ゲーム始めたら猫耳で銀髪の記憶喪失少女NPCが捨てられていたので育成して最強目指します (運の命さん)
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第1話 美少女NPCと前日譚

注意書き

作者は文章を書くのは苦手で、文章が拙い所も多々あるかもしれません、暖かく見守っていただけると幸いです。
またご都合主義のような展開等も多々含まれる可能性もあります、そしてVRMMOの知識も作者は余り持ち合わせていません。

それでもいいよという方は先へお進みください!


『FI?』

『そうそう! Fellow Islandsッ、通称FI! このゲームむっちゃ面白いんだよ』

 

 

 〇

 

 

「…って言って持たされたけど、VRMMOなんて俺あんま知らないしなぁ」

 

 俺、篠崎ハルは机に置かれた物を見て、ため息を吐く。VRMMOというジャンルのゲームを起動するためのヘッドゴーグル、そして『Fellow Islands』と表紙にかかれたゲームのソフト。これらすべて幼馴染である椎名大樹に渡された物だ。

 

「というかよくこんな物用意できたな」

 

 アイツが言うには『兄が持ってた奴なんだけどもう使わないから』と言って売却予定になっていた所を、勝手に持ち出して俺に渡したという。

 ドヤされるぞ? と言ってもあいつは『その時はその時』といって聞かなかった。

 そしてこのFellow Islands、通称FI。ここ最近人気のVRMMOであり、機能やシステムも非常に素晴らしく、イベントも盛んにおこなわれているという。

 

「アイツ…ゲーム内で他に遊べる仲間がいないから俺に頼んだんじゃないのか? といっても、あの押しには反論できやしない」

 

 ため息の回数もだんだんと多くなる。今行っている高校もアイツが一緒に行こうと言って聞かなかったから行ったのであって、自分で決めたわけではない。それほどアイツの押し強さには毎回負けているのだ。

 まぁそれでも、一緒に居て悪い気分にはならないし、寧ろ楽しい事も多いから良いのだが。

 

「しょうがねっ、とりあえず起動してみますか」

 

 ヘッドゴーグルを装着し、耳の所についていた電源をオンにする。

 ヒュイイン、と典型的な機械音が流れると同時に意識がだんだん遠のいていく。

 これがゲームの世界に入るという感覚なのだろうか?

 この時俺は、不安な気持ちのどこかに、微かな好奇心も生まれていた。

 

 

 〇

 

 

 意識が戻ると、目の前には何もない白い空間が広がっていた。

 ここが初期設定の場所なのだろうか?

 

「無機質だな…もうちょっと面白く感じそうな内装でも良くないか?」

 

 一人で意味のない愚痴を吐いていると、目の前に文字が浮かび上がる、『これよりキャラクター設定を開始します』と。

 内装は適当だが、説明等は案外しっかりしているようだった。

 

『最初に、名前を設定してください』

「名前…VRMMOっつーことは、本名は色々マズいよな…。篠崎のシノに、ハルのハをくっつけて、シノハでいいか」

 

 我ながらクソみたいなネーミングセンスだが、今更突っ込む必要もない、こういうのは感覚でいいんだ感覚で。

 文字パネルに『シノハ』と入力して完了を押す。すると今度は周囲に様々なオブジェが形成される。

 

『ジョブを決定してください』

「ジョブ、つまり職業か。こういう系のゲームのだいご味だよな」

 

 剣を主に扱い戦場の戦略にも長けた戦士。回復や支援のエキスパートの白魔術師、攻撃魔術や遠距離攻撃に長けた黒魔術師、そして圧倒的速さで相手をかく乱する上級者向けの暗殺者、その他にも色々存在している。

 

「…やっぱりこういうのって派手に遊びたいよな。だからとりあえず適当に戦士でいいや」

 

 戦略にも長けたという事は、何か戦況を変えるようなスキルとかも存在しているだろうというちょっと淡い期待も込めながら戦士を選ぶ。

 まぁ大体の理由が派手に戦いたい、という物であったが。

 

『初期ステータスを振り分けてください』

「ほう。俺みたいな少し優等生で派手好きといったら、賢さと攻撃力をバランスよく振って、あとは素早さとかかな~?」

 

 ちょっとイキってみた、我ながら恥ずかしい。でもこれは悪い選択ではないだろう、後に分かったことだが、攻略サイトにもそう書いてあった。様様である。

 

『キャラクター設定が完了しました、容姿は現実のものが反映されます。それでは、Fellow Islandsの世界にいってらっしゃいませ』

 

 あぁそうなのか、別にイケメンになれたりはしないのか。容姿いじって少しイケメンになったら、可愛い美少女キャラクターを相棒にできるかもしれないと思ったが、現実もゲームも甘くないという事だろう。

 足元に穴が現れ、俺は静かに落下する。

 光に包まれる――そして数秒後、静かに着地し周囲の光が晴れていく。

 そして晴れた先に広がるのは、のどかな街風景であった。




閲覧ありがとうございます。
次話もお楽しみください。


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第2話 美少女NPCと出会い

プロローグは大体これくらいです。
これから本編やっていきます、よろしくお願いします。


「へぇ、案外作りこまれているんだな」

 

 のどかな街風景、目の前には大きな噴水、周囲には様々な顔の村人NPCに、始めたばかりのプレイヤーがちらほら見受けられる。

 

「一先ず…色々確認するか」

 

 視界の端にある三本バーのアイコンを注視すると、メニュー画面が開かれる。道具、装備、ステータス…ゲームをプレイするうえで欠かせない物がたくさん見受けられる。

 

シノハ《戦士》 LV:1 所持金:金貨(0) 銀貨(5) 銅貨(10)

【HP】45/45 【MP】5/5

 

【攻撃力】20《初期:10 振り分け:10》

【魔力】5《初期:5 振り分け:0》

【防御力】25《初期:20 振り分け:5》

【敏捷】10《初期:5 振り分け:5》

【知力】15《初期:5 振り分け:10》

 

装備

武器・右:初級の鉄剣

防具(武器)・左:初級の盾

頭:

身体・上:革衣・上

身体・下:革衣・下

足:

アクセサリー:

 

「ふむ…バランス良く振ったはいいが、少し物足りない気もするな。いや、今考えても仕方ないかな~」

 

 ふぅ、と息をつきメニューを閉じる。改めて周囲を見渡してみる。

 NPCは皆自律して動き、仕事したり散歩したりして暮らしている。

 眼を閉じてみれば風が当たるような感覚を覚える。まじで、現実世界にいるような感覚だ。

 

「すげぇ…さて、とりあえずどこに行くか…ん?」

 

 一先ず近くの森まであるこうとした時、ふと俺は気づく。目の前の噴水から少し下に視界を送ると、そこには小さな箱に入ったNPCの女の子が一人。

 

「…え、誰?」

「…?」

 

 背中の真ん中まで延ばした銀色の髪に、ぴょこっと生えた猫耳の可愛らしい美少女NPCがこちらを覗き込んでいた。

 だが一つだけ違うのは、名前の表記がないという事。

 

「えっと、君、自分が誰か分かる?」

 

 少女は小さく首を振る。

 

「…記憶喪失系NPC? 何それ、聞いたことないんだけど」

「お兄さんは?」

「ん? 俺はしのざ…いや、シノハだ」

「シノハ…良い名前」

 

 俺のクソダサネーミングセンスを良いと評する当たり、こいつは他のNPCとは違うとすぐ察しがついた。

 というかこのNPC、普通にしゃべるじゃねぇか。なんだ? ゲームの技術はまともに会話できるNPCまで作れるようになったのか?

