でもダメージステップ開始時の効果破壊だから戦闘ダメージは受けないよ」

 

「クソが! メインフェイズ2に入ってワイはモンスターをセット! 召喚出来ないだけならセットは可能なはずや! さらにカードを一枚セットしてターンエンド!」

 

「わー。召喚とセットの違いが分かってるなんておにーさんすごーい♡」

 

「じゃかあしい! お前のターンや、さっさとドローせえ!」

 

 モンスターとカードを一枚ずつセットしてターン終了を宣言する青年に、彩葉はパチパチと拍手で賞賛。しかし青年はイライラした様子で彩葉を怒鳴りつけ、彼女は「はいはい」と言ってターン開始を宣言するようにカードをドローした。先ほどのギャンブル成功もあって手札は合計六枚、その状態に青年もチッと舌打ちを叩いていた。

 

「私は一撃必殺侍を生贄に捧げ、[ブローバック・ドラゴン]を召喚!」

 ブローバック・ドラゴン 攻撃力:2300

 

「攻撃力2300……」

 

 一撃必殺侍を生贄にして現れた上級モンスターの攻撃力は上級モンスターとしてはやや物足りない数値。それに青年はハッタリかと笑い、むしろ最悪戦闘すら行えない侍が消えたことに内心で安堵していた。

 

「ブローバック・ドラゴンの効果発動だよ。一ターンに一度、相手フィールドのカード一枚を対象とし、コイントスを三回行ってその内二回以上が表だった場合、その相手のカードを破壊する。おにーさんの場の伏せカードを対象にするよ。どうする? 破壊されるかもしれないけど……」

 

「ちぃ、やったらチェーンしてリバースカード発動[威嚇する咆哮]! これでお前はこのターン攻撃宣言を──」

「させないよ。カウンタートラップ発動[魔宮の賄賂]。魔法・罠カードの発動を無効にして破壊し、代わりに相手はカードを一枚ドローする」

「──なにぃっ!?」

 

 ブローバック・ドラゴンの効果から逃れようとカードを発動するも、それを一枚ドローと引き換えに無効にされる青年。上手くノセられたと歯噛みしつつ、だがドローできたのはよしと立て直す。

 その間にブローバック・ドラゴンの効果処理も開始され、三枚のコインのソリッドビジョンが宙を舞う。そして落ちてきたそれは表・裏・裏を示し、ブローバック・ドラゴンの頭部の銃が不発に終わる。効果失敗だった。

 

「ありゃーざーんねん。ま、いっか。おにーさんのカード無駄打ちさせたって事で♪」

 

「ぐぬぬ……」

 

 肩をすくめてぺろっと舌を出す彩葉。青年が怒りに腕を震わせていた。

 

「バトルだよ。ブローバック・ドラゴンで俊足のギラザウルスを攻撃!」

 

「ぐっ……があぁぁあああぁぁぁっ!?」LP4000→3100

 

 ブローバック・ドラゴンの頭部から放たれた銃弾がギラザウルスを撃ち抜き、粉砕。そのダメージが衝撃増幅装置によって電流として青年の身体に流れ、彼に苦悶の悲鳴を上げさせる。その様を見た観客も歓声を上げていた。

 

「メインフェイズ2に魔法カード[タイムカプセル]を発動。デッキからカードを一枚除外して、私の二回目のスタンバイフェイズにタイムカプセルを破壊、この効果で除外したカードを手札に加える。なんのカードを入れたのか、二ターン後を楽しみにしててね、おにーさん♡ ターンエンドだよ」

 

「ちぃ、ワイのターン、ドロー!」

 

「このスタンバイフェイズに死神の巡遊の効果発動!」

 

 またもコインが宙を舞い、落ちてきたコインが出目を示すと共にフィールドを黒い霧が覆い始める。

 

「く……」

 

「ひゃっははは! ざまあみい。たしか裏が出た時はお前は次の自分のターン召喚・反転召喚する事ができないんやったな!」

 

 コインが示したのは裏。先ほどのターンは青年の展開を封じていた黒い霧が今度は彩葉の場を覆い隠した。今度は自分が自分のカードで苦しめられる番だざまあみろと青年が高笑い。

 

「この隙を逃すと思うなよ! ワイは手札から[屍を貪る竜]を召喚し、さらにセットモンスター[二頭を持つキングレックス]を反転召喚や!」

 屍を貪る竜 攻撃力:1600

 二頭を持つキングレックス 攻撃力:1600

 

「うわ、今時そんな微妙なカードよく使うね……」

 

「余計なお世話じゃ! ワイは魔法カード[運命のウラドラ]を発動! ライフを1000ポイント払い、自分フィールドの表側表示モンスター一体を対象として相手ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力は1000アップ! さらにそのモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分のデッキの一番下のカードをお互いに確認し、デッキの一番上または一番下に戻す。さらに確認したカードがドラゴン族・恐竜族・海竜族・幻竜族モンスターだった場合、その攻撃力1000につき一枚、自分はデッキからドロー。その後、自分はドローした数×1000LP回復する! ワイは二頭を持つキングレックスの攻撃力をアップする!」LP3100→2100

 二頭を持つキングレックス 攻撃力:1600→2600

 

 煽るどころか素で引いている様子の彩葉に怒鳴り返しつつ青年は新たな魔法カードを発動。それと共にどこからともなく鳴り響く銅鑼の音を聞いた二頭を持つキングレックスが咆哮、その攻撃力が一気に上昇してブローバック・ドラゴンを上回る。

 

「バトルや! 二頭を持つキングレックスでブローバック・ドラゴンを攻撃ィ!」

 

「くっ、ああぁぁぁっ!!」LP3800→3500

 

 キングレックスの二つの頭がブローバック・ドラゴンを嚙み砕き、破壊。彩葉の身体を黒い電流が流れて彼女を傷つける。

 

「運命のウラドラの効果! デッキの一番下のカードを確認させてもらうで……」

 

 そして青年はデッキボトムのカードを引き抜き、破顔して見せつける。

 

「いよっしゃ! デッキの一番下のカードはドラゴン族[タイラント・ドラゴン]! これをデッキの一番下に戻し、さらに確認したタイラント・ドラゴンの攻撃力は2900! よって二枚デッキからドローしてライフを2000回復や!」LP2100→4100

 

「おぉ、面白くなってきたな」

「これはもしかすると、ヘルキャットが負けるかも……」

「大穴狙った甲斐があったぜ!」

 

 一気に二枚のドローに成功しただけではなく、さらに2000のライフ回復。その光景に観客達が騒ぎ出し、それに何か昔でも思い出したのか青年は上機嫌に笑いだした。

 

「キッヒヒヒ。ワイのバトルフェイズはまだ終わっとらん! 屍を貪る竜と俊足のギラザウルスでダイレクトアタックや!!」

 

「っ、ぎゃあああぁぁぁぁぁっ!!!」LP3500→500

 

 青年の場の二体の恐竜族モンスターの総攻撃力は3000。そんな大ダメージが電流としてプレイヤーに直接流し込まれ、流石の彩葉も苦痛の悲鳴を上げていた。

 

「キヒャヒャヒャヒャ! ざまあみい! ワイはカードを一枚セットしてターンエンドや!」

 

「っ……私のターン、ドロー」

 

「無駄や無駄。召喚も出来ん以上、お前に出来るのはカードのセットくらいやろうが」

 

 電流のダメージが効いているのかややよろけつつもカードをドローする彩葉に、青年は無駄だと煽る。たしかに死神の巡遊による黒い霧が彼女の場を覆っており、召喚・反転召喚は出来なくなっている。そう、()()()()()()()が封じられている。

 しかし彩葉はニヤッと笑みを見せた。

 

「それならこうするだけだよ♪ 魔法カード[死者転生]を発動、手札を一枚捨てて墓地の[ブローバック・ドラゴン]を手札に加え、魔法カード[融合]を発動! 手札の[リボルバー・ドラゴン]と[ブローバック・ドラゴン]を融合! 現れろ、[ガトリング・ドラゴン]!!」

 ガトリング・ドラゴン 攻撃力:2600

 

「し、しまった……死神の巡遊では特殊召喚は封じられてない……」

 

 彩葉のフィールドに現れる、三つの首の頭部にガトリング砲がついた機械龍。その姿に青年が目を見開いた。

 

「ガトリング・ドラゴンの効果発動だよ。一ターンに一度、自分のメインフェイズにコイントスを三回行う。そして表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊する」

 

「な、なんやてぇっ!?」

 

 つまりノーコストで最大三体破壊。今青年の場にいる三体の恐竜族モンスター、その全てが一掃される可能性がある。そんなとんでもない効果に青年が驚いている間に、またも三つのコインのソリッドビジョンが宙を舞い、落っこちる。それは表・裏・表を示していた。

 

「よし、二体破壊の権利を得た。私が破壊するのは二頭を持つキングレックスと屍を貪る竜!!」

 

 彩葉の宣言と共にガトリング・ドラゴンの三つの頭部に装備されているガトリングが急激に回転を開始、そしてガガガガガッと連続した銃声と共にガトリングから放たれる弾丸が青年の場を襲い、二つの爆発が彼の場を覆う。

 そしてその爆発によって生じた煙が消えた時、青年の場から彩葉の宣言した二体の恐竜族モンスターが消えていた。

 

「バトル、ガトリング・ドラゴンで俊足のギラザウルスを攻撃だよ! ガトリング・ラッシュ!」

 

「っ、ぐああぁぁぁっ!!」LP4100→2900

 

 その攻撃宣言と共に再びガトリングが回転をし始めた。キャリリリリという回転音と共にズカカカカカッという銃声が響き、それを浴びたギラザウルスが破壊。さらにその余波は青年にまで届き、黒い電流が流れて彼に苦悶の顔を浮かばせる。

 

「カードを一枚セットしてターンエンドだよ♪」

 

 そして彩葉は最後の手札をセットしてターンエンドを宣言した。

 

「ワイのターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズに死神の巡遊の効果発動!」

 

 青年があと一息と気合いを入れてカードをドローするとまたも死神の巡遊の効果が発動、コインのソリッドビジョンが宙を舞う。それが裏を示し、彩葉の場が黒い霧に包まれる。

 

「ヒャッハハハ! 本当に運に見捨てられたようやのぉ。やけど容赦はせんで! 魔法カード[闇の量産工場]を発動! 墓地の通常モンスター二体、[二頭を持つキングレックス]と[屍を貪る竜]を手札に加え、魔法カード[融合]発動! さっき手札に加えた二体を融合し、[ブラキオレイドス]を融合召喚!!

 さらに手札から魔法カード[究極進化薬]を発動! 自分の手札・墓地から、恐竜族モンスターと恐竜族以外のモンスターを一体ずつ除外して発動でき、手札・デッキからレベル7以上の恐竜族モンスター一体を召喚条件を無視して特殊召喚する! ワイは手札から爬虫類族の[バルーン・リザード]を、墓地から恐竜族の[俊足のギラザウルス]を除外して、デッキからレベル7の[暗黒恐獣(ブラック・ティラノ)]を特殊召喚!!」

 ブラキオレイドス 攻撃力:2200

 暗黒恐獣 攻撃力:2600

 

 青年の場に現れる二体の恐竜族。特に暗黒恐獣の攻撃力はガトリング・ドラゴンと並んでおり、暗黒恐獣とガトリング・ドラゴンの相討ちでフィールドを開けたところにブラキオレイドスのダイレクトアタックが決まれば勝利。観客がそう思った時、青年の場のカードが翻る。

 

「トラップカード[生存競争]発動や! このカードは自分フィールドの恐竜族モンスター一体を対象とし、攻撃力1000アップの装備カード扱いとして、その自分の恐竜族モンスターに装備する! さらに生存競争にはこのカードの効果でこのカードを装備したモンスターが攻撃で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動でき、装備モンスターは相手モンスターにもう一度だけ続けて攻撃できる効果があるが……どうせお前の場にモンスターは一体。それに追撃するまでもない……」

 暗黒恐獣 攻撃力:2600→3600

 

 青年がやれやれと頭を振り、にやぁッと笑う。彩葉は顔を青くしてぷるぷると震えていた。

 

「や、やだ……やめて……」

 

「残念やったのう。ワイが相手だった不運を嘆くんやな! この攻撃で終わりや! バトル! 暗黒恐獣でガトリング・ドラゴンを攻撃!!」

 

 完全に恐怖している彩葉を見て自慢気に笑いながら青年が攻撃を指示。暗黒恐獣がガトリング・ドラゴンに襲い掛かり、その強靭な牙で噛み砕く。耐えきれなくなったガトリング・ドラゴンが爆発し、その爆風が彩葉を包み込む。

