転生先をミスった羽衣狐が居るらしい、まぁ妾なんじゃが… (山吹乙女)
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ハンサム顔と対面じゃ-壱話-

 年末年始に呪術廻戦にハマってしまったので初見です。
 キャラ崩壊気味な羽衣狐様ですが半妖になっても転生繰り返して現代に触れたら丸くもなるだろうという勝手な解釈です。
 昔の記憶を辿りながら羽衣狐様の特徴を思い出しているので温かい目で見てあげてください
 羽衣狐様過激ファンの方にはすみません許してください


 『おい、起きぬか』

 声が聞こえる。それは女性の若く艶のある声色であり、かなり早いモーニングコールである。

 

 「まだ外暗くないですか?もう少し寝ていましょうよ…」

 

 『ぬかせ、もう時計の針は10時を回っておる。それに学校の方角から何やら妖気を感じるぞ』

 

 「え…普通に夜じゃないですか、それと妖気って絶対面倒ごとじゃないですか」

 

 『おぬしに止められて最近喰えておらん生娘の肝が喰えるかもしれんのだ、急がぬと乗り遅れる。それに面倒ごとも考え方次第ではいい余興じゃぞ?』

 

 「流石大妖怪様は素敵な考えをしていらっしゃる。まぁ、準備はすぐ済むので別にいいですが」

 

 私は()()()寝ていた体を起こし姿見の前で確認しながら豊かな胸が露わになっていた体は白いワンポイントとリボン以外は黒のセーラー服で隠れ黒のストッキングを履き、全身を黒いコーディネートで固め腰まで伸びた黒く長い髪をふわりとかき上げ寝癖がないことを確認すると身支度を済ませた。

 幾つか()()()()()()()()()()()()()()()()があるがこの容姿は彼女の恩恵だろうから感謝でしかない。

 

 彼女は私が生まれた時から心の中に存在する別の人格のようなものであった。

 彼女は[羽衣狐]、平安時代から転生を繰り返す大妖怪らしく今まで15度の転生を繰り返してきたそうでかなりのご長寿である。

 だが、15度目の今回の転生で問題が起こったようで14度の転生で満足して油断していたらしく、次の世になると自分の知る世界と似て非なる世界に転生していたということでこのような体験は前代未聞であったそうだ

 そして例外はまだあり私の精神が完璧な状態で彼女と共存しており彼女曰く、『妾は幾度も転生してきたが転生元の記憶がそのまま残っているのは初めてじゃ』とのことであり、過去に一度元の体の持ち主の記憶が戻り拒絶反応が出たことはあったそうで私は無事であることを心底安堵した。

 以上のことから彼女はこの生が終わるまでこの世界を楽しむとのことであり、私とは体を共に操る良きパートナーとなった。

 

 「それで妖気の反応は私の学校の方角でいいんですよね?」

 

 『邪気も強くなっているし間違いない。フフ…生娘の肝を食すのはいつぶりじゃろうか』

 

 「全然知らない人ならいいですけど、クラスメートだったら嫌だなぁ」

 

 『嫌じゃと言いながら止めぬのだから、いよいよおぬしも人の子から離れてきておるの』

 

 「そもそも半妖なんで否定はしませんね」

 

 彼女と軽めの会話をしていると自宅から程よく離れていたはずの学校へはすぐに着いた。空を高速で飛んでいるのだから無理もないが、人目がないところで飛べるのは本当に助かる。

 

 『ほぅ、なかなか強い妖気を感じるのぅ、どこかの大妖怪が復活したような感覚じゃ』

 

 「やっぱり面倒ごとですか、はぁ…いい余興になればいいですね」

 

 『久々の大妖怪との対面じゃ、妾の今の実力を測るには良い存在かもしれぬ』

 

 生娘の肝はいいのかとツッコミながら、学校にいる一際大きな妖気に向かうのであった。

 

◆◆◆

 

 「いい時代になったのだな…女も子供も蛆のように湧いている。素晴らしい!…鏖殺だ」

 

 先程まで血だらけで呪いと対峙していた少年[虎杖悠二]は特級呪物[両面宿儺の指]を食べ呪いの王、[両面宿儺]は虎杖悠二の体に受肉した。

 

 「あ?」

 

 普通人間にとって特級呪物は猛毒であり、取り込めば即死で万に一つの可能性で受肉することがあっても元の精神が無事であることがあり得ないのは想像に固く無い。

 

 「人の体で何やってんだよ。返せ」

 

 「オマエ、なんで動ける?」

 

 「?…いや、俺の体だし」

 

 まるで交互に別人格が喋る一人芝居のように虎杖と[両面宿儺]の会話が目前に広がる。

 本当に別の人格が新たに追加されたように、虎杖は平然と対応する。

 

 「動くな!…オマエはもう人間じゃない」

 

 危ないところを救われた虎杖に対して心苦しい気持ちになる。

 

 「は?」

 

 「呪術規定に基づき虎杖悠二、オマエを…()()として祓う(ころす)

 

 ここまで規定が憎いと思ったことはない

 恩人と言って差し支えないことをした虎杖に対して向けていい言葉ではないのは俺自身一番わかっていた。

 

 『なんじゃもう終いか、つまらん…これでは余興にもならんぞ』

 

 「なっ」

 

 直後、そこには全身を黒で固めたセーラー服姿の女生徒が虎杖と俺の向こう側に立っていた。

 夜の校舎、それも呪いが跋扈していた校舎に生徒が残っているのはありえない事態である。

 明らかに普通じゃないセーラー服の女生徒に対して、警戒レベルを引き上げる。

 虎杖の件がまだ片付いていないのに次から次へと問題が降りかかってくるのは厄日と言って差し支えないだろう

 

 「今どういう状況?」

 

 「なっ、五条先生!どうしてここに」

 

 またしてもいきなり現れた人物に対して驚きはするがこの状況では、まさに渡りに船である。

 彼は俺の所属している呪術高専で一年の担任をしている先生[五条悟]である。

 

 「来る気なかったんだけどさ、さすがに特級呪物が行方不明となると上が五月蝿くてね。観光がてらはせ参じたってわけ」

 

 観光のついでに来た五条先生にイラつきながらも、実際俺では手に負えない状況であり、彼に報告するべき内容であった。

 

 『なんじゃ、これまた強そうなやつが現れおったわ』

 

 「誰あの超絶美人、恵、説明プリーズ」

 

 「いや、俺も彼女が五条先生みたいにいきなり現れたんで知らないです」

 

 「え、ここの生徒じゃないの?じゃあどちら様?」

 

 「いや、俺が聞きたいです」

 

 実際只者ではないことは確かではあるが、一体どういう存在であるかまでは分からない。

 

 「いえ、この学校の学生ではありますよ。ただ目的がこの少年だったというだけです」

 

 「え、俺?」

 

 虎杖も彼女と面識がないとなると学校関連での目的ではなく十中八九[宿儺]関連だろうことがわかるが、分かったからと言って自ら[宿儺]関連に首を突っ込む存在なぞロクなやつではないことは明白であった。

 

 「なんだ、彼結構モテるタイプなんだね」

 

 恐ろしく的外れな意見を述べた五条先生に呆れながらも五条先生は言葉を続けた。

 

 「それで特級呪物はどうなった?」

 

 「あのー、ごめん、俺それ食べちゃった」

 

 側から見ても虎杖が言ってることに対して理解がまだ追いついていないようで、五条先生はフリーズしていた。

 

 「マジ?」

 

 「「マジ」」

 

 俺と虎杖が答えると五条先生は虎杖に近づき、注意深く観察するようにまじまじと虎杖の顔を見た。

 

 「ははっ、本当だ混じってるよ」

 

 五条先生は、両目が布で完全に隠れているのに注意深く観察しても意味があるのだろうかと思ったが、虎杖と宿儺が混じっていることを確定していた。

 

 「ということは彼女宿儺が目当てってことか、只者じゃないね」

 

 一瞬で五条先生がセーラー服の彼女に対しての見方が変わると場の雰囲気が一転する。

 

 『はぁ…ようやく気づいたようじゃな、妾を待たせたのだこれはちと高くつくぞ』

 

 直後圧倒的なまでの圧力、ただこの場にいるだけで感じるプレッシャーは今にも全て投げ出して逃げたいと思わせ滝のような汗が一気に吹き出し、粟立つ感覚に陥る。

 先程の虎杖に受肉した宿儺が可愛く見えてくるレベルでの圧倒的生物としての格の違い、人間の見た目こそしてはいるもののまるで別世界の化け物と対峙でいるかのようである。

 彼女から目を背けたいが思考と体の動きが一致しておらず、彼女を凝視してしまっているが、それでもなんとか抵抗するべく五条先生の方をチラリと見ると俺が今まで見たことないほどの緊張感を五条先生は放っていた。

 いつもの余裕はまるで感じず、薄ら笑いが張り付いていた顔は真剣そのものであり、あまつさえその頬には汗が流れていた。

 

 「これは、マジで洒落にならないレベルの呪霊だね」

 

 「呪霊というものは分かりませんけど、私は呪霊じゃないですよ。妖怪の類ではありますしまぁ半分あっているんでそこの少年と同じようなものですかね」

 

 「呪霊を知らないのは意外だね。ともかくここは引いてくれると僕としては助かるんだけど、やっぱりダメ?」

 

 「どうします?私としては別に譲歩していいと思うんですけど」

 

 『そうじゃな…ではこうしよう10秒間、妾と対峙して生き残れたら考えてやってもよいぞ』

 

 10秒間、譲歩してその条件なのか

 相手との力量差を考慮しないのならば10秒持ち堪えるというのは緩い条件と言えるが、ただ正面に立つだけで体が震えて言うことを聞かないような相手であるのだから死刑宣告されるようなものである。

 

 「その条件飲むよ。その代わり戦うのは僕だけだから恵達には手出ししないで欲しいな」

 

 『余計な気を掛けぬようにするのだから当然じゃろう。決まりだな、では始めだ。そちらから来てもよいぞ』

 

 腕を前に出し人差し指を小気味よく動かして挑発する。

 瞬間、五条先生は相手の懐に入り込み体術を繰り出す。術式を使わず体術に持ち込んだのは周りが民家で覆われた学校であり、立地の条件的にそうせざるを得ないのは仕方がないにしても側から見れば無謀であった。

 一瞬にして間合いを詰めたのは驚くべきことではあるが、その対峙する女生徒はいつの間にやら現れた狐の尾で五条先生の体術を防いでおり、相手が相手でなければその毛並みは美しいとさえ思わせる。

 

 『なんじゃ、何かしたか?』

 

 五条先生の猛攻を何食わぬ顔でひたすら防いでいるが、埒外にも程がある。

 見える範囲内であるが全ての攻撃を2尾のみで捌いていており、全部で15本ある尾のほとんどは依然動かす気すら感じさせない。

 

 体術でどうこうできるレベルではないことがわかると、五条先生は目を隠してある布を外し、必殺の一撃を放つ。

 

 領域展開ー無量空処ー

 




 お疲れ様でした。
 ご意見ご感想随時募集しておりますのでよろしくお願い致します。
 仕事の合間などを縫って作成させていただいておりますので完成も遅く完結も未定ではございますが何卒お願い申し上げます。
 ぬらりひょんの孫は黒田坊も好きでしたね


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妾は可愛いものも好きじゃ-弐話-

 ちょっと時間が空いてしまいましたので初見です。
 拙い文章で1話を書かせていただきましたが、大変反響をいただき本当に嬉しい限りです!(まさか日間得点ランキングに載るとは思いもやりませんでした…)
 羽衣狐様の人気で成り立っている本作ですので妖しくも美しい羽衣狐様の魅力を出して行けるように頑張りますので応援のほど何卒よろしくお願いいたします。
(文章構成を修正いたしました2021.1.18)


 

領域展開ー無量空処ー

 

 [領域展開]それは術式を付与した生得領域を呪力で具現化することであり、言わば心の中を具現化させる呪術の極地である。

 五条悟が発動した[無量空処]は簡単に説明すれば脳が処理するには多過ぎる情報量を一気に相手の頭に流し込むものである。それ故に、生き物であればまず間違いなく脳の処理が追いつかずその場で動けず放心状態となる。

 

 『ふむ…深層意識の具現化とは興味深い。良い余興であったぞ』

 

 五条悟はこの時知る由もないが、今対峙しているのは転生を繰り返す羽衣狐、人間の寿命で死ぬことが縛りであるが本体が無事なら際限なく転生を繰り返す都合上、脳の処理領域はそれに耐えられるようになっており、他の攻撃技であればつゆ知らず多すぎる情報量の処理は転生の際常に経験していることであるので十八番と言っても差し支えない。

 

 「いや5秒は僕の領域内にいたのに平然としすぎでしょ…」

 

 『?…何を不思議がっておるかは知らぬが、約束は約束じゃ妾を待たせたことはこれで許そう』

 

 五条悟との戦闘が一段落ついた。

 そう思われた矢先、五条悟と羽衣狐の間を割って入るように虎杖悠二、もとい両面宿儺が拳を振りかぶりながら突如現れる。

 

 「ふん!」

 

 振りかぶった拳は空を切り、羽衣狐の顔面を捉えるようにして放たれるが15ある尾の一つに塞がれる。

 

 『こやつと話している途中じゃが…待てぬか?』

 

 「はっぬかせ!この俺に殺気を放ったのだ。タダでは済まさんぞ』

 

 『まったく、これだから不良者は手が早くて困る…』

 

 両面宿儺に向かって不良と言い放ち尾の一つを宿儺の頭に向け上からしならせるように(はた)くと、両面宿儺はその衝撃から軽い脳震盪を起こし抵抗する暇も与えず白目を剥きながら膝から崩れ落ちる。

 

 『いかん、思わず温厚な妾でも手を出てしもうた』

 

 「お狐様自分で温厚とか言います?」

 

 『殺しておらぬのだから温厚じゃろう』

 

 伏黒恵が見た虎杖悠二と両面宿儺の多重人格の役を演じる一人芝居のように、羽衣狐の声色がコロコロと変わるのを再度確認した後、五条悟は口を開く。

 

 「ところで君、いや君達は何者?僕たちの敵?」

 

 それは当然の疑問であった。

 うつ伏せで倒れている両面宿儺は当初の優先事項であるが最強の呪術師五条悟を動きの制限がある状況下ではあったが軽くあしらい、呪いの王両面宿儺を受肉したばかりではあるが瞬時に無力化したその存在に疑問を持たないのは無理な話であり、気絶している両面宿儺もとい虎杖悠二よりも優先すべき内容であった。

 

 「お狐様、私たちのこと聞かれていますけどどうします?」

 

 『おぬしがこの学校の生徒と言うたからのう…直にわかるがせっかくじゃ、ここで名乗っておけ』

 

 「あっ、それもそうですね私は[羽衣 妖子(はごろも ようこ)]先程貴方と対峙したのは私に転生している羽衣狐様です。もっとも私も分類的には羽衣狐ですし、羽衣狐様も[羽衣妖子]ですので呼び分け程度の違いですけど」

 

 『フフ…これはただの余興じゃ、この世で大それたことをする気は起きぬし、野望も宿願も今の妾にはない』

 

 殺気を放ち生物としての格の違いを見せつけた相手に敵かどうかの是非を問うのは、答えが分かりきっているようなものではあったが事実先程の五条悟の体術を2つの尾のみで凌いでいたのなら、残り13つの尾で攻撃することができた。が、そうしなかったのは相手が完全に下に見ているか殺す気がなかったかの2択であり、絶対的な強者である五条悟が他人を見下す目線に気づかないはずはなく、殺す気がなかった場合少なくとも話し合いができる相手であることが分かり、これ以上無用な争いをせずに済むと判断した結果である。

 

 「…その言葉、信じていいんだよね?」

 

 『くどい…妾はその気はないと言うておるのだから心配せんでよい。小さい事ばかり気にしておると女子にはモテぬぞ』

 

 最強の呪術師五条悟と呪いの王両面宿儺を軽くあしらえる存在が敵かどうかの質問を小さい事と扱うのは、両名を知る者からすればあり得ない事態である。

 

 「ふぅ…とりあえず話の通じる人物でよかったよ。君たちを敵に回しても、僕らには損でしかないからね」

 

 五条悟は緊張の紐を幾分かは緩めると、体の中の温かい空気が口から漏れる。

 汗で湿った首筋を拭い、当初の目的に触れる。

 

 「それで僕らはそこの彼を引き取るつもりだし、君たちが敵じゃないのなら出来れば監視対象として同行してもらいたいけど、構わない?」

 

 五条悟からの同行の問いかけに対して、羽衣狐は自身の尾の一つを椅子のように使い足を組みながら腰掛け胸の前で腕を組み答える。

 

 『別に良いぞ、お主らについて行けば余興には困らぬじゃろう』

 

 「お狐様が良いのでしたら私もいいですよ」

 

 五条悟は自身で同行を口にしたがこうもすんなりと要件を受け入れるとは思っておらず、いい意味で拍子抜け、悪い意味で何を考えているかわからないといったところであったが『ただし…』と羽衣狐は言葉を付け加える。

 

 『妾のことを上の者に報告する場合多少の力を持った()()()()として報告し、監視も付けぬことじゃ』

 

 ()()が抑えれるかどうかわからない危険人物を普通の人として扱うこと、その条件が意味するものとは言わば爆弾、爆発を恐れながらもその対処をすることができず抱えることを強制する事に等しい。

 両面宿儺より話の通じる人物であったが、より狡猾でタチの悪い人物とも言える。

 普通であればこのような条件飲める訳ないが仮にここで断り力ある呪霊と結託でもされるとそれこそ取り返しのつかない事態であり、高専側は羽衣狐の条件を飲むしかなかった。

 

 「仕方がない…その条件飲むよ」

 

 「ちょっ!五条先生、いいんですか?」

 

 「いいも悪いも仕方がないでしょ。要件を提示したのはこっちで、向こうが条件付きで折れてくれたんだからさ」

 

 伏黒恵の疑問は当然であるが、ではどうするのが最適であるかと伏黒恵自身に質問してみてもいい答えは返ってこないだろうことから五条悟の答えが最適解であると信じるしかなかった。

 

 『決まりじゃのう、さて妾はどこに案内されるのじゃろうか』

 

 「東京都立呪術高等専門学校、君をそこの生徒として受け入れるよ」

 

 一般的に見ても呪いを祓える力のある人は少数派であるが故に、高専関係者なら高専に推薦して生徒として受け入れるようにしている。

 

 『ふ…まぁ妥当なところじゃのう』

 

 「そういえばこの子はどうするつもりですか?」

 

 「うーん、彼には宿儺の器の可能性があるけど…恵、ここでクエスチョン彼をどうするべきかな」

 

 「呪術規定にのっとれば虎杖は処刑対象です。でも、死なせたくありません」

 

 「…私情?」

 

 「私情です。彼女も受け入れるのですからなんとかしてください」

 

 「かわいい生徒の頼みだ、任せなさい」

 

 五条悟は親指を立て伏黒恵にビシッと決める。

 

◆◆◆

 

 結果から言うと虎杖くんは死刑であるが執行猶予が付いた。

 気絶している虎杖くんを五条さん…五条先生が何処へやら運び、そこで虎杖くんが宿儺の器であるかどうかと今後についての話をしたそうだ。

 

 ところ変わり私はというと両親が存命なので転校することとその手続きを済ませ荷造りを纏めた。

 両親には高専関係者から前もって聞かされていたこともあり、すんなりと了承された。

 流石に私たちを一人で行かせたくないらしく五条先生も同伴で高専へと向かうようで、駅で待ち合わせをしていると何やら土産袋を片手に五条先生と虎杖くんが近づいてきた。

 

