ガンダムビルドダイバーズ ホットショット! (捻れ骨子)
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1戦目・還ってきた酔狂人

乗るしかねえよな、このビックウェーブに!



 

 暖かき日差しの中、桜の花びらが舞い踊る季節。

 真新しいブレザーの制服を纏った少年二人が、何やら語り合いながら歩いている。

 

「ふはははは! 我が執念ここに成就せり!」

「入学できただけでテンション高いねお前さん」

 

 拳を掲げて高笑いを上げているのは、やんちゃ小僧といった感じの少年。そんな彼に呆れたような言葉を投げかけてるのは、少し背の高いイケメン寄りの少年。

 

「だっておめー陽昇大付属ぞ? よう合格したって自分で思うわ」

「まあ1年ほぼ丸々受験に費やしてたからなあ。もう一生分勉強したんじゃね? お互い」

「しかーし! おかげで大学までエスカレーター式! 7年間は遊びまくれるというヘヴン! 実に素晴らしい!」

「成績下がったり素行悪かったりしたら留年とか退学とかあっかんなー。気を付けろよー」

「さてそれはともかくとしてだ!」

 

 やんちゃ小僧は振り返り、ずはっと両手を広げた。

 

「やっと受験の闘争から解き放たれたんだ。早速ガンプラ作りとかいっちゃう?」

 

 その言葉にイケメン寄りはふっと鼻を鳴らす。

 

()()? そんな言葉は使う必要がねえ」

 

 言いながら肩にかけていたバックに手を入れる。同時にやんちゃ小僧も同じようにバックに手を突っ込み――

 

「「()()()()()使()()()()()()()!」」

 

 揃って取り出したのは、A4サイズのハードケース。互いにそれを確認し、にっと不敵に笑む。

 

「やっぱ同じ事考えてたな相棒」

「当然。ここまで堪えたんだ、はちゃけるに決まってる」

 

 ふっへっへっへと不気味な笑い声を上げる二人が向かうのは、近隣のショッピングモール。ホームセンターや家電量販店などを擁するその一角。ガンプラの殿堂、ガンダムベース支店へと彼らは足を踏み入れた。

 店内で作業をしていた女性店員に、やんちゃ小僧が声をかける。

 

「【イズミ】さーん、お久しぶりー」

「お? 【ジント】君に【ホウジ】君じゃん。久しぶりだね~」

 

 どこか緩い雰囲気かつ人なつこそうな黒髪の女性店員――イズミは、にへらと笑みを浮かべて二人に応えた。

 

「その様子だと無事進学できたみたいだね。で、早速GBNやりに来たんだ」

 

 GBN――ガンプラバトル・ネクサスオンラインというフルダイブ式のネットワークゲーム。己の作ったガンプラをデータとして読み込ませ、それを操り戦わせる、と言うのが基本のゲームである。二人はそのプレイヤー、ダイバーであったのだが。

 やんちゃ小僧――ジントは、くっと顔を伏せ、拳を振るわせる。

 

「この一年……GBN禁止令という苦渋に耐えてやっと合格したわけですよ。たまりにたまった欲求不満、晴らさずにはおられようか!」

 

 そう、受験に集中させるため二人の親はGBNを一年近く禁止させた。かなりGBNにハマっていた二人にとって、地獄の日々と言っても過言ではなかった……というのはさすがに大げさだが、不満が募る日々であったことには違いない。

 

「三年前の有志連合の時(無印の騒動)はまだ校則でプレイできる年齢じゃなかったし、去年の騒ぎ(Re:RISEの事件)の時には受験と、面白そうなところには全っっ然関われなかったこの悔しさよ。……だがしかーし、最早我らを阻むものはない! エンジョイ勢として全力で遊び尽くしてくれるわ!」

「なんでそういちいち悪役ムーブなの」

「ああいった騒動起こるとスタッフ大変だからねー。出来ればほどほどにしておいてもらいたい物だよホント」

 

 呆れるイケメン寄り――ホウジと、肩をすくめるイズミ。

 とにもかくにも、GBNをプレイするために必要な小型端末――ダイバーギアをイズミから受け取った二人は空いている筐体へと潜り込み、ダイバーギア、次いでハイドケースから取り出した己のガンプラをセットする。

 

 システムオンライン。コンディションオールグリーン。アクセススタート。

 ――ダイブ。

 

 光が広がり、一瞬にして二人は未来的な様相の広大な施設、セントラルターミナルへと降り立っていた。

 

「おー、バージョン替わってっから、ちょっと感覚違うな。」

 

 己の拳を開いたり閉じたりしているジントは、本人の面影を残したアバターにフライトジャケットを纏わせた、軍人崩れの傭兵じみた格好。

 

「これくらいの差ならすぐ慣れそうだ。早速ミッションでも問題なかろ」

 

 ホウジはパリッと糊の効いたシャツにベストを身につけた、どことなく執事を思わせるような格好だ。アバターは同じように本人に近い造形である。

 このターミナルのロビーでは各種ミッションの受付を行っており、モニターには数多のミッションが掲示されている。二人は慣れた様子でミッションを選択し始めた。

 

「腕ならしだから軽いのにしとくか」

「じゃNPDモブを掃討する系かな。……っと、これどうよ」

「エリア内に散在するエネミーの撃破、か。うん、エネミーもマラサイとか陸戦ハイザックとかだし、手頃じゃね?」

「決まりだな」

 

 ミッションを選んで受付を済ませてから、手元にホログラムディスプレイを呼び出し、格納庫への移動を選択。ボタン一つであっという間に格納庫エリアだ。

 

「何回来ても感無量ってヤツだよなあ」

 

 目の前に自分たちが組み上げたガンプラが実物大でそそり立つ。その光景は何度見ても胸に来る物があった。

 ホウジの機体は、ダークブルーを基調に所々白いラインの入ったZプラスC1。ver.UCを基本にした物のようだが、機体各所のバランスが微妙に違う。

 ジントの機体はと言うと、青いはずの装甲が全て紅く塗り替えられたEX-Sガンダム。こちらも全体的にのバランスが変わっており、また胴体などいくつかの箇所の形状が違う。そして主兵装のビームスマートガン、その上部にキャリングハンドルが追加され、銃身下には長方形のユニットが備え付けられていた。位置からすると支持脚(バイポット)の収納ケースにも見える。

 しばらくニヤニヤしながら自身の機体を眺めたり写真に収めたりしていた二人だが、いつまでもそんなことをしている場合ではないと、気を取り直して機体に乗り込む。

 

「おっし、では改めて、と。……【EX-SガンダムR】、【ジン】行くぜ!」

「【ZプラスC1ナイトオウル】、【H・A】出る」

 

 2体のガンプラは、カタパルトを滑り広大なフィールドへと飛び出す。

 本来双方とも地上ではMS状態のまま飛行はできないと言う原作設定だが、GBNでは環境にもよるが自在に飛行させることが可能だ。しかし二人はあえてそうしない。

 

「各部に異常なし。動きも悪くない。……H・A、変形いけるか?」

「ああ、問題ない」

「よし、変形して一気に目標のエリアに向かおう。【ALICE】、変形時の各部負荷のモニタリングを頼む」

了解(イエッサ)

 

 EX-Sガンダムに搭載されている人工知能ALICE。ジンはそれをサポートAIとして設定し登録していた。

 コントローラーを操作。さすれば2体のガンプラはその姿を変える。

 Zプラスは飛行形態ウェーブライダーへと。MS形態と同じく原型とバランスが違う……と言うか妙に厳ついが、もたつくことのないスムーズな変形だ。

 EX-SガンダムRはGクルーザーと称される形態となるが、どうにも様子がおかしい。本来であれば変形した肩部の先に装着されるはずのプロペラントユニットがなく、複雑な変形をして頭部が収納されるはずの胴体はそのまま。背中から跳ね上がり機首となったテイルスタビライザーに頭部が半分くらい隠されただけの形だ。

 【Gクルーザー・イージ】。元々備えていた分離合体機能を廃し、再設計されたという脳内設定で組み上げられたEX-SガンダムR。その機体の強度を保つため、複雑な可変機構の一部をオミットし、簡略化された巡航形態であった。

 ごう、とスラスターが吠え、2体は空を駆ける。

 

『機体各部の負荷、許容範囲内。巡航形態(クルーザーモード)での戦闘機動に問題は無いと判断されます』

「やっぱALICE(それ)便利だよなー。こっちは自分でチェックしなけりゃならん」

 

 ホログラムのタッチボードを操作しながら、サブモニターで機体のチェックを行っているH・Aがぼやく。

 

「サポート用のハロでも買っとくか? 00クアンタならティエリアついてくるって話もあるけど」

「趣味じゃないしアレ絶対トランザム使うなよしか言ってこないだろ」

 

 軽口を交わしながら軽快に飛行し2体は目的地へと向かって……いたのだが。

 突如、アラームが響く。

 

『前方のエリアより、エマージェンシーコールです』

「……だとさ。どうする?」

「タイミングが良いのが気になるな。寄ってみるか」

「オーライ。鬼が出るか蛇が出るかってね」

 

 2体は翼を翻し、エマージェンシーの発せられたエリアへと向かう。

 早速レーダーに感。現場にたどり着いてみれば、どうやら1体のガンプラが追いかけ回さ

れているようだ。

 

「だ、誰か助けてー!」

 

 女性の声で悲鳴が響き渡る。追われているのは赤いガナーザクウォーリア。ガンダムSEED DESTINYのヒロイン(?)が駆っていた機体だ。

 追いかけているのは2体。ガンダムAGEに出てきた敵機ガフランと、鉄血のオルフェンズの敵機グレイズ。それぞれの武器を乱射しながらザクウォーリアを追い立てているように見えた。

 

「オラオラ素人が! 大人しくポイントになりやがれ!」

「こんなビギナー向けのところでまともな助けが来るわきゃねぇだろぉ!」

 

 いかにもな初心者狩り。望遠でその光景を確認したジンとH・Aは意見を交わす。

 

「どう見る?」

「……()()()()()()だな。多分。ある意味理にはかなっているか」

「ほっといてもいいっちゃあいいんだが……」

「面白い相手ではある。だろ?」

「分かってるねえ相棒。じゃ、いっちょかましてみますか!」

 

 言うと同時にスロットルを開ける。現在行われているという体の戦闘に乱入を選択。MSに変形しながらそれぞれの得物をぶち込んでいく。

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「うわ危な危な危な!?」」」

 

 3体は慌てて回避行動を取る。彼らの前にEX-SガンダムRとZプラスC1ナイトオウルは降り立った。

 

「ちょちょちょちょっとお!? あたし追われているいたいけな初心者なんですけれどお!? 一緒くたに撃つなんて酷いじゃないですかあ!」

「そうだそうだ! 乱入どころか諸共始末しようだなんて、とんでもなく酷いヤツらだな!」

「もしかして俺たちを退治するという体で事故を装って初心者も始末しようって腹か! なんて悪逆非道な!」

 

 揃ってぎゃーすか抗議の声を上げる3体。後ろの2体はどの口で言うのか。そんな連中に対してジンは機体の肩にスマートガンを担がせながら、呆れたような声で言い放つ。

 

「だってアンタら()()()()()

「「「え”?」」」

 

 硬直する3体。次いでH・Aが冷静な声で言う。

 

「初心者を装った仲間を囮に救援者を寄せ付け、助けようとしたところで後ろからグサリ。ってところかな。面白い発想だが知恵の使いどころが間違ってるとしか言い様がない」

「なっ、なっ、ど、どこがどうしてそういう証拠よ名誉毀損よ訴えるわよ!?」

 

 めちゃくちゃ動揺してるザクウォーリア。もうその態度だけで白状しているような物だが、二人は冷静に指摘していく。

 

「アンタの機体、真後ろから攻撃されてたのに傷一つ負ってないじゃんよ。ド素人が後ろも見ずに攻撃を回避し続けるとか出来るもんかい」

「後ろの二人が手加減して遊んでた……って言い訳は無しだ。エマージェンシーが出てる中、どんなやつが来るかも分からないのに長々と得物をいたぶるとか不自然だろう」

「くっ、頭の回る連中ね!」

 

 本性を現したか、ザクウォーリアが後退し後ろの2体と合流する。

 

「数はこっちが有利! カモ! ネギ! こうなったら真正面から叩き潰すわよ!」

「「了解しましたナベの姐さん!」」

「いかにも食い物にされる系のダイバーネームってどうなんだ」

 

 ツッコミながらH・AのZプラスがスマートガンを構えた。

 

「ま、復帰戦としちゃ少々アレだけど、折角だから楽しませてもらおうか!」

 

 EX-SガンダムRが頭上でスマートガンを振り回してから腰だめに構えを取る。その先端近く、長方形のユニットからジャックナイフのようにブレードが飛び出す。

 折りたたみ式の銃剣。ぎらりと鈍く光を反射させるそれを突きつけ、ジンは吠えた。

 

戦闘開始(オープンコンバット)! ハンパしてっと火傷すんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いを彼方から見やる影がある。

 

「エマージェンシーを聞きつけてきてみれば……いやはや面白いことになっているな」

 

 3対2。数値の上で有利な初心者狩りもどきたちは、一方的に翻弄されていた。

 

「なんなのこいつ! 地表すれすれで無茶苦茶な!」

 

 ザクウォーリア――ナベの機体は主兵装のビームキャノン、オルトロスを撃ちまくる。しかし強力な火砲は、H・AのZプラスを捉えられない。

 

「腕は悪くない。……だが悪くない止まりだな」

 

 落ち着いた声で言うH・A。だが機体は口調と裏腹に変形を繰り返して目まぐるしく動き回る。

 機動が、速度が。常に変化して目で追うのも難しい。それは地表すれすれでウェーブライダーとMSの形態を切り替えるという、正気の沙汰じゃない芸当を繰り返しているからこそだ。

 下手をすれば地面に激突して自爆するような真似をやらかしているH・Aの技量の高さが窺えるが、観察者はそれだけではないと見抜いた。

 

「あのガンプラ……v()e()r().()U()C()()()H()G()()()()()()()。しかも()()()()()()()()()()()のか。完成度も高い。スムーズな変形をするわけだ」

 

 Z系のキットの中で、余剰パーツなしに完全変形するのは1/100以上かRGのZガンダムくらいである。それ以外でもGBNの中でなら変形したと言うことには出来るが、データを切り替える形式のため微妙なタイムラグやぎこちなさが生じる。それらが見受けられないと言うことは、構造上での破綻がなく、無理がないと言うことだ。

 あれだけ激しい動きをして自壊する様子がないと言うことは、強度もかなりあるのだろう。ダイバーとしてもビルダーとしても相当の技量があるようだ。

 一方ジンの方はと言うと。

 

「こいつ、強えェ!」

「なんでEX-Sガンダムが、()()()()()()んだよ!?」

 

 2体を相手に大立ち回りを演じている。本来であれば、1/144EX-SガンダムHGというキットは四肢の可動範囲が狭い。ごてごてした機体の構造上仕方が無いことだ。

 しかしジンの機体は、まるで別物のように機体各所の可動範囲が広い。スマートガンを槍のように振り回し、演舞か無双物のゲームのように、激しい打撃を矢継ぎ早に繰り出していた。

 その種は各部の関節。本来のキットよりも大きく広く、そして多く動かせる。それだけではない。

 

「あれだけのパワーを出せて、なおかつ負荷がないように見える。……金属パーツを使い、補強しているのだろうな」

 

 恐らく関節部分はフルスクラッチ。ゆえの可動範囲と強度なのだと観察者は見た。

 まだそこまでであれば、よく動く頑丈なキットでしかない。相手をしている2人――カモとネギは、予想外の苦戦に顔をしかめている。

 

「くそ、こっちの装甲はそう簡単に抜けないはずだぞ!」

 

 ガフランの特殊電磁装甲、グレイズのナノラミネートアーマー。双方ともに生半可な攻撃は通りにくいという原作設定の元、ゲーム内でも相応の強度を誇っている。先ほどの奇襲の時はつい回避してしまったが、EX-Sガンダムが備えている武装はほとんどがビーム兵器。自分たちに大したダメージは与えられないはずだ。

 そう、確かに()()()()()()大したダメージは与えていない。主なダメージソースとなっているのは、振り回されている銃剣付きスマートガンだ。

 そもこのスマートガン。本来であれば腰部前面のアーマーから延びるアームに接続され、可動範囲は大きくないものだ。しかしEX-SガンダムRは、その接続方法がエネルギーチューブ状に変更されており、桁違いの自由度を誇る。それこそ大槍のごとく縦横無尽に振り回すことが可能となっていた。

 その上で、備えられている銃剣がおかしい。見れば別にヒート剣の機能があったり、00のガンダムが備えているGNソード系の武器のようにエネルギーを纏うようなものではない。ただの刃物、そのはずだ。

 だがそのただの刃物が、特殊電磁装甲に、ナノラミネートアーマーに、()()()()()()()。一つ一つは大した物ではないが、確かにダメージを与えていた。

 

「一体何だってんだその銃剣はア!?」

 

 矢面に立っているグレイズ、それを操るネギは悲鳴じみた問いを放つ。対するジンは、にい、と獣じみた笑みを浮かべ、それに答えた。

 

「こいつは()()()()()()()()()()さね! そしてちゃんと研いであるんだよ!」

 

 つまり本物の刃物だった。ガンプラのためにわざわざ本物の刃物を自作して取り付ける。その行為はどう考えても――

 

「あほだろてめええええ!!」

 

 まあそう言う意見になるだろう。しかしジンは堂々とした物で。

 

「自覚はある!」

 

 確信的なあほだった。だがただのあほではない。

 

「さっきから嫌なところに当ててきやがる! どうなってんだ!?」

 

 2人がかりでも真正面からは圧倒されると悟ったカモは、己の操る機体、ガフランをドラゴンのような飛行形態に変形させ、空中から牽制攻撃を仕掛けようとしたのだが。

 EX-SガンダムRの大型バックパックに備えられている計4門のビームカノン。それが自我を持つように稼働し、ガフランの方を見向きもしないまま放たれる。それは正確にガフランの顔面――カメラやセンサーが集中している頭部を狙っていた。ダメージこそほとんど無いが、視界が阻まれまともに牽制することも出来ない。

 一方的に押しているとはいえ、格闘戦を挑みながら振る向きもせずに正確な射撃を行うとはどんなでたらめだとカモは戦慄する。もちろん種も仕掛けもあった。ジンは()()()()A()I()()()()A()L()I()C()E()()()()()()()()()()()()()のだ。

 原作でALICEは、パイロットからコントロールを奪い自立行動でエースパイロットと渡り合うほどの能力を見せた。現状ではそこまでではないが、正確無比な自動射撃を行わせるくらいは出来る。牽制程度であれば十分に任せられた。

 かてて加えて。

 

「Iフィールドにビームシールド! どこまで盛ってやがる!」

 

 元々機体に備えられていたIフィールドジェネレーターに加え、大型の肩から伸びるサイドアーマーにビームシールド発生器が追加されていた。これによりビーム攻撃だけでなくミサイルなどの物理攻撃もある程度防御できる。EX-Sガンダム同様基本ビーム兵器しか持たないガフランでは、まともにダメージを入れることができない。

 攻防共に高いレベルで纏まったガンプラ。それはただ単に趣味と好みで組み上げられたものではないと、観察者は見て取る。

 

「あれは、G()B()N()()()()()()()()()()()()()。それも恐らくは完成形に至っていない物だ」

 

 まだ発展する余力がある。ガンプラ、ダイバー共に。このGBNと言う世界にまた新たな風が吹き込んできたのかも知れない。観察者の口元が、笑みの形に歪んだ。

 その視線の先で、戦いは大詰めを迎えようとしている。

 胸部装甲に痛打を受けたグレイズが、たたらを踏んで後退。その胸に付けられた傷痕を目がけて、ジンはトリガーを引いた。

 頭部にあるバルカン。そして胴体の可変機構を廃したおかげで出来た余剰スペースを利用して組み込まれた、2門のマシンキャノンが唸り、傷口からさらに損傷を与える。

 

「があっ!」

 

 グレイズのコクピットにレッドアラートが響く。損傷したナノラミネートアーマーは防御力が低下するのに加え、コクピット周辺に至近弾だ。窮地に追い込まれたネギは、焦って体勢を崩したまま離脱しようとし、さらにバランスを崩す。それは大きな隙となる。

 容赦の無い、刺突。電光の速度で突き込まれた銃剣の切っ先が、グレイズの胴体を貫く。

 

「し、しまっ……」

「釣りは要らねえ、遠慮無く持ってけ!」

「ぶぎゃあああああああああ!!」

 

 零距離からスマートガンが吠えた。閃光が迸り、打ち抜かれたグレイズは豚のような悲鳴と共に電子(テクスチャ)の塵と化す。

 

「ね、ネギィ! 野郎むっころしてやる!」

 

 興奮しすぎたか妙な滑舌になったカモのガフランが、両手のひらからビーム刃を発生させ突っ込んでくる。

 それに対してEX-SガンダムRは、バックパックのメインスラスターをふかし、変形して真正面からガフランに向かって突っ込んだ。

 

「うおおっ!?」

 

 ビームカノンを乱射しながら突っ込んでくる機体の下部に懸架されたスマートガン。その先端に鈍く光る切っ先を見て取ったカモは慌てて回避行動を取る。

 

「さすがに真正面から喰らってやれるかよ!」

 

 ぎりぎりでやり過ごし、背面を狙おうと上空へ振り返ってみれば。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!……があっ!」

 

 自分の横をすり抜けた直後に再度変形し、逆噴射して落ちてきたのだと悟ったときにはもう遅い。胴体を刃で深々と貫かれ、諸共地面に落下する。

 

「ぐっ、はっ……」

 

 踏みつけにされ落下した衝撃がコクピットを揺るがす。機体がきしみ、モニターに映ったEX-SガンダムRがトリガーに指をかけた。

 

「ま、待て……」

「はすたらびすたべいべー、ってか」

 

 容赦なくビームの奔流が機体内部を灼き、ガフランもまた塵へと還った。

 それとほぼ同時に。

 

「あんたら!覚えてなさいよおおおお!」

 

 何の面白みも盛り上がりもなく、さくっと圧倒されて片付けられたナベの機体もまた灰塵と化す。多分この後3人揃って強制的に戻されたセントラルターミナルで、デスペナルティを確認してムギャーとか叫ぶのだろうが、ジンたちにとっては知ったことではない。

 

「貴様らにはクンフーが足りんわ」

「ふっ、他愛なし」

 

 妙ちきりんなポーズを決めるEX-SガンダムRと、格好を付けるZプラスC1ナイトオウル。

 若きダイバーたちの帰還。それはGBNの舞台たるディメイションに、新たな旋風を巻き起こす……かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

『ジン、タイムオーバーです。受注したミッションは失敗しました』

「「あ」」

 

 復帰最初のミッションは、黒星となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 こいつらがチャンプと出会ってしまった場合。

 

「チャンプだー! 逃げろー!」

「面倒に巻き込まれたあげく大成させられるぞー!」

「ええ~!?」

 

 面白そうなことには全力だが、面倒は嫌い。そんな連中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラ紹介

 

 

 ナカモノ ジント

 

 この物語の多分主人公。ピカピカの高校1年生。ダイバーネームはジン。ダイバーランクはD。

 ノリと勢いで生きているナマモノ……と見せかけて、実は意外と計算高いヤツ。GBNで遊ぶ時間を稼ぐために、大学までエスカレーター式で行ける偏差値高い学校を受験し合格する高性能なアホ。

 中学の頃からGBNをプレイしていたが、受験を機に一時引退。合格をきっかけに復帰した。とある事情によりビルダーとしての技量は高い。ダイバーとしてもかなりの腕はあるが、さすがに一撃でMSをずんばらりんとするほどではない。今のところ。

 突撃、強襲、乱戦を得意とし、手数と勢いで相手を圧倒する。

 外観イメージはfateの衛宮 士郎……と言うかアンリ・マユ。中身はマイルドなこち亀の両さん。

 使用ガンプラはEX-SガンダムR。

 

 

 

 

 

 アイザワ ホウジ

 

 ジントの幼なじみにして友人。ダイバーネームはH・A。ランクはD。

 ジントの相方というかツッコミ役……と見せかけてこいつもノリと勢いで生きてる節がある。ジントより隠すのが上手いだけ。ジントの考えに同調して同じ学校を受け合格するくらいには高性能なアホ。

 やはり復帰組で、ビルダーとしてもダイバーとしてもジントに勝るとも劣らない。しかしなんか地味。可変機構などを十全に利用したトリッキーな戦術という、派手な戦い方を得意としているのに地味。

 外観イメージは漫画トライガンのウルフウッドを大人しくした感じ。黙っていればイケメンに見える。

 使用ガンプラはZプラスC1ナイトオウル。

 

 

 

 

 

 イズミ

 

 ジントとホウジが贔屓にしているガンダムベース支店の店員さん。

 ユル軽く人なつっこい雰囲気を持つ美人。

 イメージはらきすたの泉こなたが大人になった感じ。

 

 

 

 

 

 初心者狩り狩り狩りの3人。

 

 もう狩りと言う言葉がゲシュタルト崩壊しそうなアホ3人。女性ダイバーでリーダーのナベと、手下のカモ、ネギという、冬場に暖まりそうな面子で構成される。

 なんであんな真似をしていたかというとナベ曰く、「初心者を食い物にするのは可哀想だし、それなら初心者狩りに割って入ってドヤ顔するヒーロー気取りのヤツの方が殴ってすっきり出来る」という良い奴なんだか姑息なんだかよく分からない理由でやってた。

 実は結構技量が高い。ジンとH・A相手にしばらく保たせられたのはそれが理由。が、特に長じた技能も無かったので押し切られた。

 果たして出来た因縁はどうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 登場ガンプラ。

 

 

 EX-SガンダムR

 

 ジントが受験の合間に息抜きと称してコツコツ組み上げたガンプラ。Rはリファインの略。機体の色からレッドと思ってる人もいるかも。

 分離合体機能をオミットして再設計されたEX-Sガンダムと言うのがコンセプトで、コアブロックを持たず巡航形態Gクルーザーへの変形もある程度簡略化されている。可変機構を再現すると同時に強度を保つため、全身の関節は金属パーツなどで補強を入れ、1から作り直された。(おかげですごく可動範囲が広くなって動きまくる)特に肩と腕は独自の解釈ながらほぼ原典通りに変形する。胴体部分は強度を保つためと言う理由でほとんど変形しないが、肩の変形機構を制作したところで力尽きた疑いあり。

 胴体部分の変形機能をオミットしたおかげで構造に余裕が生じたため、肩口にマシンキャノンを増設。そしてビームスマートガンの銃身下にチタン合金を削り出した折りたたみ式の銃剣(最低でもペーパーナイフくらいの切れ味)というあほな武器を備える。これによりビーム耐性を持つ相手にもそれなりに渡り合える。 もちろんインコム、リフレクターインコムも使用可能。そして両肩のサイドアーマにビームシールド発生器を追加して防御力を向上。さらに人工知能ALICEをサポートAIとすることによって操縦や火器管制、情報分析を補助させている。

 攻防共に隙の少ないこのガンプラを、ある人間はGBNで戦い抜くための物と評しているが……。

 なお、未だ習作の域を出ていないらしい。それなのにやたらと作り込んでる。こんなんTVで主役機になったら作画が死ぬ。

 

 

 

 

 

 ZプラスC1ナイトオウル

 

 ホウジが受験の合間に(略)夜戦仕様をイメージしたガンプラらしい。

 ver.UCZプラスA1と旧HGZプラスC1のミキシング。基本胴体は旧HGをベースとし、 四肢、頭部、胸部はver.UCを加工している。ただミキシングしただけでなく、余剰パーツのない完全な変形機構を再現し、なおかつ荒っぽい使い方をしても支障の無い強度を保持している、地味に完成度の高いガンプラ。可変機構を納めたせいで、なんか厳つくてマッシブ。

 一応夜戦仕様っぽくある程度のステルス性をもつが、正直あまり意味をなしていない。精々多少レーダーに捕捉されにくい程度。その他には主翼部分にオプションを装備することができるくらいの変更点しかない。

 なおA1型に換装が可能だが、火力が落ちるのでほとんど出番が無いと思われる。

 これもどうやら習作のようだ。

 

 

 

 

 

 ガナーザクウォーリア、ガフラン、グレイズ。

 

 あったか3人組が使うガンプラ。きれいに仕上げてあるが原作からの変更点は全くない。

 本来はガフランとグレイズが前衛として敵を抑え、ザクウォーリアが支援という形を取る。

 

 

 

 

 

 

 

 




 初めてじゃない方は毎度。初めての方はお見知りおきを。捻れ骨子にございます。

 最近ダイバーズ系の作品が多いので便乗してみました。自分でもプラモ作っているからか、色々と妄想がはかどりますな。せめてガンプラの外観データ読み取る系のゲームは作って欲しい。頑張れや財団B。
 それはさておき妄想がはかどり続ければ続きが出来るかも知れません。はかどりすぎてプラモ作りに没頭する可能性もありますが。くっ、静まれ俺のビルダー魂。下手の横好きが頑張ってもろくな事にはならないぞ。

 それでは今回はこの辺りで。ご縁が合えばまたお目にかかりましょう。


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2戦目・類は友を喚ぶ。(誤字じゃないかも知れない)

 

 

 

 

 陽昇大付属高校内、旧校舎。通称部室長屋。古い校舎を改装し、小規模の部活や同好会が拠点として使えるようにした建物である。

 一つの教室を二つに区切り、結果かなりの数の部屋を備えることになったその建物に、ジントとホウジは足を踏み入れた。

 

「え~っと、一階の奥、か」

「日当たりは良くなさそうだが、はてさて」

 

 手にした案内のチラシを見ながら二人は奥へと進み、ある部屋の前で足を止めた。

 【模型研究会】。達筆な文字で書かれた看板が掲げられたその部屋のドアを、ジントは軽くノックし、「失礼します」と一声かけてがらりとスライドさせた。

 

「ふははそれロンじゃあ! 字一色で役満よぉ!」

「ちょっと待つでござる。なぜ拙者のところと会長の牌で合わせて5つの白があるでござるか」

「これぞ麻雀奥義轟盲牌なり!」

「嘘こけでござる適当にイカサマしたんでござろうが。ノーカンでござるノーカン」

 

 なんかイケメンといかにもオタクな巨漢が熱く麻雀してた。

 

「……失礼しました~」

 

 からからぴしゃん。ドアを閉じてから、ジントは良い笑顔で額の汗を拭う仕草をする。

 

「見なかったことにしようか」

「だな」

 

 何事も無かったかのように立ち去ろうとする二人だったが。

 

 がららららっ!

 

「待ってえええええちょっと待ってええええ! 違うのちょっと暇だから遊んでただけなのおおおお!」

「入部希望者でござろうそうでござろう!? 頼むから何事も無かったかのように立ち去るのはやめていただきたいのでござる!」

「いやああああああ離してすがりつかないでえええええ!」

「やめろお部屋に引きずり込んだ途端熱い麻雀漫画が始まるんだろ俺は詳しいんだ!」

 

 ……で、なんとか騒動が収まった後。

 

「では改めて……僕が本研究会の会長、【タガミ ヨウヘイ】だ」

 

 イケメンの方がそう名乗り。

 

「拙者が副会長の【オダ クロウ】でござる。よしなに」

 

 オタクっぽい人が眼鏡をきらんと光らせて言う。

 

「あっと、ナカモノ ジントっす」

「アイザワ ホウジです」

 

 二人も名乗って頭を下げた。会長のヨウヘイは、二人に向かって言葉をかける。

 

「それで、二人ともこの同好会に入部希望と言うことで良いんだね?」

「その前に……ここ本当に模型研究会なんですよね?」

 

 ジト目のジントが問い返す。ヨウヘイは心外だとでも言いたげな態度で応えた。

 

「当然だとも。この塗料や接着剤の溶剤臭漂うこの部屋のどこが模型研究会らしくないというのだね」

「そこの麻雀卓とかジムにおいてあるような筋トレ器具とか色々異物があるのですが」

「その辺は個性的なインテリアだとでも思っておけばよろしい。ともかくここは模型研究会で間違いないことは確かだ」

「まあ正直閑古鳥が鳴いていることは否定できないのでござるがな」

 

 苦笑しながら肩をすくめるクロウ。そういえば、この部室には2人しかいない。ジントは恐る恐る問うた。

 

「えっと、もしかして今この同好会って2()()()()、なんですか?」

「ああ、その通りだ」

「このご時世に何でまた、と聞いても?」

 

 疑いの目を向けたホウジが重ねて問う。世界規模で2千万のユーザーを有するGBN。その影響もあって大概の中高では模型関係の部活や同好会が存在し、相応に賑わっている。閑古鳥が鳴いているというのは今時珍しい。

 ホウジの問いに、ヨウヘイはがっくりと肩を落として応えた。

 

「……三年前の【ブレイクデカール事件】、覚えてる?」

「マスダイバーがどうたらで、有志連合が立ち上がった奴ですね。ネットニュースにも載ってましたから知ってますけど」

 

 特殊なチップを仕込んだデカールを貼ることによって、GBN内で強力な力を振るうことが可能となったガンプラ。それを操るマスダイバーと呼ばれる連中が引き起こした事件。当時結成された有志連合の尽力によって解決されたその事件は、ジントたちもそれなりに聞き及んでいた。

 

「……当時の諸先輩方が、ブレイクデカール使っちゃったらしくてね~」

 

 どよんと暗い空気を漂わせて、ヨウヘイは力なく笑う。彼の説明をクロウが補った。

 

「おかげで内部分裂が生じて部員は散り散りばらばら。一気に部員も減った上、話が広まったおかげでイメージ悪くなりまくり、結果翌年から入部がするものが激減どころか皆無に近い状態になったのでござるよ。で、未だにその影響が色濃いというわけでござる」

「むしろ人数が減ってチャンス! とか思ってたらこの有様。チャンスどころか廃部寸前というわけだよははははは」

 

 べつにGBNをプレイするだけなら部活に入る必要は無い。だったらイメージ悪い同好会に所属する必要ないじゃん。事情を知ってる者たちはそんな感じで模型研究会を忌避したのだという。

 この学校に直接の知り合いがいないジントとホウジは全く知らない話であった。

 

「そういうわけで新入部員は大歓迎な訳だよ。で、入部してくれるよね?」

「……う~ん、訳ありかあ」

「気にしないのかと言えば気にしない類いの人間ですけどね俺達」

 

 気乗りしない感じのジントとホウジ。廃部寸前の弱小同好会に入ってメリットがあるのかどうかと迷っているのだろう。それを見て取ったクロウが、アピールを始める。

 

「この研究会に入れば、部室内の機器や製作ツールは使い放題。ジャンクパーツも好き放題に使ってくれて構わんでござるよ。まあ基本持ち寄りなんで余っている物や不要品を持ってきていただきたいのでござるが。それより何よりも!」

 

 ずはっ、とクロウは部室の奥を指す。

 

「なんと【G()P()D()()()()()()()()()()()()()()()()()()のでござるよ!」

「「マジすか!?」」

 

 2人が揃って声を上げる。GPD、【GPデュエル】と呼ばれるそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。GBN以前に大流行したもので現在はGBNに取って代わられたが、依然一部では根強い人気があり、マニアにとっては垂涎物であった。

 思わず部屋の奥に備えてあるテーブル状のそれに駆け寄り、2人は興奮した様子で言葉を交わす。

 

「すげえ実物始めてみた! 今おいてあるところなんか全国でも少ないだろこれ!」

「プレイできるって事は稼働状態にあるって事ですよね。なんでこんな物が……」

 

 廃れたとは言えGPDの筐体は相当なコストがかかる。中古でも学生風情がおいそれと手の出せるものではないはずだが。

 クロウはふふんと胸を張った。

 

「実は陽昇大の工学部はGPDの開発に一枚噛んでおったのでござるよ。その伝とコネで当時の顧問やOBがテストプレイの名目で持ち込ませたのでござる」

「まあ初期型のしかもテスト用だったものだ。僕たちが来る頃にはすっかりくたびれて埃被ってたんだけどね」

「へ? じゃあなんで動いてるんすか」

 

 ジントの問いに、ヨウヘイとクロウはすごいドヤ顔してみせる。

 

「「()()()()()()()()!」」

「「はあ!?」」

 

 ジントとホウジが素っ頓狂な声を上げる。GPDの筐体と言えばオーバーテクノロジーじゃないかってくらい複雑怪奇な物のはずだ。それを高校生風情が自らの手で修理したなどと、にわかには信じられない。

 ヨウヘイがふっ、と格好を付けて言う。

 

「こう見えて僕はこういった物のハードには詳しいのさ」

「そして拙者はシステムエンジニアとしてはちょっとした物なのでござる。まあハードもソフトもそんなに損傷してなかったから出来たことでござるが」

 

 ただの変な人たちでは無かったらしい。胡散臭そうな目でジントたちは2人を見るが、ともかくGPDがプレイできるというのであれば文句はない。怪しいところはあれどもと、2人はあっさり手のひらを返して入部申込書にサインをした。

 申込書を確認してヨウヘイは満足げに頷く。

 

「OK、不備はないね。これで何とか同好会としての体裁は保てそうだ。……それで、早速やってみる?」

 

 ヨウヘイはくいっと親指で背後の筐体を指し示してみせる。クロウもにこやかに傍らのスチールラックを示した。

 

「使えるキットがいくつかあるから貸し出しも出来るでござるよ。適当に見繕って……」

「「いえ自前があります」」

 

 ずは、とハードケースを取り出してみせる2人。ヨウヘイがふむと頷く。

 

「きっちりと保護しているか。……良い心がけだ」

 

 バトル用のガンプラをどう扱っているかで、その人間の思い入れや本気度が分かるとヨウヘイは思っている。ジントたちの扱いは上等だと言えよう。

 それぞれケースから取り出されたガンプラを見て、クロウはほう、と眼鏡を光らせる。

 

「かなり作り込んでいるようでござるな。相当手間がかかったのでは?」

「ふっふっふ~、受験の合間に息抜きと称してちまちま組み上げたのは伊達ではありませんぜ」

「数か月かかってこれ1体につぎ込みましたからね。その分出来は良いと自負してます」

 

 受験戦争の最中に複数のキットを組む余裕は無かったのだろう心情的に。家族の視線も痛いだろうし。

 ともかく取り出したキットをジントたちは筐体にセットする。

 

「本格的にやり合ったらぶっ壊れるって話だから、適度に流す程度にしとくか」

「GPDで派手にやり合うのも心引かれるけどね」

「あ、それなら心配しなくてもいいでござるよ。コーティングとステージ内の粒子量を調整することによって射撃ダメージを抑えることが出来るでござるから、直接ガツンガツンぶつけ合わなければ早々破損することはござらん」

「え? そんなこと出来るんすか」

「エフェクトがしょぼくなるので実際のプレイではやらないことでござるがな。テスト筐体だからこそ出来る裏技的な物でござるよ」

 

 筐体に接続された端末をいじりながら言うクロウ。GPD筐体に関してかなりの知識と技術を持っていると窺わせる言動だが、逸っている2人には関係ない。セッティングが完了すると同時に、ホログラムのコントローラーを操作して己の機体に命を吹き込む。

 

「EX-SガンダムR、行くぜ!」

「ZプラスC1ナイトオウル、出る」

 

 カメラアイに灯を点し、2体はバトルステージに躍り出る。とはいえすぐさま戦いを始めるわけでは無く、色々と機体を動かして慣れようと試みていた。

 

「お、あれ。ちょっと動きがぎこちない?」

「……なるほど、GBNと違って()()()()()()()()()()()わけか」

 

 実際にプラモを動かす関係上、実際に稼働する部分しか動かない。例えば通常の1/144スケールであれば手首から先は固定され、指の関節は動かないようになっている。それがそのまま反映されるわけだ。ゆえにGBNでジントが行ったようにスマートガンを派手に振り回す、などというアクションは難しい。

 それに。

 

「それだけじゃない、全体的に動きが硬い。……あれ、銃剣の展開も出来ないや」

「……もしかしてそのキット、金属パーツを多用していないかい? GPDのコーティングは()()()()()()()()()んだ」

 

 ヨウヘイが言う。基本GPDのシステムで動かせるのはプラスチックで構成された物体だ。ゆえに金属パーツを多用すると稼働に影響が生じてしまう。ジントのEX-SガンダムRは関節全てに金属パーツを用いたものだ。その動きが鈍るのは当然であった。

 

「そ、そういう物だったんすか。……ならこれはどうだ」

 

 コントローラーを操作。それに応えEX-SガンダムRはGクルーザーモードへと姿を変える。

 

「これなら手足の動きは関係ねえ!」

「なるほど。こっちも変形を試して見るか」

 

 次いでZプラスもその姿を変える。先輩2人は目を見張る。

 

「完全変形か! 旧HGを加工したんだな。良い出来だ」

「EX-Sガンダムもなかなかの物でござる。可変機構を簡略化して強度を保つ。オリジナルの変形機構に拘っていたらば中々出来ることではござらん」

 

 視線の先で、2体が自在に宙を舞う。

 

「ラジコンみてーで面白れぇ! GBNとこんなに違うんだ」

「こっちはこっちで楽しいもんだ。根強いファンがいるのも分かる」

 

 ぶんぶんと機体を回している2人は、完全にのめり込んでいる様子だ。それを微笑ましく見ながら、クロウは端末をいじっている。

 

「GBNの経験があるからと言って、初めてのプレイでここまで適応できるとは。キット共々データ取りがはかどるでござるよ」

「ふむ、バトルを始めるのか。どれだけやれるものか」

 

 眦を鋭くするヨウヘイ。その視線の先で2体のガンプラは激しく戦い始めた。

 

「どっちみち格闘戦は無理なんだ。だったら火力で押し通す!」

 

 スラスターを主軸にした機動を見せながら、備えられた火器を撃ちまくり弾幕を張るジントのEX-SガンダムR。

 

「そうそう当たってはやれんな!」

 

 火力では勝負にならぬと見て取ったホウジは、得意の変形を繰り返す幻惑的な機動でZプラスC1ナイトオウルを奔らせ、翻弄せんとする。

 

「ちっ、ALICEが使えねえと目くら撃ちみてえなもんか!」

「こっちの予測軌道を潰しておいてよく言う! おまけに攻撃を全部受け流しておきながら!」

「Iフィールドとビームシールドなかったら全部直撃じゃねえか! そっちこそえげつねえな!」

「お互い様だ! まだインコムとか余力残しているくせに!」

 

 それにしてもこの2人、ノリノリである。

 ともかく処理の甘いCGみたいなエフェクトを咲かせつつ、2体のガンプラは激しく舞い踊る。それを操る2人の顔は、実に楽しそうな物であった。

 うず。みてる先輩2人が何やら反応する。

 

「……やっぱりみてたらやりたくなりますな」

「まあ初心者がこれだけの物を見せつけてくれたらね」

 

 いつやるの? 今でしょ。

 イケメンとオタクが身を翻し、そして。

 砲火を交わす2体。その間を割るようにビームと銃弾が撃ち込まれた。

 

「うおっとお! ……先輩!?」

 

 視線を向ければ自分たちと同じようにホログラムのコンソールを展開しているヨウヘイとクロウ。

 

「人が楽しくプレイしてるのをみると妬ましくなるでござるからな。ゆえにちょっと乱入させてもらうでござるよ」

 

 グリーンを基調とした配色の、【ガンダムヘビーアームズEWイーゲル装備重装型】。

 

「そういうことだ。折角だからみんなで楽しく遊ぼうじゃないか」

 

 ほぼ純白に塗り上げられた、【フリーダム・ノイエ】。

 いかにも強者といった様相の乱入者を前にして、GPD初心者たる2人は引かない、戦かない。

 

「「……上等っ!」」

 

 獣のようにジントとホウジは笑む。そして先輩たる2人もまた。

 

「滾るでござるなあ! 派手に火花を散らしましょうぞ!」

「いいじゃないか。実に良い! さあ、かかってきたまえ!」

 

 立体映像の世界を揺るがし、4体のガンプラは激しく斬り結ぶ。

 

「1年の経験差がなんぼのもんじゃああああ!!」

「その意気や良し! だが気迫だけで勝てる物ではござらぬ!」

「下剋上、成させていただく!」

「ほう? ならば僕を倒せば模型研究会会長の座、譲ってやろうじゃないか」

「「それは結構です」」

「なんでさ!? しかも真顔で!」

「そりゃ面倒押しつけようってのが透けて見えるからではござらんか?」

 

 それにしてもこの4人、ノリノリである。

 とんにもかくにも。水があったのかなんなのか、意気投合しまくったアホどものバトルは果てなく続く。

 

「「「「たーのしー!!」」」」

 

 それは日が落ち明かりが煌々と灯るようになってからも終わる様子を見せない。

 こうして、廃部寸前であった模型研究会に新たな新風が吹き込んだ。

 それがいかなる物語を招くのか、未だ定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、下校時間をオーバーしまくったアホ4人は、守衛さんと居残りの教師からめっさ怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 キャラ紹介

 

 

 タガミ ヨウヘイ

 

 陽昇大付属高校2年。模型研究会会長。

 クールなイケメンに見えるが、割とノリと勢いで生きているジントたちの同類。やはり高性能なアホ。

 廃部寸前の模型研究会でだらだらと過ごしていたが、ジントたちが入ってきたことによりやる気を見せる……?

