アサルトリリィPRESERVED ((確信))
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木苺 その1

頭の中の天使と悪魔とガイアと欲望と理性と本能と夢と希望と無惨様が囁くのだ……

百合を書け、さもなくば死ね、と……


後悔先に立たず、と言う。

 

 

 

後悔しても、終わったことは変わらない、という意味だ。

 

後悔は傷になり、癒えることなく、自分自身を蝕んでいく。

後悔を抱えれば抱えるほど、自分は後悔に縛られ、雁字搦めになって動けなくなっていく。

論理的に考えれば、後悔なんて非効率的な心情に過ぎ無いのだろう。

 

 

ああ、そんなことはよくわかっている。

 

しかし、わかっていたとしても、そこから抜け出すことなんて簡単にできやしないことも自明の理だ。

だって、今私を動かしているのは、紛れもない後悔の意識なのだから。

 

 

他人のせいにして逃げてしまいたい。

全て投げ出して遠くへ行ってしまいたい。

いっそこんな思い出、忘れてしまいたい。

 

 

   でも、後悔がそれを許さない。

 

だから私は進むのだろう。

後悔に足を引かれながら。

使命感に導かれるように。

 

ただ、前に。

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィPRESERVED

 

 

 

 

第一話 木苺 

Raspberry

Repentance

 後悔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、少し遅れちゃうかな?」

 

 

美しく澄んだ声が、木々の生い茂る中に響く。

それを発した少女は、自動車も()()()というスピードで森の中を駆け抜けていた。

 

背にはギターケースのような大きめの入れ物、服装は黒と白を基調とした制服。

灰色とも銀色とも取れる長い髪をたなびかせたその姿と落ち着き払った声音は、猛スピードで駆ける彼女の姿とは大きくギャップがあったが   周囲にはそれを見咎める者もいない。

 

彼女はその状態から、さらにポケットから携帯を取り出し、時間を確認し始めた。

 

「あちゃあ、これは間に合わないね…」

 

せっかくの新入生の晴れ舞台なのに、と独り言を呟きながらも、息一つ乱すことなく、目的地に彼女は駆けていく。

 

「まあ、なるべく早く行くしかないよね」

 

そう呟き、さらに走るスピードを上げようとして   

しかし、彼女の足はそこで止まった。

 

   おや?あれは……」

 

崖の上から見えた、森の中での一瞬の光。

短くはあったが、しかし大きな光を見て、彼女は進路を変えることを決めた。

 

「フラッシュバン……妹たち(リリィ)の誰かがデート(戦闘)でもしてるのかな?」

 

なら私も混ぜて貰おうじゃないか   そうひとりごち、彼女は光の方へ走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 

百合ヶ丘女学院の新入生・一柳梨璃は、入学初日早々に巻き込まれた   と言っても梨璃から希望して巻き込まれに行ったのだが   ヒュージとの戦闘において、明らかに自分が足を引っ張っているのを感じていた。

 

フラッシュバンを夢結が使用して一時戦線を離脱し、今は一息つけているものの、ここもいつ戦場になるかわからない   そんな、初めて味わう緊張感に、梨璃は圧倒されていた。

 

 

「あのヒュージ…私たちの相打ちを狙ったわね」

「まさか!ヒュージがそんな知恵を?」

 

 

一方で、今回の同行者である同学年の楓・J・ヌーベルと一つ上の学年の白井夢結は、そんな戦場の空気に臆することなく、戦況を整理していた。

 

「一柳さんにお礼を言うべきね。一柳さんが私を止めなかったら、貴女、今頃真っ二つになっていたところよ」

「ぐぬぬ…」

 

ガスを使って目眩しを行い、自分が攻撃を引きつけて相打ちを狙う   夢結や楓たちの基準で言えば、今までのヒュージでは考えられない行動ばかり。自分たちの常識に囚われて、二人は対処できていなかった。

 

「貴女、目()いいんですのね」

「あはは…。田舎者なもので、視力には自信あります!」

 

その窮地を救ったのが、紛れもない梨璃だ。

田舎育ちゆえの目の良さを活かし、楓の突撃が夢結の方へ誘導されているのを察知し、夢結の攻撃をすんでのところで止めた。

夢結はそんな梨璃の行動を評価してくれているが……

 

(まだ私、チャームも起動できてない…)

 

梨璃が現在足を引っ張る形になっている主な原因   それが、チャームが未契約状態であったことだ。

 

CHARM   Counter Huge ARMs。名前の通り、ヒュージに対抗するための武器だ。

リリィになって身体能力が向上しているとは言え、チャームが無ければリリィがヒュージに対抗する手段はかなり限られる。それこそ、ヒュージとの戦闘に慣れたトップレベルのリリィでなければ、戦うことなど不可能だろう。

そんなわけで、梨璃は夢結と楓に守られながら、チャームと契約をしている最中なのであった。

 

 

 

「…っ!何!?」

 

そうこう話している間に、「ボフッ」という音と共にまたしても煙幕が張られる。あのヒュージのものだ。

 

「…ふっ!」

 

即座に対応した夢結は、煙に紛れて奇襲をかけるヒュージを叩き伏せる。

しかし   

 

 

「くっ…!?」

 

ヒュージの出す触手に打ち上げられ、大量の触手に絡め取られてしまった。

幸いにも直撃は受けていないが、このままならば触手に圧殺されてしまうだろうことは、戦闘経験のない梨璃にも容易に理解できた。

 

「夢結様!」

 

梨璃が叫んだその時   

 

「…あっ」

 

ブォン!という音と共に、チャームにバインドルーンが灯る。梨璃の今まで契約中の状態だった梨璃のチャーム、グングニルが目覚めた証だ。

 

使用者のマギを認識し、姿を変えるグングニル。ようやっと戦うことができるようになった梨璃は、まさに今、名実ともに「リリィ」となったのである。

 

 

「…一撃、でしてよ。そのくらいできまして?」

「う、うん!」

 

リリィとなった梨璃を見た楓は、背中合わせに声をかける。

まだ戸惑いながらも、梨璃は力強く返事を返した。

 

煙などに惑わされることはない。二人が狙うはただ一つ。

夢結が捕らえられている、あの触手の根本   

 

 

「「やああああああああっ!!」」

 

声と、そしてCHARMの切先を合わせ、二人は駆ける。

二人のチャームは   寸分違わず、ヒュージの触手を貫いた。

 

 

   っ!」

 

 

触手から解放された夢結。着地と同時にヒュージへと走り出し、その胴体を狙う。

夢結の一撃がヒュージの胴体を切り裂く   と思われた矢先。

 

「……っ!?」

 

 

ヒュージが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

煙だけでなく、巻き上げられた砂にも視界が塞がれる。

 

夢結は、この状態でも攻撃を防ぐことができるという自信があった。故に、どこから攻撃が来てもいいように自分の周りを警戒する。

しかし   

 

 

(攻撃が   来ない?)

 

そして……ヒュージの狙いに気づいた。

 

 

 

梨璃の視力は確かに良い。煙の中からでもヒュージの行動を読み取ることができる程に。

しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「っ!?一柳さん!」

 

夢結の読み通り、ヒュージの触手は梨璃の方へ向かっていた。

しかし   

 

(間に……合わないっ!)

 

距離が遠いわけではない。十数メートルほどだろう。それでも、夢結が梨璃の元に向かうよりも触手の方が早い。

 

(また…あの光景を、繰り返すと言うの!?)

 

夢結の脳裏に、後悔の思い出がフラッシュバックする。

 

「ヌーベルさん!一柳さんを!」

 

今の夢結にできることは、声を張り上げて自らの力の不足を嘆くことだけだった。

 

 

 

 

「っ…!そういうことですか!」

 

一方の楓も夢結の意図に気付くが、ヒュージに背を向けた状態からでは梨璃とヒュージの間に入るにも時間がかかる。

 

(間に合わない…いや、できることを全てやらなければ!梨璃さんの前に飛び込んででも   !)

 

「…へっ?」

 

当の梨璃は、自分が狙われていることに気付いていない。

 

風を切る音とともに、梨璃の目と鼻の先に触手が迫る。

 

 

「ひっ   

 

 

突然目の前に現れた触手を見てやっと事態を把握した梨璃は、その凶器に身を凍らせ   

 

 

「間に合え   !」

 

楓が梨璃の前に飛び出すと同時に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に迫った触手も、『カチン』と音を立ててその身を凍らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………?」」

 

梨璃と楓が恐る恐る目を開けると、迫っていた触手は梨璃の眼前で、完全に静止している。

よく見ると、触手のまわりに霜が付着している。まるで、()()()()()()()()()()()()()()かのように。

 

 

 

「ふぅ…。こっちには、ギリギリ間に合ったかな」

 

 

不意に、梨璃の耳に澄んだ声が響いた。

不思議と安心感のある、戦場にそぐわない   ある種、()()()()した、と形容してもいい声だ。

 

梨璃が声のした方に顔を向けると、いつの間にか立っていた美しい少女の真っ赤な瞳と目があった。

長い灰色の髪と赤い目の整った顔立ちからは、自信と安堵が感じられる。

梨璃はその背中に、見えるはずのない()()()()を幻視した。まるでそれは   

 

 

(私が前見た、天使様みたい   )

 

 

「よく頑張ったね、私の可愛い(リリィ)たち。

あとは   お姉ちゃんに任せなさい」

 

 

戦場にそぐわない落ち着いた声と穏やかな笑顔は、梨璃を緊張から解き放ち、「もう大丈夫」と無条件に思わせてしまう。

梨璃は安心感から、ぺたんと腰を抜かした。

 

と、同時。

彼女の持つ身の丈を超える大剣が、凍りついたヒュージを真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、間に合ってよかった」

   「妹たち」なんて、遅れて来ておいて調子の良いものね?流瑠(るる)

 

目の前の真っ二つになったヒュージを見ながら安堵の息を漏らす彼女に、冷たく声を掛ける夢結。その名前に、楓は聞き覚えがあった。

 

(確か、百合ヶ丘で最強と言われるリリィの名前が「ルル」、だったような……)

 

未だ何がが起こったのか理解しきれていない頭で、楓は現実逃避気味に考える。

 

 

「夢結ちゃん…」

「少し遅すぎたんじゃないの?そんな有様じゃ、最強の名前に傷がつくんじゃないかしら?」

「………。」

 

夢結の冷やかな言葉に、流瑠と呼ばれた少女は悲しげな表情を見せた後、直ぐに元の穏やかな笑顔に戻った。

 

「……遅くなってごめんね、夢結ちゃん」

 

流瑠が謝ると、フンッとそっぽを向く夢結。二人の事情をよく知らない楓から見ても、二人の仲が良好でないことは明白だった。

 

「あの、夢結様。そちらの方は?」

 

と、今まで腰が抜けていた梨璃が楓の隣で立ち上がり、若干空気を読めていない発言をする。

しかし、声をかけられた夢結はそっぽを向いたまま、

 

「私はコレ(ヒュージ)を片付けるわ。自己紹介なら本人にしてもらいなさい」

 

と、凍った真っ二つのヒュージに対してチャームを振りかざし始めた。

 

「え、えーっと…」

 

そんな夢結の様子に、梨璃は困った顔を流瑠に向ける。

 

「あはは、ごめんね。私、夢結ちゃんに嫌われちゃってて」

「そのようですわね」

 

頬を掻き、こちらも困った顔をする流瑠。

楓も立ち上がって埃を払い、話に加わる。

 

 

楓は、改めて流瑠と呼ばれた少女を見る。

 

歳の頃は夢結と同じくらいだろうか。

背は梨璃や楓、夢結よりも少し高い。

一片の乱れもない百合ヶ丘の制服は、彼女が梨璃たちと同じ学校の所属であることを表している。

灰色の髪は胸の部分に届こうかというところまで伸びており、整えられている。

グラマラスというよりはスレンダーな体型だが、まるで人形のような造形美さえ感じさせるスタイルだ。

何より目を引くのは、全てを包み込むような穏やかな笑顔と真っ赤な瞳。

 

整った顔立ちは、間違いなく美人だと言える要素を備えており、ふんわりとした笑顔には可愛らしさも孕んでいる。

 

(綺麗な方ですわね…)

 

「…? どうかした?」

「あ、いえ…」

 

楓の隣で同じように彼女を見ていたのか、梨璃は綺麗な笑顔を向けられ、恥ずかしくなったのか顔を俯けてしまった。

 

「…コホン。助けていただいてありがとうございました。私、楓・J・ヌーベルと申します。自己紹介をしていただけるということでよろしいでしょうか?」

「あ、そうだね。ごめんごめん」

 

楓が話を進めようと声を掛けると、彼女はマイペースに自己紹介を始めた。

 

「私は三巴(みつどもえ)流瑠(るる)。百合ヶ丘女学院の3年生だよ」

 

よろしくね、と付け加える流瑠は、目で「次は君の番だよ」と梨璃に訴えた。

 

「あ、はい!私、今年入学する一柳梨璃です!あの、助けていただいてありがとうございました!よろしくお願いします、流瑠様!」

「やはり、貴女が百合ヶ丘最強と名高いリリィ、流瑠様でしたか。お会いできて光栄ですわ」

「え、最強のリリィ…?」

 

楓の言葉に反応した梨璃に、楓は解説を加える。

 

「あら、ご存知無くて?容姿端麗にして文武両道。ヒュージ撃破スコアは数万とも言われ、更には同行者生存率99.99%を誇る百合ヶ丘   ひいては全てのリリィの頂点とも言える戦闘力を持つリリィ。それが『三巴流瑠』様。学園内外でも専らの噂ですのよ」

「同行者生存率99.99%……最強の、リリィ。わ、私達、凄い方に助けていただいたんですね!」

「やっとわかりましたか?私達、相当幸運だったんですわよ」

「私はそんな大層な人間じゃないけど……でも、最強であろうと努力はしているつもりだよ」

 

楓からのべた褒めに、流瑠は恥ずかしがるでもなく、顔を掻きながらも堂々と応えた。

 

(驕りも謙遜もなく、戦場にあっても言葉や態度で場を支配する力がある…この方はやはり、最強と呼ばれるに足る器をお持ちのようですわね)

 

その流瑠の振る舞いに、楓は流瑠の評価を上げる。

 

「改めまして、同じく高等部一年の楓・J・ヌーベルです。よろしくお願いしますわ、流瑠様」

「はい、よろしくお願いします。梨璃ちゃん、楓ちゃん」

 

よくできました、とでも言うように胸の前で手を合わせる流瑠は、とても嬉しそうにしている。

 

「…?なんか嬉しそうですね、流瑠様?」

「あ、わかる?私のかわいい(リリィ)がまた増えると思うと、つい気持ちが弾んじゃってね」

「あの、先ほども気になったのですけれど…」

 

流瑠の発言に、楓が疑問を呈する。

 

「貴女の言う妹というのは、守護天使(シュッツエンゲル)の契りのことなのですか?だとすれば、一体何人の方と…」

「ああいや、そうじゃないんだけどね」

 

流瑠は二人に向かって、まるで最愛の人でも見るかのような笑顔で言った。

 

「百合ヶ丘のリリィはみんな、私にとっては妹みたいなものというか……私はみんなの守護天使(シュッツエンゲル)だからね」

 

はぁ…?と、楓は梨璃と顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュージの処理、終わったわ」

 

しばらくして、凍ったヒュージの処理をしていた夢結が戻ってきた。

 

「あ、夢結様……そういえばヒュージと戦ったんだった!?あ、あの夢結様!お一人で大丈夫だったんですか!?どこかお怪我とか…」

「無いわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、どうやって苦労しろと言うのかしら?」

「凍った?それはどう言う……」

「ああ、私のレアスキルだよ」

 

首を傾げた楓に、流瑠が応える。

 

「レアスキル、『フリーレン』。ヒュージやマギを凍らせることのできるスキルさ」

「フリーレン……聞いたことのないレアスキルですわね」

 

楓がそうひとりごちると、流瑠は頭を掻きながら困った笑顔を作った。

 

「あはは、まあ外部には秘密ってことで……。それよりも、おかえり、夢結ちゃん。無事で何よりだよ」

 

優しげな流瑠の声にも、やはり夢結は顔を背けたまま、無愛想に応える。

 

「……自己紹介が終わったのなら、早く学院に帰るわよ」

「あはは…夢結ちゃんは手厳しいね」

「は、はい夢結様」

「……」

 

流瑠に対する夢結の態度に、梨璃は困惑を、楓は不信感を抱きつつ、4人は百合ヶ丘女学院に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…その傷、跡が残るわね」

「これで今日のこと、忘れずに済みそうです」

 

学院の検疫室。

今回出撃した4人は、ヒュージの体液は浴びていないとはいえ、ヒュージから出された煙を身体に浴びたり吸い込んだりしているため、「一応」との名目上、検疫を行なっていた。

ちなみにこの部屋にいるのは夢結と梨璃の二人だけであり、楓と流瑠とは別室である。

 

 

検疫が終わるまでの間に出てくる話題は、やはり今日の戦闘のこと。

梨璃はヒュージとの戦闘で、右腕を負傷した。

動かす分には問題ないが、傷の深さから跡が残るだろう、とのことで、夢結は責任を感じていた。

 

いや、正確に言えば、責任どころではない。

今回、夢結は梨璃を新人と分かってついてくる許可を出した。その上、楓を切りそうになったところをすんでのところで梨璃に助けられ、さらに梨璃に傷もつけてしまい、流瑠が来なければ死人すら出た可能性のある戦いだった。

夢結はその点を大いに反省していたし、次はもっと上手くやろうと思っていたが   同時に、「一人で戦っていたらもう少し楽だったかもしれない」とも思っていた。

 

とは言え梨璃本人は、そんなことは知りもしないし、自分のリリィとしての自覚の薄さを知ることができた有意義な戦いであったと思っており、夢結のせいだとは微塵も思っていないのだが。

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

暫しの沈黙。居づらい雰囲気に、梨璃は話題を変えることにした。

 

「夢結様、チャームを変えたんですね」

 

その言葉に、夢結は少し顔を顰める。

 

「私、2年前の甲州撤退戦の時、夢結様に助けていただいたんです。

百合ヶ丘のリリィだってことはわかっても、それ以上のことはわからなくて…」

「…まさか、それだけでここへ?」

「はい!あ、いえ。実はそれだけじゃなくて…」

「…?」

「夢結様に助けられた暫く後に見たんです、私。

透明な翼の天使様が、空から私たちを守ってくださったのを!」

 

梨璃のその言葉に思い当たる節が無いのか、夢結は困惑の表情になる。

 

「透明な翼の、天使…?」

「はい!2枚の大きな透明の翼が光を反射してキラキラしてて、青い眼から涙を流してる天使様です!空を飛んでるのが見えたんですけど、百合ヶ丘の制服っぽいのを着てたので、ここの人なのかなーって思って!顔までは、遠すぎてわかんなかったんですけど……夢結様は何か知りませんか?」

 

少し思案した後、夢結は首を横に振った。

 

「いいえ、知らないわね。そもそも、マギは物質化できるから、使い方次第では翼にすることも可能よ。でも、その場合は『透明』と言えるほどの透過性は無いはずだし、飛行を続けられるほどの強度までマギを練り上げるなんて並大抵の使い手では   恐らく私でもできないわ。それに、青い眼から涙、というのも心当たりが無いわね」

「そうですか……。でも、こうして直ぐに夢結様に会えたので、夢、一つ叶っちゃいました」

「そう……なんにせよ、筋金入りの無鉄砲ね」

 

 

 

「……」

「……」

 

 

 

またも沈黙。せっかく会いたいと思っていた夢結との時間を無駄にしたくない梨璃は、再度話題を探した。

 

「えーとえーと…あ!夢結様、あの、流瑠様ってどんな人なんでしょうか?とっても綺麗な方ですよね!」

 

梨璃の言葉に、やはりというか、夢結はいい顔をしない。

 

「……まあ、綺麗なのは否定しないけれど……本人から自己紹介はされたでしょう?」

「でも、夢結様は長いお付き合いなんですよね?流瑠様のこと、呼び捨てにされていましたし……」

 

その言葉に、夢結ははぁ……とため息を吐く。

 

「たしかに付き合いは長いけれど……良い仲とは言えないわ。呼び捨てにしているのも、あの人との親しさが原因じゃない」

「あ、そうなんですか…で、でも!流瑠様は悪い方には見えませんでしたし、夢結様を心配していらっしゃる感じでした」

「それは貴女の見間違いよ、一柳さん」

 

夢結は外を向きながら、声を絞り出すようにして続けた。

 

「私があの人に力不足だと嘲笑われるならまだしも、心配されるなんてあり得ない。それに、あの人は私のことなんて   

 

 

その時、ドアの開く音と共に、底抜けに明るい声が部屋に響いた。

 

「やあやあやあ、二人ともごめんねー!……あれ、お話中だった?」

 

そう聞きはするものの、声の主は返答すら求めず、「よいしょっと」と梨璃の隣に無遠慮に座る。

呆気に取られる梨璃と呆れる夢結に向かって、彼女は自己紹介と状況説明を一気に始めた。

 

「私は真島百由!標本にするはずだったヒュージをうっかり逃しちゃってー。まさか厚さ50cmのコンクリートを破るとは思わなかったわー」

 

その発言に対し、夢結は冷ややかな目を向ける。

 

「…迂闊なことね」

「予測は常に裏切られるものよー。私達は楽な相手と戦ってるわけじゃない。その為のリリィでしょ?もちろん、夢結とこの子には感謝しているわよ」

 

一見すれば、開き直っているとも取れる発言。いや、事実彼女   百由は開き直っているのだが、言葉自体は正論だ。

梨璃は突然の来訪者に圧倒されるばかりで、「この子」呼ばわりされたことも気にならなければ、普段なら考えるはずの「自己紹介をしなきゃ」という思いも湧いてこない。

 

そんな梨璃に代わって答えたのは夢結だった。

 

「この子では無いわ…梨璃よ」

 

「夢結様…」

 

初めて夢結に名前で呼ばれた。それは、一人のリリィとして認められたと思えばいいのか、それとも   

 

「わかっているわ、だからこうして来たんでしょ?」

 

そんな夢結の発言にも、百由は全く怯むことはない。そして、少しだけ思案すると、「思い至った」とでも言うように百由は手を打った。

 

「ああ!この言い方がいけないのよね!

反省してます。ごめんなさい♪えへっ」

 

百由は梨璃に向けて頭を下げるが、全く悪びれている様子はない。そのメンタルの強さに梨璃が脱帽していると、夢結はため息を吐き、部屋を出ようとしていた。

 

「はぁ…もういいわ。行きましょう、梨璃」

「あ、はい」

「あ、そうだ夢結」

 

横を通り抜ける夢結に、百由は声をかける。

 

「流瑠様、()()から帰って来たんでしょ?本人は入学式にサプライズで出ようと思ってたらしいけど」

「あの人の考えることなんてどうでもいいわ」

 

百由から出された流瑠の話題に、夢結は顔を歪ませる。

 

「まあまあそう言わず。……夢結、ちゃんと流瑠様と話し合った方がいいんじゃない?言いたいこと、あるんでしょ?」

「無いわ」

 

百由からの提案を、夢結はすげなく却下する。

梨璃は夢結の顔から、悲しみと怒りを感じ取った。

 

「余計なお世話よ、百由。

……行くわよ、梨璃」

「あ……いいんですか?」

「いいのよ」

 

「で、ではまたー!」と検疫室を出て行く梨璃と、梨璃を連れて行く夢結。二人を見送り、百由は一人検疫室に残る。

 

「はぁ……。夢結も、流瑠様も、ほんっとに意地っ張りなんだから」

 

春なのに雪解けはまだ先かー、と、百由は寂しそうに独りごちた。

 

 

 




・三巴流瑠
みつどもえ るる。3年生。
「ゆゆ」「りり」と来たら「るる」しかないと思った。
苗字は「一柳」「二川」から続くように。
バインドルーンは「jear(年)」と「stan(石)」の組み合わせ。
今作中最強の存在。別に転生者とかではない。
例によってG.E.H.E.N.Aが絡んでおり……


・白石夢結
しらい ゆゆ。みんな大好き夢結様。
クソザコメンタルお姉様。まあ最愛の人を亡くしたんだからしょうがないと言えばしょうがない。でもやっぱりメンタルは豆腐。
流瑠にはツンケンした態度を取っている。その裏には、例の事件が関わっているというが……
もっと梨璃ちゃんと軽率にイチャイチャしろ。


・一柳梨璃
ひとつやなぎ りり。お太いピンクの子。かわいい。
ふととも。入学初日にヒュージ討伐実戦を経験した挙句死にかけるという壮絶な体験をした。
おみ足。メンタルお化け。若干空気が読めないが、それが人間関係を円滑にしているあたりコミュ強。
百合ヶ丘には夢結様だけでなく、「天使様」も目的で来たらしいが……
あ、レアスキルはカリスマらしいっすよ。


・楓・J・ヌーベル
かえで・じょあん・ぬーべる。長いし入力がめんどくさい。
社長令嬢。やたら自社製のチャームを勧めてくる。百由様とぐろっぴが有能過ぎてね……
今作では、ヒュージ戦で梨璃に押し倒されたりしてないので、今のところ完全に惚れてはいない。
流瑠とのシュッツエンゲルを狙っている程度には流瑠への好感度は高い。
夢結の流瑠への態度に不信感を抱いているようだが……


・真島百由
ましま もゆ。マッドになりかけのサイエンティスト。
作中でも屈指の(技術が)やべーやつだが、根が善性なので基本的に頼りになる。敵じゃなくてほんとによかった。G.E.H.E.N.A所属とかだったら詰んでた。
若干サイコの気があるが、仲間のリリィを想う気持ちは本物。
流瑠と夢結の事情を正確に把握している人の一人。百由は百由で、「歴戦の功労者」として流瑠を慕っている。


・川添美鈴
かわぞえ みすず。夢結の「お姉様」。
犠牲になったのだ……古くから続く百合、その犠牲にな。
美鈴様が生存して夢結様が明るいままな光景が全く想像できませんでした。ごめんな夢結様……あと美鈴様……。



続くかは未定!


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木苺 その2

俺に足りないものは、それは!

情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!

そして何よりも!!

「百合」が足りないッッッ!!!


