俺の絶対(選びたくない)選択肢 (イニシエヲタクモドキ)
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①天久佐金出の甘くない日常 ②天久佐金出の苦くない漢方

「中学校を卒業した翌日?くらいから…ですかね?『変な声』が聞こえて、『変な物』が見えるようになったんです。いえ、嘘ではなく。本当なんです。―――『おっぱい揉ませろォ!!』……あ、いや違うんです。今のはその『変な物』のせいなんです。はい。今僕が『上半身裸になったのもそれのせいです。』あっ、そんな精神異常者見るような目を向けないでください。病気とかじゃないんです。精神疾患とかそんな事は全くなく。
え?こういう事が日常的に起こっているのか?ですか。――そう、ですね。人前でもそうでなくてもお構いなしで……『ふとももフェチで何が悪いんだよ!!』…あ、はい。これも『変な物』…『選択肢』のせいですね。因みにもう一つの方はもっと酷い事書いてました。だからこれは仕方なく、でして。あ、『選択肢』って言うのが僕の見えている『変な物』なんです。……『いいふとももしてますねぇ!』――あの、そんなゴミを見る目をしないでもらっていいですかね?後なんで僕から足を隠すんですか?まるで僕が本気で言っていると勘違いしているようじゃないですか。違うんですって。本当に『選択肢』に言わされているだけで――――『では、歌います。聞いてくださ』」

~教員小川麗香と生徒天久佐金出のやり取りより抜粋~


突然だが、道端に『そういう本』が落ちていた時、どうするだろうか?

普通、男性ならチラ見するだろう。俺だってそうする。

その上内容が若干でもマニアックなものなら、テンションが上昇してもおかしくない。

 

今回はマニアックな物であったから、そりゃあもう俺のテンションは急増。

この幸福感のまま学校に向かおう(現在は月曜の朝。通学途中である)と思ったその時、()()()()()()()俺の幸福感をぶち壊す『ある物』が出現した。

 

【選べ ①顔に押し付けて匂いを嗅ぐ ②食べる】

 

―――これだ。

 

どう説明すればいいかよくわからないが…そうだな。

ギャルゲーとかでよく見られる『選択肢』が、俺の頭の中やら周囲の看板やらに現れているのだ。

見ればほら、公園の看板の文字が犬の糞の扱いについてからこの二択に書き換わっている。

実際は俺にだけそう見えているだけらしいが。

 

ついでにこの選択肢を何者かが読み上げるのだが…なんというか、ムカつく程に良い声なのだ。

しかも偶に鼻で笑ったり爆笑したりしながら読む。そういう時が一番俺にとって辛い選択を迫ってくるのだが…まぁ、例は言わないでおこう。

 

「ふざけんな!何が悲しくてエロ本の匂い嗅がなきゃなんね―――痛ッ!?」

 

出て来るだけなら『なんだこれ』で済む。

だがこれが出てきたら、絶対に選ばなければならないのだ。

 

選ばずに放置していたら、頭痛がする。

それはもう言葉にできないような。

 

拒んだ時は放置している時以上の痛みが来る。

これを俺は『催促』と呼んでいる。

因みに選択肢の方は『絶対選択肢』と呼んでいる。

 

…なんか、どっかでそんな単語が出てくるラノベを読んだことがある気がする。

 

「……はぁ…じゃあ、①」

 

溜息と共にエロ本へ歩み寄り、鷲掴む。

それを躊躇うことなく顔に押し当て、思いっきり息を吸う。

 

――紙の匂い、だな。後はほんのり土埃の匂いもする。

 

何やってんだろ俺、という自己嫌悪の感情に苛まれつつエロ本から顔を離し、その場を去ろうとしたその時。

突然背後から声が聞こえてきた。

 

「はぁ…これで終わりで良いだろ」

「うわっ、見ろよアイツ。エロ本に顔押し付けて匂い嗅いでたぜ!?」

「どーてーだ!きもっちわりー!」

「あっ、エロスメルがこっち見てるぞ!」

 

……どうやら、俺が嗅いでいる途中に、小学生が通りがかってしまったらしい。

気まずい。このままどこかに行ってくれやしないか。

 

そしてエロスメルってなんだエロスメルって。

匂いフェチを極めた男じゃねぇんだぞ俺は。

 

【選べ ①んほぉおおお!!女体の匂いがしゅりゅぅうううう!! ②ぐへへ、今度は君たちをクンカクンカしよっかなぁ…】

 

匂いフェチを極めた男じゃねぇんだぞ俺はァ!!

 

「んほぉおおお!!女体の匂いがしゅりゅぅうううう!!」

「ひっ!?…逃げろー!!」

「へんたいだー!どーてーでへんたいだー!!」

 

先程までのムカつく笑顔を恐怖により涙目に変え、叫びながら逃げ去っていった小学生男子二人。

その背を見つつ、再び溜息。

 

「……どーして俺がこんな目に」

 

後には、エロ本を手にして意気消沈する俺、『天久佐 金出(てんきゅうさ かなずる)』だけが残った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おーっす」

 

軽く挨拶しながら教室に入る。

そのまま窓際にある自分の席まで向かい、ついでに俺の後ろの席に着席している女子、雪平ふらのにも挨拶をする。

 

「おはよ、雪平」

「おはよう、ウジ虫野郎」

 

カバンを置いて、数瞬視線をあちらこちらへと移動させた後に、気を取り直してもう一度声をかける。

 

「お、おはよう雪平」

「あら、挨拶はもうしたわよ。ウジ虫野郎」

「…そ、そうだったな。あはは…」

「もしかして、まだ寝ぼけているのかしら?ウジ虫野郎」

「あー、そうかもなー…うん。なんか変なのも聞こえるし」

「変なの?幻聴じゃないかしら?一度病院に行った方がいいわよ。ウジ虫野郎」

「―――いや幻聴でもなんでもねぇだろこれは!!」

「あら、いきなり声を荒げてどうしたのかしら、ウジ虫野郎」

「それに対してだわ!さっきからなんだよウジ虫野郎って!?いつから人からウジ虫にクラスチェンジしたよ!?」

「クラスチェンジじゃなくてランクアップじゃないかしら?『天久佐金出』から『ウジ虫』に」

「俺のヒエラルキー低すぎるだろ!!」

 

可愛らしく小首をかしげ、こちらを無表情のまま見て来る。

いや、そこに疑問を持たないでもらえませんかね。

 

「…冗談よ。これはただの『虫ジョーク』。気を悪くしたらごめんなさい」

「…『虫ジョーク』?」

「えぇ。―――今日の運勢、虫に関係した災難があるってあったから。だったらジョークで笑い飛ばしてやろうって」

「逆転の発想すぎないかそれ」

 

因みに今日の俺は『空から女の子が降ってくるかも!?』という謎の結果が出ていた。

ラッキーアイテムはチョコレートで、ラッキーカラーは金だそうだ。

ふざけているのだろうか?

 

「因みに、どうしてもと言うなら他の虫ジョークも披露するけど」

「い、いや良い…なんかもう疲れた」

「……因みに、どうしてもと言うなら他の虫ジョークも」

「わかった聞こうじゃないか」

 

強制イベントらしい。

諦めて聞くことにした…のだが。

 

「ん?雪平?」

 

何故か本人は突然黙り込んだ。

しかし俺から視線を外しているわけでもなければその場から移動しているわけでもない。

 

…もしや、虫と無視をかけているとかじゃないだろうな。

 

「あのー、雪平さーん?」

「……ヘイ、ムッシュ!今日間抜けなクラスメイトを無視してやったぜ!」

「…虫と無視だけじゃなくて()()ュにも若干かかってんのか」

「あら、よくわかったわね」

 

しかし面白いかどうかで言えば微妙なラインだろう。

俺みたいな駄洒落好きじゃなければまず笑わない。

 

だがまぁ、感想くらいは言ってやってもいいだろ……あ。

 

【選べ ①「ねぇ、君のおっぱい触らせてよおっぱい」 ②「ねぇ、俺のおっぱい触ってよおっぱい」】

 

男の胸をおっぱいと呼ぶな。そしてそのどちらを選んでも地獄な選択肢を止めろ。

 

「……ねぇ、俺のおっぱい触ってよ。おっぱい」

 

かなり小さな声で言ったつもりだったが、教室内が一瞬で静まり返った事から察するに、全員に聞こえたのだろう。

 

全員の視線が集中しているのを感じる。

何が嫌かって、その視線が『あぁ、またか』みたいな感じなのが嫌なのだ。

 

俺がこうやってわけわからん事言ったりやったりするのは高校に入学してからずっとであり、今年入学してきた上で俺との接点がまるでない他の生徒たち以外にとっては俺のこの奇行はあくまで『日常的』なものである。

 

本当は常識人なんだがな、俺…と涙を流しそうになるが、雪平の返答を聞いて硬直する。

 

「天久佐君、あなた今……私にあなたのパイオツを触れ、と言ったのかしら」

「……いや、似たニュアンスの事は言ったが、パイオツとは言ってないぞ」

「言ってない…!?パイオツって、言ってない…!?」

「そこそんなにショック受ける所じゃねぇだろ」

 

…あぁ、そうだ。雪平ふらのはこういう奴だった。

平然と毒は吐くし下ネタを吐くし、基本的にいかなる状況でも表情を変える事が無い。

所謂、変人だ。

 

しかしまぁ、今回の選択肢の相手が雪平で助かった。

これがもし他の女子とかだったら今頃俺は……想像もしたくない。

 

「だって、パイオツなんて単語、絶対に聞き間違えないと思うし…あぁ、パイオツなんて言ったのが恥ずかしくて隠しているのかしら。パイオツはそんなに卑猥な言葉じゃないと思うけど。そもそもパイオ――」

 

【選べ】

 

今来んのかい!?話ぶった切ってまでか!?

 

【①「おっぱいって言ったんだよ!!」と逆ギレする ②「うるせぇ、勝手に言ってろ!」と言って関係の無い女子の胸を揉みしだく】

 

ふざけてんのか!?

 

「……おっぱいって言ったんだよ!!」

「………そう」

 

うわ、余計に場の空気が凍り付いた。

 

唯一通常通りだった雪平すら何も言わなくなったし、女子たちは完全に俺から胸元隠してるし。

いや、それはまだわかる。その反応が普通なんだろう。

 

だが男子数人……何故お前らまで胸を隠す!?何故頬を染める!?

 

…俺だからなのか、それともガチなのか。

どちらにせよ、俺にとっていい事では無いという事は確かだが。

 

「……すまん雪平。忘れてくれ」

「ごめんなさい。朝からおっぱいと叫ぶ変態と話すつもりはないの」

「俺を差し置いて急に常識人ぶるのやめてもらえませんかね!?」

「あら、それだとあなたが常識人みたいね」

「俺は常識人だ!」

 

辟易しつつ言うが、にべもなく会話を拒否される。

…まぁ、普通そうだよな……もう胸に関する話題だったのは諦めるから、せめてパイオツで会話を続けてほしかった。

 

【選べ ①「ねぇ、君のパイオツ触らせてよパイオツ」 ②「ねぇ、俺のパイオツ触ってよパイオツ」】

 

今パイオツで続けたいだなんて言ってない。

 

「……ねぇ、俺のパイオツ触ってよパイオツ」

 

常識人だと叫んだ直後にこれは、流石に駄目だろ。

 

あ、雪平が完全に俺から視線外した。

本読み始めたぞコイツ。もはや話す事は無いってか。

 

…いや、雪平の厚意(あのパイオツのくだりは厚意と受け取ることにした)を無下にするような真似をした(させられた)上で、さらに厚意を求めるだなんて恥知らずな真似、流石にできないか。

 

諦めと共に席に着き、俺も持ってきたラノベを読もうとした所で、俺の側頭部に何かが激突した。

 

「痛!?……痛ッ!?」

 

側頭部に激突しただけでも痛かったのだが、そのまま倒れてしまったせいで隣の机にもう一方の側頭部が激突。

ボキャブラリーの少なさから同じ反応しか出来なかったが、明らかに後者の方が痛かった。

 

頭を抱え、涙目になる俺の目の前に、勢いよく足が振り下ろされる。

 

「よっ………およ?(てん)っちだ、おはよー!」

「やっぱりお前の仕業か!」

「あれ?カバン当たっちゃった?ごめんごめーん」

 

笑いながら謝る、先程窓からカバンを投げ入れた挙句飛び込んできた少女――遊王子謳歌に、怒りと呆れの入り混じった視線を向ける。

 

あまり深く反省していなさそうな彼女にもう一言二言言ってやりたくなったが、それよりも聞かなくてはならない事があるのでそちらを優先。

 

「…お前、なんで窓から入ってきた?」

「いやぁ…昇降口に生活指導の先生が張り付いてたんで、壁、よじ登ってみました!」

「いやここ二階なんだけど!?その軽いノリで来られる場所じゃないんだけど!?」

「おんや?天っちなんか疲れた顔してるけどどしたの?」

「…色々、あったんだ……ってそれはどーでも良いけど」

 

【選べ ①「どーでも良くねぇわ!」 ②「デュフフ、謳歌たそまじカワユス」】

 

…自分で言うのか(②は意識の外)

 

「どーでも良くねぇわ!!」

「うぉう、自分で言うんだそれ」

「…いや、やっぱどーでも良いわ……それよりなんなんだよそのリュック」

 

【選べ ①「その俺の側頭部に…俺の!側頭部に!ぶつかった!リュック」 ②「リュックの起源について時々猥談を挟みつつ話す」】

 

うぜぇ言い方だなオイ。……あ、②は無しで。

 

「その俺の側頭部に…俺の!側頭部に!ぶつかった!リュック」

「いやごめんって―――さて、よくぞ聞いてくれました!これを密輸したかったから昇降口通れなかったんだよねー」

 

そう言って遊王子はリュックをひっくり返し、自分の席…先程俺が激突した席の上に中身を広げた。

…いや待て。そのリュックのサイズと入ってる量が明らかに一致してないんだが。

 

しかし下手な事を言うとまた選択肢が出しゃばってくるだろうし、ここは黙っておこう。

 

「これ全部企画段階で没になっちゃった奴でさー。販売はしないけど、若い子の意見も聞きたいって事で持ってきたんだー」

「へー…」

「ねぇ謳歌ちゃん、これ何?」

「それはねー…」

 

女子たちが遊王子の机の周囲に集まる。

そして、気になった商品を手に取り遊王子に説明を求める。

それに対し遊王子は、いつも通りの明るい笑顔のまま具体的な使用例と共に解説を行う。

 

その商品のどれもに、『UOG』のロゴが刻まれている。

これは誰もが知っている大企業UOGのロゴマークであり、遊王子はそのUOG社の社長、遊王子謳真の娘なのだ。

企画段階で没になった商品とやらを持ってこれているのも、社長令嬢だからなのだろう。

 

……俺もなんか聞いてみるか。

 

「なぁ遊王子、これはなんだ?」

「ん?おー!それは『アバズレンZ』だよー!」

「アバズレンってお前…ネーミング酷いなオイ」

 

特に何も考えずに手に取ったが、とんでも無い商品だったようだ。

商品名の所を見てみると、確かに『アバズレンZ』と書いてあった。

開発者がどのような精神状態だったのかが凄く気になる。

 

俺からボトルを取り、他の生徒にも見せるようにして説明を始める遊王子。

 

「倦怠期を迎えた奥さんのための、女性版精力剤らしくってねー?」

「んなもんに若者の意見求めんなよ…」

「ちなみにお母さんの食事にこっそり混ぜてみたら、『はぁ…はぁ…謳歌、妹…欲しくない?』って!」

「へぇー!」

「そうなんだー!」

 

笑顔で説明する遊王子に対し、女子たちはきゃいきゃいと反応する。

そんな反応になるのか。

精力剤云々(これ)が許されるなら俺の普段の卑猥な奇行ももう少し大目に見てもらえていいと思うんだが。

 

…って実の母になんてもん盛ってんだコイツ!?

 

「お前元アイドルになんつーもん使ってんだ!?」

「まぁ元アイドルでも今は知的で聡明なニュースのコメンテーターだけどねー」

「余計に駄目だろ!?イメージとか!」

 

遊王子の母…遊王子響歌は元アイドルであり、現在はニュースのコメンテーター。

何処かしこも似たような萌え萌えなアイドルだらけだったその業界に、突如クール系として現れた彼女は、瞬く間に人気を博した。

 

そんなアイドルと、大企業の社長の娘が『これ』なのだ。

なんというか、一周回って凄いな。

 

…って、ん?これは…

 

「…本物の、お札?」

「あっはは!それ、お金を作って遊ぶ『札るんです』っておもちゃ!本物そっくりでしょ?」

「普通に犯罪だこれ!?」

 

よくこれを一度作ってみようという事になったなUOG。

全体を見回してみても、本物と言っても差し支えないほど精巧に作られていた。

 

これさっさと破壊したほうが…

 

【選べ ①こっそり財布にしまう ②これを使って何かを購入する】

 

一応言っておこう。俺はそんなつもりは微塵も無かった。

 

「天久佐君…!この玩具、悪用されたらきっと世界は大変な事態になるわ…!これは良識ある人間が管理すべきじゃないかしら…?」

「いやさっさと破壊したほうがいいと思うんだけど」

 

まぁ財布にしまった俺にいう義理は無いんだけどさ。

 

極めて冷静に一番の解決策を提示した俺だが、雪平は愕然とした表情を変えることなくそのまま話続けた。

 

「えぇっ!?私…!?そんなの無理よ…!」

「えっ?」

「えぇっ!?君しか、いない…?じゃ、じゃあしょうがないわね。そこまで言うなら私が」

「なんなんだよその小芝居は!?それやってる時点で既に良識ないだろ!?」

 

あっ、舌打ちされた。

 

しかしまぁ、流石に雪平も本気で言っていたわけでは無いのだろう。きっと。

俺だっていくら本物そっくりの金があるからって自分の物にしたいだなんて思わないからな。

実際財布の中にはこの偽の一万円が入っているわけだけど。

 

…どうやって処分しようか。

 

「ねぇねぇ!ふらのっちも感想聞かせて?」

「………おはよう、ウジ虫娘」

「まだそのノリ続いてたのかよ」

 

【選べ ①ウジ虫を食べる ②「ウジ虫と呼んでください」と土下座で懇願する(ランダム)】

 

ランダムって何だよ!?

そして流石にウジ虫は食いたくねぇよ!?

 

痛ッ!?…くっ、ランダムは選びたくないが…ウジ虫を食うのはもっとやだな……

 

頭痛と理性とがせめぎ合っている最中、遊王子に動きがあった。

 

 

「あっ、ウジ虫……そうだ!ウジ虫と言えば!」

「いやなんだよその返し……痛ッ…」

 

多分普通の人間が死ぬまでに聞くことの無いだろう返答についツッコむ。

しかし『催促』による痛みは未だに続いている為、脂汗が止まらない。

 

…あ、諦めてウジ虫を食すしか無い…のか…?

 

「はい、これ!」

「……ん?アニマルキャンディウジ虫味…?なんだその菓子と虫と気色悪さのキメラ…」

「…なるほど、これが虫に関する災難……開発者死ねばいいのに」

 

物凄く不吉な名前のキャンディが入った袋を、凄く嫌そうな顔をして雪平が受け取る。

…あぁ、虫に関係する災難が如何こうって話だったなコイツ。

 

差し出された袋を恨みがましそうに握り、大きく落胆して見せてからキャンディを一つ手に取り、口に含んだ。

その見た目はまさしくウジ虫であったが…果たして味は?

 

「…まじでウジって感じ」

「どんな感想だ!?…いや、これなら…!なぁ遊王子、俺も一個貰って痛てててて…」

「いいけど、大丈夫?頭痛?」

「あ、あぁ問題ない…ウジ虫食えば治るから…」

「そーお?なら、はい!」

 

訳の分からん説明だったが、遊王子はそれで納得したのか、ウジ虫(キャンディ)を手渡してきた。

それを一瞬躊躇してから口に放り込んだ。

しばらく味わっていると次第に頭痛が消え、俺の視界を埋め尽くしていた選択肢が消失した。

 

ふぅ。どうやらこれがウジ虫という事でよかったようだ。

しかし変わった味だな。不味くはないのだが、今まで味わった事の無いような味だ。

 

…いやまて。この慈悲と言う言葉を完全に欠落させた存在である絶対選択肢が、ウジ虫の見た目なだけで、味がウジ虫味というだけのキャンディで許してくれるのか?

 

「な、なぁ遊王子」

「ん?なぁに?」

「…原材料って、なんなんだ?」

「んー?…あ、ウジ虫エキスだって!」

「おぼるるろろろろろおぇぇぇ!」

 

吐いた。

ついでに朝食まで出てきた。

 

いや、多分そうなんだろうなぁとは薄々勘付いていたが、実際に言われたら駄目だった。

 

息を荒くして口元を拭うと、視界の隅にマジックハンドにつままれたウジ虫キャンディが。

どうやら、遊王子がまだ俺に食わせようとしているらしい。

 

見ると、いい笑顔とサムズアップを俺に向けている。

 

「天っち、三秒ルールだよ!まだ行けるよ!」

「鬼!悪魔!人でなし!」

「いやぁ、冗談だよ!流石にウジ虫の汁は入ってないって!」

「あら、それは素敵な虫ジョークね」

「まだ続いてたのかソレ!?」

 

安心したようにキャンディを味わい始めた雪平に、本当は何で出来ているのかを教えてやろうと思いキャンディの袋を見てみる。

 

「……原材料は諸事情により記載できません、だそうだ」

 

見て後悔した。なんで見てしまったんだろうか。

もう口の中に残っていないが、それでももう一度吐いておきたくなった。

 

雪平の方も、俺達から全身を背けてびちゃびちゃと何かを吐き出している。

…わかる。わかるぞその気持ち。

 

「あら天久佐君。そんな事で()()()()してるなんて男らしく無いわよ」

「ゲロ吐きながらしゃべるなよ…」

「あら、私は吐いたりなんてしてないわ。人からもらったものを吐き出すなんて、失礼だもの」

 

笑顔でそんな事を宣っているが、その口元にはしっかりとティッシュが当てられていた。

 

「じゃあその口に当ててるティッシュはなんだ」

「…つわりよ」

「もうちょっとマシな嘘つけや!」

 

再び俺から全身を背けた雪平にツッコむが、他の人の反応は違った。

 

全員が自分の身を守るようにして後退し、俺のいる窓際とは反対側の廊下側へ集中した。

…いや待て。なんでそうなる。

 

仮につわりの部分が本当だったとしても俺を警戒する必要は無いだろう。

なんで俺が第一容疑者にならなきゃなんねぇんだ。

 

――ていうかなんで男子まで俺を警戒してるんですかねぇ!?

数人程体を手で隠してる奴が居るってどういう事!?本当は男子じゃなくて男装の麗人なの!?それとも―――

 

【選べ】

 

おうお前大人しいなと思ったらここぞとばかりに来たな!

…なんだよ?雪平孕ませたのは俺だァ!って叫ばせんのか?

 

この場面で頭おかしい事させるとか、もうちょっと空気読んで欲しいんだけど。

 

【①上半身裸になって日本男児風に叫ぶ ②下半身裸でアマゾンの戦士風に叫ぶ】

 

アマゾンに対する偏見を感じた。

 

…しかし困った。また脱ぐ系の選択肢か。

 

この絶対選択肢、何故か知らんが俺に人前で脱がせるのが好きなのだ。

だから基本休日とかは家に引きこもるようにしているんだが…うん。学校の中で来たらどうしようもねぇな。

 

そして俺の予想に反して全ッ然関係ない奴来たな。

まぁ予想よりはマシ、か。

 

「えっ…嘘…」

「うわ、また脱いでるぜアイツ」

「今度は何するんだろ…」

「やっぱいい体してんなぁ…!」

 

おい最後の奴誰だ!?

 

あんまりと言えばあんまりの反応に、ついシャツのボタンを外す手が止まる。

 

…しかし選択肢に俺の都合等は関係なかった。

しっかりと『催促』され、痛みに頭を抑える羽目に。

 

くっ…脱ぐ脱ぐ、脱ぎますよって!

 

「やっぱあの三人揃うとやべぇな」

「流石お断り5ね…」

「顔と体は良いのに…」

「ウホッ!いい男…」

 

さっきから最後の奴だけ不穏過ぎねぇかなぁ!?

 

まぁそれはさておき…

 

先程俺を指して使われた言葉、お断り5…それは、この学園に在籍するとある男女各五名ずつの()()である。

見た目は良いのだが性格やら行動やらに難があり、恋愛対象としては見れないという意味を込めてそう呼んでいるのだ。

俺は(誠に遺憾だが)勿論、雪平や遊王子もお断り5のメンバーである。

 

確かに雪平も遊王子も見た目は良いからな見た目は。

雪平なんて最初見た時ときめいちゃったもん。好みだったし。

えっ、今?

…現実って、厳しいよね。

 

流石に中身が『毒舌+下ネタ』は無いわ。確かに漫才じみたやり取りに少しくらいは楽しさを感じてはいるが、恋愛対象にはならんでしょ。

 

因みに遊王子の『お子ちゃま』も無いな。

なんというか、小学校低学年以下レベルの言動は流石についていけない。

 

あ、俺がどうしてお断り5にって?

そんなの、ねぇ?

…入学式の時から【①上半身裸で好きなアニソンをアカペラで歌いきる ②下半身裸で好きな演歌をアカペラで歌いきる】なんて選択肢が来たからな。

そりゃ変人扱いされますわ。

入学初日に学校長から退学チラつかされるとか笑い話にもなんねぇだろ。

 

…さて、そんな事はどうでも良くて。

今問題なのは俺がその『お断り5』なんていう不名誉な名称で呼ばれ、そんな生粋の変人たちと同じ扱いを受けているという事だ。

 

認めない。悪いのは絶対選択肢であって俺じゃない。

確かに行動に移してはいるが、俺は無実だ。

 

しかしそんな事を理解してくれる人なんてのはいないもので。

その上選択肢は早く脱いで叫べと追い立ててきて。

 

「―――ぬはははは!!これが益荒男の心意気じゃあああああい!!」

 

取り敢えずそれっぽい事を叫ぶ。

頭痛が引いていった所から察するに、それでよかったのだろう。

 

…うん。クラスメイトのほぼ全員がドン引きしているが、この場はなんとかなったという事にしておこう。

 

【選べ ①このまま走り回る ②このまま誰かに勢いよく抱き着く(ランダム)】

 

なんともなっていなかった。この世界は極めて俺に冷徹だった。

 

「……ぬ、はは…ぬははははははーー!!」

「「「「きゃぁああああ!?」」」」

 

主に女子の絶叫を聞きながら、選択肢の支持する方向(時折選択肢が俺の行動を完全に支配する時があるのだ。ゲームでのムービー中をイメージして貰えばいいだろうか?)に走る。走る。ひたすら走り続ける。

 

もういっそ泣きながら走り回っていたその時、突然教室の扉が開かれた。

 

「うぃーっす……んぁ?」

「ぬははははー!…ぬ?」

 

俺の腹の所までしかない身長の女性……俺達の担任教師、道楽宴先生だ。

彼女が教室に入ってきたおかげで、俺のこの奇行もストップした…の、だが。

 

…なんで先生の目の前で停止したんだ!?縊り殺しなんていう二つ名の持主の前だぞ!?

んな人の目の前に半裸で停止とか、自殺行為過ぎだろ!

 

「お前、何してんだ?」

「…これには深い、それはもう深い訳がございまして」

「ふーん…なんだ、言ってみろ」

 

うっ、すっげぇ冷たい目……

 

まぁ、こんな事をしておいて言い訳しようとしたら、そりゃそんな反応にもなるか。

その上こんな事を俺は結構な頻度でしている(させられている)のだ。信用だとかは微塵もないだろう。

 

…普通は。

 

「……やれって」

「誰が?」

「頭の中の愉悦部員」

「ぷっ…」

 

おい誰だ今笑った奴。言っとくが本当なんだからな!

 

「ちょっとこっちこい」

 

気が付いたら宴先生に首を絞められていた。

おかしい。先ほどまで直立していたから、首を掴まれるなんて事はあり得ないはずなのに。

 

「いでで…あ、あの先生…せめて服着させてくれませんかねぇ!?」

「黙れ特別指導だ!」

「いだぁっ!?なんかゴリッって鳴ったぁ!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…で?」

「で?じゃなくてですね……つーか先生知ってるでしょ?この選択肢の事」

 

そう。この先生は、絶対選択肢について知っている数少ない人なのだ。

かつて俺と同じ境遇にあり、色々あって解放されたらしいが…詳しくは教えてもらっていない。

 

入学初日に上半身裸でアニソン熱唱し始めた俺を見て、もしや、と思ったらしい。

…本当、この人にあの時あの場で気づいてもらえなかったら、どうなっていたことか。

 

「はぁ……流石にあんな真似してなんのお咎め無しってわけにはいかねぇだろ」

「それはまぁ…そう、ですけども」

 

せめて服を着させてほしかった。

それだけを切に願っているのだが。

 

しかし俺の願いは通じていないらしい。

先生はまるでどうでもいいと言うように飴玉を舐めながら、気だるげに聞いてきた。

 

「で?今回はどんな選択肢が出たんだ?」

「上半身裸で日本男児風に叫ぶか、下半身裸でアマゾンの戦士風に叫ぶかって出て、その後走り回るか教室内の誰かに上半身裸のままランダムで抱き着くかって…」

「つまんねぇなぁ…なんで下半身ださなかったんだよ。もしくは抱き着けよ」

「流石に犯罪でしょうが!退学+αでなんかもっと悪いもんついてくんでしょうが!」

「対岸の火事って諺知らねぇの?」

「…もし選択肢のせいで退学+αな処分が下されることになったら全力で先生も巻き込んでやる…」

「はぁ…冗談だっての……しかしまぁ、えげつねぇこったなぁ…」

 

俺の恨み言を聞いて面倒くさそうに冗談だと言ったが、恐らく先程のは冗談ではないだろう。

目がマジだったし。

 

…しかし選択肢がえげつないという事に関しては全面的に同意する。

寧ろこれで生温いとか言う奴が居たら顔面を殴ってやる。

ついでにその時に目の中に親指突っ込んでやる。

 

「……もう戻っていいぞ。ま、これからも出来る限りのフォローはしてやっから、頑張りな」

「は、はぁ……しかし何故このタイミングでメールを?」

「あぁ、雪平に後一分でお前が戻らなかったら上着燃やして良いって」

「何してくれてんの!?」

 

凄く自然な感じで言われたが、凄く恐ろしい内容だった。

これはもうさっさと戻ろう。この先生相手に何言っても無駄だろうし。

 

どうせまた『冗談だっての』とか『つまんねぇなぁ』とかで済まされるのが目に見える。

 

【選べ(笑) ①「この合法ロリ!わからせてやるー!」と叫びながら教室まで走る ②「この行き遅れちっぱい!わからせてやるー!」と叫びながらあの夕日まで走る】

 

それは冗談で済ませてもらえないだろ!?

ってか笑ってんじゃねぇ!!なんだ(笑)って!

 

「……はぁ…」

「なんだ?そんなアホな上官の命令で地雷原に突っ込む二等兵みたいな顔して」

「その例え三回くらい聞きましたよ俺……痛ッつ!やる、やるっての!」

 

あー、選択肢か。みたいな目を向けているし、多分わかってくれるだろう。

…最悪、上着回収したら今日はもう学校サボって逃避行と洒落込もう。

 

「…この合法ロリ!わからせてやるー!」

「……は?」

 

逃げた。

因みに、上着は無事だった。

 

しかし、俺は無事じゃ済まなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は流れ放課後。

朝の件で先生からの制裁を受けていた俺は、最終下校時間間近になってようやく解放された。

 

可笑しいと思う。別に俺はあんな事微塵も思ってなかったし、言わせてきたのは選択肢だった。

なのになぜ俺がこんな時間までボコボコにされなければならなかったのだろうか。

 

あぁ、夕焼けが目に染みる。

 

「あら、金出ちゃぁん?」

「うっぷ……」

 

背後から声をかけられる。

凄く脂っこいねっとりとした声に、今日一日の不幸も相まって吐きそうになるが、何とか堪える。

 

…権藤大子。

俺の家の隣に住んでいる女性であり、俺がもっとも苦手とする人である。

未亡人で、俺が死んだ旦那の若い頃に似ているという事でこうしてしょっちゅう絡まれているのだが…

 

「今帰り?」

「え、えぇ…じゃ、じゃあ俺はこれで…さっさと晩飯作らないといけな――」

 

【選べ】

 

本気で謝るから、マジで今はやめてほしい。

 

【①「抱いてください」 ②「本能のおもむくままに抱いてください」】

 

ふざけんなバカ!やめろバカ!

つか①と②の違いねぇだろ!

 

―――痛ッ!?

……はぁ…マジでか。

 

「…抱いてください」

「ッ!?金出ちゅゎぁん!」

 

大子さんに抱きしめられ、全身から聞こえてはいけない音が聞こえてきた。

いや力強ッ!?万力!?

 

かなり小声で、それも離れてくださいと勘違いされるように言ったのだが、大子さんは偉く耳が良いようだった。

結果、俺は大子さんからの熱烈な抱擁を受ける羽目になった。

…本当、今日はつくづくついていない。

 

結局解放されたのは数分後で、大子さんは満足したように曲がり角へ向かって俺の視界から姿を消した。

 

「…うへぇ、おぞましかった…」

 

俺を主人公にした作品を作ったら、余りの悲劇っぷりに全米も涙するだろう。

実際俺が泣きそうなわけだし。

 

…今日はもう、何も考えずに寝よう。

選択肢ももうしばらく出てこないだろうし。

 

【選べ ①美少女が空から落ちてくる ②権藤大子さんが空から落ちてくる】

 

絶対選択肢からの悪意をひしひしと感じる。

 

…さて、ここでもう一つ説明しなければならない事がある。

それは、絶対選択肢に『一般常識は通用しない』という事だ。

物理法則は勿論、内容が内容なら人の記憶だって操作してのける。

 

この場合なら、①を選べば本当に空から美少女が、②なら先程あの角を曲がっていった大子さんが落ちてくるわけだ。

 

…んだよその地獄絵図。絶対②は選ばねぇわ。

 

「…やってみろよ……美少女でも何でも、落ちてきやがれェええええ!!」

 

自棄になって叫ぶ。

…しかし、数十秒経ってもなんの反応もない。

 

………何も、来ないのだ。

 

おかしい。選択肢で選んだものが実現しないというのは、絶対にありえない。

しかし、今俺の頭上を見たところで美少女どころか落下物すら見当たらない。

 

不発、なのか?

だとしたら凄くいい事を知れた。

不発があるという事は、選択肢によって引き起こされる行動が絶対ではないという事になるのだ。

 

『絶対に選んだらこうなる』と思って考えるのと『もしかしたら起こらないかも知れない』と思って考えるのとでは、精神的余裕が全然違う。

これは、久しぶりに良い選択肢だったのでは!?

 

ガッツポーズをとり、気を取り直して歩き出したその時、背後に何かが落下した。

しっかりと大きな音もたっていたし、衝撃波のような物を背後に感じたから間違いではないだろう。

 

……わかってた。わかってたとも。

結局、選択肢は絶対だったのだ。

 

「はぁ、せめてどんな奴なのか見て……は?」

 

一度顔を手で覆って大仰に落胆し、落下地点へと視線を向ける。

 

するとそこには金髪ロングの、変わった服装の女の子が居た。

……何故か、ブリッジで。

 

「んみゅ?……あなたは、天久佐金出さんですね?」

「―――君は、一体?」

 

何故俺の名前を知っている、という疑問はあったし、まず聞かれた事に返事をしていないのだが、とにかくこの謎の美少女の正体を知っておかなくては、と質問する。

 

しかし、返事は期待したソレとは違って。

 

「あなたを助けにきました!」

 

どこかアホな子のオーラを醸し出しつつ、地面に座り込んだその少女は、純度百パーセントの笑顔で、俺にそう言ってきた。

 

…なら、俺の返事は一つ。たった一つだけだろう。

 

「人違いです。どこか遠い所へ」

 

【選べ ①パンツの色を聞きつつ連れ帰る(タメ口) ②スリーサイズを聞きつつ連れ帰る(チャラ男風)】

 

「取り敢えず家来いよ。それと今穿いてるパンツって何色?」




IFルート『②食べる』

幽霊、妖怪、怪異、呪物…人間は、そのようなオカルト的な話を好む。
ここ、天神小学校(仮名)に通う四人の男女も、そう言った話が大好きだった。

「ねぇ、知ってる?あのうわさ」
「うわさって?」
「もしかして、妖怪エロ本食べ?」
「そうそれ!私のお兄ちゃんが昨日見たんだって!」

妖怪エロ本食べ。
それは彼らが住む町で有名な、都市伝説上の存在だ。

なんでも、その町に落ちているエロ本を見つけては食べ、食事を見られると襲われるのだとか。

「だ、大丈夫だったのかよ?」
「『おまじない』覚えてたから大丈夫だったんだって!」
「『おまじない』?なぁにそれ?」
「あれだろ?『んほぉおおお!!女体の匂いがしゅりゅぅうううう!!』って叫んだら、エロ本食べが逃げてくってやつ」
「そうそれ!お兄ちゃん家に入るまでずっとそれ叫んでたんだよー!」
「でもおかげで助かったんだろー?俺もちゃんと覚えとかないとなー!」







あぁ、なんであの日、俺はこちらを選んでしまったのだろう。
こうして『食事』をするたびに、そんな後悔が押し寄せてくる。
あの日、素直に匂いを嗅いでおけば、こんな日陰者になる必要は無かっただろうに。
何故俺は、『食べる』と決断してしまったのだろうか。

「もう、どうでもいいか…」

涙ながらに『食事』を続けながら、ふと空を仰ぐ。

ああ、気づかなかった。
こんやはこんなにも つきが、きれい――だ―――



『妖怪エロ本食べ』の正体が『天久佐金出(49)』である事を、この町の人間は、誰一人として知らない。


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①『ひぎぃ!』あり!ブタックジョークで笑わせろ! ②秘儀無し!ブラックな現実を直視しろ!

のうコメをよく知らずにこの作品を見てみた人は、是非原作も見てみて欲しいです。
小説を購入して、円盤も購入して、この沼にハマっていただきたい。


五月七日。

いつものように五時半に目を覚まし、スマートフォンの目覚まし機能によって鳴り響いているアニソンを止め、二階にある自室から一階のリビングに向かう。

 

まだ頭はボーっとしているが、行動に支障をきたす程ではない。

まずはいつも通り朝食と弁当の下拵えから…

 

【選べ ①顔を洗う ②着替える】

 

人のルーティンワーク乱さないでくれます?

 

「…ま、顔洗って着替えてからでもいいだろ」

 

その分今日の朝食と昼食は冷食多めになるが、どうせ食べるのは俺だけなので問題ない。

最悪朝昼共に唐揚げと米だけでも生きていけるしな。

 

諦めと共に洗面所へ向かい、顔を洗って着替える。

制服は基本洗濯機の隣の棚においてあるので、顔を洗うのと着替えるのとは同時に出来るようになっているのだ。

時短って大事だよね。

 

「さーってと、目も覚めた事だし朝飯でも……」

「ふみゅ……?あ、おはようございます!金出さん!」

「おう、おはよう。朝食のリクエストとか、あるか?」

「ハンバーグが食べたいです!」

「朝からボリューミーなの行くなー。ま、弁当のおかずにもなるし作ってもいいか」

 

しかし問題はミンチがしっかりあるかどうかである。

最悪の場合は野菜を多めに入れて誤魔化すか…と調理の準備をした直後に振り向く。

 

「なんでお前ここに居んの!?」

「?だって昨日金出さんがつれてきたじゃないですか。――あ!パンツの色もきかれました!」

「それはもういい!忘れろ!」

「えーっと、確か――」

「態々確認しなくてもいいわ!忘れろ!」

 

【選べ ①「パンツ見せんだよ俺によぉ!」 ②「この色が良いね」と俺が言ったから今日はパンツ記念日】

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?

 

「パンツ見せんだよ俺によぉ!」

「はい!」

「はいじゃねーよ!見せんなよそこは拒めよ恥じらえよ!!」

「…は、恥ずかしくないわけでは、ないですけど…」

「なら全力で拒否してくれませんかねぇ!?」

 

…なんで俺は朝からこんなに声を張り上げているんだろうか。

 

いや選択肢のせいと言えばそれまでなのだが……失礼だが、この少女のアホさも関係していると思う。

恥ずかしいなら拒否して欲しかった。

俺の視界に映るピンク色が、性的興奮と罪悪感を同時に呼び起こす。

 

いや他にも言いたいことは色々あるよ?

なんでソファで寝てたのかとかその周囲に散らかっている菓子の袋はなんなんだとかさ?

 

けどそれがどうでもよくなるくらいこのパンツ問題が俺の精神を疲弊させてきてるんだよなぁ…

何が悲しくて不審者(連れ込んだのは俺)に下着の色を聞いた上で見せるように要求しなきゃいけなかったんだろうか。

 

「…もうここに居る事に関しては何も言わないけど……まず、君誰?」

「はい!私の名前はですね……」

 

【選べ ①「なんでここに居んだよ」 ②「君の中に入れたい」】

 

朝から元気良いなお前!

おかげでこっちは疲れ果てそうだよ!!

 

「なんでここに居んだよ」

「え?ですから金出さんが…」

「もうここに居ることに関しては何も言わないけど……まず、君誰?」

 

殆ど同じセリフを言う事で、何とか誤魔化す。

家にいる変人(まだそうと決まったわけでは無いが、俺の中では既に変人扱いになっている)に変人扱いされるのは、流石に屈辱的だしな。

 

何も言わないって言った後にそのことについて触れるなんて、ちょっと馬鹿すぎると思う。

 

「私の名前はですね……」

 

突然部屋の中にぐぎゅううううう……と、謎の美少女Aのセリフを遮るように音が響き渡った。

 

……はぁ、落下系ヒロインは大食い属性持ちという法則を熱弁していた田中寿(16)の考えは、どうやら正しかったらしい。

腹がなっただけでそれを判断するのは早急だと思うが、この手の女が腹を鳴らした後は大食いの描写があるという事を、俺はアニメやらラノベやらで知っている。

 

「…お腹が鳴りました」

「わかった、まず先にハンバーグ食わしてやるから、その後ちゃんと話せ」

「はい!」

 

純度百パーセントの笑顔に背を向け、俺はハンバーグ作りを始めるのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おいしいです!金出さんは料理上手なんですね!」

「ふっ、まぁな。父さんも母さんもよく家を留守にするから、自然と自炊が得意になったって事さ」

 

純粋に褒めてくる謎の美少女Aに、どや顔と共に返事をする。

ついでに弁当用にと取っておいていたチーズハンバーグを一つ贈呈する。

これは別に褒められて嬉しかったとかではない。ちょっと手が滑っただけだ。

 

「…ってか、そんなに腹減ってたのか?随分食ってるが」

「はい!もうお腹と背中がうらがえりそうでした!」

「グロいグロい。俺も飯食ってんだからやめろそういうの」

 

別にグロいものは苦手ではないが、食事中は流石にやめてもらいたい。

まぁ、この話題を振ったのは俺なのだが。

 

「んで?結局お前は何処の誰で、なんで俺の事を知ってるんだ?」

「んぐんぐ……私の名前はですね……んぅ?えーっと…」

 

一気に不穏な空気が流れる。

 

天久佐金出(サブカルで義務教育を終えた俺)は知っている。

謎の美少女A(落下系ヒロイン)の記憶喪失率が高い事を。

 

…そして、自分の名前等は忘れているのに、何故か他人の名前(この場合は俺の名前)を知っていて、物語におけるもっとも重要な事に関わる情報を持っているという事を。

 

「……なんでしたっけ?忘れちゃいました!」

「おう屈託のない笑みで言うなや」

 

余りショックはない。

このパターンも予想していた。

 

…だがしかし。こういう時の記憶喪失系の子は、断片的にでも重要な単語を覚えている物なのだ。

 

ここまでテンプレートだったんだ。きっと聞いていれば大事な事を話してくれるだろう。

 

選択肢で落ちてきた子なんだ。絶対に俺関係…いや、選択肢関係の子だろうし。

 

「あ、おもいだしました。私かるい記憶喪失でした!」

「思い出すまでもねぇだろそれは」

「まぁいずれおもいだすでしょうし、平気の平左衛門です」

「自分で言うなよ……」

 

なんだろう、この全身から溢れ出るアホの子のオーラ。

遊王子とかそこら辺と似たものを感じる。

 

 

「あ、そうだ金出さん。おちかづきのしるしにこれをどうぞ」

「…それって」

「高級品なんですよ!」

「知ってるわ!俺が先週買ってきたやつだわ!」

 

懐から取り出されたソレを見て、結構本気で声を荒げる。

…五個しかチョコレートは入っていない上に一個のサイズも小さく、さらに値段は四桁という恐ろしい品だ。

選択肢に購入させられたのだが、余りに勿体なさ過ぎて未だに食べれていなかった。

 

しっかりと隠しておいたはずだが、何故この謎の美少女Aの服の中に入っていたんだ?

 

【選べ ①「ボディーチェックだ!」(ランダム) ②「揉ませろぉ!」(ランダム)】

 

両方ランダムかよ!?

ていうか謎の美少女A以外に誰が居るん………俺?

 

「ボディーチェックだ!」

「…?なんで急に自分のからだを触りはじめたんですか?」

「知るか!こっちが聞きたいわ!」

 

しかも自分の意思で動いているわけでは無い。

その上手つきがいやらしい。

……なんで朝っぱらから一人でアダルトビデオまがいの事をしてるんだ俺は。

 

「……それにしても、美味しそうですねぇ…はうぅ…」

「あ?……あぁ、食いたいのか?」

 

流石に渡す気はねぇけど。

だってお前…せっかく貯めてた小遣いを使って(使わされて)買ったチョコレートを全部渡すなんて、なぁ?

 

「はい!」

 

元気よく返事をしてきた謎の美少女Aに見せつけるように、チョコレートを左右に動かす。

すると、謎の美少女Aはチョコレートと同じように左右に動き、上下に動かしても同じように動いてきた。

 

…なんだろう。おばあちゃんの家にいる犬を思い出す。

 

【選べ ①随分チョコレートに執着しているし、チョコレートと名付けよう! ②随分チョコレートに執着しているし、チョコラータと名付けよう!】

 

燃えるごみは月・水・金じゃねぇんだよ!

なんでボスも忌むような邪悪の名前つけなきゃいけねぇんだよ!

 

「よし、じゃあお前は今日からチョコレートだ」

「んみゅ?…あぁ、名前ですか!チョコレート……ちょっと素敵にショコラにしましょう!決定です!」

「ショコラか……」

 

チョコレートにせよショコラにせよ犬の名前感は拭い去れてないんだが。

…でもチョコラータよりマシか。

 

「…で、結局お前はどうしてここに居るんだ?」

「私は金出さんの呪いを解除するお手伝いに来ました!」

「…呪いを、解除…?」

 

呪い、というのは十中八九この絶対選択肢の事だろう。

それを、解除?つまりそれは、俺がこの絶対選択肢(吐き気を催す邪悪)から解放される、という事だろうか?

 

「な、なぁ!お前は呪い…絶対選択肢について、知ってるのか!?」

「はい」

「じゃ、じゃあどうすればコイツを手放せるのかも知ってるのか!?」

「はい!」

 

アホ毛を揺らしながら(なんか犬の尻尾のようである)答えたショコラに、自然と笑みがこぼれる。

ニコニコ、というよりもフヒヒ、という笑いだが。

 

…解放、される?俺、自由?

この一年間、俺を毎日悩ませ続けた『コレ』からやっと解放される…!?

 

「頼む!教えてくれ!どうすれば俺はこの地獄と決別できる!?」

「あわわ…落ち着いてください金出さん」

「これが落ち着いていられるか!!」

「せ、正確には知ってるのは私じゃありませんので」

「じゃあ誰が知ってるんだ!?」

 

肩を掴んでショコラを前後に振りながら問い詰める。

多少扱いが雑かもしれないが、俺としては落ち着いて冷静に考える事なんてできない。

 

だってお前、俺に人前で奇行に走らせるコイツから、解放だぞ?

そんなの落ち着いていられるわけが無い。

 

「神様です」

 

だから、だろうか。

平然とそんな事を言い切ったショコラに、急激に呆れと怒りと落胆を感じたのは。

 

「…帰れ」

「はい?」

「なんで選択肢の事を知ってるのかはわかんねぇけど、今ので確信できた。お前は本当に何でもない奴だ。そうでなきゃ突然神様がどうとか言わねぇだろ」

「いえいえ、本当に神様が…」

「いたら鼻からスパゲッティ食ってやるわ!」

 

それくらい荒唐無稽だ。

絶対選択肢なんていうとんでもファンタジーな物が存在しているのはもう既に認めているが、流石に神様なんていう超常的存在がこう簡単に一介の男子高校生に関わっていいはずがない。

 

もし神様から電話がかかってくるなんて面白おかしい事があったとしたら、追加で目でピーナッツを噛んでやっても構わないくらいだ。

 

…っと、こんな時に電話?

父さんか母さん…いや、着信音が違う。

基本俺は誰であろうと着信アリのあの曲を着メロにしているが、何故か今かかってきている電話は荘厳な管楽器の曲だった。

 

その上画面には『神』と表示されている。

 

「あ、神様から電話ですね!」

「なわけねぇだろ…もし仮にマジだったとしたらシュールすぎる……はい、もしもし?」

 

口では否定しつつ、もしかしたら…という風に思いながら通話を開始する。

努めて普段通りに声を発した俺に対して、『神』なるものはこう答えた。

 

『どもどもー!神でーす☆』

 

―――よし、(俺の中で)神は死んだ!

 

「おかけになった電話番号は、現在使われておりま」

『ちょっとー!それじょーだんきつくなーい?本当に神なんだって、かーみ。あっ、なんならGODって呼んでもいいけど?』

 

こんなチャラいのが神でいいのだろうか。

……しかし実際着信画面には神と表示されてたし…認めたくないが、マジで神なのだろうか?

 

「…で、その神様が一体なんの用で?」

『え?いきなりそこいっちゃう?うっはマジ性急↑』

 

…少なくともコイツの喋り方は想像を絶するくらいにムカつくという事はわかった。

 

『ん~?もしかして、まだ信じてない系?』

「…いや、認めたくないですけど、一応信じはしますよ信じは…」

 

【ぷっ……選べ ①約束は約束。鼻からスパゲッティを食べる ②約束は約束。目でピーナッツを噛む】

 

くっそコイツやっぱり悪ノリしやがった!

あんなのその場のノリだろうが別によぉ!

 

そしてなんで最初笑った!?

 

「あででで…わかった、やる、やるから!」

『あー、もしかして選択肢出ちゃった系?なにするの~?』

「……ショコラとの約束通り、鼻からスパゲッティを…」

 

そう言った瞬間、目の前に山盛りのスパゲッティ………いや、正確にはスパゲッティ()()()が出現した。

 

…嘘だと言ってよ。

 

「おー、スパゲッティサラダですね」

「……おい、まて。まさかこの野菜まで鼻からいかなきゃ駄目なのか?―――痛ったぁ!?わかった、わかったから!!」

 

やたら大きくカットされた野菜とスパゲッティを鼻まで運び、一息に啜る。

 

「ぎゃぁぁあああああああああ!!」

 

朝の住宅街に、俺の断末魔が響き渡ったのは、言うまでもあるまい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「はぁ……朝からなんであんな目に遭わなきゃいけなかったんだ…って俺のせいか、あれは」

 

ブツブツと呟きながら学校へ向かう。

あの後無理矢理スパゲッティサラダを鼻で完食した後、虫の息の状態でチャラ神から聞き出せる情報を全て絞り出した…の、だが。

 

その内容はあまりに穴だらけで、俺の事情を知っているであろう神が使い物にならないという事が分かっただけだった。

 

強いて言うなら、前任の神とやらが浮気の末に妊娠して一万年の間産休を取ることになったとか、その前任の情報管理が杜撰だったせいで碌な情報が残っていないという事と、単純に神の力を使った所で呪いは解除できないという事――――そして、呪いを解除するにはミッションをクリアするしかない、という事が分かった。

 

なんで神がそんな昼ドラじみた事やってんだろうか。

 

「あ、雪平」

 

校舎に向かう途中、見慣れた後姿を発見したので声をかけようとする。

しかし、そこで突然ポケットの中の携帯電話が大きく振動した。

 

「メール?神からって…」

 

神、と書いてあるが、今朝のチャラ神とは別の神である。

何故なら、あの神の登録名は『チャラ神』に変更してあるからである。

 

…はぁ、なんでこんな一回の男子高校生に神なるものが二人(正確な数え方は知らない)も関わってくるんだろうか。

 

んで?そのミッションってのは一体なんなんだ?

 

《呪い解除ミッション 雪平ふらのを心の底から笑わせろ 期限五月八日》

 

は?(一度見)

雪平を?(二度見)

心の底から?(三度見)

――笑わせる?(四度見)

 

「あら、おはよう。ブタ野郎」

 

微笑みながら、挨拶と共に俺を罵倒してのけた彼女に、俺は笑顔で返事をしつつ、こう思うのだった。

 

…無理ゲーだろ。

 

 

【選べ ①「おはよう雪平、今日も可愛らしい胸だね」 ②「おはよう雪平、今日もいい尻だね」】

 

そして朝一発目の発言に下ネタをぶっこむのをやめてほしいんですけど。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あれ?天っちどうしたの?頬っぺたに紅葉出来てるよ?」

「あはは…大いなる怒りに触れただけだ……」

 

どちらにせよこうなったのだろうが、結局俺は①を選んだ。

 

何故か?それは絶対選択肢の法則性にある。

絶対選択肢は基本的に、①で悪い物を、②でそれ以上の邪悪を持ってくる。

 

似たような選択肢だったとしても、それから派生して起こる事は②の方が悪い事が圧倒的に多いのだ。

 

だから、諦めて①にしたのだが…

いつもみたいにぶっ飛んだ反応を見せるかと思ったら、顔を赤く染めて涙目な状態で俺の頬を叩いてきた。

 

なんというか、そのせいで罪悪感がヤバイ。

それはもう、語彙力が崩壊するくらいに。

 

「それよか遊王子、一つ聞きたいことがあるんだが」

「んー?」

「人を…それも普通の人とは若干感性の違う人を心の底から笑わせるには、どうすればいいと思う?」

「えー?普通にお笑い番組でも見せたらいいんじゃないのー?」

 

む、やはりその手のプロに任せるべき、という事か。

確かになぁ…無理に俺がふざける必要は無いのかもしれないな…

 

遊王子から雪平へと視線を向ける。

何も言わずに本をひたすら読んでいるが、その目元は少し赤く腫れている。

 

…まじで泣かせちゃったんじゃん俺。

選択肢のせいと言えばそうなんだけど、なんか罪悪感が……

 

【選べ】

 

―――この流れで来るか?

少しは反省したらどうだ?

 

【①「なぁ遊王子、下着の匂い嗅がせてくれよ」 ②「なぁ遊王子、上着の匂いクンカクンカさせてくれよ」】

 

更なる邪悪()のほうで上着を要求している所にかなり変態性を感じた。

そして逃げ道がクンカクンカのせいで完全に断たれている所に悪意を感じた。

 

「なぁ遊王子、上着の匂いクンカクンカさせてくれよ」

 

教室内の和やかで明るい雰囲気が死滅した。

おうおう、もう皆無反応でいてくれよ。

『俺だけが居ない教室』とかさ、それでいいだろ?

 

…さて、肝心な遊王子の反応は…

 

「いいよー!」

「いや拒否して!?変態的な発言を受け入れないで!?」

 

なんだろう、こんな叫びを今朝別の奴にした気がする。

 

立ち上がって叫ぶ俺に、遊王子はなははーと笑う。

…うーむ、雪平と違って真っ向からの否定ではない分心に傷は負わんが……なんだろう、退路が余計に断たれた。

 

既に手渡されてしまっているが、ここは素直に返そう。

これでガチで匂い嗅いだらマジもんの変態―――

 

【選べ ①顔に押し付けて思いっきり息を吸う。感想は「オウカニウムが補給されたぜ!」 ②食べる。感想は「デュフフ、謳歌たその味がしたんだな」】

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!

 

「スゥウウウウウ!!!――――お、オウカニウムが補給されたぜ!」

「うわ普通にキモイ…」

「やべぇぞアイツ…」

「オウカニウムってなんだよ…」

「すっごいいい笑顔…」

 

教室内の空気は既に氷点下。

俺に向けられる視線は絶対零度のソレである。

 

特に俺の背後…雪平から一番冷たい視線を感じる。

いや、もはや死線と言っていいだろう。

 

そんな中、俺は…

 

「あ、あは、ははは……」

 

笑う事しか、出来なかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ぶひぃいいいいい!!ぶひぃいいん!!ふごっふごっ…ぶひぃいいいいいいん!!!」

 

俺、天久佐金出。高校二年生!

今は『リンチされている最中の豚』の真似を、(迫真)ってついてそうなくらい本気でやってるぜ!

 

「びぃいいい!ぶひっ、ぶひぃいいいい!ふぎゅっ!?ぶひぃいいいん!!」

 

俺のこの『リンチされている最中の豚』が如き声は、言うまでもなく教室内…そして、学校内に響き渡っている。

あまりに『リンチされている最中の豚』過ぎるその声に、教室の外には沢山の人が!

教卓の上で仰向けになっている俺への視線は、この羞恥心やらなにやらで熱く火照った体を凍てつかせんとばかりに絶対零度だ!

 

……え?感嘆符が多い?

ははは!自棄なのさ!

 

「ふごっふぎゅっ!ぶひっ、ぶひぃいいいいいいいいいいいいいいいんンん!!!」

 

一際大きく『リンチされている最中の豚』のような叫びをあげ、俺は教卓から降りる。

 

あー、やっと解放された……

 

上着を着ながら、そそくさと自分の席に避難する。

しかし、それだけでは『目撃者』たちは許してくれない。

 

「……やべぇよアイツ。流石にこれはやべぇよ」

「まじで豚って感じだったな…」

「生粋のマゾなのね…天久佐くんって…」

 

クラスメイトからの冷たい言葉に、涙を禁じ得ない。

別に俺はマゾではない。

そして豚の真似をしたからと言ってマゾ扱いは良くないと思う。

 

……そもそも、昼食中に【①教卓の上で仰向けになりリンチされている最中の豚の鳴き真似を、上半身裸か下半身裸のどちらかで行う ②全裸で荒縄に縛られている権藤大子さんが出現。自分も同じ格好をし仲良く公開ボンレスハムプレイ】なんていう選択肢が出てきて、もうこの世界の全てを諦めて自殺しようと屋上まで向かったら【①死なない ②死ねない】という選択肢が出てきたのが悪いのだ。

 

この丁寧な自殺阻止を止めていただきたい。

リタイアも立派な権利だと思うんだけど。

 

――結局、衆人環視のなか見事に迫真の『リンチされている最中の豚の鳴き真似(迫真)』を敢行し、こうして冷たい反応をされる事になったのだ。

 

まじでどうしてこうなったんだ俺。

 

「天久佐君。憧れる気持ちはわかるけど、今のはちょっとどうかと思うわ」

「……なんの話だ?」

「残念ながら、さっきのあれはブタックジョークとは認められないわ」

「なんだそれ!?」

 

というか雪平、ようやく今日まともに話しかけてきてくれたな。

ちょっと嬉しいぞ俺。

…会話をするに至ったのが『リンチされている最中の豚の鳴き真似』のおかげというのが少し…いや、凄く遺憾だが。

 

「因みにあなたは色白だから、ブラックブタックジョークではなくホワイトブタックジョーク…つまり白豚ね」

「いや言いにくいなオイ…」

 

そもそもブタックジョークはブラックジョークからきてるんだろうし、その時点でもうブラックブタックジョークはおかしい……あー!ややこしいな!

 

「…もしブタックジョークじゃないなら、さっきの奇行は一体なにかしら?」

「えっ…あっ、あー……そ、そうだな!うん!お前が朝『ブタ野郎』って言ってきたのに触発されたっていうかー!?」

 

……ま、まさかとは思うが…雪平のやつ、庇ってくれたのか!?

なんて優しい奴だ…変な奴だけど、今は女神にしか見えん。

 

朝あんなセクハラ発言をしたってのに、こうして俺が奇行に走ったのを謎の発言で正当化(?)しようとしてくれるとは……先程までとは違った意味で涙が出そうだぜ…

 

お前にセクハラ行為か発言させるような選択肢があった時は、絶対にお前を傷つけない方を選ぶからな!

 

【選べ】

 

おっと、俺が硬く決意をした瞬間に来るか?

やってみろよ。今だったら隣に何出されても雪平に被害ださねぇようにしてやるからよぉ!!

 

【①「多分きっとそうだよ。メイビー」 ②「違うブヒ!おいらはマジもんJKたちの前でぶひぶひ言いたかっただけブヒ!ほら、罵ってェ!!」】

 

②ィ!!

おまっ、ふざけてんのか②ィ!!

 

…だが①、お前はまだ許容範囲だ。

珍しく選択肢が出て安堵したぜ。

 

「多分きっとそうだよ。メイビー」

「結局なんなのよ」

「いや、ブタックジョークって事でいいんですけど」

「やっぱりパクったのね」

「そうパク……え?なんて?」

 

なんか会話の流れが変な方向に向かっているような気がする。

 

一気に纏う雰囲気を変えた雪平に、素で聞き返す。

しかし、期待通りの返答が来ることはなく。

 

「訴えてやる!」

 

あ、流れ変わったな。

 

普段なら出さないだろう大きな声を出した雪平に、一周回って冷静になる。

しかし俺が冷静になった所で何かが変わるという事ではなく。

 

「裁判長!裁判長を呼んで頂戴!」

「そんなシェフ感覚で呼ぶなよ」

「いやぁ~、食べた食べたー!」

 

混沌とし始めた(俺がブタの真似をした時から既に混沌としていたが)この場に、さらに火に油を注ぐような奴がやってきた。

 

余りに油が多すぎて、そのままとんかつができそうなくらいだ。

ブタックジョークだけに。

 

―――うん、わかりにくい上につまんねぇなコレ。

やっぱジョークは向いてないな俺。

 

…学食から帰ってきた遊王子に、雪平が裁判長と声をかけてハイタッチを求めた。

しかも遊王子は、何も状況を理解していないだろうに特に何も考えずにそれに応じた。

 

駄目だ。こうなったら俺に出来ることは何もない。

後はツッコミに徹する他ないだろう。

 

「お前いつから裁判長になったんだよ…」

「裁判長。この輩は人様の知的財産権をかすめ取ろうとした不届きものよ。厳正なる裁きを」

「じゃあ死刑!」

 

いや雑ゥ!!

厳正なる裁きの要求を完ッ全に無視してんなコイツ!

 

【選べ ①「ンギモヂィイイイイ!!」 ②「はぁっ…はぁっ…お、謳歌たそからの死刑宣告…濡れてしまうのだな…!」】

 

おっと、ツッコミは心の中で思っただけでは届かないぞ?

そしてここでさらにボケを入れるのは不味いのでは?

 

―――①でも②でも、結局死刑宣告で気持ちよくなってる変態なのに代わりないんだよなぁ…

ていうか①、お前味方じゃなかったのか。

なんで急に理性蒸発した?

 

「ンギモヂィイイイイ!!」

「うわっ…ないわー…」

「やっぱりマゾじゃないの!」

「気持ち悪っ…天久佐のファンになります」

 

まて、最後の奴なんつった!?

俺のファンってなんだファンって!?他にも居んのか!?

 

…いい意味だったら結構嬉しいけど、どうせ悪い意味なんだろうなぁ…

 

「……それはブタックジョークでは無いわね」

「当たり前だろうが!」

 

【選べ ①「ただ叫んだだけだ!」 ②「ただ人前で遊王子に死刑と言われて絶頂しただけだ!」】

 

「ただ叫んだだけだ!」

 

今回もギリギリ①が理性を保ってくれていたな、うん。

②は無かった。いいね?

