ありふれた職業がダークライダーなのはおかしい (LEGION ONE)
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プロローグ

月曜日。それは一週間のうちで最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間にため息を吐き、前日までの天国を思ってしまう。

それはこの俺…『黒木 一夜』も例外ではない。俺はため息を吐き、めんどくさい気持ちを持ちながら学校に向かっていた。

 

「よぉ〜雫」

 

「おはよう、一夜」

 

そんなことを考えながら歩いていると、俺はポニーテールの少女に挨拶をした。

彼女の名前は『八重樫雫』俺の幼なじみであり、実家が剣道場のためか女子にしては高い身長としっかりと引き締まった体つきをしている。

 

「相変わらず眠たそうね」

 

「別にいいだろ?俺は朝が弱いんだから…」

 

俺は雫とそんなことを話しながら学校にへと向かった。

 

 

 

 

学校に着くと、雫は友人と他愛ない会話をする一方で俺はオタク友達からもらった漫画を読んでいた。

 

「あ…もう終わりかよ…」

 

面白かったな…また、貸してもらうか。そんなことを考えているとその親友が教室に入ってきた。

その瞬間、親友は男子と女子から舌打ちや冷たい視線を一斉に浴びてしまった。全く…毎朝毎朝…鬱陶しいな…。俺はそんなことを考えながら親友の元に歩み寄った。

 

「おーす、ハジメ」

 

「あ、一夜。おはよう」

 

親友の名前は『南雲ハジメ』父親がゲーム制作会社、母親が漫画家の、わりと筋金入りのオタクで小学校からの親友だ。

 

「ほらよ…貸してもらった漫画面白かったぜ」

 

「良かったよ一夜がそう言ってくれて」

 

俺とハジメがたわいもない会話をしていると…

 

「よぉ、キモオ…『あ?なんだよ檜山』…ゲッ!黒木!!…チッ!」

 

男子四人組がハジメにちょっかいを出そうとしたが、俺が睨みつけたことにより男子達は舌打ちしながら去っていた。

 

「懲りないな…あの小悪党組も」

 

「アハハハ…そうだね」

 

さっきの奴らは檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治。俺たちがこっそり【小悪党組】と呼んでいる四人組だ。

 

ハジメを一方的に憎んでいる檜山達は、以前ハジメを集団リンチしていたが俺がその場にたまたま通りかかり檜山達をボコしたことで実力行使にこそ出なくなったが、陰口などの陰気臭い方面に切り替えただけで実情は変わっていない。

 

「(そんなことだから小悪党て呼ばれているんだぞ…)」

 

 

「南雲君、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

そうしていると、ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒がハジメの元に歩み寄った。

彼女の名前は『白崎香織』雫と同じ学園の『二大女神』の片割れで男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女。

彼女はハジメに恋心を抱いているが… それはもう、周りから見てハッキリと判る程に…。俺もよく白崎にハジメの事に相談されている。主に好きな漫画とかゲームとか…

 

 

「南雲君。おはよう。毎日大変ね」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

と、 そこに雫と2人の男子生徒が来た。

 

熊のような体つきの少年は『坂上龍太郎』脳筋タイプで何処ぞの漫画のような努力とか熱血という言葉が大好きな人間で、ハジメのように寝てばかりのやる気がなさそうな人間は嫌いなタイプらしい。

 

一人は茶髪のイケメン野郎『天之河光輝』いかにも、ザ・主人公なキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と三ツ星が揃った完璧超人と名高い人物。正直俺が最も嫌いな人物だ。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって、君に構ってばかりはいられないんだから」

 

こいつは自分が正しいと思うことを押し付けるのだ。思い込みが激しいだけならまだマシだ。このバカは自分が正しいと感じた事を信じて疑う事を知らないと、本気で思うご都合主義野郎だ

 

「はぁ〜あのな〜天之河。香織は好きでハジメに話しかけているんだ。そこに茶々入れるんじゃねぇよ」

 

「いきなり何を言っているんだ黒木。俺はただ、南雲の態度を直した方がいいと教えているだけだ。いつまでも香織に甘えてばかりでは、南雲はずっと香織の優しさに依存してしまうかもと」

 

それはお前の考えだろ?たく…本当にコイツは…

 

「そうだよ光輝くん。黒木君くんの言う通り、私は南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

白崎…お前も何爆弾を投下しているんだよ…お前のせいで教室の殺気がさらに充満したぞ。

 

「え?……ああ、ホント、香織は優しいな」

 

そんでもって全く気づいていない天之河は、白崎の発言を南雲に気を遣ったと解釈したようだな。どこまでご都合主義野郎なんだ… あーもう、ほんとうにこいつといるだけでイライラしてきた。

 

「……… ごめんなさいね?二人とも、悪気はないのだけど……」

 

「お前は一々謝るな雫…もう慣れた」

 

俺は雫にそう言うと席に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

午前中の授業が終わり昼休みになったので、俺は持ってきていた弁当を取り出し、食事を取ろうとした。

 

「隣失礼するわよ」

 

そう言って雫が俺の隣に座り弁当を取り出し、食べ始めた。

 

「言う前に座るなよ」

 

「いつものことでしょ?」

 

「そうだな…やれやれ」

 

俺は雫と話しながら食事を取り始めた。

 

 

一方で目を覚ましたハジメは定番のチャージ食で済ませ、また眠ろうとするも。

 

「珍しいね、南雲くん。よかったら一緒にお弁当どうかな?」

 

白崎がチャンスとばかりにハジメに話しかけ、一緒に食べようと誘ってきた。ハジメはもう済ませたと言い、白崎に残骸を見せるも。

 

「ええっ!?それだけなの!?私のお弁当、分けてあげるからちゃんと食べようよ!!」

 

全然逆効果だった。その瞬間、クラスの殺気がたった一人の男子に集約された。何人かは、目線だけで人を殺せそうなレベルだ。朝に続いて昼もかよおい…本当にいい加減にしろよ?

 

「一夜落ち着いて…」

 

「楽しい食事もこれだと…マジで鬱陶しいな…」

 

「わかるけども…ね?」

 

雫もため息を吐きながら俺にそう言った。

 

「香織、雫。そんな奴等とじゃなく、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。折角の二人の美味しい手料理を寝惚けたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

天之河が爽やかに笑いながら気障なセリフを吐いた。なんでこんなに空気が読めない男なんだ?それでもって、白崎には天然属性が入っているわけで。

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

「「バフォ!!」」

 

素で聞き返す白崎に、俺は思わず吹き出してしまった。ちらりと隣に視線を向ければ、雫も同じように吹き出している。これがあるから、面白い。

 

「(ハジメなら、異世界召喚とかされないかなぁ~、とか思ってそうだな)」

 

オタクのハジメなら、本気で思ってそうだな…。

 

 

 

 

そう思った次の瞬間、天之河の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れた。それの光教室全体にへと拡大していった。

 

(これって、もしかして・・・)

 

ハジメとともにゲームをしたりアニメや漫画をみた俺はわかった。わかってしまった…これは、魔法陣だ!!

 

「っ、お前ら!すぐに教室から出ろ!」

 

俺はすぐに我を取り戻して皆に叫ぶ。おいおい…確かに面白いことは好きだが… 異世界召喚されたいなんて願望は持ち合わせてねぇよ!

だけど、それは一歩遅かった。

俺が叫んだ直後に光は膨れ上がり、その光は教室を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。

蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん…』

 

『どうした?アークさんよー』

 

『どうやら我らの力を継ぐ存在が来たそうだ…』

 

『マジかよ!!』

 

アークそれは1000%本当なんだね?』

 

『私の予測を舐めるでは無いぞ… サウザー

 

『ついに我の主が来るのか!』

 

『やった〜主様に会えるんだ〜』

 

『華麗に激しい奴だといいな!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ…来たまえ…我らの力を受け継ぎし少年よ…貴様なら我ら闇の戦士達の力を十分に発揮できるだろう…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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異世界

どこだ…ここ…確か…教室にいきなり光が…溢れて…

 

『早く来い…』

 

誰だ…俺は声のした方を向くと…そこに居たのは禍々しいオーラを放つ仮面の戦士達だった。

 

「(なんだ…あの仮面の戦士達は!?)」

 

『早く来い…我らの力を継ぐ存在よ…』

 

あんたらは一体!?それに力を継ぐなんだよ!!

 

俺が仮面の戦士に向けて聞こうとした時… 周りが光に包まれて仮面の戦士達が少年から離れていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が晴れると俺は何かの神殿の様な場所にいた。周りには教室にいた他の生徒達と教師である愛子先生にいた。

 

「あの夢は一体………」

 

なんだったんだ…あの仮面の戦士達は…力を継ぐ存在…て言っていたよな…。

 

「....一夜」

 

すると、急に服の袖を引っ張られた。振り向くと、雫が不安そうな表情で俺を見ていた。

 

「ここは一体…何処なの」

 

「さぁな…。だが、嫌な予感がする」

 

俺は雫にそう言って辺りを見回した。すると、巨大な壁画が目に入った。背景には草原や湖、山々が描かれており、中心には後光を背負った金髪の中性的な人物が描かれていた。

 

「(なんだろう…コイツを見ていると無性にコイツの顔面を殴り飛ばしたくなる…)」

 

そんなことを考えながらもう一度辺りを見回すと、鈴を付けた杖を持った、無駄に派手な衣装の年寄りがいた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

イシュタルと名乗る爺さんに連れられて、俺達は大広間にいた。大広間には十メートルを超えるテーブルが幾つも並んでいた。俺は後ろの方に座り、周りの様子を伺っていた。

 

「(どいつもこいつもメイドに見とれて呑気なもんだ.......)」はぁ」

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

そう言ってイシュタルからの説明が始まった。俺たちがここに召喚された理由は、ファンタジーのテンプレで、どうしようもないくらい勝手な理由だった要約すると…

 

 

・この世界はトータスという世界で、この世界には大きく分けて三種類の種族がいる。イシュタル達人間族と魔神族、そして亜人族が存在している

 

・長年人間族と魔人族は戦争をしてきており、ここ近年魔人族が魔物を使役し出したことで均衡が崩れた

 

・このままでは人間族が滅んでしまう。だからこの教会や人間族が崇める唯一神「エヒト様」があなた達をこの世界に召喚した。

 

 結論、「私たちのために魔人族倒して♡」

 

マジ巫山戯んなよクソジジイ…そんなことで俺たちを召喚して戦争に出そうとするな…

 

「あなた方を召喚したのは『エヒト様』です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。恐らくエヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避する為にあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という『救い』を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

そう言ってイシュタルは恍惚とした表情をする。何がそんなに頬を染める原因となるのか、誰得な感じに気持ち悪かった。一瞬吐きかけた。

 

「(あ〜こうやって押し付ける宗教は嫌いなんだよな〜)」

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

そんなことを考えていると…ちびっ子担任こと愛子先生がイシュタルに抗議した。だが、どうにも威厳とかが足りないため、ほんわかした様な空気が流れていた。威厳ねぇな…

 

クラスとしては和むばかりだが、しかし続くイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

おいちょっと待て…てことはそのエヒトがどうにかしないと俺たちは帰れないのかよ…もう一度言うが巫山戯んなよ…クソ神。

 

 

「嘘だろ? 帰れないって何だよ!」

 

「嫌よ!何でも良いから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで…!」

 

そう言って周囲も口々に騒ぎ始めた。雫は未だに無言で俺の袖を掴んでおり、しかも震えている。

 

俺は剣呑に目を細めながらイシュタルを睨みつける。イシュタルは騒ぐ生徒達を侮蔑の目で見ていた。なんだあの目は…大方神…エヒトに選ばれておいて何故喜べないのか、とでも思ってるのだろうな。

 

「この狂信者め…」

 

俺がイシュタル…クソジジイを睨みつけながらボソッとそう言うと…

 

『さぁ…お前はどうする…』

 

「ッ!?」

 

あの夢で仮面の戦士が発した声が頭に響いた。俺はビックと驚き辺りを見回した。すると…

 

バンっ、とテーブルを叩きながら光輝が立ち上がる。

 

その音に思わずと言うように生徒達は光輝に視線を向ける。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「ええ、そうです。ざっとこの世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

光輝のその言葉を聞いて、俺はため息を吐いた。雫はじっと光輝の方を向いている。

 

「龍太郎……」

 

「今のところ、それしかないわよね。……非常に不本意で気に食わないけど……私もやるわ」

 

「雫……」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織……」

 

いつもの四人が賛同して、次々に椅子が倒れる勢いで生徒達が起立して光輝に賛同し、愛子の制止も聞かず戦争への参加を決める生徒が増えていく。

馬鹿だろコイツら…自分達が人殺しをしようとしていることに…俺はイライラしながら見ていると…

 

「皆! 俺達が力を合わせればこの世界の人達を助けられる筈だ! だから俺について来てくれ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の苛立ちは限界を超えた。俺は勢いよく持っていたカップを置くと天之河を睨みつけながら立ち上がった。

 

「お前らは馬鹿か?」

 

俺がそう言った瞬間、全員の視線がこちらに向いた。

 