 「いやーごめんごめん、待った?」

 

 普段のお狐様ならお土産の購入で集合時間に7〜8分遅れた五条先生に少なからず苛立ちを覚えていたところだが、むしろ上機嫌であった。

 私たちが気配でわかるような監視は無くそれでも試しにとここへ来る途中、裏路地に髪が綺麗だった若い女性を連れ込み生き肝を頂戴してみた。

 唇と唇をくっつけてキスのようにしてポンプのように肝を吸いこむ、蛇の丸呑みのように胃に到達するまでの喉は一部膨れ上がり味わうことはせずゴキュゴキュと小気味良い音を奏でながら嚥下する。

 生き肝を吸い出された女性はガクガクと痙攣した後、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。

 

 私やお狐様曰く、半妖なので普段の人間の食事だけでも問題ないがこの行為事態、人間でいうところの酒やタバコなどの嗜好品と同じような扱いなのでやはり定期的に味わいたいとのこと。私自身もお狐様と同じ感覚なのでむしろ好きなことではあったが、もしバレた時に現代では動きにくくなると懸念して夜やこういった女性が1人でいたところを狙うなどしていた。

 道行く女性を襲ってみたがその事に気づいていない様子なのでお狐様はご満悦である。

 

 『フフ…いや、待っておらぬぞ』

 

 「そう、じゃあ出発だね」

 

 新幹線で2時間弱かけて東京にある東京都立呪術高等専門学校、通称高専へと着くと、そこは東京都は名ばかりの山に囲まれた辺鄙なところに校舎はあった。

 

 「とりあえず、悠二と妖子はこれから学長と面談ね」

 

 「学長…」

 

 「下手打つと入学拒否られるから2人とも気張ってね」

 

 虎杖くんは入学できなかった時のことについて騒いでいるが、流石にそんなことはないだろうと思っていると虎杖くんの頬にぐぱっと口が開く。

 

 「なんだ貴様が頭ではないのか…力以外の序列はつまらんな」

 

 虎杖くんは自身の口の開いた頬に向かって平手打ちをするが平手打ちした手の甲に同じように口が出来上がる。

 

 「貴様と、そこの女には借りがあるからな…小僧の体をモノにしたら、真っ先に殺してやる」

 

 『返せぬ借りを易々と作るものではないぞ…昨晩もその少年と無理に変わり自由が利いておらぬではないか』

 

 お狐様は宿儺の図星を付いたのか、本当に自由が利かないのか分からないけどそれから宿儺が口を開くことはなく目的地へと着いた。

 

◆◆◆

 

 『のう、このぬいぐるみ妾にくれぬか?』

 

 「お狐様も()()ですからこういうの結構好きですよね」

 

 私達は高専の学長[夜蛾正道]先生の面談を虎杖くんの後に終えたばかりである。

 お狐様の条件通り学長にも私達のことは多重人格で人格がコロコロ変わるが普通の人という認識であり、虎杖くん同様入学の面談の「何しに来た」の問いかけに対してもお狐様の『退屈は心を蝕む、故に妾は退屈をなくす為ここに来た』という一声で合格であった。

 

 羽衣狐様はつぶらな瞳のイモムシのような形をしたぬいぐるみを両手で抱き抱え、夜蛾学長に目で訴えかけながら見据えている。

 

 「なに?…お前もこの良さがわかるか」

 

 『むしろこのかわいさがわからぬ者は感性が死んでおる』

 

 「フッ、ならばお前にやろう入学祝いだ」

 

 片やサングラスをかけ目元を隠し、片や常にハイライトが消えた瞳ではあったがお互い嬉しそうにしているのが見て取れる。

 お狐様はいつもは高貴に振る舞っているけど、こういう可愛いところがあるのはギャップがあって大変和む。

 

 案内された部屋は女性寮であり、人数が少ないと聞いていたがちゃんと男女別の寮があるのは関心である。

 

 1人の時間となり、監視盗聴類の細工がないことを確認するとそういえばと、感じていた疑問をお狐様に問いかける。

 

 「お狐様はよく人間と共に行動することを選びましたね」

 

 『なに、妾とて悪鬼羅刹ではないからのう、元より野心も野望もないのじゃからその時の出会いを大切にしたいだけじゃ』

 

 「そうなんですね、ところで本音は?」

 

 『ここにいれば昨晩のような情報も入りやすいじゃろうから余興に困ることは無いからのう…ああ、それとこのような機関なら現場で原因不明の女性の犠牲者が1人増えたところで誤差として処理されるところじゃのう』

 

 欲望に忠実なのは素直で可愛いと思うのでした。

 

 




 お疲れ様です。お読みいただきありがとうございます!
 うまく羽衣狐様を動かせず、キャラ崩壊を起こしてしまう事に対して懸念しておりましたが思えば公式のコミックに載っている4コマ漫画で、羽衣狐さまはすごいキャラ崩壊をしているので…うん、大丈夫かもしれない!と開き直る残念な作者ですのでどうか許してくださいなんでもし(ry
 ご意見ご感想共々随時募集しておりますのでよろしくお願いいたします。


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妾はレアじゃ-参話-

 呪術廻戦の単行本を実物で揃えたかったのですが、どこにも売っていなかったので諦めて電子書籍で揃えたので初見です。
 今回は短いですがキリも良く次に繋げるためこのような文章量となってしまいました。申し訳ありません許してください
 それとできれば毎週この時間に投稿できたらいいなと思っています。(多分絵空事なので不定期更新のタグが外れる事はないです)


 人が多く雑音は鳴り止まず、並び立つ雑居ビルは殺風景で全て同じに見え(おもむき)をまるで感じない

 お狐様から聞いた京の都は最も美しく住みよい街らしく、こことは雲泥の差で昔聞いたその言葉を今の私には魅力的に感じる。

 私も京都に行ってみたいがあいにく行ける機会に恵まれなく、何故かお狐様も自ら行こうとはしなかった。

 

 呪術高専に入学した後日

 今日私達が会うクラスメイトが指定した集合場所は原宿である。

 多すぎる人とパトカーのサイレンを主体とした耳を覆いたくなる騒音で既に自室へと帰りたいと思っているが、帰りたくとも新しく加わるクラスメイトに会わないと帰れないためここで待っている。

 こんな街を集合場所としてわざわざ指定してくるのは余程の物好きなのだろう

 

 「妖子大丈夫?顔色悪いけどもしかして人混みに酔っちゃった?」

 

 「ええ、ちょっと…」

 

 「おー、ここは俺たちが待ってるから無理すんなよ」

 

 今は五条先生と虎杖くん(伏黒くんも頷きながら)の心配で、人の出入りが少ない路地で休憩している。

 思えば生まれた時からご一緒であったお狐様と家族以外の人物とまともに話したことがなかったなぁ

 

 『どうじゃ、少しは休められたかのぅ』

 

 「すみません。お見苦しいところを晒してしまいました。」

 

 『ふふ…別に構わぬ、精神の疲弊はどうにもならぬのじゃからそう気負(いお)うでない』

 

 ああ、ほんと優しい

 親友よりも近く家族よりも親しい、私だけど私じゃないそれが羽衣狐様

 でもこの優しさにばかり頼ってはダメだと思い、まだ頭痛がするけど多少マシになりいつも手に持ち歩いているスクールカバンを拾う

 なかなか人が通らない路地を探すのも大変で待ち合わせ場所から離れて戻るまで多少歩くが、最初ほど人混みも鬱陶しくなくなっていた。

 

 「あのーちょっといいですかー」

 

 もう少しで待ち合わせ場所に到着すると思っていた矢先、背後から声がかかる。

 自分こういうものですがと、どこかの芸能プロダクションの名刺を渡されながら「今お時間いいですか」や「モデルに興味ないですか」などテレビのシーンでよくあるいわゆる事務所の勧誘である。

 人混みで疲弊しているタイミングを狙ったわけではなく、偶然ではあろうがちょっとやめてほしい…

 スカウトマンもそれが仕事なので致し方ないのは理解しているが、瞳に元気がない(元々目のハイライトはない)人物に勧誘したところで煙たがられるだけだろうことを理解してもらいたい

 

 気分が乗らないと断ってはいるがなかなかしつこい

 歩きながら他の断り文句を考えていたところ、スカウトマンのさらに背後から腕が伸びてくるのが見えた。

 その華奢な腕はスカウトマンの男の肩を鷲掴みしており、放す気がなさそうに見える。

 あとスーツのシワがものすごいことになっている。

 

 「ちょっとアンタ、私は?」

 

 見たところ同い年に見えるがワタシハ?…スカウトマンにスカウトされるのはわかるし現に私がその対象であるが、自ら売り込みに行くのは知らない行動であった。

 いや…単に私の知識不足なのかもしれない、内気な女性より上へ上へと登ろうとする好奇心ある女性の方が芸能業界では好まれるのかもしれない

 あ、でもスカウトマンが歯切りの悪い返答を残してどこへやらと消えたからやっぱり私の知らない行動であったのだろう

 

 よく見るとその女性は呪術高専の制服を着ていた。学ランをヘソの部分で切ったような制服で、古風ではあるがお洒落にも感じる。

 つまるところ彼女が私達が待っていたクラスメイトなのだろう

 

 「おーい、コッチコッチ」

 

 道を挟んだところに五条先生が見えこちらを呼んでいる。スカウトマンから離れようとした結果集合場所まで来ていたようだ

 

◆◆◆

 

 大通りを外れた裏路地、人が滅多に通らないようなところに移動して自己紹介の時間である。

 

 「[釘崎 野薔薇(くぎさき のばら)]、喜べ男子両手に花よ」

 

 新たに加わったクラスメイト、釘崎ちゃんは見るからに気が強そうだ。

 

 「俺、虎杖悠二、仙台から」

 

 「伏黒恵」

 

 「私羽衣妖子、よろしくね釘崎ちゃん」

 

 目のハイライトが消えた見た目と高貴な顔立ちからは想像しづらい明るめな声色で自己紹介をする。

 第一印象が肝心なのは十分に理解している。お狐様に合わせて上品な雰囲気を出した方が見た目とマッチしていることは重々承知だが、第一印象でフレンドリーな印象を与えておいた方が友人間は上手くいくとどこかの本で見たことがあったので実践している。

 ちなみに伏黒くんとは初対面が()()だったので若干の壁を感じます。

 

 釘崎ちゃんは虎杖くんと伏黒くんの2人を見定めるように目を細めて交互に見ていたが数刻後、興味が失せたように見るからに残念そうにしていた。

 残るはあなたと言わんばかりにこちらに近づき私の両手を取る。

 

 「話は聞いているわ妖子ちゃん…二重人格で辛い思いをしていたのね。でも大丈夫、私達はもう友達よ」

 

 ごめんなさい会う前は余程の物好きとか、会った瞬間はちょっと気が強そうと思っちゃいました。すごくいい子です。

 

 『フフ…妖子とは仲良くのぅ』

 

 「あなたが妖子ちゃんからお狐様って呼ばれている人格ね。あなたもヨロシク」

 

 お狐様からも好印象のようでこの子とはうまくやって行けられそうです。

 

 「これからどっか行くんですか?」

 

 伏黒くんが五条先生に集まった一年メンバーでどこかに行くか聞いている。

 大方懇親会だとは思うが確かに場所は気になる。静かなところがいいが、せっかく久々(もしかしたら初めて)の団体行動なので出来れば周りに合わせたいところである。

 

 「フッフッフ…せっかく一年が4人揃ったんだ、しかもその内3人はお上りさんときてる。行くでしょ…東京グルメ観光」

 

 グルメ…観光…

 私を含め虎杖くんと野薔薇ちゃんの顔が晴れ上がり、伏黒くんもまんざらではない様子である。

 

 「ザギンでシースー!先生の奢りなんだから高い店よ!」

 

 「バッカ流石に4人だったら困るだろ!ビフテキにしようよ先生‼︎」

 

 『妾もステーキがよいのぅ、水分の少ないレアじゃ』

 

 お狐様がいうと別の方に聞こえてしまう、ただ私も焼くならレア派なので同意見である。

 出会ったばかりの人もいるのに、既にこのメンバーで馴染みつつあるのはお狐様の1000年モノのコミュニケーション能力のなせる技なのかもしれない

 

 「それでは行き先を発表します………六本木」

 

 溜めて言い放たれた場所は正直言われてもピンと来ていないが、虎杖くんと野薔薇ちゃんが目をキラつかせているのできっと美味しいものが食べれるところなのだろう

 

◆◆◆

 

 着いたのは廃ビルの前、原宿から徒歩で行けれる距離であった。

 この廃ビルが意味するものとはつまりおあずけ、五条先生曰く実地試験のようなものらしい

 試験なので実力を測るため私達と伏黒くんはお留守番

 虎杖くんと野薔薇ちゃんが(あやかし)(たぐい)の住まう廃ビルに向かうとのことだが、事情の知らない野薔薇ちゃんは当然ながら私達について疑問を持っていた。

 

 「あれ?妖子ちゃんはいいの先生?」

 

 「ん?…まぁ彼女らの実力は知っているから今回はいいんだよ」

 

 まぁ、私たちが一緒に行ったら2人の試験にならないから仕方がないよね。実際に戦闘場面を見ていないから納得しづらい様子ではあるけど

 ちなみに虎杖くんは呪力の操作ができないらしく、呪具と呼ばれる呪力が付与された短剣をもらっていた。

 虎杖くんの中にいる宿儺はお狐様ほど人間と友好的でないので虎杖くんと一緒に協力というのも無理なのだろう。体の中でいがみ合っている光景を想像するだけで羽衣狐様が私に転生してきてくださってよかったと改めて思う

 

 「呪具[屠坐魔(とざま)]呪力の籠った武器さ、これなら呪いにも効く」

 

 『フム…見たところ妖刀の類ではないのぅ』

 

 「まぁ妖刀ほど上質なものじゃないね。特級呪物のしかも妖刀と認可されたものなんてすごく高いし、数える程度しか存在しないからね」

 

 お狐様から聞いた話では妖刀は強さの上下はあれど、結構な頻度で見ていたそうなので興味があったけど数が少ないらしいので私は見れそうにないです。

 

 野薔薇ちゃん達が廃ビルに向かいしばらくすると五条先生からそういえばと前置きがあり質問がきた。

 

 「妖子はさ、本当に呪力も術式も知らなかったんだよね。それなのにどっちも扱えてるってどういう仕組み?」

 

 『なに簡単な話じゃ、妾が()()()()()()()似通ったものを知っておった。ただそれだけの事じゃのぅ』

 

 「‼︎…へぇ、なるほどね」

 

 伏黒くんは何の話をしているんだと言わんばかりに、頭の上にハテナを作っていた。

 五条先生も何やら考え込んでいるが実際文字通りだから深い意味もないんだけどね

 

 2人が廃ビルに向かい10分くらいが経過したであろう時、4階あたりから妖怪が出てきた。いや…お狐様曰くこの世界の妖怪は言語能力もなくコミュニケーションの取れない獣ばかりで、知性のない獣を五条先生からの知識でお狐様も()()と呼んでいた。

 その呪霊が廃ビルの壁を通り抜けて空に現れたと思うといきなり苦しみだし、その身を焼かれていった。

 五条先生曰く野薔薇ちゃんの術式らしい

 

 「お疲れサマンサー‼︎子供は送り届けたよー、今度こそ飯行こうか」

 

 廃墟のビルにいた呪霊は全て祓われ廃ビルに迷い込んでいた子供も居たので五条先生が交番に送り届けていたが、流石に一人で廃墟で遊んでいたわけでもないだろうし他に友達がいたけど呪霊に殺されたのだろうことが予想できる。トラウマにならないといいけど…無理だろうなぁ

 

 「シースー‼︎」

 

 「ビフテキ‼︎」

 

 野薔薇ちゃんと虎杖くんがご飯の行き先で意見が割れたけど、私達はステーキが食べたいから多数決でステーキになるね。ごめんね野薔薇ちゃん

 

◆◆◆

 

 記録ー2018年7月

 西東京市 英集少年院 運動場上空

 特級仮想怨霊(名称未定)

 その呪胎を非術師数名の目視で確認

 緊急事態のため高専一年生4名が派遣され

 

 無事それを撃破




 お疲れさまです。お読みいただきありがとうございました。
 次回大幅な原作改変ポイントです。
 今更ですがアンケートの文章がなんとなくおかしい気がしますがニュアンス的に分かっていただけてるようで嬉しかったりします。
 (アンケートの文章、後から変更できないの初めて知りました…)


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ただの獣じゃ-肆話-

 キャラメル味のアイスは、ハズレが比較的ないことを知ったので初見です
 まさかお気に入りの数が500を超えるとは当初思ってもみませんでした…読者の皆様方には本当に感謝を申し上げます!

