この素晴らしい世界に二人の探偵を! (伝狼@旧しゃちほこ)
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新たなるT/名探偵は何処へ

「なろう」から始まり「このすば」完結から数ヶ月。
我が国は「カズめぐ」、「カズダグ」、「カズアク」の三つに分かれ混沌を極めていたーー


 「なぁ、フィリップ。俺達はどうしてこんなところにいるんだ?」

 

 「概ねあのドーパントの力だろうね。戦闘力から見て大したことないだろうと思っていた僕達の油断だ」

 

 俺の相棒のフィリップは冷静に状況を見ながら見解を述べる。瞳に映る景色は風都の見慣れたものではなく、ヨーロッパーーしかも中世とか一昔前のものだった。

 

 俺は左 翔太郎(ひだり しょうたろう)。極めてハードボイルドな探偵であり、風都を守る仮面ライダーだ。

 

 四年程前、風都ではミュージアムと呼ばれる秘密結社が暗躍し、ガイアメモリという人を超人に変身させるアイテムを製作し、その実験と称し多くの犯罪者が街を泣かせていた。

 

 その悪行を許さず、俺とフィリップ、そして風都に住む仲間達の活躍もありミュージアムは壊滅。街は悪夢から解放された。

 

 しかし、未だガイアメモリは過去の遺産として風都に遺されている。俺達の戦いは全てのメモリを狩り尽くすその日まで終わりを迎えることはない。

 

 ミュージアムに代わり新たな勢力も現れたが、接戦の末に勝利をもぎ取り、今となってはドーパント絡みの事件はほとんどなく、一月に一回あれば珍しい程までに収まっていた。

 

 そんな時に現れた一通の依頼。それには【彼女の痛みを癒してほしい】とだけ記されていた。具体的な内容は全くだったが、こういった匿名は割とある方な上に、何より誰かが傷つき泣いている。そんなことあってはならない。

 

 調査に乗り出したのはいいものの、有益な情報を掴むことはなかった。しかし、あの手紙から三日が経過したぐらいから事態が急変する。

 

 新種のドーパントーー世界の記憶を冠するワールド・ドーパントが現れたからだ。

 

 こいつが何か企んでいると踏んだ俺達は容赦なくエクストリームで対抗し、このまま押しきれるとお互いが確信を得たところで奴は異次元ホールらしきものを出現させた。

 

 あとは先程フィリップが言ったように、俺達の油断のせいでドーパントは取り逃がし見ず知らずの町に送られてしまったんだが……

 

 「大方、転送とかなんかだろ。ドーパントに関してはときめから亜樹子と照井にも伝わるだろうし、なんだったら少し観光してから帰るか?」

 

 「……いや、どうやらそういうわけにもいかないみたいだよ」

 

 冗談交じりで提案するも、フィリップは神妙な顔つきをしていた。こういう時はだいたい考え事か興味のあることが見つかって止まらなくなる時だ。後者はもっとマッドな部分も見せるが。

 

 一抹の不安を抱えながらフィリップが見ている先を見ると、長い金髪の女性が見えた。まぁ、普通に綺麗な人だ。THE・外国人と言え、ば……

 

 俺は途中で言葉を失った。長髪に隠れていた耳が見え隠れしているが、それは明らかに人のそれではなかった。異様に長く先端は丸みどころか少し鋭利になっている。

 

 「見間違いだと思ってるかもしれないけど、彼女だけじゃなくああいう人物を見かけている。ほとんどは僕達みたいな人間ばかりだけどね。それにあの看板。見たことのない文字だ」

 

 「記号みたいな文字の国もあるだろ」

 

 「建築物の様式から見て少なくともヨーロッパ圏内だ。それなのに記号文字はないだろう」

 

 ああ言えばこう言う。だが間違いではないのは確かなうえにそう言われるとテレビでも見たことない。もしや未開の地にでも飛ばされちまったのか?

 

 「まずは情報収集としゃれこむか」

 

 「そうだね……ところで英語は喋れるのかい?」

 

 「喋れたらタイプライターもそれで打ってるよ」

 

 「だろうね」

 

 小さく笑うフィリップ。どんな困難も必ず二人で乗り越えてきた。だから今回も大丈夫だ。俺達二人なら絶対に。

 

 

 

 

 

 情報収集は難航を極めていた。

 

 街は石造りの外観。田舎町といった感じだ。店も服屋に雑貨屋、屋台なんかもあった。

 

 ただ、本当に言葉が分からない。俺どころかフィリップでさえ知らない言語を話している。当の本人は興味津々で暴走しかけているが……

 

 「どうするよ」

 

 「どうしようか。……あの建物、他の物より少し大きい。街である以上、市役所みたいなものもあるはずだ」

 

 フィリップの提案に乗り建物に入ると、若い女の子のアルバイトが元気に挨拶をしてきた。多分いらっしゃいませとかそんなのだと思うが、続く言葉は分からない。

 

建物内を見ると片方は飲食スペース、もう片方は窓口がある。飲食スペースは大衆食堂という形だが……

 

 ふとフィリップを見ると、再び一点を見つめている。これ以上こいつの興味をそそらせないでくれと思い見ると、俺もそれに固まった。

 

 派手な水色の髪をした高校生ぐらいの女子の隣に座る男子。見た目は完全に日本人に一致していて、なおかつ日本のジャージを着ている。

 

 俺達はお互いに見合い、一か八かを賭けて二人に対面する形で座った。

 

 「お前、日本人か?」

 

 「は?まぁ……」

 

 言葉が通じる。なんて素晴らしいことだろう。俺はこれまでにない程の安堵を覚えた。

 

 「俺は左翔太郎。こっちはフィリップ。ここについてお前が知ってることを教えてくれないか」

 

 俺の言葉に疑問の表情を浮かべている。すると隣にいた女子と耳打ちを始めた。

 

 「お前が転生させたんじゃねぇのかよ」

 

 「いちいち覚えてるわけないじゃない。それに本の方はともかく帽子の方は若くないでしょ」

 

 しっかりばっちり聞こえているが相手はまだ高校生だ。ここでいちいち怒っていてはハードボイルドが廃る。

 

 俺は帽子を整え、ドーパントや仮面ライダーなどといった専門用語をぼかしながら現状の説明をしていく。

 

 「つまり、夜道を二人で歩いていたら光に包まれて、気づいたらここにいたと」

 

 「まぁ、そんな感じだ」

 

 フィリップの視線が刺さる。分かってる。自分でも見苦しい言い訳だってことはな……でもそれ以上になんて言えばいい。

 

 「まぁ、死んで転生なんてもんもあるし無くはないかもな」

 

 「信じるのかよっ!……って、は?」

 

 俺が吐き出した言葉にフィリップは興味を持ったのか、椅子を詰めて俺と同じように話を聞き始める。

 

 「ここは日本じゃなくて異世界だ。科学じゃなくて魔法も使える。俺はトラックに轢かれそうになった女子高生を助けたらそのままーー」

 

 「トラクターと勘違いして、しかも轢かれたと思ってのショック死だったけどね」

 

 余分なことを言うなと言わんばかりに隣の女子にゲンコツを放った。死んで違う世界?じゃあ俺達はあの時やられたのか?

 

 混乱している俺の肩にフィリップは冷静に右手を添えた。そうだ、ここで焦っていてはハードボイルドに傷がつく。

 

 俺の代わりに今度はフィリップが話を始めた。

 

 「勘違いとはいえ、君は誰かを助けようとしたのは間違いない。称賛に値することだ」

 

 「気休めなんかいらないぞ」

 

 「そんなことは思ってないよ」

 

 年が近いからか、端から見れば友達同士で喋っているようにしか見えない。俺はゆっくりとその場から離れ、隣にいる女子から情報を得ることにした。

 

 「君も転生とかいうやつか?」

 

 「私はカズマに連れてこられたのよ。転生させる時に好きなものか強い能力を授けるんだけど、それで無理やり連れてこられちゃったの。全く、女神を連れてくるなんてあり得ないわよ」

 

 女神とかその辺りは置いとくとしよう。ガイアメモリ絡みでシンパとかそういう奴等の相手はよくしてきた。

 

 「帰る方法とか知ってるか?」

 

 「魔王の奴を倒せば私は天界に帰れるけど、あんた達みたいなのは分からないわ。天界に帰ってから私が調べることも出来るけど、それだけじゃねぇ?」

 

 悪い顔するなぁおい。その年からそれなんてろくなことにならねぇぞ。

 

 「言っとくが今は無一文だ。文字も読めなけりゃ話も出来ねぇ」

 

 「恩は売っておくものよ。そうね、まずはーー」

 

 「いくよ翔太郎」

 

 話を終えたフィリップが遮った。俺はそれに連られて立ち上がる。難癖つけられずに助かったぜ。

 

 「あー、色々と迷惑かけたな。困った時はなんでも言ってくれ、必ず力になる。俺達は探偵だからな」

 

 最後にさらっと宣伝し、俺はフィリップの跡を追った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日本人ーーサトウカズマとアクアの話から、まずはこの場所にある窓口がでスキルカードと呼ばれる、いわゆる免許証を発行した。衣食住も大事だが、まずはこれがないと始まらない。

 

 職業はもちろん探偵……のはずが、ここでは探偵という概念がないようだ。こんなにかっこよくてハードボイルドな仕事がないなんておかしい。広めなければと使命感を覚えた。

 

 フィリップはカズマが教えてくれたこの世界の言葉を理解し状況を改めて整理していた。一方の俺は全然分からず、とにかくフィリップに従うしかなかった。

 

 帰り方が分からない以上、その方法を得るまでこの町で過ごして行かなければいけない。風都がどうなってるか不安だが、ときめ達を信じるしかない。

 

 異世界だということは割とすんなり受け入れてしまった。裏風都のこともあるうえに、実際異なる世界を旅する男と交流があった。その事実を踏まえると並行世界と考えれば納得してしまう。

 

 「アクアの奴が魔王を倒せば自分が帰れて、そうすれば方法も分かるかもしれないとか言ってたがどう思うよ」

 

 「そこら中に空想上の生物がいる以上、彼女が女神かどうかはともかくあり得ない話じゃないね」

 

 寝泊まりとして提供されている馬小屋でこれからの相談をする。時期的には秋ぐらいで通り抜ける風が少し冷たく感じる。

 

 「それからダブルの力を使わない方がいいかもしれない。地球の本棚(ほしのほんだな)によれば科学より魔法が発展した世界のようだ。ここでガイアメモリを使えば事態が余計ややこしくなる」

 

 「そうだな……本棚使えるのか?」

 

 「問題なく作用はしている。けど言語がこちら側に対応しているから暫くは解読に時間が生じる」

 

 「そっか……慣れたら俺にも教えてくれ」

 

 「了解した。要領を得るために暫く読んでいるよ」

 

 フィリップは壁にもたれかかり眠るように地球の本棚にダイブした。さて、俺が出来ることは……あれ?なくね?下手に外出して迷ったら帰ってこれなくなるだろうし……

 

 その時、遠くから轟音と地響きが聞こえた。どうやら事件発生のようだ。




前書きは関係ないです。


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新たなるT/協力者達

今回の事件は……

【彼女の痛みを癒してほしい】という匿名の依頼を受け調査を始めた翔太郎とフィリップ。しかし、二人に待ち構えていたのは未知なる世界だったーー


 轟音がした場所に駆けつけると、そこは一部が焼け野原に変貌していた。

 

 3m以上はあるであろう巨大なカエル達が次々と地中から這い出ている。季節からみるにそろそろ冬眠を始めるだろうが、先程の轟音で起きてしまったようだ。

 

 「こりゃWの力は必要になってくるみたいだぜ……」

 

 使用を控えようと提案していたこの場にいない相棒に呟いた。単純に考えてこんな奴らと相手してる冒険者ってのは普通に強いんじゃねぇのか?

 

 「さっきの探偵!」

 

 「お前は……一体何がどうなってやがる?!」

 

 「後から説明するから今はアクアの救出を頼む!」

 

 先程の高校生、サトウカズマが指差す方向に視線を向けると、モゴモゴと補食しているカエルがいた。飛び出している脚……マジか!

 

 俺は急いで走りだし、巨大なカエルに向かって飛び蹴りを放った。しかしその腹は弾力性に優れており、まず打撃が効かないであろうことを悟る。

 

 そうしてる間にも補食は進んでいる。俺は左手首にした腕時計型のガジェット、スパイダーショックを発射して脚に巻き付けると、精一杯の力で引き上げる。

 

 意外にも簡単に抜け、粘液を纏わせながら俺の元に落ちてくる。これが潤滑油になったおかげか……って、それより速く逃げねぇと!

 

 半分べそをかいているアクアを抱き抱え走り出す。すげぇ臭いけどここでそれを言ったらダメな気がする。

 

 「こっちは大丈夫だ。そっちは?」

 

 大きな三角帽子を被り杖を握った女の子をおんぶしサムズアップで無事なことを示すカズマ。その手には短い剣が握られており、どうやら救出は間に合ったようだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 探偵が来なかったら多分どちらかは完全に喰われてた。それほどまでに今の俺のパーティーは絶望的だ。

 

 ただ、こっちもめぐみんを助けるのに必死だったので武器も無しにどうやってアクアを助けたのか気になる。もしかして結構強いのか?  

 

 「サッパリした。あら、さっきの探偵は?」

 

 「風呂から出たら帰ってった。俺が勝手にやったことだって、報酬もいらないとさ」

 

 ちゃんとした依頼の時に貰うと言っていたのでプロ意識は強いようだったけど、かっこつけて帰っていく姿は言葉では言い表せない……中途半端?みたいな雰囲気があった。

 

 アクアはふーん、と半分どっちでもいいような返事をすると席に座ってギルドで働く店員さんに注文を始める。お前がその態度はまずいだろうが。

 

 「たんていとはなんですか?」

 

 めでたくパーティー入りを果たしたダメなアークウィザードのめぐみんが聞いてきた。この世界の職業って言ったらスキルカードに書かれるものしかないし、探偵は多分盗賊職向きになるんだろうか。

 

 「人探しとか、調査とか、事件の火種になるものを取り扱って未然に犯罪を防ぐ仕事かな……有名になれば警察の協力者になったりするんじゃないか?」

 

 「分かってないわね。探偵っていうのは誰も解けないトリックを暴き犯人を逮捕するのよ。真実の名に懸けて!」

 

 有名どころの二つの台詞が混ざっているし、そんな大事(おおごと)なんて余程……いや、まずないが、めぐみんの紅色の瞳が輝いているので何も言わずにスルーしよう。

 

 しかし、俺と違って転生じゃないってことは特典も無ければもちろん言語も読めないんだよな。読めたら聞いてこないだろうし。

 

 そんな状況に置かれたら俺だったらまずふざけんなって思うが……それ以上に技術があるんだろうか。

 

 「ほら、シュワシュワが来たわよ!」

 

 「なぜ私はジュースなのですか!」

 

 こんなお荷物に比べたらものすごく頼りになるんだろうな、きっと……そう思いながら深いため息をついた。 

 

 

 翌日。皆より遅れて活動を開始した俺達パーティーがギルドに行くと、既に二人組の探偵が掲示板を見ていた。

 

 「今ある仕事で僕達がやれそうなのは警備員の仕事ぐらいだね。あとは土木関係かな」

 

 「その仕事らがどの張り紙かすら俺には分からないけどな……まずは土木関係から始めるか」

 

 「それなら俺も以前やってたし手伝うぜ」

 

 迷っている探偵に土木工事の張り紙を剥がし差し出した。同じ日本人同士、しかも俺並みに不憫な奴を見過ごすことは出来ない。何よりカエルより安全だ。

 

 「何を言っているのですか!これからクエストに行くと言ったじゃないですか!」

 

 「誰もそんなこと言ってねーだろ」

 

 「サトウカズマにアクアちゃんか。あと……君は?」

 

 尋ねるフィリップにめぐみんは待ってましたと言わんばかりに腕を振り上げる。

 

 「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を極めし者!」

 

 「僕の名はフィリップ!同じくアークウィザードにして、やがてこの星の全ての知識を得る者!」

 

 めぐみんのよく分からない名乗りに合わせるように同じテンションで自己紹介する。隣の探偵もぽかんとしている。

 

 「紅魔族はこういう名乗りをすると書いてあったから並べてみたけど、違ったかな?」

 

 間違ってはいないんだろうけど、初見で合わせられるのは相当な変人なのかもしれない。めぐみんはなぜか少し悔しそうだし。

 

 「あんたもアークウィザードなのね」

 

 微妙な空気をぶち壊していくアクア。いつもはフラグしか立てないくせに今回ばかりはナイスプレイだ。

 

 「魔法が気になってね。他にもソードマスターも勧められたよ」

 

 「超ハイスペックじゃねぇか!じゃああんたは?」

 

 「俺は冒険者っつーのを選んだ」

 

 「そ、そうか……なぁ、試しにカードを見せてくれないか?」

 

 探偵は快くスキルカードを渡してくれた。……見間違いじゃなければレベル1なのにレベル4の俺より幸運値以外高いのはなんでなんだ?

 

 「冒険者ってのはなんでも覚えられんだろ?あんまりこういうの知らねぇけど」

 

 「確かにそうだけど、覚えるには相当なポイントを持ってかれちゃうわよ」

 

 「ポイント?」

 

 話を聞いていなかったのか、それともシステムがいまいち理解していないのか……多分後者だろうな。探偵が話を聞かないなんてダメだろ。

 

 「カズマカズマ、彼は何を言ってるんですか?」

 

 「え?ああ……あいつは俺と同じ日本っつーとこの出身なんだけど、訛りが強いみたいだな。」

 

 「なるほど。探偵さん、魔法なりスキルなり覚えるためにはスキルポイントが必要になります。冒険者は確かになんでも覚えれますが、例えばウィザードが5ポイントで覚えられる魔法を冒険者は10ポイントかかったりします」

 

 アクアとめぐみんの説明についていけない様子だった。……あ、アクアはともかくめぐみんの言葉はわかんねぇのか。うわぁ、めちゃくちゃ不便。

 

 「要するに器用貧乏ってことだ」

 

 「そっか……ま、受付嬢に勧められた盗賊職よりかマシか。探偵が盗人どころか犯罪者なんて洒落になんねぇからな」

 

 「おっと、聞き捨てならないことが聞こえたね」

 

 割り入るように介入してきたのは銀髪の少女だった。明らかに日本語だったがこの女も同じ転生者なのか?その割りには異世界成分が強めだ。後ろには鎧を着込んだ金髪美女もいる。

 

 探偵は銀髪の少女を見るなり自らの黒ベストを脱ぐとさりげなくかけた。

 

 「……何なの?」

 

 「若いのにそんな肌出すもんじゃないぜ」 

 

 「これは正装だよ!盗賊がゴタゴタしてたらダメでしょ!」

 

 そりゃそうだ。アニメでもシルクハットとかスーツの奴をよく見るけど絶対動きにくいと思う。

 

 銀髪の少女はベストを脱ぎ突き出すように返し説明を始める。

 

 「盗賊職はね、別に盗みしかしてない訳じゃないの。【敵感知】とか【罠発見】を覚えるからダンジョンの調査には必要だし……【スティール】!」

 

 右手が光ると探偵の被っていた帽子が消え、いつの間にか少女の手中にあった。

 

 「おまっ……返しやがれ!」

 

 「こうやって相手のものを奪ったりして状況を変えることも出来るんだ」

 

 自らが帽子を被りかっこつけるのを見て探偵は追いかける。この構図、よく見かけるよなぁ……それより【スティール】か、面白そうだし試しに覚えてみるかな。

 

 二人の争奪戦をよそにもう一人の探偵……こっちは同世代っぽいし呼び捨てでいいか。フィリップは話を進める。

 

 「僕はフィリップ。君の名前は?」

 

 「私はダクネス。あっちはクリスだ」

 

 「ダクネスちゃん。差し支えなければ僕達に協力してくれないかい?」

 

 「誘いは嬉しいが、私はその男に用事がある」

 

 金髪美女はどうやら俺に用事があるようだ。え、俺に?