「黒木!それはどういう意味だ!」

 

俺の言葉に、案の定天之河は突っかかってきた。それを聞き、俺は天之河に近づき

 

「そのままの意味に決まってるだろ?お前ら…戦争に参加するって事は人殺しをするってわかって言ってんのか」

 

『『『ッ!?』』』

 

俺の言葉に天之河に賛同していたアホ共は驚愕の表情を浮かべた。

 

「く、黒木!! 皆を怖がらせる様なことを言うな!」

 

「なんでだ?俺は事実を言っただけだ… 第一何で俺たちが戦争に参加しなくちゃいけないんだ?戦争を始めたのはこの世界の人だろ?なんで関係ない…しかも異世界人である俺たちが関係の無い世界と人達を命を賭けてまで救う必要があるんだ?必要無いだろうが」

 

「そんな事はない!俺達はこの世界の神に選ばれたんだ!それに俺達には力がある!その力はこの世界の人達を救う為に使うべき『馬鹿かお前は』なんだと!?」

 

「戦闘経験のない俺たちがそう簡単に力を使いこなせる訳ないだろ?力を貰って特別と思ってるのか?笑わせんなよクソ野郎が…」

 

俺は大きくため息を吐くとまた口を開いた。

 

「そもそも、お前は戦争をするってことの本当の意味がわかっているのか?」

 

「は?」

 

俺の質問に光輝は固まった。わかってないのにあんな事を言っているんじゃねぇよ…

 

「さっきも言ったが戦争をするってことは、俺たちはこれから人殺しをしなくちゃならん日本では犯罪…殺人なんだぞ?それを扇動してクラスメイトに進めるというのはどういうことだ」

 

「俺はみんなを人殺しなんてさせない!俺はみんなを救ってみせる!」

 

「じゃあどうやって?」

 

「え…」

 

俺の言葉に天之河は反論し、そう言うが…俺は逆に天之河にどうするか聞いた。

 

「え、じゃねぇよ…どうやって俺たちを人殺しなんてさせないんだ?救ってみせるんだ?ほら早く言えよ…あるんだろ?言ってみろよ」

 

「そ、それは…」

 

「話し合えば…なんて言うんじゃねぇぞ…そんな甘たれな考えが戦争で通じる訳ないだろ。話し合って分かり合うことが出来れば苦労はしないんだよ…出来ないから戦争が起きているんだろ」

 

「………」

 

俺の発言に天之河は口をモゴモゴさせる。やっぱり話し合えば…と言おうとしたな。

 

「図星か…呆れた…後先考えずにみんなを守るとか救ってみせるとか…そんなこと言っているんじゃねぇよ…。現実を見てから言えこの偽善者が」

 

天之河にそう言って振り向くと雫と目が合った。が、すぐに雫は自分と目線を逸らした。自分が天之河に賛同したことを悔やんでいるな…。

 

「まあ、落ち着いてくだされ黒髪の方。いきなりこの世界に呼び出されて気が立っているのは分かります。先程皆様もそんな感じでしたからな。ですがあなた方を危険に晒すことは絶対にしません。教皇の名に誓います。あなた方を、決して一人も欠かさず、あなた方の世界に返すことを約束いたしましょう」

 

さっきまで俺と天之河の様子を見ていたクソジジイが俺に声をかけてきた。

 

「チッ…(どうだか…)」

 

俺は舌打ちをすると、席に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほぉ〜やはりあの少年なら我らの力を継ぐことが出来るかもしれないな』

 

『あぁ!にしてもアイツ…黒木だったけ?よく言うな〜!』

 

『全くだ…他のガキどもは馬鹿だが…あの小僧はよく分かっているな』

 

『ふむ、彼なら僕の研究を更に進ませることが出来るかもしれないね…楽しみだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全てはアークのままに…滅亡せよ…偽物の神…エヒトよ』

 

 

 



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ステータスプレート

あの後… 俺たち日本組一行は国王との謁見の為に王宮内を歩いていた。

王座の間とやらに向かう間、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。

 

「(あのクソジジイか…それとも別の存在が事前に話したんだろうな…)」

 

俺は体を縮こまらせて歩くハジメの隣を歩いていると王座の間に着き、兵士コンビが大声を上げて俺達を部屋に入れた。

 

そして、この国の王、エリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃のルルアリア、王子のランデル、王女のリリアーナと俺たちは謁見した。

 

 

謁見をすませた事で、国王とイシュタルの上下関係が分かった。

 

どうやら、立場的にはイシュタルの方が上らしい。

 

「(なるほどな…これでこの国を実質的に動かしているのはイシュタルが言っている神…エヒトということか)」

 

それにしても…怪しい匂いかプンプンスるぜ…あのクソジジイもエヒトという神様も…。

 

「(それに…エヒトが恐れた…闇の戦士達…か…)」

 

国王との謁見の中でイシュタルがとある壁画を見せながら俺たちに話した。その話は…ずっと前に人間族と魔族…絶望に叩きつけた闇の戦士達がいたらしい。もうずっと前の話でホントかどうかは分からないらしいが…

 

「(なんだか…俺が夢で見た仮面の戦士達と似ているな)」

 

似ているだけならいいが…ここに来てから疑問に思うことばかりだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

いくら俺たちに才能があるといっても、そこは戦争とは縁のないましてや人を殺したことがない…平和な所で育った日本人、しかも学生。

 

その為、今日から戦闘の訓練と座学が始まることになった。

 

指導教官は、ハイリヒ王国の騎士団長であるメルド・ロギンスが担当することになった。

 

「勇者御一行、協力感謝する!私はハイリヒ王国騎士団長を務めるメルド・ロギンスだ!」

 

メルド団長はそう言って俺たちに自己紹介をしながら銀色の金属プレートが渡してきた。

 

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートはステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれる物だ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

「(ある意味…命綱のようなものか…)」

 

非常に気楽な喋り方をするメルド団長。彼は豪放磊落な性格で「これから戦友になるかも知れないってのに何時までも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員にも普通に接するように忠告するくらいだ。

 

「(この世界では…信頼出来る存在だな)」

 

俺はそう考えながらメルド団長を見ていると…

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう? そこに一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らすと、それだけで所持者が登録される。ステータスオープンと言えば表に自分のステータスが表示される筈だ。原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな? 神代のアーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

天之河がそう言ってメルド団長に訊ねる。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現出来無い強力な力を持った魔法の道具の代物の事だ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな……複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及している物としては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが……これは一般市民にも流通している。身分証になるからな」

 

納得したらしい生徒達は各々に指先へ針を指して、流血を魔方陣に擦り付ける。俺も流血を魔法陣に擦り付けた。そして、内容を確認するためにプレートに視線を移すと…

 

 

=============================

 

黒木 一夜(くろき いちや)17歳 男 レベル:1

 

天職:闇の戦士・ダークライダー

 

筋力:測定不能

 

体力:測定不能

 

耐性:測定不能

 

敏捷:測定不能

 

魔力:測定不能

 

魔耐:測定不能

 

技能:武術・剣術・槍術・闇の戦士・光属性無効化・闇属性吸収・全属性耐性・物理耐性・超人剛力・瞬間移動・悪意・気配感知・予測・魔力感知・限界突破・言語理解

 

=============================

 

「はぁ?」

 

なんですかこれ?ステータスが中途半端に表示されてる。数字が表示される所が『測定不能』ってなんだよ。

しかも天職が…闇の戦士?それにもう一つあるけど霞んでよく読めねぇ…しかも…なんだよ悪意て…怖いわ!バグか?バグなのか!?

 

 

俺がステータスプレートと睨めっこを繰り返していると、メルド団長が口を開いた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に『レベル』があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

なるほど…よくあるRPGみたいなものか…

 

「次に『天職』ってのがあるだろう? それは言うなれば『才能』だ。末尾にある『技能』と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

そんなこと言われても…俺の天職が闇の戦士ですが…

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

どうする…報告するか?いや…後々めんどくさいことになりそうだし…メルド団長には悪いが黙っておくかな…

 

「ハジメ。お前はどうだった?」

 

俺はそう言ってハジメに近づいた。

 

「あ、一夜…。えっと……」

 

ハジメに尋ねると、どこか気まずそうに渡してくる。

 

そこに書かれていたのは、

 

 

=============================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

天職:錬成師

 

筋力:10

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:10

 

魔力:10

 

魔耐:10

 

技能:錬成・言語理解

 

=============================

 

「…なんだろう…とてつもない…悪意を感じるな」

 

「僕も思うよ……」

 

なんというか、バリバリ平均だった。ハジメはがっつり非戦系だった。

 

ハジメになんとも形容しがたい表情を向けると、ハジメに俺のも見せてくれと頼まれた。俺はハジメは信頼出来る存在だから快く見せた。

 

するとハジメは一通り目を通した後、俺に返却しながら言う。

 

「一夜は技能の数は多いけど何で測定不能なんだろうね。後、天職が『闇の戦士』って…それに…もう一つあるけど霞んでいて…」

 

「言うな。とりあえず追及しないでくれ」

 

本当に大丈夫なのか?俺…

 

その時、一角から「おぉっ!!」と歓声が響いてきた。俺とハジメはそっちを見ると、天之河のステータスプレートが周りに向けられていた。

 

 

==========================================

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

=============================

 

なんというか、なるべくしてなったというか、チートの権化としか言いようがなかった。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは……」

 

気恥ずかし気に頬を掻くその姿に白けた視線を送った。

 

そんな光輝に続いてどんどんクラスメイトたちが自分のステータスプレートを見せに行く。竜騎は最後の方に行きハジメの一つ前になるように並んでステータスプレートを見せた。

 

団長は「うん?」と首を傾げてハジメのステータスプレートと俺のステータスプレートを叩いたり、光に翳してみたりする。

 

それから困惑した表情のハジメと、どう言い訳しようか考えている俺に返し…

 

「ああ、その、なんだ……まず錬成師というのはまあ、言ってみれば鍛冶職の事だ。鍛冶する時に便利だとか……」

 

「つまり……ハジメは後方支援職と言う事か」

 

「ま、まあそうなるな……しかし一夜は……これはどういう事だ? 天職も有って尚且つ見た事のない天職…それにもう一つ天職があるが…霞んでよく分からん。その他にも技能も勇者様と同等な数はある…なのにステータス数が表示されないとは………まあ戦士という事から戦闘系だとは思うが……」

 

これを聞いて普段ハジメを目の敵にしている輩が黙って見ている筈もなく、

 

「おいおい南雲。もしかしてお前非戦系か? 鍛冶職でどうやって戦うんだよ? そんなんで戦える訳? ステータスはどうなってんだよ」

 

案の定、ハジメいびり筆頭の檜山がやってきた…。こいつ…自分には力があるからて調子に乗って… ハジメは呆れたようにため息を吐きながらステータスプレートを差し出す。

 

すると檜山は爆笑し、他の連中も内容を見て爆笑なり嘲笑なりをしていく。

 

「ぶっははははっ~!! 何だこれ!完全に一般人じゃねえか!」

 

「むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな!」

 

「ヒァハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」

 

こいつらは…さっきのメルド団長の発言を聞いていなかったのか?

 

「まったく、バカだな、お前ら」

 

「あぁ? 何言ってんだテメェ?」

 

俺が呆れたように呟くと、今度は俺に矛先を向けてきた。俺は呆れた表情をしながら檜山達の方を向いた。

 

「鍛冶職だからってバカにしてるが、戦場じゃむしろいなきゃ話にならんぞ? 鍛冶師がいなければ、誰が武器の整備をするんだ? 後衛ってのは、戦線を維持するのに必要不可欠なんだよ」

 

「な……!?」

 

「それに、俺達には普通よりも才能があるんだろ? だったら、メルド団長の言ってたアーティファクトを作る事だってできるかもしれないぞ?」

 

「ぐっ……」

 

「そんな事も考えないで、よく人の事をバカにできたものだな。ちゃんと人の話を聞け馬鹿が」

 

俺の正論に檜山達は一旦黙った。そして、俺のことを睨みつけると何処かに行ってしまった。

 

「やれやれ…異世界に来ても…変わらないな」

 

俺はそう言って行ってしまった檜山達のことを呆れた表情で見ていた。

 

尚、ハジメを慰める為に愛子先生が自分のステータスを見せていたが、それが逆にハジメにトドメを刺した。

どんまい…ハジメ…

 

 

 



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予兆

「だ〜見つかんねぇな…」

 

俺は図書館で古い歴史書を読んでいた。なぜかというと…あのクソジジイが言っていた『闇の戦士』達についてだ。

あの夢のことを考えもしかしてと思って探しているんだが…一向に見つからん。

 

「遥か昔…て言っていたからな…何も無いのも仕方ないのか…」

 

はぁ〜仕方ねぇな…ハジメの様子でも見に行くか…。俺はそう考えると席を立ちハジメのいる訓練所に向かった。

 

 

 

 

俺が訓練所に向かうと…ハジメが檜山達小物四人組にリンチにされていた。

 

「ッ!何をやっているんだ!!」

 

俺が檜山達に向かってそう言うと檜山達がこちらを向いた。

 

「なんだよ〜俺達はただ南雲の特訓に付き合ってやってるだけだぜぇ?」

 

「馬鹿なことを言ってんじゃねぇよ…大丈夫かハジメ」

 

「う…うん…何とか…」

 

「そうか…」

 

ハジメが無事だということを確認すると…俺は檜山達を睨みつけた。

 

「で?お前らはうちの親友に何をやっていたんだ?」

 

「だから〜俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

「一方的な特訓がある馬鹿野郎がそんなことも知らないのか?辞書で特訓でも引いて学習してこい」

 

「なんだとぉ!!」

 

俺の発言に檜山達は怒り俺を睨みつけた。

 

「舐めんじゃねぇぞ!日本にいた頃はお前にボロ負けしたがここでは俺たちの方が格上なんだよ!」

 

あ?コイツら… 『力』を得てその力を振りかざす事に酔いしれている。

 

「そうだ!!そうだ!!」

 

「なあ。折角だからよ、こいつにも特訓を付けてやろうぜ?」

 

「そりゃあいい! 感謝しろよ。俺達が直々に特訓に付き合ってやるよ」

 

歪んだ笑みを浮かべながら俺に手を向けてくる4人。不味いな…俺の後ろにはハジメもいる…俺はコイツらの魔法なんか楽勝で避けれるが…そうすれば…ハジメが…

 

「「ここに焼撃を望む――〝火球〟」」

 

「「ここに風撃を望む――〝風球〟」」

 

檜山達はそう詠唱すると俺に向けて魔法を放った。

 

チッ…どうする…

 

『おい、少年。俺に身体を貸せ』

 

はぁ?お前は一…

 

 

俺はいきなり頭の中に響いた声に驚き、誰か訪ねようとした瞬間…目の前が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォ!!