 毎回の誤字報告大変痛み入ります!
 無知な私は大変勉強になります


 しとしとと雨が降る

 傘を必要としないだけマシだが夏に差し掛かっているため雨は(ぬる)く、蒸れたセーラー服は肌に引っ付き気分を落ち込ませる

 ただ…今は雨のせいだけではなく、この場全体の空気は重く曇っていた。

 

 「我々の窓が呪胎を確認したのが3時間前、避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を閉鎖。受刑在院者第二宿舎、5名の在院者が現在もそこに呪胎と共に取り残されており呪胎が変態を遂げるタイプの場合()()に相当する呪霊に成ると予想されます」

 

 今日行う任務について説明をするのは高専所属の補助監督[伊地知 潔高(いじち きよたか)]さん

 今までいくつか実地試験と題して任務をしてきて、そのどれもに五条先生が居たが今回はその代わりとしてこの伊地知さんが監督として来ている。ちなみに今回五条先生は出張らしい

 

 伏黒くんと野薔薇ちゃんは伊地知さんが言った特級という単語に露骨な反応をしていたが虎杖くんは反応が鈍かった

 

 「なぁなぁ、俺特級とかまだイマイチ分かってねぇんだけど」

 

 実際私も強さという点ではピンと来ておらず、少なくともお狐様ほど強くはないだろうという考えである

 なんとなくという塩梅でしか分かっておらず、わざわざ聞くほどでもないと思っている内容であったが虎杖くんが先んじて質問してくれたので正直助かった

 ただ野薔薇ちゃんは「そんなことも知らないのか」という目で虎杖くんを見ていた…私も知らなかったよ

 

 バカでも分かるようにと簡単な一覧表を伊地知さんが用意してくれた。

 ・特級

  クラスター弾での絨毯爆撃でトントン

 ・1級(準1級)

  戦車でも心細い

 ・2級(準2級)

  散弾銃でギリ

 ・3級

  拳銃があれば安心

 ・4級

  木製バットで余裕

 

 通常兵器が呪霊に通用するという前提の話だが、正直お狐様がクラスター弾の絨毯爆撃で倒される想像はできない

 この表はあくまで目安で、特級の中でも上下の強さがあるのは明白であった。

 

 「本来呪霊と同等級の術師が任務に当たるんだ、今日の場合だと五条先生とかな」

 

 『そうか…あの男その特級であったのか、それならあの男の技他にも見たかったのぅ』

 

 「え?妖子ちゃん五条先生が戦ってるところ見たことあるの」

 

 『フフ…すぐ近くで見ておったぞ、あそこはまさに特等席じゃのぅ』

 

 野薔薇ちゃんは「へぇ」と関心したようにしていたが、なにも間違ってないね。実際に対峙してその技を食らってるけど

 伏黒くんがすごく気まずそうにしているけど

 

 「あれ?そういえば私たちって何級なの?」

 

 気を紛らわすために、少し距離が近づきつつあった伏黒くんに聞いてみる

 お狐様が特級だとしても、少し力のある普通の人間として報告されているから実際私たちはどこに位置づけられているのか知らなかった

 

 「え…五条先生から聞いてないんですか?」

 

 『聞いておらんのぅ』

 

 うん聞いてないね、こういうのって入学した当初に聞かされるものじゃないのかな?もう既に2週間は経ってるはずだけど

 それとまだ私たちとの距離感がわからないのかいつものように伏黒くんは敬語を使っている。2週間は経ってるはずだけど…

 

 「俺は4級って聞かされてたんですけど、はぁ…またあの人その辺適当にしてたな」

 

 へぇ、私たちは4級に位置付けられていたのか

 まぁ、呪術師って家系とか才能が直結しているらしいから一般家庭から出てきた私たちなら一番下の4級が怪しまれないのか

 

 『フフ…一番下とは何年(いつ)ぶりかのぅ、よい余興じゃ』

 

 お狐様の何年ぶりって重みが違うなぁ

 

 その場の緊張感が軽くなり、おしゃべりが多くなってきた頃まだ説明の途中であることを知らせるように伊地知さんが咳払いを一つして注目を集める

 

 「この業界は人手不足が常、身に余る任務を請け負うことは多々あります。ただ今回は異常事態です…絶対に戦わないこと、特級と会敵した時の選択肢は()()()()()かです。自分の恐怖には素直に従ってください、君たちの任務はあくまで生存者の確認と救出であることを忘れずに」

 

 改めて今回の任務の内容を知らせる伊地知さん

 まるでその特級に会うことが()()()()()()風な言い回しに感じるが、気のせいなのだろうか

 

 『フ…よいではないか、未知との遭遇…考えただけでも胸が躍るようじゃ』

 

 特級との遭遇という最悪のもしもを考えていたであろう虎杖くん、伏黒くん、野薔薇ちゃんだが最悪の事態を想定した上で、その出来事をあまつさえ「楽しむ」と豪語するお狐様はとても頼もしく見えるかもしれない

 もっとも戦闘場面をこのメンバーであれば伏黒くん以外に見せていないし(虎杖くんは[宿儺]と変わったので戦闘自体は知らない)、なんだかんだと理由をつけて今まで動くこと自体五条先生に止められていた現状虎の威を借る()とも見て取れる

 

 「あの、あの‼︎(ただし)は息子は大丈夫なんでしょうか」

 

 施設の入り口付近で任務の説明を受け終わったであろう時、立ち入り禁止のテープから身を乗り出す勢いで受刑者の親族から声をかけられる

 伊地知さんは呪霊の被害に遭ったなどという一般向けでない返答ではなく、毒物が施設内へ撒かれたと伝えるとその親族は息子の安否を気にして泣き崩れてしまっている

 母親が息子のことを想う、この光景を見た時私は言葉にできない悲愴感に囚われる。

 もちろんこの歳で子供を産んだことがある訳がないし、母親が子供のことを想う気持ちも理解できるがまるで他人事ではないような自分が体験したことがあるような心臓の奥が締め付けられる想いになる。

 恐らく…いや確実にこの気持ちはお狐様の感情なのだろう

 1000年以上生きてきた人だ、その中で息子との別れなんて幾多もの経験があるのだろうことがその感情の一端が流れ込み伝わる

 

 「伏黒、羽衣、釘崎…助けるぞ」

 

 「「当然」」

 

 野薔薇ちゃんと私は力強くしっかり前を見据えて応える。だが不思議と伏黒くんは乗り気がないとは言えないまでも、モチベーションは低く見えた

 

 生存者が取り残されている宿舎の前まで行くと

 「(とばり)を下ろします。お気をつけて…」

 

 -闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え-

 

 伊地知さんが帳と呼ばれるものを張ると施設を中心として、黒いカーテンのような結界が展開される。

 

 「夜になってく〜」

 

 『ほう、空を覆う天蓋(てんがい)とは洒落ておるのぅ』

 

 「()、今回は住宅地が近いからな、外から俺たちを隠す結界だ」

 

 伏黒くん曰くこの帳というものは様々な効果があるが今回の場合、隠蔽性のある帳とのこと。さながら遮光カーテンである

 

 

 取り残された人がいる宿舎に突入する前、伏黒くんは[玉犬]という式神を影から出す

 

 「呪いが近づいたらこいつが教えてくれる」

 

 白いもふもふとした毛並みのオオカミに見える[玉犬]という式神はどうやら索敵に秀でているらしい

 すごく愛くるしいけどお狐様の尻尾の方が毛並みがきれいだから私たちの勝ちですね

 

 『ん?なんじゃ妾に気があるのか』

 

 玉犬はこちらに近づき耳をぴょこぴょこさせ、見るからに人懐っこく頭部をなすりつける

 お狐様も狐で見た目は同じイヌ科だからだろうか[玉犬]は私たちに寄り添い尻尾を振っている

 

 『フフ…かわいいやつじゃのう、くるしゅうないぞ』

 

 お狐様もまんざらではないようで、[玉犬]の頭を撫でているが虎杖くんと野薔薇ちゃんが羨ましそうにこちらを見ている

 

 「いいな〜すげぇ懐いてるじゃん」

 

 よほど羨ましかったのか虎杖くんもわしゃわしゃと[玉犬]の首元を撫でると嬉しそうにしているが、お狐様ほど懐かれていないようである

 

 「おい、そろそろ行くぞ」

 

 伏黒くんは五月蝿いなどの悪態をつけるかと思ったが反応は意外とドライである。思うに自身の手に余る任務と理解してからなのか緊張から構う暇がないのだろう

 伏黒くんの言葉を皮切りに私達は生存者の待つ宿舎へと入っていく

 

 

 一瞬視界が暗点したかと思うと目の前に広がるのは空も見えぬスチームパンクな蒸気ダクトやボイラーが群れをなす世界。あえて世界と表現したのはなまじ2階建ての宿舎に見えない作りになっており、縦横(たてよこ)それぞれが広大で別の世界と表現した方がしっくりくるほどである

 

 「扉は⁉︎」

 

 伏黒くんが私達が入ってきた扉に振り返り、つられて私達も振り返るがそこにはダクトで敷き詰められた壁が羅列していた

 入ってきた扉がないこの異常事態に虎杖くんと野薔薇ちゃんはもう踊るしかないと言わんばかりに慌てているが、伏黒くんの式神[玉犬]が出入り口の匂いを覚えているとのこと。イヌ科はやはり優秀ですね

 

 『自分の世界に招待するとは、ここの主人(あるじ)も粋な計らいをするでないか。のう、伏黒』

 

 「ここがどういった場所か…あなたはわかるようですね」

 

 『当然じゃろう…さぁ、ここの主人にアポイントはとっておらぬが妾が来たのじゃ、もてなしてもらおうかのぅ』

 

 お狐様は軽口を交えながら裏路地のように出来上がっている一本道を進む

 尚、お狐様の軽口に反応した虎杖くんの「みんなを助けるぞ」の意気込みに気を落とす伏黒くんであった

 

 人間2人が横に並ぶほどしかなかった一本道をしばらく進むと、中学校のプールを思い出させるかなり広い空間へと抜ける

 下まで伸びた梯子を降りるが、その長さは2m(メートル)を超えていそうであることから何かの実験施設の浴槽と言っても納得できそうなまでである。

 

 「(むご)い」

 

 虎杖くんが何かを発見したのを確認し、近づくと取り残された受刑者5名のうち3名の遺体を発見した。上半身のみが残った死体と残りの2人はヒトの原型をとどめておらず無惨な光景が広がる

 

 「この遺体は持って帰る、あの人の子供だ。顔はそんなにやられていない、遺体もなしで"死にました"じゃ納得できねぇだろ」

 

 この虎杖くんの言葉を皮切りに、虎杖くんと伏黒くんの言い争いが始まってしまった。片や死体を持って帰りたい虎杖くん、片やそもそも助ける気のなかった伏黒くんとその問答を離れて見守る構図である

 

 『死体を持って帰りたい意見には妾も賛成じゃ、だが問題を片付けた後の方がよいのぅ。それと伏黒、式神を下がらせたほうがよいぞ』

 

 「は?」と伏黒くんが反抗的な聞き返しをした瞬間、[玉犬]がいなくなっていることに伏黒くんは気づき辺りを見ると壁から首だけを出して死に体となった[玉犬]がいることを確認する。尻尾を使えば間に合っていただけにあのもふもふは若干悔やまれる

 

◆◆◆

 

 [玉犬]が周りを離れて死体になっていたことから羽衣狐を除く3人の警戒レベルが上がる

 ぴちょんと水滴がどこかから落ちた音が聞こえた次の瞬間、音もなくぎょろぎょろとした4つはあるであろう目を近づけた呪霊と接敵する。その距離、虎杖と伏黒を挟んでの半歩ほど離れた位置である

 

 『ほれ、戦場(いくさば)(ほう)けておる余裕などないぞ』

 

 羽衣狐はいつも持っているスクール鞄から鉄扇を取り出しそれを広げて()()()させると呪霊と虎杖達の間に鉄扇を割り込み、開いた部分で叩き飛ばすと呪霊は抵抗する暇もなく壁に衝突し土煙を派手に上げる

 

 『これは妾が"平家にいた頃(むかし)"から持っておるもの、[二尾の鉄扇]…他人を守るために使うことがあろうとは"晴明に執着していた頃(むかし)"からは考えられなかったのぅ』

 

 鉄扇が巨大化したかと思うと普通のサイズに戻り、それを口元を隠すように羽衣狐は構える

 

 『…未知の体験に胸を膨らませておったのじゃが、所詮はただの獣じゃな』

 

 




 お疲れ様です
 少年院の特級呪霊が終わるところまで書くつもりだったのですが、月末の忙しさゆえ羽衣狐様を綺麗に魅せれたと思った辺りで区切らせていただきました。本当に申し訳ないです…
 最後の捨て台詞別の方が言ったら確実に死亡フラグですよね…

 ところでぬら孫見返して気がついたのですが京都辺りの話大体10年くらい前なんですね………この話はやめておこう


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何の因果かのぅ-伍話-

 最近フィットボクシングを始めたので初見です
 前回お気に入り数500に驚いておりましたが現時点で800を超え、あろうことか総合評価も4桁台を突破しており恐悦至極でございます。いやもうめちゃくちゃ嬉しくてニヤニヤが止まりません。本当にありがとうございます!これからも何卒よろしくお願いいたします!

 そして毎度ながら誤字報告助かっております。ありがとう…ありがとう…(藤岡弘並感)


 何が起こった?…混乱した頭で弾き出されたのは疑問である

 突如として現れた特級に相当する呪霊、二級呪術師である自分が敵うわけがない相手

 その呪霊を羽衣の術式であろう巨大化した鉄扇で叩き飛ばす。目を開けづらくなるほどの風圧で髪は大きく揺れ呪霊は土煙を立てながら壁に激突する。当の本人は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の状態で

 反して自分は肌も触れ合いそうな位置にいながら圧迫感から身動きひとつ出来ず、額から脂汗を流すしか出来ずにいた

 

 『…未知の体験に胸を膨らませておったが、所詮ただの獣じゃのぅ』

 

 ただの獣?

 呪霊の頂点に位置する特級相手にただの獣だと⁉︎…宿儺や五条先生を軽くいなしていたことから尋常ではない強さであることは理解していたがここまで次元の違う人物。全くもって敵でないことを幸と思うか、このような存在が自分の近くにいることを不幸と思うか

 ただ今回に至っては羽衣が近くにいなければ、それこそ俺たちでは命の危機であることを考えると幸運であったことを認めるしかないだろう

 

 『ふむ…ただ吹き飛ばしたつもりだったのじゃが、四肢が千切れかかっておるではないか』

 

 巨大化した鉄扇をまるで物理法則を無視したように軽く振るう圧倒的なまでの膂力をもってしたら、その衝撃で手足が千切れるのは当然のことのように感じるが完全に千切れていないのは特級故だろう

 

 「妖子ちゃん…ちょっと!めちゃくちゃ強いじゃない!」

 

 「すげぇよ羽衣!」

 

 『ふふ…可愛い奴らじゃのう、じゃが敵から目を逸らすのはご法度じゃ、まずはそこから教えんとのぅ』

 

 羽衣から目を逸らすなと言われた虎杖と釘崎はハッとした顔をした後、壁にめり込みまだぐったりしている特級呪霊に向き直る

 

 よろよろと立ち上がる特級呪霊、千切れかかっていた手足は断面から泡のように皮膚がせり出て何事もなかったように顔に笑みを浮かべ口を吊り上げる。「この程度か」とでも言いたげに特級呪霊は威圧的にこちらを嘲笑(あざわら)

 

 『力の差もわからぬような下卑(げび)た獣など死んでよいが…せっかくじゃ、釘崎、伏黒、虎杖、おぬしらであれを殺してみせよ』

 

 「「「は?」」」

 

 『心配せずともただの余興じゃ、危ういなら妾が手を貸してやる。だが…今後あやつのような存在に出会っても、無力にただ逃げるだけなんかえ?』

 

 言ってることは無茶苦茶だ。特級呪霊なんて対峙するものでもないし、それこそ交通事故に遭うようなものである

 

 「俺は…やるぜ、伏黒、釘崎」

 

 「バカじゃないの!?特級よ特級」

 

 「じゃあなんだよ、釘崎は羽衣だけ戦わせてそれでいいってのかよ」

 

 ただ、虎杖の言っていることは一理ある

 今後[宿儺の指]を回収することを考えれば特級と対峙することなんて一度や二度では済まないだろう

 今回は羽衣がいたからよかったものの特級と出会えば俺たち個人の力では全滅すら視野に入るほどだ

 レベルアップは必ずしなければいけない課題、その機会もしくは切っ掛けが今あるとなればやってみる価値は確かにある

 

 「俺も、やってみようと思う」

 

 「伏黒まで…あーもう!やってやるわよ!」

 

 『決まりじゃな、それ…開始じゃ』

 

 羽衣は俺たちが横に並んで構えている一歩引いた位置でパンッと手を叩き開始の合図をした

 特級には理解できない行動なのでこの合図は完全に俺たちに対してである

 

 先制攻撃として俺が選んだのは式神の一つ[大蛇(おろち)

 射程にも優れ、拘束させるという点は連携戦で有利が取れる

 大蛇が特級を下半身を呑み込むような形で噛みつき、身動きが取れなくなったのを確認してさらに畳み掛ける形で追加の式神を呼ぶ

 

 「(ぬえ)

 

 仮面をつけた大型の猛禽類(もうきんるい)のような姿をした式神である鵺、大きさは俺を持って飛べるほどであるから一般の猛禽類ではありえないデカさだ

 鵺はその体に帯電性を持ち、触れるだけで通常の術師であれば身体の痺れがしばらく取れないほど強力である

 こちらも連携戦として考えた時、味方のアシストとしても追い討ちとしても重宝する

 

 「虎杖、釘崎、特級はしばらく動けない、一気に攻めるぞ!」

 

 「よっし!こんなやつさっさと祓って親御さんに遺体届けるわよ」

 

 「おう、当然だ!」

 

◆◆◆

 

 「それにしてもすごい猛攻ですね。格上相手とは思えない押しっぷり」

 

 『ふふ…別に珍しくもないのぅ、あやつらは目の前の存在に(おそ)れておらん。妾たちとは違うただの人間が、じゃ。あの目は妾も()()()知っておる強い者の目じゃからな』

 

 "(おそ)れ"確かお狐様の話では妖怪同士の化かし合いで使う言葉、比喩のような意味合いも持ってたはず

 つまり強大な敵と対峙しても怖気付かなかったということか

 

 『それにしても鵺か…何の因果かのぅ』

 

 「お狐様はあの鵺をご存知なんですか?」

 

 『フフ…そうじゃのう、あえて言うならあの鵺は知らぬな』

 

 あの鵺ということは別の鵺は知っていると言うことか、あえて返答をぼかしたということはあまり言いたくないことかいまは関係がないことってことだから詮索するにしてもまた今度にしようかな

 

 

 

 特級は伏黒くんの式神だと思う大蛇を衝撃波のようなバリアを展開してその自身に噛みついた顎ごと消し去る

 それまで特級の拘束中に野薔薇ちゃんは金槌で釘を飛ばして刺さった腕の肉を抉るように吹き飛ばし、虎杖くんに至っては人間離れした身体能力で縦横無尽に動き呪具[屠坐魔(とざま)]で切りつけもう片方の腕も切り落としていた

 だが…それは拘束され電撃で痺れて身動きのできない相手であったが故の戦果であり、拘束を解き身軽となった状態では話が別である

 それならまた同じように拘束すれば良いと考えられるかもしれないが、繰り返し大蛇を使っていない点から見て一度破壊された式神は再度使用は不可能となってしまうのだろう

 既に野薔薇ちゃんと虎杖くんが落とした特級の両腕は、断面から新たに腕が生えた形となって再生している

 

 先程まで攻勢であったが途端劣勢に…いや、特級側は腕の再生を行いエネルギーを使っているから五分かやっぱり伏黒くんの式神一体分の劣勢のように見て思う

 

 「小僧、俺に代われ、あんな虫ケラすぐに終わらせられるぞ」

 

 久々に虎杖くんの頬に口が現れ、宿儺が口を開く

 一応危なくなった時、すぐに助けれるよう近くで観戦していたから左頬に出来た口がよく見える

 

 「嫌だよ、それだと俺が強くなれねぇし、お前に代わったらどうせ羽衣を襲うだろ」

 

 「当然だろう、あの生意気な女狐(めぎつね)はそこの虫ケラを片付けた後すぐ殺す」

 

 うわぁ…殺すっておっかないですね

 前に気絶させたのまだ根に持ってるんですかね

 

 「お前には代わんねぇ、そこで大人しく見とけ」

 

 「虚勢を張るのは構わんが、いいのか?このままではお前死ぬぞ」

 

 ニヤァと口角を吊り上げたい理由は、宿儺との会話に気を逸らしてしまった虎杖くんに向かって放たれようとしていた特級の攻撃。野薔薇ちゃんと伏黒くんが虎杖くんに声をかける間もなくその右ストレートが虎杖くんを襲おうとしていた

 

 『まったく…敵から目を逸らすなとさっき教えたはずじゃが、おぬしには本格的な教育が必要なんかえ?』

 

 「すんません!羽衣様、勘弁してください!」

 

 お狐様は鉄扇で、特級の振り抜いた拳を虎杖くんの間に割って入り受け止める。並の呪具ならすぐに壊れてしまうような衝撃が伝わってくるが鉄扇もその拳を受け止める私たちも全くの無傷である

 

 「チッ…女狐如きが、余計なことをするでない」

 

 『フン…余計かどうかは妾が決めることじゃ、おぬしに言われる筋合いはないのぅ』

 

 お狐様が特級を受け止めている間、野薔薇ちゃんが切り落とした特級の腕を使い術式を行使するのが見える

 取り出した藁人形を切り落とした特級の腕に置き、釘を撃ち込むと受け止めている鉄扇が軽くなったことを感じる

 この時私たちは知らなかったがこの術は[芻霊呪法(すうれいじゅほう)共鳴(ともな)り]と言い、対象の欠損した一部に人形(ヒトガタ)を通して呪力を打ち込むことで対象本体にダメージを与える術式らしい

 ただ対象との実力差や欠損部位の希少価値によって効果が変わるようなので、この場合だと腕という希少価値はあっても特級との実力差が離れている為決定打とはいかない

 

 特級は見てわかるように苦悶の表情を浮かべ心臓部を押える。決定打にならなければ何度も打ち込めばいいという解決策のもと二度、三度と繰り返すがその(たび)に特級は苦しむ

 