 科学の進歩ってすげぇんだな。

 

「…で、何してるんだここで?」

「分からないの、私が何でここにいるのかも、誰なのかも、全部」

「…めんどくせぇ…。でも、このままだと色々マズいしな。一先ずこっから離れた所で話そうか」

「…? うん」

 

 少女のNPCを立ち上がらせ、村の外れへ行く。一部のNPCは俺に怪奇な視線を送る。やめろやめろ、俺は不審者じゃねぇ。

 

 

 〇

 

 

村の外れまで来て、少女を眺める。

 

「…」

「来たはいいが、どうすっかな…。お前、NPCだけど何かステータスとかある? えーっと、身分証明、的な?」

「うん」

 

 彼女が手をスマホのように動かすと、目の前に俺の時のようなステータス画面が表示される。

 

 

???《NPC:???》 LV:1

【HP】25/25 【MP】40/40

 

【攻撃力】10

【魔力】30

【防御力】5

【敏捷】5

【知力】10

 

装備

武器・右:

防具(武器)・左:

頭:

身体・上:古びた村娘用ドレス

身体・下:(古びた村娘用ドレス)

足:

アクセサリー:

 

 

「魔力たけぇ!?」

 

 レベル1なのは酷いとしか言いようがないが、初期魔力が異様に高い。後最も目につくのは、職業までが不明であるという所。凄い好奇心がそそられる。

 レベルがあるという事はつまり、育成が可能だという事。ならば、こいつを育成してやれば、何か凄い事が起きるのではないだろうか? 確証はないが。

 

「…こいつは、当たりを引いたかもな。どーせ他の奴らはボロボロだからっつって、見向きもしなかったんだろうが」

「? お兄さん?」

「なぁお前、俺と一緒に来ねぇか?」

「え?」

 

 これが俺、シノハと猫耳で銀髪な美少女NPCの出会いであった。




閲覧ありがとうございます。
続きが気になる、面白い、と思っていただいたならば、ぜひぜひ評価とお気に入り登録よろしくお願いします。


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第3話 美少女NPCと契約者

美少女NPCの容姿は完全な性癖なので書いててとても楽しい気持ちになりますね。
ニコニコします。


「一緒に…」

「どうせこのままいても、行くアテとかないだろ? これから俺は初めての冒険に出るわけだが、一人だと何かとつまらないしな…。どうだ?」

「一緒に…冒険…」

 

 名も無き少女は、一瞬悩むような表情をする。俺の言っている事には一理あるが、一緒についていっていいのだろうか? みたいな感じの顔だ。

 NPCにも不審者とかの知識が搭載されていたりするのだろうか? 俺はそういう類でもなんでもないのだが。

 

「私で、いいの?」

「自分で言うのもなんだが、俺と一緒に居てくれる奴なんかたかが知れてるぜ? どうせなら、初めて会ってこうして話をすることができたお前と共に行動したい」

「…」

 

 少女は胸に両手をあて、目を閉じる。

 

「不安か?」

「いえ…ただ、見ず知らずの私にここまでしていただける人に出会うのが初めてで…弱いし、ボロボロだし…?」

「何だ、そういうことか。気にするな、最初のうちは皆そういうもんだろう。俺の姿を見てみろ、ボロボロの革にすぐ折れそうな剣だぜ? お前と何も変わらんと思うけどな」

「に、にあってると思いますけど」

「おう、お世辞をありがとう」

 

 少しずつ少女も笑顔を見せるようになってきた。NPCだから最初は話が通じないと思ったが、案外人と喋るのとそんな大差はなかった。

 

「それに、弱いなら強くなればいい」

「え?」

「レベルがあるってことは、成長するという事だ。成長すれば幾らでも強くなれる。…そうだ、どうせならこの世界で最強の二人になってやろうぜ」

「最強の…二人」

「良い響きだろ?」

「…確かに。なんだかかっこいいですね」

「だろ? で、どうだ…。一緒に来るか?」

「…私でいいのなら、ぜひっ」

 

 少女は笑いながら俺にそう答えた。これはいつか絶対に優秀な戦力…いや、相棒となり得るだろう、理由はわからないが俺はそう確信していた。

 魔力が高く職業も不定の美少女NPC、これ以上の面白そうなあたりが他にいるだろうか? ラノベでよく当たる最強種とかそういう類なんじゃないか、猫耳だし。

 そういう様々な妄想が入り乱れた。

 

「おう、勿論だ」

 

 俺がそういうと、視界にあるメニューが更新される。開いてみると、俺のステータスの横にNPCのステータスが表示される、上の方には『契約者』という表示がつく。

 

(契約者…RPGによくある使役している魔物とかそういう何かだろうか、というかこういうシステム自体は存在していたんだな)

 

「…そういや、お前呼びというのもなんかアレだよな。かといって記憶喪失で名前もわからないとなると…」

「…ごめんなさい」

「いや、良い。思い出すまで、俺が思いついた名前を使え、う~んそうだな」

 

 俺のクソみたいなネーミングセンスも、さっきこいつは良いと言ってくれた。なら暫くは考えた奴を使っとけば良いだろう。

 

「銀色で白い髪色だからな…良し、ユキなんてのはどうだ?」

「ユキ…?」

「白いあの雪からつけた名だ。白い銀髪を見ていると、それが真っ先に連想されてな…どうだ?」

「ユキ…気に入りました。私はこれから、ユキです」

「おう、よろしくな、ユキ。じゃぁ早速冒険に…と言いたい所だが、装備がこれじゃ色々不味いよな」

 

 この革装備はさすが支給品と言わんばかりの悲しい性能をしている。何か特殊な効果もなければ、増える防御力も無い。いわば仮装備といったところだろうか、裸だとまずいしな。

 この初期配布のお金も装備購入用のお金だろうとすぐ察しがついた。

 

「私に至っては、武器とかもないですし…」

「あぁ、そうだな。あと、もうそんな緊張しなくていいぞ。俺達はもう相棒同士だからな」

「え? えっと、でも…」

「心配いらねぇって」

「…は、はい。了解ですっ」

「…ま、最初はそれでいいか。よし、それじゃぁ早速装備でも買いにいくか」

「はいっ!」

 

 俺とユキの最強を目指した冒険譚は、こうして始まった。



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第4話 美少女NPCと初戦闘

NPCを可愛く喋らせるには、もう少し主人公と距離をつめなければなりませんね。
交流って難しい。


『いらっしゃいませ、ここは鍛冶屋です』

「おう……ところで、おすすめとかってあるか?」

『いらっしゃいませ、ここは鍛冶屋です』

 

 おいおい、急にどうした? 普通のNPCの如く同じ事しか喋らねぇぞこいつ。

 ユキは凄く動いたり喋ったりするというのに……どういうことなのだろうか?

 まぁ、気になるが今は深追いしないでおこう。それよりも装備だ装備。

 

「うわぁ、色々ある…」

 

 今まで行った事がなかったのだろう、ユキは装備屋に置かれた武器や防具等をみてキラキラとした眼を見せる、このゲームを誘ってきた大樹と同じような感じだ。

 鍛冶屋には剣や斧、杖に槍等の様々な武器、そして防具には鎧からローブまで様々な物が陳列している。

 

 武器に触れると、金額と性能が表示される。

 

 鉄の剣 攻撃力+10

 銀貨3枚

 

 鉄の斧 攻撃力+15 敏捷-5

 銀貨3枚

 

 木掘りの杖 攻撃力+3 魔力+10

 銀貨5枚

 

 やはり武器系は相当高い、この手のゲームでは武器が欠かせない事も考えると、当たり前と感じなくはないが。

 

(自分の武器は今のままで様子見をするとして、防具はなるべく安いのを…)

 

 とかなんとか色々考えていると、後ろからユキが俺の背中をつついてくる。

 

「どした?」

「私、これがいい、かな」

「ん? これは…」

 

 見せてきたのは小型の短剣。火力こそ普通の剣よりは劣るが速く移動しながら戦う事に優れた武器だ。俺はてっきり魔力が高いって所から杖を選ぶつもりではあったのだが。

 

 鉄の短剣 攻撃力+5 敏捷+5

 銀貨2枚

 

 値段も比較的安い。

 

「ナイフか…どうしてこれを?」

「何となく…」

「…成程。魔力が高いから杖もありかと思ったが…」

「ダメ?」

「いや? 良く考えたら、杖とかの魔術師系統は敵に近づかれたらどうしようも無いしな。良いんじゃないか?」

「…ありがと」

 

 俺の持つ普通の剣と、ユキの持つ小型の剣。なんだ、結構相棒らしい構成じゃないか、と勝手に満足する。

 武器も決まり、あとは防具だけ…と見て回る。

 鎧もいいが、ユキにそれは合わないだろうし、何より鎧は重い分敏捷が下がるデメリットもある。

 やはり動きやすく、かつ防御力もそれなりにある物がいいな。

 

「…ローブ。も、悪くはないな…金も安いし、誰でも装備できる」

「白と黒がありますね」

「成程…お揃いって奴か?」

 

 黒のローブ 防御力+5

 銀貨1枚 銅貨5枚

 

 白のローブ 防御力+5

 銀貨1枚 銅貨5枚

 

 値段もお手頃だし、何よりお揃いというのは何とも良き響きである。俺が黒でユキが白を着れば、良い感じにマッチするだろう。ユキの髪色と同じというのもまたいい。

 

