こち亀二次創作  【Vtuberで大儲け!!! の巻】 (逆理のシャチ)
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こち亀二次創作  【Vtuberで大儲け!!! の巻】

昭和の匂いが残る街、東京亀有。

 

地球最悪の警察官、両津勘吉(りょうつかんきち)はアスファルトを自転車のタイヤで削りながら、パトロールという名のパチンコ店巡りから亀派出所へ激走した。冬の路面に湯気が立つ。

 

「今戻ったぞ」

「何が“戻ったぞ”よ、遊んでいたくせに」

 

秋元(あきもと)・カトリーヌ・麗子(れいこ)は、美麗な文字で日誌を書きながら両津へ口をとがらせた。

 

「なんだと麗子!」

「まあまあ先輩! 落ち着いてください」

「………ふん」

 

両津の後輩、中川圭一(なかがわけいいち)が慌てて両津をたしなめた。そうしてようやく両津はその太い剛腕を下に降ろした。しかし、中川も麗子も、両津が100回人生をやり直しても肩を並べる事が出来ないほどに遠い世界の人間だ。因みに両津は全くその事について考えていない。

 

お馴染みのやり取りを終えご満悦の両津。警察官としての職務を立派に務める後輩2人をよそに、スマートフォンで動画を見始めた。

 

《はいどーもー! 今日はコラボ企画だよー!》

「おおっ! 勢いのあるV同士のコラボか」

「もう両ちゃんたら。あ、寺井さんお疲れ様」

「馬鹿野郎、今は丸井ヤング館だろうが!」

「先輩! その名前で分かる人いませんから!」

 

人生送りバント、サラリーマン警官の寺井洋一(てらいよういち)改め、丸井ヤング館。もとい寺井は真面目に仕事をし、真面目に戻って来た。

 

「両さん、それ何見てるの? アニメ?」

 

盛大に、派手に、豪快に割れるガラス。中川と麗子が掃除する横で両津はスマートフォンの画面を寺井の眼前に突きつけた。それは可愛らしい姿の少女、CGのキャラクター達による動画だった。しかしまだ判然としない様子の寺井に両津は苛立ちを隠さない。強い口調と濃い顔でまくしたてる。

 

「お前Vtuberも知らないのか」

「ぶ、ぶいちゅうばあ? 何それ」

「まったく。そんな事だから常にネクストバッターズサークル止まり選手だと言われるんだ」

「そんなの、両さんしか言ってないけど………」

「うるさい!」

 

貴方の方がうるさい。という言葉をぐっと抑えられた寺井、肥満体型の腹が震える。

 

「両津、随分と熱心だな。さぞや立派な“仕事”に関する事を熱弁しているんだろうな………!」

「げっ! ぶ、部長!」

 

両津勘吉という現象の最大の被害者、両津の上司である大原大次郎(おおはらだいじろう)はこめかみを小刻みに震えさせながら、目の奥から顎の先まで笑っていない顔をしていた。

 

………………………

………………

………

 

「ええと、つまりパソコンで作ったキャラクターになりきって動画を流す人達の事なの?」

「これ以上の説明は骨が折れる。まあ、そういう捉え方で構わないだろう」

「ううむ、さっぱり分からん」

「両ちゃん、これがそんなに人気なの?」

「当たり前だ。今すごい勢いなんだぞ」

「両津の言う事だ、信じられん」

「いえ、先輩が言っているのは本当ですよ」

「そうなのか!?」

 

中川はノートPCを取り出し、いつの間にか作っていた資料を機械音痴の2人に見せた。

 

「これを見てください。ある月の、YouTubeにおけるVtuberによる動画の総再生回数です」

「いち、じゅう、ひゃく、せん………15億!!?」

「なに! そんなになのか!」

「はい。2018年にはVtuberという言葉が、インターネットの流行語大賞を受賞しました。その経済規模は数百億円とも言われています。日本発の文化として海外でも注目されているんです」

「なに、なぜ海外でも注目されるんだ」

「Vtuberの特性として、現実と異なる自由な姿になれるというものがあります。人種や肌の色、性別、年齢、容姿に関係なく誰でも好きな自分になれるんです。そういった点が高く評価されているんですよ。外国人のVtuberも増えています」