 

「わざわざ二度も説明しなくてもいいと思うけど」

「ほんとだよ……」

「取り敢えず丸焼きでどう?」

「マイペースだなお前!ってか俺は豚じゃねぇよ!?」

「えー?でも天っちの豚の鳴き真似すっごく上手だったよー?なんていうか、『リンチされている最中の豚』って感じだった!」

「へへっ、そりゃ俺の演技力はハリウッドにも通じると言っても過言ではないからなー!………って違ーう!!」

 

褒められるとすぐに鼻の下を伸ばして調子に乗る。

これは俺の悪い癖だ。いずれ直さねば。

 

ていうかアレは褒められたと言っていいのか…?

 

「ええ、裁判長。今大事なのは…そして、今回の議論の争点は被告は『有罪』か『無罪』か…そして、『人間寄りの豚』か『豚』かという事よ」

「純然たる人間だわ!!どうして最後ふざけた!?」

「まとめるなら、被告人は『有罪』か『豚』か、ね」

「ついにとうとう人間寄りでもなくなったな!……っていうか無罪は無しなのかよ!?」

 

【選べ ①「どうせ調理するなら一思いに生ハムにしてくれ」 ②「私は屈しない!」】

 

②はもう豚関係ないだろ!?

…でも実際、そういう状況じゃない今使った所で別に問題ないのでは…?

 

だって①だと、自分も豚方向でボケる事になって収拾がつかなくなるしな…

 

「私は屈しない!」

「……人ってね、生まれた時から罪を背負っている物なのよ」

「そんな可哀そうな物を見る目をやめてくれませんかね」

 

俺がふざけた(ふざけさせられた)瞬間に深い事言わないでほしかった。

俺だけが愚かみたいじゃん。

 

「豚に関わる話でもそう。どれだけ愛情を込めて育てたなんて言っていても、結局は殺して調理しているじゃない。――それを、本当に正しい事だと、罪なんて無いと言える?」

「いやこの流れでする話じゃないだろ…」

 

【選べ ①「くっ…殺せ!」 ②「ひぎぃ!」】

 

この流れで言うセリフじゃないだろ…

 

「――だから天久佐君。貴方は有罪よ」

「ん?じゃあ死刑?それとも豚?」

「くっ…殺せ!」

 

なんかいい感じになってんじゃねぇよ!

俺のツッコミが的外れみたいじゃねぇか!!

 

…いや、なんで俺ツッコミに自分の価値を見出してるんだ?

 

「すげぇなあの三人…こんな人だかりの前でもこのノリだぜ?」

「流石お断り5ね…」

「特にあの天久佐だよな…」

「二つ名とか噂を書き連ねるだけで広辞苑五冊分の分厚さになるっていう…」

「イケメンなのにね…」

「でもコアなファンが最近増えてきたらしいよね」

 

はは、お断り5…ね。

 

前回(前回ってなんだ)説明した通り、俺と雪平、そして遊王子は『お断り5』なる存在として扱われている。

他にもキャラが濃いらしい人が名を連ねているが、俺は実際に会ったことがないので何とも言えない。

 

そしてさっきから俺のファンってなんだ。しかもコアなファンらしいな。

カルト映画みたいな扱いなのか俺は。

 

「クォルルァ!!天久佐テメェ、教室に豚連れ込んでひたすら舐めまわそうじゃねぇか!」

「連れ込んでねぇし舐めてねぇよ!?どんだけ話に尾ひれついてんだ!?」

 

こんだけ見物人が居ると、どうしても話が変な方向に盛られてしまうらしい。

先生相手にタメ口を使うという自殺行為をしながらも、この混沌空間がなんとかなるのではと淡い期待を持ちつつ先生を見る。

 

しかし、現実はやはり非情であった。

 

ハンドサインでしゃがめと指示されたので大人しく従うと、そのまま首を絞められたのだ。

…うん、流石縊り殺し。しっかり殺意のある絞め方だ。

 

「ブタ専?」

「んなデブ専みたいな言い方…ってかあの、先生。結構本気で苦しいんですけど」

「馬鹿、こんな面倒起こして無罪放免って訳にはいかねぇだろ」

「いや、わかってますよそれは…けどだったらフリでよくな」

「ぁああああ!懐かしーなーこの感覚!やべぇ滾ってきちまった!」

 

あ、駄目だこの人聞いてない。

 

【選べ ①「どうせ貧乳に絞められるなら、雪平が良かったなぁ」 ②「アッ!もっとぉ!もっときつくゥ!!し・め・つ・け・てェ!!!」】

 

――――覚悟は既に、出来ているはずだぜ天久佐金出。

 

「アッ!もっとぉ!もっときつくゥ!!し・め・つ・け・てェ!!!」

「ひっ…目がマジだ!」

「ドMかよ天久佐ァ!そこ変われ!」

「イケメンなのに…」

「すっごく残念ね…」

 

酷い言われようだな、うん。

 

けど気にしない。今回ばかりは気にしない。

だって決心通り、雪平に被害ださずに済んだし!

 

「よっしゃー!お望み通りキツく行くぞー!」

 

俺の一言でテンションが完全に上がった宴先生は、容赦なく力を強めた。

…言うまでもなく、俺はそのまま意識を失った。

 

―――やたら満足気な表情だったぞと、後に男友達の佐伯から言われたのも、いい思い出と言う事にしておこう。




IFルート 【①「どうせ調理するなら一思いに生ハムにしてくれ」】

…どうしてこうなった。

「よぉ新入り。まーだ落ち込んでんのかい?」
「…えぇ、まぁ…」
「ま、『元人間』だってなら仕方ねぇ話だわな…こういう時は、泣きたいだけ泣いとけ!」
「あ、ありがとうございます…」

真空のパッケージに包まれながら、やけに先輩風を吹かせている『生ハム』と会話する。

そんな俺は『元』天久佐金出こと『生ハム』。
あの日、雪平にそう言ったと同時に視界が暗転して、気が付けば生ハムになっていたのだ。

おかしい。ほんの軽い気持ちで、もう俺もボケていいかーと①を選んだだけなのに…どうして…?

疑問がひたすら脳内(といっても何処に脳があるのか分からないのだが)を駆け巡る。
そもそもなぜ生ハムが物を考えて会話しているのかすら不明だが、先輩からすればそれは気にしてはいけないらしいので敢えて考えるような真似はしない。

「…そういえば、どうして俺が人間『だった』って言ったらすぐに信じてくれたんですか?」
「それはな………俺も、昔人間だったからだよ」
「えっ…?」
「俺は生まれつき呪われててな。豚肉を食ったら生ハムになるって呪いだった」
「えっ…?」
「――それでよぉ。ずーっと耐えてたってのに、ある日無性に豚肉が食いたくなっちまってよぉ……つい、ソーセージを食っちまったんだ……」

物凄くシリアスな雰囲気で話された内容に、頭が追い付かない。

呪い?絶対選択肢以外にも、存在したのか?

というかなんだそのかなり限定的な呪い。
食べられることを嫌がった豚たちの怨念か何かなの?

「そしたら急に目の前が真っ暗になって、次に意識が戻ったら…」
「生ハムに、なってた…って、事ですか」
「あぁ……俺にこうやって状況を教えてくれたいい人…いや、良い生ハムが居たんだが、その生ハムはもう購入されちまってよ…今頃消費者の腹の中だ」
「ヒェッ……じゃ、じゃあ俺達も、いつか…!?」
「そんな落ち込むなよ。だってどうしようも無いんだぜ?」

今までの豪放磊落なイメージとはうって変わって、暗く陰鬱な雰囲気を醸し出す先輩生ハムに、俺の中にある感情が沸々と沸き上がり始める。

…怒りだ。
この不条理に対する、この現実に対する、怒りだ。

「このままで、良いんですか」
「あ…?何言ってんだよ、お前」
「逃げ出しましょうよ、俺達で!」
「けど、どうやって…」
「ほら、もう袋詰めされちゃってますけど、一応ちょびっとずつなら動けます!この調子で上手くこの場から離れれば、せめて食われる事なく人並み…いえ、生ハム並みの寿命を迎える事が出来るはずです!」
「新、入り―――あぁ、やってやろうぜ!俺達生ハムは食われるだけじゃ終わらねぇ…天寿くらいは全うできるって事を、このクソッたれな世界に見せてやるんだ!!」

冷たい部屋(多分冷蔵庫)の奥。
客には見えないような場所にて、俺達は熱く、運命と世界への叛逆を決意するのだった。

~転生したら生ハムだった件、第一巻一章より~


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①縊り殺しの道楽宴 ②自分(の魅力)殺しの天久佐金出

雪平かわいいよ雪平、というお話。


「…で?」

「……?」

「で?」

 

目が覚めると、知らない天井が――なんてことはなく。

そこは(誠に遺憾だが)見慣れた場所……生徒指導室、だった。

 

視界の端には、キャンディを舐めながら俺に何かを要求しているロリ教師が…って、ここで来るのか。

 

【選べ ①「むむっ、今日の先生のパンツは水色ですね?」 ②「先生のロリポップで間接キッスしていいっすか?いいっすね?」】

 

これはモノローグでとは言え宴先生をロリ教師と呼んだ事に対する罰なのだろうか?

 

「……むむっ、今日の先生のパンツは水色ですね?」

「なぁっ…!?」

 

死んだ目と棒読みを駆使して、何とかして自分の意思で言っているわけでは無い事を表現したのだが、どうやら先生には通じなかったらしい。

気づいた時には俺の鳩尾には先生の鋭い拳が打ち込まれていて、もだえ苦しむ羽目になった。

 

「…ゲホッ、ゲホッ……いや、察してくださいよ先生…明らかに不本意そうに言ってたじゃないですか…」

「……でも見えてたんだろ?」

「見えてねぇよ!……って、こう聞くって事はマジか?先生今日はみずい―――」

 

再び鳩尾を鋭い拳が以下略。

流石に今のは俺が墓穴を掘ったな。うん。

 

けど、見えていなかったのは本当だ。

丁度先生が座っていた椅子のせいでギリギリ見えなかったし。

…まぁ、この選択肢と反応のおかげで、水色は確定になったが。

 

【選べ ①「みっ、見てない!見てないですって!見た目ロリの癖に大人びたレース付きとか一周回ってエロいなとか思ってないですから!」 ②「俺の母になってもらえませんか?」】

 

お前今日キレッキレだな先生に対して!

おかげで俺の胃はキリッキリだわ!

 

ていうか先生、レース付きの水色パンツなんですね…選択肢に『ロリの癖に』とか言われてますけど。

先生の歳なら全然おかしくないはずなんだけどな…

 

 

「……俺の母になってもらえませんか?」

「…お前、やっぱりおかしいぞ」

「いや選択肢に言わされただけなんですけど!?その『選択肢云々関係なく俺が悪い』見たいな目をやめてくださいませんかねぇ!?さっきのパンツのくだりだって、全部選択肢が―――」

 

【選べ ①「悪いのは、俺です!」 ②「パンツは見ました!でも……パンツじゃないから恥ずかしくないですよね!」】

 

責任を押し付けようとしたのは謝るから!

一割くらいは俺も悪かったから!

だからその言い逃れできなくなるのをやめてくれませんかね!?

 

【①「宴ちゃんはぁはぁ…」と言ってスカートを破く ②「俺のエクスカリパー見せますから」と言って等価交換風に許しを請う】

 

全部俺が悪ぅございましたぁ!

十割、十割は俺が悪かったって!

 

謝るが、結局選択肢はこれで固定されてしまった。

…むぅ、コイツが途中で内容を変えるなんて何気に初めての事なのだが…新たな発見に対して何も喜ぶことができない。

 

だって、内容が良くなったわけじゃないし。

さっきまでのも含めるんだったら、悪いのは、俺です!って言った方が全然マシだったと思うし。

 

―――何より『エクスカリパー』ってのがムカつく。

最強の剣じゃないのか。

……いや自分のアレにそこまで自信があるわけじゃないけどさ。

 

「お、俺のエクスカリパー見せますから」

「……あまり自己評価が低いのもよくないぞ?……後、見ないからな」

「見せねぇよ!!これだってせんた―――い、いや何でもないです…」

 

多分ここで選択肢のせいだ、と言っていたらまた自殺行為をさせられていただろう。

言い切る前に気づけて偉いぞ、俺。

 

「……というより、お前に言った「おかしい」は別にお前に対してじゃねぇ。その『絶対選択肢』に対してだな」

 

【選べ ①「はぁ!?俺のどこがおかしいってんだよ存在自体が希少価値なくせしてよぉ!」と私の気持ちを代弁する ②直近五分間の記憶を喪失するツボを自ら刺激する】

 

何だよその不穏なツボ。絶対押したくないんだけど。

 

ていうか絶対選択肢(お前)の一人称って私だったんだな。

 

「……はぁ!?俺のどこがおかしいってんだよ存在自体が希少価値なくせしてよぉ!」

「あ?」

「いえ決して俺がそう思ったという訳ではなくコレはあのその……」

「―――それだよ、そういう所だよお前の選択肢とあたしの選択肢の違い」

「…え?俺のやつと先生のやつって、違うんですか?」

 

絶対選択肢に違いなんて無いと思うけどな。

少なくとも碌でもない言動を強制してくるだけで、百害あって一利なしの具現化みたいとしか現状評価できないぞ?

 

【選べ ①そこそこ良い事が起こる ②滅茶苦茶良い事が起こる代わりにちょっと嫌な事が何度か起こる】

 

おっと、評価を上げてほしいんだなコイツ。

しかし、実際にどんないい事が起こるのかわからない以上、甘い考えを持って①を選ぶわけには行かない。

 

――でもなぁ…コイツの『ちょっと嫌な事』って、絶対常軌を逸した悪い事なんだよなぁ…

 

それなら①一択…なのか?

 

「痛ッ…って、あれ?いつもより痛くない」

 

本当にサービス改善したなコイツ。

いきなり媚び売り過ぎだろ。

 

……そうだな。急に心変わりされても困るし、①でも選んでおくか。

 

「…今度はどんな選択肢が出たんだ?」

「えっ?なんか『そこそこ良い事が起こる』か『滅茶苦茶良い事が起こる代わりにちょっと嫌な事が何度か起こる』って出てきたんで、取り敢えずそこそこ良い事の方にしておきましたけど…」

「今回はまともだったか。―――けど、それにしてもやっぱり変だな。お前の方は」

「変って…一体、先生の知ってる選択肢とどう違うんですか?」

 

そう、そこだ。

すっげぇ俺を可哀そうな物を見るような目で見てきてる宴先生だが、当の俺がどう可哀そうに思われているのかよくわかっていない。

 

だって、先生だって同じくらいにこの奇行ラッシュをさせられてたわけだろ?

なら先生が同情するのはまだわかるけど、俺が特別可哀そうな物みたいに見るのは…なんか、変じゃないか?

 

「まず頻度がおかしい。普通連続で来るのは十回に一回あるかないかだぞ?」

「…ま、まっさかー…いや確かにスパンかなり短いなとは思ってますけど」

「それに内容が濃すぎる。男だからかも知れねぇが、流石にねぇだろアレは。―――前なんて、お前そこら辺の小学生のケツ、人前で掘らさせられそうになってたろ」

「え、ええ。本当にあれは酷い事件で―――って見てたんですか!?なら止めてくださいよ!」

「止めたぞ。警察はな」

「け、警察って…いや、そっか。小学生男子の尻を狙う男子高校生なんて性犯罪者以外の何物でもないし…」

 

あの日警察のお世話にならなかったのは、先生が水面下で防いでくれたからなのか。

―――おいおい、雪平に続いて先生にまで頭が上がらなくなっちまったじゃねぇか。

 

…ただどうやって警察を止めてたのは気になるな。

聞かないけど。

 

「…普通、連続で来るときは二回目か一回目のどっちかは軽い。実際あたしん時はそうだった。――が、お前は違う」

「…確かに、俺の奴って両方ヘビーですね…自分で言うのもあれですけど」

 

何が恐ろしいって、絶対選択肢とはこういう物だと受け入れてしまっていたのが恐ろしい。

こんな奇行に走らさせれるのを、受け入れそうになってたのか俺…

 

「…はぁ…凄い奴だよ、お前。―――あたしだって、昔はこんな性格じゃなかった。けどあんなもんが四六時中頭ん中駆け巡るせいで、物の見事にひん曲がってこんな風になっちまった……あんな大人しくて、大和撫子で、純情で華憐だったあたしが、こんな風にだ。そんなのをあたしよりも高頻度でくらってるのに、よくもまぁここまで『普通』でいられるよな、お前」

「なんか逆に自分が本当は変人なんじゃないかって思い始めてきましたよ、まったく…」

 

一周回って普通なんじゃなかろうか、今の俺は。

―――無自覚で、素で頭のおかしい輩だったのだとしたら恐ろしい。

それこそ選択肢が無くなってもお断り5に残留だったら……

 

「しかし先生、さっきのは言い過ぎじゃないっすか?本当に大人しくて大和撫子で純情で華憐だったなら、それこそ引く手数多じゃないですか。可愛いし。―――けど先生って未婚」

「な、なぁッ!?おまっ、可愛いって!?」

「なんでそんなスキンシップ激しい女子にテンパる童貞みたいな反応なんですか…」

 

多分言われ慣れてると思うんですけど。

だって人生経験長いらしいし(何回か前の説教で言われた)

 

……あれ?俺今さらっと先生の事未婚って言ったけど大丈夫か?

気づかれてないみたいだけど……さっさと話変えるか。

 

「そう言えば、昨日空から女の子が降ってきたんですよ」

「…お前二次元と三次元の区別も出来なくなったのか」

「義務教育をサブカルで終えたと自称する俺でも、流石にそこまでじゃないですよ…」

「はぁ…で?そのモー・ソー子ちゃんがなんだって?」

「いや、絶対選択肢で選んだらやってきて、しかも…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…今、なんて?」

「ですから、私は金出さんの呪いの解除をお手伝いしに来ましたが、指令書には特に何もしなくていいって」

「いやいや無いから!絶対そんな簡単なもんじゃないから!少なくとも当事者としてはそんな軽いもんだと楽観視できないから!」

 

スパゲッティサラダを鼻で完食し、チャラ神から情報を頂戴したは良いが、結局『神もまだ何もわかってない』という事しかわからず、終いには『なんかそっちに送られたサポート役がかなり優秀な子らしいし、その子に聞いたら?』と言われてそのまま電話を切られてしまった。

 

しかしまぁ、チャラいとは言え仮にも神が言うのだから、このアホの子オーラ溢れるコイツがさぞいい情報を持っているのだろうなと(記憶喪失設定を普通に忘れて)質問してみたところ、このような返事が来たのだ。

因みにこの返答の前に「何も思い出していないという事を思い出した」とも言われた。

ふざけているのだろうか。

 

「なんなんだよお前…有益な情報どころか自分に関する記憶すら無くて、その上情報が無けりゃ何ともできねぇ事を何とかしないとお前は帰れず俺はこのままって……壊滅的すぎねぇかこの状況」

「そーですね!」

「バナナ食いながらいい笑顔で言うなや!」

「あ、私のばんごはんは七時ですのでよろしくおねがいします」

 

こ、この女ぁ…!

 

こんななんの役にも立たんコイツ(しかも食事をもう一人分用意する手間までついてくる)を我が家に置いておく理由はない。

どこか遠い所で幸せになってもらおう。

 

「―――おいショコラ。お前はもうこの家から――」

 

【選べ ①もう諦めてショコラを定住させる ②ショコラに仕事(意味深)を与える事で居候させる理由を作る】

 

「―――出てく必要は無いぞ。お前も家族の一員だ!」

「はい!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「という事がありまして。結局解決に一歩も近づかないまま奴を定住させる羽目になった挙句ミッションはミッションでバカみたいでかつ限りなく不可能な物を提示させられて…」

「ミッションだと!?」

「…え、なんすかその反応。そんな反応されたらちょっと笑い話にできないんですけど」

 

そこは『何言ってんだお前』みたいな反応でよかったんですけど。

 

…え?マジなの?あの『雪平を笑わせる(心の底から)』なんていうミッションをこなさないと不味いの?

 

「神といい下僕といいミッションといい適当でふざけたもんだが―――全部ガチだ。本気でやらねぇとマジに終る」

「…ミスったら解除不能、ってのも?」

「勿論マジだ。―――いいか。どんだけ不可能に見えても絶対にクリアしろ。じゃねぇとお前は一生そのまんまだ。それだけは肝に命じときな」

 

いつになく真剣な表情でそう言った宴先生に、俺は無意識に生唾を呑み込んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…アイツ、黙ってたらそれはもう綺麗だし可愛いんだがなぁ…って、俺の周囲の女って基本そんな感じか」

 

ソファに寝転がりながら、誰に言うわけでもなく呟く。

宴先生のあのマジ顔を見る限り、どうやらミッションは絶対にこなさないといけないようだ。

 

…だが、()()雪平ふらのを()()()()()笑わせる、というのは中々酷な話では無かろうか。

鉄面皮、と言うわけではない。

確かに無表情の時の方が多いが、結構表情豊かなのだ。

 

しかし大爆笑しているところなんてのは見たことがない。

基本微笑だからな、アイツ。

 

「…ショコラ、飯の時間少し遅れるけど大丈夫か?」

「ど、どれくらい遅れるんですか…?」

「いやそんな戦々恐々としなくても…三十分くらいかな」

「ならだいじょうぶです!…けど、何かあったんですか?」

「…女の子笑わせる方法でも探そうかと思ってな」

 

ネットは便利である。

どんな情報でも、基本的に調べれば出てくるのだ。

人を笑わせる方法くらいは見つかるだろう。

 

ノートパソコンをテーブルに置き、早速検索してみる。

すると、上位の方に2つほど気になるものが出てきた。

 

「『女の子を笑わせる十の方法』…UOG出版か。買ってみるかな」

「あ、それでしたらもう買ってありますよ?」

「……その金は何処から?」

「あやしいお金じゃないですよ?神様も保証しています!」

「…だから信じられねぇんだよなぁ…」

 

俺の前に置かれた本に目を向ける。

…偽札で購入した、訳じゃねぇよな?

 

―――不安だしこれを読むのは最終手段にしよう。

 

「まずはこのサイトの情報からにするかな」

「あ、この本の筆者さんが書いたページみたいですね!l

「え?…あ、本当だ。検索上位に来るほどだし、結構参考になるようなことが書いているんだろうな」

『初めに。 女の子の笑顔は尊い物です。可愛い子の笑顔は、もはや国宝と言って差し支えないでしょう。―――しかし、そんな笑顔を自分に向けてくれる子が居ない…そんなあなたにこの記事を作成しました。是非役立ててください』

 

語り口はまともそうだな。

これはかなりいい内容が書いていると期待しても良さそうだ。

 

『その1。くすぐる』

「いや身も蓋もねぇな!」

『解説。私の著書『女の子を笑わせる十の方法』に、くすぐり四十八手を記載してます。是非参考にしてみて下さい!』

「販促してんじゃねぇ!……そしてくすぐり四十八手ってなんだよ!?」

『その2。自分含め、周囲の人間と一緒に爆笑する』

「ん?…あぁ、つられて笑うのを狙うってことか。確かにみんなが笑ってたら自然と笑っちまうのもわかるが…」

『解説。実際にやってみましたが、笑っている内に本来の目的を忘れて腹筋崩壊してしまったので、あまりおすすめしません』

「じゃあ書くなよ!」

『その3。自分の思い出話をする』

「思い出…あれか、自分が面白いと思った出来事を実際に話してみるってことか」

『解説。あなたの思い出話なら、どの話をしても爆笑間違いなしでしょう』

「うるせぇよ!バカにしてんのか!」

『補足。私は女の子の涙が見たくて自分の体験した感動できるような思い出話をしてみましたが、滅茶苦茶爆笑されました。結果的に涙は見れましたが、釈然としません』

「知らねぇよ!ってか涙が見たかったってなんだよ!?」

『あ、是非『女の子を泣かせる十の方法』も買ってくださいね!』

「なんだそのゲスの読むような本!?絶対買わねぇからな!?」

 

適当に読み進めていくが、結局まともなアドバイスは何処にも書いていなかった。

まともそうに書いていても、解説の所でふざけたりされるだけで、実際にやってみようと思うものは何一つなかった。

 

―――本当は本の方も見てみようかと思ったが、コイツが書いた本に読む価値はないだろうという事で封印しておくことにした。

 

もし明後日が来るまでに笑わせられそうに無かったら、最終手段をこの中から選出することにしよう。

 

大きくため息をついてから、優しく微笑んでショコラを見る。

すると、よくわからない、という風に首を傾げ、笑みを返してきた。

 

…あぁ、癒された。

 

「………ご飯に、しようか」

「はい!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ウィイイイイイイッス!!」

「…お前、朝から元気だなぁ…おはよ」

「あはは…天久佐君今日も平常運転だね…おはよう」

 

違う。これは選択肢のせいだ。

因みにもう一方の方だったらドギツイ下ネタだった。

ふり幅でかくない?

 

―――って、アレ?

 

「五百円玉…?こんなところに普通あるか?」

 

何故か廊下に、五百円玉が落ちていた。

しかも、先程まで視界に無かったはずが、突然現れたのだ。

 

恐らく選択肢関係なのだろうが…なんか、あったっけか?

 

「――あ。そこそこ良い事が起こるってやつか?」

 

思い当たる節があった。

確か昨日、先生と話している最中に突然媚びを売るように現れて、そのまま何もなく終わっていた。

それが今になって出て来るとは…しかも五百円玉として。

 

まぁ、金はいくらあってもいいので、ありがたく頂戴させてもらうが。

 

「おはよ……は?」

 

教室の扉を開け、入ろうとした時に、再び脳内に選択肢が現れた。

その内容もまた、中々にふざけたものだった。

 

「はぁ……パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・チプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・ピカソォ!!」

「きゃぁあああ!?」

「ま、また天久佐が変な事始めたぞ!?」

「ブリッジでなんか言いながら徘徊してる!?」

「め、目がマジだ…!」

 

選択肢の内容は極めて単純。

『パブロ・ピカソの本名を叫びながら教室内をブリッジで徘徊』という物だった。

 

因みにもう一つの方は『好きな偉人ランキングを解説込みで百位から発表しつつ教卓の上でドラミング』だった。

俺に、ブタの次はゴリラになって欲しかったようだが…生憎、ピカソの本名はしっかり覚えてたんだよなぁ…

 

これで覚えてなかったら百位から解説込みで発表かつドラミングだったと思うと、ゾッとするどころでは済まない。

 

「……おはよう、天久佐君」

「おはよ、雪平…今日はブタ野郎でもウジ虫野郎でもないんだな」

「あら、そう呼ばれる方がお好み?なら親しみを込めてマゾブタウジ虫野郎と」

「すまん俺が悪かった普通に天久佐君でいいからマジで心抉りに来るのやめて最近追い込まれ気味なんだから」

「……大丈夫なの?」

 

早口でまくし立てるようにしながら頭を下げた俺に、雪平から若干引いた様子の声が聞こえてくる。

…追い込まれ気味って言ったから、心配してくれてるのか?

事情を知らないコイツからしてみれば、奇行は自ら行ってるように見えるだろうに?

 

それでも心配してくれるってお前…やはり雪平女神説は正しかったのでは?

 

「大丈夫だ…いや、冗談相手にマジになってる時点で駄目だよな…」

「…その、本当に体調が悪いなら保健室とか…」

 

結構本気で心配してくる雪平に、涙が出そうなくらい感動する。

普段は俺に平然と毒吐いて来るし下ネタしかけてくるけど、こういう時はちゃんといい奴なんだよなぁ…

 

【選べ】

 

…あのさ、流石に空気読もうよ。

 

【①「大丈夫だから心配しなくていいぞ」と雪平の頭を撫でながら答える。確率で謎の感染症にかかる ②「だいじょばねぇよ!!」と自分の頭を叩いてキレる。確率で教室内の誰かが奇病にかかる】

 

②最近ふざけすぎじゃね?

なんかもう、選ばれないの前提って感じしてない?

 

――つーか謎の感染症って何だよ。

現代医学で何とかなるやつ…なんだよな?

 

「大丈夫だから心配しなくていいぞ」

ひゃ、ひゃっ!あたまぁ…!?

「…すまん。んな声出してまで嫌がるとは思ってなかった」

 

一度心の中で謝罪の礼をしてから雪平の頭を撫でたが、普段のコイツからは考えられないような声を出して(その上物凄く顔を赤くして目を見開いて)驚かれた…いや、嫌がられた為、普通に声に出して謝る。

 

しかし、選択肢の傀儡となった俺に身体の自由などはなく。

先程雪平の頭部へと伸ばされた右手は、依然として撫でまわし続けていた。

 

い、いやとかそういうのじゃなくて…

 

なにこのかわいい生き物。

 

普段の珍発言のせいで忘却の彼方へと去っていたが、雪平の容姿は人並み以上に端麗だった。

それも可愛らしい系の方向で。

 

そこにこの反応ときたらもう、破壊力は計り知れないものになった。

少なくとも俺の中の何かが数百回は壊れた。

 

――あ、もう自由に動く。

もう少し反応を見たい気もするが、流石にこれ以上は色々と駄目だろう。

 

「…あー、その。なんだ?いきなり頭撫でたのはすまんかった。つい、な」

「…う、うぅ……」

 

返事はない。

ただ、か細いうめき声が聞こえてくるだけだ。

 

どうやら、それほどまでに嫌だったらしい……本人は俺を気にしてか嫌とかそういうのではない、と言っていたが。

 

…やべぇ、まじで申し訳ねぇ。

これはもう諦めて教室内の誰かに奇病になってもらった方が良かったのでは…?

 

【選べ ①今がチャンス。いっそ告白してみる。 ②鳴いている途中で地理に目覚めたオットセイのモノマネを披露し、笑いを誘う】

 

うわっ、どっちもどっちだなぁオイ。

 

①の方はもはや論外である。

どこをどうとらえれば脈ありと判断できるんだこの反応。

そして好きでもない子相手に告白するような気は毛頭ないぞ俺。

 

そして②。

恐らくミッション関係で笑いを取ろうと提案してくれているのだろうが、全然ネタから面白い気配がしない。

なんだ、『オウッオウッ、奥羽山脈!』とかやればいいのか?

駄洒落好きの俺で無けりゃ笑わんぞこんなの。

 

…しかし、痛い。さっさと決めろという事らしい。

えぇ…まだ雪平は平常時に戻ってないし、その上この普段とはあり得ない表情を見せる雪平に教室中の生徒の視線が集まっているっていうのに、その中でスベリ芸を披露するってのか?

 

「ゆ、雪平って…」

「お断り5、だけど…中々…」

「ま、まぁ見た目は元々…ねぇ…?」

「い、いま天久佐が撫でてああなったって事はつまり…」

「そういう事、なの?」

 

段々静まり返っていた教室内が騒がしくなり始める。

そのどれもが雪平についての話だった。

 

そりゃ普段から真顔で毒か下ネタ吐いてるような女が急に可愛らしくなったらこうなって当然だろうな。

俺だって選択肢云々が無かったら叫んでるだろうし。

 

っていうかその『そういう事』ってなんですかね。

俺の掌で女性を豹変させる謎の液体でも分泌されてるって事なの?

もしそう言ってるなら、俺は一般的な人間と変わらないと声を大にして説明したいんだけど。

 

「雪平ァ!!」

「ぴゃっ!?」

 

―――諦めよう。

どうせスベるなら派手に行ってやる。

 

…つーかさっきから可愛い声だすなぁコイツ。

 

「俺の『鳴いている途中で地理に目覚めたオットセイのモノマネ』を見ろ…!」

えっ、え?天久佐君?

「なんだなんだ?また奇行か?」

「この状況でやるのか…」

「すげぇよアイツ。俺だったら無理だもん」

「これはコアなファンができますわ」

 

どんなファンなんだよ俺のファンって。

真面目に気になるから後で教えてくれない?

 

そんなセリフを心の中に押しとどめ、地面にうつぶせで這いつくばる。

…だって、オットセイは『こう』だからな。

 

「オウッ!オウッオウッ、奥羽山脈!!」

 

掌を叩き合わせつつオットセイの如き鳴き声をあげたのち、手で足を掴み体をのけぞらせ、山の形を作る。

 

それはもはや、奥羽山脈と言っても差し支えなかった。

…いや一つだけで山脈はおかしいんだけどさ。

 

――だが、どうだ?選択肢に指示された内容とは言え、演技力でカバーしたギャグだ。せめて軽く笑うくらいは……

 

「…なにそれ」

 

全然ダメだった。

まぁ、当たり前なんだけどね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その後も、俺の意思とは関係無しにつまらないギャグを連発させられた。

…因みに、雪平はあのギャグの後で平常運転に戻った。

 

「雪平ァ!!」

「…何かしら、妖怪ギャグスベリー」

「ぐっ…『ふ、ふふ。あの朝のギャグは四天王の中でも最弱。この地震と共に生まれたゴリラのギャグで捧腹絶倒するがよい!』(『』内は選択肢によるセリフです)」

「…」

「ゴゴゴゴゴゴゴリラ!」

 

 

 

「雪平ァ!!」

「はぁ…何かしら、妖怪スゴクツマラナイギャグ・デ・スベルノスキー」

「悪化しておられる!?―――『ムヘヘ、俺のギャグがあの程度で終わりだと侮るなよ?この迫真のレジ●ガスにはお前の腹筋も表情筋も崩壊するに違いない!』」

「…」

「レレジジ、ガガガガガガ!」

「…」

「ンガンガフン↑フン↓ガガガガガガ!」

「…」

「ギー↑ガー↓ヴィンヴィンヴィンヴィン!ーーーヴィーン!エェン!イェエン!!」

 

 

「雪平ァ!!」

「…何かしら、レジスベリ」

「レジ系じゃねぇし!!―――『あれはただスロースタートだっただけだ。まだ奥の手は残っている…見せてやろう、渾身の…』ってちょっと!?雪平さーん!?」

 

 

俺のギャグを待つことなく、雪平は教室を出ていった。

すでに放課後。この機を逃せば俺の呪いは不滅となってしまう。

 

でもさっき披露させられそうになっていたネタは明かにつまらない物だったし、キャンセルされたのは純粋に助かった。

 

取り敢えず雪平を追いかけようと、屋上の方へ向かう。

―――屋上?なんで屋上に向かってるんだアイツ?

もう放課後なんだし、逃げるなら自宅方向では…?まぁ、おかげで雪平の家までストーキングせずにすんだんだけどさ。

 

「……あ?鍵?」

 

屋上に出るための扉を開けようとするが、鍵がかかっていた。

…あれ?でもさっき雪平が扉を開けた音が聞こえたよな…?

 

まぁ、あまり気にするほどの事でもないか。

今の問題はどうやってこの先に向かうかである。

職員室に行けば鍵があるのだろうが、生憎屋上に行くのはよほどの理由がない限り禁止されている。

宴先生に頼もうにも、今日は(選択肢のせいで)物凄く不機嫌にしてしまったので頼める雰囲気ではない。

 

【選べ】

 

…お?もしかして鍵が開く系の選択肢が来るのか?

 

【①なんか痛い発言をする ②超能力に目覚め、鍵を開けられる様になる。その代わり選択肢は永久不滅の物となる】

 

「昏く鎖されし天と地とを繋ぐ()よ、今こそ目覚めの刻!運命(さだめ)のままに、盟約に従いて、その封印(くさり)を解き放ち、現世(うつしよ)に再び永久の輝き(ひかり)を与えよ!!」

 

……しかし、何も起こらない。

 

「いやなんでこんな恥ずかしい事言わせたんだよ!?」

 

しかしそれらしいポーズをしたのは自分の意思だ。

…この歳になっても、まだ卒業できてなかったのだろうか?

 

「くそっ…誰にも聞かれてないよな…?」

 

【選べ ①想像を絶する物が見える代わりに扉が開く ②想像を絶する事が起きる代わりに鍵が現れる】

 

「どっちも嫌なんだけど!?―――ッ、いてて…」

 

催促されつつ、一度選択肢を確認する。

想像を絶するという所は変わりないが、物か事かは違う。

自分に対して起こるのか、はたまた自分以外の誰かが…という風に悩ませるような書き方に若干苛立つも、催促の痛みにすぐに怒りを忘れさせられる。

 

…仕方ない。何を見ることになっても、何かが起こるよりはマシだろう。

それに②だとなんの鍵が出て来るかもわからんしな。

これでこの扉と関係のない鍵が出てきたら大損だし。

 

「…お、開いた。――けどまだ何も見えて…ん?」

 

手が微塵も触れていないのにも関わらず、扉が勝手に勢いよく開いた。

 

選択肢の中に書いてあった『想像を絶する物』が未だに見えていない事に不安を覚えるが、すぐにその不安はある物によって無くなった。

 

「…雪、平?」

 

そう、雪平。

俺が先程からずっと追いかけていた少女で、ミッションにより心の底から笑わせねばならない相手である。

 

普段からあまり笑わない(笑ったとしてもにやけるか鼻で笑うかのどちらか)彼女は、毒舌も下ネタも真顔で吐くような、そんな奴…なの、だが。

 

「なんで四つん這いに…?」

 

四つん這い。

両手両足(足と言うよりは膝か)を地につけ、這いつくばる事を差す。

 

そんなポーズを……少なくとも雪平は絶対にしないであろうポーズを、何故かしていた。

 

なるほど、確かに想像を絶する物だ――と、自分の中の冷静な部分がそう呟く。

あの雪平が、まさか屋上で四つん這いになるなんて。

そんなの、天地が何度ひっくり返ってもあり得ないし想像できない物だった。

 

呆然と立ち尽くしていると、雪平が言葉を発した。

…俺に気づいている様子では無いし、恐らく独り言なのだろうが…一体、何を?

 

「はぁ…どうして、こうなっちゃうんだろう…」

 

―――一体、何を?

 

今朝聞いたようなあの可愛らしい声で、雪平は呟いた。

か細いながらも、俺と雪平以外誰も居ないこの場では、そんな声がかなり響いて聞こえた。

 

「絶対変な子だと思われてるよぉ…」

 

今にも泣き出しそうな声音に、自然と息がつまる。

 

いや、泣き出しそう、ではない。

 

その頬を伝い、床に涙が落ちていた。

既に何度か流された後なのか、その場所だけ若干湿っているように見える。

 

「で、でもでも、天久佐君だって悪いよね。普段は優しいしかっこいいしまともっぽいのに、突然脱ぎだすしふざけだすし…え、えっちな事だって言ってくるし…」

「ごはっ…!?」

 

意図せぬダメージに喀血。

でも否定できないのが悲しいところ。

 

お、俺だってまともでありたいわ!なんか脱がされるしふざけさせられるしセクハラさせられるけど、根はまともだわ!

 

「今日だって、なんかつまらない、全然面白くないギャグばかり言ってくるし…」

「ごぶっ…!?」

 

再び喀血し膝をつく。

さながらモーニングスターをボディでかつノーガードで受けたかのようなダメージだった。

 

…べ、別に俺が自分で考えたわけじゃねーし!選択肢の中でまともそうなの選んだだけだし!?――レジギガス以外は。

 

あの時だけ【なんか面白いと思う事を取り敢えずやってみる】って選択肢だったからな。

あれは自分で考えたやつだ。――面白いと思うんだけどなぁ…

 

「本当はもっと、天久佐君と普通に………で、でも…頭撫でてくれたのはちょっと、う、嬉しかったり…」

「あ、あのー。雪平ー?」

「今だって天久佐君の声が…幻聴まで聞こえるなんて、私…」

「いや居るんですけど?ほら、さっき受けた精神ダメージのせいで吐き出した血だってこの辺に残ってるし」

「…私、相当参ってるみたい…」

 

いや居るんですけど?

さっきまでは確かに気配消してたからまぁわかってなくてもおかしくないけど、今はもう普通に声かけてるし…気づかない方がおかしいのでは?

 

【選べ ①雪平の鼓膜を破壊するつもりで叫ぶ。叫ぶ内容は卑猥な物。 ②雪平か自分に、抱き着くか頭を撫でるかがランダムで発生。自分の場合は全裸の権藤大子さんが行ってくれるものとする】

 

すまん雪平。

どっちにしろお前も俺もダメージ受ける事になりそうだ。

 

「ひゃっ!?あ、頭…!?」

「あー…良かった。雪平かつ頭だった…」

 

諦めて②を選んだが、どうやら今回はツイていたらしい。

自然と伸ばされた手が雪平の頭部を優しく撫でているのを、安堵しながら眺める。

 

自分の手、なんだけどな。

 

「えっ…て、天久佐君!!?」

「よぉ雪平。――あー、これはだな。なんか落ち込んでる風に見えたからついやってしまっただけであって別にやましい気持ちとかは微塵もなく…あっ、何も聞こえてないから安心しろよ?ほんと、何も聞いてな」

「きゃああああああああああ!!!」

 

絶叫と共に、俺の頭部が鷲掴みにされ、そのまま地面にたたきつけられた。

 

意識が途切れる直前、雪平の手によって一部遮られている視界には、顔を真っ赤にし、涙を流している雪平が―――




IFルート 【②ショコラに仕事(意味深)を与える事で居候させる理由を作る】

「じゃ、そろそろ『いつもの』お願いするかな」
「はい!」

笑顔で返事をし、ショコラは『いつも使っているオイル』を胸元から取り出す。
そして、服を脱いで寝転がっている俺の上にまたがり、オイルに濡れた手を俺の体に触れさせた。

「では、さっそくはじめますね!」



あの時選択肢に出てきた『仕事(意味深)』。
その快楽に負け、俺は毎日のようにショコラに『ソレ』をさせていた。

最初の方こそ慣れていなかったためぎこちない所はあったが、今では乗り気でしてくれている。

「あ~…上手になったなぁ、ショコラ~」
「えへへー!こことかどうですかー?」
「おぉぉお~!」

本当、こっち選んで正解だったな。
『オイルマッサージ』って、一日の疲れ全部取ってくれるし…最高だな!




あ、別にやらしい事はしてないので悪しからず。


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①ミッション其の一、完! ②第三部、完!

何事も笑顔でパンツと面白さが大事、というお話。


「―――はっ!?俺は何を!?」

「…おはよう、天久佐君。こんなところで寝ているなんて、ね」

「雪、平?どうしてここに…って、屋上?なんで俺、屋上に…」

 

何だろう、何一つ思い出せない。

言葉で説明するのなら、直近五分間の記憶だけがすっぽり抜け出てしまったかのような感覚だ。

 

実際は何処までの記憶が喪失しているのか分からないのだが。

 

「…とか考えてる場合じゃねぇ!!ミッションだよミッション!!」

「…いきなり叫んだりして、一体どうしたの?」

「え?…あ、あぁ…いや、ちょっと色々あってな」

 

 

携帯電話を確認するが、ミッションは未だに達成できていないようだ。

…まぁ、俺が覚えていないだけでミッションが達成されているなんて都合のいい事、ある訳がないか。

 

「…仕方ない、か。コイツに頼るしか」

 

【選べ】

 

俺がカバンから『女の子を笑わせる十の方法』を取り出そうとしたその時、絶対選択肢が出現した。

…くっ、ここに来て、またスベリ芸を披露しろと!?

 

なんとしてもミッションを成功させたくない、か…!

 

【①「ウボァー!」と叫びながら、空から美少女が降ってくる ②空からタライが降ってくる。激突の衝撃で直近五分間の記憶を取り戻す】

 

「ウボァ!?」

「…ウボア?」

「あっ、いや。こっちの話」

 

そのウボァはどのウボァなんだろうか。

…そして何故美少女を落下させたがるんだ選択肢。

 

これはもう、タライ一択か…

 

「はぁ……まぁいいわ。私は乗馬のレッスンがあるから、もう帰るわね」

「あー!待って雪平、そんな見え透いた嘘をついてまでこの場から逃げ去ろうとしぬぁっっ!!?」

 

溜息を吐き、そのまま屋上を去ろうとした雪平を呼び止める…が、しかし、その途中で俺の頭部に巨大なタライが落下してきた。

 

喋っている最中だったから舌を噛むことになったし、結構タライが重かったせいで地面に這いつくばる事になったしで散々だった…が。

 

「あっ、思い出し――」

「…ぷっ、はは…あはははははは!!」

「どぅえぃ!?何事!?」

「た、タライ…!!タライって!あはははは!!昭和かっ!はははは!」

「……ゆ、雪平…?」

 

呆然と、腹を抱えて爆笑し続ける雪平を眺める。

……あの、雪平が?

タライで大爆笑?

 

…でもまぁ、実際にコレを目撃したら俺も笑うだろうしなぁ…

なんならバナナで転ぶとかでも笑うぞ俺。

 

―――ん?メール?

 

《MISSIONCOMPLETE!! 次のミッションを楽しみにお待ちください》

 

「え、えぇ…」

 

確かに大爆笑しているが…これでいいのか。

 

 

 

………なんというかまぁ、色々衝撃的な一日だったなぁ…主に雪平関連で。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「うわぁあああああああああ!?」

 

脂汗を流しながら目を覚ます。

今日は酷い夢を見た。

本当に酷い夢だった。

 

…まさか、鎌を持ったラリホーラリホー言ってくるやつに殺されそうになる夢を見るとは…

やっぱり寝落ちするまでジ●ジョ三部をループし続けるのは良くないな、うん。

 

雪平ふらのを心の底から笑わせるなんていう頭のおかしいミッションを何とか達成できたせいで、ちょっとテンションが最高に「ハイ!」ってやつになっていたのが原因なんだが…

いや早速DIOのセリフじゃん。

 

「んみゅ…」

「そしてこんだけ叫んでても目を覚まさないのかコイツは……ん?」

 

おかしい。

今、俺の右腕に何が抱き着いていた?

 

もう一度右腕の方を見てみる。

そこにはしっかり、俺のシャツを着て眠って居るショコラが……ショコラァ!?

 

「なんでお前がここに居るんだ!?」

「んんぅ…金出さぁん…だめですよ、そんな事…」

「……なんつー夢見てんだお前」

 

普段とはうって変わって艶やかな雰囲気を身にまとうショコラに、冷静にツッコみつつも生唾を呑み込む。

 

…こ、こうしてみるとコイツ、やっぱり…

 

「い、い…意識を失っている金出さんをおそうなんて、きちくです!!」

「いやなんつー夢見てんだお前!!」

 

前言撤回…つってもまだ言い切ってないからセーフか。

 

この女、人のシャツ着て人のベッドにまで侵入してきて、挙句人が意識を失っている最中に襲われる夢を見てるとか…山より深く、海より高い寛大な心(当社比)の持主である俺でも、流石にキレるぞ。

 

少なくともコイツの今日の食卓からおかずが一品消失することは決定事項だ。

 

「金出さんが受けなんて、そんなのありきたりすぎます…夏×金はもはや使い古されたジャンルです…」

「おうまずその認識を変えろや。そして俺で勝手にカップリング作るなっていうか夏の部分誰だよ」

「む、そこまでの覚悟があるなら私に止める事はできません」

「止めろよ」

「ではこのハンカチにしみ込ませた睡眠薬をどうぞ!」

「んなもん勧めんなや」

「あとはそのバナナで、金出さんをせめたてるだけです!さぁ、夏彦さん!」

「夏の部分ソイツか!!」

 

そして名前を言われても誰だか全く分からない。

ただコイツの脳内が腐っているという事くらいしかわからなかった。

 

【選べ ①許してやる。慈悲の心は大事。 ②許さん。渾身のグラウンド・コブラツイストを喰らわせる。】

 

…慈悲の心、か。

確かにそれも大事だよな。

 

「喰らいやがれ俺のバナナ・スプレッドォ!!」

「いぎゃああ!?」

 

朝の自室に、ショコラの叫び声が響いた。

 

―――因みにバナナ・スプレッドは、グラウンド・コブラツイストの別の呼び方である。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

それは、登校中に現れた。

教室に向かう廊下を歩いている途中、突然メールが来たのだ。

 

《呪い解除ミッション 柔風小凪のパンツを着用されている状態で目撃せよ》

 

酷すぎる。

何が酷いって、この柔風小凪という女と、全く面識がないのである。

 

ではなぜ俺がその少女を知っているのかというと、彼女が『表ランキング』という学校の人気者たちが名を連ねるランキングにて三位として君臨(三位で君臨は正しいのだろうか)しているからだ。

 

なんでも親衛隊なるものが存在するくらいに人気らしく、彼女に告白しようとする男が居ようものなら校舎裏に連行され、そいつらに殴る蹴るの暴行を受けるとか。

 

「いやいやいや。死ぬって流石に」

 

告白とか、デートのお誘いとかだけでもボコボコにされると言われているのに、『パンツを見る』だなんていう凶行に及んだら、一体どういう目に遭わされるかわかった物じゃない。

それこそ、校舎裏から俺の死体が発見されたっておかしくないのだ。

 

「…ん?お。おっす雪平」

「おはよう、戦闘力5のゴミ」

「平常運転過ぎだろお前…」

 

まぁ、昨日あんな大爆笑している所を目撃してしまったせいで、普段と違う態度を取られたりしたらどうすればって不安だったし…いつも通りでよかったって事にしておくか。

 

―――昨日の、あの涙も忘れておくとしよう。

 

【選べ ①昨日の出来事を全て忘れる。 ②昨日の出来事の内、必要な物以外を全て忘れる。忘れたこと以外を思い出すたびに大爆笑してしまう。】

 

どういうことなの?

出来事全ては流石に生活に支障をきたすだろうしやめておきたいけど…忘れたこと以外を思い出すたびに大爆笑ってどういう事だよ!?

 

…しかしどちらか選ばないといけないというなら仕方ない。ここは諦めて②を選ぼう。

 

「……ぷっ」

「いきなり噴き出したりして、どうしたの?」

「あ、あーいや。ただの思い出し笑いだから気にしなくていいぞ」

「そう。――そう言えば昨日の事だけど」

「ぶはははは!!き、昨日!昨日って!!」

「…どうしたの?」

 

駄目だ面白れぇ。

何がどう面白いのかわからんが、何故か昨日の事だけはどの場面でも面白おかしく感じてしまう。

 

いや、選択肢がそうなるように仕向けてるから仕方ないんだけどさ。

 

「…い、いや?なんでも…ぶふっ」

「―――とにかく、先に教室に行っているから」

「お、おう…だはは、いや無理だろこんなの!!あはははは!!」

 

駄目だ。何が何だかよくわからないのに笑いが止まらん。

 

廊下のど真ん中で笑い転げる俺に、全員が一周回って恐怖に染まった目を向けてくるが、それでも笑いは止まらない。

腹筋が痛くなってきても、それでも笑いが止まらない。

 

―――あ、雪平が歩き去っていった。

 

【選べ ①笑わなくなる代わり、パソコン内のフォルダ、『きしめん』が消失する。 ②笑わなくなる代わり、『True My Heart』を学校内のどこかで全力で歌う】

 

…『きしめん』は、俺の長年かけて集めたえっちな画像が入っているフォルダーである。

既に投稿者が消した物もいくつかあるので、消されたらかなり困るが…

 

学校内の()()()で『True My Heart』を歌うというのがかなりアウトだ。

別に教室とかならもう気にしない。

なんなら上半身裸の条件がついていてもやった。

 

だが()()()は駄目だ。

最悪女子トイレとか更衣室とかで歌わさせられる可能性もある。

 

考えてみて欲しい。高校二年生の男子が女子トイレもしくは更衣室でエロゲのオープニングを熱唱している姿を。

どう足搔いてもアウトですありがとうございました。

 

「――――あぁ、笑いが止まったって事はつまり…」

 

俺の『きしめん』は消えたのだろう。

それはとても悲しい事だが、まだ予備フォルダとUSBは残っているので問題ない。

 

一番開きやすくバレにくい場所に配置してあったので愛着がわいていたが、無くなったのなら別のフォルダに『きしめん』になってもらえばいい。

中身は全部同じだしな。

 

「天っちおはよーーーーー!!」

「うぉっ…」

 

気を取り直して教室へ向かおうとしたところで、背後から何かが突っ込んできた。

 

それを見ることなく回避し、走り去っていったソイツに目を向ける。

 

「朝から随分元気そうだな、遊王子」

「えっへへー!」

 

笑顔で応じて来るが、別にいい意味で言ったつもりはない。

皮肉ったつもりなんだが…

 

「謳歌ちゃーん!待ってよー!」

「げぇっ!?」

 

遊王子に呆れていると、突然廊下の奥の方から声が響いてきた。

その甘ったるい気もするような可愛らしい声の発生源の方を見ると、そこには俺が今最も会いたくなく、会いたい相手が居た。

 

―――柔風小凪だ。

 

「…きゃっ!?」

 

廊下を走って…いや、早歩きでこちらまで向かって来ていた柔風小凪は、突然何もない場所で足を滑らせ、転倒しそうになった…の、だが。

 

【選べ】

 

この状況でも黙っているつもりはないらしい。

 

【①転ぶ前に高速移動して抱きかかえる ②柔風小凪のためにマットレスに転生する】

 

…これで親衛隊に殺されたりしたらお前、許さないからな?

 

「…はへ?」

「危なかったな。怪我は?」

「あっ、あぁっ?あ、ありがとう…?」

「おぉ。凄かったね天っち…一瞬でそっちに」

 

ガラス細工を扱うように、丁寧に抱きかかえて支える。

しかし長い間物理的接触をしていたらマジで暗殺されかねないので、すぐに手を離して安否を確認。

 

…うん、足捻ったとかそういう訳でもなさそうだし良かった良かった。

 

――しかし限界を超えた高速移動のせいで体が痛いな。マットレス転生よりはマシだけどさ。

 

「え、えっと…天久佐、金出君…だよね?」

 

【選べ ①「さんをつけろよデコ助野郎!」 ②「―――さあどうかな。戦斧(おの)かも知れぬし、槍剣(やり)かも知れぬ。いや、もしや弓かも知れんぞ、柔風小凪」】

 

どっちも嫌だなー…

けど、親衛隊が見ている(のだろう)し、デコ助野郎なんて呼び方をするわけにはいかない、か…

 

「―――さあどうかな。戦斧(おの)かも知れぬし、槍剣(やり)かも知れぬ。いや、もしや弓かも知れんぞ、柔風小凪」

「え、えぇっ!?天久佐君の名前って、弓だったの!?」

「いや天久佐金出であってます。ほんの悪ふざけです」

 

純粋。眩しい。

こんな子相手に何悪ふざけしてんだよ選択肢。

 

…いや、これからこの子のパンツを着用されている状態で見ようとしている俺がコイツを咎める事なんてできない、か。

 

「…しかし、何故俺の事を?」

「えっとね。謳歌ちゃんが、いっつも天久佐君の事話してくれるの!だからすぐわかっちゃった!」

「ん?遊王子が?」

「うん!」

 

生粋の変人として紹介されているのは聞くまでもなくわかってしまう。

くそう、違うんだ。俺は悪くねぇ!悪いのは…

 

【選べ ①「お前が見たいのはこれだろ?」と言ってリンチされている最中の豚の鳴き真似を披露する ②「なら、俺のコイツはご存じかな?」と言ってレジギガスを披露する】

 

―――俺だ!(諦め)

 

「お、お前が見たいのはこれだろ…?」

「?これって…?」

「――――ぶひぃいいいいいいいいいんん!!ふごっ、ふぎゅっ、ぶひっ…ぶひぃいいいん!!」

 

小さく首をかしげた柔風に対し、もはや話す事はないとその場に寝転がり、リンチされている最中の豚を披露する。

 

…何故レジギガスではないのかというと、恐らく彼女はポケ●ンを知らないだろうと判断したからだ。

知っているやつならきっと大爆笑に違いないんだがなぁ…あれ?じゃあ雪平が昨日笑わなかったのはポ●モンを知らなかったから?

 

「わ、わぁ…」

「いや引かないで!?」

 

ごめんね、引いて当然なんだろうけど、こうやってギャグテイストに終わらせないとただの変な人じゃん。

ジョークって事にしておかないと、ね?

 

「あっははー!やっぱすごいね天っち!リアルで見たのは初めてだよー!」

「だろ?案外似てるよなー?………じゃねぇ!なんで俺が豚の真似しなきゃなんねーんだよ!?」

「自分からやったじゃん。『天っちの真似する豚』の鳴き真似」

「俺はあんなんじゃねぇ!!」

 

遊王子は普通に凄いと賞賛してくるが…なんだろう、あまり嬉しくない。

どや顔はするものの、どうしても心の底から喜べない。

 

そりゃ選択肢に強要されたリンチされている最中の豚の鳴き真似を褒められたところで…って感じだもんな。

 

「つーか、柔風と遊王子って…」

「マブ!」

「えへへ…去年同じクラスだったんだー」

 

サムズアップする遊王子に、淡く微笑む柔風。

二人の背後から光が差しているように感じるせいで、余計に自分という存在の汚らわしさを自覚させられる。

 

―――俺は、これからこの子のパンツを…

 

【選べ!】

 

活きが良いなお前。

どうしたよ?

 

【①「そんな事よりパンツ見せてくんない?」と爽やかな笑顔で言う。 ②「生オナシャス!」と言って暖簾のように柔風小凪のスカートをまくり上げ、中に入る。】

 

……は?

今、なんて?

 

【①「そんな事よりパンツ見せてくんない?」と爽やかな笑顔で言う。 ②「生オナシャス!」と言って暖簾のように柔風小凪のスカートをまくり上げ、中に入る。】

 

態々二回も言ってくれてありがとう。そして死ね。

 

「…あり?天っちどーしたの?」

「…すまん、柔風。許されないことだが、許してくれ」

「ふぇ?」

「――――そんな事よりパンツ見せてくんない?」

 

爽やかに、それはもうとても爽やかに、もはやこの言葉が普通なのではと思ってしまうくらい平然と言う。

 

柔風はどうやら何を言われたのかよくわかっていないようだし、遊王子も「お~」と言って何とも言えない反応してるだけだし…よし、このままマシンガントークで別の話題に変えて誤魔化せば或いは…!

 

「へい、天久佐金出君や」

 

背後から肩を掴まれ、握りしめられる。

痛みを感じるが、それよりもやってしまったという後悔やらなにやらの方が勝っているせいで何とも思わない。

 

【選べ ①「おっと、俺は男のパンツでもイケるクチだぜ?」と言ってズボンかスカートを下ろす(この場に居る人物の中からランダム) ②「すまない、ノンケ以外は帰ってくれないか」と言って自分はノーマルである事を示す】

 

①が壊滅的に駄目なんだよなぁ…

そして何でこの場でノーマルである事を示す必要があるんですかね…

 

「すまない、ノンケ以外は帰ってくれないか」

「……ちょっとツラ貸せや」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「あぁ…酷い目に遭った…」

 

あの後、しっかり親衛隊の皆様にボコボコにされた俺は、這う這うの体で教室までたどり着いたのだ…が、遅刻扱いになっていたらしく、宴先生に首を絞められることになった。

 

いや、最初はただ叱られてるだけだったんだけどさ?

いきなり【選べ ①「先生にも痛い目に遭わされたいんですけど」と言って逆ギレ ②「その合法の体に悦びを教えてやるからそこに寝転がれよ」とベッドヤクザぶりを披露する】なんていう、どっち選んでもアウトな物が出てきてさ?

仕方ないから①選んだら、俺の撤回を聞き入れる事無く首絞めてさ?

 

―――本当、つくづく不幸だ。

 

「いやぁ、すごかったね天っち。まさか先生に首絞めてってお願いするなんて」

「不本意なんだがな……まぁ言ったところで、なんだが…それよか柔風親衛隊の方だ。アイツら悪鬼羅刹のソレと変わりねぇぞ…」

「そりゃ小凪たんは天然物のドジっ子だからねー。みんな守ってあげたくなっちゃうんだよ!」

 

あれはもはや守るというより…いや、これ以上はやめておこう。

 

「そりゃ表のランキング三位となりゃああれくらい熱狂的なファンも出来るか……そんな奴とお断り5のお前が仲良しってのが未だに信じらんねぇが」

 

お断り5。

柔風小凪等が名を連ねる所謂『表』のランキングの者達を眩き光とするならば、俺達は闇…いや、汚泥だろう。

容姿は良いのに、発言や行動の油分が多く、恋愛対象としてはないわーという風に扱われている鼻つまみ者たちの称号であるソレを与えられた俺達が、表の存在と関わるというだけでも重罪扱いと言っていい。

 

だというのに仲良しって…すごいなコイツ。

 

「天っちもいい加減に自分がお断り5だって事を受け入れればいいのに」

「いやそれは……」

 

絶対選択肢のせいだ、と言ったところで通じはしないだろう。

それで「なるほど、そう言う事だったんだね!」なんて言われたら俺は驚きのあまり一晩で法隆寺を建設してしまうだろう。

 

「…しかしどうしていきなり小凪たんのパンツを欲しがったり」

「だああああああらっしゃい!!」

 

あ、あっぶねぇ。

俺が表ランキングの美少女相手にパンツを強請ったなんてことが教室内で広まったら、真面目にどうしようもない。

 

今はまだあまり人に実害を出していないから許されているようなものなのだ。

これで何か実害があったと知れ渡れば……考えたくもねぇ。

 

「……はぁ、良く聞け遊王子」

「?」

 

【選べ ①ありのまま話す ②落語風に話す】

 

何故落語!?

…ありのままって、神様云々とかは言わなくてもいいんだよな?

 

―――頭痛はない。オッケーとのことらしい。

 

「俺はとある事情で、十一日の土曜までに柔風のパンツを着用された状態で見なきゃならないんだ」

「おぉ…そんなセリフを真顔で言える天久佐さん、マジパネェっす」

「だが誤解しないでくれ。俺は別にやましい気持ちで見たいわけでは無い。ただ見なきゃならないだけだ」

「ふむふむ。エロい気持ちは全くないと。――あっ、小凪たんが好きとか」

「恋愛感情も一切ない。本当に『義務』なんだ」

「曇りのない瞳でゲスイ事言うねぇ」

「あぁ。最低な事を言っている自覚はある。ただ見なかったら俺は…俺は…」

「うーん。つまり天っちは好きでもない女の子のパンツを穿かれている状態で見たいと」

「…まぁ、そうなるな」

「好きでもない女の子のパンツ剥ぎ取ってクンカクンカしたいと」

「誰がそこまで…ッ!?」

 

【選べ(笑) ①「ふっ…言うまでもないだろ?」と意味深に返す。 ②「クンカクンカするならお前のが良い」と遊王子の下着を上下共に剥ぎ取る。】

 

何笑ってんだお前。

もう一回言おうか?―――何言ってんだお前。

 

「ふっ…言うまでもないだろ?」

「ほうほう…」

「あの、天久佐君」

「アッ、ハイ」

「お客さんが来てるんだけど…」

 

委員長に声をかけられ、言われた方を見る。

するとそこには、若干照れくさそうにしながらこちらを見てきている柔風の姿が―――

 

「…えっ?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…して、何の御用でしょうか?」

「あ、あのね?今朝の、事なんだけど…」

「ああ、その…本当、ごめんな?俺としてもそう言うつもりじゃなかったっていうかなんて言うか」

「うぅん、違うの。謝ってほしいわけじゃなくってね?―――ただ、私ね?男の子からあんな事言われたの初めてで…」

 

そりゃ慣れてるんだよね、なんて笑いながら言われたら色々と気絶するだろうな。

俺だけじゃなく背後で俺の様子を窺っている親衛隊とか。

 

「えっと、ね…?こんなこと言うの、は、恥ずかしいんだけど……ぱ、パンツは!好きな人になった人にしか見せちゃいけないと思うの!」

「ごぶろおげぼろじゃぁあああ!!?」

 

喀血した。

二日連続でも喀血だった。

 

泣き出しそうになりながら、顔を真っ赤にしてまでそう言ってきた柔風はまさしく女神だった。

これは、俺ごときが関わってはならない御方だったのだ、と、本能がようやく理解した。

 

―――あぁ、俺は最ッ低だ…!!

 

「本当ッ…!!すみませんでしたァああああ!!!」

 

いっそ焼き土下座でもしてしまいたかった。

このままこの窓を突き破って飛び降りて、同じ階に居るという不遜な状況を変えてしまいたかった。

 

それくらいの、罪悪感。

 

これほどまでに美しく、穢れを知らず、尊き物に、俺はなんともまぁ愚かな事を言ってしまったのか願ってしまったのか。

 

着用された状態でパンツが見たい?そんな事出来るわけないだろいい加減にしろ!

親衛隊云々関係なく、手を出すべきではない存在だろうこの方は!!