 

「あああああぁぁぁぁぁっ!!!」

「これでワイの借金はチャラじゃあっ!!」

 

 爆風によって現れた煙の中から彩葉の悲鳴が響き渡る。その意味を悟った青年がガッツポーズを取り、煙が少しずつ晴れていく。その中には無様に倒れている彩葉の姿が……

 

「なぁーんちゃって♡」LP2500

 

 なかった。彼女は先ほどまでの青い顔はどこへやら、むしろ全て予想通りですと言わんばかりにニヤニヤと笑いながら立っており、そのライフはむしろ先ほどより増えている。

 

「なっ……なんでや!? お前のライフは残り500、生存競争で強化した暗黒恐獣で攻撃すればライフは削り切れるはず……」

 

「リバースカードを発動したんだよ。速攻魔法[非常食]♪ これによって私は無意味にフィールドに残っていたリビングデッドの呼び声、死神の巡遊、そして伏せカードの三枚の魔法・罠カードを墓地に送り、ライフを3000回復したんだよ♪」

 

 つまり攻撃直前の彩葉のライフは3500。その状態から攻撃力3600の暗黒恐獣で攻撃力2600のガトリング・ドラゴンを攻撃した結果の1000ポイントの戦闘ダメージを受けてもライフはたしかに2500残る計算になる。

 

「くっ、だったらブラキオレイドス! ダイレクトアタックや!!」

 

「きゃあああぁぁぁぁっ!!」LP2500→300

 

 だが続いての2200のダイレクトダメージは防ぐことは出来ず、というかさっきの1000ポイントのダメージも受けている事は受けているため合計3200のダメージが衝撃増幅装置によって彼女の身体に送られる。

 

「しぶといやっちゃなぁ。だがこれでお前の場にモンスターはなく、魔法・罠も使い切った。手札は次のドロー一枚や、大人しくサレンダーするんならまあ許してやらんでもないで? ターンエンドや」

 

「……魔法・罠を使い切った?」

 

 青年はせめてもの情けだというように彩葉に言うが、それに対して彩葉はきょとんとしながらカードをドロー。その瞬間彼女の場の床がひび割れ、そこから棺型タイムカプセルが出現、それを見た青年の目が見開かれる。 

 

「し、しまった!?」

 

「タイムカプセル発動後、二回目のスタンバイフェイズ。私はタイムカプセルを破壊し、棺に入れたカードを手札に加えるよ♪」

 

 彼女の場に密かに残っていたカード──タイムカプセル。それが破壊され、棺の中に封印されていたカードが彩葉の手に渡った。彩葉のニヤリとした笑みが深くなる。

 

「魔法カード[融合回収(フュージョン・リカバリー)]を発動。墓地から融合の魔法カードと融合に使用した[リボルバー・ドラゴン]を手札に加えるよ」

 

「そんなモンスターが今更何に……」

 

 まず発動したのはタイムカプセルに入っていたカードではなく、このターンドローしたカード。これで彼女の手札に融合とその素材として使用できる可能性のあるモンスターが渡る。

 ぼやきつつももしやまたガトリング・ドラゴンかと身構えている青年に対し、彩葉は「融合を発動!」と宣言する。

 

「私はタイムカプセルに眠っていた[時の魔術師]と、効果モンスターである[リボルバー・ドラゴン]を融合!!」

 

「と、時の魔術師やとぉ!?」

 

 タイムカプセルに眠っていたと言われたカード──時の魔術師。そのカード名を聞いた青年が仰天し、その間に二体のモンスターが神秘の渦に巻き込まれて融合。

 

「現れろ、[時の魔導士]!!」

 時の魔導士 攻撃力:2000

 

「時の魔導士……この姿、融合素材……まさかッ……」

 

 彩葉の場に出現するのは時計の姿をした魔法使いというべきだろう存在。だがその姿を見た青年は歯ぎしりをしており、彩葉はニヤニヤしながら口を開く。

 

「さあ、ラストギャンブルの時間だよ。おにーさん♡ 時の魔導士の効果発動、一ターンに一度、このカードが融合召喚されている場合に発動でき、時の魔導士の杖の先のルーレットを回し、成功すればフィールドのモンスターを全て破壊し、相手は表側表示で破壊されたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける。

 失敗すればフィールドのモンスターを全て破壊し、自分は表側表示で破壊されたモンスターの元々の攻撃力を合計した数値の半分のダメージを受ける」

 

「な……つまりっ……」

 

 今フィールドのモンスターの元々の総攻撃力は2600(暗黒恐獣)2200(ブラキオレイドス)2000(時の魔導士)の6800、その半分は3400。残りライフ300の彩葉はもちろん残りライフ2900の青年でも耐えきれない。

 つまりこれから行われるギャンブルに勝った方がこのデュエルの勝者になる。という事だ。

 

「さあ、時の魔導士。タイム・ルーレットスタート!」

 

 [タイム・ルーレット!]

 

 彩葉の掛け声に合わせて時の魔導士が杖を掲げて宣言。同時に杖の先のルーレットが回転し始めた。大きく四つに分けられているルーレットは内二つが成功を意味する「当」、内二つは失敗を意味するドクロマークになっている。その成否判定を行う時計の矢印が勢いよく回転し、徐々にその回転が遅くなっていく。

 彩葉はさあどうなるのかと期待を込めた様子で、青年がどこか怯えた様子で、観客達も固唾を飲んでルーレットの行く先を見守る。

 そしてついに針が停止した時、金網の外でこの戦いを見物していた観客達が『うおおおぉぉぉぉっ!!!』と歓声を上げる。

 

「な、あ、え、え、あ……」

 

 青年の顔が青くなる。それもそうだろう、針が指し示しているのは「当」。それはこの勝負、青年の敗北を意味することでもあった。

 

「時の魔導士の効果により、フィールドの全てのモンスターを破壊。その元々の攻撃力分のダメージを受けてもらうよ、おにーさん♡」

 

「あ、あ、あ、あ、あ……」

 

「タイム・ソーサリー!!」

 

 顔を青くする青年に彩葉は無邪気に笑いながら宣言。同時に時の魔導士の魔法によって時空が歪み、その狭間へと全てのモンスターが消え去っていく。そしてその際に溜まったエネルギーの全てが青年へと降り注ぐ。

 

「うぎゃああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」LP2900→0

 

 その一撃によってライフが尽きたことを示すブザー音と青年の悲鳴がこのデュエルの終了を示すのであった。

 

 

 

 

 

「そ、そんな……ありえへん……ワイはプロデュエリストなんや……昔は全国大会で準優勝もしたことがある……そのワイが、こんなガキに負けるなんて、そんな、そんなわけ……」

 

「んふ♪ けっこー楽しかったよ、おにーさん♡ また遊んでね♡ ま、次があればだけど」

 

「ひぃ!?」

 

 青年は自らの敗北が信じられないとばかりに呆然とした表情をしていたが、彩葉が満面の笑みを浮かべながら手を振って声をかけると我に返ったようにか細い悲鳴を上げる。そして金網の扉部分が開かれたかと思うとそこから黒服グラサンのお約束な格好をしたガタイのいい男達がぞろぞろと入ってくると青年を拘束する。

 彩葉がにぱっと無邪気な微笑みを青年に向けた。まるでその笑顔が彼の人生最後に送られる笑顔だというように。

 

「じゃ、おにーさん。今回の負け分含めて、借金の支払い頑張ってね♡」

 

「ま、負け分!? なんのことや!?」

 

「あれ、聞いてないの? このデュエル、おにーさんは今までの借金を返せる分のお金を稼げるだけの金額を自分の勝利に賭けてデュエルしてたんだよ?」

 

「な……」

 

「でも結果はおにーさんの負け。その負け分、また借金が増えちゃったね。ごしゅーしょーさま♡」

 

 青年が訳が分からないという様子で彩葉に叫ぶが、彼女はニヤニヤ笑いながら事も無げに説明。彼女の言葉を聞いて崩れ落ちた青年の元に歩き寄ると、崩れ落ちたことで立っている自分よりも下に顔のある彼を見下ろすようにして嘲笑を浮かべた。

 

「ざぁこ♡ ざぁこ♡ 借金まみれで一発逆転狙って地下デュエル♡ こんなガキなら余裕だと捕まえて大勝負♡ 勝ち確だと思ってたとこコイン一枚でひっくり返されて逆転負け♡ こぉんな中学生に人生終わらされちゃって、今どんな気持ちぃ?」

 

「ぐ、ぐぅ……うわあああああっ!!」

 

 彩葉の言葉責めに青年は泣き叫びながら暴れるが屈強な男達に押さえつけられてしまいどうすることも出来ない。そんな彼を彼女はクスクスと笑いながら見下ろしていた。

 

「さーて、それじゃぁ本日のホントのメインイベントを始めよっかぁ♪」

 

 そう言って彩葉はいつの間にか自分の隣に控えていた一人の黒服から渡された一枚の紙を、青年の目の前に見せびらかすように向ける。それには「借用書」と書かれていた。

 

「あなたは多額の負債を抱えました♡ よってこれより、あなたの身柄をとある組織に引き渡すことに決定しました♡ そ・し・てぇ~♡ ここに書かれている通り、これからおにーさんには楽しい楽しい地獄巡りの旅をしてもらいまぁす♡」

 

「いやだああぁぁぁ!! ワイは、ワイは──死にたくないいぃぃぃっ!!」

 

 青年の言葉など無視して彩葉はこれまた黒服から渡されたスイッチを押す。すると二人を囲んでいた檻の一部が、まるで巨大な獣が獲物を喰らおうと口を開いたかのように開き始め、青年はそれに恐怖したのか必死に逃げようとし始める。しかしそんなことは許されず、彼は黒服の男達の手によって強制的に歩かせられるとそのまま開かれた檻から連れ出される。

 

「いやだいやだいやだっ! 助けてくれえぇぇっ!!」

 

 青年はそんな風に喚きながら抵抗するが誰も耳を貸さない。そして彼は自分が入ってきた扉とは別の扉へと運ばれていく、彼が今からどこに行くのか、彼女は知らないし興味もない。

 彼女はにまにまと笑いながらその光景を見送ると、何事もなかったかのように自分もその牢獄スタジアムを後にする。この勝負の結果によって片や熱狂、片や悲鳴を上げる観客達、自分達の勝負で大金が動くレベルの賭けをしていた富豪達の声を背中で聞きながら。

 

「いやー、今日も楽しかったなー♪」

 

 牢獄スタジアムを出て行き、廊下を歩きながらそんなことを呟く彩葉は無邪気な笑みを浮かべている。

 今更ながらここはぶっちゃけ違法な地下デュエル場。そこで彩葉は運営側のデュエリストとして雇われての地下デュエルを行っていた。彼女の担当は主に借金を背負ったデュエリストの相手で、その代わり彩葉自身も「彩葉の勝利」限定だが賭けに参加することが許されており、もちろん負ければ運営側だろうと関係なく金を奪われ負債を背負わされるが、逆に勝利すれば大金が手に入る。

 さらに彩葉はまだ子供だと自分を侮って「こいつなら勝てるし勝てば借金チャラだ」と思って勝負を仕掛けてきた相手に対してわざと追い詰められ、そこで逆転する。つまり相手に勝てるという希望を味わわせた上で一瞬で逆転勝利、逆転負けという絶望に突き落とされる借金クズ達を見るのにいつしか快感を覚えていた。

 そして今回もまたそうだった。相手の男は最後の最後まで自分に勝機があると信じて疑わなかっただろうが、それが全て覆された時のあの表情がたまらなくて仕方ないのだ。その上に大量のお金まで貰えるとなれば彩葉にここを出て行く選択肢など存在しなかった。

 

「んふ、また次のデュエルが楽しみだなぁ♡」

 

 そんなことを考えつつ、彩葉は上機嫌で鼻歌を歌いながら地下デュエル場の中を歩いていくのだった。




《後書き》
 最近「AIのべりすと」という小説AIを発見、色々試している中でふざけてサイバー流メスガキinデュエルアカデミアの「猫シンクロGX23話Another:IF DUEL」の中の
 ────―
 負けたショックで尻もちをつきながらも~頭を抱えて発狂したかのように叫び声を上げる。
 ────―
 の辺りを、彩葉以外の個人名を消して(例:才盾→青年)、デュエルアカデミアとかのデュエルモンスターズ系の用語も上手い具合に書き換えて(例:デュエルアカデミア→大学)AIに続きを書かせてみたところ「彩葉が中学生ながら無敗の天才ギャンブラー」という設定で続きが書かれまして、面白かったのでギャンブルデッキ使いの彩葉という設定で、さらにギャンブルって事でアウトローなイメージで、原作ではヘルカイザーが誕生した地下デュエル場でデュエルしているという設定で今回書いてみました。
 アニメの孔雀舞みたく「カジノでディーラーやってる」という設定も考えたけど、流石に中学生がディーラーは法的にアカンやろという事で、そういう法を気にしないアウトローな方向に振りました。こっちならギャンブルに負けた(デュエルに負けた)敗者の末路も容赦なく書けますし。
 そして今までの使用デッキの設定上、サイバー・ダーク除いた彼女の使用デッキってガトリング・ドラゴンを使うデッキって事になるからそういう方向性に特化したコイントス系デッキですね。

 流石にこれは今回のみの一発ネタになります。これで続き書けとか無理です。ワンパターンにしかならないと思う。
 では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。





PS)
 え、今回彩葉ちゃんが戦った相手?いえいえ、「時の魔術師系列のモンスターに敗北した経験があって昔全国大会で準優勝した実績がある関西弁で喋る恐竜族使いのニット帽の青年」というだけですよ?(超すっとぼけ)


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もしも彩葉ちゃんがアカデミアにいたら

前書き:今回はArc-V世界線になります。
今回の一話だけの予定だし別にいいかなって思うんですけど、本作の原作名「遊戯王GX」から「遊戯王」に直して、タグの方で調整した方がいいのかな?