 性格はともかく見た目通りの切れ者で、GBNやGPDのハード……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に造詣が深い。

 外観のモデルは漫画デスノートの夜神 月。腹黒ではないがアホ。

 使用ガンプラはフリーダム・ノイエ。

 

 

 

 

 

 オダ クロウ

 

 陽昇大付属高校2年。模型研究会副会長……と言っても物語開始時点で2人しかいないが。

 いかにもオタクっぽい外観をした巨漢。やはりノリと勢いで生きる高性能なアホ。

 キャラ作りで己を拙者と称しござるが語尾。しかし眼鏡の奥の瞳は存外鋭く、何やら隠し持った本性があるように思われる。

 システムエンジニアとしては超高校級というかプロも顔負けで、その実力はヨウヘイの協力があったとは言えGPD筐体を修復できたほどの物。

 外観のモデルは漫画賭博黙示録カイジから安藤 守。屑ではないがアホ。

 使用ガンプラはガンダムヘビーアームズEWイーゲル装備重装型。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 登場ガンプラ

 

 

 

 フリーダム・ノイエ

 

 ヨウヘイのガンプラ。HGフリーダムガンダムの改造キットで、腰のレールキャノンはKEP弾使用のショートバレルダインスレイブに、両手に備えるライフルはウイングゼロカスタムのツインバスターライフルに、それぞれ換装されている。

 そもそもが扱いの難しい機体だが、ヨウヘイは難なく使いこなしているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンダムヘビーアームズEWイーゲル装備重装型

 

 HGガンダムヘビーアームズをEW風に仕立てイーゲル装備を追加し、さらにガトリングガンを2丁にしてバックパックにビームカノンとグレネードカノンを追加したもの。(ガトリングガンは腰の両側から延びたアームで保持されており、ドラムマガジンは銃のフレームに備えられている)

 アホみたいな重装備のおかげで動きが鈍い……と思いきや、脚部のクローラーによるローラーダッシュ機動で結構機敏に動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 続きが出来たお。うん仲間増やすだけの話だったんですけどね……。
 なんか変人増えてGPD周りに変な設定生えただけの話になりました。どおして……(現場猫感)
 もう1話くらい書けたら連載にしようかと思っています。


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3戦目・オタクに優しいギャルだと!? そんなものは粘膜の生み出した幻想に過ぎん! (馬鹿兄感)

 
連載、始めました。(冷やし中華か)


 さて、アホ4人が遊びすぎてこってり絞られた翌日。

 

「いやあ参った参った。ちょっと白熱しすぎたね」

 

 ぽりぽり頭をかきながらヨウヘイは言うが、多分態度だけだこいつ絶対反省していない。賭けてもいい。

 

「あの状況で熱血せぬ者はプレイヤーとしての名折れ。故に我らの行動は必然であり致し方なきものでござろう」

 

 フンスと腕を組むクロウは取り繕うことすらしない。

 そしてうんうん頷いているジントとホウジ。やはり反省の色はなさげである。こいつらそろいもそろって自分の欲望に忠実であった。

 まあそれはさておいて。

 

「とはいえさすがに2日連続でやらかすわけにも行かないだろうし、筐体のチェックと調整もしておきたい。しばらくはGPDはお休みだね」

「「え~」」

「正直拙者も不満ではござるが、こればかりは仕方のないことでござる。……と言うか貴殿らGBNをプレイする仲間募るためにこの研究会に入部したんでござろうが」

「あ、そでした」

「GPDの存在が衝撃的すぎてすっかり忘れてたわ」

 

 本来の目的をスポーンと忘却してた2人。まあ伝説のゲームを目の前にしたゲーマーが我を忘れることはよくある。

 

「というわけでお二人はGBNの方は経験おありで?」

「変わり身早いね。そりゃあもちろん……」

 

 ジントの言葉に対し、フッと格好を付けた笑みを浮かべるヨウヘイ。そして同じように不敵に笑んだクロウが懐に手を突っ込む。

 

「「たしなんでいるとも」」

 

 揃って取り出されたのはGBNダイバーであることを示すメンバーズカード。記されているランクは2人ともBである。

 それをみたジントは意外だと目を丸くした。

 

「結構やりこんでる方かと思ったんですけど」

「僕らはエンジョイ勢だからね。毎日ディメイションに籠もるほどじゃないさ」

「どちらかと言えばGPDのハードとシステムを解析したりキット組んだり遊んだりする方がメインでござった。週に2、3度プレイする程度でござるよ」

 

 他に熱中する物があったからだと二人は言う。ばらばらにダイブしてソロプレイすることも多く、ゲーム内でのグループ――【フォース】も組んでいない。

 そう主張してから、ヨウヘイはふむと顎に手を当てる。

 

「しかし折角新たに部員が入ってきたんだ。これを機会にフォースを組むのも……」 

 

 などと言いかけたところで、こんこん、とドアをノックする音が響いた。

 顔を見合わせる4人。3年前の事情を知っている者はこの部室には近づかないが、知らない者であればその限りではない。

 もしかして新たな入部希望者かと期待を込めた目線を向け、ヨウヘイが「はい、どうぞ」と声をかける。

 それに応えてからからとドアを開いて現れるのは――

 

「しつれいしま~す」

 

 恐る恐るといった感じで顔を出す、ちょっとスカートが短めな女子制服に背中まで届くロングの茶髪という、ギャルっぽい女の子だった。

 しん、と固まる野郎4人。あ、あの~とか愛想笑いを浮かべてる女の子。

 そしてヨウヘイが吠えた。

 

「敵襲ーーーーーっ!」

「なんで!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どぉん、となんか重苦しい空気が漂う。

 正面にはテーブルに肘をつき、口元で手を組んだいわゆるゲンドウポーズのヨウヘイ。その傍らには直立不動で後ろ手を組んだ、冬月ポーズのクロウ。そしてなぜか左右で跪き拳を床に着けて控えているジントとホウジ。

 

(何なんだろうこの状況……)

 

 訳の分からぬまま、パイプ椅子に座っているギャルっぽい子は後頭部にでっかい汗をかいていた。

 そんな状況の中、ヨウヘイが口を開く。

 

「それで、君は何の目的でこの部屋に訪れた?」

「え? 普通に同好会の見学に、って……」

「ほう? 模型とか興味なさげなギャルが、なぜと問うても?」

「いやスズタニギャルじゃないですし。ふつーだし」

 

 どうやらスズタニと言うらしい女の子が手をパタパタ振って言う。ヨウヘイはちょっと眉を顰めた。

 

「……まあそこら辺はちょっとした見解の違いだろう。とりあえず置いておく。それで、理由は?」

 

 再度問われてスズタニは、頬をかきながらちょっと視線をそらしつつ応える。

 

「や~、最近【マーブル】の動画チャンネルで、『GBNにチャレンジできるのか』って企画やってたから、興味がわいて……」

 

 マーブルとは最近売り出し中の男性アイドルグループである。個性的な面子が色々なことに挑戦する企画をネット配信で流しており、そこそこ人気が出ていた。そして確かに最近GBNをプレイしようという企画があったはずだ。

 ミーハーな人間がそれに影響を受けて、というのは確かにあるかも知れない。しかし本当にそれだけでこの魔窟を訪れるものなのだろうか。ヨウヘイはさらに眉を寄せ、それから手招きして野郎どもを集め、部屋の隅っこで車座になりぼそぼそ語り合う。

 

「どう思う?」

「おかしなところはないように思えるでござるが……何分いきなりですからなあ」

「違うクラスの子なんでどういう人間かも分かりませんしね」

「そも同じクラスでも名前と顔を覚えきってませんよ俺ら」

「情報がない状態で迎え入れるにはリスクのある話だが……」

「それいったら初対面の人間は大概そうでござるよ」

「悪い人間と決まってるわけじゃないですけど」

「良い人間であるかも分からない、か」

「ふむ……ここは一つ僕に任せてもらえるかな?」

「どうするのでござるか」

「なに簡単な質疑応答さ。悪いようにはならないと思う」

「よく分かんねえですけど、会長に任せます」

「右に同じく」

「OK、決まりだ」

 

 ひとまずの結論を出した4人は、元の位置と姿勢に戻った。だからなんなのそのフォーメーションと疑問符を頭の周りに浮かべるスズタニに、ヨウヘイが厳かな様子で伝える。

 

「君の動機は分かった。その上で一つ聞きたいことがある」

「な、なんでしょうか?」

 

 がんだむとかよく分からないんだけどなーと、戦々恐々とするスズタニ。そんな彼女にヨウヘイは問いを投げかける。

 

「劇場版鬼滅の刃の感想」

「「「煉獄さあああああん!!」」」

 

 途端に泣き崩れるスズタニ……とジントにホウジ。

 

「なんか流れ弾が被弾してるでござるな」

「ちなみにクロウ、君の感想は?」

「やはり日本の漫画の映像化はアニメに限るでござるな。実写化とか呪われれば良いと思うでござる」

「見たまえ。これが捻くれた人間の有様だよ」

「えー、めっちゃ素直な意見だと思うでござるなー」

 

 どういう流れなのかはよく分からないが、ともかくヨウヘイは何やら納得したようだ。うんうん頷きながら、彼はスズタニに語りかける。

 

「君が素直な人柄で、かつノリの良い人間というのはよく分かった。まずは仮入部という形で君を迎え入れよう。良いかな?」

「は、はあ。……ありがとうございます」

 

 訳の分からない質問に思わず友達と会話してるノリで答えてしまったのだが、こんなんでいいのか。本当にいいのか。疑問に思わないでもないが、何にせよ仮入部は認めてもらえそうだ。ひとまず目的は果たせたからよしとしようと無理矢理自分を納得させるスズタニであった。

 

「それじゃあ、まずは自己紹介かな。僕がこの研究会の会長、タガミ ヨウヘイだ」

「拙者が副会長のオダ クロウでござる」

「新入部員力の1号、ナカモノ ジント」

「同じく技の2号、アイザワ ホウジ」

 

 シャキーンと馬鹿2人がポーズを決めている。よく分からないノリしてるなあホントとか思いながら、スズタニも自己紹介することにした。

 

「えと、1Bの【スズタニ スズカ】です。よろしく」

 

 名乗ってぺこりと頭を下げる。そんな彼女に対し、ジントとホウジは戦慄の表情を浮かべた。

 

「1Bだと……っ!?」

「このギャル、俺達より頭がいいというのか……っ!」

 

 この学校では成績順にクラスが割り振られる。Aから始まる割り振りから考えると、トップクラスではないが上位の成績だと言うことだ。このスズタニ スズカという少女は。

 ちなみにジントとホウジのクラスはD。中の下か下の上と言ったところである。まあこの学校自体が結構偏差値高いので、それほど悪い成績ではないのだが。

 スズタニ――いやスズカは、フンスと胸を張って言う。

 

「こう見えてスズタニやれば結構出来る子なんで。あとギャルじゃねーし」

「畜生本当にそうだから文句も言えねえ」

「天に二物与えられやがってるぞくそう」

 

 なんだか妙に悔しい2人。ドヤ顔してみせるスズカは、(いや~、入試試験のヤマが当たりまくったんだよね~)などと思っていることをおくびにも出さない。

 とにもかくにも。

 

「成績の話はおいといて、スズタニ君はGBNがやりたい、と言うことでいいんだね?」

「あ、はいです。右も左も分からないんで、お手柔らかに教えていただけたらありがたいかな~と」

 

 てへりと笑うスズカ。その彼女を見ながらヨウヘイは一瞬考え、そして。

 

「それじゃあナカモノ君かアイザワ君に彼女の世話を頼もうか」

「は!? ちょいまち会長、そういうのは先輩の役目じゃ?」

 

 ジントが言う。それに対してヨウヘイは肩をすくめ、クロウはふっ、と笑んだ。

 

「あいにく僕は女の子の扱いが苦手でね」

「拙者3次元の女性の扱いなどとんと分かりませぬのでな」

「押しつける気ですなこのやろう」

 

 こいつら女の子に気が使えるような人間じゃないと分かってはいるが、丸投げはないだろう丸投げは。抗議の言葉を投げかけようとするジントだったが、その前にホウジがしゅた、手を軽く上げる。

 

「あ、自分下手なことすると『彼女』に怒られそうなので、パスということで」

「「なにい!?」」

 

 意外な言葉に驚く先輩2人。ジントがしかめっ面でホウジを指さす。

 

「そうなんすよ、こいつ女子大生と付き合ってやがるんですわ」 

「この学校に合格したら、そう約束してまして。この間正式に交際することになりました」

「わおオタクらしからぬリア充」

「むしろなぜオタクやってるのかと小一時間」

 

 人は見かけによらぬと言うか、見かけだけなら確かに騙されいやいやモテそうな雰囲気はあるが。その彼女とやらは中身がアホで大丈夫なのか。思わず余計な心配をしてしまう先輩2人であった。

 しかしそうなると。

 

「……消去法でナカモノ君が彼女の世話係に決定と言うことか」

「ちなみに拒否権は……ないっすよね」

 

 当然だろうと言いたげなドヤ顔を見せる3人。ジントはがっくりと肩を落としたが、スズカを見捨てるのも気が悪い。しょうがないと気を取り直した。

 

「あ~っと、気が利かない男だけど、できる限りのことはしようと思うんで、よろしく」

「あ、うん、こちらこそ」

 

 なんかこっちも気が悪いなあとか思いながら、スズカは握手のために手を差し出そうと――

 

「あ、こういうのもセクハラとかになる?」

「いくら何でもならないよスズタニそこまで狭量じゃないよ」

 

 妙なことを気にし、引っ込めようとしたジントの手をひっつかんで握手するスズカ。

 

(ん? この子意外と握力あるな?)

(む、細身に見えて結構しっかりした手じゃん)

 

 少年と少女の第一印象は、まあそのようなものだった。

 こうして模型研究会にズブのド素人、スズタニ スズカが参加することとなる。

 果たしてそれがどのような影響を物語に与えるのか、今は定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

「で、さっきのフォーメーションなんなの」

「「「「……特に意味のないその場のノリ?」」」」

(大丈夫なんだろうかこの人たち)

 

 スズタニさんの不安は増した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャラ紹介

 

 

 スズタニ スズカ

 

 模型研究会の元に突如現れた女子。ちょっとギャルっぽい見た目だが、本人はふつーだと宣ってはばからない。

 模型に関してはズブの素人。ガンダムに関してもロボットが戦うアニメとしか認識してない。多分シャアとクワトロ見せたら別人だと判断する。そんな彼女が研究会の扉を叩いたのは、アイドルの活動に触発されてGBNをやってみたくなったからだと言うが……?

 外観のモデルは艦これの鈴谷。もちろん筆者の趣味である。

 

 

 

 

 

 マーブル

 

 名前だけ出てきた最近売り出し中の男性アイドルグループ。

 次世代のSM●Pという売り文句であったが、実質的にはT●KI●の後継者と言われる愉快な連中。最近GBNに挑戦する動画で脚光を浴び始めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 どうも捻れ骨子です毎度。
 続きを思いついてしまったので連載にすることにしましたが、完全なる見切り発車なのでこの先どうなるか分かりません。とりあえずヒロインっぽい女の子を登場させて誤魔化しております。そもこの子ヒロインになれるのかどうか、全く未定だぞどうするんだ捻れ骨子。
 ともかく方向性が全く定まっていませんが、皆様なにとぞよろしくお願いいたします。



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4戦目・よくある属性だがまさか実在するとはな!

「……というわけで、スズタニ模型研究会に仮入部してきました」

 

 HRが始まる前の教室。生徒がまばらに姿を現し始めたそこで、スズカは友人たちと話していた。

 

「思い切ったというか無謀というか……まあその同好会の人たちが排他的でなくて良かったですよ」

 

 スズカの話に呆れた様子を見せるのは、ポニーテールの真面目そうな女子、【クマガヤ マコト】。スズカの中学時代からの友人である。

 

「今流行ってるからそう悪いイメージでもないけどねえ」

 

 椅子を逆にして座ってにこやかに笑ってるのは【サイジョウ モカ】。ショートカットでボーイッシュ風味の彼女は、入学してすぐにスズカらと友人になった人なつっこい子だ。

 

「まあ面白い人たちだよ。なんかちょっとノリが良すぎるというか方向性がおかしいけど」

「それは本当に大丈夫なやつですか?」

「変な染まり方しないよね?」

「今のところ実害はないから。むしろあのノリに染まりきる自信はない」

 

 疑う2人の言葉に対しパタパタと手を振って否定するスズカだが、ヨウヘイの言葉にノリで泣き崩れたのは忘却の彼方らしい。気がついたら染められてしまうかも知れなかった。

 

「ともかく今日はGBNに初挑戦してくる。どんなんだか楽しみ~」

「……はしゃぎすぎないでくださいね。スズカは調子に乗るとアレですから」

「なに? スズカちゃんキレる系なの?」

「人をヤバい人間みたいに言うなし。ちょっとハメ外れる程度じゃんか」

 

 口尖らせて反論するスズカ。この子はこの子でなにやらあるようだ。

 

「大体ゲームの中で素人が何できるってのさ。精々足引っ張らないようにするのが精一杯ってところでしょ」

「だといいんですけれどね」

 

 なぜだろう、なんかぶっとい旗が立ったような気がする。けらけら笑うスズカの姿を見て、マコトとモカは漠然とした不安を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、あっという間に放課後。

 

「まずはプレイで用いるガンプラを選ぼう。うちにあるのを貸し出すから、何か希望を言ってみて」

 

 ヨウヘイの言葉に、はいはいーと手を上げて応えるスズカ。

 

「刀! 刀っぽい武器が使えるのがいいです!」

「ああ、スズタニ君は【クロさん】のファンなのか」

 

 マーブルのメンバーが一人、【クロサワ ユウキ】。愛称クロさんは、動画の企画でガンダムアストレイレッドフレームを制作し、プレイに使おうとしていた。かのガンプラは標準装備で日本刀っぽい得物(ガーベラストレート)を携えている。故にヨウヘイはスズカが彼のファンだと判断したのだが。

 

「え? あ、そうそうそうなんですよ」

(ん? なんか妙な反応だな)

 

 そうだった今思い出したわと言うような顔で取り繕うスズカの態度に、違和感を覚えるヨウヘイ。

 なにか隠し事のようなものがあると推測。しかし害になるようなものではないとも感じる。後ろめたさのような雰囲気がないからだ。

 

(そういう演技が出来る人間でもないだろうしね)

 

 そうであったら最初からぼろなど出さない。大した問題にはならないだろうとヨウヘイは流すことにした。

 

「ならば同じ物を使ってみるでござるか?」

 

 こちらは気づいているのかいないのか、全く気にした様子のないクロウがスチールラックから、ケースを一つ取り出す。

 ぱかりと開封されたその中には、丁寧に梱包材で包まれた1体のガンプラ。それを取り出してテーブルの上に置き、クロウは言う。

 

「ガンダムアストレイレッドフレーム、フライトユニット装備。クロサワ氏が組んでいるものと同じキットでござるよ」

 

 ライフルとシールドを両手に、そして左腰に太刀を佩いたそれを見て、スズカはおお、と声を上げた。

 

「できあがったらこんなのになるんだ。なんか尖ったって言うか、勇ましいって言うか。鎧みたい」

「ガンダム自体が鎧をモチーフにしたものらしいからね。これは特にデザインに凝ってる部類さ」

「イメージ的には野武士という感じですかな。それで、これでよろしいでござるか?」

「うん! じゃなくてはい! これ使ってみたいです!」

 

 キラキラとした目でやる気満々ですと全身で訴えるスズカ。さっきのは何だったんだろうなと頭の隅で疑問に思いつつ、ヨウヘイは早速いこうかと皆を促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20分後。

 

「なんてか、世の中狭いねえ」

 

 ショッピングモールのガンダムベースで、イズミがぽりぽりと頭をかく。

 

「そりゃこの辺りでGBNの筐体数そろえてるのって、ここしかないから当然と言えば当然ですが」

 

 肩をすくめるヨウヘイは、イズミとそれなりに親しげだ。それもそのはずで、彼とクロウもまたここの常連であったのだ。

 

「もしかしたらニアミスとかしていたかも知れないっすね」

「左様にござるな。縁は異なもの味なものとはよく言ったものでござるよ」

 

 ジントの言葉にクロウが応える。あるいは知らずのうちに対戦していたりしたかも知れないが、そう考えるとちょっと感慨深い。

 

「まあ積もる話はさておいて、丁度筐体が空いてるけどやってくよね?」

「「「「「もちろん」」」」」

 

 初心者であるスズカは当然のこと、残りの面子もイズミの言葉に応えウキウキと筐体に向かう。

 軽く打ち合わせしてからダイバーギアとガンプラをセット。HMDを装着してシートに身を沈め、グリップを握り起動。

 

 システムオンライン。コンディションオールグリーン。アクセススタート。

 ――ダイブ。

 

 セントラルエリアのロビーに降り立つジンとH・Aは以前と同じ格好である。が、揃って観光バスのガイドが持っているような小さい旗をぴらぴら振っている。

 書かれているのは『模型研究会ご一行様』という文字であった。

 

「まあこれなら分かるだろ」

「人外アバターとかだったらこっちが探しづらいしな」

 

 いくら本人に似せてあるとは言っても、服装を変えただけで見分けづらくなると言うことはよくある。ましてやGBNでは多種多様のアバターが用意され、性別、種族など全く別の見た目になることが可能だ。そういうアバターをヨウヘイたちが使っていたら行き違いになるかも知れないと、ジンたちが用意した小細工がこれである。

 間違ってはいないかも知れないが、もうちょっとなんかこう、何とかならなかったのだろうか。

 

「……横断幕の方が良かったか?」

「問題はそこじゃないと思う」

 

 地の文にツッコむようなメタい言葉を交わす2人の前に、ざ、と現れる影がある。

 

「ふむ、二人は割と普通な感じだね」

「我々もそう派手ではないでござろう?」

 

 その口ぶりは間違いなくヨウヘイとクロウのもの。そしてその顔や背格好もほぼ生身をトレースしたものだ。

 で、その格好はと言うと。

 

「……あ~、会長はキラ・ヤマトのアレなんすね」

「ん、まあね。意外にデフォルトであったりするからこの服」

 

 原作で出てきた、キラのロッカーともなんとも言えない独特の服装。ヨウヘイが纏っているのはそれであった。しかしこう、何というか……。

 

(背丈といい顔の造形といい、八神 庵っぽくね?)

 

 某KOFのライバルキャラ。ジンが連想したのはそれだった。確かにヨウヘイは背丈がそれなりにあって、どちらかと言えば目つきが鋭く悪役顔に見ないこともないが。

 

「なんで使ってるのがヘビーアームズなのに鉄血のビスケットの格好なんですか?」

「これならデブが着てても文句言うヤツはおらぬでござろう? アバターをトロワに似せるという手もあるが、中身とそぐわぬ物を使うのは個人的に趣味ではござらん」

 

 H・Aの問いに応えるクロウ。格好は確かにそのようなものなのだが、体格がごついのでなんかこう、雰囲気が別物だ。

 

(真ゲッター地球最後の日の車 弁慶が眼鏡かけたようにしか見えない……)

 

 大雪山おろしとかやりかねない気配があった。双方ともに違和感があるのに似合っているという、なんとも評価のしにくい有様である。

 

「ああ、この姿の時は【キラ☆】と呼んでくれ」

「拙者は【オタクロ】と」

「その星マークなんすか星マーク」

「綺羅星! とか言わないでくださいね」

「ちっ、ネタをつぶしきたか」

「そういうとこでござるぞ会長」

 

 とまあこんな感じでだべっていた野郎ども。ややあって最後の一人がその場に現れる。

 

「模型研究会のみなさん、でいいんだよね? お待たせしました~」

 

 ぶんぶか手を振りながら歩み寄るのは、薄緑色のロングヘアに、羽織袴の女子。顔の造形はほぼそのままだから、スズカに間違いないだろう。

 彼女の姿を見て、真っ先に感想を述べたのはジン。

 

「お~、似合う似合う可愛い凜々しい。新撰組イメージってとこ?」

「そうなのさ~。こう見えてスズタニ和装にはちょっとうるさいのです」

「あ~、確かに浴衣とかすごい似合いそうだよな」

「へっへーん。そこまででもあるかな」

 

 上機嫌でくるりと一回りしてみせるスズカを褒めるジン。その様子を見てヨウヘイことキラ☆がこそこそとH・Aに語りかける。

 

「彼なんか手慣れてない?」

「あいつ上に姉ちゃんいて鍛えられてるんですよ。割と女の子に評判いいけど中身アレですから」

「フラグだけ立てて放置してる類いかあ」

 

 ギャルゲーで悪い評判なく友達エンド迎えそうなパターンである。ちなみにH・Aは一点集中で他には目もくれないタイプだ。どうでもいい情報だが。

 まあそんなことはさておいて。キラ☆はこほんと咳払いし、皆の注目を集めた。

 

「無事に全員揃ったようで何よりだ。まずはスズタニさんにGBNの空気になれてもらうところから始めようと思う。それで一番最初にダイバーネームを決めてもらおうか」

「ダイバーネーム?」

 

 こてんと首を傾げるスズカに、ジンがフォローを入れた。

 

「SNSで使うニックネームみたいなもんだよ。実名はまずいだろ?」

「あ、そゆこと。じゃあ【スズスズ】にします。普通にスズって呼んでもらえば」

「OK。じゃあウィンドウ開いて変更してみよう」

「えと、ウィンドウオープン、でいいんだっけ?」

 

 ぴこんと開いたフォログラムのウィンドウ。それをぱたぱたと操作してネームを設定するスズカ――スズ。

 

「こゆとこはスマホとかと同じだね。……よし、これでいいかな」

「慣れれば思っただけで開け閉めできるよ。……まあそれは慣れてからの話か」

 

 一番最初の儀式、己のアバターに名前という魂を吹き込むところは出来た。それを確認したキラ☆は、格好を付けて宣う。

 

「では、初心者に教育といこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チュートリアルミッション。本来初心者にGBNの基本操作を覚え込ませるために用意されたものなのだが、なぜだかほとんど無視される傾向にある。

 これをこなさなくともいきなり普通にプレイできるという仕様のためだ。多くがその存在に気づかず、ロビー受付の初心者向けミッションこそがチュートリアルだと勘違いしているものも多い。そのおかげで初心者狩りの食い物にされる人間も多いのだが、運営はその辺どう思っているのか。

 まあそれはそれとして、スズはジンをトレーナーとしてそのミッションに挑んでいた。

 

「最初に俺が手本を見せるから、続けてやってみて。操作説明どうりにすればいいから」

「はーい」

 

 無機質なステージ。そこで構えるNPDザク――無人のユニットに向かって、EX-SガンダムRがスマートガンを向ける。

 

「距離が離れている場合、銃を向けると照準が表示される。四角いのが敵で、十字の印が銃の向いてる方向。オートだと自動的に銃が敵を向いて……印が重なって、赤くなったところで撃つ」

 

 ぱう、とスマートガンの銃口からビームが迸り、ザクを貫いて塵へと変える。

 

「慣れれば手動の方が早いけど、まずは指示に従って撃ってみてよ」

「りょーかい。……こうだね、っと」

 

 GBNにおけるガンプラの操縦とは、コントローラーの操作とダイバーの思考を読み取る思考制御を組み合わせたものだ。慣れればアバターを動かすのと同様思うとおりに制御できるが、初心者のスズにはまだ難しい話だ。慎重に照準を合わせ、コントローラーのトリガーを引く。

 特に何かのトラブルもなくビームは放たれ、ザクを穿つ。『OK!』とシステムが合格を告げるが、なぜかスズは浮かない顔だ。

 

(う~ん、なんかこう、てっぽうって合わないなあ……) 

 

 照準が合うまでの間がもどかしいのか、どうにも性に合わないと感じる。その様子はオペレーターモードで外から見ている三人にも伝わっていた。

 

「ふむ、彼女は射撃が苦手なようだね」

「初心者ですぞ? まだそう判断するのは早いのでは」

「やる気がない……というよりは気が乗らない感じでしょうか。あれだと上手くはならない」

「分かるかい?」

 

 キラ☆の言葉に、H・Aは頷く。

 

「スポーツとかでも集中してないヤツはなんとなく分かるでしょう? それと同じ雰囲気があります」

「しかし彼女は自らGBNをやりたいと申し出てきた者。まさか最早飽きてきたとかいうのでござろうか」

 

 オタクロはそう言うが、キラ☆はかぶりを振る。

 

「いや、多分()()()性に合わないと感じてるんじゃないかな」

 

 キットを選ぶときの会話を思い出す。もしかすると彼女は――

 思考するキラ☆の視線の先、ミッションは黙々と消化されていく。

 

「……それじゃあ今度は格闘戦だね。オートでは基本敵に接近すると、自動的に格闘武器が選択される」

 

 がしゃんがしゃんと音を立てながらEX-SガンダムRが地道に走る。本来であればスラスターなどを用いた高速機動に加えて火力による弾幕を張りつつ敵の懐に潜り込むのがジンのやり方だが、初心者のスズに分かりやすいよう、あえてゆっくりとした動きを見せる。

 

「照準が丸く形を変えるから、射撃と同じように色が変わったところで……」

 

 じゃきん、と銃剣が展開した。

 

「ぶちかます」

 

 どがん、と一閃。遠慮なく振るわれたスマートガン(の銃剣)は、ザクを粉々に吹っ飛ばす。もちろんチュートリアルだからこその結果だ。実際はパチ組みを完全なド素人が操っているものでもない限り、こうもきれいに吹っ飛ばせない。

 

「慣れてくるとオートを使わなくても、自分で得物を振るう感覚で攻撃できる。そっちの方が早くなるしね。……じゃ、一つやってみようか」

 

 促され、前に出るスズのアストレイ。ホログラムに囲まれたコクピットの中で、彼女はすう、と一呼吸。

 

(……自分で得物を振るう感覚、か)

 

 1度目を伏せる。そして開かれた眦は鋭い。

 彼女はメニューウィンドウを開き、迷うことなく()()()()()()()

ず、とアストレイが僅かに腰を落とし――

 どん、と強く大地を蹴る音が響く。

 

「は?」

「え?」

 

 ジンとH・Aが間抜けな声を上げる中、アストレイは前屈で身を低くしたままじぐざぐに駆け、そして。

 ずどどん、と轟音が響いた。抜刀からの切り上げ、切り返し、突きの三連撃。NPDザクは冗談抜きで粉砕され、塵へと化した。

 

「おいH・A、今の……」

「左右に振る歩法。抜刀からの流れるような連撃。間違いないな」

 

 ジンとH・Aが言葉を交わす中、スズははっと我を取り戻して、慌てて取り繕う。

 

「あ、あははははは、偶然! 偶然なんかすごい技出ちゃったよ~」

 

 明らかに誤魔化すスズの様子に、ジンとH・Aは全力でツッコミを入れた。

 

「「偶然で【神結流】の技が使えるかあああああああ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神結流。戦国時代が発祥とされる総合武術である。無手から太刀、槍、長刀、弓。近代では禁じられたが銃の扱いまでも取り入れ体系としたもので、現代の武道にはない実戦を意識した技術を伝える流派だ。

 警察や自衛隊の一部で採用されているという噂があるが、伝承する道場自体が少なく学んでいるのはごく少数に限られるという。

 

「……スズタニ、じゃなかったスズはその数少ない道場の門下生でして」

「そんなこったろうと思った」

「やたらと体幹がしっかりして姿勢がいいと思ったら、そういうことでござるか」

 

 チュートリアルミッションを終え、事情を聞かれたスズは、恐縮しながら答える。なんか刀系の得物を気にしてると思ったらそういうことだったのかと、キラ☆は納得しオタクロも頷く。

 

「でも何で隠してたんだい? 別に黙っておくことじゃないだろうに」

 

 キラ☆の問いに、スズは誤魔化しの笑いを浮かべる。

 

「いや~、ゲームだったらいくらぶった斬っても、怪我人も死人も出ないから好きに斬れる、なんて動機言ったら引かれるかな~って」

 

 それは確かに引く。そう思っても口に出さない情けが、模型研究会の野郎どもにはあった。

 

「こんな時どういう顔をすればいいか分からないの」

「笑えばいいんじゃねえっすかね」

 

 キラ☆のボケもジンのツッコミもキレがない。可愛い新入部員が入ってきたと思ったら、実は危険人物でしたなんて状況、確かにどんな顔をしたらいいか分からないだろう。

 話の流れを変えた方がいいと思ったのか、オタクロがジンとH・Aに尋ねる。

 

「そういえば、なんで二人はスズ氏の流派を知っているのでござるか? かなりマイナーな武術でござろうに」

 

 その問いに、H・Aがジンを指して言う。

 

「こいつの姉ちゃんが、神結流長刀術師範代の先輩なんですよ」

 

 そしてジンもまたH・Aを指す。

 

「で、その師範代がこいつの彼女です」

 

 ぽくぽくぽくとスズは思考し、ややあってちーんと答えを導き出す。

 

「ええええ!? アイザワ君の彼女って【タツノ】ちゃんだったの!?」

 

 おっとりしているように見えて実はスゴイヤバイ級である師範代の姿を思い浮かべつつ、スズは驚愕の声を上げた。

 

「すごい度胸しているというか怖いもの知らずというか、正気?」

「だよなー、うちの姉ちゃんよりマシとはいえ、あの人わりとゴリラだぞ?」

 

 恐る恐る尋ねるスズ。そして便乗して結構酷いことを言うジン。対するH・Aはきょとんとした顔で返す。

 

「そうか? 普通にかわいらしいと思うが」

「や、確かに美人さんだけどさあ」

「前ナンパしてきた男、変な方向にねじ曲げてたぞあの人」

 

 脳か何かに致命的な欠陥があるんじゃないかこの男。スズとジンは戦慄するよりほかなかった。

 一体どういう人間なんだろうと非常に気にはなるのだが、深く話を聞いたらなんか後悔しそうな気がする。キラ☆とオタクロは追求するのを断念し、話の方向を変えることにした。

 

「ともかく事情は理解したよ。まあGBNをプレイするのに何か支障があるわけではないから問題はないだろう。むしろダイバーとしては有望だ、本格的に入部する気はあるかな?」

「は、はい! こんなんでよろしければ是非とも!」

 

 引かれたあげく入部を拒否されるかもと思っていたスズは、ぱあっと表情を明るくして頭を下げる。確かにちょっとアレな人間であるが、変人っぷりでは自分たちも対して変わらないしなと、少し遠い目をするキラ☆であった。

 

「しかしまあ、これで今後の方向性が決まりましたな」

 

 うんうん頷きながら、オタクロが言う。

 

「フォースの結成、かい?」

「左様。まずはスズ氏のランクを上げ、フォースを立ち上げること。ひとまずそれを当研究会の目標としたいのでござるが、いかが?」

「もちろん僕に異論はない。みんなはどうかな?」

「こっちも異論なしっす」

「右に同じく」

 

 野郎どもが同意する中、またまたスズの頭上に疑問符が浮かぶ。

 

「ふぉーすって、ゲーム内のグループだっけ? 今組むんじゃダメなの?」

「ああ、フォースはランクD以上じゃないと組めないんだ。スズさんは始めたばかりでまだランクFだから、フォースには入れないって事」

「えと、つまり……」

「これからミッションクリアしまくって、ランクを上げなきゃね」

 

 ジンの言葉に、スズは――

 

「ええ!? じゃあ斬りまくっていいんだ!」

 

 キラッキラした目でそう宣う。さしもののジンも「お、おう」と答えに窮しているようだ。

 微妙に引きつった表情で、キラ☆が言う。

 

「や、やる気があるようで何よりだ。そういうわけで、フォースの結成を目指し、スズ君のランク上げを行うのを当面の活動とする。みんないいね?」

「はーい! 頑張って斬りまくるからよろしくお願いしまーす!」

 

 テンション上がるなーと上機嫌なスズ。その様子を見ている野郎どもは、揃って後頭部にでっかい汗を流していた。

 

((((微妙に、だいじょばないような気がする))))

 

 とにもかくにも、模型研究会の歩みは、ここから本格的なスタートを切ることとなる。

 それと同時にこの日、少年たちは学んだ。

 世間は結構狭い。そして(変人)(変人)を呼ぶ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ。

 

 

 会長ちょっと気になって聞いてみた。

 

「え? うちの姉ですか? 多分スラングルOPよりもゴリラっすよ」

「若い人には分からないネタをなぜこの子は」

「ようつべとかで見たんでござろう」

 

 あんだけゴリラ連呼するアニメは他にない。あれよりゴリラとは一体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人物紹介

 

 

 クマガヤ マコト

 

 ポニテがトレードマークなスズカの友人。真面目でおしとやか。家が結構しっかりしたところらしく、そのせいか敬語でしゃべる。

 モデルは艦これの熊野。

 

 

 

 

 

 サイジョウ モカ

 

 ショートカットでボーイッシュなスズカの友人。見た目通り活動的なボクっ娘。マコト共々常識人……のはず。

 モデルは艦これの最上。

 

 

 

 

 

 クロサワ ユウキ

 

 名前だけ出てきたマーブルのメンバー。愛称クロさん。寡黙なキャラが売りだが、実は天然ボケだと最近判明した。現在動画の企画でHGアストレイレッドフレームを組んでる最中。

 モデルは某水柱の人。言葉数が少ないだけでコミュ障ではないと思われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 マジでガンダム新作出ないなあ。もうライダーみたく記念作品でクロスオーバーしちゃえよ。……Gジェネかスパロボだそれェ!
 もうそんなんでいいから新作は作って欲しい、でも鉄血みたいなエンドは勘弁な! 捻れ骨子です。

 さて今回はスズタニさん初ダイブ、そして現れる本性。の巻でした。実はスズカと言う名前は鈴鹿御前から来てたり。あれ?FGOの鈴鹿御前ってこんなんだったけか。まあいいか刀使いJKだし誤差誤差。
 そして謎の武術神結流。もちろんかんむすと読みます。そして長刀術師範代のモデルは当然アレ。当たり前のように双子の姉妹がいるでしょう。大分艦これからモデル引っ張ってきてますが俺の好みだ謝らない。
 なお作中のチュートリアルミッション周りは独自設定です。アニメだとみんないきなりプレイしてるけど……本来はこういうのあるよね? あると言ってお願い。

 ともかく次回からはフォース結成に向けて動き出します。その過程で何が起こるのか。適当に刮目とかしながらお待ちください。
 では今回はこの辺で。  


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5戦目・ドレスを選ぶようにガンプラを……ってな風に言うと格好良く聞こえるけど、実情は全然格好良くないからな。

 

 

 

 朽ち果てた、町並み。

 砂塵が吹きすさび、瓦礫が半ば埋まった様子があちこちに見受けられる。うち捨てられて幾ばくかの年月が経過したのだろう。人間はおろか生き物の気配もしない。

 風と砂嵐の音。それのみが支配していた亡骸の町に、轟音が響き渡る。

 

「こっちに引きずり込みました! あと20秒で来ます!」

 

 スラスターを吹かしホバリングで後退しながら機体各所の火器を撃ちまくるEX-SガンダムR。間接各部には防塵のために布のようなシーリング処理が施してあり、砂塵の中でもその動きに支障はなさそうだ。