 「決めるぞ!伏黒」

 

 「タイミング合わせろよ」

 

 その隙を見逃さなかった虎杖くんと伏黒くんは接近戦で勝負を決める。伏黒くんは呪力の籠った拳を、虎杖くんは[屠坐魔]を突き出す。二人のタイミングに合わせ四度目の釘を撃ち込む野薔薇ちゃん

 

 全ての攻撃が同時に通る…ぐったりと倒れ伏せ、蒸発するように特級呪霊は消え失せる

 幾たびの斬り付けに耐えきれなくなったようで、虎杖くんの手にあった[屠坐魔]は刀身にヒビが入り綺麗に砕け散る

 

 特級が消えたと同時に歪んでいた空間が元に戻り、辺りは通常通り学生寮のような見た目の通路へと戻っていた

 

 「…終わったな」

 

 「あー疲れたわ、今日はもう動きたくないわね」

 

 伏黒くんは先程の戦闘を噛みしめるように自分の手を見ながら俯き、野薔薇ちゃんは廊下の壁に肩を寄り添わせてぐったりとしている

 戦闘時間そのものは意外にも短く方がついたようにも思うがその短い中、命の危機に晒され集中状態を維持していたのだから精神の摩耗は想像以上だろう

 

 ただ虎杖くんも疲れているはずなのに遺体を探していた

 辺りを見るに展開されていた特級の領域ごと消えたと思うが「もしかしたら」と、一抹の希望を持って探していたけど発見したのは特級が取り込んでいた[宿儺の指]だけであった

 心残りを感じるなんとも言えない表情の後、帰りに自分であの親御さんに報告をすると意気込み切り替えている。前々から思っていたいたが虎杖くんの他人に対する思いやりは尋常ではないことを改めて気付かされた

 ちなみに虎杖くんが拾い上げようと手に取った[宿儺の指]は掌にできた口に吸い込まれていき、取り込まれた形となった。掌にもあの口出来るんですね

 

◆◆◆

 

 特級が発生して数日後、ビルの立ち並ぶスクランブル交差点に一人と三体の一向が街を歩く

 あえて三体と呼称したのは二重の意味で普通の人に見えない姿形(すがたかたち)をしているからだ

 

 肌の色は白を混ぜた青色の一つ目の異形、頭部は活火山よろしくグツグツと煮立っている

 

 「わざわざ貴重な指を1本使ってまで、確かめる必要があったかね…宿儺の実力」

 

 その異形の存在と会話をするのはどこかの寺の住職を思わせる風貌の青年。だが長い髪をオールバックで後ろに留め、針で縫った跡のある額を見せていた

 

 「中途半端な当て馬じゃダメだからね、それに予想外の収穫もあったさ」

 

 「フンッ、言い訳でないことを祈るぞ」

 

 人の行き交う駅付近から外れ、カフェテリアが立ち並ぶ落ち着きのある通りへと出る

 

 「情報ではこの辺りだったけど…あー居た居た。そこの店でお茶をしてる彼女がその予想外の収穫だよ」

 

 青年が指を刺す先には黒き髪と黒きまなこ、そして黒き(ころも)のごとく完全なる闇を体現した年端もいかない少女が店外の席に座っており、青年と異形の一行は少し離れ会話も聞こえないような位置にいる

 

 「あの女が、か?ただの学生に見えるが、それのどこが予想外なんだ」

 

 「彼女は恐らく仮想特級怨霊、"九尾の妖狐"その進化体が受肉した存在だよ」

 

 「恐らく?なんとも不確定な情報なのだな」

 

 情報自体は不明瞭でシコリを残した回答に苛立ちを覚える一つ目の異形

 

 「仕方がないよ、私の情報網でも彼女の存在は謎ばかりなんだ。彼女の経歴は宿儺が受肉したタイミングで高専関係者と関わる以前はどこにもめぼしい点がない。呪術師や呪いの関係が全くない一般家庭から生まれたと来れば尚更さ」

 

 「だから生まれたそのタイミングで既に受肉体だったのではないか、と言いたいわけだな」

 

 「話が早くて助かるよ」

 

 一つ目は青年の話に興味が出てきたと言わんばかりの表情を出す

 通常で考えても呪いが受肉する例は稀で、まず起こらない事態と考えるのが妥当である。だが、"宿儺の器"虎杖悠二の例もあり可能性そのものは存在するがそれは宿儺の指という特級呪物を前もって用意していたがための可能性である。では何の前触れもなくただの突然変異で、生まれたその瞬間から呪いの受肉体として生きてきた彼女はどうなるのか…その事象そのものが一つ目の興味を引き出す

 

 「それで、あの女は強いのか?予想外というのだから実力はあるのだろう?」

 

 「そうだね…あれは完全に両面宿儺クラスの化け物だと思っておいたほうがいいよ。君たちの目的ならこれほどの存在は他にいないんじゃないかな?」

 

 「それほどの存在には見えんが…それが本当なら仲間に引き込めるのならありがた…」

 

 一つ目が青年に対して返答している途中であったが、青年は最後まで聞いておらず少し歩いた先にいる(くだん)の黒ずくめの学生に声をかけていた

 その行動に一つ目は怒りの感情を見せ、頭部の活火山をグツグツと煮えたぎらせる




 お疲れ様でした
 宿儺ファンの方には喧嘩を売りっぱなしですね…でも今回に限っては虎杖、伏黒、釘崎の3人が揃って特級倒す熱い展開が欲しかったんです!ごめんなさい許してください


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世迷言のようじゃのぅ-陸話-

 フィットボクシングが4日しか保たなかったので初見です

 先週でお気に入り数800に驚いておりましたが現時点で4桁になっており驚きでいっぱいです。感謝をいくらしても足りないほど嬉しい気持ちです。ありがとうございます!今後とも何卒よろしくお願いいたします!
 


 

 駅のある大通りから少し離れ、人通りの減った場所にあるカフェで紅茶を啜る。立地から比較しても店内は賑わっており、そのまま過ごすにしては少し賑やかすぎるので外の通りに面したテラス席へと私たちは腰掛けていた。日中は日差しが強かったが夕刻になれば風が心地よく、温かい紅茶でも問題なく満喫できる

 

 特級討伐の功績で私を含めた一年生は1日の休みをもらいそれぞれ思い思いの場所で日々を過ごしていた。四人のうち二人は特訓、もう一人はショッピング、そして私たちはというとおしゃれなカフェで紅茶を嗜んでいた

 

 虎杖くんに至っては呪力の操作もまともに出来ないので出張から帰ってきた五条先生が付きっきりで指導を行う予定である。野薔薇ちゃんや伏黒くんと違い、技らしい技もないので当然と言えば当然ですね

 伏黒くんも式神が二体やられたので今後の調整のため高専で訓練中

 野薔薇ちゃんも特級相手との戦闘で課題が見つかったようで特訓はする予定だけど、着替え用のジャージなどを買いに行くついでにショッピングである。私も付き合っていたがお昼を過ぎたあたりで切り上げ、私たちは特にこれといった予定もないのでこうしてお茶をしている

 

 どうしてここまで3人は特訓に必死になっているのか…それには理由があり、特級との対峙が原因ではあるがそれとは別に京都姉妹校交流会というものを控えてる為でもある

 

 京都姉妹校交流会

 京都にあるもう1校の高専との交流会で普通なら2、3年生が主体のイベントらしい。だけど二年生の先輩方からの話では三年生が停学中で人手が足りないからと、人数合わせで一年生の私達に声がかかった

 六名の人選で交流会が行われるそうだが、二年生の先輩は三人で私達一年生は四人なので一人溢れるのだがお狐様が真っ先に観戦へと回ったので私たち以外の一年生は全員参加ということで特訓に明け暮れている

 

 それにしても、今思い返してみても二年生の先輩方はキャラの濃い人達であった。一人目は語彙がおにぎりの具材しかない狗巻 棘(いぬまき とげ)先輩と、二人目は比喩でもなんでもないパンダの見た目をしたパンダ先輩

 伏黒くんは先輩方をあらかじめ知ってて紹介してくれたけど、パンダ先輩の紹介が"パンダ"だけってのはやっぱり腑に落ちない

 三人目の禪院 真希(ぜんいん まき)先輩はメガネが似合う仕事のできるキャリアウーマンを彷彿とさせるクール系の先輩だが、狗巻先輩とパンダ先輩のことを考えると逆に浮いてしまう

 ちなみに二年生は合計四人いるらしく乙骨(おっこつ)先輩という人が居て、伏黒くん曰く唯一手放しで尊敬できる先輩らしいが今は海外にいるそうだ

 

 「()()()()、今ちょっと時間あるかな?」

 

 数日前の出来事を思い返すほど平和を謳歌していて、面倒なことが何も起こらなければいい休暇になる…と考えていた矢先、背後から声がかかる

 振り返ると、声をかけてきた人は一見するとお寺の住職の格好をしている青年。普通に考えるならナンパとも取れるが、ただ目の前の青年は普通とは見えないオーラ…と言うべきか雰囲気を感じる

 

 『おぬしは、フフ…なるほど。…良いぞ、後ろの者共も(ちこ)う寄らせよ』

 

 お狐様も何かを感じとったようで、いい余興(おもちゃ)を見つけたように上機嫌である。

 

 「助かるよ」と片手で礼をして答えた青年は店3つ分離れたところで固まっていた異形一向を手招きして呼び寄せる

 

 「まったく、(わし)を置いて話を進めるでない」

 

 最初に喋ったのは一つ目が特徴的な人物

 あえて人物と表現したのは意思疎通が問題なく行えるからであり、人の言葉を喋らないような呪霊ではなくお狐様から聞いたことのある妖怪と特徴が一致しているからである

 一つ目が喋った瞬間お狐様が口元を緩めたのは私でなくてもわかってしまうお狐様の驚きと歓喜の表現である。その点からもかなり嬉しそうで、同じように私も嬉しくなってしまう

 

 『ふふ…それで妾に話とは、なにかえ?』

 

 「率直に言おう、儂らの仲間にならぬか?」

 

 一つ目の妖怪が正面の席に座りながら勧誘してくる。後ろに居る一つ目の仲間らしき二人は待機しており、座る気配がないのであくまで代表は一つ目の彼なのだろう

 ちなみにお寺の住職の格好をした青年は、私たちのいる丸い机の右斜め前に座って話を聞いている

 

 『フム…妾の存在をどこかで知って、それでも妾を引き入れようとするその目的はなんじゃ?』

 

 「儂らの目的か…少し話そう。…人間は嘘でできている、表に出る正の感情や行動には必ず裏がある。だが負の感情、憎悪や殺意などは嘘偽りのない真実だ、そこから生まれ落ちた我々呪いこそ真に純粋な()()の"人間"なのだ…偽物は消えて然るべき。おぬしも受肉体ならこの意味わかるはずだろう」

 

 頭頂部にある山から、興奮のためか蒸気が漏れている。活火山のように溶岩がグツグツと煮立った音も聞こえるので噴火でもするのかもしれない

 

 『つまり…おぬしらは今の人間社会ではない、呪い優位の世界を作ろうと…そういうことじゃな?』

 

 お狐様は紅茶をスゥと飲みながら聞き返すと、一つ目は「そうだ」と自分の話を理解してくれていると笑みを浮かべながら前のめりになる

 

 『ホゥ…なんというか、世迷言(よまいごと)にも聞こえるのぅ』

 

 ピキリと空気に亀裂が入ったような音が幻聴として聞こえ、上機嫌に話していた目の前の一つ目の表情が固まり唖然としている

 そして手に持っていたティーカップを置き、追い討ちをかけるようにお狐様は言葉を続ける

 

 『おぬしらは間違っておるぞ。千年生きると、全ての移り変わりが見える。人のおろかさも…その在り方も。おぬしらの言うてることも理解できる…じゃが()は、"表"も"裏"もその感情をひっくるめて()なのじゃ。人の嘘は(ころも)…柔肌を守り、着飾るが衣そのものが人ではない、(まと)い方一つで良くも悪くも映ってしまうがのぅ。ただ…純粋なだけで満足した存在なんぞ()()()()()()()()()と変わりはせん…』

 

 一口ほど残っていた紅茶を残し、話は終わりだと表すようにスクール鞄を持ってお狐様は立ち上がる

 

 『妾の時間を取らせたのじゃ、ここの代金は払うてもらうぞ』

 

 歩を進めるたびにコツコツと靴が小気味よく鳴りながら立ち去り、先ほどいた店が見えなくなるまで離れたが後を追ってきていない様子である

 ちなみにお寺の住職の格好をした青年は肩を落としながらやれやれと呆れていた。あまり残念に思っていない様子で仕方がないという雰囲気を醸し出していたから、多分彼は予想できていたのだろう

 

◆◆◆

 

 「やはりあの女、どうにかして殺せんものか…」

 

 「無理だよ[漏瑚(じょうご)]、彼女をどうにかしたいのなら呪力を消耗させ弱らせた上で、獄門疆(ごくもんきょう)を使って封印するしかない。…私はオススメしないけどね」

 

 首都の街並みが遠くに見える山道。夜風を切りながら一人と一体は会話をしていた

 

 「その獄門疆も今から五条悟を殺して儂がもらうのだから、好きに使わせてもらうぞ」

 

 五条悟が通るとされる街から高専までの道のりに、一つ目の異形漏瑚とお寺の住職の格好をした青年[夏油(げとう)]は待ち構えていた

 

 「では、私はこの辺りで失礼させてもらうよ。万が一、五条悟にでも見つかったら大変だ」

 

 まるで夏油と入れ違いになる様に、漏瑚はカフェで聞いた艶のある女の声が聞こえる

 

 『あの男は…おぬしらでどうこうできるとは思えんがのぅ』

 

 声と共にコツリと靴の踵が鳴った方を見ると、全身黒ずくめで左手にも黒のスクール鞄を持った人物。漏瑚が勧誘に失敗した少女、羽衣妖子がいた

 

 「おぬしは…なんのようだ。今更仲間に加えて欲しいと言っても遅いぞ」

 

 声を聞くまでその存在に気づかなかった漏瑚だが、少女を見るその目は鋭い

 カフェで勧誘を断られた上、少女に散々な言われようをされた漏瑚は彼女の顔さえ見るのが嫌になっていたほどであり純粋な殺意を向けていた

 

 『フフ…なに、一つ聞きたいことを思い出してのう、妾を勧誘する時に言うておったおぬしの言葉。あれは誰の受け売りなのかと思うてのぅ…おぬしらの(かしら)かえ?』

 

 「…仲間にもならん奴に言うわけないだろう」

 

 物怖じせず、あくまで反抗的に答える。当初より漏瑚が夏油から聞かされていた羽衣狐の実力は両面宿儺クラスであり、対して自身の実力はというとその両面宿儺の指8〜9本分ほどでその実力差は分かっているつもりであった

 それなら反抗的な態度と言葉遣いは自殺行為にも感じる。確かに新たな"人間"としての矜持でもあったが、目の前の人物は本当に実力があるのかどうか疑わしく実感を感じないのもまた事実である

 

 『フム…そうか、なら力尽くで聞くしかないのぅ』

 

 瞬間、羽衣狐の背中に15本からなる狐の尻尾が現れる

 その尻尾は長く艶があり、羽衣狐の周りで揺めき月明かりに照らされ神々しさすら感じさせる

 

 まるで本当の姿を見せたと言わんばかりのプレッシャー、圧力を感じる。漏瑚の全身の毛穴から汗が吹き出し、生物としての生存本能が緊急事態の警報を鳴らし頭に響かせる。ただ"逃げろ"と呼びかける本能に逆らうように漏瑚は構える。瞬間、構えたと脳では判断していたが肩から先の感覚が妙なことに気づく

 

 『まずはその腕じゃ』

 

 「…は?」

 

 漏瑚の両腕がその美しく艶やかな尻尾で塵芥(ちりあくた)となりはてていた。尻尾の動きはまるで追えておらず、攻撃の瞬間すら反応できずにいた

 

 『ほれ、早う言わぬと達磨(だるま)になってしまうぞ』

 

 困惑と恐怖、そして後悔。漏瑚の中ではその三つが支配していた

 足は震え、顔は強ばり歯同士がぶつかり合う音がカチカチと聞こえる

 

 『フム…その足も落とさぬと言うてはくれぬか』

 

 今度は足を狙われる。そう実感してしまうと体は逃走の一途を辿る

 震える足に鞭を打ち、ただひたすらに逃げようとするが早すぎて糸のように見えた尻尾が足元を掠め右の脹脛(ふくらはぎ)を抉る

 更に左足の(かかと)を抉られ、その走り辛さに耐えながらも逃走していると開けた湖に出てしまう

 先程まで森の中を移動しており視界の悪い中ならまだ逃げるという選択肢もあっただろう、しかし開けた湖なら話は別である

 漏瑚はこのまま逃げることができないと考えると諦めるわけでも、勝とうというわけでもなくただ目をくらましてその隙をついて逃げ果せることを考えた

 

 漏瑚の頭部にある火山からポンポンポンと奇怪な音を立て、蟲を生み出す

 

  -火礫蟲(かれきちゅう)-

 

 カブトムシのような体躯をしたこの火礫蟲は対象の側で超音波と爆発の二段構えによる攻撃を行う

 並の術師であれば火礫蟲一匹で十分なところだが、その蟲六匹をただの目眩しに使おうとしていた

 六匹もいれば目眩し程度にはなるだろうと考えていた漏瑚だが、羽衣狐の近くに飛び込ませる前に尻尾で全て振り払われて全滅していた

 それもそのはず羽衣狐の尻尾は自身の意思がなくともオートでも迎撃を行える都合上、ただ近づこうとするだけでも気配を完全に消すか誤認させるかでもしないと触れることさえ叶わないのである

 

 「バカな…」

 

 既に諦めの意思すら感じさせる弱々しい声を吐き、対抗する暇もなく両足を尻尾で貫かれ漏瑚は湖のほとりで転がっていた

 

 『達磨にしてしもうたが、これで言えぬというのなら仕方がない。おぬしの生き肝、妾が喰ろうてやるぞ』

 

 両手両足を失い仰向けで転がっている状態の漏瑚を羽衣狐は踏みつけ()()()()から太刀を取り出し、突きつける

 

 『三尾の太刀

 

 「すごい呪力を感じたから来てみたけどやっぱり妖子か…で、どんな状況?」

 

 どこからともかく出張から帰って来た五条悟が現れる。羽衣狐にも言えることであるが彼もまた神出鬼没である

 

 「あ、こんばんは五条先生。出張お疲れ様です。今この呪霊を尋問中です」

 

 『ふふ…こやつは妾を勧誘して来たのじゃが妾は断ってのう、しかし聞きたいことがあってこうして追ってきたという訳じゃ。こやつはどうやらおぬしに用があった風じゃがのぅ』

 

 尋問中だと言われたその対象を確認すると四肢は抉れてなくなっていた。胴体に至るまでボロボロであり、半ば放心状態に見える無残な状態で太刀を突きつけられ転がった一つ目の呪霊の姿がそこにはあった

 

 「OK状況は理解したけど…すごいハードな尋問だね」

 

 『フフ…じゃがこやつはダメじゃ、妾を畏れてしもうとる。口も開かなくなってしもうたから殺すしかないのぅ』

 

 羽衣狐が太刀を振りかざそうとした瞬間、足元に木の根が固まりとなった様な物体が飛来する。もちろん完全な死角からの投擲物であったが問題なく羽衣狐の尻尾はその木の根を両断したがその切れ端が地面に突き刺さった

 地面に突き刺さった木の根は足元に広がり、色とりどりの花畑を形作る

 

 「うわぁ、綺麗ですね。お狐様」

 

