メイド共観察記録 (ナレーショナー:[削除済み])
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第0章 終わりを告げる夜明けの暁
1 勝気で寂しがりなお嬢さまとズレてるメイドと……


[皆様初めまして!]
[この度投稿させていただく[削除済み]と申します]

[━━あ、この情報はまだ公開できませんか。]
[私自身で自動修正機能をつけたはいいですけど、書きにくくなりましたね]


[あ、いえ、こちらの話です。]


[どうぞ、ごゆるりとお楽しみください]
[ちなみに、処女作です]



 コツコツと、

 窓と扉が並ぶ薄暗い大理石の廊下に足音が鳴り響く。

 

 音の発生源は、夜だというのに

 カーテンを開けながら廊下を進む。

 窓から月明かりが差し込んだ。

 

 ほどなくして、

 周囲の扉と装飾の格が違う扉が突き当たりに見えた。

 

 その扉の前に着くと、人影は立ち止まった。

 

 そして、

 唐突(とうとつ)に、

 満足した顔で(うなず)き、

 音を立てずにドアノブを回した。

 

†     †     †

 

「で、説明して(もら)おうかしら」

 

 さっき部屋に入っていったメイドが、天蓋(てんがい)付きベットの横で正座させられていた。

 

「何で目が覚めたら、私の横にあなたが寝ているのかしら」

 

「申し訳ありません。起床の時間より早く寝室に着いてしまいまして。思いの外、疲れていたらしく、睡魔に負けました」

 

「いや、それ説明になって無いからね。私が聞いていることは、何で私のベットで寝ていたのかって話。普段は扉の前でモーニングコールしてくるじゃない」

 

「それはですね、あれです。睡眠をきちんと取るためは、上質な寝具で寝るべきですから」

 

「へ〜、あなたこの前、机に()()して寝ていたじゃない。熟睡だったわよ」

 

 勿論(もちろん)真相は違うのだ。

 ただ、口が()けても言えないことだが。

 主人と同衾(どうきん)、つまり一緒に寝たいだけだなんて。

 どうしようも無く、口が()けても言えないのだ。

 

「そんなことよりお嬢さま。早くお召し物をお換えにならないと、風邪を引きますよ。それとも見せつけているのですか? 魅惑(みわく)のロリぼでぇを」

 

 メイドは誤魔化しにかかった。

 お嬢さまは起きてすぐメイドを()()めていたから、スケスケで風通しの良いネグリジェ姿のままなのだ。

 ネグリジェのお嬢さまは可愛らしく、くしゃみをしたあと(ほお)を染めた。

 

「女同士でしょ。見せつけてどうするの?」

 

 溜息(ためいき)1つ。

 

「もういいわ。この件は不問にします。朝食の準備をして頂戴(ちょうだい)

 

 命を受けたメイド──ローゼ・キュリエードは、 少し落胆(らくたん)したように顔を伏せた。

 直後、(リン)とした雰囲気を(まと)い、

 

「承りました」

 

 と述べ、部屋の中から厨房へ向かった。

 

「………」

 

 追い出した者、残された者は、ハァーっと溜息をついた。

 

 

†     †     †

 

 

 ここはラングドニ邸。銀髪碧眼のメイドローゼ・キュリエードと、金髪緋眼のお嬢さま、二ルソニア=A=ラングドニが住んでいる。

 以上説明終わり。地の文終了。

 

 

 え、短いって? 真面目にやれって? そもそもお前は誰だって? 

 なんで地の文を認識して、書き込むことができるのかだって? 

 

 [いやですね~ 色んな小説を読んできているハーメルンの読者諸君なら、私が誰かぐらいわかりますよね?]

 [分からないんですか? そんな! それじゃ何のために小説読んでるんですか?]

 [……──すみまぜんでした。誤りますからそんな目で見ないでください]

 [あっ! あっ! 運営さん! 違います! 馬鹿にしたとかじゃなくてちょっとした小粋なブラックジョークなんです! なので──]

 

 

 

 [………この度は申し訳ありませんでした…………続きどうぞ……]

 

†     †     †
 

 

 

「本日の朝食は、昨日の野菜のスープ、ゆで卵、ベーコン、バター付き白パンになります」

 

 運ばれて来た物を上品に口に運ぶ二ルソニア。

 

 ローゼは、主が一息ついた所に、紅い液体で満たした水晶のワイングラスをテーブルに置いた。やはり有能か?

 

 ちなみに、先程(さきほど)まで食事の邪魔にならないように背景と化していた。

 ワイングラスを置く時も、気配を減少させていた。

 その結果、起きたことは、

 

 スッ。 ビクッ‼ ガシャン‼

 

 突然横から現れた手に驚き、

 ニルソニアの身体が跳ねて、(ひざ)がテーブルにぶつかった。

 

 衝撃で皿が、食器が、宙を舞い、床に叩きつけられる。

 

 しまいに、聞こえてくるメイドの失笑。どうやら堪えきれなかったようだ。無能。

 

†     †     †

 

 割れた皿の後処理も終わり、

 二ルソニアは、改めて紅い液体に口をつけた。

 鮮血を嚥下(えんか)するたび、妙な色気を帯び、顔は恍惚(こうこつ)の表情を浮かべていた。

 そう、二ルソニア=A=ラングドニは吸血鬼。

 

 

「ローゼの血液は濃厚で美味しいわね。仕事は...(催促すれば)出来るし、料理も血も美味しいし、」

 

 溜息(ためいき)1つ。

 

「これで、いたずら好きと、馴れ馴れしさが消えたら完璧なんだけど」

「━━失礼な。元から私は完(かべ)です。……何間違えているのですか? それだと私がまな板みたいじゃないですか」

 

 [え、なんで修正入れたのに何で分かるんですか? 『完璧です』を『完壁です』って書き間違えかけてすぐに直したんだけど。あれ? 反映されてない? 直しておきましょう。 あ、どうも、未来の私です。過去の私はいろいろやらかしたそうですが、別の時間軸です。無関係です、はい。……続きをどうぞ]

 

†     †     †

 

「失礼な。もとからわたしは完璧です。どこら辺が馴れ馴れしいのでしょう。厚かましいのは、お嬢さまでしょうに」

 

 溜息二つ目。

 

「そういう所が馴れ馴れしいのよ。それで? 私のどこが厚かましいの?」

「顔」

 

 もはやこの時、(うやま)う気はゼロに近い。

 

「……あとで覚えてらっしゃい、はぁ。ローゼ──今日のスケジュールは?」

 

 ローゼは少し項垂(うなだ)れ、顔を上げ、

 メイドは答える。

 

「本日のタイムテーブルは、正午(真夜中)まで領主の事務仕事。そこからは、今日のメイン。紅月祭(ブラッドムーン)です」

 

 紅月祭(ブラッドムーン)

 

 それは、吸血鬼たちのお祭りだ。

 先代のラングドニ辺境伯が世界に広めた祭りだ。

 一年の中で一日だけ月が紅く染まる日がある。

 昔は不吉の象徴だったが、今では酒飲み共に愛されている。

 

 二ルソニアは前半イヤーなお顔をしていたが、紅月祭と聞いた時パァーッと花咲いた。

 

紅月祭(ブラッドムーン)! 今日だったのね! もっと早く言ってくれればいいのに」

 

「すみません。お嬢様」

 

「……ああ、あなたを拾ったのも、紅い月の日だったわね。もう十年か。おおきくなったわねー」

 

 しみじみと、近所のおばちゃんっぽいことを漏らすお嬢様。

 

「ええ、お陰様で、身長も胸も器も胸も、お嬢さまより大きくなりました」

 

 ローゼは二ルソニアの躰を見渡して、

 

「それにしても二ルソニアお嬢さまは、まったく変わりませんね(笑)」

 

 哀れみの目を向けた(宣戦布告した)

 

 ローゼ16歳。二ルソニア外見12歳。

 現代で言うところの高校生が、背丈が自分のお腹までしかない小学生に張り合った瞬間であった。

 

「おいそれはどういう意味だ」

 

 ………無い胸を張りながら、青筋立てるお嬢さま。

 

 それを無視(勝手に勝利宣言を)しながら、

 

「さ、早くお嬢さま。お仕事の時間です。もしなさらないようなら、私もサボれるのですが」

 

 同時に、業務放棄宣言も伝えた──超意訳すると祭の時間が削れます。

 

「仕事はするわよ!? あなたも祭までには、間に合わせなさい! ……人選間違えたかしら」

 

 もちろん、お嬢さまの青筋が増えたことは言うまでもなかった。

 

†     †     †

 

 真夜中、吸血鬼は黄昏(たそがれ)ていた。

 人が寝静まる時間ではあるが、街では、酔っ払い共がまだ騒いでいた。

 人が寝静まる時間ではあるが、黄昏ていた。

 

 周囲に人はいない。

 そもそも森の中なので、目に入る場所に家がない。

 

 紅い月を見てボーっとしていると、いつの間にか、隣にローゼが座っていた。

 

 ちなみに、

 ここは地元の住人から『お化け樹』と呼ばれる

 全長20メートル弱の木の上だ。

 5メートル地点の(うろ)にある二ルソニア特製秘密基地なのだ。

 その洞の前にある木の枝にニルソニアは座っていた。

 

「あら、早かったじゃない。普段通りならもう少しだけかかると踏んでいたのだけど」

「完璧メイドのローゼちゃんからすれば、あのような仕事、二ルソニア様の──失礼、赤子の手をひねるようなものです。」

「ねぇ、ローゼちゃん。あなたの発言間違いだらけよ? ちょっとそこの裏まで(ツラ)貸しなさい」

 

 二パァ、と満面の笑みを貼り付ける二ルソニア。

 

 空気が張り詰める。

 さすが、腐っても吸血鬼。

 常人が浴びたら、失神する威圧を放っている。

 

 が、10年間いじり続けてきた完璧メイドローゼちゃん(自称)には、効かず

 

「お断り申し上げます。結果は分かりきっていますから」

 

 と、なめた口をききながら、いつの間にか用意していた酒を傾ける。

 

「ローゼ、それは?」

「今日のために取っておいた、とっておきの安酒です」

「どうして安酒なのよ」

「本番は明日。二ルソニア様のお誕生日ですので」

「ああ、 思い出さないようにしてたのに(忘れてたわ)

「……ニルソニア様?」

「なんでもないわ。それじゃ明日のお酒は期待していいのね?」

「ええ、もちろんです」

 

 笑いあう二人。

 いつの間にか険悪な雰囲気は消えていた。

 

 数秒後、

 何事も無かったかのように、差し出される手。(うやうや)しく酒をグラスに注ぎ手渡すローゼ。

 

 なみなみに注がれた酒(ワイン)

 

 スーッと細まる緋眼。見事なジト目を(かも)し出していた。

 

「どうして、水面が盛り上がるほど入れているのかしら?」

「あ……申し訳ございません」

 

 只々(ただただ)心ここに在らずだったようだ。素で気づけなかっただけだった。悪気はなかった。いいね。

 

 手を少しプルプル震えさせながら、ワインを(こぼ)さぬよう、ゆっくり味わう。

 

 心地よい風が吹き、

 

「あなたを初めて見てから十年か。早いわねぇ。あ、今年も契約更新しなきゃね」

 

 感傷にも浸る。

 

「あなたの()()のおかげで、私は生活出来ているからね。また、1年よろしくね、ローゼ」

 

 ローゼを横目で見て笑みを作った。

 

「承りました。ご主人様」

 

 メイドは、かけられた言葉に目を閉じ、深々と(こうべ)()れた。

 

 

 だが、神妙な態度も長くは続かず、

 

「しかし、お嬢さま。領主の仕事といっても、実際は町の役人頼みで、類の処理だけじゃないですか」

 

 お嬢さまニート疑惑にメスを入れた。

 二ルソニアは、肩の位置まで手を上げ、

 

「人間のことは、人間に任せてるだけよ」

 

 やれやれと、オーバーアクションを取って誤魔化した。

 

 

 そんなたわいも無い会話が続いていく。

 夜が()けていく。

 

†     †     †

 

 紅い月は、水平線に沈んだ。

 

 後片付けも終わらせ、ベットに入るローゼ。

 自分の部屋の天井をボーッと見あげ、思う。

 

 

 二ルソニア様は、私のおかげでやってこれたなどの節をおしゃっていたけれど、とんでも無い。

 私はあなた様がいなければ、こうして思考することさえ出来なかったでしょう。私の方が救われているのです。

 

 私は、

 十年前、私を買って(いただ)いた、

 いや救って頂いた恩返しがしたいのです。

 今だって、私を縛りつけてくれていらっしゃる。

 

 なのに……なのに……、

 二ルソニア様は何も教えてくれません。

 何も探させてくれません。

 何も知らないから、分からないから、

 許してもらえないから、何も、何も出来ないのです。

 ただ、寂しそうなのだけはわかります。

 それを紛らわせようと、イタズラを仕掛けたり、

 馴れ馴れしい言葉遣いをしてみたりしているのですが、

 ニルソニア様は私にメイドとしてしか求めていません。

 

 喜んで貰えることを出来るのが望ましいのですが。

 ……何がいいのかサッパリわからないのです。

 私はどうしたらいいのでしょう……

 

†     †     †

 

 

 祭は、お開き。

 

 日課の日記を書いて寝る。

 

 人間が起床してくる時間に、ニルソニアはベットに入りこむ。

 

 

 

 吸血鬼の『夜』がくる。

 

 微睡みに沈んでいく意識の中で、

 

(また一年、たった。わたしはやっぱり一人。ずっと一人。今までも、これからも)

 

 例年通りの言葉を吐く。

 

 

 

 完全に墜ちる前、

 

 例年とは違い、

 

 黒く昏い闇の底と、紅い月が照らす空の上で、

『ナニカ』が嗤った、気がした。

 

 

 

 

 

 




ところでお嬢さまの名前に顔文字は入っておりません。=A=


†     †     †


注意書き


[この小説は、設定上この私ナレーショナーが主に下界での出来事をまとめ、小説風に仕立て上げているものとなっております]

[そのため、とてもメタな発言が飛び出してきます]
[前書きの[削除済み]も、現在の皆様が知るべきではない情報を書いてしまっていたため、未来の私が編集した結果ですね]

[また、編集中に最高神(筋肉ダルマ)がちょっかいをかけてくる場合があります。]
[見たら、非難しましょう]
[『てめぇらのために、わざわざ書いてるのに邪魔するんじゃねえ。おとなしく座っとけ』と]



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プロローグ

 プロローグ ~人嫌い~

 

 血汁によって生まれた汚れは、新雪の(ごと)く白い柔肌を(いろど)る装飾品に成り下がった。

 その髪は、(ほこり)と泥に(まみ)れたこの奴隷市場においても、白銀の(つや)やかさは失われなかった。

 ずだ袋に穴を開けた程度の貫頭衣では、しなやかな肉体の線を隠しきれていなかった。

 その目は、何も映していなかった。

 

 暗き海のようなその深蒼には、

 唯々(ただただ)内から湧き出る失望が浮かんでいた。

 

 周囲の物には目もくれず、責めるような、凍るような、蔑んだ視線を者共、否、物共(も  の  ど  も)にくれていた。

 

 

 襤褸(ぼろ)雑巾と間違えられても可笑(おか)しくない服も、

 痛々しい手枷足枷さえも気にならないほど、美しい存在だった。

 

 それ故に、

 周りの者は、不釣り合いな眼に視線を引き寄せられ、覗き込み、背筋に悪寒を走らせた。

 否、背筋に剣を差し込まれていた。

 

 その瞳に飲み込まれた時、私はそいつの運命を決めた。

 

 

     

†     †     †

 

 

 プロローグ ~人殺し~

 

 ああ、分かっていたさ。

 

 それでももう少しだけ、一緒にいたかった。

 

 結局君が心から望んだものは、どれ一つ成し遂げれなかったな。

 

 ああ、どうしてだろうな。

 

 俺は時間が有限であることを知っていたのに。

 

 幸せが失われることがないと思っていただろうか。

 

 そんなもの、嫌というほど、

 それこそ地獄のような光景を見てきたというのに。

 

 

 ああ、寒い。もう感覚だって止まっているはずなのに。

 

 

 君の好意に甘えていただろうか。

 君が好きな俺は、そんな俺じゃないだろうに。

 

 嗚呼、走馬灯なんて、見せないでくれ。

 

 生きたい。

 

 生きて君のそばに、なんて馬鹿なことを思ってしまう。

 

 

 手遅れなのに。

 もう叶うこと、願うことすら無いというのに。

 

 俺が零れ落ちて、消えていく。

 

 ……前言撤回。

 

 願わくば、

 もう一度だけ、少しで、いい、泣き顔ではなく君の笑――――

 

 

 ………あれ、なんだっけ………

 

 

 そして、女神は一部始終を視ていた。

 

 

†     †     †

 

 

 プロローグ ~人でなし~

 

 

「えっぐ、ひっぐ、………どうしてこうなるのですか~」

 

 少女の声が響きわたった。

 

 今、少女は、薄暗いの(おり)の中にいた。

 モッフモフのウサミミをへたれさせて。

 少女は何故囚われの身になったか、シクシク泣きながら思い出していた。

 

 

 

 

 数日前、少女は生まれて初めて街を訪れていた。

 

 故郷の森での生活が全てだった少女には、

 大勢の人々が行き交うメインストリート、

 悠々と闊歩(かっぽ)している馬のいななき、

 露店の呼び込みと漂ってくる香ばしい肉の焼ける匂い、

 大きな街にはよくある薄暗く怪しい路地裏。

 街の全てが、何もかも真新しいものなのだ。

 

 ゆえに、そう、故に、

 少女の行動は、

 あっちへキョロキョロこっちへキョロキョロと、おのぼりさん全開だった。

 

 屋台の匂いに惹かれたりもしたが、如何(いかん)せん知らない料理ばかり、挙句に先ほどから漂ってきている香ばしい匂いが兎肉だと分かって、ウサ耳が逆立った。

 

 

 だから、見慣れた野菜(ニンジン)が並んでいる八百屋の前で足が止まったことは、

 何も不思議なことではなかった。

 

 

 店の前で立ち止まって品物を見ていると、

 怖―――強―――(いか)つい顔の店主が声をかけてきた。

 

「よう、(ねぇ)ちゃん。見ねぇ顔だが、ひょっとしてこの街は初めてか?」

 

 店主は、普段通りの顔をしているが、そんなことは知るはずもないウサミミは、

 

「ひっ、ひぃ~。売り飛ばさないでください~」

 

 と、涙目、いや泣きながら、この胸の果実は見逃してください、と頼みこんだ。

 

「娘《ねぇ》ちゃん、実は結構余裕あんだろ。(おび)えなくても、売ったりしねぇよ。で、買うんだったら早くしてくれねぇか?」

 

 

 

 

 

 

 りんごと桃のような果物を購入して、店主に礼を言うウサミミ。

 列が大きくなってきたから、立ち去ろうと店に背を向けると、

 

「ああ、そうだった。この頃、人さらいが増えてきているみてぇだから、気ぃつけろよ」

 

 娘《ねぇ》ちゃんのような美人の亜人が狙われてるみてぇだからな、と忠告してくれた。

 

 見かけによらず、優しいのだ。見かけによらず。

 

「大丈夫です~。わたし森育ちなので、危険とか毒とか探知できますので~。ありがとうございます~」

 

 と返事をして店を離れた。

 

 少し歩くと、 路地裏からいい(にお)いが、少女を誘ってきた。

 それに釣られてフラフラと歩いていった。

 

 危険とか()察知できるはずの彼女が、薄暗く怪しいと感じた路地裏に吸い込まれていく。

 

 

     

†     †     †

 

 

 次の記憶は知らない天上(鉄製)だった。

 

 

 

 言わんこっちゃなかった。

 さらわれたのだった。

 

 

 

「出ろ」「ファ!? ッッ!?!?」

 

 いきなり、

 

 低く野太い声をかけられたウサミミは、

 檻の天井(鉄)に頭をぶつけ、涙目で(うずくま)った。

 

 声をかけた男は、

 (もだ)えているウサミミには目もくれず、

 首輪の紐を引っ張り檻の外に出した。

 

 

 その日、人に言えないペットを買いに来た人々は、

 とてもあざとい、もとい保護欲がドバドバ出る光景を見た。

 涙目のウサミミ少女が上目遣いで震えているのだ。

 それも、土や泥で汚れて。

 全員が守ってやりたい、抱きしめたいと思ったようだ。

 

 ペットにして、一緒に遊ぶつもりで来た紳士たちだろうに。

 

 もっとも、一人だけ別の感情で満たされているようだが。

 

 ウサミミが隣に立つさっきの男にこづかれて、

 お客に対して顔がよく()せられるように、

 その場でゆっくり回らされたとき、

 爛々(ランラン)と加虐心に輝くメイドと

 

 目が合った。



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2 悪夢であるものとこれから悪夢になるもの

 ロ─ゼは夢を見ていた。

 

 この屋敷にやってきた頃、よく見ていた夢だ。

 詳細も朧気(おぼろげ)な夢だ。

 

 遠──て─く─屋、

 ─暗─窓──い部─、  

 夜通し聞─え──て─る少─の─えぎ声、

 むせ──るほ─の─臭─鼻をつ─

 恐─に響──吠─、

 ─かい──プの味、

 幸─そ─な─供達─笑─、

 肌─焼─炎──気、

 向け──た恨─の視─、

 憎悪─眼─映──人々、

 ─ざ嗤う人、ヒト、─

 

 

 

 

 ......死にかけの少女が、血にまみれた手をわたしのほおにあてた。

 

 

 

 

 生暖かい風が(ほお)を撫でる。

 

 むず痒い感覚によって目が覚めた。

 目蓋を開けると、見渡す限り草木が生い茂る深い森だった。

 ローゼは、その光が差さない森を一直線に切り開く道の上に立っていた。

 

 

 私はお嬢様の寝顔を堪能(たんのう)して、ベットに入ったはずでは無かったか。

 私は、確かにパジャマに着替えたはずだが、何故メイド服でいるのか。

 

 などとつらつら考えていたが、今のままでは埒が明かないと思い、歩き出した。

 

 不自然に森を貫く道は、後ろ側にも続いていた。だが、迷うこと無く足を前に出した。

 

 進むたび、背後で風景(テクスチャ)が崩れ落ち、足下や周りはだんだんと見えなくなっていったが、進む足取りはメイドらしく瀟洒で、確かなものだった。

 

 

 

 

 どれぐらい経っただろうか、

 時間の感覚が麻痺してきた頃。

 

 知らない見知った屋敷が、道の前に、いや虚空の上に浮いていた。

 知らない訳はあまりにも普段とかけ離れているからだった。

 

 

 何が? 何が違う?

