錬金術師の暗殺者のヒーローアカデミア (丑こく参り)
しおりを挟む

第一話

「た、頼む!殺さないでく」

 

パァン!!

 

「……依頼完了」

 

最高級ホテルの豪華な部屋、その中で一発の銃声が鳴り響く。

 

脳天から血を流しずるずると壁に凭れながら崩れ落ちていく男から銃口を下ろし俺はスマホで繋がった依頼人に告げる。

 

俺の名はアルケ=パラケル。この超人社会において暗殺者の仕事を行っている。今夜もまた一人、命を奪ったな。

 

スマホを操作し別の電話番号を入力する。

 

『はいはーい、【アルケミスト】ちゃんだね?』

 

相手はすぐに応答した。

 

「そうだ、【清掃屋】。死体の処理は頼んだぞ」

『了解でーす』

 

そういうと電話の相手――【清掃屋】は電話を切る。

 

それにしても……下らない相手だったな。表の顔は政府与党の議員、裏の顔は人身売買のリクルートを行っているクズ、少しは殺しがいがありそうだったが護衛を含め脆弱すぎる。

 

戦闘に長けたヒーローを護衛にしておけば別だっただろうが……まぁ、そこはどうでも良いか。

 

ガチャリと重厚なドアを開け、護衛の死体が転がる廊下を歩いていく。

 

「死ね!!」

 

おや、生き残りがいたか。

 

背後から発砲、だが弾丸は当たることなく空中で霧散する。

 

「生憎と、俺の個性の前で機械文明は無意味に等しい」

 

決死の攻撃が届くことなかったことに愕然する護衛の眉間に三発、俺のリボルバーライフルから放たれた弾丸が撃ち抜く。

 

男がずるずると落ちていったのを確認した後、エレベーターのホールに向かい革靴に付着した血液を水で洗い落とす。

 

俺の個性は【錬金】。物質を作り替え形を変える個性。言うなればそこら辺の空気から武器を取り出せる個性だ。この個性の応用で空気から銃や銃弾を、弾丸を霧(水)に変える事ができる。作り替える速度はコンマ一秒にも満たない。

 

無論、欠点はある。まず周りに物質がなければ使えない。【錬金】する際に具体的なイメージがなければ使えず、釘一本も見落としてはならない。

 

一つ目は兎も角二つ目は厄介だ。何せ戦闘時でも一切のミスが許されない。だからこそ反復練習で常に寸分違わない銃や弾丸を作れるようになっているのだがな。

 

エレベーターが来るまでスマホを弄り、表の友人たちの会話を見る。

 

どいつもこいつも、下らない世間話やゲームの話ばかり、一つ壁を挟んだ部屋で何が起きているのか何て誰も考えない。……考えないからこそ、俺らのような個性犯罪者が存在できるのだろうがな。

 

「暗殺業を辞める……何てことは無理だな」

 

俺はそれしか生き方を知らないし平凡で退屈な生活何て興味がない。ある意味、この裏社会を気に入っているのだろう。

 

「それにしても……また髪が白くなってるな」

 

ホールに備え付けられた鏡に映る自分の姿を見ながら髪の毛を人差し指で弄くる。

 

何故か分からないが、俺は生まれつき髪が白く目が赤い。所謂アルビノだ。この超人社会でも白髪は目立つため何時もは黒染めに黒のカラコンをしているが……また抜け落ちてきているのか。とりあえず理髪店で黒染めして貰わないとな。

 

「それと……そろそろ進路を決めないとな」

 

俺の表の顔は私立聡明中学の三年生。聡明中は進学校でその中でも常に上の中くらいの成績を納めているから大体の学校には行けるが……親を納得させれる程度には良い学校を選ばないといけないというのは面倒でしかない。

 

親の稼業は姉貴や兄貴が継ぐだろうしだからこそ俺は日本で独り暮らしできる。それなのに親父らの顔を立たせないといけない……死んだ事にして自由に動いた方が得策か?

 

「雄英……か」

 

スマホを弄り集めている資料の一番上にある高校の名前を呟く。

 

国立雄英高等学校。国内でも高い偏差値を必要とする名門だがそれ以上に有名にしているのはプロヒーロー養成カリキュラムが履修できるヒーロー科だろう。

 

何せ、この学校で出たヒーローはNo.1ヒーロー『オールマイト』や事件解決率No.1『エンデヴァー』等の有名なトップヒーローがいる。そのためヒーロー科の倍率は……確か300だったか。とんでもないことになっている。

 

まあヒーロー何て顔が知られやすい職業何て面倒な事この上ないから普通科かサポート科、経営科辺りか。

 

……親父らの顔を立てるため、親父らの仕事がヒーロー関連のコスチュームやサポートアイテムの仕事だしサポート科にすれば問題ないか。サポートアイテムはそこまでだがコスチュームに関してはその道のプロである姉貴に教わっているしな。

 

「そういえば、飯田の野郎が雄英に向かうとか言っていた気がするな」

 

やってきたエレベーターに乗り下に降りるボタンを押したところでふと学友の事を呟く。

 