「じゃぁ、それにすっか」

「一緒の奴ですね」

「相棒っぽいだろ?」

 

 商品に触れ、表示される購入ボタンを押せば晴れて自分の物になる。普段とは違うファンタジーにあふれた購入法、これもまたVRMMOのそそられる要因の一つとなっていた。

 

「じゃ、行くか!」

「はいっ」

 

 

 〇

 

 

シノハ《戦士》 LV:1 所持金:金貨(0) 銀貨(1) 銅貨(0)

【HP】45/45 【MP】5/5

 

 

【攻撃力】20《初期:10 振り分け:10》

【魔力】5《初期:5 振り分け:0》

【防御力】30《初期:20 振り分け:5 装備:5》

【敏捷】10《初期:5 振り分け:5》

【知力】15《初期:5 振り分け:10》

 

 

装備

武器・右:初級の剣 《追加効果無し》

防具(武器)・左:初級の盾 《追加効果無し》

頭:

身体・上:黒のローブ 《防御力+5》

身体・下:(黒のローブ)

足:

アクセサリー:

 

 

 

ユキ《NPC:???》 LV:1

【HP】25/25 【MP】40/40

 

 

【攻撃力】15《装備:5》

【魔力】30

【防御力】10《装備:5》

【敏捷】10《装備:5》

【知力】10

 

 

装備

武器・右:鉄の短剣《攻撃力+5・敏捷+5》

防具(武器)・左:

頭:

身体・上:白のローブ《防御力+5》

身体・下:(白のローブ)

足:

アクセサリー:

 

 

 装備を買って、少しはまともなステータスになったと思う。

 

「それじゃあ一先ず村を出よう。外に行けば、何か見つかるだろう」

「モンスター、出るのかな」

「出るだろ、そりゃ。不安か?」

「…いえっ!」

 

 黒いローブと白いローブを揺らし、俺達は森を方へと歩いていく。

 モンスターが出たならば、倒すだけだ。目指すは初討伐、初レベルアップだ。

 

 

 〇

 

 

 森では初心者プレイヤーがモンスターと真剣勝負を繰り広げていた。一人で戦っている者もいれば、友達同士で戦っている者もいた。特に一人で戦っている者は比較的苦戦しているような感じであった。

 

「…よぅし、モンスター、いつでもかかってこいっ」

「よ、呼ぶんですか?」

「あぁ、その方が効率はいいからな」

 

 ガサッ…。

 俺の声に反応したかのように、俺とユキの左右にある草木が揺れる。

 そして勢いよく液体で出来たモンスター…スライムがこちら目掛けて突進してくる。

 

「うわわっ」

「注意は怠るなよっ!」

 

 驚くユキの前に出て剣を振るう。『ピッ!』という声を荒げ、奴は後ろに後退する。

 

『スライムに8のダメージ!』

「よわっ!?」

 

 剣を振るって8点だと、こいつ正気か?

 スライムの方もそんなのお構いなしと言わんばかりに突進を繰り返す。

 

「クソっ、案外硬いぞこいつ!」

「…っ、えいえいっ!」

 

 ユキも後ろから短剣の効果で上がった敏捷を生かし、スライムの前に行き短剣をブンブンと振り回す。ちょっと使い方違うだろと思ったが、スライム相手には通用したようだ。

 

『スライムに4のダメージ!』

「ピッ…キュ~」

 

 ボフンッ!

 ユキの一撃によって、スライムは弾け飛び、風船のように割れて消え去る。

 これが初めてのモンスター、思った以上の強さで困惑したが、二人いれば何てことはなかった。

 

「ふぅ、助かった、ユキ」

「は、はい…良かった」

 

 助けになれた、と言わんばかりにユキは安堵した表情を見せる。

 その表情を見ていると、俺もなんだか嬉しい気持ちになってくる。

 

『シノハのレベルが2に上がりました』

 

『ユキのレベルが2に上がりました』

魔法【火玉(ファイアーボール)】を修得しました。

 

 …俺達の冒険は、始まったばかりだ。



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第5話 美少女NPCと魔法

 先ほどの戦闘でレベルが2に上がったという表示を思い出し、二人でステータス画面を確認する。

 戦士である俺は攻撃力と耐久力が3点ずつ、知力と敏捷が2点ずつ上昇していた。やはり、魔力のステータスは上がりにくいようだ。

 ユキはその逆で、魔力が5点上昇しており、それ以外にも敏捷と知力が2点ずつ上昇していた。

 

「成長したなっ、レベル2まで上げるのはすぐだったな」

「これが…成長?」

「あぁ、最強への一歩だな。ところでユキ…【火玉(ファイアーボール)】が使えるようになったって出てなかったか?」

「【火玉(ファイアーボール)】…ですか?」

 

 ユキのステータス画面を改めて確認する。そこの魔法項目を見てみると、新たに【火玉(ファイアーボール)】という文字が追記されている。

 尻尾揺らしながら興味津々にそれを眺めるユキを見た俺は、一つ提案をする。

 

「…せっかくだし、試してみるか?」

「試す?」

「【火玉(ファイアーボール)】をだよ。こういうゲームでのだいご味だ、使えるようになったら使ってみたいよな」

「は…はい!」

 

 一先ず俺達は森の中心部にあるひらけた場所へと移動する。そこにはスライムも沢山おり、練習には絶好の場所となっていた。

 

 

『ピキー!』

「よし、こっちに気づいたぞ。ユキ、やれるか!?」

「は、はい…え、え~っと…、こ、こうかな! 【火玉(ファイアーボール)】!」

 

 腕をわたわたと動かして焦っていたが、最後には眼前のスライムに向けて手を前に突き出し火玉を放つ。

 ゴウゴウと燃えるその火玉はスライムの顔面に直撃し、当然の如くスライムは断末魔をあげてはじけ飛んだ。

 

『スライムは15のダメージを受けた! スライムは倒れた』

 

「すげぇ、ダメージ量が格段に違う」

「…だ、出せました!」

 

 ユキは『やり切った』と言わんばかりに汗を流しながら笑顔でこっちを向いた。消費するMPの値はたぶん少ないだろうが、ユキにとっては初めての事で全身全霊の力に近かったんだろうな、かなり疲れた表情をしている。

 

「良くやったなっ! …といっても、一回でそんなにヘバっていたら連射はきついな。NPCにも疲れとかの概念があるとは思わなかったよ」

「よ、夜の時は皆寝て、昼の時は働いて汗を流すっていうのは、よくある普通の事だと思いますけどっ」

 

 成程、考えてみれば確かにRPGとかで夜になると町から人が消えていたもんな。プログラムで作られたとはいえ、そういうのもしっかり作られているあたり、VRMMOっていうもんはすげぇなと改めて思った。

 だが1回でヘバってしまっては、あまりにも不便だろう。

 

「魔法使えないから良くわかんねぇけど、最初の方出し方が分からず焦ってる所もあったな。そこが無駄な動きなのかもしれない」

「ご、ごめんなさい、いきなりだったもので」

「最初はそうだろ。だからここは特訓だな。ここにいるモンスターを火玉で倒してコツをつかむか!」

「はい!」

 

 

 〇

 

 

『きゅきゅいっ!』

「来たぞ!」

「【火玉(ファイアーボール)】!」

『噛みつきうさぎに15のダメージ! 噛みつきうさぎは倒れた』

 

『シノハのレベルが5に上がりました』

スキル【護衛】を修得しました。

 

『ユキのレベルが5に上がりました』

スキル【魔力増強】を修得しました。

 

 この森にいるモンスターというのは弱い物が多かった。スライムや噛みつきウサギ等は殆どユキの火玉で一撃だった。

 ユキの飲み込みも異常なほど早く、5回放つ訓練をしただけで、疲れはほぼ無くなっていた。

 

「だいぶ様になったな」

「はいっ、もうだいぶ慣れて、今なら百発でも…」

「あぁ、無理はするなよ? とりあえず、スキル確認するか」

 

 ステータス画面を表示し、スキルの項目にある【護衛】と【魔力増強】をタップする。

 

 

スキル【護衛】

取得条件:戦士レベル5

クールタイム:無し

効果:一定範囲内にいる味方のダメージを肩代わりすることができる。

ただし、使用中自分は動く事ができない。

 

 

スキル【魔力増強】

取得条件:???レベル5

消費MP:5

クールタイム:180秒

効果:使用後、180秒間有効。

有効中、魔法によるダメージを2倍にすることができる。

 

