この素晴らしい世界に二人の探偵を! (伝狼@旧しゃちほこ)
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意味がありそうで実はない特別編
特別編 これまでのx/ネタバレ注意


てきとーな何でもあり時空の男三人の会話です。読まなくても大丈夫です。


 「原作三巻までようやく終わりを向かえた。正直またどっかで諦めるだろうと思っていたがこれは快挙だね」

 

 「だな。でも実際は仮面ライダーwとこのすばの人気で取れてるもんだから作者の力はゼロに等しいだろ」

 

 「それは否定しないけどもっと技量があれば話を回すことも出来ているはずだろうね」

 

 「だって単純に考えて見ろよ。wへの変身は一回、サイクロンは二回、俺なんか繋ぎで一回だ」

 

 「それは世界観のせいだと思う。それに僕達ばかりというのも向こう側のリスペクトにかける。」

 

 「そうそう。俺達もそこそこコラボしてきてるけどそりゃヒヤヒヤもんだぜ。ぶっ壊れ性能とかになったらどうしようとか、そりゃめでたいことだけど向こうの都合もな」

 

 「カズマ。他の奴らは?」

 

 「知らね。俺は特に用事なかったから。このファンもリリースされてから二回コラボしてきた。【Re:ゼロ】に【ダンまち】、完結した俺達と違って未だ現役だぜ」

 

 「それでも外伝合わせて二十巻以上、漫画は継続中。人気が伺えるじゃないか」

 

 「そっちは放送終わって十年後に漫画になって、今度はアニメ化だろ?仮面ライダーっていうコンテンツ名が付いてるとはいえ人気度が高すぎる。現実のSNSにもたまにトレンドしてるって聞いてるし」

 

 「それに関してはまた別の要因もあるけどあまり触れないでおこう」

 

 「そうだな……っと、そういえば本題があるんだよ」

 

 「今回の何でもあり時空に本題があるのか?」

 

 「ああ。ずばり……伏線についてだ」

 

 「伏線か……そりゃ回収されたらすげぇとはなるけど、基本何事もなかったかのように投げっぱなしじゃねぇの?」

 

 「実はそうでもない。前回の終わりで『あの人』の流れが出てきたんだが、実はいることは【Uが欲したもの/苦労人の辛さ】で僅かに示唆されていた」

 

 「嘘ぉ?!」

 

 「まぁ、二次創作でそんなもの残したところで誰も気にも止めやしないと思うし、ある人物の一言だけだから気づくはずもない」

 

 「もう一つ投げっぱなしのものもあるけど、それも近々拾うつもりらしいしな」

 

 「ちなみに原作完走済が推奨されている」

 

 「だったらタグ追加しとけって話だ。あとでしばきたおしにいくか」

 

 「止めとけカズマ。露骨に出番減らされるぞ。ただでさえ主人公なのに」

 

 「俺は気にしないし、描写されてないところで頑張ってる。俺だけじゃない。アクアもめぐみんもダクネスも、お前ら二人だってそうだろ?」

 

 「まぁ……原作そのままというわけにもいくまい。それだったら原作買って読んでアニメ三期に貢献してくれとしか」

 

 「その気持ちは嬉しいけど、このファンでもう一期分やってるから実質三期はやってるというか」

 

 「実質論の使い手か……」 

 

 「んだよそれ。つーかもう終わっちまったけどどうする?あとなんかねーの?」

 

 「そういえば翔太郎側はどうなるんだ?最終巻までいく予定なのか?」

 

 「あー……多分、途中で終わりになるかもしれない。今のところは依頼の達成とメモリ回収だからな。つっても二十六本どうやって集めるかって話だけど」

 

 「それこそ魔王軍との戦いに関与したら崩壊が始まる。そっち側の問題はそっちで何とかするべきだ」

 

 「だよな……なぁ、話は変わるんだけどさ」

 

 「なんだい?」

 

 「この間のこのファンでダンまちとのコラボの時、アイズって女と知り合ったんだよ」

 

 「ほう」

 

 「ダクネスはガチガチに鎧を着込んでるだろ?でもアイズは一応着てるんだけど前側だけで背中なんてすげぇ露出しててさ……後ろからやられたら即死なのに意味なくね?って思って」

 

 「動きやすいように軽量化した結果じゃねぇの?」

 

 「それなら全体にして鎧そのものを軽くすりゃ良いだけじゃねぇか」

 

 「確かに合理的かと言われるとそうではないね。特に死角になりやすい背後なんて削ったところで利点はない」

 

 「ゲームでも踊り子の衣装とかいってほぼ布切れの衣装がある。一種のファンサービスなのは分かってんだけど、どうも意味ねぇよなってなって、ラスボスだと最強装備になっちまうし」

 

 「軽量化を図ってクリスみたいな奴らもあるけど、この世界の服基準ってどうなってんだ?」

 

 「……まぁ、フィクションだし」

 

 「そっかぁ、フィクションだからか……虚しい」

 

 「……終わろうか。特に意味もなさそうだ」

 

 「だな。解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Eの目覚めはまだ遠いーー



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本編
新たなるT/名探偵は何処へ


「なろう」から始まり「このすば」完結から数ヶ月。
我が国は「カズめぐ」、「カズダグ」、「カズアク」の三つに分かれ混沌を極めていたーー


 「なぁ、フィリップ。俺達はどうしてこんなところにいるんだ?」

 

 「概ねあのドーパントの力だろうね。戦闘力から見て大したことないだろうと思っていた僕達の油断だ」

 

 俺の相棒のフィリップは冷静に状況を見ながら見解を述べる。瞳に映る景色は風都の見慣れたものではなく、ヨーロッパーーしかも中世とか一昔前のものだった。

 

 俺は左 翔太郎(ひだり しょうたろう)。極めてハードボイルドな探偵であり、風都を守る仮面ライダーだ。

 

 四年程前、風都ではミュージアムと呼ばれる秘密結社が暗躍し、ガイアメモリという人を超人に変身させるアイテムを製作し、その実験と称し多くの犯罪者が街を泣かせていた。

 

 その悪行を許さず、俺とフィリップ、そして風都に住む仲間達の活躍もありミュージアムは壊滅。街は悪夢から解放された。

 

 しかし、未だガイアメモリは過去の遺産として風都に遺されている。俺達の戦いは全てのメモリを狩り尽くすその日まで終わりを迎えることはない。

 

 ミュージアムに代わり新たな勢力も現れたが、接戦の末に勝利をもぎ取り、今となってはドーパント絡みの事件はほとんどなく、一月に一回あれば珍しい程までに収まっていた。

 

 そんな時に現れた一通の依頼。それには【彼女の痛みを癒してほしい】とだけ記されていた。具体的な内容は全くだったが、こういった匿名は割とある方な上に、何より誰かが傷つき泣いている。そんなことあってはならない。

 

 調査に乗り出したのはいいものの、有益な情報を掴むことはなかった。しかし、あの手紙から三日が経過したぐらいから事態が急変する。

 

 新種のドーパントーー世界の記憶を冠するワールド・ドーパントが現れたからだ。

 

 こいつが何か企んでいると踏んだ俺達は容赦なくエクストリームで対抗し、このまま押しきれるとお互いが確信を得たところで奴は異次元ホールらしきものを出現させた。

 

 あとは先程フィリップが言ったように、俺達の油断のせいでドーパントは取り逃がし見ず知らずの町に送られてしまったんだが……

 

 「大方、転送とかなんかだろ。ドーパントに関してはときめから亜樹子と照井にも伝わるだろうし、なんだったら少し観光してから帰るか?」

 

 「……いや、どうやらそういうわけにもいかないみたいだよ」

 

 冗談交じりで提案するも、フィリップは神妙な顔つきをしていた。こういう時はだいたい考え事か興味のあることが見つかって止まらなくなる時だ。後者はもっとマッドな部分も見せるが。

 

 一抹の不安を抱えながらフィリップが見ている先を見ると、長い金髪の女性が見えた。まぁ、普通に綺麗な人だ。THE・外国人と言え、ば……

 

 俺は途中で言葉を失った。長髪に隠れていた耳が見え隠れしているが、それは明らかに人のそれではなかった。異様に長く先端は丸みどころか少し鋭利になっている。

 

 「見間違いだと思ってるかもしれないけど、彼女だけじゃなくああいう人物を見かけている。ほとんどは僕達みたいな人間ばかりだけどね。それにあの看板。見たことのない文字だ」

 

 「記号みたいな文字の国もあるだろ」

 

 「建築物の様式から見て少なくともヨーロッパ圏内だ。それなのに記号文字はないだろう」

 

 ああ言えばこう言う。だが間違いではないのは確かなうえにそう言われるとテレビでも見たことない。もしや未開の地にでも飛ばされちまったのか?

 

 「まずは情報収集としゃれこむか」

 

 「そうだね……ところで英語は喋れるのかい?」

 

 「喋れたらタイプライターもそれで打ってるよ」

 

 「だろうね」

 

 小さく笑うフィリップ。どんな困難も必ず二人で乗り越えてきた。だから今回も大丈夫だ。俺達二人なら絶対に。

 

 

 

 

 

 情報収集は難航を極めていた。

 

 街は石造りの外観。田舎町といった感じだ。店も服屋に雑貨屋、屋台なんかもあった。

 

 ただ、本当に言葉が分からない。俺どころかフィリップでさえ知らない言語を話している。当の本人は興味津々で暴走しかけているが……

 

 「どうするよ」

 

 「どうしようか。……あの建物、他の物より少し大きい。街である以上、市役所みたいなものもあるはずだ」

 

 フィリップの提案に乗り建物に入ると、若い女の子のアルバイトが元気に挨拶をしてきた。多分いらっしゃいませとかそんなのだと思うが、続く言葉は分からない。

 

建物内を見ると片方は飲食スペース、もう片方は窓口がある。飲食スペースは大衆食堂という形だが……

 

 ふとフィリップを見ると、再び一点を見つめている。これ以上こいつの興味をそそらせないでくれと思い見ると、俺もそれに固まった。

 

 派手な水色の髪をした高校生ぐらいの女子の隣に座る男子。見た目は完全に日本人に一致していて、なおかつ日本のジャージを着ている。

 

 俺達はお互いに見合い、一か八かを賭けて二人に対面する形で座った。

 

 「お前、日本人か?」

 

 「は?まぁ……」

 

 言葉が通じる。なんて素晴らしいことだろう。俺はこれまでにない程の安堵を覚えた。

 

 「俺は左翔太郎。こっちはフィリップ。ここについてお前が知ってることを教えてくれないか」

 

 俺の言葉に疑問の表情を浮かべている。すると隣にいた女子と耳打ちを始めた。

 

 「お前が転生させたんじゃねぇのかよ」

 

 「いちいち覚えてるわけないじゃない。それに本の方はともかく帽子の方は若くないでしょ」

 

 しっかりばっちり聞こえているが相手はまだ高校生だ。ここでいちいち怒っていてはハードボイルドが廃る。

 

 俺は帽子を整え、ドーパントや仮面ライダーなどといった専門用語をぼかしながら現状の説明をしていく。

 

 「つまり、夜道を二人で歩いていたら光に包まれて、気づいたらここにいたと」

 

 「まぁ、そんな感じだ」

 

 フィリップの視線が刺さる。分かってる。自分でも見苦しい言い訳だってことはな……でもそれ以上になんて言えばいい。

 

 「まぁ、死んで転生なんてもんもあるし無くはないかもな」

 

 「信じるのかよっ!……って、は?」

 

 彼が吐き出した言葉にフィリップは興味を持ったのか、椅子を詰めて俺と同じように話を聞き始める。

 

 「ここは日本じゃなくて異世界だ。科学じゃなくて魔法も使える。俺はトラックに轢かれそうになった女子高生を助けたらそのままーー」

 

 「トラクターと勘違いして、しかも轢かれたと思ってのショック死だったけどね」

 

 余分なことを言うなと言わんばかりに隣の女子にゲンコツを放った。死んで違う世界?じゃあ俺達はあの時やられたのか?

 

 混乱している俺の肩にフィリップは冷静に右手を添えた。そうだ、ここで焦っていてはハードボイルドに傷がつく。

 

 俺の代わりに今度はフィリップが話を始めた。

 

 「勘違いとはいえ、君は誰かを助けようとしたのは間違いない。称賛に値することだ」

 

 「気休めなんかいらないぞ」

 

 「そんなことは思ってないよ」

 

 年が近いからか、端から見れば友達同士で喋っているようにしか見えない。俺はゆっくりとその場から離れ、隣にいる女子から情報を得ることにした。

 

 「君も転生とかいうやつか?」

 

 「私はカズマに連れてこられたのよ。転生させる時に好きなものか強い能力を授けるんだけど、それで無理やり連れてこられちゃったの。全く、女神を連れてくるなんてあり得ないわよ」

 

 女神とかその辺りは置いとくとしよう。ガイアメモリ絡みでシンパとかそういう奴等の相手はよくしてきた。

 

 「帰る方法とか知ってるか?」

 

 「魔王の奴を倒せば私は天界に帰れるけど、あんた達みたいなのは分からないわ。天界に帰ってから私が調べることも出来るけど、それだけじゃねぇ?」

 

 悪い顔するなぁおい。その年からそれなんてろくなことにならねぇぞ。

 

 「言っとくが今は無一文だ。文字も読めなけりゃ話も出来ねぇ」

 

 「恩は売っておくものよ。そうね、まずはーー」

 

 「いくよ翔太郎」

 

 話を終えたフィリップが遮った。俺はそれに連られて立ち上がる。難癖つけられずに助かったぜ。

 

 「あー、色々と迷惑かけたな。困った時はなんでも言ってくれ、必ず力になる。俺達は探偵だからな」

 

 最後にさらっと宣伝し、俺はフィリップの跡を追った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日本人ーーサトウカズマとアクアの話から、まずはこの場所にある窓口がでスキルカードと呼ばれる、いわゆる免許証を発行した。衣食住も大事だが、まずはこれがないと始まらない。

 

 職業はもちろん探偵……のはずが、ここでは探偵という概念がないようだ。こんなにかっこよくてハードボイルドな仕事がないなんておかしい。広めなければと使命感を覚えた。

 

 フィリップはカズマが教えてくれたこの世界の言葉を理解し状況を改めて整理していた。一方の俺は全然分からず、とにかくフィリップに従うしかなかった。

 

 帰り方が分からない以上、その方法を得るまでこの町で過ごして行かなければいけない。風都がどうなってるか不安だが、ときめ達を信じるしかない。

 

 異世界だということは割とすんなり受け入れてしまった。裏風都のこともあるうえに、実際異なる世界を旅する男と交流があった。その事実を踏まえると並行世界と考えれば納得してしまう。

 

 「アクアの奴が魔王を倒せば自分が帰れて、そうすれば方法も分かるかもしれないとか言ってたがどう思うよ」

 

 「そこら中に空想上の生物がいる以上、彼女が女神かどうかはともかくあり得ない話じゃないね」

 

 寝泊まりとして提供されている馬小屋でこれからの相談をする。時期的には秋ぐらいで通り抜ける風が少し冷たく感じる。

 

 「それからダブルの力を使わない方がいいかもしれない。地球の本棚(ほしのほんだな)によれば科学より魔法が発展した世界のようだ。ここでガイアメモリを使えば事態が余計ややこしくなる」

 

 「そうだな……本棚使えるのか?」

 

 「問題なく作用はしている。けど言語がこちら側に対応しているから暫くは解読に時間が生じる」

 

 「そっか……慣れたら俺にも教えてくれ」

 

 「了解した。要領を得るために暫く読んでいるよ」

 

 フィリップは壁にもたれかかり眠るように地球の本棚にダイブした。さて、俺が出来ることは……あれ?なくね?下手に外出して迷ったら帰ってこれなくなるだろうし……

 

 その時、遠くから轟音と地響きが聞こえた。どうやら事件発生のようだ。




前書きは関係ないです。


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新たなるT/協力者達

今回の事件は……

【彼女の痛みを癒してほしい】という匿名の依頼を受け調査を始めた翔太郎とフィリップ。しかし、二人に待ち構えていたのは未知なる世界だったーー


 轟音がした場所に駆けつけると、そこは一部が焼け野原に変貌していた。

 

 3m以上はあるであろう巨大なカエル達が次々と地中から這い出ている。季節からみるにそろそろ冬眠を始めるだろうが、先程の轟音で起きてしまったようだ。

 

 「こりゃWの力は必要になってくるみたいだぜ……」

 

 使用を控えようと提案していたこの場にいない相棒に呟いた。単純に考えてこんな奴らと相手してる冒険者ってのは普通に強いんじゃねぇのか?

 

 「さっきの探偵!」

 

 「お前は……一体何がどうなってやがる?!」

 

 「後から説明するから今はアクアの救出を頼む!」

 

 先程の高校生、サトウカズマが指差す方向に視線を向けると、モゴモゴと補食しているカエルがいた。飛び出している脚……マジか!

 

 俺は急いで走りだし、巨大なカエルに向かって飛び蹴りを放った。しかしその腹は弾力性に優れており、まず打撃が効かないであろうことを悟る。

 

 そうしてる間にも捕食は進んでいる。俺は左手首にした腕時計型のガジェット、スパイダーショックを発射して脚に巻き付けると、精一杯の力で引き上げる。

 

 意外にも簡単に抜け、粘液を纏わせながら俺の元に落ちてくる。これが潤滑油になったおかげか……って、それより速く逃げねぇと!

 

 半分べそをかいているアクアを抱き抱え走り出す。すげぇ臭いけどここでそれを言ったらダメな気がする。

 

 「こっちは大丈夫だ。そっちは?」

 

 大きな三角帽子を被り杖を握った女の子をおんぶしサムズアップで無事なことを示すカズマ。その手には短い剣が握られており、どうやら救出は間に合ったようだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 探偵が来なかったら多分どちらかは完全に喰われてた。それほどまでに今の俺のパーティーは絶望的だ。

 

 ただ、こっちもめぐみんを助けるのに必死だったので武器も無しにどうやってアクアを助けたのか気になる。もしかして結構強いのか?  

 

 「サッパリした。あら、さっきの探偵は?」

 

 「風呂から出たら帰ってった。俺が勝手にやったことだって、報酬もいらないとさ」

 

 ちゃんとした依頼の時に貰うと言っていたのでプロ意識は強いようだったけど、かっこつけて帰っていく姿は言葉では言い表せない……中途半端?みたいな雰囲気があった。

 

 アクアはふーん、と半分どっちでもいいような返事をすると席に座ってギルドで働く店員さんに注文を始める。お前がその態度はまずいだろうが。

 

 「たんていとはなんですか?」

 

 めでたくパーティー入りを果たしたダメなアークウィザードのめぐみんが聞いてきた。この世界の職業って言ったらスキルカードに書かれるものしかないし、探偵は多分盗賊職向きになるんだろうか。

 

 「人探しとか、調査とか、事件の火種になるものを取り扱って未然に犯罪を防ぐ仕事かな……有名になれば警察の協力者になったりするんじゃないか?」

 

 「分かってないわね。探偵っていうのは誰も解けないトリックを暴き犯人を逮捕するのよ。真実の名に懸けて!」

 

 有名どころの二つの台詞が混ざっているし、そんな大事(おおごと)なんて余程……いや、まずないが、めぐみんの紅色の瞳が輝いているので何も言わずにスルーしよう。

 

 しかし、俺と違って転生じゃないってことは特典も無ければもちろん言語も読めないんだよな。読めたら聞いてこないだろうし。

 

 そんな状況に置かれたら俺だったらまずふざけんなって思うが……それ以上に技術があるんだろうか。

 

 「ほら、シュワシュワが来たわよ!」

 

 「なぜ私はジュースなのですか!」

 

 こんなお荷物に比べたらものすごく頼りになるんだろうな、きっと……そう思いながら深いため息をついた。 

 

 

 翌日。皆より遅れて活動を開始した俺達パーティーがギルドに行くと、既に二人組の探偵が掲示板を見ていた。

 

 「今ある仕事で僕達がやれそうなのは警備員の仕事ぐらいだね。あとは土木関係かな」

 

 「その仕事らがどの張り紙かすら俺には分からないけどな……まずは土木関係から始めるか」

 

 「それなら俺も以前やってたし手伝うぜ」

 

 迷っている探偵に土木工事の張り紙を剥がし差し出した。同じ日本人同士、しかも俺並みに不憫な奴を見過ごすことは出来ない。何よりカエルより安全だ。

 

 「何を言っているのですか!これからクエストに行くと言ったじゃないですか!」

 

 「誰もそんなこと言ってねーだろ」

 

 「サトウカズマにアクアちゃんか。あと……君は?」

 

 尋ねるフィリップにめぐみんは待ってましたと言わんばかりに腕を振り上げる。

 

 「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を極めし者!」

 

 「僕の名はフィリップ!同じくアークウィザードにして、やがてこの星の全ての知識を得る者!」

 

 めぐみんのよく分からない名乗りに合わせるように同じテンションで自己紹介する。隣の探偵もぽかんとしている。

 

 「紅魔族はこういう名乗りをすると書いてあったから並べてみたけど、違ったかな?」

 

 間違ってはいないんだろうけど、初見で合わせられるのは相当な変人なのかもしれない。めぐみんはなぜか少し悔しそうだし。

 

 「あんたもアークウィザードなのね」

 

 微妙な空気をぶち壊していくアクア。いつもはフラグしか立てないくせに今回ばかりはナイスプレイだ。

 

 「魔法が気になってね。他にもソードマスターも勧められたよ」

 

 「超ハイスペックじゃねぇか!じゃああんたは?」

 

 「俺は冒険者っつーのを選んだ」

 

 「そ、そうか……なぁ、試しにカードを見せてくれないか?」

 

 探偵は快くスキルカードを渡してくれた。……見間違いじゃなければレベル1なのにレベル4の俺より幸運値以外高いのはなんでなんだ?

 

 「冒険者ってのはなんでも覚えられんだろ?あんまりこういうの知らねぇけど」

 

 「確かにそうだけど、覚えるには相当なポイントを持ってかれちゃうわよ」

 

 「ポイント?」

 

 話を聞いていなかったのか、それともシステムがいまいち理解していないのか……多分後者だろうな。探偵が話を聞かないなんてダメだろ。

 

 「カズマカズマ、彼は何を言ってるんですか?」

 

 「え?ああ……あいつは俺と同じ日本っつーとこの出身なんだけど、訛りが強いみたいだな。」

 

 「なるほど。探偵さん、魔法なりスキルなり覚えるためにはスキルポイントが必要になります。冒険者は確かになんでも覚えれますが、例えばウィザードが5ポイントで覚えられる魔法を冒険者は10ポイントかかったりします」

 

 アクアとめぐみんの説明についていけない様子だった。……あ、アクアはともかくめぐみんの言葉はわかんねぇのか。うわぁ、めちゃくちゃ不便。

 

 「要するに器用貧乏ってことだ」

 

 「そっか……ま、受付嬢に勧められた盗賊職よりかマシか。探偵が盗人どころか犯罪者なんて洒落になんねぇからな」

 

 「おっと、聞き捨てならないことが聞こえたね」

 

 割り入るように介入してきたのは銀髪の少女だった。明らかに日本語だったがこの女も同じ転生者なのか?その割りには異世界成分が強めだ。後ろには鎧を着込んだ金髪美女もいる。

 

 探偵は銀髪の少女を見るなり自らの黒ベストを脱ぐとさりげなくかけた。

 

 「……何なの?」

 

 「若いのにそんな肌出すもんじゃないぜ」 

 

 「これは正装だよ!盗賊がゴタゴタしてたらダメでしょ!」

 

 そりゃそうだ。アニメでもシルクハットとかスーツの奴をよく見るけど絶対動きにくいと思う。

 

 銀髪の少女はベストを脱ぎ突き出すように返し説明を始める。

 

 「盗賊職はね、別に盗みしかしてない訳じゃないの。【敵感知】とか【罠発見】を覚えるからダンジョンの調査には必要だし……【スティール】!」

 

 右手が光ると探偵の被っていた帽子が消え、いつの間にか少女の手中にあった。

 

 「おまっ……返しやがれ!」

 

 「こうやって相手のものを奪ったりして状況を変えることも出来るんだ」

 

 自らが帽子を被りかっこつけるのを見て探偵は追いかける。この構図、よく見かけるよなぁ……それより【スティール】か、面白そうだし試しに覚えてみるかな。

 

 二人の争奪戦をよそにもう一人の探偵……こっちは同世代っぽいし呼び捨てでいいか。フィリップは話を進める。

 

 「僕はフィリップ。君の名前は?」

 

 「私はダクネス。あっちはクリスだ」

 

 「ダクネスちゃん。差し支えなければ僕達に協力してくれないかい?」

 

 「誘いは嬉しいが、私はその男に用事がある」

 

 金髪美女はどうやら俺に用事があるようだ。え、俺に?

 

 「分かった。翔太郎!」

 

 「はぁ、はぁ……どうしたフィリップ?」

 

 ようやくの思いで捕まえたクリスを抑え帽子を取り戻していた探偵。やっぱり大人げない。

 

 「やはり別行動で行こう。僕は他のパーティーに混じって魔法を教えて貰うよ」

 

 「じゃあ俺は一人でバイトだな。こっちも情報網を広げておくからそっちは頼むぞ。あと、周りをちゃんと見ろよ」

 

 お互いに目で確認すると、フィリップは付近にいる冒険者達に交じっていく。

 

 「一緒じゃなくていいのか?」

 

 「言葉が通じねぇってのは不便だけど、それだけでいちいち折れてたらダメだろ。探偵に必要なのは忍耐だからな」

 

 俺から土木関係の張り紙を取り窓口に向かっていく探偵。忍耐というより慣れろってことか。でもあのままじゃいつまで経ってもだろ。

 

 俺は一つ妙案を思いつき、まだパーティーが見つかっていないフィリップの元に駆け寄った。

 

 「昨日は助けて貰ったし、俺があいつを見てやるよ。その代わりあいつらのめんどう見てやれないか?」

 

 「でも君もやることがあるだろう」

 

 「急ぎじゃないしな。それに冒険者はアークウィザードと違ってレベルが上がりにくいことはないしな」

 

 ポイントの消費が多い分レベルアップは早い。上級職は最初からポイントがある分スキルを覚えられる。バランスは大事だ。  

 

 「それならお願いしようかな」

 

 俺はクリスに【スティール】などの盗賊スキルを教えて貰い探偵と一緒に土木工事のアルバイトに。フィリップ達にアクア達を任せて行動を始めた。

 



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静かなるK/トレジャーハンター

 あれから一週間が経過した。

 

 カズマの手助けもあって事は順調に進み、コミュニケーションも充分取れるようになった他、色んな情報網を手に入れた。

 

 土木関係の仕事人。屋台の商人。ギルド窓口の人々などなど。あとはこの町に住む町人とも顔見知りにはなっておきたい。こう思うと風都イレギュラーズがどれだけ頼りになったことか痛感させられる。

 

 あとはこの町以外での情報網だ。ウォッチャマンはインターネットでの情報収集が強かった為に、今思えば任せてしまっていたところがあったかもしれない。

 

 しかしここにはSNSといった近代発展は遂げていない。未だ手紙を使って2日程待たなければ、そんな辺境な状況だ。

 

 その辺りは文句を付けても仕方ない。事実、情報収集を頼るなら盗賊職に一任している節もある。クリスがどれだけ貴重な立場かを思い知らされる。

 

 ところで、一方のフィリップ達はと言うとーー結果はまぁ、4人含めて散々だったようだが、アクア以外はまんざらでもなさそうだった。

 

 

 「めぐみんは魔法を1回しか撃てない。ダクネスは役目は果たしているが余分なところに手を出す。フィリップは魔法を覚えてないのは仕方ないにして、興味が湧いたものに関して前に進まなくなると……」

 

 「回復役のアクアがいなかったら終わってたんじゃねぇの?」

 

 「そんなことはない。3日目からは魔法も覚えたから、僕が全く使えないというのは語弊だ」

 

 フィリップの弁明にカズマと顔を合わせため息を漏らす。一時期フィリップにも友人が出来たこともあって、なんとかなるだろうと信じていたが……

 

 「魔法自体誰に教えて貰ったんだ?」

 

 「キャベツが来た際に知り合ったリーンという少女にさ。一通りの中級魔法は会得出来たよ」

 

 ちなみにキャベツというのはモンスターの一種だ。ここではキャベツは野菜ではあるものの生きているらしい。緊急召集がかけられたが、俺達バイト組は何を言っているのか訳が分からず、そのまま無視してしまった。単純に考えておかしいだろ。

 

 「俺もいつの間にかレベルっつーのが3になってるし、言葉もとりあえず分かってきたし、ここいらで変わるか」

 

 「押し付けるだけ押し付けるのかよ!話聞いてたか?あの三人をどうやって使えって言うんだよ!」

 

 「そうなると思って彼女達が使える場面をメモしておいた。能力自体は高いからね、あとは君の技量次第さ」

 

 フィリップは自らの本のページを破りカズマに手渡した。普段ならこんなことしないはずだが……割と世話になってるし、フィリップなりの恩返しだろうか。 

 

 「ま、それだけじゃ不安だろうよ。フィリップ、しばらくカズマに付いててやれよ。俺は自分でやれることを探す」

 

 自分の興味だけに暴走し過ぎないようによく念入りしておく。久方ぶりの一人仕事だ。

 

 

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 まずは探偵としての売名だな。この世界に探偵というのがないのは冒険者自体が何でも屋に近い存在の為に、余程の事がないと必要ないんだろう。

 

 強気に選んだのは警備員の仕事。しかもこの間とは違い、いわゆる貴族から依頼だった。大きい貴族ならばギルドに出さないだろうし割と小規模な貴族だろう。

 

 集合時間よりかなり早めに屋敷に着いた俺は一巡を警備に話し中に入った。レベル2の冒険者ってだけで笑われたのは腹立つ。

 

 「さーてと……まずは屋敷の把握だな」

 

 なるべく全体くまなく調べたいところだが、悠長には言ってられない。この仕事が来たのも、厳重に保管されている宝石がトレジャーハンターとやらに狙われているという情報が入ったかららしい。

 

 どれ程の実力かは知らないが、トレジャーハンターというよりかは怪盗に近い。クリスも言っていたが、一部では個人で雇われこういうことをやる輩もいるとか。盗賊職としては名誉なんだろうが、犯罪は犯罪だ。

 

 俺はこの世界に来る前に持っていたメモリガジェットのスパイダーショック、バットショット、スタッグフォンの調子を確認する。フィリップから借りたフロッグポッドとデンデンセンサーも大丈夫そうだ。

 

 ただ一つ、ファングメモリはない。フィリップが持っているとかではなく、純粋に風都に置いてきてしまった。エクストリームメモリはどこかにあるはずだが……

 

 「ぶつくさ言ってる時間はねぇ。皆、頼んだぞ」

 

 

 

 

 月が照らす深夜。俺は任された配置を歩いていたが、明らかにお荷物だと思わされる配置に内心憤っていた。

 

 しかし逆を言えばここが一番侵入しやすい場所だ。必ず、というわけじゃないが確率は高い。ここじゃなかったら自分に相当自信があるというわけだ。

 

 胸ポケットに入れたスタッグフォンのバイブを感じ取る。通話、メールは出来ないが、ガジェットとして機能し他のガジェットと連携は取れているだけでも充分使える。

 

 保管されている金庫の天井に配置しておいたバットショットが撮影した写真には、既に金庫の前で解錠作業をしている人影があった。

 

 あいつが盗賊であるならクリスの言っていた【解錠】というスキルを覚えているはずだ。高難易度スキルらしいが、警報も発せられず侵入出来ているということは相当の強敵と踏んで違いない。

 

 ここからまだ距離はある。あとはアクロバットみたいな身体能力を持ってなきゃいいが……まぁ、帽子盗られた時に逃げ回っていたクリス並か、それ以上を予測しておかねぇとな。

 

 続けて送られてきた写真。それにはブレながらもはっきりと手元に何かを持つ姿があった。どうやらバレてしまった上に後は逃げるだけって感じだな。

 

 「負けるかよ」

 

 探偵VS怪盗。熱い展開になってきたじゃねぇか!



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静かなるK/探偵の意地

 こんな小さな貴族の屋敷に世界を変えてしまう程の魔道具があるのか、それすらも信じがたいわ。

 

 頼まれた他の貴族からはオークション品として出され、何でも四億エリスの値段が付いたとか……ま、本体を見れば分かるはず。

 

 侵入も簡単に出来た。警報も鳴っていない。後は【潜伏】スキルを使ってやればいい。魔道監視カメラに映らない死角も調べてきている。

 

 数分もかからずに目的の金庫前まで到着し、早速【解錠】スキルを始める。今時の金庫ではなく古くさい物ね、ちょっと時間がかかるかも…… 

 

 「ん?」

 

 気配を感じる。この部屋に監視カメラはないザル警備のはずだったけど……右を振り返っても左を振り返っても何もない。

 

【敵探知】スキルであぶり出す。本当に僅かな反応を確かに捉え正確にナイフを投げつける。天井から落ちてきたのはコウモリのような、カメラのような変わった魔道具だった。

 

 「もしかしてこれかしら?」

 

 しかし、監視カメラならば警報などが鳴っていてもおかしくない。ということは個人の物……依頼主にはめられた可能性もなくはない。

 

 「他のお宝も頂く予定だったけど、逃げるが吉ね」

 

 再び潜伏し移動を始める。廊下を走り、衛兵に見つからないように移動しているとーー

 

 『この辺りから反応ありだな……』

 

 男の声。この先にいる。内容から聞くに向こうも探知スキルを持っているようね。

 

 小窓から飛び出し二階から一階に移る。がーー

 

 「見事に引っ掛かったな、怪盗」

 

 道を塞ぐように帽子を被る男。しかも先程の声と酷似して……いや、全く同じ。声まねが【宴会芸スキル】としてあると聞いたことはあるけれど、再現度が高すぎる。

 

 何よりーー好んで宴会芸スキルを得るなんて、冒険者をやってる人物でも余程ポイントが余っているか暇なやつくらいしかない。

 

 問題は、この暇な奴がそれなりにステータスが高いかもしれないことよ。

 

 素早く愛刀のナイフを取り出し戦闘態勢に入る。相手は引っ掛かってしまった私を下に見ているのか武器すら準備しない。ならば隙を突いて逃げた方が速いかしら……

 

 「まさか女とはな」

 

 「あら、舐めてかかると痛い目見るわよ?美しいものにはトゲがあるっていうじゃない」

 

 「んなこと分かってる。さ、物を置いてけ!」

 

 男は走りだし、一直線のバカ正直のように拳を放つ。簡単に避けお返しの蹴りを脚に見舞うも倒れない。

 

 「結構鍛えてるのね」

 

 「ったりめーだ」

 

 相手は丸腰、こちらはナイフ。にも関わらず恐れずに立ち向かってくる。根性はあるみたいね。

 

 「それだけじゃやっていけないわよ」

 

 不適な笑みを浮かべナイフを振り下ろす。が、殺すつもりはもちろんない。どんな鈍感でも避けれる攻撃だし、返り血がつくのも嫌だからーー

 

 自分の予想に反し、男は肩でナイフを受け止めた。体重が乗ったショルダータックルを喰らってしまい吹き飛ばされ、胸元からしまっていた目的の盗品が飛び出す。

 

 血が滲み出る肩を止血し、男は身を壁に預けながら歩き出す。こちらも相応の威力にすぐには立てなかった。

 

 「強盗と怪盗の違いって知ってるか?」

 

 「考えたことないわ……あんたが何を考えてるのかもね。普通避けるでしょ」

 

 「だろうな。今の振り下ろし方じゃあ、ろくな傷を負わせられない。狙いは避けた後、崩れた体勢からの追撃だろ。怪盗ってのは美学を持つもんーーっ?!」

 

 目的の盗品を確認した途端、一目散に走り始める男。急いで立ち上がり私も走り出す。

 

 僅差で先に取ったのは私。しかし、男も負けじと飛び蹴りを放つ。紙一重で避け、逃げに徹することを考えるも追撃が止まらない。

 

 影に隠れて飛んでくる右ストレートーーいや、違う!

 

 判断が遅れてしまった。迫り来る腕を折り曲げ、エルボーが顎下にヒットする。若干の意識の揺れ……まさか、負ける……?

 

 受け身を取れずそのまま崩れ去る。男はそれでも尚、油断しないまま構え直す。

 

 「浅い入りだぜ。……おい。おい?大丈夫か?」

 

 立ち上がろうとしない私に不用意に近づいてきた男に対し、不意打ちに向こう脛を蹴る。流石に効いたのか、膝から崩れ落ちる男に先程の余裕は見えなかった。続けざまに顔面を蹴る。

 

 「甘いのね」

 

 演技に見事に騙され、飛ばされた帽子を掴む男。今のうちに、そう思うと同時に衛兵が駆けつける。素早く窓から飛び出した。

 

 「ふざけやがって……!」

 

 帽子を被り直し、俺は走り始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 一斉に衛兵達が動き出したおかげか、女怪盗ーー否、トレジャーハンターの動きは未だ屋敷を出ていない様子だった。

 

 傷口も衣服にべったりくっついちまったおかげで出血は止まった。下手に動くとまた開いちまう。

 

 数で探し回る衛兵をよそに、俺はある場所に向かっていた。

 

 こじ開けるように扉を開くと、月を背景にトレジャーハンターは立っていた。場所は強い風が吹く柵のない屋上だ。

 

 「また貴方?ストーカーは嫌われるわよ」

 

 「生憎、人を追いかけるのが仕事なもんでな。盗んだ物を渡して貰おうか」

 

 「仕事に熱心なのね……嫌いじゃないわよ。ひとつだけ聞かせてちょうだい。どうして私の場所が分かったの?」

 

 いくら数の力があるといえど、それは実力が同じなら通用するだけであって、埋まらない差がある。それを埋めるために工夫するのが探偵ってもんだ。

 

 「俺には優秀なアシスタントがいるんでな。盗品を見てみろ」

 

 胸元に隠された盗品を見ると、赤く点滅するものがついていた。

 

 「時代遅れにはわかんねぇよな。お前がそれを持っている限り、何をしようともお前がどこで何をしてるのか丸分かりって訳だ。説明すんなら、【探知】のスキル機能を持った道具だ」

 

 「……いつ、つけたの?」

 

 「お前がナイフで切りつけた後だ。盗品を見てすぐ俺は壁際に身を預け、話しながら自分の脚を使って隠すように発射させた」

 

 その後すぐに動き出したのは相手のタイミングで動き出させるのを防ぎ、見つかるのを阻止するため……あの間合いなら先に動き出した方が不利になるのは確実だったが、時間がかかれば見つかりやすくなってしまう。

 

 「確かにお前は実力者だろうよ。でもこっちだって意地がある。相手の話し方一つでどんな性格なのか、どんな生活を送ってるのか、人間性を見抜く観察力も必要だ」

 

 「人を小馬鹿にするような口調。見下す態度。プライドは高め。だからこそ自分が思い描いた風にならないと焦りが生まれる」

 

 「尤も、最大の敗因はさっきのところで確実に仕留めなかったこと。強盗は殺してでも奪う。怪盗は殺さずに盗む。いや……殺せない質だろ」

 

 「Ms.トレジャーハンター。お前の罪を数えろ!」

 

 だが負傷を負っていてる状態だ。まともに戦って勝てる確率は低い。使っていないガジェットはスタッグフォンのライブモードのみ……いけるか?

 

 「……なかなかやるのね。私はメリッサ。貴方は?」

 

 「左翔太郎。探偵だ」

 

 「探偵……そう。貴方の推理は半分当たり。だって、私は別に不殺とかそんなのないもの」

 

 メリッサは走り出し、さっきとは違う容赦のない攻撃が襲いかかる。何とか避けきり距離を取る。また相棒にハーフボイルドって言われちまう。

 

 「【ミッドナイトエッジ】!」

 

 月明かりしかない真夜中でもはっきりと分かる黒いモヤ。ナイフの刀身に纏わりつくそれは誰がどう見てもまずいものだと感じる。

 

 【スタッグ】

 

 スタッグフォンをライブモードに変形させ暗闇に放つ。メリッサの動きは先程よりも素早さが増し、避けることさえ難しくなってきた。

 

 迫り来るナイフに思わず片腕で防御してしまう。切られた痛みよりも痺れるような感覚に襲われ動きが鈍る。

 

 「おいかけっこはおしまいよーー」

 

 迂回していたスタッグフォンは的確にメリッサの手元に突撃した。弾かれたナイフを見て、俺はすぐさまスパイダーショックのワイヤーを発射、身柄を拘束する。

 

 しかし、お互いが追い詰められよく見えない景色に気がつかなかった。メリッサに押し出される形で屋上から落ちていく。

 

 「動けぇ!」

 

 痺れる腕でメリッサを抱きしめ、スパイダーショックから残った少ないワイヤーを発射。それをスタッグフォンの胴体巻き付けると落下速度が緩んだ。ナイフで切られた傷口が更に開き激痛が走る。

 

 スタッグフォンの踏ん張りもあったおかげか、尻餅程度の落下で済んだ。限界と言わんばかりに地面に寝転がる。

 

 「……貴方だけでも助かった筈よ」

 

 「罪を憎んで人を憎まず。お前にはちゃんと償って貰わないとなっ?!」

 

 いつの間にか拘束を抜け出していたメリッサから香水のような物を吹き付けられ両目を抑える。チカチカして周りがよく見えない。

 

 「やっぱり、甘いわね」

 

 そう言い捨てられ、俺はメリッサを取り逃がしてしまった。 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 翌日。メリッサには逃げられたものの、付近に盗まれた物が落ちており結果的には任務達成になった。加えて活躍が認められたのか、報酬も上乗せされた。

 

 「で、それは本当なのかい?」

 

 「間違いない。盗まれそうになった物……あれはガイアメモリの強化アダプターだ」

 

 依頼人の貴族に尋ねたら本人は何に使うのか本当に知らないようで、手に入れた理由は他に欲しがる奴に高値で売り付けるためらしい。オークションでは4億エリスの値段がついたと言っていた。

 

 それだけの金額、よっぽど買い取られることはないと思うが……

 

 「ここに連れてこられたのは偶然ではなさそうだ」

 

 「彼女の痛みを癒す……ガイアメモリのせいで悲しんでる人がいるなら放っておくわけにはいかねぇ」

 

 疲れはまだ残っているが、アクアのおかげで怪我と痺れは嘘のように消えた。本格的な調査を始めないとな。

 

 「面白そうな話をしてるわね」

 

 「お前!なんでここに!」

 

 昨日、俺を散々な目に合わせた張本人のメリッサはなに食わぬ顔でギルドに現れた。

 

 「扱いは盗賊よ。ギルドに来て何が悪いのよ」

 

 「はっ、結局盗めなかったのにでかい顔しやがるな」

 

 「……やる気?」

 

 「いつでも来いよ。貢献してるかどうか知らねぇけど、俺が泥棒を見逃すかよ」

 

 二人の会話を疎らに聞き流しジュースを飲むフィリップ。話を聞く限り、彼女はあえて盗まなかったんだろう。認めている、という解釈でいくなら翔太郎の察しが悪い。

 

 事実、周りの反応を見るにこちらを見ながらヒソヒソと何かを話している。盗みをやっているのに捕まらないということは実力者ということだろうし、実際に海外ではサイバー犯罪に関してその犯人を利用して味方にしたりなどをしている。

 

 ならば、と、一触即発の雰囲気を見兼ね、フィリップは立ち上がる。

 

 「メリッサと言ったね。僕はフィリップ、翔太郎と同じ探偵で相棒さ」

 

 「あんたも……こっちとは違って落ち着いた雰囲気ね」

 

 身を乗り出そうとする翔太郎を抑える。そういうところでハーフボイルドって言われるんだよ。

 

 「君は名の馳せたトレジャーハンターらしいじゃないか。どうだろう、情報収集役を担ってくれないかな。そうすれば翔太郎も手出しはしないだろうし」

 

 町に関しては他の冒険者などから収集出来る。けれどそれ以外となるとどうも難しくなってくる。

 

 僕達が帰る方法だけじゃなく、メモリの可能性まで浮上してきた。まだ確実に信じるとまではいかないが、本格的な協力者としては充分だ。

 

 「見返りもなしに大きく出たわね」

 

 「知識だけは膨大に抱えていてね。知りたいことがあるならこちらも協力する」

 

 難しい表情をするメリッサ。しかし、すぐに顎に手を当て考える。

 

 「じゃあ、試しに」

 

 メリッサはフィリップに耳打ちする。

 

 「それは翔太郎に聞くのが早い。猫探しに関しては彼は達人さ」

 

 さりげなくバカにされたこと、秘密にしたかったのにあっさりと暴露されたことに対し二人は憤った。

 

 「割と馬が合うんじゃないかな」

 

 「「そんなわけあるか!」」

 

 探偵とトレジャーハンター、奇妙な関係が生まれた。



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Wの真実/トラブル・トゥ・トラベル

 メリッサとの対決から数日。どうやら俺の活躍がこの町にも伝わってきたようで、ギルドの人から大型新人として期待されている。

 

 一匹狼のあいつに認められるなんてよっぽどないようで、逃がしてはしまったものの追い付くのは差程遠い話じゃないかもしれない、今の内に俺と仲良くなっておこうなどと多くの冒険者がすり寄ってきてしまっている。

 

 おかげで探偵家業も上手く行きそうだと安心はしているが、釈然としない。まず負けてねぇし。

 

 「バットショットをダメにしてしまったことに関しては?」

 

 「それはしょうがねぇだろ。ダメにつっても写真が撮れなくなった訳じゃないし……」

 

 あの時、メリッサからの一撃を受けてしまってからバットショットのライブモードが正常に作動しなくなってしまった。一応、普通には使えるのだが……

 

 「ここは異世界だ。都合よく素材があるとは限らないし、それが上手く噛み合うかどうかも分からない」

 

 不機嫌そうに立ち上がるフィリップ。

 

 「どこに行くんだよ」

 

 「町外れに魔道具店があってね。そこの店主が元冒険者で高名らしいから、何か知らないかヒントを貰いに行く」

 

 そう言ってさっさとギルドを出ていく。喧嘩ってわけじゃねーけど、なんか別行動が多くなってきてる気がする。それはそれで構わないが、やはり一抹の不安がある。

 

 「翔太郎」

 

 背後から別の声。カズマだ。そういえば今日はキャベツとやらの収穫で得た報酬が与えられる日だとか聞いたな。

 

 カズマの呼び捨てはアルバイトをしている内に自然と呼び会うようになっていた。歳が近いとか、明らかに偉そうな奴とかは平然と強気に出てくるのに中途半端に十歳も離れてるとなんて呼ぶのがいいか分からなかったらしい。

 

 「ああ。俺達には関係ないことだな……あ、フィリップの分貰っとくか」

 

 「いないのか?」

 

 「ちょうど今出ていったよ。お前のところだっていないじゃねぇか」

 

 「報酬で色々買い漁ってるよ……それよりさ、魔王軍の幹部がいるって知ってるか?」

 

 「小耳には挟んでる。付近の廃城にいるらしいな」

 

 魔王軍の幹部ーーアクアが言っていた、魔王を倒せば帰れる方法が分かるかもしれないという僅かな希望だ。そんな奴がここに来て何をしているのか分からない。

 

 ミツルギというこの町で一番強く、王都という場所でも度々戦っている奴の話によれば、ここは初心者の町でもあるのでわざわざ攻めこんでくる理由が見つからないようだ。

 

 だが、実際にそいつも念のため戻ってきているので信憑性は高い。先日のアダプターの件もあるし、もしも魔王軍側がメモリについて知っているならば狙っている可能性もある。

 

 なんにせよ警戒は必要だ。Wも視野に入れておく必要もある。後でフィリップとも共有しておくか。

 

 「はぁ、はぁ……この紅く輝くマナタイト……最高です!」

 

 「なんでこんなに報酬が少ないのよ!」

 

 「見てくれ皆!新調した鎧だ!」

 

 ……こいつらは自分の町のことなのにもっと危機感を持って欲しい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「それじゃあ翔太郎、行ってくるよ」

 

 「おう……どこに?」

 

 魔王軍の情報を共有した翌日。纏めた荷物を背負うフィリップはまるで遠足当日の小学生のように楽しげにしていた。

 

 「旅行さ。昨日、魔道具店のウィズという人に話を聞いたところ、代替として使えそうなものを教えて貰ってね。その人と一緒に取りに行くのさ。仕入れも見たいとのことだしね」

 

 何も聞いてないしそういうことは早めに言って欲しい。というか昨日の今日でその話になるのは違うんじゃねぇの?

 

 風都にいた頃は旅行とか行かなかったし、行っても付近にあったおやっさんの別荘くらいだし……よくよく考えたら普通なら経験していることをしていないことが多い。

 

 「……そのウィズって人に迷惑かけないこと。周りをちゃんと見ること。それからーー」

 

 「前は君が僕のことをおかんだと言ったが、君も相当だね」

 

 そこはどっこいどっこいだ。どっちかが欠けてもダメなんだからよ。

 

 

 

 ウィズ魔道具店に行くとちょうど、店の看板に【Close】の立て札をかけている本人がいた。

 

 「今日はよろしく頼むよ」

 

 「はい。テレポートで半分程進んだあと、歩きで向かう予定です。それで、お話の方は……」

 

 「カメラの商品化だったね。部品等次第だけど協力する」

 

 部品の提供をする代わりに商品化する。商いの基本だ。ライブモードなどは搭載するつもりはないから安心してくれ。

 

 「それでは……【テレポート】!」 

 

 

 彼女が呼び出した魔法陣ととも旅立ち、すぐに目的地の【グレイシア】に着いた。立派な門構えがまるで立ち塞がるように僕達を迎えている。

 

 「…………」

 

 「どうしました?」

 

 「もう少し旅行をしてる気分を味わいたかったかな……」

 

 「あっ……すっ、すみません!」

 

 昨日の今日で行けるとはこういうことだったのか……テレポートは確か登録した場所にしか行けないと制限があったはずだが納得だ。

 

 けれど僕の目的の【ミラーストーン】は値段にすると価値の高いものだ。魔道具として使用され、相手の攻撃を一度だけだが跳ね返せるという能力がある。部品の代用の場合、その部分は必要ないのだが。

 

 とても今の金銭で買えるものじゃない。かといってウィズに、とも言えるはずがない。色んな相場を見て、それから決めかねよう。今回は買い物というより調査に近い。

 

 「申請を出せば採掘許可も得れますよ」

 

 「採掘か……時間もかかりすぎるだろうし、今日は露店などで売られてないか見るよ」

 

 僕達はグレイシアに入国する。しかし、この街で起こっていることを僕達はまだ知らなかったーー

 

 

 

 ウィズによると、グレイシアは付近の山鉱から取れる資源の他、独自の自然地理を活かした栽培法方により薬草やポーション作りによって栄えてきた街だ。

 

 観光客はそれを使った美容目的の貴族が多い。冒険者達は基本これからの旅に備えての備蓄購入が専ららしい。

 

 「…………」

 

 「何かあったかな?」

 

 「いえ、もう少し、インパクトがあるものを仕入れたいと思ってます。それに……」

 

 初心者が集まる街なのだからインパクト重視じゃなくて堅実に行った方が儲かるのではと、恐らく商人じゃなくても分かることに悩んでいる。

 

 「それに?」

 

 「人が少ないと思いまして。前まではもう少し人が多かった気もします」

 

 「詳しい事情は知らないけれど、やはりアルカンレティアの温泉街が大きいんじゃないかな。疲れも癒せるし尚更ね」

 

 「あそこはアクシズ教徒の総本山と言われてますし……」

 

 高名なアークウィザードでもあるウィズが怯えているのをみるに相当厄介な宗教団体なんだろうか。検索は止めておいた方がいいかもしれない。

 

 フィリップはそう思いつつも影から感じる視線に気づいていた。しかしあえて口出しはしない。何が目的なのかも分からないしまだ訪れて数分も経過していない。怨恨はないだろう。

 

 道中もほぼなかったようなものだし、狙いがあったとしてもウィズだろう。でもここに来るというのは昨日決まったばかりだし、その時も店には誰もいなかった。少なからず今のところ怨恨を買うような性格でもない。

 

 アクセルの街でも見かけるチンピラか。だが同じ冒険者ならすぐに喧嘩を吹っ掛けてくるだろうし、品定めでもしているのだろうか。

 

 「一緒にいるのが得策か」

 

 「何か言いました?」

 

 「いや……それよりそんなにも何を買ったんだい」

 

 「こっちは衝撃を与えると爆発するポーション、これは温めると爆発するポーションに水を注ぐと爆発するポーション。そして」

 

 「返品してきなさい」

 

 聞くにも耐えれなくなりフィリップはウィズの説明を強引に遮った。でもーーそれよりも先に、この街で起きている小さな異変をこの時点で勘づいていれば、これから起こることを未然に防げていたかもしれない。




割と共通点あると思うんですよねこの二人。


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Wの真実/悪党は誰だ

 ウィズに勘づかれないようなるべく盾になりながら視線を向ける怪しい人物の動向を伺っていた。

 

 しばらくは怪しい動きはなかった。それどころか気づいた時にはそこには誰もいなかった。やはり僕の思い過ごしだろうか。

 

 「そこの姉弟。見ない顔だけどどこから来たんだ?」

 

 街の商人に話しかけられ、取られていた意識を引き戻す。今は遠出をしに来ているんだ。治安もいいと聞いているし余程問題は起きないと信じよう。

 

 「姉弟……?」

 

 「もしかして恋人だったか。それは悪かったな」

 

 豪快に笑う商人に対し何も言い返せなくなるウィズ。恋人か……翔太郎とときめの関係を見ていてもそれがどういう関係でなんなのか未だに理解出来ていない。

 

 「昨日知り合ったばかりなのにそれはないよ。強いていうなら友人かな」

 

 僕の訂正に乗って慌てて頷くウィズ。商人はきょとんとした顔で僕達を見ながらも察したようだ。

 

 「そういえば、前にここに来たときと比べるとあまり賑わいがないような気がするんですけど……」

 

 「分かるか。実は産業の一つが潰れかけちまっててよ……それに加えてここを治める王の三兄弟の内、上の二人が先の戦いでやられたって報せがあったらしい」

 

 「そうですか……」

 

 切なそうに呟くウィズ。彼女も元冒険者。戦いがどれだけ厳しいか知っているはず。

 

 「でもよ、一番下のディシディア第三王子が残ってる。まぁ、候補から一番遠かったから兄達を守るための騎士隊長として生きてきた分、これから政治に関しては大変だろうけど大丈夫だ」

 

 「なんせ身寄りのない老人や孤児を王家で引き取って代わりに面倒を見てくれているし、何より自らが起こした興業で財政も取り戻してきてる。現国王も安心してるだろう」

 

 上が二人がどこまでの手腕を持っていたか知らないがそれなら安泰かもしれない。でもなぜか嫌な胸騒ぎがする。

 

 「にしても魔王軍との戦いも過激化してるんだな。ここは産業国だから薬草やポーションの供給を担っている代わりに戦争には参戦しないとの話だったが、脅かされるのも時間の問題か」

 

 簡潔に言えば武器供給と一緒か。支援物資の調達を提供する代わりに争わない。それも一つの手だ。

 

 「そこまで過激化してるとは聞いてないですけど?」

 

 「聞いてない?お前ら卸売りじゃないのか?」

 

 「あっ、いえ、たまたま噂にしただけです!やっぱり宛てになりませんね!」 

 

 必死に誤魔化すウィズに不信感を抱く商人。僕はさりげなく話題を変えるように切り出した。

 

 「ミラーストーンを探しているんだがここにあるかい?」

 

 「ミラーストーン?俺の店にはないな。多分、この街のどの店にも売ってないんじゃないか?」

 

 「どうして?」

 

 「前は採掘されてたんだが、数年前から採れなくなっちまってよ。おかげで観光資源が減って困ってるってもんだ。ま、欲しいならこの街じゃなくて他に行くんだな」

 

 数年前から採れなくなってしまった……流し目でウィズを見ると少し困り顔をしながらも誤魔化しの笑顔を向けていた。別に怒ったりしないから安心してほしい。

 

 「そこのお前ら」

 

 「……僕達かい?」

 

 背後から話しかけてきたのは衛兵だった。衛兵は何も言わずに僕達の両腕を拘束してきた。状況が飲み込めず足掻くもより強い力をかけられる。

 

 「身分偽りによる不法侵入者がいるとの通告を受けた。同行してもらう」

 

 「待ってくれ、僕達はれっきとしたアークウィザードだ」

 

 「お前はな。その女が問題だ。お前も片棒を担いでいる可能性もある」

 

 まさかウィズの正体がバレている?ここで暴れると余計に疑われしまう。すぐさま処刑はないと見越し、言われるがままに連行されてしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 問題発生だ。旅に危険は付き物と言うけれど、まさか獄中が寝床になるとは思ってもなかった。

 

 別に犯罪を犯した、などではない。これでも探偵と真面目店主。決して人道は外さない。

 

 どこのタイミングで彼女がアークウィザードではないと見抜いたのか……やはりあの視線を向けていた者だろうか。そうじゃない限り辻褄が合わない。

 

 それよりも最悪な状況だ。この場にウィズがいない。隣の獄中からも返事がない。つまり何かしら被害に遭っている可能性が高い。

 

 いくら強いといえど結界が張られている街だ。魔法が使えなければ抵抗は難しいうえにそれ相応の対応もされてしまう。まずは経路の確認からしよう。

 

 そう思い検索を始めようとすると足音が近づいてきた。急いで検索を取り止める。

 

 剣を携えた青年は僕の前で立ち止まる。そしてすぐさま頭を下げた。

 

 「手荒な真似をしてすまない。私はディシディア。グレイシアの一番隊隊長で、この街を治める貴族だ」

 

 商人が言っていた人だ。確か唯一生き残った第三王子。

 

 「そんな人がなぜここに?」

 

 「簡潔に説明する。君は私が責任持って解放する。その代わり……彼女を諦めて欲しい」

 

 彼女ーーウィズだ。僕は首を横に振った。

 

 「無理だ。秘密は守れる方だからね、何が起こっているか説明して貰おうか」

 

 ディシディアは迷った表情を見せる。不審な動きはない。情報量が少なすぎるから選択肢は多すぎる。

 

 「……何者かに政権を乗っ取られた、かな」

 

 反応を見せる。当てずっぽうだったが僕の指摘に悟ったのか、諦めたようにポツリ、ポツリと話し始めた。

 

 「知っていると思うが、この街は薬草やポーション作り、あと鉱石で栄えてきた。とはいっても前者が売り上げの半分以上を占めてる。特別な手法も使用しているからね」

 

 「十年前、カルモアという科学者がグレイシアに赴任してきた。誰よりも命を重んじ、私達の作るポーションなどを通じて誰かを救いたいと語る男だった」

 

 事の発端は数ヵ月前。カルモアは人が変わってしまったかのように狂い始めてしまった。まるで薬物をやっているような幻覚を見るようになり、たった一人で反逆を始めた。

 

 温厚な性格で優秀な人材であったが為に、王は下手な手出しをしようとはしなかった。しかし、カルモアは自身を魔物に変えてしまう小箱のような魔道具を使い多くの衛兵を無効化していったという。

 

 「小箱の魔道具……」

 

 「恐ろしい力だ。触れた相手を魔物に変える力……私の兄達もキメラのような姿に変えられた。人の意思を失くし、飢える獣のように……」

 

 ディシディアの握る拳が強くなる。僕も自然と拳を強く握ってしまう。

 

 「今張られている結界も温厚な父上が二次被害を出さぬ為にの防止だったのだが、今はより強力に張られ反逆者が出ないようにと用途が変わってしまった」

 

 「街の人達は異変に気づかなかったのかい?」

 

 「いいや……カルモアは実験と称してキメラモンスターを多く製作してきた。それは付近のモンスターだけでなく、身寄りのない老人や孤児を引き取るという形で行った為に好感は逆に上がりっぱなしだ」

 

 「そのうえ、低迷していた売り上げに関して自らが造り出したモンスターをいわゆる裏賭博に流し始めた為に金は手に入り景気は回復、むしろ支持者が増えてしまった」

 

 町人達が言っていたのはこういうことだったのか……言葉にも出来ない程の外道だ。実質的に支配してしまっているということか。

 

 「俺からも一つ教えて欲しい。カルモアはどうして彼女を……」

 

 「……」

 

 一番の理由はリッチーだからだろう。人の理を捨て、不死身となった存在。強い魔法耐性を持ち、触れただけで麻痺や毒などを引き起こす。それに気づいている可能性もある。

 

 「強い言い方になるかもしれないが許してくれ。君は今までそういう場面に出会ってきたはずだ。なのになぜ、ウィズを気にかける?」

 

 「それは……いや、関係ないだろう」 

 

 少々怒り気味で席を外していくディシディア。やはり翔太郎のようにはいかないか。人の本質を見抜く……彼のやり方が信じることなら、僕のやり方は疑うことだ。

 

 まずはウィズを助けにいかなければ。この獄中をどうやって出るか……?

