Riddle name (Keisan)
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1.華の名前

" まるで絶望の鳥みてぇだな・・・お前のその痛んだ羽、治してやろうと思ってな "

" ・・・・・・傷が癒えたら_______ ラフテルの空へ、逃げるかもしれないぞ "

" ああ、逃げて見せろ・・・そん時はまた捕まえてやる "




あれからもう2年________




_____ 『こっちへ!』

 

 

俺は我耳を疑い、その・・・音とも、声ともいうべき?声がした方向を見上げた

 

ツナギを着た連中と(クマ含む)もう一人

他の連中とはあきらかに違う動き,そうあれはまるで演武

逆光の中、煌めく柳葉刀2刀で軽やかに舞い踊ればいつか見た濃紺のアオザイが翻る。

あの女が俺の前ではあまり使わなかった”柔の剣”だ。

 

「女の子________?」

「確かにシルクの服みたいだけど・・・あれが?」

 

ロビンとナミが走りながら云った。

 

「ああ・・・!」

( 何が”絹の美少女”だァ・・・!? )

 

俺は、なぜココにいる?という疑問と・・・そして

 

________ まだ、生きていやがった

 

あいつだ・・・!と確信した途端

心の中が何かで、ジワーと一気に浸み上がって行くのが解る____俺は歓喜してるのか?

 

「フアー、アブネー! ヘヘッ。楽しちまったなー、おーい!アリガトなーお前ー!」

 

トラファルガーの船に乗り移る際、雑魚処理をしてくれたおかげで

俺たちは奪った軍艦からこっちへ、すんなり乗り移れたんだ

ルフィは麦わらを押さえ、上機嫌に逆光で影になってる相手に手を振ってやがる

 

口元を覆う長いスカーフを外すシルエットに向かって・・・。

 

 

______________________

 

 

 

それは数時間前のこと。

朝食を取りながらゾウ近くにいる、ローの仲間の話題・・・。

 

「ウフフ、噂じゃ紅一点がいるんですって?」

 

最近手に入れた情報だった。

私がそう言うと彼はなぜか言葉を失い、帽子で表情を隠したように見えた。

 

「・・・あぁ。いるにはいるな。」

「へぇー、意外!ね!どんなコなの?」

「なにぃ!かわいいのか!?」

 

彼がなんて答えるのか、ルフイ、ゾロ、フランキーを除いて皆興味深々ね。

ローはなぜか、黙々とサンドイッチを頬ばってるゾロにちらりと目をやった。

 

「体は弱いが気が強い・・・ある意味、鉄のような女だ。」

「プッ・・・!鉄? なぜ”絹の美少女”呼ばれてるのかしら。」

「おお!美少女!!?クソ羨ましい!!!」

「・・・外見と中身は違うってことだ。」

「”絹の美少女”・・・!ぱんつ、見せてくれるでしょうか・・・。」

 

ぼか!いい音でナミが骨を砕く勢いで殴ってた。

ローがその様子に密かに小汗をかいていたのは黙っておくわ。

 

「”絹の美少女”は知らないが・・・

昔、”魔性のロリータ”とどこかの船長が云ってたのは知っている。」

 

「「「 ・・・魔性? 」」」

 

意味深ね _____どこかの船長ってことはその彼女も

船から船と・・・渡り歩いているのかしら・・・。

 

「ところで____ニコ屋、その情報の出所が知りたい。」

「海賊が立ち寄りそうな酒場で偶然耳にしたの。」

 

 

___ オイ聞いたか、死の外科医の船に女が乗ってたそうだぜ

 

___ 人質かなんかじゃねーのか?でなきゃありえねェ。

 

___ なんでも、写真とろうとした海軍のヤツがその場で

胸をギュっとわしづかみにして死んじまったらしいぜ____?

 

___ まるで九蛇の女帝じゃねーかよ、こえーな!

 

 

「________ってね? どう?」

「・・・あながち間違っちゃいねぇ。」

「人質!?ちょっとあんた!どういうことよ!?」

「お前・・・!

どこから攫って囲ってやがる!答え用によっちゃ許さねェぞ・・・!?」

 

フェミなコックさんは背後に炎を背負ってローに迫った。

カワイイ子を攫って囲うなんてきっと羨ましいのね。フフ

 

「落ちつけ、黒足屋・・・確かに攫っては来た。治療目的でな・・・。」

「ぁあ!? 治療!? って・・・お前。」

「借りもある・・・仕方ねぇだろ。」

「そ、そんなに悪いの? あ・・・!?」

「!?」

「おわ!」

 

朝食時を狙ってくるなんてね。砲撃で船が大揺れ。

肝心なところは海軍に阻まれてしまって、そこから先は聞けなかった。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

『 余計なことをしたか? 』

 

「____________!?」

「なに___ あの・・声・・・・?」

 

そのメッセージに彼らが違和感を覚え、

ルフィが手を振ったその影を凝視したのは言うまでもなかった。

 

「アンジー!こっちもOKだよ!」

(アンジー・・・?)

 

白クマの声を合図に彼らもパラパラこちらに戻ってきている

 

そしてようやく・・・その姿がはっきりとわかった

クルリとエモノの持ち手を変え、耳障りな音がせぬ様に静かに背中の鞘に納めた女は。

相変わらず袖なしのアオザイ姿、濃紺に映える白いパンツが実際より背を高く見せていた。

栗色だった長い髪は心なしか前より色がうすくなった気がする。

ふわりとかぶさる前髪から伏せがちな目が見えた・・・なぜ、俺を見ない?

 

「全員揃ったようだな・・・ベポ、用意しろ。」

「アイアイ!」

 

トラファルガーがクマにそう言った後、チラリとアイツに目をやった。

 

「・・・アンジェラ、案内してやれ。」

『 こちらへ 』

 

スタン、と俺たちの前に降りてきて中へと誘導する・・・ヒト違いか???

エロコックが彼女の前に立ちふさがろうトコロ、スイと事無げな足運びで先を行く。

 

「アンジーちゃん、足速ぇ・・・!」

「オイ・・・・!」

「なんだ!テメー!」

「アイツにストレスを与えるな・・・!」

「ぁあ!?どういうことだ!」

 

もう勝手に名前を覚えやがって。

コソコソとヤツに云った声など丸聞こえだろう。

案の定アイツは斜めに顔を向け、俺だけに声を飛ばしてきた。

 

”ロロノア、心配するな。前よりは少し、丈夫にはなってる”

 

間違いなくアイツだ。

 

前を向いた勢いで、かぶさり気味な前髪が一瞬浮く。

その違和感がなんであるか2,3秒解らなかった。

 

「お前・・・・その目!?」

『  ____! よせ、見るな・・・! 』

 

つい、腕を掴んで前髪を手のひらで掬いあげていた。

咄嗟のことでアイツも俺の目を___見開いて見ちまったんだ。

 

「あ・・・・・・・!」

 

瞳の色が違う_なんて浅く・・・”美しい”としか言いようのない紫色。

 

「なんで・・・!ウ・・・!?」

「あぁ・・・・・!見えちゃったーーーーーーーーーーー!!」

 

認識するかしないかの僅かな間、胸が鷲掴みにされたように痛み思わず膝をつく。

俺だけじゃねぇ、

エロコックなんぞは鼻血で逆行、甲板に吹き飛んでアタマ打って大の字になってやがる。

(いつものことか!?)

 

『 見るなと言ったのに。目を閉じて、呼吸を整えるんだ。残像を消せ。まだ間にあう 』

 「どういう・・ことだ・・・・!?」

 

云われた通り、やってみると少しは痛みが治まってきた。

サンジが甲板に打ち上げられた音で気づいたか、

更に青い顔でアゼンとして見てる仲間をかき分けて外科医が戻って来た。

俺は痛みより怒りの方が先立ち、何かを知っているであろう男の胸ぐらを掴んだ。

 

「てめェ・・・!一体アイツに何をしやがった・・・!!」

「・・・!」

『 よせ、ローは私を救っただけだ・・・怒るな 』

 

 

__________________________

 

 

 

ロロノアが激昂したのは仕方ないのかもしれない

 

ローが・・・独断でしたことは、私にとって有益なのだろうが

リスクがないわけでもない__それもまだ解らないが・・・。

恐らく、ロロノアの怒りはこういうことだ

 

まかせた筈の男がいたにもかかわらず・・・なぜ、

最悪の世代と言われるうちの、最も危険な男の元にいるんだ?と。

 

「・・・どこかで会ったような気がするわ?えっと・・・。」

『 アンジェラスだ、ここでは病み気味な船長のオモリと鍼師をしてる 』

「お前な・・・!」

 

ダイニングに入った一行の、黒髪の美女が訊ねたので云っといた。

ローはギリリと口を歪ませたが、それはいつものことだ。

 

それより、

女2人のイスを素早く引いているサンジという男の鼻の下の長さ気になって仕方ない。

 

『 記憶にはないが、おそらく手配書を見たのかもしれないな 』

「オイ・・・!アンジェラ・・・!」

「なによ、トラ男君。隠すことないじゃない?どうせ賞金首・・・エ?手配書?」

 

かわいい人が、私を制止したローをジロリと見てからキョトンとしてる。

向こうの船長もえらそばって彼の肩をバン!と叩いて鼻息を荒くした。

 

「そうだぞ、トラ男!同盟なんだから隠しごとはすんなー?」

「ほーら云わんこっちゃねぇ。忠告した通りだろ!?」

 

長い鼻を持つのは・・・・なるほど。ふふ、そっくりだな。

何やら・・・賑やかな海賊らしからぬムードを持つチームで、

ローが苦虫をつぶした様な顔をしていた。

ペースを乱される事が嫌いな男だ、仕方ない。

 

「手配書って、まさか!この子、よその船から攫ってきた訳じゃないでしょうね!」

「違う・・・!」

 

「・・・そういえばゾロ。どういうお知り合い?」

「昔の知り合いだ・・・!」

 

”どうした、ハギレが悪いな。ロロノア”

”うるせぃ!お前絶対余計なこと云うんじゃねぇぞ!?”

 

ヤツだけに声を飛ばすとギロ!と睨みつけそう思ってる。

私はベポが配りに来たラテを受け取ると、

ちょうどヤツは時間差でコーヒーを口に流し込んでいた。

 

”無理やりキスした事がお前の云う、余計なコトか?”

 

ブーーーーーーーーーーーーーーッ!!

 

「ちょ!何やってんのよ!キッタナ・・・!もー、シミになるじゃなーい!」

「どうしました、ゾロさん!?」

「な!なんでもねぇ・・・!すまん・・・・。」

 

キレイな霧だった。我ながらいいタイミングだ。

しかし勝手に人の唇を奪っておいて、それが”余計なこと”だとは。

 

”フツーのジョシなら傷つくトコだぞ。それは。”

 

ヤツのオデコから湯気が出てるの知らんふり。ラテを啜りつつ

軽くかかったローへの疑いも否定しなければならなかった。

 

『 そうじゃない、もうリタイアしていたんだ 』

 

正確に云えば、あの人にリタイアさせれれていた。だが、

意識が戻らなかったんだ、無理もない。

 

 

__________________________ 

 

 

 

アンジェラ、ゾロ屋と何を話してやがった。

俺が気付かないとでも思ったのか?

 

今はベポと皿洗いをしてる、アイツの後ろ姿を俺は眺めて思った。

 

「でー?あいつー、アンコは何の実を食ったんだー?」

「アンコ・・・。 アンジェラスだ・・・!」

 

 

もごもごとテーブルのクッキーを頬張り続ける麦わら屋。

云っても理解できるんだろうか?

聞く気はあるんだろ・・半分諦めながら一応は云ったんだ。

 

「心臓を活性化させる”ドキドキの実”を食わせた。」

 

俺が、リタイアした彼女を診た時にはもう手の施しようがなく・・・

アレは最後の手段にと・・・手に入れて置いたものだった。

 

「寿命は知っていたが・・・持ち直すか、イチかバチかの賭けだった・・・。」

「 !? 」

 

___俺にはそれに逆らう必要があった。

 

「今のは聞き流せ、アイツはもう一命を取り留めたんだからな。」

 

それに関して、ゾロ屋だけが動揺せず目を瞑って聞いていた。

聞けば、奴が海賊狩りと呼ばれだした頃の知りあいとか・・・。

互いに昔の通り名を知った仲か。

アイツはいつも肝心なトコロを云わないから・・・興味はある。

 

「それにしても・・・あの子、あまり笑わないんだな。」

「 「 ・・・・! 」 」

 

黒足屋の言葉につい反応したのはヤツも同じか。

 

「鉄の女といったろ・・・? だが・・・あの実を食べて以来、

昔よりは笑うようにはなったぜ? ゾロ屋、そう思わないか?ククッ・・・」

「・・・・。」

 

解るヤツしかわからねぇのさ。

アイツが笑っているか・・・なんてな。

 

 

_____________________________

 

 

 

 

・・・あれを果たして笑うっていうのか?

 

刀を肩にダイニングから出て行った男の背中から、アンジーちゃんの方に視線を移す。

前髪で目を隠してるせいか、返って解りにくい。

 

さらっさらの、艶やかな栗色の髪

そして横から見えた、紫色した大きな瞳とあの・・・

マシュマロの様なぷっくりした唇だ

 

ナミさんやロビンちゃんの持つ魅力とはまた違う、

なんていうか・・・大人になる前の仄かなエロチックさがタマラン・・・!

 

「顔が崩壊しきってる上に鼻血でテーブルを汚すんじゃねぇよ!エロコックが!」

「ああン!なんだと!そういやお前!どーやってあんなコと知り合った!」

 

今思い出しても・・・ああ・・

胸が音を立てる。残像がかすかに残ってるだけでこうだ。

真近で見たクソ剣士なんかは思い出して股間がやべぇコトになってんじゃねえか?

 

「いっておくぞ、アイツは見た目とは真逆の女だ。」

「だーからどーした!ギャップも魅力のウチじゃ!アホ剣士が!!」

「チッ・・・心臓発作で逝っちまえ、色欲コックが・・・!」

「今、コソっと、なんつったー!テメー!!」

 

『 ん 』

「今の・・・なんの音だ?」

 

キュ!と水道を止める音と、あの子の声、チョッパーの声が重なる。

 

「 「 !? 」 」

 

見れば彼女、コックに手をやったまま動作を止めているんだ。

 

『 まずいな、大渦か 』

「えっ!? まさか!」

 

ナミさんが天候の変化に気づかない訳はない。

チョッパーと2人して慌てて外に飛び出していった。

 

俺たちはあの子の後ろに続き、甲板にでたんだが・・・。

 

「・・・・? アンジー、何ともないみたいだけど・・・。」

『 ログポースを見て 』

「あ!?な、なにこれ!」

『 強力な磁気を帯びてる。この海域の大渦はさして天候も変わらず起るそうだ 』

 

三つの指針はぐるぐると回りっぱなし。無表情なまま云う彼女と

あのログポースにまだ慣れていないナミさんはパニックになってた。

 

「 あ!? 」

「うぉ!!?」

「間に合わないよ!キャプテン!みんなー!しっかりつかまって~!」

 

潜水艦が急に向きを変えたらしい。

さっきの今だぞ・・・どうなってんだ・・・!?

 

「このまま突っ切って一時避難する!」

 

バン!

ドアを開けてローはまっ先にアンジーちゃんの腕を掴む。

「来るぞ。絶対、放すな。」と

切羽詰まった様子で自分の体の内側に彼女を囲い入れ、首に抱きつかせやがった。

 

その手があったかぁああああああああああ!!!!

 

「どこでもいい!しっかり掴まってろ!」

「ナミさん!ロビンちゃん、こっちだ!!」

「いやぁああああああああああああ!!」

 

トラ男が叫んだ後すぐに、船尾あたりに何か力が加わって大きく揺れ始めた。

俺は___手を伸ばしたが。

 

「なァに。俺につかまっときゃ~スーパー大丈夫!!」

 「・・・あ。」

「エロコック!なにボーッとしてる!早くフランキーにつかまれ!」

 

ロ、ロボに負けた・・・・・。

 

「俺なんて、俺なんて・・・くそぅ!」

「床叩いてる場合か!サンジ~!!早くしろよっ!!」

 

 

 

_____________________________

 

 

 

 

「やたら急だもんな・・でも、なんとかなったみてぇだ・・・。」

「あァ・・・。」

「シシシ!なんか面白かったな!」

「よかった・・皆無事なんだな!っと・・・・・。」

 

おれも毛がビショビショになったけど、それだけで済んだんだからな。

でも___ その場でガックリ落ち込んでる、ナミとサンジ。なんでだ???

 

「うう・・・この先、またコレがきたら・・・!」

「ロボに負けるなんて。。。ぐそう・・・!」

 

アンジーがローから離れて膝を着くナミんとこへ行ってる。

何か云った後、おれの方を見たんだ。

 

『 心配いらない。動物的な耳があれば察知できる。タヌぽんに協力してもらえばいい 』

「え。そうなの!?」

「おれかーっ!?そのタヌぽんて!!!おれはタヌキじゃねぇ!」

 

『 だって・・・カワイイから___ ダメだったか? 』

 

 

 

ズキュン・・・!

あぅ! な、なんだこれ・・・! 

コキっと首を傾げたアンジーがキラキラ、やたらカワイク見える・・・!