 分からない。 何処がどう違うかは分からないが、

 ただ一つだけ、

 あの場所にはお嬢様はいない。

 そのことだけは分かったローゼ。

 吸血鬼がいられる場所は、生きていける場所はあの館しかない。

 自分を救ってくれた主が、いるべき所にいない。

 

 その事実だけで、ローゼは焦燥に駆られた。

 正常な判断ができない状態になった、といってもいい。

 

 あの屋敷の中には、主以外の何者かがいる。

 ローゼにとって、それは予想ではなく確信だった。

 

 主がどこにいるのか、などその他を問いただすために、覚悟を決め、

 優雅でおどろおどろしい門を抜け、荘厳で頼りない玄関の大扉を開けた。

 

 

†     †     †

 

 通常エントランスがあるはずだった場所は、空白で真っ白だった。

 

 エントランスだけではない。

 辺り一面真っ白で、入ってきた大扉さえ白く同化し分からなくなっていた。

 

 そんな白く、だだっ広い空間になんかいた。

 

 黒いモヤみたいなものが集まって、人型を形作っていた。

 だが禍々しさはなく、コミカルな印象すら与える造形だった。

 

 

 具体的には

  ●

 / lヽ

  l

 / \

 棒人間だった。

 

 

 生き物とは断言できない人間と目が合った、気がした。

 目が本来あるはずの場所、眼窩ごと目が存在していないが。

 

 目をそらしたら負けだ、という言わんばかりにずっと睨み合う2人(?)。

 

「なに? お前は初対面の人の鼻を睨みつけるのがマナーだと思っているのか?」

 

 残念! ローゼが睨みつけていた所は鼻だった! つまり棒人間の不戦勝!

 棒人間は口もないのにヌケヌケと抜かす。

 

「ああ、すまない。子供にはまず椅子をすすめるのがマナーだったかな?」

「いえ、進められた椅子に座らないのはマナー違反になるので、ちょうどよかったです」

「では、その丸太に腰かけるといい」

 

     

†     †     †

 

[この後、長い間こんなやり取りしてたのでカットです。それにこの時の棒人間さんは煽りスキル低いので……。いつの間にか勝手に丸太出現してるし]

 

     

†     †     †

 

 何を言っても皮肉にして返してくる棒人間。

 長いこと言いあっていたローゼには疲弊の表情が浮かんでいた。

 

「さて、もういいだろう。腰でも落ち着かせて実のある話し合いをしようぜ」

「ええ、あなた(?)には答えてもらうことが多々ありますからね。だから腰を落ち着けて話すことは賛成です。が、その肝心の椅子はどこにあるのでしょうか」

「そこにあるじゃん」

「丸太は椅子とは言いません」

「いやどこ見てんの?」

 

 漂白された空間にいきなり円卓と椅子が現れていた。

 

「どうした? 鳩が豆鉄砲食らった顔して。 いや、すまん。デフォでその顔だった」

 

 ロ─ゼにしゃべる隙を与えず、続ける。

 

 

 顔に各パ─ツは無いけれども、衝動的にぶちのめしたいと思わせるウザさだった。

 

 

 殴ることは後でもできる、今は情報の確保が最優先です。

 と、ローゼは自分に言い聞かせながら拳を握り、我慢する。

 

「それでは一から説明してもらいましょうか?」

 

「そうだな、どこから話そ━━━。……悪いな。答えられることは一つだけになった」

「全て話せなどには応じられない。具体的には、一から、説明して、もらいましょうか? とかな」

 

「ならば、あなたの正体を 「さっきの会話が1回分だ。だから先に言った───悪いな」

 

 ロ─ゼの発言を遮り、

 飄々(ひょうひょう)(うそぶ)く。

 

「願い事は吸血鬼が眠る部屋───その隣の仕事部屋にある両袖机。左側下から二段目の中から始まる」

 

 ロ─ゼは何か言おうとしたが、

 棒人間の黒い笑みを見てしまい、無意識に口をつぐんだ。

 

 それが後から思えば間違いだった。

 

「さて、情報は絞れるだけ絞られたし(笑)、お前、ほかにやること残ってないか? 何か我慢してないか? 例えば俺を殴るとか」

 

 ロ─ゼのまゆが一瞬ピクッと動く。

 

 円卓と椅子が、元から無かったかのように消える。

 

「殴りたかったらどうぞ、ただし殴れたらな(笑)」

 

 純白の部屋の中、棒人間は笑みを深め、

 

「ほら、どうしたんだ?」

 

 煽る

 

「フルボッコにするんじゃなかったか? んん?」

 

 煽る

 

「まぁ、でも? たとえ万が一、億が一、殴られてもそんな小枝のような腕じゃ痛くも痒くもないな。あ、いや、痒いか。蚊に刺された──吸血鬼に噛まれたぐらいには」

 

 煽る

 

 ロ─ゼは、もう一度拳を握りしめた。

 今度は殴るために。

 

 拳からは血は出ていないが、時間の問題だった。

 親愛なる主人を侮辱した罪は重い。

 

 それこそ、ローゼが言葉を忘れる程に

 

「──────────ッ!!」

 

 人ならざる言葉と拳を持って、黒々(いまいま)しい棒人間に飛びかかった。




[この時点で、実はもう大切なものが足りてなかったリ]


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3 主神と女神と棒人間と

[パンパカパーン! おめでとうございます! 転生権を獲得しました!]


 唸りを上げるメイドの攻撃をヒョイギリ避けながら、(いぶか)しむ棒人間。

 

 こんなんでいいのかよ。気の向くままにやってみたが。

 ──って危ねぇ! かすった。

 人が出せる出力じゃ無いんだが。あのメイド、狂戦士《バーサーカー》か。魔法でも使ってる訳じゃあるめぇし。

 

 心の中で一人つぶやく。返事がないはずだった。

 が、問いかけに声が答えた。

 

〚引き出しのことを伝えられたならば、それで良い。あと其奴(そやつ)は、身体強化魔法 《バーサーク》を使用している〛

 

 頭の中に直接声が響く。

 だが棒人間は、それに少しも動揺せず念じた。

 

(いじりがいがある女神サマじゃなくて、あんたか)

 

〚……あと10分持たせろ〛

 

 しょうがねぇなぁ、わかったよ………これ一発でももらったら俺、死ぬんじゃねぇか?

 まあ、当たらなければどうということはないか

 

 

†     †     †

 

 

 時は幾許(いくばく)か巻き戻る。

 

 

†     †     †

 

 

 

「……──さい」「─きなさい」「おきなさい」

 

 誰だよ、俺を呼ぶのは。

 ……真っ暗じゃねぇか。

 あ、目閉じたままだった。

 目ぇ開けるわ。

 

 筋肉ムキムキでパンツ一丁のマッチョメンにブーメランを取る、胸筋を強調するポーズ変態だった。

 

 待て待て、おかしい。混乱している。

 ブーメランパンツ一丁で胸筋を強調するポーズを取る、筋肉ムキムキのマッチョメンの変態がいた。

 

 

 ……おやすみ、ちょっと深淵の向こうに旅立ってくる。

 

「え。えぇ!? ちょっとまって。待って、待ってください!」

 

 あのマッチョが喋ってると思うと気色悪いほど可憐な声だな。

 でも、待たない。待てない。

 

 

 俺はもう………なんだ?

 まあいい。忘れるようなものなら大切じゃないだろ。

 

 じゃあお休

「ねぇ、起きてってば、目開けてってば、ねぇ」

 

 うるさいなぁ。わかったよ。

 

 

 はあ、うん、やっぱいるわ。

 あの変態マッチョ(きんにく)上腕二頭筋を強調してやがる。

 なんかよくわからない汁で、テカテカ光ってやがる。

 

 目がヤバい。

 このままだと腐る。腐り落ちる。

 目の保養ができるものはないか。

 

 

 

 ……あったわ。

 

 変態マッチョ(きんにく)の隣にあった。

 気づくはずないだろ。

『アレ』見ないようにしてんだから。

 このままだと目がやばいから、もちろんガン見一択。

 

 

 ジー。ビクッ。

 

 

 艶やかでなまめかしい光沢を帯びる黒い着物を(まと)った、

 まだ幼さが残る顔立ちの芳紀(ほうき)──美しく若い女性がいた。

 

 

 ジー。ソワソワ。

 

 

 年は十六、十七歳ぐらいだろうか。

 

 

 ジー。オドオド。

 

 

 さっき、声をかけてきたのは、多分こいつだ。

 こいつであってほしい。

 

 うーん、さっきからオドオドしてるな、小動物みたいに。

 

 それに比べて、あの背筋を強調してる筋肉(名状したくないナニカ)ときたら……

 

 こうなったら、

 あの小動物をオドオドさせ続けるしかあるまい!

 

 

〚それぐらいにしてやってくれ。進が話──────話が進まない〛

 

 ギャァァアァアア!!

 キンニク、シャベッタァァアアァァ!!

 

 

 マジかよ。ああビックリしたわ。

 

 でも、『アレ』に驚かされたと思うと、少し癪に障る。

 

 ええい、報復だ。

 

「おまえ、頭の中までの筋肉たっぷりかと思ったら、存外喋る程度の能はあったんだな」

 

 ップ。

 

 ん? 今、誰か笑ったか。

 1人と1匹は笑ってないな。もう1人いる?

 

 …暗幕の向こうにいるな。

 笑いこらえてやがる。羽がある。頭に輪っかさえついていやがる。ありゃ、天使か?

 だとすると、この1人と1匹は神様か?

 

 ともかく、あいつとはいい酒が飲めそうだ。

 

 

 ……待て。暗幕なんてはじめからあったか?

 

 …………筋肉(名状したくないナニカ)のせいで、

 記憶があやふやになっていやがる。

 

〚天使はもういない。移動させた。装内──内装は勝手に変わる。気にしない方がいい〛

 

「お父様!! 脳筋と言われた事をお気にかけてくださいっ。配下の天使に笑われたこともです! いくら脳味噌が通常の3%しか動いてなくても、それぐらいはお願いしますよ!!」

 

 

 親子かよ!!!

 

 マジか。

 どうやったら『アレ』から、この女神ができるんだ。人間の神秘だな──人間かあれ?

 まあいい。それよりも、

 

「それ、脳筋って認めてるようなもんだぞ」

 親族公認で脳筋て………。

 

「そうで、しょうか? って、そ、そんなどうでもいい話をしている場合ではないんです。」

 

 自分の親が脳筋疑惑はどうでもいいのか

 

「無駄話をする時間は創っていませんから」

 

 ? どういうことだ。

 "時間がない" では無く、"用意をしていない" とは?

 

「説明は後です」

 

 ……さっきから、ちょくちょく思考をナチュラルに読んでくるな。お前ら。

 

 えっ、なに、これ聞こえてんの?

 

「ええ、聞こえていますよ」

 

 へーじゃあキッツイ下ネタ考えよ

 

「へ?」

 

────────(ピ──────)────────(──────────)──────────(────────ー)──(──ー)

 

 ハハッ。

 見事なほどに、ゆでダコみたいに赤くなってらぁ。

 下向いちゃってぇ。

 

〔で、時間がねえんだろ。ほら、はやく主題に入れよ。〕

 

「だったらそんなこと言わないでください!!」

 

〔俺は思っただけなんだけどねぇ。どう思います?クソ脳筋(お父さん)

 

〚我が娘ながら、やはり可愛い〛

 

〔……話題が少しズレているが、あんたともいい酒が飲めそうだ。言うまでもなく、肴はあのお嬢さんだがな〕

 

 さっきまでは、散々言って悪かった。

 ……クソ脳筋(お父さん)には触れないのか

 

 しかし、

 実の娘が困っているところを見て、可愛いとはなかなかいい性格してんな、親父さん。

 

「困らせているのはどこのどなたですか!?」

 

〔お前の親父じゃねぇの?〕

 

「いいかげんにしないと、怒り──」

〔どこって、俺はここがどこか知らないし、そもそも俺誰だ?〕

 

「その説明をしようとするたびに邪魔してくるじゃないですか?!」

 

〔俺の覚えてる限りだと1回こっきりな気がするんだが、まあいい。〕

〔手足の先端が光ってるし、感覚がないから手短に説明頼む。〕

 

「ああっ!? 馬鹿なことをお二人がやっているからタイムリミットが! 後で説明しますから、一番重要なことだけ尋ねます!」

 

 馬鹿なこと、ね

 

「あなたは生まれ変わりたいですか?」

 

 

〔いや、いい〕

 

 

「えっ?」




[あれ? いらないんですか? ええ、マジ?]


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4 いわゆる(作中キャラに対する)説明回 

[なんだかこの回だけPV多いんですけど……後書きに説明まとめておきますね]

†     †     †


 あの後、
 勝手に()()()()()()()()、真っ白い空間に飛ばされた。

 ……聞いた意味なくね?
 別に生き返ってやりたいことがある訳じゃないんだけど。

 女神さまは、「今()()()()()おかないと、後で絶対後悔しますから!」って言ってたんだけど。

 死んだから、もう頑張らなくても良くなったと思ったのに……頑張るって何を?
 とにかく、死んでアイツとダラダラしたい。
 ……アイツ? 誰だ?

(アイツのことなら、後で説明しますので。死んだら説明しませんよ? あと、まだ生き返ってないですから、死ねませんよ?)

 こっ、こいつ頭の中に直接!!

(今回も時間がありません (……) (切り替え早いですね) (……ネタに対して貪) (欲なのでしょうか)

 おいおい、女神さま。渾身のネタはスルーかよ

(時間がないので無視します)

 でも、ちゃんとぼやきには反応してくれるんだ

(そ、それでは説明申し上げさせていただきます)

 動揺して敬語おかしくなってるぞ。でもそういうとこも可愛いな

(さ、先ほど渾身のネタと言っておられましたが、身の(すべて)を詰められても無意味です)

 ???

(今、あなたは魂だけで存在しているので、身ありません)

 !! !? ??

(急に記号だけで会話しないでください。説明しにくいです)

 ・-・--・・()-・・-・()・-・-・-()-・-・・-()・・--()-・・-()-・・-()・-・--・・()・-・・・---()-・・・()--・-・()--・-・--・・-()・-・()・-()--・・・()


(……モールス信号しか喋れなくなる呪いをかけますよ)

 ……それもいいかもしれないな。楽しそうだ。

(……今から(おこな)ってもらう事柄には支障をきたしますから、呪いは掛けませんが。肉体の件も支障をきたすので、こちらで構築させてもらっています)

 なんだ、呪いはくれないのか……まあいいか。それよりもどんな体かな?


 ……………………おい。これ↓はねぇだろ。

              ●
             / lヽ
              l
             / \
 どっからどう見ても、棒人間だぞ。みろよ、この手足、スイカ大の頭を支えられそうにないぞ。

(仕様です。文句はお父様にお願いします。あの人、げらげら笑いながらその体創っていたので)

 ──いつかあの筋肉ダルマ殴ってやる。

(…… (お父様、私には) (彼のことを) (説得できる理由) (が見当たりません。) (なので、その時は) (殴られて下さい)。 こほん。この後、ここにメイドが来ます。その方に適当でいいので、意味深なことを言ってください)

 本当に適当でいいのか

(ええ。ただし、これだけは言うようにしてください)

 なんだよ? 普通こういう時禁止項目じゃないか?

(『願い事は吸血鬼が眠る部屋―――その隣の仕事部屋にある両袖机。左側下から二段目の中から始まる』とおっしゃってください)

 無視か……あとなげえな……よし、覚えた。

(あと二、三回は聞き返されるものだとばかり思っていましたから、少し驚きですね)

 バカにしてる?

(い、いえ、普通こんな長い文章はすぐ覚えられないですから)

(それはともかく、そろそろやってきますので。お願いしたこと、よろしくおねがいしますね)


 10分間ぐらい、メイドの拳を避けて続けていると唐突に彼女の姿が消えた。

 

 

     

†     †     †

 

〜棒人間視点〜

 

さて、メイドとたわむれたし、次は何をすればいいんだ?

 

えと、あいつ(女神)はなんて言っていたかな。

それにしても、あいつあんな仕事できるやつだったのか? どうにもそんな印象がないのだが。

 

(失礼な。あなた方が馬鹿な事をするから、手に負えなかっただけです。)

 

うお、女神か。ビックリした。こいつ頭に直━━

 

(天丼はもういいですから)

 

━━━━━━もっかい赤面させんぞ

 

(なぜなのですか、そのネタへの情「 その話、詳しく!! 」熱は━━へ?)

 

「誰だ。と思ったらさっき噴き出してた天使? じゃねぇか。どうしてここにいる?」

 

(その天使にはこれからの事を説明させます。では、私はこれで)

 

「おい。名前ぐらい教えて行けよ」

 

「そういえば、私も知らないですよね」

 

「なんでお前も上司の名前知らないんだ……」

 

「それはですね、私があなた様達の観s――サポートの(ため)に産み出された存在だからですよ。良かったですね。生後数時間の天使を好き勝手出来ますよ」

 

「俺にはそんな趣味ねぇよ。なんだ、してほしいのか」

 

 ボッ

 

「顔赤らめんな。あと、擬音がゴンさん仕様なの見逃さねえからな」

 

 

(あの……私の名前……聞くんじゃないんですか?……)

 

「ああ、そうだった。そうだった。教えてくれよ。親父さんの名前も」

 

(分かりました。私、冥界と月の女神ヘカミュルナと言います)

(お父様は、名はありません。)

(家名だけあります。フルレウスと(おっしゃ)います。ちなみに最高神です)

 

あれで最高神……

 

「滅ぶな。この世界」

「滅びますね。この世界」

「お前も同意するんか、天使」

 

(――――――それでは、失礼させていただきます)

 

あ、逃げた

 

 

     

†     †     †

 

 先ほど、メイドと鬼ごっこをした何もなく真っ白い空間の中で、天使と棒人間が向かい合っていた。

 

「えー、それでは、(わたくし)不肖ナレーショナーが司会、もとい説明をさせていただきます」

 

「まず初めに、娘さまや我らが父(上司)とは違い、私ご思念は読み取れません。あしからず」

 

 改めて、自己紹介をした天使ナレーショナー。太ももまである長い金髪。ゆるやかにカーブしたそれを頭と共に下げた。

 

 その動作を受けた棒人間は、怪訝(けげん)な表情になった。

 

「お前、そんな堅苦しい奴だったか?」

 

 天使は、問いかけに頭を上げた。

 

「いえ、これは形式美ってやつですね。一応この説明を始めるときは、このようにしゃべるのが伝統なので。」

 

「そういうもんか。なんか似合わん。違和感がすごい」

 

「そういうものです。私も何かしっくりきません」

 

 天使は閉じていた翼を拡げ、続ける。

 

「仕事に戻りましょう。説明を始めます。――――さて、どこから話したものでしょうか……」

 

 少しの間、逡巡(しゅんじゅん)していたが、話す内容を決めたらしい。

 

 天からの使いは棒人間に

「あなた様は召されました」

と、さとすように告げた。

 

 それを聞いた棒人間は平然と

「そりゃ、神サマがおわす場所に行ったんだ。死んでなきゃいけねぇ(行けねぇ)だろ」

 

 その台詞に何か察するものがあっただろうか、

天使はもう一度頭を下げた。

 

「申し訳ございません。記憶を無くしていらっしゃることを忘れていました」

 

 天使の言葉に驚いていたのは、当の本人だった。

 

「俺、記憶喪失なのか?……――あの女神さまがポカやらかしたか?」

 

 驚きが過ぎ去ったあと、責めるようにたずねるが、ナレーショナーはどこ吹く風。

 

「その点はあなた様の性質のせいですから、娘さまのせいにしないでください。それとあなた様を転生させたのは、我らが父(上司)ですよ」

 

 たんたんと事実だけを述べる姿は、確かに天使(人形)のそれだった。

 

筋肉(力技)弊害(へいがい)か?」

 

 だが、あきらめない棒人間。天使の揚げ足を取りに行く。

 

     

†     †     †

 

[こう書かれると私の足が美味しそうに感じますね]

 

     

†     †     †

 

「力技の影響は、否定できかねます。ただ、それよりもあなた様の特性が大きく関わっています」

 

 嘆息しながら、ナレーショナーは棒人間に向かって歩き始めた。

 

「ですから」

 

 天使は続ける。いや、続けようとした。

 だが、口から出てきた言葉は、

「──はあ、分かりました。この喋り方やめますからその顔やめてください。顔ないのに変顔するとかどうなってるんですか?」

 

「何となくできるかなーと思ってやってみたらできた。──この体に慣れてきている自分が嫌だ……」

 

「じゃあ、さっさと仕事, 説明終わらせて下界に遊びに行きますよ」

 

 

     

†     †     †

 

 一方そのころ。

最高神とその娘が一話のニルソニアと同じ理由で頭を抱えていた。

 

 すなわち

 

人選(参考資料)間違えたかな」

 

 と。

 

 実際には、仕事モード、つまり他人行儀が嫌だっただけで、仕事は好きなナレーショナーであった。

 

     

†     †     †

 

『この小説を編集しているのは…………自作自演』

[あ! 言わなければバレないものを!]

 

     

†     †     †

 

「説明の続きとまいりましょう!え~と、どこまで話しましたっけ……

あ、上司があなた様を転生させたところでしたね。」

 

「そうだったか?」

 

「そうなんです。それで何故上司があなた様を転生させたかというと、

『暇だったから』だそうです」

 

「筋トレでもしとk……いや、あれ以上マッチョになられても困るか」

 

「今回の案を思いついたのは、筋トレ中だったそうですよ」

 

「もう筋肉だけになれよ」

 

「嫌ですよ。最高神がナマコとかタコの仲間なんて」

 

「触手の神……それなんてクトゥルフ?」

 

 

     

†     †     †

 

 

「え~と、どこまでいきましたっけ?ま、いいや。途中から行きますね。」

 

「天界はだいぶ暇ですから、物語などは何十回、何億回も繰り返し読み、食傷されたようで。そこで、話を自ら作り上げようと、たりない頭で―――失礼、物足りない頭で考えたそうです」

 

「で、俺をつかって話を作ろうって魂胆か?」

 

「いえ、少し語弊があります。あなた様にやってもらう役は主役ですが、自由にやってもらって結構です。

あなた様は引っ掻き回すことを好んでいるようですから、その方が面白くなると判断しました」

 

     

†     †     †

 

[ここは、穏便に済ませるためにうその説明をしています。どこからどこまでが嘘とは言いませんが]

 

     

†     †     †

 

「独断か?」

 

「……まあ、独断に近い形ですね」

 

 それを聞くと、棒人間。背筋を伸ばし、敬礼した。

 

「ありがとう。いままで楽しかったぜ」

 

「いや、消されませんから」

 

「そうなのか」

 

ッチ

 

「今、舌打ちしましたか?」

 

「そんなことより、説明の続き」

 

「どの口で言いますか。……娘さまもこんな気持ちだったでしょうか」

 

 ナレーショナーは気合を入れ直すように頬を両手で、パシッと軽くたたいた。

 

 それを見て棒人間。

「蚊でも止まっていたのか? 大丈夫か? かゆいか? ム〇はいるか? 液体タイプと軟膏タイプがあるぞ」

 と、言いたくなったが、ガマン。空気は読めるのだ。わざとシカトするが。

 

     

†     †     †

 

[言わなくて正解でした。かけらも面白くありません]

 

     

†     †     †

 

 そんなことは、つゆも知らずナレーショナー。

 

「それでは説明の続きです。

あなた様がひっかきまわしたメイド達の日常を私がまとめ上げ、上司に提出します」

 

「レポートみたいなものか?」

 

 

「言い得て、妙ですね。提出したものが面白かったら、名前を頂けますし」

 

「そのなんだ、ナレーショナーは名じゃねぇのか?」

 

「なんて言いましょうか、役職です」

 

「つまり、課長とか部長とか、で呼ばれてるわけ?」

 

「おおむねその通りでございます」

 

 

 と。唐突に、腕を組み頭をかしげるナレーショナー。

 

「何か忘れているような……、あ」

 

「どうした」

 

「二つ伝え忘れておりました。まず一つ目は、頑張ったら元の世界に戻れるそうです。」

 

「今の俺にはそこまでメリットではないな。それで二つ目は?」

 

「二つ目は、このままですと、転生後、正確には下界に降りてからの肉体が」

 

 ナレーショナーは一旦口を(つぐ)み、

 

()()()()()()()()()()

 

「ちょ、それは、マジで勘弁してくれ。どうやったら回避できる」

 

ナレーショナー、にっこり笑顔。

 

 

 

()()()()()()()()()

 

「…………――――――――――――――ん???」




「具体的には、ローゼさんの細胞を初期化し、体内に取り込むことです。遺伝子情報を読み取り、培養し、『皮』を、肉体を生成する」

「それを孕むとは言わねぇよ」

†     †     †

[フザケてまとめた説明がこちらです]

[……あかん。現状ある娯楽だいたい飽きたわ。どやって暇潰そ]
[せや。異世界からおもろい奴連れてきて、厄介な奴と絡ませて楽しんだろ!]
[ん? なんや娘よ。……ほー、面白そうな奴やないかい]
[ええわ、そいつこっちに連れてきたるわ]
[ちゃんとオモロなるように、ナレーションが必要やな。作っとこ]
[そっちも、ちゃんと演じてくれたらエエもんあるから]
[ほな、楽しみしてるで]

[……手始めにこいつの記憶漁ろ]

[真面目にまとめた物がこちらです。面白い寸劇を期待して、異世界から拉致ってきた。ただ、それだけだとテンプレで新鮮味がないため、ナレーションをつけることにした。そんな感じです]


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5 『夜』のメイドさん百面相!