 

 

「ハハハ…俺たちに舐めた口を聞いているから悪いんだよ!」

 

「何やってるの!?」

 

檜山達が一夜に魔法を直撃させ笑みを浮かべていた所に香織と雫がやってきた。その後ろには天之河と坂上もいた。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

 

「こんな特訓が何処にあるの!!一夜と南雲君を巻き込んで!!」

 

「いやだから…ヘブっ!!」

 

雫が怒りを顕にしながら近藤に詰め寄った。近藤は笑いながら再度、誤魔化そうとした瞬間…何者かによって吹き飛ばされ、施設の壁に激突した。

 

「え?」

 

雫…いや、その場にいた全員が何事かと驚いた。

 

「いや〜かるーく蹴っただけなのにあそこまで吹き飛ぶなんてな〜」

 

近藤を吹き飛ばしたの檜山達の魔法を直撃した一夜だった。しかし…いつもの一夜ではなかった…声は一夜だがその見た目は白髪に赤色の瞳と容姿が大分変わっていた。その一夜はハジメを抱えながら吹き飛んだ近藤を見て笑っていた。

 

「南雲くん!」

 

一夜がハジメを地面にゆっくりと下ろすと香織がハジメに駆け寄った。

 

「お、お前…な、なんで…」

 

「あ?何がだい?」

 

「な、なんで…俺たちの魔法…をく、喰らって…ピンピンとしているんだよ…」

 

檜山達は一夜を見ながら震えていた。何故ならあの時…自分達が出せる最大出力の魔法を放ち、一夜に直撃したのに…怪我ひとつなくピンピンとしていたからだ。

 

「あ〜あのチンケな魔法ね〜。俺があんなのに怪我する訳ないだろ?」

 

そう言った瞬間…一夜が目にも留まらぬ速さで中野の腹部に膝蹴りを入れた。

 

「うぎゃっ!?」

 

「あーらよっとォ!!」

 

一夜は蹲る中野をボールのように蹴飛ばし、近藤と同じ所へ葬った。

 

「ッ!ここに焼──」

 

「遅せぇよ」

 

齋藤は一夜に目掛けて火球を放とうと詠唱を口にするが…一夜はすぐさま齋藤に高速で近づき顎に掌底を叩き込んで、舌を噛ませつつ詠唱を阻止した。

 

「よいしょぉぉぉ!!」

 

「げぶっ!?」

 

間髪入れずに一夜は齋藤に上段右回し蹴りを頭に打ち込み、近藤と同じ所に飛ばした。

 

「ハハハハハッ!おいおいどうしたんだよ〜俺様に特訓をつけてくれるんだろ〜?さっさとしてくれよ〜」

 

「ヒィィィ!!」

 

狂気の笑みを浮かべながら一夜は檜山に近づこうとするが…そこに我らが勇者(笑)こと天之河が立ちはだかった。

 

「やめろ一夜!!やりすぎかもしれないが、檜山達は南雲が戦えるように訓練をつけてくれていたんだぞ!?」

 

「おいおい勇者さんよ〜お前は馬鹿なのか?いや…こいつの中から見ていたが…バカか…悪いな元からだったな」

 

「なんだと!?」

 

一夜はゲラゲラと笑いながら天之河に平謝りをした。

 

「いいかい勇者君?先に魔法を撃ってきたのは向こうだぞ?俺様と南雲 ハジメはコイツらのおかげで死にかけたんだぜ?一発や二発殴ってもバチは当たらないんだよ。むしろ正当防衛だろ?やられたから、やり返しただけ…それだけだぜ?」

 

「だからと言って仲間に剣を向けるのは気が短すぎると言っているんだ! 先ずはその場を仲裁してだな………!」

 

「おいおい勇者君よ〜君は馬鹿以下なのか?コイツらがやったのは訓練なんかじゃなくて元の世界でも起きていた虐めなんだよな〜クラスメイトならそれぐらい知っているだろ?」

 

「虐めていた? 檜山達が、南雲を? そんな訳ないだろう?」

 

何を言ってるんだこいつ、みたいな顔で一夜を見る天之河。それを聞いた一夜は小さくため息を吐いた。

どうやらあの実態を天之河は虐めじゃなく他の物と見ていたらしい。

 

「(コイツの記憶を覗かせてもらったが…まぁそうだよな、虐めと思ってたんなら無駄に正義感があるこの男が真っ先に手を出すわな…それもアホらしいやり方で…くだらいな〜この一夜ていうやつはこんなことを数年もやっていたのかよ…)」

 

一夜?は呆れながら天之河の言葉を聞いていた。

 

「南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のない時は図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間を鍛錬に充てる。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

話の途中にハジメへ寄って行って、肩を叩きながらそう言う。そんな天之河に対してハジメは唖然としたような表情をしている。

 

一夜は今度は大きくため息を吐いた。

 

雫は額に手を当てて天を仰いだ。

 

「そ、そうだぜ!俺達の目的はそこもあったんだ!」

 

そして思い付いたように檜山がそう言う。

 

「ほら、檜山もそう言ってる。やはり南雲を虐めていたというのはお前の勘違いなんじゃないか?」

 

「へ〜そうなのか!そうなんだな!いや〜感服したよ〜」

 

一夜がいきなりそう発言すると、雫とハジメを驚愕した。いつもの一夜なら、馬鹿なのか?というが今回は違っていた。天之河の発言に賛成していたからだ。

 

「わかってくれたのか黒木!!」

 

そう言って天之河は一夜の肩を叩いた。

 

「あぁ!!少ない時間の中…俺や南雲 ハジメに特訓をつけてくれた優しい檜山君!!そんな君に俺はお礼として………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…俺様が貴様に特訓をつけてやるよ…」

 

「え………」

 

いきなりのことに檜山は呆然としてしまった。そんな中…一夜は檜山に高速で近づくと…檜山の髪を掴み、檜山の顔面を何度も地面に叩きつけた。

 

「グッ!ガッ!コボっ!ギャッ!ギィャァ!」

 

「おい!何をやっているんだ黒木!!」

 

一夜の行動に天之河は止めるように叫ぶが…一夜は聞く耳を持たず…何度も何度も叩きつけた。

 

「や、やめてください…」

 

「お?そうか…だったら…」

 

檜山は一夜にやめてくれるように願うが…今度は檜山を立たせると檜山の腹を何度も殴った。

 

「グッ!ボガァ!!…や、やめ、ガッ!」

 

「フン…」

 

一夜は一通り檜山の腹を殴ると…檜山の髪を離した。檜山はやっと終わると確信したが…

 

「確か…こうだったような?…ここに風撃を望む――〝風球〟」

 

しかし…まだ終わらず…今度は一夜は魔法を詠唱すると風の塊を檜山の腹部に直撃させ、仰向けに吹き飛ばした。

 

「ガッ!オエーーー!!」

 

檜山は胃液を吐きながら蹲った。

 

「んじゃ今度は火球だな」

 

「ァ…ァ…いやだ…嫌だァァァ!!」

 

檜山は一夜に…いや、一夜の皮を被った化け物に恐怖し叫んだ。

 

「やめろ!!辞めるんだ黒木!!これ以上やったら死んでしまうぞ!」

 

「そうだぞ!これ以上は!!」

 

「え〜なんでだよ?俺と南雲 ハジメはコイツの特訓で死にかけたんだぜ?だったら俺様もそのぐらいやらんとな〜」

 

天之河と坂上に止められた一夜は天之河と坂上の方を向きそう言うと…狂気の笑みを浮かべながら檜山の方を向いた。

 

「待たせたね〜それじゃあ…改めて…『辞めて!』今度はなんだよ」

 

一夜が詠唱をしようとした瞬間…雫が檜山の前に立った。

 

「退いてくれよ雫〜俺は今、檜山に特訓をしているんだぜ?」

 

「貴方は…誰…」

 

雫は一夜を睨みつけながら…そう言い放った。

 

「誰て…お前の幼なじみの黒木 一夜だぜ?忘れちまったのかよー」

 

「違う…一夜はこんなに酷いことはしない!一夜は…ぶっきらぼうで冷たいところがあるけど…それ以上に仲間思いで心優しいのよ…!!貴方は一体誰れ!!一夜に何をしたの!!」

 

雫は目に涙を溜めながら一夜?に向けてそう叫んだ。それを聞いた一夜は笑みを浮かべた。

 

「へ〜面白い女だな…ま、お前が俺たちを知る必要はな…!?」

 

一夜が雫にそう言おうとした瞬間…自身の左腕が右腕を掴んだ。

 

「お前…人の身体を奪っておいて…何をやっているんだ…」

 

「おー凄いなお前…俺様から半身だけでも意識を取り戻すなんてな…さすがは俺たちの力を継ぐ存在だ」

 

一夜の顔が半分笑顔、半分睨み付けるという、奇妙な表情に変わる。

 

「お前は…一体…」

 

「時期に嫌でもわかるさ…その時はゆっくりと話そうな?黒木 一夜」

 

そう言うと…一夜の髪色と瞳が元の色に戻り倒れてしまった。

 

「一夜!!一夜!!香織!!一夜が!!」

 

「一夜!!」

 

「落ち着いて雫ちゃん!今、治療するから!!」

 

そう言って香織は一夜を治癒し始めた。雫もハジメも心配そうに見つめていた。

 

 

余談だが…小悪党四人組は王宮の人に頼んで治療されたらしい、

 

何故なら…香織が治療するのを嫌がったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たなる技能が追加されました

 

 

 

 

新たなる技能…『エボルト』が追加されました

 

 

 



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語らい

「なんなんだよ…ホント…」

 

俺が意識を失い気づいたら…自分の部屋のベットで寝ていた。誰かが運んでくれたのか…?

 

「あの時…檜山達の魔法が当たりそうになった時に…へんな声が聞こえて…それから…」

 

ダメだ…そこからの記憶がない…あれから何があったんだ?

 

『よっ!いい夢見れたかい?』

 

「ッ!あの時の!?」

 

俺が意識を失う前に聞こえた声だ!?何処だ!何処からだ!!俺は声の主が何処にいるか探した。

 

『おいおい俺はここだぜ〜』

 

「だから何処なんだよ!!」

 

『ここだ、ここ』

 

「ッ!?」

 

そう言うと俺の右腕が勝手に動き、俺の身体を指さした。まさか…

 

「俺の…身体の中にいるのか…」

 

『正解ッ!』

 

マジかよ…どうなっているんだよ…。俺はどういうことだと困惑しながら俺はソイツに話しかけた。

 

「お前は…一体…誰なんだ…なんで俺の中に…」

 

『時期にわかると言ったが…まぁ名前ぐらいはいいな。俺はエボルト、よろしくな黒木 一夜』

 

「エボルト…それがお前の名前なのか…」

 

『あぁそうだぜ。イカした名前だろ〜?』

 

「全く全然…」

 

『おいおい酷いな〜』

 

以外とフレンドリーな存在なのか…?

 

「お前は誰なんだよ…なんで俺の中にいるんだ…」

 

『質問が多いな〜。今のお前には話せないことばかりだが…言うとしたら『監視』だな。お前は俺たちの力を継ぐ大事な存在だからな、あんなクソガキ達に殺されたら元も子もないからな』

 

「力を継ぐ?ここに来た時にみた夢でも見たが…お前達?が言う力を継ぐてなんなんだよ…」

 

『それは時期に嫌でもわかるぜ…楽しみにしてな』

 

時期に?なんなんだよ…一体…変な存在が自分の身体の中にいるし、力を継ぐ存在とか言うし!