 

「バカヤロー、カワイイいうな!タヌぽんでも何でもいいぞ、コンニャロウ❤」

「しっかし、いい耳してんだなー。スゲーな、アンコ!」

「アンジェラスだ・・・!」

『 フフ、お褒めいただいて光栄だ 』

 

でも___けして顔は緩まなくて、言葉だけが笑ってるんだ。

さっきのローの言葉も気になる。”寿命”って言葉だ。

それと、アンジーが呟いたすぐ後で船が向きを変えたなんて。

 

「アンジェラ。いいから早く着換えろ、話はその後だ。」

『 そうだな。取りあえず部屋に行こう 』

 

女に気遣うことのないローが、神経質なぐらいにアンジーに構う。

今も話ながらゆっくり船内に戻って行く彼女らをイラついた目で見てるんだ。

 

「俺、あんなに女に優しくするローを初めて見たよ。」

「バカ言え__ 」

 

照れるでもなく、脱いだシャツをジャーっと絞ってる。

そして何か思いついたように俺を振り返ったんだ。

 

「トニー屋。同盟を組んだトコの、

医者であるお前には一応は云って置く。こっちへ来い。」

 

上半身ハダカのまま、ローは俺を船長室へといざなった。

奥からTシャツをかぶりながら戻ってくると

ソファーに座ってた俺の前にバサリ、いろんな資料を置いたんだ。

 

「俺にもし何かあった時、お前が診てやれるようにしとけ。」

 

云い方に不安を覚えた俺は兎に角、アンジーのカルテを手に取った。

15歳からの記録か、そこにはロー以外の医者の手記も加わってる。

 

「え・・・・・!?」

 

そこに、衝撃的な文字の数々を俺は見たんだ。

正直・・・こんなカルテも初めてで、気持ちも考えも整理できないでいた。

 

「アンジェラはまだいい___

アイツの、遺伝子上の姉でさえ15になる前に死んだ・・やはり肺炎でな。」

 

「・・・・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 



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2.抜けない棘

昨日のコトは

航海士としてはかなりショックだったけど、アンジーの言葉でほんの少し安心できたわ。

だから、この次はなんとかなるわよね。そう信じないと。

 

「見て___町がある!ねートラ男君、ついでだから物資の補充でもしていかない?」

 

しっかり朝食を取った後、晴れ上がった空の下で。

いつもならルフィに云う所だから、なんだか調子狂うけどそこは遠慮しない。

双眼鏡を私から受け取ると、彼は四方を眺めてる。

 

「そうだな・・・そろそろ食糧がヤバイらしい。」

「えっ? どうヤバイんだぁ!?」

 

「  「「「  オメーのせいに決ってるだろ!!! 」」」  」

 

「すまんな、ウチのゴム胃袋のせいで。トラ男、そっちは俺に任してくれ。」

「あぁ・・・。」

 

ハートの連中にしてみれば恐らく想定外な食糧の減りっぷりだった筈。

名乗りを上げたサンジ君ならウチのある程度の「量」が解ってるから大丈夫ね。

 

「ねぇ!もしかしたら!近いし、ワノ国の服とか扱ってるかも!」

「それと、アンジーの着てるようなのが欲しいわ、それ凄く素敵だもの。」

 

そう、さっき彼女の部屋で着換えを借りたんだけど・・・

あいにくアオザイはすべて彼女のサイズなんで(胸と背丈が)借りれなかったって訳。

今も、凄く鮮やかな少し透けたオパールベルベットの服が良く似合ってる。

 

『 前開きだし、袖がないから動きやすいんだ 』

「おっ!ソレいいじゃねーか!カッコイイな!」

 

カチャ・・・と、アンジーは二刀の小太刀の刺さったベルトを腰に巻いてる。

なんだか雰囲気が・・剣士ぽくなったわね。

 

「ほう・・ウソップ、お前にも解るのか。」

 

アゴをしゃくりながら褒めるウソップに、感心して頷くゾロ。

気のせい? 

さっきからゾロの言葉にトラ男君の目つきをより一層鋭くしてる気がするんだけど。

 

「双蛇丸か。相変わらず、愛刀なんだな。」

『 刀を増やせばいいってもんじゃないからな 』

「どーゆーイミだッ・・・グギギ!」

『 そーゆーイミだ。私はこれを研ぎに出しに行く 』

「・・・待て!」

 

てっきりジョシ組はショッピングだと思ってたら、アンジーがそう云いだした。

空かさず、アイツが待った掛けたけどねー。

だいたいちょっと過保護的すぎやしない? さっきの場面でもそう。

咄嗟だったとは云え、あの庇い方・・・イメージじゃーないわ。

借りがあるって云ってたけど、あの子に一体どんな借りがあるっていうのかしら。

 

「俺は医療品の補充に行く、お前は他のやつと一緒に行動しろ。」

「あら? いいの?」

「あぁ・・・ソイツを頼む。」

 

かと言って、縛り付けたりはしないのね・・・ふーん?

 

「ロー、俺も行く!」

『 研ぎ屋に寄るのか? 』

「・・・あぁ、預かるぞ。お前はどうするゾロ屋。」

「そうだな・・・。」

 

ぱ!と彼女の腰のものがトラ男の手の中に。

そして一緒に降りて行ったゾロは言わずもがな同じ方向へ行くらしい。

 

「・・・・・・?」

 

なんだろう、あの妙な雰囲気は・・・。

そう思ってたら同じ様に感じてたロビンと目が合った。

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

「なんで名前を変えさせた」

 

着岸して、それそれのグループに別れた所でゾロ屋が呟く。

そのウチ聞いてくるだろうとは思っていた。

 

「前とは状況が違うんじゃねーのか? 例え正体がバレても

お前が七武海に入ったことでアイツには海軍も手が出せねえ筈だ。」

 

予想はついてるらしい

だからミホークは最後の最後で強引に連れ戻したんだろうと。

 

「それならなぜ、手配が止まない。差し出すだけで2億だぞ。」

「・・・・!」

「そんなにか・・・・?」

「それに俺はお前らと組んだ事で、いづれ正式に除名される。」

 

唯一のMissingだ・・・Wantedとは違う。

絶句しているヤツを横目に、ポケットに入ってた手配書をトニー屋に渡して見せた。

写真は14歳のものが最後で、それ以上新しい写真はない。

 

「科学班はまた別ものだって事だ。

おまけにそれを稼ぎにするヤツらだっているんだからな。」

 

アイツに余計なストレスを与えない為、

俺自身がその事に神経質になり過ぎるのを気取られないようにはしてた。

だから髪型も服装も変えろとは云わない。

ただ一つ、”アザは見せるな”とだけだ。

 

「アンジェラはもうウチの一員だ。お前がとやかく云うコトでもねぇだろ。」

 

ナミ屋たちと向こうへ歩いて行く彼女を振り返ってる。

収まらない気持ちがあったんだろう。

ヤツは向き直ると溜息にもならない僅かな息を吐いていた。

 

 

_______________________________

 

 

 

前を歩くベポ、ルフィ、サンジとフランキー、ブルック、そしてナミ。

 

後ろから見ていても、とても楽しそうにやっていて微笑ましい。

それは少し後を並んで歩く、このヒトも同じらしい。

 

「アンジェラスか・・・、いい名前ね。」

 

ロビンという、本当にキレイな人が笑う。

私は彼女を___幼い少女の手配書を見たことがあった。

つい、その手に触れて・・・事実を見たい衝動に駆られそうになる

 

『 その名はローが付けたんだ、本当の名前じゃない 』

「え・・・!?」

 

治療の為に滞在していた島の、信心深い島人たち

彼らが祈りを捧げる時間に島中に鳴渡る教会の鐘の音が

ふたたび、私の意識を引き戻したから___

 

「本当の名前は言えないのね?」

『 云えるけど、きっと呼べないな 』

「どういうこと?」

『 KOUKI・MODLE NO.18 TYPE-GRだ、改めてヨロシク。

こんな名前だから、皆呼びやすく名前をつけるんだと思う 』

 

ロビンはポカンとした後、また直ぐにクスクス笑い出してる。

 

「フフ、なんだかロボットみたいな名前ね。」

『 この声の伝え方のせいで宇宙人ってよく悪口云われたけど、一応は人間だ ホラ 』

 

手の裏側を見せた。

手首の血管がちゃんと見える様に。

 

「・・・・・凄い手ね・・!」

『 え? あ・・・! 』

 

彼女が触れた、私の掌に。

ロビンが驚いたのは私のその掌の酷さだった。

 

(この子は一体・・・!?)

 

それを切っ掛けに水流の如く流れ込んでくる彼女の歴史___

 

ドクン・・・・!

 

大きく心臓が揺らいだ。ロビンの記憶に___知っている男達がいる

 

”L・ロゼッタ。獣というヤツは・・・

皮を剥ぎ取られることはあっても自ら脱ぐことは出来ない_____ 覚悟を決めておけ”

 

『 あ・・・・! 』

「!? アンジェラ!?」

 

あの時の様に立ち竦めば__信者たちの悲鳴が耳を襲う

 

その言葉がもうどのぐらい

私を苦しめてきたと思ってるんだ・・・

 

 

『 ルッチ・・・・! 』

「今なんて・・・・・・・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 



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3.ビスク・ドール

どうしよう、こんな時にキャプテンはいない___

あ! そうだ、アレがあった!

 

「えっと、こういう時は・・・!」

 

アンジーが立ったまま気を失っちゃったんで

おれは”見たまま”書いた対処法をメモ帳から探し出してた。

 

「おい!テメーこんな時に何のんきに読んでんだ!」

「待ってよ!前にもこんなことがあって、

その時キャプテンがした応急処置をメモっておいたんだ!・・・あった、これだ!」

「どれ、ちょっと見せてみろ・・・・! ........。」

 

バッと、黒足がおれの手からメモ帳を奪って数秒たった。

 

「・・・・・・・そうか、ヨッシ!俺に任せろォォオ❤」

「・・・鼻血が飛び散ってるわよ。」

「・・・一体ソコに何が書いてあんのよ;」

 

それを後ろからサングラスを上げてメモを覗き込んでいるロボ。

そして黒足はメモをおれに返すとフーッと煙を吐き捨て

気絶してるアンジーの鼻をツンツン突っついてた麦わら屋とブルックを押しのけた。

 

「じゃ、じゃぁ行くよ・・・アンジーちゃん。”適度にキツク”う・・ウ!」

「適度にキツくだな!このぐらいか!?」

「オイ・・・! ぐぎごky・・・・!!!?」

 

ペキ! 

あっ・・・。

いい音がしたけど、黒足がクッションになってるからアンジーは無事そうだ。

( 別にロボと2人で抱きつかなくてもイイんだけどな;)

 

「俺も混ぜろぅ! こんぐらいか!?」

「オグ!! ルフ・・・!」

 

さらにその上から麦わらがニョロニョロぐるぐる、ロボごと巻きついてる。

スゴイなぁ、あいつの顔に血の気はないけどまだピクピクしてるよ?

 

「ルフィ、ちょっと弱いんじゃねーか?俺にもコタエてねーなぁ。」

「なんだとう!? じゃー、こんぐらいでどうだ!」

 

ボキボキ!!いうのと「ゴフ!」と同時に聞こえたんだけど!?

すごい! おれアイツ尊敬する!!

泡ふきながらも、ちゃんとアンジーを腕のなかで守ってる!!!

うう・・・漢だ、キャプテンに見せてあげたいよ・・・!

 

「ネー コレって根本的になんか間違ってやしない?」

「オイ、白クマのあんちゃん!このアトどうすんだっけー?」

「耳元で名前呼んであげて~!」

「私の出番のようですな・・・どれ。」

 

そう云ってヴァイオリンを手にしたのはホネ男だ。

 

ヒュ~…ドロドロドロ~♪

 

「アンジーさーん、早く帰っていらっしゃーい・・アンジーさーん・・!」

 

「「 ヒィッ!! 」」

「ブルック!それじゃ黄泉の国で手招きしてるみたいで戻って来れなくなるわ。」

「よし!任せろ!スゥ~~~~~~~~」

 

 

あんこーーーーーーーーーーおおおぉお!!!

 

「 「「 アンジーだって! 」」 」

 

耳を塞ぎながらでもツッコむ、麦わらの一味。

バカでかいなんてもんじゃない、その大声で皆の服がハタめいてる。

 

あんな近くで鼓膜だいじょうぶかな; 

アンジーにケガさせちゃったらキャプテンに怒られちゃうよー・・・。

 

 

『 ・・・・・あ! 』

「あ!!」 

「戻った!!」

「アンジー!」

「お~良かったじゃねェか!おっと、大丈夫か?」

 

意識が戻ったとたん、アンジーはその場にへたり込んじゃったんだ。

 

 

 

____________________________

 

 

 

『 おかしいな、なんだか波長が狂うんだ 』

 

 

アイツは妙なことを云った。

俺は体調を崩したアンジーを背負い、クマのあんちゃんと共に戻ろうとしてたんだ。

 

「おれ、なんとなく解るよ。”ツー”って聞こえてるんだろ?」

『 この道に入ってからだ、凄くイヤな音だな 』

 

確かにさっき通った道じゃないが、

あの場所からだとこっちを通った方が早えーだろうと思ってな。

 

周りにもそんな、電子音を発生させそうな建物は見当たらない。

気のせいでもないんだろう、あの動物的な聴覚だ。

 

「そりゃー悪かったナァ、おい、クマのあんちゃんも掴まれ!

おおそうだ、2人とも鼻つまんどけよー!いいかー・・風来噴射!!」

「トンダ~~~~~~~~~~~~!!!!?」 

 

そんならココは一つ、さっさと抜けちまうか!

お~今日の俺はスーパー・・・ん? 

 

「なんだ? ありゃぁ・・・??」

『 ・・・・・・似てる 』

「何に似てるって云うんだー? 嬢ちゃん!」

 

パタパタと忙しなく羽を動かしながらこちらに集団で飛んでくる生物。

変わった生き物だなぁ? この島の固有種か??

結構なスピードで近づき、その姿がハッキリと確認できた。

 

「マネキン・・・・・!? うわっ!?」

 

いや違う。

スキンヘッドで真っ白、手足が曲がる様に球体関節が着いてやがる。

 

『 まさか、”ビスク”・・・!? 』

「オイ!あれァ、まさか生きモンじゃねーだろうな?」

『 人形だ、生きてはいない 』

 

いきなりそのうちの一体が膝を抱えるような姿勢を取ったと思いきや。

膝からロケットを発射してきやがったんだ。

アレを作った人形師はなかなかいいセンスをしてる、俺好みだ・・・!

 

「じゃ~、遠慮はしねぇ・・・!”フレッシュ・ファイア”!!」

 

 

ボーン!ボーン・・・!

 

 

舌打ちもする。

爆破はするものの次から次へとその煙の中からやってきやがるんだ。

キリがねえとはこのことだ。あの羽音といい、まるで虫の大群だぜ。

 

『 フランキー、真っ直ぐ垂直でお願いしたい 』

「オイ、嬢ちゃん! オメー今、刀一本だけじゃねーか。どーする気だぁ?」

 

ほほう、俺に注文付けて立ち上がりやがった。

こんなちっこい女が刀一本で一体何をやらかしてくれんのかと

楽しみには思ったが正直アテにはしちゃいねぇ。お手並み拝見といこうじゃねェか?

 

『 そうだな。しかも、ワノ国の骨董品ときてる 』

「なにィ、そんなボロなのかそれ!なんで使ってんだよ!」

『 クリスマス・プレゼントだ 』

「アァ!? 贈ったヤツの顔が見てェもんだなそりゃ!」

 

案外クレージーだぜ、この嬢ちゃんはよ!

気に入った・・・! 

 

『 少し振動が来るけど、堪えて 』

「大丈夫だ!好きにやっちまぇ!!!」

 

スゥと息を小さく吐き、下段って構えで右足が一歩引いたその瞬間だ。

 

『 いずれ会えるだろうな ≪infernal heat・・・!≫ 』

 

そう呟いてシャ!と音がした時にはもう、さっきいた場所じゃなくなってた。

風景がオレンジ色に一変しやがったんだ。

 

「あ!!??」

(この女・・・、魔女か何かじゃねーのか!??)

 

バァッ・・・!!!!

 

一瞬だ、空一面が焼けた様に炎一色に包まれていた。

ボタボタ、さっきの”ビスク”とやらは音を立てて燃えながら落ちてってる。

 

 

「アゥ!一掃かよ!スーパークールじゃねぇか!まるで地獄の業火だな!」

『 あまり使い道のない技だ 』 

 

ってか!

クーッッ!! よくもシレっといってくれるぜ!

 

『 ・・・・・・。 』

(・・・・・・?)

 

見上げれば、アンジーはまだ刀も納めずに消えかかる炎を見つめてる。

そういやコイツ、なぜアレを知っていたんだろうな・・・。

 

「ん!? 臭うな、なんか焦げてやしねーか?」

『 ・・・こういう事もある。ベポ、お尻だ 』

「あ、ほんとだ・・・って、あぢいいいいいいいぃぃ!!」

 

 

確かに、大技すぎてコントロールがイマイチできねーようだが・・・

ま! そこは御愛嬌だ!

 

 

 

_________________________

 

 

 

 

「 _____ところで。この、

”ビスク”ってなんなんだ? なんで俺たちを襲撃してきやがった。」

 

彼としては興味深いと云うので落ちたその残骸を持って帰ることにした。

フロシキを広げ、3人で回収にあたっている所だ。

 

『 あの、大渦・・・人工的に造るのは可能か 』

 

質問に質問で返すのはどうかと思うが

私がどう答えていいか考えるのには必要だったのだ。

 

彼は一瞬、怪訝な顔をしたが事なきで済んだ為か余裕を持っていた。

 

「そーだなァ、出来なくはねぇ。莫大な金は掛るだろうけどな。

勿論、ベガパンクぐれェの知識と技術も必要だぜぇ?」

 

私は無残にも半分熔けた”ビスク”の頭部を拾いあげ、土を払う。

 

『 ・・通称”ビスク”は元々、民間企業のオタクな科学者が

理想を具体化するのに使ってた人形だ。簡単に云えば”肉付け”だな 』

「ヘェー、そいつらは美少女サイボーグでも造る気だったのか?」

『 人間だ。男も、母体も必要なく創られる 』

「なにィ!?」

 

(こんな形で巻き込んでしまうとはな)

 

ローが私を連れ出してからは居場所の特定はできなかった筈。

回帰本能でも期待してた訳でもあるまいに、ずっと網を張っていたのだろうか?

 

「てか、お前、イヤに詳しい・・・オイまさか、冗談だろ・・!」

 

”ビスク”の頭部を、自分の頭と同じ高さで彼に突き出した。

同じ形、大きさだって事に気づいて顔色を変えたのか。

 

 

『 ____私も”コレ”から始まったんだ、フランキー・・・ 』

 

目的は・・・私の回収だろう___

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 

 

 



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4.絶望の鳥

___ アイツ、ほんと体が弱いんだな・・・。

あんなんじゃ、トラ男が心配すんのも無理ねぇか・・・・・。

 

そう思ってた時、急に空の色が変わったんだ_______

 

_______________ !?

 

「ちょっと!あれ!!」

 

ナミが空を指差した。

 

「あっちはさっき、フランキーが戻って行った方よ・・!」

「イテテッ!なんだ、この音!!」

 

赤い空を見上げた時、俺の耳の鼓膜をつんざくような音がしたんだ。

まるで誰がが泣いている様な、なんか悲しい音だ。

 

「まさか、アンジーちゃんに何か・・・!」

「やっぱり戻りましょ!!」

 

あいつらに云われなくたって俺はそっちへ走りだしてた。

最初、アンコは気ぃ使って「自分とベポだけで戻る」って云ったんだけど

フランキーが名乗りを上げて一緒に戻ったんだ。

俺もアイツがアア云わなきゃ、心配するとこだったんだけどな。

 

___そう、チョット前の事だ。あれには驚いた・・・!

 

 

”ルフィ、悪いな。時々あるコトなんだ、気にしないで楽しんで来て”

「お、お前!?」

 

すげェ~~~!!! 声が頭ン中に入ってくる!!?