 

 

「全く、なんなんですの夢結様のあの態度!いくら流瑠様と仲が悪かったとしても、流瑠様が来てくれなかったら今頃怪我人が出ていてもおかしくなかったと言いますのに…!」

 

夢結や梨璃とは別の検疫室。そこで楓は、流瑠を前に、プリプリと怒っていた。

 

「いいんだよ楓ちゃん、いつものことだから」

 

「ですが……!」

 

 

楓は憤懣やる方ない様子だが、一方の流瑠はどこ吹く風。

楓は夢結からの扱いを受け入れているように見える流瑠に、根本的な質問をした。

 

「そもそも、何故お二人は仲がよろしくないのですか?お二方とも、とても素晴らしいリリィですし、夢結様も嫉妬や競争意識で誰かを嫌うお方ではないと思っておりましたわ」

 

楓は、先程の夢結の発言を思い出した。

 

『少し遅すぎたんじゃないの?そんな有様じゃ、最強の名前に傷がつくんじゃないかしら?』

 

自身の力不足や注意不足を棚上げした、自分勝手な発言だと思った。

まあ、注意不足という意味では、新人の梨璃に何度となく助けられた自分も他人のことは言えないのだが。

 

 

 

楓は百合ヶ丘に入る前から夢結の噂を聞いていた。

曰く、文武両道で品行方正な、女性としても尊敬すべきリリィである、と。

その噂に惹かれ、シュッツエンゲルの契りを結んでもらおうとしていたほど、楓は夢結に憧れを抱いていたのだ。

なのに、上の学年の生徒を「様」付きで呼ぶ百合ヶ丘の慣習を破って呼び捨てにし、挙句には挑発的な言動を繰り返す。楓には、夢結が理解できなかった。

 

「うん、夢結ちゃんはそんな子じゃないよ」

「なら何故、流瑠様にはあれほど辛辣に当たるのですか?」

 

楓の疑問は当然と言ってもいい。

しかし、流瑠は寂しそうな顔をして、首を横に振った。

 

 

「……色々あるんだよ。楓ちゃん、できることなら夢結を嫌わないであげて。悪いのは私なんだ」

「だから、その悪いとか悪くないとか、それが何のことなんですの、と聞いているのですが…」

 

はぁ、と楓はため息を吐く。

 

 

「もういいですわ。話したくないことなのでしょうし。

……でも、あまり抱え込み過ぎるのも身体に毒ですわよ。話したいことがあれば、どうぞ私にお声がけください。これでも私、口は硬い方ですので」

 

楓は、一見計算高いように見えて情に厚い。なんだかんだで自分の正義と感情に従って動くタイプなのだ。故に、こうして親切心で声をかけてしまうことが多々あるのだが    

 

 

 

 

「〜〜〜〜っ!楓ちゃん!」

 

それが、流瑠に刺さった。

感極まった流瑠は、楓に駆け寄ってギュ〜っと抱きしめる。

 

 

「!?!!?」

「楓ちゃん、ほんと良い子だねぇ〜!私、こんな良い子久しぶりに見たよ〜!」

 

抱きしめるだけでは飽き足らず、スリスリと頬擦りまでする流瑠。

一方の楓は、現状を理解できずに完全にパニクっていた。

 

 

(ちちちち近い近い!流瑠様の顔めっちゃ近いですわ!あ、ふにゃってした流瑠様のご尊顔めっちゃ可愛い……いやいやいやいやなんですのこの状況!?私、今もしかして『お姉様にしたいリリィランキング1位(新聞部調べ)』に抱きつかれてますの!?抱きつかれてますわね!!やべえですわ!!!あー流瑠様の顔可愛い!!っていうか流瑠様の、む、胸が当たって……あ、流瑠様良い匂いする……あったかい……っていうか顔かわい……)

 

 

その後も一頻り楓の抱き締め心地を堪能した後、流瑠は楓を解放した。

楓は未だに、流瑠の残り香でフラフラしているが、それを気にすることなく流瑠は楓に礼を述べた。

 

「……ありがとね、楓ちゃん。私のために怒ってくれて」

「へ?あ、いえ、そんなことは…」

 

礼を言われて戸惑う楓に、流瑠はその両手を取って続けた。

 

「今はまだ話せないことがいっぱいあるから、何でもは話せないけど……。でも私、楓ちゃんとまだまだいっぱいお話したいし、楓ちゃんのお話も聞きたいからさ。だからまた……お話相手になって欲しいな」

「わ、私でよければいくらでも……で、ですが!先程のように他人に気安く抱きつくのはその、心臓が止まりそうになったというか、私もそんなに軽い女ではないというか……」

 

それを聞くと、流瑠は捨てられた子犬のような悲しげな顔になる。

 

「え……い、いやだった?ごめんね楓ちゃん……。楓ちゃんがとっても良い子だからギュッてしたくなっちゃって……」

「いやその、嫌というわけではないですし、私としてはむしろバッチこいなわけですが、『お姉様にしたいリリィランキング』1位の貴女様は色んな方々に狙われているわけでして、そんな方に抱きつかれると多分私の命が無いと言いますか何と言いますかですねオホホホホ……」

 

言い訳とお嬢様笑いで誤魔化そうとする楓だが、そんな小細工は流瑠には通用しない。

ヘタれる楓に、流瑠はトドメを刺す。

 

「ね、楓ちゃん。また寂しくなったら、ギュッてしても……いい?」

「グハッ!」

 

上目遣い+涙目でKO。楓は敢えなく、流瑠に抱きつかれることを許可することとなった。

 

……余談だが、楓・J・ヌーベルには「可愛い女の子が大好き」という性癖がある。

この百合ヶ丘女学院という環境は、楓にとって天国とも言える環境なわけだが……楓は入学初日で、この学院最大の沼『流瑠お姉様沼』に嵌ってしまったのであった。

 

 

「……いつか、楓ちゃんにもちゃんと話せる日が来るといいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓と流瑠が一緒に検疫室を出ると、丁度別の検疫室から出てきた夢結と梨璃が二人を出迎えた。

 

「あら、梨璃さんに夢結様。そちらも今お揃いでして?」

「あ、楓さん。そうなんですよ。でも、私たち今からどうしたらいいんでしょう……?」

「そうですわね。入学式は流石に終わってますでしょうし……」

 

悩む二人に、夢結は「なんにせよ、一度入学式の会場に行ってみるべきではないかしら」と提案する。

流瑠の同意もあり、4人は揃って入学式の会場を目指すことになった。

 

 

「そう言えば梨璃さん。先程の戦闘ですが…」

 

入学式会場への道中、楓がそう切り出すと、梨璃は居づらそうに縮こまった。

 

「うう、すみません。皆さんの足ひっぱってばっかりで……」

「いいえ、梨璃さんはとてもよくやっていらっしゃったと思いますわ」

 

非難されると思っていた梨璃は、予想外の評価に「え」と困惑する。

 

「煙の中でヒュージの動きを正確に把握できていましたし、それに合わせて思い切った行動もできていました。判断も早くて正確でしたし、初陣とは思えない働きでしたわ」

 

楓の評価に、夢結も「そうね」と同意する。

 

「初戦闘にしては、かなり動けていたと思うわよ」

 

「初戦闘にしては、だけれど」と付け加える夢結に、梨璃は気合を入れ直す。

 

「私も早く、強くならなくちゃ……」

 

呟くように発せられたその声をただ一人聞きとった流瑠は、他の二人に聞こえないように梨璃にアドバイスする。

 

「気合を入れるのはいいけど、焦り過ぎちゃダメだよ。ゆっくり強くなればいい。そのための時間は、私がいくらでも作ってあげるから」

「あ、ありがとうございます!がんばります!」

 

優しい笑顔の流瑠に、梨璃はにへらっとした笑顔で感謝する。

そもそも梨璃は、先程の戦闘で流瑠に命を救われている。その上頼り過ぎるのもどうだろう、とは思ったが……

 

(流瑠様に訓練、お願いしてみるのもいいかも)

 

何せ、百合ヶ丘どころか全てのリリィの中でも最強格の存在だ。学べることは多いだろう。それに、流瑠様と一緒に訓練、と考えると、なんだかドキドキして楽しそうな気がした。

今度ダメ元でお願いしてみよう、と梨璃は心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

一方楓は、悩んだり気合を入れたりしている梨璃の横顔をまじまじと見つめていた。

 

(梨璃さん……さっきまでチャームとの契約も済ませていなかったド素人。しかし、さっきの動きや目の良さは磨けば光るものがありますわ。それに……

 

 

よく見ると、なかなか可愛らしい顔をしてらっしゃいますし)

 

そこまで考えて、「はっ!」と顔を上げる。

 

(い、いやいや!先ほどまで私、『お姉様にしたいリリィランキング1位(新聞部調べ)』の流瑠様に抱きつかれていたんですのよ!?その上またお話をする約束まで取り付けて、抱きつかれる予約までされて!……流瑠様のさっきの上目遣い、ほんと可愛いかったですわ……ふふふ………はっ!危ない危ない、流されるところでしたわ。何にせよ、私はそんなに軽い女ではないのです!いくら梨璃さんのお顔が可愛らしいからと言って、複数の女性にデレデレとなんて……)

 

と、隣の梨璃を見ると、にへらっとした顔で流瑠にお礼を言っているところだった。

 

(かっ!かわっっっ!かっっっっわ!梨璃さんのにへら顔の破壊力やべえですわ!いやしかし、私には流瑠様が     )

 

と、逆隣の流瑠を見ると、楓が見ていることに気づいたのか、流瑠はニッコリと最高の笑顔を楓に向けた。

 

(あ”あ”あ”あ”あ”!!る”る”さ”ま”か”わ”い”い”て”す”わ”あ”あ”あ” あ”あ”あ”!!!)

 

楓は脳内でのたうち回る。それを一切面に出さないのが楓のある意味凄いところなのだろう。

 

(はぁ…はぁ…。この学院、思ったよりも顔面の暴力がヤバいかもしれませんわね…。 しかし!この淑女たる楓・J・ヌーベル!!顔面の暴力になんか屈しませんわー!!)

 

「ふっ、ふふふふ……おーっほっほっほっほっほ!」

 

(だ、大丈夫かな、楓さん…)

 

ついに、というか割と簡単に面に出てしまった楓を見て、梨璃は若干引いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い」

 

 

 

 

 

 

「いたぁーーーーーーーーーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式は既に終わったとばかり思って諦めていた梨璃と楓。しかし、入学式が終わったはずの講堂には、まだたくさんの生徒が残っていたのだった。

 

「入学式はこれからですよ、梨璃さん!」

「二水ちゃん!?」

 

講堂に入った梨璃に1番に駆け寄ったのは、梨璃が百合ヶ丘に到着して直ぐに知り合った、「二川二水」であった。

 

「今日一番の功労者のためにって、理事長代行が時間をずらしてくれたんくれたんです!」

 

その言葉とともに、梨璃たちの元にわらわらと少女たちが集いだした。

 

「おおー有名人!初陣でチャームと契約してヒュージを倒すとは、やらかしおる!」

「わ、私は足を引っ張っただけですよ!」

「ふむ?これには、お主が功労者だと書いてあるがのう?」

 

そう言って、少女は懐から一枚の紙を取り出す。

 

「なんです?それ」

 

梨璃と楓が覗くと、どうやらそれは新聞記事のようだった。

そこには、デカデカと「新入生がヒュージを倒す!」と見出しがあり、その下には、こちらも大きく梨璃と楓の写真が掲載されている。

 

「私が刷りました!週間リリィ新聞の号外です!」

 

二水が言うには、関係者に取材して集めた情報で書き上げたのだと言う。

そこには、如何にして梨璃達がヒュージを倒したのかをしっかりと    特に梨璃が活躍した部分に関しては細やかに書かれていた。

 

「私、別にそんな大したことできてないし、ヒュージを倒したのは夢結様で……」

「梨璃さん。先ほども言ったように、貴女は初陣で立派に戦果を挙げたのです。その称賛は素直に受け取るべきですわよ」

 

頑なに否定する梨璃を、楓が窘める。

 

「過ぎた謙遜は卑屈や傲慢にもなると言います。自分の残した結果を直視することは、リリィとして戦っていく上でも大切になってきますから。

ほら、しっかり背筋を張って、堂々となさってください」

「は、はいっ!」

 

楓の言葉通り、梨璃はしっかりと姿勢を正す。そして、後ろで梨璃を見守っていた楓の方を振り返って、微笑んだ。

 

「えへへ。ありがとうございます、楓さん♪」

 

(ガフっ!)

 

突然の顔面の暴力によるボディブローを食らって、楓が悶絶したのは言うまでもない。

 

(あれ、夢結様?流瑠様?)

 

梨璃が、二人が居ないのに気づいたのはその後になってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……結局、夢結様も流瑠様も、入学式にはいらっしゃらなかったな……)

 

      では最後に、在校生からの挨拶を行います」

 

梨璃は入学式の間、ずっと二人の姿を探していたが、どこにも見当たらなかった。入学式はそのままつつがなく進行し、残すところ在校生からの挨拶のみとなった。

生徒会三役である内田眞悠理(まゆり)が壇上から「お願いします」と声をかけると、梨璃にとっては意外な人物が舞台袖から現れた。

 

 

「新入生のみんな、入学おめでとう。私を知らない人もいると思うから、自己紹介をさせてもらうね。

百合ヶ丘女学院3年     三巴流瑠です!」

 

「る、流瑠様!?」

 

梨璃が登壇した流瑠に驚くと同時に、「キャアアアアアアアアアっ!!」と、講堂は黄色い歓声に包まれた。

 

 

「流瑠様ー!おかえりなさいませー!!」

「帰ってきていらしたの!?いつの間に!」

「流瑠様!今日こそシュッツエンゲルの契りをー!!」

「ご無事で何よりですわー!!」

 

こう言った声は、主に2〜3年生から。

 

「あの方が噂に聞く流瑠様!?綺麗な方……」

「学院最強のリリィ、三巴流瑠様!まさか入学初日に会えるなんて!」

「私、あの方にシュッツエンゲルを申し込んでみようかしら……!」

「流瑠様ー!ぜひ私の作るレギオンにー!」

 

こちらは新入生の声。

 

 

(あ、やっぱりみんな知ってるんだ……)

 

梨璃は、流瑠様のことを知らなかったのは自分だけだとわかって少し落ち込んだ。

 

(あれ?そう言えば……)

 

こう言った時に一番反応しそうな二水が、梨璃の隣で何も言っていない。

 

二川二水は、自他ともに認める大のリリィオタクだ。その質・量の凄まじさと語り口の速度は、付き合いの短い梨璃にもよく伝わった。

その二水が、何も言わない。まさかリリィオタクともあろう二水が流瑠を知らないわけもないと思い、心配になって梨璃は横の二水を見やる。

 

 

 

 

 

二水は梨璃の隣で、鼻血をどくどくと噴出しながら気を失っていた。

 

 

「ふ、二水ちゃああああああああん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……結局、入学式には顔を出せなかったわね)

 

白井夢結は、自室の机に顔を突っ伏していた。

夢結は講堂まで梨璃と楓を送り届けた後、そのまま自室に帰り、ずっとこうして頭を抱えていた。

夢結の頭に浮かぶのはネガティブな思考ばかり。あのヒュージとの戦闘の時、もっとああしていればとか、梨璃に傷を付けてしまったとか、流瑠にまたキツく当たってしまったとか。

 

「…はぁ」

 

昼間、百由に言われたことを思い出す。

彼女に言われるまでもない。本当はわかっているのだ。流瑠とちゃんと話し合った方がいいということなんて。

 

(でもきっと、あの人とまともに話をしたら、激情に駆られて私はあの人を傷つけてしまうかもしれない)

 

自分の呪い(レアスキル)を思い浮かべる。

使うたびに自分の精神を蝕み、周囲を傷つける自分のレアスキルを、夢結は嫌っていた。

 

(それに     )

 

思い出すのは、2年前。

夢結の、最も重い罪。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血が滴り落ちる。

どこから?   愛するお姉様の腹からだ。

なんで?なんでお姉様は血を流してるの?死にそうになってるの?

お姉様のお腹を貫く刃は、

 

 

 

 

 

 

 

自分の手元から伸びて

 

 

「いやぁ!違う!私じゃない!私じゃない!!」

 

自分の机の上を力任せに薙ぎ払う。照明や本棚、筆記用具……有象無象が机から落ちて壊れていく。

同室の秦祀の私物にまでは当たらなかったのが、辛うじて残った理性の証だったのだろうか。

 

 

「私じゃない…私じゃないの……」

 

やがて暴れる力さえ無くなり、夢結はベッドにもたれかかる。

 

 

   じゃあ、誰がお姉様を殺したの?

 

(それ、は……)

 

耳元で囁かれるような声に、夢結は答えを探す。

 

そして、いつもこの結論に至るのだ。

 

(流瑠が   流瑠がもっと早く来てくれたら。流瑠が止めてくれたらお姉様は死ななかった     )

 

そこまで思考して、夢結は自分の拳を思いっきり床に打ち付けることで思考を中断する。

 

「違う……違うの……。流瑠は悪くない……悪いのは……」

 

私。頭ではわかっていても、口からは出てこなかった。

代わりに出てくるのは、涙ばかり。

 

 

(……私は……夢結は、どうしたらいいんでしょうか。

 

美鈴お姉様、流瑠………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……流瑠お姉様ぁ……)

 




・流瑠
女たらし。今までに落としてきたリリィは数知れず。
その女たらしの技術で楓は陥落寸前。
梨璃にとっては命の恩人であり、若干吊橋効果が発動気味。
あざとい。でも狙ってやっているわけではないのがタチが悪い。
多分入学式の挨拶は「みんな私の妹だよ!!」みたいなこと言ったんじゃないかな。

・楓
性癖が発揮され始めた。
「自分は惚れっぽい、軽い女ではない」と思っているが、顔が可愛ければ割と何でもいい面食い(偏見)。トップクラスの美少女・流瑠に落とされかかっているが、梨璃も可愛いので板挟みにあっているという贅沢な悩みを抱えた。
梨璃のことは一人のリリィとして認めつつあり、アニメの時のように全肯定するわけではないが、「同じ戦場に立ったリリィとして堂々としていて欲しい」と思っている。

・二川二水
ふたがわ ふみ。リリィオタクの子。
耳が早く行動が早い。検疫してる間に新聞1枚刷るとかヤバい…。
恐らくその耳の速さから流瑠の帰還は知っていたと思われるが、入学式に生で見られるとは思っていなかったことから、貧血で気絶。梨璃によって無事に保健室に連行された。

・新聞を取り出した少女
ぐろっぴ。のじゃ口調白髪ツインテとかあざとすぎる。

・夢結
メンタルぐちゃぐちゃ。美鈴様の幽霊まで見えているわけではないが、大分荒れている。
一人称が変わったり流瑠の呼び方が変わったり、かなり情緒不安定。

・秦祀
度々、いつの間にかルームメイトに部屋を荒らされている可哀想な人。
今回の被害者。


みんな……オラに百合を分けてくれ……!


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ブーゲンビリア その1

百合を見る時、百合もまた我々を見ているのだ。
   ユリードリヒ・ニーチェ



 

 

「ん〜〜〜っ」

 

 

カーテンと窓を開け、外の空気を目一杯吸い込む。

窓から入る日差しは眩しく、今日も穏やかな天気になることを梨璃に予見させた。

 

 

 

百合ヶ丘女学院に入って初めての朝。梨璃は「いつでもそばに置いておくように」と言われたチャームを抱きしめて一晩を過ごした。ルームメイトの伊藤閑(いとうしず)からは「……変な子」と言われてしまったが。

 

 

 

今日は授業が無いとは言え、ここは百合ヶ丘女学院。今日から、部屋の外で行動する時はほぼ常に百合ヶ丘の制服でなければならない。

百合ヶ丘は伝統あるお嬢様校だ。制服もかなり凝ったデザインをされており、田舎者の梨璃には着るのも一苦労だ。閑に手伝ってもらわなければ、今日一日は部屋で過ごすことになっていたかも知れない。

 

 

閑に着付けを手伝ってもらう時、昨日の怪我を「痛む?」と指摘された。

 

肉体的には、そこまで痛いということはない。しかし、その後の「そう。運が良かったのね」という言葉には、ズキンと胸が痛んだ。

 

 

その通りだと思う。昨日はただ、「運が良かった」。夢結様や楓さんが歴戦のリリィで、私をサポートしながら戦ってくれて、たまたまヒュージの動きを目で追えて、極め付けは、流瑠様が私を助けてくれた。

 

次からは、こうは行かないかも知れない。

 

自分が傷つくだけならまだいい。でも、昨日のように足を引っ張り続けていたら、弱い自分のせいで楓さんや夢結様が    

 

 

そう考えて、梨璃はブルリと身体を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィPRESERVED

 

第二話 ブーゲンビリア

Bougainvillea

Can only see you

―目に映るのはあなただけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨璃は基本的に、そこまで自己肯定感が高いとは言えない。

故に、昨日の戦闘で自分がどれだけ有名になってしまったのか、正確に把握できていなかった。

 

というよりも、梨璃の考えていた昨日の事件の重要性と、周囲の梨璃への認知度・興味は、大きく乖離していたと言ってもいい。

 

そういうわけで、自分がどれほどの有名人なのかわかっていなかった梨璃は、朝食後、学院内の共用の化粧室で、早速絡まれていたのだった。

 

 

「あら、おはよう梨璃さん」

「あ、どうも……じゃなかった。ご、ごきげんよう?」

 

 

梨璃に絡んだ少女の言葉は、それ自体は穏やかで何の変哲もないものだが、何故か妖艶な雰囲気を醸し出している。

 

「ごきげんよう、ね……そんなありきたりなのじゃなくて、もっと()()()()挨拶をしない?」

「ほ、本質的…?」

 

梨璃には、その「本質的な挨拶」が何を指すのか検討もつかない。しかし、「本質的」というからには、百合ヶ丘では必要なことなのだろうか    そう思い、ロクな抵抗もせずに接近を許してしまう。

あれ?何かおかしいな?と思い始めたのは、洗面台近くで逃げないように身体を密着させられ、親指と人差し指で顎を上に上げられた    所謂「顎クイ」をされた後だった。

 

 

(あれ?私このままじゃもしかしてマズいのかな?)

 

顔を近づけられ、危機感を感じ始めた梨璃に救世主が訪れたのは、その時だった。

 

 

「あ〜ら〜や〜ちゃ〜ん?」

 

「!?そ、その声は……!」

 

「流瑠様!?」

 

 

化粧室の入り口に立っていたのは、昨日も梨璃を命の危機から救ってくれた救世主    三巴流瑠だった。

 

 

「ごきげんよう、梨璃ちゃん。昨日はよく眠れたかな?」

「は、はい。あ!昨日はありがとうございました、流瑠様!」

「いいのいいのー。可愛い(リリィ)のためだもんね。それよりぃ……」

 

流瑠はジトッとした目を、アラヤと呼ばれた少女に向ける。

 

「いけないんだー亜羅椰ちゃん。私と言うものがありながら、他の()に目移りしちゃうなんて」

「そ、そそそそんなことは……」

 

アラヤが動揺していると、今度は「ヨヨヨ……」と泣き真似をする流瑠。

 

「私をお姉様って言ってくれていたのは嘘だったんだね……」

「い、いえそんな!嘘なんかじゃ……!」

「ほんと?じゃあ教えてほしいんだけど……」

 

 

泣き真似をやめた流瑠は、今度はアラヤに顔を近付け、耳元でドスの効いた声を囁いた。

 

 

 

 

私が留守の間、()()()()()()()()()()()

 

「ひっ……」

 

「ひ?100人くらい?」

 

「………」

 

 

梨璃にはアラヤと流瑠の会話は聞き取れなかったが、梨璃にわかったのは、梨璃との会話ではあんなに自信満々だったアラヤが、流瑠と話している間は怖がっているような   それでいて、()()()()()()()()かのような表情をしていることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わ、わたしが悪かったですぅ♡アラヤは、流瑠お姉様のアラヤでした♡

 

 

 

しばらく梨璃に聞こえないくらいの声で流瑠とアラヤが話していると、アラヤは身体に力が入らないのか()()()となって、ブツブツと何かを呟く機械になってしまったため、流瑠に肩を借りる形で化粧室を後にしようとしていた。

 

 

「ごめんねー梨璃ちゃん。この子は『遠藤(えんどう)亜羅椰(あらや)』。気に入った娘を襲っちゃう癖があってね。間に合ってよかったよ」

 

「おそ…え?私、襲われるところだったんですか!?」

 

未だに状況を理解していなかった梨璃に、流瑠は苦笑する。

 

「そうだよ。まあこの子、名の知れたリリィだし、慕ってくれる子は多い筈なんだけど……()()のせいで問題児扱いでね。学院からも、私に「どうにかしてくれ〜」って言われてるんだ。また襲われそうになったら、私の名前を出してもいいから。    それと。ここ、年季の入った女子校だから、割と度々こういうことがあるんだよね。梨璃ちゃん可愛いんだし、襲われないように気をつけてるんだよ?」

 

「かわっ!?わ、私なんてそんな……」

 

「よいしょっと」と、流瑠は亜羅椰をお姫様抱っこに持ち変えると、「あ、そうだ」と言葉を続けた。

 

「夢結ちゃんに会いたいなら、多分旧館にいるんじゃないかな?行ってみたらいいよ」

 

「本当ですか?ありがとうございます!私、皆さんにお礼が言いたくて……」

 

 

そう言う梨璃に、「あはは」と笑顔を向け、流瑠は亜羅椰と共に化粧室から去っていった。

 

 

「そっか。がんばってね。……さて、亜羅椰ちゃん。亜羅椰ちゃんには、『オシオキ』が必要みたいだね」

 

「ひっ…♡ご、ごめんなさい!許してくださいお姉様ぁ♡」

 

「だーめ。足腰立たなくなるまでやるよー」

 

去っていく二人を尻目に、梨璃は夢結に会うため、旧館に向けて歩き出した。

 

 

 

 

「……結局、襲われるってどう言う意味なんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

「なるほど、そんなことがありましたのね……」

 

「亜羅椰さんに襲われかけ、さらに夢結様には完全に無視、と……なかなか踏んだり蹴ったりですね」

 

 

百合ヶ丘女学院のラウンジ。

同じ一年生の二人を前に、梨璃は肩を落としていた。

 

 

 

 

亜羅椰と流瑠との邂逅の後、梨璃は流瑠に言われた通り、夢結を探して旧館へ向かい、無事に夢結を見つけることができた……のだが。

肝心の夢結は背を向けたまま、梨璃の言葉を全て無視。

 

最後に叫んだ、渾身の「ごきげんよう!」すらも不発に終わり、梨璃はトボトボと旧館を後にしたのであった。

 

 

 

 

その後、落ち込んでいるところにクラス分けを見ていた二水・楓と出会い、一緒に足湯に浸かった後、ラウンジで紅茶を楽しみながら、梨璃はさっきまであったことを二人に話していたのである。

 

 

「私、夢結様にシュッツエンゲルになって欲しくて…」

「……それは、少し難しいですわね。シュッツエンゲルの契りは普通、上級生からお声が掛かるものですから」

 

(あれ?でも楓さんも昨日は夢結様に申し出ようとしていたような…)

 

難易度の高い願いを吐露する梨璃に、楓は現実を突きつける。

 

 

 

 

 