 崩れた建物が立ち並ぶ廃墟。アカデミアと呼ばれる組織が蹂躙した跡地であるハートランドを一人の少女が黒猫を模したパーカーを着てネコミミ付きのフードをまるで顔を隠すように被って、鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

「ん?」

 

 するとどこからか爆発音が聞こえてくる。その時、彼女はその音が聞こえてきた方を見て猫目を細めにんまりと笑うのだった。

 

 

 

 

 

「いくぜ、俺は古代の機械工兵(アンティーク・ギアエンジニア)に装備魔法[古代の機械掌(アンティーク・ギアハンド)]を装備! このカードはアンティーク・ギアモンスターにのみ装備可能。装備モンスターと戦闘を行ったモンスターを、そのダメージステップ終了時に破壊する! こいつでそこのでかぶつのビッグベン-Kを破壊してやるぜ!」

 

 その爆発音が聞こえてきた地点では、青い服に仮面を被った三人の男達が、赤と緑の髪をした青年、黒髪リーゼントの青年、金茶髪の青年と戦っている光景があった。

 そして仮面の男の一人がそう言い、黒髪リーゼントの青年の場のモンスターを指さす。

 

「いくぜ、バトルだ!」

 

「そうはさせない! メインフェイズ終了時にリバースカードオープン!」

 

 しかし彼がバトルを宣言した瞬間、赤と緑の髪をした青年が叫び、彼の場に伏せられていたカードが翻る。

 

「[エンタメ・フラッシュ]! このカードは自分フィールドにEMモンスターが存在する場合に発動でき、相手フィールドの表側攻撃表示モンスターは全て守備表示になり、そのモンスターは次のターンの終了時まで表示形式を変更できない! 俺の場には[EMプラスタートル]が存在する!」

 EMプラスタートル 守備力:1800

 

「ちっ……」

 古代の機械工兵 攻撃力:1800→守備力:1500

 古代の機械兵士 攻撃力:1600→守備力:1300

 

「くそっ!」

 古代の機械合成獣 攻撃力:2900→守備力:1300

 

「ちっ」

 古代の機械獣 攻撃力:2300→守備力:2000

 

 彼の場に翻ったカードから放たれた光に怯んだかのように、機械工兵が守備の構えを取り、彼の仲間である仮面の男の場のモンスターも同じように守備の構えを取った。

 

「くそ、邪魔しやがって。俺はこれでターンエンドだ」

 

 仮面の男──見分けがつかないのでここでは仮面の男Aとしよう──がターンエンドを宣言し、デュエルが次のターンに進む。その時だった。

 

 ──乱入ペナルティ、2000ポイント

 

『……え?』

 

 突然そんな電子音声が聞こえてくる。それはつまり、このデュエルに乱入者が現れたということだ。

 

「私もまーぜて♪」LP4000→2000

 

 そして空中から落っこちてきたのは黒猫を模したパーカーの少女。着地の合間にフードが脱げた彼女は銀髪のショートヘアをなびかせ、赤い瞳を宿す目を細めて微笑んでいた。

 

「き、君! ここは危ない! すぐに逃げるんだ!」

 

 自分達より年下だろうか、そんな少女の姿に赤緑の髪の青年が大慌てで叫ぶ。

 

「こ、こいつっ!?」

「まずいぞ、《ヘルサイバー》だ!」

 

 しかしそんな青年とは対照的に仮面の男達──それぞれ仮面の男B、仮面の男Cとしよう──は大慌て、その光景に青年達が不審げに仮面の男達を見る。

 

「私のターン、ドロー♪」

 

 だが少女は全く気にせずに自分のターンを勝手に進めていた。

 

「お、おい、お前達!」

 

「私は手札の[サイバー・ダーク・クロー]を捨てて効果発動。このカードを手札から捨てて発動でき、デッキからサイバーダーク魔法・罠カード一枚を手札に加えるよ。[サイバネティック・ホライゾン]を手札に加え、発動。手札及びデッキからそれぞれ一体ずつ、ドラゴン族・機械族のサイバーモンスターを墓地へ送って発動でき、デッキからドラゴン族・機械族のサイバーモンスター一体を手札に加え、エクストラデッキから機械族のサイバー融合モンスター一体を墓地へ送る。

ただし、このカード名のカードは一ターンに一枚しか発動できず、このカードを発動するターン、私は機械族モンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できない。

私は手札から機械族の[サイバー・ドラゴン・ヘルツ]を、デッキからドラゴン族の[サイバー・ダーク・カノン]を墓地に送り、デッキから[サイバー・ダーク・ホーン]を手札に加え、エクストラデッキから[サイバー・エンド・ドラゴン]を墓地に送るよ。

さらにこの瞬間[サイバー・ドラゴン・ヘルツ]の効果発動、このカードが墓地へ送られた場合に発動でき、自分のデッキ・墓地からこのカード以外の[サイバー・ドラゴン]一体を選んで手札に加える。私は[サイバー・ドラゴン]を手札に加える」

 

 そして仮面の男Aが対戦相手である青年に呼びかける。その間にも少女は勝手にプレイを進めていた。

 

「え、な、なに?」

 

「一時休戦だ! まずはこの女から倒すぞ!」

 

「はぁ!? いきなり何言ってんだお前ら!?」

 

「手札の[サイバー・ドラゴン]を捨てて、[サイバー・ドラゴン・ネクステア]の効果発動、手札からこのカード以外のモンスター一体を捨てて発動でき、このカードを手札から特殊召喚するよ。そしてネクステアの効果発動。このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の、攻撃力か守備力が2100の機械族モンスター一体を対象とし、そのモンスターを特殊召喚する。ただしこの効果の発動後、ターン終了時まで自分は機械族モンスターしか特殊召喚できない。私は[サイバー・ドラゴン]を特殊召喚するよ。

さらに「私は[サイバー・ダーク・ホーン]を召喚し、効果発動。このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスター一体を装備カード扱いとしてこのカードに装備し、このカードの攻撃力はこのカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。私は墓地のレベル3のドラゴン族、サイバー・ダーク・クローを装備するよ」

サイバー・ドラゴン・ネクステア 守備力:200

サイバー・ドラゴン 攻撃力:2100

サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:800→2400

 

 赤緑髪の青年の困惑に対し、仮面の男Aの叫びに金茶髪の青年がこっちもやや困惑しながら叫び返す。その間に少女はモンスターを展開していた。

 

「いきなり敵であるお前らとこんな女一人倒すのに協力しろだぁ!? 寝言もやすみやすみ言いやがれ!」

 

「お前達はこいつの恐ろしさを知らないからそんな事が言えるんだ!」

 

「魔法カード[融合]を発動、フィールドに存在する時カード名を「サイバー・ドラゴン」として扱うサイバー・ドラゴン・ネクステア(サイバー・ドラゴン)とサイバー・ドラゴンを融合して、[キメラテック・ランページ・ドラゴン]を融合召喚するよ。

キメラテック・ランページ・ドラゴンの効果発動。このカードが融合召喚に成功した時、このカードの融合素材としたモンスターの数までフィールドの魔法・罠カードを対象として発動でき、そのカードを破壊する。私はおにーさん達の場の[融合塹壕-フュージョン・トレンチ-]と[古代の機械城(アンティーク・ギアキャッスル)]を破壊するよ。

さらにキメラテック・ランページ・ドラゴンに装備魔法[ブレイク・ドロー]を装備。このカードは機械族モンスターにのみ装備出来、装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分のデッキからカードを一枚ドローする。ただし、このカードは発動後三回目の私のエンドフェイズ時に破壊される。

さらにさらにキメラテック・ランページ・ドラゴンの効果発動。一ターンに一度、自分メインフェイズに発動でき、デッキから機械族・光属性モンスターを二体まで墓地へ送ることでこのターン、このカードは通常の攻撃に加えて、この効果で墓地へ送ったモンスターの数まで一度のバトルフェイズ中に攻撃できる。私は[サイバー・ドラゴン・ツヴァイ]と[超電磁タートル]を墓地に送り、このターン合計三回の攻撃権をキメラテック・ランページ・ドラゴンに与えるよ」

キメラテック・ランページ・ドラゴン 攻撃力:2100

 

 金茶髪の青年と仮面の男Aが言い合いを始める。その間に少女の場に融合モンスターが出現していた。

 

「いいか、この女はアカデミアの──」

 

「バトル。キメラテック・ランページ・ドラゴンで古代の機械工兵と古代の機械獣と古代の機械合成獣を、サイバー・ダーク・ホーンで古代の機械兵士を攻撃! サイバー・ダーク・ホーンは貫通効果を持つよ」

 

「──え? ぐはあああぁぁぁぁっ!!」LP4000→2900

「ぐううぅぅぅっ!」

「ぐああぁぁぁっ!」

 

「サイバー・ダーク・ホーンに装備されているサイバー・ダーク・クローの効果発動。このカードを装備カード扱いとして装備しているモンスターが戦闘を行ったダメージ計算時に発動でき、エクストラデッキからモンスター一体を墓地へ送る。私は[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]を墓地に送るね。

 さらにブレイク・ドローの効果、キメラテック・ランページ・ドラゴンは三回モンスターを戦闘破壊して墓地に送ったから合計三枚ドロー」

 

 いきなり少女の総攻撃が決まり、仮面の男達の場が全滅。さらに全てのモンスターが守備表示だったにも関わらず貫通効果を活かしてダメージを与えるのにも成功し、さらにさらに複数回攻撃を利用して複数枚のドローにも繋げる無駄のなさだった。

 

「ん~……私はこれでターンエンドだよ」

 

「いよっしゃ! よくやった! 褒めてやるぜ。俺様のターンだ!」

 

 少女がターンエンドを宣言すると、金茶髪の青年が少女を褒めながら自身のターンを宣言し、カードをドロー。そして仮面の男達をどや顔で見た。

 

「大嘘つきやがって、明らかにお前らの敵じゃねえか! この沢渡シンゴ様を騙そうったってそうはいかねえぜ!」

 

 金茶髪の青年──沢渡シンゴがそう言い、二枚のカードを手札から取る。

 

「俺はスケール2の[魔界劇団-ワイルド・ホープ]とスケール8の[魔界劇団-ファンキー・コメディアン]でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 沢渡の声と共に彼の隣の両端に二つの光が立ち上る。その光の中には先ほど彼がペンデュラムスケールなるもののセッティングに使用した二体のモンスターが封じられ、そこに大きな「2」と「8」の数字が描かれていた。

 

「ペンデュラム……?」

 

「あいつらのモンスターを全滅させた褒美だ。見せてやるぜ!」

 

 それを見た少女がきょとんとした顔で見上げ、沢渡がニヤリと笑みを見せ、右手を掲げてポーズを取る。

 

「これでレベル3から7のモンスターが同時に召喚可能! ペンデュラム召喚!」

 

 沢渡の掛け声に合わせ、二つの柱の間の中央に光の穴が開き、そこから光が沢渡の場に降り立つ。

 

「レベル7[魔界劇団-ビッグ・スター]! [魔界劇団-メロー・マドンナ]!」

 魔界劇団-ビッグ・スター 攻撃力:2500

 魔界劇団-メロー・マドンナ 攻撃力:1800

 

「わー! おにーさんすっごーい!!」

 

「だーっはっはっはっ! そうだろそうだろ。だがまだ終わらねえぜ! ビッグ・スターの効果発動! 一ターンに一度、自分メインフェイズに発動でき、デッキから魔界台本魔法カード一枚を選んで自分フィールドにセットする。ただし、この効果でセットしたカードはエンドフェイズに墓地へ送られるが、それならこのターン中に発動すりゃいいだけだ! 俺は[魔界劇団-オープニングセレモニー]をセットし、そのまま発動! 自分フィールドの魔界劇団モンスターの数×500ポイント、俺のライフを回復する!