すぐ、”シーッ”と言われたんでつい口を塞いじまった。

 

”頭の中で云いたいコト思ってくれれば会話できる”

”スッゲ~~!!お前ってスッゲー!!!まるで宇宙人じゃんか!!”

”フフ、それ禁句だぞ。じゃぁ、行ってらっしゃい”

「わかった!行ってくる!」

”シーッ・・・”

「あぅモガ・・・・!ゴメン・・・。」

”慣れないウチは仕方ないな”

 

そう云ってアイツ、帰って行ったんだよな。

ハッと不安になった、

もしかして___さっきのあの音、アイツじゃ・・!?

 

「アンコーーーーーーーーー今行くぞぉーーー!!!」

「え!? 加速ッ!!? ちょっとルフィ!着いてけない!!」

 

 

「・・・いた!!オーイ!!!」

 

 

良かった、皆無事らしい・・・! え!?

足元に転がる燃えカス、枯れ葉の焼けた臭い。

何かあったのには違いネェ・・・。

 

「オイ!アンコ!!どうした! フランキー!?どうなってんだ!」

「嬢ちゃんは覇気使っちまって、ちょっと疲れたらしいな。」

 

シー!とベポが口に手を当ててる、なんだ眠ってるのか・・・。

フランキーの背中でクッタリしてるから焦るじゃねぇか。

 

事情はフランキーから聞いた。

襲われたってことも、アンコが人工的に造られた人間だってことも・・・。

 

「じゃー、こいつ・・・父ちゃんもカァチャンもいないのか。」

「あぁ、だな。」

 

フランキーもあんまり詳しく聞けないウチに寝ちまったんだそうだ。

 

「あまりにデリケートな話だ・・・ルフィ、この事はまだ黙っててやってくれ。

俺が思うにゾロとトラ男は知ってるだろうがな。」

「!? ・・・・ああ。」

 

やっと追い付いたナミやサンジ達を見てヤツがいう。

 

そうだな、もし・・・こんな事がなけりゃ、

アンコだって言わなくて済んだ話なんだよな・・・。

 

 

「そういや、ベポ。お前__ 

トラ男がどんな借りをアンコに作ったか知ってんのか?」

「エッ・・・・。」

 

サンジが歩くのを遮るとクマはギクリと体を固まらせた。

 

「知ってる顔だな、そりゃ・・・。」

「お、おれ、キャプテンがどんな事を借りだと思ってるのか解らないよ!

あの時だって皆で反対したのに”黙ってろ”で片付けちゃうし・・・。」

 

ベポは両手拳を縦に振ってトラ男のワンマン振りを嘆いてる。

だけどその内、おぶられてるアンコを見上げてシュンとしだした。

 

「でも・・・リ・・、アンジーが持ち直してからは皆

キャプテンの云う通りにして良かったと思ってるよ。だって・・・、」

 

 

______ ホントはとってもイイコなんだ・・・。

 

ベポの呟きがどこかヘンに聞こえたのは俺だけだったのか?

 

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

 

「ねー、ベポ! 一つだけ、教えて~?」

「な、なんだよぅ!まだなんかあんのか!」

「トラ男君がー・・・アンジーを攫って来た時の、ハ・ナ・シ!」

 

クマに色仕掛けなんて効くんですか? ナミさん・・・。

まー・・・私だったら、あんな風に枝垂れかかられちゃたら骨抜きですけどねぇ。

あ!私、骨抜いたら服しか残んないんですけど!! ヨホホホホ・・・!

 

「おい!ナミさんがその話を御所望だ!話せるよなァ・・・・!?」

「ひ!」

 

サンジさんはきっと妬いてんでしょうね、アレ!

背中に炎背負った上に目が逝っちゃってますから。

 

「どっから話せばイインだよぅ・・・;」

「 「「「「 最初っから! 」」」」 」

「うう、おれが喋ったっていうなよな!」

 

ルフィさんまで炎背負っちゃったんで仕方ないですねェ・・・・。

 

「・・・おれ達があの屋敷を訪ねた時__アンジーはもう、

魂が抜けたみたいに痩せた体をベッドに横たえてた・・・。」

 

 

__彼女を初めて見た他のクルーも、

その生気の無さにキャプテンをギョッと見直した位で

こんなヘキ地に何をしに来たか聞いていたし、本気か?と疑ったんだろう。

 

 

" まるで絶望の鳥みてぇだな。

・・・お前のその痛んだ羽、治してやろうと思ってな "

 

___そんな彼女の枕元に座るとキャプテンは静かにそう云った。

 

" ・・・・・傷が癒えたら____ラフテルの空へ、逃げるかもしれないぞ "

" ああ、逃げて見せろ・・・そん時はまた捕まえてやる "

 

 

「おれには、笑えないアンジーが笑ったかに見えた・・・。」

「笑えない・・・・!?」

「 「「「 ・・・・!? 」」」 」

 

 

" 相変わらずだな・・・こんな船長相手じゃ、クルーが苦労する "

" そう思うンなら、お前が何とかしろ・・・べポ・・・! "

" ・・・どうする気だ、べポ・・下ろして・・・! "

" 死んでも落とすな、引き上げるぞ・・・! "

 

「_____とまあ、こんな具合だったんだ。・・・ウグ!」

「さっきの、笑えないってどういう事だ!」

「シチューにされたくなけりゃ、さっさと云いやがれ!」

 

あー・・・・それは私も気になってました・・・。

お二人が詰め寄るのも無理はありません。

アンジーさん、ずっと見てましたけど・・一度も笑顔がないですもんね。

 

「おれ、医者じゃないからよく解んないけど・・・アンジーは

喜怒哀楽をフツーのヒトの30%しか感じられないって・・・。」

「な、なんでだよ!?・・・なんでなんだよ!!!?」

「・・・・・・・・!」

 

ルフィさんがそう云う事に過敏なのは皆、よく知ってます・・・。

なぜか、フランキーさんだけが冷静に

質問しようとする皆に手で制止して首を横に振っていました。

 

「だからアンコは笑えないってのか!!!

誰が! 一体・・・アイツに何したって言うんだよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued



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5.最後の子

「・・・・アンジェラ。お前まだ・・・何を気にしてる。」

『 ・・・・・・! 』

 

気がつけば、ローの手の平が私の額の汗を拭っていた。

何も・・・とは言えない、酷く魘されてる所を彼に起されたばかりだ。

 

「・・・・当ててやろうか?」

 

いつもの落ち着いた口調にポーカーフェイス。

その表情に、憐れみが含まれてなかったのはせめてもの救いというもの。

彼は私が読み取るのを承知で、そう言いながら手首から脈を取っているのだ。

 

『 そう云った男…あれこそ獣だ。一緒にされては堪らない 』

 

他人から見れば大差ないかもしれない、けど・・・。

獣に"獣の烙印"を捺されるなんて______この私でさえ、穏やかでいられる筈がない。

 

『 それより、ロー。この島はやはり・・・・ 』

「あァ、偶然でもないってトコか・・・・。」

 

同盟を組んだとは言え・・・彼らを巻き込みたくはないな。

それはローには言わずにおいた。そう云えば彼は”自分がカタを付ける”と言いかねない。

本来、私の敵だ。私こそそうしたい。けれど、今回はフランキーも一緒に襲われてる。

 

『 やり易いようにしてくれていい 』

「・・・・。」

 

「何でもない」では彼らも納得すまい。

守秘義務なんて考えなくていい、私が傷つく事なんてないのだから。

彼はまだ__ 私のあの数字に疑念を抱き続けてるんだろうな。

案外分かりやすい男だから、その位読まなくたって解る。

メンタル的な部分で気を使っているのだ。”主治医”という事を理由にして・・・。

 

『 ・・・少し眠ってもいいか、何だか疲れた・・・ 』

「そうしろ。今どうこうって訳じゃない。」

『 すまない 』

「イチイチ謝るんじゃねぇ、いいから寝ろ・・・。」

 

手早くアオザイの一字ボタンをプチプチ外し始めると迷いもなく左右に開く。

すぐに晒を巻いた胸が露わになり毛布をその上から被せた。

彼の視線が、僅かに右肩に移ったのを見逃してはいない。

そしてスクリューの音が聞こえた。

 

『 移動するのか 』

「あぁ・・・、起きたらコレを使え。声を飛ばすな。」

 

そう言ってサイドテーブルの双蛇丸の下に置いて行く。

どこから持ってきたんだ、そんなの・・・。

 

そう思ってる内に彼はドアの向こうへ消えていった。

 

 

_________________

 

 

 

ロー達も仲間からの連絡を受け、血相を変えて戻って来ていた。

彼女の部屋に入るなり、「席を外してくれ」と人払い。

私はナミに目配せすると心配顔の皆を連れて部屋を出た。

 

ガチャ。ドアの音に間髪いれず詰め寄ったルフィは「あいつは?」と訊ねてた。

彼は疲れた様にドサリとソファに身を預けてる。

そして目の前の床に広げられた風呂敷の上の回収物を睨みつけるのだ。

 

「あぁ、少し疲れただけだろう。麦わら屋、いや・・・お前達に一つ云って置きたい。

アイツの手に触れるのは遠慮願う、特にニコ屋。昔CP9と色々あったらしいな。」

 

「 「「「  !?  」」」 」 

 

「・・・・アンジェラは恐らくお前の過去を見た。」

 

「・・・え!?」

 

「悪魔の実を食べる前から特殊な能力を持ってたアイツは

”ストレス”で極度に体を弱らせちまう。・・・覚えといてくれ。」

 

彼にとって、”色々あった”部分はどうでも良いのだ。

自覚があったのか一瞬、天井を見上げて溜息を隠してた。

 

「ロー、あの子は一体何者なの?」

 

この部屋に戻ってきてからの彼のその様子から

云いたくない何かを沢山抱えているのは良く解るのだが。

ナンバリングされた様な名前、あの掌の色と硬さ、

私の過去を見て彼女がストレスを感じた。そして”ルッチ”という言葉だ。

私が聞かない訳にはいかなかった・・・・。

 

「”ピッツ・バウンドの惨劇”の主人公さ。」

「!?」

 

何かイジワルな目を向けるロー。

まるで、あの事件そのものに恨みでも持っているかに思える。

 

あの事件は確か、今から5年前に起った。

政府関係者、海軍上層部、

そして七武海しか知り得ぬ内輪の話を彼は知っているのか。

 

「今のはココだけの話だ。アンジェラはあの事件でかなりのダメージを受けてる。」

「なんだか良くわかんないけど・・・言うなっていうなら言わないわよ?」

「それより、その残骸の事だが・・・アンジェラ目的だろう。」

「なんで嬢ちゃんが捕獲されなきゃならねぇんだ?」

 

フランキーが残骸から頭部を取り出し、アゴのパーツを外して見せる。

何体かの人形の口の中には網が仕込まれていたようだ。

___その事だが・・・と、ローはやや躊躇いがちに切りだした。

 

「嘗て・・・ワノ国付近の諸島に武器製造会社の研究所があった。

クローン技術では未だにベガパンクが追い付けない独自の高度な技術を持ってた。」

 

ルフィが何か聞こうとした時、ローは手を伸ばし

MISSINGと印刷された手配書をテーブルの上にヒラリと置いた。

 

「これ・・・・アンコか!?」

「あァ、アンジェラだ・・・。名前は違うがな。」

 

今よりもずっと幼い・・・アンジェラス。

見たはずだった。名前が違ったせいで思い出せなかったが

(あなたは何故、海軍なんかに探されているの・・・?)

以前どこかで見たこの手配書に、自分を重ねてしまった事があったのだ。

 

「アライブ・オンリーで2億だとォオオ!?マジか・・・!」

「探されてるだけなのに、ちょっと高すぎやしない?」

 

「アイツの存在でクローン技術の常識が根底から覆る。その価値はあるのさ。」

 

「  「「「 「 !? 」 」」」 」

 

「アンジェラはそこで培養されて生まれた”戦闘用デザイナー・ベビー”・・・。

18番目の”イヴの最後の子”だ。それが海軍唯一のMISSINGである理由でもある。」

 

「培養・・・!」

「クローンって・・・そんな・・・!」

「”イヴ”ってのは・・・試験管かなんかか?」

「デカい水槽だ・・・そこで育っていくらしい・・・。」

 

突拍子もない話、あまりに馴染みのなさすぎる単語が並ぶのだ。

騒然ともする。ただ、チョッパーとゾロだけは驚いていない様子だった。

 

「ある日、研究所は商品化を目前に村人の暴動に合い、何もかも焼かれた。だが

子供達の遺体の中に、改良品であるアンジェラがいない事に気付いたヤツがいる。」

 

「生き残りが・・・!?」

 

私の呟きに答えるかに彼は持っていた小びんを投げ渡す。

ノミくらいに小さなそれはカラカラと音を立ててる。

 

「ソイツは17年前からアイツの体に埋まってた発信機だ。

なんの根拠もねぇが、俺は<生き残り>の存在をずっと疑ってた・・・。」

 

____?

 

壁にもたれ、腕を組んだまま目を瞑ってるゾロを睨みつけた・・・?

 

「表向きが違うだけで海軍の科学班が探してるのと同じ理由だろう。

ベガパンクは保護、<生き残り>は回収・・・どっちにしろアイツはまたモルモット扱いだ。」

 

「”また”って・・・どういう事だ・・・!」

「オイ・・・!あの子の体をメスで弄り倒したっていうのか!?」

 

「平均寿命は12歳・・・短命の原因をアンジェラの体でかなり模索してた痕跡がある・・・

お陰で改良されてはいるがな。そうだろ?・・・ゾロ屋。」

 

「あぁ・・・そうだな。」

 

ローにしてみればそう考える他、救いがないのだ。

怒りの収まらないルフィもフランキーもこれには黙ってしまった。

 

 

___________________

 

 

 

俺はまた買い出しに出たもんだから事情は後でロビンちゃんから聞いた。

ムナクソ悪い話だぜ・・・・。

__夕食前にそんな話があった為か、ルフィでさえ黙々とメシを食ってやがる。

一旦、僅かに手を止めてはまたガツガツと食らいだす。あまり見ない光景だ。

 

「まるで尻尾を針で刺されたネズミだな。」

「なんだそりゃ?」

 

そんなルフィを見ていたトラ男が呟いた。

 

「ストレスの実験さ。尻尾を針で刺されたマウスは、

その痛さを紛わすかにエサにガツつくんだが・・そのうち食べるのを止めちまう。」

「ヘー・・・。」

「その点アイツは、心配なさそうだ。精神力の強さが伺える。」

「フフッ、食い意地が張ってるってだけだろ?」

 

こいつ・・・極悪そうな男に見えてそこは医者だな。

それなりの準備を整えてアンジーちゃんを攫いに行ったとか・・・男前じゃねぇか。

しかし、トラ男にとって彼女はどんな存在なんだろうな。妹と云うにはベポの話といい、

気絶した彼女の起こし方といい・・・ちょっと色気があり過ぎんだろ・・・・・・・あッ!

 

「そういやお前!! いつもアンジーちゃんにアンナコトしてんのかぁあああ!?」

「!? ドンナコトだ・・・・?」

「メモ!メモ! 白クマ手帳だよ!」

 

俺は周りを気にして途中からにはなったがヤツの耳元でヒソヒソと言った。

やっとピンとキタみたいで軽く頷きやがる。

 

「あァ・・・あの位しねェと起きねぇからな。」

「グヌヌ!羨ましすぎるぞオマエ!

大渦の時といい、俺にもなんかそういう美味い手を伝授しろぉオオ!!」

「ま、また今度な;」

 

「オイ、トラ男。こうしてる間に奇襲なんてねーだろーな?」

 

ウソップとチョッパー以外の野郎どもは一応の身構えはしている。

クソ剣士なんぞは食うだけ食って、”ごちそうさん”と小っこい声。

腰のものを携えてたった今席を立ちやがった。

 

「帰り際、妙な音がしてるって嬢ちゃんが気にしてたんだが・・・

発信機がない今、あの声の周波数を拾われたんじゃねぇのか?」

 

「あぁ。それはアンジェラにも伝えてある。____?」

「なんだ、騒がしい・・・?」

 

けたたましい足音にトラ男も俺もドアの方を見た___

アホ剣士はドアを開けるなり、このキッチンをグルリとを見回してる。

 

「アイツがいない・・・・!」

 

 

「 「 「「「  ・・・・・!?   」」」 」 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 

 

 

 

 



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6.サウダーデ

____ あとでサンジが責められなきゃいいな

買い物から戻った彼を乗せる為に着岸、その隙を狙って降りたのだ。

 

私は今、どうしても行かなきゃいけない場所を目指して歩いてる。

( 聞こえるんだ、イヴの心音が・・・。)

眠っていた筈の私を優しく起こしたそれは、遥か昔の私たちの子守唄で。

胎児が中耳で聞くと云う、母親の心音と同じものではないだろうか。

 

コートの重みがまた、自身が刺客であった事を思い出させる。

複雑さを感じながら月夜の海岸を抜け、雑木林に足を踏み入れた。

一応の季節は春なのだろうがさすがに夜風は冷たい。

嗅いだ事のある赤杉の匂い・・・湿気た土を踏みしめる。

 

『・・・・・・・・・・!』

 

目が闇に慣れたてきた所で現れた左側の大木、

そして・・・この道の形に足を止めて逆を向くのだ。

 

”そんな格好で寒かろう。お前、何処から来た?”

”逃げろと云われた”

”その声___今なにを・・・!?”

”殺されるから逃げろって”

”・・・、盗賊か何かか。”

”ううん、村の人”

 

裸足にシュミーズ1枚の少女と大きな十字架を背負う男の幻が霞んだ

ここで私は・・・。

 

ハッとなる____

 

( 近い )

 

『 ・・・・・! 』

 

奇妙な。土から手が飛び出し、なぜか前から両足首を掴まれてた。

上から跳んでくる殺気に膝を折り、腕をクロスさせ即座にソレを掻き斬り地面を蹴る。

横へと回転しては意識を360度張り巡らした。

 

(・・・・・・・・・?)