    守護天使(シュッツエンゲル)

百合ヶ丘女学院に伝わる伝統の一つだ。

 

基本的に、上級生と下級生の1対1で結ばれる、『姉妹の契り』。それがシュッツエンゲルの契りである。

 

上級生は守護天使(シュッツエンゲル)に、それに対して下級生は(シルト)になり、シュッツエンゲルはシルトをリリィとしても、人間としても導いていく。

シルトはシュッツエンゲルに導かれて成長し、シュッツエンゲルはシルトを見守り導くことでまた成長する。シュッツエンゲル制度は、生徒同士で成長を補完させる、生徒たちの自主決定権が強い百合ヶ丘ならではの制度と言えるだろう。

 

 

 

 

「で、夢結様にシュッツエンゲルを申し込もうとしたけど、それを切り出すどころか話を聞いてすらくれなかった、と。昨日はいい雰囲気だったって聞きましたけど」

「うん……私、嫌われちゃったのかな」

「(あぁ〜、落ち込んでいる梨璃さんも可愛らしいですわぁ〜)まあ、元々気難しいことで有名なお方ですから……それに」

「それに……何ですか?」

 

 

楓は「今の夢結様は苦手ですわ」と言おうとして   やめた。

 

「……いえ、なんでもありませんわ。事情を知らないわたくし達が、印象だけで夢結様を決めつけるのは一番()くないことでしょうし」

 

楓は夢結の流瑠への態度を思い出したが、それを根拠に夢結を否定するのは思いとどまった。自分がそう言うことで、夢結を慕っている目の前の二人の、夢結への印象を変えてしまうかも知れないと思ったからだ。それは、夢結と流瑠の事情を詳しく知らない自分がやっていいことではない。

 

 

「とは言え、梨璃さんも見たでしょう?夢結様の、流瑠様への態度を」

「あ、うん。流瑠様の話題が出た時、夢結様、怒ってたし、悲しそうだった……。流瑠様はみんなのことを妹だって言って守ってくれる人で、夢結様を怒らせるような人じゃないと思うんだけど……」

「今の夢結様は、シュッツエンゲルどころかどのレギオンにも属さず、常にたったお一人でヒュージと戦っているそうです。……それが、流瑠様との不仲と何か関係があるのでしょうか?そう言えば、流瑠様もレギオンやシルトを持たず、一人で戦っていらっしゃるみたいですけど」

 

3人して夢結と流瑠のことについて考えるも、答えは出ない。

とはいえ、それは道理だ。圧倒的に情報が足りない。自分たちは、まだ何も知らない新入生に過ぎないのだから。

 

 

 

 

袋小路に陥って静かになってしまった3人の空間を壊したのは、梨璃の一声だった。

 

 

「……私、流瑠様にチャームの使い方を教えてもらいたいです!」

 

「!?ゲホッゲホッ!いきなり何を言い出すんですの、梨璃さん!?」

 

「る、流瑠様ですか!?」

 

唐突に梨璃から発せられた言葉に、二人は驚愕する。

 

「私、早く一人前のリリィになりたいんです。流瑠様は学院最強のリリィって呼ばれてるんだし、教えて貰えば、きっと早く強くなれる。そうすれば   

 

続く言葉は、楓にも二水にも容易に理解できた。「そうすれば夢結に認めて貰えるかもしれない」     しかし。

 

「梨璃さん。お気持ちはお察ししますが、流瑠様に個人的に手解きを受けるのは少々……いえ、かなり難しいと思いますわよ」

「え、そうなんですか?」

 

梨璃の疑問に、二水が応える。

 

「流瑠様はこの学校で、リリィとして戦うだけでなく、戦闘訓練の実習などの教官を務められたり、さらにはリリィ達のメンタルケアも担当されているみたいですね。加えて、外部のガーデンに遠征されて、そこでも教官を務められたりしているそうです。その遠征から帰ってきたのが、つい昨日だったみたいですね」

「えっと、それって……」

「とっても忙しいってことですわ。最強と呼ばれるが故の多忙さ、ということなのでしょうね」

 

楓の言葉に、二水は首肯する。

 

「そうですね。……というか、明日から実習が始まるんですし、そこで流瑠様からの手解きも受けるチャンスはあると思いますよ?」

「でも、私じっとしていられなくて……断られてもいいから、頼むだけ頼んでみたいんです!」

 

頑として譲らない梨璃に、楓は呆れ半分、感心半分でため息をついた。

 

「はぁ……。流瑠様に手解きをしていただいて、夢結様とシュッツエンゲルですか……。中々壮大な夢ですわね」

 

しかし、一度ため息をついた楓は、今度は情熱を宿した目で立ち上がった。

 

「とはいえ、梨璃さんの覚悟はよくわかりました!ダメで元々、当たって砕けろですわ!!わたくしも協力致しますわよ、梨璃さん!」

「ほんと!?ありがとう楓さん!」

 

そして、と、楓は自分の野望も語り出す。

 

「こうなったらついでに、わたくしも流瑠様にシュッツエンゲルになっていただけるよう、お誘いしてみますわ!」

「る、流瑠様とシュッツエンゲルですか!?」

 

楓の発言に、二水が驚く。

 

「わたくし、昨日の出会いを経て、シュッツエンゲルにするとしたらもう流瑠様しかいないと心に決めていましたの!それに、シュッツエンゲルということなら抱きつかれようがそれ以上のことをしようがされようが咎められることはありませんし

「いや、昨日朝イチで夢結様に申し込んでませんでした?っていうかなんか今不穏なこと言いませんでした?」

「過去には囚われない主義ですの」

 

楓の変わり身の早さに、二水は呆れる。

 

「というか流瑠様、もしかしたら夢結様よりも難易度高いかもしれませんよ?確か流瑠様は、シュッツエンゲルの契りを結ぶ時、かなり難しい試験を課されるらしいですし、そもそも競争率が……」

「知ったこっちゃありませんわ!虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言いますし、やってみなければ結果は得られないものですわ!!」

 

(しかもこれが上手くいけば、流瑠様をシュッツエンゲルとしてキープしつつ、玉砕して傷ついた梨璃さんをわたくしが慰めることで一丁上がり、と。……我ながらなんて策士なのでしょうか、楓・J・ヌーベル!これはなんとしてもやり遂げなければ……!)

 

「ですわよね、梨璃さん!」と下心からか妙にハイテンションで梨璃に同意を求める楓。

梨璃も梨璃で、「頑張りましょう楓さん!」とか張り切っているので、二水にはもう止められそうもない。

 

 

(……とは言え、もしお二人が流瑠様と夢結様のシルトになったら……これって快挙ですよね。今までその試験の難しさからシルトがいなかった流瑠様と、気難しい孤高の一匹狼である夢結様のお二人が同時にシルトを、という話になれば……良い記事が書けるかもしれません!ついでに昨日気絶して会いそびれた流瑠様に、これをきっかけに取材しちゃったりとか!)

 

 

「こうなれば私もお手伝いしますよ!梨璃さん、楓さん!」

「ありがとう二水ちゃん!」

 

(この二水さん(ちびっ子)、なーんか下心がありそうな……?)

 

無邪気に喜ぶ梨璃の横で、急にやる気になった二水に楓は一瞬首を傾げたが、「まあいいか」と気にしないことにした。下心に関しては人のことを言えないので。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではまずは、流瑠様を探さないといけませんわね」

「そうですね。梨璃さんの特訓の件と、ついでに勝ち目薄の楓さんのシュッツエンゲルの件を聞いてみないといけませんし」

「ついでとか勝ち目薄とか、なんなんですのちびっ子!わたくしのシュッツエンゲルの件は紛れもなく本命の用件でしょう!?」

「ちびっ子!?っていうかさっきは自分で「ついでに」って言ってたじゃないですかぁ!」

「過去には囚われませんの!!」

「あはは…」

 

 

 

そんなこんなで一年生の仲良し三人組が歩いていると、緑の髪の少女に声を掛けられた。

 

 

「ごきげんよう。貴女、一柳梨璃さんよね?貴女達、もしかして流瑠姉様を探してるの?」

「あ、ごきげんよう。私が梨璃です。えっと……」

 

梨璃が戸惑っていると、少女は苦笑して自己紹介を始める……より先に、二水が解説を始めた。鼻血を抑えながら。

 

「壱盤隊…現アールヴへイムの隊長、田中壱(たなかいち)さんですよ!レアスキル『この世の理』を持つ新世代戦術の典型とも言えるリリィで、どんな戦場・どんなポジションでも活躍できる高い身体能力が特徴で    

「あ、うん、ありがと。なんか恥ずかしいからそれくらいで……。で、流瑠姉様を探してるんだよね?」

 

二水の解説を遮って壱は本題に入る。

 

「はい、そうなんです。どこにいるのかご存知なんですか?」

「うん……っていうか、多分っていうか。この時間だと、亜羅椰と一緒に訓練室にいるんじゃないかな?」

 

その名前を聞いて、梨璃は「うっ」と声を上げる。

 

「あ、亜羅椰さんですか…」

「…?一柳さん、亜羅椰と知り合い?」

 

壱は、梨璃の「亜羅椰」という名前に対する反応に疑問を覚える。

 

「いや、知り合いというか…」

「梨璃さん、先程亜羅椰さんに襲われかけたらしいんですの。それでちょっと苦手意識ができているのではなくて?」

「はい……」

 

それを聞いた壱は、「あちゃー」と手を額に付ける。

 

「またあいつ……ごめんね一柳さん、うちの亜羅椰が。亜羅椰自身は優秀なリリィなんだけど、あのクセのせいで問題児扱いでね……。

流瑠姉様と訓練室っていうのも、その関係なんだよ」

 

壱の言葉に、「というと?」と二水は先を促す。

 

「亜羅椰、中等部時代からずっとあんな感じなんだけど、学院から流瑠姉様に「どうにかしてー」ってお願いしたらしくてさ。メンタルケアも兼ねて流瑠姉様が訓練室で叩き直してくれたり、一緒にいて抑えてくれてたりして、暫くは大人しくしてたんだよ……。流瑠姉様の遠征の間も結構我慢してたんだけど、かなり長かったから、多分ストレスが溜まってたんだと思う。出発直前まで、『私も連れて行ってくださいお姉様ぁ〜〜〜〜っ!』って言ってたし」

 

壱の話を聞いた楓は、ため息を漏らした。

 

「なるほど、はた迷惑な人ですわね」

「返す言葉もない……ほんと、流瑠姉様にはお世話になりっぱなしだよ。まあそんなわけで、今の時間帯は亜羅椰と訓練してることも多いから、流瑠姉様なら訓練室にいるかもしれないよ」

「ありがとうございます、壱さん!」

 

梨璃からのお礼に、手を振りながら去っていく壱。

去り際に、壱は三人の方を振り返った。

 

「あ、そうだ。もし流瑠姉様とシュッツエンゲルになろうって思ってるなら、相当難易度高いから覚悟した方がいいよ。手強いライバルもいるしね」

「ライバル?どなたのことですの?」

 

楓が聞き返すと、壱は笑って言った。

 

 

 

    亜羅椰だよ。亜羅椰が一番、流瑠姉様のシルトに近いリリィだって言われてる」

 

「じゃあがんばってー」と、壱は今度こそ去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亜羅椰さん……遠藤亜羅椰さんですか。これは強敵ですね」

 

二水のその言葉に、「そうなの?」と言葉を返す梨璃。梨璃の中で亜羅椰は、「女の子なのに私に襲いかかってきた変な人」という印象でしかないようだ。

 

「そうですよ!遠藤亜羅椰さんは先程の壱さんと同じアールヴへイムに所属していて、一対一(デュエル)に滅法強いと言われる歴戦の猛者なんです!既にいくつもの戦果を上げていて、近接戦闘に特化しつつも銃撃も熟せる身体能力で、この世代の筆頭とも言われる戦闘能力を持っているんです!中でもレアスキル『フェイズトランセンデンス』を使った攻撃の威力は目を見張るものがありまして、その一撃で数多のヒュージを屠って来たとか   

 

「つ、つまりすごい人ってことだよね!」

 

二水と梨璃の評価に、楓は「フッ」と鼻を鳴らして笑う。

 

「ご心配なく。この楓・J・ヌーベル、これでも戦闘力にも自信がありましてよ?あんな下心マシマシの尻軽女には負けませんわ!」

「楓さんには下心、無いんですか?」

 

二水の言葉に、楓は一瞬「うっ」と動揺する。

 

「あ、あるわけないじゃありませんか〜。わたくしは純粋に、流瑠様をお慕いして    

「本当ですかー?なんか今日、ちょくちょく梨璃さんに向ける視線も怪しい感じでしたし」

 

それを聞いて、梨璃は流瑠の言葉を思い出した。

 

『……ここ、年季の入った女子校だから、割と度々こういうことがあるんだよね。梨璃ちゃん可愛いんだし、襲われないように気をつけてるんだよ?』

 

 

「か、楓さんも、私を襲うんですか……?」

「見損ないました楓さん……」

 

 

二人からの責めに、楓はついに声を上げた。

 

 

「お、襲いません!襲いませんからぁ〜〜〜〜っ!」

 

 

ラウンジに楓の絶叫が響き渡った。

 




・梨璃ちゃん
今回の被害者。「襲われそうになっていた」ことを自覚したため、亜羅椰への好感度がアニメよりもかなり低い。というかファーストコンタクトが最悪レベル。そらそうだ。でもまだイマイチ「襲う」の意味が分かってない。かわいい。

・楓さん
今回も下心マシマシ。楓さんが楽しそうで何よりです。
「キープ」とかいう言葉を使い始めた。淑女とは一体……。
下心はあれど、他人のために怒って他人を気遣うことのできる優しい人。ほんといい子。すき。

・二水ちゃん
なんかアニメよりも若干黒くて毒舌。原作の二水ちゃんはいいこですよ?
オタク特有の早口トークは健在。二水ちゃんかわいいよ二水ちゃん。

・亜羅椰さん
筆者のイチ推し。百合の無限の可能性。
機械チックなネコミミがいい味出してる。戦闘狂かつ色ボケだが……。
多分この小説で♡とかつけて話すのはこの人だけ。

・壱さん
なんやかんや濃いメンツの集まった壱盤隊を纏めるすごい人。
流瑠のおかげで原作ほど樟美ちゃんとの仲もぶっ壊れてない他、亜羅椰の面倒を見てもらったりしているので、流瑠には頭が上がらない。

・流瑠
戦闘訓練の教官をしたり、生徒達のメンタルケアまでしていることが発覚した。負担でかすぎない?
彼女のメンタルケアを受けたリリィ達は、次の日からお肌ツヤッツヤでめっちゃ調子良くなるとかもっぱらの噂。


感想・沢山のUA・お気に入り等ありがとうございます!メッチャ励みになります!この小説が全ての百合好きに一時の癒しを与えることができるものになるよう、精一杯頑張ります!


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ブーゲンビリア その2

大いなる百合には、(他人の性癖を壊す)大いなる責任が伴う。
   ユリ・パーカー


(本当はその2で終わるはずだったけど、長くなりそうなので分割しました)


「じゃあ亜羅椰ちゃん、どこからでもかかっておいでー」

 

訓練場での激戦は、そんな流瑠の気の抜けた声から始まった。

 

「……不肖、遠藤亜羅椰。行きますっ!『フェイズトランセンデンス』!」

 

「お、初っ端から飛ばすねー」

 

「貴女から教わったんです…よっ!」

 

 

『フェイズトランセンデンス』。瞬間的に使用者のマギが無限大になる、見た目も能力も派手なレアスキルだ。

 

マギとはリリィの力の源。故に、潤沢であればあるほど攻撃・防御両面での飛躍的な戦闘能力向上が実現できる。

フェイズトランセンデンスは、瞬間的とはいえそのマギを「無限大」にまで大きくするので、マギを大きく消費するはずの行動を、実質無制限に行うことができる。

例えば     

 

 

「はあっ!」

 

 

ドンッ!という爆音とともに、亜羅椰は数十メートルあった流瑠との距離を一瞬で縮めた。

流瑠は顔を驚かせながらも、叩き込まれる亜羅椰の斬撃を即座に訓練用チャームで抑えた。

 

 

「足と背中からマギを大量放出して()()()()()来るなんて……力技だけどいい奇襲戦法だね。姿勢制御もできてる……相当練習したんだね、亜羅椰ちゃん」

 

「お褒めに預かり光栄……ですっ!」

 

 

そのまま繰り出される、無限大のマギを込めた連撃に次ぐ連撃。流瑠は難なくそれを捌いていく。

埒があかない    そう考えた亜羅椰は、さらに奥の手を出す。

 

 

「これなら…どうです!?」

 

 

亜羅椰はチャームを振り翳し斬撃を繰り出す   と同時に。

チャームのブレード部分に、さらに()()()が形成される。

 

 

「っ!?あぶなっ   

 

「はぁああっ!」

 

 

輝く刃……マギによって形成されたそれは、チャームの一薙ぎを広範囲攻撃に変える。

自分からの攻撃は届かない距離からの連撃に、流瑠は防戦一方になる。

 

 

「マギの物質化……しかもかなりの練度!亜羅椰ちゃん、いっぱい練習したんだねぇ!いやあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ところだったよ!」

 

「ちっ、外れましたか……。当たり前です!貴女のいない半年間、寂しさを紛らわせるために……!それこそ、他の人を食っちまうことなんて考えられないくらい訓練させていただきました!」

 

 

亜羅椰の連撃は続く。なんとかそれを躱し、いなし、防御しながら、流瑠は口を開く。

 

 

「じゃあなんで、今日は梨璃ちゃんを襲おうとしちゃったのかな!?」

 

 

その言葉に、亜羅椰は目に見えて動揺する。

 

 

「あ、あれはその……お姉様が帰ってきたから気が抜けてしまったというか、身体が勝手に動いてしまって……」

 

「全くもう、そういうところが可愛いんだから……!」

 

 

喋りながらも、互いの攻撃は止まらない。もはや二人の間に防御はなく、攻撃に攻撃で応える。

ガキン!ガキン!と強くぶつかる二つのチャームの間からは、激しく火花が飛ぶ。

 

 

「じゃあ、ちゃんと梨璃ちゃんに謝らないと、ねっ!」

 

「あっ!」

 

 

亜羅椰の攻撃が弾かれると同時に、フェイズトランセンデンスが解除される。

 

 

「記録は……10分42秒!亜羅椰ちゃん、フェイズトランセンデンスをかなり維持できるようになったね!すごいすごい!」

 

「あ、ありがとうございます、お姉様」

 

 

へたり込む亜羅椰に、流瑠はさらに追い討ちをかける。

 

 

 

 

「うん、無事にフェイズトランセンデンスも解除されたし……始めよっか?」

 

 

その言葉に、亜羅椰はびくっと反応する。

 

 

「や、やっぱりやるんですか…?」

 

「当たり前でしょー?これは『オシオキ』。亜羅椰ちゃんがいっぱい我慢していっぱい練習してたのはよくわかったけど、梨璃ちゃんを襲おうとしたのは変わらないからね」

 

 

   ところで、強力なレアスキルであるフェイズトランセンデンスだが、このレアスキルにも欠点がある。

それが、枯渇(ディプリーション)と呼ばれる状態。フェイズトランセンデンスが終了すると、一時的に使用者のマギが急速に減ってしまい、まともに戦闘行動ができなくなるのだ。この間は、フェイズトランセンデンスの再使用もできない。

 

 

 

「じゃあ、いつもの『オシオキ』   枯渇(ディプリーション)状態での戦闘訓練、始めるよー」

 

「ひいっ!?」

 

 

とは言え、フェイズトランセンデンスを極めたリリィなら、枯渇状態でも通常戦闘できるレベルまでマギ減少を抑えることができる。   その、極めるまでが大変なのだが。

流瑠の言う『オシオキ』というのは、()()だ。フェイズトランセンデンスを極めるために、ぶっ通しで「フェイズトランセンデンス」状態での戦闘と枯渇(ディプリーション)状態での戦闘を繰り返す。文字通り、()()()()()()()()()()()

 

 

 

「今日の訓練が終わったら、頑張ってきた亜羅椰ちゃんを目一杯褒めて可愛がってあげるから、頑張ってー!」

 

「や、約束ですよ!?約束ですからね!!」

 

 

全身筋肉痛で動けなくなるであろう未来を想像しながら、亜羅椰は「お姉様に可愛がってもらう」という希望だけを胸に抱いて立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うわぁ……」」

 

 

訓練場に入ってきた天野天葉(あまのそらは)江川樟美(えがわくすみ)は、訓練場の惨状を目の当たりにして、揃って声を上げた。

 

 

「はぁっ…はぁっ…うっぷ!」

 

「ほら、がんばれがんばれー。さっきは一撃当たりそうだったよー」

 

 

壁はボロボロ、床はグチャグチャ。訓練場は、無事なところを探す方が早いというほど酷い有様になっていた。

その上には、制服に埃一つ付けることなく余裕綽々で立っている流瑠と、ボロ雑巾のようにズタボロになりながらも、チャームを支えにして何とか立っている亜羅椰がいた。

 

 

二人が様子を見ていると、天葉と樟美に気付いたのか、流瑠が声をかけてきた。

 

 

「あ、天葉ちゃんに樟美ちゃん!今から特訓?」

 

「え、ええ。そちらも訓練……いや、『オシオキ』ですか?」

 

「そうそう。亜羅椰ちゃんったら、梨璃ちゃんに目をつけて襲いかけちゃってね。でも、私がいない間は頑張って我慢してたんだってね?」

 

 

そう言う流瑠に、天葉は苦笑しながら答える。

 

 

「……ええ、珍しく誰も襲いませんでしたね。『食ってやろうか』も出ませんでしたし。ずっとここ(訓練場)に篭って特訓してたみたいですよ」

 

「みたいだねー。いやーよかったよかった。これで亜羅椰ちゃんも   

 

「気を逸らしちゃイヤですわよ、お姉様ァッ!」

 

 

フェイズトランセンデンス状態になった亜羅椰が、マギ放出で再度高速の不意打ちを仕掛ける。その渾身の一撃は    

 

 

 

「あはは。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

しかし、流瑠によって防がれていた。

 

 

「ッ…!」

 

「甘い甘い。そんなんじゃ、私のシルトにはまだまだ遠いよ?」

 

 

戦闘は続く。天葉から見れば、それはもう「訓練」とは呼べない。命を賭けた戦闘だ。

流瑠から攻撃することは少ないが、隙を見つけては突っつくように差し込み、亜羅椰はなんとかそれに対処する。

で、フェイズトランセンデンスが終われば、今度は流瑠が攻める番だ。

 

 

 

 

「…くぅっ!」

 

「そうそう。枯渇(ディプリーション)状態の時は防御よりも回避を重点的にね。マギはリリィもチャームも守ってくれる守りの要。マギをオーバーロードしたせいでチャームにも負担がかかってる枯渇状態の時は、なるべくチャームは守りに使わないように。空中戦闘(エアリアル)中もなるべく身体の捻りで   但し、怪我はしないように」

 

「わかって、ます!ふぅっ、はぁっ、くっ!?」

 

「よろしい、よく避けたね」

 

 

 

 

 

「フェイズトランセンデンスは、一撃必殺を期するのか、はたまた継戦能力を取るのか、意識してから使用するように。立ち回りが全然違ってくるからね。どちらで使うにせよ、フェイズトランセンデンスはチームの攻撃の要。レギオンメンバーとのコミュニケーションは忘れないようにね」

 

「聞きましたわよ……はぁっ……耳にタコができるほど…!」

 

「聞かせたねぇ。耳にタコができるくらい」

 

 

戦闘は、まだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく見ておくんだよ、樟美」

 

「…はい、天葉姉様」

 

 

二人が行なっている訓練は、間違いなく過激だ。訓練用のチャームを使っているとは言え、一歩間違えれば大きな怪我をしてもおかしくない。

 

だが    そのリスクを取って余りあるほど、実践的で効果的だ。見ているだけでも経験値になるほどに。

 

 

 

百合ヶ丘での戦闘に関する授業は、戦闘理論や戦術理論を含めた座学に加え、チャームを使用した擬似ヒュージとの戦闘が主だ。たまにリリィ同士がチャームを交えることもあるものの、それらは全て怪我しないことが大前提で、殆どのリリィは「実戦」というものを経験しないまま、ヒュージとの初戦闘に挑む。

 

それは、百合ヶ丘で教鞭を取っている流瑠であろうと同じだ。チャームの基本的なことや攻撃の仕方を教えはするものの、流瑠から攻撃してまで指導することなど、まず無いと言っていい。

 

 

     だが、こと「シュッツエンゲルの契り」が絡めば、話は全く変わってくる。

 

 

流瑠のシュッツエンゲルの条件    それは、『流瑠と戦闘訓練を行い、その中で流瑠に一撃当てること』だ。

 

流瑠はこの『シュッツエンゲルの契り』が絡んだ戦闘訓練の時のみ、相手に対して攻撃を行う。もちろん、ちゃんと手加減しているし、怪我しない程度にではあるが。

そして、この条件を満たしてシルトとなったリリィは、今まで一人しかいない。

 

 

「……。」

 

 

天葉はそのリリィのことを思い出したが、胸の内にしまった。

 

 

 

流瑠のこの戦闘訓練は、的確にリリィを導くことで有名だ。

例えば、今の亜羅椰ならば「フェイズトランセンデンス」を最大限まで活かせるように指導を行なっている。

 

『オシオキ』と称しているものの、これは『いつもよりキツくいくよ?』くらいの意味で、いつもやっているシュッツエンゲルが絡んだ戦闘訓練と内容はあまり変わらない。……まあ、『オシオキ』された日の亜羅椰は一日筋肉痛で苦しむくらいキツいらしいから、やはり違いはあるのだろうが。

 

 

この戦闘訓練を受けたリリィは、一撃を入れられずシュッツエンゲルの契りを結ぶことができなかったとしても、リリィとして大きく成長する。

何よりも、成長を実感しやすく、「()()流瑠様に認められた」というのが大きいのだろう、と天葉は考えている。

 

(あれが流瑠様なりの、(シュッツエンゲル)としての(シルト)の導き方、ということなのかな……)

 

全てのリリィを「妹」だと言う流瑠らしいやり方だと思う。

天葉もまた、一人の(シュッツエンゲル)として、どうやって(樟美)を導いていけばいいのか   そんなことを考えさせられた。

 

 

そう考えている間にも、戦闘はまだまだ続く     

 

 

 

 

 

 

「お姉様!シュッツエンゲルになってください!」

 

「一撃入れられたらねー」

 

「お姉様!結婚してください!!」

 

「んー、今は無理かなー」

 

「お姉様!!私と(ピーーーー)してください!!!」

 

「亜羅椰ちゃん!?何言ってるの!?」

 

「お姉様の(ピーーー)が私の(ピーーー)を(ピーーー)して(ピーーーーーーーーー)」

 