 

「了解。僕とH・A君で上から牽制する。オタクロは敵を引きすり込んだら弾雨を降らせてやれ」

「分かりました。会長に続きます」

「承知。任されよ」

 

 少し離れた位置から、砂塵を曳いて飛び出すフリーダム・ノイエとナイトオウル。上空から見下ろせば、砂煙を上げてこちらに向かい来る一団がある。

 デザートザク、ドムトローペンなど旧ジオン系かつ砂漠仕様のMS部隊だ。ジオン残党のMS部隊掃討。そのような通常ミッションを模型研究会の面子はこなしている最中であった。

 上空に陣取った2体からの銃撃が、突っ込んでくるMS部隊の周囲に降り注ぐ。散開しようとしていた彼らは、蛇行しながら攻撃を回避しつつ、速度を緩めずEX-SガンダムRの後を追おうとするが。

 

「いらっしゃいませこんにちわ。あなたの町のオタクロでござるよ」

 

 ずしん、とミサイルランチャーをフルオープンにしたヘビーアームズが姿を現す。

 イーゲル装備。その半分以上が追加のミサイルランチャーユニットであり、装弾数は最早数えるのも馬鹿らしい。それらが一斉に火を噴いた。

 

「ミサイルストーム! でござるよ」

「やっぱ弁慶意識してるでしょその格好」

 

 H・Aの小さな突っ込みは、殺到するミサイルの爆発音にかき消された。下手をすれば戦術核くらいはありそうな爆発が、MS部隊を巻き込み派手に爆煙をまき散らす。普通ならばこれでけりがつくはずだが。

 ごばっと爆煙を曳きながら1体のドワッジが飛び出してくる。左肩の装甲は欠落し、全身に幾ばくかのダメージは受けているようだが、その機動力は落ちていないようだ。NPDにしては根性入っているのか、せめて一太刀とばかりにまっすぐEX-SガンダムRに向かって突っ込んでくる。

 ジンは慌てず騒がず一声上げた。

 

「スズさん!」

「かしこまり!」

 

 どがん。間欠泉のような砂煙が上がり、横合いからマントのごとく防塵ローブを纏った機体が突っ込んできた。腰に佩いた太刀の鯉口が切られ、目にもとまらぬ速度で抜刀。横合いからの一閃は、ドワッジの胴体を半分断ち斬り吹き飛ばす。

 二の太刀を入れるまでもなく、ドワッジは爆発。電子の塵と化す。同時に電子音声がミッションのクリアを告げた。

 

「あ、今ので終わりなんだ」

 

 追撃を警戒して残心していたスズが、ふっと緊張を解く。彼女の操作に応えローブを纏った機体――レッドフレームは、くるりと太刀を回転させてから納刀する。

 

「おーし今日も順調。やっぱ仲間多いと楽できるわ」

「各自損害はないね? まあこのくらいの相手ならほぼ無傷でいけるか」

 

 研究会の面々が集まってくる。スズをランクアップさせるための経験値稼ぎ。ここ最近はそのために適度なミッションを選んで挑戦する毎日だ。

 スズを慣れさせるため、宇宙、地上を問わず様々なシチュエーションのミッションをこなしていた。さほど難易度の高いものではないのでポイントはそれほど稼げないが、スズを慣れさせるという意味では適切な選択であった。まあ世の中にはいきなり厳しいところに突っ込ませるなんて言う鬼畜外道な先輩プレイヤーなどもいるが、キラ☆はそういう類いではない。「楽しむのが目的なのにつらいとこ突っ込ませてどうする」とか言っちゃうタイプだ。

 ともかく今日も何事もなく無難にミッションはクリアした。さてログアウトして反省会しようかなどと皆が会話を交わしている中。

 スズだけが妙に難しい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん……」

 

 ガンダムベース支店が入っているショッピングモールのフードコート。

 テーブルに置いたアストレイを前に、スズカが腕を組んでうなり声を上げていた。

 

「いかがしたスズタニ氏。何かこれまでのプレイで不満でも?」

 

 彼女の様子が気になったクロウが声をかける。それに対してスズカは応えた。

 

「いえ、ゲーム自体は何の不満もないんですけど、なんかこの子……ちょっと()()感がするんですよね~」

 

 アストレイを指しながら、スズカは続ける。

 

「なんかな~、素直でいい子なんですけど、物足りないって言うか、パンチがないっていうか……スズタニが使いこなせてないだけかもですけど」

 

 そう、スズカはアストレイを駆る事に違和感のようなものを覚え始めていた。何がどうおかしいと、はっきり言えるものではない。だが紙一重で噛み合わないような、そんなもどかしさのようなものを感じている。

 スズカの言葉を聞いて、ヨウヘイはふむ、と考える。

 

「そのキットは全くノーマルに組み上げたもの、素組みの一歩先と言ったところだ。素直で扱いやすいと思うけど、個人に合わせた調整や改造はしていない。そのフラットな状態ではスズタニさんに合わないのかも知れないね」

「ふむ、さすればスズタニ氏用に手を入れてみるのは? 様子を見ておりましたが相性は悪くないと思うのでござるが」

 

 クロウが口を挟む。非常に可動範囲の広いアストレイと、スズカの技術は組み合わせがいいように思えた。彼女用に改修すればそこそこのところまでいけるとクロウは睨んでいる。

 しかしスズカはどうにも乗り気ではなさそうだ。

 

「……そうじゃなくて、なんて言うか……()()()()()()()って感じ……どう言ったらいいんだろ……」

 

 言いたいことが分からなくてもどかしい。そういった様子のスズカ。それを見ていたヨウヘイは、得心したようだ。

 

「なるほど。少し早いかと思ったけど、スズタニさんには()()()()()()()()()が必要だね」

「自分だけの、ガンプラ?」

 

 きょとんとした表情を見せるスズカ。ヨウヘイの言葉を聞いてクロウが頷く。

 

「そういうことでござるか。誰かの手によるものではない、自分が見いだし、自分の意思で組み上げるもの。スズタニ氏はそのようなものを望んでいると」

 

 与えられたものではなく、自分で得て、自分の好みが入ったガンプラ。それこそがスズカの心に空いたピースにカチリとはまるだろうと先輩2人は言う。

 

「ですが刀のような武器を備えているガンプラは限られます。そうなると選択の幅はあまりないのでは」

 

 懸念したホウジが意見を述べる。恐らくそういった物がスズカの好みだろうと見た上での発言だった。それに対してクロウがすぴしと人差し指を立てながら言う。

 

「アイザワ氏、世の中には【ビルダーズパーツ】というものがありましてな」

「……ああ、そういうことですか」

 

 クロウの言葉に納得した様子を見せるホウジ。スズカは首を傾げた。

 

「びるだーずぱーつ?」

 

 彼女の疑問にジントが答える。

 

「武器とか増加パーツだけのキットだよ。そのシリーズの中に、刀があったはず」

「左様。我が研究会に在庫がありもうす。つまり得物はすでにあるので、好きなキットをベースに選んでもらえばいいのでござるよ」

 

 はあ、とよく分かっていないように見えるスズカだが……その目には、先ほどとは違うやる気のようなものが見え始めている。それを確認したヨウヘイは皆に声をかけた。

 

「じゃ、善は急げだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 

「早速キットを見に来たってことなんだね。よし、おねえさんが選りすぐって差し上げよう」

 

 話を聞いたイズミが腕まくりしてみせる。ガンダムベースの販売コーナー。数多のガンプラが積み上げられたそこで、スズカに『合う』キットを探し出そうというのだ。

 

「それで、スズタニちゃんはどういう好みというか方向性がお望みなのかな?」

 

 そう問うてくるイズミ。スズカはう~んと考えてから、ぽつりと言葉をこぼした。

 

「千石さん……っぽいヤツかな?」

「三匹が斬るとか渋すぎる!?」

 

 思わずツッコミを入れるジント。その言葉にスズカは口を尖らせた。

 

「格好いいじゃん千石さん。っていうか役所 広司」

「気持ちは十二分に分かるけど。いやあれは名作だと思うけど」

 

 言葉を交わす2人の様子を見て、残りの3人はこそこそと話す。

 

「なんでナカモノ君話分かるの」

「あいつじいさんの影響で、時代劇も好きなんですよ」

「拙者らが生まれる前の話でござるよなあ多分」

 

 置いてけぼりの3人。それを余所に時代劇話で盛り上がるスズカとジントだったが。

 

「やっぱ役所 広司の至高は千石さんと宮本 武蔵だよね~」

「えェ!?」

 

 スズカの一言に、ジントが眉を寄せる。

 

「千石さんについてはまるっと同意だが、武蔵は北大路 欣也だろォ!?」

「はァ!?」

 

 今度はスズカが顔をしかめる。

 

「北大路 欣也とか上品すぎるんですけどォ~。銭形平次とかでも違和感ありまくりだったんですけどォ~?」

「あの迫力、凄味は欣也が上だるォ!? 役所 広司のはストイックすぎるんだよォ!」

「あのストイックさがマッチしてる感だしぃ! 千石さんとは違うはまり役ですけどォ!?」

 

 ガシガシ額を付き合わせてマニア以外には分からない論戦を交わす2人。それを留めたのは、ぱんぱんと手を叩く音だった。

 

「はいはいそこまで。そういう話をしに来たんじゃないでしょ?」

 

 イズミの言葉に、2人ははたと我を取り戻す。

 

「あ、ごめんなさい。つい熱くなっちゃって……」

「すんません。調子に乗ってました」

 

 素直にペコペコと謝るスズカとジント。イズミはまったくと、腰に手を当てて宣った。

 

「大体、役所 広司の至高は織田 信長で、武蔵は三船 敏郎でしょうに」

「「あ"ァ!?」」

「「「火に油注ぐなや!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、秋山 小兵衛は藤田 まこと以外にはあり得ないということで話は纏まり、スズカのガンプラ選択は始まった。

 

「武者ガンダム、武者ガンダムmarkⅡ、ジンハイマニューバーⅡ型。多分この辺りも違うんだね?」

 

 イズミが選んだ刀類の得物を備えたキットを見て、やはり浮かない顔のスズカ。ピンとくるものがないから合わないというものでもなかろうが、そもそもが感覚的なところから来ている。納得いかないものを選んでも上手くいかないだろうという予感があった。

 

「ごてごてしい感じ、じゃないんですよね。鎧武者とは違う、みたいな」

「千石さん……素浪人じみた感じかあ……そういうのは中々ないと思うんだ」

 

 むむうと考え込みながら棚の方へと戻るイズミ。彼女もプロだがこういう感覚的なチョイスは中々難しい。イズミに任せるだけでなく、スズカ本人も仲間の助言を受けながらガンプラを見て回っている。

 

「がんだむの違いがよくわかんない……」

「シリーズも種類も多いからねえ。ガンダムって名がついてるだけでも100や200じゃきかないかも知れない」

「素浪人に拘らず、インスピレーションで決めるのも手でござるよ。外観などは後から手を加えられるものでござるし」

 

 ヨウヘイとクロウの言葉を聞いてさらに考え込むスズカ。ちょっと考えてから、皆に問う。

 

「ちなみに皆さんのおすすめは?」

「00……GNドライブというのを背負った種類かな? 無改造で空が飛べるから戦略の幅が広がる」

「鉄血のオルフェンズシリーズが拙者のおすすめでござる。細かい説明は省きますがともかく頑強ゆえに、接近戦では有利でござる」

「SEEDの、フェイズシフト……特殊な装甲がついているもの、かな。制限はあるにしても物理攻撃には強い」

 

 ヨウヘイ、クロウ、ホウジの意見である。なぜこいつら揃いも揃って自分の使ってるキットのシリーズを押さないのか。

 やや遅れて、考え込んでいたジントが意見を述べる。

 

「Gガンが合ってそうな気がする。基本格闘用の機体だらけだから、相性はいいんじゃないかな」

 

 お前もか。まあ自分の押しを勧めるんじゃなくて、スズカに合ってそうなものを挙げるのだから間違ってはいないのだが。

 スズカにはやはり判別がつかない。つかないので、もう人任せにすることにした。

 

「じゃあすいませんけど、皆さんがおすすめのキット持ってきてもらえます?」

 

 手を合わせてお願いする。まあ可愛い女の子に頼まれて嫌という野郎はこの場には一人もいなかったので、皆即座に散ってキットを探し出してきた。

 

「僕のおすすめはこれだ。ガンダムエクシア。元々接近戦を重視した機体だから、相性は悪くないと思う」

「拙者のはガンダムバルバトスルプス。これも接近戦主体の機体でござる」

「インフィニットジャスティス。接近戦用の機体じゃないけれど、空も飛べるし背負いものと分離して動きも軽く出来る。結構戦術の幅は広がると思う」

「こいつはノーベルガンダム。こんななりでも格闘戦じゃ他の機体より一歩抜き出た性能だよ」

 

 全員ガンダムタイプであった。

 

「って、なんかこの子だけ毛色違くない!?」

 

 ノーベルガンダムを指して言うスズカ。ジントはすぴしと人差し指を立て応える。

 

「ああ、これは格闘漫画とかゲーム系の女性武闘家枠だから。乗ってるの女の子だし」

「中身女の子だからって見た目もこうするのはどうかと思うぶちゃけ」

 

 そう言いながらも、スズカの目はノーベルガンダムに釘付けだった。

 

「……これ某美少女戦士のパクリじゃない?」

 

 別の意味で注目していたらしい。ちなみにリメイクとか映画化とかの関係で、スズカも某美少女戦士の存在は知っていた。

 

「リスペクトと言って差し上げなさい。デザイナーも制作陣も思いっきりノリノリだったけど」

「いやその、がんだむって、結構ハードな話だったと思うんだけど?」

「ハードだぞ。ノリが独特で熱いだけで」

「どーゆー話なのさ一体」

 

 ジントにブチブチいいながらも、ノーベルガンダムの箱を手に取るスズカ。ボックスアートや参考写真、説明書きなどを鋭い目で一通り見回し、うん、と頷く。

 

「……この子にします。余計なものついてなくて組み立てるの楽そうだし」

「あ、そういう理由」

 

 ヨウヘイを筆頭としてかくんと肩を落とす野郎ども。初心者としては当然の選択だが、彼らはそれを全く考慮に入れていなかった。それ以前にスズカが()()()()()()()()()だったのが予想外と言ってもいい。外観と言動のイメージ、および危険思想から見える人物像に囚われているとも言えた。

 と、気を取り直したジントが口を開く。

 

「まあそういうことなら……」

 

 言いながら、彼は棚に残っていたノーベルガンダムの箱を手に取る。

 

「? スズタニ二つも作らないよ?」

 

 当然の問いに、彼はこう返す。

 

「こいつは俺の分。横からああだこうだ説明するより、目の前で組み立てた方が分かりやすいだろ?」

 

 つまりスズカに組み立ての説明と実演をするために、わざわざ同じキットを購入しようというのだ。先輩2人とスズカは顔を見合わせてから同時に口を開く。

 

「「「お気遣いの紳士だ!?」」」

 

 そこでさらにホウジから追撃の言葉がある。

 

「こいつこう言うヤツです意外なことに。後スズタニさんのキットのパーツが破損したり紛失した場合の予備とか考えてますよ」

「「「好感度アップ!?」」」

「ガンプラ普及のためのお節介なんで。情けは人のためならずを地で行ってますんで」

 

 最終的には欲得尽くと言うジント。本心なんだか照れ隠しなんだか分からないが、スズカを含めた研究会メンバーに対する株が上がったのは確かだった。

 とにもかくにも、スズカのためのガンプラ。そのベースは決まったようである。

 それは果たして彼女を飛躍させる力となるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「うぬぬ、出遅れた……」

 

 なんかハンカチを噛んで悔しがってるイズミさん。

 彼女が持ってきた台車の上にはガンダムナドレ、GNアーチャー、ファルシア、ガンダム00シアクアンタ等々が積んであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ムギャー仕事が忙すぃー! おまけになんか余計なことが押しつけられそうな予感。
 俺はだらだらして金だけもらいたいんだよ!(最低)忙しくなるくらいなら万年平で良い捻れ骨子です。

 はい今回はスズタニさんが自分のガンプラを選ぶ話です。アストレイのままでも良かったんですが、女の子の感性からすると違うんじゃないかなあ、と。いや年頃の女の子の感性とか分かりませんけど。
 大体年頃の女の子が時代劇の話で盛り上がる分けねえだろうと自己ツッコミ。なお時代劇話の内容は実際の会話を元にしています。分からない人は時代劇を見れ。さあ。
 ともかく選ばれたのはノーベルガンダム。それがどうなるのかは次回以降のお話で。

 では今回はこの辺で。また次のお話でお会いいたしましょう。


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6戦目・真似しても責任はとれませんつーかハウツー本買え、な我流ガンプラ教室(前半戦)

 

 

 

 スズカが初めてのガンプラを買った翌日。

 

「それではこれよりガンプラ制作を開始する!」

「らじゃりました!」

 

 制服にエプロンを掛けた姿でえらそうに腕組みをしたジントが宣い、その横で同じようにエプロン着けたスズカがびしすと敬礼している。

 その様子を見ながら残りの3人はこそこそ話していた。

 

「アイザワ君、本当にナカモノ君に任せて大丈夫なのかい?」

「俺の知ってる中じゃあ、あいつが一番ガンプラ作り教えるのに向いてます。ノリがあれなのはともかくとして」

「確かにまあ、拙者ら初心者にものを教えるのは向いていないと思うでござるからなあ」

「俺もどっちかって言うと勘で作ってくタイプですんで。正直人に説明するの苦手なんですよね」

「僕もそういう傾向はあるからなあ」

 

 人当たりは良いが、改めてガンプラの制作を一から人に教えようと思ったら、分かり易く説明する自信がない3人だった。

 そんな3人をよそ目に、ジントは説明に入る。

 

「まずは換気の確認。そして道具。今回は部室にあるものを借りるから、足らないものはないはずだ」

「えっと、ニッパーとデザインナイフ、ヤスリの類いだね。でもこの()()()はなに?」

 

 テーブルに展開された作業スペースの端、手が届くところにスチール製の本立てが鎮座している。一見プラモ作りには関係なさそうな気がするのだが。

 

「それはこれから説明するよ。まず箱を開けて、ランナー……パーツがついてる枠を取り出す。手で破かないでハサミで丁寧に袋を開けていくんだ」

「ほいほい」

 

 スズカに指示しながら、ジントは自分もランナーを取り出して、開けた箱の蓋の方に入れていく。滞りなく、その作業は終わる。

 

「全部取り出したね? それじゃあ取扱説明書にランナーの種類と数が書いてあるから、それを確認しながら……」

 

 言いつつランナーのはしっこにビニールテープを付箋のような形で着け、ランナーに記されている種別用のアルファベットを書き込む。

 

「テープでどのランナーか区別できるようにしてから、こうやって()()()()()()()()()

 

 ことん、と本立ての間にランナーを立て、並べていくジント。

 

「こうすると一目でどのランナーがどこにあるか分かって、なおかつ取り出しやすい」

「あ、そういうことなんだ」

 

 なるほど~と感心するスズカ。見ている3人は「基本だね」「基本ですね」とか言葉を交わしているが。

 

「……ナカモノ氏、ランナーの洗浄はしないのでござるか?」

 

 ふと疑問に思ったクロウがジントに尋ねる。ガンプラに限らず、プラモデルのランナーには形成時に使用した油や離型剤の類いが表面に残っている場合がある。それを落とすためにまずランナーを洗浄するモデラーも多い。

 しかしジントは首を振った。

 

「手間のかかる作業ですから、今回は作業しながらパーツの研磨で済まそうと思ってるっす。まずは組み立ててみるところからやってもらおうかと」

「確かに素人にとっては面倒な工程が増えるだけにござるな。失礼した」

「いえいえ、意見があったらどしどし言ってもらえれば。俺も所詮我流っすから」

 

 きらりとクロウの眼鏡が光る。

 

(ふむ、自分のやり方を押しつける風ではない。あくまで素人にやりやすいように気を配っている)

 

 確かに教えるのには向いていそうだ。クロウはそう判断して見守ることにした。

 

「洗うんだパーツって」

「拘る人はね。それじゃあまず説明書の1項目を見て」

「はーい」

 

 なんか塾みたいだなあとか思いつつ、スズカは指示に従う。

 

「これに書いてあるとおりにパーツを切り出します。アルファベットが記されてるランナーを取って……」

 

 言いながら、自分のキットのランナーを取り出し、開けたままの箱の上に持っていく。

 

「番号を確認し、パーツがどっか飛んでいかないように、箱の中でそっとニッパーで切り出していきます。このときパーツにつながっている部分、ゲートっていうんだけど、そこがちょっとだけ残るように、切っていく」

 

 パチンと音を立てずに、静かに丁寧にパーツを切り離していくジント。そっと箱の中に落ちたパーツを指で押さえつけ、ゲートの残った部分にデザインナイフの刃を押し当てる。

 

「ナイフで、ほんの少しゲートが残る程度に余計なところを切り取る。力を入れすぎないようにね」

 

 ぽつ、ぽつ、と言ったとおりにほんの少しゲートを残して、デザインナイフが奔った。さらにジントはパーツをひっくり返して。

 

「そして裏側、端っこの方にパーツ同士を繋げるためのシャフトが、凸側にある。これを、先端からちょっと斜めに切っておく」

 

 言うが早いか迷いなく、接合部のシャフトをニッパーで少し斜めに切るジント。それをみて、こてんと首を傾げ疑問符を浮かべるスズカ。

 

「それくっつけるのに必要なとこでしょ? そんなことしていいの?」

「素組みで終わらせるなら要らない作業だね。でもこうしておくと……」

 

 ジントは言いながら最初のパーツの対になる部分、受け()側を手早く切り出して、一端パチリと組み立てる。そうしてから再び分解して見せた。

 

「こうやって分解しやすくなる。接合力は当然弱くなるけど、ちゃんと組み立てるには接着剤使うから問題はない。今回は一度仮組みしてから改造なり調整なりする方針だからね。いつでもすぐにバラせるようにしておくのさ」

「ほへ~」

 

 一度組み立ててからまた分解するなんて考えてなかったスズカは、色々考えるものなんだなあと感じ入る一方だ。

 

「あ、斜めに切るのは端っこの方だけね。他のは関節部分やらだったりするから。どれか分からなかったら聞いて」

「はいはい。じゃ、こうか、なっと……」

 

 おっかなびっくりニッパーを入れ、ナイフを奔らせる。そんな様子を横目で見ながら、残りの3人はそれぞれ自分たちのことに向かっていた。

 

「ん? アイザワ君のそれは、新作かい?」

「まだ構想の段階ですけどね。どうやってミキシングさせるかってのが課題です」

「ほう、ベースは旧HG。先のZプラスと同様の加工をしようというのでござるな?」

「微妙にキットの構成が違いますし、機構がちょっと面倒になるので工夫が要るでしょうけど……」

 

 こっちはこっちで微妙に盛り上がっている。そうこうしていくうちに時間は過ぎて。

 

「よし、今日はここまでにしておこう」

 

 胴体が組み上がったところで、ジントがそう告げる。作業に没頭していたスズカは、へ?と顔を上げた。

 

「ちょっと、まだ胴体ができあがったばかりだよ?」

 

 その言葉に、ジントはくいっと親指で背後を示してやる。

 

「時計、みてみなよ」

 

 部室の壁に掛かった年代物に見える時計は、作業を開始して1時間以上が経過していることを示していた。

 

「わ、もうこんな時間だ!?」

「慣れない作業を一つ一つ確かめながらやってたんだ。時間もたつさ。それにそろそろ集中力が途切れるから、続けるとミスするかも知れないしね」

 

 思ったより作業が進んでいないことに驚くスズカ。そんな彼女にじっくりやってけばいいと、ジントは言う。

 

「慌てないでもこの調子なら2、3日で仮組みは出来るさ。()()はそこからなんだ。焦らず行こうぜ」

「むむむ……なんかじれる~」

 

 ジントの言うことは正しいと分かっちゃいるが、気が急いてしまうのは仕方がない。彼女の気持ちも分かるジントは、しょうがないなあと小さくため息をはいた。

 

「じゃあちょっと課題を出しとく」

「課題? な、なんかテストみたいなのやるわけ!?」

「いやあ、んなこたしないよ。ただね……帰ったら動画サイトでノーベルガンダムかアレンビーで検索して、動画を見ておくように」

 

 一見訳の分からないことを言われて、スズカの頭上にはてなマークが一杯湧く。

 

「えと、どゆこと?」

「そのキットの説明書は見たと思うけれど、それだけじゃそのガンダムがどんな活躍したか分からないだろ? 実際見てみてどんなものか、理解すれば参考になると思う」

「ふうん? まあこの子がどんなんか実際知らないしね。分かった。とりあえずそれで我慢したげる」

「是非ともそうしてくれい」

 

 そんな感じで言葉を交わす2人。残りの3人はそれを見ながら、またひそひそと言葉を交わしている。

 

「あれは洗脳するつもりでござるな」

「そうでしょうね。あいつあの手でGBNに興味のあった近所の子供らを、何人かガノタに染めやがりましたから」

「恐ろしいというか頼もしいというか。まあガンダム好きが増えるのは喜ばしいことなんだが」

 

 親切のふりして邪悪なことを企む男ジント。

 果たしてスズカはその魔の手から逃れることが出来るのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新体操系格闘キャラで美少女戦士で暴走イベントありで終いにはラスボス四天王とか何!?」

「そういうキャラだよとしか言えんなあ」

 

 次の日部室に現れたスズカがジントに詰め寄っている。ジントは達観した表情だ。

 

「それにあたしの思ってたがんだむとは大分違うんだけど」

「あれはかなりの異色作だから。文句があるなら一通り借りるなりガンダムチャンネルなりで見てきなさい。それより続きだ続き」

「あーもー、むっちゃ気になる。早めに組み上げてゲ●寄るんだから」

「焦らない焦らない」

 

 そして始まる昨日と同じ地味な組み立て作業。ちょっと興奮気味のスズカをなだめながら、ジントは丁寧に指導を行う。

 

「あれ? スズタニさん爪切った?」

「ううん、スズタニ普段はつけ爪(ネイルチップ)着けてるんだ。素の爪伸ばしてると木刀とか模擬刀とか振るうとき邪魔でしょ? 割れるかもだし」

「あ~、わりと器用だと思ったら、そういうものの手入れとかしてるからか」

「スズタニそんな器用かなあ? がんぷらでもこんなに四苦八苦してるのに」

「パーツ破損したり変なところに飛ばしたりしない分、初心者にしちゃ上出来だよ。作業も丁寧だしね」

「えへへ、そうかな」

 

 なんだかほんわかした空気が流れる。それを横目に残りの3人は今日も己の作業に没頭していた。

 

「会話の端々に気を引く話題を入れて、さらにそこから繋げて軽く褒めるとかテクニシャンか彼は」

「あ、あれ素です。近所の子供集めてガンプラ教えてるときもあんな感じでしたから」

「保父さんとか向いているかも知れんでござるなあ」

 

 言い合いながらもコリコリ作業を進める手は休んでいない。

 そして、この日は両腕と頭部が組み上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに次の日。

 

「あの話半分ギャグに見せかけて設定重くない!?」

「だから独特のノリでハードだって言ったじゃん」

 

 再びジントに詰め寄るスズカ。ジントはやっぱり達観した表情だ。

 

「ああ見えて歴代のガンダムの中でもトップクラスの重い設定だぜ? まあ大体ガンダムの話どれも重いけど」

「大河ドラマとかが可愛く見える重さだよ。むしろ子供向けでいいのあれ?」

 

 アニメとは一体……となんか懊悩しているスズカだが、大丈夫だ世の中にはもっと重い設定のアニメなんぞいくらでもある。(だいじょばない)

 それはともかく、この日も地味な組み立て作業は続く。

 

「この左太ももの、リングっぽいものって何なのかな?」

「う~ん、なんか普通に美少女イラストとかでも巻いているの多いけど、用途はわかんないなあ」

「生身だったらガーターリングってのがあるけど、あれ靴下留めるためのものだよ? 単体とか片っぽだけとか、あり得ないんだけど」

「そういうものだったんだ。なんで着けてるのかさっぱり分からなかったわ」

「あと話振っといてなんだけど、下着扱いだから女の子の前で話題にすると殴られるかんね」

「先に言ってそういうことは」

 

 そして今日も野郎3人はコリコリ作業を続けている。

 

「……順調に洗脳が進んでるなあ」

「それはスズタニさんのほうですか? それともうちの相方ですか?」

「なんか微妙にナカモノ氏も教育されつつあるような気がしますしなあ」

 

 で。

 

「おおお……できたぁ……」

 

 完成した四肢と胴体、頭部を接合し立たせてみれば、素組みのノーベルガンダムが凜々しくポーズを決めている……ように見える。

 己の成し遂げた事に感動しているのか、スズカはキラキラした目であちこちの方向からキットを眺めていた。

 

「ちゃんと形になると、こう、やったあって感じだね。しかも本当に3日で出来ちゃったし」

 

 自分の感覚で簡単そうなものを選んだが、こんなに早く形になるとは思っていなかった。その事実にスズタニちょっとすごくない? と内心自画自賛している。

 ジントは少し離れてオタクロに何かを尋ね、棚のパーツボックスをあさっていたが、すぐに何かを見つけ出し、スズカの元に戻ってきた。

 

「はい、これがビルダーズパーツの太刀だよ」

 

 ことりとノーベルガンダムの横に置かれたそれをスズカは手に取ってみる。灰色の、日本刀に似た拵えのパーツ。柄をつまんでみれば、しゅるりと刃が抜けた。

 

「わ、あすとれいと同じで、ちゃんと抜刀できるんだ」

「そこら辺は出来が良いよこれ。……で、本題はここからだ」

 

 す、とジントの目が真剣味を帯びる。

 

「これからこのキットをスズタニさんに合わせて仕上げる。そのためにスズタニさん自身が()()()()()()()()()。これを考えて欲しい」

「え? どうすればいいの?」

「メモ書きでもイラストでも何でも良い。スズタニさんの希望を示して欲しい。いくつでも良いしちょっと時間がかかっても構わない。あるだけ吐き出してみてよ」

「いや急に言われてもさ」

「今日中でなくてもいいよ。帰ってゆっくり考えでもしてくれれば」

「むむう、なんかまた課題っぽい……」

 

 腕組みして唸るスズカ。確かに今の状態では漠然としたものしかなく、どんな形のものを望むのか自分でもよく分からない。じっくりと考えることは必要に思えた。

 

(……Gがんだむって色々ながんだむ出てたよね。参考になるかな)

 

 また睡眠時間が削られるかも知れない。スズカは別の意味でも頭を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてまたまた翌日。

 

「ドイツ忍者って、ゲルマン忍法って、何」

「あれは何でそうなったのか俺にも分からん」

「あとあれ間違いなくお兄さん……」

「おっとその先はちゃんと見て確認しような」

 

 微妙に寝不足らしいスズカがまたジントに詰め寄っている。最早悟り開いてる感があるジントはとりあえずスズカをなだめ、「それで、考えてきた?」と話を促す。

 

「う~ん、色々と考えてみたんだけどね……」

 

 迷ってる風のスズカは、何枚かのルーズリーフをテーブルの上に広げてみせる。

 それには様々なメモ書きや、落書きっぽいイラストが書き殴られている。アニメを見ながら書かれた物なのだろう。所々に「オランダはあれでいいのか」とか「マンモスどこの」とか意味が分からない走り書きもあった。

 

「素浪人っぽく……とか考えたらどうかいぞーすれば良いのかわかんない領域だし、余計なものごてごてと着けたくないしだけど、かといって何もしないのも違うじゃん? このまま太刀一本で……てのは出来そうだけど、こう、物足りなさって言うかなんていうか、分かる?」

 

 自分でも何を言いたいのかよく分かっていないスズカであったが、ジントはふんふんと真面目に話を聞いていた。

 

「大体太刀一本でシンプルに行きたい、ってのは分かった。で、余計な装備は要らないけれど何か手を加えたい、ってのも分かる」

「分かるんだ!?」

「ふっふっふ、近所のジャリタレにガンプラ教えてたのは伊達じゃないぜ。あいつらもっと無理難題言ってくるからな」

 

 それに比べればすごく分かり易い希望だと、ジントは言う。一体どんな無茶ぶりされたんだろうと気にはなったが、それよりも今は自分のガンプラだ。スズカはジントと額を突き合わせて相談する。

 

「アストレイを使っていたとき、何が足らないと思った? 速さ? 力? それとも他のもの?」

「……速さ、かな? がんだむふぁいたーじゃないけど、銃向けられたら避けられるくらいの速さがあればって思った」

「ふむ、じゃあこんな感じで……」

 

 話をしながら、ジントはルーズリーフに簡単なノーベルガンダムらしい落書きをして、それに矢印とメモ書きをしていく。

 

「各所にスラスター……ちっちゃいロケット着けると、瞬発力、そして結果的に反応速度が上がる。燃費が悪くなるけど、要所要所だけで使うことを意識すれば、それほど酷いことにはならないと思う」

「ちょっとだけ付け足す感じなんだね。そんなに姿は変わらないわけかあ」

「姿形に関しては……そうだな、()()()()()()()()()()とか、そういった方向もありなんじゃないかな」

「慣れている格好、ねえ……」

 

 スズカは考え込む。実のところ素浪人を押していたのは、自分が道場で胴着と袴を着慣れているからという理由もあった。だがノーベルガンダムを袴姿にするにはどう改造したものだか分からないと断念したわけだ。それ以外の格好というと……。

 

(ん? そういえばこの子、()()()()()がモデルなんだよね)

 

 ぴん、と一つのアイディアがスズカの脳裏に浮かんだ。これならと、ジントに語りかける。

 

「じゃあさ、こんなのはどうかな」

 

 スズカのアイディアを、「なるほど」と頷いたジントがルーズリーフの上で漠然とした形にしていく。そうしながら自らもアイディアを口にしていった。

 

「全部まるごと改造するんじゃなくて、上着みたいに上から追加していくのはどう? ベースはそんなに弄らなくてすむと思う」

「できるのそんなこと?」

「その辺は俺に任せてくれないか。スズタニさんはベースを仕上げることに集中できるし」

「いいんだったらお願いしたいけど……」

「なに、折角だから良いものを仕上げようよ」

 

 にっこりと屈託なく笑うジント。スズカはちょっとドキッとしたが、安っぽい恋愛漫画か! と内心で自分にツッコミ入れて気を取り直す。

 

「さて、方針も決まったところで、次なるは……」

 

 言いながらジントが持ってきたのは、コピー用紙とハサミ、そしてマスキングテープ。

 

「? なにすんのそれで?」

()()()()()()()()()()()。要するにこうやって……」

 

 ちょきちょきとハサミでコピー用紙を切り、出来た破片をテープでぺたりとノーベルガンダムに貼り付ければ、小さな角ができあがっていた。

 

「まずイメージでパーツの形を切り出して、実際にキットに合わせて大きさや位置、構造を決めていく。そこからプラ板……プラスチックの板から切り出したり、合いそうなジャンクパーツを見繕ったりするんだ」

「へえ。本当の服作るみたいだね」

「似たようなものさ。じゃ、ひとまずやってみて。俺は使えそうなパーツあさってくるから」

 

 そういや人形の服作るような感じになるのか~とか、妙な懐かしさを覚えながらスズカは鼻歌交じりにハサミを奔らせ始め、ジントは棚に置いてあるジャンクパーツをあさりだした。

 

「副会長~、ドール系の手首関節バーツとか、そんなのあります?」

「確かそっちの3番ボックスにあったと思う出ござるが、大体方向性は決まったのでござるな?」

 

 クロウの言葉に、ジントはパーツをあさりつつニッと笑って返した。

 

「ええ、まあ()()()()()()()()()ものになるんじゃないですかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後半戦に続くっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 路肩車が走ってんじゃないわよ!
 フルプロテクターのおかげで命拾い。皆さんも運転には十分注意しましょう捻れ骨子です。

 さて今回はスズタニさん初めてのガンプラ作りの巻~……でしたが、なんかやたらと話が延びてます。しかもガンプラ作りの描写あんまりねえじゃねえかよ。 なんかこの話、結構脱線が多くなりそうな予感がします。果たしていつになったらまともなバトル描写が描かれるのか。それ以前に次回でスズタニさんのガンプラは完成するのか。
 なんとも不安ですが、ともかく今回はここまでと言うことで。

 なお話の中のガンプラ技術は筆者自身の技術と人から聞いた物が主ですので我流です。ですから真似されても何ら責任は負えません。……と、保身のために予防線を張っておきます。まあ真似して悪いことにはならないと思いますが。そして真似するほどのすごい技術は何一つございませんが。

 じゃ、そういうことで、また次回。


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7戦目・真似しても(ry(後半戦)そして少女が得た力

 

 

 

 

 

 仮組みが終わってからが本番である。

 そういったジントの言葉を、スズカは骨身にしみて実感していた。

 

「接着剤は薄く、そして満遍なく。縁だけでシャフトには付けないように」

「ヤスリは力を込めずに、回数で削る。ちょっとずつ削って具合を確かめながらやるんだ。力を入れすぎると接合面が丸くなったりするからね」

「へこみを埋めるエポパテは、ちょっと盛り上がるくらいに。乾燥すると縮むからね。乾いたときに少しはみ出るくらいが良い。後で削れば良いから」

「追加パーツ用に穴を開けるときは一番小さいドリルから順番に使っていく。無精すると穴の位置がずれたり変な形になったりするから」

「ひいいいん! ナカモノ君がサドい~!」

 

 きつく強い口調ではないが、容赦なく的確に要所要所で指示や忠告を飛ばしてくる。そうしながらも自身は定規で測り、サインペンでマーキングし、パーツを切り取り、のこで切ったりヤスリで削ったり接着剤でくっつけたりしている。そしてスズカと違いその作業には淀みの一つもない。

 素直にすごい、とは思う。一体どれだけの経験を重ねれば現物合わせだけで製品のようなパーツが作り出せるのだろう。経験を重ねれば自分もこのように出来るのだろうか。

 ……どう考えてもとてつもなく道は遠いような気がする。ひーこら言いつつパーツを仕上げながら、スズカは修行僧のような心持ちになりかけていた。

 

「……よし、今日はここまで」

 

 関節部分にサーフェーサーを満遍なく塗りおえたところで、やっと作業の終了が告げられた。

 

「ふいい~、疲れたよ~」

 

 片付けを終え、ぺたりとテーブルに垂れるスズカ。

 

「ドモンのしゅぎょーよかマシだけど~、明鏡止水の境地に至る前に力尽きそ~」

「がんばれ。ここでしっかりやっとかないと、良いものは出来ないんだから」

 

 ぶーたれるスズカをなだめるジントだが、彼自身はスズカに一目置いていた。なんだかんだ言いつつガンプラ作りを投げ出すことはなく、拙いまでも一生懸命に打ち込んでいる。生来生真面目な質なのか、それともGBN内で刀を振るうことがよほど気に入ったのか。いずれにせよ、諦めることなく成し遂げようとするその姿勢は好感が持てた。

 それは同好会のメンバーも同じ事で、自分の作業をしながらも時折助言を与えたりコツを教えたりしていた。みんな子を見守る親の気持ちとはこのようなものかと、なんだかほっこりした心持ちになりつつある。

 

「なに、この様子なら近いうちに形になってくるだろう。そうなれば完成も見えてくるさ」

「できあがりが見えてくると、色々わくわくしますぞ。逆に完成を焦りすぎるだろうから、注意せねばなりませんがな」

 

 励ますような言葉を書ける先輩2人。それを余所に、ホウジは冷静な目を2人に向けていた。

 

(スズタニさんが熱心なのもあると思うけど、ジントのヤツ、随分と入れ込んでいるな)

 

 ジントには近所の子供たちに教えた経験があるとは言え、ここまで指導に熱を入れたことはない。本人自覚してはいないようであるが。

 

(これはもしかすると、面白いことになるかも知れないなあ)

 

 キットの仕上がりも楽しみだが、それとは別の楽しみも増えたと、ホウジは内心ほくそ笑む。

 それはそれとして。ジントは壁の時計を見上げ、口を開く。

 

「あ~、今日は結構遅くなったな。きりの良いところまでって思ってたからか。.……スズタニさん、送るよ」

 

 バッグを肩にかけながら言うジントに、スズカはきょとんとした顔を見せる。

 

「結構日も長くなってきてるし、大丈夫だよ?」

「そういう油断がいかん。腕に覚えがあってもね。……大体俺の不注意で遅くなったのに送らなかったら、うちのおかんと姉ちゃんに死んだ方がマシな目に遭わされる」

 

 何かを思い出したのか、小さくカタカタ震え出すジント。何かトラウマってる!? と少し引くスズカ。その光景を見かねたのか、額を人差し指で揉みながらホウジが声をかける。

 

「……スズタニさん、送られてやって。こいつんちそういうことには結構厳しいから」

「どんな目に遭わされるか非常に気になるところではあるが……うん、ここは素直に送ってもらう方が良さそうだね」

 

 若干引目になりながら、ヨウヘイも同意する。ジント自身が評するゴリラッぷりといい、彼の姉とは一体どういう人物なのだろうか。ヨウヘイの脳裏にはふしゅーとか呼気をはく世紀末覇者っぽい何かが浮かんでいたが、さすがにそんな者ではないだろうと頭を振って妄想を払い落とす。

 

「えっと、じゃあ、お願いするね?」

「すまん、助けると思ってちょっとの間付き合ってくれ」

 

 戸惑い気味のスズカをちょっと恐縮した感じで促し、ジントは「それじゃあ、すいませんけどお先に」と声をかけてから部室を後にする。残った3人は顔を見合わせた。

 

「後を付ける?」

「あいつ割と勘が鋭いから、気づかれますよ」

「まあ今回は様子見でござろう。この先面白いことになるやもしれませんがな」

 

 ぬふふと笑うクロウは、どうやらホウジと同じような事を考えたらしい。どういうことなのか悟ったヨウヘイは、肩をすくめた。

 

「ま、人の縁はどうなるか分からないものさ。……ただ、ナカモノ君とスズタニさんが気まずくなって、彼女が来なくなるなんて事にならなければ良いけど」

「それこそどう転ぶか分かりませんね。女性の気持ちが分かるようで分からないタイプですし」

「我々に出来るのは、それとなく見守ること。そして……」

 

 ぎらんと、クロウの眼鏡が光った。

 

「いくら賭けるでござるか?」

「半年以内で付き合い出すにMAXコーヒー1本」

「3ヶ月以内でくっつくにモンスターエナジー1本」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日が照らす町中を、少年と少女が歩く。スズカの自宅は、ジントの家と似たような方向にあった。どちらも徒歩圏内。ジントからすれば大分遠回りの寄り道をする形になるが、それでも帰宅まで1時間とかからない。

 ……歩いて帰れるなら誤差だ。いいね?