 

ザ!ザザ!!

 

風を切る落下物が3体着地した。そいつらが串刺したのは枯れ葉と土のみ・・・。

遅い、いや鈍い。

どうやら私とは別の周波数で会話してるらしい。

シャリーン・・・と鳴った鈴の音に、顔を見合わせ全員がそちらに向きを変えたのだ。

 

(どっちだ・・・全員左か?)

 

耳を澄ませばどちら側に心臓があるかの見当はつく。

コートの内側に手をやると多少の遠心力を使った。

ドッ!ドッ、ドッ!

時間が惜しいので少し大き目のナイフを投げる。

 

(紛い品も甚だしい・・・・。)

 

汗をかく暇もなかった。雲が月から剥がれ、その正体を照らす。

なるほど、美少女ではある。後ろからグイと彼女らの襟をつかみ下ろして見た。

アザも左に咲いてるとはな・・・。

 

また現れた・・・・、!?

 

(さっきから・・・コイツか)

 

ビュ!上空に浮いたボール状のものに向かってまた一刀投げ放つ。

ゴギン!不自然な音がした。ボトリ落ちてきた物体は刃に貫かれた上に氷りついてる。

監視用のカメラらしいが・・・。

 

「なァんだ、心配する事なかったか・・・・!」

『 ・・・・・! 』

 

気を消すのが上手くなったようだ。

その男は太い枝から、私の目の前に”ヨッ”と云いながら降りてきた。

私はヤツの殺気を測りつつ、さっきローが置いていったそれを取り出した。

彼をジーと見据えながらまず、口でポンとキャップを外す。

キュキュキュ・・・!

 

【なんでココにいる!】

「ちょ!!!間が長い!

なんでマジックとスケッチブックで筆談!?いや、ソレでカオ隠さなくてもさァ!?」

【しかも3年前より更にムサクルシイぞ、クザン!】←2枚目

「次のセリフまであんのかいっ!」

 

私はこの男が嫌いだ。感情の30%のギリギリまで好きじゃない。

一瞬、服をハタこうとして手を止めると少し離れてからパンパンと叩き出してる。

気を使ったのか?そう云えば以前・・・姉が死んだと云い、

イヴの子が短命なのはリンパ球性の肺炎が原因だと私に教えたのもコイツだった。

 

「たまったま、トラファルガーの潜水艦を見つけたモンでね・・・

そしたらお前さんらしき女が出てきたんでツイ、懐かしくて着いてきちゃった訳だ。」

【絶対、ウソだな。】

「だーから!なんでソレ使うんだって!マァいいやもう。そういやお前さん知ってるか?

ここ最近、人間屋でそーいった類の女が持ち込まれてるって話をさ・・・。」

【・・・・・・!!】

「ソコはフツーでイイでしょうよ;」

 

シャボンディにあったと云う奴か____

だからローはその時の話をあまり私には聞かせないのか?

 

「謳い文句は”ワノ国、伝説の美少女アサシン・モデル”だとさ。」

【屈辱だな・・・、】

「まーそー、怒りなさんな。もう既に、」

【殺傷能力はウンコ以下じゃないか!】

「コラコラー!美少女はウ●コとか書かないよォ!?てか、そうキタ!?」

 

罠だと十分承知していたが、街のチンピラにも劣る戦闘力でソレはない。

あんな単純なトラップに引っかかる位なのだから。

 

「クオリティが低いのはしょうがねぇな、

<生き残り>は当時は研修生でクローンに関しちゃまるで素人だったのさ。

マァ・・・もう身元も割れて科学班の意向で手配されちゃってるんだけどな。」

 

何やらブツクサ云いながらヤツは草むらを棒で掻き分けだした。

何を探してるんだ・・・? そう思って見ていると急にしゃがみ込んでる。

 

「しかし、人間の記憶ってのは例えクローンであっても侮れないもんだな。」

 

スピーカーらしきものを手に振り向くとトントンそれを指で叩いてる。聞けと・・・?

高周波か。人間では聞き取れない音を私たちは水槽《イヴ》の中で聞いていたと云うのか。

 

「さっきの続きだけどね、ソイツを買った天竜人からの苦情が後を断たんらしいよ。

俺が心配なのは、お前さんに飛び火するんじゃないかって事だ・・・。」

 

彼はその場に胡坐をかき、一本のマッチを靴で磨って辺りを照らした。

クローンであっても人間だ。生々しい現場を眺めていた。

 

「大枚はたいて買ったその子たちが一年でダメになるって云うからな。」

【たったの一年か・・・?】

「そう・・・だから現物捕まえて当時の技術盗もうってワケだ。

そうなったら大変じゃない、両方に狙われて・・・ストレス溜めちまうだろ?」

 

なぜまだ私に構うのか、なぜそんな情報をリークするのか・・・解せない。

 

【トゥルーを解剖させた罪悪感でもあるのか】

「・・・・お前さんの為に、死んだ姉さんの体を開かせたと云ったらどうするね?」

 

そう云ったかと思うと横に立つ私の手を握った・・・正気か?

同じ能力があると知っている筈だ。

 

「読む読まないはお前さんの勝手だ。」

 

”・・・死に場所でも探してるつもりか?”

”・・・地獄でだって手を繋いで歩いて行ける仲間を見つけた”

”答えになってないんじゃないの・・・?”

 

それこそ・・・答えになっていない。これは3年前クザンと交わした会話じゃないか。

 

”お前を自由にしてやれたかもしれないポストを奪われちまった・・・、ゴメンな。”

 

( !? )

 

噂くらいは聞いてる。クザンが海軍を離れたと。しかしこれが本心とは信じがたい。

半ば振り払うかに、私はその手から逃れようとした。

だが、その手を離さずヤツはのっそりと立ち上がってしまったのだ。

 

「相変わらずロリロリはしちゃってるけど、想像以上にキレイになったな、リドル・・・!」

『 ・・・・・・! 』

 

ギュウ!と、背の高い、その体で抱き締められる、この感覚。

彼に久しいその名前で呼ばれるとなぜか一瞬、頭の中が白くなるのだ。

まただ・・・・、前にもあった様な感覚に襲われてる。

ヤツが以前、私を凍らせた時とは違う・・・もっと昔。

 

「お前さん今、あの船で治療を受けてるんだろうが・・・いいのか?

”死の外科医”は”イヴの子”を手放すツモりなんかありゃしないんだぜ?」

 

土足で私の中に入ってくる、こう云う所が嫌いだ。

思い切り覇気含みの拳打でヤツを引き離し、キ!と目を細める。

 

「帰りたいんだろ、あのイカツい王子様のトコへさ・・・。」

『 ・・・・ 』

 

___ローの、あの言葉は暗黙の了解だったと私は理解してた

 

私の体は並の医者では扱えない。

ローは何気に私の天敵である物の排除にも手を抜かないばかりか

アドレナリンの与え方から

オヤツのカロリー計算に至るまで彼は緻密な計算で私を管理しているのだ。

 

おまけに今は能力者・・・私が自分の力をコントロールできないせいで

戦闘時以外は海楼石製の指輪を小指に付けなきゃならなくなった。

イヴの子であった為かそれに触れられる位、”力を押さえられる”程度のもの。

それに・・・あの実を食べて目覚めて以来、何の副作用か

私の瞳の色はこんな紫へと変色してしまった・・・。

 

【いずれは戻る、大きなお世話だ】

「俺はお前さんがどっちに居るのも賛成しない。

前にも云ったろ・・・海賊辞めて、どっかの島で根を降ろしちゃくんないか。」

 

__クザン、海軍の資料にはそれが不可能だとは書いてなかったんだな。

 

俺の知り合いにイイ医者がいる、その島でほとぼりが冷めるまで暮らしちゃどうだ?

なんて・・・、半ば上の空で聞いてる。

ほとぼりなんて言葉を使うあたり、

科学班も<生き残り>に先を越されまいと本腰を入れ始めるとの示唆であろう。

 

【無理だ、否。御免被る】

 

私は足元の陰に気付いてた、夜が明け始めたのだ。

そしてクザンから、微量の殺気が漏れだしている・・・!

 

「・・・俺はね、前よりは優しくなったツモリなんだが__」

「!」

 

また伸びて来た手に、後ろへ弾き跳ぼうとほんの僅かに目を反らした時だ。

ガキン!!!!

間に入って阻止されたんで、ヤツは急ぎ体制を整え出した。

凍った手を阻んだのは突如現れたロロノアだったのだ。

 

「お前は_____。ほう、覇気が使えるとはね・・・!」

「あァ・・・!昔と一緒にして貰っちゃ困る・・・!」

「あーそうか!同盟か。フフ、リドル。お前さん、いい仲間を増やしたな。」

「アァ!?・・・・・・!?」

 

今思い出したみたいにサングラスを光らせニヤリと笑う。殺気が一気に消えた。

眉間にシワ寄せ殺気むんむんのロロノアの手首を取り、私は首を横に振る。

 

「俺は一応の事は云った。残念だが三度目はないから・・・安心しな。」

 

ヤツはそう言って彼の足だけを薄く凍らせ、足止めすると背中を見せた。

 

「チ!こんなもん・・・!!オイ待ちやがれ!」 

 

ロロノアがそれを脱するまで彼の手を握り続け、冷静さを取り戻させる。

直に氷をバリっと破壊すると、もやの中の姿も消えた事でやっと刀を納めてた。

 

「アイツとどういう関係だ・・・・!」

【トゥルー・・・、姉の知人だ。】

「・・・・・・・!?」

 

 

________________

 

 

 

 

青キジは微動だにせず、土と俺の脚元だけ凍らせて行きやがった。

俺が2年で変わった様にヤツも進化してるんだ。俺の油断でしかない。

それにしてもまさか知り合いとはな・・・。

 

「オイ・・・もういいだろ、解ったから手ェ放せ・・・。」

『・・・・。』

「アンジー!どこ行ってたんだよ!」

 

ぱっと手を放す・・・、彼女が見た先にはトラ男とベポが立っていやがった。

ベポは慌ててこっちに駆け寄り、彼女がケガをしてないか上から下まで確かめてる。

トラ男は慌てる様子もなく、怒るでもなく

スイと俺達を通り越したかと思うとそこに伏してる遺体を見物していた。

 

「もうソレは使わなくていい、出来はどうだった。」

『 ・・・、完全な偽物と言っていい 』

 

俺はこいつらの関係に疑問を持ってる。

ヤツめ。コイツの主治医を気どってる割に、こう云う時はソレだけかよ。

まるで殺って当然みたいじゃねぇか。

 

”一年程前から・・人を殺めた後は食欲が落ちて食べても直ぐ吐いてしまう”

昔そう言ってたな。出会った時にはもう、あの体は壊れ始めていたんだ。

 

"返り血を浴びないキレイ好き"とさえ噂された刺客は

”殺し”しか知らない世間知らずの小娘だった。

 

___"武士は食わねど高楊枝"か。お前の様な剣士もまた久しい

 

あの時、俺の腹のムシが鳴かなけりゃ

俺はずっとコイツのことを誤解したまんまだったろうにな・・・。

 

「ベポ、どれでもいい。一体だけ持って帰って保存だ。」

「アイアイ!」

 

死体を観察し終えて気が済んだかトラ男がそう云うと立ち上がった。

ベポは速ややかに一体担ぎ上げ帰って行く。

___さて、とヤツが小さく云った。

 

 

「アンジェラ、まだ動けるか。」

「!?」

『 問題ない 』

 

ますますこの男に不信感が募って行く。

アッサリ答えるコイツは仕方ないとして、その言い草は主治医としてどうなんだ。

良く見ればリドル・・・、

いやアンジェラは俺と出会った時と同じコートを身に付けている?

 

「ゾロ屋、この一本道を行けば麦わら屋と合流できるそうだ。」

「ア!?」

「これはウチの問題だ、こっちでカタをつける。」

「・・・お前な!」

 

どうやらトラ男だけに声を飛ばしてやがったか。

反論する寸前に俺にも声が飛んできた。

 

”ロロノア、相手は私と同じ様な生身の人間だが根絶やしにせねばならん。

お前達に要らぬ殺生はさせたくないんだ、解ってくれ・・・”

”お前は平気だってのか・・・!?”

”逆説だったんだ・・・私には血が不可欠・・・、いいから速く一緒に戻るんだ!”

”血だと・・・!?”

 

彼女は双蛇丸を、ヤツは鬼哭を・・・そして俺は3刀をまた剥き出し

辺りを囲む様な殺気を感じ取っていた・・・・!

 

「舐めるな・・・! 今更だろうが!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 

 

 

 

 

 



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7.Some lies

『 二陣は幾分レベルが高いようだ 』

「・・・数もな。」

 

___アンジェラは刺客ではあったが元々は純粋な剣士だ。

相手の技量を推し量る事には長けている。

 

サク・・・!と土を踏んだ音が聞こえたかと思うと

背中を向き合わせてた俺達に一斉に黒い塊が獣の如き速さで襲い掛った。

 

ザッ・・・!! ドッドッドッ! ザッ・・・、キン・・・!!

 

その位置に残った俺がギラリと一閃を放つ。

僅かな時間差で彼女とゾロ屋は左右に別れナイフと斬撃をそれぞれ見舞った。

成程、動きはアンジェラに近いものがあるが瞬発力、動体視力、太刀筋も断然劣る。

 

「な・・・!?」

 

増殖する気配に向きを変え柄に手をやった俺は、奴らの風貌に眼を見開いていた。

黒い塊に見えた奴らは全員が彼女と同じ、”仕事着”の黒いコートを着用してる。

 

『 良く出来てるじゃないか 』

「チッ、紛らわしいナリしやがって・・・!」

 

そればかりか似た背丈、髪型とその色、

以前のエメラルドグリーンの瞳の色で無理やり似せたL・ロゼッタ風と言った所か。

良く見ないまでもフェイクと判別は付くがゾロ屋が舌を打ったのも無理はない。

似た姿の女たちがごちゃ混ぜで所狭しと立ち回るせいで俺も能力を使いソビレちまう。

俺は最初アイツを診た時から、”意識のある間”には一度もそれを使った事がねぇ。

ヤツも同じ想いか、ムゲに大技が使えないと考えてはいる様だ。

堪り兼ねたかゾロ屋がとうとう苛立ちを吐き出しやがった。

 

「オイ!もう十分に温まったろ!?そのコート脱いじまえ!」

『 ・・・だな 』

 

彼女はそこから一刀のナイフも残さぬ様、後方に跳ねとびながら八方に投げ放つと

その身から一気にコートを脱ぎ捨てた。トン!着地したアンジェラの胸元がプルンと揺れる。

今度は俺が舌打ちだ。

 

(あのバカ・・・・!!)

 

「ンガッ!!! おま・・・!なんちゅう格好だァッッ・・・!!」

『 お前が脱げと云ったんだろ。急いていた、仕方あるまい 』

 

俺は眉間に皺よせ、これから起こるであろう事態を予測すると頭痛を覚えた。

アイツもまさかコートを脱ぐハメになるとは思ってもみなかったんだろうが

あんな格好をもし黒足が見たら別の流血騒ぎになるのは必然だろう。

それにあの女達にも余計な詮索をされそうで・・・・・、ここはサッサと片づけなければ。

 

「▽@▽#・・・!!」

「!?」

 

案の定・・・ゾロ屋の怒りの矛先が俺に向いた様だ。何が云いたい?

クルッと、真っ赤な鬼の形相でこちらを向いたかと思えばアイツの姿を指差し口をパクパクさせ、

俺に何か云おうとしてるんだが。どうも頭の中で言葉を組み立ててる最中か。

 

「ぐッ・・・・・テメェ!!アイツにあんなシコたまロリエロい格好させやがって!!

実はいろいろ着せ替えさせて楽しんでやがんだろ!!!!このエロ医者がッ!!!」

 

「ムッ! ・・・戦闘中だぞ、集中しろ。≪ROOM・・・!≫」

「しゅーちゅー出来るかァ!回し蹴りとか、回し蹴りとかッ!!!」

 

ヤツが憤怒してる、アンジェラのその”なんちゅう格好”というのが

スケスケな、薄いラベンダーカラーでホルターネックのベビードールなのだが

横から見れば、成長途中のDカップの胸のラインが露わになってて

背骨がクッキリと強調されて美しい背中、その右肩には___

タトゥでは発色不可能な紅い華とツタをあしらったかの大きなアザがあった。

チラチラ見える上向きの小さい尻もそうだが、後ろ姿がさすがにエロチック過ぎたか。

 

『 そんなに気になるなら金を払え。後でガッポリ頂く❤ 』

「テメ!エロの押し売りかーーーッッ!?」

 

無表情のままアア云うアンジェラには、その類の恥じらいがない。

しかし___あの様子じゃ、ヤツはあの華を知っていたと見える。

奴らの女達の露出度には何ら反応示さない男が・・・彼女のそんな姿には激怒すんのか。

(どんな関係だったんだ・・・?)

何故か、その事の方が俺をイラっとさせやがる。

 

『 ロー! 』

「・・・!!」

 

ガシャン!

 

ハッとなる、能力にかまけていた俺に目がけて手錠が飛んで来てた。

海楼石製のソレを、残っていた小柄で彼女が弾き飛ばして注意を促す。

 

「あァ・・・!」

 

___ゾロ屋も覚悟してるだろう、どれだけ湧いて来ようと

 

どうせ皆殺しだ・・・!

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

「________あッ!」

「なんだ!お前ら!?」

 

女の死体を担ぎ急いで通り過ぎようとしたベポが声をあげてる。

ルフィが声を掛ける間もより早く、そのヒト達は彼の行く手を遮ってた。

担がれた、うつ伏せ状態の女の肩から覗くのはあれは・・・タトゥー?