 十分間にも及ぶ大戦闘(笑)のすえ、棒人間を一発も殴れなかったローゼは、気づけば自室のベットに横たわっていた。

 

 

 

 脳裏に映るは、

 己の(こぶし)を楽々避けながら別れの歌を熱唱する棒人間の姿。

 

 

 

 [付け加えると、この歌は某心のボッチ度に比例して、バリアの強度が変わる新劇場版ロボットアニメ二作目の挿入歌です。『翼をくださりませんか』とは別の曲です]byナレーショナー

 

 

     

†     †     †

 

[この程度だったら、楽曲使用使わなくてもいいですかね? わかりかねます]

 

     

†     †     †

 

 

 ちなみに、今はまだ朝の11時。昼夜逆転の生活を送るローゼには、つらい時間だ。

 

「夢か……悪夢だった」

 

 どうやら夢落ちにするらしい。

 

 確かに服装はパジャマに戻っているが、

汗ばんだ(はだ), 上気した(ほほ), そして何より未だに発動している身体強化魔法が、現実であることを物語(ものがた)っている。

 

「思いだしたら、また腹が立ってきました。ええ、夢ですけど腹が立ってきました」

 

 怒りがふつふつと湧き上がる。10秒前。

 

「次会ったら、どうしてくれましょうか」

 8

「腹パン? いやいや生ぬるい」

 6

「金的? 一撃で終わらせてしまったらいたぶれない」

 4

「そもそも男かどうかすら怪しい」 

 2

「……ああ、こうすればいいよかったじゃないですか」

 

 

 長めのマクラにまたがり、拳を振り下ろす。

「こうすれば、避けられない」

 

 1秒前、噴火はまぬがれない。

 

「―――――――――あの野郎、爪楊枝(つまようじ)の分際で避けるな! ニルソニア様を罵倒したんだ!! ボッコボコにぐらいなれ!!! なれないのなら死んで詫びろ!!!」

 

 メイドにあるまじき言葉づかいで、罵詈雑言をまき散らす。

 それでも収まらないのか、マクラを殴る。殴りつける。殴打する。

 

 ローゼがこうなったのは、理性を蒸発させる身体強化魔法の弊害かもしれない。

 ―――――本人の本性かもしれないが。

 

 

 

     

†     †     †

 

 

 

「はあ、はあ、はあ、」

 

 息が上がるまでに至って、ようやく落ち着いたローゼ。

 ただ、マクラに対してマウントは取り続けているが。

 

 女性といえども強化された拳にさらされたマクラは、ボロボロだった。

 

「私、夢の中の相手に何をムキに。……あ~あ、マクラが。お嬢様に叱られる」

 

 大きく深呼吸。

 気持ちを落ち着けている最中に、ふと、疑問が頭をよぎった。

 あの爪楊枝が唯一意味のある情報として渡してきたものだ。

 

「願い事がニルソニア様の机から始まるとは、一体どういう事でしょうか?」

 

 夢だと思っている上に、棒人間(あのヤロウ)の言ったことなので、信用も期待もしていないローゼ。

 

 だが、気になるのは事実だ。

 

「……確認だけしましょうか」

 

 葛藤したあげく、確かめることに決めた。引き出しに入っているであろうナニカを。

 

 

 さっそく着替え始めるローゼ。

 その間、数十秒。

 やはりできるメイドなのだろうか。……今から行おうとしていることは、主の部屋に押し入り、ブツを物色する寝入り強盗に近いが。

 

 

 

 

 

 

 歩きなれた廊下を進む。行き先は主の(ニルソニア)仕事部屋だ。

 

「――『願い事』。引き出しに入っているなら、物質でしょう。……いったい何が入っているんでしょうか?――しかし始まるとも言っていました。物質ではないのでしょうか?」

 

 何が入っているかについては、棒人間も知らなかったりする。ナレーショナーも知らなかったりする。

 

 

     

†     †     †

 

 

 [[削除済み]さん……棒人間さんに指示を出されたのは娘さまなので、私も[削除済み]さん……棒人間さんも、よくわからないんですよね。

 あの引き出しどうなっているんですか。虚理演算(アカシックレコード)で解析できないんですが。

 ……よほど見られたくないナニカが入っているみたいですね。私、気になります!!!]

 byナレーショナーin記録室on天界

 

 

     

†     †     †

 

 

 色々思案するうちに、部屋の前にたどり着いたローゼ。

 神妙な顔つきでドアノブに手をかけた。

 

 

 仕事部屋、正式名称:業務室には、入り方が二通りある。

 直接入るか、ニルソニアの部屋から(つな)がる通路を使うか、の二通だ。

 

 

 しかし、直接入るルートは使えない。扉が開かないからだ。

 何故か。

 

 それは、書類が至る所に積まれているため。

 領主の仕事を人任せ、()()()()にしているニルソニアお嬢さま。

 彼女が破棄していい書類など分かるはずもなく、書類は床に平積みなのだ。

 

 某左手がサルで変態な女の子の部屋みたいなひどい惨状だった。

 

 レインコートの似合う後輩の話はおいといて、

 仕事部屋にはニルソニアの部屋を通っていくしかない。

 

 そのことに気づくまでかれこれ十分間『開かずの扉』と戦っていたローゼ。

 

 

 

 

 

 

 

 ローゼは、

「確認するの、やめましょうか」

 ―――――――――――――――疲れていた。




[未来の私、干渉するのやめてくれません? ネタバレにつながりかねないんですけども。今回も[削除済み]を使う羽目になりましたし]
[いやいや、無理ですね、過去の私。時空軸の乱れからの設定ブレがひどい]
<まるで私が悪いみたいな言い方は止めてもらおうか、別時空軸の私>
[[!?]]

「こんなことしてるから話が進まないんですよ、お姉さま方」
[[<すみませんでした>]]


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6 日記

前回のあらすじ。
ローゼが悪夢から覚める→棒人間にイラつく→マクラタコ殴り→スッキリ→棒人間のセリフが気になる→確かめにニルソニアの業務室に行く→開かない扉と格闘する→あかないことに気づく→つかれる


 ローゼは気を取り直し、彼女の主――ニルソニアの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 図らずとも、昨日(あるじ)――ニルソニアお嬢様を起こしに来たときと同じ体勢で固まるローゼ。

 ただひとつ、ローゼが不安げだという事を除いては。

 

「罠だったらどうしましょうか……いえ、どうせあいつの戯言です。さっさと確認して(お嬢さまの)ベットに入りましょう」

 

 神妙な顔つきで、ドアノブに手をかけた。

 ドアノブは音もなく回った。

 

 

 部屋に入ると、当然ながら天蓋付きのベットでニルソニアが寝ていた。

 床には、脱ぎ捨てられ散らかったお嬢様服。

 普段から身の回りを任せきりのお嬢様。生活力は皆無だった。

 

 普段通り、無意識に服を回収していくローゼ。

 そして、普段と同じく気配を殺している。

 気配を殺しているため、ニルソニアが起きそうな様子はない。

 

 

 後で本人から聞いた話だが、『お嬢さまに悪戯するために、努力しました』とのこと。

 さすがは、駄メイド。いや、もはやメイドですらないかもしれない。

 

 

 回収した洗濯物(お嬢様の服)を部屋の隅にポイッと投げ捨てる。

 

「これで足の踏み場が出来ましたね。―――おっと、お嬢さまは寝ていました。静かに……静かに……

 

 忍び足で、業務室へつながるドアへ歩いていく。

 普段通りに、ニルソニアが起きる事もなく、そして何事もなく、ドアの前に着いた。

 今回もドアノブは滑らかに回った。

 

 

 

 静かな業務室は相変わらず散らかっていた。主に書類が。

 ただ、ドアから業務用両袖机(りょうそでづくえ)までは、動線が確保されていた。

 

 ローゼは、周囲を紙に埋め尽くされた道を進む。

 積み上げられた白い塔に当たらないように慎重に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、お嬢さまを起こさないことよりも、書類の山を崩さない方が難しいとは」

 

 愚痴りながら、たどり着いた両袖机の()()、下から二段目の引き出しを開く。

 

 

 

 

 そこには―――――――

「――――――ん?――――――」

 ――――――――何も入っていなかった。

 

 

 

 

「やはりからかわれた、いえただの夢だったようですね。ならばさっさとニルソニア様と共にベットで寝―――」

 

 

 ガチャリ

 

 

 

 棒人間は何と言っていた。

 『願い事は吸血鬼が眠る部屋―――その隣の仕事部屋にある両袖机。()()下から二段目の中から始まる』

 そう言っていた。

 

 

 音がした。()()の引き出しから音がした。

 

 

 業務机の備え付け引き出し、左側、下から二段目、その引き出しが、

 

 ローゼには、何故だか鎖で縛られているような気がした。

 

 つばを飲み込み、だが静寂(せいじゃく)に飲み込まれないように、

 腕に力を()め、だが期待は()めないように、

 引き出しを開ける。

 

 

 ―――――どこかでナニカが哂った―――――

 

 

 そこにあったのは、

 一冊の古ぼけた黒革の手帳と薇発条(ぜんまいばね)の切れたオルゴールだった。

 手帳の表紙には何かが刻まれた跡と、大きくついている二つの『〆』(×)

 

 望んだものと告げられたそれを覗き込んだ。

 

 それは―――――――――

 

 

 

 

 

     

†     †     †

 

 

 

 

 

 

 手帳――日記を丁重に閉じる。元あった場所に戻すと、ローゼは泣きそうな、それでいて決意したような顔でオルゴールの発条(ぜんまい)を巻き、机の上に置く。

 

 流れてくるは、美しく気高い、だけどどこか寂し気な旋律。

 その旋律は、この場に動くものがいない夜であることも()わさって、高らかに鳴り響く。

 

 今にも消えそうな音は、屋敷中に響き渡る。

 壁一枚(へだ)てた部屋にも流れ出る。

 

 

 

 バンッ!!!

 

 

 ローゼが顔を上げると、

 メイドが見たことない表情で、日記の持ち主――ニルソニアが扉を蹴り開けて、迫ってきていた。



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7 幼子 ~日記の続き~

 

 ニルソニアがローゼに近づいていく。

 

 歩みは走行へ、走行は疾走へ、疾走は疾駆へ。

 偶然、階段状になっていた書類を蹴り上がり、

 飛び上がり、

 空中でローゼの両肩をつかみ、

 強張(こわば)った顔に微笑みかけて、

 小さな膝を鳩尾(みぞおち)にぶちこんだ。

 

 

 鈍い音がした。

 

 ニルソニアは紙を巻き上げ、着地する。

 ローゼは紙を巻き込み、後ろに吹き飛んだ。

 

 

「今あなたは私の信頼を裏切ったの」

 

 白紙が舞い散る中、吸血鬼は冷たく嗤う。

 

「ローゼ・キュリエイド。この状態から私を納得させる言い分があるなら、言ってみなさい」

 

 

 

 

 

 最期の言葉を言い終わるや、衝撃があった。

 

 いつの間にか吹き飛んだはずのメイドが抱き着いていた。

 

 

 当然、驚いたのは抱き着かれたニルソニアだ。

 ローゼを引きはがそうとして、気づく。メイド(彼女)は声もなく泣いていた。

 

 

 驚いたのもつかの間、

 ニルソニアは日記をメイドに読まれたことを思い出し、

 

「何よ。哀れみならいらないわよ。それと、離れなさい!」

 

 と、冷たい言葉(拒絶)を発した。

 

 

 

 だが、

 その願い(拒絶)は、

「同情で泣いて"いるわ"けでも、(いた”)みに涙し"て"いるわけ"でも、あ"りませ"ん。安堵と、嬉しいのと、少しの怒りが混ざった"嬉し涙です」

 ローゼには、届かない。

 離れるどころか、抱き着く腕に力を込めた。

 

 

 

『誕生日』に予想外の(日記を読まれ、)ことが起き(オルゴールを鳴らされ)

 荒ぶりささくれ立っていたニルソニアの心は、

 知らず知らず、冷静に考えることが出来る程度には、落ち着きを取り戻していた。

 

 

 それでも、心の奥底(思い出)に土足で踏み込まれた怒りは消えなかった。

 メイドの言ったことを信じられなかった。

 

 

 

 もう一度拒絶しようと、メイドの体を押しのける。

 

 人間はいとも簡単に吸血鬼の力によって引きはがされる。

 

 ただ、引きはがすときに、吸血鬼は、ローゼの蒼眼を覗いてしまった。

 それだけで、吸血鬼は固まった。動けなくなった。拒絶できなくなった。

 

 

 ―――知らぬ間に泣き止んでいた深蒼の眼に感じたものは、哀れみや同情ではなく、本当に純粋な感謝や安堵―――

 

 

 メイドは固まった吸血鬼(主人)に語りかける。

「私は小さい頃に御嬢様――御主人様(お嬢様)(すく)い上げてもらいました。」

「あのとき、御主人様(お嬢様)は心身ともに、私を死から(すく)い上げてくださりました。」

「あのままだったら、私はわたしではなくなっていたでしょう。」

「今もなお、御主人様(お嬢様)は私を現世に縛り付けてくれています」

 

 だから

 だからこそ

 

御主人(ニルソニア)様に私の()()をもって恩返ししたいのです。」

「でも長年おそばにおりましたが、御主人(ニルソニア)様は、特別なことは何も願わず、何も求めず、お心を私に、明かしてはくれませんでした。」

「お前にできる事は何もない、そう言われているような気分でした。」

 

「それももう今日で終わりです。」

 

 

 

 

「やっとやっと、ニルソニア様に長年の感謝を返せます。」

 

 

 

 

 

 そう独白して、主人の頭を胸にもっていき、優しく抱きしめた。

 

 吸血鬼は、反射的に拒絶しようと、押しのけようとするが、

 頭から伝わるやさしくて、それでいて少しぎこちない手つきがそれを止めた。

 

「お嬢様――いえニルソニア様。私はどこにも行きませんよ」

 

 気づいたらローゼの胸に顔を押し付け、

 何年ぶりだろうか、

 吸血鬼――ニルソニアは大声で泣いた。

 

 その光景は、さながら――――――――――――

 

 ――――――――母親が子供にするような、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、――――――シミだらけの日記。日付は今からきっちり二百十年前。

 

『お父様、お母様どこにいるのですか。』

『かくれんぼなら、百年経っても見つけられない私の負けです。』

『私が悪い子で怒っているのなら、ご飯も残さず食べます。』

『嫌いな人参も食べます。言いつけも守ります。』

『あの日頂いたお母様のオルゴールも返します。』

『日記として使ってしまっているけど、お父様から頂いたこの手帳も返します。』

『誕生日も祝わなくてもいいです。プレゼントもいりません。』

 

 

『だから、だから、だから、   だから、いっしょにいてください。わたしをひとりにしないでください。いっしょうのおねがいです。

 

わたしは、ニルソニアは――――――』

 

 

 

 この次のページは、メモ――『いってきます。待っててね』と走り書いているものが張りつけてあった。

 

 

 この続きは、水にでも濡れたのか、にじんで読めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ、吸血鬼の『夜』が明ける。

















[実は、右側の引き出しには、ローゼを買ってからの日記が入っていました。その日記が読まれると人形劇が崩れるので、ローゼさんには見えないようにしておきました]


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第終章 人形たちは嫌い合う Please Restart
8 極限まで取り乱してると口調乱れるよね


[はい、新章です]
[旧英語のサブタイトルは、Bad End Start です。いったい誰にとってのバッドエンドなんでしょうか?]

[ヒントは、見え辛いどこかのあとがきにあります]
[現時点ではなかったりします]



〜ローゼ視点〜

 

──ふぅーーー。

どうしてこうなった。

昨日は、日付的には今日なんだけど、あんなことやっちゃったし、

早起きしてキビキビ働いて謝ろうって、覚悟決めて起きてみたら、

隣で全裸のお嬢様が寝ていらっしゃるんだけど。腕に抱き着いていらっしゃるんだけど。

ついでに私も全裸。

これ私やっちゃいましたか? またやらかしましたか? 

不敬罪+αで処刑ですか? 処刑なんて不経済ですよ! 御主人様!

 

思いだせ。思いだせ。

何故私とニルソニア様が全裸なのか。

どうしてお嬢さまが私の部屋にいらっしゃるのか。

 

え~と、あのあと、お嬢さまが泣き疲れて寝てしまわれたので、

お嬢さまの寝室のベットに寝かせて、

私も就寝しようって、自室に戻ってきて寝た。うん、寝た。

 

あれ? 原因が見当たらないんですが?

 

あ!

夜中……日は既に上がっていましたが……に扉が開く気配がしたけど、それですか?

それですね。

害意が無かったので無視しましたが、お嬢様だったのですね。

では、私の服を脱がせたのも、お嬢さま?

 

つまり、

この状況はお嬢さまが望まれたもの?

 

 

 

…………――――――!!!

 

 

ならば、据え膳喰わぬは漢の恥!!!

今の私は漢だ!! 狼だ!! さぁ! 愛を育みま―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――う、うぅん、お、かあさ、ま……」

 

 

 

 

 

 不意に腕を、キュッって抱きしめられた。

 みれば、ニルソニアの表情は安心しきっていた。

 何も怖いことや痛いこと、嫌なことは起こらないと、無邪気に信じているような顔だった。

 

 

 

 

 

 

……

・・・あーあ。どうしてこうなった。

こうなったら、襲うなんてできませんよ。……幼い娘を襲ったなんて罪状欲しくないですし。

それに、さっきまでは月が雲に隠れて、よく分からなかったけど、

 

今のお嬢様、体、三歳児と同じ。

もはや、赤ちゃん。

 

私を母親と間違えているのでしょうか。

こんな(とろ)けきった顔は見たことがありません。

 

……ああん、もう。可愛すぎ。

普段は十二歳ぐらいの大きさなのに、

何故三歳児になっているのか、なんてどうでもいい。

愛でよう!! 愛でましょう!!

 

 

……これ以上は無理ですね。

支離滅裂(しりめつれつ)な現実逃避をやめて、口調も元に戻さないと。

愛でるのは確定ですが。

 

再度、現状把握です。

お嬢さま全裸、ついでに私も全裸……服を着ないと、いくら吸血鬼とはいえ、風邪をひいてしまいます。

服は……あそこですか。

……お嬢さまが腕から離れてくれません。

仕方ありません。お嬢さまごと移動しましょう。

 

よいしょ。

…………こんなにも軽いのですか、ニルソニア様の肢体(からだ)は。

 

 

 

†     †     †

 

 

 

[おはようございます。仕事から戻ったら、ローゼさんが一人悶々(もんもん)としていました。]

[報告もとい、記述担当のナレーショナーです。]

[さっきまで私、あのお嬢さまの日記を、再度、隅から隅まで、解析していまして。]

[この日記、我らが父(上司)の力添えがあっても、一筋縄ではいかなくてですね。]

[――何で、神の機密文章が書けるほどの隠蔽(いんぺい)が為された紙を使って、日記を書いているのでしょうか。あのロリ吸血鬼は――]

[まあ、というわけでですね、地の文に割けるメモリというか、キャパというか、余裕が無くなりまして、上記のような書き方になりました。]

[いやぁ、『空理演算』(アカシックレコード)さまさまです。ローゼさん視点に切り替えて、出力すればいいんですから。]

[まあ、羽ペンを使って、紙に書き留めるのは、私なんですけどね]

 

 

 

[って、ローゼさん?! なにしてるんですか?! いくら三歳児でもそれは……あ、満更(まんざら)じゃなさそうですね。あの吸血鬼]

 

 

 

[見返してみると、ローゼさん、メイドとしては失格ですね。]

[やっぱり、駄目なメイドですね。駄メイド。]

 

 

[そろそろニルソニアさん(三歳児)が起きますよ。]

[それにしても、ニルソニアさんは幼児退行がひどいですね。]

[どちらかといえば、あの三歳児モードが本来のお嬢様(笑)な気がしますよ。]

 

 

[ひどい惨状になりそうですね?]

 

 

 

†     †     †

 

 

 

 時間は、どうしようもなく、凍結された。

 アインシュタインの一般相対性理論は、今この瞬間、破綻した。

 全粒子の熱振動は、完全に、停止した。

 不確定性原理は、ふざけたことに、意味を()さなくなった。

 

 ニルソニアには、そういう風に世界が見えた。

 無理もあるまい。

 彼女からすれば、頭と手に()()()感覚があり、それに癒され安心していたところ、なんだか鼻がむず(がゆ)く、そーっと薄目を開けて確認してみたら、

 ローゼが、否、自分自身がローゼのベットにいて、ローゼに抱きかかえられていたのだから。

 

 ニルソニアの鼻がむず痒かったのは、彼女の髪の毛が、鼻にかかっていたせいだった。

 優しい感覚の正体は、ニルソニアの頭をなでる真っ白い手と、

彼女自身が咥えるローゼのおっぱいからおっぱいを出しやすくするためにおっぱいを押している己の手から伝わるおっぱいの感触だった。

 

 想像してみてほしい。

 朝目が覚めたら、赤ちゃんプレイされていることを。

 しかも、その相手が、昨晩胸を借りて幼子の様に泣きじゃくった相手だったことを。

 

 そりゃあ、時も止まる。物理法則も瓦解する。

 

 

 

     

†     †     †

 

 

 

「な、なななな、何をしているの! ローゼ!!」

 

 結局、フリーズから復帰するのに11秒かかったニルソニア。

 ただし、受け入れも納得もいっていないようで、犯人と思わしきメイドを問い詰めていた。

 

 ち な み に、

 ニルソニアは、いまだローゼの胸に吸い付いている。

 よって、声はくぐもり、声の振動はローゼの胸に直接響く。

 

 つまり、

 こういうことだ。

「……あん♡」

 ニルソニアが喋ると、ローゼが喘ぐ。

 

「あふ……。おはようございます」

と、嬌声かあくびか区別できない声を漏らしながら、ローゼが起きた。

 

ねぇ(ふぇ)ローゼ(ほーぜ)()()()()()()()()()()()()()? (ひぞ)(ぞふ)()()()(へつ)(へい)()()()()()()?」

 

†     †     †

 

[いちいち喘がしたら、話が進まないので、省略しています。脳内補正を行ってくださると、有りがたいです]

 

†     †     †

 

 

 威厳タップリ、風格マシマシで喋っているが、今のニルソニアの残念な現状では、逆効果。

 幼子が背伸びをしているようで、微笑ましささえある。

 しかも、

「お嬢さま。溝足のいくではなく、満足のいく、または納得のいくですよ」

 背伸びした結果、こけてしまったようだ。

 

 これには、ニルソニアも顔を赤らめる。

 

†     †     †

 

[そうはならんやろ]

『なってるやろがい』

我らが父(上司)!?]