 

とにかくその勢いに圧倒された部長は、妙案を思いついたのか両津の肩をたたいた。両津の表情が分かりやすく歪んだ。

 

「今、地元商店街と警察が協力し安全な街づくりを図る活動をしている。両津、お前がそのぶい何とかで商店街の宣伝をしろ」

「なぜですか部長! 私は暇じゃありません!」

 

暇でしょ、という麗子の指摘は両津の耳から空っぽの脳みそを抜けて反対の耳から出た。

 

「そんなに人気ということは、ブイチューバーは凄く儲かるの?」

 

寺井の質問に中川が小声で答える。

 

「中には月数百万円の利益を上げる人もいます」

 

その言葉は両津の耳から入り、空っぽの脳みそで何度も繰り返し響いた。

 

「分かりました。男、両津勘吉。地元のためなら粉骨砕身の精神で働きましょう」

「おお、助かるぞ両津」

「と言うわけだ中川、アカウントは用意するからそれ以外を頼んだぞ。まずは本田あたりを………」

 

猛然と駆けていく両津の背中を中川は不安げに見つめた。先程の一言が気になるのだ。

 

「アカウントを自分で用意ってまさか………」

「圭ちゃん、どうかしたの?」

「先輩は多分、部長からの依頼と共に配信でお金を稼ごうと企んでいるんだ」

「そんなのいつもの事じゃない」 

「YouTubeに動画を投稿してお金を得るには条件があるんだ。スーパーチャットという、見ている人が直接お金を払うシステムがあって。それだとアカウントを作ったばかりでは利益を得られないないんだ。ある程度の実績が必要なんだけど」

「………けど?」

「既に条件を満たしているアカウントの権利を買えば、直ぐに利益を得られてしまうんだよ」

「それってルール違反じゃないの?」

「限りなく黒に近いと思う」

 

中川は溜め息をつきながら必要な物を手配した。

 

────────────────────────────────────────────

 

 

都内某所に建つ巨大な建物。両津は一緒に配信をする仲間を呼び集めていた。

 

白バイ警官、本田速人(ほんだはやと)の体を早朝の寒風が貫く。本田はダウンジャケットの裾を押さえながら、隣に立つ左近寺竜之介(さこんじたつのすけ)に驚愕した。左近寺はこの真冬においてもタンクトップで堂々としていたからだ。

 

「先輩〜ここはどこなんですか〜?」

「両津、何をする気だ?」

「ふっふっふっ………まあ見てろ」

「先輩、準備ができました」

 

得意気な両津に連れられて本田達が建物へ入ると、そこは白い壁に覆われた大きな部屋だった。

 

「本田、左近寺、お前達にはワシとVtuberをやってもらう。そのために呼んだ」

「えっ! 先輩達とVtuberですか!?」

「本気なのか!?」

「既にアカウントも用意した。中川!」

 

中川は本田と左近寺にノートPCの画面を向けた。

 

【ハッピーハッピーロード亀有を盛り上げ隊】

 

両津考案のネーミングだが、元になった商店街の名前に入っているハッピーロードという言葉が、寂れた駅前商店街の悲壮を漂わせる。

 

「お前達のキャラクターも作ってもらったぞ!」

「なに!」

 

中川が画面を切り替えるとそこに映るのは3人のCGキャラクター、原型はまるで無い。大仰に驚いた左近寺の動きも、キョロキョロと辺りを見回す本田の動きも、全てリアルタイムで映し出されていている。中川がまた違う資料を表示した。

 

「この部屋の壁面や床や天井に、等間隔で超小型のモーションセンサー、カメラ、マイクが設置されています。これらがリアルタイムで皆さんの動きや声をバーチャルに変化しているんです」

「あれ? でもここに写っているのは僕と先輩と左近寺さんだけですよ? 声も僕達のだけだ」 

「皆さんの顔や骨格、声の特徴などは既に登録済みです。その登録したデータに合う人の動きや声だけを変換するように出来ているんですよ」

「す、凄いシステムだ………」

「ここは中川財閥の系列Vtuber事務所のスタジオだからな。他とは格が違うんだよ」

「えっ! Vtuber事務所まであるんですか!」

「これが公式ホームページだ。ワシも驚いた」

 