 

「へぇ…戦士の味方支援系スキルか。今の所使い道はなさそうだが。それよりも、魔力増強の方だろ。2倍ってなんだ2倍って」

「さっき15ダメージでしたから、えっと、えっと…」

「30だな。すげぇ」

 

 修得条件も???のレベルが5になるって所を見るに、相当レアなスキルなんだろう。おそらくこのゲーム内でも修得してるのユキだけなんじゃないだろうか。

 これは今後も確実にお世話になるな、良い訓練報酬になった。

 

「…良し、レベル上げと特訓もこの辺でいいだろ。とりあえず、一度村に戻るぞ」

「了解です!」

 

 ユキのどこか嬉しそうな声を聞いて、どこか俺も嬉しい気持ちになった。

 このまま互いを信頼しあえる良きパートナーになれると良いのだけどね。



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第6話 美少女NPCとログアウト

 村に戻り、俺たちは最初に出会ったあの噴水に腰を掛ける。

 

「これからどうしようか…」

「私はシノハさんについていきますよ」

「それはありがたいが…もうさんつけは良いぞ? 俺もユキって呼んでるしな」

「え、あ…じゃぁ、シノハ? あぁ…なんか、でも」

 

 可愛いかよ。尻尾をピンッと硬直させ目を真ん丸にしながら困惑する表情を見て、俺も笑いそうになってくる。

 でも、いつか俺達は最強の相棒になる。その時になったら、こういう恥じらいも無くなってくるんだろうな。

 嬉しいよな悲しいような…なんだか複雑な気持ちだ。

 

「ユキは、この世界についてどれくらい知ってるんだ? こう…ここから近い町とか」

「も、森を抜けた先に大きな街がある事だけは…シノハさ…えっと、シノハに見つけてもらう前に村人たちがそう言ってるのを聞いて」

「成程…目指す価値はありそうだな」

 

 どの方角かは知らないが、あの森で綺麗に整備された道は一つしかなかった、俺達が通ってきた広場へ通ずる道――その奥にもう一本。

 おそらく道なりに進んでいけば何とかなるだろう。

 

「まぁでも、出発は明日にするかな…時間もヤバいし」

「時間…まだ、昼頃ですよ?」

「あぁいや…まぁ、気にするな、色々疲れたんだよ」

 

 NPCと俺とでは時間の流れが違う、分かり切ってはいたがこのあたりの関係が非常に難しい。

 俺がここで中断、ログアウトしたとして、その間ユキはどうなるのだろうか?

 まぁでも、一回ログアウトしなければそれは分からない。

 

 

(ここでログアウトするのも、なんかひどい話だよな。…宿屋に行ってみるか)

 

 体力回復や休息に利用されるゲーム内施設として宿屋という物がある。RPGではご定番のあそこである。

 ユキも魔法を連射したことによって、MPの減少も激しい物になっている。疲れも少し溜まっているだろう。

 

「なら、今日は宿屋に行って休むとしようか」

「あ、はいっ」

 

 

 宿屋に入り、NPCに銅貨4枚を払い部屋の鍵をもらう。どうやら、宿屋から退出するまではその部屋を自由に使えるというシステムらしい。

 部屋にはこの村の割に大きいベッドが二つ、ベッドに関しては寝っ転がるだけで回復できるという新設設計だ。

 

「…良し、今日は休んで、明日に備えるぞ」

「はい、シノハさ…シノハ、おつかれさまです…」

「あぁ…良し、このタイミングで」

 

 俺はメニュー画面を開き、その一番下にあるログアウトという項目を押す。

 その瞬間、ヒュゥゥゥンという機械が停止する時のような音を聞きながら、意識を失っていった。

 

 

 〇

 

 

「……んっ」

 

 気づくと、俺は現実世界に戻っていた。ヘッドゴーグルを外し、ぐいっと身体を伸ばす。

 実際に体は動かしてないとはいえ、まるで激しい運動をしたかのように身体が重かった。

 

「戻れたか。にしてもすげぇな…このゲーム。想像以上に面白かったわ」

 

 このゲームを進めてくれた大樹に感謝しないとな、このゲームを知らなかったら、ユキにも出会えなかっただろうし。

 …ユキ、大丈夫なんだろうか? ダメだ、ちょっと過保護になってきている。

 まぁ、ゲームだしなんかこうシステム的なアレで何とかなるだろうと勝手に判断する。

 

「飯くうか。続きは明日だな」

 

 重い身体をベッドから起こし、自分の部屋から出る。もうこの時点で俺は、明日が来るのを待ち遠しく感じていた。




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第7話 美少女NPCと噂話

「…ユキ、大丈夫かな」

 

 翌日、学校へ向かう途中もずっとユキの事を考えていた。ログアウト中はどういう扱いになるのか、調べても特に書かれていなかった。未だ契約者について知っている人がいないのかもしれない。もしそうなら俺が先駆者という事になる、これには謎の愉悦感を覚えさせる。

 

『私はシノハさんについていきますよ』

 

 ユキのあの言葉がずっと忘れられない、それはまるで初恋の女性の一声であるかのように、ずっと脳裏からくっついて離れないのだ。これが親バカって奴なのだろうか? そもそも親ですらないのだが。

 あくまでも頼もしい相棒に過ぎない、そう心に何度も誓ってはいるのだが。

 

「まっ、別にいっか」

「おっ? どうしたどうした? 良い事でもあった?」

「別に。…あぁ、後さ、昨日押し付けてきたあのゲーム、割と面白かったぜ、感謝な」

「マジで!? あれやってくれたの? いやぁ~嬉しいねぇ、一緒にやる相手がいなかったからさ」

「どうせそんな事だろうとは思ったが」

 

 大樹が俺を何かしらに誘うさいは大体こんな理由である、特にVRMMOみたいなオンラインゲームは猶更そうだ。まぁいつもは俺が真っ先に飽きてしまって続ける事すらないのだが。

 

「あぁ、そうだそうだ、お前こいつ知ってるか?」

「ん、また別のお誘いか?」

「ちげーよっ、何かあのFIにさ、昨日不思議なプレイヤーがいたって話だよ。なんでも、NPCアイコンがついたキャラクターと一緒に戦っていたとかなんとか!」

「ブッ…!!」

 

 俺はそれを聞いた瞬間に、勢いよく吹き出した。昨日契約者について調べても出てこなかったってことは、もしや。

 

「ちょい貸せ!」

「ちょっ?」

 

 大樹からスマホを奪い、その画面をマジマジと眺める。

 

 

【FI】謎いプレイヤー、見つかる。

レス1 名無しのレス隊長

聞いてくれ。俺今日の夜FIプレイ始めたんだけどよ。やべぇプレイヤー見つけてしまった。

 

レス2 名無しのごんべえ

何それ、始めたってことは最初の村と森あたりでの出来事か? どした。

 

レス3 名無しの冒険者

kwsk教えろ

 

レス4 名無しのレス隊長

なんかな、森の方に行ったらNPCアイコンついたキャラと一緒にモンスターと戦ってる奴いた。

ちなみにNPCは猫耳生やした銀髪美少女だった、ちなみにレベルは5。それ以外は仕様でわからん。

 

レス5 名無しの盗賊

は? NPCを戦わせてるわけ? 何者なのそいつ。

しかも美少女とかw

 

レス6 名無しのごんべえ

>>5

勝ち組やんそいつw

 

レス7 名無しのレス隊長

いやまぁ良くわかんないけど、また見つけたら教えるわ

実証出来る奴いたら、やってみてくれ

 

レス8 名無しの冒険者

それは無理だろ。まぁ俺も明日の朝から森あたり探してみるわ。

少し気になるからな。

 

レス9 名無しのレス隊長

>>8

助かる。

 

「…」

「おーい、大丈夫か?」

「え、あ、あぁ、やべぇなそいつ」

「だろ? 謎が謎を呼ぶプレイヤーって感じで」

 

 間違いなく俺とユキの話だ、NPCの特徴も完全に一致している。知らない所でその様子が見られていたって訳だ。

 …もし俺がログアウトしていない間にユキがいなくなったりでもしたら大変だな。そんな事起きなければいいが。

 

「な、なぁ。一つ聞いていいか?」

「どしたどした?」

「あのゲームには、ペットとか、なんかそういう機能はあるのか?」

「うぅん? ペット…ってよりかは、使い魔なんかはいるな」

「使い魔?」

「おう、モンスターレンジャーっていう上位種のジョブが使役できる奴でな? 気に入ったモンスターを相棒として使役できるんだ。普段は敵のモンスターを使役できるっていうから、もうすでに人気も高いジョブキャラだぜ。俺も使った事がある」

