ドMなピカチュウは今日は〇〇をくらう (でってゆー)
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ドMなピカチュウは『はかいこうせん』をくらう

「カイリュー!はかいこうせんだ!!」

 

人工的な芝生に覆われた巨大なバトルフィールドに男性の大きな声が響く。

飼い主であるトレーナーから指示を受けたカイリューは指示を遂行するために自身の口の中に強大なエネルギーを溜め込む。

 

ふふ、痛そうだなぁ。

これから受ける痛みを想像して口元が緩くなるのを自覚する。

 

「っ!!ピカチュウ避けて!!」

 

相手がはかいこうせんを放とうとしていることに気付いた僕のマスターが避けるように指示を出してくれる。

避けるなんてとんでもない!

せっかく相手が大技を出そうとしてくれるんだから受けとかないともったいないじゃないか!

なのでマスターの指示に従おうと必死に避けようとするが今まで受けたダメージで足が動かない風に演じる。

実際今まで散々ダメージ(ご褒美)を受けてきたせいで足が覚束ないのは本当だ。

 

そんなわけで僕の心配をして必死に叫んでくれるマスターには申し訳ないけど足が動かないんだからしょうがないね。謹んでくらわせていただきます。

 

僕が心の中でマスターに対して言い訳を終了させると同時に相手の口に溜めていた強大なエネルギーが一直線に僕の元へやってくる。

 

 

ピカァァァァァァ!!(んほぉぉぉぉぉぉ!!)

 

エネルギーの中に飲み込まれながら強烈な快楽によって上げてはいけない声が口から出てしまう。

やはり『はかいこうせん』は最高だ。

身体中を焼き尽くさんばかりの強大な波が僕の体へと襲い掛かってくる。

『かえんほうしゃ』や『れいとうビーム』も捨てがたいが、やはり純粋な痛み(気持ちよさ)という点では『はかいこうせん』が一枚上手だ。

 

「ピカチュウ!?そんなっ!!」

 

僕がはかいこうせんに飲み込まれたのを見て絶望の声を上げるマスター。

マスター心配しないで、これはマスターの指示がダメだったのではなく僕が勝手にやったことなのだから。

あまりの痛み(気持ちよさ)に飛びそうになる意識をなんとか保ちながらマスターに謝罪をする。

 

「やったか!よくやったぞカイリュー!」

 

相手は僕にはかいこうせんが完璧に決まったことで勝ちを確信したようだ。

確かに普通なら十分戦闘不能になるだろうけど、僕は耐久力だけにはそれなりの自信があるんだ。

僕を満足させたければ、『はかいこうせん』の後に『ギガインパクト』でももってくるがいい!

 

脳内でかっこいい言葉を吐きながら大技の衝撃によって舞い上がった煙に紛れて相手へと接近する。

 

相手は勝利を確信して油断しているのか至近距離に接近するまで僕の存在に気付くことはなかった。

煙の中から飛び出して相手の懐にまで辿り着く。

 

「っ!?バカな!俺のカイリューのはかいこうせんを耐えたのか!!」

 

相手のトレーナーから驚愕の声が漏れる。

煙の中からいきなり飛び出してきた僕を見て相手のカイリューは驚いて身体を硬直させる。

絶好の攻撃チャンスというやつだ。

 

「っ!!ピカチュウ!10まんボルト!!」

 

相手の懐に飛び込んでいた僕に気付いて驚きながらすぐに指示をくれるマスター。

マスターの指示に従って自身の頬に電気を集中させながら僕のもっとも得意な技である雷撃を相手に浴びせる。

 

「ガァァァァ!!?」

 

油断しているところに全身に僕の雷撃を浴びた相手が痛みで叫び声を上げる。

僕のように痛みを快楽としているわけではない相手には申し訳ないが、大切なマスターのために渾身の電撃を浴びせ続ける。

やがて僕の電撃に耐えきれなかった相手が目を回しながら地面へと倒れていった。

相手が倒れたことで戦闘不能だと判断されて審判から僕たちの側に勝利を宣言される。

 

「ピカチュウ!無事だよね!?ごめんね私の指示が悪いせいでこんなに傷だらけに!!」

 

バトルが終了したことでフィールドに入れるようになったマスターが走ってきて僕を抱きしめてくれる。

涙で目を潤ませながら僕の心配してくれるマスターに申し訳ない気持ちを抱く。

さっきの『はかいこうせん』もそうだけど、何度かわざと快楽のために避けなかった攻撃があったのだ。

マスターの指示に従わない悪いポケモンでごめんなさい、でも、どうしても誘惑に逆らえなかったんです。

彼の大きな腕で振り下ろされる『きりさく』を見て、つい吸い寄せられるように当たりに行ってしまったのだ。

とても気持ちよかったです。

マスターの柔らかな胸の中でバトルの回想にふける。

これでマスターの胸がマスターのお父さんのように固ければ抱き締められた時に痛みがあって最高なんだけど。

 

「待っててね!すぐにポケモンセンターに連れていってあげるから!」

 

あ、お構いなく。

 

バトルが終わったら、いつもポケモンセンターに連れて行ってくれる優しいマスターだけれど、僕にはその優しさは必要ないんです。

むしろこのまま怪我の治療をすることなく連戦させてくれるとすごく嬉しい。

マスターの言葉に即座にそう返すが僕の言葉がマスターに届くことはなくポケモンセンターへと連れられてしまう。

 

 

私にはとっても大切な友達がいる。

その子の名前はピカチュウと言って私はこの子のトレーナーをしている。

幼い頃、引っ込み思案で友達がいなかった私と一緒にいてくれた私の大切な友達。

本当はこの子を傷つけるポケモンバトルはあまり好きではないんだけど、この子はバトルに興味があっていつもテレビでポケモンバトルが放送されている時はじっと画面を見つめている。

 

そんな彼のために必死にポケモンバトルの知識を勉強して、人と話すのは苦手だけど頑張ってバトルを申し込んだりもした。

でも私の指示が下手なせいで彼はいつも傷だらけになってしまっている。

今日だって相手のカイリューの『はかいこうせん』が直撃して悲鳴をあげていた。

戦闘不能になっても不思議ではないのにそれでも彼は耐えて絶好のチャンスを自ら作ったのだ。

私は彼が作ってくれたチャンスにただ指示を出しただけ。

もっと私がうまく指示できていれば彼があんなに頑張る必要なんてなかったのに。

 

 

「....落ち込んでちゃダメだよね!あなたのためにももっと勉強して頑張るからね!」

 

彼を抱きかかえてポケモンセンターに走りながら彼に向けて自分の決意を伝える。

 

ピ、ピカチュウ(あ、お構いなく)

 

彼は私の言葉に答えてくれたかのように小さく鳴く。

不思議と彼が私のことを応援してくれたんだと思った。

 

「ありがとう!もうあなたが傷つかなくていいくらいすごいトレーナーになるから待っててね!」

 

ピカチュウ!(いやほんと今のままでいいです)

 

私の言葉を認めてくれたかのように再び彼が鳴く。

彼の声を聴いて心を温めながらより強く彼を抱き締めてポケモンセンターへと向かった。

 

 

 

これは後に英雄と呼ばれるようになる一人のトレーナーの序章。

ガラル最強の王者と言われるダンデを超え、暴走する伝説のポケモン『ムゲンダイナ』を倒してガラル地方の危機を救ったとされる1人の少女の物語。

 

そしてその物語には一匹のポケモンが登場する。

次々と襲い掛かる数々の苦難から主を守り続けたポケモン。

 

後に伝説のポケモン『ザマゼンタ』から認められ、守護者と呼ばれるようになるそのポケモンの名は『ピカチュウ』

主人公の初めてのポケモンであり、物語の最後まで主人公を支え続けた存在。

 

物語で登場する『ピカチュウ』は英雄のポケモンにふさわしい不屈の精神を持ち、どんな強力な技をくらおうと決して倒れることはなかったという。

 

後に本として発売されたこの物語はガラルに住まう全ての住民が読み、主人公とピカチュウの絆に涙を流した。

 

全てのポケモントレーナーは英雄と呼ばれた少女に憧れ、トレーナーのポケモンは主人を守り続けたピカチュウのように主を支えようと誓った。

1人の少女とポケモンがガラル中の人々を魅了したのだ。

 

 

 

この物語がただのドMなピカチュウとそのピカチュウに過剰な程心酔する少女がやらかした結果だとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 




このピカチュウは前世に人間の記憶があるわけではないです。
生まれた時からポケモンで。
生まれた時からドMなポケモンだったというだけです。



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ドMなピカチュウは『ころがる』をくらう

Mの朝は早い。

 

いつも僕を抱き枕にして眠るマスターを起こさないように彼女の腕の中から慎重に抜け出す。

マスターは起きた時に僕がいないと激しく取り乱すので彼女が起きる前に用事を終わらせなくてはいけない。

 

マスターの部屋を出て家の外へと向かう。

まだ早朝という時間なので外はまだ少し薄暗い。

 

僕は早速いつもの日課へと取り掛かるべく家の庭へと向かう。

マスターのお母さまが手入れをしているので雑草もなく綺麗に整備されている。

 

僕はその庭を歩きながら辺りを見回す。

そろそろここに現れるはずなんだけど。

 

「みゅっきゅきゅ!」

 

そう考えた直後、庭の奥から可愛い鳴き声が耳に届く。

鳴き声のほうへ視線を向ければ、僕が会いたかった、人間からは『スボミー』と呼ばれるポケモンがいた。

 

「みゅっきゅ♪」

 

僕を見つけたスボミーが嬉しそうに僕へと近づいてくる。

僕の体にすり寄ってくる()()を笑顔で迎え入れる。

 

くっ毒状態(気持ちよく)になれなかったか。

 

ファーストコンタクトは失敗に終わったが、諦めずに彼女を撫でる。

僕が撫でると嬉しそうに鳴くスボミー。

 

馬鹿なっ!セカンドコンタクトでも毒状態に(気持ちよく)なれなかっただと!?

 

どうやら今日の僕は運が良い(運が悪い)ようだ。

今日の自分の運勢に嘆きながら庭に立てかけられたジョウロへと手を伸ばす。

ジョウロを掴み、庭先に設置された水道を使って水を中に入れていく。

彼女は僕がジョウロに水を入れるのを見て、さらに嬉しそうに跳ねていた。

 

水をジョウロいっぱいに汲んだ僕はその水をスボミーへとかけてあげる。

水を浴びた彼女は今日一番の大きな声で鳴いて喜びを表していた。

 

ふふふ、綺麗に育っておくれ。そしていつか僕を猛毒状態に(最高に気持ちよく)してくれ。

以前にマスターから教えてもらったことを思い出して内心でほくそ笑む。

 

この子は春になると毒を含んだ花粉をまき散らして人間を困らせることがあるらしい。

そして綺麗な水で育てるほどより強力な毒をまき散らしてしまうのだとか。

 

庭先で彼女を見つけたマスターが困ったように説明していた。

それを聞いた僕は次の日から彼女に水をあげるようになったのは言うまでないだろう。

 

そしてなんと!たまにだが、この子を撫でると毒状態になれるのだ。

後からマスターからスボミーの特性に毒のトゲというものがあり、触った相手を毒状態にするらしいということを教えてもらった。

彼女に水を上げながら毒状態にもなれる。

まさに一石二鳥とはこのような状況を言うに違いない。

 

ちなみにこの子はマスターの家のポケモンでなく野生のスボミーなんだけど、僕が水やり(餌付け)を始めてからここに居ついてしまい、もう半分くらいうちの子扱いを受けていたりする。

 

彼女は水を浴びれて嬉しく、僕も毒になれて嬉しい。

まさにWin-Winな関係だ。

 

「みきゅみきゅ♪」

 

水浴びに満足したスボミーが再び僕に抱き着いてくる。

毎日僕が水やりをしているおかげなのか、この子は僕に懐いてくれている。

彼女を撫でながら申し訳ない気持ちを抱く。

 

僕は邪な気持ちで彼女に餌を与えているのだ。

 

僕の狙いが君の身体なのだと知られたら、この子は一体どんな顔をするのだろうか。

嬉しそうに笑う彼女を撫でながら僕は内心で彼女の泣き顔を想像してしまい憂鬱な気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

くそ!また毒状態になれなかった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私には大好きな方がいます。

その方はみんなから嫌われている私を優しく抱きしめ、撫でてくれます。

人間様は私を見ると嫌そうな顔をして去っていき、ポケモンの皆様も私を避けます。

同じ姿をした同族の方達でさえ、お前と一緒にいると毒になると除け者扱いを受けていました。

 

誰とも一緒にいることが出来ず、もういっそのこと誰もいないどこか遠くにでも行ってしまおうかと思いながら歩いていた時、あの方に出会いました。

 

初めてお会いした時、あの方はトレーナー様と一緒にいました。

トレーナー様は私に気付いて困ったような表情を浮かべていました。

ほとんどの人間様は私を見ると同じような顔をした後に離れていきます。

人間様は私のことを彼に説明し、どこかへ行こうとしていましたが、あの方はトレーナー様のお話を聞くとそっと私に近づいてきました。

 

そして優しく、慈しむかのように私の頭を撫でてくださったのです。

あの時の感動を、私は一生忘れることはないでしょう。

色あせていた私の世界は、あの日からあの方によって色鮮やかに彩られていきました。

次の日からあの方は私にお家の水を下さるようになりました。

水は私にとって生きていくためにもっとも大切なもの。

あの方はそれを知ってお家のとても綺麗な水を私に下さったのです。

そしてその後は必ず私を撫でてくださります。

私に触ると毒をうけてしまうかもしれないというのに、あの方は微塵も気にすることなく私を撫でてくださります。

 

あの方が私に触れてくださる度に天にも昇るような気持ちになります。

今日も朝早くから私に水を下さり、たくさん撫でてくださりました。

 

ああ、大好きです。

願うなら私はあなたのポケモンになりたいです。

あなたのためなら私は全てを犯す猛毒のとげにもなりましょう。

私はあなたに捕まえられる日を願い続けます。

私のご主人様。

 

 

 

さて、スボミーとのやり取りを終えた後は最後の日課が僕を待っている。

家から少し離れた場所を急ぎ足で駆け抜けていく。

少し彼女とのやり取りに時間をかけすぎてしまった。

毒状態を諦めきれずに触り続けてしまったのがいけなかった。

次こそは、次こそは当ててみせる!と何度もやり続け、まるで底なし沼にはまってしまったかのように抜け出せなくなってしまっていた。

これが人間がハマっているロトムスマホ内のポケモンガチャというものをやる心理なのだろうか。

マスターもピカチュウのSSRが出るまで血走った目ですごい数のお金を使ってたし。

 

そんなくだらないことを考えているうちに目的の場所に到着する。

どうやら間に合ったようだ。

 

地面から伝わる振動から目的の子達がやってきているのがわかる。

ふふふふふふ!今日は何匹来てくれるのかな。

 

ワクワクしながら持っていると、目的の子たちがこちらへとやってくるのが見えた。

一匹、二匹、三匹..........十六匹!!

なんということだ、今日は大量だ!!

こちらへとやってくる()()()()()()()を見て喜びのあまり飛び跳ねる。

早朝のこの時間、この街に放し飼いにされているウールーたちは餌を食べにいくために一斉に食べ物が置かれている家まで転がり始めるのだ。

その家は長い坂道が続く一番奥にあり、ウールーたちは走るよりも転がるほうが早いと理解し、家へと続く一本道を転がって進んでいくのだ。

 

普通は人間にぶつかるのでやらないが、早朝の人間がいないこの時間だけはウールー達は人間を気にすることなく転がることが出来る。

 

僕はそこに目を付けた!

彼らが通る一本道に陣取り、僕に転がってきてもらうために!

僕が陣取る場所はもちろん家の目の前!

坂道の終点で、ウールー達がもっとも勢いよく転がってくるところだ!

 

さぁ!来い!!!

 

家へと向けて次々と転がってくるウールー達を受け止めていく。

転がり続けたウール達の『ころがる』はそれはもうすごい威力で受け止める度にすばらしい痛み(快感)が僕を襲う。

 

ピカ、ピカァァァァァァ!!(うへ、うへへへへへへへ!!)

 

あまりの快感に出してはいけない声が口から洩れる。

ああ、これがあるから早起きはやめられないのだ。

 

「んん?あっ!こらウールー達!坂道を転がって来るなっていつもいつも言ってるだろ!!」

 

僕が次々と転がってくるウールー達を受け止め続けていると、彼らの飼い主であるおじさんが顔を見せた。

 

「まったく、お前達が転がって来たら、ぶつかったところに穴が開くんだからな。俺が何回家の修理をやってきたことか」

 

次々と転がってくるウールー達を見て疲れたようにため息を吐くおじさん。

確かにこの威力のころがるが家に直撃したら壁にひびは確実に入るだろうね。

 

「はぁ....って君はいつものピカチュウじゃないかい!まさかまたウールー達を受け止めてくれていたのか!?本当にありがとう!君のおかげでいつも我が家に穴が開かずに済んでるよ」

 

僕の存在に気付いたおじさんが涙を流しながら僕にお礼を言ってくれる。

 

ピッピカピカ(いえ、自分が気持ちよくなるために)ピカチュウ!(勝手にしてるだけです!)

 

「はっはっは!気にしなくていいってか?本当にお前は良い子だなぁ」

 

僕の言葉を勘違いしたおじさんが嬉しそうに僕の頭を撫でる。

まぁ、おじさんも喜んでるし、僕も痛くて気持ちよかったから別にいいか。

おじさんに撫でられながら僕は今日の日課を気持ちよく終えることに満足する。

 

今日は良いM日和になりそうだ。

 

 

「んんっ...ピカチュウゥ」

 

無事に日課をやり終えてマスターの腕の中へと戻る。

マスターはまだ夢の中のようだ。

夢を見ているのか僕の名前を口にしている。

 

「だ、だめだよピカチュウ。だいもんじとソーラービームを同時に受けるなんて無茶だよぉ」

 

マスターの夢の内容に一気に興味が湧いた。

どういうことだ!?まさか夢の中の僕はその二つの大技を同時に受けようとしているというのか!?

夢の中の僕!今すぐそこを僕と代われ!!

一か八かマスターの夢の中に入ろうとマスターの顔に飛び込む。

まぁ当然夢の中に入れるはずもなく、僕の体がマスターの顔に飛び込んだだけで終わった。

 

「ふむっ!?な、なになに!?敵襲!?」

 

僕が顔に張り付いた衝撃で飛び起きるマスター。

マスターは自身の手で僕が顔にくっついていることを確認すると安心したかのように息を吐いた。

 

「なぁんだ、あなたが私の顔に飛び込んできたのね。あ、これあなたの匂いが直に感じれるからいいかも」

 

そう言ってマスターは僕を顔に引っ付けたまま二度寝をしようと布団に再び潜り込む。

このままマスターにくっついて僕も寝ればマスターと同じ夢の続きを見れたりしないかな。

 

「ゆうり!ホップ君が来てるわよ!いい加減起きなさい!」

 

僕が未だマスターの夢の中へ行くことを諦めきれずにいると、部屋の外からお母さまの声が耳に届く。

そういえば昨日ホップ君がマスターに用事があると言っていたような。

 

「....ううぅ、ホップ君はいっぱい話しかけてくるから苦手」

 

お母さまの声を聞いたマスターがゆっくりとベッドから起き上がる。

ホップ君は近所に住んでいる元気いっぱいな少年だ。

僕はホップ君のことは嫌いではないのだけれど、人間と話すことがあまり得意じゃないマスターは元気よく話しかけてくるホップ君を苦手としているようだ。

マスターはパジャマから着替え、自分の髪を軽く整えながら部屋を出る。

マスターは気付いてないけど頭の上にすごい寝ぐせが出来ていた。

 

マスターに恥ずかしい思いをさせないためにマスターに頭の上に寝そべるように陣どる。

毎回同じようにしてるからすっかりマスターの頭の上が僕の定位置になってしまった。

 

「ゆうり!それにピカチュウ!」

 

部屋を出ると居間で待っていたホップ君がこちらに気付いて笑顔を向けてくる。

それを見たマスターはげんなりとした表情を浮かべていた。

 

「....おはよう、いつも元気だねホップ君は」

 

「おう!俺はいつも元気だぞ!」

 

マスターの言葉に歯を見せながら笑うホップ君。

それを見たマスターはさらにげんなりとした表情を浮かべた。

 

「ゆうり!昨日も言ったけど今日はうちの兄貴が俺達にすごいプレゼントをくれるんだ!だから今すぐ俺の家に行こうぜ!!」

 

マスターの表情を気にすることなく嬉しそうに語るホップ君。

プレゼントかぁ、プレゼントは俺の『はかいこうせん』だぞ!とかだったら僕は大喜びでもらうんだけどなぁ。

まぁ人間のホップ君は『はかいこうせん』を撃てないので残念ながらそれはありえないんだけど。

 

「さぁ早くいこうぜ!兄貴は俺の家で待ってるからさ!」

 

「えっ、ちょっ!手を掴んで引っ張らないでよ!それに私行くなんて一言も」

 

「いいからいいから!」

 

疲れた顔のマスターをホップ君が強引に連れ出す。

ホップ君のお兄さんがくれるプレゼントかぁ、一体なんなんだろう。

 

痛いのがいいなぁ。

 

マスターの頭の上に乗りながらこれからもらえるプレゼントについて僕は自身の欲望を全開にして期待していた。

 

 

 

 




ゲームで主人公の家の前にいるスボミー君を(ヒロイン?)に決めた!



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ドMなピカチュウは『しめつける』をくらう

現在僕は未だかつてない程の興奮を覚えている。

僕がずっと会いたくて仕方なかった人間さんとポケモンが目の前にいるからだ。

 

「君がゆうりだな。ホップから話は聞いてるよ。今日はよろしくな」

 

そう言って僕とマスターに笑いかけてくれるのは、僕がいつもテレビで食い入るように眺めていた人間さん。

彼と相棒のリザードンの戦いは僕にいつも大いなる興奮を与えてくれていた。

マスターの話では彼はチャンピオンというもので、この地方で一番強い人なのだとか。

この地方で一番強いということは、この地方で僕をもっとも痛めつけてくれる(気持ちよくしてくれる)ということだ。

僕の頭の計算式が答えを導きだすと同時に僕は彼のファンになった。

 

そんな憧れた人間さんが僕の目の前にいるのだ、興奮するのもしょうがないというものだ。

 

「え、あはい。ゆうりです。な、なんでチャンピオンのダンデさんがこんなところに」

 

マスターもまさかチャンピオンがいるとは思わなかったのか、緊張した様子を見せている。

 

「それは俺の兄貴だからだ!今日は兄貴が俺達にプレゼントをくれるって言っただろ?だからうちに帰ってきてたんだよ」

 

「・・・・ホップ君のお兄ちゃんがチャンピオンだなんて聞いてないよ」

 

自慢げに語るホップ君の話を聞いて小さな声で文句を口にするマスター。

僕としては今すぐホップ君に喜びのはぐをしたいくらいだ。

今はマスターの寝ぐせを隠すために頭の上にいるから無理だけど。

 

「そして君がゆうりちゃんの相棒のピカチュウか・・・・良い目をしているな、これは俺のリザードンの強力なライバルになりそうだ!」

 

俺を見て嬉しそうに笑うチャンピオンの言葉に舞い上がる。

ほんと!?じゃあさっそくあなたのリザードンと戦いたいな!

テレビを見ながら、彼が放つ『かえんほうしゃ』を受けることを何度妄想したことか。

マスターも僕を褒められて嬉しいのか頬を緩ませている。

 

「それで兄貴、約束のプレゼントは!?俺とゆうりにポケモンをくれるんだろ?」

 

僕が妄想して悦に浸っていると待ちきれなくなったのかホップ君がプレゼントを要求する。

どうやらプレゼントはポケモンだったみたいだ。

チャンピオンのリザードンからの『かえんほうしゃ』とかのプレゼントを期待していた僕は悲しみを覚える。

 

あ、でもマスターにもポケモンをくれるんだ。

マスターは僕以外にポケモンを所持していないし、手持ちを増やす良い機会だね。

願わくばその子がマスターの友達になってくれることを願う。

マスターもそろそろ僕以外にお友達を増やすべきだし。

 

「・・・・」

 

マスターはホップ君の話を聞いて考え込んでいる。

ぶつぶつ何か呟いているので集中して聞いてみる。

 

「確かに今後もポケモンバトルを続けるのなら新しいポケモンを仲間にしないとダメ、最終的には六匹捕まえて彼の負担を減らさないと」

 

小さく呟くマスターの言葉を聞いて僕も考える。

そうか、ここで新しい仲間が増えるということは、今後バトルの時に僕が戦う回数が減ってしまうということ。

それはつもり僕が気持ちよくなれる機会が減ってしまうことを意味する。

 

それは非常に困る!

 

うぅ、でもこれはマスターが友達を作るせっかくの機会なんだ。

それを僕の欲望で潰してしまうなんてことは出来ない。

そう自分に言い聞かせて内心で断腸の思いで仲間を増やすことを認める。

 

「さぁ、素敵なポケモン達によるアピールタイムだ!」

 

僕とマスターがそれぞれ考え事をしている間にホップ君と会話を終えていたチャンピオンがモンスターボールを三つ放り投げる。

 

そしてモンスターボールから解き放たれた三匹のポケモン達が僕たちの目の前に現れる。

 

「ほのおタイプのヒバニー、くさタイプのサルノリ、みずタイプのメッソンだ!どのポケモンも最高に良いポケモンだぜ!」

 

「おお!ありがとう兄貴!ゆうりが先に選んでいいぜ、俺はまだ悩み中だし」

 

「・・・・うん、ありがとうホップ君。それにチャンピオンもありがとうございます」

 

選ぶ順番を譲ってくれたホップ君とチャンピオンにお礼を言いながら三匹を見つめるマスター。

 

んー僕としてはメッソンって紹介されていた、この子がいいかな。

なぜならさっき水面に木の実が落ちただけで驚いて泣いていたのだ。

きっとバトルとかは苦手で僕の出番が減らされることはないはず。

逆にヒバニーと呼ばれた子はダメだ。

活発そうでバトルの場でも積極的に動いてくるに違いない。

僕の出番を守るために彼はNGだ。

 

「んーあなたはどの子がいいと思う?」

 

悩むマスターが僕に意見を求めてくる。

もちろんメッソンに決まっている。

僕がマスターに彼を推薦しようと彼のところに歩いていく。

さぁメッソン君、僕と良い関係を築いていこうじゃないか。

 

「・・・・じめんタイプが苦手なあなたを守るのなら、じめんタイプが得意なみずタイプかくさタイプがいいかな。うん、メッソンかサルノリにしよう」

 

メッソンのところに行こうとした足に急ブレーキをかけてヒバニーに飛びつく。

ヒバニー!君に決めた!!

 

「ヒバッ!?」

 

いきなり僕に飛びつかれたことで驚きの声をあげるヒバニー。

絶対に離すものか!君はうちの子になる運命なのだ!

 

「え?あなたはその子がいいの?」

 

ピカ(この子しかいない)

 

「・・・・そっか、あなたがそうしたいのならそれが一番ね」

 

僕の意志を尊重してホップ君とチャンピオンにヒバニーにすることを伝えるマスター。

他の子を選んだ場合、僕の大好物であるじめん技の攻撃が全てその子が引き受けるようになるだろう。

それだけは絶対に阻止しなくてはならなかった。

もう二度とじめん技を受けることが出来ないとなれば、僕の精神が耐えることが出来ずに壊れてしまうだろう。

 

確か、ほのおタイプも僕と一緒でじめん技が苦手だったはずだ、よし!一緒に気持ちよくなって逝こうね!

共通の弱点から勝手に友情を芽生えさせる僕。

ヒバニーは抱き着いてくる僕に照れながらも嬉しそうに笑っていた。

 

「お、ゆうりはヒバニーにしたんだな!俺はサルノリに決めたぜ!」

 

マスターがヒバニーに決め、ホップ君はサルノリを選んだようだ。

残ったメッソンはチャンピオンが引き取ることになった。

 

「ありがとうございますチャンピオン、この子は大切に育てます」

 

「ダンデでいいよ、君と戦う日を楽しみにしてるぜ!」

 

お礼をマスターに笑いながらそう口にするチャンピオン。

出来たら今すぐ戦いです、はい。

 

「君のピカチュウもやる気みたいだな!今すぐに戦いたいって熱意が伝わるぜ!なぁリザードン」

 

僕の熱意が届いたのか、僕のほうへやってきたチャンピオンが僕の頭を撫でる。

リザードンも同意するように鳴いて答える。

ふっ僕の戦い(快楽)にかける思いが届いたようでなによりだ。

それを見ていたホップ君が元気よく声を出す。

 

「へへ!俺もなんだか熱くなってきたぜ!なぁゆうり!さっそく手に入れたポケモン達でバトルしようぜ!」

 

「うん、この子がどれくらい動けるか知りたいし、いいよ」

 

ホップ君からの誘いにマスターが乗る。

2人はヒバニーとサルノリを連れてホップ君の家の横にある小さなバトルフィールドへと向かう。

 

「あれ?ピカチュウは戦わないのか?」

 

バトルフィールドの外で見守る僕に気付いて疑問を口にするホップ君。

 

「彼とホップ君のサルノリとウールーじゃあレベルに差がありすぎて勝負にならないから。私はヒバニーだけで戦うよ、ホップ君は両方使っていいからね」

 

うわぁ、事実とはいえ口が悪いマスター。

ホップ君はそれを聞いてうっと口を詰まらせる。

 

「だったらゆうりのヒバニーを倒してピカチュウを引っ張り出してやるぜ!覚悟しろよゆうり!」

 

マスターの挑発?によってさらに闘志を高めるホップ君。

マスターはそれを冷めた目で見つめていた。

 

「よし!やるぞウールー!」

 

ホップ君が最初に出したのはウールー。

今日も『ころがる』でお世話になりました。

 

「いくよ、ヒバニー」

 

「ヒバッ!!」

 

マスターの呼び声に元気よく答えながらバトルフィールドへジャンプするヒバニー。

僕の予想通り、あの子はバトルにはかなりやる気なようだ。

致し方なかったとはいえ、僕の出番を奪われないように精進しなくては。

 

「ウールー!ころがるだ!!」

 

ホップ君がウールーの得意技である『ころがる』の指示を出す。

指示を受けたウールーは身体を丸めてヒバニーのほうへ勢いよく転がり始める。

今はまだ勢いは弱いが、『ころがる』を繰り返す内にだんだん威力は高まっていくだろう。

できればこのまま最高威力まで高まった後にヒバニーと入れ替わって僕が『ころがる』を受けたいところだ。

 

「・・・・ヒバニー、私の声に合わせて横に飛んだ後に攻撃して」

 

ウールーの『ころがる』を冷静に見つめるマスターとヒバニー。

ウールーは円状になっているフィールドになぞるように転がり、一周半したタイミングで方向を変えてヒバニーへと迫る。

マスターとヒバニーは迫るウールーを慌てることなく引き付け、当たる直前のタイミングでマスターの指示が飛ぶ。

 

「今っ!右にステップ!そしてすぐにもう一度ステップしてウールーの身体に蹴りを入れて!」

 

「ヒバァ!!」

 

マスターの指示を受けたヒバニーが横に飛んでウールーの『ころがる』を躱す。

そしてそれだけでは終わらず、そのまま反復横跳びの要領でウールーの横腹に蹴りを食らわせた。

 

「メェ!?」

 

躱されて横から蹴りを受けたウールーは蹴りの衝撃によって『ころがる』の方向がずれる。

威力はなかったためダメージは入っていないようだが、止めどころを失ったウールーはバトルフィールドを駆け抜けていき、そのまま庭にある池へとダイブしていった。

 

「ウールー!!?」

 

さっきまでメッソンがいた池に沈んでいったウールーを見て慌てて駆け寄るホップ君。

ウールーはぜぇぜぇと息を吐きながら池から這い上がる。

フワフワの体毛は水を浴びて重たくなり、身体はワンサイズ以上縮こまってしまっている。

 

「うーん、ホップも単調に突っ込ませるんじゃなくて、円状に回ってタイミングを考えたのはよかったが、ゆうりが一枚上手だな」

 

池からウールーを救出しているホップ君を見ながら冷静に戦況を分析するチャンピオン。

しまった!ウールーが池に飛び込む瞬間に横から入っていれば、僕は池に突き落とされることが出来たはず!

くそ、戦況の分析が遅いぞ僕!

 

「さすがゆうりだぞ!次の勝負だ、いくぞサルノリ!」

 

ウールーをボールに戻したホップ君が今度はサルノリをバトルフィールドへ出す。

マスターは今のは自爆でしょっと小さく呟きながらヒバニーに再度指示を出す。

 

「・・・・今のヒバニーはほのお技を使えない。だったらヒバニー!バトルフィールドを飛び回って!」

 

マスターの指示に従ってヒバニーが小さなフィールドを飛び回りながら相手の狙いを定めさせないようにする。

 

「今!ヒバニーたいあたり!」

 

「今度は油断しないぞ!そこだサルノリ!ひっかく!」

 

飛び回るヒバニーをしっかりと目で追っていたホップ君がサルノリに的確な指示を出す。

ヒバニーの『たいあたり』とサルノリの『ひっかく』がぶつかりあい、相殺されるように2人とも衝撃で飛んで距離ができる。

 

「いいね!熱い勝負になってきたじゃないか!」

 

その光景を見たチャンピオンが嬉しそうに声を上げる。

僕も同じようにお互いに技をぶつけ合う二匹を見ながら思いにふける。

 

『たいあたり』に『ひっかく』かぁ。

僕も昔はこの二つには随分とお世話になった。

まだまだレベルが低くて大技を受け止めるほどの体力がない頃、この技達は僕が耐えることの出来る快楽をくれるすばらしい技達だった。

 

しかし時が経ち、数々の大技を受けることが出来るようになった僕は変わってしまった。

今まで多くの『すてみタックル』や『きりさく』を受けてしまった僕はもう、普通の『たいあたり』や『ひっかく』では満足できない体になってしまったんだ。

 

成長というのは時に僕達から大切なものを奪う時があるのだと、身をもって知ったのだ。

 

僕が過去に想いをはせていると、勝負は終わりへと向かっていた。

どちらも傷を負って荒い息を吐きながらも戦い続け、最後はヒバニーの『たいあたり』がサルノリの身体を捉えたことで勝負は決した。

 

マスターもホップ君も同じように荒い息を吐きながらポケモン達をボールへと戻す。

そんな二人にチャンピオンが興奮しながら近づく!

 

「2人ともすごいじゃないか!俺の想像以上に白熱したバトルについ熱中して見てしまった!」

 

「へへ!すごいのはゆうりだよ!俺はゆうりの実力に引っ張られて実力以上の力を出せたみたいなもんだし。あー!でも悔しいなぁ!結局ピカチュウを出させることも出来なかったし!」

 

チャンピオンの言葉を受けて嬉しそうにしながらもすぐに悔し気な表情を受けべるホップ君。

マスターはヒバニーにキズ薬を塗りながらバトルの復習をしていた。

ぶつぶつと呟きながらキズ薬を塗るマスターにヒバニーは少し引いていた。

 

「こんなバトルを見せてもらったのなら、これを渡すしかないな!」

 

そう言ってチャンピオンは懐から何かを取り出してマスターとホップ君へ手渡す。

 

「えっ!兄貴これって、ジムチャレンジの推薦状じゃんか!」

 

「・・・・ジムチャレンジって一年に一度チャンピオンに挑戦できる大きな大会ですよね。私がいただいていいんですか?」

 

マスターの言葉を聞いてすぐにマスターの身体を駆け上ってもらった推薦状という紙を見る。

書いていることは読めないけど、これがあればチャンピオンと戦えるってことだよね!?

 

ひゃっほい!わが世の春がきた!!

 

「もちろんだ!2人の戦いを見たら俺もぜひ戦いたくなったからな!2人が勝ち上がって俺と本気の勝負する時を楽しみにしてるぜ!」

 

「っ!!ありがとう兄貴!俺頑張るよ!」

 

「ありがとうございます。ふふ、これであなたがずっとしたがってたジムバトルに挑戦できるよ」

 

肩に乗っていた僕を抱き締めて嬉しそうに語るマスター。

そうか、マスターは僕のことを考えて喜んでくれていたんだね。

マスターの優しさに心が温まるのを感じる。

マスターの思いに応えるためにも良い勝負(気持ちの良い勝負)をしなくてはいけない。

これからのバトルを想像し、よだれが出そうになっているのに気づき、マスターの服を汚さないために妄想を中断する。

 

「ところでずっと気になってたんだが、はは、寝ぐせがすごいな」

 

「あ、それ俺も思った!ピカチュウが頭の上にいた時は気付かなかったけど、左右の髪がピカチュウの耳みたいに跳ねてるぞ!」

 

「・・・・」

 

チャンピオンとホップ君に笑いながら指摘されて無言で自分の髪を触るマスター。

寝ぐせの箇所を触り、自分の髪型がすごいことになっていると気付いたマスターはボンっと音が出たかのような勢いで顔を真っ赤にする。

今まで寝ぐせのまま町を歩いて、チャンピオンと話し、ホップ君とバトルをしていたことに気付いたようで恥ずかしさで声にならない悲鳴をあげるマスター。

 

「うぅぅぅぅ!!どうして教えてくれなかったの!あなたは私の頭にいたんだから気付いてたんでしょう!」

 

顔を真っ赤にしながら僕を叱るマスター。

どうやら僕はマスターを怒らせてしまったようだ。

マスターは僕を抱き締める力を強めていく、おおふ、マスターの腕が良い感じに僕の首を絞めていく。

理不尽な暴力最高!いいぞもっとやれ!

 

「ヒ、ヒバッ!?ヒバヒバ!」

 

僕の首が絞まっていることに気付いたヒバニーが慌てたようにマスターの周りを跳ね回るが、マスターは羞恥で混乱しているのか周りが見えていないようだ。

マスター、やっぱり僕にとって最高の友達だよ。

そう心の中で呟き、僕は快楽と共に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ドMなピカチュウは『マックスアップ』をくらう

「はい、これ全部飲んでね」

 

家のテーブルいっぱいに液体の入ったボトルを並べながらマスターはヒバニーに向かって口を開く。

 

僕は文字を読むことは出来ないけど、それぞれ中身が違う色をしているから違う種類の飲み物であることはわかる。

 

「ヒ、ヒバ?」

 

僕の横で一緒にドリンクを眺めていたヒバニーがマスターの無機質な声を聞いて困惑したような声を上げる。

 

「これらは君の成長を助けてくれる便利な飲み物なの。例えばこれはタウリンって言ってこれを飲むと君の攻撃の威力を上げてくれるわ」

 

マスターはテーブルにある飲み物の1つをとって説明する。

マスターの説明を聞いたヒバニーは自分の成長を助けてくれると聞いて興味深そうにマスターの持つ飲み物を見る。

 

彼女はまだ気付いていない。

この飲み物がどれだけやばい飲み物なのかを。

 

マスターが興味津々にドリンクを見ているヒバニーに自分が持つドリンクの蓋を開けて手渡す。

彼女はマスターから嬉しそうにドリンクを受け取って匂いを嗅ぐ。

 

「ヒバァァァァ!!?」

 

そして悲鳴を上げた。

 

相変わらず強烈な匂いだ。

マスターはヒバニーが手を離してしまってこぼれそうになったドリンクを掴みながら冷静にヒバニーに説明する。

 

「ヒバニー、飲むだけで簡単に強くなれる飲み物が美味しいと思う?不味いに決まってるよね。あと私が買ってるのは効力の高いものだから特に不味いと評判なんだよ」

 

ヒバニーはマスターの説明を聞いて青ざめる。

テーブルに並べられた大量の飲み物(危険物)を飲めとマスターから言われたことを思い出したのだろう。

 

「私達はこれからジムチャレンジっていうすごく強いトレーナーとポケモンと戦う大会に出るの。そこで戦うことになるポケモン達は君よりもずっと長い間鍛え続けてきたポケモン達で今の私達では勝つのは難しいわ」

 

飲み物から離れようと静かに後ずさる彼女にマスターは鋭い眼光を向けながら説明を続ける。

彼女はマスターの有無を言わせぬ迫力に息を呑んでいた。

 

「それでも私達は勝ち続けなきゃいけない。この子の願いであるチャンピオンのダンデさんと戦うために」

 

マスターは僕に視線を向けながら語る。

マスターは僕がチャンピオンが戦っているテレビを見て、いつか戦いたい(ボコボコにされたい)と願っていることに気付いていたんだ。

僕のために頑張ってくれようとしているなんて、本当にマスターには頭が上がらない。

 

「君にはダンデさんのリザードンを倒すくらいに成長してもらうからね。あなたと一緒にホップ君とバトルした時、あなたにはそれを成し遂げれるだけの才能があるって確信したの」

 

「ヒッヒバァ~」

 

マスターから褒められて照れながら嬉しそうに鳴くヒバニー。

そんなヒバニーを見て薄く笑みを浮かべながらマスターは指をテーブルへ向ける。

 

「じゃあはい、これら全部飲んで」

 

無慈悲に再び告げられた指示にヒバニーは照れた顔のまま表情を凍らせる。

 

「いくら君にすごい才能があってもダンデさんのリザードンと比べると経験も技術も何もかも足りないの。だから少しでもその差を埋めるために、私はこれから君を最高効率で育てあげていく」

 

そう言いながらヒバニーの前に次々と栄養ドリンクを置いていくマスター。

ヒバニーは助けを求めるように僕へと視線を向けてくる。

僕は彼女の視線を受けたまま、自分用にマスターが用意してくれていたドリンクの蓋を手慣れた動作で開けて勢いよく飲み干す。

 

「ヒバッ!!?」

 

僕が何の躊躇いもなく飲み干したのを見た彼女が驚愕と共に声を上げる。

 

んん!不味い!もう一杯!!

一本目を飲み干した勢いのまま二本目、三本目と飲み干していく。

僕専用に用意してくれているドリンクは僕の体力、防御、特防の三つを高めてくれるものらしい。

その三つが高くなれば、技を受けても耐えることが出来るようになるとマスターが教えてくれた。

それを聞いた僕は毎日ドリンクを飲むことを日課にしている。

僕は何の努力もせずに快楽を得ようなんて考えていない。

目標(快楽)のためなら僕は血の滲むような努力だってしてみせる!

 

「ほら、彼は今までずっと飲んできてるんだよ。これを飲んだら甘い果物をあげるから頑張って」

 

マスターはドリンクの一つにストローを刺してヒバニーへと向ける。

ヒバニーはマスターが持つドリンクに近寄り、再び匂いを嗅いで顔をしかめる。

それでも彼女は震えながらドリンクを口へ運ぼうとする。

 

僕はそんな震えながら飲もうとする彼女を見ていられず、そっと彼女の手を掴んで飲むのをやめさせる。

 

僕のように目標のために自分の意志で飲むのならわかる。

でも彼女は違う。マスターの指示だからといって僕の夢のために嫌がる彼女に無理やり飲ませたくはない。

 

僕だったらすごい興奮するけど。

無理やり飲まされて喜ぶのは僕だけだろうし。

 

 

「ヒバァ....」

 

彼女は僕が止めたことに驚き、一瞬だけ嬉しそうに笑った後にドリンクへと口をつける。

そして一瞬の躊躇いの後、一気にドリンクを飲み干した。

 

ドリンクを飲み干した彼女は苦みで目に涙を浮かべながらもこちらへどうだ!っと言わんばかりに笑みを浮かべる。

彼女の魅せてくれた覚悟に僕も笑みを浮かべ、それを見ていたマスターも同じように笑みを浮かべた。

 

「はい二本目ね。あと五本あるから」

 

やりきった顔をしていたヒバニーの前にマスターが残りのドリンクに指をさす。

僕ももう止める気はない。

彼女の覚悟は先ほど見せてもらったのだ、ここで止めるのは彼女に失礼というものだろう。

 

 

彼女なら本当にチャンピオンのリザードンを超える程の力を手に入れるのかもしれない。

そうなったらぜひ僕と毎日バトルをしてボコボコにしてほしい。

僕は期待を込めた目でヒバニーを見つめる。

 

「どうしたの?まだタウリン一個だけだよ?まだまだ飲んでもらわないと。速度をあげるインドメタシンも残ってるんだから」

 

マスターが両手にドリンクを持ってヒバニーへと迫る。

無表情のまま迫るマスターにヒバニーは涙目で後ずさり。

 

「ヒ、ヒバァァァァァァァ!!!」

 

大声を上げながら脱兎の如く家を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

「....本当にあの子はこっちへ行ったの?」

 

「おう!ゆうりの家に行く途中でヒバニーがこっちへ走っていくのを見たぞ」

 

マスターが疑いながらホップ君に尋ねる。

現在僕たちは家出をしたヒバニーを連れ戻すために彼女が逃げたと思われる森の中を歩いていた。

『まどろみの森』とマスターが言っていたこの場所は()()()()()そこら中に霧がかかっていて、彼女を見つけるのには苦労しそうだ。

 

家出をしたヒバニーと入れ替わるようにやってきたホップ君も彼女を探してくれている。

そういえば、どうしてホップ君はうちに来ていたんだろう?

 

「....ホップ君はどうしてうちに来てたの?」

 

僕と同じ疑問を持ったマスターがホップ君に質問する。

ホップ君はマスターからの質問を受けてポケットから何かを取り出してマスターへと手渡した。

 

「ほら、前に俺達がバトルした後に『ねがいぼし』っていう石が降ってきただろ?あれをマグノリア博士がリストバンドにしてくれたんだ。これがあれば俺達もダイマックスができるようになるぞ!」

 

「....そういえばそうだったね。ありがとうホップ君、わざわざ届けに来てくれて」

 

ホップ君からリストバンドを受け取ってお礼を告げるマスター。

よくわからないけど、重要なアイテムなのだろうか?

もしこれが痛めつけてくれる(気持ちよくしてくれる)アイテムならすごく嬉しい。

 

「....ここに来るのも久しぶり。あなたと()()()()()()()のはこの森だったね」

 

「ええ!?ゆうりとピカチュウってこの森で出会ったのか!?」

 

「うん、小さい頃だから記憶が少し曖昧なんだけど、ここで私が迷子になっちゃった時にこの子と出会ったの」

 

マスターがホップ君に僕との出会いの時を説明する。

懐かしいなぁ。マスターと出会ってもう随分と経ってしまった。

昔は昔で楽しかったけど、やっぱりマスターと共に暮らしてきた時間には敵わない。

 

そういえば、あのポケモン達は元気にしているのかな。

 

「迷子になって泣いていた私を森の外に連れて行ってくれたの。その時にこの子が傷だらけなのに気づいて急いで家で治療したんだ」

 

「へぇー!それでそのままゲットして一緒に暮らすようになったんだな!でも、傷だらけだったってのは、その、気になるな」

 

「....うん、きっと他のポケモンにいじめられてたんだと思う。ピカチュウは本来群れで行動するはずだから」

 

マスターは僕を抱き締めながら悲しそうに呟く。

ホップ君も僕に向かって同情したような目線を送ってくれる。

 

うん、それは僕がダメージをうけるために(気持ち良くなるために)わざと喧嘩をしてうけた傷だね。

当時は電撃もうまく使えなかったし、他の技も威力がなかった。

だから全然勝てなくて毎回ボロボロに負けてしまい、とても気持ちよかったなぁ。

 

それに群れから追い出されたのは本当だけど、すぐに幼い僕を育ててくれる良いポケモン達にも出会えたから全く気にしてない。

 

そのポケモン達から戦い方を教えてもらってたけど、彼らが呆れるほど僕は上達しなかった。

せっかく教えてくれていたのにあの頃は申し訳なかったなぁ。

 

そんな風に過去を懐かしみながら進んでいくと、僕の耳にヒバニーの悲鳴が届いた。

 

「ピカッ!!」

 

「え!?いきなりどうしたの!?」

 

彼女の悲鳴が聞こえた瞬間、マスターの腕から抜け出して声がした方向へと全力で進む。

どんどん深くなっていく霧の中を駆け抜け続けていると、僕の視界は野生のポケモンに襲われている彼女の姿を捉えた。

 

僕は四肢に力を溜めて全力の『でんこうせっか』で彼女を襲うポケモンへとぶつかる。

そして僕の攻撃で怯む隙にたたみかけるように『アイアンテール』を加えて森の奥へと相手を吹き飛ばした。

 

そのまま彼女を守るように前に立って油断せずに森の奥へと消えた敵を睨みつける。

 

「ヒッヒバ?」

 

敵からの攻撃に怯えて目を閉じていた彼女はいつまでも攻撃がこないことに困惑しながら目を開ける。

そして、いきなり目の前に僕がいたことに目を見開いて驚いていた。

 

しまった!敵が攻撃を出す前に僕が攻撃して止めてしまった!

相手の攻撃から彼女を庇っていればダメージをうける(気持ちよくなる)ことが出来たというのに!

彼女を守るために焦っていたとはいえ、もったいないことをしてしまった。

 

この後悔を次回に活かすことを脳裏に刻みながら頭を切り替える。

森の奥から敵の怒りの声が届くと共にすごい勢いで僕たちのところへ戻ってくるのがわかる。

 

そして敵が姿を現したと同じタイミングでマスター達が僕へ追いついてくれた。

 

「ピカチュウ!それにヒバニーも!無事でよかった」

 

「ゆうり!それよりも目の前にいる()()()()()が随分と怒ってるみたいだぞ!」

 

「っ!!」

 

マスターは僕たちを見つけて安心した表情をした後にホップ君の言葉で敵を睨みつける。

ホップ君もボールからサルノリとウールーを出してバトルへ備えている。

 

「ん?でもこのマタドガス、けっこうダメージ受けてるぞ」

 

疲れたように息を吐いているマタドガスを見てホップ君が怪訝そうに首を傾げる。

同じく相手を見ていたマスターが僕を見て何かに気付いたのか口を開いた。

 

「....マタドガスのタイプはどくとフェアリー。弱点にはがねがある。もしかして、あなたがアイアンテールを使ったの?」

 

マスターが考察しながら僕へと問いかける。

事実なので頭を縦に振って肯定する。

どうやら僕の『アイアンテール』が僕の予想以上に効いていたようだ。

 

「....相手も弱っているみたいだし、ちょうどいいかな。ヒバニー、私と一緒にあれを倒そう」

 

マスターは僕の後ろに隠れているヒバニーを見ながらそう口にする。

ヒバニーはマスターの言葉でびくりと身体を震わせてマスターへと視線を向ける。

ヒバニーの不安そうな表情を見たマスターは彼女を安心させるように柔らかな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「君もやられっぱなしは嫌だよね。大丈夫、さっきも言ったけど君にはすごい才能がある。こんな敵なんて君なら簡単に倒せるよ」

 

マスターは勝利を確信しているように彼女にそう告げる。

 

「....ヒバ!!」

 

それを聞いたヒバニーは深く頷いて僕から離れて敵へと相対した。

 

 

 

 




感想で『このすば』のドM騎士みたいってあったから、

『だいばくはつ』を使えるポケモンを使って

「私はだいばくはつしか愛せない!(覚えてる技はだいばくはつだけ)」

って言いながら毎回「だいばくはつ(エクスプージョン)」して瀕死になる子出すのも面白いかなと思ったけど、俺の知ってる『だいばくはつ』覚えるポケモンみんなかわいくn

オススメのポケモンいたら教えて


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ドMなピカチュウは『したでなめる』をくらう

やばい、『タウリン』とか使うとなつき度が上がるの知らなかった。
不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
私は知識ゴミクソ野郎です。
ドMになってお詫びします。
タグに独自設定を追加しておきました。

この世界のやつは甘いのから不味いのまであって不味くなればなるほど効果がある感じで。
効果といっても成長を助けてくれる程度(劇的に強くはならない)

それとたくさんの感想ありがとうございます。
『だいばくはつ』の覚えるポケモンや他の技候補が使えるポケモンを教えてくれて助かりました。
感想の中から良さそうなポケモンを探してみます。






僕は物心ついた時から痛みで気持ちよくなってしまうポケモンだった。

 

何かキッカケがあったわけではない。

タマゴから生まれて意識がはっきりとし始めた時から僕はそうだったんだ。

幼い僕は自分の感覚が普通なものだと思っていて、みんな痛いことが好きなんだと信じて疑っていなかった。

それでも当時の僕は坂道を転がり落ちるとか、まだまだコントロールできなかった電撃で盛大に自爆するなどで満足している可愛いポケモンだったんだ。

特に大人のライチュウやピカチュウとの勝負が楽しかったなぁ。

楽しくて毎日勝負を挑んで威勢が良いと褒めてくれてたっけ。

 

そんな僕の素敵な幼少期が唐突に終焉を迎える。

 

なんかもう手っ取り早く気持ち良くなりたくて、他の子達に『殴ってくれ』や『ぶってくれ』なんていう願いを頼んでしまったのだ。

 

そして当然のことながら仲間からは『頭おかしい』とか『馬鹿なんじゃねぇの』などを言われ、最終的には群れから追い出された。

 

その時に僕は初めて自分の感覚がおかしいということを知った。

もう少し早く気づいていれば、僕が群れから追い出されることはなかったのだろうか?

んーどっちしろ我慢できずにバレて追い出されてただろうなぁ。

 

さて、群れから追い出された僕だったけど、当時の僕はそこまで気にしていなかった。

むしろみんなから罵倒されて追い出されたことに少し興奮していた。

でも、僕の感覚が異常なのだとわかり、今まで仲間がいると信じていた僕は少しの寂しさと孤独を抱えていたことは否定できない。

 

今までみんなと一緒にいて、いきなり一人ぼっちになってしまったのだから当然だろう。

 

そんな僕は寂しさを紛らわすために野生のポケモンに戦いを挑み始めた。

今まで群れの近くから離れることが出来なかったので本格的な戦いは出来ていなかったのだ。

 

僕は強くはなかったので当然全て返り討ちにされ続ける。

それでも傷を癒すことなく体力が続く限り戦い続けた。

 

中にはそんな僕を心配して優しくしてくれたポケモン達もいたけれど、みんな僕の異常性に気付くとドン引きしながら離れていった。

 

ドMはポケモンを孤独にする。

僕が野生時代に学んだ教訓の一つである。

 

まぁ、その頃にはもう孤独とか寂しさとかどうでもよくなっていて、ただ自分の欲望に素直になっていただけだったけど。

 

森の中には木の実がいっぱいあったから体力を回復して無限に戦うことが出来たから最高だった。

ちなみにこの時の僕の勝率はゼロである。

 

そんな充実した毎日を送っていた僕の前に二匹のポケモンが現れた。

 

僕が当時寝床にしていた場所がある。

そこは森の一番奥にある神秘的な力を感じる不思議な泉がある場所だった。

そこには不思議と他のポケモンが寄り付かなかったので、本当に休んで睡眠が必要な時にはそこを利用していた。

 

そして今のように深い霧が泉を覆っていた時に彼らはやってきた。

 

そのポケモン達は毎日戦い続ける僕を見ていたようで、ボロボロの姿で休んでいる僕を険しい表情を浮かべながら見つめていた。

 

その二匹は今まで出会ったポケモン達とは格が違う圧倒的な強者の雰囲気を身に纏っていた。

いつもの僕なら嬉々として気持ち良くなるために戦いを挑んでいただろうけど、その時の僕にはそんな気にもなれず、その二匹を呆然と見つめていた。

 

その二匹のポケモンはどちらも痛々しい古傷の跡が身体中に刻まれていた。

それを見て僕は確信した。

 

このポケモン達は僕と同じ(ドM)だと。

 

それも僕なんかとは比べ物にならないほどの歴戦の猛者だ。

彼らに刻まれた傷跡からそれを察した僕は尊敬と畏敬の念を感じながら彼らに弟子入りを申し込んだ。

 

それが僕と師匠達との出会い。

 

その日から彼らは僕のドMの師匠にして育ての父であり、母になってくれた。

 

僕の中に微かに残っていた寂しさは彼らが綺麗に消してくれた。

そして僕は彼らの教えの元、ドM流の戦い方を教えてもらった。

 

彼らの教えによって敵の攻撃を見極めてどこに当たれば、僕は限界ギリギリまで耐えることが出来るのかがわかるようになった。

 

ちなみに結局勝率はゼロのままだった。

 

そんな僕の戦い方はドM道の遥か先を行く彼らからしたら満足のいくようなものではなく、いつもボロボロになる僕を見て呆れていた。

 

自分の才能のなさを心底憎んだのはあの時だろう。

 

そんな彼らに戦い方を教えてもらい傷だらけになりながら(気持ちよくなりながら)M道の険しい道のりを順調に歩みだして一年が経った時。

 

彼らは突然僕の前から姿を消した。

今までも不意にいなくなることはあったけど、すぐにまた現れてくれていた師匠達。

でもどうしてか、師匠達はそれ以来僕の前に現れてくれることはなかった。

 

それからしばらくして、僕はマスターと出会った。

こんな僕と一緒に居たいと言ってくれたマスターと暮らしだし、野生時代と違ったゆっくりとした時間を味わう内に、僕は昔のことを思い出さなくなった。

 

どうして僕が忘れていた昔の記憶を思い出したかと言うと。

 

「....なに、あのポケモン?」

 

「お、俺も見たことないぞ!?」

 

僕の育ての親で、師匠でもある彼らが僕らの目の前に突然現れたからだ。

ヒバニーがマスターの指示によって敵を翻弄して戦闘不能した直後、彼らは霧の奥から現れた。

 

「....私が知らないポケモン?ロトム、図鑑で検索して」

 

マスターが前に手に入れたばかりのポケモン図鑑と呼ばれている機能で彼らの正体を探る。

そしてロトムが検索した答えにマスターとホップ君は驚愕の声を上げた。

 

「図鑑該当なし!?まさか完全に新種ポケモンってこと!?」

 

「ええ!?それってかなりすごいことなんじゃ」

 

あ、やっぱり師匠たちって珍しいポケモンだったんだ。

今まで町で師匠と同じ姿をしたポケモンと会ったことがなかったから不思議だったんだよね。

 

師匠たちは驚愕している僕達を見つめながら構えるように姿勢を落として身体に力を入れる。

向こうから攻めてくる様子はなく、まるでこちらからかかってこいと言わんばかりの態度だ。

 

あ、ずるい!師匠たちは僕達に攻撃させて気持ちよくなるつもりだな!!

 

「なんだか相手は私達とバトルしたいようだね。ピカチュウいける?」

 

師匠たちの闘志を感じ取ったマスターが僕に動けるかを確認してくる。

うーん、僕の貧弱な攻撃で歴戦のドMである師匠たちを満足させられるか不安なんだけど、久しぶりに会えたんだ。僕がどれだけ成長したか見てもらう良い機会なのかもしれない。

僕が頷くのを見て、マスターが師匠達を観察しながら僕へ指示を出す。

 

「よし!いくよピカチュウ!まずはでんげきは!」

 

マスターの指示に従って師匠たちに向かって電撃を飛ばす。

これは10まんボルトのようにダメージは期待できないけれど、相手を痺れさせて動きを鈍らせる便利な技だ。

僕はいつもどうにかして自分で自分に『でんじは』をくらえないか試行錯誤を続けているけれど、未だ開発段階で完成には程遠い。

 

さて、耐久力が僕とは桁違いの師匠たちでも状態異常は別だ。

耐性を持つポケモン以外は強くても弱くても平等に食らう。これには師匠たちも気持ちよくなってくれるはず!

 

そんな僕の期待を裏切るかのように想定外の事態が起こった。

なんと僕の放った電撃が師匠たちの身体をすり抜けたのだ。

 

「っ!?すり抜けた!?」

 

マスターも僕の攻撃がすり抜けたことに驚愕の声を漏らしている。

一瞬僕の電撃が師匠たちの身体を流れていって貫通したように見えたのかと思ったけど、師匠たちは何事もなかったかのように立っていることから違うと判断する。

 

「っ!だったら物理攻撃で!ピカチュウ!アイアンテール!」

 

遠距離技は効かないと判断したマスターが物理技で攻めるように僕へ指示を出す。

僕はマスターの指示に従いながら自身のしっぽを硬質化させて師匠たちの顔面へ向けて振り下ろした。

 

しかし、僕のしっぽは先ほどの電撃と同じように師匠たちの身体をすり抜けてしまった。

そんなどうして!?僕の技ごとき、受けるには値しないと言うんですか!師匠!!

 

師匠たちを満足させようと全力を出した技を受けてすらくれないことに僕は絶望を感じる。

だったら攻守交代してよ!

いくら師匠たちだからってこんな横暴が通ると思ったら大間違いだぞ!!

 

僕が泣きそうになる気持ちを必死に抑えながら師匠たちを睨みつける。

僕がどうにかして師匠たちへ攻守の交代をさせようと考えていると、師匠たちからまるで噴出するかのように大量の霧が周囲を覆い隠した。

 

「な、なに!?ピカチュウ!ヒバニー!」

「うわ!な、なんにも見えないぞ!!」

「ヒバァ!?」

 

深い霧によってマスターたちの姿すら僕の視界から消える。

僕の視界にギリギリ見えているのは近くにいた師匠たちの姿だけだ。

 

師匠たちはゆっくりと僕へと近寄ってくる。

 

そして僕の頬を優しく舐めてくれた。

 

師匠たちは舐められてくすぐったいように目を細めていた僕を見つめた後、ゆっくりと濃霧の中へと消えていった。

霧が晴れた時には師匠たちの姿はどこにも見えなくなっていた。

 

「いなくなった....?」

 

呆然と立ち尽くす僕を抱き上げながらマスターが周囲を見渡す。

僕がマスターに抱かれながら先ほどの師匠たちとのやり取りを思い出す。

 

師匠たち、もしかしてM道を極めたことで透明化が出来るようになった?

僕には透明化でどうすれば気持ちよくなれるのかわからないけれど、それは僕がまだまだ師匠たちの領域へと至っていないということなのだろう。

 

M道は不可能を可能にする。

 

前に師匠たちがこう言っていたような気がしないでもない。

 

僕もだいぶ師匠たちに追いつけたと思っていたけど、師匠たちは僕よりも遥か先を行っているようだ。

自分の至らなさに思わず顔を歪めてしまう。

 

次に師匠たちに会えた時こそ、僕も同じくらいの領域へと至って師匠たちを満足させてみせる。

 

僕は心の中で師匠たちとの再会を固く誓う。

 

マスターはそんな僕を不思議そうな顔で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

ガラル中の人々を魅了した『英雄』ゆうりの物語にはこう書かれている。

 

英雄の相棒『ピカチュウ』はその幼少期から己を鍛え続けていたという。

誰に教えてもらうまでもなく、自分の役目を理解していたのだろう。

 

その勇姿を二匹のポケモンが見つめていた。

 

かつて人間の英雄と共にガラルに災厄をもたらした『ムゲンダイナ』を倒した伝説のポケモン『ザシアン』と『ザマゼンタ』である。

 

近い未来に『ムゲンダイナ』の復活を予期した二匹はこのピカチュウをかつての自分たちのように『英雄』を支える存在へと育て上げることを決意する。

 

これが後に『守護者』と呼ばれるようになるピカチュウと彼らの出会いである。

 

『ザシアン』と『ザマゼンタ』の下で戦い方を学んだピカチュウは、その身に宿る才能を完全に開花させた。

 

その後、彼らからの教えを全て学んだピカチュウは『今代の英雄』ゆうりと出会う。

 

英雄ゆうりとピカチュウは運命的な出会いを果たすのだが、それを語るのは次回にするとしよう。

                                  

英雄物語 第5章『守護者 ピカチュウの過去』

     第6章 『英雄と守護者の邂逅』へと続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事実は全く違う。

 

森で一匹で何度も諦めることなく戦い続ける彼の勇姿を見て、『ムゲンダイナ』の復活に備えて彼を今代の英雄の相棒へと育てようと考える。

 

ここまでは正しい。

 

 

でも彼が余りにも弱かったため、割とすぐに諦めた。

その後は普通に彼を育てて、厳しくもめちゃくちゃ可愛がった。

 

 

彼らはピカチュウが自分たちのことをドMだと思っていることを知らない。

 




『まどろみの森』で出会う『ザシアン』と『ザマゼンタ』ってなんで攻撃がすり抜けたの?
わからなかったのでこのドMはわけのわからない方向へ勘違いしました。




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ドMなピカチュウは『カレー』をくらう

「おお!ここがワイルドエリアか!!」

 

駅から外に出たホップ君が目の前に広がる広大な自然に興奮したように叫ぶ。

 

「ホップ君は元気だね....私はさっさとエンジンシティに行きたかった」

 

それを見たマスターは若干疲れたように感想を漏らしていた。

 

「なに言ってるんだよゆうり!そりゃあ、ウールーの群れでいきなりこの駅で電車が止まった時はびっくりしたけどさ、これはチャンスなんだぞ!」

 

「....まぁ、ワイルドエリアで野生のポケモンとバトルして鍛えれるからね」

 

「それだけじゃないさ!ここで新しい戦力を確保することだって出来るんだからな!」

 

目の前に広がる高原を指さしながらホップ君が興奮したようにマスターへ説明する。

ホップ君の言葉に従って身を向けてみれば、確かに色々な種のポケモンが自由に歩き回っている姿が見える。

 

ここでなら僕を痛めつけてくれるような強いポケモンもいるのかもしれない!

そう判断した僕はホップ君と同じように大はしゃぎで今にもワイルドエリアへ飛び込みたくてうずうずし始める。

 

それを見ていたマスターが薄く微笑む。

 

「あなたも早くワイルドエリアに行きたいんだね。じゃあここでポケモンバトルをしながらゆっくりとエンジンシティに行こうかな。ヒバニーもそれでいい?」

 

「ヒバ!」

 

僕の様子を見てワイルドエリアを探索することを決断してくれるマスター。

ヒバニーもマスターの言葉を聞いて元気よく賛同してくれた。

僕の意思を尊重してくれる彼女達には本当に頭が上がらない。

 

「あ、ちょいちょい2人とも!ワイルドエリアに行く前にちょっと私の説明を聞いてね」

 

僕たちがワイルドエリアに踏み入れようとしていると、後ろからマスター達を呼び止める女性の声が聞こえる。

 

「あ、ソニアだ。なんでここにいるんだ?」

 

ホップ君がこちらへとやってくる人間さんの名前を告げる。

あの人って確かマスターにポケモン図鑑の機能をあげていた人だったような。

なんとか記憶を探って目の前の女性の記憶を探し出す。

僕のことを痛めつけてくれる人のことならすぐに思い出せるんだけど。

 

「おばあちゃんにあなた達が旅に出るのにあなたが何してるの?って怒られたの!それはそうとワイルドエリアで大型のポケモンはとても強いから戦う時は気を付けてね」

 

よし、大型ポケモンを探そう。

ソニアさんの言葉を聞いて目を皿のようにして周囲を見渡す。

 

「それともう一つ!ここではたまにガラル粒子が集まって光の柱が形成される時があるの。その光の付近で野生のポケモンがダイマックスしてるからね。君たちはまだまだ弱いんだから近づいちゃダメだよ。出会っちゃった時は君たちもダイマックスして戦うこと!いいわね!」

 

「わかった!ありがとうソニア!」

 

ソニアさんからのアドバイスに笑顔でお礼を言うホップ君。

そしてお礼を行った後に早々にワイルドエリアへ向かって走り出してしまう。

ずるい!大型ポケモンは僕の獲物だ!

 

ホップ君を追いかけるように僕も駆け出す。

それを見たマスターとヒバニーが慌てて追いかけてくる。

 

むむむ!あそこにいるのは『イワーク』じゃないか!?

 

めちゃくちゃ大型だひゃっほう!!

 

駆け出して早々に獲物を見つけた僕は大はしゃぎでマスターとヒバニーに『イワーク』の場所を伝える。

 

「あれはイワークだね。あなたはあれと戦いたいの?」

 

僕が指さす先にいた『イワーク(獲物)』を見て僕の意志を確認するマスター。

僕が頷くのを見たマスターは考え込むように手を顎に当てて無言になる。

 

「よしいこう!あなたが戦いたいのなら私は全力でサポートするよ」

 

「ヒバッ!?」

 

まさかのマスターのGoサインに驚愕の声を上げるヒバニー。

きっとソニアさんからの注意を思い出しているんだろう。

僕だって当然覚えているとも、だから行くんだよ!

 

「安心して、危ない時はピッピ人形を使って逃げれるから」

 

マスターは不安そうなヒバニーを安心させるように彼女にデフォルメされたポケモンの人形を見せる。

マスターは彼女にこれを囮に使えば野生のポケモンから逃げられると説明している。

そんなものなくても僕が囮になるのに。

マスターからの説明を聞いたヒバニーは不安を残しながらも戦うことを承諾してくれた。

 

ごめんね、敵からの攻撃は全部僕がもらうから安心して。

彼女を守るために(僕の快楽のために)も僕は常に前線で戦い続けるとしよう。

 

ふへへ、『イワーク』の身体、すごく長くて堅そうだなぁ。

あんなのくらったら僕はどうなっちゃうんだろう。

 

相手の身体を見ていけない妄想をしてしまう僕。

そんなことを考えている内に相手が僕達へ気付いたようで戦闘態勢へ入るのが見えた。

『イワーク』は大きな口を開けてこちらに何かを放とうとしているようだ。

 

んー口の中にエネルギーも火も溜まってないな。じゃあ目に映らない衝撃波とかかな?

敵の構えから相手が繰り出そうとしている技を予想する。

同じく『イワーク』の構えを観察していたマスターが僕達へ指示を飛ばす。

 

「ピカチュウ、ヒバニー!耳を閉じて!」

 

マスターからの指示にヒバニーはすぐに耳を閉じる。

マスターからの指示に僕はすぐに()()()()()()()をする。

 

マスターからの指示に従った(従ってない)後に敵の口からとても不快な金属音のような音が放たれる。

これは『いやなおと』かな?

耳に音が入り込んで身体が強烈な不快に襲われる。

これを受けると僕の防御力が下がっちゃうんだよね。

 

それはつまり通常の攻撃がいつもの二倍の痛み(気持ち良さ)がくるということ。

やはり僕の判断は間違っていなかった。

 

ただしその分体力の減りも激しいからマスター達を守るためにも体力調整には気を付けないとね。

僕の趣味で彼女たちが傷ついてしまうのは僕の矜持に反する。

 

僕が戦っている時に傷ついていいのは相手と僕だけなのだから。

 

「やっぱり『いやなおと』だったね!読めてるよ、ピカチュウ、ヒバニー!『でんこうせっか』で相手の周りを回って!」

 

相手の攻撃を予想していたマスターが僕達へ次の指示を飛ばす。

僕とヒバニーはマスターの指示に従って相手のターゲットを固めさせないように周囲を高速で移動する。

 

「ピカチュウ『アイアンテール』!ヒバニーは彼が攻撃した後に『ひのこ』で敵の注意を逸らして!」

 

マスターの指示にしたがって『でんこうせっか』で高まった速度のまま渾身の『アイアンテール』を相手の顔に叩き込む。

 

固いなぁ。

 

しっぽに伝わる衝撃(気持ち良さ)に頬を緩めながら相手の防御力に驚愕する。

それでも相手は『はがね』に弱いので痛そうに顔を歪めた後にこちらを睨め付けてくる。

僕へ攻撃をしようとした直後、顔の横っ面にヒバニーの『ひのこ』が直撃する。

 

あまり効いてはいないようだけど、何度も直撃する『ひのこ』に鬱陶しそうにヒバニーを睨め付けていた。

僕から視線が逸れた隙にもう一度相手の顔に『アイアンテール』を叩き込んでやる。

 

さっさと僕に攻撃してよね!!

 

マスターの指示とはいえ、相手がヒバニーに注意が逸れて僕への攻撃が中断されてしまった。

僕は楽しみにしていた攻撃を受けれなかったことの怒りをしっぽに込めて叩き込む。

 

僕の攻撃が効いたのかイワークは呻き声を上げながらその巨体を地面へと倒す。

相手が地面へと倒れたのを見て倒したと思ったのか嬉しそうに鳴くヒバニー。

それを見ていたマスターがヒバニーへ注意を送る。

 

「ヒバニー、まだ相手は戦闘不能になってないよ。油断しちゃダメ」

 

マスターがそう言った直後、相手はその巨体を起こしながら戦意をなくすことなく僕達を睨みつけてくる。

そしてその視線を地面へと向けてその巨体を地面へと潜り込ませた。

 

「っ!!『あなをほる』ね!ピカチュウ、ヒバニー!足元に注意して!」

 

イワークが地面へと潜るのを見たマスターが冷や汗を流しながら僕達へ警告する。

 

『あなをほる』きた!!僕の大好きなじめん技だぁぁぁぁ!!!

マスターとヒバニーが地面を睨みつけるように観察する中、僕は内心で喜びで踊りまわる。

 

僕に来い!絶対僕に来いよ!ヒバニーに、ましてやマスターに手を出したら許さないからな!!

しかし、僕の願いを裏切るかのように地面が大きく振動する。

その発信源は、ヒバニーの足元だ。

 

それに気付いた僕はヒバニーの元へ全力の『でんこうせっか』を使って走った。

 

「ヒバッ!!?」

 

僕がヒバニーに『でんこうせっか』でぶつかった直後、彼女がいた場所にイワークが飛び出してくる。

ヒバニーと入れ替わるように彼女の位置にいた僕は当然イワークの攻撃が直撃する。

 

ピカァァァァァァ!!(きたぁぁぁぁ!!)

 

「ピカチュウ!!」

「ヒバァァ!!?」

 

衝撃で上空へと浮かび上がった僕にマスターとヒバニーが悲鳴を上げるように僕の名前を呼ぶ。

ふふふふ!!『いやなおと』で防御力が減っていたのもあってすごいダメージ(気持ち良さ)だ。

 

でも僕を倒すにはまだ足りないね。

75点といったところか。

威力はよかったけど、僕を倒すには君自身のレベルが足りない。

僕は空中で縦に一回転しながら攻撃態勢へ入る。

 

そして穴から勢い良く飛び出したことで僕と共に空中にいたイワークの頭に三度目の『アイアンテール』をくらわせる。

僕の攻撃を受けたイワークは空中から勢いよく地面へと叩きつけられ、そのまま目を回して起き上がることはなかった。

 

「ピカチュウ!!大丈夫なの!?」

「ヒバァ!!」

 

空から帰還した僕にマスターとヒバニーが抱き着いてくる。

うん、あと二、三回はいけるかな。

 

「待っててね!すぐにキズ薬をあげるから!」

 

あ、お構いなく。

 

毎度のことながら、僕の言葉はマスターに届くことなく明らかに過剰な量のキズ薬で僕は完全回復することになった。

しかもあの後からは大型ポケモンとのバトルが禁止にされてしまった。

くそう!さっき『ハガネール』がいたのにあんまりだ!!

 

僕が『ハガネール』へ無断で飛び込もうとした後、マスターは僕を抱えながら移動するようになってしまい、全く戦闘をすることが出来ずに夕方になってしまった。

 

夕方になったことで僕たちはマスターが持っていたテントを立てて夜へと備える。

僕はテントの杭をしっぽで打ち込み、ヒバニーはテントの布を整える。

マスターは夕食の準備を行っていた。

 

マスターは料理が楽しいのか鼻歌を歌いながら作っている。

どうやらカレーを作っているようだ。

 

ずっと動きっぱなしだったことで僕もお腹はペコペコだ。

 

「ヒバァ....」

 

僕がお腹をさすりながら料理の完成を待っていると、申し訳なさそうに俯きながらヒバニーがこちらへやってくる。

うむ、どうやら先ほどの戦闘で僕が彼女を庇って攻撃をくらったことを気にしているようだ。

あれは彼女を助けるためというのも当然あったけど、それ以上に僕が気持ちよくなりたくて勝手にやっただけなのだ。

だからあれは自分の欲望のためにやっただけで本当に彼女が気に病む必要はない。

 

その思いを伝えるべく、彼女の頭を優しく撫でる。

僕に撫でられた彼女は最初は驚いていたけど、次第に嬉しそうに笑顔を見せてくれるようになった。

 

「ピカチュウ、ヒバニー!ごはんが出来たよ!」

 

「ヒバァ....」

 

マスターの声を聞いて彼女を撫でるのをやめてマスターの元へと向かう。

彼女から名残惜しそうな声が聞こえたけれど、そんなに気持ちよかったのだろうか?

僕としては撫でられるよりも殴られるほうが遥かに気持ちがいいのでよくわからない。

 

 

「さぁ、どんどん食べてね!自信作なんだから!」

 

マスターは簡易机にカレーを置きながら僕達へ笑顔を向ける。

僕の目がおかしいのかな、なぜかカレーから黒い靄が見える。

今までもマスターのお母さんがカレーを作ってくれることはあったけど、こんな黒い靄はなかった。

 

「ヒ、ヒバ?」

 

ヒバニーもマスターが作ったカレーを見て不思議そうに首を傾げている。

 

「カレーを作るのは初めてだけど、愛情(栄養ドリンク)もいっぱい入れたから君たちが強くなるのに役に立つはずだよ!」

 

いま愛情(栄養ドリンク)って言った?

 

「ヒ、ヒババババババ!!?」

 

マスターの言葉を聞いたヒバニーが壊れたように鳴く。

どうやら未だトラウマ(栄養ドリンク)を克服出来てはいないらしい。

 

 

「ん?どうしたの?」

 

マスターはヒバニーの反応の意味がわからずに首を傾げる。

マスターって本当にストイックだよね。

きっとマスターの自信作というのは味というよりも効果のことを言っているんだろう。

 

僕は自分用に用意してくれたカレーを勢いよく食べ始める。

せっかくマスターが用意してくれたのだ、たとえ不味くても全部食べ切るのはペットとして当然である。

 

マスターは僕がカレーを食べきるのを見て嬉しそうに『おかわり』をついでくれる。

あ、これ無限ループするやつだ。

僕が食べきるとマスターがカレーをついでくれる。

マスターも初めて作った料理をたくさん食べてくれて嬉しいようだ。

 

マスターは僕が食べきるとすぐに『おかわり』をついでくれるので僕もほとんど強制的にカレー(劇物)を口にする。

いいね!このシチュエーションなら僕はいくらでも食べれそうだ!!

 

強制的にカレー(劇物)を口にしなけばならない状況に僕は喜んで食べ続ける。

この後、僕は食べ過ぎた反動で腹痛を起こした。

 

腹痛を感じながら、僕はまたマスターのカレーを食べようと誓った。

 

 




ゆうり
『性格』
残念な性格

『特性』
好きな子には尽くす
努力家
隠れ巨乳
メシマズ New


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ヤンデレなスボミーは『どくのこな』をくらわせる

感想ありがとうございます。
大切に読ませてもらっています。
執筆を優先しているために返事が出来ずにすいません。

また誤字報告もありがとうございます。




今日もあの方に会えませんでした。

 

ご主人様のお家の庭先であの方が来るのを待ちますが、いつまで経ってもあの方が訪れることはありません。

 

 

 

ああ....もう47時間34分20秒もあの方に頭を撫でていただけておりません!!

 

 

 

私の身体は長らくあのお方に会えていないために禁断症状が出たかのように震えます。

 

お家の中を覗いてみましたが、どうやらまだあの方は家にお帰りになっていないようです。

 

一日だけならわかりますが、二日も帰ってこないというのはおかしいです。

 

もしかしてどこか遠くへ行かれてしまったのでしょうか?

 

情報を集めるため、ご主人様の庭先で張り込みを続けます。

 

この時間達にはご主人様の家の人間様が庭先の手入れを行うはずです。

 

もしかしたら何か情報を得られるかもしれません。

 

私が庭先の茂みで息を潜めていると、タイミングよく家の玄関の扉が開いて人間様が姿を現します。

 

「ふぅ、今日も暑いわねぇ。あの子はちゃんとエンジンシティに着けたのかしら?」

 

人間様はそう口をこぼしながら庭先の手入れを始めます。

 

『エンジンシティ』にどうやらこの家の方が向かったようですね。

 

もしその方がご主人様のトレーナーである場合、ご主人様も一緒に行動しているはず。

 

そうとわかればじっとなどしていられません!

 

さて、問題はその『エンジンシティ』とやらの場所です。

 

私は人間様の住まれている場所の名称も文字の読み方も知らないのでこのままではご主人様の元へたどり着くことが出来ません。

 

私が悩んでいると、ご主人様の家に別の方がやってきました。

 

その方は庭の手入れをされている方に話しかけ、何か気になることを話始めます。

 

「さっき息子から電話があったんですけど、エンジンシティに向かう電車が止まったらしくて、あの子達は途中のワイルドエリアにいるみたいなの」

 

「ええ!?ワイルドエリアって町から離れてた野生のポケモンがいる自然地帯ですよね。あの子大丈夫なのかしら」

 

人間様たちは心配そうな顔で話を続けています。

 

ふむ、どうやら『エンジンシティ』ではなく野生のポケモンが多くいる町ではない場所にいるようですね。

 

ならば建物がない野生のポケモンが大勢いらっしゃるところへ行けば、ご主人様に会えるのかもしれません。

 

これで場所はわかりました。

 

あとはそこへどうやって行くかですね。 

 

歩いて?いえ、遠かった場合は辿り着けません。

 

人間様の乗り物に乗って?その乗り物がどこへ向かうのか私にはわかりません。

 

んー何か良い案はないでしょうか。 

 

私は頭を悩ましていると、私の視界の上を何かが通り過ぎていくのは見えました。

 

あれはココガラ(鳥ポケモン)ですね。

 

ご主人様の家の屋根に止まったポケモンを観察します。

 

サイズは小さいですが、あれなら私程度なら乗せて飛ぶこともできるかもしれません。

 

屋根の上でのんびりと羽を休めている間に『つるのムチ』で屋根へと上がり、相手の背後へと気付かないように移動します。

 

そして、相手の首へ展開したムチをゆっくりと伸ばし、一気に締め付けます。

 

「ピギャ!!?」

 

油断しているところに私のムチが首に巻き付いたことで短い悲鳴が上がります。

 

そして私のつるを巻き付かせたまま慌てたように空へ飛ぼうとしていましたので、もう一本ツルを出し相手に背中へ飛び移った私が落ちないように相手の身体へと巻き付けます。

 

 

 

上手く行きました。あとはこの子に空を適当に進んでもらってそれらしき場所で下してもらいましょう。 

 

「ピギャ!ピギャ!!」

 

私が許可もなく背中に乗ったことを怒っているようで、私を振り下ろそうと暴れてきます。

 

この子の身体にムチを巻き付けているので振り落とされる心配はありませんが、少し鬱陶しいですね。

 

「ピッギィ!!?」 

 

首と体へ巻き付いたムチの締め付ける力を強めつつ、軽めのどくを放出します。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ピ、ピギョ....」 

 

私のお願いが通じたようで、それ以降大人しく上空を飛んでくれるようになりました。

 

たまに間違った方向へ行くのでムチで首を絞めて方向を調整しつつ、優雅に空を滑空し続けます。

 

 

 

そして空の旅をしばらく続けていくうちに、それらしき場所へ辿り着きました。

 

広大な大地に多くの種類のポケモン達が闊歩している姿が見えます。

 

そしてその中には人間様がポケモンを連れて歩いている姿も見えます。

 

前方に目を向けると私のいたところより遥かに大きい建物がある街があり、もしかしたらあそこが『エンジンシティ』なのかもしれません。 

 

とりあえずこのまま上空からご主人様の姿を探そうと思っていたのですが、どうやらこの子の体力に限界がきてしまったようで、やむを得ず陸へと着陸します。

 

 

陸へと到着したこの子は長い間私を乗せて飛んでいたためかグッタリと地面へ倒れてしまいます。

 

この様子ではしばらく飛ぶのは難しそうですね。

 

仕方ないので自身の足で歩いてご主人様を探し始めます。

 

しかし、こうも広大な場所ではご主人様を見つけ出すのに苦労しそうですね。

 

私が未だ会えそうにないご主人様の姿を思い出してため息を吐いていると、私の立っている地面が振動を始めました。 

 

これは....地面の下に何かいるようですね。

 

私はそう確信し、油断することなく辺りを注視します、すると私の前方の地面が盛り上がり、大型のポケモンが姿を現しました。

 

随分と大きなイワーク(ポケモン)ですね。一体私の何倍あるんでしょうか。

私が初めて見る大きさのポケモンの姿に驚いていると、相手は私を敵として認識したのか威嚇するように大きな咆哮を口から吐き出しました。

 

ふむ、何やら苛立っている様子ですね。

私はご主人様探しで忙しいので八つ当たりはやめていただきたいのですが。

 

私がそうお伝えするも相手には伝わるはずもなく、私へ向かってその巨体をくねらせながら突進をしてきます。

咄嗟にムチを近くの木へ巻き付け、勢いよく引いて自分を木のほうへ飛ばして攻撃を躱します。

というか随分とボロボロですね。

見れば相手はすでに傷だらけで、体力もないのか荒い息を吐いています。

 

そんな状態で私を相手にしようとは舐められたものです。

 

私がご主人様とお会いしていない時間に毎日己を鍛え続けて参りました。

全てはあの方に相応しいポケモンとなるため。

あの方に敵対する者全てを猛毒で侵し尽くすために私は鍛錬を続けて参りました。

 

そんな私に万全な状態でもないのに挑もうなどと....すごく不愉快です!

 

私はムチを展開して次々に木へと移り回って高速で移動します。

そして私が木の裏に回って相手の視界から消えた隙に茂みの中へと潜み、相手の視界から消えます。

私の目論見通り、相手は私を見失ったようです。

 

相手に見つからないように茂みの中を進み、限界まで近づいてところで相手の身体にツルを巻き付けて一気に相手へ接近します。

そしてそのままの勢いですれ違いざまに相手の身体に『どくのこな』と『やどりぎのタネ』をくらわせます。

 

「グォォォォ!?」

 

相手が私の攻撃で怯むのを確認してムチを相手の身体から離して飛んだきた勢いのまま再び木へムチを巻き付けて高速移動を再開します。

 

あの二つの技さえ当たればもはや私の勝ちです。

ふふふ、後はじっくりと可愛がってあげます。

 

私の『どく』と植え付けられた『タネ』でただでさえ少なくなっていた体力が奪われてしまいましたね。

程なくして相手はその巨体をゆっくりと地面へと倒していきました。

 

私は動けなくなった相手の傍に移動して植え付けた『やどりぎのタネ』を解除します。

死なないように調整したのですぐに『どく』は解けるでしょう。

私の本気の『どく』をくらっていたらもっと酷いことになっていましたよ?

今回はご主人様を狙ったわけではありませんでしたのでこれくらいで許してあげます。

 

でも、もしもあなたがご主人様を傷つけるようでしたら....絶対にこの程度は済ませません。

生まれてきたことを後悔させてあげます。

 

「グ、グォ....」

 

私の思いが通じたようで、相手は震えながら頭を動かして頷いていました。

ふふ、これでまた一匹、ご主人様への敵が減りました。

 

私は上機嫌でご主人様探しを再開します。

私の勘がご主人様が近くにいると囁いている気がします。

 

ああ、早くお会いしたですご主人様。

早く私の頭を撫でてくださいませ!

 

 

私がご主人様との再会を想像して歓喜に震えていると、私の身体が光り輝き始めます。

光は私の身体を覆いつくし、光が収まった頃には私は別の姿へと変わっていました。

 

これは....どうやら私の身体は進化をしたようですね。

 

新たに得た身体の調子を確かめるように動かす。

両手に生った花には私が今まで鍛えてきた『どく』が蓄積されていることがわかります。

この身体でなら、もっと強力な『どく』を作り出すことが出来そうですね。

 

ああ、これでさらにあなた様のお役に立つことが出来そうです。

これも全て私のご主人様への愛が成せるものですね!

 

「あれ、おかしいなぁ。確かにここら辺が光ったと思ったんだけどな」

 

私の進化の際に発した光を見ていたのか人間様が私の下に寄ってきます。

その人間様は私の近くで倒れるイワーク(ポケモン)を見て驚いた表情なさっていました。

 

「うわ、イワークが倒れてるぞ!しかもこれってどく状態になってる?」

 

人間様はポケモンの状態を見てどく状態になっていることに気付きました。

そしてその後に近くにいた私へと視線を下ろします。

 

「も、もしかしてお前が倒したのか!?」

 

相手はもともと弱っていましたが、私が倒したのは事実ですね。

なので相手の質問に顔を縦に振って肯定します。

ところでこの人間様、どこかでお会いしたことがあるような?

 

私が記憶の中を探っていると、人間様は懐からモンスターボールを取り出すのが見えました。

 

おや?

 

「イワークを倒すなんてお前すごく強いんだな!だったら捕まえて今度こそゆうりに勝ってみせるぞ!」

 

人間様はモンスターボールからポケモンを出して戦闘態勢に入ります。

どうやら私を倒してそのまま捕獲したいようです。

 

私を捕まえる??

人間様の手にあるボールを見て意味をよく考えます。

そして頭が完全に理解した瞬間、何か私の中で糸のようなものがプッツンと切れたことを理解しました。

 

私を捕まえていいのはご主人様だけです!!!

ましてや私と力量差も考えずに私を捕まえようとはふざけるのもいい加減にしてほしいです!

 

 

ああ、思い出しました。

あなた、ご主人様のトレーナーと一緒にいた人間様ですよね?

あなたがここにいるということは、ご主人様のトレーナーも一緒にいるということ。

そしてご主人様もその近くにいるということ!

 

どうやらあなた様に聞くことが出来たみたいです。

私の言葉はあなた様には通じませんので、あなた様のポケモンを全て瀕死状態にしようと思います。

そうしたら助けを求めるためにご主人様のところへ行きますよね?

 

私はその後をついて行かせてもらいます。

 

 

ふふふふふ!私の勘は正しかったようですね!

 

私は両手から『どくのこな』を噴出させながら笑みを浮かべます。

それを見た人間様とポケモンは怯えるように一歩下がります。

心配しなくても『もうどく』は使いません。

 

人間様達にはご主人様の下へ案内していただかなくてはいけませんので。

 

 

ふふ、もうすぐお会い出来そうですね、私のご主人様。

 

 

 




この世界には、つるのムチ(立体起動装置)を使って高速移動するスボミーがいる。

スボミーの進化条件
なつき度を上げた状態でレベルアップ。

(ピカチュウへの)なつき度 カンスト済み
    
 イワークとの戦闘でレベルアップ。

あめでとう!スボミーはロゼリアに進化したぞ!!