 

 外から射し込む僅かな光。鳥のようなそれは覗き込むかのように姿を見せていた。

 

 「エクストリーム……」  

 

 姿を眩ませていたエクストリームメモリ。僕の呟きに答えるように鳴き声のような機械音を発する。

 

 そうだ。翔太郎が自身を切り札と称し味方につけるなら、僕はもう一つの味方ーー『知識』がある。

 

 さぁ、検索を始めよう。この街に蔓延る暗闇を晴らす、風としてーー



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Wの真実/疾風とともに

今回文字数多いです。駄文垂れ流してますが我慢してください!


 エクストリームメモリの力によって牢獄を脱出し、街中の路地裏に姿を現した。いきなり道中に現れるとなると怪しまれてしまう。

 

 エクストリームメモリは何事もなかったかのように自らの元を離れ飛び去っていく。本当なら呼び止めたいところだが状況が状況だ。この世界に残っていることが分かっただけでも御の字としよう。

 

 エクストリームメモリに搭乗している際に検索をかけたがいまいち引っ掛からない。決め手となる情報が欲しい。

 

 「探偵は足で稼げ、か」

 

 僕一人の事件処理。かつてのズーメモリの事件を思い出す。立ち止まっている暇はないと、路地裏を飛び出し駆け出した。

 

 今、手に持っている情報は小箱の魔道具ーーガイアメモリを持つ者にこの国が乗っ取られていること。アダプターがあったのだから絶対ないという可能性はない。

 

 そして内容はおそらく【ジーンメモリ】。遺伝子の記憶を冠するメモリ。でなければ普通の人間が合成キメラや魔獣など作れるはずがない。

 

 「問題はそれをいつどうやって手に入れたか……」

 

 それに加えて何かもう一つ、闇が隠れている気がする。なぜカルモアは第三王子のディシディアを残したのか。現国王ならまだしも、全員を残さず潰すはずだ。

 

 昼間の商人の話では上の二人が戦死、だがディシディアの話ではキメラに変えられてしまった。いや、そもそも戦争に行くなら国民にも知らせるはず……

 

 抱え込んでいると突然、背中を押すように強風が吹いた。酒の酔いを覚ます以上のそれは、まるで何を伝えるように。

 

 『考えすぎだ。ヒントはどこかに落ちてるはずだぜ』

 

 この場にいない相棒がそう言っているように思えた。解決へと導くヒントはどこかにーー

 

 「……鉱山業」

 

 いつから始まったかは分からないが、この世界にある道具はのはせいぜいツルハシだ。ドリルがあるところは翔太郎が働いていた土木作業でも見たことがない。

 

 しかもミラーストーンだけが鉱石だけじゃない。他にもあるはずだ。急に採れなくなったというのは不自然すぎる。

 

 『戦争が激化している』

 

 『薬草やポーションの提供を担っている』

 

 『激化しているとは聞いてないですけど?』

 

 『特別な手法をしている』

 

 『幻覚を見たように狂い始めた』

 

 結びつけるように考えていく。やがてーー一つ、可能性の答えが見つかった。

 

 懐からこの状況を打破出来るであろうアイテムを取り出す。本来あるべき形から一部がロストしてしまったそれを装着する。

 

 【Cyclone】

 

 翔太郎に使うなとは言ったが、まさか僕が先に使うはめになるとはね。まずは採石場で確認を取らなければ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 『侵入者警報並びに捕虜の脱走を確認!ただちに捕らえよ!』

 

 「侵入者……?」

 

 既に実験体として報復を受けていたウィズ。たが高い魔法耐性などのおかげで能力を受け付けず未だ姿が変わってしまった様子はない。

 

 だが、自分でも分かる程にリッチー特有の能力が失っているのが分かった。麻痺や毒といった追加効果が発動しない。

 

 「侵入者とは誰だ!」

 

 「分かりません!情報によれば動きが速い為、盗賊職ではないかと!」

 

 『一応、盗賊職とは対極の位置ではあるけどね』

 

 月光の反射でシルエットでしか確認できなかった。が、それは二本のマフラーを靡かせる者だった。もう一度しっかり確認すると、そこには獄中にいたはずのフィリップが立っている。

 

 「君は……どうして抜け出した!あそこにいれば」

 

 「下手な芝居は止めろ。この悪夢を作り出したのは君自身だろう」

 

 「……な、何を言って」

 

 「順番に紐解いていこう。最初は魔王軍との戦いだ。この国は戦争に参戦しない代わりに薬草の提供をしていた

 

 やがて戦争は激化。足りない兵を補わせる為に参加せざるを得なくなった……いや、激化とまではいかないか。少々苦しくなった程度だろう」

 

 ウィズが知らないのはその為だ。となると積極的に関与しているとは考えづらい。

 

 「効能はよいが特殊な製法であるが故に生産が難しい薬草を更に効率良く生産する為に出したアイディア。いわゆる農薬を使用した生産だ。それによって更なる向上を目指した」 

 

 「だがその農薬に問題があった。実験と称して行ったそれは地質汚染を発生させ、それは鉱山にすら影響を与えた。まるで山の神を怒らせてしまったように立ち入る者全てに呪いをかけ、やがて病や死に致るーー

 

 その結果、一部の鉱石ーー例えばミラーストーンも採取不能になった」

 

 ディシディアは図星をつかれたように目を伏せる。山の神や呪いと言っているが、科学的に見れば農薬によって起きた地質汚染が人体に影響を及ぼしているのだろう。実際、デンデンセンサーでそれらしき観測があった。

 

 「採掘を仕事としていた国民達に対しどう説明するかで悩んだ末、二つに分かれた。ありのまま話すか、採掘不可能になってしまったか。君の兄二人とカルモアは前者、君と国王は後者だろう?」

 

 「亀裂が生じていたその時に小箱の魔道具を手に入れたーーいや、拾ったという表現の方が正しいかな」

 

 アダプターでさえオークションで四億するんだ。本体を手に入れようとなるとそれ以上になるはず。加え、採掘業を仕事としていた国民への補填を考えると購入は難しい。

 

 残された道は人とメモリが引き寄せられた。つまり、あのメモリは【T2ガイアメモリ】の可能性が高い。

 

 そしてそれを最初に見つけたのがディシディア。使用した時に感じたその力に魅了され、障害であった二人の兄を合成キメラに変えた……つまり、変えてしまったのはディシディア自身。

 

 「いい加減な妄想だろう!第一、私がそれを使った証拠がどこにある!」

 

 「君は言ったはずだ。『幻覚を見るように狂い始めた』と」

 

 「それが一体ーー」

 

 「小箱の魔道具……ガイアメモリには禁断症状がある。初期症状としては幻覚を見たりなど、麻薬そのものと同じさ」

 

 「使っていないというのなら、幻覚を見るとは知らないはず。故に使用している可能性が高い」

 

 ディシディアは言葉を出さず歯ぎしりをする。

 

 「それを見て恐れた君は、唯一残ったカルモアに強引に起動させ手先にしようとした。が、メモリと引き合った適合者は君ではなくカルモアだった。自分より使いこなしてしまったカルモアはやがて自らの正義、そして陥れようとした君への復讐にとり憑かれてしまい現状に至る」

 

 「とどのつまり、自業自得さ」

 

 「……黙れ!第一、ここの奴らの頭がおかしいんだ!俺は兄どもより高いステータスを持って産まれ強いのに、生まれの速さなどという下らないことで王位を捨てなければならなかった!」

 

 「加えて魔王軍との戦いに参加しないなどとほざき……俺の全てを否定する!」

 

 「犠牲者を出さない平和な選択じゃないか」

 

 「うるさい!そのおかげで周りの貴族からは『腰抜け』などと呼ばれ侮辱される毎日!お前に分かるか!」

 

 ディシディアは剣を抜く。戦闘に入るか……

 

 「私だけ結界を無効にする札を持っている。低レベルのアークウィザードなど敵ではない。お前を殺せば今まで通りだ」

 

 「上に立つことも出来ずに自ら造り出してしまった怪物に怯えることが今まで通りか」

 

 「違う。そいつはもう半分は廃人だ。あとはゆっくりと都合良く扱っていくだけだ」

 

 「……どうやら間違っていたのは僕のようだ。本当の外道はお前だ」

 

 【Cyclone】 

 

 「変身」

 

 バックルーーロストドライバーに【サイクロンメモリ】を装填する。

 

 【Cyclone】

 

 暴風が吹き荒れる。ディシディアが目にしたのは人の姿ではない者。全身緑と赤い複眼。風に流されるように靡くマフラー。

 

 「仮面ライダーサイクロン。さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 生身の人間にこの力は使いたくなかった。けれどあのままみすみすとやられてしまえばこの街はまた暗黒に包まれる。

 

 手始めに風の刃を発生させディシディアの持つ剣を弾き飛ばす。それを見て焦ったのか、一目散に逃げ出していく。

 

 「呆れた腰抜けだね……カルモア。もしまだ意識が残っているのなら、そのまま動かないでいて欲しい」

 

 カルモアーー【ジーン・ドーパント】に言うと、彼は降参するかのように両手を上げた。

 

 【Cyclone Maximum Drive!】

 

 風に乗り素早い動きで急接近し、ジーンドーパントの首元に斜めから強い踵落としを決める。メモリが排出されると同時にカルモアはその場で倒れた。

 

 「ウィズ、ここは任せるよ」

 

 何が起こっているのか分からない表情をしていたけれど、僕の言葉を飲み込み頷いた。僕はジーンメモリを拾い、部屋を飛び出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 形跡を追ってたどり着いたのは地下の闘技場。観客席などはなく、まだ不恰好な作りをしていた。多分、キメラを戦わせて強さを検証する施設なのだろう。

 

 両サイドの鎖から一匹ずつ獣が姿を現す。右からは龍、左からはライオンだ。たが、明らかに持たないはずの部位があった。

 

 それに庇われるようにディシディアは立っていた。獣らは哀しい声をあげながら襲いかかる。

 

 身軽にそれを避け旋風を巻き起こす。しかし傷は浅い。風だけの力では押しきれないようだ。

 

 【Heat】

 

 三本の内の一本ーー【ヒートメモリ】を起動させマキシマムスロットに装填する。

 

 【Heat Maximum Drive!】

 

 熱風を纏いながらその場で高速回転し台風を巻き起こす。先程より遥かに効果は出ている。だが、こちらも負担が大きい。

 

 サイクロンは動くことによって風を吸収し体力の回復が出来る。しかし、さすがにツインマキシマムとなると足りなくなってくるか……

 

 着地して出方を伺う。最も、獣にそんなことを持っても……?

 

 そういえばマキシマムドライブを当てた時も避けようとする動きがなかった。今も反撃の瞬間があるのに動かない。自然の直感というものか、もしくは……

 

 僅かな可能性を信じ、ジーンメモリを起動させスロットに装填する。

 

 【Gene Maximum Drive!】

 

 合成キメラらにレーザービームを放つ。それが直撃しまるで分かれていくように出てきたのは二人の男性だった。多分、兄達だろう。

 

 耐えきれなかったようで変身が解除される。二度目の変身は暫く出来ないだろうが……

 

 「あ、あ……」

 

 ディシディアは蛇に睨まれた蛙のように二人から睨まれ動けなくなってしまう。

 

 「……ディシディア。お前がしてきたことは分かっている。お前がどれだけの屈辱を浴びてきたのかもな」

 

 「やり方は間違っていたとはいえ、お前に手腕があることは認めている。父上にも一度、お前が王位を継ぐべきだと抗議したこともある」

 

 「今さらそんな嘘信じるか!だったとしてもどうせ面倒事を押し付けるためだろ!」 

 

 「いや、その話が出たのは鉱山の件が出る前からだ。私達が公表すべきだと言ったのは、私達の責任にすればお前への非難は少なくなると読んでだ」

 

 どうすることも出来なくなってしまったディシディアはその場で膝から崩れ落ちた。

 

 「ありがとう。この街の英雄よ。私達だけでなく、暗闇から街を救ってくれて。何が出来るわけでもないが、せめて表彰だけでも……」

 

 「いや、僕はちょっと事情が……」

 

 「フィリップさん、大丈夫ですか!」

 

 息を切らしながらウィズが割り込んだ。それを見て僕は妙案を思い付く。

 

 「ウィズ。最後にやって欲しいことがあるんだ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日。二人の王子は今まで起きていたことを国民に説明し、ディシディアは既に他国の警察に身分を確保されたことを通達した。

 

 彼にどういう審判が下されるかは分からない。けれどこの二人の王子なら易々と死刑にするなんてことはしないだろう。しっかり罪を償わせて欲しいところだ。

 

 そしてーーこの街を救った人物としてウィズは表彰された。彼女ならこの状況を打破出来てもおかしくはないと無理やりこじつけ、僕の代役を頼んだのだ。

 

 「ささやかだが、賞金の方も贈らせて貰おう」

 

 その言葉を受けウィズはこちらを確認する。人の好意は受けておくべきだ。

 

 

 

 「では、戻りましょうか」

 

 「テレポートは止めてくれ。帰るまでが旅行らしいからね……それとウィズに聞きたいことがある」

 

 受け取った賞金を抱えホクホクしていたウィズの様子が変わった。

 

 「今、アクセル付近の古城で幹部が来ているらしい。君が内通者じゃないかと僕は疑っている。一応、幹部なのだろう?」

 

 「……私、その話しましたっけ?」

 

 「小耳に挟んだだけさ。最も道中に聞きたかったけれど、タイミングを失ってしまったからね」

 

 実は翔太郎よりも先に古城に幹部が潜んでいるという情報は僅かながら掴んでいた。だが確証がない為に伝えるのを控えていた。そうでもしないと一人で行ってしまうのが翔太郎の性だ。

 

 ウィズを選んだのも幹部であることを本棚で掴んでいたから。内通者である可能性も高いからすぐさま行動に移した。僕がいなければWになれない。

 

 「警戒しなくても、私は結界の維持だけ頼まれてる置き物幹部ですから」

 

 笑顔で答えるウィズ。実際、戦況を知らなかった彼女は積極的に侵略活動をしているとは断言しがたい。

 

 だが、元々人間であったにも関わらずリッチーになったのは何かしら理由があるわけだ。……それを問い詰める権利を僕は持ち合わせていない。

 

 「一先ずは君を信じよう。あの姿を見せたのも君がもし下手な動きを見せたら、その為の予防線だ。身勝手を言うが、なるべく広めないで欲しい」

 

 「……分かりました。でもどうしてフィリップさんがあの魔道具を?」 

 

 「それは……僕が造ってしまったからだ。犯してしまった罪を償うために、あの力が必要だ」

 

 少し儚げに述べるフィリップ。そんな彼の背中をウィズはただただ見ることしか出来なかった。




次回から原作に戻ります。


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Gに気を付けろ/いつもの日常

「翔太郎、僕達をリスペクトした漫画があるらしいよ」

「本当か?!」

「うん。淫獄団地というね……」

「おいやめろ」


 グレイシアから二日程歩き、いい加減嫌になって結局テレポートで帰ってきた。

 

 旅行としては二泊三日と、充分すぎる日程だったが内容が内容だけに楽しかったとは言えない。

 

 アクセルの方でも色々あったようで、古城に住み着いていた魔王軍の幹部がやって来たらしい。

 

 翔太郎の話ではめぐちゃんが毎日のように爆裂魔法を放っていた為に文句を付けに来ただけのようで手出しはしなかった。

 

 しかし、逆にこちらが挑発してしまい感情を逆撫でしてしまったようで、ダクネスちゃんに呪いを受けてしまったがアクアちゃんが無事に解き、とりあえずそのままの状況が続いている。

 

 この話を鵜呑みにするならば、ただのご近所トラブルにこっちが勝手に逆ギレしたというむしろ加害者になってしまっている。

 

 「で、どうするんだい」

 

 「どうするんだい、じゃねぇよ。使ったのか?使ったんだよな?」

 

 「状況が状況だったから仕方ないじゃないか」

 

 何も言えずに翔太郎はため息をつく。俺が持ってると無茶をするとか言う癖にコイツもたまに無茶をする。となると、俺達が変身出来ると知ってるのはそのウィズって奴だけになるのか……

 

 当人が営業する店でそんなことを言う。見た目は二十歳ぐらいの美人だが、世の中何があるか分からない。置き物幹部とか言っているが実際は分からない。 

 

 「ところでダクネスちゃん以外に被害はなかったのかい?」

 

 「一応な。そっちも何とかなったし、あとは相手側がどう出るか……」

 

 「すみません、その幹部の方ってどんな人でした?」

 

 「なんか首のない鎧みたいな奴だったよ」

 

 「ああ、それならベルディアさんですね。仲が良かった訳じゃないですけど、元々は騎士なので卑怯な手は使ってこないと思いますよ」

 

 にこやかな笑顔で答えるウィズ。多分、霧彦に似た立ち位置なのかもしれない。敵側だったが風都を想う気持ちは俺と同じだったあいつを思い出す。

 

 というより、簡単に情報を話してしまうあたり本当に置き物幹部のようだ。

 

 「さてと、俺も頼まれ事があるし行くか。お前はどうする?」

 

 「僕は僕でやることがある。無茶はしないでくれ」

 

 俺は適当な返事をしてウィズの店を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 冒険者ギルドにて。最近じゃ専ら俺の噂のおかげかギルドの方から依頼されることが多くなってきた。

 

 見る限り殆どが誰も受けなさそうな面倒事ばかりだが、文句ばっかり言ってられない。第一、冒険者という実質何でも屋みたいなものがある限り本当に謎解きぐらいの時しか回ってこないだろう。

 

 「余りの依頼はあるか?」

 

 「そうですね……翔太郎さんのおかげで粗方は片付いてますよ。あとは上級職の方向けなので、下手をすれば死ぬ可能性もありますし」

 

 ここ最近で仲良くなり始めた受付嬢のルナは少し苦笑いで伝えた。【冒険者】という最弱の肩書きがあるせいか難しい依頼は勧められないようだ。

 

 ならフィリップと一緒の時がいいかと納得し窓口を離れる。しばらくはメモリについて調べ始めるのが吉か、それとも幹部に関してか……自分が優先することは前者だろうな。

 

 「これ、これなんてどう?」

 

 いつもの聞き覚えのある声。アクアだ。確か借金返済を手伝えと依頼してきた覚えがある。俺に対しての報酬金は払うどころか考えにすら至っていなかったが、巻き上げる訳にもいかずタダ働きさせられた。

 

 「よう。お前、まだ返し終わってなかったのか?」

 

 「出た報酬で別の店で飲んだらしいです」

 

 めぐみんのちくりに落胆する。ダメ人間じゃねぇかよ……ん?

 

 「飲んだってジュースだよな?」

 

 「シュワシュワに決まってるじゃない。一日の終わりはあれで決まりよ」

 

 シュワシュワーー確か酒類だ。未成年に酒類提供する店がどこにある。

 

 「この世界じゃ十二歳でもう成人扱いだぞ」

 

 「そんな歳から飲んでたら体が壊れるっつーの!法律どうなってんだ!」

 

 「す、すまない……」

 

 カズマの話に切れるとなぜかダクネスが謝った。なんでお前が謝るんだよ。一回警察に抗議しにいかねーとダメだなこりゃ。事件事故が増える一方だぞ。

 

 「話を戻すわよ。この湖の浄化のクエストを受けましょう。これなら私に打ってつけよ」

 

 「プリーストなら浄化魔法が使えますからね。でも蔓延るブルータルアリゲーターをどうしますか?」

 

 「そこはカズマ、お願い」

 

 「丸投げかよ……翔太郎、付いてきてくれないか?」

 

 「珍しいな。お前ならすぐめんどくさいとか言うだろうと思ったけど」

 

 「そう言いたいのは山々だけど、もう冬も近いからな。いい加減馬小屋暮らしから卒業したい」 

 

 俺達もそうだけど、そろそろ夜も本格的に寒くなってきてるし何とかしなきゃな……宿暮らしなんて豪華なことは出来ないし。

 

 あといい加減、俺を何でもやってくれる便利屋ではないことを思い知らさなければ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 結果から言えば散々だった。アクアは触れるだけで液体を真水に変えてしまう能力があるらしくそれを使っての実行だったのだが、まず檻に幽閉。その時点で何となく察しはついていた。

 

 止めようとしたものの何も無しにワニの大群がいる湖に入る訳にも行かず、納得しないまま入水。しばらくするとワニがやって来た。

 

 ダクネスはすぐさま突っ込んで行くのを見て俺も走り出し、救出には成功したものの檻はそのまま破壊されアクアも完全に喪失してしまっていた。

 

 で、結局俺が貯まりに貯まっていたスキルポイントを使って浄化魔法を会得。めぐみんの爆裂魔法で脅した隙に浄化しクエストは何とか遂行。当の本人は俺の背中で半べそをかいている。

 

 「お前ら結局なにがしたかったんだよ」

 

 「私は楽しかったぞ」

 

 「お前はもっと自分を大事にしろ。あと、今回カズマは何もしてないからな」

 

 「俺に隙はなかった」

 

 見向きもされなかっただけじゃねぇか。

 

 やがて泣き疲れたのか、町に着く頃にはアクアは寝息を立てていた。本当にこいつ、世話がかかる奴だな……

 

 「探偵から子守りに転職したのかしら」

 

 「んな訳ねーだろ盗賊」

 

 街中ですれ違ったついでのようにヤジを飛ばすメリッサ。この間、一応協力関係になったのはいいのだが、いまいち溝は埋まらない。敵対同士なんだから当然と言えば当然なんだが。

 

 「盗賊なんかと一緒にしないでくれるかしら。私はトレジャーハンターなの」

 

 「宝探しなんてガキの頃には卒業したな。ま、俺みたいなハードボイルドには元から似合わねぇか」

 

 「あら、ハーフボイルドがよく言うわ」

 

 小馬鹿にしながら挑発してくる。フィリップの野郎、余計なこと言いやがって……

 

 「それよりなんか用事でもあんのかよ」

 

 「情報共有ね。先日のグレイシアの件よ」

 

 心臓がドキリと跳ねた。まさか仮面ライダーがバレたのか?

 

 「それなら俺も新聞で見たぜ。フィリップが真相を暴いてウィズが大元を倒したんだよな」

 

 カズマが言った。報道ではその情報で通っている。王子と協力し結界を破り、ウィズの魔法で倒したーーそれが建前。

 

 一応、最前線で戦っているミツルギが今帰ってきているが、どれぐらいのレベルかは分からない。あとはこの間の幹部の奴もだ。

 

 「問題はその国を支配していた人物が使っていたもの。小箱の魔道具よ。何か知ってるかしら」

 

 「……知らねぇな」

 

 声は動じていない。けれど、微妙な間にメリッサは違和感を感じた。その様子に翔太郎も緊迫していた。

 

 「ま、いいわ。それじゃーー」

 

 「女神様?!」

 

 横やりを入れるように乱入してきたのは、タイミングがいいのか悪いのかミツルギ本人だった。大剣にガチガチに着込んだ鎧、いかにも勇者ですという感じだ。

 

 「大声あげんな起きるだろ」 

 

 「貴方はいつかの……すみません。貴方は抱いているそちらの方をご存知で?」

 

 「アクアだろ」 

 

 「それはそうなんですが、その……彼女は女神なんですよ?」

 

 お前はまともな奴だと信じたかったよ。確かにフィリップから同じ名前で特徴を持つ女神がいるって教えてもらったけどよ。

 

 「でも確かアクシズ教っつー質の悪い宗教団体だろ」

 

 「私の信者をのけ者みたいに言わないで!」

 

 「痛い痛い痛い!いつから起きてたんだてめぇ!」

 

 首を絞められた反動で無理やり下ろされ尻餅をつく。また涙目になりやがって本当こいつは……

 

 「やっぱり子守りの方がいいんじゃない?」

 

 「誰がなるか」

 

 「なんでもいいわよ。話しにくいことならこの間の場所でね」

 

 面倒くさくなったのか、メリッサはそのまま離れていく。自分勝手なうえにさりげなく情報を寄越せと言ってくる。非常に厄介だ。

 

 「女神様に何をしてるんですか!」

 

 こっちもこっちで厄介だ。

 

 「こいつに話があるならカズマを通せ」

 

 俺もめんどくさくなって丸投げした。メリッサは……まぁ、行かねぇ行けねぇよな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 人手がない路地裏。メリッサはそこでしゃがみながら待っていた。

 

 「おい」

 

 「あっ……ちょっと、もう少しだったのにどうしてくれるのよ!」

 

 「お前は自分の欲ばかりで猫側の気持ちが分かってない」

 

 「当たり前じゃない。私はれっきとした人間だもの」

 

 「遠回しに人じゃねぇって言ってんのか?」

 

 「ちょっと役立つゴミ虫じゃなかったの?」

 

 憤る感情を抑えつつ思い切り息を吐く。

 

 「……さっきの小箱の魔道具の話、なんかあんのか」

 

 「前払い」

 

 俺は口角をひきつりつつも、喉を鳴らした。付近で潜んでいた一匹の猫が頭を飛び出し、ひょこひょことゆっくり近づいてくる。

 

 猫は俺の足元にすり寄り、やがてもう一匹が屋根から飛び降りた。それを見てメリッサは少女のように瞳を輝かせながらゆっくりと前足を取った。

 

 「はぁぁぁ……このムニムニした肉球、ふわふわの毛並み!きゃわわわ!」

 

 「あんまり乱暴にすんなよ」

 

 特技と言っていいのか分からない猫との会話がこんなところで役立つとは思ってなかった。今思うのは単純に我慢してくれと猫に願うばかり。今度上等の魚持ってきてやる。

 

 「で、俺は本当に何も知らない。お前はなんかあんだろ。じゃなきゃここまで呼び出さねぇ」

 

 「まぁ、そうね。情報はない。それが情報」

 

 目線も合わせずひたすらもふるメリッサ。カチンときた。俺はまた猫語を話し、メリッサに抱かれていた猫はすり抜けるように逃げていった。

 

 「何してくれてんのよ!」

 

 「こっちの台詞だ馬鹿野郎!お前、自分がやりたくて呼び出しただけかよ!」

 

 「立場をわきまえなさい。私が動いてあげてる。それで私が気持ちよくなって癒される。winよ」

 

 「ただの独り勝ちじゃねぇか!」

 

 「それでいいじゃない。私がいないと何も出来ない男はそれぐらいでいいのよ」

 

 「お前を引っ捕らえればそれはそれで仕事してることになるからな」

 

 「ハーフボイルドにそんなこと出来るかしら?」

 

 「おーし分かった。今すぐ警察に付き出してやる」

 

 ここまで馬が合わねぇのは初めてかもしれない。しばしの格闘の末、デンデンセンサーを持ってなかった俺が【潜伏】を見切れず逃がしてしまった。

 

 

 

 後日、あの日に路地裏で如何わしい噂が立っていることを知るのはまた別の話。

 

 



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Gに気を付けろ/崩れ去る日常

「ヒロインの英語表記をHERO-INにしてヒーローが一番守りたい存在って意味にしたいけどどうかな」

「勝手にしろと思ったけどちょっといいなって思って悔しい」


 『緊急!緊急!冒険者の方々は直ちに正門に集まってください!特にサトウカズマパーティーの一行は大至急お願いします!』

 

 魔王軍幹部が初めて襲来し丁度一週間が経過した朝、こんな放送とともに目を覚ました。

 

 昨日は久しぶりに探偵っぽい仕事が舞い込んできて張り切ったせいか未だに疲れが残っている。

 

 「……行くか?」

 

 「本心を言えばもう少し眠っていたい」

 

 フィリップのわがままに同感してしまう。実際、戦いになれば厳しいものがある。

 

 だが、問題を引き起こしたのはあいつらだ。自分達の問題は自分達でなんとかすることがけじめみたいなものもある。ここではもう大人扱いらしいしな。

 

 「ま、お子さまには変わらねぇか」

 

 ゴソゴソと身支度を整え始める。最後に覚悟の帽子を被り気合いを入れる。

 

 「せめてウィズの店に移動しておいてくれよ」

 

 フィリップは何も言わず右手を挙げる。今日の依頼はーーいつもの日常を守れ、だ。

 

 

 

 正門に到着する頃、いつもの鎧を着て同じところに向かっているダクネスの姿が見えた。

 

 「事態は分かってるよな?」

 

 「ああ。恐らくあのデュラハンだろう。私達が起こした問題だ、自分達で何とかする」

 

 自分達のせいだという自覚はあるようだ。よっぽど、ダクネスはあのパーティーじゃ最年長だ。性癖さえどうにかなれば真面目で頼りにはなる。

 

 問題はアクアとめぐみんの二人だ。めぐみんは喧嘩っぱやいし、アクアは面倒事も去ることながら少し自信過剰なところもある。能力は高いがそれに据えてサボるタイプだ。

 

 群衆の最後尾に到達すると、あのデュラハンの声が聞こえた。会話の内容を聞くにどうやら仲間を見捨てたことにご立腹のようだ。まぁ、間違っちゃいない。呪いをかけたのはお前だけどな!

 

 「や、やぁ……まさか敵側から心配されるとは思わなかった」

 

 人々をかき分け、ダクネスが前に出る。平気な姿にデュラハンの素頓狂な叫びが轟いた。

 

 「プークスクス!もしかして呪いが解けたことも知らずにずっと城で待ってたの?うけるんですけどー!」

 

 アクアの小馬鹿にした言い方に呆れたため息をついてしまう。お前、そういうののせいで問題を起こしてることいい加減学んだらどうだ。

 

 「えっと……デュラハンでいいよな」

 

 「お前は確か、まともに話が通る冒険者だったな」

 

 そんな覚え方されてんのかよ。ま、怒り心頭だったあいつが少し冷静さを取り戻したならそれでいい。

 

 「俺達としては呪いが解けたなら行かないに越したことはないからな。悪いことをしたっていうと変な感じになるけど……それで、調査とやらは終わったのか?」

 

 「それならもう終わっている」

 

 普通に話してるけどこれおかしいよな?例えりゃドーパントの犯罪者を説得してるみたいなもんだ。それで止まるならどれ程良かったか。

 

 チンピラ冒険者なんかよりよっぽど話が通じてるっていうか……人間の闇なんてたくさん見てきたつもりだったけどまだまだあまいみたいだ。

 

 「実はこっちもこっちで都合が悪くてよーー」

 

 「そうよ!あんたのせいでろくにクエストも受けられなくて困ってるのよ!おかげで借金まみれの私をどうしてくれんのよ?!」

 

 不良の言いがかりみたいなこと言うんじゃねぇ。

 

 「そんなこと知らんわ!大体、私がここに来たのはもう一つ理由がある。なぜ爆裂魔法を撃つのを止めん!」

 

 俺とカズマはほぼ同時にめぐみんに視線を送った。自分は悪くないと、そんな態度でめぐみんも目を反らすとカズマの制裁が下った。

 

 「いたっ、やめっ、止めてくだひゃい!」

 

 「反省が出来ねぇのかお前は!大体お前撃ったあと動けなくなるだろうが。てことは共犯者がいるだろ!」

 

 「言っておくけど私じゃないからね。私がそんなことするはずないじゃない。女神だし、ここ毎日ずっと朝から夕方までアルバイトだったんだから」

 

 早々に否定する奴が大抵犯人だってこと知らねぇのかこいつは。しかしアリバイがあるならーーなんで身内で犯人探ししてんだ。

 

 「アルバイトは昼からじゃなかったのか?てっきり朝は遊びに行ってるものだと……」

 

 ダクネスの証言によって一発でアリバイが崩れ去る。そしてーーめぐみんは静かにアクアを指差した。

 

 「ふざけてんのかお前は!」

 

 「ち、違うのよ!元はと言えばあんなところでうろちょろしてクエストをさせないあいつが悪いんじゃないのよ!」

 

 自称女神が言うことかよ。やっぱりそんなこと言う奴にろくな奴はいない。

 

 「無視するな!」

 

 デュラハンの怒りの声が響いた。やばい、どう考えてもこっちの分が悪い。クエストが少なくなったのはあいつのせいだけどそれで一時的に平和になったのは事実だし、何よりあいつから手出ししてない。

 

 「もう許さん……全員切り捨ててやる!」

 

 大量のアンデッドを従え襲いかかる。ボロいとはいえ一端の鎧と剣を携えている。一方の俺はといえば防具も着けずに格闘術だ、勝てる手段が見えない。

 

 「おい、アンデッドって何が効くんだよ?」

 

 「プリーストが使う浄化魔法か聖水が基本だ!」

 

 だからアクアの奴、あんなに強気だったのか!

 

 「だったら俺がこの間成り行きで覚えた魔法も……!」

 

 「あっ、おい!」

 

 「【プリュフィケーション】!」

 

 骸骨の首根っこを掴み唱える。しかしなに食わぬ様子で止まるとまるで効いていないように動き出す。振り上げられた剣を避けて俺は再び逃げ始める。

 

 「ダメじゃねーか!」

 

 「幹部の部下だし当たり前だろ!それにプリュフィケーションは状態異常を治すのが目的だ!」

 

 「早く言え……よっと?!」

 

 自分でも驚きの反射神経で剣を真剣白羽取りで止める。火事場の馬鹿力って言うけど、やれば出来るもんなんだな……

 

 僅かな鮮血を感じながらも強引に蹴り飛ばす。体制を崩したが深追いはしなかった。

 

 「浄化ってことはアクアならなんとか出来んだろ、あいつはどうしたんだよ!」

 

 「誰かー!」

 

 アクアの声が聞こえ、二人で見るとそこには他の人達よりも遥かに多くのアンデッドに追い回される姿があった。あれじゃ魔法を撃つ隙もねぇな……

 

 「カズマ、俺は聖水を持ってくる。アクアと協力して数を減らせ」

 

 「なんで俺なんだよ!翔太郎の方が強いだろ!」

 

 「っても同じ冒険者なんだからそこまで変わらねぇだろ……確かにスペックで言えば俺が上だ。でもあいつらを扱うにはお前の方が長けてるだろ。それに冒険者だからこそ出来ることがある」

 

 前方から接近するアンデッドナイトの攻撃を避け、翔太郎は渾身のハイキックを、カズマは体重を乗せたショートソードの一撃を見舞った。

 

 「普段は邪険扱いされる俺達だ。でもここぞという場面で逆転への一手になる。俺が保証してやる。お前は切り札だってな!」

 

 「……しょーがねぇなぁぁぁ!アクア、こっちに来い!めぐみんは町の外で爆裂魔法の準備!」

 

 翔太郎からの熱い声援に背中を押され動き出すカズマ。すぐに救援に向かうから少し堪えてくれ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 聖水があるらしい教会。しかし、既にほとんどの冒険者や町の人々が協力してくれたおかげか残っておらず誰もいなかった。

 

 しかし寧ろ好都合。俺はダブルドライバーを装着する。

 

 【Joker】

 

 【ジョーカーメモリ】を起動させると同時に、ダブルドライバーの右側に【サイクロンメモリ】が送られてくる。それを装填し、左手に握ったジョーカーメモリを装填する。

 

 「変ーー」

 

 ドガァァァン!

 

 遠方からの轟音に驚きバランスを崩す。今のはめぐみんの爆裂魔法だな……じゃあ尚更急がねぇとな。

 

 『少しだが怒りの感情が見える。邪魔されて怒ってるのかい?』

 

 「んなわけあるか。変身!」

 

 【Cyclone×Joker】

 

 もう一つの姿に変身した翔太郎達は風を纏い教会を飛び出す。屋根を伝っていきながら地上での様子を伺うと、各々の冒険者が必死に戦っている。

 

 『助けにいきたい気持ちは分かるが、今はデュラハンを先決しよう』

 

 「分かってるっつーの!」

 

 スピードを速め一気に正門にたどり着く。先程の爆裂魔法に少し巻き込まれたのか、カズマとアクアの二人がデュラハンの目の前で倒れている。めぐみんは言わずもがな。

 

 「おい、アクア!」

 

 「分かってるわよ!喰らいなさい、【ターンーー】」

 

 「遅いわ!」

 

 振り下ろされる大剣がアクアに迫る。が、なんとか間一髪でアクアの救出に成功しデュラハンの攻撃が空振る。

 

 地面に着地しデュラハンを睨む。突然の出来事にアクアは瞳をパチクリさせている。

 

 「……何者だ。緑と黒の半分のモンスターなど聞いたことないぞ」

 

 「だったらちゃんと教えてやる。俺達はW(ダブル)。この町の涙を拭う二色のハンカチにして、仮面ライダーだ」

 

 アクアを下ろし両手をはたく。

 

 「…………」

 

 『どうしたんだい?』

 

 「いや、今回に関しちゃ言えるのか迷ってよ……」

 

 『これは相手だけに投げ続ける言葉じゃないだろう?』

 

 「そうだったな。んじゃ、行くぜ相棒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

 

 

 

 

 

  



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Gに気を付けろ/日常を取り戻せ

 とりあえず戦闘パートです。一話挟んで原作2巻に行こうかと思います。


 「ダブル……ふん、モンスターの姿をして人間の町を守るとは変わった奴だ」

 

 デュラハンは舐めた笑い声を上げる。ま、モンスターじゃないって言うには嘘になっちまうかもしれねぇが。

 

 デュラハンは大剣を振り上げ肩に乗せる。右手には自らの頭を持っているとはいえ、あのサイズを平然と扱うのはさすがとしか言いようがない。

 

 一陣の風が吹く。サイクロンジョーカーは風による素早い身のこなしに加え、ジョーカーの身体能力を引き上げた接近戦タイプだ。

 

 風を纏い先制を取った。徒手空拳でダメージを与えるも、固い鎧も相まって上手く通らない。

 

 一旦距離を取り、今度は赤いメモリを取り出す。

 

 「ここはヒートで」

 

 『待つんだ。このままサイクロン主体でいく』

 

 「何言ってんだ。見ただろ今の」

 

 『君はどうしてヒートを選んだんだい?』

 

 相棒の問いに俺は呆れる。んなもん、火力の底上げに決まってる。今の状態じゃ劣勢ばかりだ。

 

 『僕達はかつて不死身の男と戦った。だがあれは細胞酵素によるもので死体を無理やり動かしているのが正しい見解だ』

 

 不死身の男ーーかつて風都を襲い俺達の前に立ちはだかった強敵の一人。

 

 『でも今回は違う。科学が通用しない世界だ。ここは僕の指示に従って貰う』

 

 「……お前が言うなら。で、どうすんだ」

 

 『検索は完了している。奴の倒す方法は浄化魔法しかない。強化を受けている奴にとって聖水はまず効かない』

 

 つまるところ、あいつらアンデッドは既に死んでいる為倒すことは出来ない。

 

 その代わり基本は浄化魔法で一撃みたいだが、それが不可能となると難易度は跳ね上がってくる。

 

 弱らせることは可能なので一撃で浄化出来るまで弱らせる必要がある。

 

 「どう攻める?」

 

 『弱点は水だ』

 

 「水ぅ?ってことはよ……」

 

 『僕達が有利になることはない。ヒートの攻めよりも風を取り込み体力回復に努められるサイクロンの方が良いと見る』

 

 「魔法使えるだろ」

 

 『体は君のだよ』

 

 「……納得したよ。じゃ、このまま行くぜ」

 

 相手は強敵だが武器はダクネスが扱うより大きな剣だ。それに加えてもう片方には自らの頭を抱えている。大振りの動きなら充分対応出来るはずだ。

 

 問題は唯一突破出来る方法をーー

 

 「【セイクリッド・ターンアンデッド】!」

 

 戦う二人を中心に、後方からアクアが魔法を放つ。魔方陣が地面に描かれ、神々しい光が発射される。デュラハンは苦しい叫び声を上げる。

 

 「容赦無しかよ?!」

 

 『いや、僕達は人間だからほぼ無害だからっ……?』

 

 その時、右半身のフィリップが膝をついた。

 

 「フィリップ?おいフィリップ?!」

 

 『ぐっ……はっ……』

 

 翔太郎は引きずるように体を動かし魔方陣から飛び出す。荒い呼吸が少しずつ整っていき調子を取り戻した。

 

 「大丈夫か?」

 

 『大丈夫だ。きっと彼女の魔法の威力が強すぎたんだろう』

 

 フィリップには精神攻撃に対して耐性を持っている。浄化というのが精神攻撃に分類されるか分からないが、身体的痛みを伴うなら変身している翔太郎にも同じ症状が出るはずなのでまずない。

 

 感覚的には気分が優れないといった感じだ。乗り物酔いを強くしたような……

 

 「お前もアンデッドなのか?」

 

 鎧の隙間からプスプスと黒煙を上げていたデュラハンも修復が完了したのか、ゆっくりと立ち上がる。

 

 「んなわけねーだろ。ちゃんと心臓鳴らしてる生物だ!」

 

 

 

 ダブルとデュラハンの激闘を他所に、めぐみんの回収を終えたカズマとアクア。そこに街中で戦っていたダクネスも合流した。

 

 「無事か?」

 

 「こっちはな。あとはあのダブルとか言う奴がなんとかしてくれるだろ」

 

 「癪だけど私の浄化魔法もあいつに効かなかったし……弱体化なんてめぐみんの爆裂魔法があればいけるんだけど」

 

 当の本人は既に撃ってしまいカズマに抱っこされ使い物にならなくなってしまっている。

 

 「ダブル?まさかあのデュラハンと戦っているモンスターか?」

 

 「そうです。お前の罪を数えろ……なんとも格好いい響きでしょう。名乗りに取り入れましょうか」

 

 「まさかモンスターに町を救って貰うつもりか?ここは私達の町だぞ」

 

 「別にいいだろ。救われるんだったらなんでもよ」

 

 この世界にはチート能力を持った転生者がいる。おそらくヒーロー番組好きの奴が同じ能力手に入れて、正体を隠して活動してるとかそんな感じだろ。

 

 「……それでも、私には守らなければならないものがある」

 

 ダクネスは自らの剣を構え駆け出していく。いくら固いと言っても攻撃はまともに当たらないのに何が出来る。

 

 しかしダクネスは俺の声を聞こうともせず向かっていく。二人の攻防に割り入るようにダクネスはデュラハンに向かって突進をかました。しかし、それは多少緩んだだけで効いてない様子だった。

 

 「低レベルが、邪魔をするな!」

 

 デュラハンの怒りの一撃がダクネスに迫る。が、間一髪に隙を晒したデュラハンにダブルの飛び蹴りが入った。

 

 「ふん……今の行動といい、モンスターの癖に何を抜かしている」

 

 「何も抜かしてないぜ。魔に身を落としたお前よりかは真面目なつもりだ」

 

 「そうか。久々の骨がある奴だと期待したが、早めに潰しておかなければいけないらしいらしい」

 

 抱えていた頭を上空に放り投げ大剣を両手で構える。何かを仕掛けてくるつもりだと身構え、相手の攻撃を避ける。が、まるで動きが読まれていたかのように大剣を振りかざしダブルの脇腹にヒットする。

 

 『ぐふっ……』

 

 「フィリップ!」

 

 先程のも相まってまだ完全に本調子ではないフィリップの息が漏れた。ちくしょう、万事休すか……?

 

 「はぁぁぁ!」

 

 今度は自分の番と言わんばかりにダクネスが大剣を振るう。が、そこはお約束のように攻撃が当たらない。

 

 「しつこい!」

 

 デュラハンの横凪ぎがダクネスを襲う。倒れたと思い再び視線をこちらに向けーー

 

 「ああっ、新調した鎧が!」

 

 不審に思ったデュラハンが振り返る。そこには鎧に少し傷が入った程度でピンピンしているダクネスの姿があった。

 

 自分の一撃を耐えたことを上手く飲み込めていないデュラハン。今だと言わんばかりにダブルは戦線を離脱する。

 

 『少しの間耐えて貰おう。彼女も町を守りたいと思う一人の戦士だ』

 

 素早く駆け抜けカズマらの元に向かう。最低限の情報だけ伝えて復帰しよう。

 

 『君達に頼みがある。先程も見たと思うけど、奴には浄化魔法を耐えるだけの力がある。弱体化の方法は知っているんだが、僕達にその手立てはない』

 

 「つまり、あんただけじゃ倒せないってことか?」

 

 『そうなる。奴の弱点は水だ。水の魔法を使える人達を集めてきてくれ。その間に僕達は奴を拘束する』

 

 カズマの肩を叩き再び戦場に舞い戻っていくダブル。

 

 「行きましょうカズマ!ヒーローに頼まれるなんてなかなかありませんよ!」

 

 紅色の瞳を輝かせ興奮するめぐみんを宥めるカズマ。まぁ、集めるだけならやるか。

 

 「お前は荷物だからここな」

 

 「おい、幼気な少女を地面に放置とはどういう根性してるんですか!」

 

 幼気な少女は自分でそんなこと言わねぇよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 『翔太郎はさっきのどう思う』

 

 「頭投げたやつか?んなもん剣を操るのに邪魔だったから放り投げただけだろ」

 

 『同じ立場に立ったとして上空に放り投げるなんてことするかい?』

 

 まぁ、単純に考えればしねぇよな。邪魔なだけだったなら他に方法はいくらでもある。それこそ部下のアンデッドに持たせるとか。

 

 何かしら意図してやってるとしか思えねぇ。それが何なのか……僅かに感づいてはいるけれど、決定的じゃねぇ。それさえ分かれば攻略の糸口に繋がるかもしれない。

 

 あいつらに任せとけって言っちまったしな。

 

 攻撃が当たらずただ一方的に攻撃を受け続けるダクネス。鎧もズタズタになりインナーも見え始めている。

 

 「大丈夫か?」

 

 「もう少し時間かけてもよかったぞ」

 

 それは余裕だと言うのか、それとも性癖のどっちなのかはこの際置いとこう。

 

 「てっきり逃げたしたかと思ったぞ」

 

 「逃げ出すなんて一番やらねぇよ!」

 

 再び攻防が始まる。やっぱりヒートメタルで押し切った方が早いと見るか……だがここまで来ると別の手口は最後まで残しておきたい。

 

 サイクロンメタルのチェンジもありだが、お互いの長所を打ち消し会う組み合わせなので出来れば避けたいところだ。長丁場にはいいかもしれんが。

 

 「まどろっこしい」

 

 デュラハンは再び頭を上空に放り投げる。ダブルはそれを見逃さず、今度は攻めずに頭に意識を集中させる。

 

 兜の中から妖しく輝く赤い瞳。何かを発動させているようだった。

 

 ダクネスは今の内だと剣を振るう。デュラハンはそれを防御、簡単に凪払った。

 

 『翔太郎』 

 

 「ああ。なんとなーく、分かったぜ」

 

 吹き飛ぶダクネスを全身で受け止める。

 

 『作戦がある』

 

 「作戦だと……例え味方をしてくれるモンスターでも私は心までは屈しない!」

 

 『どう捉えて貰っても結構だ。聞くだけ聞いてほしい』

 

 「くっ……意見を無視されるのも悪くない」

 

 顔を紅潮させるダクネス。しかしフィリップはそのまま話を続ける。こいつ、もしかしてSなのか?

 

 『出来るかい?』

 

 「勿論、むしろご褒美だ!」

 

 意気揚々と駆けていくダクネス。俺達も立ち上がり準備を始める。

 

 「お前ってさ……」

 

 『なんだい?……しかし、紅潮する程限界が来ているというのに大変なことを頼んでしまった』

 

 「……えっ」

 

 『ところでご褒美とか言っていたけれどどういうことか分かるかい?』

 

 「お前は知らなくていいことだ」

 

 ダクネスの跡を追い駆け出す。さぁ、反撃開始と行くか!

 

 「まだ諦めないか」

 

 「ああ。ようやくお前の弱点も分かったことだしな、覚悟しろよ」 

 

 挑発するように顎を動かす。しかし、デュラハンは舐めきった調子だった。

 

 「弱点だと?馬鹿なことを」

 

 「お前、水が苦手だろ?」

 

 ほんの一瞬だけデュラハンの動きが鈍った。すぐに元に戻るもそれを俺達は見逃さない。

 

 動揺はしているはず。ここで一気に決めてくるはずだ。まずはーーそう、ダクネスに。

 

 俺達よりも防御が高くて厄介なダクネスを狙うはず。水が弱点だと分かっていれば早々に俺達は仕掛けるはず。

 

 しかし、仕掛けてこないということは使えないの一択に絞られる。実際、今まで肉弾戦だったからそう思うはず。

 

 それにその情報が町の奴らに伝えようとしたとて、今の姿の俺達かダクネス、どちらを信じるかと言われたら普段からいるダクネスだ。一応クルセイダーということもある。

 

 ダクネスは剣を振り回すもやはり当たらない。相手の攻撃をガンガン受け、満身創痍のはずだが……

 

 「ええい、面倒だ!一気に片付ける!」

 

 三度目のあれが始まった。先程と同じように妖しく輝く赤い目を察しダブルは動き出す。

 

 全てを狙ったようにデュラハンはダクネスからの攻撃を避ける。その隙に確実に仕留める勢いでダメージを与えた。

 

 ダブルは止めの一撃からダクネスを庇うように立ち塞がる。きっと兜の下もほくそ笑みを浮かべているはすだ。僕達の全てを知らなければ。

 

 

 

【Luna×Metal】

 

 

 

 止めの一撃は背中に背負われるように生成されたメタルシャフトによって受け止められていた。緑と黒のカラーリングとは違う、黄色と銀色のカラーリングにデュラハンは度肝を抜かれていた。

 

 メタルシャフトを素早く引き抜き返り討ちを浴びせる。殴打物の一撃は蹴りとは比較出来ないものだったようで初めてバランスを崩し頭を取り損ねる。

 

 「これ、貰ってくぜ」

 

 「なっーー」

 

 先に拾われてしまった頭。急いで立ち上がり無茶苦茶な剣を振るうも簡単にいなされる。

 

 ダブルは剣の射程外まで距離を取ると、【ルナメモリ】によって与えられた鞭のように伸縮するシャフトでダクネスを寄せる。

 

 『頭を投げる行為。それは相手がこれからする動きを予測する力だ』

 

 「最初に受けた時に違和感があった。まるでここに来ると、多少なり分かっていたような感じだったしな」

 

 見破られると思っていなかったのか、デュラハンの足取りは迷いがあった。ま、ハーフチェンジまでは入ってなかったんだろうな。

 

 「待て、お前はモンスターのはずだろう」

 

 「確かに強い力だ。でも、決まってる未来なんて三流の描くミステリー小説よりもつまらねぇ」

 

 【Metal Maximum Drive!】

 

 「『メタル・イリュージョン!』」

 

 メタルメモリをシャフトに装填し豪快に振り回す。現れた六つの光の輪の内三つがデュラハンを攻撃し、残りは身柄を拘束する。

 

 「裏技ってやつだ」

 

 「バインドか?!しかし、お前では私を……」

 

 『そうだね。後は彼らに任せよう』

 

 譲るようにその場から退くと、背後にはカズマを始め多くの冒険者達が構えていた。それを見て必死に解放しようとするも、先に先制を取ったのは冒険者達だった

 

 「「「【クリエイト・ウォーター】!」」」

 

 一斉に水を浴びせられ、情けない声を上げるデュラハン。こんだけいれば弱体化もやむ無しだな。

 

 頭をダクネスに投げ渡した俺達は逃げるように早々と引き上げる。結構な長丁場になったな。

 

 なにも言わず颯爽と去っていくダブルを見て、ただ一人、それを見ていたダクネスは恍惚のため息をつく。

 

 「まだまだだな、私も」

 

 デュラハンの頭を転がし、ダクネス渾身の一撃が兜に響き渡った。

 

 




「ゲームで切れる奴の気が知れねぇよな。そんなんだったら俺なんて現実で生きていけねぇよ」

「ハーフボイルドと言われて怒る君も大概だよ」

「相棒言えど俺の逆鱗に触れたらどうなるか教えてやる」


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Bがやって来る/野菜売りの少女

 デュラハンの戦闘から数日。無事に危機も去り、町は平和を取り戻していた。

 

 幸い死者も出なかった他、ダブルという強い味方がいると分かった町の人々の噂はそれに持ちきりになった。

 

 一方の俺達はというと、フィリップは戦いに現れなかったこと、俺は途中で逃げ出した腰抜けと言われ評価は下がりっぱなし。仕方ないことだと割りきっていたがーー

 

 「その内ボロを出すと思っていたから放っておいたけど、まさか相棒さんから知ることになるとはねぇ」

 

路地裏でメリッサに拘束されている。壁に押し付けられてワイヤーで取り押さえられたこの状況に冷や汗を垂れ流す。

 

 話ではフィリップがウィズの店に行った時には既におり、自分には関係ないと言わんばかりに紅茶を飲んでいたという。それからダブルに変身した都合上、メリッサにも見られてしまったと。

 

 ウィズは急に意識を失ったフィリップにパニックになっていたが、誤解はその時に解けたとしてーー厄介な奴に知られたもんだ。

 

 「待て、待ってくれ。俺だって危ない代物だから話さなかっただけだ。何も知らないで触ってたら」

 

 「聞いたわ。一種の薬物中毒になって、取り返しのつかないことになる……ただ、強大な力が秘められているって」

 

 メリッサはワイヤーを外した。地面に着地し帽子を整える。

 

 「何か利用しようと思ってたけど……まぁいいわ。私が許せないのはあんたが黙りを決め込んだことよ。道具としての自覚あるの?」

 

 「そんなもんあるか!」

 

 本当になんだこいつ。こんなのと組んでて役に立つのかよ……

 

 「ま、ゴミは自らゴミ箱に行かないからね。じゃあここは一つ、あんたの相棒にも体に教えてあげないといけないかしら」

 

 手を上げようとするメリッサに、先に俺は思わず頬をひっぱたいてしまった。口ではとやかく言っていた俺だったが、今回はこれが初めてだった。

 

 「……良い度胸じゃない」

 

 「度胸とかじゃねぇ。俺を罵倒するのはまだいい。ハーフボイルドだと言われてもな。でも相棒をとやかく言うことは許さねぇ。無論、他の人達に関してもだ」

 

 盗人とはいえ、女相手に手を上げちまうなんてハードボイルド以前に男として最低だ。

 

 目を閉じ腕を組んでやり返されるのを待つ。しかし、それはなかなか来なかった。

 

 うっすらと目を開けるとメリッサは既にいなかった。どこ行ったんだよ……

 

 頭を掻きながら路地裏を後にする。【潜伏】のスキルで隠れていたメリッサはそれを解除し姿を現した。

 

 じんじんと痛みが残る頬を触れる。ピリッと、痺れる痛みが走った。

 

 「……生意気ね」

 

 心底嫌そうにメリッサは呟いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 馬小屋に戻るとそこにはめぐみんとフィリップが何か話をしていた。

 

 「お前、こんなとこでサボってて良いのか?」

  

 「いいんです。大体、町が半壊したのはアクアが無駄に大量の水を召喚したからなんですから。寧ろ被害者です」

 

 頷けるのも無理もない。俺達ダブルが去った後、町の冒険者に任せたらなぜか大洪水に襲われ町が半壊した。どうもアクアが犯人らしい。

 

 デュラハンを倒し特別報酬金を俺達ではなく止めをつけたカズマのパーティーに送られたが、被害額により全ての報酬金を失くした他、借金を背負う羽目になった。

 

 その時アクアは自棄になって俺に対してカズマより臆病だのと暴言を吐かれ、思わず出た言葉が『溜め込んでる報酬金を払え』だ。何をむきにと思ったが、カズマ側から反省の意味も込めて上乗せされた。

 

 「で、クエストには行かないのかい」

 

 「もちろん行きますよ。その前に依頼があるのです。ダブルの正体を暴いてくれませんか?」

 

 「暴いてどうするんだい?」

 

 「お礼とファンになったことを伝えたいのです!お前の罪を数えろ……痺れました!紅魔族の壺をピンポイントで刺激して来ます!」

 

 羨望の眼差しに二人はどう反応するべきかと顔を合わせる。

 

 「……分かった。その代わり何も掴めなくても文句言うなよ」

 

 釘を刺すようにめぐみんに言うと、元気な返事をして馬小屋を出ていった。はてさてどうしたもんか。

 

 自分で言うのもあれだが、こういうのって正体不明だから良いんじゃないのか?