俺はエボルトのことで困惑していると…

 

 

コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。

 

 

誰だ… もう既に遅い時間帯だ。

 

『お!人が来たようだな。んじゃ、俺は寝るからな、それじゃあ…おやすみ〜』

 

こいつは…自由な存在だな…

 

俺はエボルトに呆れながら…若干怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「一夜、起きてる?雫だけど…」

 

最初は檜山辺りか、と思っていたが、やってきたのは雫だ。

 

よかった雫だ。俺は安堵しながら扉を開けた。

 

「あ!よかった…意識が戻ったのね…」

 

俺をみた瞬間に雫はホッと息を吐き、安堵した。俺は頭に?マークを出しながら雫を部屋に招いた。

 

俺は備え付けられていた紅茶を出し、雫と共に着席した。

 

「ねぇ、大丈夫?何処か痛いところがある?」

 

「大丈夫だ…そんなに心配するなよ」

 

「心配するわよ!貴方人が変わったかのように檜山君達にこれでもかというほどに攻撃したのよ!いつもの貴方がやらないぐらいに!!」

 

俺が…檜山達に…?そんなことをしたのか…ダメだ意識を失ってからの記憶がない…

 

「覚えてないの?」

 

「あぁ…檜山達の魔法が直撃しそうになった時に…急に意識が無くなって…」

 

「ッ!そう…」

 

俺の話を聞いた雫は暗い顔をして俯かせた。俺はこのままではいかないと思い話をが切り出した。

 

「それで?他にも要件があるだろ?」

 

「あ、そうだったわ。明日私たちは迷宮に行く予定だけど…」

 

あ、明日迷宮に行くのか…意識を無くなっていたから知らんかったよ。

 

「それで…お願いがあるんだけど… 一夜は行かずに街で待っていて欲しいのよ…皆には私から話すし、説得もするから!だから、お願い!」

 

そう言って雫は俺に頭を下げた。おいおい…まるで戦力外通告だな。

 

「ちょっと待てよ…俺はそんなに早死にするようなやつじゃないぞ」

 

「違うわよ…一夜の実力は私がよく知っているから…わかっているわよ…」

 

「じゃあなんだよ…」

 

「……夢を……見たの」

 

「夢だと?」

 

俺が問いかけると、雫は静かに頷いた。

 

「夢の中で、一夜が居たのよ…。でも…貴方の周りを囲むように禍々しい影が取り囲んでいたの…。するとさ…いきなり影が一夜の身体に入り込んで…一夜が苦しみだしたんだ…。私は助けようと走り出したけど全然追いつかなくて。それで最後は……」

 

「最後は?」

 

「……貴方が…化け物になるの…」

 

雫は泣き出しそうな表情でそう呟いた。

 

「所詮は夢だろ?そんなの気にすんなよ」

 

「でも!あんなのを見たら不安になるのよ!お願い…一夜…」

 

と言われてもな……。

 

遠征を休んだら休んだで、色々といちゃもんを付けられるだろうな。

 

主にバカ勇者や小悪党四人組から…

 

「安心しろ… 今回はメルド団長達や天之河だってついているんだぞ?むしろ負ける要素なんて見当たらないだろ?」

 

ぶっちゃけ…不安だらけだが…ここは雫を安心させる為に言うか…

 

「でも…」

 

「大丈夫だ、俺は死なねぇよ」

 

俺はそう言って雫だけど頭に手を置いた。

 

「……わかったわ。無理しないでね…」

 

雫はそう言って頷いてくれた。どうやら納得してくれたな…

 

「お前も無理するなよ…」

 

「っ!!」

 

ピクリと、僅かに体を反応させる雫。

 

やはりか。

 

訓練で魔物を斬った時、表面上には出していなかったが、不安の様相が見え隠れしていたからな。

 

これから戦争をする、人殺しをする事を再認識してしまったのだろう。

 

「お前はすぐに1人で抱え込む悪い癖があるからな。怖いなら怖いって言え。不安なら不安だと言え。悩みや愚痴ぐらい聞いてやるからよ?」

 

「…………」

 

雫は顔を俯かせたていたがすぐに顔をあげ、晴れやかな笑顔を俺に見せてきた。

 

「大丈夫よ、一夜。その言葉だけでも凄く安心できたから。貴方は私をちゃんと見てくれている…それが確認出来たんだもの」

 

そう言って雫は、今度こそ部屋を出ていき、俺は寝床に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はこの時は知らなかった…迷宮で俺の人生が一変した…

 

 

…エボルトが言っていた力を継ぐ存在を知り…俺は雫が夢でみた…化け物になるなんて…

 

 

 

「俺の邪魔をする存在や敵は…全て破壊してやる……」

 

 

 



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オルクス大迷宮

オルクス大迷宮。

 

前にも話した通り、この世界に存在する七大迷宮の一つだ。

 

全100階層から構成されており、階下に進めば進むほど手強い魔物が待ち構えている。

 

そんな迷宮に今日俺たちは挑むのだが…

 

「危険の場所なんだろ?」

 

危険な場所だというのに上は活気づいていた。

 

特に人の多く来る迷宮の入り口に造られたゲートなど、まるでお祭り騒ぎだ。

 

屋台とかもある。

 

「これから迷宮に挑むと言うのに何とも緊張感に欠ける景色だ」

 

「それ、一夜が言えること?」

 

俺がそこら辺の屋台で買った唐揚げを食べながらそう言うとしたが俺に呆れたように言う。

 

「食べる?」

 

「………一ついただくわ」

 

雫に唐揚げを差し出してそう言うと雫は唐揚げを一つ取って食べた。食べるんだ…

 

『(なんともまぁお気楽なものだな)』

 

「(うるせぇな…俺たちがいた地球には『腹が減っては戦ができぬ』という言葉があるから別にいいんだよ)」

 

エボルトとそんなことを話していると…天之河が出張ってきた…あ〜鬱陶しい奴がきた…

 

「雫打ち合わせもあるし、こっちにおいで。黒木は南雲と一緒に後ろに控えるつもりらしいからね」

 

「打ち合わせなら昨日の夜散々したじゃない」

 

雫のその態度に何を思ったのか、天之河は見当違い甚だしいくらいに俺を睨んできた。

 

『おー睨んでる睨んでる』

 

「(あ〜鬱陶しい…自業自得なのになんでこっちを睨んでくるんだよ…)」

 

「黒木…お前は特定の人物だけでなく、もっと他の皆とも関わったらどうなんだい? そうやってろくに会話をしないから、皆が心配してお前なんかに時間を取られることになるんだ」

 

「……………」

 

『気持ち悪い勇者(笑)だな…』

 

天之河の言葉に俺とエボルトはめんどくそうにしながら天之河の言葉を無視した。

 

「おい!これから共に戦う仲間に何だその態度は!」

 

「んん? お前、さっき俺の事を『お前なんか』と見下した癖に、何都合の良いことを言っている?」

 

「それはお前が真面目に取り組まないからだろ!」

 

「真面目か… 俺は俺なりに真面目にやっている。お前の言う真面目の定義が全てだと思ってんじゃねぇぞ…人それぞれ真面目の度合いが違うんだよ」

 

「一人だけ安全な場所に行こうなんて、虫の良い事を考えるな。そんな考えが雫に移ったら、救える世界も救えない」

 

いや…別に俺は世界を救う気はさらさらありませんが?早く家族が待つ家に戻りたいんですよ…。

 

「はぁ〜てか…俺はお前に『黒木…お前は危険な存在だから後ろに行ってくれ』て、言われてその通りに後ろに行ったんだが?少し前のことも忘れたのか?この鳥頭」

 

「なっ!!」

 

そう…俺は今日、迷宮に行く前に天之河に危険な存在だから後ろに行ってくれ、と言われんたのだ…最初はこいつ馬鹿なのか?と思ったが…エボルトと雫の話を聞いて理解した俺は後ろに行くことにした。

 

てか…エボルト…お前、俺が意識を失っている間に小悪党四人組をボコボコにしたらしいな…檜山に至っては顔面が腫れていたり傷があったりするぞ…

 

小悪党四人組は俺を見るなり…ビクビクと様子を伺っている…いや、檜山だけは殺気のこもった視線で見ているが…

 

『あの馬鹿共は力を持っただけで調子に乗っていたからな。鬱陶しいから上には上がいるぞという意味でぶっ飛ばしたんだよ。別に構わないだろ?』

 

「(まぁ…あいつらがどうなろうが…俺は知ったこっちゃないしな…)」

 

俺とエボルトが話していると天之河が口を開け、怒鳴った。

 

「は、話を逸らすな!お前みたいに努力をしない奴のせいで、皆が危険な目に会ったらどうするんだ!」

 

「お前が逸らしているだろ…。はぁ〜口を開けば努力努力。努力して実るのは才能がある奴だけなんだよ。努力したら誰でも報われる…そんな夢をいつまで見るつもりなんだ?夢ばかり見てないで…いい加減現実を見ろ…」

 

『(この小僧が現実を見ると思うか?)』

 

無理だよ…地球にいた頃から雫や俺が言っているのに全く変わっていない。こいつ…人のことはあれだけ言うのに…自分は何一つ変えないんだな…。

 

「ふざけるな!黒木!!お前は自分がさぼる言い訳だけじゃなく俺の努力まで侮辱する気か!」

 

「努力して俺に勝ったことはあるか?」

 

「なんだと…」

 

「お前が努力して俺に勝ったことあるのか?剣道や運動で?負けているだろ?あ、でも勉強だけはお前が勝っていたな。良かったな〜ガリ勉勇者君〜。勉強だけは俺に勝ってたぞ〜」

 

「「ブフォ!!」」

 

俺は笑みを浮かべながら天之河がこれでもかと煽った。俺の煽りに雫とハジメは我慢出来ずに「ブフォ!!」と吹き出し、クツクツ笑いを堪える。

 

そんなことを話していると迷宮の入り口が見えてきた。

 

「んじゃ…俺はお前に!!言われた通り後ろに居るからな〜。自分が言ったことだから俺に文句を言うなよ〜鳥頭勇者君」

 

俺は天之河に手を振りながらハジメと合流するために後ろに向かった。

 

『クックク…お前もよく言うな〜ますます気に入るぜ』

 

「俺はお前に気に入られたくないんだがな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑光石という不思議光石のおかげで中は意外と明るい。

 

俺たちはメルドさんに言われ、隊列を組みながらゾロゾロと進む。

 

しばらく何事もなく進んでいると、それなりに高いドーム状の広間に出た。

 

その時、物珍し気に辺りを見渡している俺たちの前に、壁の隙間と言う隙間から灰色のムキムキマッチョな2足歩行のネズミが湧き出てくる。

 

「(エボルト…あのネズミもどきは?)」

 

『あれはラットマンだ。すばしっこいネズミだが…お前の敵じゃねぇよ』

 

へ〜そんな名前のネズミなんだな…すると、メルド団長が俺たちに命令してきた。

 

「よし、光輝たちが前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうから、準備しておけ!あれはラットマンと言う魔物だ。すばしっこいが、大した敵じゃない。冷静に行け!」

 

メルドさんの言葉通り、ラットマンたちが結構な速度で飛び掛かってくる。正面に立つ雫の頬がひきつっている。気持ち悪いようだ。

 

間合いに入ったラットマンを天之河、雫、坂上の三人で迎撃し、その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。

 

魔法を発動する準備に入る。クラスメイト達が何度も行ったフォーメーションだ。

 

天之河は純白に輝くバスタードソードを視認が難しい速度で振るって纏めて切り裂く。

 

アイツが持つ剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、聖剣と言う名前らしい。

 

『遅い剣撃だな〜これで視認することが難しいのかよ。笑ちまうな』

 

確かにな…。どうやら俺とエボルトには結構見えているらしい。

 

坂上は空手部らしく、天職が『拳士』である事から籠手と脛当てを付けている。

 

これもアーティファクトで衝撃波を出す事ができ、また決して壊れないのだという。

 

『脳筋という存在か…暑苦しくてやだね〜』

 

エボルトは坂上と天之河を見ながら興味なさげにそう言う。

 

雫はサムライガールらしく『剣士』の天職持ちで、刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。

 

『だが…この娘…雫だけは別だ。いい腕をしているな…鍛えればあの馬鹿勇者(笑)を超えるぞ?』

 

しかし、エボルトは雫だけは興味を示していた…

 

「(お前…フレンドリーな奴かと思ったら…以外とそうでもないんだな)」

 

『俺が興味があるのはお前と八重樫 雫だけだ。後いえば…そこの錬成師の小僧だけだ。あとは興味なんてねぇよ』

 

ハジメも興味を示しているのか…。そんなことを話しているとラットマンがこっちに飛び掛ってきた。

 

『キィイイッ!!』

 

「鬱陶しいんだよネズミ野郎が」

 

『キィイィィッ!?』

 