 

 「分かった。翔太郎!」

 

 「はぁ、はぁ……どうしたフィリップ?」

 

 ようやくの思いで捕まえたクリスを抑え帽子を取り戻していた探偵。やっぱり大人げない。

 

 「やはり別行動で行こう。僕は他のパーティーに混じって魔法を教えて貰うよ」

 

 「じゃあ俺は一人でバイトだな。こっちも情報網を広げておくからそっちは頼むぞ。あと、周りをちゃんと見ろよ」

 

 お互いに目で確認すると、フィリップは付近にいる冒険者達に交じっていく。

 

 「一緒じゃなくていいのか?」

 

 「言葉が通じねぇってのは不便だけど、それだけでいちいち折れてたらダメだろ。探偵に必要なのは忍耐だからな」

 

 俺から土木関係の張り紙を取り窓口に向かっていく探偵。忍耐というより慣れろってことか。でもあのままじゃいつまで経ってもだろ。

 

 俺は一つ妙案を思いつき、まだパーティーが見つかっていないフィリップの元に駆け寄った。

 

 「昨日は助けて貰ったし、俺があいつを見てやるよ。その代わりあいつらのめんどう見てやれないか?」

 

 「でも君もやることがあるだろう」

 

 「急ぎじゃないしな。それに冒険者はアークウィザードと違ってレベルが上がりにくいことはないしな」

 

 ポイントの消費が多い分レベルアップは早い。上級職は最初からポイントがある分スキルを覚えられる。バランスは大事だ。  

 

 「それならお願いしようかな」

 

 俺はクリスに【スティール】などの盗賊スキルを教えて貰い探偵と一緒に土木工事のアルバイトに。フィリップ達にアクア達を任せて行動を始めた。

 



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静かなるK/トレジャーハンター

 あれから一週間が経過した。

 

 カズマの手助けもあって事は順調に進み、コミュニケーションも充分取れるようになった他、色んな情報網を手に入れた。

 

 土木関係の仕事人。屋台の商人。ギルド窓口の人々などなど。あとはこの町に住む町人とも顔見知りにはなっておきたい。こう思うと風都イレギュラーズがどれだけ頼りになったことか痛感させられる。

 

 あとはこの町以外での情報網だ。ウォッチャマンはインターネットでの情報収集が強かった為に、今思えば任せてしまっていたところがあったかもしれない。

 

 しかしここにはSNSといった近代発展は遂げていない。未だ手紙を使って2日程待たなければ、そんな辺境な状況だ。

 

 その辺りは文句を付けても仕方ない。事実、情報収集を頼るなら盗賊職に一任している節もある。クリスがどれだけ貴重な立場かを思い知らされる。

 

 ところで、一方のフィリップ達はと言うとーー結果はまぁ、4人含めて散々だったようだが、アクア以外はまんざらでもなさそうだった。

 

 

 「めぐみんは魔法を1回しか撃てない。ダクネスは役目は果たしているが余分なところに手を出す。フィリップは魔法を覚えてないのは仕方ないにして、興味が湧いたものに関して前に進まなくなると……」

 

 「回復役のアクアがいなかったら終わってたんじゃねぇの?」

 

 「そんなことはない。3日目からは魔法も覚えたから、僕が全く使えないというのは語弊だ」

 

 フィリップの弁明にカズマと顔を合わせため息を漏らす。一時期フィリップにも友人が出来たこともあって、なんとかなるだろうと信じていたが……

 

 「魔法自体誰に教えて貰ったんだ?」

 

 「キャベツが来た際に知り合ったリーンという少女にさ。一通りの中級魔法は会得出来たよ」

 

 ちなみにキャベツというのはモンスターの一種だ。ここではキャベツは野菜ではあるものの生きているらしい。緊急召集がかけられたが、俺達バイト組は何を言っているのか訳が分からず、そのまま無視してしまった。単純に考えておかしいだろ。

 

 「俺もいつの間にかレベルっつーのが3になってるし、言葉もとりあえず分かってきたし、ここいらで変わるか」

 

 「押し付けるだけ押し付けるのかよ!話聞いてたか?あの三人をどうやって使えって言うんだよ!」

 

 「そうなると思って彼女達が使える場面をメモしておいた。能力自体は高いからね、あとは君の技量次第さ」

 

 フィリップは自らの本のページを破りカズマに手渡した。普段ならこんなことしないはずだが……割と世話になってるし、フィリップなりの恩返しだろうか。 

 

 「ま、それだけじゃ不安だろうよ。フィリップ、しばらくカズマに付いててやれよ。俺は自分でやれることを探す」

 

 自分の興味だけに暴走し過ぎないようによく念入りしておく。久方ぶりの一人仕事だ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 まずは探偵としての売名だな。この世界に探偵というのがないのは冒険者自体が何でも屋に近い存在の為に、余程の事がないと必要ないんだろう。

 

 強気に選んだのは警備員の仕事。しかもこの間とは違い、いわゆる貴族から依頼だった。大きい貴族ならばギルドに出さないだろうし割と小規模な貴族だろう。

 

 集合時間よりかなり早めに屋敷に着いた俺は一巡を警備に話し中に入った。レベル2の冒険者ってだけで笑われたのは腹立つ。

 

 「さーてと……まずは屋敷の把握だな」

 

 なるべく全体くまなく調べたいところだが、悠長には言ってられない。この仕事が来たのも、厳重に保管されている宝石がトレジャーハンターとやらに狙われているという情報が入ったかららしい。

 

 どれ程の実力かは知らないが、トレジャーハンターというよりかは怪盗に近い。クリスも言っていたが、一部では個人で雇われこういうことをやる輩もいるとか。盗賊職としては名誉なんだろうが、犯罪は犯罪だ。

 

 俺はこの世界に来る前に持っていたメモリガジェットのスパイダーショック、バットショット、スタッグフォンの調子を確認する。フィリップから借りたフロッグポッドとデンデンセンサーも大丈夫そうだ。

 

 ただ一つ、ファングメモリはない。フィリップが持っているとかではなく、純粋に風都に置いてきてしまった。エクストリームメモリはどこかにあるはずだが……

 

 「ぶつくさ言ってる時間はねぇ。皆、頼んだぞ」

 

 

 

 

 月が照らす深夜。俺は任された配置を歩いていたが、明らかにお荷物だと思わされる配置に内心憤っていた。

 

 しかし逆を言えばここが一番侵入しやすい場所だ。必ず、というわけじゃないが確率は高い。ここじゃなかったら自分に相当自信があるというわけだ。

 

 胸ポケットに入れたスタッグフォンのバイブを感じ取る。通話、メールは出来ないが、ガジェットとして機能し他のガジェットと連携は取れているだけでも充分使える。

 

 保管されている金庫の天井に配置しておいたバットショットが撮影した写真には、既に金庫の前で解錠作業をしている人影があった。

 

 あいつが盗賊であるならクリスの言っていた【解錠】というスキルを覚えているはずだ。高難易度スキルらしいが、警報も発せられず侵入出来ているということは相当の強敵と踏んで違いない。

 

 ここからまだ距離はある。あとはアクロバットみたいな身体能力を持ってなきゃいいが……まぁ、帽子盗られた時に逃げ回っていたクリス並か、それ以上を予測しておかねぇとな。

 

 続けて送られてきた写真。それにはブレながらもはっきりと手元に何かを持つ姿があった。どうやらバレてしまった上に後は逃げるだけって感じだな。

 

 「負けるかよ」

 

 探偵VS怪盗。熱い展開になってきたじゃねぇか!



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静かなるK/探偵の意地

 こんな小さな貴族の屋敷に世界を変えてしまう程の魔道具があるのか、それすらも信じがたいわ。

 

 頼まれた他の貴族からはオークション品として出され、何でも四億エリスの値段が付いたとか……ま、本体を見れば分かるはず。

 

 侵入も簡単に出来た。警報も鳴っていない。後は【潜伏】スキルを使ってやればいい。魔道監視カメラに映らない死角も調べてきている。

 

 数分もかからずに目的の金庫前まで到着し、早速【解錠】スキルを始める。今時の金庫ではなく古くさい物ね、ちょっと時間がかかるかも…… 

 

 「ん?」

 

 気配を感じる。この部屋に監視カメラはないザル警備のはずだったけど……右を振り返っても左を振り返っても何もない。

 

【敵探知】スキルであぶり出す。本当に僅かな反応を確かに捉え正確にナイフを投げつける。天井から落ちてきたのはコウモリのような、カメラのような変わった魔道具だった。

 

 「もしかしてこれかしら?」

 

 しかし、監視カメラならば警報などが鳴っていてもおかしくない。ということは個人の物……依頼主にはめられた可能性もなくはない。

 

 「他のお宝も頂く予定だったけど、逃げるが吉ね」

 

 再び潜伏し移動を始める。廊下を走り、衛兵に見つからないように移動しているとーー

 

 『この辺りから反応ありだな……』

 

 男の声。この先にいる。内容から聞くに向こうも探知スキルを持っているようね。

 

 小窓から飛び出し二階から一階に移る。がーー

 

 「見事に引っ掛かったな、怪盗」

 

 道を塞ぐように帽子を被る男。しかも先程の声と酷似して……いや、全く同じ。声まねが【宴会芸スキル】としてあると聞いたことはあるけれど、再現度が高すぎる。

 

 何よりーー好んで宴会芸スキルを得るなんて、冒険者をやってる人物でも余程ポイントが余っているか暇なやつくらいしかない。

 

 問題は、この暇な奴がそれなりにステータスが高いかもしれないことよ。

 

 素早く愛刀のナイフを取り出し戦闘態勢に入る。相手は引っ掛かってしまった私を下に見ているのか武器すら準備しない。ならば隙を突いて逃げた方が速いかしら……

 

 「まさか女とはな」

 

 「あら、舐めてかかると痛い目見るわよ?美しいものにはトゲがあるっていうじゃない」

 

 「んなこと分かってる。さ、物を置いてけ!」

 

 男は走りだし、一直線のバカ正直のように拳を放つ。簡単に避けお返しの蹴りを脚に見舞うも倒れない。

 

 「結構鍛えてるのね」

 

 「ったりめーだ」

 

 相手は丸腰、こちらはナイフ。にも関わらず恐れずに立ち向かってくる。根性はあるみたいね。

 

 「それだけじゃやっていけないわよ」

 

 不適な笑みを浮かべナイフを振り下ろす。が、殺すつもりはもちろんない。どんな鈍感でも避けれる攻撃だし、返り血がつくのも嫌だからーー

 

 自分の予想に反し、男は肩でナイフを受け止めた。体重が乗ったショルダータックルを喰らってしまい吹き飛ばされ、胸元からしまっていた目的の盗品が飛び出す。

 

 血が滲み出る肩を止血し、男は身を壁に預けながら歩き出す。こちらも相応の威力にすぐには立てなかった。

 

 「強盗と怪盗の違いって知ってるか?」

 

 「考えたことないわ……あんたが何を考えてるのかもね。普通避けるでしょ」

 

 「だろうな。今の振り下ろし方じゃあ、ろくな傷を負わせられない。狙いは避けた後、崩れた体勢からの追撃だろ。怪盗ってのは美学を持つもんーーっ?!」

 

 目的の盗品を確認した途端、一目散に走り始める男。急いで立ち上がり私も走り出す。

 

 僅差で先に取ったのは私。しかし、男も負けじと飛び蹴りを放つ。紙一重で避け、逃げに徹することを考えるも追撃が止まらない。

 

 影に隠れて飛んでくる右ストレートーーいや、違う!

 

 判断が遅れてしまった。迫り来る腕を折り曲げ、エルボーが顎下にヒットする。若干の意識の揺れ……まさか、負ける……?

 

 受け身を取れずそのまま崩れ去る。男はそれでも尚、油断しないまま構え直す。

 

 「浅い入りだぜ。……おい。おい?大丈夫か?」

 

 立ち上がろうとしない私に不用意に近づいてきた男に対し、不意打ちに向こう脛を蹴る。流石に効いたのか、膝から崩れ落ちる男に先程の余裕は見えなかった。続けざまに顔面を蹴る。

 

 「甘いのね」

 

 演技に見事に騙され、飛ばされた帽子を掴む男。今のうちに、そう思うと同時に衛兵が駆けつける。素早く窓から飛び出した。

 

 「ふざけやがって……!」

 

 帽子を被り直し、俺は走り始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一斉に衛兵達が動き出したおかげか、女怪盗ーー否、トレジャーハンターの動きは未だ屋敷を出ていない様子だった。

 

 傷口も衣服にべったりくっついちまったおかげで出血は止まった。下手に動くとまた開いちまう。

 

 数で探し回る衛兵をよそに、俺はある場所に向かっていた。

 

 こじ開けるように扉を開くと、月を背景にトレジャーハンターは立っていた。場所は強い風が吹く柵のない屋上だ。

 

 「また貴方?ストーカーは嫌われるわよ」

 

 「生憎、人を追いかけるのが仕事なもんでな。盗んだ物を渡して貰おうか」

 

 「仕事に熱心なのね……嫌いじゃないわよ。ひとつだけ聞かせてちょうだい。どうして私の場所が分かったの?」

 

 いくら数の力があるといえど、それは実力が同じなら通用するだけであって、埋まらない差がある。それを埋めるために工夫するのが探偵ってもんだ。

 

 「俺には優秀なアシスタントがいるんでな。盗品を見てみろ」

 

 胸元に隠された盗品を見ると、赤く点滅するものがついていた。

 

 「時代遅れにはわかんねぇよな。お前がそれを持っている限り、何をしようともお前がどこで何をしてるのか丸分かりって訳だ。説明すんなら、【探知】のスキル機能を持った道具だ」

 

 「……いつ、つけたの?」

 

 「お前がナイフで切りつけた後だ。盗品を見てすぐ俺は壁際に身を預け、話しながら自分の脚を使って隠すように発射させた」

 

 その後すぐに動き出したのは相手のタイミングで動き出させるのを防ぎ、見つかるのを阻止するため……あの間合いなら先に動き出した方が不利になるのは確実だったが、時間がかかれば見つかりやすくなってしまう。

 

 「確かにお前は実力者だろうよ。でもこっちだって意地がある。相手の話し方一つでどんな性格なのか、どんな生活を送ってるのか、人間性を見抜く観察力も必要だ」

 

 「人を小馬鹿にするような口調。見下す態度。プライドは高め。だからこそ自分が思い描いた風にならないと焦りが生まれる」

 

 「尤も、最大の敗因はさっきのところで確実に仕留めなかったこと。強盗は殺してでも奪う。怪盗は殺さずに盗む。いや……殺せない質だろ」

 

 「Ms.トレジャーハンター。お前の罪を数えろ!」

 

 だが負傷を負っていてる状態だ。まともに戦って勝てる確率は低い。使っていないガジェットはスタッグフォンのライブモードのみ……いけるか?