 

「見ろ・・・!このクマ、鬼っ子を担いでるぞ・・・!」

 

「「 「 ”鬼っ子”・・・・!? 」 」」

 

ざわめいたその連中は一斉にベポと私達を取り囲むとブルックを指差し慄いてる。

今度は”南蛮のバケモノだ”と口ぐちに云っては退いていた。

 

「オイ、ベポ!そりゃなんだよ!鬼っ子とかって言われてんぞ!?」

 

彼は私達同様、目つきの変わった連中にじり寄られながらもその遺体を放さず、

焦った様に周りを見渡し小声で云った。

 

「これはさっきアンジーを襲ったクローンだよ、キャプテンは解剖して調べるつもりなんだ。」

「なに!?アンコを襲った?アイツはどこだ!」

「えっとー;;;」

 

ベポは言っていいものか悩んでる内に、ついその方角にチラリと目をやった。

動物的なカンも持ち合わせてるルフィに解らないワケはない。

 

「いくぞ!ロビン!ブルック!」

「あ、待って!!」

「先に行って下さいな、すぐ追いつきますから。」

「ええ・・・!」

 

ベポの制止を振り払ってルフィは走る、私は暴走する彼を追った。

ブルックの”眠り歌”が後方で聞こえ出し、これでベポも船に帰れるだろうと

ホッとしたのも束の間、雑木林から響くあの物騒な音は刃のぶつかり合う音か。

 

「________メス・・・!」

 

取りだした沢山の心臓をルーム内で浮かせたまま一刀両断。

私達が駆け付けた時にはもう・・・そこは血の海で、ローがフィニッシュを掛けていた所だった。

ルフィが茫然と棒立ち___なぜか下着姿のアンジェラスを見て言葉を失っていた。

彼の仕事を横目にもせず、

平然と佇み、紫縮緬で手早く小太刀の刃を拭って鞘に納めてる彼女の姿だ。

彼らと背を向けてていたゾロでさえ、あんなに苦々しい顔で納刀してると云うのに。

 

「おい、早くこれ着ろ。」

『 ___ああ 』

 

ゾロが、あの模様を隠させるかに拾ったコートを手渡した。

(あれはもしや___だけど、一体なぜ?)

その、後ろ肩にはさっきの女と同じモノ・・・いや、デザインが多少異なるのと紅の色が別物か。

もっとも大きな違いはアンジェラのそれは右にある。

私たちにも気がついたか彼女はコートに袖を通すとこちらにやってきた。

 

『 迷惑を掛けた、ロロノアにも引き返せない状況を作ってしまった・・・申し訳ない 』

「テメェ!それ以上言いやがったら・・・!!」

「ゾロ・・・!落ち着いて。」

 

「オイ!トラ男・・・!なんでアンコにこんな事!!!」

「ルフィ・・・!!」 「よせ!アンジェラ!!!」

 

「「 !! 」」

 

私の声とローの声が重なる。

勢いづいたルフィの右腕が、ローへと一直線に伸びていたからだ。

居合わせた中の、彼女以外全員が言葉にならない驚きと一瞬の声にならぬ悲鳴が上がる。

 

「お前ッ!?」

 

ルフィを上回る速さでローの前に立ちはだかったアンジェラに

いくら途中で力加減したといっても一旦付いたゴムの反動は止まる訳もなく。

 

バキッッッ!!

___ ズサァァアアア!!

 

勢い良く後退する細い体、ふわりと浮く両腕。ローが咄嗟に庇い、

その体ごと後ろから抱き止めてブレーキを掛けなければ間違いなく吹き飛んでいた。

 

「・・・アンコ!!!そんなヤツ庇うなよ!!お前にこんな事させて、何が医者だ!!」

 

例え命の恩人であろうと、どんな状況であろうとルフィの怒りはただそれだけなのだ。

それよりもローはそっと解いた自分の腕の中の彼女を見やりワナワナとその体を震わせてる。

アンジェラスを片腕で抱いたまま、無意識であるかの様子で右手を浮かせ構え出した。

 

「・・・!」

 

気を失っても当然だった筈。その手首をガッ!と掴まれたローは瞳孔を開ききってる。

「少し待ってくれ」と言わんばかりに、硬い彼の腕を・・・彼女はやんわり解いたのだった。

 

『 彼は私の趣味に付き合ったまで・・・殴るなら悪趣味な私を殴ればいい 』

「アンコ・・・!?」

「 「 ・・・!? 」 」

 

ふらり、前に出たアンジェラスは前髪を掻き上げる。守った彼の腕も秒差で間に合わなかったか。

左目を腫らし、切れたコメカミから滴る血が目に入っているのにその目を閉じようとはしない。

いや寧ろ、見開いている。彼女の顔色は変わる所か、異様なある種の輝きをおびていた。

ルフィでさえそんな、まるで別人の威圧感を見せるアンジェラスに後退りしているのだ。

 

『 趣味を兼ねた掃除屋(アサシン)は天職・・・これでもまだ足りない 』

「「 !!? 」」

『 元を辿れば"萌えたがりのロリータ愛好家チーム"が創った殺人人形(マーダードール)だ。

私は人を殺める事など何とも思っちゃいない、寧ろ、好き好んでいる 』

 

今、周りを見渡して言った彼女の言葉におかしな反応を示したのはゾロとローだ。

ルフィはその場に踏ん張って口を噛締めながら「ンググ・・・」小さく唸ってる。

 

「お前が殺し屋とか・・・そんな訳あるか!」

『 全く・・・、シャンクスの見る目を疑う 』

「シャンクス・・・!?お前知ってんのか!?」

『 知らなくはない。私の”前の飼い主”だ 』

「かい・・・ぬしだと・・・?」

 

飼い主と聞いて私は闘犬を想像してしまう。

四皇の所にいたと云うだけでも驚くのに飼われてたと云うその言い草もそうだ。

 

『 だが、こんな甘ちゃんな男の為に左腕を落としたとは・・・あの男がそこまで

アンポンタンだとは知らなかった。こんな表情(カオ)だが今かなりビックリしてる 』

 

「シャンクスの悪口云うな!!いくらお前でも許さねぇぞ!!!?」

『 悪口?ホントの事だ。おまけに___大嘘つきだ 』

「・・・・!」

 

表情が全く変わらない彼女がバカにしてるかに顎を斜めに上げてる。それが伝わったのか。

______本気なの・・・!?

ルフィはそう云い放ったアンジェラス目がけて拳を振り上げた。

避けないツモリだ・・・彼女がグイと体を右に傾けたのに気付いて私はハッとする。

 

「やめて、ルフィ!!アッ!?」

「≪ROOM・・・!≫そこまでだ、もういいだろ・・・!」

 

その言葉はルフィではなくアンジェラスに投げかけられたのか。

私が声をあげた時にはもうローの術中に嵌っていた。

 

「あ・・・ああ!」

 

3等分にされた私達はオカシな感覚に見舞われ軽いショックを受けてる。

さらにショックなのは彼が、何故かゾロだけは手に掛けなかった事だ。

 

「ゾロ、お前!?」

「・・・アイツは俺にとっちゃ大事なダチだ。ちょっとばかし力を貸してやりてぇ。

お前が殴っちまった借りもできた。直ぐにナミたちが来る。それまで我慢しててくれ。」

 

すまねェ・・・! と、ゾロがそう言い残すと彼らと共に先へと行ってしまった。

ゾロの名前を叫ぶルフィに私は手を咲かせ、まず彼の口を塞いだ。

 

「いい加減、落ち着いて頂戴。アンジェラはわざと貴方を怒らせたのよ。」

「バニ!?(ナニ!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 



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8.夜明けの蓮

 

 

 

”本当にいいんだな?___ロロノア”

 

急ぎ、苦々しい顔で応急処置を終えたトラ男が何かの薬を手渡してる。

それを呑み込んでたアイツが俺に声を飛ばして再確認しやがるんだ。

 

”あァ。・・・お前まさか、あんな三文芝居でロビンが騙せると思っちゃいないよな?”

”そうだな、だがお前にとっては大義名分がたったんじゃないか”

”お前____?”

”その性格だ、どうせ最後まで付き合うだろうとは思っていた”

 

相変わらず食えない女だ___

ムカツクぐらい・・・ただ単にトラ男を庇っただけじゃねえってのか。

よほど俺達の手を汚させたくないらしい・・・。

 

『 時間を取らせた、これでいい 』

 

昔、俺がやった黒いスカーフで左目を覆ってからまた歩き出す。

恐怖心が足らないせいで、この女はこんな事でも平然とやってのけるのだ。

感情が薄過ぎて俺の方が痛みを覚える時さえあったモンだ・・・。

 

「ところで、トラ男。アテはあるんだろうな。」

「・・・・ガセじゃねぇ事を祈っとけ___ 」

『 ・・・ 』

 

さっき夜が明けたばかりだ。

しかも類似クローンしかうろつかない様な森で一体どうやって・・・?

 

「男の名はサモン・ハルベルト、俺が探り当てた人物と一致してる。ここまではアタリだろう。」

『 ・・・・サモン 』

「・・・どうした、アンジェラ。」

『 どこかで聞いた様な名だ・・・ 』

「・・・・・・・・、アレを見ろ。」

 

ヤツが指さした先に、工場らしき建物が見えて来た。

アレは___リサイクル工場???ピタ、と彼女が足を止める。

耳を澄ましてる様だった。

 

『 監視カメラが作動してる。330m先、400、500・・今の所そこまでだ 』

「別にかまわねェ。ココをぶっ潰して、ヤツを消すだけの事だ___行くぞ。」

 

なんとなくだが・・・俺にはヤツが焦っている様に見える。

まぁ、ルフィたちの足止めもそう長くは持たないと踏んだか。

どうせあの2人も何か、脳内で会話してやがるんだろう。アイツの意を汲んでの事か。

 

「ダレの気配もしねぇな・・・。」

「あァ・・・。」

 

堂々と建物正門から入り、。その小奇麗な会社には警備員さえいない。

早朝のせいでもなさそうだ、定休日なんて看板が下がってる。

回転ドアを潜る、罠丸出しだと承知の上でだ。

 

「?」

 

朝に似合うBGMの流れる社内、簡易ドアの着いた各部屋にも誰もいない。

廊下をまっすぐ行くと、俺達はおかしな看板のドアに辿り着く。

 

【工場内、社長以外立ち入り禁止】

 

普通【関係者以外】って書くもんだろ。どんだけ関係者いねーんだ;

あまりのわざとらしさしさに、俺達がそこに立ち入るのは当然だろう。

 

『 「 「____!」 」 』

 

不自然に重いドアを押し開けると一変、薄暗い水族館の様だった。

人が2人が入れそうな大きさのカラの水槽がいくつも並んでる。

実験室から聞こえてきそうな、コボコボと音が静かに鳴り重なる以外なんの音もない。

 

『 以前のイヴの、3分の1の大きさだな 』

 

アイツがそう云う。生き残りである男は量産率を優先したのか?

それに何だ、___甘い感じのこの匂い?

工場内は常識的にどこでも火気厳禁のはずがあちこちに煙を上げる香炉がある。

水槽のブルーライトと煙のお陰で部屋は更に不気味に出来上がってんだ。

咄嗟に自分の手拭いを、横にいるアイツに突き出した。

察してそれを受けと取ると直ぐに目の下からそれで覆ってる。

 

「お待ちしておりました。あぁ、まずはお礼を言わなくては___。」

「 「 『 ・・・!? 』 」 」

 

奥まで進むとデスクが1つ。誰か座ってやがる___気配はなかった筈だ。

 

「サモン・ハルベルトか・・・礼を言われる筋合いはねェだろ・・・!」

 

トラ男が声を発すると男は静かに席を立つ。

細身の体に、礼服であるかの真っ白いスーツ、切れ長の涼しい目。長い黒髪を束ねてる。

科学者と云うイメージが似合うというなら色白な、女の様な顔立ちってとこだけだ。

 

「貴方がたに差し向けた女たちの処理をしてくれたでしょう?」

『 不良品処分か、リサイクル工場が聞いて呆れる 』

「おぉ・・・・・・・。」

 

「「 ・・・! 」」

 

そう云ったアイツに感嘆の声をあげて近づこうとしやがるから俺もトラ男も前に出てた。

パッと、ライトが着く・・・ただ、空の水槽の数だけが目立つ室内。

ヤツの頭上には大きなこの島の地図がある、点滅してる赤い点がかなりの数で集中している。

あれはどうやら女達に付けていた発信機か。それは俺達が居た場所で絶命した事を示してた。

 

「好みが変わったのか?お前の好きな香を焚いたんだが・・・顔色が優れぬようだ。」

「アンジェラ!?」

 

ヤツから目を放せなかった俺達は彼女の異変に初めて気付く。

フラついてる・・・意識を保とうと双蛇丸に唯一残った小柄に手を伸ばして・・・!

 

「伽羅か・・・!? この匂いだ・・・!」

「なにィ?」

 

トラ男は声を荒げ、今にも自分の太ももを刺そうとしてる彼女の手を掴んで肩をキツく寄せた。

俺達にはただの強い匂いでしかないが、嗅覚もいい彼女にとってこれがどう作用してるのか。

まったく非道さを感じさせない、爽やかな笑顔のハルベルトを俺は睨みつける。

 

「一体何をしやがった!?」

「いいえ?何も。私はただ・・・DNAの記憶に呼び掛けただけ・・・!」

 

トラ男の顔色が変わった___

 

「何だと・・・・・!?」

 

_________________

 

 

奴らの船も危ないってんで夜明けまで留守を任されたが

アンジーちゃんが心配で居てもたっても居られなく、

帰って来たベポをを散々脅して彼女らの向かった先とその目的を聞き出したんだ。

船はヤツに任せて俺とナミさん2人は飛び出して来たんだが・・・追い着いた現場の酷い事。

 

「こっちだ!ナミ!サンジー!!」

 

何かトラ男とモメたのは一目瞭然、あの野郎!ロビンちゃんまで!!

バラバラのルフィ達をくっつけてる最中、

空から現れたフランキー達。クード・ブーで此処まで飛んできた。

 

「ヨー、待たせたな!足止めくらっちまった。」

 

着地すると慌てた様子でウソップ、チョッパーが降りて来て言う。

 

「クサ!!!? なに?」

「みんな!大変だ!G-5が来てんぞ!!」

「 「「「 海軍!? 」」」 」

「あぁ、どうも嬢ちゃんが俺達と一緒だとバレてんじゃねーか?」

「まーたアイツらかよーヒツケェなぁー;」

 

もうやっちまってるかもしれねぇ・・・俺達は急いでそこへ向かう。

そしてやっとあの惨事後の経緯をやっと聞き終え、俺もベポに吐かせた事をやっと話せた。

 

「アイツ・・・!先走りやがって!!」

「じゃぁアンジーは自分のケンカに手を出させない為に?」

「トラ男にさえ黙って出て行ったのもそう云う事か。全く、どこまで頑ななんだ・・・。」

「ここに来る途中、物騒な格好した村人が話してるのを聞いたわ…!」

 

ナミさんはさっきあった事を思い出すのも腹立たしい様に顔を険しくしてる。

怒りに燃える、そんなナミすわぁんもステキだ___!

 

”鬼っ子を退治すりゃ、一体10万ベリー貰える上にハルベルトさんの力になれるんだ。”

”よそ者に手柄を横取りされてたまるか、あの人に寄付をケチられると困るからな。”

 

「殺してまでお金が欲しいなんてどれだけ浅ましいのよ!ここの人間は・・・!」

「まるで落ち武者狩りね・・・。」

 

此処の貧しい村人にとっちゃ10万はでかい額なんだろう。

【ハルベルト・リサイクル工場】の経営者であるその男こそが

焼き払われた研究所の、たった1人の生き残り・・・ワノ国出身の高貴な家柄の男だと云う。

島への莫大な寄付で”イイヒトだと”信用を買い、村人を騙してやがるとは・・・。

退治=殺すって事だと察したナミさんの逆鱗にふれ、奴らが黒コゲになったのも当然だ。

 

「あの子もトラ男もゾロもどうかしてる!何も殺さなくたっていいじゃない・・・!」

「ナミ・・・、アンジェラはイヴに関わる物全てを封印したいんじゃないかしら。」

「ああ・・・俺もそう思うな、解らなくもねェ・・・。」

「俺もロビンちゃんやフランキーと同意見だ。

アホ剣士だって理由のない殺しを手伝うほどバカでもないだろうしな・・・。」

 

ルフィが神妙な面持ちで呟いた。

 

「なぁ・・・アイツ、悪いヤツなのか?」

「アンジーには・・・時々こう云う事が必要なのかも・・・。」

「え・・・?チョッパー?」

 

つい、立ち止まる。あの惨状を見てた時もいつもと様子が違うとは思ってたんだが・・・

皆の言葉にさっきから口を食い縛ってたチョッパーがやっと言葉を発した。

 

「俺・・・アンジーの前の船医が書いた記録、トラ男に見せて貰ったんだ・・・。」

「シャンクスんトコのか・・・・?」

 

《" 獣道を歩ませたくはなかった "___養父でもあるあの男が船長に漏らしたと聞いた。

それもアドレナリンが、丈夫じゃない彼女の栄養剤になっていると疑うまでの話しだ。

確かに逆説かもしれなかった。

本人にとっては不本意極まりない話であり、

彼女を慕う者達にとっては絶望的な仮説に過ぎないと前置きする。

以前は___ストレスを溜めていたんじゃないかと思う。

ピッツバウントで一度目の破損を経験した彼女にはそれ以降、リハビリ程度の依頼しかなく

暗殺者として1人1人片付けるだけではあの遺伝子の事、足りなかったと云う事か。

この船に居れば程ほどの戦いが出来る。彼女の血は今の所、満足しているのではないか__?》

 

「《もし事実であるならば・・・この先も、あの娘に平穏な日々は送れないだろう》・・・って・・・。」

 

「 「「「「 !!? 」」」」 」

 

「じゃあ・・・アイツが暗殺者ってのは本当なのか・・・!?」

「チョッパー!!お前、なんでそんな事黙ってたんだよ!!」

「バカ!チョッパーは医者だぞ、守秘義務ってやつだ・・・だが、これでハッキリしたな。」

 

 

俺は煙草に火を灯し、想う。彼女にとっては不本意極まりない・・・そうだろうとも。

好きで人殺しなんてするわけがねぇ・・・!

不幸にもそんな風に創られて生れ、体も、運命をも弄ばれたアンジーちゃんが願うのは

自分の様な人間をもう一体たりとも造らせない事、それは即ち”第二のイヴ”の破壊だ・・・!