 

「て、天久佐君…!?そんな、謝らなくていいんだよ?わ、私はあまり気にしてないし…」

「で、でも…!」

 

俺がやったことは、どれだけ償っても許されない事だ。

それは許されてはいけない事なのだ。

 

…だが、これだけは心に誓おう。

 

ミッションがなんだ選択肢がなんだ呪いがなんだ。

俺がどれだけ被害を被ることになっても、もう柔風のパンツを見る事は諦めよう。

 

その結果俺の平穏が、本来享受すべきまともな人生が無くなるとしても、そんな理不尽に苦しむことになろうとも、彼女に被害を出さないように―――

 

【選べ】

 

やってみろ、俺は屈しない。

なんならこの場で舌噛み切って死んでやる。

 

【①死なない ②死ねない】

 

…その選択肢を使いまわすのやめてくれねぇかな。

まぁ①にしとくけどさ。

 

―――さて、これで逃げ場を失ったが…どうなる?一体何が来る?

 

【選べ ①「御託はいいからさっさと見せろ。スカートたくし上げてM字に開くんだよ」 ②「俺自身が柔風のパンツになるという事だ」】

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!??

嫌だぁアアアアア!!絶対選びたくねぇエエエエ!!

 

「痛ッ…!!?」

 

普段の倍くらいの痛みに視界が眩む。

しかし気絶はできない。

――逃がさない、という事らしい。

 

…腹を、括るか。

 

「ご…」

「ご?」

「御託はいいからさっさと見せろ!!スカートたくし上げてM字に開くんだよM字によぉ!!――――あっ」

「カモーン」

 

血の涙を流しながら叫んだ俺を温かく迎えてくれたのは、柔風親衛隊の皆様でした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「このド畜生が!」

「お断り5のくせによぉ!」

「身の程を知れよ身の程を!」

「でもM字開脚小凪ちゃんという新しい世界を見せてくれたのは感謝するぜ!」

「お前ノンケかよぉ!」

 

いやそっちにもやべー奴いるだろ!?

そして最後の奴誰だおっそろしいなぁ!!

狙われてたのかよ俺!?

 

「ぺっ…二度とその面柔風さんの前に出すんじゃねぇぞゴミムシ」

「M字…はぁ、はぁ…」

 

…俺以上にやべー奴がそちら側に居るんですがそれは。

 

そんなツッコミをする気力もない程にボコボコにされた俺は、それはもうボロ雑巾のようにその場に投げ捨てられていた。

 

「ちくしょー…絶対選択肢さえなけりゃ俺だって…」

 

けど絶対選択肢が無かったらまず柔風と関わろうなんて思いもしないんだよな。

そう考えたらやっぱり諸悪の根源はコイツでは?

 

「うっひゃー。随分と派手にやられたねー」

「遊王子か…」

 

うつ伏せに倒れていた俺の前に現れ、しゃがみこむ。

そのせいでスカートの中身が見えそうになったので急いでその場を離れようとする…が。

 

【選べ ①移動などしない。男ならガン見すべき。 ②「おい、パンツ見えてるぞ」と鼻血を出しながら教える】

 

ガン見するが、これは断じてやましい気持ちがある訳ではない。

鼻血を出しながら教えるという事を避けるためだ。

 

「ねぇ天っち。あたしが手を貸してもいいよん」

「…はい?」

「だーかーらー。小凪たんのパンツが見たいんでしょ?手伝ってもいいよ?」

「…なんで?」

「おもしろいから」

「お、おもしろいってお前…」

 

因みに先程の柔風のパンツを見ることを諦めた云々は暴力を受けている間に無かった事になった。

あんな事言わされた後でもそんな意思を貫くつもりはない。

 

こうなりゃ自棄だ。最悪スカートめくりでもやってやらぁ!

 

…けどコイツが手助けしてくれるってのが、よくわからない。

面白いからって言ってるが…そんな滑稽か?俺って。

 

「なんかおかしい?だってつまんない事はやりたくないじゃん?」

「けどお前、俺はお前の友達のパンツ見ようとしてるんだぞ?」

「んー…天っちってさ。なんか不自然だよね」

「不自然?」

「そ。いっつも変な事やったり言ったりするのに、普段は真面目かつ成績優秀かつスポーツも部活の顧問から助っ人に呼ばれる事もしばしばあるくらいに出来て、それこそ非の打ちどころがないって感じじゃん?」

「……それでも、変な事したり言ったりするからお断り5なんて汚名を被ってんじゃないのか?」

「じゃあ聞くけどさ。天っちってアレ、本気でやりたいって思ってやってる?」

「―――遊王子、お前」

「なんか嘘っぽいって言うかさ。小凪たんのパンツの件だって、本当にただ『見る』だけでいいって思ってるみたいだし」

 

…凄いな、コイツ。

選択肢云々は他の人に知られないように振る舞ってる(気づかれたら真面目に精神疾患を疑われるから)っつーのに、よく気づくな。嘘くさいって。

 

まぁ態と棒読みやったりするときあるけど。

 

「それにほら。小凪たん男子に免疫無いし、一度パンツくらい見られた方がいいんだって」

「いいのかそれで!?」

「よーし!面白くなってきたぁ!」

「いや聞いてねぇし…」

 

【選べ ①レジスチルのモノマネをする ②レジアイスのモノマネをする】

 

そして謎のレジ系押しを止めてくれないか。

あの時レジギガスを選んだ俺が悪かったから、さ?

 

 

――しかし、選択肢が変わる事は無かった。




IFルート 【②柔風小凪のためにマットレスに転生する】

「…あれ?痛く、ない?」
「おー。マットレスがあって助かったねぇ」
「でも、どうしてこんなところに…?」
「どうしてだろうねー?…あれ、そう言えばどうして私達ここに居るんだっけ?」
「それは謳歌ちゃんが突然立ち止まるから……でも、どうして立ち止まったの?だれも居なかったのに」
「…どうしてだろ」




二人は、不思議そうにしながら歩き去っていった。

後には、マットレスとなり、人々の記憶から消え去ったのだろう俺だけが残った。



――――あぁ、咄嗟にとは言え、こんなもの…選ぶべきじゃ、なかった。


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①見えた物 ②見えなかった物

なんだかんだ人気者の変態、意外なあの子から……というお話。


「ほほーう…それで結局、明日三人で出かける事になったんですか?」

「あぁ。なんでも『何もしなくても勝手に転んでパンチラするから、一日一緒に居ればどうにでもなる』だそうだ。―――んな簡単に行くもんなのかね…」

「ふっふっふ。心配性な金出さんの事です。きっとそう言うと思ってました―――ので、これを用意しておきました!」

「…なんだその『女の子からパンツをもらう十の法則・改』って」

 

前回俺が読むのを断念したあの本と同じ匂いがする。

…いや作者同じじゃねぇかこの野郎。

 

読まん読まん。それは読んでもなんの足しにもならねぇからな。

前回のあのサイトのくだりでもうわかってんだよ。

改って書いてあるせいで余計に不安だわ。

 

【選べ ①仕方ないので三点倒立しながら読む。 ②仕方ないので五点着地しながら食べる。】

 

最近俺になんか食わせるの勧めすぎじゃね!?

 

「んみゅ?なんで急に逆立ちを?」

「悪いけどさ、このまま読ませてくれない?」

「あ、はい!」

 

特に何も気にする事無く、ショコラは逆立ちした状態でも読めるように本を開いた。

…どうせくだらない事しか書いていないだろうし、期待せずに読むことにしよう。

 

『これは、先日出した『女の子からパンツをもらう10の法則』の改訂版です。なんか編集部の人に書き直せって言われたんで書き足しました』

「多分それは一部消せって意味だったと思うんだけど…」

『では早速。――その1。盗む』

「それ最終手段じゃねぇの!?」

『解説。これは、最終手段です』

「なら最初に書くなっていうか貰うのと盗むのとは違うだろうが!!」

『その2。女の子からもらったものをパンツにする』

「逆転の発想過ぎるだろ!?」

『解説。この本の付録にある『どんなものでもパンツに加工するキット』を使えば、最悪生き物でもパンツにできます』

「怖ぇえよ!!」

『その3。涙ながらに懇願する』

「…例えば?」

『具体例。「うぐっ、ひっぐ…ぐすっ…パンツくれよぉ…えっ?やだ?…やだやだ俺の方がもーっとやーだー!!いいからくれよぉ!パンツパンツパンツー!!」』

「尊厳はねぇのか!?」

『補足。嫌だなぁ、この本読むような非モテに尊厳とか言われるの』

「予知してんじゃねぇよ本が返事すんな!!」

『その4。風を吹かせる』

「あ?――あぁ、風が吹いたらスカートもめくれるだろうって事か?」

『解説。スカートはめくれますが、ズボンの場合はただ女の子の足元に風を送る変態になるだけです』

「当たり前だろ!ってかそれじゃもらえてねぇじゃん!」

『補足。でも桶屋は儲かります』

「うるせぇよ!」

『その5。一度自分が女の子にパンツを渡して、それを返してもらう』

「……なんか現実的だな…パンツだって事がバレないようにして渡して返してもらえば確かに相手を不快にさせずにパンツをもらえる…」

『解説。一度試してみましたが、何故か渡した時にバレ、そのまま酷い目に遭ったのでオススメしません』

「ならまず書くなよ!?…いやこのくだり前もあったぞ!?」

『その6。本の栞にする』

「は?」

『解説。本を貸す時に、その本にパンツを挟んでおけば、自然な感じで渡すことが出来ます』

「いや貰う方法から渡す方法になってんじゃねぇか!」

『その7。「ギャルのパンティおくれーーーっ!」』

「ふざけてんのか!?」

『解説。実際にやるとただの痛い人です』

「だからふざけてんのか!?」

『その8。リサイクル製品を使う』

「…なんで?」

『解説。もしかしたら、女性ものの下着からリサイクルされた物かも知れません。それは実質パンツをもらったと言っても差し支えないのでは』

「馬鹿じゃねぇの!?流石にそれはハイレベル過ぎるわ!もうちょっとノーマルなやつなかったのかよ!?」

『補足。この本読んでる人にノーマルはいないでしょ(笑)』

「笑ってんじゃねぇ!!」

『その9。『女の子からパンツをもらう10の法則』を買う』

「いや誰が買うか!」

『解説。この本には書かれなかった事も、そちらの方にはあります。ブッ●オフにでも売ってると思うので、是非買ってくださいね!』

「もはや読まれればそれでいいのか!?」

『その10。盗む』

「原点回帰してんじゃねぇ!!」

『解説。最終手段は最後に書かなくっちゃね?』

「ならその1は別のにしとけよ!!」

 

なんだろう、凄く疲れる。

…いや、三点倒立しながら本読んで怒鳴ってて疲れない訳が無いんだよな…

 

あー、頭に血が……

 

「あ、解放された……なぁショコラ」

「はい?」

「その本、渡してくれないか?」

「?どーぞ!」

「ありがとな」

 

【選べ ①禁止用語を叫びながら投げ捨てる。 ②取り敢えず書かれている内容全てを試してみる】

 

おいおい、聞くまでもないだろ?

だって俺がショコラからこの本を受け取ったのはこうする為だし、な。

 

「くしゃがらぁ!!」

「おー」

 

窓を開け、くしゃがら忌々しいこの本を外に投げ捨てる。

 

―――勘違いしないでほしいが、別に俺はくしゃがらに汚染されているわけでは無い。

ただふざけただけで、俺は正気だ。間違いなく。

 

【選べ ①かゆい うま ②ねこです。よろしくおねがいします。】

 

俺は正気()()()。間違いなく。

 

「ねこはいます」

「ねこ?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ね、ねぇ見て…」

「うわ…!全員凄ーい…」

「二人共めっちゃ可愛いじゃん…マジ羨ましいわー」

「真ん中の男の人もすっごいかっこよくない?」

 

時は流れ翌日。

あの精神汚染からは結局解放され、何とか正気のままデート(これをデートと呼んでしまっていいのか怪しいが)に行くことになった。

 

集合場所に行ったら既に二人は到着していて、そのまま移動することになった…のだが。

 

やはり道行く人たちの反応が気になるな。

そりゃまぁ柔風は普通に可愛いし、遊王子だって黙っていれば…いや、お子ちゃまっぷりさえ知られなかったらそれはもうただの美人だしなぁ…

傍から見れば、俺は完全に勝ち組に見えているはずだ。

 

それに、自分で言うのもアレだが…俺だって結構イケメンだしな。

選択肢さえなけりゃモテモテのモテよ俺だって。

 

中学の時なんて、それはもう毎日のように告白とラブレターを受け取ってきたのよ?

断ってきたけどさ。なんでかは自分でもよくわかんないけど。

 

けどそれくらい俺はモテる奴なんだ、本当は。

選択肢さえ、なけりゃな。

 

【選べ ①新宿のホストのごとく、柔風と遊王子に乳首を弄られながら町を闊歩する。 ②しばらくの間語尾に「ぜな」が付く。】

 

選択肢さえなけりゃなァ!!

 

「どーよ天っち?うちの小凪たんは」

「うちのってなんだうちのって……可愛いに決まってんだろ?」

 

論ずるに値しない。

彼女は人の形をした天使だ。

 

主に性格。

 

「え、えぇっ!?そ、そんな事…えへへ…」

「…可愛いぜな」

「んん?ぜな?」

「いや気にしなくていいぞ遊王子。これは普通ぜな」

 

【選べ ①五七五で二人の今日の衣服に関しての感想を言う。 ②超高速オタク口調で二人の魅力を周りの人たちに熱弁する。因みに笑い方は「フヒヒ」か「デュフフ」】

 

「似合ってる、とってもとても、似合ってる……ぜな(字余り)」

「あ、ありがとう…で、でもなんでぜなって」

「ぜなは気にしなくていいぜな」

 

まじで気にしないでくれると助かる。

俺の頭の中の選択肢がぁ!って言ったところでただの変人にしか思われないだろうしな。

 

「…にしても、本当に来てくれるとは思わなかったぜな」

「えへへ…私も男の人と一緒に出掛けてみたいって思ってたし、謳歌ちゃんと仲良しな天久佐君なら怖くないから…」

「―――普段から奇行ばっかりなのに…ぜな?」

「うん…でもでも、変な事してる時以外はすっごくいい人って謳歌ちゃんもみんなも言ってるよ?」

 

…そりゃ選択肢の奇行によって変な印象だけが周りに定着したら嫌だなぁって思って基本的に頼まれた事は何でもやってるからな。

部活動の助っ人、提出物の運搬…果ては校内、町内の清掃とかもやってるんだよな…そりゃ(都合の)いい人って言われますわ。

 

あ、でも金貸してとかは聞かんぞ?

あくまで物理的な人助け専門ていうかさ。

 

本当、最近になってようやく自分の無駄にハイスペックな体に感謝するようになったわ。

でなきゃ助っ人になんてなれないし、自分の事に手が付かなくなる。

 

「…にしても、今日はすっごい格好だな柔風。なんつーか…短い…ぜな?」

「こ、これは…謳歌ちゃんが、男の子に慣れるにはこれくらいしなきゃ駄目って…」

「へへーん!」

「何故そこでドヤるぜな…」

 

しかしナイスだ遊王子。

これだけ丈の短いスカートなら、転んだ時すぐにパンツが見える。

 

これはもう勝ち確と言って差し支えないだろう。

 

【選べ ①「でも今にもめくれそうだな。ほれほれ」と言って敢えて上着を脱がす。 ②「あそこにUFO!!」と叫び、自動販売機で二人に飲み物を買ってくる。】

 

なんでUFOって叫ぶ必要があるんだ!?

そしてなんで敢えて上着を脱がせる!?

 

「あそこにUFOぜなッ!!」

「きゃっ!?…い、いきなり大きな声出さないで…って、あれ?天久佐君?」

 

声をかけられるが無視。

さっさと飲み物買って、UFOのくだりを有耶無耶にするほかない。

 

…あ、飲むなら何がいいか聞くの忘れてた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「そういえば小凪たん、珍しいヘアピンしてるね」

「これ?プレゼントで貰ったの」

「…プレ、ゼント…ぜな?」

 

嘘だろ?あの親衛隊たちを掻い潜ってどうやって渡したんだ?

 

…いや、今日みたいに親衛隊が居ない日もあるんだし、その時に渡したんだろうな。

しかし誰が…?

 

「うん。誰がくれたのかは、わからないんだけど…使わないのは悪いかなぁ…って」

「…その、怨念とか籠ってるんじゃ…ぜな」

 

櫛の話になるが、落とし物のソレを使うと『苦』と『死』が訪れると言われている。

ヘアピンも同じく髪関係の物だし、なんかこう、縁起が悪い気がするんだが…

 

だって、いつの間にかあったって事だろ?

よく使う気になるなコイツ…

 

「まぁだいじょーぶでしょ。あたしだって、今差出人不明のプレゼント使ってるし!」

「謳歌ちゃんも?」

「うん。大分前にカバンに入ってたやつでねー?」

「まぁ遊王子も見た目は完璧だしな。コアなファンでも居るんだろ…ぜな」

「っ……け、けどファンが一番多いのは天っちじゃない?なんかファンクラブ会員が二百人超えたらしいじゃん?」

「何故どもる……え、いや初耳なんだけど!?――あっ、ぜなぁ!?」

「なんか、払う会費ごとにグッズとか色々ランクアップしていくらしいよ?」

「本格的ぜなね!?…ってかグッズって何ぜな!?」

 

何故本人の俺があずかり知らぬ所でそんな物が……

というか何で全校生徒の約二割が俺のファンなんだよ。

多すぎるわ。

 

「ほら、前の全校集会の時にやたら高い声でふぃぎゅあっと?とかなんとか歌ってたじゃん?」

「…その時ぜな?」

「うん。誰かが一周回って感動しちゃったらしくってね?」

「なに一周回ってくれてるぜな!?」

 

因みにもう一つの選択肢の方は、全裸で一人スパイダーマン(東映)だった。

それよりはまぁ、エロゲの曲歌った方がマシかなって。

そっちは脱がなくって良かったし。

 

そもそも全校集会とか人が集まってる所で変な事させんなってことなんですけどね。

 

「…それはまぁ今度聞くとして、今はお前の話ぜな……結局何貰ったぜな?頭に付けてるやつはいつも通りだし、カバンに何かあるわけでもないぜな…上着とかぜなか?」

「パンツだよ?」

「そうか、パンツか。――――えっ?」

「えっ?」

「所謂一つのパンティ。あ、見る?」 

「見せるな!そもそも穿くな!!」

 

スカートの裾を掴み、自らたくし上げようとしている遊王子を手で制す。

おいおい、コイツマジで見せかねんぞ…?しっかり止めなくては。

 

【選べ ①「興味あるね」 ②「じゃあお言葉に甘えて」】

 

止めなくてはって言ったじゃんか!!

 

「きょ、興味あるね」

「お、じゃあ見る?」

「いや見ねぇぜなよ!?」

「むっ?紐パン嫌い?」

「なるほど紐か…じゃねぇぜな!!穿いてる物を言ったらもう終わりぜな!!」

 

【選べ ①「でも百聞は一見に如かずだよね」と言って手をワキワキさせながら近づく。 ②「遊王子がパンツと言っただけで俺の興奮はマックスだ。もう充分だぜ!」と変態性をアピール。】

 

ぜなぁ!?!?(物理さん)

 

「……ゆ、遊王子がパンツと言っただけで俺の興奮はマックスだ…もう、充分だぜ!!ぜな!」

「…ねぇ今の聞いた…?」

「すっごい変態じゃん…」

「彼女の方も中々変わってる子だしな…」

 

うぅっ…周りの目が痛い。

学校内での「またお前か」オーラとはまた違った物なのが余計に心に傷を負わせてくる。

 

「だー!もう!なんでこんなことになってんぜなッ!」

「えー?見たいって言ったの天っちじゃん」

「言ってねぇぜな!興味はあるが見たいとは言ってないぜな!」

「きょ、興味はあるんだ…」

「柔風サン?男だからそりゃ興味はありますが、別にそんな変態的という訳では無くってぜなね?なんというかこう、そんなガツガツとしたってわけじゃないぜなよ?」

「駄目だよ小凪たん!その程度で顔真っ赤にしてちゃ男の子と仲良くなんてできないよ!そこはもう自分から好きなパンツを聞くくらいはしなきゃ!」

「何勧めてんだテメェは!?」

「じゃ、じゃあ……天久佐君は、どんなパンツが好きなの!?」

 

うわっ…この子、純粋すぎ…?

 

…ここはもう、ガツンとそういうことは聞く必要等無いぞと言ってやるしかないな。

 

【選べ ①「ぜな」から解放される代わり、自分の本当に好きなパンツを好きなバニーガールの色と共に熱弁。 ②明日も一日中「ぜな」が続く代わり、自分が本当に好きなパンツと逆のパンツについて話す。ついでに好きな逆バニーの話をする。】

 

言ってやるしか無いな。俺の本心。

 

「黒だ。魅惑の黒…いや、紫も捨てがたいな。―――因みにバニーガールも黒が良い」

「へ、へぇー…そうなんだー…」

「そんな何とも言えないって反応やめてもらっていいですかね」

 

いや普通そうなんだろうけどさ。

 

【選べ ①ここでダメ押し。ガーターベルトについても話す。 ②ベルトで叩かれる方が鞭で叩かれるよりも気持ちがいいという事を、道行く男性を使って実演する。】

 

何に対しての?何に対してのダメ押しなの?

 

「あぁ、ガーターベルトも好きだな。あれとM字開脚の組み合わせと言ったら、筆舌にしがたいって感じだ」

 

―――この後、誰かが呼んだのか知らんがやってきた警察の人と『お話』することになったのだが、それはここで言うべきではないだろう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

こうなったら意地でも柔風のパンツを見てやろう。

そう決意したは良いものの、結果は惨憺たる物だった。

 

転びはするしめくれはするのだが、謎の光が入ったり湯気が濃くなって隠れたり空間に歪みが出来たり謎の影が出来たりと、パンツを見る事が出来なかったのだ。

 

―――あの光も影も湯気も、TOL●VEるくらいでしか見た事ないぞ…

 

「くっ…このままじゃ……」

「えっと…なんか、ごめんね?荷物持たせちゃったりして…楽しめ、ない…よね」

「違う違う…別にそういう訳じゃなくってだな…それに荷物持ちくらい気にせず任せとけって。ほら、表ランキング三位の美少女に頼られるなんて、男子生徒冥利に尽きるってもんよ!」

「び、美少女なんてぇ…」

 

顔を赤くして縮こまる柔風を見つつ、アイスコーヒーを飲む。

今日一日で色々な所を巡り、そろそろ疲れた来たな、という事でカフェに寄る事になったのだ。

 

―――あ、無くなった。

 

「およ?天っちのも無くなったみたいだね」

「遊王子もか…確かおかわりって無料だったよな?」

「あ、いーよいーよ。あたしが取ってくるからー!」

 

そう言うと、俺が立ち上がるよりも早く遊王子が席を立ち、俺のコップと自分のコップとをもって店の中へ向かって行った(外で飲んでいたのだ)

 

「…そういや柔風の分は……寝てる?」

「すー…すー…」

 

眠っている。

まさかこの短い間に眠ってしまったのかこの子は。

 

…いや、今日は結構色んな所を歩き回ったし、ダ●エボもやったからな。そりゃ疲れてるに決まってるか。

 

【選べ】

 

なんだよ今になって。

デート(?)中は大人しかったじゃねぇかお前。

このまま家に帰るまでは大人しくしてろよ。

 

 

【①めくっちゃう ②めくっちゃわない】

 

………めくるって、スカートを?

 

隣で眠って居る柔風を見る。

警戒心も何もない様子で眠っているし、今めくってしまってもバレないだろう。

親衛隊もここにはいないし、やったとしても咎める者はいない。

 

もし仮に知らない人にバレたとしても、最悪そういう関係だという風に嘘をつけば……

 

――――いや、馬鹿か。

 

何をしても、とは言ったが、流石にこれは駄目だ。

アクシデントを期待して柔風を連れまわした時点で重罪だ。

ならよしんば見ることが出来たとしたら、それはしっかりと柔風に裁かれるべきだろう。

 

柔風に、彼女のパンツを見たという事を非難され、罵声を浴びせられねばならないのだ。

それが最低限通すべき筋だ。

 

それに…コイツに言われてやった、みたいでなんか嫌だしな。

どうせやるなら自分の意思で、自分で思い立ってやるべきだ。

ここは②を選ぼう。

 

伸ばしかけていた手を戻し、スマホの電源をつける。

依然画面には《柔風小凪のパンツを着用された状態で目撃せよ》の文言が並んでいた。

 

「…はは、これでよかった…だよな」

 

きっと俺はこの選択を後悔する。

たかだか自分のプライドだとかそう言った物を守るためだけに、無防備に眠って居る柔風のスカートをめくらなかったのを、俺は必ず後になって後悔するだろう。

偽善者だ、とかヘタレだ、とか言って罵るのも目に見えている。

 

――だが今は、今だけはこの選択が正しかったと胸を張って言える。

 

この子はやっぱり、俺なんかの私利私欲のために手を出して良い子じゃ無かった。

 

「んぅ…あ、あれ!?わ、私…今、寝ちゃってた!?」

「おはよう、柔風。―――疲れたんだろうな。そりゃ一日連れまわしちゃったし当然なんだが…そろそろ、今日はお開きにするか」

 

さようなら、俺の平凡な人生。

改めてよろしく、選択肢と共に歩む(非凡な)人生。

 

諦めと共にそう口にすると、突然入り口の方から悲鳴が聞こえてきた。

なんだよ、人がセンチメンタルになってるってのに…

 

「ひったくりだー!!」

「あ?」

 

派手な物音と共に、こちらへ全身を黒い服でヘルメットを着用した姿の何者か(体格等から察するに男性だろうか)が走ってきた。

 

…このままじゃ柔風が危険、か。

 

【選べ ①日頃のトレーニングの成果を見せる時。ここで立ちふさがらなければ男が廃る。 ②号泣し、土下座。やられる前に許しを請う。】

 

俺が立ち上がったのを見て、奴は刃物を取り出した。

 

なるほど、確かに普通なら刃物見せたら怯むか逃げるかするだろうな。

 

……けどな、選択肢云々関係無く、今の俺はそんなんじゃ怯まねぇんだよ!

 

「なに柔風に刃物向けてんだこの野郎!!」

「ごぶぁっ!!?」

 

まさか刃物を持っている相手に殴り掛かるとまでは思っていなかったのだろう。

ひったくりと呼ばれた男は、鳩尾を強襲した俺の拳をガードすることなく受け、そのまま崩れ落ちた。

 

…き、鍛えておいて良かったー…

元は選択肢に服を脱がされるから、見られても恥ずかしくない体にしようと思ってやってただけなんだけどさ。

 

刃物を奪い、そのまま腕を掴んで自由を奪う。

しっかり馬乗りになっておくのも忘れない。

 

「柔風、警察に電話を頼む」

「―――あっ、う、うん!」

 

よし、しっかり通報してくれてるな。

このまま俺が押さえつけておけば……え、今来るの?

 

【選べ ①予期せぬ事態が起こるが、良い事も起こる。 ②何故か未来予知の能力を手に入れる代わり、絶対選択肢は永遠の物となる。】

 

なんで?

いや②は何があっても選ばねぇけどさ?その予期せぬ事態ってなんなの?

 

――いつつ、わかったわかった。①でいいから①で。

 

「……ぬぉ!?」

「う、動くなぁ!コイツ殺されたくなかったら、動くんじゃねぇぞ!」

 

あまりに不可解な出来事だったので、取り敢えずありのまま説明してみよう。

 

まず俺が絶対選択肢にせかされるままに①を選んだ。

すると突然ひったくりの体と俺の体の位置が入れ替わり、ついでに俺が奪ったはずのナイフが奴の手に。

困惑しながらもさっさとマウントを取り返そうと思ったのだが、謎の力によってソレを阻まれ、結局こうして首元にナイフ押し付けられながら人質になってしまった。

 

…え、マジで何があったんだ最初。

なんで急に入れ替わったんだよ急に。せめて何かそこに至るまでの過程を説明してくれよ選択肢。

 

「よ、よし…いいか、警察に俺の逃げた方を言ってみろ、殺すからな…!」

 

―――困ったな。なんか知らんが力が入らん。

これも選択肢のせい…なんだろうが、だとしたら解せないな。

 

コイツは俺が死にそうになる度、必ずそれを防いできた。

だというのに、今は首元にナイフを突きつけられて死にかけている。

 

この男では俺を殺せない、という事だろうか?

少なくとも致命傷になるとは思うんだけども。

 

「隙を見せたなぁー!!」

「ぶべらッ!?」

「遊王子!?」

「謳歌ちゃん!?」

 

死なない程度に苦しむのは嫌だな、と思ったその時。

突然店の方から駆け寄り、そのままひったくりの後頭部に飛び膝蹴りを喰らわせた一人の少女が居た。

 

――遊王子だ。

 

いや何してんのアイツ!?

おかげで助かったけどさ!?

 

…あ、良い事ってコレ?結局助かるからーって事?

 

「天っち!とどめ!」

「いや殺しちゃいかんでしょ」

 

別に実害あったの俺とひったくられた人だけだし。

 

過剰防衛は駄目だと思うぞ、俺。

 

【選べ ①奇跡の瞬間が訪れる。 ②一か月の間、音と動きにずれが生じる。】

 

音ズレの訪れじゃねぇよ。なんでそうなるんだよ。

 

あれか?光と同じかそれ以上に速く動くのか?

多分体がもたないと思うんだけど。

 

「で奇跡の瞬間ってなんだよ……んぁ?」

 

ひったくりが再起不能である事をしっかり確認した後、誰に言うでもなく呟いてから視線を遊王子と柔風の方へ戻す。

 

すると、突然突風が吹き、二人のスカートが大きく俺の方へめくれ上がった。

 

つまり、パンツが丸見えという事で。

 

「…白と、ピンクか」

「っ、きゃ―――」

「あー待って柔風違う違うんだってつい条件反射で言っちゃっただけで別にやましい気持ちは全然―――」

「きゃああああああ!!」

「…はい?」

 

俺の弁解を遮り、絶叫。

 

しかしその声の主は柔風ではなく。

 

「…お、謳歌ちゃん?」

「遊王子…?お前、どうした?」

「……なかった…!」

「無かった?…いやいやちゃんと穿いてたぞお前」

「パンツ見られるのがこんなに恥ずかしいなんて、思わなかったー!!」

 

顔を真っ赤にして、遊王子が走り去っていく。

…いや、穿いてなかったと思わなかったを勘違いしたのは別に邪な気持ちがあったからではなく。

 

まぁそれは良いとして、問題は遊王子だ。

走って行ってしまったが……え、そんなに見られるのに抵抗あったのあの子?

 

昼間はまぁあんな恥じらいも無く紐だのなんだの言ってたのに?

 

【選べ ①「おかしいなぁ」と言って柔風のスカートをめくる。 ②「おかしいなぁ」と言ってひったくりのズボンを下ろす。】

 

…許せひったくり。柔風が最優先だ。

 

―――どうでも良い話だが、ひったくりは男だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「そういや、ミッションは達成できてたよな」

 

帰宅後、ソファで一日の疲れを癒していた時、ふとミッションを達成していた事を思い出した。

 

帰宅途中にしっかり振動していたし、見るまでもないとは思うが…まぁ、一応な。

 

《MISSIONCOMPLETE!! 次のミッションを楽しみにお待ちください》

 

…ヨシ!(現場猫)

 

「んみゅ?金出さん、ほのポーズはなんれふか?」

「これか?現場猫って言ってな…いやそれよりお前何食ってんの?」

「きんつばです!」

「あー、アレか。―――じゃねぇ!!お前なに俺が楽しみにしてた高級品勝手に食ってんの!?」

「それはほら、美味しかったですし」

「理由を言えよ理由を!!その理由を真っ向から否定した上でジャイアントスイングかましてやるからよぉ!」

 

【選べ ①慈悲の心を持て。許してやるのも大事だ。 ②仏の心を持て。もう一個買って、そのままショコラに食わせても構わんだろう。】

 

「構うんだよ!!あんなちっさいの一個で何桁すると思ってんだコラァ!!」

「まぁまぁ、そんなに怒らないでくださいよ」

「こ、コイツ……」

 

女を本気で殴りたいと思ったのは生まれて何度目だろうか。

 

というかこの絶対選択肢、ショコラにやたら甘くないか?

この間だって、ショコラに高級焼き肉店行かせたがったり回らない寿司屋に行かせたり…たまには厳しくするのも大事だと思うんですよ、私。

 

「…って、こんな時にメール?」

 

テーブルに置いていた携帯電話を手に取り、くだらない内容だったら送り主を殴りつけてやろうと思いながらメールの差出人と内容を確認する。

 

…えっ、神?

 

《特殊ミッション 対抗戦終了までに、参加者の女子のおっぱいを揉みしだく。両手で。》

 

えっ?

 

「……えっ?」

「?なにかあったんです?」

「いや…えっ?―――えっ?」

 

特殊、ミッション…だと…?

 

 

 

「……チッ、まだかからねぇか。さっさと出やがれ…!!」

「あ、あの金出さん。いきなりどうしたんですか?なんどもなんども電話なんて…」

「色々あってな。現在進行形で緊急事態だ」

 

【選べ ①「具体的に言うなら、通勤中に腹痛が来たって感じかな」と的確に言う。 ②「敢えて抽象的に言うなら、とってもやばいって事かな」と雑に言う。】

 

なんで敢えて抽象的に言う必要があるんだよ…

 

「具体的に言うなら、通勤中に腹痛が来たって感じかな」

「ほほう。それはきんきゅーじたいですね」

「…なんでちょっと間の抜けた感じで言ったんですかね……お、やっと繋がったか。もしもし!?」

『もしもーし。聞こえてますよーって……それで?君があんな鬼電してくるくらいなんだし何か起こったんだろうけど…取り敢えず落ち着いて、ね?』

 

普段のチャラさを控えめにしつつ、真面目な声音でチャラ神がそう言ってきた。

…ふむ、確かに少し焦り過ぎてたな。

 

天久佐たるもの、常に余裕をもって優雅たれってな。

 

【選べ ①すごく慌てた感じに話す。 ②ものすごく慌てて話す。】

 

落ち着こうって話してたじゃん。

優雅たれって言ったじゃん。

 

「い、いやいや大変なんですって!なんか突然新しいミッションが特殊なんたらでおっぱいがががが」

『だから落ち着いてって。それで?新しいミッションが特殊…なんだって?』

「…いえ、なんか新しく来たミッションに、『特殊ミッション』とか書いてあったんですよ」

『……んー?そんな話どこにも書いてないけどー?』

「え、そうなんですか?」

 

困った。

神もわかってないなら他に誰が知ってるっていうんだ…んぁ?

 

パソコンに…メール?

おかしいな、今の所注文してる商品とか無いし、何も来ないはずなんだけど…

 

え、神ぃ!?

 

《説明:これは、あなたの選択肢ライフをよりよくするための特殊なミッションです。失敗しても呪いの解除には一切関係しません。その代わり、成功した場合でも呪いは解除されません》

 

いつものミッションとは、全く関係ないって事か?

 

「あの、なんか今神って人からメールが来たんですけど…なんか、特殊ミッションについて説明されてます」

『え、マジ?ちょっと教えてくんない?』

「いいですけど…写真送った方が早いんで、メールでいいっすか?」

『おっけー!じゃ勝手にメアド交換しとくから、そこに送っといてー☆』

 

一度通話を止め、写真を取る。

パソコンには依然として特殊ミッションの説明が書かれていた。

 

《ですが、達成した際にはしっかり報酬があります。『選択肢の内容の緩和』、『出現頻度の減少』、『通常ミッションの難易度低下』が基本的な報酬です》

 

…なんで勝手にスクロールされてんだよ…

いや、神のやる事に一々一般常識を当てはめてっても無意味か。

 

取り敢えず写真だけとっておいて…っと。

 

「しかし報酬は中々いい感じだな…内容は内容だが、うまくいけば少しはマシになる…それに、失敗しても選択肢が永久不滅になるわけでもない…凄いな、神も太っ腹になったのか?」

 

《また、失敗した際にはきちんとペナルティがあります。『選択肢の内容の激化&嫌われやすさ補正』、『出現頻度の増加&催促速度とダメージの増加』、『通常ミッションの難易度上昇&提示頻度超減少』が基本的な物です》

 

「いやペナルティ重ッ!?全ッ然太っ腹じゃねぇじゃん!」

 

怖っ、これ失敗できねぇじゃん……え、おっぱい揉まなきゃなの!?

揉まなきゃ社会的死なの!?

でも揉んでも社会的死だと思うけど!?

 

…そして対抗戦ってなんなの!?なんの対抗戦で、誰が参加するの!?

 

《今回は『出現頻度の減少』、『嫌われやすさ減少』、そしてタイムボーナスで『記憶の断片①』が手に入ります》

 

タイム、ボーナス?

いや多分早くにクリアした場合の追加ボーナスなんだろうけどさ。

その内容よ、内容。

 

―――記憶の、断片?

 

一体何を言ってるってんだ?俺は別に記憶喪失でも何でも……いや、待て。思い当たる節が一つだけあるじゃないか。

 

「もしかして、アレの事、か…?」

 

言っていなかった事だが、俺は自分の持つ記憶に違和感を感じている。

その違和感は『ある物について損失した状態で無理矢理記憶として整合性を持たせている』という感じだ。

随分と具体的だが、そうとしか思えない。

 

その違和感は中二のある時を境に無くなっており、その中二の()()()の事を、全く覚えていないのだ。

 

三年前の事だし、忘れている事があってもおかしくないかなーと思っていたが、こうして神が報酬に出すくらいだ。

きっと何か、俺に関する大事な物に違いない。

 

でも①ってなんだよ①って。

なんで創刊号みたいになってんだよ。

 

《ペナルティは、『選択肢の内容激化&嫌われやすさ補正』、『通常ミッションの難易度上昇&出現頻度減少』です》

 

う、うわぁ…普通に嫌だな…

やっぱり、特殊ミッションはこなさなきゃ駄目、か。

 

「これで全部みたいですけど…見終わりました?」

『うんうん。大体わかったよ』

「それわかってないやつじゃ…」

『だーいじょーぶだって。だって、神ですし?―――さて、と。説明を見て、改めてわかった事がある』

「…改めて、わかったこと?」

『うん。それは…』

「そ、それは…?」

『なーんにもわっかないって事さ!』

「やっぱりか!!」

 

どうせそうだろうとは思っていたが、実際言われると腹が立つ。

シリアス声から一転してチャラい雰囲気を纏ったチャラ神に、敬語も忘れて普通に怒鳴る。

 

しかしヤツは全然気にすることなくHAHAHA!という感じで笑っている。

それがさらに俺を苛立たせる。

というかムカつく。

 

『…まぁ、その特殊ミッションってのも調べておくよ。いっやー、まさかミッションに種類があるなんて思ってなかったよ』

「…最終的にデイリーとかウィークリーとかマンスリーとか出てきそうですね…イベントミッションとか」

『それソシャゲのやりすぎじゃない?』

 

鼻で笑われてしまった。

何故だろうか。

 

確かに俺の最近の楽しみなんてソシャゲに課金するくらいしかないが…

いやそう考えたら俺って結構変なやつなんじゃ…でも納税は義務だしな…

 

『あ、そうそう。一つ分かったことがあるんだけど…』

「わかった事?」

『そう。なんかね?前任の…今産休で引きこもってる神も、呪いに関しては知らないらしいんだよねー』

「…知らない?」

『なんか、その前の神の時からずっと残ってるって話。残されたシステムを適当に回してただけらしいんだよ』

「…その、その前の神って言うのは?」

『それがわっかんないんだよねー!わかってたらもうすーぐ言っちゃってるから!』

「ノリが軽いなぁ……とにかく、昼メロの神は何も知らないって事なんすか?」

『たっははは!昼メロの神って!座布団あげちゃう?』

「いらねぇよ!?」

 

なんで美味い事言ったみたいになってるんだよ。

実際昼メロみたいな事してるし、実際なんか役職があるのかどうかすらわかんないし。

その上その神のさらに前任が出てきたんだから、前任の神なんて言い方じゃこんがらがる。

 

だから昼メロの神と呼ぶことにしたんだが…そんなに面白いか、これ?

 

『ま、取り敢えずはその特殊ミッションの攻略を優先って事で。別の業務もあるし、そろそろ切るね?バイビー』

「……最後早口でまくしたてやがったなあの野郎…まぁいいけどさ…」

 

しかし特殊ミッションの攻略…つまり、謎の対抗戦の謎の参加者のおっぱいを両手で揉みしだくという事……

 

【選べ ①取り敢えず今の気持ちを叫ぶ。 ②取り敢えず今の感情のままに自分を殴る。】

 

「無理ゲーだろ!?」

 

勿論、叫んだ所で何も起こらなかった。




その後の話 【柔風小凪】

顔が熱い。
あの時の事を思い出すと、とめどなく『ある感情』が溢れてくる。

その後に起こった事もアレだったけど、それでもやっぱり『あの時』の事を思い出したらソレすら些事になる。

「……かっこよかったなぁ…天久佐君…」

枕を抱きしめながら、誰に言うでもなく呟く。

―――実は、謳歌ちゃんが話してくる前から知ってたんだ。天久佐君の事。

入学して三か月ほど経った日、珍しく一人で帰っていた私は、怖い人達に声をかけられた。
一緒に遊ぼう、楽しい事だから…と言って笑っていない目を向けてくるその人たちが怖くて、固まっていた私を―――天久佐君が、助けてくれたんだ。

何も言わずに、何も要求しないで、ただ助けてくれて―――かっこいいな、って思ったの。

それ以来、毎日天久佐君の事を目で追うようになって、いつも頭のどこかで天久佐君の事考えるようになって―――謳歌ちゃんと楽しそうに話している所を見て、ズキッてなって。

昨日はパンツを見せてほしいなんて言われて…二回も言われて…それでも、謳歌ちゃんは一緒だったけどデートもできて……

「怖い人から、また助けられちゃって…」

『なに柔風に刃物向けてんだこの野郎!』

あの顔と、あの言葉を思い出すだけで、顔が熱くてたまらなくなる。

「……変、だなぁ…私。こんなになっちゃうなんて…」

胸に手を当てなくてもわかるくらいに、ずっと強くドキドキしてる。

どうして天久佐君の事を考えるだけで、思い出すだけで…こうなっちゃうんだろう?

スマートフォンを起動し、写真フォルダを開く。

今日の記念に、ってとった三人の写真には、しっかりと天久佐君も写っている。
その笑顔を見るだけで、もっとドキドキしちゃう。

「はうぅ……」


私のこのモヤモヤの正体を知るのは、もう少し後―――対抗戦の時になると、まだこの時はわかっていなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

気が付かない愚者の話。 【天久佐金出】

そう言えば、と今日撮った写真を見る。

真ん中に俺、そして左右に遊王子と柔風が写っている、記念に撮った写真だ。
別に並びに不満があるという訳ではなく。
寧ろ両手に花って感じでちょっぴり喜んでたりって事もある…が、しかし。

「……やっぱり、なんか柔風に距離取られてるよな…」

近づかなきゃ写らないよっ!と言って遊王子が俺と柔風の距離を近づかせていたはずだが、こうして改めて写真を見ると、明らかに柔風は遊王子よりも俺より離れていた。

…いや、普通の距離なのかもしれないけどさ?
確かに俺は変人扱いされているし、柔風からしたら出来るだけ近づきたくない相手かも知れないが……でも違うか。顔が赤いし…これは、照れてるのか?

―――男子とはあまり関わっていないって話をしてたしな。一緒に行動するのはギリギリセーフでも、一緒に写真を撮るのは駄目だったのかもしれない。

「ま、あんまり深く気にしてもってか。―――はぁ、選択肢さえなけりゃこんな風に距離を置かれるようなことも無かったかも知れないんだが…」

【選べ ①全裸で庭をうさぎ跳び三十回 ②突如夏彦が出現。前も後ろも初体験を終える】

「夏彦ォ!?」
「むむっ!?ついに金出さんみずから夏彦さんとあんなことやこんなことをーっ!」
「しねぇよ!!全裸で庭をうさぎ跳びしてくるわこの野郎!!」


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①ペット ②ポリエチレンテレフタラート

業が深いね、というお話。


「じゃ、学校行ってくるから。小腹が空いたら、そこのクッキーでも食べてくれ。飯は…」

「だいじょうぶですよ。そこまで言わなくてもバッチリわかってます!」

「ほーう…じゃ何も言わないで出てった時、関係ない物に災害時用の乾パンやらなにやらまで食い尽くしたのは何処のどいつだろうな…?」

「む、なんとこうがんむちな輩ですかソイツは!」

「お前じゃい!―――はぁ、さっき言ったやつ以外は食うなよ?食ったらお前、頬っぺたムニムニしてやるからな」

「むぅ…金出さんのケチ…」

 

ケチってなんだケチって。

そりゃ人よりちょっと多く食べます程度だったら全然食わせてやっても気にしないが、コイツはちょっとどころの騒ぎではない。

 

先程会話に出てきたやつが良い例だ。

コイツはしっかり言いつけておかないと、恐ろしい量食う。

 

このままでは俺の財布がさらに薄くなってしまう。

―――え、神の金?あんな胡乱な物使える訳ないでしょ。

 

「…しっかり我慢したら、土曜日にケーキを作ってやろうじゃないか」

「ケーキ!?ほんとうですか!?」

「おーう。俺は嘘はつかんぞ?」

 

【選べ ①「鼻からスパゲッティも食ったし」と言ってもう一度食う(鼻から) ②今日一日、思っている事と反対の事を言ってしまう。】

 

俺嘘つきでもいいかなって。

 

―――あ、スパゲッティサラダは美味しかったと思います。

鼻から食ったからよくわからなかったんですけどね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…はぁ、おっぱい…上から読んでもしたから読んでも…いや下から読んだらいっぱおでは?」

「……朝から煩悩に塗れてるわね、乳久佐君」

「なんだその呼び方!?乳離れできてねぇみたいだろうがそれじゃあ!?」

「あら、私にはさっきからずっとパイオツパイオツ言ってるようにしか聞こえなかったけれど」

「パイオツとは言ってねぇよ!?」

 

そしてそのくだりを前にもやった気がする…いや、やってたな。

まぁ今回のは俺の過失だ。反省。

 

ほら、普段通りに見える雪平だって、なんかちょっと不機嫌そうだし。

そんな不快感を感じさせるような言い方してたのか俺…?

 

俺はただ、例の特殊ミッションのせいで悩んでただけで、その時につい口から漏れ出てしまったというだけだと思うんだが…

 

【選べ ①「そうだ雪平、その可愛いちっぱいモミモミさせてよ。勿論両手で」 ②「そうだ雪平、俺が遊王子のデカ乳モミモミするところを見ててくれよ」】

 

「馬鹿野郎かお前は!?」

「いきなり叫んでどうしたのよ」

「すまん雪平、ちょっと真剣にマズイ状況におかれてるから少しほっといて―――痛ッ!?」

 

いやまじでふざけんなよお前。

①はアウトだし、②だってもっとアウトだろ。

この場に居ない人間をネタにするなよ。

 

――いやそうではなく。

 

なんで?なんで急に警察沙汰になりかねない選択肢を出してきたの?

俺と雪平しかこの場に居ないならまだしも、今全員がこっち見てんのよ?

 

主に俺のおっぱい発言のせいだと思うけど。

 

――いや、教室内の全員が見てくるくらいだったの?声の大きさ。

 

「ぬ、ぐぅ…絶対言いたくねぇ…こればっかりはマジで社会的信用とかそう言ったものが喪失するどころの騒ぎでは無い…!!」

「…その、さっきからどうしたの?何かを拒否しているように見えるけど」

「見える、ではなく拒否――ッ!!?いってぇ!?」

 

いつもの内側から来るような痛みではなく、まるで何者かに強く鈍器で殴られたかのような痛みに、結構本気で大声を出してうずくまる。

 

あぁ、雪平どころか全員が心配そうな―――いや全然違うわ。アイツら「まーたアイツが変な事やってるよ」みたいな目を向けてきてるわ。

 

それにくらべて雪平はどうだよ?

結構本気で心配してくれてるような目じゃないの。

くそぅ、これで普段のアレとか明らかに俺の事を嫌ってるような態度さえなければもしかしたら告白してたかも知れねぇ。

 

そしてフラれて笑い話にされて、『お断り5の天久佐金出、同じくお断り5の雪平ふらのにフラれる』なんて見出しの校内新聞が張り出されたかも知れない。

―――恐ろしいなオイ。

 

「ぐっ……ゆ、雪平」

「えっと…何かしら?」

「今から言う事は真に受けなくていい、ほんと軽い冗談程度に受け流してくれたらマジでいいから…それだけで、いいから…」

「わ、わかったわ…それで、何?」

「そうだ雪平、その可愛いちっぱいモミモミさせてよ。勿論両手で」

 

教室内の空気が死んだ。

設置されている温度計の表示は微塵も変わっていないのに、何故だか物凄く寒い。

 

ハハハッ、デスヨネー!

突然謎の厨二ムーブ(にしか周りは見えないだろう)をした上で『可愛いちっぱいをモミモミさせてよ』とか、気持ち悪い通り越して虚無ですよねー!!

 

はい、謝罪謝罪。

これはもう俺の必殺コマンド、『驚くほど綺麗な凄まじい土下座』を披露する他無いな。

 

「なっ…なっ……」

「雪平さん。マジで…」

 

すいませんでしたぁあああ!!と叫びながら地面に頭を擦りつけようとしたところで、再びヤツの妨害が入る。

 

【選べ ①「大丈夫だって。俺は小さい方が好きだからさ」と本心を告げる。 ②「大丈夫だって。ほんの冗談。俺はおっきいのにしか興味ないんだ」と本能を告げる。】

 

アレか。俺がロリコンを自称しているにも関わらず部屋にある薄い本は半分がおねショタという事を揶揄しているのか。

 

そうだよ。男なんだから大きいのに興味が行っちまうよ。

けど心の奥底では小さいのに飢えてんだって何言わせてんだコイツは!!

 

いや今のは自滅か。

 

「だ、大丈夫だって。俺は小さい方が好きなんだから…さ?」

「……もういっそ死ね」

 

あ、あの雪平がついにとうとうダイレクトに死ねって言ってきたぞ俺に。

 

今までどれだけ下トークを(選択肢のせいで)してきても、決して暴言までは言ってこなかったアイツが、ついに俺に死ねと言ってきたぞ。

 

―――やっべ、泣きそう。ていうか涙が止まらんわこれは。

 

「うわ…見ろよアイツ、泣いてるぜ?」

「明らかに自業自得…よね」

「これは雪平さん可哀そう……気にしてるのよね、確か」

「そうだよな、前の校内放送の時に胸ディスられてすっげぇキレてたし…」

「ちょ、アイツ引き笑い始めたぞ…」

「なんかもう、気持ち悪いっていうか…」

「気色悪い…ってわけでも無くて……」

「「「「「「「「「「お断り、って感じだよな(ね)……」」」」」」」」」」

 

どういう感じなんですかそれは。

けどもうそのことに関して反応する気力も何もねぇですよ俺は…

 

【選べ ①具体的にどういう感じか、川柳で教えてもらう。 ②具体的にどういう感じか、AVのタイトル風に教えてもらう。】

 

俺にはそんな気力は無かった。

それだけは信じて欲しい。

 

「なぁ、そのお断りって感じって具体的にはどういう感じなんだ?」

「えっ、それは…」

「それは、なぁ…?」

「…川柳で、教えてくれ」

「えぇ…」

 

呆れてものも言えない、という雰囲気だが、答えてもらってないせいか知らんが頭痛は収まらない。

 

なんか鬼畜仕様過ぎませんかね絶対選択肢さん。

 

「…じゃ、じゃあ―――『気味悪い、恋愛とかは、ありえない』って感じかなぁ…?」

「あははは、包み隠さない本音をありがとう委員長」

「えっと…どういたしまして?」

 

乾いた笑いが止まらない。

でも目は濡れたままなの。なんでだろうね?

 

【選べ ①「上から来るぞ!気を付けろ!」と叫ぶ。下から何かが来る。 ②「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」と叫び、ドアを開ける。自分の血で赤い扉になる。】

 

怖ぇよ!?

②を選んだら俺はもう楽になれる気がするが…なんだろう、選択肢に出てきたという時点で死にきれない気がする。

 

どうせ喀血か吐血して、それが扉にほんのちょっぴりつく程度だろ?

あーやだやだ。何が悲しくて俺がそんなダメージ受けなきゃなんですかね。

 

でも下から何かが出てくるのはもっと嫌なので、自分がダメージを喰らう方を選びまーす(投げやり)

 

「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」

 

近い方の扉を開く。

しかし何も起こらない。

 

―――あれ?いつもならこの辺でヌーの大群でも出てきて踏み荒らされるか、精神的ダメージを受けて喀血するかするはずなんだけどな…

 

「あ、指切れてる……これ?」

 

取っ手の部分に、小さい切り傷からにじみ出ていた血液が付着している。

 

…え、これで赤い扉判定?

それとも元々教室の扉は赤ですよって事?

 

なーんか急に釈然としない奴が来たなぁ…

 

 

 

 

 

とまぁ、いつも通り(アレをいつも通りと言えてしまうのが非常に心苦しい)に酷い目に遭わされ(周りからすれば俺が勝手に奇行に走っただけ)いつも通りに一日が過ぎていく物だと思っていた…の、だが。

 

「えー、コイツは転校生じゃなくて、天久佐の『学業補助ペット』としてこの学校に通うことになってる。詳しい話はまぁ…コイツか天久佐にでも聞け。――ほら、自己紹介しろ」

 

宴先生の適当な前振りの後、ソイツはアホ毛をみょんみょん揺らしながらぺこりと頭を下げ、教室内にその笑顔を見せた。

 

「金出さんの学業補助ペットの、ショコラです。よろしくおねがいします」

「……は?」

 

しょこら…ショコラ。

金髪で、アホ毛で、アホの子で、ロングヘアーで、犬っぽくて、胸が大きい、ショコラだ。

俺の家に定住している、ショコラだ。

 

そのショコラが、何で学校に?

それに……なんだよその、学業補助ペットって。

 

「うぉおおおお!!」

「きゃわうぃー子が来たぁああ!!」

「ぬぉおおおおんん!!ぬぉおおおおおおおんん!!」

「金髪の超絶美女だぁ!!」

「うっぐ…えっぐ…ひぐっ、よがっだぁ…生きてて、よがっだぁ…!!」

 

そしてお前らはそれでいいのか!?

ペットとか言われてんぞ!?

 

―――いやまぁ、確かにショコラは可愛いしそうなってもおかしくはないと思うが…にしたって、なぁ?

 

【選べ ①注目を浴びるのは天久佐金出で充分。渾身の叫びで視線を集中させてやる。 ②自分もショコラに群がる一人でありたい。叫んで気を引く。】

 

叫ぶことは決定事項なんですかそーですか。

 

「ショコラァアアアアアッッ!!」

 

叫びながら、ショコラの元へ走る。

すると、まぁ予想通り教室内の熱気は一気に消失し、生徒たちは何事かと目を見開いた。

 

…あれ?①と②同時にクリアしちゃってない?

 

「いや今はどうでもいいか……おいショコラ、どうしてお前ここに…!」

「ホームルーム中に叫んでんじゃ…ねぇ!」

「げぶっ!?」

 

一瞬で首が90度倒れた。

 

この場において最強は、宴先生ただ一人らしい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……それで?なんでお前急に学校に?」

「神様がそうしろって」

「なんで?」

「わかりません」

「そっか……じゃなんで学業補助ペットなんて訳の分からない肩書で入ってきたの?」

「それもわかりません」

 

全て(ヤツ)が悪い、と。なるほどなるほど……

後で迷惑なくらい鬼電してやろっと。

 

「…というかお前は学校に通う、でいいのかよ?」

「はい!やっぱり金出さんと一緒に居たいですし!」

 

あっ、教室内の雰囲気が以下略。

 

そりゃそうですよね。今のは明らかに誤解を生みますよね。

多分飼い主に懐いている犬みたいな心境なんだろうけど、そういう説明をしたところで『犬扱いとか…鬼畜すぎ…』みたいな感じでドン引きされるだけだろうし…詰み?

 

「おい天久佐ぁ!どういうことだそれはよぉ!」

「誤解だって」

「あぁん!?テメェショコラたんと五回もシたってのかァ!?」

「お前お断り5の素質あるぞその謎の卑猥な勘違い。雪平枠お前がやれよ」

「話逸らしてんじゃねぇ!今はテメェの小指と人差し指とナニを切り落とす話だろうが!」

「いつそんなバイオレンスな話になったよ!?」

 

おかしい。話しかけてくる男友達全員はしっかり笑顔なんだが……なんで目が笑ってないんだろう。

 

「……天久佐君、ちょっといいかしら」

「ゆ、雪平…」

 

や、やっと声を……もうあんな事は多分言わないからな。

選択肢が両方とも同じニュアンスの事を提示してこない限りは。

 

【選べ ①「で、アレの返事は?」と言って、希望を捨てないポジティブさをアピール。 ②「なんの用だよ?」とクールを気取り、自分の可能性をアピール。】

 

必然的に②を選ぶ事になるが……なんだその俺の可能性って。

基本的に俺はクール…ていうか平熱系だと思うんだが。

 

「なんの用だよ?」

「…あなたの『青春の衝動処理ペット』、ショコラさんの事なんだけど」

「オイ待てなんの話だそれは」

「?だから、あなたの『性の衝動処理ペット』、ショコラさんの話を…」

「違……はッ!?」

 

【選べ ①「ふっ…どうだろうな」とそれっぽくはぐらかす。 ②「べ、別にそんな事っ!し、シてる訳、な、無いだろ!?」と言う。ショコラもより誤解するような発言をする。】

 

否定させて!?マジで何もしてないんですけど!?

 

「ふっ…どうだろうな」

「っ……やっぱり、あの子は貴方のオナペッ―――」

「違うから!!全然そんな事無いから!!」

「…犯人は皆そう言うわよ」

「それ言ったらもう疑わしきは罰するのみじゃねぇか!」

「ええそうよ。疑わしくなる時点でその人に罪があるの。しっかり豚箱で豚になりきる事ね」

「まだそのネタ引きずってんのかよ!!」

 

【選べ ①「仕方ねぇな、見せてやるよ俺の『リンチされている最中の豚の鳴き真似』…!」と言って、その場で仰向けになり実際に行う。 ②「仕方ねぇな、見せてやるよ俺の『リンチされている最中の俺の鳴き真似をする豚の鳴き真似』…!」と言って、さり気なく雪平の胸を揉む。】

 

お前もそのネタ引きずってんのかよ!?

さては気に入ったなお前!?

 

「―――仕方ねぇな、見せてやるよ俺の『リンチされている最中の豚の鳴き真似』…!」

 

数瞬の逡巡の後、諦めて地面に仰向けに寝転がる。

そのまま自分を豚に見立て、恥などの感情を全て置き去りにして叫ぶ。

 

ただ只管に、リンチされているかの如き鳴き声を、この学園中に響かせるように。

 

「ぶひっ、ぶひぃいいいいんん!!びぃいいいっ、ふごっ、ふぎゅう!?ぶひっ、ひ、ぶひいいいいいいいいんんッんん!!」

「うわぁ…見ろよ、天久佐のやつ…」

「また豚の真似してる…」

「もう本物にしか見えねぇぞアイツ…」

「恥とかないの…?」

 

酷い言われようだが、もう気にしない。

外部の声はシャットアウト。俺はもう恥を捨てたんだ。

 

…え?顔が赤い?

はは、それは気のせいだよ気のせい。

 

「流石ね。けれどもう少しバリエーションを増やした方がいいと思うわ」

「すっげぇ真面目なアドバイスをどうも…」

 

もうツッコミに回る気にもならん。

 

――けどまぁ、雪平がショコラと俺の関係で暴走してたのも何とかなったし、結果オーライ…かな?

 

「それはそれとして、よ。――結局あなたはショコラさんとどこまでシたの?」

「ナニもシてねぇよ!?」

 

訂正。何も事態は好転していなかった。

 

「お二人とも、どうかしましたか?」

「しょ、ショコラ…お前からもちゃんと……ってオイ、なんだその大量の菓子は」

「これですか?…むぐむぐ…これは、みなさんからもらったものです!」

「え、餌付けされてる…のか…」

 

ちら、とショコラの背後に居るクラスメイト達を見ると、全員が菓子を持ってショコラに渡そうとしていた。

 

…ま、まさか半日も立たないうちにこの教室の殆どを制圧するとは…恐ろしい奴。

 

「…ショコラさん、ちょっといいかしら」

「はい?」

 

雪平は許可をとると同時、なんの衒いも無くショコラの豊満な胸を鷲掴みにし、それはもう凄い手つきで揉み始めた。

 

……いや何してんのこの人!?

 

「お前何してんの!?」

「見ての通り、普段あなたがショコラさんにしている通りの事をしているのだけど?」

「いやしてないって言ってますよね俺!?そしてその聞くまでも無かろうって雰囲気をどうにかしてくれませんかねぇ!?」

 

【選べ ①「俺は触れられないのに、お前は触れられるのか…」と悔しそうに言う。 ②「ま、家に帰ってからゆっくり堪能させてもらうさ」と自慢げに言う。】

 

ふざけてんのか!?―――痛てて…くそぅ、選択肢は揺るがないか。

 

「…お、俺は触れられないのに、お前は触れられるのか……」

「あら、素直ね。―――なんて言うとでも思ったのかしら?私に嘘は通じないわ。あなたはいつもいつもショコラさんのパイオツをそれはもういやらしく揉みしだいているんでしょう?」

「なんでだよ!?」

 

雪平の発言を聞き、教室内の女子たちが俺から胸を隠すようにして少し離れていった。

ついでに男子も数名同じようにしていた。

 

―――ねぇ君たちはなんなの?俺は男に興味ないからね?

 

「選びなさい天久佐君。あなたは毎晩揉みしだいているの?それとも男性としての機能が死滅しているの?」

「なんだその前提から破綻してる二択!?」

 

俺を何だと思ってるんだコイツは。

確かにまぁ俺にだって性欲はある。

 

あるが…そんな実行できるほど、俺に度胸はない。

 

もうヘタレ扱いされてもいいから、取り敢えず変な誤解だけは解いて……

 

【選べ】

 

今、ですか…

 

【①「柔らかかったぜ」とだけ答える。 ②「元気が無いんだよ…」とだけ答える。】

 

誤解を、解きたかったんですが…どうしてでしょうか?

 

「げ、元気が無いんだよ…」

「えっと…その、ごめんなさい。まさか本当だとは…」

「いや真に受けんなよ!?」

「あら、じゃあやっぱり揉んでるんじゃ…」

「なわけあるか!なんでその二択だけなんだよお前の頭の中はよぉ!―――ったく、なぁショコラ。俺は別に何もしてないよな?」

「はいっ」

 

ほら見た事か。

逡巡する事無く答えたショコラに、満足げに頷く。

 

やれやれ。とんでもない勘違いをされる所だった。

――まぁ普段の奇行のせいなんだけどさ。

 

しかし雪平さん、なんであなたが安堵している様子なので?気のせいですかね?

 

「―――あ、でも別の所は揉まれました!」

「……はっ?」

 

何言ってんだコイツ。

…えっ、何言ってんだコイツ!?

 

さも普通の事を話すかのように『揉まれた』と発言したショコラに、俺含め全員が硬直する。

 

いやいや、別に俺は何もしてないじゃないか。

なんだってそんな事言われなきゃ…

 

「この間は強く絡みつかれましたしねっ。すごかったですよ、金出さんのバナナ―――」

「「「「「バナナぁ!?」」」」」

「いやバナナ・スプレッドだから!!プロレス技だから!グラウンド・コブラツイストだから!!」

 

俺の必死の弁解も、悪い意味で盛り上がってしまったこの雰囲気の前には無駄だった。

 

もはや彼らの脳内には俺がショコラに対して揉んだり絡みついたり果てはバナナで何か(意味深)をしているという誤った事実が植え付けられてしまっているのだろう。

 

揉んだ、というのは十中八九頬の事だし…絡みついた、というのも前のコブラツイストの話なんだろうけど…なんだってコイツはこうも誤解されるような言い方をするんだ…?

