流星一条って知ってますか??? (ぽぽぽっぽ共和国)
しおりを挟む

1話:流星一条って知ってますか???

あらすじ通りです。1000%思いつきですのであんま気にせず読んでください


突然だが、皆さんは【流星一条】という必殺技をご存知だろうか?

 

Fate/Grand Orderに登場するキャラクターの一人、『アーラシュ』という褐色で晴れやかな笑みをするかっこいいお兄さんが使う必殺技ーー宝具と呼ばれているものだ。

能力は至って簡単、敵全員に弓矢を全力でぶち込んでぶっ倒す。レアリティは一番低いキャラなのに高火力を持つという、『大きなデメリット』はかかえているものの、とてつもなく優秀なキャラクターだ。勿論キャラクターそのものだって魅力的な一言につきる。俺だって大好きだよ。

 

さて、なんでこんな話をしたかって?

 

「おーい『荒射〈あらい〉』!!早くサッカーしようぜ!!!」

「……わかった、今行くから待ってろ円堂!」

 

俺 が ア ー ラ シ ュ に な っ て る か ら だ よ

 

何言ってるかわからないと思うけどマジでそうなんだわ。本名は『荒射 弓也(あらい きゅうや)』。アーラシュって呼ばれる日が来るんだろうか……

 

しかも世界線はFateですらない。これイナズマイレブンだわ。無印の。

気づいたのは二年前。俺が進学する中学が『雷門』とあったからだ。そら嫌でも気がつくわな。

 

現在俺と円堂は中学二年生。サッカー部を円堂が設立し、俺もその一員に誘われる…と言った流れだな。まあ原作通りのサッカーバカ、というかそれを超えてバカだった。風邪ひいたときにリフティング練習して治してたのは意味がわからなかった。

 

円堂に言われるがままに、部室までやってくる。

雷門にサッカー部が無かった入学当時はどうすんだこいつと思っていたが、円堂のサッカーにかける情熱は本物で教員達に頭を下げて回った結果、なんとかクッソぼろい部室を一つ譲ってもらえた。

 

新入生も来て部員がある程度集まった為に、漸くサッカー部としてマトモな活動が出来る様になったことで日本一を決めるサッカー大会ーーフットボールフロンティアに向けて、徹底した練習が毎日行われている。

 

予定、だった。まあこうなるのはわかってたけどなぁ。

 

「さあ!皆、早く練習しようぜ!」

 

………円堂の声に頷く部員は、誰一人としていない。ゲームをしている染岡、菓子を貪り食ってる壁山、拳法の練習をしている少林、寝てる宍戸。やりたい放題とはこのことだろう。とてもサッカー部の部室とは思えない光景だ。

 

「……なあ円堂、サッカーはいいけどグラウンドは借りられたのかよ」

「……うっ、それは」

「どーせオレたちがフットボールフロンティア優勝なんて無理っすよ。それどころか地区予選一回戦すら怪しいっス」

「そうそう。そもそもまだ11人いないでヤンス」

 

………ほんとにそれ。

誰がこの部室見てサッカー部に来ようと思うんだ、って感じだし当たり前だけどな。

 

現在の部員はキーパー、キャプテンの円堂にフォワードの俺と染岡、ミッドフィルダーの半田に少林、ディフェンダーの栗松と壁山、宍戸。合計しても8人しかいないから、練習試合すらままならない。

陸上部の風丸、俺の友人の影野、松野が助っ人として来てくれたら漸くってところだ。なんだかなぁ……俺も普通にサッカーすんのは好きだけどな。

 

「……………わかった、俺は一人でも練習するよ。荒射はどうする」

「仕方ねえなぁ、付き合ってやるよ。円堂一人にするとまた無茶苦茶するからな」

「お互い様だろ!なぁ荒射、やっぱり今日も必殺技は見せてくれないのか?すっげー気になる!」

「………お前が『ゴッドハンド』出せるようになったら考えてやるよ」

 

そう。

 

俺の固有技は、『ステラ』。

シュート技で、おそらく全盛期の爆熱ストームを超える威力なのだろう必殺技だ。少なくとも確実にゴッドノウズなんかは圧倒している威力だと確信できる。無印の、本編が始まっていない時期にこんな技あまりにもバランスブレイカーだ。

 

なんで使ってないかって?理由は簡単だよ。

 

…………ステラには、凄まじいデメリットがあるからだ。今までに使ったのは、技を成功させた一回きり。ちなみにそのあとは救急車で搬送された。足の骨が折れる寸前だったらしい。

 

そう、この技、ステラの『デメリット』とはーー『シュートした後、試合から抜けざるを得ないほどの大怪我をする』、というクソみたいな必殺技なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジで言ってるのか?




作者が10年前の記憶を辿って書いてます。名前とか違ったらごめんなさい。土下座する


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話:原作始動

アーラシュの宝具、流星一条はその性質から一点集中ではなく、広域に効果を発揮するため対軍に分類される。

 

正確には『その範囲の広さから対国宝具』に相当し、『その威力は対城宝具』に匹敵するとされている。 わかりやすく言えばやべえ攻撃をやべえ範囲に叩き込む超火力技だ。

 

だが、一度きりしか使えない。 なぜかって?

 

宝具を発射すれば最後、伝承になぞらえてアーラシュの肉体は瞬く間に爆発四散するから、だ。

 

もう一度言おうか。爆発するのだ。身体が。

 

まあこんな技をイナイレ風にしたら、足が砕けるというようなクソデメリットシュート技になってしまった。何故なのか。

 

「ゴッドハンド!ゴッドハンド!……だめだぁ、出来ねえや」

「まあそう焦んなよ。『熱血パンチ』は物にしたんだろ?上出来じゃないか」

「まあそうなんだけど、もっとこう……グワー!ってなって、ドカーン!って感じの必殺技が欲しいんだよなあ。爺ちゃんは使えたみたいだし」

「……………そうか」

「たまに円堂くん、分からないよね……」

 

木野ーー円堂と良くつるんでいる女子マネージャーに賛同して大きく頷く。うむ、全然わからん。

 

まあこの辺は感覚派ゆえの言葉にするのが苦手ってやつなのかも知れん。豪炎寺や鬼道に隠れがちだけど、普通に円堂も天才組だよな。土壇場でゴッドハンド使ったり、マジン・ザ・ハンドを使えたり。俺はGO以降のことは知らないから、最後に円堂がどうなったのかは知らないんだけど。

 

今俺たちが練習しているのは河川敷だ。以前、不良に絡まれていた稲妻KFCーー小学生のサッカーグループーーの子供達を助けてあげたら、KFCの監督をしている会田さんから好きに使ってくれと許可をもらったのだ。マジで有難い。

 

円堂は今日も今日とて、俺のシュートを受けてゴッドハンドの練習。しかし、一向に完成の兆しは見えてこない。打ってる側の俺から見てもダメダメだもんな……帝国の試合になれば、こいつのことだからちゃんと完成させるんだろうけど。

 

ステラ?使うわけないやん。外側はアーラシュさんでも中身は俺やぞ。わざわざ痛い目みるの分かってるシュートを誰が打つか。そもそも直撃したら帝国のキーパー、源田(の腕)が死ぬ。

 

まあそんな感じの毎日だ。

 

イナズマイレブンは、アニメとゲームで少しだが話の流れが異なる。イナビカリ修練場の内容も違ったしな。ここがどちらの世界線なのか、あるいはまったく別の世界線なのかは分からないが、ステラを使う機会が来ないことを祈る。

 

さて、日も暮れてきた。

そろそろ帰ろうと俺と円堂、木野が荷物をまとめ始めた時、事件は起こった。

 

「誰だ!このボール蹴ったのはよォ!!!」

 

河川敷に男の怒声が鳴り響く。声の方向に目を向けると不良ーーそれも以前、俺が伸した奴がいた。懲りねーなまじで……。

 

近くにいるのは、如月ちゃん。さっき話した稲妻KFCのキャプテンをしている女の子だ。普段は強気な言動が目立つものの、さすがに年上の不良に怒鳴られて怖いのかその顔色は青ざめてることが伺える。恐らく俺と円堂、木野に声をかけようとして、足元のボールを蹴っちまったんだろうな。

 

「ご、ごめんなさっ……」

「サッカーやってるくせに飛んだクソガキだぜ。いっちょお手本お願いしますよ、兄貴!

「へへへへ、やってやろうじゃねえの。よーく見とけよクソガキ……!」

 

長髪の男が如月ちゃんの落としたボールに唾を吐きかけ、思い切り右足を振り上げる。

サッカーボールを扱うのはそう簡単なことではない。当たり前だが、ボールをあらぬ方向に蹴り飛ばし、跳ね返った先には……如月ちゃん。

円堂が「危ない!」と声を上げて間に入ろうとするが、それよりも早く髪を逆立てた鋭い目つきの男が、不良の顔面にそれを蹴り返した。

 

……………そうか、原作が始まるのは今日だったのか。

 

「兄貴!?」

 

背丈の低い男の方が、鼻血を流して倒れた不良に慌てて駆け寄っていく。そして案の定逆ギレ、ボールを蹴り返した男にがなり立てるが、俺の姿を見ると二人で震え上がっていた。気付いてなかったんかい。 

 

「あ、あ、荒射!?なんでここに……」

「鉄塔での忠告、忘れたのか?……もういい、早く失せな。さもないと、もう一発顔にボールを味わう羽目になるぜ」

 

「ご勘弁を」なんてゴマスリをしながら二人組は走って逃げていった。うーん、典型的な噛ませ役。イナズマイレブンにはああいうキャラがいたのも人気の理由だったのかなあ。実際に会えば迷惑千万だが。

 

「如月ちゃん、大丈夫だった!?」

「うん、平気……ありがとう木野お姉ちゃん!」

 

如月ちゃんの安全を木野が確かめている間に、先程の鋭い目つきの男はこの場を去ろうとした。

しかし、それを黙ってみているはずもなく円堂が引き止める。サッカーをやっているのか、どこの学校の部員なのかをしつこいくらいにまとわりついて聞いていた。……俺もやられたけどアレ外から見てるとかなりウザいな。

 

「なあ、さっきの蹴り、絶対お前もサッカーしてるだろ!?一緒にやろうぜ!」

「……………………」

 

正解だぜ、円堂。

そいつはかつての木戸川清修のエースストライカーであり、いずれイナズマイレブンの一人になる男。

 

炎のストライカー、豪炎寺修也なんだからな。

 

 




えっ意外と見てもらえてることにびっくり。ありがとうございます。


ステラ?撃たせます(ゲス


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話:予想外

とっととステラ打たせたいので割りと駆け足です。みんなも帝国戦みたいよね???

ね??(威圧


 

 

 

「あーーーー!?お前、昨日の!」

 

 

翌日、朝のホームルームにて転校生が紹介される。まあ言うまでもなく豪炎寺だ。一言も話せずに帰られてしまったからな、円堂は声を張り上げて豪炎寺に指を刺す。豪炎寺は豪炎寺でうわっみたいな顔してる。そらあんだけしつこく勧誘されたらそうなるわ。

 

 

「何だ、知り合いか円堂、豪炎寺」

「………いえ………」

 

俺と目が合うとそっぽを向かれてしまった。俺はあそこまでしつこく無いぞ、冤罪だ豪炎寺。

開いていた席に豪炎寺が座ると、いつも通り授業が始まる。……んだが、教科書忘れてきちまった。素直に先生に謝って、隣に見せてもらう。

 

俺の隣は大谷っていう女子だ。なんか2にいた気もするけどどうなのかな。流石に全員の顔と名前を覚えてるわけじゃ無いし。

 

「ね、知り合い?サッカー部入るのかな」

「どうかねえ……入ってくれるとありがたいけどな。風丸を無理にサッカーに付き合わせなくて済むし」

「部員……何人足りないんだっけ」

「あと三人。マネージャーも足りねえ始末だよ……」

 

 

大谷とこっそり話ながら内心で項垂れる。大変だねえ、なんて気軽に言ってくれるがマジで大変だよ。

 

昼休みになれば、円堂が円堂流の猛烈勧誘を豪炎寺に仕掛けていた。

が、豪炎寺の表情は無愛想なままだ。……嫌がってるわけじゃねーのを見るに、やっぱ未練はあんだろうなあ。

 

「よしてくれ、円堂。サッカーは………もう、やめたんだ」

「辞めたって、どうして……!」

「……お前には関係ないだろ」

「だったらなんでそんな顔してんだよ!あんなシュート、サッカー好きじゃないと出来ない!お前、まだホントはやりたいんじゃないのかよ!」

「……まあそんくらいにしとけ、円堂。理由があんだろ、無理に引き込むもんでもないぜ」

 

ま、ここが潮時かね。詰め寄る円堂を強引に止めに入る。

豪炎寺はそのまま立ち去っていってしまった。原作知識で事情を知ってる俺はまあ仕方ない理由だと思うけども、円堂からしたら納得いかないんだろうなあ。

 

「木野、円堂が暴走しそうだったら止めてやってくれよ。あの熱血は、円堂のいいとこで悪いとこだからな」

「……うん、任せて。円堂くんのことはよく分かってるから」

 

近くにいた木野にこっそり耳打ちする。席に戻った時、なぜか大谷に足を蹴られた。

マジでなんで?