そこには今をときめく人気Vtuberが勢揃いしていた。それほど詳しくない本田でさえ、ネットニュースなどで聞いた事がある名前ばかり。オタクの左近寺は本田以上に暑苦しく驚いていた。

 

「署の方から、企画書が来ています。一応………」

「なぜ企画書が手書きなんだ………。しかもなんだ、『精肉店直伝、美味しいコロッケのレシピ』『ご長寿の方々を呼んで話を聞く』とは、町内会のチラシを作るんじゃないんだぞ! 部長達は、本当に町おこしをする気があるのか………?」

 

これでは青スパすら来ないぞ、と両津は苦々しく言った。やはり金かと両津以外の誰もが思った。

 

──いいか! 

 

汚い人差し指を立て、劇画的に両津は言い放つ。他と同じ事をしていては駄目だと。

 

「YouTubeにいるVtuberは1万人以上、しかし!その中で収益を上げるのは、ほんの一握りだ。後は人気者達の後を追っているだけ、これから初めて猿真似をしても10001位になるだけだぞ!」

「それは、そうですが………」

「そこでだ。ワシらは他と違う事をする!」

 

────────────────────────────────────────────

 

「両ちゃんいらっしゃい、コロッケ揚がったよ」

「両さん、食べていきなよ」

 

商店街を練り歩く両津達。良くも悪くも有名人の両津はどの店でも声をかけられた。後ろを歩く本田や左近寺も、町の人に言われるままに食べ歩いている。どこか変だとすれば、インカムに耳を当て矢継ぎ早に指示をしながらパソコンを叩く中川と、辺りを整列して飛ぶドローンぐらいだ。

 

そう無数の、そして極小のドローンが整然と制御され、両津達の動きや声を余す事なく拾う。

 

両津達は今、Vtuberとして生配信をしている。

 

普通のカメラを通せば商店街を歩く中年男性達。しかし中川財閥が総力を挙げて開発した高性能超小型カメラと最新鋭のミニマムドローン、系列企業開発のセンサやマイクを組み合わせる事で、外にいながらにして生配信が可能となった。

 

細かな動きやブレがあったとしても、予め作成した数十万通りのCGパターンを即座に当てはめる事で自然な動きを再現している。

 

これは元々、災害時や大気圏外等の特殊な状況下を想定して開発された物なのだが、両津はそれを贅沢にも屋外でのVtuber配信のために使用している。1機数億円、両津を含めて3人をカバーするのに必要な金額は………。全額中川が負担しているとはいえ、その規模の大きさに左近寺も本田も笑顔が引きつっているが、カメラを通せば問題無い。

 

「“リョーコ”さん、お団子を食べましょうよ」

「………そうだな“ハヤミ”」

「“サッコ”お団子だーい好き!」

 

ハヤミとは本田の事、サッコは左近寺の事だ。両津は町で声を掛けられても視聴者に岩間が無いよう、リョーコという名前にしてある。

 

男勝りのリョーコ、おしとやかなハヤミ、ぶりっ子キャラのサッコ。3人とも亀有育ちの高校生という設定だ。なのでキャラクターデザインもセーラー服を着た美少女になっている。

 

「どうだい両さん、昼から1杯」

「お、うんまた今度な………ね」

「先輩、声と顔は変えられても言葉遣いは変えられないんですから注意してくださいね。あと一応高校生なんですから、お酒とか駄目ですよ」ヒソヒソ

「クソ………分かってるよ」ヒソヒソ

「見て! リョーコ、ハヤミ! もう1000人の人達が私達を見ているよ! サッコ感激!」

「左近寺の奴、ノリにノっているな………」ヒソヒソ

「こういうの好きそうですもんね」ヒソヒソ

 

因みに、現在1400人を超える視聴者のほとんどが両津の雇ったサクラだ。Twitter、5ch、動画内のコメント欄。あらゆるSNSやインターネットを駆使する事で両津は初配信にしてバズっているVtuberを演出した。しかし、両津の用意したサクラ以外の視聴者も続々増えている。CGのキャラクターがバーチャルな空間にいるのが当たり前だったこれまでのVtuberと違い、リアルの空間にいるという話題性が急速に広まっていたのだ。

 

[¥1000  サッコ可愛い!]