通常のロゼリアより強力な毒を持っているせいで両手の花の色が深い赤と青になっているぞ!
毒が強くなればなるほど色が濃くなっていき、最終的には両手とも真っ黒になr



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ドMなピカチュウは『ひのこ』をくらう

「はぁ....やっと着いたぁ」

 

マスターが到着した『エンジンスタジアム』を見て疲れたように息を吐く。

 

大きい建物だなぁ、こんな大きなの僕らが住んでいるところにはなかったよ。

僕の身長では見上げても頂上まで見ることが出来ない。

僕が建物を見上げていると横でヒバニーも同じように建物の大きさに圧倒されている。

 

「ふふ、あなた達も大きな建物にびっくりしてるんだね。私も初めて見たよ」

 

マスターはそんな僕達を微笑ましく見つめた後に僕達を連れてスタジアムの中へと入る。

中にはすでに大勢の人たちがいて、それぞれのパートナーのポケモンと一緒にいる。

 

「ホップ君は....まだ来てないみたいだね」

 

マスターは周囲を見回してホップ君がいないか確認するけれど、見つけられなかったようだ。

僕も一緒に探してみたけど見つからない、もしかしてまだ『ワイルドエリア』にいるのかな?

 

「待っててもしょうがないし、先に受付を終わらせようかな」

 

ホップ君がいないことを確認したマスターは『ジムチャレンジ』を受けるためにスタジアム内の受付場へと進む。

しかしどうやら先客がいたみたいで、僕たちの前に別の人間の姿があった。

マスターと一緒にその男の子の後ろに並んで少し待っていると、作業が終わったのか反転して僕たちの横を通りすぎていく。

 

「ふっ」

 

そしてすれ違いざま、マスターを値踏みするかのように見る。

最後に僕へ視線を移した後、バカにするかのように鼻で笑って去っていった。

 

ふむ....どうやら彼とは良い関係を築いていけそうだ。

あの僕を見下す視線、なかなかに良かった。

ぜひとも彼とバトルをする時は同じようにバカにしてほしい。

 

僕が内心で彼へ好感を抱いていると、マスターとヒバニーから強烈なプレッシャーが放たれた。

 

「あいつ今、あなたをバカにしたよね?絶対に許さない.....ボコボコにして泣かせてやる」

 

「ヒバァ!!」

 

どうやら僕がバカにされたことを怒ってくれているみたいだ。

でも僕は全然気にしてない、というか嬉しかったくらいだから怒りを納めてほしい。

周りの人もマスター達を見て怖がってるし。

 

「あ、あの受付を....」

 

受付嬢にいた人間の女の人が若干怯えながらもマスターへ案内をする。

マスターは去っていた男の子を最後まで睨みつけた後に無言で手続きを行った。

大丈夫かなあの人?マスターに酷いことされなければいいんだけど。

 

「さ、最後にユニフォームの番号を決めてください!三桁以内の数字で決めていただければ結構です」

 

「背番号?うーん....」

 

マスターは机の上に浮かんでいる文字、たぶん数字というものを見つめながら悩んでいる。

しばらく悩んだ後、僕を抱えたかと思うと、机に表示されている文字を指さした。

 

「あなたに決めてもらおうかな、どれでもいいから好きなところを触って」

 

マスターは僕を抱えて僕の指が届くところまで連れて行ってくれる。

僕読めないんだけど、本当に適当でいいのかな?

マスターの言葉に従って適当に触る。

 

「186ですね。一度登録するとこれ以降は変更することは出来ませんが、よろしいですか?」

 

「はい、あなたが選んでくれた数字だもの、絶対変えたりなんかしないよ」

 

受付の人の言葉に即答するマスター。

それで手続きは全て終わったのか、明日の開会式に備えてホテルで休むように言われる。

マスターはその言葉に従ってスタジアムを後にしようとした時、入口の扉が開いてホップ君が現れた。

 

「うへぇ、やっと着いたぞ....」

 

見るからに疲れきった様子のホップ君。

それを見たマスターは呆れながら声をかけた。

 

「遅かったね。私はもう受付終わらせちゃったよ」

 

「いや聞いてくれよゆうり!めちゃくちゃ強いロゼリアがいてさ!そいつを捕まえようとしたんだけど、俺の手持ちのポケモン全員どく状態にされて返り討ちにあってさ。慌ててポケモンセンターに飛び込んだよ」

 

ホップ君がマスターに『ワイルドエリア』で出会ったという『ロゼリア』というポケモンの話をする。

マスターはそれを噓くさそうに聞いていた。

 

「ロゼリア一匹に負けたの?それは油断しすぎ」

 

「本当に強かったんだって!普通のロゼリアよりなんか両手のバラの色も濃かったし、絶対普通じゃない!」

 

「ふーん....」

 

マスターとホップ君の話を聞きながらその『ロゼリア』というポケモンのことを考える。

そんなに強力などくを使うのかぁ、それは一度はくらっとかないといけないね。

あとでこっそり『ワイルドエリア』に行ったら会えないかな?

 

強力などくを使うというポケモンのことを考えていると、彼女のことを思い出した。

彼女には悪いことをしちゃったなぁ。

僕が旅に出ることを伝えたかったんだけど、彼女は朝以外の時間にどこにいるか知らないから伝えることが出来なかったのだ。

そもそも言葉が通じないから伝えられたか怪しいけど。

 

帰ったらお詫びにおいしい水をいっぱいあげないと。

 

「ヒバァ....?」

 

僕が難しい顔をしていたのが気になったのか、ヒバニーがこちらを心配そうに覗き込んでくる。

僕は彼女を安心させるために優しく頭を撫でてあげた。

 

「ヒバァ」

 

僕が頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めるヒバニー。

そういえばスボミーも撫でられると喜んでいたっけ。

僕としては殴られてるほうが絶対良いと思うんだけど、普通の子は撫でられることが気持ちいいのかもしれないね。

 

「ねぇ聞いて、さっき受付の時にすごく嫌な男の子がいたの」

 

どうやらマスターは先ほどの件をホップ君へ愚痴り始めたようだ。

ホップ君は受付場へと歩きながらマスターの話を聞いて怒りの声を上げている。

どんどんあの子の敵が増えて行ってるなぁ、いいなぁ。

 

僕もああいう感じの態度でいればボコボコにしてくれたりするのかな?

僕が一匹で妄想の世界へトリップしている間にマスターがホップ君の手続きを手伝ってあげていたようであっという間にホップ君の手続きが終わる。

 

これで後はホテルでゆっくり明日を待つだけだ。

僕達は仲良く話しながらホテルへと向かっていった。

 

僕達を()()()()()()()()()()()()()()()()ことを知りもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは何ですか?

私の目に映る光景を見て素直な感想が漏れます。

 

いえ、私の脳内が理解することを拒絶しているのでしょう。

私を捕獲しようと愚かにも戦いを挑んできた人間様とポケモンをどくにして追い返し、その後を付いていく内にここへと辿り着きました。

 

そして中に入ると予想どおり私のご主人様のお姿を見つけることが出来ました。

 

ああ....!!78時間49分50秒ぶりのご主人様です!!

お会いしたくてたまりませんでした!

 

ご主人様を見つけた私は歓喜に震えながらご主人様の元へと向かおうとした時、そのポケモンが目に入りました。

そのポケモンがあろうことか、ご主人様へと近寄って話しかけ、あまつさえ頭を撫でてもらっていました。

 

はぁ?

 

その光景を見た瞬間、私の両手からもうどくが漏れます。

私の花から垂れたもうどくが地面へ落ち、地面を溶かしたような煙が出ていました。

しかし私はそんなことは一切気にすることなく目に映るメスポケモンを睨みつけます。

 

ご主人様に頭を撫でられてた。

ご主人様に頭を撫でられてた。

ご主人様に頭を撫でられてた。

 

同じ言葉が何度も頭の中で流れ続けます。

本来であれば私があそこにいて、私がご主人様に撫でていただけているはずなのに!!

 

どうやら身の程も弁えずにご主人様へ近寄るあのポケモンには()()が必要みたいですね。

 

 

私は冷めた目でご主人様へ笑いかけているメスポケモンを見ながらどのように教育をするかを考えます。

ご主人様、ご安心ください。

あなた様を誑かす悪いメスポケモンは私が全て排除致します。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか受付が騒がしいぞ」

 

僕達がホテルへとやってくると、何やら騒ぎが起きているのか何人かの人達が受付に集まっていた。

どうやら騒ぎを起こしているのは同じような恰好した男女四人のようだ。

 

「なぁ、受付が出来なくてみんなが困ってるぞ!」

 

ホップ君が騒ぎを起こしている人たちへ話しかける。

ホップ君の声を聞いた四人は怖そうな顔を受かべながらこちらへとやってきた。

 

「変な恰好....」

 

マスターが小さな声でそう口にする。

確かにマスターやホップ君が着ている服と比べると明らかに違う。

 

「俺達はわざわざ田舎から彼女の応援をしに来たんだ!邪魔するのならバトルだ!」

 

「いいぞ!ポケモンセンターで回復したばかりだから俺のポケモンは万全だ!」

 

ホップ君と四人組の人達が今にもバトルを始めようとモンスターボールを構える。

僕もバトルと聞いては黙ってはいらない!ぜひとも混ぜてもらわないと!

しかし、僕が戦闘態勢に入るためにマスターが彼らに声をかけた。

 

「あの....やるなら外でやってくれませんか?ホテル内でバトルして室内の物を壊したら弁償ですよ?」

 

「「あ、はい」」

 

マスターの言葉にホップ君を含めた全員が素直に頷いて外へと向かう。

僕もみんなについて行こうとすると、マスターが僕を抱き上げて受付へと向かった。

 

「面倒くさいことになりそうだし、後のことはホップ君に任せて私達はホテルで休もうね」

 

さらっとホップ君を見捨てるマスター。

いや、さすがに四対一だし、助けに行ったほうがいいと思うんだけど。

 

「あの....ごめんなさい」

 

僕の内心でホップ君の無事を願っているとマスターに声をかけてくる女性が現れた。

マスターは少し警戒しながらも相手の言葉に応える。

 

「ここで騒ぎを起こしてる人達がいるって聞いたんだけど、その人達がどこに行ったか知らない?」

 

「ああ....それならさっきホテルの外に行ってましたよ」

 

彼女の言葉にマスターはホテルの外を指さしながら答える。

彼女はマスターの言葉を聞いてお礼を告げながら外へ向かおうとして僕と視線が合う。

 

「ピカチュウ....可愛いね、私のモルペコと似てるし」

 

そう言って女の人はマスターが僕を抱きかかえるのと同じように連れているポケモンを抱きかかえる。

僕と同じ高さまで来てモルペコと呼ばれているポケモンが挨拶をするように僕達へ手を上げた。

 

それを見てマスターも嬉しそうに口元を緩める。

 

「ありがとう....そっちのモルペコも可愛いね」

 

「ありがとう、あと私の名前はマリィよ、あんたの名前は?」

 

「ゆうり、マリィさんもジムチャレンジャーなの?」

 

「マリィでいいよ、うんそう。ゆうりがピカチュウをバカにされて怖い顔をしてた時も見てたよ」

 

マスターとマリィさんは僕とモルペコの話をキッカケに話を始めていく。

おお、マスターが同い年くらいの女の子と仲良く話してるのはかなり珍しいね。

もしかしたらこの子ならマスターの友達になってくれるかもしれない。

マリィさんもジムチャレンジに参加するみたいだし、まだまだ話す機会はあるだろう。

マスターが友達を作るために出来る限りのサポートしたいな。

僕はマスターに降ろしてもらって同じく床に降りたモルペコを見つめる。

マスターが彼女と仲良くなるには僕がこの子と仲良くなるのが近道だろう。

 

あと勘なんだけど、僕もこの子が好きになれそうなんだよね。

僕の欲を満たす的な意味で。

 

「おーい!外で戦えって言ったのはゆうりなのに一緒に着いてきてくれないなんてひどいじゃんか!」

 

マスター達が話しているとバトルを終えたホップ君が戻ってくる。

一緒にいるポケモン達も大したダメージを負っていないようなので完勝したみたいだ。

この様子なら僕が一緒に行ってても出る幕はなかったかな。

 

 

その後はホップ君を含めた三人で話が盛り上がっていく。

さっきまでいた人たちはマリィさんの応援に来ていた人達のようだ。

ホップ君はそれを聞いて羨ましそうにしている。

マスターは目立ちたくないようなので羨ましくはないみたい。

 

僕としては応援は嬉しいけど、罵声のほうがいいなぁ。

そのまま三人の話を聞いている時、ふとヒバニーの姿が見えないことに気付く。

あれ?いつからいなくなっていたんだろう?

思えばホテルに到着した時からいなかった気がする。

 

まさか迷子になったのではと思い、マスター達の傍を離れてホテルの外へ向かう。

外に出ると僕の鼻に強烈な刺激臭が届く。

僕のM的な勘が告げている。

そこに行けばひどい目に遭えると。

 

そう直観した僕は匂いの元へと全力で走った。

そしてそこで予想外の光景が目に入る。

 

到着した僕の目に飛び込んできたのはヒバニーが一匹のポケモンと戦っている姿だった。

戦っている道には彼女の放ったと思われる火と何か不思議な(気持ち良くなれそうな)液体があって煙を上げている。

どうやら匂いの元はあれのようだ。

ヒバニーへ目を向ければ彼女はボロボロだった。

しかし目には戦意が漲っており、もう一匹のポケモンの攻撃をくらいながらも必死にくらいついている。

正直どういう状況なのかよくわからないけど、これは止めるべきなのかな?

 

僕はどうするべきか考えていると、ヒバニー達が大技を放つ気配を感じた。

ヒバニーの口から巨大な火の玉が作られる。

彼女がここまでの大技を出せるなんて知らなかった!

そしてもう一匹のポケモンは周囲に花びらを展開してすごい勢いで花びらが旋回し始める。

どちらもくらえば痛そうだ(気持ち良さそうだ)

よし、とりあえずあの攻撃を両方くらってから彼女達を止めるか、止めないかを考えよう。

 

そう判断した僕は彼女達の技が衝突する瞬間にその間へと飛び込む。

 

ピカァァァァァァ!!(さいこぉぉぉぉぉぉ!!)

 

この後戦いを中止した彼女達に怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 




『186』 I(私)8(え)6(む) 
1がIだし 8は(エイト)だし、ちょっと無理やりだった。

ちなみに俺はミミッキュが好きだったから『339』だった。

次はヒバニー視点かなぁ。


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負けず嫌いなヒバニーは『ひのこ』をくらわせる

以前に『だいばくはつ』が使えるポケモンについて多くの感想を頂いていたのですが、感想を見て作者への作品内容の強制扱いでBANされてることに気付きました。
せっかく書いていただいてのに、自分のせいで不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。

今後何かする時はアンケートを使っていきます。
これからも感想を下さるとすごく嬉しいのです。


本当に申し訳ない、私とピカチュウがドMになってお詫びします。


私には気になっているポケモンがいる。

いや、気になるというか....す、好きっていうか....と、とにかく気になるの!!

 

彼は私がゆうりのポケモンになった時からずっと彼女と一緒にいた。

随分昔から一緒にいるみたいで、最初はゆうりが一番大切にしている彼を見て内心で嫉妬してた。

 

だって私は初めて人間とパートナーになったのに、そのゆうりは彼に構ってばかり。

私はきっと負けず嫌いなんだろう、なんでも一番にならないと嫌だった。

 

これで彼が嫌なやつだったのなら、ゆうりの一番になるために彼と戦えた。

 

でも、彼はとても優しかった。

私が初めての家で落ち着かない時は一緒に居てくれたし、町で迷子にならないように案内だってしてくれた。

ゆうりが私に苦い飲み物を飲ませようとした時には止めようとだってしてくれた。

彼は間違いなく良いポケモンだ、それが私の思いをより複雑にした。

彼が私に優しくすればするほど彼を押しのけて、ゆうりの一番になろうとしている自分が浅はかに思えて嫌だった。

 

でも、そんな自己嫌悪が続く日は唐突に終わった。

ある日、苦い飲み物を飲ませようとするゆうりから逃げた。

無心で闇雲に走り続けた私は落ち着いた時には霧の森の中にいた。

 

当然来た道なんて覚えているわけもなく、周囲に深い霧があったこともあって私は森で迷子になってしまった。

 

深い霧の中で帰り道がわからなくなり、心細い思いで森を歩いてた時。

 

私の前に敵が現れた。

 

焦った私は敵に全力の『ひのこ』をぶつけたけど、相手にはダメージを与えることは出来なかった。

当時の私では力の差がありすぎて全く敵わなかった。

私の攻撃で苛立った敵が私に攻撃をしようとしているのがわかった。

 

私は痛みを恐れて目を閉じてしまったけど、いつまで経っても身体に痛みがやってくることはなかった。

 

そして恐る恐る目を開けた先に、彼がいた。

彼は家を飛び出した私を追いかけて森へと入り、そして私を見つけてくれた。

そして彼は私が歯が立たなかった敵を簡単に退けて、私を安心させるように微笑んだ。

 

私は彼の微笑んだ顔を見て、先ほどまで怯えていた心がすでに安心しきっているのを感じた。

その後に現れた明らかに異質な雰囲気を持つ二匹のポケモンが現れた時にも彼は恐れることなく勇敢に戦っていた。

私はそんな彼の姿を熱に浮かされたようにずっと見つめていた。

 

彼がいれば大丈夫だと、不思議とそう思えた。

だから彼が傍にいてくれるとすごく安心するんだ。

 

あの日、あの瞬間、私は彼に心を奪われてしまった。

私を守ってくれた彼の背中にどうしようもなく惹かれてしまった。

この気持ちに気付いてしまったらもう無理だった。

 

ていうか自分のピンチにあんな風に颯爽と助けられたら、どんなメスポケモンだって惚れるに決まってるじゃない!

 

今の私はゆうりの一番ではなく、彼の一番になりたい。

 

でもまだまだ弱い私では彼の一番になるには程遠い。

今回だって私を狙った地面からの攻撃を彼が庇って怪我をさせてしまった。

私が謝ろうとすると、彼は気にしてないと言わんばかりに微笑みながら私の頭を撫でてくれた。

 

彼はいつもそうだ。

私が危ない時には颯爽と駆けつけて私を助けてくれる。

それはすごく嬉しいし、カッコイイけれど、その度に傷だらけになる彼を見るのはとても辛い。

 

早く強くなりたい。

彼に守られるんじゃなくて、彼の隣で戦える自分になりたい。

 

ゆうりは私にバトルの才能はあるって言ってくれた。

だったら早く目覚めなさいよ私の才能!

 

私はもう彼が傷つかなくていいように、彼を守れるくらいの力を一刻も早く手に入れたいの!

 

そのためなら、ゆうりの不味い飲み物だっていくらでも飲んでやるわよ!!

この前のキャンプの時はビビッて食べれなかったけど、次こそは!ええ!次こそはきっと!!

 

....飲めたらいいなぁ。

 

 

若干気合を空回りさせながらも、みんなと一緒に今日私達が休むホテルへと向かう。

明日からゆうりが言っていた『ジムチャレンジ』というのが始まるらしい。

そこでは私よりも強いポケモン達と戦うことになると言っていた。

 

でもそこで挫ける気はさらさらないわ!

格上上等!そいつら全員倒して私の経験値にしてやるわよ!

 

 

私は改めて明日への気合を入れ直す。

そしてふと、自分の足に違和感を覚えて目線を下に下げた。

 

なんか、私の足にツタみたいなのが絡みついてるんだけど。

 

私がそれに気が付いた瞬間、そのツタは高速で私の身体へと巻き付いてくる。

 

「ヒバッ!?」

 

咄嗟に大声を上げようした途端、ツタが大声を出そうとする私の口をふさぐ。

そして私に巻きついたツタは大きくツタをしならせて私を上空へと放り投げた。

 

ヒッヒバァァァァァァ!!(な、なんなのよぉぉぉぉ!!)

 

私は絶叫を上げながらも身体の姿勢を整える。

そして建物の柱などを足場にしながら、なんとか怪我無く着陸する。

 

私が陸へ足を付けて周りを見ると、先ほど私へ巻き付いていたツタがどこかへ戻っていくのが見えた。

ツタが戻る先へと視線を向ければ、そこには一匹のポケモンがいた。

 

私より小さいわね、あの身体で私を上空へ放り投げたっていうの?

ツタは目の前のポケモンの元へ戻っていることから間違いないだろう。

一体私に何の用なのよ、恨みを買うようなことがした記憶はないんだけど。

 

「みきゅう.....」

 

でも、なんか私をすごい恨めしそうに見てるのよねぇ。

あのポケモンどこかで見たことがあるような....。

 

「みっきゅ!!」

 

私が自分の記憶からあのポケモンの正体を探していると相手の両手の花から強烈な刺激臭が放たれる。

ちょっ!?何この匂い!?ゆうりの不味い飲み物の比じゃないわよ!?

 

相手は両手の花を勢いよく振ると、そこから私に向かって紫色の液体が放たれた。

絶対にくらったらやばいやつ!

 

私は自分の直観を信じて全力で回避する。

私が横へ飛んだ後に、少し前まで私がいた場所に液体が落ちる。

そしてその液体が落ちた場所からは白い煙と共に床が溶ける音が耳に入った。

 

あ、あんなのくらったら私の身体はただじゃすまないわ。

相手の攻撃に戦慄する。

 

あのポケモン、身体は私より小さいけど私より強い。

私が相手の力を理解して警戒しながら相手に目を向ける。

 

しかし、私が目を向けた先に相手はいなかった。

 

「ヒッヒバ!?」

 

相手が視界から消えたことで動揺していた私の横っ面に強烈な衝撃が走る。

私はその衝撃に押し負け、そのまま横方向へ吹き飛ばされた。

 

床に身体をぶつけながら相手の動きを探る。

さっきの瞬間、相手が私へ巻き付けていたムチを建物に巻き付けて移動してるのが見えたわ。

そしてそのままツタをムチのようにして私の顔へ叩きつけたわけだ。

 

相手は建物にツタを伸ばすことで高速移動ができるみたいね。

そうとわかれば同じ手はくらわないわよ!

 

私は高速移動する相手と同じように『でんこうせっか』で相手の速度に合わせる。

そして相手の次の動きを先読みして『ひのこ』を放った。

 

「みっきゅ!?」

 

私の攻撃が当たって驚きの声があがる。

私を格下だと思って油断するからそうなるのよ!

しかし相手もただではやられてくれないみたいで、私の技をくらう瞬間に私へツタを巻き付けていた。

 

そして相手はツタを引っ張って私を先ほどと同じように上空へと放り投げる。

やばっ!

 

上空だと身動きが出来ない!

 

私の焦りの通り相手は先ほどの液体をこちらへ放出してくる。

私はなんとか身体を捻って躱すが、それを読んでいたかのようにもう一発の液体が私へ襲い掛かった。

 

「ヒバッ!?」

 

私の身体へと衝突した液体が私の身体を急速に蝕んでいく。

これって『どく』ってやつよね?

 

ゆうりが前に『どく』状態になると時間が経つにつれて体力を奪っていくって言ってたわ。

最悪、これで長期戦は出来なくなったわ。

彼とゆうりの助けを期待していたわけではないけど、これで短期決戦で勝負をつけるしかなさそうね。

 

「み、きゅう!!」

 

相手はたたみかけように私へ無数のムチをぶつけてくる。

私はそれらを躱しながら相手へと接近する。

遠距離だと相手を倒すには足りないわ、相手へ効果的なダメージを与えるには至近距離を火をくらわせるしかない!

 

「ヒッ....バァ!?」

 

なんとか相手へと接近しようとするけれど、無数のムチを避けきることが出来ずに遠くへと吹き飛ばされる。

これでまた振り出しだ。

 

ほんとなんで私を狙ってくるのよこいつは!

怒りを込めながら相手を睨みつける。

 

それを見た相手は私の以上の怒気を込めてこちらを睨み返してきた。

 

相手の憎しみが込められた目を見た瞬間、私の記憶が1つの光景を映し出す。

あの日の早朝、たまたま早く起きた私は彼が家の庭先で一匹のポケモンと一緒にいるところを見たことがあった。

 

彼に頭を撫でられて気持ち良さそうに鳴くポケモンを見て、当時はあまり彼のことが好きではなかった私はそっと彼らから視線を外したんだった。

 

ああ、思い出したわ。

あんた....あの時のポケモンね。

姿が変わってたから気付かなかったけど、それなら私を狙う理由も納得できるわ。

 

たぶん、いえ絶対あんたも彼のことが好きなんでしょ。

そして彼の傍にいる私が気に入らないってわけね。

 

ようやく私をそんな目で見る理由がわかったわ。

ほんと、あのポケモンは....どれだけ私達を誑かせているんだ。

どうせ無自覚なんでしょうけど、その内後ろから攻撃をくらうわよ全く。

 

このポケモンはようするに恋のライバルってわけね。

こいつ以外にもいたりしないでしょうね。

 

まぁいいわ、たとえそうだとしても全員倒すだけだし。

 

私は彼の一番になる!!

負けず嫌いな私は絶対に一番以外認めないわ!!

 

というわけでこの勝負に彼が関わってるなら絶対に負けられない!

私の火で燃やしてやるから覚悟しなさい!

 

目に戦意を漲らせて身体に力を込めていく。

しかし意志に反して身体がうまく動かないことに気が付いた。

 

『どく』の影響が私の想像以上に早い。

身体に走る激痛に顔を歪めながら相手を睨みつける。

 

だからって引くつもりはないわ。

私は痛む身体を無理やり動かして恋敵へと挑みかかる。

 

相手のムチと毒液を躱し、こちらも牽制のために『ひのこ』を相手へぶつける。

『でんこうせっか』や『にどげり』を使えばムチを跳ね返せるけど有効打にはならない。

 

そしてチャンスがないまま私の身体は限界を迎えた。

 

「ヒバッ....!」

 

急に足から力が抜けて地面へと膝を折ってしまう。

もちろん相手がその隙を見逃してくれるはずもなく、無数のムチが私の身体を打ち付けた。

 

私は衝撃で建物まで飛ばされて壁へと激突する。

いったぁ....今のはけっこう効いたわ。

 

力が入らない足をなんとか奮い立たせて立ち上がる。

ぼやけた視界の先では相手が見下すように私を見ていることが何となくわかる。

 

ここで私が負けたらあいつは彼の元へ行って私の代わりに隣に居座るつもりなんでしょうね。

彼は優しいからあいつのことを無下にはしないでしょうし。

 

そして私はここで倒れたまま彼の記憶から消えていく。

 

.....冗談じゃないわ!!!

 

ヒッバァ!!!(なめんじゃないわよ!!!)

 

「みっきゅ!?」

 

私が叫びながら立ち上がったことに驚きの声が聞こえる。

私は彼を守れるくらい強くなる!

誰よりも強くなって、二度と彼が傷つかなくていいようにするんだ!!

だからこんなところで倒れてる暇は私にはないのよ!!!

 

私は最後の力を振り絞って口から火を作り出す。

私の口から放出された『ひのこ』は今までにない大きさまで成長を遂げた。

 

これは....ゆうりが教えてくれた私の特性ってやつね。

 

『もうか』私の体力が少ない程ほのおタイプの技の威力が上がるらしい。

 

それを聞いた私はダメージを受けないと強い技を出せないことに嫌な特性だと思っていたけれど、今は違う。

最高の特性よ私!これでこの女に特大の炎をくらわせてやれる!

 

「みきゅ.....!!!」

 

相手は私の炎を見て、私が最後の技を出そうとしていることを理解したのだろう。

相手も私に合わせるように花びらを周囲に展開させて、それらを高速で旋回させ始める。

 

初めて見る技ね、相手も本気ということかしら。

 

だからといって負ける気がないわ!

 

ヒッバァァァァァァァ!!!(いっけぇぇぇぇぇ!!!)

 

私は渾身の力を込めて最後の炎を相手へと飛ばす。

 

「みっきゅ!!!」

 

相手もこちらの技を破ろうと旋回させていた花びら達を私の技へと向ける。

 

そして私達の技がぶつかり合う瞬間。

 

「ピカァァァァァァ!!」

 

私達が争っていた原因の彼が私達の技の中心へ飛び込んできた。

 

ちょ....ええ!?なんでよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もしレベル表記があるならこんな感じかなぁ

ロゼリア Lv45

どくどく
ツルのむち
やどりぎのタネ
はなふぶき

ヒバニー Lv13

ひのこ
でんこうせっか
にどげり
たいあたり


うん、ヒバニーは絶対勝てねぇ。

どうしてLv45なのに今までスボミーのままだったの?
あの姿のままのほうがピカチュウが撫でてくれるって思って無意識に進化しなかったんだよ(そういうことにしてください)


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ヤンデレなロゼリアは『モンスターボール』をくらう

私と憎きメスポケモンが放った大技が激突する瞬間、私の視界にご主人様が飛び込んで行くのが見えました。

 

「みっ!!?」

 

予想すらしていなかったご主人様の登場に私の心臓が止まりそうになります。

私が静止の声を届ける間もなくご主人様は私達の技に飲み込まれて姿を消してしまいました。

 

「ピカァァァァァァ!!」

 

ご主人様が技に飲み込まれてすぐに私の耳にご主人様の絶叫が耳に入ってきました。

私はその声を耳にした瞬間、頭が真っ白になります。

 

どうしてご主人様がここに。

いえ、そんなことはどうでもいいのです。

 

 

私の放った技がご主人様を傷つけた。

私の放った技がご主人様を傷つけた。

私の放った技がご主人様を傷つけた。

私の放った技がご主人様を傷つけた。

私の放った技がご主人様を傷つけた。

私の放った技がご主人様を傷つけた。

 

 

私の頭の中にご主人様の叫び声が延々と響き続けます。

ご主人様を守るために鍛え続けた力でご主人様を傷つけてしまった。

 

私の身体は無意識に力が抜けて地面へと膝を折ります。

私達の技によって上がった煙によってご主人様の姿は見えません。

 

私達の大技を同時に受けてしまえば、いくらご主人様といえどただでは済まないでしょう。

私は何ということをしてしまったのでしょう。

今までこんな私に優しくしてくれたご主人様をお守りするどころか、傷つけてしまいました。

これでご主人様に嫌われてしまえば私はもう生きていけないでしょう。

 

「ヒバァ!?」

 

反対側では先ほどまで戦っていた方の驚愕の声が漏れます。

その声に反応して煙のほうへと目を凝らします。

 

そこには平然と立っているご主人様の姿が見えました。

 

えぇ....ご主人様強すぎませんか?

 

彼女と私の全力の技を受けて平然と立っている姿を見て安心しましたが、それはそれで自分とご主人様の力の差を感じて悲しくなります。

 

私、ご主人様のために本当に頑張って鍛えたのですが。

やはり私ごときではご主人様をお守りするにはまだまだ力が足りないようです。

 

しかし、たとえご主人様にお怪我がなくてもご主人様に攻撃をしてしまったのは事実です。

こうなったら死んでお詫びするしかありません。

 

私が自身の手で毒をくらおうとした時、私の手が優しく掴まれます。

見上げれば、優しい笑みを浮かべたご主人様がいました。

 

「みっ....」

 

久しぶりに近くで会えたのに私の心は舞い上がりません。

ご主人様の顔を見ることが出来なくて私の手に置かれたご主人様の手に目を向けます。

そして、ご主人様の手に私のトゲが刺さっていることに気が付いてしまいました。

 

「.....っ!!?」

 

それに気付いた私は顔を青ざめながらご主人様の手を離そうとします。

しかし、ご主人様は私の手を離すどころかより強く握り締めてしまいます。

 

ご、ご主人様離してください!

今の私のどくは進化したことで以前までのより強力になってしまっています!

ご主人様へ攻撃しただけでなく、どくにまでしてしまったら私はどう償えばいいかわかりません!

 

「ピカァ....」

 

ご主人様は私のどくに侵されているはずなのに、和やかな笑みを浮かべたまま私の手を握り締め続けます。

そしてもう一方の手で私の頭を優しく撫でて下さりました。

 

「みっ....みっきゅぅ」

 

ずっと待ち望んでいたご主人様からのなでなでに私は天に昇るかのように心地よさに包まれます。

ああ....やはりご主人様のなでなでは最高です!まさに魔性の手でございます!

 

先ほどまで感じていた悲しみや焦りがみるみる消えていきます。

今の私ではご主人様のお役に立つには力不足のようです。

しかし、これからも精進して参りますので、その時はまた私の頭を撫でて下さいませ。

 

「ヒッバァ!!」

 

私がご主人様に撫でられて夢心地に浸っていると、お邪魔虫であるメスポケモンが怒りの声を上げながらこちらへとやってきます。

 

なんだ、まだいたんですか。ほんと邪魔です。

 

「ヒバァ!ヒバヒバァ!!」

 

メスポケモンはいきなり飛び込んできたご主人様を叱りつけるにように口を開きます。

それを聞いたご主人様は困ったような顔で黙って彼女の話を聞いています。

 

むぅ.....私だっていきなり飛び込んできたご主人様に言いたいことだってあるんですからね!

 

「みっきゅ!みきゅみきゅ!」

 

ご主人様の腕を取りながらお叱りの言葉をぶつけます。

あんなことを何度もされては私の心臓がいくつあっても足りません!

 

「ピッピカチュウ....」

 

ご主人様は私と彼女のお叱りの言葉を聞いて困ったように笑っていました。

全く....本当にご主人様はしょうがないお方です。

いずれ私がその全てを管理してさしあげますので、待っていてくださいませ。

 

 

 

 

 

 

「ヒバァ....! 」

「みきゅう....!」

 

 

僕の両隣を陣取りながら二匹のポケモン達が睨み合いを続けている。

どうせ睨むなら僕を睨みつけてほしい。

 

マスターのいるホテルに戻りながらヒバニーと睨み合いをしている彼女について考える。

まさかこの子がマスターの庭先で僕をいつも気持ちよくしてくれたスボミーだったとは驚いた。

最初は姿が変わっているから気付かなかったけど、彼女の鳴き声と僕の身体に走ったどく(快楽)がこの子が彼女だと告げたのだ。

 

僕なんかに懐いてくれていることは知っていたけれど、まさかここまで追いかけてくるとは思いもしなかった。

そして追いかけてきたこの子がヒバニーと喧嘩をしてしまっていたのかも謎だし。

今も火花が散っているんじゃないかと錯覚するほどメンチを切り合っているし。

本当に仲悪いね君達。

もしかして僕がいない間にマスターの家の庭先で出会って喧嘩をしてたのかな?

聞き出そうにも言葉がわからないから無理だ。

 

しかし、この子はどうしようかなぁ。

ここまで追いかけてきてくれたのに家に追い返すのは流石に可哀想だ。

ここは彼女には僕達と同じようにマスターのポケモンになってもらうのが一番確実だし安心かな。

元から半分マスターの家の子扱いを受けていたし、マスターも断ることはないだろう。

 

それにヒバニーとの戦闘を見る限り、この子実はかなり強い。

庭先で会っていた時はそんなこと思いもしなかった。

あの時から彼女の強さに気付いていればもっと色々なバリエーションのダメージ(気持ち良さ)を味わえていたのかもしれない。

そう考えたら非常に惜しいことをしていたなぁ。

 

でも、この子がマスターの手持ちになれば以前のように隠れて彼女に会う必要はない。

堂々と合法的に彼女とお触り(どく)を楽しみことが出来るんだ!

おまけにさっき彼女のトゲでどく状態になった時、今までよりも強力などくが僕の身体を駆け巡ってきた。

あまりの気持ち良さに恍惚とした笑みと鳴き声をあげてしまった程だ。

 

ふふふ....!これからの彼女との日々が楽しみだ!

 

さて、考え事をしている間にマスターのいるホテルに戻ってこれた。

僕がホテルを出てから時間はそこまで経っていないけど、マスター心配してないといいんだけど。

出来ればまだマリィさんとの会話を楽しんでくれていると助かるなぁ。

 

「みっきゅう!」

 

僕とヒバニーがホテルの中に入ろうとすると彼女が僕の腕をとって止めてくる。

僕がホテルへ向かうのを止めたのを見た彼女はホテルの庭先へと歩いていく。

僕とヒバニーが怪訝な表情で彼女を見守っていると、彼女は庭先の茂みから何かを取り出した。

 

「みっきゅう♪」

 

彼女が取り出したのは『モンスターボール』だった。

これは人間さん達が僕達を捕まえる時に使用するボールだけど、どうして彼女が持ってるの?

僕が頭の中で疑問を浮かべいると、こちらに戻ってきた彼女が嬉しそうな顔で『モンスターボール』を僕へと渡してきた。

 

んん?渡されても困るんだけど。

彼女の意図がわからずにじっと彼女を見つめる。

しかし彼女は僕に『モンスターボール』を渡したっきり何も言わずに僕を見つめ返してくる。

 

心なしか何かを期待しているようにも見えた。

 

もしかして彼女は『モンスターボール』の中に入りたいのかな?

なるほど!このホテルには野生のポケモンは入ることが出来ないから、先にマスターの手持ちになっておこうというわけだ!

 

ここで彼女を僕が捕まえてマスターに渡せばいいんだし。

少しズルい気もするけれど、一度捕まえてしまえばマスターも彼女を手持ちに加えるしかないだろう。

僕のせいで彼女はここまで来てしまったのだし、これくらいのことをしてあげないと。

 

「ヒッ!?ヒバァ!ヒバァァァァ!!!」

 

ヒバニーは彼女が僕に『モンスターボール』を渡したのを見て大声で叫び始める。

それを見た彼女がポケモン殺しをしそうな目で睨みつけていた。

本当に仲が悪いなぁ。

マスターの手持ちになるんだったら、2人には仲良くしてほしいのだけど。

 

まぁこれから一緒に冒険をしてバトルをしていく内に自然と仲良くなっていくよね。

僕は適当にそう考えて『モンスターボール』を彼女へ向かって放り投げる。

 

「みっきゅう♪」

 

それを見た彼女は嬉しそうな表情で自分へ迫る『モンスターボール』を見つめたまま避けることなくぶつかり、ボールの中へと吸い込まれた。

 

そして何回かボールが左右に揺れ、やがて動かなくなった。

これは彼女を捕まえたでいいのかな?

 

初めて使ったから不安だったけど、ボールの中心にある突起物を押すと、ボールから勢いよく彼女が飛び出してきた。

うん、ちゃんと捕まえられたみたいだね。よかったよかった。

 

「みっきゅう!」

「ヒバァ!!」

 

ボールから飛び出してきた彼女が僕へ抱き着こうとしたところをヒバニーが蹴り飛ばす。

そしてそのまま取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。

 

あはは、喧嘩するほど仲が良いってよく言ったものだなぁ。

彼女達のじゃれ合いを微笑ましく思いながら眺める。

 

 

ぜひとも僕を巻き込んでボコボコにしてほしいところだ。

僕は彼女たちの喧嘩の流れ弾が来ないかワクワクしながら見守り続けた。

 

 

 

 

その後、青ざめた表情でホテルから飛び出して来たマスターに僕は捕獲された。

マスターはそのまま僕をホテルへと連れ込み、朝方までずっと僕を寝かせてはくれなかった。

 

ときどき寝ぼけて力加減を間違えたマスターが抱きしめた僕を締め付けてきて最高だった。

 

 

 

 

 




感想を見て、そっかぁ....俺ってポケモン同士の恋愛話を笑いながら書いてるのかぁ。
....やばくね?(今自覚した)

ちなみにこの『モンスターボール』はロゼリアがホップから空のボールを奪ったやつ。
これで捕まえたらホップのポケモンとして登録されたりしないよね?
もしそうなったら笑う。


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ドMなピカチュウは『あくび』をくらわせる

「えへへ....今はダメだよぉ....もう、あなたは本当にしょうがないなぁ」

 

何がしょうがないのかな?

マスターの夢の中で僕が何をしているのか気になる。

まさか....また大技を受けてるんじゃないだろうな夢の中の僕!!

ズルいズルい!今すぐ僕と代わってよ!

あ、でも夢の中だから痛みとかは感じないのかな?

 

大技をくらってるのに痛みを感じれないって生殺しにも程がある。

そう考えたら夢の中の僕に同情してきた。

 

「ヒバァ....」

「みきゅぅ....」

 

僕がマスターの夢の中の自分に同情していると隣で寝ているヒバニーとロゼリアの寝息が聞こえてくる。

どうやら彼女達も夢を見ているようで頬を緩めながら鳴き声を上げていた。

昨夜はロゼリアをマスターに紹介して彼女を捕まえた『モンスターボール』を渡そうとした時にロゼリアが暴れてひと悶着あったけど、なんとか落ち着いてよかった。

 

マスターはロゼリアのことをあまり好きそうではなかったけど、戦力になるということでひとまず納得してくれた。

ロゼリアはヒバニーとも仲が悪いし、今後はマスター達と仲良くなってほしいな。

 

「んん....ふわぁ、もう朝?」

 

僕が身じろぎをした影響か、マスターが夢から覚めて目を開ける。

そして抱き締めていた僕を見て優しく目を細めた。

 

「あなたはもう起きてたんだね。よく眠れた?」

 

あまり眠れなかったなぁ。みんなで騒いだせいでほとんど寝れなかったから。

僕が眠気によって『あくび』するとマスターは可笑しそうに笑った。

 

「眠そうだね。私も眠いや....ふふ、あなたのあくびを受けたせいかな?」

 

そう言って再び僕を抱き締めて目を閉じるマスター。

いつもならマスターのお母さんに起こされるところだけど、今日はいないからなぁ。

僕も眠かったのでそのままマスターと一緒にもうひと眠りしようとすると、僕たちのいるホテルの部屋の扉をノックする音が届いた。

 

誰だろう?ホップ君かな?

 

「誰....?」

 

眠ろうとしたところを起こされたマスターは若干不機嫌そうにしながらドアへと向かう。

そして扉を開けると僕の予想とは違う人がいた。

 

「おはよ、一緒に朝ご飯でもどうって思ったんだけど眠そうね」

 

「あ、マリィだったんだ.....おはよ。朝ごはんかぁ、うん一緒に行くよ」

 

ホップ君だったら無言で閉めるところだったと小さく口にしながら挨拶するマスター。

マリィさんはそんなマスターを見て苦笑いを浮かべていた。

 

「寝ぐせ酷い....朝ごはん行くでしょ?だったら早く直してきて」

 

「寝ぐせ?ああ....それなら大丈夫」

 

マリィさんの指摘を受けたマスターは自分の髪を触って寝ぐせを確認する。

 

そしてマスターはいつものように僕を頭の上に乗せる。

僕もいつものようにマスターの寝ぐせを隠すために頭の上で寝そべる。

 

マスターの朝のいつも恰好の完成である。

 

「これで大丈夫だね、早く朝ごはん行こ」

 

「いや大丈夫じゃないから」

 

僕を頭に乗せたことで寝ぐせを隠して朝ごはんへ行こうとするマスターをマリィさんが止める。

マリィさんは朝ごはんへ向かおうとするマスターの手を引いて廊下を歩く。

そしてマリィさんの部屋の中へ連れ込まれた。

 

「そこに座って、朝ごはんの間ずっとピカチュウを頭の上に乗せておくつもりなの?」

 

マリィさんはマスターの頭に寝そべる僕を掴んで机の上に置く。

そしてマスターを椅子に座らせた。

 

マリィさんのほうへ視線を向ければ、何やら小道具を取り出していた。

 

「しょうがないから簡単に髪を整えてあげる」

 

どうやらマスターの寝ぐせを直してくれるみたいだ。

マスターはマリィさんの言葉を聞いて気まずそうに眼を伏せる。

 

「ありがと....」

 

「はいはい」

 

マスターのお礼に返事をしながらマスターの髪を整えていくマリィさん。

なんだかマスターのお母さんみたいだなぁ。

 

「ふぁ....」

 

「本当に眠そうね、昨夜は寝れなかったの?」

 

「うん....昨夜はこの子が寝かせてくれなくて」

 

僕の頭を撫でながらそう口にするマスター。

僕の記憶が正しければ寝かせてくれなかったのはマスターのほうなんだけど。

 

そしてマスターの言葉を聞いてマリィさんがなぜか若干引いていた。

マリィさんは僕とマスターを見て何か言いたげな顔をする。

 

「ほんと仲が良いわね....ちょっと仲良すぎな気もするけど」

 

「そう?普通だと思うけど」

 

マリィさんの言葉に不思議そうな顔で答えるマスター。

僕も他の人とポケモンの関係にそこまで詳しくないからよくわからないや。

 

「昨日も私と話している時にピカチュウがいないことに気付いた途端、顔を真っ青にしてホテルを飛び出していったし」

 

「あの時は本当に怖かった、気が付いたらあなたがいないんだもん。もうあんなことは絶対にやめて」

 

マリィさんの言葉を聞いて僕を抱き締めながらそう口にするマスター。

マスターに心配かけてしまって本当に悪いことしちゃったなぁ。

朝の日課の時だって気を使ってマスターが起きる前に戻っているのに、この前は失敗しちゃった。

 

「ねぇ....ゆうりにとってその子は何なの?」

 

マスターの言葉を聞いたマリィさんがマスターにそう質問する。

あ、その質問、聞いたことある。

前にテレビであなたにとってポケモンは?みたいな質問を町に人達に聞いていたのを思い出した。

 

質問を受けた人たちは『家族』や『友達』、『仲間』とかが多かったなぁ。

人間さんと僕達ポケモンの関係を表すのならそういう言葉が一番ちょうどいいのかもしれない。

 

マスターはどう答えるのかな?

僕のマスターの答えが気になって耳に意識を集中する。

僕の予想では『家族』かなぁ。

 

()()()()

 

マスターはマリィさんの質問に即答する。

残念ながら僕の予想は外れてしまったようだ。

 

「私の全て....?」

 

「そう、この子は私にとって何より大切な存在なの。例え他の世界の全てと比べたってこの子には到底及ばない」

 

マスターは僕を抱き締めながらマリィさんへ言葉を向ける。

マリィさんはそれを黙って聞いていた。

 

「私がこのジムチャレンジに参加したのだってこの子がチャンピオンのダンデさんと戦いたそうだったから。私自身は正直この子を傷つけるバトルは苦手なの」

 

「それだけの理由で....このジムチャレンジに参加したん?」

 

「それだけの理由なんかじゃないよ、私にとってそれが何よりも重要なことなの。だから私は何としてでもジムチャレンジをクリアしてトーナメントを勝ち上がる」

 

マスターは髪を整えてくれているマリィさんへと振り返り、正面からマリィさんを見つめる。

 

「マリィもジムチャレンジに強い覚悟があるのは何となくわかる、でも私はこの子のために絶対にマリィを倒す。容赦なく蹴落としていくから」

 

「あんたは....」

 

「髪整えてくれてありがと....やっぱり私は朝食はいらない、まだ眠いし」

 

何かを言おうとするマリィさんの言葉を遮るように席を立つマスター。

マリィさんは部屋を出ていくマスターに何か言おうと口を開きかけ、結局何も言えずにマスターを見送った。

うーん....これはどうにかしないとダメだね。

マスターの気持ちは嬉しいけど、それでマスターがマリィさんとの友情を捨ててほしくはない。

マリィさんにはマスターの初めての友達になってほしい。

今回の『ジムチャレンジ』を通してマスターの友好関係を増やしていくように僕も動いていこう。

 

部屋を出たマスターに抱きかかえられながら僕はそう決意した。

それにマリィさんと仲良くなれば、『ジムチャレンジ』が終わっても彼女とバトルする機会もあって結果的に僕も気持ちよくなれそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

「おっ!やっと来た、遅いぞゆうり!」

 

「おはよう....今日もホップ君は元気だね」

 

ロビーへ降りた僕達をホップ君が迎えてくれる。

どうやらわざわざ僕達を待っていてくれたみたいだ。

 

ホップ君はマスターを見た後、僕に視線を移し、そしてその横のロゼリアと目があった。

 

「うげぇ!?な、なんであの時のロゼリアがここにいるんだ!?」

 

「ああ....やっぱりホップ君が言っていたロゼリアってこの子のことだったんだ」

 

ロゼリアを見て驚くホップ君を見てマスターは一人で納得する。

ちなみにロゼリアはホップ君に全く興味がないのか僕に引っ付いたままホップ君に視線すら向けない。

 

「このロゼリアは私が捕まえたわけじゃないよ、この子が捕まえたの」

 

僕を見ながらロゼリアのことをホップ君へ説明するマスター。

それを聞いたホップ君は驚愕の目で僕へ目を向ける。

僕が捕まえたのは確かだけど、あくまでも彼女が自発的に捕まえられただけなのだから僕に驚く必要はないと思うよ。

 

「そのせいなのか、このロゼリアは私の指示を聞く気がないよ。というか単純に私のことが嫌いみたい。後、ヒバニーとも仲が悪いね」

 

マスターの言葉を聞いたロゼリアがプイっとマスターから顔を背ける。

うん、確かに指示に従う気がないみたいだ。

 

「ええ....それは大丈夫なのか?バトルの時に言うことを聞かないと困るだろ」

 

「うーん、別にそこまで気にしてないよ。この子は私の指示がなくても十分に戦えるみたいだし、それに捕まえたピカチュウの言うことは聞くからね。それさえわかれば十分だよ」

 

それに最初の間はヒバニーを育てる必要があるから、ロゼリアの出番はないかな。

マスターはヒバニーを見ながら小さな声でそう呟く。

どうやらしばらくの間はロゼリアをバトルで使う気はないらしい。

『ジムチャレンジ』をこなしていけばロゼリアもマスターのことをわかってくれるだろう。

 

「そっか!ゆうりがそう言うなら俺は何も言わない!じゃあさっさとスタジアムへ行こうぜ!」

 

マスターの説明を聞いたホップ君は納得したのか『ジムチャレンジ』へと話題を移す。

マスターもホップ君の言葉に頷いてホテルを出てスタジアムへと向かう。

ホテルを出る瞬間に、ロビーにいたマリィさんがこちらを見ていたけど、マスターは何も言わずにホテルを後にした。

 

 

 

 




感想ありがとう!
感想を見て、これを読んで笑っている君たちはドMでポケモン同士の恋愛に興奮する変態さんってことでいいんだよね?(よくない)

二話連続でポケモンメインで書いてたから今回はゆうり、マリィにスポットを当ててみた。

マリィは本当に良い子。
それに比べてこっちは本当にやべぇ。


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頭のおかしいマホイップは『ミストバースト』をくらわせる1

前に質問していた『だいばくはつ』を使えるポケモンなのですが、いろいろ教えてもらったポケモンを見て考えた結果、マホイップにしました。

今回の話は半分くらい番外編というかネタです。


『エンジンシティ』にはとても大人気なカフェがあります。

 

そのカフェはいつも多くの人達が集まり、開店から閉店まで確かな賑わいを見せてます。

 

オシャレな店内に甘いスイーツを求めるお客様ももちろん多いですが、お客様の一番の目的は『ポケモンバトル』です。

 

この店は通称『バトルカフェ』と呼ばれるカフェであり、カフェ内の店員と勝負をして勝つと、美味しい景品がプレゼントされます。

お客様達は美味しい景品を求め勝負をし、他のお客様は勝負を観戦しながらスイーツを頬張る。

バトルとスイーツが同時に楽しめるのがこのカフェの特徴なのです!

 

まぁ、ここまでは他の町でも同じ系列のカフェがあるため珍しくはありません。

でも、この町のカフェが一味違うのです。

 

ふっふっふ!なぜならこの店には他とは一味違う看板娘がいるのですから!

その看板娘のおかげでこの店は繁盛していると言っても過言ではありません!

 

いや、看板娘ではなく、看板ポケモンなんですけどね。

開店前で静かな店内を見ながら今日も楽しい一日になることを願います。

 

最近は歯応えがあるポケモンがいませんでしたからね。

今日こそは私の『ミストバースト』を耐えきるポケモンに会いたいところです。

 

「ん?なんだマホイップ、もう店にいたのか」

 

私が店内で開店を待ちわびていると、私の飼い主である店長が顔を見せます。

相変わらず太ってますね、毎日甘い物ばかり食べてるからです。

 

「マホイップ、今日こそ普通のバトルをしてくれ。頼むから」

 

 

嫌です。

 

 

店長が切実な表情で私に言い聞かせてきますが全て無視します。

野生で暴れ回っていた私を雇ってくれたことには感謝していますが、それとこれとは話が別です。

私が店長からプイっと顔を背けると疲れたようにため息を吐かれました。

 

「はぁ....そんなんだからお前はお客様から頭のおかしいマホイップなんて呼ばれるんだ」

 

看板ポケモンである私になんてことを!!

 

私のおかげでお店が繁盛しているという事実を忘れているようですね。

私が不満げに頬を膨らませるのを見た店長がジト目で私を見てきます。

 

「お前、自分がお店に貢献していると言いたいみたいだが、ぶっちゃけお前が稼いだ額よりお前が破壊した店内の修理費用とお客様からの苦情でマイナスだからな!」

 

それは軟弱な建物とお客様が悪いのであって私は全く悪くないと思います!

私は全く悪くないというに、擁護するどころか私のアイデンティティを奪おうとするとは、それでも私のトレーナーですか店長!

 

毎回のことですが、私は『ミストバースト』以外の技を使う気は一切ありません!

他の技なんて『ミストバースト』と比べたら全て塵芥と同じです!

 

だいたいこれだけで相手を全て吹き飛ばせるんですから別にいいじゃないですか!

 

私と店長の騒ぎを聞きつけた店員たちが次々と店内へと入ってきます。

そしてその全員がまたやってるよと言いたげな表情で私達を見つめた後、そのまま私たちを無視して開店作業へと始めます。

 

「はぁ....よし!もうすぐ開店だ!今日もみんな頑張っていこう!」

 

私との口論を終えた店長が店員へ声を掛けます。

それを聞いたみんなはおーっとやる気のない声を上げます。

 

それを見た店長は私を見て口を開きます。

 

「やる気がなさそうだな。よしマホイップ、一発派手にミストバーストを」

「「「よーし!!今日も頑張るぞー!!!」」」

 

ちっ!

やる気のない店員を見た店長が私に『ミストバースト』の指示をしようとした瞬間、全員が一斉に声を張り上げました。

 

「ちっ、開店前にこいつにミストバーストを使わせて放置してやろうと思ったのに」

 

どうやら店長はミストバーストを使って戦闘不能になった私を回復せずに放置する気だったみたいです。

甘い、甘すぎます!

自力で回復するために『げんきのかたまり』を常備している私に死角はありません!

 

私の作るクリームより甘い考えの店長で本当に助かりますよ。

私が黒い笑みを浮かべていると店内の時計が開店時間を示します。

 

店の扉が開き、朝から待っていて下さったお客様が店内へとやってきます。

 

ふっふっふ!さぁ、今日も派手に『ミストバースト』をぶちかましてやりますよ!

 

 

 

 

「ここがエンジンシティで有名なカフェなんだぞ!」

 

「ふーん....確かに賑わってるね」

 

ジムチャレンジの開会式を終えた僕達はジムのある次の町へ行く前に昼食を取るためにホップ君の提案でエンジンシティのカフェへとやってきた。

僕もマスターも朝食を食べてなくてお腹が空いていたのでホップ君の提案にすぐに食いついた。

そしてホップ君に案内されたカフェは何でもエンジンシティですごく有名なカフェのようだから美味しいご飯を期待できそうだ。

 

 

「いっらしゃいませ!こちらの席へどうぞ!」

 

店内に入ると店員がやってきて僕達を案内してくれる。

店内はとても賑わっていて、各席で人間さんとポケモンが美味しいなお菓子を頬張る姿が見える。

 

「お客様方は当店のご利用は初めてですか?」

 

店員さんの言葉にマスターとホップ君が頷く。

それを見た店員さんが僕達へこの店のシステムを丁寧に説明してくれる。

 

「当店は通常の食事とは別に店員とポケモンバトルを行うことができ、お客様が勝った場合に豪華な景品をプレゼントさせていただいております!」

 

「へーここってご飯を食べるだけじゃなくてバトルも出来るのか!」

 

ホップ君が興味深そうに店員さんの言葉に耳を傾る。

マスターはバトルよりも食事のことで頭がいっぱいなのかメニュー表を睨みつけるように見つめている。

僕もバトルは興味あるけど、それより先に空腹をなんとかしたいな。

 

あ、でも空腹のまま無理やりバトルさせられるみたいなシチュエーションなら喜んでバトルを優先する。

まぁマスターがご飯優先だからないだろうけど。

 

「よーし、バトルするぞ!ジムチャレンジ前の肩慣らしだ!」

 

ホップ君が店員さんにバトルに挑戦することを告げる。

ホップ君のバトルを見て面白そうなら僕も挑戦しようかな。

 

「では横のバトルフィールドへどうぞ!」

 

店員さんの指示に従って広い店内の奥に作られているバトルフィールドへ移動するホップ君。

店内にいた人たちはホップ君が挑戦するのを見て応援の声を上げる。

店員さんからの説明を聞く限り、ホップ君の相手はこの店の店長さんのようだ。

 

店長さんはホップ君にバトルシステムの説明をした後に二匹のポケモンを繰り出す。

ホップ君も同じようにモンスターボールから『サルノリ』と『ウールー』を繰り出した。

 

「へぇ....ダブルバトルなんだ。ホップ君うまく戦えるのかな」

 

2人が二匹のポケモンを同時に出したのを見てマスターがそう口にする。

なるほど、ここでは二匹のポケモンに指示を出して戦わないといけないのか。

僕の時は僕一匹対二匹の勝負に出来ないかマスターに交渉してもらおう。

 

食事を待ちながらそんなことを考えていると、店内にいた人たちが何やら騒いでいることに気が付いた。

 

「やべぇ!頭のおかしいマホイップが出た!全員すぐにバトルフィールドから離れろ!!」

 

バトルフィールドの近くにいた人がそう叫びながら慌てて距離を取っている。

他の人達もなぜかさっきの人と同じようにバトルフィールドから距離を取っていた。

 

「なんなの....?あの人が出したマホイップのこと?」

 

もともとバトルフィールドから離れていた僕達はそのまま動かずに店内の人達が慌てている原因だと思われるポケモンを見つめる。

マスターが『マホイップ』って言ったポケモンはあの子のことかな?

店内の人達の視線を追っていくと一匹のポケモンへとたどり着いた。

 

『頭のおかしいマホイップ』ってすごい名前で言われてるけど、あの子は一体何をやらかしたんだろう。

 

ワクワクした気持ちを抱きながらバトルフィールドのポケモン達を見つめる。

全員が退避するのを見ていた店長さんはバトルフィールドへと視線を戻して二匹のポケモンへと指示するために口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふふ、さっそく活きのいい挑戦者がやってきましたよ!

ボールの中から今回の挑戦者を観察して喜びの声を上げます。

さぁ店長!はやく私をボールから出してください!

開幕すぐに『ミストバースト』して相手を吹き飛ばしてやりますよ!

 

あ、待て!そっちは違う子が入ったボールです!

私のボールはこっちですよ!

 

店長が腰についたボールを手に取ろうと手を伸ばしますが、どうやら私以外の子を選ぶつもりのようです。

させませんよ!私を出さないなら勝手に出て大暴れしてやります!

私がボールを揺らして抗議すると、店長はため息を吐きながら私のボールへと手を伸ばし直しました。

それでいいんですよ。とりあえず私を出しておけば、相手もお客様も盛り上がること間違いないんですから!

 

ほら、私が登場した途端お客様達からどよめきの声が聞こえてきました。

ふっやれやれ、可愛い過ぎるというものも考え物ですね!

 

 

「やべぇ!頭のおかしいマホイップが出た!全員すぐにバトルフィールドから離れろ!!」

 

あ?『ミストバースト』するぞこの野郎。

 

先ほどのお客様の声を聞いて次々とお客様が私達から離れていきます。

おかしいですね、私の『ミストバースト』を見たいなら、むしろもっと近づくべきではないですか?

 

「はぁ....またお客様から苦情がくる」

 

おい店長、私の後ろでコッソリため息をつくのはやめてもらおうか。

 

 

 

 

 

 



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頭のおかしいマホイップは『ミストバースト』をくらわせる2

「やべぇ!頭のおかしいマホイップが出た!全員すぐにバトルフィールドから離れろ!!」

 

「また店が吹き飛ぶぞー!!」

 

「少年!命が惜しかったら早く逃げろ!逃げないのなら悪いが俺達のために犠牲になってくれ!!」

 

私の登場で店内にいたお客様達が騒ぎ始めます。

ふん!口ではこんなことを言っていますが実際に私の『ミストバースト』を見ればその洗練された威力と美しさにすぐに手のひらを返すに決まってますよ!!

 

「な、なんか周りの人達が騒いでるぞ!?そんなに強いポケモン達なのか!?」

 

周りからの言葉に対戦相手のお客様が焦ったように私達を見つめます。

ふふん、みんなが騒いでいるのは私が登場したからですよ!

 

「あー申し訳ない。ちょっとこっちのマホイップはうちでは有名なんです....悪い意味で」

 

おい、今ぼそっと余計なことを言いましたね。

あんたも私の『ミストバースト』に巻き込んでやりましょうか。

 

「へへ!ということはこの店で一番強いポケモンってことなんだな!だったら絶対勝つぞ!ここで負けてるようじゃジムチャレンジをクリアするなんて夢のまた夢だからな!」

 

ほほう、なかなか見所のあるお客様のようですね。

私を見て恐れるどころか勝つ気でいるとは。

 

ふ、いいでしょう!その挑戦受けて立ちます!

 

遠くに避難している店員の1人が開始の宣言をします。

それを聞いた店長とお客様は私達へ技の指示をするために大きく息を吸い込んで口を開きます!

 

さぁ店長!!早く私に『ミストバースト』の指示を!!

 

「サルノリ!えだつき!ウールー!ころがるだ!!」

 

先手をとったのはお客様のようですね!

私達へ向かって指示を受けたポケモン達がどんどん迫ってきます!

 

ふ、近づくのは好都合です!

二匹まとめて吹き飛ばしてやりますよ!!

 

こちらへ近づく二匹を迎え撃つために店長も私達へ指示を出します。

 

「プリン!じゃれつく!マホイップ!マジカルシャイン!!」

 

んん?何やら聞き慣れない技名が聞こえた気がしましたね。

きっと気のせいでしょう!さぁ店長!はやく私に『ミストバースト』の指示をしてください!

 

あ!プリン!!まだ行ったらダメですよ!さっきのは店長の指示ミスなんですから!!

もう店長!はやく訂正の指示をしてください!!

 

「マホイップ、マジカルシャインだ」

 

「・・・・」

 

「マホイップ!!マジカルシャインだって言ってんだろうが!!」

 

「・・・・」

 

無視します。

私は『ミストバースト』以外の技を覚えていないので使うことが出来ません。

ああー覚えてないから使えないのはしょうがないなー。

私も店長の指示に従いたいのはやまやまですが、私に出来ることは覚えている技を精一杯使うことだけ。

 

これは決してマスターの指示に従わないわけではないんです。店長が私が覚えてない技を言ったから私が勘違いして別の技を使ってしまっただけなんですから。

 

「おいマホイップ!てめぇまさか、プリン!まもる!!」

 

察しのいい店長が相方にいつものように『まもる』の指示を出します。

これで思いっきり放てますね!

 

ちょうどよくお客様のポケモン達も目の前に来ていますし。

ふふふふ!ではお客様お待たせしましたね!当店自慢の『ミストバースト』を食らわせてやりますよ!

 

私の身体中にあるエネルギーを全て中心へと凝縮させます。

そして極限まで凝縮し溜めたエネルギーを根こそぎ全て、身体から放ちます。

 

「な、なんだ!?眩し!!」

 

私の身体から発せられたエネルギーの光が店内を覆う。

お客様のポケモン二匹も私の『ミストバースト』のエネルギーの波にのまれていった。

そして強大なエネルギーによって生まれた衝撃と音が店内に響き渡る。

そして光が収まった後、バトルフィールドに立っているのは『まもる』で技を躱した店長のプリンのみ、お客様のポケモンは二匹とも目を回して倒れています。

 

ふ、決まりました....今日も良い『ミストバースト』を放つことが出来ましたよ。

強烈な脱力感に身を委ねながら床へと突っ伏します。

 

「なっ!?一瞬で俺のサルノリとウールーがやられるなんて!?」

 

衝撃が収まった後にフィールドに伏した自分のポケモン達を見てお客様の驚愕の声が漏れています。

私の『ミストバースト』の前ではどんなポケモンも一発ですからね、こうなるのは当然の流れです!

 

「うごご....また店内の壁やテーブルに傷やひびが、俺は一体後何回改装工事をすればいいんだ!」

 

後ろから店長の声が聞こえます。

やれやれ、せっかく私のおかげで勝ったんですからもっと喜んだらどうなんですか!

 

ていうか失敗しました!興奮のあまりせっかく用意した『げんきのかたまり』を事前に口に含むことを忘れてしまいました!!

くぅ!身体に力が入りません!すいません!誰でもいいから私の口に『げんきのかたまり』を放り込んでくれませんか!

 

その前に顔から地面に突っ伏していてるせいで息苦しいのでそろそろ起き上がらせてくれると嬉しいです。

 

「ふぅ....危機は去ったか」

「よし!これで今日はもう安全だ!やっと安心してケーキが食えるぜ」

「店長!そこでぶっ倒れてるマホイップはそのまま放置しといてくださいよ!」

 

ちょっ!?

どうして誰も私を起こしてくれないんですか!?

なんか私を無視して店内がまた活気づき始める音が聞こえてくるんですけど、まさかこのまま私を放置する気ではないですよね!?

 

私の不安が的中するように一向に私に向かってくる足音や気配が全くありません。

冗談ですよね!?まだ午前10時くらいですよ!?閉店まであと何時間あると思ってるんですか!?

私に閉店までこのまま床に突っ伏していろとでも!?

 

「皆さん!いつものことですがお騒がしてすいませんでした。お詫びに新作のショートケーキをサービスさせていただきますのでお楽しみください!」

 

店長の言葉で店内にいたお客様達が喜びの声を上げます。

店長!すばらしい配慮だと思いますけど私への配慮はどうしたんですか!?

何笑いながらバトルフィールドから帰ろうとしてんですか!?

くそう!覚えておきやがれですよ!!この恨みは明日の『ミストバースト』できっちりつけますからね!!

 

「ピカ」

 

おや?私の身体が誰かが優しく起こしてくれているようです。

床から抱き上げられた私の視界に映ったのは一匹のポケモンでした。

この方は確か....先ほどのお客様と一緒にいた人のポケモンでしたよね?

 

その方がどうしてわざわざ私のところに?

私が疑問を口にする前に彼が私の口へ何かゆっくりと運んできてくれます。

んん?これは『げんきのかけら』ではありませんか。もしかして私のために自分の分をくれようとしてるのですか?

 

え、なにこの優しいポケモン。

ちょっと素でびっくりするくらい良いポケモンさんで辛いんですが!?なんか私利私欲で自爆した私がすごく情けなく感じるレベルなんですが!?

 

ちょ!?やめろぉ!!

私の口に無理やり『げんきのかけら』をねじ込もうとしないでください!

私は『げんきのかたまり』を自前で用意していますから!出来たらそっちを食べさせてください!

 

私の願いは聞き届けられることなく私の口に無理やり『げんきのかけら』を突っ込まれます。

うぅ....一応元気にはなりましたが、すごく複雑です。

 

「ピカチュウ!!」

 

私が立ち上がるのを見た彼は嬉しそうに笑いながら鳴きます。

優しさが辛いというのは初めてですね。

 

そして彼はそのまま私から離れていたので、彼のトレーナーのところへ戻るかと思いきや、私と相対するかのようにバトルフィールド内へ留まります。

 

そしてバトルフィールドの始まりの位置に立った彼は何かを期待するように目を輝かせながら私を見つめます。

 

えっと....これはどういうことでしょう?

もしかして彼は私と戦いたいのでしょうか?

 

「お、おい....あの頭のおかしいマホイップが立ち上がってるぞ!!」

「バ、バカな!?あいつは確かにぶっ倒れていたのに!まさかあのピカチュウが蘇生させたのか!?」

「全員退避!今日はあいつが二回やらかすぞー!!」

 

私の復活を見て再び騒ぎ始めたお客様を避けるように彼のトレーナーもバトルフィールドへやってきます。

 

「バトルを申請します。受理していただけますか?」

 

「え?あ、はい!でも大丈夫ですか?先ほどご覧になったかと思いますが、あのマホイップがちょっと変わっていて」

 

「問題ないです。変わっていようとなんだろうと、あの子が戦いたいのならそれでいいんですから」

 

「は、はぁ....ではバトルフィールドへどうぞ」

 

ふむ....彼も変わっていますが、トレーナーのほうも随分と変わっているようですね。

私の『ミストバースト』を見た後に戦いたいと言うお客様は初めてですよ。

 

再びバトルフィールドへ戻ってきた店長がプリンを出して所定の位置につきます。

お客様も相対するように位置について彼の隣にもう一匹のポケモンを出しました。

 

「ヒバニー、あなたにはまだ辛いかもしれないけどあえて出す。ここでもう一段階強くなって」

 

「ヒバァ!!」

 

彼の隣に出てきたポケモンもやる気十分のようですね!

いいでしょう!!私の鍛え上げた『ミストバースト』で蹴散らしてやりますよ!

審判がバトル開始の合図を告げます。

それと同時に店長とお客様が指示を口にしました。

 

「プリン!まもる!マホイップ!ミストバー「ピカチュウ、ヒバニー!でんこうせっか!」

 

店長が技の指示を言い終える前にポケモン達が高速で私へと迫ります。

ええ、早すぎますよ!?エネルギーの溜めがまだ!!

しかも『まもる』をしているプリンは無視して二匹とも私へじゃないですか!?

 

「ピカァ!」

「ヒバァ!」

 

二匹の『でんこうせっか』が同時に私に直撃します。

ぐへ!き、効きますね。

今の私は体力が半分しかないのでこれだけでも十分すぎるほどのダメージです。

 

「そのまま一気に仕留めるよ!ピカチュウ!アイアンテール!ヒバニーはその後にひのこで追い打ち!」

 

なるほど、ヤられる前にヤるつもりのようですね。

ですが甘いです!先ほどの『でんこうせっか』で仕留めきれなかったのが痛かったですね!

私はすでに溜めが完了しています!!

 

ではいきますよ!ミストバーーーースト!!!

 

私は叫ぶと同時に全身から桃色のエネルギーを放出します。

この光にのまれたら最後、先ほどのポケモン達のように地に伏して起き上がることが出来ないでしょう!

 

「ピカチュウ!!」

「ヒ、ヒバ!!?」

 

私は『ミストバースト』を放ちながら彼らを見つめ、そこで目を見開きます。

なんと彼が一緒に戦っていた彼女を抱き締めてエネルギーの波から庇おうとしていました!

 

な、なんなんですか彼は!さっきの『げんきのかけら』といい、男前過ぎませんか!?

しかし、いくら彼でも私の『ミストバースト』に耐えることは不可能です!

男気は認めますが、勝負は私の勝ちですよ!!

 

ピカァァァァ!!(んほぉぉぉぉ!!)

 

ほら!光のドームの中で彼の絶叫が聞こえてきました!

これで私の勝ちです!!

なんか声に妙な感じがしましたが、私の勘違いでしょう。

 

しかし、光のドームが消えた先で私は衝撃の光景を目にしました。

 

なんと、彼は傷を負いながらもしっかりと二本足でフィールドに立っているのです!

そして彼が庇ったポケモンは無傷のまま立っていて、フィールドに伏しているのは私のみ。

 

彼は私の『ミストバースト』を耐えきったというのですが!?

私の鍛えた技は通常のものより遥かに強力な威力を持っているというのに!!

 

「うわまじか!?こいつのミストバーストを耐えきりやがっただと!?」

 

店長もフィールドの光景を見て驚いた声を上げます。

そりゃそうでしょう。今まで私の『ミストバースト』を『まもる』とかの技を使わずに耐えきったポケモンなんて数えるくらいしかいないんですから。

 

しかし!私はまだ負けを認めませんよ!!

事前に口に入れていた『げんきのかたまり』をかみ砕きます。

ふふふふふ!!これで体力は満タン!第二ラウンドの開始です!!

 

「っ!!?立ち上がった!?ミストバーストを使ったら瀕死になるはずなのに!!」

 

私が復活したことに気付いた相手のトレーナーが驚愕の表情を浮かべています!

それに比べて店長は私のしたことに勘づいたようでため息を吐いています。

 

「お前、口に仕込んでやがったな?ええい!こうなったらやけくそだ!!プリン!ミストフィールドだ!!」

 

店長の指示を聞いたプリンが『ミストフィールド』と呼ばれる桃色の空間を展開します。

ナイスアシストです!この空間によって私の『ミストバースト』はさらに強化されます!!

 

もちろん私もすでに準備万端!相手に対応をさせる前に吹っ飛ばしてやります!

 

「おいまて、まだプリンがまもるを出来てないぞ!」

 

戦いに犠牲はつきものです!!

 

ではいってみましょう!!ミストバァァァァァスト!!!

 

「ピカチュウ!!!」

 

っ!!またあなたですか!?

私がエネルギーを放出する寸前で彼が私に接近してきます。

私がエネルギーを外に出す前に仕留めるつもりなんでしょうけど、もう遅いですよ!!

 

私は彼が私に触れる直前で『ミストバースト』を放ちます。

彼はそれによって光の中へと消えていき....消えて....消え.....!?

 

え、えええええええ!?なんで私に抱き着いてるんですか!?

 

ちょ!?これじゃあエネルギーが彼によって受け止められて拡大しないじゃないですか!?

まさか、プリンともう一匹の彼女を守るためにわざと!?

 

こ、これが真の男前というやつなんですか!!?

 

しかしいくら彼でも至近距離でしかも威力は拡散せずに全て込められている今の状態に耐えきることは絶対に不可能です!!

 

もしこれで耐えられたら....私は....私は!!

 

外に出て拡散されずに場に留まり続けたエネルギーが一気に私と彼の間で爆発を起こします。

その衝撃は凄まじく、周りにいたプリンともう一匹のポケモンは吹き飛んでいきました。

 

その中心にいた私は当然無事なわけではなく....あれ?そういえばなんで私は未だに無事なんでしょう?

 

煙の中で見えた彼女たちのことを呑気に見ていた私は自分の状態を確認します。

確実に今までの以上の戦闘不能状態で意識が飛ぶと思っていたので全く自分のことを意識をしていませんでした。

 

改めて自分の状態を観察すれば、力の入らない私を誰かが支えてくれていることに気が付きます。

え....まさか。

 

「ピカ」

 

煙が晴れた視界でボロボロの彼が私に笑いかけていました。

彼は今にも倒れそうな満身創痍な姿でしたが、それでも倒れることなくフィールドに立ち続けます。

そんな....彼は私の『ミストバースト』を耐えきっただけでなく、その後の爆発からも私を庇ったというのですか!?

 

これは....悔しいですが、私の完敗と言わざるを得ませんね。

非常に認めたくありませんが、私の『ミストバースト』を二回も受け、さらに私を含めた全員を庇う。

これを完敗と言わず何といわばいいのでしょう。

 

ふ....今日は私の負けですが次はこうはいきませんよ!

これからさらに強化して次こそはあなたを倒してみせます。

 

だからそれまで私以外のポケモンに負けたらダメですからね!

今からあなたは私のライバルなんですから!!

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

あ、あの?

私の身体を弄って何をしてるんですか?

ちょっ!?どこ触ってんですか!?ええ!?そ、そういうのはもう少し仲良くなってからするのであって、今はまだ早いと思います!!

 

「ピカ....」

 

私の身体を一通り触り終えた彼は残念そうにため息を吐きました。

あれ?なんか思ってた反応と違うのですが?

あ!もしかして私が『げんきのかたまり』を持っていないか調べてくれていたんですかね?

 

そういうことでしたら納得がいきます!

ううむ、私の『ミストバースト』を耐えきるだけの耐久力に加え、この紳士さ。

これは本当に優良物件では?

 

「ヒバァ!!」

 

ああ何すんですか!!

いきなり現れた彼女に無理やり彼と離されます。

彼に離されたことで力の入らない私の身体はまたもや地面へとダイブしてしまいました。

 

「みっきゅ....」

 

おやおや?地面で倒れているせいで見えませんが何故か強烈な悪寒を感じますよ!?

私の顔の傍に何かが垂れて地面から煙が出るのが見えました!

 

これってどくですよね!?

すでに戦闘不能の私にそれはちょっとまずくないですか!?

本当にすいません!謝るので許してください!!

 

「あー負けた負けた!店はボロボロでお客様のポケモンに守られる始末。これってどんな景品をあげればいいんだ?」

 

私達が騒いでる先で店長が途方に暮れたような声を上げています。

そんなことはいいから早く私を助けてください!

このままではこの店の看板娘が傷物にされてしまいますよ!!

 

「そうだ....」

 

店長は小さくそう呟いた後に攻撃されそうだった私を間一髪モンスターボールに回収してくれます。

た、助かりました。

どうやら彼女達は彼を傷つけた私を怒っていたようですね。

まぁ、あれだけカッコいい方でしたらモテるのは当然でしょう。

 

「お客様、見事なバトルでした!事前に説明させていただきました通り、私に勝利したことで景品をお渡しさせていただきます!」

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

にこやかな笑みを浮かべながら近づいてくる店長にお客様はどうでもよさそうに返事を返します。

お客様はそんなことより傷ついた彼に『きずくすり』を塗るのに忙しそうですね。

 

「では商品はこちらになります。お受け取り下さい」

 

そう言いながら店長は何故か私の入ったボールをお客様に差し出します。

おい店長、まさか景品って。

 

「景品は当店自慢の看板娘!マホイップです!どうかお受け取りください!!」

 

「いらないです」

 

満面の笑みで差し出した私をお客様は一瞬で断ります。

ちょ!そこは少しは迷ってくださいよ!!

 

ていうか店長!!私を差し出すとかどういうつもりですか!

しまいにはあんたに『ミストバースト』をぶち込みますよ!!

 

モンスターボールの中で私が騒いでいることに気付いた店長は私に向かって吠えてきました。

 

「うるせぇ!てめぇの面倒はもううんざりだよこんちくしょう!げんきのかたまりを勝手に口の中に仕込みやがって!あんなの訴えられたらこの店は一発でアウトなんだよ!」

 

一発撃ったら瀕死になるんだからしょうがないじゃないですか!!

そっちがその気ならもういいです!

私は今日からお客様の子になります!!

 

ちょうど気になる方も出来ましたしちょうどいいです!!

 

「というわけでお客様!なんなら他の景品もつけますのでぜひ受け取ってください!こいつのミストバーストは威力だけはあるのでジムチャレンジでもきっと役に立つはずです!」

 

「いらないです」

 

店長がなんとか私を渡そうとしますが、またもや一考もせずに断りをいれるお客様。

しまいには土下座をし始めた店長。

 

それを見た私はブチ切れてボールから飛び出して店長の顔をたたき続けます。

そして気が付いた時にはお客様は消えており、店内に見る影もありません。

 

まぁいいでしょう....鍛えて次こそは彼を倒して見せます!

いっそのこと彼らを追いかけて別のバトルカフェへ行くのもありですね。

 

ふふふ!逃がしませんよ!あなたは私のライバルなんですからね!!

 

 

 

 




正直キャラがもうわかりやすすぎて今後使うと色々ますいのではと思ったので手持ちには加えずに今回のみのゲストキャラで出しました。





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ドMなピカチュウは『ダイソウゲン』をくらう

久しぶりに投稿します。
読んでいただければ幸いです。


『ジムチャレンジ』

 

マスターの説明によると、これはチャンピオンであるダンデさんと戦うことが出来るトーナメントに出場するためにクリアしなけばならないものらしい。

 

合計8つのジムに挑み、そこでジムリーダーと呼ばれているトレーナーとポケモン勝負を行い、彼らからの勝利の証であるジムバッチを受け取る。

 

そのジムバッチを8つ集めることで、トーナメントへの参加ができるようになるらしい。

 

ジムチャレンジで戦うジムリーダーの順番は決まっているらしく、最初はくさタイプを扱うジムリーダーとの勝負になるようだ。

 

そしてそのジムリーダーとは、今僕たちの目の前にいる人間さんのことなのだろう。

 

「君が今回最初の挑戦者だわ!」

 

マスターよりもずっと大きい男の人間さんは優しそうな笑みを浮かべながらマスターへ話しかける。

 

「....私が一番乗りだったんですね」

 

マスターはそんな彼の言葉に目を逸らしながら小さな声でそう返す。

 

場所は大きな建物の中。

建物の中には数えきれないほどの人たちがいて、僕たちのことを応援する声が響き渡る。

何千人という人間さんに囲まれながら僕とマスターは広大なバトルフィールドの中心へと進む。

 

「いよいよだね、これがあなたの願いを叶えるための最初の一歩」

 

バトルフィールドの中心へとたどり着いたマスターは僕を抱き上げてそう呟く。

僕の願いとは、チャンピオンのダンデさんと戦ってボコボコにしてもらうこと。

 

マスターはそんな僕の願いのためにここまできてくれている。

本当に、彼女に対して僕は何でお返してしたらいいかわからない。

この8つのジムチャレンジを通してマスターのために出来ることを考えてないといけない。

 

『見事ジムミッションをクリアし、ジムリーダーであるヤローに挑戦権を手に入れたユウリ選手!!彼女はなんと!チャンピオンであるダンデ選手からの推薦を受け、今回のジムチャレンジに参加しております!!』

 

建物の中に人間さんの大きな声が響く。

どうやらマスターのことを紹介しているみたいだ。

人間さんの紹介を受けたマスターは恥ずかしそうに顔を俯かしている。

 

「....ヒバニー、出てきて」

 

マスターは顔を俯かせながらベルトに装着させたモンスターボールを放り投げる。

ゆっくりと放り投げられたボールからはマスターに名前を呼ばれたポケモン、ヒバニーが姿を現す。

 

「ヒバっ!!」

 

ボールから出てきた彼女は元気よくマスターへ近づく。

彼女の視線に合わせるようにマスターは膝を地面につかせながら彼女へ口を開く。

 

「大会開始前に説明した通り、今回のバトルはあなたに戦ってもらうわ。ピカチュウやロゼリアの助けは今回はないと考えておいてね」

 

マスターの言葉に彼女は力強く頷く。

大会開始前、マスターは事前にこのことを彼女に伝えていた。

 

マスター曰く、このジムチャレンジは僕とロゼリアの力があれば楽に突破できるレベルに設定されているらしい。

 

8つあるジムチャレンジは後半になるにつれてレベルが上がっていくけど、裏を返せば序盤のレベルはそこまで高くない。

 

だからすでに高レベルな僕とロゼリアなら序盤のジムチャレンジは簡単に突破できるらしい。

しかし、それではヒバニーが成長することが出来ない。

僕たちと比べるとどうしてもレベルが劣る彼女のレベル上げは必須。

だからマスターはこのジムチャレンジの場を彼女の成長への機会として利用するつもりなのだ。

 

ヒバニーもそのことを理解し、この戦いを自身の成長の場ととらえている。

 

....本音を言えば、僕が戦いたい。

ジムリーダーが戦う姿を僕は何度もテレビ上で見てきた。

その度にあの場に僕がいたらっと考えた。

 

そして僕は今、実際にテレビで見てきた場所にこうして立っている。

こんなの今すぐ戦いたい(ボコボコにされたい)に決まってるじゃないか!

 

 

しかし!ここは我慢だ僕!!

彼女の成長の機会を、僕の邪な要求で奪ってしまうなんてことは出来ない。

 

僕は心の中で歯を食いしばりながら耐えていると、大きな男性の声が響き渡る。

 

『それでは記念すべき最初のジムバトル、始め!!』

 

「いくよヒバニー!!」

 

バトルの開始を告げる声に反応してマスターがヒバニーをスタジアムの中央へ送り出す。

そして合せるように対戦相手のジムリーダーもボールを放り投げ、ボールの中からポケモンが姿を現す。

 

「相手は....くさタイプのヒメンカ!ヒバニー!あなたと相性が良い相手だよ!」

 

「ヒバッ!!」

 

マスターが相手のポケモンを確認し、ヒバニーに声をかける。

 

「ヒメンカの特性は確か....『さいせいりょく』か『わたげ』!どっちの特性でも長期戦は避けたい。ここは一気に攻める!!」

 

そう言った後にマスターはヒバニーに『でんこうせっか』の指示を飛ばす。

指示を受けたヒバニーは両足に力を溜めた後に一直線で相手へと飛び出した。

 

そして高速で接近してきたヒバニーに相手は反応することが出来ず、彼女の『でんこうせっか』が直撃する。

 

彼女の『でんこうせっか』が直撃した相手の体から白い綿毛が漏れる。

そしてそれがヒバニーへと接触し、そのまま離れることなく彼女に張り付いた。

 

「ヒ、ヒバッ!?」

 

いきなり自分に張り付いた綿毛に彼女は硬直する。

 

「っ!特性は『わたげ』。すばやさが下がっちゃったけど、相手の動きは崩せた!ここで一気に決めるよヒバニー!」

 

彼女の状態をすぐに把握したマスターがヒバニーへ新たな指示を飛ばす。

 

「かえんほうしゃ!!」

 

「ヒッバァ!!!」

 

マスターからの指示にヒバニーは口から漏れ出るほどの大きな炎を溜め込む。

 

そして彼女の口から生まれた炎の川が相手を飲み込んだ。

 

いいなぁ....。

炎に飲み込まれた相手を見て思わずそう呟いてしまう。

くさタイプである相手は彼女の『かえんほうしゃ』は効果抜群だ。

もともと威力の高い技が効果抜群の影響でさらなるダメージを追加している。

 

僕がくさタイプだったら嬉々としてあの炎の中に飛び込んだに違いない。

その場合、果たして僕は耐えられることが出来ただろうか?

 

その答えを告げるように炎の中から対戦相手のポケモンが姿を現す。

炎の波が過ぎた先で対戦相手のポケモンが目を回して倒れていた。

 

それを確認した審判が対戦相手のポケモンの戦闘不能を告げる。

 

審判がそう告げた瞬間、大勢の人たちから歓声が上がる。

ふむ、これで一つ目のジムチャレンジはクリアしたということなのだろうか?

 

マスターのほうへと視線を向ければ、どうしてか安心したように胸を撫でおろしていた。

 

「よかった....技マシンを使って覚えてもらったから使えるから不安だったけど、ちゃんと使えたみたい」

 

 

その言葉で試合前にポケモンセンターで何かを購入してヒバニーに与えていたことを思い出した。

あれは僕たちポケモンが新たな技を使えるようになるアイテムだったはず。

僕も何度か使ったことがあるから間違いないと思う。

つまり先ほどの『かえんほうしゃ』は技マシンを使ったことで使えるようになった技だったということか。

 

ふむ....これを使えば彼女は今すぐ『だいもんじ』を覚えることが出来るのでは?

そしてその練習と称して僕へぶつけてもらえばいい。

 

なんということだ!これを使えば日常的に『だいもんじ』を受けることが出来て、さらに『はかいこうせん』や『ギガインパクト』の技マシンを買えば、それらも受けることが可能!!

 

こうしてはいられない!早くポケモンセンターでマスターに技マシンを買ってもらわないと!!

 

「え?どうしたの?あ、もしかしてバトルに出たいの?....ごめんね、今はあの子に譲ってあげてほしいな。あの子が成長すれば、あなたの助けにきっとなってくれるはずだから」

 

いきなり飛びついた僕がバトルへ出たいと勘違いしたマスターが申し訳なさそうに謝ってくる。

それを見て僕は慌てて首を左右へと振る。

僕の暴走でマスターを困らわせてしまった、反省しないと。

 

あれ?というかまだバトル終わってないの?

 

そんな僕の疑問に答えるようにジムリーダが新たなポケモンを繰り出してきた。

ボールから飛び出してきた二匹目のポケモンをマスターは見つめる。

 

「二匹目はワタシラガ....一匹目のヒメンカの進化系。だったらさっきと同じ戦い方で」

 

「それはどうですかな!!」

 

二匹を確認したマスターがそう呟いた後に相手のジムリーダーが笑みを浮かべながらマスターの言葉に応える。

 

「スタジアムの醍醐味を忘れたらダメだよ!いくよ!ダイマックス!!」

 

ジムリーダーがそういうと同時にフィールドに出ていた相手のポケモンが再び彼のボールの中へと吸い込まれる。

そしてポケモンが完全にボールに入った後、不思議なピンク色の光と共にボールが巨大化してしまった。

 

そして巨大化したボールをフィールドに投げ、再びワタシラガが姿を現す。

しかし、出てきたポケモンの大きさは先ほどの比ではない。

 

巨大化したボールに合わせるように飛び出してきたポケモンも巨大化してしまっていた。

 

「っ!?これが、ダイマックス....!」

 

巨大化したポケモンを見上げながらマスターの驚愕の声が漏れる。

僕もその横で初めて生で見るダイナックスの姿に開いた口がふさがらなかった。

 

「っ!驚いてる場合じゃないよね!こっちもダイマックスを!!」

 

「一歩遅いんだわ!ワタシラガ!ダイソウゲン!!」

 

マスターがヒバニーをボールに戻すよりも早く、相手の指示がポケモンへと飛ぶ。

指示を受けたポケモンはその大きな体から緑色のエネルギーを発する。

 

「ヒバニー!急いで離れて!!」

 

「ッ!!ヒバッ!?」

 

マスターの指示を聞いたヒバニーはその場から移動しようとするが、彼女の体にまとわりついた綿が動きを鈍らせる。

それが致命傷となった。

 

「ヒバァァァァ!!」

 

「ヒバニー!!?」

 

ダイマックスしたポケモンから放たれた強大なエネルギーが彼女へ襲い掛かる。

強大過ぎるエネルギーはいともたやすく彼女を飲み込んだ。

彼女を飲み込んだエネルギーはまるで森のような姿を形作った後に周囲へと広がる。

 

エネルギーが霧散したフィールドの中心には傷ついた姿で倒れるヒバニーの姿があった。

彼女は震えながらも傷ついた身体を動かして立ち上がろうとしている。

 

まだ私は負けていないぞ!!

そう彼女が言っているように感じた。

 

「ヒバニーにくさタイプの技は半減するはずなのに、一気に半分以上の体力を持っていかれた....!!」

 

彼女の様子を観察し、冷や汗を流すマスター。

ボロボロの彼女の様子を見て僕も焦る。

彼女の戦意は未だ折れてはいない。

しかし、彼女の体力で次の一撃を耐えられるか。

 

ボロボロになりながらも立ち上がるヒバニーを見て、相手も再びダイマックス技を放つ準備を始める。

それを見て、僕の我慢が限界を超えた。

 

「次はさせない!こっちもダイマックスで....!?」

 

ピカ(まって)!!」

 

動き出そうとするマスターにしがみつく。

あんなの見てしまったら、もう我慢なんて出来ない!!

 

ピカピカチュウ(僕もあの技をくらいたい)!!」

 

マスターに僕の熱意を伝える。

言葉が通じなくても、マスターなら僕の気持ちをわかってくれるはず!!

マスターは僕の声を聞いた後、僕を見ながら苦笑いを浮かべる。

 

「.....あなたは本当に優しいね。わかった!行ってピカチュウ!!」

 

うん?優しい?