俺は飛び掛ってきたラットマンを蹴りを飛ばした。これには騎士団員達はおろか、生徒達も雫を除いて驚愕していた。

 

因みに雫は自分事のようにドヤッている。ドヤるなドヤるな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探索を続けると、メルドさんがいきなり立ち止まり、戦闘態勢にはいる。

 

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

 

どうやら、近くに魔物が潜んでいるようだ。

メルドさんが忠告をした直後、とつぜんせり出していた壁が突如変色して起き上がった。壁と同化していた体色は、今は褐色になっており、見た目はカメレオンの体表にゴリラの体格のようだ。ネズミの次はゴリラかよ…。

 

『へ〜ロックマウントか。気をつけろよ?あの二本の腕には剛腕があるからな』

 

「(了解…)」

 

エボルトの忠告を聞くと、メルドさんが俺たちに忠告を出した。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!剛腕だぞ!」

 

飛びかかってきたロックマウントの豪腕が坂上が拳で弾き返す。

 

天之河と雫が取り囲もうとするが、無数の鍾乳石のせいで足場が悪く、思うように囲むことができていない。

 

龍太郎を抜けないと感じたロックマウントが後ろに下がって大きく息を吸い込んだ。

 

『おい耳を塞いでおけ』

 

「(え?なんで…)」

 

『いいからしろ』

 

「(わ、わかった…)」

 

俺はエボルトの指示を聞き、耳を塞いだ。すると…

 

「グガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が放たれた。

 

「(うるせぇ!!)」

 

俺は耳を塞いだおかげでどうにかなったが…

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

咆哮を喰らった天之河、坂上、雫の体が硬直してしまった。

 

『あのゴリラの固有魔法、威圧の咆哮だ。魔力を乗せた咆哮で相手を麻痺させることができる』

 

なるほど…だから俺に耳を塞げて言ったのか…。

 

雫達が硬直した瞬間、ロックマウントは突撃はせずにそのまま横に跳び、傍らにあった岩を持ち上げ、白崎達後衛組に向かって投げつけた。

 

それはそのまま前衛の頭上を越えて、後衛の白崎達に迫る。

 

白崎達が準備していた魔法で迎撃せんと、魔法陣が施された杖を向けるが、次の瞬間、硬直する。

 

投げられた岩もロックマウントだったのだ。

 

空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。

 

さながらル○ンダイブだ。

 

「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうだな…。

 

しかも、妙に目が血走ってて鼻息が荒い。

 

「オラァァァァッ!」

 

『グギャァァァッ!』

 

俺は跳躍しゴリラをぶん殴り殴り飛ばした。殴り飛ばされたゴリラは壁に激突した。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ありがとう…黒木君…」

 

「別に…ただクラスメイトを守っただけだ…」

 

そう言うと俺はハジメの元に戻った。

 

「ラットマンのときも思ったけど…一夜…凄いね、坂上君のように魔物を殴り飛ばすなんて」

 

「まぁ…ある人のおかげでな…」

 

「?」

 

『いや〜嬉しいね〜』

 

俺が急激に筋力が上がった理由はこのエボルトのおかげだ。雫が部屋に戻り寝た俺は夢の中でこいつに鍛えられた…。

 

その結果…ある程度の魔物には対抗できるようになった。

 

「(たく…夢の中で鍛えられるとは思ってもいなかったぜ)」

 

『そう言うなよ〜。これぐらいしなきゃ…俺たちの力には耐えられないからな…

 

「(なんか言ったか?)」

 

『いや別に〜』

 

なんだよ…そんなことをしていると…何故か、天之河は怒っていた。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを、死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。

 

彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。

 

すると、それに呼応してか、天之河の聖剣が輝き出した。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──天翔閃!」

 

「あっ!! こら、馬鹿者!」

 

『あーぁ後先考えずによくやるな〜』

 

「(馬鹿だから仕方ねぇよ…)」

 

俺たちが天之河のしようとしていることに呆れていると天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

 

曲線を描く極太の斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁に直撃、破壊し尽くしてようやく霧散する。

 

「ふぅ〜」

 

息を吐いてイケメンスマイルで香織達の方に向き直るのだが、メルドさんの拳骨が炸裂した。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が!気持ちはわかるがな、こんな狭い所で使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!」

 

そう言ってメルドさんは天之河を叱った。ざまぁねぇな。

 

不意に白崎が破壊された壁の方に視線を向けた。

 

「あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

白崎の視線を追って全員が視線を向ければ、そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。

 

白崎を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。煌びやかな輝きが貴族層に受けがよく、また求婚の際に選ばれる鉱石だ」

 

へ〜そんな高価な鉱石なのか…。

 

「綺麗…」

 

白崎はメルドさんの説明を聞いてグランツ鉱石を見つめていた。時折、チラチラとハジメの方を見ていたが…。

 

「………」

 

そして…雫さん?貴方も俺をチラチラ見るのは辞めてください…。

 

『ひゃ〜青春だね〜』

 

「(黙れエボルト)」

 

「だったら俺達で回収しようぜ!」

 

すると唐突に檜山がグランツ鉱石の元に向かっていき、壁を登っていった。

 

「待て!勝手な事をするな!まだ安全確認も済んでいないんだぞ!」

 

メルドさんが慌てて檜山を止めようとするが、彼はそれを無視して鉱石に手を伸ばす──

 

「止めろ馬鹿が」

 

の前に俺は瞬間移動で檜山に接近し後頭部に膝蹴りを突き刺し、檜山の顔を壁に埋め込んだ。

 

しかし…それが悪手になった。

 

壁に顔面が陥没した檜山の手が鉱石に触れたのだ。

 

瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がり、瞬く間に部屋全体に広がり輝きを増す。

 

『どうやらトラップのようだった。やっちまったな〜一夜』

 

「(チッ!)」

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルドさん叫ぶが、一足遅かった。

 

部屋に光が満ち、その場の全員を飲み込んだ後、一瞬の浮遊感が襲った次の瞬間、床に叩きつけられる。

 

俺はそのまま着地していたが。

 

俺たちが転移した場所は巨大な石造りの橋の上だった。

 

長さはざっと100メートルはありそうだ。

 

天井までの高さは20メートルはあるだろう。

 

橋の下は川などなく、全く何も見えない奈落が口を開けていた。

 

橋の横幅は10メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく奈落に真っ逆さまだ。

 

ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。

 

橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

「お前たち、すぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け!急げ!」

 

今までで一番響いた号令に、クラスメイトたちはわたわたと立ち上がって動き出す。

 

だが、このトラップはまだ終わりではなかった。登り階段の橋の入り口に魔法陣が現れ、骸骨のモンスターが大量に湧き出した

 

更に、通路側にも一つの魔法陣が現れ、そちらからは一体の巨大な魔物が現れる。

 

その魔物を見た瞬間、メルドさんは茫然と言った様子で口を開いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

目の前の巨大な魔物を見て、俺は小さく舌打ちをした。

 

「(めんどくさいことになったな…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『予定にはなかったが…早めに来れてよかったぜ…後は…一夜が何らかの形で奈落に落ちてくれれば…後はこっちのものだ…!!』

 

 



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残酷

橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。

 

通路側の魔法陣は10メートル近くあるが、階段側の魔法陣は1メートル位の大きさだ。

 

だがその分その数が桁外れだ。

 

小さな無数の魔法陣からは、人型の骨の体に剣を携えた魔物『トラウムソルジャー』が溢れるように出現した。

 

空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝いている。

 

その数は、既に百体近くに上っており、尚増え続けている。

 

しかし、数百体の骸骨戦士より、反対の通路側の方がヤバイとハジメは感じていた。

 

10メートル級の魔法陣から出現したのは体長10メートル級の四足で、頭部に兜のような物を取り付けた魔物。

 

最も近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。

 

ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているのだが……。

 

メルドがべヒモスと名前を呟いた魔物は大きく息を吸い、

 

「グルルァァァァァァァァァァ!!」

 

『っ!?』

 

凄まじい咆哮を上げるが、その咆哮でメルドさんはいち早く正気に戻り、矢継ぎ早に指示を出す。

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイんでしょう!? 俺達も…」

 

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物。かつて、最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!俺はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルドさんと天乃河の言い争いを他所にエボルトが話しかけてきた。

 

『どうするんだ?あのバカはやる気だが…正直勝てる要素がないぞ』

 

「(そんなの分かりきっている…あの馬鹿が現実を見てないだけだ)」

 

エボルトとそんな話をしながら俺は高速移動で隅にいたトラウムソルジャーを奈落へと突き落とし、直ぐ様もう一度高速移動でその場を離脱した。

 

『意外と冷静だな。他の奴らと同じで怖がりパニックになっていると思ったが…』

 

「ハッキリ言って怖くて堪らない。…だが…他の奴らがパニックになっているのを見ると逆に冷静になるんだよ」

 

そんな言い訳をエボルトにしながら必死に己を奮い立たせて仕掛けていく。

 

ハジメも錬成を駆使してトラウムソルジャーの足止めをしているが、誰も彼もがパニックに陥っているので、まとまりが全くない。騎士団員の言葉も彼らには殆ど届いていない。

 

こんな状況だと本当に冷静になるな…。

 

 

 

 

 

 

 

一方で

 

前方に立つ骸骨の魔物と背後から迫ろうとするベヒモスの気配に生徒達はパニックになり、隊列も糞もなく階段に向かってがむしゃらに向かっている。

 

騎士団員のアランが何とかパニックを抑えようとするが、それに耳を傾ける者はいなかった。

 

一夜ののクラスメイトの一人である園部優花はかに突き飛ばされて転倒してしまった。

 

慌てて顔を上げるが、その眼前でトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

死ぬ。

 

そう思った瞬間、

 

「フンッ!」

 

自身の背後から誰かの蹴りが飛んできて、トラウムソルジャーを蹴り飛ばした。

 

「え…」

 

更に地面が隆起して数体のトラウムソルジャーを巻き込んで橋の端へと向かって波打つように移動していき、奈落へと落とすことに成功する。

 

優花が振り返ると、拳を構える一夜とその側で地面に手をついて荒い息を吐いているハジメがいた。

 

「黒木…南雲……」

 

一夜は優花に視線を向けると、手を引っ張り優花を優しく立ち上がらせる。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、ありがとう…」

 

「怖いのはわかる…絶賛俺も怖い思いをしている。だが、立ち止まるな。前へと進め」

 

それだけを言うと、一夜は別のトラウムソルジャーを蹴り飛ばし、或いは殴って粉砕していた。

 

『カッチョイイね〜お前の方が勇者に向いているんじゃね?』

 

「俺はそんなになりたくはない。俺は親友を守れればそれでいいだけだ」

 

『そうかよ』

 

一夜はエボルトとそんな会話をしながらトラウムソルジャーを倒していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜side

 

不味いな… クラスメイト達はパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。

 

ようやくわかったようだな…この世界では死と隣り合わせだということを…。たく勢いだけで…天乃河に便乗したからこうなるんだぞ…

 

そんことを思っても仕方ない…このままいけば…いずれ本当に死者が出る可能性が高いな…

 

それに…骸骨野郎を倒しまくっても魔法陣から続々と増援が送られてきている…無間地獄だな…。

 

「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河君!!一夜!天之河君を呼んでくる!それまで何とか堪えて!」

 

「ハジメッ!」

 

ハジメは俺にそう言って、ベヒモスの方へと走って向かって行った。確かにこの状況を打破するには、チート最上位の天之河でないと不可能だ。

 

『なかなかやるなあの小僧…一夜…あの小僧の名前はなんだ?』

 

「……南雲ハジメ…俺の最高の親友だ」

 

『南雲ハジメか…。お前の親友は面白いやつだな自ら危険なところにいって』

 

「あぁ…凄い奴だよ」

 

俺はエボルトと会話をしながらハジメが天之河を連れてくるのを信じ、湧いて出てくるトラウムソルジャーを倒していった。

 

すると…轟音が洞窟内に響いた。

 

「ッ!なんだ!?」

 

俺はベヒモスの方を振り返ると、障壁が砕け、ベヒモスが咆哮で舞い上がる埃を吹き飛ばしていた。

 

『あーぁやばいなこりゃ』

 

「チッ…何やっているんだよ!」

 

そう言って俺は天之河達の元に向かった。そして、雫とハジメの元に駆け寄ると俺は雫に言った。

 

「何やっているんだお前ら!早く逃げろ!」

 

「一夜!?で、でも!ベヒモスが!!」

 

「俺が時間を稼ぐ!だから白崎と団長達を連れて向こうに行け!」

 

俺が雫にそう言った瞬間、身体から力が湧いてきた。

 

『お前じゃ時間を稼ぐ前に死んじまうよ。俺の力を与えてやるからどうにかしろ』

 

「エボルト!?お前…!?」

 

『お前を失ったら俺たちがヤバいからな…今のこいつじゃ俺の本来の力を与えたところで扱いきれるか分からないからな…

 

エボルトがそんなことを話していると…雫が俺…いや、エボルトを睨みつけた。

 

「あなた…一夜を利用してなにをするつもり…」

 