 

 「……なかなかやるのね。私はメリッサ。貴方は?」

 

 「左翔太郎。探偵だ」

 

 「探偵……そう。貴方の推理は半分当たり。だって、私は別に不殺とかそんなのないもの」

 

 メリッサは走り出し、さっきとは違う容赦のない攻撃が襲いかかる。何とか避けきり距離を取る。また相棒にハーフボイルドって言われちまう。

 

 「【ミッドナイトエッジ】!」

 

 月明かりしかない真夜中でもはっきりと分かる黒いモヤ。ナイフの刀身に纏わりつくそれは誰がどう見てもまずいものだと感じる。

 

 【スタッグ】

 

 スタッグフォンをライブモードに変形させ暗闇に放つ。メリッサの動きは先程よりも素早さが増し、避けることさえ難しくなってきた。

 

 迫り来るナイフに思わず片腕で防御してしまう。切られた痛みよりも痺れるような感覚に襲われ動きが鈍る。

 

 「おいかけっこはおしまいよーー」

 

 迂回していたスタッグフォンは的確にメリッサの手元に突撃した。弾かれたナイフを見て、俺はすぐさまスパイダーショックのワイヤーを発射、身柄を拘束する。

 

 しかし、お互いが追い詰められよく見えない景色に気がつかなかった。メリッサに押し出される形で屋上から落ちていく。

 

 「動けぇ!」

 

 痺れる腕でメリッサを抱きしめ、スパイダーショックから残った少ないワイヤーを発射。それをスタッグフォンの胴体巻き付けると落下速度が緩んだ。ナイフで切られた傷口が更に開き激痛が走る。

 

 スタッグフォンの踏ん張りもあったおかげか、尻餅程度の落下で済んだ。限界と言わんばかりに地面に寝転がる。

 

 「……貴方だけでも助かった筈よ」

 

 「罪を憎んで人を憎まず。お前にはちゃんと償って貰わないとなっ?!」

 

 いつの間にか拘束を抜け出していたメリッサから香水のような物を吹き付けられ両目を抑える。チカチカして周りがよく見えない。

 

 「やっぱり、甘いわね」

 

 そう言い捨てられ、俺はメリッサを取り逃がしてしまった。 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 翌日。メリッサには逃げられたものの、付近に盗まれた物が落ちており結果的には任務達成になった。加えて活躍が認められたのか、報酬も上乗せされた。

 

 「で、それは本当なのかい?」

 

 「間違いない。盗まれそうになった物……あれはガイアメモリの強化アダプターだ」

 

 依頼人の貴族に尋ねたら本人は何に使うのか本当に知らないようで、手に入れた理由は他に欲しがる奴に高値で売り付けるためらしい。オークションでは4億エリスの値段がついたと言っていた。

 

 それだけの金額、よっぽど買い取られることはないと思うが……

 

 「ここに連れてこられたのは偶然ではなさそうだ」

 

 「彼女の痛みを癒す……ガイアメモリのせいで悲しんでる人がいるなら放っておくわけにはいかねぇ」

 

 疲れはまだ残っているが、アクアのおかげで怪我と痺れは嘘のように消えた。本格的な調査を始めないとな。

 

 「面白そうな話をしてるわね」

 

 「お前!なんでここに!」

 

 昨日、俺を散々な目に合わせた張本人のメリッサはなに食わぬ顔でギルドに現れた。

 

 「扱いは盗賊よ。ギルドに来て何が悪いのよ」

 

 「はっ、結局盗めなかったのにでかい顔しやがるな」

 

 「……やる気?」

 

 「いつでも来いよ。貢献してるかどうか知らねぇけど、俺が泥棒を見逃すかよ」

 

 二人の会話を疎らに聞き流しジュースを飲むフィリップ。話を聞く限り、彼女はあえて盗まなかったんだろう。認めている、という解釈でいくなら翔太郎の察しが悪い。

 

 事実、周りの反応を見るにこちらを見ながらヒソヒソと何かを話している。盗みをやっているのに捕まらないということは実力者ということだろうし、実際に海外ではサイバー犯罪に関してその犯人を利用して味方にしたりなどをしている。

 

 ならば、と、一触即発の雰囲気を見兼ね、フィリップは立ち上がる。

 

 「メリッサと言ったね。僕はフィリップ、翔太郎と同じ探偵で相棒さ」

 

 「あんたも……こっちとは違って落ち着いた雰囲気ね」

 

 身を乗り出そうとする翔太郎を抑える。そういうところでハーフボイルドって言われるんだよ。

 

 「君は名の馳せたトレジャーハンターらしいじゃないか。どうだろう、情報収集役を担ってくれないかな。そうすれば翔太郎も手出しはしないだろうし」

 

 町に関しては他の冒険者などから収集出来る。けれどそれ以外となるとどうも難しくなってくる。

 

 僕達が帰る方法だけじゃなく、メモリの可能性まで浮上してきた。まだ確実に信じるとまではいかないが、本格的な協力者としては充分だ。

 

 「見返りもなしに大きく出たわね」

 

 「知識だけは膨大に抱えていてね。知りたいことがあるならこちらも協力する」

 

 難しい表情をするメリッサ。しかし、すぐに顎に手を当て考える。

 

 「じゃあ、試しに」

 

 メリッサはフィリップに耳打ちする。

 

 「それは翔太郎に聞くのが早い。猫探しに関しては彼は達人さ」

 

 さりげなくバカにされたこと、秘密にしたかったのにあっさりと暴露されたことに対し二人は憤った。

 

 「割と馬が合うんじゃないかな」

 

 「「そんなわけあるか!」」

 

 探偵とトレジャーハンター、奇妙な関係が生まれた。



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Wの真実/トラブル・トゥ・トラベル

 メリッサとの対決から数日。どうやら俺の活躍がこの町にも伝わってきたようで、ギルドの人から大型新人として期待されている。

 

 一匹狼のあいつに認められるなんてよっぽどないようで、逃がしてはしまったものの追い付くのは差程遠い話じゃないかもしれない、今の内に俺と仲良くなっておこうなどと多くの冒険者がすり寄ってきてしまっている。

 

 おかげで探偵家業も上手く行きそうだと安心はしているが、釈然としない。まず負けてねぇし。

 

 「バットショットをダメにしてしまったことに関しては?」

 

 「それはしょうがねぇだろ。ダメにつっても写真が撮れなくなった訳じゃないし……」

 

 あの時、メリッサからの一撃を受けてしまってからバットショットのライブモードが正常に作動しなくなってしまった。一応、普通には使えるのだが……

 

 「ここは異世界だ。都合よく素材があるとは限らないし、それが上手く噛み合うかどうかも分からない」

 

 不機嫌そうに立ち上がるフィリップ。

 

 「どこに行くんだよ」

 

 「町外れに魔道具店があってね。そこの店主が元冒険者で高名らしいから、何か知らないかヒントを貰いに行く」

 

 そう言ってさっさとギルドを出ていく。喧嘩ってわけじゃねーけど、なんか別行動が多くなってきてる気がする。それはそれで構わないが、やはり一抹の不安がある。

 

 「翔太郎」

 

 背後から別の声。カズマだ。そういえば今日はキャベツとやらの収穫で得た報酬が与えられる日だとか聞いたな。

 

 カズマの呼び捨てはアルバイトをしている内に自然と呼び会うようになっていた。歳が近いとか、明らかに偉そうな奴とかは平然と強気に出てくるのに中途半端に十歳も離れてるとなんて呼ぶのがいいか分からなかったらしい。

 

 「ああ。俺達には関係ないことだな……あ、フィリップの分貰っとくか」

 

 「いないのか?」

 

 「ちょうど今出ていったよ。お前のところだっていないじゃねぇか」

 

 「報酬で色々買い漁ってるよ……それよりさ、魔王軍の幹部がいるって知ってるか?」

 

 「小耳には挟んでる。付近の廃城にいるらしいな」

 

 魔王軍の幹部ーーアクアが言っていた、魔王を倒せば帰れる方法が分かるかもしれないという僅かな希望だ。そんな奴がここに来て何をしているのか分からない。

 

 ミツルギというこの町で一番強く、王都という場所でも度々戦っている奴の話によれば、ここは初心者の町でもあるのでわざわざ攻めこんでくる理由が見つからないようだ。

 

 だが、実際にそいつも念のため戻ってきているので信憑性は高い。先日のアダプターの件もあるし、もしも魔王軍側がメモリについて知っているならば狙っている可能性もある。

 

 なんにせよ警戒は必要だ。Wも視野に入れておく必要もある。後でフィリップとも共有しておくか。

 

 「はぁ、はぁ……この紅く輝くマナタイト……最高です!」

 

 「なんでこんなに報酬が少ないのよ!」

 

 「見てくれ皆!新調した鎧だ!」

 

 ……こいつらは自分の町のことなのにもっと危機感を持って欲しい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「それじゃあ翔太郎、行ってくるよ」

 

 「おう……どこに?」

 

 魔王軍の情報を共有した翌日。纏めた荷物を背負うフィリップはまるで遠足当日の小学生のように楽しげにしていた。

 

 「旅行さ。昨日、魔道具店のウィズという人に話を聞いたところ、代替として使えそうなものを教えて貰ってね。その人と一緒に取りに行くのさ。仕入れも見たいとのことだしね」

 

 何も聞いてないしそういうことは早めに言って欲しい。というか昨日の今日でその話になるのは違うんじゃねぇの?

 

 風都にいた頃は旅行とか行かなかったし、行っても付近にあったおやっさんの別荘くらいだし……よくよく考えたら普通なら経験していることをしていないことが多い。

 

 「……そのウィズって人に迷惑かけないこと。周りをちゃんと見ること。それからーー」

 

 「前は君が僕のことをおかんだと言ったが、君も相当だね」

 

 そこはどっこいどっこいだ。どっちかが欠けてもダメなんだからよ。

 

 

 

 ウィズ魔道具店に行くとちょうど、店の看板に【Close】の立て札をかけている本人がいた。

 

 「今日はよろしく頼むよ」

 

 「はい。テレポートで半分程進んだあと、歩きで向かう予定です。それで、お話の方は……」

 

 「カメラの商品化だったね。部品等次第だけど協力する」

 

 部品の提供をする代わりに商品化する。商いの基本だ。ライブモードなどは搭載するつもりはないから安心してくれ。

 

 「それでは……【テレポート】!」 

 

 

 彼女が呼び出した魔法陣ととも旅立ち、すぐに目的地の【グレイシア】に着いた。立派な門構えがまるで立ち塞がるように僕達を迎えている。

 

 「…………」

 

 「どうしました?」

 

 「もう少し旅行をしてる気分を味わいたかったかな……」

 

 「あっ……すっ、すみません!」

 

 昨日の今日で行けるとはこういうことだったのか……テレポートは確か登録した場所にしか行けないと制限があったはずだが納得だ。

 

 けれど僕の目的の【ミラーストーン】は値段にすると価値の高いものだ。魔道具として使用され、相手の攻撃を一度だけだが跳ね返せるという能力がある。部品の代用の場合、その部分は必要ないのだが。

 

 とても今の金銭で買えるものじゃない。かといってウィズに、とも言えるはずがない。色んな相場を見て、それから決めかねよう。今回は買い物というより調査に近い。

 

 「申請を出せば採掘許可も得れますよ」

 

 「採掘か……時間もかかりすぎるだろうし、今日は露店などで売られてないか見るよ」

 

 僕達はグレイシアに入国する。しかし、この街で起こっていることを僕達はまだ知らなかったーー

 

 

 

 ウィズによると、グレイシアは付近の山鉱から取れる資源の他、独自の自然地理を活かした栽培法方により薬草やポーション作りによって栄えてきた街だ。

 

 観光客はそれを使った美容目的の貴族が多い。冒険者達は基本これからの旅に備えての備蓄購入が専ららしい。

 

 「…………」

 

 「何かあったかな?」

 

 「いえ、もう少し、インパクトがあるものを仕入れたいと思ってます。それに……」

 

 初心者が集まる街なのだからインパクト重視じゃなくて堅実に行った方が儲かるのではと、恐らく商人じゃなくても分かることに悩んでいる。

 

 「それに?」

 

 「人が少ないと思いまして。前まではもう少し人が多かった気もします」

 

 「詳しい事情は知らないけれど、やはりアルカンレティアの温泉街が大きいんじゃないかな。疲れも癒せるし尚更ね」

 

 「あそこはアクシズ教徒の総本山と言われてますし……」

 

 高名なアークウィザードでもあるウィズが怯えているのをみるに相当厄介な宗教団体なんだろうか。検索は止めておいた方がいいかもしれない。

 

 フィリップはそう思いつつも影から感じる視線に気づいていた。しかしあえて口出しはしない。何が目的なのかも分からないしまだ訪れて数分も経過していない。怨恨はないだろう。

 

 道中もほぼなかったようなものだし、狙いがあったとしてもウィズだろう。でもここに来るというのは昨日決まったばかりだし、その時も店には誰もいなかった。少なからず今のところ怨恨を買うような性格でもない。

 

 アクセルの街でも見かけるチンピラか。だが同じ冒険者ならすぐに喧嘩を吹っ掛けてくるだろうし、品定めでもしているのだろうか。

 

 「一緒にいるのが得策か」

 

 「何か言いました?」

 

 「いや……それよりそんなにも何を買ったんだい」

 

 「こっちは衝撃を与えると爆発するポーション、これは温めると爆発するポーションに水を注ぐと爆発するポーション。そして」

 

 「返品してきなさい」

 

 聞くにも耐えれなくなりフィリップはウィズの説明を強引に遮った。でもーーそれよりも先に、この街で起きている小さな異変をこの時点で勘づいていれば、これから起こることを未然に防げていたかもしれない。




割と共通点あると思うんですよねこの二人。


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Wの真実/悪党は誰だ

 ウィズに勘づかれないようなるべく盾になりながら視線を向ける怪しい人物の動向を伺っていた。

 

 しばらくは怪しい動きはなかった。それどころか気づいた時にはそこには誰もいなかった。やはり僕の思い過ごしだろうか。

 

 「そこの姉弟。見ない顔だけどどこから来たんだ?」

 

 街の商人に話しかけられ、取られていた意識を引き戻す。今は遠出をしに来ているんだ。治安もいいと聞いているし余程問題は起きないと信じよう。

 

 「姉弟……?」

 

 「もしかして恋人だったか。それは悪かったな」

 

 豪快に笑う商人に対し何も言い返せなくなるウィズ。恋人か……翔太郎とときめの関係を見ていてもそれがどういう関係でなんなのか未だに理解出来ていない。

 

 「昨日知り合ったばかりなのにそれはないよ。強いていうなら友人かな」

 

 僕の訂正に乗って慌てて頷くウィズ。商人はきょとんとした顔で僕達を見ながらも察したようだ。

 

 「そういえば、前にここに来たときと比べるとあまり賑わいがないような気がするんですけど……」

 

 「分かるか。実は産業の一つが潰れかけちまっててよ……それに加えてここを治める王の三兄弟の内、上の二人が先の戦いでやられたって報せがあったらしい」

 

 「そうですか……」

 

 切なそうに呟くウィズ。彼女も元冒険者。戦いがどれだけ厳しいか知っているはず。

 

 「でもよ、一番下のディシディア第三王子が残ってる。まぁ、候補から一番遠かったから兄達を守るための騎士隊長として生きてきた分、これから政治に関しては大変だろうけど大丈夫だ」

 

 「なんせ身寄りのない老人や孤児を王家で引き取って代わりに面倒を見てくれているし、何より自らが起こした興業で財政も取り戻してきてる。現国王も安心してるだろう」

 

 上が二人がどこまでの手腕を持っていたか知らないがそれなら安泰かもしれない。でもなぜか嫌な胸騒ぎがする。

 

 「にしても魔王軍との戦いも過激化してるんだな。ここは産業国だから薬草やポーションの供給を担っている代わりに戦争には参戦しないとの話だったが、脅かされるのも時間の問題か」

 

 簡潔に言えば武器供給と一緒か。支援物資の調達を提供する代わりに争わない。それも一つの手だ。

 

 「そこまで過激化してるとは聞いてないですけど?」

 

 「聞いてない?お前ら卸売りじゃないのか?」

 

 「あっ、いえ、たまたま噂にしただけです!やっぱり宛てになりませんね!」 

 

 必死に誤魔化すウィズに不信感を抱く商人。僕はさりげなく話題を変えるように切り出した。

 

 「ミラーストーンを探しているんだがここにあるかい?」

 

 「ミラーストーン?俺の店にはないな。多分、この街のどの店にも売ってないんじゃないか?」

 

 「どうして?」

 

 「前は採掘されてたんだが、数年前から採れなくなっちまってよ。おかげで観光資源が減って困ってるってもんだ。ま、欲しいならこの街じゃなくて他に行くんだな」

 

 数年前から採れなくなってしまった……流し目でウィズを見ると少し困り顔をしながらも誤魔化しの笑顔を向けていた。別に怒ったりしないから安心してほしい。

 

 「そこのお前ら」

 

 「……僕達かい?」

 

 背後から話しかけてきたのは衛兵だった。衛兵は何も言わずに僕達の両腕を拘束してきた。状況が飲み込めず足掻くもより強い力をかけられる。

 

 「身分偽りによる不法侵入者がいるとの通告を受けた。同行してもらう」

 

 「待ってくれ、僕達はれっきとしたアークウィザードだ」

 

 「お前はな。その女が問題だ。お前も片棒を担いでいる可能性もある」

 

 まさかウィズの正体がバレている?ここで暴れると余計に疑われしまう。すぐさま処刑はないと見越し、言われるがままに連行されてしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 問題発生だ。旅に危険は付き物と言うけれど、まさか獄中が寝床になるとは思ってもなかった。

 

 別に犯罪を犯した、などではない。これでも探偵と真面目店主。決して人道は外さない。

 

 どこのタイミングで彼女がアークウィザードではないと見抜いたのか……やはりあの視線を向けていた者だろうか。そうじゃない限り辻褄が合わない。

 

 それよりも最悪な状況だ。この場にウィズがいない。隣の獄中からも返事がない。つまり何かしら被害に遭っている可能性が高い。

 

 いくら強いといえど結界が張られている街だ。魔法が使えなければ抵抗は難しいうえにそれ相応の対応もされてしまう。まずは経路の確認からしよう。

 

 そう思い検索を始めようとすると足音が近づいてきた。急いで検索を取り止める。

 

 剣を携えた青年は僕の前で立ち止まる。そしてすぐさま頭を下げた。

 

 「手荒な真似をしてすまない。私はディシディア。グレイシアの一番隊隊長で、この街を治める貴族だ」

 

 商人が言っていた人だ。確か唯一生き残った第三王子。

 

 「そんな人がなぜここに?」

 

 「簡潔に説明する。君は私が責任持って解放する。その代わり……彼女を諦めて欲しい」

 

 彼女ーーウィズだ。僕は首を横に振った。

 

 「無理だ。秘密は守れる方だからね、何が起こっているか説明して貰おうか」

 

 ディシディアは迷った表情を見せる。不審な動きはない。情報量が少なすぎるから選択肢は多すぎる。

 

 「……何者かに政権を乗っ取られた、かな」

 

 反応を見せる。当てずっぽうだったが僕の指摘に悟ったのか、諦めたようにポツリ、ポツリと話し始めた。

 

 「知っていると思うが、この街は薬草やポーション作り、あと鉱石で栄えてきた。とはいっても前者が売り上げの半分以上を占めてる。特別な手法も使用しているからね」

 

 「十年前、カルモアという科学者がグレイシアに赴任してきた。誰よりも命を重んじ、私達の作るポーションなどを通じて誰かを救いたいと語る男だった」

 

 事の発端は数ヵ月前。カルモアは人が変わってしまったかのように狂い始めてしまった。まるで薬物をやっているような幻覚を見るようになり、たった一人で反逆を始めた。

 

 温厚な性格で優秀な人材であったが為に、王は下手な手出しをしようとはしなかった。しかし、カルモアは自身を魔物に変えてしまう小箱のような魔道具を使い多くの衛兵を無効化していったという。

 

 「小箱の魔道具……」

 

 「恐ろしい力だ。触れた相手を魔物に変える力……私の兄達もキメラのような姿に変えられた。人の意思を失くし、飢える獣のように……」

 

 ディシディアの握る拳が強くなる。僕も自然と拳を強く握ってしまう。

 

 「今張られている結界も温厚な父上が二次被害を出さぬ為にの防止だったのだが、今はより強力に張られ反逆者が出ないようにと用途が変わってしまった」

 

 「街の人達は異変に気づかなかったのかい?」

 

 「いいや……カルモアは実験と称してキメラモンスターを多く製作してきた。それは付近のモンスターだけでなく、身寄りのない老人や孤児を引き取るという形で行った為に好感は逆に上がりっぱなしだ」

 

 「そのうえ、低迷していた売り上げに関して自らが造り出したモンスターをいわゆる裏賭博に流し始めた為に金は手に入り景気は回復、むしろ支持者が増えてしまった」

 

 町人達が言っていたのはこういうことだったのか……言葉にも出来ない程の外道だ。実質的に支配してしまっているということか。

 

 「俺からも一つ教えて欲しい。カルモアはどうして彼女を……」

 

 「……」

 

 一番の理由はリッチーだからだろう。人の理を捨て、不死身となった存在。強い魔法耐性を持ち、触れただけで麻痺や毒などを引き起こす。それに気づいている可能性もある。

 

 「強い言い方になるかもしれないが許してくれ。君は今までそういう場面に出会ってきたはずだ。なのになぜ、ウィズを気にかける?」

 

 「それは……いや、関係ないだろう」 

 

 少々怒り気味で席を外していくディシディア。やはり翔太郎のようにはいかないか。人の本質を見抜く……彼のやり方が信じることなら、僕のやり方は疑うことだ。

 

 まずはウィズを助けにいかなければ。この獄中をどうやって出るか……?