マスターの言葉に疑問が浮かぶが、でも行っていいと言ってくれたことには変わりはない。

 

マスターから離れて勢いよくフィールドへと進む。

僕がフィールドへと入ったと同時にマスターがヒバニーをボールへと戻す。

 

ボールへと戻るヒバニーと目が合う。

彼女は自分がボールへと戻されることに驚いた後、僕のほうを見て苦笑いを浮かべていた。

 

まるでしょうがないわねっと言いたげな表情の彼女に僕は頭を下げる。

ごめん、彼女のためのフィールドであるこの場所に勝手に割り込んでしまった。

 

罪悪感を抱きながらも自分の心に嘘をつくことはできない。

ここを逃してしまったら、もう二度とあの技をくらえないかもしれない。

 

そんなことになってしまったら、僕は一生後悔する!!

 

僕と彼女が完全に入れ替わったタイミングで相手の準備も完了する。

フィールドに立ち込める一回目の技の残滓が薄く光る。

 

この緑色のエネルギーは今から放つ相手の技を強化するものだと予感した。

 

僕の予感を正解だと言わんばかりに先ほど見た技よりもさらに強力なプレッシャーをもった技が僕へと放たれる。

 

ピカァァァァァァ!!!(きたぁぁぁぁ!!!)

 

緑色の閃光が僕を覆い隠す。

そして僕の期待通りの痛みが僕を....僕を!!

 

襲わなかった。

 

あれ....?思ったより痛くない(気持ちよくない)

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。

面白いと思っていただければ、モチベーションのために感想、評価をくだされば嬉しいです。


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負けず嫌いなラビフットは『ダイバーン』をくらわせる

投稿します。
感想、評価ありがとうございました。




緑色の閃光がフィールドを包んだ。

相手が放出した閃光が一度目に放たれていた技の残滓と共鳴するかのように強烈な力を発する。

もし私がこの技をくらっていたら戦闘不能で倒れていたことだろう。

 

もちろんフィールドに残っていたのなら、絶対に立ち上がって戦い続ける覚悟はある。

しかし、それでも瀕死の状態には必ずなっていただろう。

 

そしてそれを彼は許せなかったみたいだ。

私は知っている。

彼は誰よりも優しくて、いつも私たちが傷つかないように私たちの前に立ち続ける。

 

だからユウリが私をフィールドから下げるのと入れ替わるように現れた彼が見えた時、思わず苦笑いが漏れた。

 

まったく、今回は私が強くなるための闘いだっていうのに。

たとえこれで私が戦闘不能になろうと、それは私の実力不足が原因なのよ。

なのに私の代わりにフィールドに飛び出してさ。

今入れ替わったら、反撃する暇もないでしょうに。

 

本当に過保護なんだから。

 

相手が放った大技が私と入れ替わってフィールドに出た彼を一瞬で飲み込む。

相手の技は私がくらった時よりもさらに威力が増していることを肌で感じた。

 

フィールドに展開されていた力が相手の技を強化したように思える。

つまり今彼は、私がくらった時よりもさらに威力が上がった技をうけているということ。

 

身体に残る痛みに顔をしかめ、今私の代わりに彼がうけているであろう痛みに心を曇らせる。

 

「ヒバニー、彼が心配?」

 

私の心を読むように横にいたユウリが私に声をかける。

心配に決まってる。

彼が私に傷ついてほしくなくてフィールドに飛び出したように。

私も彼に傷ついてほしくないのだから。

私もだと言わんばかりにユウリのベルトにつけられたモンスターボールが揺れる。

きっと今ボールの中を覗けば鬼のような表情のロゼリアを見ることができるだろう。

 

「あなたは彼がこの攻撃で倒れると思ってる?」

 

私が頷いたのを見たユウリが再び私に問いかける。

その言葉を聞いてフィールドに視線を向ける。

フィールドには土煙が舞って彼の姿は見えない。

 

煙が晴れた時の彼の姿を想像する。

 

涙を流しながら痛い痛いと泣いている?

ボロボロの姿で地に伏している?

 

違う。

 

私の想像上の彼は傷ついた身体で真っすぐに立っている。

どんな攻撃を受けたって彼が倒れる姿は想像できなかった。

 

「彼が倒れる姿は想像できないでしょ?それだけの信頼が彼にはある」

 

私の表情から答えを察したのかフィールドを見つめながらユウリは言葉を続ける。

 

「今回あなたは彼の信頼を勝ち取れなかった。だから彼は飛び出した」

 

「・・・・」

 

ユウリの言葉で黙り込む。

バトルが始まる前から予想していたことだった。

ユウリは今回彼やロゼリアを出さずに私だけで戦うと言っていて、その言葉に彼も渋々といった様子で頷いていた。

バトルが好きな彼のことだ、今回のバトルも出たかったに違いない。

でも私の成長のために譲ってくれた。

 

私はそんな彼の気持ちを受けて頑張ろうと気合を入れる一方で私が本当に危ない時、彼はきっとフィールドに飛び出すんじゃないかと思った。

 

そして私の予感は的中し、彼は私の代わりにフィールドに出て相手の大技を受けた。

私が彼の信頼を得ていれば、私が大技を受けた後も私を信頼してフィールドに飛び出さなかっただろう。

 

私が弱いから。

私が弱いから彼が代わりに傷ついてしまう。

今回だけじゃない、これから先同じような状況は多くあるだろう。

 

その度に弱い私を守るために彼は前に出て傷ついてしまう。

 

「あなたはそれでいいの?」

 

ヒバァ!!(よくないわよ!!)

 

マスターの言葉に絶対の意志をのせて答える。

私は優しいあいつが好きだ。

どんな時だって駆けつけてくれるヒーローみたいな彼が好きだ。

 

私はそんなあいつの隣に相応しいポケモンになるんだ!!

 

「よくないみたいだね。じゃあ一緒に頑張ろ、まだ戦いは終わってないんだから」

 

ユウリがそういうと同時にフィールドに立ち込める煙が晴れていく。

そして煙が晴れた先から彼が姿を現す。

 

「さすがだね」

 

彼の姿を見たユウリが笑みを浮かべる。

私はユウリの言葉を聞きながら彼の姿をじっと見つめる。

 

私が想像した姿と目に映る彼の姿が重なる。

 

私の目に映るのは傷つきながらも決して折れることなくフィールドに立つ(英雄)の姿。

 

あぁ....本当にかっこいい。

 

彼の姿を見て涙が出そうになる。

私もあんな風になれるのかな?

 

いや、違う!

なるんだ!私は彼の隣に相応しいポケモン(英雄)に!!

 

「まだ相手は彼を見つけられてない。ここは....ピカチュウ!でんじは!!」

 

「ピカ!!」

 

ユウリの指示に従って彼の身体から電気が漏れる。

彼が発した電撃が相手へ一直線に走る。

 

相手は煙で彼の姿を見失っていたのか、突然現れた電撃を避けることが出来ずにくらう。

まぁ、あんなに巨大化している体で避けるのは難しいでしょうけど。

 

彼の電撃に敵は驚いた様子を見せるがダメージを受けた様子はない。

やはりあれだけ巨大化した相手にはいくら彼の攻撃でもダメージは与えられないの?

 

「よし!やっぱり状態異常攻撃はダイマックス時でも効くみたいだね!」

 

私の杞憂を笑うかのようにユウリは笑みを浮かべながらそう言う。

ユウリの言葉を聞いて相手をもう一度見てみれば、相手の身体に彼が放った電撃が帯電していることがわかった。

 

これってユウリに教えてもらったマヒ状態ってやつよね?

ロゼリアと戦った時になったドク状態と同じ状態異常。

 

「これで相手は動きにくくなった。次は」

 

ヒバ(待って)!!」

 

彼に次の指示を出そうとするユウリを呼び止める。

私の声を聞いたユウリは彼への指示を中断して私と視線を合わせる。

 

私はユウリの視線から一切目を逸らすことなく見つめ続ける。

ここで引いたら私はもう二度と彼の隣に立てないと直感した。

 

「彼のところに行きたいの?」

 

じっと私を見つめていたユウリの表情がふっと柔らかくなる。

そしてユウリは私に小さな声でそう問いかけた。

 

ヒバァァ!!(あったりまえでしょ!!)

 

ユウリの言葉に私は即答する。

それを聞いたユウリは彼のいるフィールドへ指をさし。

 

「行きなさいヒバニー!私たち二人であれを倒すよ!!」

 

ユウリの声を聞いた瞬間に私はフィールドへと飛び出す。

フィールドを舞っていた砂埃はもうすぐ完全に晴れる。

 

敵が私達を視界にとらえる前に交換をしなければならない。

 

私がフィールドの中に走っていくと、それに気付いた彼がゆっくりと私の方へと振り返る。

 

「ピ、ピカチュウ」

 

彼は私を視界に入れると気まずそうに眼を逸らしながら小さく鳴く。

きっと無理やり私と交代したことを申し訳ないと考えているのだろう。

 

それにイラっときた私は目を逸らす彼に向かって飛び蹴りをかます。

 

「ピカァァ!!?」

 

当然の私の飛び蹴りに彼は驚きの声を上げながら吹っ飛ぶ。

私の心配をして飛び出してくれたのにそんな態度しないでよね!!

 

あんたはもっと堂々としてればいいのよ!

私の惚れた男なんだから、もっと自信をもって胸を張りなさい!!

 

 

「ヒバ」

 

彼をユウリの方へと蹴り飛ばして敵を見上げる。

なによ、全然小さいじゃない。

 

巨大化した相手を見ながら私は小さく笑みを浮かべる。

不思議な力によって巨大化した相手を見て、私はそんな感想を浮かべた。

 

当然だ。

だって、彼の背中の方が、何倍も大きいと感じたんだから。

 

私も絶対に彼に追いつく。

だから今はそこで見てなさい!! 私の炎が、敵を焼く尽くすところをね!!

 

「ヒッバァァァァァァァ!!!!」

 

私の気持ちに応えるように身体から力が湧き出してくるのを感じた。

 

「ピカ!?」

 

後ろにいる彼から驚きの声が漏れる。

その声で私は自身の身体の変化に気が付いた。

 

「まさか、進化したの!?確かにそろそろかもとは思ってたけど、まさかこのタイミングで」

 

私達のさらに後方からユウリの声が届く。

ユウリの言葉によって他の人間も理解したのか、このバトルが始まって一番の歓声が沸き起こった。

 

何よ私の身体!どうせ進化するならもう少し早くしなさいよ!

それなら彼が私の代わりにフィールドに来ることはなかったし、私も悔しい思いもしなくてすんだのに。

 

まぁいいわ!この悔しさは目の前の相手に全部ぶつけてやる!!

 

「びっくりしたけど、これはチャンス!」

 

 

そう言ってユウリは私をボールへと戻す。

一瞬また引っ込められたのかと焦ったけど、これは。

 

「いくよ!ダイマックス!!」

 

ユウリの腕についていたリングから赤い光が漏れる。

それが私の入っているボールへと届き、不思議な力が私とボールを満たす。

 

ユウリは私の入ったボールをフィールドへと投げ込む。

投げ込まれたボールはフィールドの途中で開き、私は再びフィールドへと現れる。

 

ボールから現れた私がフィールドに降り立つと同時に地面が揺れる。

これって私が相手と同じように巨大化してるのよね?

 

さっき相手のことを小さいって言ったけど、まさか本当に小さく見えることになるとは思わなかったわ。

 

「あらら、見惚れちゃって手を打つのが遅れちゃったか!でも、僕のワタシラガの方が早い!」

 

相手はピカチュウの登場から始まった怒涛の変化に固まっていたが、ここにきて追いついてきた。

 

相手はすでに攻撃の準備が完了している。

それに対し私はボールから出たばかりで攻撃の準備が出来ていない。

 

今からだとどうしても相手の攻撃の方が早く私に届く。

すでに私は大きな攻撃を相手から受けている。

 

次の相手の攻撃で私が倒れないという保証はどこにもない。

 

 

 

 

上等じゃない!!

 

絶対耐えきって倍返しにしてやるわ!!

私の特性を使えば倍返しどころか十倍返しにだって出来るんだからね!!

 

「ワタシラガ!ダイソウゲン!!」

 

相手のトレーナーから技の指示が飛ぶ。

目の前の相手はトレーナーの指示に応えようと身体中からエネルギーを放出しようとする。

 

ヒバァァ(きなさい)!!」

 

相手の攻撃に耐えるために歯を食いしばる。

 

しかし、相手が攻撃をしようとした瞬間、相手の身体に走った電撃が動きを止める。

 

「っ!?マヒ状態!!しまった」

 

自身のポケモンの様子を見て焦りを見せるジムトレーナー。

その姿を見て、また私は彼に助けられたことを理解した。

 

まったく、まだまだね私は。

進化して少しは自信が持てたかと思ったのに、それも一瞬で粉々だわ。

 

「ラビフット、いくよ」

 

ユウリが私に声をかける。

ええ、わかってるわよ。

彼からもらったチャンス、絶対に無駄にはしないわ!!

 

「ラビフット!!ダイバーン!!!」

 

ユウリの言葉に応えて巨大な炎を生み出す。

くらいなさい!! これが私の全力よ!!

 

「ヒッッッバァァァァァァァ!!!!!」

 

 

自身の思いを全て技に込めて相手へと解き放つ。

生み出した炎は真っすぐ相手へと飛んでいき、強大な火柱で相手を飲み込んだ。

 

「ピカァ」

 

後ろで彼の鳴き声が届く。

ふふん!ちゃんと見てなさい!これが!私の闘いの第一歩目よ!

すぐにあんたの隣に立ってやるんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

思ったり気持ちよくなかった。

それが僕の嘘偽りない気持ちだ。

 

期待していなかったと言えば嘘になる。

 

見るからに大技だし、今まで数々の大技を受けていた僕はこの技の威力を『はかいこうせん』相当のものだと予想した。

 

 

でも蓋を開けてみれば気持ちよさは下の上といったところ。

確かに事前にレベルの差の関係で僕なら楽に勝てるとは聞いていた。

 

けど!これはジムバトルなんだ!!今まで夢に見ていたジムバトルなんだ!!

 

僕が何回夢の中でボコボコにされ、朝起きた時に夢だと気づいて咽び泣いたことか。

 

僕が理想と現実の差に愕然としていると、後ろからヒバニーがやってくるのが見えた。

 

ダメだ、今の僕は彼女をまっすぐ見ることが出来ない。

彼女はあの攻撃でかなりのダメージを受けていた。

 

それはつまり、彼女は僕と違ってあの攻撃がとても痛かった(気持ちよかった)ということだ。

 

レベルの差。

 

そんなことはわかってる。

でも、それでも羨ましいと思ってしまう。

 

くそ!自分の浅ましさに腹が立ってきた!

ダメだダメだ!こんなの彼女に失礼だ!

 

気持ちを切り替えてバトルに集ちゅ!!?

 

ピカァ!!?(ありがとうございます!!?)

 

突然の彼女からのドロップキックについお礼を言ってしまう。

僕を蹴り飛ばした彼女はそのまま僕と入れ替わるように相手を見据える。

 

その姿を見て僕は察した。

心優しい彼女は僕が先ほどの攻撃では満足できなかったことに気付いたんだ。

そしてそんな僕のためにドロップキックをくらわした。

 

それだけじゃなく、集中力が切れていた僕に代わってバトルまで。

なんということだ。僕はもう彼女に足を向けて寝れないぞ。

 

 

自分の欲望で勝手に飛び出した僕のフォローをしてくれるなんて本当になんて良い子なんだろう。

 

僕が彼女の懐の深さに感動している間に状況は高速で動き始める。

 

なんと彼女が進化した!しかもその後すぐに相手と同じように巨大化した!!

 

巨大化した彼女はその身体に相応しい大きさの炎を繰り出す。

途中で相手が攻撃をしようとしたけど、マヒ状態だったのか動くことが出来ないようだった。

 

あれ?いつの間に相手はマヒ状態に?

 

僕の疑問は彼女の蹴りだした強大な炎を見てすぐに霧散する。

彼女の作り出した炎を見て、僕は無意識に呟いていた。

 

ピカァ(いいなぁ)

 

 

僕もあれ、くらいたかったなぁ。

 

 

それと、あとでマスターに教えてもらってわかったんだけど、どうやら落ち込んでいた僕は無意識にマスターの指示に従って『でんじは』を使っていたようだ。

 

これを応用すれば、僕自身の意識が落ちても動き続けてダメージを受ける(気持ちよくなれる)ことが出来るのでは?

 

 

 

 

 

英雄ユウリは6匹のポケモンを所持していた。

 

その中でもっとも有名なポケモンは守護者ピカチュウであることは誰もが周知の事実であると思う。

しかし、彼女のエースならどうだろうか?

 

物語でピカチュウは守護神の名に相応しい数々の偉業を成し遂げた。

その中でも物語序盤のジムリーダー ヤローとのバトルが好きなものは多いだろう。

 

物語序盤で英雄ユウリは三匹のポケモンと共にジムリーダー ヤローとバトルを行う。

そこで窮地に陥るヒバニーを彼は自身の身体を盾として、相手の攻撃を防いで彼女を守るのだ。

 

そしてそんな彼の雄姿を見て、ヒバニーは覚醒し、相手を見事倒す。

ピカチュウの雄姿、ヒバニーの進化、彼らの友情。

見どころは多くあるが、ここで最初の話に戻ろう。

 

英雄ユウリのエースポケモンは誰か。

私はそれはヒバニー、後のエースバーンであると思う。

 

これには意見が分かれることが多いが、後のチャンピオンであるダンデの相棒、リザードンと繰り広げたエースバーンの闘いを見て、私は彼女こそが英雄ユウリのエースポケモンだと考えた。

 

 

守護神ピカチュウに導かれ、どんどん成長をしていくヒバニー。

ジムリーダー ヤローとのバトルから彼女がエースになるまでの物語は始まる。

 

 

この物語は、主人公ユウリが英雄になるまでの物語であると同時に彼女がエースになるまでの物語でもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※なお、実際はただのドMとそれに勘違いした残念な女たちの物語である。

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。

面白いと思っていただければ、モチベーションのために感想、評価をくだされば嬉しいです。


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ヤンデレなロゼリアは『なでなで』をくらう

「ラビフット!ニトロチャージ!!」

 

炎を纏った彼女の身体が敵へとぶつかる。

身体の接触による衝突エネルギーと炎のエネルギーが相手を吹き飛ばす。

彼女の攻撃を受けた相手はなすすべなくフィールド外へと吹き飛び目を回して倒れた。

 

 

「バチンキー!」

 

吹き飛んだ自身のポケモンを追いかける対戦相手のトレーナー、ホップ。

そして目を回しているサルノリをボールに戻すと悔しそうに声を上げた。

 

「くっそー!負けた!ユウリのラビフットめちゃくちゃ強いな!!」

 

「ありがと、ホップもかなり強くなってるね」

 

ホップからの賞賛をマスターは軽く流して答える。

僕もマスターの言葉に同意見だ。

ホップは十分強くなってると思う。

手持ちのポケモンは進化して強くなってるし、指示も問題なかった。

ただそれ以上にマスターの指示の鋭さが、そして何より彼女の実力の伸びが凄まじいんだ。

 

「俺だってジムチャレンジをクリアしたんだし、強くなってると思ってたんだけどなー、まさかラビフットだけに俺の手持ち三匹がやられるなんて」

 

勝負の結果にホップはうなだれる。

まさに今回の勝負は彼女の独壇場だった。

いや、そもそも最近の彼女の闘いには目を見張るものがある。

 

「確かにジムチャレンジ以降のラビフットの実力の向上は本当にすごい。才能はあると思ってたけど正直予想以上」

 

「ヒッバァ!!」

 

マスターからの言葉に彼女は嬉しそうに声を上げる。

むぅ、これは僕もうかうかしていられないな。

 

一応マスターの手持ちの先輩として、そう簡単に実力を抜かれるわけにはいかない。

まぁ、僕と彼女では才能に大きな差があるからきっと近いうちに抜かれちゃうかもしれないけど。

でも僕も男の子だ!そう簡単に抜かれるつもりはないよ!

 

それはそれとして、彼女が強くなればなるほど僕との勝負でボコボコにしてくれるというわけで、そう言う意味では彼女が強くなるのはとても嬉しい!

 

うへへ、早く僕より強くなってボコボコにしてほしいなぁ。

 

「ラビフットの実力がすごいのはもちろんだけど、やっぱり俺とユウリの指示の差が大きいよ。俺もまだまだ訓練しないと!」

 

ホップの言葉に僕はなるほどと納得する。

確かにラビフットの実力の伸びはすさまじいけれど、ホップ君のポケモン達も彼女に及ばないまでもすごい才能があるのは確かだ。

 

レベルの差もあまりないだろうし、本来なら彼女だけでホップの手持ちを全滅させることは出来ない。

それを可能にしたのはマスターの指示によるものだ。

 

ラビフットの実力がすごい勢いで伸びているように、マスターの実力も大きく成長している。

もともとマスターは勉強熱心でバトルに関する知識が深い、今まではそれを十分に生かすことが出来ずにいたけど、ジムチャレンジ以降から自身の知識をバトルに生かし、応用さえできている。

 

2人はまるで呼応するかのようにお互い成長しあってる。

相棒という言葉は彼女達のことをさすのだろう。

 

彼女達ならチャンピオンのダンデさんと戦って勝利するまでの実力を必ず身に着けると確信できる。

やっぱり僕も頑張らないと!

彼女達に置いて行かれてダンデさんと戦えないなんて笑い話にもならない。

 

「ここのところの連戦は全て勝利、ラビフットの実力は十分。彼女はもう問題なし、むしろ今問題なのは」

 

マスターはホップの話を聞き流しながら考え込み始める。

そして目を自身の腰につけたモンスターボールへ向ける。

 

そのボールの中に入ってるのは彼女か。

 

実力は十分、下手したら僕よりも強いかもしれない。

彼女の毒は通常のものより遥かに強力で、うまく使えば格上を一方的に倒しきることだってできるだろう。

 

戦えばの話だけど。

 

彼女が手持ちに加わってから彼女は一度も戦っていない。

マスターの指示に一切従ってくれないんだ。

 

一応、進化前の頃から世話をしていた関係で僕に懐いてはくれている。

でも僕以外に彼女は一切関わろうとしない。

 

彼女をマスターの手持ちに推薦したのは僕だ。

彼女がマスターの迷惑になってしまうのなら僕には彼女を説得する責任がある。

 

きっと僕が頼めば彼女は戦ってくれるのかもしれない。

ただ、そんな恩に付け入るようなやり方で戦う気のない彼女を無理やりやらせるのはどうだろうか。

 

彼女はただ、野生が嫌で誰かの手持ちになりたかっただけかもしれないのに。

彼女はボールを持ってきて自ら捕まった。

だからきっと誰かの下にいたくて、たまたま仲良くなった僕を頼った。

ただそれだけなのかもしれないのに。

マスターの手持ちに加わったから戦えなんて言いたくない。

 

「今、問題なのはってもしかしてこの前のロゼリアのことか?」

 

マスターの言葉を聞いたホップは彼女の視線の先にあるボールから問題を察する。

 

「うん、彼には懐いてくれているけど、私達には一切心を開いていない。むしろ嫌悪しているくらい、きっと過去に嫌なことがあったんじゃないかな」

 

「やっぱり....そのロゼリアを手持ちに加えるのは難しいんじゃないか?」

 

ホップはマスターの話を聞いて目を伏せながらそう答える。

ホップは一度彼女と戦っているらしい、だから彼女の実力や怖さを身をもってしっているのだろう。

 

「彼女が私の指示に従わないのは私の実力が足りないから。高い実力を持ったポケモンがその実力に見合わないトレーナーの指示に従わないなんてよくある話だよ」

 

「でも!ピカチュウは実力があるのにちゃんとユウリのいうことを聞いてるじゃんか!」

 

「それは私と彼が長い年月をかけて信頼を築いてきたからだよ。私と彼のケースのほうが珍しいだけ。本来ならロゼリアのほうが普通だよ」

 

「でも」

 

「大丈夫」

 

それでもマスターを心配して食い下がるホップをマスターは冷静な表情で止める。

マスターは彼女の入っているボールを優しく撫でながら小さく呟く。

 

「ちゃんと彼女のことは考えてるから」

 

マスターはそう言って視線を前に向ける。

彼女の視線の先には、次の町バウタウンが見えた。

 

そこには二つのジムチャレンジを行うことができる会場がある。

つまりそこには、ジムリーダーがいるということ。

 

マスターが何を考えているかわからないけど、きっとこのことは関係しているだろうと、僕の直感は告げていた。

 

「あ、もしかしたらあなたにお願いをするかもしれないから、よろしくね」

 

ん?

マスターが申し訳なさそうに僕にそう言う。

その後、マスターからのお願いを聞いて難しい表情を浮かべることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「っというわけで今回のジムチャレンジはあなただけでクリアしてもらうから」

 

 

っというわけとはどういうわけなのでしょうか?

いきなりボールから出されたと思ったら、この方は私に真面目な表情と口調でそう言ってきました。

ジムチャレンジとは以前にあのメスポケモンが戦ったもののことでしょう。

 

あの程度の敵に窮地に陥り、それだけでなくご主人様に迷惑をおかけした。

あの時ご主人様に事前に止められていなければ、あの瞬間すぐにでもご主人様を傷つけた奴ら全てを毒で犯してあげたというのに。

 

さて、そんなジムチャレンジに私が参加を?

全く意味が分かりません。ご主人様の指示なら喜んで参加させていただきますが、この方に参加しろと言われて別に興味のないものに参加するなんて気は一切ありません。

 

だいたいあの程度の敵など、あのメスポケモン一匹で十分でしょう。

 

「大丈夫、次の相手は水タイプの使い手だし、実力もあなたの方が上だから苦戦することはないわ」

 

返事のない私に対して不安だと勘違いをされたのか人間様は私にそう言ってきます。

 

いえ、そういう問題ではないのですが。

そもそも、私に命令をしていいのはご主人様だけです!

いくらご主人様のトレーナー様であってもそれは絶対に譲りません!

 

私がそのことを伝えようと口を開きかけた時、私の頭に手が置かれました。

 

「ピカ」

 

「ミキュッ!!?」

 

ふぁぁぁ!?ご主人様!不意打ちにナデナデは心臓に悪いです!

いえ!すごく嬉しいんですけど!

 

 

ふふふ、人間様がご主人様からのなでなでを羨ましそうに見てますね。

それにボールにいて表情を見ることは出来ませんが、あのメスポケモンから凄まじい殺気を感じます。

ま、別にどうでもいいんですけど。そんなことよりご主人様からのなでなでに集中しなくては。

 

え、あ、ど、どうしてなでなでをやめてしまうのですかご主人様!?

私はまだご主人様のなでなでを堪能しておりません。

 

「ピカァ」

 

ご主人様は申し訳なさそうな表情で人間様のほうへ指をさします。

きっとご主人様は私に人間様からの指示を聞いてほしいのでしょう。

 

ご主人様の命令であれば、喜んでジムチャレンジとやらに参加させていただきます!

私はご主人様を守る茨のとげ、そのご主人様が敵を葬れというのなら我が毒にかけて殲滅致します。

 

「みっきゅう!」

 

私がご主人様の命令に喜んで頷くとご主人様は嬉しそうに笑った後になでなでを再開してくれます。

ふふふ、この後見事ご主人様の命令を遂行したのなら、またなでなでがあるはずです!

 

燃えてきました!

 

む、人間様が少し呆れた表情で私を見てきます。

そんな表情で見られるのは不本意ですが、今は機嫌がいいので許してさしあげます。

 

ふふふ!さぁ、さっさとバトルを始めますよ!!

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございます。

今回は繋ぎ回でした。

次話からジムバトルです。
ゲームストーリで戦うホップ君とのバトルシーンはスキップされました。

そしてロゼリアはチョロイン。

面白いと思っていただければ、モチベーションのために感想、評価をくだされば嬉しいです。


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ヤンデレなロゼリアは『こおりのきば』をくらう

『見事ジムミッションをクリアし、ジムリーダーであるルリナに挑戦権を手に入れたユウリ選手!!彼女はチャンピオン、ダンデから推薦された選手であり、一つ目のジムリーダーであるヤロー選手とは見事なバトルを披露し勝利しております!!」

 

 

解説の人間様の言葉に会場いっぱいにいる人間様達の歓声が会場を満たします。

うるさいですね。そういうのはどうでもいいので早く始めてください。

 

こんなバトルなんてさっさと終わらせて私はご主人様に褒められたいんですから。

 

「あなたがユウリね、ダンデから話は聞いてるわ。今日は手加減しないからね」

 

「はい....むしろ手加減されると困ります」

 

対戦相手の人間様とこちらの人間様が何やら話しています。

何やら対戦相手の人間様が頬を引きつらせていますね。

 

一体何を言ったんですかこの人は。

 

ご主人様のトレーナーなんですから、もっと考えてから行動してほしいです。

 

『それでは、バトル開始です!!』

 

解説の人間様からの開始の合図と同時に私と対戦相手のポケモンがフィールドに飛び込みます。

相手はどうやら水中での戦闘を得意とするタイプのようですね。

 

開始と同時にフィールドに設置されていた湖の中に姿を消しました。

 

「挑戦者ユウリが最初に選んだのはロゼリアです!水のジムリーダーであるルリナへの対策でしょうか!対するルリナが繰り出したポケモンはトサキントです!これはジムリーダー、ルリナが不利か!!」

 

人間様の解説を聞き流しながら水中へと消えた相手を見据えます。

向こうも様子見のようですね。

 

向こうの動きを伺いながら私の後ろに控える人間様に一瞬視線を向けます。

彼女はフィールドをじっと見据えながら、腕を組んで口を堅く閉ざしています。

 

どうやらこの戦いに関わるつもりはないようですね。

まぁ、仮に彼女から指示があったとしても従う気はありませんでしたが。

 

私が従うのはご主人様だけ、そのご主人様からこの戦いに参加するように指示がありました。

ならば、私はこの戦いに参加し、かつ相手を倒して勝利をご主人様に届けるのが使命。

そして私はその褒美になでなでをしていただける!!

 

ふふふ!さっさと終わらせます!!

 

「トサキント!あまごい!!」

 

相手方のトレーナー様の指示に従って水上に現れたポケモンが動き出しました。

水上でじっとしているだけで何かしているようには見えませんが、この隙を見逃すほど甘くありません!

 

大技で余計なことをされる前に潰します!

 

周囲に作り上げた花びらを展開し、それらを操ります。

私の放てる中で一番の大技です!

 

水タイプのあなた様にはとても痛いでしょうね!!

 

「トサキンッ!!?」

 

私の技が水中でボーっとしている相手へと直撃します。

そしてそのまま私の技の衝撃から逃れることが出来ずに水上から吹き飛ばされました。

 

「っ!?なんて威力の『はなふぶき』なの!」

 

相手方のトレーナー様は私の技の威力に驚いているようですね。

当然です、私はご主人様のお力になるために血のにじむような努力をしてきたのですから。

 

 

相手様は私の技を受けて目を回して倒れてしまいました。

 

『な、なんと!一撃です!!ユウリ選手のロゼリアがジムリーダー ルリナのトサキントを一撃で戦闘不能にしました!」

 

相手のトレーナー様は戦闘不能になったポケモンを戻して、次のポケモンをフィールドに出します。

確か、このバトルは3匹のポケモンを先に戦闘不能にしたほうの勝ちでしたね。

ならば後、2匹のポケモンを倒す必要があるということでしょう。

 

まぁ、あの程度の相手でしたら先ほどのように瞬殺ですね。

さっさと倒してご主人様に撫ででもらいましょう。

 

『ジムリーダー ルリナの2匹目のポケモンはサシカマスです!ユウリ選手の強力なロゼリアを見事倒すことはできるのでしょうか!』

 

2匹目の同じようなタイプのポケモンですね。

これならさっきと同じように。

 

「ミキュ?」

 

これは、雨?

敵を倒そうと動き出そうと瞬間、私の頭上に水滴が降ってきていることに気が付きました。

雨?さっきまで晴れていたはず。

頭上を見上げれば、いつの間にか小さな雲が私達のいるフィールドだけに発生して雨を降らせていました。

 

これはもしかして、先ほどのポケモンの仕業でしょうか。

小規模とはいえ、天候を操作できることには驚きました。

ですが、だからどうしたというのでしょう。

雨が降った程度で私の視界を遮れると思ったら大間違いです!

 

さっきのように瞬殺させていただきます!

 

先ほどのことを再現するように展開された花びらを相手へとぶつけます。

しかし、私の攻撃は相手の高速移動によって難なく躱されました。

 

っ!?早い!?

 

先ほどのポケモンとは段違いのスピードです!

私の鞭や種で攻撃を試みますが、一向に当たる気配がしません。

大技を連発して広範囲に攻撃を行いましたが、向こうのトレーナー様の指示によって見切られてしまい、全て紙一重で避けられてしまいます。

 

「ねぇ、なんでさっきから指示を出さないの?いくらその子が強くても指示がなければ勝てないわよ」

 

相手方のトレーナー様がこちらの人間様に話しかけます。

指示がなければ勝てない?そんなことはありません!!

 

「かもしれませんね」

 

相手方の言葉にそう短く答えて再び口を閉じます。

相変わらず私の闘いに口を出す気はないみたいですね。

しかし先ほどの発言は聞き捨てなりません。

 

私が負ける?ご主人様の指示を受けたこの私が?

そんなことはありえません!!

 

「かもしれませんねって!あぁ、そう!なめられたものね!!あいつの推薦だから少しは期待してたのに!失望したわ!!あんたにトレーナーを名乗る資格はないってことを教えてあげる!!」

 

相手のトレーナー様はお怒りのようですね、まぁ私には関係ありませんが。

ですが、この速度を何とかしないといけません。

こうなったら攻撃をくらうのを覚悟でやるしかありませんね。

 

相手と私のタイプ相性は良さそうですし、何回かもらったとしても問題ないはず。

何より彼女の私に対する発言を撤回させないと私の気が済みません。

 

相手の高速移動を目で追いながら反撃に備えて毒を両手に込めます。

準備はいいですよ。いつでもどうぞ。

 

私がそう心の中で呟くのとほぼ同時に相手が水中からこちらに向かって飛び出してくるのを見えました。

 

一撃はもらってあげます!でもその代償は払っていただきます!!

 

「ミッキュッ!!?」

 

相手の牙が私に届き、それと同時に両手の花から毒を浴びせようとして、予想外の痛みに動きが硬直します。

 

これは、氷ですか!?

相手の牙から凍えるような冷気が届いて身体が硬直してしまいます。

やられました!せっかくの反撃のチャンスが!!

 

私に攻撃を浴びせた相手は硬直している隙に再び水中に身を隠してしまいます。

 

身体は、大丈夫ですね。まだ動けます。

迂闊でした、私の苦手な攻撃を相手が持っているとは。

 

自身の迂闊さに自分自身に毒をくらわしたいところですが、反省は後にしましょう。

今はご主人様からの命令を遂行しなくては。

 

確かに今の攻撃は痛かったですが、耐えられないわけではありません。

次で確実にカウンターを叩き込んであげます。

 

タネさえ相手に植えれば体力を回復しながら相手をゆっくりと追い詰めることができます。

この戦いはまだ私の方が有利です!

 

「今!サシカマス!こおりのきば!!」

 

相手の指示に従って再び水中から私めがけて飛び出してきました。

さっきと同じですね!この一撃では私を倒し切ることは出来ません!

 

痛いのは嫌ですが、これも全てご主人様のため!

相手の牙が届くと同時に相手の体にタネをさします。

 

やりました、これであとはゆっくりっ!!???

 

「ミッ!!????」

 

相手の牙が私に届いた瞬間、1度目とは比べ物にならない程の痛みが襲いかかってきます。

 

ど、どうして?先程の攻撃と同じはずばのに。

 

私へ噛みついてきた相手は突撃した勢いのまま私を投げ飛ばします。

私は抵抗する力がなく地面へと叩きつけられ、身体を襲う痛みに顔を歪めます。

 

なんとか立ち上がろうと身体に力を入れますが、身体を襲う痛みと寒さが私の意識を徐々に奪っていくのが分かります。

 

私は、ここで倒れるなんてことは許されません。だってまだご主人様の命令が完了出来ていないんです。

 

震える身体から力を振り絞って立ち上がりますが、次の瞬間には再び地面へと倒れこんでしまいます。

そしてそれによって私の身体に残っていたエネルギーが尽き、視界が暗くなってきます。

 

申し訳ございません。ご主人様。

 

私が心の中でご主人様へお詫びすると同時に私の意識は完全に闇に中に消えていきました。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

作者はポケモンバトルにあまり詳しくなく、ガバガバ戦闘で申し訳ないです。

そしてやはりピカチュウ視点じゃないとギャグにならない。
でもピカチュウ視点だけではギャグにしかならないという。


次でジム戦は終了です。
モチベーション維持のため、感想、評価をいただければ嬉しいです。



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ドMなピカチュウは『かみなり』をくらわせる

「ミッキュ」

 

ここは・・・・?

ぼやけた視界と頭が現状の把握を遅らせます。

確か、私はご主人様の指示でバトルをしていて。

 

「ミキュ!!?」

 

 

意識が完全に覚醒したと同時に飛び起きます。

私は相手の攻撃を受けて、それから。

現状を正しく認識した瞬間、私の身体から血の気が引いていくのを感じました。

 

私は敗北した?それはつまり、ご主人様からの指示を完了することが出来なかったということ。

 

「ピカッ!!」

 

震える私の傍で今最もお聞きしたくない声が耳に届きます。

震えながら声の方へ顔を向ければ、予想通りそこには心配そうに私を見つめるご主人様のお姿があります。

 

「ミッキュ・・・・」

 

今はとてもご主人様のお姿を見ることは出来ません。

自身の力を過信し、無様に敗北した私など、ご主人様の視界に入ること自体罪でございます。

 

「あ、気が付いたんだね。げんきのかけらが効いてよかった」

 

私が目を伏せているとご主人様のトレーナー様の声が届きます。

 

「あなたが敗北した原因を知りたい?」

 

敗北した原因?そんなものを今更知ったところでもうどうしようもないではないですか。

すでに私は敗北した役立たず、こんなおバカなポケモンはすぐにご主人様の下からいなくならなくてはなりません。

 

「そう、じゃあそこでそのまま見ててね、ピカチュウしばらく彼女をそっとしておいてあげて」

 

「ピカ・・・・」

 

黙り込む私を見たトレーナー様はフィールドへと視線を戻します。

ご主人様も私に心配そうな表情を向けてくださいますが、最終的には彼女の指示に従って私から離れていきました。

 

「ラビフット、いくよ」

 

「ヒバァ!!」

 

トレーナー様の言葉に応じてボールからメスポケモンが出てきました。

私が敗北した相手にこいつが勝てるとは思えませんが、それに相手は彼女と相性の悪い水タイプですし。

 

「ラビフット、わかってると思うけど相手のタイプはあなたと相性が悪いわ」

 

「・・・・」

 

トレーナー様は淡々と事実を彼女に伝えます。

そしてそれを彼女は黙って聞いていた。

 

「でも大丈夫、私達なら必ず勝てる」

 

「ヒッバ!!!」

 

トレーナー様の言葉に先ほどまで黙っていた彼女は大きく叫び、そしてそのままフィールドへと飛び出していきました。

意味がわかりません、先ほどまでご自身の口で相性が悪いと言っていたのに勝てるなんて。

いくら最近の彼女の伸びが凄まじいからといってもまだまだ実力は足りていません。

 

なのにどうしてあんな勝利を確信しているかのような。

 

『ユウリ選手、ロゼリアを倒され2匹目を繰り出しましたが、出してきたのは相性のよかったロゼリアと違い水タイプと相性の悪い炎タイプのラビヒットですが、大丈夫なのでしょうか』

 

「ラビフット、私の指示を聞き逃さないでね」

 

「ヒバ!」

 

解説の言葉に反応を示さずトレーナー様とラビフットはバトルを開始します。

相手は変わらず高速移動を続けていますね。

私でも技を当てることが出来なかったのですから彼女は相手の身体にかすり傷を与えることすら難しいでしょう。

 

「これは独り言だけど、ロゼリアが敗北した要因はいくつかあるわ」

 

トレーナー様はフィールドを見つめながら口を開く。

こちらを見ていないけど、間違いなく私に言っているのでしょう。

 

「まずは相手の特性を理解していなかったこと。相手の特性はすいすい、天候が雨の場合に速度が上がるわ。加えてこうそくいどうを使ってさらに速度を上げてる」

 

その話を聞いて改めてフィールドに目を向けます。フィールドには未だに雨が降っていて降りやむ気配はありません。

 

「二つ目は相手の攻撃の威力と効果の想定が甘かったこと。カウンターを狙ったのは正しいけれど、相手の攻撃の効果を知らなかった。かみつき技は相手をひるませて攻撃を阻止する効果がある、加えて色々なタイプの技があるから弱点タイプ技をつかれる可能性があることを想定しておかないといけないわ」

 

「・・・・」

 

「最後は二つ目に関することだけど、自身の体力を過信したこと。二度目の攻撃を耐えれると思ったんでしょうけど、相手もあなたの考えを読んでいた。あなたの考えを利用して相手は技を放つ前に『とぎすます』という技の指示をしていた。この技は集中力を上げて次の技を急所に当てることが出来る、それによってあなたの急所に当たって体力を想定以上に失った」

 

トレーナー様はそう言って独り言を終えます。

相手の特性やかみつき技の効果なんて私が知るよしがありませんでした。

敗因なんて言われましても私だけではどうしようも。

 

「この問題はあなただけで解決なんて出来ないよね。これを解決するのが私達トレーナーの仕事なんだから。ラビフット!左からくるよ!!」

 

「ヒバァ!」

 

人間様は目を鋭くさせてフィールドへと指示を飛ばしました。

それに瞬時に反応した彼女は敵からの攻撃を躱しました。

 

なるほど、フィールド内では近すぎて完全に動きを捉えることが出来ませんでしたが、ここからならよく見えますね。

相手のトレーナー様も同じように外から状況を見て指示を出しています。

だから内側だけの視点しかない私は後手に回されてしまったのでしょう。

 

しかし、相手方の動きがわかっても、攻撃を当てることができるとは。

 

「躱すのが得意な相手に闇雲に攻撃を撃っても当たらない。ロゼリアがやったみたいに動きが止まるタイミングを狙って攻撃をする、もしくは」

 

「っヒバ!!」

 

トレーナー様の言葉の途中でフィールド内で相手の攻撃が彼女に当たります。

水を身体に纏った相手の特攻を受けて彼女はこちらの近くまで吹き飛ばされます。

 

「ラビフットまだ大丈夫よね」

 

ヒバァ!!(当然よ!!)

 

吹き飛ばされてきた彼女はまだやれると言わんばかりに起き上がって相手を睨みつけます。

それを見たトレーナー様は少し笑みを浮かべてボールに彼女を戻します。

 

「さっきの続き、もしくは、必ず当たる技を相手に放つこと」

 

彼女をボールに戻した後、人間様の腕輪から赤い光が漏れてボールへと流れていきます。

これは前回使用した巨大化する技ですね。

 

『ユウリ選手!ここでダイマックスを使用!!ダイマックス技によって相手を倒しきるつもりなのでしょうか!!』

 

「ラビフット!ダイナックル!!」

 

「ヒバァ!!」

 

巨大化した彼女からその大きさに相応しいエネルギーが相手へ放たれます。

凄まじい威力に技範囲も広範囲。

確かにこれであれば相手が高速移動で動き回ろうと意味がありませんね。

 

 

「ねぇ、ロゼリア」

 

「・・・・」

 

土煙が舞うフィールドを見つめながら彼女は私に話しかけてくる。

 

「あなたが彼以外を信頼していないことは知ってる。それに対して私はどうも思わない、そもそも私も同じだし」

 

「ミィ」

 

そうでしょうね。

私は彼女の言葉に頷きます。

この方と私は同じです。

彼こそが全てなんです。彼以外のことはどうでもいいし、信頼なんてする気は一切ありません。

 

「別に私の指示がなくてもこの戦いに勝てるようなら私はあなたに何も言うつもりはなかった。大事なのは彼の願いを叶えることなんだから」

 

そこで一度口を閉じた彼女は次の言葉をはっきりと私に告げた。

 

「でもあなたは負けた、あなただけの力では彼の願いを叶えられなかった」

 

「ッ!」

 

その言葉にフィールドを見続ける彼女を睨みつける。

しかし、反論するための言葉が口から出てこない。

彼女の言葉が正しいと、先ほど自ら証明してしまったばかりなのですから。

 

「彼の願いはこの地方のチャンピオンであるダンデさんと戦うこと。その彼の願いのために私達はいま戦ってる。その願いが叶うまで、まだまだ先は長い。こんなところで躓いてる暇なんて一切ないの」

 

ここにきて彼女は初めて私へと顔を向けました。

その光の消えた黒い瞳から先ほどの言葉が全て嘘でないことが容易に伝わります。

 

「はっきり言って今後も同じような戦い方をするなら、いくらあなたが強くても必要ない。私が必要なのは彼の願いを叶えるための協力者なんだから」

 

「ミィ・・・・」

 

彼女は波のない淡々とした調子で私を追い詰めます。

きっと彼女は戦う前からこうなることを予想していたのでしょうね。

そして私は彼女の予想通りに動いたということ。

 

「でも、あなたが私に力を貸してくれるというのなら、あなたが彼の役に立つことを約束してあげる」

 

「っ!!?」

 

彼女の言葉に思わず身体が硬直します。

この方、今の私がもっとも必要な言葉を。

 

 

「私とあなたの間に信頼なんていらない。でも、彼のためにお互いを()()()()ことは出来る」

 

彼女は私の驚きをわかっていたかのように無反応のまま言葉を続ける。

全て彼女の掌の上というわけですか。

 

「お願い、彼のためにあなたの力を貸して」

 

彼女は光の消えた瞳のまま私を見つめ続けます。

ひどい瞳ですね、対戦相手様とは大違いです。

 

まぁ、鏡を見れば私も似たような色の瞳をしているのでしょうが。

だからこそ、信用はできる。

ご主人様のため、彼女が使えるのであれば協力だってしてやりましょう。

 

「取引成立だね、じゃあこのバトルもさっさと終わらせちゃおう」

 

私の表情から察したのか、彼女は口角を少し上げながらそう答えます。

フィールドへ視線を戻せばちょうど土煙が晴れて中の様子を確認できます。

 

土煙が晴れた先、そこには巨大化した彼女と、その近くで目を回して倒れた相手のトレーナー様のポケモンの姿が見えました。

 

『サシカマス戦闘不能!これでジムリーダー ルリナのポケモンは残り1匹!しかしユウリ選手もダイマックスを先に使用しております!これらの差がこれからの闘いにどう影響するのでしょうか!!さぁ、ジムリーダー ルリナは最後のポケモンになるカジリガメを出しました!』

 

「さっきのは訳ありってわけ?正直見てて良い気はしなかったけど、まぁいいわ!言い訳は後で教えてもらうから!さぁ、最後はお互いダイマックスで勝負を決めようじゃない!」

 

「・・・・」

 

相手のトレーナー様が新たなポケモンを出しながら、こちらにそう言うと同時に()()()()が彼女をボールへと戻します。

 

「ちょ、なんでラビフットを戻すの!?ボールに戻したらダイマックスは解けちゃうのよ!?」

 

「はい、知ってます。でもこっちの方が早いし確実なので」

 

「ピカ」

 

相手からのツッコミにユウリ様は冷静に返します。

彼女がフィールドからボールに戻ると同時にご主人様がフィールドへと入ります。

 

「あなたが生んだ雨雲、利用させてもらいます」

 

ユウリ様がそういうと同時にご主人様が空へと指をさします。

雨雲?彼女の言葉につられて上を向けば、私の戦闘中に生み出された雨雲が変わらずそこにっ!!?

 

雨雲から光が漏れて、それに音も、これは雷鳴?

 

「っ!?しまった!」

 

同じように雲を見上げた相手は焦った表情で自身のポケモンに指示を出そうと動き始めます。

しかし、相手の動きよりもユウリ様の行動のほうが早い。

 

「ピカチュウ、かみなり」

 

彼女が言葉を発した瞬間、ご主人様が空に上げていた指を振り下ろし、それに従うように雷が相手ポケモンへと突き刺さりました。

 

雷が降り立つ同時に鳴り響いた雷鳴が、この戦いの終了を告げたかのように、私には聞こえました。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。


次話で新キャラが出てきます。

モチベーション維持のため、感想、評価をいただければ嬉しいです。


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ドMなピカチュウは『つじぎり』をくらう

「好きな物を頼んでください、ここは私のおごりです」

 

「あ、ありがとうございます」

 

美しいピアノ旋律が奏でられている室内でマスターが居心地が悪そうに俯きながらお礼を口にする。

相手の人間さんはマスターの様子を気にする様子もなく柔和な笑みを浮かべている。

 

「もう少し入りやすい場所にするべきでしたね。気が利かず申し訳ありませんね」

 

「い、いえそんな。それより、ローズ委員長が私なんかに何のようですか?」

 

相手の人間さんの笑みに気圧されながらマスターがそう尋ねる。

マスターからローズ委員長と呼ばれていた人間さんは変わらず笑みを浮かべたままマスターの質問に答える。

 

「いえ、チャンピオンに推薦されたユウリさんに興味がありましたね。今までのバトルは全て拝見させていただいていますよ、とても素晴らしいバトルでした」

 

「それなら・・・・チャンピオンの推薦を受けたのは私だけではないです」

 

「ホップ君でしたね、彼はチャンピオンの弟さんですよね。あなたと彼では推薦の意味が大きく異なると思いますが」

 

「私は・・・・彼のおこぼれで推薦をもらえただけです」

 

「そうですか、まぁそういうことにしておきましょうか。おや、飲み物がきましたね」

 

ローズさんの言葉に終始うつむきながら答えるマスター。

それを見て微笑みながら店員さんから飲み物を受け取る。

 

マスターも飲み物を受け取ったのを確認したローズさんはグラスを掲げながら口を開いた。

 

「では、ユウリさんの()()()()()()()()()()()()()()を祝して乾杯」

 

「・・・・かんぱい」

 

ローズさんとマスターの持ったグラスが接触して小さな音が鳴る。

それを見ながら僕は今日のことを振り返る。

 

三つ目のジムチャレンジは、はっきり言ってあまり苦戦はしなかった。

それは1つ目や二つ目にも言えることなんだけど、この二つは彼女達の修行という意味合いが強かった。

でも今回は普通に戦って普通に勝った、ただそれだけだ。

 

マスターが事前に相手のこと調べていて、相性の良い技マシンを事前に僕たちに教えていたし、戦術も前日に僕たちへ伝えてくれていた。

 

もともとレベルは相手より僕たちの方が高い上にしっかりと対策を立てて挑んだんだ。勝つのは必然だったのかもしれない。

 

僕としては苦戦は大歓迎なんだけど、まぁ次に期待かな。

むぅ、最近良い思いが出来ていなくて欲求不満になりそうだ。

 

「ふふ、頬を膨らませてどうしたの?」

 

欲求不満を表すように膨らませてた僕の頬をマスターは笑みを浮かべながらつついてくる。

どうせつつくなら頬がえぐれる勢いでしてほしいな。

 

「今日はあなたの出番がなかったからむくれてるの?ごめんね、次はあなたをメインで戦うから」

 

「ピカ!」

 

ほんと!?これは次が頼しみになってきたぞ!

マスターの言葉で一気に機嫌をよくする僕。

そんな僕の様子をマスターは微笑みながら見つめていた。

 

「ユウリさんは本当に彼のことが好きなんですねぇ」

 

「はい、世界で一番」

 

先ほどまで俯きながら答えていたのが嘘のようにローズさんの顔を見ながら即答をするマスター。

嬉しいけど、なかなか失礼だと思うのは僕だけかな?

 

「このジムチャレンジに参加したのだって彼がダンデさんと戦いたそうだったからですし」

 

「そうだったんだね、それだけの理由でここまで戦えるなんて大したものです」

 

「それだけの理由じゃありません」

 

マスターの言葉に返したローズさん。

それに対しマスターは短くそう返す。

 

「あなたにとってはそれだけかと思っても私にとってはそれが全てです」

 

「・・・・」

 

マスターの光のない瞳に見つめられながらローズさんは柔和な笑みを浮かべ続ける。

 

「君は・・・・自身の目的のために他の何かを犠牲にする覚悟はありますか?」

 

「えっと、意味がよく・・・・」

 

急に変わった話の内容にマスターは困惑した表情を浮かべる。

うーむ、僕には難しい話の内容になりそうだ。

 

「もしあなたが彼の願いを叶えるためには、他の誰かが悲しませなくてならないとしたら、あなたはどうしますか?」

 

「・・・・意味がよくわかりませんが、私は彼の願いを叶えるためなら何でもします。そもそもバトルで勝敗が生まれる以上、必ずどちらかが悲しむことになると思います」

 

「・・・・」

 

ローズさんはマスターの目をじっと見つめながら口を閉じる。

マスターもそれ以上口を開きはせず、少しの間、静寂な時間が僕たちの周りを支配した。

 

「素晴らしい、あなたのその考えはとても好ましく思います。ダンデさんが推薦していなければ私があなたを推薦していたでしょう」

 

「いえ、ダンデさんから推薦してもらえていないと、そもそも私、ローズ委員長に会えていなかったと思います」

 

「それはないですね、あなたは仮にダンデ君から推薦をもらえなくても自力でなんとかしていたでしょう。そしてあなたが動いていれば、私があなたを見つけていました」

 

「・・・・」

 

ローズさんの言葉にマスターは困惑した表情のまま黙り込む。

それを見たローズさんは変わらず柔和な笑みのまま席を立つ。

 

「未来のチャンピオンを長い間拘束するわけにはいきませんね、もう日が沈みます、ホテルまで送りますよ」

 

「いえ、自力で帰れますので大丈夫です」

 

ローズさんからの好意をマスターは瞬時に断る。

うん、早く帰りたいんだねマスター。

人見知りなマスターにとって、ローズさんとの会話は一秒でも早く終わらせたいんだろう。

 

「ここらで最近トレーナーとそのポケモンが何者かに襲われる事件が発生してるんです、だから危ないので送らせてください、特にもう日が沈みますから」

 

トレーナーとポケモンが襲われる事件?うーんなんだか物騒だね。

今日この街についてばかりでそういった情報は知らなかった。

マスターも僕と同じように警戒した表情を浮かべる。

 

「やっぱり大丈夫です。ホテルも遠くないですし、人通りのあるところを通りますから」

 

「・・・・そうですか、ではお気をつけて。これからのあなたのバトルを楽しみにしていますよ」

 

自身の提案を断られたことを気にする様子もなく僕たちを店の外まで見送ってくれる。

マスターはそんなローズさんに素早く頭を下げた後に早足でその場を後にした。

 

 

 

「疲れた・・・・やっぱり行くんじゃなかった。何かジムチャレンジで有利な情報をもらえるかもって行ったのにそんなことなかったし」

 

ローズさんと別れたマスターはため息を吐きながらホテルへと歩く。

僕はそんなマスターに抱きしめられながら次のジムチャレンジのことを考える。

 

早く次のジムチャレンジできないかな、僕をボコボコにしてくれるレベルであることを願います。

次で8つある内の4つ目、つまり折り返し地点だ。

 

そろそろレベルも一気に上がってもおかしくはないはず。

 

「だれ、か!助け、て・・・・くれ」

 

「ピカ?」

 

妄想にふけっていた僕の耳に微かに誰かの声が届く。

いま、誰かが助けを呼んでいたよね?

 

「ふふふふ、ホテルに帰ったらあなたにいっぱい抱き着いて、え、ちょ、ちょっとピカチュウ!?」

 

声の主を探すためにマスターの腕の中から抜け出して地面に降りる。

人混みのせいで声を聞き取りにくいけど、確かに聞こえた!!

 

かすかにとらえた音と勘を頼りに人混みの隙間を縫って進む。

しばらく走り続けると、人混みから抜けて、逆に人気のない路地裏へと入り込む。

そして、その後も休まず走り続けたところで、僕はある現場に居合わせた。

 

「う、うわぁぁぁ!!い、痛い!!もうやめてくれぇぇぇ!!」

 

僕の視線の先には怪我をしたであろう肩を手で押さえながら地面に座り込む男性とその彼の近くに倒れ込むポケモン。

 

そしてそんな彼に向かって今にも攻撃をくらわせようとする人影。

 

「ピッカ!!」

 

僕は瞬時に可能な限り状況を理解して人間さんに襲い掛かろうとする人影を迎撃する。

夜中でかつ光の届かない路地裏のせいで相手の姿ははっきりと見えない。

でも、僕が勘で振るった硬質化したしっぽと敵の振るった何かがぶつかった。

 

「ピッ、カ!!」

 

お、重い!

予想以上の相手の攻撃の重さに顔をしかめながらもなんとか相手の攻撃を弾き飛ばす。

今のは刃?うーん、今まで戦ったことのあるポケモンのどれとも違うな。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」

 

僕が相手の攻撃を考察している後ろで座り込んでいた人間さんが悲鳴をあげながら逃げていく。

うん、ちゃんと倒れているポケモンも連れていってくれたようでよかった。

 

さて、これで僕も目の前の相手を戦う理由がなくなったんだけど。

 

「・・・・」

 

「ピカ!!」

 

再び振るわれた刃による攻撃をしっぽで弾きとばす。

どらやら相手は僕を逃がしてはくれないみたいだ。

 

ふふふ、久しぶりに痛い(気持ちの良い)思いが出来そうな予感がするぞ。

相手の強さを理解して無意識に笑みを浮かべる。

 

あ、今気づいたけど、もしかして目の前のポケモン?がローズさんが言っていた事件を起こしたのかな?

んーならこのポケモン?で僕の欲求を満たすのはさすがに不謹慎かな?

 

でも、今の攻撃をくらわないなんてありえないし。

 

た、試しに一度くらってみて判断しようかな!!

謎の言い訳で自身を納得させる。

 

「ピカチュウ!!」

 

「ヒバ!!」

 

「ミッキュ!!」

 

僕が邪なことを考えている間にマスター達が僕に追いつく。

あ、これまずいな。ラビフットやロゼリアはともかく、人間のマスターは今すぐここから離れないと危険だ。

 

僕は先ほどまで倒れていた人間さんのことを思い出しながらマスターにここから離れるようように伝えようとした時、背後の相手が動き出した。

 

「ルアァ!!」

 

「ピッ!!?」

 

意識を外した一瞬の隙を使い、相手は自身の刃で僕の横に薙ぎ払う。

おっふ、この痛み(気持ちよさ)、これは『きりさく』、いや『つじぎり』か!!

僕は自身に感じる痛みから相手の技を推測する。

 

急所じゃないのにこの威力!なんということだ!僕が今まで受けていた『つじぎり』の中で一番の威力だ!!

僕はくらった衝撃で壁に激突しながら相手の技を賞賛する。

 

これはぜひ闘っておかないともったいないな。

 

「っ!!?ピカチュウ!!?」

 

壁に激突した後に地面へと倒れ込んだ僕の下にマスターが駆けつける。

いや、喜んでる場合じゃないぞ僕!急いでマスターを逃がさないと!!

 

「ヒッッバァァァッァア!!!」

 

「ミッキュゥゥゥゥぅウ!!!」

 

僕を抱き上げるマスターに慌てて離れるように伝えようとした時、今まで聞いたことのないほど激高したラビフットとロゼリアの声に身体を硬直させる。

 

「・・・・」

 

暗闇に潜む相手に向かってラブフットは炎を纏って突撃し、ロゼリアはラブフットの周りに花びらを展開させたと同時に相手にそれをぶつける。

狭い路地裏だ、彼女達の攻撃が相手の避ける範囲を全て埋めている。

 

「ヒバ!?」

 

「ミキュ!?」

 

しかし、相手は僕たちの予想のさらに上をいった。

相手は自身の刃でロゼリアの『はなふぶき』を吹き飛ばし、ラビフットの『ニトロチャージ』を正面から受け止めた。

 

予想外の事態に彼女達も驚きの声を上げる。

これは、レベルが違いすぎる。

 

相手と僕たちの実力の差に戦慄する。

 

ラブヒットを受け止めた相手は掴んだ彼女に刃を振るって吹き飛ばす。

それを見た僕は吹き飛んでくる彼女を慌てて受け止めた。

 

「・・・・」

 

実力の差を理解して硬直する僕たちの前に相手が暗がりから姿を現す。

相手の姿を視界に収めてた瞬間、マスターを目を見開きながら相手の名を口にする。

 

「・・・・エルレイド」

 

「・・・・」

 

マスターからエルレイドと呼ばれたポケモンは、倒れる僕たちを無言のまま見つめる。

 

相手の両腕にある二つの刃が、僕たちの視界で怪しく輝いていた。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

一応参考としてゲーム上のエルレイドはラルトスの2つある最終進化の一つです。
ラルトスの次の進化であるキルリア(オスのみ)が石を使って進化します。

もう一つの進化はサーナイトです。

モチベーション維持のため感想、評価をいただければ嬉しいです。


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ドMなピカチュウは『サイコカッター』をくらう

「・・・・ここに来る途中、怪我をした男性とすれ違った。状況から見て、あなたが襲ったって事で間違いなさそうね」

 

マスターはエルレイドの様子を慎重に伺いながら口を開く。

 

「・・・・つまり、あなたがローズ委員長の言ってた事件を起こしてるポケモンということ」

 

マスターは僕たちの様子を確認した後にちらりと自身のバックに視線を向ける。

もしかしてバックの中にある何か取り出したいのかもしれない。

 

「一応、私の言葉がわかる前提で聞くけど、私達を見逃してほしい。あなたがこれから何をしようと私達は関わらないことを誓うわ。手持ちのアイテムがほしいなら全部あげてもいい」

 

「・・・・」

 

反応のない相手の様子に汗を浮かべながらマスターは口を動かし続ける。

今のうちに僕たちも体制を立て直す。

 

「バックの中身が気になるなら、見てもいいから。ほら、中にはきずぐすりだってあるわ」

 

マスターは相手に見やすいようにバックの開いて前に出す。

そしてちらりと視線を僕へと向けた。

 

「ほら、他にも、こんなのだってあるんだから!!」

 

「ピカァ!!」

 

マスターがバックの中身を相手に見せる動作の最中にバックから何かを取り出して相手へと投げつける。

僕はマスターが何を投げたのか確認することすらせずに、マスターの動きに合わせて相手に渾身の電撃をぶつける。

 

僕とマスターの信頼関係をなめてもらっては困る。マスターの目から何を言いたいかだいたいわかるんだ。

 

「っ!?ルアァァ!!」

 

マスターの投げていたものに気を取られていた相手は僕の電撃を浴びて吹き飛んでいく。

マスターの投げたのは、ピッピ人形かな?あれを使って相手の気を引いたみたいだ。

 

「今ので倒せたとは思えないし、みんな!すぐに逃げるよ!あれはやばい!!」

 

相手が吹き飛んだのを見たマスターは即座に次の指示を僕たちに出す。

うん、それには全面的に同意かな。

 

僕個人としてはぜひ戦ってボコボコにされたいところだけど、みんなを危険な目に合わせるわけにはいかない。

 

「でも、彼を傷つけたのは絶対に許さない。強くなったら絶対に見つけて倒すから」

 

「ヒバァ!!」

 

「ミキュウ!!」

 

マスターの言葉に当然だと言わんばかりに叫ぶ彼女達に苦笑いを浮かべる。

それならダメージを受けたのは僕なんだから、僕が戦いたいんだけど・・・・!?

 

 

「ルアァァァァ!!」

 

「ピッッカ!!」

 

嫌な予感を覚えて反射的に後方へ電撃を送る。

後ろを見れば、吹き飛んだはずのエルレイドがすでに僕たちの近くまでやってきていた。

これは僕の電撃を直前にガードしていたのかな?

相手の反射神経に二度目の戦慄が走る。

 

エルレイドは僕が放った電撃を躱しながら僕たちの方へと近づいてくる。

どうやら逃げるのは難しそうだ。

 

「ピカチュウは10まんボルト!!ラビフットはかえんほうしゃ!!相手は近距離攻撃が多いわ!近づけさせないで!」

 

「ピカ!!」

 

「ヒバ!!」

 

マスターの指示に従い、彼女と共に遠距離からの攻撃で相手をけん制する。

その後ろでマスターは続いてロゼリアに指示を送る。

 

「ロゼリア、私の合図に合わせて最大効果のどくどくを相手にぶつけて。レベルが上の相手に勝つにはあなたの毒がカギになる」

 

「ミキュ」

 

真剣なマスターの様子にロゼリアも短く同意の声を上げる。

マスターとロゼリアは、僕たちの攻撃を避け続ける相手の動きを目を細めて見極めようとする。

 

そして、相手が僕の電撃を避けるために少し無理な重心に身体が移動をした瞬間。

 

「今よロゼリア!」

 

「ミキュ!」

 

相手の隙を見たマスターから即座に指示がロゼリアに飛ぶ。

ロゼリアはその指示を聞いて即座に自身の毒を相手に飛ばした。

 

完璧なタイミングで放たれた彼女の攻撃は相手に避けることを許さない。

これは当たると確信した僕だが、相手の変わらぬ静かな瞳に困惑する。

 

僕が困惑している間にも彼女の放った毒が相手へと近づいていく。

そして相手にぶつかる直前、相手の毒の間にちょうど入り込むようにごみ袋が現れた。

 

「っ!?」

 

当たると確信していた技を止められた僕たち全員が硬直する。

あれの路地裏に転がっていたごみ袋!?一体いつの間に!

予想外の光景に僕も含めて全員が動揺したけど、特に指示を出したマスターが一番動揺してしまった。

 

「サイコキネシスでごみ袋を操った!?いえ、それともこちらの攻撃を読んでごみ袋蹴り上げていた!?」

 

「・・・・ルァァ!!」

 

マスターは動揺によって僕たちへの指示が止まる。

それを相手は見逃さずに僕とラビフットの攻撃を強引にかいくぐって接近する。

 

「ピカ!?」

 

「ヒバ!?」

 

僕たちの間に潜り込んできた相手は両手を使って同時に僕たちへ攻撃を放つ。

左右同時に別々の相手に放ったにも関わらず、身体にはとてつもない衝撃(快楽)が走る。

くそ、どうして僕一人に攻撃を集中してくれなかったんだ!!

 

そんな場違いなことを考えてながら僕とラビフットは吹き飛ばされて左右の壁に激突する。

っ!!まずい!僕たちという壁がなくなったらマスターが危ない!!

 

「っ!?」

 

自身へと近づいてくる相手を見て、焦りの表情を浮かべるマスター。

さっきまでいた人間さんの様子から、相手は人間相手にも容赦なく攻撃をくわえてくることは明らか。

 

「ルァァ!!」

 

「ミキュ!?」

 

接近を許してしまったロゼリアは相手の凶刃をくらって吹き飛ぶ。

相手の刃には不思議なオーラを纏っていたように見える。

あれは、おそらくエスパー系の技だ、だとしたらエスパータイプが弱点のロゼリアが危険だ!!

 

僕の最悪の想像が正解だと言わんばかりにロゼリアは苦悶の表情を浮かべながら吹き飛ばされる。

 

「っしま!?」

 

そしてちょうど彼女が吹き飛んだ方向にマスターがいて、そのまま避けることが出来ずに巻き込まれてしまう。

ロゼリアとマスターは強い衝撃を殺しきることが出来ずに吹き飛び、僕たちと同じように壁へとぶつかる。

壁に激突した彼女達は息を吐き出す音ともに倒れ、そのまま動かなくなった。

 

「ピカァァァ!!!」

 

それを見た僕はでんこうせっかを駆使して相手へと接近し、そのまま渾身のアイアンテールをぶつけて相手を吹き飛ばす。

 

そして吹き飛んだ相手の様子を確認する間もなく、倒れた彼女達の様子を探る。

 

よかった、気絶してるだけみたい。

今まで散々ダメージを受けてきた僕だからこそ、彼女達が軽傷であることが感覚的にわかった。

ひとまず重症ではないことに安堵の息を吐いて冷静に思考をする。

 

さて、マスターとロゼリアは気絶し、僕とラビフットもダメージを負っている。

相手にもダメージを与えてはいるけど、まだまだ体力はあるだろう。

 

それに相手はかなり戦いに慣れている。

場数で言えば僕と同じくらいあるのでは?

自慢にはならないけど幼少期から闘い続けていて、場数だけはけっこうある僕と同じくらいというのは相当だ。

しかもたぶん負け続けていた僕と違って彼は負けていなかったのだろうし。

残念ながら僕とは才能が違うのかもしれない。

 

うーむこれは本当にピンチでは?

 

とりあえず、気絶したマスターとロゼリアをこの場から逃がさないといけない。

それに怪我をしているラビフットもこの場から逃げるべきだ。

そして出来れば僕はこの場に残ってボコボコにされたい。

 

ふむ・・・・これらを全てを叶えることが出来る方法は。

 

「ピカ!!!」

 

僕は吹き飛んだ相手の動きに気を付けながらラビフットに声をかける。

そして彼女は僕の声に痛みで顔をしかめながらも応えてくれる。

 

よかった、とりあえず彼女は動くことは出来そうだ。

だったら僕の作戦は実行可能!!

 

ピカピカチュウ!(ここは僕にまかせろ!)

 

僕は彼女の目を真っすぐ見つめながら気絶したマスター達を指さし、そして次に僕たちが来た路地裏の出口を指さした。

 

これで、僕の言いたいことは伝わるはずだ。

 

「ヒバ!ヒバヒバ!!!」

 

僕の予想通り、彼女に僕の意図はきちんと伝わったのだろう。

絶対に嫌だと言わんばかりに首を横に振っている。

 

「ピカ!!!!」

 

「っ!!」

 

そんな彼女に対して僕は一喝する。

彼女には気絶したマスター達を連れて逃げてもらわなくてはならない。

 

そして彼女達が逃げている間、僕があいつを足止めする。

それが、僕が考えた作戦だ。

 

「ヒバァ!ヒバ!」

 

僕の一喝に一瞬黙った彼女だったが、それでも僕の指示を拒み続ける。

彼女を見れば、瞳から大粒の涙が流れ落ちていた。

 

「ピカチュウ」

 

僕はそんな彼女に微笑みながら近づき、気絶したマスター達の方へ強引に投げ飛ばした。

 

「ヒバ!?」

 

いきなり投げ飛ばされた彼女は驚きながらも着地する。

ちょうどマスターの横に着地できたみたいだ。

 

僕はそれを見た後に、目の前にやってきていた相手に向き直る。

相手は動かずじっと僕を見つめている。

 

僕は相手から視線を外さずに指だけを彼女に向け、そして次に出口を指さす。

 

ピカァァ!!(いけぇぇ!!)

 

彼女を見ずに全力で声を吐き出す。

早くマスター達を連れて逃げろ!!

 

 

じゃないと安心してボコボコにされ、じゃなくて戦えないじゃないか!!

 

 

「っ!!ヒバァ!ヒバァァァァ!!!」

 

僕の必死の願いを聞いてくれた彼女は涙を流しながらもマスター達を担いで出口へと走る。

よかった、これで僕が時間を稼ぐことが出来れば、彼女達は助かる。

 

作戦、僕を置いて先にいけ!は大成功である。

 

というかこのポケモン、僕と彼女のやり取りの間、何もしてこなかったね。

けっこう攻撃するタイミングはあったように思うけど。

 

もしかして意外と良いポケモンなのかもしれない。

まぁ、僕にとってあなたは最高のポケモンであることはもう確定してるのだけど。

 

ピカァ!!(さぁ、やろうか!!)

 

僕が倒れるのが先か、君の攻撃する体力がなくなるのが先か。

ふふふ、楽しくなってきたぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒバァ、ヒバァァァァ!!!(ちくしょう、ちくしょぉぉぉぉ!!!)

 

 

暗い路地裏を全速力で走り抜けながら叫び続ける。

涙が止まることなく溢れ、私の視界をぼやけさせる。

それを私は気にすることなく叫び続ける。

 

どうして私はこんなに弱いのよ!!

 

いつもいつも彼に負担を押し付けて私は何も彼の役に立てない。

 

今だって彼は私達を守るために自分を犠牲にして戦ってくれている。

 

私はそんな彼をおいて逃げることしかできない。

 

強くなってなんかないじゃない!全然強くなんてないじゃない私!!

 

彼を守るだけの力をつけるんじゃなかったの!?彼の隣に立つんじゃなかったの!?

今すぐ彼の下に戻りなさいよ!!彼の隣で戦えるってことを証明しなさいよ!!

 

心の中で何度も自分に叫ぶ、でも足は止まることなく出口へと走り続ける。

わかってるのよ、わかってるの!!

 

今の私じゃ足手まといにしかならない!

気絶したユウリ達を安全なところに運ぶのが私の役目だってことは十分にわかってる!!

 

これが最善だって誰にも言われるまでもなくわかってるわよ!!

 

でも!でも!!!

 

 

 

私は、あなたに一緒に戦ってほしいと言ってほしかった。

 

 

必死に叫ぶ彼を見て、私は感情の全てを飲み込んで逃げ出した。

 

たった一つだけの願いをそこに残して。

 

 

 

お願い、どうか無事でいて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピカ!ピカァァァァ!!(うっひょう!さいこぉぉぉぉ!!)

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

モチベーション維持のため感想、評価をいただければ嬉しいです。


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ドSなエルレイドは『つじぎり』をくらわせる

私は生まれながらにして壊れていました。

別に私だけが特別な環境があったわけではありませんでしたし、仲間達はみんな私に優しくしてくれました。

 

普通に笑って、悲しんで、怒ってりする、とてもありふれた日常を私は過ごしていたと断言できます。

 

だからこそ、私が自分が壊れていることにすぐに気付くことになったのです。

 

私の中には常に何かを『破壊したい』『傷つけたい』という黒い衝動が渦巻いています。

最初は小さな思いだったそれが、時が経つごとに大きくなっていき、次第に自分では抑えきれないほどにその衝動は大きくなっていきました。

 

私達は感情にとても敏感なポケモンです。

故に私は誰にも私が壊れていることを気付かせないため、自身のこの衝動を心の奥底に封印せざるを得ませんでした。

 

私は壊れていますが、普通の感情はしっかりとありますし、考え方も普通です。

楽しいことがあったら笑うし、嫌なことがあったら怒ったり悲しんだりします。

可愛いものを見れば和み、恥ずかしいことがあれば頬を赤らめます。

 

強烈な破壊衝動、それを除けば、私はみんなと一緒でした。

 

その壊れた部分以外が正常だったため、私の心は完全に壊れることが出来なかった。

この衝動がバレて、仲間達からどんな目で見られるのかと考えただけで震えが止まらなかった。

一人になるのが嫌だ、誰にも怖がられたくない、仲間外れになんてされたくない。

 

だから私は自身のこの衝動を必死に隠した。

何年もずっと自身の心を騙し続けた、闘いや力を使う場には一切参加せず、ひたすら影に居続けた。

 

それでも我慢できない時は壊しても問題ない木や岩を壊すことで自身を落ち着かせていた。

けれど、次第に多くなるこの衝動は私の我慢の限界を超えるのも時間の問題でした。

 

そんな私の最後の理性の壁が壊れたのは、身体が進化した時だった。

本来ではあればオスしか進化出来ないはずの形態への進化。

 

それは、私が普通とは違う、壊れたポケモンであることの証明でした。

 

湧き上がる力と、進化したことで手に入れた両腕の刃を見た瞬間、私はあっさりと自身の黒い衝動に飲み込まれたのです。

 

 

次に私が理性を取り戻した時、私の仲間は全員傷だらけで地に伏していました。

私と同じ姿のもの、私が本来得るはずだった姿を持つもの、そして未だ力を待たない幼い子供たち。

 

全員例外なく傷だらけでうめき声を上げていました。

 

未だ意識のある者達は、その瞳に憎しみと恐怖を貼り付けて私を見ます。

私の破壊衝動の気持ちを受信してしまい、震えながら涙を流す者も大勢いました。

そして、その誰もが、私のことを同族ではなく、理解不能な化物として見ていました。

 

その瞳を見た瞬間、自身が取り返しのつかないことをした後悔と恐怖が身体を襲いました。

 

 

でもそれ以上に。

 

 

()()()()()()()()()()()()()が私を支配してしまっていたのです。

 

仲間をボロボロにした私は、群れを去り、ひたすら戦いに明け暮れました。

闘い続けるうちに、私は他のポケモン達と比べて頑丈で、何より強いことを知りました。

 

もし、私に戦いの才能がなければ、いくら破壊衝動があったとしても、他の仲間達に鎮圧されて終わっていたでしょう。

 

しかし、そうはならなった。

 

壊れている私は、その異常な破壊衝動を満足させるために使えと言わんばかりに頑丈な肉体と闘いのセンスをもっていたのです。

 

本当に嫌になる、いっそのこと理性すらも異常であったのならどれだけよかったことか。

 

破壊の衝動に対し、私の精神はひどく普通だった。

なのに黒い衝動は今もなお増し続け、それを開放した時の麻薬のような興奮は私を狂わせる。

 

こんなの、()()()()()()()()()()()()()()

 

もともと壊れていた私の頭と体。

それに合わせるにはマシだった精神も同じように壊すしか、私に楽になる道なんてなかった。

 

狂った私はひたすら戦い続け、次第に私を知るポケモンは私を見た途端に逃げ出し、隠れた。

好戦的な連中も、私の容赦のない破壊に次第に恐れ、気が付いた時には私と戦うポケモンは誰一人いなくなっていた。

 

誰も私を襲ってこない、こちらから行けば逃げ、隠れる。

これで私の被害にあうポケモンがいなくなると安堵する一方で、私の衝動は解放されないため、さらに大きな衝動として私の中にたまり続ける。

 

黒い衝動の逃げ場をもとめた私は、人間と、それに従うポケモンがいるところにたどり着いた。

人間に飼い慣らされたポケモンは、一部のポケモンを除いて弱かったが、その一部のポケモンは今まで戦っていたポケモンより強かった。

 

人間の指示によって戦う相手は強く、巧妙だったが、そのすべてが私の強さの前に砕け散った。

負けたポケモンと人間に、私は抑えきれない衝動をぶつける。

相手の悲鳴が、その目に宿る恐怖が、私を興奮させ、正常な精神を修復不可能な程壊し続ける。

 

 

 

ああ、今日も誰かが私の犠牲になってしまう。

薄暗い路地裏で、私による犠牲者が生まれようとしている。

 

相手の瞳にはすでに戦意がなく、恐怖の感情に支配されている。

そして、その瞳が私を狂わせる。

 

濁った瞳のまま相手へと近づく。

相手の悲鳴を聞きながら腕を振り上げる。

 

 

 

 

誰でもいい。

 

誰でもいいから。

 

 

 

私を、私を止めて。

 

 

 

 

「ピカ!!」

 

可愛らしい声と共に、私の前に小さな英雄が現れた。

 

 

止まらぬ衝動に従った私の刃は彼のしっぽによって止められた。

 

そのまま英雄は、私からかばうように私と人間の間に立ちふさがる。

その後すぐ、彼の後を追ってきた彼の仲間がやってくる。

 

やはり彼は人間に飼われたポケモンでしたか。

まぁ、どっちにしろやることは変わりませんが。

 

彼に攻撃を加えたことで激高した二匹のポケモンの攻撃をさばく。

ふむ、全員なかなか強いですね。

 

しかし、残念ながら私の方が強い。

 

相手の巧みな戦術は、私の才能が強引にねじ伏せてしまう。

必殺としていた戦術を破られたことで生まれた動揺を私は逃さない。

 

前にいた二匹を両壁に吹き飛ばし、厄介な毒を操っていたポケモンをまずは仕留めましょう。

その時に私は直感で相手に効くであろう技を選択する。

 

不可視のエネルギーを纏った刃は相手に戦闘不能なほどのダメージを与える。

私の攻撃を受けた相手は吹き飛び、後ろにいた人間を巻き込んでいく。

彼女達はそのまま壁に激突して動かなくなった、気絶したのでしょう。

 

「ピカァァァァァ!!!」

 

悲痛を込めた叫びが私の耳に届く、振り返ると同時に私の目の前に合わせてやってきていた彼に吹き飛ばされる。

なかなか重い一撃でしたが、私を倒すには足りません。

そのまま彼らにとどめを刺そうと近づこうとした時、彼の大きな声が空間を支配します。

 

相手はもう1匹に倒れた者達を指さした後に出口の方へ指を向けます。

どうやら倒れた者達を連れて逃げろと伝えたいようですね。

その声を聞いたもう1匹のポケモンにも伝わったみたいで、最初は拒んでいましたが、やがて躊躇った後に気絶した者達を連れてこの場から逃げ出した。

 

彼は逃げ出した彼女達を見ることなく、私に彼女達の後を追わせないためにじっと私を見つめ続ける。

 

ああ、本当に彼は英雄だったようですね。

心配しなくても彼女達に興味はありません。

 

私の黒い衝動は、あなたを壊すことに興味をもってしまったようだから。

揺るがぬ戦意を宿す瞳を私はまた恐怖に変えてしまうのでしょうね。

 

「ピッカァァァ!」

 

戦意を声に乗せながらこちらに向かってくる相手に、私は無言のまま刃を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

強い!本当に強い!!

相手の攻撃をくらいながら相手の強さに何度目かもわからない戦慄を覚える。

相手の攻撃は重く鋭い、あのまま全員で戦っていたのなら、大変なことになっていただろう。

 

何より、相手の僕を痛めつけようとする強烈な意志。

ここまで僕を傷つけようとする絶対の気持ちを持った相手は初めてだ。

 

なんということだ、ここまで僕と相性の良い相手がいるなんて!!

好敵手とは、まさにこのことを言うのだろう。

 

夜はまだまだこれからだ!

僕は君が満足するまで付き合うぞ!!

 

ってあれ?足が動かない。

相手の攻撃をくらい、再び立ち上がろうとしたところで足から力抜ける。

さすがに攻撃をくらい過ぎたかな。

 

50くらいまでは数えてたんだけど、何回か急所にくらった時に意識が飛んでしまって数えることが出来なくなってしまった。

 

うーん、これはあれだね。

動けない僕をさらにボロ雑巾になるまでボコボコにする流れだね。

ふ、まったくしょうがないな。

 

君はまだまだ満足できないようだし、僕だってそうだ。

ここまできたらとことんやろうじゃないか。

 

僕は笑みを浮かべながら相手の攻撃を無抵抗のまま受け入れる。

ありがとう、君という好敵手に出会えた今日という日に感謝を。

 

動くことのできない僕は相手を見つめて精一杯の感謝の気持ちを相手に伝える。

 

そんな僕を見て、なんと相手は振り下ろそうとした刃を止めてしまったのだ。

 

どうしてそこで止めるんだ!

さっきまでの容赦のなさから確実に攻撃の手を緩めないだろうと予想していたのに!

 

「ルアァ」

 

相手は動けない僕をしばらく見つめた後、踵を返して闇の中へと消えようとする。

そんな、ここで終わりなんてあんまりだよ!!

 

僕は相手のあんまりな対応に身体を引きずって相手の足を掴む。

 

ピッカ・・・・チュウ(まだ・・・・終わってない)

 

こんな最高のひと時を終わりにするなんてあんまりだ!

僕が最後の力を振り絞ってそう叫び、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピカァァァァ!!」

 

私の何度目かもわからない攻撃が彼に突き刺さる。

私の攻撃を受け、相手は地面に激突して倒れる。

 

すでに路地裏は、私の攻撃と彼の激突した衝撃でボロボロになっていた。

一体私は何回彼を傷つけたらいいんですか。

 

私の攻撃を受けてボロボロになっているはずの彼が立ち上がる姿を見て、私は何度目かもわからない戦慄を覚える。

 

すでに彼の仲間は遠くに逃げ切っていて私が追うことは不可能。

それは彼もわかっているはず。

仲間を逃がすまでの時間稼ぎが目的だった彼がここにいる理由はもうない。

 

なのに、どうしてまだ戦うんですか。

もういいでしょう、あなたはもう十分戦ったでしょう。

気絶していいんですよ。

 

私もあなたのおかげで破壊衝動はある程度満足しています。

気絶してくれるのなら私はもう何もせずに消えます。

 

だから早く気絶してください!じゃないと私は私を抑えることができないんです!

 

「ピッカッ」

 

私の願いが通じたように彼の身体から力が抜けて倒れ込みます。

よかった、ようやく限界がきたようですね。

 

動けなくなった彼を見てそっと息を吐きます。

一応気絶だけはさせておきましょう、彼は起きてると何をするかわかりませんから。

 

安心してください、最後は優しく気絶させてあげます。

 

私は彼を気絶させようと彼に刃を振り下ろそうとした時、彼が私を見つめていることに気付きました。

 

そして、固まってしまった。

 

「ッ!?」

 

どうして。

 

どうしてそんな、優しい目を私に向けるんですか?

 

私が傷つけてきた相手は皆、目に怒り、憎しみ、そして恐怖を宿します。

その負の感情の比率に違いはあっても、全員が負の感情を宿していることに違いはありませんでした。

 

当然です、私は相手を傷つけたのですから。

 

なのに、どうして彼は、こんなに優しい目で私を見るんですか。

彼の目には負の感情が一切ありません。

 

やめてください、そんな目で、私を見ないでください!!

 

私は彼の視線から逃れるように刃を止めて彼から離れます。

もう彼は動けない、わざわざ気絶させるまでもないでしょう。

 

私はそう自身に言い聞かせて闇の中へと帰ります。

早く彼のことは忘れましょう、どうせもう会うことはないでしょうし。

 

「ピッカ・・・・チュウ」

 

「ルァ!?」

 

帰ろとする私の足を誰かが掴んできました。

慌てて振り返れば、予想通りボロボロの身体を引きずって私を掴む彼の姿。

 

そんなボロボロの彼は、泣きそうな顔で私を見つめていた。

 

「・・・・」

 

彼はその後最後の力を使い果たして気絶してしまった。

完全に気絶して目を閉じる彼を私は無言で見つめる。

 

さっきの目はなに?

どうして私を悲しそうな目で見た?

 

まさか、私を見て同情したとでもいうんですか?

さっきの優しい瞳は、私を受け入れようとでもしてたっていうんですか?

 

エルァ!エルアァァァァ!!(あは!あははははは!!)

 

私の笑い声が裏路地に響き渡る。

私に同情した?こんな壊れた私に?

 

あはは、気が変わりました。

 

このまま置いて帰るつもりでしたが、連れて帰ることにします。

私に同情したことを後悔させてあげますよ。

 

その瞳に、必ず負の感情を生ませてやる。

 

動かなくなった彼を掴んで闇へと消えます。

 

その時、私の頬に冷たい何かが流れてきました。

 

「・・・・?」

 

あれ?どうして涙が。

目からこぼれた涙に首をかしげながらも、すぐに気にしないことにします。

 

 

 

 

 

 

この涙の意味を、私は考えたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

ピカチュウとエルレイドはある意味で似たもの同士です。
ピカチュウがユウリと出会ってなければ、エルレイドと似たようなことをしていたかも。

彼の場合はどっちしろギャグになるんですけど。

また、モチベーション維持のために感想、評価をいただけると嬉しいです。

あと個人的興味で色々とアンケートをやりますので答えてくれると嬉しいです。


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ドSなエルレイドは『つじぎり』をくらわせる2

「ユウリが病院に運ばれたって本当!!?」

 

「うお!?えっとマリィだっけ?あ、ああ、うん、たぶんそうだと思う」

 

私の応援に来てくれた町の人たちからユウリが病院に運ばれたという情報を聞いてすぐに彼女のいる病院へと飛び込んだ。

 

今日は私のジムチャレンジだとか、前回気まずい別れ方をしたとか、そんな下らないことはユウリのことを聞いた瞬間に全て吹き飛んだ。

 

病院で知り合いを見つけた私はすぐにユウリの容態を確認するが、相手からすぐに返答が来ない。

 

「いいから早くユウリのところに案内して!!」

 

ぐずぐずしている相手にイラつきながら私は吠える。

ああ、ダメ。普段はもっと冷静に話せるのにユウリが倒れたって聞いてから熱くなってしまってる。

冷静な部分の私が怒鳴った相手であるホップに謝罪をするが、今の私はそんなことを口にしている余裕はない。

 

「わ、わかった。って言っても俺も今着いたばかりで何が何だか」

 

「あたしは、ユウリがこの街で噂になってるトレーナとポケモンを襲う奴に襲われたって聞いた、あのユウリがそう簡単にやられるなんて思えないけど、一応心配で」

 

慌てるホップに若干冷静さを取り戻した私は息を吐いてやってきた理由を説明する。

私の話を聞いたホップも私と同様の理由で来たことを私に教えてくれた。

 

「だったらナースさんにユウリの居場所を聞いて「ちょ!まだ動いちゃダメよ!!」

 

ユウリの居場所を近くにいたナースさんに聞こうとした時、広い受付広場の奥から女性の慌てた声が響いた。

 

反射的にそちらに目を向ければ、私達が探していた女の子であるユウリの姿が見えた。

 

「ユウリ!?」

 

てっきり病室のベッドでぐったりしている姿を想像していた私は驚きのあまり彼女の名を叫ぶ。

 

よく見れば、着ている服は病人用のだし、頭には包帯が巻かれ、腕や首などの肌が見える箇所にも多くの手当の跡が見える。

 

ていうか彼女の後ろから慌てた様子のナースが来てる。

これは間違いなく勝手に病室を抜け出したやつだ。

 

ひとまず元気?そうではあることに安心する。

でも、やっぱり病院に運ばれたことは事実だったんだ。

 

「えっとユウリ、大丈夫?あんまり無理は」

 

「どいて」

 

私は久しぶりに会うユウリに何といえばいいかわからず、ひとまず無難な言葉を口にした瞬間、彼女は一言そう告げて私の横を通り過ぎた。

 

「っ!ちょっとどこ行く気!?」

 

彼女の一言に固まりそうになる身体をなんとか動かして通り過ぎる彼女の腕を掴む。

病人丸わかりの彼女がこんなところにうろついてるのは異常だ。

 

今すぐ病室に戻さないと。

 

「みんな心配しとーよ。早く病室にもど「どいて」」

 

私の言葉の途中でユウリは私の手を振り払って強引に前に進む。

目の前で見たユウリはボロボロだった。

 

身体はもちろんだけど、何より酷いのはその心だ。

彼女の黒の瞳には私が一切写っておらず、目に見えない何かを追っているようだった。

 

私にはそれがひどく傷ついた印象を与えた。

 

「どいてじゃない!病院服だし足なんて裸足じゃない!そんな状態でどこに行く気!!」

 

「どこ?そんなの決まってる、早くいかないと、早く早く早く早く」

 

「ちょ、ユウリ!?」

 

私の質問に対してそう答えたユウリは虚ろな瞳のままぶつぶつと同じ言葉を言い続ける。

私のそんなユウリの様子に思わず手を離してしまった。

 

ユウリは私が手を離したと同時に再び進み始める。

病院にいた人たちはユウリの様子を見て怖がっているが、ユウリは周りの人たちの様子を欠片も気にすることなく進み続ける。

 

「お、おいユウリ!一旦落ち着けって!状況はわからないけど、その状態で外に行く気か!?」

 

ユウリの様子に呆然としたホップが慌ててユウリを止めるが今度は反応すらせず前に進む。

そういえば、ユウリのポケモンはどこへ?