 

 ーーーーーーーーー

 

さらに場面は変わって放課後に。

教室に入ってきた半田が、円堂に声をかける。

 

「円堂!冬海先生がお前を呼んでる。校長室にこいってさ。普段顔も見せないのに、なんなんだろうな?」

 

あーーー……きちゃったかあ……

冬海先生というのはうちのサッカー部顧問だ。まあ形だけだけどな。

 

「まさか廃部じゃないよね……」

「廃部・・・どうして?」

「部員、足りてないって話はさっきしたよね。うちは練習試合もまともに出来ないし、なんなら他の部活から風丸くんみたいに助っ人借りてるからね。他の部の妨げになってるし、廃部の噂が……」

「そっか…………」

 

まあその通り。実際にはここから帝国学園との戦いが始まるんだが、それを知るのは俺だけだ。

木野と大谷が話している隣で、円堂だけは何故か燃えている。なんでそんなにポジティブなの?お前。

 

ーーーーーーーーーー

 

「で、結局その話受けて来たんですか……?」

 

円堂の話を聞いた宍戸や少林が泣きそうな顔で声をかける。案の定だが栗松と壁山は「終わったっすね」「廃部確定でヤンス」と言いたい放題だ。勿論円堂が黙っているわけもなく、声を張り上げる。こいつは、本気で勝ちに行くつもりなのだろう。

 

 まあ、いきなり帝国学園とサッカー、それも負けたら廃部なんて聞かされたら弱気にもなるよなあ。というかそれが普通で、円堂のメンタルが飛び抜けてるだけだな。

 

「俺たちのサッカー部を廃部になんて絶対にさせない!」

「……威勢はいいけど、円堂、部員はどうするんだ。このままじゃ試合にも出られないぞ」

「そこはもう、影野や松野、風丸に声をかけてきた。風丸を巻き込むのはちょっと気が引けたけど……やってくれるなら、頼もしいだろ?」

「それはそうだけどよ……」

 

俺はあまり風丸をサッカー部に入れることに賛成ではない。あいつは陸上部でも一流だし、というかサッカーに拘らずに陸上ならそれこそ大会で優勝できる確率はぐんと上がるんだ。炎の風見鶏をいつか覚えるいい選手だけど……個人的な感情としては、巻き込みたくなかった。ふつうにいいやつなんだよな……

 

「それに新しいマネージャーも来てくれたんだぜ!」

「それがマジならだいぶ楽が出来るな……というか今のサッカー部にマネージャーなんてよく入る気になったな」

 

あれ、音無ってこんなに入部早かったっけ?などと首を傾げていれば、部室に入ってきたのは全く別の顔。

勿論俺だってよく知っている。

 

「今日から雷門サッカー部のマネージャーとして頑張ります、大谷つくしです!」

 

 

 

 

 

なんで????




つくしちゃん可愛い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話:VS帝国学園

帝国との試合当日、部室で待機していると突如響いた大きな音。慌てて全員で部室の外に出ると、そこにはまるで戦車のような黒塗りの巨大な車。

 

そして、その扉からグラウンドに向けて敷かれた真っ赤なカーペットの上をゆっくりと、王者の風格を醸し出して歩いてくる帝国の選手達。

 

円堂はそんな帝国の選手たちに物怖じせず、ゴーグルにマントをつけた男に頭を下げて握手を求めていた。ありゃ間違いなく鬼道さんだな……いや近くで見るとすごいな。ドレッドヘアも相まって同い年には見えない。ほんとに中学生なのかお前。

 

「初めてのグラウンドなんでね。悪いが少しばかり、ウォーミングアップしても良いかい」

「えっ?……あぁ、それは勿論、どうぞ……?」

 

円堂が差し出した握手は帝国のキャプテン、鬼道に無視されたがそんなことどうでも良くなるほどのことが目の前で起こった。ウォーミングアップで見せつけられた帝国のプレーは、俺たちとはまさに次元が違う。

 

目で捉えられない程のスピードで行われるパス、それをこぼさないトラップに、脚から外さないコントロール、そして並の学校ならストライカーを貼れるほどの高い威力を誇るシュートを全員が決めていく。これは……予想以上だぜ……

 

「……ほんとに勝てるのかよ」

 

完全に気圧されてしまったな。こんなチームならウォーミングアップなんていらないだろう、これは明らかに俺たちの戦意を削ぐためのもので、ウォーミングアップなんて二の次だ。

 

大丈夫かマジで。円堂が叱咤激励するが、それもどこまで効果があるもんかね。

 

試合開始時、帝国のキャプテンである鬼道がコイントスを放棄したためにボールは雷門チームからのスタート。まあ自分たちが負ける、まして点を取られるなんて毛ほども思ってないんだろうよ。

あといつのまにかベンチには見慣れない子がいた。音無だ、ここで試合を見てマネージャーになってくれるんだな。そしてもう一人、将棋部の角間がいた。サッカーを実況してくれるらしい。……それ放送部の仕事なんじゃねーのって突っ込んだら負けなのかな。

 

ちなみに目金はいない。なんでって……人数揃ってるし……自分から入ってこなかったし……誘う理由もないし……。

 

 

『さあ!試合開始のホイッスルが鳴りました!いよいよ雷門バーサス帝国、どうなってしまうのでしょうか!』

 

 

ホイッスルが響くと同時に、俺は隣の染岡にボールを蹴り、フィールドを敵陣まで一気に駆け上がる。別に必殺技は今のところステラしか使えないが、普通のシュートが無意味なわけではない。まあ源田に通用するかは知らんけどな。

 

染岡は後ろのミッドフィルダーの半田にバックパス。半田、松野、染岡でパスを回して敵陣まで上がる……が、これはまずい。帝国の選手、寺門が走り込んできている。

 

「半田!下がれ!」

「もう遅い!キラースライドォッ!」

 

スライディングと共に足を連打するような凶悪なブロック技。パスを受け取ったばかりの半田が避けられるはずもなく、その鋭いスライディングを受けて吹き飛ばされボールを奪われる。

 

分かってはいたが基礎能力があまりに違いすぎる。寺門と佐久間、鬼道の三人だけでミッドフィルダーもディフェンダーも『ジャッジスルー』『分身フェイント』のようなドリブル技一つであっさりと追い抜かれている。瞬く間に円堂の守るゴールまで帝国はたどり着き、佐久間がシュートの体制に入る。止められるか、円堂……!

 

 

「喰らいな……!フリーズショット!!!」

「止めてみせる……!熱血パンチ!!!」

 

佐久間が足を振り上げると、フィールドに氷のエネルギーが張り詰める。それをボールに収束させ、叩き付けるシュート技…!対する円堂は熱意をその拳に込めて、氷の一撃を殴りつける。しかし、徐々にそれは押し込まれて……円堂の身体ごと、ゴールに突き刺さった。

 

「うわあぁああぁっ!!!」

「円堂ォッ!大丈夫か!」

「あわわわわ……きゃ、キャプテンがあんなにあっさりゴールされるなんて……」

 

分かってはいたが、やはり無理か……!帝国の中でもやはり佐久間と鬼道は別格だ。天才とされる鬼道に霞んでいるが、佐久間だって全く引けを取らない選手だぜ……!

 

俺たちが帝国の本気を思い知るのはここからだった。

 

この後雷門からのボールでリスタートとなるが、染岡をキラースライドが襲う。風丸にはジャッジスルーという、審判から判断の難しい角度でボールごと選手を蹴飛ばす凶悪ドリブル技やフリーズショット、百烈ショットと言った高火力のシュート技をブロックしようとして身体に叩きこまれる始末。

 

その全てがギリギリでファウルにならないよう手加減されているが、こんなプレーを受けてまともに立っていられるわけがない。残ったのはキーパーである円堂と、もともとのフィジカルがある俺や染岡、風丸だけ。しかも、その円堂だって強力なシュート技を何本も受け止めて傷だらけだ。これ以上打たせるのはまずい、まだゴッドハンドだって完成してないんだ。

 

気がつけばスコアは19-0。抗いようのない、無慈悲な点数差。

 

だが、帝国はこんなもので終わらない。ふらふらの円堂に向けて、さらなる技が叩き込まれようとしていた。

 

 

「デスゾーン、開始」

 

 

エネルギーをトライアングルに囲み、一切の無駄なくボールに込めて放つ殺意でも宿したかのような一撃。鬼道、佐久間、寺門の3人がかりで放たれたその一撃を正面から受け止めようとした円堂だが、ゴッドハンドも無しで止められるわけもない。熱血パンチなんか使えば手首を痛めて試合続行など不可能になるだろうよ。当然のように、スコアが20-0へ移行する。

 

フィールドの中には立っているのは俺と円堂だけ。円堂に再び百烈ショットが打ち込まれる、が。……風丸が走り込み、無理矢理にシュートをブロックする。

 

「……こんなの……こんなの、サッカーじゃない……!」

 

風丸……お前……試合前に無理するなって言っただろうが!お前は陸上部で、サッカーにこれ以上付き合う必要はねぇんだぞ!

円堂が倒れた風丸に駆け寄ると、佐久間のフリーズショットがガラ空きのゴールに叩き込まれようとして、円堂が戻る。…………が、だめだ。その体制は腕を痛める!いまお前に腕を怪我してもらうわけにはいかねーんだよ……!

 

「円堂ォォォォォォッ!」

 

気がつけば俺は走りだし、ゴール前の円堂を身体で庇っていた。……が、衝撃はやってこない。俺の前には、松野と影野が盾になるように立っていたから、だ。ボールを身体で受け止めた二人は地面に呻き声を上げて倒れた。ばかな、なんでお前ら……お前らだってサッカー部に俺が誘っただけだろうが!染岡達なら兎も角、お前らがここまで必死になる理由がどこにある!?

 

「…………飽きっぽい僕に、呆れもせずにブロックの練習を手伝ってくれたのは君じゃないか。サッカーに誘ったのも、キャプテンじゃなくて君だろ、荒射……」

「影が薄くて中学でも一人なのかなって……俺に声をかけて、サッカーに誘ってくれた。俺のことをちゃんと見ていてくれて、コートの中だけでも目立たせようとしてくれた……嬉しかったんだ」

「…………お前ら………」

 

………使わないつもりだった。だが、気が変わった。確かに俺がアーラシュなのは見た目だけだ。だがな。

 

見た目だけでもアーラシュだ。あの大英雄が、仲間にこんなことをされて黙っていられるか?いいや、黙ってない。彼なら絶対に、立ち上がる。影野と松野の気持ちを無駄にしてたまるものか、目に物見せてくれるぜ。

 

「………………染岡、半田、壁山。パスだけでいい、俺にボールを回してくれ。……円堂、いつか言っていたな、必殺技を見せてくれと」

「…………まさか、荒射!やってくれるのか!?」

「ああ、任せろ……!」

 

帝国学園。

貴様らに、流星を見せてやる。




お願い、死なないで源田!あんたが今ここで倒れたら、鬼道や佐久間との約束はどうなっちゃうの? 体力はまだ残ってる。ここを耐えれば、雷門に勝てるんだから!


次回、源田(の腕)が死す!デュエルスタンバイ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話:流星が落ちる

『さあ雷門からのゴールキックです!圧倒的な点数差、ここから逆転などあり得るのか!?』

「ふん、下らん……所詮、弱小サッカー部ではこの程度。『あの男』以外は三流も良いところだな……」

 

鬼道の呟くあの男、とは豪炎寺のことだろう。見えてるぜ、豪炎寺……木陰に隠れてるけど、試合開始からずっと見てただろ。なあ、お前の好きなサッカーをこんなふうに使われて悔しくねーか?

 

……俺は悔しいぜ。

正直熱血キャラなんて俺の柄じゃあない。だが、アーラシュは間違いなく熱血キャラだし、漢気溢れるキャラクターだ。皮だけでもアーラシュの俺のプライド的に、こんなところで豪炎寺が出てきてはい終わり、ってのは許せない。

……影野と松野のこともある。流石に友人二人を痛めつけられて、黙ってるほど薄情でもねーぞ、俺はよ……!

 

「頼んだぞ皆……!壁山!」

「はいッス……!は、半田さん……上がってくださいっス!」

 

円堂から放たれたゴールキック、ギリギリ動けるメンバーで一番近い壁山に向けて放たれた。

すかさず寺門が走り込んでくるが……壁山は、恐れずに突き進む。壁山の体躯なら、ビビりさえしなきゃキラースライドで吹っ飛ばされることなんてねえ。頼む、壁山……繋いでくれ……!

 

「キラースライドォォォッ!」

「ひぃっ!?こ、怖いっス……死ぬほど怖いっスけど、ここで逃げるほど臆病者でもないッス……!!!半田さァァァんっ!!!」

 

………よくやってくれた。あんなに怖がりな壁山が、キラースライドを真正面から受け止めて突っ込んできた寺門を逆に弾き飛ばす。

「なんだと!?」と向こうも驚いているが、壁山にはそれだけのパワーやタフネスが元々あるんだ。ビビりさえしなきゃ、よほどのことが無い限り正面から負けることなんてねえ。

 

壁山の放ったパスは一直線に半田の元へ。何をやっても中途半端、なんて言われてるけどよ、人一倍努力してるの俺は知ってんだぜ……!見せてやれ、お前の『必殺技』をよ!

 

「お前にならパワー負けするものか!喰らえ、キラースライド!」

「馬鹿の一つ覚えみたいに連発しやがって……!見飽きたぜ!ジグザグ、スパァァァァクッ!」

「な……!?」

 

佐久間がすかさずキラースライドを仕掛けるが、半田がジグザグに走るドリブルでスライディングを躱し、さらに地面から走る蒼い稲妻が佐久間を痺れさせ、抜き去った。帝国の連中には動揺が走っているが、そりゃそうだ。ナンバー2が、弱小に抜き去られるなんて考えないよなぁ……その慢心が、今からのゴールに繋がるんだぜ……!

 

「染岡ァァァァァァ!」

「任せろ……!ここまでされて、ボールを奪われるなんざ、してたまるかよ!」

 

信じる。

もはや俺にできることは、染岡を信じてただ走るだけだ。帝国のミッドフィルダーを潜り抜け、ディフェンダー……大野と万丈の目の前まで走り抜ける。俺にマークをしてきているがそんなもの無駄だ。このシュートは、ファイアトルネードのように天高く……いや、それよりもさらに天空へ舞い上がるシュート技だ。イナズマ落としよりもさらに上、高く高く、俺自身が流星となるために、何処までも高く飛び上がる……!!!