 

 「適当に身辺調査して終わらせるか」

 

 「だね。言わなければいけない時がきっと来る」

 

 フィリップは立ち上がり馬小屋を出ていった。俺も今回の件で信頼を失った分、取り戻さないとな。

 

 

 

 翔太郎が町中を駆け巡るなか、フィリップは一人で女神エリスを象った噴水に座っていた。

 

 どうしてあの時、僕はアクアちゃんの浄化魔法を喰らって体調を崩したのか。

 

 仮に肉体的ダメージがあるものだとしても、それは翔太郎にもダメージを受けるはず。それなのにそれらしい様子も見なかった。

 

 何が原因なんだろうか……精神に問題があるとすれば、僕には耐性が付いている。最も別のものと考えてしまえばそれはそれで出てくるのだが、基本はないだろう。

 

 「お前も悩み事かー?」

 

 「ん……まぁね。そういう君は?」

 

 「うーん……ミーアも悩みじゃないけど、エイミーに迷惑かけちゃって」

 

 ミーアと名乗る少女は獣耳を携えてオーバーオールを着た、小学生程の年齢だった。

 

 「ミーアはな、エイミーと一緒に野菜を売りに来てるんだけど、計算とかよく間違えて……。エイミーは大丈夫って言うんだけど、他にも困らせてばっかりだ」

 

 子どもは世話がかかるくらいが丁度いいというが……実際、魔王軍との戦いがあったりもして教育環境は充実どころか働いていない節もある。彼女の場合手伝い程度だと思うが、教養はなくて困らないことはない。

 

 教養がなくてもスキルカードで個々の能力が数値化され、それに合わせて職を選ぶ。合理的だがある意味統治されてしまっているこの世界では全くという訳じゃないが、貴族などの身分じゃないと教養は受けられないのかもしれない。

 

 例として、紅魔族はほとんど魔法使い職か店を営む者ばかりだ。スキルも誰かに一度教えて貰えば習得出来てしまうので学ぶ機会がめっぽう減る。

 

 ミーアの落ち込んでいる表情を見て、フィリップはあることを思い付く。

 

 「ミーアちゃん。もし良かったら僕と勉強しないかい?」

 

 「勉強?」

 

 「ああ。施設がなくても簡単に出来る」

 

 「本当……でも、お金とか」

 

 「いらないよ。さ、行こうか」

 

 フィリップはミーアを連れ歩き出す。いつの間にか自分が悩んでいたことも忘れてしまっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 町から少し離れた木陰で、僕とミーアちゃんの二人で色々な話をしながら勉強をしていた。

 

 ミーアちゃんはサムイドーという北の国からやって来た商人で野菜を売っている。何でも獣人が採る野菜はなぜか美味しくなるらしくそれなりに稼げるらしい。

 

 けれどミーアちゃんはそれが不服らしく、野菜ばかりで肉が食べられないと嘆いている。

 

 「外で勉強なんて考えたことなかったぞ。サムイドーじゃなまら雪が積もってそれどころじゃないから」

 

 「青空教室って言って……なまら?なまらとは一体?」

 

 「なまらはなまらだ。フィリップは言葉の勉強だな!」

 

 僕達二人の勉強会は夕暮れになるまで続いた。

 

 

 

 ーー翌日。

 

 翔太郎によるとなまらとは北の方言らしく、『すごい』などの意味があるらしい。順当にいけば『すごい雪が積もっている』との意味なので合っていると思う。

 

 噴水前を通ると、ミーアちゃんがきょろきょろと誰かを探している。僕と目が合うと走りだし飛び出してきた。

 

 「今日も勉強だ!」

 

 「手伝いはいいのかい?」

 

 「エイミーに出かけるって言ったらいいよって言ってくれたぞ。それにな、分かるって楽しいことだぞ」

 

 満面の笑みだった。末っ子の僕としては、まるで妹でも出来たような感覚だった。

 

 どうやらしばらくはこの関係が続くみたいだ。



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Bがやって来る/不完全であること

「投稿までに随分間が空いたようだね」

「内容が出てこなかったらしいぜ」

「ミーアちゃんを出したかっただけが仇となったね。エイミーも出てないし、引きずりそうだ」


 「最近フィリップの様子がおかしい」

 

 「それだけの為に集められたのか俺達?」

 

 冒険者ギルドにて。翔太郎とカズマのパーティー、そしてデュラハン討伐の時にはクエストでいなかったクリスを交えて会合をしていた。

 

 「おかしいというのは言動がですか?」

 

 「お前じゃないからそれはないだろ」  

 

 「おい、どういうことか教えて貰おうか」

 

 小競り合いを始めるカズマとめぐみんは放っておき詳しく話を始めた。

 

 俺としては評判を取り戻すために依頼をこなす毎日を送っているのだか、フィリップは用事があると言って付き合ってくれない。

 

 それがどうしたと言われると何でもないのだが、時たま夜中にこそこそと何かをしている。またウィズに商品開発でも頼まれたかと思ったけど、本人に確認したら何もないという。

 

 他の冒険者らはほとんどが巣籠もりのようにクエストに行かなくなってる。それもこれもデュラハン討伐の際に出た報酬があるのだが……俺達には関係ない。

 

 というか今のこの状況に慣れつつある自分達もなんとかしなければ。ガイアメモリの詮索と回収、やることもたくさんある。そしていずれは風都に帰る。

 

 デュラハンの奴は持っていなかったが、ガイアメモリが魔王軍の手に落ちてしまっている可能性も考えられる。……あれ、なら【T2ジョーカーメモリ】は俺のところに来てもいいはずだよな?

 

 もう既にジョーカーメモリに関しては誰かの手に渡ってしまっているってことか……?

 

 「翔太郎?」

 

 「ん?ああ、すまねぇ。で、だ。まぁ特に何を手伝ってくれって訳じゃねぇけど、何か分かることがあったらーー」

 

 「翔太郎……」

 

 力なくぐったりとした様子で当の本人であるフィリップがやって来た。

 

 「どうした?」

 

 「実はーー」

 

 「いた!」

 

 獣耳の少女を先頭に後から子ども達が4人程のギルドにやって来るとフィリップに飛び付いた。そのまま下敷きにされ、やがて引き剥がされる。……随分と慕われているようで。

 

 「今度はフィリップ先生が鬼ね!」

 

 一人が言い出し一斉に逃げ出していく。遊んでるのか遊ばれてるのかどっちだ……たぶん後者だな。

 

 「ねぇ、今先生って呼ばれなかった?」

 

 「ああ……実は最近、青空教室を始めてね。最初はミーアちゃんだけだったんだけど今やこの通りさ」

 

 服に付いた埃を払い整えながら立ち上がるフィリップ。青空教室……そんなの始めてたのか。通りで付き合いが悪いわけだ。

 

 「その青空教室とは?」

 

 「屋外で行う勉強会みたいなものさ。教養施設がないなら自分達で何とかすればいいじゃないかと。必要なのは学びたい心構えだけさ」

 

 「その割には遊んでたじゃない」

 

 「勉学ばかりじゃつまらないだろう」

 

 アクアの話にフィリップが当たり前の正論で返してきた。それを聞いたダクネスはうんうんと頷いていた。

 

 「その青空教室とやらにはどれだけの費用がかかっているんだ?」

 

 「費用はゼロだよ。お金を取ることもしてない」

 

 「ならどうやって……」

 

 「砂地に文字を書けば練習になる。計算だってちゃんと教えれば暗算も出来る。紙は僕が持ってる本を使ってる」

 

 フィリップが取り出した愛用の本はもう既に半分以上ページがなくなっていた。それ、検索に必要なんじゃねぇの?

 

 「そろそろ探しに行かないと」

 

 ギルドを出ていくフィリップ。あいつがあんな側面を見せるなんて考えられなかった。成長してるって証か。

 

 しかし、あの調子だと青空教室も忙しそうだ。ここは一人でやれるものを……

 

 「左さんはいらっしゃいますか?」

 

 受付嬢のルナさんがやって来た。ここの職員には割と信頼されている方で仕事があるとよくこうやってやって来る。

 

 「何の用事だ」

 

 「近づいてきている起動要塞デストロイヤーについての調査をお願いしたいのですが……あっ、盗賊職のクリスさんも一緒にお願いできませんか?」

 

 「私?まぁ、構わないけど……」

 

 チラリと俺を見るクリス。別に盗みとかやってなきゃ取っ捕まえたりしねぇよ。

 

 「それよりそのデストロイヤーってなんだよ」

 

 「デストロイヤーはデストロイヤーです。わしゃわしゃ動いて全てを蹂躙していきます」

 

 めぐみんの説明に訳が分からんとカズマと一緒に首を傾げた。爆裂狂とはいえ紅魔族の説明で分からんなら無理がある。

 

 「クリスは分かるのか?」

 

 「当たり前だよ」

 

 「なら大丈夫か。その依頼、引き受けるぜ」

 

 まずは現時点で分かっていることを洗おう。翔太郎は早々に立ち上がりクリスと視線を合わせ行動に入った。 

 

 

 ……盗賊と仕事やるの、割と多くね?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 いつもの木陰の下で、ミーアちゃんらの教師をしている。しかし今日は僕以外にもう一人来ている。

 

 「本当に外なんだな……」

 

 僕の青空教室の話を受け、ダクネスちゃんがやって来た。なんでも詳しく知りたいらしい。

 

 「隣のお姉さんはフィリップの彼女なの?」

 

 五人の生徒の内、ミーアちゃん以外のもう一人の女の子が尋ねてきた。

 

 「かの……?!」

 

 「違うよ。彼女も君達と同じでここがどういうところか知りたいから来たんだ」

 

 やんわりと、しかししっかりと断られ若干傷つく。フィリップから見たらそこまで魅力がないのだろうか……

 

 各々が好きなように勉学を始める。教科書も机もない、あるのはフィリップが持っていた本から破いた紙だけ。しかし紙でも貴重なのになぜ最初からあそこまで分厚い本を持っていたのだろうか。

 

 もしかしてフィリップはどこかの貴族出身とか……

 

 「難しい顔をしてどうしたんだい?」

 

 「えっ、いや……紙でもそれなりに高いはずだ。一冒険者がなぜここまでと思って」

 

 「なるほど。まぁ、僕もそれなりに経験してきたからね。君達のところで言うと没落貴族がしっくりくるだろう」

 

 表情は崩さずとも、瞳の奥は悲しげな雰囲気を漂わせていた。まずいところを踏んでしまったと、ダクネスも唇を噛み締める。

 

 「その、すまない」

 

 「謝ることはない。元々特殊な家族だったからね。翔太郎に出会ってなければ今頃もっと多くの人々を悲しませていた。今もその罪滅ぼしの為に僕は生きている」

 

 例え他人から見て極悪非道の家族だったとしても、僕を残してくれた姉さんや両親は大事な家族だ。その分まで生きていくことが僕が出来る恩返し。

 

 「フィリップ、ここが分からないぞ」

 

 「どれどれ……ああ、ここならミーアちゃんが分かるから聞いてみるといい。それでも分からなかったらまたおいで」

 

 生徒は頷きミーアの元に駆け寄っていく。

 

 「毎日こんな感じなのか?」

 

 「新しいことをする時はちゃんと教えるよ。けれどただ教わっただけじゃ意味がない。それがどうしてそうなるのか説明出来て初めて学ぶことに繋がると思ってるよ」

 

 見る限り基本的に野放し状態だ。しっかり取り組んでる子もいればあまり集中していない子もいる。何というか……自由だ。

 

 これでお金を取っているというのなら問題があるのかもしれないが、それもないので何とも言えない。嫌ならば来なくてもいいーーそれがここの基盤なのだろう。

 

 「フィリップ、腹減ったぞ!」

 

 「まだお昼には大分早いよ」

 

 「ならおやつだ!」

 

 「……じゃあこうしようか。今から出す問題に正解したら何でも好きなものを買ってあげよう」

 

 到底子どもに向けるものではない不適な笑みを浮かべる。そのマッドな変わりようにダクネスは思わず身震いした。まさか真性はSなのか……?

 

 

 その後、見事に撃沈した子ども達を宥めながら結局串焼きを買っていた。もので釣ったことを抜きにしてもここまでうち解け合っているのは凄い。

 

 「フィリップは人の心を掴むのが上手いな」

 

 そう言うとフィリップは小さく首を横に振った。

 

 「最初はこんな風じゃなかった。自分の事が最優先のわがままだったよ。僕を変えてくれたのは他でもない翔太郎と、そのきっかけをくれた翔太郎の師匠の鳴海壮吉だ」

 

 「鳴海壮吉?」

 

 「僕が犯していた罪を教えてくれた。『自分で決めて最後までやりきったことはあるか』とね」

 

 フィリップはダクネスの顔を見て話し始める。

 

 「僕があの子達に知って欲しいのは『Nobody's perfect(完全なものはいない)』さ。互いに支えあっていくのが人生というゲーム。勉学よりも大事なものだと思ってるよ」

 

 少年のような屈託のない笑顔だった。完全なものはいない、か……。

 

 自分が間違っていたら誰かが止めてくれる。その誰かが翔太郎なのだろう。それはきっと翔太郎も同じ。

 

 「フィリップ、ダクネス!」

 

 ミーアの呼ぶ声が聞こえる。先にいる子ども達の元へ二人は駆け出した。




雑な終わり方になった。だが私は謝らない


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Uが欲したもの/苦労人の辛さ

「チャイナウィズが天井で出やがったぁぁ!」

「チャイナ……?どうしたんだ急に」

「分からない……なんか乗っ取られたような感覚だった」



 翔太郎がクリスとともにデストロイヤーに関する調査の長期クエストに出て数日、一方の俺達は未だ底を尽きない借金に悩まされていた。

 

 【雪精討伐】という比較的安全なクエストを受けたつもりがどこかの同郷のバカによって産み出された【冬将軍】なるモンスターに首をはねられ死んでしまったり。

 

 ダストのパーティーと一日交代してあいつらの面倒を見るのがどれだけ大変かを知らしめたり。そして俺の有能さがどれだけ凄いかを見せつけたり。

 

 死んだので借金も何もかもリセットなんてそんな都合よく行くわけもなかった。

 

 そこで導きだした答えは一つ。火力がめぐみんの爆裂魔法に片寄っている俺達のパーティー。自分で言うのもなんだが貧弱な俺が渡り合っていくには下手に強くなるよりも相手の弱体化を狙った方がいい。

 

 「というわけでやって来たんだが……」

 

 「やけに繁盛してるわね。店を燃やして消火のふりして浄化させちゃおうかしら」

 

 物騒なことを言うアクアにチョップを入れる。二人でやって来たのはとあるマジックアイテムショップ。あのリッチ-のウィズが経営してると聞いてはいたが、あまりの繁盛ぶりに開いた口が塞がらない。

 

 普通に考えてリッチ-が店をやってるってだけで問題があるはずなのになんでなんだよ。

 

 人混みを掻い潜り窓から内部を見るとウィズに加えてこの間知り合った獣人のミーアともう一人、癒し系のお姉さんがエプロンをして店番をしていた。ああ、こりゃ流行るわ。よく見たらほぼ男だし。

 

 やっとの思いで入店すると三人に歓迎される。ああ、俺に足りなかったのってこれだったんだな……めぐみんの代わりにウィズ、ダクネスの代わりに防御は割くけど攻撃が当たるミーア、そんで……

 

 「貴方がカズマ君ね。フィリップ君のお友達って聞いてるわ」

 

 このほんわかした感じはヒーラ-だな。パーティー総入れ替えしようやマジで。

 

 「私はエイミー。ミーアちゃんのお姉ちゃん。血は繋がってないけどね」

 

 血の繋がらないお姉ちゃんとかもう完璧じゃねぇか。あれ、もしかしてここが楽園……?

 

 「いい加減戻ってきなさいな。あんたには女神がいるのに何が不満なのよ」

 

 「全部」

 

 「上等じゃないのよクソニート!」

 

 魔法を唱え始めるアクアを見て一斉に逃げ始める客ら。悲壮感漂う声を出しながら崩れるウィズらに俺は急いでアクアの魔法を止めた。あの悲劇(洪水)を起こしてはならない。

 

 「んで、ミーアとエイミーはなんでここに?」

 

 「ミーアちゃんもしばらく面倒見て貰ってたし、彼もそろそろクエストに動かないと金銭的にも困るようだから」

 

 「野菜もほとんどが売り切ったからな。恩返しだ!」

 

 ミーアの頭を撫でながら笑顔で答えるエイミー。ウィズの商品開発にミーアの面倒とか、あいつ意外と色んなことやってたんだな。

 

 「ところでカズマさんは何を?」

 

 「ああ、ウィズにリーースキルを教えて貰おうと思って」

 

 思わずリッチ-スキルと言いそうになった。俺とアクアは知っているが……危なかった。

 

 「この間約束してたやつですか。魔法にしますか?それともリッチ-スキルも便利ですよ」

 

 自分から言うのかよっ?!すぐに二人を見るとしっかり聞こえていなかったのかこれといった反応は見せていない。

 

 「あんたリッチ-なんかに教わるつもりなの?止めときなさいな、ただでさえナメクジみたいな場所に住んでる奴に」

 

 「ひ、ひどい!」

 

 おい、俺の配慮を返してくれ。

 

 「リッチ-ってなんだ?」

 

 「リッチ-って言うのは凄い魔法使いのことよ。でもあまり言いふらしたらだめよ。ウィズさんに迷惑かかっちゃうからね」

 

 「分かったぞ」

 

 「ちゃんと分かってくれるミーアちゃんも可愛いわ」

 

 こっちもこっちで勝手に納得しちゃってるし、過保護発動してるし……普通に見えたけど、これ対象が恋人とかだったらヤンデレになる可能性が出てきたな。

 

 それはそれ、これはこれと置いといて。改めて本題に入るとするか。第一この街にリッチ-がいるって噂が広がったところで誰も信じないだろう。

 

 「ウィズの話通りだ。なにかいいスキル持ってないか?」

 

 「そうですね……ドレインタッチなんてどうでしょう。相手の体力や魔力を吸って自分のものにしたり仲間に分け与えることも出来ますよ」

 

 タッチというからには直接触らないといけないのが難点かもしれないがいいかもしれない。ダクネスを囮にした隙とか、爆裂魔法で撃ち漏らした敵の止めとか。

 

 「じゃあそれをーーの前に実際に見ないといけないのか」

 

 スキルを覚えるには実際に見る必要がある。【エクスプロージョン】や【デコイ】はもう習得しようと思えば出来る。前者は圧倒的にポイントが足りないし後者は使おうものならすぐにやられる。

 

 アクアは断固として拒否を示す。まぁ、お前とウィズじゃ逆にウィズが危なくなりそうだからあり得ないだろう。ダクネスを連れてくるべきだったな……

 

 「少し魔力を吸われるくらいなら私がやりましょうか?」

 

 名乗り出たのはエイミーだった。

 

 「いや、関係ないのにそんなこと……」

 

 「困った時はお互い様、ね」

 

 柔らかい指が俺の鼻先に触れる。ヤバい、心臓バクバク鳴ってる。もしかして殺しに来てるのか?

 

 落ち着かせて俺は本当に申し訳なくお願いすることにした。二人は向かい合いウィズがエイミーの手を重ねる。出来るならその間に挟まりたいです。

 

 とまぁ、半分本気の冗談は置いといて。スキルカードを見ると【ドレインタッチ】の文字が記載されていた。

 

 それをタッチすると【スキル欄】に新しくドレインタッチが記載される。これで完了だ。

 

 「ウィズさんはいらっしゃいますか」

 

 扉を開けたのは五十代ぐらいの男性。とても冒険者には見えなかったので商人か何かだろうか。

 

 「どうなさいました?」

 

 「実は私が管理してる屋敷に幽霊が出ると……高名な魔法使いでアンデッドに強いウィズさんなら何とかしてくれると聞いたものですから」

 

 高名とは聞いていたが、アンデッドに強いというのはリッチ-に尾びれが付いたんだろう。迷える魂を導くとか言ってたし。

 

 「分かりました。今準備をーー」

 

 「待ちなさい!アンデッドに関しては私の方が上よ。ウィズ、どちらが先にその幽霊を浄霊できるか勝負よ。私が買ったらあんたには借金の全額を肩代わりしでっ?!」

 

 「そんなバカな勝負乗るか。ウィズに利点がないだろ」

 

 「だって翔太郎もあれ以来全然手伝ってくれないのよ?!アクシズ教の女神として司祭ぐらいの地位をあげようと思ってたのに!」

 

 司祭ぐらいの地位ってなんだよ。貰ってもはた迷惑なだけだし、あっちはそんなつもりもない。

 

 「お前がちゃんと報酬を……」

 

 ふと周りを見ると既に男性はおらず、ウィズとエイミーもミーアを抱き抱えて距離を取っている。

 

 「アクシズ教徒は頭がおかしい人ばかりなので関わるなって長老に言われたぞ」

 

 「その長老って誰よ!私の可愛い信者をそんな……ほ、本当にいい子なのよ?ただ少し過激なだけで」

 

 過激って自覚あるなら何とかしろ。

 

 「俺はアクシズ教じゃないからな」

 

 いや本当だって。信じてくれよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 町の人達に聞いてみると、どうやら幽霊屋敷として元から噂されていたらしいが、最近より多くの幽霊が集まり始めて遂にクエスト規模になったようだ。

 

 しかしこちらにはそれの元締め的なウィズと滅法強いアクアがいる。途中でめぐみんと、フィリップのクエストに同行していたダクネスと合流したし大丈夫だろう。

 

 「クエストに行くなら一声かけてくれてもいいじゃないですか」

 

 「先に出ていってしまったのはめぐみんの方だろう」

 

 二人の言い合いを聞きながら幽霊屋敷にたどり着く。確かに立派な屋敷だ。遊園地とかの舞台で出てきても差し支えない。

 

 「ところであのまま付いてきたけれど、僕はどうして呼ばれたのかな」

 

 「それはねフィリップ。貴方に相談があるからよ。ま、その前にちゃちゃっとそこのリッチーと一緒に浄化しちゃいましょ」

 

 「ひぃ?!」

 

 冗談でもそういうこと言うな。……いや、こいつの場合冗談じゃないか。

 

 「フィリップはこいつがウィズに手を出さないか見ていてくれないか」

 

 「了解した」

 

 屋敷の幽霊退治ーーいや、蹂躙が始まった。

 

 

 

 その日の暮れのこと。

 

 無事にクエストを終えて帰還した翔太郎とクリス。偵察は探偵の基本というが、対象がデカすぎる。数十キロ離れてても確認できるレベルだった。

 

 しかも通った場所は建造物から木々から何まで残らない始末。こんなのが一週間もしない内にやって来るのか……偵察じゃなくて作戦を立てろ作戦を。

 

 「こういうのって普通こっちの描写しない?」

 

 「何の話してんだ。報告書は出しとくからどっか座ってろ」

 

 色々とあるが今回に関してはクリスの盗賊スキルが役立った。確かに尾行とか便利は便利だった。なんで探偵スキルじゃないんだよ。

 

 窓口に向かった翔太郎を見ながらクリスは適当な席に座ると早速シュワシュワを頼んだ。こっちに付いていけば私のメインの話だと思ったのにとんだ仕打ちだよ。私だって出番が欲しい!

 

 「なんて嘆いても書いてる人の力量じゃ私の本領を表現しきれないか」

 

 メタとかではなく純粋にそっちの視点から見てるからね。彼が仮面ライダーWだと言うことももちろん知ってる。あんな堂々と教会で変身したら丸分かりってことで。

 

 問題はどうやってやって来たのかってこと。詳しく知るなら本人に聞くのが一番だけどこっちの正体がバレる可能性がある。

 

 「依頼した人(・・・・・)はどうしてるかな……」

 

 アクア先輩は何でも好きなものをってルールに決めたけど、流石にあのレベルは不味すぎる。そんなものが26本、果てしないものだ。

 

 「うぃーす……お前、酒頼んだだろ」

 

 「シュワシュワはお酒じゃないでーす」

 

 「ノンアルコールでも未成年が飲むな」

 

 これでも貴方より歳上ですけど?!

 

 「そんなこと言ったらダクネスは18歳で生き遅れって言われてるんだからね!」

 

 「誰が生き遅れか教えて貰おうか」

 

 背後からのダクネスの手がクリスの頭を掴んだ。隣では付いてきていたフィリップもいる。

 

 「いだいいだいすみませんでしたぁ!」

 

 「全く……本当に生き遅れじゃないからな?」

 

 むしろまだ早いから安心しろ。

 

 「で、お前らはどうした?」 

 

 「翔太郎に話があってね。実は今日、アクアちゃんが幽霊屋敷で幽霊退治をした際に持ち主から噂が無くなるまで住んでみないかと言われて」

 

 「いいんじゃねーの。俺に何の繋がりが?」

 

 「住まわせてあげるから報酬金無しにしろと」

 

 「なるほど。お前は?」

 

 「いい話じゃないかな。それにカズマ君も肩身が狭くなりそうだしね」

 

 報酬金無しってのはあれだが、悪い話じゃない。そのまま家賃に消えてったと思えばいい。 

 

 「まだ大元が消えていないようだからポルターガイストに注意なのが欠点かな」

 

 「はっ、今さら幽霊程度にビビるかよ」

 

 その日の深夜。予想以上のビビらせ具合に俺はどうすることもできなかった。




クリスの立ち位置がメタ視点になるぅぅぅ!


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Uが欲したもの/夢見る憂鬱

「俺達もアニメ化か、もう10年も前なのにな」

「声は声優さんになるんだろうか」

「分からんな。来年夏ってことは一年あるし、ワンチャンって感じか。詳しくしらないけどな」


 起動要塞デストロイヤーとやらが接近していても町の様子は変わらなかった。話を聞く限りでは物騒だが、この世界にはモンスターやらなんやらがいる。

 

 全てを蹂躙するとか言っているが実際は大したものでもないのかもしれない。ヤバかったらもっと焦ったりしてるもんだ。

 

 暇潰しのままに町を歩いていると明らかに不審者の動きをしているダストとキースを見つけた。警察に出すべきか、一旦翔太郎らに預けるべきか。

 

 「なにしてんだ」

 

 「カズマ?!バカ、声が大きい!」

 

 お前の方が大きいぞ。

 

 「あそこまで不審だったら聞くだろ。何だったら通報も考えたわ」

 

 「マジか……いや、今はそれじゃない。この路地裏の奥にサキュバスの店があることを知ってるか?」

 

 「詳しく」

 

 二人の話を聞くにサキュバスの店があるのは本当らしい。何でも男性冒険者が次世代へ脈絡と受け継いでいっている。

 

 概要と言っては風俗とかではない。お金と性気を少し貰う代わりに好きな夢を見させて貰う。内容は何でもいいらしいがそりゃサキュバスと聞けばそりゃ卑猥なものにもなるさ。

 

 ま、つまり男性の性欲発散に使われてる模様だ。女の冒険者が来ているかどうかは知らないがそれならインキュバスになるんだろうな。

 

 俺達は意を決して店内に入ると想像通りの格好をしたサキュバス店員と幾つかの男性客。そしてーー

 

 「何しにきてんだお前ら」

 

 翔太郎とフィリップがいたーーいや、こっちの台詞だよ。お前らみたいなのは逆に来ないと思ってたんだけど。

 

 「ほー、ハードボイルドとか未成年がとか言ってる割に自分はちゃっかりか。フィリップに関してはまだ同じ未成年だろうが」

 

 「言っとくがこんなことに金を使える程稼げちゃいない。俺達が来てるのは調査に関してだ」

 

 何でもこの店を見つけたのはフィリップが最初らしい。探偵にとって幅広い交遊関係を築くのも仕事の内。人だけでなく悪意のない悪魔を信じてみるのもいいかもしれないというのが始まり。

 

 先のメリッサとの一件で警察やらとの繋がりが出来た翔太郎。サキュバスらにとって危ないのではと思ったが、下手に手を出さなければ通報もしなければ寧ろ庇うことを条件に関係を築いたという。

 

 「ここに来る殆どの客は下世話の夢を依頼する。だが、例えばテロ行為などのシュミレーションとして利用する手もある。そういう要望があれば要注意人物としてマーク出来るだろう」

 

 「事前に犯罪を防げればそれだけ町の安全に繋がる。感謝状とかお金に関しては店に付与。それに悪魔にしか知らないこともあるだろうしな」

 

 割とごもっともな意見でぐうの音も出ない。サキュバスのお姉さん達もお客さんが減るのは望んでないだろうし。

 

 「こう言うのもなんだが、よく悪魔を信じてみようとか思ったな」

 

 「ほいほいやってきてるお前らが言うか」

 

 悪魔との相乗りなら幾らでもしてきた。今そんなこと言ったら怒るだろう。俺だって自分のことみたいに怒る。

 

 「俺からすればお前らがこういう店に来てることが通報もんだけど?」

 

 机をとんとん叩きながら圧をかけてくる。尋問所がここは。

 

 「あの、ここは夢を提供するだけですのでそういったサービスは……」

 

 ですよね、はい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 俺達はカズマらを残し先に店を出た。やることは終わったし、どうやら町は平和なようだ。

 

 ただここ最近、こことそう近くないところで凄まじい魔力を感じているという。その正体がウィズなのか、はたまた別の何かかーー少なくとも地位的にも高水準の悪魔のようだ。

 

 被害が出る前に調査を進めたいところだ。

 

 「好きな夢と言っていたが、翔太郎なら何を見る?」

 

 「急にどうしたよ」

 

 「世間話かな」

 

 好きな夢、か……ときめのことが頭をよぎった。しかし、二度と会えない訳じゃない。また風都に戻れれば前と同じ時間を過ごせる。

 

 「こっちの一ヶ月は向こうでは一年かもしれない」

 

 「……なにが言いてぇんだよ」

 

 「可能性の話さ。正直なところ僕は未だこの世界について興味を失っていない。知ってるかい、秋刀魚だけは畑で採れるんだ」

 

 絶妙にどうでもいい情報をありがとよ。

 

 「僕達が帰ってきた風都は、本当に僕達が知ってる風都なのかとたまに不安になる」

 

 「らしくねぇな。例えどんな姿であっても俺達の町は変わらない。今は依頼を達成して帰ることを考えようぜ」

 

 路地裏を出て大通りを歩いていく。一ヶ月は一年かもしれないなんてのはただの仮定に過ぎない。

 

 戻ったらフィリップとときめ、それに亜樹子に照井。また皆で事件解決すればいい。夢は見るもんじゃなくて叶えるものだってーー

 

 「……おやっさん」

 

 夕暮れの人混みの中でかき消される程の小さな声で俺は呟いた。

 

 

 

 屋敷に帰ると女子三人がダクネスの実家から送られてきた蟹を調理していた。どっかの借金持ちは隠し持っていた酒を飲んでいたので即刻取り上げた。

 

 調理が終わる頃、カズマが帰ってきた。いらないとらしくない反応に俺達二人は察しそのまま食べ進めた。

 

 その日の深夜。報告書を済ませた俺は入浴に行こうと部屋を出るとガタン、という音が聞こえた。

 

 アクアは最初に飲んでいた酒が回ったのと取られて泣き疲れた反動で眠っている。

 

 フィリップはめぐみんのボードゲームリベンジに付き合わされている。最初の一戦はルールを知らずに負けたもので、それ以降はずっとめぐみんが負けを積み重ねている。

 

 となるとカズマかダクネスか……可能性はカズマだな。思春期特有の緊張で寝れないんだろう。だが万が一ダクネスで入浴で鉢合わせたら問題になるので間を開けてからにするか。

 

 

 適当に屋敷を歩いていると開かれた窓に気付いた。見に行くとめぐみんと同い年ぐらいの女の子がいた……いや、あれサキュバスじゃねーか?

 

 「あ、えっと……翔太郎さんでしたっけ?結界のせいで逃げることも出来ないので助けていただけないかと……」

 

 「待ってろ」

 

 少し強引にサキュバスを助け屋敷に入れる。結局頼んだのかあいつ。

 

 「こっからカズマの部屋まで少しある。教えてやるから別のルートで行け」

 

 着ていた部屋着を脱ぎサキュバスに着させる。お前らにとってそれが正装でも色々とまずい。風で寒いけど仕方ない。

 

 「そこまでよ!さぁ、観念……」

 

 「……翔太郎はそういう趣味だったのですね」

 

 駆けつけるようにアクアとめぐみんが滑り込んできた。一足遅く来たフィリップは状況をすぐさま理解し頭を抱えた。

 

 サキュバス言えど姿は中学生程度。それに対し俺は部屋着を貸したせいで上半身半裸状態。

 

 おい、これまずいんじゃねーか。

 

 「いくらアクシズ教でも許されない範疇よ」

 

 「んなもん求めてねーよ!第一これはカズマが」

 

 「確かにカズマはあれかもしれないけど、そんな年端もいかない少女に興奮しないわ」

 

 お前はあいつの何を知ってるんだよ。

 

 「待ってくれ二人とも。確かに犯罪のように見えるのは仕方ないが、翔太郎には恋人もいる。あの子とは真反対の容姿だ」

 

 「へぇ……え、恋人?!」

 

 「ああ。ぶっちゃけると建前なんてもういいから早くくっついてくれと思っている」

 

 ぶっちゃけるなぁおい。

 

 「ときめはーー」

 

 「ほうほう。ときめという人ですか。アクセルに来てまだ三ヶ月も経っていないのにもう恋人というのは考えづらいので、遠距離というやつですね」

 

 こんな時だけ頭回るの早すぎるだろ中学生。

 

 そんなことを思っている後方からドタドタと足音を立てながらまだ少し濡れたままで服を着崩れた状態のダクネスがやってきた。

 

 「やはりか!カズマの様子がおかしいと思ったらサキュバスが……翔太郎、まさか……」

 

 「その下りはもうやったわ。今は翔太郎の彼女について話をしてるの」

 

 「彼女?ああ……え、彼女?!」

 

 お前ら俺をどういう風に見てたんだ。

 

 「っ、ではなくてだな。あのサキュバスはカズマを操ってる。じゃなきゃ私があんなことをーー」

 

 「あんなことって、お風呂場で何やってたのよ?」

 

 後を追うように腰にタオルだけを巻いたカズマがやって来た。……おい。嘘だろ。

 

 「まだ何もしてませんけど……」

 

 サキュバスの発言が完全にダクネスに止めを刺した。全員が察したように石のように固まった。つまりだ。状況的にそういうことしか考えられないよな……

 

 「アクア、とりあえず結界を外してこいつを解放してやれ」

 

 「悪魔を野放しにするの?!」

 

 「生憎職業柄、悪魔より外道な奴を見てきてる。それに今はそれどころじゃないだろ」

 

 最後の言葉を受けてアクアは結界を解除する。サキュバスは流し目に俺を見ながら窓に飛び立った。部屋着……まぁ、また行った時でいいか。

 

 こうして内輪揉めの夜は更けていったーー




翔太郎→彼女持ち?

フィリップ→多分純粋に恋愛沙汰に疎い

カズマ→ヘタレ

なので恋愛事にするにはかなり頑張らないとね、はい。


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Dの厄災/要塞・オン・ザ・ラン!

「ようやく色んなことから解放されたな」

「労働からは半永久的に解放されないけどね」

「お前そういうこと言うなよ……」


 緊急避難放送が流れる町中。あのデストロイヤーとか呼ばれる要塞の襲来だ。

 

 フィリップの検索で対処方をと案を練ってみたものの、二人だけじゃなんともならなかった。

 

 エクストリームはと思ったが、まずは魔法無効化の結界を打ち破りその後要塞を止める。正面突破なら護衛のゴーレムやらなんやら、別の方法なら……とにかくやることが多すぎる。

 

 照井もいてくれればと、正直後悔してる。

 

 だがここに来て多くの冒険者……主に男達が町を守らんと立ち上がった。動くのがおせーよ。もっと早く行動しろ。

 

 多くの奴らがあのサキュバスの店を失くさないためにだったが、不純であろうとやる気を出しただけで良しとするか。

 

 こうなってくるとやることが分担できるのでまずは誰が何を出来るかを決めていこう。

 

 「結界の突破はアクアなら出来るだろ」

 

 「女神なんだから当たり前じゃない」

 

 水で絵を描く暇をもて余した女神の言葉を信じてみようじゃねぇか。

 

 「次は足止めだな。とは言っても今から罠を張るには遅いだろうし、間に合っても回避される可能性が高いな」

 

 「ここは私の爆裂魔法で引き受けましょう」

 

 「片足はそれでいいが……」

 

 「すみません、遅くなりました!」

 

 駆け込んできたウィズに視線が集まる。魔法のエキスパートとなれば確かにいけるかもしれない。

 

 「それじゃあーー」

 

 「待ってくれ翔太郎。ウィズは残しておくのが僕の意見だ。現状、最高戦力に近い彼女は想定外も意識しておくと残しておいた方がいい」

 

 「じゃあどうする?」

 

 「めぐちゃんを信じよう。あれだけの広範囲なら撃ち漏らす可能性も低い」

 

 相棒歴が長いと分かるが何かを隠している。その何かが分からないが、あいつの言っていることも一理ある。

 

 もう時間もない。ぶっつけ本番で行くぞ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 デストロイヤーが迫り来る荒野にて、ダクネスは一人立ち塞がっていた。

 

 「何をしているのかな」

 

 「フィリップ……指揮はいいのか?」

 

 「翔太郎とカズマ君に任せている。君こそどうしてここに?」

 

 「あれだけ大きなものが相手だとクルセイダーの出番はなかなかない。だが逃げるつもりもないからな」

 

 見上げた騎士道だと感嘆する。彼女がここにいる以上、男として僕も逃げるわけにはいかなーーい?

 

 彼女が少し震えているのが見えた。少し呼吸も荒い。口ではああ言うものの、緊張しているのだろう。

 

 「ダクネスが戦う理由は何かな」

 

 「理由……?」

 

 「以前話したよね。僕は罪滅ぼしの為だ」

 

 「私はみんなを守る義務がある。それだけだ」

 

 「それはダスティネス家の令嬢として、かな?」

 

 誰にも言ったことない秘密をフィリップは口にした。クリスにも言っていないことだ。

 

 「どうして」

 

 その時、スタッグフォンから翔太郎の連絡が入った。作戦開始の合図だ。

 

 すぐさまデストロイヤーに巨大な魔法陣が現れた。アクアちゃんの【セイクリッド・ブレイクスペル】が放たれる。

 

 鬩ぎ合いの末、アクアちゃんの魔法が勝った。続けざまにめぐちゃんの爆裂魔法ーー【エクスプロージョン】が覆った。

 

 だが、近距離で見ると片側に寄っている。これでは左側の脚のみの破壊だ。

 

 しばし様子を見る。片側の四本のみでも無理やり巨大な機体を動かし少しずつ前に進み始める。それを見て僕は唱えた。

 

 

 「【エクスプロージョン】」

 

 

 右手で指を鳴らす。めぐみんとは対照的に冷静に唱えるフィリップの魔法はめぐみんのそれと同等か僅かに上回っていた。

 

 突然の爆裂魔法に間近で見ていたダクネスは大きく目を見開き驚いていた。

 

 「ボードゲームに負けてしまってね。めぐちゃんに負けたと言うより睡魔に負けた」

 

 ここまで来たのも威力重視をした結果、命中率に不安があったからだ……

 

 不意に来る疲労感。なるほど、これは確かに……だが。

 

 踏ん張りを利かせ倒れるのを持ちこたえる。伊達にW(ダブル)として戦って来ていない、が……変身は無理かも。

 

 「無理しなくていいぞ」

 

 「無理をするのが男だろう」

 

 柄にもない事を言ってしまった。翔太郎はこんなことを言っているのかと思うと何だか気恥ずかしい。

 

 「フィリップ、ダクネス!」

 

 翔太郎を先頭に乗り込み組がやって来た。めぐみんはカズマ君におんぶされている。

 

 「後は中の攻略だね。行こう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 物凄い剣幕の男性冒険者の勢いに軽く恐怖を覚えながら突き進んでいく。

 

 ぶち当たったのは動力源が動く部屋。紅く輝くそれの前に鎮座するのは既に白骨化した遺体だった。どう見ても一年以上は経過している。

 

 バットショットで写真を治め、遺体の様子を詳しくメモしていく。探偵の性とは言わないが何かある時に参考になるかもしれない。

 

 「これ、日記あるわよ!」

 

 「勝手に触るな。一応貴重品だから。読んでみてくれ」

 

 汚い呼ばわりされた気分で損ねそうになるアクアだが、なんだが本格的なミステリーみたいで内心はウキウキしていた。

 

 内容を要約するとこれを開発した科学者は国に言われて作ったが予算に問題がと提示したところ、動力源に【コロナタイト】ーー後ろで紅く輝くものを要求したら持ってきてしまい造るはめになったようだ。

 

 設計は潰した蜘蛛から。そのまま計画続行し、前日にタバコの火で誤って起動させそのまま国を崩壊。現在に至る。ふざけんな。

 

 「でも未練は何もないみたいね」

 

 「そうかよ。で……問題はそのコロナタイトつっーやつだな」

 

 明らかにヤバい雰囲気を醸している。外で待機してるフィリップに聞いた方が早いな。

 

 ウィズとアクア、それからカズマを残し全員を避難させた後、スタッグフォンで連絡を入れる。

 

 『聞こえるか?』

 

 『翔太郎なのか?なんで声が聞こえる?!』

 

 出たのはダクネスだった。あいつ、やっぱり無理してたのか。けど爆発物だしな……俺一人で、なんてことは出来ない。

 

 『そのままフィリップに代わってくれ』

 

 『これを?フィリップに……あ、待て!』

 

 『今変わった。緊急事態かい?』 

 

 『緊急事態って訳じゃねぇけど、コロナタイトについて調べてくれ』

 

 『了解した。終わり次第かけ直そう』

 

 通話を切り返事を待つ。アクアとカズマの視線が気になった。

 

 「なんだよ」

 

 「それ、携帯だよな?なんで通じるんだよ」

 

 「フィリップが代用できるもので電話回線を作った。アクセルの端から端まではいかないけどな」

 

 懐にポケットwi-fiサイズのものが忍ばせてある。

 

 「……マジで?個人で作れるもんなの?」

 

 「俺は詳しくないから知らん」

 

 「あの……なんの話をしてるんですか?」

 

 ウィズの問いかけを遮るようにスタッグフォンが鳴り響く。早いなおい。

 

 『待たせたね。状況は?』

 

 『耐熱性のあるガラスに覆われてる感じだな』

 

 『分かった。巨大なエネルギーを秘めた鉱石だから慎重に行こう。まずは取り出すために外側から冷やしていこうか。強すぎるといけないからカズマ君と翔太郎で【フリーズ】を使って時間をかけて行ってくれ』

 

 『分かった。何か変化があったら連絡する……切る前にダクネスに代わってくれ』

 

 『?今代わる』

 

 『わ、私か?えっと……こうでいいのか?』

 

 『聞こえるならいい。ダクネス、フィリップの奴、さっきの爆裂魔法でかなりきてるはずだ。無理にでも休ませろ』

 

 再び電話切り作戦を伝える。余りに余ったスキルポイントでカズマから【フリーズ】を教えて貰い処置が始まった。

 

 暇なアクアはウィズに宴会芸スキルの練習相手にしながら無情に時が流れていく。これ、終わるのか?

 

 「これいつ終わるんだ?」

 

 「俺もそう思ってる」

 

 問いかけてくるカズマになにも答えられない。そうしてる内にも魔力が尽きかけてきてーー

 

 ビシッと、ガラスにヒビが入った。すぐにウィズにバトンタッチしてガラスそのものを凍り付けにして貰った。このままあんなのが出てきたらまずい。

 

 すぐにフィリップに連絡すると、現状が見たいとのことでダクネスとともに乗り込んできた。

 

 「熱の排出が上手く出来てない……」

 

 その言葉が示す通り、今もじわりじわりと氷が溶け始めてきている。再びウィズが氷の魔法で上書きする。

 

 「待つんだウィズ。今は少しでも熱の排出を優先する」

 

 「さっきと言ってること逆じゃねぇか」

 

 「まだ機械の方が動いていると思っていた。このままじゃ耐えきれず爆発する」

 

 ガチャガチャと密かに忍び込ませていたメモリガジェットのメンテナンス工具を取り出し仕組みを見ていく。多分本人もあれだけの工具で上手くいくなんて思っちゃいねぇ。

 

 「カズマ、お前だったらどうする?」

 

 「俺?……【スティール】で取り出して【テレポート】で人気のないところに遠くに飛ばす、とか」

 

 最終手段だな。どうしようもならなくなったらそれぐらいしかない。

 

 「熱を逃がすのと冷やすので何が違うのよ?」

 

 「逃がすというのは熱伝導率が高い金属を使うんだ。コロナタイトレベルになるとこれも相当のもの、もしくは量が必要だ」

 

 「冷やすだと単純に氷や水でとあるが、機械故に結露が起こると他に問題が発生する。それで余計ややこしくなれば処理に負担がかかる」

 

 作業をしながらたんたんと説明するフィリップにアクアは分かっていない返事をした。まぁ、こいつには無理だろ。

 

 「っと……多少はマシになった。だがまだ弱い。数時間伸びた程度だろう。翔太郎、どうする?」

 

 ここで俺に振るっつーことは決断しろってことだ。男の仕事の8割は決断、あとはおまけみたいなもんだ。

 

 「カズマの案でいく。それ以外マシなもんがねぇ。俺に【スティール】を教えてくれ」

 

 「本当にやるのか?!」

 

 「少なくとも街に被害は出る。なら、僅かの可能性に賭ける」

 

 切り札の実力を発揮するところだ。

 

 「だったら俺でも」

 

 「俺は大人だ。子どもに責任を押し付けるなんてことはしねぇし、万が一が起きた場合の覚悟も出来てる」

 

 ウィズは……まぁ、店舗経営もしてるし大丈夫だろ。

 

 しかしカズマは俯いたまま反応を示さなかった。

 

 「……俺がやる。普段クズマさんだのカスマさんだの言われ未だ上級職におんぶにだっこされてるとか嘲笑われてんのに、同じ冒険者の翔太郎はそこそこ評判なのが腹立つ!」

 

 別に翔太郎に対して怒ってる訳じゃない。確かに比べればぐーたらしてるし、【スティール】すりゃ下着を剥ぐし……

 

 でもな、それだって経験の差だ。探偵と引きこもり、それでも同じ土俵(冒険者)。負けたくねぇ!

 

 「【スティール】!」

 

 翔太郎に構わずコロナタイトに向かって放った。見事にコロナタイトを取り出したーーが、その熱を諸に受け地面に落とした。

 

 騒ぐカズマにアクアは何をやってんだかと呆れながら【ヒール】をかける。

 

 「意外と似た者同士かもしれないね。ウィズ、頼むよ」

 

 「あの……【テレポート】は登録した場所にしか転送出来ないんです。私が登録してるのは人が多い場所ばかりで……【ランダムテレポート】なら出来ます」

 

 【ランダムテレポート】ーー名前を聞く限りどこに飛ぶかわからないのだろう。

 

 単純に考えれば人が住んでいない場所に飛ぶ確率が高い。だが確実を得たい。かといって取り出してしまった以上後には引けない。

 

 爆裂魔法を覚えたおかげでスキルポイントも余っていない。翔太郎も覚えられる分あったとしても町からほぼ出てないから安全な場所はないだろう。

 

 「二人を信じよう」

 

 フィリップに同意し、ウィズは【ランダムテレポート】を唱えた。その場からコロナタイトが消え、ひとまずの不安が消え去った。

 

 それと同時に、まだ残っている排出しきれていない熱がデストロイヤーに出来た亀裂から漏れだしていた。俺達は現状を把握する為に外に出た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「こりゃ詳しくない俺でも分かる」

 

 ヤバい状況にも関わらず恐ろしい程に冷静……いや、ハードボイルドだから当たり前か。

 

 変身はこいつらがいる手前の前にフィリップの負担が大きすぎる。めぐみんは当たり前だ。

 

 「【インフェルノ】!」

 

 ウィズが火の上級魔法を放った。が、どっちが強いかなんて火を見るよりも明らか……駄洒落とかじゃなくて。

 

 そんなことをしている間に限界が来ていた。フィリップに視線を送ると、小さく頷いた。頼りねぇ相棒で悪い。

 

 ダブルドライバーを取り出そうとすると、それよりも先に透明なバリアが張られた。突然のことに咄嗟にドライバーを隠し辺りを見渡す。

 

 上空にいたのは、同じバリアを足場のようにして立つドーパントの姿があった。自らが上であることを示すような巨大な王冠に宝石があしらわれたドレス。

 

 放たれた爆発がバリアに直撃した。しかしバリアはひび割れることなく受け止めきり、被害を最小限に抑えた。

 

 高い階段から降りてくるように地面に立った。俺はすぐさま身構える。

 

 「せっかく助けてあげたのにその態度?」

 

 聞き覚えのある声に俺は胸ぐらを掴んだ。掴まずにいられなかった。

 

 「お前……!」

 

 ドーパントは翔太郎を突き飛ばす。Q(クイーン)の刻印がされたガイアメモリが排出されーー姿はメリッサへと戻った。

 

 全員が固まった。しばらくの間見ていなかった。が、どうして、どうやって。そればかりが翔太郎の頭に浮かぶ。

 

 何も言わずにメリッサはその場から消え去った。




 実はWのヒートトリガーで終わることを予定していました。

 でもドーパント全然出てないな……せや、ここで出そ!という浅はか且つお得意の見切り発車でこうなった。この先どうなるかは知らない。


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Qよなぜ/容疑者は左

「話が前に進んでるようで進んでいない」

「進んで……進んでるって。多分」




 「いつから探偵からストーカーにジョブチェンジしたのかしら」

 

 「ジョブチェンジした覚えはねぇ。どっちかっつーと俺が受ける仕事にお前が来てるだけだ」

 

 デストロイヤー騒動が終わって一週間も経過しない頃。未だアクセルの町は歓喜に包まれていた。

 

 だが俺達に休みはない。今日も今日とて警備の依頼をこなす。むしろ盗賊職はこういう落ち着かない時を狙ってくる。 

 

 「これで三回目かしら」

 

 「四回目だな。お前だったら俺をぶつければとりあえずなんとかなるだろって思われてる」 

 

 そんな風に思われてること自体腹が立っている様子のメリッサ。今はそんなことではない。

 

 「サシでやらせてくれって頼んでるから応援は来ねぇ。……メモリ、どこで手に入れた」

 

 「関係ないでしょ」

 

 「関係ある。メモリがどれだけ危険か教えたよな」

 

 「ええ。多少のリスクぐらい当然よ。それだけの価値はあるわ」

 

 胸元から取り出し、愛おしそうにメモリに口づけをするメリッサ。既に魅了されてしまっているようだった。

 

 「今まで手加減してきたが、今回は本気でいかせてもらう」

 

 「今までも本気だったんじゃないの?」

 

 【Queen】

 

 全てを掴みとるように、メモリが掌に侵入する。【クイーン・ドーパント】に姿が変わり、向こうも容赦しない姿勢を見せる。

 

 「W(ダブル)はあの子がいないとなれないのよね」

 

 いないと、というより力は必要だ。あいつは今屋敷にいる。急に変身の為に倒れたりでもしたらカズマらが焦るだろう。何より先に攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかもここ以外には監視の目も多い。秘密にしている以上ばらす訳にはいかない。

 

 「本気なのかよ」

 

 「もちろん。協力関係がなくなるのは残念ね。あの子の頭脳は優秀だったし。でも、元に戻るだけ」

 

 薄いバリアを展開し自らの手で砕き、破片をこちらに仕向けてくる。攻撃より防御特化のメモリだ、そっち方面は乏しいだろう。

 

 しかもあのデストロイヤーの熱暴走を耐える耐久力を誇っている。

 

 「冥土の土産に教えてあげるわ。これ、カジノで手に入れたの。ちょっとした仕事よ。確か……クイーンのロイヤルだったかしら」

 

 「丁寧な説明をどうも」

 

 正直な話、盗賊もといトレジャーハンターが職業になっていて、それの活躍で助かってる奴らがいるってことに驚きを隠せない。

 

 そもそも強盗や殺人犯の相手はしてきた。けどトレジャーハンターってのは風都博物館の館長の響子さんぐらいしかパッと思い付かねぇし、あの人にもスイッチがある。どっちかっつーと冒険家だし。

 

 こいつに現場で顔合わせするのは何回もあるし、誰かを殺したとか、そういう経歴もない。俺のハードボイルドがそうであるように、あいつにもトレジャーハンターの美学がある。

 

 でもーーメモリを手にしてしまった以上、殺めてしまう可能性はある。

 

 こういう展開、なんかのドラマで見たことあるな……ああ、ライバルが負けそうになるのを助けるとかそういうのだ。

 

 「お前を捕まえるのは俺だ。殺人犯としてじゃなく、な」

 

 【Joker】

 

 ジョーカーメモリを起動させ身構える。飛んでくる破片が服や皮膚を切り血が滲み出る。それにも構わず俺はロストドライバーを装着する。

 

 「変身!」

 

 【Joker!】

 

 いつぶりかの単独変身。仮面ライダージョーカーに姿を変えたクイーン・ドーパントは警戒を強める。

 

 素早い接近にすぐさまバリアを展開させる。しかし渾身の右ストレートはバリアを割り、生半可のものでは無理だと分からせる。

 

 連撃を入れられる前にジャンプし空中へ避難する。足場のバリアに向かって翔太郎も飛び上がり、なんとかバリアの片隅を掴んだ。

 

 「離しなさい!」

 

 「離さねぇ。確かに俺とお前は犬猿の仲だ。でもな……」

 

 ガンガン踏みつけてくる痛みに堪えながら無理やり振り払い、同じ土壌に立った。

 

 俺はどうすることもなく、ドーパントのメリッサの両肩を掴んだ。

 

 「例えなんであったとしても、それは必ずお前を壊す。だからメモリをーー」

 

 「鬱陶しい!」

 

 凪払いに遭い、翔太郎はバリアの足場から転落する。負けじと立ち上がるも、そこには既にクイーン・ドーパントの姿はなかった。

 

 変身を解除しようとするもその場で手を止める。俺はあいつに対してどうしたいんだろうか。ときめの時と同じように全うに生きろ、なんて程簡単なことじゃない。

 

 俺が探偵に誇りを持っていることと一緒に、あいつもトレジャーハンターに誇りはあるはずだ。じゃなきゃやらないはず。

 

 「それでも女王(クイーン)切り札(ジョーカー)に勝てないぜ」

 

 改めてドライバーに手をかけると照明が当てられる。いきなりのことに顔を覆うと、そこには何人かの警備が構えていた。

 

 こりゃまずいパターンだ。デュラハンの一件以来、未確認モンスターとして見られてる以上懸賞が懸けられている。

 

 一斉に【バインド】を発動してくる警備達。当たり前だ。今の俺を見て探偵だとは思わない。

 

 俺は逃げ去るように森の中に入っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 メリッサを逃がして翌日。街中を探し回ったが姿は見つからなかった。まぁ、当たり前っちゃ当たり前か。

 

 流石にデストロイヤー討伐に関しての一件も収まり日常が動き始めた。またしばらくは……それよりメリッサの情報収集がない分、こっちから動き始めるしかない。

 

 一旦探偵家業を休みにしてメモリ回収を優先するか。冬場はモンスターも少なくなるらしいのでこれといった依頼もないらしいからな。

 

 そんなことをフィリップと話しながらギルドにやって来ると、何やらいつもと違った雰囲気を醸し出していた。

 

 「来ましたね」

 

 「あんたは確か……セナさんだったな。こんなところでどうしたんだ?」

 

 セナさんは検察官を勤めている。これでも警察とは繋がりがあるのでちゃんとした面識はないもの、人相絵程度は見たことがあった。

 

 「左翔太郎。貴方を国家転覆罪の容疑で逮捕します」

 

 「はぁ?いやいや、仮にも探偵だぜ。そんなことするかっての」

 

 仕事に厳しい人と聞いていたが何を言ってるのか分からなかった。今までだって警察とは協力してきたし……だからと言って本当だったらあれだけどな。

 

 「先日倒されたデストロイヤーについて、原動力であるコロナタイトが貴族アルダープ邸に送られた。指揮者は貴方ともう一人、サトウカズマだと聞いている」

 

 覚えしかなかった。

 

 「死人は?」

 

 「先に避難をしていた為に怪我人も出ていない。最近の貴方の活躍はこちらにも入っていますが残念です」

 

 言葉では言うものの、瞳の奥は少し冷たさを感じた。テロリストとは戦ったが今度はこっちがテロリスト側かよ。

 

 ここで弁明したところで状況は変わらないだろう。実際に被害が出ている以上何を言っても意味はない。

 

 「全体の指揮者は俺だ。カズマもそれに従っただけ。連れてくのは俺だけにしろ」

 

 背後で先程まで問い詰められていたあろうカズマに視線で合図を送る。何も言うなと、一種の圧力だった。

 

 「いいでしょう。しかし不十分と見なした場合、サトウカズマにも動向して貰います」

 

 「最後に一言ぐらいいいか」

 

 セナは表情を崩さぬまま頷いた。俺は相棒の元に近づき耳打ちする。

 

 「頼りっぱなしで悪い」

 

 「謝罪は必要ない。君はやれることをやったんだ」

 

 兵士二人の間に挟まれ、俺はセナの後をついていく。

 

 

 ギルドから翔太郎らが出ていくと同時にカズマが口を開いた。

 

 「翔太郎も俺も、ここにいる皆が町の為に戦ったのにあんな仕打ちはねぇだろ!」

 

 また自分のせいで濡れ衣を着せられたように感じたのか、怒りの感情を吐き捨てる。

 

 「落ちつきたまえ。まだ確定した訳じゃない。容疑ということはまだこれから取り調べがあってそれから裁判だ。そこでひっくり返せばいい」

 

 「しかし取り調べなんて二日もあれば終わってしまいます。それまでに反論材料が集まるでしょうか」

 

 さぞ自分は知能が高いですよアピールをするめぐみん。無理やり爆裂道に引き入れた癖にそんなこと言うな。 

 

 一考するフィリップ。ここにいる全員は何かしら二人に世話になっている奴らが多い。協力すればどうにかなるかもしれないが証拠集めとなると難しい。

 

 「それだったらダストが軽犯罪やってごねれば一日くらい猶予が延びるんじゃないか?」

 

 カズマの予想外の提案に全員が引いた。確かにチンピラとして悪名高いがそれはないだろう。

 

 「まぁ、宿無しの時はわりかしやるからな。報酬が出るならやるぜ」

 

 「やらなくていい。少し考えるから、誰かアルダープという人物について知ってることはあるかい。本名だけでもいい」

 

 誰も手を上げない。まぁ、ここにいる一般の冒険者が貴族と接触するなんて世程ない。

 

 「アレクセイ・バーネス・アルダープだ。あまり評判は良くないようだが……それで何か分かるのか?」

 

 ダクネスだった。フィリップは少し悪い微笑みを浮かべる。

 

 「充分さ。さぁ、検索を始めよう」

 

 




フィリップ無双回になります


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Jを取り戻せ/戦闘準備

「ようやく原作3巻だね」

「最終目標は風都に帰ることだからな……俺達いつになったら帰れると思う?」

「それはわからない」


 検索という言葉に引っ掛かりを覚えた。こいつはついにPCまで開発してしまったのかと思ったがどうやら違うらしい。

 

 椅子にもたれかかり目を閉じること数分。ただでさえ時間がないのに何をしているのか全くわからない。

 

 「起こさなくていいの?」

 

 「俺も思ってるけど何もするなって言ってただろ?」

 

 俺も知恵は回る方だがフィリップよりかはずっと下だし、翔太郎には行動力で負けている。信じることしか出来ないっていうのは割と残酷だと思い知らされる。

 

 やがてフィリップが目を覚ました。

 

 「三流小説家が書く本の方がまだマシだ」

 

 フィリップは立ち上がりギルドの中心に立った。

 

 「アルダープの悪事は把握した。どのようにしてそれを揉み消しているのかも全てだ。だが証拠が見つからない以上完全勝利は難しい。故に力を貸してほしい。相棒を救ってほしいという僕からの依頼、引き受けてくれるかな?」

 

 全員がほぼ同時に右手拳を突き上げた。俺の時とはえらい違いだと憤慨するが信用度の違いだろう。……俺もそこそこ頑張ってるんですけど。

 

 「ありがとう。まずはカズマとアクアちゃん。二人で【キールのダンジョン】に行って本人に頼みごとをしてきてほしい」

 

 「本人にって……物語に出てくるキールって奴に?そもそもいるのかよ?」

 

 「いる。事情を話してとあるポーション製作を依頼してきてくれ。恐らく必要になってくる。内容はあとで教えよう」

 

 「続けてめぐちゃん。君には紅魔族の知恵を貸してほしい」

 

 「ふっふっふっ、弟子の頼みを断る師匠はいませんよ」

 

 だからいつからフィリップは弟子になったんだよ。

 

 「残りの冒険者は町や付近を駆け巡り材料集めをしてきてほしい。盗賊職はデストロイヤーが歩いてきた辺りの調査を頼む」

 

 「オッケー、任せてよ!」

 

 代表してクリスが返事をした。

 

 「以上だ。僕とめぐちゃんはこれから検証に入る」

 

 「私は?」

 

 一人置いてけぼりのダクネスが尋ねた。

 

 「君は何もしなくていい」

 

 「えっ……」

 

 めぐみんとともにギルドを出ていくフィリップ。どういうつもりか分からなかったが、何もしなくていいという言葉には少し冷たさを感じた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アルダープという人物は僕が見てきた人間の中でも上位に入る下衆かもしれない。いや、入ってくる。

 

 悪事の証拠隠滅に悪魔を召喚し、その悪魔の性格をいいことに代価も支払わず好き勝手にしていく。心底反吐が出る。

 

 だが今回はここにはあえて触れないでおこう。代価は支払わせるべきだ。罪の精算とでも言おうか。僅かにヒントを残しておく程度だ。

 

 「ダクネスに何もするなとはどういうことですか?」

 

 翔太郎の部屋を漁っているとめぐちゃんが尋ねてきた。なぜ翔太郎の部屋にいるのかと言うと、彼なら個人情報以外に重要そうな情報なら残しているはずだ。

 

 「単純に任せられることがないからさ」 

 

 適当に答える。事実を言うと今回の立場的に二番目、下手をしたら一番に危ないのは彼女だ。貴族のしがらみに加え、アルダープは彼女の母ーークラリスから異常の執着を持っている。

 

 もつれこんでしまえば面倒事や危機に晒されるかもしれない。二次被害は極力避けなければならない。

 

 「大事な人は巻き込みたくないから、ですか?」

 

 「それだったら一人でなんとかするよ。……質問の意図を教えてほしい」

 

 「隠しても無駄ですよ。私は見ましたからね。デストロイヤーの横でダクネスに膝枕されてるのを!」

 

 めぐちゃんの指摘に一瞬何を言ってるのか分からなかった。が、すぐに思い出した。

 

 「あれは彼女が無理やりやってきたことだ。もちろん抵抗はしたけど爆裂魔法を使った後じゃ体力的にも勝てない」

 

 「みんなの元に必死に歩いてきて追い付いたと思ったらあのイチャイチャを見せられる私の身にもなってください」

 

 それに関してはただの横暴だと思う。

 

 「いるなら出てくればよかったじゃないか」

 

 「出てこれる雰囲気じゃありませんよ!……その、既に男女の仲なんですか?」

 

 「それはない」

 

 「あっ、はい……も、もしかしてこれですか?」

 

 めぐちゃんの手には【デストロイヤーに関する調査レポート】と書かれた手帳があった。中身を確認すると進んでいた進路から内部の状態まで細かく書かれている。

 

 『アクセル入り口から見て東北位置より時速60㎞程度で走行中。時間帯により減速、加速の兆候あり。盗賊職のクリス及びその他メンバーと確認済み』

 

 『途中、山の横断あり。進路変更はなく跳躍で飛び越えた模様。盗賊職のクリス及びその他メンバーと確認済み』

 

 『内部において開発者と思われる白骨遺体を発見。アークプリーストのアクアによるとこの世の未練はなしとの判断。しかし侵入者を防ぐゴーレムは正常に起動。侵入者の形跡はない為、調整をしないまま死に至った模様』

 

 どうやら推理する必要はあまりないかもしれない。

 

 「めぐちゃん。これから幾つかの可能性を提示する。君の知識をフルに使って反論してくれ。不安要素を潰していく」 

 

 「任せてください」

 

 

 

 フィリップに頼まれた通りキールのダンジョンへとやって来た。その昔、高名な魔法使いが姫を拐い立て籠ったと言われているダンジョンだ。

 

 今ではとうに宝は狩り尽くされ初心者の俺達にとっていい練習場となってしまっている。

 

 俺は【暗視】のスキルを使い前に進んでいく。アクアは暗闇でも結構はっきり見えているらしい。しかもダンジョンはアンデッドが多く出るため適任だろう。

 

 頼まれたものが書いてあるメモを渡された時、見るなと言われたがそう言われると気になるのが人間の性ってもんだ。でもあいつの考えることだから何か理由があるかもしれない。

 

 「本人を探すっても……この間クリスから教わった盗賊スキルでなんとかなるか?」

 

 「盗賊職は数少ないうえにほとんど出払っちゃったからじゃないかしら。それにカズマさんは無駄に運だけいいし」

 

 なるほど、そこまで読んでの俺なのか。冒険者という職でバカにされてたけど突き詰めれば万能職だもんな。

 

 「おい、無駄にってなんだ無駄にって。お前の方こそ俺の幸運吸いとってマイナスにすんなよ」

 

 「そんなリッチーみたいなことするわけないでしょ!」

 

 カンカンに怒るアクアをなだめることなく前に……リッチー?そういえば昔話になるほどだから流石に人間として考えるには不自然だ。そういて高名な魔法使いというと……これまずいんじゃねぇの?