 

「あれか__。」

 

走り、行きついた俺達が見据える場所___

 

【ハルベルト・リサイクル工場】がその先に見えて来た。間違いはねぇ。

 

 

_____________________________

 

 

 

「お前は一体・・・!?」

「ウフフ、嬉しいな。彼女の純粋な血のDNAはしっかり引き継がれてる・・・。」

 

___俺にはヤツの云っている意味がわかった。

 

マズイな、肺が弱いアンジェラをこの場に長居させられねぇのも当然だが

痛い、苦しい、とも云えない彼女が腕の中、肩で呼吸をしてる。

それだけじゃない____今コイツを苦しめてるものは

”オリジナル”である女の記憶だ。あの香りを引き金に細胞の中で暴れ始めてるんだ・・・!

 

だが”オリジナル”を知る存在だと?

馬鹿な、あの流行り病の治療法が見つかったのは50年ほども前だ。

ハルベルトはどう見たってせいぜい30前半そこそこで、知っていると云うには若過ぎる。

 

仮にそうなら、今この状態でヤツに触れられればアウトだ___

この状態じゃ無意識に読み取ったアンジェラは完全に覚醒する・・・!

 

「・・・・・・・!?」

 

最悪のシナリオを頭の隅で想定してると、香炉じゃねえ煙が俺達の間に割って入る。

なんでここに・・・・!?たちまち煙はその姿をゴツイ人間へと姿を変えた。

 

「白猟屋・・・!」「スモーカー!?」

「・・・随分大事そうに抱えてるそのケガ人はなんだ?トラファルガー!」

「ロロノア・・・!アナタには場違いなリサイクル工場で何するつもりだったんですか!」

「クリーンじゃなくて悪かったな!!つか、オメーに関係ねーだろがッ!」

 

とんだ邪魔が入ったもんだ・・・、白猟屋はグリーンピット以来、行き先は知らない筈。

とすれば、2重に情報を流した者がいる。・・・どう云うツモリか知らネェが、やってくれたな。

 

(青キジ・・・!)

 

「うるせぇぞ、たしぎ。ほう、科学班からの手配者とも早速会えるとはな。」

「サモン・ハルベルトですね・・・!?」

 

俺も丸っきりヤツを信用してた訳じゃない、想定内ではあった。

幸いアンジェラの顔は今、片目も、目から下も布で覆われすぎて人相が解らねぇ。

奴らのあの様子だと青キジは俺達だけの情報を流したか?

 

「海軍のG-5・・・フフ、だがこれは一族の問題・・・。放っておいて頂こう。」

「・・・・・!?」

 

科学者達が、あのアザに拘った理由がそこにあるのか???

俺の手は彼女を放すまいと一層強固になる。

ヤツは自分以外、全て無視してアンジェラに向き直り、こう云った。

 

「あの夜明けの蓮は___特に美しかったな、紅鬼(コウキ)、いや、瑠依よ・・・。」

 

「「 「「________!? 」」 」」

 

その言葉を投げ掛けられたアンジェラの体が・・・・ガクン!と揺れた・・・・!?

 

 

 

 

 

to be continued

 

 



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9.ピッツ・バウンドの惨劇

 

 

 

________ まだ、暖かい・・・・・。

 

パチパチと音を立てる炎、開け放った襖からの熱風、時折何か崩れる音が頭上辺りに聞こえる。

畳の上に伏せられた体のその首に、そっと手で触れていた。

劫火の中にあるこの一室で果てられたせいなのか? 否・・・違う。

絶命したその白拍子の体は依然柔く、肩をお貸しすればその手から剝き身の脇差が抜け落ちた。

 

「・・・・・・・お許しを。」

 

間に合わなんだ・・・。暇を出されたとは云え、

そのお覚悟があったとは云え、決して許されぬように思えた。

 

何とか屋敷の外までお連れすればその背後から、今まで耐え忍んでいたかに

バキバキ、ガラガラガラ!と柱の焼け落ちる音や瓦の崩れなどの激しい音がする。

足元に転がる屍が邪魔であった。流石にそこまで計算しておらなんだ。

折重なる所を避け、段差を踏み越えながら池の麓まで辿り着けば

視界の隅で、焼け落ちる屋敷と点々と続く遺体の数を見遣り茫然と立っているあの忍がいた。

 

「瑠依さん、あんた・・・。」

 

眠らせて来た筈が薬の効きが悪かったらしい。急ぎ、私の跡を追って来たのか。

 

「直に夜が明ける」

「え」

「あの花が咲くのをご覧頂きたくてな。」

 

腰を落として、硬くなってきた白拍子の体をやっと抱きかかえて座った。

初めて嗅覚が戻った気がしたのは衣装に焚かれていたであろう、あの香りを感じたからだ。

 

夜明けと共に、水面が明るく照らされて行けば______

 

 

 

___ジェラ・・・・!

 

「アンジェラ!しっかり気を保て!!!」

『 ・・・・・・・・・・!! 』

 

居眠りから揺り起こされた様な感覚・・・体がギクリとしてる。

今のは何だ____ 目の前の状況は先ほどと何ら変わってはいないと云うのに。

 

「・・・・・!?」

 

ローの腕がキツい程

体に食い込んでいたせいで、した事のない”震え”が伝わってしまった。

いけない、彼を焦らせてしまう。必死にそれを押さえようとすれば呼吸が荒くなる。

 

(息が・・・・!)

 

ドカン!!!

 

「 「「「 !? 」」」 」

「アンコ!トラ男!ゾロ!!どこだァー!!!」

「来たな・・・、麦わらァ!!」

 

壁向こう、爆音の次にルフィの怒鳴る声が聞こえた。

バカだな____なんで来たんだ・・・・?

 

「≪ROOM・・・!≫」

「チ!たしぎ!お前はアッチで奴らと合流、麦わらを迎い討て!」

「は、ハイ!」

 

煙になるや、ローの”部屋”から部下であろう女を追い出し、

その背後から襲い掛ろうとするスモーカーをロロノアが阻んだ。

十手との鍔迫り合いでは相当な力が加わっているかの耳障りな激しい軋む音がしてる。

 

「ロロノア・ゾロ・・・!!」

「邪魔はさせねェ・・・!残念だが俺は能力者じゃねェぞ・・・!?」

「≪タクト・・・!≫」

 

メリメリと音を立て次々と水槽が地面から剥がされ、天井にブツケられて行く。

分厚い筈のガラスが小気味いい位に次々と割れ、砕け散って行った。

 

「ジャマだ!海軍!!どけ!!!」

「ルフィ・・・!気を付けろ!こっちにはスモーカーもいる!」

「解った!!」

 

雪崩れ込む麦わらの一味。ロロノアがそう叫ぶと、だだっ広い工場内の反対側で

ロビン、チョッパー、ブルック、ウソップが海軍を足止め、

ルフィが大きな拳を叩きつけ、フランキーが爆撃し、ナミが雷を落とし、サンジが蹴り回してた。

 

「アンジー!!」

『 ・・・・・!? 』

 

ベポ、ペンギン、シャチ、・・・それにジャンまで。

派手に飛び込んで来たウチの連中は海軍を蹴散らしながら怒鳴ってる。

 

「お前な!俺達が寝てる間に何やってんだよ!」

「仁義の意味をはき違えてんじゃねーよ!少しは頼れ!バカ!!」

「お前の作ったホットワインが呑めなくなったら俺は困る!!」

 

それを横目に、ニヤリとするロー。あ・・・・・何だろう。味わった事のない、何か。

同時にそれが何であるか言葉で表現できない、このもどかしさ・・・・。

 

「乱暴な事をする・・・流石は海賊・・・・!」

「 『 !! 』 」

 

ザッ・・・と湧き出て来た女剣士達は___この何年かの・・・ヤツの集大成?

確かに、私と力比べをさせた様なさっきの連中とは違う。

私もやっと呼吸が落ち着いた。そして、いつもより余計に血が踊るの感じてる。

 

此処の、味方であろう全員に声を一斉に飛ばした。

 

”これより、女達とのケンカに一切の手出し無用____”

 

「アンジェラ・・・・!!」

「....止めろ、アンコ!!なんか他に・・・!ねェのか・・・・!!」

 

ロビンとルフィの声が微かに耳に届いた。

 

”この技術を一片でも残せばベガパンクの新しい武器に利用される。解ってほしい”

 

「コイツにエモノを・・・!!!」

「・・・・アイアイ!キャプテン!!!」

「駄目だ・・・、やめろ!」

「殺らせてやってくれ・・・!!ルフィ、皆!」

 

「 「「「「 ゾロ・・・! 」」」」  」

 

「コイツは・・・そいつら科学者に、涙腺イジられて泣く事も!表情筋に手を加えられて笑う事も!

感情の70%削られた上に・・・声さえ奪われてんだぞ・・・!!! そんな事、許せンのか!!?」

「・・・・・・・・・。」

 

ゾロの叫びがコダマする・・・・一瞬海軍でさえ戦う手を止めてる。

ふとローを見上げれば、眉間に皺寄せ何か感情を押し殺してる様にも見えた。

 

「酷過ぎる・・・・!!! そんな事が・・・・・!?」

「なんて酷ェ話だ・・・!」

「何だよ、それ・・・!女の子の特権ゼロじゃねーかよ!!!」

 

たしぎと云う女が呟き、G-5の連中があちこちで鼻をぐずらせてる。

私にとっては普通な事が、人には時折”憐れ”と映るらしいのは知っていたが・・・。

 

「アンジー!これ!!!」

 

彼らの声が沈黙したと同時にローの叫びにベポが応えたかと思えばブン・・・!

ベルトごと飛んで来た私の柳葉刀である対の”龍鳳”は多勢向きだ、気が利いてる。

ローが腕を解き、それを素早く肩に装着してくれた。

 

「此処で散る事は許さねェぞ・・・、行って来い・・・!!」

 

可笑しく思う・・・ローはそれを誰から聞いたのだろう?

そう云えば・・・、あの船で誰かに教えて来たっけな。

 

《剣士たるもの、花であり雑草でなければならないんだ。

"敗北"と云う旱、"自信"と云う水があってこそ育ち、散る事を恐れずに咲ける》__と。

 

私がいざとなれば彼女らと心中しかねないと読んだのか。

 

『 まだ蕾もついていない 』

「フ、肩にデカいのが咲いてるじゃねェか。」

『 フフ、そうだな 』

 

意味シンだな、この花が散るとは。だけどまだ・・・死ぬ訳には行かない。

剣士としては同等だと測り得た相手だ、油断と過信は己の最大の敵・・・。

全神経を集中させる___

 

『 _____ 参る 』

 

「 「 !! 」 」

 

ザ!と走り出す。一気に”龍鳳”を引き抜くと彼女らの目の前、

少し姿勢を低く頭を下げ両刀を前へ、ブン・・・!と大きく振り払う。

 

『 《Samael Edge》・・・!! 』

 

スモーカー、そして対峙していたロロノアが一瞬、こちらに目をやった。

横一閃、一瞬だけ黒い煤の様な影が大鎌に見える・・・スパン!スパスパスパ!スパッ・・・!

 

「ヘッ・・・!やるじゃネェか・・・!」

「・・・・・・・!!!?」

 

ノーマークの所業にスモーカーは顔色を変えた様だ。僅かな隙にロロノアが弾く。

一度に十数人の色のない表情をした女達の首が、鈍い音であちこちに転がり落ち

その1つが彼自身の足元にまで及んだせいか。

 

己の体にも負担を招く、滅多に使わない技・・・あまりに残虐で好んでは使わない。

だがこれで3分の1は減っただろうと思われた。

 

体力を温存する為、敢えて”剛の剣”は使わない。

オンナジ体の作りだとすれば自ずとその弱点も見えてくる。

彼女らは”それ”しか知らない、”オリジナル”の女がそうであった様に。

だが、私は違う。

 

"その闘争心がアダになる"と・・・・

まだ幼い頃、あの人が私にそう教えた事をこんな時に感謝しているとは。

 

 

_______________

 

 

 

"・・・柳に風折れなし、柳の枝に雪折れなし・・・あれがロゼッタの柔の剣だ "

 

俺はこんな時に、赤髪屋の言葉をふと思い出していた。

どんな豪剣でもサラリと受け流す技量、受けた力を逆に生かす技・・・。

見た目の優美さとは裏腹にその刃は冷たく、迷いがない。

いつもながら寒心するのは殺気がねェことだ___

 

一度だけシャ!!と血を振り払うと素早くまた元の位置でスイと構え、間を詰めた。

軽く、柔く、ムチの様な撓りでその手と一体化したかの柳葉刀を見事に操る。

 

相手の背丈も似通ったもので、その内の一人の肩を軽く踏み台に跳べば斜めに1回転、

両手首でぐるりと回された刀はきれいな弧を描き、着地するまでにまた首を刎ねて行く。

 

「誰の影響だ・・・?太刀筋が全く違う・・・・!」

「カビの生えた様な昔の女と一緒にするんじゃねェよ。」

 

俺は此処にある全ての水槽を叩き壊すと呆けているハルベルトをより一層睨み付けてる。

 

姫袖の黒いコートで舞い踊る死神は

_____"シビトバナ"と謳われた政府スジの暗殺者には相違なく

 

間違っても、テメェの求める女じゃねぇって事だ___

 

「貴方が今の飼い主か・・・・!?」

「バカ云ってんじゃねぇ・・・それよりテメェは何者なんだ。」

「主、とでも申しておきましょうか・・・。」

 

イカレてる____つい口元が緩んじまった。その女がどんな女だったかは知らんが

アイツが俺に飼われる様なタマに見えるとは、ますます不憫なヤツだ・・・。

 

「質問に答えろ。なぜ・・・、あのアザを全員に付けさせた?」

「・・・我一族の医療班が開発した治療薬を使い”オリジナル”はその試薬で救った第一号。

財政難を抱えていた我一族を復活させたシンボル、繁栄の象徴でもあったからですよ。」

 

ハルベルトは一枚の写真を手に、語る。

 

「あの研究所にはそういう依頼で多額の出資もしていた。ところがオタクな所員達は

”完璧ではない”と云訳し、何体ものイヴの子を創りだした。魅入られたのかもしれない。」

 

ピッ!とそれを俺に弾いてよこした。

 

「・・・・・!!!」

 

軽石の様な岩に全裸で横たわる少女、その体には全身にあの紅い華が咲いていた・・・。

顔までペインティングされたアートかと思うぐらいゾクリとする・・・美しさ。

 

「そして一族の意に反して勝手に商品化するという暴挙にでた。

自分達の偉業を世に知らしめたくなったのでしょう、だから始末したんです。」

「・・・・・お前が村人を焚きつけたか。」

「フフ、だが予想外の事が起きた、彼女を連れだす筈の男まで殺されたお陰でね・・・。」

 

『 私をどうするツモリだった・・・分解か 』

 

アンジェラは全員を始末し終え、フラリとこちらに向き直った。

 

「オイ!テメェッ・・・!!?」

『 ・・・・・・・・・グ! 』

「「 !! 」」

 

煙りがゾロ屋から彼女の背後に移ると羽交い締めする形で喉元に十手を付き付けた。

ハルベルトが初めて顔色を変えた、スモーカーの乱入。

 

「成程な・・・・、MISSINGの正体はイヴの子だったか・・・・!!」

「スモーカーさん!!!?」

「わぁ!?スモやん酷ェ!!鬼だ!!」

「黙れ・・・!お前ら、コイツが何者か知ってんのか!?」

 

「 「「「 エ・・・・・。」」」 」

 

「CP9候補生だった当時12歳、ピッツ・バウンドでは異教徒200人余りを暗殺・・・!

あの事件が惨劇と呼ばれるのはコイツが自分より幼い子供達まで手に掛けたからだ・・・!!!」

 

「 「「「「「「 ・・・・・!! 」」」」」」 」

 

海軍の奴ら殆どが何故、彼女が探されているかその理由を知らされてはいない。

ましてピッツ・バウンドに関わった事など。

 

「だからなんだ。ヒトとしてその女を許せないって云うワケか?可笑しなもんだな・・・!」

 

麦わらの一味や海軍が驚愕してる中、俺は独り呆れて大きな溜息をロコツに吐いていた。

そんなのは知っているウチには入らねェ・・・。

大将クラスでも権限がないと云う資料だ、所詮はその程度か。

 

「知らネェなら教えてやる・・・あの事件に”L・ロゼッタ”を指名したのは五老星達だ・・・!」

「・・・・・!!!?」

「マズイぞ、スモやん!!その子を放してやれよ!」

「そうだぜ!アンタが処分を受けちまうよ!!」

 

「・・・・部下の方が利口だとは笑わせる。

政府公認の委託暗殺者が何人殺そうがそれがお前ら海軍の云う正義なんじゃねェのか。」

「コイツも今や海賊だろうが・・・!?」

 

「その前に、俺の患者だ・・・!! コイツが今、俺の治療を受けてる事も、

嘗ては赤髪の船に乗っていた事も、センゴクや五老星らはとっくに知っている・・・!」

「何・・・・・!!?」

 

そうだ___知らないのはお前ら下っ端だけ・・・。

奴らはどう云うワケかベカパンクにその情報の開示を伏せてるフシがある・・・・。

 

「まだ解らねェか? MISSINGに関しちゃ、お前が私情を挟む余地のねェ話だって事だ・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 

 



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10.この正義とは。

 

 

_______ ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

「_______ まさか!?」

 

「「 「 ・・・・・!? 」 」」

 

 

________火災が発生しました、避難して下さい

 

________ ビーッ!ビーッ!ビーッ!

 

________火災が発生しました、避難して下さい

 

 

あちこちの警報機が一斉に鳴り始めた。鳴るならもっと前でも・・・!?

今はもうフランキーが開けた壁の穴からだいたいの煙は抜け出ていたからだ。

俺達が入ったドアが中途半端に開いていて、そこから黒煙と炎がチロチロと見え始めた。

 

「火元が工場じゃないとはどういうことだ・・・!?」

 

ヤツの仕業じゃない、ハルベルト自身が驚いてやがる・・・。

 

「うわぁ!!いつの間に!?中将!もう消せるレベルの火じゃねぇよ!」

「どうする白猟屋・・・・ここで俺達と心中するか?」

 

トラ男はまた膜を張り、ヤツらがどう動くか両方を監視してる。

しかし、何故まだあの男を生かして置くんだろうな。ヤツなら一刀で済みそうだが?