「雫『変われ』なっ!」

 

雫が睨みつけながらそう言った瞬間、エボルトの意識が表に出た。

 

『よぉ〜八重樫 雫。昨日ぶりだな〜元気にしていたか?』

 

「黙って!あなたは一体一夜を利用してなにをするつもりなの!」

 

「それは企業秘密だ。ま、お前に言ったところで何にも変わらないがな』

 

「なんですって!」

 

『これ以上は時間をかけたくないから一夜と変わるぜ』

 

そう言うとエボルトから俺に意識が変わった。

 

「とにかく!俺が時間を稼ぐ!早く退路を切り開いて向こうに!」

 

「待て!! なら俺も戦う!君だけにやらせはしない!」

 

俺の言葉に空気を読まない勇者は言った。

 

『とことん空気を読まないなこの馬鹿は』

 

表面は仲間思いに溢れる言葉だが、その裏は気に入らない男が自分達を守ってるのが我慢ならないという、酷く自己中心的な無意識の願望があった。

 

「いい加減にしろ!こっちは死ぬか生きるかの瀬戸際なんだぞ!お前の自己中心的な発言を聞いている暇がないんだ!」

 

「なっ!誰が自己中心的な発言をした!」

 

俺はこのまま言い争いをしていたら埒が明かないと思い雫と団長に言った。

 

「雫!団長!そのバカをぶん殴ってでも連れていけ!足手まといだ!!」

 

『一夜〜そろそろ始めないとここにいる奴らは全員お陀仏だぞ〜』

 

エボルトが他人事みたいに言ってくるのにイラつきながら俺は走りながらベヒモスに向けて火球を放った。

 

「こっちだ!デカブツ野郎!図体がデカいだけのノロマ!」

 

『グガァァァァァァァッ!』

 

俺の挑発に怒ったベヒモスはこっちに向かって突進してきた。

 

「早くしろ!俺がこいつの気を引いているうちに!!」

 

「ッ……ごめんなさい!!」

 

雫は一度この場を任せる事に謝罪してから、白崎と天之河の腕を掴んで離脱。

 

「ま、待って雫ちゃん!」

 

「離してくれ雫!俺が……俺がやらないと…!!」

 

2人が喚くも、雫は無視して2人を連行、団長も坂上と共に後退する。しかし、この場に一人だけ残っていた。

 

「一夜ッ!」

 

「ハジメ!?なんでまだいるんだよ!」

 

俺の親友であるハジメがまだ残っていた。

 

「僕も手伝うよ!」

 

「バカ野郎!どうするつもりだよ!」

 

「僕が錬成でベヒモスを足止めする!だから…もう少し持ちこたえて!」

 

「・・・本当にやる気か?」

 

「うん」

 

ハジメの目を見て、俺はため息をついた。

こいつは、普段は事なかれ主義だが、いざというときは自分を犠牲にしてでもだれかを守ろうとする。こうなったハジメは、止めることはできない。

 

「・・・なんとかして角を橋に突き刺す。その隙に」

 

「わかった」

 

俺はそう言ってベヒモスに向かって駆け出した。

 

『ひゃ〜!!本当に面白いやつだな!南雲ハジメは!!気に入ったぜ!』

 

「そりゃどうも!!」

 

『グガァァァァァァァッ!』

 

俺に向かって突進してくるベヒモスの目に、再び火球を放ち、ベヒモスを怯ませた。この痛みに、ベヒモスは空中で態勢を崩してしまった。

 

「おらぁっ!」

 

そこに、俺が飛び上がって、魔法による風の勢いも加えた飛び蹴りをベヒモスにぶつけた。

 

俺の飛び蹴りをもろにくらったベヒモスは、重力とともに落ちていき、角を橋に突き刺してしまう。

 

「いけ!ハジメ!!」

 

動きを止めたベヒモスを確認した俺はハジメに指示を出した。

 

「錬成!」

 

赤熱化の影響が残っているのも構わずにしがみつき、ハジメは錬成を行使した。

 

ベヒモスが角を引き抜こうとしても壊したところから錬成で修復され、足元も液状化されて足を飲み込んだかと思えば、再び硬化してベヒモスの動きを止める。

 

ベヒモスのパワーはすさまじく、すぐに橋に亀裂が入りそうになるが、そうなる前にハジメが錬成をかけなおして抜け出すことを許さない。

 

「よくやったぜ!ハジメ!!」

 

「うん!ありがとう一夜!」

 

「おっしゃ!さっさとこっから逃げるぞ!」

 

俺たちはそう言って階段の方へと向かおうと走り出した。

 

しかし…ここで、予想外のことが起きた。

 

どこからともなく飛んできた火球がハジメに炸裂し、ハジメは後ろへと吹き飛ばされてしまった。

 

「ハジメッ!」

 

その光景に俺は絶句し、身体の動きを止めてしまった。

 

魔法の被弾で飛ばされたのか?

 

だとしても軌道上、誰かが故意にしないと有り得ない。

 

じゃあ一体誰が…

 

俺は突然のことに驚き混乱していると…

 

『一夜ッ!』

 

エボルトの声で正面に顔を向ければ、俺の目の前にあったのは火球だった。

 

「ッ!」 クソっ!」

 

気づいて動き出そうとした時には間に合わず、俺は諸に火球を喰らってしまった。

 

「グアァァァァァァァァ!?」

 

火球を喰らってしまった俺とハジメはそのまま奈落の底に向かって落ちて行ってしまう。

 

「(クソッ!なんで!?)」

 

俺は対岸のクラスメイト達の方へ視線を向けると、白崎と雫が今にも飛び出そうとして、天之河や坂上によって羽交い締めにされているのが見えた。

 

他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。

 

メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情で二人を見ていた。

 

その中で確かに俺は見た。

 

「あー……やっぱりお前だったか…そうだよな…こんなことをするのは…てめぇだけだよな…」

 

俺はそう言って原因である存在を睨みつけ叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「檜山ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

してやったりと、ほの暗い笑みを浮かべてる檜山を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『予想外の展開だったが…あの小僧のおかげでやっと奈落に落ちることが出来たぜ…やっとだ!!これで遂に俺たちは復活することが出来る!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おーいお前ら〜』

 

『なんだキルバス?』

 

『エボルトからの連絡だ。やっと奈落に落ちたぞ、てな』

 

『ようやくか…これで我らは復活することができる!』

 

『でも、どうやって奈落に落ちたんだい?』

 

『あ〜それなんだが…どうやら仲間に裏切られたようだぜ?』

 

『フンッ…人間の悪意が産んだ結果がこれか…』

 

『面白くなりそうだな!!』

 

 

 

 

 

 

 

『それでは行くとするか…我らの力を継ぐ…黒木 一夜の元に…』

 

 



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残された者達

響き渡り消えてゆくベヒモスの断末魔。

 

ガラガラと轟音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。

 

そして……瓦礫と共に奈落へと吸い込まれるように消えてゆく一夜とハジメ。

 

その光景を、まるでスローモーションのように緩やかになった時間の中で、ただ見ている事しか出来ない香織と雫は、どこか遠くで聞こえていた悲鳴が、実は自分のものだと気がついた瞬間、急速に戻ってきた正常な感覚に顔を顰めた。

 

 

「離して!南雲君の!ハジメ君の所に行かないと!約束したのに!私が守るって!離してぇ!」

 

「放しなさい!一夜が!一夜が落ちて……!」

 

飛び出そうとする香織と雫を光輝と龍太郎が必死に羽交い締めし、抑え込んでいた。

 

しかし、雫と香織は、細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思う程、尋常ではない力で引き剥がそうとしていた。

 

「香織!雫!君達まで死ぬ気か!南雲と黒木はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

それは、香織達を気遣った光輝なりの精一杯の言葉だった。

 

しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきではない言葉。火に油を注ぐようなものだった。

 

「無理って何!? ハジメ君も黒木君も死んでない!行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

その現実を受け止められる心の余裕は、今の香織にはない。

 

しかし…それに反して雫はいきなり大人しくなった。

 

諦めたのかと思い龍太郎は雫の拘束を解いた。

 

 

 

周りの生徒もどうすればいいか分からず、オロオロとするばかりだ。

 

その時、龍太郎の拘束から解かれた雫が香織に静かに歩み寄ると、問答無用で香織の首筋に手刀を落とした。ビクッと一瞬痙攣し、香織はそのまま意識を落としてしまった。

 

気絶した香織をそのまま抱きかかえ、側にいたメルドにその身を預けた。

 

 

「……」

 

「し、雫?」

 

突然のもう一人の幼馴染の行動に光輝が動揺したように言う。

 

ここにいる他のクラスメイトも、メルド含む騎士達も何もいえない。ただひたすら彼女の行動を見ているしかなかった。

 

「……すッ」

「雫?」

 

光輝がいつものように雫の肩に触れようとした時……それは起こった。

 

 

 

 

「ーー殺すッ!」

 

 

 

その言葉と共に光輝が数メートル弾けとんだ、怒りに任せて光輝を弾き飛ばしたのだろうが今の彼女は異常に思えるだろうが当然だろう。

 

彼女は怒りでいっぱいだった。

 

目の前で一夜を…好きな人を……殺されたのだからだ…

 

 

「殺すッ!殺してやるッ!誰だ!一夜に魔法を放った奴は!出てこい!この手で切り刻んでやる!」

 

雫は剣気と殺気と憎悪が乗ったどす黒い意志を、味方であるはずのクラスメイトに叩きつけた。

 

最初の一発は誤射だろうと思ってもおかしくはないだろう。誰がやったかはわからないが魔法の操作を誤ったのだろうと。

 

しかし…二発目は明らかに誰かの悪意があるとしか思えなかった。

 

「……どうして…」

 

ふいに響いた声に全員が顔を向ける。

 

そこにいたのは優花だ。

 

優花は茫然とした様子でヒヒヒと笑みを浮かべている檜山を見つめながら口を開いた。

 

その様子に全員が檜山に視線を向け、それに気づいた檜山から笑みが消え、分かりやすく狼狽える。

 

「な、なんだよ……な、何を……」

 

「なんで……二人に魔法を放ったのよ……」

 

その言葉にその場の全員が息を呑み、騒然となる。

 

檜山は一瞬で顔色を青を通り越して白くさせ、優花に食って掛かった。

 

「は、はぁ!?何変な事言ってんだ!俺が魔法を? ちげぇよ!デタラメ言ってんじゃねぇよ!だいたい証拠はあるのかよ!」

 

「証拠はないけど…でも私はこの目で見たのよ!アンタの魔法が二人目掛けて軌道を曲げる所を!それだけじゃないっ、最後の魔法だって…アンタが放ったモノでしょ!!」

 

両目一杯に涙を流しながら優花も激しく反論する、火球が突如として軌道を曲げて二人に襲い掛かった時、慌ててそれを辿ればその先にいたのは檜山だったのだ。

 

「見ただけじゃ証拠なんかに!『俺も見た……』え、遠藤!?」

 

尚も自分はやっていないと言う檜山にクラスメイトの一人である遠藤 浩介がそう答えた。

 

「俺も檜山が…黒木達に魔法を放つ所を見たんだ…それも近くで…」

 

「遠藤お前まで!」

 

「私も…」「俺も見た!」

 

と、そこに永山 重吾と辻 綾子も名乗り出した。

 

「お前ら!?違う!俺はやっていない!」

 

優花達の発言を聞いたクラスメイト達は檜山を冷たい目で見た。

 

「やっぱり…あなたなのね…」

 

「だから違うて言っているだろ!?」

 

「じゃあ何で火の魔法を使ったのよ!あんたの適正は風の魔法でしょう!?なんでわざわざ適正じゃない火の魔法を使ったのよ!」

 

「そ、そんなのどうでもいいだろうが!別に黒木達が死のうが別にいいだろ!!あんな、無能の二人組が死んだところで戦力になんの問題もないんだよ!!いい加減にしろよテメェら!」

 

最早言い訳すら無く、何とかこの場を逃れようと強がってしまったのか…墓穴を掘ってしまった檜山。

 

その一言が、彼は自分が犯人だと告白したようなものだった。

 

 

そんな、事……?一夜を落としたことが…そんなこと…だと…

 

あんな、無能が死んだところで戦力になんの問題もない……

 

巫山戯るな…巫山戯るな…巫山戯るな!!