 

 「ねぇ、聞いて……こっちからリッチーの臭いがしてくるんですけど」

 

 犬かお前は。犬の方が賢いか。

 

 「待て。キールは多分リッチーの可能性が高い。いいか、下手に浄化魔法なんて打つんじゃないぞ」

 

 「えー……」

 

 注意を促し俺達はアクアが指し示す方向に向かっていく。たどり着いた行き止まりを見てみるとどうやら隠し部屋になっているようだ。さて、どうやって

 

 「【ゴッドブロー】!」

 

 「何やってんだお前はー!」

 

 力業で壁を粉砕するアクア。その先には驚きのあまり椅子から転落したアンデッドがいた。

 

 「な、なんだね君たちは!」

 

 「すいません!本当にすいません!驚かそうとか思ってないです!」

 

 無理やりアクアの頭を下げ謝罪し、落ち着いたところで本題に入った。俺はフィリップから貰ったメモを渡した。

 

 「……これが欲しいと言うのかね」

 

 「ええ、いきなりで申し訳ないですけど……」

 

 「いいだろう。その代わり私を成仏させてくれないか。彼女を守るためリッチーになったはいいが、並みの浄化魔法では死にきれなくてね」

 

 剥き出しの骸骨をカタカタ言わせながら笑うキール……え、じゃあウィズはなんで人間の姿を保ってんの?

 

 「少し待っていてくれ。すぐに作ってくる。その間に魔方陣でも描いておいてくれ」

 

 すげぇ、俺のパーティーなんかより全然話が通じる。あれか、魔物になった方が一周回って的な感じなのか。

 

 キールが拐ったであろう姫様の白骨遺体の横でアクアは魔方陣を描き、俺はなんとなくキールの部屋の棚を開けた。RPGじゃ定番だけど普通に犯罪だなこれ。

 

 「これって……USBメモリー?」

 

 見覚えのある端子。表面にはS(スカル)の刻印がされている。英語表記となると転生者が持ち込んだものだろうか。ていうか骸骨だからってスカルって……

 

 「あのキールって人、この世界の人物だよな」

 

 「そうね」

 

 「なんで英語読めんだ?」

 

 「さぁ……ってなんの話してんのよ」

 

 魔方陣を描き終えたアクアがメモリを見る。英語が読めなくても骸骨柄のSに過敏に反応する。

 

 「悪趣味なもん持ってるわね。さすがリッチー」

 

 「それに触ってはいかん!」

 

 右手にポーションを持ったキールが叫んだ。アクアはそれに驚きメモリを落としてしまう。

 

 「……失礼した。それは非常に危険なものでね。私が生きてきたなかで得た知識を全て使ったが未だ未知数なところが多い。ノーライフ・キングの私でさえ正気を保てないかもしれん」

 

 メモリを拾いキールはじっと見つめる。

 

 「誰にも知られず墓場まで持っていくつもりだったが……」

 

 「なぁ、俺の知り合いにもリッチーがいるんだ。よかったらそいつに預けてみないか?悪い奴じゃないってことは保証する」

 

 「……そうか。ここまで来て手土産もなしは悪い。だが決して悪用しようとするな。必ず身を滅ぼすことになる」

 

 骸骨の外見も相まって余計に信憑性が高まる。翔太郎の件が落ち着いたらウィズに相談してみよう。

 

 キールからメモリとポーションを渡される。アクアの魔方陣とともに、キールは姫様の白骨遺体とともに姿を消した。

 

 「……」

 

 「どうしたの?早く帰りましょ」

 

 「ああ」

 

 よくよく思い出してみると、デストロイヤーの時に見たメリッサも似たようなものを持っていたような気がする。

 

 だが明らかにUSBメモリーだし、体内に侵入するなんてことあり得るはずがない。翔太郎は反応していたが、後からフィリップに聞いても知らないの一点張りだった。

 

 嘘をついてるとは思えない。それに翔太郎は駆け回って情報収集するタイプだからどっかでモンスター化するポーションとかの情報を得てしまったのだろう。きっと別のなにかだ。

 

 俺はなぜか言い聞かせるように納得させた。

 



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Jを取り戻せ/フィリップはそれを我慢できない

「試しにアンケート機能を使ってみたよ」

「一週間ぐらいで切ろうと思ってたが、まさか三日ぐらいで百件越えるとは思ってなかったな」

「ただ個人的にはこれからの展開に迷いを見せている。一つ案が潰れたからね」

「裏方の話はしないこと」



逮捕から翌日。俺は検察官のセナから取り調べを受けていた。照井を通じて容疑者を、なんてのはあったがされる側はさすがに初めてだ。

 

 「経歴から必要か?」

 

 「いえ、貴方の活躍は聞いています。トレジャーハンターのメリッサに対し金品盗難を阻止する功績にテロ容疑の犯人をいち早く判明させるなど、輝かしいものだと」

 

 「ですが、今回の事件により貴方自身に魔王の手先ではないかと容疑をかけられています。モンスター討伐に対しての功績がないのも身内を殺す訳にはいかないためではないかと思われています」

 

 それは単純にデカイ敵に敵わないだけなんだが……スキルを取らずに探偵技術だけで渡り合ってたのが仇になったか。

 

 「それもこの取り調べである程度は分かることです」

 

 そう言って取り出したのは小さなベルだった。レストランによくある従業員を呼び出すためのものに似ている。

 

 「嘘に反応して音が鳴る魔道具です。微力な変化を感じ取り反応します」

 

 「それは便利なこって」

 

 咳払いをして場を改めるセナ。ちょっとふざけすぎたか。

 

 「それでは質疑を始めます」

 

 セナから聞き出される質問に対し俺は全て正直に答えていった。出身地に関しては遠い東の国と答えたら納得し、後から調べると言われた。正直墓穴を掘った気がする。

 

 「なぜアクセルに?」

 

 「依頼だ。彼女を助けて欲しいってな。だがその彼女も分かんなくてさ迷ってるところだ」

 

 「結構大変な思いをしているんですね……」

 

 「探偵に必要なのは忍耐力だからな。一度引き受けた以上やりきるしかねぇ」

 

 おやっさんには毎回忍耐力がねぇってどやされてきたけどな。

 

 「分かりました。……正直な話、貴方の性格やこれまでの活躍を見て、私はどうも魔王の手先とは思えません。仕事ですので対立の立場になりますが」

 

 書類を纏め整理をするセナ。単純に善悪では図っていないらしい。

 

 「むしろ貴殿アルダープについては黒い噂は絶えていません。しかし物証がないために行動を起こすことが出来ないのです」

 

 「安心してくれ。俺と相棒が何とかしてみせる」

 

 「期待しています。が、裁判では私も容赦しません。簡単に許すほど甘くはないので」

 

 仕事に真面目なだけでいい人だ。その時、一人の兵士が入ってきた。どうも面会人が来たとのことらしい。

 

 面会室に案内されるとそこにいたのはウィズだった。フィリップが何か問題でも起こしたのか?

 

 「どうした?」

 

 「実は……」

 

 ウィズが手招きするのを見て窓越しに耳を近づける。

 

 「ガイアメモリに関してなんですけど……」

 

 「何っ?!」

 

 「こそこそ喋るな」

 

 背後にいた兵士に言われ俺達はそっと椅子に座り直す。

 

 「それがどうした?」

 

 「昨日、カズマさんがキールのダンジョンから帰ってきて。本人から話を聞いてその……同じ私に託すことになって」

 

 同じ私ーーリッチーってことか?ウィズに対して隠すことなんてそれぐらいしか思い浮かばない。

 

 「フィリップさんは忙しいですし、とりあえず翔太郎さんにだけでも報告をと思ったんですけど……その……」

 

 歯切れの悪いウィズに嫌な予感を覚える。俺の直感は結構当たってしまうが、今回ばかりは外れてほしいーー

 

 「店じまいしてる時に誤って起動させてしまって、どこかに飛んでいっちゃいました!本当にすみません!」

 

 「ああああっ?!」

 

 「静かにしろ!」

 

 こんな一大事に静かにしてられるか!って、T2だから自ら適合者に飛んでいったってことか?

 

 「どこに?」

 

 「分かりません……方角的に行き着く先は王都辺りだと思いますが、道中にも幾つか町はありますし……」

 

 まずいな……まだのB(バード)メモリとかなら他の冒険者が討伐出来るかもしれないがW(ウェザー)だったりすると面倒だ。

 

 「カズマはなんか言ってたか?」

 

 「確か骸骨とかなんとかと……」

 

 「骸骨……!」

 

 「な、何かまずいですか?!」

 

 スカルメモリかよっ……だったら尚更取り戻さなきゃいけねぇじゃねぇか。おやっさんの力を悪用なんかさせるかよ!

 

 「そろそろ時間だ」

 

 兵士の言葉に俺は頷いた。どうやらウィズもこれ以上は詳しくは聞いていないようだ。

 

 「裁判が終わって解放されたらすぐに王都にテレポートしてくれ。フィリップには言うな、分かったな」

 

 「分かりました」

 

 とにかく目の前のことを何とかするしかねぇ。俺は立ち上がり面会室を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 裁判当日ーー運良く2日ではなく3日かかり計測や証人集めには充分だった。めぐちゃんは相当疲れたようで一人屋敷で休んでいる。

 

 「それでは……被告、左翔太郎はデストロイヤーに組み込まれていたコロナタイトを本来なら使用禁止の【ランダムテレポート】を使って領主アルダープの屋敷に送り、それによってテロ及び魔王軍手先ではないかと容疑がかけられている」

 

 日本の裁判と同じような形態で裁判長が読み上げる。アルダープは大きな態度で椅子に座っていた。……やはり、視線は翔太郎ではなくダクネスちゃんに向かっている。完全にこの裁判は何かしらの口実だ。

 

 検察官のセナさんの弁論が終わり、僕は顎を撫でる。素人相手なら勝つのは難しくないが、途中アクアちゃんの意味のない異議ありもあって印象もあまりよくない。

 

 「それでは弁護人、前に」

 

 静かに立ち上がり僕は登壇する。持っている本を開き静かに弁論を始める。

 

 「まず最初に。裁判長らには立場関係なく公平な眼で見て欲しい」

 

 当たり前のことを尋ね、それを了承したのを確認する。もちろんそれはセナさんやアルダープも同じだった。

 

 「では貴殿アルダープ邸にコロナタイトが送られたことについて。ランダムテレポートは場所指定が出来ないものなのは重々承知だ。その上で翔太郎は指示をした。そうでもしない限りあの場にいた僕達はもちろん、町にも被害がでる」

 

 「そんなものーー」

 

 「ここで物言いをするならば、自分が助かるなら他の命などどうなってもいいと、貴族としてあるまじき発言をしたと解釈する」

 

 アルダープの横やりを容赦なく叩き落とす。拡大解釈だと言われるかもしれないがそこまでしなければならない。

 

 「単純に考えてほしい。世の中は広い。それがなぜピンポイントでアルダープ邸に送られてしまったのか。確率で言えば1%も満たないはずだ」

 

 「これは僕の推測の域を出ないが、何かしらの因果が働いたと考えた方が有力だ。例えば……悪魔の契約」

 

 なるべく明るみにしたくなかった。が、これが一番手っ取り早い。代価も支払わせなければいけないしね。

 

 「儂が契約していると言いたいのか?」

 

 「推測だと言っている。それから異論があるなら挙手をしたまえ……話を続ける」

 

 取り出したのは翔太郎が残していたレポート。あの後、ギルドの人にも協力して貰い情報が一致していることも確認した。

 

 「一人目の証人をお願いする。デストロイヤーの時に一緒に調査に同行したクリスちゃんだ」

 

 僕が立っていた場所に代わりクリスちゃんが登壇する。

 

 「一つずつ確認していく。まず、ここに書かれている情報は大筋間違っていないね」

 

 「うん。見せて貰ったけど間違いは書いてないよ」

 

 「ありがとう。続いてこちらの資料を。これはかつてのデストロイヤーの歩いていた道筋を現したものです」

 

 何ページにも渡ってどの道をどう渡ってきたかが書かれている。

 

 「情報によればデストロイヤーは落とし穴や小さな山も軽々飛び越え、巨大な山なら兵器を使い……簡単に言えばまっすぐに突き進んでいってます。何か気づきませんか?」

 

 誰もが確認するがそれに気づいていない様子だった。

 

 「翔太郎のメモではアクセルから見て東北位置から接近と書いてある。だが……もう少し前から見てみると進んでいる位置が違う。もっと簡単に言えばここアクセルに真っ正面からぶつかる、なんてことはなかった。よくて付近を通る程度だ」

 

 「方向転換したってこと?」

 

 「分かりやすく言うとそうだね。証人ありがとう」

 

 クリスちゃんが降壇し、改めて僕が登壇する。

 

 「方向転換がなんだと言うんだ」

 

 「デストロイヤーに乗り込んだ際、開発者の遺体からは未練のようなものは見当たらなかった。だよね、アクアちゃん」

 

 「えっ?ええ、そうね。それは綺麗さっぱりに」

 

 聞かずにこそこそと芸の練習をしていたであろうアクアちゃんが狼狽えながら答える。ちゃんと聞いていてほしい。

 

 「異議あり。開発者が動かしたともとれますが」

 

 「アクアちゃん」

 

 「私から見れば少なくとも数ヶ月は遺体で放置されてたわ。実際、肉体から魂が抜けるのも死んで一週間くらいだし」

 

 デストロイヤーに変化があったのはアクセルに来る二週間前だ。直前に誰かが操作したことは考えられない。

 

 誰かの侵入も低い。デストロイヤーに備えて翔太郎と話している時、抜け道があったり攻略法があったりなんてこともない。

 

 「ならばどうやって……」

 

 「言ったはずだ。悪魔の契約だと。じゃあここで二人目の証人を」

 

 登壇してきたのは普段の際どい格好とは違うサキュバスだった。予想外の登場に裁判場はざわめいた。

 

 「公平な眼で見るとの約束だ」

 

 「ふざけないでください!常識の範囲内で」

 

 「君と僕の常識は違う。この間、僕と翔太郎で検挙したテロ未遂の事件も最初は彼女からのタレコミだ」

 

 セナはハッとした表情になり翔太郎を睨んだ。確かに検挙は俺達がしたが、犯人の目安をつけたのは彼女だった。

 

 「自分達にとって害はないどころか危険を省みず僕達を頼って来たことは信じるに値してもいいと思う」

 

 実際のところ、本気でテロが起こってしまうと自分達の店にも捜索がはいってしまう可能性があるわけだが……そこは置いておいて。カズマ君は頑張ってアクアちゃんを取り抑えててくれ。

 

 「では幾つかの質問を。まず、悪魔が地上にやって来る際にはどういう風に来るのかな?」

 

 「私達下級の悪魔は魔力はそのままにやってこれます。しかし、位が上がるにつれてーー特に【地獄の公爵】と呼ばれる大悪魔などは魔力を弱めてやってきます」

 

 「単純に魔力要素が強すぎるためにプリーストなどに気づかれやすくなるためです。身に付けているものに意識を移す形で地上に現れ、体は土塊などで成形します」

 

 「なるほど。先程、魔力要素が強すぎるとの回答があったが、人間と何か違いはあったりするかい?」

 

 「構成されているそのものが違いますのですぐに分かります。人間達が使う回復魔法でダメージを受けるのはそれも関係しています」

 

 裁判長が頷いた。公平な眼で見ることを約束した以上、不公平なことはしないようだ。

 

 「では最近、悪魔の魔力を感じたことは?」

 

 「デストロイヤーが襲来する少し前に感じました。強さまでははっきり言えませんが、それこそ名の知れた大悪魔級のものです」

 

 「ありがとう。男性陣冒険者諸君、彼女を頼む」

 

 サキュバスを降壇させいち速く安全な場所へと避難させる。さて、結論に入ろうか。

 

 「悪魔の契約にはいくつか制約があってね。その内の一つの代価についてだ。代価を何らかの理由で支払わなかった、もしくは忘れていた場合、それは決してなかったことにはならない」

 

 「度重なる契約の中でそれを実行させる時、支払わなかった契約者に不利になることが形として返ってくる」

 

 「僕の考えでは何者かが何かしらの理由で悪魔との契約を行った。それによりたまたま近づいてきていたデストロイヤーを使用、強引に方向転換をさせ町に危険を及ぼした。そしてそれを止めることに成功したものの、更にしっぺ返しのようにコロナタイトが屋敷に送られてしまった……」

 

 敢えて言葉には出さなかったが、さすがのアルダープもそれが自分であることは理解していた。

 

 「意義あり。憶測をーー」

 

 「なんだ!ならばお前はその犯人が私だと言いたいのか!」

 

 「ああ、本当だ。どうも一致しているね」

 

 「しらばっくれるな!第一、私がそんなことをして何になる!そんなことをしてまで何を求める!」

 

 完全に頭に血が昇っている。今の内に仕掛けよう。

 

 「話は変わるが、貴方は一人の令嬢に執着していると聞いたことがあるが本当ですか?」

 

 「話は終わっとらん!たかがララティーナ一人の為にそこまでする必要はない!」

 

 「……そうか。そうだね。確かにそうかもしれない。推測の域を出すぎたことを詫びよう」

 

 胸に手を当て頭を下げる。五秒ほどのしっかりとした謝罪の後にフィリップは呟いた。

 

 「しかし、ララティーナか。随分と可愛らしい名前だ。ぜひ一度お会いしてみたい」

 

 その真意に一番に気づいたのはやはり翔太郎だった。続けてセナ、カズマと気づくが、当の本人であるアルダープは墓穴を掘ったことさえ気づいていなかった。

 

 フィリップは一度たりとも貴族の娘の名前は出していない。契約とはこと細かくなければならない。名前が出てしまった為に可能性が飛躍した。

 

 「以上だ、裁判長」

 

 「待て!私がララティーナを欲しいが為に契約をしたと言いたいのか!」

 

 「行いを省みれば充分あり得る」

 

 振り返るフィリップ。アルダープはしめたと言わんばかりにその眼をどす黒く濁った目を光らせた。

 

 一瞬、フィリップは立ち眩みを覚えた。さぁ、これでーー

 

 「やり直しはなしだ」

 

 フィリップはただ冷静に懐から魔道具を取り出した。アルダープは焦りと脂汗が止まらなかった。

 

 「これは悪魔特有の魔力に反応する道具だ。今、僅かながら反応を示した」

 

 「あとは……これを」

 

 小瓶に入ったポーション。それはカズマらがキールに頼んで作って貰ったポーションだった。

 

 「【魔眼封じのポーション】だ。裁判が始まる前、僕はこれを飲んでおいた。ピンチに陥れば必ず使ってくると思ったよ。今まで被害者が頑なに証言してこなかったのもそれで洗脳されていたからじゃないかな」

 

 「物証は悪魔の力で揉み消し、証言者は魔眼で洗脳させ口止め。この二つは証拠として提示しよう」

 

 裁判長の槌が高らかに鳴り響く。容疑者左翔太郎は保護観察処分とし、原告アルダープは悪魔との関係の疑いありとして投獄になった。

 

 まだまだ時間があればちゃんとした証拠を手に入れられたかもしれないが……まだ代価分がある。そこできっちり返して貰おう。

 

 「さぁ、お前の罪を数えろ」

 

 バタン、と本が閉じる音が裁判場に響いた。




裁判って実際行ったことないので詳しくは知らんのですわ。

フィリップが自らも悪魔と呼ばれていた時期があり、尚且つ今でも蔑称として呼んでいることからスポットを当ててみました。

色々と曖昧なところは地球の本棚で証拠を消したなどの事実は知れるが、証拠が見つからないという欠点の元、不完全性を出してみました。やっぱり翔太郎は必要なんやなと改めて認識しました。

それじゃ後半戦はまた。次は……皆大好きあいつが登場!


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Aの思惑/奴の名は……

「時間がある時は大体2日から3日程度で書き終わるんだが、他に投稿している人はどれくらいで出しているんだろうか」

「そりゃ文字数や内容の濃さによるし、出きる時はすぐに出きる時もあるだろ。実際、原作四巻以降の流れは概ね出来てるんだし」

「僕達の場合は一話に長すぎると嫌になるからという個人的な見解で長くても4000字くらいだが、どうなんだろうね」

「知らねぇよ……それより今回は少しだけ、俺達の問題が動くみたいだぜ」


 裁判が終わり夕方頃、俺はようやく解放された。留置場から出るとそこには既にウィズが待っていてくれた。

 

 「フィリップさん凄かったですね。でも面会の時、翔太郎さんは勝ちを確信してたように見えたんですが……」

 

 「そりゃ相棒だし信じてたからな。……フィリップには地球の本棚(ほしのほんだな)っていう特殊能力があってよ。この地球で起こったあらゆる事象や事柄をデータベースにして本の形で知ることが出来るんだ」

 

 「でーたべーす?」

 

 「あー……簡単に言えば知識の宝庫ってことだ。それを使えば自分の知りたいことを何でも思い通りに知れる。普段ならあまりにも膨大な量に苦戦するんだが、今回は名前が割れてたからすぐ分かったんだろ」

 

 理解できてるのかどうか分からないが呆然とするウィズ。しばらくして目覚めたようにハッとする。

 

 「つまり今回のことは全部それで知ったと……?」

 

 「そんなところだ。ただ今回に関しては悪魔との繋がりが見えたのは確かだ。けど証拠がなかったからそこをどうするかが鍵だったが、その場で作るとはな」

 

 だからあの短期間であれだけのことを……確かに証拠は揉み消せても『悪魔と契約し証拠を隠滅した』ことは事象として残る。

 

 それはもちろんどんな悪魔と、どんなやり取りをしたのかも知れるって訳ならーー単純にヤバいですよね?

 

 「っと、そろそろ急がねぇとな。ウィズ、俺が王都に送ったら、フィリップにはアクセルからしらみ潰しで調べて中間地点の【アルカンレティア】で落ち合おうって伝えてくれ」

 

 「分かりました」

 

 「ここ最近頼ってばかりだったからな。出発はお前のペースでいいってことも頼む」

 

 ウィズは了承しテレポートで翔太郎を送った。さてーー今回は私の不手際です。何か力になれるように頑張らないと。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 アクセルに戻りフィリップ達がいる屋敷に戻ると、そこには手土産を持ってベルを鳴らそうとする少女が立っていた。

 

 「どうしました?」

 

 「ひゃっ?!あの……めぐみんがここに住んでるって聞いて来たんですけど」

 

 よく見るとその少女も瞳が紅く輝いている。この子も同じ紅魔族だ。

 

 「そうですよ」

 

 代わりにベルを鳴らす。しかし誰も出ない。裁判という大きな事があってすぐにクエストやら行くのは考えづらい。もしかしたらギルドで食事をしているかも。

 

 「いませんね……ギルドに行ってみましょうか」

 

 「は、はい!」

 

 

 ギルドにもフィリップ達の姿はなかった。だが聞いたところによるとキールのダンジョンで大量発生している謎のモンスターの討伐に同行しているらしい。

 

 ここ最近であそこに訪れたのはカズマさんとアクア様だ。メモリのこともあるのでもしかしたら何か疑われるかもしれないと感じたのだろうか。

 

 「そのモンスターって言うのはなんでしょうか?」

 

 「何でも怪しげな仮面を被った小さいものらしいです。おもむろに抱きついて爆発するとか……」

 

 どうしよう。すごい思い当たりがある。でもここに来る理由って……

 

 「ウィズさん、行ってみませんか?」

 

 「そうですね。確かめたいこともありますし」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 キールのダンジョンまではそう遠くない。走って追いかけていると背後のダクネスさんの姿が見えたので大きな声出すとそれに気づいた。

 

 「ウィズと……?」

 

 「えっと、その……」

 

 「ゆんゆんさんです。めぐみんさんとお友達なんですよね」

 

 一同は名前から察した。が、紅魔族は名乗りがある。それを躊躇ったのはどうしてだろうか。

 

 「まだ恥ずかしがっているのですかゆんゆんは。フィリップなんて初対面の私に対し同じように返してきましたからね」

 

 「我が名はフィリップ!アークウィザードにして、やがてこの星の全ての知識を得る者!……改めて思うが何をやらせるんだ」

 

 即座に対応できるフィリップさんもフィリップさんですよと、言いたくても言えなかった。

 

 「つまるところ、紅魔族は全員あれなのにゆんゆんだけまともに育ったってことか?」

 

 「あれとは何ですかあれとは」  

 

 いざこざが始まる背後でウィズはこっそりと例の件についてフィリップに耳打ちした。頭を抱え深いため息をつく。

 

 「皆、悪いが先に行っていてくれ。用事が出来た」

 

 「用事?まぁ、俺達の問題だし後から追い付いてくれよ」

 

 フィリップが外れ代わりにゆんゆんが入り、一行はキールのダンジョンへ再び歩みを始める。

 

 フィリップは改めて状況について聞く。いくらスカルメモリといえど勝手に行動するのは控えて欲しい。ただでさえ裁判のせいでドライバーも持っていないのに。

 

 「それで、翔太郎はなんて?」

 

 「翔太郎さんはーーっ?!」

 

 瞬間、ウィズは勢いよく吹き飛ばされ木に激突した。突然のことに理解が追い付かないフィリップだったが、目の前のそれに眼を疑った。

 

 「照井竜……?!」

 

 いるはずのない人物の登場に驚きを隠せない。照井竜ーー仮面ライダーアクセルはエンジンブレードを構えジリジリとウィズに歩み寄る。

 

 「待て、彼女は味方だ!」

 

 フィリップの静止を聞かずにどんどん迫っていく。フィリップは持っていたロストドライバーを装着しサイクロンへと変身する。

 

 ウィズとアクセルの合間に入りエンジンブレードを弾き飛ばす。アクセルは何も言わず、ただ立っているだけだった。

 

 「僕の話を聞いてくれ……どうやってここに?」

 

 アクセルは頭を振り、アクセルドライバーのグリップを捻る。まさかーーそう思った矢先、アクセルは姿を消した。エンジンブレードも失くなっている。

 

 変身を解除してウィズの体を起こす。意識はあるようで大丈夫そうだった。

 

 ウィズを抱えて来た道を引き返す。このまま放っておくとまた事情を知らない照井竜が……いや、あれは本当に照井竜なのか?

 

 彼も元々口数は少ない方だ。だがあそこまで無言を貫くことはない。

 

 「フィリップさん……」

 

 「大丈夫かい?」

 

 「はい……あの、ダンジョンで現れてるモンスターのことなんですけど……」

 

 「今はそんなこといい」

 

 「いえ、もしかしたら私の知り合いかもしれないので……【地獄の公爵】を名乗るバニルっていう同じ幹部だと思います」

 

 幹部ーーそして【地獄の公爵】。この機会を逃す訳にはいかない。森を抜けたところでウィズを降ろす。

 

 「ここからなら町に近いし襲ってくることはないだろう。無理なら付いていくけどーー」

 

 「大丈夫です。ただ、その……吸わせてください」

 

 「何をっ?!」

 

 突然の【ドレインタッチ】にらしからぬ声が出てしまった。だがウィズは少し元気を取り戻したようだ。

 

 「せめて了承を得てからお願いしたい」

 

 「すみません、結構痛かったので……」

 

 痛かったで済んでる辺りおかしいと思うが、腐ってもアンデッドの王なのは健在のようだ。

 

 幹部同士が鉢合わせるのも微妙な雰囲気になりそうだし、ここは僕一人で向かおう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ダンジョンに近づくにつれて戦う音が激しくなっていく。辿り着いたその先にはダクネスちゃんに仮面を着けられていた。恐らくあれが本体だろう。

 

 「ふむ、増援の魔法使いと見た。だが(フィリップ)それだけでは(気を付けろ!)黙っていろこの小娘が!」

 

 相変わらずダクネスちゃんの耐久力には頭が上がらない。体は乗っ取られていても意識はあるのか。

 

 「地獄の公爵バニル。君に話がある」

 

 「話?言っておくが今の我輩に契約は無理だ」

 

 「分かっている。これは交渉だ」

 

 「交渉……悪魔相手に強気だな。その粋や良しと見た」

 

 様子を伺っていたカズマがそそくさと歩み寄り話しかけてくる。

 

 「何言ってんだよ、相手はあれでも幹部だぞ」

 

 「重々承知している。見通す悪魔だろう?」

 

 「ほう。どうやら他の奴らよりかは博識のようだな」

 

 仮面の瞳が光った。見通す、というのは単純に未来視だけでなく過去も見られると聞く。

 

 「フハハハハ!なんと人間と思いきや同業者であったか!これは失礼した。改めて自己紹介しよう。見通す悪魔のバニルである。フィリップ……いや、園崎来人(そのざきらいと)

 

 園崎来人……フィリップの本当の名前なのか?別に変な名前でもないのになんで隠す必要があったんだ?

 

 「ふむ……あまりいい悪感情が得られんな。これはいじるところを失敗したか」

 

 「そんなことはどうでもいいです。それよりも私の弟子を悪魔呼ばわりしたことを訂正して貰おうか」

 

 だからいつからフィリップがお前の弟子になったんだよ。

 

 「自らの興味本位の為に故郷を犯罪都市へと変え、多くの犯罪者とそれに対する被害者を生み出し、挙げ句の果てに身内すらも殺したこの男を悪魔と呼ばずして何と言う?」

 

 杖を構えていためぐみんの動きが止まった。それは俺達も例外ではなかった。

 

 僅かな希望を残しながら、俺達はフィリップを見た。

 

 「拡大解釈もあるが、概ねは事実だ」

 

 ガイアメモリの生産に加担していたこと、Wとして家族と戦い倒したこと。物は言い様というが正にこのことだ。

 

 誰も言葉に出来なかった。バニル本人でさえ、またいい悪感情が取れなかったのか微妙な状態だった。

 

 「いい加減話を進めたいんだが」

 

 「待ちなさい!もし、その悪魔が言っていることが本当であるならば、貴方を危険人物にーー」

 

 「包丁を作る職人は犯罪者か?」

 

 迫るセナに対し翔太郎と初めて出会ったあの日と同じ質問をぶつけた。最も包丁ではなく拳銃で例えたが。

 

 「包丁はものを切る為に使う道具だ。人を殺す為のものではない。だが凶器として扱われるのはその人間のモラルによるものだ」

 

 「っ……そんなの、ただの言い訳じゃないですか!」

 

 「僕は決して関係のない人を殺してはいない。僕の作ったもので関係のない人が誰かを殺しただけだ」

 

 「でも、家族を殺したのは」

 

 「ーー悪魔の連鎖を断ち切る為だ」

 

 フィリップはバニルの仮面に着いていた札を剥がし、更に仮面を外すとバニルは本来の姿を現した。

 

 未だに家族のことを思うともっと他にいい方法がなかったのか、関係を修復することは出来なかったのかと思う。でも全員が家族を思っていたのは事実。それが歪まれてしまっただけ。

 

 ガイアメモリという、一生消えない罪を作ってしまった僕の悪行によって。

 

 静かにダンジョンへと消えていくバニルとフィリップの後ろ姿を止める者は誰もいなかった。

 



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Aの思惑/密かに笑みを浮かべる者

「連続投稿が続くね。そろそろ雪でも降るんじゃないのかい」

「本人的にはこのまま駆け抜けるつもりなんだろ。むしろ原作四巻からが本番だからな」


 魔王軍幹部のバニルがアクセルの町に向かっていると知って追いかけて来たけど、どうしてあの人が一緒にいるの?

 

 潜入調査をしたのだから間違えるはずがない。あいつは同じ魔王軍幹部でリッチーのウィズだ。もしかして操られてしまっているのだろうか?

 

 いや、その可能性は低い。彼には全てを閲覧できる力がある。真っ先に警戒するはずだ。ならばーー敢えて近づいているのだろうか。

 

 私は仮面ライダーアクセルへの変身を解除して足を止める。この姿なら警戒されないと思ったがーーどうやら余計に強めてしまったようだ。

 

 彼らにはやって貰わなければならない。今も苦しんでいる彼女を救えるのは仮面ライダーしかいない。

 

 けどまだ時間はある。戦力強化の為にも散らばってしまったメモリの回収を急がねば。ほとぼりが冷めるまでそれに集中しよう。

 

 それが、私に出来る唯一のことだから。

 

 長髪の美少女は暗い森の中を駆けていく。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ダンジョンの奥地で再びフィリップとバニルが対面する。

 

 「それで、交渉とは?」

 

 「ウィズから聞いたよ。どうやらダンジョンを作るのに莫大な金がいるとね」

 

 あのポンコツ店主め……易々とそういうことを言うんじゃないと何度も言ってきただろう。

 

 「それがどうした?」

 

 「僕も協力者になろう。これでももの作りには慣れている。もちろん悪用は無しとの条件だ」

 

 「ほう……やけに自信があるな。その本棚とやらを使うのか?」

 

 やはり見破られている。こうして見ると厄介なものだ。

 

 「確かにそれがあれば色々と捗るかもしれん。だが我輩悪魔達は契約を元にしている。何か狙いがあるのであればそれで充分だろう」

 

 「僕の狙いは二つだ。契約を一つ果たす度に代価を支払うというのは、どこまで影響を与えてしまうか分からないからね」

 

 なるほど、故の交渉か。これでもし我輩がダンジョンを作ることを望んでいなかったら契約の道を選んでいただろうな。

 

 「して、内容は?」

 

 「貴殿アルダープと契約している悪魔、マクスウェルの救出及び契約解除。そしてーー」

 

 「君もこちら側につくことだ」

 

 強気に出るフィリップにバニルは笑う。こいつは面白い。今まで出会った中でもあのポンコツ店主を越えるかもしれん。

 

 「地獄の公爵を舐めているな?」

 

 「舐めてはいない。ただ利用しようとしているだけさ。君だってマクスウェルを地獄に帰したいと思っているだろう」

 

 「それは間違いではない。能力は凄まじいが頭は赤子のマクスウェル。契約を叶えても代価を貰ったことすら忘れるマクスウェル。だが帰すには契約者が契約を解除するか、悪魔、もしくは契約者が命を落とすか……どのみち険しいのは確かだ」

 

 「アルダープの投獄は決まってしまったから解除は難しい」

 

 「送った本人がどうしようも出来ないから同じ立場の我輩に頼ろうとな。見上げた根性だ、恐れ入る」

 

 「いくら赤子のマクスウェルと言えど、自らの身体に危険が及べば一時的に避難をする。そんなことをしなくてもあのバカ女神並みか爆裂魔法でない限り死ぬことはない」

 

 殺る前に殺られる、ということだ。バカ女神はアクアちゃんのことだろうし、こっちにはめぐちゃんがいる。だが騒ぎを起こせばまだ問題だ。

 

 「どうしてもというならば我輩にプレゼンしてみろ。貴様にどれ程の技術があるかな」

 

 フィリップは何も言わずにメモリガジェットを取り出す。翔太郎が捕まっていたおかげもあってバットショットやスパイダーショックなど全てが揃っていた。

 

 「もちろん自律機能は付けない予定だ。地獄の公爵バニル」

 

 「悪魔と相乗りする勇気、君にはあるかな?」

 

 どこまでも我輩をこけにする。

 

 「いいだろう。その度胸、買ってやる」

 

 

 時間にして十分程の交渉は自らの技術力のプレゼンをして終わった。多分、最後の挑発が一番効いてると思うが。

 

 バニルとともにダンジョンを出ると、僕達を待っていたカズマ君達とセナがいた。

 

 「話は終わったよ。交渉成立」

 

 「マジで?」

 

 「ただ、今は魔王と契約しているからそれの解除が必要らしい」

 

 「それなら私の出番ね!【セイクリッド・エクソシズム】!」

 

 「華麗に脱皮!」

 

 危機感を察知し仮面を脱ぎ捨て回避すると、再び土塊から身体を生成する。

 

 「我輩にもプライドがある。こんなバカ女神に浄化されるなどまっぴらごめんだ」

 

 暴れ散らかすアクアをカズマとゆんゆんが取り抑える。そういうところだと思うが口には出さないでおこう。

 

 「と、言うわけだ。頼んだよ師匠」

 

 「任せなさい。久し振りの出番、頂きます!【エクスプロージョン】!」

 

 フィリップの放つ爆裂魔法よりも大きな轟音が響き渡る。またポイントを威力向上に使ったようだ。

 

 バニルの笑い声が消えるとともに、その場には何も残らず消え去っていた。同時にめぐみんもその場で倒れる。

 

 これでまた……そう思った矢先、セナが渋い顔をしながら僕の元へ歩み寄る。

 

 「貴方を容疑者として逮捕します」

 

 「……悪魔の言うことは信じないんじゃないのかい?」

 

 「はい。ですが、僅かの可能性もないとは言いきれないです」

 

 まだどこかで、そんなことするはずがないと信じていたい。そんな顔だった。

 

 出来れば明日にも翔太郎の元へと思っていたが、しばらく先になりそうだ。

 

 「待ってくれ」

 

 ダクネスがセナを引き止める。懐から出したのは一つのネックレスだった。

 

 「それは……!」

 

 「これは不当な権力の行使ではない。今までの恩返しだ。フィリップの件はダスティネス家に預からせて貰えないか?」

 

 めぐみんとゆんゆんはダスティネスの名に驚き、残りの二人は未だ状況を掴めずにいる。

 

 「おい、どういうことだよ」

 

 「ダスティネス家は【王家の懐刀】とも呼ばれる大貴族ですよ!」 

 

 「えっ、じゃあダクネスの養子になれば毎日ぐーたら出来るってこと?!」

 

 そういうことじゃない。

 

 「めぐみんから聞いた。今回の裁判で私を関わらせなかったのは、私が絡んでいると発覚したらアルダープがそれを理由にまたなにか仕掛けてくると予想していたんだろう?」

 

 フィリップは静かにめぐみんを睨んだ。確かに秘密にしてくれとは言われたし、ダクネスに一番被害が出るかもしれないと言われた時は分からなかったが、こんな理由なんて知らなかった。

 

 「恩と呼ばれる程のことじゃない」

 

 「いいや、私からすれば大義だ」

 

 一歩も譲らない姿勢だった。相変わらずの頑固さにため息すら出てこない。

 

 人の好意は受け取っておけと翔太郎から言われている。セナを見ると、既に掛けられていた手錠を外していた。

 

 「翔太郎さんからも事情は聞きます。今までの貴方の行動を鑑みて、それからこれからの活躍を見て報告をします」

 

 セナも内心はこちら側のようだ。

 

 僕はダクネスの前で膝をつく。

 

 「感謝するよ。令嬢ダスティネス・フォード・ララティーナ」

 

 「ララティーナ?……って、お前そんな可愛い名前だったのか!」

 

 「う、うるさい!」

 

 「どうしてよ、私はララティーナって名前いいと思うわよ。フィリップも裁判の時に言ってたじゃない」

 

 「そうだね。でも少し長いから……ララちゃんでいいかな」

 

 「ラッ……ふふっ、お前がそう呼ぶなら私もフィリップではなくライトと呼ばせて貰おうか!」

 

 「別に構わないよ」

 

 「えっ……何か理由があって隠してたんじゃないのか?」

 

 静かに首を振る。隠してた訳じゃない。フィリップという名前も自分の罪を償うために付けられたものだ。むしろ本当の名前を捨てる気なんてさらさらない。

 

 「よろしくね。ララちゃん」

 

 「い、今のは無しにしてくれ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ーー時は少し遡る。

 

 太陽が沈み始める時間帯。一人コーヒーを飲みながら今までの出来事を整理していた。

 

 今日はこれといった依頼もなかった。ないのはそれだけ街が安全ということだ。

 

 しかしーー事件は突然やってくるものだ。

 

 空いていた窓から隙間風とともに、机の上に飛来してきたそれは俺の目の前で止まった。

 

 「二度と関わることはないと思ってたんだがな……」

 

 やはりあの依頼人の通りになるのかと思っていると、扉が勢いよく開いた。すぐさまそれを懐に隠す。

 

 「美少女プリーストとして名を馳せているセシリーがやって来たわよ!」

 

 「来るなと言っただろ」

 

 「あら、一人寂しいおじさんにはぴったりじゃないかしら?」

 

 呆れて物も言えず再び椅子に座る。ここに来てから騒がしいばかりだ。

 

 「それよりも依頼を集めてきたわ。ついでに布教活動もしておいたから」

 

 「余計なことをするな。あと依頼は集めるものじゃない」

 

 「まーまー落ち着いて。とりあえずどうぞ」

 

 差し出してきたものは見るからに依頼などではなく宗教の入信書だった。

 

 「皆がアクシズ教に入りたいって言ってるの。ここは一つ助けをーーああっ?!」

 

 入信書を真っ二つに破きゴミ箱に捨てる。言っておくがお前らからの被害を何とかしてくれとの依頼もたまに来るんだからな。

 

 「ひどい、こんなことしなくても……」

 

 「俺に嘘泣きは通用しない」

 

 「そういえばそうだったわね。まぁ、入信書はまだまだあるからいいとして、本題よ」

 

 ソファに座り改まった態度になる。

 

 「風の噂なんだけど、アルカンレティアに魔王軍の幹部が潜んでるらしいの」

 

 「そういうのは役所仕事だ。俺がやることじゃない」

 

 「もちろん行ったわ。でも門前払いされちゃった」

 

 だろうな。普段お前らの宗教がやっていることを見れば分かる。あれで捕まらない……いや、もう手をつけないようにしてるのか。腫れ物には触らないのが一番だ。その分の苦労が俺に周ってきているんだが。

 

 「見捨てるの?」

 

 「依頼人は全員訳アリだ。それは受けてやる。その代わり二度と助手面をするな」

 

 「はーい」

 

 そのままソファに横わたったセシリー。

 

 「早く帰れ」

 

 「もう夜なのに?」

 

 夜だからだ。……こいつ、宿無しを何とかしに来ただけだな。

 

 「今日だけだ」

 

 「お礼に晩御飯でも作るわ。ところてんスライムの和え物にところてんスライムの串焼き、何でも出来るわ」

 

 「スライムには良い思い出がない」

 

 「ふーん……じゃあところてんスライムの冷奴だけにしておくわ」

 

 ソファから身体を起こし台所に入っていった。……あいつはなんで台所の場所を知ってる?

 

 しかし、このタイミングであの依頼か。割と真実味を帯びてきている。

 

 俺の嫌な予感は当たってほしくない。そう思いながらも、手の中にある骸骨は不気味に笑っているように見えた。




次回は状況整理も兼ねて特別編でもやろうかなと思います。


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Sの名の元に/仲違いは突然に

「今回は翔太郎目線だ」

「次はフィリップ目線になる。今回は視点が結構変わるから大変だと思うが頑張ってくれ」


 ウィズにテレポートして貰い王都に到着した俺はすぐさま街を駆け回り情報収集に入った。

 

 だが探している物が物の為に有益な情報が集まらない。ガイアメモリどころかUSBメモリすらない世界だ。だからと言って持っているものを見せる訳にもいかない。

 

 俺は一旦落ち着き噴水に座る。時間も夕暮れ時、人数も少なくなってきて店じまいを始めるところもある。

 

 「ギルド……余計拗らせるかもな」

 

 スカルメモリが起動して飛んでいったなら、それだけ適合率が高い奴がいるってことだ。キールがウィズと同じリッチーで、それに反応して引き合ったのは分かる。

 

 でもウィズが起動して入らなかったってことはそれ以上の存在がいるってことだ。もしくは基準がリッチーとか関係なく、元々の人間時で見てるか。

 

 そうなるといつかの日に『心は人間のまま』と言っていたウィズに反応しないことはこじつけにはなるが納得する。いや、それより普通にドーパントが暴れる可能性がーー

 

 「翔太郎さん?」

 

 俺を現実に引き戻したのはミツルギだった。まさかの見知った顔に驚きを隠せない。

 

 「なんでここに」

 

 「王都は魔王軍との戦いの最前線です。翔太郎さんこそどうして?」

 

 「俺は依頼で。つっても探し物なんだけどな」

 

 「そうですか。噂程度ですが、何やら裁判事に巻き込まれたと聞いていましたが」

 

 こんなところまで届いてたのかよ。相手が貴族だったからか余計かもしれないな。

 

 「それは何とかなった」

 

 「それは良かった。しかしすぐに依頼なんて大変ですね。僕も手伝いますよ」

 

 「あー……善意だけ貰っとく。一応守秘義務があるしな」

 

 ミツルギはカズマと同じ日本出身だ。USBメモリと言えば分かるし探偵がどんな仕事かもなんとなくイメージ出来てるだろうが……私服だし見た感じ休みっぽい。

 

 守秘義務という言葉にミツルギは納得するように頷いた。割と強引なところもある印象だったが、なんかあったのか?