「あるのか!? じゃぁさ、もし使い魔がいる状態でログアウトしたらどうなる?」

「え、え? あぁ…良く知らんが、まぁログアウト中は消えてるんじゃないかな、使い魔だし。そのままだったらそれこそやべぇだろ」

「あ、あぁ、そうだな」

 

 俺は安堵し息をつく。もしユキも俺がいない間は消えているとするのなら、誰にも取られないし勝手にどっかいくという事もないだろう。

 それにしても、モンスターレンジャーか。ある意味、味方がいると有用なスキルとか覚えそうだな、速いとこなってみたい所だが。

 

「モンスタートレジャーに興味あるのか? だったら俺が今度教えてやるよ、なれるのは少し先だろうけどな」

「おぉ、助かる」

 

 一先ず、ユキの事はゲーム内で大樹と会うまで黙っておこう。ここまで噂になってたら、あいつ何言いふらすか分かったもんじゃないからな。

 

 

 〇

 

 

「…ん、シノハ、おはよ…う?」

 

 ()()()()()()で朝となり、小鳥たちのさえずる声が聞こえる。

 ベッドで横になっていた身体をぐいっと起こし、シノハのベッドを見やる。…が、そこにシノハの姿はなかった。

 

「シノハ? シノハ、どこ?」

 

 不思議といつの間にか呼び捨て口調になっていた。が、今はそんな事どうでも良かった。あのシノハが自分を置いてどっかに行くなんて、絶対に考えられなかった。

 だって、私と一緒に最強を目指すって言ってくれたから。

 

「…どこ、行っちゃったんだろう、さ、探さなきゃ!」

 

 私はいてもたってもいられず、急いで宿屋を飛び出した



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第8話 美少女NPCと一人【❄】

これからは、ユキのみの視点で進む物語には『❄』のマークをつけておきます。


「村には・・・いない」

 

 村の端から端まで探したが、シノハの姿はどこにも無かった。もしかして、先に街の方へ向かったのだろうか? いや、そんな事は絶対にない、あったとしてもそれを信じる事ができなかった。

 

「あとは森・・・」

 

 シノハと一緒に特訓したあの森――こことは別の街へと続く。

 もしかしたら、一人で特訓しているのかもしれない。昨日は私ばかりの特訓でしかなかったから。

 

「行ってみよう」

 

 一人で森に行くのは初めてだ。不安や恐怖、それは当然付きまとってくる筈なのに。

 私は全然怖くなんてなかった…だってそれは。

 シノハを失う事と比較したら、何てことないのだから。

 

 

 〇

 

 

 昨日で散々見慣れた森の風景、だけどどこか物足りなさを感じる。

 

『来たぞ!』

『よくやったな』

 

 シノハの声が無い。私を呼んでくれる声がない。一人私の足音だけが響く。

 周囲に人の影こそ見えはするが、そこにシノハの姿はなかった。

 

「…どこ、いったんだろう」

『ピキ?』

『ピキィーーー!』

「!」

 

 私の足音に反応したのか、草木からスライムが二匹こちら目掛けて突進する。

 尻尾が硬直し驚きこそしたが、特訓した私の敵ではない。

 

「【火玉(ファイアーボール)】! ・・・からのっ、えいっ!!」

『ピキッ!?』『ピッ・・・キュゥ~・・・』

『スライムは21のダメージを受けた!』『スライムは倒れた!』

『スライムは12のダメージを受けた!』『スライムは倒れた!』

 

 火玉を片方に放ち、その隙に近づいたもう片方を短剣で袈裟斬りにする。スライム程度ならまだこれで対処がついた。

 これも全てシノハとの特訓で得た賜物だった。魔力だけでなく、攻撃力も少しずつ上がっていた様で、少しほっとした。

 当時の私には考えられない程の成長である。

 

「もっと奥探さなきゃ」

 

 道なりの進み、さらに奥地へと進む。魔法の特訓をした広場へとやってくる。

 ここ付近まで来ると、モンスターの量も次第に多くなってくる。が、今は私とは違う人達が強くなるために戦っている為私の方にモンスターが来ることは少なかった。

 近づいて来よう物なら、火玉を当てればいいだけの話なのだが、それでも大量に来られてしまってはさすがに対処のしようがない。シノハがいない時に死んでしまっては、今探しているのも全て無意味になってしまう。

 

「ここにもいない・・・」

 

 先へ続く一本道はもう一つの街へと繋がっている。が、私は引き返して、道が整備されていない方の森へと走る。

 街へは絶対に行っていない、だって一緒に強くなるって約束したから。

 ボロボロだった私に、そう優しく声をかけてくれたから。

 

 〇

 

 

 森の奥地へと行くと、何やら看板のような物が見えてきた。

 

『ここから先、危険区域。レベル30以下のプレイヤーは命が惜しければ引き返せ!』

 

 何やらこの先が危険だという事を警告する看板である。今の私は、先ほどシノハを探しているときに1つレベルが上がって、6になっている。看板のレベル30とは24も差が開いている。

 それでも、シノハがこの先にいないという確証もない。前よりは私も強くなっているんだ。

 危なくなったら、直ぐに引き返せばいい。

 私はその危険地帯へと駆け出し、周囲を見渡す。

 

「シノハ! どこ!?」

 

 はぁ、はぁ、と息を切らし、その危険地帯を右往左往する。モンスターの気配も感じるが、今はそんな事どうでも良かった。

 危険地帯に入ってから数分、危険地帯の開けた場所へとたどり着く。そこで私は目の前の大きな物を目の当たりにしてハッと我に返る。

 開けた草原の中心部…そこにはかなりのデカさを誇る虎が眠りについていた、その身体の上にはクロウタイガー LV40という文字、明らかに私が倒せるような相手ではない。

 

「・・・慎重に」

 

 こそっと忍び足でその場をやり過ごそうとする、が危険地帯程整備されてない草原もないと断言できる程生い茂っており、少し動いただけでも音を立ててしまう。

 実はこういう系の場所では暗殺者が修得できるスキルの【隠れ脚】があれば音を消す事ができるのだが、今のユキがそれを知る事も無く、ましてや修得している筈もない。

 ガサッ、足と草木が擦れ音が鳴る――その瞬間、眠りこけていたクロウタイガーが静かに目を覚ました。

 

「っ」

『グ、グアァァアアア!!!』

 

 その咆哮、怒り、どれをとっても全てが森にいたモンスターと格段に違っていた。その声を聞いただけで、足が震えあがり、周囲の草木も揺れ、千切れる。

 今戦っても叶う相手ではない、そんなのはわかりきっている。でも、こっちだって死ぬわけにはいかない。

 

「【魔力増強】!」

『グアァアァァ!』

「ファイア・・・!?」

 

 こちらに詠唱させる隙を与えない程の素早い速さと爪による斬撃。横目掛けて飛び跳ね、間一髪でその攻撃を回避する、私の長い髪が少し触れただけでプツンと切れたのを感じ、身の毛がよだつ。触れたら待っているのは確実に死だ。それに、地面に身体を打っただけでも、痛みが走る。そう、それだけでHPも減るのだ。

 彼女はプレイヤーじゃない、NPCだ。故に死んだ後、復活するのかどうかすらも分からないし、そもそもプレイヤーが死んだ後に復活するという事も彼女は知らない。

 

「早い・・・」

『グルルルルルルル…。グアァァアアァア!』

「っ!!」

 

 痛みで回避することもできない、かといってこの速度では詠唱すらも間に合う筈がない。

 クロウタイガーの爪が眼前にまで迫り、とっさに顔をすくめる。

 

『グアッ・・・!』

「・・・え?」

 

 少し待てども私に放たれた爪は届かなかった。静かに目を開くと、そこにはクロウタイガーの爪を受けとめる一人の男がいた。

 

「お前…あのNPCか? いや、んなこたどうでもいい、なんでこんな所にいやがるっ!」

『グァ・・・。グルルルル』

「えっ、えっと」

 

 男は剣を前方に突き放し、クロウタイガーを弾き飛ばす。それにより、クロウタイガーの怒る矛先も男の方に移った。

 あのNPC・・・という事は、私の事を知っている人? でも、なぜだろうか。

 