 

†     †     †

 

 

 

「た、ただの言い間違いよ、言い間違い。そ、そんな些細(ささい)なことは小事(しょうじ)よ!」

「二重表現です」

「――ロ、ローゼ?! 説明はまだかしら?!」

「――ハァー。分かりました。でもその前に、胸から口を離してくれませんか? 慣れてきましたが、我慢(がまん)しても気持ちい――くすぐったいので」

 

 

 

 配下になめられたままでは終われないニルソニア。

 反撃の糸口を見つけ内心笑う。

 

「なーに? あなた、感じてるの?」

「いえ、決して(けして)そのようなことは」

「そう、ならこれはどう?」

 

 ペロリ

 

「――ひゃう!?」

「あら、可愛い声ね」

 

 ジュルリ

 

「――っあん!」

「母乳は……出ないようね。でも血は出るでしょう」

 

 カリッ

 

「――ッ!! 噛みましたね、噛みましたね!」

「なら、どうするのよ?」

 

 クニクニ

 

「ど……っ、うするって!」

 

 コチョコチョコチョコチョ!

 

「あはははははは!!」

「こうするのです!!」

「やっ、たわね!」

 

 ツーッ

「んッ――あ。そっ、ちだって!」

 

 サワサワ

「あはははは!」

 

 ザラリ

「――ひあ!」

 

 コショコショ

「耳は、や、やめ」

 

 コリッ

「――ひ! 噛む――――っ…………の禁、止でっ、す」

 

       (コチョコチョ)

       (「あははは!」)

 

     (ペロリ)

       (――ひゃう!)

 

 

     

†     †     †

 

 

「年甲斐もなくはしゃいでしまったわ」

 あのあと、『滅茶苦茶セッ[言わせませんよ!? 事実を歪曲しないでください!! 上司に言いつけますよ! ……違った。娘さまだ。とにかく、止めてください!!]

『ショボーン(´・ω・`)』

 [キャラ崩壊しても、ダメなものはダメです!]

『そうか。ならば(いた)(かた)ない。業務に戻る』

 

 [ハァ……すみません。あれが我らが父(上司)で。閑話休題とまいりましょう。]

 

 

     

†     †     †

 

 

「年甲斐もなくはしゃいでしまったわ」

 あのあと、もうひと悶着あったが、その時の騒動は機会があればまたいずれ。

 今は、二人共にベットの端に腰かけて頭だけ向かい合っている状態だ。

 ただし、ニルソニアはまだ三歳児の姿で、服は先ほど出来上がったローゼお手製のワンピースだ。

 

 ニルソニアが口を開いた。

「それでは、改めてローゼ。説明を頼めるかしら」

 紅い唇から吸血鬼特有の八重歯(やえば)がのぞき、燭台(しょくだい)の揺らぐ光を受け鈍く光る。

「どうして、私とあなたは服を着ていないのか。どうして、私はローゼの部屋にいるのか。どうして、私は小さくなったのか」

 

 主の命を受け、メイドは滔々と話し始める。

 

(かしこ)まりました。それでは、説明させていただきます。まず第一に、何故お嬢さまが私の部屋にいるかですが、推測(すいそく)となります。ご了承ください」

「どういう事かしら」

 

 ニルソニアが首をかしげる。

 

「それは……結論に関係ある事柄なので、その時になったら説明します」

「そう……ならいいわ。続けて」

 

 ローゼが(うなず)き、話に戻った。

 

「はい。ですが、その前に。失礼ですが、お嬢さま。昨日寝ている間の記憶はありますか? 夢でも何でも(かま)いません」

「変なことを聞くのね、ローゼ。えっと………ああ、夢を見たわ。内容は憶えていないけど多分悪夢だったわ」

 

 主の返答を聞き、ローゼは納得する素振(すぶ)りを見せた。

 

「なるほど。 (――そういうことでしたか。)ありがとうございます、お嬢さま」

 

 逆にニルソニアは困惑したようだ。

 

「どうしてそんなこと聞いたのかしら」

「根拠の強化ですよ、お嬢さま」

 

 メイドは続ける。

 

「お嬢さまが、何故私の部屋にいるかですが、おそらく、自らの足で歩いてきたと思われます」

 

 一番想像していなかった『答』を伝えられたニルソニア。

 動揺からか、的外れな反論を(こころ)みる。

「私、吸血鬼。(はね)生えてるわよ。普段は畳んでいるけど。その(はね)で飛んできたってことは無い?」

 

 が、物的証拠があった。

 

「いいえ、お嬢さま。それは、ありません」

「なんでよ」

「お嬢さまの足の裏に、廊下のカーテンにしか使われていない生地の糸くずが付いていました」

「それは……廊下を歩かないと、付かないわね……歩いてここまで来た。それは分かったわ。でも何で歩いてこの部屋まで来たの?」

 

 コテン、と可愛らしく首を傾げた。

 三歳児がすると恐ろしいほど破壊力抜群のしぐさを、先ほどと同じように内心悶えながら、

 表情には出さず、

 

「憶測ですが、怖い夢を見たため人肌恋しくなったのでしょう。それこそ、飛んできた方が早いのに歩くといった非合理的判断を下すほどに」

 

 と、ローゼは結論づけた。

 

「なるほどね……そんなにも怖い夢だったのなら記憶がないことも納得できるわ。」

 

 ニルソニアは、左手をパーに右手をグーにして、 右手を左手に打ちつけた。所謂、ガ〇テンだ。、

 

 

「理解されたのなら良かったです。次は、何故お嬢さまと私が素っ裸だったのか、ですが、お嬢さまの場合は、お体が小さくなったのでしょう。私の場合は、大方お嬢さまに脱がされたのでしょう」

 

 これを聞き、ムッとするニルソニア。

「何で私があなたを剥かないといけないのよ」

 と、毒づく。

 

「申しましたように、合理性、つまり理性が吹っ飛ぶほど人肌恋しかったわけですから、体温がじかに伝わる真っ裸が一番良かったのでしょう」

 

 尤もなことを言われ、言葉に詰めるニルソニア。

 だが、まだ疑問が残っていることを思い出した。

 

「理解したわ。残るはあと一つ。どうして小さくなったのか」

「不明です」

「ローゼ? 私、耳が遠いみたい」

「三歳児なのにですが?」

「うるさいわね――もう一度言ってくれる?」

「不明です」

「……」

「ちなみに、お嬢さんを胸に近づけたら、勝手に吸い始めました」

「うそぉ?!」

「嘘です。口に入れてみたら、吸われました」

「それは、ほとんど同じことよ!?」

 

 

†     †     †

 

 

「少し取り乱したわ……」

 ニルソニアは少し俯いている。

 少し前の自分を思い出いて、これが人の上に立つ者のとる行動か、と今更ながら、本当に今更ながら悔いていた。

「情けない姿を見せたわね、ローゼ」

 それを聞き、慌ててフォローを入れようと、ローゼは口を開く。

「全くそんなことはありません――――」

「そう……よかったわ。あんなことはお父様お母様に対しても、したことなかったから」

 

 二ルソニアの顔が綻ぶ。だが、ローゼの台詞は続いていた。

 

「――――しゃぶられているときの恍惚感ときたら。つまり私にとってはご褒美です。至福のひと時でした」

 

「えっ」

「えっ」

「「えっ?」」

 

 再び、時が止まった。

 アインシュタインらは泣いていい。

 




[なぜ、アインシュタインさん達を知っているかというと、転生者たちの記憶から抜き取りました]
[脳に悪影響はないと思います。たぶん……]


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9 心の奥底と記憶の彼方は似た者同士

 再び、時が止まった。

 二ルソニア達も固まった。

 だが、彼女たちの思考は、止まっていなかった。

 

「ローゼ。ねぇ――ローゼ」

 

 ネットリと、問いかける。

 同時に二ルソニアの笑顔も深まった。

 ただし、緋色の目は笑っていない。

 

「な、なんでございましょうかお嬢さま」

 

 

 ローゼには、二ルソニアが何故こんな態度を()っているか、心当たりがあった。

 

 雑談は途中で切り上げる。寝ている最中にいたずらしても、一切反応がない。

 それぐらい、二ルソニアの心は閉じていた。

 正確には、ある一定ラインより奥には踏み込ませなかった。

 

 それが、―――100年もあったのだ。いくつも見ていただろう―――怖い夢を見た程度で、ローゼのベットに潜り込んだ。そして馬鹿(おっぱい)騒ぎにすら付き合った。

 ――寝ぼけて、ローゼを『お母様』と思った。

 

 これらは、心を開いていた証拠だった。

 

 だというのに、ローゼは――

 

 メイドの頬を冷や汗がダラダラと(つた)う。

 目が泳ぎそうになるが、どうにか耐える。

 

 その光景が見えているのか、いないのか、

 主は、トーンを落として言う。

 

「年甲斐もなくはしゃいでしまったわ。情けない姿を見せたわね」

 

 先程と同じ――まではいかなくとも、似ている科白(セリフ)を放つ二ルソニア。

 ……失態を犯したローゼに、寛容(かんよう)にも卍解の、否、挽回のチャンスをくれるようだ。

 ローゼは、ホッと一息吐いた後、主の質問に答える。

 

「いえ、全然。むしろ可愛かったです。特に――」

 

 が、

 

「ホント? 嫌じゃなかった? 本音隠してない?」

 

 二ルソニアが、ローゼの台詞(セリフ)(さえぎ)って、言葉を発する。

 口を開いたことにより、いっそう八重歯(ヤイバ)が鈍く光る。

 鋭く冷たい視線が、ローゼを貫く。

 

 どうやら、無かったことには、してくれないらしい。

 それどころか、掘り起こし暴こうとしているようだ。

 

 だが、メイド兼奴隷のローゼにとって、本気の主に逆らう事はしたくない事だった。

(この二人の奴隷契約は少々特殊で、あまり強制力が無い。奴隷首環も付けていない)

 

「ええ、隠してるわけないじゃないですか。とても至福のひと時でした。我々の業界ではご褒美です」

 

 逆らいたくはない、逆らいたくはないのだが、若干(じゃっかん)、誤魔化しにかかるローゼ。

 

 だが、

 

「我々? 他に誰かいるのかしら?」

「……私にはご褒美です」

「……まんざらじゃなかったのね、あの行為。私、血が出るぐらいには、あなたの乳房噛んだのだけど」

 

 冷たい(あか)い目に、見抜かれてしまった。

 

 これで、ローゼは、3歳程度の幼女に欲情する人間の1人となった。ローゼは、二ルソニア以外の3歳児には興味がないが。

 

 

 ロリコン認定(二ルソニア限定)を受けたローゼ。

 内心、焦っていた。

 

(どうしましょう。どうしましょう。二ルソニア様に嫌われてしまいます。……いや、それもご褒美なのでは?)

 

 ……案外余裕であった。

 1時の気の迷いであってほしいが。

 だが、1度外れた心のタガは、そう簡単には戻らない。

 

(もう、こうなったら、いっその事、襲ってしまいましょうか。ベッドの上ですし)

 

 ジュルリ。

 

 ローゼが、いつの間にか、

 肝が据わった顔つきで舌舐めずりをしていた。

 

 

†     †     †

 

 

 ゾワッ! 

 

 ローゼの心の(うち)はわからなくても、身の危険を覚えた二ルソニア。

 今のローゼは、猛獣が黙って逃げたすほど(たぎ)った目をしていた。

 

(これはしたくなかったけど、仕方ないわよね。この子が悪いんだから)

 

 今から行われるのは、主が、おいたをした、またおいたをしそうになった奴隷に対してする罰。そう折檻(せっかん)である。

 

 だが、ローゼと二ルソニアは10年間共に育った。

 それ故に、二ルソニアは知っている。

 通常の折檻では懲りるどころか、反撃すらしてくるだろう、と。

 

(どうしようかしら、何かいい案は……そういえば1度も試してない罰があったわね)

 

 なにかいい案を思いついたようだ。

 

 

 

†     †     †

 

 

 

 

「そういえば、10年間一度もこれは使ったことなかったわね」

 

 ニルソニアは、ベットから立ち上がりながらローゼに告げた。

 

「これ、とは?」

 

 ローゼが(たず)ねるが、ニルソニアはすぐに答えず、両袖机まで進んだ。

 そして、引き出しの右側三段目から、取り出したのは、

 

「これよ、これ」

 

 奴隷の首輪だった。

 

 

 

 

 

 サーッと、ローゼが青ざめる。

 ローゼにとって、

 奴隷の首輪――奴隷環――とは、

 ()まわしく(おぞ)ましい()()を象徴するものだ。

 10年間心の奥底に(ひそ)んでいた禍虚(かこ)が呼び起され、

 

「お嬢様、それをどうするおつもりなので?」

 

 ローゼの顔は、もはや能面に近かった。

 否、能面ではなくデスマスクに近かった。

 その反応にニルソニアは気づけない。気づかない。

 

「もちろん、あなたの首につけるのよ」

 

 ニルソニアは、ローゼに首輪を付けたいらしい。いろんな意味で。様々な理由で。

 ただ、彼女のメイドが今、顔面蒼白になっていることを知ったら、すぐに取り止めにしただろう。

 ニルソニアは心の底から、つまり、本気で怒っているわけではない。

 少しばかりお灸をすえたかっただけなのだ。

 

 

 だってそうだろう。

 昨日、彼女の心を溶かしたのは、紛れもなくローゼだ。

 そのローゼが心を凍えさすような真似をしたのだ。

 文句の一つも言いたくなってくるだろう。

 ――私の心はあなたにとって、そんな軽々しいものなのか、と。

 それでも、心を一回開いてしまった以上、もう戻れない。

 戻りたくはない。

 忘れていた他人のぬくもりを、思い出してしまったから。

 溶けてしまった心に、孤独は他人の悪意よりも()えられないから。

 だから首環をかける。

 どこにも行かないように。

 どこにも消えないように。

 

 

 そんな己の奥底にある心の機微に気づくことなく、

 

(この首輪はどうやって使う物だったかしら。え~と、思いだせないわ)

 

 ニルソニアは呑気(のんき)にそんなことを考えていた。

 

 ローゼを購入する時に、説明を受けたが、

 聞き流していたせいで覚えていないニルソニア。

 結局当の本人(奴隷)に聞くことにした。

 

「ねえ、ローゼ。これどうやって使う物だっ――――――――って、大丈夫?!」

 

 ようやく、ローゼの惨状に気づいたが、時すでに遅し。

 ローゼは、先ほどまで苦し気に胸を押さえていたのだが、今はベットの上で安らかに横になっていた。その顔に血の気はなく、真っ青だった。

 

「ローゼ?! ローゼッ!?」

 

 体をゆする。胸が少しだけ揺れる。

 

「―――――あ、う………」

 

 吐息が漏れた。

 ローゼはどうやら気絶しているらしい。本当に眠っているだけだった。

 胸を撫でおろすニルソニア。その手は引っかかることなくスムーズに動いた。

 

 

†     †     †

 

 

 ローゼは夢を見ていた。

 今では見なくなっていた古い夢だった。

 

 

 

 遠〿〿て〿く〿屋、

 

 〿暗〿窓〿〿い〿屋、  

 

 夜通し聞〿え〿〿て〿る少〿の〿えぎ声、

 

 むせ〿〿るほ〿の〿〿臭〿、

 

 森〿中、薄暗い〿道、主の〿ない屋敷、

 

 黒〿棒〿間、

 

 ()〿られる、

 

 当たら〿い、

 

 す〿抜けられる、

 

 ()っ飛ばせな〿、

 

 ()け〿れる、

 

 殴れない。

 

 

 

 

 ローゼは途中から夢が切り替わっていることに気づかない。

 

(ちょこまかと、よけるな。うっとうしい)

 

 夢の中の棒人間に苛立ち、思わず手が出てしまう。

 

 

 バキッ!! 

 人を殴った感触が手に残る。

 

 

(え? 当たった? …………これがお嬢様を侮辱した――

         「きゃあ!」

 ――罰で――――す? ? きゃあ?)

 

 あの棒人間とは、似ても似つかない可愛らしい()()()悲鳴だった。

 耳に残る女性の悲鳴。

 手に残る柔肌の感覚。

 それが意味するところは……。

 ローゼの脳裏にある一つの可能性が浮かんだ。

 

(もし、かして、ニルソニア様に当たってしまい、ましたか?)

 

 ローゼは怖がっている、目を開ける事を。だが謝らないと後が怖い。

 迷った末、そ~っと薄目を開けることにしたローゼ。

 

 開けた目に映るは、

 崩れ落ちて頬を押さえる金髪の女性と、ニヤニヤ笑っている棒人間だった。

 

 心配していたことが杞憂に終わって、ローゼ、一言。

 

「よかった。本当によかった。殴った、拳が当たったのが見知らぬ女性で!」

「じゃあその見知らぬ赤の()()に殴られても文句ないですよね! 私天使ですが!!」

 

 拳が当たっていたのは、まさかのナレーショナーだった。




ココロが罅割(ひびわれ)()ぐられる、禍々しく虚ろな過去


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10 悪夢再び

前回までの『ラブライ[させるかあぁぁ!!!
 いろんなところに喧嘩(けんか)売りたいんですか?! ゴーハウス、ゴーハウスですよ!]
『大丈夫であろう。なろうなら問題だ。だがここは二次創作の聖地と言っても過言ではないハーメルンである』
[確かにそうですけど! この小説、二次創作のタグつけてないからダメだと思いますけど⁉︎]
『それに、ここは天界だ。あらゆる所有権が我にあるはずだが』
[ここは記録室、つまり私の部屋ですよ! いくら大家といえども、他人が住んでいる部屋に挨拶もなしで入室したりしません!]
『ふも、一理ある』
[ふむでは?]
『ふむ、ここは一度引くとしよう』
[スルーですか。……まったく、乙女の部屋へ勝手に入ってくるのはNGですよ──って、また来るつもりなんですか?!]



前回までのあらすじ

 

 ニルソニアが赤ちゃんプレイに目覚めかける

         ↓

 ローゼ、授乳プレイに目覚めかけたことが判明

         ↓

 ニルソニアからの首環プレイというか、首環攻め

         ↓

   ローゼ、トラウマにより気絶

         ↓

   夢を見ていると、棒人間出現

         ↓

       殴りかかる

         ↓

 何故か、ナレーショナーにあたる

          イマココ⤴

 

 [嘘は言ってません。ほんとの事も言ってませんが]

 

 

†     †     †

 

 

 

「よかった。本当によかった。殴った、拳が当たったのが見知らぬ女性で!」

 

「じゃあその見知らぬ赤の()()に殴られても文句ないですよね! 私天使ですが!!」

 

 ナレーショナー、床に崩れ落ちて女座り(横座り)している。心なしか、翼が(しお)れてしまっている。

 棒人間、何を考えているか、外見からは全く予想できない。

 専属メイド、まさかの主の声を聴き間違える痛恨のミスをやらかす。

 

 

「おいコラ。未来の私。見知らぬ天使(ひと)を殴って謝罪しない方がミスでしょうが! しかも、声のことが書いてあるのは前回でしょうに!」

 

 いきなり、虚空に向かって常人には理解できないことを喚き散らす天使。

 その奇行をローゼと棒人間は白い目で見ていた。

 

 

[[削除済み]さん......失礼。間違えました。棒人間さんは理解出来るはずなんですけどね。話の本筋と関係ありませんが、ローゼさんが、無意識のうちに棒人間さんと同じ行動をとっていたと、知ったら心底嫌がるでしょうねぇ]

 

 

「自分自身を無視するな! そしていきなり隠れるな! って、え? 二人とも私の事白い目で見ていたんですか?」

 

 激昂していたが、いきなりキョトンとした顔になるナレーショナー。そのまま、二人の方を向く。

 視線を向けられ、ローゼは様々な罪悪感からサッと目を背け、棒人間は様々な思惑から口を開いた。

 

「大天使サマの賢慮(けんりょ)貴意(きい)は、(わたくし)ども愚人には到底、理解も及びませんが」

 一旦、言葉を切る。

「さっさと本題入ろうぜ。こちとら結構待機させられてんだ。待つのも飽き飽きしてんだよ。――なぁ、天使サマよぉ。俺はいったいいつまで待たなきゃなんねぇんだ?」

 

 先ほどまでの慇懃無礼(いんぎんぶれい)さはどこへやら、うってかわって棒人間は、けだるげな口調で催促する。

 忘れていたナレーショナーが慌てふためきながら答える。

 

「あ──ほ、本題に入りましょう。ローゼさんに殴られたことは水に流します」

 

[二人から、白い目で見られたことと、私にシカトされたこと。いろいろ忘れてますね、過去の私]

 

「うっさい。そうでもしないと話が進まないでしょうに。進めますよ」

「あと脳内に直接話けてくるな」

 

 

「ローゼさん、あなたに伝えるべきことがあります」

 

 

[ああ、なるほどですね。無理矢理にでも進めないと、この後の殺し合いがずっと続きますものね]

 

 

「え。殺しあうんですか? それは止めないと。でもあれ?」

 

 

 と、そこまで言ってローゼの姿がないことに気づく。

 

「あれ、あの~ローゼさんは何処に」

「私ならここです――よ!」

 

 ブンッ!! 