 

「よっ、天久佐!ちょっと砂にしていいか?」

「おうその言葉をリアルで聞くとは思わなかったし駄目に決まってんだろ!」

 

悪友の田中が笑顔で声をかけて来るが、目は笑っていなかった。

因みに砂にするというのは……うん、『砂にする レべルE』で調べたら出てくるぞ。

 

「なぁ天久佐、醤油五百ミリリットル早飲み選手権に出場してみないか?」

「遠回しに死ねって言ってるつもりなんだろうけど滅茶苦茶ダイレクトだからなそれ!」

 

普段は温厚な佐藤が、満面の笑みと隠すつもりもない殺気と共に声をかけてくる。

言わなくてもわかると思うが、醤油はそのまま飲んだら死ぬ。

 

「へいへい天久佐!俺のこの鉄製の牛の中に入ってみないか?」

「ファラリスの雄牛じゃねぇか馬鹿!」

 

昔から工作が趣味な赤川が、サムズアップしながら恐ろしい事を言ってくる。

 

因みに古代ギリシャの処刑器具とされているファラリスの雄牛は、製作者が一番最初の犠牲者だったとされている。

…つまり、この場合では赤川が一番最初の……これ以上は考えないようにしよう。

 

「天久佐ぁ!!お前、俺とのあの日々は全部…全部嘘だったってのかよ!!」

「お前こそ変な嘘つくなよ!?なんでお前まで変な誤解されるような事言うんだよ!?」

 

どの日々の事を言ってるんだコイツは。

ちょっとゲイのケがあると噂されているコイツは、誠遺憾ながら俺の友人が一人、阿邉だ。

 

…ていうか、なんだそのマジな目は。

えっ、そんな覚えはマジでないんだけど?

 

「金出さん…」

「しょ、ショコラ…お前事態を余計に拗らせて……」

「私そういうの嫌いじゃないですから!」

「話を聞けや!!」

「では……あたしそういうの嫌いじゃないから!」

「本家に寄せろって話じゃねぇから!」

 

【選べ ①このままでは埒が開かない。女子たちに対して弁明する。 ②このまま諦めず、根気強く男子たちに弁明する。運が良ければ掘られる。】

 

運が良ければの使い方間違ってんだろお前!

 

…でも、女子か…この状況でそっちに行っても大丈夫…なのだろう、か?

 

「いや、男子たちはあんな事言ってますけど俺は別に…」

「ひっ、揉まれる!」

「揉まねぇよ!?」

「絡みつかれるぅ!?」

「絡みつかねぇよ!?」

「て、天久佐君のバナナ……」

「なんで今生唾呑み込んだ!?なんで俺と阿邉を交互に見た!?」

「ぬちょぬちょのギリョルンギリョルンなメチョンメチョンにされちゃう…!?」

「日本語を喋れよ!」

 

駄目だった。

やっぱり女子の方も駄目だった。

 

というか、俺が口を開く度に胸元を隠して距離を取っていくのをやめてもらいたいんですけど。

その性犯罪者を見るような目を是非やめてほしいんですけど。

 

【選べ ①「やっぱりバナナには勝てなかったよ…」と言ってアへ顔ダブルピースを晒す。 ②ぬちょぬちょのギリョルンギリョルンなメチョンメチョンになる。】

 

普通に嫌なんだけど!?

男のアへ顔になんの需要があるんだよ!?

 

そして②のやつはもっと恐ろしいなオイ!!

 

「やっぱりバナナには勝てなかったよ…」

「ひぃ…!」

「あ、アへ顔だ……男のだけど」

「しかもイケメン(笑)のだぞ…」

「結構様になってんなぁ…」

 

おい最後ォ!!不穏過ぎるぞ最後ォ!!

 

「……はぁ、もういいや。奇行種でも変態でもなんとでも呼べばいいだろ…」

 

諦めも大事だ。

 

溜息と同時に席に着き、このまま現実逃避と洒落込もう…そう思っていたのだが。

 

【選べよ、残念イケメン】

 

「ついにとうとう普通に喋ったなお前!!」

「天久佐のやつ、何叫んでんだ?」

「さぁ…?きっと人には理解できないのよ…」

「まぁ、お断り5の中でも最強と噂されるくらいだしな…」

「奇行さえなければマジで完璧超人なのにね…」

 

つい声に出てしまったが、今はそれについて気にする余裕がない。

 

確かにコイツは何度か(笑)とつけたり草を生やしたりしていたが、こうして文章になっている事はなかった。

それが急に、なぁ…?しかもなんか馬鹿にされてるし。

 

で?肝心の選択肢は何だよ。

 

【①自分が嫌われているかどうかを全員に問う。 ②自分の事を好きかと一人一人に聞く。】

 

諦めた後でコレかよ!

もう良いって、嫌われ者なのは確定なんだからさぁ!!

 

―――まぁ、消去法で①聞くけど…

 

「あの、皆さん…そんなに俺の事嫌いですか」

「いやぁ?好きか嫌いかで言えばなんだかんだ好き寄りだし…」

「実の所私は結構好きだったりそうじゃ無かったり…?」

「普段は優しいし話してて面白いし…」

「去年のスポーツ大会だって、獅子守先輩と一騎打ちになった時すっごいかっこよかったし…」

「毎回テストで学年一位とってるし、教え方も上手だし…」

「でも…」

「「「「「「普段の奇行が、ねぇ……」」」」」」

「思ったより高評価だったぞ俺!?」

 

因みに獅子守先輩は、表ランキング(男子部門)の一位に君臨するイケメン中のイケメンであり、俺では微塵も及ばないような男だ。

 

まぁ去年助っ人としてスポーツ大会に出た時、同じく助っ人として出場していた獅子守先輩と色々あって一騎打ち(団体種目)になり、それはもう激しい戦いを繰り広げた結果、僅差で勝ったんだけどさ。

 

お断りに表が敗北した瞬間だった。ざまあみろ。

……言ってて悲しくなるな。

 

―――それと今更ながら言っておくが、俺は案外女子や男子とも話している。

確かに基本的には雪平とか遊王子とかと話しているが、普通に男女隔てなく話すし、勉強だって教える。

だからこうして蔑んだ目で見られつつも、なんだかんだ完全に嫌われているわけではないのだ。

 

…それでも充分距離があると思うんですがそれは。

 

「あっ、私は好きですよ!」

「ショコラ、お前はもう何も言わなくていいから」

「ええそうよ。私が来たからにはもう安心していいわ」

「出来るかッ!元はお前が元凶だろうが!!」

「…あら、あくまで自分は何もショコラさんにいかがわしい事はしていないというのね」

「当たり前だろうが!…ほら、そういうのはやっぱり双方の合意とかがだなぁ…」

「でもイカ臭い事はしたのよね」

「してねぇよ!発想おっさんかお前!」

「確かにオッサンはイカ臭いわね。私も洗濯物は分けてもらってるわ」

「オッサンに謝れよ!それと…親父さん、強く生きてくれよ」

「冗談よ。洗濯物程度で文句を言うほど小さい器じゃないもの」

「どの口が言うんだよ!?」

「口は上にしかないわよ?」

「下の話はしてねぇよ!?」

「天久佐君…、こんな時間から下の口だなんて…」

「言ってねぇよ!!」

 

駄目だ、雪平と会話してると時間だけが過ぎていく気がする。

 

今度こそ机に突っ伏して現実逃避をしよう…そう思った矢先。

俺の肩を何者かがタップした。

 

俺の背後は、窓しかないというのに、だ。

 

「…あぁ、遊王子か……ん?」

 

【選べ ①振り向く ②振り向かない】

 

えっ?そんな選択肢にするほどの事か?

 

どうせ窓から入ってくるのは遊王子くらいだろうし…いや遊王子以外に居ないし、誰が来るかなんてもうわかってるんだから、そんな勿体ぶらなくても……

 

―――いや、待て。選択肢がこう言ってくるって事は何かがあるに違いない。

かといって振り向かないという訳にもいかないし……仕方ない。

 

「ったく、どうせ遊王子―――ってなんだ、()か」

 

やれやれ。遊王子では無かったが()だった。

全く人騒がせなヤツだ、俺も選択肢も……うん?

 

「ぎゃああああああああッ!!!女子の制服を着たドッペルゲンガーとか、初耳なんですけど!?」

「あっはははっ!大成功!」

 

マジで窓から女子の制服を着た俺とうり二つの何者かが入ってきたせいで腰を抜かすが、もう一人の俺は俺を笑いながら大成功と……ん?この声…

 

「いやーっ、天っちナイスリアクション!芸人なれるよ!」

「…やっぱりお前か遊王子…」

 

顔の皮…いや、覆面をはがし、遊王子が素顔を晒す。

 

なるほど、またUOGの摩訶不思議な商品…いや、試作品か。

偽札に続いて今度は超ハイクオリティな変装グッズ……従業員は犯罪者予備軍で出来ているのだろうか?

 

「す、すごいです…!金×金の可能性がここに…ッ!」

「ねぇよ!!相変わらず腐ってんなお前!」

「おっ、ショコラっちコレ欲しい?試作品だしいいよー?」

「そしてそんな犯罪を助長させるようなアイテムを軽いノリで無償で渡すな!」

「因みに中に小型のスピーカーが入っていてね?録音さえすれば天っちの声だって―――」

「なんとっ!?あ、あの金出さん!ちょっと『夏彦っ、夏彦!!』って」

「言うかッ!!」

 

【選べ ①「遊王子っ、遊王子!!」と叫ぶ。何故か例のBGMが流れる。 ②「夏彦っ、夏彦!!」と叫ぶ。しかし何も起こらない。】

 

なんのBGMだよ例のって!!

そしてなんで遊王子って叫ぶんだよ理由がないだろ!?

 

「くっ……な、夏彦っ、夏彦!!」

「そうっ、それです!それを録音している時にもう一度…」

「だから言うかッ!!」

 

【選べ ①「夏彦っ、夏彦!!」と叫ぶ。もしかしたら半裸の状態で現れるかもしれない。 ②「ショコラっ、ショコラ!!」と叫ぶ。もしかしたら半裸になるかもしれない。】

 

どっちも嫌なんだけど!?

まず半裸になるのはショコラなのか俺なのかはっきりさせておいてくれよ!!

 

……でも夏彦って叫ぶのはもっと嫌だし出現されたらマジで困るから②で。

 

「―――ショコラっ、ショコラ!!」

「いえ私ではなく」

「冷めた反応だなぁオイ!―――あっ」

 

一瞬で上着が全て消失し、俺は半裸になった。

 

―――まぁ、ショコラが脱ぐよりはマシか。

 

と思いつつ、クラスメイト達から向けられる『変態を見る目』に、無言で涙を流すのだった。




IFルート 【もし雪平に告白していたら(パラレル天久佐)】

「……お、居た居た。おーい!ふらのー!」
「!金出君!」

放課後、サッカー部の助っ人(一人欠席で人数不足だった)を終えた俺は、俺を待っていてくれている彼女―――雪平ふらのを見つけた。

付き合うようになったのは高校二年の春、俺がダメ元で告白した時だ。

それからは驚きの連続だった。
実は大分前から俺に好意を持っていてくれていた、という事や、普段のあのキャラ(毒舌と下ネタ)は実は友達を作るために社交的になろうとして失敗した結果だったという事等々、俺はこんなにコイツの事を知らなかったのか、と呆気に取られてしまった。

最近は人前でも素で喋るようになり、選択肢がめっきり姿を現さなくなった俺共々お断り5を脱すると言われるようになってきた。

でも、今となってはお断り5という称号もどうでもよくなってきた。
だって…

「…え、えっと…どうか、した?」
「いや?―――本当、最高の彼女を持ったなぁーと」
「ふぇっ!?そ、そんな…わ、私の方こそ…」

夕日のせいで元々紅くなっていた顔が、より一層赤くなる。

縮こまってボソボソと何かを呟く(しっかり聞こえている。鈍感系じゃないからな俺は)ふらのが可愛らしくて、つい頭を撫でてしまう。

なんだろう、小動物のような可愛らしさを感じる。

「そうだ、日曜日にでも一緒に出かけないか?」
「う、うん!――でも、何処に行くの?」
「そうだな……あ、そう言えばお前、『しろぶた君』が好きだったよな」
「そう、だけど…」
「ちょうど日曜日にしろぶた君が来るらしいし―――見に行くか?」
「い、いいの!?」
「おう。俺もしろぶた君は好きだしな。―――それに、ふらのが楽しんでくれるなら、それだけで行く価値がある」

嘘じゃない。
ふらのが笑ってくれるだけで、俺は充分満たされるからな。

…なんかちょっとアレな発言だが、実際そうだからな…他に何と言えばいいか。

これまた顔を赤くしてワタワタするふらのを見つつ、いつもよりもゆっくりと家に向かうのだった。

勿論、手を繋ぎながら。


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①ハーレムタイム ②バジリスクタイム

爆発しろよ変態、というお話。



因みに一番最後のは一定以上好感度があった場合だから、本編時空の金出君はあまり関係ないよというお話でもある。


「……おぉ、なんだこの選択肢」

 

ショコラに全員が集中している中、普段ならあり得ないような選択肢が現れた。

 

【①ハーレムタイム突入。表ランキング(在校生)数名から告白される。 ②バジリスクタイム突入。謎の黒人男性が出現、天久佐共々全裸で踊る。】

 

ハーレム、はーれむ、Harlem。

 

男と生まれたからには、誰もが一度は夢見る状況である。

そんな状態が、表ランキングというこの学校内の女子たちの中でもトップクラスの美少女たちによって形成されるという…のか?

 

しかも、俺を中心として?

 

――と、ここまでは希望的観測かつ妄想の世界。

では現実を見てみよう。

 

まず表ランキング全員から告白されるというこの言葉。ここに罠が潜んでいる。

表ランキングは女だけではなく、男の方にも存在する。

 

その上、選択肢が性別の指定をしていない時は、基本的に俺に利の無い方……この場合は男からの告白という事になる。

 

なにより、選択肢によって強制的に行動や意思、考えを変えさせられた人は、しばらくすると突然正気に戻り、その間の記憶を失うのだ。

 

俺だって、どうせ告白されるなら本気で告白されたい(多分断るだろうけど)し、そもそも選択肢で作られた偽りの好意なんて向けられても虚しいだけだ。

 

「―――けどまぁ、全裸バジリスクタイムよかマシなんだよな…」

 

断って、さっさと選択肢の呪縛を解いてやればいい。

その時に謝罪もしっかりしておこう。

 

そんな浅い考えで①を選んだ。

 

―――次の瞬間。

 

「あの、すいません。天久佐金出くんって…居ますか?」

 

ざわめていた教室内が、その一言によって静まり返った。

 

そりゃそうだ。突然表ランキングに名を連ねる人気者がクラスの珍獣(自分で言ってしまっていいものか)を要求してきたのだから。

 

【選べ ①大人しく出ていく ②もしかしたら画面の外に行けるかもしれない。試しにやってみる】

 

試しにって…何をさせるつもりだよお前。

画面って何の話をしてるんだ。

 

ここはまぁ、大人しく出ていくとしよう。

①一択だ、①。

―――しかしこんな高い声の男子、表ランキングに居たか?

…あ、居たな。確か三年の…西野、葵先輩だっけか?

 

一度も会った事無いし、もしかしたらハスキーボイスかも知れないけど…まぁ、男の娘って言われてるくらいだし、どうせ女子みたいな……うん?

 

「あっ、天久佐…くん?」

「え、あ、はい…そう、だけど…もしかして、爽星…?」

「は、はいっ。爽星素直です」

 

爽星素直……この学園の、表ランキング二位の女子だ。

今まで話したことなんて終ぞなかったが…これはつまり、そう言う事…なのか?

 

いやいやまさか。だって()()選択肢だぞ?

アレを選んだくらいで、まさか校内二位の人気を誇る女子が……

 

「その、あのね?実は言いたい事があって…」

「あ、あー…ちょっと向こうで話そうか。あまり人前でしたくない話だろうし」

「う、うん」

 

不穏な気配を感じ取り、被害が拡大(他の事情を知らない生徒に聞かれてしまう)のを避けるべく、人気のない場所へ誘導。

 

 

 

…よし、ここなら誰も居ない…よな?

 

「それで、言いたい事…って?」

「…あ、あのねっ!実は、アタシ…」

 

――あぁ、そういう事か。

 

顔を赤くして逡巡する爽星に、逆にこっちは一気に冷静になる。

 

いや、この状況で緊張しない訳では無いんだけど…なんだろう、オチが知っているわけだし、罪悪感とかもあるしで…こう、早く終わらせてくれって気持ちの方が上回ってるんだよ。

 

「アタシ、天久佐くんの事が好きなの!付き合ってください!」

「……その、マジでごめんなさい」

 

深々と頭を下げ、断る。

 

すると先程まで頬を紅潮させていた爽星は一気に真顔に戻り、そのまま困惑した表情を見せた。

―――断ればすぐに終わる、か。良かった良かった。

 

「あ、れ?どうしてアタシここに…?それに、さっき天久佐くんに…」

「えっ、あー…ほら、一時の気の迷いじゃないですかね。一種の錯乱状態」

「そう、かなぁ…?―――あのさ、天久佐くん。さっきのは勿論本心じゃないんだけど…」

 

改めて言われると傷つくんですけど。

 

まぁ、所詮俺はお断り5の中でも最強と揶揄される変人だ。

表ランキングの爽星からすればそれこそヘドロのような奴なんだろう。

 

でも爽星ってアレか。

純粋であまり人に暴言を吐いたりしないタイプって話だったし、ヘドロとは思ってないか。

 

「…参考までに、どうして断ったのか聞かせてくれない?」

「……はい?」

「だから…普通、アタシに告白なんてされたら二つ返事で了承しちゃうでしょ?それなのにどうして拒否したのかなぁって」

 

…目が笑ってないんですがそれは。

 

というかなんか変な雰囲気を感じるんだが。

若干素の…なんだろう、粗暴さ?とかそう言ったものが溢れ出してきている気がする。

もしかして、猫をかぶってたって事か?それも相当。

 

しかし困ったな。選択肢によって作られた偽りの愛情なんていらなかったんすよーっていう訳にも…

 

【選べ】

 

はいはい、こういう時に出しゃばりたがるのは君の癖だもんね。

今度はなにさ?急におっぱい!とか叫ばせるのか?

 

【①男なら、正直に振った理由を答える(タメ口) ②今からでも遅くない。真剣に土下座しながら告白する(変顔)】

 

案外まともだなお前。

なんか俺だけ子供みたいじゃん。

 

…けどまぁ、②は論外だな。

だってみろよこのゴミを見る目。隠しきれてないのよ嫌悪が。

これで告白なんてしたら、マジで笑い者にされるぜ俺。

 

それに真剣に、のはずなのに何故か変顔させようとしてるじゃん。

その時点でアウトだよお前。

 

「…そう、だな……よく知らないから、かな?」

「よく知らない?」

「だって、初対面じゃん。それなのに告白されても怪しいだけだし…」

「ふーん……ボロが出てたわけじゃない、か。身の程知ってるわけでもなさそうだけど

 

あの、聞こえてるんですけど。

ボロ出ちゃってますけど現在進行形で。

身の程とか言われちゃったんですけど俺。

 

なんだろうなぁ…可愛いとは思うけど、にじみ出てるんだよなぁ…悪い物が。

 

【選べ ①「小声で言ったつもりだろうけど聞こえてるからな猫被り」と言って唾を吐き捨てる ②流石に①は言い過ぎだ。軽く窘めるように本心を伝えよう】

 

うーん、今度は①がふざけたか。

 

でも②でもなぁ…最悪殴られそうなんだよなぁ…

まぁ証拠に残るような事はしないか、こういうタイプって。

 

そもそもまず、猫被ってるのは確定だとしてもまだ完全なるやべー奴という風に決まったわけじゃないからな。

 

本人の前での陰口はお勧めしませんよって感じに窘めるだけにしておこう。

 

「あのさ、陰口を言うなとは言わんけど、本人の前で言うのは止めといた方がいいぞ」

「えっ?なんの事?」

「……はぁ……せっかく可愛いんだから、すぐにメッキ剥がれるのはなんとかした方が……あぁいや、別に素のお前が悪いとは言ってないしそれにお前の素も知らないから何とも言えないんだが…」

「――――は?」

 

あー地雷踏んだ。

明らかに地雷を踏みつけましたわこれ。

 

急に目見開いて硬直しちゃったもんこの人。

こっわー…選択肢さん、この状況なんとかできないの?

 

あっ、俺の利になる事してくれないんだった。

 

「いや、すまん。忘れてくれていい。俺も忘れるし、誰にも…」

「お前、今なんつった…?」

「おーうついにとうとうお前って呼んじゃったよ俺の事」

 

メッキが完全に剥がれたなこの女。

この場は俺とコイツしかいないという風に知っているからだろうか?

 

そりゃまぁこんな簡単に剥がれるメッキだったら、ランキング云々の前にお断り行きだっただろうしな。

流石に普段はこんなに脆くないか。

 

「い、良いから答えろっ!さっきなんて言った!?」

「え?えーっと…『いや、すまん。忘れてくれていい。俺も忘れるし』」

「そこじゃねぇ!その前!!」

「えぇ?……『せっかく可愛いんだから、すぐにメッキ剥がれるのは』」

「か、可愛いってお前…!?」

「えっ、何その反応…言われなれてるだろ可愛いくらい。表ランキング二位なんだし、それ抜きにしてもお前素をダイレクトに出さなきゃ普通に可愛いし…」

「なっ、なっ、なぁっ…!?」

 

なななってなんだなななって。龍ヶ嬢か?

 

やたら顔を赤くして、信じられないものを見るような目でこちらを見て来る爽星。

いやいや、だから言われ慣れてるんでしょう?

勿論幼少期から。

 

どうでも良い話だが、幼いころからチヤホヤされていた人は成長すると性格が歪むという。

コイツはそれの典型例なのでは無かろうか…知らんけど。

 

【選べ ①ダメ押しにもう一度、可愛いと言ってみる。無論下心は満載 ②下心など不要。思ったままの感想を伝える】

 

いやそれいる?

別に言わなくていいじゃん。

 

―――まぁ、②にするけどさぁ。

 

「…うん、やっぱり可愛いと思うよ。お前」

「ッ!?―――う、うっさい!!お、お断り5のくせに…ッ!」

 

あ、行ったか。

 

しかし何だったんだあの捨て台詞。

お断り5のくせにって……なりたくてなってるわけじゃねぇんだけど?

 

「…にしてもやけに顔が赤かったなアイツ。マジで何があったんだ?」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

その後も(双方ともに望まぬ)ハーレムタイムは続いた。

柔風、麗華堂、ニューミルク先輩…生徒会長であり、女子の表ランキング堂々の第一位である黒白院先輩は来なかったが、それでも俺の心を削るには十分すぎた(罪悪感的な意味で)

 

「そしてその結果がコレ、か…」

「あぁ?何抜かしてんだテメェ…今回こそ許さねぇぞコラァ!!」

「そうだそうだ!何お前小凪たんから告白されてんだボケがァ!!」

「う、うらやましいナリィ!!」

「おらケツ出せ!!」

 

いや最後ぉ!なんでだよぉ!

なんでハードゲイ♂が混ざってんだよ柔風親衛隊のメンバーによぉ!

 

―――あの悪夢のハーレムタイム、最後に来たのが柔風だったのだ。

 

柔風の記憶は無くなっているだろうが、親衛隊はそうはいかない。

選択肢による記憶操作がない以上、『柔風が天久佐金出に告白してしまった』というあり得てはいけないはずの事象を覚えている人間が俺以外に居るという事なってしまう。

 

それを何とかすべく、結構真剣に頭を悩ませているのだが…うん、駄目だ。直近五分間云々のツボ(宴先生直伝)を利用しようとしても、もう六分経ってるし。

 

【選べ ①「俺はお前たちの弱みを握っている…!」と言って脅す。実際にその弱みを知る。 ②「実は俺、男にしか興味が】

 

①決定!

 

…え?弱みを握るだなんて、優しさとかはないのかって?

はははっ、馬鹿じゃねぇの。

 

「俺はお前たちの弱みを握っている…!!」

「「「「ナ、ナンダッテー!!」」」」

 

瞬間、俺の脳内に流れ込んできたのは、本来持ち得ないはずの記憶。

 

真ん中のリーダー格の男…藤堂さくらが、こっそり柔風に贈り物(ヘアピンに始まり、果てはパンツまで)を自作のポエムと一緒に(本人にすら気づかれないように)送っている事。

 

特に特徴のない男…赤崎俊太が、柔風が一年の頃自転車通学していた時、毎日毎日サドルを盗んでいたという事。

 

語尾が「ナリ」で、一番横幅が大きい眼鏡の男…尾田九朗が、柔風を盗撮し、ポスターにして部屋に飾っている事。

 

そして毎回俺のケツを狙っているホモなのか柔風が好きなのかよくわからんやつが、柔風の顔を印刷したお面を付けた男子とホモセッ―――

 

「おぐろぼごぼろろろろろげゃばああ……」

 

知らなかった、知りたくなかった、知るべきじゃなかった。

 

一緒に映像のような物も脳内に流れ込んでくるのだが、そのせいで俺は知らん男二人のハードな交わり(意味深)をモザイク無しで見る事になってしまった。

 

しかも相手の男は柔風の面をかぶっているのである。

まさしく地獄絵図。

 

「な、なにいきなりゲロ吐いてんだコイツ…」

「いや、そこは気にしなくて結構。―――それで?俺はあんた等全員の人に言えないような秘密を握っている。だから――」

 

だから、なんだ?

今みたのは忘れろ?

それとも、これから先柔風に粗相(多分選択肢がさせてくる)をしても黙認しろ?

 

うーむ、全部言ってしまってもいいが、それではなんかこう、有耶無耶にされる可能性だってありそうだしな…

ほら、一気に言ってたからそれは聞いてないな!とか。

 

「は、はん!そんな事言って、本当はハッタリなんだろ!?」

「そ、そうナリ!嘘は通じないナリよ!!」

 

【選べ ①大事な所は隠し、そのまま話す ②明らかに知っていると匂わせる発言をする】

 

おっと、珍しく上質選択肢。

ここは敢えて匂わせるような発言に止めておいて、強者感を演出する事にしておこう。

 

――しかし匂わせるってどうやって?

 

「……愛、それはラブ。僕と君を結ぶ赤い―――」

「ぎゃああああああああああッ!!?なんでそれをォ!?」

「ふっふっふ……なぁ、尾田ぁ…ポスターって結局何種類あるんだっけか?また新しく盗――」

「ひぎぃいいいん!!?やめっ、止めてぇえええ!!」

「んでぇ?赤崎クンはアレか?サドル―――」

「あじゃぱアーッ!!」

 

ふははははッ!!愉悦!!

普段酷い目に遭っている俺が、こうして他人の弱みを握ってうっはうっはとは―――最ッ高だな!!

 

前回前々回とボコボコにされたが、溜飲が若干下がった気がする。

うん、やっぱストレス発散って大事だわー!

 

「な、何が望みなんだ…!?」

「はんっ、そんなの決まってんだろ?」

 

【選べ!!】

 

なんでそんな力強いの?いつも通りで良いじゃん。

 

【①ワイン片手に、意味深に嗤う ②激辛の麻婆豆腐が出現。勢いよく食べる】

 

なんでさ。

 

くっ、②を選んだら確実にその激辛の麻婆豆腐とやらが出現する…

それをここに書かれている通り、勢いよく食べねば頭痛によって意識を失う事は確実。

どうせこの選択肢の事だ。気絶して倒れた時、ちょうど頭がくる位置に麻婆を設置しておくのだろう。

 

―――でも①選んだら、未成年飲酒とかなんとかで補導されるんだろ!

ちょっと調子に乗っただけでこれだからさぁ!

 

「はふっ、はふっ……俺はただ…んぐっ、うまっ……柔風に、はむっ…奇行を、しても…ごくんっ…放っておいて欲しい…はぁっはぁっ…だけだ」

「な、なんで急に麻婆豆腐を…?」

「食うか――――?」

「「「「食うか――――!」」」」

 

全力で返答される。

 

それもそうか。

後二口くらいだし、別に押し付ける必要もないだろう。

 

ただもう物凄く辛くて、舌とか唇とかが焼けているかのように熱い。

なんで俺がこれを喰わなきゃいけないんだ。

 

「…それで?俺の要求は、呑んでくれるよな…?」

「うっ…だが…」

「し、親衛隊はお前みたいな変態から…」

「小凪タソを守るべく存在しているわけですしお寿司…」

「なぁ…?」

「――はっ、変態はどっちだか…ま、明日の校内放送と新聞は面白い事になるな」

「「「「イエス・マイロード!!」」」」

 

ふむ、納得してくれたらしい。

 

まぁこれで選択肢が暴走しても大丈夫だろう。

柔風本人にはまぁ、慣れてもらうしかないが……毎回連れ去られてボコボコにされるよかマシ、だな。

 

でも、あれ?これじゃ結局さっきのやつの記憶は消せてないのでは?

 

【選べ ①オタ芸の練習に勤しむ。勿論上半身か下半身を露出させながら ②なんか凄まじい事が起こる。100パーセントとは言わないが10割の確率で社会的地位を完全に失う】

 

あぁ、そうそう。こうやって暴走しても……ってオイ。

 

なんで上半身と下半身ランダムなんだよ。

そして100パーセントと10割は同じ意味なんだよ。

 

えぇ…確実じゃないし、①しか選ぶ余地がないけど……下半身、脱がないといいなぁ…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「で、なんの用ですか宴先生」

「ちょっとお前に話があってな―――そういやお前、表ランキングの連中から告白されたらしいじゃねぇか」

「ええ、選択肢ってマジで恐ろし……いやなんで知ってんの!?」

「叫ぶなようるせーなー…」

 

だって、誰にも知られずに選択肢によって感情を操作された少女達を解放しようとしてたのに…なんで知られてんの平然と?

 

「んで、なんで知ってるのかってそりゃお前…こっからなら丸見えだったからな。お前が頭下げてんの」

「……ああ、ちょうど見える場所だったのか…じゃあ別に噂とかとして広まってるわけでは…?」

「ねぇな。お前がフッた挙句口説いたのを知ってるのはお前とあたしと告白した奴等だけだ」

「なんすかその口説いたって…」

「―――マジで言ってんのかお前?」

 

マジで言ってんのかって…そりゃそうでしょうに。

まずあの俺の言葉のどこをどう受け取れば口説き文句になるんだって話だよ。

 

試しに回想してみるけどさ?

 

『…どうして私があなたに告白なんて…』

『ま、まぁまぁ……一時の気の迷いとかだろうし、俺も気にしてないから』

『……そう言えば、どうしてあなた…私の胸に視線を向けて居ないの?』

『えっ?』

『男なら、普通は私の胸に目が行って然るべきだと思うのだけど……一体、どういうことかしら?』

『え、えぇ……そりゃ確かにデカいけど…話すときくらいは相手の目を見て話すぞ普通…』

 

【選べ ①「ま、見るより揉む方がいいしなぁ!」と言って両手で鷲掴む ②「女性の良さは胸だけじゃないしな。麗華堂だって、胸以外も素敵だぞ」と言ってプレイボーイっぷりを披露する】

 

『そ、それに女性の良さは胸だけじゃないしな。麗華堂だって、胸以外も素敵だぞ』

『な、なぁっ…!?』

 

 

 

 

『あ、あれっ!?ワタシ、どーして…?』

『一時の気の迷いだと思いますよ。ほら、俺も気にしてないですし、今日の事は忘れるという事で…』

 

【選べ ①「まずはお友達からという事で」と渾身のイケメンスマイル(笑) ②「一度だけの恋なら、君の中(意味深)で遊ぼう」と言って、いく(意味深)】

 

『―――まずはお友達から、という事で』

『はぇっ…!?』

『あっ、あー、いえ。別にそう言う意味ではなく。せっかくこうして初めて会話をしたわけですし、なら…と』

『そ、その……ごめんなさいアルー!!』

『えぇ……意図せずフラれた…』

 

 

 

 

『わ、私…今…!?』

『いいんだ柔風。一時の気の迷いってやつだ。気にする事じゃない』

『き、気の迷いって……そうでもない、気がしなくも…』

『いや気の迷いだから。少なくともお前が俺を好きになる、なんてなぁ…?』

 

【選べ ①「でも、俺がお前を好きになる可能性はないわけじゃないよな?」とかっこつける ②「そうだ、今日のパンツ見せてくれよ」といつもの要求をする】

 

『……でも、俺がお前を好きになる可能性はないわけじゃないよな?』

『ふ、ふぇぇっ!?す、好きに!?』

『あー、柔風。できれば今のは……ってあぁ…行っちまった』

 

回想終了。

リザルト、ほぼ全部選択肢が悪い。

 

なんで告白されてる間はふざけと謎のイケメンキャラを同時に勧めてきたんだコイツ。

普通に断って終わりでよかったじゃん。

 

少なくともニューミルク先輩の時の『お友達から』発言はいらなかったと思う。

確かに俺は自分で言うのもアレだが顔は良い方だし、イケメンスマイルくらいなら出来る(自意識過剰)と思うが、あの場でさせる必要は無かっただろう。

 

余りの自意識過剰さに共感性羞恥を感じたのか、先輩顔真っ赤にして逃げてったからな……

 

俺だってぶりっ子見てると共感性羞恥で顔赤くなるもん。

…あれ?それって共感性羞恥で良いんだっけ?まぁ覚えたての言葉を使いたいだけなんだけどさ。

 

「ってか、全く口説いてないじゃないっすか」

「えぇ……お前、もう病気だぞそれ」

「び、病気って…先生こそ恋愛脳過ぎませんかね。だから未婚―――はっ!?」

「ほーお……死にてぇようだな天久佐金出」

「フルネーム!?いや、すいませんすいませんでした以後気を付けます!!」

「できねぇ約束すんなよ、天久佐。お前にはもう以後がねぇだろ?」

「そんなもう決まった事見たいに言うのやめてもらっても――ぐぇぇっ!?」

 

見事なヘッドロックだった。

死にはしなかったが死にかけた。

―――今のはまぁ、俺の過失だな。

 

「ところで天久佐。なんか変わったこととかあったか?」

「変わったこと…?あ、そうだ!特殊ミッションとか出てきたんですよ。そんなのあるなら先に言っといて欲しかっ――」

「なんだ、それ?特殊ミッションだと?」

「―――あぁ、ご存じないのですね……」

 

宴先生(かつての犠牲者)なら知っているかもと思ったが、全然そんな事無かった。

 

まぁよくよく考えたら先生が知ってる事は神も知ってて然るべきか。

単に記録されてなかったってだけの可能性もあったけどさ。

 

「これですよ、これ」

「…『対抗戦終了までに参加者の女子のおっぱいを揉みしだく』…だと?」

「いやふざけてますよねこれ。しかも失敗したらちゃんとペナルティもあるらしいんですよコレ」

「―――詳しく、聞かせてもらおーか」

 

姿勢を正し、真剣な表情を見せるようになった宴先生に、自然とこちらも背筋を伸ばしてしまう。

 

その綺麗な姿勢のまま、神からのメールの内容を説明し、ペナルティと報酬について話した。

 

「……なるほど、なぁ…まーた恐ろしいモンを…」

「これも多分やらなきゃ駄目なんでしょうけど……無理じゃないっすかコレ?だってまず俺対抗戦がなんの話なのかすらわかってないんですよ?」

「対抗戦ってのは…アレだ。まぁ、もうすぐ説明あるだろうしそれは問題ねぇ。―――ただ、なぁ…この胸を両手で揉むってのがかなりハードル高いだろ。対抗戦の出場者が出場者なら何とかなるかも知れねぇが…」

「いや出場者が出場者ならーって言ったってこの学校の生徒でしょ!?ただでさえ変態だとか奇行種だとかイケメンと江頭とエロ本のキメラだとか言われてるのに、両手でガッツリ揉んだりなんかしたら俺もう退学どころじゃ…!!」

「―――まぁ退学くらいはなんとかしてやる。そういうサポートは私の仕事だしな。――問題なのは揉むまでだぞ、マジで。出場者が誰になるかはまだ決まってねぇが…一筋縄じゃ行かねぇのは確かだ」

 

シリアスに考え込む先生に、泣きつく俺。

会話文さえ変えればシリアスなシーンなのだろうが、悲しいかな会話の内容は女子のおっぱいを如何にして揉むかというものなのである。

 

「―――そういやお前の所の犬っころはどうだ?役に立ってるか?」

「えっ?全然?」

「…あれでも、呪い解除のために神から送られてきた僕なんじゃねぇのか?」

「そ、そうなんですけど……普段は飯食ってゴロゴロしてるだけで、役に立とうという気概はあれど結果は芳しくなく……」

 

【選べ ①「まさしくアンタのサポートだな。首絞められるだけで喜ぶ男だと思うなよ?」と挑発。ご褒美(お仕置き)が貰える。 ②「でも居てくれるだけでなんか和むんですよね」と変態性をアピール】

 

最近俺に変態性をアピールさせたがりすぎじゃないかお前!?

でも①は論外だよ!!

 

でも、和むって言う事に変態性なんて欠片も無いと思うが…価値観の違い、だろうか?

 

「でも居てくれるだけでなんか和むんですよね」

「…そ、そうか……でも、マジで役に立ってないのか?」

「まぁ…そう、ですね」

「…ってことは今回の特殊ミッションとかいうのも?」

「一応なんとかしてくれようとはしていますが…」

「―――なんか呪いとかに関する情報は?」

「記憶喪失だった事を思い出したらしいです…」

 

あっ、先生が目を逸らした。

 

けど俺だって本当はもっと役に立って欲しいと思っている。

せめてあの本以外の本を買ってこいとは思う。アイツに払ってやる金はないだろう。

アレのせいでUOG出版の本に軽く抵抗を覚えるようになったもん。

まともな本でも見れないくらいって、相当だと思うぞ俺。

 

「って、先生は何か教えてくれないんすか?」

「あたしは無理だ。言おうとしたら、頭痛がして口が動かなくなる」

「……うへぇ、解放後も、って事ですか…」

「そう言う事だな…はぁ、お前だからギリギリ選択肢については話せるが、それ以外はアウトだ。呪い解除とかに関して直接言及できねぇし、充分不便だよ」

 

…先生も苦悩している、という訳か。

 

なんだかんだ、生徒思いの良い先生なんだな。

 

【選べ ①「今度一緒にお茶でもどうですか?」と夜のお誘いをする ②「素敵…!抱いて!」と言う。夏彦が現れる】

 

夏彦!?なんか最近多くないかお前の名前聞くの!?

 

「…こ、今度一緒にお茶でもどうですか?」

「―――天久佐、か……案外コイツは優良物件かも知れんぞ…?選択肢の奇行さえなけりゃ、コイツくらいの良い奴なんてそうそう見つけらんねぇそれに、コイツあたしの事…

「あ、あの?先生?」

「……なぁ天久佐。一世代くらい歳の差があっても結婚とか考えられるタイプか?」

「いや何言いだしてんですかアンタ…」

 

【選んであげなよ】

 

そしてなんだよその言い方。

なんでちょっと窘める風なの?

 

【①ここは本心を伝える ②ここは本心を伝える。具体的にはロリータへの愛を語る】

 

……①の本心の方がまだ安全そうだな。うん。

 

「そう、ですね……その人が良い、って思うなら、俺は全然歳の差とか気にしませんよ?結婚だって、俺で良いって言ってくれるなら全然いいですし…」

「そ、そうか。なるほどな…」

「そしてなんでそれを俺に聞く必要が」

 

【選べよ】

 

言い方冷たくなったなお前。

なんで急にツンなの?まさかさっきのがデレだったの?

 

【①「天久佐宴と道楽金出って、どっちがいいですかね?」と真顔で聞く ②同じ内容を変顔で聞く】

 

まーた実質一択だよ…あぁ、絶対殴られるか絞められるかされる…

 

「て、天久佐宴と道楽金出って、どっちがいいですかね?」

「お、お前…!?―――お、大人を揶揄ってんじゃねぇ!もう今日は帰れ!!」

 

反応が270度くらい違ったが、まぁダメージが無かったのでヨシ!

 

…しかし先生、なんでそんな顔が赤く…まるで照れてるみたいな、ねぇ?

 

て、天久佐宴、か悪かねぇな!

 

う、宴先生!?今なんて!?

 

【選べ ①聞かなかった事にしよう ②帰りに高めのペアリングでも買おう】

 

―――よし、俺は何も聞いてないぞ!




その後の話【ニューミルク、柔風、爽星】

「ハァ……どうしてワタシ、あんな反応…」

教室で、一人席に突っ伏す少女。
名をチチル・ニューミルクと言い、この学園内に存在する『表ランキング』にその名を刻む程の人気者である。

欧米系の見た目に、その見た目にそぐわぬ語尾…そしてこの学園内の全員と仲良しになると豪語するほどのフレンドリーさが相まって、それはもう人気者の彼女が……教室内の全員が心配そうな顔をするほどに、落ち込んでいた。

「ハァ……テンキューサ、カナヅル…」

何度目かの溜息と共に、初めて発せられたその名前に、全員がギョッとした表情をする。

それはそうだろう。
容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、性格も良い―――癖に、普段から奇行ばかりの『お断り5最強』と名高い男の名前が、明らかに接点のないだろうニューミルクから出てきたのだ。

それも、ありえないくらいに気落ちした状態で。

結果、その言葉を聞いた全員の脳内に、『天久佐金出によって酷い目(主に性的な意味)に遭わされるチチル・ニューミルク』の姿がイメージされたのだ。

実際にはそんなことは無いのだが、普段の奇行が奇行なせいで、誰もその考えが間違っている物とは思わなかった。

「―――どーしてワタシ、友達になるのを断っちゃったアル…?」

そう。
普段は底抜けに明るいニューミルクが悩み、落ち込んでいた理由はこれだ。

『全員と友達になると豪語している自分が、何故あの時は拒否してしまったのか』

その理由に思い至るには、彼女は『ある』経験が足りなかった。

「あ、あのっ」
「ん…?あ、ミユキ。どうしたアル?」
「いや…なんか、元気なかったから……どうしたのかなーって」
「…あ、あははー…それが…」

話かけてきた友人(一際仲が良い)に、苦笑いしながら事の顛末を話す。
…流石に告白した、という事を話すのは恥ずかしさがあったり自分でもよくわかっていない点があるという事で、言わなかったが。

その話を聞いて、ミユキと呼ばれた友人は、ある結論に至る。

「…もしかして、チチルちゃん……『あの』天久佐君に惚の字?」
「ほ、惚の字アル!?」

そんな事無いだろう、という半ば確信めいた考えと共にそう口にして、彼女はかなり後悔した。

そりゃそうだ。自分の自慢の友人が、まさかあの学園内最強の変人に惚の字の可能性が濃いのだから(確定したわけでは無い)

そして、その会話を聞いていた教室内の全員も驚きで何も言えなくなった。
『あのキチ●イ、何してくれてんだ』と、全員の思いが一つになった瞬間でもあった。

「た、確かにカナヅルはカッコいい…けど、だって…」

硬直する全員を視界に入れることなく、俯きながら真っ赤な顔を両手で押さえるニューミルク。
彼女の脳裏には、あの時の金出のイケメンスマイル(笑)が。

「……うぅ…」
「―――よし、アイツ殺そう」

ついに完全に丸まってしまった(机に突っ伏し、腕の中に顔を完全に隠した状態)ニューミルクを見て、ミユキは決意した。

――我が天使を穢した下賤な輩を、この手で裁かねばならないと。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「う、うぅ~…好きって、好きってぇ~…」

これまた顔を真っ赤にしてせわしく体を動かしているのは、『表ランキング』の天然記念物級ゆるふわ少女、柔風小凪である。

彼女は学校で悶えるような真似はしなかったが、家に帰ってからの悶えようはニューミルク以上だった。

まぁ原因は『何故か告白した挙句、遠回しに告白された』という事なのだが。
それを考慮するなら、この反応が普通かもしれない。

「て、天久佐君……」

奴の名前を呼ぶ度に、恥ずかしさやらなにやらを感じて悶え、落ち着いてもう一度名前を呼び…というループを繰り返す事数十分、ようやく本格的に落ち着いてきた柔風は、クッションを抱きしめたまま呟いた。

「……なんでだろ、私…ずっと天久佐君の事ばっかり考えちゃってる…」

ニューミルクと違い、彼女にはその感情の正体を言い当ててくれる人間がこの場に居ない。
学校だったなら、きっとすぐにでも『それは恋だよ!じゃあ私天久佐君始末してくるね!』と言われたのだろうが、生憎ここは自宅の自室。

答えは、探せども探せども見つからなかった。

―――そして、後もう数日で、柔風はこの感情に気づく事になる。
あの『公開告白』を目にして。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

な、なんなんだよアイツ!!

あの時の、アイツの『真っすぐな』目を思い出す。
それだけで胸が熱くなり、その熱が全身に伝わって行ってしまう。
要するに恥ずかしさを感じる…いや、これは違う。

―――照れてるんだ。

「んな訳あるかッ!!だって、アイツはお断り5で、最強の変人で、変態で……でも変な事してる時以外は結構まともで、人付き合いが良くって話上手で聞き上手で…成績はいっつもトップだし、運動だって人並み以上に出来て……」

おかしい、なんでそんな完璧超人がお断り5なんて汚名を甘んじて受け入れているんだ?

両親に頼んで調べてもらった情報を見てみると、奇行関係の話以外を見れば圧倒的に優良物件と言われるような男性だった。

―――そんな奴が、家族以外で『初めて』アタシを『下心無しで』可愛いって―――

「う、うがぁああああ!!?」

反吐が出る(嬉しい)反吐が出る(嬉しい)反吐が出る(超嬉しい)ッ!!

「…くそっ、あんな奴なんかに…お断り5なんかに…!!」

『せっかく可愛いんだから』

「~~~ッ!!」

声にならない叫びが出る。

あぁ、どうしてあんな事聞いたんだろ、アタシ。
そりゃお断り5の最強変人がどの面下げてアタシをフッたのかって気になっちゃったせいだけど、こんなことになるなんて思いもしなかった。

聞かなきゃよかった(聞いてよかった)
確かに下心は感じなかったけど、どうせアイツだって他の男と同じだ。同じなんだ。

だってあんなふざけた態度で(真っすぐに)なんてことないみたいに(私の目を見て)あんな事言いやがったんだから(可愛いって、言ってくれた)

「アイツ…絶対、泣かせてやる……後悔させてやるぅ…!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

IFルート 【②帰りに高めのペアリングでも買おう】

「……でもまさか、先生が即OKするなんて思いませんでしたよ」
「うっせ……あたしだって元々お前の事は悪く思ってなかったし、選択肢さえなけりゃお前以上の男なんてそうそう居ねぇ。それに―――」
「それに?」
「……流石に29にもなって未婚だったんだから、焦ってたに決まってんだろ」

俯き気味に、小声でそう言った宴先生に、何とも言えない顔になる。

……まぁ、確かに周りの皆が結婚していく中自分だけ行き遅れてたらそりゃ…なんか、気まずいって言うの?あると思うけど…

「まぁそれ言ったら俺だってコレ…」
「な、なんだよ…あたしに『結婚してくれ』って言ったの、嘘だったってのかよ…」「いやそうは言ってないでしょうに……俺は先生の事、好きですよ。一人の女性として」
「―――お前、結婚してからずっとそうだけどよ……ソレ素で言ってんのか?」
「そうですけど?」

実際そうだからな。
先生は確かに幼児体系だったり服装の趣味がまんま小学生だったりするが、それでも好きな事に変わりは無い。

ましてや嫁…妻になった人だ。愛さずしてどうする。

「選択肢も消えてまともになって…殴ったりしてもまぁあんまし気にしねぇで、なんならパシリだって普通にやってのける……なんなんだよマジで」
「嫌だったら止めますけど」
「そうじゃなくってよぉ……なんか、完璧すぎねぇか何でも」
「よく言われますよ。―――まぁ、選択肢のせいで下落するしかない好感度を何とか食い止めるべく身に着けた力ですから」

まぁ選択肢が消えた今となっては、どうでも良い話だが。

「そうなんだろうけどよ……なんかこう、あたしにゃもったいない気が…」
「なに言ってるんですからしくない。―――それに、そのセリフは俺のですよ」
「はぁ?」
「俺の方こそ、先生と結婚できるなんて夢にも思ってませんでしたし。幸せですよ」
「―――ほんと、そういうのを真顔で言うよなー、お前」
「事実ですし」

ほんのり頬を赤く染め、俺から顔を背けた先生に、自然とこちらの頬が緩む。
―――あぁ、幸せだな。

「……あの、宴先生」
「ん、なんだ?」
「―――ここ、職員室なんですけど」

―――結婚して早二年。卒業した俺は、今でもこうして講義の無い日に学校まで宴先生に会いに来ている。

そして、教頭先生に注意されて追い出されるのも、毎日繰り返していた。


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①両方やる金出 ②両方やる幹部

「呪い解除ミッションは遂行する」 「特殊ミッションも遂行する」
「両方」やらなくっちゃあならないってのが「天久佐金出」の辛いところだな。

覚悟はいいか?オレはできてるというお話。


「なぁショコラ、なんかリクエストとかあるか?」

「そうですね……ピッツァがたべたいです!」

「ピッツァか…悪いが石窯は今倉庫の中でな、週末でいいか?」

「えっ!?いしがまあるんですか!?」

「おう。母さんが結構道具にこだわる性質でな…他にも石臼とか燻製器とか、色々物置に眠ってるんだよ」

「くんせい!スモークチーズもたべたいです!!」

「燻製か…それなら明日にでも出来るし、後で用意しとくか。――サーモンとか好きか?」

 

帰宅後、食事の話をしつつしっかりと手を動かす。

両親が家に居る時はそんな事しなかったのだが、こうして家事をするのが俺一人(居候は生憎役に立たない)だと、休む暇すら惜しいのだ。

 

明日用意する食材やらなにやらをピックアップしつつ、今日は俺の中で決めていた野菜炒めで済ませる事に決定。

フライパン等を用意し、早速調理を……

 

【選べ ①今日くらい豪華にしよう。具体的には一言さんお断りの店のふぐ刺し ②たまには質素で良いだろう。もやしを指先程度の味噌で味付けすれば立派なおかずだ】

 

両極端だなお前!!

 

つーかそもそも一言さんお断りの店なんて行ける訳……あ、行けるわ。父さんに一回連れてってもらった場所が、ちょうど一言さんお断りかつ商品の値段が高めかつふぐ刺しがある店だった。

 

「…な、なぁショコラ。ほんのり味噌風味のもやしとかは…」

「あはははっ!金出さんはじょうだんがじょうずですね!!」

「デスヨネー……はぁ、ショコラ。ふぐ刺し食いに行くぞ」

 

俺の貯金は、これで恐らく半分無くなるだろう。

 

トホホ、俺が必死こいて貯めてた金が…いつか投資に使おうと思っていた金が…

 

―――ん?電話?

相手は…チャラ神、か。

 

「もしもし?」

『ヘロヘロ~、金出(かなぁどぅえ)くうん。元気ー?』

「ははは、元気だと思います?」

『え~?でもでも、今日はとっても刺激的な事、あったんじゃなーい?』

 

通話を切り、ついでに電源を切っておく。

そうだった。このチャラ神のせいでショコラが俺の学業補助ペットとして学校に通うことになったんだった。

 

「ふぅ……さて、財布は何処に―――」

『ちょっと~?いきなり切っちゃうのは酷くなぁ~い?』

「いや何でもありか!!?」

『だぁって神だもーん☆』

 

うわうぜぇ。

けどどちらかと言えば『電源を切っていたはずのスマホを起動した挙句、スピーカーモードで通話を再開した』という訳の分からん事への戦慄の方が上回ってるんだよな…

 

神だからって、なんでもやり過ぎだろコイツ…でも俺の呪いは解除できないんだよな。

確か、その世界の神が無理矢理ねじ込んだ不自然な法則云々で、他の神からは手出しができないとか。

 

だから、このチャラ神にだって俺の選択肢は視認できないばかりか声も聞こえないらしい。

 

「…それで、なんの用ですか?」

『いやぁ、暇つぶし半分、近況報告半分?って感じ?』

「近況報告?」

『そそ。ほら、特殊ミッションの話さ』

「あ―――そうだよ!!それ、結局なんだったんですか!?」

『へいへい、落ち着いて落ち着いて。―――はっきりと言おうか。情報は()()()()。あり得ない事にね』

「…無かった、ですか?でもあり得ない事では無いんじゃ…」

 

確か前任の昼メロの神の引継ぎの書類のまとめ方が物凄く雑だったって話だし……部屋から変な匂いするらしいし(多分、その部屋で不倫していたのだろう)書類が無くてもおかしくはないと思う。

杜撰な整理をしてたらいつの間にか書類なんて無くなってるもんだし、仕事部屋であんなことやそんなことをするような奴だ、どうでも良いとか言って記録すらしてないんじゃないか?

 

『そう思っちゃう?ざんねーん!そうじゃないんだなぁ』

「…じゃ、じゃあ何だって言うんですか」

『神にだってね、義務はあるんだよ。その義務の一つがどんな些細な事でも()()()()に当てはまらない事があったら記録しておくことってのなんだけど』

「…記録だけして、そのままどこかに行ったとか?」

『それは無いよー!だって、態々もっと偉い神の配下まで借りて部屋中捜索したし!』

「えっ…そ、そんな事までしてくれたんですか!?」

 

ちょっと俺の中でのチャラ神のイメージがアップ。

普段はチャラチャラしてるが、結構知らない場所では良い事してくれてるんだな…その優しさ、まさしく神だ。

 

『いや、部屋中捜索したのはその前任の神と浮気した神の嫁さんの命令なんだけどね?』

「俺の感動と感謝を返せッ!!」

 

なるほど、現場捜索って事か。

なんか神という存在が非常に近くに感じる。

 

――でもまぁ、神話の内容なんて殆ど人間と同レベルの事だったりするし(スケール以外)そんなもんなのかもな。

 

【選べ ①旧約聖書を全文朗読しながら三点倒立する ②新約聖書を全文朗読しながら三点倒立する】

 

三点倒立を止めてくれよ。疲れるからさぁ。

 

 

 

 

 

『いっやー!凄かったね、聖書朗読』

「ど、どうも…」

 

素で暗唱できたのは、一重に俺が俺だったからだろう(説明不足)

 

…ほら、聖書の一節って、漆黒のー、とか言ってる時期にどうしても触れちゃうじゃん?

俺は人一倍物覚えが良かったせいで未だに全文暗唱出来たってだけで。

 

『さて、ちょっと急な要件も入ってきたから手短に済ますけど……つまりね、君のその選択肢、まだ別の神が新しく送ってきてるって事なんだよ』

「…はい?それって…その、昼メロの神が送ってるわけじゃないんですか?」

『違うらしいよ。前任のさらに前の神の時…もしかしたらもっと前?からあるみたい』

「じゃ、じゃあその話を伝っていけばもしかしたら…」

『って、思うじゃん?…なんかね、途中から行方不明の神が出てきちゃって、正確な情報が得られて無いんだよ』

「ゆ、行方不明って…」

『ま、神も人も同じって事。―――じゃ、そろそろ『宇宙破壊爆弾』の完成を阻止しに行ってくるからー!バイビー』

「えっ、ちょっと!?―――ウソン」

 

電話はもう反応しない。

なんだか胡乱な兵器の名前を言っていた気がするが……果たして本当なんだかどうだか。

 

「あっ、ふぐ刺し食いに行かなきゃだな。―――ショコラ、もう準備は……おい」

「もぐもぐ……んむ?あ、たべます?」

「俺のなんだけど!?ねぇ俺のじゃがりこなんだけど!?」

「まぁまぁ、そうおこらず」

「何度目だよその宥め方!!」

 

【選べ ①ここは大人しく矛を収めよう ②許せん、俺のイライラしている矛で貫いてくれよう】

 

②は自重してくれ。マジで。

 

「……はぁ、さっさと行くぞ」

「あ、はーい!」

 

いつものように、嬉しそうに俺の隣に来たショコラに、ふと疑問を覚える。

 

…何でコイツ、俺と居るだけでこんなに嬉しそうにできるんだ?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は流れて翌日。

ロングホームルームにて、新入生歓迎会での催し物についての話し合いをしている。

 

え?奇行?

はははっ、選択肢が大人しい時なんて滅多にないぞ!

既にニ、三回話し合いの妨害になるような事をさせられた後だ。後は察してくれ。

 

「えっと…ほかに何か、意見がある人は…」

 

【選べ ①逆バニーガール喫茶 ②おっパブ】

 

もうやめて!?

なんでこの雰囲気の中で一番ドギツイのを持ってきたの!?

 

 

「…は、はーい…」

「……他にいませんかー?」

 

ついに無視されるようになったぞ俺。

でも委員長、ファインプレーだ。おかげで俺がより一層冷たい目で見られる事も無くな―――

 

【選べ ①宴先生の逆バニーについて熱く語る ②ショコラのおっぱいについて熱く語る】

 

あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ”!!

 

「…えっ?て、天久佐君…?」

「なんだよ、今度は何すんだ…?」

「さっきUFOとか言ってたし、ベントラーとかじゃね?」

「あんなにスベってもまだやるんだ…」

 

力強く立ち上がり、大きく数度深呼吸。

そんな俺を、教室内の全員からの心無い陰口が苛む。

だが、今はそれどころではない。

 

賢い選択肢は②の方だと思われるが、流石におっぱいについて話すのは不味い。

ただでさえショコラ関係で俺が疑われている(実際は何もない)のに、ここで自らおっぱいの話なんかしたらもう言い逃れはできなくなってしまう。

 

となると、①を選ばざるを得なくなるのだが……そう、しっかり宴先生が教卓付近に居るのである。

つまり、死。

 

覚悟は良いか?俺は出来てない。

 

「――――俺はッ!!宴先生による逆バニー喫茶を熱く要望するッ!!」

「…は?」

 

ざわついていた教室内が、一気に静まり返った。

ただ一人、先生だけが許容しがたいという風に結構素で聞き返しているが、それに対して反応することはできない。

 

まだ熱弁しきれていない判定なのだ。

 

「皆の言いたい事はよく理解できる―――だが考えてみて欲しい特に男子諸君ッ!!この合法ロリが、明らかにアウトな服を着て恥じらう姿をッ!!」

「宴先生が…?」

「顔真っ赤にして…?」

「逆、バニー?」

「でもどうせなら天久佐に着て欲しいよな…」

 

さ、最後が不穏だ……が、殆どの男子生徒は鼻の下を伸ばし始めている。

 

やっぱり日本人は皆ロリコンなんだ!!俺がそうであるように!!

よし、このままゴリ押せば行ける(そもそもの目的がない)ぞ…!

 

「バニーとロリ、それは古来より禁忌とされていた組み合わせの一つだ。大人びた、ムチムチボインな女性がするはずのバニーと、その対極と言っていいロリ…本来出会うはずの無い二つの属性が組み合わさった際の爆発力は、最悪死人が出る程だろう。その上逆バニーの方になんてしたら、少なくとも俺は死ぬ。―――だが、男なら死んでも一度は見たい景色が!ものが!きっとあるはずだ!!」

「そう、だよな…」

「天久佐ー!俺はお前に賛成だぜーッ!」

「お、俺もだ!!」

「ぼ、僕も!!」

「お前と宴先生でダブル逆バニーに一票!!」

 

だから最後ォ!!なんで俺に着させたがるんだよぉ!

 

「彼方にこそ栄えあり!宴にこそバニー!!今こそ叫べ野郎ども!逆バニーコールだァああああああッ!!」

「「「「「「逆バニー!逆バニー!宴先生の逆バニー!!」」」」」

「天久佐の逆バニィイイイイ!!」

 

だから最後…って阿邉かよぉ!お前だったのかよぉ!

 

ま、まぁそれはどうでも良い。

今は俺の作戦(特に何も考えてなかった)の大成功を祝おうじゃないか。

 

見ろ、先程まで俺を冷え切った目で見ていた連中が、こうして俺の考え(選択肢の考え)に賛同し、熱く盛り上がっている。

これだよ、この熱狂だよ。これこそ青春なんだよ。

 

女子たちはもう視線だけで殺してきそうだけど、それはもう気にしない方向で行くとし―――ぐぇっ!?

 

「て…天久佐テメェ!!調子乗ってんじゃねぇぞコラァ!!」

「ぎゃー!?絞まってる絞まってる!」

「そうだそうだー。宴先生に失礼だろー」

「お前一人で盛り上がりやがってー。許せんぞこらー」

「一回掘らせろコラ!」

 

こ、こいつ等!同志たちと呼ぼうと思ってたのに、俺が縊り殺されそうになった途端に手のひら回転させやがって!!

 

でも最後のやつだけブレねぇなオイ!もう俺をロックオンすんのやめろよ!

 

「ぎ、ギブギブ…マジでやべーですって…」

「……チッ、今回はこれくらいで許してやるが……次はねぇぞ」

「はぁっ、はぁっ……げほっ…あ、あい…」

 

【選べ ①ブルマ宴先生について熱弁 ②スク水宴先生について熱弁】

 

……あのさ、話聞いてた?

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ…天久佐君以外で、誰か何かありますか?」

 

結局スク水と宴先生について熱く語る事にした俺は、物の見事に首を絞められ、気絶させられてしまった。

今はなんとか復活しているが、意識がトんでる間は三途の川が見えた。

……俺、死にかけてんじゃん。

 

てか黒板に明かに異常なタイトルが二つあんだけど。

なにこの『ノリスケを探せ』と『臓物博覧会~雅~』の異物感。

俺が気絶してる間に何提案してんの?

 

「はいっ!」

「ショコラさん、どうぞ」

「だんしのみなさんが、水着でレスリングをすると面白いとおもいます!」

 

…いやいや何を言ってるんだコイツは。

確かに阿邉みたいな男好きは喜ぶだろうが、それ以外にノリ気になるやつが居る訳…

 

「しょ、ショコラちゃんが言うなら…」

「やってみてもいい、か…」

「喜んでくれるなら、やるか…」

「俺元々そういうの好きだし…」

「天久佐とやりてぇなぁ…」

 

いやなんでそこノッちゃうの!?てか阿邉枠まだ他にいたのかよ!?

 

「ショコラちゃん、良いアイディアありがと~」

「いや委員長も書かなくていいから……って『本格的♂ガチムチ水着レスリング』ってなに独自のタイトルつけちゃってんの!?」

 

なんかちょっと目が輝いているようにも見える。

まさか委員長も…?

 

【選べ】

 

えっ、またぁ!?

 

【①実に興味深い。実際に阿邊とやってみる ②宴先生の男水着チャレンジについて妄想。鼻血が溢れて何かを勘違いされる】

 

純粋にどっちも嫌なんだけど!?

だって①はもうアウトだし、②はなんか男同士のレスリングを想像して鼻血出したみたいじゃん!

 

「…お、おいアレ…」

「天久佐のやつ、鼻血出してるぞ…」

「やっぱ好きなんすねぇ、そういうの」

 

違うわ!と声に出して否定したいが、それだとまた先生に縊り殺しにされる…

 

引き気味の男子たちと、目を輝かせる女子たちに、半ば泣き出しそうになりつつため息。

すると突然、教室のドアが開けられ、誰かが教室内に入ってきた。

 

「きゃーっ!獅子守先輩よ!」

「歩く姿もカッコいいー!」

「あっ!今、目があった!」

「抱いてー!」

「抱かせろぉおお!」

 

いや最後誰だ!?阿邊じゃなかったぞ今の男!

 

…まぁそれはさておき。

黄色い声援と共にこの2年1組の教室に入ってきたのは、男の表ランキング第一位のイケメン、獅子守想牙だ。

かつてスポーツ大会で熱く戦って以来、俺の事をライバルとして見ているようだが…まぁ、好敵手の方のライバルだろうし、悪く思われてるわけではないか。

 

「悪ぃな姉御。ちょっと時間借りるぜ」

「姉御じゃなくて先生って呼べっつったろ」

「お、おぉう。すまねぇ」

 

すげぇなあの人。宴先生のこと姉御って呼んじゃったよ。

縊り殺しなんていう二つ名前の持ち主だってのに…すげぇや。

 

【選べ ①「そうだそうだ!宴姉は俺だけの姉ちゃんなんだ!」と怒る ②「そうだそうだ!宴ママは俺だけの母ちゃんなんだ!」と怒る】

 

俺にはそんなすげぇことできねぇなぁ…って思ってたんだけど?

なんでもっとやべーの持ってきてんの?なに?対抗心?