 さらに! メロー・マドンナの効果発動! 魔界台本魔法カードの効果が発動した場合に発動でき、デッキからレベル4以下の魔界劇団ペンデュラムモンスター一体を特殊召喚する! ただし、この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主の手札に戻る。俺はレベル4の[魔界劇団-ティンクル・リトルスター]を特殊召喚!

 さらにさらにぃ! メロー・マドンナの攻撃力は自分の墓地の魔界台本魔法カードの数×100アップするぜ!」LP4000→5000

 魔界劇団-ティンクル・リトルスター 攻撃力:1000

 魔界劇団-メロー・マドンナ 攻撃力:1800→1900

 

 ペンデュラム召喚。彼女にとって未知の召喚法であるそれに少女が目を輝かせて沢渡を賛美すると、沢渡は調子に乗ったようにビッグ・スターの効果を発動、それによってサーチした魔界台本を利用してライフを回復したのち、がら空きの仮面の男達を指さした。

 

「さあ覚悟しな! ビッグ・スターでまずはダメージを負ってるお前から攻撃だ!」

 

「ちぃっ! 俺は手札から[速攻のかかし]を捨てて効果発動! 相手モンスターの直接攻撃宣言時にこのカードを手札から捨てて発動でき、その攻撃を無効にし、その後バトルフェイズを終了する!」

 

「チッ。俺はリバースカードを二枚セットしてターンエンドだ。この瞬間、メロー・マドンナの効果により特殊召喚されたティンクル・リトルスターは俺の手札に戻る」

 

 沢渡は仮面の男Aに狙いを定め、攻撃を行うも。仮面の男Aはそれを上手くいなし、沢渡は舌打ちを叩くと残る二枚の手札を全て伏せてターン終了を宣言。同時に色々行われた処理が終わった時、少女が口を開く。

 

「ねーねー魔界劇団のおにーさん。次、私の番でもいいかなー? おにーさん達っておにーさんチーム三人で、この仮面のおにーさん達も三人チームでしょ? 魔界劇団のおにーさん達、私、仮面のおにーさん達、私、また魔界劇団のおにーさん達の順番でいいかなー?」

 

「おう! 好きにしろ!」

 

「お、おい沢渡!? 何勝手な事言ってるんだ!?」

 

「大丈夫だって、あいつ今さっきアカデミアの連中を攻撃してたの見たろ? ならつまり俺達の味方って事じゃねえか。そいつに多くターンが回るんだから得だろうよ」

 

「た、確かにそうかもしれんが……」

 

 少女の提案を沢渡は勝手に了承、それを聞いた彼のチームの残り二人が文句を言うも沢渡はどこ吹く風、しかも彼の言葉は一応正論に聞こえ、二人は渋々と言った様子で黙り込むしかなかったのだった。

 

「じゃあ私のターン、ドロー♪」

 

 そして少女は笑いながらカードをドローする。しかしその時彼女の笑みが若干歪んだのに彼らは気づかなかった。

 

「私はキメラテック・ランページ・ドラゴンの効果を発動するよ。一ターンに一度、自分メインフェイズに発動でき、デッキから機械族・光属性モンスターを二体まで墓地へ送ることでこのターン、このカードは通常の攻撃に加えて、この効果で墓地へ送ったモンスターの数まで一度のバトルフェイズ中に攻撃できる。私は[サイバー・ドラゴン・コア]と[サイバー・ドラゴン・ヘルツ]を墓地に送ってこのターン合計三回の攻撃権をキメラテック・ランページ・ドラゴンに与えるよ。さらに[サイバー・ドラゴン・ヘルツ]の効果発動、自分のデッキ・墓地からこのカード以外の[サイバー・ドラゴン]一体を選んで手札に加える。私は墓地に存在する時にカード名を[サイバー・ドラゴン]として扱う[サイバー・ドラゴン・コア(サイバー・ドラゴン)]を手札に加えるね」

 

「よっしゃ! これでがら空きのアカデミア共に致命傷だ!」

 

 少女は再びランページに三回の攻撃権を与え、それを見た沢渡がガッツポーズ。その瞬間、少女の歪んだ笑みが彼らに向けられた。

 

「バトル。キメラテック・ランページ・ドラゴンで──魔界劇団-メロー・マドンナに攻撃」

 

「……へ?」

 

 少女が攻撃対象と宣言したのは沢渡の場のメロー・マドンナ。その宣言に沢渡が呆けた声を上げた時、少女が手札の一枚をデュエルディスクに差し込んだ。

 

「速攻魔法[リミッター解除]。この効果により私の場の機械族モンスターの攻撃力は倍になる」

 キメラテック・ランページ・ドラゴン 攻撃力:2100→4200

 サイバー・ダーク・ホーン 攻撃力:2400→4800

 

「な、なにー!?」

 

 さらに一気に攻撃力が急上昇。沢渡は悲鳴を上げるとその場を離れて走り出し、まるで何かを探すようなその視線の動きに少女がきょとんとした顔を見せた時、

 

「あった!」

 

 沢渡は何かを見つけてダイブ、

 

(カード?)

 

 少女がまたもきょとんとした顔で、沢渡が拾い上げた何か──一枚のカードを見ている間に沢渡はそのカードをデュエルディスクに差し込んだ。

 

(アクション)マジック、[回避]! その攻撃を無効にするぜ!!」

 

 そしてその声と共にメロー・マドンナが優雅に踊るようなアクションを見せてキメラテック・ランページ・ドラゴンのレーザーブレスを回避、その挙動に少女が「はぁっ!?」と驚愕の声を上げていた。

 

「な、なにそれー!?」

 

「へんっ、裏切り者に特別に教えてやるぜ! こいつは(アクション)カード。俺様達ランサーズの武器だ!」

 

「なにそれずるい! まあいいや! もう一回攻撃!!」

 

 少女の叫びに沢渡は律儀に解説、その内容に少女はずるいと毒づきながらも追撃を指示。再びキメラテック・ランページ・ドラゴンのレーザーブレスがメロー・マドンナへと向かい、沢渡は再びAカードを探し始める。

 

「ぐあああぁぁぁっ!」LP5000→2700

 

 しかし今度は間に合わず、メロー・マドンナはキメラテック・ランページ・ドラゴンのレーザーブレスに撃ち抜かれて爆散、沢渡もその衝撃波でダメージを負って吹き飛び地面に叩きつけられる。

 

「ブレイク・ドローの効果! 装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、デッキからカードを一枚ドロー……あれ!?」

 

 そしてモンスターを戦闘破壊したことでブレイク・ドローの発動条件が整ったと少女がカードをドローしようとするも、その時デュエルディスクから警告音が鳴り響く。

 それに少女が慌てている間に立ち上がった沢渡がふんぞり返った。

 

「残念だったな! ブレイク・ドローの効果発動条件は俺の場のモンスターを破壊して墓地に送った時。だが! ペンデュラムモンスターは破壊された時墓地ではなくエクストラデッキに表側表示で送られる! つまりブレイク・ドローの効果は発動しないんだ!」

 

「そんなのずるい! 知ってたら狙わなかったのに……それならそっちの大きなおにーさんのモンスター、それはペンデュラムじゃないよね! そっちに攻撃!!」

 

「ぬぅっ!」

 

 沢渡の説明を聞いた少女はまたもずるいと憤った後、八つ当たりのように黒髪リーゼントの青年の場のモンスター、仮面の男にビッグベン-Kと呼ばれていたモンスターへと攻撃を命令。

 キメラテック・ランページ・ドラゴンのレーザーブレスがビッグベン-Kを貫き、破壊。しかしさっきの沢渡と違って微動だにしなかった黒髪リーゼントの青年は少しも慌てずに動き出した。

 

「この瞬間、俺は手札の[超重武者装留マカルガエシ]の効果発動! 守備表示モンスターが戦闘で破壊され自分の墓地へ送られた時、このカードを手札から墓地へ送る事で発動、そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する! 黄泉帰れ、[超重武者ビッグベン-K]! そしてこの特殊召喚成功時にビッグベン-Kの効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動でき、このカードの表示形式を変更する!」

 超重武者ビッグベン-K 攻撃力:1000→守備力:3500

 

「でも破壊して墓地に送った事には変わらないからブレイク・ドローの効果で一枚ドローするね。そしてサイバー・ダーク・ホーンでビッグベン-Kに攻撃!」

 

「ぐううぅぅぅっ……」LP4000→2700

 

「サイバー・ダーク・ホーンに装備されているサイバー・ダーク・クローの効果でエクストラデッキから[F・G・D]を墓地に送るね」

 

 黒髪リーゼントの青年は辛うじて少女の猛攻を防ぎ切る。すると彼らの敵である仮面の男Bがガッツポーズを見せた。

 

「よし! これでヘルサイバーのモンスターは全て攻撃が終了した! あとはリミッター解除のデメリット効果で破壊される! そうすればがら空きのまま次は俺のターンだ!」

 

 その通り。リミッター解除は機械族モンスター全ての攻撃力を倍加する強力な効果を持つ代わりに、そのターンの終わりに強化したモンスター全てを強制的に破壊してしまう恐るべきデメリットがある。だがしかし、少女はにんまりと笑みを見せた。

 

「んふふ~。そんな事期待するなんて、おにーさん達ポジティブすぎー♡ メインフェイズ2に入って、速攻魔法[スター・チェンジャー]を発動、フィールド上に表側表示で存在するモンスター一体を選択して、そのモンスターのレベルを一つ上げるか下げる。私はサイバー・ダーク・ホーンのレベルを一つ上げるよ」

 サイバー・ダーク・ホーン レベル:4→5

 

「こ、これでレベル5のモンスターが二体……もしかしてあの子……」

 

 赤緑髪の少年が、少女の目的に感づいたのかまさかと声を上げた、その時だった。

 

「私はレベル5の機械族、キメラテック・ランページ・ドラゴンとサイバー・ダーク・ホーンでオーバーレイ! 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろランク5[サイバー・ドラゴン・ノヴァ]!」

 サイバー・ドラゴン・ノヴァ 攻撃力:2100

 

「エ、エクシーズ召喚……」

「き、貴様! 仮にもアカデミアの者がエクシーズ召喚を使うなんて恥を知れ!!」

 

「はぁ? 使える手札は多い事に越したことないでしょー? ま、これで終わりなんて一言も言ってないんだけど」

 

「なに!?」

「っ、もしかして……」

 

 少女の扱ったエクシーズ召喚を見た途端仮面の男Aが憤り始めるが少女はどこ吹く風、さらに続けての宣言を聞いた仮面の男Aが不思議そうな顔を見せ、赤緑髪の少年がまさかというような表情を見せた時。

 

「私はランク5のサイバー・ドラゴン・ノヴァでオーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

「な、何が起きている!?」

「そんな!? RUMも使わないでランクアップなんて!?」

 

「出でよランク6! [サイバー・ドラゴン・インフィニティ]!!」

 サイバー・ドラゴン・インフィニティ 攻撃力:2100

 

 二陣営が異なる反応を見せている間に、少女の場にはランクアップを果たし、無限の名を得たサイバー・ドラゴンが顕現していた。

 

「サイバー・ドラゴン・インフィニティの攻撃力は自身が持つオーバーレイユニット一つにつき200ポイントアップする。インフィニティの持つオーバーレイユニットは三つ、よって攻撃力は600ポイントアップするんだけど……それだけじゃないんだなー♪」

 サイバー・ドラゴン・インフィニティ 攻撃力:2100→2700

 

 少女はにんまりと笑って、沢渡の場のビッグ・スターを見る。沢渡がびくりと反応した。

 

「な、なんだよ!?」

 

「サイバー・ドラゴン・インフィニティの効果発動♪ 一ターンに一度、フィールドの表側攻撃表示モンスター一体を対象として、そのモンスターをこのカードのオーバーレイユニットにするよ。ビッグ・スターは貰うね、おにーさん」