 『ふふ…綺麗じゃのぅ』

 

 「うーん、ほっこり…」

 

 全員が全員各々の感想を述べるが、この花畑は明らかに敵が放った術式であった。殺気立っていたはずの羽衣狐でさえその戦意を削がれ、踏みつけていた漏瑚から足を離していた

 羽衣狐が漏瑚から足を離した一瞬の隙をつき、木の根を放った本人。漏瑚の仲間の呪霊[花御(はなみ)]がボロボロの漏瑚を掠め取る

 花御は知らぬことだが普通に近づくだけなら羽衣狐の尻尾で迎撃されていた。が、この時花御は気配を完璧に消しており、羽衣狐の尻尾は反応しなかった。目視に至っても花御が漏瑚を助けるタイミングで花畑に木の異形を出しており、その対処に気を取られ反応できずにいた

 

 「あれ?あの一つ目はどこ行ったんですかね?」

 

 『フム…逃げられたのぅ、のらりくらりと気配を消すのが上手いやつじゃ』

 

 「僕でも気づけないほど気配を消すのが上手い…ちょっと不気味だね」

 

 心地よい夜風に揺られ、辺りは血と鉄と花の甘い香りで包まれていた。

 

 

 




 お疲れ様です
 実はこの話は私が小説を投稿するまで考えていた構成の分岐点の様なところであり、この場面は相当悩んでおりました。
 結局高専入学ルートと決めて作りましたが今でも正解だったのか悩むことがあります。悩んだ結果純粋な正義では違和感が半端なく、私の強い印象から生き肝を食べる初期の妖しさが若干残った羽衣狐様が出来上がったのは所謂制作秘話だったりします

 ちなみにですがお気に入り数も4桁になり、記念も兼ねて漏瑚の話に乗る羽衣狐様呪霊ルートは需要とかあったりしますでしょうか?アンケートを設置いたしましたのでご投票していただけたら幸いです
 


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羽衣妖子4級じゃ-漆話-

 推しが死んだので初見です…
 …悪ぃ、やっぱりつれぇわ

 今回はアニメのみ視聴の方はちょっとした先の話の小ネタを含む可能性がありますが、大丈夫な方はお読み頂けたらと思います。ごめんね…


 マンションの一室の扉に手をかけ、鍵のかかってないドアノブをガチャリと音を立てて開く

 マンションの大きさからすれば扉の先は1LDKほどの広さを予想できるが実際目の前に広がる光景は違っていた

 南国を彷彿とさせるヤシの木、輝く砂浜にどこまでも続く水平線。時刻は夜中しかも室内であれば尚のこと、晴れ渡る絶景のビーチが目前に広がる光景は異質である

 

 「随分と、穏やかな領域だね」

 

 「漏瑚はどうした、夏油」

 

 ザクザクと砂浜に音を立てながら進む夏油に対して、パラソルを立てビーチチェアで寛いでいる人物が質問をする

 

 「良くて瀕死だろうね。花御が見ていたから多分大丈夫じゃないかな」

 

 「無責任だな、君が焚きつけたんだろ」

 

 「とんでもない、私は止めたんだよ」

 

 まるで学生が世間話をするかのように軽く、他人事に会話を続ける

 再び扉からドアノブを捻る鈍い音と砂浜を踏むザクザクとした音が聞こえる

 

 「噂をすれば。花御、漏瑚…無事で何より」

 

 花御と呼ばれた両目から木の枝を生やした異形が、両の手足を抉られ至る所に傷をつけた漏瑚を担ぎながら現れる

 

 「どこをどう見て言っている‼︎」

 

 人間で例えるなら明らかに瀕死、しかし呪霊にとっては手足の修復は難しくない。先の少年院で発生した特級呪霊も手足の修復を行なっているのがその証拠である

 

 「それで済んだだけマシだろ」

 

 挑発が混じった発言をした夏油の顔を漏瑚が睨むと、夏油ははぐらかすように目をそっぽへ向け舌を出していた

 

 「これで分かったとは思うけど、羽衣妖子には()れず(さわ)らずを貫く。そして五条悟は然るべき時、然るべき場所、こちらのアドバンテージを確立した上で封印に臨む。決行は10月31日渋谷、詳細は追って連絡するよ…いいね、[真人(まひと)]」

 

 夏油はビーチチェアに腰掛けていた、顔や体の至る所をつぎはぎに別々の人間を繋ぎ合わせたような見た目をした人物。真人に打ち合わせの確認を行う

 

 「異論ないよ。狡猾にいこう…呪いらしく、人間らしく」

 

◆◆◆

 

 私たちを含めた三人は飲み物の自動販売機の前で佇んでいた

 お金を入れガコンガコンと流れ作業のように一定の速度で音を立てながら、ペットボトルと缶飲料が落ちてくる。自動販売機は2台ほどしかないのでわざわざ選ぶほど選択肢はなく、スポーツドリンクを例に挙げるなら1種類と決まっていた

 

 「パシリ頼まれたのは俺達だけなんですから、アナタはついてこなくてよかったんですよ」

 

 「ふふ、暇だったから別にいいんです」

 

 禪院先輩のお使いでドリンクの買い出しを頼まれた伏黒くんと野薔薇ちゃんだったけど、二人で持ってくるにしては量が多いと判断したので私も手伝っている

 二年生の先輩に稽古をつけてもらっている手前、伏黒くんと野薔薇ちゃんはこうして度々お使いを頼まれる。虎杖くんは(きた)る京都姉妹校交流会のため特訓の真っ最中で、ちゃんと"仕上げる"為に別メニューである

 それはそうと伏黒くんの敬語が一向に外れる気配がないのはどう言うことなのだろうか、私は一応同い年なはずなんだけど

 

 「しっかし、自販機の数少ないわね。もうちょい増えてくれないかしら」

 

 「無理だろ、入れる業者も限られているしな」

 

 私は基本ミネラルウォーターで事足りているので問題ないけど他の人は確かに不便なのかもしれない。それと自動販売機を見てていつも思うけど、紅茶よりコーヒーの方が圧倒的に多いのは紅茶派からしたら複雑な気持ちになる

 

 6本ほどスポーツドリンクを持って先輩達のところへ戻ろうとした時、不意に二人分の影が通路先に差し掛かる

 影をたどり顔を確認すると一人はガタイが良く顔に傷をつけた歴戦の戦士を彷彿とさせるが、いかにも沸点の低そうな男性

 もう一人が黒髪のボブカットの女性だが、どことなく禪院先輩を想像させる雰囲気である

 

 「なんで東京(コッチ)いるんですか、禪院先輩」

 

 伏黒くんがボブカットの女性を禪院先輩と呼んでいたので姉妹なのだろう

 

 「嫌だなぁ、伏黒君。それじゃあ真希と区別がつかないわ、真依(まい)って呼んで」

 

 「コイツらが、乙骨と三年の代打…ね」

 

 [禪院真依]さんは伏黒くんに好意的な目を、そしてもう一人の男性が私たち三人を品定めするかのように眺める

 

 「アナタ達が心配で学長に着いて来ちゃった。特級と戦闘したんでしょう?怖かった?それとも、そうでもなかった?」

 

 「…何が言いたいんですか?」

 

 「いいのよ、言いづらいことってあるわよね、代わりに言ってあげる。あの虎杖って子、"器"なんて聞こえはいいけど要は半分呪いの化物なんでしょ、そんな穢らわしい人外が隣で不躾(ぶしつけ)に"呪術師"を名乗って、それであの子の近くにいたから命の危険に晒されて…本当は死んで欲しかったんじゃない?」

 

 少年院で起こった特級呪霊発生の任務は仕組まれて起こった事件のようであった。出張から帰ってきた時に五条先生から聞かされたことだが、「特級相手に生死不明の5人救助に一年派遣はあり得ない」とのこと

 虎杖くんの実質無期限の死刑を五条先生が無理を通して与えたことを気に入らない上層部が、五条先生がいない時に特級を利用して始末させようとしたというシナリオのようであった。ちなみに失敗しても他の私達3人が死んで、五条先生の嫌がらせができて一石二鳥の思惑であったらしい

 しかし私たちという想定外がいたことによりその思惑は外れ、四人全員五体満足で帰ってきた。ただ、同じようなことがあった場合のことを踏まえて五条先生が直々に虎杖くんを鍛えているのである

 

 『フフ…化物と言うてやるな、あやつはしっかり人の心を持っておる。少なくとも、おぬしよりは人のことを思いやる気持ちはあるじゃろう』

 

 「…何か言ったかしら?」

 

 笑顔のまま聞き返してきたが青筋をうっすらと立て目が笑っていない状態でこちらを睨むその表情から、余程呪いと並べられるのが嫌なのだろう

 ただ言われて気づいたけど、今年の一年生の半分が化物なので高専からしたら異例か前代未聞かもしれない

 

 「真依、どうでもいい話を広げるな。俺はただコイツらが乙骨の代わり足りうるか、それが知りたい」

 

 伏黒くんに狙いを定めたようで禪院真依さんの前に出る筋肉隆々の男性、それと同時に伏黒くんも自分が目をつけられたと自覚したようで身じろぐ

 

 「伏黒…とか言ったな。どんな女がタイプだ」

 

 どういうこと?…いや、もしかしたら私が知らないだけで最近の流行りは自分の好みの異性を聞くことが主流になっているのかもしれない

 いや違う、伏黒くんも野薔薇ちゃんも頭にハテナマークが出てきてるからやっぱり流行りじゃない

 

 「返答次第では今ココで半殺しにして、乙骨…最低でも三年は交流会に引っ張り出す。因みに俺は、身長(タッパ)(ケツ)のデカイ女がタイプです」

 

 筋肉隆々な男性が、着ていたTシャツをビリビリと音を立てながら破り捨て臨戦体制にはいる。服の上からでもわかるほど鍛え上げられた体が顕となり、不敵に笑うが好みの女性の特徴を言いながら行うものだから様になっていない

 

 「なんで初対面のアンタと、女の趣味を話さないといけないんですか」

 

 『伏黒よ、言うてやればよいではないか』

 

 意外にもお狐様は目の前の筋肉隆々の男性を気に入っているのか、印象は良さそうである。ただの悪ノリかもしれないけど

 

 「ダメよ妖子ちゃん、ムッツリにはハードル高いわよ」

 

 「そこの二人は黙っててください、ただでさえ意味分かんねー状況が余計ややこしくなる」

 

 「京都三年[東堂 葵(とうどう あおい)]自己紹介終わり、これでお友達だな。早く答えろ、男でもいいぞ」

 

 筋肉隆々な男性、東堂さんは余程大事なことなのか早々に自己紹介を終わらせ伏黒くんを急かす

 

 「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん、俺はつまらん男が大嫌いだ。答えろ伏黒…どんな女がタイプだ」

 

 伏黒くんは考えるというよりは何かを思い出すかのような素振(そぶ)りをした後、口を開く

 

 「別に、好みとかありませんよ。その人に揺るがない人間性があれば…それ以上は何も求めません」

 

 「悪くない答えね、巨乳好きとかぬかしたら私が殺してたわ」

 

 野薔薇ちゃんや目の前の禪院真依さんは伏黒くんの回答に概ね満足な印象を示していた。ちなみに私たちは人間性もないし、そもそも人間ではないので好みのタイプではないようです。ショックではないですけど男の人からタイプじゃないと言われるのは…うん、結構堪えるものがあります

 

 「やっぱりだ…退屈だよ、伏黒」

 

 東堂さんが何故か涙を流したその瞬間、普通の人なら東堂さんが消えたかのような速さで伏黒くんにラリアットが炸裂した。数m(メートル)ほど吹っ飛ばされているのが確認できるが、伏黒くんはちゃんとガードしていてそれでも人が吹き飛ぶほどのパワーはやはり驚異的なのだろう

 

 『ふふ…どうじゃ?辛いなら妾が変わってやろうか?』

 

 吹っ飛ばされた伏黒くんの側まできて、お狐様が問いかけるが側から見てもまるで変わる気がないように感じる。実際変わるかはないのだろう

 

 「いや…これくらいなら大丈夫ですよ」

 

 『フ…そう言うてくれぬと妾も困る。せっかくの楽しい余興じゃからのぅ』

 

 お狐様ならそう言うだろうと予想出来ていたのか、伏黒くんはため息が漏れる。虎杖くんはまちまちだけどこの数週間一年メンバーは一緒にいる時間が多いので、言動もある程度予想出来ているのだろう

 

 「一目見て退屈な奴だと思ったが、最低限のマナーは分かってるようだな」

 

 その体躯の大きさからズンズンと音を立て歩くかのように想像しながら、東堂さんは私たちと伏黒くんを交互に見て言葉を落とす

 

◆◆◆

 

 吹き飛ばされた衝撃と砂埃で咳き込み、伏黒は吹き飛ばした本人を鋭く見つめる

 伏黒に駆け寄った羽衣も止める気配はなく、伏黒と東堂の間ではまさに一触即発の緊張感があった

 

 「アンタ術式使わないんだってな」

 

 伏黒には"東堂"と聞いて一つ思い当たる節があり質問する。その質問は彼がどれだけの実力であるかの確認も兼ねていた

 

 「ん?あぁ、あの噂はガセだ。特級相手には使ったぞ」

 

 『ホゥ…こやつは名の知れた術師なんかえ?』

 

 興味深く妖しげな笑みを浮かべる羽衣。この笑顔は彼女と初めて会った時に見た事のある、彼女風に言えば余興を見つけた時の笑顔であることを伏黒は思い出す

 

 「そういえばアナタは知らないんでしたね。まぁ、後で説明します」

 

 東堂もそういえばと思い出したかのように羽衣の存在に疑問を覚える

 

 「伏黒は知っているがお前は知らないな、一年、名前は?」

 

 『羽衣妖子4級じゃ。ほれ名乗ったぞ、これで満足か?』

 

 彼女をまじまじと見ながら4級と聞いた瞬間、東堂の脳は凄まじい速度で回転し…ある一つの場面を幻想していた

 

 

 華やかなライブ会場。アイドルを応援する熱気冷め止まぬ瞬間は記憶に新しく、色とりどりのネオンライトが広大な舞台をライトアップする

 しかし、その場は異様なまでに静かである。会場を満たす観客も、アイドルを彩るBGMも聴こえない

 

 そこに存在するのは二人の人物、一人はこの場を思い描いた東堂

 もう一人が、彼が愛してやまない高身長アイドル高田ちゃんである。二人は舞台と観客席の最前列から互いを見つめ合う

 

 「彼女のことが気になるの?」

 

 煌びやかなステージ衣装に身を包む高田ちゃんは、飾り気のない質問を東堂に投げかける

 

 「ああ、気になる…少しな」

 

 「どんなところが?見た目は確かに美少女、身長も低くない。スタイルだって着痩せするタイプだと思う…でも違うんでしょ?」

 

 「違う…確かに一般的に見ても魅力的な見た目をしてはいるが俺が感じたのは"違和感"だ」

 

 これはある意味での自問自答だが、彼の高田ちゃんに対する想いが強すぎるために妄想もとい幻想を時折見せる

 

 「違和感という抽象的なことなら、この場合は見た目とは少し違うよね。彼女の話し方かな?古風な喋り方だから分からなくもないけど、もっとも違和感を感じたのは何かな?」

 

 チッチッチッとタイマー音が聞こえ、さながらシンキングタイムを想像させる

 

 「伏黒の言葉遣い」

 

 正解がわかった合図かのように指をパチンと鳴らす。その解答が意味するものとは、彼女の立場である

 同じ歳で、しかも階級であれば伏黒の方が高い。それなのに伏黒が羽衣に敬語を使うのは彼女の方が立場が上であるということの証明

 それも1級術師である東堂自身に気後れしていない点から見ても彼の性格上、敬語は年上か目上の人に限られる。羽衣の本来の強さは階級で言えば最低ラインが1級…恐らく特級であることが想像できる

 驚くべきことに東堂は僅かな問答で羽衣の強さを浮き彫りにする

 

 「CDを…追加購入しなければ…な」

 

 東堂は天を仰ぎ、現実に意識を戻す。この間わずか0.01秒である

 

 




 お疲れ様です
 長くなりそうでしたので、いい終わり方ができるところで締めさせてもらいました。戦闘シーンほとんどなかったですが、東堂(ブラザー)の脳内会話で楽しんでいただけたらと思います

 アンケートの件ですが、勝手ながら羽衣狐様が呪霊ルートに入ったらぬら孫本編の焼き直しでは?と遅い気付きをしてしまいましたので書く予定はないかと思います
 投票してくださった方々には感謝と並びに謝罪致します
 そして寛容な心でお許しいただきたく存じます
 ほんと申し訳ありません‼︎


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呪術師同士の争いじゃぞ?-捌話-

 今週は祝日がちゃんとあったので初見です
 え?いつもですか………。

 前回の続きの話になっていますので短くなってしまったのは本当に申し訳なく思います。ユルシテ

 (話数は大字の方が登場キャラなどに合っているのでは?と、考え変更いたしました)


 涙を流しながら天を仰ぐ東堂さん。その口からはCDの追加購入というこの場では関係ないことを口走るが、何を想像していたのだろうか

 

 「Ms(ミス).羽衣…今までの非礼を詫びよう」

 

 まるで掌を返すかのようにこちらに向けての態度を一変する東堂さん。何かしたわけでもないけど…何かしたかな?