 

「なんだあの跳躍は……!?野生中の奴らよりもさらに上……ッ、源田、構えろ!何か仕掛けてくるぞ!」

「しかし、いくらなんでも位置が高すぎるぜ……!あんなところまでパスが届くものか!」

 

いいや、届く!染岡、お前ならできるはずだ。たしかに単なるパスじゃこの高さまで届くことはないだろう、だけど『シュート』なら届くはずだ!

ゲームではできなかったこと、シュート技をパスとして繋げる技術。細かいコントロールはいらない、ただ思い切り俺のところまで蹴れ、染岡!

 

「これが俺の……ドラゴン!!!クラッシュだァァァァァァァァァッ!!!やっちまえ、荒射ィィィィッ!」

「ここでシュートだとォ!?まずい、そのパスを渡すな!」

 

完全に想定外だったみたいだな、まさか今まで何もしてこなかったフォワードがこんな必殺技を打ってくるなんて考えもしなかっただろ。

雷門の最大の特徴は、この爆発力だ。円堂だけじゃねえ、土壇場になると全員がとんでもないパフォーマンスを発揮する。100%どころか、150%の力で突破しに来る……そして。

 

俺の元まで、ドラゴンクラッシュで弾かれたボールが、届いた。

 

「ご照覧あれ、ってな……!!!」

 

イメージするのは、基山ヒロトの天空落とし。右足で放つボレーシュートだ。……だが、威力はその比ではない。

 

この技の元ネタは、究極射撃。あらゆる争いを終結させる。文字通り「大地を割る」極大射程の、超絶遠距離攻撃。

純粋なエネルギー総量をして放たれるその射程は実に2500km。これが弓矢で放たれるというのだから、意味がわからない。

 

だが、その意味のわからないほどの威力の一撃を俺自身が今から撃つ。腹に力を込めて、痛みに耐える。足が軋みを上げるのを感じるが、こんなもの……影野と松野が庇ってくれたおかげで、一発分のエネルギーはあるんだぜ、帝国……!!!

 

「ば、馬鹿な……なんだあの桁違いのエネルギーは!?止めろ、なんとしてでもボールを奪え!」

「無理だ鬼道、シュート地点が高すぎる……!あそこまで誰も届かない!」

 

そしてこの技、最大の特徴は、この位置だ。イナズマ落としよりもさらに遥か上空からシュートを落とすため、一切の邪魔が入らない。故に、常に100%の威力で放たれる。

 

円堂、壁山、半田、染岡……四人が俺に繋いでくれたこの一撃、止められるものなら止めて見やがれ……!!!

 

流星一条(ステラ)ァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

まさしく、それは流星だった。

遥か天空から、圧倒的なエネルギーを伴って放たれた蒼い軌跡を描くシュート。

円堂たち雷門どころか、敵チームである帝国までもが顎を落とすほどの絶大的な威力を誇るエネルギー。

 

反応したのは、キングオブキーパーとしての誇りからか、源田だけ。即座にフルパワーシールドを展開するが……流星の前にそんなものは無意味だ。一秒と持たずにシールドは砕け散り、ゴールネットにボールが突き刺さる。

 

いや、それだけに留まらない。ゴールネットを巻き込んでボールは回転を続け、なんたることか帝国側のゴールそのものを弾き飛ばしてみせた。後ろにいた審判と観客は慌てて退いていたが、こんなこと誰に予想できるというのか。

 

『………ご……ゴール……雷門チーム、一点獲得!!!凄まじい、凄まじいシュートです!!!わたくし、一瞬実況を忘れてしまいました……』

 

角間の声で全員がハッとなる。そうだ、一点……荒射が一点入れてくれたんだ。ここから、あのシュートがあれば逆転だって夢物語じゃあない……!全員の目に、希望が灯る。

 

「……すげぇ……すげえよ、荒射……!あんなシュートできたんだ……!」

「見ろよ、帝国のやつらビビってやがる……!これなら……!」

 

なんであんなシュートを隠していたのか、勿体ぶっていたのか、色々と聞きたいことはあるがまずは荒射を称えてやらなければ。全員が笑顔を浮かべて着地地点に目を向けると……そこには。

 

「………ぐ、う、ううぅ…ッ……!」

「………あ、荒射……!?お前……っ、なんだその足は!?骨折しかけてるじゃないか!」

 

右足をかかえてグラウンドに蹲り、呻き声を漏らすストライカーの姿。右足は赤く腫れあがり、誰がどう見ても試合続行など不可能だ。

ただ、いまこの状況で試合のことを考えているものはいなかった。一重に荒射の人望か、投げかけられる声は心配のものだけ。

染岡と、慌てて駆け出したマネージャーの大谷が蹲る荒射に肩を貸して、ベンチまで運んでいく。

 

「なにこれ、酷い……!?」

「お前荒射、あのシュートってまさか……!」

「………一発切りなのさ、流星はよ。……染岡はグラウンドに戻って平気だ。大谷は……悪い、ベンチじゃなくて……そっちの観客席に、行ってくれないか」

「なに言ってるの、こんな大怪我して!早く手当てしないと……!」

「ーー頼む、大谷。ここで俺が抜けたら、雷門は人数が足りなくて棄権試合になる。……だから」

 

そう、だから。

 

俺は木陰から出てきて、驚愕の表情を浮かべている男……豪炎寺に、視線を向けた。大谷に支えられて、ふらふらと豪炎寺に近寄る。……差し出すのは、大谷が持っていたバッグから取り出した新品のユニフォーム。

 

「……………お前……」

「………豪炎寺、頼む。もう俺はこの試合には出られない。だから……円堂達を、助けてやってくれないか?」

 

 

後は任せたぜ、エースストライカー。




流石に源田の腕ぶっ壊すのはやめました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話・続:流星を見たもの

えっうそなんでこんなに伸びとるん???!?
評価してくれた人やお気に入りを入れていただいた方、ありがとうございます


 

 

「サッカー?いいぜ、まあ一度もやったこと無くてもいいなら、だけどな」

 

俺と荒射が初めてサッカーしたのは、中学に上がってすぐのことだった。ボールを蹴ってる俺のことを遠目に見てたから誘ってみたんだ。やりたいのかなって思ってさ!

 

そしたら荒射のやつ、初心者だって思えないくらい鋭いシュートをしてきたんだ。ちょっとびっくりしたけど、体格もしっかりしてたし何かのスポーツでもやってたのかな?って聞いたら、弓道をやってたらしいんだ。

 

雷門に弓道は無いしどうしようか悩んでたらしくて、サッカー部に誘ったら来てくれた。初めての部活仲間だったなあ。

 

「くうううっ、やっぱり荒射のシュートは凄いな……!普通のシュートなのに熱血パンチでもビリビリ来る……!」

「まあフィジカルだけは染岡達にも負けねえなあ。……あ、円堂、向こうにボール転がってるぜ。取ってくるな」

 

荒射はめちゃくちゃ視力が良かった。2.2って言ってたっけ。どんなに遠いボールでも、どんなに細かい動作でも見逃さなかった。えっと……それから、そう。めちゃくちゃ正義感が強いやつなんだ。

 

鉄塔で俺と秋が不良に絡まれてた時も、大谷を倒れてくる看板から助けたのも、河川敷で稲妻KFCの子供達を助けようと、いの一番に飛び出したのは全部荒射なんだ。「そんなつもりじゃない」なんて本人は言ってるけど、誰かのために動けるのは凄いやつだと思う。サッカー抜きにしても、荒射と一緒に居て楽しかった。

 

影野や松野を誘ってきたのも荒射だったなぁ。影野は影が薄いことを気にしてるけど、試合中はびっくりするようなプレーや観察眼を見せるし、松野は初心者なんて思えないくらい器用なプレーを見せた。二人とも良いやつで、荒射が慕われてるのがよく分かった。あんなやつと一緒にサッカー出来て、雷門に来て良かったよ!

 

…………………そんな荒射が、自爆みたいなシュートを撃ったことに俺は怒ってた。荒射にも……そんなシュートを使わせてしまった、俺自身にも。

 

サッカーは楽しいものなんだ。サッカーでそんな、痛みに悶えて倒れるなんてこと、あっちゃいけない。荒射はもう病院に送られたけど、そんなもの関係ない。あいつになら、何処からでだって俺たちのサッカー魂は届くはずだ!

 

「これで終わりにしてやる……!沈め、デスゾーン!!!」

 

目の前に、闇色のオーラを纏った帝国の最強シュートが降り注いでくる。でも、不思議と恐怖なんか何処にもないんだ。それどころか、ボロボロな俺の身体から……心臓から、どんどん力が溢れてくる。

 

デスゾーン、たしかにすっげーシュートだ。でも、荒射の星が落っこちたみたいな、あのシュートに比べたらこんなもの……!

 

『……なあ、円堂。ゴールキーパーやってて辛くないのか』

『?なんでだよ。ちっとも辛くなんかないぞ』

『……いや、俺にはゴールキーパーは到底無理だって思ってな。四方八方から襲ってくるシュートを全部一人で受け止めないといけない。背負ってるのはチーム全員のゴールだ。重たいって、思ったりしないのか』

『思わない!』

 

……だって、俺一人でゴールを守ってるわけじゃない。

風丸や壁山、宍戸に栗松。松野、影野、少林、半田、染岡。そんで荒射に……豪炎寺。みんなが居てくれるから、俺はまっすぐシュートを受け止めることができるんだ。

 

見ててくれ、荒射。お前のシュート、絶対に無駄にしない……!これが、これが俺の!

 

「ーーゴッド!!!ハンドォォォォォォォォォッ!!!」

 

ーーーーーーーーーーー

 

あんなシュートを打てるやつが、世の中にはいるのかと思った。まるで流星、星が一つ落下してきたかのような凄まじいシュート。俺の必殺技では到底及ばない威力だろう、悔しいが認めざるを得なかった。

 

事実、やつのシュートは帝国のゴールそのものを弾き飛ばすような威力だった。源田とやらの必殺技に阻まれて尚、あの威力。

……ふと、脚が動いているのに気がついた。なにを馬鹿な……そんな、俺は今……なにを思った?

 

ーーサッカーやろうぜ、豪炎寺!

 

そうだ、本当は俺は……まだ。

 

ーー頼む、豪炎寺。

 

「………………サッカーを、しようじゃないか」

 

ストライカーとしての、血が滾ってしまった。俺の焔を、あの高みまで昇らせたいとそう思ってしまった。なにより……悔しいと。

あんなシュートを見せつけられて、黙っていられるほど冷静な……負けを受け入れられるストライカーではなかった、ということか。

 

ユニフォームを纏い、グラウンドを奥までただ駆け抜ける。後ろは振り返らない。あの男ならーーきっと、止めるだろう。

だから、俺が見据えるのはただ一つーー敵のゴールだけだ。

 

「豪炎寺ィィィィィィッ!!!いっけぇええええぇぇえッ!」

 

投げ渡された超ロングパス。足で捕まえて逃がさない。

………『おかえり』。そんなふうに、なぜかボールが語りかけてくれたような気がして、自然と笑みが溢れてしまった。

 

「抜かせるな!洞面、五条!」

「「キラースライド!!!」」

「……邪魔だ、どけえええぇぇえッ!!ヒートタックル!!!」

 

全身に炎熱を纏い、陳腐なスライディングを体ごと弾き飛ばす。少々荒っぽいプレーだが、貴様ら相手なら使うことを躊躇いはしない。

ゴールは目前。踵でボールを蹴り上げて、流星には及ばずとも高く飛び上がる。

 

焔を足に纏い、イメージするのは竜巻だ。そう、あの男のように……俺自身が、爆熱を纏った竜巻となる。

 

「ファイアァァ……トルネェエエェェェェッド!!!」

 

ゴールネットが揺れるとともに、ホイッスルと歓声が鳴り響いた。

…………俺は、グラウンドに帰ってきた。

 

少しだけ、今を楽しむことを許してくれ、夕香。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話:イレギュラーな仲間達

伸び過ぎ伸びすぎ伸びすぎ!?なんでこんなに評価してもらってるの!!?ありがとうございます!!!


 

「ってことで、今日から新しくサッカー部に入ってくれることになった豪炎寺に風丸、そんで、目金だ!みんな、よろしくな!」

 

いやどういうことだよ

 

あのあと怪我から一日で復帰した。流石アーラシュの身体だわ、めっちゃ頑丈。病室に飛び込んできた円堂達からは、豪炎寺がシュートを決めたこと。帝国が棄権して試合に勝ったこと、それによって廃部が免れたことを伝えられた。まあそこまでは原作通りだし、知ってたことだから何も問題はなかった。

 

だがこれは待ってくれ、本当に意味がわからない。豪炎寺がサッカー部に入るのはもう少し先の話だろ???風丸も正式にサッカー部に入るのは戦国伊賀島、目金についてはそもそも入ってくる要素があったか???えっ嘘だろなんでだ。

 

目を白黒させながら驚いていると、豪炎寺が小さく「お前には負けない」と呟いているのが聞こえた。

あっそういう感じですか?

いやでも、二度とステラは使わんぞ、ほんまに。病院でも大谷と円堂にブチ切れられたからな……特に大谷がまじで怖かった……般若みたいな顔してた。

 

「豪炎寺は妹さんのことで悩んでたらしいんだけど、荒射の見舞いで行った時に一緒に話してくれてな!フットボールフロンティア、優勝目指して頑張ってくれるってことになった!」

「改めて、豪炎寺修也だ。これでも木戸川清州ではエースストライカーだった。役に立てると思う」

 

俺のせいかよ!!!!!!

風丸は!?風丸はどういう心境の変化なんだマジで!?陸上部のほうが絶対いいって、こんな地面からペンギン出したり分身したりするサッカーよりよっぽどお前なら上を目指せるって考え直せ!!!