 

 棒人間の背後から音もなく忍び寄っていたローゼが、上げていた手を振り下ろした。

 

「おっと、危ねぇ」

「ええい、避けるな!」

 

 難なく避けられていた。だって、体、細い棒だもの。頭大きいけど。

 

 さすが、駄メイド。人の話よりも自分の欲望を優先したらしい。

 いや、主を侮辱されたことへの怒りが理由だとすると、メイドの、従者の鑑かもしれないが。

 

†     †     †

 

 [うーん、半、半ってとこですかねぇ。ウザさに対する怒り50%、侮辱に対する怒り50%。

 あ、そうそう、ちょっとこれ関係ないんですが、地の文を書いているとどうしても堅苦しい文章になってしまうんですよね。でも、堅苦しい方が第三人称神視点にはいいですよね。私天使ですが。((個人の意見です))

 ……いいんですよ! 我らが父《上司》! そんなテロップ入れなくても! そんなこと言ったらこの文章のどこが堅苦しいのかって――]

 

ピン ポン パン ポーン

申し訳ございません。お見苦しい会話が続きます。

 私の一存でカットさせて戴きました。

 by ヘカミュルナ

 ピン ポン パン ポーン

 

 [ふう、やっぱり、私が長々と語ると話が進まなくなりますね。どうしましょうか。うーん──そうですね。

 一旦現場にお返ししまーす]

 

「この状況で返されても! 流れとか一切無視ですか! あぁ、もう! やってやりますよ! ローゼさん! 振りかぶらないでください! それじゃあ当たるものも当たりません! 棒人間さん! 逃げないでください! ってやっぱり逃げて! ローゼさん! そのバールのようなもの、どこから出したんですか?! え? 置いてあった? メモと一緒に? メモには『これを使え』と書いてあった?」

 

 [あっちゃー、そっちに出たかー。あらすじの伏線回収しちゃったか―

 

「……なるほど。この忙しい時に、しかも私の方に出没しやがるんですか! あの我らが父(アホ)は! ああ、もう、二人ともおちつイッガフッゥゴガッ!?」

 

 ナレーショナー、棒人間から肘打ちを鳩尾に、

 ローゼから、バールのようなものを頭に、くらってしまい、倒れふした。

 

†     †     †

『不幸な事故だった』

[元凶が何言ってるんでしょうね]

†     †     †

 

 

「お二人とも、落ち着きましたか」

「「ハイ、スミマセンデシタ」」

 

 二人はナレーショナーに正座させられていた。

 あの後、ユラっと、フラっと、起き上がった聖母のような笑(『般若のごとき)みを浮かべた(笑顔をした』)ナレーショナーが、天使の威厳を(『悪魔ごときでは太刀打ちできない)見せつけて、(邪悪なオーラを身にまとい』)二人を非暴力的に鎮めた(『血の池に沈めた』)

 否、

 ナレーショナーが、二人を、いや、残酷な描写は控えよう。

[自分の印象をおとしめたくないので記述しないようにしましょうね]

『ルビ振っといたぞ』

[           ]

 

ピン ポン パ(ry

 

†     †     †

 

 

 

 

「お二人とも、和解してください。ほら、太ももつねりあったりしない」

「なあ、天使サマよぉ。和解というなら俺たちも和解といこうじゃねえか」

 

 棒人間は、ヘラヘラしながら言った。

 

「どういう事ですか?」

 

 ナレーショナーが聞き返すと、棒人間は肩をすくめ。

 

「おまえ、さっきゴタゴタの最中に『避けないでください』とか言ってなかったか?」

「キノセイデスヨ?」

「気のせいか?」

「ハイ、キノセイデス」

 

 ナレーショナーの眼が、だんだんそれていった。

 それていった先には、体の横で手をスッと挙げているローゼがいた。

 いい逃げ道が出来たとばかりに、ナレーショナーは嬉々として問いかける。

 

「何でしょうか、ローゼさん」

「そもそも和解は無理です」

「えーと、何故でしょうか」

「理由は忘れました」

 

 ズッコケそうになるナレーショナー。

 

「忘れたんですか?」

「はい、忘れました。ですが、とても腹立たしいことがあったことは覚えています――嘘です。全部覚えています」

 

 ナレーショナー、今度はこけた。起き上がりながら、

 

「何の嘘ですか!」

 

 と叫ぶ。

 意図的か無意識か、そんな天使を無視しながらローゼは、

 

「そこの尺取虫(シャクトリムシ)が我が主――ニルソニア様を侮辱のに謝罪していないことが理由です」

 と、怒りをあらわにした。

 

「俺がしゃくとりむ「なら、和解はしなくていいので話だけでも聞いてください。謝罪はまた後日」――科白(セリフ)かぶせんなよ!」

 

 ムッとする棒人間。それには目もくれず、ローゼ、

 

「それなら聞いてあげなくもな」

 

 

 

 

 ――ガアアァァァンンンッッ!!! 

 

 

 

 突如、空間が揺れた。

 慌ててローゼと棒人間が立ち上がる。その際、互いの太ももをつねっていた手が離れる。

 

「なんですか?! ――ッ!」

 

 ナレーショナーが手を耳に当てたのち、慌てた表情を作る。

 

「ヤバい!! マズいですよ!! 早くしないとローゼさん、帰れなくなります!!」

 

 天使がローゼにとって聞き捨てならない事を言う。

 

「帰れなくなるって、一体ここは何処なのですか? 夢、だとしても知らない場所が出てくる訳ありませんし」

 

 喋っている途中から体が透け始めるローゼ。

 

「その疑問もまたの機会に! 棒人間さん、話を要約して伝えてください!」

 

 その要望に応えた棒人間。

 心なしか、逃げまくっていた頃よりも大きくなった下腹部に片手を当てて、頬をポッと染めながら、

 

「もうすぐ産まれるみたい」

 

 と、はにかんだ。ように見えた。表情が顔がないゆえ、確証はない。

 それが、ローゼが最後に見た光景だった。




[棒人間の太ももってつねれるのですかね?]



[さて、TSして恋愛して最後には出産するという王道がありますが、棒人間さんはTSする前に出産をするという珍しいタイプですね]
[妊娠したお腹は大きくなる。棒人間さんのお腹はくそ細い]
              ●
             / lヽ
             ( 〇 )
             / \
[こんな感じですかね?]


[こっちの方が見えにくいですね。見つけた人にはご褒美のネタバレをしましょう。第一章のplease restart お願い(please)してるのは娘様なんですよね]


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11 初めましてでしょーが

[吸血鬼にとっては、いつ日付が変わるのだろうとか考えてたら頭痛くなってきましたよ]
[もう、人間と同じでいいでしょうか?]
[それとも、寝て起きたら次の日、日が登ったら次の日の『夜』でいいでしょうか?]




 ~ニルソニア視点~

 

 まったく。

 ローゼが気絶するなんて誰も思わないじゃない。

 そりゃあ、十年間一緒にいた私の配下なんだから、トラウマぐらい把握しているのが普通なんでしょうけど、初めて会った頃のローゼは何をしてもほとんど反応がなかったから、これほどとは知らなかったのよ! 

 

「ハァー。落ち着きなさい、自分自身に腹を立てても仕方ないじゃない」

 

 察してあげられたかもしれない、なんてすぎた可能性は考えるだけ無駄。

 それより今は、私のベットで横になっているローゼに、看病といったらおかしいけれどそれに近いことをしましょうか。

 といっても、どうすればいいのかしら? 

 私されたことはあっても、したことはないからよく分からないのよね。

 う~ん、図書館に看病についての本、置いてあるかしら。

 この屋敷の本って吸血鬼ぐらいしか読まない内容の本が多いから。

 うまく全身の血を絞り出す方法とか、血料理のアレンジ集とか。

 ま、行ってみれば分かるわね。

 

 

†     †     †

 

 

 まさかこんなに早く見つかるとは、ね。図書館にあるテーブルの上に置いてあるとは驚きだわ。

 ……誰かが置いてくれた? まさかね。……私以外、誰もいないわよね、、、。

 不安になってきたわ。ローゼのこともあるし、戻ろうかしら。

 部屋でも本は読めるし。本当は図書館から本を持ち出してはいけない決まりなんだけどね。

 うん、そうと決まれば、さっさと戻りましょ。

 

 ドサッ! 

 

 あら、立ち上がった拍子に本を一冊、テーブルから落としてしまったわ。

 あれ、この本タイトルが書いてないわね。

 ちょっと見てみようかしら。

 

 ペラ。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~ッッッ///」

 

 ナニコレ?! 本当にこれ何?! 

 裸の女の人がいっぱいで、お、お、男の人と~~~~///

 た、(ただ)れているわ! こ、これは私が責任をもって処分するわ! 

 その時まで私が管理するわ! よくって?! 

 

 

†     †     †

 

 [キャラ崩れてますよ? 顔真っ赤にして、早歩きで図書館から出ていくところを見ると、よほど恥ずかしかったんですね]

 [そしてそのBOOKはどこに持っていくんですかね? ]

 [で、本二冊用意した我らが父(上司)はないがしたかったんですかね? ]

『SEX!!』

 [やめないか!! ]

 [あなたが喋ると太文字になるんです! 太文字のS○Xとか書きたくないんですけど! ]

 

†     †     †

 

 

 さて、部屋に帰ってきたわ。

 この本はサイドテーブルにおいて、こ、この本はベットの下にでも入れとけばいいかしら。

 ……ローゼ、うなされてるわね。汗もびっしょり。

 これは、お風呂に入れた方がいいのかしら――……

 

「ハァ」

 

 まったく、何のために図書館まで行ってきたのよ。分からないことを調べるためでしょうが。

 え~と、本にはなんて書いてあるかしら。

 なになに、

『首にネギを巻き、お、お、お尻の穴にネギを差し込む』

 ですって? 

 本当にこれで楽になるのかしら、人間は。

 あ、これ『風邪をひいたときの対処法』だったわ。

 こっちが、『寝込んだ時の対処法』ね。

 えーと、

『服を脱がし、タオル(ぬるま湯に浸けた後、硬く絞ったもの)で汗を拭き、清潔な服に着替えさす』

『着替えさしたなら、汗をかいて体内の水分が減少しているはずなので、飲み物を用意する』

『※注意:寝ているときに飲ませない。死にます』

 

 ……うーん。今、私小さくなっているのよね。具体的には九十cmぐらい。

 体も感覚も違うから、体が思うように動かないのよね。そんな私にやれるかしら。

 ま、なるようにしかならないわね。

 

 えーと、まずは、ぬるま湯とタオルね。

 ぬるま湯は魔法で作って、と。タオルは……脱衣所ね。

 おっと、洗面器を忘れていたわ。

 このままぬるま湯は、フヨフヨ宙に浮かせといて、タオルのついでに取ってきましょ。

 扉を開けて廊下に――さぶっ。冷えるわね。

 靴下はいてからの方がよかったかしら。

 いえ、取りに行っても今のサイズが無いわね。ローゼに頼まないと。

 その配下は気絶しているし。

 ――まったく、もう。世話のかかるメイドだこと。

 

「ハァー」

 

 冷たい廊下をペタペタ歩いていきましょうか! 

 

 

†     †     †

 

 [翼で飛べばいいのに、吸血鬼らしく。飛ばないとは、内心動揺しているんですね。わかります]

 

†     †     †

 

 

 うぅー寒っ。足の裏が痛いわよ、まったく。

 で、洗面器とタオルを持ってきたから、次は服を脱がすわね。

 おっと、その前にぬるま湯を洗面器に着水させなきゃ。よいしょ。

 それじゃあ、まずはベットの上に乗って、のって、の、って。

 ……届かない! こういう時、空が飛べたらいいのに――翼あるじゃない! 

 

「ハァ」

 

 何で気づかなかったのかしら。

 まあいいわ。思い出したなら、存分に使いましょ。さいわい、翼は小さくなっていないようだし。

 よいしょっと。

 ――まだ、うなされてるわね、ローゼは。

 今拭いてやるわね。

 あれ、どうやってこの服脱がすのかしら。

 この子、時々変なとこにこだわるから、この子以外には理解できないことがあったりするのよね。

 私しかこの家いないけど。

 ほんとにどうやって脱がすのかしら。

 ――この。――この! 

 無理ね。こうなったら力ずくで! ――やぁ! 

 

 これでも、彼女は吸血鬼。

 その腕力で衣装を力一杯引っ張ったなら

 

 ビリビリ! バツッ! ブチンッ! 

 

 当然、破ける。

 

 ――あ、やっちゃったわ。ま、まぁ? あとで作り直してもらいましょ。そろそろ衣替えの季節だしね。

 ――うーわ。私の噛んだ後、乳房にまだ残ってる。あれが気持ち良かったの? 

 何で私これとお母様を間違えたのかしら。全然似てないわ。

 ま、うなされてるし、さっさと終わらせましょ。

 

 

†     †     †

 

 

 まったく、なんで私が給仕の真似事までしなくちゃならないのかしら。

 そういうのは、『ア〇チャーの仕事でしょ』

 [赤い悪魔はさっさと聖〇戦争にお帰りください]

 

 そういうのは、ローゼの仕事じゃない。

 おかげで、まいごになったわよ。傑作ね。三歳児が自宅で迷子。

 この屋敷、二人で住むには広すぎるわ。

 掃除できていない部屋もあったし、メイド増やそうかしら。

 いえ、文句も、愚痴も、相談も、ローゼが起きてからね。覚悟しときなさいよ! 

 ――っと! おっとっと! 危ないこける! 

 

「――ふう」

 

 危なかったわ。何もないところでこけるなんて。

 この体じゃ、激しい運動は出来ないわね。

 両手で紅茶が載ってるトレーを持っていることも原因だと思うけどね。

 さて、バランス感覚もつかめてきたし、進みま――

 

 ――ガアアァァァンンンッ!!! 

 

 

 突如、空間が揺れた。

 

 歩き出すために、一歩を踏み出そうとしていたニルソニアは、顔面からこけた。それはもう、盛大に。

 バラエティーなら、3カメ分の映像は流れていただろう。それほど見事なこけっぷりだった。

 なお、ティーセットは頭の上に掲げ、死守していた。

 

 

 いったぁーっ! 何よ今の! ローゼは大丈夫かしら?! 地震じゃないし、魔法攻撃? いえ、今のは()()()()()()()()()()に近かった。だったら――ゆかちべた! 

 寝っ転がってないで、立ち上がりましょ! 寒い! 

 むぅ。三歳児の体の体からか、うまく立てないわ。

 ティーセットを置いて、ゆっくりと立ち上がりましょ。

 ほら、ゆっくり、ゆっくり、

 

「キャアアァァアァァアアァァアア――――――――ッ!!」

 

 ゆっくりしてられないわ! 飛ぶわよ! 翼を広げて離陸! 

 私の部屋までは、たしかこのまま一直線! 

 見えた! 扉ジャマッ! ええい、

 

「館の主が命ず。≪開きなさい≫!」

 

 よし! 開いた! 

 飛び込んで着地! 

 

「ローゼ!! 大丈――――――――夫………?」

 

 私疲れているのかしら。うん、疲れているのよ。

 慣れないことを、慣れていない体でしたから、疲れているのよ。

 

 ああ、だから、

 ()()()()()()()()()()()()

 

 

 

†     †     †

 

 

 

 ローゼは棒人間から『もうすぐ産まれそう』などとほざかれながら、目覚めた。

 これで悪夢は終わったはずだった。

 しかし、まだ悪夢は終わってなどいなかった。

 ここからがローゼにとって地獄(悪夢)の始まりだった。

 

 なぜなら、

  () () ()

 白くきめ細かい柔肌、

  () () () () () ()

 深い海を思わせる蒼い虹彩、

  () () () () () () () () ()

 所々はねている艶やかなくせ毛、

  () () () () () () () () () () () ()

 緩やかな曲線を描き、腰まで伸びた銀髪、

  () () () () () () () () () () () () () () ()

 人並み より少しだけ小ぶりな胸のふくらみ、

  () () () () () () () () () () () () () () () () () ()

 カモシカを想起させるすらりと引き締まった肢體(したい)

  () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () ()

 シャープな印象をあたえ、それでいて丸みを帯びた女らしい顔の輪郭(りんかく)

 ect...ect...

 

 

 ローゼと瓜二つな全裸の美少女が、否、()()()()()が目の前にいた。

 ただ、ニヒルにゆがんだ唇だけがその顔に似合わなかった。

 

 そんな奴がベットで寝ていたローゼを覆いかぶさるようにして存在していた。

 

†     †     †

 [混乱しないように、ローゼさんをローゼ壱、覆いかぶさっている方をローゼ弐とします]

†     †     †

 

 ローゼ弐がゆがんでいる唇を開ける。そこから飛び出してきたのは、

 

「キャアアァァアァァアアァァアア――――――――ッ!!」

 

 甲高い悲鳴だった。

 尤も、悲鳴を上げたいことになっているのはローゼ壱だが。

 

 よく分からないが、このままではされるがままだ、と思い、

 取り敢えずローゼ弐の下から抜け出そうとするローゼ壱。

 

 だが、ローゼ弐に力を絶妙にそらされ、ローゼ壱弐共々(ともども)、半回転。

 ローゼ壱がローゼ弐を押し倒したような格好になった。

 

 その時、部屋の扉が開いて、文字通りニルソニアが飛び込んできた。

 

「ローゼ!! 大丈――――――――夫………?」

 

 と、言ったきり、自身の目頭をほぐすニルソニア。

 

†     †     †

 [え? 『余計に分かりにくくなった』ですか? う~ん、どうしましょう。……じゃ、ローゼ壱、即ちローゼさんはローゼ、ローゼ弐、即ちどこぞの馬の骨は存在X、とでも呼びましょうか。ローゼがゲシュタルト崩壊寸前ですね]

†     †     †

 

 未だ、現実を受け止められていないニルソニアに向かって、ローゼと存在Xは異口同音に

 

「「私が本物のローゼです! 信じてくださいお嬢さま!」」

 

 と、叫んだ。

 ローゼは内心焦りながら、存在Xは内心面白がりながら。。

 どちらも思う事は同じ、即ち、ニルソニアは見分けることはできるのか。

 

 ニルソニアはそれを受け、ようやく目の前の光景が現実だと分かり、分かり、

 

「今度は幻聴? 誕生日に慣れないことはするもんじゃないわね……誕生日、昨日だったぁ……」

 

†     †     †

 [分かってなかった! 全然分かってなかった! これにはさすがの私も苦笑い! ]

『貴様のことはどうでもいい。話を進めろ』

 [ハーイ。う~んと、少しばかり書き方変えますね]

†     †     †

 

「「本当のローゼはこの私です!」」

 と、ここまでは意図せず……たぶん意図せず二人とも同じ台詞を発した。

 だが、続く言葉が分かれた。

 ローゼは「ニルソニア様!」と。

 存在Xは「御主人様!」と。

 

 ニルソニアの眉間をほぐしていた手が止まった。

 顔を上げ、二人のローゼが重なり合っているベットに近づく。

 その足が踏みしめるは地から(ちゅう)へと移り変わりゆく。

 吸血鬼が翼をはためかせ、(くう)を歩いてくる。

 二人の前までくると、上に乗っていたローゼを足で転がし。

「ニルソニア様?!」

 下に挟まっていた存在Xを引きずり上げ。

「御主人様!」

 にこやかに笑いかけた。

 その笑みはローゼにとって見覚えのあるもので、つい先日自分に向けられたものだった。

 ローゼは複雑に絡まった感情をため息として吐き出した。

 ニルソニアは引きずり上げた存在Xをベットの上に立たせ、

 自身はそのまま一歩、二歩と後ろに進み、ベットの外に立った。

 

「さて、何か言うことがあるんじゃないかしら」

 

 ニルソニアは腕組みをして、()()()()()

 

「信じてくれてありがとうございます! 御主人様!」

 

 ニルソニアを見上げる存在Xの目はうるんでいた。

 

 だが、

「違うでしょ」

「え?」

 

 翼を大きく一打ち。急降下。

 

「初めましてでしょーが」

 

 存在Xの土手っ腹にドロップキックが炸裂した。

 プキュッ、と可愛らしい音を立て存在Xは吹き飛んだあと、壁にぶつかった。

 

 前から後ろに髪を払い、ニルソニアが一言。

 

「発言を撤回するわ。全然お母様に似てないって言ったけれど、あのローゼ、いいえ、ローゼの形を借りたナニカに比べたら、まだ似てるわ」

 



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12 「では、ニアたん」

「で、あなたはどこの誰なのかしら?」

 

 存在Xは亀甲縛りにされ、そのうえで椅子に縛り付けられていた。

 服装はメイド服。

 秋も深まり、肌寒くなってきた今日この頃。

 裸ではかわいそう、ではなく、見てるこっちが寒いという理由で、ニルソニアがローゼと存在Xに着させたのだ。

 持ち主はローゼ。勿論、サイズは二人共にピッタリだ。

 

「さあ、誰だと思う? 当ててみな」

 先ほどまでしていたローゼの真似はやめたのか、憎たらしく口角を吊り上げながら(うそぶ)く存在X。

 ニヒルにゆがんだその笑みは、やはりローゼの顔には似合わない。

 

「考える必要はありません。お嬢様」

 その肉体の本来の持ち主、ローゼが口を挟んだ。

 

 だが、

「ちょっと待ちなさい……あなた、さっきまでさりげなくお嬢さまじゃなくてニルソニア様って呼んでたわよね」

 ニルソニアは淡々と呟いた。

 その顔は前髪が影を落として見えず、何を考えているのか分からない。

 その上、秋だというのに、ニルソニアの頭の上には陽炎(かげろう)が立っていた。

 

「様ではなく、chanが良かったですか?」

 ローゼは真顔で尋ねた。

 流石、駄メイド。ブレない。媚びない。怖いもの知らず(首環は除く)。

 実際は誤魔化しにかかっているだけなのだが。

 

†     †     †

 

 [誤魔化せてないんですけどね]

 

†     †     †

 

 ニルソニアがボソボソ喋る。

(──────) ()

「聞こえません」

(──────) (でいいわよ)

「え? なんですか?」

 

「だ、か、ら! ニアでいいわよって、何度も言わせないで!」

 

 ……ニルソニアが下を向いていたのは照れ隠しであった。

 

 ここで、蚊帳の外であった存在Xが『chanchanを入れてきた。』

 [久しぶりに出ましたね 我らが父(上司) 茶々を入れたのはあなたでしょう?]

 

 [ところで、我らが父。いたずらが過ぎると、娘様より苦情をきてます]

 [なので、川で頭を冷やしてきて下さい]

『分かったから、そのロープから手を離そう』

 

†     †     †

 

 ここで、蚊帳の外であった存在Xが茶々を入れてきた。

「俺も二ヤって呼んでもいいかい?」

「あなたはダメ──二ヤじゃなくてニア! 漢数字にしないで!」

「そうかい。そりゃあ、残ne──ッイ?!」

 

 存在Xは肩をすくめようとした。

 が、縛られているままだったので、縄が食い込むだけに終わった。

 結構痛かったらしい。

 

「ふん」

 ニルソニアは髪を払い、ローゼに視線を向ける。

「それで? 私が考える必要がないって、アレが何か知っていると?」

「はい、ニアちゃん」

「……────ローゼ。ちゃんはやめて」

 ニアちゃんは(かぶり)()った! しかし効果はいま一つだ!

 

 ローゼの攻撃(ターン)

「では、ニアたん」

 ローゼの『真顔いじり』! 効果は抜群だ!

 ニアたんの怒りが1上がった! 防御が1下がった! 恥ずかしさが10上がった!

 

 ニアたんの攻撃(ターン)

 ニアたんの『顔を赤らめる』! 急所に当たった! 効果は一部分に抜群だ!

 

 ローゼの攻撃(ターン)

 しかし、尊さで浄化され動けない!

 

 ニアたんの攻撃(ターン)

「──ニア様にしてくれるかしら…」

 ニア様の『照れながらの上目(づか)い』! 効果は抜群だ!

 

 ローゼは今だけ(ニアたん)(と呼ぶの)(を諦めた)! 

 ニルソニアは『ニアたん』『ニア様』の称号を得た!