 

 『フム…おぬし、よほど人を見る目に長けておるのぅ』

 

 お狐様の反応的に何もやっていないのに私たちの実力、もしくは正体が東堂さんに知られたがための評価なのだろう

 

 「フッ、君のような人に誉められるとは光栄だな。君が交流会に出るのだからここで暴れるのはやめておこう、楽しみというものは寝かせて置いておくとよりその旨みを出すからな」

 

 『…勘違いしておるようじゃが、妾は交流会に出るつもりはないぞ』

 

 交流会に出ないことの旨を伝えるとその言葉を聞いた瞬間、東堂さんは冷凍されたかのようにピキリと固まった

 そばにいた伏黒くんは「あっ」と声を漏らしていたので、もしかしなくてもこの返答はまずかったみたいです

 

 「なっ⁉︎Ms.羽衣!君ほどの力があってなぜ交流会に出ない‼︎」

 

 数秒間の沈黙の後、東堂さんは驚きが遅れてやってきたかのようでその顔は絵に描いたような驚愕と疑問であった

 

 『呪術師同士の争いじゃぞ?せっかくの余興…妾が幕を下ろすのは面白くない。それに今年の一年、この伏黒も合わせてこやつらは伸びるぞ』

 

 「なるほど後進の育成…か。それもまた正しい行いだ、だが…学生の本分は学ぶこと、君自身もまた学ぶことがあるということ!やはり君は交流会に出るべきだ‼︎」

 

 腕を広げ、抱擁の形で是が非でも交流会に誘おうとしている

 

 『くどい男じゃのぅ』

 

 「まったくですね」

 

 私たちが呆れていると東堂さんはその顔を怒りで染める。青筋を立て、その顔に笑みを浮かべながら攻撃的な視線を向ける

 瞬間その力んだ足で地面が抉れるかのような怒号を上げ、突撃してくる

 

 「君が交流会に出ないとなると、俺のこの怒りは収まらん。…今ここで闘うことに言葉は必要か?」

 

 東堂さんの拳を受け止めるため、私たちは黒く光る鉄扇を握っていた

 

◆◆◆

 

 バシンと鈍く鋭い音が響くが手応えはなく、彼女の手元には広げた鉄扇があった

 俺が突撃する瞬間カバンの中から扇子を取り出して咄嗟に防御しているのが見えたが、その鉄扇には傷一つ付いておらず体格差をものともしない(パワー)がこの一瞬でひしひしと伝わる

 こちらも本気で殴ったわけではないが、この手応えでヒビも入っていないとなるとあの鉄扇はかなりの業物となる

 

 「いい呪具を持っているな。いや…それが君の術式なのか」

 

 『ふむ…やはりおぬしの観察力はなかなかのモノじゃのう。これはおぬしらが言うところの術式、二尾の鉄扇』

 

 なるほど…戦闘中に術式の一部開示。いや…違うな、術式と見せかけて呪具の線が消えていない。本当の術式を隠しているブラフということもあり得るか…

 本当にあの鉄扇が術式であっても一部ではあるが術式の開示が出来ており、鉄扇が呪具で術式は別にあるとなればそちらに意識を削がねばならない。ハッタリの効かせ方が上手いな

 そしてあの華奢な見た目からは想像できない人間離れした膂力。鉄扇ごとその腕を殴ったつもりが、絶壁に拳を突き出したかと思わされる

 

 「Ms.羽衣、やはり君には交流会に出てもらう!」

 

 『ふふ…言葉は不要ではなかったのかえ?』

 

 ふっ…この血湧き肉躍る嬉しさのあまり、つい口数が多くなってしまうな

 ここは距離を取り、フェイントをかけながらあの鉄扇を掻い潜るしかない。膂力はともかくとして敏捷性(アジリティ)はこちらが上であると思うからな

 事実、Ms.羽衣の方が敏捷性が高ければこちらの初撃を受け止めずにカウンターを喰らわせばいいだけのこと。そうしなかったということは反応は出来ているが、受け止めるのが精一杯なのだろう

 

 となれば右手の鉄扇で防御しづらい左側を狙うのがベターだろう。どういうわけかMs.羽衣は常に左手にカバンを持っていて、実質右腕しかまともに使っていないからな。おそらく"戦闘中は常に左手にカバンを持つ"等の縛りを設けているのだろう

 ただ、Ms.羽衣ならそう思わせておいて左側の攻撃を誘っているとも取れる。ここは悩みどころだが、反撃覚悟で左側を攻める

 反撃が来ると分かっているなら対処は容易!真っ向から受けずに力を逃し、その流れで吹っ飛ばす

 

 俺はまずMs.羽衣の右側に肉薄すると想定した通り鉄扇を構え受け止めるように見定めるが、その意識を逸らすかのように瞬時に回り込み左側を狙う

 振りかぶった左拳を寸止めしてインパクトのタイミングをずらし、本命の右拳による打撃をお見舞いする

 純粋な力押しが出来ない相手は情報量を押し付けて隙を作る。ある意味での闘いの基本、原則的なことだがこれが戦いに慣れていれば慣れているほど深みにハマる

 

 完璧に虚をついた。そう思って疑わなかったが目に写るのは黒く、鈍く光る鉄扇であった

 

 『なかなかの速度じゃ、妾でなければ致命傷じゃのぅ』

 

 完全なる俺の"読み負け"…原因に対して思考を巡らせようとするがその暇すら与えさせてもらえず、俺の体は宙に浮く

 否…後方上空に吹っ飛ばされていた

 

 後ろを向かずとも、風を切る音からかなりの速度で飛ばされていることがわかる

 数秒ほど空の旅を楽しんだ後、大きな音を立てながら木造建築と思われる建物に衝突する。見た目だけなら京都の清水寺が近い造りだ

 

 『ホゥ…見たところ傷一つ付いておらぬとはおぬし、見た目通り頑丈じゃのう』

 

 どう答えたものかと考えながら前を見据えた時、俺は自身の目を疑う光景を目の当たりにする

 目の前のMs.羽衣は平然と宙に浮き、飛んで来てはふわりと着地した

 飛んでいる人を初めて見たというわけではない、俺と同じ京都の高専三年生の西宮なんかは箒を用いて飛べる。そういう術式だからだ

 それと例外ではあるが、"最強"五条悟も飛べる。なぜかは知らんが飛べる、多分最強だからだろう

 だがMs.羽衣の場合どのような意味を示すのか、その謎について思考を巡らせていると不意にどこからか声が聞こえた

 

 「動くな」

 

 直後、体をガチリと固定されたように動かせない不快感が襲う

 

 「何!やってんのー!!!」

 

 どこからともなく現れたパンダの右ストレートが、俺の左頬を捉える。バキッと音を立て、しこたま力の入ったいいパンチだ

 

 「ギリギリセーフ、怪我はないか!羽衣!」

 

 「ええ、大丈夫ですよ」

 

 「おかか!」

 

 「うんまぁ、一戦交えちゃってるからアウトか」

 

 なるほど、二年狗巻の呪言で動けなかったのか

 それはそうとあいつらは平然と会話をしているが「おかか」だけで意味が伝わるものなのか?

 

 「なんで交流会まで我慢できないかね。帰った帰ったそろそろそこの羽衣が大きい声出すぞ、いや〜んって」

 

 「名残惜しいが帰る所だ。Ms.羽衣が推す一年の連中に期待が持てそうだからな」

 

 あぁ、あれほどまでの力を持ったMs.羽衣が推す一年なんだ。どんな強者となって俺の前に立ち塞がるのか、今から楽しみで仕方がない

 

 ただ、今は真依を拾って早く帰り支度をしなければならない

 高田ちゃんの個握(個別握手会)が俺を待っているのだからな。全く、今回に限っていつもの京都が外れるとはツイていない

 

◆◆◆

 

 「夜蛾はまだかのぉ。老い先短い年寄りの時間は高くつくぞ」   

 

 呪術高専京都高学長[楽巌寺 嘉伸(がくがんじ よしのぶ)]は京都姉妹校交流会の打ち合わせのため、東京高まで足を運んでいた

 

 「夜蛾学長はしばらく来ないよ。嘘の予定(スケジュール)を(伊地知を脅して)伝えてあるからね」

 

 五条悟は引き戸をガラガラと音を立てながら開け、楽巌寺に対面する形でソファにドカッと座る

 

 「その節はどーも」

 

 「はて…その節とは」

 

 長く携えた髭を撫でながら首を傾げる。側から見ても三文芝居もいいところであった

 

 「とぼけるなよジジイ、虎杖悠二のことだ。結局未遂で済んだが保守派のアンタも一枚噛んでんだろ」

 

 「やれやれ、最近の若者は敬語もろくに使えんのか」

 

 「ハナから敬う気がねーんだよ。最近の老人は主語がデカくて参るよホント」

 

 口論とまではいかずとも、湿気を含んだ陰気な会話が続く。お互いがお互いを目の上のたんこぶと考えているのだから当然といえば当然であった

 

 「ちょっと、これは問題発言ですよ。然るべき所に報告させてもらいますからね」

 

 楽巌寺の付き添いとして同じ空間にいた京都高二年[三輪 霞(みわ かすみ)]は自身の立場上、五条悟に口を出さないわけにはいかなかった

 

 「ご自由に、こっちも長話する気はないよ」

 

 しかし彼女の内面は"最強"と名高い五条悟と顔を合わすだけでも舞い上がっており、言葉を交わしたのならばそのテンションは有頂天まで上り詰めていた

 

 「昨晩、未登録の特級呪霊2体と遭遇した」

 

 「それは、災難じゃったの」

 

 「勘違いすんなよ。僕にとっては飲み屋街でキャッチに捕まる程度のハプニングさ」

 

 "遭遇"とは名ばかりで特級呪霊に強襲を謀ったのは羽衣妖子の方であったが、彼女の要望により筋書きでは「五条悟が遭遇した」となっていた。口約束のみであったが友好的な関係を築くため、五条悟は必要以上に彼女のことを喋るつもりはなかった

 

 「その呪霊達は意思疎通が図れたし、同等級の仲間もまだいるだろう。敵さんだけじゃない秤に乙骨そっちの東堂、生徒のレベルも近年急激に上がってる。去年の夏油傑の一件、そして現れた宿儺の器」

 

 「何が言いたい」

 

 「分かんないか。アンタらがしょーもない地位や伝統のために塞き止めてた力の波が、もうどうしようもなく大きくなって押し寄せたんだよ。これからの時代は"特級"なんて物差しじゃ測れない」

 

 東堂、乙骨、虎杖と五条悟の頭の中では彼らがその波を起こしていると考えており例外として羽衣妖子もその中に加えられていた

 

 「牙を剥くのが五条悟(ぼく)だけだと思ってんなら、痛い目見るよ…おじいちゃん‼︎」

 

 牙なんて生優しいものではない爆弾。五条悟は一人の生徒を想起していた

 

 「ふぅー、言いたいこと言ったから退散しよーっと。あ、夜蛾学長は2時間位でくるよー」

 

 引き戸からそそくさと帰っていった五条悟を眺めながら二人は、どう時間を潰すか思い耽っていた

 

 




 お疲れ様です
 東堂パイセンは書いててめちゃくちゃ楽しいです

 最後の場面は正直省くか迷いましたが、三輪ちゃんが可愛いので入れることにしました。(嘘じゃないですがちゃんと他に理由はあります)
 三輪ちゃんすごく可愛いですよね


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楽しそうな笑い声がするのぅ-玖話-

 呪術廻戦とチェーンソーマンの新刊をまとめて読んでメンタルをやられたので初見です
 チェーンソーマンは最新刊とその一つ前からでしたので辛さが際立ちますね…

 誤字報告は毎度ではありますが助かっております!


 静まり返った体育館に一人の少年の声がこだまする

 物静かな体育館には少年以外人はいないかとも思われるが、むしろ多数の人がいた

 しかしそのほとんどの人は床に突っ伏し、まるで誰かに眠らされたかのように動く気配はない

 

 壇上には二人の姿。一人は顔面や体をボロボロにし、宙に浮きその身を悶えさせる

 そしてもう一人は宙に浮く少年を睨みつける。罵り蔑み、怒号の如き罵詈雑言を並べる少年。どちらも学生だが宙に浮く少年は学生服、対してもう一人の少年は黒を主体とした私服であった

 

 「何したんだよ‼︎順平!!!」

 

 虎杖悠二は体育館のドアを勢いよく開け、耳が張り裂けんばかりの大声で壇上の少年。この事態を起こした人物[吉野順平]に対して言葉をぶつけた

 

 「引っ込んでろよ、呪術師」

 

 吉野順平は暗く、そしてドス黒い感情を露わにして虎杖悠二の名前さえ言わなかった。しかし、つい先日まで二人は気軽に話せる仲であった

 

 出会いは、とある映画館の事件より始まった

 観客の学生3名が謎の変死体で発見された事件の調査として、派遣されたのが一級術師[七海健斗]の補助の下で活動する虎杖悠二であった

 その変死体は頭部を大きく変形させ、なまじ人には見えない大きさの頭部と形をしていた。人の仕業とは到底思えない事件であるので呪霊絡みの線が強く、高専から派遣されたのがこの二人である

 劇場での監視カメラの映像を確認して劇場の出入り口を利用した唯一の人物、それが吉野順平であった

 他に出入り口のない劇場の監視カメラに映し出された唯一の人間であり、仮にこの事件の犯人が"人間"であれば吉野順平はこの事件の容疑者となっていた

 

 ただ変死体は呪いで形を変えられていたことから吉野順平が呪いを使えないのであれば容疑者から外れ、犯人は呪霊だと断定できるため虎杖悠二は吉野順平のことを調べることとなった。最初は吉野順平に呪いが見えるかどうかの確認と見えるのなら呪いを祓えるかどうかの調査であった

 

 4級以下の低位の呪霊を吉野順平に差し向け、その反応によって判断するというものであったのだが差し向ける瞬間吉野順平以外の一般人が吉野順平と接触していた

 襲われたところで怪我もしないような呪霊であったが虎杖悠二は反射的に体が動き、助ける形となって吉野順平と予定外の接触となった

 虎杖悠二自ら吉野順平の軽い取り調べを行うこととなったが、結果として虎杖悠二の持ち前の人の良さで気軽に話せる仲となっていた

 

 しかしそこには一つの思惑があった。"人間"を恐れる心から生まれた呪霊の真人が吉野順平と関わっており、吉野順平に呪力を扱えるようにして手懐け自分のことを信用するように振る舞った

 吉野順平の母親を特級呪物宿儺の指に誘われた呪霊に殺させ「自分を恨んでいる人、金を持て余した薄汚い人に心当たりはないか?」と吉野順平がその人物に報復するように仕向け起こったのが里桜高校での事件である。そして吉野順平を餌にして、虎杖悠二に宿儺優位の"縛り"を科すという計画であった

 

◆◆◆

 

 夏も暮れ、あれほど鬱陶しく感じた暑さも恋しくなってきた頃。京都姉妹校交流会の開催が目前まで迫っていた

 野薔薇ちゃんと伏黒くんの二人は少年院での出来事を糧に、最初に特級と対峙した時から格段にレベルも上がっていった。あまり会えていないけど虎杖くんの方も順調そのものらしく、五条先生曰く1級術師の補助の下で任務をこなしているらしい

 近接戦闘において頭角を見せたと聞いている虎杖くんなら先月会った東堂さんともいい勝負ができそうだ

 しかし東堂さんについて何か忘れていることに気づくと直後、伏黒くんが東堂さんの名前を知っていた理由を聞いていなかったことを思い出す

 

 「伏黒くん、そういえばつい先月来ていた東堂さんはどういった人物だったんですか?」

 

 伏黒くん達の特訓も一区切りついたようで、肌寒さが出てきても汗をかき木陰で休む伏黒くんに先月お狐様が聞きそびれたことを聞く

 

 「あー、たしかにあの時結局言ってなかったですね。去年起こった呪詛師夏油による呪術テロ"新宿・京都 百鬼夜行"というのが起こったんですが、その時京都に現れた1級呪霊5体と特級呪霊1体を一人で祓ったのがあの東堂だったんですよ」

 

 『ホゥ…まるで鬼のようなやつよのぅ。それと夏油か…人の身で百鬼夜行を従えるとは面白いやつじゃ、是非とも会ってみたいのぅ』

 

 お狐様も前世は京都にて百鬼夜行を従え魑魅魍魎の主と畏れられていたことがあるらしいので、その夏油という人は確かに興味を惹かれそうであった

 

 「まぁ、鬼のような強さなのは否定しませんね。夏油の方ですが呪霊操術という術式で従えているのであなたが思っているような従え方ではないかもしれませんが…それに夏油傑はもう死んでいますので会えないですよ」

 

 お狐様が私が思っていたよりもガッカリした様子で肩を落としているけど先月に呪霊と仲のいい人に会ったような…でも死んでいるって事は人違いなんですかね

 近況の記憶を辿っていた時、スクールカバンの中に入れていた携帯からデフォルト設定の着信音が鳴る

 名前表示の欄を見るとそこには少し前に補助監督として同行してもらった伊地知さんの名前があった

 

 「ごめんなさい、電話がかかってきましたので席を外します。私から話を振ったのにすみません…」

 

 「いえ、いいんですよ。俺も休憩中でしたし」

 

 伏黒くんから少し離れ三度のコール音の後に電話に出ると、かなり急いでいるのか第一声が「すみません」の謝罪の言葉であった

 

 「お忙しいところ勝手を承知で頼みます!彼を、虎杖くんを助けに行ってあげてください!」

 

◆◆◆

 

 人のいない学校の廊下に俺を含めた二人の笑い声が響く

 人を蔑み罵る感情はどうしてこうまでも心地よく、多幸感を感じてしまうのだろうか。人間で例えるなら脳内のエンドルフィンが異常な数を叩き出している頃合いだろう

 嘲笑(ちょうしょう)憫笑(びんしょう)…それが宿儺の器を取り巻く

 

 『フフ…楽しそうな笑い声がすると思うて来てみたが、意外とつまらないことで笑うておるのぅ』

 

 「羽衣…」

 

 笑いすぎてヒーヒーと過呼吸気味になっていると、階段に差し掛かる廊下の奥より黒髪ロングの黒いセーラー服を身につけたここの生徒とも見て取れる人物が現れる。しかし宿儺の器が口にした「羽衣」という名前から連想されるのは、夏油から接触を避けるように言われている羽衣妖子のことである

 もし彼女が羽衣妖子であるのならこの状況はまずい。順平と宿儺の器をぶつけて宿儺優位の縛りを科す計画は、順平を[無為転変]で人間をやめさせても叶わなかった。残るは自身が宿儺の器と対峙して宿儺の器に縛りを科すだけなのだが、この状況で来たと言うことなら十中八九宿儺の器を助ける名目である

 

 「女狐が…いい気持ちでいたのが台無しだ」

 

 宿儺が忌々しそうに、そして唾でも吐き捨てるかの如く言葉を漏らす。どうやら宿儺との仲は最悪のようだ

 

 「宿儺の器に用があるんだけど、そこどいてくれない?」

 

 しかし物は試しとあくまでここの生徒であった場合として動く。羽衣妖子でなければ取り越し苦労もいいところだからだ

 

 『フ…あいにく妾は虎杖を助けるように言われておってのう、妾もこやつは気に入っておるのじゃからそれは出来ない要求じゃ。…いや待て、もしやおぬし火山頭の呪霊と仲間であったりせぬか?』

 

 漏瑚のことを聞く?やはり羽衣妖子で間違いない。しかし何故漏瑚のことを聞くのか探ってみるのもいいか、あわよくば夏油が警戒している羽衣妖子の実力を測るチャンスでもある

 

 「火山頭?あぁ、漏瑚の事…」

 

 まだ話している途中であったが、目の前の羽衣妖子は左手に持っていたカバンの中から「どうやってそこに入っていたの?」と聞きたくなるような一振りの太刀を取り出すとまるで消えたかのような速度でこちらに斬りかかってきた

 袈裟斬りを奇跡的に回避できたのは完全にマグレだ。勘を頼りにワンステップ後ろに飛んだ時、先程まで自分のいた場所に綺麗な黒で統一された太刀が通過していた

 しかし胴体に傷が出来上がっていて薄皮が切れたようである

 

 「ちょっと!いきなり斬りかかるってないんじゃない?楽しくお話ししようよ〜」

 

 『ふ…楽しむのは妾だけで十分じゃ、おぬしはそのよく回りそうな口を割って心の臓を置いてけばそれでよい』

 

 楽しく話そうなんて言ってみたはいいけど、既に余裕がないな。初撃こそかわせれはしたけどほぼマグレだし、そもそも見た目からあそこまでアグレッシブに動けると思っていなかったのは反省だな

 しかし彼女のおかげで殺す為の、速さと鋭さのインスピレーションを得れたのはデカい

 ただ、羽衣妖子は魂の輪郭を捉えている。こちらの体に薄らと斜めに刻まれた刀傷がその証拠だ。この調子だと宿儺の器の方も俺にダメージを与えれそうだし困ったな

 

 このまま何もせずに殺されるのはごめんだし、まだ羽衣妖子の実力を測れていないのと本来の目的を達成出来ていないから戦闘は続投する

 羽衣妖子を狙いながら背後の宿儺の器を巻き込むように広範囲に速く鋭く、"畏れ"を抱かせるように俺の中の魂の形を変える

 

 俺は蛇腹剣のような刃とワイヤー状で構成された右腕を、羽衣妖子とその後ろでへたって居る宿儺の器に向けて横薙ぎで払う

 通過した横の壁や窓や床に綺麗に切り込みが入り、崩落してしまいそうなほどの切れ味を見せる

 が、目の前の羽衣妖子は縦横無尽に不規則に動く蛇腹剣の行先を的確に太刀で弾いていた。スピードに乗り、目一杯踏み込み体重をかけて払ったその全てが羽衣妖子の服すら捉えることができなかった

 余裕があるのなら「規格外すぎるでしょ?」とかコメントしていただろうがその暇もない

 

 『虎杖よ、そこで悲しみに耽ておるのは分かるが目の前に敵がいるのじゃ、あとは言われずとも分かるであろう?』

 

 「…すまん心配かけた。"目を逸らす"のはご法度…だろ、羽衣?」

 

 宿儺の器が立て直した…この局面で1対2はかなりつらいか

 …仕方がないこの辺りでトンズラを決め込むか

 

 「逃げようとしても無駄ですよ」

 

 蛇腹剣で開けた壁の穴から校舎に飛んだ瞬間、聞き覚えのある声が横から聞こえた後見知った独特のインパクトが体を伝う

 

 「ナナミン‼︎…」

 

 やっぱり七三術師。昨日初めて対峙した時に脇腹に触れ、無為転変を上手く塞いだはいいけど満身創痍だったはず。しかし意外となんともなさそう?