[これ本当に生なの?]

[普通に凄くない?]

[面白い]

[おもろ]

[笑]

[何これ草]

 

サクラによるコメントの上に表示される黄色く塗られた応援コメント。スーパーチャットと呼ばれる“おひねり”付きのコメントだ。

 

これを読み上げるのはハヤミ、ホンダの役目だ。1000円の全てが入るわけでもないが、収益を上げたことに変わりは無い。高校生であるという事を忘れ、下賤な顔で笑う両津の背後に近づく影。

 

「両さん隙あり!」

「ぎぃゃあああっ!」

 

下校中の小学生が、両津の尻めがけて両方の人差し指を突き立てた。カンチョウだ。

 

[なに今の?]

[カンチョウwwwww]

[凄い声出てたぞ]

 

あまりの痛みにのたうち回る両津。ようやく起き上がるとゲラゲラと笑う小学生の頭を掴んだ。それをさっと避けて挑発する子供、頭に血の登った両津は配信中だというのを忘れて拳を振り上げ小学生を追いかけた。その一連をドローンカメラがしっかりと記録している。

 

「待ちやがれ、このー!」

「せ、リョーコさん、今配信中ですよ!」

「うるさーい! これは男、いや女の威厳に関わる問題だ! 待てこのー!」

 

こうして、最初の配信は唐突に終了した。

 

────────────────────────────────────────────

 

数日後、盛り上げ隊の面々は派出所に集まった。

 

「クソぅ………まだ痛む………」

「大丈夫か? 両津」

「でも先輩、凄い反響なんですよ」

「なに、ちょっと見せろ!」

 

本田からスマートフォンを奪い、YouTubeで自分達のチャンネルを検索する。

 

配信終了後に公開したアーカイブが話題を呼び、初回の再生回数は10000回を超えていた。高評価やコメントも伸びている。意外な結果に両津は、腕を組み複雑な顔をした。

 

「ううむ………流石のワシもあれは失敗だとおもうのだが………。何が良かったんだ?」

「なんか、キャラが新しいって話題ですよ」

「キャラだと?」

 

両津から恐る恐るスマートフォンを受け取った本田は、Twitterを開いた。小学生にカンチョーをされ悶えるリョーコの動画が、投稿され10万近いイイねがついている。5chでも同様らしい。

 

「屋外配信という珍しさもウケたんですけど、町の人との空気や先輩のリアクションが面白いみたいです。先輩良かったですね」

「良くないぞ! ワシはカンチョーをされているんだ。あのクソガキ、次会ったら覚えてろよ!」

「しかし、これだけ話題になるとあの商店街で撮影するのは難しそうだな」

「ああ、それは問題無い。Vtuberなんて見るのは若者だ。あそこの爺さん婆さんみたいな、時代劇とニュースが生きがいの老人には関係ない。きっとドローンも鳥か虫ぐらいにしか思っていない」

「酷い偏見だ………」

 

そこへ中川が息を切らして駆け込んだ。

 

「先輩大変ですよ! これを見てくだい!」

「どうした中川」

 

どうせまた部長達が何か言ってきたのだろうと、両津は熱い茶を口に流し込んだ。

 

「先輩のお祖父さんがVtuberを始めました!」

 

そして勢いよく吹いた。

 

「な、な、なに! ほ、ホントか!!!」

 

昨日まで急上昇ランキング1位だった両津達の動画は下に追いやられ、代わりにトップに表示されたのは狐耳を生やした小さな女の子。

 

【佃煮狐の茶の間チャンネル】

 

既に何本も配信を行っているらしく、その評価も再生回数もコメント量も、全てにおいて盛り上げ隊の動画を上回っていた。

 

両津勘吉という人間の人性を倍の量にしたような経歴の男、両津勘兵衛(りょうつかんべえ)。両津の実の祖父だ。ある意味似た者同士の2人はこれまでにも何度か相対する事があった。両津は己に流れる、両津家のとても濃い血を恨んだ。

 