 

「へえ? なんかやってると思ってたけど、おじいさんから教わったんだ」

 

 歩いている間にも、なんか会話が弾んでいる。

 

「なんでも江戸時代の十手捕縛術が発祥で、戦後の警官が拳銃使えない時代に発展したとかいう眉唾ものだけどね。それを教えたうちのじいさんは、近所に盗みに入った果物泥棒を血祭りに上げる程度にはやらかす人間さ」

 

 弾んでる会話の中身はなんか物騒だった。

 きっかけはスズカからである。これまでジントの言動を――堂に入った銃剣突きスマートガンの扱いなどを――見て、なんか武術の心得があるんじゃないかな~と察して話を振ってみたのだ。さすればジントは、己の祖父から色々と仕込まれたのだという。その祖父自体も随分とはっちゃけた人間らしい。

 

「何しろ白バイを好きに乗り回せるからって理由で交通機動隊を志して、なったらなったで暴走族や半グレ相手にヒャッハーしすぎて出世したあげく、現場から遠のいてバイク乗れなくなったと嘆くアレだぜ? 定年退職してしばらく経つけど、全然大人しくならない年寄りだよ」

「スズタニんとこのおばあちゃんも武闘派だけど、そこまで元気じゃないなあ。せいぜい通りすがりのひったくりを投げ飛ばす程度で」

「スズタニさんもおばあさんの影響で神結流を?」

「そだね。で、昔師範を務めてたからって勧められた道場が、タツノちゃんのところだったって訳」

 

 会話を交わしながら、ここまで気楽に男の子と話したことないなあとスズカは思う。

 自分の性質が特殊で、趣味嗜好もなんかおかしいという自覚は彼女にもあった。これまでは上手く誤魔化してきた(と言うか普通の女の子っぽいところもあった)ので人付き合いに困ったことはないが、こういった感じで友達と会話が弾むことはなかった。ましてや男子なんかとは、これまでは表面上の付き合いしかない。

 素をさらけ出すというか、こんな気楽な感じでやっとうの話が通じるというのは、結構新鮮な感覚である。たまに主義主張で対立したりすることもあるが、それはそれで論議を交わせるのもまた楽しい。これまでそんな話が通じるのは年配の男性しかいなかったこともあって、スズカは我知らず心を弾ませていた。

 そんな中で、ふと疑問に思ったことが口に出る。

 

「でもさ、聞いてる限りじゃナカモノ君も武闘派じゃん? なんでオタク方面というか、ガンプラにはまったのさ」

「あ、そりゃ親父の影響だわ。うちの親父、役所の技術系職員でさあ、これまた趣味の延長上で物弄ったり物作りしたりするのが大好きなんだ。で、じいさんと同じように俺に色々と仕込んでくれたわけ」

 

 そこまで答えて、ジントはどよんとした気配を纏わせて肩を落とす。

 

「小学校低学年のクリスマスで、きれいにバラされたポケバイをプレゼントされたときには途方に暮れたわ。動かせるようになるまで1年くらいかかったわ」

 

 一体どういうお父さんなのか。最低でもまともじゃなさそうだ。

 

「そんなわけで物作りには詳しくなったというか詳しくさせられたんだ。そこからガンプラへと移行したんだけど、細かいところは……」

 

 そこまで言って片目を瞑り、人差し指を立ててみせる。

 

「恥ずかしいから秘密、ってことで」

「む、ちょっと可愛くて腹立つ」

 

 なんだか言いたくないこともあるらしいが、手先がすごく器用な理由は分かった。そしてどんなご家族か結構気になる。深く詮索するとなんだか怖いことになりそうなのでやらないけど。

 

「ま、おかげさまであたしが教わることが出来てるんだから、お父さんの仕込みが巡り巡ってすごくお役に立ってると思う」

「そう言われると確かにそうだけどね~。可愛い女の子に教えることが出来てラッキーとも言えるし」

「はっはっは、幸運を噛みしめたまえい」

 

 調子に乗った感じのむふんとした笑顔を見せるスズカ。しばらくそうしていて気づいた。

 

(……ふつーに照れもなく可愛いとか言ってきたよこの人)

 

 言い慣れてやがるのかこの野郎。もしかしてたらしなのか、女の敵なのか。いや別にスズタニには効きませんけどと、謎の思考を巡らせる。

 

「これで勝ったと思うなよ……」

「何が!?」

 

 突如底冷えのするような声で謎の台詞を吐くスズカに驚くジント。そうこうしてるうちに。

 

「あ、うちこの近くだからこの辺りでいいよ」

「……ん、人通りも多いから大丈夫そうだね」

 

 周囲を確認し、納得したように頷くジント。もー心配性なんだからーなどと茶化すように言うスズカは、妙にテンション高かった。

 

「じゃあ今日はありがとー。また明日もよろしくね」

「あいよー、頑張ろうぜー」

 

 ぶんぶか手を振るスズカが去って、ジントは自宅の方に向かって歩き出す。

 そうしてからしばらくして、はたと何かに気づく。

 

「そういや、同年代の女の子と話が盛り上がったのって、初めてじゃないか?」

 

 今更それに思い当たったらしい。よく考えてみれば、スズカは普通に……いや、結構な美少女だ。これまで同世代の女性とあまり縁のなかった(本人主観)ジントとは、きっかけがなければそもそも関わらなかっただろう。そう思うとものすごい快挙なのかも知れない。

 

「……こういうのも役得、とか言うんだろうか」

 

 いやあ世の中何がどう転ぶか分からないもんだよなあと、幸運に恵まれたような気になってくる。チョロいというか安い男だ。

 心持ち、上機嫌になったジントは鼻歌交じりに家路を歩む。

 明日も良い日になりそうだなどと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ししょぉ! しぃしょぉ~~~~~!!」

「あ、決戦まで見たんだ」

 

 部室に来た途端いきなり泣き崩れるスズカ。なんか色々と台無しになったような気がすると思いながら、ジントはとりあえず声をかけてみた。

 

「うっ、うっ……悪魔に魂を売ったと思ってた師匠が、あんな想いで戦っていたなんて……。それに真っ向から応えるドモンも漢と書いて(おとこ)だよレインとかアレンビーとかの思いに気づかないにぶちんだけど」

「最早すっかり洗脳されておるでござるな」 

 

 なんか思ってた展開とは違うが、のめり込めそうなのでよしとする。クロウはちょっと期待していた気持ちを切り替えて、話を進める。

 

「その様子なら色々と思い入れもできたでござろう? その思いの猛りを制作にぶつけるのでござる」

「スズタニ超おっけーですよ! この思いをガンプラに込めたら、なんかこー、すごい感じになるですよ多分」

「……若干不安要素が増しただけのような気がするなあ」

 

 いいのかこれ。いややる気がないよりはマシだけどなんかこー、どうよ。そこはかとない不安を覚えるヨウヘイであるが、特に留める理由も思い当たらないので様子を見守るしかなかった。

 とにもかくにも、クライマックスの展開に色々吹き飛ばしたらしいスズカは、怒濤のごとく制作にのめり込む。ジントの指導とかも聞くけれど、これまでのようにへこむことはない。

 

「あれだよ、始めて達人の演舞を見たときのような感じ? GBNって頑張ればあの領域を再現できるんでしょ?」

「そ、そうだね。……いやひょっとしたらトップランカーとかあのあたり目じゃないかも」

 

 主に某チャンプとかチャンプとかチャンプとか。全く参考にならない例を思い浮かべながら、鼻息荒いスズカとキットを仕上げていくジント。

 幸か不幸か、スズカのやる気向上が制作を加速させていく。

 

「荒くヤスリがけが終わったら、番手を細かくしながら丁寧に接合跡(パーティングライン)を消して、ついでに全体を磨いて剥離剤なんかを落としていく」

 

 数日かけて増加バーツを制作し、それを合わせて組んだ素体を下処理して。

 

「全体を磨くと、下地が出てサーフェイサーの食いつきが良くなる。最初に言ってたパーツを洗うのも同じ理屈さ。今回はスプレー式のヤツだけど、塗装と同じように満遍なく、貯まりや垂れがないように均一に」

 

 サーフェーサーが乾いた後日、塗装を丁寧に。

 

「分割できるところは可能な限り分割して、塗り分けの手間を省く。細かいパーツはクリップで固定しておけばいい。そして先に関節を仕上げてマスキングしておけば、こうやって遠慮なく塗装できる」

 

 1日乾くのを待ってコーティング。

 

「トップのコートはきちんと仕上げれば装甲値が上がるし、ビームコーティング――ビーム攻撃にある程度耐性がつく効果もできる。。基本は二度塗り。乾いてから磨き上げ用のクロスで磨けば、効果も上がる」

 さらに乾くのを待って磨き上げる。

 数日かけて仕上がったパーツを接合、あるいは接着して組み上げれば。

 

「……で、できた」

 

 のべ2週間ほどで、ノーベルガンダムは新たな姿へと転じた。その姿は。

 

「……()()()()かい、これは?」

 

 ヨウヘイが問う。スズカはやり遂げた表情でえへんと胸を張る。

 

「そーです! セーラー服モデルだからおんなじ制服ならかいぞーも楽かと思ったら結構複雑になっちゃたけど、ナカモノ君が手伝ってくれたおかげで何とかなりました!」

 

 髪型をスズカ本人と近い雰囲気に変えてアバターに合わせた薄緑色に塗装。上半身にブレザーのジャケットを思わせる臙脂色の増加装甲パーツを追加し、足下はハイヒール状からスニーカーに似た形状へと変更されている。

 それは正しく、この高校の女子制服を模したガンプラであった。

 左腰に太刀を提げているのは違和感が……と思いきや、存外しっくりきている。まあ制服姿の女の子と太刀はよくイラストの題材とかにもなっているのでそのせいかもしれない。なるほどこう来たかーと完成したキットを眺める3人に、ジントから説明が入る。

 

「増加したジャケットアーマーの各所とスカートアーマーにノズルパーツを付け足してスラスターとし、機動性を上げてます。足回りを変更したのはハイヒールよりこの方が踏ん張りがきいて、太刀を振るいやすいだろうと。関節部は金属パーツこそ入れていませんが、隙間を埋めて強化してるっす。相当に激しい動きをしても耐えられるんじゃねえですかね」

 

 過剰な強化ではなく、スズカの特性に合わせた最低限の改造で仕上げてみたとジントは言う。

 遠目で見たらニーハイの女子高校生フィギュアにも見えるそれは、外観のイメージよりもしっかりとした作りだ。かなりの部分をジントが手伝ってはいたが、主な部分を仕上げたのはスズカ本人である。そう考えると最初のガンプラにしては見事な出来映えだと言えた。

 

「やー、こうして完成してみると感無量って言うかなんて言うか。もうこの子使ってGBNるのが今からすっごい楽しみで~。超テンション上がる~」

 

 上機嫌なスズカは今にも踊り出しそうである。そんな彼女を見て良きかな良きかなと頷いていたクロウであるが、ふと気になってスズカに尋ねた。

 

「ところでスズタニ氏、そのキット名前は決まっているのでござるか?」

「……はい?」

 

 踊り出す寸前だったスズカの動きがピタリと止まる。どうやらその辺り全く考えていなかったようである。彼女はゆっくりと皆を見回して、恐る恐る尋ねた。

 

「……スズタニ1号とか、どうでしょ?」

 

 彼女にネーミングセンスは欠片もなかった。

 

「そこはせめてノーベルガンダムJKとか、ノーベルガンダムギャルカスタムとか」

 

 ヨウヘイもそんなにネーミングセンスなかった。

 

「だからかいちょー、スズタニギャルじゃねえですってば」

「問題はそこじゃないと思うけど。……ノーベルガンダム改、位で良いんじゃないか?」

「ノーベルガンダム剣術小町仕様、というのはいかがでござろう」

 

 ホウジやクロウもアイディアを出すが、どうにもしっくりこない。そんな中、ちょっと考え込んでいたジントが、ぽつりと口を開く。

 

「……【ブレイザー】」

「え?」

「ノーベルガンダム・ブレイザーってのはどうだろう」

「ブレザーをちょっともじったわけかい?」

 

 ヨウヘイの言葉にジントは頷く。

 

「それと(ブレイド)勇者(ブレイブ)にもかけてみたっす。確かゲームとかアニメでもいくつか使われていたような気がしますし」

「ああ、僕も聞いたような気はする」

 

 2人の会話を背後に、スズカはじっと己が仕上げたキットを見つめる。

 

「ぶれいざー……ブレイザーか」

 

 うん、悪くない。スズカは大きく頷いた。

 

「採用! この子の名前はノーベルガンダム・ブレイザーにします!」

 

 ずは、っと両手を広げてスズカは皆に宣言する。

 それに応えるかのように、ブレイザーと名付けられたキットのブレードアンテナが、キラリと光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンプラ紹介

 

 

 ノーベルガンダム・ブレイザー

 

 スズカがジントに手伝ってもらいながら組み上げたガンプラ。

 ブレザーのジャケットに似た増加装甲を追加し、見た目は陽昇大附属高校の制服を模した物となっている。増加装甲部分などにスラスターを備えて機動性の向上を図り、スズカが扱いやすいように調整されている。

 武装は太刀一本のみだが、これをスズカが駆れば……?

 外観のイメージは、艤装を取っ払った艦これの鈴谷をガンプラにして、太刀持たせた感じ。(身も蓋もない) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 サーバインがプレミアバンダイで発売決定ヤッター! 
 え? 余所のヤツも注文してますけど。両方買いますけど。何か?
 最早欲望隠す気もない捻れ骨子です毎度。

 はいスズタニさんのガンプラ完成の巻~。しかし前回もそうですが、もっとガンプラ制作の描写する予定ではあったんですよ。
 ……ページがいくらあっても足りんわあ! つーことでボツに。その代わり無理矢理なラブコメっぽい雰囲気がぶっ込まれました。うん、普通のラブコメ書いてみたかったんだよう。筆者のキャラには似合わないことは重々承知ですが、めんどくさいキャラのめんどくさい恋愛とか飽き飽きしとるんじゃ普通のラブコメ見せろやあああ! ……よし書こう。と言うわけでこんなことに。まあ筆者のやることですからこのまま真っ当に進むとは限りませんけど。
 なお、白バイに乗りたくて警官志した人物と、子供の誕生日にレース用バイクを枕元に置いた人物は実在します。その他にもガンダム作ると高専に行った人間とか、車コレクションしたくて販売業者の認可もらった人間とか、捻れ骨子の知り合いは結構アレな人間多いです。どうなってんだ。

 とにもかくにも次回はいよいよスズタニさんGBN本格戦闘……か? なんか最近彼女が主人公になりつつあるような気がしますが、そんな事実に目をそらしつつ今回はこの辺で。



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8戦目・今宵の虎徹は血に飢えておる系の人間に餌を与えたら、そらねえ


 今回推奨戦闘BGM、 DAITAで【Volcano High】。




 

「たっめしぎり~、たっめしぎり~。うへへへへ」

 

 めっちゃ上機嫌でなんか物騒すぎる台詞をぶちかましまくってるスズカ。

 そんな彼女の様子を見ながら、イズミは傍らのヨウヘイにこそこそと問う。

 

「ねえ、スズタニちゃん大丈夫なの?」

「多少浮かれてるだけです」

 

 どきっぱりと断言するヨウヘイだが、その頬には一筋汗が流れていた。

 

「なに、人死には出ません。GBNですから」

「それアカン系じゃない確実に」

 

 今にもくるくる踊り出しそうな様子のスズカを見て、尋常じゃない不安を覚えるイズミ。

 ノーベルガンダム・ブレイザーのテストプレイを兼ねて、久しぶりにガンダムベースを訪れた模型研究会一行だったが、スズカの浮かれっぷりが周囲をドン引きさせていた。

 

「や~、道場で初めて本身を使わせてもらったのとおんなじくらいのドキドキ感だよ~。テンション爆上がりってヤツ~?」

「気持ちはめちゃくちゃ分かるけど、少し落ち着け?」

 

 ジントがなだめているが、あんまり効果はなさそうだ。

 

「これは早いところディメイションに放り込んだ方が良さそうでござるな」

「むしろ時間がたてばたつほどリアルが危険な気がします」

 

 クロウとホウジは達観したような眼差しである。楽しみにはしていたようだがここまでとはこのリハクの目をもってしても、と言った心境であった。

 とはいえ浮かれまくって不気味なだけで、特段他人に迷惑をかけているわけでもない。引くけど。イズミはため息をはいて言う。

 

「まーその、調子に乗ってると痛い目を見るのはGBNでもどこでも一緒だからね。注意しなよ?」

「心得て。いざというときは後ろから撃ってでも止めますよ」

 

 す、とヨウヘイの目が冷酷と言ってもいい鋭さを見せる。普段の二枚目半といった雰囲気ではない、切れ者としての鱗片が見受けられるようであった。

 へえ、とイズミは感心したような声を上げる。

 

「キミがマジになるって、スズタニちゃんけっこうやる感じなの? 【空中要塞(エアフォート)】君?」

「はは、恥ずかしい名前を出されましたね。……僕の方が強いですよ。()()()()

 

 真剣な眼差しで浮かれるスズカを見るヨウヘイ。

 

「彼女が真剣にGBNと向き合うのであれば……恐るべきダイバーになるでしょうね。彼女だけじゃなく、ナカモノ君やアイザワ君も。いや、アイザワ君なんかは状況が同じなら、僕らでも危ういかも知れない」

 

 実はジントよりホウジの方がダイバーとしての技量は上だと、ヨウヘイは見抜いていた。彼らとのプレイでおおよその技量と特性はつかめている。ジントとホウジは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。そういう意味では自分やクロウと()()()()()()()。要するに類友だった。

 果たしてスズカはどうなのか。GBNを心の底から楽しめるプレイヤーとなれるのか、それとも。その端正な顔に似つかわしい視線は、上機嫌で筐体へと向かう背中を射貫くように向けられている。

 

「しんのぞ~を~ひとっつき~♪」

「……ホントにスズタニちゃん大丈夫なの?」

「……若干じゃないレベルで不安です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 システムオンライン。コンディションオールグリーン。アクセススタート。

 ――ダイブ。

 

「そういうわけで、今回はスズ君の機体の慣らしもかねて、ちょっとだけレベルの上がったミッションに挑もうと思う」

 

 ロビーで集合すると同時に、キラ☆はそう宣った。

 

「ふむ、これまでのようなミッションでは慣らしには向かないと?」

 

 オタクロが眼鏡を人差し指で押し上げながら問い、キラ☆が頷く。

 

「スズ君もだいぶGBNに慣れてきた頃だ。2週間ほどプレイしていなかったとは言え、今までのミッションだと物足りなくも感じるだろう。機体も本人の特性に合わせた物だ。だから戦闘パターンも一考する必要があるしね」

 

 これまでは男性陣4人で大体の戦力を削り、討ち漏らしをスズに仕留めさせるというパターンだった。スズを慣れさせるためのものであったが、機体を更新し彼女が戦力として使える目処が立った今、戦い方を見直す必要があるとキラ☆は判断している。

 

「それで、どんなミッションを受けるんすか?」

 

 真面目にやってりゃこの人格好良いんだけどなあと、妙に残念な気持ちでジンが尋ねた。

 キラ☆はにやりと笑う。

 

「ランクC以上推奨ミッション。【キリマンジャロベース攻略】さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通常ミッションであるキリマンジャロベース攻略は、()()()()の防衛隊を撃破し、ベース内の目標を破壊するのが目的のミッションである。これがイベントミッションになるとZガンダムのストーリーが再現され、サイコガンダムが暴れたりカミーユとジェリドが仲良く喧嘩してたりして難易度が跳ね上がるのだが、通常ミッションの場合ネームドキャラはおらず、配置されているMSも奇天烈な機体は存在しない。

 その代わり防衛隊の配置や数は挑むごとにランダムに変わり、飽きさせずそしてクリアしにくいミッションとなっていた。高くそびえるキリマンジャロ山の内部をくりぬき要塞化した攻略対象を遠目に、フリーダムノイエを駆るキラ☆がフォーメーションを告げる。

 

「スズ君、今回は()()()()()()()()()()()()()

「はい? いいんですかかいちょー」

「ああ、君と君の機体がどれだけ出来るか、それを見極めなきゃいけないからね。……ジン君はスズ君についてフォローを。僕とH・A君で上空から援護する。オタクロはバックアップを頼む」

「俺とスズさんで斬り込むって事で良いんですね?」

「ああ、ALICE(サポートAI)を載せ、乱戦に強いジン君の機体なら十分にフォローできるだろう。しかし油断は禁物だ。スズ君、機体に不調があったり戦闘不能な損傷を受けたりしたら、すぐさま後退するように。いいね?」

「りょーかいです!」

 

 モニター向こうでびしすと敬礼するスズ。彼女の様子を見ながらキラ☆は思案する。

 

(むやみに突っ込む様子はない。今のところは素直に指示を聞いているか……)

 

 これから戦端が開かれればどうなるか。それは不安と同時に興味もそそる。悪い思考だと思いながらも、キラ☆はスズをある程度好きに動し、その動向を見守ることにした。

 

「ミッションスタート。まず僕とH・A君で仕掛ける。相手がこちらに注視したところで、スズ君とジン君は突っ込め。派手に暴れてやれ」

 

 言うが早いか、キラ☆は己の機体を上空に舞わせる。次いでH・Aが機体を変形させて後を追った。

 

「この形態だと1撃離脱が基本になりますが、それでいいですか?」

「ああ、背中は任せろ。存分にぶちかましてくれ」

「了解。じゃあ……H・A、戦闘を開始します」

 

 轟、とナイトオウルのスラスターが吠える。そのまま一直線にキリマンジャロベースに向かって駆けた。

 敵の接近を感知した防衛隊のMSが、押っ取り刀で対空迎撃を開始する……前に、一条のビームが空を灼く。それは狙い違わず対空装備を備えたガンキャノンⅡを打ち抜いた。

 キラ☆の援護射撃だ。正確に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()キラ☆の技量に、H・Aは微かな笑みを浮かべる。

 

「さすが。ならばその期待、応えなければな」

 

 対空射撃を回避しながらスマートガンが吠えた。その閃光は空を裂き、要塞の斜面に空いた搬入口の一つ……の()()()()()()

 外したのではない。あのような搬入口は敵の増援が現れるのと同時に要塞内部への突入口でもある。迂闊に潰すわけにはいかなかった。その周囲を狙ったのは、搬入口が狙いだと思わせておいて敵NPDを誘導するための一手だ。この行動により防衛隊の動きは搬入口の方に集中する。ある程度の纏まりが出来た方が地上のスズたちも動きやすい。そういう思惑があった。

 同時にそれは戦力が集中すると言うことでもあるが。

 

「上手くやれよジン。要はお前なんだから」

 

 対空射撃を避けて一時的に上空へ逃れるナイトオウル。相棒を信じるH・Aは、今の行動が的確な支援だと疑わない。

 その相棒の方は、機が熟したと判断していた。

 

「良い感じで相手が纏まってきた。ナイスな仕事してくれる。……スズさん、行こう」

「おっけぇ、待ちかねたよ」

 

 引き絞られた弓のように、ノーベルガンダム・ブレイザーが身を低くする。

 そして。

 

「いっくよぉ、ブレイザー!」

 

 どん! と間欠泉のように土煙を上げて、ブレイザーが駆け出す。

 速い。元々Gガンダムに出てくる機体――MF(モビルファイター)は、素の機体性能が高めに設定されている。その上で、機体各部を強化されたその疾駆は、スラスターを使わずとも音速に至るかと言うような勢いであった。

 機体を操作しながら、スズカは軽く驚きの声を上げる。

 

「軽い! それに動きのブレがほとんどない!」

 

 アストレイに比べて操作に抵抗がなく、不安定な部分もない。アストレイも十分に扱いやすい物であったが、雲泥の差といってもいい。専用に作り上げるとはこういうことかと、目からうろこが落ちたような心持ちだ。

 あっという間に敵陣へと接近。搬入口周辺の敵が一斉に反応し、ロックオンの警報がコクピット内に響く。

 

「回避っと!」

 

 横っ飛びに軌道を変えるブレイザー。大地を蹴ると同時に肩口とスカートアーマーのスラスターが吠え、某ゲームで言うクイックブーストに似た瞬間移動のようなムーブを生み出す。

 

「反応も良いね! 一瞬でロックが外れたよ」

 

 危なげなく機体のバランスを制御し、稲妻のように大地を駆ける。機体の性能もそうだが、それを難なく扱うスズのセンスも相当の物だ。その後を追うジンは苦笑している。

 

「専用に仕上げたとは言え、もう使いこなしてる。こりゃうかうかしてたらあっという間に抜かれるな」

 

 言いながら彼もスラスターを吹かして加速した。

 

「スズさん、援護する。ALICE、バックパックと腰のビームカノンを任せるぞ。味方に当てるなよ」

『了解』

 

 Iフィールドとビームシールドの防御力に任せて真っ直ぐ突っ込みながら、計6門のビームカノンを乱射するEX-SガンダムR。通常のガンプラ数体分の火力が、スズのブレイザーに殺到しようとしていた敵を牽制し、動きを鈍らせる。

 スズの目が鋭さを増す。

 

「そこっ!」

 

 ブレイザーの髪の毛状のパーツが、そしてジャケットアーマーの背面が跳ね上がる。背中側のアーマー、その内側はスラスター群が備えられており、一斉に噴射する推進力は機体を一気に加速させた。

 髪をなびかせブレザーを翻すような様相で、敵陣へと斬り込む。太刀の鯉口が、切られた。

 一閃。目にもとまらぬ速度で放たれた居合いは、ビームサーベルを引き抜き対抗しようとしていたマラサイを、一刀の下袈裟懸けに斬り捨てる。

 

「なにこれ!? 切れ味が全然違う!」

 

 またも驚きの声を上げるスズ。ジンが手ずから研ぎ上げ仕上げた黒鉄色の刀身は、通常の太刀と比べ切れ味が数段向上している。それをスズほどの技量で振るえば、どこぞの妖刀のごとき威力が生じる事となる。

 

「……いける!」

 

 そこでためらわず、攻勢に出るのがスズという人間だ。瞬時に次の目標を選択。一瞬で距離を詰める。狙われたのは先ほどと同じくマラサイ。ビームライフルを乱射しながら後退し、距離を取ろうとするが、スズが駆るブレイザーは銃撃をすり抜けるように奔り、すれ違いざまの胴抜きで、マラサイを上下に両断して見せた。

 

「……あは♪」

 

 小さく笑い声が漏れる。思い通りの、いや、思った以上の動きができる。その事実はスズに高揚感をもたらしていた。

 

「これはもう、アゲアゲで行くっきゃないよね!」

 

 ぎうん、とブレイザーの両目が光る。そこに数機の機体が一斉に襲いかかってくるが。

 

「やらせねっての」

 

 EX-SガンダムRのスマートガンが吠え、ブレイザーの背後に回り込もうとしていた敵機を吹き飛ばす。

 

「ジン君ナイス! はぁっ!」

 

 1体を斬り伏せ、返す刀でもう1体。さらに踏み込み、奥にいた1体がビームサーベルを抜く前に縦一線に両断。あっという間に3体が沈み、ブレイザーはさらに駆け行く。

 その背中を追いつつ、ジンは舌を巻いていた。

 

「うっわマジで真っ二つで瞬殺じゃねえか。そりゃ斬れるようにはしたけど、さすがに凄すぎない?」

 

 ここまで凶悪な結果になるとは思っていなかったと、驚くやら呆れるやらである。……とか言ってる彼自身も、ALICEの補助があるとはいえ複数の目標を同時に沈めていく離れ業をやってのけているのだが。

 上空から二人を援護しているキラ☆とH・Aは、眼下の様子を見て言葉を交わす。

 

「あれ下手したら僕らの援護いらないねえ」

「正直ジンだけでも過剰火力な気がしますが、スズさんの技量が想定以上です」

「思い切りもいいし、迷いもない。何より僕らの援護を見越して、こちらから敵に撃ち込みやすい位置取りを意識しているように見える。逸材だよ」

 

 たまに打ち漏らしを始末していく程度で、みるみる敵戦力が削られていく。スズとジンを中核にしたフォーメーションは、このミッションにおいて大当たりであったようである。

 その一方で。

 

「……正直暇でござるな~」

 

 後方で待機しているオタクロに、全く出番がないという弊害が生じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにもかくにも、そう長い時間をかけずにキリマンジャロベースの地上戦力は沈黙した。

 

「見えてる部分はこんなところ、かな?」

 

 抜き身の太刀を提げたまま、スズは周囲を警戒しながら言う。それに応えるジンは、眉を寄せた表情だ。

 

「……いや、おかわりが来たらしい」

 

 EX-SガンダムRのレーダーは、キリマンジャロベースの裏手から現れた反応を捉えていた。しかしこれはどうにもおかしいと、ジンの勘は告げている。彼はキラ☆に声をかけた。

 

「会長、増援っぽいですけど、どう思います?」

「エネミー表示じゃなくて、アンノウン表示か。恐らくはジン君が感じたとおりだ。……オタクロ、前に出てくれ。多分出番がある」

()()()()()()ということですな? やれやれ、あの手の輩はいくらでも沸いてくるでござるなあ」

 

 交わされる会話に、スズは小首をかしげる。

 

「どゆこと?」

「なに、すぐに分かるさ。それよりスズさん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「????」

 

 何がどうなっているのか、さっぱりわかっていないスズ。そんな彼女をよそに、状況は変化を始めた。

 山向こうから現れるいくつかのガンプラ。こちらを警戒している様子を見せるが、攻撃を仕掛けようとはしない。

 

「あれ? なんか、変」

 

 ようやく様子がおかしいことに気づくスズ。このミッションのNPDは敵を察知したら攻撃を仕掛けようとする。相手の様子をうかがうことはしないし、時間稼ぎのようなまねもしない。増援に別な行動パターンをさせている可能性はあったが、それだと途中で難易度が変わるというおかしなことになる。ランカー級が作るクリエイトミッションじゃあるまいし、運営はそこまでしないだろう。面倒くさいし。

  そうこうしている間に、なかなか反応しない研究会の面子に焦れたかのように、増援が獲物を構える。しかしロックオンの警報は飛ばない。その事実に確信を得たオタクロは、()()()()()()()キラ☆に問いかけた。

 

「いかがいたす、会長」

 

 その問いに、う~んと考える()()をして、キラ☆はやはりオープン回線で応えた。

 

「帰ろっか」

「あらぁ!?」

 

 予想外の返答に、かくんと小さく肩をコケさせるスズ。しかし反応したのは、彼女だけではなかった。

 

「て、てめふざけ――」

「馬鹿声出すんじゃねえ!」

 

 オープンにしたままの回線に、何者かの声が混ざる。それと同時に敵の何体かが動揺したような動きを見せた。その反応で、やっとスズは察する。

 

「え? もしかしてあれ、()()()()()()()

「そういうこと。……なあ、いい加減バレてんだけど、観念したらど-よあんたら」

 

 ジンがそう指摘し、増援だと思われていた連中は目に見えた動揺の動きを見せた。

 

「なっ、お、おいバレてんぞ!?」

「動揺すんな馬鹿! リーダーが誤魔化すから黙ってろ!」

「ちっ、勘のいい連中だ」

 

 何かこそこそ会話していた連中のリーダー格らしい男が、回線を開いて愛想笑いを浮かべつつ研究会の連中に語りかける。

 

「いやあすみませんね、うちら探索系のミッション受けてたんですけど、どうにも迷っちまって……」

「ふ~ん? この付近のエリアで探索ミッションとかあったかいオタクロ?」

「はっはっは、変なバッティングとかあったら困ると、そういうのがないことを確認して選んだはずですがなあ?」

 

 男の言葉をぶった切り、絶対分かってるだろうという胡散臭い笑みで言葉を交わすキラ☆とオタクロ。

 続けてジンとH・Aもこれ見よがしに話す。

 

「だったら先に声かけて確認しろって話でな」

「大体20体近くいて、誰一人道が分からなかったなんて通用するかと小一時間」

「うぎっ……」

 

 痛いところを突かれて呻く男。さすがにスズもピンとくる。

 

「もしかしてさ、あの人たちあたしら襲撃しようとかしてた感じ?」

「どっちかって言うと()()()()()()()()()()()感じ。こっちにNPDの増援だと誤認させておいてわざと攻撃させて、難癖を付けて数で叩き潰すのを正当化しようって腹じゃないかな」

 

 すぴしと人差し指を立てて応えるジン。うんうんと頷きながらH・Aが次ぐ。

 

「俺達が復帰したときも似たような輩がいたが、最近は初心者狩りに厳しくなってきたと聞くからな。だから数を集めて初心者を抜け出した辺りかそこらを狙おうと言うことだろう」

 

 GBNに慣れてきて油断している層を狙って狩り、ポイントを稼ごうとしている、言わば中級者狩りをしている連中だと、研究会の野郎どもはそう判断していた。

 そしてそれはどうやら事実だったようで。

 散々好きに言われた男の方はと言うと、茹で蛸のように顔を赤くして、額にぶりぶりと血管を浮かべていた。

 

「ぬ、ぎっ……言わせておけば好き放題……貴様らのような奴らに世間の厳しさを教えてやることが、我らの使命! 我ら――」

「まあ、つまるところさ」

 

 怒りにまかせて何かをほざこうとした男の言葉に被せて、何の気もないようにスズが口を開き、そして。

 

「斬っちゃっていいんだよね、この人たち」

 

 明るく、普段と変わらないようなのに、なぜだか怖気の奔る台詞を放つ。

 そしてその台詞を聞いた研究会の野郎どもは。

 一斉に、にぃっと獣のような笑みを浮かべた。

 

「やっちまって良いぞ! スズさん!」

 

 ジンの言葉を合図に、5人は弾かれたような動きで散開する。

 電光のように駆けるスズのブレイザーと、それを追うジンのEX-SガンダムR。そこまでは先ほどと似ているが、今度は全員が攻勢に出た。

 上空に舞ったキラ☆のフリーダム・ノイエ。滞空し、全ての火器を展開する。

 

(スナイパー)潰しは基本中の基本、ってね」

 

 マルチロックオンシステムを起こす。しかし最大数をロックオンしない。狙うのは狙撃や支援が可能な大型火器を持つ機体だ。

 ウイング基部から生えたバラエーナプラズマ収束ビーム砲2門、腰のショートバレルダインスレイブレールガン2門、そして両手に構えたバスターライフルが火を噴く。味方を巻き込まないために出力は抑えられていたが、それは狙い違わず敵機を打ち抜き、あるいは痛手を与える。

 

「この、キラ・ヤマト気取りか!」

「PS装甲ならビームの集中で!」

 

 地上の敵部隊から反撃が開始される。しかしキラ☆はそれを僅かに身をよじるような動きだけで回避して見せた。

 

「くそ、当たれ! 当たれよ!」

「なんで避けられるんだ畜生!」

 

 ゆらゆら動いているだけで避けられる状況に、迎撃していた連中が躍起になり始める。そして一方的に当てられる射撃。一部で難攻不落の空中要塞などと言われているその実力の鱗片を振るっているキラ☆は、余裕の表情だ。

 

「この程度上位ランカーに比べれば児戯に過ぎないというのに。……それより僕だけに集中していて良いのかな?」

 

 対空攻撃に集中していたガンプラの1体が、突如地上すれすれで放たれたビームに貫かれ爆散する。何で地面に激突しないの、って勢いで地表すれすれを飛ぶWR(ウェーブライダー)モードのナイトオウルだ。

 

「こ、こいつ頭おかしいのか!?」

 

 側面に回ってからとんでもない速度で突っ込んできたナイトオウルをかろうじて躱すガンプラたちだが、すれ違った瞬間ナイトオウルは空中で転がるように変形。地面を滑りつつ着地しながら、背面からスマートガンと腰のビームカノンを打ち込む。

 瞬く間にまた1体が沈んだ。そしてナイトオウルは再び変形し、疾風のように駆ける。

 

「やはり攪乱しながら一斉に仕留めるというのは難しいか。機体と戦術を変えれば別だろうが」

 

 Z系をこなよく愛するH・A。多量の敵を相手にしたりするときには向かない物だと分かっているが、それよりも己の趣味が勝る。全く度しがたい物だと思いながらも、その口元には楽しげな笑みが浮かんでいた。

 

「くっ、数ではまだこっちの方が多いんだ! 囲め!」

「そう上手くいくと思っているでござるか?」

 

 斬り込んだ同好会の背後に回ろうとしていた連中の前に現れたのは、オタクロのヘビーアームズ。その脚部後方に備えられていたクローラーユニットが、ずがんと展開し――

 耳障りな駆動音を奏で、意外なほどの高速で疾駆を開始する。

 

「なに!?」

 

 驚愕しながらも襲撃者たちは攻撃しようとするが遅い。敵の真っ只中に飛び込んだヘビーアームズは、踊るように旋回しながら両腕と胸部のガトリングガン、そして全身のミサイルを至近距離からぶちまけた。

 

「わあああ!?」

「とろいと思ってたら、こいつ、速い!?」

「トロワでもそんなこと……ぎゃああ!?」

 

 あっという間に吹き飛ばされていく敵。ガトリングガンが斉射を止め、からからと空転する。周囲を一掃したオタクロは、硝煙漂う中不敵に笑んだ。

 

「生憎と、拙者動けるデブでござってな」

 

 20体ほどの戦力が、一方的に削られていく。そしてこのフォース、キリマンジャロベースの防衛隊を偽装するために、ZおよびZZ時代の連邦軍MS、しかも派手な改造なしでほぼノーマルな状態をチョイスしていたのがまた拙かった。GBNではキットの出来が良ければ性能に反映されるが、それにも限界はある。ましてやノーマル状態でそれなりの戦果をたたき出そうと思ったら、それこそランカークラスの技量が必要となるだろう。

 そして、このフォースの最高ランクはリーダー含めた数人がBと言う程度。後は言うまでもあるまい。

 それでもリーダーたちはなんか現実が認められないようで。

 

「ばかな、こんなばかなァ!」

 

 ホバリングして絶え間なく位置を変え、射撃を回避しながら反撃するリーダーのGMⅢ。上空と地上から雨霰と降り注ぐ攻撃を回避し続けられるのは相当の技量の証だが、だからと言って状況が好転するわけでもなかった。ZやZZ時代の連邦軍量産MSは、性能こそ悪くないものの突出した能力を持たない。 最初から多数を相手取ることを想定した火力過剰な機体を3体擁する研究会の面子とは、相性が悪すぎた。

 かてて加えて。

 

「なんなんだあのJK風味ノーベルガンダムは!?」

 

 数多の射撃を避けまくり、ほぼ一刀の下相手を斬り伏せていく。まさかランクを偽装した上位ランカーだとでの言うのか。常識外の様相は、リーダーに勘違い混じりの戦慄をもたらす。

 射撃を避けられるのは銃口を向けられる前に回避行動を取っているからで、一撃でぶった斬られるのは太刀の切れ味が向上しているのと、相手が有効な防御手段を持っていないからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もっともそんな事実は襲撃者たちにとって何の救いにもなっていないが。

 

「シャァッ!」

 

 短い呼気と共に太刀が振るわれ、また1体が討ち取られる。それを成したときには、すでに次の目標へと駆けていた。速度が、技が、判断が。確実に襲撃者たちを上回っている。その技量はすでにランクFの枠を大幅に超えていた。

 

「さあ、もたもたしてると全員斬っちゃうぞぉ♪」

 

 口調はかわいらしいが殺意にあふれまくっている台詞を吐くスズ。このままであれば彼女の言うとおりになってしまうだろう。

 

「させん、させんぞ! せめてあのJKもどきは道連れに……」

「おっと、あんたの相手は俺だぜ」

 

 ずん、とリーダーの前に降り立つのは、周囲の敵をあらかた掃討したEX-SガンダムR。スマートガンを振り回してから構え、銃剣を展開する。

 

「さあ大詰めだ、そろそろ決着といこうか!」

 

 見れば味方はもう数えるほどしか残っていない。追い詰められたと悟ったリーダーは、その身勝手な憤りを目の前の敵にぶつけんとする。

 

「せめて貴様だけでもぉ!」

 

 ビームライフルを捨て、スラスターを全力で吹かし突撃しながらビームサーベルを抜刀。EX-SガンダムRに斬りかかるが。

 がぎ、と音が響く。GMⅢが斬りつけるより先にスマートガンが振るわれ、それがシールドでかろうじて受け止められたのだ。しかし膂力で遙かに上回るEX-SガンダムRに押さえ込まれ、GMⅢは体勢を崩して――

 

(ここだっ!)