 これで現状1対3。引き際を間違えたかな?

 

 「説教は後で、現状報告を」

 

 「二人助けられなかった。それと羽衣が加勢しに来てくれた」

 

 「確か五条さんのクラスの生徒でしたね。すみませんが場合が場合なので挨拶はまた後ほど」

 

 「いえ、ご丁寧にどうも」

 

 さてどうするか二人ならまだ騙くらかして逃げに徹すればイケたんだが、七三術師も加勢したとなればいよいよだな

 ただ羽衣妖子から伝わる直接的な殺意、それを元に今ある手札を昇華させて…

 

 「私の攻撃は効きません、しかし見たところそちらの羽衣さんの刀で切り傷が出来ている。攻撃が通用するならこちらは数の差で圧倒しています。ここで祓いますよ」

 

 「応‼︎」

 

 『妾は口が聞けるくらいの手加減はするがのう』

 

 やっぱり考える時間も与えさせてくれないか…

 

 七三術師の急所を突くという痛烈な打撃と、やはりこちらにダメージを与えられた宿儺の器の拳。そして人数が多くなったことで彼女自身動きづらくはなってはいるが羽衣妖子の斬撃

 特に羽衣妖子の斬撃が深い傷を作る。人間であれば確実に出血多量で死んでいるところだね

 しかし…しかしなんて新鮮な"死"のインスピレーションなんだ!

 今なら、できるよね…

 

 領域展開ー自閉円頓裹(じへいえんどんか)

 

 




 お疲れ様です
 
 コミックで言うとかなりのペースで進んでしまいましたが、羽衣狐様が関わるところがなかったのでカットさせてもらいました。つまるところ原作既読、アニメ視聴済みが前提ということになってしまいます…もっと上手く見せれたと後悔もあります


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私たちの術式は…-拾話-

 花粉と静電気が怖いので初見です。(まんじゅうこわいではありません)

 今回オリ技、オリ術式が出てきますが苦手な方は…頑張ってお読みいただけると嬉しいです
 すみませんあと、今回キリのいいところで終わるために少し短めですがご了承お願いいたします!

 領域名を変更いたしました(2022.9.10)


 領域展開ー自閉円頓裹(じへいえんどんか)

 

 空間を無視して上下左右のあらゆる方向からから幾多もの腕や掌が私たちを覆う。その手は雛鳥を手で囲むような優しさも、母が子を抱き抱えるような暖かさもない血の気も引き身の毛もよだつような青白さである

 

 虎杖くんやナナミンと呼ばれていた多分虎杖くんの付き添いの一級術師は標的ではなく、あくまで私たちだけを狙った領域展開のようである

 大方、私たちさえどうにか出来れば残り二人は対処可能と思っての行動なのだろう

 

 「今はただ、君に感謝を」

 

 幾重もの掌からなる足場に佇む。辺りは暗いが、つぎはぎ顔の姿がハッキリと視認できる不思議な空間で彼は大らかに微笑む

 

 『フム…この感覚、前にも似たようなことがあったのう』

 

 お狐様はつぎはぎ顔の言葉は何処吹く風な様子である。事実、自身の愉悦に浸っている人物の話ほど退屈なものはない

 

 「五条先生と最初に会った時に食らいましたよ」

 

 『ふふ…そうだったかのぅ』

 

 因縁がなければ意外と天然気質で忘れっぽいお狐様はいつも通りとして、確か五条先生のレクチャーでは領域内での相手の攻撃は必中で絶対に当たる上に環境によるバフもかかるのだとか

 それと領域が展開された時の対処法が2パターンあり、1つは内側から穴を開けること。五条先生の話ではこれはあまりオススメしないらしい

 そして2つ目の対処法がこちらも領域を展開するということであるが、残念ながらお狐様は領域をあまりわかっていない様子なのである

 

 『この程度の封印で妾を封じることなんぞ無理なんじゃが、このまま普通に出るのも華がないのぅ。そうじゃ…妖子よ、おぬしが覚えたという技を見せてやればよいではないか』

 

 お狐様は前世から扱えてた[尻尾の数に付随した武器]を使えますが、それに対して私は何もなかったのが玉に瑕でした

 しかしこのままではダメだということから何かしらの技を習得するために努力をしようと思っていましたが、元々のお狐様のスペックが高すぎて私が何もしなくても問題なさそうでしたが折角なのでと一つの技を習得した"あの技"のようです

 

 「何をやっても無駄だよ、これから君を新しく生まれ変わらせてあげるんだから。新しくなった君を見たら宿儺も俺たちに手を貸してくれるかもしれないしね」

 

 少しの不安はあるけどお狐様にご指名されたので今できる全力を尽くすしかないです

 しかし、「新しく」ってこの人の術式は転生系の術式なんですかね。その術式が必中って怖いにも程がある…

 

 「私たちの術式は"(おそれ)"です。呪術師以外の人々から発せられる負の感情が溜まり、呪霊となるその過程のエネルギーを自分のものとして取り込み使えます。そのエネルギーは自身の呪力にも変換可能であり、鉄扇や刀など形あるものとして具現化出来る上に一定時間残すことができます。この日本に人間が一人でも居れば理論上呪力切れは起こりません」

 

 お狐様の前世であった妖怪の成り立ちから私たちの術式は[畏]で間違いなかった。その上での術式の開示

 

 「へぇ、それはすごい。まるで呪霊達の主のような術式だね…でも今更術式の開示をしたところでここは俺の領域の中だよ」

 

 そう、術式の開示をしたところでつぎはぎ顔の領域内なのは変わらない。しかし、領域展開されたのならその対処は単純明快…自身も領域を展開すればいいということである

 

 「えぇ、領域内という事は変わりません。しかし領域が展開されたのならその対処法は知っています」

 

 つぎはぎ顔はまさかと少しの驚きの後に笑みを浮かべる。抵抗できるなら面白いと思っているのだろう

 

 「いいねやってみなよ。その美しい顔が残っていたらね、無為転…」

 

 つぎはぎ顔の術式が発動する直前、左手がスクールカバンで塞がっているので右手で人差し指と中指を立てた形の印を結ぶ。"これ"は恐らくお狐様の生得領域を私が具現化したものだろう

 

 領域展開ー絹裂魍眛池(けんさきもうまいのいけ)

 

 瞬間、私たちとつぎはぎ顔を覆う空間が一変する。正確に言えば辺りは暗いままであるが、幾重もの腕が重なり合って作られた檻を突き破るかのように鍾乳洞(しょうにゅうどう)を連想させる岩肌が姿を表す

 掌で出来ていた足場も黒い水に侵食され、足は膝ほどの高さの水に浸かっている

 ピシャリピシャリと純粋な何一つ混ざっていない漆黒の水が天井から突き出た岩肌を伝い、半径5mほどの池に落ちる

 

 「これは…俺の領域が押し負けた⁉︎」

 

 自分の領域が競り負けない自信があったのだろう。その顔は笑みを残してはいるが、少し引き攣っているように見える

 

 「この水は怨念の塊。日本全土の負の感情が溜まり、水を黒く染め上げ出来た池」

 

 驚愕の表情をする相手に能力の説明するのは結構癖になりそうな優越感を感じさせます。お狐様が余興を追い求める気持ちが少しわかったような気がしました。いや…まだ半分は人間なんですが、ちょっと危険な兆候なんですかね…

 

 『フフ…やはりここは懐かしい。妾がやや子を2度も産んだ思い出の場所じゃ』

 

 お狐様の爆弾発言は気になるけど今は我慢して目の前のつぎはぎ顔に集中する。前世の話で長くなるかもだけど聞いてみることにする

 

 「は、怨念?そんなの呪霊に通用するわ…け…‼︎」

 

 領域が押し負けた瞬間ではなく、少し経ってから"効き始めた"ということは自覚するのに時間がかかったのでしょう

 この領域[絹裂魍眛池]の効果は単純明快、この池に触れた相手に恐怖を与えるというものただそれだけである。際限なく人の世の1000年分の怨念を一気に味わうようなものであり、領域特有の必殺はないので殺傷能力こそないが、一度食らってしまえばむしろ死んだ方がマシと思うのは想像に固くない

 

 「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァ!!!」

 

 目の前のつぎはぎ顔は両膝をつき、頭を抑え上半身を震わせ悶える。相手が呪霊であっても脳に本能に魂に直接語りかけ、鳴り止まない阿鼻叫喚は不快を優に通り越す

 事実、五条先生の無量空所と同種の精神に作用する攻撃は効果的面である

 

 「実戦で使ったのは初めてでしたが、なんとかなったのでよかったです」

 

 『妾の依代なんじゃ、この結果は当然じゃのぅ』

 

 素直に褒められて少し上機嫌になったところで領域を解除する

 

 「羽衣!無事か⁉︎」

 

 「ありがとう虎杖くん、なんとか無事ですよ」

 

 虎杖くんが開口一度に安否確認をしてくれる。自分自身も結構傷ついているはずなのに友達思いで優しい虎杖くんは母親目線で甘やかしたくなってしまう。お狐様が虎杖くんを気に入っているのも同じような理由な気もしてきた

 

 「人形呪霊はどうなりました?」

 

 ナナミンと呼ばれていた七三分けの術師は私の安否がわかった後、その私を領域内に引き摺り込んだ張本人であるつぎはぎ顔について聞く。領域の展開ができる呪霊なのだからその生死は知っておきたいというのは当然だ

 目の前のつぎはぎ顔は両手で頭を抑えながら膝をつきながら顔を伏せている上、身動き一つしていないので側から見ても生死が分からないので尚更聞いておきたいのだろう

 

 「残念ながらまだ祓えていません」

 

 『あやつはそう易々と動けぬからのぅ。口を利かすのも面倒じゃし、殺すなら今じゃ』

 

 私とお狐様が交互に入れ替わるのを見て若干驚いたのか肩が動いた。話には聞いているだろうけど、実際二重人格者を見たのは初めてなのだろう久々の反応だった

 

 「では今のうちに祓いましょう。私が援護しますのでダメージを与えれる虎杖くんと羽衣さんがトドメを刺してください」

 

 ナナミンの指揮の元、つぎはぎ顔の人形呪霊は祓われた。虎杖くんが渾身の拳を頭部に、お狐様が太刀で心臓を一指しする

 一番血が巡る臓器を狙ったので人形呪霊の周りには赤黒い血がドクドクと音を立て広がる

 虎杖くんは拳に血がついても止まらず殴り蹴り踏みつけ、グチャグチャと不快な音を立てて人の形をしなくなった辺りでピタリと止まった

 

 「終わったよ。順平…」

 

 虎杖くんはこの人形呪霊に誰かを殺されたのだろう、帳が上がった青空を仰いで頬には血ではない一筋の線が入っていた

 ここで虎杖くんに気の利いたことを言った方が良かったのかもしれないけど、今この空気では話しかけれないような気がした

 

◆◆◆

 

 下水道を歩く小さな足音

 歩幅からして子供、しかも不規則にそれでいて何かに怯えるように息を荒々しく立てていた

 

 「はぁはぁはぁ…ハハハ、羽衣妖子が、これほどの実力だったなんて…」

 

 声の主はつぎはぎ顔の人形呪霊真人。虎杖と並びに羽衣に祓われた真人は、体と臓器類を真似て作られた真人のダミーであった。体は肉の塊で臓器類は血袋であったが殺されることは確定的に明らかであったのでバレる心配もなかった

 本体の真人はというと幼児の形で地面から既に逃走に成功しており、心臓と脳の体組織は真似てあるので出血などの要因によって逃走ルートをある程度隠すことも出来る算段であった

 

 「あれほどの実力者と宿儺が同格とは、宿儺が化け物なのか羽衣妖子が化け物なのか…魂の格が違う。しかしこれは確信だ、俺たちが全滅しても宿儺さえ復活すれば羽衣妖子と五分のところまで持っていける」

 

 真人は震える肩と足を壁に這わせながら長く暗い下水道を歩く

 

 「…しかし参ったな。俺はどうしようもなく虎杖悠二と羽衣妖子を殺したい。虎杖悠二の方は体は殺せないが魂は何度でも殺せる。問題は羽衣妖子の方だ、並大抵の方法では彼女を殺せない」

 

 殺したいが殺す方法が思いつかない羽衣妖子のことをもどかしく思いながら、真人は楽しそうに卑しく微笑むのであった

 




 お疲れ様です
 今回、アニメで言いますと無事1クールまでを書き終えることができました。これも偏に皆様からの応援や感想などなど励ましていただいた結果であります。ストックもなく始まった小説ですが多くの方に読んでいただけて大変嬉しく思います!
 今後ともアニメ2クール分も続けていく次第でありますので何卒よろしくお願いいたします!

 ちなみにですがぬら孫世界の羽衣狐様の技が問題なく使えたのは全部この[畏の術式]で解決できるってことで納得していただけないかなぁと、思います…

 前々からありました「生まれた時から半妖であった」というのは元々人間として生まれるはずであった羽衣妖子が、羽衣狐様の依代となって半妖に変化(受肉)したことによる天与呪縛でバグのような強さの正体である伏線だったりします(本人は知らない)

 もし「羽衣狐様の領域展開が出るとすればアレだろうな」と考えられていた方がいらっしゃるのであればその"アレ"で合っておりました(確かぬら孫本編でも二条城は羽衣狐が産んだ幻想の城とか言われていたはずですので問題ない…よね?)


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おぬしらの為にならぬじゃろう-拾壱話-

 シンエヴァを観れたので初見です
 
 多くの方に私の投稿を読んでいただけているので、もしかしたらランキングに載っているのでは?と淡い期待をしていましたが…二次創作日間ランキングにて14位という高順位を見ることができました!(初めて載っているのを拝見しました…)
 これも全てお読みいただいている読者の方々のおかげでございます!ありがとうございます!


 「なんで皆手ぶらなの⁉︎」

 「なんで皆さん手ぶらなんですか⁉︎」

 

 二つのスーツケースがゴロゴロと石畳を転がる音がするが、その音が掻き消されるほどの驚きの声も二つあった

 

 「おまえらこそなんだその荷物は」

 

 ポカンとしていた釘崎野薔薇と羽衣妖子に対してパンダは質問を質問で返す。パンダの目に映るのは2泊3日を想定しているキャリーケースと手荷物を持った釘崎と羽衣だ

 

 「何って…これから京都でしょ?」

 

 パンダの質問に答えた釘崎だが、この場では羽衣がウンウンと頷くだけで他の者の頭にはハテナマークが浮かんでいる

 

 「京都()姉妹校交流会」

 

 「京都()姉妹校()交流会だ。東京で」

 

 二人の齟齬を確かめるようにオウム返しの要領で返すパンダ

 前日の夜からウキウキで京都に行けると準備をして楽しみにしていた羽衣と釘崎だが、パンダの東京で交流会をするという言葉一つで二人は膝から崩れ落ちていた。なまじ期待していただけに思い間違いであり自業自得ではあるが、この何者かに裏切られたようなショックは想像を絶するだろう

 

 『フフ…良き余興であったぞ』

 

 「え⁉︎お狐様知ってたんですか!」

 

 「ちょっと!知ってるなら早く言ってよねお狐様!」

 

 二人で地面に崩れているところに羽衣狐が立ち上がり微笑む。他人からの印象としては悪戯好きの姉とその悪戯に引っかかった妹の構図だろう

 しかし交流会の正しい場所を理解していたのはほとんどの者で、思い違いをした二人が悪いというのは言うまでもない

 

 「ごめんごめん、荷物多くて遅れちゃったー」

 

 さらに遅れてやってきた虎杖悠二も「なんで羽衣と釘崎以外そんな手ぶらなの?」と口にし、2泊3日を想定した肩掛けのバッグを持ってきている。交流会が京都ではなく東京で行われることを知り、彼が二人と同じように膝から崩れ落ちたのは想像に固くない

 しかし虎杖悠二に関していえば交流会の件を教えたのは五条悟であるので、彼の性格を考えればある意味正しい情報が伝わらなかったのは仕方がないのかもしれない

 

 「おい、来たぜ」

 

 膝から崩れ落ちている虎杖を傍目に禪院真希が京都校からの交流会メンバーが来たことを知らせる

 

 一言で言えば色もの。東京校側もパンダがいるがそれに負けず劣らずの色濃い6名からなる集団である

 

 「あら、お出迎え?気色悪い」

 

 「Ms.羽衣直々の出迎えとは光栄だな」

 

 (「一年…だよね?誰かわからないけど、東堂先輩が慕うってことはすごい人なのだろう」)

 

 先月一足先に現れ顔を合わせた禪院真依、東堂葵に加え楽巌寺嘉伸の付き添いで顔は合わせていない三輪霞

 

 (「東堂くんに好かれてるなんてあの子可哀想…」)

 

 手に持ったホウキと見た目から一世代前の魔女のイメージを連想させる三年[西宮 桃(にしみや もも)

 

 「人数が同じはいいとしテ、一年3人はハンデが過ぎないカ?この際もう1人も参加させればいいじゃないカ」

 

 一際目を引くのは端的でも比喩でもなくそのままの意味でのロボット二年[究極(アルティメット)メカ丸]

 

 「呪術師に歳は関係ないよ、そこの一年は4人掛ではあったが特級の討伐もほぼ無傷でこなしている。特に伏黒君、彼は禪院家の血筋だが宗家より余程出来がいい」

 

 ちゃんと前が見えているのか一目見ただけでは判断できない糸目で、衣服は陰陽師を彷彿とさせる三年[加茂 憲紀(かも のりとし)

 そしてその加茂憲紀の言葉に舌打ちをする禪院真依の構図は京都校では見慣れた光景であった

 

 「はいはい、内輪で喧嘩しない」

 

 その口論に発展はせずともバチバチとした空気を和ますのが京都校の引率である[庵 歌姫]…であるのが恒例のはずなのだが、そこに現れたのは上下で白と赤に分かれたツートーンカラーの女性用袴を着た"五条悟"であった

 

 「えー…庵歌姫デース」

 

 「こらぁ!五条悟‼︎」

 

 奇抜なポーズを取る五条悟の後に数秒遅れて登場する庵歌姫

 彼女を揶揄(からか)うためにわざわざ彼女と同様の女性用袴を用意して着込み大勢の前にその姿を晒す努力は果たして認めるべきか否かだが、教育者という点ではやはり認めるべきではないのだろう

 現に東京校、京都校の生徒共々この瞬間この場所での想いは「何やってるんだこの大人」の一つに纏まっていた

 

 「ハイテンションな大人って不気味ね」

 

 五条悟を見ていた釘崎野薔薇の言葉に、皆そろえて頷いていた

 

◆◆◆

 

 「今年の交流会1日目は、まぁ概ね予想通りの団体戦だな」

 