 

「……そ、そうだそうだ!宴姉は俺だけの姉ちゃんなんだ!」

「て ん きゅ う さ…?」

「ヒィッ!?ち、違うんです先生!これは罠です!」

 

【選べ ①「粉バナナ!」 ②「これは青酸カリ!」】

 

キラじゃねぇよ!

でも②だとマジで青酸カリ舐めさせられるんだろうなぁ…選択肢が提示してきてるやつだから、死ぬことはないだろうし…こっちは選べねぇな。

 

「粉バナナ!」

「は?」

 

【選べ ①「これはニアが僕に仕込んだ巧妙なバナナ…!」 ②自分のバナナをしゃぶらせる】

 

いや宴先生が殺意の波動に目覚めてんのにまだふざけさせんの!?

でもそれ以上に②がアウトなんだよなぁ…

 

「これはニアが僕に仕込んだ巧妙なバナナ…!」

「天久佐」

「アッ、ハイ」

「―――後で指導室、な?」

「アイアイマム」

 

それは紛れもなく死刑宣告だった。

少なくとも、このロングホームルームの後は俺の死が待っている。

 

――あれっ?どうせ長生きしてもいい事無いし、良い事なのでは?

呪い解除とか、なんかもう無理ポだし。

 

そう考えると楽しみになってきたぞ、ひゃっほぅ!

 

…とはならないんだよなぁ…どうせまた【①死なない ②死ねない】みたいな選択肢が出て来るんだろうなぁ……気が重い。

 

「…なんつーか、相変わらずだな天久佐」

「ははは、否定できないのが何よりも悲しい」

 

【選べ ①「私は悲しい」と言ってハープを鳴らす ②「私は悲しい」と言ってボロンする】

 

お前も相変わらずの品の無さだなぁ!

 

「私は悲しい…」

「…そのハープどこから出したんだ…?」

「あ、それはお気になさらず」

 

そりゃ気になりますよね。いきなりハープなんて持ちだしたら。

でも選択肢による事象ですし、何とも言えないんですよね。

 

「あっ、イケメンのライオン先輩だ!」

「ら、ライオン…?」

「獅子守、だからじゃないっすかね」

「そ、そうか…?」

 

先輩(尚且つ表ランキングの王者)相手にフリーダムな遊王子に、一周回って…いや、いっそ三周回って尊敬の念すら覚える。

 

もうお前すげぇよ。国宝級だよ。

 

「一度でいいから見てみたい、女房がライオン隠すとこ。ふらのです」

「何故歌丸さんテイスト」

 

お前も国宝級じゃねぇか。

二人でお笑い芸人やったらウケるんじゃねぇの?

 

「あれー?ライオン先輩はあんまり?」

「いや当たり前だろ。何先輩の事動物に例えちゃってんの?」

「じゃあトラ?」

「ネコ科ってとこしか一致してねぇよ」

「ならチーター!」

「ラトラーターじゃねぇんだよ」

 

【選べ ①「ハッピーバースディ!!」 ②「プテラ!トリケラ!ティラノ!」】

 

何故プトティラをピックアップしたんだお前。

もっとあったろ、ガタキリバとか。

 

「プテラ!トリケラ!ティラノ!」

「およ?もしかして天っちも特撮好き?」

 

まぁ好きだな。少なくとも毎週日曜日は必ず見てるし。

…あっ、ウルトラの方最近見れてねぇな。今度見るか。

 

【選べ ①「通りすがりの仮面ライダーだ」 ②「ゴーカイチェンジ!」】

 

普通に『特撮好きだぞ』って返事でよかったと思うんですけど。

なんで態々破壊者か海賊をやらなきゃなの?

 

「通りすがりの仮面ライダーだ」

「やっぱり!いやぁ、あたしも好きでねー?」

「あ、あー…盛り上がってるとこ悪いが…」

「あっ、そうだった!ラトラーター先輩でいい?」

「ら、ラトラーター?」

「駄目そうね遊王子さん。ならここはひらがなにして省略して、『いけおん』なんてどうかしら」

 

いやアウトだろ。

『いけめんならいおんせんぱい』を略するのはまぁ悪くないだろうけど、それじゃ明らかに……

 

【選べ ①カスタネットを持って「うん たん♪」と言う ②必殺技の練習をする】

 

『けい●ん!』じゃねぇか!

 

「うん たん♪うん たん♪」

「流石ね天久佐君。見事な『けい●ん!』じゃない」

「なんだその見事な『けい●ん!』って」

「―――なぁ、天久佐。そろそろ…」

「あ、はい。ごめんなさいね待たせて」

 

【選べ】

 

まーだ伸ばすんですかそーですか。

で、今度は何?

 

【①「そんなくだらない話より、おっぱいの話をしましょう」 ②「そんなどうでもいい話より、ちっぱいの話をしましょう」】

 

まだなにも話していないだろ!

 

え、えぇ…くだらないっていうよりもどうでもいいって言ったほうがまだマシかな…ちっぱいの話になっちゃうけど。

 

「…で、だな」

「そ、そんなどうでもいい話より、ちっぱいの話をしましょう」

「は、はぁ?」

 

うわ、露骨に距離をおかれちゃったぞ…まぁこれで普通に話に乗ってこられても困るけどさぁ。

 

言わなくてもわかるだろうが、他の生徒たちもしっかり俺から距離を離している。

もう気にしないけど気にするんだよね、これ。

 

「はい、失礼しまーす」

「あ、あの人って…」

「表ランキング一位の、黒白院先輩…!?」

「す、すっげぇ綺麗だなぁ…」

「生の生徒会長初めて見たわ…!」

 

どう言い訳しようかと考えていたその時、教室内に落ち着いた声が響いた。

クラスメイトの言葉の中にあった通り、表ランキングの一位にして生徒会長、黒白院清羅の声だ。

 

ゆっくりとこちらに近づき、何を考えているのかよくわからない微笑(皆はその微笑にときめくらしいが、俺にはよくわからない)と共に口を開いた。

 

「遊王子謳歌さん、雪平ふらのさん…そして、天久佐金出さんですね?」

「そういう貴方は」

「ジョナ●ン・ジ●ースター」

「いや何連携プレイでデ●オしてんの?」

 

【選べ ①「いいおっぱいしてんねぇ!この後お茶でもどう?」 ②「いいパイオツしてんねぇ!この後お茶でもどう?」】

 

「いや選べるかッ!」

「何をいきなり叫んでるんだお前…」

「あ、いえなんでも…痛てて、わかったから…」

 

全員が訝しむように…いや、宴先生だけは可哀そうなものを見る目で見てきてるな。

後は…なんでかよくわからんが、黒白院先輩はあまり訝しむような目をしてなかった。

なんでだ?

 

「い、い……いいパイオツしてんねぇ!この後お茶でもどう?」

「ふふふっ、ごめんなさい?」

「予想外の反応!?」

 

はっきりと拒否せずに、わざわざ質問するかのような言い方をしているところがなんというかあざとい。

まだ可能性はありますよ~と言っているように感じさせる口ぶりと態度だ。

 

まぁ別に黒白院先輩にそう言った感情があるわけでもないし、どうでもいいんだけどね。

 

「あ、あいつ…」

「あの黒白院会長にパイオツって言ったぞ…」

「最近聞いたんだけど、あの柔風に「パンツ見せろ」って言ったらしいぜ」

「まじかよ。表ランキングでも関係無しか…」

「あ、それ知ってる。確かM字に開脚しろって命令したんだっけ?」

「変態…」

 

そしてクラスメイト達はいつも通りだった。

違うんだって。俺の意思じゃ無いんだって。

 

「痛っ!?ちょ、なんで蹴ったんだよお前!?」

「……偶々足が当たっただけよ。自意識過剰ね」

「偶々で済ませて良い距離じゃないと思うんだけど!?」

「タマタマなんて……とても乙女に、それも昼間から言う言葉じゃないわよ」

「そういう意味じゃねぇから!ていうか先に偶々って言ったのお前だろ!?」

 

何故コイツは若干不機嫌そうなんだ?

別に俺がパイオツと言おうが、自分に言われたわけでもないんだから気にしなくていいと思うんだが…

 

「…話を戻してもいいですか~?」

「あ、はい…それで、何でしょう?」

「あぁ、俺達は…」

「新入生歓迎会の最後に行われる、『対抗戦』の参加についてお話しに来ました~」

「…対抗戦?」

「覚えてるだろ?去年もやってたからな。―――お断り5と表ランキングから各五名ずつ選抜し、一対一(サシ)でやり合う。最終的に勝利数の多かった方が勝つっていうヤツだが…」

「あ、あー…」

 

あれは今でも覚えている。

数年前のバラエティでやっていたような対決をやっていたなぁという事と、お断り5と呼ばれている人たちが奇行に走り、やりたい放題していたという事は忘れられそうにない。

 

――昔は、見てる側だったんだけどなぁ…

 

というかそうか。対抗戦ってコレの事か。

なるほどなるほど。参加者…つまり、お断り5の女子か、表ランキングの女子のおっぱいを両手で揉めばいいのか。

 

「いや出来るかッ!」

「な、なんだよいきなり…」

「あ、いえこっちの話です。―――それで、誰が参加するんです?どっちも十人ずついるハズですけど」

「あぁ。こっちはもうくじ引きで決まってる。俺もコイツも参加することになってな……後はそっちのくじ引きが終われば、だ」

「なるほど……因みに、俺達の前に『あたり』を引いた人って誰がいるんです?」

「三年の夢島カラスさんだけですよ~」

 

…夢島カラス先輩は、お断り5の中でも屈指の変人として有名な男だ。

俺に劣るとも勝らないと言われているらしいし、相当なのだろう。

―――いや、俺が最強と言うのが何よりも屈辱なんだが。

 

【選べ】

 

そういえばさっき獅子守先輩に『どちらも十人』と言ってしまったが、お断り5の方は一人卒業したせいで九人だった。

だからなんだって話なんだけどさ。

 

―――で、なんだよ今度は。

 

【①天久佐金出こそが最強。ブリッジで天井に張り付き、首を振りながら奇声を発する ②天久佐金出こそが最強。道楽宴に本気の戦闘を挑む】

 

いや重力に抗うなよマジの【変態】じゃねぇか!!

――でも宴先生に挑んでもなぁって感じなんで、普通に①にします。

 

「ぎびげびぇびぇびゃあ!!」

「きゃあああ!?」

「じゅ、重力に逆らってやがる!!」

「気持ち悪っ!?」

「もうお前が最強でいいから!」

「誰もお前には敵わねぇって!夢島先輩に対抗心燃やさなくていいから!」

 

なんで選択肢の意図を汲んでんだよお前ら!

この奇行から『自分が最強であることを示したがっている』ってよく気づけたな!

 

「―――そういえば」

「いきなり冷静になるのか…」

「先輩。もう気にしないようにしないでください。―――で、夢島先輩だけって話をしてましたけど、もう他の人達は引いたって事なんですか?」

「あ、あぁ…まぁ、そう」

「さぁ~?どうでしょうね~?」

 

獅子守先輩の言葉を遮るようにして、黒白院先輩が俺の方へ一歩近づいてきた。

…いや別にそこまでして遮る程の内容じゃないと思うんですけど。ただの返事だったと思うんですけど。

 

――どーせ全員引いてて、全部『あたり(はずれ)』くじなんだろうけどさ。

 

「…もういいです。さっさと引かせてください」

「あら~、随分とやる気なんですね~」

「あはは……まぁ、色々とあるんですよ。色々」

「ふーん……では、はい。引いてください~」

 

そう言って、ポケットの中から三つのくじを差し出してくる会長。

オチを察している俺は勿論、雪平も遊王子もあまり逡巡する事無くくじを引いた。

 

―――言わなくてもわかるだろうが、そのくじの先端にはしっかり赤色が付いていた。それも全員。

 

【選べ ①これで遊王子や雪平のおっぱいを揉む理由が出来た。後先考えずに鷲掴みしよう ②そんな酷い真似はできない。取り敢えずパンツの色を聞こう】

 

馬鹿なのか!?

①はまぁ、特殊ミッション云々があるからまぁわからなくもない。選ばないけどな?

 

だが②、お前は何を言ってるんだ。

そんな酷い真似はできない、と言うのは全面的に同意するが、その取り敢えずパンツの色を聞こうというのはなんなんだ。

おっぱいは駄目でパンツはありなのか。

 

―――まぁ、直接行動しない分まだマシだし、②にするけどさ。

 

「なぁ、遊王子、雪平」

「ん?なぁに?」

「なにかしら」

「―――今穿いてるパンツ、何色?」

「……答えると思っているのかしら?私はあくまでパイオツの伝道師。所謂電動マッサージ機よ?そんな卑猥な話をするわけないじゃない」

「黒だよー?」

 

訳の分からんことを言う雪平と、何も気にすることなく色を言ってのける遊王子……そしてドン引きするクラスメイト達。

うん、いつも通り―――って、ちょっと待て。

 

「なぁ遊王子」

「んー?」

「お前、パンツ見られるの恥ずかしがってただろ?なのに色を教えるって…」

「あ、それ?―――ふふーんっ。なんと、あの日からスパッツを穿くようにしているんだよっ!」

「だから見られる心配は無いし、色くらいは言っても見られたことにならないってか?」

「うん!あ、スパッツ見る?」

「見ねぇよ!!」

 

【選べ ①「パンストなら見る」といって、パンストの着用を促す。鼻の下も伸ばす ②「遊王子のよりも、こっちの方が気になるな」と言って雪平かショコラのスカートを捲る。好感度がこれ以上ないってくらい下落する代わり、かなり上昇する】

 

ゆんやああああ!

どぼじでごんなごどずるのぉぉぉぉ!!

 

…いや、②のこの『下落する代わり上昇』ってなんだよ。下がって上がるのかよ。

選ばないけどね?

 

「…パンストなら見る」

「おー。欲望に正直ですなぁ…あれ?ガーターベルトが好きって言ってなかったっけ?」

「どちらかと言えばパンストの方が好きだ」

 

あ、それはマジです。

ガーターベルトも良いけど、やっぱりパンストだよね。

 

…おっと女子生徒諸君、そんな露骨に距離を取らないでくれたまえ。

別にパンスト女子に興奮すると言っているわけでは無く、ただただそういう性的嗜好があるというだけの話だからね。

見るたびにギンギンな訳ないじゃないですかやだー。

 

「…なるほど、パンストね…」

「何がなるほどなんだよ…」

「ウェイッ!?なんでもないよっ!?」

「…まぁ言いたくねぇならいいけど」

 

なんかの統計でも取ってんのか?いずれにせよ俺には関係ねぇだろうけど。

 

「―――さて。これで両チームとも出場者が決まりましたね~」

「…いや、こっち一人足りなくないですか?」

「それは一年から助っ人を呼ぶ枠だ。お断り5の枠は全部埋まってんだよ」

「あ、なるほど……っていやいや!お断り5なんて不名誉な称号の持主の助っ人やりたがるヤツなんていませんでしょうよ!」

「まぁまぁ、最悪見つからなかったらこっちの助っ人枠も無しにして、四対四でやるからよ」

「ですが、ちゃんと探しておいてくださいね~?」

 

一応助っ人が見つからなくても大丈夫…らしいが、どうも黒白院先輩を見ていると不安になる。

この人、本当に何も読めないんだよな……時々猛禽類みたいな目で見て来るし。

 

「金出さん!なんだかおもしろそうですねっ!」

「ははは~!これが面白いと思うのかコイツめ~!」

 

他人事だと思ってからに……いや実際他人事なんだろうけどさ。

 

菓子を貪りながらこちらに来たショコラに、目の笑っていない笑顔を向けるが、全く気にする様子はない。

…くっ、学業補助ペットだからってお前…

 

「っておい、ショコラ。口元汚れてんぞ」

「え?」

「はぁ……ちょっと待ってろ」

 

ハンカチを取り出し、口元を拭いてやる。

――チョコレートが付いてたのか。まぁ拭き取ったしこれでいいが。

 

拭き取って視線をショコラから離すと、何故か教室内が静まり返っていた。

全員の視線がこちらに向けられているし、また何かやらかしたことになってるんだろうが……

 

「あの、待ってください。誤解です。ただショコラの口元にチョコレートが付いてたから拭き取ってやっただけなんです」

「……いや、天久佐」

「だから違うんですって!!そりゃさっきまで奇行に走ってたのはそうですしパンツだのパンストだの言ってたのも事実ですけど、マジでそういうのじゃなくってですねぇ!!」

「落ち着けって……別に、そういう意味で黙ってたわけじゃねぇだろうしよ」

 

じゃあ一体どういう意味なんだ…

あーでもやっぱり聞きたくねぇ。予想よりも悪い結果を出されたらマジで困る。

 

―――はぁ。お断り5だなんてレッテルが無ければ、口元拭いてやるだけで皆が黙るような事も無くなるんだろうか。

そのためにはまずこの奇行の発生源を何とかしなければなんだが。

 

「ねぇ天久佐君」

「なんだよ雪平」

「口に性的興奮を覚えるのは別に悪い事とは言わないけれど、流石に白昼堂々発情するのはどうかと思うわ」

「いやだから違うって言ってるだろ!?」

「ならなんでいきなりショコラさんの上の口を責めたりなんてしたのかしら」

「言い方ァ!!―――だから、口元にチョコレートが付いてて」

「ス●トロをチョコレートと言って誤魔化すなんて、中々策士ね」

「だから違うって!!そんなマニアックな事しねぇから!!」

「ならノーマルなら」

「するような相手が居ねぇんだよ!!……って何言ってんだ俺!?」

 

くっ、全て雪平の掌の上という事か。

これ以上は墓穴を掘るだけだろうし、何も言わないようにしよう。

 

【選べ ①「だから雪平、一晩でいいから抱かせてくれ」 ②「だから獅子守先輩、一晩でいいから抱かせてください」】

 

何も言わないようにしようって言いましたよねぇ!?

 

え、えぇ…どっちもアウトだけど、さすがにホモ扱いまでされるようになったら完全にアウトだからなぁ…雪平には申し訳ないが、ここは軽い冗談とでも受け取ってもらおう。

 

「だから雪平、一晩でいいから抱かせてくれ」

「……ごめんなさい。EDとスるつもりは無いの」

「勃起不全じゃねぇし!」

「何を言っているのかしら。私はただエンディングテーマという意味で言っただけよ」

「いやそれにしたっておかしいだろ!?なんだよエンディングテーマな人って!」

「あなた、人だったの?」

「純然たるホモ・サピエンスだわ!」

「ほもですかっ!?」

「そのホモじゃねぇ!」

「ホモなのっ!?」

「違う…って委員長も腐ってるのかよ!?」

「て、天久佐!!」

「お前は俺のそばに近寄るなぁ!」

 

今のは俺の言葉選びも悪かったな。

普通に人間って言えばよかったのに、何故ホモ・サピエンスと言ってしまったんだ…

 

目を輝かせながら近づいてくる腐女子2名と阿邊に、言いようのない危機感を感じる。

主に下半身の。

 

「…ったく、なんでショコラの口元拭いてやっただけでこんな事になんだよ…」

「あぁ、その子がショコラさんなんですね〜?」

「?はい!ショコラです!」

「あらあら〜、とっても可愛らしいですね〜。まるで…」

 

一度言葉を切り、黒白院先輩は俺の方へ視線を向けた。

…俺がこの人を胡乱に思っている原因である、あの猛禽類のような眼で。

 

「…まるで、人間じゃ無いみたい」

 

心臓が止まったかのように感覚。

背骨が大きな氷柱に差し替えられたかのような寒気と、普段から軽々しく口にしている物とは段違いの『死』の予感。

 

緊張したり恐怖したりすると、人は汗を流すというが、あれは嘘だと思う。

だって、今までにないくらいに恐怖と緊張を感じている俺は、今全然汗が出てきていないんだから。

 

…汗が出てこない程に強張っている、という事だろうか?

 

「―――な~んて、冗談です~」

 

…冗談、ね。

果たして本当にそうなんだか…

 

【選べ ①「ほんとぉ?」 ②「これマジ?」】

 

聞かなくていいから!それに何でソレで聞かなきゃなんだよ!

 

「ほんとぉ?」

「本当です~」

 

…良かった。さっき感じた命の危機は感じなかった。

 

いやぁ、流石に死んだと思ったぜ。まぁこれからお断り5か表ランキングの女子の胸を揉む(死にに行く)んだがな。

 

HAHAHA!―――って、あ?メール?

 

《呪い解除ミッション 対抗戦終了までに、参加者女子全員から好きと言われる》

 

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 

本来人間が出してはいけない声を出しながら、俺は厳しすぎる現実からそっと離れるのだった。




IFルート【②許せん、俺のイライラしている矛で貫いてくれよう】


「……まじ、か」
「はいっ!」

思考がまとまらない。
視界が若干眩んでいるように感じる。
だって、その重みはとても一介の男子高校生には重すぎるのだから。

―――あの時選んだあの選択肢のせいで、俺はある危機に瀕していた。

「……えっ、本当なの?」
「そうです!しっかり『居ます』よ!」

この際だから遠回しな言い方とかは全くせずに、事実だけを伝えよう。

―――ショコラに、俺との子供ができた。

「ま、マジか……おいおいおい、マジなのか…」

眩暈がする。
だって、子供?こちとら自分で金を稼いだことすらない男子高校生だぞ?
それだというのに、両親不在の時に連れ込んだ身元不明の金髪美少女を、孕ませた?

…乾いた笑いしか出てこない。

「……だいじょーぶですか?金出さん」
「……あぁ、大丈夫じゃない…けど」

一度言葉を切り、覚悟を決める。

まさかあの時の一回がクリティカルになるとは思わなかったが、そうする選択をしたのは元々俺だ。

―――なら、俺のすべきことは一つだろう。

「――責任はとる。俺なんかで良かったら、その子と一緒に家族になって欲しい」
「―――はいっ!」

平素と変わらぬ笑顔を見せたショコラを見て、俺はどう親を説得しようかと頭を働かせるのだった。


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①俺の幼馴染が妹で修羅場すぎる ②俺の妹を自称してるのはお前だけかよ

おっぱいとシリアス、そして妹というお話。


あのくぁwせdrftgyふじこlp事件の後(あまりに奇声過ぎて、今までの中でも結構本気で引かれた。数名程意味を知っているヤツが居たのが救いか)諦めと共に帰宅し、約束通り燻製料理を作りながら現在の状況を整理してみた。

 

まず俺は、なんかよくわからん神のせいで呪われていて、絶対選択肢が脳内に出てきている。

その呪いの解除のためのミッションがその神から送られてきていて、それを成功させ無かったら絶対選択肢は永久不滅になる。

特殊ミッションという呪い解除ミッションとは関係のないミッションを失敗しても、勿論社会的な死を迎える。

 

ミッションクリアをサポートするために俺に送られてきたのがショコラらしく、その理由が『俺がハイスペックすぎるし、異能バトルモノの世界観じゃないし、これでいいか』というふざけた物だったらしい。

ショコラはショコラで記憶喪失だとかアホの子な性格のせいで言いたくないが役に立たず、ほぼ自力で何とかするしかない。

 

―――そして、そんな失敗が許されないミッションが二つ…『美少女(性格だとか素行だとかは気にしないものとする)のおっぱいを両手で揉み、尚且つ対抗戦の参加者(女子)全員から好きだと言われる』なんていうぶっ飛んだものとして提示されている←今ここ

 

「いや無理ゲー!!今度こそ本当に無理ゲー!」

 

お断り5からの参加者女子は雪平と遊王子のみらしく、表ランキングの方は獅子守先輩と黒白院先輩…そして柔風と麗華堂だそうだ。

 

はい、もうこの時点で暗雲たちこめちゃってますね。

俺の人生バッドエンド確定演出入ってますねコレは。

 

「まぁまぁ、そんなにあせらなくても」

「焦るわ!だってお前、好きって言われるだけでももうハードルクソデカだってのに……挙句一人のおっぱいを両手で揉むんだぞ!?両手で!!」

「まぁまぁ…それはこの本をよめばかいけつすることまちがいなしですよ!」

「―――またUOG出版じゃねぇか!」

 

読まん、今度こそ読まんからな!

だって、タイトルからもうおかしいじゃん。

何この『女の子のおっぱいをいっぱい揉むいくつかの方法~これで君もパイオツだ~』って。

 

おっぱいといっぱいの話はもう小学校で卒業しとけよだし、いくつかって適当なのもなんか気になるし、何より……なんでパイオツマスターじゃなくてパイオツそのもの何だよ!!

 

【選べ ①仕方がないので、びっくりするほどユートピアを自室で行ってから読む ②誰かのパイオツになる】

 

びっくりするほどユートピアってあれだろ!除霊のやつだろ!

 

―――えぇ…部屋の中でとは言え、全裸になって尻叩きながら白目で叫び続けるって……

 

「…けどパイオツよりかマシか…なぁショコラ」

「はい?」

「…後一時間くらいでいい感じになるから、それまでこれでも食べながら様子を見といてくれ。俺はちょっとやらなきゃいけない事があるんだ」

「やらなきゃ、いけないこと……なるほど、わかりましたっ!」

「良い返事だ。―――行ってくる」

「ザクザク…ひゃい、いってらっひゃい!」

 

じゃがりこを早速頬張って俺を見送るショコラから視線を外し、部屋(死地)に向かう。

 

―――やってやるか。渾身の『びっくりするほどユートピア』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ、はぁ……ただいま」

「あ、金出さん!おかえりなさいですっ!」

「ははは…なんだろ、すっげぇ癒されるなぁこの純粋な笑顔」

 

俺が欲しかったのは、案外こういうマスコットだったのかもしれない。

なら神に感謝だな。こんな底抜けに明るい奴を俺に与えてくれたのは、突き詰めれば神なのだから。

 

「えへへ~…いやされるなんて、そんな~」

「そういう所がなー……さて、さっさと読むか」

「あ、どうぞっ」

 

ショコラが手渡してきた本を開き、早速読み始める。

 

『始めに。女の子のおっぱいを揉みたいだなんて、夢見過ぎじゃ無いですか?』

「うるせぇよ!余計なお世話だよ!」

『でも私なら、夢を現実にさせることが出来ます。さぁ!貴方もモミモミキングに!』

「なんだそのマッサージのプロフェッショナルみたいな言い方ァ!」

『その1。おっぱいを要求する前に、それ以上の要求をする』

「あー…なんだっけ、ドア・イン・ザ・フェイスだっけ?」

『具体例。「ねぇ、セッ●スさせてよ。勿論ゴム無しで。――え?駄目。はははっ!冗談冗談、おっぱい揉ませて?」』

「一気に無理っぽいな!」

『補足。実際にやってみましたが、旦那の方にボコボコにされました。極道の妻に手を出すのは良くないですね』

「いや何やってんだお前!?」

『その2。同時に複数の選択肢を出す事で、相手がおっぱいを揉ませることに抵抗を覚えないようにする』

「無理があるだろ…」

『具体例。「今度の土曜か日曜におっぱい揉ませてよ」→「土曜か日曜かぁ…」』

「そうはならねぇだろ!」

『補足。これまた試しにやってみましたが、何故か駄目でした。どうしてでしょう?』

「おっぱい揉ませての時点でアウトなんだよ!」

『その3。訳を言う』

「はぁ?」

『解説と具体例。人は理由を言われるだけで許諾する確率が二倍になります。例えば「おっぱい揉ませて!揉みたいから!」』

「0は何かけても0だよ!!」

『その4。ダチョ●倶楽部のアレ』

「…押すなよのやつか?」

『具体例。「揉ませるなよ?――絶対揉ませるなよ!?」』

「なんでそれでいけるって思ったんだよ!?」

『その5。錬成』

「……錬成?」

『解説。水35ℓ、炭素20g、アンモニア4ℓ、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素があれば、いくらでもおっぱい揉み放題の女の子が作れます』

「禁忌じゃねぇか!!」

『補足。試しにやってみましたが、弟は全身を、僕は右足を持っていかれました』

『なんで立ち上がる為の足が無くなってんだよ!?そこは揉むための手を持ってかれとけよ!―――つーか兄弟で何やってんだ!?」

『追加説明。弟の魂を鎧に定着させたら右腕が持っていかれました。現在賢者の石を求めて旅をしています』

「なんでさっきからハ●レンの話してんだよ!?」

『その6。自然な流れで言う』

「おっぱい揉ませてって言っても自然な流れってなんだよ…」

『具体例。「今日は晴れだね」→「うん」→「こんな日はどこかに出かけたいね」→「うん」→「元気?」→「うん」→「おっぱい揉ませて?」→「うん」』

「なるかッ!!」

『補足説明。実際にやってみましたが、よくよく考えれば僕にそんな会話のできるウィ●リィはいませんでした。人生半分の等価交換は何処へ……』

「知らねぇよ!ってかまだハガ●ン引っ張ってたのかよ!?」

『その7。香水のせいにする』

「いや若干流行り乗り遅れてるからな!?」

『具体例。「別に揉むのを求めてないけど、そこに居られると思い出す。君の大きくて柔らかそうなおっぱいのせいだよ」』

「ただの替え歌じゃねぇか!最後まで香水出てきてねぇし!」

『その8。サブリミナルを利用する』

「はぁ…?」

『具体例。「モ マ セ タ イ ン ダ ロ コ ノ otu ぱい オ ン ナ」』

「アシタ●ワダイじゃねぇか!!アウトだよ色々と!」

『その9。押して駄目なら引いてみる』

「確かにそのフレーズはよく聞くけど…」

『具体例。何度も何度もしつこく「おっぱい揉ませて」と頼み、しばらくの間何も言わずに過ごし、再び頼んでみる。―――揉める』

「ねぇよ!!」

『その10。彼女を作る』

「出来たら苦労しねぇよ!!」

 

最後の文章を見た俺は、自然と本を地面にたたきつけていた。

 

―――というか、結局十個までなんだな。

…で、付録は立体マウスパッド自作キットか。これでおっぱいマウスパッドを作れとでもいうのだろうか。

 

「……くだらねぇー」

「あ、金出さん!そろそろじゃないですか!?」

「そうだな。食器の用意、しておいてくれるか?」

「はいっ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「遊王子ッ!!」

 

朝の廊下で、周りの迷惑だとか自分の風評だとかを微塵も気にしないで叫ぶ。

相手は勿論遊王子謳歌。俺と同じお断り5のメンバーだ。

 

「んー?どしたの天っち?」

「…お前、俺の事……人として、好きか?」

「うん。好きだけど?」

「よっしゃァ!!」

 

ガッツポーズ&喜びの叫び。

 

何故そんな事をしているのかって?おいおい、言わなくてもわかるだろボーイ…もしくはガール。

―――呪い解除ミッションだよ。

 

《遊王子謳歌 クリア》

 

ヨシ!(現場猫)

 

俺のひらめきの結果、好きと言うのは別にラブに限った話ではなく、ライクと言われる方でも良いという事に気づいたのだ。

何なら『隙』でも良い気はするが、まぁそれは最後の手段にとっておくとして。

 

「…ありがとな遊王子!おかげで助かった!」

「……天っち、あたしに好きって言われてすっごい喜んでた…?って事は…

「――ん?どうした遊王子、顔赤いぞ?」

「うひぃ!?な、なんでもないよっ!?」

「うひぃておま……まぁ何でもないならいいけどよ。じゃ、また後でなー!」

 

なんかちょっと様子が変だった気がするが、本人が気にするなと言っているので気にしない事にした。

 

―――よしよし、この調子なら問題ない。ちょっと難易度高めの奴が数人いるが、何とかなる…だろう。うん。

 

後はおっぱい揉み問題を何とかすれば、俺の勝ちだ!

…まぁそれが最大の問題なんだけどさ。

 

「お、雪平だ。―――おーい、雪平ー!」

「……なにかしら」

「あっはは…いや、ちょっとな。―――なぁ、俺の事、人として好きか?」

「えっ…天久佐君、あなた…人間だったの?」

「そのくだりつい昨日やったばっかりだろうが!!――じゃなくて。もう最悪人間扱いされてなくても気にしねぇから、好きかどうか教えて欲しいんだが…」

「そんな事…言える訳、無い」

「いやそんな深刻な話ではなく…」

 

確かに俺からしたらかなり深刻な問題だけど、そんな雪平が深く考えるような問題ではないと思うんだが…

 

「……その…私は、私は……」

 

……なんだ、これ。

 

頬をほんのり赤く染め、視線をあちらこちらに移動させながら発言を躊躇するその姿に、心臓が高鳴った。

―――これって、まさかときめき―――?

 

「あなたの事……――――嫌いよ」

「ごはっ…!?」

 

違った。全然そんな事無かった。

 

…でも、やっぱりおかしいぞ俺。

なんで雪平に嫌いって言われた時だけこんな血反吐吐いてんだ?

 

いっつも教室内の連中とか学校内の連中とかから言われてる事だってのに。

 

【選べ】

 

そしてここで来るのか君は。

なんだよ。人としてすら嫌われている俺を嗤いに来たのか?

 

【①「そっか…俺はお前の事、結構好きだけどな」 ②「マジですか?えっ、俺ずっと雪平の事盗撮して、あのーあれなんすよ。待ち受けにしてたんですよ。マジでショックです!!まぁでも、ヤらせてくれるなら…OKです」】

 

ファンの鑑のセリフすら、選択肢の手にかかればこんなクズ野郎の発言に早変わりするんですね。

これは酷い。

 

「そ、そっか……俺はお前の事、結構好きだけどな」

「すっ!?――――ごめんなさいっ

「え、あーちょっと!?……行っちまった…」

 

雪平が走り去って行ってしまい、後には何とも言えない顔をして佇む俺だけが残った。

―――え、でもマジで結構ショックだったな。なんでだろ?

 

【選べ ①試しに遊王子に嫌われた時のシミュレーションもしてみる ②実際にこの世に存在する知的生命体全てから嫌われる】

 

②の内容重すぎんだろ!?

…まぁ、試しに遊王子から嫌いと言われた時を考えてみる、か。

 

『なぁ遊王子。俺の事人として好きか?』

『えっ?嫌いに決まってんじゃん。何言ってんの?』

「ごはっ…!?」

 

再び喀血。

―――なるほど、遊王子でも駄目なのか。

 

つまりこれはアレか。雪平が好きとか遊王子が好き(どちらもラブの意味)とかではなく、単純に仲が良いと思っているヤツから嫌われるのは辛いというだけか。

うん。そう考えれば合点がいく。

 

【選べ ①ついでにショコラから嫌われた時のシミュレーションもしてみる ②ついでにこの世界そのものから嫌われる】

 

だから②重すぎるんだって。

なにその世界という概念からも嫌われるって。

 

『なぁショコラ』

『はい?』

『俺の事、人として好きか?』

『いいえっ!だいきらいですっ!』

「ごはっ…!?」

 

再三喀血。

なるほど、ショコラ相手でも喀血するのか。

 

まぁアイツはアイツで俺と仲いい感じだしな。実際アイツがどう思ってるかは置いといて。

俺の仮説は正しかったって事だ。

 

「―――いや雪平に嫌われてんの普通にショックなんだけど!!?」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、居た。おーい、ショコラー!」

「…あっ、金出さん!」

 

あの後教室に戻ってもショコラが居なかったので探していたのだが、何故か知らんが一年生の女子たちに囲まれて可愛がられていた。

 

―――ま、ショコラは可愛いし。癒されるからなー……まぁアニマルセラピーみたいな感じだけど。

 

「まーた随分と貰ったな」

「えへへー!どれもおいしそーです!」

「そーかそーか。―――もうすぐで授業だし、とっとと教室戻るぞ」

「はいっ!」

「……ねぇ、聞いた?金出さんって…」

「もしかしなくても、『最強の変人』天久佐先輩…?」

「わ、私会った事ある……普段はね、すっごい良い人なんだよ…?」

「でもこの前豚の鳴き真似してたよね…」

「―――あれがお断り5最強の男…」

 

背後から聞こえる女子たちの声は全部無視。

…え?コレ?目から組織液が出ただけだよ。

 

【選べ ①爽やかに、ショコラにお菓子をくれた事の礼を言う。二分の一の確率でねっとりした感じになる ②全裸で荒縄に縛られながら、全員に踏んでもらうように頼み込む】

 

―――因みにこの選択肢を見た後に目から出てきたのは、組織液でも汗でもなく涙です。

カナヅル、イイワケ、シナイ。

 

「…一年の皆。ショコラにお菓子をくれて、ありがとなっ」

 

ねっとり…して、ない!

やった、やったぞ!珍しくいい方を引き当てたッ!

 

―――まぁついうっかり例の『イケメンスマイル(笑)』もやってしまったが、まぁ問題ないだろう。

ちょっと気持ち悪いかも知れないが、ねっとりした感じよりかマシだろうし。

 

「……えっ、アレがお断り5…?」

「なんかこう…キュンって…」

「爽やかでいい人…」

「わ、私…もしかしたら、天久佐先輩に…」

「―――お兄ちゃん?」

 

うーむ、反応はまぁ悪くはない…のか?

いや良かった。自分でも何であんな顔しちまったのかよくわかってなかったが、取り敢えず目の前でゲロ吐かれる事は無かったな。

 

―――で、最後の奴誰だよマジで。

お兄ちゃんとかさぁ、ほんと悪い冗談は―――いや、この声はッ!?

 

「やっぱり、お兄ちゃんだ!!」

「いえ、人違いです。お帰りください。―――さ、教室戻るぞーショコラ」

「お~に~い~ちゃんッ!!」

「ウボァー!」

 

箱庭ゆらぎ。

俺の幼馴染であり、妹()()()()()やべー奴である。

 

そんな彼女のタックルを背中でかつノーガードで受けた俺は、そのまま倒れこんでしまった。

勿論、その上にはゆらぎが乗っかっている。

 

「……わかった、俺が悪かったから離れてくれませんかねゆらぎさん」

「むっ、なんで敬語なの?――あっ、わかった!一年ぶりに会ったから緊張してるんでしょ!」

「なんでそうなる…」

 

コイツは昔からそうだった。

俺の事をお兄ちゃんお兄ちゃんと呼び、都合の悪い事は聞き流し、勝手に自分に都合のいい解釈をする―――うん、全く変わってない。

 

「…あのな、ゆらぎ。俺の事を兄と呼ぶのはまぁ百歩くらい譲っていい事にするとしても、なんで俺にだけこんなスキンシップが過剰なんだよ」

「え?」

「え?じゃなく。―――ほら、今だってこう俺の上にのしかかって首元に抱き着いたまんまでよー……暑いし周りの視線が冷たいし、離れてもらいたいんですけど?」

「えぇ~?だって私達兄妹でしょ?」

「お前はッ!俺だけじゃなくてッ!全人類の妹なんだろうがッ!」

 

何とかして引っぺがそうとするが、全然動かない。

この萌袖状態でどうやってそんな強く俺にくっついているのかが謎だが、追及してはいけないのだろう。

 

…さて、俺が先程言った言葉。それが俺がコイツを突き放している原因である。

 

まずクッソどうでも良い話から入るが、俺は一途な子が好きなのだ。

妹属性は嫌いじゃないし…というか、実妹で無ければ全然イケる。

 

だがコイツは『全人類の妹』を自称し、俺以外の男性にだって平然と「お兄ちゃ~ん」と言って擦り寄っていく。

しかもコイツ、『実妹』を自称しているのだ。

 

どちらか一方ではなく、両方の意味で俺のアウトゾーンに居る訳なんですね。

 

「でもでもっ、生お兄ちゃんはお兄ちゃんだけだし!それに、こんなにくっついたりするのもお兄ちゃんだけっていうか!!」

「どーせすぐ他の男を生お兄ちゃんって呼びだすんだろうがお前はよぉ!!いいから離れろっ、このままじゃ他人にお兄ちゃんと呼ばせている変態のレッテルが貼られるんだよっ!」

「お兄ちゃんのニブチン!どうしてここまで言ってわからないかなぁ!!」

「んだとお前俺は人並み以上に鋭いぞ!」

「じゃあ何で気づいてくれないのっ!?」

「何にだッ!?」

 

駄目だ、勝てない。

嘘だろ俺…ゆらぎに力負けするくらい弱くなってたのか…?確かに剣道とか柔道とかはちょっと齧ってやめたけどさぁ…(ボランティア活動の時間を圧迫したから)筋トレとかは毎日欠かさずやってるはずなんだけど?

筋肉が普通に裏切ったんだけど?

 

「あのー、金出さん」

「な、ん、だ…!?」

「そちらの方は、いったいどちらさまでしょう?」

 

ショコラの質問に、一度ゆらぎを引き離そうとしている手を止め、結構真剣に言葉を選ぶ。

―――どうしよう、妹を自称する幼馴染と言ってしまっていいのだろうか?

 

なんというか、ショコラは嫌な言い方をするからな。

前だって、頬の話だったのに『揉まれた』ってだけ言ってたし。

 

「……あー、なんて言ったらいいかな。俺の幼馴染―――」

「妹にしてシスター、箱庭ゆらぎだよっ!」

「いやどっちでもねぇよ!?」

「なるほどなるほど……つまり金出さんはいもうとでもない人に「お兄ちゃん」とか呼ばせていると」

「違うんだけど!?」

 

【選べ(笑)】

 

うわっコイツこのタイミングで笑いながら来やがった!

どんな面倒くさいやつが来るってんだよ…!?

 

【①「俺の『ろり●に!』だ!」 ②「俺の『ぷに●なDX』だ!」】

 

「馬鹿じゃねぇの!?」

「ん?お兄ちゃんどーしたの?」

「あー、発作みたいなやつだ。気にしなくて―――痛てて」

 

えっ、嘘だろお前。

マジでこれ言わなきゃいけねぇの!?流石に不味いだろゆらぎをオ●ホ扱いは!!

 

結構本気で頼むからこれ以外の奴に…!

この後なんか嫌な事あっても多少は気にしないから!

 

【選べ ①「俺の幼馴染でな。ちょっと変な所はあるがまぁ…可愛い奴だよ」とイケメンスマイル(笑) ②「俺の妹でな。実妹を自称しているがまぁ…義妹だよ」とフツメンスマイル(笑)】

 

やった!「運命」に勝った!

 

大分酷いしツッコミどころ多いけど、さっきのやつに比べたら全ッ然OKだ!!

不平不満は言わん。(笑)でもイケメンスマイルを選ぶぜ!

 

「―――俺の幼馴染でな。ちょっと変な所はあるがまぁ…可愛い奴だよ」

「……お兄ちゃん…!」

「変な所さえなけりゃなぁ…妹を自称してるけど、別に家族関係とかは全くない。―――コイツ、知的生命体なら取り敢えず兄か姉にするからな」

「全人類の妹だからねっ!」

「なるほど。わたしはショコラと言います。よろしくおねがいします」

 

何に納得したんだコイツは。

全人類の妹なんていう胡乱な肩書を平然と受け入れたという事なのかコレは。

 

「ねぇねぇ!ショコラお姉ちゃんって呼んでいい?」

「はうあっ!?―――も、もういちどかくにんのために言ってもらっても?」

 

早速ショコラを姉扱いしようとしたゆらぎに一言言ってやろうと思ったが、ショコラはショコラで満更でもなさそうだった。

 

なんだよ確認のためにもう一度って。

 

「ショコラお姉ちゃん」

「はぅぅ!!」

「えっへへー…おねーちゃん!」

「はうはうぅっ!なんとかんびなひびきでしょうか!」

「うわっもう手綱握られてる…」

お姉ちゃんと呼ばれる度に大袈裟な反応を見せるショコラ。

なんだろう、コイツ本当に扱いやすい奴だな。

 

―――あっ、餌付けされてる。

完全に姉じゃなくてペット扱いされてるじゃん。

まぁ実際に俺の学業補助ペットなんだけどさ。

 

「―――そう言えばお兄ちゃん。ここ一年の廊下だけど…どうしてここに居るの?」

「あ?そりゃお前…」

 

【選べ ①「俺さぁ、変態かつ変人扱いされてんだよね。はぁ、はぁ…ぐへへ、お断り5とか言う連中の最強枠なんだぜぇ…でゅふ…だから、ここに…俺と一緒に、大会…出てくれる、ちょっと変わったえっちな子を探しているんだな…」と物凄く気持ち悪く説明する ②「お前に会うためだよ、マイシスター」と言って壁ドン&顎クイ】

 

普通に説明させてくれない?

…えぇー…①の方が正しい内容なんだけどさ…いや一部違うけど。

それでも①選ぶのは本当にマズイ気がする。

 

―――でも②かぁ…嫌だなぁ…

 

「……お前に会うためだよ、マイシスター」

「お、お兄ちゃん…!!」

 

不本意ながらやってみたら、案の定ゆらぎは目を輝かせて喜んだ。

そりゃそうだ。いっつも自分が妹であるという事を否定している俺が、自らマイシスターと呼んだのだから。

 

まぁ壁ドンと顎クイを俺がやったことによる気持ち悪さで良い感じに感情を中和できてるだろうし、ギリギリセーフ……という事にしておこう。

 

「…まぁ本当は対抗戦に一緒に出場してくれる変り者をスカウトしに来たんだけどな」

「むぅ……でも、アレ?お兄ちゃんって中学の時はモテモテのモテじゃ無かった?」

 

あぁ、そうか。

ゆらぎは親の都合とかで一年くらい海外に居たから、俺がまだ輝いていた頃の事しか知らないのか。

 

「まぁな……何か知らんが、高校入学して以来奇行が…」

 

【選べ】

 

はい、奇行のお時間ですね。

 

【①「それよりお前、取り敢えずパンツ見せてくれよ。―――あっ、後ろの女子たちもね?」 ②「それよりお前、今穿いてるパンツ脱いで俺にくれよ。―――あっ、後ろの女子たちもね?」】

 

なるほど、まーたパンツ系か。

確かに、そういうの言ったらドン引きするような女子たちも勢揃いだしな。

 

……くそったれぇ……

 

「……それよりお前、取り敢えずパンツ見せてくれよ。―――あっ、後ろの女子たちもね?」

「えっ?」

 

ゆらぎが硬直した。

()()ゆらぎが、初めて自分の許容外の発言によって硬直したのだ。

 

ふっ、勝ったな。

―――まぁ常識人として大事な物を失ってるんだけど。

 

遠巻きに俺達を眺めていた女子たちが一気に悲鳴を上げ、俺から離れて行くのを見つつ、何言ってるんだコイツみたいな顔してるゆらぎからそっと距離を取る。

 

もうこのまま帰ろう。

一年のお断り5の素質ありとされる不名誉な人(期待の新人)はいなかった。それでいいじゃないか。

 

「ちょ、ちょっと待ってよお兄ちゃん!」

「駄目だ待たん。俺達と共に汚泥の中でこそ昏く輝く原石はここには無かったんだ。ならこれ以上マジキチ行為をする前に帰る」

「ぱ、パンツなら全然見せるからっ!」

「別に見たいわけじゃないからな!?」

「じゃなんで見せてくれよなんて言ったの!?」

「知るか!俺に聞くな!」

 

俺に質問をするな、という事ですね。

 

背後からゆらぎが声をかけて来るが全部適当に(それでも結構大声)受け流す。

だって本当に本位じゃないんだもん。何が悲しくて好きでも無い子のパンツを要求しなくちゃいけないんだよ?

 

このまま帰ろう。ついでにショコラはこいつ等に預けよう…そう思っていたが、力強いタックルのせいで再び押し倒され、顔から地面に叩きつけられてしまった。

 

「へぶっ!?―――な、なにすんだお前!」

「だってこうでもしなきゃお兄ちゃん帰っちゃうでしょ」

「そりゃね?という訳で放してほしいんですけど」

「やだ」

「はっはっはー。そんな顔と声をしても可愛いという感想以外には出てこんぞゆらぎ。さ、放しなさい。いい子だから」

「やだ」

「だからやだじゃなくってさー…」

「やだ。やだやだやだやだぁ!」

「そのやだやだ言うのをやめなさい!」

 

駄々っ子キャラで責めてくるとは…中々策士だなコイツ。

 

ゆらぎは全人類の妹を自称するだけあり、沢山の『キャラ』を演じる事が出来るのだ。

他にも『ツン九割デレ一割なツンデレの妹』、『愛しすぎて夜も眠らせないヤンデレの妹』、『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ない妹』、『青春ラブコメが間違っている兄の妹』、『この中に一人いる妹』などなど、多数の妹を持っている。

 

―――多数の妹ってなんだ。そして妹を持っているってなんだ。

 

【選べ ①よし、ツンデレ妹をリクエストしよう ②よし、ヤンデレ妹をリクエストしよう】

 

僕はヤンデレが好きです。

 

「―――なぁゆらぎ」

「…」

「ヤンデレな妹をやってくれるなら、まだこの場を去らないでやってもいいぞ」

「……なんで?」

「え?」

「なんでさっき私以外の女のパンツを要求したの?ねぇ、なんで?」

「おー……うん、もう良いぞゆらぎ。もう満足したから」

「満足って何!?私が居るのに、なんで他の女ばっかり見るの!?」

「あの、ゆらぎ」

「今だって、他の女の匂いがする!なんで、なんでなんでなんでッ!?お兄ちゃんは私だけのお兄ちゃんでしょ!?なのに、なんで他の女と―――」

 

ふと、頭の奥が鈍く痛んだ。

 

『金出くん』

 

声が聞こえる。

頭の中で、俺を呼ぶ声が、ひたすらに響く。

 

『金出くん』

 

その声を、知っている。

でも、思い出せない。

 

何故?

どうしても忘れてはいけないはずなのに。

 

―――そう、俺にとって何か、大事な……

 

「お兄ちゃん?」

「うぉっ!?……ど、どうしたゆらぎ」

「…途中からボーっとしてたから、どうしたのかなーって」

「……そ、そうか。―――なんでだろうな。なんか…懐かしい、声が聞こえたような…」

 

【選べ】

 

この声は聞きたくなかった。

 

【①そんなどうでも良い事は忘れて、自分が先程仲良しだと思っていた女子に嫌われていた事を笑い話にして話す ②そんなどうでも良い事は忘れて、ゆらぎへの愛を長文(大体二千字)程度に軽くまとめて話す】

 

どうでも良くないと思うんだけど!?

結構珍しくドシリアスな感じだったと思うんだけど!?

 

え、えぇ……①は多分雪平の話だろうし、②は……全然まとまってないじゃないですかやだー…

 

なによりそこまでゆらぎに対して語れる自信がない。

だって愛がないわけだからな。幼馴染ではあるが恋愛感情とかは全くなく。

 

「はぁ……そうだゆらぎ。面白い話があってな」

「面白い話?」

「あぁ。ショコラも…ついでにそこら辺の一年達も聞いてくれ。実はな、さっき俺は仲が良いと思っていたクラスメイトの…」

 

【選べ ①「現在進行形で狙っている、雪平ふらのという超絶可愛い子に「嫌い」と言われてな」 ②「現在進行形で体の関係な、雪平ふらのという名器に「あなたのは短いから嫌い」と言われてな」】

 

嘘だ!!

 

でもマシなのは①なので①を選びます。

…許せ雪平、本当はそんな事全然ないからな。

 

でも可愛いのはマジだと思う。

 

「現在進行形で狙っている、雪平ふらのという超絶可愛い子に「嫌い」と言われてな」

「えっ!?」

 

…なんだ今のどこかで聞いたことのあるような声。

むぅ…駄目だ、思い出せん。なんか衝撃的な光景と共に聞いた声だったような気がするんだが……

 

一年の集団の、奥の方から聞こえたな。

一年生関係で何かあったっけか?俺。

 

「いやぁ、俺の奇行を目の当たりにしても基本的に平然としていて、しかも良い感じにジョークにしてその場を収めてくれる奴なんだが……」

 

【選べ ①「親友とは言わなくとも友人レベルには仲が良いと思っていたのに、嫌いって言われたんだ。大事なことだから二回言うぞ?」 ②「膣内(なか)が良い奴だったんだが、嫌いって言われたんだ。本当に短いから、見せるぞ?」】

 

下が酷いんだよお前はよぉ!!

なんだよ②、ふざけてんのか!?

 

―――まぁ①はそこまで悪くねぇし、こっちにするけどさ。

 

「親友とは言わなくとも友人レベルには仲が良いと思っていたのに、嫌いって言われたんだ。大事なことだから二回言うぞ?親友とは言わなくとも友人レベルには仲が良いと思っていたのに、嫌いって言われたんだ」

「……それで?」

「いやぁ、すっげぇショックでさ。何が悲しいって、アイツめっっちゃ長く溜めてから嫌いって言ったんだぜ?どんだけ嫌われてんだよって話だよな。HAHAHA!!」

 

…うん、誰一人として笑ってない。

だってマジでつまんねぇもんこの話。

 

当事者だから余計につまらんわこの野郎。

 

【選べ ①「笑えよ……誰か、俺を…笑ってくれよ…」とアナザーカブト ②「今、俺を笑ったな?」と言ってキックホッパー】

 

なんで矢車なんだよ!

 

「笑えよ……誰か、俺を…笑ってくれよ…」

「なかないでください、金出さん」

「泣いてねぇし!こ、これは……兄貴塩だしっ!」

「じゃあ私は妹味噌で!」

「地獄兄妹じゃねぇか俺達」

 

確かに(周りの空気を)地獄(に変える)兄妹かも知れないが。

ていうか本当に周りの奴等黙り込んでんな。確かにつまらなかったけどさぁ、もっと反応見せてもいいと思うんだけど?

 

【選べ ①言いたいことは言えたし、教室に戻る。勿論ゆらぎも連れていく ②言いたいことはもっとあるので、下半身の小刀を露出させながらゆらぎへの愛を語る】

 

小刀言うな!!しっかり剥けとるわ!!




実はあの時 【雪平ふらの】

「現在進行形で狙っている、雪平ふらのという超絶可愛い子に「嫌い」と言われてな」

……えっ?

信じられない。信じられないので脳内でリプレイ。

『現在進行形で狙っている、雪平ふらのという超絶可愛い子に「嫌い」と言われてな』

…えっ?

現在進行形で狙っている?超絶可愛い子?
天久佐君が、私を?

「えっ!?」

ついうっかり、声が出た。

……いやいや!こんなの黙ってられないって!
えっ、狙ってる!?超絶可愛い!?

あ、あの天久佐君が、わわわわわわ私の事ぉ!?

顔が熱い。
絶対に今は人に見せられないような表情になってると思う。

だって、あの天久佐君に……あんな事言われて……

『「嫌い」って言われたんだ』

あー!私の馬鹿っ!
なんであの時「好き」ってちゃんと言わなかったの!?
言ってたら、もしかしたらもしかしたかも知れないのに!

もしかするってなに!?

「あ、う…」

今すぐにでも天久佐君の所まで行って、あの発言を訂正したい。
本当は好きなんだって、あの時『本当の私』を見ても嫌わないでくれた貴方が好きって、ちゃんと伝えたいのに。

こういう時に限って、思い出すのはあの一年の夏の日。
私が、本気で天久佐君に恋をした、あの夏の日。

『……雪平?』
『ふぇっ…!?て、てててててて天久佐君!!?』

グランドの木陰で、一人反省会を行っていた私を、偶々天久佐君が見つけちゃって。

『……その、なんだ。聞いちゃったんだが……』
『――――あ、はは…そ、っか…幻滅した、よね。こんな子で…』
『いや。そんな事は無い…寧ろまぁ、ギャップがあって良いと……』
『えっ!?』
『いや何でもない!忘れて良いからな!』

嫌われた、と思っても、そんな事は無いって言ってくれて。

『…俺は別に、ソレでもいいとは思うが……お前が無理だってなら、いつも通りにすればいいと思う。―――もしいつも通りにするんだったら、俺もさっきの事は忘れるよ』
『……』
『けど、まぁ……俺は結構、可愛いと思ったぞ。さっきのお前もな』

可愛いって、言ってくれて。

その後、結局恥ずかしくっていつも通りに話かけちゃっても、ちゃんと何も知らない風に振る舞ってくれて。

そこで、わかったんだ。
―――あぁ、私…天久佐君の事、好きなんだって。
お断り5とか、奇行のニューウェーブとか言われていても、好きなんだって。

……結局、宴先生に頼み込んで教えてもらった『取り敢えず都合の悪い記憶を消し飛ばす方法』を使って忘れてもらったけど。

「そんな天久佐君が……わ、私……」

落ち着け、私。
ここは教室で、皆もいる。
そんなところでニヤニヤしてたら―――あぁ、無理。こんなの抑えられない。

「…あんれー?ふらのっち随分とご機嫌そうだけど、どしたの?」
「……そういうあなたこそ、随分と頬が緩んでいるじゃない」
「え、これー?えっへへ、ちょっといい事知っちゃってねー?」
「奇遇ね。私もよ」

どうやら遊王子さんにもいい事があったみたい。
ふふ、でも私の方が絶対幸せね。

だって、ずっと好きだった人から『狙っている』とか『超絶可愛い子』とか言われちゃってー……あれ?

「……遊王子さん。つかぬことを聞くのだけど」
「んん?何々?」
「天久佐君って、人前で何かを話す時は基本的に「ある事」だけじゃなくて「無い事」も話す…わよね」
「んー…確かにそうかも。こないだの全校集会でも、全然思ってない事言ってたらしいし」
「…その大半って、誇張しすぎた表現とか…よね?」
「そだね。前なんて『腐ったミカン』の事を『さながらこの世界の如く堕落し、その身をグズグズにした橙色の果実』なんて言ってたし」

…あれ?

じゃあ、私の事を狙っているとか、超絶可愛い子って言ったのも、もしかしたらその場のノリで言っちゃっただけって可能性……?

「おんや?ふらのっち急に落ち込んでどしたの?」
「……少し、見たくもないものを見てしまっただけよ」

なんで気づいてしまったのだろう。
いや、気づいて当然だ。
だって私なんかが天久佐君に好かれるわけが無い。

はぁ、やっぱり――――私は私の事、大嫌いだ。


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①対抗戦のお話 ②太鼓汚染のお話

キレる変態(笑)というお話。

または、祝日だから投稿したよ、というお話。


なんだかんだでゆらぎを連れて教室まで戻り、自分の席に向かう。

 

すると、俺の席の後ろで、雪平がやけに落ち込んでいるのが見えた。

その近くで遊王子が不思議そうな顔をしているが、一体どうしたというのだろうか?

 

「おーい、どうしたんだ?」

「っ!…別に、何でもないわよ蟯虫」

「誰が寄生虫だ!しかもそれ検査が廃止されたヤツじゃねぇか!!」

「ならあの貼り付けるやつの粘着性のある部分があなたね」

「もはや生物ですらねぇのかよ!?」

「冗談よ。あなたの粘着力はその程度じゃないわ。アンパン●ングミのオブラート以上だもの」

「あー、あれか。昔俺もはがそうと躍起になって……ってそんなに粘っこくねぇし!汗とかサラサラなんだけど!?」

「本当かしら?あなた程脂ぎった人は居ないと思うけど」

「そんなにギトギトじゃねぇし!!」

 

…え、俺ってそんな脂っこく見えるの?

いやいや、絶対冗談…冗談、ですよね?

 

というかあれはアン●ンマングミの粘着性であって、オブラートから張り付いているわけではないのでは…?

 

「その粘着性を活かして、随分女性に貢がせていい思いをしてるらしいじゃない」

「ヒモじゃねぇよ!?」

「働いたら負けと思ってるんでしょう?」

「ニートでもねぇよ!?―――いや、確かに今はバイトも何もしてないが」

「やっぱりヒモニートじゃない」

「違うから!」

 

【選べ ①「そんなに言うならお前が養ってくれよ」 ②「そんなに言うならお前を養ってやるよ」】

 

……これってどっちが正解なんだ…?

 

えっ、①は冗談として使えそうな反面、冗談として受け取られなかった(ように振る舞われた)場合が悲惨だし…

②も冗談として使えそうな反面、何がそんなに言うならなのかわからない上に、冗談だとしてもクソつまらないし…

 

けどまぁ、ヒモ発言するくらいなら働く気はあるという方がいい…よな。

 

「そんなに言うならお前を養ってやるよ」

「えっ」

「……いや、そんなマジに受け取らなくても」

「…ごめんなさい、無理ね」

「でしょうねぇ!」

 

そりゃ「嫌い」なんだからそうだよね。

 

……というか話があるのを忘れていた。

 

「そういや、対抗戦の助っ人の話はどうなった?」

「…見ての通りよ」

「なんだ、それ」

「コラよ」

「いや見たらわかるけど」

「タイトルは『叫ぶ天久佐君』」

「ビーバーのやつだろ知ってるわそれくらい!!なんで助っ人の話になってそれが出てきた!」

「あなたがこの間『ロリゲーの登場人物の実年齢は授業内容でわかるだろぉおおお!!』って数学の時に叫んでいたのを、実はこっそり録音していたのよ」

「なに録音してくれてんの!?」

「その音声を入れて、ビーバーの顔の部分を天久佐君に変えて、完成したわ」

「だから完成させて何があるんだよ!?」

「これを使って、お断り5の宣伝でもしようと思ったのよ」

「人を宣伝材料に使わないでくれませんかねぇ!?」

「他には『異世界天久佐君』とか『party tenkyusa』とかもあるわ」

「作り過ぎだろどんだけ素材あんだよ!?」

「音MADも作ったのだけど、聞く?」

「聞くか!」

 

というかコイツ俺のコラの話しかしてないぞ。

結局助っ人は駄目だった、って事か。

 

―――あ、因みにロリゲー云々の話は選択肢のせいなので悪しからず。

 

「…じゃあ、遊王子の方はどうだったんだよ」

「うーん…あっ、あたしね?さっきすっごい人見つけてさー!」

「ほー…んで?どんな奴?」

「なんかね、女子生徒見てはぁはぁ言ってる、すっごい老けた男子生徒かと思ったんだけど…」

「まさか女生徒だった…とか?」

「違う違う。―――コスプレショップでこの学校の制服買ってこの学校に忍び込んできた、無職のおじさんだったの!」

「不審者じゃねぇか!!」

「騒がしいと思ったら、そういう事だったのね……惜しい人材を無くしたわ」

「流石に部外者を使おうとするなよ…」

「なら、おかしい人を無くしたわね」

「言い方の話じゃなくてですね…」

「じゃあ、そういう天っちは誰か見つけてきたの?」

「―――あー、いや。そういう事は全くなく」

「んー?じゃあその子誰?」

「え?あぁ、コイツは俺の…」

「妹ですっ!」

「ただの幼馴染だ。自称『全人類の妹』で、知的生命体ならその性別、年齢、人種の如何に関わらず自分の兄か姉にする変人。名前を箱庭ゆらぎ」

 

ゆらぎの紹介が遅れていたが、遊王子が話を振ってくれたおかげで何とか紹介できた。

…いやこれ何も言わずにそのまま帰らせた方が良かったんじゃねぇの?

 

「なるほど…あなたシスコンだったのね」

「違うから。俺が言わせてるとかじゃなくってただコイツが勝手に…」

「ねぇねぇ、この人たちは?」

「あ?…あぁ、クラスメイトの雪平ふらのと遊王子謳歌な。俺と同じお断り5の」

「雪、平……」

「ん?知り合いだったか?」

「いんやぁ?―――あの、ちょっといいですか?」

「…何かしら、天久佐君の性的な意味での妹さん」

「おい待てそれは一体どういう」

「ちょーっとお兄ちゃんは黙ってて?」

「アッ、ハイ」

 

怖っ。なんでこんな威圧感出してんだコイツ。

雪平と何かあったのか?でもだからって俺にそんないう必要は無いと思うんだが…

 

ていうか性的な意味での妹ってなんだよ。

 

「……ふらのお姉ちゃんって、お兄ちゃんに「嫌い」って言った、あのふらのお姉ちゃん?」

「…そうだけど」

 

改めて言わせないでくれよ涙が出る。

まぁ俺は強い子だからな。実際には目からは汗しか出ていないぞ。

 

「ふーん……まっ、お兄ちゃんがいくら狙ってるって言っても、この様子じゃ何もなさそーだし…いっか!」

「何の話だよ…」

「…うーん、やっぱりこの超鈍感さは変わってないね。まぁそこがお兄ちゃんがお兄ちゃんたる所以なんだけど!」

「なんだよそれっていうか抱き着くな暑苦しいなぁ!」

 

再び俺に抱き着いてきたゆらぎを、今度こそ体勢を崩すことなく受け止める。

暑苦しいのは本当だが、まぁくっついてくるなら受け止めてやるのが男だろう。

 

…うっ、なんだろう。急に冷たい視線を感じる。

教室内からも、何故か雪平からも。

侮蔑の眼差しという事ですね、わかります。

 

でも兄扱いされているのは不本意なんです信じてください。

カナヅル、ウソ、ツカナイ。

 

「…ねぇねぇ。対抗戦の助っ人、この子で良くない?」

「お兄ちゃんの助っ人?やるやるー!」

 

【選べ ①「普通に嫌なんだけど」と本心を告げる ②「俺の肉便器を全校生徒に晒すのはなぁ…」と本心を告げる】

 

何気にどっちも本心じゃねぇんだよ!!