彼女の腰にはトレーナならつけているはずのモンスターボールがない。

病室に?でもそれならポケモン達も勝手に出ているはず。

 

何よりあのユウリがピカチュウを置いていくなんて思えない。

だったらポケモンセンター?

それもおかしい、ここはポケモンセンターも兼ねてるから、ポケモン達が怪我していて様子を見に行くならユウリが外に行く理由がない。

 

私のそんな疑問は、病院に入ってきた人物によって理解することになった。

 

「残念ながら、あなたが倒れたところにお探しの王子様はいませんでした」

 

病院の入り口から見覚えのある人物が現れる。

あれは、ローズ委員長?

 

なんであの人がこんなところに、いやそれよりもお探しの王子様ってまさか。

 

「・・・・っ」

 

ローズ委員長の言葉を聞いたユウリは顔を真っ青にして、ただでさえ濁っていた瞳をさらに暗くする。

 

「・・・・ミキュ」

 

「・・・・ヒバ」

 

「ああ、現場にあなたのポケモンの二匹がいましたので連れてきましたよ。この子達もですが、あなたも怪我が治っていません、すぐに病室に戻ってください」

 

ローズ委員長は優しそうな笑みを浮かべながら彼女を病室へ戻るように促す。

ローズ委員長のことは正直苦手だけど、今回は彼の言葉に賛成だ。

 

「事件の詳細は把握しています、今回の件は私の責任です。あなたのピカチュウは必ず私が助け出しますからゆっくり休んでください。すでにチャンピオンであるダンデくんも捜索を手伝ってくれています」

 

「え、兄貴が!?」

 

ローズ委員長の言葉に傍で聞いていたホップが反応する。

そういえば、以前ホテルで話した時にチャンピオンの弟だって言ってたわね。

 

「ええ、だからユウリさんは安心して病室「関係ない」」

 

微笑みながらそう告げたローズ委員長の言葉をユウリの短い言葉が両断する。

ユウリは濁った瞳のままローズ委員長へ告げる。

 

「ダンデさんや他の人たちが彼を探しているとか私には何も関係ない、そんなの全部どうでもいい、私は早く彼の下に行かないといけないの!」

 

ユウリの言葉は次第に激しくなり、病院内に響き渡る。

 

「うっすらとした記憶の中で彼が私達を逃がすために残って戦ってたことを覚えてる。また私が弱いせいで彼は無茶をした、いえ今もしてる!だからもう彼が無茶しなくてもいいように、私がすぐに行かないといけないの!!」

 

「落ち着いてください。今のあなたは冷静じゃない、自分の言ってることが矛盾していることに気付いてますか?今の君が助けにいったとしても、また彼が無茶をする原因になりかねません」

 

「いいからどいて!!」

 

冷静に落ち着かせようとするローズ委員長の横をユウリは強引に通る。

その様子を見たローズ委員長は肩をすくめながら諦めたように小さくため息を吐いた。

 

「どうやら下手に止めると逆に危なそうですね。それに、これ以上はあなたのポケモン達がここで暴れかねません」

 

ローズ委員長の言葉を聞いてユウリのポケモン達へ目を向ければ、どちらもユウリに負けず劣らずの殺気立った状態だった。

 

前にホテルでユウリがピカチュウのことを自分の全てだと言っていたことを思い出す。

それはきっとユウリだけじゃなく、あの二匹も同じなんだと理解させられた。

 

「しかし、どうやってピカチュウを探すつもりですか?犯人はあなたのピカチュウを連れてどこかに行ったようです。あなたに犯人の居場所に心当たりはありますか?」

 

「・・・・ローズ委員長、あそこに私のバックはまだありましたか?」

 

ユウリはローズ委員長の質問に質問で返す。

その様子に彼は少し思案してから首を横に振る。

 

「いいえ、ありませんでしたよ。あそこから広範囲で捜査をしていますが、あなたのバックはありませんでした」

 

「・・・・そうですか」

 

「どちらに行かれるんですか?」

 

ローズ委員長の言葉に短く返事をしたユウリは今度こそ病院から出ていこうとする。

そんな彼女にローズ委員長は短くそう問いかける。

 

「・・・・一度ホテルに戻ります。部屋に予備の道具や服を置いてるので、その後は彼を探します」

 

「どうやって?」

 

「・・・・ローズ委員長、今回の件は自分の責任だって言いましたよね。なら私の頼みを聞いていただけますか?」

 

ユウリは彼の質問に答えずに逆に別の質問を相手に問いかける。

ローズ委員長はそれに嫌な顔をすることなく答える。

 

「ええもちろんです、私に出来ることなら何でも言ってください」

 

「私の邪魔をしないで」

 

「っ!?ちょっとユウリ、あんたは何を言うとっと!?」

 

ユウリの口から出た言葉に思わず口をはさむ。

せっかくの協力を邪魔しないでなんて!

 

「・・・・マリィ、私は前に言ったよね。彼は私の全てだって」

 

「・・・・うん」

 

始めて彼女が私を見つめる。

その濁った瞳に気圧されながらも頷く。

 

「私にとって彼が世界の全て、彼がいないと私は生きていけないの。だから絶対に取り返す。誰の手でもなく私自身の手で取り戻す。だから、邪魔をしないで」

 

「・・・・ユウリ」

 

「ローズ委員長、彼の捜索はそのままお願いします。ただ私は私で動きます、その邪魔はしないでください」

 

彼女はそれだけを告げて病院を出ていく。

裸足で出て行った彼女を靴を持ったナースさんが慌てて追いかけて行った。

 

私は、そんな彼女に何も言うことが出来ず、黙って見送るしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルァ!」

 

 

ピカァ!(ありがとうございます!)

 

相手の容赦のない攻撃に反射的にお礼を口にする。

目が覚めたら天国だった、じゃなくて知らない場所だった。

 

 

どうやら僕はあの後気絶して、そしてここに連れて来られたようだ。

そして僕が起きたことに気が付いた相手はあいさつ代わりと言わんばかりに僕を激しく攻撃してきた。

 

そしてその後も休む暇なく容赦のない攻撃が続いている。

 

うーん、今の状態は僕の欲求的には大歓迎だけど、マスター達のことが気がかりだ。

ラビフットは気絶したマスター達を無事に運んだのなら、今頃病院かな?

 

心配性の彼女達のことだから僕が元の場所にいないと心配してしまう。

彼女達のためにどうにかしてここを脱出しないと。

 

ピカァ!(おっふ!)

 

考え事をしている間にも相手からの攻撃は続く。

きっとそう遠くないうちにマスター達はここに辿り着きそうな予感がする。

 

・・・・ゆっくりきてもいいのよ?

 

「おいおい、俺の迷子癖もたまには役に立つもんだな」

 

ん?なんか聞き覚えのある声が。

 

ボロボロの身体を動かしてみれば、そこには見覚えのあるチャンピオンとリザードンの姿があった。

おかしいな、どうしてここに彼らがいるんだろう。

あ、これ夢か。

 

そうだよね。こんな都合の良い状況が現実であるはずないよね。

 

「もうお前にその子を傷つける時間はない、ここからは、チャンピオンタイムだ!!」

 

ダンデさんとリザードンは僕の様子を見て、目に怒気を宿らせながらそう宣言する。

 

あれ?そういえば夢なのにとても痛い(気持ちいい)のはなんでだろう?

え?本物?

 

状況を正しく認識した僕は思わず口を開いてこう告げていた。

 

 

ピ、ピカチュウ(あの、帰ってもらっていいですか?)

 




読んでいただきありがとうございます。


それとアンケートに答えていただき、ありがとうございます。
1位はピカチュウ。
さすが、一番ぶっ飛んでますからね。

そして2位はマホイップ。
やっぱりめぐ○ん効果はすごいですね。
彼女はまた出す予定です。
その時は開き直ってもう好きに書こうかな(このすば的に)って思ってます。

またアンケートを思いついたらやりますので協力お願いします。

それと今日は夜21時にもう一話更新します。

毎度のことですが、モチベーション維持のため感想、評価をくだされば嬉しいです。


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ドMなピカチュウは『かえんほうしゃ』をくらう

今日はお昼にすでに話を投稿しています。
そちらを読まれていない方はご注意ください。


「ピィ!?」

 

「・・・・」

 

私は彼の悲鳴を聞きながら無言で彼を殴り続けます。

あの路地裏から私が現在拠点にしている場所に運び込んで夜を明かし、

彼が目を覚ますと同時に攻撃を開始しました。

 

彼から見たら目を覚ました途端、知らない場所に私と一緒にいて、わけもわからず攻撃される。

まさに地獄と言えるでしょう。

 

安心してください、あなたのトレーナーが持っていたバックも一緒に持って帰っています。

あの中にはキズぐすりという体力を回復するための物があるらしいですし、限界が来たら回復していいですよ。

 

そしてまた私にボロボロにされてください。

 

絶望の表情を浮かべる彼を夢想し私の欲求が興奮を与えてくる。

その興奮に荒い息を吐きながら彼に攻撃を続ける。

 

ふふふ、いつまで待ちますかね。

 

「おいおい、俺の迷子癖もたまには役に立つもんだな」

 

私が彼に追加の攻撃をしようとした時、背後から聞き覚えのない声が耳に届きました。

振り向けば、やはり見たことない人間とポケモン。

 

彼を助けに?それとも私を倒しに?

そもそもどうやってここに。

 

「もうお前にその子を傷つける時間はない、ここからは、チャンピオンタイムだ!!」

 

相手は目に怒気を宿しながらそう吠える。

その怒気とあふれ出る力を感じた瞬間、私のそんな疑問は全て吹き飛ぶ。

 

まさか、これほどの力を持った人間とポケモンがいるとは。

今まで数々の相手と戦ってきた私は相手の実力が過去のどの相手よりも遥かに凌駕していることに気づきます。

 

正直今は彼のことに集中したいのですが、見逃してくれそうにはありませんね。

 

いいでしょう、強者の闘いは私の欲求を満たすことに繋がります。

あなたを私の欲求の贄にしてあげます。

 

「リザードン!エアスラッシュ!!」

 

「っ!!」

 

相手の翼から放たれた風の刃を咄嗟に横に飛んで躱す。

このポケモン、彼が近くにいる中で私だけを正確に狙って攻撃を。

 

相手の人間とポケモンは、私が離れたことで出来た彼との隙間に流れるように入り込む。

その時に動こうとしましたが、強靭なしっぽで牽制されてしまい動くことが出来ませんでした。

 

あまり調子に乗らないでください!!

 

刃に力を込めて相手に切りかかる。

相手は私に合わせるように爪で応戦する。

 

「うお!すごい威力のきりさくだな!!」

 

相手の人間から驚きの声が漏れます。

その割にはずいぶん余裕そうに受け止めてますけどね!!

相手の爪は私の高速の攻撃に全て対応しています。

 

この図体でどうして私と同じ速度で攻撃ができるんですか!?

 

「だが、俺のリザードンの方が強い!リザードン!ドラゴンクロー!!」

 

「っ!?」

 

その言葉を証明するように私の刃は相手の爪の威力に負けて大きく弾かれます。

なんて重い攻撃ですか!?いったいどれほど鍛えれば、これほどの威力を。

 

強制的に作らされた隙を相手が見逃してくれるわけもなく、私の身体に凄まじい威力の疾風が襲ってきます。

 

最小限の動きで放たれた技は私に防御をする時間を与えることなく私は吹き飛ばされます。

 

「エルァ!」

 

吹き飛ばされ壁に激突した私は、身体中に感じる痛みに顔をしかめながらも気合で吠える。

しかし、私がその後に見た光景は、相手の口から漏れる赤く燃える炎でした。

 

「かえんほうしゃ!!」

 

人間の言葉と共に相手の口から炎が噴き出す。

ダメだ、今の私が避けれる範囲を完璧に把握されている。

これは避けれない。

 

自身に迫る巨大な炎は私に嫌な事実を叩きつけてくる。

 

どうやら・・・・ここまでのようですね。

この攻撃を受ければ、もう私に戦う力は残っていないでしょう。

 

私は無言のまま迫りくる炎を受け入れる。

まぁ、今まで他の者を傷つけた私です、いずれこうなることはわかっていました。

 

ずいぶんとあっけない終わり方ですね。

いや、私の罪が裁かれるのはこれからでしょうし、この業火がその初めと考えるべきですね。

 

そしてその次は、目の前の彼に私は裁かれるのでしょう。

今まで散々ボロボロにしたんです、結局彼の目に負の感情を宿らせることは出来ませんでしたが、心の奥底ではきっと・・・・?

 

 

 

 

 

えっと、どうして彼が私の目の前にいるんですか?

 

 

 

 

「エルァ!!?」

 

いやいやどうしてあなたがそこにいるんですか!?

ちょっと!炎がもう目の前に来てますよ!?

 

は、早く避けてください!じゃないとあなたまで巻き添えになりますよ!?

 

「ピカァァァァ!ピカァァァァァ!!」

 

私が驚いてる間に彼は相手の放った炎に飲み込まれます。

彼を飲み込んだことで炎は私に届く前に爆発して周囲に衝撃を与えます。

 

私はその衝撃に反応すらせず呆然と炎に飲み込まれた彼の姿を目に焼き付けていました。

 

どうして・・・・?

 

どうして彼は()()()()()()()()()()

 

今まで散々傷つけてきた相手をどうして庇えるんですか?

ましてや相手はあなたを助けるために私に攻撃をしてたんですよ。

 

あなたはそのままじっとしていたらよかったんです。

そうしたら私は焼かれ、あなたは助け出されていたんですから。

 

なのにどうしてあなたは!?

 

脳裏に路地裏で私に向けた彼の瞳が浮かび上がります。

あの優しい瞳を思い出して、私の心がかつてないほど締め付けられます。

 

やめて、もう、私に優しくしないで。

これ以上あなたに優しくされたら、私は。

 

「え、ええ!?おいどうしてそこでお前が飛び込んでくるんだよ!?」

 

相手の大声に頭が覚醒します。

そして反射的に炎の中で倒れる彼を抱きしめて立ち上がる。

 

私は何をしているのでしょう?

頭の冷静な部分が自分の行動に疑問を覚えますが、身体は勝手に動き出します。

そして近くにあったあの人間のバッグも掴んで、この場から全速力で離脱します。

 

 

不思議と私の中でいつも渦巻いている黒い衝動は静まっていました。

今私の中にあるのは彼を守らなくてはという強い思いのみ。

 

これは私の進化した姿が本来持つべき性質ともいうべき思い。

誰かを守るために刃を振るう、騎士の精神。

 

冷静な部分が今の私の状態を分析しながら身体は動き続けます。

 

相手は彼を抱きかかえたまま全力で逃げる私の姿に何を思ったのかわかりませんが追いかけてきません。

 

私はそんな相手の行動の理由を考える暇もなく、ただ彼を救わなくてはという思いのまま駆け出します。

 

 

「ピカァ」

 

 

矛盾だらけの私の行動に彼は小さく鳴きます。

 

彼に目を向ければ、とても満足そうな瞳をしていて、やがてそのまま気絶してしまいました。

まるで、私の無事を確認出来て安心したかのように。

 

その瞳を見て、また私の頬を涙が濡らします。

 

どうしてあなたは、こんな私に優しくしてくれるんですか?

 

私の心からの問いに彼は答えてくれません。

 

絶対に、絶対に答えてもらいます。

 

 

だから、お願い・・・・目を覚まして。

 

 

 

 

 

 

僕の願いはあっけなく拒否されてダンデさんのリザードンとエルレイドの戦闘が始まる。

 

リザードンが最初に行った行動は僕とエルレイドを引き離すことだった。

 

リザードンは器用にエルレイドの周りだけに風の刃を送り、強引に僕と引き離させる。

もうちょっと大雑把に放って僕を巻き込んでほしかった。

 

そのままリザードンは強引に開けた僕と相手の間に割り込んで、エルレイドが僕に近づけないようにする。

 

うまいなぁ、さすがチャンピオンとその相棒といったところか。

あのエルレイドが完全に翻弄されている様子に感嘆のため息が漏れる。

 

今の僕たちじゃあダンデさんに瞬殺されちゃうな。

僕たちとダンデさんの実力の差を自覚する。

 

それと同時に僕の中の欲求がうずうずし始める。

 

目の前で僕がずっと憧れていたダンデさんのリザードンが戦っている。

リザードンは自身の爪で相手の攻撃を完全に防いだだけじゃなく、カウンターで相手の刃をはじいて、その翼で発生させた風で相手を吹き飛ばした。

 

どの技も無駄がなく、見ているだけでその威力を実感できる。

 

今すぐあの場に飛び込みたい!!

 

いや落ち着くんだ僕!!

 

ダンデさんは僕を助けるためにここに来てくれたに違いない。

きっとマスターに頼まれて探してくれていたんだ。

 

 

忙しいはずなのに僕のために戦ってくれているダンデさんの邪魔を僕がするなんて言語道断だ!

それにマスターや彼女達も随分心配しているはずだ。

僕の今すべきことは、この場を黙って見守りダンデさんに助けてもらうこと。

 

そんなことはわかってる!わかってるけど!!

 

僕の視線の先でリザードンの口から炎が漏れる。

きっと相手にとどめをさすため、もっとも得意な炎の技を出すつもりなんだろう。

 

あのダンデさんのリザードンの『かえんほうしゃ』。

 

ははは、こんなの我慢できるわけないよね。

 

リザードンの口から漏れる炎を見て、僕は即座に自身の欲求に屈する。

うん、僕ってクズだなぁ。

 

でもここでリザードンの『かえんほうしゃ』を受けなかったら、一生後悔するんだ!!

 

僕は確固たる思いを胸にエルレイドとリザードンの間に飛び込む。

 

「エルァ!?」

 

突如として現れた僕に後ろで驚きの声が漏れる。

僕はその声に反応する前に待ちに待った炎が僕を飲み込んで焼き尽くす。

 

ピカァァァァ!ピカァァァァァ!!(んほぉぉぉぉ!しゅごいのぉぉぉぉ!!)

 

期待通り、いや期待以上!!

かつてないほどの威力に僕は上げてはいけない声が漏れる。

 

これが、ダンデさんのリザードンの『かえんほうしゃ』!!

こんなの一度経験しちゃったら、もう他の『かえんほうしゃ』じゃ満足できないよ!!

 

薄れそうになる意識内でリザードンに対する賞賛を浮かべていると、後ろから誰かが僕を優しく抱きかかえてくる。

 

見れば、泣きそうな表情を浮かべたエルレイドが僕を抱きかかえていた。

どうして君が?

 

まぁいいや、今とっても気持ちいいし。

 

僕はやり切った満足感と共に目を閉じる。

ふふふ、早くダンデさんと闘いたいなぁ。

 

僕は彼のリザードンの攻撃を受けて改めてそう決意した。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

今回のタイトルであ(察し)ってなった人は何人いますかね?


次話は明日の朝の9時と夜の21時にそれぞれ更新します。

皆さんのおかげで高いモチベーションのまま楽しんで書き続けられています。
なので本当に感謝です。

そして今後もモチベーション維持をするため感想、評価をくだされば嬉しいです。


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ドSなエルレイドは『キズぐすり』をくらう

読んでいただきありがとうございます。

毎度のことですが、モチベーション維持のため感想、評価をくだされば嬉しいです。

それと今日の夜21時にもう一話更新します。

では、どうぞ。


「・・・・ピカ?」

 

ここは?

薄れていた意識を徐々に覚醒させながら目を開ける。

えっと僕は何をしてたんだっけ?

 

あ、そうだ!ダンデさんのリザードンの『かえんほうしゃ』をくらって気絶しちゃったんだった。

僕が最後に覚えている記憶は確か、エルレイドが倒れた僕を抱きかかえてどこかに移動してたんだっけ。

 

自身の記憶を把握した僕はエルレイドがどこにいるのかを探すために辺りを見回す。

 

 

うーん、知らない場所だな。それにもう夕方だから数時間くらいは寝てしまったみたいだ。

 

空の様子から今の時間を大雑把に把握する。

ていうかエルレイドはどこへ?

 

近くにいない相手に首をかしげていると、ちょうどエルレイドが僕の視界の端に現れた。

 

「エルァ!?」

 

どうやら建物の奥にいて見えなかったようだ。

僕が起きていることに気付いたエルレイドが驚きの声を上げながら僕へと近づく。

 

「エ、エルア」

 

僕が無事であることを確認した後、エルレイドはなんとも言えない表情で僕を見つめる。

ああ、これはどうして僕がリザードンの『かえんほうしゃ』をくらったのか聞きたいのかな?

 

答えは僕が受けたかった!ただそれだけなんだけど、言葉が通じないからそれを説明することが出来ない。

 

さすがに僕のこの答えを察してくれとは普通のポケモンに求めるのが酷であることは僕でもわかる。

 

ふ、やはりMは孤独だ。

 

さて、言葉で伝えることが出来ない以上、もっとも建設的なことをしようじゃないか。

 

建設的なこと、それは今日の朝の続きだ!!

 

ふふふ、僕もリザードンの『かえんほうしゃ』をくらった分は気絶したことで十分回復している。

遠慮なく再開できるぞ!

 

ダンデさんが助けにきてくれたことから、ここもそのうち見つかるだろうし、

そうしたらこの時間も終わりだ。

 

だったらこの限られた時間で出来ることをするべきだ!

 

「ピカ」

 

「っ!!」

 

僕がこの後起こる朝の続きを想像して、つい彼女を見て微笑んでしまう。

するとどうしてか、相手は泣きそうな表情を浮かべてしまった。

 

え、どうしてそんな表情をするの?

 

理由がわからず、僕は困惑する。

 

あ、なるほどそういうことか!

 

ダンデさんのリザードンと戦ってボロボロの姿の様子を見て僕は相手の表情の理由を察する。

 

どうやら自身のダメージのせいで僕への攻撃どころではないみたいだね。

それなら話は簡単だ。

 

理由を理解した僕は嬉々として近くに落ちていたマスターのバッグに手を伸ばす。

どうやらエルレイドもマスターがあの時言っていた言葉を覚えていたようだね。

 

僕はマスターのバッグの中から『すごいキズぐすり』を取り出す。

マスターの言葉を覚えていて使うためにバッグを持って来たけど使い方がわからなかったのかな?

 

まぁエルレイドは野生のポケモンだと思うし、しょうがないよね。

 

だから僕が君を回復させてあげよう!

そうすれば君は何の憂いもなく僕をボコボコにできる。

僕も君にボコボコにされて嬉しい。

 

まさにWin-Winな取引だ。

 

「ピカ!」

 

僕がバッグから『すごいきずぐすり』を取り出すのを黙ってみていた相手は、僕が笑顔で手渡した『きずぐすり』を見た途端、なぜか息を飲んだように固まっていた。

 

「エルァ!!」

 

そしてすぐに動き出したエルレイドは僕の手の上にあった『すごいきずぐすり』を弾き飛ばす。

ええ!?どうして!?

 

あ、もしかして『すごいきずぐすり』じゃだめだった!?

じゃあ『まんたんのくすり』なら。

 

そう思い、マスターのバッグから『まんたんのくすり』を差し出すが、同じように弾き飛ばされる。

 

ええ、困ったなぁ。

回復してくれないと僕をボコボコにしてくれないじゃないか。

 

「エルァ!エルアァ!!!」

 

くすりを弾き飛ばしたエルレイドは僕に向かって吠える。

も、もしかしてさらに高価なものを?

 

参ったな、マスターのバッグにこれ以上のものは入ってない。

どうしようもない状況に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

相手は僕の様子を見て、これ以上の物がないことを察してしまったようだ。

顔を俯かせて膝を地面へとつけてしまう。

 

うぅ、そこまで落ち込まれると僕も非常に心苦しい。

 

で、でも一体どうすれば!?

 

あ、そういえば前に落ち込んでいたラビフットを慰める時に彼女の頭を撫でたっけ!

ロゼリアも頭を撫でられたら喜んでたし、普通のポケモンは頭を撫でられるのが好きに違いない!!

 

「ピカァ」

 

「ッ!!?」

 

僕はなるべく優しい声を意識しながら彼女達の時と同じようにエルレイドの頭を撫でる。

 

その途端。

 

「エルァァァァ!!エルァァァァァァァ!!」

 

どうしてか彼女は僕に抱き着いて泣き出してしまった。

 

え、ええ!?泣くほどショックだったの!!?

 

ま、まずいぞ!このままではエルレイドは僕をボコボコにしてくれないじゃないか!!

ひ、ひとまず泣き止んでもらわないと。

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

僕はエルレイドを落ち着かせるため、ひたすら彼女の頭を撫で続けた。

 

しかし、彼女の涙は、この後しばらく止まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「エルァ」

 

はぁ、私は一体何をしているのでしょうか。

気絶した彼をおいて私は近くに追手がいないことを確認しながらため息を吐きます。

 

自分で自分の行動が理解しきれません。

いえ、理解したくないの間違いでしょうか。

 

強すぎる相手にあの時の私は完全に敗北を受け入れていました。

ついに、私の罪が裁かれる時が来たのだと。

 

でも、そうはならなかった。

 

私の裁きを止めたのは、私をもっとも裁く権利があるはずの彼だった。

 

私を守るように立ちふさがり、炎に飲まれていった彼。

その後、私が無事であることを確認した彼は、満足そうな表情で気絶してしまった。

 

「・・・・ッ」

 

あの時の彼の表情を思い出すと、胸がひどく締め付けられる。

 

私を守って倒れてた彼を見た瞬間、私は彼を抱きかかえて逃げ出した。

 

「・・・・エルァ」

 

そのことを思い出して頭を抱えます。

いや、何をしてるんですか私は。

 

どうして彼を連れて来たんですか?

 

確かに彼は私を守ってくれましたが別に味方ではありません。

むしろ彼からしたら私を攻撃した相手が味方で私は敵です。

 

自分の黒い衝動のために彼を連れてきた?

 

いえ、それはないですね。

今の私は不思議とあの衝動が収まっています。

彼のことを考えてると、なぜかあの衝動が来ません。

 

どうしてでしょうか。

 

・・・・あの時の私は、ただただ彼を守らなくてはという思いでいっぱいでした。

 

とんだ笑い話です、守るどころか一番彼を傷つけていたのは私だというのに。

 

この思いは、私の身体に宿る本来の性質なのでしょうか?

 

まだ群れにいた頃に私と同じ姿をしたポケモン達に教えてもらったことがありました。

 

自分たちの刃は誰かを守るために使うものだと。

彼らは自分の刃を私に見せながらそう告げた。

 

その思いが、今さらになって私にも芽生えたと?

 

は!バカですか私は。

自身の気持ちを一笑する。

 

私のような破壊者が誰かを守る資格があるとでも?

 

どうせ誰かを守ろうとして、その者を傷つけるだけです。

 

彼を連れて来たのはあの現場で混乱していたせいで、ただの気の迷いです。

もう彼には興味ありません。

 

本来は彼を置いてこの場を後にするべきですが、私はまだ彼に聞きたいことがある。

 

私を助けた理由、そしてどうして、あんな目と表情を私に向けたのか。

 

これを確認しなくてはならない。

 

・・・・もし私の考えているような理由なら、彼の勘違いを正さなくてはならない。

 

もう二度と私に優しくしないように。

あなたが助けた私がどれだけ愚かな存在かということを、彼に教えなければならない。

 

「・・・・ピカ?」

 

「っ!?」

 

彼の声が耳に届いた瞬間、私は考える間もなく彼の下へ近づく。

そして不思議そうに首をかしげている彼を見た瞬間、私は彼に何を言えばいいかわからず、言葉に詰まった。

 

相変わらず、彼の目に負の感情は見えない。

ボロボロで、今も身体中が痛いはずなのに、それを彼は全く表情に出さない。

 

「ピカ」

 

「ッ!!?」

 

それどころか、彼は私を見ると、安心したように微笑んだのだ。

まるで私の無事を確認できて安心したかのように。

 

それを理解した瞬間、私の目から涙が溢れそうになる。

それをなんとか我慢して耐える。

 

ダメだ、もう彼とこれ以上関わるのはダメだ。

早く、彼の勘違いを正して彼の下から去らないと。

 

「ピカ?ピカ!!」

 

動かない私を見て、彼は首を傾げた後に彼のトレーナーが持っていたバッグへと近づいていく。

私はそれを黙って見ていると、彼がバッグの中から何かを取り出すのが見えた。

 

あれは確か、傷を治すためのアイテムですよね。

以前戦った人間とポケモンが同じ物を使っていたので覚えています。

 

なるほど、あれを使って彼自身の傷を治すつもりのようですね。

きっと今も全身が痛いはずですから、当然でしょう。

 

このためにバッグも持ってきていたのです、早く使ってください。

そして早く、私の下から消えてください。

 

「ピカ」

 

「エルァ!?」

 

私が彼の行動を黙って見守るつもりでいると、彼はあろうことか、そのキズぐすりを私に差し出してきました。

 

あなたというポケモンは!ほんとにどこまで!!

 

私は言葉に出来ない思いを叫びに変えながら彼の手にあるキズぐすりを弾き飛ばします。

 

どうしてあなたは私なんかに優しくするんですか!!

私なんかより、あなたの方がよっぽど痛いはずでしょう!?

 

なのに、なのに!!

 

「ピカ」

 

「ッ!?」

 

私が弾き飛ばしたにもかかわらず、彼はまた私にキズぐすりを差し出してきます。

 

私はそれをもう一度弾き飛ばした後に膝から崩れ落ちる。

 

やめて、もう、私に優しくしないで。

これ以上、優しくされたら、もう私は耐えられなくなる。

 

今まで我慢してきた思い、壊れたと偽って誤魔化してきた思い。

 

もう一人は嫌、誰かと一緒にいたい、暖かな気持ちに触れていたい。

 

もう私には二度と手に入らないと諦め、心の奥底に封印した思い。

それが彼の優しさに触れて、今にもあふれだしそうだ。

 

もうやめて、私はあなたに優しくされるようなポケモンじゃない。

ただの壊れたポケモンなの!この世界に存在したらいけないポケモンなの!!

 

だから!もう、私を、一人にして!!(一人にしないで!!)

 

「ピカァ」

 

私の思いを裏切る(叶える)ように、彼は私の頭を優しく撫でる。

 

彼の暖かな優しさが私の心に触れる。

 

もう限界だった。

 

 

エルァァァァ!!エルァァァァァァァ!!(うぁぁぁぁ!!うわぁぁぁぁぁぁぁん!!)

 

 

ずっと隠してきた思いがあふれ出る。

 

ずっと一人っきりで寂しかった!!

 

みんなを傷つけてた時、とても辛かった!痛かった!!

 

みんなの恐怖や怒りの目なんて見たくなかった!!

 

誰かに助けてほしかった!!

 

こんな私でも生きていていいんだよって言ってほしかった!!

 

「ピカ、ピカチュウ」

 

彼は、泣き続ける私の頭をずっと優しく撫で続けていた。

 

私は彼の暖かな手に撫でられながら確信した。

 

ああ・・・・私の今までは、全てこの時のためだったんですね。

 

彼を、いえ、()()()()をお守りするために私は生まれてきたのでしょう。

 

誓います、あなたの優しさに。私の中で生まれた新たな思いに。

 

あなたに永遠の忠誠を、この命が尽きるまで、あなたを守る盾になることを。

 

あなたが一緒にいてくれるのなら、私はもう壊れません。

 

 

 

だからどうか、私をあなたの傍においてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた」



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ドSなエルレイドは『ソーラービーム』をくらう

「エルァ!?」

 

背後からの強烈な悪寒によって咄嗟に彼を守るために立ち上って建物から飛び出します。

な、なんですか今の感じは!?

 

こっちは今までの溜め込んでいた物を吐き出してスッキリしていたというのに。

それにもう少し私の主様に抱き着いていたかったのに!!

 

「見つけた」

 

悪寒の正体を探すために目を前に向けた瞬間、全てを理解しました。

 

なるほど、彼を助けにきたってことですね。

 

私の目の前には主様のトレーナーである人間と仲間のポケモン二匹がいました。

 

正直、彼を傷つけるなんてことを私は二度とするつもりはありません。

故に、私が彼女達と戦う理由はないですが、そうはいかなさそうですね。

 

彼女達の濁り切った瞳を見て、私は瞬時にそう判断します。

 

それに、彼女達は危険だ。

 

あんな濁り切った瞳、本当に主様の仲間がする瞳ですか?

今まで数々の負の感情を見てきましたが、あなた達ほどの負の感情を持つ者はいませんでしたよ。

 

はっきり言って、あなた達が彼といることに害はあっても得があるとは思えません。

 

私は主様を守る騎士。

 

壊れた私を優しく温めてくれた彼に対し、私は自身の命を賭けて守ると誓いました。

まぁ、誓ったのはつい先ほどなんですが。

 

しかし時間は関係ありません。

 

我が主の騎士としてあなた達に彼を渡すわけにはいきませんね。

 

こちらに殺気をまき散らす相手に刃を構えます。

 

なんて、カッコつけすぎですね。

 

カッコよさげなことを思ってはいますが、ようは彼と離れたくないだけなんです。

もう私は彼なしで生きていける気がしない。

 

それにきっと。

 

 

鏡を見れば、彼女達と似たような瞳を私はしているでしょうから。

 

 

 

「返せ、私のピカチュウを、今すぐ返せ!!」

 

相手の人間はその声に殺気を乗せながら叫ぶ。

そしてそれに呼応するかのように二匹のポケモンが前に出る。

 

あなた達は忘れたんですか?

 

昨日、主様を含めた三匹がかりでも私に勝てなかったことを。

気合は認めますが、それだけで私との実力の差が生まるとでも?

 

「ヒッバァァァァァァァ!!」

 

昨日、気絶した彼女達を運ぶために彼を置いて逃げたポケモンが吠える。

だから、気合だけで何とかなるとでも・・・・!?

 

 

雄叫びを上げた瞬間、彼女の身体が光に包まれる。

まさか。

 

「ヒバァ!!」

 

彼女の身体を包んでいた光が解けた時、彼女は別の姿へと変わっていた。

 

進化ですか、まさかこのタイミングでとは。

 

明らかに力のレベルが変わった彼女の様子に警戒のレベルを引き上げます。

しかし、それだけでは私の方に軍配が上がります。

 

私のこれまでの戦闘回数をなめないでください。

 

さぁ、さっさとお帰り願いましょう、っ!?

 

「ミッキュゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

彼女の光が収まった直後、続くかのようにもう一匹のポケモンも同じ光が身体を包み込みます。

 

二匹同時進化!?

 

そんな偶然が起こるわけが、いや、あれですか!!

 

私は人間の手に持つ物を見て進化の理由を察します。

 

人間の手に握られた石は彼女の身体の包む光に呼応するかのように輝いている。

 

彼女は私達と同じように特殊なエネルギーを持つ石によって進化するようですね。

 

私の場合は特殊ケースですが、本来この姿は人間の持つ石と似たような力を持つ石の力を借りて姿を変えます。

 

めんどうですね、どうやら私も全身全霊で戦いに望まなくてはならないようです。

姿を石の力で変えた彼女もまた、明らかに実力の壁を大きく突破しています。

 

身体は先ほどまでの人間とポケモンの攻撃で痛みます。

しかし、その程度の理由で敗北するつもりはありません。

 

敗北はつもり、主様との別れを意味するのですから。

 

だから、絶対に負けません!!

 

「エースバーン、とびはねる」

 

「ヒバァ!」

 

人間の指示に従ってエースバーンと呼ばれた彼女が空高くに飛び上がります。

そしてそのまま空中で一回転すると、私の方へと急降下してきます。

 

いきなり空からの攻撃ですか、あからさまですね!

一瞬空に飛んだ彼女に気を取られましたが、すぐに相手の狙いに気付いて前を向きます。

 

すると予想通りもう一匹のポケモンが私に攻撃を放ってきてました。

 

空へ視線を誘導し、もう一匹の攻撃を隠す。

その程度を見破れないとでも?

 

相手の花から放たれた毒を躱し、空より降下してくる相手を迎撃するために刃を構えます。

わかってさえいれば、そんな攻撃はカウンターで、!?

 

上を向いていた私の足裏に突如として鋭い痛みが走ります。

 

「ッ!?」

 

反射的に下を向けば、私の足元に紫色のとげが散らばっていました。

どうやら私はこのとげを踏んでしまったようです。

 

敵の狙いはこれですか。

 

彼女が空へ飛び跳ねるとほぼ同時にもう一匹が私の近くの地面にこのとげを滑り込ませた。

そして上空を囮にし、さらに正面からの攻撃すらも囮にして地面の攻撃に気付かなかった。

 

「ヒバァァァ!!」

 

「ッ!エルァ!!」

 

地面に気を取られた私は上空から降ってきた彼女の攻撃を迎撃します。

カウンターで吹き飛ばすつもりでしたが、できそうにありませんね。

 

彼女の攻撃の重さに顔をしかめながら耐えます。

仕方ありません、一度距離を開けます。

 

「ロズレイド、べノムトラップ」

 

人間が指示を出した途端、私が移動しようとしていた場所の地面が紫色に染められます。

 

っ!?あの人間、私が動く場所を先読みして技を!

 

この地面を踏むのはまずい!

私は踏みしめそうになる足を無理やり動かして、接触を避けようと無理やり身体を動かす。

 

「エースバーン、にほんばれ」

 

その瞬間、私の上空の日差しの暑さが大きく増した。

 

上からくる!

今度は下を囮にして上ですか!

 

しかし、移動しようとした地面への接触を避けるためにすでに無理な体勢になっています。

ここから避けるには、屋根のある場所に飛ぶしかありません!

 

私は瞬時にそう判断し、建物のある方向へ、無理やり地面を蹴り飛ばして飛び込みます。

 

「ロズレイド、ソーラービーム」

 

「ミキュ!」

 

建物に入るために飛び込み、地面から足を離した私へ、正面から光線が放たれた。

 

なっ!!?今度は地面と空を囮にして本命は正面ですか!!

 

「エルァァ!!」

 

咄嗟に刃を重ねて相手の光線を正面から受け取ます。

しかし、上空にいる私がその衝撃に耐えることが出来るはずなく、そのまま光線と共に吹き飛ばされます。

 

そして建物の壁を貫通して地面を何回も転がり、ようやく衝撃を完全に殺すことが出来ました。

 

完全に相手に思考を読まれてますね、相手の人間は本当に人間ですか?実は私の心を読めたりしてませんよね?

 

だとしたら私がもう主様を傷つけるつもりがないことに気付いてほしいんですが。

 

しかし、参りましたね。

相手は完全にこの2体1の状況を利用しきってくる。

 

実力も進化したことで近くなり、人間の方も以前と比べて頭が恐ろしく回るようになっている。

しかも、あの踏んだ棘に毒があったようですね、さっきから気分が悪い。

 

それ以前に私はすでに強敵との戦闘で負傷してしまってるのが大きいですね。

 

私の方が有利だったはずが、一瞬で逆転されてしまってます。

 

「・・・・」

 

私が打てる手でもっとも有効な方法。

 

それは今まで通り、黒い衝動に身を任せることです。

 

私はすでにこの黒い衝動を完全にコントロールできるようになっています。

主様の優しさに触れたことで私の中に彼を守りたい、そして彼の役に立ちたいという新たな欲求が生まれました。

 

その欲求は私が今まで持っていた誰かを傷つけたい欲求よりも大きく、その結果一番上だった欲求が入れ替わり、コントロールできるようになった。

 

私はそう考えます。

 

まぁ、今思いついたんですけどね!!

 

ここで大事なのはコントロールできるようになっただけで、私の破壊衝動は消えたわけではないってところです。

 

今まで私は欲求に従って半分以上、本能で戦っていました。

つまり自分のセンスに身を任せていた状態です。

 

しかし、今の私は本能に従わず、自身の心のままに戦っています。

 

本能と心、同じようで随分違うのでしょうね。

 

破壊衝動という本能を満たすために作られた私の身体です。

今の状態では十分に生かすことが出来ないのでしょう。

 

つまり、今の私は以前よりも弱くなっているということ。

 

「エルァ!!」

 

ですが、それがどうしましたか!!

 

確かに以前よりも弱くなっているかもしれません。

でも間違いなく今の私は過去最強です。

 

弱くなってるのに今が最強?

自分で言ってておかしいですが、実際その通りなんですもん。

 

確かに以前は今より身体が動きましたし、技にも切れがありました。

でも、心は鉛のように重かった。

 

ですが今は!心がとても軽いんです!そしてその心に応えるように力が湧き上がってきます。

 

主様のためなら不思議と負ける気がしないんです。

だから、今の私は間違いなく最強なんです!!

 

 

故に私はもう本能のまま戦いません!

それが一番有効だとしても、私は私のまま戦って勝ちます!!

 

自己完結完了!

 

 

でも要するに状況は何も変わってないですよ私!!

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

エルレイドの性格が明らかに変わっていると思いますが、彼女は簡単に言えば、黒い衝動によって精神が病んでいた結果、あの暗く冷静な感じの性格になっていました。

本来の彼女の性格はポンコツエリートって感じになります。


(今までのエルレイドが良いと思っていた方は本当にすいません)


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ドSなエルレイドは『モンスターボール』をくらう

「ラビフット、ロゼリア。彼の元に行く前にあのポケモンへの対策を話しておくわ」

 

「ヒバ」

 

「ミキュ」

 

病院からホテルに戻った私達はユウリが必要な物を手に取った後、すぐにその場を後にする。

そして、ユウリが携帯を見ながらどこかへ向かう道中にそう口にする。

 

「今、私はバッグにある携帯の位置機能を使って私の携帯がある場所を目指してる。あの路地裏になかった以上、他の誰かが取ったか、もしくは、あのエルレイドが持っている可能性が高い」

 

ユウリはそう言って予備の携帯の画面を私達に見せる。

そこにはこの街の地図が表示されていて、ある一つの場所にマークがされていた。

 

「上手くいけば、この位置に彼がいる。でもその場合、必ずあいつがいる」

 

「「・・・・」」

 

 

ユウリがあいつと言った瞬間、私達全員の目の光がより暗く輝く。

 

あのポケモンだけは絶対に許さない。

彼を傷つけて、そして連れ去った。

 

私の好きな彼をボロボロに傷つけて、いや、今も傷つけているかもしれない。

 

「ヒバァ」

 

絶対に、絶対に許さないわ。

私達が受けた屈辱、何より彼が感じている痛み。

 

その全てを倍にして返してやる。

 

「どちらも気合十分なようね」

 

ユウリの言葉を聞いて隣を見る。

 

隣のロゼリアも同じように殺気を全身から撒き散らしたままたたずんでいる。

こいつの頭の中では今この瞬間にも相手を八つ裂きにするシミュレーションをしてるんでしょうね。

 

「でも、ここで一度冷静になってもらう。なぜなら私達は昨日あいつに敗北してるのだから」

 

「「・・・・」」

 

ユウリの言葉に何も言い返すことが出来ずに私達は黙り込む。

ええ、そうね。だから私達を守るために彼はあの場に残った。

 

全部私が弱いのが原因よ。

 

「いくら怒ろうが呪おうが、相手と私達の実力の差は変わらない。だからあなた達にお願いがある。特にラビフット、あなたによ」

 

「ヒバ?」

 

私達に頼み?それに特に私にって。

 

ふん、何でも言いなさいよ!それで彼を救えるならいくらでも聞いてやるわ!!

 

「限界を超えて」

 

私が頷いた瞬間、ユウリは短くそう言った。

 

「まずはロゼリア、あなたには今回この石を使う」

 

「ミキュ?」

 

そう言ってマスターはバッグから何かを取り出してロゼリアに見せる。

あれは石よね、なんか不思議な力を感じる。

 

ロゼリアは私よりもさらに力を感じるのか、吸い寄せられるように石を見つめている。

 

「この石を使えば、あなたは進化してさらに力をつけられる。本来の私の予定ではあなたの進化はまだ先だったけれど、もうそんなことを言ってられない」

 

なるほどね、あの石でロゼリアは強くなれる。

つまり、問題は私ってことね。

 

私が理解した瞬間、ユウリは私に向き直る。

 

「問題はラビフット、あなたよ」

 

「ヒバ」

 

ユウリの言葉に私は頷く。

どうやら私にあの石は使えないようね。

つまり私は、自分で限界を超えなくてはならない。

 

「あなたは自力で限界を超える必要がある。そしてあなた達の両方が大きく限界を超えない限り、あいつには勝てない。片方じゃダメなの、あなた達両方じゃなくてはダメ」

 

 

「・・・・」

 

ユウリはその底なしの闇を抱えた瞳で私を見つめる。

ユウリは私にこう言ってるのだ。

 

彼のためにあなたはどこまで出来るのかと。

 

 

そんなの決まってるじゃない。

 

 

ヒバァァァァ!!(限界なんていくらでも超えてやるわ!!)

 

彼のためなら自分の限界なんて簡単に超えられる。

 

それに私はもともと負けず嫌いなの!

負けっぱなしで終われるわけがないでしょ!!

 

「よし、じゃあこれからあなた達の技を対エルレイド用に変えていくわ、それと同時に戦略も説明するからよく聞いて」

 

「ヒバァ!」

「ミキュウ!」

 

ユウリの言葉に私とロゼリアは同時にうなずく。

 

あのエルレイドは絶対、絶対に私が倒してやる!!

 

私達はそれぞれ絶対の誓いを胸にしまい道を進む。

 

そして、私達は目的地にたどり着いた。

 

 

 

 

 

さて、うまく2体1を利用されて攻撃を受けましたが、まだ私の体力に余裕はあります。

吹き飛ばされた建物の中から外に戻りながら自身の身体の調子を確かめます。

 

毒で気分が悪いですが、すぐに倒れるほどではありません。

長期戦にさえならなければ問題ないでしょう。

 

なにより、先ほどまで戦っていた人間とポケモンよりは弱い。

 

あの赤いポケモンには残念ながら歯が立ちませんでしたが、あなた達にあれほどの力はありません。

 

それに私の引き出しはまだまだありますよ!!

 

「すぐに出てきた、建物内にいると思ったのに。だったらロズレイド、もう一度ソーラービーム」

 

姿を現した私に相手は間髪入れずに攻撃を放ってきます。

別に建物の中で小細工をすることは出来ましたが、あなた達に関しては正面から倒したいんですよ。

 

負けた時に変な言い訳をされても嫌ですからね!

 

私は光線を躱し、そのまま流れるように舞へ繋げます。

悪いですが、私も本気で行かせてもらいますよ。

 

「っ!つるぎのまい!?させない!!エースバーン、ニトロチャージ!!」

 

「ヒバァ!!」

 

私の舞を見た途端に顔色を変えた相手が私の舞を止めるように指示を出してきました。

炎を身体に纏ってぶつかり、私の舞を止めるつもりのようですね。

 

近距離戦を選んだのは賢い判断です。

 

遠距離攻撃をしてきたら、躱して舞を本当に完成させていました。

広範囲の技でもない限り、私は躱して舞を続けられますからね。

 

ですが、あなた達ならそうすると読めていましたよ。

 

相手が私と接触する直前、私は()()()()()()()()を解いて相手を迎撃します。

 

「っ!?どうしてすぐに解除できるの!?」

 

相手の人間は私が舞をすぐに解除できたことに驚きの声が漏れています。

やはりあなたは頭がいいですね、そしてそれが仇となる。

 

私のしようとしていたことを瞬時に理解し、その危険さを認識して止めようとした。

優秀なのは認めますが、それゆえに読みやすい!!

 

「エルァァァァァ!!」

 

「ヒッッバァ!?」

 

相手の攻撃を躱し、無防備な相手の懐に渾身の連撃を浴びせます。

この技を使うと疲れますが、その分威力はありますよ!!

 

「ッ!?インファイトね!エースバーン!耐えて!!」

 

別にこの技で仕留めるつもりはありません!

 

「エルァ!!」

 

私は最後の一撃を叩き込んで相手を吹き飛ばします。

吹き飛ばす方向は、もう一匹がいる方向へ一直線になるように調整しました。

 

そして吹き飛んでいく彼女の身体を盾にして相手へ接近します。

 

「っ!?ロズレイド!ベノムトラップ!!」

 

「ミキュ!」

 

私の行動に表情をゆがめた人間は私の足元に再びトラップを仕掛けます。

 

「ッ!!エルァァ!!」

 

「ミキュ!?」

 

私は相手が仕掛けたトラップを踏みつけて、その上で強引に突破します。

相手の力が仕掛けられた地面を踏んだ瞬間、私の身体から力が抜けましたが、それをあえて無視します。

 

この程度の技で私が止まると思ったら大間違いです!!

 

私の主様の傍にいるためなら、たとえ火の中、水の中、毒の中だって躊躇いなく行けるんですから!!

 

「ッ!!ヒバァァァ!ヒバァァァァ!!!」

 

「・・・・ミキュ」

 

私の攻撃に苦悶の表情のまま私の前を飛ぶ彼女が叫ぶ。

吠えたところで今のあなたには何もできませんよ・・・・っ!!?

 

彼女が吠えた瞬間、もう一匹の彼女から先ほどの光線が放たれる。

 

こいつ!味方ごと私を!!

 

まずい、近くまで接近したことが仇となりました、これでは避けることが!?

 

「エルァ!!?」

 

至近距離で放たれた光線が私の前にいる彼女を巻き込んで私を飲み込みます。

その威力は凄まじく、私の体力を大きく削った上で私を吹き飛ばします。

 

くそ!せっかく詰めた距離がまた「エースバーン、かえんボール」

 

「エルァ!!?」

 

私が吹き飛ばされて起き上がった瞬間、目の前に火の玉が高速で接近してきていた。

これは、私と一緒に吹き飛ばされた子の技!?

 

なんで私と一緒に吹き飛ばされて同じダメージを受けたはずなのに、すぐに攻撃が!?

 

「ヒバァァァァ!!」

 

「エル!?」

 

私の疑問に解を見つける間もなく高速で飛来した炎が私を再度吹き飛ばします。

ま、まずいです。今ので一気に体力が。

 

「これで終わりね。エースバーン、かえんボール!ロズレイド、ソーラービーム!」

 

「ヒバァ!」

「ミキュ!」

 

私へとどめを刺すために彼女達が最大火力の技を放とうと動く。

 

まだ、まだです!!たとえこの攻撃を受けようと!私は絶対に倒れません!!

 

だって主様に誓ったんです! そう!目の前の愛くるしい姿の主様に!!

 

 

 

・・・・んん?

 

 

 

えっと、どうして主様が私の目の前にいるんですか?

 

ちょ、ちょっと待ってください!?これつい先ほどとまったく同じ展開ですよね!?

 

また私をかばって主様が悲鳴をあげるやつですよね!?

 

あ、主様!?私ついさっき主様を守ると誓ったばかりなんですが!?

 

これでは私、誓ってすぐに誓いを破った、すごくダメなポケモンになるんですが!?

 

目の前の状況に目と頭が回りだします。

 

そして私は何もできず、彼女達の放たれた技が主様を襲うと思われた瞬間。

 

「エースバーン、ロズレイド」

 

「ヒバ」

「ミキュ」

 

彼女達の放たれた技は主様に当たる直前に互いに衝突をし、そのまま相殺されて消えていきました。

 

「ピ、ピカ?」

 

そして何事もなかったように静まり返った空間に、主様の困惑した声が漏れます。

 

私も主様と同様に困惑したまま固まってしまいます。

 

改めて考えれば、さっきの技、まるで初めからぶつかるような軌道でした。

つまり、彼女達は初めから主様が飛び出してくることをわかって。

 

「・・・・ピカチュウ」

 

「ピ、ピカ!」

 

静まり返った空間に、こちらに歩いてくる人間の声が通ります。

主様はその声にびくりと身体を震わせて答えます。

 

私も人間の有無を言わせぬ雰囲気に唾を飲み込んで状況を見守るしかできません。

 

「っ!よかった!!」

 

主様の目の前まで来た人間は、有無を言わせぬ雰囲気を崩して目に涙を浮かべながら主様を抱きしめます。

 

「心配させて!目を覚ました時あなたが傍にいないことに気付いて私がどれだけ不安になったからわかる!?あなたが私達を守ってくれたのは嬉しいけど!だったら私達と一緒に逃げたらよかったでしょ!このおバカ!考えなし!少しは私達の気持ちを考えて!何よりもっと自分を大切にして!!」

 

「ピ、ピカチュウ・・・・」

 

主様を抱きしめ、泣きながら叫ぶ彼女にマスターは申し訳なさそうに目を伏せて鳴きます。

 

「あなたがいないと私は何も出来ない、あなたが私の全てなの。だからお願い、もう私の傍からいなくならないで」

 

「・・・・」

 

彼女の心からの言葉に主様は無言のまま、そっと彼女の涙を手で拭う。

 

それで落ち着いた人間は主様を下し、そしてすぐに残りの二匹に同じように泣かれ、怒られ、抱きしめられていました。

 

ああ、彼女達もやっぱり同じなんですね。

 

私と同じ、自分にとって彼が全て。

もう、主様がいないと生きていないでしょう。

 

そう、今の私と同じように。

 

目の前の光景を見て、私は自然とそうだと確信することが出来ました。

 

そして彼女達全員が落ち着いた後、人間が私と向き直る。

 

「・・・・正直言うと、あなたが前と違ってることには会ってすぐに気付いてた。きっと彼があなたを救ったんだろうなって思ったわ。私も同じだから理解できる。それはそれとして彼を傷つけて私達を苦しめたのは事実だから全力で倒しにいったけど」

 

「エ、エル・・・・」

 

や、やっぱり私が主様をもう傷つけるつもりがないことには気付いていたんですね。

まぁ、気付いていても私への攻撃をやめるつもりはなかったようなので意味はありませんが。

 

「あなたと私達が戦っていれば、どこかで彼が止めるために割り込んでくることはわかってた。だから彼の動きはずっと見てたし、最後の攻撃に割って入ることも確信してた」

 

「ピ、ピカ」

 

その説明を聞いて主様は気まずそうに顔を明後日の方向へ逸らします。

彼女達はその彼の様子をジト目で見ています。

 

どうやら今までも似たようなことをしてきていたようですね。

 

「彼があなたをかばったということは、もうあなたは彼にとって守る対象であって敵ではないのでしょうね。彼が守る対象のあなたを、これ以上私達が傷つけるわけにはいかないわ」

 

「・・・・」

 

私は人間の言葉に何も言えずに顔をしかめます。

守る対象ですか、まぁ先ほどの主様の行動を見れば反論することは出来ません。

 

しかし、私は主様の騎士。本来であれば私が彼を守らなければならないのです。

 

「それでピカチュウ?あなたは彼女をどうしたいの?」

 

人間は私から視線を外して主様にそう問いかけます。

え、ていうかこの人間、私がメスだと気づいて。

 

「ああ、やっぱりあなたメスだったの?彼を見る目が完全に彼女達と同じだから、もしかしたらって思ったんだけど」

 

私の表情に気付いた人間が他の二匹を見ながらそう告げます。

人間にそう言われた二匹は若干頬を赤らめながら人間を睨みつけていました。

 

「それでピカチュウ?どうするの?」

 

人間は彼女達の視線を気にすることなく再度、主様に問いかけます。

 

「ピカ」

 

人間に問いかけられた主様は笑顔で私達がいた建物へ戻っていきます。

 

そして戻ってきた主様の手には、私達を捕まえるための『モンスターボール』が握られていました。

 

「ッ!!エル!!」

 

主様の持つボールの意味を理解した瞬間、私は彼の下に近寄り、そのまま跪きます。

その際に自身の刃を地面へと突き刺し、顔を下を向ける。

 

なぜだかわかりませんが、自然と私はそのような行動をとっていました。

 

「ピカ」

 

私の頭上で主様の優しい声が響き、彼の手からボールが私の下へ落ちます。

 

改めて誓います。

 

永遠の忠誠をあなたに。

 

我が刃をあなたを守るために振るいましょう。

あなたに迫る敵は全て我が刃が防ぎます。

 

あなたがいれば、私は決して壊れぬ盾となってあなたを守りましょう。

 

だから、どうかこれからもあなたのお傍にいることを、お許しください。

 

 

 

 

 

英雄物語  第10章。

 

守護者ピカチュウと騎士エルレイド

 

暗き闇に操られていた騎士は、彼の光によって救い出された。

 

彼の光を見た騎士は、彼の光は闇を集めることに気付く。

自身がそうであったように、これから先、光である彼の前には強大な闇が襲い掛かるであろうことを予感した。

 

騎士は誓う。彼の光は決して消えさせないと。

騎士は誓う。我が刃は二度と闇に魅入られぬと。

 

今、英雄ユウリの仲間に守護者の刃が加わった。

 

『 作者 M 』

 

 

まぁ、実際はただのポンコツ騎士とドMなピカチュウが出会って、変なミラクルを起こしただけだが。

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

これでエルレイド編は終了です。
次話は少し真面目な話になるかもしれません。

ピカチュウ視点は今回なしでした。
見たかった方は申し訳ございません。




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ドMなピカチュウは『はんせい』をくらう

今回の話はギャグ要素が薄いです。
あと別に読まなくても問題ないので飛ばしても結構です。

今回はピカチュウ反省会です。

いろんな人に心配されてたんだよ。
自分の行動が迷惑をかけるかもしれないんだよっていう話。


「じゃあ、帰ろうかピカチュウ」

 

「ピカ」

 

無事エルレイドを捕まえた僕は彼女の入ったボールをマスターに渡す。

それを受け取ったマスターはボールをベルトに入れた後に彼女達もボールへと戻す。

 

今、エルレイドとのバトルが始める前に彼女達の姿が変わった時は本当に驚いた。

戦いを見て、彼女達の実力が大きく増していたこともわかったし、これは本当に僕の実力を抜かれちゃったかもしれない。

 

マスター達にも怒られちゃったことだし、しばらく欲望を抑えて修行に集中しないと。

 

・・・・でもたまに少しくらいだったらいいよね?

 

 

「さて・・・・どうしようかな」

 

「ピカ?」

 

マスターはボールに全員を納めて街に戻りながらそう呟く。

僕に話しかけたわけじゃなくて独り言みたいだ。

 

 

でも何かを考えているように時々立ち止まる。

僕が心配して鳴くと、マスターは柔らかな笑みを浮かべて僕を抱きしめる。

 

「あなたは何も心配しないで、全部私がうまくやるから」

 

マスターはそう言って僕を抱きしめながら歩き始める。

結局、マスターが何を考えているかを僕に教えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

街へ戻ったマスターは僕たちが泊まっていたホテルに帰る前に病院へと足を運んだ。

 

病院に行くと、そこには見知った顔の人たちが大勢いて、全員がマスターが無事に帰ってきたことに喜んでいた。

 

ホップ君やマリィさんはマスターが帰ってきたことに喜んだ後、僕の頭を撫でながら心配したんぞと僕へ口を開いた。

 

僕は心配させてしまったみんなに丁寧に頭を下げて応える。

どうやら今回の件は僕が思っていたよりも大きな出来事になっていたみたいだ。

 

ひとしきり喜ばれたり、怒られたりした僕とマスターはみんなから解放される。

 

そして最後に昨日あったローズさんが柔和な笑みを浮かべて僕たちの下へやってきた。

 

 

「無事に帰ってきてくれて何よりです、ユウリさん」

 

「・・・・ご心配をおかけしてしまいすいませんでした」

 

そう言ってローズさんへ頭を避けるマスター。

僕もマスターに倣って頭を下げる。

 

どうやらローズさんも僕を助けるために色々と動いてくれていたらしい。

ダンデさんはこの場にいないけど、彼にも頭を下げてないといけないな。

 

「・・・・あの私、ローズさんに色々失礼なことを」

 

「いえいえ、いいんですよ。あの状況で冷静なほうがおかしいんです」

 

マスターが気まずそうにそういうと、ローズさんは苦笑いを浮かべながらマスターの言葉を流す。

 

「さてユウリさん、少し場所を変えてもいいですか?」

 

「・・・・わかりました」

 

笑みを消したローズさんがマスターと共にみんなから離れる。

マスターの僕を抱きしめる力が増す。

 

見上げれば、マスターは少し緊張しているようだ。

いったいローズさんと何を話すつもりなんだろう。

 

「まずはユウリさん、無事にあなたの大切な方を取り戻せたようで何よりです」

 

「・・・・ありがとうございます」

 

場所を変えたローズさんは柔和な笑みに戻してマスターに口を開く。

それに対しマスターの笑みを浮かべることなく頭を下げる。

 

「さてユウリさん、あなたが知ってる情報を教えていただけますか?この事件はそこそこ大きくなっています。この街の住民を安心させるためにも情報は把握しなければなりません」

 

「・・・・はい」

 

「まず、あなたが彼を助け出した時の状況を教えてください」

 

「・・・・私がこの子を見つけた時、犯人も一緒でした。その犯人と戦闘して何とか彼を助けだせました」

 

「ふむ、それはすばらしい。あなたの雄姿に敬意を表します、さすがダンデさんが選んだ方だけはあります。では、その犯人はどうなりましたか?いえ、そもそも犯人の正体は何者だったのですか?」

 

ローズさんはマスターを賞賛した後に犯人について尋ねる。

そこでようやく僕も今の状況を把握した。

そしてそれと同時に青ざめる。この状況はとてもまずい。

 

「・・・・犯人は人型のポケモンでした。何のポケモンかはわかりません」

 

「ふむ、知識が深いあなたが知らないとは珍しい、ではそのポケモンはどこへ?まだ現場にいますか?」

 

マスターは犯人を人型のポケモンとだけ答えた。

それでマスターの意図を察する。

 

マスターはエルレイドのことを隠し通すつもりなんだ。

 

「ピカッ」

 

マスターの意図を理解し、あまりの申し訳なさにうなだれる。

 

マスターは僕のために嘘をつこうとしている。

 

僕がエルレイドを仲間にしたいと願ったために、それを叶えようと。

 

「・・・・あれは野生のポケモンでした。だから私のポケモンが徹底的に力をもってねじ伏せました。もう二度と街に来ないように、私達が怖い存在であることを理解させました。その後逃げられましたが、街の外壁をよじ登って外へ慌てて飛び出していくのが見えました」

 

 

「ふむ、なるほど。ではそのポケモンは今頃外ですか。それにその様子では遠くに逃げてそうですね」

 

「すいません、私のミスです。捕獲するべきだったでしょうか」

 

「いえいえ、十分すぎるほどです。我々が手を焼いていたポケモンを力でねじ伏せるとは、何度も言いますが本当に素晴らしい実力です」

 

「・・・・いえ、この子を取り戻すことを考えて動いたら、結果的にそうなっただけなので」

 

マスターはそう言ってローズさんからの質問を締めくくる。

ど、どうだろうか?ローズさんはマスターの言葉を信じてくれるのだろうか?

 

ローズさんはマスターの言葉に少し考え込んだ後に口を開く。

 

「情報ありがとうございます。一般トレーナであるユウリさんに迷惑をかけて本当に申し訳ありませんでした。後ほど必ずお礼をさせていただきます」

 

「・・・・いえ、私はこの子を取り戻せたのでもうその件についてはどうでもいいです」

 

「ふむ、ではこの件については全て我々にお任せください。町の警備を強化し、もう二度と同じような事件は起こさせません。ですのでユウリさんは安心してジムチャレンジに専念してください」

 

「・・・・はい、ありがとうございます。では私はこれで」

 

ローズさんの言葉にマスターは頭を下げて話を終える。

よかった、どうやらうまく誤魔化せたみたいだ。

 

「ユウリさん」

 

「っ!はい」

 

ローズさんに背を向けて帰ろうとするマスターの名前を呼んで止める。

 

「あなたはポケモントレーナーです。君の所持するポケモンが誰かが傷つけた場合、その責任はトレーナーであるあなたが負うことになります」

 

ローズさんは背を向けるマスターに忠告を口にする。

マスターにそれに反応せずにただ聞き続ける。

 

「今回あなたを巻き込んだのは私の責任です。なので今回の件は私でうまく終わらせましょう。しかし、そのポケモンが同じように誰かを傷つけた時、私はあなたをかばえない」

 

「・・・・」

 

「どうしてそうなったのかは知りませんが、あなたにその覚悟はありますか?強いからという理由だけで捕まえたのなら、そのエルレイドは手放すことをお勧めします」

 

ローズさんは後ろを向くマスターに静かに語りかける。

全部ローズさんにはバレているようだ。

 

そんな、僕のせいでマスターが。

 

「大丈夫だよピカチュウ。だからそんな辛そうな顔をしないで」

 

俯く僕にマスターは優しく微笑む。

そのマスターの優しさが、僕をさらに俯かせる。

 

胸の奥がひどく痛む。

この痛みに対して僕は、喜ぶことが出来そうにない。

 

俯く僕を見た後、マスターはゆっくりとローズさんへ振り返り、口を開く。

 

「ローズさん、忠告ありがとうございます。でもこのエルレイドは手放しません、もう彼女は私の手持ちの一体です」

 

「それは、そのポケモンが強力な力を持っているからですか?それとも戦い、そのポケモンに認められたからですか?」

 

「この子がそう望んだからです」

 

ローズさんの質問にマスターは僕をローズさんに見せつけるように抱きしめる。

その様子にローズさんは口を開けたまま固まる。

 

「この子がエルレイドを望んだ。だったら私が彼女が仲間になるのを拒む理由はありません」

 

「それでそのエルレイドが暴れた場合、責任をとるのはあなたですよ?」

 

「それが?」

 

ローズさんからの言葉にマスターは何でもないように答える。

 

「その程度のリスクで彼の願いを拒むなんて私はしない。前に言いましたが、私にとってこの子が全て。この子の望みは私の望みです。私は正直、世界が滅ぼうが、この子が笑っているのなら、どうでもいいって思ってます」

 

もちろん彼に危害がでるようなら、さすがに止めますが。

まぁ、彼女がこの子を悲しませるような行動をとらないと思います。

 

マスターは最後にそう言ってローズさんへの言葉を閉めくくる。

 

ローズさんはしばらく呆けた後にいつもの柔和な笑みに戻る。

 

「なるほど、世界よりも彼ですか。いや、本当にあなたらしい。安心しました、引き続きジムチャレンジを頑張ってください。心から応援していますよ」

 

「ありがとうございます。では私はこれで」

 

「ええ、ゆっくり休んでください」

 

ローズさんとのやり取りを終えたマスターは今度こそ、この場を後にする。

僕はマスターの腕の中からこちらに手を振り続けるローズさんを見る。

 

ローズさんは僕たちが見えなくなるまで腕を振り続けていた。

 

 

 

 

 

「行きましたか、いや本当に面白い子ですね」

 

「ええ、それは俺も同意見ですよ」

 

ユウリが完全に見なくなったタイミングでローズ委員長のところに顔を出す。

後ろから俺のリザードンが後に続く。

 

「しかし、よかったんですか?ユウリにエルレイドを預けて」

 

「ええ、彼女ならうまく使いこなすでしょう。それにダンデ君もエルレイドと戦い、考えていたような破壊者ではないと判断したんでしょう?」

 

「ええ、まぁそうですね」

 

あの時、ユウリのピカチュウがエルレイドをかばった時は驚いたが、その後のエルレイドの行動にさらに驚き、困惑した。

 

当初聞かされた話では、相手のポケモンは誰かを傷つけることを好み、戦っていると聞いていた。

だが、実際に戦ってみればユウリのピカチュウを大切に抱え、俺から彼を守るようにしながら逃げ出した。

 

その姿は、とても聞いていた破壊者ではなかった。

 

「俺もユウリとあのピカチュウなら大丈夫だと思います、それにあのエルレイドはもともと俺たちが考えていたような危険なポケモンではなかったのかもしれません」

 

「ええ、そうなのかもしれませんね」

 

ローズさんは俺の言葉に同意した後に続けて口を開く。

 

「ダンデ君、おそらく、いえ間違いなく彼女はあなたのところまでたどり着くでしょう。あの成長速度は驚異的です」

 

ローズ委員長は俺を真っ直ぐ見つめながら、確信したようにそう告げる。

 

「三匹がかりで勝てなかった相手を、次の日には二匹であっさりと打倒している。あなたの与えたダメージもあるでしょうが、それでも異常です。あの子の才能という牙は、あなたにも届きえますよ」

 

「ふ、それは俺も思います!ユウリと戦うのが今から楽しみですよ!!しかし、ユウリ以外にも才能のある挑戦者はいっぱいいます!俺の弟のホップも含めてね!!」

 

ジムチャレンジを終えてさらに成長したユウリやホップを想像して自然と笑みを浮かべる。

リザードンも俺の熱に反応して口から炎が漏れた。

 

早く上がってこいよ、ユウリ!それにホップ!!

 

成長して、俺と熱いバトルをしよう!!

 

「・・・・ところでローズ委員長、俺のリザードンのかえんほうしゃが彼女のピカチュウに当たったってことは言ってませんよね?」

 

「ええ、おそらく」

 

「おそらくだと困るんですが、さっきもそのせいでユウリの前に顔を出せなかったし!俺はどんな顔で彼女の前に出ればいいんだ!!」

 

「諦めてユウリさんからビンタの一つでももらったらどうですか?」

 

「・・・・最悪そうします」

 

ローズ委員長の言葉に、俺はうなだれて頷いた。

 

 

 

 

 

 




正直書くか悩みました。


ピカチュウやみんなの印象がはっきり言って悪くなるので。
でも、書かずにうやむやにして次の話にいくのもなっと思って書きました。

でもピカチュウもこれで少しは大人になれたかな?

彼はあくまでポケモンで、人間でいうならまだ幼い子供のようなものです。

なので、そういう意味では彼の成長はこれからです。

まぁ、ドMは絶対になおりませんが!!

しっかり自分の責任を考えて自分の性癖を満足させましょうね!!



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この後、とても怖い目にあうウッウは『ピカチュウ』をくらう

「ピカチュウ、本当にやるの?」

 

「ピカァ!!」

 

マスターからの確認に僕は元気よく頷く。

マスター、もうそれ6回目だから、いい加減諦めてほしい。

 

「むぅ、私は必要ないと思うけど」

 

僕が頷くのを見てマスターは不服そうにしながら視界に広がる景色を見つめる。

前を向いたマスターを見て、僕を視線をマスターから前に移す。

 

視界の際に広がる広大な自然。

広い大地に湖に砂漠、視界の中には多くの地形が積み込まれている。

 

エルレイドの事件から今までの間、僕は考え続けて答えを出した。

 

僕はここで今よりもっともっと強くならないといけない。

それが、僕のできる責任の取り方だ。

 

「相変わらず広いね、野性のポケモンの平均レベルも高そう」

 

マスターは周囲を見回し、視界に映るポケモンからここのレベルを把握する。

確かにみんな強そうだけど、そうじゃないと修行にならない。

 

「ねぇ、本当にやるの?あなたはここで無理に修行しなくても十分なレベルなんだよ?仲間も増えたし私も戦い方がわかってきた。だからここは無理せず次の街に行ってジムチャレンジまでゆっくりしよ?あなたはもっとしっかり休まなきゃ」

 

「ピカチュウ!!」

 

マスターの言葉に僕は再度首を横に振る。

これで七回目のやり取りである。

 

この前の出来事で僕は大いに反省をしたんだ。

自分の私利私欲のためにエルレイドを仲間にしたけど、その責任だとかを全く考えていなかった。

 

彼女がもう一度誰かを傷つけた時、その責任は仲間にした僕にではなく、マスターにいくんだ。

 

僕のわがままの結果でマスターに迷惑をかけるなんて嫌だ。

 

だからもし、再び彼女が暴れた場合、それは僕が必ず止める。

そのためには、僕が彼女より強いことが必須条件だ。

 

現時点で僕はエースバーンよりは強いかもしれない。

でも、ロズレイドとエルレイドよりは弱い。

 

それが進化した彼女達をみて判断した僕の素直な感想だ。

僕も男の子、女の子に実力が抜かれるのは悔しいし、負けたくない。

 

だからここで修行して彼女達より強くなる!!

師匠達にはセンスがないとため息を吐かれた僕だけど、体力には自信がある。

 

才能で勝てないなら経験で勝負だ!!

 

「もう、しょうがないなぁ。ちゃんと私の指示には従ってね?」

 

僕のやる気を見たマスターは小さくため息を吐いて微笑む。

そして目を真剣なものに変えて『ワイルドエリア』へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?ユウリもワイルドエリアにいたのか」

 

「あ、ホップ」

 

ワイルドエリアで野生のポケモンやトレーナーと戦ってしばらく、僕たちが一息ついたタイミングでホップと出会った。

 

ホップは僕たちを見つけると嬉しそうにこちらへやってくる。

 

「ユウリ達も修行か?心配してたけど、元気そうでよかったぞ」

 

「・・・・私としてはもっと休んでほしかったけど、この子がやるってきかなくて」

 

ホップの言葉にマスターも僕に不満そうな視線を向ける。

僕はその視線から目を逸らす。マスターには悪いけど、まだまだ修行はこれからなんだ。

 

 

「じゃあ俺と勝負だぞユウリ!俺も修行しに来てたから丁度いいや!!」

 

「えぇ・・・・・」

 

ホップからの提案にマスターは嫌な顔をする。

うん、めんどくさいんだねマスター。

もともと僕を心配して修行には乗り気じゃなかったし。

 

でも僕はホップからの提案は大賛成!!

 

「ピカピカチュウ!!」

 

嫌そうなマスターの足に引っ付いてお願いする。

ホップも強くなってるだろうし、この修行の機会を逃したくない。

 

「か、かわ!?も、もう、しょうがないなぁ」

 

足に抱き着いた僕を見て、マスターは手で口を抑える。

そしてその後にホップとの戦いを許してくれた。

 

よし、絶対に勝つぞ!!

 

僕は気合を入れるために腕を上げる。

そして意気揚々とホップの繰り出したポケモンと対峙した。

 

 

そして、悲劇はそこで起こった。

 

 

 

んん?僕は何をしてたんだっけ?

 

確かさっきまでホップのポケモンとバトルをしていたはずなんだけど。

 

なのにどうしてか今は目の前が真っ暗だ。

 

ていうか僕は今なにかを被ってるのかな?

上半身がやけに暖かいぞ。

 

「ヒバ!?ヒバァァァ!!」

 

近くでエースバーンの声が聞こえる。

 

ふむ、状況をよく思い出してみよう。

 

僕はホップのポケモンである確かウッウっていうポケモンと戦っていたんだ。

 

ホップの戦闘不能になった前のポケモンの最後の力で僕は湖に落とされて、地形を利用するためにホップが水タイプのウッウを出してきた。

 

せっかくの不利の状況下での戦い。

僕は気合を入れて戦っていたはずなんだけど?

 

「・・・・ホップ?

 

「ユ、ユウリ!?お、落ち着くんだぞ!?ウッウは悪気があってしてるわけじゃなくて、こ、これはウッウの癖が生んだ悲劇で」

 

「ウッウの特性はうのミサイルだよね?へぇ、それで彼を口に咥えてるんだ」

 

「だ、だから落ち着くんだぞユウリ!?顔がすごいことになってるって!!」

 

外からマスターとホップの声が聞こえる。

会話の内容で今の僕が外からどうなってるのかがわかった。

 

どうやら僕はウッウの口に咥えられてるようだ。

 

状況を理解した僕は改めて現在の自分を考えてみる。

上半身を咥えられている。

逃がさないように適度に口に締め付けられている。

 

それに口の中のせいか身体にまとわりつく生暖かさがすごい。

 

・・・・ほほう、これはなかなか。

 

いやいや!欲望に素直になるな僕!

しばらくは欲望を封印して真面目に戦うって決めたじゃないか!

 

この程度のことで僕が屈すると思ったら大間違いだぞ!!

 

「待っててね、すぐにそいつをぶっ飛ばすから」

 

ピ、ピカチュウ(あ、お構いなく)

 

外からマスターの声が聞こえたので反射的にそう返す。

 

うん、これは僕のバトルだからね、やっぱり自力でなんとかしないと。

ただちょっと脱出方法を考える時間がほしいだけなんだ。

 

「ピカチュウ。10まんボルトよ、それでそいつはヤれるわ」

 

マスター、もう少し僕に考える時間があってもよかったと思うんだ。

ていうかマスター、指示にすごい重みがある気がするんだけど。

 

さすがに口の中から僕の電撃は可哀想じゃないかな。

僕なら大歓げ、いやいや何を考えてるんだ僕は!!

 

ちくしょう!油断するとすぐにこれだ!!

 

ヒバァ!ヒバァァァ!!(どいて!私が彼を助けるわ!)

 

ミキュゥゥゥゥ!ミミュウゥゥゥゥ!!(どきなさい!私がご主人様をお助けします!)

 

エルゥゥゥ!!エルァァァァァァァア!(邪魔ですよ!私が主様を助けるんです!)

 

んん?近くでみんなの声が聞こえる。

もしかして僕を助けようとしてくれてるのかな?

 

でも、なんか戦ってる音が聞こえるんだよね。

 

燃える音に溶ける音に打撃音。

ふむ、どれもすばらしい音だ。

 

ぜひそれらを僕に、いやだから僕は何を言ってるんだ。

このままじゃ欲望に屈しそうだ、そろそろ本格的に出よう。

 

「ピカァ!!」

 

「クエェ!?」

 

相手を驚かす程度の電撃を放つ。

口の中からだからびっくりするだろうけど、痺れるくらいだから許してほしい。

 

電撃を受けた相手は僕の狙い通り勢いよく僕を吐き出す。

よし狙い通り!

 

相手の口から放出された僕は久しぶりに感じる外の空気を吸い込む。

そして自分の想像以上に勢いよく吐き出されたことに気が付いた。

 

吐き出された僕はすごい勢いで一直線に飛んでいく。

まぁ、出れたからいいや。着地もこれくらいの勢いなら出来るし。

 

僕がそう楽観的に考えながら飛んでいると、僕の正面左右から強烈な攻撃が飛んできた。

 

ピカァァァァ!?(ぬはぁぁぁぁん!?)

 

不意打ちの攻撃に僕は反射的に上げてはいけない声を出してしまう。

 

「ヒバァ!?」

「ミキュウ!?」

「エルァ!?」

 

僕が声を上げている時に外から彼女達の驚きの声が届く。

どうやら先ほどの攻撃は彼女達の技によるもののようだ。

 

でも、一体どうして?

 

「ッ!!」

 

頭で考えるよりも早く、僕の身体に走る痛み(気持ちよさ)が僕に答えを教えてくれる。

 

彼女達は僕にこう言いたいんだ。

 

我慢をするなっと。

 

今回の件で僕は自分の欲求が他の人やポケモンに迷惑をかけると考えて、自身の欲求を封印した。

でも、優しい彼女達は僕がそれで無理をしていることに気が付いた。

 

確かにしばらく大人しくしていた僕を、みんな心配そうに見ていたっけ。

 

だから僕に攻撃をして告げたんだ。遠慮なんてするなって。

そうか、そうだよね!助け合ってこその仲間だ!!

 

いくら修行したって、僕だけでどうしようもないことなんていくらでもある。

もしエルレイドが暴走してしまっても、僕一匹で止めるなんて考える必要はない。

 

みんなが力になってくれるんだから。

もちろん逆だってそうだ。

エルレイドはもう僕たちの立派な仲間、彼女が困っていたら全力でみんなで助ける。

エースバーンやロズレイドだってそうだ。

 

僕たちはみんな仲間で、マスターのポケモンなんだから。

 

それを伝えたくてみんなは僕へ攻撃を加える機会を伺っていたんだ。

僕が咥えられていた時も練習をしていたに違いない。

 

「ピカァ!」

 

ありがとうみんな!

僕もみんなのために頑張るから!!

 

僕は心からのお礼を込めて僕に向かって頭を下げる彼女達の頭を撫でる。

なぜか全員が抜け殻のようにうなだれて動かないんだけど、そんなに悩ませてしまっていたのだろうか。

 

ところで早速なんだけど、あの子をどうにかしてホップから譲ってもらえないかな?

僕の悩みの解消のきっかけになった子だし、あの口に咥えるのも中々よかった。

 

もちろん責任はちゃんととるし、僕が面倒みるから!!

 

・・・・ダメ?

 

「みんな、後でお説教と・・・・お仕置きだから」

 

僕が項垂れる彼女達の頭を撫で続けていると、背後から凄まじいプレッシャーを感じた。

 

振り返れば、すごく怒ってるマスターがそこにいた。

彼女達はマスターの言葉にさらに項垂れる。

 

マスターはそんな彼女達を無視して僕の手当を始める。

 

「ピカァ・・・・」

 

マスター、彼女達は僕のためにやってくれたんだ。

だからそんなに怒らないで。

 

僕は彼女達をかばうように彼女達を撫で続ける。

 

「みんな何をしてるの?項垂れる暇があったら、することがあるんじゃない?」

 

「「「・・・」」」

 

マスターは死んだ目の彼女達に声をかけてある方向へ指をさす。

 

「ウ?」

 

そこには、不思議そうに顔をかしげるウッウがいた。

 

「あー!そういえば俺!町に忘れ物してたんだった!!そういうわけでユウリ!俺行くから!またな!!」

 

マスターが指をさした瞬間、即座にウッウをボールに戻したホップが僕たちから全力で離れていく。

 

それを見たマスターと彼女達は全力でホップを追いかける。

 

ホップとマスター達の追いかけっこはその後しばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

今回は繋ぎ回。


次話からまた物語が進みます。

次話は土日に出せるように頑張れたらって思ってます。

モチベーション維持のため感想、評価をくれると嬉しいです。


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ドSなエルレイドは『サイコカッター』をくらわせる

「クエ!」

 

「・・・・」

 

相手の持った巨大なネギが私に迫る。

ふぅ、ずいぶんと鈍いですね、振り下ろす軌道やタイミングは悪くありません。

しかし、私を捉えるにはあまりに遅い。

 

これでは避けてくれと言ってるようなものです。

私は相手の攻撃を最小限の動きで躱す。

ほら、これで懐ががら空きです。

 

「エルレイド、サイコカッター」

 

外から見ていたユウリから攻撃の指示が届きます。

私はそれに逆らうことなく指示通りの技を使用する。

 

「クエ!?」

 

攻撃を避けられ隙だらけの相手の身体に私の攻撃が突き刺さる。

私の攻撃は相手の体力をやすやすとゼロにして相手を戦闘不能へと誘う。

 

ふむ、こんなものですか。

 

私は目を回した相手を見下ろしながらついそんな感想を思い浮かべてしまう。

 

この戦いの意味は事前にユウリから伺っています。

我が主様の願いであるこの地方最強の相手とのバトル。

 

それを叶えるために旅をして、それぞれの町の代表の人間を倒していっている。

そしてそれがこの舞台であること。

 

全て承知し、主様の役に立てるならと喜んで来たのですが。

 

『つ、強い!強いぞエルレイド!!ユウリ選手のエルレイドがジムリーダーであるサイトウのネギガナイトを一閃!これでジムリーダー サイトウの手持ちは残り一匹です!!」

 

会場から私の強さに驚く声が聞こえます。

うーむ、これは私が強いというより相手のレベルが不足しているのが原因では?

 

事前にユウリから聞いてはいましたが、これでは私でなくても余裕ですね。

むぅ、ここで彼女達に私の強さを見せつけて主様の一番の騎士は私だと見せるつもりだったのですが。

 

仕方ありません、これも主様のためであることに変わりはありませんからね、私は任務を遂行するとしましょう。

 

「驚きました、それに素晴らしい武の技。素直に賞賛します、しかし勝負はまだこれからです」

 

相手の人間はまだ諦めていないようですね。

ふむ、相手の指示もポケモン自体のセンスも悪いわけではありません。

 

ただそれら全てが私とユウリが上回っているっているだけです。

 

『ここでジムリーダー サイトウはカイリキーを繰り出した!そして即座にダイマックス!!』

 

「エル・・・・」

 

相手から不思議なオーラーが漏れると同時に身体のサイズが大きく変化します。

これは、野生時代にたまに見ましたね。

 

謎の光を浴びたポケモンが巨大化する現象、弱いポケモンでもサイズの変化に伴って技の威力も大きくなっていました。

 

過去に苦戦した記憶があります。

野生の闘いですら苦戦したのですから、この相手ならもっと苦戦するかもしれませんね。

 

ふふ、面白くなってきました。

大きくなり強くなった相手が、普通の状態の私に成す術もなく敗北する。

 

その時の相手の表情は・・・・とても面白そうですね。

 

「エルレイド」

 

「ッ!!」

 

ユウリの言葉に冷静になります。

いけません、つい欲求が漏れてしまいそうでした。

 

今の私は主様の騎士です、その使命の前では自身の欲求なんてごみ箱にポイです。

 

「いけるね?」

 

「エル」

 

ユウリの言葉に頷いて返します。

さぁ、ごみ掃除の時間です。

 

 

 

 

 

 

4つ目のジムチャレンジはマスターとエルレイドの無双によってあっけなく終わった。

おかしい、もともと今回のジムチャレンジは僕メインで戦うはずだったのに。

 

いやわかるんだよ?彼女がちゃんとマスターの指示に従って戦えるか確かめないといけなかったんだよね。

相手は格闘タイプでエスパーを使える彼女がもっとも有効だったってこともわかってる。

 

それでも、それでも!!

 

僕は格闘タイプのポケモン達にボコボコにされたかった。

 

ああ、最後の『ダイナックル』なんてすごい気持ちよさそうだったのになぁ。

マスターから『ワイルドエリア』で僕が修行と称して闘い過ぎて、しばらく戦うの禁止にされちゃったのがダメだった。

 

だってだって!あんなところにバンギラスやオノノクスがいるなんて思わないじゃないか!

いやー彼らはとっても強かった。ぜひまた僕をボコボコにしてほしい。

 

「順調にジムチャレンジをクリアしていってるみたいね」

 

「・・・・ソニアさん」

 

僕が過去を回想しているとマスターが誰かから話しかけられる。

あ、確か前に会ったことがある人間さんだ。

 

「やっほ、見てたよ試合。ジムチャレンジ用のポケモンとはいえ、あのサイトウを瞬殺なんてすごいね。驚いちゃった」

 

「・・・・いえ、あれくらい出来て当たり前です」

 

彼女からの賞賛にマスターは頭を少し下げて返す。

それを見た彼女は困ったように指で頬をかいていた。

 

「あ、そういえば知ってる?ここには有名な遺跡があって、ガラルの英雄について伝えてるって話なの。私は今からそこに調査しに行くんだけど、よかったら一緒に行かない?あなた頭良いって聞いてるから意見を聞いてみたいの」

 

「・・・・まだジムチャレンジのためにやることがあるので遠慮しておきます」

 

彼女からの提案をマスターは断る。

マスター、せっかくの提案なんだから行ったらいいのに。

同じ人間の女性だし、マリィもそうだけどマスターの友達になれるかもしれないんだから。

 

これは僕が動くべきかな?

マスターには迷惑をかけっぱなしだし、僕が出来ることはしてあげたい。

 

それに英雄っていうのも気になる。

英雄かぁ、やっぱり強かったのかな。

だったらぜひ一度戦ってボコボコにされてみたいなぁ。

 

そんなことを考えていた僕の耳に何かがぶつかるような大きな音が届く。

 

「っ!?何の音?この音が聞こえた方向って確か遺跡があったはず!」

 

「・・・・工事か何かですか?」

 

「いえ、今日はそんな予定はないわ!行ってみましょ!!」

 

そう言ってソニアさんは遺跡がある方向へ走り出す。

僕も何の音か気になるし、行ってみたい。

 

「行きたいの?」

 

僕がマスターの服を引っ張るとすぐに僕の意図に気付いてくれた。

そしてマスターと共に遺跡の方へと走る。

 

ふふふ、何か痛いこと(良いこと)だったらいいな!!

 

 

 

 

 

結論から言うと痛いこと(良いこと)はなかった。

 

遺跡までたどり着いた僕たちが見た光景は、一人の少年がポケモンを使って遺跡を壊そうとしている光景だった。

 

んん?どういう状況なんだろう?

もしかして本当に工事中だったり?

 

 

「ちょっとあなた!何してるの!?今すぐ遺跡への攻撃をやめなさい!」

 

困惑する僕の傍でソニアさんが相手に向かって叫ぶ。

彼女の怒りを見るに相手は工事をしているわけではなさそうだ。

 

「やれやれ、エリートの僕の邪魔をするのは誰ですか。私は委員長のために『ねがいぼし』を集めているのですよ」

 

「・・・・あいつは」

 

ソニアさんの声に振り返った相手は僕たちへそう口にする。

言ってる内容の意味は僕にはわからないけれど、どうやらマスターは彼のことを知っているみたいだ。

 

僕も彼をどこかで見た気がするけど思い出せない。

 

「・・・・誰かと思えばあなたですか。なるほど私の集めたねがいぼしを奪って委員長に気に入られたいってわけですか」

 

どうやら相手もマスターのことを知っていたようだ。

しかし、マスターのことを睨みつけるし仲良くはなれなさそう。

 

「ちょうどいい、あなたのことは前々から気にいらなかったんですよ。そんな弱そうなピカチュウを自信満々に連れて歩くあなたはジムチャレンジに相応しくない。私が引導を渡してあげます」

 

あ、思い出した。この人最初の会場で僕を見て笑った人だ。

 

「・・・・もしかしてまたこの子をバカにした?」

 

相手の言葉を聞いたマスターが顔を俯かせてそう呟く。

気のせいかマスターから黒いオーラがにじみ出てきているような気がする。

 

それにマスターの腰につけてる彼女達が入ったモンスターボールからも同じオーラが出て激しく揺れてる。

 

「・・・・私もなぜかあなたのことが気に入らないんだ。彼のことを抜きにしても、どうしてだろうね?」

 

そう言ってマスターは腰についたボールからみんなを出す。

うん、全員今にも襲い掛かりそうなほど危ない目をしてる。

 

「・・・・みんな、叩き潰すよ」

 

マスターがそう言った後、彼女達による蹂躙が始まった。

 

 

もともと僕たちと相手のポケモンには大きなレベル差がある上、彼の出す指示は全てマスターに読まれ、完璧に対処されてカウンターをくらう。

 

そんな圧倒的な戦いに僕の出番が回ってくるはずがなく、あっという間に相手の手持ちは全滅した。

遺跡を壊していたポケモンだけは彼の手持ちじゃないみたいで無事だけど。

 

その後、騒ぎを聞きつけてやってきたローズさん達に彼は叱られ、どこかに連れていかれてしまった。

会話の内容から彼はジムチャレンジの資格を失ってしまうようだ。

 

今回の件でジムチャレンジへの資格を剥奪されてしまったのは可哀そうだと思ったけど、最近のことで自分のしたことの責任について学んだ僕としては何も言えない。

 

僕はうなだれたまま連れていかれる彼を黙って見送ることしかできなかった。

 

「ふぅ、遺跡は無事かしら」

 

気まずくなった雰囲気を変えるためか、ソニアさんがそう呟いて遺跡へと目を向ける。

 

その瞬間、遺跡の壁が崩れ落ちた。

 

「っ!遺跡が・・・・え、壊れた先に何か」

 

遺跡が崩れたかと思えば、その中から別の物が顔をだす。

 

えっと、二匹のポケモンの石像?それぞれ剣と盾をもってるようだけど。

 

あれ?何かこの石像のポケモン、師匠達にそっくりなんだけど?