 

「んなぁっ!?」

 

 少女の言葉に沢渡が口をあんぐりと開けるが、そんな事で効果処理が中断されるはずもなく。ビッグ・スターはあっさりとサイバー・ドラゴン・インフィニティに吸収され、その周囲を旋回する光の球──オーバーレイユニットへと化してしまった。

 

「当然、オーバーレイユニットが増えたことでインフィニティの攻撃力もアップするよ。ごちそうさまでしたー♡」

 サイバー・ドラゴン・インフィニティ 攻撃力:2700→2900 オーバーレイユニット数:3→4

 

 少女はぺろりと舌を出してお礼を言い、沢渡がぐぬぬと唸り声をあげる。

 

「じゃ、私は[サイバー・ドラゴン・コア]を召喚して効果発動。このカードが召喚に成功した場合に発動して、デッキからサイバー魔法・罠カードまたはサイバネティック魔法・罠カード一枚を手札に加える。私は[サイバネティック・レボリューション]を手札に加えて、カードを二枚セットしてターンエンドだよ」

 サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力:0

 

 さらにリミッター解除の効果を受けないようにタイミングを調整して新たなモンスターを召喚し、その効果で新たなカードをサーチしてカードを二枚セットしてターンエンド。

 だがその次のターンプレイヤーである仮面の男Bがカードをドローする前に沢渡が声を上げる。

 

「おいテメエら! なんなんだこの女!? お前らの味方じゃないと思ってたら俺達にまで攻撃仕掛けてきやがって!」

 

「だから最初から一時休戦だと言っただろうが!!」

 

 沢渡の怒号に仮面の男Aも怒鳴り返し、少女を指さす。

 

「こいつは我らアカデミアに逆らう反乱分子、コードネーム《ヘルサイバー》! 本名、柳里彩葉! 最初は我々と共にエクシーズ次元に来たのだが突如暴走、アカデミアに離反したのだ!」

 

「エクシーズ次元に着た途端、離反……もしかして!」

 

 仮面の男Aの言葉を聞いた赤緑髪の少年がもしかしてと声を上げ、少女──彩葉の方を見る。

 

「君はもしかしてアカデミアがエクシーズ次元の人々を襲っている事に怒って、エクシーズ次元の人々から笑顔を奪うなんて間違ってるって思っているんじゃないのか!? だったら──」

「へ? 何言ってるのおにーさん?」

「──え?」

 

 赤緑髪の少年の呼びかけに対しての彩葉の返答。それは相手の言葉の意図が理解できないという様子の呆けたものだった。

 

「私はただ、強い人と戦いたいだけだもん。次元がーとか笑顔がーとか、そんなのどうでもいいよ」

 

「な……」

 

 あまりも平然とした顔で言い切る彩葉に少年は呆然、仮面の男Aが苦虫を嚙み潰したような顔を見せる。

 

「ああそうだ。こいつはそんな訳の分からない理由で崇高なるアカデミアの使命の邪魔をしてくるんだ! 以前もアカデミアの作戦を妨害するように襲来……」

「奴の襲来を知ったエド・フェニックス総司令が来てくださったから何とか持ちこたえられたが……」

 

「エド・フェニックス……あいつがいて持ちこたえるのが限界って……」

 

 アカデミアの証言を聞いた少年が信じられないという顔で彩葉を見る。だが先ほどの容赦ない連続攻撃、融合次元出身だと予想できるのにエクシーズ召喚を使いこなす手腕、それを見るとその言葉もあながち嘘ではないように直観させられていた。

 

「ねーねーおにーさん達ー、早くしてよー。おにーさん達がアカデミアだろうが反乱軍だろうがどうでもいいからさ──―」

 

 彩葉がクスクスと冷たい笑みを彼らに向ける。

 

「──もっと戦おうよ♡」

 

 その言葉を聞いた全員の背筋にぞくりとしたものが走るのを感じるのだった。

 

「とにかくだ! こいつを放置しておいたら俺達全員ただじゃすまん! お前達を倒すのはまずはこいつを倒してからだ! 俺のターン、ドロー!」

 

 恐ろしさを身をもって知っているのか一方的にそう叫び、カードをドローする仮面の男B。

 

「よし、俺は手札の[起動兵長コマンドリボルバー]の効果発動! 墓地のイエロー・ガジェットとグリーン・ガジェット、二体のガジェットモンスターを対象とし、コマンドリボルバーを特殊召喚! その後、対象となったガジェットをこのカードに装備! さらにコマンドリボルバーの攻撃力は自身の効果で装備しているモンスターの数×1000アップする!

 さらに永続魔法[起動指令 ギア・チャージ]を発動! このカードの発動時、自分フィールドの装備カード扱いのガジェットモンスターカードを任意の数だけ対象にし、そのカードを特殊召喚する! 出でよ、イエロー・ガジェット! グリーン・ガジェット! そしてイエロー、グリーン二体のガジェットの効果発動! 特殊召喚に成功したことにより、デッキからグリーン・ガジェットとレッド・ガジェットを手札に加える!」

 起動兵長コマンドリボルバー 守備力:2000

 イエロー・ガジェット 攻撃力:1200

 グリーン・ガジェット 攻撃力:1400

 

 仮面の男Bは彼らオベリスクフォースが使う古代の機械にガジェットの要素を組み込んだデッキを使用しているのか、召喚権を使用せずに一気に三体のモンスターを並べ、さらに手札を補充。サーチしたガジェットと合わせて三枚になった手札を見てニヤリと笑みを浮かべた。

 

(よし。これで起動司令ギア・チャージのさらなる効果によって手札一枚をコストに[起動提督デストロイリボルバー]をサーチ。さっきサーチしたレッド・ガジェットを召喚して新たなガジェットをサーチしてから手札のガジェット二体をコストにデストロイリボルバーを特殊召喚し、デストロイリボルバーの効果でサイバー・ドラゴン・インフィニティを破壊。デストロイリボルバーのダイレクトアタックでヘルサイバーを撃破し、さらにガジェット達の連続ダイレクトアタックを決めれば反乱分子達にも致命傷を与える事が出来る……)

 

 一気に標的を一人仕留め、他の敵にも大ダメージを与える算段がつき、仮面の男Bはニヤリと笑う。

 

「俺は起動司令ギア・チャージのさらなる効果発動! 手札を一枚捨てて発動し、デッキから[起動提督デストロイリボルバー]を手札に加える!」

 

「残念でしたー。この瞬間、サイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動するよ、一ターンに一度、カードの効果が発動した時にこのカードのオーバーレイユニットを一つ使って発動、その発動を無効にし破壊するよ。でもオーバーレイユニットが減った事で攻撃力も下がっちゃうね」

 サイバー・ドラゴン・インフィニティ 攻撃力:2900→2700 オーバーレイユニット数:4→3

 

「なっ!?」

 

 効果発動を示すかのように輝いていた起動司令ギア・チャージ向けてサイバー・ドラゴン・インフィニティがレーザーブレスを放ち、粉砕。自分の作戦が失敗したことに仮面の男Bは焦ったように彩葉に顔を向けた。

 

「馬鹿な!? 何故もっと早くその効果を使わなかった!? その効果はいつでも発動できるはずだろう!?」

 

「それは、今の状況を見れば分かるんじゃないのー?」

 

「……っ!?」

 

 彩葉のニヤニヤ笑いの言葉を受けた仮面の男Bがはっとした顔になる。

 今彼の場には攻撃表示でステータスではインフィニティに劣るモンスターが二体、つまり次のターン下手をすればインフィニティに吸収されてしまうも自爆特攻すれば大ダメージは免れない。さらに起動提督デストロイリボルバーの特殊召喚コストを捻出するために残る手札は二枚ともガジェットモンスターであるという情報アドバンテージを握られていた。

 つまり彩葉は彼の行動を読んだ上でここまで彼を泳がせて、一番やられたら困るタイミングでの妨害を試みていたのだ。

 

「く、くそう! 俺は[レッド・ガジェット]を召喚し、その効果でデッキからイエロー・ガジェットを手札に加える。バトルだ! グリーン・ガジェットでサイバー・ドラゴン・コアを攻撃!!」

 レッド・ガジェット 攻撃力:1300

 

「はいざんねーん。トラップ発動[サイバネティック・レボリューション]。自分フィールドのサイバー・ドラゴン一体をリリースして発動でき、サイバー・ドラゴンモンスターを融合素材とする融合モンスター一体をエクストラデッキから特殊召喚する。ただし、この効果で特殊召喚したモンスターは、直接攻撃できず、次のターンのエンドフェイズに破壊される。サイバー・ドラゴン・コア(サイバー・ドラゴン)をリリースして、[サイバー・ドラゴン・エタニティ]を特殊召喚するよ」

 サイバー・ドラゴン・エタニティ 守備力:4000

 

「しゅ、守備力4000……くっ、巻き戻しが発生。そこのお調子者にダイレクトアタックだ!」

 

「おっと、トラップ発動[ペンデュラム・リボーン]! 自分のエクストラデッキの表側表示のペンデュラムモンスターまたは自分の墓地のペンデュラムモンスター一体を選んで特殊召喚する。俺は[魔界劇団-メロー・マドンナ]を守備表示で特殊召喚!」

 魔界劇団-メロー・マドンナ 守備力:2500

 

 沢渡の場に再び現れるメロー・マドンナ。優雅な女優でこそあれどその守備力はガジェット達を超えており、攻撃を続行するわけにもいかずグリーン・ガジェットが足を止めた。

 

「ちぃっ! 再び巻き戻しが発生、ならばそこのデカブツに連続攻撃だ!」

 

「ぬぅっ! だが、俺が戦闘ダメージを受けた瞬間手札の[超重武者ココロガマ-A]の効果発動! 自分の墓地に魔法・罠カードが存在せず、自分が戦闘ダメージを受けた時にこのカードを手札から特殊召喚する! さらにこの効果で特殊召喚したこのカードは、このターン戦闘・効果では破壊されない!」LP2700→1300

 超重武者ココロガマ-A 守備力:2100

 

「くそっ! 俺はこれでターンエンド!」

 

 攻撃対象をたらいまわしにされたグリーン・ガジェットも最後はなんとか敵に多少のダメージは与えたものの守りを固められて思ったようには攻撃できず、残る手札もサーチしたガジェットのため何も出来ないのは明らか、仮面の男Bはそのままターンエンドを宣言した。

 

「私のターン、ドロー……インフィニティの効果発動! グリーン・ガジェットを吸収!」

 サイバー・ドラゴン・インフィニティ 攻撃力:2700→2900 オーバーレイユニット数:3→4

 

 サイバー・ドラゴン・インフィニティがグリーン・ガジェットを吸収し、攻撃力を上げる。攻撃表示モンスターを戦闘を行う事すらせずに除去し、さらに攻撃力をアップさせる。さらにオーバーレイユニット一つで魔法・罠・モンスター効果にも容易に対処できる。厄介なモンスターに全員が冷や汗を滲ませていた。

 

「んーと……これが一番面白いかな? サイバー・ドラゴン・エタニティを攻撃表示に変更して、バトル。私はサイバー・ドラゴン・インフィニティでイエロー・ガジェットを攻撃! エヴォリューション・インフィニティ・バースト!!」

 サイバー・ドラゴン・エタニティ 守備力:4000→攻撃力:2800

 

「ぐああああぁぁぁぁっ!!」LP4000→2400

 

「さらに、次はおにーさんのターンだからね。サイバー・ドラゴン・エタニティで超重武者ココロガマ-Aを攻撃!」

 

「ぬぅっ!」

 

 彩葉はイエロー・ガジェットを除去しつつ次のターンプレイヤーである黒髪リーゼントの青年の場のモンスターを除去することに決め、一掃。そしてそのままターンエンドを宣言し、同時にサイバネティック・レボリューションの効果により特殊召喚されたサイバー・ドラゴン・エタニティはその効果によって消滅していった。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「権現坂、頑張れ!」

 

「おう!」

 

 黒髪リーゼントの青年──権現坂は彼女が乱入してきた時には切り札が鎮座していたにも関わらず場ががら空きの状態でターンを託され、赤緑髪の少年から声援を受けながら気合いを入れ直して三枚の手札を見る。

 

「俺は手札から[超重武者ビッグワラ-G]と[超重武者ホラガ-E]を特殊召喚! このカード達は俺の墓地に魔法・罠カードが存在しない時、特殊召喚できる。ただし、ホラガ-Eを自身の効果で特殊召喚したターン、俺は超重武者モンスターしか特殊召喚出来ない。この効果は発動を伴わないもののため、サイバー・ドラゴン・インフィニティの効果も発動できんはずだ!