なんだよ肉便器って!さっきからふざけすぎだろ!

 

因みに①の方は「最悪誰も候補が居なかったらコイツを助っ人にしよう」って画策してたし、実は間違ってるんだよね。

 

まぁ無難なのは①だけどさ。

 

「普通に嫌なんだけど」

「えーお兄ちゃんつれない……もしかして、私の事嫌い?」

「ははは、いくら美少女でも妹を自称してかつ他の男にもホイホイ付いていくような奴は好きにはならんぞ俺は」

「美少女…」

「美少女…」

「美少女って言ってくれた!」

「そこに反応すんのかお前ら!」

 

態々論ずるべきことでもないと思う。

だって実際ゆらぎは可愛い方だと思うし。

 

中身が壊滅的だからって、外見まで貶すのは、なぁ?

 

因みにどうでも良い話だが、反応は上から順に雪平、遊王子、ゆらぎだ。

 

「ほっ……まぁ、別にいいんじゃないかしら?」

「うんうん。ちょーっとモヤモヤするけど…

「なんだよモヤモヤって、さまぁ~ずか?」

「なっ、なんでもないよっ!?」

 

左様ですか。

後ね、人がボケたらそれにはノッてくれなきゃだよ。

じゃなきゃただの変な人だからね…って周りからしたら元からか。ははは!

 

「じゃあゆらぎが助っ人って事で。でも本当に良いのか?周りからの目が恐ろしく冷たくなるぞ?」

「えっ、今下の名前…」

「うん!お兄ちゃんと一緒なら、全然オッケーだよっ!」

 

…今雪平からすっごい声が聞こえた気がするんだが、気のせいだろうか。

まぁゆらぎの名前を呼んだくらいで雪平が反応する訳ないか。疲れてんのかな?俺。

 

「……そして抱きつくな抱きつくな。暑苦しいし首は絞まるしで良い事無しなんだけど?」

「え~?可愛い妹に抱きつかれて、嫌な思いするお兄ちゃんがいる訳ないでしょ?」

「自分で言うか!?いや確かに可愛いとは思うが、それとこれとは別問題だろ!」

「ええ、そうね。公衆の面前でそんな接触…破廉恥よ」

「別に、兄妹愛の範疇だと思うけど~?」

 

そもそも兄妹じゃないんですけど。

そして兄妹だとしてもこの年頃ならやっぱり過剰だと思うんですけど。

 

「あっ、もしかしてふらのお姉ちゃんも抱き着きたいの?」

「なっ…私は」

「んなわけないだろ?さっき話したじゃねぇか。俺がコイツに嫌われてるって話」

「―――えぇ、そうね。私だってこんなドブネズミのような匂いのする男に抱き着きたいなんて思わないもの」

「そんな臭くねぇよ!!」

「間違えたわ。ねずみ男のような匂いよ」

「同じじゃねぇか!」

 

実際に嗅いだことがある訳じゃ無いけども。

 

しっかしなんだ?随分と不機嫌そうだが……まぁ、嫌いな奴相手に抱き着きたいって思ってると勘違いされちゃ、流石の雪平も露骨になるか。

 

「すんすん……だいじょうぶですよ金出さん。くさくないです!」

「お、まじで?……じゃなくて!なんでお前まで抱き着く必要があるんだよお前教室内の全員がもはや視線で殺しに」

「……ほほーう、この流れで行くとあたしもだね?うりゃー!」

「ぎゃー!?お子様がまだ一名居たのかー!」

 

右にゆらぎ、左に遊王子、そして正面にショコラという訳の分からない包囲網が完成してしまった。

 

何が悲しいって、明らかに遊王子は普段と違うんだよな。

流れ汲んでみましたー、って感じで抱き着いたはいいが、今になって自己嫌悪…という感じだろうか?

実際は耳を真っ赤にした挙句、顔を隠すように俺の脇腹に埋めているって感じなんだけど。

 

「……なるほど。これは私も行動に移さなきゃ、ね」

「―――ちょっと待って雪平サン。俺、悪くない。子供たち、やんちゃ。それだけ」

「コォオオオオ……」

「なんで波紋の呼吸!?」

 

殺意に満ち溢れた瞳を向け、ゆっくりと俺の傍に近づいてくる雪平。

正直さっさと逃げ出したいが、無理に逃げ出そうとすればこの三人が転んでしまう。

 

それはちょっと、駄目だと思うんだ。

 

【選べ ①周りの被害など気にせず回避。そのままシェルブリット・バーストを雪平に喰らわせる ②誰も傷つかないなら、命だって惜しくはない。最悪波紋を流されて消滅する】

 

①だと雪平死ぬぞ!?

そして②はなんだよ!?俺吸血鬼なの!?

 

「……緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)!」

「ぐぶぁっ!?」

 

ただの拳が、俺の腹部を穿った。

スカーレット要素無いじゃん、というツッコミが出るよりも先に、俺の体は崩れ落ちていた。

 

【選べ ①「URYYYYYYYY!!」と叫ぶ ②「WRYYYYYYYY!!」と叫ぶ】

 

なんでさっきから●ョジョなんだよ!

さっきの雪平の波紋疾走が中々強力だったせいで、今中々もだえ苦しんでるんだけど!?

 

「WRYYYYYYYY!!」

「あなたを葬るのに罪悪感無し!」

 

なんでちょっとノリ良いんだよコイツは。

 

ていうかマジで痛ぇんだけど!?どんだけ本気で殴ったんだコイツ!?

 

「ちょっ…まって、マジで痛かったんだけど…」

「そうね。本気で殴ったもの」

「なんでだよ!?」

「年頃の女の子三人を公衆の面前で抱いていた変態だったからよ」

「違うから!俺から抱き着いたわけじゃないから!」

「なら男に抱き着きたい、という事かしら?」

「ほもですかっ!?」

「どっちも違ぇから!どうせなら女の方がいいわ!」

「なら、やっぱり望んでいたことじゃない」

「だからそういう訳じゃ……」

 

【選べ ①「俺は雪平が良かったんだ」 ②「俺はふらのが良かったんだ」】

 

そういう訳でもねぇよ!?

しかもお前、①も②もほぼ同じじゃねぇか!名字か名前かの違いだろコレ!!

 

「…お、俺は雪平が良かったんだ」

ふぇっ!?――――ん、んんっ。私は勿論嫌だけどね」

「そりゃそうでしょうねぇ……」

 

嫌いなんだもんね、そりゃそうだよね。

…つーかよしんば嫌いじゃ無かったとしても好きでもない奴に抱き着きたくも抱き着かれたくもないだろ。

 

まぁ雪平の価値観が一般人のソレとズレている可能性だってあるが。

 

「…さ、今までの事は水に流してあげるから、結団式でもしましょう」

「……お、それいいね!」

「じゃあ、優勝目指して―――」

「「「「えいえい、おー!」」」」

 

水に流すってお前…と言う間もなく、勝手に四人で勝鬨を上げていた。

勝つ前にやってどうするんだ、とか、そもそも優勝ってなんだとか言いたいことは色々あるんだが…

 

【選べ】

 

うん、どうせ黙ってないだろうなぁって思ってたさ。

今度は何でしょう?

 

【①カチドキロックシードと戦国ドライバーが出現。その場で変身する ②自分でカチドキアームズの変身音を完全に再現する】

 

……①、かなぁ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「という訳で、早速自己紹介をし合いたいと思いま~す」

「…どういうわけですの?」

 

時刻は昼。

誰もが食事に勤しむその時間、本来流されるはずの校内放送に代わって、対抗戦の出場者たちがトークする番組になった。

 

…いやなんだよコレ。

語尾がですのってなるくらいには訳が分かってないよ。

 

「ですから~、来る対抗戦に備えてお互いに自己紹介と軽いお話をと~」

「あまり馴れ合うのは良くないって言ったんだがな…こいつが聞かなかったんだよ」

「なるほど…」

 

いくら獅子守先輩でも、黒白院先輩には勝てなかったか。

しかし、向こうは全員参加しているが、こちらは夢島先輩だけいないぞ?

 

これって不参加でも良かったのか?

 

「夢島さんは、今日はお休みですのでいません~」

「なるほど、休みか……えっ、今心読みました?」

「さぁ~?どうでしょうね~?」

 

間延びした声で、適当に流してくる。

…まぁ真面目に「読みました~」なんて言われても恐怖で朝も起きれなくなるだけなんだけどな。

 

「―――じゃあ早速、表ランキングの参加者たちから自己紹介を~」

「…え、えっと…二年十五組、柔風小凪…です。」

 

オドオドした様子で一番最初に自己紹介したのは、柔風だった。

相変わらずナチュラルな萌えオーラだな。いっそ尊敬する。

 

しかし、隣の席の金髪ドリル爆乳…麗華堂は、その自己紹介は不服だったらしい。

 

「ちょっとあなた?これから戦うという相手にそんな弱気な態度でどうするの?」

「で、でも…み、皆仲良くとか、出来ない…かな?」

「駄目だな。さっきも言ったろ。馴れ合うのは良くないってな。―――別にプライベート云々はどうでもいいが、この場じゃこれから戦う相手だ。強気で行け」

「え、えぇ……お、謳歌ちゃーん…」

 

遊王子に助け船を求める柔風に、獅子守先輩も麗華堂もあまりいい顔をしない。

そりゃまぁ、これから戦う相手って何度も言ってるんだからな。

 

―――さて、遊王子の反応は…

 

「ふっふっふっ……その通り!あたしと小凪たんは現在敵同士!我らお断り5の前にひれ伏すのみなんだよ!」

「ふぇぇっ!?」

「いや助けてやれよ……つーかひれ伏すってなんだひれ伏すって。別にそんな血で血を洗うような戦いじゃねぇだろ」

「甘いよ天っち。ハン●ーグ師匠も「あまーい!」って叫ぶレベルで甘いよ」

「「あまーい!」はそっちじゃねぇだろ!同一人物だけど!」

「悪の女帝、コナギ・ヤワ・カゼを倒すのがあたし達『残念編隊断ラレンジャー』の使命。―――辛くても、やらなきゃならないんだよっ!」

「色々ツッコミどころが多いんだよお前は!なんだ悪の女帝って!その『残念編隊断ラレンジャー』もわけわかんねぇし、そもそも辛くてもってセリフを目を輝かせながら言うんじゃねぇ!」

 

【選べ ①せっかくだし、なんかそれっぽい名乗りをしてみる ②昔書いていたポエムの内容を全文暗唱】

 

これ全校放送なんだけど!?

えっ、①…?どんな感じだよ…?

 

…取り敢えずゴー●ンジャーでもやるか。

 

「……マッハ全開!断ラレッド!!」

「おっ、良いね天っち。ならあたしは―――まさしく不正解!断ラブルー!」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんがそれなら、私は―――妹満開!断ライエロー!」

「あら、なら私は―――時々不愉快!断ラグリーン!」

 

全員ノリが良いな。嬉しいぞ俺。

 

…でも五人目が居ないんだよなぁ…

 

「ここは私がっ!」

「えっ、ショコラ!?」

「―――しょくじごうかい!ことわラブラック!」

 

いやなんでここに来てるんだよコイツ。

確かクラスの連中に餌付けされてたはずじゃ…

 

【選べ ①ここまで来たなら、最後まで名乗ろう ②ここまで来たなら、最後まで脱ごう】

 

誰が脱ぐかっ!全校放送だぞ馬鹿っ!

 

「正義のロードを斜め上に突き進む!」

「「「「「残念編隊、断ラ!レンジャー!!」」」」」

 

……決まった、な。

 

「…なんかありがとな、お前ら。俺の突発的な奇行に付き合わせて」

「ううん!楽しかったよ天っち!」

「スーパー戦隊系妹だって行けちゃうんだよ私!…あれ?でもゴーオン●ャーならシルバーが妹系?」

「私も、久しぶりに満たされた気がするわ。―――楽しかったわよ、天久佐君」

「金出さんのもっていたしーでぃーのおかげですっ!えへん!」

 

…選択肢による行動の後にここまで満たされた気持ちになったのは初めてだ。

やっぱり●ーオンジャーは素晴らしいな。家に帰ったらもう一回見よう。

 

「…話を戻しても~?」

「あ、はい」

「では、次は麗華堂さんの自己紹介を~」

「…二年十組、麗華堂絢女。趣味は絵画鑑賞、特技はピアノ演奏……そうね、今は五位だけど、いずれ頂点に立つ女よ!」

 

随分と高慢な雰囲気だが、あの時(絶対選択肢のせいで強制的に)俺に告白してきた時は、随分と弱々しそうだったのは忘れていない。

…でもまぁ、こっちが素なんだろうなコイツは。

 

しかしまぁ全校に映像ごと放送されてるからって、随分と大きな事を言ったな。

それもその胸を張りながら。張らんくても充分だと思うんですがそれは。

 

「―――大きいのはわかるけど、そんなにパイオツに集中するのは良くないと思うわよ」

「何の話だ雪平…基本俺は目しか見てないぞ」

 

確かにさっきの一瞬は見たけどさ。

でもやっぱり、人と話す時は相手の目を見るのが大事だと思うんだ僕。

―――まぁ、今のは話というよりも全体への発信だったんだけどさ。

 

「えぇ、そうね。実際私の胸に唯一視線を向けてないわけだし……ほんと、男としての機能が死んでるじゃないの?」

「全然健全だわ!なに雪平レベルの邪推してくれてんだ!?」

「天久佐君のその反応…クロね」

「だから違うから!」

「杓死を使うのはいいけど、私が居るところで使うのは止めてもらっていいかしら」

「キャプテンの方のクロかよ!」

 

二人は誤解していると思う。

別に全世界の男性が須らく大きな胸にしか興味が無いという訳では無いし、俺のように貧乳が好きな男だっている訳で。

 

―――でも三次元っていうのは触るためだけに存在しているわけだから、やっぱりデカい方が…

 

……やめよう。自分一人で終わらない論争を始めるところだった。

 

「……まぁ、なんだ?女の魅力ってのは胸だけじゃねぇだろ?俺あんまり麗華堂の事知らねぇけど、良いやつだとは思うし…だったら胸ばっかり見るのは失礼だろ?」

 

顔だって綺麗だし、性格だって悪いわけでは無いんだろう。

女王様的存在という噂は聞くが、それも個性だとしたらなんらおかしくはない。

 

という事を話すと、麗華堂は顔を赤くし、他は(ショコラと黒白院先輩以外)信じられないものを見るような目をしていた。

…いやそりゃ君たちからすれば珍しいかもしれないよ?俺がまともなこと言うの。でもちょっと失礼だと思うなその反応は。

 

「…やっぱ俺って、まともな事言っただけでこうなるのか…」

「別にこの反応はお前の思ってるようなのが原因じゃないと思うが…」

「はい?」

「まぁまぁ。次は獅子守さん、よろしくおねがいしま〜す」

 

気まずい雰囲気の中、平素と変わらぬ声音で続きを促す。

この人すげぇなぁ。ここまで表情変わらないとか。

 

「…獅子守想牙、特技はスポーツ全般。今は天久佐に勝つために特訓中だ。―――次は負けねぇぞ?」

「…まぁそれは次のスポーツ大会で」

 

獰猛な獣の如き眼差しを向けてくる先輩に、ちょっと距離をとってしまう。

…所詮助っ人程度だし、本当に頑張っている人にライバル視されるのは…なんというか、困る。

 

そりゃ相手がやる気何だからこっちもしっかり相手するけど…やっぱり、練習とかそういうのに時間を割くわけにもいかないし(俺の地位はボランティアによりなんとか残されている)望む通りの真剣勝負とはいかないと思うんだよなぁ…

 

 

「次は僕ですね。―――一年十一組、吉原桃夜です。趣味は女の子、好きな物は女の子、人生の目的も女の子です」

 

うわぁ…なんだこのお断り5に来てもおかしくなさそうな人材。

確かに見た目は良いと思う。爽やか系というかね?

それに声だって不快感を感じさせないようなこう、おっとりとした?って感じだし…

 

そりゃまぁモテるんでしょうけど、なんだろうか…この、行動理念が全て女で塗り固められている感じ。

いや実際本人がそう言ってるんだけどさ。

 

「えーっと…その、彼女とかいるの?」

「勿論居ますよ。丹生穂香さん、北島玲子さん、蟹沢蛯蜜さん、飛ケ谷紀美さん、赤松伊織さん、松永…」

「いやいやいやいや。なんで?なんで彼女の話になって複数人名前が出てくるんすかね?」

「え~、現在吉原さんとお付き合いしている女性は、十人とのことで~」

「おかしいだろ!?」

 

今のおかしいだろ、は、浮気とかそんな事して良いんですか的な意味と、なんでコイツがそんなモテモテで俺だけ最下層の住民なんだという世の不条理を嘆く意味が込められている。

 

まぁそんな事はどうでも良く。

 

え、なんなのこのガチ肉食。

十人?十人ってお前、何様?マジのハーレム野郎じゃん。

その相手達はいがみ合ったりしてないの(壊滅的であれよ)

 

「アフターフォローも完璧で、未だに彼女間での諍いも起こっていないようで~…一年生の中で現状、表ランキング入りの最有力候補だそうですよ~」

「僕と交わ…いえ、関係を持った少女達は全員幸せにしますよ。それが僕のポリシーですから」

 

いや言ってることクズだからな?

どんだけガワ良くっても中身壊滅的だったらお前こっち側(お断り5)だからな?

 

見方を変えたらマジでただの女好きの変態だからなお前。

ほら、こっち来いよ!(死者の呼び声)

 

【選べ ①女の心を弄び、悦に浸る等許せん。本心から説教してやろう ②女の心を弄び、悦に浸る等許せん。俺も一人二人分けてもらおう】

 

②さん。それじゃコイツと同じなんだよ。

 

―――まぁそうだな。たかだか一年程度だが、人生の先輩としてガツンと……ん?

 

どうしたコイツ。なんで急にショコラの手を掴んだりなんて……

 

「…えっと、どうかしましたか?」

「好きです」

「え?」

「好きです。僕の女性遍歴の中で、ここまで魂を揺さぶられたのは初めてです…お友達からとは言いません。まずは婚約から」

「全校放送で何言ってんのお前」

「だからこそ、です。僕は、全校生徒の前でこそ言いたい。―――ショコラさん、貴方を愛している」

 

…何言ってだコイツ(誤字にあらず)

ていうか何でコイツショコラの名前知って…あぁ、俺がさっき言ったからか。

 

しっかし困ったな。ショコラはショコラでどうするべきかわかっていないようだし、奴は奴でふざけてるようには見えない…つーか声がマジだし…

 

俺に止める義理も理由も無い、が…さっきの選択肢の催促のせいで、まだ頭痛いんだよな。

ここはもう、一目惚れで他十人を蔑ろにするような発言をしたこと(ここまで魂を揺さぶられたのは云々)も一緒に叱って――――

 

【選べ】

 

…なんで?

別にあの選択肢は変える必要無かったと思うんだけど。

 

【①こんなよくわからんヤツにショコラを取られてたまるか。ここは本気でキレよう ②よくわからんヤツだがショコラは任せよう。その間に全校生徒に見せつけるようにして表ランキング女子を堪能(意味深)しよう】

 

ひ、酷すぎる。

別に人の恋路を邪魔するような真似しなくてもいいと思うんだが…

 

けどまぁ、①を選ばなかったら全校生徒の前で俺が酒池肉林(強制)することになっちまうし……すまんな吉原何某。運が無かったと諦めてくれ。

 

イキリにしか聞こえないだろうが、昔から俺は―――キレると怖い、と言われてるんだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

昼食中、俺のクラスのお断り5達が出演している校内番組を見ながら、「また変な事やってるぜアイツー」とか言って佐藤とかと笑っていた。

天久佐がコイツ本当にお断り5なのかって思うような謎のイケメンムーブ(無自覚)を披露したり、全員(謎の妹枠もセット)でふざけてみたり…なんかもう、見てるだけで面白かった。

 

―――はずだった。

 

だが、吉原とか言うちょっといけ好かねぇヤツが天久佐の『学業補助ペット』ショコラちゃんを口説いた時、一気に場が…というか、この放送が流れている場所…つまり校内全域が凍り付いた。

 

『なぁ、吉原桃夜』

『………な、なんでしょう…?』

『別にお前が何人好こうが何人抱こうが、俺にはまぁ関係ないんだよ。―――けどな』

 

今まで聞いたこと無いくらいに低い声で、呟くように発せられるその言葉は、本当に小さい声のはずなのに、何故かとても響いて聞こえた。

 

『―――ショコラはさ。学業補助ペットとか訳の分からん立ち位置でここに居るけど、なんだかんだ俺にとっちゃ家族みたいなもんなんだ。だから…』

『だ、だから…?』

お前みたいな浮気性野郎(いいかチ●カス野郎、)に預けるつもりも(次ショコラを口説くような真似してみろ。)ましてや触らせるつもりもねぇ(二度と女と遊べない体にしてやる)……わかったか?』

『は、はいっ…!』

 

意外だった。

天久佐は、正直こんな熱くなる(表情も声も底冷えするような感じなのだが)ヤツだと思ってなかったし、ここまで感情を表に出すような奴でも無かった。

 

確かに雪平とか遊王子とかにツッコミしてる時はすっげぇ生き生きとしてるけど、それ以外はなんかこう、無理してる感じが多々見受けられるというか。

 

―――そんなアイツが、あろうことかこんな大勢の前であそこまで。

 

その後は何も言わずに、腕を組んだまま吉原からは視線を外した。

そこでようやく空気が元に戻ったのだが、誰も喋らない状況は依然として続いていた。

 

…画面の中でも、勿論教室の中でも。

 

―――前々から思ってたけど、雪平と遊王子は天久佐の事が好き…なんだよな。

特に雪平なんかわかりやすいが……そんな好きな奴が目の前で他の女の為にキレたって、心中穏やかじゃなさそうだな。

ま、他人事だしどうでもいいけどさ。

 

戻ってきたら佐藤とかと一緒に天久佐を胴上げしてやるかな。『よく男見せたな!』って。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

……気まずい。

そりゃまぁこの状況作ったのは俺だし、誰がどう見ても俺が悪いんだろうけど…実際は選択肢がはっちゃけただけなんだよなぁ…

 

吉原は勿論、麗華堂も柔風も獅子守先輩も…果ては雪平も遊王子もゆらぎも、もっと言うなら黒白院先輩だって微動だにしてない。

そんな不味い事…言いましたよね、わかります。

そりゃそうだよね。互いに恋愛感情も何もないはずなのに、勝手に『家族も同然』とかなんとか言っちゃてもう……恥ッッッず!!

穴が無くても、今すぐに床を掘って穴作って入りたいくらいには恥ずかしいぞオイ!

 

あぁ……これで全校生徒に『イケメン相手に急にキレてイキるだけイキったイケメン(笑)』という風評が…辛い……いや辛いんだけどこれ!?

豚の鳴き真似より辛いんだけど!?

 

そして何でショコラはちょっと嬉しそうなのよ。なに?自分がペット枠だと思ってたら、いつの間にか家族枠に上がってて嬉しいとかなの?

俺なんかの家族で喜んでくれるならまぁ、こっちもなんか…嬉しい?かな。

 

「あの、黒白院先輩」

「どうかしましたか~?」

「いや、時間もあれでしょうし、次に進めてもらっても」

「そうですね~。なら、次はお断り5の皆さんの自己紹介でも~」

「あ、じゃあ俺から…」

「それは駄目、で~す」

「…何故?」

 

全員まだ復帰して無いし(そんなに俺がキレたのが意外だったのだろうか)数少ない普通に喋れる人代表としてお断り5一人目の自己紹介でもしようかと思ったんだが…

 

「え~?だって、主役は最後まで取っておくべきじゃないですか~」

「主役て。別に俺はそんな…」

「ご謙遜を~。天久佐さんは、『お断り5最強の男』じゃないですか~」

 

不本意ですがね?俺だってやりたくてやってるわけじゃないんですよ。

いつだって、俺の脳内の絶対選択肢が…

 

【選べ ①ここは期待に沿った奇行に走ろう ②ここは敢えて自ら考えた奇行に走ろう】

 

そうそう、こういう風に……っておい。

なんでそんなお約束守っちゃうんだよ。ここは来なくていいよ。

 

しかもどっちにしろ奇行じゃねぇか!

…え、また豚?流石に使いまわしすぎだろ……でも重力に逆らう変態は流石に昼飯時に見せて良いものじゃねぇし…

 

―――あっ、半裸日本男児!

 

「ではお望み通り……ぬははははは!!これが益荒男の心意気じゃぁあああいッ!!」

「……お、お兄ちゃんっていっつもこうなの?」

「違う、違うんだゆらぎよ。これには山よりも深く海よりも高い事情がだな」

「…それ滅茶苦茶浅いじゃん」

「気が動転してるだけだしっ!本当に深い事情があるんだしっ!」

「…見苦しいわよ、天久佐君。わかってるんでしょう?本当は自分が人前で脱ぐのが好きな変態だって」

「別に脱ぐことに快感は覚えねぇよ!?」

「なら見られる事かしら?」

「それもねぇよ!」

 

お、おおー…これまた不本意な方法でだが、全員復帰したな。

 

…俺はどうあっても最後に自己紹介しなければならないようだし、ここは大人しく座って話を聞こう。

さ、上着を着て……

 

【選べ ①ここは敢えて何も着ず、自分の鍛えられた体を全生徒に見せる ②ここは敢えて何も着ず、帰りも半裸である理由作りの為に服を燃やす】

 

…ちょっと、この部屋暑いね。

だから、半裸でも仕方ないよね。




IFルート 【②ここは敢えて何も着ず、帰りも半裸である理由作りの為に服を燃やす】

「たっだいまー!」

一人の少年が、元気よく家に入って行く。
上半身裸の状態で。

「おお、おかえり。今日は特別元気だね。なにかあったのかい?」
「うん、実はねー!」

楽しそうに、上半身裸のままその日の出来事を父親に話す少年。
話が終わった時、ふと少年がある質問をする。

「ねぇお父さん。どうして僕達は家に帰る時は上着を燃やしてから帰らないとダメなの?」
「ん?おかしなことを聞くね。昔から決まってるからじゃないか」

そう。二十三世紀の日本において、上着を燃やして半裸で帰宅するのは一般常識になっていたのだ。

「でもいい機会だし、少し起源について調べてみてもいいかもね」

そう言って、父親はさっそく上着を燃やすようになった機嫌を検索し始めた。

「えーっと、なになに?『今から二百年程前、二十一世紀に、とある学生が全校生徒に見せつけた行為である。偶々その場に居たある大企業の社長令嬢がその行為に強くインスピレーションを受け、それを取り入れたCMを作り、大ブームに。今では帰宅時燃焼用の上着の需要が急激に高まり、環境に配慮した―――』まぁ、こんな感じかな」
「えっ?じゃあ昔の人達って、帰る時に上着燃やさなかったの!?」
「らしいね。今じゃそんな人見かけないよ」
「ふーん…」


因みにこの二人に関わらず一般的な人には知られていないが、上着を焼くのは『帰宅時に半裸になる文化を定着させ、地球温暖化による急激な気温上昇に耐える為』という説が、現在学会にて注目を集めている。

果たしてその『ある企業の社長令嬢』は、そこまで考えた上でそのブームを引き起こしたのか……真相は、彼女の頭の中である。


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①這いよれ!カナヅルさん ②すごいよ!!カナヅルさん!

放送後、なぜか吉原と連絡先を交換することになったよ、というお話。

天久佐君の自己紹介、というお話でもある。


「では、まずは雪平さんからお願いしま~す」

「二年一組、雪平ふらの。趣味はボランティア活動、好きな言葉は人類みな兄妹。尊敬する人物はマザーテレサ。チャームポイントはぬいぐるみと会話しちゃうようなお茶目さと、笑い上戸な所です」

「よくもまぁそんな嘘くさい内容がポンポンと出てくんなお前…」

 

少なくとも俺は、ボランティア中に雪平の姿を見た事が無い。

…いや、実際に見てないだけでその場にいたという可能性だってあるにはあるんだけどさ。

 

でも笑い上戸はその通りだな。

実際最初のミッションで笑わせた時は、ずっと腹抱えて笑ってたし。

 

「後、特技は亀甲縛りです」

「なんつー特技だオイ!?」

「勘違いしてもらっちゃ困るわ。私が得意なのは亀を縛るという意味での亀甲縛りよ。勿論動物のね」

「そっちのがやべー奴だろ!」

「蝋燭を垂らすと喜ぶタイプの亀を選出しているから、動物虐待ではないわね」

「どういうタイプの亀だよ!?」

「ふっ…ほんの亀ジョークよ」

「いやわかんねぇよ!?」

「因みに、何故タートルジョークと言わないのかというと、一度タートルネックと間違われた事があるからよ」

「どんな聞き間違いだよ!」

 

平常運転なのは良いが、全校放送になっている事を忘れないで欲しい。

少なくとも、黒白院先輩と吉原以外の表ランキング勢は若干引き気味になってるぞ。

 

「…では、次は遊王子さん。お願いしま~す」

「はいはーい!二年一組、遊王子謳歌!好きな食べ物はカレーとハンバーグ、好きなテレビはアニメと特撮、嫌いな宿題は読書感想文ですっ!」

「小学生か!」

「え~?でも天っちってアニメとか特撮とか、好きでしょ?だってよくそのネタ使ってるし」

「まぁな。伊達にサブカルで義務教育を終えたと豪語してないぜ?―――ってそうじゃなく。俺はどっちかって言ったらその言い方の雰囲気と後半の内容について小学生かと言ったんだが」

「後半?でもカレーもハンバーグもおいしいじゃん?」

「そりゃ確かにな?それに対しては全面的に賛成するが…その嫌いな宿題は読書感想文というのが一番なんというかこう…」

「だって嫌いだしー」

「『だって』てお前……まぁいいけどさぁ…」

 

なんというか、真っすぐすぎてなんとも言えねぇ。

ここまで純粋すぎるとこう、困る。

 

「次は箱庭さん、お願いしま~す」

「はいっ!一年八組、箱庭ゆらぎ。金出お兄ちゃんの妹ですっ!」

 

堂々と、それが当然であるかのように、ゆらぎはそう言ってのけた。

俺の胃も、当然のようにキュッとなった。

 

「あの、ゆらぎさん。言葉が幾つか足りないと思うんですがそれは」

「足りない?―――あ、実の妹でもあり、義理の妹でもありますっ!」

「どっちでもねぇよ!!」

 

しかし義理の妹という言葉には少しだけときめいたぞ。少しだけな。

 

だが全校放送で言ってしまっていい内容ではないんだなこれが。

そもそも妹云々はゆらぎが自称しているだけで、事実関係は何一つとして無いんだよなぁ。

 

「…なぁ天久佐。マジでお前の妹なのか?」

「違うんですよそれが…コイツはどんな奴だろうと自分が『妹』になろうとする狂気じみた癖の持主で、自ら『全人類の妹』なんて言ってるんですよ」

「つまり、想牙お兄ちゃんもお兄ちゃんって事だよ!」

「なん…だと…?」

 

ゆらぎにお兄ちゃんと呼ばれた瞬間、獅子守先輩が物凄く愕然とした表情を見せた。

まるで、そう呼ばれるのが耐えがたい苦痛だとでもいうような……

 

「実は~、獅子守さんには妹さんが五人いて、小学生から高校生まで全員揃っている年子なんですよ~」

「…だから、もう妹にはウンザリだ。と?」

「あぁ、どうもお兄ちゃんという言葉を聞いただけでアイツらがダブって見えるんだ……」

「そ、そんなに酷いんですか…?」

「あぁ…アイツら、風呂上りにバスタオル一枚で抱き着いて来るわ一緒に下着買いに行こうとか言ってくるわ夏場になったら必ず家の中で水着を着て見せに来るわ…挙句の果てには夜勝手に布団の中に潜り込んだりしてくるんだぞ?心の休まる時がねぇ…」

 

爆発してくださいお願いします。

俺からはそれしか言えないな。

 

【選べ ①「えっ何それ羨ましっ!ちょっとそこ代わって?」 ②「その気持ち、わかります。俺もそんなスキンシップの激しい妹やら姉やらが―――あっ、ゲームの話でした」】

 

選択肢も一緒に爆ぜてくれないだろうか。

俺は切に願うしかできないな。

 

うーん…①の方だと、本気で悩んでいる様子の(不幸話の皮をかぶった自慢にしか聞こえないが)獅子守先輩からしたら馬鹿にされているとしか思えないだろうし…

かといって全校放送されてるなか、エロゲとかギャルゲとかの話をするわけにも……あ、ソシャゲにもそれ系のキャラいるな。

だったら②はソシャゲの話でもある訳だ―――痛い痛い。わかった、言うから。

 

「その気持ち、わかります」

「…天久佐…?お前、まさか」

「俺もそんなスキンシップの激しい妹やら姉やらが―――」

「えっ、お兄ちゃんって一人っ子じゃ…」

「――――あっ、ゲームの話でした」

「ゲームかよ!?」

 

ごめんなさいね、先輩。

俺だって本当はこんなこと言いたくなかったんっすよ。

できれば本当は『その気持ち、わかります』の部分だけ言えるような人生を送って居たかった。

 

「なーんだ。お兄ちゃんにマジ妹が居るのかって思っちゃったじゃん!」

「お前言ったな?ついに自分がマジじゃないと認めたな?」

「それとこれとは別物だもーん!」

「わかった、わかったから抱き着くなゆらぎ、これ全校放送。わかる?」

「なら全校に私たちのいちゃつきっぷりが放送されているってことだね!」

「違うわ!お前は勝手に俺を兄って呼んでるだけだし、俺がお前を好きとかそういうのもねぇのにいちゃつきも何もねぇわ!」

「え…お兄ちゃん、私の事嫌いなの?」

「だから美少女でも平然と他の男に尻尾振るような奴に好意を抱くことは微塵もないって言ったろ!」

 

別に俺を兄と呼ぶのはこの際どうでも良い。

いや人前で呼ぶのは止めてもらいたいけどさ?

 

でも、他の男だって普通にお兄ちゃんとか言うじゃん。で、同じくらいスキンシップするじゃん?

それはちょっとね~。好きにはなれんよ、そんな尻の軽い…

 

「む~!お兄ちゃんの唐変木!」

「なんでだよ!?少なくともそんな鈍感ハーレム野郎みたいな称号を与えられるような真似した覚えねぇよ!?」

「それに関しては同意するぞ箱庭。天久佐は確かに唐変木だ」

「なんで獅子守先輩まで!?」

 

アンタには言われたくねぇよ!?

少なくとも五人の妹から好意を寄せられていて気づかない時点でアンタはもう駄目だぞ!?

 

「だってお前そこの雪平とか遊王子とか―――」

「はいは~い。そこまでで~す」

 

獅子守先輩の発言を遮るように、黒白院先輩が大きく手を叩いた。

時間が押しているのだろうか?

 

しかし気になるな。雪平と遊王子が、なんだって?

まさか二人が俺の事を好きとか……なワケないんだけどさ。

 

実際雪平にはしっかりと「嫌い」って言われたわけですし。

遊王子はまぁ…どーせ「見てて面白い」的な感情での「好き」だっただろうし、恋愛的なサムシングは無いだろう。

 

「そろそろ時間も時間なので~。本日のメインディッシュ、天久佐さん、おねがいしま~す」

 

時計の方をチラリと見て、俺に自己紹介するように促してくる。

いやメインディッシュってなんすか。

 

「…えーっと…天久佐金出です。特技はグラスハープ、手品…後は」

 

【選べ】

 

だよね。

この絶対選択肢がこういう状況で黙っている訳ないよね。

 

【①「利き乳輪とサクランボの茎を口の中で三つ編みにする事ですかね」 ②「黒魔術と、フリースタイルを少々」】

 

どんな特技だよ!?

黒魔術とか利き乳輪とかわけわかんねぇんだけど!?

 

…でもサクランボの茎を口の中で結ぶやつはできるし、フリースタイルも一応できるんだよな…

 

まぁさすがに全校生徒相手に乳輪とかいう訳にもいかないし②を選ぶんだけどさ。

 

「後は黒魔術と、フリースタイルを少々。趣味はグラスハープとアニメ鑑賞…ゲームと読書も好きです」

「黒魔術…?」

「まぁ、そんな凄いものはやってないですけど。ちょっとディープなおまじないみたいなものですよ」

 

一応概要くらいは知ってる。

やったことはないが、ちょっと面白そうだなぁとは思ってたし。

 

でもまぁ、おまじないすらやってないんだけどね?

 

【選べ ①「後、野鳥観察とかもやってますね」 ②「後、女子観察とかもやってますね」】

 

女子観察!?何それ!?

 

…まぁ野鳥観察…というか撮影ならやったことあるし、こっち一択だな。

 

「後、野鳥観察とかもやってますね」

「野鳥観察?」

 

【選べ】

 

これの返答くらい普通で良くないっすかね?

…で、何を言わせようと?聞き返してきたのが遊王子だからって、変にふざけた事言う必要はないからな?

 

【①「所謂バードウォッチングだな。俺は基本的に可愛い小鳥を撮ってる」 ②「所謂ストーキングだな。俺は基本的に可愛い子のパンツを盗ってる」】

 

……これ、②いる?

 

「所謂バードウォッチングだな。俺は基本的に可愛い小鳥を撮ってる」

「ちょ、ちょっと見てみたいかも……天久佐君、いいかな?」

「おう、いいぞ。―――そうだな、俺のお気に入りは…」

 

皆も見たそうにしているし(吉原はちょっと引き気味だが。そんなにさっきの説教(笑)が効いたのか)俺のお気に入りのシマエナガでも見せてやるとするか。

 

北海道旅行の時に偶々撮れたんだよなー。

 

【選べ ①「シマエナガだな。可愛いだろ?」 ②「【ここに任意の女子の名前を入力】だな。可愛いパンツ穿いてるだろ?」】

 

何それ!?初めての表示なんだけど!?

【ここに任意の女子の名前を入力】ってどういう事だよ!?

 

…まぁ普通にシマエナガ見せるけどさ。

 

「シマエナガだな。可愛いだろ?」

「わぁ…!可愛いー!」

可愛い…!」

「おー!天っちいい写真撮るねっ!」

「ゆきとあわさって、すごくいいかんじですっ!」

「だろー?俺、結構写真撮るのはセンスあるって言われてるんだぜー?」

 

うんうん。こうして素直な賞賛を受けられるのはすごく嬉しいぞ。

また北海道に行ったら、もっといいシマエナガを撮影するっきゃないなー!

 

「すげぇな天久佐…他にはなんか撮ってたりしないのか?」

「他ですか…そうですね…」

 

【選べ ①「これとかどうですか?」とオオルリを見せる ②「これとかどうですか?」と水色と白のストライプのパンツ(女物)を見せる】

 

持ってねぇから!

なんで俺が持ってる前提なんだよ②!!

 

「これとかどうですか?オオルリって言うんですけど」

「おー…綺麗だな」

「でしょう?これは丁度飛び立つ瞬間が撮れましてね…」

 

昔軽く趣味でやっていた程度(一眼レフとか色々買ったが)だが、ここまで賞賛されるとは。

うーん、もっといい機材買って、極めてみるかな。

 

「…とまぁ、野鳥観察とか他にも色々趣味がありますね」

 

色々話す内容は他にもあって良い気がするが、まぁこれくらいにしておいていいだろう。

これより前に色々と時間使っちまったからなぁ……いや、これでもまだ二十分たってないのが驚きだが。

 

【選べ ①「現在、彼女募集中です」 ②「現在、セフレ募集中です。男でも可」】

 

俺が今モノローグで言った事、聞いてた?聞いてないねコレ。

 

…で②ィ!!男でも可ってなんだ男でも可って!

 

「…げ、現在、彼女募集中です……よろしくお願いします」

 

―――いや誰でも良いからなんか反応くれよ!

頼むからもう笑ってくれるだけでいいからさぁ……なんか、無いの?

 

「お兄ちゃん……私が居るのに」

「喜べゆらぎ、お前は論外オブ論外だからな」

「なんで!?」

「だからずっと言ってるだろその理由!俺は!一途な子が好きなの!」

「私が一途じゃないみたいじゃん!」

「どんな男でもお兄ちゃんって呼ぶ時点でもう一途も何も無いわ!」

「だからお兄ちゃんは唯一にして無二の生お兄ちゃんなんだって!」

「生って何だよ!?」

 

悲しい。

何が悲しいって、ゆらぎくらいしかこうして平常時の反応を返してくれないのが悲しい。

 

しかもその様子が全校に―――ん?あれ?俺が今『彼女募集中』って言ったのも全校に…?

 

オイオイオイ!死んだわ俺!

 

【選べ】

 

「…天久佐君、あなたはまず生まれ直せば良いと思うわ」

「いや酷くないっすか…事実だとは思うけど…」

「事実だと思ってるんだ…」

「いや遊王子、考えてもみろ。なんで俺…こんな…こんな……」

「普段から奇行三昧ですからね~」

「言わないでくれません!?第三者から言われたら余計に心に来るんですけど!?」

「ま、まぁ…天久佐君、普段はいい人だから…」

「や、柔風…!」

「けど奇行のせいで台無しなんでしょう?なら駄目じゃない」

「ごふぁっ…!?」

 

【①「お前ら全員、俺の事を好きだと言わせてやる」と宣言】

 

「…けど天久佐先輩、案外モテるんじゃないですか?」

「吉原クン、君は何をどう見たらそう思うんだい?教えたろうか?俺がついさっき雪平から「嫌い」って言われた話。滅茶苦茶溜めてから言ってきたんだぜコイツ」

「っ、それは…好き、なんて…恥ずかしくて言えないし

「ん?なんか言ったか?」

「……別に、何でもないわ」

「そういう所ですよ先輩」

「そういう所だぞ天久佐」

「そういう所、ですね~」

「なんなの!?」

 

【②再びハーレムタイム突入。今度は男子にのみモテ、記憶は消去されない】

 

…でお前もさっきからなんなの!?

①はもう全校放送で言うような事じゃ無いしそれにさっき吉原に『複数人からの好意云々』みたいな説教をした後なんだぞ!?

 

でも記憶が消去されずにしかも男子ハーレムって…すごく、嫌です。

 

「……?どうかしましたか?金出さん」

「ぐっ…いや、別に何でもないんだ…なんでも。―――さ、そろそろ終わりに…いてて」

「ふーん…でも天久佐さん、最後に何か()()()()()()()()()()()ですけど~?」

「いや全然そんな事な―――っ、痛ッ!」

 

放送を終わりにしてもらった後で宣言しようかと思っていたが、黒白院先輩がそれを許してくれない。

 

…いや待て。なんで俺が頭押さえて苦しんでるのを見て何か言いたがってるって思うんだ?

まさかこの人、選択肢について何か知ってるんじゃ…?

流石に邪推しすぎか…?

 

「ほら、早く言ってくださ~い」

「………お、お前ら全員、俺の事を好きだと言わせてやる!」

 

駄目だった。

頭痛も限界だったし、黒白院先輩も俺を急かすしで、結局言うしかなかった。

 

―――さて、全員の反応は…?

 

「お~。六人どうじだなんて、金出さんはさすがです!」

 

…なんてふざけた事を言いながら目を輝かせるショコラ。

 

「ふ、ふぇええっ!?す、好きって…!?」

 

顔を赤くして、それはもう目に見えてうろたえている柔風。

 

「さ、最低の屑ね!」

 

オークやらゴブリンやらに捕らえられた姫騎士のような雰囲気を醸し出す麗華堂。

 

「私にだけ愛情を向けてこないお兄ちゃんも有り」

 

サムズアップしながらよくわからん事を言うゆらぎ。

 

「おおー!言うね天っち。―――あれ?」

 

ショコラと同じく賞賛するような事を言った後、突然胸を押さえて不思議そうにする遊王子。

 

「……」

 

無言&無表情の…いやこれデフォだわ。普段通りの雪平。

 

「あらあら~」

 

これまたデフォ(普段のこの人を知っているという訳でもない)な表情の読めない黒白院先輩。

 

「…なんかお前、すげぇよ」

 

多分見当違いの賞賛(?)をしている獅子守先輩。

 

「……それ態々宣言しなくてもいいのでは…?」

 

なんか変な勘違いをしている様子の吉原。

 

うーん。反応はまぁ、全員普段通り(普段をあまり知らない)って感じだし、この場はオッケーか。

まぁ教室に戻ったら『何抜かしてんだお前お断り5のくせによぉ!』ってなるのは目に見えてるんだけどさ。

 

…あれ?俺ってこの学校のスクールカースト最下層に君臨している癖に(性格などを度外視にすれば)美少女な全員に好きって言われようとしてるって事だよな。

これもう無謀通り越して勇敢なんじゃねぇの?

 

「でも金出さんならそれでもいいんじゃないですかね。だって肌色の本のなかに男の人がたくさんの女の人にかこまれる―――」

「ぎゃああああ!?それを言うなし!ていうか何で知ってるんだよお前!?」

 

あぁ、ショコラさん。

なんで俺のその手の本について、あろうことか全校放送で言ってしまったのでしょうか。

 

―――今日のショコラの晩飯から、おかずが一品無くなるのが決定した瞬間であった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

翌日。

昨日は何故か、あの後男子全員が俺を胴上げしてきた後でボコボコにしてきたのだが、その傷が未だに癒えぬ内に朝が来てしまった。

 

なんというか、まだ痣が残っているような気がする。

俺が何をしたと…うん、やらかしてますね色々と。

 

「おはよ」

「おはよう。六股金出君」

 

そして雪平さん。なんでそんな朝から絶好調なんですかね。

 

確かに、昨日の最後のあの発言はそう思われても仕方ないが、俺にそんなつもりはないという事をわかって欲しい。

 

【選べ ①「俺はお前に一途なんだが…駄目か?」と口説く ②ここは敢えて何も言わず、男らしく背中で語る】

 

弁解させて?

このままじゃ俺、雪平と普通に会話する事すらままならないのよ。

 

いや仕方ないから背中で語るけどさ。

 

『やぁ雪平。おはよう!』

「腹話術じゃねぇか!!」

 

背中で語るってそう言う意味じゃねぇよ!

しかも何でちょっと渋めの声……男らしくって事なの?

 

「およよ?天っち朝から飛ばしてるねー!」

『よっ、おはよう遊王子!いぇーい!ハイタッチハイタッチ!』

「まだ喋んの!?」

 

俺の背中が元気すぎるんだが…なまじ渋い声で言っているせいで、ミスマッチ感がヤバイ。

 

あ、ハイタッチ待ちされちゃってる。

…まぁ実質俺が言ったようなもんだし、ここは素直に応じようか。

 

「イェーイ!」

『イェエエエエエエッイッ!!』

「テンション高すぎるんだよお前さっきからよぉ!!」

 

なんで叫ぶときだけ若●規夫なんだよ!

 

というか、周りからしたら腹話術にしか見えないから、俺が一人でわけのわからんことをしているとしか思えないわけか。

なーんか変なものを見る目をしてるなーって思ったらそういうことか。

 

「…にしても、昨日はすごかったね天っち。まさかあんな事言うなんて思わなかったよー!」

「そりゃそうでしょうね…寧ろそれを予測されてたら怖いんだけど」

ちょーっとモヤモヤしたけど…ま、なんでもないか!」

「―――なぁ遊王子。最近よくモヤモヤするとか言ってるが、何かあったのか?」

「えっ?そ、そうかなー?」

「そうだろ。まぁよく小声で言ってるし、無意識で出てるんだろうけど…」

 

いや無意識に口から出てくるくらいモヤモヤするとか、割と何かがやばいのかもしれないけどな。

もしそうなら、一度病院に行ってみるのをお勧めする。

 

俺も過去に『選択肢が見えるんです。その声に従わないと、頭が痛むんです』って相談した時、『お薬出しておきますね』って言われたからな。

―――まぁ実際はお薬云々でどうにかなる問題では無かったのだが。

 

あれ?じゃあ医者はあまりお勧めできなくね?

精神的な問題はやっぱり、専門家よりも自分自身を信じたほうがいいと思うよ僕は。

 

「…それで結局、あの発言は本気だったの?」

 

うぐ、痛いところを突かれたな…

 

別に本意ではない。だが、言われなければ選択肢が不滅となってしまうのもまた事実。

まぁこれをクリアしたところで『胸を揉む』とかいう鬼畜ミッションも残っているんだが、今はそいつからは目を逸らしている。

 

直視したら絶望で死んじまうよ!

 

「…まぁ、本気半分事故半分…かな。好きって言わせるつもりなのに代わりはないし」

「ねぇねぇ、どうして好きって言わせたいの?なんかあった?」

「うーん…」

 

遊王子まで痛いところを突いてくるな。

どうしようか。別にミッションが云々と言ってしまってもいいが、どうせ謎の抑止力で話せないし、何より信じてもらえないだろう。

 

かと言って口八丁手八丁で何とかしようとしても、遊王子の謎の勘の鋭さのせいで『嘘だッ!』となることはほぼ確定…

嘘と真実を織り交ぜて話すしかないのだが、果たしてうまくいくだろうか。

 

【選べ ①確実に成功する。その代わりグラウンドで何かを叫ぶ ②大体成功する。その代わり昼飯が異常に質素になる】

 

これはまぁ…………②一択……だよな…

 

いや滅茶苦茶三点リーダー使うくらいには悩んでるんだけどさ。

だって、確実に成功するというお墨付きが、ただグラウンドで何か(ここが俺が素直に①を選ぼうとしない最大の理由)を叫ぶだけでつくんだぜ?

まぁ本当に何を叫ばせられるのかわからないから選びたくないんだけどさ。

 

②の方は、昼飯くらい質素になっても気にはしないが、大体という言葉がなんとも不安を煽ってきている。

―――どーしようか。別の問題の火種か、ここでの問題の火種か……

 

あっ、でもグラウンドで叫んだらその奇行を目にする人は結構な量いることになっちまう。

もしかしたら全校生徒の可能性もあるしな…だったら、ここは②しかねぇや。

 

「…男って、すっげぇ単純なんだよ。好きって言われただけでやる気というか、活力とかそういったものが湧き出してくるんだ。それが対抗戦に参加する…お前らとか表ランキングの女子から言われたら、その時不思議なことが起こってもおかしくはないな。―――まぁ長々と語ったが、要は生きる活力が欲しいから、なんなら美人揃いのあのメンツの前で言ったってだけだ」

「ふ、ふーん……なるほど、ねぇー…」

「なんだよその反応…気に食わないか?」

 

返事はない。

―――はぁ、前途多難だ…って言っても、お断り5の方は雪平とゆらぎから好きと言われれば勝ちなんだよな。

 

雪平はともかくゆらぎは簡単に好きと言ってくるだろうし、あまり心配しなくていいか。

 

「…気が変ったわ。条件次第なら言ってあげてもいいわよ」

「本当か!?」

 

【選べ ①「靴でも舐めればいいのか!?」 ②「脇でも舐めればいいのか!?」】

 

②じゃご褒美じゃねぇか!

―――あっ、違うんです。別に僕が脇フェチとかそういうわけじゃ……はい、結構脇は好きです。

 

でもふとももはもっと好き―――痛い痛い。ごめんて。俺の性癖を語り始めそうになったのは悪かったって。

 

「靴でも舐めればいいのか!?」

「それじゃあなたにはご褒美でしょう?」

「なわけねぇだろドMか俺は!?」

「ドMじゃないなら、超ドMね」

「そもそも被虐趣味じゃねぇ―――いやもう被虐趣味でも何でもいいから、どんな条件なのか教えてくれ!どうすりゃお前に好きって言ってもらえる!?」

「っ――――諭吉さんよ」

「今は五人しかいないんだが、これでいいか!?」

えっ、うそ…五万円も払っちゃうの!?―――んんっ…残念ながら、誠意が足りないようね」

「くそっ…!!せっかく好きって言ってもらえると思ったのに…!!」

あう…

 

目じりに涙をためながら、力強く床を叩きつける。

畜生…!もう少しで、第一の難関をクリアできたかもしれないっていうのに、どうしてこういう時に限って金がねぇんだよ…!?

 

【選べ ①手持ちの金額が十万円追加される代わり、誰かが物凄く不幸になる ②しばらくの間手持ちの金額が変動しない代わり、誰も不幸にならない】

 

あ?聞くまでもないだろそんなの。

たかだか十万円のために、誰かを不幸にするわけねぇだろ。

 

十万追加されたからって、雪平が好きと言ってくれるかどうかなんて確証もないしな。

流石にそこまで外道に堕ちるつもりはない。

 

「むー……やーっぱりなんかなー…」

「…どうした遊王子。まだモヤモヤか?」

「…なんでもないっ」

「いやなんで急にそこで見え透いた嘘を…」

 

まぁ、他の奴じゃわからんかもしれんがな。

やっぱ俺、鋭すぎ?ここまで来たら心を読む能力を持ってるんじゃないかって思うくらいだぞ?

 

なのになぜか俺のこと鈍いだの唐変木だの鈍感難聴系ハーレム野郎とかいうやつ(最後のはつい先日田中に言われた)がいるんだよなぁ…まったく、俺はその気になればメンタリストだってなれるぞ?

 

いやメンタリストは心を読んでるわけじゃないのか?

 

「むーん…金出さんって、ときどきわざとなんじゃないかっておもうときがありますね!」

「何がだよ…」

 

平素と変わらぬ明るい笑みとともに、ショコラがそんな失礼なことを言ってくる。

 

何がわざとだって言うんだよ。奇行の話か?

それの文句は俺じゃなくて選択肢に言ってくれよ…

 

【選べ ①こんな女どもに興味はねぇ。さっさと愛しのゆらぎの元へ行こう ②こんなガキに使う時間はねぇ。さっさとマイエンジェル、柔風小凪の元へ行こう】

 

…あのさ。そんなにこの三人に辛辣になる必要ないと思うんだけど。

 

それとね、ゆらぎか柔風のどちらかの方まで行くのは全面的に同意するけど、その前に書いてある愛しのとかマイエンジェルとかにはかなり異論意義があるんだよ。

大事なことだから二回言うけど、別に恋愛感情とかないからね?

 

そして柔風は天使ではなく女神。あの全身からあふれ出る癒しの波動は、もはや芸術品の域だと思う。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「というわけでゆらぎ。俺のことを好きだと言ってくれまいか」

「嫌」

「おう、そうかそうかありがとう―――うん?」

 

柔風よりも先にゆらぎの方をすました方が早いと思ってこちらに来てみたが、何やら雲行きが怪しくなってきた。

 

い、嫌?あのゆらぎが、俺に「好き」だと言うことを、拒んだと?

 

何があったんだ?皆目見当も―――あっ、まさか。

 

「いやってお前…ついにとうとう本気で好きな人が」

「…は?馬鹿なの?」

「いや冷たいの普通に傷つく…」

 

俺のハートはガラスなのだ。

いや、雪平とかみたいに、明らかに俺のことを嫌ってるやつと話すときはどれだけ罵倒されても心構えができてるからそんな露骨にはならないんだけどさ?

 

こう、普段は俺を嫌ってる様子がない奴相手だとそういう心構えができてないから……普通に傷つく。

 

というか、なんでツン妹路線?

 

「兄貴さぁ、勘違いしてない?」

「はい。勘違い野郎ですみませんでした。―――帰りますね、ほんと…失礼しました」

「は、はぁっ!?何帰ろうとしてんだよバカ!」

 

意気消沈しつつ踵を返した俺だが、ゆらぎによってその足を止められる。

―――驚いたな。キャラチェン中なら普段は抱き着くところも、腕を掴む程度に落ち着くのか。

 

まぁ本当の恋を知った(のだろう)ゆらぎに、今までのようなスキンシップをされることはもうないのだろうが。

そう思うと一抹の寂しさが―――ねぇな。あんまり悲しくはねぇや。

 

でも、俺にはそんな春の予感のはの字もないのに、こいつがしっかり学園ラブコメしちゃってる(ただの純愛の可能性あり)のは何というか…ムカつくな。

お断り適正持ちなのに、まさか…ねぇ?

 

「…あの、ゆらぎさん」

「な、名前で呼ぶなっ!」

「…箱庭さん」

「みょ、苗字で呼ぶな!」

「……箱庭ゆらぎさん。離してください。大丈夫ですって。俺全然平気ですし。別に俺と同じお断り枠だろうと思って軽く見ていた幼馴染が俺よりも早くリア充ルートへたどり着いていたことに怒りだの妬みだのひがみだのを感じているとかは断じてないので」

「っ~~~~!わかった、わかったからもう元に戻ってよ()()()()()!!」

 

あ、声音がいつものに戻った。

…なんだ、もう終わったのか。

 

まぁデレのないツンデレとかツンツンされる側としてはただただ嫌な奴だからな。

さっきのはツンデレとは言えなかったぞゆら―――箱庭ゆらぎ。

 

「…で、どうしたんだよさっきは?」

「それはまぁ―――押してダメなら引いてみろってやつ?」

「そりゃドアの開け方の話だろうが」

 

一般的には恋愛的な話で使われることが主だが、ゆらぎが俺に対してそのような感情を抱く可能性はゼロなので、この言葉ができた由来ともいえる事象についてで返答することにした。

 

押戸かと思ったら引き戸だったって、よくあるよね?って話なんだよな。確か。

 

「はぁ……お兄ちゃんさぁ、本当に大丈夫?」

「知らんのか?大丈夫な奴ならお断り5なんていう不名誉な称号を頂戴してたりしない」

「その大丈夫じゃなくって…」

 

珍しいな。ゆらぎがここまで煮え切らないだなんて。

いつも基本的にどんなことでもまっすぐ隠さずに言うこいつが、なぁ…?

 

「…とにかく!お兄ちゃんはいい加減にその鈍感さを何とかした方がいいってこと!」

「だから俺は鋭い方なんだって。断言していい。俺ほど敏感な奴はいない」

「お兄ちゃんで敏感なら、他の人たちは全員超敏感だよ」

「なにおう!?」

 

なんで俺が鈍感という風潮が広まりつつあるのだろうか。

恋愛的な意味での鈍感…と言われても、そもそも俺みたいな変人(不本意)を好きになるような奇特な人がいるわけねぇし…

というか恋愛的な意味でも敏感だぞ俺。昔は恋のギュービッドと呼ばれていてな。

俺が教室間を移動するたびに「黒魔女さんが通る」とか言われて―――はい、嘘です。ギュービッドとは呼ばれてないし、黒魔女さんが通るとも言われてません。

 

「……とにかく、もう戻るからな」

「あっ、待ってお兄ちゃん。――――もちろん私は、お兄ちゃんの事……大好きだからっ!!」

「――おう、ありがとな!」

 

兄弟愛(偽)だとしても、好きと言われるのはやはり嬉しい物だ。

これでミッションクリアにまた一歩近づいたし、よかったよかった。

 

【選べ ①なぜ急に押したり引いたりの話になったのかを問いただした後、答えられる前に移動する ②こんな場所にもう要はない。さっさと柔風の元へ向かおう】

 

―――お前、柔風が好きなのか?(青春感)




IFルート【①確実に成功する。その代わりグラウンドで何かを叫ぶ】

……なんとか誤魔化すのは成功した。
が、そのせいで俺の足は自分の意志とは無関係にグラウンドへ向かってしまっている。

恐らく、何かを叫ばせるつもりなのだろう。
一体それがどんな言葉なのか、皆目見当もつかない。

単語なのか、文章なのか。
そもそも日本語なのか、言語として成り立っているものなのか。
ヌベスコ系統だったら、マジで困るんだが…いや下ネタ叫ぶ方が精神的にも周りの目的にもキツイんだが。

「―――あぁ、なんかみんなの視線が集まってきてる気がする…」

うちの学校は、グラウンドが見れるような位置に鏡があるため、俺が本来誰も来ることのないような時間帯にグラウンドに一人佇んでいるのは、全教室から見ることができるのだ。
まぁ、一部見ることのできない教室もあるが。

あ、なんか叫びそう。

「スゥー……磯野ォおおおお!野球しようぜぇえええ!!!」

しようぜぇ…ようぜぇ…ぜぇ…ぇ……

さながら山彦のように響く俺の声を聴きながら、俺はただ一つだけ、こう思うのだった。

―――この学校に、磯野って生徒いんの?


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①一部以外偽物!つまりシリコン! ②幼子以外NG!つまりロリコン!

デカパイやめますか?人気者やめますか?というお話。

金出君豚になる、というお話でもある。


「あ、居た居た。おーい、柔風ー!」

「…天久佐君?」

 

柔風のいる教室…二年十五組にたどりついた俺は、教室に入ることなく柔風を呼んだ。

別に入ってもよかったのだが、明らかに入ったら選択肢が何かふざけさせるのが目に見えていたのだ。

 

【選べ ①このまま柔風が来るのを待つ。もしかしたらテロリストが学校を占領するかもしれない ②一度教室に入って、逮捕確定の卑猥なことをする。確実に爆撃に遭う】

 

…ほらな。

①選ぶけど、頼むからテロリストは来ないでくれよ…?

 

「えっと…どうしたの、かな?」

 

特に何も起きることなく、柔風が俺の元まで来た。

よし、テロリスト云々はセーフ…だな。

 

「大したことじゃないんだが…ほら、昨日俺、お前ら全員に好きって言わせるーみたいなこと言ったろ?」

「あ、あれね…もしかして」

「ああ。そのまさかだ。―――ほら、俺って普段から奇行ばっかで嫌われてるだろ?だからこうして誰かに「好き」って言ってもらえたらやる気も出るかなぁって」

「そ、そうなんだ……わかった。そういうことなら―――」

 

【選べ!】

 

なぜ感嘆符。

 

【①「因みに俺は柔風の事、好きだぞ」と爽やかに言う ②「俺は柔風の体が好きだぞー!」と二年十五組の生徒全員に叫ぶ】

 

いや②ふざけてんの!?

なんだよ体が好きって!言えるかそんなの!

 

―――そういやなんか、こいつ俺に爽やか路線攻めさせすぎじゃね?

イケメンスマイル(笑)といいさ、なんかこう―――ネタ枠からイケメン枠へ移動させようとしてくれている…?

 

だとしたらそのまま頑張ってほしい。もしかしたらお断り5からの脱出もあり得るかもしれないしな。

 

「わ、私は天久佐君の事―――」

「因みに俺は柔風の事、好きだぞ」

「えっ、好っ…!?」

 

爽やか、というのはあまり上手くできる自信がなかったが、案外何とかなったのだろう。

見ればほら、柔風こそ真っ赤になって硬直しているが、二年十五組の皆さんはドン引きしているというわけではなく……あれ?どうしてそっちまで硬直する必要が?

 

俺まだ普通に「(人として)好きだぞ」としか言ってないんだけど?

あっ、爽やか(笑)だったけどさ。

 

「くっ…やっぱ無理だ…!野郎ども!」

「「「うぉおおおおお!!死ぬときゃ一緒だぜ!!」」」

「えっ!?何事!?―――おぉおおお!?」

 

突然背後から聞こえてきた男たちの声に反応して振り向いた次の瞬間、俺の体は四人の男たちによって持ち上げられていた。

 

―――まっ、まさか親衛隊!?死んだはずじゃ(弱みを握ったはずじゃ)…?

 

驚愕と混乱のせいで抵抗がおろそかになってしまった俺は、例の場所(校舎裏)まで連中に運ばれてしまうのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……あいつ等すげぇよ。自分が弱み握られてるってのに…」

 

その真っ直ぐな愛がどうしてこのような形で発露してしまっているのか、それがどうしても理解できない。

サドル盗むとかはまぁわからんでもないが…パンツを贈るとか、歪みすぎじゃねぇかな。

 

好きと言われそうになった事と、好きと言った事―――その二つの理由から、結局俺はボコボコにされた。

いやね?本当は脅しをちらつかせてその場を切り抜けようとしたのよ?

そしたらさ。

 

【選べ ①全てバラす。なんだかんだで彼らは死刑になる ②何も言わない。脅しはせず、このまま殴られる】

 

なんて両極端な選択肢が出てきてさ?