 

「・・・・そっか、そういうことだったんだ!!」

 

崩れた遺跡の中にあった石像を見て納得したように声を上げるソニアさん。

 

正直遺跡のことはあまり興味はなかったけど、師匠達に似た石像は気になる。

 

そう思った僕はマスターに自分の気付いたことを話そうとするソニアさんの声に耳を傾ける。

 

 

「いやはや、まさか遺跡の中にこんなものが眠っているなんてびっくりだよね。()()()()()()()()()()()()()()()

 

あれ?知らない声が聞こえた。

 

「っ!?え、誰?いつの間に近くにいたの!?」

 

聞いたことない第三者の声にソニアさんが小さな悲鳴を上げる。

僕もマスターもその声を聞いて慌てて声の方へと振り返る。

 

「おや、どうやら驚かせてしまったみたいだね」

 

僕が振り返った先にいたのは人間の女の子だった。

 

彼女は僕たちの様子を見ていたずらが成功したように笑う。

見た感じ、マスターと同い年くらいかな?

 

マスターと彼女と比べてそう判断する。

でも、なんだか不思議な雰囲気を持った子だな。

 

彼女の纏う空気に僕はそんな感想が漏れる。

 

「・・・・あなたは?」

 

マスターも似たような感想を持ったのか警戒しながらそう尋ねる。

 

「おっと、これは失礼。()()M()、どこにでもいる野生の小説家さ」

 

満面の笑みでそう名乗る不思議な少女。

 

そんな彼女に対して。

 

ピ、ピカ?(え、ほんと?)

 

そう聞き返したのはしょうがないと思う。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

土日までに書くことが出来ましたので投稿します。

モチベーション維持のため感想、評価をもらえたら嬉しいです。


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ドMなピカチュウは『ひっかく』をくらわせる

「ナックルシティの宝物庫にあったタペストリー。あれには二人の人間が描かれていて、その二人の視線の先には剣と盾があった」

 

「ああ、ガラルに王国が出来た時の伝説を伝えるタペストリーだね。僕も見せてもらったよ」

 

「ええ、私はそれを見て2人の英雄がガラルを災厄から救ったのだと思ったわ。でも、あの遺跡の建造物を見て意見が変わった」

 

「あの剣と盾をもったポケモン達だね」

 

「ええ。あれの意味は」

 

ソニアさんと遺跡で出会った少女が遺跡での出来事について途切れることなく話し続ける。

場所はすでに遺跡から離れてホテルのカフェへと移った。

 

白熱する彼女達を横目に僕とマスターはジュースを啜っている。

 

話に興味がないわけじゃないけど、残念ながら僕では理解できない。

師匠達にそっくりな建造物について今度師匠にあった時に聞いてみようかな。

 

「そういえばMってペンネームよね、あの()()()()()()()と同じだし。やっぱり作者に憧れてみたいなやつ?」

 

話が一段落したらしい彼女達は遺跡のことから話を変える。

 

「ああ、それは僕が昔書いたやつだね。読んでもらっていて嬉しいよ」

 

ソニアさんの言葉に彼女は嬉しそうに頷く。

どうやらソニアさんは彼女の書いた本を知っているようだ。

 

彼女の言葉にソニアさんは大きく目を見開く。

 

「え、冗談よね?赤の勇者ってカントー地方を題材にした物語だし、なにより出たのも結構前よ。あなた何歳?」

 

「永遠の17歳」

 

「いや、冗談はいいから。まぁ17歳だとしても若すぎるけど」

 

ソニアさんの質問を彼女は適当にはぐらかす。

あまり触れられたくないところなのだろうか。

 

僕としてはそんなことよりも重要なことがある。

 

それは彼女が本物のMかどうかだ。

 

本当にM?僕には彼女を見極める必要がある。

 

もし本当に僕と同じなら仲間が増えて嬉しいんだけど。

 

・・・・よし、確かめてみよう。

 

「え、ちょっと何をやってるの!?」

 

なにって彼女が本物なのか確かめるんだ。

Mと名乗った少女の肩に乗った僕は彼女の頬を軽くひっぱる。

 

ここからの彼女の反応によって僕と同じなのかを確認する。

僕と同じならもっと強くつねってくれって要求するはずだ。

 

少なくとも僕ならそうする。

 

「・・・・あはは、いきなりどうしたのさ」

 

自身の肩に乗って頬をひっばる僕に彼女は苦笑いを浮かべる。

むぅ、やっぱり彼女は偽物か?

 

「もしかして僕のことを偽物だって思ってるのかな?」

 

「っ!!」

 

彼女の言葉に目を身体が一瞬硬直する。

まさか僕の目的を一瞬で看破するなんて。

 

「ふふ、残念だけど僕は本物だよ?試しにもっとつねってみたら?」

 

「ピカ!?」

 

これは、確定。

このもっとつねってくれという要求。

間違いない、彼女は僕と同じなんだ。

 

「おや?もういいのかい?」

 

まさか師匠達以外に僕と同じ業を持った人がいるなんて。

僕は放心状態でマスターの下に戻る。

 

「ひっぱったら顔が剥がれて本物の顔が出るって思ったのかな?まぁ実年齢より若く見られるのは否定しないよ」

 

「いや、若過ぎよ。どう見てもあなたは私より年下じゃない」

 

「ふ、それはソニアさんがふけ、あなんでもないよ」

 

僕が放心してる間に彼女達の話は盛り上がり続ける。

いや落ち着くんだ僕。

確かに彼女はMなのかもしれないが、だからといって何かが変わるわけじゃない。

 

彼女は人間なんだから師匠達とは違う。

僕たちと同じように技をくらうことが出来ない以上、趣味の共有は難しい。

 

くそう、もし彼女がポケモンだったら趣味仲間が出来たのに!!

 

「・・・・」

 

「ピカチュウをじっと見てどうしたの?」

 

「いや、彼のようなピカチュウを知っていてね。昔のことを思い出していたのさ」

 

僕がうなっている姿を見た彼女がそう告げる。

僕のようなピカチュウを知ってる!?なんだそれは!ぜひ紹介してほしい!!

 

「・・・・彼そっくりって、どんなピカチュウだったんですか?」

 

さっきまで興味なくジュースのストローを咥えていたマスターがようやく口を開く。

やっぱりマスターも僕とそっくりなピカチュウのことは気になるようだ。

 

「そうだねぇ。強い、ただその一言に尽きる。それは能力的な意味だけじゃなく、精神的な意味でね。強大な相手には必ず先頭に出て仲間を守り、どれだけボロボロになろうとも諦めない。まさに英雄の相棒にふさわしいポケモンだった」

 

うん、なんだそのカッコいいピカチュウは。僕と全然違うじゃないか。

 

「・・・・確かにこの子と似てますね」

 

いや、似てないけど?

マスターは僕の頭を撫でながらそう言う。

 

さすがにそんなカッコいい子と一緒にされるのは恥ずかしすぎる。

 

「僕はその子に可能性を感じるんだ。そしてユウリ、君にもね」

 

「・・・・私にも?」

 

「そう、君たちはこのガラルの運命を大きく変える。僕の勘がそう言ってる。だから前々から君たちのことは追っかけさせてもらっていたんだ」

 

そう言って彼女は僕たちが戦ったジムチャレンジの内容を語る。

どうやら僕たちが参加したジムチャレンジを全て見てくれていたようだ。

 

「僕はこのガラルを舞台にした小説を書く。そしてその主人公に君たちを選びたいのさ」

 

「えぇ・・・・」

 

彼女はマスターをまっすぐ見つめながらそう口を開く。

それに対しマスターはすごく嫌そうな顔で応えた。

 

「いいじゃない、この子は本物のMなのかは置いといて自分を題材にして小説を書きたいなんて面白そうじゃないの」

 

「・・・・そもそも目立つのが嫌いなんですが」

 

ソニアさんからの言葉にもマスターは苦い顔を浮かべる。

僕はどうせ文字が読めないしどっちでもいいや。

 

ていうかマスターはともかく僕を登場させていいの?

さっきのカッコいいピカチュウと比べて僕はただのMだよ?

 

いくら彼女が僕と共通の欲求があるからと言ってそれで僕を出して万人に受けるとは思えないんだけど。

 

「ふむ、では君から見てのピカチュウを教えてくれないかい?小説にするしないにしろ、僕は彼にすごく興味があるんだ」

 

「それなら喜んで。店員さん、私と彼女に追加の飲み物を。あとここの閉店時間って何時までですか?」

 

「・・・・ユウリ、今は真昼よ?」

 

ソニアさんは自分の分も注文をしながらツッコミを入れる。

まぁ、マスターが言いたいなら僕はそれでいいんだけど、僕の話をしても面白いかな?

 

「じゃあまずは彼の魅力について、これは私が彼と初めて出会った時のことなんだけど」

 

マスターはソニアさんの言葉を無視して早口で語り始める。

彼女はマスターの早口の説明に面白そうに相槌を打つ。

 

どうしよう、さすがに僕についての話を聞き続けるのは嫌だ。

誰かに相手をしてもらって気を紛らわせようかな?

 

「「「・・・・」」」

 

マスターの腰についてるモンスターボールの中を覗き込めば、真剣な表情でマスターの話に聞き入っている彼女達の姿が目に入る。

彼女達の様子を見るに、僕の相手をしてはくれなさそうだ。

 

うん、僕についての話を聞き続けるのは恥ずかしいし、終わるまで寝てしまおう。

僕は即座にそう決めて身体を丸めて目を閉じる。

 

まぁ、僕の話を聞いて笑ってくれたら嬉しいかな。

 

 

 

 

 

予想通り、彼は英雄の器だった。

 

「いやいや、面白い話を聞かせてくれてありがとう」

 

私は笑顔を浮かべながら彼女に礼を告げる。

 

面白い話だったから時間があっという間に過ぎてしまった。

 

「・・・・本当に閉店までやった」

 

呆れながら私達を見る彼女に苦笑いを浮かべる。

彼女は呆れつつもずっと私達の話を最後まで聞き続けていた。

 

なのでなんやかんやで楽しんでいたのだろう。

彼女のガラル伝説についての話は興味深い、ぜひまた話を聞かないとね。

 

彼女はそのまま手を振りながら僕たちと別れを告げる。

 

「それじゃあね。次のジムチャレンジも見てるから頑張って」

 

手を振る彼女に笑顔を見せながら僕もこれからについて考える。

 

ユウリの話を聞いて、あのピカチュウについて考察する。

 

彼女の話を聞く限り彼は心優しく、他人のために躊躇いなく自己を犠牲にする精神、そしてどんな相手も受け入れる心の広さを持つ。

 

力はまだ未熟のようだけど、これからどんどん強くなっていくだろう。

なにより一番驚いたのはあの洞察力、いや直感かな?あるいはその両方か。

 

私の頬をつねり、そして私を疑う表情。

それを見て僕は彼が普通ではないと瞬時に悟らされた。

 

まさか、()()()()を見抜くとはね。

 

ふふふ、本当に興味深い。

 

「それじゃあ僕も帰るよ。また彼について話を聞かせてくれ」

 

「ええ、いつでも訪ねてきて」

 

僕の言葉にユウリは力強く頷く。

 

本当にユウリは彼のことが好きなんだね。

うん、ありがたいけどさすがにちょっと引くね。

 

彼女のこともピカチュウの話の中でだいたい把握できた。

その性格の原因も。彼女の抱えている闇も。

 

ああ、本当に物語のヒロインにふさわしい。

彼女がこれからどう変わっていくのか、それとも変わらないのか。

 

僕は最後まで見届けれるなら見届けたい。

 

「さて、明日は次のインタビューをしに行こう」

 

ユウリのこと、そして彼女視点での彼については聞けた。

けど、それだけじゃあ物語の精度が甘い。

 

もっと多くの人やポケモンに話を聞かないと。

 

「となると、やっぱり接触すべきはユウリの手持ちのポケモンかな」

 

今までのジムチャレンジで彼女の手持ちは把握している。

彼女達からもピカチュウについての話を聞いて、彼についての精度を上げたい。

 

だったらまずは、ユウリと彼の物語に加わる一番目のポケモンから。

 

「ふふ、他の姿への変身は久しぶりだね」

 

エースバーン、彼女の種族には何回か接触してるし変身は容易だ。

 

周囲に誰にいないことを確認した私は人間の姿を崩して身体を変形させる。

 

私を怪しんだ彼の観察眼は本当にすばらしい。

彼の視線は、私を人間ではなくポケモンを見るような目だった。

 

自分でも誰にも負けないと自負している変身を見抜かれた。

これは僕にとって少なくない衝撃だ。

 

 

もっと彼について知りたい。

ユウリ視点の話を聞けた。ならば次はエースバーンだ。

その次はロズレイド、そしてエルレイド。

 

彼女達の視点で彼はどのように映っているのか。

とても気になるね、もしかしたら赤の勇者の相棒の彼すらも超えるかもしれない。

 

さぁ、私をポケモン(メタモン)であると見抜いた君のことを、全部僕に教えてくれ。

 

「ヒバァ」

 

変身を終えた私は笑みを浮かべながら鳴く。

ああ、早く明日にならないかな。

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

Mの意味はメタモンのMです。
けっしてMではありません(混乱)

なお、このメタモンの変身はよく見る目が・のやつではなく、本当に人間の女の子と見分けがつかないレベルのものです。

少し話について悩み中です。
投稿をしましたが、少し考え直して前話から書き直すかもしれません。

読んだ感想をくだされば参考になります。


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小説家のメタモンは『悪夢』をくらう

僕は本当の自分が嫌いだ。

 

僕は何もない。

生まれてからいくら時が過ぎようと、僕が何か新しいことが出来るなんてことはなかった。

 

友達はたくさんいた。

別に言葉は通じなくても仲良くはなれる。

 

私達の世界はそれが普通で当たり前だ。

 

でもやはり種族によって違いは生まれる。

 

ある友達は糸を吐くことが出来た。

それらを使って天然のアトラクションを作り、僕たちはそれで遊んだ。

 

ある友達は火を吹けた。

森の中に住んでいた僕たちにとって火は重要だった。

怖い敵が現れた時に友達の吹く火に助けられたことは何回もある。

 

他の友達たちもそれぞれ自分だけの特別があった。

 

僕にはそれがない。

自分だけの特別がない。

 

出来ることはただ他の者を真似るだけ。

 

他の者の特別を真似する。

それしか出来ない。

 

僕自身の力では火を吹くことも、風や草を操ることも、雷を生む出すことも出来ない。

 

僕はそれがどうしようもなく嫌だった。

僕も自分だけの特別がほしい。

 

誰かの真似なんてしなくても、これが私だけの力だと胸を張って友達に言いたかった。

 

でも、いくら願ったところで誰も僕の願いは叶えてなんてくれない。

 

だから僕は元の姿に戻ることを嫌った。

何も出来ない自分を見たくなかったから。

 

色々なポケモンの真似をして、それらの技を使いこなす努力をした。

それによって真似た相手よりも優れた技を操ることだってできた。

 

僕は火を吹くことも、風や草を操ることも、雷を生む出すことも出来る。

 

それら全てを極めて自分だけの特別を手に入れてやる!

その自分の劣等感と相手への嫉妬が私に血が滲むような努力を可能にさせた。

 

変身を繰り返し、僕は偽物なんかじゃない、この姿こそが本物なんだと自分に言い続けた。

 

その修行の途中で人間についても学び、人の文字も覚えた。

より精度の高い技を使えるようになるために人間の本は非常に参考になった。

 

ポケモントレーナーという存在が僕たちポケモンをより高いレベルへと引き上げている。

僕たちが使える技の詳細、特性、道具。

これらを学べば私はきっと自分だけの特別を手に入れられると確信した。

 

その中で人間が書いた物語を読む機会があった。

そしてその世界に魅了された。

 

物語には必ず主人公が存在した。

その物語の主人公たちには全員特別な力があった。

 

特別な力にそれに相応しい精神。

そして同じような特別な仲間。

 

僕はその物語の主人公に自己を投影してその世界に入り込んだ。

僕は主人公に憧れるのに時間はかからなかった。

 

主人公、特別な存在。

 

僕もいつか必ず。

 

そう思って努力を続けた。

誰にも真似をするだけの偽物なんて言わせないと誓い続けた。

 

そうして他のポケモンや人の姿を真似続けながら旅をしている時。

 

 

僕は本物(主人公)に出会ってしまった。

 

 

赤い帽子をかぶった少年とその隣に並ぶピカチュウ。

 

初めての出会いは何も感じなかった。

むしろ無口な少年と口の悪いピカチュウに絶対に特別な存在なんかじゃないと確信したくらいだ。

 

でも違った。

 

そんな僕の認識なんて、彼らはあっという間に超えて行った。

 

彼の成長速度は明らかに普通ではなかった。

その戦闘センス、技のキレ、不屈の精神。

 

それら全てをもって立ちはだかる壁を乗り越えていった。

 

街をめぐり、ジムに挑戦し、共に戦う仲間を増やしていった。

 

やがて彼らの周りには多くの仲間が集まり、それらすべてが特別な力を持っていた。

 

さらに同じく旅をしている友人とは時に対立し、時に協力し敵を倒していった。

 

そして、彼らは強大な悪と出会い、対峙した。

 

悪は強大だった。

しかし彼らは強大な敵にも臆することなく勇気をもって立ち向かい、身に着けた力を知恵をもって使いこなし、それら全てを使って悪を打倒した。

 

 

傷だらけになって倒れることがあっても、決して諦めない。

努力して、その努力に応える特別な才能があって、何より運命に愛されている。

 

何度も彼らと言葉を交わした。

 

どこかに粗はないか。

どこかに彼らが主人公だと否定する要素はないか。

 

真っ黒な感情をもって彼らの旅に同行した。

 

でもダメだった。

 

この目で見て、言葉を交わし、共に戦い、確信してしまった。

 

彼らは物語の主人公なんだ。

僕とは違う、運命に愛された存在。

 

決して(偽物)が真似ることが出来ない特別な存在。

 

彼らを見て、(偽物)

 

 

 

 

「あいた!?」

 

頭に走った衝撃で目が覚める。

涙目のまま目を横に向ければベッドの上に置いていた本が僕の頭に落ちてきたようだった。

 

うぅ、昨日読んで適当に置いたのがダメだったか。

 

まぁ、ある意味目が覚めてよかったかな。

 

「・・・・嫌な夢を見ちゃったなぁ」

 

ベッドから起きて背を伸ばす。

寝起きは中々に最悪だ。

 

昔のことを思い出すなんてろくなものじゃない。

 

「・・・・やれやれ、これは彼を見たせいだね」

 

脳裏に思い浮かべるのは昨日話したピカチュウ。

 

彼の姿が夢で見た主人公(ピカチュウ)と被る。

 

本当の強さを持つ者。

 

紛い物では決して持つことが出来ない不可侵の領域にいる者。

 

「・・・・はぁ、らしくないぞ僕。僕はもっと謎の少女って設定だろ」

 

悩む姿なんて見せるわけにはいかない。

それは僕が考えたボクじゃない。

 

彼は久しぶりの本物の英雄だ。

もっともっと彼について調べ、これからどんな物語を描くのか見ていく。

 

そして彼の物語を僕が書く。

それは僕だけが出来ることなんだから。

 

「さて、まずはホテルから出ないとね。ユウリ達のホテルはわかってるから隙が出来るまで張り込みだ」

 

こういう時、人間の姿とポケモンの姿を使い分けられるので便利だ。

小説家としてそこそこ売れたおかげでお金はあるし。

 

というか人間の姿を常にしているせいで今更野生のポケモンの生活に戻れる気がしないんだよね。

ベッドがないと気持ちよく寝れないし、人間のご飯が美味しすぎて今さら木の実だけじゃ満足できない。

 

服とか見るのも楽しいし、たまに自分がポケモンだってことを忘れそうになる。

贅沢を覚えるのはよくないね、この地方での旅が終わったらしばらく野生の生活に戻らないと。

 

そのためにも彼らについて調査を続けよう。

 

彼のことを深く知るためにまずは外堀から確認していく。

それも複数人に確認することが大事だ。

 

僕自身の目で見て、他の者の目で見たものも確認する。

 

本人に聞くのはそれらが済んだ最後だ。

 

そして彼らの物語を僕が描こう。

 

それが、(偽物)の役割だ。

 

「次の彼らの行先は、五つ目のジムがあるアラベスクタウンだね」

 

僕はホテルに備えつけてあったこの地方の地図に目を落とす。

道中には『ルミナスメイズの森』と呼ばれる長い森が広がっているようだ。

 

今までの彼女達の行動からこの町の観光をしてから次の街に行くとは思えない。

きっと今日ホテルを出たらすぐに次の街に向けて出るはずだ。

 

ならば僕も彼らを追いかけないとね。

どうにかして他のポケモン達に話を聞かないとだし。

 

確か、あそこはフェアリータイプのポケモンが多く生息していたはず。

ジムリーダーの使うタイプも同様にフェアリータイプ。

 

確か、ユウリの手持ちポケモンでフェアリータイプに有効なのは、毒タイプのロズレイドだ。

今回のジムチャレンジを見るに、次は相性有利な彼女を使うはずだ。

 

ならば次の街では勝って機嫌が良い彼女を狙ってインタビューをするのも手だね。

 

次の街のパンフレットを片手に部屋を後にする。

 

 

ふふ、彼らは次の街で、どんな出会いをするのかな?

 

 

 

 

 

 

 

アラベスクタウンにあるバトルカフェ。

 

ここのカフェは今までとは室内の雰囲気が大きく異なります。

ここ周辺特有の光るキノコに薄暗い森の中というのが、今までの街とは趣が大きく変えてますね。

 

室内も外に合わせてダークでファンタジーな感じになってます。

 

なかなか変わってる雰囲気で私は好きです。

 

まぁ、そんなのは今の私にとってはどうでもいいのですが!!

 

今日はこのカフェに配属されての私の初お披露目です。

ここのお客様達に私という特別なマホイップがいることを認識させなくてはいけません。

 

 

さぁ!今日も盛大にいきますよ!!

 

みなさんもご一緒に!!

 

ミストバースト!!(エクスプロージョン!!)

 

 

 

 

 

 

 




非常に悩みましたが、メタモンの回想の話にしました。

徐々にメタモンについて紹介しようと思ったのですが、
ここは早めにこのメタモンについて知ってもらおうと思いました。

これからこのメタモンも物語に交えていきます。
いずれこの子のメイン回を書いています。


なお次話はマホイップを登場させます。
以前に言ったように開き直って書きます(このすば映画を見ながら)


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頭のおかしいマホイップは『ミストバースト』をくらわせる①

私がこの技に魅了されたのは、まだ野生時代のそれもかなり幼かった頃です。

 

当時の私は好奇心旺盛で、どこかに面白いものはないかと森の中を探し回っていました。

しかし特に面白いものが見つからず、ならばもっと奥になると考えた私は普段行かないような森の奥地に向かってしまいます。

 

群れのリーダーからは絶対に行くなと言われていましたが、知らんぷりして行きました。

 

森の奥に行くにつれて当然群れから離れていきます。

私はそのことを欠片も危険だと感じず奥へと進み、そこで当然のように敵に囲まれました。

 

私の周りを囲むように現れた大型のドラゴン達。

 

私がいたのは小型のポケモンしかいないところだったので、当時の私はこんな大きなポケモンを見るのは初めてでした。

 

相手は明らかに私に敵意を持ち今にも私に襲い掛からんばかりでした。

何も考えず彼らの縄張りに入ってしまったのです、彼らが怒るのも当然でしょう。

 

当時の私は進化前で何も有効な技を覚えているはずもなく、ただただ泣きながら震えるしかできません。

 

そんな時、あのポケモン(ピッピ)は現れました。

 

「ピピッ!?」

 

震える私を守るようにドラゴン達と私の間に現れた小型のポケモンに私達は固まります。

ポケモンが現れた方向を見れば、すぐ横の崖にまるで()()()()()()()()()が見えました。

 

どうやらこのポケモンは崖の上から滑ってここまでやってきたようでした。

当時はそれどころではありませんでしたが、今考えればよく分かります。

 

あのポケモンは私を助けるために崖から飛び降りたのでしょう。

 

いきなり現れたポケモンに全員が面をくらいましたがすぐに相手は威嚇するように咆哮を上げます。

 

「・・・・ピィ?」

 

軽い私はその大きな声の衝撃で吹き飛ばされる程でしたが目の前のポケモンは怖気づくことなく堂々と立ち続けていました。

 

あのポケモンは私よりは大きいとはいえ、小型であることには変わりありません。

それでも一切怖気づくことなく、まるで()()()()()()()()()()相手をじっと見つめていました。

 

今の私はわかります。

あの時のポケモンはこう言いたかったのでしょう。

 

そんな可愛い声で鳴いてどうした?っと。

 

くぅぅ!カッコよすぎます!!

絶対私もいつか同じことを言ってやります!!

 

自身の威嚇にビビらない相手に顔を険しくさせるポケモン達。

相手はこちらの出方を伺うようにじっと見つめていました。

 

まるで時間が止まったかのように静まり返った空間の中、最初に時を動かしたのは目の前のポケモンでした。

 

 

あのポケモンがやった動作は、()()()()()()()()()()()()()()()だけ。

 

まるで自分の勝利を宣言するように。

 

「グルァァァァァァ!!」

 

動き出した時の中でドラゴン達が口を開けて私達に襲い掛かります。

 

「ピィ!!」

 

自身の命の危機によってスローモーションになった視界の中。

私を守るように立つポケモンが空に立てた指をゆっくりと振りました。

 

その瞬間、目の前のポケモンから強大なエネルギーが解き放たれました。

 

「グルァァァァァァ!!?」

 

桃色のエネルギーが周囲に展開され、ドラゴン達を飲み込みます。

先ほどのドラゴンの咆哮とは比べものにならない衝撃波に私は再び吹き飛ばされます。

 

「ピィィィィィィィ!?」

 

エネルギーの中心であのポケモンの雄叫びが聞こえました。

 

その叫びはまるで魂から出たかのようにも聞こえました。

 

エネルギーが消えた時、そこには倒れ伏したドラゴンと、その中心に立つ小さな勇者。

 

私はそれを見て、目の前の勇者に、そしてあの技に強烈な憧れを抱きました。

 

これが私の原点。

私がミストバーストを極めることを心に決めた出来事。

 

いつかあのポケモンに再び会った時に、私の極めたミストバーストをお見せるのが私の夢です!!

 

まだまだ極めたとは言えませんが、それでもこの道を私は歩み続けます!

 

さぁ、というわけで今日もレッツエクスプロージョンです!!

 

「まてまてまてまて!!何一匹でぶつぶつ言いながらぶっ放そうとしてんだお前!!」

 

あ、いたんですか店長。

 

「あ、いたんですか?みたい顔しやがって!ああいたよ!お前がぶっ壊したところを修理してる最中だよ!」

 

それはお疲れ様です。店長は器用なのでそういうの得意ですよね。

あ、直す時はもっと硬めの素材でお願います。

 

過去を回想したせいで今の私は固くて大きいものでしか満足できそうにありません。

くぅ、今の私ならあんなドラゴン達など一発で仕留めることが出来るのに!!

 

「お前マジでいい加減にしろよ!?せっかく俺が汗水たらしてようやくこの町にバトルカフェを建てることが出来たんだぞ!それをお前、開店初日にぶっ放しやがって!!」

 

なにを言ってるんですか!

初日だからこそインパクトが大事なんですよ!!

 

このカフェの看板ポケである私をこの街のお客様に覚えていただくためにも!初日のミストバーストは必須事項!!

 

「ちくしょう、やっぱりこんな奴はおいていくべきだった。せっかくの俺の新たなカフェ生活の第一章が」

 

項垂れる店長は無視してお菓子の味付けをしましょう。

私の一番の売りはもちろんミストバーストですが、お菓子作りも得意です。

 

前の街の皆さんも私のお菓子が食べれなくなることを非常に惜しんでいましたよ。

まぁ、それより私のミストバーストに怯えなくていいと泣いて喜んでいましたが。

 

ええ、もちろん笑顔で別れの挨拶(ミストバースト)をしましたとも。

 

「こいつ、ミストバーストさえなければ有能なんだよねぇ。無駄に家庭的だし、無駄に」

 

おい、無駄にを連発した理由を聞こうじゃないか。

 

「お前、開店してまだ一週間なのにもう頭のおかしいマホイップってあだ名がついてるぞ」

 

どうしてもうそのあだ名が定着しているんですか!?

さては店長!私のあだ名をお客様に広めましたね!!

 

許せません!後で店長の股間にクリームをつけてセクハラで捕まるようにしてやります!!

 

私を怒らせたらどうなるかその身に教えてやりますよ!!

 

「・・・・はぁ、ずっと中腰だったから腰がいてぇ。少し奥で寝るか」

 

店長が腰を叩きながら店内を後にします。

運がよかったですね。しかし再び店内に戻った時が店長の命日です。

 

ただでさえセクハラでクズ呼ばわりされてる店長です。

そんな店長の股間が真っ白になった日には言い逃れは出来ないでしょう。

 

さて店長の死刑の前に仕事を終わらせましょう。

 

「・・・・」

 

しかし、この街になら歯ごたえのある相手がいると思いましたが、残念ながら期待外れですね。

まぁまだ開店一週間です、気長に待ちましょうか。

 

「・・・・」

 

そういえば、以前にお会いしたピカチュウは元気でしょうか?

私のミストバーストを二度も耐えたのは後にも先にも彼だけでした。

 

私もあの時よりパワーアップしましたし、今戦えば私と彼どちらが勝ちますかね。

 

まぁ私のミストバーストが最強なので当然私が勝ちますが!!

 

ふふ、私が勝てば彼もミストバーストの魅力に気付くことでしょう。

もしそうなったら一緒にこの道を歩むのも悪くありませんね。

 

「・・・・」

 

「さっきから何見てんですか?」

 

いい加減無言の視線が鬱陶しくなった私は視線の元凶に目を向けます。

()()()()()()()()()彼女はゆっくりと椅子の下の陰から姿を現しました。

 

 

「ひ、久しぶりね!今日こそあなたと決着をつけにきたわ!」

 

「・・・・」

 

「ちょ、なんで無視するのぉ!?」

 

私は視線の原因を見ると作業に戻ります。

はぁ、予想はしてましたが、やっぱりあなたですか。

 

「なんだ、ただのボッチですか。仕事の邪魔なのであっちに行っててください」

 

「ボ、ボッチじゃないもん!」

 

私の言葉を涙目で否定するマホイップ。

 

はぁ、このやり取りも何度目でしょうね。

 

私の目の前のこいつは私と同じ群れにいたポケモンで、群れのリーダーだったマホイップの娘。

 

そしてボッチで自称私のライバル。

 

「ここに住んでたんですね、てっきり私達がいた街の近くだと思ってました」

 

「ふふん、驚いたでしょ。ここはあなたがいた場所より強いポケモンがいっぱいいるんだから!」

 

「・・・・ここって私達がいた街と離れてますよね。なのに一週間に一度は私に勝負を挑みに来てましたよね?え、何してるんですか?」

 

「・・・・」

 

私の言葉に無言で顔を逸らしました。

やっぱりこっちに友達がいなくて私のところに来ていたようですね。

 

「そ、そんなことはどうでもいいでしょ!さぁ勝負よ!私は群れの長の娘として!私はライバルであるあなたを超えて最強の称号を手に入れる!!」

 

はぁ、面倒ですね。

暇なら相手をしてあげるにもいいですが、今は仕事中なんですけど。

 

・・・・ふむ。

 

「いいでしょう。勝負です!」

 

「え、ほんとに!?」

 

私が勝負を受けることを告げると嬉しそうに目を輝かせます。

ちょろいですね。

私は心の中で笑みを浮かべて勝負の内容を告げる。

 

「今回はクリームの味で勝負です。この部屋の奥でうちの店長が寝ています。その店長に私達の作ったクリームのどちらが美味しいか決めてもらいましょう」

 

「私はそれでいいけど、店長寝てるんだよね?だったら迷惑になるんじゃ」

 

「大丈夫ですよ、店長は寝ていても股間にクリームを置くだけで味を判別できます。なので寝ている店長に近づいて股間にクリームを置くだけで起こす必要はありません」

 

「えぇ、ほ、本当に?私、人間さんがそんなことできるって聞いたことないんだけど」

 

私の言葉に彼女は困惑したように尋ねてきます。

まぁそういうでしょうね。

 

普通ならここで嘘だとバレるとこですが、このボッチにはこれだけ言えば十分です。

 

「私達、友達ですよね?友達とはお互いの言葉を信じ合うものだと思います。なのにあなたは、友達の言葉を疑うんですか?」

 

「っ!?そ、そうよね!私達友達だもんね!!!えへへ、じゃあ勝負よ!友達だからって手加減しないわよ!!」

 

「ええ、私も手加減しません。では先にどうぞ、私はあなたの後にいきます」

 

「ええわかったわ!私の作ったクリームはすごいんだから!」

 

私の言葉に従って彼女は部屋の奥に向かっていきます。

今頃店長はいびきをかきながら寝ているでしょうし、クリームは問題なくつけれるでしょう。

 

私達のクリームは色がそれぞれ違うので、私と彼女ではどちらのクリームなのかはっきりとわかります。

なので店長の股間にクリームがついていても私のものではないのは一目瞭然です。

 

ふぅ、これで店長は滅び、そして怒られるのは私ではなく彼女です。

 

 

私は壁にかけているホワイトボードに線と一本書きます。

これは今まで彼女と勝負した回数と勝利するが書いてます。

 

私は勝利の欄に線を一本足して頷きます。

 

今日も勝ち!!

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

マホイップ回です(あと2.3話続くと思います)

最初のピッピは以前に感想で書かれた不幸なピッピを採用させていただきました。

視点を変えればこんな感じだった。

ピッピ「こけて崖から落ちたらドラゴンに囲まれてた件について」

ピッピ「やめて!自分デブなんで油まみれで食べてもおいしくないのぉ!ちくしょう!こうなったら『ゆびをふる』にかけるしかない!」

ピッピ「さぁこい!テレポート!!」(なお実際は)



モチベーション維持のため感想と評価を下されば嬉しいです。


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ドMなピカチュウは『バトンタッチ』をくらう

すみません、前回あと2.3話はマホイップ回にすると記載しましたが、これ以上本編に絡ませるのはやめておくことにしました。

なので、すみませんがマホイップ回は終了してジム戦行きます。


「・・・・私達のジムチャレンジもいよいよ後半戦」

 

「ピカ!!」

 

マスターの言葉に僕は力強く頷く。

僕たちのジムチャレンジもついに後半戦に突入した。

現在僕たちは4つのジムをクリアしたから残りはちょうど半分。

 

あと4つのジムをクリアするば、僕達は念願のダンデさんへ挑戦のためにトーナメントに参加できる。

 

「今まではレベル差や相性の差によって勝利してきた。でも、ここからは色々な戦術を試していこうと思うの」

 

「ピカ?」

 

マスターの言葉を理解しきれずに首をかしげる。

戦術?マスターは今までも十分にそれらをしていたと思うけど。

 

「ここから先はレベル差がなくなってくる。その中で勝つには私達にとって必勝戦略を探っていく必要があると思う。天候操作やステータス変化、ハマれば強い戦略を最低でも一つ以上確保しておきたい」

 

天候操作は今までも雨や晴れを利用してきた。

確かに技の威力や僕たちの身体強化もあって強いと感じたなぁ。

 

マスターはあれらを僕たちの戦い方に組み込みたいということなのだろう。

 

「今回のジムはフェアリータイプ。毒タイプのロズレイドが有利よ、だから今回は彼女へ繋ぐ闘いをしてみたい」

 

「ミキュ?」

 

自分が戦うことになるとわかったロズレイドは喜んだ後にマスターの言葉に首をかしげる。

彼女へ繋ぐ?それがさっきの天候操作とかに関係あるということだろうか。

 

「つなぐ役割はエースバーン。今回の鍵となる技は『バトンタッチ』自分の変化した身体能力を交代したポケモンに引き継がせる技。これで言いたいことはわかる?」

 

「ヒバァ・・・・」

 

「ミキュウ」

 

マスターの言葉を聞いた彼女は嫌そうな顔でロズレイドを見る。

それに対しロズレイドは私のために働けと言わんばかりに良い笑顔をエースバーンに向けている。

 

つまりあれだね、エースバーンがステータス上昇技を使ってその上げた能力をロズレイドに渡す。

そして強化された彼女が相手を倒す。

 

ふむ、面白そうだね!確かにエルレイドとの戦いの時に思ったけど彼女達は戦いの相性がとてもいいと思う。

『にほんばれ』を使った戦いも形になっていたし。これからの闘いでは彼女達が息を合わせて戦っていくことになるのかもしれないね。

 

「それに今回のジムチャレンジは少し特殊ルールがあるみたい。だからこの戦略で行こうと思ったんだけど」

 

特殊ルール?今まではそんなものはなかったと思うけど。

 

マスターの話を聞くとどうやらこのジムチャレンジでは相手からクイズが出され、それに正解するとポケモンのステータスが上昇するようだ。

 

クイズかぁ。

僕はともかくマスターは頭がいいし得意だね!だからこの戦い方をしようと思ったんだろうけど。

 

「もちろん場合によって戦い方を変化させていかなくちゃダメ。だからこれからの話もよく聞いてね」

 

マスターの言葉に僕たちは頷き、そのままこれからの闘いについて話し合った。

 

戦略の話も大事だけど、それよりも大事なことが僕にはある。

今日は、今日こそは!絶対に気持ちよくなってやる!!

 

僕は強い決意をもってジム戦に臨んだ。

 

 

 

『さぁ次は注目の一戦です!挑戦者は今回のジムチャレンジャーの中でもっとも有名な人物です!!』

 

「ふぅ、間に合った!!」

 

湧き上がる会場と解説者の声を聞きながら荒い息を吐く。

まさか本当に寄り道せずにここにくるとは、さすがユウリだね。

 

視線の先に広がる広大なバトルフィールド。

その両サイドから煙が噴出され、その中から二人の人物が現れる。

 

『たった今入場しました!我が町のジムリーダー!人呼んでおっと、失礼!ポプラの入場です!!さらにさらに!今大会最注目!クールな挑戦者!ユウリ選手です!!』

 

解説者の声の後に歓声がフィールドへと届く。

届いた声援にユウリは気まずそうに俯きながら定位置に進んでいる。

 

僕はそれを見て苦笑いを浮かべる。

 

うーん、あいつとは違う意味で不愛想だね。

あいつの場合は声援が届こうと目の前に相手にしか興味がないと言わないばかりに無関心だったけど。

ユウリもユウリで俯いたまま動かないし。

 

相棒がピカチュウなところといい変なところが似ているなぁ。

 

「まぁいいや、さて今回はどうやって勝つのかな?」

 

すでに勝つことは確信してる。

なにせ僕が見つけた主人公だ、こんなところで負けるわけがない。

気になるのはその中身、小説に組み込むための闘いの内容だ。

 

僕は予約しておいた自分の席に座りながらバトルフィールドを見下ろす。

 

「ポプラさんの手持ちはフェアリータイプ。相性で言うならロズレイドだ、でもここのジムは少し特殊だからね。さて、ユウリはどうするのかな?」

 

僕はワクワクしながらボールを構える二人を見る。

2人の解説が終了し、試合の合図が鳴り響く。

 

 

試合開始を告げる音がなった瞬間、二人は同時にボールを投げた。

 

ユウリが出したのはエースバーン。

ポプラさんが出したのは、マタドガス。

 

「うーん相性は普通だね。てっきりピカチュウかロズレイドを出すと思ったけど、さて何を考えてるのかな?」

 

ユウリの戦略に思考を巡らせながらフィールドを見る。

そして、2人のポケモンがフィールドに登場したと同時に解説者の声が響く。

 

『さぁ!2人のポケモンが出そろいました!!そしてここからがこのジムの特殊ルール!!そのルールはクイズです!今からパネルに表示される問題をユウリに答えていただきます!正解すればポケモンのステータスが上昇し、不正解なら下がります!!』

 

解説者の声の後、フィールド外に取り付けられたパネルに巨大な文字が現れる。

 

『あたしのあだなをしってるかい?』

 

うん、知らない。

 

パネルに表示されたクイズに思わずそう心の中に呟く。

これはポプラさんのあだ名だよね。

いや、確かどこかで書いてるのを見たことがある、えっと魔法使いとかだっけ?

 

「・・・・魔術師」

 

『正解です!!』

 

ユウリの言葉を聞いた解説者が大声でそう告げる。

それと同時にパネルに大きな丸が表示された。

 

「おお、さすがユウリ。よく知ってたね」

 

彼女のこれまでの性格から事前に研究はしてきてると思ってたけど、まさかあだ名まで知ってるとは。

 

『正解したユウリさんのエースバーンは『すばやさ』が大きく上がります、それと同時に試合再開です!!』

 

「・・・・エースバーン、ふるいたてる」

 

「ヒバァァァァ!!」

 

ユウリがそう呟いた瞬間、エースバーンが大きく吠える。

 

ふむ、『ふるいたてる』は自身の攻撃と特攻をあげる技だね。

最初に指示にステータス上昇技、それに今回の特殊ルール。

 

「・・・・ユウリの今回の闘い方が見えてきたね」

 

おそらくユウリはエースバーンの能力を上げてそのまま相手のポケモンを圧倒するつもりだ。

クイズに正解すればステータス上昇を見込めるし、ダメ押しに自身の技でも上げて相手と差をつける。

 

これは上手くいけば手がつけられなくなる。

 

「・・・・なるほどね。マタドガス、ヘドロばくだん」

 

「かえんボールで相殺、そのまま距離を保って」

 

相手の吐き出した毒の塊を彼女の蹴りだした火の玉が弾き飛ばす。

 

「お!隙が出来た!そのまま隙をついて突撃!!っはしないのね」

 

相手が彼女の攻撃の衝撃でひるんでいたが、その隙を使うことなく距離を保ち続けている。

どうやら距離を詰めることなく遠距離で戦う気のようだ。

 

「うむ、エースバーンは近距離戦が得意なはずだけど。安全にステータス上昇をしたいのかな?」

 

いや・・・・それだけじゃないかも。

口に出した自分の考えを否定する。

 

確かマタドガスには『クリアスモッグ』という技があった。

特殊な泥の塊で当たればステータスが元に戻る効果があったはず。

 

もしかしてユウリはそれを嫌ったのかな?

それにマタドガスはガスを使うから近距離では避けにくい。

 

「うーん、これはエースバーンでは厳しいんじゃない?ロズレイドには交代しないのかな?」

 

僕の呟きを無視するかのように彼女はエースバーンに二回目の『ふるいたてる』の指示を出す。

今のところお互いに遠距離攻撃を出し合って距離を保った状態でのバトルが続いている。

今のところのダメージは五分五分かな?

 

でもこのままエースバーンが強化されればユウリの勝利はもう近い。

ただし、ポプラさんにそれに対応、あるいは利用されれば面倒なことになるね。

 

『時間になりました!ここで2問目のクイズが出題されます!!』

 

バトル開始してから少し時が経ったタイミングで2問目がパネルに表示される。

 

『あたしの好きな色は?』

 

・・・・ピンクじゃないの?

 

会場に見渡せば必ずどこかピンクが目に入る現状。

ジムの服だってピンクだし、このジムに関係している人らもみんなピンク一色だ。

 

これでピンクじゃないなら僕のとっておきの変身を見せて文句を言ってやる。

 

「・・・・ピンク」

 

ユウリも当然僕と同じ考えに至ったようでピンクと答える。

まぁこれでさらにエースバーンのステータスが上がる。

 

うん、これは決まったね。

さて、試合後にユウリ達に尋ねる内容でも考えておこ。

 

「人には求めるが、あたしは好きじゃないよ」

 

『というわけです!ユウリ選手、不正解!!残念ながらエースバーンの防御と 特防が大きく下がります!ちなみに正解はパープルでした!!』

 

よし、ぶっ飛ばそう。

 

「ちょちょ!そこのお嬢ちゃん!?どうしてフィールドに飛び降りようとしてるんだい!?危ないぞ!?」

 

「止めないでおじさん、僕は今からこの気持ちをあのおばさんにぶつけにいくんだから」

 

「落ち着け!ポプラさんはあんな人なんだ!あれでもいい人なんだよ!!」

 

手すりに足をかけて飛び降りようとする僕を隣に座っていたおじさんが必死に止めてくる。

・・・・仕方ない、僕のこの気持ちはユウリに代わりにやってもらうとしよう。

 

ユウリに目を向ければ僕と同じように頬を引きつらせていた。

うん、俄然これから先のバトルが楽しみになってきたぞ。

 

引きつりそうになる頬を抑えながら席に戻る。

僕が席に戻ると、隣にいた少女が話しかけてきた。

 

「あははははは!!お姉ちゃん面白い!!」

 

「おや、それはありがとう。君はそのイーブイの着ぐるみ姿がとてもキュートだよ」

 

「えへへ!イーブイ以外にもピカチュウもあるんだよ!!」

 

こちらに笑いかけてくる少女に微笑みを浮かべる。

あぁ、さっきのこともあってすごく癒される。

 

どうやらさっきのおじさんの娘さんのようだ。

 

「ボーっとしてんじゃないよ。マタドガス、いやなおと」

 

「っ!?エースバーン!かえんボールでやめさせて!!」

 

クイズが終わった直後、ステータスの変化によって硬直したユウリの指示が一歩遅れる。

その差はマタドガスによって発せられた強烈な音によって示された。

 

フィールドに音が鳴り響いた後に彼女の攻撃がマタドガスに直撃する。

これで大きくダメージは稼げた。でも、被害で言えばどちらの方が上かな?

 

「・・・・やられたね。これでエースバーンは諸刃の剣になった」

 

さっきのクイズによってエースバーンの守りのステータスが大きく下がった。

そこに『いやなおと』によってダメ押しで防御がさらに下がった、

 

これでエースバーンは速度と攻撃、特攻は大きく上がっているけど防御面が低いことになってる。

次攻撃をもらえば耐えれるかすら怪しい。

 

「・・・・」

 

ユウリも悩むように目を鋭くさせてフィールドを見つめる。

一度ボールに彼女を戻せばステータスの変化は消える。

 

しかしそれはマイナスをなくすだけでなく、今までやってきたプラスの面すら消してしまう。

それに、相手がその間に何もしないとは限らない。

 

エースバーンに目を向ければ彼女も目を細めて状況の改善に努めているようだ。

しかし、ユウリもエースバーンも表情は晴れない。

 

「・・・・さて」

 

僕は彼女達を見た後に視線を彼に移す。

 

彼女達が苦しんでいるよ?

 

君はどうするんだい?

 

ピカチュウ(主人公)

 

「ピカ!!」

 

僕の質問に答えるように彼は鳴く。

 

そして彼は、僕の予想、いや期待通りにフィールドに足を踏み入れる。

 

「あ!ピカチュウだ!私、ピカチュウ大好きなの!!」

 

隣で彼の登場に喜ぶ少女に笑みを浮かべながら僕も答える。

 

「それは奇遇だね。僕も大好き(大嫌い)さ」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はピカチュウ視点。

なおクイズの内容と効果は原作通り(のはず)


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ドMなピカチュウは『バトンタッチ』をくらう②

今回のバトルにおいて僕はどうやれば気持ちよくなれるだろうか?

 

僕が会場に入ってからずっと考えているけど答えはでない。

 

考えてみれば僕は今までのジムバトルで全くと言っていいほど気持ちよくなれていないのだ。

これは非常に由々しき事態である。

 

すでにこの非常事態に僕の脳内で色々な考え方が小さな僕の分身になって騒ぎ始めている。

 

「ここはやはり、ジムバトルへ乱入するしか道はない!」

 

「いやいや、それだとマスターやみんなに迷惑がかかるよ!ここはまだ耐えるべきだよ!」

 

「悠長なことを言っている場合か!このままでは我々は永劫に苦しみ続けるのだぞ!」

 

「こ、これはこれで、新しい道が見えてくるかもしれないよ!」

 

「僕はわかりやすい気持ちよさを求めているんだ!」

 

「少しつつましさを持ちなよ!!」

 

「Mのつつましさってなんだ!」

 

「それは僕もよくわからないけど!」

 

なかなかカオスなことになっているな脳内の僕たち。

まぁ、全部僕の考え方の一つなんだけど。

 

他にも不満や考え事はいっぱいあるけどこれ以上は止まらなくなるので切り替える。

 

僕が半分現実逃避している間にもバトルが始まろうとしている。

 

マスターは予定通りエースバーンを一番手に出した。

それに対して相手はマタドガスだ。

 

マタドガスは師匠達と出会った時以来だね。

エースバーンはマタドガスに襲われかけたことがあったから、今回は燃えてそう。

 

「ヒバァァァ!!」

 

正解だと言わんばかりに彼女の咆哮がフィールドに響き渡る。

そして事前にマスターに教えてもらっていたとおりクイズが始まる。

 

内容は正直さっぱりだったけどマスターはちゃんと正解を答えていた。

これで彼女自身の技の効果もあって攻撃、特攻、速度の三つが強化された。

 

マスターの作戦は順調に進んでいる。

 

「・・・・」

 

「ピカ?」

 

順調に進んでいる状況のはずなのにマスターは険しい表情を浮かべている。

僕が見つめていると、僕に気付いたマスターが説明してくれる。

 

「マタドガスには『クリアスモッグ』っていうステータス変化を戻す技があるの。だからあんまり近づきたくないんだよね。それに『だいばくはつ』だってされかねないし」

 

『だいばくはつ』だって!?

 

それは僕が受けてみたい技ランキングトップ10に入る技の一つじゃないか!!

これは何とかしてフィールドに出なくてはいけないね!

 

フィールドを見つめながらソワソワと身体を動かす。

マスターはそんな僕を見て小さく笑う。

 

「大丈夫よ。彼女はもう最初のジムの時とは違う。もうあなたの助けは必要ないくらい実力をつけているわ」

 

うん、だからこんなに今ソワソワしてるんだ。

彼女が強いことなんて最初のジムの時から知ってる。

 

もう完全に僕の出番がくわれてる現状が全てを物語ってる。

 

もうあの時、僕が彼女を選んだ瞬間からこうなることは決まってたのかもしれないね。

 

そして彼女だけでなく、後から加わったロズレイドとエルレイドも順調に僕の出番を削ってる。

おかしいな、彼女達は僕の欲望を満たしてくれるありがたい存在だったはずなんだけど。

 

最近は毒が強力になりすぎてまだコントロールが出来ていないようで、おさわりをさせてくれないし、エルレイドなんて仲間になって以降、全然僕をボコボコにしてくれない。

 

僕の予定では今頃僕は彼女達によって人生の絶頂期を謳歌しているはずなんだけどね。

 

現実とは難しい。

 

僕が難しい現実に項垂れている最中も試合は進む。

エースバーンが二回目の強化を完了させた後に再びクイズが行われる。

 

これを正解すれば再び強化を行える。

そうなれば彼女のバトンタッチでロズレイドと入れ替わり彼女の無双が始まる。

 

うぅ、仲間の勝利はもちろん嬉しいことだけど、少しくらい僕に出番を恵んでくれてもいいと思うんだ。

 

そんな僕の情けない心の声をよそにクイズが出題される。

 

クイズの内容は、好きな色を当てる?

好きな色って目の前のジムリーダーの人ってことだよね?

 

んー見た限り紫が好きっぽいけどね。

首につける物や傘、アクセサリーとかが紫だし。

 

ピンクも目立つけど、それはこのジムの特色って感じであの人間さん自身のって感じはしないかな。

 

くそぅ、これに正解すればもう僕の出番がぁ。今日こそはと思ってたのになぁ。

 

「・・・・ピンク」

 

あれ?紫じゃないの?

マスターの回答に首をかしげる。

 

僕が疑問に思った通り、クイズの正解は紫でマスターの間違えとなった。

 

そして不正解のペナルティによってエースバーンの防御と特防が大きく下がってしまう。

これではバトンタッチでロズレイドにステータスを受け継がせるのに危険が生まれてしまうことになる。

 

マスターは一体どうしてこんなことを?

これでは一発の攻撃でとてつもないダメージを・・・・・っ!?

 

そうか、そういうことなんだねマスター!!

 

僕の思考がマスターの思考にようやく追いつく。

なんということだ、マスターは僕のために()()()()()()()()()

 

僕が欲求不満であることに気付き、それを解消させるためにワザと間違えて彼女のステータスを下げた。

そしてその下げたステータスの変化を僕が受け継ぐ。

 

それによって僕にとっての完璧な(気持ちの良い)ステータスが完成される。

 

ふふ、さすがマスター。僕の考えなんてお見通しなんだね。

やっぱりマスターは最高だ!こんなに僕のことをわかってくれる人なんて他にはいないよ!!

 

しかもダメ押しと言わんばかりに相手からの防御のステータスが下がる『いやなおと』をくらう。

ふ、さすがマスター。僕の期待のさらに上を行く。

 

「ピカ!!」

 

心からの尊敬の気持ちを込めてマスターを呼ぶ。

じっとフィールドを見つめていたマスターが僕の声に反応してこちらを向く。

 

「・・・・行きたいのね?」

 

「ピカチュウ!!」

 

マスターの言葉に頷く。

ここまでお膳立てされて行かないなんてことを僕がするわけがない。

 

僕の力強い頷きにマスターはふっと力が抜けたように苦笑いを浮かべる。

 

「もう、あなたは本当にしょうがないなぁ。よし!行こうピカチュウ!!」

 

張り切り過ぎたかな?

マスターの苦笑いに恥ずかしさを覚えながらもフィールドへと駆け出す。

 

フィールドにいたエースバーンが近づく僕に気付いて振り返る。

 

「ヒバァ」

 

彼女もまた近づく僕を見てマスターと同じように苦笑いを浮かべていた。

どうやら彼女もマスターに事前に教えてられていたようだ。

 

これがサプライズってやつか、恥ずかしいけどすごく嬉しいや!

 

「ピカ!」

「ヒバァ!」

 

彼女とフィールドを交差する瞬間、僕と彼女の手が重なる。

 

これで彼女のバトンが僕に渡された。

 

 

さぁ、ここからずっと僕のターンだぞ!!

 

彼女のバトンタッチした僕は立ち止まることなく相手へと突き進む。

せっかく彼女達が用意してくれたサプライズだ、遠距離で戦うなんて勿体ないことは絶対にしないぞ!

 

「っ!ほぉ、勇気ある坊やだね!!」

 

相手は僕の一切躊躇わずの直進に硬直していたけど、すぐに攻撃の準備に移る。

 

相手のステータスを元に戻す技は厄介だけど、今の僕に使うかは微妙だ。

その一瞬の躊躇いの間に厄介なマタドガスを倒させてもらう!!

 

「マタドガス、ヘドロばくだん」

 

相手の指示によって僕の身体程あるヘドロが放たれる。

ふふ、待っていたよ。

 

目の前に迫る攻撃に思わず笑みを浮かべる。

今の僕は防御と特防が大きく下がっている状態。

 

それはつまり通常の状態よりもさらにダメージがある(気持ちの良い)状態であるということ。

 

これによって導き出される答えは

 

「ピカァ!!」

 

「ってそれでも直進かい!?少しは躊躇ったらどうだい!」

 

え?気持ちの良いことがあるってわかってるのに躊躇うわけないじゃん。

 

欲を言えば特殊技じゃなくて物理攻撃がよかったなぁ。

防御は特防よりももう一段下がってるからね、きっとくらったらそれはもうすごいことになるに違いない!

 

まぁでも最初の一発目だしね。

最初は味見ってやつさ。

 

相手の言葉に心の中で返答すると同時に相手の攻撃が僕に被さる。

毒をもったヘドロが僕が焼き尽くそうと煙を上げる。

 

ピ、ピカチュウ!(こ、これは期待以上!)

 

身体に伝わるダメージ(気持ちよさ)に賞賛が漏れる。

これがステータスの下がった恩恵か。

 

ふ、常時この状態でもいいのよ?

 

ヘドロが完全に僕に被さった後にそれらが爆発を起こす。

なるほど、だからヘドロばくだんだったのか。

 

爆発の衝撃に吹き飛ばされそうになる身体を必死に抑えて直進を続ける。

まだまだ受けたいところだけど、マタドガスだけは最短で倒してしまいたいのだ。

 

「っ!?」

 

相手は止まらない僕の直進に完全に動きを硬直させる。

残念だけどすでに僕の攻撃範囲だ。

 

「ピカチュウ!アイアンテール!!」

 

マスターの指示に従ってしっぽを硬質化させて相手に振りかぶる。

さぁ!このままじゃ僕のしっぱが当たっちゃうよ!

 

以前の闘いで君は鋼の攻撃が苦手だってことはわかってる。

さらにエースバーンからのバトンタッチで攻撃力もがっつり上がってるし、何より君はすでにダメージを受けている。

 

つまり君にはこの攻撃に耐えることは出来ない!

 

この距離じゃ溜めの長い技は無理、出来ることは限られている。

だから、さぁ!君の最強の技(だいばくはつ)を使うんだ!

 

この状況でもっとも有効な手はそれしかない!

 

「ピッッッカ」

 

・・・・まだ?

 

あの、そろそろしっぽの溜めも限界なんだけど。

あ、まだ溜めの準備に時間がかかる?

 

しょうがないなぁ、じゃあ気持ちゆっくりしっぽを振ってあげよう。

 

・・・・ねぇ!硬直してないで動いてよ!

 

「ピカァ!!」

 

十分な溜を使って放たれた渾身の一撃は相手を容易く吹き飛ばす。

弱点かつ攻撃力を増加させた一撃に耐えられるはずもなく相手は目を回して動かない。

 

『強化されたピカチュウのしっぽが相手を一閃!いやぁ、特防も下がっているのに相手の攻撃をものともせず進んだ時には思わず声が洩れました!そしてその後のまるで主人の怒りを代弁するかのような溜めに溜めたアイアンテール!これは彼がどこまで進むのか楽しみになってまいりました!!』

 

解説者から間違った解説が耳に入る。

んーマスターは別に怒ってないよ?マスターのことで勘違いはしてほしくないなぁ。

 

「ピカ!!」

 

僕は自身の思いを乗せて精一杯鳴く。

その時に指を解説者がいる方向へ向ける。

 

伝われ僕の思い!

 

『っ!?これは粋な演出です!こちらに指をさしながら堂々と鳴くピカチュウ!失礼しました、自分の活躍は終わらないということですね!これが俄然楽しみになってまいりました!』

 

ふっ、まったく伝わらないぜ。

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

ピカ視点はやっぱり書いてて楽しい。


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ドMなピカチュウは『バトンタッチ』をくらう③

今回でポプラ戦終了です。


面白ければ感想、評価をくださると嬉しくてモチベーションが上がります。




「ピッカ!!」

 

「クチッ!!」

 

『ピカチュウとクチートの接近戦が終わらない!両名譲りません!!まるで離れたら負けだと言わないばかりに技をぶつけあっているぞ!!』

 

「・・・・いやいや、少しは離れた方がいいんじゃないのかい?」

 

フィールドで戦う彼を見て思わずそう呟いてしまう。

 

彼のしっぽと相手の牙がぶつかり合って火花を生み出す。

そしてすぐにお互いに構え直して再びぶつかり合う。

 

試合は二戦目にして最高潮に達しようとしている。

ポブラさんが出した二体目のポケモンであるクチートに彼は変わらず接近戦を挑んだ。

 

別にそれに対して文句をいうつもりはないし、正しい選択とさえ思う。

 

でも僕が最適解だと考えた接近戦のやり方は彼のような防御を捨てた『ガンガンいこうぜ』では断じてない!

 

普通そこは付かず離れずの距離で相手の攻撃を躱しながら自分の攻撃を徐々に当てにいくところじゃないかな!?

防御と特防が下がってるかわりに攻撃特攻と速度が高くなってるんだから、それを生かして戦いなよ!

 

「うぅ、君さぁ!主人公なんだからもっとこう!スマートな感じでさぁ!!」

 

僕はやるせない思いをつい口に出す。

ユウリもユウリで何も言わないし!

なんで満足そうに口元を緩めてるのさ!

 

君の闘い方はかしこくスマートにじゃないのかい!?

 

あ、ほらまた攻撃をくらった!

今のなんかある程度距離をとってたら10まんボルトで牽制して躱せたじゃないか!

 

もう何回噛まれたら気が済むんだよ!

君の身体もう歯形でいっぱいになっちゃうよ!?

 

僕はやだよ!?歯形だらけの主人公を書くなんてさ!!

 

「・・・・しまったなぁ。彼がメインで戦うのは初めて見たけど、まさかこんな感じだったなんて」

 

正直言うともっと圧倒的な戦いをすると思っていた。

相手を寄せ付けず、どんな不利な盤面だろうと強引にひっくり返す。

 

・・・・あいつのような戦い方を。

 

「・・・・勝手にあいつと重ねてしまってたんだね僕は。同じピカチュウだからかな」

 

似ているところはあると思う。

最初に僕を見破った洞察力なんてまさに一緒だ。

でも闘い方は大きく違う。

 

あいつの闘いは無駄のない動きと、そして自身の圧倒的な威力の電撃を使って相手を倒す。

いうならば才能の暴力だ。

 

でも、彼にはとてもそんなことが出来るとは思えない。

相手の攻撃はくらいまくるし、電撃も正直いうと平均より下なくらいだ。

攻撃特攻が上がっているのに相手を倒しきれないのがその証明になってしまう。

 

残念ながら才能があるとは言えない。

 

「なんていうか、君はあいつとほぼ真逆の闘い方をするんだね」

 

才能のあるあいつと才能のない君。

 

あいつはスマートにそして圧倒的な戦い方をする。

だけど君は泥臭く、そしてギリギリな戦い方をする。

 

残念ながら僕の考えている主人公の姿とは大きく離れてしまっている。

 

「・・・・不思議、なのにどうしてか君から目が離せない」

 

綺麗な戦い方じゃない。

僕の好む闘いじゃないし、主人公の闘い方でもない。

 

なのにどうして。

 

「パパ!見て見て!あのピカチュウ!!」

 

僕の言葉に被さるように隣で試合していた少女が口を開く。

彼女はあのピカチュウを見てなんていうのだろうか。

 

子供は正直だ。

 

自分の目で見て感じたこと、思ったことをそのまま口に出す。

それはつまり、彼女の目に彼はそう映っているかがはっきりとわかる。

あいつを見た時の反応はさまざまだった。

 

憧れ、畏怖、恐怖。

 

いずれも自分(凡人)とは違う者を見た時の感想だ。

そしてそれが特別な存在、主人公の証の一つでもある。

 

それに対し、彼は。

 

 

 

 

 

「あのピカチュウ!すっごく楽しそう!!」

 

 

 

「っ!!」

 

目を輝かして彼を見つめる少女の言葉に目を見開く。

つられて彼に目を向ければ、確かに笑っていた。

 

僕らから見ても楽しんでいるというと伝わるほどの歓喜。

彼は今、心の底からバトルを楽しんでいる。

 

すごいすごい!次はどんな技を出すの!?僕も負けないぞ!

 

言葉などいらない、彼の動きや表情からすべてが伝わってくる。

 

対戦相手を見れば、観客と同じように彼に影響され、笑みを浮かべながら全力でバトルを楽しんでいた。

 

相手をリスペクトし、自分もベストを尽くす。

 

彼は今まさにポケモンバトルの面白さというものを全力で体現しているんだ。

 

「ピカチュウがんばれー!!そこだ!あう!ま、負けるなー!!」

 

僕の横で少女が大声で彼に声援を送る。

いや、彼だけじゃない。

 

『いけー!負けるなー!』

 

気が付けば会場全体から彼への声援が届いていた。

彼のバトルは決してきれいなものではない。

むしろ泥臭く無駄の多い。

 

だけど、全力で楽しんでる。

 

そのたった一つの事実でこの会場の全員を魅了してしまった。

 

「・・・・君は一体、何者なんだい?」

 

初めはあいつ(主人公)と同じだと思った。

けど違う。

でも、(偽物)とも違う。

 

ただただありふれたポケモンの一匹だ。

なのに、すごく惹きつけられる。

 

 

「知りたい」

 

君のことを。

君の正体を。

 

僕に芽生えたこの感情の正体を。

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい!!

 

今の僕の心境を現すならシンプルにその一言に尽きる!!

 

相手が出してきたクチートに僕は接近戦を持ち込んだ。

相手も遠距離技をもっていなかったのか僕の誘いに乗ってくる。

 

ふふふ!ついに物理攻撃(お楽しみ)の時間だ!

マスターが用意してくれたボーナスタイムだ、全力で満喫させてもらう!

 

接近戦に持ち込んだところ、早速相手の大きな口が僕を飲み込もうと迫る。

それに対し僕は噛まれながらも反撃を加える。

 

おっふ、これは『かみくだく』だね。久しぶりにくらったけど『きりさく』とはまた違った気持ち良さだ!

 

『きりさく』ってくらうのが一瞬なせいでインパクトが少ないよね。

それに比べて『かみくだく』は吹き飛ばされることがないから何回でもくらえてお得だと思う。

 

普段であれば無抵抗で咥えられるのもやぶさかではないんだけど、これは勝負だからね!僕も勝つために反撃をしなくちゃいけない!

 

「ピッカ!」

 

噛まれながらも電撃を発生させて相手へダメージを与える。

特攻も上がってるから相手は辛そうだ。

 

相手は僕の攻撃に耐えかねたのか噛んでいた僕を吹き飛ばす。

それに対し僕は相手の口を掴んで吹き飛ばされるのを防ぎながら相手への攻撃を続ける。

 

ぐへへ、絶対に離れないぞ!僕と一緒に楽しもうじゃないか!!

 

ここからはお互いノーガードの殴り合いだ!

 

『アイアンテール』を相手にぶつける。

それに対して相手も巨大な口を硬質化させて僕へぶつけてくる。

 

僕がそれを受け止めると同時に相手と目が合う。

僕が相手の攻撃の心地よさに笑みを浮かべると相手も同じように笑みを浮かべる。

 

その瞬間、僕たちは確かに通じ合った。

 

僕がM(受け)、君がS(攻め)だ。

 

視線が合ったのは一瞬。だけど僕たちにはそれで十分だった。

 

ふ、これが以心伝心ってやつか。

 

さぁ、どんどんいこう!

 

 

 

 

 

『申し訳ありません。私は正直なところ、ピカチュウはきっとどこかで倒れてしまうのではと思っておりました。しかし、彼は!仲間から預けられた意志を今も繋ぎ続けております!!』

 

「ピカァァァ!!」

 

実況の言葉に答えるように彼は吠えながら走る。

クチートと超接近戦を繰り広げた彼はポプラさんの繰り出した三匹目のポケモンである『トゲキッス』とバトルを続けている。

 

相手は遠距離技が得意なトゲキッス。

先ほどのような戦い方は出来そうにはない。

 

そのため先ほどのほとんどをポケモン同士に任せる闘い方ではなく、お互いのトレーナー同士が指示を出し合う闘い方に変化していた。

 

そしてその闘い方でユウリとピカチュウはまるで意志が繋がっているかのような鋭い動きを発揮している。

 

ユウリはポプラさんの先読みをしているかのような指示に対して的確で鋭い指示で超えようと挑む。

そしてピカチュウはユウリの指示に一切のタイムラグを発生させることなく応えていた。

 

あのシンクロのような動きはお互いが完全に信頼し合ってないと成しえることは出来ない。

 

先ほどのクチート戦でかなり我が強いと思った彼だけど、ユウリが指示を出し始めた途端驚くほど素直に指示に従い始めた。

 

その動きはユウリなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と確信しているかのように迷いがない。

そしてユウリもピカチュウなら自分の求める動きに必ず応えてくれると確信しているかのようだった。

 

その彼女達の鋭い動きはやがてポプラさんの先読みを上回り始める。

 

「そこ!10まんボルト!!」

 

「ピカ!!」

 

ユウリの声に反応してピカチュウは電撃を放つ。

ユウリの冷静な観察眼で誘い込まれた所にトゲキッスが飛び込む。

 

ユウリの誘導した場所に完璧なタイミングで放たれた電撃。

それに対し相手は対抗することが出来る手札は何もなかった。

 

『ピカチュウの10まんボルトが直撃!!効果抜群である電撃を受けたトゲキッスはたまらず地面へと撃墜!そのまま戦闘不能になってしまいました!!』

 

「よし」

「ピカ!」

 

相手が倒れたことを確認した彼女達から喜びが洩れる。

これでポプラさんのポケモンは残り一匹。

 

それに対してユウリはピカチュウ以外はほぼ万全な状態。

すでに勝敗は決定したようなものだった。

 

「ピカッ」

 

相手が倒れたことでダメージを自覚してしまったのか足から力が抜けたかのように膝をつくピカチュウ。

当たり前だ、守りのステータスが削られた状態で三連続で戦ったのだから。

正直今まで戦えていたこと自体が僕には信じられない。

 

「あう・・・・ピカチュウ、大丈夫かな」

 

僕の横で少女が心配そうに彼を見つめている。

周りの観客たちの目線からもすでに彼が戦える状態ではないことをわかっているようだ。

 

それはそうだ。ここまで一匹で大暴れしたのだから、身体はボロボロに決まってる。

だから後は他のポケモンに託して勝利を見届けてるだけでいい。

それが当然でそれ以外にとれる選択なんてない。

 

だけど、それでも期待してしまってる自分がいる。

僕だけじゃない、隣で彼を見つめる少女も言葉にせずとも期待してしまっているだろう。

 

彼がこのまま戦い抜く姿を見たい。

ポプラさんのエースポケモン、そして確実に起こるダイマックス。

 

それに対し、彼はどう立ち向かうのか。

 

「パパ、ピカチュウ交代しちゃうのかな」

「そうだね、さすがにピカチュウも疲れただろうし、これ以上はもう」

 

「ううん、きっと彼はこのまま戦うんじゃないかな?」

 

寂しそうにフィールド見る親子に僕は告げる。

これは期待じゃなく、予感だ。

 

「だってほら、彼はまだ全然満足していない」

 

彼の表情を見て思わず苦笑いを浮かべる。

 

次は何!?どんなことが起きるの!?

そんなことを考えてるであろうことが容易に読み取れる。

 

「・・・・ピカチュウ」

 

「ピカ?」

 

フィールドでユウリがピカチュウに呼びかける。

ユウリの声に反応して彼はボロボロの身体を動かして彼女へ振り返る。

 

ボロボロの彼を見たユウリは何かに耐えるように唇を噛んだ後、ゆっくりを口を開いた。

 

「楽しんでる?」

 

「ピカ!!!」

 

ユウリの絞り出した言葉に彼は満面の笑みで即答する。

その声に一切の負の感情は乗せられていない。

 

今を本当に楽しんでいるんだと確信させられた。

 

「・・・・よし!次で最後だよピカチュウ!!あなたなら絶対に勝てるわ!!」

 

「ピカチュウ!!」

 

ユウリの応援に彼は大声で応えながらフィールドを駆ける。

その姿を見た観客たちは今日一番の声援を彼に送った。

 

『な、なんとピカチュウがまさかの連戦です!!もうボロボロだというのにその戦意は衰えるどころかより熱く燃え続けています!私達もピカチュウの雄姿に声援をもって答えましょう!!』

 

「本当に真っ直ぐな子だねぇ、でも勇敢と無謀は違うよ」

 

フィールドをかける彼に対しポプラさんは最後のポケモンを繰り出す。

 

『ポプラさんの最後はやはりエースポケモンであるマホイップです!!さぁ、最後のバトルが開始され、その前にクイズの時間です!!

 

「いやもういいよ!?」

 

実況の言葉に思わずそう叫んでしまう。

 

えぇ、そこは空気読もうよ。

今のどう考えてもそのまま最後のバトルを始める流れだったじゃないか。

 

『さぁ最後のクイズの内容は!?ポプラさんどうぞ!!』

 

 

 

「さて・・・・あたしの 年齢は?」

 

 

 

「どうでもいいわーー-!!!」

 

嘘でしょ!?こんな盛り上がってる中そんなこと聞く!?

しかもパネルに出てる選択肢が88歳と16歳しかないんだけど!?

 

いや88歳じゃん!88(ババァ)じゃん!なんで読み方で変なミラクル起こしてるんだよ!?

それに16歳はないでしょ!せめてもう少し近い年齢の選択肢を出しなよ!?

 

「はぁ、はぁ、もうユウリさっさと答えて倒しちゃえ!!」

 

「うん、気持ちはわかるけど落ち着くんだお嬢ちゃん」

「あはは!やっぱりお姉ちゃん面白い!!」

 

まぁでもこんなのサービス問題じゃん。

このクイズに正解した場合の効果によってはピカチュウの勝ち目が大きく増える。

そういう意味ではこのタイミングでのクイズは悪くない。

 

いややっぱり内容はダメすぎる。

 

「16歳」

 

「噓だよねユウリ!?」

 

まさかの答えに思わず再び声を荒げてしまう。

いやなんで最後だけ即答!?

 

今まである程度悩んでたじゃん!?

なのにどうして最後だけ迷わず間違った答えに突っ込むんだよ!?

 

えぇ、これで効果によってはピカチュウが不利になるよ?しかもそれで負けちゃったらなんかもう残念すぎるんだけど。

 

これを僕は小説にするの?いや絶対捏造してやるぞ。

 

「あんた・・・・いい答えだよ!」

 

『正解です!!クイズに正解したことによりピカチュウの攻撃と特攻が大きく上がります!!』

 

「・・・・」

 

「お姉ちゃん大丈夫?パパ、お姉ちゃんが固まって動かないよぉ」

 

『さぁバトルはクライマックスです!ポブラさんは繰り出したマホイップをキョダイマックス!!これに対しユウリ選手はどう応えるのか!?』

 

「キョダイマックスの隙は逃さない!ピカチュウ!10まんボルト!!」

 

「ピカ!!」

 

『ユウリ選手!キョダイマックスを行った隙に10まんボルトを使用!特攻が上がった電撃がマホイップを襲います!!』

 

「はっ!?あまりの衝撃に意識が」

 

どうやらユウリはキョダイマックスをするよりも上がった特攻を使うために確実な先手必勝を選んだみたいだ。

確かにエースバーンからのバトンタッチと先ほどのクイズで特攻が大きく上がっている。

だから10万ボルトでキョダイマックスをした相手を倒すことも十分にできるだろう。

 

でも。

 

『マホイップ耐えました!!やはりキョダイマックスにより体力が大きく増えている!そしてそのままキョダイダンエンで勝負を決めにいった!!』

 

実況の言葉通り彼の電撃を耐えた相手はその身から巨大なエネルギーを放つ。

キョダイマックスしたことにより放つことが出来る特別な技。

その威力は普通の技よりも遥かに強力だ。

 

「彼はもう限界だった。なのにあんな技をくらってしまったら」

 

桃色の光に飲まれて消えたピカチュウに思わず握っていた手に力が入る。

気が付けば僕は彼の試合に魅入られてしまっている。

 

彼があいつと同じなら僕は主人公の活躍を黙って見続けていただろう。

冷静に、そして勝ちの決まった試合を少し冷めた目で見ていたはず。

 

 

でも、今の僕はどうしてかすごくドキドキしている。

この攻撃は確実に致命傷だ。

 

彼が耐えられることはありえない。

なのに、どうしても期待をしてしまう。

 

僕だけじゃない、隣にいる少女も僕と同じように黙ってフィールドを見つめていた。

他の観客も静かに煙の中に姿を消した彼が現れるのを待ち続ける。

 

「・・・・ピカチュウ」

 

ユウリが小さく彼の名を呼ぶ。

 

その瞬間。

 

「ピカ!!」

 

煙から雷光が漏れた。

眩い雷光が桃色の煙を切り裂き、その中心にいる彼の姿を僕たちの視界に見せてくれる。

 

『た、耐えました!!あの状態でマホイップの攻撃を耐えきりました!し、信じられません!彼はいったい何者なのでしょうか!?』

 

「バカいってんじゃないよ。根性だけで耐えれる限界は絶対にあるんだ、だったらカラクリは必ずあるよ」

 

実況の言葉にポブラさんは冷静にツッコミを入れる。

そしてユウリに視線を向けてそのカラクリの正体を口にした。

 

()()()()だね?ピカチュウが覚える技の一つだ。この根性の塊のような坊やにあんたが覚えさせてないわけがない」

 

「・・・・」

 

ユウリはポプラさんの言葉に答えない。

しかし、ポプラさんを見つめながら誇るように笑みを浮かべる形で応えた。

 

「ピカチュウ」

 

「ピカ」

 

ユウリはキョダイマックスしたマホイップに指をさしながら彼の名を呼ぶ。

それに対し彼は短く鳴いて答える。

 

彼女の次の言葉を僕たちは確信した。

 

 

「10まんボルト」

 

 

金色の雷光が、ガラル粒子によって発生した赤黒い光を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ 『まどろみの森』

 

「・・・・」

 

「グルァ!?」

 

うるさい声を上げたポケモンが地面へ倒れる。

 

違う、あなたなんかじゃない。

 

倒れた相手を見下ろしながら霧の中を進む。

動かない邪魔なポケモン達を避けながら狭い視界を見回す。

 

久しぶりに戻ってきたけど、やっぱりここにもいない。

少しくらい手がかりがあると期待してたのに。

 

 

もうずっと探してるのよ?

 

どこなの?

 

ねぇ、どこにいるの?

 

 

 

 

 

 

ピカチュウ(パパ)

 

 

 



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小説家のメタモンは『寝不足』をくらう

「あの、送っていただいてありがとうございます」

 

「ただのついでだよ、あたしはナックルシティに用があったからね」

 

無事にポプラさんとのジムバトルを終えた僕たちはポプラさんからの提案でナックルシティまで連れてきてもらった。

 

またあの森を抜けて向かうよりもあっという間についたから助けるね。

 

「ここから7番道路を抜けて進めば6つ目のジムがあるキルクスタウンがあるよ、そこまで自分で行きな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

ポプラさんの言葉にマスターは恐縮しながら頭を下げる。

それに対しポプラさんはマスターの頭に手を軽く乗せながらつぶやく。

 

「まぁ、頑張りな。いつまでも年寄りがでしゃばる世界はよくないからね」

 

マスターにそう告げた後にポプラさんはどこかに歩いていく。

 

僕たちは去っていくポプラさんにもう一度頭を下げた後に歩き始める。

 

「よし、じゃあ早速7番道路に」

 

「いやいや、少しはゆっくりしたらどうだい?」

 

あ、僕の同士じゃないか。

次の街に向かおうとする僕たちの前に以前に会った小説家のMさんが現れる。

 

「やぁ、試合見させてもらったよ。ふふ、とても素晴らしかったよ」

 

Mさんは僕の頭を撫でながら試合を見た感想を口にする。

さすがは同士!僕の試合を見て満足してくれてよかった!!

 

「ぜひあの試合についてインタビューがしたいんだ。だからよかったらこのままカフェに行かないかい?」

 

「うん、そういうことなら。じゃあさっそくこの街で一番遅くまでやってるお店を調べないと」

 

「えっと、それなら同じホテルにしないかい?また閉店までやってお店の人に苦笑いされるのはちょっと」

 

Mさんの提案にマスターは早速近くのお店を調べ始める。

それに対しMさんは苦笑いを浮かべながら止めていた。

 

「あら、お二人とも奇遇ね」

 

僕らが話しているとたまたま僕らを見かけたらしいソニアさんが近づいてくる。

おお、なんだか前の時と一緒だね。

 

「おやソニアさん奇遇だね。もしかして前の遺跡の件でまた宝物庫を見に来たのかな?」

 

「そういうこと、そういえば試合見たわよ。ピカチュウはすごかったわね!思わず声を出して応援しちゃったわ!」

 

ソニアさんはMさんと同じように僕の頭を撫でて褒めてくれる。

いやぁ、僕としては自分が気持ちよくなるために戦っただけだから色々複雑だ。

 

「ちょうどその試合のことを話そうとカフェに向かうところだったんだよね。よかったらソニアさんもどうかな?」

 

「・・・・また閉店までコースじゃないでしょうね?」

 

「まさか、ちゃんと(朝までには)終わるよ」

 

2人の誘いにソニアさんは苦笑いを浮かべながら乗る。

何やかんやでソニアさんってすごくノリがいいよね。

 

そんな感じで三人で話しながら街を進む。

うん、マスターも楽しそうで僕も嬉しい。

 

「ピカ?」

 

「どうしたのピカチュウ?」

 

いきなり立ち止まった僕にマスターが声をかける。

あれって確か、遺跡を壊した男の子だよね?

 

僕の視線の先には大きな建物の前で立ち尽くして動かない少年が見えた。

 

「・・・・あいつは」

 

僕の視線を追いかけたマスターが相手に気付いて目を鋭くさせる。

Mさんとソニアさんも気付いたようで立ち止まって彼に目を向ける。

 

僕の視線に相手も気付いたようで相手もこちらに目を向ける。

そして僕らだと気が付いた相手は同じように目を鋭くさせて近づいてくる。

 

「ふん、ジムチャレンジの資格を剥奪された僕を笑いにきましたか。随分と余裕ですね」

 

「・・・・笑ってほしいの?」

 

「っ!せいぜい笑っていられるのも今のうちですよ!僕は諦めていませんよ!委員長のために僕はチャンピオンになります!だからまたジムチャレンジに参加できるように頼みます!」

 

マスターの言葉に彼は声を荒げながら口にする。

それを聞いたソニアさんは口を開く。

 

「・・・・委員長のためって、どうしてそこまでローズ委員長のことを」

 

確かに彼はローズさんに特別な思いがあるように見える。

彼の過去にローズ委員長はどう関わっているのだろうか。

 

「ふん・・・・委員長は養護施設で孤立していた僕を救ってくれました。僕をトレーナースクールに通わせてくださりポケモンだってくださったんです」

 

「なるほどね。だから委員長のためにってわけかい?」

 

彼の言葉に納得したようにMさんが呟く。

やっぱりあのローズさんって人はかなり良い人のようだ。

前にロズレイドの時もお世話になったし。

 

「誰ですかあなた?ええそうですよ、だから私は委員長のために「ピンク!」」

 

「っ!!?」

 

彼の言葉を遮るようにポプラさんが現れる。

んん?いやいつの間に?それにピンクとは?

 

その後もいきなり現れたポプラさんは彼の周囲をピンクを呟きながら周り、最後に肩を掴んで『おめでとう』で締めくくった。

 

「なっ!あなたはポプラさん!?いきなり何をなさるんですか!?」

 

「あんた、オリーブなんかにいいように使われてしかも見捨てられて困ってんだろう?あたしについてくればなんとかしてやらんこともないよ。まぁあんたの頑張りしだいだけどね」

 

「僕を試すんですか?いいでしょう!僕の力をみせてあげます!」

 

そう言ってポプラさんは彼を連れて再びどこかへ消えてしまう。

僕らはその流れるような一連の流れをあっけにとられながら見つめていた。

 

「な、なんだったの?」

 

「えっと、面白い状況だったね。良いネタになりそう」

 

ソニアさんとMさんは苦笑いを浮かべながら先ほどの光景について口を開く。

マスターは嫌そうな顔を隠そうともせず消えた彼を見つめていた。

 

「もういいよね。早く行こうよ」

 

「そうね、なんか疲れちゃったしカフェにでも行きましょうか」

 

マスターの言葉にソニアさんが同意する。

だけどMさんは興味深そうにマスターを見ていた。

 

「ユウリは彼のことが嫌いなんだね。やっぱりピカチュウのことをバカにされたから?」

 

「・・・・別に、なんか気に入らないだけ」

 

Mさんの質問に短くそう答えて歩き始める。

先を行くマスターを僕とソニアさんが慌てて追いかける。

 

「・・・・それはたぶん、同族嫌悪ってやつだよ」

 

先を行く僕らの後ろでMさんがそう呟いたように聞こえた。

 

 

 

 

 

さて、時間も良い感じだね。

太陽が沈んで暗くなった空を見ながら僕は腕を伸ばして伸びをする。

 

結局あのお昼にあった地震はなんだったんだろ?

ローズ委員長の事件とか言ってたけど。

 

調査するって言ってソニアはやってきたチャンピオンとどこかに行っちゃったし。

 

あとなぜかチャンピオンがユウリを見て気まずそうにしてたのが気になった。

 

まぁそれも気になるけど後でソニアに聞けばいいか。

 

まずは今のチャンスを有効に使おう。

 

ユウリと話すために同じホテルに泊まり、部屋の出入りも自由。

インタビューには絶好の機会だ。

 

ユウリからは十分聞けたし、そろそろ彼女のポケモン達の話を聞いておきたい。

 

このホテルはポケモンを出したままの連れ歩きが可能だからね。

今は各々好きな場所でゆっくりしているはず、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

「さて、まずはエースバーンからだね。安心してもらうためにヒバニーでいこうかな」

 

僕は廊下の隅で視線がないことを確認して姿を変える。

 

「ヒバァ!」

 

変身を終えて、一応確認のために鏡で自身の姿を確認する。

うんよし完璧だ!ずっと人間のままだったから不安だったけどこれなら大丈夫だね。

 

さて、じゃあ早速の彼女の下へ向かうとしよう。

 

 

 

 

「やぁやぁそこのカッコいいお嬢さん」

 

「は?いきなり何?」

 

外で星を見ていたエースバーンに僕は陽気に話かける。

よし、ちゃんと言葉は通じてるし聞こえるね。

 

「へぇ、久しぶりに同族に会ったわ。あんたのトレーナーもこのホテルにいるの?」

 

「まぁね。そういう君はユウリって人間のポケモンだろ?」

 

「ええ、よく知ってるわね」

 

彼女は久しぶりに会った同族に警戒を解いてくれたようで僕に話しかけてくれる。

よしよし、これならゆっくり話が聞けそうだ。

 

「君たちの試合は全部見てたんだ。今回の試合も頑張ってたね」

 

「・・・・あんなのまだまだよ」

 

僕の言葉に彼女は少し悔しそうにしながらそう呟く。

まぁ、確かに難しい試合だったからね。

 

ここは一気に彼について聞いた方がいいかな?

 

「いやぁ、特に印象深かったのはあのピカチュウだね。君の意志と力を彼が繋ぎ、そして見事に戦い抜いて・・・・うん、すっごくカッコよかったよ」

 

「へぇ!よくわかってるじゃない!!」

 

僕の言葉に彼女は目をキラキラさせながら機嫌をよくする。

うん、ユウリじゃないけど君もちょろいな。

 

「ぜひ彼について教えてほしい。君とどんな出会いをして、どんな冒険があったのか」

 

「ええいいわよ。でもその前に」

 

「その前に?」

 

てっきりこのまま話をしてくれる思っていた僕は首をかしげる。

彼女は首をかしげる僕に凄みのある笑みを向ける。

 

「あいつを狙うなら私より強くなりなさい!!私に勝てないのにあいつを狙おうなんて100年早いわ!!」

 

「・・・・よく理解しておくよ」

 

ピカチュウ、君この子に何したんだい?

すごい迫力の笑みなんだけど。

 

残りの彼女達に会うのは怖くなってきたよ。

 

「じゃあ座れるとこ行きましょ!あ、その前にあんたのトレーナーのとこいく?ちゃんと今日は朝まで帰らないって伝えときなさいよ?」

 

まさか君もかい?

 

ユウリの朝までコースは地震の件があってなくなったけど、まさか彼女もとは。

 

「い、いや。さすがに朝までは」

 

残りの彼女達の話も聞かないとだし。

 

「何言ってんのよ。あいつの話がそんな短い間に終わるわけないでしょ。ちゃんと私と彼が出会ってどう成長したのか細かく教えてあげるわ!!」

 

逃げようと僕の腕を彼女が掴む。

残念ながら今のヒバニーの僕では彼女には勝てない。

 

僕の長い夜が幕を開けた。

 

 

 

 

◆ ワイルドエリア 見張り塔跡地

 

「ここにはいない」

 

どこ?

どこなの?

 




読んでいただきありがとうございます。
?????が徘徊を始めました。
出会ったら・・・・。



それと気分転換でドM勘違いでオリジナルを書いてみました。
暇だったら試しに読んでみてくれると嬉しいです。

幼馴染がドMな僕が傷つこうとするのをデスループしてまで止めてくる
https://syosetu.org/novel/274750/


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小説家のメタモンは『寝不足』をくらう②

「じゃあまたね!彼について話せてよかったわ!また会った時はもっと話しましょ!」

 

「・・・・また会ったらね」

 

笑顔で去っていくエースバーンを手を振って見送る。

ホテルの窓を見れば、とてもきれいな朝日が僕の顔を照らした。

 

ふふ、やりとげたぞ。

昼から夜中までノンストップでユウリと話、その後に朝までエースバーンの話を聞いた。

まさかの睡眠時間ゼロだけど、僕はやり遂げたんだ!

 

謎の達成感から気が抜けたのかあくびが洩れる。

 

人間の姿に慣れたせいか眠気に弱くなってしまったのかな?

ひとまず部屋に戻ってチェックアウトギリギリまで寝ようかな。

 

人間の姿に戻った僕は自分の部屋に戻るために歩く。

そして部屋の扉を開ける寸前で声をかけられた。

 

「あ、おはよう」

 

タイミング悪く僕が部屋に入ろうとしたタイミングで隣の部屋のユウリが出てくる。

 

彼女の頭にはピカチュウが乗っていた。

 

頭に乗っているピカチュウからユウリの髪が変な方向に飛び出してるのが見える。

うん、これは寝ぐせをピカチュウで隠してるね。

 

「おはよう、よく眠れたかい?」

 

「ううん、昨日はこの子が寝かせてくれなくて」

 

「・・・・その表現の仕方、僕以外の前ではしないほうがいいよ」

 

どうせ彼を抱きしめて一人ではしゃいでたんだろうなぁ。

ああ、ダメだ。眠気で頭がいまいち働かない。

 

僕の言葉に答えることなくユウリは別の言葉を口にする。

 

「ちょうどあなたの部屋に行こうと思ってたの。ほら、昨日は地震とかで十分話せなかったでしょ?まだこの子についてのエピソードがあるから話しておきたくて」

 

「・・・・チェックアウトがあるから十分話せないんじゃないかな?」

 

微笑みながらそう提案してくるユウリになんとか諦めさせようと頭を働かせる。

普段なら全然聞くけど、せめて数時間寝かせてほしい。

 

「連泊することにしたからチェックアウトしなくていい。地震があったから念のため様子を見ることにしたの」

 

「・・・・そっか。じゃあ僕も連泊にしようかな」

 

「そう思って連泊にするようにフロントに言っておいたわ。だからこのまま話せる」

 

ちょっとこの子、行動力ありすぎじゃない?