 

 「なんかイメージ変わったな」

 

 「そうですかね……それはきっと壮吉さんの影響だと思います」

 

 「……壮吉?」

 

 「はい。鳴海壮吉さん。魔王軍の戦いには参加してませんけど、王都の人々からは『旦那』って呼ばれてます」

 

 俺はミツルギの肩を勢いよく掴んだ。ミツルギは戸惑う表情を見せる。

 

 「どこにいる?」

 

 「えっと、今はどこか出ていってしまってるみたいで」

 

 ゆっくりと手を下ろす。おやっさんがいる?そんなのあり得るはずが……いや、ミツルギもカズマも死んだ先にここにいる。だとすればーーでも二人程若くない。

 

 それにおやっさんが活躍してるなら『探偵』という職が少なくとも王都には広がっててもいいはずだ。それほどまでに手腕は凄い。 

 

 「すまねぇ」

 

 「いいえ。何か関係でも?」

 

 「鳴海壮吉は……おやっさんは俺の師匠だ」

 

 「そうなんですか。結構な人が弟子にしてくれと言いに来てると聞きますが、取らない主義だと言われて門前払いされるみたいなんですが……」

 

 だろうな。俺だって初めて会ったのが小学生ぐらいで、毎日通いつめて迎え入れられたのが高校を卒業してからだ。そんな易々と入れるはずがない。

 

 「ところで翔太郎さんはこの後どうするんですか?」

 

 「それはもちろんーー」

 

 ここでようやく金銭も持たずに来てしまったことに気づいた。街中で野宿か……安全だろうが通報される可能性もある。

 

 「よければこれ、使ってください」 

 

 ミツルギは取り出した袋を俺に渡した。見てみると幾らかの紙幣と小銭が入っている。

 

 「これは流石に受け取れない」

 

 「後から報酬分から返して貰います。それでいいですよね」

 

 なんか自分が情けなくなってきた。今の姿をおやっさんが見たらなんて言うだろうか。

 

 「……恩に切る」

 

 「じゃあ、僕はこの辺で」

 

 ミツルギと別れ、俺は雑魚寝が出来る宿を探し始めた。

 

 

 

 翌日。街の人々からもおやっさんの事を聞いてみたが、特徴が一致しているものばかりだった。

 

 試しに教えて貰った事務所に行くも、張り紙で『出張中』の言葉が異世界語で書かれてあった。漢字とかだったら筆跡で特定出来たが、これだとどんな癖が出るのか分からない。

 

 重要な手がかりも見つかりそうになかったので切り替えて午前中に王都を出発した。一人道を歩いていると、腰にダブルドライバーが現れる。

 

 『勝手に出ていくなんて警戒心が無さすぎる』

 

 頭に響いてくる相棒の声。ダブルドライバーは装着するだけで変身だけでなく一時的に簡単な会話も出来るようになる。

 

 「それは悪かった。お前の方は?」

 

 『まだアクセルだ。君はそのまま王都にいてくれ。ウィズのテレポートで合流する』

 

 「いや、もう王都を出発してる。予定どおりアルカンレティアで落ち合おう。……ところでお前どこで話してるんだ?」

 

 『個室のトイレだ』

 

 「そ、そうか……そうだ、おやっさんが生きてるかもしれねぇんだよ!」

 

 『……翔太郎。今は馬鹿なことを言うのは止めよう。無一文でまともに食事をしてないから仕方ないと思うが、空腹程度でそこまで頭がおかしくなる君じゃないはずだ』

 

 「違うわ!ちゃんとした情報もあるし、金もたまたまいたミツルギに借りて何とかなってるっつーの!」

 

 俺の反論にフィリップは納得がいかないのか、ため息をついた。この状態でも分かるって相当のもんだぞ。

 

 『いいかい翔太郎。ここは風都並みに不思議なことがある世界とはいえ、鳴海壮吉がいることはあり得ない。カズマの件もあるからないとは言いきれない。だが最初に聞いただろう。若くして死んだ者だと。鳴海壮吉は若くない』

 

 『それに同じ名前の人物も探せばいくらでもいる。いつかの日に風都で検索したら少なくとも数百件は出てきた。同名はたくさんいる』

 

 「でもーー」

 

 『翔太郎。酷かもしれないがまず信じない方がいい。違った時に襲われる絶望感は計り知れない』

 

 相棒が怒っていることは火を見るより明らかだった。それは俺の勝手な行動故に来ているのは分かっている。

 

 それでもーーそれでも、あいつなら信じてくれるかもしれない。そう思っていたのに……

 

 「……そうかよ」

 

 ダブルドライバーを引き剥がす。右手からそれが消え、俺は再び歩き出す。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 その頃。

 

 「おじさーん!アルカンレティアはこっちじゃないんですけど、もしかして方向音痴なのー?!」

 

 冬場ということもあり猛吹雪に見舞われながらセシリーは叫んだ。

 

 「方向音痴じゃない。第一、どうしてついてきた」

 

 「アクシズ教の総本山がピンチだって言うのに留守番なんてしてられないに決まってるじゃないのよ」

 

 まぁ、魔王軍の幹部が潜んでいるなんて嘘っぱちで、どうやっておじさんを入信させるかを考えた結果こうなってるんだけどね。

 

 前を歩くおじさんの後ろ姿を必死に追いながら雪道を進んでいく。一歩、また一歩と深い雪が足に付く。

 

 足を滑らせ顔から雪へダイブするセシリー。本当になんでこんなところに来たのか全然分からない。

 

 立ち上がろうとすると前を歩いていたおじさんが目の前に立っていた。自らの上着を脱ぎ私に着せ、身体を起こすとおんぶされてしまった。

 

 その背中は大きくて暖かった。憎きエリス教が多い王都で布教活動するなか、やりすぎだとか怒りながらも決していなくなれとは言わなかった。

 

 王都であの事務所だけが受け入れてくれているように感じていた。

 

 「おじさんは独身を貫くのかしら?」

 

 「なんでそんなことを聞く」

 

 「これでも聖教者だし、世話になってるから神父くらい無料でやるわ」

 

 聖教者ならもっと弁えを覚えろ。あとこっちから世話をした覚えはない。

 

 「俺が愛した女は一人……二人だけだ」

 

 「その内の一人は私?」

 

 「違う」

 

 一生を添い遂げると誓った女房と大事な一人娘。結局最後の最後まで会えずじまいで死んでしまったが。 

 

 「ところでどこに向かってるの?いい加減寒すぎるんですけど」

 

 「勝手についてきて文句を言うな。確かこの辺りだったはずなんだが……」

 

 場所はと言えば【サムイドー】と呼ばれる集落地区から少し離れた森の中にある洞窟なんだが……吹雪が弱まってからの方が良かったか。

 

 更に歩き続けてようやく目的の洞窟を見つけた。岩の壁を叩くが返事はない。

 

 「もしや遭難?」

 

 「ここであってる。スコール、いるか?」

 

 声に応えるようにいびきが聞こえた。睡眠中か、下手に起こすと面倒だ。ここで待ってるか。

 

 セシリーを下ろし木の椅子に座る。こいつは紅茶派だからコーヒーはないし、あったとしても煎るための道具もない。

 

 「【ティンダー】」

 

 勝手に火をつけ紅茶を淹れ始めるセシリー。一杯くらい構わんか。

 

 数時間が経過しセシリーが眠り始めた頃、ようやくスコールが起きた。

 

 「んん……ん?壮吉か?なんでここにいる」

 

 「依頼だ。お前の力を貸してほしい」

 

 「まさか王都からここまで来たのか?早くても三日はかかるんだぞ。それ程までのものならギルドが動くだろう」

 

 「行ったが信じられなかったらしい。それで俺のところに来た」

 

 寝ているセシリーを指した。

 

 「なるほど、アクシズ教徒か……しかし前回の事件といい金髪に好かれる体質でもあるのか?」

 

 「そんなものない。あったとしてもお前の獣に好かれる体質よりかはマシだ」

 

 「それもそうか。インスタントならあるが、コーヒーでも飲むか?」

 

 「貰おう。無いよりかはマシだ」

 

 スコールの淹れたコーヒーを啜り、改めて話を進める。

 

 「こいつの話ではアルカンレティアに魔王軍の幹部が潜んでいるらしい」

 

 「それを調べに行くわけか……だがあそこはただの温泉街で、何よりアクシズ教の総本山だ。魔王軍も下手に手を出すはずもない」 

 

 厄介だとは聞いているがそこまでなのかその宗教団体は。

 

 「だとしても行くしかあるまい」

 

 「ポリシーというやつか。……壮吉、確かにお前は強い。以前の事件で魔王軍幹部の一人を単独で退けたのは大きい。しかしあれは俺が教えた唯一のスキルがあったからだ。それが魔王軍に認知されてる今、前回のように上手くはいかんぞ」

 

 反論するスコールに俺は静かに懐からスカルメモリを見せた。

 

 「来たのか?」

 

 「正確には舞い戻ったの方が正しい。こいつとは因縁が深いうえにこのタイミングで来るのは何かがあるとしか思えん」

 

 頭を抱えるスコール。【森の賢者】と呼ばれている私でもこのメモリは危険だと分かっている。だが実際に使っていたこいつが言うからには大丈夫だと信じたいのだが……

 

 スコールは立ち上がり鍵を掛けていた箱を開ける。そこに入っていたのはーーロストドライバーだった。

 

 「俺もついていく。それが条件だ」

 

 「お前に使わせることは絶対にしない」

 

 「どうだが……外はまだ吹雪だ。やんでから出発しよう」

 

 雪に紛れるように、F(ファング)はひっそりと身を隠していた。




ロストドライバーに出自などに関してはまだ先になりますのでとりあえずおいといてください。

おやっさん組の相関図に関しては次までに纏めておきます。


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Sの名の元に/ドタバタ珍道中

「今回は僕サイドだ」

「これから俺とおやっさんサイド、フィリップとカズマサイドと分かれて続くからよろしく。前書きでどっちか書いておくぜ」


 仲違いをしてしまった。いや、仲違いと呼べるかすらも分からない。普通なら死んだ人間は生き返らない。蘇生ということが出来るこの世界が異常なだけだ。

 

 鳴海壮吉が生き返ってこの世界にいる。それが事実なら心強いことは確かだ。だが彼は三年以上前に凶弾で倒れている。僕がしてきた罪を実感させる出来事だ。

 

 「フィリップー!早くしてよー!」

 

 ドンドンと扉を叩かれ急いでトイレから出る。目の前には若干涙目のアクアちゃんがいた。

 

 「女神はトイレに行かないんじゃないのかい?」

 

 「女神にそんなこと聞くな!」

 

 ピシャリと怒られる。流石にデリカシーがなかったかと反省しつつあることを思い出す。

 

 苦しみから解放されたような顔で出てきたアクアちゃん。ぎょっとした顔をしながらも身構える。

 

 「……聞いてたの?」

 

 「そんな趣味はない。それよりアクアちゃんは若くして死んだ人間をここに送る仕事をしていたんだよね」

 

 「はぁ?……まぁ、そうね」

 

 「若い、というのはどれくらいの範疇で?」

 

 「そりゃ基本は十代くらいよ。二十代もたまにあるけど。フィリップなら選ばれる余地は充分あるし、翔太郎だったら奇跡ね」

 

 ならば鳴海壮吉が選ばれることなんてない。仮にあったとしてもあの性格でここに来る選択なんてしないだろう。

 

 「変なことを聞いたね。ありがとう」

 

 「別に。フィリップは私のことを女神だって信じてるのね」

 

 五分五分かな。

 

 「ま、中には年齢なんて関係なくやってるところもあるらしいけど」

 

 鼻唄交じりで歩いていくアクアちゃん。年齢なんて関係なく……?どっちを選ぶかは置いといて、それなら充分にあり得るじゃないか。

 

 彼が仮にいるとして、問題はーー彼がなぜ転生を選んだのか。これについてだ。

 

 「……行くしかないのか」

 

 自室に戻り簡単な荷造りを終えて玄関に向かうと、リビングでグータラしているカズマとめぐちゃんに呼び止められた。

 

 「クエストなんて今の時期ないし、俺が言うのもなんだけどもう少し休んだらどうだ?」

 

 「モンスターが目を覚ますのはまだ先です。一日一爆裂なら少しでも暖かくなる昼からにしましょう」

 

 「野暮用さ。アルカンレティアまで行ってくる」

 

 「アルカンレティア?あの温泉街ですか?」

 

 昨日今日のことで調べる暇はなかったが、温泉街なのか。ならばついでに入ってくるのもありかもしれない。

 

 「一人で温泉なんて寂しくないか?」

 

 「ウィズと二人で行くよ」

 

 今回の件は彼女も負い目を感じているらしく自ら名乗り出た。歩きで一人だと心許ないが彼女がいるなら安心できる。

 

 すると寝転がっていたカズマが勢いよく飛び起きた。寝ていた子猫も驚いたのか勢いよく飛び上がり机に着地する……

 

 「猫なんていつからいたんだい?」

 

 「少し前からです」

 

 「全然気づかなかった」

 

 小さな黒猫だ。ミックを飼っていたので特にアレルギーとかはないので問題はないが……

 

 「小さな羽が見えるが」

 

 「猫に羽なんてあるわけないでしょう。それよりも……」

 

 ずいっ、とめぐちゃんが近づき睨んでくる。

 

 「師匠として言います。二股は許しません」

 

 「前のことを引きずっているなら改めて言おう。絶対にない」

 

 ここ最近、どうもめぐちゃんはララちゃんと僕の関係に目を付けているようだ。

 

 「いくらウィズに誘われたからと言ってカズマじゃないんですから、そうホイホイ付いてくものじゃないです」

 

 どっちかと言うと彼女から付いていくと言ったし、観光じゃなく野暮用だ。

 

 「ならめぐちゃんはどうなんだい」

 

 「どう、と言いますと?」

 

 「僕らをどう見ているかと言うことだ」

 

 僕らーーつまり、カズマや翔太郎のことだ。

 

 「フィリップは弟子ですし、翔太郎は兄貴分です」

 

 「それと一緒さ。ララちゃんは仲間で、ウィズもそれと同じ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 バッサリと言いきった僕に、めぐちゃんは少し不服そうにしていた。

 

 

 

 「歩いていくの?!」

 

 「だから、最終がアルカンレティアであって本来の目的は道中だと説明しただろう」

 

 話を聞いていたカズマは分かるとして、なぜアクアちゃんとララちゃんまでいるのか分からない。なのでもう諦めることにした。

 

 ウィズと合流しアクセルの門の前でアクアちゃんがごね始める。旅行じゃないので急いでいるからごねないでほしい。

 

 「せっかくあのバカ悪魔倒してお金も入ったんだから馬車で行きましょうよ!」

 

 「だったらアクアちゃんだけで行けばいいだろう」

 

 「なんでそんな冷たいの?」

 

 目的が違うからだ。

 

 「大体歩いたらどれくらいなの?」

 

 「紅魔の里から二日ぐらいですから、単純に同じくらいでしょう」

 

 めぐちゃんが答えた。二日か、あとで翔太郎に伝えておかなければ。

 

 「二日も野宿なんて嫌よ!馬車なら一日半なんだからそっちにしましょう?ウィズもそうでしょ?」

 

 脅迫のような笑顔で迫る。仮にも女神がしていい表情じゃない。

 

 「えぇっ?!えっと、私は……すみません、今回はフィリップさんについていきます」

 

 「ふむ……ならば私もそっちについていこう。壁役がいないと大変だろう」

 

 「ダクネスまで……もういいわ。カズマ、めぐみん、行きましょ」

 

 二人の腕を掴み馬車乗り場に向かっていく三人。僕だって本心はそっちがいいけど今回ばかりは許してほしい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 馬車の旅もいいものだと俺は思う。引きこもりになる前は親の車の運転でとかもあったが、風を感じながらも気持ちいい。走り鷹鳶とかいうワケわからんのも出てきたが、害はなかったし良しとしよう。

 

 「お前の爆裂魔法で一撃熊を起こしたのは余計だったけどな!」

 

 「冬眠中を邪魔してしまうとは思いませんでした」

 

 アクアが宴会芸で周りを盛り上げているなか、一撃熊を追い払うために振るっためぐみんの杖が欠けてしまった。俺は今それを直す為に作業をしている。隣には見張るようにめぐみんもいる。

 

 「フィリップ達は大丈夫でしょうか」

 

 「大丈夫だろ。何だったらこっちより……」

 

 「こっちより?」

 

 作業の手を止める。ウィズとの温泉デートを阻止するのに頭が一杯で迂闊だった。フィリップは今、宿に泊まっていたら三人で同じ部屋じゃねぇか?

 

 ウィズは貧乏だから金はないはずだ。二泊だったら二部屋も取れる余裕はない。あったとしても部屋が空いてないなんてこともある。

 

 くそっ、あっちについていくべきだった!無理にでも金を出して男子部屋と女子部屋に分けるべきだった!ダクネスは抵抗をするがウィズなんて自分の武器(体つき)を自覚していない!

 

 「カズマ?」

 

 「え?ああ、何でもない。ここの部分をどうしようかと思って。【鍛冶スキル】もあるわけだしさ」

 

 めぐみんの声に引き戻され適当に頷きで返した。改めて作業に戻るが、変わらずめぐみんがじっとこちらを見てくる。

 

 「変なアレンジ加えない方がいい?」

 

 「いえ……」

 

 なんかよそよそしいのが気になるが気にしないでおこう。下手に何を考えているかバレたら面倒だ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 今朝、フィリップに言われたことを思い出す。フィリップは弟子、翔太郎は兄貴分と私は答えた。

 

 じゃあーーカズマは?

 

 あの時、カズマだけ出てこなかった。ふとそれを思い出してしまい言葉が出なかった。

 

 まだアクセルに来たばかりの時はフィリップが一爆裂に付き合ってくれていた。

 

 最近は二人とも時間がなくなり専らカズマが文句を言いながらついてきてくれている。

 

 爆裂魔法しか使えない魔法使いなんていらない。そんな事何度言われたか数えたらキリがない。

 

 でもこの人は、文句を言いながらでも見捨てないでいてくれてる。

 

 感謝しろとかそんなこと言わず、ただ何も言わずに役立たずの私に居場所をくれていたんだ。

 

 「カズマ」

 

 「なに?」

 

 「私とゆんゆん、どっちを選びますか?」

 

 「いつから俺はハーレム主人公になった?」

 

 手を止めるカズマ。変な聞き方になってしまった。

 

 「ま、選ぶならあのゆんゆんって子かな。上級魔法も使えるし、可愛いし、お前より身体の発展もすごいし、上位ぃぃぃっ?!」

 

 腕を思い切りつねる。目の前に本人がいるのにどうしてここまで言えるのか。

 

 「だったらゆんゆんでも入れればいいじゃないですか」

 

 「妬いてるのか?」

 

 「妬いてません」

 

 「妬いてるね。つってもあの子にクエストを協力してくれって頼むかもしれないけど、入れることは考えてない」

 

 「……どうしてですか」

 

 「手のかかる魔法使いはお前だけで充分だってこと」

 

 それだけ言い残し、修理が終わった杖を渡される。カズマは芸を未だ続けるアクアの元へ向かう。

 

 「……いいセンスしてますね」

 

 杖に輝く赤い魔法石に自分の顔が映る。自分の表情が少し紅く見えたのはそのせいだと言い聞かせるように呟いた。




唐突のカズめぐに一番ひびってるのは作者です。


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Sの名の元に/探偵は何を思う

「今回は短めの鳴海壮吉サイドだ」

「最後にアンケートあるから暇があれば答えていってくれ」


 吹雪が止み俺達はスコールの洞窟を出発した。

 

 ザクッ、ザクッ、と、雪を踏みしめる。あまり旅行はしたことないが、王都とサムイドーでここまで違うのか……北海道と沖縄みたいなものか。

 

 「今日中に下山出来たとして宿屋があるかどうかだな……」

 

 「野宿は慣れている」

 

 「私は慣れてないから嫌よ」 

 

 勝手についてきた癖に文句を言う。

 

 「だったら速く足を進めろ」

 

 このペースだと雪に遅れを取ったとして、下山出来るのは日暮れギリギリだ。そこから宿屋探しとなると難しい。

 

 俺やスコールは厚着といってもコートやらぐらいだが、あいつは聖職者の格好をしているので余計かもしれない。

 

 一応、依頼人だから無下には出来ないがここについてきた以上それなりの覚悟はして貰ってるつもりだ。

 

 「…………」

 

 騒いでいたセシリーが急に静かになった。二人して振り返ると、少し遠くで座り込んでいた。

 

 「どうした」

 

 「疲れた」

 

 一度本気で叱った方がいいかもしれない。スコールは呆れて物も言えずため息をついた。

 

 「アクシズ教は身勝手な奴らだと聞いていたがここまでとは……」

 

 「全くの同意見だが、だからと言って全部がそのせいだとは言いきれん」

 

 「毒されたか?」

 

 「俺は宗教は信じない。そんなものを信じるくらいなら自分を信じる」

 

 俺はそう言いつつセシリーの元へ歩いていく。それに気づくとセシリーは何も言わないまま両手を差し出した。

 

 「昨日は吹雪だったから仕方なかったが、今は自分で歩け」

 

 再び振り返り歩みを始める。セシリーはムスッとした顔をしながら俺の足跡を追うように歩き始めた。

 

 

 

 何とか日暮れまでに山道を下り終え、付近の宿屋を目指して歩き出す。途中何度かモンスターに襲われたがスコールの力もあり何とか切り抜けた。

 

 「ここからどれくらいなの?」

 

 「さぁな……洞窟を出るなんてサムイドーの集落に行くときぐらいだ」

 

 宿屋といっても恐らく街中にあるような立派なものじゃなく、本当に寝るだけの簡単なものだろう。

 

 セシリーの文句を聞き流しながら歩いているとようやく宿らしきものが見えた。ここを逃したら多分ないだろう。

 

 扉に手をかけようとしたその時、一つの張り紙が目に入った。『アクシズ教徒お断り』。本当に何をしでかしたらここまで忌み嫌われるのか知りたい。

 

 「選べ。無宗教を演じるか、諦めるか」

 

 「女神アクア様は言いました。好きな時に好きなように生きなさいと!」

 

 一人容赦なく入っていくセシリー。しかしすぐにガードマンに捕まりしばし騒いだ後見事に追い出された。

 

 「強姦よ!あの男、私を美人な女性と見るな否やいきなり拘束してきたの!」

 

 依頼人に手を出す奴は許さないのが俺の方針でもあるが、看板に注意書がある限りグレーゾーンだ。何をしたのか具体的には分からんうえにこいつの性格もある。拘束されたのは本当だろうが……

 

 「野宿だな」

 

 「仕方ない」

 

 「なんでよー!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 結局野宿になってしまったが、歩き疲れたのか真っ先にセシリーは眠りについてしまった。

 

 火は焚いてあるが、モンスターがいつ来るか分からない。それにスコールの体質のこともある。誰か一人は起きてはいないと。

 

 「お前は昨日から歩きっぱなしだろう。少し休んだらどうだ」

 

 「我慢は慣れている」

 

 「そうか……最初に会った頃より随分丸くなったな」

 

 「人を寄せ付けない雰囲気はなかったはずだ」

 

 「関わるなと言わんばかりの冷たさはあった」

 

 この世界に来た理由が理由だからな……メモリのせいで多くの人が闇に落ち、傷つけられていくのを見てきた。関わるつもりはないと思っていたが、この世界でも犠牲者は出したくないというのが本音だ。

 

 「あの女のおかげか?」

 

 「どうだろうな……前回の一件以来やたらと絡んでくるが、正直うっとうしい」

 

 「そうは見えないが」

 

 スコールは出てしまった言葉を止めるように口元を抑えた。俺は鋭く睨むと誤魔化すように笑った。

 

 「呪いというのは惨いものだな」

 

 スコールはメモリの事を知っている。一番最初に起こったメモリに関しての事件も、俺が相棒の命を奪ったことも……その呪いで愛する娘に会えなくなったことも。

 

 「娘さんのことは詳しくは知らないが、重ねるのだけは止めておけ」

 

 「ここまで聞き分けのない奴じゃない。容姿も全然違う」

 

 俺が生きていればもう結婚もしているのだろうか。死んでしまった以前に祝福もかけられない親父などどう思うだろう。

 

 娘よりかはどちらかというと、あいつに重ねてるのかもしれない。

 

 「辛抱のない騒がしい奴だったら、俺の出会った頃の弟子にそっくりだ」

 

 「初耳だな。弟子は取らない主義だと聞いていたが」

 

 「取らない……というより、あいつ一人で充分だ」

 

 たまに来る王都にいる奴も、あいつとは根本的なものが違う。地位や名誉じゃない、純粋に大切なものを守りたいと思う気持ち。

 

 あいつの持つ優しさは俺が最も認める、強く、誇れる長所だ。

 

 翔太郎ーー少しでも帽子が似合う男になってるといいが。 

 

 「少し寝る。代わりたい時に起こしてくれ」

 

 スコールは静かに頷いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日の夕方頃、アルカンレティアに到着した。 

 

 「ようやく本番だな」

 

 「明日の朝から捜査を始める。今日はしっかり休んでおけ」

 

 「了解!(本当はいないけどこのまま黙っておきましょう)」

 

 ここまでの道中でセシリーの内心を半分くらい見抜いていたが、あいつを引き離す良い機会だ。




アンケート期間は一週間ほどを目安にします。答えてくれた方には抽選でお好きなガイアメモリをプレゼント!これで貴方も中毒者のようにラリっちゃおう!(嘘です)


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悲しみのPへ/神がいる町

「いい加減時系列を整理しておこう」

フィリップ裁判中ーー鳴海壮吉サイド、スコールの洞窟へ向け出発。

裁判終了後、翔太郎単身で王都へ。この時夕暮れ時のため本格的な捜査は翌日に繰り越し。フィリップサイドはこの間にバニルと接触&仮面ライダーアクセル?が現れる。

 翌日の午前中、翔太郎はミツルギから壮吉らしき人物がいることを知る。フィリップもまたドライバー経由で知るも可能性は低いと予想。同時にアクセル出発へ。ほぼ同時期、壮吉サイドはスコールの洞窟を出発。

 馬車移動のカズマらがアルカンレティア到着ごろ、壮吉サイドは捜査中。

 「今回の話は両サイドが道中を歩いてる間の俺の話だ。アンケート協力、感謝するぜ」




 フィリップと喧嘩して数時間が経過した。そろそろ付近の街である【カルナレルン】に到着していい頃なのだが、なぜか半分の道のりも行っていない。

 

 理由は簡単。道のりが険しすぎる。主に出てくるモンスターが軒並み強すぎるからあっちこっち遠回りした結果がこれだ。道にも迷うし散々だな。

 

 「こんなところで野垂れ死なんて笑い事じゃねーぞ」

 

 フィリップの言う通りちゃんと準備してから出発すりゃよかった。さっきのもそうだが、今回は全面……七割くらいは俺が悪い。合流したら謝ろう。

 

 とは言っても難しいところ。一応通る道の木々にマークはつけてきたがそれもあまり機能していない。

 

 「そうだ、スキルがあんじゃねーか」

 

 名案が閃いた。余りに余るポイントをここで使わなくていつ使う。スキルカードを取り出し覚えられるものを確認する。魔法は中級を三つぐらいか……恥を捨てて【盗賊スキル】を取るか?便利なもんばっかりだけどプライドが許さねぇ。

 

 一番最後の欄まで行くと【テレポート】の表記があった。昨日のウィズに送って貰った時に覚えられるようになったのか。ポイントは……うわ、二ポイントだけ残して終わるのかよ。

 

 だが【テレポート】はデカイ。緊急脱出に使えるし今後もあって困らない。登録先が四つと限定されるがそれでも損はしない。

 

 俺は【テレポート】を習得し減っていくポイントを虚しく見つめる。久々だなこの感覚。風都にいる時はよくポイント還元に助けて貰ってたな。

 

 習得し改めて森の中を歩いていると、ガサガサと揺れる音が聞こえた。すぐさま振り返り警戒する。現れたのは全身緑の俺の半分くらいしか背丈がない小人ーーいわゆるゴブリンだ。三人組だった。

 

 こういう人型ならまだ大丈夫。弱点も人と同じだし、強さもマスカレイド・ドーパントと同じくらいだ。獣になるとまず俺より速いし強さも違う。

 

 だがこのゴブリン達は少し違った。簡易的な鎧を纏っていてわりかし知能も高そうに見えた。

 

 「王都の奴らとは違うみたいだな。でもこの辺りを一人で徘徊してるってことはそれなりの強さがあるってことか」

 

 一番背丈の高いゴブリンが言った。なるほど、魔王軍所属ってところか……三人ともそれぞれに武器を構えてやる気満々だな。一人倒せればポイントも稼げるし油断したと思って逃げるかもしれねぇ。

 

 俺は煽るように挑発する。獣はこういうの効かないけどあいつらは結構効くからな。

 

 一番小さいゴブリンが短剣を振りかぶり飛び上がった。最低限の動きでそれを避け、ボールを蹴るようにして仲間達にぶち当てる。

 

 ゴブリンらはフォーメーションを作り取り囲んできた。こういうシチュエーションは幾度となく切り抜けて来た俺にとって格好の餌食だ。

 

 足払いで転ばせ、その間に他の奴らの処理、短剣を奪って弾きハイキックで喉元を蹴る。付着した砂ぼこりを払い余裕の笑みを見せる。

 

 もちろんーー背後から迫ってる奴も見逃さない。回し蹴りで仕留めゴブリンどもに投げつける。予想以上の動きにゴブリンどもは一斉に逃げ出していった。

 

 「やっぱこういうのは慣れだな……おい、誰かいんだろ」

 

 視線を感じる方向を見ると、カズマと同い年ぐらいの女子三人組がいた。あいつらみたいな変人な感じはないが……

 

 「いや、その……助けに入ろうとしたんだが、先程の動きが見事だったから下手に入れなくて」

 

 「そりゃどうも。で、何かようか?」

 

 「いきなりですまないが、先程の動きを教えてくれないか?」

 

 真ん中に立っていた槍を持つ長髪の女子は突然そう告げた。

 

 

 

 

 話を聞いていく内に経緯を理解した。槍を持つ女子はリア、職業はランサー。ツインテールの子はエーリカ、職業はレンジャーで押しが強い。最後のボブカットの子はシエロ。職業はアークプリーストで内気な印象だった。

 

 彼女らは冒険者がメインではなく【踊り子】という現代でいうアイドル的な立ち位置にいる。こういうのは珍しい為か割とすぐに有名になり、昨日も昼間に王都で公演を終え、次の目的地を目指している最中に俺を見かけたという訳だ。

 

 有名といってもまだ毛が生えた程度であり、移動も徒歩な辺りまだしっかりしていないのだろう。風都で言ったらウォッチャマンが注目してると言われれば納得するぐらいだろうか。

 

 「それでさっきの話、どういうことだよ」

 

 「簡単な話、新しい曲を出すのに振り付けがまだ決まってない。初めての王都公演も一曲で終わってしまったが、ここを逃すと次がいつか分からない」

 

 「だから早めに出してこのまま勢いに乗ろうって決めてたんだけど、一曲目が私の可愛さを全面的にアピールしたやつだから今度は趣向を変えて格好いい曲にしようって決まったの」

 

 キャピキャピと前に出るエーリカ。分かったから歩く邪魔するな。

 

 具体的な流れは分かった。つまりは俺のさっきの動きを学びたいってことだな。おやっさん直伝だから惚れるのも分からない訳じゃない。

 

 「それは構わないが、俺も今は用事があるんだ。アクセルっていう町に住んでんだが、終わるまで待っててくれ」

 

 「アクセルなら私達も拠点にしてる。まだこの辺りのモンスターも強いし、このまま動向させて貰ってもいいか?」

 

 正直困るが、人数が多くなるってことは道中でそのモンスターに出会した時に何とかなる可能性は上がる。いちいち回り道をしなくていいって訳だ。

 

 「分かった。その代わり俺の言うことを聞くこと。分かったな」

 

 全員が頷くのを確認する。俺はこの時油断していて側にいる何者かの正体に気づいていなかった。 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「探偵って何?」

 

 道中を行くさながら、俺も名義では冒険者であるものの仕事は探偵であることを明かした。やはり三人とも知らない様子だった。

 

 「分かりやすく言えば事件を解決するために調査したりする仕事だな。あとは人探しとか身辺警護とか……悪く言えば何でも屋、かな」

 

 何でも屋で片付けられる程簡単なものではないと思っているが、冒険者という職業があるこの世界じゃそれに匹敵してしまうかもしれない。

 

 「じゃあ私のお父さんとお母さんも捜してくれるの?」

 

 「……と、言うと?」

 

 「小さい頃から孤児院で育ってきたの。踊り子も私が有名になれば見つけてくれるかもしれないって」

 

 見せる笑顔はどこか元気がないように感じられた。どうやら結構重いものがありそうだ。

 

 「その依頼、引き受けるぜ。この件が片付いたら必ず見つけてやる」

 

 安心させるように肩を叩き、目的地のカルナレルンに到着した。王都より少し小さいものの大差は感じられない。

 

 「神がいる町か」

 

 「なんだそれ」

 

 「過去に魔王軍が進撃してきた際に神が現れて追い払ったと……どこまで真実か知らないが」 

 

 「確か魔法どころか天候も操ってたとかね」

 

 天候を操る……自称女神のアクアでさえ洪水レベルの水を出すくらいだ。しかし天候か……まさかな。

 

 町は至って平和だ。ここは簡単に捜査して次に行くとしよう。時間も割と押してるしな。

 

 町の調査を行っていると緊急の放送が流れた。三人とともに中央広場に行くと、そこには王様の姿、そしてお妃が並んでいた。

 

 「昨日、この町に不届き者が現れた。そいつは盗賊職の女だったが、突如モンスターに化けこの町にいる神を愚弄したのだ」

 

 一斉にブーイングが上がる。この世界の宗教ってほとんど洗脳みたいで怖いな。

 

 「威圧的な態度で神に挑んだその者はほどなくして撤退した。まだ付近にいるはずだ。目印は紫の長い髪だ」

 

 盗賊職に紫の長い髪……どうしよう、すごい思い当たりがある。

 

 「難しい顔してどうしたのよ。ほら、可愛いエーリカちゃんで悩みなんて吹き飛ばしなさい」

 

 笑顔を見せてくるエーリカ。それよりも今回の件に関しては出来すぎている。俺とあいつ、そしてーー

 

 「ウェザー・ドーパント……」

 

 神だとかの前に面倒なことになりそうだ。メモリを使う者は引かれ合うというが、正にその状況下だ。

 

 しかもモンスターに化けたって言ってる時点で使っていることはほぼ確定。協力を仰ぐ振りをして探すか……

 

 「悪い、用事が出来たからお前らだけ先に行っててくれ」

 

 「不届き者の話なら私達もやる。モンスター討伐は役目だからな」

 

 ダクネスみたいなことを言う奴だ。まぁ、それが当たり前の事なんだが。

 

 「なら別行動で行こう。頼むぞ」

 

 三人ともが了解し、俺は走り出す。さぁて、俺のフットワークを舐めるなよ。

 

 人を追いかけることが仕事の俺にとってここは長年の経験が試される。あいつがわざわざ何のためにここに来たのかも知りたい。

 

 手配されているのに堂々と歩いているのは考えづらい。入国は出来たが出国は禁止していたのでもう包囲網は撒かれてる。衛兵みたいなのもいるし、町の人も一部が探し回っている。

 

 そうなると店に隠れるなんてことも難しい。かといってメモリを使ったらまた神とやらが現れる可能性も高い。

 

 俺だったらどうする……いや、考え方が違うか。あいつだったらどうやって逃げ出すかを考えろ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 城内裏庭に向かう一人の影。【潜伏】のスキルを使い何とか包囲網を突破して帰ってきた。

 

 しかし、その場にいたのは最も顔を合わせたくない男が立っていた。

 

 「随分と使いこなしてるな、メリッサ」

 

 翔太郎はコンコン、と壁を叩く。スキルを解いて姿を現したメリッサ。何も変わらないただの城壁だったが俺は見抜いていた。

 

 「なんでここに、なんて疑問はもう置いておくわ。……どうやって見抜いたの?」

 

 「これでもお前よりか知ってるんでね」

 

 周りに散らばるコンクリートの破片。僅かなので見逃したり風化したものだと勘違いするのもあるが、一時期この世界で土木作業のアルバイトをしていた俺から見れば砕かれたものだと分かる。

 

 目的が城内にあるならわざわざ一番離れている入門ゲートを通って来ないはず。盗みならそれで足がついてしまうし、何より他の町人にも見られるって可能性がある。

 

 そこで俺は反対側ーー入れない城側からの侵入だと予想した。ワイヤーを使って昇る、なんてことは難しい。一貴族の壁ではなく、国を治める城だ。対策はバッチリ。

 

 ならここでクイーンメモリの出番。透明のシールドを壁の両側から挟み込み、ずらすように崩す。倒れて音が出たら気づかれるなら、そのまま固定したまま動かせばいい。

 

 「シールド使って壁を固定してたんだろうが、俺から見れば付け焼き刃だ。レンガのズレが酷いぜ」

 

 「探偵を止めて土木作業員にジョブチェンジしたの?」

 

 「何でも経験がものを言う。……一つ聞かせてくれ」

 

 「何よ」

 

 「仕事の依頼にしろ、ここにお前が来た理由はなんだ?珍しい宝石があるとか、そういうのも聞いてない。……メモリだっていうなら本気出すしかなくなるけどな」

 

 「調査よ。病死したはずの王様の娘がまだ生きてるとか何とかでね。病死は蘇生出来ない。それが可能なら技術としてひっくり返るわ」

 

 俺からしたら死人が甦ることがおかしいけどな……病死したら蘇生出来ない、か。

 

 「妙に詳しいわね」

 

 「こいつらがいてくれたからな」

 

 影から姿を現したアクセルハーツの三人。色々調べたかったが明らかに怪しまれてしまったが、何でも娘さんーー姫様がエーリカのファンらしくサインをくれるならと、お妃様が色々聞けた。

 

 姫様と面会が出来なかったが、病人なら難しいか。

 

 「あっそ。ま、関係ないけど」

 

 背後に迫る衛兵の存在を知りながらも余裕を見せるメリッサ……待てよ。

 

 なんでこいつ、わざわざ壁を壊すなんてことをした?ドーパントで姿を現した時は既にシールドを使って空を浮かぶなんてこともしていた。

 

 いくら目立ちやすいからってわざわざ壁が崩れる音が響くよりそっちの方がリスクが低いに決まってる。越えたら越えたですぐに解けばいい話だ。

 

 脂汗が伝う。もしかしてーー誰かに嵌められたのか?!

 

 「やべぇ、逃げろ!」

 

 「えーー」

 

 衛兵がアクセルハーツの三人を捕らえ、俺はメリッサのバインドに引っ掛かる。なんでーーそもそも俺らがここに来るとか知らなかったはずだ。

 

 注射を刺されぐらりと意識が歪む。最後に見たメリッサの瞳は虚なものだった。



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悲しみのPへ/逆転の一手

「………」

「難しい顔してどうした」

「最近ウマ娘というものを始めたんだが、これはパ◯プロ君じゃないかと」

「既視感はあったけど敢えて避けてたのに、お前さぁ……」


 気だるさを感じながら俺は目を覚ます。差し込む光を感じ、一夜を越してしまったことを自覚する。

 

 まさかこの短期間で二回目の牢屋を堪能するとは思わなかった。だが、俺を捕えるメリットがないのになぜ?

 

 「ようやくお目覚めのようね」

 

 反対側から聞こえた声に振り返ると、俺を嵌めた張本人のメリッサがいた。

 

 「いまいち状況がわからねぇんだけど?」

 

 「私もよ。城に侵入したところまでは覚えてるのに、そっから先がうっすらとしか思い出せないのよ」

 

 思い出せないーー催眠術の類いだろうか。でもそんなスキル聞いたこともなければ、メリッサ程の奴が簡単に引っ掛かるはずがない。

 

 もし仮に催眠術がウェザードーパントの仕業だったとして、そんな力に目覚めるものだろうか?まさかーーハイドープ?

 

 「そうだ、他に三人いなかったか?」

 

 「三人……ああ、いたようないなかったような……別の場所で捕まってるんじゃない?」

 

 簡単に言うメリッサを他所に俺は鉄柵をガンガンと揺らす。当たり前だが簡単に外れなんてしない。

 

 「そうだ、スキル!」

 

 「無理よ。結界が張ってあるわ。メモリもないし、そんな必死にならなくても冒険者なんでしょ」

 

 「確かにそうだ。でも俺はあいつらの依頼を引き受けたんだよ。依頼人を危険に晒すなんて絶対あっちゃいけねぇ!」

 

 鉄柵の錆びが手につき、掌から少し血が滲み始める。タックルするもびくともしない。

 

 「暴れるな」

 

 階段を降りる音とともに衛兵が現れる。鉄柵の扉を開け、俺達に手錠をかけ目隠しをさせる。なすがままに連れてかれ、到着したのは昨日王が演説した場所だった。

 

 「国民のおかげで不届きものを捕えることが出来た。隣の男は協力を申してきた冒険者だが、それを装った仲間もだ」

 

 仲間じゃねぇと、怒鳴りたくなったが、これはメモリの特性やあいつの性格や癖をある程度知り尽くしていたのが原因だ。

 

 「まさか磔にでもして裁きを下すってか?」

 

 「察しがいいじゃないか」

 

 「お前がやってんのは裁きでも何でもない。ただの人殺しだ」

 

 「奪われたこともない貴様が言うな!」

 

 王の怒号とともに空から現れたのは、予想通りウェザードーパントだった。何も言わずにただ俺達を見つめている。

 

 でもタイミングが良すぎる。過去に魔王軍に襲われた時や、今の状況。まるでどこからでも見ていて、何かあればすぐに来ているような。

 

 身動きが取れない俺にウェザーはゆっくりと右手を向ける。この状態じゃ一撃でもやられたら終わりだ。何とか切り抜ける方法はーー

 

 「助けてーー」

 

 ウェザーからの声。か細くも確実に、聞き逃せない声だった。そして僅かに聞き覚えのあるその声に俺は反応し、渾身の力で鎖を引きちぎろうとする。

 

 やがて右手に雷が蓄電し始めるーーが、それに割り込むように、赤い影がウェザーを吹き飛ばした。

 

 「照井っ?!」

 

 エンジンブレードを構えたアクセルは素早く俺とメリッサを拘束していた鎖を切り落とす。何も言わずに逃げろと指示してくる照井に俺は素直に従った。

 

 疾走の如く現れたアクセルに辺りは混乱する。その隙に俺はメリッサの腕を取り【テレポート】を唱え王都に飛んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 【テレポート】で王都の噴水広場に着地した俺達。どうして照井が現れたか分からないが、とにかく仕切り直しだ。まだリア達が残されてる。

 

 「今回はちゃんと役に立てたわね」

 

 「そんなこと言ってる場合かよ。早く助けに行くぞ」

 

 「ええ、そうね」

 

 予想外の返答に呆然としてしまう。こいつなら関係ないとか言って別れると思っていたが。

 

 「勘違いしないでちょうだい。今回は私が招いたことかもしれないし、あんな奴に操り人形にされたなんて許せないわ。まだ欲しい情報も手に入れてないし」

 

 何でもいいが味方についてくれるならそれでいい。

 

 「それでどうするのよ。あの白い奴、ドーパントなんでしょ?」

 

 「ああ。ウェザードーパント、天候を操る力を持ってる。強敵だ」

 

 「そう……それとさっきの赤い奴何なの?味方みたいに見えたけど」

 

 「もう一人の仮面ライダー、アクセルだ。でも……」

 

 「でも何なのよ」

 

 俺は押し黙った。照井までもがこの世界に来ているなんて知らないし、僅かに雰囲気が違った。確証はないが、助けてくれた以上味方って扱いでもいいかもしれない。

 

 それに相手はウェザードーパントだ。一度倒した相手と言えど今は単体じゃない。一人で対処するのは不可能だ。

 

 やっぱりメモリもドライバーもないと何も出来ないのか。こんなんじゃおやっさんにどやされちまう。

 

 「おやっさん……」

 

 俺はあることを思い出し、おやっさんが拠点にしている事務所に向かった。

 

 

 

 事務所に辿り着くも未だ帰ってきてはおらず、鍵はかかったままだった。鍵穴にも特殊加工がされていて【解錠】スキルは使えない。

 

 「こんなところに何があるのよ」

 

 メリッサの言葉を他所に俺は様々な場所から入れる場所を探す。見つけたのは小さく割れた窓ガラスだった。

 

 俺はそこから手を入れ窓を開け、事務所に入る。不法侵入だが事態が事態だし、おやっさんが帰ってきたら弁明できる。

 

 まず思ったのが、どうしておやっさんがこの世界に来たのかということ。性格から見れば転生なんてことは選ばないはずだ。

 

 つまり特殊な事情ーーそれこそガイアメモリ関連じゃないとありえない。それだって怪しいところだ。

 

 事務所内は懐かしい感じと、目の前の椅子からは忘れることのない匂いがした。溢れ出そうになる涙を堪えて俺は目的の物を探し出す。

 

 「何が目的か知らないけど、こんなことしていいの?」

 

 「今はそれどころじゃ……あった!」

 

 この世界とは似つかわないアタッシュケース。しかしやはりというか、予想通り開かないように細工が施してある。

 

 「メリッサ……って、おい!」

 

 恐らく壁に掛けてあったであろう帽子を勝手に被っていたメリッサに憤慨し奪い取り元あった場所へと返す。

 

 「結構良い趣味してるじゃない」

 

 「この帽子はそんなファッションの為にあるんじゃない。男の目元の冷たさと涙を隠すのが役目だ」

 

 「ふぅん、誰が言ったの?」

 

 「……なんで俺じゃないって決めてるんだ」

 

 「あんたみたいなハーフボイルドが言えるわけないじゃない」

 

 図星を突かれるがそんなことあとからだ。メリッサの【解錠】スキルでアタッシュケースを開けると、中にはやはり入っていた。

 

 「これって……」

 

 「ああ。それとさっきの言葉は、俺の師匠の言葉だ」

 

 街が泣いている。拭うために力を貸してください。

 

 更なる証拠の為に、俺は再び駆ける。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ウェザードーパント。やはり強い。彼を追ってこの街まで来たけど、まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。

 

 とにかく彼を逃がすことには成功した。あとは彼女達を救えれば文句無しと言えるけど、どうもそうはいかないようだ。

 

 荒い息を整えてエンジンブレードを構える。やっぱり耐えきれないか……私が仮面ライダーの真似事なんてこと、無理だったのかもしれない。

 

 それでも誓ったんだ。この世界に蔓延る悪を倒す。例えそれが自らの破滅を招いても。それが私のやらないといけないこと、犯してしまった罪なのだから。

 

 ウェザードーパントの激しい攻撃に防戦一方だった。隙を見つけないと勝つどころかそれすらままならない。

 

 「止めろ」

 

 王の言葉にウェザードーパントの攻撃が止まった。振り返ると、リア、エーリカ、シエロの三人がいた。

 

 「その小箱を置いて立ち去れ。そうすればこの娘達の命は助けてやる」

 

 「貴方みたいな悪魔にこれは渡せない。これは簡単に使っていいものじゃない」

 

 何が神様だ。ただメモリの力を押し付けて無理やり言うことを聞かせてるだけのハリボテだ。

 

 「なら仕方ない」

 

 衛兵がリアに手を掛ける。アクセルはエンジンブレードに素早く【R(ロケット)】の刻印がされたメモリを挿入しミサイル煙幕を放った。

 

 衛兵にミサイルが着弾し白い煙が立ち上る。その隙に三人の元に駆けつけるが、途中で縛られるように体が動かなくなってしまった。背後からは王ではなく女性の声が囁かれる。

 

 「そこまで。大人しく退散するならあの小娘達に危害は加えない」

 

 「誰がそんな」

 

 「私が探してるのはそれじゃない。それよりもずっと強いものだ。どんな状況下でも逆転の一手としていられるもの」

 

 妖しくも少し妖艶に感じる。煙のせいで正体は分からない。

 

 やがて縛られていた体が緩くなるのが分かった。

 

 「誰だって自分の身がかわいいもんだろ。そんなへんてこな姿で何をしようってんだ」

 

 「この姿はへんてこなんかじゃない。一つの世界を救った英雄の姿……私なんかがなっていいものじゃないけど、この姿じゃないとあの二人に信じてもらえないから」

 

 縛られた糸を振り切り、その場で大きく回転し煙を払う。煙が晴れたその先にいたのは、さっきテレポートで逃げたはずの翔太郎が衛兵を倒し終え立っていた。

 

 「誰かは知らねぇけど、真似事なら止めとけ」

 

 「せっかく助かった命を棒に振るってか?」

 

 「依頼人を救えないならどっちにしろ同じ事だ。さぁ、お前らの罪を数えろ!」

 

  




かれこれ二週間ぐらい間が空きましてすみません。本当、やる気が出なかった。うん。



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悲しみのPへ/切り札の怒り

 「スーパーヒーロー戦記まで一週間を切った訳だが、なぜ投稿がここまで遅れたか教えて貰おうか」

 「お仕事とゲームとウマ娘とこのファンやってました!」

 「つまりはゲームばかりしていたと。この間のアンケートでも投稿頻度増やせが4択の内2位だったことを忘れたのかな」

 「その辺りは本当にすいません。でもひとつ分かったことがあります」

 「それはなんだい?」

 「オリジナルの話、考えるもんじゃねぇなと」

 「「だったらさっさと書け!」」



 テレポートで逃げ出し王都に到着し、俺達は自らの技術を活かして僅かながらも情報を得た。

 

 俺とフィリップの事件解決はまず俺が街を駆け巡って僅かな情報を集める。そこから更にフィリップの手によって候補を絞っていくスタイル。今回は最初から犯人が割れているのでフィリップの力は無くても何とかなりそうだが……

 

 「なんか雲行きが怪しいわね」

 

 「ああ。俺は職業柄、直感で人を見るんだがどうも見誤ったかもしれねぇ」

 

 「あんたに言ってないわよ。本当に雨が降りそうってこと」

 

 確かにさっきまで晴れていた空が急に曇りにはなったが……まぁ、それだけで全てが決まるなんてことはない。

 

 「それで何を調べてたのよ。早くしないといけないんでしょうに」

 

 「ああ、少しだけな。引っ掛かったことがあって」

 

 もちろんウェザードーパントの助けを呼ぶあの声。そして、警戒体制だったにも関わらず他所の冒険者である俺とアクセルハーツを城内に入れたこと。

 

 いくら娘さんがファンだからと言って、こんな時にわざわざ入れるなんてこと俺だったらしない。つまり、あの四人の中で何か狙いを付けた奴がいたってことだ。

 

 加え、俺を真っ先に処刑しようとしたってことは俺が狙いじゃない。ならアクセルハーツの三人の内誰か。

 

 もし何かあるならあいつらは抵抗するはず。一応グループ組んでるんだから見放すなんてことはしない。

 

 「最短ルート、分かるか」

 

 「ちょっと道筋荒いわよ」

 

 道中とは外れたところを二人は駆けていく。テレポートを使ったからスキルはもう使えない。

 

 「まず、メリッサはアクセルハーツの三人の救出を頼む。相手は腐ってもメモリ使いだ、俺が対処する」

 

 「あんたに命令されるのもその作戦も気に食わないけど今回は多めに見るわ。秘策もあるみたいだし、バレると色々面倒なんでしょ」

 

 「……つくづくなんでトレジャーハンターなんてやってんのか分からなくなってくるぜ」

 

 たまに妙に、いや異常に優しいというかそんな場面を見る。メモリの強大さは身に染みて知ってるから当たり前っちゃぁ当たり前か。

 

 それにーーなんだか妙な、嫌な胸騒ぎがする。まるで最悪の展開を迎えそうな感じだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時を戻し現在。カルナレルンに再到着しそのまま棒立ちのウェザー、謎のアクセルの背後に立つお妃。少し離れて王がその場から動かない。

 

 「罪を数えろ……つまり私達は犯罪者だと言いたいわけね」

 

 「ああ。まず、始まりはこの街に魔王軍が攻めてきたこと。話によると付近に活発化してる王都もある関係で逆に攻められるなんてことは少なかったらしいな」

 

 「そこに起こる突然の進行。しかしそれを破ったのがそこにいるウェザードーパント。以来そいつは神と呼ばれるようになった……そこまではいい」

 

 「問題は誰が変身しているか。今のところこの渦中でも姫様が見えないのはなんでだ?」

 

 「病弱だと言いましたが」

  

 「そうだ。でも同時に俺はメリッサからあることを聞いてる。死んだと思われてる姫様が生きてるかもしれないってことを」

 

 ウェザードーパントを見る。しかし反応はない。恐らくここで動けば都合が悪いと思っているのだろう。

 

 この時点で殆どの場合、ウェザードーパントは姫様が変身していると思う。でも俺はさっきの王都であることを聞き出していた。

 

 この世界に置いて病は寿命であり、それで死ぬと蘇生魔法での生き返りは出来ない。

 

 元々病弱な姫様にウェザーの力が手に入ったからといって死ぬまで戦わせる親がどこにいようか。

 

 平和だったからこそ無事だったこの街に危機が迫ったとて、酷使する必要性はない。

 

 もし戦いで死んだとして、それなら蘇生が可能なはず。そうさせないのはなぜか。

 

 「姫様は死んでる。戦いでじゃない。ましてや病でもな。恐らくメモリの毒素で倒れた」

 

 毒素による中毒死ーー一種の麻薬性に気づかず乱用した結果に倒れ、それを病で倒れたと勘違いし、世間に死んだと公表した。

 

 完全に予想だが、蘇生が出来る境界線は医療技術でいうところの薬で治るかどうかだと思う。手術でしか治らないものは病、風邪や怪我はそれに分類されない……かな。

 

 今回は毒による死亡なのでギリギリ蘇生魔法が適用される範囲だったのだろう。それが判明したのは恐らく公表した後ーーメリッサの言う姫様が生きてるかもしれないという情報は何処からか漏れたものだろう。

 

 「一端の冒険者にしてはなかなかね」

 

 「これでも探偵だからな。まぁ、これが分かったからなんだってところだが……」

 

 俺はウェザーを見て歩み寄る。何かを仕掛けようとするお妃にアクセルは先手を打つように妨害する。

 

 俺が目の前まで来ても動く素振りすら見せなかった。

 

 「あんたの声はちゃんと届いてる。まるで事務所の扉を必死に叩くような感じだった」

 

 安心させるような口調で諭す翔太郎にウェザーは震えていた。自分の意志で変身しているなら喋らないなんてことはまずないはずだ。

 

 ウェザーはいよいよ両手を振りかざす。怪しかった雲行きが更に黒くなり、いよいよ雷とともに雨がポツポツと降り始めた。

 

 雷はお妃とアクセル、そして翔太郎の間に落雷する。激しい音とともに地面が割れ、崖が崩れるように落ちていきウェザーだけがその場から退避する。

 

 「しまっーー」

 

 アクセルがお妃を突き放し崖下を覗く。しかし、そこには何もない。

 

 「……なぁ、もっと安全なやり方ってなかったのか」

 

 「無駄な推理を聞かされるこっちの身にもなってみなさい」

 

 少し離れた位置で【バインド】で帽子を抑え縛られながら宙ぶらりんになる翔太郎と真下にメリッサとリア達がいた。

 

 「ま、予想通りだったのは褒めてあげるわ」

 

 「分かったから早くこれほどいてくれ」

 

 縛られた縄をほどかれ地面に着地する翔太郎。三人は怪我もなく無事なようだ。

 

 ウェザーがあの時に助けを求めた時点で催眠術にはかかってないと断言できた。フィリップや照井の持つ精神耐性だ。

 

 なら第三の選択肢。誰かに体まるごとを操られてる可能性が高かった。それが出来るなんて【P(パペティアー)】のメモリぐらいだ。

 

 問題はどっちが持ってるかってことだ……どっちもドーパントになっていないのを見るにハイドープの可能性がーーいや、待て。

 

 そもそもハイドープの能力でそれが手に入っちまったらメモリの存在意義がなくなる。つまり催眠術とメモリ、どっちかが両方を持ってる。

 

 「お妃さんよ。あんた犯人だろ」

 

 隠す気もなく言いきった。

 

 「何を根拠に?」

 

 「まず、国の一大事に俺達四人をあっさりと城の中に通したこと。姫様が死んでることが分かった今、ファンだからなんてのはおかしい。何か狙いがあったはずだ」

 

 「俺は殺されそうになったから実質三人に絞られる。だがアクセルハーツはまだ駆け出しのアイドルグループ、王族のあんたらに耳が入るなんて珍しい」

 

 あの時の僅かな会話を思い出す。リアとシエロに関しては名前程度だったにも関わらず、エーリカは少し知っている様子だった。

 

 いわゆる推しというものならまだ納得出来る。が、こんな案件が出てきた以上全てを候補に上げないといけないのが探偵だ。

 

 誰かからエーリカ個人に関しての情報を得ていた……

 

 なんでそんなことが必要だった?あいつらが今、必要としているのは……

 

 細い線が繋がった気がした。

 

 「まだ伝えたいこと、あるんじゃねぇの?」

 

 俺の言葉にウェザーが反応する。拘束を振り切るように暴風を巻き起こしこっちに近づいてくる。俺以外の全員は身構えるが、手前で止まった。

 

 「エー、リカ……」

 

 胸元からゆっくりと排出されるウェザーメモリ。光に包まれながら人に戻るそれは、同じピンクの髪ながらどこか気品があった。

 

 よろよろと拙い足でエーリカの元へ歩み寄る。困惑しながらも倒れ混む彼女を受け止めた。

 

 「ごめんね……ひとりぼっちにさせて……でも一目で分かったから」

 

 「ママ、なの……?」

 

 彼女に詳しかった理由がこれだ。身内、ましてや母親がいるなら話を聞き出すこともある。一度姫様の件で毒死してるならいずれ限界が来ることを分かっている。

 

 さっきのメモリの抜けかたから見て不調ーーいや、仮にもT2だ。それはあり得ない。ならば過剰適合によるメモリの排出拒否と見てもいい。

 

 助けを請うあの声が似ていたのも、お妃らが狙ったのも理由がつく。親子だからといって適正が合うかと言われたら別になるが向こうは素人。遺伝的なものもあると多少踏んでいたのだろう。

 

 「貴方を人殺しの娘にしたくなかった……今でも脳裏に叫びがこびりついて離れない……私はもう会わないって、決めたの」

 

 抱き締めようとする素振りを見せるもそうしない。どこかで血塗られた自分に抵抗があるからだろう。

 

 「早く、逃げて、じゃないとーー」

 

 瞬間、黒い腕が彼女の胸元を貫いた。その手にはウェザーメモリをしっかりと握りしめ、やがて引き戻される。

 

 黒い腕についた鮮血は翔太郎の手の甲に、メリッサの頬に飛び散った。

 

 一層に強くなる雨が彼女の抜ける微かな呼吸を消していく。最後の言葉も聞こえぬまま、ただエーリカの泣き叫ぶ声が響く。

 

 「いや、助かったわ。挿入したら出てこなくなっちまったからよ」

 

 いけしゃあしゃあと、お妃がさっきとは全く違う口調で喋り始める。その右腕は黒いものへ変化していた。

 

 「探偵もなかなかだったぜ?色々してくれたおかげだ。せめて教えてやる。私は魔王軍幹部、傀儡と復讐を司る邪神、レジーナを崇拝するダークプリーストのセレナだ」

 

 禍々しい黒い腕は自らを邪神で示すように蠢いている。基本回復魔法が主な手段であるプリーストにとってあれはいわゆる攻撃手段なのだろう。

 

 「メモリ、とか言ったな。どっちがどっちなんてのは関係ないぜ。私達魔王軍と手を組もうと乗ってきたのはこの名前だけの王だ。だから私は悪くない。そいつ毒に苦しみながら死んでいくのも辛いだろ?これは慈悲なんだぜ。非道だなんて思うなよ」

 

 そう説明してる間にもシエロは蘇生魔法を試みる。しかし甦る気配はなかった。

 

 「……リア、シエロと一緒にエーリカを連れてここから離れろ。依頼人のお前らを傷つけるなんてことは出来ない」

 

 「私も冒険者だ。引けないときだってある」

 

 槍を構えるリアに俺は何とも言えなかった。自分だって同じ状況なら同じ選択をする。

 

 「ならもっと分かりやすく言ってあげるわ。足手まといになのよ。相手が相手なら尚更ね」

 

 メリッサがいつもの高圧的な態度で言いはなった。しかしそれにも怯まない。

 

 俺は追討ちをかけるように頷いた。それを見たリアはハッとした表情に変わった。

 

 「頼む。俺達の言うことを聞いてくれ」

 

 リアは一瞬目を泳がせる。そして俺の背中を軽く叩き、シエロと一緒にエーリカを連れてその場から離れた。

 

 残った俺達はそれぞれに付いた血を拭う。そしてーー豪雨に紛れて紫色に光るそれが俺の手元に収まる。また、メリッサの元にも同じものだが違う光を発するそれがやってくる。

 

 帽子の役割は男の涙と優しさを隠すため。そしてもう一つ。

 

 抑えきれないこの感情(怒り)を悟られないようにするためだ。

 

 【Joker(ジョーカー)!】

 

 【Queen(クイーン)!】

 

 俺は懐からおやっさんの事務所から拝借してきたロストドライバーを装着、ジョーカーメモリを装填する。メリッサは上空へと放り投げる。

 

 それを見たセレナはやる気だと感じとり、持っていた杖を叩く。多くの衛兵が数を連ね立ちはだかる。

 

 「……変身!」

 

 俺は仮面ライダージョーカーに変身、メリッサはクイーン・ドーパントに変わる。俺は左手首を鳴らし迫り来る衛兵に立ち向かう。

 

 留まることのない怒り。クイーンドーパントもシールドを使って弾き飛ばす。見守っていたアクセルも思い出したかのように戦いを再開する。

 

 衛兵全員を薙ぎ倒し、残るセレナと王に向けて人差し指を示す。それを見てセレナは合図を出した。

 

 地ならしが起こる程の揺れ。俺とアクセルはクイーンドーパントが生成したシールドに乗り空中を漂う。

 

 「すまねぇ」

 

 「ここで取り逃すぐらいなら助けるわ」

 

 どうやらあいつもご立腹のようだ。

 

 姿を現したゴーレムは城の半分以上はあるであろう大きさを誇っていた。頭部頂上にセレナと王は立っていた。

 

 「紅魔の里での侵略用だが、開発途中でどれ程かな」

 

 鉄槌がクイーンに向かって振り落とされる。シールドを発生させ受け止め、手を振り返す。

 

 「砕け散りなさい!」

 

 防御だけでなく、反射の閃光が胸部に突き刺さる。一つ一つが確実に装甲を削るが再生されていく。

 

 アクセルの追撃によるロケットミサイルも目立った損傷はない。それほどまでに修復スピードが速かった。

 

 ゴーレムは腕を振りかぶりアクセルを殴り付ける。元々魔力の高い紅魔族対策で造り上げたものだ。まだ未完成いえど物理威力は充分な上に魔法耐性も高い。

 

 「流石、ウォルバグの爆裂魔法を耐えるだけあるな……あとはどのメモリをどう使うかーー」

 

 その時、ゴーレムの体全体が揺れる。危うく落ちそうになるもギリギリで堪えた。

 

 右膝部分が消し飛んでいたのが見える。空間まるごと消されたのか……?