 

 

「……いったい、俺は何を見せられているんだ?」

 

 存在Xは蚊帳の外側に押し出されていた。

 

†     †     †

 

[ナニットモンスターですかねぇ]

『ポケットモンスター』

 [ちょっと黙って下さい]

†     †     †

 

「では、ニア様」

「ええ、それがいいわ。それ以外だと反応しないから」

「……」

 ローゼが悪い顔をしていた。それも一瞬だけのこと、真顔に戻ったローゼは存在Xに近づく。

 

 存在Xの前で、ズイッと前かがみになり

「棒人間さん。元気に子供は生まれましたか?」

「おう、この通り大きくて元気な女の子だ」

「……」

「……」

「「……」」

「は! しまった! 自分が棒人間だと認めてしまった! 予定では

『? 俺たちは初対面なはずだが?』

『おや? あなたは頭の出来も悪いので?──失礼、これでは自分の悪口になってしまいます。こう言い換えましょう。──あなたは頭の使い方も分からないので?』

『なにぶん、こんな低スペックは初めて使うもんでな。勝手がわかりにくいんだ』

 ここまで読んで考えていたのに! おのれ策士め! でも、言ってしまったことは仕方がないな、うん。そうだ、俺が棒人間だ」

 

 あっさり棒人間だと認める存在X。

 夢の中では、バールのようなもので背後から不意打ちしよう(ガンッ!)としていた割に、ローゼが本人?を前にして起こっていなかった。

 

「それで、悪夢に出てきた棒人間(クソつまようじ)が私の姿で何の用です?」

 と、思っていたら、冷静どころか怒ってた。本音と建前、逆になっていた。

 だが、棒人間には気にした様子はない。

「もう、爪楊枝みたいな体じゃないから取り合わないぞ。──用があるのはお前(テメェ)じゃねぇ。そこの吸血鬼だ」

「私?」

 ニルソニアが自信を指さす。

「そう、テメェ。──ああ、そうだ、この方がしっくりくる」

 

 

 彼の纏う雰囲気が変わる。

 いや、残っていたベールがはぎ取られたというべきか。

 いつの間にか、ニヒルで不敵な笑みが似合うようになっていた。

 

「俺がテメェに望むものは二つ。一つは俺に名をつける事。二つはここで俺を雇うことだ」

 ローゼと同じ声帯を使用しているため声も同じなはずなのだが、別人のようなハスキーボイスと()していた存在X。

 嘲笑にも似た笑みを浮かべ、眼を爛々(らんらん)と輝かせていた。

 

「……名前は別にして、私たちにはあなたを雇うメリットがないわ」

 ニルソニアがどうでもよさげに頭を横に振る。

 確かに、彼を雇ってもニルソニアたちにメリットはない。

 屋敷の掃除も、洗濯も、料理も、全てローゼが一人で行っている。

 彼を雇えば、ローゼの負担を減らせるかもしれないが、半端な人間なら逆効果だろう。

 そもそも得体の知れない、それこそ人間ではなく幽霊かもしれないような奴を家に置くのは、吸血鬼としても貴族としても願い下げだ。

 ニルソニアが使用人を増やそうかと考えていても、だ。

 

 だが、彼が指摘してきた点は、そこではなかった。

「確かにメリットはねぇな。ただし、テメェらのデメリットは潰せるけどな」

 視線をローゼに移し、存在Xは続けた。口を歪ませたまま。

「今、俺はそこの使用人の体と同じの体だ。すなわち、俺が事件でも起こそうもんなら、ローゼ、テメェが捕まるってわけだ。だったら手元に置いて監視した方がいいんじゃねぇのか? どこの馬の骨とも知らない相手に自分のふりされて、面倒ごとを引き起こされるのは、想像するだけで嫌なんじゃねぇのか?」

 

 いつの間にほどいたのか、存在Xの体を荒縄が滑り落ちていった。彼は白く美しい脚と手を組み、ポーズを決める。ただ、腕と脚に荒縄の跡が残り、締まらないが。縄なのに締まらない。

 

†     †     †

 

 [あー。手足に跡が残るということは、特殊な亀甲縛りですね。これほどくの、他人の手を借りないと無理だと思うんですが。……何のためにローゼさんがこれを知っていたのか、深くは追及はしませんよ?]

†     †     †

 

 確かに棒人間が語るデメリットは厄介だった。

 それが意味するところは、身に覚えのない罪によって投獄も、最悪死刑もあり得る、ということだ。

 配下が罪に問われれば、主人の名も墜ちる事となる。

 

 だが、ニルソニアの態度は変わらない。

「あなたをここで殺してしまえば、何も問題はない。そうは思わないかしら」

 

 ニルソニアの眼がすわり、人の上に立つ捕食者(ヴァンパイア)のそれとなる。

 

 が、やはり存在Xはどこ吹く風。

「それはない。テメェは俺を殺さねぇ」

 そう断言した。

 

 自信ありげに断言されたら、理由を聞きたくなるのが人の(さが)

「何故言い切れるのですか?」

 ローゼが尋ねると、棒人間──存在Xは、

「それは俺が天使だからだ」

 

 [勝手に天使を名乗らないでほしいです]

『同感だ、ナレーショナーよ』

 [あ、生きてたんですね。川に沈めてられていたのに]

 

「嘘ですね。天使というのは私が殴ってしまったナレーショナーという女性の方ですよね。つまりあなたじゃない。ニルソ──ニアた──ゴホン。ニアさま、食べていいですよ」

(──チッ。)はぁ。──わーい。 デザートだー」

「ひゃああ!? た、食べないでください!!」

「食べないよ! 吸うんだよ!」

 

 [もう一度沈めましょうか。今度は重りを詰めて]

『赤ずきんちゃんのオオカミ的エンド!? あちらはサーバルエンド?!』

 [──二人とも、キャラ、ブレてませんか?]

 

†     †     †

 [ピーンポーンパーンポーン]

 [少々お待ちください]

() () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () () ()

†     †     †

 

「さて、ネタはこれぐらいにして、本当の理由を話すから首から離れてくれねぇか。貧血で喋れなくなる前におわらせてぇんだけどな」

 存在Xの顔色は悪い。今にも倒れそうなぐらいに。

 

「あなたの血も、ローゼと同じ味がするのね。気に入ったわ。話ぐらいは聞いてあげる」

 対してニルソニアはお肌つやっつやだった。

 満足したのか、首元から離れていく。

 

「その前に、名前つけてくれねぇか? あのーなんだ、そのーほら、呼びにくいだろ?」

「あなた、名前無いの?」

「──ちょっと、忘れちまってな」

 存在Xはさりげなくごまかした。

「──そう。ローゼ、こいつはあなたの悪夢に出てきたのよね」

 ニルソニアは何か察したようだった。

「その通りです。ニアた──ニア様」

 ローゼの答を聞き、ニルソニアは満面の笑み。

「さっきは仕方なく許したけど、次間違えたら吸ってる最中に戻すわよ。──あなたの名前は、悪夢から出てきたからナイトメアから取ってメアでいいじゃないかしら。さあ、名前つけたわよ」

 

※血管に空気を入れると死にます。ローゼだとしても……多分死にます。多分。

 

「ああ、分かった。それでいい。ありがとな」

「さて、説明だ。実は天使というのはあながち間違いじゃねぇんだ。神サマがローゼ、テメェの恩返しに協力しろって、送り出したのが俺なんだよ」

 

†     †     †

 

 [嘘は一言も言ってませんね。あのあと、何だかんだでメアさんはこの屋敷で雇われることになりました。べ、べつに、テンポが悪いからカットになったわけじゃないんだからね!]

 

†     †     †

 

「そういう事なら他にも方法があったでしょうに」

 床に落ちたままだった荒縄を回収するためにローゼは存在X──メアの後ろ側に回った。

 自然な動作で口をメアの耳に近づけ(ささや)く。

「侮辱した件、許したわけではありませんから」

 メアは何も言わず肩をすくめた。

 

 その動作に思わずイラっとしたローゼ。危うく殴り掛かりそうになるが、寸前のところで(こら)える。

 一応、同僚になる人間? なのだから(ニルソニア様がみているときには)()()()な攻撃はやめようと、

 ローゼが、キッチンにバナナを取りに行こうとしていると、

 

†     †     †

[なんでバナナ? バナナでどう間接的に攻撃するつもりなのでしょうか?]

†     †     †

 

 ローゼが、キッチンにバナナを取りに行こうとしていると、

 

 ──ガアアァァァンンンッ!!!

 

 

 突如、空間が揺れた。

 

「あ? おい、またかよ!」メアが吐き捨てる。

「ほんと、なんなんでしょうね」ローゼが疑問に思う。

「 ──────―あ、   」

 ニルソニアが言葉を漏らす。

 

 

「これ、結界が破壊されるときの音だ……」




[はい、夢の中で聞いた音は、この音ですね]
[時系列? 上司がいじれば一発ですからね……]
[戻れなくなる、も嘘ですね。言ったでしょう? 人形劇だと]
[こちらのシナリオ通りに動いてくれないと困るのですよ]

『分かり切った結末など面白くもない。自由にさせろ』

[え” このタイミングで、ですか!?]
『然り。拙いことでもあるのか?』
[ええまあ、そのひそひそ話(ゴニョニョ)……]
『なるほど。──面白いからヨシ!』
[]


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12.3 「[『もう遅い』]」

『暇を持て余した神々の遊び?』
『違うな、絶望を楽しむ馬鹿どもの遊びだ』


「目標、第二防衛ラインを突破! 急速に接近中!」

「第二第三防護壁展開! ならびに、ルート542からルート613までを閉鎖!」

 

 多くの機材が並ぶ薄暗い部屋に怒号が飛び交う。

 所々で光源が点滅しているそこは、ナレーショナーの自室。

 ではなく、記録室の地下深くにある空理演算(アカシックレコード)メインコンソール(ルーム)

 

「第二防護壁崩壊! 使用可能な防護壁、残り35枚!」

 

 そこが今、襲撃を受けていた。

 

「仕方ない」

「第一トラップ≪ピット・フォ(極寒の天から)ールバースト(灼熱の地に沈め)≫、

 および第二トラップ≪貫かれ、破裂せよ(レンジ・ゼロ)≫を起動!」

 

「了解しました」

「対侵入者迎撃用火水風地複合術式≪ピット・フォ(極寒の天から)ールバースト(灼熱の地に沈め)

 電水複合術式≪貫かれ、破裂せよ(レンジ・ゼロ)≫を発動します」

 

「第三防護壁が予定どおり突破されました!」

「目標、ポイントへと向かっています!」

 

 慌ただしく報告と指令が飛び交う。その中にナレーショナーの姿があった。

 

「ふう、しばらく様子見ですね。あ、皆さん前回ぶりです。いつもニコニコ、皆さまのそばに這い寄る天使、ナレーショナーでございます。まさか、自身がたくさんパロディしてるのに自分がされたら怒るなんてことはないですよね。さてさて、今回は前回何だかんだで(えが)けなかった、『何だかんだで雇われることになった』の部分をご紹介しようと思います。あ、現在襲撃(しゅうげき)にあってますが、ご心配なく。ジャンルが変わったとかではないので。それでは、本文をどうぞ」

 

 

†     †     †

 

         前回のあらすじ

 存在Xが亀甲縛られる→ホ○ケモンバトルが始まる→存在Xは棒人間だった(過去形)→棒人間(過去形)態度が豹変する→メアって名前をもらう→何だかんだあった→あれあれ? 結界壊れてない?

 

 今? 襲撃? 前回関係ない、今のところは。

 

 

 

†     †     †

 

 この先の文章は前回、メアの「ああ、分かった。~俺なんだよ」という台詞からの続きです。

『どこだよ』

[カットしたって私が言っているところです]

『分かりにくい』

[後で変えときまーす]

 

 

†     †     †

 

 常人ならいろんな意味で衝撃を受けるだろうメアの告白だが、ニルソニアは動じなかった。

 それどころか、鼻で笑い飛ばした。

 

「神? は、今更神だなんて信じられる訳がないじゃない」

 

 ニルソニアの眼が鋭い光を帯びる。

 

「本当に神がいて、善意でローゼのやろうとしていることを手伝うつもりなら。だったら、どうして、私の両親は帰ってこないの? 百年以上祈り続けたっていうのに? どうして?」

 

 自身の過去を吐き捨てるようにメアにぶつける。

 それは今までローゼにさえ、10年間隠し続けてきた心にある影だ。

 少しばかり感情が高ぶっているとはいえ、ニルソニアがそんなことを躊躇なく話してくれるようになったことを、ローゼは場違いながら嬉しく思う。

 日記を見られる前のニルソニアなら、こんな奇妙な侵入者が現れた時点で事情聴取もせずに、即刻地下牢にぶち込んで警吏に突き出していただろう。

 ただ、ローゼはこうも思う。

 ――何故、こいつに話してしまうのか、と。

 その思いが振る舞いに漏れ出てしまった。

 キッとメアをにらみつけてしまう。

 

 そんな重い感情たちをぶつけられても、メアは表情を崩さない。それどころか、ニヤついた笑みをヘラヘラしたものに変え、

「いや、そんなことを言われても困るよな、へカミュルナさま?」

 と、いつの間にかメアの隣にいた女性に話しかけた。

 

 冥界と月を司る女神であり、神々の良心とも呼ばれる(メアが勝手に呼んでいる)最高神の娘へカミュルナその(ひと)であった。

 

「神々にだって限界が存在するのです。全員が全知全能ではないのです。尤も、一柱(一人)全力を出せば、世界を崩壊させかねない()――失礼、神がいらっしゃいますが」

 

 鈴を転がしたかのような心地よい可憐な声をしていた。

 メアが頭をかきながら、面倒くさそうに、しかしとても楽しそうに。

 

「あー、紹介するわ。この(ひと)は冥界と月の神、へカミュルナ様。あだ名はへカルナちゃんか、ヘルナちゃん。今付けた。最高神の娘であり、俺をここに送り込んだ張本人の一人であり――」

 

「第一および第二トラップ突破されました!」

 

 

†     †     †

 

「うわ、ここでですか。タイミングがいいのか悪いのか。――第一トラップは地の底まで続く落とし穴に、大気圏最上層から強制的に起こしたダウンバーストで突き落とし、落とし穴の底に溜まっているマグマとダウンバーストに含まれる大量の水分で水蒸気爆発を起こし追撃する術式ですが、本当に突破されました?」

 

 部下はコンソールを確認することで精いっぱいらしく、声だけを放った。

 

「まず、落ちませんでした!」

 

 衝撃の答えを。

 

「……ダウンバーストは風速70mにもなるはずですが。――第二トラップは全方位ゼロ距離からの水槍でめった刺しの後、電子レンジ(一瞬で水が蒸発する威力。運が悪ければ、プラズマ化する事も)でチンするものですが、これは避けられませんよね」

 

「はい! 死んだあと生き返ってました!」

 

 これを聞き、ナレーショナーは天を仰ぐ。仰いだところでいるのは、あの筋肉だが。

 

「……知ってはいましたが、絶望的な能力ですね」

 

 数秒間、天井を見つめていたが、視線を前に戻すと。

 

「まあ、いいでしょう。こちらの狙いは時間稼ぎです。――第三トラップ≪EACTAMRG≫、第四トラップ≪掻き消える(ディメンション)その嘲笑(キリング)≫を通常起動! ≪EACTAM(エアクタム)≫の設置場所はこの部屋に続く最後の直線通路、通称『もっとも修理費用のかかる例のアレ』だ! そして、≪EACTAM(エアクタム)≫の起動に伴い、直線上にある全隔壁を特殊展開! 時間を稼げ!」

 

「了解しました。対侵入者殲滅用特殊戦略級兵器≪EACTAMRG≫および≪EACTAMRG≫専用加電隔壁、ならびに虚時空融合術式≪掻き消える(ディメンション)その嘲笑(キリング)≫を制限起動します」

 

 

†     †     †

 

「あー、紹介するわ。この(ひと)は冥界と月の神、へカミュルナ様。あだ名はへカルナちゃんか、ヘルナちゃん。今付けた。最高神の娘であり、俺をここに送り込んだ張本人のひとりであり――」

 

「――実は滅茶苦茶パットで盛ってる貧乳だ」

 

 例のごとく、時間停止が起きた。

 ヘカミュルナは何が起きたかさっぱり分からないと言わんばかりに、目を白黒させていた。

 

 が、気にすることなく、いや、一層イキイキしながら話を進めるのがメアクオリティ。

 

「この事はこの場の四人しか知らねぇ。――いや? 一応のため、天使がこの場を監視してるんだっけか? だったら、今のやつはお父さまの所まで報告がいくんじゃねぇ――」

「あー! あー! あー!!」

 

 メアの言葉で再起動した貧乳女神さまは、全力で両手をぶん回し事実を揉み消そうとする。

 手の動きに連動して動くその胸は、なるほど不自然な動き方をしていた。

 

 

 だが、

 

「[『もう遅い』]」

 

 報告はすでに終わっており、必死のの努力(女神としての威厳が死んだ)も、無駄に終わった。

 

 結局、()()に知られてしまったヘカミュルナさまなのであった。




[娘様の秘密、ハーメルンの皆様に知られてしましたね(笑)]
「死なす」
[口悪]


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12.8 「あ! 私のパッド!」

[そろそろ、この小説が面白いか否かを決めませんと。さもなければ死ぬほど痛いめにあわされますからね。]
[でも、まあ、UA見れば、分かり切ったモノですけどね? ]
[-1/x^3 のグラフみたいになってますよ。]
[つまり、1話二話で引き返す人が多いってことです]

[それでも、見てくれている人に悪いですから、面白くないと判断を下しても、書き方変えて続けますけどね?]


「う、うぅ、こんな奴のフォローになんて来るんじゃなかったよぉ」

 

 最初にあった神のカリスマはどこに行ったのか、パットがバレたへカミュルナはイジイジしている。

 

「ふえぇ、おうちかえりましゅ……」

 

 泣き言が口から漏れ始めている。しかも、若干幼児退行も入っている。

 が、やはりここは神々の良心と呼ばれることはあるへカミュルナさま。

「よし、さっさと終わらせて、さっきのメアさんの発言の部分だけ切り取ってもらいましょうか」

 気を取り直し、サクッと復活した。このぐらいの辱めはいつも受けているのだ。

 そのうえ、転んでもただでは起きない。真実(パットであること)を隠そうとしていた。

 

 ふと、空気が変わる。

 へカミュルナが纏い直したカリスマは、なるほど、無神論のニルソニアとローゼに神だと、信じさせる威厳を持っていた。

 

「では、あらためて自己紹介を。私はへカミュルナ。冥界と月を司る女神です。」

 一拍。

「実は、ニルソニアさん、あなたの祈りは月と夜の化身たる私のもとに届いていました」

 

「だったらなんで……なんで!!」

 へカミュルナの独白を聞き、ニルソニアは溜まっていたのか、怒りが噴き出した。

 

「……先ほども申したように私の管轄は月と冥界です。すなわち『夜』と『死者』。この二つしか私には扱うことが出来ないんです」

 

 今まで黙っていたローゼが口を開く。

「……つまり、どういうことですか?」

「私は夜の間に起きたことや、死者のことなら何でも知っているという事です」

「──私の両親は吸血鬼で在りながら夜に活動、または外出せず、死んでもいないと?」

 

 へカミュルナは首を縦に振った。

「その可能性が高いです。――ああ、そんな悲嘆な顔をしないでください。あなたが考えているようなことにはなっていませんから。死ねずにエネルギー源になっているとか、灰になったままでいるとか、そんな生きているようで死んでいる状態も管轄内ですから」

 少し息を整える。

「そのために、このメアさんを送り込んだんですから。私の口から言うのもなんですが、ローゼさんの恩返しはニルソニアさんのご両親を見つけることでしたね。――夜にひとりごとや、祈ったりする行為は全て私の所に届きますからね」

 

 ローゼが釈然としない顔で頷く。

「ええ、その通りです。|なんでこのタイミングであなたが言うのですか? 何故ですか?《私の口か伝えたかったのですが。》 |私からご主人様にドラマチックに伝えたかったのになぜあなたが言ってしまうのですか?《残念です。》 ……覚えておいてください。(今は水に流してあげましょう。)しかし私は祈ったりひとりごとで漏らした覚えがないのですが?」

 

「……タレコミがありました。悪質なタレコミが。とにかく、メアさんは、応えきれなかったニルソニアさんの祈りへの罪滅ぼしの為に送り込んだんですよ。それはつまり、ローゼさんの計画を手伝うことに他ならない。彼は私とのリンクを持っています。なので、このように私が下界に降臨することも、容易に可能としているんです。だから~」

 

「それ以上はもういいわ」

ニルソニアがへカミュルナの言葉を遮った。

 

「つまり、こいつを、メアを雇った方が私たちにメリットがあるって話でしょ」

 何かを逡巡したあと、

「……いいわ。あなたの罪滅ぼしを受け入れてあげる」

 ニルソニアは、視線を合わせずぶっきらぼうに告げた。

 

 不意にへカミュルナの目頭が熱くなる。

 ニルソニアが告げた言葉は、百年間心を痛め続けていた彼女にとって、大きなものだった。

 

「――ありがとうございます」

 

 だからこそ、その感謝の言葉は自然と口からもれた。

 

 ニルソニアが照れくさそうにそっぽを向く。

 

「やめてよね。許したわけじゃないんだから」

「――ええ。それでも、です」

 

 今だけは、メアも空気を読んでいた。

 

 

†     †     †

 

 

 [でも、本文に百年間悩んでいた描写がないため、メアさんが静かにしていてもあまり効果がないんですけどね。テンポのための犠牲ですよ]

『いろいろ台無しだ』

 [あ、石はおいしかったですか?]

『ガイアの味がした』

[──その神、私たちの世界にはいませんからね?]

 

†     †     †

 

 

「では、皆さん、最後に手を出してください。私からの祝福です」

 

 三人が手をへカミュルナの前にかざすと、脳裏にこんな文言が浮かんだ。

 

【≪月と冥界の祝福≫と≪死神の呪い≫を得ました。】

 

「「え? 死神の呪い?」」

 

 ローゼとニルソニアが首を傾げた。

 

「それは、誰かに私の秘密()のことを伝えたりしようとすると、発動する呪いです。気を付けて下さい」

 その時のへカミュルナの表情は、メアのそれと似ていた。

 

 と、笑みを浮かべるのと同時に、転移魔法を発動させる。

 

「それでは皆さん、あまり早く私のもとに来ないことを祈っています」

 と、徐々に消えゆく姿。

 

 そのまま姿が見えなくなった。

 ――とか、そんな最期を許すメアは存在しない。

 

 不意に声が響く。

 

「これなーんだ」

 全員の視線が集まる中、メアは二つの肌色を掲げた。

 

「あ! 私のパット!」

 

 そう、へカミュルナ特注三カップUPパットである。

 当然、胸元からそんな大きい物体を取り出された着物は、はだけている。

 

「いつの間に! か、返して~~~~~~~――」

 

 シュンッ

 

 直後、転移が完了した。

 パットをメアの手に残したまま。

 

 

 

 

†     †     †

 

 

 

 

 

「ふーぅ。何とか最後まで行けましたね。時間稼ぎは成功と言っていいで――」

 

 ガキンッ

 と、硬い何かを打ちつけるような音が響く。

 

「――状況は?」

 

 ナレーショナーの方を向いた部下は青ざめていたが、目的は達成したため笑っていた。引きつっていたが。

「今メインコンソールルームの前です」

 

 ナレーショナーが首をかしげた。その間にも音は鳴り続けている。

 

「え、え? 時間稼ぎの為の装備とはいえ、いくらなんでも早すぎませんか? ≪EACTAM≫はどうしたんですか?」

 口調が司令めいたものから元に戻っていた。

 

 と、突然室内の明かりが消える。

 

 この世界の明かりは魔法か魔術かで光っているが、この部屋だけは電気によって光っているのだ。

 この部屋、しいては、この地下施設のすべては最高神が転生者であるメアの記憶を覗いて創ったものだ。

 最高神曰く『地下施設なんて男のロマンだろう』らしい。メアの比億を読んでから知ったくせに。

『Electromag(E)netic Acceler(A)ation Coil(C) based Type(T):Anti(A) Matter(M) RailGun、通称エアクタムレールガンなんて、ロマンの最たるもの』らしい。

 

「……非常用電源切れました」

 

 コンソールルームの中は別動力系統である『空理演算(アカシックレコード)』の各種ランプのみが光っていた。

 

「――なるほど、≪EACTAM-RailGun(エアクタムレールガン)≫の動力源は電気です。発射されてはかなわないから、発射させないと。そういう事ですかね、我らが父(上司)よ」

 

『いや、分からん。回避するのが面倒だっただけかもしれん。どちらにせよ、目的を達成された。撤収準備に入れ!』

 

「――そういえばいつからいたんですか?」

 

『つい先ほどだ。≪EACTAM≫を使うと聞いてな』

 

 などと、フルレウスとナレーショナーが談笑して(諦めて)いると、

「扉壊され、――うわっ?!」

 

 鎌を片手にへカミュルナが飛び込んできた。

 何を隠そう、襲撃者とは貧乳であることを隠そうとしたへカミュルナのことであった。

 この茶番(秘密基地ごっこ)は、あのエピソードを封印しようとしたへカミュルナの魔の手から逃げるための時間稼ぎだった。

 

†     †     †

 

[ホント、メタいですよね]

『それしかこの小説に取り柄はないだろう』

[ひ、天使()が気にしていることを……!]