もう僕が話しを聞く前提じゃん、いや確かに聞くけどさ。

ここで断ったら拗ねてもう話してくれないかもしれないし。

 

その行動力をもう少し彼関係以外に向けなよ、そうすれば友達だっていっぱいできるだろうよ。

ビートのことひねくれてるってバカにしてたけど、正直どっこいどっこいだよ。

 

「ありがとう、じゃあこのまま話せるね僕の部屋にするかい?」

 

「うん」

 

彼女の返事を聞いて扉を開けて部屋に入る。

うん、僕はこれでもプロだ。ネタのためなら眠ることなんて優先順位から見たら下だ。

 

でもピカチュウ、君が寝てるのは卑怯だぞ!

ユウリの頭の上で気持ちよさそうに目を閉じる彼に心の中で文句を言う。

 

確かに自分を褒められる話なんてあまり聞きたくないかもしれないけどさ!

それでもズルいじゃん!

 

僕は彼のツッコミを心の中だけで留めながらメモ用紙を片手にユウリの話を聞く。

さぁ、何時に解放されるかな?

 

 

 

 

 

太陽が元気に空の真ん中で輝いている。

つまり真昼です。

 

だいたい6時間くらいかな?まぁ早く終わったほうだ。

 

満足そうに帰っていたユウリに思わず疲れた笑みを浮かべてしまった。

今度の時は絶対ソニアも巻き込もう、そうしよう。

 

彼女はこのまま部屋で寝るらしい。

 

僕も寝たいところだけど、残念ながらもう眠気が飛んでしまった。

昼に寝るのもあれだし、もうこのまま他の子の話も聞いてしまおうかな。

 

残ってるのはロズレイドとエルレイド。

 

正直、彼女らもユウリ同様なかなか擦れてる感じがするんだよね。

だから比較的まともそうなエースバーンから聞いてみたけど、彼女でもあれだと彼女達の場合は一体。

 

いやいや弱気になるな僕!

いずれ聞かなくちゃいけないんだ!彼女達がゆっくりしてる時なんてほとんどないんだから今動かないと次いつ聞けるのかわからないぞ!

 

 

自分にそう言い聞かせて僕は姿をロゼリアに変える。

よし、まずは彼女からだ。

 

僕は部屋を出て彼女の姿を探す。

すると花壇の近くで水浴びをしている彼女を発見した。

 

彼女を見つけた僕はなるべく刺激しないように注意して話しかける。

 

「あら、私を見て怖がって逃げない同族とは珍しい方ですね」

 

うん、君は同族に何をしたんだい?

そう口から出るのを必死に抑えて別の話題を口にする。

 

「えっと、君たちの試合を見て非常に興味が湧いたのさ!僕のトレーナーもピカチュウに興味があって、僕も同じく興味が湧いてね。ぜひ彼について教えてほしいんだけど、どうかな?」

 

「ふむ、構いませんよ。ご主人様の雄姿を語るのは私も楽しいですし、でもその前に」

 

「その前に?」

 

僕が首を傾げると同時に彼女は僕を壁に追いやって自身の花を僕におしつける。

 

「ご主人様に害をなすことは決して許されません、それは色目も同じです。いくらご主人様が最高にカッコいいからと言って私の許可なく近づかないでください」

 

「・・・・あいあいさー」

 

ピカチュウ、君はこの子に何をしたんだい?

ユウリもエースバーンもそうだけど、何をしたらこうなるんだよ。

 

こんな状態、あいつらといた時だって見たことないよ?

 

だいたいご主人様って何さ!?君のご主人様はユウリだよね!?

あ、待って。ちょっと毒が洩れてるよ?

 

おかしいな、今の僕は毒タイプだから毒は効かないはずなのに嫌な予感がする。

 

まだ生きていたい僕は彼女の言葉に何度も高速で頷く。

それを見た彼女はようやく僕を開放してくれた。

 

「よろしい、ではお話させていただきます。あれは忘れもしません、まだ私がスボミーだったころ」

 

自分の花を離した彼女は頬を紅潮させながら彼の話を始める。

エースバーンもそうだったけど、なんで出会いから語り始めるんだろう。

 

最初から最後まで話すつもり満々じゃないか。

いやいいんだけどね?

 

彼女も彼について誰かに話したかったのか嬉しそうに語り始める。

僕はそれを黙って聞き続けた。

 

 

 

 

「おや?もうこんな時間ですか、時が過ぎるのは早いですね」

 

「・・・・そうだね、もう夕方だね」

 

夕暮れによる空の変化でロズレイドはようやく話を止めて冷静になる。

これが部屋の中だったらと思うとゾッとするね。

 

「そろそろ戻らないとご主人様が心配します。食事もしなくてはいけませんし、申し訳ありませんがご主人様の話の続きはまたの機会でも大丈夫ですか?」

 

「うん!全然問題ないよ!」

 

申し訳なさそうにこちらを見るロズレイドに僕は笑顔で答える。

今日だけでピカチュウという名前を何回聞いただろうか。

 

もうピと聞こえた瞬間に軽く拒絶反応が出てきたよ。

ただでさえその名前は好きじゃないのになんてこった。

 

「あなたももっとご主人様の話を聞きたいと思います。本当に申し訳ございません、話もまだ半分だけしかお話していませんのに」

 

今半分って言った?

 

危ない、君も朝までコースキャラじゃないか。

 

「気にしないで、また会う時に教えてくれたらいいよ」

 

「ええ、ではまたの機会に。それでは私はこれで失礼します」

 

僕に対して綺麗に礼をして彼女はホテルの中に戻っていく。

どうしよう、順調に僕が変身できないポケモンが増えていってる。

 

それと、あの子は特殊個体なのかな?

両手のバラの色は普通なら赤と青のはずなんだけど、彼女のバラは両手とも黒だ。

 

それもただの黒じゃない、深い漆黒ともいえるような色。

 

あれは僕でも模倣が難しいね。

毒も意味わからんくらい強力そうだし。

 

うん、とりあえずこの姿でピカチュウの前に出るのは絶対にやめよう。

 

 

 

 

ここまで来たら最後までいきたい。

 

それが今の僕の思いで、覚悟だ。

 

こいよエルレイド!君の惚気で僕を倒せると思ったら大間違いだぞ!

 

こっちはもうユウリエースバーン、ロズレイドの惚気を聞いたんだ!

もはやエルレイド一体恐る恐るに足らず!

 

残念だったね!惚気力が足りないんじゃない!!

ふふん、ざまぁみろ!!

 

現在深夜テンションの僕をお送りしております。

 

さて、冷静になろう。

睡眠に関しては問題ない。

人の姿に慣れちゃったけど僕はポケモンだ。

 

多少の睡眠不足は問題ない。

それに彼女達によって大分ピカチュウについてわかってきた。

 

彼は優しくそして自己犠牲によって彼女達を守る癖がある。

 

お世辞を言ってもしょうがない、彼には才能がない。

努力は相当してるようだけど、残念ながらその努力に見合った実力が付いてるとは考えられない。

 

そんな彼は、仲間が意味もなく傷つくのを酷く嫌うようだ。

バトルならギリギリ我慢できるようだけど、それ以外の不毛な争いで彼女達が傷つく場合、必ず彼が間に入って代わりに傷つく。

 

きっと彼に才能があれば自身を傷つけることなく彼女達を助けているだろう。

 

でも、彼には才能がなかった。

だから彼は、そのない分を埋めるために自らを犠牲にする。

 

「・・・・一体彼の過去に何があったんだろうね」

 

異常とも言える自己犠牲。

自分のことを軽く考えている?

 

ユウリの話で森で初めて彼を見つけた時にボロボロの姿だったらしい。

本来まだ群れにいるはずの彼がひとりでボロボロの姿。

 

きっとそこに彼の精神を構成した何かがある。

 

そしてそれはきっと、酷く醜悪で、おぞましい何かだ。

 

そうじゃなきゃ、話に聞いたような自分の命を簡単に捨てるような真似は絶対に出来ない。

 

「・・・・君は、とても辛い世界で生きてきたんだね」

 

僕なんかよりもよっぽど。

なのに僕は君のことをあいつのような主人公だと思い、勝手に期待して勝手に失望した。

僕のくだらない嫉妬で彼の優しい心を汚した。

 

「・・・・彼のために僕が出来ることはなんだろう」

 

もう小説だとか主人公とか関係ない。

彼の助けになりたい、それが僕の心からの思いで、彼の過去に触れた僕の責任だ。

 

「よし!それならなおさらエルレイドに話を聞かないとね!」

 

僕は気合を入れてラルトスに姿を変える。

 

さぁ行くぞ!!

 

 

 

 

「おや、私を見て逃げ出さない同族とは珍しいですね」

 

君もか!

君たちは同族に何をしたんだい!?

 

好奇心で彼女達の過去について聞きたいところだけど今は彼のことが優先だ。

僕は彼女にピカチュウのことについて教えてほしいと伝える。

 

それを聞いた彼女は笑顔で了承してくれた。

そして。

 

「さて、念のため言っておきますが、主様に害を与えることは決して許しません。彼に害、または不快な思いをさせたと私が判断した場合は速やかにあなたを捕らえ、生まれてきたことを後悔させてあげます」

 

彼女は僕を壁に追いやり、その刃を僕の首に添えてそう告げる。

 

ピカチュウ。

確かに君の過去を聞いて同情した、助けになりたいと思った。本当だよ?

 

でもその前に怒っていいかな?

 

どんなことをすればこうなるんだい?

 

なんで彼女達全員に脅されないといけないのさ!?

 

しかも目がマジなんだけど!目に光がないんだよ!どうやったら目の光なんて消せるんだよ!!

 

「では話をしましょうか。私も誰かに主様のことを聞いてほしかったんです!ふふふ、朝まで時間はたっぷりあります。さて、私と彼が初めて出会ったのは」

 

僕はエルレイドの話に笑顔で相槌を打つ。

やっぱり朝までコースだね。

 

ピカチュウ。全部終わったら今度は君が僕のお話を一日中聞いてもらうから。

 

絶対!絶対だからね!!

 

 

 

◇ワイルドエリア 砂塵の窪地

 

 

「ここにもいない」

 

どこ?

どこなの?

 

「よし!次で6つ目のジムだ!そのために強いポケモンを捕まえるぞ!!」

 

だれ?パパ?

 

「この前はあのビートってやつに弱いと言われて落ち込んでたけど、俺が弱いのは確かだ。そのために早く強くならないと、ってうん?()()()()()?」

 

ちがう、あなたなんかじゃない。

 

ねぇ、あなたは知ってる?

今、パパの名前を言ったよね。

 

ねぇ、ピカチュウ(パパ)はどこ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
オリジナルも書いてますので読んでくれると嬉しいです!
(でもあっちに負けるなピカチュウ!)


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小説家のメタモンは『寝不足』をくらう③

私は生まれてからずっと一匹。

 

パパとママはいない。

 

どこで生まれて、どうやって生まれたのかは覚えてない。

気が付いたら私は一匹だった。

 

そんな私が生きていられたのは、ただ運がよかったからだと思う。

深い霧が常に広がる森は私を怖いものから隠してくれた。

 

わけもわからず森の中をずっと彷徨い続けた。

霧に隠れながら森の中を進み、木の実を取り、夜はずっと震えながら過ごしてた。

 

森の中にはいろいろな姿の子がいた。

怖そうな子や強そうな子、優しそうな子。

 

いろいろな子がいたけど、その子たちには全員家族がいた。

勇気を出して優しそうな子達の前にでたこともあった。

 

けど、みんな私の姿を見ると怖がって泣いて逃げてしまう。

どうして、どうしてみんな逃げるの?

 

パパやママと楽しそうに笑う子達を私は霧に隠れながら見つめる。

 

独りぼっちなのは私だけ?

 

どうして?どうして私にはパパとママがいないの?

 

色々な姿の子達がいるけど、同じ姿の子はいっぱいいた。

だったら、私と同じ姿の子を探せば私のパパとママが見つかるの?

 

でも、私と同じ姿の子なんて一匹もいない。

私は水面に映る自分の姿を見る。

 

見たことない。私の姿はみんなと違う。

ねぇ、私のパパとママはどこ?

 

どうして私だけみんなと違うの?

こんなのやだよ。

 

もう自分の姿なんて見たくないよ。いっそのこと隠してしまいたい。

 

水面に映る私の姿が落ちた涙で歪む。

 

独りは嫌なの。

 

夜に震えながら過ごしたくないの。

みんながパパとママというのを霧に隠れて見るのはもう嫌なの。

 

・・・・私を独りにしないで。

 

そんな泣く私の前に、一匹のポケモンが現れた。

そのポケモンが私を見て首を傾げながら鳴く。

 

 

「ピカ?」

 

 

 

 

ホテルを出た僕たちは6つ目のジムがある街を目指して歩く。

昨日は一日中ホテルで休んだから元気いっぱいだ。

 

僕はマスターの頭の上で寝てたけど、Mさんといっぱいお話できてマスターもリラックス出来たんじゃないかな?

それにしてもMさんってすごいね!あんな楽しそうに話すマスターは初めて見た!

聞き上手とは彼女のことをいうのだろう。もしかしたらあれが彼女のMを満たすために身に着けた技の一つなのかもしれないね。

 

その彼女は今、死にそうな顔で僕らの後ろを歩いてるけど。

 

「ふ、ふふふ。聞き切った、聞き切ったぞ。もう2日半寝てないけど聞き切ったんだ僕は」

 

俯きながらニヤリと笑う彼女からは黒いオーラが出ているように錯覚してしまう。

一体昨夜、彼女に何があったんだろうか?

 

マスターはそんな彼女の様子に一切気付くことなく歩き続けてるし。

マスターの話によると次の町は寒いところのようで生息しているポケモンも氷タイプが多いらしい。

そしてジムリーダーも氷タイプの使い手だとか。

 

氷かぁ、ありだね!

僕の好きな状態異常の一つでもあるし、これは俄然やる気が出てきた。

氷状態とねむり状態って堂々と相手の攻撃を受けれるからいいよね。

 

僕が抵抗を出来ないことをいいことに無理やりあんなことやこんなことをしてくる相手のポケモン。

やけど、毒などの状態異常とはまた違った楽しみ方があるよね。

何回か凍ってないのに凍った振りしたり、眠ってないのに眠った振りをしてたほどさ。

 

さすがに大事なジムバトルではしないけど、たぶん!

 

「おーい!」

 

僕が次のジムバトルを想像して楽しくなってきた時、僕たちの背後から聞き覚えのある声が耳に入る。

振り返ればそこには予想通りホップがこっちに走ってきている姿が見えた。

 

「うわぁ」

 

マスターも振り返り、こっちに走ってきてるホップを見てめんどくさそうに声を出す。

うん、相変わらずマスターはホップが苦手なんだね。

 

「おっす!ユウリもここにいるってことは6つ目のジムに向かってる最中だろ?」

 

「うん、そういうホップも5つ目のジムクリアできたんだね」

 

「おう!森には迷ったけどなんとかな!」

 

マスターの言葉にホップは嬉しそうにバッチを見せる。

おお、ということはホップも随分と強くなってるってことだよね。

 

これはホップとのバトルが楽しみだ!

 

「・・・・あのポプラさんのクイズは最悪だったね、あれさえなければもっと楽に勝てたのに」

 

マスターは前のバトルを思い出して嫌な顔を浮かべる。

まぁ確かに変わったバトルだったけど、僕としては最高だったね。

 

マスターも特殊なルールを僕のために上手く利用して使ってくれて本当にありがとう。

 

「そうなのか?俺は全問正解したから逆に楽だったぞ!」

 

ホップは腕を頭の後ろで組みながら笑って告げる。

なるほど、ホップは正攻法でいったんだね。

 

確かになんやかんやで優しい問題だったのかな。

マスターも僕のためにワザと間違えなければ全問正解できたんだし。

 

「・・・・ホップが全問正解したのに、私は間違えた」

 

「お、おいユウリ?大丈夫か?」

 

なんかマスターがめちゃくちゃ落ち込んでる。

うーん、やっぱり優等生なマスターはワザととはいえ間違えたのは精神的にキツかったのも。

 

「ピカ」

 

「・・・・慰めてくれるの?ありがとう、そしてごめんねホップよりも頭の悪い私で」

 

僕が心配そうに鳴くとマスターは僕を抱き上げて笑う。

うん、マスター。すごく失礼。

 

「・・・・うーん、やっぱリ違うよな」

 

ホップはマスターの言葉に苦笑いを浮かべた後に僕をじっと見つけてそう呟く。

うん?僕に何かついてる?

 

「この子がどうしたの?言っておくけどこの子を抱くのはダメ、それは私の特権だから」

 

ホップの視線が気になったマスターは僕を隠しながらホップに尋ねる。

うん、絶対違うと思う。

 

「いや、昨日ワイルドエリアで変なピカチュウに会ったんだよ。それで見てたんだけど、やっぱり違うなって」

 

「・・・・変なピカチュウ?」

 

ホップの言葉にマスターは首を傾げる。

 

変なピカチュウって、まさしく僕のことだと思うんだけど。

でも昨日はワイルドエリアにいなかったから別のピカチュウだね。

 

これは、もしかしてまた同士が登場する流れ?

 

ふ、後ろでフラフラしているMさんといい、どうやらMはお互いに引かれ合うみたいだね。

 

「俺もすぐに逃げたからわからないんだけど、なぜか攻撃が効かなかったんだよ!」

 

「・・・・攻撃が効かない?」

 

マスターはホップの言葉に再度首を傾げる。

そして僕は一匹で衝撃を受けた。

 

こ、攻撃が効かない?

それじゃあ、つまりその子はいくら攻撃をされても気持ちよくなれないってこと!?

な、なんて可哀想な子なんだ。

 

ようやく出会えるかもしれない同族の同士にそんな悲劇が襲っているなんて。

そんな、僕に出来ることはあるのだろうか?

 

出来るなら僕はその子を助けたい!そんな状態の同士をほっとくなんて絶対に出来ない!!

 

「そう、結構怖い雰囲気があるピカチュウで捕まえずに倒さそうと思ったんだけど、なぜか攻撃が効かなくて、これはロゼリアと同じパターンだと思って全力で逃げたんだぞ!」

 

持ってたピッピ人形が全部なくなった!と笑いながら告げるホップ。

きっとその子はいくら戦っても気持ちよくなれなくて自棄になってるのかもしれない。

 

ワイルドエリアかぁ、なんとかホップに案内してもらえないかな?

 

ジムも大事だけど、それよりも同士を助けることの方が何倍も大事だ。

僕が行ってなにが出来るかわからないけど、それでも行ってあげたい。

 

・・・・まぁ、全部本当にそのピカチュウが同士だったらだけどね!!

同士だと思って心配していったら何それみたいな顔されるのは流石に恥ずかしいなぁ。

 

うぅ、どうしよう。行くべきか、行かないべきか。

 

「まぁもう逃げたから大丈夫だ!それより6つ目のジムに向けてバトルしよう!」

 

「えぇ・・・・まぁいいけど」

 

僕が悩んでる間にマスターとホップがバトルを開始する流れになる。

うーん、とりあえずバトルをしながら考えようかな。

 

バトルの後はポケモンセンターに行くかもしれないし、その時についでに案内してもらうのもありだ。

 

よし!そうと決まればバトルに集中だ!!

 

マスターとホップがお互いにボールをもって構える。

そして、お互いに最初のポケモンを繰り出した。

 

「・・・・」

 

マスター達がお互いに繰り出したポケモンに指示を出し合う中で僕の視界にMさんが入る。

あれ?どこかに行ってる?

 

Mさんならこのバトルを喜んで見ると思ったのに。

早足で去っていく彼女を僕が首を傾げながら見送る。

 

Mさんは僕らに振り返ることなくそのまま僕らの視界から消えた。

 

 

 

「・・・・さて、嫌な予感がしてホップが来た方向に戻ってみたけど、ビンゴのようだね」

 

僕は目の前に現れたポケモンを見てため息を吐く。

はぁ、ホップ君も撒くならちゃんと撒きなよ。

 

全然つけられてるじゃないか。

 

「・・・・キュキュ」

 

「悪いけど、ここから先には行かせられないな。君の雰囲気からは嫌なものを感じる」

 

相手からの黒い雰囲気を見て僕はピカチュウの下に行かせてはいけないと勘が告げる。

なんというか、この子からは彼女達と似たような雰囲気を感じるんだよね。

 

二日間半も彼女達の話を聞いたんだ、雰囲気だってなんとなくわかるようになるさ。

 

・・・・彼が僕が考えていたような主人公なら僕は何もせず見ていただけだった。

 

でも、ホテルで話を聞いて違うと確信した。

 

彼は、どこまでも普通の子なんだ。

泣きたくなるくらい優しくて、傷ついてる子をほっとけなくて助ける。

でも普通の子だからこそ、自分を犠牲にしなくては誰かを救えないんだ。

 

きっと、彼がこの子を見れば助けるために動くんだろうね。

この子が何なのか、どんな過去を背負ってるのか何もわからないけど。

 

結果として彼は間違いなく傷つく。

 

それだけは確信できた。

 

「ピカチュウの真似をしている偽物の君には同じ偽物の僕がお似合いさ」

 

相手が戦闘態勢に入るのを見て僕も変身を行う。

 

ただしあまり僕をなめるなよ。

 

君とは偽物の年季が違うんだ。

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

次回

メタモン(寝不足)VS???? 

メタモンの戦闘方法については独自設定になると思います。






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小説家のメタモンは『かえんほうしゃ』をくらわせる

僕に出来ることはたった一つだけ。

 

相手の真似をする。たったそれだけだ。

 

それは僕らの種族の特徴であり、変えようのない性質だ。

そんな僕らの基本戦術は相手の真似して戦うというもの。

 

相手の技から特性、そして身体能力すらも模倣する。

それ故にどんな強力な相手にもある程度対等に戦えるし、状況によっては勝つことだって難しくないだろう。

 

でも、僕らの闘い方は相手に完全に依存してしまっている。

 

強い敵と対等に戦えるけど、弱い相手にも僕らは対等だ。

 

なぜなら僕らは相手の特徴を全て模倣してしまう。

それは相手の弱さだって例外じゃない。

 

そして一度完璧な模倣をしてしまうと次の変身まで時間がいる。

だから弱い相手を模倣してした後に別の相手と戦うと致命傷になる。

 

本当に僕はトリッキーな戦い方しかできないね。

 

自分でも言っててため息が出るよ。

 

簡単な模倣、例えば姿と鳴き声だけを模倣するならすぐにできる。

でも簡単な模倣は見かけだけを真似ただけで技なんて使えない。

 

でもその代わりに模倣対象がいなくても変身が出来るのが利点。

でもそれは逆に言えば完璧な模倣には対象者が目の前にいる必要がある。

 

デッサンでモデルがいなければ上手く書けないように。

僕らの変身も対象が目の前にいなければ上手く変身できない。

 

所詮はモノマネ、せいぜいそこらが限界さ。

僕らの種族はよく自分たちの限界を知っている。

 

でも、それじゃあ僕は満足できなかった。

真似なんかじゃない、本物になりたかった僕は種族の限界に挑戦した。

 

モデルがいなければ上手く書けない?

だったら頭の中に染み付くほどそのモデルについて知ればいい。

 

対象が目の前にいなくても対象者を完璧に頭に描ければ僕たちの変身は完成出来る。

だから僕はひたすら観察眼を磨いた。

 

相手を観察し、見極め、相手を探る。

相手の内面を知り、癖さえも覚える。

それが出来なくては本物にはなれない。

 

ふふん!だから自慢じゃないけど相手がどんな子なのかなんて見たらすぐにわかるね!

あの子があいつと似ていると思ってしまったのは不覚だけど、それでもすぐに本当のあの子についてわかったから大丈夫!

 

僕の観察眼を騙すなんて無理だね!騙せたら何でもしてあげるよ!

 

って何を言ってるんだ僕は。

やっぱり睡眠不足はダメだね。

 

ええっと、そうだ。

モデルが目の前にいなくても変身が出来る技術は身に着けた。

だから後はモデルだけだ。

 

いくら僕でも無尽蔵に頭の中に完璧なイメージをずっと維持なんて出来ない。

だから厳選する必要があった。

 

強者の厳選、模倣するにふさわしい相手の捜索。

 

そしてその強者は探すまでもなく僕の近くにいた。

 

むかつくけど、あの赤い帽子の男の仲間たちは全員が強者だ。

それも最強だと言っていいほどにね。

 

 

 

 

 

あれは何?

 

逃げた人間を追っている時に現れた別の人間。

相手が私と戦う気だと気づいた時、人間の姿が消えてた。

 

代わりにそこにいたのは別の生き物。

 

私の何倍もある身体に翼、それに火のついたしっぽ。

口からは火を吐き、爪を光らせる。

 

今まで私が戦ってきた相手とは明らかに格が違うと理解させられた。

あんなの初めてみた。

 

もしかして私じゃ無理?

 

っ!そんなことない!私なら勝てる!!

じゃないとパパに会えないし、なによりパパに嫌われちゃう!!

 

パパに嫌われたら私は生きていけない。

 

 

ねぇ、どうして邪魔するの?

私はただパパに会いたいだけなのに。

 

でも、やっぱりパパはこの先にいるのね?

じゃないとあなたみたいな強い子が邪魔なんてしないでしょ?

 

やっと!やっとパパに会える!

 

えへへ!早く会いたいな!!

 

・・・・だからそこをどいて。

 

邪魔するなら、怖い目に会うんだから!!

 

「キュキュ!!」

 

私は、しっぽで相手を薙ぎ払おうと動く。

 

私のしっぽはパパと同じですごいんだよ!

今までだってどんな敵も吹っ飛ばしてきたんだから!!

 

「グルァ!」

 

私の攻撃に相手は爪を振って迎え撃つ。

そして私と相手が接触した瞬間

 

私は瞬く間に吹き飛ばされた。

 

「キュ!?」

 

え?なんで私が吹き飛んでるの?

混乱しながらも地面に着地する。

 

っ!私が力負けしたの?今まで負けたことなんてなかったのに。

 

私は強いんだよ?あなたも強いんだろうけど、私も負けてない!

 

力が強いのはわかったよ!

でもそれがどうしたの!だったら動き回って攻撃を当ててやるんだから!

私は地面を走り回って相手の視界を混乱させる。

 

その巨体なら速く動けないでしょ!!

私の足はとっても速いんだよ!

パパと一緒に霧の森を駆け回ってたんだから!!

 

「キュ!!」

 

私は相手の背後に回り込んでそこから攻撃を加える。

今度こそ私のしっぽをくらえ!!

 

「グル」

 

「ミキュ!?」

 

うそ?なんで反応出来るの?

 

私の攻撃が相手に刺さる瞬間、相手はそのしっぽを振るって私の攻撃を相殺する。

 

絶対死角に入ったのに!どうして私の攻撃がわかるの!?

 

私は再び衝撃で吹き飛ばされながらも次の行動を考える。

 

ダメ!こんなんじゃダメ!!

私はパパの娘なの!強くないと、戦うことが好きなパパに好きになってもらえない!!

カラクリはわからないけど、私の攻撃手段はいっぱいある。

何回でも攻撃して、必ず勝つ!

 

私が空中で相手を睨みつけた瞬間、相手の口から炎が洩れた。

 

っ!?空中で身動きが。

 

「グルァァァ!!」

 

相手の口から放たれる。

 

その炎の波は空中で身動きの取れない私を簡単に飲み込んだ。

 

 

 

 

 

ふむ、やったかな?

 

っていうのはフラグっていうんだろ?僕は詳しいんだ。

 

でも小説家の僕としてはわかってでも言わざるを得ないんだよね!

わかってでもここは言わなきゃ!みたいなのが僕の中で騒ぐのさ!

 

まぁでもこの炎はあいつの『リザードン』の炎だ。

 

このガラルのチャンピオンであるダンデさんのリザードンもすごいけど、

あいつのリザードンも負けているとは思えない。

 

完全に模倣するのに何年もかかったんだ、その代わり完璧に再現できていると自信を持って言える。

 

だからそのリザードンの『かえんほうしゃ』をくらったんだ、倒せてはいないまでも相応のダメージは与えているはずだけど。

 

「キュキュ!」

 

「っ!?」

 

僕が炎に飲まれて消えた相手に目を向けた瞬間、炎の中から相手が飛び出してくる。

無傷!?そんなバカな!?

 

「グルァ!?」

 

不意を突かれた僕は防御をすることが出来ず相手の攻撃をくらってしまう。

相手の爪に黒色のオーラが絡みつき、攻撃力を増大させている。

 

これは『シャドークロー』だね。

けっこういい威力をしてるじゃないか!

 

腹にもらった攻撃に顔をしかめながら相手を爪で吹き飛ばして距離を開ける。

やられたね、まさかこれがホップが言ってた攻撃が効かないってやつか。

 

ふむ、タイプ相性の問題ではなさそうだね。

ということは相手の特性かな?

 

んーこの地方のポケモンには詳しくないから判断が難しいね。

後でユウリに教えてもらおうかな。

 

しかし、さっきの『シャドークロー』の威力から相手のタイプはゴーストのようだね。

ピカチュウの真似をしてるから電気タイプなのかと思ったけど違うようだ。

 

「キュキュ!!」

 

相手は再び僕との距離を詰めてくる。

僕はそれを『エアスラッシュ』で牽制しながら戦略を考える。

 

ゴーストタイプに相性の良い技を持つポケモンに変身し直す?

いやあいつのポケモンへの変身には時間がかかるし疲れるんだよね。

 

だから却下。

 

まぁ、とっておきを使えば確実に勝てるだろうけどそれこそ疲れるからなぁ。

うん、やっぱり寝不足で戦うもんじゃないね、いまいち頭が働かないや。

 

「キュ!」

「グルァ!」

 

相手の『シャドークロー』と僕の『きりさく』が衝突する。

威力は僕のほうがある。

力の差によって相手は吹き飛ぶけど、空中で綺麗に一回転して地面へ着地していた。

 

めんどうだね、ここは一気に勝負を決めようか。

 

僕が大技を放つために溜を作る。

一発はもらってあげるよ、でも僕の攻撃もうけてもらうよ。

 

もしかしたらこの攻撃すらも効かないかもしれないけど、それならそれで次の手を考えるだけさ。

 

相手も僕が隙を作ったのに気付いたみたいで技を放つ気配を感じる。

先ほどまでの攻撃で君の技の威力は把握してる。

 

君の技じゃあ一撃で僕を倒すことは出来ないよ。

 

ふふん!僕を倒したかったら今の僕の弱点である電気技の『10万ボルト』でも使うんだね!

まぁ君はピカチュウの真似してるだけで本物じゃない!

 

ゴーストタイプの君には無理だろうね!ふはははははは!!

 

「ピッキュゥ」

 

あれ?なんか君の身体からバチバチって音が聞こえるぞ?

 

いやまぁ、確かに小説家として言わなければと思って振りはしたよ?

でもまさか本当に?

 

まぁ待つんだ、今の僕に電気は本当に効く。

それに今の僕は溜めの最中で回避が出来ない状態。

 

おや?これはまずいのでは?

 

僕の想像通りだと言わんばかりに相手から電気が強くなる。

 

「ピィィィ、キュウゥゥゥゥゥ!!!」

 

そして雄たけびと共に僕へ『10万ボルト』が放たれた。

 



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ファザコンなミミッキュは『10万ボルト」をくらわせる

こっそり再開します(なお一年以上ぶり)

これからは週一で投稿していく予定です。



これは私の大切な思い出の始まり。

 

「ピカ?」

 

水面に映る自身の姿を見ながら泣いていた時に彼は現れた。

 

「っ!」

 

小首をかしげながらこちらを見る相手に気付いた私は慌てて涙を拭う。

見たところ、強そうにも怖そうにも見えない。

 

だったらまた私の姿を見たら怖がらせちゃう。

 

そう判断した私は相手の視界から外れようと物陰に移動しようと動く。

 

「キュっ!?」

 

しかし慌てて移動しようとしたせいでこけてしまった。

 

このままでは地面に身体を擦らせてしまう。

それを予期して反射的に目をつぶったが、予想していた衝撃も痛みも訪れはしなかった。

 

不思議に思って目を開けると、誰かが私を抱きとめてくれてた。

 

そしてそれが可能なのは今この場には彼しかしない。

 

恐る恐る視線を下から前に向ける。

 

「ピカチュウ?」

 

予想通り、彼は私の目の前にいた。

 

私を見て怖がることなく、それどころか、心配そうにこちらを見つめながら。

 

「みっ!?」

 

私はそれに気付いて一瞬固まるけれど、それでもすぐに離れ、彼の横を抜けて霧の中に飛び込む。

 

私を怖がってなかった?

 

どうして?私が怖くないの?

それどころか心配そうな表情まで。

 

初めて向けられた表情に困惑しながら霧の中に身をひそめる。

 

そしてこっそりと霧の中から彼の様子をうかがう。

 

彼は私が消えた方向に首を傾げながらも、少しすると水辺に行き、水を飲みだす。

 

・・・・痛そう。

 

身を潜めながら彼を見れば、彼の身体の状況がよくわかった。

 

全身に傷があり、どうして動けるのか不思議なほどだった。

 

そんな彼は水を飲んだ後、そのまま地面に倒れ込むように転がり、そのまま寝息を立て始めた。

 

「・・・・キュ」

 

いつもなら相手が傷ついていようと無視して逃げるんだけど、その時の私はどうしてか彼のことを放っておくことが出来ず、いつも私が寝ている場所に隠していた自分用の木の実を取りに戻った。

 

「マドォ」

 

「っ!?」

 

びっくりした。

私の住処の近くにいるポケモンだ。

 

私を見ても怖がるどころか襲ってくるポケモン。

 

見つからないように戻らないと。

幸い相手は私に気づいておらず霧の中をいつものように隠れて進むことでバレずに移動できた。

 

そして木の実をもって戻ると、彼はまだ寝息を立てたまま眠っていた。

 

私は彼が起きないようにそっと近づいて彼の傍に持ってきた木の実を置く。

そしてそのまま黙って霧の中へ戻ろうとした時。

 

「・・・・ピカ?」

 

「っ!?」

 

彼は目を開けて不思議そうに私を見つめる。

不意打ちで声をかけられ私は固まってしまう。

 

そして彼は私が置いた木の実を見ると、もらっていいの?と言っているかのように手にもってこちらを見つめてくる。

 

私が肯定するために頷くと、彼は嬉しそうに鳴いて木の実に口をつける。

 

「キュ・・・・」

 

私は彼が木の実を食べるのを俯きながらチラ見する。

やっぱり怖がってない。襲ってくる様子もないし。

 

初めての反応に私は戸惑いながらもその場から離れることなくとどまり続ける。

私を怖がることもなく、襲いかかってこない。

 

「ピカ!」

 

木の実を食べ終えた彼は嬉しそうに鳴いて私に近づく。

そして目の前に来ると満面の笑みを浮かべて私に向かって大きく鳴く。

 

それは私にお礼を言っているのだとすぐに気が付いた。

 

「キュキュ・・・・」

 

私に向かって笑いかけてくれた彼に対して私がどう反応していいかわからず俯いたまま小さく鳴くことしかできない。

 

 

彼は私を怖がっていない。

 

瞬間、脳裏に過るには今まで何度も見てきたほかの親子の姿。

 

・・・・家族のいない私には手に入らないもの。

 

 

もしかして彼なら・・・・私と一緒にいてくれる?

 

 

彼の態度を見てそんな希望が私の中で芽吹く。

 

「キュキュ「ピカ!?」

 

私がおずおずと彼に話しかけようとしたとき、突如として彼が鋭い声を上げる。

 

慌てて彼の目線を追うと後ろから大きなポケモンがこちらを睨めつけていることに気が付いた。

 

「マドォォォォ!」

 

あれはさっき見たポケモン!

そんな、あの時バレたの!?

 

相手の目線は彼ではなく私に向けられている。

その眼には気味の悪いものを排除しようという意思がはっきりと伝わってきた。

 

うぅ、どうして私がそんな目で見られなきゃいけないの・・・・。

彼に少し期待して心を開いていたせいか、閉まっていた弱音が漏れる。

 

私はただ、みんなと同じようにパパやママと一緒に暮らしたいだけなのに。

 

知らぬ間に涙が溢れ、私の視界を濡らす。

 

「マドォォォォォ!!」

 

泣く私の元に相手が咆哮を上げながら近づいてくるのがわかった。

 

「キュ・・・・」

 

避けることができないと理解した瞬間、景色がスローモーションになっていく。

痛いかな、今まではすぐに隠れてたからあまり痛い思いはしてこなかった。

 

もしかしたら痛くて動けなくなるかも。

 

ああ・・・・こういう時、親がいれば私を守ってくれたりするのかな?

 

スローモーションの世界の中、私の頭の中で先ほど思い出した親と子供の姿が浮かび上がる。

 

私を見て怖がっていたポケモン達。

 

私から子供を守ろうと自分たちの後ろに隠そうとしてたなぁ。

 

もしこの場にパパやママがいたら、なんて妄想をしてみるけれど、当然ながらそんなことはない。

 

私と相手の間にはなんの障害物も「ピカ!!」

 

「キュ!?」

 

スローモーションになっていた世界が急に加速する。

 

元に戻った世界では私と相手の間にボロボロの彼が割り込んできていた。

 

先ほどまで妄想で生み出されていた親の姿が彼と被る。

 

ピカァァァ!(んほぉぉぉ!)

 

私と相手の間にギリギリのタイミングで飛び込んでしまった彼は反撃をすることも許されず相手の突進をくらってしまう。

 

しかし吹き飛ばされる直前、彼の身体から電撃が走った。

 

「マドォ!?」

 

反撃をくらうとは思っていなかったらしい相手は驚き、そのまま霧の中へ走り去っていく。

 

っ!?彼は!?

 

相手が完全にいなくなるのを確認する間もなく彼が吹き飛ばされた方向へ走る。

 

ピカ、ピカチュウ(ふぅ、55点かな)

 

少し走ると彼の姿が現れる。

よかった、無事みたい。

 

ボロボロの姿の彼だったが足取りはしっかりしている。

私が安心して息を吐くと彼が近づいてくる。

 

「ピカチュウ?」

 

彼は心配そうな表情で私の身体を見つめる。

 

「キュキュ」

 

彼からの視線に慌てながらもその場でじっとしていると彼は安心したかのように息を吐いていた。

どうやら私に怪我がないことを確認してくれていたようだ。

 

「ピカァ」

 

安心したのか彼から欠伸が漏れる。

そういえば先ほどまで寝ていたのだった。

 

彼は眠たげに目を細めながら元の場所に戻っていく。

 

あ、待って。

 

「っ!キュッキュ!!」

 

去っていく彼を無意識に追う。

さっき私をかばってくれた彼の姿がいつか見た親子の姿と重なった。

 

先ほどの光景がどうしても頭から離れてくれない。

 

 

・・・・もしかして彼なら本当に。

 

 

先ほど生まれた希望の種。

 

そこに与えられた先ほどの光景という水。

 

それは確かに私の希望の種に芽を出させていた。

 

 

 

 

「ピッッキュゥゥゥゥゥ!!」

 

私の渾身の電撃が相手に直撃する。

砂埃で相手の姿は見えないけど、手ごたえはあった。

 

パパが得意だった電撃の技、私も使えるようにずっとずっと練習してようやく物にした技だ。

 

いくら相手が強くても、無傷じゃすまないはず!

 

こいつさえ倒せばきっとパパに会える。

 

・・・・早く会いたいなぁ。

 

「やれやれ、ちょっと焦っちゃったよ」

 

「っ!?」

 

砂ぼこりの向こうから声が届く。

それも私と同じ鳴き声で。

 

固まって動けなくなった私の目は、砂埃が晴れるにつれて相手の姿を捉えた。

 

「ふむ、君の特性はどうやら一度だけ攻撃を無傷で耐えれるようだね。こんな強力な特性があるなんて驚きだよ」

 

砂埃が晴れた先には先ほどまでいた火を吐く巨大なポケモンの姿はなく、代わりに現れたのは私と全く同じ姿をしたポケモンだった。

 

わ、わたし?

 

どうして私があそこにいるの?

 

まるで水面を見ているかのように私と同じ姿に固まったまま動けない。

 

そうやって固まる私に気付いた相手が言葉を飛ばす。

 

「ああ、驚いたかい?僕は色々な姿になれる能力があるんだ。この場にいないものになるのは時間がいるんだけど、目の前にいる相手になら、こんな風にすぐになれるのさ」

 

そう言った相手はくるりと自分の姿を見せるように回る。

 

最初は人間だったのに、気が付いたら全く別の姿になっていたのはそういうことか。

 

「被り物なんてしているから真似るのに少し手間取ってしまったよ。でもこれで君の特性は把握できたよピカチュウの偽物さん」

 

「っ!!」

 

偽物?

 

こいつは今なんて言った。

 

「違う!!」

 

私が相手の言葉に心から叫ぶ。

 

「私は偽物なんかじゃない!ほらちゃんと見てよ!私の姿を!!偽物なんてひどいこと言わないで!!」

 

「・・・・同じ偽物として忠告しておくよ。いくら真似ようと偽物は偽物さ。君はピカチュウじゃない」

 

私の叫びに相手は恐ろしく冷めた声でそう返してくる。

 

うぅ、違うもん!だって私のパパはピカチュウなんだから!!

相手の言葉に涙が込み上げてくる。

 

「・・・・君がどうしてユウリ達を狙っているのかわからないけど。このまま引いてくれるならなにもしない」

 

でもそうじゃないならっと言葉を続けながら攻撃態勢へと入っていく。

 

「ユウリ?そんなの知らない!私はピカチュウ(パパ)に会いたいだけ!だからそこを退いて!」

 

目の前の相手は私よりも強い。

悔しいけど認めなきゃいけない。

 

でも、それでも負けるわけにはいかない!

 

 

「・・・・んん?」

 

「私はピカチュウ(パパ)の娘!パパにふさわしい娘になるためにいっぱい修行して強くなった!やっと会えるの!だから邪魔しないで!!」

 

「ん?んんんんん?ちょっと待って、ピカチュウ(パパ)?」

 

「パパはパパだよ!」

 

「・・・・え?嘘だよね?あれでもあの10万ボルト思い返してみればそっくりな気が」

 

相手はなぜか戦闘態勢を解いて悩み始める。

なにかをブツブツとつぶやきながら時折私を見つめてくる。

 

私も突然の相手の行動に訝しみながらも動きを止める。

 

「・・・・ちょっと詳しく話を聞かせてくれるかな?」

 




もし活動報告見てくれてた方々。
遅れてしまい申し訳ございませでしたー-!!


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ドMなピカチュウは『じゃれつく』をくらう

彼と出会ってからしばらくの時が過ぎた。

 

あの日去っていく彼を追いかけていき、そのあとから行動を共にするようになった。

最初は私がついてくるのを不思議そうに首をかしげていた彼だったが、けっして私を追い出すことはなく、それどころか優しくさえしてくれた。

 

生まれてからずっと一人だった私に初めてできた一緒にいてくれる存在。

 

深い霧の中で独りぼっちで過ごしていた私は彼に依存するまで時間はかからなかった。

 

 

 

キュッキュ!(パパ!見て見て!!)

 

私はようやく完成したものを身体に被ってパパに見せる。

 

それは森に落ちていた物を作って作り上げた()()()()()()()()()()()

 

私とパパの姿は当然違う。

でも私はそれが嫌だった、私はパパの娘なんだからパパと同じ姿になりたい。

 

そう思って作り始めた着ぐるみ、不思議と作り方が頭に浮かんで完成して被った時にはとても落ち着いた。

 

()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()

 

その不自然な安堵に少し困惑したけれど、それ以上にパパと同じ姿になれたことが嬉しかった。

 

「ピカ!」

 

パパは声で私だと気づいたのか驚いたように声を上げる。

えへへ、驚いてくれたみたい!

 

一生懸命作ったんだから。

 

「キュキュ!」

 

私は褒めてほしくて身体をパパに寄せる。

 

「ピカピカ」

 

私が身体を寄せたことで察してくれたのかいつものように頭を手で撫でてくれる。

 

「キュー」

 

その気持ちよさに無意識に声が出る。

これは私がパパにお願いしてやってもらったことだ。

 

以前に見た他の家族が似たようことをしていてずっと羨ましいと思っていたんだよね。

 

「ピカ」

 

疎に一声と共にパパからのなでなでが終了する。

あう、もっとしてほしかったのに。

 

少し名残惜し気にパパの手を見つめながらも離れる。

もういつもの時間がやってくる。

 

ピカ!ピカチュウ!(うへへ!さぁお楽しみの時間だ!)

 

パパは元気よく鳴いて私たちの住処である泉から霧の森の中へと飛び込んでいく。

そしてあっという間に見えなくなった。

 

「・・・・」

 

私はパパが消えた霧を見つめる。

 

私のパパは戦うことが大好きだ。

初めて会った時に見た時も傷だらけの姿だったけど、それはパパにとっていつも通りのことだったらしい。

 

毎日ボロボロになるまで戦って住処である泉に帰ってくる。

そのまま倒れるように眠ってしまうことだって珍しくない。

 

私も最初はパパについて行っていたけれど足手まといになることに気づいてからはここで待つようにしている。

 

パパが帰ってくるまでパパが住処にしているこの泉で一人で過ごし、帰ってきたパパの傷の手当をする。

そのあとパパが回復したら一緒にご飯を食べてお話をする。

 

それが私の今の日常だ。

 

「・・・・キュキュ」

 

一人になった泉に私の声が響く。

パパがいなくなった泉は静かでとてもさみしい。

 

昨日までは着ぐるみを作っていたからよかったけど完成してしまった。

 

・・・・少し前までずっと一人で過ごすのが当たり前だったのに私も我儘になったものだ。

 

今まで夜は一人で震えながら過ごし、明るくなってからようやく安心して眠っていた。

でも今は違う、パパが一緒に寝てくれる。

 

パパと一緒にいると私は安心してすぐに眠ってしまう。

 

・・・・もう私はパパと一緒じゃないと生きていけない。

 

でもパパにとって私は?

 

私はパパと呼んでいるけどそれは勝手にそう呼んでいるだけ。

言葉が通じないんだ、私がそう呼んでいることにパパは気づいていないはず。

 

パパは・・・・私のことを娘だと思ってくれるのだろうか。

 

一緒にいても拒絶されない、笑顔を向けてくれるし頭を撫でててもくれる。

 

でも・・・・パパにとって私は必要なんだろうか?

 

私にはパパが必要だ、でもパパには・・・・。

 

 

ピカ――!!(んほぉぉぉ!!)

 

霧の向こうからパパの声が響く。

きっと今も霧の向こうで戦っている。

 

戦うことが大好きなパパ、私にも力があればパパも私を必要としてくれる?

 

「キュキュ」

 

今まで怖くて戦うことを避けてきたけど、私でも強くなれるのかな?

 

 

 

 

「ゴリランダー!ドラムビート!!」

 

相手のゴリランダーと呼ばれたポケモンが自身の手元にある物を鳴らすと呼応するかのように地面から巨大なツタが現れる。

 

そしてそのツタはすさまじい勢いでこちらへと襲い掛かってきた。

 

「エースバーン」

 

「ヒバ!」

 

襲い掛かるツタをエースバーンは焦ることなく観察し躱していく。

時にエースバーンの視界では補えないところはマスターの指示が埋めていく。

 

エースバーンとマスターの阿吽の呼吸によって危なげなく攻撃をかわし続ける。

僕だったらたぶん躱せないなぁ。

 

しかもこの技一度もらっちゃうと躱す間もなく連続攻撃でめちゃくちゃにされちゃうね。

 

・・・・ふ、これは躱せないなぁ。

 

っと状況が動いたね。

 

「かえんボール」

 

「ヒバァ!!」

 

ツタを躱しながらも無駄のない動きで生み出した火の玉を蹴り上げて相手に飛ばす。

 

「っ!?ゴリランダー!」

 

「ブォ!!」

 

ホップ達は反撃に一歩反応が遅れたけどツタを自身の方に展開して防御を試みる。

 

しかし

 

 

「っなんて威力なんだ」

 

二重に重なったツタをエースバーンの足から放たれた火の玉は貫く。

そのまま相手の身体へと接触し吹き飛ばす。

 

うーんゴリランダーもエースバーンもどっちもすごい技を繰り出すなぁ。

 

少し前まで体当たりやひっかくで勝負していたとは思えないや。

あの頃の幼い姿はもはや二匹にない。

 

それどころかどちらもエースポケモンにふさわしい実力と風格をもちつつある。

 

これは負けてられないな、僕も早くバトルに参加して実力を示さないと。

 

「戻れゴリランダー!任せるぞバイウール!!」

 

ダメージをおったゴリランダーを下げて次のポケモンを繰り出すホップ。

それに対しマスターも対応を考える。

 

「ピカ!!」

 

エースバーンでそのまま続けるか有利なポケモンへ交換するかを考えているであろうマスターに声をかけてアピールする。

 

彼のとっしんはなかなか強力になっていたからね、ここはぜひともくら、気持ちよ、戦っておかないと!!

 

「いきたいの?」

 

「ピカ!!」

 

僕のアピールにマスターは頷く。

さすがマスター!

 

「よしピカチュウいっ「ちょっと待ったぁ!!」

 

「ピカ!?」

 

勢いよくフィールドに出ようとしたタイミングで大きな声が響いた。

声のした方を見ればこちらにやってくるMさんの姿がそこにはあった。

 

どうやら先ほどの声の主は彼女のようだ。

 

Mさんはバトル中だということもおかまいなしにフィールドへと入ってくる。

 

 

というか僕の所へやってきてない?

 

「ピカ?」

 

こちらへ近づいてくるMさんに首をかしげながら見つめる。

あれ?Mさんが抱っこしているポケモンって。

 

 

 

「君の子でしょ!ちゃんと責任とってあげなよね!!」

 

 

 

「「「・・・・」」」

 

 

場の空気が一瞬で凍り付いたのを感じた。

Mさんは抱きしめていたポケモンを突き付けるように僕の目の前に連れてくる。

 

うん、やっぱり彼女だ。

 

「キュキュ♪」

 

地面に降ろされた彼女はすぐさま僕に飛びついてくる。

僕も慣れた動きで飛び込んできた彼女を受け止める。

 

いや本当に久しぶりだ、彼女が旅に出て以来あってないから当然だけど。

 

元気そうでなによりだ。

 

でもどうしてここに?いやそもそもどうしてMさんと一緒にいるの?

 

「まったく君がそこまで無責任なオスだったなんて!見損なったよもう!!」

 

彼女を下ろしたMさんが怒った様子で僕をにらめつけてくる。

 

ふむ、怒られるのは僕的にはありがとうございますなのだけれど、いまいち彼女が怒っている理由がわからない。

 

「・・・・Mさん私にもわかるように説明して」

 

僕の疑問をそのままにマスターがMさんに尋ねる。

もう完全にバトルの雰囲気ではなくなってしまったようだ。

 

エースバーンも怖い顔でMさんを見つめている。

 

「どうしたもこうしたもないよ!君のピカチュウは自分の子供をほったらかしにして君の手持ちになっていたんだよ!これを無責任と言わずになんていうのさ!!」

 

 

「・・・・」

 

「「「・・・・」」」

 

「キュキュ♪」

 

マスターもエースバーンも、あといつの間にかボールから出ていたエルレイドとロズレイドも固まったまま動かない。

 

子供?

 

僕の記憶では僕に子供はいないと思うのだけれど。

彼女たちの様子などお構いなしにこちらに甘えてくる彼女を撫でながら首をかしげる。

 

そしてその後もここだけ時が止まってしまったかのように誰も動かなくなっていたけれど、それは唐突に終わる。

 

「・・・・ヒバ」

 

「・・・・ミキュ」

 

「・・・・ルァ」

 

考え込むマスター。

 

なぜかお互いを殺気をこもった目でにらみ合いながら戦闘開始直前のように構える三匹。

 

あ、一斉にとびかかった。

 

ヒバァ!(死になさいよ!)」「ルァ(死になさい!)」「ミキュ!(死んでください!)

 

「急展開過ぎて状況が追い付かないんだけど!?え、ええ?とりあえずユウリ!あの三匹を止めないと!!」

 

「・・・・」

 

「ユウリが固まって動かないぞ!?」

 

争う三匹を見て思考停止から回復したホップ君が慌ててマスターに声をかけるが反応はない。

 

「キュキュ♪」

 

そしてこの子はこの子で全部無視して甘えてくる。

 

んー。

 

 

 

 

 

とりあえず彼女たちの戦闘に飛び込んでから考えようかな!

 

 

 




次はミミッキュの過去話最後とエースバーンたち視点。


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ドMなピカチュウは「かえんソーラーカッター」をくらう

「キュ!」

 

「ぐるぁ!」

 

相手の攻撃を躱して反撃する。

何度も練習して威力を上げた私のしっぽ攻撃!!

 

パパがよく使うしっぽ攻撃を真似した私の技が相手へと刺さる。

ふふ、痛い?私の攻撃はすごいんだから!!

 

相手は私の攻撃で体力の限界を迎えたのか目を回して地面へと倒れる。

これで三匹目。

 

次の獲物は

 

「ピカ!」

 

キュ!(パパ!)

 

聞きなれた声に即座に反応してそのまま飛び込む。

見るまでもなく感じた場所にいるのはもちろんパパだ。

 

パパ見て見て私倒したよ!これで三匹目!!

パパは飛びついた私を抱きとめて倒れた相手を見つめる。

 

「・・・・ピカァ(いいなぁ)

 

相手を見つめる表情と声の意味を私は理解することができない。

もうけっこう長い間一緒にいるけれど、まだパパについてわからないことがいっぱいある。

 

そもそもどうしてパパは戦うの?

 

こう言ってはあれだけどパパは強くない。

私は鍛え始めて割とすぐにバトルに勝つことができるようになったけど、パパはいまだに負け続けている。

 

弱いのにどうして戦うの?

私はパパが傷つくのが嫌で何度も止めようとしたけどパパは困った表情をするだけで戦うことをやめない。

 

・・・・他にも気になることがある。

 

私たちが家にしている湖、そこは不思議とほかのポケモンがやってこない。

私がパパと出会った時にはそこをパパは家にしていたけれど、その場所でパパはたまに何かを探すように湖を見回すことがある。

 

「・・・・ピカピカチュウ(んー師匠達どこいったんだろ)

 

 

そして見回した後に決まって何かを思い返すように遠い目をする。

 

その時のパパを見ていると私の知らない場所に行ってしまいそうで、私は怖くてパパに抱き着く。

そうするとパパはいつもと同じに戻って私をかわいがってくれる。

 

他にも気になることが多い。

 

パパに家族はいないの?

パパと同じ姿をした子たちは何度も見た。

 

でもその子たちはパパを見ると気持ち悪いものを見るような目でパパを見て去っていく。

 

私のように違った姿をしているわけでもないのにどうしてパパを避けるの?

 

去っていく子達に怒って戦おうとするとパパに止められるし。

 

・・・・私はパパのことを何も知らない。

 

私は娘なのにパパのことを全然知らない。

それが私とパパの関係はしょせん私がそう思い込んでいるだけという事実を突き付けてくるようでとても嫌だった。

 

そんな不安を抱えて過ごす中、私は彼らを見つける。

それはいつもよりさらに霧が深い日。

 

パパと一緒に湖で寝ていた時にたまたま目が覚めた。

そして本当になんとなく湖のほうへ目を向けると、そこには見たことがない二匹がいた。

 

「「・・・・」」

 

傷だらけの身体、だけどその身に纏った雰囲気は見たことないほどの強さを感じた。

私では勝てない、そう確信させられた。

 

勝てないと悟った時点で本来の私ならパパを起こして一緒に逃げないといけないはずなのに、その時はそんな気にならなかった。

 

きっとその理由は彼らの目がとても暖かったから。

 

彼らは私ではなくパパを見つめていた。

まるで子を見守る母と父のような優しく暖かな瞳で。

 

「キュ」

 

私が声をかけようと彼らの元へ動き出そうとした瞬間、彼らの姿が霧に飲まれる。

そして次に霧が晴れたときには彼らの姿はそこにはなかった。

 

「・・・・」

 

彼らが消えた先を黙って見つめる。

 

彼らを見て私が今まで疑問だったことが氷解していく。

 

湖で何かを探していたこと。

弱いのに戦うことをやめない理由。

 

それらは間違いなく彼らが理由なんだ。

 

はっきりとした理由はわからないしパパや彼らが私のこの考えを正解だと言ってはいない。

 

でもどうしてか確信してしまった。

 

きっとパパと彼らの間に何かがあったんだ。

私では想像もできないような何かが。

 

・・・・もしパパが彼らに会った時、私も連れて行ってくれるのかな。

 

先ほどの二匹とパパが一緒にいる姿を想像してみる。

強くなったパパと彼らは私には見えない何かに向かって走り出していく。

 

私も一生懸命追いかけるけど追いつけない。

そうしてみるみるパパの姿が小さくなっていって・・・・。

 

「・・・・」

 

無言で眠っているパパに抱き着く。

このままじゃダメだ。

 

もっと強くならないとパパに置いて行かれる。

でも、ここの奴らと戦い続けてもいつか限界がくる。

 

強くなるために手段を考えるうちに一つの疑問が頭に浮かぶ。

 

・・・・私は本当に自身の力を引き出せているのだろうか?

 

この場所に私と同じ姿の子はいない。

パパと同じ姿の子だっていっぱいいるし、同じ姿の子たちとパパは同じように戦う。

 

もし私と同じ姿の子がいたらどうやって戦うのだろうか?

もしかしたらもっと正しい体の使い方があるんじゃないだろうか。

 

・・・・私自身の正体の確認。

 

それが私が強くなるための条件。

 

この場所にはもうずいぶんいるけど私と同じ姿の子はいなかった。

今まで隠れるようにして生きてきたけど今はパパと一緒に走り回っているからほとんどの場所を回ったはずだ。

 

それでも会えない理由。

 

・・・・浮かぶ答えは二つ。

 

一つは私と同じ姿の子なんていないという答え。

 

でもこの答えの場合、私がどうやって生まれたという疑問が生まれる。

だとしたら有力なのはもう一つの答え。

 

私と同じ姿の子はこの場所以外にいる。

 

もしこの答えが正しいのならこの森を私が出なくちゃいけない。

強くなるために、なにより本当の自分を知るために。

 

・・・・でもそれはパパとお別れしなくちゃいけない。

 

外の世界は私にとっては未知の世界だ。

そしてそれは当然パパもだろう。

 

もしかしたらここにいる奴らよりもはるかに強い奴らが外にはたくさんいるかもしれない。

その場合、私より弱いパパがどうなる?

 

「・・・・」

 

ダメだ、パパはここを出ちゃ。

私が強くなってパパを迎えにくればいい。

 

「キュキュ」

 

眠っているパパをじっと見つめる。

出るなら急いだほうがいい、いつ彼らとパパが私を置いていくかなんてわからないんだから。

 

明日の朝、パパに説明してこの森を出よう。

 

待っててねパパ、私絶対強くなるから。

 

 

 

 

 

 

「どうしたもこうしたもないよ!君のピカチュウは自分の子供をほったらかにして君の手持ちになっていたんだよ!これを無責任と言わずになんていうのさ!!」

 

バトルの最中にいきなり割り込んできたM。

バトルの邪魔をされた時はむっとなったけど次の瞬間にはそんなことどうでもよくなったわ。

 

口から炎が漏れる。

自分が混乱していることがよくわかった。

 

彼女が言った言葉が頭の中でぐるぐる回る。

 

 

 

ふむ、つまりあれよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子は私の子供ってことね。

 

 

 

 

ぐるぐると回る頭と視界の中で彼に抱き着いている彼女を見る。

 

確かに言われてみれば彼に似てるわね。

 

それに私にも似てるわね。

 

ほらあれよ、元気そうなところとかそっくりだわ。

 

いやーびっくりだわ、まさか私と彼に子供がいたなんて。

 

でもおかしいわね、子供がいるってことはつまり私と彼で、その、ご、ごにょごにょしたわけで。

 

ま、まぁそういうこともあるわよね!うんあるわ!!

 

いやー私もママになるのね、全然実感がわかないわ。

 

・・・・そろそろ冷静になるか。

 

実感がわかない?そりゃそうよママじゃないもの。

 

もし私が彼とごにょごにょしてたら堂々と彼とイチャイチャしてあいつらに喧嘩売ってるわ。

でも記憶にない以上、非常にムカつくけど私と彼はそういう関係じゃない。

 

ていうか彼に子供?彼がパパだとしたらじゃあママは?

 

・・・・まさかと思うけどこいつらじゃないわよね?

 

なぜか色が消えてモノクロになった視界の中でいつの間にかボールから出てるあいつらの姿をとらえる。

 

もし私が知らないうちに抜け駆けしていたのなら。

 

 

 

 

「どうしたもこうしたもないよ!君のピカチュウは自分の子供をほったらかにして君の手持ちになっていたんだよ!これを無責任と言わずになんていうのさ!!」

 

M様のそんな声が聞こえた瞬間、ボールから飛び出します。

ボールから出て広がった視界の中でご主人様に抱き着いているポケモン様をじっと見つめます。

 

あら、両手の花から毒が漏れてますね。

 

どうやら冷静さを失っていたようです。

 

彼女が言った言葉が頭の中でぐるぐる回る。

 

ふむ、つまりあれですね。

 

 

 

 

 

 

あの子は私の子供ってことですね。

 

 

 

ぐるぐると回る頭と視界の中でご主人様に抱き着いている方を見る。

 

確かに言われてみればご主人様に似てますね。

 

それに私にも似てますね。

あれです、鳴き声なんてそっくりです。

 

ふふ、びっくりしました、まさか私とご主人様に子供がいたなんて。

 

でもおかしいですね、子供がいるってことはつまり私とご、ご主人様でごにょごにょしたわけで。

 

ま、まぁそういうこともありますよね!うんあります!!

 

あらあら、私もママになるんですね、全然実感がわきません。

 

 

・・・・そろそろ冷静になりましょうか

 

実感?ええ、ええ、当然ありませんとも。

 

だって私がママじゃないのですから。

 

もし私がご主人様とそのような関係になっていたとしたらもっと堂々とご主人様と愛し合ってあいつらに見せつけます。

 

そもそもご主人様に子供?彼がパパだとしたらママは?

 

・・・・まさかと思うけどこいつらじゃないですよね?

 

どうしてか先ほどより色が消えた視界の中で彼女たちの姿をとらえる。

 

もし私が知らないうちに抜け駆けしていたのなら。

 

 

 

 

 

 

「どうしたもこうしたも略」

 

M様のそんな声が聞こえた瞬間、ボールから飛び出します。

ボールから出て広がった視界の中で主様に抱き着いているポケモン様をじっと見つめます。

 

彼女が言った言葉が頭の中でぐるぐる回る。

 

ふむ、つまりあれですね。

 

 

あの子は私の子供ってこ略。

 

 

 

 

 

パパ!パパ!!

 

会いたかったよパパ!!

 

やっと会えたパパに私は我慢できずに抱き着く。

なんか周りに知らない人やポケモンがいるけど今はどうでもいいや。

 

「ピカ」

 

久しぶりのパパはいきなりやってきた私に驚いた様子だったけどすぐにいつものように私の頭を撫でてくれる。

 

えへへ!やっと会えた!!

 

パパ私強くなったんだよ!

実はさっき負けちゃったけど、そのことは秘密にしてくれるってあの人?も言ってたし大丈夫。

 

色々なところを旅をしたんだよ。

その中で私と同じ姿のポケモンにも出会った。

 

不思議と全員が私と同じ着ぐるみを着ていたし、私と同じ技や戦い方もしていた。

どうやら私はすでに本能で自分の戦い方を見つけていたみたい。

 

そうとわかれば早かった。

 

強くなるために出会ったポケモンとたくさん戦った。

それで十分強くなったと思ってパパを迎えにあの森に戻ったのにパパいないんだもん。

 

私を置いて先にいっちゃったんだってすぐにわかって探し回ってやっと見つけた。

 

これからはずっと一緒なんだから!今の私ならパパがあの二匹と遠くに行っても追いかけられる。

 

いまいち今の状況はよくわからないけどパパがここにいるという事実さえわかれば後はどうでもいい。

 

「ピカ」

 

私の頭を撫でていたパパの手が突然離れる。

不思議そうに見上げると、パパが私ではなくなぜか喧嘩をしている三匹のポケモンを見つめていて。

 

「ピカ!!」

 

そして急に走り出した。

 

え?え?

 

突然の行動に動けずパパを見守っている。

 

ヒバァ!(死になさいよ!)」「ルァ!(死になさい!)」「ミキュ!(死んでください!)

 

三匹から放たれた技がそれぞれの相手に向かう。

 

あ、これはいつもの流れだ。

 

この瞬間、私は次のパパの行動を悟る。

 

霧の森の中でほかのポケモン達が喧嘩している時にパパはいつも決まって同じ行動をとる。

 

 

三匹の技が交差する中心地点。

 

 

 

 

うん、絶対そこにパパは飛び込む。

 

 

「ピカァァァァァ!!」

 

 

うん、だよね。

 

私から見ても強力だとわかる技をくらって声をあげるパパ。

激しい衝撃音と土煙に飲まれたパパを茫然と見つめる。

 

「ヒバァ!?」「ミキュ!?」「エルァ!?」

 

突然飛び込んだパパに三匹が驚きの声をあげる。

 

パパがこれをやるとたいてい驚いて喧嘩をやめるんだよね。

 

パパは自分が戦って傷つくのはいいけどほかのポケモン同士が戦って傷つくのを嫌う。

私がほかのポケモンと戦って倒した時も複雑な顔をしていたからわかったことだ。

 

 

久しぶりに会ったパパだけど変わってないね。

変わらないパパの姿に安心する。

 

 

・・・・それはそれとしてパパ大丈夫?

 

 

 

 

 

 

 




ごにょごにょはご相談にお任せします。


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小説家のメタモンは『10万ボルト』をくらいかける

「・・・・それで、さっきの話は本当?冗談じゃなくて?」

 

動かなくなっていたマスターがようやく動き出す。

マスターの言葉にMさんはむっとした表情で口を開く。

 

「そうだよ!まったく正直彼には期待してたのにがっかりさ!!」

 

そういってMさんは僕を睨みつけてくる。

ふむ、どうやら僕は何かをやらかしてしまったようだ。

 

それはそれとして睨めつけるだけじゃなくて暴力に訴えてもいいんだよ?

 

Mさんの言葉を聞いたマスターは僕にくっついている彼女をじっと見つめる。

 

「ていうかそのポケモン!俺がさっき見たポケモンだ!!」

 

じっと見つめるマスターの横でホップ君が驚いた声と共にそう口を開く。

 

「・・・・そのポケモンはミミッキュだね。ピカチュウの被り物をしてるポケモン」

 

「へー!ミミッキュか、ピカチュウの被り物をするポケモンなんているんだな」

 

「・・・・キュ」

 

興味深そうに彼女を見るホップ君の視線が嫌だったのか僕の後ろに隠れる。

そうか、彼女はミミッキュっていうポケモンだったんだね。さすがマスター物知りだ。

 

「・・・・」

 

じっと彼女を見つめていたマスター、そして不意にMさんの方へと視線を戻す。

 

「・・・・Mさん、聞きたいことがあります」

 

「なんだい?」

 

「・・・・ミミッキュのたまごグループは確か不定形だったはず。ピカチュウとは違う、この時点でその子がピカチュウの子供ということはありえない」

 

「え?そ、そうなの?で、でも!確かにこの子がそう」

 

「・・・・それ」

 

Mさんの言葉にマスターは詰め寄りながら静かに告げる。

 

「私たちにはポケモンの言葉はわからない。なのに、どうしてその子が言ったってわかるんですか?」

 

「・・・・」

 

あ、確かに。

言われてみれば至極全うな疑問。

 

僕のこのM的な気持ちをマスターが察してくれているように、長い付き合いになればポケモン側から言葉を伝えることができなくても通じ合えるかもしれないけど。

初対面の相手といきなり通じ合うなんてことは難しいはず。

 

なのにMさんは彼女の言葉がわかった?

んーもしかしてMさんとこの子は知り合いだったのだろうか。

 

マスターは黙りこんだMさんをじっと見つめ続ける。

じっと見られ続けたMさんは頬に汗を流しながら口を開いた。

 

「・・・・ひ」

 

 

 

「・・・・ひみつ♪」

 

「ピカチュウ、10万ボルト」

 

いや、さすがにそれはちょっと。

舌を出してお茶目に笑うMさんにマスターから指示が飛ぶ。

 

僕の技を人間が受けると痛いじゃすまないし。

あ、でもMさんなら喜ぶか。

 

「くぅ、戦略的撤退だ!!ピカチュウ!ちゃんとその子の面倒を見るんだよ!あとジム頑張って!!」

 

よっぽど言いたくないのか脱兎のごとく僕たちから逃げ出すMさん。

逃げ出しながらも僕にビシッと指をさしてそう忠告を残す。

そして人とは思えないほどのすごい速さでMさんは走り去っていった。

 

「・・・・」

 

逃げ出したMさんをマスターはなんとも言えない表情で見送る。

そして彼女が見えなくなった直後、ため息を吐いた後に僕へと向き直った。

 

「・・・・あなたの答えを聞く前に私の意見を言わせて」

 

僕に向き直ったマスターはそう言って口を開く。

 

「・・・・あなたとその子が知り合いなのは見ればわかる。でも私はMさんが言っていたそのミミッキュがあなたの子供であることに疑問を持ってる。だって信用できる情報が何一つないから。彼女がその子を利用して何か企んでいるとすら思ってる」

 

マスターはそう言いながら僕の後ろに隠れるミミッキュを暗い瞳で見下ろす。

さっきMさんも言っていたけど、この子が僕の子供というのはどういうことだろう?

 

確かにこの子と一緒にいた時間はあったけど僕の子供ではないんだよね。

その点については僕もマスターに同意でMさんの勘違いじゃないかな?

彼女だって僕みたいなやつが親だなんてごめんだろうし。

 

「これが今の私の意見だけど、ピカチュウ・・・・その子は本当にあなたの子供なの?」

 

ミミッキュから視線を僕に戻したマスターがそう僕に問いかけてくる。

僕がマスターの言葉に首を横に振ろうとしたとき。

 

「・・・・キュ」

 

僕の後ろで彼女が小さく鳴いたのを聞いた。

背中からは彼女が小さく震えているのがわかる。

 

今の彼女からは霧の森の中を元気に飛び跳ねながら走り、他のポケモンを見つけては地に沈めて喜んでいた姿が見られない。

 

むしろ今の彼女は、僕と最初に出会った時の彼女に戻ったかのようだった。

霧の中に隠れて怯えて震え、僕の後ろに隠れていたあの時の。

 

それをきっかけに過去の記憶が蘇る。

 

彼女と出会ったのは師匠達が姿を消して少し経ったときだった。

いつも通りボロボロ(気持ちよく)なってひと眠りをしようと休憩所に向かおうとしたとき、どこから泣いてる声が聞こえた。

 

気になってその声の方へ進めばそこには見たことないポケモンが湖で泣いているのを見つけた。

泣いていたその子は僕を見て慌てて逃げ出そうとしたのだろう、しかし慌てすぎたのかこけてしまいそうだった。

 

僕は反射で地面にこけそうになる彼女を抱きとめると、彼女は慌てて僕から離れ、そのまま霧の中へと消えてしまった。

 

そのあと助けたお礼なのか、あの子は僕に木の実をくれて。

あそうそう!マタドガスが彼女に『たいあたり』をしてきたのが見えたから、ずるい!それは僕にして!!って思って彼女とマタドガスの間に飛び込んじゃったんだ。

 

そしてもともと受けていたダメージもあり、電気のコントロールが甘くなって一瞬電撃が漏れちゃったんだよね。

うん、あのマタドガスには悪いことしちゃった。

 

そのあと、 なぜか僕についてきた彼女だったんだけど当時の僕はすぐにどこかに行くだろうくらいしか考えてなかった。

 

だって僕の生活って普通のポケモンから見たらかなり異常だし、すぐに僕にドン引きして逃げ出すと思ってたんだもん。

 

でも、そんな僕の予想とは裏腹に彼女は何があっても僕のそばを離れようとしなかった。

それどころか僕の真似をするようにバトルに参加して、僕そっくりの被り物まで作っていた。

 

まぁ彼女は自分自身ではなく相手をボコボコにしてたから、そこは真似してなかったけど。

 

そしてバトルに勝ったり珍しい木の実をとれた時には決まって僕のそばにやってきて褒めてほしそうにじっと僕を見つめる。

 

彼女のお願い通り頭を撫でると嬉しそうに目を細めて小さく鳴く。

他にも夜にも一緒に寝たがったし、ご飯も一緒に食べたがった。

 

それを見て、鈍い僕でもさすがに気づいた。

 

彼女はずっと独りぼっちで寂しかったんだと。

 

ずっと一匹であの暗い霧の森の中で過ごしてきたのだろう。

だから初めて出会った僕という仲間に嬉しくなって甘えてきた。

 

孤独。

 

それは群れを追い出された時に僕も感じた感情。

師匠達に出会うまで感じていたあの感情を今度はこの子が今持っているんだ。

 

それに気づいてからは僕は彼女が一緒にいることに疑問を持つことはなかった。

僕の孤独は師匠に癒してもらった。

 

ならば今度は僕が彼女の孤独を癒すことができたらと思ったから。

 

まぁ、僕がボロボロになっていた時に彼女が木の実をくれて回復させてくれたりしてたから、どっちかと言えば僕の方が癒されてたんだけど。

 

それからしばらくして、彼女は霧の森を出て旅に出た。

身振り手振りでなんとか僕に出ていく理由を彼女は伝えてくれた。

 

なるほど、そういうことなんだね。

 

彼女が旅に出る理由に納得する。

 

どうやらここのポケモンではもう彼女は満足できなくなってしまったようだ

 

 

長い間僕と一緒にいたことで彼女は戦いの楽しみに目覚めたのか気が付けば戦闘のプロとなっていた。

 

全戦全敗の僕に対して彼女は全戦全勝。もうこの森で彼女に勝てるのは師匠達くらいだろう。

 

もはやこの森に敵がいない彼女は新たなる猛者を求めて新たな世界に飛び出した。

僕も外の世界には興味があったけど、師匠達にまだ教わることがあった僕はここに留まることにした。

 

結局、師匠達とは会うことができず、そのままマスターと出会って森を出ることになったのだけれど。

 

それが僕と彼女の出会いから別れまでの記録。

 

だからここで彼女と出会ったのは彼女が戦いの旅の途中でたまたま出会えたのだと思った。

でもMさんの話を聞いて、そして今の彼女の姿を見て僕の中で疑問が沸く。

 

僕は彼女が孤独が寂しくて僕という仲間を求めたのかと思っていた。

でもそうじゃないとしたら。

 

彼女は僕を仲間ではなく、家族。それも親として見ていた?

Mさんの言葉と共に蘇った彼女との思い出を振り返る。

思い返してみれば彼女の行動に合点がいく。

 

彼女の行動は子供が親に褒めてもらおうとすることそのものだった。

僕の場合は特殊ケース(褒めるより怒られたい)だけど、それでも褒められたら嬉しいことには変わりない。

群れにいたときは仲間達も親に褒めてもらおうと一生懸命電撃の練習をしていたし。

 

僕は師匠達という同類、いわば仲間を見つけて孤独を癒した。

でもその中には師匠達のことを親として見ていた側面もあった。

 

だって師匠達は僕を自身の子供のように愛情をもって接してくれたことがはっきりと伝わってきたから。

 

・・・・同じ感情を彼女が僕へ向けていたとして、僕は。

 

ピカチュウ(この子は僕の子供だよ)

 

僕はマスターの疑問に首を横にではなく縦に振る。

僕に親が務まるとは思えないけど、彼女がそれを望むなら可能な限り答えてあげたい。

 

「~~~~っ!!キュ――――!!!」

 

僕が首を縦に振った後、後ろで震えていた彼女が大きな声と共に僕に飛びつく。

どうやら僕の答えは彼女にとって間違いではなかったようだ。

 

彼女の頭を撫でながらマスターを見つめる。

 

「・・・・そう、なんだ」

 

彼女は顔を伏せながら小さな声でそう答える。

ミミッキュとは対照的にマスターの声は暗い。

 

僕の答えはマスターの意見を否定したようなものだから怒ってるのだろうか?

 

「ピカ」

 

僕がマスターに声をかけようとした時、マスターはぱっと顔をあげる。

 

「うん、あなたがそう言うならそうなんだね。ごめんねあなたの子供なのに疑っちゃって」

 

顔を上げたマスターはいつものマスターだった。

マスターは僕に頭を下げながら先ほどの自分の言葉を謝罪する。

 

そして僕から視線から外してミミッキュへと視線を移す。

マスターの視線を受けたミミッキュは僕に抱き着きながら後ろに隠れる。

 

「隠れたままでいいから聞いて。Mさんがいなくなっちゃったから私達でできる限り情報共有がしたいの。あなたのこれまで、あなたとピカチュウの過去。あなたも私たちのことやあなたと離れたピカチュウのこれまでを知りたいでしょう?」

 

「キュキュ!!」

 

ミミッキュは僕たちのこれまでに興味があるのかマスターの言葉に強く反応する。

僕もミミッキュの旅の情報を知りたいし、マスターの交渉は成立しそうだ。

 

「じゃあ私の質問に合ってたら首を振ってね。あとその前に」

 

マスターの言葉にうなずいたミミッキュを見てマスターは質問を始めようとする。

しかし質問を始める前にマスターは小さく笑う。

 

「私のことはママって呼んでね」

 

 




次で六つ目のジムいきます


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ドMなピカチュウは『ふぶき』をくらう

「ピカ~~」

 

「あふー生き返る~」

 

僕とマスターから間の抜けた声が漏れる。

雪降る美しい景色を眺めながら僕とマスターは暖かいお湯につかっている。

 

マスターが言うにはここはキルクスタウンという町で温泉が有名らしい。

ここは雪が毎日降っていてとても寒い、暖かい温泉が有名なのはその影響なのだろう。

 

ここは6つ目のジムがある。

ジム挑戦は明日予定しており、僕たちはホテルで休憩をしている。

 

そしてせっかくなのでホテルの中に作られた温泉に入っているという次第だ。

 

みんなも一緒に入れたらよかったけど、マスターが言うにはこの温泉は人間とピカチュウしか入れないらしい。

ここはどうしてそんなピンポイントな温泉を作ったんだろう。

 

「ふふ、あなたも気持ちいい?」

 

気持ちよさに目を細めながら鳴いている僕を抱きしめる。

マスターが服を着ていないからかいつもより距離が近く感じる。

 

そのためかマスターの様子がいつもと違うことに気が付いた。

 

「・・・・ピカ」

 

原因はやっぱり、彼女のことだろうか?

 

あの時、Mさんと共にやってきたミミッキュはマスターの手持ち、つまり僕たちの仲間になった。

 

マスターは質問の形で僕とミミッキュが霧の森にいた時そして別れたタイミングを把握した後、今度は彼女に僕たちのことを過去から今までを話した。

 

彼女はマスターの話をじっと聞き続けた。

 

「・・・・キュ」

 

最後まで真剣に話を聞いたミミッキュにマスターは再度口を開く。

 

「・・・・それであなたはどうする?」

 

「・・・・キュ?」

 

「ピカチュウの目的は聞いたよね?私達は彼の目的をかなえるために旅をしている。そしてその旅はまだ終わってない、途中なの」

 

「・・・・」

 

マスターの言葉にミミッキュは意味を理解したのか黙る。

それを見ながらマスターはもう一度口を開く。

 

「・・・・あなたも一緒にくる?」

 

そう言って僕の背中に隠れた彼女に向けて言葉と共にボールを転がす。

ミミッキュは転がってきたボールをじっと見つめ、そして

 

「・・・・私ね、あなたのことなら全部知ってるって思ってたんだ」

 

マスターは湯気が立ち上る虚空を見つめながら口を開く。

 

「あなたとまどろみの森で出会ってから私たちはずっと一緒にいる。だから当然あなたと一番一緒にいたのは私だって思ってた。でもミミッキュに質問してそうじゃないってことがわかった」

 

そう語るマスターは淡々と語る。

でも僕には今にも泣きそうに見えた。

 

「それはそうだよね。あなたが生まれた時からずっと一緒にいるわけじゃないんだもの。当然私と出会うまでの過去が存在する。そしてその間にあなたのそばにいた子だっていたはず」

 

そして私がいない時に一緒にいたのがミミッキュだったんだね。

 

マスターの言葉が湯気の中に消えていく。

 

マスターとミミッキュ、どちらと一緒にいた時間が長いかと言われれば、正確にはわからないけど同じくらいだと思う。

マスターは僕の過去が気になっているのだろうか。

 

「ふふ、でもパパはびっくりした。思わず頭が真っ白になっちゃったよ」

 

うん、それは僕も驚いた。

 

「・・・・きっとあの子もロズレイドやエルレイドと同じようにあなたに救われたんだね。ふふ、モテモテだねピカチュウ」

 

そう言ってマスターはクスクスと笑いながら僕を撫でる。

ごめん、ミミッキュはともかく彼女たちは僕の私利私欲のためなんだよね。

 

まぁ全然僕の欲求を満たせることにはなってないのだけど。

 

「そして私もあなたに救われてる・・・・ねぇピカチュウ、あなたは今楽しい?」

 

「・・・・ピカ?」

 

突然のマスターの質問。

それに対し当然楽しいと答えるために首を縦に振る。

 

「・・・・私と出会う前よりも?」

 

僕の答えにマスターはさらに質問をかぶせてくる。

前と比べて、うーん確かに前も充実はしてたね。師匠達との生活やミミッキュとの生活も楽しかったし。

 

そして今と比べてか。なんかそういう比べ方はあまりしたくない。

 

「・・・・じゃあ私とミミッキュだったらどっちが好き?」

 

僕が答えを出す前にマスターから別の質問が飛んでくる。

うん、めちゃくちゃ困る質問だね。

 

う、うーん。マスターとミミッキュどっちも大好きだけど、なんていうか好きの種類が違くてどっちの方が好きとかでは。

 

「なんてね!まるでめちゃくちゃ重い彼女じゃん私。のぼせて変になっちゃったのかな、でよっか」

 

悩む僕にマスターは答えを求めずお風呂から出る。

僕もどうやって伝えたらいいかわからないから助かった。

 

 

「・・・・もしあなたが」

 

 

 

 

 

「ここでようやく6つ目」

 

マスターがスタジアムに入る手前の通路でぼそりつぶやく。

ひとりごとだろうけど僕も鳴いて同意する。

 

僕の声が耳に入ったのかマスターは優しい笑みと共に横にいた僕を持ち上げる。

 

「あと三つであなたの願いをかなえる場所に行ける。だから、絶対勝とうねピカチュウ」

 

「ピカ!!」

 

「よし!行こう!」

 

僕が大きく返事をするとマスターも声を出してフィールドへと足を踏み出す。

 

『ここで現れました!!今大会もっとも期待の新星!ユウリ選手です!これまですべてのジムを一番にクリアし、今回も誰よりも早くジムチャレンジをクリアしここにやってきました!』

 

 

「・・・・毎回あるんだこれ」

 

フィールドへと響く大きな声にマスターはげんまりしながらフィールドの中心へと向かう。

向かう先にはすでにこのジムのジムリーダーであろう女性がこちらに小さく手を振りながら待っていた。

 

そして周りを見渡せば観客席には大勢の人が座っており、多くの人がマスターの名前を呼んで応援してくれている。

 

あ、Mさんがいた。

 

観客席に座るMさんを見つけてじっと見つめると僕に見られていることに気が付いたのか慌てて隣の席の女の子の後ろに隠れようとしていた。

 

別に隠れなくてもいいのに。

 

『そして期待の新星が挑む方は我らがジムリーダー!ジ、アイスの二つ名を持つ氷のタイプの使い手メロン!』

 

フィールドに響く声の後にジムリーダーのメロンさんがこちらにやってくる。

優しそうに笑っているが、その眼はこちらを力強く見つめている。

 

「あんたがユウリだね。あたしぁ今日を楽しみにしてたんだ、あのダンデ君が推薦した子が来たっていうんだからね。これまでのバトルも見せてもらったよ」

 

「・・・・ありがとうございます」

 

「あはは!ポプラさんから聞いてたとおり愛想のない子だねぇ!」

 

そう言ってメロンさんは笑みを浮かべる。

マスターは相変わらずの人見知りを発揮して目をそらしながらそわそわして早くバトルを始めたいようだ。

 

「さてと、じゃあさっそく始めようかねぇ」

 

「お願いします」

 

メロンさんの言葉でお互い離れてフィールドのそれぞれの位置につく。

ふふふ、トップバッターは何を隠そうこの僕である。

 

最初は相手が出してくるポケモンをマスターが予測してエースバーンでいくはずだったんだけど、僕がマスターの足にしがみついてだだをこねたのだ。

 

だって氷タイプが得意なエースバーンが暴れちゃったら僕の出番がなくなるじゃないか!

 

これからの戦いはすべて参加するぞ!あのポプラさんとのバトルで味を占めたこの僕を止めれるものはいない!

 

『さぁ、二人が位置につきました!この雪を溶かすほどの熱いバトルを我々に見せてください!それでは!バトルスタートです!!』

 

「ピカチュウ!」

 

「モスノウ!」

 

マスターの声をともにフィールドの中へと走る。

走りながら相手の投げたボールから飛び出してきたポケモンを視界に映す。

 

モスノウってポケモンか、初めて見るね。

空に浮かぶ白いポケモン、このジムは氷タイプ使いだし、あのポケモンも氷タイプなのだろう。

 

氷いいね!久しぶりにくらうし楽しみだ。

 

「ピカチュウ!でんこうせっか!!」

 

先手必勝、最速の攻撃で相手へと突撃する。

僕は遠距離での戦いよりも近距離戦が好きだ、悪いけど相手には僕の好みに付き合ってもらおう。

 

「モスッ!」

 

空の相手へと僕は勢いをよく身体ごとぶつかる。

さぁ、このまま殴りあおうじゃないか!

 

「そのままアイアンテール!」

 

「ピカ!」

 

でんこうせっかの勢いを利用して硬質化したしっぽを相手へとぶつけるため空で一回転する。

マスターの話では氷には鋼タイプが効果抜群らしい。

 

トップバッターにしてもらえた理由はきっと僕が鋼技を使えるからだろう。

 

「早いね、でもそれはくらわないよ!むしのさざめき!」

 

「ピカッ!?」

 

僕のしっぽは当たる直前、相手が羽を羽ばたかせたと思うと耳をふさぎたくなるような不快音が鳴り響く。

 

「っ!!」

 

僕の理性が言っている、ここで耳を塞ぐのはもったいないと!

 

あ、これ衝撃波も生まれるんだ。

 

「ピッカァ!」

 

「っ!?あの音を無視して攻撃を続行とはねぇ!」

 

耳を塞ぐ行動を無視したことで相手の衝撃波が届く前に僕の攻撃が相手へと入る。

よし、これでダメージを稼げたね。

 

そしてご褒美の時間だ。

 

ピカァ(あふん)!」

 

強烈な衝撃波が僕を吹き飛ばして相手との距離を強制的に作り出される。

ふ、いい衝撃波だ。

 

期待通りの威力に満足しながらマスターの近くにくるんと回って着地する。

 

「気を付けてピカチュウ、あの技の効果であなたの特防が下がったかもしれない」

 

ほほう、それは良いニュースだ。

やはり僕の理性は正しい判断を下したようだ。

 

あの音、前に受けた『いやなおと』と似たような感じがしたんだよね。

これで相手の遠距離技を受けるのが俄然楽しみになってきた。

 

「・・・・さすが後半のジムだけあってレベルが高いね。効果抜群のアイアンテールを受けてもまだ余裕がある」

 

マスターの言葉につられて相手を見る。

確かにダメージがありそうだけどふらついてはいない。

 

やっぱりジムバトルはこうでないとね!

 

「モスノウ、あられ」

 

「っ!ピカチュウ!10万ボルト!!そしてすぐにでんこうせっか!!」

 

「ピカ!!」

 

相手の指示を聞いた瞬間、マスターの指示が飛ぶ。

マスターの言う通り、得意技である電撃を相手に飛ばす。

 

あれ?動かない?

 

相手は何かに集中しているのか動かずに僕の電撃の到来を待つ。

おっと、すぐに次の攻撃に移らないと。

 

「モスッ!?」

 

「耐えなさいモスノウ!」

 

僕の電撃が相手へと直撃する、指示はしてたし何かはしたはずだ。

 

その何か、僕にくらわしてみな!!

 

「ピッカ!!」

 

僕は期待を込めながらでんこうせっかで相手へと近づく。

さあさあ、わかりやすいように最短直線での動きだ。技をしかけるならいまだぞ!!

 

「モスノウ、今!後ろに後退!!」

 

「ピカっ!!」

 

ちくしょう、何もなかったじゃないか!

僕の渾身のでんこうせっかが相手を吹き飛ばす。

 

これで技を四発あてた。

相手が強いとはいえけっこうなダメージなはず。

 

「モスノウ、空中姿勢を維持!吹き飛ばされながらでいいからあれを使って!」

 

「モスッ!!」

 

僕の攻撃で吹き飛ばされながらも相手が動く。

む、けっこういいのが入ったと思ったのに。

 

「・・・・でんこうせっかが入る直前に後ろへ後退して衝撃をそらした?へぇ、あんなのもあるんだ」

 

マスターが後ろで興味深そうに相手を観察している。

僕ならむしろ衝撃を逃がさないように前のめりになるところだ。

 

「・・・・これは」

 

「ピカ?」

 

相手の出方をうかがっていると周囲に虹色のカーテンのようなものが現れ始める。

 

さっき吹き飛ばされながらしていた技の影響だろうか。

 

「・・・・オーロラベール、ということは」

 

そう言ってマスターは上を向く。

つられてみれば、いつの間にか空に雲が覆われている。

 

あ、何か降ってきた。

 

「・・・・あられか。気を付けてピカチュウ。このあられにあたるとダメージを受けちゃう」

 

よし絶対あたりにいこう。

 

「・・・・そしてオーロラベールでしばらくの間私たちの技は半減する」

 

「ピカ!?」

 

え、本当?それはなかなかまずいね。

ダメージをうけるのは嬉しいけど、それでは勝負に勝つのが難しくなってくる。

ただでさえ僕の攻撃は弱いというのに。

 

「大丈夫、策はあるから。とりあえず目の前の相手を倒すよピカチュウ!」

 

「ピカ!」

 

マスターに策があるというなら僕はただただ信じて戦うだけだ。

僕の特防が下がっているうえに、あられというダメージを受け続けるというこの環境。

楽しめないともったいない!!