 

 外から射し込む僅かな光。鳥のようなそれは覗き込むかのように姿を見せていた。

 

 「エクストリーム……」  

 

 姿を眩ませていたエクストリームメモリ。僕の呟きに答えるように鳴き声のような機械音を発する。

 

 そうだ。翔太郎が自身を切り札と称し味方につけるなら、僕はもう一つの味方ーー『知識』がある。

 

 さぁ、検索を始めよう。この街に蔓延る暗闇を晴らす、風としてーー



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Wの真実/疾風とともに

今回文字数多いです。駄文垂れ流してますが我慢してください!


 エクストリームメモリの力によって牢獄を脱出し、街中の路地裏に姿を現した。いきなり道中に現れるとなると怪しまれてしまう。

 

 エクストリームメモリは何事もなかったかのように自らの元を離れ飛び去っていく。本当なら呼び止めたいところだが状況が状況だ。この世界に残っていることが分かっただけでも御の字としよう。

 

 エクストリームメモリに搭乗している際に検索をかけたがいまいち引っ掛からない。決め手となる情報が欲しい。

 

 「探偵は足で稼げ、か」

 

 僕一人の事件処理。かつてのズーメモリの事件を思い出す。立ち止まっている暇はないと、路地裏を飛び出し駆け出した。

 

 今、手に持っている情報は小箱の魔道具ーーガイアメモリを持つ者にこの国が乗っ取られていること。アダプターがあったのだから絶対ないという可能性はない。

 

 そして内容はおそらく【ジーンメモリ】。遺伝子の記憶を冠するメモリ。でなければ普通の人間が合成キメラや魔獣など作れるはずがない。

 

 「問題はそれをいつどうやって手に入れたか……」

 

 それに加えて何かもう一つ、闇が隠れている気がする。なぜカルモアは第三王子のディシディアを残したのか。現国王ならまだしも、全員を残さず潰すはずだ。

 

 昼間の商人の話では上の二人が戦死、だがディシディアの話ではキメラに変えられてしまった。いや、そもそも戦争に行くなら国民にも知らせるはず……

 

 抱え込んでいると突然、背中を押すように強風が吹いた。酒の酔いを覚ます以上のそれは、まるで何を伝えるように。

 

 『考えすぎだ。ヒントはどこかに落ちてるはずだぜ』

 

 この場にいない相棒がそう言っているように思えた。解決へと導くヒントはどこかにーー

 

 「……鉱山業」

 

 いつから始まったかは分からないが、この世界にある道具はのはせいぜいツルハシだ。ドリルがあるところは翔太郎が働いていた土木作業でも見たことがない。

 

 しかもミラーストーンだけが鉱石だけじゃない。他にもあるはずだ。急に採れなくなったというのは不自然すぎる。

 

 『戦争が激化している』

 

 『薬草やポーションの提供を担っている』

 

 『激化しているとは聞いてないですけど?』

 

 『特別な手法をしている』

 

 『幻覚を見たように狂い始めた』

 

 結びつけるように考えていく。やがてーー一つ、可能性の答えが見つかった。

 

 懐からこの状況を打破出来るであろうアイテムを取り出す。本来あるべき形から一部がロストしてしまったそれを装着する。

 

 【Cyclone】

 

 翔太郎に使うなとは言ったが、まさか僕が先に使うはめになるとはね。まずは採石場で確認を取らなければ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 『侵入者警報並びに捕虜の脱走を確認!ただちに捕らえよ!』

 

 「侵入者……?」

 

 既に実験体として報復を受けていたウィズ。たが高い魔法耐性などのおかげで能力を受け付けず未だ姿が変わってしまった様子はない。

 

 だが、自分でも分かる程にリッチー特有の能力が失っているのが分かった。麻痺や毒といった追加効果が発動しない。

 

 「侵入者とは誰だ!」

 

 「分かりません!情報によれば動きが速い為、盗賊職ではないかと!」

 

 『一応、盗賊職とは対極の位置ではあるけどね』

 

 月光の反射でシルエットでしか確認できなかった。が、それは二本のマフラーを靡かせる者だった。もう一度しっかり確認すると、そこには獄中にいたはずのフィリップが立っている。

 

 「君は……どうして抜け出した!あそこにいれば」

 

 「下手な芝居は止めろ。この悪夢を作り出したのは君自身だろう」

 

 「……な、何を言って」

 

 「順番に紐解いていこう。最初は魔王軍との戦いだ。この国は戦争に参戦しない代わりに薬草の提供をしていた」

 

 「やがて戦争は激化。足りない兵を補わせる為に参加せざるを得なくなった……いや、激化とまではいかないか。少々苦しくなった程度だろう」

 

 ウィズが知らないのはその為だ。となると積極的に関与しているとは考えづらい。

 

 「効能はよいが特殊な製法であるが故に生産が難しい薬草を更に効率良く生産する為に出したアイディア。いわゆる農薬を使用した生産だ。それによって更なる向上を目指した」 

 

 「だがその農薬に問題があった。実験と称して行ったそれは地質汚染を発生させ、それは鉱山にすら影響を与えた。まるで山の神を怒らせてしまったように立ち入る者全てに呪いをかけ、やがて病や死に致すーー」

 

 「その結果、一部の鉱石ーー例えばミラーストーンも採取不能になった」

 

 ディシディアは図星をつかれたように目を伏せる。山の神や呪いと言っているが、科学的に見れば農薬によって起きた地質汚染が人体に影響を及ぼしているのだろう。実際、デンデンセンサーでそれらしき観測があった。

 

 「採掘を仕事としていた国民達に対しどう説明するかで悩んだ末、二つに分かれた。ありのまま話すか、採掘不可能になってしまったか。君の兄二人とカルモアは前者、君と国王は後者だろう?」

 

 「亀裂が生じていたその時に小箱の魔道具を手に入れたーーいや、拾ったという表現の方が正しいかな」

 

 アダプターでさえオークションで四億するんだ。本体を手に入れようとなるとそれ以上になるはず。加え、採掘業を仕事としていた国民への補填を考えると購入は難しい。

 

 残された道は人とメモリが引き寄せられた。つまり、あのメモリは【T2ガイアメモリ】の可能性が高い。

 

 そしてそれを最初に見つけたのがディシディア。使用した時に感じたその力に魅了され、障害であった二人の兄を合成キメラに変えた……つまり、変えてしまったのはディシディア自身。

 

 「いい加減な妄想だろう!第一、私がそれを使った証拠がどこにある!」

 

 「君は言ったはずだ。『幻覚を見るように狂い始めた』と」

 

 「それが一体ーー」

 

 「小箱の魔道具……ガイアメモリには禁断症状がある。初期症状としては幻覚を見たりなど、麻薬そのものと同じさ」

 

 「使っていないというのなら、幻覚を見るとは知らないはず。故に使用している可能性が高い」

 

 ディシディアは言葉を出さず歯ぎしりをする。

 

 「それを見て恐れた君は、唯一残ったカルモアに強引に起動させ手先にしようとした。が、メモリと引き合った適合者は君ではなくカルモアだった。自分より使いこなしてしまったカルモアはやがて自らの正義、そして陥れようとした君への復讐にとり憑かれてしまい現状に至る」

 

 「とどのつまり、自業自得さ」

 

 「……黙れ!第一、ここの奴らの頭がおかしいんだ!俺は兄どもより高いステータスを持って産まれ強いのに、生まれの速さなどという下らないことで王位を捨てなければならなかった!」

 

 「加えて魔王軍との戦いに参加しないなどとほざき……俺の全てを否定する!」

 

 「犠牲者を出さない平和な選択じゃないか」

 

 「うるさい!そのおかげで周りの貴族からは『腰抜け』などと呼ばれ侮辱される毎日!お前に分かるか!」

 

 ディシディアは剣を抜く。戦闘に入るか……

 

 「私だけ結界を無効にする札を持っている。低レベルのアークウィザードなど敵ではない。お前を殺せば今まで通りだ」

 

 「上に立つことも出来ずに自ら造り出してしまった怪物に怯えることが今まで通りか」

 

 「違う。そいつはもう半分は廃人だ。あとはゆっくりと都合良く扱っていくだけだ」

 

 「……どうやら間違っていたのは僕のようだ。本当の外道はお前だ」

 

 【Cyclone】 

 

 「変身」

 

 バックルーーロストドライバーに【サイクロンメモリ】を装填する。

 

 【Cyclone】

 

 暴風が吹き荒れる。ディシディアが目にしたのは人の姿ではない者。全身緑と赤い複眼。風に流されるように靡くマフラー。

 

 「仮面ライダーサイクロン。さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 生身の人間にこの力は使いたくなかった。けれどあのままみすみすとやられてしまえばこの街はまた暗黒に包まれる。

 

 手始めに風の刃を発生させディシディアの持つ剣を弾き飛ばす。それを見て焦ったのか、一目散に逃げ出していく。

 

 「呆れた腰抜けだね……カルモア。もしまだ意識が残っているのなら、そのまま動かないでいて欲しい」

 

 カルモアーー【ジーン・ドーパント】に言うと、彼は降参するかのように両手を上げた。

 

 【Cyclone Maximum Drive!】

 

 風に乗り素早い動きで急接近し、ジーンドーパントの首元に斜めから強い踵落としを決める。メモリが排出されると同時にカルモアはその場で倒れた。

 

 「ウィズ、ここは任せるよ」

 

 何が起こっているのか分からない表情をしていたけれど、僕の言葉を飲み込み頷いた。僕はジーンメモリを拾い、部屋を飛び出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 形跡を追ってたどり着いたのは地下の闘技場。観客席などはなく、まだ不恰好な作りをしていた。多分、キメラを戦わせて強さを検証する施設なのだろう。

 

 両サイドの鎖から一匹ずつ獣が姿を現す。右からは龍、左からはライオンだ。たが、明らかに持たないはずの部位があった。

 

 それに庇われるようにディシディアは立っていた。獣らは哀しい声をあげながら襲いかかる。

 

 身軽にそれを避け旋風を巻き起こす。しかし傷は浅い。風だけの力では押しきれないようだ。

 

 【Heat】

 

 三本の内の一本ーー【ヒートメモリ】を起動させマキシマムスロットに装填する。

 

 【Heat Maximum Drive!】

 

 熱風を纏いながらその場で高速回転し台風を巻き起こす。先程より遥かに効果は出ている。だが、こちらも負担が大きい。

 

 サイクロンは動くことによって風を吸収し体力の回復が出来る。しかし、さすがにツインマキシマムとなると足りなくなってくるか……

 

 着地して出方を伺う。最も、獣にそんなことを持っても……?

 

 そういえばマキシマムドライブを当てた時も避けようとする動きがなかった。今も反撃の瞬間があるのに動かない。自然の直感というものか、もしくは……

 

 僅かな可能性を信じ、ジーンメモリを起動させスロットに装填する。

 

 【Gene Maximum Drive!】

 

 合成キメラらにレーザービームを放つ。それが直撃しまるで分かれていくように出てきたのは二人の男性だった。多分、兄達だろう。

 

 耐えきれなかったようで変身が解除される。二度目の変身は暫く出来ないだろうが……

 

 「あ、あ……」

 

 ディシディアは蛇に睨まれた蛙のように二人から睨まれ動けなくなってしまう。

 

 「……ディシディア。お前がしてきたことは分かっている。お前がどれだけの屈辱を浴びてきたのかもな」

 

 「やり方は間違っていたとはいえ、お前に手腕があることは認めている。父上にも一度、お前が王位を継ぐべきだと抗議したこともある」

 

 「今さらそんな嘘信じるか!だったとしてもどうせ面倒事を押し付けるためだろ!」 

 

 「いや、その話が出たのは鉱山の件が出る前からだ。私達が公表すべきだと言ったのは、私達の責任にすればお前への非難は少なくなると読んでだ」

 

 どうすることも出来なくなってしまったディシディアはその場で膝から崩れ落ちた。

 

 「ありがとう。この街の英雄よ。私達だけでなく、暗闇から街を救ってくれて。何が出来るわけでもないが、せめて表彰だけでも……」

 

 「いや、僕はちょっと事情が……」

 

 「フィリップさん、大丈夫ですか!」

 

 息を切らしながらウィズが割り込んだ。それを見て僕は妙案を思い付く。

 

 「ウィズ。最後にやって欲しいことがあるんだ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日。二人の王子は今まで起きていたことを国民に説明し、ディシディアは既に他国の警察に身分を確保されたことを通達した。

 

 彼にどういう審判が下されるかは分からない。けれどこの二人の王子なら易々と死刑にするなんてことはしないだろう。しっかり罪を償わせて欲しいところだ。

 

 そしてーーこの街を救った人物としてウィズは表彰された。彼女ならこの状況を打破出来てもおかしくはないと無理やりこじつけ、僕の代役を頼んだのだ。

 

 「ささやかだが、賞金の方も贈らせて貰おう」

 

 その言葉を受けウィズはこちらを確認する。人の好意は受けておくべきだ。

 

 

 

 「では、戻りましょうか」

 

 「テレポートは止めてくれ。帰るまでが旅行らしいからね……それとウィズに聞きたいことがある」

 

 受け取った賞金を抱えホクホクしていたウィズの様子が変わった。

 

 「今、アクセル付近の古城で幹部が来ているらしい。君が内通者じゃないかと僕は疑っている。一応、幹部なのだろう?」

 

 「……私、その話しましたっけ?」

 

 「小耳に挟んだだけさ。最も道中に聞きたかったけれど、タイミングを失ってしまったからね」

 

 実は翔太郎よりも先に古城に幹部が潜んでいるという情報は僅かながら掴んでいた。だが確証がない為に伝えるのを控えていた。そうでもしないと一人で行ってしまうのが翔太郎の性だ。

 

 ウィズを選んだのも幹部であることを本棚で掴んでいたから。内通者である可能性も高いからすぐさま行動に移した。僕がいなければWになれない。

 

 「警戒しなくても、私は結界の維持だけ頼まれてる置き物幹部ですから」

 

 笑顔で答えるウィズ。実際、戦況を知らなかった彼女は積極的に侵略活動をしているとは断言しがたい。

 

 だが、元々人間であったにも関わらずリッチーになったのは何かしら理由があるわけだ。……それを問い詰める権利を僕は持ち合わせていない。

 

 「一先ずは君を信じよう。あの姿を見せたのも君がもし下手な動きを見せたら、その為の予防線だ。身勝手を言うが、なるべく広めないで欲しい」

 

 「……分かりました。でもどうしてフィリップさんがあの魔道具を?」 

 

 「それは……僕が造ってしまったからだ。犯してしまった罪を償うために、あの力が必要だ」

 

 少し儚げに述べるフィリップ。そんな彼の背中をウィズはただただ見ることしか出来なかった。




次回から原作に戻ります。


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Gに気を付けろ/いつもの日常

「翔太郎、僕達をリスペクトした漫画があるらしいよ」

「本当か?!」

「うん。淫獄団地というね……」

「おいやめろ」


 グレイシアから二日程歩き、いい加減嫌になって結局テレポートで帰ってきた。

 

 旅行としては二泊三日と、充分すぎる日程だったが内容が内容だけに楽しかったとは言えない。

 

 アクセルの方でも色々あったようで、古城に住み着いていた魔王軍の幹部がやって来たらしい。

 

 翔太郎の話ではめぐちゃんが毎日のように爆裂魔法を放っていた為に文句を付けに来ただけのようで手出しはしなかった。

 

 しかし、逆にこちらが挑発してしまい感情を逆撫でしてしまったようで、ダクネスちゃんに呪いを受けてしまったがアクアちゃんが無事に解き、とりあえずそのままの状況が続いている。

 

 この話を鵜呑みにするならば、ただのご近所トラブルにこっちが勝手に逆ギレしたというむしろ加害者になってしまっている。

 

 「で、どうするんだい」

 

 「どうするんだい、じゃねぇよ。使ったのか?使ったんだよな?」

 

 「状況が状況だったから仕方ないじゃないか」

 

 何も言えずに翔太郎はため息をつく。俺が持ってると無茶をするとか言う癖にコイツもたまに無茶をする。となると、俺達が変身出来ると知ってるのはそのウィズって奴だけになるのか……

 

 当人が営業する店でそんなことを言う。見た目は二十歳ぐらいの美人だが、世の中何があるか分からない。置き物幹部とか言っているが実際は分からない。 

 

 「ところでダクネスちゃん以外に被害はなかったのかい?」

 

 「一応な。そっちも何とかなったし、あとは相手側がどう出るか……」

 

 「すみません、その幹部の方ってどんな人でした?」

 

 「なんか首のない鎧みたいな奴だったよ」

 

 「ああ、それならベルディアさんですね。仲が良かった訳じゃないですけど、元々は騎士なので卑怯な手は使ってこないと思いますよ」

 

 にこやかな笑顔で答えるウィズ。多分、霧彦に似た立ち位置なのかもしれない。敵側だったが風都を想う気持ちは俺と同じだったあいつを思い出す。

 

 というより、簡単に情報を話してしまうあたり本当に置き物幹部のようだ。

 

 「さてと、俺も頼まれ事があるし行くか。お前はどうする?」

 

 「僕は僕でやることがある。無茶はしないでくれ」

 

 俺は適当な返事をしてウィズの店を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 冒険者ギルドにて。最近じゃ専ら俺の噂のおかげかギルドの方から依頼されることが多くなってきた。

 

 見る限り殆どが誰も受けなさそうな面倒事ばかりだが、文句ばっかり言ってられない。第一、冒険者という実質何でも屋みたいなものがある限り本当に謎解きぐらいの時しか回ってこないだろう。

 

 「余りの依頼はあるか?」

 

 「そうですね……翔太郎さんのおかげで粗方は片付いてますよ。あとは上級職の方向けなので、下手をすれば死ぬ可能性もありますし」

 

 ここ最近で仲良くなり始めた受付嬢のルナは少し苦笑いで伝えた。【冒険者】という最弱の肩書きがあるせいか難しい依頼は勧められないようだ。

 

 ならフィリップと一緒の時がいいかと納得し窓口を離れる。しばらくはメモリについて調べ始めるのが吉か、それとも幹部に関してか……自分が優先することは前者だろうな。

 

 「これ、これなんてどう?」

 

 いつもの聞き覚えのある声。アクアだ。確か借金返済を手伝えと依頼してきた覚えがある。俺に対しての報酬金は払うどころか考えにすら至っていなかったが、巻き上げる訳にもいかずタダ働きさせられた。

 

 「よう。お前、まだ返し終わってなかったのか?」

 

 「出た報酬で別の店で飲んだらしいです」

 

 めぐみんのちくりに落胆する。ダメ人間じゃねぇかよ……ん?