 

†     †     †

 

 メインコンソールルームに飛び込んできたへカミュルナの目に映った光景は。

 

 最高神フルレウスと、ナレーショナー、その部下たち――神々が正座してにやけながらへカミュルナ自身を待っているというものだった。

[クソ俊敏な身のこなしですね]

 

 神々が部下の真似なんかをしている訳は、ただのロールプレイだった。

 神々のほとんどは男神だった。大半の女神たちは触らぬ(いじらぬ)(貧乳)に祟りなし、と高みの見物を決め込んで、不参加である。

 

『さて、へカミュルナ。じっくり冥界で話し合おうじゃないか』

「……死ぬ覚悟はできているんですね」

 

『当たり前だ。なにせ、お前の貧乳コンプレックスは知っているからな。だがな、ここにいる全員を冥界に連れていくと、開店休業状態になるが、良いか?』

 

 この一言で神たちの脳裏に電流が走った。

 すなわち、誰を生け贄にして、自分だけ生き残るか。

 自分の仕事を説明して、特赦を得ようと画策していたが、

 その希望は観念に変わった。

 

「なら、一人ずつ()きましょうか」

 サクッと振り下ろされる鎌。

「まずは、お父様から」

 

 切れる首。転がる頭。噴き出す血。崩れ落ちる体。

 

 と、その瞬間。

 シュン!と、へカミュルナの姿が掻き消え、

 ガバッ!と、フルレウスが復活した。

 

「あ、≪掻き消える(ディメンション)その嘲笑(キリング)≫起動したままでした」

 

 第四トラップ、虚時空融合術式≪掻き消える(ディメンション)その嘲笑(キリング)≫。

 この術式が発動した部屋で行われた殺戮行為は、一回だけ無効化され、その後、襲撃者を置き去りにして、部屋ごと転移。

 転移したことで穴が空いた空間を、虚数空間が飲み込み、襲撃者を隔離する。

 虚数空間は神々でさえ、そう簡単には脱け出せない。空間ごと次元の狭間を流され続ける事となる。

 

 だが、この場にいる全員がヘカミュルナの心配をしていなかった。

 理由は彼女の持つ能力の一つ。

 

 それは、自ら冥界に送った者への完全追跡能力。

 冥界を許可無く脱走、脱け出す者に対する切り札だ。

 なにも、それは神でも例外ではない。

 

 彼女がその力を使えば、

 

 ほら、最高神の後ろに。

 

 ――――逃がしませんよ。

 

『それじゃ、父と娘一週間水入らず、楽しんでくるわ』

 

 直後、照明が復活。そこに、二柱(ふたり)の姿はなかった。

 

「やっぱりヘカルナちゃんが一番強いよな」

 誰かがポツリとつぶやいた。

 

 

†     †     †

 

 

[というわけで、ヘカミュルナ()様に止められていた『何だかんだ』の部分でした。え? 何だかんだ増えてる? 良かったですね。ボリュームがUPしましたよ。パットだけに]




[こういう近未来的?な兵器や施設は神々が遊びで作ったもので、天界以外には、存在しません。多分]



Electromagnetic Acceleration Coil based Type: Anti Matter RailGun

訳すと、

電磁加速コイル搭載型反物質レールガン



最高速度は光速の7%

(理論上は光速まで加速可能。ただ、電気抵抗により莫大な熱量が発生。反物質制御装置にダメージ。砲身の中で対消滅することになる)

弾丸は特殊炸裂弾(反物質内蔵)。対消滅した時のエネルギーは水爆以上。



[ちなみに、女神さまのパッドは特別製です。どう特別なのかはお楽しみで]

[次回から本編に戻ります]


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13 騙し騙され騙させ

[本編でメタると、前書き後書きに書くことなくなるんですよね]
[まあ、これもメタいですけどね]




[パットじゃないんです、パッドなんです。PADなんです]

[この流れで言うのもなんですが、お気に入り登録ありがとうございます!]


 前回のあらすじ。

 パットがばれた。

 

 走る。超える。走る。避ける。走る。屈む。走る。

 深い夜の中、同じく深い森の中を影たちが駆け抜けていく。

 いや、影と表現するには、いささか静けさが足りなかった。

 

「だからメイド長と呼びなさいと言っているでしょう」

「いやいやローゼちゃん。その前に俺らは双子の姉妹って設定だろ?」

「だとしても、ローゼちゃんはおかしい」

「じゃ、ローゼ姉ぇ」

「――。却下です」

 

 森を騒がせて、二人は木々の間を走り抜けていく。

 

†     †     †

 

 ラングドニ邸には五枚の結界が存在していた。そのうち三枚が壊れているらしい。

 ローゼ、メアの二人は、屋敷にあった小柄なナイフを装備し、音の発生源の調査に向かっていた。

 ニルソニアはこの場にいない。彼女は屋敷の地下室に設置してある、結界を発生させるアーティファクトの様子を見に行っている。

 

 [ここで結界の説明でも入れておきましょうか。ラングドニ領を守る結界は市街地を覆わず、森林を閉じ込めるように張られています。形は楕円形。市街地の中心から反対方向に細長く伸びています。――ま、こんな程度ですかね。あ、あと双子の設定は他人から二人の関係を尋ねられた時に誤魔化すためのものです。ニルソニアさんが考えました]

 

†     †     †

 

「!――止まりなさい」

 

 何かを感じたローゼが足を止め、しゃがみこんだ。

 〚見えそうで、三重ない〛

 [三重への悪質な風評被害は止めてください。それにミニスカじゃないんですから、見えるわけがありませんよ。――ギルティです]

 〚ギルテェ……〛

 [サスケェみたいに言わないでください。ィはどこに行ったのですか]

 

†     †     †

 

 何かを感じたローゼが足を止め、しゃがみこんだ。

 メアは指示には従い、ローゼの横にしゃがみこんだが、何故止まらないといけないのか、納得はしていない様子だった。

 

「どうしたんだ? ローゼ長……ローゼ長ってなに?」

 

 ローゼは素で間違えたメアをジト目で睨んだ。

 

「……ハァ。バカやってる暇はありませんから。――もうローゼでいいです。それ以外で呼んだら、棒人間のあだ名、定着させますから。いいですね」

「じゃ、俺もメアでいいぜ」

 

 ちゃんと話を聞く気はあるのか、メアは、纏う雰囲気を180度変え,真面目な顔でローゼに問いかけた。

 

「で、どうした――トイレか?」

「……違います。あなたを畑の肥やしにしたいとは思ってますが」

「じゃあ、好きなタイプのゴブリンでも見つけたか?」

 

 〚人前に出てこないゴブリンだけがいいゴブリンだ〛

 [あと、途中で邪魔しに入らない我らが父(上司)も、いいゴブリンに追加で。]

 

†     †     †

 

「じゃあ、好きなタイプのゴブリンでも見つけたか?」

「気に食わないゴブリンなら目の前にいますが。――あなたの後ろを見てもゴブリンはいませんから。上にもいませんから。――幻覚でもないので、私をそんな目で見るのは止めてください。本当にゴブリンみたいな顔にしますよ?」

「おっかねぇ、おっかねぇ」

 

 メアは真面目のふりを辞め、オーバーリアクションで肩をすくめた。

 当然すべてわかっていてやったことである。ローゼ長は本当に口が滑っただけだが。

 

 ローゼは大きく溜息をついた。

 そうでもしないと、やってられなかったのだ。

 あの女神様が太鼓判を押したから、調査に連れてきたというのに、邪魔しかしない、

 と、連れてきたことを後悔し始めるローゼ。

 どうにかならない者かと考えていると、再度気配をとらえた。しかも二か所。うち一つは……。

 ローゼの脳裏で閃いた。もともと考えていた計画を大胆に変えるのだ。

 

「二つ気配をとらえました。メア、あなたはそちらの方角をお願いします。私はこちらを担当します」

 

 ローぜは気配があった方角を指さした。具体的には、順に十二時の方向と十一時の方向だ。

 

「両方俺がやっていいんだ――が?!」

 

 指示された方向へ歩き始めたメア。

 進行方向にやぶがあったため、ジャンプして避けたが、何秒経っても着地しなかった。

 

 その姿を見てローゼは、

 

「ああ、言い忘れていました。あなたに指示を出した方の気配は不在蜘蛛(インビジブルステップ)と思わしきものでした。しかしながら、何者かが成りすまして私たちをやり過ごそうとしている可能性がありましたので、指示を出させていただきましたが。その心配は要らないようですね」

 

 と、労い+αの成分が含まれる笑顔を作った。

 

 そして、自分の担当の方へゆっくり歩きだしながら、メアへ追い打ちをかけ始めた。

 

「インビジブルステップとは、不可視の足音という意味で、漢字で書くと不在蜘蛛(ふざいぐも)になります。性質はその名の通り、目に映りません。その八本脚、胴体、蜘蛛の糸に到るまで見えません。蜘蛛の口に入ったものも見えなくなります。ただし八個の紅複眼だけは不可視ではありません。生態は雑食系肉食。特に人の肉、女性の肉を好みます。特定の棲み処――巣はなく、複数の蜘蛛の巣を張り、それを巡回しています。」

 

 メアの横を通りすぎても、ローゼの説明(脅迫)は続く。

 

「不可視、巣をグルグル回っている、この二点からインビジブルステップ、つまり、どこにいるのか、いつ忍び寄ってきたのかさえ、分からない、という異名が付きました。まあでも、気配を感じたので、近くにいるはずですが。」

 

「!?」

 

 嫌がらせでしかないローゼの詳しい説明に、さすがのメアも危機を感じたのか、

 救助を要請しようとするが、

 

「ん~ん~ッ?!」

 

 口から飛び出てくるのはくぐもった呻き声。

 

 それもそのはず、メアの口は蜘蛛の糸でしっかり()じられていた。

 これではローゼへの救助要請も意味をなさない。

 

「ん~ん~!」

 

 自力で脱出しようにも、蜘蛛の巣が取れる様子は、一切なかった。

 

「|ん~~~~~~~~~~!  ん~~~~~~~~~ん~~~~~~~!!《助けてください! お願いします、メイド長!! 》」

 恥もキャラもかなぐり捨てて、恥を忍んで嫌々、本っっっっっ当に厭々、だけど本気でローゼに助けを求めるメア。

 

 その必死さが伝わったのか、ローゼの視線がメアを捉える。が、それも一瞬だけのこと。直ぐに前を向いた。

 

 

「?! ん~ん~!」

 どこに行くのか、とメアは切羽詰まった声を上げた。

 やっぱりメアも死にたくはないのだ。アイツについて説明されるまで。メア自身も忘れていたが。

 

†     †     †

 [私自身、書き忘れていましたし。時空の強制力でも働いたんですかね]

 〚お前の不注意だ。そんなもの働かない〛

†     †     †

 

 ローゼは歩みを止めず、振り向きもせず、

「助けてくださいローゼ様も何も、その蜘蛛の巣、オリハルコンかアダマンタイト製の刃物じゃないと切れませんし」

 

 珍しく、メアが固まった。

†     †     †

 [助けてくださいローゼ様も何も、その蜘蛛の巣、オリハルコンかアダマンタイト製の刃物じゃないと切れませんよ!]

 [オリハルコンにアダマンタイト。ファンタジー世界ではよくあるものですが、この場にはないんですよね。残念!]

†     †     †

 

 いっそう、ん~ん~言いながら、手足をジタバタさせるメア。そのせいで、蜘蛛の巣は背中まで覆い始めた。

 もはや、自力ではバタつくことさえ難しくなってしまったメアは、ついに涙目になった。

 

 その時、本当にゆっくり歩いていたローゼが後ろを振り向き、

 

  怨恨、厭忌、唾棄、ありとあらゆる憎悪の感情を含む嬉しさに満ちた笑顔で、メア(自分の顔)

「さようなら」

 と言ったきり、二度と振り返らなかった。

 

 その十分後か、三十分後か、はたまた五秒後か。

 

 メアは、視界の端に八つの紅い灯火(ともしび)を見た。

 

†     †     †

 

 森の少し開けた場所に気配の主は、三メートルはある石の上へ腰かけていた。

 体格はがっしりしている。服装は灰色をベースにした軍服。顔つきはハードボイルドな印象を与える渋いものだ。

 表情は覚悟を決めたようにも、愁いに満ちているようにも見えた。

 

 と、そこにメイド服を着た銀髪碧眼の少女が、森の奥から現れた。

 いうまでもなく、ローゼだ。

 

「失礼ながらお尋ねしますが、もしかしなくても、結界を破壊されたのはあなた様でしょうか」

 

 軍服を纏う男は答える。

「フン。答える義理はない。それに、人にものを尋ねる時は、先に名乗りを上げるのが礼儀だと習わなかったのか?」

 

「あいにく奴隷の身でしてね。そんな学は持ちあわせていませんし、あなたに払う必要があるとも思えません。――ああ、申し遅れました。この地を収めるニルソニア=A=ラングドニのメイド、ローゼ・キュリエードでございます。以後お見知りおきを。尤も、その必要はないかと存じますが」

 

「……やはり、ここはニルソニアの治める地であったか」

 

 ピクリ。

 

「それはどういう意味――」

「ああ、こちらも申し遅れた。魔王軍二番隊隊長、ジオネスト=フリーバラムである。裏切り者を処刑しにこの地に参った」

「……何に対しての裏切りで?」

「決まっている。魔族に対してだ」

「…………裏切り者とは、我が主のことで?」

「そうだと言ったら?」

「別にどうも。ただ己の職務を果たすだけです」

 

 

 

 ローゼは、右手で腰につけた鞘からナイフを抜き、逆手に構えた。

 ジオネストは左手を前にして構えを取った。

 沈黙が()ちる。

 周囲が静かになっていく。

 静けさと反比例するように二人の気迫が跳ね上がっていく。

 両者の圧にやられたのか、常緑樹なのに木の葉が一枚ひらりと舞い落ちていく。

 木の葉が地に落ちるのを合図に二人は飛び出した。

 

 先に仕掛けたのはローゼだ。

 駆け寄ると同時にナイフを右から左へ振り上げた。

 対してジオネストはすかさず足を止め、バックステップで避けた。

 だがローゼの攻撃は終わらなかった。

 腕を振り上げた勢いも利用して開いた距離を一瞬で詰めたローゼは、振り上げたままであったナイフを初めと逆に振り下ろした。

 しかし、そのナイフは当たらない。

 ジオネストは振り下ろしとは逆方向に避けた後、がら空きの左側頭部めがけて鋭い拳を放った。

 ローゼは左腕を使い、流れるような動作で拳をガードし、押されるまま少し回転。

 ハイキックへとつなげた。

 それはジオネストにとって予想外だったらしく、頭にくらい、五メートルほど押し下げられた。

 

「まさか受け止め反撃してくるとは」

 

「まさか受け止める事すらできないと思われていたとは。その程度ではお嬢さまどころか、ましては私さえ殺せませんよ?」

 

「そうか。時間がない……――(あお)ってしまったことを後悔するなよ」

 

 そう言うと、ジオネストの姿が掻き消えた。




14に行け


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14 人形劇の結果 

14に行け


グロ注意!

[ええ、善意ではありません。これで苦情が来て、この小説が消されたら、私いらない子で、[削除済み]されますからねー]


忠告はしましたよ?




 彼女が持つ八つの赤い眼が人影を捉える。

 近頃人間は(トラップ)に引っかからない。

 よしんば引っかかったとしても、たいてい男、それも筋が多く食べにくいのばかり。

 それが、どうだ。久しぶりに獲物がかかったと糸から伝わり、駆け付けてみると、それが大好物のうら若き乙女なのだ。

 思わぬご馳走(ちそう)を目の前に、不在蜘蛛(インビジブルステップ)食欲(テンション)は上がらざるを得ない。

 ただ、残念なのが一番うまい部位である乳房が少し小さいこと。

 あの張りがありながらも、蕩けていく食感がたまらなくうまいのだが。

 

      

†     †     †

 

 [※蜘蛛の感想です。人が食べてもおいしくないと思われまっず]

 〚……食ったのか〛

 [ええ、娘さまのパットですけどね]

 

      

†     †     †

 

 不意に、身体が宙を舞った。

 背中に衝撃があった。

 地面に落ちたのかと思ったが、不自然に斜めっている。

 身体を起こそうとして、動かなかった。動けなかった。

 悪意の糸はメアを繋ぎ止めていた。その起点が正面から背中に変わっただけだった。

 

 

 ギリリ

 と、木々が音を立てる。巣の主が糸を登り始めたのだ。

 ギシリギシリと連続して糸がきしむ。音の発生源は少しずつ獲物に近づいていく。

 不意に音がやんだ。同時にメアのひざ下あたりに何かが巻きつけられた。メアがそれの正体を知る暇もなく、

 足が () () () ()

 

「□□~~~~~~~~~~―――ッ??!?!!」

 

 激痛に耐え切れず、メアの口から音無き悲鳴が飛び出した。

 

 今もなお血を噴き出し続けているメアの足は宙に浮かび、徐々にその体積を減らしていた。

 不在蜘蛛が足を抱え、食べているのだ。

 咀嚼音が体に染み込む、

 食べられない衣服を吐き出し、牙をむく。

 こぼれ出た血を浴びたことにより、口周りの輪郭が一部あらわになる。

 それはまるで、『喰ってやる』という食欲が具現化したようだった。

 

 

 メア自身からの出血はない。蜘蛛糸で止血されていた。

 蜘蛛にとっては久しぶりの人肉、しかも女。

 そんな蜘蛛がせっかくの御馳走を殺して、鮮度を落とす真似はしない。

 少しずつ少しずつ、体を切り取って食べていく。

 

 食べられる方(食材)からしたら、たまったもんではない。

 目の前で、血まみれの牙が、自らの体をむしばんでいく光景を見せられる。

 一種の拷問であった。

 ここでようやく、メアは自身が喰われていることに気づく。

 だが、もう逃げ出すことはできない。

 蜘蛛の巣に絡めとられ、足をなくしたメアは、大人しく蜘蛛の食卓に上がるほか無くなった。

 

 

 ……………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 

 どのぐらい、時がたったのだろうか。

 そこには、あのにくたらしいメアの姿はなかった。

 メイド服は切り裂かれ、メアは切れ端を纏うばかり。

 その切れ端も蜘蛛の巣のおかげで張り付いているに過ぎなかった。

 

 その前に、衣を纏える体積がなかった。

 下半身、子宮、腸、腎臓、肝臓、右腕、左肺を喰われていた。

 チカチカと、頭の中で光が飛ぶ。

 口から出てくる吐息は、ュー、ュー、と虫の息だった。

 

 すでに、乳房と心臓に糸がかかっている。

 殺すより殺さない方が難しくなり、また、鮮度もだんだんと落ちてきたため、この食事法(拷問)を続ける理由がなくなってしまった。

 そのため、まだ生きている間に一番美味いところを喰らおうという事らしい。

 

 いま捕食者は、左腕をむさぼっている。

 それを喰い終われば、遂にメアの心臓へと手を伸ばすだろう。

 

 

 そして、

 

 そして、

 

 そして。

 

 

 肉片と血潮で(いろど)られた牙。

 それが、最後の光景だった。

 

 

†     †     †

 

 

 

 [あーあ、メアさん死んでしまいましたか。まあ、ローゼさんの地雷を踏んでましたしねー。でも、このローゼさんは、地雷わかりにくいですからねー。仕方ないでしょう。でも、もう少し警戒してくれてもいいと思うんですけど。]

 

 [まあ、あの頭でっかちにそんなことできるとは思いませんが]

 [さて、メアさんを生き返らせなければいけませんね]

 

 〚少しは説明をしろ。いったいどういう事だ〛

 [げ、上司。メアさんが死んだのはその──]

 〚それは以前聞いた。地雷の話だ〛

 [へ? ああ、12話の後書きで耳打ちしてましたね。忘れてました]

 [ローゼさんの地雷とは、ズバリ[削除済み]です。 ……ズバリとまで言ったのに、禁則事項ですか。伏線を張るんですか。そうですか]

 〚私には伝わった〛

 [──読者の皆様には一切伝わってないんですが]

 

 [もう、少し遠回りして教えましょうか]

 

 

 [いきなりですが、【空理演算(アカシックレコード)】とは、ラプラスの悪魔です]

 [未来予知すら可能にする演算能力を持った量子コンピュータです]

 [有名どころで言えば、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)ですね。あれです、とあるの]

 

 [ラプラスの悪魔は、不確定性原理により成り立たないはずだろ、と考えたそこのあなた。]

 [鋭いですね]

 [不確定性原理とは何ぞや、っていう人は、ggrks

 [大雑把に言えば、二種類の量子のデータ、同時には分からん! ってことです]

 [しかしですね、同じ次元から観測するから、分からないのです。]

 [紙の上に書いた積み木の裏が見えないのと同じようなものです]

 [具体的な数値は忘れましたが、高位の次元から観測すれば二つのデータを同時に知ることができます]

 

 [なんかようわからんわ、という人は未来予測できるし、世界をシミュレートできるスゲーパソコンだと思ってくれればいいです]

 [上司が作りました]

 [その、未来予測ができるスパコンでシミュレートした別の世界だと、ローゼさんは()()()()()()()

 

 [こんなものでいいでしょうか、上司]

 〚……長い。本文よりも長くなっていないか。読むのがしんどい〛

 [これでも、抑えた方ですよ。これ以上は無理です]

 〚いや、括弧だらけで〛

 [……]

 

 [さて、次回はメアさんを蘇生していく話になります]

 

 

 

 

 




[それにしても、なんでこんなに筆がのったのか、わかんないんですよねー]



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第1章 人形たちは嫌い合う Triangular Hate
15 再起動 with Beloved Stranger


[詰め込みました]

[UA、1200突破です。ありがとうございます]


「────そうですね──」

 

「──いいのかしら────」

 

「──────仕方がないですから」

 