 

「半減されるとはいえ、相手はもう瀕死寸前のはず!ピカチュウ押し切って!!」

 

マスターの言葉に従って相手に接近。

どうやら相手も乗ってきたようで僕への距離を縮めてくる。

 

さっきは『でんこうせっか』でダメだったから次は『アイアンテール』で決める!

 

「ピカ!」

 

まずは相手に10万ボルトを放って隙を探す。

避ける一瞬の隙をついて懐に飛び込んでやる。

 

相手が技を放ってきたらさっきみたいに受けながらも攻撃をすればいいし。

 

「モス!!」

「ピカ!?」

 

相手が選んだ選択は先ほどの僕と同じ、技を受けるというものだった。

さっきマスターが瀕死寸前だって言ってたのに。

 

・・・・まさか君もこっち側の住民だったりする?

 

「モスノウ、ふぶき!」

 

あ、やばい。

 

変なことを考えてたら行動が遅れた。

僕の電撃の中を最短で突っ込んできた相手が身体から冷気を発する。

 

 

うん、これは避けれないね。

 

さて、せっかくなのでここは効率のいい(気持ちがいい)冷気の受け方をしようと思う。

 

「モスゥゥゥ!!」

 

まずは相手の冷気をじっと観察しましょう。

そして一番冷たそう(気持ちよさそう)な方向に飛び込みます。

 

ピカァァァァァ!!(ちゅめてぇぇぇ!!)

 

「ピカチュウ!!」

 

『モスノウのふぶきがピカチュウを襲う!躱そうと動いたようですがピカチュウ間に合わない!』

 

うん、躱してないからね。

そして次に深呼吸をしながら体の力を抜きましょう。

身体を大きく伸ばしておくのがポイントです。

 

そしてご褒美を受けきると、あら不思議。

 

「っ!?ピカチュウ!!」

 

『おおっとこれは!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ピ、カ」

 

状態異常、『氷』の出来上がりである。

 

 

 

 

 

 




ある程度書き溜めれたので投稿頻度上げます。

だから褒めてくれてもいいんですよ?


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ファザコンなミミッキュは『ふぶき』をくらう

『ここで状態異常になってしまったピカチュウ!氷状態でしばらく身動きがとれない!!』

 

「っ!!」

 

ふ、やはり僕はMにかけてはそこそこ才能があるんじゃないかな。

狙い通りの展開に思わず自画自賛してしまう。

 

氷状態になれば合法的に技を受けれると考えた僕は長年の研究により自分の意思で状態異常になることができるようになったのだ!

 

 

まだまだ毒状態、やけど状態には確実になれないから研究途中なんだけどね。

 

この氷状態は自分からなったから解こうと思えば自分で解けることができるんだよね。

 

え?それ凍ったふりじゃねって?ふ・・・・ソンナコトナイヨ?

 

「氷使いとの戦いにはつきものさ!悪いけどチャンスは逃さないよ!」

 

「ピカチュウいったんもど「キュキュ!!」っ!?」

 

マスターの声にかぶさるようにミミッキュの声が聞こえる。

それと同時に僕はボールに回収される。

 

そんな!?まだこの状態で攻撃をもらってないのに!!

 

『ユウリ選手ここはピカチュウを下げます。代わりに出した、いや飛び出した?のはミミッキュです!ユウリ選手の新しいメンバーでしょうか。このジム戦が初登場になります』

 

「ミミッキュ聞いて!このオーロラがある間はあなたの攻撃は半減する!だからオーロラが止むまで距離をとって」

 

「キュキュ!」

 

『おーと、ユウリ選手から指示が出ますがミミッキュは聞かずに相手に向かって突進する!』

 

「お願い聞いてミミッキュ!!」

 

マスターが必死に声を出すが彼女には聞こえていないのか無視しているのかとっしんしていく。

そして彼女に凍てつくふぶきが襲い掛かった。

 

 

 

 

 

ユウリと呼ばれた人間の話を聞いて私は彼女たちの仲間になることにした。

正直あの人間も他のポケモンも気に入らない。

 

なんでパパと一緒にいるの?

ねぇ、私とパパの家族でもないのにどうして?

 

まるで自分たちがパパと一緒にいるのは当たり前で、私が一緒になるのを自分たちが認めるんだと言っているかのように思えて嫌だった。

 

本当はパパだけと一緒にいたい。

けどパパと一緒にいられるなら我慢できた。

 

なんでもパパは今、人間たちが行っているジムバトルというものにハマっているらしい。

今日はその試合が行うらしく、私たちに今回の試合の戦略を話していた。

 

私はよくわからなかったし興味もあまりなったからずっとパパに抱き着いていたけど。

 

・・・・てっきりあの霧の森で見た二匹のポケモンと一緒にいるものと思っていたけど違った。

パパは、どうしてこの人と一緒にいるんだろう?

 

はやく私と一緒にあの森に帰ろうよ。

 

そんな思いを胸に秘めてパパの戦いを見守る。

 

へぇ、人間が私たちに指示を出して戦うんだ。

いつも私たちがしているものとは違う戦いに興味が少し沸く。

でもどうしてわざわざ人間のいうことを聞くんだろう?

 

自分で考えて動いた方が絶対楽なのに。

 

戦いはパパが有利な展開で進んでいる。

 

あれ?パパもしかして強くなってる?

 

「ピカァァァァ!!」

 

『モスノウのふぶきがピカチュウを襲う!躱そうと動いたようですがピカチュウ間に合わない!』

 

「キュ!?」

 

パパに強そうな技が入る。

しかもあれって身動きとれなくなる状態だ!私もなったことがあるからわかる!

 

キュキュ(パパすぐ助けるよ)!!」

 

助けなきゃ!

そう思った瞬間、無理やりボールから飛び出してパパのそばに駆け出す。

 

む、私が飛び出すと同時にパパが戻った。

せっかくパパを助けようと思ったのに。

 

あの人に文句を言いたいけどとりあえずは今はパパをいじめたあのポケモンを倒す!

 

パパはやっぱり弱い、娘である私が守らなきゃ。

 

「ミミッキュ!ふぶきがくるよ!」

 

人間が何か言ってるけど知らない!私は私で戦う。

 

相手はさっきパパがくらった技を使うみたい、本来は技の隙が多そうな技だけどパパと交代の形で入っちゃったから時間を与えちゃった。

 

広範囲技っぽいしこの距離だと躱すのは無理。

だったら気にせず突進してやる!

 

私は相手の攻撃を一度だけダメージ無しで耐えられる。

相手はそれに気づかなくてびっくりするだろうからその隙に攻撃をしてやる!

 

「モスォォォ!!」

 

「ミキュ!」

 

相手から出た氷の嵐の中にまっすぐ突っ込む。

よし、このまま抜ける!

 

「ミミッキュ!ー---!!」

 

人間が何か言ってるけど聞こうとしてなかったから頭に入ってこない。

関係ない、このまま私の爪、じゃなくてしっぽ攻撃で仕留めるもんね!

 

強烈な白い嵐を突き抜けてそのまま相手に、ってあれ?

 

ふぶきを抜けた先にいたであろう相手がいつの間に見失ってる。

どこに。

 

「ポケモンだけだと視界を塞がれると一瞬で相手を見失うよ。それに私だってジムリーダーだ、あんたの特性くらい知ってるさ」

 

っ!?私のことを動きを読まれてた。

 

「モスノウ、ふぶき」

 

いつの間にか私の死角に動いていた相手から再び冷気が漏れる。

っなんとか反撃を。

 

「キュゥゥゥ!?」

 

反撃が間に合わず再び白い嵐に飲まれる。

しかも今度は身を守ることができない。

 

っ冷たい、凍えそうだ。

パパはこの技をくらって。

 

暗転しそうになる視界の中で空をくるくるを回る。

私強くなったのに、また負けるの?

 

これじゃあ私は何のために。

 

 

 

 

 

「さてさて、六つ目のジム。ユウリはどう戦うのかな?」

 

観客席に座りながら今回の戦い方を考察する。

最初はエースバーンかな、でもメロンさんはラプラスを使うはずだったし、読みが外れた場合が怖いね。

 

あれ?あの子って確か。

 

私の隣の席の子に見覚えがあって思わずチラ見する。

 

面識はないけどせっかくの機会だし話しかけてみようかな。

 

「あ!この前の面白いおねえちゃんだ!!」

 

隣の子に話しかけようとした時、その子とは反対側の席から声がかかる。

 

「おや、君はポプラさんの試合の時にいたイーブイの着ぐるみの子!今日はピカチュウの着ぐるみなんだね」

 

前のポプラさんとユウリの試合を見た時に隣にいた女の子だ。

また隣同士とは縁があるね。

 

「えへへ!今日は絶対こっちって決めてたんだ!」

 

「この子、今日あのピカチュウが出るって知ったら行くってきかなくて」

 

嬉しそうに笑う女の子の横でお父さんが苦笑いを浮かべる。

よかったねピカチュウ、どうやらこの子は君のファンになってくれたみたいだよ。

 

「今日はピカチュウ出るかなぁ」

 

「出ると思うよ、氷水タイプに対してピカチュウの相性は悪くないし」

 

エースバーンとロズレイドは弱点を突かれる可能性があるし、安定をとるならピカチュウ、次にエルレイドかな。

 

あとは・・・・ミミッキュ。

 

彼女が仲間になったことは他のポケモンに変身して隠れて聞いてたから知ってる。

でも彼女がユウリ達と打ち解けてるかはわからない。

 

どうもあの子もエースバーンたちと同じように拗らせてるみたいだし。

 

冷静に考えたらピカチュウがパパってのもユウリが言う通り変だよね。

正体がバレそうになったから慌てて逃げちゃったけど、今度また詳しく聞かなくちゃ。

 

「あ、始まるよ!」

 

女の子の声でフィールドに視線を戻す。

お、最初はピカチュウか。安定だね。

 

対する相手はモスノウか、氷虫タイプだから結果としては火タイプのエースバーンなら4倍弱点をとれてたね。

 

まぁでもユウリなら問題ないでしょ。

 

「あ!ピカチュウだ!」

 

女の子がピカチュウの登場で嬉しそうに声を出す。

いや、彼女だけじゃない。観客の多くが彼の登場を期待していたのか大きく歓声をあげている。

 

まるで、あいつが登場した時のようだ。

 

・・・・あいつと彼は違う。

 

でも主人公であることには変わりはないのだろう。

タイプは真逆だけど、どちらも惹きつけられる魅力がある。

 

・・・・ダメだね、ミミッキュと変な話をしたせいか思考が逸れた。

 

「いけー!そこだー!!」

 

隣の席の女の子が手で感情表現をしながら応援している。

試合は今のところ彼が優勢、でも相手の戦略も進んでいるね。

 

観客席だからこそ試合展開がよく見える。

 

ユウリは強いけど相手もジムリーダー、それも後半のジムで使うポケモンのレベルも上がってる。

油断してるとくわれるよ。

 

そのまま試合を見守っているとピカチュウが相手のふぶきをくらう。

しかもあれは。

 

「ピカチュウこおちゃった!?」

 

女の子が解説者の実況で慌てる。

氷状態になる可能性は低いけどありえる。運が悪いね。

 

これは一度下げた方がいい。ユウリもそう判断したのかボールで彼を回収しようと動く。

しかし、その前にミミッキュがボールから飛び出した。

 

「っ!!」

 

大丈夫だ、ピカチュウの回収が間に合ったから反則はとられてない。

でも。

 

「あちゃぁ、あれは言うこと聞く気ないね」

 

ユウリが指示を飛ばすけどミミッキュは無視して突っ込んでいく。

 

珍しく慌てながらミミッキュに声をかけるが彼女には届いていない。

 

・・・・ユウリはあの子への対応を決めかねてるようだね。

 

指示を聞かないポケモン、前はロゼリアだった。

 

あの時の彼女はあえてロゼリア一匹で戦わせて自分が必要だとわからせた。

 

試合展開を予想してあえてだ。

 

でも今回は違う、必死に彼女が傷つかないように相手の攻略法を伝えている。

でも肝心の彼女がそれを無視してたら意味がない。

 

やはり彼の娘であるミミッキュは他のポケモンのように扱えないんだ。

 

・・・・自分が連れてきておいてなんだけど、彼女をつれてきたのは失敗だったか。

 

相手のふぶきで吹っ飛ばされたミミッキュを見て思わず顔をしかめる。

実力はあった、私よりは弱いけどこのジム戦を戦うには十分だろう。

 

「・・・・ミミッキュ、そのままじゃパパに置いて行かれるよ」

 

吹き飛ぶミミッキュを見て私は小さな声でつぶやいた。

 

 

「キュ」

 

身体は、まだ動く。

でもこのままじゃ負ける?

 

ぼやける視界のまま次の行動を考える。

どうすれば、どうすれば勝てるの?

 

パパに見せなきゃ、私が強くなってることを。

 

もう二度とパパと離れないために!!

 

「虫のさざめき」

 

「キュッ!!?」

 

悪寒が走る。

 

直感でわかる、次の攻撃がくる。

ダメだ、この視界じゃあどこから来るのかわからない。

 

「右に向かって10万ボルト!!」

 

「キュッ!?」

 

反射的に右側に向かって電撃を放つ。

しまった、私は何を。

 

「モスッ!?」

 

当たった!?

言われたとおりに放った電撃が直撃した感触が伝わる。

電撃の衝撃でさらに吹き飛ばされながらも戻りかけてる視界でなんとか直地する。

 

さっきの人間が見えない私の視界を補ってくれたんだ。

 

「ミミッキュそのまま聞いて」

 

「キュ?」

 

私のすぐ後ろから人間の声が聞こえる。

ミミッキュって私のことだよね。

 

「あなたのパパがいじめられてるから飛び出したのはわかる。でもこのままじゃ勝てないわ」

 

キュキュ(そんなことないもん)!!」

 

言われた言葉に怒って反応する。

そんなこと言うなら見てなよ!私だけで余裕で勝てるもん!!

 

「・・・・あなたがそれでいいなら止めない」

 

私が再び飛び出そうと動くのを見た人間がそんな言葉を漏らす。

私にだって今まで一匹で戦い抜いたプライドがあるんだ、いいようにやられたままで引き下がれない。

 

パパ見てて!次こそは絶対。

 

「ピカ!!」

 

「っ!!?」

 

耳に届いた声に思わず振り返る。

そこには凍って動けなくなっていたはずのパパの姿があった。

 

パ、パパ?

 

私に向かって手招きしてる、それも少し怒った顔で。

私が、失敗したから怒ってるんだ。

 

ピカピカチュウ(これ以上出番を奪わないでお願い!!)!!」

 

「・・・・キュ」

 

私はパパの命令に従って戻る。

思えば凍った状態のパパには余裕があったように思える。

 

だとしたら私は余計なことをしたってことになる。

うぅ、私は。

 

「・・・・ありがとうピカチュウ、行ってエースバーン!」

 

ピ、ピカチュウ(あ、僕じゃないんですね)

 

「ヒバァ!」

 

私と入れ替りでパパと一緒にいたポケモンが前に出る。

パパ、次は悲しそうな顔してる。

 

私への怒りが一周回って悲しくなってしまったんだ。

パパのその顔を見て、心に暗雲が覆い、涙がにじむ。

 

「・・・・ミミッキュ」

 

「キュ?」

 

涙が出そうになったところで人間が声をかけてくる。

目を向ければ私に優しい瞳で私を見ていた。

 

「・・・・ごめんね、今私が何を言ってもあなたには響かないみたい。今はそれでいいよ、でも少しだけ見ててほしい」

 

フィールドへ目を向ければ先ほどまで私が戦っていたポケモンが氷を噴き出している。

それに対し私と入れ替わりで入ったポケモンは炎の球を蹴りだして相殺していた。

 

「私達を、あなたのパパの仲間を、この戦いで少しでもいいから知ってほしいの」

 

相殺された衝撃波を貫きながら二発目の炎の玉が敵に直撃する。

 

炎の球はすごい威力だったらしく相手は吹き飛び、そのまま目を回して倒れた。

 

「エースバーン、そのまま行くよ。わかってるね?」

 

ヒバァ(任せなさい!!)!!」

 

人間の声に呼応して彼女が吠える。

 

「ピカチュウ」

 

ピカ(待ってました!)!」

 

「その子をしっかり見てて」

 

「・・・・」

 

人間はそういった後にフィールドに向き直る。

私も見れば反対側から新たなポケモンが登場していた。

 

「・・・・二匹目はヒヒダルマ」

 

そういった直後、フィールド内で二匹のポケモンがぶつかる。

どちらも接近戦を好むのか殴り合いのように技をくらいあう。

 

「・・・・オーロラベールで私たちの技が半減されてるうちに倒すつもりね」

 

相手の防御を無視した攻撃の理由を人間がつぶやく。

そしてつぶやいた後、なぜか人間は目を閉じた。

 

閉じたのは一瞬。

 

でも、次に彼女が目を空けた瞬間、なぜか悪寒が身体を走る。

 

「・・・・想定通り」

 

小さくつぶやいた言葉、その言葉と共に開かれた目はひどく冷たい。

 

その言葉を聞いて私は確信してしまった。

 

 

 

彼女たちによる蹂躙が始まる。

 

 




休憩。

とりあえずストックある分を二日おきに予約投稿しております。



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ドMなピカチュウは『キョダイバンライ』をくらわせる

「ヒバァァァァァ!!!」

 

エースバーンの雄たけびがフィールドに響く。

彼女はその雄たけびに負けず劣らずの力強さでヒヒダルマのこぶしを受け止める。

 

上空を見れば美しいオーロラに混じってあられが降り注いでいる。

 

見る分には癒されるが、フィールドにいる彼女たちにはたまったものではないだろう。

相手はこの自分に利がある限られた時間で自分たちと相性の悪いエースバーンを倒しておきたいのだろう。

 

止まらない攻撃の連続に相手の行動を悟る。

ユウリ達はこの攻撃をうまく耐えてオーロラの効果が消えれば反撃のチャンスになるけど。

 

「・・・・でも今の不利な状況に耐えるだけっていうのはユウリらしくないね」

 

白熱したバトルを見ながらも違和感が残る。

 

今は耐える場面、なら耐久力のあるピカチュウこそが最適なはずだ。

氷状態も解除されていたようだし、てっきり交代するものと思っていたけど。

 

「ヒバァァァァ!!」

 

また彼女の雄たけびが耳に届く。

 

オーロラベールの対処方法はいくかある。

例えば『かわらわり』

 

かわらわりを使えばオーロラベールの影響を受けず、それどころか破壊さえすることができたはずだ。

 

『かわらわり』はエースバーンやエルレイド、もしかしたらピカチュウも覚えることができるだろうし、ユウリのことだから用意してると思ったんだけど。

 

他にも『あられ』を使われた段階で『にほんばれ』とかの天候に変えてしまうとか。

そうすれば『あられ』が発動条件の『オーロラベール』は使えなくなるし。

 

これらの対応法をユウリが知らない?

 

こうして考えている間も試合は続いている。

エースバーンは敵の防御に精一杯なのかいつもより攻撃が少ない。

 

それにいくら防御をしていても相手は攻撃力のあるヒヒダルマだ、彼女の体力も目に見えて少なくなっている。

 

「あ!きれいな虹が消えちゃった!」

 

隣の女の子から残念な声が漏れる。

上をみれば確かにオーロラベールの効果が切れてあられも止んでいた。

 

「・・・・お疲れエースバーン。ここから一気にいくよ」

 

「ヒバァ!」

 

予想通りオーロラベールがなくなったタイミングで彼女たちは防御から攻撃にうってでる。

 

相手の攻撃を躱してエースバーンは自慢の足で相手を蹴りつける。

エースバーンが蹴りを入れた瞬間、先ほどまでとは段違いの威力でヒヒダルマが呻く。

 

「っ!?」

 

いきなり威力があがった!?

先ほどまでとは明らかに数段以上違う威力に目を見開く。

 

オーロラベールの半減がなくなったとはいえ、この威力は。

 

僕が驚いている間にさらに変化が起こる。

 

メロンさんのヒヒダルマの姿が変化した。

 

「・・・・あれって確かヒヒダルマの特性のダルマモード?だったよね」

 

一定以上の体力が減ると姿を変えるヒヒダルマの特性。

 

確かあの状態だと炎タイプが増えて攻撃と速さが大きく上がると本で読んだ。

あの特性ってかなり珍しいはずだけど。

 

これはまずいよユウ「想定内」

 

「ヒバァ!!」

 

ヒヒダルマが姿を変えた直後、彼女の二度目の蹴りが相手に突き刺さる。

二度目の強烈な蹴り。

 

その凄まじい威力にヒヒダルマは自らの本領を発揮する前に目を回して倒れる。

 

「・・・・今のは、にどげり?」

 

二回連続の蹴り技で該当するのはそれくらいだ。

 

二回連続の技は一発目と二発目の間に相手は反撃をする暇を与えない。

 

ヒヒダルマは一発目で特性で変身したけど、即座に二発目で倒されてしまったのだ。

 

「・・・・でも威力がありすぎる」

 

連続技は多くの回数で攻撃する分、威力がない。

 

でも今のは一発目の時点で高威力技並みの力があった。

一体どうして。

 

「なるほどね、私としたことがうまくやられたよ」

 

対戦対手のメロンさんが僕の疑問に答える。

 

「・・・・さっきまでエースバーンが吠えていたけど、あれは『ふるいたてる』だね?」

 

「はい」

 

メロンさんの言葉にユウリが頷く。

確かにすごく大きく叫ぶなと思っていたけど、あれは技だったのか。

 

ポプラさんとのバトルでも見せた『攻撃』と『特攻』をあげる技。

先ほどに『にどげり』は彼女の攻撃が上がっていた結果だったってことか。

 

でも、気になることがある。

 

「ユウリは、いつその指示を出した?」

 

ずっと見ていたけどユウリが『ふるいたてる』の指示を出しているのを見ていない。

まさかエースバーンが自分で?いや彼女だけでそんなことはできない。

 

だったら彼女たちは事前にそういう作戦を立てていた?

 

この状況が起こるであろうことを想定して、『オーロラベール』を何もせず発動させたのも相手がエースバーンを制限時間内に倒すことに集中させるため。

 

そしてその隙をついて一発逆転する作戦を立てていた?

 

『オーロラベール』の効果で威力半減の状態すらもヒヒダルマを『ダルマモード』にさせないために技の威力調整として利用した。

 

 

「っ!?ユウリ、君は一体どこまで想定して」

 

状況を理解して鳥肌が立つ。

 

彼女がここから一気にメロンさんの手持ちを倒していくつもりだ。

 

『攻撃』、『特攻』を最大まであげたエースバーンならそれが可能だろう。

 

「私が気づかないように『にどげり』を打つまで上がっていた攻撃を手加減して誤魔化していたんだね、よくやるよ全く」

 

メロンさんは感心したような呆れたような声と共にボールを投げる。

 

『ジムリーダー、メロンの次のポケモンはコオリッポです!強化されたエースバーンとどう戦うのでしょうか!』

 

「・・・・」

 

ユウリは出てきたポケモンに対して無言のまま。

どうして攻撃しないんだろう。

 

「コオリッポの特性を知ってるようだね。そのエースバーンは物理技しかないみたいだし一発は技を無駄にしないといけないからねぇ」

 

無言で動かないユウリを見てメロンさんが口を開く。

コオリッポの特性か、僕は詳しく知らないけど、話を聞く限りミミッキュと同じように攻撃技を一度無傷で耐えられるのだろうか。

 

だとしたら面倒だね、攻撃が上がっていても確実に耐えられてカウンターをくらってしまう。

体力の少ない今の場面では耐えられるか。

 

だったらユウリがとる手段はバトンタッチだろう。

ポプラさんとのバトルでも使った手段だ、これならエースバーンは倒れることなく強化されたステータスは引き継ぐことができる。

 

「エースバーン」

 

「コオリッポ」

 

フィールド内で同時に指示が飛ぶ。

メロンさんの指示は『どわすれ』、特防を上げる技だ。

 

これはユウリがバトンタッチをして攻撃を躱しつつステータスを引き継ぐと読んで今度は自身の特防をあげてきたのか。

 

これでコオリッポは『特防』のステータスが上がった。そして防御は特性でカバー、厄介な状況だ。

そしてエースバーンはバトンタッチで交代を、っ!?

 

「にどげり」

 

「ヒバァ!!」

 

交代、しない!?

まさかメロンさんがバトンタッチを読むとさらに読んで裏をかいたの!?

 

一気に接近したエースバーンの『にどげり』の一発目が入る。

 

一発目は特性で無効化される、ていうかコオリッポの顔が細くなったんだけど。

 

しかし即座に二発目の『にどげり』が炸裂。

 

「っ!?ここで攻めるとは女の子なのにカッコイイじゃないかい!!」

 

『にどげり』でふっとばされたコオリッポに指示を飛ばしながらメロンさんが叫ぶ。

それに対しユウリはどこまでも無慈悲に指示を出す。

 

「かえんボール」

 

吹っ飛ばされたコオリッポを追うように火の玉が高速で迫る。

 

威力が上がった『にどげり』をくらった後に即座にタイプ一致かつ彼女の特性で火力があがった『かえんボール』、結果は見るまでもない。

 

『しゅ、瞬殺です!!出たばかりのコオリッポをユウリ選手のエースバーンが文字通り一蹴!ジムリーダー、メロンは次が最後のポケモンになります!』

 

解説者の声の後にメロンさんが最後のポケモンを出す。

 

出すのはやはり、ラプラスか。

 

「たとえ ひとかけらでも 氷は 氷! みてなさい!」

 

そういった後、切り札であるキョダイマックスを切るメロンさん。

一度ボールに戻ったラプラス、そして巨大になったボールから再び現れた時、その姿が変わっていた。

 

『ジムリーダー、メロン!ここでラプラスをキョダイマックス!!ここで一気に逆転なるか!!』

 

「・・・・」

 

大きくなったラプラスを無言で見上げるユウリ。

 

まだ油断はできない。

エースバーンは瀕死寸前、ミミッキュは言うことを聞かない。

そしてロズレイドは弱点を突かれてしまう。

 

なら残りはピカチュウとエルレイド、彼女たちがこのキョダイマックスで突破された場合は勝負がわからなくなる。

 

「・・・・いや余計な心配だね」

 

余裕を崩さないユウリを見て失笑する。

 

最後は君だろう?

 

「エースバーン、バトンタッチ」

 

ユウリの指示によってエースバーンがフィールドから離れていく。

そして入れ替わるように現れたのは。

 

「ピカ!!」

 

 

 

 

なに、これ。

 

フィールド内で行われるバトルを私は茫然と見つめる。

なにあの威力、蹴りで相手が吹っ飛んじゃった。

 

威力を上げる技をしていた?いつの間に?

 

次に出てきたポケモンも一瞬で倒してしまう。

つ、強い。

 

理解できないけど、それでも何か裏で駆け引きがあったことはなんとなくわかった。

そしてその駆け引きで、この人間は圧倒している。

 

これがパパの仲間なの?

 

これくらい強くなくちゃパパのそばにはいられないの?

 

私がやられちゃった相手を倒したうえで二匹目も瞬殺。

もしかしてほかのポケモンも彼女くらい強いの?

 

こんなに強くなんて、私には。

 

『ジムリーダー、メロン!ここでラプラスをキョダイマックス!!ここで一気に逆転なるか!!』

 

「キュ!?」

 

大きな声の後にポケモンが大きくなって現れる。

なに、これ、こんなのにどうやって勝てば。

 

「ピカ!!」

 

パパ?

あまりの大きさに私が戦慄する横でパパの声が耳に入る。

 

パパは、楽しそうに笑っていた。

 

目をキラキラさせて今にもフィールドに飛び込みたそうにしている。

 

どうしてそんな目で見れるの?パパは弱いんだよ?

 

霧の森にいた時からパパはそうだ。格上の相手にも関係なしに向かっていく。

 

「ピカチュウ、あなたの出番だよ」

 

ワクワクするパパに人間は微笑みながらそう告げる。

その声の後、フィールドにいたポケモンとパパが手を合わせた後に入れ替わる。

 

パパ、あんな大きな相手にどうやって戦う気なの?

 

「ピカチュウ、行くよ!!」

 

「ピカ!!」

 

人間の掛け声とともにパパがボールに戻る。

 

そしてパパの入ったボールに不思議な光が入り、次の瞬間ボールが何倍にも大きくなった。

人間はその大きくなったボールを投げる。

 

そしてそのボールが開き、中から。

 

『ここでユウリ選手もピカチュウをダイマック、いやこれはキョダイマックスだ!なんとユウリ選手のピカチュウもラプラスと同じくキョダイマックスができるようです!!』

 

「ビィカァァァァァ!!」

 

パパが大きくなった!?

 

え、うそ、パパそんなことできたの!?

 

「ラプラス!ダイアイス!!」

 

パパが動けるようになるまでの間に相手が動く。

 

ポケモンが力を使うと同時に現れる巨大な氷。

それはパパの頭上から落下し、パパを飲み込む。

 

ビィカァァァァァ!!(ん゛ほぉぉぉぉ!!)

 

キュキュ!!(パパ!!)

 

相手の大技をくらったパパの悲鳴が耳に入る。

パパ、今助けに。

 

「大丈夫だよ」

 

「キュ!?」

 

動き出そうとした私を人間の声が止める。

人間は氷に飲まれたパパをまっすぐ見つめている。

 

一切の動揺もなく、パパの無事を確信しているように。

 

「あなたのパパはあんなのでやられない」

 

人間がそう言った後、氷に飲まれたパパが姿を現す。

 

「ビィカァ」

 

現れたパパは相手の技に余裕をもって耐えていた。

パパ、体力あるのは知ってたけどここまでなんて。

 

「いくよピカチュウ」

 

人間の言葉に呼応するようにパパの巨大な体から稲妻が走る。

これが今のパパの電撃。

 

「キョダイバンライ」

 

人間の声の後にパパが技を放つ。

私では絶対に出せないほどの特大の電撃が相手を貫いた。

 

これが、今のパパと仲間。

 

・・・・遠い。

 

 

 

 

 

『ラプラス戦闘不能!よってチャレンジャー、ユウリ選手の勝利です!!』

 

解説者の勝利宣言ともにスタジアムが歓声で満たされる。

最初はひやひやしたけど、終わってみればユウリによる圧勝だった。

 

「お姉ちゃんまたね!!」

 

「またね」

 

試合が終わって帰っていく女の子とお父さんを笑顔で見送る。

これでようやく隣の子と話せる。

 

「はじめまして、マリィさん」

 

「・・・・え?」

 

隣の席に座っていた女の子、名前はマリィ。

僕の調べでは次のジムリーダーの妹さんでこの大会の参加者だ。

 

そしてユウリと面識のある女の子だ。

 

「いきなりごめんね、僕はM、ユウリの知り合いなんだ」

 

「・・・・ユウリの知り合い?」

 

いきなり話しかけられて困惑していたマリィさんだったけど僕がユウリの知り合いだと知って目を細める。

 

その反応を見てユウリに対して複雑な感情があることを察した。

せっかく会えたんだ、少し話しておきたいんだよね。

 

「そう、今日はユウリの応援に来てたんだ。マリィさんもそうだよね?」

 

「・・・・たまたまです」

 

私の言葉に目をそらしながらぶっきらぼうに答えてくる。

うーん、なんかユウリに似てるねこの子。

 

「今日の試合どう思った?」

 

雑談の意味をこめて話を振る。

するとマリィさんは少しためらうようにした後、ゆっくりを口を開いた。

 

「・・・・強かったです、正直想像よりずっと」

 

「うん、それは僕もだよ」

 

「でも」

 

「え?」

 

マリィさんの感想に心から同意した後、否定のつなぎが入って思わず声が出る。

困惑しそうになりながらもマリィさんからの続きを待つ。

 

「最初、ミミッキュが暴走した時。あんなに慌てたのが意外でした・・・・ユウリはピカチュウが関わること以外では冷静なイメージだったので」

 

「あーなるほどね」

 

マリィさんの言葉に納得する。

確かにユウリを知ってる人から見たら違和感あるよね。

 

うーん。

 

「あのミミッキュはピカチュウの大切な知り合いだったようでね。だからユウリも気を使ってたんだと思うよ」

 

少し悩んだ後にミミッキュについて説明する。

さすがにパパとは言えないけど、ある程度のことは教えてもいいだろう。

 

「そうですよね。やっぱりピカチュウ関係ですよね・・・・はぁ、少し期待したんやけど」

 

僕の答えに納得したように頷くマリィさん。

でもなぜか残念そうにしていた。

 

「・・・・やっぱりユウリにはピカチュウしか」

 

「どうしたんだい?」

 

気になって尋ねるとマリィさんは首を横に振る。

 

「なんでもないです。私もすぐにジム戦なのでこれで失礼します」

 

「あ、ちょ」

 

止めようとするけどマリィさんは止まることなく離れていく。

 

なんというか、類は友を呼ぶって感じだね。

不愛想なところとかそっくりだ。

 

「ペコ」

 

「ん?」

 

不意に鳴き声が耳に入る。

声はマリィさんの肩になっていたポケモンからのようだ。

 

そういえば彼女の相棒はモルペコだったけ。

 

モルペコの姿を見て、先ほどのマリィさんのこともあってか妙な考えが浮かぶ。

 

姿はピカチュウと似てるけど・・・・さすがにこっちまで彼と似てるわけないか!

 

 



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苦労人なマリィは『友情』をくらわせたい 1

これは私の過去。

 

私は小さい頃は泣き虫で、それに暗くて話すのが苦手だった。

そんな私に友達が当然いるわけがなく、親も仕事でいなくて基本的に一人ぼっちで過ごしていた。

 

兄貴がいたけど・・・・私以上に話すのが苦手だったし。

 

兄貴は話したそうにしてたけど何か言いかけてやめるを繰り替えして結局話すことはなかった。

 

友達のいない私は一人で部屋に閉じこもって本を読む毎日だったけど、それは兄貴がたまたま捕まえたというモルペコがやってきたことで変わった。

 

ポケモン相手なら緊張せずに話すことができたし、私に懐いてくれるその愛らしい姿に一人だけだった私の世界にモルペコが入って一人と一匹になった。

 

モルペコと一緒にいるようになっても親は相変わらずいなかったし、兄貴は兄貴でテレビでたまたまやっていた音楽番組でバンドは陰キャでも輝けるという言葉を聞いてギターの練習を黙々と始めていた。

 

まぁ、兄貴の場合はコミュニケーション能力が常に瀕死状態だったからバンド組めずに一人でやっているうちにシンガーソングライターになってたけど。

 

そんな兄貴を見ながらも私はモルペコとだけ遊び続けていた。

 

兄貴ほどじゃないけど人と話すのは苦手だったし、友達がほしいとも思わなかった。

 

やんちゃなモルペコは危ないことを平気でするから苦労させられたけど、おかげで退屈しなかったし、当時の私は本気でモルペコさえいればいいと思ってた。

 

そんな私が変わったのは兄貴のライブを見に行った時のことがキッカケだった。

 

私は正直あまり興味がなかったけど、珍しく兄貴が私を強引にライブ会場に連れていった。

 

薄暗いライブ会場には思っていたよりも大勢の人がいて帰りたくなったけど私はモルペコを抱きしめて耐える。

 

これ全部兄貴のライブを見に来たの?

 

ずっと一人で練習していた兄貴がギターが上手なのはなんとなく知ってた。

でもこんなに有名になってたなんて。

 

予想外の事態にドキドキしていると兄貴のコンサートが始める。

 

狭く薄暗いライブ会場で大勢の人が兄貴の曲を聞いて騒ぐ。

 

謎の一体感が空間を支配し、私とモルペコだけだった世界を侵食していく。

 

初めて聞いた兄貴の音楽に聞きほれているとスタンドマイクを通して兄貴が語りだす。

 

このスパイクタウンは他の街のようにパワースポットがないせいで『ダイマックス』が使えない。

それによって他の街のように人が来なくなり寂れていってしまっていると。

 

その言葉を聞いて観客の人たちが寂しそうに俯く。

私はそんなこと気にしたこともなかった。

 

寂れるのは知ってたけど、自分には関係ないと思っていたからだ。

 

俯く観客たちに兄貴は、でも!っと大きな声で叫ぶ。

 

「俺はこのスパイクタウンを盛り上げたい!こんな俺を!そして俺の音楽を認めてくれたみんなのためにも!!」

 

兄貴の熱の入った言葉。

普段は何も話さないくせにマイクを握ると別人じゃん。

 

その言葉に全員が静まり返った後、一気に熱を持ったかのように全員がヒートアップする。

私は盛り上がる観客たちの中からただ一人茫然と立ち続ける。

 

私が何年もモルペコと自分だけの世界にいる間に兄貴はこんなにも多くの人と繋がっていたんだ。

 

この後、兄貴はゆっくりと教えてくれた。

 

なけなしの勇気を振り絞って行った路上ライブ。

 

緊張して俯きながらギターを弾き、小さな声で歌った下手くそなライブ。

それでも見てくれた人がいて、暖かい声援をくれたという。

 

この街の人たちの暖かさを兄貴は知った。

 

そして街を支えることを夢にした。

 

それから兄貴は音楽だけじゃなく、ポケモンバトルにも精を出してあっという間にジムリーダーになった。

 

その頃には私も街の人に知られていて、可愛がられていた。

 

気が付けばモルペコ以外どうでもよかった私の中には他にも大切なものがいっぱいあって、それが嬉しかった。

 

そして今、私はこのスパイクタウンを盛り上がるために大会に参加している。

この大会でチャンピオンになってスパイクタウンはすごいってことを知ってもらうために。

 

そうして大事な大会が始まった時、私は彼女と出会う。

 

昔の私そっくりで、変わらずそのまま成長してしまった女の子と。

 

 

 

 

 

「・・・・まだシャッターが開いてない」

 

マスターの不機嫌な声が漏れる。

 

メロンさんとのジムバトルに勝利してから温泉にもう一度入るためにホテルに一泊して次の日。

僕たちは次のジムがあるスパイクタウンというところにやってきていた。

 

やってきたんだけど。

 

なぜかスパイクタウンへの入口が閉鎖されていて入れなくなっていた。

何かトラブルかと思い、一日待ってみたけど変わらずシャッターは降ろされたまま。

 

マスターが言うにはトラブルが起きたというニュースはないらしい、一体どうしたんだろう?

 

「・・・・壊すか」

 

シャッターを睨みつけながら危険なことをぼそりとつぶやくマスター。

ま、まぁ僕も早く戦いたいけどさ、そこまで焦らなくても。

 

「・・・・一応うちの街の入口だから壊すのは勘弁して」

 

「ピカ?」

 

マスターの物騒な発言を誰かが止める。

振り向けば見覚えのある女の子が立っていた。

 

えーと、そうだマリィさんだ!!

 

エルレイドが仲間になった時以来だから久しぶりかも。

 

「・・・・マリィも来たんだ」

 

「昨日私もメロンさんに勝ったから。それにスパイクタウンはうちの住んでる街だから」

 

おお、マリィさんも勝ったのか、ということは彼女も相当な実力者ってことになるね。

これはいつか戦う日が楽しみだ。

 

マリィさんは閉ざされた入口を見ながらため息を漏らす。

 

「ごめん、うちの応援団の人が入口を封鎖したみたい。裏口があるからついてきて」

 

「・・・・ありがと、もう少しで壊して入るとこだったよ」

 

「・・・・本気で言ってるんやろね、あんたの場合は」

 

マリィさんの先導に続きながら歩くけれど、なんだか二人の間に気まずい空気があるように感じる。

マスターは気にしてなさそうだけど、マリィさんは何か言いたそうだ。

 

「・・・・ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」

 

「・・・・なに?」

 

マリィさんは歩いていた足を止めてマスターに声をかける。

 

「・・・あんたが前に言ったピカチュウが自分の全てって話さ、今も変わらない?」

 

「変わらない」

 

マリィさんの質問にマスターは即答する。

 

僕としてはもっと蔑ろにしてくれていいのに。

 

「・・・・他にはないの?他に好きなこととか、将来の夢や目標とか」

 

「この子と一緒にいられるだけで私の夢や目標はかなってる」

 

「・・・・そんなのは夢や目標じゃないよ。あんたの本当にやりたいことじゃ」

 

「ねぇ、なんでそんなこと聞くの?」

 

無理にでも話を続けるマリィさんにマスターは目を細めながら質問する。

それに対してマリィさんは言うのを躊躇うかのように口を開いたり閉じたりした後に言葉を続けた。

 

「・・・・あんたが心配やけん」

 

「・・・・」

 

マリィさんから届いたのはマスターへの心配の言葉だった。

その言葉を聞いたマスターは困惑したように口を閉じる。

 

「私達、数回あって話しただけだよ?なのにどうして心配なんてするの?」

 

「それは・・・・あんたの気持ちがわかるから」

 

「・・・・私の気持ちがわかる?」

 

「・・・・わかるからこそ心配なんよ。私達は人、ピカチュウはポケモン。別れの時は必ず来る」

 

マリィさんは目を伏せて辛そうにしながらも言葉を続ける。

 

「もしピカチュウとお別れしなくちゃいけなくなった時、そのままじゃあんたは」

 

 

 

 

「黙って」

 

 

 

いつの間にかマリィさんの目の前まで移動していたマスターによってマリィさんの言葉は中断される。

怒っていて、それでいて泣いているような雰囲気のマスターはマリィさんと至近距離で口を開く。

 

「それ以上言うと絶対に許さない。赤の他人が私とこの子の世界に入ってこないで」

 

「た、他人じゃ。私はあんたと友達に」

 

「私とあなたは友達じゃない」

 

「ピカ!!」

 

マスターのあんまりな言葉に思わず声をかける。

 

せっかくマリィさんが友達って言ってくれたのはそれはひどすぎる。

 

僕が鳴くとマスターは僕の方へ視線を送った後、再びマリィさんに向き直る。

 

「・・・・私に何か言いたいなら、勝負しよう」

 

「しょ、勝負?」

 

「そう、ポケモン勝負。マリィも六つ目までジムをクリアしてるんでしょ?私に勝ったら話を聞く。その代わり負けたら聞かない」

 

そういった後、マスターは僕に視線を送る。

これでいい?ってことだろうか。

 

んーよくないけど、これがマスターの中で妥協できるラインのようだ。

 

マスターにはマリィさんともっとお話をして仲良くなってほしいけど、わざとダメージをくらうことはあってもわざと負けるようなことはしたくない。

 

僕は僕なりの全力で戦ってマリィさんにはそれに応えてもらうしかない。

 

「・・・・それで話を聞いてくれるならやる。それにチャンピオンになるんだったら、あんたに勝たないとやけんね」

 

マリィさんはマスターの提案を受けてボールを握る。

タイミングを待っていたかのようにポケモンバトル用の小さなフィールドが目に入る。

 

実を言うとマリィさんのポケモンには興味があったから楽しみだ。

 

「エルレイド、協力して」

 

あ、僕の出番ない感じですか?

 

エルレイドをボールから出した後、ロズレイドのボールに視線を送るマスター。

どうやらジム戦で戦わなった彼女たちをメインで戦うようだ。

 

「レパルタス、お願い」

 

そう言ってマリィさんもボールからポケモンを出して準備を整える。

 

 

異様な雰囲気のままバトルが始まる。

なんだろう、いつもはバトルは見ているだけでもワクワクするのに、今は全然そんな気分になれないや。

 

 

 

 

 

「・・・・あなたの戦い方、ここ、スパイクタウンのジムリーダーにそっくりだね」

 

「っ!?ズルズキン!!」

 

ユウリのエルレイドの『きりさく』が私のズルズキンに入る。

 

私の指示が読まれてる。

ユウリのジム戦を見て思ってはいたけど、強すぎる!

 

「・・・・ここのジムリーダーは私の兄貴だから。私は兄貴のバトルを見てバトルを学んできた」

 

ズルズキンに指示を出しながら答える。

 

兄貴のバトルを見ながら勉強して知識だってつけた。

モルペコ以外の仲間もできた。

 

みんなこれまでのジム戦を一緒に戦ってきた私の大切なポケモン達だ。

ユウリは違うの?そのエルレイドはあなたにとって大切じゃないの?

 

 

 

どうしてそんな目でポケモンを見れるの?

 

「インファイト」

 

冷たい目のままエルレイドに指示を出すユウリ。

私の動きを完璧に読み、反撃をする間もなく私のポケモンが蹂躙される。

 

その目にエルレイドに対する信頼は感じられない。

まるで道具を見ているかのようですらあった。

 

でも、その実力は圧倒的で。

 

 

 

 

 

「・・・・弱いね、マリィ」

 

 

 

フィールドで私のズルズキンが力尽きて倒れる。

それと同時に私も地面に膝をついてしまう。

 

これで三匹目の私のポケモンが彼女のエルレイド一匹に倒されてしまった。

 

まだあと一匹残っているけど圧倒的な実力差に私のほうの気力が先に折れる。

 

モルペコの入ったボールがガタガタと揺れる。

ダメだ、この子を出してもユウリには。

 

「・・・・私の勝ちみたいだね」

 

次のポケモンを出さない私を見てユウリはそう口を開く。

私は膝をついて地面を向いたままでユウリを見ることができない。

 

彼女に私の言葉は届かない。

その言葉を届けるには力が必要で、でも彼女の実力があまりに高い。

 

「・・・・もう私に関わらないで」

 

そう言い残した後、ユウリは裏口を進みスパイクタウンの中へと消えていく。

私は何も言えず消えていくユウリを見ることしかできなかった。

 

「・・・・私のバカ、弱虫」

 

涙が溢れ、地面を濡らす。

泣き虫は子供のころで卒業したはずだったのに。

 

・・・・まるで歯が立たなかった。

 

実力をつけていたつもりだった。

 

でもそれは思い上がりで、今まで勝ってたのもまぐれだったのかもしれない。

 

こんなんじゃチャンピオンなって兄貴みたいにスパイクタウンを盛り上げるなんてできない。

 

ユウリにも私の言葉なんて。

 

「ペコ!」

 

「・・・・モルペコ」

 

ボールから出たモルペコが私に向かって鳴く。

心配してくれてるの?

 

「ペコォ!」

 

私の頭を叩きだした。

 

いや、この子のことだから自分を出さなかったことに怒ってるのもしれない。

 

気まぐれなこの子にはいつも困らされるけど、救われたことの方が遥かに多い。

 

今だってそうだ。

 

「・・・・友達じゃないかぁ」

 

ユウリの言葉を思い出す。

ダメだ、また泣けてきた。

 

絶対ユウリ友達いないでしょう。

 

まぁ私もだけど。

 

「・・・・ムカつく」

 

私と同じ根暗でコミュ障なのに、友達じゃないなんて何様だ。

 

「・・・・絶対リベンジする。それであんたから友達だって言わせるけん」

 

自分でもめんどくさいってわかってる。

 

あんたのことを心配で放っておけないのも本当だ。

 

でもなにより。

 

「あの言葉を聞いた時、私はあんたと友達になりたいって思ったんよ」

 

私の全て。

 

かつて私も思っていた言葉。

 

口下手で何を言っていいかわからず気まずい思いもしたけど、本当はあの時、わかるよって言いたかった。

 

そしてそんなあなたに外の世界を知ってほしい。

 

そのためには強くなるしかない。

今の彼女に言葉を伝えるにはポケモンバトルを通してが一番いいはずだから。

 

もともとチャンピオン目指してるんだからちょうどいい。

 

・・・・その前に。

 

「モルペコ、いい加減私の頭を叩くのはやめて」

 

 

 



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ドMなピカチュウは『ブロッキング』をくらう

「・・・・」

 

マスターの機嫌がめちゃくちゃ悪い。

 

マリィさんとの勝負はマスターの勝ちだった。

僕からも見てもマスターの一方的な展開で終始圧倒していた。

 

見た感じ、マリィさんの強さはホップ君と同等レベル。

十分強いはずなんだけど、それでもマスターには及ばなかった。

 

個人的にはモルペコって子のバトルを見てみたかったんだけどバトルには参加しなかった。

 

前に感じた僕の勘ではあのポケモンは僕のM的欲求を満たしてくれる存在のはず。

まぁ僕の勘だから当てにはならないんだけど。

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」」

 

「・・・・さっきから邪魔」

 

エルレイドの技によって相手のポケモンが吹っ飛ぶ。

そしてなぜか一緒にトレーナーも吹っ飛んでいた。

 

このスパイクタウンに入ってから同じ姿をした人間達にポケモン勝負を挑まれている。

倒さないと通してくれないし、おかげでマスターの機嫌がどんどん悪くなっている。

 

「・・・・あそこが騒がしい」

 

トレーナーを倒しながら歩いていると何やら騒がしい場所に到着する。

 

「・・・・ジム?いやライブ?」

 

誰かが歌っているようだ。

ここには他の街のようにジム用の大きなスタジアムはないのだろうか。

 

「・・・・あの」

 

ジム?の中に入ったマスターが声をかける。

しかし周りの人たちは音楽に夢中なのか反応がない。

 

「・・・・あの!」

 

少し大きな声でマスターがもう一度声をかけるが反応なし。

 

「・・・・」

 

まずい、マスターの機嫌がさらに悪く。

 

「・・・・はぁ、やっと一人目ですか。俺がダメすぎてジムチャレンジャーの全員が避けるのかと落ち込むところでしたよ」

 

音楽を歌っていた男の人がそう言って溜息を吐く。

なんか元気がなさそうだ。

 

「・・・・ジムへの挑戦をお願いします」

 

溜息を吐く男の人にマスターは静かにそう告げる。

どうやらこの人がジムリーダーのようだ。

 

ほかのジムとは町も人も変わってるね。

 

あとこの人マスターと少し似てるかも。

ポケモンバトル以外で知らない人に話すときのマスターとそっくりだ。

 

「・・・・俺は耳がよくてこの町の人たちが入口のシャッターを下ろす音を聞いた気がしたけど気のせいでしたか」

 

「・・・・下りてたけど」

 

「・・・・」

 

あ、目をそらした。

 

「・・・・俺のためにしてくれたことを注意できるほど会話レベルないんだよね。それとこれは街の人から聞きましたが、俺の妹が裏口に案内してくれたみたいですね」

 

「・・・・マリィのことですか」

 

おっと、どうやらこの人はマリィさんのお兄さんのようだ。

そういえば、バトル中にマリィさんが言ってたね。

 

「・・・・妹の交友関係に口出しするのは嫌われるので嫌なんだけど、マリィと仲良くしてあげてください」

 

「・・・・ジムバトルお願いします」

 

ジムリーダーさんの言葉にマスターは応えない。

代わりにボールを構えるだけ。

 

「・・・・ここにはパワースポットがないのでダイマックスは使えません。なので本来のシンプルなポケモンバトルを楽しんでほしいです」

 

「問題ないです」

 

「では始めましょうか・・・・俺はこのスパイクタウンのジムリーダー!あくタイプ使いの天才!人呼んで哀愁のネズ!!」

 

ネズさんがいきなり元気になった!

それと同時にバトルがスタートする。

 

僕たちの先発はロズレイドだ。

 

そしてネズさんの最初のポケモンは。

 

「みんなも名前を呼んでくれ!いくぜズルズキン!特性いかくだ!!」

 

マイクを握りながらネズさんが叫ぶ。

特性言っちゃってるよ。

 

確か『いかく』って相手の攻撃能力を下げるんだっけ。

 

特殊技がメインなロズレイドには関係ないね。

エースバーンやエルレイドなら不利になっていたかもしれない。

 

これもマスターが読んで先発をロズレイドにしたんだろうか。

 

「ロズレイド、「ズルズキン、ねこだまし!」」

 

「ミキュ!?」

 

ロズレイドが動き出そうとした瞬間、相手が両手を合わせて音を出す。

それに驚いてロズレイドの行動が止まってしまう。

 

「そのまま接近!すなかけだ!」

 

「ロズレイド、目を閉じて」

 

ロズレイドが怯んだ隙に接近するズルズキン。

そして地面の砂を掴み、ロズレイドに投げつけた。

 

「ロズレイド、目を閉じたままでいい。落ち着いて私の声に集中して」

 

「ミキュ」

 

ロズレイドの目に砂をかけようとしたみたいだけど、マスターに察知されて目を閉じるロズレイド。

目を閉じたロズレイドはもちろん相手を見えないけど、マスターがロズレイドの目になる。

 

「斜め右にマジカルシャイン」

 

「ミキュ!」

 

相手の動きを見てマスターが指示を飛ばす。

それを聞いたロズレイドがマスターの指示の方向へ技を飛ばす。

 

「やはりフェアリー技を使ってきますね」

 

桃色の衝撃波が相手のズルズキンに当たり吹き飛ぶ。

まだ相手は戦闘不能にはなってないけどかなりのダメージを与えたようだ。

 

「一気にいくよロズレイド」

 

「ミキュ」

 

そのまま仕留めるために動き出すマスターとロズレイド。

その前に相手が次の手をうってくる。

 

「・・・・ズルズキン、周りにすなかけ」

 

「ピカ!?」

 

相手は地面の砂を巻き上げて姿を隠す。

これでは相手が見えない。

 

「位置は覚えてる。あそこにマジカルシャイン」

 

「ミキュ!!」

 

砂埃が隠す前の位置に技を打ち込むロズレイド。

 

再び放たれた桃色の衝撃波が砂埃の中に入り衝撃が走る。

この感じ、直撃した。

 

「かえんほうしゃ」

 

「ミキュ!!?」

 

砂煙の中から飛び出したのは敵ではなく炎!?

予想外の攻撃にロズレイドは動けず炎に飲み込まれる。

 

かえんほうしゃか、ロズレイドの攻撃を受けてまだ動けたなんて。

 

驚きながら砂煙の中のポケモンを見る。

ちょうど砂煙が晴れてきた。

 

「ピカ?」

 

あれ?違うポケモンになってる。

あ、なるほど交代したんだ。

 

相手の行動を見て納得する。

砂煙に紛れて交代し、あのポケモンがロズレイドの技を受けたんだ。

 

「・・・・スカタンク」

 

「相性のいいポケモンと交代させてもらいました・・・・どうしますか?」

 

どうやらあのポケモンはロズレイドと相性がいい、つまりロズレイドの苦手な相手だということ。

これはこっちも交代するべき?

 

「ロズレイド、交代」

 

「・・・・ミキュ」

 

マスターがロズレイドを戻す。

ロズレイドを戻したマスターが腰につけたボールに視線を向ける。

 

 

向ける先にいるのはミミッキュ。

 

「・・・・」

 

ボールの中の彼女からは反応がない。

前のジムバトル以来、彼女はこの調子だ。

 

落ち込んでしまっているみたいで、僕も話しかけたけど残念ながら元気づけることはできなかった。

 

「いくよエルレイド」

 

次にマスターが選んだのはエルレイド。

彼女はあのポケモンと相性がいいのだろうか。

 

「エルレイド」

 

「エルァ!」

 

出て早々と攻撃に移ろうとするエルレイド。

あ、まずい。

 

「ふいうち」

 

攻撃に移ろうとしたエルレイドに相手のポケモンが攻撃を加えてくる。

まずい、まともにくらって。

 

「エルァ」

 

「ピカ?」

 

あれ?くらってない?

相手の不意をついた攻撃を読んでいたのか躱すことに成功するエルレイド。

 

「・・・・読まれてましたか」

 

「あくタイプで初手に出す技で確率が高い技を想定してただけです」

 

どうやらマスターはあの攻撃を読んでいたようだ。

攻撃に移ろうとしたのはフェイントで、彼女たちの本命は。

 

「つるぎのまい」

 

エルレイドの舞が完成する。

これで彼女の攻撃力が大きく上がってこちらが有利になった。

 

「・・・・かしこい子ですね。俺のことをよく調べてる」

 

「・・・・確かに調べましたけど、私の見た過去のバトル映像とは違いますね。もっとマイクで叫ぶんだりして戦うと思ってたのですが」

 

目を細めて相手を観察するマスター。

マイクで叫ぶって最初の叫んでたやつのことかな?

 

「・・・・まぁ、ここでの普段はそうですね」

 

「・・・・今日は違うんですね」

 

ネズさんの言葉に警戒したように言葉を続けるマスター。

相手もマスターを警戒しているみたいだ。

 

ネズさんは警戒しているマスターへ言葉を続ける。

相手はかなりトリッキーな戦術を使うみたいだし、警戒しないと。

 

「・・・・兄貴が変だから妹の友達やめますってあなたに言われるとマリィに殺されますから」

 

「エルレイド、隙ができた今よ」

 

目を伏せてうなだれるネズさんに容赦なく指示を飛ばすマスター。

若干困惑しながらもマスターの指示に従ってエルレイドも飛び出す。

 

しかし相手はエルレイドの動きに対応し、そのまま交戦となる。

 

「勘違いしているようですが、私と彼女は友達ではありません」

 

お互いに指示を出し合って戦う合間にマスターが先ほどのネズさんの言葉を否定する。

それに対しネズさんは不思議そうに首をかしげる。

 

「・・・・そうなんですか?俺がマリィに電話で話を聞いた限り、友好関係なんだと思ってたんだけど」

 

「・・・・違います。それに彼女なら私と仲良くしなくてもたくさんの友人がいるでしょう」

 

お互い会話をしながらバトルを続ける。

確かにマリィさんは面倒見のよさそうな人だし友人も多そうだ。

 

「いませんよ、ここの若い人たちは他の街に行ってしまうのでマリィと同年代の子はほとんどいません。それにマリィはあまり会話が得意ではないので。まぁ俺ほどじゃないけど」

 

「・・・・」

 

ネズさんの言葉には反応をせずバトルに集中してしまうマスター。

相手も反応しないマスターに何も言わずバトルに集中し始める。

 

「エルレイド、きりさく」

 

「エルァ!!」

 

ダメージを受けながらも敵の懐に飛び込んだエルレイドが相手に技を叩きこむ。

『つるぎのまい』で攻撃力が大幅にあがったエルレイドの一撃だ、相手もさすがに。

 

「エルァ!?」

 

突然の爆発がエルレイドを襲う。

見たところ、相手が放った技のようだけどエルレイドの技を受けてまだ動けたなんて。

 

「特性のゆうばく。このダメージは仕方ない、ごめんエルレイド」

 

どうやら相手の特性による爆発だったようだ。

今のも合わせてけっこうダメージをエルレイドは受けたようだけど、相手は戦闘不能になって目を回している。

 

「・・・・っ!?」

 

相手が戦闘不能になった後、エルレイドが頭を押さえてふらつく。

ひどく気分が悪そうだ、あの状態は。

 

「・・・・どくどくを放たれてたみたいだね」

 

エルレイドの様子を見てマスターがそうつぶやく。

やっぱり毒状態だ、『きりさく』をくらいながら『どくどく』を使ったのかな?

 

マスターはエルレイドの状態を確認した後に彼女をボールに戻す。

そしてエルレイドを戻した後に再びロズレイドをフィールドに出した。

 

「いくよロズレイド」

 

「ミキュ!」

 

マスターの声に再びフィールドに戻った彼女が大きく鳴く。

そしてネズさんが繰り出した次のポケモンへ向かって飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・兄貴、あとで怒るから」

 

私は兄貴とユウリのバトルを見ながら小さくつぶやく。

 

マリィに殺されるって、そんなことするわけないでしょ。

 

やってもせいぜい半殺しくらいだから。

 

「・・・・」

 

じっと二人の戦況を見る。

フィールドではユウリのロズレイドと兄貴のカラマネロが戦っている。

 

・・・・戦況は兄貴が不利。

 

ロズレイドとカラマネロはお互い相性の良い技を持っているみたいでどちらも相応にダメージを受けている。

 

ポケモン同士の力は同等レベルのはずだ。

 

しかしユウリの指示が戦況を有利に運んでいく。

私に言ったように兄貴の戦いを事前に頭にいれていたのだろう、相手の技や行動を読んで動き、徐々に勝敗を自身の方へ固めていっている。

 

私は兄貴からポケモンバトルを学んできた。

だから似ているのは当然なんだけど、やっぱり兄貴のほうが戦い方がうまい。

 

そんな私より強い兄貴がユウリにおされている。

 

ユウリの子の強さの根本にあるのはピカチュウの願いを叶えるという絶対の意思。

その不変の思いが彼女をバトルの腕を磨き上げていったのだろう。

 

私にはユウリが負ける姿を想像できない。

 

「ミキュゥ!!」

 

「・・・・もらってしまいましたか」

 

現にいまも兄貴のポケモンが倒れてしまった。

 

その後もバトルは続き、ユウリのエースバーンによって兄貴のズルズキンが倒されてしまう。

 

これで兄貴のポケモンは残り一匹だけだ。

それに対してユウリのポケモンは大きなダメージを受けている子はいるけど一匹も戦闘不能になっていない。

 

この時点でユウリの勝利は決定したようなものだ。

 

兄貴で勝てないユウリに今も私が勝てるはずがない。

 

・・・・でもそれは今の私は、だ。

 

今も私が勝てないのならもっと強くなればいい。

 

「・・・・リベンジするって決めたけん」

 

だから二人の戦いを見る。

 

まずは兄貴を超える。

その後に八つ目のジムも勝ってチャンピオンズトーナメントに出る。

 

そしてそこでユウリにリベンジだ。

 

「いこうピカチュウ」

 

「ピカ!!」

 

「・・・・ふぅ、メンバー紹介!甲高いうなり声が自慢のタチフサグマ!!」

 

ユウリのピカチュウが飛び出し、兄貴の相棒であるタチフサグマに突っ込んでいく。

 

「ペコ」

 

先ほどまで私の頭を叩くのをやめてくれなかったモルペコもピカチュウをじっと見つめている。

 

何か彼に思うところがあるのだろうか。

 

「ピカァァァァァ!!」

 

タチフサグマの技を受けてピカチュウが悲鳴をあげる。

 

タチフサグマの得意技のブロッキングだ。

 

あれは防御技だけど直接攻撃を守ると相手の防御力を下げる効果がある。

 

ユウリなら知ってると思ったけどピカチュウが()()()()()()()()()()()ところを見るに知らなかったようだ。

 

・・・・あと、そろそろね。

 

「ぺ、ぺコ!ペコォォォォ!!」

 

「はいはい後で戦えるから」

 

ピカチュウの吹っ飛んだのを見て戦いたくなったであろうモルペコを抱きしめて止める。

 

・・・・迷わずにっていうと、この子もなんよね。

 

兄貴と勝負するとき、何回言ってもタチフサグマのあの技に突っ込んでいってしまう。

 

「今回はちゃんと言うこと聞いて。ほんとお願いだから」

 

「ペコ?」

 

「・・・・この子、絶対わかってないと」

 

今回も苦労する戦いになりそうだ。

 

 



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ドMなピカチュウは『じしん』をくらう

「ピカ!!」

 

相手に向かって硬質化したしっぽをぶつける。

 

相手は野生のドラピオン、レベルが高くて倒すのに苦労しそうだ。

 

僕の『アイアンテール』を受けても痛がってはいるけど全然動く。

 

けどこれで相手に隙ができた。

 

「エルァ!」

 

僕が作った隙にもう一匹の野生ポケモンを相手にしていたエルレイドが飛び込む。

もちろんエルレイドが相手をしていたポケモンが襲ってくるけど僕がカバーに入って止める。

 

「エルレイド、きりさく。ピカチュウは10万ボルト」

 

「ルァ」「ピカ」

 

マスターの指示に従って技をぶつける。

うん、いい感じに戦えているね。

 

 

自分の欲求に正直なバトルをしたいところだけど、今回ばかりはそれをすると迷惑がかかりすぎる。

 

なぜなら今回のバトルは僕一匹で戦っていないから。

 

「うん、あなたとエルレイドのコンビネーションは良い感じだね」

 

僕とエルレイドのバトルを見て満足そうにうなずくマスター。

そして今度は目を横にそらしてため息をつく。

 

「ヒバ!?」

 

「ミキュ!?」

 

エースバーンとロズレイド、なぜかお互いの技が当たって吹っ飛んでいる。

彼女たちも僕たちのように戦っているけどうまくいっているのだろうか。

 

ヒバヒバァ!(どこ攻撃してんのよバカ!)

 

ミキュミキュゥ!(どこ攻撃してるんですか!このおバカ!)

 

互いに向かって吠えあう二匹。

このままでは野生のポケモンではなく彼女たちでバトルを始めてしまいそうだ。

 

あ、彼女たちの戦ってた野生のポケモン達が逃げちゃった。

 

「・・・・こっちはダメだね」

 

エルエルァ(私と戦った時はできてたんですけどね)

 

マスターとエルレイドからため息が漏れる。

 

僕たちが今やっているのは二対二の変則バトルの練習だ。

 

マスターが言うには最後のジムは二対二の形式で戦うことになるらしい。

だから連携のためにワイルドエリアにある洞窟で練習しているんだけど、なかなかうまくはいかないね。

 

ちなみになんでここにしたかというと、野生ポケモンのレベルが高く、侵入場所が限られている洞窟なら他のポケモンの乱入が少なくてすむからだ。

 

ヒバァヒバァ(なんで私がこいつと)

 

ミキュミキュ(どうして私がこんな方と)

 

「・・・・エースバーン、ロズレイド。ちゃんと連携して」

 

ヒバァヒバァ!(だってこいつが!)」「ミキュミキュ!(だってこの方が!)

 

うん、息ぴったりだね。

お互いに指をさしあう二匹を見てそう思う。

 

絶対彼女たちは相性いいと思うんだけどなぁ。

 

「・・・・はぁ。エースバーン、ロズレイド、よく聞いて」

 

三度目のため言をついたマスターが彼女たちに向かって口を開く。

 

「次は八つ目のジム。つまり最後のジムになる。ここを超えればチャンピオンであるダンデさんと戦える舞台にいける」

 

そう、次でいよいよ最後のジムだ。

長いようであっという間だったジムをめぐる冒険だったけど、いよいよダンデさんとのバトルが見えてきた。

 

「私の想定では八つ目のジムは今でもクリアできる。ギリギリだろうけど、それでもいけると私は思ってる」

 

「ヒバ?」 「ミキュ?」

 

マスターの言葉に首を傾げる二匹。

だったらどうしてこんなことを?という顔だね、まぁ僕も同じ意見なんだけど。

 

「・・・・問題はその後のチャンピオンカップ。チャンピオンのダンデさんと戦うには、そこでジム八つをクリアした人と戦って、しかもその後に本気のジムリーダーとも戦わないといけない」

 

あ、そうなんだ。

てっきりすぐダンデさんと戦えるのかと。

 

「ジムをクリアした人もだけど本気のジムリーダーだって強い。そこではジム用に調整されたポケモンじゃないから今までのように簡単にはいかないよ」

 

「「・・・・」」

 

彼女たちはマスターの言葉を黙って聞く。

僕とエルレイドも同じくだ。

 

「チャンピオンカップに入れば連戦で時間の余裕はない。だからこれが最後なの。今しか時間をかけて修行する時間はない」

 

マスターの言葉で乗り気ではなかった彼女たちの目に真剣みが帯びていく。

それは僕とエルレイドも同じだ。

 

「この二対二の練習だってチャンピオンカップの仕様が不明な以上、練習はいるよ。最短でジム攻略を進めたから時間はある。ここでちゃんと強くなろう」

 

「ヒバ!」

「ミキュ!」

 

マスターの言葉に彼女たちも強くうなずく。

これなら次は問題なさそうだ。

 

・・・・問題があるのは。

 

「・・・・」

 

マスターが次に目線を送った先にいる彼女、ミミッキュ。

 

彼女は僕たちが戦っているのは少し離れた場所で見ている。

 

何回か混ざらないか声をかけてみたけど彼女は目を伏せて黙ったままだった。

彼女の強さはよく知ってるし、バトルに参加してくれたら心強いんだけど。

 

うーん、一応僕は彼女の父親なんだから彼女を元気づけたい。

でも話かけても反応が薄くて、どうしたらいいかわからない。

 

やっぱり僕が父親ではダメなんだろうか。

 

「・・・・みんな、次戦うポケモンは弱らすだけにして」

 

ミミッキュへの視線を切った後に僕らにそう指示をだすマスター。

その手には空のモンスターボールが握られている。

 

それって。

 

「おお、やってるね」

 

次のバトルに向かおうとした時に洞窟の入り口から聞き覚えのある声が聞こえる。

 

あれってMさんだ。

 

「あはは、なんでここがって顔してるね。これでもプロだから、痕跡をたどって追いつくくらいできるのさ」

 

小説家ってすごい。

 

「・・・・答えになってないですけど」

 

Mさんの言葉にマスターはそう答える。

確かにここに来た理由の説明にはなってない。

 

「特別な理由なんてないよ。君たちが何してるのか気になっただけ」

 

「・・・・見ての通り修行中。危ないから出てって」

 

「大丈夫大丈夫、こう見えて僕強いからさ」

 

マスターの言葉にMさんは胸を張りながら答える。

強いって言ってもMさんは人間なんだから心配なんだけど。

 

それともポケモンの仲間がいるのかな?

 

「・・・・まぁ聞きたいことがあったからちょうどいいです。ねぇMさん」

 

「ヒバッ!?」

「ミキュッ!?」

 

マスターがMさんに質問しようとした直後、洞窟の奥からポケモンの気配を感じる。

これはかなり手ごわそうだ。

 

洞窟の奥から現れたのは先ほどまでエースバーンとロズレイドが戦っていたのと同じ種類のポケモン?

 

「・・・・ブリムオンとドラパルド」

 

奥から現れたポケモンの名前をマスターがつぶやく。

 

「さっきユウリ達が戦ってたポケモン達の進化系だね、逃げていった子たちが呼んだのかな?」

 

現れたポケモンを見てMさんが面白そうにそうつぶやく。

 

となるとかなり怒ってるね、気を付けないと。

 

「・・・・強いのならちょうどいいや。エースバーン、ロズレイド、やるよ」

 

二匹を見たマスターが空のボールを構えて彼女たちに指示を出す。

どうやらあの二匹を捕まえるつもりらしい。

 

・・・・今のマスターの手持ちは僕と含めて五匹。

所持できるポケモンの数は六匹までのはずだからあの二匹を捕まえてしまうと一匹余ってしまう。

 

その時マスターが外す一匹は。

 

「エースバーン、かえんぼー、なにっ!!?」

 

「エルァ!?」

 

「地震!?最近多すぎ!!」

 

バトルが始まろうとした直後、以前と同じように地震が起こる。

しかもこれって前よりもかなり大きい。

 

強烈な揺れによって全員が身動きが取れない中、洞窟の中で変化が起きる。

 

「っ!?これってガラル粒子!?」

 

洞窟の地面から突如として紫色の柱が立ち上がる。

これって今までジムバトルで見てきたダイマックスの光じゃ。

 

「まずい!!みんなここから急いで離れて!!」

 

マスターの焦った声が洞窟に響く。

 

離れたいけど地震でまだみんな動けない。

 

そうこうしているうちにマスターが叫んだ理由がわかる。

 

「これは、やばいね」

 

Mさんが汗を流しながら光を見る。

紫色の柱が二匹の野生のポケモンを飲み込んでいる。

 

あれ?何か大きくなってない?

 

「「ギャオォォォォォォ!!!」」

 

紫色の光が収まった時、そこから現れたのはダイマックスしたブリムオンとドラパルド。

ダイマックスしたポケモン、それも二匹!

 

「っ!!状態異常にして動きを止める!!ピカチュウ、でんじ」

 

「ダメだ、間に合わない!!」

 

僕が電撃を相手にぶつけようと動く前にダイマックスした二匹の大技が放たれる。

 

二匹同時に放たれたダイマックス技がたやすく僕らを飲み込む。

 

まずい、衝撃波で吹き飛ばされる。

 

僕らポケモンはともかく、マスターやMさんを一人にしてしまえば命の保証がない!

 

洞窟の中で巻き上がった砂埃の中で人影を見つける。

どっちでも関係ない、助ける!!

 

「ピカ!!」

 

「っ!?ピカチュウ、ユウリは!?」

 

砂埃の中を突っ切った先にいたのはMさん。

よし、Mさんは見つけた。あとはマスターを。

 

「ピカチュウ!」

 

「キュキュ!?」

 

離れた場所でマスターとミミッキュの声が耳に入る。

彼女たちは一緒みたいだね、よしすぐに合流を。

 

「まずい、ピカチュウ!次の攻撃がくるよ!!」

 

「ピッ!?」

 

Mさんの声で相手の方へ向き直る。

砂埃のせいで相手の攻撃のタイミングがわからない。

 

「ヒバァ!」「エルァ!」「ミキュ!」

 

彼女たちの声と共に技の炸裂音が届く、これは彼女たちが戦ってくれている。

でも攻撃を止めるには至らない。

 

「っ!?ピカチュウ、どこにいるの!?」

 

ピカ―!!(マスター!!)

 

せめてマスターと合流して守らないと。

Mさんを連れてマスターの声の方へ走るが、その前に再び相手のダイマックス技が到達する。

 

その技の威力はすさまじく、壁がえぐれ、洞窟全体が揺れる。

まずいね、このままじゃ洞窟がつぶれるかも。

 

しかし洞窟がつぶれる前に限界を迎えたのがあった。

 

「ちょ、地面が崩れて!?」

 

先ほどの地震とダイマックス技、これらの力によって地面が砕け散る。

 

穴が開いたみたいだ、それも結構深い。

 

ピカ!!(Mさん!!)

 

「ピカチュウ!?」

 

今の状況ではマスターの元に向かうのは無理だ。

だったらせめてMさんを守らないと。

 

マスターの元にはミミッキュがいるし、エースバーンたちも戦ってくれているからなんとかなるはずだ。

 

僕らのところへ落下してくる岩を電撃としっぽと吹き飛ばす。

でも落下まではどうにもできないな。

 

ごめん、こっちは僕がなんとかするから。マスターのことを頼む。

 

みんなを信じて闇の底に消える。

 

 

 

 

・・・・こんな時になんだけど、落ちた時の衝撃が楽しみだ。

 

 

 

 

「キュキュ!?」

 

な、なに!?

 

洞窟の中でパパたちが戦っているのを見ていたら突然地面が揺れる。

混乱する私に追い打ちをかけるように紫色の光が走り、二匹のポケモンが大きくなる。

 

ど、どうしたらいいの。

 

慌てて身動きがとれない間に大きくなったポケモンの技が放たれる。

 

パパ!?

 

私には当たらなかったけどパパは無事!?

はやく、パパのもとに。

 

いやでも私が行っても足手まといにしか。

 

今まで見たパパたちのバトルを思い出して私は足を鈍らせる。

弱い私じゃパパの助けには。

 

「ピカチュウ!!」

 

砂煙の中から私の前に誰かが現れる。

 

「ピカ、ミミッキュ!?ここにいたのね」

 

人間が私に近づいてくる。

どうやら私とパパを勘違いしてここまで来たらしい。

 

「ピカ!!」

 

砂煙の中からパパの声が聞こえる。

あっちにパパがいる。

 

「あっちね。ミミッキュ、パパと合流するよ」

 

人間もパパの声が聞こえたみいたいで私をつれて歩き出そうとする。

・・・・でも、私が行っても足手まといに。

 

「・・・・ミミッキュ?」

 

足を止めた私を見て人間も足を止める。

 

それが間違いだった。

 

「キュ!?」

 

「っやばい!地面が砕けて」

 

再び放たれた相手の技を受けて地面が限界を迎える。

 

ダメだ、落ちちゃう!

 

「ミミッキュ!!」

 

「キュキュ!?」

 

なんで私を抱きしめて。

 

落下する私を守るみたいに人間が私を抱きしめて隠す。

 

なんで?どうして?

 

あなた私が嫌いなんじゃないの?

 

私わかるもん、あなたから見たらパパを奪おうとしてるように見えてるんでしょ?

 

なのになんで私を守ろうとするの?

 

私の疑問に人間は答えることはない。

 

そのまま私たちは奈落に消えていった。

 

 

 

 

 




この地震はゲームシナリオで七つ目のジム攻略後に起きたものになります。


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ファザコンなミミッキュは『まもる』をくらう

「ヒバァ!?」

 

ピカチュウ!?

それにユウリもミミッキュも!!

 

砂煙で見えないけど向こうから地面が砕ける音がした。

まさか、地面の下に飲み込まれてないでしょうね。

 

助けにいきたいけど、こいつらを暴れさせたままにするわけには。

 

「エルァ!!」

 

「ミキュ!!」

 

「っ!?」

 

こいつらは無事だったみたいね。

まぁ、心配してなかったけど。

 

どうする、私だけであのデカくなった奴らを相手して、その間にこいつらに助けに行かせる?

いやそれは無理ね、さすがに。

 

敵は二体。

 

だったらこっちも二匹いる。

 

二匹でこいつらを倒して、残り一匹でピカチュウたちを助けにいくべきか。

 

「・・・・ミキュ」

 

横にいたロズレイドと目が合う。

 

・・・・どうやら考えることは同じらしいわね。

ムカつくやつだけど、こういう時だけは頼もしいわ。

 

「ヒバァ!」

「ミキュ!」

 

私たちは同時にエルレイドに向けて叫ぶ。

敵にではなく、砂埃に消えた彼らの方に。

 

これだけで伝わるはずだ。

 

「ッ、エルァ!!」

 

私たちの意思に気づいたエルレイドが強く頷いて砂埃に消える。

とりあえずあっちは彼女に任せる。

 

さぁ、あとは私達でこいつらをなんとかしないとね。

 

『『ゴァァァァァァァ!!』』

 

デカくなった敵が吠える、それだけで強烈な威圧感が放たれる。

 

もともと強い個体だった敵がデカくなったんだ、厄介なことこの上ないわ。

 

おまけになれない二対二の変則バトル。

 

これが彼と一緒だったら負ける気がしないってのに。

 

今回はよりにもよってこいつとか。

 

「・・・・ミッキュゥゥ」

 

あ、こいつ今、私を見ながらため息ついた。

ため息つきたいのはこっちだバカ!

 

・・・・はぁ。

 

ヒバヒバァァァ(足引っ張んじゃないわよ)

ミキュミキュゥゥゥ(足引っ張らないでくださいよ)

 

ムカつくけど、こいつと一緒でも負ける気がしないのよね。

 

 

 

 

ここは?

 

ぼーっとする頭を振りながら起き上がる。

私は何をしてたんだっけ。

 

「・・・・起きた?」

 

「キュ?」

 

声の方を見れば私を人間が座ったまま見下ろしていた。

 

人間を見て状況を思い出す。

 

そうだ、地面が砕けて私は穴に落ちたんだった。

 

「とりあえず生き埋めにはならずに済んだけど、滑り台みたいに穴を滑って遠くまで来たみたいだね」

 

見上げれば私たちが落ちてきたであろう穴が見える。

 

穴から光が見えないし音も聞こえない、確かに遠くまで運ばれたみたい。

 

「キュッ!?」

 

身体を動かそうとすると痛みが走る。

動けないほどじゃないけどダメージを受けてしまったみたい。

 

「怪我してるの?バックにきずぐすりがあるからそれで直して「キュ!」」

 

そんなのいらない!

人間の情けなんか受けなくても動けるもん。

 

「そう、大丈夫ならいい」

 

私が手を払ったことを気にした様子もなく人間は立ち上がる。

 

「っ、じゃあ歩こうか。上にあがれる場所を探さないと」

 

「キュ?」

 

一瞬違和感が。

まぁ、いいや。確かに人間のいう通りパパと合流するためにも出口を探さないと。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

お互い無言のまま歩き続ける。

 

・・・・パパ、今頃心配してくれてるかな?

 

それとも、隣の人間のことを心配してる?

 

暗い洞窟を進んでいると心まで暗くなっていく。

いや、心が暗いのは元からだね。

 

一生懸命修行して強くなったつもりだった。

 

これでパパに置いて行かれないって、私も連れて行ってくれるって。

 

でも違った、パパには私より強い仲間がたくさんいた。

 

その仲間たちを私の知らない道を進んでいて。

 

そして何よりパパ自身も強くなっていて。

 

もうパパに私が必要な理由なんて。

 

「・・・・ねぇミミッキュ。せっかく私達だけだし、お話しよっか」

 

「キュ?」

 

ずっと黙って歩いているだけだった人間が突然話しかけてくる。

今更何を話すというんだ。

 

「・・・・私ね、子供の頃からずっとひとりぼっちだったんだ」

 

何も言わない私に人間は語り始める。

 

『あー!またユウリが一人で本を読んでるぞ!』

 

『ぼっちのユウリだぁ!』

 

『・・・・』

 

『おい何とかいえよぉ!』

 

『こいつ、親がいつもいないから家でもずっと一人なんだぜぇ!』

 

『・・・・うぅ』

 

『あ!泣いた!』

 

「泣き虫な私は近所の男の子たちにいじめられて、それからずっと一人で本を読んでたんだ。友達はほしかったけど話すのが苦手で自分から話しかけることなんて出来なかった」

 

「・・・・」

 

泣き虫で、いじめられて、ずっと一人。

 

・・・・それって私と少し似てる。

 

「親も昔は忙しくていなかったし、私は自分だけの世界に閉じこもり続けてた。何のために生まれてきたのかもわからない色のない世界で一人で」

 

自分の過去を思い出しているのか、つまらなそうに語り続ける。

その時の過去は本当に何もなかったんだろう。

 

人間の表情からそれが読み取れる。

 

でも、次からの言葉で言葉に熱を帯び始める。

 

「でも、あなたのパパとの出会いが私の人生に色をくれた。一人っきりだった私の世界にあの子が入ってきてくれたの」

 

キュキュ(パパが)

 

「気まぐれで部屋から出て近くにある、まどろみの森に向かったの。あなたとあなたのパパがいたところね。あの森の近くに私の家はあるの」

 

ということは、私が出ていった後のパパはそこにいたの?

まさかあの森に近くにいるとは思わなかった。

 

『・・・・うぅ、ここはどこぉ?こわい、こわいよぉ』

 

「・・・・誰かに助けてって言いたかった。でもこういう時、助けてって言える相手が私にはなかった」

 

『・・・・うぅ』

 

誰かに助けを求めることができずに霧の中を歩き続けたと語る。

 

泣きたい気持ちはよくわかった。

だって私もあの霧の中で泣いてたから。

 

深い霧は私を守ってくれると同時に私を孤独にしていたから。

 

「興味本位で入った深い霧の中で迷子になって泣いていた私の前に野生のポケモンが現れた。そして襲われそうになった直前、ボロボロのあの子が助けに入ってくれた」

 

『グギャァァァ!!』

 

『ひぅ!?』

 

霧の中で現れた野生のポケモン。

人間の、それも幼い子供だったら逃げることすらできないだろう。

 

怖いよね。

わかる、私も襲われた時は泣きながら逃げたから。

 

『ピカァ!!』

 

『グギャァ!?』

 

『ひぅ!?ピ、ピカチュウ?』

 

これは一緒。

泣いてる時にパパは私を助けてくれた。

 

ボロボロの姿で助けてくれたらしい。

 

パパはいつもボロボロで、なのに誰かが傷つくのを嫌う。

誰よりも自分が傷ついているくせに。

 

「助けてくれたあの子は私を出口まで連れていってくれた。お礼もしたかったし家であの子を治療したんだけど、その時のあの子の笑顔は今でも覚えてる」

 

『ピカ!!』

 

人間の言葉を聞いてパパの笑顔と声が頭の中に思い浮かぶ。

 

きっとこの人もあの笑顔に救われたんだ。

 

私とこの人の思い浮かぶパパの笑顔。

それはきっと同じ。

 

「一人っきりの世界にあの子が入ってくれて、私の人生にあの子が意味をくれた」

 

幸せそうに頬を緩めながらそう語る。

今の絶望的な状況すらも忘れてしまっているかのように。

 

「だから私はあの子の願いを叶えるために全力を尽くす。それがあの子がくれた私の人生の意味だから」

 

「・・・・」

 

言葉の重さが伝わってくる。

本気だ、この人は本気でそう言っている。

 

それがこの人の根幹。

強さの理由。

 

きっとこの人だけじゃない、他もポケモン達も同じだ。

 

みんな、パパに救われてその人生の意味を知った。

 

全員、私と一緒なんだ。

 

「・・・・本当はあなたも一緒にあの子の願いに協力してほしいんだけど、あなたが無理ならしょうがない。それで離れ離れにするつもりはないから安心して」

 

「・・・・キュ」

 

前のバトルのことを言っているのだろう。

 

・・・・協力。

 

あの時私は一匹で突っ走って、結局負けた。

全部私が弱いから。

 

・・・・こんな私が協力したってパパの迷惑になるだけだよ。

 

「あなたが何考えるのかわかる。でも、あなたはちゃんとつよ、っ!?」

 

「キュ?」

 

急に言葉を止める。

どうしたの?

 

「ゴガァァァァァァァ!!!」

 

「ジヘッド!」

 

私たちの目の前に現れたポケモンが吠える。

そんな、まだダメージがあるのに。

 

「っ、ここから先はいかせない」

 

「ッッ!?」

 

なんで私の前に立って両手を広げてるの!?

そんなのまるで、私を守ろうとしてるみたいじゃない!?

 

「・・・・ミミッキュ。あなたは逃げて」

 

「キュ!?」

 

逃げてって、じゃああなたはどうするの!?

 

「・・・・私ね、足を痛めてて走れないんだ。だから足手まといになっちゃう、だから私をおいて逃げて」

 

「っ!?」

 

この人が立ち上がった時に違和感を感じたのはそれか!

 

どうしよう、戦う?

でも落下で大きなダメージをおってるのに、あの強そうなポケモンに勝てる?

 

・・・・あの時、この人に回復をしてもらっておけば。

 

「早く逃げて。私がなんとか足止めする、あなたには死んでほしくないの!」

 

キュキュ(どうして私を)

 

あなたは私が嫌いなんじゃないの?

落下した時だってそうだ、どうして私を抱きしめてかばったの?

 

私の言葉はこの人に通じない。

 

でも、彼女は私の言葉がわかったかのように笑み浮かべる。

 

「私があなたのママだから」

 

「っ!!?」

 

「・・・・あなたはあの子の大切な子供、だから私もあなたを大切にしたい、それこそ自分の子供のように」

 

そう言って彼女は私の頭を撫でる。

 

ママ?

 

この人が私のママになってくれるの?

 

「ガァァァァ!!」

 

「っ!?はやく逃げて!!」

 

こっちに突撃してきたポケモンを見て慌てて私を逃がそうとする。

 

人間なのに、私なんかより弱いはずなのに、それでも私を逃がそうと。

 

「キュキュ!!」

 

「・・・・ミミッキュ!?」

 

逃げそうとする彼女の傍を抜けて襲い掛かるポケモンに立ち塞がる。

自分でもどうして戦おうと思ったのかわからない。

 

でも、不思議と後悔はない。

 

「キュー---!!」

 

身体に走る痛みに耐えながら攻撃を行う。

勝って、この人と一緒にパパに会う!会うんだ!!

 

「ガァ!!」

 

「キュ!?」

 

私の攻撃をくらっても攻撃をやめない。

相手の攻撃が私に襲い掛かる。

 

ダメだ、やっぱり今の私じゃ。

 

「ミミッキュ、右の岩に飛び込んで!」

 

「キュ!?」

 

言われた通り右の岩に飛び込む。

その瞬間、相手の爪が岩に刺さり動きが止まる。

 

「今!相手に10万ボルト!!」

 

「キュ!!」

 

「ガァァァ!?」

 

渾身の電撃を相手に放つ。

よし!相手は吹き飛ばした!!

 

「よし!いいよミミッキュ!!」

 

「・・・・」

 

負けると思ったのに私がおしてる。

私は弱いのに、なんで。

 

「ミミッキュ、あなたは勘違いしてる」

 

困惑する私に彼女が話しかけてくる。

 

「あなたは弱くない、ただ一匹では強くても限界があるの」

 

私が弱くない?それに限界って。

 

「・・・・私だけじゃ、あの敵に勝てない。そしてあなた一匹でもあれには勝てない」

 

・・・・勝てない。

 

それが今の私の強さの限界。

でも、あなたと一緒なら勝てる?

 

「・・・・本当はあなたの前に立って守ってあげたいけど、無理みたい。それができるのはあなたのパパだけ。だから私は後ろからあなたを守らせて」

 

パパが前を守ってくれる。

 

そしてあなたは後ろを守ってくれる?

 

それって。

 

「お願い、私にあなたを守らせて。私を、信じて」

 

「・・・・キュキュ(うん、信じる)

 

痛みはある。

身体も思ったように動かない。

 

でも、先ほどの不安はない。

不思議と負ける気がしなかった。

 

それはきっと、この人が後ろで見てくれているから。

 

「ガァァァァァ!!」

 

「来るよミミッキュ!!」

 

キュ!キュキュ!!(うん、ママ!!)

 

絶対こいつを倒してここを出る。

 

この人、ううん、ママと一緒に!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

 

 




別に関係ないですけど。

最後の「・・・・」はユウリです。


ユウリ視点の描写を書かないのに深い意味はありません。


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ドMなピカチュウは『へんしん』をくらう

※情報復習
ピカチュウはMのことをドMだと思ってます

上記を頭に入れてお読みください


「・・・・ピッッカ?」

 

ここは?

 

っ!?ふぅ、これはなかなか気持ちのいいダメージをうけたようだ。

 

気持ちよさで思い出してきた、地面が割れて穴に落ちたんだった。

痛みからけっこう深いところまで落ちてきたことがわかる。

 

そうだ!Mさんは!?

 

周りを見るけどMさんの姿が見当たらない。

僕と一緒に落ちてきたはずなのに、まさか途中ではぐれた!?

 

くそ!暗くてよく見えない!

 

 

こういう時に明かりがあれば・・・・。

 

うん、僕が明かりになればいいんだった。

人の生活に馴染みすぎて気が付かなったよ。

 

「ピッカァ!」

 

電気を身体から発して洞窟を明るくする。

けっこう広そうだ、天井も高い。

 

「ピカ!!」

 

いた!

Mさんの姿を発見して急いでかけよる。

 

ってんん?おかしいぞ。

 

そこにあったにはMさんの服だけだ。

どうして服だけ?

 

Mさん自身はどこにいったんだろう。

 

「ピカ?」

 

周りを改めて見回しているとMさんの服の中で何かが小さく動いていることに気が付いた。

何かいる。

 

Mさんの服の中を確認するために服を捲っていく。

僕の手が小さいってのもあるけど、Mさんって色々な小物や変わった服を着てるから捲りにくい。

 

少し手間取りながらもようやく動きのあるところにたどり着く。

 

そして動きのある場所を捲ると、そこには見たことのあるポケモンがそこにいた。

 

このポケモンは・・・・メタモンだ。

 

なんでメタモンがMさんの服の中に?

 

メタモンは気絶しているのか目を閉じたまま動かない。

怪我はしていなさそうだけど、まさかこの子がMさんを隠した?