(レベル6…聞いた話では5だったが、自力で上げたのか。にしてもなんでこんなところに)

 

 そう、彼は例の掲示板の『名無しの冒険者』であった。



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第9話 美少女NPCと大虎【❄】

「お前…あのNPCか? いや、んなこたどうでもいい、なんでこんな所にいやがるっ!」

「え、えっと」

『グルルルルルルル……』

「って、今その話してる場合じゃねぇな」

 

 クロウタイガーの怒りは誰から見ても頂点に達していた。喉を鳴らし、こちらをじっと睨みつけ、今にもとびかかってきそうな雰囲気を放っている。

 

「とりあえずお前は走って戻れ。死んでも拠点に戻るくれぇだ。俺がやる」

「ぶ、部が悪いよ!」

「知るかっ、金は全部預けてある。死んでも問題ない」

「問題ないの!?」

 

 理由を説明してくれ、と言わんばかりのツッコミを放ったが、彼はそんな物気にせず、クロウタイガーの方へ突っ走る。

 

「おらおら! フレイ様のお通りってな!」

『グァァアァァァアアァァ!』

「【紅蓮斬り(ぐれんぎり)】!」

 

 彼の持つ紅き剣に激しい炎が宿る。

 その炎はクロウタイガーの身体を焼き尽くし、猛烈な痛みを発生させる。

 そして炎に包まれた剣の刀身にダメージが入る。

 

『クロウタイガーは28ダメージを受けた!』

『クロウタイガーはやけど状態になった!』

『クロウタイガーは77のダメージを受けた!』

『グルルルァァアアァァァアアアァァァ!』

「っち、これでも死なねぇか」

 

 ダメージは通っているが、いかんせんHPが高いのか中々倒れそうにない。攻撃を放ったフレイという男はすぐに後退し、クロウタイガーの爪攻撃の範囲外へと行く。

 

『グアァ!』

 

 クロウタイガーの巨体の上に【衝撃波(しょうげきは)】なる文字が現れる。

 

「っち、遠距離攻撃持ちとかありか!?」

 

 爪を大きく振りかぶり、何もない地面に叩きつける。

 ズガガガガガッと大きな音をたて白い爪の衝撃がフレイに向かって走る。

 

「いちかばちか【斬り返し(きりかえし)】!」

 

 剣を身体ごと回転しながらその衝撃波を薙ぎ払って受けるという荒業。

 剣と衝撃波の間に微かな火花が出ている、NPCである彼女でさえも『どういう原理してるの?』と心の中で突っ込んだ。

 

 ガツン。

 だが、さすがはレベル40の衝撃波といった所だろうか? 剣が逆に押し返され、そのままフレイの身体は後方に吹き飛ばされた。

 

『フレイは82のダメージを受けた!』

「ってぇなぁクソ!」

「82……大きい」

 

 クロウタイガーはそれでも進撃をやめない。タイガーの名に恥じぬ速度でフレイの元まで行き【爪激連打(そうげきれんだ)】という連続攻撃を放つ。

 反応したフレイは剣を身体の前に突き出し、その攻撃をガードする。

 

『フレイは36のダメージを受けた!』

『フレイは31のダメージを受けた!』

「くそ、こりゃぁ持たね!」

 

 懐の回復ポーションをガードしながら使うが、それでも一撃一撃が重く、剣で耐えるのも一苦労だ。

 先ほど弾き返した時は大した力ではなかったが、今はその比にすらならない、つまりガチで殺しに来ているのだ。

 

(どうにかして気をそらさないと…)

『フレイは33のダメージを受けた!』

『フレイは32のダメージを受けた!』

「くっそ、いつ終わんだこれ!」

 

 もう見てられない。私はすくっと立ち上がる。

 魔力増強のクールタイムが終わっているのを確認した瞬間、ユキは即座に使用し火玉(ファイアーボール)を詠唱する。

 

「【魔力増強(まりょくぞうきょう)】!」

「【火玉(ファイアーボール)】!」

『クロウタイガーは54のダメージを受けた!』

『グルァアアァァァ!』

「なっ」

 

 ユキが放つ強力な火玉(ファイアーボール)を放つ。魔力増強を積んだ一撃はかなり効いたようで、クロウタイガーは一時後退する。

 クロウタイガーの視線がこちらに向く、今度はこちらにターゲットが向いたようだ。

 

(火玉(ファイアーボール)で54だ? どういうステータスしてやがる?)

『グルルルルァァアアァァァ!』

「っ」

「だぁもう! お前は火玉(ファイアーボール)連射してろ! 【挑発(ちょうはつ)】」

『グアァァアァァ!』

 

 クロウタイガーの矛先がいきなりフレイの方に向けられる。

 困惑こそしたが、言われた通りに火玉(ファイアーボール)を放つ。

 

「【火玉(ファイアーボール)】!」

『クロウタイガーは56のダメージを受けた!』

「【流星斬り(りゅうせいぎり)】!」

『クロウタイガーは102のダメージを受けた!』

『グァアァァ……ガァアァ!』

 

 威嚇の声もだんだん小さくなっている。あれだけすくんでいた足も収まり、堂々としていられるようになった。

 声が小さくなったからだろうか? それともフレイさんがいるからだろうか? でもそんな事はいまどうだっていい。

 今はクロウタイガー(こいつ)を倒す事が先決なんだから。

 

「やっちまえ!」

「んっ~~~! 【火玉(ファイアーボール)】!」

『《クリティカル!》クロウタイガーは88のダメージを受けた!』

『グアァ……ァ……』

「ク、クリティカルだ!?」

「やった?」

『クロウタイガーは倒れた!』

 

 特大級の火玉を受けたクロウタイガーの身体は横方面にズドンッと崩れ落ちる。そのまま光となってパリンと消えた。

 

『フレイのレベルが34にあがりました!』

スキル【頑健(がんけん)】を修得しました。

 

『ユキのレベルが6から11にあがりました!』

スキル【魔力吸収(まりょくきゅうしゅう)】を修得しました。

魔法【氷塊(ラグアス)】を修得しました。

魔法【雷槌(トゥルネル)】を修得しました。

 

 レベル40の強敵だったからか、私のレベルがいきなり10を突破した。新たな魔法とスキルも覚えたようで、戦う前とは段違いに違う感覚がする。

 一先ず、シノハがやっていたようにスキルを確認してみる。

 

 

スキル【魔力吸収(まりょくきゅうしゅう)

修得条件:???レベル10

クールタイム:無し

効果:常時発動。

魔法以外の近接系武器及びスキルでダメージを与えた場合、与えたダメージの半分の数値分MPを回復する。

 

 

(MP回復……つまり、回復の道具とかそういうのはいらないんだ……)

 

 新たに魔法も覚えた。今までは火玉(ファイアーボール)だけだったが、敵や戦況に応じて使い分けられるのは好都合だ。

 

(これで少しはシノハの役に立つかな……)

 

 シノハを探しに来ただけなのに、なぜかガッツポーズまでして喜んでしまった。

 

「HP増える常時スキルか。これは良い。そんな事よりお前だ」

「え? わ、私ですか?」

「ったりめぇだろ。お前なんでここにいんだ? 相方とかいる筈だろ?」

「宿屋に泊ってたんですけど……何か、起きたらいなくなってて……」

 

 怖い感じで聞いてくるものだから、こちらも思わず身構えてしまう。

 さっきのクロウタイガーより、この人の方が怖い……。

 

「いなくなってた?……ログアウトしてたらいなくなると思うが……いや、NPCだからそうはならねぇのか?」

「あ、あの? ログアウトって……?」

「気にすんな。とりあえず、もうちょっとだけ宿屋で待ってろ。どうせ今日中には戻ってくるだろ、来なかったら相当な馬鹿とでも思っとけ」

「そ、そうなんですか?」

「あぁ、そうだ。しゃーねぇ、村の宿屋だろ? 一応送ってくぜ」

 

 私は感謝の意を述べ、冒険者さんと一緒に村の宿に戻った。

 その道中、私はシノハさんについて喋ったのだが、この人はふぅ~んと言って相槌を打つだけでした。

 それでも最後は『面白い奴だな』といって笑ってました、根は良い人で助かりました。

 

 

 

 

 

 

掲示板

 

54 名無しの冒険者

うっす。NPCの子見つけたぞ、相方はいなかったが。

 

55 名無しの天才

まじで??