 

 小さく見える黒い人影。あの探偵が変身した奴だった。特殊な能力や武器を使った様子もない。

 

 まさか拳一発で?いくら魔法耐性に多く振っているとしても物理耐性も並の攻撃はビクともしないはずだ。

 

 再生に間に合わないと理解し強引に指令を出す。ジョーカーより巨大な拳が迫るも、避ける素振りもなく振りかぶり拳同士がぶつかり合う。

 

 拮抗するも数秒も持たずしてゴーレムの右腕が吹き飛んだ。完全に立てなくなったゴーレムはその場で崩れ去る。セレナと王も地面に落下し砂埃にまみれる。

 

 目の前に立ちはだかるは、怒りを現すように体から煙を噴き上げるジョーカー。

 

 【Joker!Maximum Drive!】

 

 「……ライダーキック!」

 

 飛び上がり背後にあったゴーレムの残骸を完全に吹っ飛ばし、その衝撃で中心部の動力源が破損する。今度こそ耐えきれなくなったゴーレムが崩れていく。

 

 「お、お前!いったい何なんだよ!」

 

 「仮面ライダーだ」

 

 「仮面ライダー……?はっ、何だか知らねえけど、お前もそのメモリを使ってるってことは俺達とそう対して違わねぇだろ。結局正義面しても変わらないもんだな」

 

 セレナの言葉にジョーカーは動揺することはなかった。それどころか変身すら解除してしまう。

 

 「何が正義で何が悪だとか、そんなのもう考え尽くされた」

 

 「探偵っつー仕事をやってる以上、遥かにどす黒い人間の腹の中を見ることもある。」

 

 「確かに同じ力を使ってる。だから自分もその内悪になっちまうかもしれねぇ。そんな恐怖に怯えることもある」

 

 「でも今は……まだ自分が悪になってない今は、もう既に悪になった奴らを止めるために、この力を使う」

 

 「さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 セレナの胸ぐらを掴む。しかしセレナは笑みを浮かべていた。

 

 「私は赦す側なんだぜ」

 

 勢いのままに翔太郎を突き放し、セレナは魔方陣に纏いその場から姿を消した。さっきの黒い手と同じ邪神とやらの力か。

 

 「私ならあのままやってたわ」

 

 「それじゃあやってることはあいつと変わらねぇ」

 

 変身を解除するメリッサ。残りは気絶して動かない王とアクセル。

 

 「便宜上アクセルって呼ばせて貰うが、お前が依頼を寄越した。それで合ってるな?」

 

 頷くアクセル。翔太郎は頭を掻いて帽子を整える。

 

 「せめて顔ぐらい見せてくれねぇか。それじゃなきゃこっちも信用できない」

 

 翔太郎の提案にアクセルは変身を解除する。排出された【D(ダミー)】のメモリを握りしめ、見せたその顔に二人とも驚愕する。

 

 「どういうことかしら?」

 

 「……」

 

 「黙ってても分からないけど」

 

 「待てよメリッサ。これは俺とそいつの問題だ。……でも気にはなるな」

 

 「今は話せないの」

 

 その一言に翔太郎は納得したように頷いた。

 

 「依頼人は全員訳ありだ。お前もその一人ってならそれで構わねぇ。ちゃんと整理がついて話さないとって思ったらまたアクセルに来てくれ。その代わり、ちゃんと風都に帰れる方法、探しておいてくれよ。それが報酬だ」

 

 少女の謝る声を聞き、俺は去っていく姿を見届けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 王の話によると初めに起きた侵略の際、魔王軍が攻めてきたのではなく近隣の町が団結して攻め混んできたらしい。

 

 しかしその出来事は当時王都で担当していた大臣が嘘で塗り固め報道したことがきっかけだった。曰く、魔王軍との混戦が続くなかで人間同士の争いがあったとなれば余計に混乱を招くとのことだった。

 

 街を傷つけられ、挙げ句命を奪った奴等はのうのうと生きているのに堪えるのが必死だった王に対し持ち掛けてきたのがあいつーーセレナだった。

 

 身に覚えのないことを擦り付けられ迷惑している、第二拠点として城の地下を貸してくれるなら復讐の手伝いをしてやると悪魔の囁きに乗ってしまったらしい。

 

 

 そして、肝心のエーリカはというと……

 

 「さ、早く行くわよ!」

 

 母親であろう人を目の前で殺されたにも関わらず、いつもの調子だった。遺体は派遣に来た王都の連中が責任を持って埋葬するとのことだったがーー

 

 「その、大丈夫か?」

 

 「何がよ?」

 

 「だって……」

 

 リアとシエロの両方が口ごもる。

 

 「……平気、なんて言えないわよ。正直な話、本当にママだったのか分からないとこもあるけど、あれはきっと本当のママ」

 

 「どうして置いていってしまったのとか、色々知りたかった。でも一番知りたかったことーーちゃんと愛されてたってことは知れたから充分よ」

 

 その弾ける笑顔は何よりも可愛らしく眩しかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「ちっ、あの探偵とか名乗るわけわかんねぇやつのせいで台無しだ!」

 

 何とか脱出に成功したセレナだったが、急激な魔力の消費でしばらくは動けそうにない。

 

 そもそもプリーストは前線で戦う職業ではない。この力もレジーナを崇拝しているのが自分のみであるから使えるだけであって、黒い腕ーー【邪神の腕】やテレポートの代わりでもある【邪神の脚】も切り札的なものだ。

 

 秘密裏のゴーレムも壊されちまったし、あの街も見捨てるしかない。幸運にもメモリとやらを回収出来たのが救いか。

 

 「失敗したようだな」

 

 「これはこれは魔王様。大変失敬致しました」

 

 「お前の素性など分かっている。……何があった?」

 

 「左翔太郎と名乗る冒険者によって邪魔されてしまい……しかし排出不能になっていましたメモリは回収出来ました」

 

 「メモリ……その小箱の総称か」

 

 「男曰く、ですが。少なくとも詳しい事情は知っています故、一度交えましたが魔道具を使用していました」

 

 「魔道具……毒素を打ち消すものだろうな。メリットがなければ使う必要もない」

 

 セレナは納得しながら回収したウェザーメモリを献上する。次の使い手を見つけなければならない。

 

 【Xtream(エクストリーム)!】

 

 魔王がエクストリーム・ドーパントに変身して妖しく瞳を輝かせる。能力は味方を強化させること。そして最近目覚めたもう一つの能力(ハイドープ)ーーメモリ適正のある者を見つけ出すこと。

 

 あの街を狙った最大の理由。それは姫が適正持ちであったこと。しかしいきなり押し掛けたところで意味はない。あくまでもこちらに引き入れることだ。

 

 セレナはレジーナの力によって人に洗脳する力がある。近隣の町の冒険者を操り襲わせ、そのメモリの力がどれ程のものか確かめた後、交渉に向かわせた。

 

 結果は予想通りだった。あとは同情し迷惑を被っていると唆せばいい。失敗したら次のプランだ。

 

 しかし、あのゴーレムまで破壊されるとは……相当な力を持つメモリか、余程の相性がある人間か。

 

 「この世界の命運を分けるかもしれんな……」

 

 ぽつりと魔王は呟いた。




 「こってり作者へ説教しておいたが、ひとつ翔太郎に伝えてくれと言っていた」

 「なんだよ」

 「原作四巻が終わるまでこれから君の出番はない」

 「……マジかよっ?!」

 マジの予定です。今回の終わりかたが投げやり過ぎたことは謝る。作者も心ではそう思っている。

 思ってねぇ!勝手なこと言うな!


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女神にCを/ろくでなしの街

「一つ思ったんだが、このすばの新作アニメと風都探偵のアニメ、時期が重なるんじゃ……」

「どっちにしろ一年は逃亡出来ねぇから安心しろ」


 水の都【アルカンレティア】。その名前の通り綺麗な水に満ち溢れ、有名な温泉も実に楽しみだ。

 

 ただ、あのアクシズ教の総本山であることを除けば。

 

 到着するなりアクアは迷える信者の為にとか言ってどっか行ってしまったし、フィリップ達三人はまだ到着する気配がない。

 

 とりあえず荷物があるので宿泊予定の宿にめぐみんと共に向かう。温泉まんじゅうを作る湯気、温泉街でよく見かけるお土産など、雰囲気は日本と差程変わらない。

 

 しかし、やはりアクシズ教徒には関わるなと言われてるだけあって宿に到着するまでに入信勧誘を10回も尋ねられた。中には一芝居やってるものもあったり、知り合いのふりをしたりなどもはや詐欺の手口だ。

 

 ようやく宿に到着し、二人して疲れたようなため息を出した。部屋は2つ用意してあり男子部屋と女子部屋に分かれた。ま、男三人と女四人ならそれぐらいか。

 

 「せっかくの観光地ですしどこか行きましょうか」

 

 「お前、さっきのやつ見て行きたいと思うか?」

 

 「でも温泉なんてなかなか行けませんよ」

 

 めぐみんの言うことにも一理ある。いつも家族旅行は着いていかなかったし、引きこもりであったが故に学生時代には友達と旅行なんて……あれ、なんか涙出てきた。

 

 むしろ勧誘をしてくるのに身の危険を脅してきたりはしないはずだ。アクアを探すにもあるし、俺は重い腰を上げた。

 

 

 

 

 やっぱりこの街は異常だ。よくこれで観光地になってるなと思う。

 

 外出を提案しためぐみんでさえぐったりとしている。これはさっさと宿に戻って温泉だけ楽しむが吉だ。お土産なら宿の売店でもあるだろう。

 

 「大丈夫?」

 

 めぐみんに声を掛けてきたプリースト。金髪でさながら美少女だが、被り物の額にアクシズ教のマークがあるのを見逃さなかった。が……他の奴等とは雰囲気が違う。

 

 「大丈夫です。すみません、お姉さん」

 

 「……ねぇ、もう一回言ってくれない?」

 

 「え?」

 

 「おい止めとけ。途端に胡散臭い感じがしてきた」

 

 「胡散臭いとは失礼ね。別にもう一回お姉さんって呼んでってーー」

 

 「何やってるセシリー」

 

 渋い声でプリーストを呼び止めたのは五十歳は過ぎていそうな男性だった。親……ではないな。

 

 「れっきとした調査よおじさん」

 

 「内容も伝えてないのに何が調査だ……邪魔をして悪かったな。行くぞ」

 

 セシリーと呼ばれたプリーストの腕を引っ張りその場を離れていく。

 

 「どんな関係なんでしょうか」

 

 「さぁな……あの人はアクシズ教徒じゃない気がするけど」

 

 それよりも調査っていうのが気になる。もしかしてまた面倒事に巻き込まれたり……いや、今回はあの人に任せよう。うん。

 

 「それよりさっさと教会に行くぞ。頭狂った奴等の元締めだし、アクアならなんとか出来るだろ」 

 

 どうしようもないな、本当に。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「大丈夫か」

 

 「これが大丈夫に見えるなら、お前の目も衰えたな」

 

 別行動をしていたスコールと合流すると、コートのポケットのみならず毛並みにも入信書を引っ掛けていた。どうやら大分苦労したようだ。

 

 「十歩も歩けば次の勧誘が来る上に聞こうとすれば質問料といって渡してくる……やはり噂通りか」

 

 「ちょっと、危ない場所みたいに言わないでよ」

 

 充分危ない場所だここは。正直難事件を解決するよりも苦労している。

 

 「セシリー。スコールを宿まで連れていけ。あとは俺でやる」

 

 離れていく二人を見送り、俺は女神アクア像の噴水に座った。少しして隣にフードを深く被った人物も座ってくる。隙間からは赤色の髪が覗かせている。

 

 「いつから気づいてた?」

 

 「朝からだ。俺は人を追うのが仕事だが、追われるのは慣れてない……お前がいるとなると、強ち間違いでもないようだな」

 

 「誰かの依頼かしら。作戦はバレてないはずだったけど、面倒になるわね」

 

 「……俺が言うのもなんだが、言っていいのか?」

 

 「魔王軍の戦いには興味ないんでしょ?」

 

 「今回は首を突っ込むことになる」

 

 「ならここで潰しておくわ」

 

 緊張の空気が流れる。彼女の不適な笑みを浮かばせ、壮吉は警戒を強める。

 

 「冗談よ。今回はプライベートだし」

 

 立ち上がると同時に軽く手を叩く。

 

 「そういえば報酬を渡してなかったわね。明日の夜、源泉付近で決行らしいわよ。止められるなら止めてみれば?」

 

 そう言って歩いていく後ろ姿は、本当に観光に来たようにしか見えなかった。

 

 「ウォルバグめ……」

 

 嘘か真かなんとも言えない情報。俺が必ず来ると思っての挑発だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌朝の早朝。ウィズとダクネス、そしてそれに抱えられるフィリップが到着した。フィリップの具合が悪いようだ。

 

 これまでたくさんの事件やらを引き受けてきた訳だし、裁判やすぐに今回のことを含めると当然、疲れなどで限界が来てもおかしくはない。

 

 アクアに治療出来るかと聞いたら怪我とかなら魔法で何とかなるが、風邪になると気休め程度にしかならないようだ。何でもこの世界じゃ病は寿命らしい。

 

 病、という程ではないが……完全に復活するには一日はかかるとのことなのでとりあえずベッドに寝かしつけた。

 

 「それよりもこの街の危険が危ないみたいなの!」

 

 「病人に対してそれよりもはないだろ」

 

 宿の食堂で朝食を摂っている俺達にアクアは騒いでいる。何でも怪しい奴等がこの街にいるとかどうとか……そういえば昨日、おっさんとプリーストが調査をしているとか言ってたな。

 

 「調査をしてる人なら見ましたよ。具体的には聞いてませんが、何か危険なことなら見てみぬ振りは出来ませんね」

 

 それっぽいことをいうめぐみんだが、お前は昨日撃てなかった爆裂魔法を決めたいだけだろ。

 

 「めぐみんのいう通りよ!もちろんダクネスも……ダクネス?なんか元気ないけど風邪でも移った?」

 

 「……特にカズマに聞きたいんだが、私は女性としての魅力が欠けているのだろうか?」

 

 「性格は終わってるな」

 

 「んくぅ?!あ、相変わらず容赦がないなカズマは……」

 

 お前が聞いてきたんだろ。

 

 「それがどうしたんだよ」

 

 「この二日間、三人で宿に泊まったんだがどこも多くてな。一部屋だけしか借りれなかった」

 

 眉間が動く。悪い予感が当たってしまったか……そりゃ性格は終わってるが体はパーフェクトのダクネスと貧乏美人店主で名前が通っているウィズと一緒となれば普段は大人しいフィリップも我慢できないはずだ。

 

 「何かされたの?」

 

 「何もされなかったんだぞ?!それどころか道中で遭遇したスライムに興味を持って夜通しで調べる始末だ。私はフィリップから見たらスライム以下なのか……?」

 

 フィリップもフィリップでたまに変人になるよなぁ。

 

 「二日目の道中なんて延々とスライムについて話していましたからね……」

 

 前言撤回。ただの変人だ。

 

 「まぁ、その……とりあえず温泉でも行ってきたらどうですか?」

 

 めぐみんの提案にウィズは頷き、まだ項垂れるダクネスを連れていく。さて、俺達は……

 

 「怪しい人物がいなかったか色んなところでアンケート取ったのよ。早く犯人を見つけましょ!」

 

 やけにやる気のアクア。普段からそれだけまともになってくれればいいのに。

 

 「どうします?」

 

 「騒がしいのも面倒だし、適当に調べて本人を納得させるか。ないと思うが魔王軍とかが絡んでたらギルドに報告して任せる」

 

 しょうがねぇなぁと呟く。めぐみんはそれを見てなぜか微笑んでいた。



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女神にCを/作戦決行

「大分期間が空いてしまい、早いものでもう次のライダーが始まってしまうよ」

「今度は悪魔と二人組、珍しいモチーフだな」

「これは実質僕達では……」

「お前はちゃんと人間だろうが」

「……そうだね。翔太郎」


 「今日の夜に決行だと?!」

 

 「声が大きい。セシリーが起きる」

 

 時刻は丑三つ時。俺はスコールに手に入れた情報を話していた。

 

 「大きくもなる!大体、どこからの情報だ?」

 

 「……魔王軍幹部」

 

 その一言に立ち上がっていたスコールの表情が固まった。そしてすぐに呆れたため息とともに椅子に座り込む。

 

 「明らかに罠だ。第一、なんでお前がそんな奴と知り合いなんだ。疑う訳じゃないが信用されんぞ」

 

 「少し前に依頼を受けてな。その時は幹部だと知らなかった。責任は無知だった俺にある」

 

 無知は罪とも言うが、この世界に来てまだ日数も経っていない時だった為に把握しきれていなかった。

 

 今はある程度分かっているが、まだ知らない奴等もいる。

 

 「お前のポリシーからして、依頼人に手を出すなということだろう。だが奴等は危険だ」

 

 「職業柄、もっと危ない奴等を見てきている。一概に悪だと言いきれん」

 

 「……これ以上言い合いしても無駄だ。話を進めよう。そいつの話を信じるのか?」

 

 「なら他に有力なものを得られたか。俺も最初はセシリーのホラ吹きだと内心たかをくくっていた。しかし、他でもない味方側からの通告なら罠だとしても信憑性高い」

 

 スコールは押し黙った。こいつも半分は嘘だろうと思っていた節もあったはず。

 

 最初に嫌な予感を感じたのはスカルメモリがやって来たこと。そして今回のことーーまるで戦えと言っているようだ。

 

 「どうしてそこまで熱心になる?」

 

 「……この街を愛する者がいる。例え直接の関係がなくとも、俺にはその気持ちが分かる」

 

 「そいつを泣かせる奴を、俺は許さない」

 

 かつての翔太郎が風都に救われたように。

 

 セシリーもまた、どこかでこの街に救われたはずだ。

 

 あいつに戦う力がないなら俺がやればいい。

 

 「……お前の本音はどこにある?」

 

 スコールの呟きに、俺は聞こえなかったフリをした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夜の決行に備え街を歩いていると、女神像の噴水の前で何やら演説が行われていた。

 

 「この街は狙われています!重要な手掛かり、もしくはアクシズ教プリーストのセシリーという人物を知っている人は教えてちょうだい!」

 

 「私が呼ばれてる……?はっ、あの水色の髪に羽衣、まさか本物の女神アクア様?!」

 

 すたこらと行ってしまうセシリー。演説してる奴の付近には昨日会った二人組もいる。巻き込まない為にも行かない方がいい。

 

 スコールに目で合図しそのまま通りすぎていく。同じ教徒だ、変なことはされまい。

 

 「おじさーん……あれ、迷子かしら?」

 

 「おじさんが何か知ってるの?」

 

 「ええ。こそこそ話してたのを聞き耳立ててたんだけど、何でも今日の夜に決行するらしいです」

 

 「今夜?!どこで?!」

 

 「申し訳ありません、そこまではしっかり……」

 

 「そう……。調べた限り温泉に毒が混じってたりしたけど、どこで何をするのかしら……」

 

 「それなら直接源泉に行きませんか?」 

 

 めぐみんの冷静な突っ込みに二人してそれだ!と顔を向けた。

 

 「そうと決まればあとは作戦会議よ!カズマ、何かいい案を出してちょうだい!」

 

 「丸投げかよ。それに付き合ってやるとは言ったけど敵の相手はしねぇよ。毒なんて嫌だ」

 

 「お願いよぉ!可愛い信者が犠牲になるなんて耐えられない!」

 

 「アクア様……そうまでして私達のことを……」

 

 二人して子芝居してるけど、もう周りに人なんていないからな。同情するならなんとやらと言ったけど、これじゃ俺達が変人側じゃねぇか。

 

 「確かに毒となるとより危険度が増しますね。痺れとかならまだしも、なかには即死レベルのもありますから」

 

 毒なんて詳しくないが、源泉に行くなら直接混ぜるはずだ。人々の殺害か観光資源の妨害か。どっちにしろろくなことにならない。

 

 「そうよ、ウィズがいるじゃない!あれなら死なないからいいでしょ!」

 

 「必要な犠牲もあります……そのウィズという人が誰か知りませんが、二分くらい覚えておきます」

 

 仮にも女神が命を見捨てるような台詞言ってんじゃねぇ。こいつもプリーストじゃねぇだろ。

 

 さっさと移動を始める二人。……え、あのプリーストも付いてくるの?

 

 「おい、それって一緒にいたおっさんから聞いたんだろ?だったらその人に任せておけばいいじゃねぇか」

 

 「おじさんは最低職の【冒険者】よ?抵抗なんて出来るはずないじゃない」

 

 きっぱりと言いきった。でもなんか、死ににいく人を見捨てる気分で嫌だな。

 

 一応幹部のウィズもいるなら逃げるチャンスも出来るだろうし……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 日が暮れて暗くなる頃。源泉に向かって俺達は歩いていた。

 

 メンバーは俺とアクア、めぐみん、ダクネス、ウィズ、セシリー。実力二番手のフィリップは体調こそ回復していたものの無理をさせる訳にはいかない。

 

 それに考えれば魔王軍が画策しているとしか思えない。いくら迷惑集団とて、同じ人間がそんな毒を使ってまでダメにしようとか考えないはずだ。

 

 それこそ大事な人を殺されたとか……教団を名乗ってるんだしそこまでは……偶然なら可能性はあるな。

 

 門番をしている兵士にダクネスの貴族の証であるペンダントを見せつけ通して貰う。不当な権力上等、こっちには街を守るという建前がある。

 

 源泉ということもあり辺りの温度が暖かくなってきた。湯気が立ち上ぼり、夜も相まって余計に見づらい。

 

 俺は一足早く【千里眼】を使って辺りを見回した。そして見つける人影。体勢的にしゃがんでいる。これは……間違いないな。

 

 その時、バシャバシャと聞こえる水の音。アクアが温泉に手を突っ込み浄化魔法をかけていた。

 

 「何やってーー!」

 

 「だってだって、毒が汚染して!」

 

 「誰かいるのか?」

 

 バレてしまった。隙を突いて取り抑えようかとか考えてたのに!

 

 湯煙の中から現れたのは浅黒い肌をした男だった。前回のバニルやデュラハンとは違いパッと見普通に街中を歩いていそうな姿。ウィズと同じだ。

 

 「ハンスさん?ハンスさんですよね?!私です。リッチーのウィズです!こんなところで……って、まさかハンスさんが?」

 

 まさかもどうもないと思うんですけど。ウィズが知ってるってことは魔王軍であることは確かだな。

 

 「ハンスさんはデットリーポイズンスライムの変異種でしたよね。まさかその毒を使って……そんなことしたら町の人達が!」

 

 「一回黙ってくれ!お前のことなんか知らないし、俺はそのスライムじゃない!」

 

 「否定しても無駄よ!貴方が作戦を行うことなんておじさんから聞いたんだから!」

 

 セシリーが男ーーハンスに向かって言い放った。

 

 「おじさん?誰だそいつは」

 

 そりゃそうなるよな。このメンバーでおじさんなんて一人もいないし。

 

 何か言いかけようとしたその時、ハンスの大きな地団駄が地面を揺るがした。。

 

 「ウォルバグの野郎!なんで作戦を話しやがった!」

 

 恐らく同じ魔王軍の仲間であろう人物の……仲間?仲間がなんで裏切るような行為を?

 

 作戦なら身内しか知らないはずだ。漏れているなら既にギルドが動いているはず。つまりーー内通者がいるってことか?

 

 「おじさんって奴は何者なんだ!」

 

 「何者って、普段は困ってる街の人を助けてるわ。冒険者みたいにモンスターを狩ってるとか、そんなのは見たことないわね」

 

 平気な態度でハンスに口答えするセシリー。さすがアクシズ教徒、肝が座っている。

 

 とはいえ相手はスライム。あれも恐らく擬態しているだけだ。強くはないはず。

 

 「よし。ダクネスはいつも通り前衛を頼む」

 

 「お前……来人が話していたが、デットリーポイズンスライムは危険だ。物理や魔法に強い耐性を持っているし、毒の種類も豊富。触れれば並の硬さならすぐに溶けるぞ」

 

 ……え?

 

 「しかもハンスさんは変異種ですから、金属製の鎧やマナタイトすら溶かす毒も持っています。少しの油断も出来ません。と、フィリップさんが言ってました」

 

 なんでそんなことまで知ってんの?てか変異種ってゲームで言うと強い分類だよな。それって相当まずいんじゃ……

 

 「一応対抗策はあると聞きましたが、今のメンバーじゃ不利なのは変わりません」

 

 ウィズに言い切られると本当にどうしていいかわからないんですけど!

 

 「ベラベラとなに言ってる。邪魔するなら容赦せんぞ!」

 

 ハンスの右腕がゲル状に変化し、毒々しい半固形物を飛ばしてきた。ウィズはすぐさま【フリーズ】で無効化し、俺も構えていた弓矢を放った。

 

 何とか避けたものの触れればどうなるかは弓矢が物語っていた。先端は溶けてしまいもう使い物にならない。

 

 「止めてくださいハンスさん!」

 

 「黙れ。元々は不干渉が条件だったはず。ここに来た時点で邪魔をする意志はあったんだろう」

 

 「そんなこと……!」

 

 ウィズの言葉を遮るようにハンスは体を大きくしていく。見るにも耐えないほどの毒々しい組織液に、イメージしていたスライムとは欠け離れた姿。

 

 獰猛な獣のような咆哮に全身が痺れる感覚に陥る。これって絶対幹部レベルだろ!

 

 今まで人形が相手だった為に余計に恐怖感を覚えてしまう。僅かに残った判断力を使い、俺は背を向けて逃げ出そうとした。

 

 「させません!」

 

 「ちょ、お前!」

 

 「貴方だけ逃げるなんて卑怯です!私も逃げます!」

 

 「お前信者だろうが!」

 

 「命には代えられません!」

 

 セシリーとあーだこーだしている内にハンスは大領域の毒を放った。少し離れたところで浄化しているアクア以外圏内に入る程だ。

 

 ダクネスはめぐみんを庇うように、ウィズは再び氷の魔法を構えるも、間に合ったところでそのまま落ちてきてしまう。

 

 俺とセシリーが悲鳴を上げたーーその時だった。

 

 一向に落ちてこない毒に違和感を感じ、恐る恐る確認する。それは空中で浮遊したままで、やがてあさっての方向へ飛んでいってしまった。

 

 『ピンチの割には元気がいい』

 

 上空から現れたのはかつて俺達を助けてくれたWだった。しかしあの時とは違う半分こではなく、全身が緑で二本のマフラーを携えていた。

 

 突然の来訪者にハンスも俺達もしどろもどろになっていた。さっきのはコイツがやってくれたのか?

 

 【Heart!Maximum Drive!】

 

 間髪入れずにハンスの体を業火が貫く。油断していたハンスの体は飛び散り大きさは半分に崩れていた。

 

 「助っ人ね!誰かし……ら……」

 

 アクアが見たその姿は、最も本人が忌み嫌い、見つければ容赦しない相手。

 

 帽子を被った骸骨が拳銃を構え立っていた。

 

  



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女神にCを/決着、そして……

「前回の投稿から一ヶ月が過ぎ、リバイスも始まってしまったね」

「どう責任とるんだ。ああ?」

「……悪い」

「ん?」

「ウマ娘が面白いのが悪い!」


 上空から降り立ったW。先日のデュラハンのベルディアとの戦いで現れた半分こ……だが、今回は違った。

 

 左半分が黒だった前回と違い全身が緑。それ以外の違いはない。

 

 そしてハンスの背後から火炎放射を放ったのは骸骨男だった。だが立ち姿からして一線を科しているのは素人目からしても分かった。

 

 スライムの本性を現したハンスがその骸骨男を見るなりこちらには目もくれず攻撃を仕掛ける。骸骨男は身軽にその攻撃を避ける。むしろ、帽子が汚れないように気にしながら戦っているような余裕さもあった。

 

 「大丈夫かい?」

 

 「あ、ああ」

 

 俺とセシリーの腕を握り立ち上がらせる。

 

 「なんでこんなところに?」

 

 「風の報せかな。君達のピンチを風が教えてくれたからーー」

 

 「それよりもあの骸骨男は何よ!神聖な私の街であんなのがいたらダメじゃない!」

 

 そう言って浄化魔法を唱え始めるアクア。それを止めたのは信者のセシリーだった。

 

 「ご無礼を承知いたします。ですが……あの骸骨は信じてみてもよろしいかと」

 

 「何でよ」

 

 「彼は僕の味方さ。街を襲うなんてことはしない」

 

 助け船を出すとともに戦闘に参戦するW。それを見送ると背後からセシリーを呼ぶ声が聞こえた。

 

 「あら、スコール」

 

 「あらじゃない。勝手な行動はするなと言ったはずだ。他人まで巻き込んで……」

 

 スコールと呼ばれた狼男がこちらと視線を合わせる。軽く頭を下げられ、俺はどうしたらいいのか分からなかった。実際セシリーがいなかったところでアクアが無茶をするだろうし。

 

 「おじさんは?」

 

 「今、そこまで魔王軍の援軍が来ている。ここは俺に任せて一人で食い止めている壮吉を助けに行ってくれ。街に被害も出ないとは言い切れない」

 

 「何ですって!皆、早く行くわよ!」

 

 ダッシュで山を駆けおりていくアクアに付いていくセシリー。お前、温泉はいいのかよ。

 

 けれど全身毒のはた迷惑なスライムモンスターを相手にするくらいなら援軍の方がまだマシだ。そう判断した俺はめぐみんとダクネスを説得して山を降りていく。

 

 「お前はここにいろ」

 

 「えっ?」

 

 スコールに引き止められるウィズ。その視線は針のように鋭く獣特有の眼光があった。

 

 「リッチーがなぜ冒険者と供にしている」

 

 「っ……」

 

 迫る問を遮るように毒が二人に向かって飛んでくる。それを避け、ハンスを相手する二人に意識を向けた。

 

 「話は後にするとしよう。もしお前が魔王軍でないのなら、あのスライムの相手は出来るはずだろう?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 スコールの指摘にウィズは逃げられないと悟り、【カースド・クリスタルプリズン】を放った。たちまちハンスの下半身が凍っていく。

 

 それを見た仮面ライダー二人は一時体制を立て直す。強敵なのは間違いない。

 

 痛みすら与えられないのは過去に戦ったことはある。アルコールドーパントは体の体液がアルコール油分だった為に引火は出来たが、先程のヒートによる火炎でも燃え盛る様子はなかった。

 

 触れれば即死の毒。厄介だが、今までの経験から言えることは一つある。

 

 こういうタイプは必ず本体があるはずだ。恐らく最も深い中央部分。爆裂魔法で吹き飛ばしてしまうのが一番手っ取り早いが、毒が飛散して汚染されてしまっては元もこもない。

 

 Wーー否、仮面ライダーサイクロンは仮面ライダースカルの隣に降り立つ。

 

 「やはりやるしかなさそうだ」

 

 小声で伝えると、スカルは気合いを入れ直すように帽子を被り直す。   

 

 「いいのかい?」

 

 「供に逝けるなら本望だ。これだけは譲れん」

 

 単身向かっていくスカル。作戦通りなら死ぬことはないはず。

 

 そもそもスカルメモリ自身が使用者を一時的に血も肉もない死人のような存在になる。

 

 そこで僕が出した結論は一つ。いわゆる特攻だった。

 

 ここに来るまでの道筋で僕はモンスターの死骸を見つけた。綺麗に肉だけを食され骨と皮が残っていた。

 

 骨に付着していた液体を見る限り、スライム特有の食事方法だと知っていた僕は一つの疑問を抱いていた。

 

 悪食で知られるスライムがこんな中途半端な食事をするか?

 

 これ程までに大きいサイズならまず大食いで間違いないはずだ。

 

 詳しく検索を行った結果、変異種なるものは鉄などと言った金属を多く溶かす毒を多く含む分、他のものを溶かす毒は威力が弱いか少ないということが分かった。

 

 とどのつまり、このスライムにはカルシウム成分を溶かす力が弱い。その結論に至った。

 

 それに対し最もな有効打があるのがスカルメモリの力。骨格や骨を中心とした強化の他に不死身能力が付与される。

 

 魔王軍幹部のスライムにとってスケルトンモンスターが敵になることはまずなかった。以前のデュラハンがほぼ配下に置いていたからだ。

 

 道中でモンスターに会わなかったのも、そもそもこのスライムが現れたことで生態系に影響を与え、軒並みに隠れるか逃げるしかなかったと考えると納得がいく。

 

 強引にウィズからの魔法を振りほどいたハンスはスカルに向けて大玉の毒をぶつけた。

 

 それを避ける素振りも見せず、スカルは正面から突入していく。まともに喰らってしまったが、結果は予想通りだった。

 

 ハンスの体内に侵入し、スカルは中心部に自分より半分程度くらいしかないタコのような生物を見つける。

 

 自身の毒が効いていないことに焦りすぐさま逃げようする本体だったが、外にはスコールが待ち構えている。

 

 この状態で飛び出してしまえばまず勝てない。かといってこのままでは無理やりでも追い出されてしまう。

 

 「お気に入りの帽子だ。あまり傷つけたくはない」

 

 スカルの容赦ない拳がハンスの本体を襲う。続けざまに蹴りを入れ、飛ばされるハンスに迫る。

 

 負けじとハンスも細い触手の手足をぶつけるがまともなダメージは入らなかった。

 

 生気を感じられない程の冷たい視線。それはもはや普通のアンデッドが醸し出すようなものではなかった。

 

 スカルはハンスの柔らかい頭部を握り、外へ向けて投げつける。毒の檻が崩れ去り液体が散らばっていく。

 

 「ぐっ……だが、目的は達成した。今ので殆どの毒が源泉にーー」

 

 その言葉を遮るように源泉から光が溢れる。侵食されていた源泉から毒が消え去っていく。

 

 「これでも森の賢者と呼ばれている。中で戦っている間に解析させて貰った」

 

 「しかし驚きだ。賢者と呼ばれているとはいえ、即席で浄化魔法を開発してしまうとは」

 

 スコールの手腕に拍手するサイクロン。私は自らが持つ知恵を絞り出しただけ。8割はこの男の成果だ。

 

 「お、おいウィズ!速く助けてくれ!同じ魔王軍だろうが!」

 

 「……私は結界を張っているだけの置物です。それに彼らから聞きました。この温泉の管理人らしき遺体が見つかったと」

 

 手助けをする様子はなさそうだった。ハンスは急いで残った毒を集めようとするが先手を打つようにサイクロンが上空へ回収してしまう。

 

 「下品な食事をする奴には消えて貰おう」

 

 【Skull Maximum Drive】

 

 胸骨の装甲から妖しい紫色に輝く髑髏。大口を開け衝撃波を浴びせるとともにハンスはその威圧感に動きが取れなくなってしまう。

 

 「さぁ、お前の罪を……数えろ」

 

 髑髏と供に飛び上がり、ハンスに向かって蹴りつける。

 

 迫り来る巨大な髑髏は、今まで理不尽に食い散らかされてきた者達の怨霊によって作られたように。

 

 今度はお前が喰われる側だと言わんばかりに襲いかかり、ハンスは爆散してしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ハンスが倒され、無事に源泉も救われた翌日の夕方頃。

 

 僕は唯一温泉を楽しんでいないからと言って、カズマ君らを先に帰らせた。

 

 「僕が言いたいことは分かるね、翔太郎」

 

 「……」

 

 「君の性分は熟知している。憧れであり師匠の鳴海壮吉が使用していたスカルメモリが誰かに悪用される。それ以外にも考え無しで飛び出したことも何度あったか数えきれない」

 

 「けれど今回は上位の怒りを覚えている。ドライバーどころか探偵道具も持たず、加え普通の人間でも魔法やスキルといったものが使えるにも関わらずの行動だ」

 

 「確かに君もーー」

 

 「ああもう分かった!俺が悪かった。これからは一度お前に相談してから行動する。それでいいだろ」

 

 「君のその言葉を数えろ」

 

 いつもの決まり文句を言うように僕は人差し指を翔太郎に向ける。

 

 「……数えきれません。とにかくよ。今はせっかく風呂に入ってんだし、文句は止めてくれないか」

 

 相棒水入らずの入浴。僕はこういった観光地の温泉なんて体験したことなかった。

 

 「それもそうだね。して、そっちはどうだった?」

 

 「その前に……おやっさんに会ったのか」

 

 「会ったよ。スカルメモリも持っていたし、ロストドライバーもね。話を聞く限り、アクアちゃんが言ってた転生で間違いない」

 

 「そっか……おやっさんが転生って言うなら、俺達は便宜上転移って例えた方が正しいかもな」

 

 「ああ。エリスという少女からメモリの回収を依頼されたらしい。その時の焦りようからその子も危険性はそれなりに知っている様子はあったみたいだね」

 

 「…………」

 

 「翔太郎?」

 

 「なぁ、もし自分が知らないところで罪を犯していたとして、それを知らない誰かが償おうとしてたらどうする?」

 

 「君らしくない質問だ。けれどそれを知っていたら、残酷な運命があろうとも事実を告げるべきだ」

 

 僕の言葉に翔太郎は水面を見つめる。

 

 「……俺、この世界にメモリを持ち込んだ本人と出会ったんだ。そいつは自身がやってしまったことの大きさを分かってたし、何より誰も巻き込みたくないって一人で抱えてた」

 

 「俺達がここに来たのは偶然じゃなくて、そいつを助ける為に呼ばれたんじゃないかって思うんだよ」

 

 「なるほど。君の直感は恐ろしい程に当たるからね。君がそう思うなら悪くない。が……」

 

 「が?」

 

 「それを理解していながらなぜ、メモリをバラまく行為に走ったのか。そこが腑に落ちない。それにメモリを知っているということは少なからず風都に関係がある人物だ」

 

 「そうか!なら……」

 

 「カズマ君と同じ転生者だ。何の目的を持って持ち込んだのかは分からないが、検索をしてみれば引っ掛かるはず。それから様子を見てみよう」

 

 話が終わり僕は温泉から出ようと立ち上がる。そして思い出したかのように口を開いた。

 

 「鳴海壮吉が言っていたよ。よくやった、とね」

 

 翔太郎は憧れのハードボイルドを忘れ、ぐしゃぐしゃに泣き崩れた。

 




後半からおやっさんが出てきませんでしたが、また近い内に出番があるのでその時にその後を描こうと思います。

漫画でのこのすばでは骨のみの死骸が、アニメでもカズマが骨のみ、そしてダクネスの鎧が溶かされていた描写から勝手にこれって骨溶けないんじゃね?ならスカルで無双出来んじゃね?と、勝手な解釈をしたんであしからず。

一応、この時点で誰がメモリを持ち込んだのかという犯人は翔太郎は分かってます。しかし彼もお人好しのハーフボイルド。きっと気が熟すまで咎めることはないでしょう。第一自分が使うのにバラまくという行為に意味がないですし。それこそ克己ちゃんじゃあるまいし。

次回から原作5巻です。原作グループも活躍させようと思っていますが、そうなるとWが全然出てこねぇやというジレンマに陥ってます、はい。


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L迫る/紅魔の里帰り

「いよいよ原作5巻が始まるが、何か話すことは?」

「ガチャ運を上げるにはどうすればいいですか?」

「まだ迎えるのに相応しくなってないってことだ。常に鍛練、相手に相応しくなれば自ずとやってくる」


 速いものでアルカンレティアの旅から一週間以上が経過しようとしていた。

 

 ここ最近目立ったこともなく平和な日常が続いている。もちろんメモリに関して捜索は怠ったりはしていないが、探知能力があるわけではないので進展はない状況だ。

 

 また、メリッサとの通信も最近はめっきりない。やはり彼女もメモリ持ちとなった分、魅了されてしまったのだろうか。ならばいち速く見つけなければ。

 

 また長旅にでもと考えるが、そもそも僕達は探偵だ。依頼や問題を受けて初めて行動に出る仕事。闇雲に探したところで結果はゼロに等しい。

 

 だが、収穫がなかった訳でもない。

 

 ファングメモリ。以前、スコールが所持していたが鳴海壮吉の後押しにより譲り受けたものだ。

 

 それに翔太郎はもう一本のジョーカーメモリを手にしている。これがあればWのもう一つの姿、僕の肉体をベースにした【ファングジョーカー】に変身できる。

 

 だがやはりそこはT2。出力が元々持っていたメモリより高い為、【ファングトリガー】や【ファングメタル】には安定してなれない。この2つも元々安定はしてないのだが。

 

 僕が今成すべきことは事件解決もあるが、悪魔のバニルと契約した商品の製作だ。

 

 ちなみに製造担当はカズマ君。冒険者の立場を活かし物造りに貢献して貰っている。分け前はバニルとカズマ君の折半。僕の分は家賃やらで帳消しにさせて貰っている。

 

 「フィリップ。お客さんだぜ」

 

 翔太郎の呼び声に反応し立ち上がりリビングまで降りていく。ソファに座っていたのは睨み会うアクアちゃんとバニルだった。

 

 「フィリップ!」

 

 「どうしたのララちゃん」

 

 「だからそれは……ともかく無事だったんだな?!」

 

 「無事って別に戦ってた訳じゃないんだから」

 

 僕の答えにポカンとした様子を見せる。それはララちゃんだけでなく、めぐちゃんやカズマ君も一緒だった。

 

 「お前、三徹してたの気づいてないのか?」

 

 翔太郎からコーヒーを渡され初めて気づいた。そんなに引きこもっていたのか。

 

 「以前のときめの誘拐に比べれば全然マシさ」

 

 「あの時とは話が違うだろ。しかし、悪魔と商談なんて危なっかしい匂いしかしないな」

 

 「安心しろ格好つけの小僧。我輩は悪魔故、信じれば救われるなど現を抜かし金を巻き上げる宗教とは違う。ちゃんと契約に沿うなら叶える」

 

 今にも立ち上がろうとするアクアちゃんをカズマ君が抑える。翔太郎は格好つけと呼ばれるが反応はない。まぁ、唯一の年長者だ。下手に反応するだけ野暮というもの。握りしめる拳は見えているけどね。

 

 「……ごめん。三徹と聞いて改めて眠気が来た。これを渡しておくからあとは頼む」

 

 「分かったよ。じゃ、こっからは俺がやるか」

 

 受け取った設計図を机に広げる。元幹部と商談なんてと思ったが、有利を取れるのは間違いない。探偵の仕事は綺麗事ばかりじゃないしな。……これ、探偵の仕事か?

 

 「で、商品を見せて貰おうか」

 

 「俺も何も聞いてないけど」

 

 机に受け取った設計図を広げる。こと細かく描かれたそれは知識に乏しい俺でも分かった。

 

 「カメラか」

 

 「カメラだな」

 

 「カメラとは?」

 

 前者2つは俺とカズマ、後者はめぐみん。多分バットショットを基に造ったんだろう。メンテナンス程度なら出来るしな。

 

 「簡単に言えば絵画みたいなもんだ。絵画は筆を使って描くから時間がかかる。これはその瞬間を映しとるって言えば分かるか?」

 

 よく分かってないめぐみんとダクネス。商品化するなら実物見せた方が速いか。でもあんまり科学的なものを見せるのも色々とまずい気がする。

 

 「悪い。専門的なことは俺には分からねぇ。これは託すからまた今度出直してくれないか」

 

 「ふむ……まぁいいだろう。見た限り必要な素材はまだ我輩のルートに無いものも幾つかある。まずは低予算で造れるものを提案してくれ」

 

 意気揚々と出ていくバニル。悪魔って聞いた時は大丈夫かと思ったが、あいつらの食事である悪感情ってのもイタズラぐらいで手に入るもんだし、むしろ守る側ならとやかく言う必要もない。

 

 「カ、カズマさん!」

 

 バニルと入れ違うように来たのはゆんゆんと以前カルナレルンで出会ったアクセルハーツの三人だった。

 

 「珍しい組み合わせだな」

 

 「左さんがどこに住んでるか分からなくて。彼女が向かうと言っていたから同行させて貰ったんだ」

 

 「そ、そうなんです……それよりもすみません!私……カズマさんの子どもが欲しいんです!」

 

 恒例の珈琲を噴き出すことすら忘れる爆弾発言。周りの女子郡はドン引きだった。

 

 俺は含んでいた珈琲を飲みカップを置く。

 

 「……オーケー。まずは落ち着こうか」

 

 静かに同じく珈琲を垂れ流すカズマを見て、ここは俺が取り仕切らなければと使命感に駆られた。

 

 いつもの依頼と同じスタンスで行け。いきなり何を言ってきたのかはとりあえず置いといて順に把握していこう。

 

 「まずはだな。ゆんゆんは自分が何を言ってるのか理解しようか」

 

 「だって、だって!早くしないと里が、皆が!」

 

 里……?そういやフィリップが紅魔の里とか言ってたな。

 

 「なるほど。つまり里のピンチを救うには俺とゆんゆんが子作りする必要があると。そういうことだな」

 

 謎のどや顔。これ以上喋らないのが身のためだぞ。初見のアクセルハーツ組なんて部屋の隅っこで固まってるし。

 

 「俺としては娘が欲しいんだが」

 

 「いえ、まずは男の子が!」

 

 「娘にパパと呼ばれるのは男にとって夢でもあるから譲れないな」

 

 「何を勝手に話を進めてるんですか」

 

 止めようにも止められなかった二人の会話を容赦なくぶったぎるめぐみん。マジで助かった。

 

 「里と言ってましたが何かあったんですか?」

 

 「っと、そうだ。一大事ならめぐみんにも連絡が来るはずだろ」

 

 「こ、これ見てください」

 

 ゆんゆんから差し出された一枚の手紙。一通り読み内容を要約すると、魔王軍が攻めてきてまずい状況ってことか。

 

 「大変じゃねぇか!」

 

 「待ってください。私達は紅魔族、魔法のエキスパートですよ?そう簡単にはやられませんし攻めてくることなんて日常茶飯事だったじゃないですか」

 

 「そ、それはそうだけど……そうだ、裏も見てください」

 

 手紙の裏面には続きが書いてあった。……これ、明らかに筆跡が違うがとりあえず読んでみるか。

 

 「残されたゆんゆんと結ばれるのは何の力もなく働かない男。だがその間に産まれる子どもが勇者になる、と。それでカズマのところに来たって訳か」

 

 「おい、なぜ私はいなかったことにされてるんですか」

 

 「それは送ってきた奴に問いただせ。それより筆跡が違うが本当に同一人物が書いたのか?」

 

 「著者『あるえ』と書いてありますね。郵便が高いので同封しますと」

 

 ゆんゆんの表情が石のように固まる。顔を真っ赤にしながら手紙をくしゃくしゃに丸めるその姿は見てもいられなかった。

 

 「えっ、俺のことは?!」

 

 「何でもなくなったし、お前はゆんゆんからだらしない男だと思われてる」

 

 俺は慰めるように肩を叩く。確かにカズマのだらけぶりはちょっと目に余る。

 

 「でも表の手紙は事実なんだろ。力なら貸すぜ」

 

 「あっ、いや、その……だ、大丈夫です。お騒がせしました」

 

 そそくさと出ていこうとするゆんゆん。しっかりしてるがまだ中学生かそこらだ。家族同然の人達が危機に晒されてるのに動揺しないはずがない。

 

 「困ってるならちゃんと頼れよ。そりゃお前よりか弱いかもしれないけど……一応年上だし、場数は相当数踏んでる。タダ働きでも救われる奴がいるならそれでいいしな」

 

 「翔太郎ってカズマと同じ最弱職なのに格好付けたがるわよね」

 

 「バッチリ聞こえてるからなアクアー」

 

 サッとダクネスを盾に隠れるアクア。どうやらこいつらはどこか俺を舐めてるとこがある。

 

 それはいいとして、肝心のゆんゆんから返事がない。紅魔族は目立ちたがりと聞いたが、この子は感性は普通、むしろ真逆まである。

 

 「シエロ、エーリカ。今度のライブは紅魔の里でやらないか?」

 

 申し出を出してきたのはリアだった。

 

 「そうね。どれだけ強くても一番かわいいのはエーリカちゃんって教えないといけないわよね」

 

 「うん。僕も賛成。下見もしないといけないしね」

 

 「というわけだ。ゆんゆん、案内してくれると助かる」

 

 三人でゆんゆんの背中を押しながら出掛けようとする。同世代ならこういうやり方も出来るのか。これなら余計な気を使わせることもない。

 

 「翔太郎も早く行こう」

 

 リアの言葉に俺は頷く。カズマらにフィリップには上手く伝えておくように託し、俺は再び街を出ることにした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日。丸一日寝ていたフィリップが起き、俺は翔太郎がアクセルハーツとゆんゆんとともに紅魔の里に行ったことを伝えると、フィリップは海より深いため息をついた。

 

 「翔太郎の性格を鑑みれば元から分かっていたことだ。それで、君達はどうするんだい」

 

 「めぐみんがどうしても妹の安否が気になるからいくぅぅぅぅぅ?!」

 

 当の本人が気恥ずかしさを隠すようにカズマ君の腕をつねる。家族が心配なら隠すことはないはずなのに。

 

 「分かった。けど今回は僕は遠慮させて貰うよ」

 

 「どうして?」

 

 「やらないといけないことが山程あるからね。それに紅魔の里には強者ばかりならいなくても大丈夫だろう」

 

 「ん、あ、わ、分かった」

 

 「どうするのよカズマ。むしろ道中が不安だから付いてきて欲しいのに!」

 

 「そんなこと言われてもしょうがねぇだろ。この間の風邪で無理してるところもあるだろうし……それにフィリップが頑張ってくれないと金儲けも出来ないだろ」

 

 「それじゃ、気を付けて」

 

 僕は出発する4人を見送り、一人屋敷に佇んだ。いざとなれば翔太郎が変身を呼び掛けるはずだ。

 

 

 

 

 

 「紅魔の里までどれくらいかかるんだ?」

 

 「私がここまで来た時は歩きで3日はかかりました」

 

 昨日の時点でゆんゆんたち達は馬車に乗ってたし、単純に間に合わそうにない。

 

 「フィリップが一緒なら5日はかかるな……」

 

 ダクネスが疲れた表情でふと言葉を溢した。前回の旅で相当苦労したんだろうな……

 

 かといってこのままほっつき歩いても始まらない。素直になれない紅魔族の為に人肌脱ぎますか。

 

 やってきたのはピンクのエプロンを身につけた悪魔がいる魔道具店。それはお前の趣味なのか?

 

 「同じ冒険者なのに格好付けの小僧とは天と地の差を感じている最弱職に実家の威光もあまり活用できていない堅物騎士、チンピラ女神にネタ魔法しか使えない紅魔族が何のようだ」

 

 「バニル。一応、俺は開発担当なんだ。お前の商売は俺のやる気次第のところもあるんだぞ?」

 

 「立場的には我輩の方が上だ。だとしてもストライキは勘弁だ。して、その格好を見るにまた旅に出るようだな。準備なら我輩の魔道具店をご贔屓に!」

 

 「バニルさんのじゃなくて私のです!」

 

 会話が聞こえてたのか、店から顔だけを出して訂正する本来の店主。噂ではまた欠陥品の在庫を抱えていると聞いたが……

 

 「まぁ、商品もそうなんだけど。今回はウィズに用事があって。テレポートでアルカンレティア付近まで送って欲しい」

 

 「また旅に出るんですか。ならこちらの商品なんてどうですか?最近仕入れたばかりでーー」

 

 「商売を仕入れたなんて聞いてないが」

 

 凍りつくように動きが止まるウィズ。バニルは大きなため息をつき頭を抱える。

 

 「負債を増やすことについては並外れた才能を持つポンコツめ。小僧、今回は特別サービスで貴様の未来を見通してやるから買わぬか?」

 

 「遠慮しておく」

 

 「だろうな。まぁ、悪魔は気まぐれ故、一つ助言をしておいてやろう」

 

 

 「『誘惑には気を付けろ』」

 

 

 仮面の下で怪しい表情を浮かべていそうな雰囲気で、バニルは助言ーー忠告をした。

 



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L迫る/カズマの憂鬱

「……」

「どうしたんだあいつ」

「遅らせながら、ゼロワンotherを見終えたらしい。あんな展開になるなんて思ってもみなかったと」

「だからあれほどVシネは覚悟しろと……で、Wリターンズで俺が主役のやつは?」

「オーズはあるが、君の予定はない」

「なんでだよぉ!フィリップのいない一年間とかで話がつくれるじゃんかよぉ!」

「漫画がある時点で察したまえよ……」


 案の定ポンコツ店主が仕入れた商品がガラクタと判明し、死なない程度に殺人光線を浴びせた後、あの悪魔がやってきた。いや、今は企画者という立場か。

 

 「昨日の今日だが、もう次の商品案が出来たのか?」

 

 「まだだよ。今の君の流通でどれだけのものが入荷できるか知りたくてね」

 

 小僧の話では商品開発の為に今回は留守番と聞いたが、どうやら本気のようだな。

 

 「ふむ。ではリストを持ってこよう」

 

 店内を物色する悪魔を背に店奥にあるリストを漁る。我輩の見立てならあの悪魔に不可能はないに等しい。

 

 むしろあの悪魔が作っていたものーーメモリとやらに興味がある。未だ詳しく見ていないのでどうなのかと思うが、世界がひっくり返ることは確かであろう。

 

 そしてそれに対抗し、危機を救ってきたことも事実。格好付けの小僧でさえそれに含まれているのは驚きだが。

 

 「これがリストだ」

 

 神妙な表情で悪魔は商品リストを読み始める。さて、何が出来るか、何を作るか……これは見通さない方が面白そうだ。

 

 「この【雷撃岩】というのは?」

 

 「杖に使われる鉱石だ。主に稲妻系の魔法を使う際に威力を上げたりするのだが、マナタイトがあるおかげで日の目は浴びんな。それこそ爆裂娘が同じ分類の【爆撃岩】を使うぐらいか」

 

 爆裂魔法を使う際に威力が上がる特殊な鉱石だが、そもそも爆裂魔法がネタである為に需要がない。

 

 「……バニル、この雷撃岩とその爆撃岩は手に入るかい?」

 

 「爆撃岩はすぐに手に入る。雷撃岩はいつになるか分からんな」

 

 「いくつか入荷しておいてくれ」

 

 悪魔はリストを見つめながら言ってくる。活用法方を見出だしたのか。

 

 その時、店の鐘が鳴った。入ってきたのは獣人といかにも盗賊職をしていそうな女だった。

 

 「久しぶりだな、フィリップ!」

 

 「ミーアちゃん?サムイドーに帰ったと聞いたし、馬車は出てないはずだよ」

 

 「そうなんだけどなー……一週間前ぐらいから雪が途端に止んで積もらなくなったんだ。」

 

 サムイドーは北にある極寒地域だ。僕達で言えば北海道や東北地方、その辺りが該当する。

 

 暖冬といって気温が暖かい時はあるけど、雪が積もらないのはおかしい。

 

 「私は歩いてるミーアちゃんを見かけて一緒に付いてきてあげたのよ」

 

 そう言ったのは付き添いのメリッサだった。小動物好きとは聞いたが、獣人もアリなのか。

 

 「そういえば君がここにいることはエイミーには伝えたのかい?」

 

 「なんか忙しそうにしてたから手紙を残しておいたぞ!」

 

 彼女のパニックになる姿が目に浮かぶ。後で手紙を出しておこう。

 

 「それでな、フィリップなら何か教えてくれるかもって思ったから来たんだ!」

 

 「僕は神様じゃないから何も言えないけど……とりあえず状況を知りたい。翔太郎達が帰ってくるまで待っててくれないかな?」

 

 少しシュンとするミーアちゃん。僕一人で行ってもいいが、一応翔太郎達は戦地である紅魔の里にいる。いつWが必要になるか……

 

 「しばらくは屋敷にいるといい。部屋も空いてるし、カズマ君も余程じゃなければ怒らないはずだ」

 

 「本当か?!じゃあ、おじゃまするぞ!」

 

 元気に返事をするミーアちゃん。しかし異常気象か……これは早急に作業を進めなければならないかもしれないね。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 馬車に揺られ、俺達は以前訪れたアルカンレティア付近の乗り場に到着していた。

 

 この辺りから紅魔の里までは危険なモンスターが多く、基本的に馬車は出ていない。大体の人はテレポートを使うか、強い冒険者を雇うなどして向かうらしい。

 

 「んじゃ、ゆんゆんだけでもテレポートで先に向かうか?」

 

 「えっ、いや、でも……」

 

 「乗ってる間ずっとそわそわしていたしね」

 

 リアの言う通り、余程自分の里が心配していた。強い強いと言われる紅魔族だが、やっぱり不安はある。俺だって風都が今でも心配だ。

 

 ただ問題はそれを使うと相当な負担がある。実際、以前に使った時にはそれだけで魔力は無くなった。本当、メリッサがいなかったら不味かったと心底思う。

 

 「その……」

 

 「可愛いエーリカちゃんと一緒に行ってお友達に自慢したいとか?それなら全然構わないわよ」

 

 「それは違うんじゃ……」

 

 いつもの調子のエーリカに、苦笑いをするシエロ。なんか場違い感が半端じゃない。そうだよな、生粋のハードボイルドが女子に囲まれてなんて柄じゃない。

 

 ……しかし、一向に自分がどうしたいか言わないな。俺だったら真っ先に頼むがーー

 

 「もしかして一緒に行きたいとか?」

 

 俺の提案にゆんゆんは頷いた。

 

 「それならそうだって言ってくれよ」

 

 「皆さんを巻き込んだ挙げ句、邪魔にならないかなって」

 

 「最初に言ったろ。俺は探偵だ。どうしようもならなくなったら頼れ」

 

 ゆんゆんの頭をくしゃくしゃと撫で道を歩く。後ろからはリアがゆんゆんの手を引き、エーリカとシエロが背中を押すようにして付いてきた。

 

 

 

 道中は目立ったモンスターにも出会わず難なく進行できた。この間の魔王軍しかり、そしてアクシズ教徒のこともあるだろう。たった1日しかいなかったが、あれは本当に訴えていい迷惑集団だ。

 

 後ろでは四人がトークに花を咲かせている。本当ならこれがあるべき姿だと納得させ進んでいくーー

 

 突然にやって来た、僅かに聞こえた少女の叫び声。俺は後ろに構わず走りだした。

 

 すぐに見えてきたその光景は目を疑うものだった。カズマが刀を持ち、その前には首を切られた少女がいた。残された体には傷痕や包帯もある。

 

 「お前……!」

 

 「翔太郎……!これは違うんだ!」

 

 俺はカズマを殴った。街の皆からは鬼畜だの鬼だの言われてもたまたまの事故で故意はないと思っていたが、ここまで非道な悪魔に成り下がったか。

 

 地面に背を付け倒れるカズマ。やる気がなかったりダラダラしたりと性分こそ悪いがやる時はやるやつだと俺は信じていた。

 

 そりゃダクネスを盾にすることもあったが、あれは役割を全うさせてるだけだ。【スティール】をクリスから教わった時も、パンツを盗んだのは勝負を仕掛けてきたクリス側にも責任がある。故意だと言いきれない。

 

 「何も違くねぇだろうが!」

 

 「本当に違うんだよ!」

 

 遅れてやってきた四人の内、アクセルハーツの三人も惨劇を見て完全に敵視している。

 

 「……あの。これ、【安楽少女】っていうモンスターです」

 

 ゆんゆんの言葉に俺を含めアクセルハーツも首を傾げた。モンスター?