 

 「飲んだってジュースだよな?」

 

 「シュワシュワに決まってるじゃない。一日の終わりはあれで決まりよ」

 

 シュワシュワーー確か酒類だ。未成年に酒類提供する店がどこにある。

 

 「この世界じゃ十二歳でもう成人扱いだぞ」

 

 「そんな歳から飲んでたら体が壊れるっつーの!法律どうなってんだ!」

 

 「す、すまない……」

 

 カズマの話に切れるとなぜかダクネスが謝った。なんでお前が謝るんだよ。一回警察に抗議しにいかねーとダメだなこりゃ。事件事故が増える一方だぞ。

 

 「話を戻すわよ。この湖の浄化のクエストを受けましょう。これなら私に打ってつけよ」

 

 「プリーストなら浄化魔法が使えますからね。でも蔓延るブルータルアリゲーターをどうしますか?」

 

 「そこはカズマ、お願い」

 

 「丸投げかよ……翔太郎、付いてきてくれないか?」

 

 「珍しいな。お前ならすぐめんどくさいとか言うだろうと思ったけど」

 

 「そう言いたいのは山々だけど、もう冬も近いからな。いい加減馬小屋暮らしから卒業したい」 

 

 俺達もそうだけど、そろそろ夜も本格的に寒くなってきてるし何とかしなきゃな……宿暮らしなんて豪華なことは出来ないし。

 

 あといい加減、俺を何でもやってくれる便利屋ではないことを思い知らさなければ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 結果から言えば散々だった。アクアは触れるだけで液体を真水に変えてしまう能力があるらしくそれを使っての実行だったのだが、まず檻に幽閉。その時点で何となく察しはついていた。

 

 止めようとしたものの何も無しにワニの大群がいる湖に入る訳にも行かず、納得しないまま入水。しばらくするとワニがやって来た。

 

 ダクネスはすぐさま突っ込んで行くのを見て俺も走り出し、救出には成功したものの檻はそのまま破壊されアクアも完全に喪失してしまっていた。

 

 で、結局俺が貯まりに貯まっていたスキルポイントを使って浄化魔法を会得。めぐみんの爆裂魔法で脅した隙に浄化しクエストは何とか遂行。当の本人は俺の背中で半べそをかいている。

 

 「お前ら結局なにがしたかったんだよ」

 

 「私は楽しかったぞ」

 

 「お前はもっと自分を大事にしろ。あと、今回カズマは何もしてないからな」

 

 「俺に隙はなかった」

 

 見向きもされなかっただけじゃねぇか。

 

 やがて泣き疲れたのか、町に着く頃にはアクアは寝息を立てていた。本当にこいつ、世話がかかる奴だな……

 

 「探偵から子守りに転職したのかしら」

 

 「んな訳ねーだろ盗賊」

 

 街中ですれ違ったついでのようにヤジを飛ばすメリッサ。この間、一応協力関係になったのはいいのだが、いまいち溝は埋まらない。敵対同士なんだから当然と言えば当然なんだが。

 

 「盗賊なんかと一緒にしないでくれるかしら。私はトレジャーハンターなの」

 

 「宝探しなんてガキの頃には卒業したな。ま、俺みたいなハードボイルドには元から似合わねぇか」

 

 「あら、ハーフボイルドがよく言うわ」

 

 小馬鹿にしながら挑発してくる。フィリップの野郎、余計なこと言いやがって……

 

 「それよりなんか用事でもあんのかよ」

 

 「情報共有ね。先日のグレイシアの件よ」

 

 心臓がドキリと跳ねた。まさか仮面ライダーがバレたのか?

 

 「それなら俺も新聞で見たぜ。フィリップが真相を暴いてウィズが大元を倒したんだよな」

 

 カズマが言った。報道ではその情報で通っている。王子と協力し結界を破り、ウィズの魔法で倒したーーそれが建前。

 

 一応、最前線で戦っているミツルギが今帰ってきているが、どれぐらいのレベルかは分からない。あとはこの間の幹部の奴もだ。

 

 「問題はその国を支配していた人物が使っていたもの。小箱の魔道具よ。何か知ってるかしら」

 

 「……知らねぇな」

 

 声は動じていない。けれど、微妙な間にメリッサは違和感を感じた。その様子に翔太郎も緊迫していた。

 

 「ま、いいわ。それじゃーー」

 

 「女神様?!」

 

 横やりを入れるように乱入してきたのは、タイミングがいいのか悪いのかミツルギ本人だった。大剣にガチガチに着込んだ鎧、いかにも勇者ですという感じだ。

 

 「大声あげんな起きるだろ」 

 

 「貴方はいつかの……すみません。貴方は抱いているそちらの方をご存知で?」

 

 「アクアだろ」 

 

 「それはそうなんですが、その……彼女は女神なんですよ?」

 

 お前はまともな奴だと信じたかったよ。確かにフィリップから同じ名前で特徴を持つ女神がいるって教えてもらったけどよ。

 

 「でも確かアクシズ教っつー質の悪い宗教団体だろ」

 

 「私の信者をのけ者みたいに言わないで!」

 

 「痛い痛い痛い!いつから起きてたんだてめぇ!」

 

 首を絞められた反動で無理やり下ろされ尻餅をつく。また涙目になりやがって本当こいつは……

 

 「やっぱり子守りの方がいいんじゃない?」

 

 「誰がなるか」

 

 「なんでもいいわよ。話しにくいことならこの間の場所でね」

 

 面倒くさくなったのか、メリッサはそのまま離れていく。自分勝手なうえにさりげなく情報を寄越せと言ってくる。非常に厄介だ。

 

 「女神様に何をしてるんですか!」

 

 こっちもこっちで厄介だ。

 

 「こいつに話があるならカズマを通せ」

 

 俺もめんどくさくなって丸投げした。メリッサは……まぁ、行かねぇ行けねぇよな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 人手がない路地裏。メリッサはそこでしゃがみながら待っていた。

 

 「おい」

 

 「あっ……ちょっと、もう少しだったのにどうしてくれるのよ!」

 

 「お前は自分の欲ばかりで猫側の気持ちが分かってない」

 

 「当たり前じゃない。私はれっきとした人間だもの」

 

 「遠回しに人じゃねぇって言ってんのか?」

 

 「ちょっと役立つゴミ虫じゃなかったの?」

 

 憤る感情を抑えつつ思い切り息を吐く。

 

 「……さっきの小箱の魔道具の話、なんかあんのか」

 

 「前払い」

 

 俺は口角をひきつりつつも、喉を鳴らした。付近で潜んでいた一匹の猫が頭を飛び出し、ひょこひょことゆっくり近づいてくる。

 

 猫は俺の足元にすり寄り、やがてもう一匹が屋根から飛び降りた。それを見てメリッサは少女のように瞳を輝かせながらゆっくりと前足を取った。

 

 「はぁぁぁ……このムニムニした肉球、ふわふわの毛並み!きゃわわわ!」

 

 「あんまり乱暴にすんなよ」

 

 特技と言っていいのか分からない猫との会話がこんなところで役立つとは思ってなかった。今思うのは単純に我慢してくれと猫に願うばかり。今度上等の魚持ってきてやる。

 

 「で、俺は本当に何も知らない。お前はなんかあんだろ。じゃなきゃここまで呼び出さねぇ」

 

 「まぁ、そうね。情報はない。それが情報」

 

 目線も合わせずひたすらもふるメリッサ。カチンときた。俺はまた猫語を話し、メリッサに抱かれていた猫はすり抜けるように逃げていった。

 

 「何してくれてんのよ!」

 

 「こっちの台詞だ馬鹿野郎!お前、自分がやりたくて呼び出しただけかよ!」

 

 「立場をわきまえなさい。私が動いてあげてる。それで私が気持ちよくなって癒される。winよ」

 

 「ただの独り勝ちじゃねぇか!」

 

 「それでいいじゃない。私がいないと何も出来ない男はそれぐらいでいいのよ」

 

 「お前を引っ捕らえればそれはそれで仕事してることになるからな」

 

 「ハーフボイルドにそんなこと出来るかしら?」

 

 「おーし分かった。今すぐ警察に付き出してやる」

 

 ここまで馬が合わねぇのは初めてかもしれない。しばしの格闘の末、デンデンセンサーを持ってなかった俺が【潜伏】を見切れず逃がしてしまった。

 

 

 

 後日、あの日に路地裏で如何わしい噂が立っていることを知るのはまた別の話。

 

 



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Gに気を付けろ/崩れ去る日常

「ヒロインの英語表記をHERO-INにしてヒーローが一番守りたい存在って意味にしたいけどどうかな」

「勝手にしろと思ったけどちょっといいなって思って悔しい」


 『緊急!緊急!冒険者の方々は直ちに正門に集まってください!特にサトウカズマパーティーの一行は大至急お願いします!』

 

 魔王軍幹部が初めて襲来し丁度一週間が経過した朝、こんな放送とともに目を覚ました。

 

 昨日は久しぶりに探偵っぽい仕事が舞い込んできて張り切ったせいか未だに疲れが残っている。

 

 「……行くか?」

 

 「本心を言えばもう少し眠っていたい」

 

 フィリップのわがままに同感してしまう。実際、戦いになれば厳しいものがある。

 

 だが、問題を引き起こしたのはあいつらだ。自分達の問題は自分達でなんとかすることがけじめみたいなものもある。ここではもう大人扱いらしいしな。

 

 「ま、お子さまには変わらねぇか」

 

 ゴソゴソと身支度を整え始める。最後に覚悟の帽子を被り気合いを入れる。

 

 「せめてウィズの店に移動しておいてくれよ」

 

 フィリップは何も言わず右手を挙げる。今日の依頼はーーいつもの日常を守れ、だ。

 

 

 

 正門に到着する頃、いつもの鎧を着て同じところに向かっているダクネスの姿が見えた。

 

 「事態は分かってるよな?」

 

 「ああ。恐らくあのデュラハンだろう。私達が起こした問題だ、自分達で何とかする」

 

 自分達のせいだという自覚はあるようだ。よっぽど、ダクネスはあのパーティーじゃ最年長だ。性癖さえどうにかなれば真面目で頼りにはなる。

 

 問題はアクアとめぐみんの二人だ。めぐみんは喧嘩っぱやいし、アクアは面倒事も去ることながら少し自信過剰なところもある。能力は高いがそれに据えてサボるタイプだ。

 

 群衆の最後尾に到達すると、あのデュラハンの声が聞こえた。会話の内容を聞くにどうやら仲間を見捨てたことにご立腹のようだ。まぁ、間違っちゃいない。呪いをかけたのはお前だけどな!

 

 「や、やぁ……まさか敵側から心配されるとは思わなかった」

 

 人々をかき分け、ダクネスが前に出る。平気な姿にデュラハンの素頓狂な叫びが轟いた。

 

 「プークスクス!もしかして呪いが解けたことも知らずにずっと城で待ってたの?うけるんですけどー!」

 

 アクアの小馬鹿にした言い方に呆れたため息をついてしまう。お前、そういうののせいで問題を起こしてることいい加減学んだらどうだ。

 

 「えっと……デュラハンでいいよな」

 

 「お前は確か、まともに話が通る冒険者だったな」

 

 そんな覚え方されてんのかよ。ま、怒り心頭だったあいつが少し冷静さを取り戻したならそれでいい。

 

 「俺達としては呪いが解けたなら行かないに越したことはないからな。悪いことをしたっていうと変な感じになるけど……それで、調査とやらは終わったのか?」

 

 「それならもう終わっている」

 

 普通に話してるけどこれおかしいよな?例えりゃドーパントの犯罪者を説得してるみたいなもんだ。それで止まるならどれ程良かったか。

 

 チンピラ冒険者なんかよりよっぽど話が通じてるっていうか……人間の闇なんてたくさん見てきたつもりだったけどまだまだあまいみたいだ。

 

 「実はこっちもこっちで都合が悪くてよーー」

 

 「そうよ!あんたのせいでろくにクエストも受けられなくて困ってるのよ!おかげで借金まみれの私をどうしてくれんのよ?!」

 

 不良の言いがかりみたいなこと言うんじゃねぇ。

 

 「そんなこと知らんわ!大体、私がここに来たのはもう一つ理由がある。なぜ爆裂魔法を撃つのを止めん!」

 

 俺とカズマはほぼ同時にめぐみんに視線を送った。自分は悪くないと、そんな態度でめぐみんも目を反らすとカズマの制裁が下った。

 

 「いたっ、やめっ、止めてくだひゃい!」

 

 「反省が出来ねぇのかお前は!大体お前撃ったあと動けなくなるだろうが。てことは共犯者がいるだろ!」

 

 「言っておくけど私じゃないからね。私がそんなことするはずないじゃない。女神だし、ここ毎日ずっと朝から夕方までアルバイトだったんだから」

 

 早々に否定する奴が大抵犯人だってこと知らねぇのかこいつは。しかしアリバイがあるならーーなんで身内で犯人探ししてんだ。

 

 「アルバイトは昼からじゃなかったのか?てっきり朝は遊びに行ってるものだと……」

 

 ダクネスの証言によって一発でアリバイが崩れ去る。そしてーーめぐみんは静かにアクアを指差した。

 

 「ふざけてんのかお前は!」

 

 「ち、違うのよ!元はと言えばあんなところでうろちょろしてクエストをさせないあいつが悪いんじゃないのよ!」

 

 自称女神が言うことかよ。やっぱりそんなこと言う奴にろくな奴はいない。

 

 「無視するな!」

 

 デュラハンの怒りの声が響いた。やばい、どう考えてもこっちの分が悪い。クエストが少なくなったのはあいつのせいだけどそれで一時的に平和になったのは事実だし、何よりあいつから手出ししてない。

 

 「もう許さん……全員切り捨ててやる!」

 

 大量のアンデッドを従え襲いかかる。ボロいとはいえ一端の鎧と剣を携えている。一方の俺はといえば防具も着けずに格闘術だ、勝てる手段が見えない。

 

 「おい、アンデッドって何が効くんだよ?」

 

 「プリーストが使う浄化魔法か聖水が基本だ!」

 

 だからアクアの奴、あんなに強気だったのか!

 

 「だったら俺がこの間成り行きで覚えた魔法も……!」

 

 「あっ、おい!」

 

 「【プリュフィケーション】!」

 

 骸骨の首根っこを掴み唱える。しかしなに食わぬ様子で止まるとまるで効いていないように動き出す。振り上げられた剣を避けて俺は再び逃げ始める。

 

 「ダメじゃねーか!」

 

 「幹部の部下だし当たり前だろ!それにプリュフィケーションは状態異常を治すのが目的だ!」

 

 「早く言え……よっと?!」

 

 自分でも驚きの反射神経で剣を真剣白羽取りで止める。火事場の馬鹿力って言うけど、やれば出来るもんなんだな……

 

 僅かな鮮血を感じながらも強引に蹴り飛ばす。体制を崩したが深追いはしなかった。

 

 「浄化ってことはアクアならなんとか出来んだろ、あいつはどうしたんだよ!」

 

 「誰かー!」

 

 アクアの声が聞こえ、二人で見るとそこには他の人達よりも遥かに多くのアンデッドに追い回される姿があった。あれじゃ魔法を撃つ隙もねぇな……

 

 「カズマ、俺は聖水を持ってくる。アクアと協力して数を減らせ」

 

 「なんで俺なんだよ!翔太郎の方が強いだろ!」

 

 「っても同じ冒険者なんだからそこまで変わらねぇだろ……確かにスペックで言えば俺が上だ。でもあいつらを扱うにはお前の方が長けてるだろ。それに冒険者だからこそ出来ることがある」

 

 前方から接近するアンデッドナイトの攻撃を避け、翔太郎は渾身のハイキックを、カズマは体重を乗せたショートソードの一撃を見舞った。

 

 「普段は邪険扱いされる俺達だ。でもここぞという場面で逆転への一手になる。俺が保証してやる。お前は切り札だってな!」

 

 「……しょーがねぇなぁぁぁ!アクア、こっちに来い!めぐみんは町の外で爆裂魔法の準備!」

 

 翔太郎からの熱い声援に背中を押され動き出すカズマ。すぐに救援に向かうから少し堪えてくれ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 聖水があるらしい教会。しかし、既にほとんどの冒険者や町の人々が協力してくれたおかげか残っておらず誰もいなかった。

 

 しかし寧ろ好都合。俺はダブルドライバーを装着する。

 

 【Joker】

 

 【ジョーカーメモリ】を起動させると同時に、ダブルドライバーの右側に【サイクロンメモリ】が送られてくる。それを装填し、左手に握ったジョーカーメモリを装填する。

 

 「変ーー」

 

 ドガァァァン!