「ちょっと黙ろうか!!」

 

 

 

 

 

「あの、天葉姉様?何も聞こえないんですけど……」

 

「うん、樟美は聞かなくていいんだよ」

 

グルグル目を回しながら壊れたことを口走り始めた亜羅椰を見て、樟美の耳を塞ぎながら「あ、そろそろ終わるかな?」と思い始めた天葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨璃達三人が訓練場に着いた時、出迎えたのは   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼっこぼこに穴だらけになった訓練場だった。

 

 

 

 

「「「……なにごとーーー!?」」」

 

 

 

 

 

「か、楓さん?もしかして、リリィの訓練場ってこんな感じなのかな……?」

 

「……そうかもしれませんわね」

 

「いやいや、何をお二人で現実逃避してるんですか!?」

 

 

三人がやんややんやと言っていると、声をかけてくる人影があった。

 

 

「お主らも見学か?じゃが、今しがた終わってしまったようじゃがな」

 

「「がな?」」

 

特徴的な言葉遣いに梨璃と二水が振り返ると、そこには、昨日梨璃に新聞を見せた銀髪の小柄な少女がいた。

 

「あら、ミリアムさん。何をしにここへ?」

 

「ワシはチャームの調整……と思っとったんじゃが、丁度『あの二人』がやり合っとったんでな。それの見学じゃな」

 

「チャームの調整…って、チャームを弄れるんですか!?」

 

驚愕する梨璃に、ミリアムは胸を張って答える。

 

「当然じゃ。ワシは工廠科じゃからな」

 

そう言うミリアムに自己紹介する隙を与えず、二水が解説する。もちろん、鼻血付きだ。

 

「工廠科に属しながらリリィでもある、ミリアムイルレガルロウォンウロリウス(ヒルデガルド・フォン・グロピウス)さんですよ梨璃さん!!」

 

「ふ、二水ちゃん鼻血が!?」

 

「お主、大丈夫か!?」

 

当のミリアムにも心配される二水。だが、これくらいでは挫けない。

 

「あ、ご心配なく!昨日から出っ放しですから!」

 

「いや、それは大丈夫ではないだろう」とは、誰も突っ込まなかった。

 

 

 

 

「……で、ミリアムさん。『あの二人』とは?というか、この訓練場の惨状は?」

 

「ん?楓は知らんかったかの?これは「戦闘の余韻」じゃ。んで、戦闘でこんなに訓練場をボコボコにする二人と言えば   

 

 

「ん?あ、梨璃ちゃん!おーい!」

 

「る、流瑠様!?と    

 

梨璃が流瑠の声のした方を向くと     

 

 

訓練場と同じくらいボッロボロになった遠藤亜羅椰が、地面にぶっ倒れていた。

 

「あ、亜羅椰さーーーーーん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっかそっか、夢結ちゃんとシュッツエンゲルに。それで私に訓練をね」

 

「はい…。お願いできませんか?」

 

訓練場の隅。そこに、他の使用者の邪魔にならないように移動した後、梨璃達は流瑠に事情を話した。

 

「いいよー」

 

「流瑠様も忙しいっていうのはわかってるんですけど、私、どうしても強くなりたくって!」

 

「うん、いいよー」

 

「だからどうか    へ?」

 

「いいよ?」

 

 

ニコニコと笑顔で、あまりにも簡単に肯定する流瑠に、梨璃達は呆気に取られる。

 

「あの……頼んだわたくしたちが言うのも何なのですが、よろしいのですか?そんな簡単に……」

 

「うん。まあ確かに忙しかったりはするけどさ    でも、私はみんなのお姉ちゃんだよ?妹が強くなろうとしてるのに、協力しないお姉ちゃんなんていないよ」

 

 

そう言って流瑠は梨璃の両手を取り、続けた。

 

「がんばろう、梨璃ちゃん!私、全力で応援するよ!」

 

「あ……はい!ありがとうございます!」

 

梨璃は何とも簡単に、流瑠との訓練の約束を取り付けてしまった。

 

(この流れでいけば、わたくしのシュッツエンゲルの件もすんなりいくのでは……?言質さえ取れればいいのですし……)

 

あくどいことを考え始めた楓は、タイミングを見て話を切り出した。

 

「あの、流瑠様!わたくしのシュッツエンゲルになってくださいませんか!?」

 

「それはごめんね。私、シュッツエンゲルの契りを結ぶ時は試験を設けてるんだ。いくら楓ちゃんでも、試験未通過でシルトにはしてあげられないかな」

 

ちっ、やっぱりダメでしたか……

 

楓の小声を聞き取った二水は、即座にメモを取り出す。

 

「楓さん意外とあくどい、と……」

 

「ちびっ子!人聞きが悪すぎますわよ!!」

 

「はぁ……」とため息をついた後、楓は質問を変えることにした。

 

「そもそも、流瑠様の試験ってなんなんですの?誰も教えてくださらなかったのですけれど」

 

「それはねー   

 

 

「流瑠様と戦闘訓練をし、一撃でも当てることよ」

 

 

答えようとする流瑠の横から、別の声が答えた。

 

「あ、亜羅椰ちゃん。もう起きて大丈夫なの?」

 

それは、流瑠の横で寝かされていた亜羅椰だった。

 

 

「はい、お姉様。こんなところで寝てはいられ……いつつ」

 

「まだ筋肉痛キツイでしょ?もうちょっと寝てていいよ」

 

「はい、どーぞ」と言いながら、流瑠は自分の膝を差し出す。

 

「お言葉に甘えますね、お姉様♡」

 

流瑠からの誘いに「寝ていられない」という自分の言葉を即座に翻し、流瑠の膝枕を堪能し始める亜羅椰。

 

「なっ……!ひ、膝枕!?ちょ、ま、う、うらやまけしからんですわ!」

 

「ほーう?大胆じゃのう」

 

そんな楓とミリアムの声を無視して、亜羅椰は梨璃に話しかける。

 

「梨璃さん……今朝はごめんなさい。私、お姉様が帰ってきて舞い上がってしまって」

 

「あ、いえ……その、びっくりしたけど……わ、私は大丈夫です!」

 

その言葉に、亜羅椰はくすりと笑った。

 

「ありがとう、梨璃さん。不肖、この遠藤亜羅椰。夢結様とのシュッツエンゲルの件、応援させてもらうわ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

その激励に、ミリアムは意外そうな声を上げる。

 

「ほう?お主、そんな殊勝な人間じゃったのじゃな」

 

「喧嘩売ってるのかしらぁ?高値で買ったげるけど」

 

「いやいや、褒めとるんじゃよ」

 

ミリアムは亜羅椰のおっかない言葉にも動じず、快活に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、『戦闘訓練をして一撃でも当てること』。それがシュッツエンゲルの条件なんですわね?」

 

「そうだよ」と流瑠は答える。

 

「ではそれ、今から受けさせていただいても?」

 

やる気を見せる楓に、「うーん」と悩む流瑠。

 

「やってもいいけど……そうだなー、どうしようかな」

 

暫し考えた後、流瑠はまだ膝枕を堪能している亜羅椰に声をかけた。

 

「亜羅椰ちゃん、()()()?」

 

「……はぁ。お姉様、シルト使いが荒いのでは?」

 

「まだシルトじゃないけどね」

 

「まあ、お姉様のためですからやりますけど」と筋肉痛を押して立ち上がる亜羅椰。

それに困惑するのは楓だ。

 

「?どういうことですの?流瑠様との戦闘訓練をするのでは?」

 

「その前に。この遠藤亜羅椰とお手合わせしましょう?私に勝てなければ、流瑠様に攻撃が届くわけもないのだし」

 

「なっ…それでは話が違うのでは!?私は流瑠様に   

 

抗議する楓に、流瑠はさらに条件を付け加える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った方は……私がギュ〜〜ってしてあげます!」

 

「やりましょう今すぐに(早口)」

 

「不肖、遠藤亜羅椰。叩きのめさせていただきます(早口)」

 

そういうことになった。

 

 

 




・綺麗な亜羅椰さん
流瑠様への一途な思いでいっぱい。梨璃に謝るシーン書いてて「この子本当に亜羅椰か……?」とはちょっと思った。でも流瑠様に「謝れ」って言われたしね。
気付けばアニメよりも超絶強化されてた。流瑠様のハグで釣れる。チョロい。

・天葉姉様
常識人。アニメでの樟美ちゃんとイチャイチャするシーンめっちゃ好き。
もっと軽率にイチャついていけ。

・樟美ちゃん
公式チートリリィ。お太いおみ足を気にしてるらしい。気にしなくて良いのに…。
亜羅椰やら壱やら天葉姉様やら、やたらカプに恵まれる。もしかして主人公体質か?
もっといろんな女の子と軽率にイチャついてくださいお願いします。

・ミリアムイルレガルロウォンウロリウス
ぐろっぴ。


沢山のUA、お気に入り、評価、感想などありがとうございます!
マジで心の励みになります!これからも頑張ります!


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ブーゲンビリア その3



言葉は要らぬ。ただ百合に身を任せれば良い。



(まさかまたしても分割することになるとは思わなんだ……ブーゲンビリア、あと1話くらい続きます)


 

 

 

訓練場という名の戦場には、二人の戦士が立っていた。

 

 

「この戦いに勝って、流瑠様のハグをわたくしのものに……!」

 

一方は、チャームメーカー・グランギニョル総帥の娘、面食いの楓・J・ヌーベル。

 

 

 

 

 

「見ていてください、お姉様。お姉様のハグを守るため、不肖、遠藤亜羅椰。怨敵を抹殺します」

 

一方は、世代最強格とも言われるAZ、筋肉痛の遠藤亜羅椰。

 

 

 

 

 

今、一人の女性のハグを巡って、女の戦いが始まろうとしていた     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか緊張感に欠けるモノローグですね……」

「二水ちゃん?誰に言ってるの?」

「いえなんでも」

「ふむ、興味深い戦いじゃの」

 

 

見守る1年生組に、流瑠は声をかける。

 

「梨璃ちゃん、二川二水ちゃん、そしてぐろっぴ」

「は、はい!」

「あ、わ、私の名前…!」

「ぐろっぴ!?」

「これが、君たちの世代の最高峰戦力の戦いだよ。よく見といてね」

 

 

「楽しそうなことしてますね、流瑠様」

「ご、ごきげんよう、みなさん……」

 

そこに、天葉と樟美も加わる。

 

「あ、ごきげんよう……」

「二年生の天野天葉様と、一年生の江川樟美さんですね!お二人は既にシュッツエンゲルで   

「今は解説は後ね。さ、はじまるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きますわよ、亜羅椰さん。後で筋肉痛なんて言い訳しないでくださいませ……!」

「ハッ!『ちょうどいいハンデ』の間違いじゃない?」

 

 

両者の言葉と同時に、楓がチャームをシューティングモードへと変更。

二人の距離は50mほどだ。遠距離射撃が適正だと思ったのだろう。

しかし   

 

 

「フェイズトランセンデンス!」

「なっ!?その距離から   

「いくわよ!はあっ!!」

 

 

亜羅椰はマギを後ろに放つことで『吹き飛ぶ』。流瑠との戦闘訓練の時に見せた高速移動術だ。

 

 

50mの距離を一瞬で詰める亜羅椰。しかし。

 

「くっ!」

「っ!止めた   !?」

 

即座にチャームの形態を変更、ソードモードでギリギリ攻撃を止める。

 

 

(止めたは良いものの   この攻撃、重すぎますわ!)

 

フェイズトランセンデンスを使用した攻撃に、明確に押される楓。

 

(これが……筋肉痛でさっきまで動けなかった人の放つ攻撃!?筋肉痛なんて詐欺ですわよ詐欺!)

 

フェイズトランセンデンスを使っているとは言え、楓には目の前の亜羅椰の動きが鈍っているようには一切見えない。

 

(こうなったら、守りに徹してフェイズトランセンデンスが解除されるのを待つしか   !)

 

 

 

 

 

 

 

 

(ま、耐久戦に切り替えようとするわよね)

 

攻め手を緩めて防御に徹しようとする楓を見て、亜羅椰は相手の戦術を理解する。

 

(でも   )

 

筋肉痛を抑えてチャームを構え直す亜羅椰。その形態は、やはりソードモードのままだ。

 

(この攻撃を、10分間ずっと耐え切れるかしらね?)

 

 

 

 

 

 

「ぐっうぅ!」

 

楓は接近戦ばかり仕掛けてくる亜羅椰の攻撃を、なんとか凌いでいた。

 

(もう5分くらい経ってるはず……!なのに、全然出力が落ちてない!)

 

接近戦が不利なことはよくわかった。しかし、シューティングモードにするのを楓は恐れていた。

 

(シューティングモードに切り替えたら、『アレ』が来る……!)

 

亜羅椰が最初に見せた、マギを放出して吹き飛ぶ高速移動術。それが、楓の遠距離戦への移行を躊躇わせていた。

 

(例えその最初の一撃を躱したとしても、距離を詰められているのは同じで     いや、違いますわね)

 

楓は亜羅椰の高速移動術への恐れを一旦脇に置いて、落ち着いて考える。

その間も、身体は亜羅椰の攻撃を防ぐので精一杯だ。

 

(あの移動方法は一直線にしかできない。それがわかっていれば、躱せますわ。であれば    常に高速移動の直線上を避け続けて、その『最初の一撃』を躱し続ければ……!)

 

勝機はある。楓はそう判断した。

 

 

 

 

 

「あら……?」

 

亜羅椰は、楓の動きが変わったのを察した。

 

(シューティングモードに変えた?突っ込んでくれって言ってるようなもんじゃない)

 

亜羅椰は、またも高速移動術で接近する。しかし   

 

 

「ふっ…!」

 

(躱した……)

 

さらにもう一度高速移動術。しかしこれも

 

 

「余裕でしてよ!」

 

(……なるほどね。躱し続けて時間切れを狙おうって?)

 

 

「亜羅椰さん。貴女のソレ(高速移動)、初見殺しではありますけど、何度もやられると見飽きてしまいますわ」

 

「……あらそう。それはごめんなさい?なら   

 

 

 

少し趣向を変えましょう。

 

 

亜羅椰はそう呟いて、もう一度マギを放出して突っ込む。

 

 

「っ!?ですがそれは   

 

「もう見たって?ならこんなのはどうかしら」

 

 

既に高速移動の直線上から回避を終えた楓。亜羅椰は高速移動の最中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

楓はこれもなんとか回避する。しかし、亜羅椰はまたも無理やり自分の身体をマギ放出で吹き飛ばし、しつこく楓に迫った。

 

「はぁあっ!!」

 

そしてそのまま、上から下にチャームを振り切る。

楓は回避しきれずに防御するが   

 

「ぐううっ!」

 

(お…おっも!このフェイズトランセンデンス、いつまで続きますの!?崩され   )

 

「まだまだ!」

 

さらに一撃、二撃、三撃。

流石に耐えきれなくなり、楓は後ろに跳んで離脱する。

だが   

 

   大分、貴女がいつどこに逃げるのかわかってきたわ」

 

楓が後ろに跳ぶのと()()()()()()()()()()、亜羅椰は再度楓に向けて吹き飛ぶ。

もちろん、楓が後ろに下がる速度よりも亜羅椰が飛んでくる方が早く   

 

「フィニッシュよ!」

「がっ!?」

 

そんな不安定な体勢からではまともにガードできるはずもなく、楓は完全に崩されて地面に倒れる。

そして、首元に刃を突きつけられた。

 

 

「……参りましたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年生組は、その8分の戦闘を眺め、絶句していた。

 

「どうだった?三人とも」

「……えーっと、何が起こったんでしょうか?」

「これが、私たちと同じ歳のリリィ……?」

「まさか、フェイズトランセンデンスがここまで持続するとは……予想外じゃの」

 

三人の言葉に、流瑠はうんうんと頷く。

 

 

「大丈夫。何が起こってたのかは、今はまだ理解できなくて良いよ。大事なのは、今見たのが『外から見たリリィの戦闘』だってこと。これが実戦になるとまるで違う。……それは、昨日実戦を経験した梨璃ちゃんもよくわかったでしょ?」

「は、はい。今日は、亜羅椰さんがすごく攻めてて、楓さんが防御してて……。昨日はヒュージを目で追いかけて、躱して、攻撃一回に必死になって……なんか、全然違うって言うか……」

「そうだね。外から見る戦闘と実戦のギャップ。それのせいで、どれだけ見て学んでも、実戦に落とし込めないって子、結構いるんだよ。大丈夫、そういうところも講義や訓練でやっていくから」

 

「それがわかっただけでも重畳、重畳」と感心する流瑠。

 

 

「二水ちゃんは、鷹の目を使って見てた?」

「あ、はい!俯瞰視点の方が、戦況がわかりやすかったので……」

「うんうん。リリィの戦闘を見るときは、なるべく鷹の目を使う様にした方がいいかもね。これから二水ちゃんは何度も戦いを見ることになると思うけど、戦況を正しく理解して報告することは大切な仕事になってくるだろうから。で、二水ちゃんの理想の形は……」

 

「理想の形、ですか?」と二水が聞き返す。

 

「二水ちゃんのリリィとしての完成形ってことね。それはいくつかあるんだけど、一つは鷹の目を使いながら戦闘ができるリリィ。二つ目は、『ファンタズム』持ちや『この世の理』持ちと連携して支援・指示出しに徹するリリィって感じかな」

「た、鷹の目を使いながら戦闘なんて……」

 

自信がない様子の二水に、流瑠は優しく笑って続けた。

 

「でも、いざと言う時に戦闘に干渉できる戦闘力があれば、『鷹の目』は誰よりも戦況を正しく把握しながら攻守の要になるゲームメイカーに化ける。レギオンを戦闘で引っ張っていくリリィになることもできるんだよ」

 

「まあ、自分の目指す道は追々考えていけば良いから」と流瑠は締めくくった。

 

 

「ぐろっぴは、亜羅椰ちゃんと同じフェイズトランセンデンスだったかな?」

「そうじゃな。しかし、一撃使えばもう枯渇状態じゃ…ぐろっぴ?」

「フェイズトランセンデンスはその性質上、最後の一撃みたいに扱われがちだけど……鍛え上げれば持続時間を大幅に伸ばすこともできる。亜羅椰のあれは、かなり厳しい訓練を長い時間かけてやってきたからこその持続時間だね」

 

「とはいえ」と、流瑠は言葉を続ける。

 

「別に、『頑張って訓練しなさい』って言ってるわけじゃないよ?フェイズトランセンデンスは、レベルが高くなくてもかなり重宝されるレアスキルだし。亜羅椰ちゃんのレベルまで鍛え上げるのは相当な時間が必要だから……その時間を何に使うのか。どこを目指すのかは、ぐろっぴ自身が決めなきゃいけないことだからね」

「なるほどのう……参考にさせてもらうのじゃ、流瑠様」

 

 

一年生三人組の感想を聞き終えた流瑠は、「天葉ちゃんと樟美ちゃんはどうだった?」と話を振る。

 

「ヌーベルさんの誤算は、亜羅椰のフェイズトランセンデンスの持続時間でしょうね」

「亜羅椰ちゃん……すごく強くなってた」

 

「そうだね」と流瑠は同意する。

 

「フェイズトランセンデンスが終わるまで耐え切っていれば、楓ちゃんにも勝ち筋は充分にあった。とは言え、防御しようものならそこから崩され、回避すればしつこく追われてやはり崩される。今の亜羅椰ちゃんのフェイズトランセンデンスを耐え切るためには、純粋に技量とスタミナで勝たないといけないね」

 

妹の成長に、流瑠は嬉しそうにニコニコとしている。

 

「でも、今見たのはあくまでも個人での強さ。レギオンとして戦うからには、他のサポート系レアスキル持ちとの連携は必須。その辺りは、レギオン単位での実習の中で見させてもらうことになるけど……樟美ちゃんも、連携頑張らないとね」

 

「は、はい!」

 

樟美のレアスキル『ファンタズム』は、強力な未来予知に近いスキルだが、周囲との連携があってこそ真価を発揮する。人とのコミュニケーションがそこまで得意ではない樟美だが、亜羅椰の強さを見て、気合を入れ直した様だった。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、楓ちゃん!」

「ぐう、負けてしまいましたわ……」

 

戦闘を終え、フラフラと戻ってくる楓に、流瑠は声をかける。

 

「いやいや、今の亜羅椰ちゃんにあそこまで食らいつけるなら十分だよ!話には聞いてたけど、やっぱり強いんだね、楓ちゃん」

 

流瑠からの褒め言葉に、楓は首を横に振る。

 

「いえ……亜羅椰さんを見てよくわかりましたわ。流瑠様はこう仰りたかったのでしょう?シュッツエンゲルの契りとは、単純な目先の利益に囚われるのではなく、関わり合いの中で培ってきた相手への思いが、互いを愛し慈しむ心や支え合う力になって結ばれる契りだ、と」

「……。」

 

楓の言葉に流瑠は何も返さないが、嬉しそうな、そして愛おしそうな姉としての表情を楓に向けていた。

 

「……流瑠様、改めてお願いします。わたくしに、流瑠様のシュッツエンゲルの契りの約束を含めた戦闘訓練をつけてくださいませんか?」

「うん、もちろんだよ楓ちゃん。これからよろしくね」

「ええ、お願い致しますわ。そして     

 

楓は胸を張って宣言した。

 

 

「わたくしは絶対に、流瑠お姉様のシルトになってみせますわ!誰にも   亜羅椰さんにも、絶対に負けません!!」

 

(やはり、このお方は素晴らしいリリィですわ。流瑠様とイチャイチャできることも魅力的ですが    流瑠様から、リリィとして、シュッツエンゲルとしてのあり方を学んでみたい。そして願わくば、この人の「数多いる妹の一人」ではなく    この人の『特別な存在』になりたい!)

 

楓は「やってやりますわよー!!」と、志を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様〜〜!亜羅椰は勝ちました〜〜!」

「亜羅椰ちゃん、お疲れ様〜」

 

亜羅椰は筋肉痛に痛む身体を動かして、流瑠の元に駆け寄ってきた。

 

「お姉様!約束のハグを!」

「はい、ギュ〜〜っ!頑張ったねぇ、亜羅椰ちゃん」

 

頭なでなでのオプションを付けて亜羅椰を褒める流瑠。

 

嬉しいはずの状況に、亜羅椰は   涙を流していた。

 

 

 

「ぐすっ……あれ……?わ、私……」

「亜羅椰ちゃん?だ、大丈夫?」

「あれ……?ぐすっ……あれ?」

 

悲しくはない。悲しいはずはない。なのに、涙は流れ続ける。

拭っても拭っても、涙は止まらない。止まらないので、亜羅椰は顔を流瑠の胸に押しつけた。

 

「お姉様……私、寂しかったです……」

「……うん」

「半年もいなくなって……ぐすっ……いない間、お姉様に褒められたくて、たくさん我慢して、たくさん訓練、して」

「うん」

 

亜羅椰はこの半年間の努力を思い出した。

 

お姉様に「私がいない間、誰も襲わないように」と言われ、「できたらご褒美をあげる」と釣られ。

その言葉通りに我慢した。そして、お姉様から教わったことは反復して練習したし、新しい技を身につけんと努力も怠らなかった。

時にはヒュージ討伐に出て、大きな戦果を上げた。

自分が半年間頑張ってきたのは、全てお姉様のためだった。

 

    でも、そこに自分が一番褒めて欲しかったお姉様はいなかった。

 

「なのに初日から……ひっく……こんなスパルタばっかり……」

「……ごめんね、亜羅椰ちゃん」

 

謝る流瑠に、亜羅椰は顔を押し付けたまま、ふるふると横に振る。

 

「いいんです……そんなお姉様が……私……わだじぃ……」

 

 

    だいすきなんです。

 

亜羅椰の言葉に、流瑠は彼女を一際ギュッと抱きしめた。

 

 

「……ただいま、『亜羅椰』」

「……おがえりなざい、お姉様ぁ」

 

 

大好きなお姉様の温もりに包まれて、亜羅椰は心の穴が埋まっていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの二人、もうほぼシュッツエンゲルじゃないですか?」

 

「おだまりちびっ子1号!もうわたくしは決めましたの!絶対にお姉様のシルトになってやりますわ…!」

 

「1号!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいお姉様、お召し物が……」

 

「いいのいいの。亜羅椰ちゃんの本音が聞けてよかったよ」

 

 

亜羅椰の色んな汁でベットベトになった制服を予備のものに着替えた後、流瑠は梨璃、楓、二水、ミリアムを集め、本題を話していた。

 

「私に訓練をつけてほしいってことだったよね、梨璃ちゃん」

「は、はい!あ、でも、さっきみたいのは私にはまだ無理、かも……」

 

梨璃は先ほどまで行われていた亜羅椰と楓の戦闘訓練を思い出した。チャームもまともに扱ったことがない自分では、あんなことはできない、と。

 

「いやいや、初心者にあそこまで要求しないよ。……んー、ほんとはある程度学院の講義を受けてから訓練する方がいいんだけど」

 

暫し考えた後、流瑠は梨璃に言った。

 

「梨璃ちゃん。梨璃ちゃんは自分のレアスキルってわかる?」

「え?い、いえ。それがまだ……」

 

「そっか」と納得し、流瑠は次の提案をする。

 

「私としては、レアスキルに合わせた訓練をしたいんだけど……取り敢えず、梨璃ちゃん。チャームを起動してみて貰っていい?」

「あ、はい!えーとえーと……」

 

梨璃がモタモタしていると、楓が手を取って「こうですわ」と指導してくれた。

 

「わっ!」

 

音を立て、みるみる内に変形するグングニル。そのグングニルを見て、流瑠はさらに提案を重ねる。

 

「じゃあ、グングニルのコアに触ってみてもいいかな?」

「は、はい。別に構いませんけど……何をするんですか?」

「私、マギの波長である程度レアスキルがわかるんだよね」

 

梨璃は素直に「へー、わかるものなんですね!」と感心しているが、他のメンツは違う。

 

「……いやいや、おかしいですわよ!?普通ではないですからね梨璃さん!?」

「え?そうなの?」

「なんらかのレアスキルかの?じゃが、そんなレアスキル聞いたことも……」

 

「まあまあ、あんまり細かいことは気にしない気にしない。じゃあちょっと失礼してー……」

 

「お、お願いします!」

 

「………え?これは………」

 

「ど、どうですか流瑠様、わかりましたか?」

 

「…………」

 

「えっと……流瑠様?」

 

「……」

 

 

暫しの沈黙。

 

 

「……うん、ごめん!わかんなかった!」

 

あっけらかんと言う流瑠に、全員が肩を落とす。

 