 

56 名無しの魔術師

情報提供くれ

 

57 名無しの冒険者

なんか初期村付近の森奥にある危険地帯でクロウタイガーに襲われてた。

一応たすけたけど。

 

58 名無しのごんべえ

救世主じゃんw 好きになったんじゃね?w

 

59 名無しの戦闘狂

>>58

もしそうなら冒険者さんを恨む。

 

60 名無しの冒険者

>>59

なんでだよ。まぁそういう雰囲気はねぇから安心しろ。

詳細はこんな感じ。

 

・レベルはクロウタイガーとの戦闘で11まで上がった。

・なんか初期魔法の火玉(ファイアーボール)が50点代くらいのダメージを出してた。クリティカル時は88。

・【魔力増強】なるスキルを使ってた。後レベルアップ時に【魔力吸収】っていうのを修得したのを見た、効果は知らない。

・装備は短剣と白いローブ。

・危険地帯には相方を探しにいってた。多分ログアウトの事を知らない。←これに関してはたぶんNPCだからかと。

 

魔法でクリティカルなんか初めて見たぞ。

 

61 名無しの魔術師

何それ、火玉で50!? レベル20くらいなら分からなくないけど。

 

62 名無しのレス隊長

今来た、バケモンじゃねぇか。

 

63 名無しの盗賊

今後のイベントに関連するNPCとか?

うーん情報薄い。

 

64 名無しのごんべえ

もっと観察する必要があるな、俺も明日探しに行くわ。

今日は素材回収でな、周回きつすぎワロタ

 

65 名無しの冒険者

とりあえず、容姿と居場所はこれでわかったから、明日から随時また見てくる。

情報を得たら教えるわ。まじで有名キャラクターになるかもしれん。

 

66 名無しの戦闘狂

今のうちに古参アピールしとこw

 

67 名無しのレス隊長

じゃぁ今日は観察していくという事で終わりね。

おっつー

 

68 名無しの魔術師

おつかれー

 

69 名無しのごんべえ

 

70 名無しの冒険者

お疲れ、俺は寝る。



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第10話 美少女NPCと新たな街へ

スキルの名前って結構悩むんですよね。


 家に帰宅したハルは急いでベッドに駆け付け、ヘッドゴーグルを起動する。

 起動が終わると、視線は前回ログアウトした宿屋の天井を映し出す。

 

「あぁ、寝ながらログアウトしてたのか。っと、そんな事より、ユキは!?」

 

 俺はベッドから飛び起き、ユキが寝た筈のベッドを見る。俺はすぐに安堵した。

 そこにはすうすうと寝息を立てたユキが可愛らしい寝顔を浮かべていた。

 

「良かった。居なくなっていたらどうなっていたか、と……ん?」

 

 寝顔に気を取られて気づかない所だったが、明らかに違う点に俺は気づく。

 ユキの名前の横にあるレベル数値……それが5から11に上がっていた。俺がいない間に何があった? いない間は使い魔と同じく消えているのではないのか?

 一人で勝手に外に出た? でもなんでそんな事……とりあえず、契約者としてそれは聞かねばなるまい。

 

「おい、起きろ」

「ん、ぅ? ……っ! シノハ!」

 

 ユキは先ほどの俺と同様にガバッと起き上がる。

 

「どこいってたの!?」「今までなにしてた!?」

 

 俺達は同時に質問をぶつけた。ユキはハッとした顔をして『ごめん』という。

 別に謝る必要はないんだが、とりあえず俺の質問から先に聞く事になった。

 

「今までなにしてた? レベル、めっちゃ上がってないか」

「シノハがいきなりいなくなって、探しに行ってた……そこでモンスターに襲われて、えっとその、色々あって……」

 

 凄い言いにくそうにユキは語る。いなくなって探しに行ったという事は、ログアウト中は消えていないという事なのか?

 NPCといえばそれまでだろうが、普通のゲームはゲームをやっていない間のNPCの挙動なんて確認できる筈がない。

 これがVRMMOだからか? オンラインゲームならば、俺がいなくてもNPCは誰かが確認できる。それ故に消えなかったと言えば説明はつくが。

 

「そうか。悪いな、心配かけて。でも安心しろ。俺はお前を置いていくなんて真似はしない。だから、これからも俺がいきなり消える事はあるだろうが、その時は戻るまでその場で待っててほしい」

「何でいきなり消えるの?」

「そ、それは内緒だ。別に深い理由はない、信じてくれ」

「……わかりました」

 

 納得できないようなジト目をされたが、何とか理解してくれたようだった。

 でも、それだけユキは俺の事を心配してくれていた。なぜだか、俺は嬉しい気持ちを覚えた。

 

「良し、理解してくれたところで、さっそく次の街に行ってみるか。道中の敵も倒すぞ、ユキが11になった分、追いつかにゃならんからな」

「はいっ!」

 

 俺達は次なる場所に期待を募らせながら、村の宿屋を後にした。

 

 

 〇

 

 

『グガーー!!』

 森の先へ進むと見た事のないモンスターもちらほら見え始めた。まずはこのゴブリン、RPGでおなじみのアイツだ。

 こいつは群れで行動する事が多く、遭遇すると大体2、3体くらいで襲いかかってくる。

 つまりは1体づつ倒すよりも効率よく経験値を稼ぐことができる、レベル上げの恰好の的というわけだ。

 

「【雷槌(トゥルネル)】!」

『ゴブリンは37のダメージを受けた!』

『ゴブリンは倒れた!』

 

「おらっ!」

『ゴブリンは18のダメージを受けた!』

『グ、ギギ……』

 

 【雷槌(トゥルネル)】は、その名の通り雷の魔法。ユキ曰く対象に強く念じる事で、上空から雷を落とす魔法なんだとか。

 もういつの間にか、ユキは魔法について慣れ親しんでいた。その様はもはやNPCではなく普通のプレイヤーであるかのように。

 対する俺は、未だにただの通常攻撃しかできず、ゴブリンを一撃で仕留める事はできなかった。悲惨である。

 

『グギ!』

 

 【振りかざし】という文字がゴブリンの上に表示される。初めて見る俺でもただの通常攻撃ではない事は想像つく。

 ユキはその文字を見るなり、離れてと叫ぶ。が、時すでに遅しであった。

 ゴブリンはそのボロボロで粗悪な石剣を大きく振り上げ、そのまま近くの俺に向かって斬りつける。

 

『シノハは29のダメージを受けた!』

「いってぇ!?!!」

「シノハ!?」

「大丈夫だ、んにゃろ!」

 

 斬りつけられた腹部に痛みが走るも、そのまま踏み込みゴブリンを一閃する。

 

『グガッ…』

『ゴブリンは17のダメージを受けた!』

『ゴブリンは倒れた!』

 

『シノハのレベルが6に上がりました!』

スキル【突進(とっしん)Ⅰ】を修得しました。

 

 ボフン、と弾け気えたゴブリンを見届けた俺は、さっそく修得したスキルを確認する。

 まあ、その名前から大体想像はつくのだが。

 

 

スキル【突進(とっしん)Ⅰ】

修得条件:戦士レベル6

使用MP:3

クールタイム:20秒

効果:敵1体に身体ごとぶつけ攻撃する(通常×1.5)

対象にスタン状態を付与(確率:5%)

 

 

 スタン……気絶という意味だろうか? 確率は低くあまり期待できそうにはないが。

 それでも、通常攻撃しかなかった俺にとっては唯一の攻撃スキルである為、当たりと言えば当たりだろう。

 

「少しはまともに戦えるようになったか」

「剣とか使うスキルは覚えないんでしょうか」

「知識がないからな。とりあえず街に入ってから考えよう」

 

 俺達は目の前にある大きな入口に目を向ける、この先に俺達の知らない街風景が待っているのだ。

 互いに顔を合わせ、頷く。

 

「いくぞ?」

「はいっ」

 

「「せーっの!」」

 

 俺達は手をつなぎ、新たな街へ友達とよくやるジャンピング入場で足を踏み入れた。




閲覧ありがとうございました!

続きが気になる、面白かったという人は是非「評価」と「お気に入り登録」の方宜しくお願いします!!