 

 GMⅢの腰が左右。そこには大型ミサイルランチャーが備えられている。本来ならば極至近距離で使うものではないが、リーダーは自身もダメージを負う覚悟でぶちかまして見せた。

 派手な爆発が起きる。爆煙を曳き、煤けたGMⅢが後退する。そして反対側ではビームシールドを展開したEX-SガンダムRが同じように後退する。その周囲で何かの破片が飛び散った。どうやらビームシールドとスマートガンを盾にして直撃を逃れたようだ。

 

「その長物がなくなれば! 懐に飛び込みさえすれば!」

 

 スマートガンがなくなってもまだ火力は残っている。それを生かせない極至近距離でもう一度ミサイルを使えれば。リーダーのその目論見は――

 爆煙を裂く二条の閃光にて絶たれた。

 

「え?」

 

 気がつけば、両腕が切り飛ばされていた。それを成したのは、EX-SガンダムRの両腕に握られたビームサーベル。

 一瞬呆けたリーダーの隙を突き距離を詰めたジンは、にやりと笑って言い放つ。

 

「悪いね。実はこっち(ヤッパ)の方が得意なんだ」

 

 反撃どころか反応も許されず、GMⅢは×の字に斬り伏せられ、爆発の後粒子となって消えた。

 ほぼそれと同時に残りの敵も全滅させられたようだ。周囲を警戒していたブレイザーが、太刀を回転させて納刀する。

 

「ふっ……成敗っ!」

「言いたくなる気持ちは分かる」

 

 びしすと見栄を張るスズの元へ、研究会の面子が集う。

 

「やれやれ、とんだハプニングだったが、なんとかなったね」

 

 ふう、と息を吐くキラ☆。そうしてから彼はスズに尋ねた。

 

「で、どうだったスズ君?」

 

 スズは、満面の笑みで応えた。

 

「さいっっこう!」

 

 ハプニング何もかもを込みで、彼女は本心からそう言い放つ。

 野郎どもは顔を見合わせてから――

 同じように満面の笑みを浮かべ、親指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

『ジン、タイムオーバーです。受注したミッションは失敗しました』

「「「あ」」」

「「またこのオチか!?」」

 

 元々のミッションのことをすっかり忘れていた研究会でしたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ2

 

 

 中級者狩りの人たち。

 

 増援ありのミッションでNPDの増援を装い、攻撃してきたダイバーに難癖を付け襲いかかるゲスなひとたち。

 しかし今回は相手が悪く、一方的に片付けられた。

 なお一連の有様はオタクロが動画に記録しており、後で編集してサイトに上げた。そのおかげで悪名が広がることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 用事のついでに横浜に動くガンダムを見に行く。
 ……うん、あれがアニメの速度で動いたら脅威だわ。役に立つかはともかく。イグルーでザク相手に生身で戦った人たちの気持ちがよく分かった捻れ骨子です。

 さて今回はノーベルガンダム・ブレイザーの初陣とよくある乱入者の話~。
 なんか久々にバトルシーンを書いたような気がします。スズタニさんがかなりヤバ目な気がしましたが、なんのこたねえ、他の野郎どもも似たり寄ったりじゃねえか。やはり類が友を呼んだのだと思います。
 ともかくこれで話を進める要素は整いました。これから先がどうなるか、それは次回以降のお話にて。

 では今回はこの辺で。 


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9戦目・ここにきてやっとタイトルのネタが回収できたよ

 

 

 

 

 

 さて、中級者狩り(仮)をいぢめるのにいそしんでミッションを失敗した研究会の面々であるが、その一方でスズカ、ジント、ホウジの三人はランクアップを果たした。

 ミッションとは別口で、上位ランクの人間を降したポイントが入ったからである。ああ見えて中級者狩りの連中は全員がランクC以上。その分スズカが得たポイントは多かった。

 つまり。

 

「これで、この研究会もフォースを組めることになりました!」

「「「「いぇー!」」」」

 

 ヨウヘイの言葉に、諸手を挙げて喝采する研究会の面子。OKOKと、皆を抑える仕草をしてから、ヨウヘイは厳かに告げた。

 

「それで、早速だがフォースの名を決めたいと思う。……実は前から考えていた名前が一つあってね」

 

 一呼吸置いてから、彼はその名を告げた。

 

「【ホットショット】というのはどうだろう」

 

 ぐるりと部員たちを見回してから、ヨウヘイは続ける。

 

「これは名人、やり手などという意味を持つ英語だ。手前味噌かつ贔屓目になるが、それぞれそう評されるほどの物を持つ僕たちには、相応しい名だと思う」

 

 へーそーなんだーと感心するスズカとジント。うんうん頷くクロウ。

 そしてホウジはにっこり笑って、ヨウヘイに問うた。

 

「会長……もしかして、チャーリー・シーンのファンだったりします?」

 

 びきりと、一瞬ヨウヘイが凍った。そして思いっきり目をそらして応える。

 

「……はっはっは。なんのことかな?」

「やっぱりですかせめて炎のストライカーで誤魔化そうという気概はなかったんですか」

「うわなに理解しまくってるねアイザワ君!? フライングハイにしなかっただけマシだと思って欲しい!」

 

 ※そういう名前のパロディ映画がある。ちなみにホットショットは大物ぶる人、でかい口を叩くヤツ、などという意味もある。

 

「うちの親父が好き者でしてね。ああいうパロディ映画は大概見てるんですよ。スペースボールとか」

「そっちの方がレアじゃない!? つーか炎のストライカーの原題分かってる時点でおかしいよ!?」

「ネット社会って偉大ですよね」

「情報化の弊害か!」

 

 変な方向で盛り上がる二人。置いてけぼりにされているスズカとジントはぽかんとした顔だった。

 

「なにあれ。どゆこと?」

「会長がマニアックな映画のネタ振って、ホウジがそれに反応したって事しかわかんない」

 

 ホウジの幼なじみであるジントは、彼が変な映画に詳しいと言うことは分かっていたが、それについてこれる同年代の人間がいるとは思っていなかった。ジント自身も、ホットショットの元ネタ時点ですでに置いてけぼりである。

 

「ボイジャー号がレッドドワーフ号だったとしたらもっとお気楽な旅路になっていたと思わない?」

「むしろ逆に殺伐とした旅路になりそうですが。艦長の胃痛的な意味で」

「いや分からん分からん」

 

だんだん話が明後日の方向に飛んでいくところをツッコむジント。放っておいたら映画や海外ドラマの話だけでページが埋まってしまうかも知れない。

 そんな様子を見て、クロウはくつくつと笑う。

 

「まあ映画の題名が元ネタではござろうが、自分たちが名人、やり手と誇れるようでありたいという心意気は本物でござろう」

「そこで冷静に解説されるとこっぱずかしいんだけど!?」

 

 クロウの言葉に反応するヨウヘイ。今の一連の流れはどうやら本心を誤魔化すためだったらしい。

 

「あと悪い意味があることも踏まえ、そう受け取られぬよう自身を律しようという事も考えておるでござるよ」

「やめて冷静に分析するのやめて」

 

 頭抱えて縮こまるヨウヘイ。いや別にそこまで恥ずかしいことじゃなくない? とスズカは思うが当人にとっては恥ずかしいことなのだろう。

 顔は良いんだから素直に格好良いこと言っとけばいいのにとか思いながら、クロウは言う。

 

「拙者は気に入りましたぞ、映画のネタと言うことも含めて。面白おかしく楽しくGBNをプレイする、そういう気持ちの表れとも取れるでござろう? 結構なことではないですか」

 

 結構前向きかつ真面目なことを言う。あれ? ひょっとして僕良いところ取られた? などとヨウヘイが言っているようだが、クロウは半ば無視して言葉を続けた。

 

「まあキャラの濃さから言えば、ポリスアカデミーでも良い気はするでござるが」

「あんたもかい」

 

 とまあなんかぐだぐだな感じにはなったが、他に誰も良いアイディアが思い浮かばなかったので、結局はヨウヘイのアイディアが採用されることになる。

 陽昇大付属高校模型研究会改め、フォースホットショット。

 彼らの伝説は、ここから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……などという壮大な展開とかがあるわけではなく。

 

「ほへ~、なんか殺風景」

 

 GBNにダイブし、フォースの申請を行ってから初めて【フォースネスト】を訪れたスズの感想がこれである。

 フォースネストとは各フォースに与えられる拠点で、最初のデフォルトな物はどこかの会議室じみた、何の特徴もない部屋だ。

 スズの言葉に、キラ☆は肩をすくめた。

 

「最初はこんな物さ。ここからフォースで活動することによって得られるポイントを消費して、色々とカスタマイズ出来る。最初は家具とかだけど、上位ランクとになると城とか要塞とかそういう拠点にすることも可能だ」

「お城、ねえ……」

 

 スズの脳裏には、どこかの白鷺な城がどどんとそびえている光景が浮かんでいた。いまいちこう、ピンときていない。

 

「中にはネストをアミューズメントパーク化して、客とってビルドコイン稼ぐ剛の者もいるようでござるが、まあそういうのは極端な例でござる。GBN内で駄弁る場が出来た物と思えばよろしかろう」

「それは部室と何が違うのか」

「ミーティングや反省会をするのに一々プレイを中断しなくて良いという利点がござる」

「……なるほど」

 

 スズはそれなりに納得したようだ。ネストがあれば一々ロビーで待ち合わせをする必要がなくなり、他のダイバーやフォースの目に止まらぬところで作戦を練ることも出来る。そういった利点があることを理解したのだろう。

 今はそんなところだろうが、そのうち色々な利便性に気づくだろうと、オタクロは見守る姿勢だった。

 と、彼は何かを思い出したようで、ぽんと手を叩く。

 

「そうそう、この間の戦いでござるが、ちょっと動画にして、サイトに上げようと思うのですよ。それでちょっと皆に見てもらって意見を聞きたいのでござるがいかが?」

「ほう? 編集したやつかい?」

 

 オタクロの言葉に、キラ☆が興味を示す。

 

「左様。可能な限りプライベートには配慮しております」

「へえ、ここで見られるんですか?」

 

 次いでスズが食いついた。

 

「G-TUBE系のクラウドに保存しておりますからな。こうして、と」

 

 ホログラムディスプレイを呼び出し、操作。すると画面が広がり、動画の閲覧モードへと変化する。

 

「どんな案配になってるか気になるっすね」

「自分の戦いを客観的に見たことはありませんから、そういう目線はありがたいと思います」

 

 ジンとH・Aもモニターをのぞき込む。全員が注視していることを確認したオタクロは、再生ボタンを押した。

 まずはキリマンジャロベースの全景が目に入る。どうやらヘビーアームズから見た状況を記録した物らしい。

 そこから戦闘開始。仲間の機体が飛び出していくところを捕らえ、そこからここの戦闘シーンが展開する。

 それぞれの機体の形状がはっきりと分かるシーンはない。編集でカットしたのだろう。しかし一撃で断たれた敵機や、複数が同時に吹き飛んでいく様など戦果は分かり易く、見る者が見れば、あ、このように攻撃したのかと分かる構成だ。所々で説明のキャンプションが入り、素人にも配慮しているようだ。

 やがて地上戦力が掃討され、乱入者たちが現れるシーンとなる。

 

「「「ぶふっ!」」」

 

 ジン、H・A、スズが揃って吹き出した。現れた一団には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『ここでいかにも怪しい集団が登場!』とキャンプションも荒ぶり始めた。キラ☆などは「おおひわいひわい」と、微妙に腹立つ顔でにやついている。

 

「イヤアスミマセンネ、ウチラタンサクケイノミッションウケテタンデスケド……」

「声がwwwwww声がおかしいwwwwwww」

 

 変な風に加工された声が響き、ついにスズは指さして爆笑を始めた。ご丁寧にキャンプションには、※プライベートに配慮し、画像、音声は加工しております。と表記されているが、どう見ても馬鹿にしているようにしか見えない。

 

「副会長、中々良い性格してるっすね」

「褒め言葉と受け取るでござる」

 

 半ば呆れたようなジンの言葉に、済まして答えるオタクロ。

 そうこうしている間に話は進んで、スズの「斬っちゃっていいんだよね、この人たち」と言う台詞が入る。そこから始まる蹂躙劇。BGMは暴れん坊将軍の剣戟テーマだ。

 ばったばったとなぎ倒されていく敵機。時折かーん! と言う効果音に合わせて入るそれぞれの決め台詞。要所を押さえながら、自分たちの機体がはっきりとした姿を現さないよう工夫されていた。オタクロ自身が撮影者なので姿が現れないのは当然だが、よくもまあ姿形をはっきりとさせず()()()映像に編集できるものだ。

 

(ふふ、()()()()()()()()にしては、エスプリが効いているな)

 

 動画を見ながらキラ☆は愉快に思う。自分たちを格好良く、そしてマナー無用の敵は格好悪く小馬鹿にして扱う。これはただ自己満足の動画でなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ためのものだと見て取った。

 誇張気味に相手を格好悪く見せているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。ダイバーとして恥ずかしい連中だと、知らしめる意図がある。一般のダイバーに注意を喚起すると同時に、同様の行為を行う者たちに対して、お前ら格好悪いぞと警告しているのだ。

 その上で運営に「なにこんなの放置してんの」と訴える意図もある。まあ面の皮が厚い(偏見)運営にどこまでこの皮肉が通じるかは疑問だが、草の根運動的にダイバーたちへと広まればいい。面白おかしく工夫した裏ではそういったことを考えているのだろう。我が友ながらひねくれてかつ真摯だと、キラ☆は小さく笑う。

 動画はクライマックスを経て、そして。

 

「ふっ……成敗っ!」

 

 この台詞と共にBGNが終わりを迎える。1年生どもはやんややんやと大喝采だ。

 

「めっちゃ面白いスズタニ超格好良い! これはダイバーにウケるんじゃ……」

『――タイムオーバーです。受注したミッションは失敗しました』

「「「あ」」」

「あらぁ!?」

 

 最後の最後で間抜けな台詞が流れ、スズはずっこける。

 

「オチまで収録してるんですかい」

「これは外せないでござろう?」

 

 ジンにふふんとドヤ顔して見せてから、オタクロは不敵に笑う。あ、これは狙ってやってるなとジンは察した。

 

(多分最後に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか考えてる顔だ)

 

 最後まで計算されている動画だと、ジンは見て取る。この副会長、実のところとんでもないやり手じゃなかろうかと、半ば疑いのような眼差しを向けていた。見られてる方はふふんとドヤ顔だ。

 

「それで、いかがでござった?」

「色々と言いたいことはあるっすけど、面白い動画には違いないっすね」

「副会長がある意味怖い物知らずだとよく分かりました」

「最後のオチがあれだけど、ふつーに面白かったです」

 

 1年生三人の感想の後、キラ☆が言う。

 

「公開するのに問題はないと思う。まあ公開した後()()()()()()()()()()が、それも込みのことなんだろう?」

「ふふ、会長にはかないませんな」

 

 くくくと悪役じみた笑みを交わす二人。愉快犯がおると、ジン、H・Aの二人は後頭部に一筋の汗を流した。

 とにもかくにも、オタクロが作成した動画はG-TUBEの端っこにひっそりとアップされる。

 果たしてそれは、どのような影響を及ぼすのであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何か新しい動画はあるかな……」

 

 某所にて、端整な顔立ちの男が日課の動画チェックを行っていた。

 羅列されているサムネイルから面白そうなものはないかと検索していく。と、一つの動画が目に止まった。

 『狩りに来た人たちを返り討ちにしてみた』と題されたその動画。気になって視聴してみれば、中々に興味を引かれる物だった。

 一見面白おかしく中級者狩りを引っかき回し小馬鹿にしている動画に見える。しかし男には制作者の意図が見て取れた。これはこのような連中がGBN内にて我が物顔で横行していることを啓発し、注意を促すための物だと。それでいて、()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()程度に情報を小出しにしている。自分たちを餌にして無法者を引きずり出すつもりか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ためか。いずれにせよ見て()()()()()に何かのリアクションを期待していると推測する。

 

「興味深いな。それに……」

 

 画面に一部分しか出てこない自フォースのガンプラ。そのうちの二つに見覚えがあった。紺色のZプラスと紅いEX-Sガンダム。以前エマージェンシーを受けた先で、初心者狩りと思わしき連中を倒したものだと男は確信する。

 

「彼らとは縁があるのかも知れないね。……ふふ、楽しみが増えたよ」

 

 動画が映るモニターの横。目元を追うタイプのマスクが鈍く光を反射していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナカモノ家は、本来1階に当たる部分が丸々ガレージになった構造をしている。シャッターが降りたその内部。奥の端っこに備えられた作業机がジントのガンプラ等制作スペースであった。

 リューターや小型の旋盤などが整理されて横の棚に収められ、机の上には制作道具やルーズリーフなどが並べられている。そして中央にはガンプラの箱ががあり、その中でEX-SガンダムRが四肢を分解された状態で鎮座していた。

 

「まあ、こいつを改良する丁度良い機会だったかね」

 

 呟きながら、キットの調整と改良を行う。そうしながらジントはチラリと棚の方に視線を向けた。

 

「あれの完成も、急いだ方が良いかもだ」

 

 視線の先には、しまわれたガンプラの箱がある。一瞬その中身について思考を巡らせるジントだったが、今はそうしている場合ではないと意識を切り替える。

 

「それじゃあ、いっちょやってみますかね」

 

 呟いて、一つのパーツを手に取った。

 それは短い円錐の形状をしたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ファっ!? ビルドシリーズが実写化!?
 ガン何とかガールといい、最近の財団Bはどこに向かおうとしているのか。困惑する捻れ骨子です。

 はいフォース結成の話~。そしてやっと題名のネタが回収できたよ。古い映画だけど面白いぞホットショット。1はフセインのそっくりさんが酷い目に遭って、2はもっと酷い目に遭う話だけど。(はしょりすぎ)
 ともかく主人公たちはフォースを結成しプレイの幅を広げていく……のか? それよりオタクロが何やら仕込みましたが、それがどのような展開を呼ぶのか。怪しい人間も出てきそうだし一体どうなっちゃうんでしょうかねえ。(他人事)

 それでは今回はこの辺で。 


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番外戦・辻斬り系JKの作り方

 

 

 

 スズタニ・スズカはおばあちゃん子である。

 ほんわかした母親。生真面目そうに見えてどっか抜けてる父親。双方ともに大好きであったが、それ以上に赤ん坊の頃から祖母になついていた。嫁姑の間柄は良好(というか祖母の教え子が母だった)なので特に問題はなかったが、それにしてもなつきすぎだと祖母はよく苦笑していたものだ。

 そんな祖母の膝の上で、よく時代劇を見ていた。別に無理矢理見せられていたわけではない。祖母がテレビを見ていると、膝の上によじ登って一緒に見たがっていたのだ。多分祖母と一緒にいたかっただけなのだろうが、それが原因で少女漫画より先に時代劇の役者を覚えるような幼女ができあがった。

 

 そんな彼女に祖母も思うところがあったようで、とある日スズカをつれ、あるところに赴いた。

 神結流の演舞会。市営の体育館で行われていたそれを、スズカに見せるためだった。胴着を纏い、凜々しい姿の女性たち(神結流の門下生は、なぜか女性が多い)が太刀を振るい、槍を巧みに操り、長刀を奔らせる。その光景を、スズカはキラキラした目で見つめた。

 魅入られたと言っても良い。きれいで、かっこいい。素直に憧れを口にした彼女を見て、祖母は小さく頷く。

 そして数年の間、時折演舞の動画や録画などを見ることが増えた。祖母の膝の上でやっ、とうっ、とか腕を振り回すスズカの姿を見て、母親はまあまあとほっこり見守る姿勢であったが、父親は微妙に不安げな様子だった。もしかしたらそれは、将来を予測していたからこそのことなのかも知れない。

 

 ともかく、すくすくと洗脳事前教育されたスズカは、小学校に上がるのと同時に神結流の道場へと入門することとなる。

 才能と、教育。それが適切に合わさると天才を生む。……と言うほどに大げさなものではないが、スズカには確かに素質があった。そして、あんなきれいで格好良いお姉さんみたいになりたい、という向上心もあった。結果、その成長は当時の師範を唸らせるくらいにはめざましいものとなる。

 幸いにして、というか調子に乗りやすい質であるスズカが天狗にならなかったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()である。後に若くして師範代となる2人の先達。その存在と祖母が、変な方向に歪むのを留めた。

 中学も卒業する頃には、道場内でも一目置かれるほどの技量となった。世が世なら剣客として名をはせたのかも知れない。その一方で、彼女は不満のようなものを覚えていた。

 技量は向上した。そしてきれいでかっこいいお姉さんになる努力も惜しんではいない。むしろそっちの方は年頃の娘っ子と言うこともあってウエイト多めだ。それはともかく順調に成長していると言って良いだろう。では何が満足していないのか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、というところである。

 

 道場や演舞会くらいでしかその腕を振るう機会がないことに、物足りなさのようなものがあった。なにかこう、()()()()と思ってしまうのだ。友人であるマコトなどに相談すると「発想が危険人物じゃないですかそれ」などと呆れられたが、別段そこらで暴れまくろうとか辻斬りしたいとかそういうことではない。本当にそうじゃない、恐らく。 もっと色々と、広い世界で剣を振るい、競い、磨き上げたい。そのように思ってしまうだけだ。

 警察や自衛隊などには言って技術を生かす、と言ったのもまた何か違う。強いて言えば格闘技大会のようなもので技を競い合いたいとかそういう方向性だ。俺より強いヤツに会いに行く系の。

 そうはいっても、漫画や格闘ゲームじゃあるまいし、そんな機会が転がっているはずもない。いっそのこと自分で異種武道競技団体でも作り上げてしまうしかないか、などとアホな方向に考えが飛んだりしていたのだが。

 高校の入学を控えたある日。

 

「おねえちゃん、マーブルがまたなんか新しい企画にチャレンジするっぽいよ?」

 

 男性アイドル押しの妹が勧めた動画。それがスズカの運命を決めた。

 かのグループはスズカ自身も注目はしていた。メンバーの幾人かが時代劇のドラマや映画に出演していたからだ。そして事務所のごり押しでありながらも、結構いい演技をしていたと記憶している。

 ただ、動画で行うのは大概面白おかしい挑戦系だ。実際面白いのは面白い。だからと言って熱中するほどでもない。スズカ的には話題のネタにはなるくらいだ。だからそれほど()()を期待してはいなかった。

 内容は『GBNへの挑戦』。マーブルのメンバーがガンプラを作り、GBNをプレイしてみようと言う内容だ。GBN事態はスズカもちょっとだけ耳にしている。ガンプラを作って遊ぶゲーム。その程度の知識しかない。最近流行りだしね~と、話題のネタ程度の気持ちで視聴してみる。

 その動画の中で行われた会話が、彼女の意識を引いた。

 

「クロさんの選んだのって、刀持ってるんだね」

「うん、時代劇の経験とか、参考になるかなって」

「ああ! 殺陣とか活かせるかもじゃん! 『思った通りに動かせる』んならありかぁ!」

 

 思った通りに動かせる。その言葉に、興味をそそられた。何の気なしに妹に問うてみる。

 

「ねえ、じーびーえぬって好きなようにチャンバラできたりするわけ?」

「できるっぽい。よくわかんないけど」

「ふ~ん……」

 

 ゲームである。ゲームなのだ。だがその中では好きに刀を振るえる……かも知れない。そんな考えが脳裏をよぎる。

 『果たして、その他のメンバーのガンプラは!?』とか言う引きで動画が終わる。多分引き延ばすだけ引き延ばす類いの展開だ。しかしそのようなことはスズカの頭には入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、スズカはGBNに関する情報を集め始めた。しかしながら、どうにもよく分からない。

 元々GBNはガンプラが好きな人間、興味を持つ人間を対象としている。全くのド素人に対しては不親切な部分が多かった。つーかちんぷんかんぷんだ。安室としゃーが戦う話というレベルも怪しいスズカにとっては、受験にも等しい難易度であったと言える。

 四苦八苦の末、とりあえずガンプラを使うオープンワールドのフルダイブゲームであると言うことは分かった。(この時点で半分意味が分かっていない)つまりガンプラがないとどうしようもないようだ。(実際はガンプラなしでもプレイできるが、多くのコンテンツは使えない)

 ガンプラなど全く未知の世界である。とりあえず買って組み立ててみれば良いのだろうが、何をどう選んだら良いか全くさっぱり分からない。試しにちょっとジョー●ンとか覗いてみたのだが、山積みとなったガンプラの箱を見ただけで気力が萎えた。何も分からない状態であの中から選べとか拷問である。はてさてどうしたものだかと、悩みを抱えたまま高校に入学し、悩み続けていたわけだが。

 

「そういえばこの学校、模型関係の同好会とかなかったっけ?」

 

 入学してすぐに仲良くなったモカが、そのようなことを言った。

 

「え? あったんだそんなの」

「確か入学の時にもらった案内の中にあったような。……ごめん、ボクもよく覚えてないや」

「別に悪くないからいいって。スズタニなんか気づきもしなかったし」

 

 と、2人の会話を聞いていたマコトが、何かを思い出したようで口を挟んできた。

 

「そういえば、旧校舎に同好会なんかの部室が集められてるって話でしたね。多分そこじゃないでしょうか」

「ああ、そんなことを言われてたような気が」

 

 そもそも部活動とか全く興味がなかったので記憶に残っていなかったのだが、模型――ガンプラの事が分かりそうな存在があるとなれば話は別だ。

 考えるのも決断も、一瞬であった。

 

「……よし。ちょっとその同好会探して行ってみる」

 

 ぐ、と拳を握りしめ、スズカはそう宣言した。

 

「なんだろう、そこはかとない不安を感じるんだけど」

「奇遇ですね、私もです」

 

 止めるべきか、でも止める理由がないしなあと、友人2人は漠然とした不安を抱えながらも見守るしかなかった。

 そうしてスズカは模型研究会の存在を割り出し部室へ赴き。

 運命の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、現在であるが。

 

「うわあ、ちょっと。この告白、ハズ……」

 

 自宅の居間で、スズカは食い入るように画面を見ていた。

 映し出されているのは、Gガンダムの最終回。クライマックスで主人公のドモンが世紀の大告白をぶちかますシーンである。

 そしてその直後のラブラブ天驚拳。思わず声を上げるスズカ。

 

「きんぐおぶはーとって、そういうこと!? まさかここまでネタ引っ張るなんて!」

 

 おのれ今川やりおるわと、謎のノリでぐぐ、と拳を握る。その様子を見ていた妹は、後頭部にでっかい汗を流す。

 

(おねえちゃんがなんかどんどんおかしな方向に突き進んできているような気がする)

 

 部活に入ってからこっち、姉は時々自覚せず呟いていた斬りたいな~とかいう危険な言動が減った。その代わりアニメを見て奇天烈なことを言い出すことが増えた。

 危険性は下がっているようなそうでないような。ともかく大人しくなっているから良いのかなぁと、若干の不安が残りつつも無理矢理納得する妹さん。

 だが彼女は知らない。落ち着いているように見えるスズカだが、それは単に方向性が変わっただけだと言うことを。本質的には何一つ変わっていないのだと言うことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心に修羅を飼い続ける少女。その存在は、GBNに嵐を呼ぶ……のかも知れないしそうでないのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 Q・もしスズカさんがあのような告白を受けたらどうしますか?

 

「無理無理無理無理! フラッシュモブのサプライズ告白より無理! あんなことされたら斬りまくって引きこもるよスズタニ!」

 

 大惨事が確定。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 閃光のハサウェイよりもクロスボーンシリーズをアニメ化して欲しい。
 いやそれよりもセンチネルをだねと無理を言う男捻れ骨子です。

 はい今回は外伝的なお話。スズタニさんがどうしてあのような女の子になったのかという説明的なものです。
 なお大体彼女の目線なので、表現がマイルドになっていると思われます。実際は妹さんの感想からお察しください。
 その妹さんのモデルはぽいぽい駆逐艦。趣味だよ。まあこれから先登場することがあるのかどうか分かりませんが。なんかご意見の一つでもあれば検討するかも知れません。

 それじゃ今回はこの辺で。次回から新展開、か?(東スポ感)


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10戦目・超展開!? ……とか言うほどじゃないって言うかなんというか。

 

 

 タガミ家。夕食を終えたヨウヘイは、洗い物を済ませ布巾でキッチン周りを拭き上げていた。

 両親が共働きであるタガミ家では、結構前から子供たちが自主的に家事をこなすようになっている。いつでも一人暮らしどころか嫁に行けるレベルであった。

 ちょうどキッチンとダイニングの後片付けが終わった頃、ひょりと顔を出すものが。

 

「ヨウヘイ、洗濯物は全部浴室乾燥に放り込んでおきました。そっちは?」

「今終わったよ兄さん」

 

 【タガミ リュウヤ】。ヨウヘイの兄でタガミ家の長男である。ボサボサ頭に目の下の隈。不健康そうに見える青年に対し、ヨウヘイは言う。

 

「根を詰めたくなる気持ちも分かるけど、あんまり夜更かししないでよ? また教授に怒られるぜ?」

「分かっちゃいるんですけどね。興が乗るとどうにも止まらない」

 

 医大生であるリュウヤだが、熱中しすぎると寝食を忘れる質である。研究やレポートに集中しすぎるところを、部屋から引きずり出すのは大概ヨウヘイの仕事であった。そんな彼でも家事をやらせればそつなくこなすはこなす。一人暮らしさせたら放りっぱなしになりそうではあるけれど。

 

「君だって似たようなものですから気を付けなさいね。最近部活が楽しくなってきてるようですし」

「まあ自覚はあるよ。ほどほどにしておくさ。兄さんも早めに寝てくれよ?」

「そうしたいとは思っているんですがね」

 

 どうせ言っても興が乗ったら徹夜しかねない。その辺は半ば諦めつつ、ヨウヘイは自室に戻る。

 パソコンを起動。日課のネットサーフィンを行いながら組み上げ途中のキットを取り出す。色々と情報や余計なことを見流しつつ組み上げや改造を行うのが彼のスタイルだった。集中できないのではと思うが、なぜかしっかりと仕上がる。謎だ。

 

「お、マーブルの動画が更新されてるな」

 

 最近結構注目してたマーブルの企画動画を見始める。彼らのやりとりも面白いし、なにより全くのド素人が四苦八苦しながら事を進めていく過程は意外と勉強する部分も多くあり、一見の価値はあると思っている。

 淹れ立てのドリップコーヒーを口にしつつ、ヨウヘイは動画を視聴していた。

 

『ここで! メンバーのために心強い助っ人が現れた!』

「私が諸君らにGBNを指南する、【謎の仮面コーチK】だ!」

 

 ぶふーーーーーーーっ!

 その腕組みして宣うどっかで見たような目元を覆う仮面の人物の登場に対し、ヨウヘイはコーヒーを吹いてどんがらがっしゃんとひっくり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、マーブルの動画配信に対する反応は炎上とかそういうレベルのものじゃなかった。

 GBN関係の界隈では、『何してんの、あの人ホントなにしてんの!?』とか『謎の仮面コーチK、一体何者……』とかいう()()()()()反応が多くを占めたが、それ以外の反応はと言うと。

 

「あれ誰!?」

 

 というスズカの言葉と同じようなものだった。

 

「そりゃ知らねえ人間にはわかんねえよなあ」

「知ってる人にとってはいきなり最終兵器がぶち込まれた感がある」

 

 難しい顔でうんうん唸っているジントとホウジ。件の動画を視聴している大半はマーブルの動画だからという理由で見ているものが多くを占める。もちろんGBNプレイヤー(ダイバー)もかなりの数に上るだろうが、ほとんどの視聴者はそうではない。GBNの有名人が登場しても分かろうはずがなかった。

 

「で、あの人一体誰なわけ?」

 

 もちろんGBN初心者からまだ脱していないスズカには誰だかさっぱりだ。彼女の疑問に、ジントが苦笑しつつ答える。

 

「あの人はダイバーネーム【クジョウ・キョウヤ】。GBNワールドチャンピオンシップトーナメント個人戦を連覇してる、現在個人ランキング1位の男。通称チャンプさ」

「え!? ってことは、GBNで一番強い人って事!?」

「ああ。GBNの中だったら、マスターアジアよりも強いぞあの人」

 

 そして彼はGBNの外でも財団Bの広報とか各種取材などで結構顔が売れている。見るものが見れば一発で正体丸わかりだ。

 

「あの番組のスタッフも思いきったよな。いや人当たり良いらしいから本人結構乗り気なのかも知れないけど」

「むしろチャンプならばノリノリである可能性も否めない」

「チャンプだしなあ」

 

 頷き合うジントとホウジ。一体どういう人なんだろうとスズカは若干引き気味であった。

 そして、先輩2人も動画について話し合っている。

 

「前振りもなくいきなり登場とか、驚いたよ。思わずリアルでコーヒー吹いたわ」

「拙者は肉まん取り落としましたぞ。……しかしあの様子からすると、財団Bもかなり本気でマーブルの企画を後押ししているようでござるな」

「そうだな。……これはもしかすると()()()、あれが現実味を帯びてきたんじゃないか?」

「例の噂? なんの話っすか?」

 

 ヨウヘイの言葉を聞き取ったジントが尋ねる。ヨウヘイは人差し指を立てた。

 

「聞いたことはないかい? 近々GBNが『プロ競技になる』と」

「……ああ、ネットや雑誌で見たことあります。なんでも外からもスポンサーを集めて、世界規模でリーグ化するんじゃないかって話でしたよね」

「しかし自由度が高すぎて、逆に競技化しにくいんじゃないかという意見が多かったような気がしますが」

 

 ホウジの言葉にクロウが頷く。

 

「左様。もちろんプロ競技化するに当たって、色々とレギュレーションが定められるであろうが、それでも『抜け道』が多いゲームでござるからなGBNは」

 

 隠し球を仕込もうと思えばいくらでも仕込めるのがGBNだ。不正をしようとすれば……と考えてしまうものだろう。そしてこれまで運営は初心者狩りなどのマナー無用な悪党に対し後手に回っていた経緯がある。公正なゲームが成り立つのかどうか怪しい物だと、多くの人間が疑いを持っていた。

 ぎしり、とパイプ椅子に体重を預け、ヨウヘイが思案しながら言う。

 

「となれば……運営が用意しなければいけないのは、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。サーバーを隔離し競技者と関係者以外にはクローズドするエリア、とか。出し抜こうとしたものには相応のペナルティも必要になるだろう。もし本格的にやろうとするのであれば、マイナーチェンジではすまないバージョンアップが用意されるんじゃないかな」

「あ、もしかしてその広告塔にマーブルを使おうって腹っすか?」

「仮定でござるよ。何もかもが的外れと言うこともあり得る」

 

 ジントの言葉をクロウが否定する。今の会話はあくまでもしかしたら、という推定の元に成り立っていたものだ。チャンプを起用したのは単なる話題作り、と言う可能性の方が高いし現実的だろう。

 いずれにせよ、ここで話していても何の進展も生産性もないことだ。論議ならすでにあちこちのSNSや掲示板でなされている。多分今現在も白熱していることだろう。雑談以上の意味は、()()()()()ない。

 ふう、と息を吐いてかぶりを振り、ヨウヘイはことさら軽い調子で言う。

 

「ま、僕たちには関係ない話さ。普通に楽しんでプレイする分には何も問題はないだろう」

「そうでござるな。考察とか面白いのでつい熱くなりそうになってしまうでござるが」

 

 クロウもそれに乗る。まるで()()()()()()()()()()()()()()

 

(そう、僕たちには関係のない話……だよな?)

(漫画やアニメじゃあるまいし、巻き込まれる事なんてない……はず)

 

 残念だったな。この話はアニメの二次創作だ。

 とまあ2人が謎の悪寒に内心戦慄していたそのとき、部室のドアをノックする音が響いた。

 

「? 誰だろう。……どうぞ?」

 

 新学期から少し経ったこの時期に、新入部員でもあるまい。ヨウヘイは訝しがりながら声をかける。

 からからとドアを開けて入ってきたのは、がっしりとした体格を持つ壮年の男性。ノーネクタイのこなれたスーツを纏ったその人物は、軽く片手を上げて言う。

 

「おう、邪魔すんぜ」

「「邪魔するんだったら帰ってください」」

「おう、ほんじゃあな……って違うわ!」

 

 先輩2人のボケに見事なノリツッコミを見せる男。後輩どもはぽかんとその様子を見ていた。

 

「……えっと、生活指導の【クロス】先生っすよね?」

 

 【クロス・キョウジ】。ジントが指摘したとおり、この学校の生活指導担当の教師である。そんな人間が一体何の用事でこの場に現れたのか。その疑問に答えるかのように、ヨウヘイが言葉を放つ。

 

「抜き打ちの見回り、と言ったところですか」

「そうよ。まあなんぞやらかす人間がいないとも限らんしな」

「はっはっは、拙者らのような品行方正な人間が何をやらかすというのでござろうか」

「GPDでの遊びに熱中しすぎて怒られたのはどこのどなたさんどもだったかな?」

 

 キョウジの言葉に対し一斉に視線をそらす野郎ども。見回りされても当然であった。

 

「そのついでにタガミ、ここの()()どうするよって聞きに来た」

「ああ、そういえば部員が5人になりましたね。すっかり忘れてました」

「昇格?」

 

 何の話かとスズカが疑問の声を上げる。その疑問に答えるヨウヘイは、すぴしと人差し指を立てて見せた。

 

「ああ、同好会から正式な部活にするか、って話さ。部員が増えたからね、模型研究会(うち)にもその資格ができたんだ」

 

 この学校独自の方針である。部員が定数を満たすか、何らかの功績を残すかすれば、正式な部活動として認められるというものだ。

 それを聞いたスズカは、再び疑問の声を上げる。

 

「正式な部活になると、何が違うんですか?」

 

 その疑問に答えるのはキョウジ。

 

「うむ、まず部費がもらえる。……まあそんな大した額じゃないが、今まで各自の持ち寄りだっただろうお前ら。少しは懐が楽になるぞ?」

 

 GPD筐体の修理すらも自分たちでこなさなければならなかったのは、そういう事情もある。それに些少とは言え予算があるのとないのとでは雲泥の差だ。それは確かなメリットだった。

 

「それと顧問が就く。スポーツ系なら対外試合や大会などに参加する手続きやら何やらを請け負ってくれるものだ。経験者なら指導もしてくれるしな」

 

 そこでキョウジはにっと笑った。

 

「なんだったら俺が顧問を引き受けてやっても良いぞ?」

「そういえば結構名の売れたGPDプレイヤーでしたね先生」

 

 キョウジの思惑を悟ってヨウヘイはため息をはく。

 

「あれでしょう顧問引き受けて堂々とGPDプレイしようとか言う腹でしょう」

「当然だろう。ぶっ壊れてるって話を聞いて意気消沈してたところから、お前らの尽力によって復帰したと聞いたときは小躍りしたわ。まあ同好会落ちしてたから、顧問でもない人間が入り浸るのも問題だったしここに来るのは控えてたがな。しかしお前らが昇格すれば話は別よ。さあ、嘆願書を書くがいい」

 

 用意していた部活動認定用の嘆願書をずはっ、と突きつけるキョウジ。その行動に、ヨウヘイはジト目で応える。

 

「先生は生徒会の担当もしてるでしょうに。こっちを構ってる暇なんかあるんですか?」

 

 その言葉に、キョウジはすんっ、と無表情になった。

 

「やめる」

「……はい?」

「生徒会の担当やめる」

「「「「「は!?」」」」」

 

 一体何を言い出すのかと、ヨウヘイのみならず研究会全員が声を上げた。

 キョウジはなんか腐った魚のような濁った眼差しで、遠くを見つめながら言う。

 

「なんかねー、【サカタ】と【アオイ】が別次元のいちゃつきぶりでねー。独り身はつらくってさー」

「はあ、あの2人がですか」

「確かにおかしな……個性的な人間でござるが」

「サカタって、生徒会長っすよね?」

 

 キョウジに合わせたかのように遠い目となった先輩2人。ジントの脳裏には、入学式の時堂々と挨拶したイケメン眼鏡と、舞台の裾で目立たぬようにたたずんでいた三つ編みお下げ眼鏡の姿が浮かんでいた。その様子から別次元のいちゃつきぶりなど想像も出来ない。

 それに個性的な人間とはどういうことなのか。ホウジやスズカと共に首を傾げるジント。 それを見たクロウが深々とため息をはいて、説明を始めた。

 

「入学式の時は猫を被っておったが、あの生徒会長、わりとはっちゃけた御仁でな」

 

 基本真面目は真面目である。だがなんかどことなく変だし、たがが外れたときの弾け具合が凄まじいという。

 

「何しろ生徒会選挙の演説時、いきなりパーフェクトヒューマンのパフォーマンス始めて完璧に踊りきった御仁でござるぞ。それがバカウケして当選したようなものでござるが」

「あの人が!?」

 

 あのくそ真面目そうな容姿からは想像もつかないキャラ……と、そこまで考えてふとヨウヘイの方を見る。

 なんか納得した。

 

「今すごく失礼なこと考えなかったかい?」

「いえべつに」

 

 ヨウヘイの追求に目をそらして誤魔化すジント。自分のことは棚に上げている。つーかここにいる面子も大概中身がアレだろう。

 それはそれとして。

 

「生徒会長はともかくアオイ副会長もなんかあるんすか」

「まああの人は、ねえ」

「斜め上というか何というか」

「正直個人的には付き合いたくない類いの人間だ」

 

 先輩2人と教師が揃ってこのような事を口にする。一体全体どんだけアレでナニな人間なのか。そしてそれが別次元のいちゃつきするとは何なのか。想像もつかないというか想像するのが怖い。 

 

「ということで、俺は生徒会の担当やめてここの顧問になる。顧問になって入り浸る」

「んな簡単に言わないでくださいよ。そういうことはまず先に職員会議とかで訴えてくださいな」

「満場一致で奴らの世話押しつけられたわ! くそうだれだジェンガで決めようって言ったヤツ!」

 

 ぐだぐだになり始めた。この教師実は愚痴りに来ただけじゃないのかと、ジントは新たな疑問を浮かべていた。

 とりあえず、部活への昇格は一端保留にして、キョウジは時々ここに遊びに来れば良いじゃないかという結論で落ち着いた。

 別に同好会のままでいるメリットはないが、正式な部活になればそれなりの結果を求められることもある。今からでは全国大会などに参加する余裕も資格もないし、成果を上げるのは難しいという判断からのことだった。

 さて、この部活昇格の話が模型研究会に及ぼした影響は……()()()()()ほとんどない。

 しかし、もしかしたら()()()を運んできたのかも知れなかったと、ジントは後で思い返すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある歓楽街の一角に、【アダムの林檎】という酒場がある。

 現在closeの札がかかっているその店内にあるのは2人。1人はカウンター席に座っている端正な顔の男。もう1人はそれに対峙する形でグラスを磨いている、バーテンダー風の男(?)。静かな店内で、2人は言葉を交わしていた。

 

「思い切ったことをしたわね、あなたも運営も」

「僕は運営と、関係各所の意向で動いているだけだよ」

「いや仮面のほう」

「まああれは番組の方の意向ということで」

 

 くく、と2人は軽く笑い合う。そうしてから真剣な表情となった。

 

「運営の方も渡りに船、と言ったところだったんだろうね。プロ競技化という体で、各種研究機関や政府の介入を誤魔化す。それに加担しているというのは、なんとも言えない気分になるが」

「けれど【エルドラ】の事は、最早GBN……運営だけで対処できる問題じゃなくなったわ。()()()()()()、その存在はそれこそ世界規模で相対しなければならないでしょうね」

「それ故に慎重にならなければならない、か。……分かってはいるよ。そのために道化になる覚悟もある」

「純粋にプレイヤーとして振る舞えなくなるのは、やっぱり不満?」

「それもあるし、そのためにマーブルのような人たちを山車にするのは気が引けるよ」

「あら、結構お気に入りなのね」

「好青年というのは彼らのような人間を言うのだろうね。それに熱意もある。いいダイバーになるのは間違いないさ」

「そうよね~、イケメン揃いだし。……なんだったら指南をアタシと代わる?」

「あなたなら別の意味で話題をかっさらいそうだが、彼らのファンが怖いからやめておくよ」

「それは残念」

 

 再び笑みが浮かぶ。それは幾分かの強がりが含まれていたのかも知れない。

 彼らが抱え込むことになった問題は、実のところかなり大きなものとなりつつあった。下手をすれば人類の歴史に大きく刻まれるかも知れないほどのものだ。

 事は慎重に運ばねばならない。そしてそのことが容易く露見しないよう、世間の目を引きつける何かが必要であった。

 プロ競技化の裏側。そこでは世界を揺るがす事象が深く静かに進行していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「熱っ! 熱っ! うわキットにコーヒーが!?」

 

 どたんばたん。

 

「何事!?」

 

 タガミ家は一時期パニックに陥りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ2

 

 

 キャラ紹介

 

 

 タガミ・リュウヤ

 

 ヨウヘイの兄でタガミ家長男。医大生であり、寝食を忘れてレポートや研究に打ち込む学者バカ。誰に対しても敬語で話す。

 万能器用で才覚にあふれる人物だが、基本私生活では尻を叩かれないと動かない。一人暮らしをすると途端にだらしなくなるタイプ。

 モデルは漫画デスノートの【L(エル)】。

 

 

 

 

 

 クロス・キョウジ

 

 陽昇大付属高校の生活指導教諭にして生徒会担当。いかつい系の外観だが、実はかなりお茶目な人物。

 どうやらGPDでかなりならしたプレイヤーだったらしい。模型研究会のGPD筐体で遊びたいという腹づもりで顧問の話を持ちかけたが、一端保留された。

 外観はGジェネオリジナルキャラクター、【ゼノン・ティーゲル】がアラフォーくらいになった感じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 出世はさせた……しかし、給料がいつ上がるとは明記されていない……っ! それが10年20年先でも可能と言うこと……っ!
 マジざけんなよちょっと責任者出てこい土下座して靴舐めっからお願いします金ください。
 プライド? そんなもんで腹は膨れん捻れ骨子です。

 はいGBNの方で動きがあった&チャンプ初登場(?)の話~。アイドルグループまで動員しておいて、その裏では密やかな陰謀が!? と言うわけではありませんが、エルドラ騒ぎの影響は、とんでもなく大きな物となっているようです。そら本物の異世界(つーか異星?)とのコンタクトとか、どえらい騒動となるでしょうよ。混乱を抑えるための情報の秘匿。その隠蔽を兼ねたプロ競技化。それが一体どのような形で主人公たちを巻き込んでいくのか。自分でやっといてこの風呂敷たためるのか捻れ骨子!?