 

「メ、メッタァ?」

 

あ、起きた。

 

メタモンはふらつくのか目を細めて身体を揺らす。

そして私を見て口を開く。

 

「メタ、メタメタ」

 

「ピカ?」

 

メタモンが何かを僕に言っている。

でも僕ではこの子の言いたいことがわからない。

もしかしてMさんのことを言っている?

 

僕が困っていると、困惑したように口を止める。

そのあと、なぜか自分の身体をペタペタと触りだした。

 

「メタァ!!?」

 

しばらくペタペタと自分の身体を触った後、急に絶叫をあげる。

そして慌ててMさんの服の中へ戻りだした。

 

なんでMさんの服の中に!?

僕が混乱する中でさらなる混乱が僕を襲う。

 

「・・・・ふぅ」

 

「ピカァ!?」

 

服の中からMさんが出てきた!?

 

メタモンが服の中に入ったと思ったら次の瞬間にはMさんが服から出てくる。

 

出てくるっていうか生えてきた?

 

え、人間ってこんなこともできたの!?

 

「・・・・いやぁ、ついに見られちゃったね」

 

Mさんは困ったように笑みを浮かべながら頬を指でかく。

そして僕に向かって口を開いた。

 

「君はとっくにわかってただろうけど、僕は人間じゃない。君と同じポケモンさ」

 

「・・・・」

 

いやMさん、気づいてなかったからね僕。

驚きすぎて声が出ないけど。

 

つまりMさんは人間ではなくポケモン。

それも変身が得意なメタモンだった。

 

その変身でずっと人間になってたってことか。

 

うん、こんなのわかるわけないじゃん。

 

「まぁ、ちょうどいいかな。僕は好きなものは最後にとっておく派でね。君への質問は最後の最後って決めてたんだ」

 

そう言ってMさんの姿が解ける。

これって変身?何になるつもりなんだ?

 

「・・・・正直、この姿はあまり好きじゃないんだけどね。たとえ()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

変身した姿に固まる。

そこにいたのは誰よりも見慣れた姿だった。

 

「ある意味、初めましてになるかな?僕はM、どこにでも小説家のメタモンだよ」

 

そこにはもう人間のMさんはいない。

いるのは僕と同じ、ピカチュウになったMさんだった。

 

 

 

 

 

「終わりだサカキ」

 

「・・・・まさかこの私が、こんな子供に敗北するとはな」

 

フィールド立つのは赤い帽子をかぶった子供とピカチュウ。

 

そして膝をついて倒れているのは黒のスーツを着たオールバックの男。

その男の近くには彼のポケモンであるニドキングが倒れている。

 

あいつが、レッドが、ロケット団のボスであるサカキを倒した。

 

サカキが使っていた強力なポケモン達をレッドの相棒のあのピカチュウが蹴散らしたんだ。

もちろんレッドの他のポケモン達も奮闘した結果の勝利だ。

 

けど、それでもあのピカチュウの活躍が圧倒的だった。

 

「倒したかレッド!それにMも来てくれて助かったぞ!」

 

「・・・・うん、グリーンもお疲れ様」

 

レッドとサカキのバトルが終わった後にグリーンがタイミングよく入ってくる。

 

グリーンは幹部たちの相手をしていたけど、この様子だと勝ったみたいだ。

 

レッドが勝利した状況にライバルとしてどこか悔しそうに、でもそれ以上に興奮しているようだ。

他のポケモン達も勝利を喜んでいる。

きっと、ここにブルーもいれば同じように興奮しながら喜んでいたことだろう。

 

それほど魅せつけられる戦いだった。

 

・・・・この場でこの状況を冷めた目で見ているのは僕だけだ。

 

シルフカンパニーの本社をロケット団が占拠し、その社長を脅して自分たちのものにしようとしていたようだけど、それに気が付いたこの主人公たちによってロケット団は壊滅状態まで追いやられた。

 

「・・・・最強の悪でもレッドに勝てなかった」

 

これが何よりの証明になってしまう。

 

レッドとピカチュウ。

 

こいつらがこの世界の主人公であることが。

 

出会ってからずっとこいつらを見てきた。

主人公に憧れて旅をしてきた僕の目の前に現れた明らかの他とは違う存在。

 

ずっとそれを否定するために旅に同行し、このロケット団との勝負にだって手を貸した。

 

でもこれで証明されてしまった。

 

あの絶対悪でさえ彼らの力に屈した。

 

・・・・僕には絶対なれないと見せつけられた。

 

「・・・・じゃあ僕は帰るよ。レッドにもよろしく言っておいて」

 

「あ、ああ。気を付けて帰れよ」

 

シフルカンパニーのエレベーターで降りながら考える。

 

・・・・これから僕はどうすればいいんだろう。

 

ずっと主人公に憧れて旅をしてきた。

でも、僕は主人公になれないことがあいつらの存在でわかってしまった。

これではもう旅を続ける意味がない。

 

「・・・・もういっそのこと死のうかな」

 

生きる目的もなくなった、生まれた意味すらもわからない。

これじゃあもう。

 

「・・・・本屋」

 

たまたま目に入った本屋に立ち止まる。

人間の文字が読めるようになってハマった本。

 

これが僕が主人公を目指そうとしたキッカケだ。

 

「・・・・そうだ、こんな僕でもできることがある」

 

今まで読んだ本に登場した主人公たち。

それを今度は僕が書こう。

 

あいつらの物語を僕が本にしてみんなに知ってもらうんだ。

 

 

 

それがきっと・・・・偽物である僕が生まれた意味のはずだ。

 

 

 

 

 

 

「さて、歩きながら話そうか。出口を探さないといけないしね」

 

「う、うん。確かにそうだね。早くマスターに合流しないと」

 

変身した僕に戸惑ったようだけど、すぐに焦った様子を見せるピカチュウ。

よっぽどユウリのことが心配みたいだ。

 

「ユウリは対応力があるから大丈夫だよ。むしろ自分たちの心配をしなきゃ」

 

「うーん、まぁ僕は動けるし、何かあったらMさんのことは守るよ」

 

「・・・・さすが」

 

主人公だけあってかっこいいこと言うじゃないか。

あまり強くないからカッコいいというか微笑ましいというかって感じだけどね。

 

「まぁ、僕とMさんの場合は襲われる分には心配いらないよね」

 

「え?うんそうだね」

 

ピカチュウはともかく僕まで?

意味がわからないけど頷いておく。

 

もしかして僕の強さにも気づいてる?

 

「それにしても君のバトルを何回か見せてもらったけど、あれはなんだい?」

 

「え?」

 

「あのガンガンいこうぜと言わんばかりの戦いだよ!もっと効率のいい戦いがあるんじゃないかな!?」

 

ずっと言いたかった言葉をついにぶつける。

いやー、ポプラさんとのバトルからずっと言いたかったんだよね!

 

「効率のいい戦いってマスターみたいな?」

 

「マスター?ああ、ユウリのことか。そう!君の力をもっと十分に引き出した戦いだよ!」

 

そうすればポプラさんもメロンさんの時ももっと楽に勝てたはずなんだ。

 

なぜかピカチュウが戦う時はユウリは指示をあまり出さない。

 

そのせいで不利になるにも関わらずだ。

 

「・・・・僕の力を十分に引き出した戦い。それだと今のままでいいかな。いやまぁ、そういうのも大事だってわかってるんだけどね」

 

「・・・・あれが君の力を引き出す戦い方だっていうのかい?」

 

「うん、ていうかMさんならわかるでしょ?」

 

僕ならわかる?

ピカチュウの言葉の意味を考える。

 

そして思い出すのは試合での観客席での様子。

彼のバトルを見て、いや魅せつけられて応援する観客たち。

 

心からバトルを楽しむ姿勢、あれこそが彼の力を引き出しているというのか。

 

ピカチュウは私ならわかると言った。

自身のバトルに魅せられた僕ならわかると。

 

「・・・・そうだね。確かにわかるよ」

 

自身だけじゃない、相手の力すらも引き出すバトル。

僕はその力をわからされている。

 

「だよね!Mさんなら」

 

僕の言葉に嬉しそうに笑うピカチュウ。

まるで僕を本当の仲間として見ているかのような信頼を感じる笑みだ。

 

・・・・やめてくれ、そんな笑みを僕に向けないでくれ。

 

僕は君とは違う、偽物なんだ。

 

「・・・・僕は君たちとは違うんだ」

 

「君たち?」

 

僕の言葉にピカチュウが不思議そうに首を傾げる。

そうか、君は知らないんだったね。

 

「・・・・君と同類のピカチュウを僕は知ってる」

 

「っ!!?ぼ、僕と同類!?それもピカチュウで!?」

 

そう、君と同じ主人公さ。

タイプは違うけど、それでも同じ物語の中心にいるべき存在だ。

 

「ふふ、まぁそいつは君よりも遥かに格上だけどね」

 

「ぼ、僕よりも遥かに格上!?」

 

そう、あいつは同じ主人公でも別格だ。

誰もあいつには勝てない、たとえ同じ主人公である君でも。

 

「うん、君では勝負にすらならない」

 

・・・・ユウリなら、あのレッドに匹敵するかもしれないね。

ユウリからは彼と同じレベルの力を感じる。

 

でも勝負すれば負けるのはユウリだろう。

残念ながら同じピカチュウでも差がありすぎる。

 

「・・・・そんなの、やってみないとわからないじゃないか!!」

 

「っ!?」

 

ピカチュウが大声で吠える。

その表情は悔しそうで、絶対に認めないと言っている。

 

「僕だってプライドがあるんだ!たとえ僕らと同じMさんが言うんだとしても僕は認めない!!」

 

は?いくら君でもそこまで自惚れられるとムカつくんだけど。

 

「だからぁ、勝負にならないって言ってるだろ。それと、僕は君たちとは違う!何回言えばわかるんだ!!」

 

「だから勝負にならないなんて勝手に決めないでよね!実際に会ってみないとわからないじゃないか!!あとMさんは僕たちと一緒だろ!なんでそんなこというんだ!!」

 

「ー-ー-っ!!」

 

お互いにヒートアップして大声で言い合いになる。

こいつ!なんでそんなに僕を同じだって言い続けるんだ!!

 

やがて僕の中で何かが切れた。

 

「・・・・そんなに知りたいなら教えてやるよ」

 

「え?それってどういう」

 

「・・・・こういう意味さ!!」

 

そう言って僕は変身を開始する。

思い描くは最強の存在。

 

主人公の存在を模倣していく。

 

もともと同じ種類に変身しているから外見は大きく変わらない。

 

でも・・・・その中身はまったく別だぞ。

 

自身の中に強大な電撃が生まれるのを感じる。

 

・・・・この変身だけはしたくなかった。

嫌でも自分が主人公ではないと見せつけられるから。

 

だからこれを使わせた君には酷い目にあってもらうよ。

 

 

「さぁ、死ぬ気でかかってこいよ本物。偽物である僕に勝てないようではあいつには勝てないぞ!!」

 

僕の身体から電撃が漏れる。

 

変身した姿は主人公の相棒にしてもう一匹の主人公。

 

最強のトレーナー、レッド。

 

その相棒のピカチュウだ。

 

 

 

 



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ドMなピカチュウは『ボルテッカー』をくらう

「やっと見つけたぞ!」

 

「・・・・グリーン」

 

僕が船に乗ろうと桟橋を渡るところで声がかかる。

はぁ、あと少しでこのカントー地方を出れたのに。

 

「これってジョウト地方行きの船だよね。カントー出ていくの?」

 

「・・・・ブルーも来てたんだ」

 

グリーンの後ろから顔見知りの女性が現れる。

彼女がいるってことは、あいつも。

 

「・・・・いないみたいだね」

 

見回してみるけど見つからない。

どうやらレッドはいないみたいだ、よかった。

 

最後の最後で嫌な顔を見なくてすむ。

 

「新しい世界を見に行きたいんだ。悪いけどもうチケットは買ってるしやめるつもりもない」

 

実はチケット買ってないんだけどね。

船の中で買えばいいや。

こうでも言わないと話が長引きそうだ。

 

「っだったらせめて、俺たちに挨拶くらいしていきやがれ!」

 

「グリーン、トキワシティのジムリーダー就任あめでとう」

 

「おうありがとう。って、そういう挨拶じゃねぇよ!!」

 

「いやコントか」

 

僕とグリーンのやり取りにブルーがジト目でツッコミを入れる。

これで挨拶したし、もういいかな。

 

「はぁ、行く前にこれだけ聞かせろ」

 

乗船をやめるつもりのないと確信したグリーンが溜息と共に懐から本を取り出す。

あれは、僕が出した本だね。

 

「お前が出したこの小説は俺たちの冒険を描いた物だ。登場人物も俺にレッド、ブルーにおじいちゃんも出てくる。それにロケット団もな」

 

「そうだね、それは君たちがオーキド博士に図鑑をもらい、君とレッドがチャンピオンをかけて勝負したところまでを描いたから」

 

この小説を書くためにシルフカンパニーの後からもレッド達の旅に同行したんだ。

そしてレッドが殿堂入りした後にこの小説を書きあげた。

 

この小説が完成した以上、もうこの場所に用はない。

 

「この小説は俺たちの冒険を細部までしっかり描かれてる。ただ一つを残してな」

 

「私も読んだけど、違和感にはすぐに気づいたわ。だっているべき人物がそこにいないんだもの」

 

「・・・・」

 

二人の視線が僕に刺さる。

言いたいことはわかる、でも僕としてそれがどうしたって感じだ。

 

「この小説にはお前が出てこねぇんだよ!M!てめぇがな!!」

 

そう言って僕に向けて本を広げる。

広げたってそこからじゃ読めないよ。

 

「別にいいじゃん、僕が出なくても物語に支障はないでしょ?」

 

「この本ではな!だが俺たちの旅では違った、お前がゲームコーナーにあったロケット団の地下施設を見つけてくれなきゃあいつらの悪事に気づかなかったし、シルフカンパニーの時だってお前の助けがなかったら街にすら入れなかった!」

 

「・・・・別にそれらもなんとかなったはずだよ。この本のようにね」

 

確かに僕は君たちの手伝いをした。

それによって旅の効率が上がっただろう。

 

でも結局はそれだけだ。

僕がいなくても他の誰かが助けたかもしれないし、自分でなんとかしたのかもしれない。

 

どっちにしろ僕がいなくても変わらなかったはずだ。

主人公でもない僕がいてもいなくてもね。

 

「俺はこんな本認めねぇぞ!ちゃんとお前を出して書き直せ!」

 

「私としてはあくまで本だし、自分で書いた小説に自分を出すって恥ずかしいって思いからMが書かなかった気持ちもわかるんだけど」

 

「おい!?」

 

「でも、やっぱりあんたも登場してほしい。私達ってほら、仲間でしょ?一応」

 

「・・・・君たちって本当にいい人だよね」

 

僕がポケモンだってことは知ってるのに。

それでも仲間だって言ってくれるんだから。

 

これが主人公の仲間たちか。

 

やっぱり僕とは違う。

 

「・・・・そろそろ船の時間だ。じゃあね二人とも」

 

二人の言葉に答えず桟橋を渡る。

二人が何か言ってるけど聞こえない。

 

「・・・・」

 

なんとなく嫌な気配を感じたほうへ視線を向ける。

海しか見えないけど、海の先にあるのはシロガネやまだったはず。

 

昨日見た地図を思い出して場所に検討をつける。

いいネタがあるかもしれない、ジョウト地方についたら寄ってみよう。

 

 

 

・・・・結論から言うと、行ったことを後悔した。

 

 

 

 

「・・・・君と同類のピカチュウを僕は知ってる」

 

「っ!!?ぼ、僕と同類!?それもピカチュウで!?」

 

僕と同類!?それってつまり、僕と同じドMだっていうのか!?

 

なんということだ。

数少ない僕の知る同類はMさんや師匠達だけだ。

 

まさかドMで、しかも僕と同じピカチュウにいるなんて。

さすがMさんだ、すごい知り合いがいたものだ。

 

これはぜひ会ってみたい。

しかし、僕のそんな呑気な考えは次のMさんの言葉で吹き飛ぶ。

 

「ふふ、まぁそいつは君よりも遥かに格上だけどね」

 

「ぼ、僕よりも遥かに格上!?」

 

「うん、君では勝負にすらならない」

 

Mさんの言葉にめまいすら覚えてしまう。

僕もMに関してはかなり鍛えてきた。

 

このジムバトルでだって鍛えられて十分な実力をつけた自信だってある。

なのに勝負にすらならないって。

 

「・・・・そんなの、やってみないとわからないじゃないか!!」

 

思わず大声で叫んでしまう。 

そんな簡単に認められない。

 

ドMに関してだけは絶対に!

 

「僕だってプライドがあるんだ!たとえ僕らと同じMさんが言うんだとしても僕は認めない!!」

 

師匠達にだって鍛えてもらってたんだ!

ここで僕がそれを認めてしまったら師匠達に会わす顔がない!

 

「だからぁ、勝負にならないって言ってるだろ。それと、僕は君たちとは違う!何回言えばわかるんだ!!」

 

「だから勝負にならないなんて勝手に決めないでよね!実際に会ってみないとわからないじゃないか!!あとMさんは僕たちと一緒だろ!なんでそんなこというんだ!!」

 

そして、何よりも許せないがMさんが僕たちと同じだと認めないこと。

これが許せない!

 

僕たちは同じMだ。

そこに差なんてない!たとえ格が違っていたとしても僕たちは同じなんだ!!

 

そのままお互いにヒートアップして大声で言い合いになる。

 

そしてやがてMさんの頭から何かが切れた音が聞こえた。

 

「・・・・そんなに知りたいなら教えてやるよ」

 

「え?それってどういう」 

 

「・・・・こういう意味さ!!」

 

そう言って彼女が変身を行う。

 

いや、これはすでに変身した?

 

元からピカチュウだったから見かけはたいして変化していない。

でも、その身に宿るエネルギーが桁違いだ。

 

わかる、これがMさんが言っていた僕以外のドMピカチュウだ。

 

「さぁ、死ぬ気でかかってこいよ本物。偽物である僕に勝てないようではあいつには勝てないぞ!!」

 

「上等だよ!!」

 

ドM勝負を挑まれた以上、僕は決して逃げ出さない。

さぁ、どっちがよりドMか決めようじゃないか。

 

「いくよ!10万ボルンッッッ!!?」

 

僕が10万ボルトを放とうとした瞬間、信じられないほどの衝撃が僕を襲う。

その衝撃は僕をたやすく吹き飛ばし、地面を何回もバウンドしながら転がる。

 

な、なんだ今の。早すぎて、んほぉを言う暇すらなかった。

 

「いったぁ、やっぱりこの技は反動がすごいね」

 

「・・・・今のはMさんの技?」

 

今まで受けた技でもっとも早かった、威力もかなりあったし。

同じピカチュウであんな技を使えるなんてすごいな。

 

「今のはボルテッカー。反動ダメージが大きいけど、その分絶大な威力のある電気技だ。あいつの十八番だよ」

 

「っ!?」

 

反動ダメージのある電気技だって!?

そんな羨ましい技をもっているというのかMさん、いやそのピカチュウは!!

 

くぅ、早くも僕よりも格上アピールをしてくるじゃないか。

だ、だけど!僕だって負けないぞ!!

 

「今度はこっちの番だ!」

 

しっぽを硬質化しながら相手に飛び込む。

 

ふ、同じピカチュウならどこに尻尾をぶつければ一番気持ちよくなれるかわかってる。

Mさん!僕のテクの前に負けを認めるがいい!

 

「・・・・遅いよ」

 

「っ!ぐふ!?」

 

僕のアイアンテールにカウンターでアイアンテールを返される。

なんて威力のアイアンテールなんだ。

 

悔しいけど僕のなんかよりもはるかに強い!

 

「ぐっ!!」

 

吹き飛ばされながらも歯を食いしばって声を塞ぐ。

 

絶対に、んほぉは言わないぞ!

 

もし言ってしまったら・・・・さっきのが気持ちよかったって認めたようなものだ!

 

それはつまり、僕の負けということ。だから絶対に声はあげない!

 

それにさっきのアイアンテールは僕の一番気持ちいいところを外していた。

つまりまだ僕の付け入るスキがあるはずだ!

 

「今度こそ僕の番だ!!」

 

「無駄だよ!」

 

無駄かどうかは僕が決める!

ていうか僕の攻撃が失敗してもMさんの攻撃をくらえるから無駄なんて起こりえない!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・もう認めなよ」

 

僕は倒れ伏す彼に向かって口を開く。

あれからどれくらい戦っただろう。

 

けっこう技をぶつけたはずなんだけどまだ立ち上がってくる。

 

ほんと、耐久力はすごいよね君。

その部分だけはあいつを超えてることを認めるよ。

 

だからもういいだろ。

認めれてくれたら僕も謝るからさ。

 

さすがにここまで派手に戦い続ければ頭も冷えてくる。

ブチ切れてついボコボコにしちゃったけど、冷静になればこんなことしてる場合じゃないし。

 

「・・・・僕は負けず嫌いなんだ。これくらいで認めたりなんてするもんか」

 

「っ、実力の差は歴然でしょ!!あいつと君じゃ強さが違いすぎるんだ!!」

 

「・・・・え」

 

頑なに負けを認めない彼に思わず叫ぶ。

 

君の強さはちゃんと認めてる。

あいつとはまた違った強さが君にはあるんだ。

 

でも、君とあいつが戦えば間違いなく君が負ける。

それだけあいつは格が違うんだ。

 

それを聞いた彼は不思議そうに首を傾げながら言った。

 

「僕らにとって強さなんて関係ないでしょ?」

 

「っ!!?」

 

本当に不思議そうに首を傾げる彼に戦慄する。

 

強さが必要ない?強いのは主人公の絶対条件だろ。

 

だってそうじゃないと、負けちゃうじゃないか!

主人公は最後には絶対勝つんだ、だからどうしても強さが求められる。

 

君だって君とユウリ達の強さで戦って勝ってきたじゃないか!

 

なのに、どうして主人公である君がそれを否定するんだ!!

 

「強さが必要ないなら君にとっては何が一番必要なのさ!」

 

運命?高潔な精神?洞察力?

 

もちろんそれらも主人公には必要だ。

でも一番重要なのは強さのはずだ、そうじゃないと物語が成立しない。

 

「・・・・想い」

 

「お、想い?」

 

彼の言葉を思わずそのまま口にする。

どういう意味?

 

「求めるものに対しての想い、それさえあればいいと僕は思う。想い続けていれば願いにいつか届くから」

 

「・・・・なんだよ、それ」

 

よりにもよって主人公である君がそれを口にするのか。

 

想い続ければいつか主人公になれるって、君が言うのか!

 

「~~~~っ!!想いで願いに届くなら僕はとっくに本物になってるはずだ!!!」

 

誰よりも主人公に憧れて想い続けてきたのは僕だ!

ずっとあこがれを目指して旅をして、修行もして強さも手に入れた。

 

でもレッドやピカチュウに出会って、あの強烈な才能に出会って勝てないことを知った。

あいつらの持つ運命や洞察力、そして精神力。

 

それらを見て絶対に僕は主人公になれないと悟ったんだ。

 

そして次に君とユウリに出会った。

ユウリの強さ、そして君の洞察力。

 

そして君たちの運命。

まるで導かれるようにチャンピオンへの道を進んでいく君たちを見て僕は確信したんだ。

 

君たちを見て、次の小説は君たちを書くって決めた。

それが偽物である僕の生まれた意味だから。

 

 

 

 

 

 

 

「え?だから僕はずっと言ってるよ、Mさんは本物だって」

 

 

 

 

 

「っ!!?ふー!ふー!!」

 

泣くな。

泣いちゃダメだ。

 

こんなの彼が適当に言ってるだけ。

 

「それは、君がそっち側だから言えるんだ!僕は君たちには絶対になれっこない!」

 

上のものには下の気持ちなんてわからない。

 

だって僕は知ってしまってる、あの強烈な才能を持つレッドとピカチュウを。

あんなのに僕がなれるわけがない。

 

あの世界にいけるのはあいつらと同じ場所にいるユウリと、彼女に好かれ、奴とはまた違った特別な力を持つ君だけなんだ。

 

僕の気持ちなんかわからないくせに適当なことを言わないでくれ!!

 

だから、嬉しくなんかない。僕の本当の想いを認めれてもらえてうれしくなんか。

 

う、れしくなんか。

 

「そもそも偽物ってなに?偽物なんていないと僕は思うけど」

 

「に、偽物は偽物だ!今の僕の姿なんてまさにそうだろう!!」

 

ピカチュウの真似っこ。

人間の振り。

そして主人公の模倣。

 

どれも偽物だ。

 

これを偽物だって言わずになんだって言うんだ!

 

「ピカチュウになったMさんでしょ?偽物じゃないよ。だって変身しようとMさんはMさんだから」

 

「っ!?そ、そういう意味じゃない!」

 

私が言いたいのは主人公の偽物だってことで。

 

「でもMさんが自分のことを偽物だって言うのならそれでもいいよ」

 

「え?」

 

「だって、僕が君を本物だって言い続けるから」

 

「・・・・う、うぅ」

 

泣くな。

泣いちゃダメなんだ。

 

「君自身、ううん、世界中の人やポケモンが君を偽物だって言っても僕だけは君を本物だって言うよ」

 

そう言ってピカチュウは笑う。

 

その笑顔があまりにも綺麗で、見惚れてしまう。

そうか、この笑顔か。

 

心の底から私のことを本物だって、仲間だって言っていることが伝わる。

 

ずっと僕の中にあった暗い感情、劣等感や嫉妬、そういったものが薄まっていくのを感じた。

 

・・・・この笑顔にユウリ達は救われたのか。

 

「なんなんだよ。ずるいぞ、そんなこと言われたら我慢できるわけないだろ」

 

涙が溢れて地面に落ちる。

なんだよ君は、もしかして僕のことが好きなのか?

 

僕の弱いところをピンポイントで口説きに来ちゃってさ。

あとでエースバーンたちに怒られるよ・・・・悪い気はしないけど。

 

「・・・・じゃあ、いくら僕が自分のことを偽物だって言っても君は僕を本物だって言い続けるんだね?」

 

「うん、だってMさんは本物だから」

 

僕の言葉に彼は迷いなく頷く。

それを聞いて思わず頬をゆるめてしまう。

 

「そっか、じゃあもうしょうがないかな」

 

笑いながら僕は言う。

目に涙をためて。

 

僕は自分のことを本物だとは思えない。

それはたぶん、一生変わらない。

 

でも、それでも。

 

「じゃあ、君だけは僕のことを本物だって言うことを許してあげる」

 

世界に一匹くらい、僕のことを主人公だって言ってくれる子がいてもいいじゃないか。

 

「ほんと!?」

 

僕がそう言うとピカチュウは嬉しそうに目を輝ける。

はは、なんでそんなに喜んでるんだか。

君には関係ないことなのに。

 

でも、嬉しい。

 

「やっと認めてくれたんだね!!」

 

そう言って彼は笑う、心の底から嬉しそうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分が僕らと同じドMだってことを!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・・んん?」

 



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小説家のメタモンは『勘違い』をくらう

「・・・・ごめん、もう一回言って」

 

いやー今のはさすがに聞き間違いだよね!

びっくりしたドMって。

 

はは、この感動な場面でドMはないよね。

ここってどう見てもピカチュウが僕に向けて口説き文句を言って僕が完全に落ちちゃう場面だもんね。

 

大丈夫、僕は詳しいんだ。

ま、まぁ!プロとして空気を読むというのもやぶさかでわないというか!

しょうがないよね!プロだから落ちちゃうのもしょうがない!

 

さぁピカチュウ!もう一度僕に向けて口説き文句を!

 

「自分が僕らと同じドMだってことを認めてくれるんだね!!」

 

「うん認めてないね」

 

嘘だろ、聞き間違いじゃなかったよ。

どうやったら僕がドMになるんだよ。

 

「っ!Mさん!君は僕たちと同じドMなんだ!自分が偽物だなんて悲しいことを言わないで!!」

 

「うん、ドMの偽物ですらないぞ僕は」

 

ていうかなんだドMの偽物って。

待って頭がこんらん状態だ。なんで?さっきまであんなに感動的な場面だったじゃないか。

 

「Mさんも言ってたじゃないか、ずっと想い続けてたって!痛みを想い続けていれば必ず気持ちよさは訪れるんだ!」

 

「もうやめてくれ!さっきまでの胸のときめきを消さないでくれ!!」

 

え?嘘だよね?

さっきまでやり取りで彼、全部ドMについて言ってたの?

いやその前に彼ドMなの!?

 

このことをユウリ達は知ってるの!?

いや絶対知らないだろ!

 

「君は、君は自分のことを主人公だって認めてたんじゃないのかい!?」

 

「主人公?」

 

僕の言葉に首を傾げるピカチュウ。

ええい!この時点で違うってわかっちゃうじゃないか!

 

「ユウリの家でテレビ見てた?ほら、アニメとかドラマとかで登場する主人公のことさ」

 

「ああ、あの主人公のこと。あはは!僕が主人公なわけないじゃないか!」

 

何を言ってるのさと笑うピカチュウ。

ああ、わかってるよ。でもムカつく。

 

「どうしよう、殴りたい」

 

「どうぞ」

 

「っ!頬を近づけるなー-!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

僕のアイアンテールをうけて吹っ飛びながらなぜかお礼をいうピカチュウ。

なんだこれ、僕の中の彼に対するイメージがどんどん壊れていくぞ。

 

「・・・・ちょっと君について教えてもらっていい?」

 

「僕のこと?」

 

さらっとあいつのアイアンテールを受けて平気そうな顔で戻ってきたピカチュウに質問する。

 

「そう、君の過去。エースバーン達との出会いの流れやジムバトルした時の状況とか」

 

「うん、それはいいけど。その前にどっちが格上のドMなのか決めないと」

 

「君が格上でいいから!話を聞かせて!!」

 

なんだよ格上のドMって!?

まさかあいつのことをドMだって思ってたのかい!?

 

「う、うん。じゃあ話すけど」

 

僕の勢いに気圧されながら今までの出来事を話してくれる。

 

 

 

 

 

「・・・・つまり、一番自分を気持ちよくしてくれるダンデさんと戦うために旅をしてるんだね」

 

「うん」

 

「エースバーン達から聞いた君が彼女たちを庇ったのは、君が気持ちよくなりたいから飛びだしただけ?」

 

「うん」

 

「・・・・ロズレイドやエルレイドを仲間にしたっていうのも君が気持ちよくなりたいから?」

 

「うん」

 

「・・・・」

 

ピカチュウへの質問をすべて終える。

完璧に理解した。

 

ユウリが彼に出会い、旅をはじめ、ジムバトルをしながら仲間を増やし、そして今に至る。

 

その旅の全貌を、真実を理解した。

 

なんだこれ。

 

なんだこの気持ち。

 

・・・・。

 

 

「あははははははははははははははははは!!」

 

「え、Mさん?」

 

「あははははは、えふえふ!喉詰まった!」

 

笑いが止まらない。

先ほどとは違う意味で涙が出る。

 

こんなに笑ったのは生まれて初めてだ。

 

つまり、みんな勘違いしてるんだ。

 

彼が勇気と優しさをもって困難に立ち向かい突破してきたって。

闇を持った子たちが持つ痛みを受けてなお優しく接し、自分たちの心を救ったと。

 

いやもちろん全てが勘違いじゃない。

彼の優しさは本物だ。

 

ただドMというだけで全てが勘違いの方向へ進んでいる。

 

まるで奇跡のような出来事によって彼は主人公になりえている。

 

実際は主人公じゃなくてただのドMなピカチュウなだけなのに。

 

「あはは!なんだこれ!こんなのありかよ!!」

 

今まで君を主人公だって思って調べて、一緒に行動して、心の底では嫌悪して、そして憧れてた。

 

でも全部僕の勘違い!

彼はこのことを隠してなんか一切ない。

 

聞いた感じ、バトル中に彼が叫んでたのって気持ちよすぎてらしいし。

 

ていうかこの子はこの子で勘違いしてる。

ユウリもエースバーン達も彼がドMだということを理解してくれていると思ってる。

 

理解して自分の夢に協力してくれてると思ってるんだ。

 

全部違うのに。

 

「まいったね。確かに君は主人公じゃないや」

 

主人公じゃない。

彼は僕と同じ偽物だ。

 

まぁ、彼の場合は勝手に主人公だと勘違いされてるんだけど。

 

それでも偽物ということには変わりない。

 

「僕と君は同じだったんだね」

 

「ほんと!?やっぱりMさんもドMなんだね!」

 

「うんそうだね」

 

もうそれでいいや。

この勘違い、なんか解ける気がしない。

 

「・・・・ねぇ、僕は主人公になれると思う?」

 

「主人公?Mさんは主人公になりたいの?」

 

「・・・・うん」

 

内心緊張しながら彼に質問する。

さっきまで僕は勘違いしてた。

 

彼が僕を主人公だと認めてくれていたと勘違いしてた。

だったら今はどうだろう、僕のことを認めてくれる?

 

それとも。

 

「だったらMさんはとっくに主人公になってるよ!」

 

「っ!!」

 

「さっきも言ったけど、想いってすごく大事だと思うんだ。なりたいって想いさえあれば必ず主人公になれる。ドMにだって!!」

 

「うーん、最後のはいらないかなぁ」

 

彼の言葉に苦笑いを浮かべる。

でもそっか、君はそう言ってくれるんだね。

 

彼を見ると、そこには先ほどと同じ笑顔が浮かんでいる。

僕が見惚れた笑顔と同じ。

 

勘違いしていようとしていまいと、結果は同じだったんだね。

 

「ふふ、面白いこと思いついちゃったな」

 

「ん?なに?」

 

じっと僕に見つめられて首を傾げる彼を見て笑みを浮かべる。

 

彼を主人公にしよう。

偽物の彼を主人公にするんだ。

 

この勘違いは解かない、逆にもっと勘違いするように僕が動き、彼をみんなが認める主人公にする。

そうすれば証明できる。

 

偽物だって主人公になれるって証明できる。

 

そうすれば同じ偽物の僕でも主人公になれるってことになるだろ?

 

「ふふ、これから楽しくなりそうだねピカチュウ!」

 

「えっと、とりあえずMさんはドMってことでいいの?」

 

「うん、僕と君は同じさ」

 

彼に笑顔を向けながら内心悪い顔で笑う。

君にはそのまま勘違いしてもらったほうがよさそうだ。

 

このまま彼の旅の終わりまで同行して、小説を書こう。

彼を主人公にした小説を。

 

それをみんなが読めばみんなが彼を主人公だと認めるだろう。

あいつの時もそうだった。

 

『この小説にはお前が出てこねぇんだよ!M!てめぇがな!!』

 

「っ!?」

 

 

『俺はこんな本認めねぇぞ!ちゃんとお前を出して書き直せ!』

 

小説のことを考えたせいか、あの時のことが頭に浮かぶ。

あの後はひどかったなぁ、なんでシロガネ山にレッドとあいつがいるんだよ。

しかも吹雪であいつらとしばらく一緒にいることになったし。

 

ってそうじゃないそうじゃない。

 

「・・・・心配しなくても今度はちゃんと僕を出すよ」

 

じゃないとグリーンとブルーが怒ってこっちまで来そうだ。

んー小説での僕の役割はなんだろう?

 

ユウリ達の仲間?いやそれはそうなんだけど。

 

あ、そうだ。

 

「ヒロイン、ってのもいいかも」

 

「ヒロイン?誰の?」

 

あ、声に出てた。

恥ずかしいな。

 

ていうか言えるわけないだろ、君のヒロインだなんて。

 

前の小説では出番がなかったんだ、少しくらい欲張ったっていいじゃん。

それに偽物同士お似合いだろ?

 

君をちゃんと理解してるのなんて僕くらいなんだぜ?

 

「さて、そろそろここから脱出しようか。けっこう長い時間バトルしてたし」

 

「あー!!そういえば僕ら穴に落ちたんだった!!」

 

いや忘れてたのかよ。

まぁ僕もどうでもよくなってたけどさ。

 

服の中に潜り、ピカチュウから人間の姿に戻る。

うんやっぱりこっちのほうが落ち着く。

 

「よっこいしょ」

 

立ち上がって洞窟の中を歩きだす。

ピカチュウを抱きしめながら。

 

「ピカ?」

 

ピカチュウへの変身を解いたことで彼の言葉がわからなくなる。

まぁ、僕が自分を抱きしめてることを不思議がってるんだろう。

 

「こうして近くにいたほうがお互いはぐれずにすむでしょ?」

 

「ピカ」

 

僕の言葉になるほどと頷くピカチュウ。

ほんとはくっつきたかっただけなんだけど。

 

そうして彼を抱いたまま洞窟の中を進んでいくと奥から声が聞こえだす。

 

「キュキュ♪」

 

「もう、くすぐったいよミミッキュ」

 

「ピカ!?」

 

「ユウリとミミッキュ!?」

 

暗がりから姿を現した存在に驚いて声をあげる。

まさかユウリ達も穴に落ちてたなんて。

 

でも合流できてよかった。

 

・・・・ていうか、ユウリ達あんなに仲良かったっけ?

 

ミミッキュがユウリに抱き着いて頬ずりしてる様子を見て首を傾げる。

 

「っ!!?ピカチュウ!!それにMさんも!」

 

私たちに気が付いた彼女たちがこちらにかけよる。

 

「ユウリ達も穴に落ちてたんだね。エースバーン達は?」

 

「こっちは私達だけです。そっちもピカチュウとMさんだけですか?」

 

「そうだよ、どうにかして他の子たちと合流しないとね」

 

ユウリ達と情報を交換する。

この洞窟はけっこう入り組んでそうだ、これは時間がかかるぞ。

 

「とりあえず進もうか。外に繋がる道があるかもしれない」

 

「はい、地図を作りながら進んでるのでなんとかなると思います。その前にMさん」

 

「なんだい?」

 

「・・・・その子をこっちにください」

 

「・・・・」

 

ユウリの視線の先は僕の胸、じゃなくてピカチュウ。

とっさに僕は彼を抱く腕に力を込める。

 

「君はミミッキュを抱っこしてるじゃないか。重いだろうしピカチュウは僕が持つよ」

 

「この子は軽いので大丈夫です。むしろピカチュウの方が重くてMさんがしんどいだろうし代わります」

 

「いやいやそれなら僕の方が力あるし」

 

「私は毎日その子を頭に乗せてたので慣れてます」

 

「うん、首痛めるぞ君」

 

そのまま僕とユウリでピカチュウの取り合いが発生する。

彼の右手と左手をそれぞれ掴んで引っ張り合う。

 

僕もユウリも離さないから彼には相当負荷がかかってそうだ。

 

ピカピカ!(いいぞもっとやれ!)

 

うん、今の僕ならわかるぞ。

絶対喜んでるだろ君。

 

「っ!ごめんねピカチュウ、こんなことしてる場合じゃないよね」

 

彼の声をどう勘違いしたのか慌てて出口を探し出すユウリ。

あ、ピカチュウが残念そうな顔してる。

 

「エルァァァァァァ!!」

 

「っ!?今のはエルレイドの声!?」

 

洞窟にエルレイドの声がこだまする。

あの声の方へ行けば彼女と合流できそうだ。

 

「もう少しで君の冒険の続きが見れそうだ」

 

エルレイドの声の方から光と風を感じる。

出口はすぐそこにある。

 

 

出たらユウリ達に言わないとね。

僕がポケモンだってこと。

 

そして君たちの仲間に入れてほしいって言わないと。

 

やっぱり近くで見るにはパーティーに加わるのが一番だしね。

まだユウリの手持ちは五匹だからちょうどいいはず。

 

「ねぇ、ピカチュウ」

 

「ピカ?」

 

「ふふ、これからよろしくね」

 

「ピ?」

 

僕の言葉に首を傾げるピカチュウ。

 

今日のこともちゃんと小説に書かないとね。

 

記念すべき六匹目の仲間。

 

なによりヒロインの登場なんだから。

 

ピカチュウ、僕が君を主人公にしてみせる。

 

それが今の僕の生まれた意味だ。

 

それに彼ならあれを使いこなせるかもしれない。

バックの中で転がる玉を意識しながら歩く。

 

この玉は特別だ。

僕では使いこなさない、あのピカチュウですら無理だろう。

 

強力な力を得られるかわりに降りかかる反動が大きすぎるんだ。

 

でも君なら、ドMな君なら使いこなせるかもしれない。

 

 

 

 

 

英雄物語。

 

今回はこの本のある一要素をピックアップしていこうと思う。

 

それはずばり、恋愛要素である。

 

小説の多くには必要不可欠な要素であり、それはこの小説でも例外ではない。

 

だがこの小説の恋愛要素は英雄ユウリではない。

 

英雄ユウリはこの小説内では誰ともそういう関係にはならない。

そのせいか一部のファンたちでカップリング論争が起きていたりするが。

 

一番強いのはイケメンジムリーダーのキバナとのカップリングだが、私は断固として反対である。

 

至高のカップリングはユウリとマリィに決まってるだろ!

こんなことは彼女たちのチャンピオンカップでの激戦を見れば明らかで!おっと話が逸れた。

 

この小説はポケモンの恋愛要素がある。

これ自体はたいして珍しくもない要素だ。

 

守護者ピカチュウの強さと不屈の精神に惚れたポケモンは数多い。

仲間であるエースバーンやロズレイド、エルレイドも例外ではない。

 

例外は娘であるミミッキュくらいだろう。

 

彼女たち全員がヒロインであり、それぞれに魅力がある。

だが今回は別のポケモンの名をあげようと思う。

 

なぜならそのポケモンがヒロイン最有力候補だから。

 

そのポケモンの名はメタモン。

 

常に人間の姿をした変わったポケモンだ。

その人間の姿は中性的な女の子で男女ともに読者に人気だったりする。

メタモンは悩む主人公を励まし、そして導く存在だった。

 

途中から登場したにも関わず、すごい勢いでヒロインの座を獲得したのだ。

・・・・なんか不自然なくらい。

 

まぁ結局ラストまで誰かと付き合うことはなかったので後は読者の想像にお任せしますということだろう。

 

君はどのポケモンがピカチュウと幸せになると思う?

 

ところでユウリとマリィについてなんだけど、やっぱりあの試合後にした指で口をー--ここからは文字が汚くて読めない。

 

 



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ドMなピカチュウは『ボルテッカー』を覚えたい

「・・・・いよいよだね、ピカチュウ」

 

「ピカ」

 

通路の奥から光と共に歓声がこちらまで漏れて聞こえてくる。

この通路を抜ければいよいよ始まる。

 

最後のジムバトルが。

 

「ここをクリアすればチャンピオンズカップへの出場権を得れる。そこを最後まで勝ち続ければダンデさんとのバトルができる」

 

マスターも通路奥のフィールドを見据える。

いや、見据えているのはもっと先なのかもしれない。

 

「夢の輪郭はすでに捉えてる。あとは捕まえるだけ」

 

そう言ってマスターは通路を歩いて光へと向かう。

腰に巻いたボールからも戦意が伝わってくる。

 

マスターから今回のジムリーダーについては聞いている。

最強のジムリーダー。

 

そしてあのダンデさんのライバル。

 

相手できるなんて最高だ!!

 

『っ!!現れました!!今大会一番の台風の目!ユウリ選手です!!我らがジムリーダー!ドラゴンストームのキバナにどう立ち向かうのでしょうか!!』

 

フィールドに出ると観客席からさらに大きな歓声が広がる。

 

さすが最後のジムだ、盛り上がりの最高潮だね。

 

「おーい!ピカチュウー!!」

 

「ピカ?」

 

歓声の中で僕を呼ぶ声が聞こえる。

探してみれば、観客席にMさんの姿があった。

 

「頑張りなよー!!」

 

僕らに向かって笑顔で手を振る彼女にこちらも笑顔で答える。

思い出すのは数日前の出来事。

 

 

 

 

「というわけで僕はポケモンなんだ」

 

洞窟から脱出して無事全員と合流した後、Mさんはおもむろにそう口にした。

 

「・・・・ポケモン?」

 

マスターはMさんをジト目で見ながらそうつぶやく。

気持ちはわかる、僕も自分で見るまで信じられなかったから。

 

「まぁ見せたほうが早いか」

 

そう言ってMさんが変身を行う。

変身した姿はエースバーン、そしてそのまま次のポケモン、ロズレイドへと変わっていく。

Mさんはエルレイド、ミミッキュと続き、最後にマスターへと姿を変える。

 

「これでわかった?僕の正体」

 

「・・・・・信じられないけど、あなたはメタモンだね」

 

「そう!ユウリならわかると思ったよ」

 

正体を言い当てられたMさんは嬉しそうに笑う。

うーん、マスターの顔でその笑みは違和感がすごい。

 

「とりあえず私の顔で話すのはやめて」

 

マスターも違和感があったのか嫌そうな顔で変身を解くようにお願いする。

Mさんもマスターの言うことを聞いていつもに姿に戻る。

 

「・・・・なんで急に自分がポケモンだって教えてたの?」

 

「それはもちろん、君たちの仲間になりたいからだよ」

 

仲間?僕たちってとっくに仲間だと思うんだけど。

僕のそんな疑問をよそに話は進む。

 

「・・・・それって私たちのパーティに入るってこと?」

 

「そう、まぁ本格的に入るのはまだだけど。だから今は仮ってことで」

 

仮?なんだがややかしい話になる感じ?

マスターも難しい顔してるし。

 

「・・・・そもそもMは強いの?」

 

めちゃくちゃ強いと思う。

僕ボコボコにされたからね。

 

あれ?Mさんがうちに入ってピカチュウの姿で暴れられたら僕の出番なくない?

い、いや彼女は僕の同士!僕の気持ちだってわかってくれるはずだ!!

 

「確かにトレーナーとしては気になるよね。じゃあ実力を見せようか、彼女たちとバトルして」

 

「ヒバ?」

「ミキュ?」

 

Mさんの視線の先にいたのはエースバーンとロズレイド。

もしかして彼女たちと戦って実力を証明するつもりなのかな?

 

ずるい!そういうことなら僕が相手だ!!

 

「・・・・いいですよ」

 

「おっけー。ああ、ユウリは口出ししないでよ」

 

ちょ、マスター!?

Mさんの言葉にマスターが了承する。

どうやらエースバーン達もやる気らしい。

 

くそう、さっき戦ったばかりだし我慢するかぁ。

 

「それじゃあ、やろうか!!」

 

そう言ってMさんが変身する。

あれはメロンさんが使っていたポケモン、ラプラスだ。

 

でも同じラプラスでも実力はこっちの方が強い。

 

「ヒバァ」

「ミキュ」

 

彼女たちもMさんの実力に気が付いたようで警戒しながら構える。

そして彼女たちのバトルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、ざっとこんなもんだよ」

 

「・・・・ヒッバァ」

「・・・・ミッキュ」

 

人間に戻ったMさんが胸を張って答える。

その下では倒れたエースバーンとロズレイドが悔しそうにしながらも倒れたまま動けない。

 

「まぁ、あいつのラプラスだからね。残念だけど今の君たちでは勝てないよ」

 

「・・・・」

 

マスターはMさんたちのバトルをじっと見つめていた。

ピカチュウ以外にも変身できて、さらに強いなんてすごいなMさん。

 

「これで僕の力は分かったかなユウリ?君たちがダンデと戦うのに役立つはずだ」

 

「・・・・そうだね。仲間になってくれるならありがたい。でも仮ってなに?」

 

どうやらマスターも彼女の実力を認めたらしい。

あと確かに仮ってなんだろ?

 

「僕が君のパーティに入るのはダンデと戦う直前にする。そうじゃないと君たちの力が上がらないだろう」

 

「・・・・なるほどね。私達の実力をあげるためにあえて入らないと」

 

「そう、それに隠し玉にもなるでしょ?」

 

そう言って悪い顔で笑うMさん。

なるほど、ダンデさんに対する隠し玉になるってことか。

 

「というわけでダンデさんとのバトルまで僕は引き続き応援させてもらうよ。ああ、修行の手伝いはするからさ」

 

Mさんが協力してくれるってことは、またあのピカチュウと戦えるってことか!

それはすばらしいぞ!

 

あの反動ありの電気技だって覚えたいし!!

 

そういえばあの技って師匠に教えてもらった技の一つに似てるね。

結局僕にはできなかったんだけど。

 

でもいつか、師匠達に教えてもらった()()()()()()を使えるようになりたいな。

 

 

 

「さてさて、ようやく戦えるジムチャレンジャーはお前か。さすがはダンデの見込んだトレーナーってところか」

 

「・・・・ありがとうございます」

 

フィールドに入った僕らをジムリーダが迎えてくれる。

この人がキバナさん、確かに強そうだ。

 

「ここまで来たってことかダンデのところまで行きてぇんだだろ?」

 

「行きたいじゃありません、行きます」

 

「へ、ダンデに勝つ。それがどれだけ難しいか、ライバルである俺が教えてやるよ」

 

そう言って僕たちはそれぞれの立ち位置へと進む。

今回はいつもと違い、ダブルバトル形式になっている。

 

ちゃんと練習はしたけど相手はジムリーダー、油断はできない。

 

「いくぜ!しっかりついてこいよチャレンジャー!」

 

「負けません!!」

 

そういうと同時にマスターとキバナさんがボールを二つ投げる。

そしてボールが割れ、飛び出したのは。

 

「いくよ、エースバーン、ロズレイド」

 

「ヒバ!」

「ミキュ!」

 

『ユウリ選手のポケモンはエースバーンとロズレイド!対するキバナさんはフライゴンとギガイアスを繰り出した!!』

 

キバナさんが繰り出したポケモンが吠える。

するとフィールドに風が起こり、砂が巻き上げられる。

 

これって砂嵐?

 

「・・・・あのギガイアスの特性だね。調べた通り天候操作を使ってくるみたい」

 

マスターは状況を把握しているようだ。

この砂嵐は相手のフィールドってわけだね。

 

「・・・・ダブルバトルで有効な技は全体攻撃、そしてこの組み合わせ。エースバーン!とびはねる!!」

 

「ヒバ!!」

 

「そしてロズレイド!グラスフィっ!?」

 

ロズレイドにも指示を出そうとしたタイミングで地面が大きく揺れる。

これは、じしんだ!

 

洞窟の中で起きたものではなく、ポケモンの技によるもの。

 

「はっはぁ!エースバーンは空に逃げて躱したか!読んでやがったな!!」

 

向こう側からキバナさんの声が届く。

地面技はエースバーンの弱点だからね、躱して正解だ。

 

それはそれとして、どうして僕はあの場にいないんだ!!

 

「こいつは地面技の影響は受けねぇ!フライゴン!ロズレイドにはがねのつばさだ!!」

 

「避けただけじゃない、ロズレイド、はなふぶき!!」

 

「ミキュ!!」

 

硬質化した翼を広げて迫るフライゴンにロズレイドは花びらを広げてる。

いや、これはもう一匹も対象にしてる。

 

「そっちも全体攻撃か」

 

「ミキュゥ!!」

 

ロズレイドのはなふぶきが相手を襲う。

ロズレイドの得意技だ、威力はこの身体がよく知っている。

 

全体攻撃ってことで僕の方まで届いたりしてもいいのよ?

 

「威力あるな!だがそれぐらいでフライゴンの攻撃は止めんねぇぞ!」

 

「ミキュッ!!」

 

「ロズレイド、タイミングを合わせて」

 

敵全体にロズレイドの技が炸裂するがフライゴンは直進する。

そしてそのままロズレイドに鋼鉄の翼が叩き込まれた。

 

相手の攻撃を受けたロズレイドは吹き飛ばされる。

でも。

 

「受ける瞬間に後ろに飛んで威力を殺したのかよ」

 

フライゴンの攻撃を受けたロズレイドは吹き飛びはしたけどすぐに起き上がる。

ダメージは大きくなさそうだ。

 

あれって、前のジムでメロンさんがやってたね。さすがマスター、もうコツをつかんだのか。

 

「ヒバァ!!」

 

ロズレイドが技を受け流したタイミングでエースバーンが空からフライゴンに蹴りつける。

 

「いったん下がれフライゴン!」

 

エースバーンの攻撃を受けたフライゴンが下がる。

ロズレイドも戻り、全員がもとに位置に戻る。

 

「ロズレイド、グラスフィールド」

 

「ギガイアス、ステルスロック」

 

マスターとキバナさんが同時に動く。

 

ロズレイドが特殊な緑色の力でフィールドを覆い、砂嵐を吹き飛ばし。

ギガイアスがこちら側のフィールドに空に浮かぶ岩を生み出した。

 

「・・・・これでじしんの威力は半減か、おまけに特性ふゆうのフライゴンはグラスフィールドの恩恵は受けられねぇ」

 

「・・・・こっちは交代のたびにステルスロックでダメージを受ける」

 

マスターとキバナさんはお互いに技を警戒しながら試合を進めていく。

 

「フライゴン!ワイドブレイカー!!」

 

「エースバーン!ロズレイドを抱えてとびはねる!」

 

敵の全体攻撃をエースバーンがロズレイドを抱えて躱す。

ロズレイドはエースバーンに抱えられたまま腕を相手に向ける。

 

「ロズレイド!マジカルシャイン!!」

 

「抱えてる分、高度が足りてねぇ!攻撃が届くぜ!ロックブラスト!!」

 

空中にいる彼女たちにギガイアスのロックブラストが襲う。

まずい、固まってるから技を同時に受けてしまう。

 

「ヒバァ!!」

 

「・・・・ミキュ」

 

「っ!?ロズレイドをぶん投げて無理やり躱しやがった!」

 

相手のロックブラストが当たる直前にエースバーンがロズレイドを空中に投げる。

これで彼女は躱せるけど、エースバーンが。

 

「ヒバ!?」

 

相手のロックブラストがエースバーンに直撃する。

なんてうらやま、じゃなくてまずい!エースバーンに岩技は効果抜群だ!!

 

「ミキュ!!」

 

「その二匹、仲いいじゃねぇか」

 

エースバーンが攻撃を受けたのを一切気にすることなくロズレイドがフライゴンに『マジカルシャイン』を叩きこむ。

 

向こうも効果抜群だったのかダメージが多そうだ。

 

「まだいけるねエースバーン」

 

「ヒバァ!!」

 

地面に落下して倒れたエースバーンだけどマスターの言葉に応えて立ち上がる。

 

「でもいったん交代」

 

「ヒバァ!?」

 

どうやらエースバーンはいったん下がるらしい。

 

ふふ、ついに僕の出番かな?

見た限り、じめんたタイプが多そうだし楽しみだ。

 

電気わざが効かない相手に僕が役に立つって?

ふ、役に立つ立たないって関係ある?

 

僕が攻撃をすべて受けて、もう一匹に攻撃してもらえばいいこと!

 

「いける?ミミッキュ」

 

「キュキュ!」

 

エースバーンを戻して次に出すのは僕!ではなくミミッキュ。

べ、別に落ち込んでなんかないんだからね。

 

あの洞窟での出来事以降、ミミッキュはびっくりするぐらいマスターに懐いてる。

もうメロンさんとのバトルのようにはならないだろう。

 

「キュ!?」

 

フィールドに出たミミッキュに相手のステルスロックが襲い掛かる。

彼女にダメージが入ってる?今の技に彼女の特性の『ばけのかわ』は効かないのか。

 

「グラスフィールドですぐに回復するわ。まずはフライゴンを倒す!」

 

「へっやってみな!!」

 

再び戦闘が開始する。

突っ込むミミッキュをロズレイドがフォローに入る。

 

以前のように無暗に突っ込むわけじゃない、マスターの指示だ。

 

「ロックブラスト!はがねのつばさ!!」

 

「ミミッキュそのまま突っ込んで、ロゼリア!はなふぶきで相殺して!!」

 

ロズレイドの全体攻撃が相手の技とぶつかる。

うまく相殺されてるけど、わずかに漏れ出た技がミミッキュに襲い掛かる。

 

「ミミッキュ、今!真横にジャンプ!」

 

「キュ!」

 

「すぐに斜め左にダッシュ!」

 

マスターの指示にミミッキュが即座に反応する。

こちらから見た技の流れをミミッキュに伝え、紙一重で躱していく。

 

ほんとマスターたちに何があったんだろう。

びっくりするぐらいミミッキュはマスターを信頼して動いてる。

 

うん、さすがマスターだね!!

 

「じゃれつく!!」

 

「キュキュゥ!!」

 

相手の攻撃を抜けたミミッキュがフライゴンでぶつかる。

あれは先ほどのロズレイドと同じフェアリー技のはず。

 

それならフライゴンには効果抜群だ。

 

『ここでミミッキュの技が直撃!フライゴンは目を回して倒れてしまった!!』

 

実況の声が耳に届く。

どうやらフライゴンは戦闘不能になったようだ。

 

ようやくこれで一匹目。

エースバーンもロズレイドもけっこうダメージをうけてしまっている。

 

さすが最後のジム、一筋縄ではいかないね。

 

「次はこいつだ!サダイジャ!!」

 

次にキバナさんが出したのはサダイジャと呼ばれたポケモン。

出てきた次のポケモンにマスターは顔をしかめる。

 

「・・・・また砂嵐をしてくるポケモン。めんどくさい」

 

「こいつの場合は直接攻撃を受けたらだけどな!」

 

マスターはあのポケモンを知っているようで、厄介そうな顔をしている。

 

どうやらまだ勝負はつかなそうだ。

 

・・・・僕の出番はまだかい?

 




Mが入らないのがメタ的いうとダンデ戦まで相手の手持ちが最高で5匹だからです。


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負けず嫌いなエースバーンは『キョダイカキュウ』をくらわせる

「・・・・ミッキュゥ」

 

「っ!?ロズレイド!」

 

相手の『ほのうのキバ』を受けたロズレイドがついに倒れてしまう。

ミミッキュを庇って動いたため、ダメージを稼いでしまったんだ。

 

「・・・・エルレイド」

 

「ルァ!」

 

ロズレイドの代わりにフィールドに出たのはエルレイド。

相手のステルスロックがエルレイドを襲うけど戦意は衰えない。

 

彼女の頑張りを見ていたためかやる気に満ちている。

 

それはそれとして僕の出番はまだかい?

あ、まだですか。

 

それにしても相手は砂嵐の中でのバトルがとてもうまい。

マスターが後手に回されるって相当だ。

 

ロズレイドの使ったグラスフィールドもあのサダイジャがすぐに書き換えてしまった。

でも、ミミッキュとロズレイドの頑張りは無駄じゃない。

 

「エルレイド、一気に二匹仕留めるよ」

 

ポケモンの交代が済んで再びバトルが再開する。

ミミッキュの『ばけのかわ』はすでに使用済み、砂嵐でもダメージを受け続けている。

このままだとミミッキュも危ない。

 

「サダイジャ!へびにらみ!!」

 

「ミミッキュ!代わりに受けて!!」

 

「キュキュ!」

 

エルレイドに向けられた相手の攻撃をミミッキュが庇う。

どうやらあの技はミミッキュには効果がないらしい。

 

「エルレイド、リーフブレード!!」

 

ミミッキュが代わりに攻撃を受けてくれたことでできた隙をエルレイドがつく。

しかもこれは。

 

「ちっ!急所に当たりやがった!」

 

やっぱり!気持ちよさそうだって思ったんだ!

最近のエルレイドの攻撃ってなぜか急所によく当たるんだよね。

 

『サダイジャ戦闘不能!これでジムリーダーキバナの手持ちは残り二匹だ!!そして繰り出すのは彼のパートナー、ジュラルドン!!』

 

フィールドに声が響く。

それと同時に現れるのはドラゴンタイプのポケモン。

 

あれが彼のエースポケモンか。

 

「・・・・くる」

 

「へ!荒れ狂えよ俺のパートナー!スタジアムごとやつらを吹き飛ばせ!!」

 

ジュラルドンがフィールドに出た直後、再びボールへと戻すキバナさん。

そして戻したボールに紫色の光がまとわりつく。

 

これは、大きくなる技だ。

 

「キュ、キュキュ!?」

 

相手が巨大になったのを見てミミッキュが後ずさる。

見れば彼女は震えていた。

大きなポケモン、それもキバナさんのエースポケモンだ。

 

その迫力は桁違いだろう。

 

それを見たマスターが彼女に向かって口を開く。

 

「・・・・ミミッキュ」

 

「キュ?」

 

「安心して。言ったでしょ?後ろからあなたを守るって」

 

「ッ!!キュキュ!!」

 

怯えていたミミッキュがマスターの言葉で止める。

かっこいいなマスター!

 

「・・・・あの状態でサポートがいたら面倒だ。先にもう一体の方を倒すよ!!」

 

マスターの指示が彼女たちを走らせる。

どうやらキョダイマックスしたジュラルドンではなく、先にギガイアスを倒すつもりのようだ。

 

「やらせるかよ!ジュラルドン!ダイスチル!!」

 

相手へと接近するエルレイドとミミッキュに相手のダイマックス技が発動する。

見た感じ、あれは鋼のダイマックス技!!

 

まずい、あれはミミッキュの弱点タイプだ!

 

「エルレイド」

 

マスターが何かをつぶやいたと同時に彼女たちは相手の大技に飲み込まれる。

まずい、これでミミッキュはもちろん、下手したらエルレイドも。

 

『ジムリーダー、キバナのダイスチルが炸裂!全体攻撃技にユウリ選手のポケモンはどうなる!?』

 

「ミミッキュ、じゃれつく」

 

「キュ!」

 

相手の大技による衝撃波をミミッキュが突破して現れる。

あの攻撃を耐えたの!?

 

なんということだ、彼女は耐久力でさえ僕を追い抜こうとしているのか。

 

突破されるとは思っていなかった相手はミミッキュの技をもろにうける。

体力は今までの攻撃で減っていた、この攻撃を耐えることはできないはずだ。

 

「・・・・ワイドガードか!」

 

戦闘不能になったポケモンを戻しながらそう叫ぶキバナさん。

よくわからないけど、マスターが何かしたの?

 

「よくやったねエルレイド」

 

「エルァ!」

 

衝撃波が消えた先でエルレイドの姿が見える。

もしかして、エルレイドが彼女を守ったの?

 

確かに思い出してみれば、技が放たれる前にエルレイドに『ワイドガード』って言ってた。

 

「・・・・はい、ダブルバトルって知った時点でこの技は覚えさせてます」

 

「ワイドガードは全体攻撃の技から自分と味方を守る技だからな。良い技もってるじゃねぇか」

 

「お疲れミミッキュ、交代だよ」

 

「キュ!」

 

ギガイアスを倒したミミッキュをマスターが下げる。

 

この流れ、わかりますとも。

 

ふ、さすがマスター。最後の最後は僕で決めてくれるなんてね。

 

相手はキョダイマックスしたポケモン。

このバトルでもっとも美味しいところだ!喜んでくらわせてもらおう!!

 

さぁ、行こうフィールドへ!!

 

「行くよエースバーン」

 

「ピカァァァ!?」

 

地面に顔からスライディングする。

噓でしょマスター。

 

「ヒバ!!」

 

マスターに呼ばれたエースバーンがフィールドに飛び出す。

ぐぬぬ、理由を!理由を教えてよマスター!!

 

「エースバーン、聞いて」

 

「ヒバ?」

 

フィールドに飛び出したエースバーンにマスターが話しかける。

 

「・・・・相手はダンデさんのライバルのキバナさん。そしてあのポケモンは彼のエース、つまりあのポケモンはダンデさんのリザードンにもっとも近いと言えるわ」

 

「っ!?」

 

「もちろん相性があるから絶対にそうだとは言えないけど、それでもあのポケモンに勝てなきゃリザードンには勝てない」

 

「・・・・」

 

マスターの言葉を聞いたエースバーンはまっすぐジュラルドンを見つめる。

背中越しでも彼女の戦意が伝わってくる。

 

超えるべき相手だと認識したかのように。

 

「私はあなたに言ったようね。あなたにはダンデさんのリザードンを超えるくらい強くなってもらうって」

 

ヒバァ!!(当然よ!!)

 

「じゃあ証明して!あなたがリザードンを超えるポケモンだってことを!!」

 

そう言ってマスターはエースバーンをボールに戻す。

そしてリストバンドから放たれたガラル粒子が彼女に力を与える。

 

「キョダイマックス!!」

 

大きくなったボールから彼女が飛び出す。

しかし、その姿は違っていた。

 

大きな火の玉の上に姿を変えた彼女を飛び乗る。

その姿からはかつてないほどの力を感じる。

 

「キョダイマックスか、いいねぇ!いくぜジュラルドン!!」

 

「ジュラァァァァl!!」

 

「・・・・いくよエースバーン」

 

「ヒバァァァァ!!」

 

巨大になった彼女たちが吠えてスタジアムを揺らす。

始める、彼女たちの最高の技のぶつけ合いが。

 

「ジュラルドン!!ダイロックだ!!」

 

「ジュラァァァ!!」

 

ジュラルドンの力によって巨大な岩の壁が生み出される。

その壁が彼女の方へと倒れていき、叩き潰さんと迫る。

 

岩技のダイマックス技、当然彼女には効果抜群だ。

 

「・・・・」

 

当たれば致命傷、でも彼女たちは落ち着いている。

まるで勝てると確信しているかのように。

 

「エースバーン」

 

「ヒバ」

 

マスターが彼女の名を呼びエースバーンが応える。

その姿はマスターのエースポケモンとしての風格が確かにあった。

 

 

「キョダイカキュウ!!」

 

 

 

「ヒバァァァァァ!!」

 

彼女の下にあった巨大な火の玉を迫りくる岩の壁へとたたきつける。

岩の壁と火の玉がぶつかり合い、巨大な衝撃波と共に轟音が響く。

 

ていうかエルレイドは大丈夫?

あ、ちゃんとワイドガードで守ってる。

 

エースバーンを守らないのはあえてだろうね。

彼女なら勝つとエルレイドも信じているんだ。

 

「ヒバァァ!!」

 

その信頼に応えるように岩の壁を彼女の技が突き破り、そのまま相手へ炸裂する。

彼女の特性で威力が大きく上がったキョダイマックス技。

 

いや、それでもこの威力は。

 

キョダイマックスして体力の増えた相手がよろけ、やがて耐えきれず倒れ伏す。

 

「・・・・お疲れエースバーン」

 

マスターの言葉が試合終了の合図となる。

そして、割れんばかりの歓声がスタジアムを満たした。

 

『け、決着!!勝者はチャレンジャー、ユウリ選手ゥゥゥ!!一番初めにチャンピオンカップへの出場権を得たのは彼女だぁぁぁぁぁ!!』

 

勝者をたたえる声が僕たちに届く。

エースバーンにエルレイド、ミミッキュ。

回復したロズレイドも嬉しそうだ。

 

「やったねピカチュウ」

 

マスターも僕を抱き上げて嬉しそうに微笑む。

 

うん、僕も嬉しいよ。

僕一人じゃこんなところまでこれなかった。

 

みんなには感謝しても感謝しきれない。

 

 

でもね、一つだけ言わせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・僕の出番はまだかい?

 

 

 

 

 

 

 



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苦労人のマリィは『友情』をくらわせたい 2

「モルペコ!スパーク!!」

 

モルペコの攻撃が兄貴のタチフサグマへ入る。

兄貴のポケモンは強い、それは私がよく知ってる。

 

でも、今日ばっかりは負けるわけにはいかんのよ!

 

「モルペコ!スイッチ切り替えるよ!!」

 

「ペコォ!」

 

私の言葉にモルペコが元気よく鳴く。

よし、一気にたたみかける!

 

「・・・・いや、もう十分ですよ」

 

「・・・・え?」

 

「マリィ、お前の勝ちです」

 

そういった直後、兄貴のタチフサグマが倒れる。

目を回してる、戦闘不能だ。

 

ということは勝った?私が、兄貴に?

 

「~~~~っ!!よし!!」

 

状況を認識して腹の底から声をあげる。

兄貴に勝った!初めて!!

 

それにこれで七つ目のジムをクリアだ、あと一つ勝てばチャンピオンズカップに行ける。

 

そしてそこでユウリともう一度戦うんだ。

 

あの子は絶対勝ちあがってくる。

だから私もそこに行くんだ。

 

あの子に、私の気持ちを伝えるために。

 

あ、この街を盛り上げるためにも!

 

「・・・・今、一番大事な目的を忘れてなかった?」

 

「・・・・知らんし」

 

さすが兄妹、変に鋭い。

 

「・・・・まぁいいです。それよりもマリィ、ユウリさんについてですが」

 

「・・・・うん」

 

「・・・・あれは化け物です。全力の俺ですら彼女には勝てないでしょう、それほどまでに彼女は完成している」

 

化け物、それに完成ね。

それがユウリと戦った兄貴の感想なのだろう。

 

でも、私の感想は全く逆だ。

 

あの子はどこまでも人間だ。

寂しがりやで、人見知りで、それでも誰かと一緒にいたいって思ってる子供だ。

 

完成どころじゃない、未完成もいいところだ。

でも、それゆえに強い。

 

「・・・・ユウリからは友達じゃないって言われたけど、私はあの子と友達になりたいんよ」

 

「彼女がそれを必要としていないとしても?」

 

「関係ない、私がなりたいんだから。それに絶対必要やって言わせるけん」

 

そのためにユウリに勝つ。

勝って、彼女の世界に入るんだ。

 

「・・・・応援してますよ。これを」

 

「え?これって」

 

兄貴の差し出してきた物を受け取る。

これは、モンスターボール?

それに中にポケモンが入ってる。

 

「・・・・そのポケモンは俺からのプレゼントです。これから先のバトルで役に立つでしょう」

 

「うん、ありがとう兄貴」

 

兄貴からもらったボールを腰につけてフィールドをでる。

街の人たちも応援してくれてる。

 

こういう時に笑顔を出せないのが私の悪いところだ。

あのユウリだってピカチュウと一緒の時は笑ってるのに。

 

「・・・・またホテルで練習せんと」

 

はぁ、こういう時に一緒に練習してくれる子がいたら。

 

 

 

 

 

 

「いやー、ついにここまで来たね」

 

「ピカ」

 

Mさんの言葉に心から同意する。

ダンデさんから推薦状をもらい、そこから一つ目のジムをクリアして今は八つ目のジムをクリアした。

それまでの間にヒバニー、ロゼリア、エルレイド、ミミッキュ、そしてMさんと仲間が増えた。

 

楽しい思い出だ、そしてそれはまだ終わってない。

 

「ま、細かい話は部屋で聞かせてもらおうかな。小説の参考にしたいし」

 

Mさんと一緒にホテルの中を歩く。

他のジムチャレンジャーがクリアするまでこのホテルで待機することになって三日目。

そろそろバトルが恋しくなってきた。

 

ていうか小説かぁ、僕の話を書いても面白くないと思うけど。

僕なんてだいたいバトル中に気持ちよくて叫んでるだけだし。

 

そんなことを考えながらマスターの部屋に戻る。

Mさんはその近くの部屋をとってるみたいだけど、みんながいるほうがいいよね。

 

「あー!お前ユウリのピカチュウだろ!!」

 

「ピカ?」

 

聞き覚えるのある声に振り返れば、そこにホップ君がいた。

どうしてここに?

 

「お前がいるってことか、ユウリもジム全部クリアしたんだな!へへ、俺もなんだ!」

 

おお!ホップ君も八つすべてのジムをクリアしてたのか!

これってかなりすごいことじゃない!?

 

あの時一緒に旅を始めたマスターとホップ君の両方がこうして勝ち進んでるって。

これはホップ君と戦うのが楽しみになってきたぞ!

 

「ユウリは部屋か?ここ?」

 

あ、そこ違う。

ちょうど僕とMさんが目の前にいた部屋を勘違いして開けてしまう。

 

そこにいたのは。

 

 

 

 

「モルペコ、見てて」

 

 

 

そう言って両指を口の左右にあてて口角をあげるマリィさん。

 

良い笑顔だ。

 

それはそれはとして何してるんだろ?

 

「あれ?ユウリじゃない。えっと確かマリィだっけ?」

 

部屋にいたマリィさんにホップ君が首を傾げながらも話しかける。

うんだってここマスターの部屋じゃないし。

 

「・・・・誰?なんか見たことある気がするけど」

 

「・・・・覚えられてなかったかぁ。俺はホップ!なぁ、さっきは何してたんだ?」

 

「ホップ君ホップ君、それは触れてあげないのが優しさだよ」

 

マリィさんの行動にホップ君が質問するけど、Mさんがそれをやめさせる。

なかなか珍しいメンバーが揃ったね。

 

「ていうかなんで私の部屋に入ってきてるの?」

 

「え!?ここユウリの部屋じゃないのか!?」

 

マリィさんからの当然の疑問に慌てるホップくん。

とりあえずみんなで謝ろう。

 

「っ!?ユウリ!?ていうかそのピカチュウ!」

 

マスターの名前を聞いて目を見開くマリィさん。

そして僕を見て驚いてるようだ。

 

そうだ!マリィさんとマスターってかなり気まずい別れ方してるじゃないか!?

 

なんということだ、これはすぐに離れないと!

 

「ピカチュウ?ここにいるの?」

 

うわ、マスター!?

なんというタイミングで。

 

「・・・・なにこの状況」

 

僕とMさん、それにホップ君とマリィさんが一つの部屋にいる状況に困惑するマスター。

確かになんなんだろうねこの状況。

 

「ユウリもジムクリアしてたんだな!へへ、俺もクリアしたぞ!」

 

「・・・・ホップ君もクリアしたんだ」

 

マスターにクリアしたことを嬉しそうに報告するホップ君。

あ、マスター意外そうな顔してる。

 

「私もジムクリアしたよ」

 

マスターとホップ君の話にマリィさんも加わる。

あ、ここにいるってことはもしかしてと思ってたけど。

 

「・・・・マリィもクリアしてたんだ」

 

「うん、あんたにリベンジするためにね」

 

「・・・・」

 

マスターとマリィさんの間に微妙な雰囲気が流れる。

あんなひどい別れ方したんだから当然だろうけど。

 

「あ、三人とも。ちょうどトーナメント表が出たみたいだよ」

 

「え!?てことはジムチャレンジャー全員がジムバトル終わったのか!?」

 

Mさんがロトムスマホを見ながら三人に話しかける。

トーナメント表って、僕らのバトルする順番かな?

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「あ、これって」

 

三人がそれぞれのスマホからトーナメント表を確認する。

マスターとマリィさんは無言で、そんな二人をホップ君が見ている。

 

「・・・・どうやら、初戦はあの二人みたいだね」

 

そう言ってMさんが僕にトーナメント表を見せてくれる。

僕は文字が読めないから、Mさんが指差しでマスターとマリィさんの位置を教えてくれる。

 

そういうことか。

 

「・・・・さっそくリベンジできるみたいやね」

 

そう言ってマスターを見て戦意を燃やすマリィさん。

そんなマリィさんをマスターは無言で見つめる。

 

第一回戦。

 

対戦はマスターとマリィさんだ。

 

「ねぇユウリ、あの話ってまだ有効?」

 

「・・・・あの話?」

 

「私が勝ったら話を聞くってやつ」

 

「・・・・」

 

前にバトルした時にしたやつだ。

結局マスターが勝ったから意味がなかったけど。

 

あの時の話をマリィさんはまたしたいようだ。

 

「ま、なくても関係ないけど。私は勝ってあんたに私の言いたいことを伝える」

 

「・・・・私に勝つつもり?」

 

「そう、私はあんたに勝つ」

 

マリィさんはマスターの言葉に力強く答える。

それを聞いたマスターは冷たい目を細めてマリィさんと睨む。

 

「言ったよね。私の生きる意味、目的。マリィを容赦なく蹴落としていくって」

 

「聞いとるよ。あんたの生きる意味、目的。私はそれを明日否定する」

 

「「・・・・」」

 

「な、なんだか部屋の空気が冷たくなってきたぞ!?」

 

「ねぇピカチュウ、ちょっと後で詳しく教えてくれない?良いネタになりそうだ」

 

二人の空気にホップ君は顔を青くし、Mさんは興味津々に見つめている。

 

明日はマリィさんと戦う。

 

ということは。

 

 

 

 

「・・・・ペコォ」

 

 

 

部屋のベットの上に立つポケモンと目が合う。

なぜだろう、彼とは他ポケモンの気がしない。

 

それと同時に僕のMセンサーが感じる。

明日のバトル、僕をもっとも痛めつける(喜ばす)のは彼だと。

 

「「・・・・」」

 

「はいはい二人とも無言で見つめ合わない!せっかく集まったしご飯でも行く?」

 

「この雰囲気で!?」

 

Mさんの発言にホップ君がツッコミを入れる。

僕は全然いいけど。

 

「・・・・ていうかここ、私の部屋なんだけど」

 

「あ、うんごめんね」

 

そうだ、僕ら勝手にマリィさんの部屋に入ってたんだった。

 

 

 

 

「・・・・ふー」

 

ユウリ達が帰った後にベットに倒れこむ。

びっくりした、まさかもうユウリと戦うことになるなんて。

 

ユウリ、また強くなってたな。

 

わかる、雰囲気が一段と研ぎ澄まされたから。

 

でも根本は変わってない、今もユウリの世界は彼女とピカチュウだけだ。

 

「私は勝てるかな?ねぇモルペコ」

 

ベットに倒れこんだまま腕だけでモルペコを持ち上げる。

私もあれから必死に修行した。

 

兄貴にも協力してもらったし、あの時より何倍も強くなった自信がある。

 

修行した力で八つ目のジムもクリアできたんだ。

 

でも、それでもユウリには及ばないのかもしれない。

 

だって本気の兄貴ですら勝てないって言ってたんだから。

 

・・・・きっといまだにあの敗戦を引きずってるんだ。

ボロボロに負けたから当然といえば当然か。

 

「ペコぺコォ!」

 

腕の上でモルペコが暴れる。

まるで自分を忘れなと言わんばかり。

 

「ふふ、そうやね。あの時はモルペコは戦ってなかったんだった」

 

力をつけたのは私だけじゃない、この子たちだってそうだ。

 

私の力がユウリに及ばないのだとしても、この子たちの力が劣っているなんて思えない。

 

「そうだよね、明日は私だけで戦うんじゃない。私達だ」

 

大事なことを忘れるところだった。

この子たちだけじゃない、街の人たちだって一緒に戦ってくれてるんだ。

 

私はこれだけの人やポケモンに支えらている。

 

ユウリは一人だけで戦ってる、なのに強い。

 

きっとあれも強さの一つなのかもしれない。

私も兄貴がいなかったらユウリと同じ道にいただろうし。

 

でも、だからこそ私は勝たないといけない。

 

「モルペコ、明日は勝とうね」

 

「ペコォ!」

 

私の言葉にモルペコは元気よく鳴く。

それを見た私の頬が緩む。

 

ふふ、今ならきれいに笑えてるかも。

 

ぐぅぅぅ。

 

「・・・・お腹すいた」

 

お腹がなったことで空腹を自覚する。

空腹に耐えながらモルペコを下ろして横向きになる。

 

「・・・・私も一緒に行きたかったのに。三人だけで行った」

 

ご飯に行ったユウリ達を思い浮かべて頬を膨らませる。

 

「明日はユウリとご飯、行けたらいいな」

 

明日のことを思い浮かべて目を閉じる。

 

ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・カップ麺でいいかな。

 

 

 



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苦労人のマリィは『友情』をくらわせたい3

「・・・・ふー」

 

スタジアムへと繋がる廊下で深呼吸をする。

心臓がうるさい。

この場所からも観客の声が聞こえているのに、心臓の音の方が大きく聞こえる。

 

この先にユウリがいる。

 

そして私と戦うんだ。

 

「ペコ!!」

 

「・・・・はぁ、あんたは本当にいつも通りやね」

 

早く行こうと私の足を押すモルペコにため息が漏れる。

まぁ、この子に私の事情何て関係ないか。

 

「よし!勝つよモルペコ!!」

 

力を入れてフィールドに進む。

暗がりの廊下を抜けてフィールドに出た瞬間、一気に明るくなる。

 

『こちらも現れました!マリィ選手です!!マリィ選手はジムリーダー、ネズの妹であり、今回の大会では兄の推薦により参加し、見事チャンピオンズカップに進みました!!』

 

「・・・・毎回言うんや、これ」

 

全てのジムバトルで説明されるからいい加減うんざりしてきた。

まぁ、そんなことはどうでもいいんやけど。

 

「・・・・」

 

フィールドにはすでにユウリが立っていた。

 

緊張した様子もなく、倒すべき敵である私をじっと見つめてくる。

 

・・・・いや、ユウリは私を見てない。

 

彼女が見ているのは私を倒した先にいるダンデさんだ。

ダンデさんと戦うためだけに、彼女はここにいるのだから。

 

・・・・絶対振り向かせてやる。

 

解説者の声が終わると同時にユウリと私はフィールドの決まった位置につく。

位置についてボールを握る。

 

そして一瞬だけ目を閉じる。

 

待ちに待ったチャンピオンズカップ。

街を盛り上げるために出場した。

チャンピオンになる。

 

ユウリと友達になる。

 

想いを胸に秘めて冷静になる。

 

目を閉じて闇に覆われた瞬間、耳に入っていた観客の声が一気に小さくなる。

目を開けた先の視界はフィールドだけに絞られていた。

 

闇に浮かぶフィールドの先にはユウリが見えた。

 

「・・・・いくよ」

 

握りしめたボールをフィールドに投げる。

さぁ、バトル開始だ!!

 

「いくよ!ズルズキン!!」

 

「ロズレイド」

 

私とユウリが同時にポケモンを出現させる。

相手はロズレイド、私の読み通りだ。

 

「ズルズキン!」

 

「ガァァァ!!」

 

相手を確認したズルズキンは相手へ『いかく』をする。

ただし本当の『いかく』をではなくあくまでふりだ。

 

兄貴のズルズキンの特性は『いかく』だった。

ユウリもそれを覚えてるから考慮に入れているはず。

 

これで特殊技をメインに使うロズレイドで躱したと思うはず。

 

どんなことだろうと勝つ可能性が増えるなら実行する!

 

「ズルズキン!相手に接近して!!」

 

「はなふぶき」

 

ズルズキンが突撃する場所に大量の花びらが広がる。

こっちは近距離戦が得意だから相手に近づかないといけない。

 

ある程度のダメージは受け入れる。

でも近づければこっちのものだ。

 

「ズル!?」

 

「耐えてズルズキン!そのまま直進!」

 

広範囲技は躱せない。

変に避けようと動けば相手に時間を与えるだけ、だったらそのまま最短距離を突き進む!

 

ダメージをおいながらもズルズキンが花びらの波を抜ける。

 

ここで一気にダメージを与える!

 

「しねんのずつき!!」

 

「ズルゥ!!」

 

近くまで接近していたズルズキンの『しねんのずつき』が入る。

エスパー技はロズレイドに効果抜群、けっこうダメージが入るはず。

 

「ミキュッ!?」

 

こちらの技を受けたロズレイドが苦悶の表情を浮かべて吹き飛ぶ。

よし!一気に攻める!!

 

「ズルゥ!?」

 

「ズルズキン!?」

 

相手に再び接近しようと動こうとしたタイミングでズルズキンが膝をつく。

これは、毒状態!

 

「ロズレイドの特性のどくのトゲ!」

 

しかもこれって猛毒状態だ。普通は毒状態にしかならないはずなのに。

 

「・・・・接近戦に利があるのはそっちだけじゃないよ」

 

「っ!まだまだ!」

 

私のズルズキンの特性は『だっぴ』、状態異常を確率で治すことができる特性だ。

相手は『いかく』だと思ってるはずだし、油断してるところに毒を治して技を叩きこむ。

 

「・・・・気づいてるけど」

 

「え?ズルズキン?」

 

ズルズキンに目を向ければ様子がおかしい。

なに?毒以外にも何か。

 

「っ!?種が身体に!?」

 

ズルズキンの身体に種が付いていて、それが成長してズルズキンに絡みついている。

あれは『やどりぎのタネ?』動くのには支障なさそうだけど。

 

「・・・・なやみのタネだよ。ズルズキンの特性って威嚇じゃなくてだっぴでしょ。絶対とは言わないけど」

 

「っ!?」

 

気づかれてた。

『なやみのタネ』って確か、特性を『ふみん』にする技だったはず。

 

これで『だっぴ』を利用して猛毒を解除できなくなった。

 

・・・・なるほど、私の動きは読んでたってわけ。

 

「・・・・」

 

ユウリの方へ視線を向ければ、そこには冷めた目でフィールドを見つめている彼女がいた。

彼女の作戦通りとはいえ、ロズレイドがダメージを受けたことには変わりない。

 

でもユウリからはロズレイドのことを心配する様子は感じられない。

前のバトルの時も思ってたけど、本当にピカチュウ以外はどうでもいいのね。

 

たとえそれは自分の手持ちだとしても関係なし。

 

はぁ・・・・絶対負けるわけにはいかんね!

 

「ズルズキン!しんどいだろうけど頑張って!!」

 

「ズルゥ!」

 

私の言葉にズルズキンは応えてロズレイドの方へと飛び出す。

 

「迎え撃ってロズレイド、はなふぶき」

 

「ズルズキン!右へ!あそこが一番花びらの量が少ない!」

 

もうどく状態は時間をかければかけるほどまずい。

だったらダメージを受けてでも前へ!

 

「そこ!しねんのずつき!!」

 

「・・・・直線で読みやすいね。ロズレイド」

 

「ミキュ」

 

っ!?通り抜けるルートを把握されてた。

もしかしてわざと花びらの薄い場所を作ってた?

 

くっ、あんたはどこまで先に。

 

「マジカルシャイン」

 

「っ!?はなふぶきの中に飛び込んで!!」

 

あれはまずい!フェアリー技はズルズキンには四倍弱点だ!

とっさの判断でロズレイドが作った『はなふぶき』の中に飛び込んで姿を隠す。

 

ダメージはもちろん受けるけど、あれをくらうより遥かにマシだ。

 

「・・・・躱された」

 

間一髪、相手の技を躱す。

冷静に相手を観察するんだ、必ず付け入るスキはある。

 

「ズルズキン、無理させちゃうけどお願い」

 

「よし!ズルズキン、こわいかお!」

 

「ズルァ!!」

 

まずは相手の手段を絞っていく。

『こわいかお』で相手の防御を下げれば、相手も迂闊に接近させないはず。

 

慎重になれば大胆な行動はとれなくなる。

・・・・ユウリに限ってはなさそうだけど。

 

でも小技は他にも仕込む。

 

「マジカルシャイン」

 

「右に旋回しながら躱して!」

 

直線の攻撃だったら距離があれば躱せる。

近づいてからが勝負。

 

「はなふぶき」

 

「・・・・視界を塞ぐつもり?」

 

攻撃のためではなさそう。

薄く広がった花びらがロズレイドを隠す。

 

関係ない、今の距離なら躱せる。

 

「ズルズキン、そのまま躱しながら接近!」

 

直後、はなふぶきを突き抜けて相手の『マジカルシャイン』が襲い掛かる。

大丈夫、躱せる。

 

相手の攻撃を躱して近づいていく。

あの『はなふぶき』の向こうのどこかにいるはず。

 

視界にはロズレイドの姿は見えない。けどそれは間違いない。

 

まずは『はなふぶき』を抜ける。

 

「どんどん躱すよズルズキン!」

 

相手から放たれる攻撃をギリギリで躱す。

もちろん近づくにつれて躱しにくく、直撃も起こる。

 

でも完璧に直撃してはいない。

体力的に次の攻撃を外したら毒でやられる。

 

だから絶対にあてる!

 

相手の攻撃を躱したズルズキンが『はなふぶき』を抜ける。

これで相手を視認できる、問題はここからだ。

 

こっちの攻撃範囲に相手を入れるために相手の攻撃をあと一発は躱さないと。

 

「ズル?」

 

「いない?どこへ」

 

『はなふぶき』を超えた先にロズレイドの姿が見えない。

もちろん『はなふぶき』が展開されていなかったフィールドにはいない。

 

空も地面にもいない。

 

「ミキュ」

 

「っ!!?はなふぶきの中たい!!」

 

はなふぶきの中からズルズキンに腕を向けるロズレイドが現れる。

さっき私たちがしたことを真似して。

 

「マジカルシャイン」

 

超近距離から放たれるマジカルシャイン。

今度は確実に躱せない。

 

「・・・・」

 

「ッ!?ミキュ!!」

 

相手からズルズキンに『マジカルシャイン』が放たれる。

確実に直撃し、戦闘不能になるそれは、ギリギリでズルズキンの上を抜けていく。

 

「・・・・ロズレイド?」

 

「・・・・ッ、ミッキュ?」

 

ロズレイドは頭を押さえてふらついている。

 

「・・・・私たちの技が効いとーね」

 

「混乱状態?いつの間に」

 

ロズレイドの状態を看破するユウリ。

正解。あといつの間にってついさっき。

 

『マジカルシャイン』の直前だ。

 

「ズルズキン!しねんのずつき!!」

 

混乱状態のロズレイドに渾身の一撃を叩きこむ。

この距離ならもう躱せない。

 

「・・・・ミ、ミッキュウ」

 

ロズレイドは吹き飛び、そしてそのままフィールドへと倒れる。

戦闘不能、こっちの勝ちだ。

 

「・・・・いばる?」

 

「正解、すぐに気づくのはさすがやね」

 

ロズレイドの攻撃の瞬間、ギリギリ行ったズルズキンの『いばる』。

相手の攻撃をあげてしまうけど、その代わり混乱状態にできる。

攻撃が上がるのはロズレイドには関係ないし。

 

外れるかは賭けだったけど、うまくいってよかった。

 

これで。

 

「・・・・お疲れ様ズルズキン」

 

「・・・・ズルゥ」

 

私が声をかけた後にズルズキンが倒れる。

今まで受けた攻撃と猛毒によるダメージ。

 

よく今まで耐えてくれた、普通ならとっくに戦闘不能になってるのに。

 

「・・・・お互い戦闘不能、いい勝負やねユウリ」

 

「・・・・」

 

私の言葉に無言のままユウリは次のポケモンを構える。

まだだ、これぐらいじゃ彼女の世界にひびは入らない。

 

私がユウリを超えないと。

 

「・・・・いくよ、ミミッキュ」

 

「お願い、レパルダス」

 

「キュキュ」

 

「レバァ」

 

私たちの次のポケモンが前に出る。

ミミッキュもこれも知ってる。ちゃんと対策を練ってる。

 

あの日負けてから、あんたのことを研究したけん。

 

「ミミッキュ、じゃれつ「みこだまし!」」

 

「キュ!?」

 

相手よりも先手で出せる『ねこだまし』で技をつぶす。

これで相手は怯んで技を出せない。

 

それに。

 

「これでミミッキュの特性ばけのかわは終わった」

 

「っ!!」

 

私の言葉に顔をしかめるユウリ。

どう?私を見る気になった?

 

 




ストック終了。
ここまで予約投稿。

モチベーションが戻ったら続き書く
すいません、今書く気力がまったくない


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