仕方ないから②選んだら、これだよ。

あ~、青あざが痛む。

 

「天久佐君!」

「柔、風?どうしてこんなこの学校のアンダーグラウンドみたいな場所に…」

「いつも私に話しかけてくる男の人を連れていく人達に、天久佐君が連れていかれたから…気になってついてきたら、こんな事されてて―――もしかして、いっつも同じ事してるのかな…だったら、許せないよねっ」

 

珍しく起こった様子を見せる柔風…だが、全然怖くない。

なんだろうこの癒しの波動。人ってやっぱり純朴なものを求めてるのかな。

 

【選べ ①「ほんと、酷い奴らだよなー!あぁ、痛ぇ、痛ぇよぉ!!」と泣き叫びながら柔風に抱き着く。というか泣きつく ②「アイツ等の事、あんまり悪く言わないでやってくれ。俺にも責任はあるんだ」と言って庇う。誰かの好感度が上がる】

 

別にアイツ等が悪いわけじゃないんだよなぁ…実際、お断り5の中での最強各と言われている俺が、自分の好きな相手に『パンツ見せろ』だの『M字に足を開け』だの『好きと言ってくれないか』だの言ってたらそりゃ心中穏やかじゃないだろうし。

 

普通の人にやる分には過激すぎるだろうけど、俺相手なら別に…客観的に見れば、普通なんじゃない?

 

でもね、その誰かってのがよくわからないんだ。

もしこれで全くこの場に関係ない権藤大子さんの好感度とかが上がってもマジで困るだけなんだよ。

そしてそれを平然とやってのけるのがこの選択肢なんだよ。

 

普通ならさ?ここだと柔風が『こんな目にあわされても庇うなんて―――素敵!』ってなって好感度が上がるとか、こっそり見てる親衛隊の皆さんが『俺たちを…庇ってくれたのか…?―――いい奴!』ってなって好感度が上がるとかじゃん?

でも選択肢は別に『この場にいる』とも『この話に関係する』とも言ってないのよ。

 

で、そういう時に限って俺にとってあんまりよくない事ばっかり出てくんの。

権藤大子さんとかね?

 

まぁ、②にするけどさ。

はぁ…帰り道に、気を付けよう。

 

「アイツ等の事、あんまり悪く言わないでやってくれ。俺にも責任はあるんだ」

 

俺にも責任はあるなんて言ったが、実際は九割くらい俺が悪いんだよな。

そりゃ好きな子が変態(実際は違うのだと声を大にして言いたい)に『パンツ見せろ』とか『M字に足開け』とか『好きって言ってくれよ』とか言ってたら心中穏やかじゃねぇよな。

 

まぁやりすぎだとは思うが。

ちょっと殴りすぎだと思うのよ私。

 

「あ、あのね?―――私、好きだよ。天久佐君の事」

「―――えっ?」

「い、いや人として、ね!?別に男の子と女の子のーとかじゃなくって!?」

「あー、それはわかってるんだ。――ただ、まさか本当にそう言ってくれるとは思ってなかったなぁっと」

 

完全に不意打ちだったな。

けどまぁ、おかげでミッションはクリアできたし、なんかちょっと満たされた。

 

うんうん、可愛い子から好き(感情などは問わないものとする)って言われるのって素晴らしいな。

―――まぁそんなの世の男性はほとんど味わえてないんだけど。

 

この時ばかりはミッション様様だな。

…いや、俺って選択肢さえなけりゃモテモテなんだし、普通に可愛い子から好きって言われてたんじゃね?

だとしたらやっぱ大損じゃん。あっぶねー、少しだけ見直すところだった。

 

「……おい天久佐ぁ!!」

 

やべぇ、再び親衛隊たちが!

もはや自分のことなどどうでもいいと、柔風に好きと言われた俺を制裁するために進軍してきている親衛隊たちが!

 

…ミッションもクリアした事だし、ここは奴らにゃ悪いが逃げさせてもらって―――

 

【選べ ①天久佐金出こそが最強。この場に残り、どれだけ殴られても地に倒れない不動の姿を見せつける ②天久佐金出は最弱。柔風を盾にし、殴られないようにする】

 

……柔風を盾にするなんて真似、するわけないじゃないですかやだー。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「うぅ…普通に痛い……」

 

泣き言が止まらない。

なんだよアイツ等、俺が抵抗せず倒れずにいたってのに、全然気にせず殴ってきたじゃねぇか。

不動だったせいで衝撃は逃げなかったし、余計に痛かったぞこの野郎…

 

柔風が選択肢のせいでどっか行ったせいで(①なぜか柔風も巻き込まれる ②柔風がこの場を去る代わり、痛覚二倍という選択肢が出てきたのだ)癒しもないし…

 

【選べ ①泣きながら教室に戻り、ショコラか遊王子、あるいは雪平に抱き着く。運河悪ければ宴先生にタックル ②ミッションを優先。強者のオーラを出しながら麗華堂の元まで行く】

 

①選ばせる気ないやん。

 

というわけで麗華堂が入る教室までやってきたのだが、まぁ開幕から酷かった。

 

「あら、誰かと思えば昨日の…想像を絶する屑じゃない」

「なんだその『想像を絶する屑』って…」

 

極めて自然な感じで吐かれた毒は、普段から言いなれているのだろうということを容易に想像させた。

 

しかし俺はマゾではない。

いや好きな子がサディストならいくらでも被虐的になれる自信はあるが、少なくともその相手は麗華堂ではない。

 

つまりまぁ、ただちょっとムカつくなぁというだけである。

―――そういう趣味でもないのに酷い言われようだと、イライラするよね?

 

 

「確か、天久佐金出だったかしら?」

 

【選べ ①「そうかなぁ…?」 ②「そうなのかなぁ…?」】

 

そうなんだよなぁ…

 

「そうかなぁ…?」

「なぜあなたがわかっていないのよ」

「いやあってるけどさ」

「ならなんでわざわざ質問を質問で返したのよ」

 

おっ、吉良吉影か?

 

【選べ ①「やめとけ!やめとけ!俺は付き合いが悪いんだ」と、吉良の同僚構文を披露する ②「フフ……勃起…しちゃいましてね…」と、自分の初めての勃起について語る】

 

あんな呪いじみた性癖もってねぇから!

それと、同僚構文はあくまで他人を紹介するときのやつだからな?

自分自身について話すときに『悪い奴じゃあないんだが』なんて言わねぇだろ普通。

 

「やめとけ!やめとけ!俺は付き合いが悪いんだ」

「はい?それとさっきの発言と何が関係あるの?」

「『どこかへ行こうぜ』って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか……天久佐金出、十六歳独身。普段は真面目でなんでもそつなくこなすが今一つ常人の理解の及ばない男…それなりに良い顔とそれなりに良い性格をしているため本来なら女子にはモテるはずが、普段の奇行のせいでお断り5なんだぜ。―――悪いやつじゃあないはずなんだが、これといって快く思ってくれている人のいない……味の濃い男さ」

「…自分で褒めるのね」

「自分の事も他人の事も、悪口以外は隠す必要はないからな!下手に誤魔化してどうするって話ですよ!だからほら、前に麗華堂の事正当な評価したろ?」

 

先ほどからのセリフはすべて選択肢に言わされているものです、本心ではありません。

確かに悪口以外は態々隠さなくていいんじゃねぇのっていうんは賛成だが、実際なんでも思ったことを口に出しているわけではないし。

 

麗華堂に正当な評価云々だって、別に俺が感じた内容を話しただけだから間違ってる可能性だって大いにあるからな。

 

「……まぁ、そのスタンスに文句はないけど…」

「というわけで、昨日の件。頼――」

「それは嫌よ」

「でっすよねー…」

 

そりゃこんな得体のしれない変態に、そういった意図がないにしても『好き』とは言いたくないよな。

でも言ってもらわなかったら俺は一生その『得体のしれない変態』のままなんだよ。

 

ここは何としてでも好きって言わせなくては…

 

「そもそも、どうして急にそんなはしたない事を言い出したのよ」

「え?そりゃ―――」

 

おっと、理由を聞いてきたか。

そうしなければならないから、なんて言ったところでどうせ信じてもらえないだろう。

 

かといって柔風とか遊王子とか雪平とかに言った理由で「はい、そうですか」ともならないだろうし…

 

【選べ】

 

おっと?まさかの救いの手か?

 

【①滅茶苦茶でかい声で「お願いしますッ!好きって言ってくださいッ!」と、土下座しながら叫ぶ。叫び方のイメージはすべてに濁点を付けたような感じ ②「好きと言わないのならこちらにも考えがある」と言って、その豊満なパイオツをいやらしく揉む】

 

残念、救いなんてなかった。

 

えっ、②なら色々大事なものを失う代わりに特殊ミッションをクリアできるし、こっちでよくね?

―――とはならないんだよなぁ……はぁ、中途半端に常識人でかつ偽善者な自分が憎い。

 

「なっ、なんでいきなり土下座なんて…!?」

「お”ね”か”い”し”ま”す”ッ!!す”き”って”い”って”く”た”さ”い”ッ!」

「は、はぁっ!?」

 

困惑している様子だが、土下座は続行。

…まぁ、自分の意志じゃなくてさせられてるんだけどね?

 

教室中から「うわぁ、土下座してるぜアイツ…」だの「好きって言ってください、だってさ…身の程知らねぇのかよ…」だの「ここまで来るといっそ同情するわー」だの失礼な声が聞こえてくるが、俺のハートに傷がつくだけであんまり問題はない。

 

「……頼む麗華堂!俺を助けると思って!」

「い、嫌に決まってるでしょ…?」

「ならどうすればいいッ!?マジで言ってもらわないと困るんだッ!」

「そ、そんな力強く言われてもね…」

 

【選べ】

 

今忙しいんで後にしてもらっていいですかね!

 

――あいたっ!?

 

選択肢の内容が出てくる前なのに頭痛ってお前…

わかった。で?何が言いたいんですか?

 

【①麗華堂の秘密(胸がシリコンということ)を利用し、脅す ②天久佐・A(アナタガスキダカラ!)金出に改名する】

 

「えっ、マジで!?」

「今度はいきなり何を―――」

「お前、それ…シリコン―――」

「きゃあああああ!!?」

 

こ、この反応は…

 

結構衝撃的だったせいで声にしてしまったが、それを聞いた麗華堂の反応を見るに、マジの事なのだろう。

―――まぁ、親衛隊の秘密の時もしっかり本当の事だったし、疑う余地は元々そんなになかったんだけどさ。

…あれ?それってつまりあの時俺の頭の中に流れ込んできたあれは…ホモセックスは―――

 

「う、うわぁあああ!?」

「ど、どうしてあなたが叫ぶのよ!?」

「ただの精神的ダメージなのでお気になさらず」

 

思い出すんじゃなかった。

…いや、選択肢のせいで頭の中に刷り込まれてる映像だからなぁ…忘れようにも、鮮明に覚えてしまってるんだよな…

 

「そんなことより、だ。―――俺はとある事情からお前の秘密を握っている」

 

【選べ ①「つまりお前にエッチなことし放題という事だ!ぐへへへ!」 ②「つまりお前のパイオツを握っているということだ!フハハハ!」】

 

「つ…つまりお前のパイオツを握っているということだ!フハハハ!」

「なっ…!?わ、私にどんないかがわしい事をするつもりなの…!?」

 

姫騎士かこいつ、と反射的に思ってしまうくらいには姫騎士な麗華堂だが、あまり悪い話の広げかたをされなくてよかった。

 

これ雪平だったら下ネタの応酬になってたからなぁ…

 

さて、ここで話の軌道修正をすれば…

 

「いやいや、俺の要求はただ一つ…最初から言ってることだぜ?」

「くっ……そ、そんなことを言うくらいなら死んだ方がマシよ!」

「ごふっ…!?―――い、いいのか麗華堂?シリコンだぞ?シリコンなんだぞその」

「好き!好きよあなたの事!!ほら、これでいいでしょ!?」

「ありがとうございましたッ!!」

 

大きな声で礼を言い、顔を真っ赤にしている麗華堂から離れる。

この後何されるかわかったもんじゃないからな。

 

―――よし、これでミッションはほとんどクリアだ。

あとは雪平と黒白院先輩から好きと言われればミッションコンプリート……おかしいな、まったくクリアに近づいた気がしない。

 

【選べ ①ちょっと生まれ変わってみる(転生先は問わない) ②生まれたままの姿になる(場所は問わない)】

 

あの、そんな軽いノリで転生させないでもらえませんかねぇ!?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【選べ】

 

「くかぁ…」

「すぴぃ…」

 

【①このまま黙っておく】

 

「ぐごぁー…」

「ふしゅるるる…」

 

【②思ったことを叫ぶ】

 

「うるせぇええええ!!」

 

時は授業中。

珍しく授業に集中せずに『雪平と黒白院先輩から好きと言われる方法』と『対抗戦出場者女子誰かの胸を揉む方法』を必死こいて考えていたのだが、すぐ隣の遊王子とショコラ(お子様とペット)の寝息が俺の思考を見事に邪魔していた。

 

何度か選択肢に叫ぶか否かを迫られていて、授業中に叫ぶわけにはいかないと我慢していたのだが…うん、無理。

 

すっげぇうるさいんだよこいつら。

特にショコラ。ふしゅるるるってなんだよふしゅるるるって。

 

「おい天久佐。うるさいぞ」

「あ、ごめんなさい…ていうか、この二人の寝息の方が…」

「あー、そいつらはほっとけ。起きてる方がうるさいからな」

「え、えぇ…」

「それに、えーっと…ショコラの方はお前の学業補助ペットなんだろ。お前が何とかしろ」

 

…何かが間違ってるよ。根本から。

 

【選べ ①「は?調子乗ってんじゃねぇよ絞め殺すぞハゲ」と宴先生をイメージしたキレ方を披露 ②「でも家じゃ俺の方がペットなんですよ。ワンワン!」と四つん這いになって言う】

 

…全てが間違ってるよ。根本から。

 

「で…」

「で?」

「でも家じゃ俺の方がペットなんですよ。ワンワン!」

「――――お前後で、宴先生に指導してもらうからな」

「…はい」

 

あぁ、教室内のほぼ全員の冷たい視線を感じる……

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、ひどい目に遭った」

 

授業終了後、指導室に大人しく(当社比)向かったが、到着と同時に出待ちしていた宴先生に絞められた。

それを見て、あのハゲ教師は満足そうに帰っていった。

 

―――ほんと、なんで俺がこんな目に?

 

【選べ ①「雪平の机が舐めたくなってきたな」と言って近づく ②「雪平の机に舐められたくなってきたな」と言って近づく】

 

超☆ド変態じゃねぇか俺!

そしてなんで机をチョイスしたよ!?雪平本人でも椅子でもなく!?

 

「はぁ……ゆ、雪平の机が舐めたくなってきたなー」

「ひぃっ」

 

今めっちゃドン引きした女子、顔、覚えたぞ?

 

さて冗談はさておき……近づいたらなんか、机の中からなんか出てきたんだよな。

もしかしたらこれに雪平攻略のヒントが…って言ったらなんか雪平狙ってるみたいだな。やめよう。

 

「……これって…」

「あ、しろぶた君じゃん!」

 

背後から、遊王子の声がかかる。

彼女の言っていた通り、その紙に書かれていたのは『UOG』が最近推して来ているマスコット、『しろぶた君』だった。

というかこれ、チラシだったのか。

 

「しろぶた君か…そういや、近日しろぶた君のイベントがあるらしいな」

「そーそー!ていうか天っちもそういうの見るんだねー」

「実は結構可愛いものが好きでな。部屋にも何個かそういうマスコットのぬいぐるみがあるんだよな」

「へー…あ、もし良かったらしろぶた君の中身、やってみる?」

「……お前そんな子供の夢ぶっ壊す発言を平然とするなよ…」

「でもでも、天っちはもう『ミ●キーの中身は人間』ってわかってるでしょ?」

「わー!バカお前やめろよそういうこと言うの!この作品削除されちゃうだろ!?」

「だいじょーぶだって!そんなに見てる人いないから!」

 

それはそれで傷つくけどなー…っておい。メタネタと夢の国ネタはダメって新古今和歌集にも書いてるだろ。

まぁメタな話は俺から始めたんだけどさ。

 

「しかし俺inしろぶた君か…やってみたい気もするな」

「でっしょー?実はまだ中の人決まってなかったし、即採用イケるんだー」

「専門の人とかいねぇの?」

「ほら、しろぶた君って過去のトラウマで複数の人格があるって設定じゃん?だから、毎回入る人を変えて、しかも素人を使うようにしてるんだよねー」

「なるほど…」

 

そういえば、子供向けにしてはやたらヘビーな設定の持ち主だったなしろぶた君。

 

…さて、いい機会だし入ってみていいかもな。

着ぐるみの中に入るなんて、滅多に体験できないことだろうし。

それが自分の好きなキャラのーともなれば金を払ってもいいレベルだ。

―――いや、さすがに金とられるか?

 

【選べ ①なんか気になるし、裏面を見てみよう ②雪平が悲しんでいる顔が見たいので、原形をとどめないレベルに破こう】

 

虐厨か!

ていうかまだこれが雪平本人の持ち物と決まったわけじゃないだろ!

ほら、弟とか妹とかのやつかもしれないし―――そういや俺、アイツの家族構成とか微塵も知らねぇな。

遊王子は家族が有名人だから知ってるけど。

 

「…んだこれ」

「おー。随分と熱烈に愛してますなー」

 

選択肢の意志のままにチラシの裏面を見てみれば、そこにはまぁ…落書き?があった。

 

揺れたり震えたりした線で描かれたしろぶた君(新宝島並)と、『しろぶた君可愛すぎるよぉ、大好きっ』という字が書かれており、このチラシの持ち主が大層しろぶた君を愛している事が見て取れた。

 

―――まぁ、その丁寧×3(新宝島並)な絵は『しろぶた君可愛すぎ(以下略』の文がなければしろぶた君と理解できないのだが。

いや…見る人が見ればわかるのか?

 

「ふむふむ…なるほど。わかりましたよ金出さん」

 

【選べ ①「あんたなんかに!何がわかるって言うのよ!」と裏声で叫ぶ ②「この泥棒猫!」と言って頬を叩く。もろちん裏声】

 

なんかショコラに当たりきつくない?

それと②。お前バレてないと思ってるんだろうけど『もちろん』じゃなくて『もろちん』って書いてるのしっかりわかってるからな?

 

「…許せショコラ……あんたなんかに!何がわかるって言うのよ!」

「もちろんすべてです。まさしくなるほどざ・わーるど」

「それクイズ番組だからね?」

「ことばのあやです―――で、ですね?わたしはこう言いたいわけですよ」

 

…助かったぞショコラ。おかげで俺の裏声怒鳴りは全員の意識から消え…てねぇな。

みんな全然流してくれてねぇわ。小声でめっちゃ悪口言われてるわ。

 

「これをみるに、ふらのさんはしろぶた君のことが大の好きなのでしょう」

「そりゃまぁ『大好きっ』って書いてるくらいだしな…いや妹か弟のやつを持ってただけかもしれないけど」

「つまりですよ。金出さんがしろぶた君の中に入れば、ふらのさんから好きと言われるかのうせいがあるのです!」

 

【選べ ①ショコラの名推理をこれでもかってくらい褒める ②本心を出す】

 

「何が言いたいんですかね」

「ですから―――」

「つまりショコラっちは『しろぶた君の中に入れば、しろぶた君に対して発せられた『好き』って言葉を天っちが受け取れる』って言いたいんでしょ?」

「そう!そのとーりです!」

「……そんなうまくいくもんかね」

「いちばんげんじつみがあると思いますよ?」

 

ショコラさん。それじゃ俺は俺のままじゃどう足掻いても好きって言われないような奴だってことになっちゃうんですけど?

―――まぁ実際嫌いって言われたけどさ…

 

「天久佐、君…?」

「ん?あぁ、雪平か。どうしたんだよ、そんなに顔真っ青にして」

「―――それ、見たの?」

「あん?…ああ、見た、けど?」

 

恐ろしく速い手刀。俺も見逃したね。

 

雪平は自然と俺の隣に来ており、そのまま素早く喉めがけて手刀を繰り出したのだ。

防御も回避も間に合わなかった俺は、それはまぁ無様にも大ダメージを受け…

 

「げほっ、うごっ、がほがほっ…」

 

こうして、地に這いつくばりながらせき込む事になってしまったのだ。

 

いや痛ぇなオイ!なんだよこいつ強すぎねぇか!?

 

「どうして…どうしてこうなっちゃうのー!!」

「ゆきひ…げほっ、ごほっ」

 

小さな声で叫びながら走り去っていった雪平に手を伸ばすが、まだせき込むのが収まらない。

…つまりこれは、あのチラシはアイツのだったという事…なのか?

 

まぁ以外っちゃ以外だが、可愛いもの好きくらい恥じらう程の事でもないと思うんだが?

俺の喉に手刀するとか、ちょっとやりすぎな気がするんですがそれは…

 

「―――今のでかくていですね。あきらかにふらのさんはしろぶた君が好きです」

「…あぁ、そうだな」

 

【選べ ①「乗せてください!―――僕はしろぶたゲリヲン初号機パイロット、天久佐金出です!」 ②●ッキーマウスかミ●ーマウスの中の人になる】

 

だから夢の国ネタやめろというに。

 

 

 

 

 

「話は聞いてるよ天久佐君。僕は遠藤。このイベントの…まぁ、主任?みたいなものだ」

「あ、はい。天久佐金出です。よろしくお願いします」

 

翌々日…つまり日曜日。

イベント会場に向かうと、三十代くらいのおじさんが俺を出迎えてくれた。

 

遠藤さん、か…ネームプレートのところには『飼育員:前原』って書いてるんだが…

しろぶた君に関連しての、キャラ作り…か?

 

【選べ ①あいさつ程度の軽い下ネタ ②あいさつ程度の新鮮なネタ】

 

②の方のネタって、まさか寿司の話か?

…握ったことないんだが、大丈夫だろうか…え?①?知らない子ですね。

 

「とりあえず、お近づきのしるしに…」

「これは…」

「イカ2貫です」

「イカ2貫!?」

 

お、ノリがいい人で助かった。

寿司を握らずに、手の動きだけでネタを握ったように見せかけての『イカ2貫』だったが、何とか通じてくれたようだ。

 

「…で、僕が入るしろぶた君って…」

「あ、あぁ…これだよ。一応通気性はいい、あまり暑くならないタイプにはなってるんだけど…」

 

【選べ ①「白式」と呼びかける ②「これがペガサスの聖衣(クロス)」と呟く】

 

しろぶた君なんですけど。

 

そしてなんでその二つなんだよ。

類似点色しかねぇからな?ジャンル別だからな?

 

「…白式」

「別にこれ、女しか入れないわけじゃないからね?」

「…単なる気分の問題なので気にしないでください」

 

遠藤さん、ISご存じなんですね。

因みに何党の方なので?

 

そんな質問を心に留め、一度しろぶた君に入る。

 

中は殆ど空洞になっていて、メッシュ生地でできていた。

なるほど、確かに涼しそうだ。

…まぁ、見た目通りの重厚感なせいで、動かすのが少し難しいのが難点だが…そこは慣れればいいだろう。

 

「…そういえば、遊王子は?」

「あー、謳歌ちゃんはね。昨日の夜、あんまりにも今日が楽しみすぎて寝れなかったせいで今も熟睡中で来られないってご両親から…」

「子供かっ!」

 

そういや子供だったな、アイツは。

でもまさか遠足が楽しみで結局寝れずに遅刻する(もしくはいけなくなる)現象がこの年になって起こるなんて、さすがに予想できなかったぞ俺。

 

ショコラはショコラで起きる様子がなかったっていうか…また俺で腐った夢を見てたから放っておいたっていうかだし…前途多難な気がしてきたぞ。

 

まぁ雪平に好きと言わせようとしているということ自体がかなり高難易度だからな。

今更ショコラと遊王子がいないくらい、気にしてちゃダメか。

 

 

 

 

 

その後、しっかり司会のお姉さんと台本を見ながら打ち合わせをし、いざ本番、ということになった。

実際俺の仕事は司会のお姉さんの言葉通りに動き、子供たちと適度に触れ合えば終わりらしいし、あんまり緊張はない。

顔を出すというわけでもないしな。

 

《みんなー!こーんにーちはー!》

「「「「「こーんにーちはー!」」」」」

《あれれ~?聞こえないぞ~?じゃあ、もう一回!こーんにーちはー!!》

「「「「「こーんにーちはー!」」」」」

 

うん。ヒーローショーでよく見る光景だな。

まぁこういう子供向けイベントではもはやテンプレなのだろう。

俺も最近、仮面ライダーショーで同じように…

 

【選べ ①子供たちに混ざって「オッハーーー!(激寒)」 ②舞台袖から「イクゾーーー!!オエッ」】

 

今から子供たちに混ざるの!?

…あ、選択肢が自動転送してくれるタイプ?

 

「オッハーーー!(激寒)」

「えっ、しろぶた君?」

「いつの間にここに?」

「わーい!しろぶた君だー!」

「もふもふだー!」

 

いきなり転送されたはいいが、まさかど真ん中にとは思わなかった。

どんな手品だよオイ。手品が特技と豪語する俺でもドン引きだぞ。

 

しかし会場の子供たちは深く考えないらしい。

しろぶた君がすぐ近くにいる、という事が頭の中を埋め尽くしているのか、嬉しそうに触れ合ってくるだけで、不思議そうにしている子はいなかった。

…まぁ、保護者の方は首をかしげているが。

あぁ、足元見ないでください。タネも仕掛けもないんで。

 

《え、えぇ…なんでしろぶた君がそこに…?―――んんっ。今日のしろぶた君は、マジシャンみたいだね~!》

 

ナイスフォローありがとうございますお姉さん。

迷惑かけてすみませんね、ええ。

 

でも今日のしろぶた君はマジシャンみたい、というのは誤魔化せているのか?

確かにマジックは得意だが…

 

「すっごーい!」

「ねぇねぇ!他のも見せてよ!」

「帽子からハト出してー!」

「宇宙空間から生身で生還して~!」

 

おうおう、子供たちの純粋なリクエストが…いや最後の子怖いな!そんなの金が足りねぇわ!(できないとは言ってない)

 

でもまぁ、タネも仕掛けも用意できてないわけではない。

着ぐるみの中?馬鹿を言うなよ。

この天久佐金出。選択肢のせいで下落する他ない好感度を何とか維持するために、必死こいてなんでもやったんだ。

予定外のマジックだって、アドリブで何とかしてやらぁ!

 

…つまり『いつそういうのが必要な状況になってもいいようにいっつもマジック道具を持ち歩いている』って事だ。

 

《え、えーっと…さすがにもう手品はできないみたいだから、今日はもうふれあいタイムで…》

『ぶひぶひ!ぶひひぶーひでぶ!(特別意訳:まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ!)』

《えっ?しろぶた君どうしたの?―――って、あれ?いつのまにかシルクハットが》

 

子供たちに一度離れてもらってステージまで行き、お姉さんの隣に立ってから、本格的に手品をスタート。

まずは何もない空間からシルクハットを取り出してみた。

 

え?解説?ねぇよそんなの。

 

『ぶひぶひぶー…ふごふごぉ!(特別意訳:この帽子から……じゃじゃん!)』

「あー!ハトさんだ!」

「すごーい!」

「えっ、うそ本物…?」

「今回のしろぶた君すげぇよ…」

 

シルクハットをこれまた虚無から錬成した杖で叩き、中からハトを出す。

 

タネ?仕掛け?だから言わねぇって。

 

その後、ハトを身振り手振りで呼び寄せて帽子の中に全てしまう。

そして、シルクハットを会場の方へ投げ、杖の先を向けると…

 

「わー!」

「しろぶた君だー!」

「かーわいー!」

 

シルクハットが破裂し、大量のしろぶた君人形が子供たちへとゆっくり落ちていった。

大人たちすら拍手しているし、中々うまく決まったんじゃないか?

 

あ、この人形は自費なんですよ。財布が痛いね。

 

『ふごふご、ぶひひふご?(特別意訳:みんなからリクエストとってもらっていいっすか?)』

「り、リクエストなんて…大丈夫?」

『ぶっひい!ふごひひぶひご!(特別意訳:大丈夫だ。問題ない)』

《じゃ、じゃあ……何か、しろぶた君にしてみて欲しい手品がある人ー!》

「はーい!」

「はいはーい!」

「最高に『ハイ』!」

 

今DIOいなかったか!?

 

おっと、後ろの方の子が当たったなー……ってその隣に雪平ぁ!?

ま、マジで居たのか…まぁいなかったら困ったんだけどさ。

 

よし、雪平がここにいると知れたのはいいことだ。

取り合えずリクエストのマジックをいくつかこなして、雪平のところまでふれあいタイムで行けばいいか。

 

「おっきーすいそうからだっしゅつするやつ!!」

《す、水槽?―――し、しろぶた君》

『ぶっひ。ぶひひっひ。ふぐふぐ。ぶっひぃ!(特別意訳:俺になせない事はない。まぁ任せておきなさい)』

 

なんだ、水槽か。

それくらいなら手品で何とかなるな。

 

…だから、タネも仕掛けも言わないって。くどいよ?

 

…さて、ここにありますは一枚の黄色いハンカチ。

それを軽ーく振ると……大きくなっちゃった!(耳並)

そして、大きくなったハンカチを背後に投げ、それっぽい踊りをすると~~?

 

『ぶひっ!ぶひひひー!(特別意訳:はいっ!水槽で~す!)』

「おー…」

「マジですげぇな…今回プロ入ってんじゃねぇの?」

「本当に脱出マジックやるのかな…」

 

さて、今度はしろぶた君に手錠をつけましょう。

マゾではありません。雰囲気づくりです。

 

―――はい、つけましたね。

では今度は足に重りをつけましょう。

もちろんこれも雰囲気づくりです。

 

…よし、準備完了っと。

 

『ぶひぶひ。ふごふごひひぶ?(特別意訳:お姉さん、上まで連れてってくれません?)』

《つ、連れてくって…階段も何も―――ある…》

『ふごふご。ぶひっふご。(特別意訳:用意してありまっせ。抜かりはないです)』

 

水槽と一緒に階段も出しておいたんですね。

 

お姉さんに導かれるままに階段を上り、さながら囚人のごとき手枷足枷をつけたしろぶた君()は水槽の中へ躊躇なく飛び込んだ。

 

無論水で満たされているし、お姉さんに頼んで水槽の蓋を閉じてもらった上でカギもかけてもらった。

 

…さて、本領発揮だ。

 

《さぁーて!果たしてしろぶた君は脱出できるかな?》

 

お姉さんはもう開き直ったらしいな。

もう俺に不可能はないとすら思っていそうだぞあれ。

 

…っと、着ぐるみの中だから普段と勝手が違うんだった。

えーっと、これをこうしてこうすれば…よし。

 

『ぶひ、ぶひ、ぶひ……ぶっひぃ!(特別意訳:3、2、1…はい!)』

 

手を大きく動かし、スリーカウントした次の瞬間。

しろぶた君の姿は水中から消えており、お姉さんのすぐ隣に手枷と足枷の外れた、ちょっぴり湿ったしろぶた君が立っていた。

 

…で、会場の反応は…?

 

「すっごーい!」

「ほんとにだっしゅつしちゃった!」

「おいおいまじかよ!?」

「あのしろぶた君やべーぞ!?」

「あれ、魔法なんじゃないのー?」

「じゃあ僕は、君の魔法の虜だね…」

「もう……大好き」

 

おいこらァ!!そのど真ん中でいちゃついてるカップルァ!!

お前ら顔覚えたからな!二度とここには来れないように、ブラックリスト入れとくからな!!

俺の手品を!お前らのイチャイチャの道具にすんなやぁ!!

 

…おっと、取り乱してしまった。

だがまぁ、一部を除けばいい反応だな。

もっと披露してしまいたい。

 

だが時間も時間だし、そろそろ終わりにしないとな…

どうしよう、ラストマジックは何がいいかな。

 

《じゃあ、そろそろさよならの時間だからー…最後にでっかい、すごい手品を見せてくれるんだよね?》

 

なんすかその圧。

正直しろぶた君人形の雨をラストにすりゃよかったなぁって思ってるよ俺。

 

えー?すっごいの?すっごいのって……

あっ、あれでもやるか。

 

『ぶひふごひ。ぶひひぶーひぶぶ(特別意訳:では皆さん。お手を拝借)』

 

そういって拍手の動きをすると、リア充を除く全員がキラキラした目でこちらを見ながら拍手を始めた。

よしよし、だんだん早くしていって……

 

最高速度に達した時、奇跡の大マジック!

 

『『ぶひぶひ~!!(特別意訳:二人になりました~!)』』

 

昼間なのによく見える花火を大量に打ち上げ、夏も近いというのに雪を降らせ、その上しろぶた君を二人に増殖。

 

本当は一つずつ披露する気だったが、全部一気にやればすごいインパクトになっただろう。

実際、会場の全員も驚きで何も反応できてないしな。

 

そりゃ突然花火(しかも打ちあがってる場所を見ても大砲などが置かれていないように見える)が上がって雪が舞って、しろぶた君が二人のなったらねぇ?処理しきれないだろうよ。情報を。

 

実際二人になったとか言っているが、同じスーツの中に人型のものを入れて固定して、マイクで二人分声が出てるように錯覚させてるだけなんだけどさ。

…あっ、解説しちゃった。

 

でもまぁ……大成功だったし、いっか!

 

【選べ ①この後、手品をしながら広場内を歩き回る。俺はエンターティナーだ ②雪平が最優先。このまま雪平を探しに行く】

 

…もうすでに、見つけてるんだよなぁ…




IFルート 【②●ッキーマウスかミ●ーマウスの中の人になる】






         【この作品は削除されました】










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①雪平ふらのは可愛い ②雪片弐型はかっこいい

そこまで痛くないから。大げさすぎるから。というお話。


「あっ!しろぶた君だ!」

「ねぇねぇ、なにか手品してー!」

『ぶひひ~!』

「わー!無限ハンカチだ!」

「おもしろーい!」

 

時折子供たちに呼び止められながらも、雪平がどこかにいるだろうと探し歩く。

 

…あれ?ちゃんと雪平を見つけてたよね?と疑問に思う方がいるだろうと思うので、少し回想させてもらおう。

あれは、ショーが終わって舞台袖に戻ってからの事だった。

 

『いやぁ、すごかったよ天久佐君!これからも何度かお願いしたいくらいだ!』

『あっはは~!でも、それじゃしろぶた君のイメージとか色々台無しになっちゃうじゃないですか~』

『だが、君は本当にすごかったよ!まさしく手品のために生まれてきたと言ってもいい!』

『あはははははっ!それほどでも~!……っと、それでこの後なんですけど』

『え?ああ。君には広場を一周してもらって、その途中で子供たちにあったら、軽ーく触れ合ったり手品を披露したりしてほしいんだ』

『あ、外回りしていいんですか?』

『寧ろこっちからお願いしたいくらいだよ。―――じゃあ、さっそくお願いしていいかな?』

『あ、はい。では』

 

 

『…あれ?雪平?』

 

はい、回想終了。

会話文だけでもわかると思うが、結局何が言いたいのかというと…『褒められて有頂天になって、しかもトントン拍子で外にこのまま出ていいと許可をもらって勝利を確信していたら、肝心の雪平がどこかへ行っていた』という事だ。

間抜けすぎる。

 

しかもこれ、①と②を同時に選んだってことになってるらしく……端的に言えば、頭が痛い。

いや子供の前だったら絶対陽気に振舞うよ?シャボン玉を風船に変えて、それを割ったらキャンディが出てくる手品とか普通にやるよ?

けどね、痛いんだよ。とっても。

 

…そうだな。歩き回って子供たちに手品をしてるところだけ見せても面白みないし、少し俺が味わう頭痛について説明しよう。

―――自殺頭痛という言葉を聞いたこと…あるだろうか?

 

正しくは群発頭痛と言って、眼窩を中心に痛みが発生する頭痛で、一定期間…一週間に一度など、ある周期にその痛みが来る。

特筆すべきはその痛みで、なんでも『自分の親指くらいの小人が眼球の奥にある神経や肉を悪意に満ちた顔で食い荒らす』ような痛みらしい。

まぁぶっちゃけて言えば『恐ろしく痛い頭痛』という事だ。

 

ではなぜ『自殺』なんて呼ばれ方をしているのか?という疑問が出てくるだろう。

これは簡単な話で、『あまりの痛みについ自殺してしまう』ということらしい。

日本人の自殺率は低く、アメリカ人などがそれによってよく自殺するらしいのだが…

その理由が単に『銃がそこにあるかないか』の違いでしかないという。

 

つまり、銃が手元にあるから、痛みを感じたら自分で頭を撃ってしまうのだとか。

 

そんな恐ろしい頭痛の話を何でしたのか、というのは、もう察しのいい人ならお分かりだろう。

―――催促の痛みも、これくらいなんだよ。

 

普段は単なる片頭痛程度で済んでいる。

だが少しでも『拒否』や『抵抗』をすれば、親指大の小人が俺の眼窩を貪り喰らう。

そのくせ自殺しそうになったら例の『①死なない ②死ねない』が出てくるんだよな。

地獄だぜマジで。

まぁ最近はそこまで痛くならないから転がりまわるような真似はしないけどさ。

 

―――っと、こんな話をしているうちに……見つけたぜ、雪平。

あの白い髪に、赤みがかった目。そして整った顔―――うん。雪平だ。

 

じゃあどうやって話しかけよっかなぁー…ん?

 

「……こんにちは、しろぶた君」

 

まさか雪平の方から声をかけてくるとは…ラッキーだな。

ここはキュートなしろぶた君を演じて、様子をうかがうとしよう。

 

【選べ ①ここはクールさで勝負を決める ②ここはユニークに手品を披露する】

 

キュートでええんやって。

なんで態々そんな……でも雪平ってどっちの方が好きなんだ?

 

うーん…勝負を決めるってのが怪しいし、ここはユニークに賭けるか…?

 

「わっ…!?これ、しろぶた君…?」

『ぶひぃ』

 

手を叩き、地面に手を当てて、さながら錬金術師のごとく地面からしろぶた君ぬいぐるみを錬成した。

ほら、あいさつ代わりにプレゼントは道化師の鉄則みたいなところあるから(本物を見たことがない)

 

「……あの、一回転してもらっていいかしら」

 

…なんだその要求。

普段ならこの辺でとんでもない下ネタか恐ろしい要求が飛んでると思うんだが……まぁ、従うか。

 

【選べ ①くるっと・まわって・いっかいてん ②不動をつらぬく】

 

一回転の言い方よ。

それあれじゃん。ケロ●軍曹じゃん。

歌わなきゃなの?

 

「…ありがとう。ちょっと触らせてもらってもいいかしら」

 

体を小刻みに震わせながら、雪平はなおも質問してくる。

別に構わないんだけどさ?なんかこう…身にまとうオーラ的なものが…不穏?なんだよな。

 

うなずいて見せると、雪平はゆっくりと俺に手を伸ばし、しろぶた君を撫で始めた。

 

因みに水槽脱出マジックの時の水気はちゃんととってあるので、洗い立てのようなふわふわもふもふ感だと思うぞ。

 

「もう、我慢しなくても…いいわよね」

 

そう呟いた雪平に、着ぐるみの中で首をかしげる。

…我慢ってなんだ?もしかして、今からいつもの下と毒のオンパレードに…

 

「ここには知り合いもいないだろうし……いいわよね」

 

知り合いもいないだろうしってお前…人前でもどこでも気にせず下と毒をまき散らしてるだろうに。

 

呆れるように溜息を小さくついた俺を、強い衝撃が次の瞬間に襲い掛かった。

 

「はうう……やっと傍に来られたよぉ、しろぶた君っ」

『えっ(特別意訳:えっ)』

「か、かわいいよぉ…」

 

普段からは想像もできないような声を出しつつ、俺に抱き着いてきた雪平に、俺はしろぶた君風喋りを忘れて、素の声を出してしまった。

 

―――いや、何この子。雪平?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

雪平(?)からの熱烈な抱擁を受けること数分。

呆然としている俺に、ようやく離れた雪平(?)がオドオドと質問してきた。

 

「えっと…一緒に写真、とっても…いいかな?」

 

うーん。可愛い。

 

おっと、見とれてても仕方ないな……うん、写真ね。

それくらいならいくらでも一緒に写ってやりますよ。

 

【選べ ①ここは自分が率先してスタッフを呼ぶ ②ここは雪平に呼びに行かせる】

 

…あ、そうか。

別に俺が呼べばいいじゃんって思ったけど、しろぶた君が普通に喋ったらイメージ崩壊とか俺の身バレとかがあるかもしれないのか。

 

それに、スタッフの人に俺のしろぶた語が通じるのかも疑問だしな。

もし通じなかったとしたら、ただしろぶた君がぶひぶひ言ってるだけになってしまう。

 

それはそれで、第三者目線で見てみたい気もするが。

 

「あ、あのっ、お仕事中…申し訳、ないんです、けど…」

 

いやすっげぇオドオドと声かけるね君。

もしかして雪平似の別人?

 

ほら、スタッフさんもその全身から放たれてる緊張感に気圧されてか、若干後退りしちゃってるじゃん。

 

「えーっと…どうしたのかな?」

「そのぉ……しろぶた君と、一緒に写真を撮りたいんですけど…」

「ああ、撮ってほしいのか。それなら全然いいよ。―――いやぁ、随分緊張してるっぽかったし、もっとすごい事言われるかと思ったよ」

 

ははは、と笑うスタッフに、雪平似の誰かさんは耳まで赤くして俯くだけだった。

――あれ?なんか前に、雪平がこんな風になっているところを見たことがあるようなないような…?

 

「はい、笑って笑ってー?」

 

カメラを構えたスタッフが、雪平にもっと笑うように指示。

ふむ。確かに表情が硬いな。

せっかくのマスコットとのツーショットなんだから、もっと笑顔にならなくては勿体なかろう。

 

しかし今の俺はしがないホワイト・マジシャン・ピッグ。

お客さんに媚びる事とそれっぽい手品をする事しかできないのだよ。

 

【選べ ①リンチされている最中のしろぶた君の鳴き真似 ②リンチされている最中のしろぶた君の真似(動作のみ)】

 

――――リンチされている最中のしろぶた君ってなんだよ。

 

「え、えぇっ!?どうしちゃったのしろぶた君!?」

「ちょ、大丈夫!?」

 

あぁ、スタッフさんに雪平さん。心配してくれてありがとうございます。

でも、今の僕はしがないリンチされている最中のホワイト・マジシャン・ピッグ。

無様に地を転がるしかできないのだよ。

 

『ぶひぶひ。(特別意訳:お気になさらず)』

「な、何を言ってるのかわからないけど…問題ないなら、いいか。じゃあ撮るよー」

「…今のしろぶた君、なんか天久佐君みたいだったな…ふふっ」

 

おっ、いい笑顔じゃないですか雪平さん。

 

ていうか今、明らかに俺の事言ってたよな。

そりゃ確かに学校で何度もリンチされている最中の豚の真似をしてたら、持ちネタとも割れてても仕方ないよな。

実際はスベリ芸だけども。

 

「じゃあ、もう一枚撮るよー」

 

もう一枚か。

今度は何かポーズとかもつけてやりたいな。

しかしピースとかはこの着ぐるみ状態では不可能だし…

 

【選べ ①ここは芸人魂を見せつけるべく、着ぐるみの中から抜け出してみる。その時の表情はアヘ顔 ②普通が一番。雪平に抱きつきながら、着ぐるみの中でアヘ顔】

 

俺に芸人魂とかないからね?

別にいっつも人前で滑稽なことしてるのは自分の意思じゃないからね?

確かに二択のうちから選ぶのは俺自身の意思だけど、提示してきているのはそっちだからね?

 

まぁ、アヘ顔は嫌だけど、誰かに見られるよりはマシだよな。

本当、男のアヘ顔とか誰得だよって話なんだけど。

 

「ふぇっ!?しろぶた君!?」

「お、いいねいいね!」

 

僕悪いしろぶた君じゃないよ。

合法的に女子高生に抱き着けるなんて最高な仕事だぜ!なんて微塵も考えてないよ。本当だよ。

 

だって俺だって高校生だし。

なんだってそんな中年の変態(偏見)みたいなこと考えるんですかね。

 

「あ、ありがとうございました」

 

写真を撮り終えたスタッフは、笑顔で去っていった。

それに対して、恐らく聞こえていないだろうに、律儀に小さく頭を下げて礼をする雪平。

 

…やっぱ、俺の知ってる雪平とだいぶ違うな。

もしかして別の世界線の雪平?って思っちまうくらいには。

 

絶対選択肢だとかチャラい神だとかその僕だとか、そんな摩訶不思議なモノばかりが周囲にあるせいで、まじでその可能性があるのではと思ってしまう。

 

…もしかして、これが雪平の素なのか?

確かにまぁ、こんな様子だった時があるような気がしなくもなくもないけど…思い違いかもしれないし…

 

【選べ ①「大好き」と言われる代わり、この後を含めた着ぐるみの中に入っている最中の記憶が喪失する ②「大好き」と言われる代わり、全てを思い出す】

 

おい待て。

お前までシリアスし始めそうになるのはまずい。あくまでこれはコメディじゃなきゃダメなんだ。

明らかに俺の記憶の欠如している部分はシリアス路線寄りだろうし、まだここで思い出すのはダメだろう。

 

―――えー…でも、気になるなぁ…

 

熟考に次ぐ熟考。

長い間悩んでいたが、催促の痛みはなかった。

恐らく、しっかり悩めということだろう。

 

…そして、俺は決めた。

ここは……①を選ぶ。

 

「じゃ、じゃあ…そろそろ、私も帰らなくちゃなんですけど……その、最後にもう一回、抱きしめてもいいですか?」

 

しっかりと頷く。

 

すると、雪平は俺(しろぶた君)へ抱き着き、頬ずりしてこう言った。

 

「しろぶた君……!大好きっ!」

 

―――ミッションクリア。

 

そして、ここで見たことは全部忘れることになったな。

 

…で、なんで俺が②を選ばずにこちらを選んだのかというと…まぁ、端的に言うと、『雪平本人が素を知られたと気づいていない時に一方的に知っているのがよくないと思ったから』だな。

すっげぇくだらない気がするだろうが、俺は勝手に、本人が隠し通しておきたい(のだろう)事を知ったままでいるのが嫌だったのだ。

 

記憶の方に未練がないわけでもないが、それだって特殊ミッションさえ何とかすればいずれわかるのだろう。

なら、ここで無理に知ろうとする必要はない。――はずだ。

 

満足した様子で去っていく雪平に手を振りながら、自分自身に語り掛けるように、『これでよかったんだ』と呟く。

…そんな風に言うくらいなら、大人しく②を選んでおけば良かっただろうに、なんてのはNGだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「あ、おかえりなさいっ」

「おう、ただいま」

 

なぜか着ぐるみの中に入って以降の記憶がないままに帰宅した俺を、本来なら一緒に来ていて然るべきだったショコラが迎えてくれる。

 

最初は何か文句の一つや二つでも言ってやろうかと思っていたが、その無邪気な笑顔を見たらどうでもよくなってしまった。

 

…なんというか、柔風といいショコラといい、純粋な奴って癒しのオーラを持ってるよな。

外見がいいってのも拍車をかけてるんだろうか。

 

「で、どうでした?ミッションのほうは」

「なんとかクリア()()()。記憶は残ってないんだがな」

「きおくが?」

「あぁ。どーせまた選択肢のせいなんだろうが…まったく、なんで記憶を失うなんてことになったんだろうな」

「きおくそーしつって、私とおそろいですねっ!」

「あー、そうか。お前も記憶喪失だっけな」

 

普通に忘れていた。

なんというか、ショコラはショコラだ、っていうイメージというかなんというかがな。

 

「…なぁショコラ。その見るからに高級そうなお菓子が入っていたのだろう箱は何だ?」

「これですか?そうですね。これは私が何気なくまちをさんぽしている時のことです」

 

それよりも前から決めていた予定をすっぽかして何散歩してんだこいつ、と思ったが、敢えて言葉にすることはなかった。

 

【選べ ①「散歩だなんて、いい御身分ですね」と鼻で笑う ②「楽しかったか?俺をほったらかしにしての散歩は楽しかったか?」と嫌味ったらしく言う】

 

敢えて言葉にすることは()()()()って言ったよね俺。

別に言う程の事でもないって言ったよね!?

 

「散歩だなんて、いい御身分ですね」

「いやぁ、それほどでも」

「褒めてねぇよ」

「それでですね?散歩している最中に」

 

話聞けや。

…まぁこれ以上長くしても無意味だしいいんだけどさぁ。

 

【選べ ①「急に愛おしくなった」と言ってショコラに上半身裸で抱き着く ②「急に愛おしくなった」と言って夏彦人形(実寸大)に抱き着く】

 

まだ夏彦ネタ引きずってんのか!

ってかマジで誰なんだよ夏彦!?

 

「きゅ…急に愛おしくなった」

「はっ…!か、金出さんが自ら夏彦さんへ…!?ついに夏×金から金×夏に!」

「なってねぇわ!半裸よりマシだっただけだわ!」

 

【選べ ①汚い花火になる ②綺麗なロケット花火が尻に突き刺さる】

 

何これ①だと爆発すんの!?

そして②は刺さってる場所が汚ぇんだよ!

いやちゃんと洗ってるけどさぁ!

 

「なっ!金出さんのおしりにロケットが…!?これは、あらてのプレイということでよろしいでしょうか!?」

「よろしくねぇよ!?」

 

夏彦というプロのホモ(ショコラ談)の人形(実寸大)を抱えながら、尻にロケット花火が刺さっているというわけのわからない状態に陥りつつも、ショコラの斜め上の反応にしっかりとツッコむ。

 

逆に聞くがこれを見てどんなプレイだと判断したんだこいつは。

これ以降にやることとかないと思うんだけど。

 

「……もういいから話を戻してくれ」

「でもだっせんさせたのは金出さんじゃ」

「俺じゃねぇ!全部選択肢が!」

 

【さぁ、選んで】

 

ち、違うんだ絶対選択肢!

今のは別にお前が悪いと言いたかったわけじゃないんだ!

 

だからその生暖かい目を向けているがごとき言い方で迫ってこないでくれ!

 

【①本当は自分が悪かったと謝罪しながらイチモツを見せつける ②本当は自分が悪かったと謝罪しながらショコラのパンツを頭に被る】

 

どぼじでごんなずるのぉおおおおおお!!

がなづるだっでぇえええ!びっじにいぎでるのにぃいいいい!

 

……え、どっちもダメじゃん。

俺のナニを見せつけるのも、ショコラのパンツを被るのも、どっちもアウトじゃん。

そりゃできる限りショコラが傷つかない方がいいけど…さすがにイチモツはダメじゃん。

 

でもパンツ云々もダメじゃん。

…え?詰み?

 

 

 

 

 

 

 

ショコラのパンツを被り終え、逆立ちしながらウルトラマン怪文書を暗唱し、右手を押さえて中学生時代の暗黒の思い出を無理やり思い出させられてから数分。

ようやくショコラの今日の出来事について聞くことになったのだが…

なんというか、随分とぶっ飛んだ内容だった。

 

饅頭を箱ごとタダでもらって、それを子供に譲ってやったらダイヤモンドをもらって?

そしたら覆面の謎の男に路地裏まで連れていかれて、挙句は拳銃を頭に突き付けられて?

その覆面の男こそがダイヤモンドの持ち主で、しかも正体が遊王子の父、遊王子謳真で?

それを返した礼で高級品のチョコレートをもらえて?

 

「その話絵本にしたら、ベストセラーいけるんじゃねぇの?」

「そうでしょうか?」

 

いや内容は濃いが、絵本って結構パワーインフレしてるラノベばりになんでもありだからなー…ベストセラーはないか。

 

他の絵本に比べたら…なんだろう、パンチが足りない?

 

【選べ ①サンドバッグが出現。せっかくなのですごく卑猥な絡みつき方をしてみる ②知り合いに片っ端から電話。軽いジャブ程度の下ネタを喰らわせる】

 

パンチ関連で変な方向に話動かさなくていいから。

そしてどちらにせよ変態なのをやめてくれない?

 

「おぉ。金出さんの絡みつきはすごいですね…!」

「そんな言い方をしないでくれよ…」

 

それじゃまるで俺がサンドバッグに性的興奮を覚える変態みたいじゃないか。

実際やってることは変態のソレなんだけど。

 

【選べ ①このままサンドバッグと一晩過ごす ②このままショコラと一晩過ごす(意味深)】

 

一晩過ごすとかサンドバッグフェチを極め切ってんじゃねぇか!!

 

…え?ショコラとの方?

バカ言ってんじゃねぇ。

本人の意思も無しにそういう行為に及ぶほど俺は落ちぶれてないぞ。(ただのヘタレ)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

昼休みの教室。

殆ど人がいない中(俺が何度か奇行に走ったからである)で、例の対抗戦参加者である俺たちは、ある紙を見ながらある事を話し合っていた。

 

その紙には対抗戦の出場順が書かれている。

なぜそんな敵に塩を送るような紙があるのか、というと、それが前回勝利したチームの受けられる恩恵だからである。

まぁ、次の対抗戦の時の相手チームの出場順を知れるだけなんだが。

 

それでも、いつ誰が出てくるのかを知れているのはいいアドバンデージだ。

おかげでこちらは誰に誰を当てればいいかを考えることができる。

…で、実際の相手の順番はこんな感じだ。

 

 

 

先鋒 獅子守想牙

 

次鋒 柔風小凪

 

中堅 麗華堂絢女

 

副将 吉原桃夜

 

大将 黒白院清羅

 

 

…とまぁ、結構妥当だなと思う順番だ。

獅子守先輩と吉原が逆じゃないか、とも一瞬思ったが…まぁ、あの人ってしょっぱから突っ込んでく見たいなイメージだし、それほど意外性もないか。

 

で、ここで俺たちがとるべき編成は…

 

「まぁ、遊王子と雪平の相手はもう決まってるようなもんか」

「うん!コナギ・ヤワ・カゼは私が倒すよっ!」

「えぇ。あの腐れパイオツは一度わからセッてやる必要があるわ」

 

二人とも闘争心マックス(主に雪平の方)でそう言ってくる。

 

因みに腐れパイオツ、というのは麗華堂の事だ。

…あれ?別に二人の仲って険悪じゃなくね?と思うだろうが、それは違う。

 

あの全校放送の後、ちょっとした諍いがあったのだ。

…あ、今から回想入るぞ。

 

 

 

 

『…全員に好きと言わせたいなんて、相当な変態ね』

『別に恋愛感情的な意味はまるで不必要なんだが…もう感情とか籠ってなくてもいいからそう言ってもらえるだけで十分なんだけど』

『…見た目通り、貧相な男ね』

『貧相てお前』

【選べ ①「確かにお前は富裕層だな。胸元が」 ②「いやいや、雪平の方が貧相だから(笑)」】

『―――――た、確かにお前は富裕層だな。胸元が』

『なっ―――』

『ええ、そうよ。格が違うのよ格が』

『…よく言うわね。私にはただの下品なパイオツにしか見えないわ』

『…なんですって?』

『聞こえなかったのかしら。あなたのパイオツは下品でしかないと言ったのだけど』

『な、なんですって!?…ふんっ、ペチャパイ風情がよく吠えるのね。いいわ、今回はただの負け犬の遠吠えって事で許して…』

『ペチャパイ…?取り消しなさいよ今の言葉!』

【選べ ①「乗るな雪平!戻れ!」 ②「取り消せだと?断じて取り消すつもりはない!」】

『乗るな雪平!戻れ!』

『取り消せですって?断じて取り消すつもりはないわ』

『なんでしっかり赤犬!?』

『黙っていて天久佐君。私はこの黒ずみパイ輪に世の恐ろしさと天久佐君の性欲の強さを思い知らせてやらなくてはならないの』

『いやなに平然と人の風評を』

『黒ッ!?そんなわけないでしょう!?』

『その慌てよう、明らかに黒ね。もちろんパイ輪からパイ頭までよ。そんな下劣でだらしないパイオツ&パイ首を晒して恥ずかしくないのかしら?』

『なっ、なっ…!ふ、ふざけたことを言わないで頂戴!私は正真正銘のピンク色よ!』

【選べ ①生唾を飲み込みながら「ぴ、ピンク色……じゅるり…」 ②唾を吐き捨てながら「ピンクかよ、ぺっ」】

『……ぴ、ピンク色…じゅるり…』

『『普通に気持ち悪いわよ』』

『ふ、二人して言ってんじゃねぇやい!』

『…話を戻すけど。あなた随分とその品のないパイオツが自慢みたいね』

『品の無い、というのは認めないけど…ええ。そうよ…それが何よ?』

『なら、語尾をパイオツにしたらいいんじゃないかしら』

『はぁ?』

『私、麗華堂パイオツ。今日も大きいパイオツでパイオツ』

『な、なによそれ!?』

『あら、あなたにピッタリだと思うけど?』

『こ、このっ…!言わせておけば…!所詮ナイチチじゃないのっこの平面!』

『なんですって…?私のz軸がない…?どうせあなたの胸だってでかいだけでしょ!?』

『はんっ、でかくない癖にそんなこと言わないでもらえるかしら?』

『乳牛め…!』

『ペチャパイが…!』

【選べ ①「パイパイ、くだらない喧嘩はそこまでだパイオツ」 ②「揉めば同じだろ?」と言って獅子守と吉原の乳首を摘む】

『―――ぱ、パイパイ、くだらない喧嘩はそこまでだパイオツ』

『『だから普通に気持ち悪いから黙ってて!』』

『さっきから俺罵倒する時だけナイスコンビネーションなのやめろや!』

 

 

…うん。酷すぎる。

そしてあんな状況でも普通にふざけさせてくる選択肢が一周回ってすごく…見えねぇよ。馬鹿か。

 

しかし、これでわかってくれただろう。

雪平が麗華堂を敵視する理由を。

 

「…で、ゆらぎは誰がいい?」

「うーん…正直、小凪お姉ちゃんを倒したかったけど…謳歌お姉ちゃんが行くし…まぁ想牙お兄ちゃんかな」

「?なんで柔風を倒したかったんだ?」

「んー?一番向こうの人たちの中で()()()()()から、かな?」

「怪しかったって…」

 

柔風には裏表ないだろ。

…爽星にはあったけど。もう驚くほど性格変わっちゃってたけど。

 

えっ、まさか表ランキングの女子って全員爽星みたいに裏表あんの?

全員猫かぶりなの?

あのニューミルク先輩ですら裏あるの?

柔風も勿論のようにあるの?

黒白院会長は……あぁ、確かにありそうだな。

そんで麗華堂……あれはねーよ。あれは明らかに素だよ。

 

「あっ、想牙お兄ちゃんと戦うけど、本命生お兄ちゃんはお兄ちゃんだけだからねっ!」

「はいはいわかったわかった」

「…むー、扱いが雑ー…」

 

そりゃ真面目に取り合っててお前ほど時間かかるやついないしな。

 

【選べ ①「まぁ、そんな落ち込むなよ」と言って頭を撫でてやる(ランダム) ②「いいなその顔。もっと俺を愉しませてくれよ」と言って本性を露にする】

 

俺の本性そんなんじゃねぇからな!

確かに素を出しているかと聞かれれば疑問符だけど、そういう性格ではないからな!

 

「まぁ、そんなに落ち込むなよ」

「…お兄ちゃん、撫で方手馴れてない?」

「そんな訳ないだろ?」

 

良かった。話の流れ的にゆらぎじゃなかったらどうしようかと思った。

しっかりゆらぎの頭を撫でたな。偉いぞ選択肢。

 

【えへん】

 

…あの、それ中●譲治ボイスだからね?ジ●ージがえへんって言ってても可愛さとかないからね?

 

【あ? ①「まぁ、毎晩色んな女喘がせてる(なかせてる)からな」 ②「毎晩潮吹かせてるからな」】

 

いやいや冗談!ほんの照れ隠しですって!

選択肢さんマジ可愛い!結婚して!

 

【…ふ、ふんっ ①「俺なんかが女性経験豊富なわけないだろ?」 ②「ま、お前にはわからん事情があるんだよ」】

 

……ヨシ!(現場猫)

 

「俺なんかが女性経験豊富なわけないだろ?」

「そーでもないでしょ…」

「いやいや。だって俺、今まで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

―――うん?

彼女、()()()()

え、居た?何言ってんだ俺。

 

あ、あれー?居た気がするんだけどな…

でも居るわけないか。俺なんかを好きになる奇特な人…いやいや、選択肢が出てくる前まではモテモテのモテで…んー?

 

「彼女が居た事がない、か…」

「?だよ、な?」

「うん!そうだよ?」

「うっはいい笑顔で言いよるわコイツ……でもなんかさ、彼女…居たような気がするんだよな」

「っ、げ、ゲームの話じゃない!?」

「ゲームてお前…そりゃまぁ何人攻略してきたって話だけどさ」

 

なーんか変なんだよなぁ…まぁ、思い出せないんだしその程度か。

 

「……ま、話戻すか。えーっと、遊王子が柔風で、雪平が麗華堂、ゆらぎが獅子守先輩か。だったら俺は――」

 

言いかけて、ふと背後に気配を感じる。

この場にいるのは俺たちだけ。ショコラすら他クラスの人にお菓子を恵んでもらいにいなくなっている以上、背後に気配を感じるはずがない。

 

【選べ ①ショコラだろう。抱きしめて撫でまわしてやる ②宴先生かもしれない。抱きしめて舐めまわしてやる】

 

なんで宴先生だと舐めまわすことになっちまうんだよ!?

それに、よしんばショコラだったとしても抱きしめねぇし撫でまわさねぇぞ普通!

 

あいてっ……はいはい、やりますよー…

 

「ショコラッ!!帰ってきてたのかッ!!よ~しよしよしよしよし……って誰!?」

 

誰かを確認する前に抱きしめ、撫でまわしてやったのだが…うん、全然違う人だったわ。

しかも顔見えないように覆面になってるし。

 

(カラス)』と書かれた……なんだろう、罪袋のような人がいた。

背丈は俺と同じくらいで、学ランを着ている。

 

…まさか、夢島カラス先輩…?

 

「えーっと…もしかして、夢島カラス先輩…?」

 

あっ、うなずかれた。

なるほど、確かにお断り5(変人)の波動を感じる。

 

「先ほどはすみません。ちょっと気が動転していてですね。―――それで、今ちょっと対抗戦の順番決めをして…あーちょっとなに勝手に書いて…!?」

 

謝罪の後、紙を見せながら対戦順を決めている事を話そうとしたのだが、先輩は勝手に紙を取り、副将のところに名前を書いてしまった。それもかなりの達筆で。

 

しかもその後、サムズアップしてすぐにその場を去っていったのだ。

無論一言も発さず。

 

―――は?

 

【選べ ①許さん。サーチ&デストロイの精神で追いかける ②仕方ない。俺が黒白院先輩と戦おう】

 

えっ、あー…うーん…①にしたい気持ちはあるが、まだ他にも決めなきゃいけない事あるしなぁ…

―――仕方ない。ここは大人しく②にしておこう。

 

「…しょーがないし、俺が黒白院先輩と戦うか。んじゃあさっさと名前を書いて――」

「あっ、ちょっと待って天っち」

「ん?どうしたよ」

「せっかくだし、二つ名も書かない?」

「二つ名?」

「所謂異名だね。ゆらぎっちなら『全世界の妹』みたいな?」

 

二つ名とかお前…さすがにこの歳になって、なぁ?

 

「いいなそれ!じゃあ各自決まったら書いてこうぜ!」

「あー…お兄ちゃんそういうの前から好きだもんねー…うんうん。なら私は『生お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』で!」

「…そうね。なら私は『パイオツスレイヤー』にするわ」

「私は最初っから決めてるんだよねー!『史上最強の遊王子』、いいでしょ!」

「おうおう、いいじゃねぇの!ならそうだなー…俺は」

 

【まぁまぁ、ここは選びましょうや】

 

俺のテンションは一気に低下した。

くそう、いい奴が結構浮かんできてたってのに…

 

【①星の戦士 ②王位の復権】

 

両方ともカー●ィネタじゃねぇか!