 

「いやぁ……ずっと考えててな。陸上は勿論好きだけど、お前らとやるサッカーも楽しくって。部活なんだし、やるからには助っ人じゃなくってちゃんと仲間としてグラウンドを走ってみたくてな。風丸一郎太、ディフェンダーだ。よろしくな」

「………め、目金は!?目金、サッカーどころか運動部初心者だろ、なんでわざわざ!」

「…………な、なんだっていいじゃないですかそんなこと!」

 

怪しさ100%だよ何企んでんだメガネェ!!!変なことしたら顔面にステラ打つからな覚えとけよ!?

あぁ……原作からどんどん遠のいていく……いや別に原作をなぞろうとは思ってないしいいんだけど、精神的なダメージが……!!!

 

ーーーーーー

 

「どうしたもんかね………」

 

新しく入ったメンバーをチームに加えてからの練習。俺は気分が優れないからと、一人で黙々とシュート練習していた。ステラ以外の必殺シュートの練習にもなるしな。

 

ちなみにスタメンには影野が抜けて豪炎寺が入ることになった。影野は「人のプレーを観察するのが得意なんだ。ベンチでも誰かが疲れた時の代わりにはなるし大丈夫」と納得していた。

多分、うちのメンバーで体力の少ない壁山や栗松と前半後半でしばらくは入れ替えかな。目金は勿論、しばらくはベンチ。まあ運動部初心者だし仕方ないな。俺もうかうかしてられねーや。

 

「………………あの……」

 

と、一人で考えながら十回目のシュートが終わり、振り返るとそこには目金。片手には新品のボールを持っていて、はて、俺に何かあるのだろうかと身構えてしまった。

 

「ん?なんだ目金か。どうしたんだ、俺になんか用か?」

「………いえ、その。用事というか……あの……し、シュートを」

「シュートを?」

「…………………シュートの、やり方を……教えてくれませんか。まっすぐ飛ばなくって……」

「えっ」

 

………言っちゃなんだが意外や意外。アニメ版だとまあまあサッカーに向き合う姿勢は見られたが、ゲーム版だとサッカーにはまるっきりだったもんな、目金。どっちでも帝国との試合では逃げ出してたし。

その目金がこんなふうに練習を頼んでくるのは本当に意外だった。とはいえ、頼まれて断る理由もない。俺は快く引き受けることにした。

 

「いいぜ、俺で良かったらな。じゃあ基本的なシュートから行くか。ちょっと蹴ってみてくれ」

「こ、こうやって打ってるんですけど……」

「あー成る程、ちょっと違うな。そら、こんなふうに足の横……インサイドを使って蹴るんだよ。やってみな」

「…………こう、ですかっ!」

「いいぜ、上手いぞ!ただもっと内側だな、ちょっと窮屈な姿勢かもしれねーが慣れだ慣れ。そら、キーパーやってやるから打ってきな!」

「はい!」

 

ーーーーーーーーー

 

日が暮れるまで、結局目金と付きっきりで練習した。途中から風丸と円堂も入ってきて、最終的には3人で円堂のキーパー練習みたいになってたがな。まあ楽しそうだったし、実りもある練習だったしいいか。

 

しかしほんとに意外だな、目金のやつ、すぐサボるかなと思ってたのに全然そんなそぶりは見せなかった。結構初心者にはキツい練習だったはずなんだが。

 

「ぜー……ぜー……か、風丸くんはなんで僕と同じ新入部員なのに平気なんですか……」

「そりゃ、俺は陸上で体力つけてたからな。サッカーの練習もまあキツいけど、全然平気だよ」

「うぅ………」

 

だろうな、やっぱ辛かったみてぇだ。俺も円堂もちょっと張り切りすぎちまったな。今日みたいな練習ばっかだと目金とか体力の少ないメンバーが身体壊しちまうし、あとで大谷たちに練習メニューを相談してみるか。

と、まあ。頑張ったやつにはご褒美が必要だよな。

 

「よっ、お疲れさん。初日なのにハードなもんにしちまって悪かったな。こいつは奢りだ、取っときな」

「……いいのか、荒射?くれるなら有り難くいただくよ」

「ぜぇ、ぜぇ……あ、ありがとうございます……」

 

自販機で買ってきたスーパーウォーターをそれぞれ風丸、目金に投げ渡してやる。220円ってちょっと高い飲料水だが、まあ今日くらいはいいだろ。

目金のやつはよほど喉が乾いていたのか、「ぷはー!」なんて言いながら半分を一気飲みした。疲れてたんだなあ……筋肉痛、気を付けろよ。免れないけど。

 

「明日はグラウンド使えないだろ?どこで練習するんだ」

「雨が降ってなけりゃ河川敷だな。まあ降ってたら……体育館も使えないし、一日休みかね」

「わかった、あとで染岡達にも伝えとくよ」

 

 

そのまま何事もなく、俺と目金、風丸は手を振って分かれた。

翌日雨が振って休みになったが……河川敷で、一人、橋の下でボールをマーカーに向けて延々と不格好に蹴っている目金を見つけた。

 

 

断られたらそのまま立ち去るつもりだったが、声をかけたら受け入れられたし手伝ったよ、勿論。根性のあるやつは、嫌いじゃないんだ。疑って悪かったな、目金。

 

でもなんで急にサッカーをやりたいと思ったのか、それだけはどうしても答えてくれなかった。ほんとになんでなんだろうな?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話:失墜する龍

UA10000超え、お気に入り400超え、日間ランキング41位……?えぇ……どうなってるの……

こんな作品を読んでいただいて本当にありがとうございます。また、作中での荒射の態度についていくつかの補足を。

この作品で彼はあくまでアーラシュの皮を被った転生者です。故に原作をなぞろうとかそういう話ではなく、荒射逹がどのように成長するかを楽しむ作品だと思ってください。
また、風丸への態度については作者の気持ち半分、理由あっての気持ちが半分ですね。

ご意見や感想、ありがとうございました


「次の対戦校を決めてあげたわ、サッカー部の皆さん。相手は……尾刈斗中学。負ければ勿論廃部ですので、せいぜい頑張って下さいな」

 

めちゃくちゃ急だなおい。練習の前、突然部室に乗り込んできたかと思えば、この学校の理事長の娘ーー雷門夏美がそんなことを言い出した。この子は一部、学校の権限を持ってるからマジだろうな。ていうか、中学生の娘に理事権限持たせんなよ……

 

さて、試合は僅か1週間後とのこと。ゴーストロック対策も含めて、できることをやるだけだな。

 

「それともう一人、入部希望者よ。随分と増えたわね、部員も」

「音無春菜です!新聞部との掛け持ちですが、マネージャーとして頑張ります!勧誘から相手の情報までなんでもお任せくださいませ!」

 

マネージャーがこれで3人、部員は13人か。あのクソみたいな状況から良くここまでになったよなぁ。ある意味これも帝国のおかげなんだろうか。これっぽっちも有り難いとは思わないけど。

 

「ま、んじゃよろしくな、音無さん」

「はい!あ、それと荒射先輩!あのシュートについて詳しく記事を……あっ、ちょっと逃げた!?」

 

逃げるわそら。二度と使わねーって言ってるだろうがよ!!!

 

ーーーーーーーーー

 

グラウンドで練習が出来る日とあってか、着替えてすぐに練習を始めることができた。新しく豪炎寺達がメンバーに入ったこともあって、いつになく皆やる気なんだが……ちょっとそのやる気が変な方向に向いちまってるやつがいるなぁ。悪いことじゃねーんだけど、ちょっと見てられねえ。

 

 

「…………くそっ、まただ!またダメだ……!なんでだ!?」

 

 

染岡だ。まあ俺は焦っている理由も知ってるが、中々に目立ってるな、悪い意味で。

パワープレイがいつになく多いし、力尽くでシュートを打ってるせいで狙いはめちゃくちゃ。壁山にはファウル寸前のプレーをしてるし、このままだと『ジャッジスルー』みたいな技でも覚えるんじゃねえかって気迫だ。俺は片手にスポドリを持って、地面に座り込んで頭を抱えている染岡に近づいた。

 

「よっ、染岡。どうしたんだよ、そんなに焦って。なんかあったのか?」

「………荒射……。……なあ……必殺技って、お前どうやって打ってるんだ?……あれっきり、もうドラゴンが、浮かばねえんだ」

「は?」

 

「見ててくれ」と染岡が立ち上がり、徐にゴールに向けてシュートを撃つ。……力強い足の振りだったと思う。だが、帝国戦のとき見せたようなドラゴンのオーラは全く見えない。威力も並みのシュートよりは強いという程度で、到底必殺技とは呼べない代物だった。打った本人がそれは一番わかっているだろう、シュートとは真逆に力なく染岡は項垂れていた。

 

 

「……ドラゴンクラッシュが撃てねえ。いや、撃てなくなっちまったんだ」

 

 

……必殺技とはイメージだ。自分の思い描く強い力を載せて、それをイメージとしてボールに反映する。もし染岡が本当に打てなくなったのだとしたら……それは、『ドラゴン』というイメージを失ってしまったからだ。何者にも打ち勝つという、気迫や自信。メンタルの調子は、染岡だけに限らずそのままあらゆる必殺技に響いてくる。

 

「…………なあ、染岡。そんなに気を落とすなよ、お前なら絶対撃てる」

「……けどよ、俺は豪炎寺みたいなテクニックもねえし、荒射みてえなパワーだって……」

「だって俺の『ステラ』は、未完成だったからな。一度ちゃんと成功させてるお前なら出来る、大丈夫だよ」

「…………そう、か。……ん?いやお前なんて言った?」

「ステラは未完成」

『はァ!?』

 

俺のつぶやきに、円堂や豪炎寺までもが叫び声をあげた。そりゃそうか、あんな威力のシュートが未完成なんて普通は思わない。というか、俺もつい最近……帝国との試合で撃つまでは、完成したものだと思ってた。

 

だが、違う。

俺の流星は、あんなチンケな威力じゃあないのが、あのギリギリの状況だからこそはっきりと分かった。

おそらく威力は、本来の20%も出ていないだろう。一重にその理由も、わかってる。

 

「おま、えっ、嘘だろう荒射!?」

「マジだよ、染岡。……原因はわかっちゃいるが、中々うまく行かなくてな。どうしようもねえこともあるし、俺だって足掻いてんだぜ、これでも」

 

…………俺がステラを使える理由は、俺がアーラシュであるからだ。

アーラシュという男は流星、人に煌きと希望を見せて、争いを止める男。

 

だが、俺はどうだ?中身の伴わない……見た目だけがアーラシュの男に、本当の意味でステラが、流星一条が放てるのだろうか。

答えは否。だからこそ、あの程度の威力なのだ。

 

アーラシュであって、アーラシュではない。それが今の荒射弓也という男だ。

どうすればあの大英雄のように、漢らしく、輝かしく勤められるのか。色々やってみてはいるが、当たり前のようにうまくはいかねぇ。

 

「…………ま、俺にも悩みはあるってことだな。なーに、だからってわけじゃねえけどよ、染岡にだって悩みくらいあるわな!気にすんな、困ったら円堂でも俺でも、なんなら会田さんとかにも相談してみりゃいいのさ。一人で悩んで出せる答えなんて、たかが知れてるしな」

「…………そうか、お前も悩んでんだな。……悪かったな、みんな。変に一人でギスギスして、八つ当たりしてよ」

 

染岡が、ボールを片手に頭を壁山や円堂に下げた。円堂たちは気性のやや荒い染岡が素直に頭を下げたことに驚いていたが、すぐに笑みを浮かべて「気にすんなよ!さ、練習の続きしよーぜ!」と染岡を連れて行った。

あの調子なら、きっと問題ないな。我らがキャプテンはびっくりするほどの人たらし熱血サッカーバカだ。あの熱血がどうにも嫌いになれなくて……みんなついて行ってる。円堂なら、染岡をちゃんと立ち直れるように付き合ってやれるはずだ。

 

「……っし、俺も練習すっか!風丸、目金、やるぞ!とりあえず今日はドリブル練習からだな」

「任せてくれ、これでもドリブル……速さには自信があるんだ。これを生かして必殺技にできないか検討中だよ」

「ぼ、僕はまだ覚束なくて……できればブロックの方を……」

「オーケー、一つずつやっていくか!尾刈斗に負けてられねえしな!」

 

 

そしてついに、尾刈斗との試合を迎えた一週間後。

最後まで、染岡はドラゴンクラッシュを打つ事ができなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話:未だ龍は飛ばず

日間ランキング11位達成
UA20000突破。
お気に入り1000突破。

僕「( ᐛ)バナナ」


グラウンドに整列する雷門チームと、対戦校の尾刈斗の連中。……毎度思ってるが、幽谷はあの状態でなんで前が見えてるんだ?それが一番ホラーだわ。

 

この試合に勝つことが出来れば、学校から正式にフットボールフロンティア出場が認められることとなる。しかしながら、負けてしまえば即廃部。リスクとリターンのつり合っていない試合だが、こうなった以上はやるしかない。それに、負ける気なんてさらさら無いしな。

ただ……染岡のことが気がかりだ。いつもはチームの士気を上げる存在なのに、そのあいつがグラウンドに立ってもなお、ずっと思い詰めた表情をしている。

 

陣形は今までとは多少変わり、フォワードにはセンターに豪炎寺、両隣に俺と染岡が。ミッドフィルダーには半田、少林、松野。ディフェンダーには風丸、宍戸、栗松、壁山。ゴールキーパーは、言わずもがな円堂だ。ベンチからは「頑張れよ!」「頑張ってくださーい!」と影野と目金。俺はサムズアップだけをして答えて見せた。

 

尾刈斗のやつらは……また変わった陣形だな。幽谷をワントップに置いて、ピラミッドのように広がる陣形を取っている。ゴールキーパーは、仮面を付けたまたおかしな奴。なんか頭に蝋燭つけてる奴も包帯ぐるぐる巻きのいるし、色々大丈夫なんか?