 

「クソ・・・・・!おいお前ら!たしぎ連れて先に行け!」

「スモやん、手ぶらでもいいじゃネェか!!早く逃げてくれ!!」

「早く行かネェか!!」

「え、そんなア!?」

 

ほう・・・そう出たか・・・。

 

「・・・・うッ!?」

「たしぎ!!」

「まず、その娘を放して頂こうか。」

「た、大佐ちゃん・・・・!!」

「 「  ・・・・・!  」 」

 

ハルベルトはあのメガネ女を人質に首に銃を付きつけてる。

あの女に悪いがヤツの行為はこの場合、まァ拙くはない。

 

「私にはもう彼女しかいない・・・・何に変えても奪わせはしない・・!」

「・・・・・・!!」

 

グリ・・・・!と銃口を女の頬に食い込ませた。

成程、此処の水槽が全部カラって事はそう云う事か。

マネて作った全戦力は余りにも不甲斐無く、奴自身、そのショックを隠しきれねェんだろ。

当たり前だ・・・、アイツが誰に育てられたと思ってやがる・・・・!

 

「《スキャン・・・・!》」

 

チャンスを窺っていたトラ男がスモーカーの手の緩みを見逃す訳はない。

 

「・・・・・・・・・・!?」

「!!?」

「アッ_____」

 

海軍の誰かが声を漏らす。驚くスモーカーの腕の中に居た筈の彼女が消えた!?

ジャキ・・・・・・・!!! ザ・・・・・・・!

総毛立つ様な殺気が俺にも感じられた。

 

『 _____頂戴した 』

 

一瞬だ。____あの時と同じ・・・・!

ハルベルトの背後にフワ・・・・羽の様な髪が散る___混じって黒髪がバサリと落ちた。

 

「たしぎ・・・・・!走れ!!!」

 

察したスモーカーの声に条件反射でそこから脱した女海兵、まさにギリギリだ。

目を見開いたままのハルベルトの首が前に動いたと錯覚する。

あるべき場所からソレはゆっくりズレ落ちて行く・・・・。

 

「 「「「 ・・・・・・・!!! 」」」 」

「”シビトバナ”・・・・・・!!!」

 

煙を吐き出しながらその名を口にする男。

刺客の通り名は知れていてもその正体を知る者はごくわずか・・・・。

当時の俺でさえ、彼女がそうだと知ったのは偶然のようなものだった。

 

喉の皮一枚残しゴトン!と今、落ち切った。僅かな痙攣を見せた体から

前に噴き出す血、まるで壊れたシャワーが仕掛けられたかの人形の様だ。

とうとう糸が切れたかに崩れるハルベルトの体。

その背後には持ち替えた双蛇丸を両手に、頭を垂れたままのアイツが残ってる。

 

『 仇を____感謝する 』

「あァ・・・・・。」

「・・・・・・・・・・オイ!!」

 

ドサ・・・・!

そのままその場に倒れたアイツはトラ男の能力によって回収されていた。

(仇討ちさせる為に・・・・。)

アイツも能力者、海楼石で弱った上に元々体が丈夫じゃない。

気丈にここまでやれたのはアドレナリンのお陰だと云うのか。

 

「お前ら!海軍も!もういいじゃねぇか!逃げ場が無くなるぞ!!」

「俺達は此処をぶっ潰しに・・・そしてアンジーちゃんを色んな意味で救いに来ただけだ!」

「ああ!まだ暴れ足りねえがもう用はねぇ・・・!」

「キャプテンも早く!!!」

 

「チ・・・・・・オイ!!お前ら!退け!!」

 

 

_____________

 

 

 

酷く埃っぽい・・・乾いた風、真昼だろうに太陽は見えない

視線を戻せば私は死体の転がる広場に立ってた

 

この場所を知っている・・・・そう思った時、手の感覚が戻った。

見下ろせば、両手にくくり付けた小太刀・双蛇丸は酷く汚れている。

 

此処で最後に斬ったのは ____________ 親子か。

 

" この正義は間違ってる・・・・!! "

 

母親にそう云わせる間をなぜ、与えたんだろう

体がビリビリと震えてる  見渡す、無数の屍に背を向けた。

任務を終えた。船に戻らなければ____ そう思うのに熱を放出する体が動かない。

立ち尽くしていると

 

" ご苦労だったな "

 

黒い服の男達に保護された年寄りがそう云ってフード越しに頭を撫でて行った。

あれは五老星の1人だ

 

"  ___________ お前、怪我をしたんか? いかん、酷い熱じゃ・・・!"

 

その私を船まで負ぶって行ったのは・・・後に、W7に現れたミホークに食い掛ってた男だ

 

”義理の父が聞いて呆れるのう。何故"ピッツ・バウンド"などに行かせたんじゃ・・・!”

 

そして謎の言葉を残し、シルクハットを手に病室を出て行ったのは...私の苦手とする男。

彼らはみんな其処で私と関わったはず・・・・。

 

それにミホークがローに云った言葉もずっと不透明なまま私の中に残ってる

 

"その時は貴様がその力で彼女を静止させろ、ここの連中は必ず迷う・・・、いいか、情を移すな!"

 

だがまだパズルは揃わない____何故、記憶を切り取らせたんだ・・・・?

 

 

 

___________________

 

 

 

 

「さっき殺したのは皆、クローンだと云うのか?」

「あァ_どうせまたヤツじゃなくともコイツの様な人間を造る奴がまた現れるだろうがな」

 

___ベガパンク然り・・・とトラファルガーは言いたげだった。

 

死の外科医と呼ばれる男は抱き上げた少女を見やってから、燃え盛る研究所を眺めてる。

気になるのは火事の原因だが、麦わらの一味フランキーのビームの余波でもないらしい。

 

「”我々には最初から死に方を選ぶ権利はない”と・・・この女が云うもんでね。」

「何・・・・・・・・・・?」

「”生れた時から神の怒りを買っていたお陰だ”そうだ。」

「・・・・・・・!」

 

このL・ロゼッタは海軍でも謎が多い女だった。

そもそも、誰が何の目的で探しているのかも有耶無耶にされて来たんだからな。

ならクザンは知っていたと云う訳か・・・俺に捕縛させ、その後どうする心算だったんだ?

 

「ともかくMISSINGにはもう関わるな。まだ上に上がりてェなら尚更、他言無用__」

「・・・・・・いや、手遅れじゃねェか・・・・!?」

「!?」

 

「___あぁ!とにかくヒドイ話だと思うだろう!?こんな・・・、可愛らしいレディに!!!」

「まったくだ!!黒足の兄ィ!!傷だらけが逆にモエモエ・キュン❤とくらァな‼!」

「また!海賊をアニキ呼ばわりするのは止めなさい!でも・・・なんて気の毒な・・・・。」

「だいたいシャンクスがンな悪いヤツ、船に乗っけるワケがねぇ!!」

「ってことは、赤髪のヤローはマサカのロリコンで!?」

「シャンクスの事、悪く云うなぁああああ!!!」

 

ボコ!!!

 

後ろを振り返ればウチのG-5の連中が・・・麦わらと黒足に泣かされたり殴られたり。

トラファルガーはアゴが外れる勢いで驚き、額に怒りが現れてやがった。

 

「アンジーは・・・科学の犠牲者だよ・・・・!おれ、次にこんな事した奴、絶対許さねぇ!!!」

「オレもだ!!てか、今時アダウチとか!泣かせるじゃね~か!あいつめ。スゥ~パーァ・・・仁義だぜ!」

 

「「「「「 うぉおおおお!仁義だ! 」」」」」

 

「ああ!云ってくれりゃ俺っち、助太刀したのに!!!」

「なんだよ!トラ男ントコも、ケムリン部隊もイイ奴ぞろいじゃね~か・・・‼ グスッ;」

「ほんと、意外よねwww」

「そうか!?」

「よせやいネーちゃん。デヘヘッ❤照れるじゃねーかw」

 

アイツら・・・、どれだけ盛り上がるツモリだ!? PH以来、腹立つ位こいつらがスキと見える;

ビキニ女が居たせいでもないだろう。奴のクルーまで巻き込んでるんだからな。

 

「確かに・・・・遅かったな;取り敢えず、お前の部下だ。そう言っておけ・・・!!」

「フ・・・・・!あぁ・・・・。」

 

トラファルガーが流石に持て余す麦わら一味に呆れ、帽子の影でほくそ笑んだかに見えた。

 

確かに、勝手に造られたであろうクローンを同胞とみなし・・・

その仇をも勝手に打ったと云うならば___噂通りでもない。

感情がないとされるイヴの子・・・その女が仇討ちを果たしたと聞けば

ベガパンクは間違いなくますます、彼女を調べたくなる事だろう・・・・・。

 

「俺にはまだ仕事が残ってる・・・・先に行く。」

「仕事!?」

「あァ・・・・、大した事じゃない。・・・ベポ」

「アイアイ!」

 

奴はクマを呼びつけ、彼女を背負わせる。

 

「ロボ屋。お前の手を借りたい。」

「お!?あァ、それは構わねェが・・・・。」

 

 

 

_______________

 

 

 

 

「こういうコトか___。」

「あぁ、アンジェラはアア見えて人の死を重んじる」

 

俺はロボ屋を連れて元来た道を辿って来ていた。

女たちの弔いの為、奴の火力を借りたのだ。

燃える女達、アンジェラスが此処に居たなら胸で十字を切ったろう。

 

「トラファルガー、てめェに聞きたい事がある」

「・・・・!?」

「ピッツ・バウントで・・・彼女に一体何が起こったんだ?」

「"破損"か・・・。」

 

トニー屋から聞いたのか、・・・・まぁいい。

 

___武装化したカルト集団・オルドン教の狂信的な異教徒約200名あまりによる

ピッツ・バウンド大寺院占拠事件。僧侶およそ100名足らず、

そして其処で会合中だった五老星の1人の老人を人質にして大罪を犯したとされる

オルドン教の教祖の「インペルダウン」送りを中止させ、釈放を世界政府に要求した__

 

「アンジェラはあの場所で何かを見て、何かを感じて・・・・そこで壊れた・・・。

アイツのホルモンバランスが崩れたのも、キャパの問題で恐らくはそれが影響してる。」

「どんだけあの娘をイジったんだ・・・奴ら・・・・!!!」

 

”_______ 戦うことしか望まない、イヴの子の遺伝子

ピッツバウントでは遺伝子が相反する感情を焼き切ったんだろう________”

 

「アイツの感情は30を超えようとしている・・・それが深刻な脳ストレスを引き起こした。」

 

そう・・・・だからあの男は俺に無茶をさせた。

彼女の、”死”を恐れて・・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 



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11.諍いの芽

 

 

 

_________ アンジェラはまだ眠ったまま・・・陽は暮れて行き___

 

 

その夜、甲板で彼らしくない姿を見かけた。

船縁に立ち、夜空を見上げている元・4億4千の首を持つ男・・・・。

 

「彼女のあのアザは・・・病気の痕だったのね。」

「流石に博識だな__ニコ屋」

 

不意に声を掛けた筈が特に驚きもせず、振り向かない。

彼は1枚の写真を隣に来た私に寄こした。

 

「これは・・・・・・!」

「ハルベルトが持ってやがった。アイツのオリジナルの女だ、良い資料になる」

 

今では撲滅したとされる”紅麻疹”-アカバシカ-であるの患者の、貴重な写真・・・。

一説によると本当にあったのかも疑わしい奇病であると言われていた。

ワノ国で流行り、その華模様が全身に回れば死ぬ・・・との記述だったと思う。

 

「アンジェラよりは少し”お姉さん”かしら・・・大人っぽいわ。」

「あぁ、そうだな・・・・。ニコ屋、俺は__ワノ国へ行く」

「興味が湧いた・・・・?」

「”紅鬼”と呼ばれた女を知りたくなった。それはアイツも同じだろう。」

 

以前・・・、あの忌まわしいシャボンディでの噂を聞いた。

”ヒューマン・ショップ”に出された短命過ぎるクローンの話を・・・・。

それがハルベルトの資金になっていたとすれば、

ローが、元・ボスの店を見学しにきただけじゃないと推察できる。

 

(ルフィ、貴方はなんて強運な人・・・・。)

 

良いヒトとは言い難いが、彼はとても不器用な甘さと温情を隠し持っている。

この男なら・・・よほどの理由が無い限り、裏切りはしないだろうと思えた・・・。

 

「ロー、貴方・・・何を”借りだ”と思っているの___?」

 

"借りもある___仕方ねぇだろ"

彼が、そう云っていたことは忘れてはいない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・、話す気はねェ。残念だな。」

「フフ、そう・・・残念ね。」

「そろそろ様子を見てくる・・・・。」

 

ローにはその事を思い出していた様な間があった。

 

彼が口を噤むのは・・・・恐らくアンジェラスを守る為なのだろう。

大事なものの為には__どんな悪党にでもなれる・・・・ある意味、一途な人___

 

 

___________

 

 

 

「____オイ!どうだ!?」

 

______バイタル・レシピの中に、己の持つホルモンのバランスを正常に保つ物がある。

トラ男に聞かれるまでもなく、俺はそれを考えていた。

クソ剣士を海に潜らせ、材料を調達させてるトコロだ。

 

「あと・・・・・青くて、サメみたいなコイツか?」

「おー!?上出来じゃねーか、たまには役に立つねェ・・・マリモ君!」

「やかましいわァ‼ 早くアイツになんか作ってやれ、アホコック!!!」

 

本来なら門外不出の奥義だが、全てはアンジーちゃんの為・・・!!!

俺はトラ男んとこのコックに、それを伝授するツモリでいた。

 

「いいか?重要なのはぶち込むタイミングだ・・・!絶対、順番間違うなよ!!」

「解った・・・・・!!」

 

ソイツを抱え、キッチンに入るとメモ片手に食いつくコック長。

しくじれば教えた俺は当然のこと、トラ男の怒りまでも一身に受けるからな!!!!

 

「なかなかデキルじゃねーか。さっきの調子でな!」

「へ、へい!」

 

さて・・・・スープも出来た、後はアンジーちゃんが目覚めるのを待つだけだ。

俺は彼女の様子を伺いに部屋に舞い戻って来ていた。

まだ、眠り続けてるのかなァ?いっそ、目覚めのキッスでも・・・・!!(デレデレ❤)

 

「・・・・あれ。」

 

ベッドで眠っていた筈の彼女が居ない・・・!?

ハッ・・・耳を澄ますと、水音が・・・・!?

 

もしや、目覚めて汗をかいたからと___風呂!??

そんな・・・・まさかの入浴中なんて・・・・・ッ!!!

 

「アンジーちゃ~~~ん!!!お背中でも流そうか!?」

 

迷いもなく俺は秘密の花園でもある扉を突破しようとした。

__________その時!!!?

 

 

「黒足屋????」

「ア・・・・・・・・あァ!???」

 

バスルームから出て来たのは・・・・・・トラ男!?

しかも、その腕には!!!!!!

アンジーちゃんがバスローブに包まれて、ほこほこ湯気を立てている!!!??

 

「てめェ!!!このエロ医者!!!一体ダレの許可を得てアンジーちゃんをお風呂にィイイイ!」

「・・・・・・本人が、寝汗が酷くて風呂に入りたいと云うからだ。」

「ちょっと待てェ!!なら、その役トクは・・・お前じゃなくても良かったってコトか!?」

「俺がたまたま来た時に起きて、そう云ったから・・・そうなんじゃねェか・・・・?」

「ウオオオオオオオ!!バカ‼俺のバカ!!!なんだってこんなチャンスをぉぉお!?」

 

ヤツがハダカじゃなく服をまくった程度だったからまだ許せる・・・、

許せないのはこの、己の不運の方だぁあああああああああ!!!

 

『 色々と迷惑を掛けたのに、そこまで甘えられないな 』

「ア。アンジーちゃん・・・・!」

『 本当に、有難う。嬉しかった・・・ 』

 

俺はそれだけで___救われた。笑えない彼女が目を細めたのだ・・・・!

 

「オイ!!!アンジーちゃんが目を覚ましたぞ!!!!」

 

喜びのあまり、俺は全員に聞こえる様に・・・扉を開けて叫んでいた______

 

「アンジェラ___!」

 

直ぐ近くまで来ていたロビンちゃんが俺の声で部屋に飛び込んできた。

気のせいか、その勢いにトラ男がビク!と体を揺らしたかに見えた。

抱き上げられたままのアンジーちゃんを彼女は覗き込んで頬に触れる

 

「湯あたりでもしたのかしら、随分火照ってるわよ?ロー、一体何分浸からせたの?」

「半身浴で38度の5分程度だ・・・・」

 

ンまさか・・・・!まさか・・・・・!!!

確かに、火照って・・・伏せ目がちな目が潤んで・・・ぷるんとした唇が半開きで・・・

ロリエロさに拍車が掛ってる・・・!!まるで、アノアトの様な・・・それは恍惚の表情(カオ)!!?

 

「てめェ・・・・! 湯船で弱ったアンジーちゃんをォ・・・♂♂♂・・・・・!!!」

「___俺は医者だぞ。コイツの管理は俺の仕事だ」

「どんなエロいお仕事をしやがったァ!!!?言え!言って詳しく聞かせろぉおおお‼!」

「大変!鼻からの出血が酷過ぎるわ!お医者さんを!」

「だから俺が医者だと云ってるじゃねェか」

「トラ男、テメーは明日っから”梅干しのフルコース”責めじゃぁあああ!!!!」

 

彼女をそのままベッドに戻し、そうシレっと言う男にますます腹が立つ。

俺は嘗てない程の怒りと妬みにによる興奮で頭痛がする程血を吹いていた。

海でコックを怒らせたらどーなるか思い知るがイイ!