「なんじゃ、やっぱりわからんかったのか」

「いやーごめんごめん。ちょっと波長が弱すぎて……」

「弱すぎ!?」

「いやほんとごめん、梨璃ちゃん!」

「だ、大丈夫ですわよ梨璃さん!レアスキルがリリィの全てでは無いですし」

 

全員で梨璃のフォローをするが、当の梨璃はまだへこんでいた。

 

「弱すぎ……弱すぎって……」

「流瑠様……?」

 

こうなると、期待させるだけ期待させて一番下まで落とした流瑠に全員の視線が向いてしまう。

 

「あ、あははー。あ、そうだ!訓練の件だけど」

 

露骨に話を逸らす流瑠。周りからは責めるような視線があるが、梨璃は少し立ち直ったのか、話を聞く姿勢だ。

 

「取り敢えず、チャームにマギを込めるところから始めようか。どんなに強力なチャームでも、マギが籠ってなければただの刃物。ヒュージと戦うには一番重要な部分だからね」

「あ、はい!じゃあ今から……」

 

やる気を見せる梨璃に、流瑠は首を振って否定する。

 

「今日は取り敢えず、チャームにマギを込める方法だけ教えるよ。それを、空いてる時間にちょくちょくやってみて。で、次の時に私がどれくらいできてるかを見てあげるから」

「わ、わかりました!」

「じゃあ見てて。まずは     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マギの込め方を指導した流瑠は、「今日はこのくらいで」と亜羅椰とともに訓練所を出ようとする。

それを止めたのは梨璃だった。

 

「ま、待ってください流瑠様!」

「うん?なーに梨璃ちゃん?」

 

梨璃は一番気になっていたことを流瑠に質問した。

 

「夢結様と、何があったんですか?」

 

それを聞くと、流瑠の顔は笑顔を失う。

 

「夢結ちゃん……ね。なんで知りたいの?」

「私、2年前の甲州撤退戦の時、夢結様に助けていただいたんです」

   甲州、撤退戦」

 

流瑠の顔色が変わるのにも構わず、梨璃は言葉を重ねる。

 

「夢結様、あの時と全然様子が違って。だから、なんで夢結様が変わってしまったのか、知りたいんです!」

「………」

 

それに、流瑠は何も答えない。どう答えていいか迷っているようだった。

 

「あの、夢結様ってチャームを持ち替えてますよね?」

「……そうだね」

「なぜ夢結様は、チャームを持ち替えたんですか?」

「……………ふぅー」

 

梨璃からの質問攻めに、流瑠は息を大きく一つ吐いた。

 

 

    私から、夢結ちゃんの事情は話せないかな」

「……っ!なんで   

「夢結ちゃんの事情だからだよ。リリィの情報は、本人が望まない限り、一定期間の間秘匿される。夢結ちゃんが望まないことを、私が話すわけにはいかないのさ」

「……あっ。そう……ですよね」

「でも」

 

一呼吸置いて、流瑠は声に出した。

 

 

「『私の事情』なら、話せる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流瑠の話は、衝撃の一言から始まった。

 

 

「2年前、甲州撤退戦の時。私は巣無しのアルトラと戦ったんだ。で、倒したのはいいんだけど     

「……ちょちょちょ、ちょい待ってくださいまし?今なんておっしゃいました?」

 

なんでも無いかのように流した一言に楓が突っ込むので、流瑠は再度同じことを言った。

 

「だから、巣無しのアルトラと戦って倒したんだけど、その後   

「あの、流瑠様?巣無しのアルトラを倒す話ってのは話の枕程度の扱いなんじゃろか?」

「うん」

「うん、じゃありませんわ流瑠様!」

「だって大事なのはそこじゃないし」

「あのー、すみません……」

 

流瑠の発言に次々とツッコミが入る中、梨璃が申し訳なさそうに手を挙げた。

 

「巣無しのアルトラって……なんですか?」

 

「うむ。巣無しのアルトラと言うのはじゃな……」

 

 

巣無しのアルトラ。文字通り、「巣を持たないアルトラ級ヒュージ」のことである。

 

アルトラ級ヒュージと言うのは、ギガント級ヒュージよりも大きい、ヒュージ中最大規格の存在。

その大きさはギガント級とは比較にならないものの、普段は(ネスト)の運営に忙しい為攻撃などは行わない種でもある。

 

しかし、一度巣を失ってしまえば、その性質は凶暴化の一途を辿る。

巣を探して暴れ回る為、そのサイズも相まって手がつけられない。

通常、この種を討伐する場合は複数の一流レギオンが協力して挑まなければならないほどの難敵だ。

さらに周囲にはギガント級以下のヒュージを多数連れていることも多く、この種の出現だけで周囲への甚大な被害を覚悟しなければならない。

 

 

「……ということじゃな」

「す、すごく強いヒュージってことですね」

「いわゆるラスボスですわね」

 

「大事なのはそこじゃないんだよ。アルトラ級を倒しはしたんだけど、私の力不足で遅くなってしまって……リリィが、一人死んでしまったんだよ」

「あ……」

 

流瑠は顔を俯かせ、ポツポツと喋る。

 

「もっと早く倒せば、助かった命かもしれない。これは、私の罪なんだ」

 

「………」

 

「……さて、私の話は終わり!この続きは夢結に   

 

 

 

 

流瑠が締めようとする中、立ち上がったのは   楓だった。

そのまま楓はズンズンと流瑠に近づいて    

 

 

 

 

 

 

 

パチン!と流瑠の頬に平手を打った。

 

 

 

 

「か、楓さん!?」

 

「流瑠様!貴女、少し傲慢になりすぎではなくて!?アルトラ級ヒュージを倒しておいて、『もっと早く倒せばよかった』!?バカバカしい!貴女はできる精一杯のことをやられたのでしょう!?そもそも、今の話からすれば、貴女と共にアルトラ級と戦ったメンバーはみんな生きていたのでしょう!?」

 

「え、あ、いや。一人で戦ったんだけど……」

 

 

一瞬なんとも言えない空気になるが、楓は続ける。

 

 

「……そ、そうですか。でしたら尚更!貴女は一人でアルトラ級を討伐すると言う快挙を成し遂げ、多くの人の命を救ったんです!その上でまだ救えたかもしれない!?馬鹿にしないでくださいませ!皆、決死の覚悟でヒュージと戦っているんです!いつ死ぬかなんてわからない、いつ死んでもおかしくない!それでも!!わたくしたちは戦っていかなければならないんです!貴女の言っていることは、その覚悟を持ってヒュージと戦っている、全てのリリィへの侮辱ですわ!」

 

「いや、でも」

 

「でももかしこもございませんわ!『私の罪』ぃ!?巫山戯るのも大概にしてくださいませ!ならば罰を与えますわ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!それが、その時の貴女の行動の意味そのものです!!」

 

「っ   !」

 

「それと、もう一つ    その方は、何の意味もなく亡くなられたんですの?貴女が居なかったからというだけで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ、と?」

 

「え    

 

 

それを聞いた流瑠の脳内に、2年前の記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『る、流瑠お姉様……美鈴お姉様が、私を庇って……ぐすっ……ヒュージの触手に……それで私、ルナティックトランサーを   

 

 

 

 

 

 

 

『美鈴様の遺体には、ダインスレイフの刀疵も残ってました。恐らくは   

 

 

 

 

 

 

 

『お姉様。ボクはたまに、どうしようもなく、愛する貴女達二人を     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、お姉様。もしもボクに何かあったり、ボクが何かしようとしたら     どうか、夢結を頼むよ』

 

 

 

 

「あ……」

 

「違いますでしょう?本当に貴女がその人のことを思うなら   貴女が背負うべきはその人の命ではなく、『遺志』なのではなくて?」

 

 

(     ああ、そっか)

 

 

 

私は、なんて勘違いをしていたのだろうか。

私は、なんて簡単な間違いをしていたのだろうか。

 

 

彼女は     川添美鈴は、最後の最期に()()()()()()()()()()()のだ。

自分に打ち勝ち、夢結を私に託して逝ったのだ。

 

それなのに私は、「私が悪い」なんて言葉で自分を守って、夢結をほったらかしにして。

「私の罪」なんて言葉で夢結を救った気になって   多分、夢結はまだ苦しんでいる。

 

 

夢結を助けて貰ったのに。夢結を託してくれたのに。

失ったものばかり見て、助けられたものなんて見向きもせず。

そんなんじゃ、夢結に嫌われるに決まっている。

 

 

寄り添ってあげるべきだった。

一緒に悲しんで、一緒に泣いて、一緒に乗り越えるべきだった。

 

 

私はあの日から、夢結にも、美鈴にも。

 

何も、してあげられていない    

 

 

 

「あっ………あぁ………っ!」

 

 

流瑠の目から涙が溢れる。

もう何年も流していなかった。美鈴が死んだ時でさえ、流瑠は泣くことができなかった。

今まで堪えていたものが全て出てしまうかのように、溢れる涙は止まらない。

 

「助けられたもの。本当に貴女がすべきこと。ちゃんとわかりました?」

 

「……うん。わかった。ちゃんとわかったよ、楓ちゃん。だから、だからね」

 

 

流瑠は涙をポロポロと零しながら、楓を見上げた。

 

 

    ギュ〜ってして、いい?」

 

 

「……もう、仕方ありませんわね」

 

 

楓は手を広げ、受け入れる。

 

 

「胸をお貸ししますわ、流瑠様」

 

「……夢結……美鈴……う、うぇ、うわあああああっ!!ああああああああっ     !!」

 

 

 

 

 

 






・流瑠
過去の一端が明かされた。もちろんこれで全部じゃ無いけど。ええ。
気付けばアルトラ級を一人で撃破してた。やべえなこいつ。
でもギガント級程度じゃ流瑠を止められないので仕方ない。
泣いたり泣かせたり忙しい。

・亜羅椰さん
マジで一途なお姉様っ子。梨璃ちゃんへのちょっかいは本当に一時の気の迷いでしかなかったらしい。
筋肉痛状態で楓ママを一方的に叩きのめすレベルに強い。ちょっと強くしすぎたかもしれない。
後半空気だけどちゃんといるよ。

・梨璃ちゃん
主人公なのに最近影が薄い。夢結様とちゃんとシュッツエンゲルになれるか心配になってきた。

・楓ママ
いや、ここまでするつもりじゃなかったんです。流瑠が過去の一端を今言える部分まで話したら、なんか急に楓ママのビンタ+お説教とハグが入りまして……。
こんなことにはなったけど、流瑠をまだ慕ってくれてる良い子。というか、最後は勝負に負けたのにハグまでしてるので役得だと思ってる節まである。っていうか思ってる。

・美鈴様
愛と◾️意の狭間で悩み続けたが、最期の最期で愛を選ぶことができた。
託したい人がいた。託されてくれる人がいた。
きっとそれは、幸福な結末なのだろう。彼女にとっては。



今回は自分の苦手な描写やらなんやらが多くて難産でした……
次は多分時間がかかると思いますが、どうぞお待ちください!

沢山の応援、ありがとうございます!励みになります!なのでもっとください!!(欲張り)


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ブーゲンビリア その4




世界の中心で百合を叫ぶ。



(あれれー?おっかしいぞー?アニメ2話が終わらない……後もう1話で終わる……と思います)



 

 

 

 

 

流瑠は楓の胸の中で暫く泣いた後、まだ涙が溢れる中で、ポツポツと語り出した。

 

 

曰く、その亡くなった人は流瑠にとっても夢結にとっても大事な人だった。

曰く、その人の死因について、「夢結に殺人の疑いがかけられていた」。

 

 

「夢結がそんなことするはずない    夢結のレアスキルのことを含めても、私はそう思った。でも、間に合わなかった私が何を言ったところで、何の証明にもならなかった」

 

「夢結様のレアスキル   『ルナティックトランサー』、ですか」

 

そう、と答え、流瑠は続けた。

 

「ルナティックトランサー。精神を保ったままバーサーク状態になり、暴れまわってしまうレアスキル。でも、夢結は美鈴のことが大好きだった。ほんとに、ほんとに大好きだったの。だから絶対、夢結はやってないって    そう思った。なのに、証明する手段がない。だから、せめて夢結の心だけでも軽くしようと思って、私は夢結に言ってしまったの」

 

 

 

『夢結は悪くない。悪いのは、間に合わなかった私だ』

 

 

 

 

「結果は……見ての通り。夢結はきっと、まだ私の言葉と自分の罪の意識の狭間で苦しみ続けてる。あんな言葉、ただ夢結のことも、美鈴のことも見ようとしていなかっただけ。そんな()()()()()()()()()()()で私は夢結を突き放して……何も、してあげられなかった」

 

「お姉様……」

 

「あはは、馬鹿みたいだよね。夢結のことを思ったつもりが、何一つ夢結のためになんかなってない。

寄り添ってあげるべきだったの。寄り添って、一緒に泣いて、一緒に乗り越えていかなきゃいけなかった。

なのに私は、空回りばっかりして、自分勝手に夢結を傷つけただけ。ほんと、嫌になっちゃう」

 

「私は昔から、何も変われていない」    、そう自嘲気味に笑う流瑠に、楓は言う。

 

「でも、本当にすべきことがわかったのでしょう?なら、今から変えていけばいいのですわ」

 

楓の言葉に、流瑠は「うん」と笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いて、本音を話す。そんなことすら慣れていなかった一人の少女は、泣き腫らした最高の笑顔で

 

「楓ちゃん、ありがと」

 

と伝えると、疲れからかそのまま眠ってしまった。

 

今までで一番「キュン」と来たらしい楓はその場で暫く身悶えしていたが、流瑠は亜羅椰が寮の部屋まで連れて行くということで、亜羅椰と流瑠は梨璃達とこの場で別れることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「楓さん、ちょっといいかしら」

 

梨璃達が訓練場を出る中、楓を呼び止める声があった。

亜羅椰だ。

 

「亜羅椰さん?どうかしまして?」

 

楓が梨璃達に一言断りを入れて戻ってくると、亜羅椰は楓に深く頭を下げた。

 

 

「ありがとう、楓さん。お姉様にあそこまで言ってくれて」

「へっ!?き、急にどうされましたの!?何か悪いものでも口にされまして!?」

 

亜羅椰に頭を下げられると思っていなかった楓は、動揺して変なことを口走る。しかし、普段ならそれに反応するはずの亜羅椰は、静かに言った。

 

「あんなすっきりした顔のお姉様、久しぶりに見たわ。きっと、貴女の言葉でちゃんと泣くことができたからだと思う。だから、ありがとう」

 

「ふぅ…」と息を吐き、亜羅椰は言葉を繋ぐ。

 

「……お姉様は、強すぎたのよ。あまりにも強すぎて、()()()()()()()()()()()()()()()。当然よね。美鈴様が亡くなるまで……いや、美鈴様が亡くなった後も、お姉様と部隊を同じくして亡くなった人間なんて一人もいないのだから」

「一人も……」

 

反芻した楓に、亜羅椰は頷く。

 

「ええ。一人もよ。だから美鈴様の死でとても落ち込んで……私が悪いんだってずっと自分を責めてたのよ」

「そうだったんですの……ん?」

 

亜羅椰の言い方に、楓は疑問を覚える。

 

「その言い草……亜羅椰さん、貴女、お姉様の過去を知ってらっしゃったんですの?」

「…ええ、知ってたわ。というか、長く百合ヶ丘にいるリリィは殆ど知ってるでしょうね」

「な    

 

 

その言葉に、楓は愕然とする。

 

「知っていながら、誰もお姉様に言わなかったんですの!?『貴女の罪なんかじゃない』って!亜羅椰さん、貴女だって」

私だって!!

 

楓の言葉を遮り、亜羅椰は声を荒らげる。

 

「私だって、言いたかった。お姉様を慰めたかった!でも、なんて声をかければいいのよ!?あの場にいなかった私が、『特別な妹』を亡くしたお姉様に、なんて!!」

「特別な、妹?」

 

戸惑う楓に、亜羅椰は少し寂しそうに笑って、言った。

 

 

「そう。亡くなった美鈴様    川添美鈴様は、夢結様のシュッツエンゲルであり      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まででただ一人、流瑠お姉様のシルトだったお方よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「川添、美鈴様……」

「夢結様のシュッツエンゲルで……流瑠様のシルト……?」

「なるほどのう。つまり、夢結様は自分のシュッツエンゲルを手にかけたことを疑われとったわけか。じゃが……」

 

既に訓練場を出ていた梨璃と二水、ミリアムに追いついた楓は、亜羅椰から聞いた話を、三人にも聞かせた。

 

「らしいですわ。で、皆さん。この後ご予定はありますの?」

「あ、いえ、私は特に……」

「ワシもじゃ」

「私も大丈夫ですが、どうされたんですか?」

 

三人に確認を取った後、楓は「本題」を話し始めた。

 

 

 

「おかしいと思いませんか?普通、シュッツエンゲルは上級生と下級生の間で結ばれるもの。夢結様は今2年生ですわね。美鈴様が生きていれば、今何歳だと思いますか?」

 

その疑問に、二水が答える。

 

「詳しくはわかりませんが、最低でも3年生以上ですね」

「では、流瑠様の今の学年は?」

 

こちらには、梨璃が答える。

 

「……3年生、ですね」

 

その答えに、楓は首肯する。

 

「ちびっ子2号、わたくしの言いたいことはわかりますわね?」

「うむ。……学年が合わんの」

 

ミリアムの言葉に「我が意を得たり」といった表情をした楓は、全員に提案した。

 

「ではみなさん。行きましょうか」

「行くって、どこへ?」

「それは   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二水の疑問に、楓は訓練場を出る直前に亜羅椰に言われた言葉を思い出す。

 

 

 

『もし、流瑠様のことについて何か疑問を持つことがあったら    ()()()()()のところへ行きなさい。答えてくれるでしょう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「工廠科、ですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが工廠科じゃ」

「地下にこんな施設があるんですね……」

 

工廠科所属であるミリアムに案内され、真島百由様がいると言う工廠科にたどり着いた四人。

ミリアムのカードキーで扉を開けて、中に入る。

 

「おーい、百由様おるかー?」

 

 

扉を開けた先では    眩い炎が燃え盛っていた。

 

「わっ、まぶし!」

 

それに慣れていないミリアム以外の三人は、眩しさに目を細める。

 

 

「ごきげんよう!ちょっと待ってー、今チャームの刃を硬化処理するところなの」

 

突然の来客に百由は振り向きもせず、自分の作業を続ける。

 

 

百由が梨璃達の方に向き直ったのは、炎が完全に収まり、硬化処理の作業が終わった後だった。

 

 

「いらっしゃーい。梨璃さんと楓さんね。えーっと、貴女は……」

「二水です!二川二水!」

 

二水を見て言葉を詰まらせた百由に、二水は鼻血を抑えながら答える。

 

「よろしくー二水さん。今いいところなの」

 

 

挨拶と状況説明を同時に行うマイペースさはいつも通りに、百由は来客を前にしてまたもチャームの方へ向き直った。

 

「さあ、上手くいってよー……」

 

どうやら、作業が終わらなければ話はできそうにない。仕方なく梨璃達は、百由と共にチャームを見守った。

 

 

と、持ち上げられたチャームの刃が「パキンッ!」と音を立てた。

 

「……あ……あぁぁ……!!この一月の努力の結晶がー!!」

 

 

初めて見る梨璃達には何が何やらちんぷんかんぷんだったが。

どうやら失敗であったらしいことだけは、梨璃達にも理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。流瑠様の学年ねー。それで私に話を聞きに来たってわけかー」

 

チャームについて一通り百由とミリアムから聞いた梨璃達は、一度ラウンジに場所を移し、改めて百由に話を聞くことにした。

百由はまるで暫く食事を摂っていなかったかのように   いや、性格を考えると実際に摂っていなかったのだろうが   食べまくった後、梨璃達に話し始めた。

 

 

「流瑠様に疑問を持ったら、百由様に聞けばいいと、亜羅椰さんから聞きました。教えていただけるんでしょうか?」

 

その言葉に、百由は目を閉じる。

 

「……本人が望まないことを、私がペラペラと喋るわけにはいかないわ。リリィは税金も投入される公の存在であるけど、その個人情報は本人がそれを望まなければ、一定期間非公開にされるの。個人の心理状態が戦力と直結する上に、()()()()()10代の女子ともなれば……まあ、仕方ないかもね」

 

それは、梨璃が流瑠に夢結のことを聞いた時と同じ答えだった。

 

「……つまり、教えていただけない、と?」

「いや、教えたげるけど?」

「…………は?」

 

先ほどまでの自分の話とは真逆の答えを言う百由に、梨璃達は呆気に取られる。

 

「な、なぜですか!?さっき本人が望まなければ話せないって」

「そりゃ、本人が望んでるからよ。『自分の口からじゃなくて、私の口から言って欲しい』ってね。自分からは言いにくいんだそうよ」

 

あっけらかんとしたその答えに、梨璃達はさらに戸惑う。

 

「なら百由様、さっきの『本人が望まなければどうとか』という話はなんじゃったんじゃ?」

「あれは話の枕だよー。で、知りたいんでしょ?流瑠様の秘密」

 

百由は先ほどまでとは一転して、真面目な表情になる。

 

「ま、まあ、教えていただけるならいいのですが……」

「言っとくけど、これ他言無用ね?流瑠様からこの話を伝える条件は、『真島百由、もしくは理事長・理事長代行の口からだけ』って条件がついてるから」

「わ、わかりましたわ。皆さんもよろしいですわね?」

「は、はい!」

「わかりました!」

「了解じゃ」

 

全く雰囲気の変わった百由に、梨璃達も自然と背筋が伸びる。

 

顔つきの変わった梨璃達に、百由は話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四世代型チャームって、みんな知ってるかしら?

 

あ、楓さんはグランギニョル総帥の娘さんだっけ。なら知ってるわよね。

 

 

 

第四世代型チャーム。別名、「精神直結型チャーム」とも言われるわ。今開発が進んでる「第五世代型」の前の機体構想ね。

脳とチャームを直接繋げて    って言っても、もちろん無線よ?正しくは脳波とチャームを感応させてるんだけど、まあそれは置いといて。

 

これ、遠隔操作もできる優れものなの。つまり手で持たなくても、思考するだけで勝手にチャームが動いてヒュージを倒すの。もちろん、操作できる範囲に限界はあるけどね。凄いでしょ?

 

 

でも、そんなチャームを使ってるリリィ、見たことある?

無いわよね。私もほとんどないわ。

なんでこのチャームが普及してないのか。それはもちろん、このチャームに大きな    「欠陥」とも言える問題があるからよ。

 

 

 

それが    運用するリリィの、精神への大きな負担。

使ったら頭が痛くなった、気分が悪くなった、とかならまだいいわ。

継続的な偏頭痛、幻覚、幻聴、偏執病(パラノイア)   これでもまだ、症状としては軽い方。

 

 

最悪のケースは、発狂、精神崩壊    そして死亡。

こうなることは、第四世代型チャームを作る前    構想の段階から、だいたい予測がついてたの。

でも、それでもこのチャームは作られた。ひどい話よね?リリィがダメになるってわかってて作るんだから。

 

 

 

 

 

   え?なんでこんな話をするのかって?

 

そりゃもちろん    流瑠様に関係のある話だからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流瑠様はね。第四世代型チャームが作られる前、まだ構想の段階の時に、『第四世代型チャームに適応できるように調整されたブーステッドリリィ』、その唯一の成功例なの。

 

 

 

流瑠様は18歳の時まで普通の学生として暮らしてたんだけど、G.E.H.E.N.Aに攫われてブーステッドリリィになったの。

 

G.E.H.E.N.Aで流瑠様は、ありとあらゆる施術を受けたわ。

 

エーテルボディ(分身)エンハンスメント(強化)アルケミートレース(血液操作)アストラルガーター(無毒化)マギリフレクター(マギの盾)オートヒール(治癒)ドレイン(吸収)連続強化補助(特定スキル強化)……そして、リジェネレーター(瞬間回復)ノスフェラトゥ(老化停止)、その他もろもろの身体能力強化実験。

 

普通のリリィは、どれか一つでも耐えきれればいい方。優秀なブーステッドリリィは3つか4つくらいかしらね。それ以上施術すると    はっきり言って、命の保証はないわ。

 

 

でも流瑠様はそれらに全て耐えた。耐え切ってしまった。そして最後の施術    第四世代型チャームへの適応のための施術をされた後に、それは起こった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

当然、実験を行なった連中は焦ったわ。これでは戦力を低下させただけだと。

 

でもね、違った。流瑠様は元のレアスキルを失ってしまう代わりに、新たなスキルを手に入れたの。

 

 

 

 

それが    フリーレン(停滞)」というスキルよ。

 

流瑠様はあのスキルを「ヒュージやマギを凍らせるスキル」だって説明するけど、実際は少し違うわ。

「フリーレン」というスキルはまず、自分の近くにあるマギの活動を極端に減退    いえ、この言い方は違うわね。マギの運動を()()()()()させることができるの。流瑠様がよく使うヒュージの凍結。あれは、ヒュージの身体を構成するマギの分子運動が完全に停止した結果、極端に低温になって、ヒュージの周りの水分まで凍らせてるって状態なの。

さらに、自分に干渉してくるヒュージエナジーやマギによる攻撃も停止させることができる強力な力よ。

その代わり、本人は周囲のマギ濃度上昇による身体能力の向上の恩恵を受けづらいんだけど……まあそこまで影響はないわね。

 

 

で、「フリーレン」の二つ目の効果なんだけど   え?終わりじゃないのかって?まだまだあるわよー。

 

2つ目の効果は、「身体の成長の停止」よ。これは「ノスフェラトゥ」が「フリーレン」に統合された結果とも言われているんだけど、流瑠様は施術を受けた18歳の時から、一切身体の構造が変わっていないわ。テロメアの長さも全く変わってなくて、要するにヘイフリック限界が……え?そういうのはいい?

まあつまり、流瑠様は施術を受けたウン年前からずっと、18歳の身体のままなのよね。

 

 

3つ目の効果は    大丈夫大丈夫、これが最後だから。

3つ目は、「精神の停滞」。これのせいで、流瑠様の精神は18歳の時から殆ど成長していないの。

……あ、心が無くなっちゃったとか、感情が動かなくなったってわけじゃないわよ?単に、「経験という外的刺激による精神の成熟」が無くなった……いや、かなり遅くなったってだけ。まあ、「だけ」って言ったらダメなんだけどね。

 

総合すると、この「フリーレン」っていうスキルは、「持ち主の変化を拒絶するもの」であると言ってもいいわ。実験やらなんやらで、散々変化させられてきた身体の拒絶反応、ってことなのかしらね……。実際にこのスキルが発現して以降、G.E.H.E.N.Aによる流瑠様へのブーステッド施術は、何の成果も残せなかったらしいわ。

 

 

……で、この3つ目の「精神の停滞」。これが連中の欲しがってたものなの。

 

精神の成長が停滞すると言うことは、「外部からの刺激に強くなる」ってこと。これを、脳や精神への負担が大きいってわかりきってる第四世代型チャームの実験に使えないかって連中は思ったのね。

 

 

え?それなら最初から廃人にして、その人に第四世代型を使わせればいいって?