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第11話 美少女NPCと交流

 その街は初期の村とは比べ物にならない程、いや比べるのも失礼なほどの賑わいを見せていた。

 NPCではなくプレイヤーが経営する店、プレイヤーが集う冒険者の広場、茶色いレンガで造られた建造物、その想像を超えるスケールに俺達は圧倒された。

 

「すげぇ」

「人がいっぱいいる……」

 

 大樹から聞いた話では、この世界は幾つもの領域に別れており、今の時点で俺達プレイヤーが行けるのは、赤の領域と緑の領域の二つ。そしてここは初期の緑の領域における最後の街であるらしい。

 赤の領域は何でも炎があちこちから吹き荒れる上級者エリアであり、今の所ここが一番賑わっているとのことだ。

 

「さて、どうしたもんかな」

 

 新しい街という事は、初期の村よりも店の商品の品揃えが優秀になっている筈。とすれば先に鍛冶屋によるのが先決なんだろうが、いかんせん店が多すぎる。鍛冶屋だけで5つぐらいはあるぞ? おそらくは俺と同じプレイヤーが経営している鍛冶屋なんだろうが。

 

「ユキ、お前はどこか行きたい所とかあるか?」

「私は、そうですね……って、あ」

 

 周囲をキョロキョロするユキは何かを見つけ、入口のすぐ横にある店の方に駆けだしていく。

 正確には店を見つけたのではなく、店の前にいる剣を持った男性に向かって走っている。ユキの知り合いなら間違いなく俺は出会っている筈だが……無理だ、思い出せない。というか絶対会った事がない。

 俺は急いでその後を追いかける。

 

「あ、あのっ。あの時はありがとうございます」

「んぉ? ……ってお前、あの時の。連れは、見つかったようだな」

 

 剣を担いだ男は追いかけた俺の方を見て何やらそう吐き捨てる。

 一応連れはユキの方なんだが、いつの間にやら俺がユキに振り回されているようになってきていた。

 

「シノハがいない間に、モンスターに襲われていた所を助けて頂いたの、フレイさんって言うんだ」

「そ、そうなのか。世話になったようですね、感謝します」

「別に、あのまま見捨ててやられたら気分悪かっただけだ。あと別にかしこまらなくていい。それと、ちょっといいか?」

 

 フレイという男は親指をクイッと動かし、路地裏へ来いと俺達に合図する。

 何だろうと思いつつ、その合図に従い人目のつかない路地裏へと移動する。

 

「行き成りどうしたんです?」

「どうしたんですじゃねぇよ、こいつの事だ。NPC連れてるって普通じゃねぇだろ、掲示板じゃ専ら噂になってるぜ?」

「それは……」

「洗脳させて無理やり戦わせてるとか?」

「ちげぇよ」

 

 初対面の人に対してつい普段の口調でしゃべってしまった。まぁでもかしこまらなくていいと言ってくれたので大丈夫だろう。

 

「ゲームを開始した時に、捨てられたユキを見つけてな。そこから成り行きで一緒に行動してるってわけだ」

「捨てられてた? なんだそれ、聞いたことねぇぞ。少なくとも俺が開始した時は居なかったからな」

「俺も聞いたことない。それに、俺が見つけた時は名前も職業もハテナ表記だった。ユキって名前も俺が付けた」

「ふぅん、まぁいいや。おいユキっつったか、お前はいつから捨てられていた?」

「良く、覚えてない……。シノハに見つかる数週間、前?」

 

 記憶が朧げなのか、ユキは曖昧な回答しか答えなかった。

 

「数週間前……ゲーム内だと大きいバージョンアップがあったくらいだが?」

「何かあったのか?」

「別に。精々上位種のジョブが追加されて赤の領域が解放されたくらいだ。コイツ関連の事はなかったはずだ」

 

 このゲームの数週間前の知識なんてある筈もなく、俺はフレイの記憶に従う他なかった。

 レベル的にも相当やりこんでいる事が伺えるし、その記憶は確かなんだろう。

 

「収穫はなし、か」

「残念だったな。まあ、これも何かの縁だ。俺おすすめの店を一つを紹介してやるよ」

「それはありがたい」

「ありがとうございますっ!」

「じゃ、ついてきな」

 

 路地裏をそのまま奥に進み、街の反対側へと歩く。

 通りに出て、暫く歩いた所で一軒の店にたどり着く、フレイはここだと言って中へ俺達を誘導する。

 

 

 〇

 

 

 誘導されるがままに中へ入ると、そこには綺麗な意匠の施された武器や防具が沢山飾られていた。これ全て売り物なんだろうか? だとしても今の俺達じゃ到底手の届かない価格なんだろうが。

 フレイはずかずかとカウンターの方まで歩き、はしごのかけられた天井に向かって叫ぶ。

 

「おい、ティス。居るんだろ? 客だぞ」

「なぁに~……今忙しいんだけど」

 

 本当に店主なのか? と疑いたくなるような返答が返ってきた。この返答にはフレイもさすがに呆れたのか凄いため息を吐いた。

 だが次の瞬間彼はニヤッと笑い、続けて叫んだ。

 

「例のNPCが来たって言えば、どうだ?」

「ん~NPC~? ……え?」

 

 例のNPC、まぁ十中八九ユキの事だろう。そこまで噂になっていたのか、掲示板というのは恐ろしい物である。

 それを聞いた刹那、バタバタと激しい音を鳴らし、天井から青色の髪をした女の子が凄い勢いで降りてくる。

 

「フレイ、どこ!? 猫耳、銀髪、美少女、3つの完璧要素が揃ったそのNPCというのは!」

「テンションが限界オタクのソレだぞ。ほら、そこ」

「あっ、本当だ、本物だ!」

 

 カウンターを飛び越え、ティスという少女はユキの肩を掴みマジマジと見つめる。

 フレイも言ったが、俺から見てもそれは限界オタクだった、正直引いた。

 

「銀髪に猫耳ってもはや定番だよね、好きだったアニメもそうだったけど、なんというか白は女の子を際立たせるというか!?」

「ぇ、え? え?」

「おいティス。さすがにキモいぞ」

 

 フレイはそう言って、通報と書かれたパネルを表示する。

 

「はっ、取り乱してしまった……。とりあえずフレイはそのパネルを閉じるんだ」

「間一髪だったな、押す0.5秒前だった」

 

 ふぅ、とティスは息をつき、カウンターへと戻って、俺達の方に向き直る。

 

「で、何か用かな?」

「街の入り口で偶然出会ってな。その縁でここを紹介してやった」

「成程ねぇ。私の店の物を買うのに金貨50枚、銀貨で換算したら5000枚程いるというのに、今紹介するなんて、意地悪だねぇ」

「き、金貨50枚……」

「やっぱり高いな」

 

 仕方ないか、先ほどティスがユキにじゃれあっている間、俺は近くにあった剣の詳細を見てみたが、攻撃力を100程上昇し、かつ麻痺のデバフ付与等の効果を保有していた、そりゃ高額に決まっている。

 この付近のモンスターを1体倒して銅貨10枚~15枚程度だ。稼ぐとなると途方もない時間がかかるだろう。

 

「こういう店は早いうちに見ておけば、プレイヤーはゲームをやめたくなくなるんだぜ? 憧れってやつでな」

 

 ごもっともで。

 

「詐欺師の素質あるんじゃない、アンタ。……ん、しょうがない。噂のNPCと会わせてくれたお礼。えっと、ユキちゃんだっけ。その子の防具一式と武器、一つ提供してあげようか?」

「なっ、いいのか!?」

「本来なら超高額だが、まあツケって事にしといてあげる。何よりねぇ……ユキちゃんに可愛い衣服を着させられるというこの興奮よ! たまんない」

「やっぱ通報しといたほうが良かったか?」

「あ、それはご勘弁を!」

「えっと、ありがとうございます?」

「なーに、winwinの関係ってやつよ」

 

 ティスはグットサインをして、ユキのお礼にこたえる。確かにここで見繕ってくれるのならば、今後武器や防具を買うのにお金を消費しなくて済むだろう。勿論俺の分は自分で用意しなければならないのだが。

 それにしても、ユキの珍しさというのは相当な物だと改めて感じた。誰から見ても、ユキは普通のNPCとは違うって事なのだろう。

 

「さて、俺はまた素材集めにいってくるわ」

「はいよ~、さっさと帰った帰った。ユキちゃんと私の二人による至福な時間の邪魔になるだろう」

「へいへい、じゃあな。あっ、明後日のイベント、楽しみにしてるぜ?」

「え?」

 

 それだけ言い残して、フレイは店から立ち去った。

 イベント? どういうことなのだろうか。

 

「何、アンタ知らないの?」

「あ、ああ、さっぱり」

「第1回イベント、明後日に開催される対人イベントだよ」

 

 ティスはニヤリと笑い、俺達にそう告げた。




閲覧ありがとうございます!

続きもお楽しみに!


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