 なお登場する原作キャラですが、がしゃんがしゃんと壊れる可能性があります。だってあーた、捻れ骨子の書く話やぞ? むしろ真っ当ですむと思うなよ。(無責任)

 そう言ったわけで書いてる本人も若干の不安を覚えつつも、今回はこの辺で。


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11戦目・因縁は、忘れた頃にやってくる。(なお筆者も忘れかけていた模様)

 

 マーブル動画の騒動があってから間もなく。ホットショットを含む多くのフォースの元に、運営からの連絡が入った。

 

「【アリーナバトル】βテスト抽選のお知らせ?」

 

 内容を確認したキラ☆が、いぶかしげに眉を寄せる。その内容は、新規のコンテンツ実装前テストの抽選を知らしめるものであった。

 これまでにない試みである。今までなら新たなフィールドやコンテンツが追加された場合でも、ダイバーに対してテスト参加を促すようなことはなかった。よほど運営が力を入れていることが見て取れる。

 当然疑念は湧く。

 

「やはりこれは、プロ競技化を前提としたものだろうな」

「ふむ……参加人数、参加者全員のランク、希望する相手のランクや人数、希望するフィールド。それらを申請してマッチングし、専用の隔離フィールド内でバトルを行う。……なるほど、ガチガチに条件を固めて不正を行い難くしているようでござる。これまでにない本気の対策でござるぞ」

 

 うむむと唸る2人。H・Aが意見を述べた。

 

「会長の予想したとおりの展開になってきましたね。しかし自分たちのような新規のフォースにまで参加を促すような真似、手を広げすぎのような気がします」

「少しでもデータを集めたい、というのであれば分からない話でもないさ。収拾がつくのかどうかまでは保証の限りではないけど」

 

 肩をすくめるキラ☆。その言葉にジンは眉を顰めた。

 

「一波乱ある、ってことすか」

「ないはずがないと思うよ。それでなくてもプロ競技化に難色を示すのは内外に多い。あるいはこのテスト、()()()()()()()()()()()を洗い出すためのものなのかもね」

「じゃあ不参加ってことですか?」

 

 スズが問えば、キラ☆は難しい顔で考え込む。

 

「そうするべきか、とも思う。だが()()()()ではあるんだよねえ。……このコンテンツ、()()()()()()()()()()()ものだよ」

 

 限定されたフィールド、前もって仕込みも出来ず、戦力も決められている。参加者の技量、そしてガンプラの出来。ガンプラに小細工を仕込むことも出来るだろうが、それは実力のうち――戦術と見なされるものだ。自身の持つ力を真っ向からぶつけ合う戦い。それは通常の対戦とは全く違うものとなるだろう。

 正直興味はある。今の自分がどれだけの力を持つか、余計な要素を排してそれを確かめる事が出来るというのは魅力的だ。だが、何か一波乱あるだろう事が予測できているのに手を出すというのは……。

 

(それはそれで面白そうだと思う自分がいるんだよなあ……) 

 

 キラ☆――ヨウヘイはどちらかと言えば愉快犯的な気質がある。普段はセーブしている(つもり)だが、面白そうだと思えば地雷原でタップダンスすることも辞さないと自覚があった。何かあるのにスルーしてしまうのは、()()()()とすら思ってしまう。

 これが自分一人であったらそんなに迷わないだろう。だが一応、とりあえず、曲がりなりにもこのフォースのリーダーを張っているからには、一人で勝手に決めるわけにはいかない。

 だから。

 

「多数決かあみだくじか麻雀で決めようか」

「では点十でよろしゅうござるな」

「なぜそこでしゃらっと麻雀する流れにしようとするのか」

 

 このままではアツい麻雀漫画が始まってしまうと、ジンたちは全力で止めた。それ以前に、いつの間に麻雀卓一式をネストに用意したのか。そしてこんなもんがなぜインテリアとして用意されているのか。ツッコミどころは多すぎた。

 とにもかくにも紆余曲折の後、結局最終的には多数決で方針は定められたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「抽選、当たっちゃったね」

「なんだろう、素直に喜べないぞ?」

 

 ログインしたホットショットのメンバー。彼らに届いたのは、βテストの抽選に当たったという知らせである。

 当たればめっけもん、程度にしか考えていなかったスズとジンは、今になって嫌な予感でも感じ取ったのか、微妙な表情だった。

 

「別に狙い撃ちされてるわけじゃないんだから、そう警戒しなくても」

「何か不都合があるわけではないのでござるから、気楽に構えていれば良いのでござるよ気楽に」

 

 先輩2人は完全にリラックスした様子だ。開き直っているのか逆に面白くなってきたと思っているのか、何が来ても驚かない様子である。

 

「いずれにせよ、当たってしまったんだ。精々準備を整えるか」

 

 ()()も近々仕上げに入らないとな、などとH・Aは何やら画策しているようだ。別に死ぬわけでもないのだし、開き直って楽しんだ方が得だろうと思っているらしい。

 ジンは仕方がないなと言うような感じで息を吐いて、言葉を紡いだ。

 

「こんなこともあろうかと、って訳じゃないですけど、キットの改装をしておいて良かったと言うべきっすかね」

「おや? セットするときにチラリと見たけど、そんなに姿形は変わっていなかったように思えたが?」  

 

 ジンの言葉に興味を引かれたキラ☆が尋ねる。

 

「ええ。試作を兼ねて、ちょいと弄った程度っすよ。仕上げをご覧じろってとこっすね」

「それは楽しみが増えたと言うべきかな。……では早速、アリーナのシステムを、と」

 

 ディスプレイを呼び出し、早速追加されたアリーナの申し込みを立ち上げる。自分たちのフォースの編成、ランクなどの基本情報を入力。対戦相手の希望を選ぶ。

 

「なるほど、自分たちの総合ランクより低い相手は選べないのか。僕らの評価はCだから、ひとまず同レベルで設定しておくけれど、いいよね?」

「拙者は異論なく」

「スズもおっけーです」

「会長に任せますよ」

「よろしくたのんます」

「はいはい任された、っと。これでいいかな」

 

 入力を済ませ承諾のボタンを押す。

 

「これで条件に合う相手がいれば、マッチングされる……と、もう来たか」

 

 ぱららららとディスプレイに対戦可能な相手が表示される。その数にジンは目を丸くした。

 

「結構な数があるっすね」

「そりゃ100や200じゃきかぬでござろうからな。抽選のテストとはいえ膨大な数にも成ろうというもの」

 

 2千万のユーザーからすればごく一部。それでも全国どころか全世界から集められたユーザーだ。このテスト自体にも相当力を入れているようであるし、最低でも千単位のフォースが集められたと見て良いだろう。

 

「けれどさすがに今対戦可能となってる数は少ないようですね」

 

 H・Aがそう指摘する。ずらりと並んだフォース名の横に、対戦可能かどうかを記すマークがある。可能と表示されているのは、その10分の1程度である。

 抽選に当たったフォースが常に戦闘可能な状態で待機しているわけではない。あるものは別のミッションをこなしていたりするだろうし、メンバーが揃っていない場合もあるだろう。また海外のフォースであれば時間が合わないこともある。当然と言えば当然の結果であった。

 ふむ、とキラ☆は思案する。表示されているのはフォース名と総合ランクだけで、どのような構成か、戦績はいかなるものか、などの情報は一切ない。事前に対策を取(メタ張りす)るのを防ぐためだろう。有名なフォースであればその限りではないだろうが。

 

「……適当に上から順に選ぼうか」

 

 ならばどれを選んでも一緒だと、キラ☆は皆に言う。そして誰もそれに反論しなかった。

 

「一番上のヤツは……フォース【ウィンターテーブル】?」

 

 こたつのアイコンが使われているそのフォース名に、どういうセンスだと疑問が浮かぶが、名前で強さが決まるわけでもない。うちなんかでかい口を叩くヤツだ名前負けはしてないぞと、妙な対抗心を抱きながらキラ☆は対戦ボタンを押した。

 途端にぶおんがしゅんがきん! と効果音を立てつつ、フォース内にメカニカルなドアが出現する。

 

「うわ! なにこれ!?」

「専用の演出でござるか! 凝っていますなあ」

 

 驚くスズに眼鏡を光らせるオタクロ。どうやらアリーナバトル専用の出撃口らしい。

 

「う~ん、ホントに力入ってんなあ」

「力入りすぎてスベらないといいけど」

 

 頑張りすぎて変な方向に行くんじゃなかろうかと、不安を覚えるジンとH・A。運営が力を入れるとろくな事にならない……と言うわけじゃないが、どうにも張り切りが過ぎているように感じた。

 

「まあいつかの時みたいにシステムダウンとかしなけりゃいいさ。鬼が出るか蛇が出るか、行けば分かるさこの道をってね」

 

 ことさら気楽な調子で言ったキラ☆が、ドアの開閉ボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 格納庫から機体への搭乗、出撃までは通常とほぼ同じ流れである。

 

「キラ☆、フリーダム・ノイエ。行きます」

「オタクロ、ガンダムヘビーアームズEWイーゲル装備。出陣いたす」

「H・A、ZプラスC1ナイトオウル。出る」

「スズ、ノーベルガンダム・ブレイザー。いっきまーす!」

 

 それぞれの機体がお決まりの台詞と共にカタパルトから打ち出される。そして最後に。

 

「ジン、EX-SガンダムR【(セカンド)】。行くぜ!」

 

 改装されたジンの機体が飛び出す。一見して、変わっているところは見受けられないように思われたが。

 大型のバックパック。本来であれば大出力のスラスターユニットであるそれからはオレンジ色の燐光が放たれ、独特な駆動音が響いている。

 

「ほう、スラスターを【GNドライブT】に換装したのか」

 

 キラ☆がいち早くその事実に気づく。ガンダム00に登場した、量産型の疑似太陽炉。動力源であり慣性制御機構と推進器をも兼ねたそれがスラスターノズルの代わりに4基、備えられているようだ。

 

「うっす。オリジナルのGNドライブより、瞬間出力はこっちの方が上なんで。それに並列使用にも支障ないですし」

 

 オリジナルのGNドライブにはそれぞれ相性があるという設定で、GBN内では下手な組み方をすると能力解放機構――トランザムシステムの運用に支障を来すことがある。量産品であるGNドライブTにも欠点はあるが、同時に複数個を運用するのであればこちらの方が安定しているとジンは判断し搭載を決めた。

 これによりEX-SガンダムRⅡは変形しないでも飛行することが可能となった。戦術の幅が大きく広がり、出力も大幅に向上したことになる。どれほどの能力を発揮するのか未知数であるが、ジンの制作技術から考えると相当のポテンシャルがあると見て良い。

 

「なるほど、バックパックのプロペラント部分をそのまま粒子タンクとすることで、活動時間も延長されていると言うことでござるな。恐らくはトランザムシステムにも手を加えているのでござろう?」

 

 原作ではGNドライブTのトランザムシステムはオリジナルのものを擬似的に再現したものであり、使用すれば機能停止に陥るという欠点があった。GBNでもそれは再現されているが、キットの完成度と設定により調整することは可能である。

 

「さいです。リミッターをかけて耐久力を上げて、トランザム後も継続して使えるようにしてるっす。その分1個1個のトランザム出力は7割くらいまで落ちましたけど、複数個使うことで補いました」

 

 00のツインドライブのように出力が陪乗することはないが、複数個で同時にトランザムを行うことにより、通常の数倍の出力を得ることが出来る。そしてEX-SガンダムRⅡには、それに耐えうる機体強度が十二分にあった。

 話を聞いていたスズは、コクピットで腕組みしてうんうん頷く。

 

「よくわかんないけど、すごく強くなったって事で良いんだね?」

 

 内容は全然理解していなかった。

 そんなこったろうと思っていたジンは、「うんまあそんな感じ」と適当に答える。

 

「そうか……前より強くなったんだぁ……」

 

 そのスズの台詞に、びびくんと奔る悪寒を感じるジン。

 

「OKスズさん時に落ちつけ。そのターゲッティングしたような目つきはやめてくださいませんか」

「え~、何のことかなあ。ただジン君がどんだけ強くなったのか気になるだけだよ」

「気になるんじゃなくて斬りたくなるの間違いじゃない!?」

 

 また新たな不安要素が生えてきた。とか何とかやっているうちにバトルの舞台となるエリアにたどり着く。

 用意されたのは月面のステージ。レーダーで見ればどうやら相手側もほぼ同時に到着したようだ。

 そして到着と同時に相手側も機体と面子がモニターの端に表示され、カウントダウンが開始される。すぐさまバトルが始まらないのは挨拶くらいさせる余裕があると言うことだろうか。

 まあそれならそれで言葉を交わしておくかとキラ☆が口を開くより先に。

 

「あーーーー! あんたらァ!!」

 

 怒気を含んだ女性の声が響いた。見ればモニターに映る相手側の顔。その一つである女性がびしすとこっちを指さしている。

 

「え? 会長、知り合いでござるか?」

「いんや。ジン君とH・A君は?」

「全くもってさっぱり」

「スズさんでは?」

「スズGBNの知り合いはうちのメンバーしかいないんだけど」

 

 全員がはてなマークを頭の上に浮かべている。女性は柳眉を逆立てて、がなり立ててきた。

 

「しらばっくれんじゃないわよそこの紅いのと青いの! あたしたちにやってくれたこと忘れたとは言わさないわよ!」

「……ジン君? H・A君?」

「覚えがねえよその刺すような視線向けるのやめてくんないかなあスズさん!」

「免罪だ。……だと思う。多分。自信ないけど」

 

 全く心当たりのない2人は首を横に振って否定する。その態度に女はさらにいきり立つ。

 

「あんだけあたしらを無茶苦茶にしておいて! あの屈辱、倍にして返してあげるわ!」

「………………」

「うわーいスズさんの目が絶対零度になってますよー」

「……辞世の句くらい、詠ませてくれるかなあ」

 

 訳の分からない敵と戦うより先に、味方に斬られてしまうかも知れない。もしそれが狙いだとすれば大した演技派だがと、状況を見守っていたキラ☆は思うが。

 

「姐さん姐さん、それだと向こうの誤解が広まっていくだけですぜ」

「あン!? 何がどう誤解だって言うのよ()()

 

 女と向こうのメンバーの一人が交わした会話。それにジンは記憶を刺激された。

 

「ネギ……? なんかどっかで……?」

 

 はてなんだったかなあと首をひねるジンに対し、向こうのメンバーの一人が、複雑な表情で言った。

 

「4月の頭、お前らが叩きのめしてくれただろう。その様子じゃ覚えていないようだが」

「……ああ! 鍋物の人!」

 

 やっとジンは思い出した。よく見れば相手のダイバーネームは【NABE】とか【KAMO】とかだ。どうやら復帰戦の時に返り討ちにした中級者狩りの連中だったようである。

 得心がいったキラ☆が、ぽんと手を打つ。

 

「ああ、前にジン君たちが言っていた鍋パーティーの人たちか」

「え? 中級者釣ろうとして返り討ちになったっていうアレ?」

 

 キラ☆の言葉に、一転してきょとんとした表情になるスズ。そうしてから彼女はジンとH・Aににっこりと笑いかけた。

 

「……信じてたよ?」

「「うそこけぇ!」」

 

 野郎二人が吠えた。そして女性――ナベも吠えた。

 

「なんでもいいわい! ともかく千載一遇のこの機会、雪辱を果たして汚名挽回してくれるわ!」

「姐さん姐さん、汚名は挽回じゃなくて返上」

「あと割と自分たちでも自業自得じゃないかなーって思わないでもない」

 

 男たち――ネギとカモが宥めてるのか煽ってるのか分からない台詞を放っていた。その一方で。

 

「すみませんうちの先輩が本当にすみません」

「あの人一見仕事できる美人なんですけど、仕事以外はぽんこつなんで」

「社会人でござったか。色々とご苦労がおありのようですなあ」

 

 なんか新たなメンバーらしい二人がペコペコと頭を下げ、オタクロが労っていた。

 

「【カブ】! 【シラタキ】! 何敵と和気藹々してんのよあんたらは!」

「具材増えてんぞおい」

 

 そういう名前のメンバーが集まってるのか、そういった雰囲気のダイバーネームを名乗っているのか。ともかくフォース名のルーツは分かった。

 それはさておいて。

 

「あーもーぐっだぐだじゃない! 折角仕事有給とって備えてたってのに最悪! あんたら絶対ただじゃ済まさないからね!」

 

 ムキャーとヒステリックに吠え続けるナベ。その様子にキラ☆は苦笑を浮かべる。

 

「うん、正直八つ当たりと逆恨みにしか思えない。困った社会人だな」

 

 そこまで言って、彼は表情を不敵な笑みに変えた。

 

「だが、全力で来るというのであれば願ってもない。お相手しよう」

「言ってくれるじゃないこの小僧。上等よ」

 

 ナベは怒気を隠そうともしない、獣が牙を剥いたようにしか見えない笑みを浮かべる。 そしてすっかり忘れ去られていたカウントが0を刻み――

 バトルのスタートが告げられる。

 

「フォースホットショット! 戦闘開始といこうか!」

「カモ! ネギ! カブ! シラタキ! やあっておしまい!!」

 

 こうしてアリーナバトルβテスト、その初戦の幕は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「おや、どこかで見たような面子が初戦を飾るとはね」

 

 仮面のコーチが見てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ2

 

 

 ガンプラ紹介

 

 EX-SガンダムRⅡ

 

 ジントがEX-SガンダムRを改装したキット。Ⅱと書いてセカンドと読む。

 基本はバックパックのスラスターノズルをGNドライブTに交換しただけに見えるが、疑似トランザムの使用やその後の継続戦闘を前提とした改造を施してあり、バックパックのプロペラントタンクをそのまま粒子タンクとして流用することによって、活動時間の問題もほぼ解消されている。ドライブ自体は他のキット流用ではなくジントの手によるフルスクラッチ。作り込みと強度は既製品を上回る。

 変形しないでも空中戦が可能となり、変形したときの速度や機動力も向上している。そしてなにげにバックパックのビームカノン4門はGNビームカノンに変化している。が、基本は同じビームなので、ゲーム的にはあまり意味がない。

 元々ある核融合炉4基に加え、GNドライブ4基を得たその出力は桁違いのものとなり、その能力もまた大幅に向上している。が、ジントに言わせるとこれでもまだ『試作』らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ビルドリアル。う~ん……。(感想)
 とりあえず主人公チーム人多くない? もうちょっと整理するか複数人で戦う方にした方が良くない? いや複数バトルにするとスタッフ死んじゃうからドラマ重視したいのは分かるけど。捻れ骨子です。

 はい新たなコンテンツと主人公機強化、そして因縁の対決の流れ~。ちょっと他とは違うことがしてみたかったので、普通とは逆にガッチガチの条件がついた舞台を設定してみました。詳しいことはこれからの物語で明かされていくと思いますが、基本的に『初心者狩りなどの「騙して悪いが」系列の手段が一切使えない』、『サブアカなどでランクを誤魔化し参加するメリットが少ない』、など不正がとことんやりにくくなったステージだと思ってください。ビルド系作者の皆さん、使ってくれて良いのよ?
 ともかくこれから先は、アリーナバトルを巡るあれこれが話の中心となっていく……のかな? 予定はノープラン。そして筆者も忘れていた因縁の対決、その行方はいかに!?

 ……ってところで次回に続きます。それじゃ今回はこの辺で~。




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12戦目・面子のキャラがアレなのはともかく内容はわりとガチバトルかも知れない。前編

 

 

 

 

 

 アリーナバトルのフィールドは、コロシアムのように閉鎖されているわけではない。限定されてはいるものの、軍勢同士が衝突しても十分な余裕があるほどだ。

 つまり、たかだか10体程度のガンプラなら、縦横無尽に暴れ回っても全く支障はない。

 先に仕掛けたのはウィンターテーブル。鋭い指示がナベから飛ぶ。

 

「ネギ! カブ! あんたらは空飛べない2体を押さえて! シラタキは青いヤツ、カモは紅いのを! あたしは……」

 

 ぎ、と憎々しげな眼差しをフリーダム・ノイエに向ける。

 

「あの小僧をヤる!」

 

 どがむとスラスターを全力で吹かし、駆ける。その機体は。

 

「【レジェンドガンダム】。少々手を入れているようだが、さてどれだけの力があるものか」

 

 ガンダムSEEDDESTINYのラスボスとも言える機体。その能力は作中でもトップクラスのものだった。しかしGBNではキット自体の完成度と、そしてダイバーの腕がものを言う。どれだけの力が出せるのか……それは未知数だ。

 

「指示は的確のようだが……ねっ!」

 

 己の機体を奔らせながらも、キラ☆は仲間の動向を頭の隅で捉えていた。そしてそのまま指示を出す。

 

「総員、そのまま自分に向かってきたのを相手にしてくれ。()()()()()()()

 

 言ってから、レジェンドガンダムを迎え撃つ。

 レジェンドのバックパック備えられた突起物――思考誘導兵器ドラグーンが前を向き砲台として機能。次々とビームを放つ。それをひらひらと回避するフリーダム・ノイエ。

 

「あたしの前にフリーダムで現れるとは……よほど死にたいようね」

 

 ひらひらと馬鹿にしたように回避を行うキラ☆の様子に苛立ちながら、ナベは唸るように言う。

 

「おや、キラ・ヤマトがお嫌いで?」

 

 珍しいこともあるものだと、キラ☆は思う。ガンダムSEED系の女性ファンは、多くが主人公のキラ(☆のついてない方)や、そのパートナー(あながち間違いではない)であるアスラン・ザラを好むものが多い。最低でも嫌っている女性は少数派だろう。

 キラ☆の言葉に、ナベはハン、と鼻で笑う。

 

「あんなNTR野郎趣味じゃないのよあたしは。むしろくたばれち●こ折れろって言いたいわね」

 

 色々な方面を敵に回しそうな台詞である。つーか筆者の身がリアルで危険になりそうなので是非ともやめていただきたい。

 そんな筆者の魂の訴えなど知るよしもなく、ナベは憎々しげに言葉を吐いた。

 

「それにあたしの愛しのシンきゅんを酷い目に遭わせたあげく、主役すら奪うなんて真似やらかしてくれたんだもの、恨み骨髄ってヤツよねえ?」

 

 どうやらこの女、SEEDDESTINYの本来の主役であったシン・アスカのファンだったようだ。ガナーザクウォーリアやレジェンドを使っているのはその辺りが要因らしい。

 

「……なら素直にディスティニーを使えば良かったのでは」

「え~、シンきゅんの背中を護りたいって言うか~、むしろ護ってもらいたいって言うか~、絶対裏切らない相棒ポジがいいな~って」

 

 キラ☆の言葉に、なんかくねくねもじもじし出すナベ。なんか色々とこじらせてるぞこの女。

 とにもかくにも、だ。

 

「それはそれとして、あたしの前にフリーダムで現れたあげく、キラ☆とかふざけたネーム名乗ってるアンタは徹底的に潰す!」

「うわあ、酷い八つ当たりだこれ」

「ほざいてなさい! レジェンド持ち出したのは伊達じゃないのよ!」

 

 言うが早いか、レジェンドのバックパックからがきん、と音を立ててドラグーンユニット分離する。

 それは縦横無尽の軌跡を描き、フリーダム・ノイエへと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オタクロはクローラー駆動でヘビーアームズを走らせながら、ミサイルやガトリングガンを放ち続ける。

 

「【ヒルドルブ】とは、なかなか渋いチョイスでござるな! しかもよく動く!」 

 

 機動戦士ガンダム MS IGLOOに登場した、モビルタンクと呼ばれる陸戦兵器。巨大な戦車に見えるそれは、オタクロのヘビーアームズに勝るとも劣らない勢いで、大地を駆けている。

 

「そっちこそ、その大重量の機体をよく振り回せる!」

 

 ヒルドルブを駆るのはウィンターテーブルメンバーの一人、カブ。己の機体を走らせながら、彼は内心舌を巻いていた。

 

(あの装備だと機体重量は通常の倍はある。だと言うのにあの速度、()()()()()()()()()()()()

 

 最低でも実際に稼働するレベルのものだ。戦車のキットかなにかを流用したものだろう。そうでなければあれだけの走破性を出すことは出来ない。

 

「だが……()()()()()()()()()()!」

 

 どぎゃ、と土煙を蹴立ててヒルドルブが駆ける。こちらもまた実稼働するクローラーを備え、運動性能は原作と互角以上だ。ヘビーアームズが放つ攻撃を、回避し続けている。しかもただ回避しているだけではない。

 車体の上部に付けられている小型の砲台のような何か。そこから放たれる紅いレーザーらしきものが殺到するミサイルに照射され、空中で爆散させていく。

 その正体をオタクロは悟った。

 

MTHEL (戦術高エネルギーレーザー)! さては貴殿、元々スケールモデラーでござるな!?」

 

 実在する対空レーザー兵器。艦船のキット辺りから移植されたのであろうその武装のチョイスを見て、オタクロはそう見て取ったのだ。

 果たしてカブは、にやりと笑って応える。

 

「応とも、こちとらひいじじいの代からのミリオタよ。……さてそろそろいい案配で暖まってきた。お互い全開でいこうか!」

 

 ごうん、と音を立ててヒルドルブが変形を始める。車体から起き上がるのは、大口径の砲を背負ったMSの上半身。そしてクローを備えたサブアームも展開する。

 原作よりも幾分凶悪さを増したように見えるその機体は両手にマシンガンを構え、乱射しながら大地を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「押さえろって、これ無理ですよぅ先輩ぃ~!」

 

 己の機体を必死に操りながら、下っ端OLシラタキは悲鳴のような声を上げる。

 彼女が駆るのはガンダムXに登場した機体、【ガンダムエアマスターバースト】。飛行形態に変形し、空を駆けるそれを追いながら攻撃を加えているのは、H・Aのナイトオウル。

 一方的に追い回しているように見える戦いだが、追うH・Aはさほど優位を保っているとは思えなかった。

 

「よく避ける。素人の動きじゃないな」

 

 後ろからの攻撃をダメージなしで回避し続ける、ズブの素人はそんなことは出来ないと以前ジンは断言した。であれば逆説的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことだ。

 事実シラタキは素人ではない。学生時代からGBNで遊んでいる、結構なヘビーユーザーだ。逃げ回ることに関してならば、彼女は一流に手が届く。

 ただしそれ以外がへっぽこだったが。

 そんなことなど知るよしもないH・Aには、回避に専念して反撃の機会を窺っているように見える。あるいは時間稼ぎか。最低でも自分という戦力がここで釘付けになっているのは間違いない。

 

「俺のナイトオウルより速いとは。……ちょっとプライドが傷つくなこれは」

 

 最早魔改造と言っても良い領域で手が入れられているナイトオウルは、その分性能も高い。だがシラタキのエアマスターはほとんどノーマルのように見えるのに、ナイトオウルよりも最高速度と小回りに秀でている。これはシラタキが機体のパラメーターを機動性と速度に全振りし、攻撃力も防御力も最低限にするという尖りまくったセッティングにしているせいなのだが、もちろんこれもH・Aの知るところではない。

 

「ひいいん! 助けてぇええええ!!」

 

 実のところ綱渡りを全力疾走しているシラタキ。そしてそれを知らず深読みし、相手の出方を窺っているH・A。

 ナベの思惑通りかどうかは分からないが、とりあえずは一応膠着状態が成り立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スズの前に立ちはだかるのはネギ。その機体は。

 

「なんか速い! リーチが長いだけじゃないねこれ!」

 

 鉄血のオルフェンズ1期のラスボス、【グレイズアイン】。通常の機体より延長された四肢により、同スケールのガンプラより広い格闘リーチを持つ。その上で、ネギはパイロットスキルである阿頼耶識システムをプラグインしていた。それにより原作と同等の反応速度を得ていたのだが。

 スズのブレイザーには、かすりもしない。

 

「ネタ枠かと思いきや、機体もダイバーもガチじゃねえか」

 

 一見ふざけた美少女フィギュアにしか見えないブレイザーだが、その機動力、立ち回り。見た目を裏切るかのような完成度と、ダイバーの技量。それは自分を上回ると、ネギは判断せざるを得ない。

 どうにも自分たちは運がないと、ネギは思う。学生時代にナベを中心としたフォースを組み、Bクラスまで至ったものの、そこから先がどうにも戦績がよろしくなかった。やけになったナベが中級者狩りなどと言い出したりしたのも、その辺りが原因だ。初回でいきなり叩き潰されたが。

 その後も懲りず、学生時代の後輩であるカブと、ナベの会社に入ってきた新人であるシラタキを加え戦力強化を図り、心機一転とばかりに応募したアリーナバトルのテストに参戦してみたらばこのざまだ。あるいは抽選の時点で運を使い果たしてしまったのかも知れない。

 

「とは言っても、俺らは諦めが悪くてなあ!」

 

 負け続けているからこそ、たまの勝ちがとてつもなく楽しく思える。正直パチンコにはまっている人間と同じような心境なのかも知れなかったが、そんなことはどうでも良かった。多分ナベと自分たちは負けず嫌いなのだろう。()()()()()()。そういった類い、根性の曲がった人間だと、自嘲気味に自己判断している。

 

「付き合ってもらうぞ! 最終的にこっちが一人残れば勝ちだ!」

「う~ん、気合いの入り方がなんてーか、こう、合わないなあ」

 

 振り回されるアックスと、両肩のマシンガンを回避しながら、スズは困ったような表情を浮かべる。相手には1人1殺の覚悟らしきものが見受けられるが、ちょっと的がずれているようにも感じる。まあジンたちと因縁があるようなので、躍起になっているかも知れなかった。

 ()()()()()()()()()のだ、スズとしては。強者と戦うのであれば、因縁とか、恩讐とか、そういうのを抜きにしてぶつかり合いたいという欲がある。そして目の前の相手は、因縁とか変なこだわりとかに囚われていなければ、()()()()()()()()存在だと感じる。この状況はちょっと()()()()

 とはいえ勝負は別の話だ。感情とは別の、闘争本能と言うべき感覚に従って大雑把な攻撃をかいくぐり、グレイズアインの懐に肉薄する。

 

「ちょいやさっ!」

 

 太刀を担いでからの打ち込み。狙うはグレイズアインの右脚。陸戦型のMSであれば、足を失うのは戦力の大幅な減退につながる。剣道であればルール違反、そうでなくとも真っ当な剣士であればまず行わない手段だ。だが、スズは迷いなくそれをやった。

 しかし。

 がぎん、という堅い手応え。()()()()()()と本能のレベルで悟ったスズは、瞬時に全力でその場を飛び退いた。

 

「なに今の!? 完全に流し斬りが入ったのに!?」

 

 今までの相手であれば切り裂いていたはずの装甲は、中途半端に切り傷が入った程度だ。驚愕しながら回避を続けるスズに対して追撃のマシンガンを放ちつつ、ネギは言い放つ。

 

「これがナノラミネート装甲だ! 多少腕が立つ程度で通じると思うなよ!」

 

 鉄血系のMSが標準で備える強固な装甲スキル。それはスズの剣技をもってしても、一撃で切り裂くのは困難であった。

 

「ふくかいちょーの言ってたやつ? ここまで頑丈なんだ」

 

 むむ、まだ修行不足かと眉を寄せるスズ。世の中には太刀で鉄兜の鎧を一刀両断にしてみせるような達人も存在するが、スズはまだその域には至っていない。ナノラミネート装甲を斬れなかったのはそれが原因だと、彼女は判断する。鍛え直さねば。

 スズは意外と脳筋であった。

 

「それはさておいて、どうしようかなこの状況」

 

 振り回されるアックスとマシンガンは回避できるが、装甲を切り裂けなければ有効なダメージを与えることが出来ない。太刀一本のみという兵装を選択した弊害が、ここに出ていた。

 しかし、スズの目には諦めとか焦りとか、そういった物は一切乗っていない。

 その目は鋭く、勝機を窺っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 H・Aとシラタキが行っているのが追いかけっこだとすれば、こちらはアクション映画張りの撃ち合いであった。

 

「いい機体に乗り換えたじゃねえか! こいつは手応えあって面白すぎるぜ!」

「くっ、変形しないでも空中戦をやれると! それにパワーも桁違いだ!」

 

 ジンの駆るEX-SガンダムRⅡと戦うのはカモ。その機体は赤と黒に塗り上げられた化鳥を思わせるガンプラ。

 ガンダムAGEに登場した機体、【ゼダス】の改造機。背面のウイングユニットを、推進器を兼ねた大型のものに換装しており、機動力を向上させたもののようだ。

 事実原型機に比べ、カモの機体は凄まじいまでの速さを誇る。その上で近接から遠距離まで対応可能な汎用性を持つ。が、それはジンの機体も同様だ。手数の多さから言えばEX-SガンダムRⅡに軍配が上がる。

 

(つっても手数の多さイコール強さじゃねえんだよなあ)

 

 むしろジンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。彼は本来接近戦を得意とする。実のところ己の乗機にEX-Sガンダムを選んだのは、その火力と手数にて敵を牽制し接近戦持ち込むためだったりする。武装が多く、ALICEというAIを標準で備えるEX-Sガンダムは、ジンの欠点を補うにはうってつけであった。

 しかしながら、ALICEのサポートありとはいえEX-Sガンダムの武装と機能を使いこなしている彼の技量は、本人が思っているほど低くない。GNドライブが追加され、出力や基本性能が全く別物となったEX-SガンダムRⅡを、大した練習もなくあっさり乗りこなすくらいには変態こなれている。

 それはともかく、現在ジンは割と攻めあぐねていた。

 強気の言葉を放ってはいるが、さほど優位というわけでもなかった。速度が速い上に特殊電磁装甲を備えたゼダスには、射撃戦だと致命傷を与えにくい。かといって接近戦に持ち込まれるとこの間の二の舞だと相手も分かっているため、迂闊に間合いを詰めてこないし、変形などによる虚を突いた攻撃も警戒しているようだ。

 ゼダスには実体剣も備えられているのでEX-SガンダムRⅡのIフィールドを抜いてダメージを与えることが可能なはずだが、先の理由から接近戦を回避しているため、必然的に射撃戦となる。そしてゼダスも射撃武装はビームしかないため、EX-SガンダムRⅡに有効打を与えることが出来ない。

 そしてゼダスを駆るカモの技量も向上している。以前の戦いから何か思うところでもあったのだろう。はっきりとした違いではないが、改造したゼダスを使いこなしジンと互角に渡り合うくらいには強くなっている。

 膠着状態。それを打開できるであろう手段をジンは持っている。しかしそのカードを容易に切るつもりはなかった。

 

(俺と互角以上のランクであれば……【必殺技】を持っている。迂闊に先出しはできねえ)

 

 ランクCから解放される必殺技システム。それは文字通り己のガンプラが必殺技を放つことが出来るスキルシステムである。

 ダイバーの経験と特性、そしてガンプラ自体の完成度、構造、設定。それらをシステムが総合判断し必殺技は形成される。

 その種類は千差万別。ある者は強力無比な攻撃を放ち、またある者は機体の限界を大幅に超えた能力を発揮させる。ダイバーの数だけ必殺技はあると言っても過言ではない。

 ただ強力なだけでなく、何らかのカウンターのような特性を持っていたら先出しは致命傷になる可能性がある。よほど追い詰められるか、あるいは向こうに先出しさせてそれを凌ぐか、何らかのきっかけが生じるかしないかぎりは使わない方が賢明だろう。

 

「おいおい消極的だねえ。それじゃ俺には届かんぜ!」

「好き勝手言ってくれる!」

 

 焦るな、機会は必ず来る。カモを挑発する裏で、ジンはいっそ冷徹とも言えるクレバーさを保ち、勝ち目を探り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は互角。ドラグーンの猛攻を回避し続けながら、キラ☆は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と見て取った。

 

「この! ひらひら鬱陶しい! 当たんなさいよ!」

「当たると撃墜されちゃうじゃないですか」

 

 いきり立つナベの言葉に飄々と返す……ように見えるキラ☆。だが実際のところ彼は結構いっぱいいっぱいだったりする。

 

(うーむ、戦況を見ながらこのレベルの相手をするとか無謀だったかなあ。全然反撃する余裕がないや)

 

 戦場全体を把握しながら敵と渡り合う、なんて真似はキラ☆には難しかったようだ。精々余裕のある振りをして、必死で攻撃を回避するくらいしか出来ない。

 かといって目の前の敵にばかり集中するというわけにもいかなかった。アリーナのシステムがよく出来ているのか、それとも単なる偶然か、このフォースは()()()()()()()()()()()()()。それは全体的にも、個人的にも、()()()()()

 二つのフォースは驚くほど編成が似ている。遠距離攻撃を主体とし指揮を執るリーダー。火力を重視したサポーター兼アタッカー。機動力の高い遊撃。接近戦主体のアタッカーに防御力や機動力も高いマルチアタッカー。キラ☆が相性がいいと判断したとおり、それぞれ同じようなタイプが相対している。

 それは多分、()()()()()()()()()()()()からこその結果だ。ただヒステリックでこじらせた女ではない。キラ☆より先に判断し、指示を下したところから見ると、彼より指揮官としての才覚があるのかも知れないとすら思う。

 そんなのを相手に真っ正面からただ挑む、なんて真似は()()()できない。自分自身を囮に何か仕掛けてくるくらいはやりかねないと懸念がある。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何しろこんなキャラに見えて自分より速く判断を下せた女だ。油断できないし何一つ見落とせなかった。

 

(さて、そろそろ打開を図るべきだが……普通の手段では読まれる可能性があるな)

 

 どうやって目の前の相手を出し抜くか。キラ☆は機体を操りながら策を練る。

 

「ええい! 腹立つくらい避けるわね!」

 

 一方ナベは苛立ちを隠そうとはしない。なお演技じゃなく素である。

 大体にしてこの女、キラ☆が考えるほどの策士じゃない。ノリと勢いと勘だけでGBNをプレイしてる動物的な何かだ。完全にキラ☆の買いかぶりだった。

 勘が当たれば大当たりする類いだが、外れると酷い目に遭う。戦績が振るわないのもその辺りが原因だったが、彼女は一向に反省しない。

 で、この戦いでは今のところ上手く当たっている。むかつくがとりあえず自分の相手は押さえ込めているし、手下ども(酷)も互角に渡り合っているようだ。これならばいけると見て取った。

 

「今回は勝ーつ! だからとっとと墜ちなさいよアンタはああああ!!」

 

 本能のまま叫び、彼女はさらに攻勢を強めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後半に続くっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ファっ!? 俺が自治会班長!? ファっ!? さらに書記までやれと!?
 ラノベの題名風な目に遭ってますが、私は元気じゃありません疲れています。リアルにどうしてこうなった捻れ骨子です。

 はいバトル話~、そして長引くだろうから前後編~、の巻。かませかと思いきや意外に勝負になっている感。鍋パーティの人たちも随分鍛えたのかも知れません。ここからどういった顛末になるのか。
 なおナベさんのキラ・ヤマト評価は知り合いの女性が言っていたことです自分じゃありません信じてください。大体キラとか好きな女性が多い中、珍しい意見だったので印象に残っていたのですよ。世の中にはこう言う考えの人もいると言うことで。
 とにもかくにもバトルは続きそうです。次回で決着がつくのかどうか、乞うご期待?