 

 

 

檜山の放ったその一言が、1人の少女の空気を変えた。

 

一方、生徒や騎士団の者たちはいまだ騒然となっている。

 

それはそうだろう…クラスメイトの一人が仲間である筈のクラスメイトを二人殺したのだ。

 

生徒たちは混乱の極みのようでめちゃくちゃに言葉が飛び交う。

 

すると、こんな状況に光輝が口論に割って入る。

 

「ま、待ってくれ園部さん、それに遠藤達も。檜山が彼らを攻撃したなんてありえない。だって俺達は仲間だ!仲間を殺すなんてあり得ないじゃないか。南雲達が死んだのがショックなのは分かるが、あれは不幸な事故だ。仕方がなかったんだ」

 

その言葉に優花は「はぁっ!?」と息を詰まらせた。遠藤達も「何を言っているんだこいつ!?」という顔で光輝を見た。

 

「で、でも私確かに見たのよ!? あれは絶対に誤爆じゃない!明らかに意図的に…」

 

「そうだ!南雲や黒木に向けて放っていたんだぞ!」

 

優花と遠藤は光輝にそう言うが……現実を見ない光輝には届かなかった。

 

「動転しているのは分かるが、今はそんな事よりも脱出を優先しないと……」

 

「そんな事って……仲間が、クラスメイトが二人死んだ事を……そんな事って……」

 

「天之河…それは幾らなんで酷いぞ…」

 

「何がだい?」

 

「あの二人はクラスメイト!仲間なんだぞ!それを…そんな事はないだろ!俺たちの為に時間を稼いでくれた二人にそんな事はないだろ!」

 

遠藤は自分達の為に身体を張って時間を稼いでくれた一夜とハジメに対し、そんな事と言った光輝に怒りを覚えた。

 

「落ち着いてくれ遠藤。今は南雲達を気にしている場合じゃないんだ、そんな事を考えているより、まずは一刻も早くここから脱出しよう!」

 

光輝はいつものイケメンスマイルでそう言う。

 

しかし、優花と遠藤は信じられないと言うように目を見開き光輝を見た。

 

その瞬間…ゆらりと雫が動いた。

 

「ーーー死ね……」

 

雫は一夜達に向かって魔法を放った檜山にアーティファクトである剣を振り下した。

 

「え、あ………ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

腰を抜かし、尻で地面をこすりながら後ずさり、今にも失神しそうな檜山。

 

その檜山に無数のトラウムソルジャーの死体が絡み付いた。

 

「やめるんだ!雫!」

 

後ろで光輝が雫に止めるように叫んだ。

 

「うるさい…コイツは…ここで殺すッ!」

 

しかし、雫は止まらず剣を振り下ろし、だが振り下ろした剣は檜山の命を刈り取る事は無く辺りに金属音が響いた。

 

「ーー何のつもりですか」

 

 雫は檜山の眼前で己の剣を受け止める剣の持ち主を睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

「メルドさん」

 

雫の剣を受け止めたのは、香織を抱えていたメルドだった。

 

メルドは雫から香織を預けられていた筈だったが…

 

彼女がしでかすと判断したメルドは……紳士としては最低だと思うが緊急事態として彼女を地べたに降ろしたあと雫を止めたのだ。

 

 

「……お前の気持ちは分かるつもりだ、だが、だが今この場だけは押さえてくれ!」

 

頼む、とメルドからの頼みを雫は無下にする事が出来ず断腸の思いで振り下ろした剣と殺気を収めた。

 

しかし、その瞬間…誰が雫に語りかけてきた。

 

『いや〜とんでもない滑稽な茶番劇だな〜』

 

「ッ!あなたは!!」

 

『よ、八重樫 雫』

 

その声の主は一夜に取り憑いていた筈のエボルトだった。

 

雫はエボルトが何故、自分に話しかけてくるのかわからなかった。一夜の状況からエボルトは一夜に取り憑いていた筈…なのに、なんで自分に話しかけてくる。

 

「一夜は!一夜はどうしたの!」

 

『そう焦るなよ。一夜に関しては…ま、生きるか死ぬかはアイツ次第だが…それにしても笑ちまうな』

 

「何がよ…」

 

『んいや〜…自分の欲望なら平気でクラスメイトを殺す男、クラスメイトが死んだかも知れないのにそんなことと言って片付けてしまう馬鹿な勇者。笑わない筈がないだろ?滑稽としか言えないぜ!』

 

「……笑いに来ただけならさっさと一夜の元に帰りなさい…」

 

『おいおい、そんなに怒るなよ。それに俺たちは感謝しているんだぜ?』

 

「何よ……」

 

 

 

 

 

 

 

「し、雫…?」

 

「雫ちゃん……」

 

メルド達騎士達とクラスメイト達は困惑していた。

 

それもそのはずだ。雫はエボルトと話しているのだが…傍からいきなり独り言を話し出したにしか見えないのだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前らのクラスメイトの一人が馬鹿げた悪意で一夜を奈落に落としてくれたお陰で目的が果たせそうなんだぜ?ありがとな…』

 

「ッ!?」

 

『それじゃあ俺も急いでいるんでな。それじゃあ、チャ〜オ〜』

 

「待ちなさい!一夜を使って何をする気!答えなさい!」

 

雫はエボルトに答えるように呼びかけるが…エボルトは雫に答えることは無かった。

 

必死にエボルトに呼びかけるが…雫は諦めたのか両膝をつき、

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

発狂してしまったのだ。

 

「雫ちゃん!?」

 

「八重樫!?」

 

これには鈴もその場にいた全員が驚いた。

 

「一夜……ごめん…ごめんなさい…私が…不甲斐ないばかりに…ごめん…ごめん…」

 

「雫ちゃん…」

 

「雫……」

 

そんな雫に鈴や優花が寄り添った。

 

しかし、そんな彼女に対して空気の読めない男が一人居た……

 

 

「雫、どうしていきなり檜山を殺そうとしたんだ? きちんと応えてくれ。こればかりは見過ごせないな」

 

 

 

 

 

 

我らが勇者(笑)、天之河光輝だ。

 

光輝の中では、一夜とハジメの事は完全に不幸な事故だと認識されており、檜山が殺した等と微塵にも思っていなかった。

 

というか理解しようとしなかった。

 

故に、どうして雫が檜山を殺そうとしたのか、全く理解できないのだ。

 

 

これを聞いたクラスメイトはギョッと光輝を見た。

 

『何を言っているんだこいつ!?』

 

『今の発狂を見たろ!?確実に精神を病んでいるんだぞ!?』

 

いきなり発狂し泣き始めた雫にそんなこと言うなよ!と…皆…檜山達小物四人組を除く全員が思った。

 

 

 

そんな光輝に雫は立ち上がると、絶対零度のような冷たい目線で光輝を見た。

 

今まで見たことがない程の冷たい目線を向けられた事で光輝は少し後退りしてしまった。

 

「………ねえ光輝、皆を守るんじゃなかったの?一夜達は、皆に含まれないの?」

 

「ーーッ!そ、そんな事はない!彼等だって、大切な仲間だ!でも、仕方ないだろ?あの時、君達まで巻き込まれてたら……」

 

「じゃあ……一夜と南雲は死んでも良いって事なの?無能の二人は死んでもいいの…そうなの…?」

 

「ーーッ!違う!俺はただ一人でも犠牲者を減らすために…俺だって、苦渋の決断だった!あれが最善策だったんだ!!」

 

「ふーん、そう……やっぱり…一夜があんたに言っていたことは合っていたようだね。ホント…全く現実をみていないわね。……光輝、ううん……『天之河』君、もう私に話かけないで、それと……私の事を、もう二度と名前で呼ばないで。呼んだら…ただじゃおかないわよ…」

 

「ーーーッ!!?」

 

光輝は幼馴染のらしくない言葉を聞きショックを受けるが、それを彼女が黒木を目の前で失った事が相当ショックが大きかったのだろうと雫達を哀れむ。

 

俺が心を癒さなければ!と、使命感にかられた。

 

「じゃあね…天之河君」

 

が、彼女は自分を明らかに拒絶するような態度を見せ香織を回収するとそそくさと撤退していった。

 

雫の中では手のかかる弟のような幼馴染みから殺したい人間の1人に下がっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『所詮人間はこんなもんか…さって…俺も一夜のところに戻るとするか』

 



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絶望

ぐっ……」

 

水の流れる音が聞こえ、下半身の刺すような冷たい感触を感じ、俺は目を覚ました。

 

「…………ここは一体……痛ッ」

 

確かは俺は…ベヒモスと戦って…ハジメと共に逃げようとした時に…火球が…

 

「あ〜…檜山の野郎に落とされたんだったな…」

 

あの野郎…なんのために俺たちを奈落に落としやがったんだ…

 

「大方…白崎と仲良くしているハジメを殺す為だろ…アイツ、白崎に恋心抱いていたし。んで、俺はついでか…いつもの仕返しかどちらかだな…」

 

そんなことを考えていると、俺はハジメの存在を思い出し、急いで周りを見回すも、ハジメの姿は欠片も見当たらなかった。

 

「ハジメは……一体何処に…てか、寒いな…」

 

どうやら…川に入っていたようだな。

 

俺は川から出ると、服を絞ると、十センチ位の魔方陣を書いた。

 

「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、〝火種〟…だったけ?こういう長ったらしい詠唱は嫌いだな〜」

 

そう言いながら俺は魔力で起こした火で暖をとりつつ、服を乾かし始めた。

 

「状況からして水に流されて助かったのか……ここに川が流れていて良かったよ」

 

落下途中の崖の壁に穴が開いており、そこから鉄砲水の如く水が噴き出していたのだ。

 

ちょっとした滝だ。

 

そのような滝が無数にあり、俺は何度もその滝に吹き飛ばされながら次第に壁際に押しやられ、最終的に壁からせり出ていた横穴からウォータースライダーの如く流されたのだな…。

 

あれのお陰で死なずに済んだのか…とてつもない奇跡だな…。

 

俺はそう考えながら火を消し、まだ若干乾いていない服を着直した。

 

「とりあえず…川沿いに進むか…進めばハジメも見つかるだろ…」

 

俺はボロボロな身体を立たせると、先ず川沿いから捜索を開始した。ハジメも同じように流されている可能性が高い。

 

物陰から物陰に隠れながら、川沿いを下って進んで行くが、ハジメの姿は一向に見当たらなかった。

 

「一体何処にいるんだよ…ハジメ」

 

もしかして…いやいや!そんなマイナスなことを考えるな!親友を信じろ!ハジメは生きている!

 

 

 

「それにしても…エボルトの野郎…さっきから全然反応しんな…」

 

そう、さっきからエボルトが全然話しかけてこないんだ。アイツのことだから、奈落に落ちたことでからかいの一つや二つは言って来るのだが…全然話してこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてしばらく進んでいると何かしらの影を見つけた。

 

俺は物陰から顔を少しだけ出してその影を確認すると、その影は後ろ足がやたらと発達した中型犬ぐらいの大きさをもつウサギだった。

 

しかもそのウサギの体には幾本もの紅黒い線がある。

 

「(見るからにヤバイな…)」

 

そんなことを考えていると…別の岩影から二本の尾をもつ狼の群れまで現れた。狼の群れは兎が襲いかかるが…

 

「キュウ!」

 

兎は蹴りで狼の群れを薙ぎ倒した。

 

「(マジかよ…)」

 

冗談抜きでヤバい…あんなのとエンカウントしたら一瞬でお陀仏だ…

 

それにしてもあの兎… もしかしたら単純で単調な攻撃しかしてこなかったベヒモスよりも、余程強いかもしれないな…。

 

「(そう考えたら尚もヤバイな…早くここから…)」

 

俺は「気がつかれたら絶対に死ぬ」と、感じならが無意識に後退し、ここから逃げようとゆっくりとその場から立ち去ろうとした……

 

しかし、その瞬間……俺の周りに突風が吹き荒れた。

 

「グルルルルル…!」

 

そんな低い唸りが聞こえたと同時に、全身が風で覆われた二メートル程の巨大な狼がゆっくりと姿を現した。風で覆われていない部分にはやはり、紅黒い線がある。

 

「(もっとヤバいのが来た!?)」

 

ヤバいの…あの狼…兎よりもっとヤバい…

 

俺が狼を見て唖然としていると、兎が我に返ったように、脇目も向けずに逃げようと後ろを振り向くと――、

 

「ガァァァァァッ!」

 

雄叫びと共に風狼は口から鎌鼬を兎に放ち、兎を細切れに切り刻んだ。そして、細切れになった兎を風狼は捕食してしまった。

 

 

その光景に俺は「絶対に死ぬ」と、感じ、無意識に後退てしまい――

 

 

―――カラン

 

 

足下の小石にぶつかってしまい、ぶつかった音がやたらと大きく響いた。

 

「(ヤバい!!)」

 

「グルルルルル…」

 

やってしまった俺は風狼の方に目を向けると、風狼はこちらを見ており、低く唸りながら、こちらを睨みつけていた。

 

俺は逃げようとした瞬間…目の前から風狼が突然居なくなった。

 

「ッ!何処に行っ『ザシュッ!』え……」

 

何が起こった…今、ザシュッて…俺が混乱していると、風狼が何かを咀嚼していた。

 

俺は理解できない事態に混乱しながら、何故かスッと軽くなった左腕を見た。

 

「あ、あれ?な、なんで…俺の左腕は…?」

 

俺は顔を引き攣らせながら、何度も腕があった場所を手で触れようとする。

 

嘘だ…そんな訳ない…そんな訳…

 

瞬間、腕を襲うすさまじい激痛が俺を現実に引き戻した。

 

「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」

 

痛い!痛い!痛い!死ぬッ!死ぬッ!死ぬゥゥゥゥゥゥッ!