 

『さあ試合開始のホイッスル!ボールは尾刈斗中からのスタートです!』

 

 

などと余計なことを考えていると、ホイッスルが鳴って試合が始まった。キャプテンである幽谷が、後ろにいる先ほどの蝋燭をつけた生徒ーー八ツ墓にボールをバックパス。遠いな、少しずつ責めてくるつもりだ。俺と豪炎寺、ミッドフィルダーからは松野と半田が上がり、ボールを奪いにかかる。

 

が、これは素直に相手が上手い。さらにバックパスを経由してから包帯生徒ーー木乃伊、そしてその前に上がっている吸血鬼のような生徒ーーブラッドへボールを回した。パスが綺麗だな、俺たちもこれは見習うべき点だろう。

 

「風丸!」

「ああ、分かってる!ここは通さない……!」

 

駆けるブラッドの前に立ちはだかるのは、風丸。ドリブル技は習得していたが、ブロック技はまだない風丸だ。止めるのは難しいか……?

 

「ほう……では、我が『のろい』を受けてみるがいい!」

「な……!?」

 

やはり厳しいか。ブラッドの影から伸びる謎のヒトガタが風丸を縛りつけ、瞬く間にボールラインを上げていく。ていうかそれどーやってんのかめちゃくちゃ気になるんだけど。

 

ブラッドは脚も中々に早く、壁山のフォローも間に合わずにゴール前へとたどり着く。さぁ、円堂……お前の必殺技、見せてくれ。病院送りで帝国の時はこの目で見れなかったからな……!

 

 

「……ファントム、シュートォ!」

 

 

ボールをファイアトルネード同様に踵で蹴り上げれば、紫色のエネルギーを纏って発光する。禍々しい、というよりは不気味な色をしたそれは、ブラッドが蹴り出すと同時に六つのエネルギーとなって分かれて、ゴールへと向かう。相手を惑わせながら突き進みーーゴールの前で一つに収束、多少の威力減衰はあるものの必殺シュートの威力を保ったまま、円堂へ襲いかかる。

 

「ーーゴッドハンド!!!」

 

しかし、流石は我らがキャプテン。右手から黄金色の稲妻を伴った巨大な神の手が、そのボールをがっちりと受け止める。無論弾かれることなどあるはずもなく、手の中にボールは収まっている。

 

「くぅっ、いいシュートだぜ!けどこっちも負けてないぞ……風丸!」

「今度こそ任せてくれ……!」

 

円堂がパスを出したのは風丸。しっかりとトラップでボールを捕まえて、ブラッドや幽谷を抜き去って敵陣へと向かう。お前ディフェンダーなの忘れてないよな大丈夫……?

 

包帯を巻いた生徒ーー木乃伊が風丸の前に立ち、その腕を地面に当てて呪いの腕で風丸を捕らえようと試みる。だからそれどーやってんの???

 

「遅い、そんな腕に捕まるものか!疾風ダッシュ!」

「ばかな、怨霊が避けられた!?」

 

ボールをキープしたまま、一瞬だけ風丸が見えなくなるほど加速する。当然、地面から生えてくるラグのある腕に捕まるわけもなく悠々突破。そのまま風丸のボールは俺へ、そして俺は……染岡に、ボールを渡した。

 

「あ、荒射!?」

「染岡、決めろ!不安がるな、お前なら出来る!」

 

原作知識とは別に、本心からそう思う。負けず嫌いで、そのくせ割とメンタルは弱いが、それでも努力を続ける染岡のことを俺は信じていた。

ドラゴンクラッシュは、シンプルな技だ。染岡の実力が足りないわけじゃない、龍のイメージさえしっかり保てれば打てるはずなんだ……!

 

「走り込みを、更に早く……!足を、高く振り上げて……!ドラゴンを、イメージ……っ、ドラゴン、クラッシュ!!!」

 

ーー染岡の打つシュートには、龍は浮かばない。威力やフォームは綺麗にできている、よほど練習したのは見ていてわかるくらいだ。

……だが、必殺シュートに一番必要なもの。明確な、『相手のゴールを奪ってやる!俺ならば奪える!』という、自信や気迫が足りない。豪炎寺や俺との比較が、染岡の一押しを奪っているのだろう。

 

「何がドラゴンだ、大したことないね!キラーブレード!」

 

尾刈斗のゴールキーパー、仮面を被った選手ーー十三が腕から蒼いエネルギーを、剣状に収束させてボールを切り裂いた。エネルギーを綺麗に固める技術がなけりゃ出来ない技だな。……でもボールをぶった切るんじゃねえ!

 

何事もなく新しいボールが審判によって投げ込まれる。もう感覚が麻痺してきたなおい……。

 

「…………だめ、か……」

「染岡、もう1本渡すぜ。次はちゃんと決めていこう」

「でもよ……」

「お前が努力してんのは皆分かってる。なぁに、一発外したくらいで気にすんな」

 

それでも、染岡の表情は晴れないまま。そして、俺が最も恐れていた事態が引き起こってしまった。

 

「ひひ、見せてやりな幽谷!尾刈斗のサッカーをよ!」

「お任せください、地木流監督……!ククク……止まれ、止まれ、マーレ…トマーレ……!」

 

あの構えは……まずい!

3人による揺らめくような動作に、独特の掛け声による集団催眠術。目を閉じろと叫ぶ暇もなく、技が完成してしまった。

 

「ゴーストロック!!!」

 

俺はこの技を避けることが出来ない。

一重にーーこの身体は、あまりにも『目がよすぎる』。相手の選手の細かい動きすらも見えてしまうため、視界に少しでも入れば終わり、足が動かなくなる。はっきり言って、対策などもしようがない、俺にとっての天敵とも言える技なのだ。

 

「あ、足が……動かない!?」

「ど、どうなってるでヤンス!?」

 

幽谷は、そのまま平原を行くがごとく堂々とボールをゴール前へ。

 

ゴッドハンドを発動できるわけもなく、幽谷のファントムシュートがネットを揺らして、ホイッスル。

試合は尾刈斗の一点先取で、前半戦が終わってしまった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話:俺に今、出来ること

日間ランキング2位。
UA約30000。
お気に入り1500オーバー。


僕「ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ」


「…………円堂、俺をベンチに下げてくれないか」

「何言ってんだ染岡!あんなに練習してたじゃないか!」

 

染岡がベンチ入りを申し出てきたが、俺と円堂、頑張りに付き合っていた松野や半田も説得して、なんとかコートに残ってもらった。

 

後半戦は、宍戸を目金と。栗松を影野と入れ替えてのキックオフとなった。頼むぜ染岡、お前なら出来るって本気で信じてんだ……。

 

「無駄だ無駄だァ!お前たちクズに何ができる!」

「向こうの監督、えらい変わりようッスね……」

 

尾刈斗の監督、ジキル監督は前半こそ穏やかに笑みを浮かべていたが、いまや鬼のような形相で高笑いをしている。まるで別人だ。

 

豪炎寺からパスを受け取り、後ろから上がってきた松野、少林とパスを回して染岡までボールを繋げた。

二度目のドラゴンクラッシューーまたしても成功せず、キラーブレードに止められた。というか真っ二つにされた。……そのボールって一応雷門の備品なんだけど、後で補填してもらえるんかな……。

 

「……ダメだ……すまねぇ、荒射。俺じゃあやっぱり……」

「弱気になるな染岡!円堂も言ってただろう、100回だめなら101回打てと!」

「けど廃部がかかってる!俺は……っ、俺なんかのために、サッカー部を潰したくねえ!やっとサッカーの面白さに気づいて、楽しくなってきたんだ……だから……」

「だったら尚更逃げるな、染岡!……ここで逃げたら、お前は一生、ストライカーという仕事から逃げることになるぞ!」

 

こんなに弱気な染岡は初めて見た。どんな時も円堂と並んで、チームを引っ張るような発言も以前から多かった。負けん気や短気が災いして、喧嘩になることも多かったが……でも、それだって染岡のいい所の一つだと思っていたから、染岡とサッカーを続けていたんだ。

 

何がそんなにお前のことを気負わせる?何が、そんなにお前にプレッシャーを掛けている……。

 

「ごちゃごちゃと仲間割れか!幽谷、とどめを刺してやれ!」

「まずい……くるぞ、あの技が!」

 

豪炎寺の声で俺はハッと顔をあげる。

まずい、声を出すタイミングが遅れた……いや、たとえ遅れていなかったとしても、俺の硬直する速度では注意が間に合わない……!クソ、言い争いをする前に、ゴーストロックについてハーフタイムの時に話しておくべきだった……!

 

「止まれ、マーレ、トマーレ……ゴースト、ロック!!!」

「くそっ、また、身体が……!」

 

俺や豪炎寺たちだけではなく、後ろにいる風丸や壁山、円堂達までやはり動きは完全に止まっている……!ここで2点目を入れられれば、良くても延長戦になる!体力の少ないメンバーで延長戦は、かなり厳しいぞ……。

 

なんとかしてゴーストロックを打ち破ろうと頭を回している間にも、幽谷はコートの中を王者の如く、薄ら笑いを浮かべて歩いていく。ゴール前までたどり着くのを見れば、もはや万事休すか、と諦めかけた時。

 

一陣の影が、幽谷からボールを奪い去った。

 

「…………は?」

「取った……!隙だらけだよ!」

 

ボールを足で抱えて前線に駆けてくるのは……影野!?なんでお前だけが動けるんだ!?

俺と同様のことを思ったのか、幽谷は間抜けな声をあげて走り去る影野を茫然と見つめていたが、ことの重大さを理解したのか慌てたように指示を出す。

 

「ご、ゴーストロック解除!な、なぜ……なぜ貴様だけが、動ける!?」

「簡単なことさ……僕の役割は影。チームを日陰から支えて、ストライカーにボールを回すこと。即ち……!」

 

 

「誰にも気づかれないように、こっそりゴーストロックから限界まで距離をとって、コートの隅に立っていたのさ!」

「そんな馬鹿なことがあるかァァァァ!?」

 

 

うそだろ、おい。

 

確かに存在感が薄いとは自分で言っていたが、そんなコート内部に居て、誰も気がつかないなんてことがあるか!?たしかにゴーストロックの正体は催眠術、かける側が意識しなければ成功する確率はグンと下がるだろう。

俺は千里眼スキルの恩恵なのか、一度も影野を見失ったりしたことが無かったから分からなかった……!コートの隅っこで棒立ちして何してんだとは思っていたが、そんなアホみたいな作戦が通用するとは……。幽谷やジキル監督も、ギャグ漫画みたいな顔してるじゃねーか。

 

だが、影野のお陰で九死に一生を得たのも事実だ。ゴーストロックが解除され、連発は出来ないのか俺たちは自由に動くことができている。

とうの影野本人は、「目立ってる……!この僕が目立ってる……!サッカー始めて良かった……!」と滂沱の涙を流しながら敵陣を爆速で駆け抜けてくる。

確かにかつてなく目立ってるけどよ、こんな形でいいのか……。俺はこんな時だというのに、普段と変わらず、ちょっとだけ苦笑をこぼしてしまった。

 

そして、影野はーー染岡へと、そのボールをつなげた。

俺でも豪炎寺でもなく、染岡へと。

 

「決めろ、染岡!君ならできるって信じてる……!」

「か、影野……」

「いいか、良く聞いてくれ!……君にボールを渡したのは、荒射の指示だからでも、キャプテンの指示だからでも、なんでもない!僕が、君ならできるって信じたんだ……!」

 

ーーーーーーーーーー

 

俺は、大馬鹿野郎だ。

一人で勝手に落ち込んで、一人で勝手に自信を無くしちまって。

 

……怖かったんだ。

ドラゴンクラッシュを打つことーー成功させてしまうこと、そのものが。

 

一度成功させた俺だからこそ分かるんだ。荒射のステラには及ばないのは勿論、豪炎寺のファイアトルネードにだって威力は足りてねえ。

 

同じフォワードで、同じストライカー。

 

あいつらがいるから、俺はひょっとしたらチームに要らないんじゃないか、なんて思っちまって。ちゃんとドラゴンクラッシュが成功してしまったら……比較して、がっかりされるんじゃねえか、なんて思うと怖くて撃てなかった。脚が震えちまうし、ドラゴンの強いイメージなんて持てなかった。円堂にも荒射にも、相談できなかった。会田さんにだけはなんとか話せたが、根本的な解決には至らなかった。

ずっと俺の中で不安が燻って、上手くシュートなんか撃てやしなかった。

 

だが、もう目は覚めた。

チームに必要とされてるんだって、今の一言で立ち直れた。……ありがとよ、影野……。

 

俺には荒射みたいなパワーも、豪炎寺みたいなパワーもねえ。

じゃあ、俺には何ができる?……いいや、俺にできるのは、噛みつくことだけだ。

 

パワーは要らない。最低限、ゴールネットに噛みつくだけの力があればそれでいい。

デカいだけが『龍』か?

違うだろう。小さくていい。まだ、二人には届かなくていい。

この一瞬を……こいつらとやるサッカーを繋ぐ力、それだけを今の俺にくれ……!

 

「……これが俺の……ドラゴンクラッシュ・ザ・リトル!!!」

 

小さな龍が、ゴールに向けて牙を剥く。

 

ーーーーーーーーー

 

「……疾い…………!」

 

なんだあのシュートは!?

染岡の放ったドラゴンクラッシュは、本来のドラゴンクラッシュとは似て非なるもの。蒼いドラゴンのオーラは小さく……いや、しかしエネルギーが足りないわけではない。あれは……ドラゴンクラッシュが、単純にコンパクトになっているのか?

 

スピードはある、だが間違いなく威力は落ちている。アレでは恐らく、ブレードを折るまでに至らない……!