 

「アンジー!起きたのね!?ちょっと、サンジ君?鼻血噴き過ぎよ!?」

「ナミさん、聞いてくれ・・・・この、ガフッッッ・・・・!!!!!」

「アンコーーーー!!!やっと起きたのかー!!!アレ、サンジ?」

「あら・・・打ちどころが悪かったんじゃない?」

 

部屋へ、ビヨーンとゴム式に飛び込んで来るのはヤメロ・・・・ルフィ・・・・。

ダメだ、意識がもう持たねェ・・・・ ガクッ

 

 

 

_______________

 

 

 

 

「手短にな____」

「・・・・・・あぁ。」

 

魚臭くなっちまった体をシャワーで洗ってたらアホコックの声が聞こえた。

顔だけ見た奴らと部屋の前ですれ違う。トラ男が、まだ安静を要すると云うので頷いといた。

 

『 ・・・・・・・・・・・・。』

「・・・・・・・・・・・・・。」

 

俺は静かにイスを引き寄せて座った。

アイツはベッドの上、片目の上の氷嚢を動かさない様に俺を見る。

 

「俺はこの2年の間・・・・・・・・・。」

『 ・・・・・・・・知っている、その目・・・基本とは名ばかりの燕飛を食らったか 』

「・・・お前のことを聞けば、”2度とアイツの話をするな”と機嫌が悪くなったもんだ。」

『 ・・・・いいのか 』

 

俺はアイツの、ベッドの上に投げ出された手を取る。読ませる為だ。

促されてから懐かしむかに目を閉じて・・・小さな溜息を洩らしてた。

 

あの屋敷で奴が、ペローナって女にも入る事を禁じていたその一室に俺は忍びこんだ。

直ぐに解った__ここがお前の部屋だったんだと・・・・・。

 

”リドルは此処から攫われた__”

 

振り向けば奴がいて、こう云うんだ

 

”連絡さえ寄こして来ないバカ娘が___”

”オイ・・・アイツが何処に居るか、知った口ぶりだな”

”フ・・・赤髪とどっちがマシだというなら__いや、アイツの好きにさせる”

 

『 ___バレてないワケはないと思っていた、ただ彼は・・・シャンクスには隠してる 』

「お前は__?」

『 戻りたいが・・・このままじゃまた、同じ事の繰り返しだ・・・ 』

「____まだトラ男の治療が必要なんだな、お前には」

 

リドル・・・いや、アンジェラスは小さく頷いた。

 

『 だから・・・私を誘おうなんて思わないでくれ 』

「・・・・・・・!」

 

俺や____ルフィの気持ちまで読んでいたか・・・・・・。

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

「なー、トラ男ー。アンコをウチにくれよぉー・・・・!」

「ダメだ、何度も言わせるな。」

 

夜食のミートパイを食っていた甲板で___

ゴネた様、俺にオネダリしてきやがる麦わら屋・・・・;

 

「いや!!!アンジーちゃんは此処に置いとけねェ!!エロ医者の餌食だ!!!」

「人聞きの悪い事を言うな、お前らはアイツの複雑な体を解っちゃいねェ・・・。」

 

アンジェラスには必要なホルモンのバランスがある___

それだけじゃない、異常な遺伝子の構造も理解しないとな・・・。

 

「トニー屋でさえ、クローンの知識はないんだぞ・・・お前達に渡した時点で1Wは持たねェ。

例えアイツが行きたいと云っても俺が仲間を渡すワケあるか?お前らだってそうだろ・・・。

借りに俺が”ナミ屋をよこせ”と云って、彼女が”行きたい”と云ったら如何する・・・!?」

 

「「 ダメだ!行かせねェ!!!! 」」

「・・・・・・それと同じだ。理解しろ・・・!」

 

まったく・・・面倒な事を言い出しやがって。

 

「でもよォ・・・アンジーが、あァ常にヒトを手に掛ける事があったら俺達、間違いなく

極悪海賊として危険視されるんじゃねーのか!? そーなると、後アト大変だぜ???」

「そーだな・・・ルフィ、それは覚悟しといた方がいいだろうな。」

 

鼻屋とロボ屋はまともな意見を言った。

次いで、トニー屋と骨屋もだ。

 

「俺じゃ、間にあわないよ。ローでさえ2年掛ってやっと彼女を管理、治療してるんだ」

「それにストレスに弱いというなら・・・・ウチじゃ確かにキツい気がします。

まぁ私なら”ホネが折れる”と云う表現で済むんでしょうけど! ヨホホホホ・・・・!!」

 

その通り・・・トラブルメーカーである麦わら屋に一時、預けるのさえ不安だ。

 

「私も反対・・・・・・・!!!」

「ナミさん!?」

 

「あの子はとんでもない諍いのタネになる・・・・・!!」

 

「 「「 ・・・・!? 」」 」

 

 

女の、正しい見解だ___________

フフ さては女の、どちらかに・・・・・ナニか起こったか・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

to be continued

 

 

 



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12.GAME

 

 

「それどころじゃないわよ! みんな来て・・・・!!」

 

 

コソコソ、彼女の部屋の前までやって来るとソーっと耳をドアにひっつける。

 

「早くしろ・・・・!」

『 ・・・・・イヤだ・・・ 』

「イイ子ね、アンジェラ・・・・・!」

『 ア・・・・・!ム・・・! 』

「ホラ!もっと頬張れ・・・・!もっとイレてやるよ・・・・!」

『 ん、グ・・・・・! 』

「ウフフ、とっても柔らかいわ・・・・もっと舌で・・・・あぁ、そう・・・・イイ子・・・!」

『 ハぁ・・・・・・もう、・・・・・・・ンぶ・・・・!! 』

 

 

「 「「「「 !!? 」」」」 」

 

エ???さっきまではゾロとロビンが云い争ってたのに!???

ウットリした様な、えっちな声にトラ男以外の全員がカァと顔を赤らめてしまってる。

ナニ?中で一体ナニが!?_____まさか・・・・・・!

 

「 「「「「 オ・・・・、オトナのカイダン・・・!!? 」」」」 」

 

「ゾロ屋・・・・・・・・!!!!」

「許せん!!!俺も仲間に入れろォオオオオオ!!」

「ヤダ!!開けるのコワイぃい!!!!」

 

バーン!!!!!

 

トラ男とサンジ君のWキックで蹴り破られたドアの向こうでは。

予想だにしない奇妙な光景が・・・・。

 

「ほら、アーンしやがれ。」

 

まぁロビンまでは解る。なんでゾロ、あんたまで___

スプーン片手にプリンを掬って・・・・デレ気味に・・・・?

 

「フフフ、コワイ顔だとせっかくのプリンも不味くなるわよね?はい、アーン」

「なんだとぅ?なんでテメーばっかり・・・・!!」

『 もうお腹いっぱい、要らない・・・! 』

「なに云ってるの?鵜呑みはダメよ?ちゃんと舌で味わなきゃ。」

『 ムググ 』

 

アンジーは口元にプルプルのプリンの乗ったスプーンを突き付けられ

文句を云いながらも、ただただ機械的に重い口を動かしている。

 

「なんだァ?この”溺愛してる娘を看護して甘やかしてるパパとママ”的な図は…!?」

「つーか紛らわしいわァァァ!!!」

「はッ!!!それはさっき俺が作って冷やしておいたヤツじゃねーか!!いつの間に!!」

「ズリーぞぉ、なんでアンコだけ食ってんだー?俺にもくれよー!」

「ジャマよ?」

「アウ!!グコキュ!!!」

 

「 「「「「 エエ!!!!!!!? 」」」」 」

 

ルフィがそう云ってアンジーの前に首を伸ばすとロビンが手を生やし、ゴキ!

ネジって足で踏んづけてる!??

そして延々と、2人ともが何事もなかったかにプリンを食べさせ続けてる不気味さ。

 

「こ、これって・・・・!?」

「ハマったな・・・・!」

 

トラ男は顔色を変えてそう云うと自分のキャスケットを脱ぎ、アンジーにズボリと被せたのだ。

ベッドから彼女を担ぎあげた彼に立ちはだかり、刀に手を掛けるゾロ、手を構えるロビン。

その目は真剣でふざけてる様には見えない・・・・!

 

「ジャマすんじゃねェ・・・・!」

「そうよ、ジャマしないで・・・・!?」

「・・・・チ!!! おい、お前ら!ボーッと見てないでコイツら取り押さえろ!!」

「え・・・!ゴメン!ロビン!」

「マリモォ!!!!!覚悟しろ!!」

「ゾロー!!!」

 

明らかに、2人は何かに憑かれてる。そう察知した私たちは一斉に彼らに跳び掛った・・・!

ハァハァ云いながら、やっと2人をお縄にしたんだけど、彼らの手にはまだスプーンが。

 

「一体どういう事…!!」

「催眠術にしちゃ念が強すぎしやしねぇか?」

 

トラ男はアンジーを降ろすと左小指を確認していた。

その指にはちゃんと海楼石の指輪がはまっているのだ。

 

「・・・悪魔の実の副作用でもねェのか。アンジェラ、一体何をした!?」

『 プリンが食べたいって云っただけだ 』

「どうやって」

 

近くにいたルフィの手をぱ!と握るとアンジーは目を合わせた。

 

『 ルフィ、プリンが食べたい。なぁ、食べてもいいか? 』

 

「 「「「「 ・・・・・。 」」」」 」

「な、なんだ!?」

 

目も放せず、手も握ったまま片手で耳を押さえるルフィ。

そして小首を少し傾けてずっとその答えを待っているかのアンジー。

んん!?ルフィの目が・・・・・なにアレ、オタマジャクシみたい・・・な???

 

「任せろ!!サンジ!!今すぐプリン100個作ってくれ!!!」

 

「 「「「「 ハァ!? 」」」」 」

 

『 ホントか、嬉しい 』

「ああ!だいじょうぶだ!おれに任せとけ~アンコ~❤」

 

デレデレ・バージョンのサンジ君みたいに、アレじゃまるでゴムの干物だわ;

 

『 ・・・・と、こんな風にだ 』

「これは、もっとも掛り易いヤツの悪い見本か・・・?」

「何が起こったの!?」

「本人に聞け。こういうヤツほど解け易い。ひっぱたいて正気に戻してみろ」

「起きろゴルァ!!何が任せとけだぁ!?結局、俺任せじゃねェか!! ンニャロ!」

 

ゴン!!

 

ルフィを指さし、

トラ男がそう云い終わるや否やサンジ君のカカト落としの一撃ですぐ正気の顔に戻った。

ほんとウチじゃ一番単純だものね、何にでも引っかかり易いんだから・・・・。

 

「イテテ・・・・頭ン中でアンコの声がコダマしたんだよなー、そこまでは覚えてるんだけど。」

 

”なぁ、食べても良い? なぁ、イイって云って? なぁ、云ってくれるだろ・・・?”

 

ルフィ曰く、そんな幻聴が聞こえ

おまけに見つめるアンジーの目が猫みたいにまん丸く見えてキラキラするんだとか;

前からおかしいとは思ってたんだ___と、トラ男。

 

「コイツの血糖値が上がってると思いきや、買った覚えのないプリンが冷蔵庫に・・・。」

 

「 「「「「 お前も掛ってんだろッ!!! 」」」」 」

 

真面目な顔で云う彼に全員がツッ込んだ、結構な天然よね?

でも、この子・・・・素で危ないわ・・・!! 悪気なくてやってるから余計に。

プリン所望するだけならまだいい、例えば、他の物トカはどうなんだろう?

そうねー・・・例えばブティックに行ってとかー、他の海賊のお宝とかー・・・・・・・・・・・。

 

「ナミさん?」

「目がお金のマークになってんぞ!ナミ!!?病気か!?」

「トラ男君!!やっぱこの子ウチに頂戴!!!!?」

「・・・・・・・・・諍いのタネはどこへ行ったんだ?」

 

 

 

____________________________

 

 

 

 

「気がついたらスプーンを握ったままゾロと縛られてるなんてね」

 

 

縄を解く骨屋、ニコ屋は床に落ちたスプーンを拾い上げてクスと笑う。

ともかく、この程度のコトで良かった___俺は人知れず胸を撫で下ろしていた。

話しても良いんだが・・・・余計、火を着けてしまいそうだ。

特に男連中には毒だしな。

 

「俺は止めに入ったんだぞ?なのに・・・俺まで妖術に引っかかるとは・・・。」

『 ヒトを化け猫扱いするな、剣士として修行が足りんだけだろ ・・・オトコとしてもな(ボソッ)』

「グギイイイイイイイ♨・・・・!! 今、小ッさくなんつった!テメェ!!」

『 ヘッポコぴーと云った 』

「嘘つけ!!しかも更にヒドクなってんじゃねーかッッ!!!」

 

 

____止めに入った・・・か。アイツも毒を食んだ1人と数えて間違いない。

 

他愛のない言い争いに聞こえるが、上下が浮き彫りになっている。

”俺を超えようとも試みない、バカ娘だ___”

ヤツにそう言わしめた程の剣聖であり、

幼い頃より”手ダレ”と政府のジジイまでが彼女に一目を置いた。

 

恐らくヤツもそれが解っている___コイツも欲しいんじゃねェのか?

 

俺の脳裏には最悪な事態に備えて一興が浮かぶ。

開いたままのドアから見やればどこにでもあるログなしでOKな無人島がチラホラと見えた。

 

(まぁ___そんな事は起こるまいが・・・・・)

 

「アンジー、そろそろちゃんとパジャマに着替えた方がいいぞ?」

『 そうだな・・・たぬぽん、心配してくれてアリガト 』

「おれ、医者だから!!!礼なんて言うなよ!カゼひくと困るんだからな!アッ」

『 うん__アッ。 』

 

振り向いたその時____俺はその様子を、スローモーションで見た気がする。

 

立ち上がったアンジェラ、着せていた俺の長すぎるバスローブのスソを

そう言って急かしたトニー屋が踏んづけちまったお陰で・・・・!

 

______スルッ。パサッ・・・・・

 

 

「 「「「「「「「「 __________!!!!!! 」」」」」」」 」

 

 

腰のひもが簡単に解け、全裸の後ろ姿が露わに。2、3秒の間だ。

ブーッ!!!と激しい音と黒足屋の遠のく雄たけびとその姿。

見惚れてた他の奴らの恍惚とも取れる表情が、いきなり狩人の目付に変わった瞬間。

 

「拙い・・・・アンジェラ!!!」

 

ベッドまで飛び移り、シーツを咄嗟に剥がして彼女を覆うが・・・・手遅れだ。

ゾロ屋だけは流石にもう解ってるらしく目を閉じてやがる。

他の奴らはふらふらと近づいて来る・・・・・まるで吸い寄せられる様に。

 

「アンジー、ほんと可愛いわ・・・・・!」

 

熱の籠もる、あの目・・・・! ナミ屋でさえ___掛っちまったか。

俺は腹をくくると、まだヤツらに正常な意識が残るであろうスキに云った。

 

「コイツを奪わせるチャンスをやる___

今から夜明けまでにコイツを捕まえられたらお前らの勝ち。出来なきゃ諦めろ!!いいな!?」

 

「よォシ・・・!ヤロウども、夜明けまでにアンコを奪え!!!」

 

「 「「「「「 おゥ!!!!!! 」」」」」 」 

 

『 ・・・・!? どうする気だ、ロー!? 』

「ベポに声を飛ばせ!あの島に付けさせろ!・・・・≪ROOM≫!」

 

俺は早速、ニコ屋の手に妨害されつつアンジェラを見張台へ移す。

ジャキン!!! アイツに伸びてくる麦わら屋の手を、1人まともなゾロ屋が阻んだ。

 

「俺もアイツが来る事には賛成しねェ・・・・!!」

「後でケンカすんなよ・・・・?」

「俺が証人になる、異存はネェだろ!?」

「ああ!」

『 今向かわせてる! 数分で行けるそうだ、ケホッ !!!? 』

「オイ!ウソップ!!!撃つのはよせ!!肺が弱いんだぞ!!!?」

 

鼻屋がパチンコで彼女になんらかの薬を散布しやがった。

酷く噎せ返ってるアンジェラ___ヤツは相性の悪い敵になりそうだ。

 

「テメェ!!!うちのアンジーに何しやがる!!!!」

「お前ら・・・!船壊さない様に、全力でアンジェラを守れ!!!」

 

「 「「 ラジャー!!!! 」」 」

 

そこへシャチ達が騒ぎに気付き、彼女が助けの声を飛ばしたんだろう。

総員が此処に集まって奴らと応戦し始めた。

 

「ッ・・・・・!」

「グワァ!!」

 

ズバン!! 

厄介な鼻屋を分割して回収できない様、それぞれパーツを散らしておく。

 

『 !!! 』

「____私も、貴方が欲しくなりまし、え!? ア~~~~!」

『 ___すまん、捕まるワケにはいかんのだ。≪God Bress≫・・・・! 』

 

ガシャン!!!と骨がバラバラになるような音が聞こえた。

オリジナルの流れを汲む、無刀取りか__

空かさず奪ったヤツの剣で払い、風圧で骨屋は背中から甲板に落ちて来た。

船を壊す程の技を力調整してる・・・骨折程度ならいい、アイツなりの手加減だ。

 

「キャプテン!もう着くから!!!」

「・・・・・・よし!!!」

 

俺が始めたゲームだ。

どうあっても奪わせるワケにはいかねぇ・・・・・・・!!

 

『 !! 』

「アンジーちゃん・・・・・俺は心を奪われちまったァ!!!」

 

月歩か!? 突如アイツの背後に現れ、抱き着こうとする黒足屋。

速さでは敵うまい。サ!と察知して胸を反らすと振り向きざま、指を突き立てた。

 

『 許せ!!! 』

「・・・ゴフゥ・・・・!!、シ、指銃・・・・・!!?」

 

胸にそれを受け、そこから落ちて行くヤツも出血多量な上、落下。

しかし__嫌う技を自ら使ったか。あまり良ろしくない行動だ。

アイツを目指してよじ登ろうとするトニー屋、ロボ屋、そしてナミ屋をウチの連中が阻む。

俺を阻止していたニコ屋の背後に移動、本体を刀の柄で打ち当て気を失わせた。

 

「っ・・・・・!」

「アンジェラ!俺が援護する!用意をしろ!!」

 

____船じゃ限界があるからな

目前に近づく無人島を横目に彼女を部屋の前へと移動させる。

 

「逃がさないわよ!!!?」

「そうはいかねェ」

 

アンジェラは素早く自分の部屋とキッチンへ駆け抜ける。

小さな雲が追いかけて来たが俺がそれを麦わらの頭上へと移して落雷、気絶させた。

 

「おらぁ!大人しくウチのモンになるんだ、嬢ちゃん!!!」

『 そもそも、そこが間違ってる! 大人しいワケなかろ!? 』

 

ザシュ!!!

ロボ屋の投網を一回しか見えなかった閃光で空に散らすアンジェラ。

そこに、ツノで動きを封じようと突進してきたトニー屋をベポとペンギンが引き受けてた。

 

「なかなか、いいチームワークじゃねェか」

『 ・・・・・・目論はそれか 』

「なに云ってやがる、深読みしすぎだ。」

 

 

全員の目を覚まさせるのは簡単なンだが、単純な奴らを納得させるのに丁度良い。

 

まぁ、今はアイツの”手”に悟られない様にしねェとな。

 

 

さて___

 

夜明けまであと3時間程度__________

 

 

 

「タイクツしてたのさ___」

 

 

 

 

 

 

to be continued・・・

 

 

 

 

 

 

 



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