「しかもこれらの動画、視聴者層が男女問わず60代から90代なんですよ」

「そんなの聞いたことないぞ………」

「配信の内容は主に雑談系です。幼少時代の経験、戦時中の体験談、趣味の話など」

「人間、歳を取れば取るほど昔が鮮明になるからな。昨日の晩飯は忘れる癖に、50年前60年前の事はしっかりと覚えていやがる」

 

両津は適当な動画のコメント欄を覗いた。

 

[あの時は大変だった ¥20000]

[あれは酷い時代でした ¥15000] 

[私が子供の頃は食べ物が無くて………。 ¥10000]

[流石はお狐様、なんでも知ってらっしゃる]

 

実名で登録されたアカウントに付随する赤スパのコメントは、YouTubeの動画に対してのコメントとは到底信じられないものばかりだ。

 

「完全に老人層の心を掴んでいるな………。視聴者が孫に昔話をする感覚で見ていやがる。このCGもとんでもない金をかけて作られているぞ。老人なんて相手にしていなかったが、盲点だったな」

「あっ! 先輩! 佃煮狐の公式Twitterアカウントから盛り上げ隊にDMが来ていますよ!」

「なんだと!? そのPCをワシによこせ!」

 

《このVtuber、勘吉じゃろ?》

《そうだよ、なんで知ってやがる………》

《声もCGも上手く作ってあるが、あのカンチョーの動きを見れば誰でも分かる》

《普通、分からねえよ! 第一、汚えぞ! なにが佃煮狐だよ、このスケベジジイが》

《金に物を言わせるお前達に言われたくないぞ》

 

白熱する字戦。中川がボソッと呟いた、本当に似た者同士だという言葉に本田と左近寺は頷いた。

 

………………………

………………

………

 

「たっく、なーにがコラボしてやってもいいだ」

「でも先輩、人気急上昇中の配信者同士でコラボすれば凄い事になるんじゃないですか?」

「あのジジイとコラボなんてごめんだ! それよりも直ぐに新しい配信をするぞ!」

 

────────────────────────────────────────────

 

その後、両津達は勘兵衛に負けないために配信の内容を次々と過激にしていった。

 

当初はハッピーハッピーロード亀有で行っていた撮影も、次第に遠くへ出向くようになり、盛り上げ隊は全くもって盛り上げない隊へと変化した。

それに伴い当初の視聴者は離れていった。

 

完全に目的を転換した両津達の迷走は続く。

 

………………………

………………

………

 

「先輩! ここハッピーロード大山ですよね、亀有はいいんですか!?」ヒソヒソ

「うるさい! 見てる奴には分からん!」ヒソヒソ

「みんなー! 見てくれてありがとう!」

 

[サッコカワイイよー! ¥1000] 

[なんか前と違くない?]

[ハッピーロード大山ってどこにあるの?]

 

………………………

………………

………

 

「見ろハヤミ! 三連単大当たりだぞ!」

「リョーコさん! 商店街は!?」

「サッコ大ハズレ………」

 

[サッコカワイイよー! ¥1500]

[競馬は草 ¥1000]

[草]

[つまんね]

 

………………………

………………

………

 

「海に来たぞー!」

「先輩、真冬に海で水着はマズイですって」ヒソヒソ

「Vtuberが水着になれば、話題になるだろ」ヒソヒソ

「サッコ………寒く………ナイヨ」

 

[ウォォぉぉぉ ¥5000]

[こういうの嫌いだなぁ ¥4000]

[草ァ! ¥4000]

[サッコ頑張って! ¥1500]

[中身おっさんだと思うとめっちゃキモいwww]

 

………………………

………………

………

 

「リョーコさんここどこですかー!」

「ジョディに頼んで演習に参加した!」

「サッコ………おい配信が止まってるぞ」

「なに! BANされたか!?」

「先輩、ドローンの反応が無いみたいですよ!」

「まさか、軍事ドローンだと思われて撃墜されたのか! せっかく今日も伸びていたんだぞ!」

「両津、俺達はなぜVtuberをやっているんだ?」

「決まっている! バズって金を得るためだ!」

 

銃弾が本田の頬をかすめた。

 

「せ、せ、せ、先輩! 金より命です!」

「まだ動いているドローンがあるだろ!」

「両津! ぬぅわっ! これ以上は無理だ!」

「先輩………あのミサイル、こっちに飛んできていませんか? 見間違いですかね………?」

「見間違いじゃないのか………?」 

 