 

「速さは認めるがパワーが足りないねェ!くらえ、キラーブレー……っ、!?」

 

尾刈斗のキーパー十三が、ドラゴンクラッシュ同様に青いエネルギーで構築されたブレードをボールに向けて振り下ろす。しかし、その刃は、当たらない。

 

ドラゴンクラッシュが、曲がった。

 

まるで子龍が身体を畝らせるように、鋭く速く、ブレードだけを紙一重で避けて……十三の奥、俺たちが求める場所。ゴールネットへと、その牙を届かせた。

誰もが唖然とする中で、聞こえる音はホイッスルのみ。

 

『ゴーーーーール!!!雷門、一点獲得!!!新技ドラゴンクラッシュ・ザ・リトルの見事な一撃で尾刈斗に追いつきました!!!』

「ぃよっしゃぁあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!みたかお前ら!!!」

 

右腕を高くかかげて、染岡は吠えた。影野や豪炎寺、松野、壁山。円堂まで、ゴールから走ってきて染岡を称えている。もう、染岡は前を向いており、その表情には何処にも暗いものは見えなかった。

 

我らがストライカー、染岡竜吾の完全復活だ。




どうでしょうか。威力ではなく、こういった形での染岡の強化。いえ、これは強化ではなく見方によっては弱体化かもしれませんが、精一杯の染岡なりの答えとして撃たせました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話:秘密

……日間ランキング1位……お気に入り2500越え……?頭パニクりそう……

今回から文字数を少しずつ増やそうと思っています。毎日投稿にはならないかもしれませんが、ご容赦ください。

それと、沢山の感想ありがとうございます!返信が追いつかず、放置してしまっていますが、全てに目を通させてもらっています……!


 

 

「いくぜ豪炎寺!思いっきり打って構わねえ!」

「分かった……まかせろ!」

 

「「リトルドラゴン・トルネード!!!」」

「ゴッドハンド!!!」

 

染岡が放ったドラゴンクラッシュ・ザ・リトルを正確に豪炎寺のファイアトルネードが打ち抜き、速度を保ったまま螺旋のように回転して円堂へと飛んでいく。

だが、ザ・リトルとは異なり一度シュートチェインを挟む関係でゴッドハンドが間に合った。黄金の神の腕に、綺麗にそのシュートは収まって止まっていた。

 

「………ぐっ、ギリギリ間に合った……!ゴッドハンドじゃなきゃ抜かれてたなぁ。熱血パンチじゃこれは厳しいぜ」

「結局止めといてよく言う……ま、及第点ってところだな」

 

円堂の言葉に豪炎寺と染岡が苦笑する。

 

あのあと尾刈斗との試合はほとんど原作通りとなった。円堂が叫び声でゴーストロックを振り払い、時間ギリギリで豪炎寺と染岡の合わせ技ーードラゴントルネードならぬリトルドラゴン・トルネードで歪む空間を撃ちぬいて2-1で勝利。なんとか廃部は免れ、今は新技の調整ってわけだ。

 

相変わらず染岡は、未だに本家のドラゴンクラッシュを習得できていないが、本人は納得しているようだ。豪炎寺との確執も無いみたいだし、いつかドラゴンクラッシュを超えた技を見せてやると息巻いていたな……ちょっと楽しみだぜ。

 

さらに、この雷門サッカー部に新しく一人、仲間が増えた。

軽快な口調で今は目金と松野の指導を買って出てくれた、細身の背が高い軽薄な男子生徒ーーそう、土門飛鳥だ。

 

時は遡ること約一日。ついに対戦相手が顧問の冬海先生によって紹介され、また土門もそれについてきたってわけだ。なんでも、アメリカ帰りらしい……まあ知ってたからそんなに驚きはしないけどな。

勿論、帝国のスパイだってことも。

 

フットボールフロンティアの地区予選、その一回戦の相手は『野生中』だ。空中戦を……いや、サッカーで空中戦なんてものがある方がおかしいのだが、とにかく空中戦だけならば帝国を凌ぐ中学だ。豪炎寺や土門のお墨付きとあれば、ステラほどの高さなら兎も角、ファイアトルネードは通用しないと見ていいだろう。

 

おそらくだが、発生の速さからドラゴンクラッシュ・ザ・リトルは妨害されない……というか、あの技、思っていた以上に有能だった。

 

威力こそないものの、あれはスピードに特化させたドラゴンクラッシュ故に、キャッチ系の技では発動が間に合わないことが多々あることが練習で判明した。少なくとも、エネルギーを右手に集中、大きな手を形成するゴッドハンドでは発動時間として間に合わせるのがかなり厳しい上、曲がるだけ対処が難しいのだ。

熱血パンチでも弾くこと自体は全く難しくないが、この曲がる特性が厄介の一言だ。もし、本家のドラゴンクラッシュと使い分けられるようになれば……染岡は、高い威力のストレートシュートも、曲がる変則的なシュートも撃てるストライカーになり、どちらのシュートがくるか分からない以上、相手の選択肢を狭めさせられる。今のところ対応できるのはおそらく帝国のキーパー源田や、千羽山の無限の壁くらいだろう。特にパワーシールドは発生も早く、守る範囲も広い。……改めて考えると強えな源田……。

 

新技リトルドラゴン・トルネードはそのままザ・リトルをファイアトルネードでシュートチェインする技。ファイアトルネードのパワーにザ・リトルのスピードが加わった、本家とは異なる方向で有用性のあるシュートに変貌した。ただし、割とキャッチは間に合うけどな。ファイアトルネード、間違いなく強い技だが……少しばかり溜めが長すぎるのが欠点だ。

 

「そこは俺の課題だな。ヒートタックルもそうだが、俺の技は基本的に溜め時間が長い。短縮して打つことができればかなりやれることの範囲は広がるが……」

「うーん、俺のゴッドハンドも同じかな。そういや、荒射。新必殺技のほうはどうなったんだ?ステラ以外も覚えるっていってたけど」

「…………順調といえば順調、かね。思ってたのとは違ったけどよ」

「なんだそれ……?」

 

首を傾げている円堂だが、こればっかりは仕方ないよ。俺が望んでた方向の必殺技とは、斜め上に逸れた方向性で技が完成しつつあるからな。あ、ステラみたいな自爆技じゃねーよ?

 

あの技、考えれば考えるほど欠陥品に思えてくる。なんとか自爆しないよう改良しようにも、おちおち練習も出来んからな……一発打ったらそこでその日は練習終わりで病院行き、最悪、暴発して足が折れましたじゃ話にならんし。しばらく打つつもりもないし、いいかなあって。

 

「ま、今は悩んでも仕方ない!既存の技が通じないなら……勿論、やることは一つ!」

「新技だな。俺もファイアトルネードだけでは厳しいと思っていたところだ、丁度いいさ。しかし……野生中に対抗できるような、都合のいい技があるだろうか?ステラほどの高さは要らないが、それでもかなりのジャンプを求められるぞ」

「大丈夫大丈夫、なんとかなるって!」

 

能天気だな、ま、そこが我らがキャプテンのいいところでもあるけどよ。

今日一日は新技の開発ということで、各自が調べ物だったり練習に励むこととなった。

 

翌日、円堂からは学校の図書室で、円堂の祖父が残した秘伝書なるものが見つかったと聞いた。トラブルもあったが無事に秘伝書は手に入れられたらしい。

 

なんで学校の図書室なんかに置いたんだよ、円堂のお祖父さんは……。

 

ーーーーーーーー

 

「行くぞ壁山……!イナズマ、落と……っ!?」

「ひいいいい無理っす!!!怖いっすよ……!!!」

 

放課後、皆で河川敷に集まって秘伝書のとおり練習してみてはいるものの、ダメだこりゃ。

新技ーー秘伝書にあったイナズマ落としという技は、体格のあるメンバーと、パワーシュートを打てるメンバーの合体技ーー選ばれたのは、豪炎寺と壁山だ。

 

豪炎寺のフォームはほぼ完成しているが、肝心の壁山が高く飛ぶこと、豪炎寺を受け止めることを怖がって一向に進まない。

 

まあ、壁山の気持ちは分からんでもない。アーラシュになる前は俺も高所恐怖症だったし、人間一人、約40から60kgの物体が走ってくるのを受け止めるのはかなり怖いだろう。下手したら大怪我に繋がるしな。

だが、このままでは埒が空かないのも事実。どうしたものか。

 

「困っておるようじゃの」

「……会田さん」

 

河川敷の奥からゆっくり歩いてくるのは、眼鏡をかけたふくよかな男性。

この人ーー会田さんは、河川敷で稲妻KFCの監督をしている方で、俺たちにこうしてたまに河川敷のグラウンドを貸してくれていて、元イナズマイレブンの一人だ。全く頭が上がらない。

まあ、イナズマイレブンの一人だったことを知ってるのは今のところ俺だけだが。……この人なら壁山に適切なアドバイスをくれるんじゃあないだろうか。

 

「壁山君、だったかな。仲間を受け止めることはそんなに怖いかね」

「ご、豪炎寺さんを受け止めることが怖いわけじゃないんっす。ただ……天才の豪炎寺さんなら兎も角、俺なんかにできるのかって……」

 

うーむ、この前の染岡ほどではないがかなり思い詰めてるな。ふと、壁山と目が合えば何故か壁山の顔がぱっと明るくなった。

 

「そ、そうだ!強靭な肉体っていうなら、荒射さんもそうっすよね!めちゃくちゃがっしりしてるし、ステラの時もめちゃくちゃ跳んでて……俺なんかより……!」

「いや、残念だがそれは無理だ、壁山」

「へ?」

 

…………俺の体格は、壁山を除けば染岡よりも筋肉はついてがっしりとしている。頑健EX、というスキルの恩恵か一度も風邪だって引いたこともない。

ま、実は最初、豪炎寺と俺でイナズマ落としを組む案はあったんだが、意外な欠点が見つかった。どういうことかと目を丸くしている壁山に見せるため、豪炎寺と共にイナズマ落としの姿勢を取る。

しかし……。

 

「ふっ……!」

「……くっ、やはりダメか!すまない荒射……!」

 

ーーイナズマ落としで、豪炎寺を受け止めなくてはいけない俺の方が、跳躍が高い。

 

おそらく豪炎寺では、俺のことを受け止められないだろう。出来る限り高さを調節する特訓もしたが、上手く安定しない。やはり、この技を打つなら壁山の存在が必要不可欠だ。

ざん、と砂の音を立てて俺と豪炎寺が着地する。ぽかんとした様子で壁山と会田さんまで口を開けていたが、できないという言葉の意味がわかったらしい。

 

「……そ、そんなぁ…………荒射さんでも無理なんて……」

「こりゃあたまげたな……高さが足りずに失敗するケースは見てきたが、よもや高すぎて失敗とは……ううむ……やはりこの子たちなら……」

 

ま、そんなわけでやはりイナズマ落としは豪炎寺と俺のペアでは出来ない。壁山の肩を叩いて、精一杯の励ましの言葉をかけてみる。

 

「平気だよ、壁山。お前は帝国のブロックにだって負けなかったんだ。必要なのは、ちょっとだけの勇気さ」

「…………勇気、っすか」

「そうだ。お前に実力がないわけじゃない……豪炎寺ならお前に怪我をさせるような跳び方をしないさ。もし、自分に自信が持てないってんなら今はそれでもいい。……豪炎寺を、信じてみないか?」

「…………豪炎寺さんを……」

「壁山!お前ならきっと出来る!それに、弟さんが試合を見にくるんだろ?かっこ悪いところじゃなくて、かっこよく決めてるところ見せようぜ!」

「……キャプテン……お、俺……やるっす!やってみせるっす!」

 

円堂の激励もあって、壁山は覚悟を決めたようだ。やはり、ここぞというときの一声は俺より円堂の方が重いな。悔しいけど、やっぱりこの熱血に当てられてるとよ……根拠なんか無くても、やってやるぜって気分になるんだよな。カリスマ、ともまた違う不思議な感じがする。

 

フォームを整えた豪炎寺が、壁山に向かって、飛ぶ。同時に壁山はーー『目を閉じて』飛び上がった。

 

なるほど、突っ込んでくるものを見ないように目を閉じたのか。浮遊感は拭えないだろうが、恐怖が半減するなら出来るという考えか……!

 

今度こそ、豪炎寺は壁山の腹をしっかり足で捉えて、さらに跳躍する。それでもまだステラの高さには届いていないが……普通のシュート位置から考えれば、十分すぎる高さだ。オーバーヘッドの要領でボールを足で捉えれば、豪炎寺の足に稲妻が走り……ゴールに向けて、まるで落雷のようなシュートが放たれた。

 

「……や、やったああぁあっ!成功したぞ、二人とも!やれば出来るじゃないか壁山!」

「うむ、儂の目から見ても完璧なイナズマ落とし。見事じゃったよ」

 

豪炎寺と壁山に、円堂も会田さんも近寄って褒めたたえる。練習風景を見ていたほかのメンバーも、やったな、と言っているのが聞こえてきた。

 

「まあ、これで安心だな……ん?どうした壁山」

「……か、かかか」

「か……?」

「…………か、かっこ悪いっす!?俺、ただの踏み台っす!かっこいいのは豪炎寺さんだけっすよ!」

 

ガーン!とでも擬音がつきそうなほどショックを受けている壁山の表情。かっこ悪いとか良いとか抜きにして、あれは壁山でなければ出来ないことだから素直に凄いとは思うけどな……どうにも本人は納得がいっていないらしい。二度とやらないと言いかけていたが、なんとか円堂がそれを諫めてくれていた。

 

「うぅ……やっぱり荒射さんが練習した方がいいんじゃあ……」

「時間があれば俺も考えたが、試合は一週間後だ。ものにするにはちと不安があるし……それに、俺は別の特訓があるからな」

「そんなぁ……………」

 

涙ぐむ壁山だが、こればっかりは仕方ない。それに、イナズマ落としは壁山の一つ大きく成長する機会でもあるんだ、あまり下手に手を出してその機会を奪いたくはない。

さて、俺も練習しないとな。

 

「……円堂、木野、大谷!ちょっといいか?」

「お、なんだなんだ?シュート練習なら幾らでも付き合うぞ!」

「珍しいね、荒射くんが私のこと呼ぶなんて。いつもは大谷さんに色々頼んでるのに」

「ち、ちょっと秋ちゃん!?」

 

練習に手を貸してもらいたい三人に声をかける。……何故か大谷は顔を赤くしているが、今の話のどこにそんな要素があった……?まあ、大谷とは席が隣で話しやすいってのもあるからな。実際異性では一番仲もいいし、マネージャーの中で話しかけやすいからつい頼っちまう。

 

と、まあ、そんなことはさておいて。以前から考えの一つにはあったものの、俺はストライカーだからということで遠慮していた特訓がある。あるんだが……今後のことを考えて、『必殺技』の方向は、あえて斜め上にズラしたままで行くことにした。

 

「必殺技の特訓なんだけどな、実は……、で……こういうのは……どうかなって……」

「……えっ、本気で言ってるの!?」

「でも、実際悪い話じゃ……それに……って、パターンも考えられるし……」

「いいじゃないか、面白そうだ!よっし、付き合うぜ荒射!」

 

拳を向ける円堂に、俺も合わせるようにして拳を突き出す。さあ、俺の選択が吉と出るか凶と出るか……頼りにしてるぜ、キャプテン。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話:稲妻、不発

お気に入り3000件、UA60000ありがとうございます(白目


 

 

イナズマ落とし完成の一週間後、フットボールフロンティア地区予選一回戦の当日。稲妻駅から夏美以外は電車に乗りーーなんでも電車が嫌いらしくリムジンで来るとのことーー俺達は試合会場である野生中へとやって来た、のだが。

 

見渡す限りの緑色。一面は森で囲まれており、文明のぶの字も見えやしない。中学と言うより、ジャングルの集落とでも言った方が正しいんじゃねーのかこれは……。こんなところで本当にサッカー出来んのか?