 

 「庇護欲を煽って冒険者から生命力を吸いとるんです。一応、紅魔の里でも危険なモンスターとして登録されてます」

 

 「食虫植物の親戚みたいな?」

 

 「しょく……?よく分からないですけど、普通なら耐えるだけでも相当なのに倒すなんて凄いですよ」

 

 カズマが差し出してきたこの辺りで出現するモンスターを見ると、さっきと酷似した少女が書き記されていた。

 

 「その……すまねぇ。こっちの勘違いで」

 

 「そんな勘違いするってことはそう思われてるってことだろ」

 

 カズマの言葉が俺の胸に突き刺さった。まるで信じてた人に裏切られたと、そう思わせるようなものだった。

 

 「おっ、今のでレベルが3つも上がった。そんなに強くないし、今度見かけたらまた狩らないとな」

 

 ホクホク顔で歩いていくカズマだったが、少し孤独感が滲み出ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 めぐみんとゆんゆんの話ではここから歩けば夜には着くとの話だったが、危険なモンスターも出る上に今は魔王軍との交戦状態。下手に動くより一晩野宿を決めた。

 

 見張りは仕事柄慣れている俺と徹夜に強いカズマが担当することになった。順番は俺→翔太郎→俺……と、一時間交代だ。

 

 「カズマカズマ」

 

 「なんだよ」

 

 「なんでそんなに怒っているのですか」

 

 「弁明もなしにどっかの駄女神が殴ってきたら怒るだろうが。ヒールかけれるからっていい加減にしとけってんだ」

 

 一応危険指定されたモンスターをやったのにグーパンとかダクネスぐらいしか喜ばねぇ。

 

 「カズマは勘違いされやすいですからね」

 

 唯一の焚き火が暗闇を照らすなか、俺にはめぐみんの表情がはっきり見えてしまった。なんか無性に高揚する……俺はロリコンじゃない。無駄に顔が良いせいだ。

 

 深呼吸し一気に息を吐く。焚き火の炎が揺られる。まるで俺の動揺を示してるようで若干の苛立ちを覚える。

 

 「……なぁ、やっぱりさ。俺も翔太郎みたいに強かったらもっと信頼されてたのかな」

 

 咄嗟に変えようとして出てきた話題にめぐみんは小首を傾げた。

 

 「と、言いますと?」

 

 「翔太郎は魔法も使わないけど対人戦は負けなしだろ?それをカバーするようにフィリップは大型モンスターに対応する。お互いを理解しあって何をどうするか、言葉にしなくても分かってる」

 

 「でも俺はきっと違う。もちろんお前らが世話がかかるのもあるけど、その相棒みたいな関係性になっても俺が足を引っ張りそうな気もしそうで……」

 

 「さらっと人をお荷物扱いしたことは覚えときます。……まぁ、確かにあの二人と比べたらまだまだと感じることはありますよ」

 

 めぐみんはそっと俺の手に自分の手を重ねてきた。心臓が思わず跳ね上がる。

 

 「けれど私はカズマが弱いと思ったことはないですよ?むしろ弱い分、誰かに優しくあろうとか……なんて、言葉にすると難しいですし、やってることは真逆ですけど、弱いから分かることだってあるじゃないですか」

 

 「何より今こうやって弱音を吐いてくれたことが嬉しいです。爆裂魔法しか使えない私に文句を言いながらも仲間に加えてくれたことが嬉しいです。これから先、どれだけ優れた人に出会っても、カズマを見捨てることはありません」

 

 めぐみんの紅い瞳は目の前の炎より熱かった。俺は何も言えなかったけど、何かが込み上げていた。

 

 「……えっと、そろそろ寝ますね!」

 

 自分が言ったことの恥ずかしさに限界を感じたのか、めぐみんは慌てた様子で立ち上がり寝床へと向かった。

 

   




今年中にもう1話投稿できたらなと思ってます。


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強襲V/現れたドーパント

ビヨンドジェネレーションズを見てきました。

今回はストーリー重視というわけで、恐らくライダー要素抜きにしても完成度は高い部類に入ると思われます。

あとやはり迫力あるスクリーンで変身を見るのは良いですね。クロスセイバー、バリットレックスなんかなぜか泣きそうになりました。

やはりライダーにとって時間を越えるのは列車の役目なんだと再認識しました。


 一夜明け、交代で見張りをしていたせいか未だに眠気が残っていた。

 

 一方のカズマはそんな様子を見せることなくへっちゃらな様子だった。今度、どうやったら徹夜に強くなるか聞いてみようか。

 

 そんなことを思いながら歩いていると、森を抜け大きな広場に出た。広場というよりその一帯にまるで木々が生えていない。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「ここだけ何もないってのも変だと思ってよ」

 

 「ここは紅魔族がレベル上げによく使いますからね。そのせいで自然も生えることを諦めたのでしょう」

 

 少し格好つけて説明するめぐみん。ゆんゆんが否定しないのを見るにマジなようだ。末恐ろしい。

 

 ただやはり、あちこちにアクセルでは見かけないようなモンスターが全然いる。なんならドラゴンとか飛んでる。大きさは……テラードラゴンぐらいか。

 

 「一塊で行くか。カズマ、確か敵を見つけるスキル持ってたよな?」

 

 「【敵探知】のスキルか。じゃあ俺が一番前だな」

 

 「いや、前より後ろ側だ。常に背後からの敵襲を気を付けてくれ。ダクネスは壁役を頼む。囲まれたら背中を預ける形で円形になれ。めぐみんはいつでも対抗出来るよう中心に入ること。不慮で分かれた時はなるべくアクアとシエロは別々になること。いいな?」

 

 俺の言葉に全員が頷く。ただ一人、カズマだけ遅れて小さく返事したのを見逃さなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「翔太郎はなんで探偵とやらになったんだ?」

 

 荒野を歩いていると何となくリアが聞いてきた。

 

 「そりゃ探偵より格好いい、何よりハードボイルドな仕事なんてねぇだろ」

 

 全員が首を傾げた。普段ペット探ししか見てないお前らからしたらそうなるだろうよ。

 

 「じゃあ、きっかけとかあるの?」

 

 「あれは俺の小さい頃、歌姫が街のコンサートを開いた時だった。ステージに突如ドーー刃物を持った男が登壇して歌姫を人質する事件が起こった」

 

 「緊張が走る会場、そんな時二階から飛び降りるように現れたのがおやっさんだった。素早く犯人を薙ぎ倒し歌姫を奪還してこう言った。『俺の依頼人に手を出すな』……電流が走ったぜ」

 

 「何ですかそれは……格好良すぎます!名乗りが大事と思ってましたが、多くを語らずと言うのもなかなか……」

 

 めぐみんもこの渋さが分かるようになったか……感慨深いな。

 

 「それに憧れて弟子入りしたってことか」

 

 「そうだな。まぁ、正式になるのに十年くらいかかったけどな」

 

 「十年もよく飽きなかったわね」

 

 「飽きるわけねぇだろ。認められた時はすげぇ嬉しかったし、いつかはって思ってたさ……」

 

 悟られぬよう、俺は帽子で目元を隠した。男の目元の冷たさと涙を隠すのが帽子の役目ってな。

 

 その時、目の前に立ち塞がるものにぶつかった。岩だとしても……

 

 のっそりと動くそれは、球体の状態から足、巨大な左腕へと起こしていく。こんなところになんでだよ……!

 

 振り下ろされる左腕の攻撃をドッチロールで避ける。バイオレンスドーパントなんて聞いてねぇぞ!

 

 「魔王軍(あいつら)が絡んでるならなくもないか……」

 

 ジョーカーに変身しようにもここですればカズマ達にも及ぶ。仲間だとバレたら人質にする、なんて展開もあり得る。

 

 俺とバイオレンスの合間に割り込んだのはダクネスだった。全身で攻撃を受け止める。

 

 「この強さ、格別だ!」

 

 体が震えているのは攻撃のせいであって、決して喜びでないことを祈りたい。  

 

 だが、ここで俺が前に出るのも分が悪い。ここはさっさと逃げるが吉だ。

 

 既にカズマとアクアは逃げ始めている。すぐそばには爆裂魔法を唱え始めるめぐみんがいる……えっ、ここで使うのか?!

 

 そう思うのも束の間、バイオレンスドーパントはダクネスを振り払い再び球体に変化、バウンドしながらめぐみんに急接近する。

 

 「【護りのプレフュード】!」

 

 リアが間一髪めぐみんに防御を張り耐えきる。爆裂魔法を使わせまいと走り出す。がーー

 

 「【エクスプロージョン】!」

 

 圧倒の魔力に負け、間に合わなかった。なんか前よりも威力上がってねぇか?

 

 爆風に負けないように身を堪える。ウェザーの時みたいに人間が被験者だったらまずい。途中で解除されてしまえばっ?!

 

 ボロボロになりながらも黒煙から球体の状態で飛び出してきたバイオレンスドーパント。バカな、あり得ない!

 

 バイオレンスドーパントは最後っ屁と言わんばかりに空から落ちてくる。位置はめぐみんーーいや、リアだ!

 

 それに気づいたのは俺だけではなく、シエロとゆんゆんも同じだった。二人は風魔法を放ち着地点を変えようと試みる。

 

 「間に合えっ……!」

 

 ギリギリでリアを突き飛ばした。そしてバイオレンスドーパントは、俺の右足を潰すように着地した。

 

 叫び声にすらならない痛み。テレビの電源が切れるように俺は意識を失った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 『終わりだ、過去の仮面ライダー!』

 

 因縁の相手の声が木霊し、俺は飛び起きる。同時に右足にジンジンと痛みが走る。

 

 こめかみを噛み締めながら辺りを見渡す。ベッドの上みたいだ。確かバイオレンスドーパントが現れて……

 

 ゆっくりと思い出していく。今まで戦ってきた精神もあってか、ショック死まではいかなかったみたいだ。

 

 「……なんであいつなんだ?」

 

 こういうのはフィリップとか、ときめが出てくるだろ。まぁ、それも置いといて。

 

 潰されたはずの右足は何事もなかったように再生されている。ただ、やはり違和感は残る。恐らくメモリによる攻撃の後遺症だ。歩くことも覚束ないのを見るにしばらく戦闘も無理だな。

 

 「なにやってんだよ……」

 

 そうぼやいていると扉が開いた。立っていたのはリアだった。

 

 「翔太郎」

 

 「えっと……何があったか教えてくれるか?」

 

 リアの話ではあの後、ゆんゆんの必殺魔法が決まりその隙に一気に駆け抜け脱出に成功したようだ。

 

 しかし爆裂魔法のせいで周りに散らばっていた魔王軍残党に囲まれたところ、見回りをしていた紅魔族に助けられたようだ。

 

 アクアの治癒によって人間じゃ再生不可能とまでになっていた俺の右足もなんとか形を保つところまで戻り、あとはシエロが治してくれたようだ。

 

 「他は?」

 

 「せっかくだからと観光に行った」

 

 薄情だなおい。

 

 「お前は良いのかよ」

 

 「怪我を負わせた張本人なのにそんなことできないよ」

 

 申し訳ない感情が滲み出ていた。第一、まだ高校生の年齢なのにあんな思いする方がおかしい。

 

 「俺はボディーガードとしてお前を守ろうとしただけだ。仕事を、言い換えるならクエストを遂行するのが役目だろ。気にすんな」

 

 俺がこんなこと言ったところで元気付くはずもないのは分かっていた。ともかく、あのドーパントに関して情報を集めねぇとな。

  

 弾みをつけて立ち上がるも、やはり立ち眩みと痛みが襲いかかってきた。リアに受け止められなんとか壁に手を付けながら歩いていく。

 

 「まだ動いちゃダメだ」

 

 「激しい運動はしねぇーよ。それよりもあのモンスターがどの時期に現れたかぐらいは把握しとかねぇと」

 

 バイオレンスドーパントにも関わらずあの耐久力は考えづらい。一応幹部らを葬ってきた魔法も耐えるとなると……

 

 俺はそんなことを考えながら、足を引きずり外に出た。穏やかな田舎のようで、とても戦地には思えない。

 

 「本当に戦ってるのか?」

 

 「戦ってはいるみたいだが……紅魔族が優勢らしく、あの手紙もほぼ嘘というか……」

 

 歯切れが悪いリアを見て頭を抱える。あれか、めぐみんみたいにみんなあんな性格なのか。

 

 「皆はどこに行くって?」

 

 「確か服屋に行くとか。めぐみんがマントを新調したいらしい……いや、やっぱり止めとこう」

 

 「大丈夫だって。第一、俺が動けなくなったところでろくに戦力になりゃしないだろ?」

 

 冗談交じりに……いや使えないのは本当なんだけどな。

 

 とりあえず俺達は服屋に向けて出発した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 服屋に到着すると、エーリカと店主に挟まれシエロが困っていた。

 

 「何してるんだ」

 

 「このお店、かわいいを全然分かってないのよ!」

 

 「紅魔族なるもの格好いいが最優先だ……おや、貴方は?」

 

 「左翔太郎。探偵をしてる」

 

 「ほほう。つまりお仲間ですか」

 

 確認するなり服屋の店主はマントを翻した。

 

 「我が名はちぇけら!紅魔族随一の服屋の店主!」

 

 こんなのしかいないのか本当に。道筋でも会うたび会うたびされてきたが。

 

 「分かった。して、聞きたいことがあるんだが……」

 

 ふと目に入ったそれは当たり前のように庭にあった。滅多にどころかあるだけでもおかしい。

 

 「……あのライフルはなんだ」

 

 「あれは物干し竿の代わりに使っている。丁度長さがぴったりでね」

 

 物干し竿って、完全にアニメ映画とかでしか見ないスナイパーが使ってるようなもんだぞ。

 

 「使い方も分からないさ」 

 

 どうやらバイオレンスドーパントよりも気を付けなきゃいけない種族のようだ。

 

 「翔太郎、あのモンスターに関してなら店の人より助けてくれた遊撃隊とかに聞いた方がいいんじゃないかな」 

 

 遊撃隊……確かに戦闘中ならあってもおかしくないか。ライフルに関しては後から詳しく聞くとしてとりあえず今はドーパントが先か。

 

 すると先に4人の紅魔族がどこかに向かって走っていくのが見えた。あの感じ、長年の直感から見るに何かあったみたいだ。

 

 後を追おうとするとリアに肩を掴まれた。振り返ると無言で首を横に振られた。

 

 「翔太郎さん。その様子だとまだ傷は治りきってないんですよね。アクアさん程の力があっても治らないのはおかしいですし、安静にしてください」

 

 シエロは男性恐怖症だ。そんな彼女が自ら言うのは、メモリによる後遺症は相当らしい。何よりもアークプリーストの見解だしな。

 

 「わーたよ。俺は怪我が治るまで何もしない。安静にしてる」

 

 事実、戦うのは難しそうなのは分かるし。

 

 「その代わり、無茶はするなよ」

 

 「翔太郎に言われたくない」

 

 「同意見ね」

 

 俺は三人の背中を見送り一人で帰路に着いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

   

 

 




半端ですが年内はこれでさいごになると思います。

次から戦闘パートに入ります。来年もよろしくお願いします。


クリスマスアイリスに天井引かされたのは俺だけじゃないはず。


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強襲V/牙を向く時

あけおめウェーイ……もう半分過ぎましたが。ペースは遅れる一方です、はい。

一応補足として書いておきます。これはW×このすばで、基本視点は翔太郎とフィリップです。しかも別行動が多いので幾らか省いていますが、描かれていないカズマサイドでは原作と同じことが起こっていると解釈してください。

つまり何が言いたいかって言うと、原作も読めよ!ってことです。あとでタグ、追加しときます。


 ミーアちゃんを引き取り、しばらくの間彼女を屋敷に住まわせることになった。

 

 カズマ君達がいないならとメリッサもついてきたが、おおよそはミーアちゃんと離れたくないのだろう。

 

 「フィリップは昨日から何してるんだ?」

 

 広い庭でガチャガチャと作業をしている僕にミーアちゃんが尋ねてきた。

 

 「ちょっとした実験だよ」

 

 商品開発による担当はカズマ君に頼んだので僕自身何かを作れる訳じゃないが、鉱石を使って何を組み合わせたら何が起こるかぐらいはわかる。

 

 内容はバニルから頼んでいた鉱石を使っての実験だ。急な事だったため全てではないがーー

 

 その時、Wドライバーが巻かれた。

 

 「ミーアちゃん。悪いけど僕の部屋の机に道具箱があるから持ってきてくれないかな」

 

 「分かった!」

 

 ミーアちゃんが屋敷に入っていくのを確認しすぐさま対応する。

 

 「やるのかい?」

 

 『いや、ちょっと問題が起こってな。来れるなら来てほしい。ドーパントも現れてる』

 

 わざわざ呼ぶということは戦えない状況。ドーパントも現れているとなるとゆっくりはしてられない。

 

 「了解した。なるべく急ぐよ」

 

 Wドライバーが失くなったことを確認し顎に手を添える。エクストリームで行くのが一番速いが、ドーパントを僕達が相手するとなると魔王軍をどうするか……

 

 紅魔族が強いことは重々承知している。めぐちゃんやゆんちゃんの歳でもあそこまで強いのが証明してる。

 

 それゆえに翔太郎の問題が発生してるという報告が気になる。援軍も連れていくのが得策だろう。

 

 「フィリップー!」 

 

 思考を消す程の大きくて元気なミーアちゃんの声。手渡してきた道具箱を受け取り、優しく頭を撫でた。もしかして姉さん達もこんな気持ちだったのだろうか。

 

 姉弟では末っ子として生まれ、探偵事務所に来てからも年下はいなかった。ときめは……家族なのは当たり前だけどどうなんだろうか。

 

 「さっき一人で何か言ってなかったか?」

 

 どうやら獣人の耳は大きさに比例するようだ。だがミーアちゃんに心配を、ましてや危ないことに巻き込む訳にはいかない。

 

 「何でもないよ。さ、作業の続きをしようか」

 

 出発は夜中になりそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 里を訪れた人用の宿を借り、俺はベッドで寝転がっていた。

 

 時間は夜の10時を示そうとしていた。フィリップが来るならエクストリームメモリが飛来して知らせてくれるはずだが、その様子もない。

 

 それよりも問題なのは、床で布団を敷いてこちらを見ているリアだ。アクセルハーツの三人組もこの宿を借りているので、一部屋二人用として仕方ないこと……じゃないよな。

 

 「エーリカとシエロは?」

 

 「隣だ。シエロは言わずもがなだし、エーリカは踊り子としてダメだって」

 

 「その理論ならお前もダメだろ」

 

 「私は構わない。それにいつまた無茶をするか分からないからね」

 

 キツネのぬいぐるみ持ってる癖によく言うぜ。

 

 ま、同室だからって高校生相手に動揺する程俺も甘くない。言うことがあるなら寝る場所を変えるぐらいだろうが、今のリアに言っても返答は分かりきっている。

 

 さっさと寝るように俺は布団を被った。気にするな、なんてのは責任感の強いリアにとって酷な言葉になるかもしれない。

 

 色々と考えていると、警報が鳴り響いた。確か魔王軍襲来の合図だ。

 

 「行ってくる」

 

 「俺もーー」

 

 強く睨まれ、俺は萎縮した。しかし、このまま言いなりのままなんて無理だ。

 

 俺はリア達が出ていったことを確認してWドライバーを装着する。変身すりゃバレないが、いないことが判明したらもっと面倒だ。

 

 「まだかよフィリップ」

 

 『今、ウィズとバニルの三人で里付近まで来ている』

 

 「おっ、ウィズのテレポートだな……バニルも来てるって?」

 

 『彼曰く、嫌な予感がするらしい』

 

 嫌な予感って、悪魔がそんなこと言うなよ。

 

 「……バニルって見通すことが出来るんだよな。予感ってどういうことだ」

 

 『自身も分からないらしい。それほどまでに危機的状況だ』

 

 一気に不安感が煽られる。本当にこのままで良いのか、そう思う前に体が動いていた。

 

 ベストを羽織り帽子を被る。依頼人は、あいつらは俺が守る。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「起きなさいってば」

 

 目を覚まし視界に入ったのは魔王軍幹部の一人、シルビアだった。

 

 「おおおおっ、離れやがれオカマ野郎!」

 

 「見事な手のひら返しね……ま、邪魔もなかったからいいけど」

 

 そう言ってシルビアはカード片手に奥の厳重そうな扉の前に立った。

 

 確か……めぐみんの母親の策略でまた同じ部屋で寝ることになって、いい雰囲気になったところでコイツら魔王軍が現れたんだよな。

 

 昼間に会った時は進行よりも他にやることがあるとか言ってたけど、もしかしてこれのことか?でも里の観光地を一巡りしたが、そこまで問題あるのはレールガンくらいだし、ここも謎施設とか呼ばれて誰も来ないとか言ってたはずだ。

 

 「あれ……おかしいわね……?」

 

 必死にカードを翳すシルビア。逃げるチャンスだが、何をしようとしてるのかわかるチャンスでもある。

 

 俺は意を決してこっそりと覗き込む。そこには映画とかでよくあるパスワード入力する機械と、『小並コマンド』の文字。簡単に言えば格闘ゲームで使われるコマンドだ。

 

 「小並コマンドを入れろってことか?」

 

 「この古代文字が読めるの?」

 

 「読め……いや、俺は屈しないからな!」

 

 「私、そっちも得意なのよ」

 

 「喜んでやらせていただきます!」

 

 手際よくコマンドを入力すると、重い扉が徐々に開いていく。真っ暗の階段をシルビアは慎重に降りていった。

 

 姿が見えなくなり、俺は機転を効かせて静かに扉を閉めた。

 

 

 

 

 シルビアを閉じ込め謎施設から離れると、しっかりと着替えて来たあいつらが来た。

 

 「大丈夫ですか?!」

 

 「お前らがばっちり決めてる間にシルビアの奴は閉じ込めたよ」

 

 「そ、そうか……だがこれから戦うのに生半可の装備ではダメだろう」

 

 それはそうだが。ゲームの縛りプレイじゃないしな。

 

 「ねぇカズマさん。なんか匂うんですけど」

  

 「何言ってんだ駄女神。匂わねぇ……よな?」

 

 アクア以外の全員に聞き返すが、俺と同じ意見のようだ。毎日風呂は入ってるし、既に動き回ってるから多少の汗臭さは仕方ない。

 

 「んなこと言ってねぇでさっさとーー」

 

 その時、俺の背後で轟音が響いた。月灯りを背景に現したのは、下半身を大蛇のような鋼鉄の体に変化させたシルビアだった。

 

 「魔術師殺しが乗っ取られたぞ!」

 

 里長の言葉と同時にシルビアは不適に微笑んだ。口から炎を吐き、里全体が炎に包まれていく。

 

 「なんだよ魔術師殺しって!世界を滅ぼしかねない兵器ってやつか?!」

 

 「いえ、あれは違うはずです!」

 

 めぐみんが里の案内の時に言っていた【世界を滅ぼしかねない兵器】と違い一瞬の安堵をするも、そんなことしてる暇はない。

 

 シルビアがあれを乗っ取ることが出来てしまったのも俺がプレッシャーに負けてしまったせいだ。紅魔族の人らも次々と【テレポート】で逃げていく。

 

 気がつくと俺達のパーティーとゆんゆん、そしてアクセルハーツの三人組だけになっていた。

 

 「ゆんゆん!テレポートは使えるか?!」

 

 「覚えてないです!それに使えても……」

 

 言いきる前にシルビアの攻撃が飛んでくる。巨体に似合わず俊敏な動きをしてくる。

 

 最悪俺が死んでもアクアが蘇らせれるはずだ。これでも首飛んでるしな……って、自慢してる場合か!

 

 「まずは紅魔族からよ!」

 

 そう聞いて俺は隣にいためぐみんに覆い被さった。ゆんゆんの唱える魔法が聞こえ、俺は目を閉じた。

 

 

 しかし、一向に攻撃は来ない。めぐみんの腕の揺さぶりに目を開け振り返る。

 

 「T2出力のショルダーセイバーでビビ程度とは……。見たことのない材質のようだし、非常に興味深い」

 

 『んなこと言ってる場合かよ』

 

 シルビアはすぐさま魔術師殺しを確認する。数多の魔法も効かない魔術師殺しでも物理攻撃は無効化出来ない。

 

 「ここは僕達が引き受けよう」

 

 『首なし野郎の時みたいな対策、頼むぜ!』

 

 俺はすぐに立ち上がり、めぐみんをいつものように背負い走り出す。後から続けてアクアも追ってくる。

 

 「クルセイダーとして、逃げるわけにはいかない!」 

 

 「固いだけで攻撃も当たらない奴に用事なんてないわよ!」

 

 シルビアの口から業火が吹かれる直前、Wはショルダーセイバーを投げつけ攻撃を中断させる。

 

 「彼女には何を言っても仕方ない。あとは……あの子にも」

 

 冒険者の意地としてか、リアも槍を構えていた。その後ろにもシエロとエーリカの姿があった。

 

 『しゃーねぇ、やるか』

 

 右手でシルビアを指差し、開戦とも言える合図を出した。

 

 「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」




今回のファングジョーカーはT2仕様です。なので同じT2ジョーカーでないと変身が安定しません。暴走するからね、仕方ないね。

また、ショルダーファング、アームファングに関しては自由に出し入れ可能ということで……マキシマムは普通にスロットに装填となります。

メリットとしては火力の向上ですね。デメリットはAI搭載してないのでフィリップの緊急時に対抗できないぐらいです。あとは想像に任せます。


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Fの咆哮/もう一人の刺客……?

もう1月も終わりだと考えると速すぎねぇかと思う今日この頃。

だらだらと長くやってますが、もう少しだけお付き合いください。


 背後に炎の熱を感じながら、私は里から少し離れた家に向かって走っていました。

 

 バニルさんが言うにはこの付近にあるボロ家に住んでる女の子とペットの猫が逃げ遅れるとのことで、氷魔法が使える私が救出に向かっています。

 

 でもーーバニルさんがフィリップさんに言ったことが頭から離れませんでした。

 

 フィリップさんが人間ではなく、アンデッドではないかと疑ったこと。

 

 私もリッチーでアンデッドの王。流石に違いを見抜くことは出来ますし、アクア様もフィリップさんに対しては無反応なこともあり、あり得ません。

 

 けれどフィリップさんはすぐに否定しなかった。焦ることもなく、ただ沈黙を貫いていました。

 

 二人の会話にあった聞き慣れない単語ーー【データ】。この単語がきっとバニルさんがフィリップさんをアンデッドだと疑ったきっかけ。

 

 やがてバニルさんの言っていたボロ家が見えてきて、私は考えることを止めた。まずは女の子の救出をーー

 

 「あれ?この家って……」

 

 一度、売れる商品を見つける為に旅に出た時に寄った家だ。ここのご主人の作る魔道具がーーいえ、それよりも速くしないと。

 

 家に入ると居間にはまだ眠りこけている女の子と隣に頭を噛られている猫が一匹。猫と一緒に女の子を抱えて外へ出ると、炎がすぐそこまでやってきていた。

 

 「【カースト・クリスタル・プリズン】!」

 

 一気に炎を沈下させ進んでいく。危ないけれど、里の中心部まで行けばどこに避難しているか分かるはず。

 

 刹那、上空から巨大な鉄球が目の前に落ちた。その衝撃で未だ眠りこけていた女の子が起きてしまった。

 

 今まででも見たことのないモンスター。もしかしてフィリップさんが言っていたドーパント?でも前に見たものとは明らかに違う。

 

 先手に同じく氷魔法を放つ。下半身が氷付けにされ身動きを取れなくする。

 

 今の内に逃げようとするが、巨大化した腕で氷を二回叩き簡単に粉砕されてしまう。

 

 今度は相手が球体に変形し勢いづけて転がってきた。急いで沼魔法の【ボトムレス・スワンプ】を発生させ嵌めるも回転は止まらず無理矢理でも這い出ようとしてくる。

 

 逃げ道を作るには炎を消火しなければならない。女の子の安全も考えるとまずい状況だった。

 

 四の五の考えず炎を消火していく。しかし、ドーパントはやがて沼を這い出てこちらに迫ってくる。目前まで迫ったその時、ドーパントは止まった。

 

 「バニルさん!」

 

 バニルは黙ったままバニル人形を使役しドーパントを押し退ける。

 

 「今の内に行くぞ」

 

 「行かないといけない場所があったんじゃ……もしかして心配してくれたんですか?」

 

 「微塵もそのつもりはない。用事はその子どもだ」

 

 足早に進んでいくバニルさん。大量のバニル人形は未だドーパントを引き止めている。ここまで本気のバニルさんを見た覚えはなかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーー

 

 怒涛の勢いでシルビアを追い詰めるWに私達は圧倒されていた。

 

 俊敏な動きに加え、獣のような荒々しさ。ただ言えるのはーー

 

 「その一撃、私にも……!」

 

 「ダクネスさん……?」

 

 「んっ、いや、何でもない」

 

 シエロに声をかけられ我に戻った。時折見せる冷静なところもまた良し……じゃない。重い一撃じゃなく、連撃から得られる快感も考えものだ。

 

 「じゃない!今は戦いに集中しろ!」

 

 Wに負けじと突っ込んでいくも、シルビアはこちらに見向きもしないどころか視界にすら入っていない。

 

 「こっちもいるんだぞ!」

 

 「攻撃も当たらないクルセイダーに用はないのよ!」

 

 何よりも重い一言を喰らいその場で崩れ落ちてしまう。シエロに続きリアとエーリカすら慰めるように肩に手を置かれてしまった。

 

 『あいつ……』

 

 「むしろ好都合だ。僕達がやるのはあくまで時間稼ぎだからね」

 

 これまで何回か攻撃を繰り出しているが、最初の強襲以外しっかりとしたダメージが入っていない。流石は幹部といったところか。

 

 攻撃を通すというなら上半身の生身部分以外あり得ない。ビビが入っていたところもいつの間にか見当たらない。俗に言う再生能力か。グロウキメラならその特性を持っていてもおかしくない。

 

 『確かジーンメモリあったよな?あれで分離とか出来ねぇのか?』

 

 「もちろん可能だ。だが今の状態で使うと更に不安定になる可能性があるうえ、すぐにまた適応してくるだろう」

 

 『なるほど。正直、抑えるだけでも結構割り食ってるしな』

 

 余分な体力を使うより抑えに回った方がいい。カズマ君達はなんだかんだ言いながらやってくれるからね。

 

 メモリも使っていないならマキシマムを使う利点も見当たらない……

 

 「シルビア。【魔法の小箱】について知ってるかな」

 

 「小箱?仮に知ってたとして簡単に教えるとでも?」

 

 「だろうね。だがその反応は何かしら知ってるね。探偵の勘がそう言ってる」

 

 『らしくねぇけど、合ってるよ』

 

 再びショルダーセイバーを発現させ投げつける。その隙にダクネスちゃん達の元に向かう。

 

 「落ち着いて聞いてくれ。この姿だと破壊衝動が強くなるゆえにいつ暴走するか分からない。身の安全の為にもここは引いてくれると助かる」

 

 「何をこそこそと!」

 

 シルビアの吐く業火に対し、リアは【護りのプレフュード】で応戦、エーリカは持っていた魔道具を投げつけ視界を塞ぐ。

 

 「幹部相手となると何も出来ないが、サポートぐらいは出来るさ」

 

 「暴走するなら私が盾になろう!」

 

 「僕はアークプリーストですから、精神を安定させる魔法も使えます」

 

 「おいしいところばっかり渡せないしね」

 

 三人はWより前に出てそれぞれ武器を構える。

 

 『あいつらだって護りたいものの為に戦ってる。お前だって一緒ならわかんだろ。覚悟を決めてる奴を止めるのはそう簡単じゃねぇ』

 

 「確かに、ずっと近くで見てきたからね。……行くよ、翔太郎!」

 

 『ああ、フィリップ!』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  

 

 

 その頃、俺はアクアとともに魔術師殺しが封印されていた謎施設に向かっていた。あれが置いてあるってことはそれに対抗できるもんも置いてあるはずだと踏んでいた。

 

 めぐみんはゆんゆんとともに逃げ遅れためぐみんの妹のこめっこの救出に自宅に向かっている。

 

 「カズマさーん。なんで私も行くのよー」

 

 「お前暗闇でもしっかり見えるんだろ?一人より二人の方がいいに決まってんだろ」

 

 実際、こいつがいても紅魔族の人達が困るだけだろうし。

 

 謎施設が近づくにつれ、アクアの歩みはゆっくりになっていた。

 

 「どうした?」

 

 「……やっぱり臭い」

 

 「お前しかわかんねーってことはアンデッドの類いか?」

 

 「これは悪魔……うーん……」

 

 どうも歯切れが悪い。悪魔とかなら真っ先に飛び出していくはずだ。道中で会った悪魔もどきはそもそも違うから反応しないし。

 

 悪魔だったとして喰らうのは悪感情。契約だってしてないしバニルのような奴だったら殺されることはないはずだ。何よりこの状況になったのは俺の責任と思うとそんなこと気にしてられない。

 

 俺はアクアを置いて二度目の謎施設に足を踏み入れる。【暗視】のスキルを使い階段を降りていくと、そこにはたくさんのガラクタ、もとい玩具があった。

 

 「ゲームに玩具……趣味全開だなおい。作ったのは転生者か」

 

 何か使えるものがないか探していると、へんてこな形をした玩具を見つけた。なんかヒーローもののアイテムに見えるけど……

 

 瞬間、それは意思を持つように動き俺の腰に巻き付いた。やりたいこと出来るからって自動でとか……

 

 「…………」

 

 『どこ見てんだ?もしかして俺っち以外に誰かいるのか?!やだ、怖い!早く追っ払って!』

 

 「お前しかいねぇから見てんだろうが!」

 

 『そんな俺っちしか見てないなんて……まだ出会って一秒なのに情熱的な告白されても簡単には落ちないから!って訳でお友達から始めるってのはどう?』

 

 「【クリエイト・ウォーター】!からの【フリーズ】!」

 

 鉄板コンボを決めるも、そいつには当たらなかった。正しくは体をすり抜けてしまった。

 

 『そんなもん効かねーよ。ま、俺もお前のこと触れねーんだけどな!』

 

 腹を抱えて大笑いされる。しかし向こうも触れないならやられることは……

 

 「いつまで笑ってんだ」

 

 『人間と喋るの久し振りでよ……くっ、ダメだ、顔見るだけで笑いが止まらねぇ!』

 

 イカれてんのかこいつ!

 

 さっき巻き付いてきた玩具を外そうとするが外れる気配がない。んだこれ、呪いのアイテムか?!

 

 「くそっ、このっ……!大体、お前なんだ?!」

 

 『よくぞ聞いてくれました!俺っちは泣く子も黙る大悪魔!その強さ、デンジャラス!格好よさ、ナイスガイス!その名も~……バイスでーす!』

 

 また面倒なのがやってきたと、俺は心の底からため息をついてしまった。

 

 




ここから先がどうなるか、作者も知りません。ただ言えるのは本編のバイスとは別者ということだけです。


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Fの咆哮/悪魔との相乗り

ここでのバイスはオリジナルとは違いますので、そこんところお願いします。


 バニルとはまた違うタイプで厄介そうな悪魔に絡まれてしまった。

 

 もしかしてアクアが言ってた臭いってのはコイツのことか?他の奴らは反応してなかったし。

 

 『ちょっとちょっと!自分から聞いておいて反応無しってどういうこと?俺っち怒っちゃうよ!プンプン!』

 

 ただ面倒なのははっきり分かる。しかもあいつらとはまた違ったベクトルの面倒くささだ。

 

 でも聞いたのは俺だし、名前だけ名乗っとくか。

 

 「俺はサトウカズマ。今忙しいから静かにしててくれ」

 

 この魔道具が外れないのも問題だが、今は何よりシルビアだ。何か使えるものとか……ん?

 

 俺は古ぼけた日記を見つけた。破れないように読んでいくと【魔術師殺し】について書かれていた。

 

 元は魔王軍に対抗する為に作られたこと。大量にエネルギーを消費するため封印されたことなどなど……おっ、対抗策はレールガンか。レールガンって、もしかして服屋にあったやつか?

 

 それ以降も読んでみるがらしきものはない。どうやらレールガンが鍵を握って……

 

 『どしたの?』

 

 「お前っていつからここにいるんだ?」

 

 『いつからでしょーか!』

 

 俺は無言で来た階段を昇っていく。バイスとやらも追いかけるようについてきた。

 

 「ついてくんな」

 

 『封印されてるから仕方ないだろ?』

 

 「強いのに封印されたのかよ」

 

 『じゃあさじゃあさ。地獄で寝てたらいきなり呼び出されて状況も分からずにはい封印!どう思うよ?』

 

 それは同情せざるを得ない。

 

 『それにもう人間なんて来るはずないと思ってたからよ……頼む、外に行きたいんだよ!』

 

 「……しょうがねぇなぁ」

 

 『いよっしゃー!久し振りの外ーー』

 

 「【セイクリット・ターンアンデッド】!」

 

 『ぎゃー!』

 

 いち早く外に出たバイスが身構えていたアクアから浄化魔法を喰らってしまった。

 

 「なんで悪魔なんかと一緒にいるのよ!」

 

 「お前はなんでそう容赦がないんだよ!」

 

 「何かあってからじゃ遅いのよ?魔道具に封印されてたから気づきにくかったけど、もう大丈夫よ」

 

 『そうそう。これで安心して過ごせるって訳よ』

 

 バイスは右手をアクアの肩にかけながら話に入ってきた。瞬時にアクアは【ゴッドブロー】を仕掛けるも体をすり抜ける。

 

 『びっくりした?俺っちなんと攻撃も魔法も当たらないのよ~!ま、俺っちも触れないんだけどね!えー、先ほどの演技力が評価され主演男優賞に俺っちが選ばれました!皆さん拍手!』

 

 「拍手なんかしないわよ!」

 

 『あらそう……でも俺っちが見えてるってのはおかしいよな。今の俺っちを認識出来るのはカズマっちだけだぜ』

 

 カズマっちってなんだ。

 

 「私が女神アクアだからよ。だからあんたにも容赦しないわけ」

 

 『女神?!マジモンかよ!だったら納得だ。せっかくだし拝んどこ』

 

 手を合わせ拝み始めるバイス。お前悪魔だろ……アクアも戸惑いながらも満更でもなさそうにしてんじゃねぇ。

 

 『女神アクア様。一つ聞いてもよろしいでしょうか?』

 

 「悪魔でも物分かりのいいあんたなら答えてあげるわ」

 

 『後ろで燃え上がってるのは降臨儀式に失敗でもしたのか?』

 

 俺はバイスの言葉に思いだし一目散に駆け出した。アクアも急いで後を追いかけてくる。

 

 「どこ行くのよ?」

 

 「服屋にあったレールガンが必要なんだよ!」

 

 

 

 服屋に到着し物干し竿代わりに使われているレールガンを見つけた。二人がかりでおろし持とうとするもなかなか重い。

 

 『フレー!フレー!カズマっち!』

 

 「応援するなら手伝え!」

 

 『え~……本当なら契約っていきたいとこだが、外へ出してくれたし特別だぜ』

 

 バイスは俺に重なるように一体化する。するとレールガンは嘘のように軽くなり片手で持てるまでになった。すげぇじゃんこいつ!

 

 レールガンの銃口を持ち、俺は後ろで振り回されながら必死にしがみつくアクアすら気も止めず走り出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 皆が避難した【魔神の丘】に戻ると、そこには明らかに避難してきた紅魔族よりも人数が少なくなっていた。

 

 「何かあったーー」

 

 俺はめぐみんの様子を見て思わず口をつむんだ。いつもぐいぐい来るめぐみんの瞳から正気が失くなっていた。

 

 ゆんゆんの話では逃げ遅れたこめっこを迎えに二人で向かったところ、家には既に炎が回っていた。

 

 そのうえ、入り口には道中で遭遇したあのモンスターが徘徊していたという。めぐみんは恐れることなく突き進んだが、二人で勝てる見込みはなく。

 

 何とか取り抑え連れ戻して来たが、現状を察するに助かっている可能性は低い。

 

 ……俺のせいか?

 

 俺がもっと強ければ。俺が封印を簡単に解いてなければ。

 

 すがるような気持ちでアクアを見る。いつもの空気が読めない様子ではなかった。

 

 俺が今まで死んでも生き返れたのはアクアのおかげで、それも体の一部が残っていたから。

 

 今もダクネスはWとアクセルハーツとともに、攻撃は当たらずとも耐えてくれている。

 

 皆、何かしらでも役に立っている。

 

 俺には……知恵がある。

 

 「全員でシルビアの元に向かって時間稼ぎを頼みます。俺達は切り札の準備をするので!終わったら合図します!」

 

 【魔術師殺し】を止めれる程の兵器だ。間近にいれば被害もあるはず。

 

 ゆんゆんを含めた全員の紅魔族が向かっていったのを見届け、俺はレールガンの準備を始める。めぐみんが爆裂魔法しか使えないことがバレると困る。

 

 「こめっこ……」

 

 めぐみんの呟きが聞こえる。振り返り、じっと見つめる。

 

 「こめっこは……無事、ですよね……?」

 

 紅い瞳が消える程の大量の涙を溜めながら俺に尋ねてきた。

 

 俺には知恵がある。けど、力はない。

 

 たった一人の女の子を抱きしめ、大丈夫だと言える力すらもない。あまつさえ、崩れ落ちそうな女の子に手を貸せと言おうとしている。

 

 翔太郎だったら空元気でも励ますだろう。今戦ってるWならもっと強気に出てるかもしれない。

 

 「カズマ!」

 

 アクアの声に我に帰った。それと同時に空から降ってきた鉄球はレールガンの上に着地しそれをひしゃげてしまった。

 

 「あの時のモンスターね!こんな大事な時に来るんじゃないわよ!しかもレールガンもダメにして……!」

 

 アクアは怒りの【ゴッドブロー】を放った。しかし、その固さに逆にアクアが仰け反ってしまい、追撃を受ける。そのまま木に激突した。

 

 続けて近くで座り込むめぐみんを捉え鉄球の腕を振り上げる。それを見ていためぐみんは避けようとする気力もなかった。

 

 鉄球の腕が当たる直前、それは止まった。

 

 「生ぬるい」

 

 バイオレンスドーパントの攻撃を人差し指一本で受け止めていたのは、白髪に染まったカズマだった。

 

 攻撃を弾き、今度はボディーブローを放つ。その殴打はバイオレンスドーパントの全身を衝撃が駆け巡り動きを止めた。

 

 拳を握り右ストレートが中心部にヒットする。空間が張り裂けるような勢いとともにバイオレンスドーパントは一直線に吹っ飛んでいく。

 

 「契約は完了だ。しかし、馬鹿の振りも疲れる」

 

 青色に眼光を光らせ、今度はカズマがめぐみんの目の前に立ち塞がった。

 

 「カズ、マ……?」

 

 「カズマはもういない。だが喜べ。記念すべき一回目の食事だ」

 

 カズマ?はめぐみんの帽子を取り投げ捨てる。近づくその手に畏怖しながら拒むことはめぐみんに出来なかった。

 

 しかし、その間に割り込むのは一つの赤い光線。合間をすり抜けそれが森林に当たると大爆発を起こした。

 

 「初めましてか」

 

 「……誰だ」

 

 「我輩の名はバニル。【地獄の公爵】と呼ばれている。貴様は【厄災】バイスで間違いないな?」

 

 こめっこを抱えて現れたバニルは静かに問いた。



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Fの咆哮/契約の代償

もう3カ月が経過している……?嘘だ、僕を騙そうとしている……

仮面ライダー展があったり、リバイスは佳境に入り始めたりとしてますね。

ゲームばかりしてすみませんでしたぁ!


 【魔神の丘】から上がった黒煙を見て、シルビアの相手をしていた紅魔族はカズマからの合図だと気づいた。

 

 しかし、それに反応する者は誰もいなかった。なぜなら既にシルビアは消えていたからだった。

 

 戦闘中、魔法を無力化されながらも妨害が功を奏し、Wの必殺技【ファングストライザー】がシルビアに決まり大きく体勢を崩した。

 

 もう一息ーーそう誰もが確信した時、巨大な何かがシルビアの上半身に当たりそのまま吹っ飛ばされてしまった。

 

 【魔術師殺し】すらも巻き込みながら森の中を突き進み、風圧で地面を削り、付近の山に激突しそれは止まった。

 

 「翔太郎」

 

 『分かってる。バイオレンスだった』

 

 Wはお互いに確認しシルビアの方へ向かう。それを見たダクネスもまた急ぐが、リアに止められてしまった。

 

 「なにを」

 

 「ここは彼に任せよう。私達も確認しないといけないことがあるはずだ」

 

 リアだけでなくエーリカとシエロ、そしてゆんゆんからも訴えられ、ダクネスらは魔神の丘に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「地獄の公爵……聞き覚えはあるな」

 

 「それは光栄だ。して、人間に憑依とは相当な制限が設けられているようだな」

 

 いつもの調子で話を進めるバニルだったが、内心では警戒を弛めなかった。

 

 地獄において【災害】とまで称されたバイス。制限が設けられていたとして油断は出来ない。

 

 「ちょっと、あんたは私のこと女神って信じてくれたから祓うのやめてあげようかなって思ったのにやっぱり本性を表したわね!さっさとカズマを返しなさい!」

 

 そういえばもう一人、厄介な奴がいることを忘れていた。 

 

 「【セイクリッド・ターンアンデッド】!」

 

 有無を聞かず魔法を放つ馬鹿女神。仮面を脱ぎ捨て回避し事なきを得るがバイスはまともに喰らっている。

 

 「さ、これで大丈夫よ。あの厄介悪魔もやり損ねたのは悔しいけどとりあえずーー」

 

 のこのこと近づいてくるアクアの喉元をバイスは掴んだ。ダメージを負った様子もない。

 

 「ぐえっ?!」

 

 「話にならん」

 

 より強い力を込めて喉元を締め付ける。宙で脚を動かすアクアだったが、やがてその力も失くなってくる。

 

 「アクア!」

 

 めぐみんは立ち上がりバイスに抱き付くように止めに掛かる。バイスはアクアを投げ捨て、めぐみんに標的を切り替えた。

 

 見た目はいつものカズマにも関わらず、圧倒的な気迫があった。バイスはめぐみんを突き放し品定めをするように眺める。

 

 「細くて身も小さい。が……まともに喰えんあの女よりマシか」

 

 バイスは大口を開けるのを見て混乱するめぐみん。そこに再生し終わったバニルは人形を使いめぐみんを救出する。

 

 「邪魔するか」

 

 「人間はおいしいご飯製造機ゆえ。殺さずを誓う我輩にとって貴様は迷惑なのでな」

 

 再び仕掛けるタイミングを探す。一つ間違えれば簡単に殺られることは確実だった。

 

 「めぐみん、アクア……それにどうしてバニルが?」

 

 ダクネス達が駆けつける。バイスはアクセルハーツを含めた4人を品定めするように見つめている隙に、バニルはダクネスに仮面を投げつけ主導権を奪った。

 

 爆裂魔法を耐えたうえにクルセイダーのこの女なら多少は耐久力が上がるかもしれない。

 

 『いきなり?!』

 

 「黙れ。小僧はもはや小僧ではない。人間にとっても悪魔にとっても敵だ」

 

 いつものダクネスとは思えない軽やかな動きでバイスに迫る。バニル=ダクネスの大剣を初撃をバイスは避けたが、続けての攻撃は避けられなかったーーいや、避けなかった。

 

 手応えは感じた。そのはずなのに大剣は斬るどころか体に傷すらつけず受け止められていた。

 

 バイスは静かにバニル=ダクネスの腹部にアッパーを打ち込む。全身に電撃が走り体の自由が効かない。その間に正拳突きをバニルの仮面に打ち込む。仮面にひびが入り砕け散ると同時にダクネスは吹き飛んでいく。

 

 木々を薙ぎ倒し大きな岩山に激突する。ピクリとも動かないダクネスに向かってシエロは大急ぎで走っていく。

 

 「四肢爆散のはずだが……まぁいい。邪魔者は消えた」

 

 「待ちなさいよ!あんた一体何がしたいわけ?悪魔なら大人しく悪感情啜ってりゃいいのに調子に乗って!」

 

 割って入るアクア。普段ならさっさと逃げるのだが、相手が悪魔だからなのか強気だった。

 

 女神としてのプライドか、仲間を奪われた挙げ句傷つけられての怒りかーー

 

 「悪魔……?それってどういうことですか?!」

 

 「カズマが着けてる魔道具あるでしょ。あれに悪魔が封印されてたのよ」

 

 アクアの発言に全員が戦闘態勢に入った。ほとんどの紅魔族もだったが、ゆんゆんやリア、エーリカも若干戸惑っている。

 

 「望んだのはこの男だ」

 

 「はぁ?」

 

 「自らに負け、求めるように私と契約を交わした。先程の雑魚を倒すのに力を貸すと言ったら躊躇なく決断した。約束通り契約は叶えた。そのうえでこの体を貰ったのだ、文句は言えまい」

 

 腕を組み軽く首を横に振るバイス。それを聞いてめぐみんは動揺するように杖を落とした。

 

 あの時、私が立ち上がれなかったから?

 

 私のせいでカズマが?

 

 後悔の念が押し寄せる。もう二度とーー

 

 「時間稼ぎごくろうであったな」

 

 めぐみんの杖を握り復活したのはバニルだった。仮面の数字はⅤが刻まれている。

 

 「【カースト・クリスタル・プリズン】!」

 

 背後から迫る強烈な冷気を浴び、バイスの下半身が固まっていく。振り返るとウィズが睨んでいた。

 

 バイスは嘗め回すような視線でウィズを見た後舌舐りをし、下半身を凍らせた氷塊を何事もなかったように壊す。

 

 「っ?!【ボトムレス・スワンプ】!」

 

 すぐさま続けて沼魔法を発動、足元がぬかるみどんどん沈んでいく。

 

 しかし今度は沼そのものをコンクリートのように固め、力任せに抜け出していく。

 

 「嘘……」

 

 「女、お前は後だ」

 

 忠告し再びバニル側のいる方へ向く。今の攻防を見て紅魔族にも改めて緊張が走った。

 

 バイスという悪魔はバニルのような【見通す力】と言った特殊な力がない。その代わりに全てを火力と耐久に振っていることだ。生半可の攻撃は通じない。

 

 生態を確かめる為にウィズには付近で待機していろと伝えていたバニルだったが、我慢の限界だったのだろう。だが二人でも抑えきれそうにもない。

 

 「同じ悪魔なら敵対することはないんじゃ……」

 

 「余程ではな。だがあいつは偏食家だ。悪感情などではなく人間そのものを食べる。つまるところ、悪魔からも人間からも厄介者というわけだ」

 

 契約規約を守らず地獄に連れてこられた人間も強奪して喰われ……それに業を煮やしかつての公爵らが封印したと聞いてはいたが……

 

 「いい加減我慢の限界だ」

 

 凶悪な邪気を放ち歩み寄ってくる。それに対し一番前に立ったのはめぐみんだった。

 

 「カズマを返してください」

 

 バイスは無言のままめぐみんの頭を鷲掴みにする。普段のカズマからは感じない本気の痛みーーしかし、涙目になりながらも決意の表情は変わらない。

 

 「面倒だ。やはり先にお前を喰おうーー」

 

 その時、体に違和感を感じ少しだけ動揺するバイス。契約は絶対だ。体の主導権は完全にこちらにある。

 

 けれどーーどれだけの風が吹こうが消えずに灯し続けるその炎に、バイスは感じたことのないものを覚える。

 

 その時、幾つもの黄色の弾丸がバイスに向かって降り注ぐが、それらは曲線を描くように地面に着弾した。

 

 黄色と青の半分こという変わった姿の者。だが、直感でバイスは悟る。今、この場にいる何者よりも戦い慣れ、修羅場を潜ってきていると。

 

 バイスは静かにめぐみんから手を離す。その隙にWは右手を伸ばしめぐみんを救出する。

 

 「どうして貴方がここに?」

 

 「強いて言うなら、助けを呼ぶ声が聞こえたってところだな」

 

 『否定はしないよ。状況は君の仲間から聞いている』

 

 後続からダクネスとシエロがやって来た。ここに来る最中に二人を見つけて駆けつけた辺りだろう。

 

 『ここは僕達に任せて。皆は避難を』

 

 「私もやります!」

 

 「お前もここを離れろ」

 

 「嫌です!」

 

 「離れろって言ってんだ!」

 

 Wの怒号にめぐみんは少し固まってしまう。

 

 『君は爆裂魔法しか使えないのにどうやって戦える?仮にダメージが通ったとして、余剰分は乗っ取られている彼自身に行く可能性は高い』

 

 ぐうの音も出ない。もし私が爆裂魔法だけでなく、他のように魔法が使えたなら……

 

 そう思っていると、ダクネスがめぐみんの前方に立った。彼女の頑固なのを知ってかの行動だった。

 

 「して、半分こモンスターよ。何か解決策はあるのか?」

 

 「専門のお前が詳しく教えてくれればいいんだけどな」

 

 普通の銃弾じゃダメージは期待出来そうにない。かといってマキシマムドライブはまずい。様子見でヒートトリガーもありだが、相性が良すぎる故に通常でも計りかねない。

 

 ジョーカー、メタル系統は必然的に接近戦になる為これもなし。ダクネスから聞いた馬鹿力を受けるのはごめんだ。

 

 「さっさとやっちゃいなさいよ!少しでも弱ったら私がすぐに浄化してやるわ!」

 

 リアの影に隠れて叫ぶアクア。そう言うんだったらこっちに来いと言いたいがーー

 

 「『弱る……』」

 

 二人の声が重なった。先程のめぐみんが襲われている時、あいつはどうして手を掛けなかった?

 

 発砲よりも先に補食は間に合ってたはずだ。少なくとも一部は喰われていたはず。

 

 何かがーー誰かが一瞬でも抵抗したんだ。それは確実に契約者本人。まだ意識はある。

 

 『悪魔は本体を地獄に置き、意識を別のものに置き換えここにやってくる。彼のしているベルトはきっと封印する魔道具のはずだ』

 

 「じゃああれを外せばいいんだな」

 

 『それではダメだ。契約が成立してる以上帰ってくることはない』

 

 「万事休すってやつかよ」

 

 『いや、方法はある。だが問題を引き伸ばすだけだ。おすすめはしない』

 

 「今ここで全滅するよりかはマシだ。やるしかねぇ」

 

 フィリップの苦い顔が目に浮かぶ。

 

 「……切り札と相乗りする勇気、あるか」

 

 『……』

 

 「俺は相棒のお前のことも信じてる。カズマはやる時はやる奴だ」

 

 「それに人生ってゲームは一人でやるもんじゃねぇだろ」

 

 『ひとりじゃ生きていけない……そうだね。僕達もいる』

 

 二人は決意を固める。それと同時にバイスは動き出す。振り下ろした拳は地面にクレーターを作る。Wはそれをジャンプで回避する。

 

 ルナメモリをマキシマムスロットに装填し、右手から光の粒子が放出される。裏技の一つの【トリガー・シャインフィールド】だ。

 

 バイスは一つ一つに警戒するが、攻撃性はないことを確認すると容赦なく距離を詰める。

 

変則的な動きで離れていく。【トリガー・シャインフィールド】は見えない敵などを炙り出すのに使え、粒子に触れるとWの触覚を通じて位置を知ることが出来る。

 

 光の粒子がバイスの魔道具に触れた時、Wは確信したように頷く。  

 

 【GENE!】

 

 控えていたジーンメモリを起動させ、トリガーマグナムに装填する。

 

 『「ジーン・リミックスショット!」』

 

 弾丸は粒子に紛れ込み、やがてバイスに直撃する。しかし本人は何事もなかったかのよう突き進むが、徐々に違和感を感じ始める。

 

 「なにをした!」

 

 「今に分かるぜ」

 

 心臓が大きく跳ね、髪の毛がやがて白から茶色に戻っていく。苦しむような声をあげながら、最後にベルトが取れるとカズマは正気を取り戻した。

 

 『気分はどうだい?』

 

 「最悪まではいかねぇけど……なんか詰まってる感じ」

 

 大丈夫そうなのを確認したのも束の間、めぐみんはカズマの元に飛び付いた。いきなりのことに動悸が高鳴る。

 

 「バカズマ!」

 

 「お、お前だってそうだろうが!」

 

 Wは二人を見て安心したが、背後には体が透けている悪魔のバイスが飛びかかっていた。しかし、その霊体はWをすり抜けてしまう。

 

 「もう好き勝手は出来ないぜ。ジーンメモリは遺伝子の記憶を持ってるからな。お前とコイツ、二人の遺伝子を組み換えて一つに統合した」

 

 『表人格は彼がメインだ。君が出てくるのは難しいだろうね。まぁ、ゼロからイチを産み出すのは難しいだろうね』

 

 「そういうこった。大人しくしてるのが一番だぜ」

 

 バイスの虚空の拳を受けながら平然と説明を続ける。やがて悟ったのか、諦めたようにカズマの中に入っていく。

 

 やれやれと思いながらWは落ちた魔道具を拾った。興味深そうに見ていると背面に文字が刻印されていた。

 

 「リバイスドライバーねぇ……もしかしたら何かの役に立つかもしれねぇし持っとけよ」

 

 魔道具ーーリバイスドライバーをカズマに渡すW。颯爽と去ろうとするWをカズマは呼び止める。

 

 「待ってくれ。何で毎回俺たちを助けてくれんだよ」

 

 「誰かを助けるのに理由なんていんのか?」

 

 何を当たり前なことをと言わんばかりに返答しWは去っていく。変なことを聞いてしまったとカズマはため息をついた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ーー翌日。俺はめぐみんに連れられ草原にやって来た。

 

 「体調はどうですか」

 

 「別に。あいつも何もしてこねぇし喋りもしない」

 

 身構えながら一晩を過ごしたけれどバイスとやらは沈黙を続けていた。このままならいいんだが、胡散臭い悪魔が身近にいるから油断できない。

 

 Wは遺伝子を組み換えてとか言ってたっけ……味わった感覚で言うと体を乗っ取るというのはリバイスドライバーに封印される意識を入れ換える、って感じだった。

 

 俺の意識がリバイスドライバーにあるって分かったことに関しては未だ謎だし遺伝子操作なんてと思ったが深く考えないようにする。ろくでもない転生者が考えることだ。

 

 「で、なんだよ用事って」

 

 「……カズマは優秀な魔法使いはほしいですか?」

 

 「欲しい」

 

 即答され少し渋い表情になるめぐみん。俺は続けざまに尋ねる。

 

 「何でそう思ったんだ」

 

 「昨日、Wに爆裂魔法しか使えない私に何が出来ると言われて。もし他の魔法が使えたらもっと役に立てたのかなと……」

 

 もっと早めに気づいて欲しいと漏れそうになったが、ぐっとその言葉を飲み込んだ。

 

 「俺だって一緒だ。使えないとか言うけど、一番使えないのは俺自身だって知った。少し幸運値が高くて商人の方が向いてるって言われたし」

 

 アクアが居なけりゃここにはもう居ないし、ダクネスのおかげで生き残れたクエストもある。もちろんめぐみんの爆裂魔法だって強敵を倒してきた。

 

 厄介事は多いけどそれは結果論だし、最初から使えない俺に比べればマシだ。昨日だって結局悪魔と契約して、Wに助けて貰って……

 

 「本当にだせぇよなぁ……」

 

 そう呟くと、爆裂魔法の轟音が草原に響き渡った。いつもよりずんと重めにくる強さだった。

 

 「ダンジョンじゃいつも荷物持ち、爆裂魔法を撃てば逆にお荷物。どんな丁寧に身繕っても使えない私をカズマは捨てませんでした」

 

 「そんな不器用で優しい人を私はダサいとは思いませんよ。そんな風に言う人は私が許しません」

 

 めぐみんはきっぱりと言い切った。ただ、うつ伏せで倒れてなければもっと良かったのに。

 

 俺はいつものようにめぐみんをおんぶして来た道を引き返し始めた。

 

 「そういや優秀な魔法使いとかってのはどうなったんだ?」

 

 だんまりを決められ、俺は諦める。いつもの日常がまた始まるんだ。そう思い歩みを進めていく。

 

 「…………」

 

 どうしてWは私が爆裂魔法しか使えないことを知っていたんでしょうか。

 

 もしかしてーーWは近場にいる誰か……?でもあんな姿になるなんて魔法でも聞いたことがない。

 

 もやもやを抱えながら、私はバレないように眠ったフリを続けた。




このバイスはオリジナルとは違います。ディケイドのリ・イマジみたいなもんだと思ってください。詳しくは後々。

次回は間幕です。



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間幕 Wの街/妖艶な魔女

投稿頻度を短く出来るように頑張ります。


 二人が居なくなって一週間が経過していた。

 

 静かになった事務所に不安だけが募っていた。

 

 「全く、翔太郎君もフィリップ君も何してるのよ」

 

 所長さんの両手にいつものスリッパを握っているがアグレッシブさはなかった。

 

 所長さんの体は所長さんだけのものじゃない。新たな命が芽吹いていた。

 

 裏風都の件が終わり暫くした後、妊娠が発覚した。今はほとんど家で過ごすことが多く、私は日常の手伝いをしている。

 

 その時、事務所の扉が開いた。所長さんの夫で刑事の照井さんだった。

 

 期待の眼を向けるが、刑事さんは静かに首を横に振った。収穫はなかったみたいだ。

 

 「風吹山の方とかは?ほら、お父さんの別荘もあるでしょ?」

 

 「捜索に当たったが見つからなかった。そもそも付近にいるなら自力で戻ってくるはずだ」

 

 それもそうだ。それに遠方にいるとしたら連絡が来るだろうし、電波が届かないならフィリップがエクストリームメモリを使って居場所を伝えにくるとか方法はある。

 

 久し振りにドーパントが出た時も私と所長さんは事務所におらず、後から刑事さんも増援に来たがもぬけの殻だった。

 

 私達はおろか、風都イレギュラーズのメンバーや救ってきた依頼人にも心配されている。

 

 街からヒーローが消える……それがどれだけ不安なことか大きく押し寄せてきた。

 

 静寂に包まれるなか、再び事務所の扉が開いた。私だけじゃなく所長さんも顔を上げた。

 

 しかし、立っていたのは二人ではなく一人。しかも首からカメラをぶら下げた男性だった。

 

 「今は休業中で……」

 

 「それぐらいの張り紙は読める」

 

 そう言って男はいつも翔太郎が依頼人の話を聞くときに座る椅子に腰を掛けた。尊大な態度に少し癪に触った。

 

 私は二人に知り合いかどうか、無言で瞳だけの合図を送った。どうやら二人とも知らない様子だった。

 

 「客人にコーヒーも出さないのか」

 

 「客人?依頼人じゃなくて?」

 

 「依頼人だったら入ってこない。知りたいんだろ、探偵二人がどこに行ったかをな」

 

 その言葉に私よりも先に刑事さんが動いた。胸ぐらを掴み無理やり立たせる。

 

 「お前がドーパントか?」

 

 「俺に質問をするな」

 

 返された言葉に刑事さんは難色の表情を見せた。他でもない、今の返しは刑事さんが多様する謳い文句みたいなものだからだ。

 

 「照井竜。いや、仮面ライダーアクセル。俺は別に戦いに来た訳じゃない。むしろ助けに来た。ちょっと面倒事になってるからな」

 

 男は刑事さんに乱された服装を直すと再び椅子に腰をかけた。刑事さんが仮面ライダーだと知ってるのは風都ではごく一部、いや、それこそ私達ぐらいしか知らない。裏風都の生き残りか、新しい敵組織か……?