 

 遠方からの轟音に驚きバランスを崩す。今のはめぐみんの爆裂魔法だな……じゃあ尚更急がねぇとな。

 

 『少しだが怒りの感情が見える。邪魔されて怒ってるのかい?』

 

 「んなわけあるか。変身!」

 

 【Cyclone×Joker】

 

 もう一つの姿に変身した翔太郎達は風を纏い教会を飛び出す。屋根を伝っていきながら地上での様子を伺うと、各々の冒険者が必死に戦っている。

 

 『助けにいきたい気持ちは分かるが、今はデュラハンを先決しよう』

 

 「分かってるっつーの!」

 

 スピードを速め一気に正門にたどり着く。先程の爆裂魔法に少し巻き込まれたのか、カズマとアクアの二人がデュラハンの目の前で倒れている。めぐみんは言わずもがな。

 

 「おい、アクア!」

 

 「分かってるわよ!喰らいなさい、【ターンーー】」

 

 「遅いわ!」

 

 振り下ろされる大剣がアクアに迫る。が、なんとか間一髪でアクアの救出に成功しデュラハンの攻撃が空振る。

 

 地面に着地しデュラハンを睨む。突然の出来事にアクアは瞳をパチクリさせている。

 

 「……何者だ。緑と黒の半分のモンスターなど聞いたことないぞ」

 

 「だったらちゃんと教えてやる。俺達はW(ダブル)。この町の涙を拭う二色のハンカチにして、仮面ライダーだ」

 

 アクアを下ろし両手をはたく。

 

 「…………」

 

 『どうしたんだい?』

 

 「いや、今回に関しちゃ言えるのか迷ってよ……」

 

 『これは相手だけに投げ続ける言葉じゃないだろう?』

 

 「そうだったな。んじゃ、行くぜ相棒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

 

 

 

 

 

  



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Gに気を付けろ/日常を取り戻せ

 とりあえず戦闘パートです。一話挟んで原作2巻に行こうかと思います。


 「ダブル……ふん、モンスターの姿をして人間の町を守るとは変わった奴だ」

 

 デュラハンは舐めた笑い声を上げる。ま、モンスターじゃないって言うには嘘になっちまうかもしれねぇが。

 

 デュラハンは大剣を振り上げ肩に乗せる。右手には自らの頭を持っているとはいえ、あのサイズを平然と扱うのはさすがとしか言いようがない。

 

 一陣の風が吹く。サイクロンジョーカーは風による素早い身のこなしに加え、ジョーカーの身体能力を引き上げた接近戦タイプだ。

 

 風を纏い先制を取った。徒手空拳でダメージを与えるも、固い鎧も相まって上手く通らない。

 

 一旦距離を取り、今度は赤いメモリを取り出す。

 

 「ここはヒートで」

 

 『待つんだ。このままサイクロン主体でいく』

 

 「何言ってんだ。見ただろ今の」

 

 『君はどうしてヒートを選んだんだい?』

 

 相棒の問いに俺は呆れる。んなもん、火力の底上げに決まってる。今の状態じゃ劣勢ばかりだ。

 

 『僕達はかつて不死身の男と戦った。だがあれは細胞酵素によるもので死体を無理やり動かしているのが正しい見解だ』

 

 不死身の男ーーかつて風都を襲い俺達の前に立ちはだかった強敵の一人。

 

 『でも今回は違う。科学が通用しない世界だ。ここは僕の指示に従って貰う』

 

 「……お前が言うなら。で、どうすんだ」

 

 『検索は完了している。奴の倒す方法は浄化魔法しかない。強化を受けている奴にとって聖水はまず効かない』

 

 つまるところ、あいつらアンデッドは既に死んでいる為倒すことは出来ない。

 

 その代わり基本は浄化魔法で一撃みたいだが、それが不可能となると難易度は跳ね上がってくる。

 

 弱らせることは可能なので一撃で浄化出来るまで弱らせる必要がある。

 

 「どう攻める?」

 

 『弱点は水だ』

 

 「水ぅ?ってことはよ……」

 

 『僕達が有利になることはない。ヒートの攻めよりも風を取り込み体力回復に努められるサイクロンの方が良いと見る』

 

 「魔法使えるだろ」

 

 『体は君のだよ』

 

 「……納得したよ。じゃ、このまま行くぜ」

 

 相手は強敵だが武器はダクネスが扱うより大きな剣だ。それに加えてもう片方には自らの頭を抱えている。大振りの動きなら充分対応出来るはずだ。

 

 問題は唯一突破出来る方法をーー

 

 「【セイクリッド・ターンアンデッド】!」

 

 戦う二人を中心に、後方からアクアが魔法を放つ。魔方陣が地面に描かれ、神々しい光が発射される。デュラハンは苦しい叫び声を上げる。

 

 「容赦無しかよ?!」

 

 『いや、僕達は人間だからほぼ無害だからっ……?』

 

 その時、右半身のフィリップが膝をついた。

 

 「フィリップ?おいフィリップ?!」

 

 『ぐっ……はっ……』

 

 翔太郎は引きずるように体を動かし魔方陣から飛び出す。荒い呼吸が少しずつ整っていき調子を取り戻した。

 

 「大丈夫か?」

 

 『大丈夫だ。きっと彼女の魔法の威力が強すぎたんだろう』

 

 フィリップには精神攻撃に対して耐性を持っている。浄化というのが精神攻撃に分類されるか分からないが、身体的痛みを伴うなら変身している翔太郎にも同じ症状が出るはずなのでまずない。

 

 感覚的には気分が優れないといった感じだ。乗り物酔いを強くしたような……

 

 「お前もアンデッドなのか?」

 

 鎧の隙間からプスプスと黒煙を上げていたデュラハンも修復が完了したのか、ゆっくりと立ち上がる。

 

 「んなわけねーだろ。ちゃんと心臓鳴らしてる生物だ!」

 

 

 

 ダブルとデュラハンの激闘を他所に、めぐみんの回収を終えたカズマとアクア。そこに街中で戦っていたダクネスも合流した。

 

 「無事か?」

 

 「こっちはな。あとはあのダブルとか言う奴がなんとかしてくれるだろ」

 

 「癪だけど私の浄化魔法もあいつに効かなかったし……弱体化なんてめぐみんの爆裂魔法があればいけるんだけど」

 

 当の本人は既に撃ってしまいカズマに抱っこされ使い物にならなくなってしまっている。

 

 「ダブル?まさかあのデュラハンと戦っているモンスターか?」

 

 「そうです。お前の罪を数えろ……なんとも格好いい響きでしょう。名乗りに取り入れましょうか」

 

 「まさかモンスターに町を救って貰うつもりか?ここは私達の町だぞ」

 

 「別にいいだろ。救われるんだったらなんでもよ」

 

 この世界にはチート能力を持った転生者がいる。おそらくヒーロー番組好きの奴が同じ能力手に入れて、正体を隠して活動してるとかそんな感じだろ。

 

 「……それでも、私には守らなければならないものがある」

 

 ダクネスは自らの剣を構え駆け出していく。いくら固いと言っても攻撃はまともに当たらないのに何が出来る。

 

 しかしダクネスは俺の声を聞こうともせず向かっていく。二人の攻防に割り入るようにダクネスはデュラハンに向かって突進をかました。しかし、それは多少緩んだだけで効いてない様子だった。

 

 「低レベルが、邪魔をするな!」

 

 デュラハンの怒りの一撃がダクネスに迫る。が、間一髪に隙を晒したデュラハンにダブルの飛び蹴りが入った。

 

 「ふん……今の行動といい、モンスターの癖に何を抜かしている」

 

 「何も抜かしてないぜ。魔に身を落としたお前よりかは真面目なつもりだ」

 

 「そうか。久々の骨がある奴だと期待したが、早めに潰しておかなければいけないらしいらしい」

 

 抱えていた頭を上空に放り投げ大剣を両手で構える。何かを仕掛けてくるつもりだと身構え、相手の攻撃を避ける。が、まるで動きが読まれていたかのように大剣を振りかざしダブルの脇腹にヒットする。

 

 『ぐふっ……』

 

 「フィリップ!」

 

 先程のも相まってまだ完全に本調子ではないフィリップの息が漏れた。ちくしょう、万事休すか……?

 

 「はぁぁぁ!」

 

 今度は自分の番と言わんばかりにダクネスが大剣を振るう。が、そこはお約束のように攻撃が当たらない。

 

 「しつこい!」

 

 デュラハンの横凪ぎがダクネスを襲う。倒れたと思い再び視線をこちらに向けーー

 

 「ああっ、新調した鎧が!」

 

 不審に思ったデュラハンが振り返る。そこには鎧に少し傷が入った程度でピンピンしているダクネスの姿があった。

 

 自分の一撃を耐えたことを上手く飲み込めていないデュラハン。今だと言わんばかりにダブルは戦線を離脱する。

 

 『少しの間耐えて貰おう。彼女も町を守りたいと思う一人の戦士だ』

 

 素早く駆け抜けカズマらの元に向かう。最低限の情報だけ伝えて復帰しよう。

 

 『君達に頼みがある。先程も見たと思うけど、奴には浄化魔法を耐えるだけの力がある。弱体化の方法は知っているんだが、僕達にその手立てはない』

 

 「つまり、あんただけじゃ倒せないってことか?」

 

 『そうなる。奴の弱点は水だ。水の魔法を使える人達を集めてきてくれ。その間に僕達は奴を拘束する』

 

 カズマの肩を叩き再び戦場に舞い戻っていくダブル。

 

 「行きましょうカズマ!ヒーローに頼まれるなんてなかなかありませんよ!」

 

 紅色の瞳を輝かせ興奮するめぐみんを宥めるカズマ。まぁ、集めるだけならやるか。

 

 「お前は荷物だからここな」

 

 「おい、幼気な少女を地面に放置とはどういう根性してるんですか!」

 

 幼気な少女は自分でそんなこと言わねぇよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 『翔太郎はさっきのどう思う』

 

 「頭投げたやつか?んなもん剣を操るのに邪魔だったから放り投げただけだろ」

 

 『同じ立場に立ったとして上空に放り投げるなんてことするかい?』

 

 まぁ、単純に考えればしねぇよな。邪魔なだけだったなら他に方法はいくらでもある。それこそ部下のアンデッドに持たせるとか。

 

 何かしら意図してやってるとしか思えねぇ。それが何なのか……僅かに感づいてはいるけれど、決定的じゃねぇ。それさえ分かれば攻略の糸口に繋がるかもしれない。

 

 あいつらに任せとけって言っちまったしな。

 

 攻撃が当たらずただ一方的に攻撃を受け続けるダクネス。鎧もズタズタになりインナーも見え始めている。

 

 「大丈夫か?」

 

 「もう少し時間かけてもよかったぞ」

 

 それは余裕だと言うのか、それとも性癖のどっちなのかはこの際置いとこう。

 

 「てっきり逃げたしたかと思ったぞ」

 

 「逃げ出すなんて一番やらねぇよ!」

 

 再び攻防が始まる。やっぱりヒートメタルで押し切った方が早いと見るか……だがここまで来ると別の手口は最後まで残しておきたい。

 

 サイクロンメタルのチェンジもありだが、お互いの長所を打ち消し会う組み合わせなので出来れば避けたいところだ。長丁場にはいいかもしれんが。

 

 「まどろっこしい」

 

 デュラハンは再び頭を上空に放り投げる。ダブルはそれを見逃さず、今度は攻めずに頭に意識を集中させる。

 

 兜の中から妖しく輝く赤い瞳。何かを発動させているようだった。

 

 ダクネスは今の内だと剣を振るう。デュラハンはそれを防御、簡単に凪払った。

 

 『翔太郎』 

 

 「ああ。なんとなーく、分かったぜ」

 

 吹き飛ぶダクネスを全身で受け止める。

 

 『作戦がある』

 

 「作戦だと……例え味方をしてくれるモンスターでも私は心までは屈しない!」

 

 『どう捉えて貰っても結構だ。聞くだけ聞いてほしい』

 

 「くっ……意見を無視されるのも悪くない」

 

 顔を紅潮させるダクネス。しかしフィリップはそのまま話を続ける。こいつ、もしかしてSなのか?

 

 『出来るかい?』

 

 「勿論、むしろご褒美だ!」

 

 意気揚々と駆けていくダクネス。俺達も立ち上がり準備を始める。

 

 「お前ってさ……」

 

 『なんだい?……しかし、紅潮する程限界が来ているというのに大変なことを頼んでしまった』

 

 「……えっ」

 

 『ところでご褒美とか言っていたけれどどういうことか分かるかい?』

 

 「お前は知らなくていいことだ」

 

 ダクネスの跡を追い駆け出す。さぁ、反撃開始と行くか!

 

 「まだ諦めないか」

 

 「ああ。ようやくお前の弱点も分かったことだしな、覚悟しろよ」 

 

 挑発するように顎を動かす。しかし、デュラハンは舐めきった調子だった。

 

 「弱点だと?馬鹿なことを」

 

 「お前、水が苦手だろ?」

 

 ほんの一瞬だけデュラハンの動きが鈍った。すぐに元に戻るもそれを俺達は見逃さない。

 

 動揺はしているはず。ここで一気に決めてくるはずだ。まずはーーそう、ダクネスに。

 

 俺達よりも防御が高くて厄介なダクネスを狙うはず。水が弱点だと分かっていれば早々に俺達は仕掛けるはず。

 

 しかし、仕掛けてこないということは使えないの一択に絞られる。実際、今まで肉弾戦だったからそう思うはず。

 

 それにその情報が町の奴らに伝えようとしたとて、今の姿の俺達かダクネス、どちらを信じるかと言われたら普段からいるダクネスだ。一応クルセイダーということもある。

 

 ダクネスは剣を振り回すもやはり当たらない。相手の攻撃をガンガン受け、満身創痍のはずだが……

 

 「ええい、面倒だ!一気に片付ける!」

 

 三度目のあれが始まった。先程と同じように妖しく輝く赤い目を察しダブルは動き出す。

 

 全てを狙ったようにデュラハンはダクネスからの攻撃を避ける。その隙に確実に仕留める勢いでダメージを与えた。

 

 ダブルは止めの一撃からダクネスを庇うように立ち塞がる。きっと兜の下もほくそ笑みを浮かべているはすだ。僕達の全てを知らなければ。

 

 

 

【Luna×Metal】

 

 

 

 止めの一撃は背中に背負われるように生成されたメタルシャフトによって受け止められていた。緑と黒のカラーリングとは違う、黄色と銀色のカラーリングにデュラハンは度肝を抜かれていた。

 

 メタルシャフトを素早く引き抜き返り討ちを浴びせる。殴打物の一撃は蹴りとは比較出来ないものだったようで初めてバランスを崩し頭を取り損ねる。

 

 「これ、貰ってくぜ」

 

 「なっーー」

 

 先に拾われてしまった頭。急いで立ち上がり無茶苦茶な剣を振るうも簡単にいなされる。

 

 ダブルは剣の射程外まで距離を取ると、【ルナメモリ】によって与えられた鞭のように伸縮するシャフトでダクネスを寄せる。

 

 『頭を投げる行為。それは相手がこれからする動きを予測する力だ』

 

 「最初に受けた時に違和感があった。まるでここに来ると、多少なり分かっていたような感じだったしな」

 

 見破られると思っていなかったのか、デュラハンの足取りは迷いがあった。ま、ハーフチェンジまでは入ってなかったんだろうな。

 

 「待て、お前はモンスターのはずだろう」

 

 「確かに強い力だ。でも、決まってる未来なんて三流の描くミステリー小説よりもつまらねぇ」

 

 【Metal Maximum Drive!】

 

 「『メタル・イリュージョン!』」

 

 メタルメモリをシャフトに装填し豪快に振り回す。現れた六つの光の輪の内三つがデュラハンを攻撃し、残りは身柄を拘束する。

 

 「裏技ってやつだ」

 

 「バインドか?!しかし、お前では私を……」

 

 『そうだね。後は彼らに任せよう』

 

 譲るようにその場から退くと、背後にはカズマを始め多くの冒険者達が構えていた。それを見て必死に解放しようとするも、先に先制を取ったのは冒険者達だった

 

 「「「【クリエイト・ウォーター】!」」」

 

 一斉に水を浴びせられ、情けない声を上げるデュラハン。こんだけいれば弱体化もやむ無しだな。

 

 頭をダクネスに投げ渡した俺達は逃げるように早々と引き上げる。結構な長丁場になったな。

 

 なにも言わず颯爽と去っていくダブルを見て、ただ一人、それを見ていたダクネスは恍惚のため息をつく。

 

 「まだまだだな、私も」

 

 デュラハンの頭を転がし、ダクネス渾身の一撃が兜に響き渡った。

 

 




「ゲームで切れる奴の気が知れねぇよな。そんなんだったら俺なんて現実で生きていけねぇよ」

「ハーフボイルドと言われて怒る君も大概だよ」

「相棒言えど俺の逆鱗に触れたらどうなるか教えてやる」


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Bがやって来る/野菜売りの少女

 デュラハンの戦闘から数日。無事に危機も去り、町は平和を取り戻していた。

 

 幸い死者も出なかった他、ダブルという強い味方がいると分かった町の人々の噂はそれに持ちきりになった。

 

 一方の俺達はというと、フィリップは戦いに現れなかったこと、俺は途中で逃げ出した腰抜けと言われ評価は下がりっぱなし。仕方ないことだと割りきっていたがーー

 

 「その内ボロを出すと思っていたから放っておいたけど、まさか相棒さんから知ることになるとはねぇ」

 

路地裏でメリッサに拘束されている。壁に押し付けられてワイヤーで取り押さえられたこの状況に冷や汗を垂れ流す。

 

 話ではフィリップがウィズの店に行った時には既におり、自分には関係ないと言わんばかりに紅茶を飲んでいたという。それからダブルに変身した都合上、メリッサにも見られてしまったと。

 

 ウィズは急に意識を失ったフィリップにパニックになっていたが、誤解はその時に解けたとしてーー厄介な奴に知られたもんだ。

 

 「待て、待ってくれ。俺だって危ない代物だから話さなかっただけだ。何も知らないで触ってたら」

 

 「聞いたわ。一種の薬物中毒になって、取り返しのつかないことになる……ただ、強大な力が秘められているって」

 

 メリッサはワイヤーを外した。地面に着地し帽子を整える。

 

 「何か利用しようと思ってたけど……まぁいいわ。私が許せないのはあんたが黙りを決め込んだことよ。道具としての自覚あるの?」

 

 「そんなもんあるか!」

 

 本当になんだこいつ。こんなのと組んでて役に立つのかよ……

 

 「ま、ゴミは自らゴミ箱に行かないからね。じゃあここは一つ、あんたの相棒にも体に教えてあげないといけないかしら」

 

 手を上げようとするメリッサに、先に俺は思わず頬をひっぱたいてしまった。口ではとやかく言っていた俺だったが、今回はこれが初めてだった。

 

 「……良い度胸じゃない」

 

 「度胸とかじゃねぇ。俺を罵倒するのはまだいい。ハーフボイルドだと言われてもな。でも相棒をとやかく言うことは許さねぇ。無論、他の人達に関してもだ」

 

 盗人とはいえ、女相手に手を上げちまうなんてハードボイルド以前に男として最低だ。

 

 目を閉じ腕を組んでやり返されるのを待つ。しかし、それはなかなか来なかった。

 

 うっすらと目を開けるとメリッサは既にいなかった。どこ行ったんだよ……

 

 頭を掻きながら路地裏を後にする。【潜伏】のスキルで隠れていたメリッサはそれを解除し姿を現した。

 

 じんじんと痛みが残る頬を触れる。ピリッと、痺れる痛みが走った。

 

 「……生意気ね」

 

 心底嫌そうにメリッサは呟いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 馬小屋に戻るとそこにはめぐみんとフィリップが何か話をしていた。

 

 「お前、こんなとこでサボってて良いのか?」

  

 「いいんです。大体、町が半壊したのはアクアが無駄に大量の水を召喚したからなんですから。寧ろ被害者です」

 

 頷けるのも無理もない。俺達ダブルが去った後、町の冒険者に任せたらなぜか大洪水に襲われ町が半壊した。どうもアクアが犯人らしい。

 

 デュラハンを倒し特別報酬金を俺達ではなく止めをつけたカズマのパーティーに送られたが、被害額により全ての報酬金を失くした他、借金を背負う羽目になった。

 

 その時アクアは自棄になって俺に対してカズマより臆病だのと暴言を吐かれ、思わず出た言葉が『溜め込んでる報酬金を払え』だ。何をむきにと思ったが、カズマ側から反省の意味も込めて上乗せされた。

 

 「で、クエストには行かないのかい」

 

 「もちろん行きますよ。その前に依頼があるのです。ダブルの正体を暴いてくれませんか?」

 

 「暴いてどうするんだい?」

 

 「お礼とファンになったことを伝えたいのです!お前の罪を数えろ……痺れました!紅魔族の壺をピンポイントで刺激して来ます!」

 

 羨望の眼差しに二人はどう反応するべきかと顔を合わせる。

 

 「……分かった。その代わり何も掴めなくても文句言うなよ」

 

 釘を刺すようにめぐみんに言うと、元気な返事をして馬小屋を出ていった。はてさてどうしたもんか。

 

 自分で言うのもあれだが、こういうのって正体不明だから良いんじゃないのか?