 と言うことで今回はこの辺で。


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13戦目・面子のキャラがアレなのはともかく内容はわりとガチバトルかも知れない。中編

今回推奨BGM、西川ニキで【Zips】。



 

 

 度肝を抜く。つまりは相手の予想外の行動を取って、一時的にも精神的なイニシアチブを得る。言葉にするのは簡単だが、実行するには並外れた度胸と勝負勘がなければ成り立たない。

 そして重要なのがタイミング。虚を突くには相手が思っても見なかった状況でカードを切るのも手だ。

 例えば、ドラグーンユニットに四方八方から囲まれ、レジェンド本体からは大型ビームライフルで狙われ、回避も難しい絶体絶命なこの状況とか。

 あえてこの機会。キラ☆は――

 

「大回転海老反りハイジャンプローリングバスターライフルっ!!」

 

 ギャグに走った。

 両腕を広げて縦横回転しながらバスターライフルをぶっ放す。やったことはそれだけだ。

 海老反りでもハイジャンプでもない、しかも大回転とローリングで被ってる。ネタにしてもスベりまくっているとしか言い様がないそれに対し、ナベは回避行動を取りながら言い放つ。

 

「全方位攻撃のつもり? そんなものであたしとドラグーンが墜とせるとでも……」

 

 どがんどがんぼがん。

 

「墜ちましたが」

「なんで当たるのよ!?」

 

 あっさりと半数以上のドラグーンユニットを撃墜して見せたキラ☆。残りのユニットを回収し再チャージしたナベは、何の冗談かといきり立つが、キラ☆は飄々としたものだ。

 

「狙ってやったからに決まっているじゃないですか。それに……()()()()()()()()()()()

「なにを……!?」

 

 にやりと自信ありげに笑うキラ☆の様子に、ただならぬものを感じるナベ。

 キラ☆はただ単にネタで全方位攻撃を行ったのではない。彼の狙いは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぞう、と空を薙ぐバスターライフルのビーム。それはドラグーンユニットを吹き飛ばすにとどまらず、戦場のあちらこちらをかき回すように奔った。

 

「ぬうっ!?」

「会長の援護にござるか!」

 

 壮絶に撃ち合っていたオタクロとカブの間を裂くように。

 

「うひあああああああ!?」

「会長のバスターライフル!? まさか狙ってやったと!?」

 

 逃げ惑うシラタキの行方を遮るかのように。

 

「くうっ! こっちを狙った!?」

「え? 何どこから!?」

 

 攻勢に出ていたネギの勢いを削ぐかのように。

 

「こんなまぐれで墜ちるものかよ!」

「会長か!? なんて、でたらめ!」

 

 壮絶に空中戦を繰り広げるカモを、射落とさんとするかにように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはとても援護とは言えない。大雑把な、下手をすれば味方に当たっていたかも知れない『横槍』だ。

 だがそれは、()()()()()()()()()。そして自分の仲間はそのきっかけを十二分に活かせると、キラ☆は信じる。

 だから。

 

「ここからは全力全開だ。お相手願いましょうか、レディ?」

 

 レジェンドより高い位置で機体を滞空させ、わざとらしく気取った物言いでナベを挑発するキラ☆。彼の行った()()に実のところ気づいていないナベは、その挑発に乗った。

 

「上等っ!」

 

 歯を剥いて吠え、彼女は残りのドラグーンを放出しキラ☆へと挑みかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場を裂くようにビームが奔ったそのとき、オタクロとカブは双方ともに後退を選択した。

 選択して。

 

「当てるっ!」

「この位置ならっ!」

 

 ()()()()をぶっ放した。

 ヒルドルブの30㎝砲。ヘビーアームズに追加されたビームカノンとグレネードカノン。同時に放たれたそれは、狙い違わず互いに命中する。

 

「くぅっ!」

 

 ビームとグレネードはヒルドルブの車体に直撃し、それなりの損傷を与え。

 

「ぬおっ!」

 

 30㎝の砲弾は、ヘビーアームズの右肩に備えられた大型ミサイルランチャーに直撃した。

 内部で砲弾が炸裂し、残ったミサイルが誘爆。派手な爆発が、ヘビーアームズを飲み込む。

 それでカブは止まらない。

 

「やったかなどとは言わん! 畳みかける!」

 

 お約束など知ったことかとでも言うように、さらなる追撃を用意。次弾装填のためのタイムラグももどかしく、己の損傷にも構わずカブは砲身を向け照準を合わせる。

 果たしてヘビーアームズは、右肩の装甲を失い全身が焼け焦げた状態で、爆煙の中から駆けだして来た。損傷はあれどもその戦力はさほど衰えていないと見たカブは容赦なくトリガーを引こうとし――

 相手が残りのミサイルランチャーとクローラーユニットをパージするのを見た。

 

「軽量化のつもりか! だが遅い!」

 

 躊躇わずトリガー。砲弾が放たれ……る寸前に、ヘビーアームズが()()()()()()()()()両腕のガトリングガンを放ち、着弾までの刹那の間に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

 砲弾を飛び越えるかのように上空へ跳躍したヘビーアームズは、そこから両腕のガトリングガンを放ちながらヒルドルブに向かって落下してくる。

 

「曲芸じみた真似をっ!」

 

 ガトリングの弾丸が装甲を削る中、カブは機体を全速で後退させながら両肩のMTHELと両腕のマシンガンで反撃するが、落下中の目標には中々当てにくいものだ。結局大したダメージもなくヘビーアームズは着地。そして。

 

「残り全部、持って行かれるがよかろう!」

 

 全身の装甲板が開き、本体に仕込まれた全ミサイル、両腕のガトリング、背中の砲、そして胸部のブレストガトリングが一斉に打ち放たれる。

 ヘビーアームズの必殺技、【フルオープンアタック】。本来であれば増加装備のミサイルランチャーも含めた全武装を一気に放つものだ。ランチャーがなくなった分火力は減退しているが、それでもその威力は通常のMS数体ほどに相当するものだ。

 カブはMTHELとマシンガンにてミサイルを迎撃するが、一斉に放たれたそれを撃ち落とすのは間に合わず、何割かの直撃を受け爆煙に包まれる。だが。

 さっきのヘビーアームズと同様に、爆煙の中から飛び出すヒルドルブ。ガトリングの一斉射撃を受け全身穴だらけ。両腕とサブアームの一本は失われ、装甲も何割か欠落し酷い有様だ。両腕と片方のサブアームを盾代わりにコクピットへの直撃を免れていたのだ。

 

「堪えたぞ! 全弾撃ち尽くしたのであれば、最早武器はあるまい!」

 

 武器のない相手であれば、真正面から力押しで叩き潰せる。EWのヘビーアームズカスタムであれば、その判断は正しかった。

 しかし残念ながら、オタクロが駆るのはE()W()()()()()()()()H()G()()()()()()()()だ。

 がぎん、と両腕のガトリングガンが腰から伸びたフレームごとパージされる。そしてヘビーアームズは、劇中のトロワのお株を奪うような動きで軽やかにジャンプする。

 その右腕から、軽い金属音と共に何かが展開する。折りたたみ式のアーミーナイフ。ヘビーアームズ唯一の格闘戦用装備だ。そこでカブはやっと目の前の敵がHGを改装し色を塗り替えたものだと気づく。

 

「小細工を!」

 

 一瞬戸惑ったが所詮はナイフ一本。MTHELもマシンガンも失われたが、まだ片方のサブアームは無事。そして主武装の30㎝砲も健在だ。間合いはこちらが有利。クローに換装したサブアームで捕らえ、極至近距離から30㎝を叩き込んでやると目論む――

 前に、空中のヘビーアームズの左腕が、肩口から伸びたグレネードカノンの砲身を掴んだ。

 

「弾の切れた武器は、こう使う!」

 

 そう言い放ってオタクロは、切り離したカノンを()()()()()

 

「破れかぶれが効く物かよ!」

 

 そんなものが当たってもダメージにすらならないとカブはカノンを無視。当たるに任せてクローをヘビーアームズに叩き込もうとした。

 そこでオタクロは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 外付け兵装であるビームカノンは、機体から直接エネルギーを供給されるタイプだ。つまり機体のエネルギーが残っている限り弾切れが存在せず、フルオープンアタックを使用した後もチャージがすめば撃つことが出来る。そしてグレネードカノンには弾こそ残っていないが、破壊されれば消失の一瞬、モザイクのような演出のエフェクトが発生する。

 そのエフェクトは、カブの視界を一瞬遮った。

 

「これはっ!?」

 

 衝撃。視界が晴れれば、車体の上面、MSボディの至近距離で、突きの姿勢のヘビーアームズ。懐に飛び込み確実にコクピットを潰すために、一連の細工をして見せたのだ。

 

「しま……」

「いただく」

 

 ずん、とナイフが突き込まれ、ヒルドルブはその動きを止めた。ヘビーアームズがそこから離脱すると同時に、爆発。エフェクトを残して巨体はかき消えた。

 危なげなく着地したヘビーアームズ。オタクロはにい、と獰猛な笑みを浮かべる。

 

「あんた中々強……おっと」

 

 そこで何かに気づいたかのように態度を改め、コホンと咳払いして眼鏡を押し上げる。

 

「いかんいかん()がでるところでござった。何とか辛勝、という感じでござるな。うん」

 

 オタクロVSカブ。オタクロWIN。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼前を断ち割るかのように横切ったビームの線条。どこからか、狙われたのか。そういった疑問を覚えたのはネギ、スズ、共に同様であった。

 そこから先の行動が明暗を分ける。

 ネギは僅かな一瞬でレーダーに目を走らせ索敵し、同じ一瞬でスズは間合いを詰めた。

 追撃を懸念したネギと、追撃はないと判断したスズの差である。そしてネギは突然のことに失念してしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実を。先の攻撃を食らっても、ある程度は持ちこたえられると言うことを。

 その事実を忘れ去っていなければ、あるいは()()()()は生じていなかったかも知れない。

 一瞬の空白の間に、相手は距離を詰めている。油断であったと舌打ちする代わりに、ネギはアックスをふるって距離を稼ごうとする。

 振るったアックスは空を切るだろう。当然だ、当てることよりも相手を寄せ付けないためのものなのだから。第一に当てるつもりで振るっても避けられるし。

 しかしその空振りで終わるはずの一撃は――

 ぎきん、と言う音。その直後に()()()()()()()()()

 

「……は?」

 

 違和感に小さな声を上げれば、視界の端でどずんと地面に突き刺さるアックスが見えた。 ()()()()()()()()()()()()

 

「大当たりぃ~。やっぱ()()()()()()()()()()()()()んだね」

 

 太刀を振るった姿勢のブレイザー。そのコクピットでスズは蠱惑的に唇を舐めた。

 ()()()()()()()()()()。その事実に総毛立つネギ。確かに関節部分は装甲に比べ強度は落ちる。だからと言って高速で振るわれる四肢の先端、それを狙い澄まして断ち切るなど、上位ランカーに匹敵する技量だ。まさかサブアカなどによるランク詐欺かという疑いさえ浮かぶ。

 

「畜生ふざけんなよ!」

 

 機体を後退させ、肩のマシンガンで牽制を行う。グレイズアインの武装は基本大型アックスが二つと両肩のマシンガン。そして腕に仕込まれたパイルバンカーにクラッシャーを兼ねた足首と、近接戦に寄ったものだ。そしてネギはキットを改造したり武装を追加したりしていない。元々の機体の頑丈さに任せて前衛に回り、格闘戦を挑むのが彼のスタイルだ。しかしそれも、格闘戦で相手に上回れたら一気に不利となる。以前ジンと相対したときのように。そういった状況でも打開策を見いだす上級ランカーのような『強かさ』を彼は持っていなかった。

 しかしそれでも諦めないくらいの意地と往生際の悪さくらいは持っている。

 

(こいつの腕はナノラミネート装甲を斬れるほどじゃない。関節を狙う太刀筋に注意さえすれば、時間くらいは稼げる!)

 

 半ば勝利を諦め、目の前の敵を引きつけることに集中せんとする。相手の動きが変わったことを見て、スズはふむ、と鼻を鳴らした。

 

「むむ、用心されたかぁ。意外に消極的」

 

 これがジンあたりならば、ダメージ覚悟で攻勢に出てくる。折角の刃が通じない装甲なのだ、やりようはあるだろうと不満のようなものを感じた。

 しかしまあ戦術と言われればそれまでだ。目的を果たすため逃げ回ることは戦国時代の武将もやってる。勝つためには真っ向から戦うばかりが脳ではない。そのくらいの理解はある。

 

「まあそれに乗ってあげる義理もないんだけどね」

 

 髪の毛パーツと背中のアーマーが跳ね上がり、スラスター群が咆吼する。一気に加速し懐に潜り込む。スズが執った手段は単純明快なものだった。

 

「速い! くそっ!」

 

 疾風のような速度で迫るブレイザーに対して、ネギはマシンガンでしか反撃()()()()。先ほどの手首斬りを警戒するあまり、アックスや蹴りによる反撃を躊躇ってしまったからだ。かといって自動追尾で弾をばらまくだけのマシンガンでは、スズのブレイザーに擦ることさえ不可能だった。

 ではどうするのか。

 

「なっ……ろお!」

 

 ネギは自ら手首を切り飛ばされた右腕を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 がいん、と言う堅い音に眉を顰め、スズは一端後退する。敵も然る者と言うことか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは。破れかぶれに近い判断だろうが、なるほど有効ではある。

 

「は、はは。どうよ!」

 

 一か八かの賭に勝った。そういった気配を隠さずにドヤ顔してみせるネギ。調子づいた彼の様子を見ながら、スズは考える。

 

「……ふ~ん?」

 

 先に一撃入れた右脚、そして今し方受けられた右腕の装甲。斬れてはいない。だが()()()()()()()

 やることは決まった。

 

「ふっ!」

 

 呼気を吐き出すと同時に突貫。太刀を担ぎ、()()()()()()()()斬りつける。太刀筋が変わったことに気づいたネギは、訝しがりながらも払いのけるように装甲で太刀を弾いた。

 再びの金属音。そこからゆらりと太刀筋が変わった。

 そしてまたも金属音が響く。今度は右脚。

 二連撃。それを成してからブレイザーは再び距離を取る。

 

「なんだ? 何の真似……」

 

 眉を寄せたネギだったが、すぐさまに異常を察知した。今し方機体に斬りつけられた()()()()()。いや、()()()()()()()()()()()()()()

 

「な……ま、まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 そう、スズが行ったのはそれだ。ナノラミネート装甲は頑強ではあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さっき付けた傷でそれを確かめ、そして今の打ち込みで()()()()()()()()()と確信した。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あとはこっちの太刀が保つかどうかだよね~。ちきんれーす、ってヤツ?」

 

 その言葉に怖気が奔る。こいつ、頭おかしい。

 まったくもってその通りだ。

 

「お前、お前無茶苦茶だ! まともじゃない!」

 

 思わずそう口にするネギ。スズはにっこりと笑って、こう宣った。

 

「知ってる? 頭おかしい方がおっきな事出来るんだよ?」

 

 正気にて大業ならずと言いたいのだろうか。それ言ったヤツも大概アレでナニだったような気がするんですけど。

 それはさておき、ネギは目の前の存在に畏怖した。ヤバい。この女うちのボスとは別系統でヤバい。ぶっちゃけ今すぐにもうしろ向いて逃げ出したい心境だ。が、それはしたくても出来ない。ここで自分が逃げ出せば味方が不利になるだろうし、後で絶対ナベになんか言われる。飲み屋辺りで絡まれる。それは是非とも避けたい。

 そんなわけで。

 

「畜生死ぬわけじゃねえんだこの野郎馬鹿野郎どっからでもかかってこいやああああ!!」

 

 両手を広げてやけくその叫び声を上げる。本人はもう半泣きだった。

 そこから怒濤のラッシュが始まる。最早切り飛ばされても構うかとばかりにアックスを無茶苦茶に振るい、あるいは蹴りを放ち、手首を切り飛ばされた右腕で殴りかかってくる。 先ほどまでの消極的な戦い方が嘘だったかのような攻め。それをかいくぐりながら、スズは機嫌良さそうに声を上げた。

 

「なんだ、やればできんじゃん」

 

 こう言うので良いんだよこう言うので。どっかの食いしん坊な個人輸入業者みたいな事を考えながら、回避し捌き受け流す。やけになったせいで動きが無茶苦茶になり、逆にそれが動きを読みにくくさせている。さっきまでよりもこっちの方が()()()

 最低でも同じ場所を斬りつけ続けてダメージを蓄積するという戦法は使いにくくなった。攻撃を躱すのはそれほど苦労しないが、打ち込むのが少々手間だ。このままでは攻略しにくいことこの上ない。

 ()()()()()()

 

(この様子だと、そろそろかな?)

 

 スズは頃合いだと見て取る。果たして猛攻を続けていたグレイズアインは、僅かにその勢いを落とし始めた。

 

「くっ、この……」

 

 体力の限界……ではない。フルダイブ式のゲームであるGBNは実際に体を動かすわけではないので、むしろさほど体力を消耗しないものだ。消費しているのは精神力。戦い続けた上でスズに圧倒され、やけになったはいいものの後先考えない攻撃は全て避けられ捌かれる。その事実は結構精神に負担をかけていた。

 結果それは集中力の低下を招く。例えばボタン一つで連続技が出せるゲームでも、それが通用しなかったり躱され続けたりすれば気力も萎えるというもの。それが勢いを減ずることにつながった。

 スズには十分な隙だ。

 

「しぃっ!」

 

 一閃。下からの斬り上げは、振り下ろされたアックスの柄を切り飛ばした。

 

「なっ、ろお!」

 

 己の迂闊さを呪うより先に、ネギは蹴りを放った。足首より先が旋回し、ブレイザーを砕かんと迫るが、スズは機体をしゃがむように沈み込ませることによって回避する。

 そして。

 

「やっとうだけじゃないんだよ、ねっ!」

 

 しゃがみ込んだ体勢からの回し蹴り。所謂水面蹴りがグレイズアインの片足を刈り取る。

 

「うおおおっ!?」

 

 文字通り足下をすくわれ、背中から地面に倒れ伏すグレイズアイン。衝撃がコクピットを揺らし、ネギは呻いた。が、すぐさま我を取り戻し、機体を立て直そうとする。

 もちろん遅かった。

 ごがしゃん、という衝撃が再びコクピットを揺るがす。飛び上がったブレイザーが、全重量を乗せた切っ先を胸部装甲に突き込んだのだ。

 実際にコクピットに刃が届くわけではない。だがほぼ致命傷と判断したシステムはレッドアラートをがなり立てる。

 

「やっぱ頑丈だね。一発で仕留める気だったのに」

 

 まだ撃破していないと判断したスズが、再び太刀を振り上げた。

 

「ま、まだっ!」

 

 苦し紛れにネギがマシンガンを放つが、それはひょいひょいと軽く機体を傾けるだけで回避された。

 

「うん、ごめんね?」

 

 悪気なく、慈悲もなく。

 振り下ろされた切っ先は、今度こそとどめを刺した。

 離脱したブレーザーの眼前で、爆発したグレイズアインは電子の塵と化す。太刀を回転させてから納刀したスズは、見上げるように周囲を索敵し始めた。

 

「さてさて、みんなはどうしてるかな?」

 

 その心に、先ほどまで戦っていた敵は残っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかまだ続くっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ゴールデンウィーク? 仕事だよ。(黒く澱んだ目)
 まあ仕事なくても何の予定もないんですけどね。彼女もいないし。彼女もいないし。
 いんだよガンプラありゃあ楽しいから捻れ骨子です。

 はいバトル回……ですが、今回で終わらなかったよ。やっぱりバトルやり出すとページ増えるじゃないですかヤだー。自業自得ですが何か。
 ともかくなんか続くことになってしまいました。このままだらだらとバトルが続くことにはならないと思います。そこまで引っ張れるもんでもありませんし。
 多分次回で決着、だと思われ。だよな、多分。(自信なさげ)中編2とか3とか完結編とかないよな?(不安)

 とにもかくにも今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。


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14戦目・面子のキャラがアレなのはともかく内容はわりとガチバトルかも知れない。後編


 はい今回推奨BGM、EX-Sガンダム戦闘BGM。



 

 

 

 

 

 ビームの線条が、ゼダスとEX-SガンダムRⅡの間を奔り、2体は距離を取ることを余儀なくされる。

 罠か、好機か。刹那の迷いの末、カモは賭に出た。

 

「【モードX】、起動っ!」

 

 ガシャリと音を立て、背部ウイングユニットのパーツが分割し、その間から緑色の燐光を放つ刃のような半透明のパーツが露出する。

 カモはあるダイバースキルをインストールしていた。【Xラウンダー】と呼ばれるそれは、ガンダムAGEに登場したニュータイプっぽい特殊能力者の総称だ。そして原作でゼダスを製造した勢力【ヴェイガン】のMSは、一部の機体にその能力を活用するシステムが搭載されている。

 Xラウンダー専用の脳波操縦システム【Xトランスミッター】を全力稼働する形態モードX。カモはそれをウィングユニットという形でゼダスに追加していたのだ。それ発動することにより機動力と反応速度が劇的に上がる。これが彼の必殺技であった。

 所謂ファンネルと呼ばれる思考制御の攻撃端末も併用することが可能だが、カモはその分を全て機体の能力向上に回している。その結果、トランザムシステムと互角以上のスペックを発揮させることが可能となっていた。

 相手が例えトランザムシステムを持っていたとしても、ダイバーの反応速度はこっちが上だ。機先を制すれば勝ち目は十分。そう見て取ったカモは、尻尾のような形で備えられていた実体剣、【ゼダスソード】を右手に装着し、閃光のような軌跡を残して稲妻のごとく駆け、EX-SガンダムRⅡに迫る。

 それに対するジンは、慌てず騒がず己の必殺技を発動させた。

 

【EXトランザム】っ!」

 

 バックパックとテイルスタビライザーが跳ね上がり、機体全体が紅く発光し始める。そしてEX-SガンダムRⅡは、カモのゼダスと同等の速度で駆け出した。

 備えられた4基のGNドライブTを同時発動させる。リミッターをかけているためドライブ1基ごとの最大出力は通常のものより劣るが、同時併用によりそれを補うどころか通常の数倍の能力を発揮できるのだ。それがEXトランザムと名付けられたものの正体である。

 ぶっちゃけ普通のトランザムよりちょとすごいトランザムというだけなのだが、こういうのは雰囲気とノリである。ともかく己と互角以上の速度と機動性を出している敵を見て、カモは舌を打った。

 

「ちっ、予想以上の速度! だが反応までは及ばないだろうが!」

 

 空中をピンポールのような反射機動で駆け、EX-SガンダムRⅡに追いすがろうとするゼダス。それから同じような機動で逃げ続けるジン。

 

「こいつは派手な追いかけっこだ!」

 

 言う言葉には、どこか余裕があるように思われた。事実――

 

「!? 俺と同等の反応!?」

 

 牽制のハンドビームを回避するEX-SガンダムRⅡの反応は、Xラウンダーを持つ自分と同レベルに見えた。

 

「まさか、ニュータイプとでも!」

 

 機動戦士ガンダムの代名詞とも言えるダイバースキル。それをプラグインとしてインストールしているのかとカモは推測した。しかしあのスキルは莫大なポイントかビルドコインを必要とし、それ以外に入手できるイベントも少なくかつ難易度が高いものだ。自分のXラウンダーだって入手するのに結構苦労したのだが、それより困難なニュータープを手にしていたというのか。

 もちろんそんなわきゃない。ジンがやったのは()()()A()L()I()C()E()()()()()。それだけである。

 さすがに操縦全般を任せられるほどではないが、相手の『射撃』を予測して回避するだけなら、ALICEはジンよりも早く反応できる。本人は機体のメインコントロールに集中し、射撃を回避することだけにALICEの能力を振り分ける。二人三脚のような小細工が、超絶の反応を得たように見せかけているからくりであった。

 そうとは知らないカモは、敵の反応に戦きつつも追撃を諦めない。

 

「機動に集中しているせいか、射撃が雑になったのは幸いだが……」

 

 時折撃たれるスマートガンやビームカノンの射撃を回避し、あるいは打ち払う。以前のような顔面だけに集中してカメラやセンサーを阻害するような精密射撃は、さすがにこのような状況では行えないようだと安堵するカモ。今回撃っているのはジン本人なので当然なのだが、そこまでは気づかない。

 ともかく凄絶な機動戦闘は膠着状態に陥った。しかしカモには勝算がある。

 

(トランザムシステムにはタイムリミットがある。そして粒子の再チャージが完了するまで能力が低下し、システムの再使用には時間がかかる。そのときこそが絶好の機会)

 

 数分、それがトランザムの使用限界だ。これはGBNのシステム上でも基本設定であり、ダイバーの方で変更することは出来ない。制限があるのはモードXも同様だが、トランザムに比べれば使用時間は長く、そして状況にもよるが連続使用も可能だった。要するに、向こうのトランザムが切れたとき、たとえニュータイプ技能を持っていたとしても、自分はモードXを維持したまま戦えるので有利になるとふんだのだ。

 機会は必ず訪れる。その事実はカモに余裕をもたらす。がむしゃらにEX-SガンダムRⅡを追うのではなく、他の仲間と合流できないよう機先を制するようにハンドビームをうち込む戦い方に変わっていった。

 時折EX-SガンダムRⅡは反撃を試みてゼダスに突撃しようとするが、そのときには距離を取り逃げを打つ。同格の性能が出ている今、格闘戦で上回るであろうEX-SガンダムRⅡの接近を許すのは悪手だ。時間が来るまでまともにやり合う気はない。

 

「卑怯とは言うまいな!」

 

 挑発じみた言葉まで投げかけて見せる。それに触発されたのか、EX-SガンダムRⅡは次から次に接近戦を挑もうとしてきた。

 いや、これは。

 

(そろそろ時間切れで焦りだしたか! いいぞ!)

 

 トランザムの使用制限。それが近づいたゆえの攻勢と見た。もうすこし、もう少し待ち応えれば天秤はこちらに傾く。回避に専念しながらカモはそれを待つ。

 そして、時は来た。

 ひぅうん、とタービンが停止するように音が沈み込み、EX-SガンダムRⅡの機体色が元に戻る。

 

「この時を待っていた!」

 

 ソードを構え、真正面から挑みかかるカモ。ニュータイプ技能を持っていたとしても、機体の反応が劇的に低下する現状では咄嗟の回避が遅れる。この機会を逃すものかと、カモは全力で打ちかかった。

 ジンの口元が、ぬたりと三日月に歪む。

 

()()()()()()()()()

「なにっ!?」

 

 轟、と再び機体が赤く染まり、粒子をまき散らすEX-SガンダムRⅡ。 大容量の粒子タンクを備えるこのガンプラは、長時間GNドライブを運用できるだけでなく、連続してトランザムシステムを使うことも可能な粒子量を誇る。そしてリミッターをかけ負担を軽くしたGNドライブT自体も連続使用に耐えうる強度があった。

 つまりカモの目論見は、見事に崩れ去った。()()()()()()()()()()()()()()()

 タイミリミットに焦ったように見せかけたとき……からではない。()()()()()()X()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それはカモの嗜好を読んだからこそのものである。

 なぜ()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではなく特殊技能を必要とするモードXを選択したのか。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと踏んだ。裏を返せばこちらがトランザムシステムを使えば()()()()()()()()()()()()と見て取った。その読みは見事に当たったわけだ。

 驚愕するカモ。一瞬の隙を突いて最大加速で挑むジン。カモが我を取り戻したときには、振りかぶったスマートガンの銃剣が襲いかかる寸前であった。

 

「くぅっ!」

 

 回避行動。それは僅かに遅い。

 がつっ! と言う音が響く。ゼダスの左腕を肩口から切り飛ばしたEX-SガンダムRⅡは、強引に姿勢を制御して振り返りざまスマートガンを振るうが、さすがにカモもその場を離脱していた。

 

「ちっ、浅かったか」

 

 舌を打つジン。一方カモは顔を歪めている。

 

「いまのでバランスが……やってくれる」

 

 片腕を失ったことで高速機動での制御が困難になった。しかしへたに速度を緩めるわけにはいかない。足が鈍ればあっという間に追いつかれ、なます斬りにされてしまうことは目に見えている。

 先ほどまでとは攻守が逆転し、ジンがカモを追う形となる。形勢が不利になったカモだが、まだ諦めてはいない。幸いにしてと言うか、EX-SガンダムRⅡに対するダメージソースとなり得るゼダスソードはまだ残っていた。ビームコーティングを施してあるこの剣は、Iフィールドだけでなくビームシールドをも貫通させることが出来る。隙をつけさえすればまだ逆転は可能であった。

 

「問題はその隙をどうやって突くかだが!」

 

 どうやったか知らないがトランザムの連続使用なんてやらかす相手だ。時間切れなどもはや狙えないだろうし、それ以前にこのままでは追い詰められる一方。形勢は不利どころではない。

 ならやるべきは、一つ。

 

「一か八かの賭けなど、がらではないがっ!」

 

 そう吐き捨てて、カモはスロットルを()()()

 急激に速度を落とすゼダス。突然のことにジンは対応しきれなかったのか、そのままゼダスを追い抜いてしまう。その一瞬、EX-SガンダムRⅡが背面を見せたそのときこそが僅かな勝機。

 

G()N()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()!」

 

 バックパックのGNドライブそのものを破壊する。それがカモの狙いだった。そのために今まで温存していた胸部のビーム砲を最大出力で使う。機体の背面にまでIフィールドやビームシールドは展開できない。とは言っても上手くいくかどうかは全くの保証のない、まさに賭けだ。この一撃に全てをベットするという気迫を乗せて、彼はトリガーを引いた。

 だがやはり、敵も然る者で。

 

()()()()()()()()()()っ!」

 

 ゼダスが速度を落とし背面に回るつもりだと悟った瞬間、ジンは両膝アーマーパーツに埋め込まれたリフレクターインコムを()()()()()()()放つ。本来であればビームスマートガンの射撃をIフィールドにて『反射』し、偏向射撃を行うためのものだ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()

 ゼダスが胸部ビーム砲を放ち、それは背面のGNドライブを護るように展開した2基のリフレクターインコムにて、あらぬ方向へとねじ曲げられていた。

 

「なっ……」

「こう言う使い方も出来るんだよ!」

 

 呆気にとられたカモの隙を突いて、ALICEによるサポートを受けた腰のビームカノンとスマートガンの射撃が飛ぶ。

 それは狙い違わず、ゼダスの胸部ビーム砲を撃ち貫いた。さすがにその部分は、装甲の防御力が及んでいない。

 

「こんな手で――」

 

 賭けに破れたことを悟ったカモの声は、爆発に飲み込まれた。エフェクトを残して消えていく残滓を見送りながら、ジンはリフレクターインコムが回収されたことを横目で確かめ、ため息をはいた。

 トランザムは解除されていない。任意で発動を停止できるオリジナルと違って、GNドライブTのトランザムは途中で解除することは出来なかった。このまま他の仲間を手助けに行っても、恐らく途中でタイムリミットが来る。その上。

 

「粒子消費量から見ると、2回で7割近くか。……EXのタンクでも全開使用は2回連続が限度だな。個別に使えばそうでもないけど、当然出力は落ちる」

 

 色々と『限界』が見えてきた。それは今後の課題とすることにして、ジンは戦況を確認してみた。

 

「……こりゃもう、手助けするまでもないか」

 

 己の戦いが決着を付けると同時に、他の戦いもそれぞれ終幕を迎えようとしている。程なく勝負は決まるだろう。

 ジンは腕組みして、高みの見物としゃれ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆらり、ゆらりと緩やかに舞うような動き。

 決して速くない。むしろ遅いとすら言える速度だ。

 だというのに。

 

「当たらないどころかドラグーンを的確に落としに来る!? こいつっ!」

 

 回避しながら一つ一つ、ドラグーンを撃破していく白いフリーダム。ナベも先ほどの全方位射撃を見てただならぬ相手だと悟り、相手の死角をつく戦い方に切り替えていた。

 しかしそれでも当たらない。後ろ、いや全方位に目がついているかのように絶妙なタイミングで攻撃を避ける。そういったスキルでもインストールしているのか。まさか素でこんな回避技能を持つ者など……。

 

「おやおや、この程度の芸で驚かれるとはね」

 

 挑発するような物言いもまた腹が立つ。何から何まで人をバカにしたような小僧だ。そしてそれだけの口を叩けるだけの実力があるのも勘に障る。

 もっとも相手――キラ☆のほうもナベに一目置いていたりする。

 

(なんだかんだ言って本体はこちらの攻撃をきっちり回避している。冷静にさえなれば、僕と互角ぐらいにはなるか)

 

 彼女(ナベ)はそれほど弱くない。ただ自身の能力を上手く生かし切っていないだけだ。そのことを少し残念に思う。しかしそれを指摘してやる親切心はない。

 

(悪いけど、僕も負けたくないんでね)

 

 心の中で舌を出し、ついでとばかりにドラグーンユニットを一つ打ち抜く。

 キラ☆がドラグーンの攻撃を見切れるのは、このような思考誘導兵器の攻撃パターンを()()()()()()()()からだ。例えばドラグーンやファンネル系は射撃の一瞬に動きが止まるし、ガンダム00に出てきたファングは直線軌道の状態でしか射撃が出来ない。そういった個々の仕様はGBNの基礎設定だ。どれほど上手く操ってもその部分は変更できない。そしてナベはそれらの欠点を補うような扱い方をしていなかった。故に回避するのはそれほど難しくない。

 一発も擦らせることすらせずに最小限の動きだけで四方からの攻撃を回避する時点でおかしいのだが、上位ランカーであればこれくらいはお遊びにもならないとキラ☆は思う。

 以前から近隣では難攻不落の空中要塞などと呼ばれているようだが、この程度所詮は小細工だ。上位陣の理不尽さに比べればまだ可愛いものだろう。大体自分だって最初の慣れないうちは被弾してたりしたものだ。各種武器の射程、攻撃範囲、発射間隔、特性などを片っ端から覚え込み、機体の動きの無駄を徹底的になくすように努力して今の自分がある。

 普通に聞けば完全にガチ勢の思考だが、キラ☆は自分をエンジョイ勢だと言ってはばからない。()()()()()()()()だと。そこそこのところで楽しむ程度の人間であると。卑屈なんだか謙虚なんだか。

 それでも、容易く負けてはやらないという意地くらいはある。

 

「これで、ラスト」

 

 回避と同時に出力を落としたバスターライフルを放つ。そして最後のドラグーンユニットが打ち抜かれた。

 そうしてからキラ☆は機体をレジェンドへと向ける。

 

「さあて、これで本当の一騎打ちってところかな」

「一々むかつく小僧ね!」

 

 さすがにキラ☆も理解してきた。この女隠れた策士などではない。自分たちよりもノリと勢いで生きている類いだ。

 気性が激しく、挑発されるとすぐ乗ってくる。リーダーシップはあるし素質も悪くないのだが、その気性が長所を殺しているように見えた。今のうちならまだ勝てる。そう断言できる。

 と、不意にナベがその表情を獣のような笑みに変えた。

 

「……けど、()()()()()()、見えたわよ」

「……ほう?」

 

 ナベの言葉に興味深そうな反応を示すキラ☆。その眼前でがぎんとレジェンドのバックパックが跳ね上がり、大型ビームライフルがそこへ接続される。そうしてからナベは両足に備えられていたビームジャベリンを引き抜いた。

 

「その機体には()()()()()()()()()()()。つまり格闘戦には不向き! 回避と射撃を重視して格闘戦捨ててるのよねアンタは!」

 

 そう、キラ☆の機体は本来備えられているビームサーベルがオミットされていた。 そして両腕でライフルを扱う関係上シールドも持っていない。その事実を指摘されたキラ☆は、すまして答えた。

 

「まあそうですね。避けて撃てば良いだけの話ですので」

「その余裕、どこまで保つかしら!」

 

 どう、とレジェンドが加速しビーム刃を発生させる。バックパックに接続したビームライフルを乱射しつつ迫る相手に対して、相変わらずのゆらゆらした最小限の動きで回避するフリーダム・ノイエ。

 そしてレジェンドが間合いに入る。振るわれるビームジャベリンの太刀筋は意外に鋭い。さすがにゆらりとした動きではそれを回避できず、キラ☆は複雑な機動で後退した。それに追いすがるレジェンド。

 

「意外にやるなあ」

 

 予想以上に接近戦が強い。正直ドラグーン使っているより今の方がよっぽど脅威に思えた。もしかしたら機体の選択を間違えているのではとすら感じる。

 その辺りは人の趣味なのでどうこう言わない。それよりどう反撃するべきか。レジェンドは撃ちにくい間合いを保とうとし、積極的に懐へ飛び込んでこようとする。距離を詰められたのは失敗だったかと少し悔やんだが、今更言っても仕方がない。どう打開するか、そこが肝心だ。

 

「なら、やってみるさ!」

 

 意を決して、猛攻を加えてくるレジェンドに対し()()()()()()()

 

「やけになったところで!」

 

 構わず斬りつけるナベ。振るわれたビームの刃は――

 フリーダム・ノイエが両手に持つバスターライフルで受け止められる。

 刃の根元に近いところで受けたせいか、半ば食い込んだところで刃は止まった。しかしすぐ焼き切れるのは目に見えている。その結果は武器の消失だ。何の真似だとカモが声を上げる前に、フリーダムは両手の得物を離して――

 ()()()()()()()()()()()

 

「は?」

 

 そしてそこから目にも止まらぬ速度をもって()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はああああああ!?」

 

 回転する世界。予想外に過ぎる状況に一瞬困惑するナベだが、瞬時に気づいた。

 ()()()()()()()

 

「しまっ……」

 

 逆さになった世界で、フリーダムが背中のビーム砲と腰のレールガンを向けるのが見える。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「そんなんありかああああ!!」

 

 ナベの絶叫は、雪崩のような連続射撃に飲み込まれた。

 爆発。レジェンドが撃墜されたのを確認して、キラ☆は息を吐く。

 

「ふう、久しぶりだったけどなんとかなったな」

 

 色々と反省したり考えさせられたりする戦いだった。己と互角かそれ以上の相手と戦うのは、学ぶべきところが多い。

 

「やはりこのアリーナ、面白いねえ」

 

 今までの戦いと違うところが見えてきた。キラ☆はのめり込みそうな自分を感じ、苦笑とも微笑ともつかない曖昧な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撃ち放ったビームスマートガンがやっとの事でエアマスターを掠めた。

 

「ひいえやああああああ!」

 

 尾を引くような悲鳴を上げて墜ちていく機体。手応えがなさ過ぎるとH・Aは眉を顰める。

 

「罠、か? 畳みかけるのは危険だな」

 

 追うことをせず、WR形態のまま旋回して相手の様子を窺う。果たしてエアマスターは月面に不時着する寸前で変形し、蹈鞴を踏むような感じで着地。反撃か来るかと構えるH・Aだったが、エアマスターは装備しているライフルを――

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ギブですギブー! ギブアップー! もう無理ー!」

「……は?」

 

 ぽかんと目を点にするH・A。なにいってんのこの人と、一瞬言っていることが理解できなかったが、システムは無情である。

 ギブアップの申請が通ったようで、エアマスターの姿はかき消える。強制的にネストへと戻されたのだろう。そして。

 

『ウィナー、ホットショット!』

 

 全員の決着がついたようで、システムが自分たちの勝利を告げる。その状況にあってなお、H・Aは戸惑っていた。

 

「あれ? え? ホントに終わり? マジで?」

 

 納得がいかない。超納得がいかない。そんな彼の思いなどシステムが酌むはずもなく。 戦いは、終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝っちゃったねえ」

「勝ってしまいましたなあ」

 

 ネストに帰還し一息ついたホットショットの面々。初戦を勝利で飾れたことに、安堵のようなものを覚えていた。

 一名を除いて。

 ネストの部屋の端っこ。角に向かう形で背中を丸め座り込んでいるH・A。どよんと暗い空気を漂わせ、なにやらブツブツ呟いている。

 

「この俺が、この俺がオチ扱い……ふ、ふふふふ……」

「ど、どうしちゃったのこれ」

「意外とプライド高いからなあこいつ。すごい不本意だったみたい」

 

 深読みしたあげく仕留めきれなかったことがよほどショックだったらしい。まあ逃げまくる専門のダイバーなんて予想外ではあっただろう。そういう意味では相性が悪かったのかも知れない。

 それはさておいてとH・Aの惨状から目をそらしつつ、キラ☆は皆に語りかけた。

 

「色々と言いたいことはあるだろうけど、ひとまず勝利を喜ぼうじゃないか。幸先がいいと……ん?」

 

 ぴろりんとモニターが開く。何やらメッセージが届いているようだ。どうもアリーナで対戦した相手とメッセージの交換が出来るらしい。

 

「何々……『絶対雪辱晴らしてやるから首洗って待ってなさいよこんちくしょー!』……だって」

「随分と恨まれましたなあ。これは因縁となってしまったようで」

「挑発しすぎたかなあ。……で、返事どうしよ」

「やられたらやり返す。倍返しだ。でどうでしょう」

 

 にゅん、とH・Aが会話に割り込む。その目は黒く澱んでいた。

 

「いや僕ら勝ってるからね? むしろ倍返しされる方だからね?」

「俺はアレを勝ちとは認めませんむしろ精神的敗北。あの恨み晴らさねば三代先まで祟りましょうぞ」

「ショックのあまりキャラが崩壊してるでござるな」

「おーいおちつけ?」

「俺は冷静だとも冷静なあまりちょっと藁人形と五寸釘買いに行ってきたくなるだけで」

「全然冷静じゃないし」

 

 いつものごとくというかぐだぐだになっていく。とにもかくにも、アリーナバトルでの初戦は滞りなく終わりを迎えた。

 がやがやと騒ぐホットショットの面子。彼らはアリーナをプレイする前に感じていたそこはかとない不安を、すっかり忘れ去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「うるぁあ! やけ酒じゃああああ!!」