 

 「助けに来たなんて信じられると思ってるの?」

 

 「どう信じるかはお前ら次第だ。だが探偵はお前らじゃ手を出せないところにいる。ま、そこで何をしてるのかまでは知らないな」

 

 嘘をついてるようには見えなかったが、なぜか信じきることは出来なかった。微妙に漂うただ者じゃないような言葉では言い表せない雰囲気。そもそも正体を知ってるのが特別なんだけど。

 

 「俺は忙しいんだ。早く答えを出してくれ」

 

 「……私、いくよ」

 

 本当にこの男を信じていいのか分からない。けれど唯一舞い込んできたチャンスを逃す訳にはいかなかった。

 

 「刑事さんは風都と所長さんをお願いします」

 

 「待て。お前まで居なくなったらもし左が戻ってきた時になんて言えばいい」

 

 「その時はまた翔太郎が助けに来てくれる。だから今は私の番」

 

 刑事さんはまだ少し納得していない様子だった。戦う術を持っていない私が行くのはやっぱり気が引けるのだろう。

 

 「ときめちゃん!所長命令よ。必ず二人を連れ帰ってくること。事務所に関しては任せなさい!」

 

 後押しするように所長さんが言い放った。刑事さんもそれを見て仕方なさそうに頷いた。

 

 「話は纏まったみたいだな。さっさと行くぞ」

 

 男が立ち上がり急ぎ気味に事務所を出ていく。私も後を追うように事務所を出た。

 

 「手を出せないって、具体的にどういうこと?」

 

 「行けば分かる。着いた後は自由行動だ。忘れ物するなよ」

 

 忘れ物……あっ!

 

 「ちょっと準備するから待ってて!」

 

 私が用意し始めたのは唯一現場に残っていたバイク。移動手段にも便利だし……まぁ、私は免許持ってないけど。

 

 「いつでも行けるよ。と、その前に貴方が何者かを聞いておかないと。翔太郎が心配する」

 

 「あの男も随分心配性なこった。まぁいい。実際、俺はもう一つ用事があるからな。もしかしたら合流することもあるかもしれない」

 

 「俺はーー通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」

 

 その言葉とともに、私は銀色のオーロラに包まれた。 




次からまた本編に戻ります。アイリスが出てきますが、どうなることやら……?


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問題児I/厄介は増える

「リバイス夏映画が始まったが?」

「Vシネがあるから大丈夫!」

「こいつ駄目かもしれない」


 森の中で私は一人、バイクを引きながら歩いていた。

 

 通りすがりの仮面ライダーと名乗っていた男はいつの間にかいなくなっていた。本当に連れてきただけって感じ。

 

 そういえば最後に魔王とか聞こえたけどなんなの?今まで神になるとか言ってた悪人は見てきたけど、今回は全く検討がつかない。

 

 「まずは人に会わないと……」

 

 その時、茂みが揺れた。とは言っても狸とかその辺りーー

 

 「……熊?」

 

 狂暴な顔で涎を垂らしながら熊は立ち上がり咆哮を上げる。本物の野生を目の前に私は呆然と立ち尽くしていた。

 

 鋭い爪が襲いかかる。ハッと意識を取り戻し何とか避け、バイクが倒れる。

 

 熊は倒れたバイクを乗り越え迫ってくる。ガジェットのガタックフォンを起動させ反撃を与え逃げようとするが、目前に小さな落雷が落ちた。

 

 驚きのあまり倒れると、更に憤慨した熊が迫るーー

 

 「【バインド】!」

 

 掛け声とともにワイヤーが熊を縛り付ける。木々から姿を現したのは銀髪の女の子だった。

 

 「大丈夫?」

 

 「あっと……だ、大丈夫」

 

 日本語でも英語でもない……えっと、ど、どうしようかな……

 

 まごまごしてる間に熊はワイヤーを引きちぎった。起き上がり今度はバチバチと身体中に電撃を走らせている。

 

 とにかく今は言葉とか無し。私は頬を叩き気合いを入れ直す。ドーパントとは何度も対面した。電気を発する熊に比べればまだ行ける。

 

 豪快な動きを見切り軽やかに攻撃をかわす。銀髪の子も身体能力は私と同じぐらいのようだ。

 

 銀髪の子は短剣を構え、私も身構える。翔太郎から教わった徒手空拳は自信があるけど、まずはあの電撃を何とかしないと。

 

 「ワイヤーはさっきのぐらいしか手持ちにないよ」

 

 「え……?う、うん」

 

 普通に日本語で話してきた。とりあえず意志疎通は出来そうだ。

 

 この状況、翔太郎なら……いや、ここはフィリップで考えてみよう。

 

 「電撃で攻撃するように誘導できるかな」

 

 「やってみるよ。それっ!」

 

 私よりも俊敏な動きで攻めていく。私はスタッグフォンを呼び戻し違う疑似メモリを射し込む。

 

 準備が完了し再び飛ばすし、私も加勢に向かい走り出す。その間も銀髪の子は僅かな隙を狙って攻撃を仕掛けていた。

 

 やがて熊は怒りの沸点に至ったのか、ビリビリと体毛が逆立ってきた。今しかチャンスはない。

 

 発せられる電撃は銀髪の子に向かっていく。私は庇うように飛び込み、電撃はスタッグフォンが身代わりになった。そしてスタッグフォンは荒れ狂うように旋回を始める。

 

 【エレクトリック】のメモリを使い顎部分にあるエネルギー増幅装置を強化したガタックフォンは高圧電流を纏いながら熊に一直線に飛んでいく。

 

 胸元に顎が刺さると一気に電流が流れ込み、熊はその場で倒れた。銀髪の子は釘を刺すようにワイヤーで身柄を拘束する。

 

 「念には念をってやつだよ。それにしてもすごい身体能力だね。その小さなクワガタも」

 

 「ううん。これは違うよ」

 

 ガタックフォンは元の携帯電話に戻りと掌に収まる。女の子はほぉ、と驚いた顔をしていた。

 

 「詳しく説明すると私もいまいち分かんないけど、エネルギーを増幅させて倍返し!みたいな?」

 

 「確かに納得はできないね。ところで……」

 

 銀髪の女の子は倒れているバイクを見た。私は気づいて慌てて起こす。

 

 「ちょっと道に迷ったっていうか……この辺りで街とかないかな。人を探してるんだ」

 

 「それならこの先に【アクセル】っていう街があるよ。私もそこにーーっと、まだ名乗ってなかったね。私はクリス。貴方は?」

 

 「私はときめ。アクセルか……」

 

 「私もそこに帰るところだから案内するよ」

 

 そう言ってクリスちゃんを先頭に歩き始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 クエストの帰りの最中、この世界ではまず見ないものを持った女性を見つけた。

 

 何でもときめさんは人を探してるとかで……しかし、アクア先輩がいなくなってから日本人の転生はストップしてるにも関わらずどうやってこの世界に来たのか。

 

 フィリップさんと翔太郎さんもそうだけど不可解なことが多すぎる。もし誰かが転生ではなく転移をさせているならそれは問題だ。

 

 並行世界間を渡る行為が可能というのは色んな事象において非常に不味い。何とか聞き出さないとーー

 

 「クリスちゃん?」

 

 「な、なに?」

 

 「いや、ずっと俯いてるから……もしかしてどこか怪我でもした?」 

 

 「そんなことないよ。さ、もうすぐ森を抜けるしジャイアントトードも冬眠から目覚める頃だから気をつけてね」

 

 「ジャイアント?なにそれ?」

 

 「見れば分かるよ。ときめさんの動きなら逃げ切れると思うしね」

 

 やっぱり知らない。となると確実に誰かが送り込んできたことになる。けれど今のところなにをしようとかそんな様子はない。タイミングだけ見逃さないようにしよう。

 

 

 森を抜け平原に出た。街の入り口は遠目に見えているが……既にジャイアントトードがそこら辺を跳んでいる。

 

 「あれがジャイアントトードだよ」

 

 「嘘でしょ……あんなに大きいのどうするの?」

 

 「ちゃんと準備してれば倒せないことはないよーー」

 

 「カジュマさーん!早く助けてー!」

 

 「……準備してれば、ねぇ」

 

 いつものアクアさんの泣き叫ぶ声が響く。声がする方面へ向かうと、アクアさんだけでなく既に喰われ始めているめぐみんちゃんもいた。

 

 「だからフィリップにもついてきて貰おうっていったじゃねーか!」

 

 「師匠が弟子を頼る訳にはいかないでしょう!」

 

 「喰われながら言うセリフじゃねぇ!」

 

 いつもの変わらないパーティーを見て、私はときめさんに岩影で待ってるよう指示した。魔法が使えるならまだしも、生身で装備もない彼女が加わったところで差程変わらないだろう。

 

 「大丈夫カズマ君?」

 

 「クリスか、手伝ってくれ!」

 

 「オーケー、どうすればいい?」

 

 「とりあえずダクネスの方を頼む!早く助けて戻ってきてくれ」

 

 私は頷き粘液にまみれながら倒れるダクネスの元に駆けつける。ジャイアントトードの攻撃にやられるなんてのはないから、早く駆けつけてあげないと。

 

 「ダクネス?」

 

 「んっ……クリスか。久々の粘液もいいぞ」

 

 そんなこと報告されても困る。

 

 「遊んでる暇なんてないんだから。アクアさんやめぐみんも助けないとだしーー」

 

 その時地ならしが起こった。振り返ると、そこには圧倒的な威圧を放つ存在がいた。思わず私もペタンと、腰が砕けるように座り込む。

 

 『ストレス発散には丁度いい』

 

 白髪のカズマ君がそう言うと、三匹のジャイアントトードの舌を片手で鷲掴みにし、大きく振り上げ思いっきり地面に叩きつけた。その場にいたもう一匹のジャイアントトードは潰れた鳴き声とともに倒される。

 

 それでも尚、武器のようにジャイアントトードを振り回しながら次々と冬眠から目覚めたばかりのジャイアントトードを潰していく。端から見たら地獄絵図の何物でもなかった。

 

 「何が起こってるの?!」

 

 「まさか、バイス?」

 

 地面を抉り、武器のジャイアントトードが使えなくなると投擲で怯ませ物理攻撃がほとんど効かない筈のジャイアントトードを拳で文字通り粉砕していく。

 

 やがて山積みになった死体は20を軽く越え、カズマ君は頂点に立つ。ゴキッ、と嫌な音を響かせ舌打ちをすると白髪からいつもの茶髪へと戻っていった。

 

 「いっ、ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

 叫び声とともにジャイアントトードの死体の山から滑り落ちてくる。情けない姿でひっくり返ったまま動かない。

 

 「折れてる!超痛い!」

 

 「アクア!治癒を頼む!」

 

 「ぐすっ……臭いからやだ……」

 

 「わがまま言ってる場合ですか……結果的に助けられたんですから」

 

 めぐみんに悟られ不服ながらも【ヒール】をかける。痛みが引いてきたのか、カズマ君はゆっくりと体を起こす。

 

 「何が起こったの?全然分かんないだけど」

 

 「カズマの中に悪魔がいるのよ。この間住み着いちゃって横切る度にフワッと悪魔臭いから嫌なのよねぇ」

 

 「バッ……!」

 

 急いでアクアさんの口をカズマ君が塞ぐも、私は驚きを隠せなかった。

 

 「悪魔なんかと契約したの?!」

 

 「契約っていうか、成り行きというか……」

 

 今すぐにでも葬り去るべきなのだが、ここでやるには皆の目がある。どこかで別れてからーー

 

 「クリスちゃーん!」

 

 すっかり忘れていたときめさんの声が聞こえ、私は我に帰った。とにかく今は置いておこう。でも被害が出ない内になるべく早く。

 

 振り返ったのは私だけじゃない。日本語を話しているということはカズマ君も分かるーーって、ダメじゃん!

 

 私は何も言わずその場を離れた。ダクネスは手を伸ばしたけど、ここで正体バレる訳にはいかない。

 

 「銀髪の女の子見なかった?」

 

 「うぇ?!あ、えっと……」

 

 「クリスなら……どこ行ったのよ」

 

 「急いで街に入っていったが、貴方は?」

 

 「私はときめ。人を探してるんだけど……あ、さっきの女の子とは違う人ね」

 

 金髪の女の子と帽子を被った女の子は首を傾げた。また日本語通じないパターンか。

 

 「カズマと同じ日本出身の人ね。人探しならスペシャリストがいるわ。とにかく街に戻りましょ」

 

 さっさと歩いていく水色の髪の女の子。それを追うように二人の女の子もなぜかベトベトのまま歩いていく。

 

 「さっきの大きなカエルといい、大変そうだね」

 

 座りっぱなしの男の子に手を差し出すが、まるで拒否するように立ち上がりさっさと行ってしまう。難しい年齢なのかなぁ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 やばい。とにかくやばい。いきなりバイスが出てきてカエルを倒していったと思ったら今度は美人のお姉さんの登場だ。しかもバイク乗ってる。クールビューティー。

 

 俺のパーティーも見てくれはいいが中身が残念なのがアウトどころかどうしようもない。

 

 お姉さんに関しては人探しをしているとのことなのでとりあえず三人と一緒に屋敷に向かい、俺は一人ギルドに報告しに来ているのだが……

 

 「カズマさん!」

 

 「へっ?」

 

 「聞いてましたか?貴方達のパーティーのクエストはジャイアントトードを3体討伐のはずでしたよね。なのにどうして30体も倒しちゃってるんですか」

 

 「たまたま上手くいってしまったというか……」

 

 受付嬢のルナさんは疑いの視線だ。俺達のパーティーでカエル30体なんてまずあり得ない。むしろ1匹倒したら上出来だ。上手くいった、なんてもんじゃすまない。

 

 ただ、ルナさんも全く信じていない訳じゃないようだった。なんせ俺達には魔王軍幹部を3人討伐とデストロイヤーを止めた実績もある。或いは本気を出せば、なんてこともある。

 

 「分かりました。ただ、ジャイアントトード30体の討伐はやりすぎです。これからまた冒険者達が生活していくうえで基盤となるクエストにも関わらずここまで倒されてしまうと問題です。初心者の冒険者も出てきますからね」

 

 「ですので、ここ最近出没している謎のモンスターについての調査を依頼します。まぁ、幹部も倒せるカズマさん達なら討伐も簡単ですよね?」

 

 ニコニコの笑顔から発せられる強い圧。考えればクエスト10回分を1グループにやらされてしまった訳だからありがた迷惑なのはなんとなく分かる。

 

 俺は力なく頷くしかしなかった。いつもの3人が起こしたとかじゃなく、俺ーーもといバイスがやってしまったことなので何とも言えない。

 

 分かりやすく肩を落とし俺は帰路についた。バニルとの商談で結構儲かっているのに、まだまだ冒険者生活は止められそうにない。

 

 



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問題児I/内面に潜むもの

リバイスが終わるなぁ……やっぱり最終回はお別れエンドかなぁ……

個人的には冬映画でジャンヌと同じベルトを使ってリバイへ単体変身しつつ、最終的に狩ちゃんがデータひっかき集めてレックスバイスタンプ(バイスver)を作って復活が理想かと。スタンプのライダーレリーフがリバイじゃなくてバイスになってるやつ。

Vシネマはデスストリームとベイルで、ギファードバイスタンプ(ヘラクレスver)を出すと……角の上部分と下部分を外すんですね分かります。


 嫌なことばかりで心が折れそうだ。

 

 悪魔に取り憑かれるし、無茶なクエストを無理やり引き受けられるし、何より許せねぇのはあの謎のクール美女が翔太郎の恋人ときた。

 

 本人は違うと言ってるがフィリップはほぼ認めてる。絶対にこっち側だと信じていたのに裏切られた気分だ。

 

 「お前もなんか言えよ!」

 

 深夜の浴室で一人、怒鳴り声が響く。何だか馬鹿らしくなってきた。いっそのことーー

 

 『後者は知らないが、前者はあんな雑魚に負けそうになるのが悪い』

 

 隣にはまるで浴槽に浸かるように居座るバイスの姿があった。いきなりの登場に俺は慌てながらファインディングポーズを取った。

 

 しかしバイスはこっちを見ることもなく、まるで同じように風呂に浸かっているように動かない。むしろ急かすように首で座るよう指示してきた。

 

 『さっきのストレス発散を除けば唯一の楽しみだ。邪魔するな』

 

 えー……なんかエンジョイしてない?体を乗っ取るとか言ってた癖に?

 

 『今の状態じゃ乗っ取ることも無駄だ。今お前の体は私と共同の元にある。平たく言えばお前に何かあれば私にも影響が及ぶと言うことだ』

 

 意味ありげに言い残しバイスは勝手に俺の体に戻ってしまう。こういう二重人格みたいなの漫画で読んだことあるけどこんな感じなんだな……そんなこと言ってる場合じゃねぇか。

 

 

 風呂上がり、俺は仲間にバイスが言ったことを話した。フィリップはさすが素早く状況を理解したが、悪魔に詳しくない他のメンバーはさっぱりの様子だった。駄女神はそもそも興味がない。

 

 「なぜ急にそんなことを言い始めたんだ。この一週間何もなかったのに」

 

 「恐らく色々試してたんじゃないかな。さっきの話も交渉に近いからね」

 

 ダクネスの疑問にフィリップが口を開いた。

 

 「交渉?」

 

 「影響が及ぶとはあらゆることにおいてシンクロしてるということだ。味覚や聴覚といった五感もそうかもしれない」

 

 「逆に言えばカズマ君に身の危険が迫るのは自分も同じこと。つまりカズマ君がピンチの際は自分が守らないといけない。今朝のクエストだってバイスがいなければ危なかったはずだ」

 

 フィリップの言葉に言い返せなくメンバー達。確かにあいつが出てこなければ死ぬは言い過ぎかもしれないが、無傷で済むことはなかったと思う。

 

 「つまるところ、カズマやパーティーのピンチの時は出てきて何とかしてやるから、代わりにお前らはこっちに干渉してくんなってことか」

 

 翔太郎が纏めるように言うとフィリップも頷いた。

 

 「なにがが何とかしてやるよ。悪魔に守られる女神なんて情けない通り越して失格だわ。見てなさい、今すぐに浄化してやるんだから!」

 

 「待てよアクア。お前の主張は分からん訳じゃねぇけど、今の状態が落ち着いてるならその方がいいだろ」

 

 「私もカズマに賛成です。それに悪魔を身に宿す……ちょっと格好いいじゃないですか」

 

 「あのくそ悪魔の味方するって訳?!ずっと一緒にいるのに全然女神って信じてくれないし、あんた達なんかどうなっても知らないんだから!」

 

 べそをかきながら屋敷を飛び出し夜の街に駆けていくアクア。面倒くさいと思うけど、もしエリス様だったらと考えると

似たような反応になるんだろうな……もっと淑やかだろうけど。

 

 「はぁ……ちょっと追いかけてくる。ときめ、手伝ってくれ」

 

 翔太郎は帽子を被りときめさんと一緒に追いかけて行く。どうせ少ししたら帰ってくるのに相変わらずお節介だな。

 

 「失礼します。ここにダクティネス・フォード・ララティーナ様がいらっしゃるとお伺い致しました」

 

 3人のすれ違いでやって来たのはいかにも召し使いの風貌をした男性だった。手には一通の手紙がある。

 

 「父上からか?」

 

 「いえ、それよりも重要なことです」

 

 ダクネスは手紙を受け取るとその場で開封し読み始める。だんだん表情を固め、読みきると若干の冷や汗をかきながら召し使いに渡した。

 

 「失礼に値するが、お断りの返事を頼む」

 

 「待てよ。何があったんだ」

 

 俺は【スティール】を何気に使うとピンポイントで召し使いの手紙を奪った。……これってランダムで奪うんだよな?

 

 細かいことは気にせず読み始めると、フィリップも内容が気になるのか覗き込むように手紙を読み始めた。

 

 「サトウカズマ殿、魔王軍撲滅の多大な功績等を評価し一度王都より王女スタイリッシュ・ソード・アイリスから面会をお願いする。返事がなければ一週間後の12時、テレポートにてお伺いいたします……」

 

 拳を天井に突き上げガッツポーズをした。これは俺の時代が来た。王女なんて基本美人が鉄板だ。そうでなくてもコネが出来れば押し付けられたクエストも揉み消すことができる。

 

 「この話は無しだ!」

 

 「お前が決めることじゃありませーん!俺が決めることなんですー!安心しろ。ドレスアップぐらいの金ならバニルとの商談で工面できる――」

 

 「……君、今の話を忘れたのかい?」

 

 大いに胸を張る俺にフィリップがとんとん、と胸を叩いてきた。同時にバイスを思いだし、少し躊躇いを覚えるも天秤を掛ければ王女を取る。ほっとけば何もしないならいいじゃん。

 

 「俺は王女様に会うんだ」

 

 「止めておけカズマ」

 

 いつになく真剣なトーンで言うダクネス。確かにダクネスは貴族といってもトップの王女に対して失礼を働けばダメージを受けるだろう。

 

 「嫌だね。第一これは俺宛だ。決めるのは俺。分かったか?」

 

 「だが会食会場は私の屋敷で行われる予定だ。父上はいいと言うかもしれないが、私が駄目だと言えばそれまでだ。次期跡継ぎとしてそれくらいの意見は出来る」

 

 ぐっ……こいつ、普段はやらかす側なのに俺達が何かやらかすと決めつけてやがる。

 

 「向こうからお願いしているのだし、こっちは言わば平民だ。多少の失礼くらいは了承しているはずだ。トップならそのくらいの器はあるだろう?」

 

 「いざと言うなら僕も付き合おう。礼儀は弁えている」

 

 ダクネスは何とも言えない表情ながら、最後はほぼ諦めたように分かったと了承した。なんでフィリップはOKなんだよ。

 

 釈然としないがとりあえず約束は漕ぎつげた。ここから俺の逆転劇だ!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 夜のアクセルという街は異様な静けさだった。電気もガスもないなら当たり前のことだけど、かといってランプの炎の灯りもこれはこれでいいものだと思う。

 

 翔太郎と二手に別れ、アクアちゃんの捜索を始めた。この辺りの地理は詳しくないので、私は普段人通りが多い場所をメインに探し、翔太郎は奥深くまで探すことになった。

 

 しかしアクアちゃんの姿は割と簡単に見つかった。広場にあるベンチにポツンと座っていた。

 

 「見つけたよ」

 

 声をかけると、ぐずぐずに泣き腫らしたアクアちゃんは縋るように胸元に飛び込んできた。

 

 「アンタは悪魔の味方なんてしないわよね?」

 

 「悪魔の味方というよりは……私も魔女なんて呼ばれてたりしたから」

 

 「魔女なんて悪魔に比べたらかわいいもんよ。悪魔っていうのはね、卑しくて汚くて性根が腐ってるどうしようもない奴なんだから。そんなのが女神である私と一緒に住むなんておかしいじゃない?」

 

 私的には自分から神だって言ってる方が信じられないけどね……

 

 返答に困っていると、遠くから翔太郎の呼ぶ声が聞こえた。私はまだ少しグズるアクアちゃんの手を握り立ち上がった。

 

 「本当の悪魔って人の心に最初からいるものだよ。それが顔を出すか出さないかは別として、ね」

 

 アクアちゃんはいまいち分からない様子だったけど、私から言える精一杯の言葉だった。

 

 

    




よく考えるとスタイリッシュ・ソード・アイリスってすごい名前だよな……


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Hのみぞ知る/最悪の幕開け

開いてる期間に色々あったなぁ……Wのアニメが始まったり、リバイスが終わったり、リバイスの夏映画を前売り券まで買ったのに諸事情で見ずに終わったり……

始めましょうか、うん。 


 王女様がやってくるまでの一週間、俺はクエストに出ないと決めていた。

 

 しかし、一応手練れとして名前が知れ渡っている。幹部を倒したことやあの……サカヅキにも勝ったとか言われてる。そもそも戦ったことあったっけ?

 

 なので手土産話でも作っといた方が良いだろう思い、ふらっとギルドに寄ったが、あの依頼されたクエストをするまでは提供しないとかほざき出した。

 

 アクアは一緒に行きたがらないだろうし、ダクネスは王女様の件で色々と忙しい。めぐみんは一発撃ったら終わり。仕方なく一人で来た。

 

 一人でなんてのは今まで考えられなかったが、一応俺の中には悪魔が潜んでいる。作戦は【潜伏】スキルなどで偵察を行い、無理と判断すれば逃げる。囲まれたら強引突破で逃げる。

 

 「いざとなったら丸投げするからな」

 

 確認するようにバイスに問いかける。悪魔と一緒なんて一時はどうなるかと思ったけど、どうやら楽な方向に進みそうだ。

 

 『そう上手くいくと思うなよ』

 

 強がりを言ってる悪魔は放っておいてさっさと済ませよう。自分から言い出したんだから今さらなにを言ってもお構い無しだ。

 

 目的の場所へと近づいてきた。俺は【潜伏】スキルを使って静かに歩を進めるが――

 

 「誰もいない?」

 

 周りを見渡し、本当に誰もいないことを確認すると俺は【潜伏】スキルを消した。裳抜けのからの城跡は所々痛んでいた。

 

 「って、ここ前にめぐみんと爆裂魔法撃ち込んでた城じゃねぇか」

 

 ここまで近くに来るのは初めてだったし、所見よりも大分変わっていて気づかなかった。まさかまた幹部がーとか言わないよな?

 

 「何しに来たの?」

 

 背後からの声に思わず振り返る。しかしそこには誰もいない。

 

 「誰かいるのか?」

 

 「ここにいるよ」

 

 階段の先の玉座に居座る青年。年齢はダクネスと同じくらいだが、少し痩せている印象。あれぐらいなら力押しになっても勝てると思える程だった。

 

 ここにいるってことはこいつが問題なのか?そうには見えないが……下手なモンスターよりかはマシか。

 

 「近くのアクセルって街に住んでるんだけどよ、お前のせいでクエストとかが上手くいってないらしいんだよ。こんなボロボロな城にいても仕方ねぇし……なんならアクセルに来るか?」

 

 相手が人間なら話も通じるだろうし、俺は提案する。実際に本当にこいつが原因なのか定かではないのも含め、アクセルに置いた方がいいと思った。

 

 「招待嬉しいけど、断るよ」

 

 「なんで?」

 

 「籠の中の鳥っていうのは常に大空に憧れるものなんだ。けれど誰しもがそこへ飛ぶ力がある訳じゃない。世の中の不条理、自分の弱さ……様々なものが弊害を為し、制限される」

 

 なんか説教が始まったんですけど。

 

 「この世に生まれたその時から力ある者に屈服され、どれだけ媚び、叫び、涙を流しても踏みにじられる!言葉にもし難い最大の拷問だ。君はないのかい?」

 

 「そう言ったことは別に……」 

 

 今さらだが、引きこもってゲームばかりしてた俺に何も言わず家に置いていてくれた家族はまだマシだったのだろうか。おおよそ諦められてたからだろうけど。

 

 『埒が明かないな。さっさと退場してもらおう』

 

 中で苛ついていたバイスは俺の体を無理矢理乗っ取ると、付近に落ちていた瓦礫を掴み投げつけた。玉座は崩れ、青年の姿が見えなくなる。

 

 「君も僕の自由を奪うのかい……」

 

 【BIRD!】

 

 袖からUSBメモリを取り出し、それを起動させると自らの胸元に押し付けた。メキメキと姿は変わっていきやがて鳥のような怪物へと変態した。

 

 「Wとやらと一緒か……」

 

 バイスの呟きが聞こえる。なんでそんなの……っていうかメモリなんかであんなんなるかよ!

 

 俺の体を乗っ取ったままバイスは縦横無尽に駆け回る。一度距離を取り、体勢を立て直すが既にその場にはいない。

 

 「無駄だよ」 

 

 背後からの声に気付き無茶な体勢で攻撃を避ける。不時着ながらもしっかり受け身を取るが、腕からは血が流れている。

 

 一旦退こうと出口に向かおうとすると怪人は高く鳴く。城を出たこの先で上空から降りてきたのはモンスターのグリフォンだった。

 

 「まずいことになったな」

 

 『何がだよ。お前ならこれくらい――』

 

 「簡潔に纏めよう。今攻撃をすればほぼ確実に敗北する」

 

 俺は言葉が出なかった。負ける?バニルや紅魔族すらも簡単に退けていたのにグリフォン程度に負けるなんてありえないだろ。

 

 「お前の体が貧弱すぎるせいで思うように力が出せん。この間のモンスターの時もそうだったはずだ」

 

 この間のモンスター……?ジャイアントトードの事か?それなら――あっ、骨が折れたのってそういうこと?

 

 つまりバイスだけなら何の問題ないけど、俺の体がメインになってる分強すぎる力がデメリットになって反動ダメージを受けるってことか……諸刃の剣もいいとこじゃねぇかよ!

 

 「俺を封印していた魔道具を使ってみろ。ただ封印するだけならあんな珍妙なもの形でなくてもいいはずだ」

 

 そう言ってバイスはグリフォンを左腕で殴り飛ばした。最低限の力で抑えるも、ビキッと嫌な音が体内で響く。

 

 その隙にバイスは本体の俺と入れ替わる。強烈に来る痛みが突然襲いかかり思わず悲鳴を上げてしまう。

 

 『折れただけだ、気を失う訳じゃない』

 

 「お前と俺の頑丈さを一緒にすんじゃねぇ!」

 

 大声を張り上げると更に痛みがはしる。こんな状況であの魔道具の使い方を見つけろとか正気の沙汰じゃねぇ。

 

 必死にもがきながら懐に入っていた魔道具――リバイスドライバーを取り出す。最初会った時はベルトみたいに巻きついてたから――

 

 ベルトはないが試しに腰に当ててみるとベルトが発射され装着される。かっけぇ!

 

 そう思ったのも束の間、心臓が爆発するように高鳴り、身体中が熱くなる。それを見た怪人は弾丸のようなスピードで詰め寄るも、俺は余裕で嘴を掴んだ。

 

 「【ドレインタッチ】!」

 

 怪人から魔力を奪い左腕を全快させる。少し弱った隙に怪人を蹴り飛ばし距離を――

 

 「ぐっ!」

 

 「え?」

 

 軽く小突いた程度のつもりだったのにそのままグリフォンの元まで転がっていく。どうなってんだ……それにバイスの声も聞こえない。

 

 「制御装置の役割なのか。しかも強くなってる」

 

 カードを見るとすべての数値が約5倍程度に跳ね上がっていた。こりゃ強いわけだ……でも同程度の力が引き出せるならワンパンで沈めれるはずだが、こういった暴走形態の制御ってのは弱体化するのが相場だ。

 

 「意識を保てる代わりに火力が押さえ込みになるってところか……ん?」

 

 一人で納得していると、大きなスタンプが目の前に現れる。このいかにもって感じ、全力で使いたいなら契約しろってか。

 

 「試してみるか」

 

 俺はスタンプを奪うように受け取った。スタンプの正面には悪魔の顔が刻印され、重なるようにティラノサウルスが描かれる。なんでティラノサウルスかは分からんけど、多分本物のドラゴン見たことないからか?

 

 【REX!】

 

 スタンプを起動させリバイスドライバーに押印し、自然な流れで隣のスペースにセットする。まるで始めから分かっているような感覚に戸惑いつつ、レバーの要領でスタンプを傾けた。

 

 【Let's end this world where we judge each other on righteousness】

 

 【levi,vice!revice!】  

 

 『予想以上に簡単に引っ掛かったな』

 

 バイスが飛び出し、スタンプを模した強力なエネルギーで閉じ込めるように俺に叩きつけた。溢れる力の情報量に皮膚がピリピリと刺激しながらそれは弾けとんだ。

 

 「変な着ぐるみだが、実体化出来るなら我慢するか」

 

 俺の隣に立つのは、ティラノサウルスの頭部をモチーフにした被り物にマフラーを巻いたバイス。少しマスコット感が強い。

 

 「お前……!」

 

 「裏切りは悪魔の得意技だ。私はあっちの人間をやる。お前は鳥を任せる」

 

 「はっ?えっ、ちょ……待てよ!」

 

 有無を言わせず跳んでいくバイス。俺がグリフォンなんて無理に決まって……?

 

 「なんだこれ?!」

 

 ガラスの破片に写った自分を見て思わず叫ぶ。いかにも悪魔の姿に驚きを隠せない。これじゃあいつと同じじゃん!

 

 そうしてる間にもグリフォンは突撃してくる。迷ってる暇はなくグリフォンの攻撃をジャンプで避け右手を構える。

 

 「【フリーズ】!」

 

 右手から放つ初級の氷魔法。しかしその勢いは凄まじく、ウィズの【カースト・クリスタルプリズン】にも引けを取らない程に翼を凍らせていく。

 

 俺は着地してちゅんちゅん丸を引き抜く。同時に紫に淡いピンクが少し混じったようなオーラを刀身に纏いながら、その長さを約3倍まで伸ばしていく。重さは変わらない。

 

 「【妖刀・ちゅんちゅん丸】……いざ!」

 

 ちゅんちゅん丸を構え一直線に斬る。嘴の先端から斬り込みが入り、そのまま一寸の狂いもなく真っ二つにグリフォンは斬られ倒れると、同時に凍りついた翼がガラスのように割れた。

 

 倒したのを確認して改めて自分の体を見る。姿が変わったことと力を得たこと以外異変はない。あいつ、話せたけど俺を勘違いさせて調子乗らせる為にわざと黙ってたな……

 

 「終わったか?」

 

 「そうじゃ――ん?」

 

 戻ってきたバイスのマフラーを掴む。が、そこには赤い液体が染み付いているのが分かり、俺の手にも付着した。嫌な予感がして辺りを見渡すと、いるはずのあの男がいない。

 

 「お前と仲間には手を出さない契約だ」

 

 その一言に俺は急いでスタンプをベルトから外すと、バイスはそのまま消えていき、あのUSBメモリが落ちた。

 

 喰ったんだ。あの男を――ならあれは、あのスタンプは契約成立の証拠で、内容は……

 

 ゾワッと背筋が凍りつく。自分のせいであいつは喰われ死んだ――取り返しのつかないことをしたことに気付き、一気に恐怖感に襲われ、その場から動くことがしばらく出来なかった。

 

  




リバイスへの変身音声ですが、一部抜粋し残りは異なるものとします。主に素人英語を使いますがその辺はご愛敬ということで……。

例として、原作では【オーイング!ショーイング!ローイング!ゴーイング!仮面ライダー!リバイ・バイス!リバイス!】とテンション高めですが、今回はデモンズドライバー寄りのダークな雰囲気でいきます。何よりこの世界観のリバイスは仮面ライダーではないので……最後の名乗りだけ拝借する形になります。



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Hのみぞ知る/王女会談

ここまで来るともう投稿頻度とかどうでも良くなってくる。でも忘れた頃に投稿しないとという義務感に襲われるのはなぜだろうか


 ――姫様来訪当日。来るのは昼頃との連絡があり、ダクネスの家はバタついていた。

 

 アクアとめぐみんも自分に合った衣装を見繕うためそちらに行っている。

 

 翔太郎とフィリップ、そしてときめさんもパーティーメンバーではないが街で活躍する人物として会合に参加する予定だ。

 

 一方の俺はタキシードなのでそこまで時間はかからないので、一人でウィズの店に来ていた。

 

 「契約の対価に人間を喰らうか。府に落ちんことはないな」

 

 「悪魔的には困るんじゃないのかよ」

 

 「人間は大勢いる。それに死は平等というだろう。我輩が悪感情を喰らうのと一緒だ……無論、無視は出来ないがな」

 

 いつもとは明らかに態度が違うバニルを見て、事の重大さを改めて認識する。

 

 「だが人間一人の犠牲で幹部一人を倒せると割り切れば安いものだ。我輩がお前と同じ立場ならそう考えよう」

 

 どうすればいいのか答えは出ない。実際心強い味方であることは確かだが、全く無関係の奴が犠牲になるというのは鬼畜のカズマと呼ばれる俺も心が痛む。別に自分で自称してる訳じゃないけど。

 

 「見てくださいバニルさん!さっき仕入れに行ったら珍しいものが売ってたんですよ!なんとこのアイテムはですね――」

 

 機嫌良く帰ってきたウィズからバニルはアイテムを奪った。

 

 「我輩は渡した金でポーションを買ってこいと言ったはずだが?」

 

 「それはそうですけど……でもそれも野生のモンスターが嫌がる臭いを発して便利なんですよ!」

 

 「強烈なうえに妖しく光る灯りでアンデッドを呼び寄せるアイテムが役に立つかたわけ!」

 

 バニル式殺人光線が放たれた勢いで俺は急いでウィズの店を飛び出した。危うく巻き添え喰らうとこだったぜ……悪魔の契約に関してもうちょっと聞きたかったけど。

 

 「時間も時間だし、戻るか」

 

 相手は本物の王族だ。流石に遅刻は出来ない。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「準備が遅いぞ!アイリス様との面会をする自覚があるのかお前は!」

 

 いつもとは違う口調で怒るダクネス。普段なら放置プレイとかほざくはずなのに……まぁ、今の状況じゃあ俺が悪いか。

 

 「うるせーな、姫様の前ではちゃんとしてるよ。それよりアクアとかめぐみんはいいのかよ」

 

 一抹の不安を感じたのか、強引に二人の身体チェックをしている間に一人で本を読み耽っているフィリップの元に駆け寄る。

 

 「翔太郎達は?」

 

 「二人は遅れてくる。依頼が終わってないみたいだね」

 

 「依頼された仕事って……別に事件とかじゃないだろ?モンスターだったらギルドに行くだろうし」

 

 フィリップは読んでいた本を閉じ、落としていた視線を合わせた。

 

 「事件や依頼に大きさは関係ない。例えそれがそう呼べないレベルだとしてもね」

 

 そう言ってフィリップは一人姫様が待つ大広間へ向かう。身体チェックを終えたダクネス達も急行する。

 

 「いいか、くれぐれも粗相がないようにしてくれ」

 

 大広間の扉が開く。奥の大きな椅子には10歳程の金髪碧眼の少女が座り、両サイドには護衛の剣士と魔法使いの女性が二人。

 

 「お待たせいたしましたアイリス様。こちらが我が友人であり冒険仲間でもあるサトウカズマ一行と、縁あって同じ屋敷に住んでおりますフィリップです」

 

 「お初にお目にかかります。先程ご紹介にあった同じ屋敷に住んでいるフィリップと申します。職業はアークウィザードをしています。以後、お見知りおきを」

 

 見本と言わんばかりに先行して挨拶をするフィリップ。なんか慣れてる感じがあるけど、日本では良いとこの出身だったのだろうか。

 

 一悶着ありながらもそれぞれが自己紹介を終え各々が席に座り、王女様は護衛の剣士に耳打ちをした。

 

 「下賎の者。あまり王族を不躾に見るものではない。本来なら同じテーブルで食事をすることも成り立たないのです。今は早く冒険譚を」

 

 なるほど。色ものばかりのこの世界でようやくまともなイベントが始まると内心期待していた俺がバカだったみたいだ。

 

 「チェンジで」

 

 俺は迷いなく言いきった。するとダクネスは俺の首根っこを、アクアとめぐみんのドレスを掴みスタコラと広間から廊下へとを連れ去られてしまった。

 

 その場に1人残されたのは僕はなんとか間を繋ぐため考えを張り巡らせる。君も焦るのは分かるがもう少し貴族らしさを持ったらどうだろうか。

 

 「僕の冒険譚では迫力が少ないでしょうが、少しばかりお付き合い頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 アイリス王女は何も言わずこくりと頷く。とは言ってもこの世界に来てから大きなことと言えば大体カズマ君達が一緒でやって来たことは本当に小さい。

 

 なら――上手いこと合わせて風都にいた時の話でもしようか。

 

 「あれは世にも珍しいキノコを手に入れる為に山に登った時のこと。僕は相棒とともに猛吹雪に襲われ帰り道も分からず彷徨っていました。」

 

 「突如として現れた女性に誘われ向かった先は妖しい雰囲気に包まれた屋敷。そこで行われる仮面舞踏会では、1人の男性と4人の女性が仮面を付け、お互い素顔を知らぬままお相手と婚約するという奇妙な……お見合いが行われていました」

 

 少し食い入るように話を聞き始める王女様。まだ12歳の女の子に大人のどす黒い話はどうかと思ったが、上に立つ者ならばこれも経験になる。

 

 暫く話を続け、モンスターが屋敷付近に現れた辺りでカズマ君らが戻ってきた。

 

 「話したいのは山々ですが、どうやら本人が戻ってきたようですので。続きはまたいつか」

 

 僕は席を外し少し離れた位置に移動した。しかしなぜ、王女様は自分で話さずわざわざ側近に通すのだろうか。喋れない訳ではなさそうだが……

 

 「アイリス様が少しもどかしそうにしているが」

 

 「前に住んでいた場所で起きた事件の話をしていただけさ」

 

 それを聞くとダクネスちゃんは怪訝な顔をし、今度は僕が広間から退室し連れ去られた。

 

 「何を考えている?!」

 

 「何とは……別に問題ないはずだよ」

 

 「フィリップ。私はバニルが言ったことを信じてる訳ではないし、お前がこれまでそんな悪行をしてきたとは思ってない。でももしそれが原因で調査されてしまったら大変はことになる」

 

 ダクネスちゃんの話を聞いて思い出す。確か家族を殺し故郷を犯罪都市に変えたという話を否定していなかった。

 

 「そんな踏み込んだ話をするはずないだろう。僕だって弁えている」

 

 「でも、お前だってたまに一つのことに夢中になって寝ずに三日三晩なんてざらだし、危険を省みないことだってあるし」

 

 「後者は君も同じだろう」

 

 「わ、私は仲間を守る為にだな!それに――」

 

 ダクネスちゃんは少し俯いた。いつもの騎士の姿とは違い今のドレスの姿だと違和感を覚える。

 

 「お前には色々と世話になってるから」

 

 世話をした覚えはないが……彼女がそう言うならそうなんだろう。

 

 「どうしたしまして」

 

 「…………」

 

 「戻るよ。これ以上王女様に恥をかかせるのは失礼だ」

 

 「えっ、終わりか?!」

 

 ダクネスちゃんを尻目に広間に戻ると、王女様に宴会芸をするアクアちゃんを見て二人して取り抑えた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 その後、カズマ君の冒険譚が始まった。王女様が今まで聞いてきた話は簡単に敵を倒してしまうようなものであまり面白いものではなかったようだ。

 

 だがカズマ君達が相手してきたのは幹部クラスなど強者が多い。しかも独特な方法で攻略してきた。悪く言えば正攻法じゃないということだけど、それもそれでいいだろう。

 

 「そう言えばカズマ殿はあのミツルギ殿と勝負して勝ったと聞いたことありますが……」

 

 「それは単に力比べではなく知恵比べですね。あいつは剣を振り回すだけですけど、俺は自分が使えるものを状況に応じて使い分けるんですよ」

 

 実際特典を貰った転生者なんてかこつけてるだけだろ。

 

 「……では一度、私と腕試しして貰えませんか。力量差はありますが、どのように乗り越えるか見てみたくもあります」

 

 そう言って付き人は剣を抜いた…………マジで言ってんの?

 

 「ここが会食の場であるならば、その剣は納めるべきだと思います。そうでないと貴殿方らは野蛮な蛮族にしか見えない」

 

 フィリップは本から目を離さず指摘した。その態度が余程癪に障ったのか、矛先がフィリップに変わった。

 

 「貴様――」

 

 「わりぃ、遅れた!」

 

 扉を勢い良く開け現れた翔太郎とときめさん。現場の状況を瞬時に理解したのか、フィリップの前に滑り込むように入った。

 

 「何があったか分かりませんが、フィリップが失礼なことをしてしまい申し訳ございません。可能であればそちらの剣をお納めするか、無理なら代わりに俺が犠牲になります!」

 

 「どうして僕がやらかした前提――」

 

 ダクネスは素早くフィリップの口を塞いで力任せにその場から離れていく。

 

 その様子を見ていたアイリス王女は小さく吹き出し笑った。さっきまでの少し冷たい印象が溶け、年相応の笑顔を見せる。

 

 「クレア。フィリップ殿の言う通りここは戦いの場ではありません。今すぐに刀を納めなさい」

 

 決闘を申し込んできた剣士のクレアはアイリス王女の言葉に気まずい表情をしながらも剣をお納めた。ってか今まで耳打ちだったのに、普通に話すのかよ。

 

 「お名前は?」

 

 「左翔太郎。極めてハードボイルドな私立探偵です」

 

 「最近じゃ猫探しの達人になり始めてるけどね」

 

 「……それだけ俺の功績が目覚ましく、犯罪も起きないってことさ。平和が一番だ」

 

 普段ならアクアの小言に怒るが、今日は耐えきった辺り流石場を弁えている。

 

 「そういえば王都には同じ探偵がいますよね?」

 

 「……鳴海壮吉を存じてるようだな」

 

 「はい。あの人は俺の師匠で相棒の恩人ですから、比べたら俺なんてひよっこにもなりませんが」

 

 翔太郎の師匠でフィリップの恩人か。なんか凄そうだけど、現状の翔太郎を見てもいまいちパッと思い浮かばないな。

 

 「え……」

 

 アイリス王女の表情を見ると、少しショックを受けていた。しかもクレアさんまでもが……というより若干怒りも入ってる?

 

 「そ、そろそろ時間のようですし、私達はここで失礼させていただきますね」

 

 魔法使いの人が明らかに不自然な流れで話をぶったぎりテレポートの準備を始めた。付き人全員が光に包まれ始め――

 

 アイリス王女は転送される直前に一番近くに座っていた俺を自らに引き寄せ俺もテレポートに巻き込まれてしまった。

 

  



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純情R/姫様の人攫い

久しぶりの投稿です。最近暑い!


 今の状況でスレを立てるなら、【俺、誘拐されるwww】ぐらいのノリで立てるかもしれない。

 

 そんで次には切実に【助けて】ってレスして反応を待つくらいしか出来ない。パソコンなんて異世界にないから出来ないが。

 

 「えと……王女様?何で俺はここに連れてこられたんですかね?」

 

 「実は、少し聞きたいことが……」

 

 それならこんな誘拐紛いなことしなくてもあの場で……そう思った時、王女様はどこかもどかしくしている様子だった。

 

 「アイリス様。大変恐縮ですが、いきなりこんなことをされると困ります!」

 

 クレアが割って入るように遮ると、さっきまでの王女の態度が変わったようにそそくさと城に連行されてしまった。俺はもう一人の付き人のレインさんに話しかけた。

 

 「あの、俺は……」

 

 「アイリス様が申し訳ありません。余程貴方の冒険譚が気に入ったと思われますので、よろしければ暫く滞在して相手をしてあげれませんか?」

 

 どうもそんな感じじゃなかったけど?

 

 「私は城の者に話をして部屋を用意させますので、少々お待ちください」

 

 無理やり進んでく感じなのね、はい。

 

 護衛の人達も散らばり、いよいよひとりぼっちになってしまった。待ってろって言われても……

 

 『面倒なことになったな』

 

 「うおっ、いきなり出てくるなよ。いくら見えないからってここ城内だぞ」

 

 バイスに注意するが、当の本人はそんなこと気にすることなく辺りを見回す。万が一だと俺が疑われること知ってんのかよ。

 

 『私が見えるなんてのは腐肉と仮面悪魔ぐらいだ。それにお前の仲間のような失態はしない』

 

 あいつらと比べると大体の奴等がマシ扱いになるけどな。

 

 「ん?腐肉って誰のことだよ?」

 

 『お前で言うならば駄女神といったか』

 

 アクア……?こう言うのもあれだが、むしろ神聖な奴だし腐肉なんて――あ、喰らう悪魔から見れば食べられないから腐ってんのか。

 

 「なぁ、正直な話。このままここにいるのもいいなって思ってんだけど」

 

 『反対だな。下手をやらかしたら死ぬぞ』

 

 それってお前の……いや、招かれた客言えど下手にすれば首が飛ぶこともある。

 

 「今の内に帰るか。リスクはゼロの方がいい」

 

 するとバイスはするっと俺の中に隠れた。振り返るとさっきの魔法使いのレインさんがこっちに向かっていた。これ逃げられないやつだな、うん。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 一方、ダスティネス邸では――

 

 「おい、どこ行くんだよ!」

 

 「王都にきまってるじゃないですか!私の爆裂魔法をお見舞いしてやりますよ!」

 

 「なんでそんな脳筋思考なんだよ!んなことしたら余計にまずいことになるだろ!」

 

 俺は憤怒するめぐみんを取っ捕まえ宥めるがどうも興奮が落ち着かない。本当にこれで頭いい種族なのかよ。

 

 「翔太郎の言う通りだ。王族だし、人質目当てなんてことはないはずだよ」

 

 フィリップのごもっともな意見にやがて落ち着きを取り戻すめぐみん。俺はめぐみんを降ろして一段落着くと、乱れた帽子を直した。

 

 「なんで姫様――アイリス王女だったけか。彼女はカズマを連れ去ったんだ」

 

 「行動を見る限り咄嗟の動きだろう。となると、前後の会話に何か引っ掛かるものがあったのかもしれない」

 

 前後の会話といえばおやっさんに関してのことだ。でもカズマはおやっさんを知らない。連れてくなら俺が適任のはず。

 

 「ひゃまひゃまひかくにひたのはかすまだったひゃらじゃにゃいにょ?」

 

 マイペースに残った飯を食べながら話すアクア。お前あいつと一番付き合い長いんだから心配してやれよ。一番知ってるから安心してるというよりマジで心配してない感じだし。

 

 半分くらいなに言ってるか分からんけど、近くにいたからーとか言って……

 

 「じゃあ実質人質じゃねーか?」

 

 俺の一言に周りは静まり返り、アクアの咀嚼音だけが余計に響く。そのせいで緊張感がまるでない。

 

 「仮にそうならば殺されるなんてことはないよ」

 

 静寂を破るフィリップ。そうだよ。わざわざ人質を殺すなんてバカな真似はしねぇよ。王族じゃなくてガチの犯罪者でとそれくらい分かる。

 

 「アイリス様に限ってそのような野蛮なことはしないはずだ。それこそあいつが粗相を働いたりしなければの話だが……」

 

 面倒事は起こさないが、いかんせんあいつのことだ。ダクネスが不安でしかないのも分かる。

 

 「とにかく俺は先に王都に向かう。丁度テレポートも使えるし、おやっさんのことなら俺が良く知ってる」

 

 「しかし、私なしでどうやって連れ戻す?こう言うのもあれだが、ダスティネス家の権限でも使わないと領地にすらいれて貰えないぞ」

 

 「それはお前らが来てから動く。その間、俺は下手なことをやらかさないかだけ監視しておくぜ」

 

 俺の探偵スキルが活かされる場面だ。気合いを入れ、俺は単独テレポートで王都に向かう。

 

 「とりあえずは翔太郎を信じよう。私達も屋敷に戻って準備次第出発を――」

 

 「悪いが僕は同行できない。前々からミーアちゃんから依頼を受けていてね。この面会が終わり次第と約束していたから、今回は君達だけで向かってくれ」

 

 「なっ……フィリップは翔太郎やカズマのこと、心配じゃないのか?!」 

 

 「危なっかしいとは思うが心配はしないよ。僕の相棒はそんなことで負けることはない。何より、今回は戦いはなさそうだからね」

 

 一足速く部屋を出ていくフィリップ。相手が誰であろうと自分の相棒が負けるはずないと、そんな信頼を得ている翔太郎が少し羨ましいと感じた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 場所は変わって自分達の住居となっている屋敷。 装備等の準備を整え後は出発する限りとなった。

 

 「前々から聞こうと思っていたのですが、これは何ですか?車輪が付いてるってことは移動に使うものですよね」

 

 「その通りさ。丁度メンテナンスも終わってね……よっと」

 

 スイッチを入れると大きなエンジン音が吹かされる。めぐちゃんとダクネスちゃんは少し驚いたみたいだ。

 

 「紅魔の里のレールガンから着想を獲たが、成功のようだね」

 

 爆裂魔法を吸収してエネルギーに変換し打ち出すのが可能なら、それを動力源として活かすのも可能だと思いつき構造したが何とかなりそうだ。

 

 「フィリップって超技術をさらっと再現するわよね……」

 

 アクアちゃんが少しドン引きしながら称賛してくる。喜んでいいのか良く分からない。

 

 「さて、ときめ。試し乗りに付き合ってくれるかい」

 

 「運転できるの?」

 

 「免許は得ている。専らペーパードライバーだけどね」

 

 ヘルメットを嵌めときめを後ろに乗せ、スタンドを外し走り始める。軽く屋敷を一周し安全性を確認する。

 

 「乗り心地は?」

 

 「少し安定性が欠けるかな……?」

 

 「翔太郎の背中の方が安心すると……」

 

 「そんなこと言ってないでしょ!」

 

 赤面しながら叩いてくるときめ。こんな冗談を言うのも久しぶりだ。

 

 「凄いじゃないですか!馬車より速くてフォルムも格好いい!私にもやらせてください!」

 

 「危ないからダメ」

 

 鼻息荒くしながら興奮するめぐちゃんを抑えていると、今度はダクネスちゃんが興味深そうにハードボイルダーを見ている。

 

 「原理はさっぱりだが、まさかここまでとは……流石フィリップだ」

 

 「元は出来上がっていたから――」

 

 「女神の私ぐらいになら運転なんてちょちょいのちょいよ!今度は私にやらせて!」

 

 「あっ、ちょ、揺らさないで――」

 

 ガシャン、と勢いのまま倒されるハードボイルダー。ギリギリで怪我は免れたが、サイドミラーが折れてしまった。

 

 「……さて、速くダクネスの屋敷に戻りましょ!カズマのことも心配よ!」

 

 そそくさと逃げ出すアクアちゃん。相変わらずしてくれると呆れハードボイルダーを起こす。

 

 「僕のことはそっちから伝えておきてくれるかい?」

 

 「分かった。フィリップもミーアも気をつけてくれ」

 

 笑顔で八重歯を見せながらミーアは頷くとヘルメットを被った。少し大きいかなと思ったが、獣人の耳が幸いして問題はなさそうだ。

 

 「耳が痛い」

 

 「少しの間だけ我慢してほしいな」

 

 どうやらそう簡単に行くわけではないようだ。僕はそう思いながらハードボイルダーで走り出した。



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