 

俺の絶叫が迷宮内に木霊した。俺の左腕は肘から先がスッパリと風狼によって喰われていたのだ…あの一瞬で…俺の左腕を!

 

 

「あ……ぁあ…………あああ…………嫌だ…嫌だ…嫌だ……」

 

 

ゆっくりとこちらへ向かいながら、鎌鼬を放とうとする風狼…。

 

次はお前を喰らう…そんな目付きで俺を睨みつけていた。

 

「(死ぬッ!このままじゃあ…死んじゃう!!)」

 

俺は恐怖で押しつぶされそうになりながらも何とか立ち上がり、その場から逃げようとした。

 

「ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

そんな俺を逃がさんと言わんばかりに風狼は鎌鼬を俺に向かって放った。

 

「ヒィッ!」

 

俺は咄嗟に横に跳んでかわすも―――

 

 

ザシュッ!

 

 

「ァァァァァァァァァッ!足がァァァ足がァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 

その鎌鼬は俺の右膝部分に当たり、容赦なくその部分が切り飛ばされた。

 

右足を失ったことにより、倒れてしまった。

 

歩くこともできず、必死に這いつくばってでもここから逃げようとしたが…血を流しすぎたのか…意識がなくなりかけてきた。

 

 

「(痛いッ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だァァァァァァァァァッ!死にたくない!死にたくない!死にたくない!)」

 

なんでこんなことになったんだよ!なんで…俺はこんな目に合うんだよ…ッ!

 

檜山の勝手な悪意に落とされたからか?

 

天之河が戦争に参加しようと言ったから?

 

 

違う…俺を…俺たちを勝手に巻き込んだあのクソ神だ…巫山戯んな…なんで…なんでだよッ!

 

「巫山戯んな…ふざけ…んな…殺して…や…る」

 

俺はふつふつと湧き上がる憎しみを抱きながら…だんだんと意識がなくなってきた。

 

『やれやれ…しょうがない野郎だな』

 

意識を失う前…エボルトの声をした仮面の戦士が俺の目の前に現れた。そして、その仮面の戦士を見た瞬間…俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルルルルル…』

 

風狼は意識を失った一夜を喰らう為にゆっくりと一夜に近づこうとした…その瞬間…

 

『やれやれ…しょうがない野郎だな』

 

迷宮内にエボルトの声が響き、一夜の身体から光の球体が現れた。その球体は人型に形成され、一人の仮面の戦士を作り上げた。

 

『よォわんこ…うちの宿主に何の用だ?』

 

その戦士は… 声はエボルトだが…天球儀や星座早見盤など宇宙に関連する器具が全身にあしらわれ大量のディテールを使用された複雑かつ凶悪なデザインの鎧を纏った仮面の戦士の見た目をしていた。

 

『グルッ!?』

 

風狼は驚きを隠せなかった。当然だ…自分が喰おうとしていた存在から仮面の戦士が現れたからだ。誰でも驚く。

 

しかし、風狼の驚きはそれだけではなかった。仮面の戦士が纏うとてつもないオーラに驚いてたのだ。

 

あの爪熊を超えるこの狼はこの迷宮内では敵無しだと思っていた。しかし、自分の目の前にいる仮面の戦士は自分を余裕で超える力とオーラを纏わせていたのだ。

 

『一回しか言わないからよく聞けよ…今すぐにここから立ち去れ。今なら、見逃してやるよ…しかし、それを無視したら……灰にさせるぞ…』

 

『ッ!?』

 

仮面の戦士のとてつもない殺気に風狼は完全に怯え、キャインキャインと鳴いてその場から一目散に逃げていった。

 

風狼を追っ払った仮面の戦士は意識を失っている一夜の元に駆け寄った。

 

『あーぁ、左腕に右足を喰われてやがるな。ま、いつかどうせ生えるんだし』

 

そう言うと、仮面の戦士は意識を失っている一夜を担いだ。

 

『ふん…これでようやく俺たちの力が復活するぜ……』

 

仮面の戦士は一夜を見ながらそう呟くと…何処かにワープ移動し、この迷宮内から去っていった。

 

 

 



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復活

「ッ……ここ……は……」

 

一夜は何も無い…一面真っ黒な空間で目を覚ました。

 

「(ここは一体……俺は…あの風狼に左腕と……右足を喰われて…)」

 

そう考え左腕と右足を見ると…矢張りなくなっていた…しかし…なんでだろうか…

 

「(全く痛くない…俺、死んだのか…)」

 

んじゃあ…ここは天国か?……いや、真っ黒だし地獄て可能性もあるか…。

 

どっちにしろ…ハジメや雫達には悪いな…先に死んじまうなんて…

 

『やっと目が覚めたか』

 

「ッ!」

 

一夜が目を閉じようとした時…聞き慣れた声が響いた。

 

「(この声はエボルト!?)」

 

一夜は声のした方を向くと…

 

「エボルト……?」

 

『よっ!一夜、酷い有様だな』

 

そこに居たのはエボルトの声だが… 天球儀や星座早見盤など宇宙に関連する器具が全身にあしらわれ大量のディテールを使用された複雑かつ凶悪なデザインの鎧を纏った存在だった。

 

皆、一夜が見た夢の中で出てきた戦士達であった。

 

『ようやくか』

 

『やれやれ待ちくたびれたぜ』

 

『やっと暴れられるぜ!』

 

『審判の刻は来た…』

 

「ッ!?」

 

一夜がエボルトのことを見ていると…闇から一夜を囲むように……

 

両手に青い炎のグラデーションが入る純白のボディに黒色のマントを着た戦士

 

銅色のアーマーに全身の各所に牙状の装飾が施された戦士

 

全体的に赤・黒の二色で塗装され、脚等に真っ赤な毒が泡立っているかのような模様、顔と胸の前から見たクモのような意匠、肩や腰のクモの脚のような飾りがある戦士

 

黒を基調とした緑のフルボディ、はためく黒であり赤でもあるマントを着た戦士

 

他にも様々な仮面の戦士が一夜を取り囲んでいた。

 

「(全部俺が夢の中で見た…仮面の戦士達だ…)」

 

一夜がそんなことを考えていると…その中の一人… シンプルな黒い鎧を身に纏っているが、折れた右アンテナに左半分が割れた仮面、さらには様々なパイプが繋がっている仮面の戦士が一夜にに話しかけてきた。

 

『初めましてだな…黒木 一夜よ』

 

「あ、あんたは……」

 

『私の名はアーク…今はアークゼロと呼びたまえ』

 

「アークゼロ…そのアークゼロやエボルト、この仮面の戦士達は一体?」

 

『我らは…ダークライダー…貴様の知っている名前で言えば…闇の戦士だ』

 

闇の戦士……それはイシュタルが一夜達に話した昔、エヒトに反旗を翻えした戦士達のことである。

 

「その闇の戦士達が俺に何の用だ…」

 

『簡単だ…貴様の身体を使って我らの力を復活させるのだ』

 

「力の復活だと…どう言うことだ…」

 

『我々は今は思念体しか存在していない…しかし、人間を器に我らの力を譲渡すれば…我らの力は復活するのだ…』

 

「(器?てことはまさか……)」

 

アークゼロの発言に疑問を感じた一夜だったが……ある考えに辿り着いた。

 

「その器は俺のことか?」

 

『察しが良くて助かる……。そう、貴様は我々の力を受け継ぐ器に相応しい』

 

一夜が察した通り、彼らは一夜を器として復活しようとしていた。

 

「何故、俺を器に……」

 

『簡単だ、貴様には底知れぬ悪意を持っているからだ』

 

「悪意……だと……」

 

アークゼロの言葉に一夜は言葉を失ってしまった。自分が知らぬ心の奥底に悪意が溜め込んでいたことを……。

 

『知らぬはずはないだろ?貴様の中には沢山悪意を溜め込んであることを』

 

「そんなわけ『クラスメイトの裏切り』ッ!」

 

『檜山大介による身勝手な行為、それにより貴様と貴様の親友は奈落に落ちてしまった』

 

「それは……」

 

確かに檜山の火球により一夜とハジメは奈落に落ちてしまった。自分はどうにか生きていたが、ハジメはそうとは限らない。

 

『憎いか?クラスメイトが、自分と親友を奈落に落としたあの男が』

 

「憎くなんか……」

 

アークゼロの言葉に一夜は必死に否定しようとするが、否定出来なかった。

 

『これを見ろ、一夜よ』

 

「え……グッ!」

 

アークゼロは一夜に手を翳すととある映像を見せた。

 

『許してくれ!俺は!俺はワザと黒木と南雲に火球を当てた訳じゃないんだ!』

 

その光景は檜山がクラスメイト達に一夜とハジメを奈落に落としたのはワザとじゃないといい訳をする映像だった。

 

当然、檜山の言葉をクラスメイトの誰もが信用しなかったが……ここで登場我らが勇者(笑)。

 

『そうなのか……それなら仕方ない!檜山、よく話してくれたな!』

 

天之河は檜山の犯した罪を許してしまったのだ。これにはクラスメイトやメルド達も驚愕の表情をしていた。

 

天之河の判断に優花は信じられないっと表情に出しながら反論した。

 

『ちょっと何考えてるのよ!檜山は黒木と南雲を死に追いやったんだよ!なんで許すのよ!』

 

『檜山の攻撃が黒木や南雲に当たってしまったのは事実だ。だけどそれはワザとじゃ無い。皆だってそうだろう? 必死になって生き残る為に放つ魔法を他人に向ける余裕は無い』

 

その言葉にクラスメイト(小物組を除く)全員が反論した。

 

『そんなわけないだろ!黒木と南雲が頑張ったおかげでどうにかなったんだろ!』

 

『援護する為に放ったんだから故意じゃないと当たらないわよ!』

 

しかし、結局は……

 

『みんな、仲間が死んだことに混乱してるのはわかる。だけど、今こんなことをしていたら死んでいった黒木と南雲に申し訳ないだろ!』

 

持ち前のカリスマ(笑)で周囲を無理やり納得させると、遂には檜山が皆の前で謝罪する事で、この出来事は葬られる事になった。

 

『申し訳ないのはお前だろ。何勝手に死んだことにしているんだよ』

 

映像を見ていたエボルトもさすがにツッコミをいれてしまう。

 

『じゃあせめて檜山は牢屋に入れてよ』

 

優花の言葉に天之河が反論した。

 

『皆で力を合わせなければ、この世界の人達を救う事は出来無い!あの攻撃はワザとじゃ無かったんだ。それを許して過去を乗り越えなきゃ、死んだ黒木と南雲も報われない!』

 

その言葉にクラスメイトの大半は頭大丈夫か?と本気で心配したらしい。

 

『滑稽すぎて笑えるな』

 

ギリシャ文字Ωを模して背中にローブを羽織り全身が黒のボディのは戦士がポツリとそう呟いた。

 

「ははは……」

 

呆然と見ていた一夜が突然笑いだした。これにはダークライダー達も少しばかり驚いていた。

 

「あはははははははは!アハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

『一夜……?』

 

狂ったように笑う一夜に対し、エボルトは心配しながら声をかけた。

 

「アハハハハハハハハ……もう勝手にしろ……」

 

その声は先程とは違い、ドス黒い声に変わっていた。

 

「もう勝手にしろ……世界を救うことも死のうが勝手にしろ……俺はお前らをクラスメイト……仲間だと思わない……」

 

そういいながら一夜はアークゼロを睨みつけた。

 

「お前達を受け入れる……」

 

『ほぉ……いいのか?』

 

「この力で……俺は家族が待っている世界に……元の世界に帰る方法を探す!この世界がどうなろうが!クラスメイトがどうなろうが関係ない!俺は……こんな世界……どうにでもなれ!」

 

その言葉を聞いたダークライダー達は一斉に頷いた。

 

『いいだろう……我らの力……存分に使うが良い。ただし……我らの闇に耐えられるのかどうかの話だがな……』

 

その瞬間、一夜の周りにいたダークライダー達は黒い霧状になり、一気に一夜の体の中に侵入した。

 

「グガァァァァァァァァァァァァッ!」

 

全身に激しい痛みが襲いかかり、その痛みは時間が経つほど激しくなっていった。体が粉々になりそうな痛みに耐えながら……一夜はとある決心をした。

 

「(殺す……俺の邪魔をする奴は……例え人でも親友でもクラスメイトでも神ですらぶっ殺してやる!そして、この世界から元の世界に帰ってみせる!)」

 

 

「グォォォォォォォォォッ!」

 

 

 

ホルアドでは様々な異様な出来事が発生していた。

 

ある者は恐怖で怯え、ある者は泣き叫び、ある者は発狂し、ある者は恐怖に押しつぶされ自ら死を選び、ある者は崇め讃えた。

 

そして、 オルクス大迷宮でも異様な出来事が起きた。

オルクス大迷宮の魔物達が一斉に何かから身を守る為に隠れてしまったと。魔物達が身を隠した事で、一時期マッピング作業等が捗り冒険者達の攻略が捗ったとか。

 

この異様な出来事に教会の人々や人々は口を揃えてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー曰く、神に逆らいし神代の頃より封じられた闇の戦士達が復活した。とーー

 



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