 

「ひゃあぁっ!?な、なに、なによ貴方達!?」

「ぁ……っ、驚かせてごめんコケ!俺たちこんな立派な車を見るの初めてでつい……!」

「ウホ……都会モンはやっぱすげぇんだなぁ。軽トラくらいしかこの辺には無いから……ピカピカの車見てつい興奮しちまっただ。ほんとにごめんウホ」

 

夏美の悲鳴が聞こえ、何事かと全員で声の方向に走っていくと野生中のサッカー部員らしき人物が数名、夏未が乗って来たリムジンに物珍しげな表情を浮かべて……言い方は悪いがケーキに群がるアリの如く、と言った状況だった。まあしかし、何かされたわけではなく単純にリムジンを珍しがっているだけのようだ。

夏美に対してちゃんと謝ってるし、車に触ったりとかそう言うわけでもなし。意外といい奴らなのか?

 

「あ、自己紹介が遅れたコケ。俺は野生中サッカー部キャプテンの鶏井亮太だコケ。今日はよろしく、雷門の皆さん!……変な言葉遣いしてないコケ?」

「全然問題ないぜ!俺は雷門サッカー部キャプテン、円堂守だ!よろしくな、鶏井!負けねーぞ」

「それはこっちも同じだコケ!さ、ついてきてくれだコケ。この辺、土地勘がない人が歩き回ると遭難しちまうから、俺たちが先導するコケ」

「任せてくれウホ」

 

鶏井とゴリラっぽい生徒が俺たちの前に立って、山道を案内してくれる。ふつうに良い奴らなんだが……語尾のクセが、兎に角強い!!!キャラクターとしては一番正しい目立ち方をしてるぜお前ら……!!!

 

歩くこと数十分、山道を抜ければ校舎とサッカーグラウンドが見えてきた。マジでこんな場所にあるんだな……。

 

更衣室を借りて、ユニフォームに着替えてからグラウンドに向かえば、まあ当たり前といえば当たり前だが、周りは野生中の生徒達と、あとは夏美と監督、木野と音無と大谷……それから、壁山の弟だ。まさか一人で来たんか……???

 

とはいえブーイングやらなんやらが飛んでくるわけでもなく、声のほとんどは野生中サッカー部に向ける声援だ。この分だと不正も無さそうだし、問題ないな。

 

「ひー、雷門の人が誰もいない……当たり前ですけど、複雑でヤンスね」

「なーに、観客なんて気にすんなよ栗松!俺達はいつも通り、楽しんで全力で俺達のサッカーをすればいいのさ!」

「そうだな。しかし染岡、本当にいいのか?今回はベンチでいいなんて、おまえが言い出したときはどう言うことかと思ったぞ」

 

そう。今回の陣形は、フォワードに豪炎寺と壁山、俺。そしてミッドフィルダーはいつも通り、ディフェンダーには……壁山の穴を埋めるために、『あいつ』をスタメンとして出すことにした。とうの染岡は、にっと歯を見せる笑みを浮かべて腕を組んでいる。

 

「なーに、俺にも考えがあるのさ。それに……俺の代わりに頑張ってくれる奴がいるからな。なぁ、壁山……そんで、目金!」

「は、はいっ!が、頑張りますっス……!」

「ぼ、ぼぼぼ僕の初試合がフットボールフロンティア予選一回戦……?つとまるんでしょうか……」

 

そう、今回は目金の初試合だ。影野は前回目立てたから良いということで、彼の試合経験を積ませるためにも起用することになった。ま、緊張はしてるみたいだが……大丈夫さ。原作と違って、めちゃくちゃ努力してるからな、目金。

 

壁山もやる気はちゃんとあるみたいだし、イナズマ落としも練習で成功率は格段に上がった。あとは、いざという時に怖がったりしないか心配だが……まあ、円堂風にいうならなんとかなるさ。信用してるぜ、壁山。

 

ちなみに、俺の新必殺技はほぼ完成した。

この試合じゃ使う機会はないだろうけどな。

ーーーーーーーーー

 

フットボールフロンティア地区予選、その一回戦は雷門ボールで始まった。

ボールは豪炎寺スタート、俺に回ってくる。

勿論下がることはしない、そのまま敵陣までドリブルを続けていく。

 

「おっと、通さないコケ!……って、速ぁっ!?」

「風丸直伝の走りだぜ、悪いな!」

 

そう、実は俺たちは風丸の指導で走り方ーーフォームを整えた。効果は絶大、チーム全員のスピードアップに大きく繋がっており、今の俺は帝国戦の時とは比べ物にならないくらいのドリブルが可能になっている。鶏井を抜き去って、さらに奥ーーミッドフィルダーを豪炎寺との連携で崩し、そのまま豪炎寺にボールを渡す。……よし、壁山もきっちり上がってきている。

 

「行かさんウホ!!!」

「ふん、無理に押し通るまでだ!ヒート……タックル!!!」

 

そしてあの技、ヒートタックル。横から見ていて分かるが、やはり溜めが長い……!全身に炎のエネルギーを纏う特性上致し方ないが、高速技には対応できないだろう。たいていのブロックを弾き飛ばす強力な技なのは間違いないが、改良は必要だろうな。

見事豪炎寺はゴリラ……本名がわからないから、失礼だがゴリラと今は呼ばせてもらおう、彼を突破してゴール前まで駆け上がる。

 

「いくぞ壁山、こい!」

「は、はいっす!イナズマ……落と……っ!!?ご、豪炎寺さん、ダメっす!」

 

イナズマ落としの姿勢ーー壁山と豪炎寺が飛び上がったところで、壁山が眼を見開いて絶叫する。何事かと空中に目を向ければ、そこには。

 

豪炎寺がキープするボールを、空中で奪い去るカメレオンじみた選手の姿が、あった。

 

「な……なんだとォ!?」

「ふん、俺たちだって馬鹿じゃあない。事前に、とんでもない跳躍をする選手が居るって聞いていてな……それはお前じゃないみたいだけどな。兎に角、特訓していたのはお前らだけじゃないんだよ!」

 

カメレオンの真下には、先ほど突破したゴリラの姿。野郎……『投げた』な!

単身での跳躍では届かない、故に跳躍と、空中での投げを組み合わせてイナズマ落としに届かせやがった!あれではだめだ、イナズマ落としは発生も速い技ではない……あの跳躍があるかぎり、ボールを無駄に奪われるだけで発動できない……!

カメレオンは着地と同時にパスをつなげ、一気に俺たちの陣地まで攻め上げてくる。

 

「くっ……だめだ、イナズマ落としは使えない!円堂、行ったぞ!」

「わかってる!後ろは任せてくれ!」

 

その後、前半戦は0-0のスコアを保ったまま終了した。しかし、必死に練習したイナズマ落としが通用しないとわかったいま……必殺技を防ぎ切った野生中とは裏腹に、士気に大きな差が出来てしまっていた。

 

イナズマ落とし、破れる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話:かっこいいっす

コメントで流星五条なんて書いてあるのを見つけて吹き出しました。訴訟


 

「……くそっ、まさかあんな方法でイナズマ落としが攻略されるとは。すまない……」

「仕方ねえさ、元々は俺のステラ対策みたいだったが同じことだな。……だが……それでもギリギリ、ステラの方が高い。……円堂、どうしようもなくなった時、お前が望むなら……俺は、『撃つ』ぞ」

「絶対にダメだ!それに、そんなことしてたら荒射に頼りっきりになっちまう。俺たちは全員でサッカーしてるんだ、誰か一人だけを犠牲にするようなプレーはしたくない!」

 

まあ、お前ならそういうと思ってたぜ。だが、イナズマ落としが攻略された以上、有効なシュート技がないことも事実だ。原作ではこんな事態起こり得なかった故に、俺もどうしていいか分からない。唯一可能性があるとすれば染岡のドラゴンクラッシュ・ザ・リトルだが……俺は難しいと思う。やつら、動体視力も半端じゃあない、曲がったとしても追いつかれかねない。

 

「…………やっぱり、無駄な努力だったんすよ」

「何言ってんだ壁山!無駄な努力なんて、ひとっつもない!」

「でも、だって……あんなに練習したイナズマ落としが通用しないんす!……俺にフォワードも……かっこいいプレーも、無理っすよ、キャプテン……」

 

まずいな、これは。

壁山もそうだが、周りの栗松や少林、松野や風丸なんかも目を伏せている。不安というのは伝染する。

これは壁山が悪いわけじゃない。単に、対策をしてきた相手が一枚上手だっただけの話なんだ。どうにかして元気付けてやろうとしたところで……円堂が、壁山の頬を両手で押さえた。

壁山が困惑の声を上げる暇もなく、円堂が叫んだ。

 

「馬鹿野郎!!!まだ試合は前半が終わったばっかだろ!!!怖さに打ち勝ってあんなに練習してたお前のことを、かっこ悪いなんていう奴がいたら……笑う奴がいたら、俺がぶん殴ってやる!!!」

 

…………ま、流石だな。この一声だけで、不安な声は止まり、静かになっていた。狙ってやってるわけじゃない、これは円堂の本心だ。嘘偽りない、深い考えのない一言。

だが、だからこそ響くものがある。下を向いていた壁山は「キャプテン……」と前を向き直し、風丸たちも元の表情を取り戻していた。全くかなわねーな……こういうとこはよ。

 

「……そうだな。まだ試合は後半が残っている。荒射、お前がイナズマ落としを打つ役目を出来ないか?お前の跳躍なら、俺のように捕まらないだろう」

「厳しいな。俺は撃つ方の練習をしてないし……岩に乗るわけでもあるまいし、俺の跳躍に壁山の方が耐えられるか分からない。豪炎寺とは体重や体格も違う。何より……俺が雷のエネルギーを出すのが苦手なんだ。やっぱりお前たちじゃないと無理だ」

「そうか……いや、いい。なんとかしてみせるさ」

 

ハーフタイムもそろそろ終わる。さぁて、気を取り直したのはいいが、やはり有効打となるシュートがないことが致命的だ。

ステラは死ぬほどいてぇから撃ちたくない。撃ちたくないが……本当に、いよいよどうしようも無くなったらやらせてもらうぞ、円堂。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

後半戦、お互いに有効な攻めもできないまま試合が進んでいったっす。

ただ、キャプテンは度重なるシュートを受けてボロボロ、ゴッドハンドも出すのはかなり厳しそうっす。一点……なんとか一点さえ入れられれば、キャプテンなら守り切ってくれるって信じてるっす。でも。

 

『お前に必要なのはちょっとだけの勇気だよ、壁山』

 

……………勇気だけじゃどうにもならないことだってあるっす、荒射さん。

踏み台になることを今更躊躇ったりはしないっす。でも、高いところは怖いし、もし怪我をしたらどうしようって思って……最後の勇気を出すのは難しいし、それだけじゃ勝ちには繋がらないっすよ。

 

「こいつ、もう俺の速度に……!」

「目が慣れて来たコケ!ボールはもらっていくコケよ……!」

「しまった……ッ、ダメだ打たせるな!少しでも円堂の負担を減らしてやるんだ!」

 

荒射さんに対応し始めた野生中の選手たちが、どんどんラインを上げていってゴールに攻め立てていくのがここからでもよく見えるっす。

 

敵陣にいるのは今、俺と豪炎寺さんに松野さんの最低限の要員。それ以外はほぼディフェンダーと言って構わないくらいのバックラインで、ストライカーの荒射さんまで守りに入って、なんとかゴールを抜かせないようにしている状態っす。

 

……本当は俺が、ゴール前で最後の踏ん張りを見せないといけないのに、その分風丸さんたちが頑張ってくれてるのか、ギリギリ0-0で止まってるっす。でも……延長戦にもつれ込んだら、間違いなく、いつかこの均衡は悪い方向で破られるっす。

 

「クイックドロウ……っ、なにぃ!?」

「スーパーアルマジロ!これなら取れまいウホ!」

 

風丸さんの俊足を生かしたドロウ技術が、身体を丸めて突進する野生中の技に突破されてキャプテンにシュートが向かう。でも、それでもキャプテンは必死でゴールを守ってくれているっす。

 

「ゴッド……ハンドォォォォォォッ!!!絶対に止める!!!」

「こいつ……さっきから何回技を使ってやがる!?もうそろそろ息切れしておかしくないのにウホ……!?」

 

5回目か6回目になるキャプテンのゴッドハンド。でも、もう強がったって無理っす!グローブをつけてたって、キーパーの疲労は隠せるものじゃないっす。肩で息をしてるし、熱血パンチだって撃つのは精一杯なはずなのに……!