 

 「適当に身辺調査して終わらせるか」

 

 「だね。言わなければいけない時がきっと来る」

 

 フィリップは立ち上がり馬小屋を出ていった。俺も今回の件で信頼を失った分、取り戻さないとな。

 

 

 

 翔太郎が町中を駆け巡るなか、フィリップは一人で女神エリスを象った噴水に座っていた。

 

 どうしてあの時、僕はアクアちゃんの浄化魔法を喰らって体調を崩したのか。

 

 仮に肉体的ダメージがあるものだとしても、それは翔太郎にもダメージを受けるはず。それなのにそれらしい様子も見なかった。

 

 何が原因なんだろうか……精神に問題があるとすれば、僕には耐性が付いている。最も別のものと考えてしまえばそれはそれで出てくるのだが、基本はないだろう。

 

 「お前も悩み事かー?」

 

 「ん……まぁね。そういう君は?」

 

 「うーん……ミーアも悩みじゃないけど、エイミーに迷惑かけちゃって」

 

 ミーアと名乗る少女は獣耳を携えてオーバーオールを着た、小学生程の年齢だった。

 

 「ミーアはな、エイミーと一緒に野菜を売りに来てるんだけど、計算とかよく間違えて……。エイミーは大丈夫って言うんだけど、他にも困らせてばっかりだ」

 

 子どもは世話がかかるくらいが丁度いいというが……実際、魔王軍との戦いがあったりもして教育環境は充実どころか働いていない節もある。彼女の場合手伝い程度だと思うが、教養はなくて困らないことはない。

 

 教養がなくてもスキルカードで個々の能力が数値化され、それに合わせて職を選ぶ。合理的だがある意味統治されてしまっているこの世界では全くという訳じゃないが、貴族などの身分じゃないと教養は受けられないのかもしれない。

 

 例として、紅魔族はほとんど魔法使い職か店を営む者ばかりだ。スキルも誰かに一度教えて貰えば習得出来てしまうので学ぶ機会がめっぽう減る。

 

 ミーアの落ち込んでいる表情を見て、フィリップはあることを思い付く。

 

 「ミーアちゃん。もし良かったら僕と勉強しないかい?」

 

 「勉強?」

 

 「ああ。施設がなくても簡単に出来る」

 

 「本当……でも、お金とか」

 

 「いらないよ。さ、行こうか」

 

 フィリップはミーアを連れ歩き出す。いつの間にか自分が悩んでいたことも忘れてしまっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 町から少し離れた木陰で、僕とミーアちゃんの二人で色々な話をしながら勉強をしていた。

 

 ミーアちゃんはサムイドーという北の国からやって来た商人で野菜を売っている。何でも獣人が採る野菜はなぜか美味しくなるらしくそれなりに稼げるらしい。

 

 けれどミーアちゃんはそれが不服らしく、野菜ばかりで肉が食べられないと嘆いている。

 

 「外で勉強なんて考えたことなかったぞ。サムイドーじゃなまら雪が積もってそれどころじゃないから」

 

 「青空教室って言って……なまら?なまらとは一体?」

 

 「なまらはなまらだ。フィリップは言葉の勉強だな!」

 

 僕達二人の勉強会は夕暮れになるまで続いた。

 

 

 

 ーー翌日。

 

 翔太郎によるとなまらとは北の方言らしく、『すごい』などの意味があるらしい。順当にいけば『すごい雪が積もっている』との意味なので合っていると思う。

 

 噴水前を通ると、ミーアちゃんがきょろきょろと誰かを探している。僕と目が合うと走りだし飛び出してきた。

 

 「今日も勉強だ!」

 

 「手伝いはいいのかい?」

 

 「エイミーに出かけるって言ったらいいよって言ってくれたぞ。それにな、分かるって楽しいことだぞ」

 

 満面の笑みだった。末っ子の僕としては、まるで妹でも出来たような感覚だった。

 

 どうやらしばらくはこの関係が続くみたいだ。



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Bがやって来る/不完全であること

「投稿までに随分間が空いたようだね」

「内容が出てこなかったらしいぜ」

「ミーアちゃんを出したかっただけが仇となったね。エイミーも出てないし、引きずりそうだ」


 「最近フィリップの様子がおかしい」

 

 「それだけの為に集められたのか俺達?」

 

 冒険者ギルドにて。翔太郎とカズマのパーティー、そしてデュラハン討伐の時にはクエストでいなかったクリスを交えて会合をしていた。

 

 「おかしいというのは言動がですか?」

 

 「お前じゃないからそれはないだろ」  

 

 「おい、どういうことか教えて貰おうか」

 

 小競り合いを始めるカズマとめぐみんは放っておき詳しく話を始めた。

 

 俺としては評判を取り戻すために依頼をこなす毎日を送っているのだか、フィリップは用事があると言って付き合ってくれない。

 

 それがどうしたと言われると何でもないのだが、時たま夜中にこそこそと何かをしている。またウィズに商品開発でも頼まれたかと思ったけど、本人に確認したら何もないという。

 

 他の冒険者らはほとんどが巣籠もりのようにクエストに行かなくなってる。それもこれもデュラハン討伐の際に出た報酬があるのだが……俺達には関係ない。

 

 というか今のこの状況に慣れつつある自分達もなんとかしなければ。ガイアメモリの詮索と回収、やることもたくさんある。そしていずれは風都に帰る。

 

 デュラハンの奴は持っていなかったが、ガイアメモリが魔王軍に落ちてしまっている可能性も考えられる。……あれ、なら【T2ジョーカーメモリ】は俺のところに来てもいいはずだよな?

 

 もう既にジョーカーメモリに関しては誰かの手に渡ってしまっているってことか……?

 

 「翔太郎?」

 

 「ん?ああ、すまねぇ。で、だ。まぁ特に何を手伝ってくれって訳じゃねぇけど、何か分かることがあったらーー」

 

 「翔太郎……」

 

 力なくぐったりとした様子で当の本人であるフィリップがやって来た。

 

 「どうした?」

 

 「実はーー」

 

 「いた!」

 

 獣耳の少女を先頭に後から子ども達が4人程のギルドにやって来るとフィリップに飛び付いた。そのまま下敷きにされ、やがて引き剥がされる。……随分と慕われているようで。

 

 「今度はフィリップ先生が鬼ね!」

 

 一人が言い出し一斉に逃げ出していく。遊んでるのか遊ばれてるのかどっちだ……たぶん後者だな。

 

 「ねぇ、今先生って呼ばれなかった?」

 

 「ああ……実は最近、青空教室を始めてね。最初はミーアちゃんだけだったんだけど今やこの通りさ」

 

 服に付いた埃を払い整えながら立ち上がるフィリップ。青空教室……そんなの始めてたのか。通りで付き合いが悪いわけだ。

 

 「その青空教室とは?」

 

 「屋外で行う勉強会みたいなものさ。教養施設がないなら自分達で何とかすればいいじゃないかと。必要なのは学びたい心構えだけさ」

 

 「その割には遊んでたじゃない」

 

 「勉学ばかりじゃつまらないだろう」

 

 アクアの話にフィリップが当たり前の正論で返してきた。それを聞いたダクネスはうんうんと頷いていた。

 

 「その青空教室とやらにはどれだけの費用がかかっているんだ?」

 

 「費用はゼロだよ。お金を取ることもしてない」

 

 「ならどうやって……」

 

 「砂地に文字を書けば練習になる。計算だってちゃんと教えれば暗算も出来る。紙は僕が持ってる本を使ってる」

 

 フィリップが取り出した愛用の本はもう既に半分以上ページがなくなっていた。それ、検索に必要なんじゃねぇの?

 

 「そろそろ探しに行かないと」

 

 ギルドを出ていくフィリップ。あいつがあんな側面を見せるなんて考えられなかった。成長してるって証か。

 

 しかし、あの調子だと青空教室も忙しそうだ。ここは一人でやれるものを……

 

 「左さんはいらっしゃいますか?」

 

 受付嬢のルナさんがやって来た。ここの職員には割と信頼されている方で仕事があるとよくこうやってやって来る。

 

 「何の用事だ」

 

 「近づいてきている起動要塞デストロイヤーについての調査をお願いしたいのですが……あっ、盗賊職のクリスさんも一緒にお願いできませんか?」

 

 「私?まぁ、構わないけど……」

 

 チラリと俺を見るクリス。別に盗みとかやってなきゃ取っ捕まえたりしねぇよ。

 

 「それよりそのデストロイヤーってなんだよ」

 

 「デストロイヤーはデストロイヤーです。わしゃわしゃ動いて全てを蹂躙していきます」

 

 めぐみんの説明に訳が分からんとカズマと一緒に首を傾げた。爆裂狂とはいえ紅魔族の説明で分からんなら無理がある。

 

 「クリスは分かるのか?」

 

 「当たり前だよ」

 

 「なら大丈夫か。その依頼、引き受けるぜ」

 

 まずは現時点で分かっていることを洗おう。翔太郎は早々に立ち上がりクリスと視線を合わせ行動に入った。 

 

 

 ……盗賊と仕事やるの、割と多くね?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 いつもの木陰の下で、ミーアちゃんらの教師をしている。しかし今日は僕以外にもう一人来ている。

 

 「本当に外なんだな……」

 

 僕の青空教室の話を受け、ダクネスちゃんがやって来た。なんでも詳しく知りたいらしい。

 

 「隣のお姉さんはフィリップの彼女なの?」

 

 五人の生徒の内、ミーアちゃん以外のもう一人の女の子が尋ねてきた。

 

 「かの……?!」

 

 「違うよ。彼女も君達と同じでここがどういうところか知りたいから来たんだ」

 

 やんわりと、しかししっかりと断られ若干傷つく。フィリップから見たらそこまで魅力がないのだろうか……

 

 各々が好きなように勉学を始める。教科書も机もない、あるのはフィリップが持っていた本から破いた紙だけ。しかし紙でも貴重なのになぜ最初からあそこまで分厚い本を持っていたのだろうか。

 

 もしかしてフィリップはどこかの貴族出身とか……

 

 「難しい顔をしてどうしたんだい?」

 

 「えっ、いや……紙でもそれなりに高いはずだ。一冒険者がなぜここまでと思って」

 

 「なるほど。まぁ、僕もそれなりに経験してきたからね。君達のところで言うと没落貴族がしっくりくるだろう」

 

 表情は崩さずとも、瞳の奥は悲しげな雰囲気を漂わせていた。まずいところを踏んでしまったと、ダクネスも唇を噛み締める。

 

 「その、すまない」

 

 「謝ることはない。元々特殊な家族だったからね。翔太郎に出会ってなければ今頃もっと多くの人々を悲しませていた。今もその罪滅ぼしの為に僕は生きている」

 

 例え他人から見て極悪非道の家族だったとしても、僕を残してくれた姉さんや両親は大事な家族だ。その分まで生きていくことが僕が出来る恩返し。

 

 「フィリップ、ここが分からないぞ」

 

 「どれどれ……ああ、ここならミーアちゃんが分かるから聞いてみるといい。それでも分からなかったらまたおいで」

 

 生徒は頷きミーアの元に駆け寄っていく。

 

 「毎日こんな感じなのか?」

 

 「新しいことをする時はちゃんと教えるよ。けれどただ教わっただけじゃ意味がない。それがどうしてそうなるのか説明出来て初めて学ぶことに繋がると思ってるよ」

 

 見る限り基本的に野放し状態だ。しっかり取り組んでる子もいればあまり集中していない子もいる。何というか……自由だ。

 

 これでお金を取っているというのなら問題があるのかもしれないが、それもないので何とも言えない。嫌ならば来なくてもいいーーそれがここの基盤なのだろう。

 

 「フィリップ、腹減ったぞ!」

 

 「まだお昼には大分早いよ」

 

 「ならおやつだ!」

 

 「……じゃあこうしようか。今から出す問題に正解したら何でも好きなものを買ってあげよう」

 

 到底子どもに向けるものではない不適な笑みを浮かべる。そのマッドな変わりようにダクネスは思わず身震いした。まさか真性はSなのか……?

 

 

 その後、見事に撃沈した子ども達を宥めながら結局串焼きを買っていた。もので釣ったことを抜きにしてもここまでうち解け合っているのは凄い。

 

 「フィリップは人の心を掴むのが上手いな」

 

 そう言うとフィリップは小さく首を横に振った。

 

 「最初はこんな風じゃなかった。自分の事が最優先のわがままだったよ。僕を変えてくれたのは他でもない翔太郎と、そのきっかけをくれた翔太郎の師匠の鳴海壮吉だ」

 

 「鳴海壮吉?」

 

 「僕が犯していた罪を教えてくれた。『自分で決めて最後までやりきったことはあるか』とね」

 

 フィリップはダクネスの顔を見て話し始める。

 

 「僕があの子達に知って欲しいのは『Nobody's perfect(完全なものはいない)』さ。互いに支えあっていくのが人生というゲーム。勉学よりも大事なものだと思ってるよ」

 

 少年のような屈託のない笑顔だった。完全なものはいない、か……。

 

 自分が間違っていたら誰かが止めてくれる。その誰かが翔太郎なのだろう。それはきっと翔太郎も同じ。

 

 「フィリップ、ダクネス!」

 

 ミーアの呼ぶ声が聞こえる。先にいる子ども達の元へ二人は駆け出した。




雑な終わり方になった。だが私は謝らない


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Uが欲したもの/苦労人の辛さ

「チャイナウィズが天井で出やがったぁぁ!」

「チャイナ……?どうしたんだ急に」

「分からない……なんか乗っ取られたような感覚だった」



 翔太郎がクリスとともにデストロイヤーに関する調査の長期クエストに出て数日、一方の俺達は未だ底を尽きない借金に悩まされていた。

 

 【雪精討伐】という比較的安全なクエストを受けたつもりがどこかの同郷のバカによって産み出された【冬将軍】なるモンスターに首をはねられ死んでしまったり。

 

 ダストのパーティーと一日交代してあいつらの面倒を見るのがどれだけ大変かを知らしめたり。そして俺の有能さがどれだけ凄いかを見せつけたり。

 

 死んだので借金も何もかもリセットなんてそんな都合よく行くわけもなかった。

 

 そこで導きだした答えは一つ。火力がめぐみんの爆裂魔法に片寄っている俺達のパーティー。自分で言うのもなんだが貧弱な俺が渡り合っていくには下手に強くなるよりも相手の弱体化を狙った方がいい。

 

 「というわけでやって来たんだが……」

 

 「やけに繁盛してるわね。店を燃やして消火のふりして浄化させちゃおうかしら」

 

 物騒なことを言うアクアにチョップを入れる。二人でやって来たのはとあるマジックアイテムショップ。あのリッチ-のウィズが経営してると聞いてはいたが、あまりの繁盛ぶりに開いた口が塞がらない。

 

 普通に考えてリッチ-が店をやってるってだけで問題があるはずなのになんでなんだよ。

 

 人混みを掻い潜り窓から内部を見るとウィズに加えてこの間知り合った獣人のミーアともう一人、癒し系のお姉さんがエプロンをして店番をしていた。ああ、こりゃ流行るわ。よく見たらほぼ男だし。

 

 やっとの思いで入店すると三人に歓迎される。ああ、俺に足りなかったのってこれだったんだな……めぐみんの代わりにウィズ、ダクネスの代わりに防御は割くけど攻撃が当たるミーア、そんで……

 

 「貴方がカズマ君ね。フィリップ君のお友達って聞いてるわ」

 

 このほんわかした感じはヒーラ-だな。パーティー総入れ替えしようやマジで。

 

 「私はエイミー。ミーアちゃんのお姉ちゃん。血は繋がってないけどね」

 

 血の繋がらないお姉ちゃんとかもう完璧じゃねぇか。あれ、もしかしてここが楽園……?