 現在パンダ先輩の切り出しから始まった交流会のミーティングです

 京都姉妹校交流会は計2日の日程で行う様で基本1日目は団体戦、2日目は個人戦と決まっているそうで今年は[チキチキ呪霊討伐猛レース]という題名で毎年色々変わるらしい

 指定された区間内に放たれた二級呪霊を先に祓ったチームの勝ちになるシンプルなもの。ただ区間内には三級以下の呪霊も複数放たれており日没までに決着がつかなかったら討伐数の多いチームの勝利となる様で、その区間はなかなかに広大な森林や湖の一角など時間切れも視野に入りそうである

 ちなみにこのルール説明をしたのは夜蛾学長だったけれど、説明をしながら五条先生をアームロックしていました。自業自得ですね…

 

 「そんで一応作戦通りに進められるが、このまま行くか?」

 

 「おかか」

 

 「そりゃあその作戦は悠二の前評判で決めてるからな、本人次第だろ。何か新しく出来ることとか増えたか?」

 

 「いや、変わらず殴る蹴るだけ」

 

 禪院先輩と狗巻先輩とパンダ先輩を中心に作戦会議が始まりました。私たちは参加しないけど、聞いてるだけでワクワクしてきます

 

 「やっぱり作戦通りになりそうだなぁ…」

 

 「虎杖が個別特訓している時、何をしてたかはあまり知りませんが東京校・京都校含めて"全員呪力なし"で()り合ったら羽衣と同格ですよ」

 

 「てゆーか東堂と闘り合えるぐらい強いのならなんで羽衣が交流会出ないんだ?」

 

 虎杖くんの話だったのにどういうわけかこちらに話が向いてきました。やはり東堂さんが強さの指標となっているのでその東堂さんを軽くいなしたのが大きいようです

 

 『ふふ…妾が出てしもうたらおぬしらの為にならぬじゃろう?それに妾が出たところでおぬしらなら結果は変わらぬ』

 

 「でもお狐様は東堂と闘り合ってる時『呪術師同士の闘いが見たい』とか言ってましたよね?」

 

 確かに東堂さんと対峙した時に近くにいた伏黒くんだけど、その助言は予想外です。でも距離感は近づいてきてるようなので嬉しいです

 

 「オマエ結構いい性格してるよな」

 

 「すじこ、おかか」

 

 「いや私はそういうつもり言ったんじゃない、呪術師としてはそれくらい曲がってた方が適切だって言いたいんだよ」

 

 まだ狗巻先輩の語彙から読み取る力はないけど、禪院先輩から色々フォローしてくれていたのかもしれない…多分

 まだ「しゃけ」が肯定意見、「おかか」が否定意見だろうという目星しかできていないので先は長そうです

 

◆◆◆

 

 「開始1分前でーす。ではここで歌姫先生にありがたーい激励の言葉を頂きます」

 

 試合が開始されるので虎杖くん達参加メンバーと分かれて、先生たちがゲームが開催される区間内を観察している部屋に来ていた

 扉を開いた瞬間、五条先生がマイク前で歌姫先生にすごい想定になさそうな無茶振りをしていたけど五条先生の方が後輩らしいんですよね。逆ならわからなくもないですけど…

 

 「あー…ある程度の怪我は仕方がないですが…そのぉ…時々は助け合い的なアレが…」

 

 「時間でーす」

 

 あまり想定されていない生徒の観戦でも部屋の広さは十二分に広く、1人ずつのソファが人数分用意されていたので空いていたものに座る

 

 「ちょっ五条‼︎アンタねぇ」

 

 「それでは姉妹校交流会スタァーートォ!!!

 

 「先輩を敬え‼︎」

 

 歌姫先生の声がハウリングされてマイクが切れたけど、あまり締まらない始まり方だなぁ

 

 「あなた四級なんだって?そうは見えないわね」

 

 隣の席にいた妙齢の女性と見て取れる、長く太い三つ編みを前髪に垂らすなかなか見たことのない髪型の女性から話しかけられた

 

 「あー冥さん、その子は色々と訳あり」

 

 歌姫先生のジャブを傍目に顔だけこちらに向けてきた五条先生。側から見ると歌姫先生とイチャイチャしているように見えなくもな…いや、歌姫先生は割と本気で五条先生を嫌ってそう

 それはそうと五条先生がさん付けするってなかなか聞かない気がする。若そうなのに五条先生より年上なのかもしれない、お狐様は1000歳以上だけど私は若いから…私ももしかして実質1000歳以上なのかも?

 

 「妖子、彼女は[冥冥]さん。一級術師でこの部屋のモニターに映る映像は彼女の術式を通して見えているんだよ」

 

 「はじめまして、羽衣妖子です」

 

 「何かあれば私に連絡してきなさい。依頼料によっては結構色々やるわよ」

 

 依頼料の強調の仕方からなんとなく守銭奴のようにも感じます

 

 「彼女に依頼する時は覚悟しておいた方がいいよ。結構取られるから」

 

 

 冥冥さんと軽く話す程度の時間しかたっていませんが、モニターを見るといきなり東堂さんが虎杖くん達6人に突っ込んでいました。区間内は結構広いなはずなので開始直後一直線で向かったのだと思います

 東堂さんの対応を虎杖くんだけで行い、残りのメンバーが2:3に分かれて呪霊を探すような形を取っているけど、これはミーティングで話した通りです

 

 初撃を入れたのは虎杖くんだけど、それからは防戦一方で東堂さんの攻撃を受けた時はちょっと大丈夫なのか心配しましたね。無事に立ち上がって安心しました

 それと虎杖くんと東堂さんの交戦中に壁に貼られてあった11枚あるお札の一つが燃えたことだけどこれは五条先生曰く、エリア内に放たれた呪霊には呪符が貼り付けられていて呪霊消失と共に対になっている観覧席の呪符も消滅する仕組みらしい

 東京校が祓ったら赤く燃え、京都校が祓ったら青く燃えるとのことで先程青く燃えたので1ポイント京都高に入ったとのこと

 それから東堂さんがいきなり虎杖くんとの戦いの手を止めたかと思ったら全てのモニターから虎杖くんと京都校の人たちが見えなくなりちらほらと伏黒くん達が映ったり何もないところを映したり、監視カメラのように固定じゃなく冥冥さんの術式なので仕方がないのかもしれない

 でも露骨に見えなくなったのはなんとも違和感を感じる。虎杖くん大丈夫だろうかな?

 




 お疲れ様でした
 今週は珍しく時間があったはずなんですが…やはり金曜日の夕方にほぼ全部を書くことになっていました。何があったのだろう…


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その指示は出ぬはずじゃ-拾弐話-

 羽衣狐様と誕生日が1日違いだったことに運命的な巡り合わせを感じたので初見です
 投稿が遅れて申し訳ありません…月末と月初はめちゃくちゃ忙しいのです

 すみません、あと今回もオリジナルの技が出てきますので耐性がない方は…頑張ってお読み頂けたらと思います

 そして毎度ながら誤字報告助かっております。(本当は気をつけないといけないのですが)


 「ねぇ、それにしてもさっきからよく悠二周りの映像切れるよね」

 

 私たちも思っていたことを五条先生が口にした

 映像では野薔薇ちゃんと西宮さん、伏黒くんと加茂さんに加えて禪院先輩と三輪さんの戦いが禪院先輩の太刀取りを皮切りに終わったあたりです。パンダ先輩とメカ丸さん?の勝負は既にパンダ先輩が勝ち呪霊狩りに専念しています。パンダ先輩がメカ丸さんを倒す為にゴリラになった時はゴリラ先輩と呼ぶべきか悩みましたね

 

 そして五条先生の言葉通りモニターの数が6つあるので残りの人を映すことができるのに、まるで"敢えてそうしていない"ように感じる。狗巻先輩の映像も頻繁に映していないので虎杖くんだけに言えたことではないけど、まるで"子供が悪さをしたときに咄嗟に背中で隠すような"始末が悪い印象を覚える

 

 『あの東堂とかいう男も映っておらぬのぅ』

 

 「動物は気まぐれだからね、視覚を共有するのも疲れるし」

 

 「えー本当かなぁ、ぶっちゃけ冥さんって"どっち側"?」

 

 この"どっち側"というのは五条先生に以前聞かされた虎杖くんの処遇を決める目と鼻の先にいる京都の学長を含めた上層部絡みのことでしょうね。宿儺の器として生かす五条先生サイドと宿儺の危険性から即死刑を選びたい呪術界上層部、どちらについているかというものですね

 ちなみに冥さんは術式でカラスの視野を共有してモニターに映しているらしいです。6体操って視野を共有するのであれば確かに疲れそうですけどね

 

 「どっち?私は金の味方だよ。金に換えられないモノに価値はないからね、なにせ金に換えられないんだから」

 

 『フ…下賤な考えじゃ』

 

 「そうかしら、貯金を育成するゲームのようなものよ。あなたも私に通ずるところがありそうなものだけどね。そうね、例えばあなたさっきから仲間や先輩の戦いをスポーツ観戦のように見ている点かしら」

 

 確かにお狐様も余興を常に求めていたり面白そうなおもちゃを探したりしていますし、最近は野薔薇ちゃん伏黒くん虎杖くんの面倒見がいいですから"その手"のゲームは好きですよね

 

 「おっ、動いたね」

 

 五条先生が京都の学長に「いくら積んだんだか」と嫌味らしく"独り言"をぼやいていたところ壁に貼り付けてあるお札の残りの10枚のうち1枚が赤く燃えた

 確か赤は東京高が祓ったらときに燃える色であったのでモニターに映っていない誰かが祓ったのだろう。おそらく狗巻先輩か手の空いたパンダ先輩のどちらかだと思う

 

 「1対1かぁ、皆ゲームに興味なさ過ぎない?」

 

 確かにスタートしてそこそこの時間は経っているはずなのでこの進み具合はおかしいのだろう

 

 「なんで仲良くできないのかしら」

 

 「歌姫に似たんでしょ」

 

 「私はアンタだけよ」

 

 これで歌姫先生が本当に五条先生を嫌っている風でなければイチャイチャしてるように見えるんですけど、歌姫先生の反応が凄く素っ気ないのでその線はないんですよね

 

 禪院姉妹の戦いも禪院真希先輩の勝利で終わったところモニターの一つに携帯を片手に持つ三輪さんが映っていたところ彼女はなんの脈絡もなく膝から崩れ落ちた

 

 「あーあ寝ちゃった」

 

 前触れなく倒れ伏せたのは三輪さんの電話相手が狗巻先輩だったのだろう。呪言使いなので格下や実力が拮抗相手には簡単な言葉で無力化できるのは楽で良さそうですよね

 

 「私ちょっと行ってくる」

 

 「え?」

 

 「呪霊がうろついてる森に放置はできないでしょ」

 

 「そうさの、三輪が心配じゃ。早う行ってやれ」

 

 歌姫先生が三輪さんを迎えに行こうと立ち上がった瞬間、壁に貼り付けてあったお札が轟音を上げ一つ残らず全てほぼ同時に赤く燃えた

 

 「え?…団体戦終了?しかも全部東京校(あかいろ)‼︎」

 

 「妙だな鳥達が誰も何も見ていない」

 

 確かに先程の6つの映像を見ていた限り映っていない人と祓われた呪霊の数が釣り合わないのはおかしい

 

 「G T G(グレート ティーチャー ゴジョー)の生徒が祓ったって言いたいところだけど」

 

 「未登録の呪力でも札は赤く燃える」

 

 「外部の人間…侵入者ってことですか?」

 

 「天元様の結界が機能してないってこと?」

 

 「外部であろうと内部であろうと不測の事態には変わるまい」

 

 どうやら天元様なる人物の結界があるおかげで外部からの襲撃はないと考えていたらしく困惑の色が伺える

 

 「俺は天元様のところに、悟は楽巌寺学長と学生の保護を、冥はここで区画内の学生の位置を特定、悟に逐一報告してくれ」

 

 「委細承知、賞与期待してますよ」

 

 「それとわかってはいると思うが一応言っておくが妖子は冥と共に留守番だ」

 

 留守番を言い渡されましたがお狐様のことですし絶対聞き入れないですよね。不測の事態とか大好物そうですし

 

 『そうじゃのう、教職の立場からするとその指示は適切じゃろう、しかし妾がここへ来た理由を考えるならその指示は出ぬはずじゃ』

 

 夜蛾学長はサングラスの上からでもわかるように一瞬面食らったような顔をした後、諦めたようにため息を吐く

 

 「はぁ…許可するが何が起こっているか分かっていない、先生達とできるだけ離れないようにしなさい」

 

 『フフ…確約は出来ぬがのぅ』

 

 特級討伐の功績も少しあるのだろう、ほぼ確実に危険であると分かっていて行ってよしと指示が出る

 

 「ほら、お爺ちゃん散歩の時間ですよ、昼ごはんはさっき食べたでしょ‼︎」

 

 「急ぎましょう」

 

◆◆◆

 

 「五条‼︎"帳"が下りきる前にアンタだけ先行け‼︎」

 

 「いや無理」

 

 「はぁ!?」

 

 庵歌姫と楽巌寺嘉伸は走りながら、五条悟並びに羽衣妖子は飛びながら生徒の保護へと向かっている。しかしその最中、区画内を対象に"帳"が下りようとしていた

 五条悟であれば当然間に合うような距離であるのだが、この"帳"は五条悟が睨んだ通り視覚効果より術式効果を優先しているため既に"帳"は完成されていた

 ちなみに羽衣妖子も五条悟同様飛んでいることを当初こそ指摘されたが五条悟の教え子であるという点からすぐに理解されていた

 

 「下りたところで破りゃいい話でしょ」

 

 五条悟は地上に降りて"帳"に触れようとしたが瞬間バチっと大きな音と共に弾かれてしまう

 

 「ちょっと、なんでアンタがハジかれて私が入れんのよ」

 

 しかし庵歌姫はまるで湯船に腕を浸けたかのように"帳"の表面に波紋を作り、問題なく入れている

 

 「成程。歌姫、お爺ちゃん先に行ってこの"帳"五条悟の侵入を拒む代わりに、その他全ての者が出入り可能な結界だ」

 

 『フム…妾も入れているところからその線は確かにあるのぅ』

 

 日本の人間全てを1人で殺せる五条悟と同等級である羽衣妖子でさえも通過可能な"帳"はその効力をより強固にしていた

 

 『しかし顔だけ入れてみたが、この天蓋のさらに内側にもう一つ天蓋が張られておるのぅ、しかもその天蓋は妾は触れられぬ』

 

 「は?なんで二重にする意味があんのよ」

 

 高専側が羽衣狐の強さを知らないが故の庵歌姫の疑問であったが、羽衣狐の存在を知る五条悟には内側に張られた"帳"の効果が自分のものと同種のものであることがわかっていた

 

 「…成程、これはしてやられた。余程腕が立つ呪詛師がいる、しかもこちらの情報をある程度把握しているね。ほら行った行った何が目的か知らないけど、1人でも死んだら僕らの負けだ。でも仕方がないから妖子は残ってね」

 

 庵歌姫と楽巌寺嘉伸は2人を置き生徒の保護へと向かった

 

 「さてと、妖子だけでも行かせてあげたかったんだけどこれでは僕たちは足止めだ」

 

 『フフ…そうじゃのぅ』

 

 「そこで提案なんだけど妖子が僕の侵入を拒む"帳"を破壊して、妖子の侵入を拒む"帳"を僕が破壊するってしたいんだよね。おそらくこの"帳"は出入りのみの制約にリソースを割いているから僕以外が破壊する分には手間は掛かるだろうけど侵入を禁じられた人ほどじゃない」

 

 『フム…成程のぅ、良いぞ』

 

 「助かるよ」

 

 五条悟は生徒を早急に保護したい気持ちは強いが、しかし羽衣狐の力の一端が見れる打算も僅かにあった

 それ故の協力体制、仮に羽衣狐が五条悟と敵対関係になるのであればその力の一端を知る手がかりになれればと五条悟は密かに考えていた

 

 『おぬしが見たそうにしておるのじゃから、少々力をいれてみるかのぅ』

 

 羽衣妖子は常に左手に持っている革製のスクール鞄を開け、中から2()m()()()()()()を取り出す。手持ちのスクール鞄に入るはずのない長ものの持ち手を上へ上へと滑らせ取り出し、ドンと音を立てて着地させる

 

 「わぁお、ドラ○もんの四次元ポケットか何かかな」

 

 『五尾の斧ー侍従(じじゅう)

 

 その斧はどちらかといえばハルバードのように先端に槍のような刃を持ち、斧特有の扇形の刃も備え付けられていた

 見るからに鈍重な作りをしていたが、その斧を羽衣狐はまるで発泡スチロールで作られたかのように錯覚してしまうほど軽々しく右手のみで回す

 瞬間、脇に添えられた斧が風を切り体を躍動させ持ち手をしならせながら"帳"へと切りつける

 "帳"は大きな口を開いた後、その口が横へ縦へと広がり霧散してきてた

 

 『ほれ、破ぶれたがなんとも脆いのぅ』

 

 「いや〜普通はもっと手こずると思うよ、何せ結界だから」

 

 しかし2人が軽く話をしている間に生徒に危険が及ぶ可能性を考慮して五条悟は羽衣狐を拒む"帳"をたやすく破る

 五条悟が行った通り侵入者を拒む結界は侵入者以外の力あるものであれば破るのに難しくないことが証明された

 

 "帳"を破ると五条悟は全体の確認のため空へと上がる

 そこで発見したのは虎杖悠二と東堂葵に対する一度会ったことのある呪霊、そして楽巌寺嘉伸と対峙する呪詛師と思わしき人物

 普通であれば特級相当に分類される呪霊の対応を迫られるが虎杖悠二のレベルが東堂葵との対面により上がっており自分が対応するほど急ぐほどでもなく、そして羽衣狐は虎杖悠二と東堂葵の方へ向かうことを予想できていたことから五条悟は呪詛師の元へと文字通りの瞬間移動を行なった

 

◆◆◆

 

 {退きます。五条悟を相手にするほど傲っていない}

 

 「ざけんな‼︎何がしてェんだよテメェらは‼︎」

 

 『ホゥ…なら妾と相手はしてくれるのかえ?』

 

 木の根っこに巻かれながら地面へと沈もうとしていた呪霊花御の前に白のワンポイントのリボンが入った黒のセーラー服を見に纏った黒ずくめの少女羽衣妖子が姿を表した

 

 「羽衣!どうしてここに!?」

 

 「Ms.羽衣!やつは地中へと逃げるつもりだ、早めに手を下さねば間に合わなくなるぞ!」

 

 『フフ…それなら少し力をかけるかのぅ』

 

 右手に持った長ものの斧を地面へと吸い込まれた花御がいるであろう場所へと振り下ろす

 

 「前にこんな穴が空いたところ見たことがありますよ確かシンクホールって名前だったはずですね」

 

 シンクホール、簡単に説明すれば地中に空洞が出来て発生する崩落のことであるがその特徴として地面に綺麗に穴が空くことである

 目の前に広がるのは地面から斧を叩きつけて作られた空洞、完璧なまでの暴力が形を表して作られたものであった

 

 「相変わらず、Ms.羽衣は規格外だな、これでは祓えたかどうかも分からん」

 

 怒号の如き地鳴りと高く土煙をあげ晴れた目線の先には2mからなる斧を肩に担ぎ虎杖悠二、東堂葵へと目を向ける羽衣妖子の姿であった

 

 

 




 お疲れ様でした
 原作で出てきていない尻尾武器の番号を考えて出すのは問題ないのだろうかと思いましたが、それを考えるのが二次創作なのではないかと行き着きました
 ご不満や質問などございましたら感想などでお聞かせお願いいたします


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