 さらに俺は[超重武者グロウ-V]を召喚!」

 超重武者ビッグワラ-G 守備力:1800

 超重武者ホラガ-E 守備力:600

 超重武者グロウ-V 攻撃力:100

 

「凄い! 一気にチューナー含めた三体のモンスター!」

 

「ちゅーなー?」

 

 権現坂は一気に三体のモンスターを展開し、赤緑髪の少年が声援を送る。その中の聞き覚えのない言葉に彩葉がきょとんとした顔で首を傾げると、権現坂がくわっと目を見開いて口上を述べる。

 

「知らぬば寄って目にも見よ! 俺はレベル5のビッグワラ-Gとレベル3のグロウ-Vに、レベル2のホラガ-Eをチューニング!」

 

「チューニング!?」

 

「荒ぶる神よ、千の刃の咆哮と共に砂塵渦巻く戦場に現れよ! シンクロ召喚!! いざ出陣! レベル10! [超重荒神スサノ-O]!!!」

 超重荒神スサノ-O 守備力:3800

 

 二体の超重武者が星となり、ホラガ-Eの変化した緑の輪に包まれる。そして同調して放たれた光から現れたのは荒ぶる神の名を持つ超重武者の進化した姿。

 

「シンクロ召喚……きゃは、おもしろーい♡」

 

「超重武者グロウ-Vの効果発動! 自分の墓地に魔法・罠カードが存在せず、このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキの上からカードを五枚確認し、好きな順番でデッキの上に戻す。さあ、インフィニティの効果で無効にするか否か!」

 

「ん~……ま、デッキの確認と並べ替えくらいなら別にいいよ。通してあげるね」

 

 シンクロ召喚というまた未知の召喚法を見た彩葉が楽しそうに笑い、権現坂はその間にシンクロ素材にした超重武者の効果発動を宣言、それを通すと確認した彼は効果処理としてデッキの上から五枚の確認と並べ替えを終えた後、ドンと震脚のように踏み込んで彩葉にメンチを切った。

 

「こちらをおちょくるような行い、断じて看過できん! アカデミアの蛮行を止めねばならぬ身だが、まずは貴様に説教の一つを入れてくれよう!」

 

「でもおにーさん。そのモンスター守備表示だよ? そんな啖呵切ってて守りを固めるしかないなんて恥ずかしくないのー?」

 

「心配ご無用。超重荒神スサノ-Oは守備表示のまま攻撃できる! さらにその場合、このカードは守備力を攻撃力として扱いダメージ計算を行う!」

 

「……つまり、攻撃力3800?」

 

 権現坂の宣言と共にスサノ-Oが動き出し、彩葉はシンクロ召喚という見たことのない召喚法に加え、さらに守備表示のまま守備力を攻撃力に変換して攻撃可能だというモンスターの姿に目を輝かせる。

 

「バトルだ! スサノ-Oでサイバー・ドラゴン・インフィニティを攻撃! クサナギソード・(ZAN)!!」

 

「おもしろーい! じゃあ、受けてあげるね!!」LP2000→1100

 

 スサノ-Oの武装クサナギソードがサイバー・ドラゴン・インフィニティを一閃し、粉砕。それによって生じた衝撃波が、きゃはははと笑いながら両手を広げて受けた彩葉のライフを一気に削り取った。

 

「相手を舐めるからこうなるのだ! 俺はこれでターンエンド!」

 

「うん、面白いねー。私のターン、ドロー」

 

 妙に会話が噛み合っていないまま、権現坂がターンエンドを宣言して彩葉がカードをドロー。

 

「んー……魔法カード[手札抹殺]を発動するよ。全てのプレイヤーは手札を全て捨て、その枚数分新たにデッキからカードをドローする。私の手札四枚捨てて、四枚ドロー」

 

 手札が悪いのか全て捨てての入れ替えを決める彩葉と、それに従って手札のあるプレイヤーも手札を交換。

 

「来た」

 

 そしてカードをドローした彩葉の静かな声が、妙に大きく響くのだった。

 その声を聞いた全員がぞくりと背筋を震わした時、妖しい笑みを浮かべた彩葉が動き出す。

 

「速攻魔法[サイバネティック・フュージョン・サポート]! ライフポイントを半分払って発動し、このターン、自分が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に一度だけ、その融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを自分の手札・フィールド上・墓地から選んでゲームから除外し、これらを融合素材にできる!

 [融合]を発動! サイバネティック・フュージョン・サポートの効果により、私は墓地の[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]と[サイバー・エンド・ドラゴン]を除外融合!! 出でよ、[鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン]!!!」LP1100→550

 鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン 攻撃力:5000

 

「こ、攻撃力……5000……」

 

 彩葉の場に出現するのは巨大な三つ首の機械竜を腹部に捕らえ、己のエネルギー源としている漆黒の機械竜。その圧倒的な威圧感を見た誰かが静かにそう呟いた。

 

「サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの効果を発動するね、一ターンに一度発動でき、自分・相手の墓地のモンスター一体を選び、このカードに装備する。私は[サイバー・ダーク・カノン]を装備するよ☆」

 

 さらにその漆黒の機械竜は新たなモンスターを捕らえ、己の力とする。そして彩葉はニヤァと笑いながら、権現坂を見た。

 

「返礼だよ、おにーさん。バトル。サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンで超重荒神スサノ-Oを攻撃!  エターナル・フル・エヴォリューション・ダークネス・バースト!!!」

 

「そ、そうはいかん! スサノ-Oの効果発動! 一ターンに一度、自分の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、相手の墓地の魔法・罠カード一枚を対象として発動し、そのカードを自分フィールドにセットする! 遊矢、お前のカードを借りるぞ! 俺は遊矢の墓地にあるAマジック[奇跡]をセットし、発動! スサノ-Oの戦闘破壊を無効にし、俺が受ける戦闘ダメージは半分になる!……まあ、戦闘ダメージの半減はここでは意味がないがな」

 

 スサノ-Oの守備力を遥かに上回るモンスターの出現と猛攻、しかし権現坂は冷静に対処しており、赤緑髪の少年──遊矢に一声かけつつ彼の墓地にあったカードを使用して防御、スサノ-Oの破壊を免れる。

 

「きゃはっ♪ ホントおにーさん達の戦い方って面白いねー☆ 私はサイバー・ダーク・カノンの効果によりデッキからモンスター一体を墓地に送る。私は[サイバー・ダーク・エッジ]を墓地に送るね。そしてメインフェイズ2に入って、魔法カード[タイムカプセル]を発動。デッキからカードを一枚選択して、そのカードをタイムカプセルに入れる。発動後二回目の自分のスタンバイフェイズ時にタイムカプセルは破壊され、中のカードは私の手札に加わる。何が入るのか楽しみにしててね♪ 私はリバースカードを一枚セットしてターンエンドだよ☆」

 

 万能な効果を持つインフィニティを処理したと思えば今度は単純に高いステータスのモンスターを呼び出してきた。その代償として彼女のライフは大きく削られているとはいえ、そのライフを削るためには原則として彼女の場のサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを超える必要があり、仮面の男Cはやや困ったように唸っていた。

 

「お、俺のターン、ドロー!」

 

「ほらほら頑張っておにーさん♡ 私のライフ600以下だよ、古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)出せばハウンド・フレイムで削り切れちゃうよ♡」

 

「ぐ……」

 

「あれぇ? もしかして引けなかったぁ? おにーさんってば引きわるーい♪」

 

 彩葉は仮面の男Cをめちゃくちゃ煽りまくる。だが彼はクククと笑みを浮かべていた。

 

「たしかに古代の機械猟犬は引けなかったがな。お前を倒すには古代の機械を使わなくても充分なんだよ! 俺は手札の[マシンナーズ・フォートレス]と[古代の機械兵士]を捨て、墓地からマシンナーズ・フォートレスを特殊召喚! こいつはレベルの合計が8以上になるように手札の機械族モンスターを捨てて、手札・墓地から特殊召喚でき、自身を捨てた場合、墓地から特殊召喚する。

 バトルだ! マシンナーズ・フォートレスでサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを攻撃!!」

 マシンナーズ・フォートレス 攻撃力:2500

 

「へ?」

 

 仮面の男Cは攻撃力が倍程劣っているにも関わらず攻撃を宣言、思わず彩葉が呆けた声を出すもののその間にマシンナーズ・フォートレスが砲撃を開始、しかしサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンは一切意に介さないままあしらうように尻尾を振るってマシンナーズ・フォートレスを粉砕していた。

 

「何がしたいの?」

 

「フン、余裕もそこまでだ。マシンナーズ・フォートレスの効果発動! このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合、相手フィールドのカード一枚を対象とし、その相手のカードを破壊する! マシンナーズ・フォートレスの自爆に巻き込まれるがいい、サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン!!」LP4000→1500

 

 思わずツッコミを入れるように聞く彩葉に返答する仮面の男Cの叫びと共に、どごぉんという爆発がフィールドを包み込む。尻尾で押し潰すために至近距離にいたサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンはひとたまりもないだろう。

 さらに仮面の男Cの場を覆っていた煙が晴れた時、彼の場には新たなモンスターが立っていた。

 

「俺は[マシンナーズ・カーネル]の効果を発動していた! このカードが墓地に存在する状態で、マシンナーズ・カーネル以外の自分フィールドの表側表示の機械族・地属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に、このカードを特殊召喚する! これでサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンが破壊されがら空きになった貴様へのダイレクトアタックで終わりだ、ヘルサイバー!!」

 マシンナーズ・カーネル 攻撃力:3000

 

 どうやら彼のデッキは古代の機械とマシンナーズの混合らしく、かっこつけてビシッと指さす仮面の男C、それと共に煙が完全に晴れていく。

 

「残念でしたー♪」

 

 そこには傷一つないサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの姿があった。

 

「な、馬鹿な、何故!?」

 

「サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンは相手が発動した効果を受けない耐性を持ってるの。そんな小手先の技じゃなくて、真正面から超えてきてね。またのお越しをお待ちしておりまーす♡

 さらにこの瞬間、サイバー・ダーク・カノンの効果によりデッキから最後の[サイバー・ドラゴン・ヘルツ]を墓地に送り、さらにヘルツの効果発動。墓地から[サイバー・ドラゴン・ネクステア]を手札に加えるよ」

 

「な、に……くそ、ならばせめて反逆者のモンスターだけでも削ってやる! マシンナーズ・カーネル! 魔界劇団-メロー・マドンナを攻撃だ!」

 

「く……」

 

「カードを一枚セットしてターンエンド!」

 

 サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを破壊すること叶わず、仮面の男Cはならばせめてと沢渡の場のメロー・マドンナを破壊し、カードを伏せてターンエンドを宣言した。

 

「私のターン、ドロー。サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの効果発動、墓地から[サイバー・ダーク・クロー]を装備するね。そ・し・てぇ♪ おにーさん達に良いお知らせでーす♪」

 

 彩葉はさらなるサイバー・ダークをサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンに装備した後、明るい声でお知らせを始める。

 

「サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()☆」

 

「な!?」

「ん!?」

「だ!?」

「っ!?」

「て!?」

「え!?」

 

 きゃは、とあざとく笑いながらの彩葉のお知らせに全員が驚愕の声を上げる。

 攻撃力5000という桁違いのステータスに、相手の発動した効果を受けないという掟破りレベルの耐性、さらに条件付きとはいえ連続攻撃効果。その上その連続攻撃の条件はある程度自力で満たせるというおまけ付き。

 つまり対処に手間取って装備カードが増えれば増えるだけ手が付けられなくなるという事だ。というか既に今の時点で二回攻撃が可能になっている。

 

「というわけでバトルだよ。まずはさっきのターンのお礼をしてあげるね、おにーさん。サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンでマシンナーズ・カーネルを攻撃! エターナル以下略ダークネス・バーストォ!!」

 

「やられてたまるかぁ!! トラップ発動[機甲部隊の超臨界(マシンナーズ・オーバードライブ)]! 自分フィールドの機械族モンスター一体を対象としてそのモンスターとはカード名が異なるマシンナーズモンスター一体を手札・デッキから特殊召喚し、対象のモンスターを破壊する! 俺は[マシンナーズ・パゼストレージ]を守備表示で特殊召喚し、マシンナーズ・カーネルを破壊する!