 

 「いい加減戻ってきなさいな。あんたには女神がいるのに何が不満なのよ」

 

 「全部」

 

 「上等じゃないのよクソニート!」

 

 魔法を唱え始めるアクアを見て一斉に逃げ始める客ら。悲壮感漂う声を出しながら崩れるウィズらに俺は急いでアクアの魔法を止めた。あの悲劇(洪水)を起こしてはならない。

 

 「んで、ミーアとエイミーはなんでここに?」

 

 「ミーアちゃんもしばらく面倒見て貰ってたし、彼もそろそろクエストに動かないと金銭的にも困るようだから」

 

 「野菜もほとんどが売り切ったからな。恩返しだ!」

 

 ミーアの頭を撫でながら笑顔で答えるエイミー。ウィズの商品開発にミーアの面倒とか、あいつ意外と色んなことやってたんだな。

 

 「ところでカズマさんは何を?」

 

 「ああ、ウィズにリーースキルを教えて貰おうと思って」

 

 思わずリッチ-スキルと言いそうになった。俺とアクアは知っているが……危なかった。

 

 「この間約束してたやつですか。魔法にしますか?それともリッチ-スキルも便利ですよ」

 

 自分から言うのかよっ?!すぐに二人を見るとしっかり聞こえていなかったのかこれといった反応は見せていない。

 

 「あんたリッチ-なんかに教わるつもりなの?止めときなさいな、ただでさえナメクジみたいな場所に住んでる奴に」

 

 「ひ、ひどい!」

 

 おい、俺の配慮を返してくれ。

 

 「リッチ-ってなんだ?」

 

 「リッチ-って言うのは凄い魔法使いのことよ。でもあまり言いふらしたらだめよ。ウィズさんに迷惑かかっちゃうからね」

 

 「分かったぞ」

 

 「ちゃんと分かってくれるミーアちゃんも可愛いわ」

 

 こっちもこっちで勝手に納得しちゃってるし、過保護発動してるし……普通に見えたけど、これ対象が恋人とかだったらヤンデレになる可能性が出てきたな。

 

 それはそれ、これはこれと置いといて。改めて本題に入るとするか。第一この街にリッチ-がいるって噂が広がったところで誰も信じないだろう。

 

 「ウィズの話通りだ。なにかいいスキル持ってないか?」

 

 「そうですね……ドレインタッチなんてどうでしょう。相手の体力や魔力を吸って自分のものにしたり仲間に分け与えることも出来ますよ」

 

 タッチというからには直接触らないといけないのが難点かもしれないがいいかもしれない。ダクネスを囮にした隙とか、爆裂魔法で撃ち漏らした敵の止めとか。

 

 「じゃあそれをーーの前に実際に見ないといけないのか」

 

 スキルを覚えるには実際に見る必要がある。【エクスプロージョン】や【デコイ】はもう習得しようと思えば出来る。前者は圧倒的にポイントが足りないし後者は使おうものならすぐにやられる。

 

 アクアは断固として拒否を示す。まぁ、お前とウィズじゃ逆にウィズが危なくなりそうだからあり得ないだろう。ダクネスを連れてくるべきだったな……

 

 「少し魔力を吸われるくらいなら私がやりましょうか?」

 

 名乗り出たのはエイミーだった。

 

 「いや、関係ないのにそんなこと……」

 

 「困った時はお互い様、ね」

 

 柔らかい指が俺の鼻先に触れる。ヤバい、心臓バクバク鳴ってる。もしかして殺しに来てるのか?

 

 落ち着かせて俺は本当に申し訳なくお願いすることにした。二人は向かい合いウィズがエイミーの手を重ねる。出来るならその間に挟まりたいです。

 

 とまぁ、半分本気の冗談は置いといて。スキルカードを見ると【ドレインタッチ】の文字が記載されていた。

 

 それをタッチすると【スキル欄】に新しくドレインタッチが記載される。これで完了だ。

 

 「ウィズさんはいらっしゃいますか」

 

 扉を開けたのは五十代ぐらいの男性。とても冒険者には見えなかったので商人か何かだろうか。

 

 「どうなさいました?」

 

 「実は私が管理してる屋敷に幽霊が出ると……高名な魔法使いでアンデッドに強いウィズさんなら何とかしてくれると聞いたものですから」

 

 高名とは聞いていたが、アンデッドに強いというのはリッチ-に尾びれが付いたんだろう。迷える魂を導くとか言ってたし。

 

 「分かりました。今準備をーー」

 

 「待ちなさい!アンデッドに関しては私の方が上よ。ウィズ、どちらが先にその幽霊を浄霊できるか勝負よ。私が買ったらあんたには借金の全額を肩代わりしでっ?!」

 

 「そんなバカな勝負乗るか。ウィズに利点がないだろ」

 

 「だって翔太郎もあれ以来全然手伝ってくれないのよ?!アクシズ教の女神として司祭ぐらいの地位をあげようと思ってたのに!」

 

 司祭ぐらいの地位ってなんだよ。貰ってもはた迷惑なだけだし、あっちはそんなつもりもない。

 

 「お前がちゃんと報酬を……」

 

 ふと周りを見ると既に男性はおらず、ウィズとエイミーもミーアを抱き抱えて距離を取っている。

 

 「アクシズ教徒は頭がおかしい人ばかりなので関わるなって長老に言われたぞ」

 

 「その長老って誰よ!私の可愛い信者をそんな……ほ、本当にいい子なのよ?ただ少し過激なだけで」

 

 過激って自覚あるなら何とかしろ。

 

 「俺はアクシズ教じゃないからな」

 

 いや本当だって。信じてくれよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 町の人達に聞いてみると、どうやら幽霊屋敷として元から噂されていたらしいが、最近より多くの幽霊が集まり始めて遂にクエスト規模になったようだ。

 

 しかしこちらにはそれの元締め的なウィズと滅法強いアクアがいる。途中でめぐみんと、フィリップのクエストに同行していたダクネスと合流したし大丈夫だろう。

 

 「クエストに行くなら一声かけてくれてもいいじゃないですか」

 

 「先に出ていってしまったのはめぐみんの方だろう」

 

 二人の言い合いを聞きながら幽霊屋敷にたどり着く。確かに立派な屋敷だ。遊園地とかの舞台で出てきても差し支えない。

 

 「ところであのまま付いてきたけれど、僕はどうして呼ばれたのかな」

 

 「それはねフィリップ。貴方に相談があるからよ。ま、その前にちゃちゃっとそこのリッチーと一緒に浄化しちゃいましょ」

 

 「ひぃ?!」

 

 冗談でもそういうこと言うな。……いや、こいつの場合冗談じゃないか。

 

 「フィリップはこいつがウィズに手を出さないか見ていてくれないか」

 

 「了解した」

 

 屋敷の幽霊退治ーーいや、蹂躙が始まった。

 

 

 

 その日の暮れのこと。

 

 無事にクエストを終えて帰還した翔太郎とクリス。偵察は探偵の基本というが、対象がデカすぎる。数十キロ離れてても確認できるレベルだった。

 

 しかも通った場所は建造物から木々から何まで残らない始末。こんなのが一週間もしない内にやって来るのか……偵察じゃなくて作戦を立てろ作戦を。

 

 「こういうのって普通こっちの描写しない?」

 

 「何の話してんだ。報告書は出しとくからどっか座ってろ」

 

 色々とあるが今回に関してはクリスの盗賊スキルが役立った。確かに尾行とか便利は便利だった。なんで探偵スキルじゃないんだよ。

 

 窓口に向かった翔太郎を見ながらクリスは適当な席に座ると早速シュワシュワを頼んだ。こっちに付いていけば私のメインの話だと思ったのにとんだ仕打ちだよ。私だって出番が欲しい!

 

 「なんて嘆いても書いてる人の力量じゃ私の本領を表現しきれないか」

 

 メタとかではなく純粋にそっちの視点から見てるからね。彼が仮面ライダーWだと言うことももちろん知ってる。あんな堂々と教会で変身したら丸分かりってことで。

 

 問題はどうやってやって来たのかってこと。詳しく知るなら本人に聞くのが一番だけどこっちの正体がバレる可能性がある。

 

 「依頼した人(・・・・・)はどうしてるかな……」

 

 アクア先輩は何でも好きなものをってルールに決めたけど、流石にあのレベルは不味すぎる。そんなものが26本、果てしないものだ。

 

 「うぃーす……お前、酒頼んだだろ」

 

 「シュワシュワはお酒じゃないでーす」

 

 「ノンアルコールでも未成年が飲むな」

 

 これでも貴方より歳上ですけど?!

 

 「そんなこと言ったらダクネスは18歳で生き遅れって言われてるんだからね!」

 

 「誰が生き遅れか教えて貰おうか」

 

 背後からのダクネスの手がクリスの頭を掴んだ。隣では付いてきていたフィリップもいる。

 

 「いだいいだいすみませんでしたぁ!」

 

 「全く……本当に生き遅れじゃないからな?」

 

 むしろまだ早いから安心しろ。

 

 「で、お前らはどうした?」 

 

 「翔太郎に話があってね。実は今日、アクアちゃんが幽霊屋敷で幽霊退治をした際に持ち主から噂が無くなるまで住んでみないかと言われて」

 

 「いいんじゃねーの。俺に何の繋がりが?」

 

 「住まわせてあげるから報酬金無しにしろと」

 

 「なるほど。お前は?」

 

 「いい話じゃないかな。それにカズマ君も肩身が狭くなりそうだしね」

 

 報酬金無しってのはあれだが、悪い話じゃない。そのまま家賃に消えてったと思えばいい。 

 

 「まだ大元が消えていないようだからポルターガイストに注意なのが欠点かな」

 

 「はっ、今さら幽霊程度にビビるかよ」

 

 その日の深夜。予想以上のビビらせ具合に俺はどうすることもできなかった。




クリスの立ち位置がメタ視点になるぅぅぅ!


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Uが欲したもの/夢見る憂鬱

「俺達もアニメ化か、もう10年も前なのにな」

「声は声優さんになるんだろうか」

「分からんな。来年夏ってことは一年あるし、ワンチャンって感じか。詳しくしらないけどな」


 起動要塞デストロイヤーとやらが接近していても町の様子は変わらなかった。話を聞く限りでは物騒だが、この世界にはモンスターやらなんやらがいる。

 

 全てを蹂躙するとか言っているが実際は大したものでもないのかもしれない。ヤバかったらもっと焦ったりしてるもんだ。

 

 暇潰しのままに町を歩いていると明らかに不審者の動きをしているダストとキースを見つけた。警察に出すべきか、一旦翔太郎らに預けるべきか。

 

 「なにしてんだ」

 

 「カズマ?!バカ、声が大きい!」

 

 お前の方が大きいぞ。

 

 「あそこまで不審だったら聞くだろ。何だったら通報も考えたわ」

 

 「マジか……いや、今はそれじゃない。この路地裏の奥にサキュバスの店があることを知ってるか?」

 

 「詳しく」

 

 二人の話を聞くにサキュバスの店があるのは本当らしい。何でも男性冒険者が次世代へ脈絡と受け継いでいっている。

 

 概要と言っては風俗とかではない。お金と性気を少し貰う代わりに好きな夢を見させて貰う。内容は何でもいいらしいがそりゃサキュバスと聞けばそりゃ卑猥なものにもなるさ。

 

 ま、つまり男性の性欲発散に使われてる模様だ。女の冒険者が来ているかどうかは知らないがそれならインキュバスになるんだろうな。

 

 俺達は意を決して店内に入ると想像通りの格好をしたサキュバス店員と幾つかの男性客。そしてーー

 

 「何しにきてんだお前ら」

 

 翔太郎とフィリップがいたーーいや、こっちの台詞だよ。お前らみたいなのは逆に来ないと思ってたんだけど。

 

 「ほー、ハードボイルドとか未成年がとか言ってる割に自分はちゃっかりか。フィリップに関してはまだ同じ未成年だろうが」

 

 「言っとくがこんなことに金を使える程稼げちゃいない。俺達が来てるのは調査に関してだ」

 

 何でもこの店を見つけたのはフィリップが最初らしい。探偵にとって幅広い交遊関係を築くのも仕事の内。人だけでなく悪意のない悪魔を信じてみるのもいいかもしれないというのが始まり。

 

 先のメリッサとの一件で警察やらとの繋がりが出来た翔太郎。サキュバスらにとって危ないのではと思ったが、下手に手を出さなければ通報もしなければ寧ろ庇うことを条件に関係を築いたという。

 

 「ここに来る殆どの客は下世話の夢を依頼する。だが、例えばテロ行為などのシュミレーションとして利用する手もある。そういう要望があれば要注意人物としてマーク出来るだろう」

 

 「事前に犯罪を防げればそれだけ町の安全に繋がる。感謝状とかお金に関しては店に付与。それに悪魔にしか知らないこともあるだろうしな」

 

 割とごもっともな意見でぐうの音も出ない。サキュバスのお姉さん達もお客さんが減るのは望んでないだろうし。

 

 「こう言うのもなんだが、よく悪魔を信じてみようとか思ったな」

 

 「ほいほいやってきてるお前らが言うか」

 

 悪魔との相乗りなら幾らでもしてきた。今そんなこと言ったら怒るだろう。俺だって自分のことみたいに怒る。

 

 「俺からすればお前らがこういう店に来てることが通報もんだけど?」

 

 机をとんとん叩きながら圧をかけてくる。尋問所がここは。

 

 「あの、ここは夢を提供するだけですのでそういったサービスは……」

 

 ですよね、はい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 俺達はカズマらを残し先に店を出た。やることは終わったし、どうやら町は平和なようだ。

 

 ただここ最近、こことそう近くないところで凄まじい魔力を感じているという。その正体がウィズなのか、はたまた別の何かかーー少なくとも地位的にも高水準の悪魔のようだ。

 

 被害が出る前に調査を進めたいところだ。

 

 「好きな夢と言っていたが、翔太郎なら何を見る?」

 

 「急にどうしたよ」

 

 「世間話かな」

 

 好きな夢、か……ときめのことが頭をよぎった。しかし、二度と会えない訳じゃない。また風都に戻れれば前と同じ時間を過ごせる。

 

 「こっちの一ヶ月は向こうでは一年かもしれない」

 

 「……なにが言いてぇんだよ」

 

 「可能性の話さ。正直なところ僕は未だこの世界について興味を失っていない。知ってるかい、秋刀魚だけは畑で採れるんだ」

 

 絶妙にどうでもいい情報をありがとよ。

 

 「僕達が帰ってきた風都は、本当に僕達が知ってる風都なのかとたまに不安になる」

 

 「らしくねぇな。例えどんな姿であっても俺達の町は変わらない。今は依頼を達成して帰ることを考えようぜ」

 

 路地裏を出て大通りを歩いていく。一ヶ月は一年かもしれないなんてのはただの仮定に過ぎない。

 

 戻ったらフィリップとときめ、それに亜樹子に照井。また皆で事件解決すればいい。夢は見るもんじゃなくて叶えるものだってーー

 

 「……おやっさん」

 

 夕暮れの人混みの中でかき消される程の小さな声で俺は呟いた。

 

 

 

 屋敷に帰ると女子三人がダクネスの実家から送られてきた蟹を調理していた。どっかの借金持ちは隠し持っていた酒を飲んでいたので即刻取り上げた。

 

 調理が終わる頃、カズマが帰ってきた。いらないとらしくない反応に俺達二人は察しそのまま食べ進めた。

 

 その日の深夜。報告書を済ませた俺は入浴に行こうと部屋を出るとガタン、という音が聞こえた。

 

 アクアは最初に飲んでいた酒が回ったのと取られて泣き疲れた反動で眠っている。

 

 フィリップはめぐみんのボードゲームリベンジに付き合わされている。最初の一戦はルールを知らずに負けたもので、それ以降はずっとめぐみんが負けを積み重ねている。

 

 となるとカズマかダクネスか……可能性はカズマだな。思春期特有の緊張で寝れないんだろう。だが万が一ダクネスで入浴で鉢合わせたら問題になるので間を開けてからにするか。

 

 

 適当に屋敷を歩いていると開かれた窓に気付いた。見に行くとめぐみんと同い年ぐらいの女の子がいた……いや、あれサキュバスじゃねーか?

 

 「あ、えっと……翔太郎さんでしたっけ?結界のせいで逃げることも出来ないので助けていただけないかと……」

 

 「待ってろ」

 

 少し強引にサキュバスを助け屋敷に入れる。結局頼んだのかあいつ。

 

 「こっからカズマの部屋まで少しある。教えてやるから別のルートで行け」

 

 着ていた部屋着を脱ぎサキュバスに着させる。お前らにとってそれが正装でも色々とまずい。風で寒いけど仕方ない。

 

 「そこまでよ!さぁ、観念……」

 

 「……翔太郎はそういう趣味だったのですね」

 

 駆けつけるようにアクアとめぐみんが滑り込んできた。一足遅く来たフィリップは状況をすぐさま理解し頭を抱えた。

 

 サキュバス言えど姿は中学生程度。それに対し俺は部屋着を貸したせいで上半身半裸状態。

 

 おい、これまずいんじゃねーか。

 

 「いくらアクシズ教でも許されない範疇よ」

 

 「んなもん求めてねーよ!第一これはカズマが」

 

 「確かにカズマはあれかもしれないけど、そんな年端もいかない少女に興奮しないわ」

 

 お前はあいつの何を知ってるんだよ。

 

 「待ってくれ二人とも。確かに犯罪のように見えるのは仕方ないが、翔太郎には恋人もいる。あの子とは真反対の容姿だ」

 

 「へぇ……え、恋人?!」

 

 「ああ。ぶっちゃけると建前なんてもういいから早くくっついてくれと思っている」

 

 ぶっちゃけるなぁおい。

 

 「ときめはーー」

 

 「ほうほう。ときめという人ですか。アクセルに来てまだ三ヶ月も経っていないのにもう恋人というのは考えづらいので、遠距離というやつですね」

 

 こんな時だけ頭回るの早すぎるだろ中学生。

 

 そんなことを思っている後方からドタドタと足音を立てながらまだ少し濡れたままで服を着崩れた状態のダクネスがやってきた。

 

 「やはりか!カズマの様子がおかしいと思ったらサキュバスが……翔太郎、まさか……」

 

 「その下りはもうやったわ。今は翔太郎の彼女について話をしてるの」

 

 「彼女?ああ……え、彼女?!」

 

 お前ら俺をどういう風に見てたんだ。

 

 「っ、ではなくてだな。あのサキュバスはカズマを操ってる。じゃなきゃ私があんなことをーー」

 

 「あんなことって、お風呂場で何やってたのよ?」

 

 後を追うように腰にタオルだけを巻いたカズマがやって来た。……おい。嘘だろ。

 

 「まだ何もしてませんけど……」

 

 サキュバスの発言が完全にダクネスに止めを刺した。全員が察したように石のように固まった。つまりだ。状況的にそういうことしか考えられないよな……

 

 「アクア、とりあえず結界を外してこいつを解放してやれ」

 

 「悪魔を野放しにするの?!」

 

 「生憎職業柄、悪魔より外道な奴を見てきてる。それに今はそれどころじゃないだろ」

 

 最後の言葉を受けてアクアは結界を解除する。サキュバスは流し目に俺を見ながら窓に飛び立った。部屋着……まぁ、また行った時でいいか。

 

 こうして内輪揉めの夜は更けていったーー




翔太郎→彼女持ち?

フィリップ→多分純粋に恋愛沙汰に疎い

カズマ→ヘタレ

なので恋愛事にするにはかなり頑張らないとね、はい。


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