あいつの家は代々ヒーロー稼業だし確かあいつの兄はプロヒーロー、納得できると言えばできるな。

 

とりあえず、親父と先生を説得するか。本当に面倒だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

「……合格か」

 

雄英からの合格通知を簡素な部屋の中で見た後俺は通知をファイルにしまう。

 

最低限の家具しか置いてない部屋の中でスマホを動かして依頼の情報を確認する。

 

今回の依頼人は一般人、何でも言われのない罪で嫁が捕まり警察署内で殺されたらしい。嫁が秘密裏に残した遺言書からクロを見つけだしたが自分では殺すことが出来ないため情報屋――【コンセント】に依頼したらしい。

 

ターゲットは警視総監。表は人当たりの良い好好爺だが裏では売春の斡旋を行っている。その事を嗅ぎ付けた記者を言われない罪を着せて捕まえ警察署内で毒殺を依頼している。

 

「外道だな」

 

少なくとも、一般人から見れば、となるが。裏の社会にはこいつ以上の悪人狂人何ていくらでもいる。こいつなんてまだ甘い方だ。

 

だが、依頼は依頼、何があっても殺させて貰うぞ。

 

クローゼットに掛けておいた黒いコートを取り出して着るとアパートから出て街を歩く。

 

歩きながらスマホを動かして【コンセント】と連絡をとる。

 

『おや、【アルケミスト】。どうかしたのかい?』

「警視総監の住所」

『確か港区の高級マンションの最上階に妻子と共に住んでるよ。いやー記入ミスがあってすまないね』

 

流石にターゲットの住所を調べていない程ではないか。

 

電話を切りスマホをポケットに仕舞い港区に向けて人間観察をしながら歩く。

 

表の人間と裏の人間の区別はつく。匂いと言うのだろうか、裏の人間には独特な雰囲気を持っている。どんなプロでもこの雰囲気だけは隠すことは不可能のため見分けるのは用意だ。

 

実際、少し歩いただけでも運び屋、空き巣のプロ、詐欺師と言った小物から同業者まで様々な人間が歩いているのが分かる。こういった僅かな観察が暗殺に大きく関わってくることもあるため怠る事はできない。

 

「おや、アルケ君!!」

「おお、飯田か」

 

人間観察をしながら歩いていると背後から声をかけられて振り返ると腕を直角に曲げて歩いてくる青年がやってくる。

 

飯田天哉、俺の学友であり雄英のヒーロー科を受験していた筈だ。

 

「合格、したか?」

「ああ!アルケ君の方は?」

「合格、メカニックは得意だからな」

 

家の事情もあるしな。

 

「おめでとうアルケ君!君も雄英に通えるんだね」

「まあな。尤も、お前とは科が違うがな。……そう言えば、受験の時に面白いヤツがいたな」

 

確か名前は……発目明だったか。俺が自作で作った腕時計を『ドッ可愛いベイビーですね!』といきなり話しかけてきたのだ。

 

まあその後は意気投合、発目はサポートアイテムメインの、俺はヒーローコスチュームメインの視点を持っていたから有意義だった。

 

「そうか。君にもいたんだな」

「飯田にもいたのか?」

「ああ、まあな。それじゃあ俺は教科書を買いに行ってくる」

「おう」

 

別れを告げて立ち去る飯田を見送りさっさと本来の目的のために歩きだす。

 

あれがヒーロー科に、ねぇ……。真面目過ぎると言うか、もう少し肩の力を抜いて生きていた方は良いと思うのだがな。

 

「さて……うん?」

 

このピリピリとした感じ……まさか。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

やっぱり、ヴィランかよ。

 

大通りを遠吠えと共に四足歩行で走る巨体の男を見た瞬間様々な人たちが悲鳴で混乱状態に陥る。

 

ヒーローはすぐに来るだろうが……あのラリったような目、個性をブーストさせる麻薬でも射ったのか。

 

依頼の事もあるし、この道を塞がれると遠回りになってしまう。ヒーローどもを待つ時間も惜しいしここで片付けておくか。

 

グラサンを作った後、右手にフラッシュバンを作りだしピンを引き抜いて人混みに隠れながら投げつける。

 

「オッ!?」

 

男の目線の辺りで爆発と閃光が辺りを包み込み男も両手を目に当てて大きく地面を転がる。

 

十個の手榴弾を作りだしピンを抜いた状態で男の口に投げ込んで後ろを振り返る。

 

その瞬間男の子口の中で手榴弾が爆発、男の頭を吹き飛ばす程の大爆発が引き起こされ辺りを衝撃が撒き散らされる。

 

始末しておけば薬物の検出とこの男が誰なのかの判明が遅くなる。他のヴィランの肩を持つつもりはないが万が一もある、俺の方に来る可能性は少しでも減らしておかないとな。

 

尤も、ここが防犯カメラのないエリアだと知っているから対処しただけであって防犯カメラと人の壁がなければやらなかった。運が悪かったな。

 

十字路の別の方を歩きながら俺はコートのポケットに手を入れて歩く。

 

さて、こっちはこっちの仕事をやらせて貰いますか。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。