「先輩明日は仕事です! 深酒とかはしご酒とかやめてください先輩!」

 

 話の中ではコロナ過じゃないから大丈夫だ。(だいじょばない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ2

 

 

 フォース鍋物改めウィンターテーブル

 

 敏腕OLと見せかけた女ジャイアン、ナベをリーダーとしたフォース。フォース名はこたつからのようだ。

 学生時代からの手下であるカモ、ネギに、学生時代の後輩であるカブと職場の後輩であるシラタキを加えた5人で編成されている。

 バランスも腕も悪くないのだが、ナベの気性と運の悪さが勝率を低くしているようだ。しかし全員基本的に懲りないので、飽きずにGBNへと挑戦を続ける。

 ナベ、カモ、ネギがランクB、就職してアカウント取り直したカブと元から勝率が良くなかったシラタキがD。総合ランクはCと判断されている。

 なおそれぞれのダイバーネームは本名から取ったものらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 あんだけプラモ推していてSDガンダムの方あんま話題になんないな。
 だから地上波で新しいの作れというのにぶつぶつ捻れ骨子です。

 はいなんとか後編で終わりました。いやあホントバトルシーンはページ取るわ。そのくせなんか上手く表現できてないような気がするしなー。まだまだ修行が足りません。
 それはさておいてアリーナバトルの初戦はこなしましたが、なんか因縁が増大してしまいました。果たしてこの後も鍋物の皆さんは話に絡んでくるのか。また10話くらい放置プレイされてしまうのか。それは筆者にも分かりません。
 そして次回の展開も考えてません。(おいおい)伏線っぽいものは有るけれどどうするかは全くのノープランだぞ~。本当どうしましょう。

 まあ不安はいっぱいありますが、今回はこの辺で。


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15戦目・実はシリアスな伏線なのかも知れない。(主人公たちは置いてけぼり)

 

 

 

 荒涼たる大地。

 冷え冷えとした風が吹きすさび、砂埃が舞うそこに、足を踏み入れる者がある。

 3体のガンプラ。それは騎士を模したものだった。

 【騎士ガンダム】、【騎士アレックス】、そして【騎士ユニコーン】。最早原形を留めぬほどに改造されたリアルタイプの機体を操るのは、それこそ騎士のような甲冑を纏った三人のダイバー。

 そのリーダー格らしい一人が、正面を見つめて一筋汗を流す。

 

「……まさか本当に一人だとは、な」

 

 彼らと相対するのは1体のガンプラ。ガンダム0083に出てきたGP02サイサリスを改造した深紅の機体は、威風堂々と構えている。

 【ガンダムGP-羅刹天】。それを駆るのは、鬼をイメージしたアバターの偉丈夫。上位フォース【百鬼】のリーダー、【オーガ】。獄炎のオーガとも呼ばれるトップクラスのダイバーである。彼は降り立った3体を見て、にい、っと野太い笑みを浮かべた。

 

「中々()()()がありそうな連中だ。ふん、よく出来たシステムらしい」

 

 アリーナバトルは参加人数の調整が出来る。自分たちも、そして()()()()()。己を単独にし希望する相手の制限をなくせば、1対多数でセッティングされることもあった。オーガはそれを利用してこの状況を作り出したらしい。

 ランクSである彼は、多くの参加フォースに対し自らバトルを申し込むことが出来ない。ゆえに挑戦者を待ち受ける形となっていた。自分がチャンプのまねごととはと、妙な心持ちであったが、挑んでくるのは中々歯ごたえのある連中ばかりだったので、今ではすっかり楽しんでいる。

 カウントが始まる中、さあ早く()()()()と言わんばかりの雰囲気を漂わせるオーガに対して、緊張した面持ちのリーダー――騎士ガンダムのダイバーは、語りかける。

 

「対戦人数を制限していない上で己一人とは、よほどの自信があるとお見受けする。さすがは獄炎のオーガと言ったところか」

「ふん、まさかフェアじゃないとでも言うつもりか?」

「それこそまさかだ。我々が束になってもかなうかどうかも分からない相手に対し、フェアなど何だの言う方が侮辱となろう。我ら総員で、挑ませていただく」

 

 いい面構え、そして覚悟だ。騎士のなりをしているが、正義感に凝り固まったような人間ではないらしい。()()()()()であった。

 カウントが0を刻む。三体のガンプラは一斉に剣を引き抜き、胸の前で剣を立て騎士の礼を取る。

 そしてリーダーが声高々に宣った。

 

「我ら【闘饗騎士倶楽部(トウキョウナイトクラブ)】! お相手つかまつる!」

「その名前は何とかならなかったのか」

 

 オーガは思わず素でツッコミいれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 GBN内のビデオチャットで、戦いを終えたばかりのオーガは幾人かと会話を行っていた。

 

「中々美味い連中だった。この俺に一撃とは言え喰らわせてくるとはな」

 

 くつくつと笑い、杯を呷る。GBN内の食料飲料はフレーバーと味こそついているものの、実際に栄養になったり酔ったりはしない。しかしこれは雰囲気というものだ。

 オーガが語ったのは先ほどまで戦っていたフォースの感想。アレな名前ではあったがそれを裏切るかのような実力を持ち、最後の最後まで粘り強く戦った。その果てに敗れ去ったが、羅刹天に一撃入れるという快挙を成し遂げていた。オーガはその戦いに満足したようだ。

 

「それで、どうだいアリーナバトルは?」

 

 画面越しに問うてくるのはチャンプ、クジョウ・キョウヤ。彼らを含んだ上位ランカーの一部は、運営からアリーナのテストプレイに協力を要請されていた。オーガなどはその気性から要請を断るかと思われていたが、意外にも彼は乗り気である。

 

「悪くはねぇ。通常のバトルに比べて乱入やくだらねえ事前工作なんかの心配がねえからな、目の前の戦いにだけ集中できる」

 

 バトルマニアであるオーガにとって、乱入されるのや騙して悪いが系の罠などはむしろ望むところであるが、そういうのを仕掛けてくる多くは()()()()()()。有象無象にハエのように集られても鬱陶しいだけだ。それに比べればアリーナの戦いは、実力者と余計な横槍なく戦える。これはこれで面白いと彼は感じていた。運営の要請を受けたのは、満足いく戦いが出来るのではないかという予感があったからかも知れない。

 それとは逆に、不満のようなものを覚える人物もいる。

 

「私としては、やはり制限されている状況というのは何ともやりにくいものに感じるね」

 

 そう発言するのは、軍服を纏った白いフェレットというアバターの人物。

 ランキング2位のフォース、【第七機甲師団】のリーダー、【ロンメル】。可愛らしい外観とは裏腹にハードな戦略家であり、自身もトップクラスの技量を持つダイバーである。

 彼とそのフォースの持ち味は、広大なGBNと言う舞台を利用し練り上げられた戦術を駆使した戦い方だ。それ故に、色々と制限されるアリーナは彼らの実力を十二分に発揮できないという面があった。それでも高い勝率をたたき出しているのは流石と言えるが。

 

「競技化を考えれば、こういったあり方は致し方ないと思う。それは十分に理解しているのだが」

「賛否両論あるのは当然さ、向き不向きがあるのもね。アリーナは一大改革だと思うが、だからと言ってそれに拘る必要はない。あくまでプレイスタイルの一つでしかないのだから」

 

 アリーナの実装によってGBNの流れは大きく変わるだろう。しかしそれは今までのプレイスタイルを否定する事ではないとキョウヤは言う。GBNは自由であるべきだという彼のスタンスは変わらない。

 

「アタシとしては不正が行いにくいっていうのがありがたいわね。最低でもアリーナに関しては神経尖らせる必要はあまりないんじゃないかしら」

 

 口を挟んでくるのはマギー。ボランティアのような形で初心者の世話を好んで行っている彼女からすると、不正か行いにくいアリーナは新規ダイバーたちの拠り所にもなるのではという期待がある。

 

「しかし敷居が高い部分があるのも否定は出来ないな。初心者からでも参加できるのであれば話は別だが、それをすると今度は初心者狩りの温床になる可能性もある。さじ加減が難しいところだ」

 

 腕を組んで考えこむような仕草を見せるロンメル。予定されているアリーナの参加資格はフォースを組んでいること。つまりDランク以上でなければ登録できないのだが、これは低ランクを狙った不正行為を防ぐという目的もある。

 例えばサブアカを使ってキャラを作り、アリーナで低ランクの者を狩るとするならば、まずランクをDまで上げ、フォースを作って登録しなければいけない。その上で待っているのは不意打ちも仕込みも出来ないステージだ。手間がかかり、メリットはそれほどないとなれば、それを行おうとする者はほぼいないだろう。そういった輩の多くが、手軽にポイントを稼ぐために低ランクの者を狙っているのだから。

 だが同時にランクE以下のダイバーにとっては状況が変わらないと言うことである。かつて今より初心者狩りが横行していた頃、Dに至る前に挫折しGBNから離れていったダイバーも少なくはない。現在は有志による自衛などにより初心者狩りは下火になったが、今後はランクアップを餌にした不正行為が増えるかも知れない。そういったことに対して目を光らせる必要があると、ロンメルは語った。

 

「そう言われるとねえ。出来れば通常のプレイでも初心者に対するフォローを手厚くしてもらいたいとも思うわ。アタシたちだけじゃお世話するのも限られるし」

「自由度の高さがネックになっている部分もあるね。かといって長々とチュートリアルを行わせるのも、やる気を損なわせる要因となるか」

「運営も頭を悩ませているところだな。最初から自由度を高くしておいたことが、GBNの集客率を高めていたことも事実だ。一概に今の状況が悪い、とは言い切れないだろう」

 

 皆の意見を聞きながら杯を傾けていたオーガは、ふん、と鼻を鳴らす。

 

「どんなに舞台を整えたところで、やらかすヤツはやらかすさ。俺も覚えがあることだ」

 

 オーガ自身は不正を行ったことはない。だが彼のフォースメンバーである実の弟――【ドージ】が一時期初心者狩りを行っており、それが原因となってマスダイバーとなり一騒動起こったことがある。その騒動自体は解決し、ドージは関係者に謝罪して事は収まったが、そのようなことは誰でもやらかす可能性がある。やもすればアリーナであっても何らかの不正行為は発生するやもしれない。

 

「あのときのドージには心の弱さがあった。だがそれは()()()()()()()()()()()だと俺は思う。無論俺自身も、お前らもだ。その弱さが表に出ちまえば、卑屈になり、姑息になる。そしてマナーを無視し、システムの隙を突く。行き着くところはブレイクデカールみてえな『盤を覆す』反則技だろうさ」

 

 オーガの言葉にキョウヤは眉を顰めた。

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と?」

「あくまで可能性って話よ。お前も言っていたろう、()()()()()()と。GPDからGBNに移行した時ほどじゃなかろうが、反感は必ずある。そういった意思がねじ曲がれば、ブレイクデカールみてえなことが起こらないとも限らん」

 

 かつてのブレイクデカール事件は、GPDにこだわりGBNに反感を持った人間が起こしたことだ。そういった行動力と才覚を併せ持った人間が再び現れることもありうると、オーガはそのような危惧を感じている。

 新たな問題の提議に、あり得ないことではないと皆が唸った。なにしろ一度起こったのだ。二度目三度目がないとは言い切れない。

 

「……指摘したら、【カツラギ】さん倒れちゃうんじゃないかしら」

 

 GBNの運営責任者の名前を挙げるマギー。彼はアリーナの件でもほぼ休みなく働いていた。それ以前にエルドラのこととか色々抱え込んでいる懸案も多い。ここに来て新たに問題提議などされたら、冗談ではなく卒倒するかも知れない。

 キョウヤはため息をはいた。

 

「かといって言わない訳にもいかないんだよなあ。対策を考えていないとは思わないけれど、用心はしておくに越したことはないし」

「運営だけに任せておくのも、言っては何だが不安が残る。……ダイバーたちの、生の意見を聞かせてもらいたいところだ。アリーナに参加しているテスターに運営からアンケートなどもあると思うが、それで全ての本音をさらけ出せるものではないだろう」

「なら手分けして各所の掲示板を覗いてみるってのはどうよ。探すのは面倒だが、余所では口に出せないような意見も見られる。本音とは言わねえが、穿った話も聞けるんじゃねえか?」

 

 言葉は交わされ続け、話はいつ終わるとも分からない。

 彼らはそれぞれの形でGBNを愛している。あるいは対立したり、あるいは敵対したりしたこともあったが、その思いは変わらない。情熱を胸に、彼らは新たな変革と相対しようとしていた。

 ……というように裏では色々と大変なようであったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 主人公たちはそんなこととは全く関わりないわけで。

 

「え? なにこの対戦の申し込み」

 

 ウィンターテーブルとの戦いを終えた数日後。アリーナのウィンドウを開いてみたらば、なんかものすごい数の対戦申し込みが表示されていた。何を言っているのか分かるだろうけど納得いかねえ。キラ☆の正直な感想である。

 

「どういうことなの……」

 

 現場猫の顔になって途方に暮れた様子のキラ☆。その横で色々とサイトを巡っていたオタクロが、ある動画を見つけ指し示す。

 

「もしかしたら、これが原因ではござらぬか?」

 

 ウィンドウを皆でのぞき込んでみれば、そこに映し出されていたのは公式のアリーナバトルPVである。

 どばばんと近日実装!新たな戦いのステージ!とかキャンプションが踊る背後で戦闘シーンが展開されている。

 ホットショットとウィンターテーブルのバトルだった。

 

「聞いてないよ!?」

「あ~、アリーナの利用規約に、バトルの動画、映像等の著作権は運営と該当ダイバーにあり、通知のみで公式の宣伝等に使われることがありますご了承くださいとありますな」

 

 割と適当に規約を意訳したオタクロ。その言葉に、キラ☆はピクンと反応した。

 

「通知? あ、そういえばこっちのメール見てなかったような気が……」

 

 結成してからほとんど見てなかったフォース用のメールボックスを開くと、結構な数のメールが届いていた。多くはフレンド申請とか対戦の申し込みとかだが、その中に埋もれるように公式からの通知があった。

 

「……バトルの動画を使わせていただきますご了承ください、だって」

 

 ものすごく簡単に意訳したキラ☆。気まずげに皆を見渡せば、野郎どもは、あ゛~、とでも言いたげな様子で天を仰いだり肩を落としたりしてる。スズはきょとんとしてるが。

 

「自分たちがこういうことに関わるなんて全くの想定外っすからねえ」

「俺としてはすっごい恥を世界にさらしてる感が……」

「流石に詳しいプロフィールなどはありませぬが、動画から我々のフォースが探り当てられたのでしょうなあ。特定班恐るべし」

 

 実は自分たちがアリーナの初戦を飾っており、それが故にあちこちから注目されているなどとは夢にも思っていない。さらにバトル自体が適度に分かり易く見栄えがあると言う理由でPVに採用されたことなど予想できるはずもなかった。

 まあそれはそれとして。

 

「それで、どうしましょこの対戦申し込みの山」

 

 ウィンドウを指し示してジンが言う。お互いの都合が合えばボタン一つで対戦できるというのもアリーナの特徴であるが、流石に複数と同時に対戦できるようにはなっていない。それにこれだけの数を全部相手したら時間がいくらあっても足りないだろう。

 気を取り直したキラ☆が、ふうむと考え込む。そして程なく答えを出した。

 

「適当に選んで何回か対戦しよう。多分しばらくは対戦申し込みが殺到すると思うけど、アリーナが実装される頃には収まる」

「その心は?」

「単純にPVのせいで僕らが目立ってるだけだからね。実力的にはまだランクC。アリーナの中じゃ下から数えた方が早い。実情が知れ渡ればすぐに皆興味をなくすさ」

 

 今はまだテスト中故に参加できるフォースは限られているが、実装されればそれこそ無数のフォースがアリーナになだれ込んでくるだろう。そうなれば自分たちの存在など埋もれてしまうと、キラ☆はそう睨んでいた。

 

「そんなモンすかね」

「この昨今、流行り廃りの移り変わりは激しいものさ。GBNだって例外じゃない。だからこその競技化にアリーナだろうからね」

 

 運営もプレイヤーを飽きさせないために必死なのだ。自分たち程度にいつまでもPVの背景などさせておく事もなかろう。この状況は一過性のもの。アリーナの実装までのらりくらりと乗り切ればいい。そう断言する。

 

「幸いというか、戦いを申し込めるのは自分たちと同等以上。つまり僕らよりランクの高い相手はいない。一方的にボロ負けするような無様はないと思いたいね」

「負けてもいいです。この前みたいなオチ担当でさえなければ」

 

 キラ☆の言葉に、にゅんと身を乗り出して割り込むH・A。よほどこの間の顛末が不満だったのだろう。なんか目に中にぐるぐると渦が巻いている。コワイ。

 

「あのPVのおかげで俺はへっぽこ野郎というイメージが定着していることでしょう。それを払拭しないことには口惜しくて夜しか寝られません」

「それは普通に寝ていると言うことでは」

「夜更かしは健康に悪いんですよ?」

「左様で」

 

 いつものような言葉の応酬。まあ結局のところ沈静化するまで適度に挑戦を受け続けると言うことで良いのだろう。斬りまくれるんなら構わないけどとスズは気楽に構え、ふとあることを思いだした。

 

(アリーナ当選したときに感じた嫌な予感って、これだったのかな?)

 

 むしろばっちこいというか願ったり叶ったりというか。活きのいい餌対戦相手が向こうからやってくるという現状は、スズにとっては望むところだ。他のメンバーにとってはそうでもないかも知れないが。

 う~んなんか納得いかないとスズは首を傾げながら、早速展開されたアリーナ用のゲートを、メンバーに続いてくぐる。

 もちろん、この程度がホットショットの前に立ちはだかった障害などではない。

 彼らには、もっと面倒な厄介ごとが待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

「くけえええええええええええ!!」

 

 ↑チャンプたちからアリーナに関する指摘を聞いた運営のカツラギさん。

 

「カツラギさんご乱心!?」

「ユンケルー! 誰かユンケル持ってきてー!」

 

 こんな一幕があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけの2

 

 

 フォース 闘饗騎士倶楽部

 

 リアルタイプに仕立て上げた騎士ガンダム系ガンプラを使うダイバーで構成されたフォース。フォースランクはA。

 名前はアレだが実力派揃い。銃器の類いをほぼ使用せず、剣やランス系の武器でそろえているが、普通に剣で銃弾弾いたりビームぶった切ったりする頭おかしい変態達人ども。

 まがりなりにもオーガ相手に一撃を入れたところからその実力が窺える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 よっしゃー課金した甲斐あってペーネロペー完成ーっ!
 ……この大量に余った頭と胴体どうしよ。EX-Sガンダムが来たら同じことする自信がある捻れ骨子です。

 ちょっと忙しくて更新が遅れました。連休の方が平日より忙しいってどういうことなの。(白目)テレワーク?どこのSFの話だよ。
 まあ職場の黒に近い灰色部分はさておいて、今回はこう言う裏側もあるよって話&原作キャラたち登場の巻~。なんかオーガさんがやたらと気を回しているように見えますが、彼バトルから離れたら結構普通の人だと思います。あと無印とRe:RISEの経験を経て、人間的にも成長してるんじゃないかと。素のキャラがああいう感じでもないでしょうしね。……と言い訳してみる。
 そしてシリアスな伏線かも知れないと言ったな? アレは嘘だ。なんか事件が起こっても、主人公たちの知らないところで始まっていつの間にか終わってるんじゃないですかね。多分原作主人公とかチャンプとか運営とかチャンプとかが頑張るんでしょう。
 とは言っても主人公たちは主人公たちでなんか起こりそうです。果たしてそれがなんなのか。次回以降の俺頑張れ。

 そういうわけで今回はこの辺で。


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番外戦・新企画! マーブルはGBNにチャレンジすることが出来るか!?

 

 

 

 

 某月某日。アイドルグループマーブルのメンバーは事務所の会議室に集められていた。

 

「何だろうね、今回の企画」

 

 のほほんとした雰囲気で言うのはマーブルの(一応)リーダー、【アカサカ シュウ】。なぜか【オサムちゃん】というあだ名がついている彼は、特に気負った様子もなく茶をすすっていた。

 

「この間のただでもらった材料だけで家建てられるか、は面白かったけどなあ。けど水鉄砲で雪像崩せるかみたいな企画はヤだよ俺」

 

 パイプ椅子に体重を預け、頭の後ろで腕を組みつつ言うのは【アオヤマ リョウジ】。メンバーの中では体力に秀でており、大体肉体労働系の企画を押しつけられる担当である。

 なおあだ名は【ヤマさん】。

 

「変装してバイト系も大変だったよね~。クレーマーとかさあ」

 

 ちょっとだけ眉を顰めて言うのは【ミドリマチ ショウタロウ】。見た目かわいい系のツッコミ役だが、大体企画で酷い目に遭う担当でもある。あだ名は【ショウ君】。お姉様方の人気が妙に高い。

 

「女装してオカマバーは楽しかったじゃん! アレもう一回やんねーかな」

 

 やたらと騒がしいのが、【マサ】こと【キノハラ マサハル】。自称ガヤの彼はなぜだか特技が女装で、時折メンバーを巻き込んだりしてる。最近は女装してドラマに出てたりしてた。

 

「…………」

 

 そして腕を組んで何やら考え込んでいるように見えるのが、クロサワ ユウキである。

 思慮深いように見えるがこの男、今日の昼飯は何だろうなあとか考えている可能性があるから油断できない。

 以上がマーブルのメンバーである。マーブルなのにやたらとカラフルな名前が揃ってるが、これは結成時に「なんかそんなチョコあったよね」という会話になって、その流れでグループが名付けられたという、いい加減な経歴がある。

 それはさておき、突如会議室の中に音楽が流れ始める。

 ダース●ーダーのテーマだ。

 

「うっわ来たよ」

 

 げんなりしながらもどこか期待が籠もっている苦笑という、器用な真似をしてみせるマサハル。そんな彼の言葉に応えるかのように、会議室のドアが開いた。

 

『はいみなさんおまたせしました』

 

 現れたのはマーブルの動画チャンネルを担当しているプロデューサー。通称【P】。大体無茶ぶりをしてくる鬼畜外道である。

 

「おっせーよP。また大仕掛けとかやんの?」

 

 マサハルの言葉に、Pは胡散臭い笑みを浮かべて見せた。

 

『いえ、今回はみなさんに……ガンプラ作ってGBNにチャレンジしていただこうかと思います』

 

 しん、と会議室が静まりかえる。ややあって、リョウジが疑り深い眼差しで尋ねた。

 

「ガンプラ作るって、どのレベルで?」

 

 その質問にPが応える前に、鋭い眼差しのユウキが口を開く。

 

「……原油から?」

 

 ウケ狙いの質問ではない。素のボケである。それに真っ先に反応したのはマサハル。

 

「え!? 油田から行くの!? うっわヤバくねそれ!?」

 

 これもわりと素のボケだった。Pは苦笑しながらやんわりとそれを否定する。

 

『いやいや、普通に買ってください。自費で』

「ああよかった。海外ロケとかで引っ張られたら大変だったよ」

 

 Pの言葉にほっと胸をなで下ろすリョウジ。すかさずショウタロウがツッコむ。

 

「ヤマさんヤマさん、素人工作でいいのかって聞いてるんじゃなかったの? あと微妙にケチくさいね経費じゃないんだ?」

「だってここのスタッフ油断したら、本当に油田からプラスチックの生成経てバ●ダイの製造工場巡りやらされるぜ? 釘刺しとかないと」

『自分で買った方が思い入れが出来るでしょう? いい画も撮れそうですし。あと油田から始めるほど予算ありませんから』

「油田からじゃなきゃやるという前振りにしか聞こえない」

 

 どれだけ無茶振りされてきたのかが窺えそうな会話だった。そこへマサハルが口を挟む。

 

「でも俺とかガンプラ作ったことねーよ? 大丈夫なんそれ?」

『初心者から始めるのがいいんですよ。……ちなみに皆さんガンプラ作った経験とか、ガンダムのアニメ見た経験とかは?』

「あー、俺戦隊とかライダー派だったから。ちっとも見てねえや」

「ウルトラマンなら見たことあるしオモチャも持ってたけど、ガンダムは全然」

「同じく」

 

 マサハル、リョウジ、ユウキは未経験者のようだ。

 

「子供の頃00は見てた。話難しかった記憶ある。プラモは作ったことないや」

 

 ショウタロウは一応視聴の経験はあるらしい。

 

「あれ? じゃあガンプラ作ったことあるの僕だけ?」

 

 どうやらシュウは作ったことがあるらしい。Pは彼に問う。

 

『何を作ったことがあるんですか?』

「ガンダムAGE、だったかな。おとんが買ってきてくれたことが何回か。でも爪切りとかで適当に切って組み立てただけです。アニメは飛び飛びで見てたけど、なんか主人公が何回か変わってて訳わかんなかったような気が」

『ほぼ初心者と。OK、大体方針は決まりました』

「ここに来る前に決まってなかったんかい」

 

 ショウタロウがジト目になるが、Pは全く堪えない。すました顔で彼はこう宣った。

 

『じゃあまず、ガンプラ買いに行きましょうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某所のガンダムベース支店。マーブルのメンバーはそこに訪れていた。

 

「すっげー! これ全部ガンプラなん!?」

 

 背よりも高く、上から下までガンプラが詰まったラックが並ぶ。

 はしゃぐマサハル。他のメンバーも興味深げに周囲を見回している。

 そんな彼らに、Pは無慈悲な言葉を投げかけた。

 

『ではみなさん、ここから一つガンプラを選んでください』

「「「「「え!?」」」」」

 

 いきなりの言葉に驚くメンバー。ショウタロウが恐る恐る問う。

 

「あの~、事前情報なしで?」

『なしで。フィーリングで決めてください』

 

 無茶振りである。いつものことだし言っても無駄なので、メンバーは半ば諦めたようにガンプラを物色し始める。

 

「AGEはこのへんか。……う~ん、作ったことあるもの選んでも、面白みがないような」

「ウケ狙わなくていいからね? 普通に格好いいの選ぼうよ」

「この凶悪な顔したカマついてるヤツよくね? なんか強そうだぜ?」

「ガンダム選べよそこは。つーかそれ絶対やられキャラじゃねえか」

「…………(刀ついてるのないかな)」

 

 で、喧々囂々と騒いだ後、ユウキがアストレイレッドフレームを選んだところで1回目の配信は終わり、その次。

 

「なんでクロさん以外モザイク入ってんの」

 

 そう、リョウジの指摘通り、配信の動画では残りのメンバーのガンプラにはモザイクがかけられ、何を選んだのか分からないようになっていた。その指摘を受けたPは、にやりと笑う。

 

『仕上がるまで視聴者にはシークレットとさせていただきます。クイズにしたりすると展開が広がりますから』

(((((引っ張る気だ)))))

 

 できるだけ長く企画を保たせようとする意図が見えた。大人は汚い。

 

『ともかく、時間のあるときにここで少しずつ組み立てていきましょう。その様子を配信して尺を稼ぎます』

「オブラートにすら包まなくなったよこの人」

 

 がっくりと肩を落としたショウタロウの突っ込みにも力がない。

 こうして、マーブルのガンプラ作りは仕事の合間に遅々としながら進んでいくこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※以下ダイジェストでお送りします。

 

 

 

 

 

「うわ、箱開けた途端キンキラしてる!」(←キットを開封してまぶしそうに目を細めるシュウ)

「オサムちゃんのすごい派手だね。これもガンダム?」

「みたいよ? なんかこうライバルが乗ってるっぽいの選んでみたんだけど」

「なぜライバル」

「結構好きなんよライバルキャラ。ほらNARUTOのサスケとか、ベジータとか」

「どっちも最終的に仲間になってるような気が。だったらあれ、なんかシャーが乗ってるのにしなかったの? 赤いじゃん」(←一応リーダーのイメージカラーを気にしているショウタロウ)

「だってさ、僕のイメージにシャーが合う?」

「……似合わないね」

「だっしょ~?」

「っていうかさあ、ライバルキャラ自体が似合わなくない? オサムちゃん人畜無害エアー醸し出してるし」

「そこはほら、無害そうなヤツが敵だったみたいな、意外性を狙って」

「そういう系統のライバルキャラ、ガンダムにいたっけ?」

「いや知らんけど」

「知らんのかい」

 

(その後なんかライバルキャラ談義で話が盛り上がる二人。キットの制作は進まない)

 

 

 

 

 

「こう言う工具とか見るとテンション上がる」(←ニッパーをカチカチ言わせながら目を細めるリョウジ)

「ヤマさん工具大好きだもんね」

「もう見てるだけで楽しい。電動ドリルとか。……プラモ作るのには使わないよな?」

『小型のリューターぐらいなら使う人はいるでしょうけど、仮組みの時から使う人はあまりいないでしょうね』

「そうかあ、使わないかあ」(←結構本気でがっかりしてるリョウジ)

「そこまで」

「作るって行為はね、自由で、なんて言うか救われてなきゃダメなんだ。自由で、豊かで……」

「なぜに孤独なグルメ」

「昨日再放送で見てさあ。それはさておき、こう、なんて言うか、ちまっとした感じがどうにも収まりが悪い」

「模型はそういう物だと思うけど」

「いっそのこと実物大だったら燃えたかも知れない」

「実物大って、お台場とか横浜みたいなの!?」(※注 この話での横浜ガンダムは無期限で展示されています。つうか周辺がアミューズメントパーク化してる)

「横浜いいよな。動くんだぜ? あ、プラモの参考って体で見に行っていい?」

『……尺が伸ばせそうですからいいですよ』

「企画進める気ないでしょあんたら」

 

(そしてキットの制作は進まない)

 

 

 

 

 

「昔のライダーって結構バイク乗ってたんだよな。今だとCGとかで誤魔化し多いけど」(←なぜかキットの制作中にライダー談義を始めるマサハル)

「……ライダーだからな」(←無愛想に見えて結構乗り気のユウキ)

「あれかね、色々と規制とか多くなったんかね。昭和のとか見てみたけど、あれ殺す気かってくらい火薬使ってたぜ?」

「V3の中の人が、発破大好きだったって話は聞いたことある」(※注 マジです)

「今でも大変は大変なんだべ? ライダーやってるとめっちゃやつれるらしいし」

「でも憧れるな。……ベルトの声とか()らせくれないかな」

「そこはライダーじゃねえの!? なんでベルト!?」

「いや、事務所的にライダー本体は無理かなって」

「諦めんなよ! 事務所の力ごり押ししようよ!」(←無茶言い出すマサハル)

「東映さん敵に回すと、時代劇に出してもらえなくなるかも」

「ダメだな! 諦めよ!」(←秒で手のひら返すマサハル)

 

(その後もライダー談義が続くが、そうしながらもこの二人が一番制作が進んだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、1ヶ月が過ぎた。

 

「雑談ばっかりしてたような気がするけど、何とかできたねえ」

 

 やり遂げた顔で言うシュウ。メンバーの前には素組みが終わったそれぞれのガンプラが立ち並んでいる。(ただしアストレイ以外はモザイク)

 

「で、これ使って早速GBNやるのP?」

 

 ショウタロウが問うが、Pは首を横に振る。

 

『いえ、これを使う前にやってもらわねばならないことがあります』

「やってもらいたいこと?」

『はい。その関係で、皆さんに紹介したい方が』

 

 誰だろうと顔を見合わせるメンバー。Pは「それではどうぞと」部屋の外に向かって促す。

 で、入ってきたのはこの人。

 

「私が諸君らにGBNを指南する、【謎の仮面コーチK】だ!」

 

 腕組みをして宣う仮面の人物。マーブルメンバーは唖然とするしかなかった。

 ややあって、シュウが恐る恐る尋ねる。

 

「あ、あの~こちらの方は?」

『謎の仮面コーチKさんです』

「そゆことを聞いてるんじゃなくて」

「あ、初めまして。訳あって名乗れませんが、GBNでランカーダイバーをやってる者です。今回皆さんにGBNのプレイを指導するよう頼まれまして」

 

 登場時とは裏腹にいきなり腰が低くなる仮面のコーチ。まさかこの人物が名実ともにGBN最強の男だとは、夢にも思わないメンバーたち。

 

『皆さんには最終的にちゃんと仕上げたキットでプレイしてもらうことになりますが、その前に、GBNのプレイになれてもらおうと思いまして』

「え? これでできあがりじゃないの?」

『まだです。きっちりと仕上げてもらいますから。その辺りもコーチに指導してもらいますんで』

「じゃあプレイはどうすんの」

『当座はレンタルのキットを使ってもらいます。あと家庭用の端末も買ってください。自費で』

「またケチなことを言ってる」

 

 こうしてマーブルのメンバーは心強い助っ人を迎え、新たな段階に足を踏み入れる。

 そこからが本番。七難八苦の始まりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニッパー使って抉れてしまったところは、パテを使って修復しましょう。ある程度目減りするので、少し盛る感じで」

 

「攻撃は受けるより避ける。銃口の向きを見て弾道を予測するんです」

 

「接着剤の跡は意外と目立ちます。乾かないうちに拭き取るか、ヤスリがけで消しましょう。ヤスリがけの時はパーツを削りすぎないように」

 

「格闘戦で重要なのも回避。タイミングを合わせた回り込みは非常に有効です。それではこれから斬りつけますから、避けてみてください」

 

「ヤスリの跡が分からないレベルまで処理できれば理想ですが、下手をするとパーツに刻まれた筋が消えてしまう可能性もあります。場合によっては溶きパテを使い処理をやり直す事も考慮に入れててください」

 

「撃ったら移動。撃ちながら移動。鉄則です。特に狙撃は集中して狙われる傾向にあるので、所在がばれたら袋だたきに遭うものと考えてください。撃つときは不動。撃ったら全速。そういうわけであの10㎞先にある目標を狙ってみましょう。なお外すとごんぶとビームの反撃が来ますから全力で避けてください」

 

「筋彫りは専用の工具があればベストなのですが、ない場合はデザインナイフ、あるいは彫刻刀などを使います。人によっては精密ドライバーの小さいものを用いたりもしますね。ともかく必要以上の力を込めず、ライン以外のところに傷を付けてしまわないように注意してください。傷を付けた場合はヤスリがけして、それでも跡が残る場合は溶きパテを塗って処理を。それと彫った筋に削りカスを残さないように」

 

「長物は間合いを広く取れますが、同時に懐に飛び込まれると非常に弱いです。出来れば予備の武器があるとベストですが、今回は無改造という方針なのでそれ以外の対応策を。基本懐に飛び込まれそうになったときは距離を取ります。それがダメなら得物を投げつけてください。相手が怯むか回避を選択すれば体勢を立て直すきっかけになります。それでも間合いを詰めようとしてきた場合、殴ります。拳のダメージも馬鹿にしたものではありませんし、相手よりも間合いを詰められます。……さ、それではあのジ・オ(NPDシロッコ搭乗、隠し腕展開中)相手に練習してみましょう」

 

「「「「「ひいいいいいい」」」」」

 

 だんだん要求が酷くなってくる(特にバトル関係)コーチの指導を何とかこなしていくメンバーたち。そうこうしているうちに、キットは完成し、彼らはランクDへと到達した。

 してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早速【名前はまだない(仮称)】というフォースを結成し、ネストに集ったメンバーたち。

 

『さて皆さん、いよいよ自分のキットを使って、βテスト中のアリーナに参戦していただきます』

「それはいいんだけどさあ、なんで今回()()()()()()なの」

 

 Pの言葉に不満げな声を上げるショウタロウ。そう、マーブルのメンバーは現在、本人とは似ても似つかぬアバターを用いていた。

 ショウタロウの姿は【Vガンダム】の主人公、【ウッソ・エヴィン】を模したもの。そして彼が組み上げたキットは後半主役機の強化形態【V2アサルトバスター】である。要するに、Pはそえぞれ自分が組み上げたキットの乗り手を模したアバターを使用させているのだ。

 その理由とは。

 

『配信まで皆さんの正体を隠しておくためです。対戦相手に気を遣わせることにもなりかねませんし』

 

 これまではコーチの指導の下、通常ミッションと特別に用意されたクリエイトミッションのみをクリアしてきた。故に他のダイバーとの接触はなかったのだが、アリーナの対戦ともなれば確実に他者との接触がある。その対策であった。

 

「うんまあ、それは理解した。ちっこくなったのは納得しないけど」

「ショウはまだいいだろ。俺なんかおっさんだぞ?」

 

 口を挟むのはリョウジ。彼の姿は軍服纏ったいかついおっさんだ。

 【ガンダムセンチネル】の登場人物、【ブレイブ・コッド】。彼のガンプラはHG【ガンダムMarkⅤ】。(この話ではHGとして発売されています。つーかHG出せ。はよ)イメージカラー一色だったので気に入って選んだらこれだ。

 

「外観的にはクロさんが一番まともか」

「だよね」

「……そうかな」

 

 ユウキはもちろん、レッドフレームの乗り手【ロウ・ギュール】の姿。中身と外観のキャラが違いすぎて違和感が半端ないが、元のキャラを知らないマーブルのメンバーには分からなかった。

 違和感が半端ないと言えばこちらも。

 

「なに、俺だってまともな格好じゃん」

「鉢巻きとマントはまともな格好とは言わない」

「さらに日本刀背負っているのはむしろ怪しい」

「なんでさ! 格好いいじゃん!」

 

 マサハルの姿は、【Gガンダム】の主人公。【ドモン・カッシュ】であった。当然彼が組んだのは後半主役機【ゴッドガンダム】。知ってる人からすれば、むやみに騒がしいドモンなんぞ違和感しかない。

 

「俺はいいんだよ! それより問題はオサムちゃんだろうが!」

 

 ずは、とマサハルが指し示すのは。

 

「いやあ、僕もこんなことになるとは思ってなかったんだけどね」

 

 頭をぽりぽりとかく金髪ショートカットの()()。ガンダムSEEDのヒロインが一人、【カガリ・ユラ・アスハ】を模したアバター。シュウが選んだキットはカガリがちょっとだけ乗った機体【アカツキ(オオワシ装備)】であった。

 

「や、あんなキンキラのヤツ女の子が乗ってるとか思わないでしょ普通」

 

 そうかも知れないが。実際メインで使っていたのは別の男性キャラだが。

 困ったというか戸惑ってるというか。そんな様子のシュウに、マサハルは文句を付ける。

 

「オサムちゃん一人女装とか、ずるくない!? そういうの俺の役目じゃない!?」

「文句付けるとこそこなんだ」

 

 大体そんなこったろうと思った。残りのメンバーは呆れ気味である。

 まあそれはともかくとして。 

 

「皆さん準備はいいようですね。それではアカサカさん、アリーナ参戦用のウィンドウを開いてください」

「はいはい、え~と」

 

 仮面のコーチKに促され、シュウがウィンドウを開いて設定していく。

 

「まず条件を設定します。対戦相手の数は皆さんと同じでいいでしょう。ランクは同じか一つ上までくらいでしょうか」

「こんなものですか、ねっと。……うわ、結構ある」

「皆さんで相談して、その中から好きに選んでバトルしてみてください。まずはアリーナがどのようなものか、実際に体験してみましょう」

 

 ウィンドウをのぞき込んで、相談し始めるメンバー。

 

「ランクと人数しか分からないねこれじゃ」

「折角だから強そうな相手とやってみようぜ!」

「いや、最初は勝てそうな相手の方がよくない?」

「どれが勝てそうな相手か分からないんだが」

「……名前とアイコンだけじゃ判別がつかない」

 

 わいわいがやがやと相談するメンバー。ややあって。

 

「よし、真ん中辺にいたこのフォースにしよう」

 

 シュウがそう言って対戦のボタンを押す。

 その対戦相手は、()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 

 キャラ紹介

 

 

 アカサカ シュウ

 

 アイドルグループマーブルのリーダー。温和な人物で、猫と一緒に縁側でひなたぼっこしながら茶をすすっているような、ほんわかした雰囲気を持つ。なおなんで通称オサムなのかというと、彼の名前が『修』(本名)で、周囲から「シュウっていうよりオサムって雰囲気」と言われ続けいつの間にかそれがあだ名となった。

 外観のイメージはゲーム【ガンパレードマーチ】の【速水 厚志】。裏とかないので徹頭徹尾ぽややん。

 

 

 

 

 

 アオヤマ リョウジ

 

 マーブルの肉体労働担当。ぶっきらぼうで粗暴な雰囲気があるが、その実世話焼きで面倒見がいい。

 工具とか作業機械とか大好きで、そういう物が使える企画はむしろ率先してやりたがる。最近作業機械の免許を取った。

 モデルはfateシリーズから【ランサー(クーフーリン)】。

 

 

 

 

 

 ミドリマチ ショウタロウ

 

 マーブルの可愛い担当。童顔で小柄なのを少し気にしている。

 基本ツッコミ。そしてなんかいつも酷い目(軽度)に遭う。ツッコミ続け流れで彼が酷い目に遭ってオチがつく、と言うパターンが確立しつつあり、本人的には何とかしたいらしい。

 ちなみに女装が一番似合う。

 外観はゲーム【真剣で私に恋しなさい!】シリーズから【師岡 卓也】で。

 

 

 

 

 

 キノハラ マサハル

 

 マーブルのうるさい担当。自称ガヤ。黙っていればイケメンだが黙らないので二枚目半。

 ともかく騒がしい。そして特技が女装。本気で美人になる上、演技がユウキに次いで上手いので企画では何人か騙された。なお女装の完成度ではショウタロウとシュウが上だが、二人は演技力がないためすぐにばれる。

 モデルは【境界線上のホライゾン】より【葵 トーリ】。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 梅雨入るのはええよ!
 色々な予定が大番狂わせで仕事も私生活も大忙しだよこんちくしょー! 天に文句を言ってもどうしようもないのでふて寝したい捻れ骨子です。

 はいなぜかアイドルグループの登場……からの本編に絡んでくる引きー、の巻。やっとこの人ら出せたよ。結構引っ張った引っ張った。まあ大体の人は予想していたとは思いますが、当初からこの予定でした。この人らと絡む主人公たちがどうなるのか……次回以降が楽しみですねえ。(愉悦)
 さてホットショットの面々は無事で済むのか。刮目して待たれるといいかもしれません。

 そういうわけで今回はこの辺で。


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