 さらにマシンナーズ・パゼストレージの効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、マシンナーズ・パゼストレージ以外の自分の墓地のマシンナーズモンスター一体を対象とし、そのモンスターを守備表示で特殊召喚する! ただしこの効果で特殊召喚したモンスターは、このターン効果を発動できない 俺はマシンナーズ・フォートレスを守備表示で特殊召喚!」

 マシンナーズ・パゼストレージ 守備力:1500

 マシンナーズ・フォートレス 守備力:1600

 

「じゃ、効果発動できるようになる前にマシンナーズ・フォートレスを破壊しとくね。そしてサイバー・ダーク・カノンとクローの効果発動。デッキからは[サイバー・ダーク・キール]を、エクストラデッキからは[サイバー・ツイン・ドラゴン]を墓地に送るね」

 

「ぐうぅっ! だが、[マシンナーズ・カーネル]を再び特殊召喚!」

 マシンナーズ・カーネル 守備力:2500

 

 仮面の男Cはマシンナーズの戦線維持能力をフルに活かして守りを固める。その光景に彩葉がふぅと息を吐いた。

 

「めんどーだなぁ。ま、それじゃあ──」

 

 彩葉は標的を切り替えたかのように遊矢に目を向ける。

 

「──次はおにーさんのターンだもんね。プラスタートルを攻撃するよ、やれ

 

「ぐぅっ!!」

 

 Aカードを拾いに行く暇もなくプラスタートルがやられる遊矢。そのまま彩葉は「ターンエンド」と宣言した。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 彩葉が乱入してきてから彼らのチーム最後の一人である遊矢にバトンが回される。

 

「沢渡、お前のペンデュラムカードの力を借りるぞ! 俺は速攻魔法[揺れる眼差し]を発動! お互いのペンデュラムゾーンのカードを全て破壊し、その後、この効果で破壊したカードの数によって異なる効果を適用する! 一枚以上の場合は相手に500ダメージを与え、二枚以上の場合はデッキからペンデュラムモンスター一体を手札に加える事ができる! 俺が破壊したペンデュラムカードは[魔界劇団-ワイルド・ホープ]と[魔界劇団-ファンキー・コメディアン]の二枚、よってこの効果が適用される!」

 

「くぅ……」LP550→50

 

「さらに俺はペンデュラムモンスター[オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン]を手札に加える!」

 

 手札に入れるのは彼の切り札。しかしそのレベルは7、フィールドががら空きの彼にはそのままの状態での召喚は不可能。だがそれを可能にする召喚方法が彼にはある。

 

「俺はスケール3の[EMパートナーガ]と、スケール8の[EMドクロバット・ジョーカー]でペンデュラムスケールをセッティング!」

 

 遊矢の両隣に立ち上る光の柱。「3」と「8」が描かれている二つの柱の間、その中央部分に巨大な振り子が出現した。

 

「これでレベル4から7のモンスターが同時に召喚可能! 揺れろ、魂のペンデュラム! 天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚!! 出でよ、俺のモンスター達!!」

 

 空中に現れたペンデュラムの描く軌跡から空間に穴が開かれ、そこから三つの光が降り立つ。

 

「レベル4[EMセカンドンキー]! レベル5[EMドラミング・コング]! そしてレベル7、雄々しくも美しく輝く二色の眼! [オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン]!!」

 EMセカンドンキー 攻撃力:1000

 EMドラミング・コング 攻撃力:1600

 オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力:2500

 

 上級・最上級を含めた一気に三体のモンスターの展開。その光景に彩葉はニヤァと笑みを見せた。

 

「でも、私のサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンには敵わないよ? とりあえずアカデミアの皆から倒してみるの?」

 

「いや、まずは君を止めてみせる! セカンドンキーの効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキからセカンドンキー以外のEMモンスター一体を墓地へ送る。ただし、自分のペンデュラムゾーンにカードが二枚存在する場合、墓地へ送らず手札に加える事もできる。俺はこの効果で[EMフレンドンキー]を墓地へ送らず、手札に加え、フレンドンキーを召喚!

 そしてフレンドンキーの効果発動! このカードが召喚に成功した時、自分の手札・墓地からレベル4以下のEMモンスター一体を選んで特殊召喚する。俺は墓地の[EMチア・モール]を特殊召喚!」

 EMフレンドンキー 攻撃力:1600

 EMチアモール 攻撃力:600

 

「おお! いきなりモンスターが五体!」

 

「でも、攻撃力は全然足りないよ?」

 

 権現坂が感嘆の声を上げているように、遊矢の場には一気に五体のモンスターが並ぶ。だが彩葉の言う通りその攻撃力はサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンには及ばない。

 

「分かってるさ。俺はドラゴン族・闇属性のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと、獣族のセカンドンキーをリリースし、融合!!」

 

「リリースして融合だと!?」

 

 遊矢の宣言と共に神秘の渦が出現、アカデミアの得意技である融合、だが融合系の魔法カードを使わない単体での融合に仮面の男Aが驚愕の声を上げ、彩葉は楽しそうに笑みを見せる。

 

「友情を秘めし健脚よ。二色の眼の龍と一つとなりて新たな力を生み出さん! 融合召喚!! 出でよ! 野獣の眼光りし獰猛なる龍! レベル8! [ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン]!!!」

 ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力:3000

 

「わー!! ペンデュラム召喚だけじゃなくって融合召喚まで! おにーさんすっごーい!!……でも、まだ攻撃力は足りないよ?」

 

「お楽しみはこれからだ! EMパートナーガのペンデュラム効果発動! 一ターンに一度、自分フィールドのモンスター一体を対象として発動し、そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分フィールドのEMカードの数×300アップする! 俺が対象にするのはビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!

 そして俺の場のEMカードはパートナーガ、ドクロバット・ジョーカー、フレンドンキー、ドラミング・コング、チアモールの五枚! よって1500ポイント攻撃力がアップする!」

 ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力:3000→4500

 

 パートナーガの力により、まるで手を繋ぐようにビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンにEMの仲間達から力が分け与えられる。だがまだ力は足りず、遊矢は己の場にいるチアモールへと目を向けた。

 

「さらにEMチアモールの効果発動! 自分メインフェイズに元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つモンスター一体の攻撃力が元々の攻撃力より高い場合、そのモンスターの攻撃力は1000アップする!」

 ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力:4500→5500

 

「いよっしゃ! これでサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの攻撃力を上回ったぜ! 決めてやれ遊矢!」

 

 これで攻撃力がサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを上回り、沢渡がビシッと指さして叫ぶ。それに応えるように遊矢も頷いた。

 

「これで終わりだ! でも君をカードになんて絶対にさせない。しばらく大人しくしていてくれ! ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンでサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを攻撃! ヘルダイブバースト!!!

 この瞬間ドラミング・コングの効果発動! 一ターンに一度、自分のモンスターが相手モンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に、その自分のモンスター一体の攻撃力はバトルフェイズ終了時まで600アップする!」」

 ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力:5500→6100

 

 ダメ押しの攻撃力アップ。これでサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの攻撃力を1000ポイント以上上回り、残りライフ50の彩葉ではどうあっても耐えきれない。それを示すかのように、ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの炎を纏った突進がサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンへと直撃、巨大な爆発が辺りを包み込む。

 

「やったか!?」

 

 思わず遊矢の敵であるはずの仮面の男Aが叫び、全員が固唾を飲んで見守る。

 

「キャッハハハハハハハハハハ!!!」

 

 直後、爆発の中からそんな高笑いが聞こえてきた。

 

「まさか、サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンまでやられちゃうなんて思わなかったなー」

 

 そして爆発で生じた煙が晴れた時、彩葉は三枚のカードによって作られた障壁に守られ、無傷のままそこに立っている。その傍らには一枚のリバースカードが翻っていた。

 

「トラップ発動[パワー・ウォール]。相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動できて、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように500ダメージにつき一枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。私が受ける戦闘ダメージは1100、これが0になるように500ダメージにつき一枚、つまり三枚のカードを墓地に送って、今回の戦闘は無傷で終了したんだよ。残念でしたー☆」

 

「っ……まだだ! ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンは戦闘でモンスターを破壊した時、このカードの融合素材とした獣族モンスター一体の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える! セカンドンキーの元々の攻撃力は1000。よって1000ポイントのダメージを与える!」

 

 だが遊矢の追撃は防げないはず。そう叫ぶようにビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが咆哮し、それが衝撃波となって彩葉に迫る。

 

「これでどうだ!!」

 

遊矢が叫ぶ。その時、彩葉がニヤリと笑みを浮かべた。

 

「トラップ発動[ダメージ・ポラリライザー]!」

 

「なにっ!?」

 

彼女が宣言し、カードが翻った瞬間。彼女の前に半透明のエネルギー障壁が出現。咆哮の衝撃波から身を守る。

 

「効果によるダメージが発生した時、そのダメージを0にするよ」

 

「な……く、後たった50なのに……」

 

戦闘ダメージをしのがれ、二の矢に放った効果ダメージも防がれる。

 

「ダメージ・ポラリライザーの効果はまだ続くよ。お互いにカードを一枚ドローする。おにーさん、私からのプレゼント受け取ってね?」

 

「く……ドロー!」

 

 彩葉はきゃはっと笑いながらそう言い、カードをドローして遊矢にもドローを促す。

 しかしそんな彩葉の言葉にはどこか相手を見下した傲慢な様子さえも伺える気がした。

 

「ま、まだだ! チアモール! 彩葉ちゃんにダイレクトアタックだ!!」

 

 だが風前の灯火には変わりはない。しかも彩葉の場はこれでがら空き、この攻撃は通るはずだと遊矢は彼女を止めるためにチアモールへの攻撃を指示、チアモールが一気に彼女目掛けて突進する。

 

「墓地の[超電磁タートル]を除外して効果発動。相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して、そのバトルフェイズを終了するよ」

 

「なっ……」

 

 しかしまるで彼女の場に相手を拒絶し弾き飛ばす磁場が発生したかのようにチアモールが遊矢の場へと弾き返される。

 

「まさか本当にサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの攻撃力を真っ向から超えてくるなんて思わなかったから。ご褒美に攻撃受けてあげたんだよ? まさか、何の策もないと思ってたの?」

 

「な、ぐ……」

「このガキ、バカにしやがって……」

「だが、なんという……」

 

 にへ、と笑って傲慢に告げる彩葉の姿に遊矢、沢渡、権現坂が唸り、仮面の男達もどこか怯えた様子で歯をギリリと噛みしめる。

 

「俺はカードを一枚セットして、ターンエンド……この瞬間、ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力も元に戻る……」

ビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴン 攻撃力:6100→3000

 

 しかしもう遊矢はもう、先ほど彩葉曰くプレゼントとしてドローしたカードを伏せ、ターンエンドを宣言する事しか出来なかった。

 

「私のターン、ドロー。そしてタイムカプセル発動後、二回目のスタンバイフェイズ。私はタイムカプセルを破壊し、棺に入れたカードを手札に加えるよ♪」

 

 彼女の場に密かに残っていたカード──タイムカプセル。それが破壊され、棺の中に封印されていたカードが彩葉の手に渡る。彩葉はそれをそのままデュエルディスクへと差し込んだ。

 

「魔法発動[エヴォリューション・レザルト・バースト]。デッキから[オーバーロード・フュージョン]一枚を手札に加える」

 

「……え? サーチカード?」

「わざわざサーチカードを時間のかかる方法でサーチしたのか?」

「……我々に破壊されることを警戒して、直接的なサーチはしなかったのか?」

 

 だがタイムカプセルでサーチしたカードは単純なサーチカードと思しきカード。その内容を聞いた遊矢達三人がきょとんとした顔を見せるが、彩葉はそんな彼らに見下すような視線を向けた。

 

「恐ろしいのはこれからだよ、おにーさん達♡ 魔法カード[オーバーロード・フュージョン]を発動! 自分のフィールド・墓地から、機械族・闇属性の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター一体を融合召喚する! 私は墓地の[サイバー・ドラゴン]を始め、サイバー・ドラゴン・ヘルツ、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、サイバー・ドラゴン・ヘルツ、サイバー・ドラゴン・ノヴァ、キメラテック・ランページ・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・インフィニティ、サイバー・ダーク・ホーン、サイバー・ダーク・エッジ、サイバー・ダーク・キール、サイバー・ドラゴン・ヘルツ、サイバー・ツイン・ドラゴン、サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン。十三体の機械族モンスターでオーバーロード・フュージョン!!」

 

「じゅ、十三体融合!?」

 

「出でよ、[キメラテック・オーバー・ドラゴン]!!!」

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力:?