両津達から数十メートルの位置に着弾したミサイルの衝撃と爆音、両津も慌てふためく。

 

「こ、ここは一旦逃げるぞ!」

「せ、先輩〜! 置いていかないでください!」

 

────────────────────────────────────────────

 

「あれだけやっても全く伸びない………」

 

露骨な炎上狙いや過激な企画によって視聴者はどんどん離れていき、それを取り戻そうと配信内容はさらに過激さを増していった。

 

Twitterで調べてもアンチコメントしか無く、始めはあったスパチャもほとんど無くなった。

 

「先輩、普通に商店街を盛り上げましょうよ」

「今の路線でついたファンもいるんだ。しかしこのままでは不味いな………」

 

………………………

………………

………

 

数日後、久方ぶりに商店街で撮影をする両津達の姿があった。一見、普通の配信をしている。

 

「両さん久しぶり、最近来なかったね」

「お、ええ。そうだな………ね」

「先輩、大丈夫なんですか」ヒソヒソ

「上手く行けば大儲けだ。慎重にやれよヒソヒソ」

 

[サッコー! カワイイー! ¥1000]

[なんかこういうの久しぶりかも]

[つまんね]

[あれ、なんかURLが見えなかった?]

 

3人のCGには、一見分かりづらいようにURLが載せられている。それに気づいた一部の視聴者が探し当てたWEBサイトは、違法性の高い海外のポルノサイト。そこには両津達が秘密裏に投稿した有料動画の数々が収められていた。

 

両津はより収益をあげるために、有料サイトにて過激すぎる動画を投稿したのだ。ほとんど裸の姿で踊るリョーコ、あられもない姿のハヤミ、信じられない服装のサッコ。YouTubeならば確実に、間違いなくアカウントが凍結される内容だった。これらは両津達の動きを元にしているのではなく、ただのCGを動かしただけのものだ。しかし、人間はエロに勝てない。インターネットの裏社会で噂は広がり、再生回数が増える。

 

この有料動画は媒体のサイトと内容を変えながら投稿され続け、両津はようやく満足な収益を手にする事が出来た。既に商店街を盛り上げる事など忘れてしまっていた。

 

そんな折、何も知らない部長から動画を見せてほしいと頼まれた本田は予め用意されていた、安全な動画をメールで送ることにした。

 

動画データの入ったUSBメモリから動画を選ぶ。

 

「昨日も遅かったから眠いなぁ………。部長達に送る動画を間違えないようにしないと………」

 

当然、本田が送ったのは危険な方の動画だ。

 

………………………

………………

………

 

警視庁内にある会議室、警察官がVtuberで地元の商店街を盛り上げるという内容が評価され、部長と署長は偉い人達の前で両津達の動画を披露することになった。部長はおぼつかない手取りで本田から送られた動画を再生した。

 

それより後は言うまでもない。

 

────────────────────────────────────────────

 

中川財閥のハイテクスタジオ。今や大人気Vtuberとなった両津勘兵衛、佃煮狐の配信が始まる。

 

《皆さんこんにちはー! 今日はお巡りさんと一緒にやっていきまーす!》

 

[こんにちは狐さん ¥20000]

[今日のお話も楽しみですよ ¥20000]

[警察の人達も頑張っていますね ¥20000]

 

それに合わせて踊る3体のピーポ君。画面の中でもスタジオの中にもピーポ君がいる。ピーポ君にピーポ君のCGを当てているのだ。中川は冷や汗をかきながらそれを見守るしかなかった。

 

「こらお前達! もっと動くんだ!」

「部長! なぜ本当に着ぐるみを着なくてはいけないんですか! こんなコラボあんまりだ!」

「先輩………もう疲れましたよ………」

「なぜ俺までこんな事を………」

 

両津の役目、それはピーポ君として出演する事。当然ノーギャラでの出演だ。

 

「勘兵衛さんは商店街のPRにも協力してくださるそうだ。お前達はそこで一生踊ってるんだな」

「ちくしょー! Vtuberなんて懲り懲りだー!」

 

人気Vtuberの配信から消される両津の叫びは、虚しくスタジオに木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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