 

いやいや、そう簡単な問題じゃないのよ。

言ったでしょ?第四世代型チャームは、「思考することで動く」の。被験者を廃人にしたところで、思考能力が無ければなんの意味もないのよ。

それに、G.E.H.E.N.Aは()()()「正義の会社」よ。表立ってわざとリリィを廃人にしたりはしないわ。それ以外のことならなんだってやるけどね!

 

……あ、ちょっとムカっ腹が立ってきたわ。ごめんなさい。

 

 

……ふぅ。どこまで話したっけ?……ああ、外部刺激に強くなるってところまで話したかな?

 

まあ、結果的に連中の実験は成功したわ。流瑠様は第四世代型チャームに完全に適応した。ええ、()()()よ。流瑠様はどれだけ第四世代型のチャームを使っても、何のデメリットも後遺症もなかったわ。

 

そのおかげで    というのは完全に皮肉だけど、第四世代型チャームの研究は飛躍的に進んだわ。理論の確立から完成まで、一足で飛び越えたの。

第四世代型チャームは、流瑠様のおかげで短期間で完成をみた。

でもね、一つ問題があったのよ。

 

 

    第四世代型のチャームを扱えるリリィが、少なすぎたの。

 

いないわけじゃないわ。でも本当に少ないの。第四世代型が完成してから、この結論   ほとんどのリリィが扱える代物じゃないっていう結論が出るまで、どれくらいのリリィが犠牲になったと思う?

正直数えたくもないわ。夥しい数のリリィが、この第四世代型の適応実験で亡くなっていったの。

しかも、仮に適応したとしても、使い続ければ廃人化する子も少なくなかった。

 

 

流瑠様は    悲しんだわ。自分が第四世代型を完成させてしまったために、多くのリリィが犠牲になったと、そう思ったの。自分が適応しなければ、第四世代型が完成することもなく、リリィの犠牲も少なかったんじゃ無いかって。

 

 

そんな悲しみに暮れていた流瑠様を、G.E.H.E.N.Aの連中はどうしたと思う?

 

 

 

   ガーデンに丸投げしたのよ。「もうお前に弄れるところはない、お前に研究価値は無い。あとはせいぜい戦闘で役に立て」ってね。

しかも、第四世代型に適応するリリィが少なすぎることから、研究は頓挫。殆どの企業で開発は打ち切られ、その後すぐに第五世代型の研究に切り替えられているわ。

 

 

 

 

自分の関わった研究は役に立てず、闇雲にリリィの犠牲を増やしただけ   そんな思いの中で捨てられた流瑠様を哀れに思ったのが、当時既に百合ヶ丘女学院の理事長になっていた、高松祇恵良(しえら)理事長よ。

 

 

理事長は、流瑠様を高等部の3年生として迎え入れることにしたわ。この学院で、流瑠様は狂った様にヒュージを倒した。何体も何体も、まるで第四世代型に適応できず死んでいったリリィ達に贖罪するかのように。

 

でもね、迎え入れられたのはいいけど    流瑠様は()()()()()()()()の。

 

 

卒業したところで、身体も心も成長しない自分は、周りに置いていかれるだけ。それを流瑠様は悟ってたのね。しかも、ガーデンを卒業すると言うことは、「戦闘の最前線から離れる」という意味でもある。

 

流瑠様は   ヒュージとの戦闘を、心の拠り所にしてしまっていたの。自分のせいで死んでしまったリリィ達への贖いと、戦いの運命の中で命を落とすかもしれないリリィ達を守ること。それを、ヒュージと戦うことでしか実感できなかった。

 

 

それで、祇恵良理事長は流瑠様を特別に、このガーデンの3年生として無期限で在籍させることにしたの。これが、貴女達が求めてた答えよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   流瑠様は百合ヶ丘の永遠の3年生として、多くのリリィを見守り、見送ってきたわ。心も身体も傷つくリリィ達を、時には鍛え、時には癒し、守り、共に戦ってきた。この百合ヶ丘の卒業生に、流瑠様のお世話になっていない人なんか殆どいないでしょうね。

本人は『みんなのお姉ちゃん』なんて自嘲気味に言うけど   彼女は本当に、本当に多くのリリィにとっての(守護天使)なのよ」

 

 

 

 

      。」

 

その話は、四人にとってはあまりにも凄絶だった。

何も言えない。何かを口に出すことさえ憚られる。

 

 

G.E.H.E.N.Aの実験で成長を失った?

第四世代型の研究で多くの犠牲を出した?

ずっと3年生として、この百合ヶ丘で贖いのために戦い続けてきた   

 

だとしたら、彼女の運命はあまりにも    

 

 

 

 

「……(むご)い」

 

「……そうね。確かにその通りだわ……。

……でもね、そんな流瑠様のリリィとしての生活の中でも、大きく流瑠様を変えるできごとがあったの。精神の成長が停滞したはずの流瑠様を、ね。それが   流瑠様のシルト、美鈴様との出会い」

 

   それって」

 

「おっと言いすぎたー!あとは本人に聞いてー。教えてくれるならねー」

 

 

「じゃあ私はこれでー」と去っていく百由を追える者はいなかった。

 

 

 

 

 





・流瑠様
過去が明かされた。入学初日に明かされる情報量じゃない。お前(情報量が)重いんだよ!
実年齢?永遠の18歳だから……(震え声)

・百由様
流瑠様の過去を暴露。こういう話をする権限を持っている程度には流瑠と関わりが深い人。流瑠様の扱いには科学者として思うところがある様子。

・美鈴様
夢結様のシュッツエンゲルで流瑠様のシルト。流瑠様から戦闘訓練で一本取ったやべーやつ。推しを曇らせる趣味とか持ってそう(偏見)


沢山のUA、お気に入り、感想、評価等ありがとうございます!
百合を求める多くの人に喜んでいただけるよう、精進して参ります!


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ブーゲンビリア その5




百合はNLより尊し。





(終わんねぇぜアニメ2話!仕方ないからこのままいけるところまで突き抜けるぜ!)



 

百由の話を聞き終わった後。

その場にいた四人ともが、暫く何も喋らなかった。

 

テーブルを沈黙が支配し、周囲の生徒たちの会話すら聞こえてこないほどの静けさの中、梨璃・楓・二水・ミリアムはそれぞれに、百由の話を自分なりに噛み砕いていく。

 

 

 

 

やがて紅茶も冷めてしまった頃、最初にその沈黙を破ったのは、ミリアムだった。

 

 

「はぁ……。まさか、こんな特大の爆弾が出てくるとはの……」

 

一人が話し始めれば、次々と言葉は出てくる。

 

「……楓さんは、亜羅椰さんから百由様に聞けって言われたって言ってましたけど……亜羅椰さんも知ってたんでしょうか?」

「ま、十中八九知っとったじゃろな。じゃなきゃそんなことは言わん」

「そうですよね…」

 

そう話し合うミリアム、二水、梨璃とは反対に、俯いたまま黙っている楓。顔は、長い髪に隠れて見えない。

梨璃とミリアムは、楓が落ち込んでいると思い、気を遣って話しかけた。

 

「楓さん……」

「おい、ショックなのはわかるが、ここで落ち込んでても何も変わらんじゃろ。今日はもうゆっくり休んで    

 

「梨璃さん!」

 

ミリアムの声を遮り、楓がガタンと立ち上がる。

「わっ!?」と驚く梨璃の声も気にせず、楓は続けた。

 

「梨璃さん。協力すると言った手前で申し訳ないのですけれど、夢結様のシュッツエンゲルの件、少しだけ待っていただいてもよろしいでしょうか?」

「え?あ、はい。大丈夫ですけど……ど、どうしたんですか?」

 

 

顔を上げる楓。その眼は爛々と輝いており、ショックを受ける   どころか、むしろイキイキとしているようにすら見える。

 

 

「……わたくし、また一つ流瑠様のことを知ることができました。流瑠様の学年に関する疑問も解決して、わたくし    とてもスッキリしましたわ!!

 

精神が成長しない?だからなんですの?

身体が成長しない?それがどうかしまして?

どれだけ言葉を並べ立てようと、『失ったものよりも多くのものを守る』ために、そして『もう失わない』ために何年も何年も戦ってきたお姉様のリリィとしての道に、嘘なんかございませんわ!!

 

やはりお姉様は素晴らしいリリィです!『()()()()()()()()()()()()()()()()()』!お姉様は守護天使(シュッツエンゲル)そのものと言っても過言ではありませんわ!!

自分を責めすぎてしまうのが玉に瑕ですが、そんなお姉様だからこそ!わたくしはあの人の『妹達の一人』ではなく!『特別な存在』になりたいのですわ!!!

というか身体が成長しないとかずっと今のお姉様を愛でられるのでむしろオトクなのでは?触り放題なのでは!?」

 

 

「「………へ?」」

「いや、触り放題ではないじゃろ……」

 

唐突に異様なテンションで思いの丈を吐き出し始めた楓に、困惑する二人とツッコむミリアム。

そんな三人の様子にハッとしたのか、楓は席について一度息を整えた。

 

「……コホン。つまりですね。わたくし、そんなマジ天使(エンゲル)であるお姉様が、特別に大事にしていらっしゃった美鈴様の忘れ形見である夢結様とすれ違っている現状がどうしても許せませんの。

なので   お二人で、ちゃんと本音で話し合っていただきたいのです。どうもあのお二人、どこかですれ違っているだけのような気がしますので……ちゃんと話せば、分かり合えるはずですわ」

 

流瑠、夢結、そして亡くなったという美鈴。この三人の関係こそが、流瑠と夢結双方の問題の原因であると、楓はあたりをつけた。であれば、今できる最高の処置は、夢結と流瑠が仲良くなることだ、と楓は考えたのだ。

それは、梨璃にとっても望んだことに他ならない。

 

「楓さん……うん!私も、流瑠様と分かり合えれば、夢結様もきっと昔みたいに戻ると思う!」

「じゃの。わしも何かできるなら協力するぞ」

「楓さん、いいこと言いますね!」

 

三人の同意に、楓は安心した様子をみせる。

 

「……ありがとうございます、皆さん。この話し合いがうまくいけば、おそらく夢結様と梨璃さんのシュッツエンゲルの件も少しは難易度が低くなると思いますの。ご協力をよろしくお願いいたしますわ」

 

 

    それ、(まい)も興味あるなー。協力させてもらっていいか?」

 

突如として、四人の話に入ってくる人影。それを見て、二水はまた鼻血を抑え始めた。つまり   二水の鼻血で判断するのはいかがなものかとは思うが   彼女は名の知れたリリィであると言うことに他ならない。

 

「協力の申し出は嬉しいですが……貴女は?」

 

楓の疑問に、口では「悪い悪い」とはいいながらも悪びれる様子もなく、乱入者    緑のショートヘアの少女は自己紹介を始めた。

 

「話が聞こえちゃってさ。私は吉村(よしむら)Thi(てぃ)(まい)。二年生だゾ」

「これは失礼しましたわ、梅様」

 

楓の言葉に「気にするなー」と緩く答えると、梅は言葉を続けた。

 

「流瑠様と夢結を仲直りさせるんだろ?私も流瑠様にはお世話になったし、夢結のことも気になってたしなー。それに、そこの子は夢結のシュッツエンゲルになりたいんだって?」

 

梅は梨璃の方を見つめる。その視線は、品定めしているというよりは   単純に、興味深いものを見るような、好奇心に満ちた目だった。

 

「は、はい!私、一柳梨璃です!」

「わたくし、楓・J・ヌーベルですわ。こちらが、ちびっ子1号と2号」

「1号じゃありません!二川二水です!」

「2号こと、ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスじゃ。よろしくな梅様」

 

それぞれの自己紹介を聞くと、梅は満足げにうんうんと頷いた。

 

「そっかそっか!梨璃に、楓に、二水に、ぐろっぴだな!よろしくなー。

……夢結もきっと、シルトができれば色々変わると思うんだよな。梨璃には期待してるゾ」

 

梅は一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに元の元気な笑顔に戻る。

 

「二人に話し合いをさせるんだったか?なら、私は夢結の説得に行ってくる。お前達には流瑠様を任せたいんだけど、いいか?」

 

その提案に、梨璃は待ったをかける。

 

「梅様、私も夢結様の説得に行きたいです!だ、ダメですか…?」

「おっと、そうだったな。もちろんいいゾ。梨璃は夢結のシュッツエンゲルになりたいんだもんな。楓達も、それでいいか?」

 

寛大な梅に、楓も頷く。

 

「ええ、それはもちろん……なのですが、梅様。梅様も、流瑠様の学年の件、ご存知なんですか?」

「おう、知ってるゾ」

 

楓の言葉に、何でもないかのように答える梅。少しは気まずそうな顔をしたり、答えにくそうにするかと思っていた楓は、梅の反応に拍子抜けしてしまった。

 

「流瑠様も色々苦労してるよな。……でも結局さ、みんな何かしら苦労してるんだし、ここには流瑠様みたいなG.E.H.E.N.A出身のブーステッドリリィだってたくさんいる。誰が流瑠様みたいな苦労を経験してもおかしくない状況だけど、その苦労を通り越して、流瑠様は梅達のことみーんな、「大好きな妹だ」って可愛がってくれてるんだ」

 

流瑠のことを話す梅は嬉しそうで、まるで自慢の姉を自慢している妹のような語り口だった。

 

「身体の成長が止まってようが、心の成長が遅かろうが関係ない。さっき、楓が言ってたろ?梅たちもみんな、同じ考えだ。

百合ヶ丘の2年生以上や中等部から通ってる生徒は、ほとんどみんな流瑠様の過去のこと知ってるけど……入学式の、流瑠様が出てきた時の歓声、聞いただろ?あれが答えだ。みんな、流瑠様のこと大好きなんだゾ!」

 

そう締め括る梅に、「その通りですわ!」と楓は一度大きく頷くが、その後すぐに思案顔になった。

 

(んん……?それってつまり、この学園の大半がわたくしのライバル……?)

 

その事実に気づいて愕然とする楓。「ちなみに、流瑠様とのシュッツエンゲルは例外的に3年生でも結べるゾ」という梅の一言で追い討ちを喰らい、さらに頭を抱えることになった。

 

 

「やだ……わたくしのライバル、多すぎ……!?」

「あっはっは。流瑠様のシルトには並大抵の努力じゃなれないゾ。がんばれよ楓ー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨璃達がラウンジから出ると、既に外は夕焼けに染まり始めていた。

 

時計を見ると、時刻は4時ごろ。ここからは短期決戦だ。

 

 

 

楓たちは、この話し合いを「明日には持ち越さない」と決めていた。

 

先程百由に聞いた話を信じると、流瑠は「フリーレン」の影響で心の成長が乏しい状態にある。しかし、楓が流瑠を引っ叩いた時、流瑠は涙を見せ、楓の「今から変えていけばいい」という言葉にも頷いた。

 

どんな理由があるのかはわからないが   いや、理由なんて無いのかもしれないが、流瑠はあの時、間違いなく「心を揺り動かされた」のだ。

流瑠の心は、今まさに成長しようとしている。ならば、それを次の日まで持ち越すのは悪手。楓たちはそう判断したのである。

 

 

上級生が生活しているという旧館へ一同が歩く中、楓は梨璃に顔を向けた。

 

 

「……梨璃さん。改めてお聞かせください。梨璃さんは、何故夢結様とシュッツエンゲルを結びたいのですか?」

 

「え」と歩みを止める梨璃。ミリアムも、「それ、今聞かにゃならんことか?」と足を止めた。

 

「聞かなければならないことですわ。どうなんですの、梨璃さん?」

 

楓の言葉に暫く俯いて考えた梨璃は、顔を上げて言った。

 

「……私、昔夢結様に助けていただいて……夢結様に憧れてリリィになりました。でも、夢結様は昔と全然違って……何が夢結様を変えたのか、夢結様が胸の内に何を抱えているのか知りたかったんです」

 

「それは   」と言いかける楓を制して、梨璃は続きを話す。

 

「多分、夢結様のシュッツエンゲル、美鈴様のことなんだと思います。夢結様は、それをずっと気にして……だから私、夢結様に笑顔になって貰いたいんです!私を助けてくれた夢結様を、今度は私が助けたい!」

 

「それを、夢結様が望んでいなくともですか?それとも、梨璃さんなら夢結様を変えられる、と?そんなのは、エゴでしかありませんわよ?」

 

厳しい顔の楓に、「それは、そうかもだけど……」と再度俯く梨璃。

しかしそれも束の間。「でも!」と梨璃は、決意に満ちた顔を上げる。

 

「それでも、私は夢結様を助けたい。夢結様のことをもっと知りたい!

夢結様にシュッツエンゲルを断られても、仕方ないかもしれません……。けど、何かする前から諦めたりしたくないんです!」

 

 

梨璃の決意を聞いた楓は、ふっと息を吐き、顔を綻ばせた。

 

「……それでよろしいのですわ、梨璃さん。自らの望みを叶えるためには、それが人のためだと思っても、多少エゴにならなければならない時もあるでしょう」

「楓さんは多少どころじゃない気も……」

「おだまりちびっ子!」

 

「とにかく!」と、二水と言い合いをしていた楓は梨璃の方に向き直り、手を握った。

 

「わたくし達の動機は流瑠様と夢結様のためですが、これがエゴであることも忘れてはいけませんわ。……同時に、だからこそエゴイスティックに自分の目的を突き詰めていくことも、重要なことですわ。

……先程の夢結様への思い。全部ぶつけてきてくださいな、梨璃さん」

 

「……!はい!ありがとう、楓さん!」

 

「じゃあ行ってきます!」と、梨璃は楓の激励に満面の笑みを浮かべ、夢結の部屋へ走っていった。

その後ろで、久しぶりの笑顔にノックアウトされかけている楓に気付かずに。

 

(あ〜!やっぱり梨璃さんかわいいですわぁ〜!ナチュラルにスキンシップもできましたし、梨璃さんのモチベーションも上がったしで、いい事づくめでしたわね!!さて、次はどんな手で……グフフ……)

 

それを見ていた二水は、楓に白い目を向ける。

 

「楓さん、顔が邪悪な感じになってますよ……」

「え、ええ〜?この顔のどこが邪悪だといいますの〜?二水さんったら〜オホホホ」

「わざとらしいのう……」

 

二水の言葉に目をパチクリさせて言う楓に、二水とミリアムはため息をつく。

そのやりとりを見ていた梅は、楽しそうに笑った。

 

「あっはっは!やっぱり面白いなーお前達!

お前たちなら、もしかしたら夢結も、そして流瑠様も……

 

「……?何かおっしゃいまして?というか、梨璃さんを追いかけた方がよろしいのでは?」

 

楓の言葉に、梅も「おっとそうだった」と梨璃の方へ走り出す。

 

「じゃあそっちは流瑠様を頼んだゾ!」

 

「ええ、お任せくださいな」

 

こうして二組は、互いの戦場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……」

 

「流瑠様の部屋、ですね」

 

 

楓、二水、ミリアムは、流瑠を説得するため、旧館に来ていた。入学初日から旧館に入る一年生を見て不思議そうにしている上級生達の視線を感じながら、三人は流瑠の部屋にたどり着いた。

 

「流瑠様、さっき寝ちゃってましたけど、起きてますかね?」

「どうでしょう……しかし、この話を明日に回す手はないですわ」

「んなら、叩き起こしてでもいくしかないじゃろ」

 

 

   あら、その様子だと、百由様から色々聞いたみたいだわね」

 

ぐずぐずと話している三人の後ろから、今日散々聞いた声が話しかけてくる。

 

「亜羅椰さん……」

「お姉様なら中で待っているわ」

 

そう言って流瑠の部屋の扉を開ける亜羅椰。三人は「お邪魔します……」としずしずと中に入っていった。

 

 

 

 

 

流瑠の部屋は、あまり物がなかった。

目立つものといえば、一つのベッドに二人がけ程度のソファとテーブル、小さな本棚を兼ねたラックと写真立てくらいだった。

 

 

「……いらっしゃい、三人とも」

 

流瑠は、そのベッドの上に座っていた。窓から差し込む夕焼けが逆光になり、流瑠の表情はよくわからない。

 

「流瑠様、ごきげんよう。お昼はありがとうございました」

「ううん、こちらこそ。昼は情けないところを見せちゃって」

 

申し訳なさそうな流瑠の言葉に、「そんなことありませんわ!」と楓は首を振る。

 

「流瑠様の気持ちが少しでも楽になったなら、これほど嬉しいことはありません!」

「あはは、ありがと」

 

流瑠は曖昧に笑うと、声音を少し変えた。

 

「……亜羅椰ちゃんから聞いたよ。百由から話を聞いたんでしょ?」

 

その言葉に、二水とミリアムはビクッと反応した。

それを見て流瑠は笑って言った。

 

「気にしなくていいよ。私が百由に、知りたい人には教えてあげてって頼んでることだから」

 

その言葉に二水とミリアムはわかりやすく「ほっ」とするが、楓は口を開き、本題を話す。

 

「でしたら、話は早いですわ。わたくし達、流瑠様と夢結様に仲直りしていただきたいんですの。しっかりと、話をして」

 

それを聞いて、流瑠は目を見開いた後、申し訳なさそうな様子になった。

 

「……入学初日の後輩にこんなに気を遣わせちゃうなんてね……みんな、本当にありがとう」

 

 

流瑠は三人に礼を言った後、ベッドから立ち上がり、ラックに置かれていた写真立てを持ってきて、三人に見せた。

そこに写っていたのは、満面の笑顔で写真に映る三人の少女達。

 

 

「これは……流瑠様、夢結様と    

「真ん中の方が、川添美鈴様、ですか?」

 

二水の言葉に、流瑠は頷く。

 

「そう。これが美鈴。夢結のシュッツエンゲルで、私のシルト。

私たちは、『ノルン』だったんだ」

「ノルン…か」

「1、2、3年生のシュッツエンゲルとシルトの関係で構成される、三姉妹のことですわね」

 

「まあ、当時の夢結は中等部三年、美鈴は高等部一年だったんだけどね」と流瑠は補足する。

 

「この写真の夢結様……いい笑顔ですね……」

「ええ、今では考えられないくらいですわ」

 

二水と楓の言葉に、流瑠は寂しげに笑う。

 

「そうでしょ?美鈴と一緒にいた時、夢結はとっても穏やかに笑ってた……」

 

一旦言葉を区切った流瑠は、三人に顔を向けた。

 

「……私たちの話、聞いてもらっても、いい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と美鈴はね、美鈴が中等部3年生の時に出会ったんだ。美鈴が私のシュッツエンゲルの戦闘訓練に興味を持って   多分最初は、美鈴は腕試し程度に考えていたんじゃないかと思うんだけど   美鈴に勝負を挑まれた。

 

もちろん勝ったよ?でも、美鈴は中々諦めなくてね。私に勝負を挑み続けた。それで、その年の夏頃かな?美鈴は私から一本取ったんだ。

 

初めてだったよ。一撃当てられて、私は本当にびっくりした。

それで、美鈴は私のシルトに、私は美鈴のシュッツエンゲルになったの。

 

 

……百由から話を聞いたなら、これも聞いたかな?私、美鈴と出会って変わったんだ。

 

それまでの私は、ヒュージと戦うことを第一に考えてた。第四世代型チャームの犠牲になった子が倒すはずだったヒュージを倒す。ヒュージを倒すことで、ヒュージに殺されるリリィを一人でも減らす。ヒュージを減らすことで、G.E.H.E.N.Aに「酷い実験をしなくてもヒュージは倒せる」ことを知らしめる    と、色々言葉を並べても、結局私はヒュージとの戦闘に固執して、依存していたってだけなんだけど。

 

でも、美鈴といるとね、なんて言うんだろうな……。『グルグル同じところを回って終わらない道に、他の道が作られていく感じ』っていうか……。

私は、美鈴といる間は、ヒュージと戦うこと以外を考える頻度が増えた。例えば……後輩の育成とか、学院内の揉め事をどうにかしたいとか。あと、それまでもずっと思っていたことではあるけど、美鈴と出会ってから、リリィのみんなのことも、もっともっと好きになった。年上として   お姉ちゃんとして守りたいって思ったし、愛してるって思った。

 

もちろん、美鈴のことも大好きだった。

美鈴は不思議な子でね。超然的な雰囲気なんだけど、どこか抜けてるところがあって、一緒にいて楽しかったんだ。

 

私はいつの間にか、美鈴にとても心を許していて……美鈴もいつの間にか、二人でいる時は私のことを「流瑠」って呼んで、敬語も抜けるようになった。一緒に遊んだり、プレゼントを贈りあったりもした。お互いに本音を曝け出して、愚痴を言ったり、秘密を喋ったりした。そんなことをしたリリィは、美鈴が初めてだった。

 

美鈴は、私の中で「特別」になったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の年、美鈴は高等部になった。

高等部になってすぐ、美鈴は生徒会に入って   シュッツエンゲルにもなった。つまり、シルトができたんだ。

 

それが、夢結。美鈴から聞いたところによると、夢結から美鈴にお願いしたらしいよ?「私を美鈴様のシュッツエンゲルにしてください」って。

 

私と美鈴は、それはもう夢結を可愛がったし甘やかした。

夢結は真面目で素直で、あんまり笑うのが得意じゃなかったけど、笑顔がとっても素敵な子だった。

夢結も夢結で、私や美鈴……特に美鈴にはすごく良く懐いて、中等部と高等部は校舎も寮も違ったけど、よく会いにきてたよ。夢結に出会って、私はリリィのみんなの笑顔を見るのが大好きになった。

 

私と美鈴と夢結で、色々やったよ。美味しいもの食べたり、ヒュージを倒したり、一緒に訓練したり、夢結の希望でオペラを見にいったり、美鈴が欲しがってた本を買うために関東中を駆けまずり回ったり……短い間だったけど、本当に楽しかった。

 

 

 

 

……そんな日常が終わったのが、甲州撤退戦の時。

夢結は当時中等部三年生だったけど、緊急事態だったから、美鈴と一緒にアールヴヘイム   あ、今のアールヴヘイムじゃなくて、前のアールヴヘイムね   に組み込まれた。

私?私は単独行動。他のレギオンが作戦に集中している間、私ははぐれたヒュージを討滅したりとかね。

 

 

……あとは、昼間話した通り。私は急に現れた巣無しのアルトラをどうにか倒したんだけど……マギをオーバーロードしすぎてすっからかんになり、さらに最後の悪あがきを食らって致命傷。どうにか夢結達のところにいこうとしたんだけど、出血が多すぎて気絶しちゃって……

 

 

 

 

目が覚めた後、美鈴が死んだって報告を聞いたの」

 

 

 

 

 

 

 

流瑠は言葉を切って、「はぁ……」と息をついた。

 

 

「その報告を聞いた時、私は涙すら出なかった。現実感が無くて、なんで夢結が泣いてるのかも、なんで夢結が美鈴を殺したとか言われてるのかも、全然わからなかった。

ただ、心に大きな大きな穴が空いて……何もできなかった。夢結にも、夢結を守って死んだ美鈴にも報いてあげられなかった。

 

でも、美鈴が死んでも、美鈴や夢結が私にくれたものは無くならなかった。

ヒュージを倒すことだけじゃなく、リリィのみんなのことを考えたり、「みんなのお姉ちゃん」としてみんなを導いていこうって思えたり。あと、リリィのみんなの笑顔を見ると、なんだか救われた気分になったり。

 

私がこうして立ち直れたのは、みんな美鈴と夢結がくれたもののおかげ。

それなのに……私は夢結に何もしてあげられなかった」

 

「流瑠様……」

 

 

夕焼けは段々と落ちていく。逆光が無くなって見えた流瑠の顔は     静かに、涙を流していた。

 

「楓ちゃん。みんな。私……夢結と、仲直りしたいよ。

今までしてあげられなかったこと、いっぱいしてあげたい。一緒に悲しんで、一緒に喜んで、一緒に居たい。

だから     私に、勇気をください」

 

 

    もちろんですわ、お姉様」

 

流瑠の言葉に、楓は頷いて流瑠に近付き    ハグをした。

 

「ぎゅ〜っ……ほら貴女達も

 

え、わ、私なんかが流瑠様にハグなんていいんでしょうか?