 

振り返ると、全員が走っていたっす。松野さんや風丸さん、少林さん、豪炎寺さん。荒射さんも、半田さんも、サッカーを始めて間も無い目金さんも。

 

悔しいっす。本当なら俺がディフェンダーで頑張らなきゃ行けないのに……!

 

「と、取った……!取りましたっ、荒射さん!」

「よくやった目金!」

 

びっくりすることに、相手のイノシシみたいな体躯をした選手から目金さんがボールをかすめ取って行ったっす。相手のミスを拾う形だけど、目金さんなりの精一杯のプレー。

俺は……本当に、踏み台になるだけでいいんすか?

 

『山みたいだよな、壁山。悪口じゃなくてさ、ディフェンダーとしてめちゃくちゃ頼もしいっていうか』

『実際、抜くのには一苦労するぞ。ヒートタックルを受け止める奴なんて初めてだ』

 

……走馬灯みたいに、練習の風景が頭の中をよぎったっす。あのとき、豪炎寺さんのヒートタックルを無我夢中で受け止めて、「あっちー!?あついっす!?」なんて叫んだのは覚えてる。ちょっと炎が怖くなったのは内緒っす……。

俺は……踏み台になるだけの、かっこ悪い男でいいんすか?

 

「兄ちゃーーーん!!!頑張れーー!!!かっこいい必殺技、早く見せてくれよーーー!」

「…………サク……」

 

『かっこいいのは豪炎寺さんだけっす!俺、ただの踏み台っす!』

『踏み台なんてカッコ悪いよなあ』

 

……あのあと、声をかけてきた土門さんの言葉には納得してたっす。でもチームの為だからって、割り切って踏み台になろうと思って。

情けないっす。

みんな、力を振り絞ってサッカーしてるのに……俺だけが、踏み台でいい、なんて妥協して。

 

前を見る。

染岡さんが出来たように……俺ならやれるって、自信を持って……!!!

 

「荒射さん!!!ボールを、くださいっす……!!!」

 

…………一秒の躊躇いもなく、俺の元へボールを蹴り出した荒射さんの姿を最後に。俺は豪炎寺さんと、全力で敵陣まで踏み込んでいったっす。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「…………信じてるぜ壁山……!」

 

イナズマ落としは成功しない、なんて考えは、壁山の声で頭から消えていた。あいつの目は死んでねえ、前を見てるやつの目だ。

なにか考えがあるんだろう、きっと決めてくれると信じて、躊躇いなくボールを渡した。

 

「無駄だコケ!その技は通用しないコケよ!」

 

……二人がイナズマ落としの姿勢を取り、そしてディフェンダーのゴリラと下がってあるカメレオンが再びイナズマ落とし破りのフォーメーションを組む。あの跳躍は確かに脅威だ、それこそ……なにか、特別な方法をしてより高く飛ばなければ奪われるぞ。

かっこいいところ、見せてくれよ、壁山……!!!

 

 

「……俺は、俺は……!踏み台になるだけじゃ、ないっす!!!豪炎寺さァァァァんっ!?」

「っ、これは……いや、これなら!」

 

ーー壁山の背後に、『壁』のような岩が聳え立つ。いや、正確にはエネルギーを岩のように強く固めて隆起させる必殺技……!エネルギーの岩に阻まれて、カメレオンはまだ高く飛び上がることができていない。

当然ボールにまでは届くわけもなく、「馬鹿なァ!?」と声を上げている。

 

「この、エネルギーの足場が有れば……跳べる!!!」

「『ザ・ウォール』っす!豪炎寺さん……もう豪炎寺さんのところまでは行かせないっす!だから!」

「まかせろ……壁山!これが、これが俺たちの……!!!」

 

ーーエネルギーの岩を足場にして、豪炎寺が炎を纏って『回転』した。

あの技……ファイアトルネードは、ある程度の高度とパワーと引き換えに溜め時間やしっかりとした足場が無ければ打てない技だ。しかし、壁山のエネルギーのおかげで大地を踏みしめるのと変わらない勢いで舞い上がる。

 

通常のファイアトルネードではない、雷を纏った、壁山を越えて撃つだけ更に高度の増した……イナズマ落としよりも、俺のステラよりも高い位置からの、ドロップシュート!

 

「「雷炎落としィィィィィィィィィィッ!!!」」

 

ーー打ち出されたボールに見事反応してみせた野生中のゴールキーパー。だが、ワイルドクローなる技はボールの纏う炎と雷に破壊され、ゴールネットへと突き刺さる。

………………同時に試合終了のホイッスルの甲高い音が鳴り響いた。

 

 

最高にかっこよかったぜ、壁山。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話:データサッカー

お久しぶりです生きてます!!!
まあなんで遅くなったかはリアルの事情で忙しかったのと、無印イレブンを家の倉庫で見つけてちょっとやってたんですよ。夢中になってました。ユルシテ……


 

フットボールフロンティア地区予選1回戦が終わり、ノートに刻まれたのは野生中との試合のスコアーー勝利の爪痕。壁山や染岡の原作とは異なる方向の進化のせいなのかは分からないが、他のメンバーの起爆剤にもなったようで凄まじいやる気を全員が見せていた。

 

次なる試合は、御影専農中。サッカーサイボーグとも言われている奴らを相手にする対策は既にできている。だからまあ、いつも通り俺たちは練習する、だけなんだが。

 

……………目立つな、御影の偵察隊。

皆揃って「ファンが出来た」なんて言ってるが、絶対に違うだろう。むしろなんであの光景をーーアンテナのついたカメラやらノートを叩く様子を見てそう思ったんだ?全員にそれを伝えればガックリと肩を落としていた。いや、仮にファンだったとしてもあんな怪しさ全開の連中からの応援でも嬉しいんだろうか。……嬉しいんだろうなあ。

 

さて、練習が開始してから凡そ一時間。河川敷に高級車がグラウンドに乗り込んで来たが、まあそんなことをするやつは一人しかいない。

 

「必殺技の練習を禁止します。理由はお分かりね、円堂くん」

 

リムジンから降りてきたのは、案の定夏未である。先日、新たに俺達のマネージャーとなった夏未は、理事の手伝いもあってか木野や音無、大谷ほど頻繁には顔を出せない。しかしやはり理事仕事をしているだけあってか、四人の中で誰よりも正確なデータを取ってくれている。有難いことだな。

 

「いきなり何を言い出すんだ?必殺技無しで、勝っていくのは難しいぞ夏美」

「円堂……さっき偵察隊がいるって言ったろ。御影用の対策があるとはいえ、必殺技を研究されたらそれだけでデメリットになる」

「同意見だな。それに必殺技だけがサッカーじゃない。パス一つにとってもやれる事は多い」

 

豪炎寺も俺の意見に同意してくれたが、円堂は頭では理解していても必殺技の練習もしたくて堪らないらしく、また突飛なことを言い始めた。なんでも、「誰にも見られない練習場で必殺技の練習をすれば良い」らしいが……そんな都合のいい練習場が、ましてや俺たち弱小中学にあるはずもない。普通なら、な。

さて、あの場所を夏美が見つけてくれるまでにどれくらいかかるかな。

 

ーーーーーーーー

 

あれから一週間が経った。しかし、御影からの偵察は減ることは無く、それどころか寧ろどんどん増えている。

 

必殺技の練習をせずに、基礎的なものを固める練習だけを徹底しているがやはり必殺技という華がないだけに全員の士気は低めになっている。勿論それでサボったりするやつはいないが、まあ俺たちも人間だしな。やりたいことやれなきゃストレスだって溜まるだろう。

 

次の日にはとうとう、パラボラアンテナをつけた大型トラックが雷門に入ってきた。よくあんなものを入れることを許したなセキュリティ……。というか御影専農って一応農業附属中学だろ?なんであんなもん持ってんだよ。

唖然としている俺たちを他所に、中からは他校の制服を着た二人の男が出てくる。……片方はくっそやべぇ髪型をしている。なんで言えばいいんだ、あのモヒカントゲトゲヘッドは。いや、趣味嗜好は人のそれぞれだし口出しする気もないが。

 

 

「御影専農の奴等だな。音無、見覚えは」

「勿論あります!片方はキャプテンでありキーパーの杉森さん。もう片方はエースストライカーの下鶴さんです!とうとう直接乗り込んできましたか!」

「まあいいじゃないか、気にせず俺たちは練習するだけ!さあ、打ってこい豪炎寺!」

 

 

円堂の言葉に頷くと、そのまま全員がそれぞれの練習に入り直す。どれほど時間が経ってからか、急に杉森と下鶴が降りてきてグラウンド内に入ってきた。練習中に入ってくるな、と注意をする円堂に対して、杉森はこんなことを言い始めた。

 

 

「君達では我々に100%勝てない。何故必殺技を隠す?無意味だ」

「何を!勝負はやってみなくちゃ分からないだろ!それに、わざわざ無意味だっていうなら偵察の必要もないじゃないか」

「勝負……?何を馬鹿な、これは害虫駆除に過ぎない。我々がデータを欲するのは、より正確に駆除を行うためであり、次なる駆除の正確性を上げるためでもある。無論、荒射についても対策済み」

 

下鶴の言葉で、マネージャーも含めて全員キレた。特に染岡なんか殴りかかろうとしていたのを目金に必死で止められていたな。まあ流石に暴力沙汰は勘弁してもらおう。

原作だとやつらは豪炎寺のファイアトルネードをコピーしていたし、俺たちの必殺技をコピーして以降の試合も有利に進めたいらしいな。ま、どっちにしろ見せるわけないが。

 

そのまま言い合いを続けていると、キリがないと思ったのか円堂がPK勝負を持ちかけた。御影の二人は必殺技のデータが取れると思ったのか、二つ返事で了承してくれた。

……御影の戦い方は、情報収集やデータ分析から相手チームの選手の行動パターンを読み切り、必殺技に至るまでを解析して完封するものだ。ここで相手の情報を得られるなら、それはそれでアリなのか。円堂だし狙って言ったわけじゃないだろうがな。

 

大谷がPK開始のホイッスルを鳴らすと同時に、下鶴はボールを『踵で弾き上げる』。やっぱり来たな、あの技が。

 

下鶴の足に炎が纏わり付き、回転を重ねながら上空に舞い上がり……ボールを、ゴールネットに向けて蹴り落とすという、何度も見たドロップシュートが放たれた。

 

「ファイアトルネード!」

「なんだって!?ご、ゴッド……いや、間に合わない!熱血パンチ!」

 

円堂を含めた全員から驚愕の声が上がる。正真正銘、フォームも含めて寸分違わないファイアトルネードだ。あそこまで正確にコピー出来るのは見事と言わざるを得ないな……。

ファイアトルネードは一定水準以上のシュート技だ。コピーだろうがなんだろうが、それを習得できたこと自体は御影のレベルが高いことの証明でもある。

 

驚愕のせいか反応が遅れ、ゴッドハンドで発動が間に合わないと判断したのか熱意を込めたパンチングでボールを殴りつける。しかしやはりというべきか、熱血パンチではファイアトルネードの威力を殺し切ることが出来ずにゴールを許す。……今の威力ならゴッドハンドであれば止まったな。これは初見殺しみたいなもんだ、仕方ない。

 

「…………っし、次は俺たちの番だ。やらせてくれ豪炎寺」

「……わかった、任せたぞ染岡」

 

原作とは違い、染岡がPKに出ることとなった。杉森の守るゴールに向けて放たれたのは、青く煌めくエネルギーを込めたシュート。発生とシュート速度の速さゆえに、殆どの必殺技は間に合わないほどのスピードを備えた染岡の必殺技ーードラゴンクラッシュ・ザ・リトル。

ちなみに、染岡は原作のドラゴンクラッシュは野生中の試合を観察することで完成させていた。偵察が来る日の前に、俺と円堂、豪炎寺にだけ披露してくれたからな。……真面目な話、直前までドラゴンクラッシュか、リトルを撃つか分からないストライカーとなった染岡ははっきり言ってめちゃくちゃ脅威になっている。相手の選択肢をギリギリまで狭めるのだ。そりゃ強えわ……。

 

しかし、リトルのスピードに合わせられるキーパー技を杉森は持っていた。また、あの技が相手では曲がろうが一切の関係はないだろう。

 

「シュートポケット」

 

杉森が両腕を広げ、空気の膜を圧縮させたエリアを展開する。エリアはゴールを半球状に覆い隠しており、どう足掻こうとシュートである以上確実に触れてしまう。圧縮された空気のエリアに触れれば、一気にシュートは失速。威力もスピードも、完全に殺されたザ・リトルを鷲掴みにして杉森は見事に止め切った。完敗だな、こりゃ。

発生速度も熱血パンチには及ばないが、止められる技のラインを考えれば優秀すぎる技だ。……え、普通に全国クラスの技じゃないか?

 

 

「証明終了」とだけ言い残して杉森と下鶴は去ってしまう。グラウンドに取り残された円堂は「だー!ちくしょー!」と叫んでいたが、あればっかりは対応出来なくても仕方ないさ。まあ杉森の実力が高いことは疑いようのない事実だがな。

励ますように円堂の背を叩いてやる。

 

「ま、そんな落ち込むなよ。ゴッドハンドなら止められただろうし……俺たちには『秘策』があるだろ?」

「………そうだな。よし、落ち込んでばっかりもいられない!練習練習!」

 

さて、御影の奴らが試合の時にどんな顔をしてくれるか楽しみだ。……データばっかりに頼ってると、ろくでもないことになるぜって教えてやらねーとな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。