 

「攻撃力が決まっていない!?」

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの攻撃力は融合素材になったモンスターの数×800ポイントになるんだよ♪ そして融合素材になったモンスターは十三、よって攻撃力は──」

 キメラテック・オーバー・ドラゴン 攻撃力:?→10400

 

『こ、攻撃力10400ゥ!?』

 

 先ほどのサイバー・ダーク・エンド・ドラゴンをも、そして皆の力を借りて強化されていたビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンすらも上回る圧倒的な攻撃力に全員が声を裏返して悲鳴を上げる。

 

「そして、キメラテック・オーバー・ドラゴンのさらなる効果だよ。キメラテック・オーバー・ドラゴンはね。一度のバトルフェイズ中に、このカードの融合素材としたモンスターの数まで相手モンスターに攻撃できるんだよ? つまり~、十三回もモンスターに攻撃できるって、わ・け♡」

 

「な……」

 

「あ、って事はモンスターがいない俺は平気ってことか……」

 

 攻撃力10400の十三回モンスターに攻撃権を持つモンスター。そんな化け物に四体のモンスターを有する遊矢が絶句し、隣のモンスターがいない沢渡は攻撃対象がいないからとほっと息を吐く。

 

「って、言いたいんだけどね☆ ここでさっき発動した魔法カード[エヴォリューション・レザルト・バースト]が効いてくるんだ♪」

 

「なんだと!?」

 

「エヴォリューション・レザルト・バーストにはもう一つ効果があってね。このターン中に、[オーバーロード・フュージョン]の効果で六体以上のモンスターを素材として融合召喚した場合、そのモンスターはこのターン、その融合素材としたモンスターの数まで一度のバトルフェイズ中に攻撃できるんだよ♡

 つまり……モンスターに限らず、直接攻撃もオッケーってこと♪

 まあこのカードの発動後、ターン終了時まで私は魔法カードの効果でしかモンスターを特殊召喚できないんだけど……些細な事だよね」

 

 彩葉の言葉に全員が絶句する。攻撃力10400の連続攻撃だけでも厄介なのに、モンスターのみという制約が上書きされてダイレクトアタックも可能ときたものだ。そうなるのも無理はない。

 

「さらに、魔法カード[アームズ・ホール]を発動。デッキの一番上のカードを墓地へ送って発動でき、自分のデッキ・墓地から装備魔法カード一枚を選んで手札に加える。このカードを発動するターン、自分は通常召喚できないんだけど……ま、問題ないよね。

 私はこの効果で装備魔法[エターナル・エヴォリューション・バースト]を手札に加え、そのままキメラテック・オーバー・ドラゴンに装備! この装備魔法は機械族の融合モンスターにのみ装備でき、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分バトルフェイズ中に相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できない!」

 

「な…(…まずい、俺の伏せカード[ドタキャン]は、相手モンスターの攻撃宣言時に発動して自分フィールドのモンスターを全て守備表示にするカード。つまり発動がバトルフェイズに限定されてる。あのカードの効果で封じられた! いや、それだけじゃない。回避も、奇跡も、防御用のアクションカードが使えない!)」

 

 つまりは反撃も出来ずになぶり殺しにされるわけだ。

 彩葉が「きゃは♡」と無邪気な笑顔を、そう、子供が虫を潰したりして遊んでいるかのような無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「やっちゃえ、キメラテック・オーバー・ドラゴン──エヴォリューション・レザルト・バースト!!」

 

「くっ!」

「おわわわわ!?」

「ぬぅっ!」

 

 彩葉の命令と共にキメラテック・オーバー・ドラゴンに生えた十一個の首から光線が放たれ、フィールドを蹂躙。咄嗟に遊矢がビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに乗って走り出し、沢渡が光線から逃げようと右往左往。権現坂の場のスサノ-Oがレーザーを受け止めようとするも抵抗むなしく粉砕され、アカデミアの方もモンスターが蹂躙されていく。

 

「スサノ-Oで一回、パゼストレージで一回、カーネルで一回、起動兵長コマンドリボルバーで一回。これで守備表示モンスターは全滅かなっと」

 

 彩葉がフィールドを見回し、確認する。遊矢のフィールドのモンスターは全て攻撃表示であり、沢渡の場には元々モンスターがいなかった、権現坂の場にはスサノ-O一体だけ、アカデミアの方も仮面の男Aの場にモンスターはおらず、仮面の男Bの場には攻撃表示のレッド・ガジェットと守備表示の起動兵長コマンドリボルバー、仮面の男Cの場はマシンナーズ・パゼストレージとマシンナーズ・カーネルが守備を固めていた。その内スサノ-O、パゼストレージ、カーネル、コマンドリボルバーが破壊。

 これで四回攻撃権を使ったものの、まだ九回の攻撃権が残っている。

 

「……九回?」

 

 遊矢がはっとした顔になる。アカデミアチーム三人はB以外はがら空きだしBも残るは攻撃表示のレッド・ガジェットのみ。自分達の方もこれで沢渡と権現坂はがら空き、そして自分の場のモンスターは四体とも攻撃表示。

 つまり自分達及びモンスター全てをちょうど撃破できる攻撃回数だった。

 

「きゃは♡ ちょっと大盤振る舞い過ぎたかな? ま、ともかく……これで終わりだよ。六人がかりで勝てなかった雑魚のおにーさん達♪ キメラテック・オーバー・ドラゴン、全てを蹴散らせ! エヴォリューション・レザルト・バースト、九連打ァ!!!」

 

 無造作に放たれたレーザーが迫る。彼女にとって本来は味方であったはずのアカデミアの仮面の男達が次々と光線に飲み込まれ、レーザーを浴びた地面が爆砕したことで吹き飛ばされ、それは沢渡と権現坂も同じくがら空きの状態でレーザーをモロに受けてしまう。

 

「権現坂! 沢渡!」

 

 遊矢が悲鳴を上げながらも己が跨っているビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを操り、必死でレーザーから逃げ惑う。だが彼の仲間であるEM達は次々と光線に飲み込まれていき、ついに三本のレーザーが遊矢とビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを包囲、徐々に迫ってくる三本のレーザーに逃げ場を失ったところに本命である四本目のレーザーがビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを打ち砕く。

 

「うわああああぁぁぁぁっ!!!」LP4000→0

 

 そして粉砕されたビーストアイズ・ペンデュラム・ドラゴンから吹き飛ばされた遊矢のライフも0を示し、彼が地面に叩きつけられるのをゴングの音にしたかのように、このデュエル終結のブザーが響くのであった。

 

 

 

 

 

「がはっ……」

 

 偶然にも遊矢が吹き飛ばされた場所に権現坂と沢渡も吹き飛ばされたようだが、三人ともあまりのダメージを受けたのか動けない。それはさっきまで彼らと戦っていた仮面の男達も同じであり、唯一このデュエルの勝者である彩葉が微笑みを浮かべながら彼らに歩み寄る。

 

「く、くそっ……」

「俺達、このままカードにされちまうのか……?」

「ごめん、柚子……」

 

 権現坂は自分が壁になって遊矢達を逃がそうとするも立ち上がる事すら出来ず、沢渡も悔しそうに歯ぎしり、遊矢は柚子に助けられなかったことを詫びる。そして彩葉が彼らの元に辿り着いた。

 

「けっこー面白かったよ、おにーさん達♡ またやろーね☆」

 

「「「……は?」」」

 

 そうとだけ言って、彩葉はくるりんと踵を返して歩き出す。

 

「ま、待てよお前……俺達をカードにしないのか……?」

 

「されたいの?」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

 思わずツッコミを入れる沢渡だが、彩葉からの質問を受けると首を横に振って否定。「じゃあいーじゃん」と彩葉も答えた。

 

「だってカードにされちゃったらもう戦えないでしょ? そんなのつまんないじゃん……それにぃ、もうお迎えが来たみたいだよ」

 

「「「え?」」」

 

 彩葉の言葉に呆けた声を出した時だった。

 

「遊矢! 大丈夫か!?」

 

「黒崎!」

 

 

「お前達、無事か!?」

 

「総司令!」

 

 遊矢達の元に駆けつけたのは黒崎隼を始めとするレジスタンス、アカデミアの元に駆けつけたのはエド・フェニックスを始めとする部隊。彼らは倒れている仲間達を見て表情を歪めた後、そこに唯一立っている彩葉を睨みつけた。

 

「柳里彩葉ァ! 貴様、よくもまた!」

「ヘルサイバー! 性懲りもなく!」

 

「きゃはっ♡ 久しぶり、おにーさん達☆ けど私、さっきまでこのおにーさん達と遊んで疲れてるから帰りたいんだよねー……まあ、おにーさん達がここでドンパチやるっていうのなら、面白そうだから付き合うけど?」

 

「「……」」

 

 黒崎とエドに睨まれているのにどこ吹く風や彩葉はニタァと好戦的に微笑んでおり、二人は互いに一瞥すると苦渋に満ちた顔を見せる。

 

「遊矢達を連れて引くぞ!」

 

「彼らを回収し、本部に戻る!」

 

 無策で彩葉と戦ったら被害が大きくなる。そう直感したのか互いに彩葉を刺激せずに仲間を連れて戻る事に決めてそれぞれ仲間を回収していく。多少睨みあってはいたもののそれ以上は何もなく対立する二組は仲間の回収が完了。

 

「じゃ、また遊ぼうね。おにーさん達☆」

 

 そう言うと共に彩葉はリアルソリッドビジョンシステムを作動させ、[鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン]を召喚。その背に飛び乗ってひゅーんと飛び去っていく。

 それを警戒しながら見届けつつ、レジスタンスとアカデミアもそれぞれの拠点へと戻っていくのだった。




《後書き》
 皆様「もしも彩葉ちゃんがアカデミアにいたら(ただしアカデミアが制御できているとは言ってない)」、ご読了いただきありがとうございます。え、タイトルがおかしい?何のことですか?(すっとぼけ)
 今回は若干ヘル化したイメージで書いてみました。というか今まで何も考えずに書いてたら「メスガキ」と「リスペクトデュエル」が噛み合わなくなってきて……いっそリスペクトデュエルを取り払ったヘルカイザーに寄せてかつメスガキっぽくしたらどうだろうという考えで作ってみました。
 で、それをやるとしたら既に若干リスペクトデュエルモードが入っているGX世界線だとノイズが入ってやりづらいからArc-V世界線に放り込みました。こっちならヘル化しててもまあまあ言い訳が利くし。

 そんな感じでエクシーズ次元内を渡り歩きつつ、面白半分でエクシーズ次元のレジスタンスに喧嘩売ったりアカデミアに反逆したり、時には今回みたいに両方が戦ってる中に第三勢力として乱入して全部ぶっ潰したりした上で「カードにしたらもう戦えないから」とほっぽっときます。
 そのためレジスタンス側からも「レジスタンスを襲ってきたと思ったらアカデミアにも構わず襲い掛かる。訳が分からない危険人物」、アカデミア側からも「反逆者、コードネーム《ヘルサイバー》」と危険視されながらエクシーズ次元をふらふらしています。

 ちなみに本編では「免許皆伝の証としてサイバー・エンド・ドラゴンの継承の代わりに裏サイバー流デッキを継承した」という設定上裏サイバー流に寄ったデッキ構築になっていたり、そのせいでサイバー・エンド・ドラゴンは未所持という設定上の弊害があるけど、こっちではそういうもの全くないし、なんなら最新のサイバー流カードも設定上問題なく使用出来たり「エクシーズ系のサイバーもこっち来てなんか入手しました」で説明付けたり出来るので、サイバー流と裏サイバー流の混合という意味ではこの彩葉ちゃんが多分一番強いです。(ちなみに本編の彩葉ちゃんも設定上はサイバー・ドラゴンを三積みしてサイバー・ツイン・ドラゴンもデッキに投入してるけどそれ止まり)

 まあそういう感じのお話でしたが正直もう書きたくないです……途中で彩葉を乱入させて、実は既にデュエルは進んでたからある程度カードが墓地に溜まってました&手札を消費していました&元々敵同士だから隙あらば寝首をかこうとしますって体にしなきゃ彩葉が物量で押し切られてたかもしれない……。
 そして実を言うと今回の話、たまたま「エヴォリューション・レザルト・バースト」というカードが出る事を知らなきゃ多分没になってました。いやホントなんなんですかこの「キメラテック・オーバー・ドラゴンで蹂躙しちゃえよ」なカード。今回の彩葉ちゃんの決めのために誂えたようなカードじゃないですか。

 では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。


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