 

ま、ええじゃろ。役得と思っておくんじゃな。楓の性格からすると、この機会しかハグなんかできんかもしれんぞ?

 

そ、そうですね!ぎゅ〜っ、です!」

 

「ぎゅ〜っ、なのじゃ」

 

「わっ、わっ?」

 

 

後輩三人にハグされた流瑠は、戸惑いを隠せない。

オロオロしている流瑠に、もう一人後輩が近づいてくる。

 

「お姉様。僭越ながら私も……ぎゅ〜っ」

 

「あ、亜羅椰ちゃんまで……」

 

楓、二水、ミリアム、そして亜羅椰。四人にハグされた流瑠は、戸惑ってばかりだ。

楓はそんな流瑠に向かって言う。

 

「流瑠様お姉様。貴女は今、()()()()()()()()()()。蛹が蝶になるように、貴女は進歩……いえ、進化しようとしているのです。

大丈夫。貴女なら   前に進めますわ」

 

「そうですよ流瑠様!私、応援してます!」

 

「流瑠様、ファイトじゃぞ!」

 

口々に皆が応援する中、亜羅椰は苦悩しているようだった。

 

「……正直、お姉様と夢結様が仲良くなるくらいなら、私ともっと仲を深めて欲しいのですが……」

 

突然正反対のことを言い出す亜羅椰に楓は焦り出す。

 

「ちょっと亜羅椰さん!?今わたくし達がいい感じのことを   

 

「でも!」

 

楓の声を遮って、亜羅椰は続けた。流瑠を見上げるその顔には、「不本意」と書かれているようだったが。

 

「でも私、また昼間のようなお姉様の笑顔をもっと見たいです。なので   頑張ってください、お姉様」

 

 

「みんな……ありがとう。私、頑張ってくる」

 

流瑠は後輩達をしっかりと抱きしめ返し、宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『〜〜〜〜〜〜〜♪』

 

「あ、すみません。私のです」

 

そんな中、この場にそぐわない音を出し始めたのは、二水の携帯だった。

 

「二水さん!?このいい雰囲気をぶち壊さないでくださいます!?」

 

「ご、ごめんなさい!あ、でも梨璃さんからです。あっちで進展があったんですかね。えっとなになに……ひえっ」

 

 

二水が小さく悲鳴を上げて落とした携帯には、短くこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『訓練場ニテ 待ツ   白井夢結』

 

 

 

 

 

 





〜流瑠様のお悩み相談室〜


第一回〜王雨嘉〜


「はい、次の方〜」

「あ、ご、ごきげんよう……流瑠様」

「はい、ごきげんよう。まずはお名前を教えてもらってもいいかな?」

「あ、はい。王雨嘉(わん・ゆーじあ)です。よろしくお願いします」

「よろしくー。まあまあ、そんなところに立ってないで、ソファにでも座って座って」

「あ、あの、ソファって……1つしか無いんですけど……」

「うん、そうだね」

「それで、そのソファには流瑠様が座っていらっしゃるんですけど……」

「大丈夫大丈夫、これ二人がけだから」

「いや、そういう話じゃなくて、どこに座れば……」

「私の隣に座っていいよ。あ、もしかして膝の上がいい?大胆だなー雨嘉ちゃん!」

「……隣で、いいです……」





「ち、近いです流瑠様……っていうかほぼ密着です……」

「うん。あ、テーブルの上のお菓子食べていいよー。紅茶も飲んでいいからね」

「あ、はい。ありがとうございます……」

「……雨嘉ちゃんって、目が綺麗だね」

「ち、近い!?近いです流瑠様!」

「あらら、ごめんごめん。雨嘉ちゃん、あんまり人と話すの好きじゃない?」

「いえ、そういうわけじゃないんですが……その、自分に自信が持てなくて……」

「自信って?リリィとしてってこと?」

「……それも、あります。けど、私、姉や妹に比べて出来が悪いので、何をやってもダメっていうか……」

「うーん、そっかー。ここにきたのも、そんな感じの相談?」

「……はい。どうやったら、自信がつくようになるのかなって」

「そうだねー……ねえ、雨嘉ちゃん。雨嘉ちゃんって、目標とかある?」

「目標、ですか?」

「そうだねー、例えば『ヒュージを1年で1000体倒す!』とか」

「せ、1000体ですか!?一年でそれはちょっと……」

「あはは、そうかな?でもね、雨嘉ちゃん。『目標を可視化すること』って、とっても大事なことだと思うよ。自信をつけるには、ね」

「目標の可視化……ですか」

「そ。目標は短期的なものと、長期的なもの、両方あった方がいいかもね。例えば、『次の試験で100点を取る!』と、『この一年での試験の合計スコア2800点以上取る!』とかね。そうすれば、短期的な目標が簡単に達成できたなら長期的な目標を高くしていけばいいし、達成できなかったなら長期的な目標に向けて自分に足りないものがわかるでしょ?自分の力を正確に知ることもできるから、目標が失敗しても成功しても、次の自分に繋げることができるんだねー」

「な、なるほど……」

「あとはー……『自分の得意なものを伸ばし続ける』ことが大事かな?」

「得意なこと、ですか」

「うん。つまりね、誰かと比べて自分がダメだと思うなら、自分にその人と差別化できる部分を作ればいいんだよ」

「差別化……」

「雨嘉ちゃん、何か得意なことある?」

「いえ……あ、でも料理なら多少は……」

「料理!いいじゃない!料理が得意な女の子、私好きだなー」

「いや、そんな……流瑠様に食べていただけるようなものじゃ…それに、リリィとしての才能じゃ無いし……」

「そんなことないと思うけどなー?雨嘉ちゃん、料理は自分が食べるために作ってたの?」

「いえ、家族みんなの料理を作ったりもしてました……みんな美味しいって言ってくれてたので、その時はとても嬉しかったです」

「雨嘉ちゃん。料理を作って他の人に「おいしい」って言わせることができる人はね、他の人のことを考えることができる人なんだよ」

「え……」

「料理を作る時、レシピ本と睨めっこするばっかりじゃないでしょ?料理を食べた時、その人がどんな反応をしたのかとか、どんな味付けが好きなのかとか、よく食べてるものは何かとか、栄養バランスとか、もっと多い方が、もっと少ない方が、とか……料理する側って、色々と無意識に考えるものなんだよ。
それってつまり、『相手のことを考えることができる人』ってことでしょ?」

「え、ええ、まあ……」

「それってね、レギオンでヒュージと戦う時でも同じなんだ。あの人は突っ込みがち、とか、あの人はサポートしないと負傷することが多いとか、今誰か射線上に入ってこようとしてるかとか……特に雨嘉ちゃんは狙撃手だから、レギオンで戦う時にはそういう力が必要になってくる。そして、レギオンでの活動が長くなればなるほど、その力は有用性を増してくるんだよ。レギオンメンバーのことをより深く理解していけるからね」

「……」

「他の人の影響を受けることなく自分を通すことは一種の才能だけど、『他の人に合わせる』こともまた、一種の才能なんだよ。特に百合ヶ丘は、ノインヴェルト戦術というリリィ同士がどうしても協力しなきゃいけない戦術に重きを置いてる。もちろん、『レジスタ』や『ファンタズム』みたいな有用視されるスキルもあるけど……雨嘉ちゃんみたいな、優しくて他の人のことを考えられる『性格』も、ノインヴェルトではレアスキルと同じくらい必要なんじゃないかって、私は思うんだ」

「……流瑠様」

「料理、いいじゃない。私も食べてみたいな、雨嘉ちゃんの心が籠った料理♪」

「は、はい!いつか、必ず…!」

「うん。期待してるね。……で、雨嘉ちゃんには宿題を一つ出します」

「宿題……ですか?」

「そうそう。さっき言ってた『短期的な目標』と『長期的な目標』ってやつね。そうだねー、まず短期目標は『レギオンに入ろう!』、長期目標は『レギオンでの実戦でノインヴェルトを決めよう!』って感じで」

「れ、レギオンですか……?」

「そう。さっきも言ったように、雨嘉ちゃんの才能はレギオンでこそ活かされる。それに、留学生だから知り合いも少ないでしょ?
あ、でも、いいレギオンが見つからなかったからって焦らなくてもいいからね。焦って自分に合わないレギオンに入ったって息苦しくなるだけだから。まずはじっくり、人を見て、人の繋がりを見てから決めればいい。……どうしても無かったら、自分で作っちゃえばいいしね」

「そ、それはちょっと……」

「あはは。……どう?頑張れそう?」

「……は、はい。私、やってみます!」

「そっかそっか!大丈夫、雨嘉ちゃんならできるよ。
……自分が何をやってるかわからなくなったり、何をしたらいいかわからなくなったり、悩んだり落ち込んだりしたら……また、ここに来て。私はいつでも、雨嘉ちゃんの味方だよ。
途方に暮れても、周りが全て敵になっても……ここに、絶対に貴女の味方がいるから」

「は、はい…!流瑠様、ありがとうございました…!」

「頑張ってねー」

(……次来る時は、流瑠様に何か差し入れを持ってこよう)










……はい。そういうわけで、流瑠様のお悩み相談室、後書きにて不定期で開催します。主に後書きに書く情報が無くなった時に。


日刊ランキングにちょくちょく載せていただきました、本当にありがとうございます!
また、沢山のUA、お気に入り、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!これを励みに、みなさんに百合をもっともっと届けられるよう精進して参ります!!


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ブーゲンビリア その6



百合の、百合による、百合のための、百合。



(今回、いつもの2倍程度の文章量があります)



 

「構えなさい、流瑠」

 

「夢結……」

 

 

百合ヶ丘女学院高等部の訓練場。

既に日も落ちつつあり、もう他のリリィも自主訓練を切り上げて訓練場から出ていってしまっている。

 

そんな時間に、訓練場のど真ん中で向かい合う二人の姿があった。

 

 

 

一人は、百合ヶ丘のエースと称されることもあるトップリリィの一人・白井夢結。

 

もう一人は、最強とも言われるリリィ・三巴流瑠。

 

 

二人は、互いにチャームを携え、訓練場にて一触即発の空気を作り出していた。

 

 

「構えないなら……いくわよ」

 

「っ、夢結……!」

 

 

悲しげな顔をする流瑠に、夢結はチャームを振りかざして突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!なんでこうなるんですの!?話し合いで解決できると思ってましたのに!」

 

「ごめんなさい、楓さん……私、失敗しちゃった、かも……」

 

 

夢結の説得に行っていた梨璃は、頭をわしゃわしゃと掻く楓に、自分の失敗を詫びる。

落ち込んだ様子の梨璃に、楓は「り、梨璃さんは悪くありませんわ!悪いのはあのわからずやの夢結様で……」とフォローする。

 

 

「そうだゾ。気にしすぎるな、梨璃。あれでダメなら多分誰が説得してもダメだろうからなー」

 

梨璃と共に夢結の説得に向かった梅も、呆れたように笑う。その顔は、しょうがない姉妹を見ているかのようだった。

 

 

 

(どうしてこんなことになっちゃったんだろう……)

 

 

梨璃は後悔と共に、夢結の説得に向かった時のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分前。

 

 

梨璃と梅は、夢結の部屋に向かって歩いていた。

 

旧校舎の廊下は、既に食堂に夕食を食べに行っているリリィが多いのか、人が少なかった。

そんな中を、梨璃達の向かい側から歩いてくる人影が一つ。

 

夢結だった。

 

 

 

「あ……ご、ごきげんよう」

 

「……」

 

挨拶する梨璃のそばを無言で通り過ぎようとする夢結。それを呼び止めたのは、梅だった。

 

「夢結。慕ってくれてる後輩に挨拶の一つも無しなんて、ちょっと酷いんじゃないか?」

 

「……梅」

 

梅の言葉を聞いて、夢結は渋々と梨璃達の方に向き直る。

そして、極めて事務的に、

 

 

「ごきげんよう。……それじゃ」

 

とだけ言って、去ろうとした。

 

 

「ま、待ってください夢結様!」

 

梨璃の声に、こちらを向きはしないものの、足を止める夢結。

それを、話を聞いてくれるのだと判断した梨璃は、夢結に本題を突きつけた。

 

 

「私、夢結様に助けてもらって……夢結様に憧れてリリィになりました!私は、夢結様とシュッツエンゲルの契りを結びたいんです!」

 

その告白に、夢結は冷めた反応をする。

 

「……貴女が誰に憧れようが勝手だけど、それと貴女が私のシルトになることとはなんの関係もないわ。貴女とシュッツエンゲルの契りを結んでも、私の作戦遂行能力が低下するだけよ。……それが貴女の望み?」

 

その棘のある言い方に、梅もさすがに夢結に怒る。

 

「おい夢結、その言い方はちょっと    

 

 

「関係あります!!」

 

そんな梅の声を遮って、梨璃は夢結に反論した。

 

「私は夢結様に憧れました!夢結様の隣で戦いたいって思いました!夢結様に助けてもらって、今度は私が夢結様を助けたいって思いました!それが、私がシュッツエンゲルの契りを結んでほしい理由です!!

だから    関係あります!!」

 

「梨璃……」

 

そんな梨璃の言葉に、夢結は露骨に不快そうな顔になり、梨璃に背を向けて歩いていこうとする。

しかし、梨璃は諦めない。夢結の背中に向かって声をかける。

 

 

 

「それに、夢結様にだって、憧れの人が()()()()はずです!」

 

   え」

 

それを聞いた梅は声を上げ、夢結は    立ち止まった。

背を向けていて顔はわからないが、夢結は明らかに動揺しているようだった。

 

 

 

暫くの沈黙の後、夢結は感情を押し殺すように声を絞り出した。

 

「……もう、私に憧れの人なんていないわ。あの人はもう   

 

「そ、そうだぞ梨璃。あの人は、美鈴様は    

 

「いえ、違います梅様。……違いますよね、夢結様?」

 

「………」

 

 

動揺する梅の声を遮った梨璃の言葉に、夢結は何も答えない。

梨璃はそんな夢結に、爆弾を放り投げた。

 

 

「夢結様。流瑠様と、ちゃんとお話ししませんか?私とのシュッツエンゲルのお返事は、その後でもいいです」

 

「………」

 

 

 

またも、夢結は何も答えない。

梨璃もまた、夢結の答えを聞くまで何も言わない。

そんな時間が続いて、やがて夢結は震える唇を開いた。

 

 

「……なぜ、私が流瑠と話をしなければならないのかしら」

 

その疑問に、梨璃は毅然とした態度で答えた。

 

 

「そんなの簡単ですよ。私が夢結様だったら、そうしたいからです!」

 

    ッ!貴女に何がわかるの!?

 

わかります!!

 

 

夢結は梨璃との会話の中で、今初めて()()()()()()()()()()

それでも梨璃はやはり、怯むこともなく言い返す。

 

 

「……わかりますよ。だって、夢結様と私は同じだと思うんです。

憧れの人を追いかけて、隣に並びたいって思って、支えたい、支えてもらいたいって感じて、そして    大好きだって、思ってるから」

 

 

「…………ッ」

 

 

夢結は梨璃の言葉を受けて、目を見開き、歯を噛み締める。

 

梨璃はそれ以上何も言わない。

夢結も、答えない。

夕日が沈んでいく中、梅は    そんな二人を、眺めていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

やがて、1分、2分、5分と時間が過ぎていき    夢結は重たい口を開いた。

 

 

「…………わかったわ。その申し出を受け入れます。

流瑠と、話せばいいのね?」

 

「……っ!は、はい!ありがとうございます!」

 

「夢結……」

 

夢結の答えにほっとする梨璃と梅。

しかし、夢結は一筋縄ではいかなかった。

 

 

「なら、その方法は私が指定するわ。これが受け入れられないなら、この話は無かったことにします」

 

「は、はい……方法、ですか?」

 

 

「ええ。流瑠にこう伝えなさい」

 

 

 

 

『訓練場ニテ 待ツ   白井夢結』

 

 

 

 

そして、夢結は梨璃に皮肉気味に言い放った。

 

「この戦いをよく見ておきなさい、一柳さん。これが    貴女がシュッツエンゲルにしようとしている人間よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけなんです……」

 

「あの方は頭まで筋肉か何かでできてるのですか!?」

 

 

梨璃からことの次第を聞いた楓は、夢結の頑固っぷりに呆れ返る。

 

しかし、もう戦いは始まってしまった。

流瑠と夢結。二人の戦闘は、今まで見たどんな戦闘よりもハイレベルだ。

夢結は攻撃し続け、流瑠は防御に徹しているが    まるで踊っているかのような、それでいてどこまでも苛烈な戦い。

 

もう、他の人間には止められない。

 

「夢結様……」

「お姉様……」

 

二人の和解を願う者たちは、ただ二人が無事に仲直りしてくれることを願うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢結!なんでこんなことを……!」

 

「……っ!はぁあああああっ!」

 

 

チャームとチャームがぶつかる。それは、互いの感情がぶつかっているかのようだった。

しかし、二人には決定的な違いがあった。

 

流瑠は疑問を、夢結は怒りを、そのチャームに乗せて戦う。その結果、流瑠はチャームの動きを鈍らせ    夢結は流瑠を追い詰めていた。

 

しかし、流瑠は最強とも呼ばれるリリィ。動揺や疑問があったからといって、早々やられはしない。防ぎ、流し、受け切る。

 

「埒が明かない」    そう判断したのか、夢結は切札を躊躇なく切った。

 

 

「うぅ……うぁああああああああああっ!」

 

何かに怒っているような   それでいて何かに怯えているかのような叫び声と共に、夢結の綺麗な黒髪は真っ白に染まっていく。

 

「あれは……ルナティックトランサー!?」

 

「夢結!!」

 

戦いを見ていたミリアムや梅の言葉を聞いて、梨璃は思い至る。

 

(多分これが、夢結様がさっき言ってた「よく見ていなさい」ってこと、なのかな……)

 

 

 

「夢結……私のこと、そんなに……」

 

「あ”あ”あ”あ”あ”っ!」

 

「くっ!?」

 

流石の流瑠も、ルナティックトランサーを発動した夢結に攻撃もせずに戦い続けることには限界がある。流瑠は、どうすればこの戦いを終わらせられるのかを思案し始めた。

 

(私、どうすれば……攻撃?いや、今の夢結にそんなことしたくない……!きっとそれをしたら、私たちはもう   )

 

 

なんで……

 

流瑠の思考を遮るかのように、夢結の声が耳朶に入り込む。

 

「……え?」

 

「なんで、こんなことを、ですって……?」

 

 

夢結はルナティックトランサーを発動しながらも、言葉を発していた。

まだ話が通じるかもしれない   そう思った流瑠は、戦いを止めようとした。

 

 

「そうだよ夢結!なんでこんな……ルナティックトランサーまで使って……」

 

それはこっちのセリフよ!!

 

「うぐっ……!?」

 

 

夢結の叫び声に応じるかのように強力な攻撃が流瑠を襲う。

 

 

「なんで、なんで、なんで!?」

 

「ゆ、夢結……うあっ!?」

 

 

一際強い攻撃が、動揺した流瑠のチャームを弾いた。

夢結は尻餅をつく流瑠の襟首を掴んで持ち上げる。

 

 

「なんで!!なんで今更話し合いなの!?」

 

   

 

 

夢結は    泣いていた。

 

「何もしてくれなかったじゃない!何も言ってくれなかったじゃない!『私が悪い、夢結は悪くない』って、そればっかり!!」

 

「っ、私は、夢結が美鈴を殺すことなんてないと思って   

 

「違う!美鈴お姉様を殺したのは私!私なの!!私のチャームが美鈴お姉様を貫いて!!」

 

 

夢結は流瑠の襟首を掴んだまま    感情のままに、流瑠を()()()

流瑠は着地もまともにできず、地面に叩きつけられた。

 

 

「なんで責めてくれなかったの!?なんで私が悪いって言ってくれなかったの!?私は責められるべきだったの!断罪されるべきだったのよ!!」

 

「夢結は悪くない……悪くないよ!悪いのはヒュージでしょ!?」

 

「違う違う違う!違うぅううううう!」

 

流瑠の言葉に、夢結は苦悩するかのように頭を抱えて振るう。

 

 

 

「私は……私は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は流瑠お姉様のことが好きなの!!誰よりも!なによりも!!美鈴お姉様よりも!!!

 

 

 

    え」

 

その言葉に、流瑠は固まる。

 

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()()!流瑠お姉様を追いかけて百合ヶ丘に来た!!そして、いつか流瑠お姉様のシルトになるために自分を鍛えてきた!!でも!!

 

でも……流瑠お姉様は、もうシルトを持っていた!だから私は、せめて流瑠お姉様の()()()()()()()()()()()、美鈴お姉様にシュッツエンゲルを申し込んだ!!

 

そして美鈴お姉様が死んだ時、私は思ってしまった!!

()()()()()()()()()()()()()()()って     !!」

 

 

      

 

 

流瑠は、夢結の告白に絶句している。

 

 

梅は梨璃に向かって、先程の会話の意味を問いただしていた。

 

「梨璃、さっきの、夢結の憧れの人って……」

 

「……はい。流瑠様のことです。夢結様は、流瑠様に憧れてリリィになったんじゃないかって、そう思ったんです」

 

 

 

梨璃は、検疫室での夢結とのやりとりを思い出していた。

 

 

 

    流瑠様は悪い方には見えませんでしたし、夢結様を心配していらっしゃる感じでした』

 

『それは貴女の見間違いよ、一柳さん。

私があの人に力不足だと嘲笑われるならまだしも、心配されるなんてあり得ない。それに、あの人は私のことなんて   

 

 

きっとあの発言は、流瑠への罪悪感と、流瑠に認めてほしいという心の表れだったのではないかと、梨璃は思った。

 

 

 

「それで、『私が夢結様に取り返しのつかないことをしたらどう思うか』って夢結様と重ね合わせて考えたら、きっと、ちゃんと話をしたいだろうなって」

 

「……なるほど、それで梨璃と夢結が同じ、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっかりしたでしょう?失望したでしょう!?……これが、私。

卑怯で、浅ましくて、救いようのない嫉妬の化け物!!」

 

「そんなことない!!」

 

 

自分を卑下する夢結を、流瑠は否定する。

流瑠はチャームを手に取って立ち上がった。

 

 

「そんなこと、ないよ……きっかけは、私だったのかもしれないけど。でも、美鈴と一緒にいる時の夢結はあんなに楽しそうだったじゃない!

あの笑顔は嘘なんかじゃない!夢結は……美鈴が大好きだったはずだよ!!」

 

「ならなんで!!なんで美鈴お姉様が死んだ時、私は、あんなことを!?」

 

 

再び流瑠に振り下ろされる夢結のチャーム。それを   流瑠は、しっかりと受け止めていた。

 

 

「なら私も聞かせてよ!なんで夢結はルナティックトランサーを発動したの!?」

 

「っ!?」

 

 

流瑠から返された言葉に、夢結は目に見えて動揺する。

 

 

「美鈴の遺体についてた傷は、そのほとんどがヒュージによるものだった。……夢結が美鈴をどうこうする前に、既に美鈴は致命傷を負ってたんじゃないの?」

 

「それ、は……」

 

 

言い淀む夢結に、流瑠は穏やかに笑いかける。

 

 

 

「……やっぱり、悪いのは夢結じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……っ!あああああああああああっ!!」

 

 

流瑠の言葉に頭が沸騰したのか、渾身の力を込めてチャームを振るう夢結。

 

それに対して流瑠は     チャームを持つ手を、だらんと落とした。

 

「……っ!?」

 

「流瑠様!?」

 

 

観戦していた一年生達から悲鳴が上がる。

夢結も、ルナティックトランサーの中、流瑠が防御すらしない様子に気づいた。

 

しかし、チャームは無常にも空を切って流瑠の首を断ち切らんとする。

もう、止められない     

 

「お姉様   !」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ほら、ね。夢結はやっぱり、殺してないよ」

 

果たして、そのチャームの刃は    流瑠の首元寸前で止まっていた。

 

 

「……っ!はぁっ…!はぁっ…!」

 

ルナティックトランサーが解除される夢結。同時に、事態を見守っていたリリィ達もどっとへたり込んだ。

 

「ひ、ヒヤヒヤさせてくれますわね、お姉様……」

 

「よ、よかったですぅ……」

 

「あとであの二人はお説教だな、まったく」

 

 

 

 

「……さっき、言ってなかったことが一つあってね。夢結はさっき、『私のチャームが美鈴お姉様を貫いて』って言ったよね?