 誰かが会話している。うまく聞き取れない。いったい何の話だろうか。

 

「おや? 目が覚めましたか?」

 

 目が覚める? 俺は寝ていたのか? たしか……

 

 記憶を探る。

 真っ先に飛び込んできたイメージは、大きく開いた蜘蛛の(あぎと)だった。

 

「⁉ 蜘蛛は?!」

「ここに蜘蛛はいませんよ? ここにいるのは娘さまと私とあなただけですよ」

 

 そんなことを言われて初めてナレーショナーのいうところの『あなた』──メア・キュリエイドは周囲を見渡した。

 

 

 そこは例の真っ白い空間だった。

 

「あ、一回言ってみたかったセリフがあるんです。『おお、メアよ。しんでしまうとはなさけない!』……あれ? おお~い、聞こえてますか?」

 

 ただ、『例の』という定冠詞はもう使えないかもしれない。

 何故なら、あたり一面の白い床にメアが生きていた世界の品々が散乱していたのだ。

 小さいものはデジタルデバイスから爪楊枝まで、大きいものは戦艦から高層ビルまで。戦闘用ロボットもあった。

 マンガ、TV、戦車、雑誌、クッキー、ゲーム機、自動車、布団、スマホ、飛行機、田んぼ、銃、黒板、etc, etc, ……。中にはビキニアーマー、壊れているヘカミュルナ様のフィギュア、大人のおもちゃなんてものもあった。

 その中の空白の空間に、メアは床の上に寝かされていた。

 

†           †

 

 [娘様のフィギュアはどことは言わないですが、精巧につくられすぎていてですね……胸部がパージします]

 〚……あいつ(作者)は良いやつだったよ〛

 

†           †

 

「……どこだここ。ゴミ屋敷か?」

 

 メアがぽつりとつぶやくと、反応したナレーショナーが

「ゴミ屋敷には同意します。もう少し整理すればいいのに、『把握している。変更の意味なし』と上司がいうものですから。私たちにはわからないことが分からないのでしょうかねぇ? そもそも──」

 

 ここで、もう一人──ヘカミュルナが口を挟んだ。

「そこまで。無駄な時間を過ごしている暇はありません。ナレーショナー、始めなさい」

 

†           †

 

 [うわ、初っ端から真面目、あれ仕事モードですよ。私としてはもう少し雑談を楽しみたかったんですけどねぇ]

 〚貴様のは雑談ではなく、愚痴だろう〛

 [すぐ横に愚痴の対象がいたらさすがの私でも遠慮しますよ]

 〚!?〛

 [何ですか、その意外そうな顔と反応は]

 〚?〛

 [なんでそこで怒るの? みたいな反応やめてください。自覚はあるので余計傷つくんですよ]

 

†           †

 

「そこまで。無駄な時間を過ごしている暇はありません。ナレーショナー、始めなさい」

「あ、ヘカミュルナ様居たんだ。気づかなかった」

「!?」

「前から言いたかったんだけど、ヘカミュルナって長いからあだ名で呼びたいんだよね? ヘルナちゃん? へカルナちゃん? どっちがいい?」

「」

「う~んと、はい! 人気投票の結果が出ました。へカルナちゃんが69% ヘルナちゃんが30%ですって! 残りの1%は、ひんにゅ──貧乳ちゃん!」 (by twiter)

「ナレーショナーさん?」

 

†           †

 

 [貧乳ちゃんをわざわざリプで送ってきた人、恨みますよ……とても痛かったです]

 

†           †

 

「あ“い。すみませんでした…… (これも全部メアさんが) (悪乗りするからで、私) (はわるくな)

「ナレーショナーさん?」

「すみまぜんでした」

 

†           †

 

「では、気を取り直して、進めてください」

 

「はーい。さて、前回と同じでは面白くありませんよね?……ゴッテゴテの様式美(お約束)で行きましょうか」

 

「……あなたは死にました。トラック──じゃない、蜘蛛に体中を喰われて死にました。そこで、何か一つ能力を授け、異世界に転生させてあげましょう。好きなものをこの中から──」「おいまて」

 

 メアに止められて、ナレーショナーはお目目ぱちくり。

 

「はい? なんでしょう?」

「なんでしょうじゃねえ。一切説明がないんだが」

「したじゃないですか。一回目の時に」

「……」

「そんな目で睨まないでくださいよ。普段振り回されてるからその意趣返しですよ」

 

「……ナレーショナー」

「娘さまもメアさんの味方ですか。そうですか。いいですよもう。決めました。口止めされたことまで喋ってやりますからね」

 

 それを聞き、慌て始めるヘカミュルナ。

 

「え、ちょ、ちょっと待ちな──」

 

「待ちません。この空間は我らが父(上司)があなたが元居た世界を研究するために作りだしたものです。また、この空間内にあるものはあなたの記憶を読み取り、具現化したものです」

「次に、あなたが死んだのちにこの空間に送られてきた理由は、死ぬのが早すぎて話にならないからと、ヘカミュルナ様があなたに渡し忘れていたものがあるからです」

「そして、これからあなたには渡しそびれていたものを受け取ってもらい、下界に戻ってもらいます。何か質問は」

 

 ここまで、息継ぎ無し。

 

†           †

 

 [すこしばかり頭に血がのぼっていたんです。ゆるして]

 〚メアへの意趣返しではなく我が娘への八つ当たりに変わっている〛

 [ユルシテ]

 

†           †

 

 ナレーショナーに疑問はあるかと問われると、メアは一瞬呆けるが、その後すぐに意図を察し、仰々しい身振りで、

 

「この流れで行くと、この質問しかないだろう。『一体全体、麗しの女神様は何をお忘れになったのでしょうか?』」

 

 ナレーショナーはヘカミュルナの方を向き、

「だそうですよ。麗しの女神様」

 

 話を振られたヘカミュルナは恥ずかしそうに切り出した。

 

「──はぁ、雉も鳴かなかったら撃たれないのに「え、やだ怖い」……お恥ずかしながら、この手の展開ではお約束の能力付与、別名『環境適応』を忘れていました」

「なんだそれ」

「あなたがいた世界でもあったでしょう。異世界転生系と言われる小説が。その中で高位の存在から、主人公が何らかのチカラをもらっていたシーンがあったでしょう」

「確かにあったが……」

 

†           †

 

 [所謂(いわゆる)なろうでのチート能力を授けるシーンですね。いろんな種類の能力がありますが、メアさんに贈呈されるのはどのような能力になるのでしょうね]

 〚筋肉強化〛

 [却下です]

 

†           †

 

「そのシーンを我々はこのように捉えました。あれは、肉体及び魂をその世界に合わせた形に変え、世界からの根本的な拒絶、つまり生命として認識されない事態が起こらないようにするためだと」

「つまり異世界に適応するために体などを作り替える際、何かのはずみでチカラが目覚めるのだと」

 

 ヘカミュルナはカップを傾け、口を潤した。

 

「[その……君の体をこの世界に合わせるために弄ってたら、なんか出た。その力ね、原理不明なの。ごめんね?]」

「こんな風に説明したら、神の威厳はありませんし、説明された方も不安を感じます。そのため、転生者が一番不安を感じない、言い換えると一番違和感を覚えないカバーストーリーを展開したのでしょう」

 

†           †

 

 [ガバガバ理論過ぎません? こ〇すばのクズマさんとかどうなるんでしょうね? あの人女神持っていきましたけど]

 〚言うな。娘なりの解釈だろう。それにしてもそのような考察聞いていないのだが……我々(1人)〛

 [一番上司がひどいこと言ってません?]

 

†           †

 

「長々と語っていますが、簡単に言えば、生命維持装置の電源を入れ忘れていた、みたいなものです」

 

 ヘカミュルナ様のどこに向かっているのか分からない、けれど微妙に関係がある話を遮って、ナレーショナーが話題を戻した。

 

「割と致命的なミスでは?」

「その通りです。通常なら一回きりの転生チャンス、ですがこの度の死亡はバンジージャンプの紐が取り付けられる前に背中を押されたようなもの。そこで、特別にもう一度だけやり直す権利をあげましょう!」

 

 メアは真顔で。

「いや別に? いらないが」

 

 その返答は、ナレーショナーやヘカミュルナが期待していたのとは違うものであるはずだ。

 何故なら、メアの不参加は計画(筋肉ダルマ提案の劇)の失敗を意味しているのだから。

 だが、

 

「ええ! メアさんならそういうと思っていましたよ! ね、娘様!  (……本当にメアさんだ)

「そうね。予想できる回答だったわ。だから、これが第一のプレゼント」

 

 ヘカミュルナ様はその『豊満な胸』([削除済み])の谷間から小型の板を取り出し、メアに渡した。

 金属製で、ところどころに[ふぁての魔術回路のような]複数のラインが走っているデザインだ。

 

「……これがなんだ? こんなもので俺がやり直したくなるとでも?」

 

 怪訝そうにメアに問われても、二人の笑みは崩れなかった。

「その通りです。その真ん中をポンと触ってみてください」

「こうka──!!」

 

 ──剣を向けられ、【憎悪】を向けられ、呪詛を向けられ、紅い空と紅い月

 

 脳裏に多くの情景が流れていく。

 

 ──笑顔を向けられ、手を向けられ、〈信頼〉を向けられ、黒い空に輝く月

 

 頭に激痛が走り床をのたうち回る。

 

 ──銃を向けられ、『好意』を向けられ、「好意」を向けた。そして──

 

 いくつものシーンがフラッシュバックしては消えていく。違和感ごと消えていく。

 

†           †

 

 ようやくメアの頭痛が収まるころには、ヘカミュルナ達は三杯目の紅茶を嗜んでいた。

 

 [削除済み]

「なにをした」

 [削除済み]

 

 ナレーショナーが別段興味もなさそうに

 

「メアさんがもともと持っていた記憶を一部返却(・・)しました。ただ今は実感がないとは思いますけどね」

 

「記憶を返却(・・)? 復元でもなく正常化でもなく、返却? いやまてその前に……一部?」

 

 二人がその尤もな疑問を取り合う事はなかった。

 

「まあ、そのうち分かりますよ。記憶のことも、このような処理になった理由もね。あ、あとでするといっていた『あいつ』の説明[四話で言っていた]も、もういらないでしょう? では間髪入れずに次行きますね!」

 

 ナレーショナーがそういうと、

 いきなり、

 

 ヘカミュルナ様が額に唇を落としてきた。

 

「?!」

 

 触れると同時に頭に電流が走る。

 短時間でキャパシティを大幅に超える情報を、二回も入れられた脳が悲鳴を上げているのだ。

 

 〖Boot(起動) Registrati(マスター )on for use(登録中).. .. ..〗

 

 そして、脳裏に唐突に響く合成音声。

 

†           †

 

 [CV:ドナ・〇ーグで設定しましょう! そうしましょう!]

 〚いや、AC、セレン〇イズの伊藤〇紀も捨てがたい〛

 [あーそちらもいいですね。悩ましいです。]

 [ええい、クールな女性の声と思ってください!]

 

 [これは声豚とかではなく、ヴィジュアルが存在しないキャラクターが唯一勝負できるのが声なのです。そこに力を入れずしてどうしましょうか]

 

 

†           †

 

〖──正式名:疑似(Demi)空理( enligh)演算(tened )(type) 活動(actibity) 補助(assistance) (inter)(action )(Reinforce) (system)

〖──略称: DETA―AIReS(データ‐アイリス)  ── Hello, My Master(初めまして、マスター)

 

 とても懐かしくて、悲しくて、だけど知らない声が脳裏に響いた。 

 




さてさて、このcvは誰のだったでしょう

[誤字報告で診てもらえばわかると思うんですが、]


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16 DETA (データ)()AIReS(アイリス)


[ページをリロードするともう一度見れますよ]



 (De)(mi)( enl)(igh)(ten)(ed )(type)( acti)(bity )(assis)(tance)( inter)(action)( Reinforce )(system)

 D() E( )T(ー )A()A(),I(),Re(),s()  ─H()e()l()l()o(),()  ()M()y(), ()M( マ)a()s()t()e()r()

 

 

 

 

 とても懐かしくて、悲しくて、だけど知らない声が脳裏に響いた。 

 

 

 

 

「誰だ。いや、お前は何だ」

 その誰何には、ナレーショナーが答えた。

「何って、あなたに与えられた[削除済み」(スキル) DETA (データ)()AIReS(アイリス)ですよ?」

 

「俺が聞きたいのはそういう事じゃなくて、」

[削除(ステー)済み](タス)の実装( Start imp)を開始(lementing ) 実装(Time to ) 完了(complete )まで(implemen)あと(tation:) 完了(finished)

( Bo)(dy)( opt)(imi)(zat)(ion )開始(start) .. .. .. 

( mem)(ory)(sal)(vage ) 

[削()除済()み]() .. .. ..

 

 

 問いかけは音が重なりすぎたアナウンスによってかき消されてしまった。音が重なりすぎた為、メアにはその意味が分からなかった。しかし、それだけでナレーショナーには十分だった。

 

「おや? もう最適化が始まりましたか。では失礼して」

 

「質問に答えろ、ナレーショn

「えいっ」

 アぁぁあああ?! イイッ↑タイ↓メガァァァ↑」

 

 勢いよくメアの眼の中に指を突き刺した。それこそ、目が潰れるぐらい強く。

 

 ……痛そうな描写をしているが、ネタに走っているあたりそこまで痛くないのかもしれない。

 

「……動作も含めてそこまで物真似できるなら、心配は要りませんね?」

「ああ、多分いらないな! 必要なのはテメェの心配だ!」

「どういうことでs「そら、お返しだ!」u? あ、あれ? あんまりいたくなこれ後から凄い痛みがああぁぁぁああ!?

 

 こんなこともあろうかと、メアは転がっていたわさびチューブを拾い、ポケットに忍ばせておいたのだ。

 

 [このシーン書き忘れていました。この後、前回に追加しておきましょう]

 〚たとえこの小説がメタ上等なものだとしても、度がすぎるぞ〛

 [じゃあ、ここで補足したという形で、一つ]

 

†           †

 

 ナレーショナーはメアをサポートするためだけに作り出された存在であると、以前言ったことがある。

 が、そんな生まれたてほやほやの天使が、目に刺激物を入れた経験など持っているはずもなかった。

 つまり、

「目があああああぁあぁあぁぁあ!! 目があああぁぁぁぁああぁ!!」

 目を押さえたままもんどり打って倒れ、そのまま床をのたうち始めた。

 それでも、生まれて初めて感じた目の痛みには耐えられないのか、ナレーショナーは転がり始めた。

 そのまま勢い余ってメアも巻き込み、周囲の(ガラクタ)の山に突っ込んだ。

 

     

†           †

 

 ガラクタの山に突っ込んだナレーショナーとメア。

 あたりに散らばっているガラクタの出処は、最高神(筋肉ダルマ)が適当にメアの記憶から引っ張り出(サルベージ)してきたもので、その性質上メアが元居た世界でも存在していなかった空想でさえ、実体を得ることがあるのだ。

 つまり何が言いたいかというと、突っ込んだ先には鋭利な神殺し(ロンギヌス)の槍の先端が。

 

「アッーーーーー!」

 

 どことは明言しないが、うら若き乙女の一部に突き刺さった。

 そして当然のごとく、出血する。

 ナレーショナーはメアをサポートするためだけに(ryで、痛みに耐性などない。

 

 先ほどとは逆向きに回転を始める天使()。その際うら若き乙女の一部(ケツ)を振り回すものだから、あたりに血が飛び散る。

 メアは逆回転を始めたときに分離したので、これ以上降りまされずに済んだが、代わりに血が目に入り、視界が紅く染まった。

 

 天使の血など、耐性のない(器が成ってない)ものには劇物でしかなく、

「またかよ! 目がイテェ!」

 

 メアがその場にうずくまり、ナレーショナーが再び別の山に突っ込こもうとして──

 

「──二人そろって何を遊んでいるのですか」

 

 二人して、円卓に座っていた。

 痛みなどどこにも存在していなかった。二人の傷は無くなり、飛び散った血痕も消えていた。

 

「ナレーショナー、()()()()()()()()」 

 

 流し目をメアに向け、意味深な台詞をあのヘカミュルナ様が言った。

 怒ると怖い(上司)からの叱責に、天使はお尻を擦りながら頷いた。

 

 満足げにほほ笑んだ冥界の女神様は、メアに目線を向け、

 メアの体がクイっと引っ張られるように浮き上がった。

 

「──な」

 

 だんだんと、天使と女神の姿が小さくなっていく。

 このままだと、何もわからないまま戻されてしまう。焦ったメアは声を荒げる。

 

「おい! 結局何だったんだ! ここでの茶番は!」

 

 それに対する返答は、なかった。

 

†     †     †

 

 気が付けば、元の森だった。

 足元には、大量の血が飛び散った跡が残っていた。

 よくよく見てみると、メイド服の残骸であろう布切れも散らばっていた。

 足の裏に地面の感覚が伝わってこない。

 あたりを観察しようとすると、ふと抵抗を感じる。

 その感覚には心当たりがあった。

 

「…………マジか」

 

 ナレーショナーは死んだ場所、蜘蛛の巣の上に蘇生してくれやがったのだ。

 当然、身動きとれない。メアはまたしてもピンチに陥ったのだ。

 

「くそ、どうしようもないぞこれ。またすぐあそこに逆戻りか? てか、あいつらが能力の説明してたらこんなことにはなってないだろ!」

 

 自分で言ったセリフによって、今直面している蜘蛛の恐怖よりナレーショナーたちへの苛立ちが勝り始めたとき、

 

 ( Bo)(dy)( opt)(imi)(zat)(ion ) (comp)(lete)

 D() E( )T(ー )A()A(),I(),Re(),s() ( Sta)(rt )

 ERROR ERROR ( Syn)(chro)(niza)(tion)了し(is)(not)( co)(mp)(le)(te ) (Time)( to )(comp)(lete)まで(  Sy)あと(nc:  )37.8%

 D() E( )T(ー )A()A(),I(),Re(),s() (sel)(ect)( MO)(DE)(:)( res)(tric)(tion)

 

 

 機械音が聞こえてきた。

 今まで何回も話の流れをぶった切ってきたその声にまたしても苛立ち、怒り任せに右腕を動かそうとした。

 と、同時に蜘蛛の巣の抵抗がなくなった。メイド服の右袖もなくなった。

 

「……は?」

 

 片腕ノースリーブメイド服のメアは、いきなり自由になった右腕と一緒に蜘蛛の巣の上で呆けるのだった。

 

「何が起こった?」

 

 その吐露は空に消えるはずだった。

 が、

 

「このナレーショナーがお答えしましょう!」

 

 なんか吹っ切れたよう(ハイテンション)な天使がそこにいた。

 いや、よく見たら後ろが透けている、立体映像だった。

 

「一番初めにメアさんに与えたのは、メアさん自身の記憶です! いろいろ覗きましたが、記憶自体はいじっていないので安心してくださいね? 「おい」次に与えたのが、本命のスキル DETA―AIReS(データ‐アイリス)です。こいつの効果は折り紙付きですよ? メアさんの行動、思考、魔法、ありとあらゆる動作を補助するスキルです! 「まて」今起きたのは身体強化ですね! そして」

 

「ちょっとはこっちの話も聞け!」

 

 

 

†     †     †

 

 

 メアの姿が空に消える。

 それは、メアが現実世界に生き返ったことを意味している。

 

「……ふう」

 ナレーショナーは作り笑いを剥がした。

 ヘカミュルナはいつの間にかいなくなっている。

 疲れ切った顔が仮面の下から出てきた。

 気だるげに指を鳴らす。空間の白が黒に変わる。散らばっていたガラクタは虚空に消えた。

 白一色だった場所が、漆黒に塗りつぶされる。

 

 ナレーショナーは一人闇の中に(たたず)んでいた。

「──ぁあ」

 声とも音とも取れない息をついた。魂が漏れ出るような吐息だった。

 

 噛み締めるように、ゆるりと彼女は背後を振り向いた。

 

「──旧個体名□□□□□、現識別名メア・キュリエイド」

「一切の齟齬が確認されませんでした。同一存在です」

 

 隈がはっきりと分かる顔と頭がゆっくり下がってゆく。

 虚空に向け一礼した。

 

「──神々の皆さん、お疲れ様でした」

 

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 声が爆発した。

 

「いっよっしゃあああ!!!」「わああああ!!」「一生分の徹夜と残業をした気がする!」「やりましたわ! お姉さま!」「やったあああ!!」「ええ! ごくろうさま!」「だめだ!

 眠すぎるが寝れる気がしない!!」「今宵は呑むぞおおお!」

 

 

「「「「「「宴だあああああ!!!」」」」」」

 

 

「酒だ! 酒を持ってこい!」「さっき消えた中にいいお酒なかったけ?」「それだ」

 

 

 眠たそうな顔をして神々が騒ぐところを見ているナレーショナー。

 そこに声をかけるものが現れる。

 

「ご苦労」

「ああ、上司ですか。何の用ですか? 今私は猛烈に眠たいんです」

 

 眠気のせいで、普段よりも眦をあげて最高神をにらむ天使。

 凍るような視線を受けても、やはり最高神、一切動じなかった。

 それどころか、笑みさえ浮かべ。

 

†     †     †

 [この時、吐き気がするほど気持ち悪かったです]

 〚        〛

 [この、なん…だと…っていう顔も同レベルですね]

†     †     †

 

「何、労いに来ただけだ」

「なんかフランクなの気持ち悪いです」

「……今の暴言は寝不足のせいにしといてやる」

 

 ごほん、と咳払い。

 最高神が語りだすが、フランクなのが気持ち悪いので以下省略。

 

†     †     †

 

[久しぶりのダイジェスト!]

[気持ち悪いという私の主観で上司の感謝状? は省き、要点のみ説明させて頂きます]

[実はメアさん、通常の蘇生だと効果がなかったんですよ]

[というのも、メアさんが特異点なんです]

[このことは前に言いましたっけ? まあいいです]

[この場合の特異点というのは、神ですら見通すことができないほどの可能性を持っている。という意味です]

[この可能性のせいで、メアさんは一度死ぬと源典にまで戻ってしまいます]

[なので、同じ可能性を選ばせないと《蘇生》できないというわけです]

[神々が疲れているのは、この作業をしていたからなんですよ]

 

†     †     †

 

 長い長い最高神の話がやっと終わると、荒んだ目をした天使がいた。

「で、長ったらしい話をしに来たわけじゃねえんだろう、です? さっさと本題に入れや筋肉ダルマ野郎、です」

 

 ……あれ、私こんなこと言ってたでしょうか? 実はこの時眠たすぎてよく覚えてないんですよ

 イライラしすぎて、ノゲ〇ラのいづ〇たんみたいになってますね。

 

「……何度目か数えてないが、寝言として処理する。先程の話が本筋だ。これ以上は何もないぞ」

 

「つまんねえ話をダラダラしやがって、です。私は寝てくる、です」

 

 フラフラと歩き去っていくナレーショナー。[てかよく殺されませんでしたね]

 周囲の神々も酔いつぶれて起きているものがいなくなっていた。

 

 一柱になった最高神。

 ぽつりと一言、「DA(データアイリス)のナレーター枠って空いてたよな」

 

 書き手、消滅の危機だった。

 [あ、殺されるのと同意義のバツが待ってましたね]

 

 これが、先のハイテンション天使につながるのだが、それはまた今度。







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