確かに美鈴の遺体には、ヒュージによる傷と夢結のチャームによる刀疵が両方あった。けど……夢結が言うような、『チャームに刺し貫かれた傷』なんてものは、なかった」

 

「え……」

 

「あったのは、ヒュージの触手に貫かれた腹部の傷だけ。……夢結は、殺してなんかないよ」

 

 

その言葉に、夢結は力を失ったかのように座り込んだ。流瑠もまた、緊張から解放され、チャームを手から落とす。

 

傷だらけになってしまった訓練場の上。そこに残ったのは、もはや戦う気力もない、ただの少女二人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙が場を包む。誰も、何も言わない。

だだっ広い訓練所を埋めるものは何もなく、ただ空白が佇んでいた。

 

 

やがて夢結は、その空白を埋めるかのように、ポツリポツリと話し始めた。

 

 

「なんで……今なの?今まで、私の話を聞いてもくれなかったのに……私の二年間は、一体何だったの……?」

 

「夢結……」

 

一度溢れ出した感情は、言葉は……そして涙は、止まらない。

涙でぐずぐずになりながら、夢結は流瑠に訴え続ける。

 

 

「……流瑠お姉様は、あの日から変わってしまった。『夢結は悪くない、悪いのは私だ』って、それだけしか言わずに、勝手に抱え込んでた。

美鈴お姉様がいた頃は「夢結」って呼んでくれて、私はこの人の特別なんだって思えていたのに……いつからか、私のことも「夢結ちゃん」って呼び始めて。何の相談もしてくれなくなって……私が「流瑠」って呼び捨てにしても、私がお姉様の悪口を言っても……ただ曖昧に笑うだけだった」

 

「……ごめん」

 

「頼って欲しかった。頼らせて欲しかった。寄り添って欲しかった。寄り添わせて欲しかった。甘えて欲しかった。甘えさせて欲しかった。

私を    求めて欲しかった!

なのにお姉様は、私から離れていくばかりだった!!」

 

「夢結……ごめんね……」

 

「いっそ責めて欲しかった!「お前が悪いんだ」って、否定して欲しかった!断罪して欲しかった!!

何もしてもらえずに離れられるのが、一番、つらかった……!」

 

「ごめんね…ごめんねぇ……」

 

今まで触れようとしてこなかった夢結の内面に触れ、流瑠の目からも涙が溢れる。謝ることしかできず、流瑠も嗚咽を漏らした。

流瑠は夢結に抱きつき、謝り続ける。

 

 

「お姉様は、三人でいる時から、きっと美鈴お姉様のことばかり考えていたんでしょう!?私のことなんてどうでもよくて!私は!!美鈴お姉様の付属品でしかなくて!!美鈴お姉様がいなくなれば、『夢結ちゃん(リリィの一人)』になってしまう程度の存在でしかなかったんでしょう!?」

 

「そんなこと、ない!私は美鈴も夢結も、同じくらい大好きだった!!」

 

「ならなんで!!私をシルトにしてくれなかったんですか!?私を貴女の『特別』にしてくれなかったんですか!?なんで……お姉様のお側に居させてくれなかったんですか……」

 

「それ、は……」

 

 

流瑠は答えを言い淀み、夢結は何も言わない。

訓練場には、二人の嗚咽だけが響く。

 

 

「夢結様、流瑠様……」

 

「………」

 

それを見守る梨璃達も、口を出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だって………」

 

数秒か、それとも数分か。長いようで短い沈黙を、流瑠の漏らした声が破った。

 

 

「……ったら、また、私……」

 

「流、瑠……?」

 

俯いてボソボソと呟く流瑠に、夢結は違和感を覚える。

 

「何を、言って……」

 

 

 

「だって!夢結が美鈴みたいに特別になったら、また私置いていかれちゃうよぉ!」

 

 

顔を上げた流瑠は    端正な顔を歪め、大粒の涙をボロボロと溢していた。

 

 

   え」

 

 

「なんなのみんなして!?シルトとか『特別』とか!!楓も亜羅椰も夢結も美鈴も!!みんないつか私を置いて行っちゃうのにぃ!!」

 

「流瑠、お姉様……?」

 

「もうやだよぉ!なんでみんな私を置いていくの!?なんでみんな私を一人にするの!?『特別』とか言ってたくせに!!ずっと一緒だって言ってたくせに!!

私だけ変わらない!変われないのに!!みんなばっかり卒業して!大人になって!!また私だけ置いてけぼりにするんでしょ!?

大好きなのに!離れたくないのに!!置いていかれたく無いのに!!」

 

 

それは   流瑠の、心の叫びだった。

自分だけ成長しない。見た目も、心も。

流瑠は、この百合ヶ丘を出ることを怖がっていた。嫌だったのだ、()()()()()()()()()()()()()()()ことを認識するのが。だから、今も卒業できずにここにいる。

そして、自分を置いて立派に卒業していくリリィ達を見るのが、嬉しくもあったが    同時にとても悲しく、恐ろしくもあった。

 

流瑠がシュッツエンゲルの条件として、厳しい    ()()()()()()()()()()()()を課したのは、そんな現実から()()()()()()()でもあった。

特別な人(シルト)を作ってしまえば、いつかその人は自分と同じ歳になり、いつのまにか年上になり、卒業して置いていかれてしまう。その人が特別であればあるほど、きっと流瑠は深い絶望に取り残されてしまう。

 

誰も自分を待ってはくれない。そんな絶望から自分を守るために、流瑠はシルトを作らないようにしていた。

    川添美鈴が、現れるまでは。

 

 

「………お姉様」

 

「美鈴がシルトになって……私、毎日が楽しかった。シュッツエンゲルとして一緒に過ごす日々がこんなに楽しいなんて、私知らなかった……。

夢結とノルンになって、三人で遊んで、いろんなとこ行って、いろんなことやって……暖かくて、幸せだった。

だから、美鈴がいなくなったあの日、私の心にはぽっかりと穴が空いちゃったの。その穴から大事なものがどんどん溢れていく気がして……寒くて、苦しくて、寂しくて、悲しかった。シルトを、大切で特別な人を喪うことがこんなに苦しいってことも……私は、知らなかった」

 

 

「……」

 

 

流瑠の独白に、夢結は言葉も出てこない。

流瑠は、夢結を抱きしめる力を一層強くした。

 

 

「ごめんね、夢結。私、もっと夢結に寄り添ってあげるべきだった。

一緒にいて、一緒に泣いて、一緒に悲しんで……一緒に、美鈴の死を乗り越えるべきだった。

でも    怖かったの。そうしたら、夢結がどんどん特別になって、夢結のことが大好きになって、夢結のことしか見えなくなって   そうしていつか、夢結に置いていかれちゃうって思ったら………。

ごめんね。ごめんなさい。つらかったよね。苦しかったよね。私の我儘のせいで、夢結を一人ぼっちにしちゃった。

でも、でもね      

 

 

流瑠は、一度言葉を切り   子供のように泣きじゃくった。

 

 

 

「もう、独りはやだよぉ……ずっと、ずっと一緒にいてよ……独りにしないでよぉ……」

 

 

「流瑠、お姉様……」

 

 

初めて見る流瑠のか弱い背中に、夢結は手を回そうとする。しかし、夢結は流瑠を抱きしめ返すことはできなかった。

 

自分に何が言えるだろうか。

「ずっと一緒にいる」?無責任な。

「愛している」?そんな言葉は、大切な人と離れることを怖がる流瑠を余計に追い詰めるだけだ。

 

何も、言えない。流瑠も夢結を想っていて、夢結も流瑠を想っているのに、何も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、お姉様。こっちを向いてくださいな」

 

 

嗚咽だけが響く空間を壊すような優しい声がしたのは、そんな時だった。

いつの間にか流瑠のそばまで来ていた楓は、流瑠の傍から声をかける。

 

 

 

「楓、ちゃん?どうして    んんっ?」

 

 

 

声をかけられた流瑠が夢結を抱きしめる腕を緩めて楓の方を向いた瞬間      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓は、流瑠の唇を自分の唇で塞いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     !? むー!?んんー!!?」

 

 

「か、かかか楓さん!?」

 

「なんと   !?」

 

「楓さん……女の子同士なのに、何してるんだろ……?」

 

      な、な……」

 

 

野次馬の声も気にせず、そのままたっぷり1分ほどキスを堪能した楓は、満足したのか「ぷはっ」と唇を離した。

 

 

     え、あ?か、楓ちゃ……」

 

 

言いかける流瑠に、楓は人差し指を立てて流瑠の唇に付け、言葉を止めた。

 

 

「もう、イヤですわお姉様。「楓ちゃん」なんて他人行儀な呼び方はやめてくださいまし。わたくしのことは、「楓」と呼び捨てにしてくださいな」

 

「あ、あぅあぅ……」

 

 

まだ困惑して顔を真っ赤にしている流瑠に、楓は小悪魔のような笑みを浮かべ、悪魔のような提案をした。

 

 

「流瑠お姉様。わたくしがここ(百合ヶ丘)を卒業する時、一緒にフランスに来ませんか?」

 

「……え?」

 

「わたくしの実家がチャームメイカー・グランギニョルなことはご存知でしょう?そこで、チャームのテストリリィをしていただきたいんですの」

 

「テスト、リリィ……?」

 

 

訳も分からず反芻する流瑠に、楓は「その通りですわ」と答える。

 

 

「チャームの実用性や運用性を実測する、大事なお仕事ですわ。本当にリリィにとって有用なチャームであるのか、そしてリリィへの負担がどれくらいなのか……そういった、リリィの命を守る縁の下の力持ちのような仕事であると言えますわね」

 

 

唐突な提案をする楓に、やっと正気を取り戻しだした流瑠は疑問を呈しようとする。

 

 

「で、でも、楓ちゃ   

 

「か・え・で、ですわよ♪」

 

 

流瑠の疑問を遮って呼び方を訂正する楓の口調は、かなり圧が強い。

流瑠は戸惑いながらも、「か、楓……」と呼び直した。

 

 

「なんで急に……?」

 

「なんで?そんなの簡単ですわ。わたくし    流瑠お姉様が欲しくなっちゃったんですもの!

Win-Winな関係だと思いますわよ?グランギニョルは有用なテストリリィを得ることができ、同時にわたくしは愛して止まないお姉様を手に入れることができますわ。

そして、お姉様は    

 

 

楓は、ペロリと舌舐めずりして言った。

 

 

 

「ずっと、ずーっとわたくしと一緒にいられますわ♡だって、わたくしが絶対にお姉様を手放してあげませんもの。

わかります?お姉様。これ、プロポーズですのよ?」

 

「え    

 

 

楓は座り込んだまま困惑している流瑠を抱きしめ、あやすように頭を撫でた。

 

 

「もちろん、無理強いはいたしません。でも、わたくしは絶対にお姉様から離れたりしませんわ。例え、お姉様がフランスに来てくださらなかったとしても。

ですから……もう、孤独に悩むのはおやめください、流瑠様。前にも言いましたわよね?抱え込みすぎるのは身体に毒ですわ。悩みがあればこうして、わたくしにお話しください。……いつでも、どんな手を使っても、わたくしは必ず貴女の側にいますから」

 

「あ……うん、楓……」

 

 

楓の甘い言葉に流瑠は安心したのか、目をトロンとさせて楓に身を預け、されるがままになる。

 

そんな様子を見た楓は、人を堕落させる悪魔のような優しい目を流瑠に向けた後    それまで瞬き一つせずに楓と流瑠のやりとりを放心状態で眺めていた夢結に声をかけた。

 

 

「そういうわけですので、夢結様。貴女が何も言わないなら、わたくしが流瑠お姉様を貰ってしまいますが……よろしいですわよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        は?」

 

 

「ひいっ!?」

 

 

楓の挑発的な言葉に、底冷えするようなドスの効いた声を発する夢結。

その声は決して大きくは無かったが、離れた位置から見ていた梨璃達の耳にも届く。

それを聞いて、二水は悲鳴を上げた。

 

 

「あまり調子に乗らない方が良いわ、楓・J・ヌーベルさん。流瑠お姉様と一番長くいたのは私よ。私だって、ずっとお姉様の側にいるわ」

 

「夢結……」

 

「あら怖い。ですが、わたくしは将来の明確なビジョンをお姉様にお伝えしましたわ。この時点で、わたくしが一歩リードしているのではなくて?」

 

楓の言葉に、夢結は「ギリッ」と歯軋りをする。

 

「……私にだってあるわ。将来のビジョンくらい」

 

「へーえ?お聞かせいただいても?」

 

「私は……百合ヶ丘を卒業した後、ここの教官になるわ。お姉様は、この学院にずっといてくれればいい。ヌーベルさんの手を煩わせるまでもないわ。私が流瑠お姉様と一緒にいるから、貴女はさっさとフランスに帰って自分の仕事に専念してはいかがかしら?」

 

「あら、それは素晴らしいプランですわね。でも残念ながらそれは叶いませんわ!流瑠お姉様は私と一緒にフランスに行くんですもの。ね、お姉様?」

 

「いいえ、私と百合ヶ丘で暮らすのよ。そうでしょうお姉様?」

 

「え、えっと、えっと…?」

 

 

二人からずい、と迫られる流瑠。迫られた流瑠は、全くついていけずに困惑するばかりだ。

そんな流瑠は、いきなり後ろに引っ張られる力を感じて「わぁっ!?」とつんのめるも、誰かに抱きかかえられた。

 

 

    あらぁ、お二人ともいい度胸だわねぇ?私を除け者にしてお姉様の所有権を争うだなんて」

 

 

流瑠を助けに……いや、事態を拗らせに来たのは、亜羅椰だった。

 

 

「亜羅椰さん?今は引っ込んでおいてもらえませんこと?わたくしと夢結様の問題なので」

 

「ハッ。そういうのは私に勝ってから言ってもらえる?そもそも貴女達、別にお姉様のシルトでもなんでもないでしょうに」

 

「……いや、それは貴女もでしょう、遠藤さん」

 

「ぐっ!?ぐぬぬ……」

 

 

不満げな亜羅椰に、楓はため息を吐く。

 

 

「はぁ……そもそも亜羅椰さん、貴女はどうやって流瑠様と一緒にいるおつもりで?」

 

その質問に、「待ってました」とばかりに亜羅椰は胸を張る。

 

 

 

「私は     お姉様と結婚するわ!!」

 

「「なっ……!!」」

 

「え……?い、いつもみたいな冗談だよね?」

 

 

亜羅椰の爆弾発言に「その手があったか!」という反応をする二人(夢結・楓)と、情報量の洪水で頭がパンクしそうになってきている流瑠。

 

 

「お姉様。私、お姉様に冗談なんて言ったことはありませんよ?」

 

「え?冗談……じゃ、じゃあ、いつも私との訓練の時に言ってた『結婚してください』とか、『(ピーーー)してください』とかも?」

 

「本気に決まってるじゃありませんか」

 

「なっ……貴女、お姉様にそんなこと……!?」

 

「ちょっと亜羅椰さん、下品ですわよ」

 

 

夢結と楓はあっけらかんとした亜羅椰の発言に苦言を呈するが、流瑠は    少し顔を赤らめて恥ずかしげにしていた。

 

 

「私……嬉しい、かも……」

 

「お、お姉様!?」

 

「お姉様、既にそっちのケが……?では是非わたくしも    

 

「いやいや、そうじゃなくて!」

 

 

かぶりを振って否定した流瑠は、やっといつも通りの穏やかな笑顔に戻って続けた。

 

 

「みんなにこんなに想って貰ってるっていうのが……その、凄く嬉しくて……。私、一人で勝手に諦めてただけ、なのかな。誰かとずっと一緒なんて、絶対無理だって」

 

 

流瑠の恥ずかしげな声を聞いた楓は、ふわりと微笑みかけた。

 

 

「……お姉様、わかっていただけましたか?貴女には、色んな選択肢があり、色んな可能性があるのですわ。身体が成長しなかろうが、心の成長が遅かろうが関係なく。

大丈夫ですわ。ここには、こんなにも貴女と一緒にいたいと思っている人が    貴女の居場所があるのですから」

 

    うん!」

 

 

流瑠は    寂しさと訣別するかのように、涙を拭い去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで放っておいてごめんね、夢結。    また、私と一緒にいてくれる?」

 

    はい。はい!もちろんです、お姉様……!」

 

 

ギュッと抱き合う二人。ハグに慣れていない夢結は万力のような力で流瑠を抱きしめるが、流瑠はどこ吹く風。ミシミシと嫌な音を立てる骨を気にもせず、慈母のような笑顔で夢結を抱き返していた。

ともあれ、この儀式をもって、『二人の仲直り』という本来の目的は達せられたのであった。

 

 

「はぁ〜。本当に遠回りでしたわ……」

 

「じゃの。ま、大団円だったんじゃから良しってとこじゃろ」

 

「夢結様も流瑠様も良かったです〜」

 

「……ほんと、夢結も流瑠様も、世話が焼けるんだからなー」

 

 

 

 

 

そして    もう一つの本題も片付けねばならない。

夢結は流瑠を抱きしめるのを名残惜しそうにやめると、俯く梨璃の方に向き直……らずに、梨璃と目を合わせないようにそっぽを向いた。

迷っていたり都合が悪くなったりすると人の目を見なくなる、夢結の悪い癖だ。

 

「……一柳さん。今貴女が見たのが、私と言う人間よ。醜くて浅ましい、嫉妬の化け物。……こんな私でも、まだシュッツエンゲルにしたいと思う……?」

 

 

申し訳なさげなその言葉に、梨璃は何事かを呟く。

 

「私……私っ……!」

 

「え?ひ、一柳さん……?」

 

 

夢結はどんな反応が返ってくるか戦々恐々していたが、梨璃はそんな心配は杞憂だと言わんばかりの輝いた顔を上げた。

 

 

「私、夢結様のこと、もっと好きになりました!」

 

「待ちなさい」

 

梨璃の予想外の回答に、夢結は頭を抱える。

 

 

「えっと、一柳さん?」

 

「はい!」

 

「貴女、さっきの私と流瑠お姉様の一部始終を見てたのよね?」

 

「はい!全部見てました!」

 

「私の発言も全部聞いてたのよね?」

 

「はい!一言一句聞き逃しませんでした!」

 

「それで?私のことは嫌いになったって?」

 

「逆ですよぉ!私、夢結様がもっと好きになりました!!」

 

「やはり私の聞き間違いでは無かったのね……」

 

 

今度は天を仰ぐ夢結。助けを求めて周囲を見ると……自分以外はみんな、この状況がどう転ぶのかワクワクした顔で夢結達を眺めていた。

 

(ダメだわ……味方がいない……)

 

「……コホン。一柳さん。私の、ど、どこが好きになったのかしら」

 

(これで照れて言い淀んでくれるなら、まだ私が話の主導権を握ることもできるはず……!)

 

「えっと、最初は夢結様に助けてもらって、綺麗な人だなぁって憧れてて。それで、夢結様のこともっと知りたいなーって感じだったんですけど。

今は、夢結様のこと、少しずつわかってきた気がして、凄く嬉しいんです!」

 

(語彙力ッ!!)

 

「で、でもその、私、一柳さんが想っているような大層な人間じゃないわ。それに、自分で言うのも何だけれど、私、なかなか面倒な女よ?」

 

 

「お姉様がメンド……愛の深い人なのは、今日見ててよくわかりました!

でも、それも含めて私がシュッツエンゲルになって欲しいのは、他の誰でもない夢結様なんです!!」

 

    身体が成長しないとか、精神がどうとか、そんなの関係ありません!わたしがシュッツエンゲルになって欲しいのは、他の誰でもない流瑠様なんです!』

 

 

 

     あ」

 

 

梨璃の声に、誰かの声が重なる。

 

 

「私、夢結様に憧れてリリィになったんです!」

『私、流瑠様に憧れてリリィになったんです!』

 

「今度は、私が夢結様を助けたいって思ったんです!」

『貴女の隣で、一緒に戦いたいって思ったんです!』

 

「だから     

『だから     

 

 

「『私のシュッツエンゲルになってください!!』」

 

 

精一杯の思いを伝える声。

どこか不安そうで、しかし期待に満ちた眼。

そのどれもを、自分は知っているような気がした。

 

 

 

(     ああ、そうか。

この子(梨璃)     昔の私なんだわ)

 

 

 

目を閉じて、夢結は梨璃を昔の自分に重ね合わせた。

 

さっきの声は確か、いつか強くなった時、流瑠お姉様にシュッツエンゲルを申し込もうと思って、何度も何度も鏡の前で練習していた時の声だ。

自分の思いの丈を伝えようと思って、何回も台詞を考え直した。どうすれば流瑠様に自分を見てもらえるのか、ずっと考えていた。

……結局、美鈴お姉様が先にシルトになってしまって、それを流瑠お姉様に伝える機会は無かったのだが。

 

 

 

憧れて、憧れを追い続けて、ただそれだけの日々だった。

戦力がどうのとか、二人の関係がどうとかなんて、一切考えずに。

憧れの人の欠点を知ったところで、憧れという感情の前では欠点すら輝きを放っているように見えてしまった。

 

言われる側になって、初めて気づく。なんとも答えづらいというか、「いきなりシュッツエンゲルって言われても……」という感じの告白だ。

 

でも、夢結には理解できる。

ただ憧れたから、ただ隣にいたいから、シュッツエンゲルになりたい。

その人に魅せられた日から、ただ憧れだけを重ね続けて、自分の中で精一杯美化して、それを相手に押し付ける。

    いい迷惑だ。

 

 

笑えてしまう。それを流瑠お姉様にやっていた自分が、まさかやられる側になるなんて。

 

 

     でも。

 

 

 

 

(不思議と    悪くないわね。この子(梨璃)の前では、「梨璃の理想の私になれるように努力しよう」と思えるというか、一つ、私が目指すべき道のようなものが見えてくる気がする、というか)

 

 

 

不意に、美鈴の生前の言葉を思い出す。

 

 

『ボクは、夢結や流瑠がいなかったら、今とは全く違う自分になっていたかもしれない。夢結、君は確かに流瑠が目当てでボクのシルトになったのかもしれない。でもね、ボクは夢結がいてくれたから、夢結の理想のボクでいようと思えたんだ。夢結が道を決めてくれたから、ボクは今、後悔せずにここにいられる。

だからね、ボクは夢結に    本当に感謝してるよ」

 

 

憧れてくれるシルトの存在が、自分を正しい理想の方へ導いてくれる。

そして自分は、憧れてくれるシルトが正しい道に進めるように導く。

 

導き合い、支え合う存在。

 

 

(ああ     やっとわかりました。これが、シュッツエンゲルというものなんですね。………美鈴お姉様)

 

 

 

眼を開いた夢結は、目の前の少女の顔をもう一度正面からよく見る。

愛嬌に溢れた、可愛らしい顔だ。見つめていたら、不思議と惹かれてしまう。

その桃色の眼は期待と不安に揺れているが、同時に強い決意も感じた。

 

多分、断られても何度でも申し込もうと思っているのだろう、と夢結は理解した。自分だって、一回断られたくらいでは諦めない。挙げ句にはノルンになるほど、憧れを拗らせていたのだから。

 

 

それに、何よりも    今自分は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ってしまっている。それはかつて、自分が伝えられなかった思いを伝えているこの少女の笑顔こそが、自分にとっての救いになると思っているからなのだろうか。

 

ここまで自分の心に梨璃という少女の存在が深く刺さってしまえば、もう観念するより他無い。

 

 

(私の、負けね)

 

 

潔く負けを認めた夢結は     憑き物が落ちたような、晴れやかな気持ちになった。

 

 

 

 

      わかりました。私、白井夢結は、一柳梨璃さんのシュッツエンゲルとなることをここに宣言します。

 

……これからよろしくね、梨璃さん」

 

 

 

 

 

 

               い、

 

 

 

 

 

 

 

いやった                !!」

 

「おめでとうございます、梨璃さん!」

 

「梨璃さん、やりましたわね」

 

「うむうむ、ハッピーエンドじゃな!」

 

「夢結にもついにシルトかー、感慨深いなー」

 

「本当にモノにしてしまうとはね……」

 

「やったね、梨璃ちゃん」

 

 

 

果たして、満開の(ソメイヨシノ)のような笑顔を咲かせた梨璃の周りには、沢山の仲間の笑顔が集まる。梨璃も、二水も、楓も、梅も、亜羅椰も    そして流瑠も、みんなが笑顔だ。

それを見た夢結は、満足げに微笑んだ。

 

 

 

「梨璃さん、後悔の無いように……いえ、違うわね。

 

『梨璃』。私は貴女に、私のシルトになったことを後悔させはしないわ。

流瑠お姉様と……美鈴お姉様に誓って」

 

 

     はい!私も、お姉様が私をシルトにしてくれたことを後悔しないように、精一杯頑張ります!!」

 

 

 

 

 

涙の雨の跡に、色とりどりの笑顔が咲く。

 

 

春はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




・流瑠様
百合大魔神。君めっちゃモテるやん?
自分よりも年下がどんどん卒業していくのを見続けたが、精神の成長がほぼ止まってしまった結果、どこかのタイミングで諦めたり、擦り切れていくことすらできなかった。「みんなのお姉ちゃん」を自称し、全てのリリィを愛していながら、その心はいつも孤独に苛まれ続けていた。
特別な存在だった美鈴が亡くなって深く絶望してしまい、人間関係に一線を引くこと(流瑠の中では「ちゃん付け」がそれに当たる)で自分を守ろうとしていた。それもこれも楓さんにぶっ壊されたけど。
楓のおかげで解決の糸口が見え始めたので、これからテンション高くなってくると思われる。
最近ラスバレに流瑠様が出てる幻覚を見る。

・夢結様
今作では美鈴様を直接的に殺したわけでは無い、という設定。一応これにはアニメから読み取れる確固たる理由というか推測があるけど、これはまたいつかの活動報告で話せたらいいな。
クソデカ感情を拗らせまくった結果、ノルンになるという奇行に走るに至った流瑠様ガチ勢。ノルンになった後は美鈴様とも関係は良好で、流瑠が多忙なのもあって二人で過ごす時間も多かった模様。
梨璃に昔の自分を重ねた結果、アニメよりもかなり爽やかなシュッツエンゲルの契りになった。今の夢結様は様々な悩みから解き放たれているので、最強モードに入っている。

・楓さん
や、やったッ!俺たちにできないことを(ry
今回もやらかしてくれたお嬢様。流瑠の心を救おうという心算で……と言えば聞こえはいいものの、要は「これはお姉様の心を救うため……!」などと正当化して熱いベーゼをかました。
流瑠争奪戦で今のところ一歩リード中。

・梨璃ちゃん
かわいい。かわいいけど語彙力が微妙。けどそこがかわいい。とりあえずシュッツエンゲルを結べたので一安心。ほんとに。
カリスマの求心力が強すぎる。

・亜羅椰さん
なんやかんや最後まで見届けた上に梨璃の祝福までちゃんとしている。育ちがいいしね。
これまでは流瑠お姉様シルト争奪戦トップだったが、夢結が参戦してしまうため立場が危ぶまれることに……。まあ、今の亜羅椰さんなら夢結様ともいい勝負しそうだけど。
なんでラスバレに出てないん?なんでなん?



やっとアニメ2話が終わりました。ここからちょくちょく時間が飛んだりするので、間話とか入れることになるかも?


たくさんのUA、お気に入り、評価、感想等、ありがとうございます!

今回の話は冗長になってしまったので、食傷気味の方もおられるかもしれませんが、私の書きたい百合を書き切ったつもりです。
もっと皆様に百合イチャを届けられるよう、精進していきます!


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