…いや①はウル●ラマンの可能性あるけど。

 

うーん…響き的には②の方が好きだし、スマ●ラでもよくゴ●ドー投げてるし…●DDでいいか。

 

「じゃあ俺は『王位の復権』で」

「お、いいねそれ!」

 

と、いうことで、結局こう書かれることになった。

 

 

 

先鋒 獅子守想牙 VS 『生お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』箱庭ゆらぎ

 

次鋒 柔風小凪  VS 『史上最強の遊王子』謳歌

 

中堅 麗華堂絢女 VS 『パイオツスレイヤー』雪平ふらの

 

副将 吉原桃夜  VS 夢島カラス

 

大将 黒白院清羅 VS 『王位の復権』天久佐金出

 

 

 

 

おかしい。夢島先輩が一番味の濃い人のはずなのに…

二つ名つけたせいで、俺たちの方がもっとやべー奴みたいになってしまった気がする。

 

…まぁ俺もノリ気だったんだけどさ。

 

かくして、対戦表は書き終わった。

後は……黒白院先輩から、『好き』と言ってもらうだけだ。

俺としてはそれを達成して誰かの胸さえ揉めれば、正直対抗戦はどうでもいい。

 

…なんか発言だけ聞くとクソ野郎だな、俺。




  【天久佐金出、ショコラ】

「…お前ってさ」
「はい」
「俺のサポートとして、神から送られてきたーって話だよな」
「そうですね」
「けど、チャラ神の最初の話だと、『優秀な僕』と間違えられたってことになるよな」
「?けど、『天久佐金出は異能バトル物でも生き残れるくらいすごいから、君でもなんとかなるよ』って言われて送り出されましたよ?」
「いや、後でそう言ってたのも聞いたんだけどさ。―――結局、何が正解なんだろうなと」
「うーん…どっちもじゃないですかね?べつの世界にもどうせいどうめいのすごい人がいるらしいですし。あの神様が教えられた情報を誤解していただけかもしれませんよ?」
「そういうもんかな」

まぁ、あまり気にしても意味はないか。
それに……なんだかんだ言っても、ショコラが居てくれて癒されてるしな。
俺の荒んだ心にはこういう癒しが必要だったんだなーって、最近よく思う。

最初は『その優秀な奴をなんでこっちに送らなかったんだ!?』とか思ったけど、今じゃ『ショコラが来てくれて助かった』って思ってるからな。

「……ま、家族の一員…だしな」
「はいっ」


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①デレ…? ②ステ…?

この後スタッフが美味しく(以下略)というお話。





夢も現も同じ、というお話でもある?


…アウェイだ。

 

「あれ…」

「お断り5の、天久佐君よね…」

「すっごいイケメンじゃん」

「でも、前の放送見たでしょ?全員に好きって言わせるとか…」

「滅茶苦茶イケメンなのにね…」

 

見世物じゃねぇんだよ、と声を大にして叫びたい。

だが、この場において立場がしたなのは俺だ。

 

「成績優秀者のところにいっつも張り出されてるよね」

「あ、私前に困ってるときに助けてもらった事あるよ」

「普段はすっごい良い人らしいんだよね」

「運動の方も、獅子守君からライバルって言われてるくらいできるらしいよ」

「でも…ねぇ?」

「奇行がやばいって話だし…」

「あっ、目が合った」

「大丈夫?目が合っただけで妊娠させられるって話だけど」

 

目が合っただけで妊娠の話は、俺が自分で叫んだ(叫ばされた)から仕方ないが…くそう、奇行の話はやめてくれ。

 

「…黒白院先輩。少しお時間よろしいでしょうか」

「あら~。どうかしましたか~?」

 

この空気の重たくなった教室内でも平素と変わらぬ声を出し、相変わらずの感情の読めない微小を浮かべ、俺がここ……三年三組に来た理由である人、黒白院清羅生徒会長は首を傾げた。

 

…本当なら俺の奇行が受け入れつつある自分の教室以外には移動したくないのだが、対戦表を渡さないといけなかったりミッションの件があったりで、こうして足を運ぶことになってしまったのだ。

 

「対抗戦の、こちらの出場順が決まったので」

「なるほど~……あれ?この名前の前のはなんですか~?」

「それは…二つなのようなモノですね、はい」

「二つ名、ですか~…ええ、いいんじゃないですか~?」

 

良かった。

書き直してこいとか言われるのを覚悟していたが、あまり反応は悪くなかった。

 

【選べ ①呪い解除ミッションを優先。好きと言ってもらえるような質問をする ②特殊ミッションを優先。おっぱいを無理やり揉む】

 

…別に、選択肢が出なくても自分から言ったさ。

まぁ後押ししてくれてるということにしておこう。

 

もちろん、②からは目を逸らして。

 

「私と天久佐さんが戦うんですね~」

「ええ。そうですね。―――その、黒白院先輩。つかぬことを聞くのですが」

「なんでしょう~?」

「……俺の事、()()()()好きですか?」

 

瞬間、三年生たちが静まり返った。

『まじかこいつ』、そんな視線が俺を苛む。

 

元々全校生徒が見ている中で『好きと言わせる』なんて事を言ってただけでもなかなかなのに、まさか本当に他に人がいる前で言わせようとするとは。

恐らく全員がそう思っている事だろう。

 

―――さて、黒白院先輩の方の反応は…

 

「勿論、嫌いじゃないですよ~?」

「…つまり、裏を返せばそれは…」

「そうかもしれませんね~。けど、その言葉は将来の大事な人のために取っておくべきだと思います~」

 

普段と変わらぬ表情の読めない言い方をしている…が、人の感情を読み取ることにたけている俺だからこそわかる。

…この女、()()()()()ぞ。

 

俺が『好き』と言われなければ困るということを、知っていてこう言っている。

 

【選べ ①「じゃあ脱げばいいでしょうか?」といつものを披露 ②「あなた、知っている人…ですか?」と強者感を出す】

 

…なんで輪をかけて酷い方で真っ当な質問をすることになるんだよ。

①と②逆じゃねぇの?

 

「…あなた、知っている人…ですか?」

「さぁ~?()()()()()()ね~?」

 

…なんの事だ、とは言わないんですか。

 

これはもう確実と言っていいだろう。この人は『選択肢関連の何か』を知っている。

…何とかして、詳しく聞き出したいところだが…

 

先輩の目を見てみるが、やはり表情が読めない。

これは、何を言ったところで飄々と返されるだけだろう。

 

「そうですね~…もし対抗戦で天久佐さんの方が勝てば、言ってあげてもいいですよ?」

「……一応聞きますけど、負けたらどうなるんで?」

「負けたら、ですか~」

 

一度言葉を切り、先輩はあの時の猛禽類のような瞳を俺に向け、普段よりも低い―――氷のように冷たい声音で、こう言った。

 

「……呪いをもう一つ、増やしてしまいましょうか」

 

間延びすらしていない、恐らく素の声。

他の生徒には聞こえていないのだろうし、恐らくその真意を知れるのも俺だけだろう。

 

――『呪い』。俺の場合は『絶対選択肢』。

それを、彼女は『増やしてしまいましょうか』と言った。

つまり、彼女は『絶対選択肢(呪い)の支配権限を持っている』ということになる。

 

「……あなた、本当に人間ですか?」

 

最悪、消される可能性だってあった。

なのに、そういった先の危険を気にすることすら忘れて、自然とそう呟いてしまった。

 

言い終わって数秒経って、ようやく自分がなんてことを言ってしまったんだと後悔しかけて…

 

「…それは、神のみぞしる事です~」

 

間延びした、穏やかな声に戻った事に、いっそ泣き出しそうなくらい安堵したのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時間の流れる速度というものは早いもので。

黒白院先輩が『神サイド』の存在だったと確信したあの日から、もう対抗戦本番当日になった。

 

マンモス校である晴光学園は、イベントステージなるものを持っており、そこで俺たちお断り5と、学園の華である表ランキングが戦う事になっている。

 

現在俺は、出場前の控室で茶菓子をショコラに与えつつ、アナウンサーのトークを聞いていたのだが…

 

【選べ ①フライング。フルチンで出場する ②パンはパンでも食べれないパン。なーんだ】

 

さっそく訳の分からない選択肢が来たよこれ…

え?②は確定だけど、なんなの?答えりゃいいの?

 

「…フライパン?」

 

【選べ ①カビたパン ②シャンパン】

 

いやわかるかッ!

①はともかく、②は『食べる』じゃなくて『飲む』ってだけだろ!飲食は一括りでいいじゃん!

 

「…なに一人で呟いてんだ天久佐」

「いや、別になんでも―――って、なんで先生がここに?」

 

突然背後から声をかけられて振り向いてみたら、そこには我らがロリ教師道楽宴先生が…

 

「ぐぇっ!?」

「今お前あたしの事『ロリ教師』とか考えただろ」

「な、なぜそれを…!?」

「マジだったのか!」

「ぎゃーっ!?カマかけられただけだった!?」

 

絞まる絞まる。

でも宴先生に絞められる分にはもういいかなって思いつつある。

 

だってほら、二年間もこうして首元ばっかり攻撃されてたら馴れ―――ねーな。全然思わねぇわ。

 

ロリコンを自称する俺でも、流石に首を絞められるプレイはNG。

 

…あっ、絞める力強くなった。これ明らかに心読まれてますね。

 

「…ていうか先生、今回解説担当じゃ…」

「実況の奴が長話だったからな。目を盗んでここまで来てやったんだよ」

「は、はぁ…どうして態々」

「―――ミッション、どこまでクリアできたんだ?」

 

なるほど、それを心配して。

通常ミッションだけだったらこうしてわざわざ足を運んでくることも無かったんだろうけど、特殊ミッションなんていう自分が知らないものが出ているとなっちゃ、気になってしまうのだろう。

 

確かになー…あとは黒白院先輩にさえ好きと言われればオッケーだが、それだけではなく『おっぱいを両手で揉む』というのが残ってるんだよなぁ…

最悪嫌われやすさ補正は気にしないものとして、特殊ミッションはスルーの方向でも…ダメか。

 

「通常の方は後黒白院先輩だけ。それもこれで勝てば言ってくれるらしいのでまぁ大丈夫です―――が」

「まだ特殊ミッションが残ってんのか」

「……あの、先生が乱入して出場者ってことになって、その上揉ませてくれたりは」

「やってもいいがお前、大学卒業までは病院暮らしだぞ?」

「いやナチュラルに大学まで残るようなダメージ残そうとしないでくださいよ…」

 

全治何年だよそれ…

けどまぁダメもとでふざけて言っただけだし、先生も先生で冗談だとわかっているのか、あまり絞める力は強くなってない。

 

【選べ ①思い切り抱き着き「…やっぱり胸の感触がねぇな」と言う ②ものっすごいイケメンスマイル(笑)と共に頭を撫で「…必ず勝ちます。あなたのためにも」と言う】

 

②さん。

あなたは普段は『①よりも酷い内容』なんですよね。

 

そっちの方で、胸の感触云々よりもまともそうに見える事させるって、それはつまり―――俺のイケメンスマイル(笑)はそのセクハラ発言以上の悪さだって事なんですかね。

俺さ、自分で言うのはなんだけど、結構顔はいい部類のはずなのよ。

 

そりゃもう、普段の奇行を知らない女子なら、俺が軽く微笑んでやっただけでイチコロ……かもしれないくらいにはな?

それがお前…セクハラ以下って…もっと悪い例って…

 

まぁ、先生相手ならセクハラよりもイケメンスマイル(笑)の方が怒りゲージも上がりにくいか。

……俺、自分の顔に自信持つのやめよっかな。

 

「……必ず勝ちます。―――あなたのためにも」

「なっ……!?あ、あたしは関係ねぇだろ…?」

 

その通りなんですよ。

選択肢がただかっこつけさせたかっただけで、別に俺が勝ったところで先生にはなんの利もないんですよ。

 

【選べ ①今ならいける。滅茶苦茶つまらないジョークで場を盛り上げる ②それっぽい理由でもつけてみる】

 

滅茶苦茶つまらないジョークでどうやって場を盛り上げるんだよ…

 

俺は普通に『関係なかったですね、申し訳ない』と謝罪したいだけなんですが。

 

「…ほら、俺が勝ったら、担任である宴先生も、なんやかんや紆余曲折あって評価上がるかもしれないじゃないですか。『あの天久佐金出達を輩出したあの!』とか」

「どの、だよ」

 

うぐ…べ、別にそんな俺だって先生に利があるなんて微塵も思ってないんだから、苦し紛れの理由ともならない理由しか説明できんって。

 

【選べ ①話を逸らす。話題はもちろん恋バナ ②話を逸らす。話題はもちろん自分の最近のズリネタ】

 

誰が言うか!

ましてお前、先生だぞ!?

 

そして未婚女性に恋バナとかお前、爆弾腹に巻いて突撃してこいみたいなもんじゃねぇか!

この先生、選択肢関係だってわかってても平然と首絞めてくるんだぞ!?

 

―――痛っ!?痛い痛い!わかった、わかったから!!

 

「…そういえば先生。先生って好きな人とか居たんですか?」

「あ?言うわけねぇだろ。馬鹿か」

 

ですよねー。

どーせそんな返答だろうと思ったよ。

でもそんな返答でも選択肢さんは満足…

 

【選べ ①食い下がる。なぜか教えてくれる ②食い下がる。なぜか小声で教えてくれる】

 

…してねぇなこれは。

あんまりこの話広げて、また首を絞められるとか嫌なんだけど。

 

「ほら、そこを何とか」

「――――いた

「えっマジで!?」

「なんで聞こえてるんだよお前!鈍感難聴って話じゃねぇのかよ!?」

「いやどんな話だよ!?」

 

最近よく言われるが、俺のどこが鈍感難聴だというのだろうか。

小さい声で言われても聞き取れるし、もちろん人の感情を読むのには長けている。

そんなハーレム野郎のパッシブスキルみたいなのを、俺が持っているだと?

 

冗談にしたって、もっと面白いものがあるだろう。

確かに俺は選択肢による奇行だけ除けばパーフェクト(自称)だ。

まさしく優良物件という奴だろう。―――でも買い手がいないんですよね。今ならお買い得ですよ?

 

「…しっかしそうか…先生にも好きな人が……あ、未婚なのってまだ未練がとか現在進行形で好きとか――」

「あ”ぁ”!?」

「ごびゅっ!?じ、じまっでるじまっでる!がなりぐるじいでず…!」

 

今のは俺が悪いな、うん。

この一瞬で地雷ワード何個踏み抜いたよ?

 

「……別に、もうアイツに未練はねぇ、よ……たぶん」

「滅茶苦茶ありそうじゃないですか…まだ告白すらしてないとかじゃ」

「したけどよぉ!お前くらいのッ!超鈍感だったんだよアイツはァ!!」

「ぐぇええ…と、とばっちりでしょこれ…」

「―――あ、挙句…お前はお前で…」

 

俺は俺で、なんでしょうか。

まさかとは思いますが、その好きな奴ぐらいの鈍感で何か思うところがあるとかじゃないですよね。

 

あっははは、だから俺ほど人の感情に鋭い奴はいないんですって~。

 

【選べ ①Lみたいに問い詰める ②ハーレム系主人公がごとき聞き返し】

 

鋭い奴なんだよ俺は。

だからわかるんだよ。その①が明らかにアウトだって事。

 

「い、今なんて?」

「なんでもねぇ!……はぁ、やっぱり鈍感難聴じゃねぇか()()()

「失礼な。少なくとも告白されても勘違いするような奴とは違いますよ」

 

でも選択肢のせいで、各教科の教科書の中で大事そうなやつ全部を『古い電話帳と間違えて』捨てさせられたからなー…俺、ワンサマーなるか?

いやなんだよワンサマーなるかって。

 

もしそうなったら、『優勝したら、付き合ってもらう!』→『買い物だろ?』とか『毎日酢豚以下略』→『奢ってくれるんだよな?』とか言う奴になってしまうのでは?

でも『嫁だ、異論は認めん』は是非是非言われてみたい。そこ代われ。

 

「…まぁ、今のところは5:5だ。まだアイツを諦められねぇのか…それとも…」

 

すっげぇシリアスな面持ちだけど、俺にはよく意味がわからないんだよな。

5:5ってのが今の先生の恋愛感情の向かっている比率なのはわかるけど、その前から好きな奴じゃない方の5が誰なのかが皆目見当もつかない。

 

もしかして、俺?

―――ないな。普段から選択肢のせいだったり自分からだったりで失礼な事言ってるし。

でもなー…宴先生かー…

 

【選べ ①男は度胸。試しに「俺は先生の事(人として)好きですよ」と言ってみる ②男は度胸。試しに「俺は先生の事(幼児愛的な意味で)好きですよ。ぐへへ」と言ってみる】

 

②の度胸天元突破してんだろ!

 

それに、どちらにせよ括弧で隠しちゃ変な誤解を生むんだよ!①の方で(幼児愛的な意味)と受け取られたらどうすんだよこれ!

 

…いや、①じゃないとぐへへって言わなきゃいけないしこっち選ぶけどさ?

 

「…俺は先生の事(人として)好きですよ」

「なぁっ…!?」

 

おっ?真っ赤じゃないですか宴先生。(嘲笑)

 

あっ、待って待って首絞めないで!?

ていうかなんで心の仲で嗤ったのは感知するくせに声に出していった言葉の真意は(恐らく)理解してないの!?

 

「言えばわかる、ねぇ―――なぁ天久佐」

「えっ、なんでいきなりまたそんなシリアスボイス」

「いいから黙って聞け。―――あたし、さ。すぐ手を出しちまう性格だろ?」

「は、はぁ…」

「言っちまうが、部屋の掃除だってしねぇし料理だってレンジでチンするしかできねぇ…いや、家事の一つもできねぇな」

「なんとなくわかってました」

「うるせ。―――けど、さ。こんな…こんなあたしでも」

『あれ!?宴先生!?そろそろ解説席に戻ってもらってもー!?あのー!?』

「――ッ!?あ、あたし今…」

「えーっと…行かなくていいんですか?」

 

なんか雰囲気が普段よりも柔らかくなった…というか、妙にオドオドした様子になった先生だったが、アナウンス(おそらく長話をしていたという実況の男だろう)の声でふと我に返った。

本当はあのまま何というのか聞きたかったが、このまま先生がここに残っていても俺(の選択肢)の餌食になるだけだろうし、向かうようにやんわりと促す。

 

―――しっかし、先生は何を言おうとしていたんだ?

 

 

 

 

 

 

『と、いう事で。今回の解説は道楽宴先生です!よろしくお願いします!』

『うぃっす』

『…えーっと、何か意気込みとか…』

『あ?なんであたしが意気込む必要があんだよ。やんのは表とお断りの連中だろーが』

『い、いや…そうですけど…』

『それによー…ここ人が密集しすぎて暑ぃじゃねぇか。普通こんなイベント見に来ねーだろ。真面目ちゃんか?』

『え、えぇ…』

 

おいおい、実況の人困っちゃってるよ。

というか、このイベントに解説も何もねぇと思うんだけど。

 

『…で、では。道楽先生が注目している選手は』

『どいつもひよっこに変わりねぇだろ。注目も何もねぇ』

『―――なんでこの人解説なんだろ』

『あぁ?』

『ひっ!?…さ、さっそく選手の入場です!』

 

心の声がうっかり出てしまったのだろう。

しかし先生にはそんな事情は関係なく、その鋭い眼光は実況の男を容赦なく苛んだ。

 

…が、その実況も実況でなかなか心得ているらしい。

無駄に先生に言い訳などをせず、話を逸らした。

初心者なら、ここで無駄に墓穴を掘って絞められるんだよな。

 

『まずは表ランキング側先鋒!男子のランキング一位にして生徒会副長!そのワイルドさと開かれた胸元からの色気が、女子たちや一部の男子のハートを鷲掴み!獅子守想牙だー!』

 

獅子守先輩がステージ上に姿を現すと同時、会場内に黄色い声援が響いた。

一部野太い声も聞こえるが、黄色い声援という事にしておこう。

 

しかし当の先輩は、その声援を鬱陶し気に思っているらしい。

眉を顰めつつ、胸元のピンマイクから、会場内の女子(+数名の男子)にこう言い放った。

 

『鬱陶しいから、あまり囀る(さえずる)んじゃねぇ』

 

うーん。普通なら「うわ何言ってるんだこいつ」ってなる事間違いなしなセリフだ。

しかし、会場の女子たちのボルテージはそれによりさらに上昇。余計にうるさくなった。

 

獅子守先輩も、「聞いてねぇのか」とか呟いている。

これは、無自覚系なのか、鈍感系なのか…はたまたわかっていてやっているのか。

いずれにしても、ムカつくことに変わりはないが。

…おっといかんいかん。先輩相手に何を考えているんだ俺は。

 

『続きましてお断り5側先鋒!助っ人の一年生という立場でありながら、全人類の妹を豪語するというある意味期待の次期お断り5候補!『生お兄ちゃんだけど関係ないよねっ』箱庭ゆらぎだ!!』

「ゆゆゆゆゆゆらぎぃいいい!!」「おぉん!はおぉん!ぬぉん!!」「お兄ちゃんが見てるぞー!」

 

やっべ、早速アイツの毒牙にかかってるやつがいる。

ゆらぎはゆらぎで自然体だし…実況の人、やけに名前を呼ぶときに力が入ってたし…まさかアイツ、実況も虜に…?

 

『みっなさーん!あなたの心の妹、箱庭ゆらぎでーす!よろしくねっ』

「い、妹…?」「なんかちょっと、俺目覚めそう…」「ばっかお前、お断り候補だぞ…?」「変な二つ名みたいなのもついてるしな」

 

ゆらぎを初めて知る人たちからは、賛否両論のようだ。

―――そりゃまぁ、いきなり自分の妹を自称されても困るよな。普通。

 

『お次は表ランキング側次鋒!超絶ドジっ子であり天然娘!そのゆるふわオーラは国宝級か!?柔風小凪っ!』

「「「「KO・NA・GI!KO・NA・GI!L・O・V・E・KO・NA・GI!!」」」」

 

柔風の登場と同時、今度は男性陣が沸き立つ…が、親衛隊の圧が強く、全てが霞んで見えてしまう。

 

アイツ等すげぇな…オタ芸してるぞ…

 

『あ、あのあのっ!こういうのは苦手だけど、私、頑張りばっ!?』

 

緊張からか舌を噛んでしまった柔風に、男子たちの頬が自然とほころぶ。

かくいう俺も若干癒された。

「うぅ~…いひゃい…」と呟いているところなんかが特に癒される。

 

『次はお断り5次鋒!発育抜群、知能もそれなりな社長令嬢――のくせに言動はまさしくお子様!『史上最強の遊王子』謳歌だっ!』

『いやっほぅ!!』

 

煙幕と一緒に高く飛び上がりながらステージ上に現れ、空中で三回転程した後、綺麗な二点着地をしてのけた遊王子。

そんな彼女に、全員が惜しみない拍手を送った。

勿論、俺もだ。

 

『さて次は表ランキングの中堅。無駄な言葉で飾る等無粋。刮目しろ男子諸君!!麗華堂絢女だぁああ!!』

 

実況。力入ってるな。

でもわからんでもない。現在進行形で大いに揺れているその爆乳は、男子であれば自然と視線が向かってしまうだろう。

俺はまぁ、あんまりサイズとかこだわらないからそこまででもないが。

 

…あ、獅子守先輩も視線が向かってる。流石のあの人言えど、あのでかさじゃ見ざるを得ないか。

中身の何割かはシリコンらしいけど、な。

 

『ふん、存分に見るがいいわ。卑しいゲスな男子たち』

「「「「「おぉおおおお!!」」」」」

 

見せつけるように胸を張ったせいで、またしても揺れる揺れる。

それに男子の視線が集まる集まる。

麗華堂をさほど知らない男子たちですら、「言い方腹立つけど、あの乳だからな」とか言っているくらいだ。

 

…ま、俺はさほど興味ないんでさっさと次行ってもらっていいですかね。

え?まだサービスタイム?

 

『…さて、紹介も後半戦へと突入しまして…お断り5側中堅!無表情から放たれる毒と下ネタは一部の層に大人気…だとか。自分は希少価値ではなく、スマートだとは本人談!巨乳爆乳は許さない!『パイオツスレイヤー』雪平ふらの!』

「なんかクールビューティーって感じじゃない?」「本当にお断り5…なのかな」「でも二つ名…」

 

雪平をよく知らない一年生たちがクールビューティーさを感じているが…まぁ、どうせすぐにぶち壊される幻想だ。黙っておいてやろう。

 

…つーかスマートってアイツ…下手にそういう方がよくないと思うぞ俺は。

まぁ、プライドとかあるんだろうけどさ。

 

『ドーモ。パイオツスレイヤーデス』

 

しっかり古事記に記されている通りのアイサツをしてのけた雪平に、幻想を抱いていた女子たちが硬直する。

…そりゃパイオツスレイヤーとかノリノリで言ってたら、ねぇ?

 

『さぁ続いては表ランキングの副将!例の全校放送以来、複数人の女性を幸せにするというスタンスをやめたと噂のこの男!未だに激モテハーレム状態なのはその存在故か!?頼むから爆発してくれとの要望多い、吉原桃夜だ!』

「きゃー!桃夜君ー!」「桃様ー!」「桃ちゃーん!」

 

…やっぱり大人気だな、アイツ。

女子生徒の声で会場が振動しているくらいだ。

 

しっかしなんか、雰囲気っつーの?違う気がすんな。

一応色々あって連絡先交換して以来(選択肢のせいです)よくメールするようになったが…あんな感じだっけか?

 

『―――僕が好きなのは女の子。それに変わりはありません―――が。僕は今、ただ一心に想い続ける人と添い遂げれるまでは、あの人だけを想い続けると決めたのです!』

 

そう言い切った吉原に、女子陣はさらにヒートアップ。

まぁ、かっこいいとは思うよ?俺はよくわからんけど。

 

…ていうかアイツ、まだショコラ諦めてなかったのか。

他人の恋路を邪魔する気はねぇしどうでもいいんだけどさ。

 

『さてさてお次はお断り5の副将―――なのですが』

 

…え、ですが?

 

『なんでも先日ひいた風邪がぶり返してしまったとのことで、現在自宅療養中でお休みです』

 

何休んでんだあの人!?勝手に副将の枠に自分の名前書いておいて何バックレてんの!?

―――まぁ、お大事にな!

 

『というわけで、今度は表ランキングの大将!現生徒会長にして才女。その美貌とお淑やかな雰囲気が男も女も魅了する!黒白院―――清羅ァアアアアアアアア!!!』

 

めっちゃ叫ぶな実況!?

そして会場の全員もすごい叫ぶな!?

 

…つってもこの会長相手に、なら仕方ない…のか。

確かに美人だし、俺みたいに事情を知らなきゃただただすごい人なんだろうけど…

俺からしたら、もはや選択肢を送り付けてきている側の存在…まさしく『敵』なんだよなぁ…

 

『みなさん、こんにちは~』

 

ただにこやかに挨拶しただけで、会場のボルテージはMAX。

この人前世ヒトラーだったんじゃねぇの?

 

『最後にお断り5の大将!成績は常に学年トップ、スポーツはあの獅子守想牙がライバル視する程!家事も得意で性格も良く、話し上手で聞き上手!当たり前のように容姿端麗だが、やはり突発的な奇行はお断り5最強にして最凶!全てを台無しにしている―――が、結構隠れファンが多いと噂のこの男!実は私、大ファンです!『王位の復権』天久佐―――金出ゥウウウウ!!!』

 

え、実況の人俺のファンだったの?

いやまずファンがいるって事を知ったのがつい先日なんだけど?

当事者である俺に隠れて何してくれてんのって話なんだけど?

 

…あ、でも意外と歓声が聞こえてくる。

そりゃまぁ全校生徒の二割が俺のファンだって話だしな…一周回るってすげぇや。

 

【選べ ①ここは場を盛り上げるべく、つまらないギャグを言う ②ここは場を盛り上げるべく、股間をもっこりさせる】

 

②だと盛り上げるもの間違えてんだろ。

ていうか①も中々おかしいからな?なんで場を盛り上げるためにつまらないギャグを言わなきゃなの?

 

―――それにな、俺は生粋のエンターティナーなんだ。

つまらないギャグなんて思いつきもしない。

 

【じゃあこの中から選びなよ ①全力のレジギガスの真似 ②自分が大好きな駄洒落】

 

俺のギャグセンスが低いって言いたいのかお前は!

いや、確かにレジギガスは雪平相手にはあまりウケなかったが……それはアイツがポケモンに関して無だったからだ。

しっかりあの劇場版を見ていたなら、明らかにあのモノマネで大爆笑していたに違いない。

 

…やめよう。なんか惨めだ。

 

②はまぁ、わからんでもない。

駄洒落って、なんだかんだウケる人とウケない人の差が激しいからな。

ここはまぁ、即席のくだらない駄洒落でも披露しましょう。

 

―――本当はファンサービス的な感じで手品でも披露したかったんだけどさ?

 

『えー……ワニがいるからー!』

 

会場の熱気が、一気に静まる。

ファンの人達は、次に何が来るのかと心を躍らせて。

そうでない人達は、次に何をしでかすのかと呆れた目を向けて。

 

…くそう。こんな雰囲気の中でスベらなきゃなのか…

 

『ナイル川には入りたくー…ナイルー!』

 

……え?反応?

 

   ち ゃ ん と 空 気 が 凍 り 付 い た よ 。

 

…もうやだ、帰りたい。

 

【選べ ①ファンサービスだ。パイオツについて語ろう ②ファンサービスだ。新ネタを披露しよう】

 

あのー……新ネタって、なんですかねぇ!?




「…なぁゆらぎ」

「なぁに?お兄ちゃん」

「俺、昔彼女いなかったっけか?」

「―――えぇ?居るわけないじゃん!」

「いい笑顔で滅茶苦茶ダメージ出してくるなコイツ……いやぁ、なんかさ?中学二年…あたり?でなーんかとんでもない事があったような気がしなくもなくってさ?」

「…」

「その上なんつーのかな…そん時よりも前の記憶も、あるモノだけ無くして、無理やり整合性を持たせてるみたいな感じで違和感があってよー」

「……それで、もしかしたら自分に彼女が居たのかもって思いこんじゃったの?」

「思い込んだてお前……まぁそういわれても仕方ないけどさ。本当に…居なかったか?」

「――――居たわけ、ないじゃん。お兄ちゃんって、超が付くくらいの鈍感だもん!」

「言ったな?お前、それ以上は戦争だぞ」

「ふふーん!妹より優れた兄など存在しないって事、教えてあげるよ!」


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①普段は宴先生、二人きりの時は宴 ②男ならシンジ、女ならレイ

口説く、口説くぞ天久佐。すごいぞすごいぞ天久佐。まさしくこれは―――『天 久 佐 無 双 !』というお話。



もしくは風呂のお話。


俺のスベリ芸は無かった事にして、今回の対抗戦のルールについて話そう。

 

ここに、二十五分割されたパネルがある。

ソレの裏側にはそれぞれ違った対戦方法が記されており、俺たちは解説の教師―――この場合は宴先生の選んだパネルの対戦方法で対決することになっている。

 

…しかしまぁ、一昔前のバラエティ番組がごとき内容ばかりだし、あんまり気を張って挑むものではない。

が、俺の場合はこれに勝利せねば、選択肢が永久に不滅となってしまう。

そのせいか、誰よりもマジな雰囲気を醸し出してしまっている。

―――そういうのって自分で言っていいのかね?

 

『では早速、先鋒同士の対決です!宴先生、お好きな数字を――』

『なら縊り殺しの9』

 

宴先生、全然やる気ないんですね。

 

『縊り殺しって……は、はい!9番のパネルは―――演技力対決です!』

 

なるほど、演技力対決か。

これはゆらぎの勝ちはほぼ確定だろう。

獅子守先輩の演技力は知らないが、ゆらぎの妹を演じる実力は本物。

 

姉を演じろ、とかさえ言われなければ確実にゆらぎに軍配が上がるはずだ。

 

『では先生、何か良い役を――』

『んじゃ最近帰りが遅くなってきたヤンキー気味の兄貴とそれを心配する妹』

『なんか随分的確ですね』

『どーでもいいだろそんなの』

 

先生、マジでどうでも良さそうですね。

 

しかしこれで決定した。

ゆらぎの勝ちだ。

ヤンキー気味の兄貴に対して、心配する妹?そんなのゆらぎからすりゃ朝飯前だろ。

 

…というか、先輩ってこういう勝負はあんまり好まないだろうなーって思ってたけど、案外やる気みたいだな。

あの人にとっては、勝ち負けが一番大事なのかね。

 

『もう、こんな遅くまでどこに行ってたの?』

 

お、早速始まったな。

 

ゆらぎはまぁ、ここまでは普段通りのゆらぎだ。

確かに指示された役の範疇だろうけど…これだけじゃ終わらないだろうな、こいつの事だし。

 

『っせーな。んなのお前にゃ関係ないだろ』

『あー、その言い方可愛くない!』

『ウぜェな…いいからどけよ』

 

先輩もすごいな。

ヤンキー気味の兄、という役がハマっているのか、それともこういうのが得意なのか。

 

どちらにせよ、どちらかが攻めなければ勝負は決まらなそうだ。

 

『むー…でも、お兄ちゃん口ではそう言ってても、本当は私が心配してたって聞いて喜んで――――の、――がする』

『あ?』

『知らない女の匂いがする』

 

流れが変わったな。

なるほど、ツンデレで攻めずにシンプルに行くのかと思ったら、これの布石だったのか。

 

ヤンデレ妹…ゆらぎの十八番だ。

まぁ俺が昔よく要求してたのが原因なんだろうけど―――あれ?そんなの要求してたっけ?

 

『な、なんだよそれ』

『お兄ちゃん、どこ行ってたの?』

『はぁ?そんなの関係な』

『ある』

『……お、おい』

『あるに決まってるじゃん。だって私、お兄ちゃんの妹だよ?』

 

ズイ、と体を寄せ、瞳孔の開いた目を向けるゆらぎに、先輩は素が出始める。

 

それでもゆらぎの演技(追及)は終わらない。

 

『最近さぁ、家でも女の話ばっかりだよね。どうして?私と一緒にいるのに、どうして他の女の名前が出てくるの?どうして他の女の事考えるの?ねぇ、どうして?』

『え、いや、あの』

『今度は誰?随分密着してたみたいだけど。あー、誤魔化そうとしても無理だよ?だってそんなに強い匂いが染みつくのって、こうやってくっつかなきゃだもん。―――だから、いっつもこうやって()()()()()してたのに……どうして他の女の匂いなんてつけてきたの?なんで密着なんてさせたの?』

『えっ、これ…演技…だよな?』

『演技?演技って何?私本気だよ?なんでそんな事言うの?あっ、そっかぁ。あの女のせいかぁ……』

『あの女って…』

『ねぇ、お兄ちゃん。私以外の女のモノになるんだったらさ………』

 

そういって、ゆらぎは俯き、動かなくなった。

 

先輩は先輩で、どうすればいいのかと困惑気味だ。

 

だが、ゆらぎがこの後どうするのかを俺は知っている。

なぜなら一度このような事をされたことがあったからだ。

 

『――――一緒に、死んじゃお?』

『何言って―――』

 

光の無い瞳と歪な笑みを見せたゆらぎに、先輩が言葉通りの表情を見せる。

しかしその疑問は言葉になりきる前に遮られる。

 

ゆらぎが、先輩の首を絞めたのだ。

 

『ちょっ!?ストップストーップ!』

 

おいおい、なんで止めるんだよ実況。

今いいところじゃねぇか。

 

あ、別に獅子守先輩が死んでもいいと思っているわけではないぞ?

実際絞めてるように見えるだけで、殺意のある絞め方じゃないしな。

 

なんでわかるのかって?

……宴先生。これで理解してもらえるだろうか?

 

『あれ?なんで止めるの?』

『いやなんでって…明らかに今のアウトでしょ!?』

『だいじょーぶだよっ、全然絞めてないから!』

『は、はぁ!?お前十分絞まってた―――って、全然痣がねぇ』

『だって、絞められてるように錯覚するくらいの演技をしたからね!昔金出お兄ちゃんによくやってあげてたから、得意なんだー!』

『て、天久佐に…?』

 

マジですよ。

…いや、マジなの?我がことながら曖昧なんだが…

 

というか先輩、手鏡持ち歩いてるんですね。

そのライオンの(たてがみ)みたいな髪、案外真面目にセットしてたり?

 

『ったく。本当に絞めてるかどーかなんて、見てりゃわかんだろ?』

『で、ですが先生』

『つまんねーなー…ま、これで終わりってわけじゃねぇんだろ?』

 

先生がいつも通り過ぎる。

ていうか何でPSPやってるんですかねあの人。絶対見てなかったよねあの人。

 

そしてそれを咎める教師が一人もいないところに力の差を感じる。

体育教師の竹山先生なんて、注意したそうな顔してるくせに、青い顔してその場から動けてないからな。

…あの筋肉ダルマをどうやって黙らせたんだ…?

 

『まぁ…そう、ですけど……え?終了?―――なんか、実行委員会の方が『これ以上は絵面的にアウト』と言われましたので、これで終了に――』

 

…まぁ、そうなるよな。

俺からすりゃあれくらいでも全然いいとは思うが、他の生徒はドン引きだろう。

 

終了しても続行しても、どちらにせよ先輩の勝利に―――

 

『ちょっといいか』

『は、はい?』

 

なる、はずだったが。

 

何故か先輩は終了のコールを阻止し、実況の持つマイク(というか実況してなかったのでは)を奪い取った。

 

…このままでも勝てただろうに、まだ追い打ちする気なのか?

確かに勝利主義の人だけどさ。

 

『…今終わっても、俺の勝ちは確定だろ。全員コイツの演技にドン引きしてるしな。―――けどそれじゃ全員物足りねぇだろ?』

「物足りない…」「確かに、もうちょっと欲しいよねー」「でもあれ以上やっても…」

 

先輩の言葉に、生徒たちは口々に物足りないと答える。

数名程別にもう終わりでもいいという意見を言う人はいたが、大多数はまだ続けて欲しいようだった。

 

けど、妹を苦手とする先輩が、なんで自ら妹に言い寄られる演技を続けるように?

 

『だからよ。―――天久佐!ちょっとこっち来い!』

『……えっ、俺!?』

 

んん?なんで俺が呼び出されるんですの?

まぁ別に出ない理由もないし大人しく出てくけどさ。

 

【選べ ①動かざること山のごとし ②ぬるぬる動くぞ!?】

 

大人しく出てくって言ったじゃん!?

なんで動かないかぬるぬるの二択なの!?

 

―――なんか後が怖いし、①にしよう。

 

『だからこっち来いって』

『アッ、ハイ』

 

微塵も動かずにいたら、若干呆れ気味に同じことを言われた。

…いやいや、俺の意志じゃないんですって。

 

『……それで、なんでしょう?』

『今から、俺とコイツと演技力対決をしてもらう』

『はい?』

『俺、獅子守想牙と、箱庭ゆらぎ。両方を相手にしてもらう』

『いや聞き取れてますけど―――なんでですかね?俺が先輩の相手するのはまぁ、わかりますけど…ゆらぎと俺、同チームですよ?』

『純粋に気になんだよ。あの状態のコイツにどうやって対応したのか』

『はぁ…』

 

その好奇心で俺は前に出させられたんですかそうですか。

 

…まぁ別にいいんだけどさ?こうやって人前で何かするってなったらコイツが黙ってないと思うんだけど…

 

【選べ ①「あんなのパンツ剥ぎ取ってクンカクンカしてやりゃなんとでもなりますよ!」 ②「あんなの俺のパンツの匂い嗅がせてやりゃなんとでもなりますよ!」】

 

やっぱり黙らないじゃないか!

 

『あ―――あんなのパンツ剥ぎ取ってクンカクンカしてやりゃなんとでもなりますよ!』

「ひっ」「変態…」「剥ぎ取るなんて…」「く、クンカクンカ!?」

 

マイクに拾われないようにしたってのにしっかり会場内に響き渡っちゃってんじゃねぇか。

ごめんなさいね、こんな変態発言して。

 

【選べ】

 

『て、天久佐お前』

『じょ、冗談ですよ冗談!ほら、あのヤンデレのせいで固まっちゃってた空気を和らげようというちょっとした――』

 

【①チ●コが金色に光る ②金色に光る竹にアナ●を貫かれる】

 

『……冗談なんですって!』

『うぉっ、眩しッ!?』

『すっごーい!お兄ちゃんのお兄ちゃんが輝いてる!』

 

これも冗談なんですよ、多分。

もろちん会場の全員はドン引きしてますね。

 

あっ、宴先生だけがなんかちょっと同情的な目で見て――違うわ。これ終わった後で首絞めてくるやつだわ。

『覚悟しとけよ?』って目で言ってきてるもんあれ。

 

『―――わ、わかりました。やります、やればいいんでしょやれば……でも俺と先輩の演技力対決って、何すりゃいいんですか?俺に妹枠をやれと?』

『いや。それはまた姉御……いや、先生に決めてもらう』

『―――あ?テメェまた姉御って言いやがったな?天久佐共々覚えとけよ?』

 

いや堂々と脅すなよ……そしてしっかり俺もカウント入ってるんですね。

 

しかしまぁ、獅子守先輩と俺の対決か。

でも俺が戦ったところで、投票先はあの二人なんだから―――あぁ、個人の演技を見極めるためのマネキンって事ね?俺の役割。

 

まずは先輩とやるらしいし…まぁ、選択肢に邪魔されない限りはやれるだけの事やっとくかな。

 

『あ、あのー先生。決めてもらいたいんですけど』

『実況もそれでいーのかよ……面倒くせー……もう女子に媚び媚びな俺様系(笑)でもしてみりゃいいんじゃねぇの?』

『お、俺様系ですか…なんでちょっと笑い気味なのかは気になりますが、取り合えずどうぞ!』

 

お、俺様系…?そんなのを、お断り5最強の俺にやらせるのか?

表ランキング一位の獅子守先輩に?

俺様系という言葉の擬人化みたいな、あの獅子守先輩相手に?

 

『まずは俺からだな……よし、箱庭。ちょっとそこに立っててくれ』

『はーいっ……わっ』

 

一度考えるような素振りを見せた後、獅子守先輩はゆらぎの顎をクイっとし、低い声で囁いた。

 

『俺のモノになれよ』

 

―――す、すげぇ。

まさしく獅子守先輩だからこそ許される発言…少なくとも女性陣はキャーキャー叫んで止まらない。

男子たちの方からも、「まぁ獅子守先輩だしな」とか「様になってんなぁ」等と好評だった。

 

…え、この状況の中でやるのか?

全体の雰囲気が「獅子守想牙マジパネェ」ってなってるのに?

明らかに俺アウェイじゃない?

 

【選べ ①やるからには全力。宴先生相手にやってみる ②やるからには全力。権藤大子さんにやってみる】

 

どちらにせよ死!?

 

①は肉体的、②は精神的な意味で死ぬぞ俺!

どうせ死にきれないんだろうけどさぁ!

 

……けど大子さんは嫌だ!先生には申し訳ないが……俺の俺様系(笑)の犠牲になってもらおう!

 

『…宴先生、ちょっと来てもらっていいですか?』

『なんであたしなんだよ』

 

選択肢がそうしろって言ったからですけど。

でもそんな説明をするわけにもいかないからな……どうすべきか。

 

【選べ ①「幼児体形だからですよ。それ以外に何があるんです?」と真実を告げる ②「そこにロリがあるから」と登山家風に告げる】

 

まったく真実じゃねぇんだよ①。

 

えー…これどっち選んでも先生の事見た目ネタで馬鹿にする事になるだろ…嫌だぞ俺、絞められると痛いんだから。

 

『そこにロリがあるから』

『悪かったな幼児体形でッ!』

『ぎゃぶぁっ!?力強!?』

 

絞め技かと思ったら、純粋な握り拳だった。

それでもしっかり痛いんだけどね。

 

『じょ、冗談です冗談。やだなー本気にしちゃって』

『とか言ってほんとはマジなんだろ』

『違いますって!(大子さんと比べたら)絶対に宴先生がよかったんですって!』

『(この学校にいる女全員と比べて)絶対にあたしが良い…!?ばっ、調子乗ってんじゃねぇぞこらぁ!』

『痛い痛い、先生痛いです』

 

先程の力任せな一撃とは打って変わって加減気味の攻撃だが、それでも地味に痛い。

なんでそんな幼子が親や祖父母に肩たたきするかのような殴り方なんですかね。

いや言ったらまた強く殴られるから口には出さないけどさ。

 

『……ま、まぁ?そんなに言うなら相手してやってもいいぞ?』

『はぁ…そりゃどうも』

 

なんかちょっと上機嫌気味なのが逆に不穏だが、まぁいいだろう。

俺は俺のやれる事をやるだけだ。

 

『宴先生』

「ひゃっ!?」

 

宴先生らしからぬ可愛らしい声に若干驚くが、それが聞こえたのは俺だけだろう。

マイクが音を拾わなかったようだ―――まぁ、どうでもいいか。

 

今の俺は先生と視線が合うように屈んでいる状態で、その上先生の耳元で囁くようにしている。(しっかりマイクに音が入るようにしている)

実は俺様というのをよくわかっていないが、取り合えずこうして相手を翻弄するような事(笑)をしていればいいだろう。

 

『…綺麗な髪、ですね』

『ちょ、まて』

『瞳も綺麗で、肌も透き通ってる。瑞々しい、っていうんですかね』

『ちかい、ちかいぞてんきゅうさ』

『随分緊張してるみたいじゃないですか、先生?―――いや、違うな』

『…ち、ちがうって』

『宴』

 

ただ名前を呟くと、先生は何も言えなくなった。

口をパクパクとさせるだけで、声にならないようだ。

 

…失礼だけど、やっぱこの人ってこういうやつの経験ないよな。

俺もないんだけどさ。―――なんか手馴れてる気がするけど。

 

『宴、宴…いい名前ですね。これからは、先生、なんて堅苦しく呼ばないで、こう呼んでいいですか?』

『け、けどおまえ…あたしとおまえは…』

『じゃあ―――二人きりの時なら、いいよな?』

 

敢えて敬語をやめ、雰囲気を変える。

俺が大子さんの熱烈な抱擁からさっさと抜け出したいときに使う最終手段だ。

 

―――あれ?ならこれ大子さん選んだほうが―――やっぱ無理だ、自分からあの悪夢に飛び込んでいく気にはならねぇ。

牛でたとえるなら牛脂みたいなあの厚化粧のオバサン相手にあんな真似、自らするなんて考えられん。

 

…っと、それは今は関係ないな。

 

さて、なんかもう俺がやってるってだけでおぞましいだろうが、それっぽくなったんじゃなかろうか。

会場の全員は黙り込んじゃってるが、せめて先生くらいはいい反応を―――うん?

 

「あ、う」

『えーっと…あの、先生?大丈夫ですか?先生?』

 

ダメだこの人、完全にショートしちゃってるよ。

なんというか…俺ごときにやられてそうなるって、他の奴に同じことされたらマジでどうなってしまうんだこの人。

色々と心配になる人だな……

 

『あの、なんかダメみたいなんですけど』

『……はっ!?す、すごかったです天久佐パイセン!』

『いや俺の方が年下なんですけど』

『いやいや、マジパネェっす!感服しましたっす!あとサインボールください!』

『え、あ、うん?なんでサインボール?いいけどさ?』

 

実況の人までおかしくなっちまった。

 

獅子守先輩もゆらぎも硬直しっぱなしだし、会場の方に助け舟を求めるなんて真似もできねぇ。

…うーん、やっぱり俺がやったのがよくなかったのかね?これがもし獅子守先輩だったらもっとキャーキャー言われてただろうし。

 

『―――っと、危ない危ない。暴走するところでしたね』

『十分暴走してましたけど?』

『ンンっ!聞こえませんね!―――さぁ、宴先生は実行委員の人たちに回収してもらうとして、次は箱庭選手と天久佐選手の演技勝負となります!みなさーん!戻ってきてくださーい!』

 

戻るってどこからどこにだよ。

なに?そんなにおぞましかったの?

 

「あの…天久佐先輩…だっけ?」

「うん」

「…やばくない?」

「…うん」

「あれでお断り5?」

「最強ってそういう意味なの…?」

「すげぇやアイツ…」

「なんかもう、なぁ…?」

「普段の奇行はどうしたんだよ…」

 

うーん、聞こえる声だけ聞いてみても、そんな酷評されてるわけじゃなさそうだけど…なんだかなー。

獅子守先輩程とは言わないけど、一部のマニアックな子が「きゃー!」って言ってくれるかなーとか思ってたんだけど、そんなことは無かったし…

 

『なぁ天久佐』

『……なんでしょう』

『お前、すげぇな』

『先輩程じゃないですよ』

 

獅子守先輩の場合→女子たち「きゃー!素敵!」 男子たち「すげぇ…!」

俺の場合→女子たち「」(ドン引き) 男子たち「」(ドン引き)

 

見てください、これが現実なんです。

アフリカでは今、一分間に六十秒が過ぎています。

そして私は今、こうして変人奇人のレッテルを貼られています。

 

『…ま、さっさと終わらせよーぜゆらぎ』

『ねぇお兄ちゃん』

『んー?』

『さっきの、どういうこと?』

『んん?……あー、もう始まってんのか。うーん…どういうことも何も、なぁ?指示された通りの内容をやっただけなんだが』

『絶対違うよね。明らかに私的な感情が入ってたよね』

『あれを見てどうしてその考えに至るんだよ…』

 

すごいなゆらぎ。もうヤンデレの用意ができているとは(ヤンデレの用意ってなんだ)こちらも負けてられんな。

いつも通りの宥め方で、いい感じに―――あれ?おかしくないか?

 

いつも通りの宥め方つったけど、それだとラスト…キスしてね?気のせい?

それとも、子供の時だったから全然互いに気にしてなかったとか?

 

いやいや、そんなキスするのを気にしないような年齢の時からヤンデレの御し方心得ているとかおかしいだろ俺。

 

『お兄ちゃんさぁ、ずっとそうだよね。鈍感で、難聴で、その癖女の子からはモテモテでさ』

『過去の栄光にだけ目を向けるのやめてもらっていいですかね。今の俺を見ろよ今の俺を。この会場内の冷たい視線は誰に向かってるよ?』

『お断り5とか言われてるけどさ、なんだかんだモテモテじゃん』

『お前目とか耳とか腐ってんの?』

 

おっといかんいかん。素で言ってしまった。

 

所詮演技で言っているだけの言葉。真に受けてどうする。

アイツもアイツで、それっぽい内容にするためにある事ない事言ってるだけに違いない。

 

『私が抱き着くのは嫌がるのに、他の女は結構許してるよね』

『そもそもお前以外に抱き着いてくる奴いねぇだろ』

『私がお兄ちゃんって呼んでも、全然嬉しそうにしないよね』

『男はすべからくお兄ちゃんと呼ばれたいというわけではないからな』

『…私以外の女と話す時の方が、ずっと生き生きしてるよね』

『誰にでも平等に関わってるつもりなんですがそれは』

 

平行線だな、これ。

でもまぁ、記憶の通りだと、こうやってヤンデレっ子の相手を―――あんれぇ?でもやっぱりなんか変だよなぁ?

 

そもそも俺が相手にしてたヤンデレっ子って、ゆらぎ()()()()()()気がするんだが…気のせいか?

 

『しばらく会ってなかっただけで、なんで一緒に暮らしてる女がいるの?』

『それは俺が聞きたい』

 

ショコラについては選択肢かそれを出してきている神本人に聞いてください。

俺のクソザコ理解力ではだめでした。

 

そもそも神とかそこら辺の存在の話を、人間スケールで理解しようとする方が間違ってると思うの。

 

『……ねぇお兄ちゃん』

『どうした』

『昔はさ、そんなに適当にあしらったりしなかったよね』

『んー?そうだったか?全然そんな気がしないんだが』

 

昔からこんな感じだったと思うぞ?

そりゃ最初の頃はお兄ちゃんと呼ばれたりしても全然だったが、途中から「なんかおかしくね?」と気づいて―――そんで、なんだっけ?

 

まぁ昔からこんな感じだってのに違いはねぇだろうし、あまり気にしなくていいか。

 

『もういい……私の事しか、見れないように――』

 

【“待”ってたぜェ!!この“瞬間(とき)”をよォ!!】

 

一条●丸じゃねぇか!

まぁこのタイミングで来るんだろうなぁとは思ってたけどさぁ…なんか、暑苦しいぞお前。

 

【①赤ちゃんプレイを要求する ②イケメン(笑)の実力を見せつける】

 

①どうしたお前!?発作か!?

 

だが②、もうお前でも全然文句はない。

俺の今からやることは、確かにイケメンでなければただただ気色悪いからな。

イケメンを自称する俺の実力、見せつけてやる―――って言っても、もう自分の事イケメンとは思ってないんだけどね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

簡単に状況を説明しよう。

『天久佐がやりやがった』…状況説明終了。

 

まぁ真面目に話すなら、まずは獅子守先輩との演技力対決まで戻る必要がある。

 

宴先生がすっごく面倒くさそうに『俺様系(笑)』をするように言ったのが原因で、まぁ天久佐がやりやがった。

いきなり先生を指名したかと思えば、目線合わせて髪とか褒め始めて、「あれ?全然俺様じゃなくね?」って思わせて―――最後の最後で、質問の皮を被った命令をした。

『二人きりの時は名前を呼び捨てにする』って…それ、この大勢の前で言ってどうすんだよ。

ん?演技だからそんなことはないのか?

いや、あれ?

 

…と、そんなこんなで女子も男子もノックアウトされてたわけで。

 

実況の人のおかげで復帰したかと思えば、今度は箱庭とかいう一年生の演技ヤンデレ(言ってること全部のリアリティがすごい…というかお断り5のくせにモテるというのはあながち間違っていない気がする)相手に、とんでもない返しをしやがった。

 

『私の事しか、見れないように――』

『ゆらぎ』

『…なに?言っておくけど、止めようとしても』

『別に止めはしねぇよ。拒む理由もねぇし』

『…え?』

 

まさしく「え?」だった。

何言ってるんだこいつ、という目を向けたのは、少なくとも俺や佐藤だけじゃないと思う。

 

それでも、天久佐は止まらなかった。

 

『見れないように、なんだ?何をするんだ?』

『お兄ちゃん…?』

『ま、何もしないってんなら…ほら』

『え…?きゃっ!?』

 

いつの間にか箱庭を壁際まで追いつめていた天久佐は、迷いなく壁ドンをやってのけた。

―――アイツ、あんな事は俺にできるわけがねぇって言ってたのに…

 

『これで逃げれねぇな』

『な…なに、するの…?』

 

天久佐は答えない。

 

代わりに口を耳元に近づけ、どこか甘えたくなるような(恐ろしい事に、男の俺でもだ)声音で、一言。

 

『…俺は、お前しか見てないから』

 

―――一瞬、意識がトんだ。

 

本当にお断り5の方なんですか天久佐さん。

そう思ってしまうくらいには、様になっていた。

 

というか、これを昔よくやっていたって…アイツら二人やばくないか!?

ませ過ぎだろ子供の頃にやっていたのだとしたら!

 

『―――って感じでやってた…と、思うんですけど』

『どんな子供だよ!?』

『え、えぇ…なぜそこで怒られるので…?』

『いや怒ってるわけじゃねぇが……お前、なんなんだ?』

『その聞き方は明らかに怒っている人のソレじゃないですか…』

 

獅子守先輩すら、俺と同じような感想を持ったようだ。

というか、この場においてこれ以外の感想を持った奴は多分アイツ本人以外にいないと思う。

 

…とにかく、今までの事を総合して俺から言えることは―――コイツ、わざとやってね?ってだけだな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

選択肢に途中やることを変えさせられたとは言え、大体うまくいったと思う。

確か、昔もこうやってヤンヤンされた時はこう、受け入れる姿勢を見せつつーって感じだった気がする。

 

セリフそのものは選択肢が決めたが、まぁ似たニュアンスの事を言う気だったし問題はない。

周りの反応はこれまたイメージと違ったものだったが…まぁ、俺がやったとしてもキャーキャー言われなくて当然だろうし、いいか。

 

『……あ、今から投票になるんで、皆さんどちらかに』

「あのー!」

『はい、なんでしょう?』

「天久佐君に投票したいんですけどー」

「あ、俺も」

「私もー」

『そりゃ私もですけど……それじゃお断り5二名対表ランキング一名だったことになってフェアじゃないんで、ここはこの二人から選んでください』

 

む?俺意外と大人気?

それとも無謀にも「ただしイケメンに限る」みたいな行動を大勢の前で披露して見せた俺への同情票だろうか?

 

…まぁ現実を見るとするなら、同情票だろうな。

 

しかし、ルールはルール。

今投票することができるのは獅子守先輩とゆらぎだけなのだ。

 

 

 

思いの外早く終わった集計の後、巨大スクリーンに結果が映し出された。

どうせ獅子守先輩が一位…と、思っていたが。

 

『勝者!箱庭ゆらぎ選手!』

 

まさかのゆらぎが勝利だった。

…うーん、ヤンデレはあんまり大衆ウケ良くなかった気がするんだが…心変わりしたのだろうか?

 

『…これ、明らかにお兄ちゃん票入ってるよね』

『だろうな……本当、天久佐には敵わねぇな。―――ま、次に戦う機会があったらそりゃ負ける気はねぇけどな』

『なんだよお兄ちゃん票って…』

 

二人とも、この結果を予想していたらしい。

お兄ちゃん票というのがよくわからないが。

 

…しかし、やっぱり俺はわからなかったな。

獅子守先輩はゆらぎの時も俺の時もちゃんと演技してたし…

 

まぁ、俺の演技力はハリウッドでも狙えるレベルだからな。

今回は自分の残念さを演技力でカバーした結果、同じチームであるゆらぎに票がたまった…という事にしておこう。

 

いつまでも二人と一緒に立っているわけにもいかないので、さっさと自分の席に戻る。

…なんかもう、どっと疲れた。

 

「…ぬぉ!?」

 

自分の席に戻る道中、なぜか雪平に足を引っかけられ…いやそんなんじゃねぇわ。普通に蹴りだったわ。

 

「え、何すんの?」

「天誅よ」

「て、天誅ってお前」

「ロリコン&シスコン…救いようがないわね」

「誤解オブ誤解なんですけど!?いやまぁ確かに自称ロリコンではあるけども、シスコンは違」

「ならなんで箱庭さんという実妹にあそこまで卑猥な事をしたのかしら?」

「微塵も卑猥じゃなかっただろ!?つーか実妹でもなんでもねぇし!」

「黙りなさい。チン●スに発言権はないわ」

「●ンカス!?」

 

いや、あの…辛辣すぎません?

宴先生とゆらぎ相手にまぁやりすぎたかもしれないけど、だからってそんな強く蹴らなくても…

 

【選べ ①蹴られたところを押さえながらはぁはぁする ②股間を押さえながらハァハァする】

 

①と②じゃ「はぁはぁ」の意味合いが違うだろ!?

…まぁ①にするんだけどさ、なんか…確かに痛いけど、そんな息切れするほどじゃ…

 

「…はぁ、はぁ…」

「蹴られて興奮するなんて、業が深いのね」

「違うわ!ダメージが大きかったことを示してるだけだわ!」

「蹴られて興奮するタイプのチンカ●…ニュータイプ?」

「どんなタイプだよそれ!?ってかチ●カスじゃねぇから!」

「じゃあマ●カスかしら」

「悪化してんじゃねぇか!」

「どこが悪化しているのかしら。私はただマラカスと言っただけよ」

「じゃあややこしい所に伏字を置くなよ…」

「まぁマラカスは魔羅のカス…結局チン●スだという事に変わりはないわ」

「ダメじゃねぇか!」

 

まずなぜ俺の事を男性器のカス呼ばわりし始めたのかについて聞きたい。

 

【選べ ①●ンカスの名に相応しい奇行に走る ②いっそのこと実際にチ●カスになる】

 

相応しい奇行ってなんだよ!?

具体例をくれよ具体例を!!

 

言っておくが②はやらねぇからな!?

 

【なら ①ネックウォーマーを顔半分隠すように被り、「これが俺だぁ!!」と叫ぶ ②チン●の被り物をし、「俺がチン●だぁ!!」と叫ぶ】

 

嫌だどっちもやりたくねぇ!

①の方がまだマシに見えるが…くそ、実際にはちゃんと剥けてるんだぞ俺は。

なのに全校生徒に「包●です」と宣言するのは嫌だ……が。

 

②、こっちを選ぶわけにもいかないだろう。

こんな大勢の前で猥褻物の被り物とか…うん、アウトだ。

それっぽくデフォルトしてるのならまだいいが、この絶対選択肢によって出てくるのだ。確実にリアルなものだろう。

 

―――①を選んで、誰もその意図に気づかないという奇跡を祈ろう。

 

『これが俺だぁ!!』

『…あなた●茎だったのね』

 

ダメでした。

ほんの一瞬で意味を言い当てられました。

 

『ち、違ぇし!本当は全然そんなことねぇし!』

『恥ずかしがることは無いわ天久佐君。日本の男性の大部分は仮性包●だって話だから』

『だから違うんだって!』

 

でも自分から言ったようなもんだし、信じてもらえなくても仕方ねぇか。

 

…そして前列にいるそこの男子。俺が「これが俺だ」と叫んだときに鼻で笑った、そこの男子。

お前の顔、覚えたからな?

 

【選べ ①誤解を解くため、実際に見せつける ②誰かが誤解を解いてくれる】

 

あの…俺、誰にも自分の息子を見せたことないんだけど?

なんで誰かが誤解を解いてくれるの?

 

それ、違う誤解が生まれるんじゃないの!?




【②誰かが誤解を解いてくれる】

『えー?違くない?』
『違う?何が違うのかしら』
『だって、昔一緒にお風呂に入った時からお兄ちゃんちゃんと剥け――』
『だあああああ何トンデモカミングアウトしてくれてんだお前は!?』
「えっ、一緒にお風呂…?」
「変態…」
「絶対いかがわしい事してますよね…」
「そこ代われ!」

―――因みに、最後にゆらぎと一緒に風呂に入ったのはなんと『中三』の時である。

俺が風呂に入っているときに、なぜかゆらぎが乱入してきたのだ。
今になって思うけど、俺って結構ラノベの主人公みたいな経験をしてきたんだなぁって。

あ、ナニもしてないからな?


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①濡れるッ! ②オイルッ!

ロリコンだけでなくふとももフェチまで完備の変態、というお話。





変態。そこ代われ、というお話?


『い、色々ハプニングはありましたが、とにかく次の対決に移りましょう!』

 

混沌とし始めた空気の仲、実況の人が無理やり進行する。

まぁ、大部分は俺のせいなんだけどさ。

 

あの●茎の話がそんなに長引くとは思わなかったんだよなー…

 

『ふっふっふ……コナギ・ヤワ・カゼよ。決着をつけるとしよう!』

『え、えぇ…』

 

困惑する柔風と、スーパーヒーロー側を自称しているくせに悪役チックな遊王子。

どちらも、なぜかブルマを着用していた。

 

傷もくすみもなく、ムダ毛も生えていないその足は、なんだろう…言葉にするのだとするのなら…

 

【選べ ①「あのふとももに挟まれてみたいな」 ②ブルマに転生してみる】

 

別に①程の事は思ってないからな!?

確かに引き締まっていていい太ももだとは思ったが…挟まりたいとか、そんなことは微塵も―――嘘です。実はほんのちょっとくらいは思いました。

でもそれは男なら当然な考えだと思う。

 

……そこ、ちょっとアブノーマルなのでは?とか言わない。

 

『あのふとももに挟まれてみたいな』

『『ふぇっ!?』』

『あ、あのー、天久佐選手。マイク…』

『あっ』

 

どうせマイクの電源は切ってあるし(節約とのことで、切るように言われていたのだ)言っても問題ないだろうと思ったのだが…うん、なんで切ってないんだ俺。

 

つーかなんで遊王子まで柔風みたいな声出してんだよ。

普段なら笑って流してるだろお前。

そのせいで、とは言わんが……ほら、観客席の女子たち、全員足を隠して俺から体を離してるじゃねぇか。

 

まぁ十割方俺が悪いんだけどさ。

 

『さ、さて。天久佐選手の爆弾発言はありましたが、ここでもう一度二人の対戦方法についてご説明いたしましょう!タイトルは『オイルレスリング』、その名の通りオイルでヌルッヌルになりながらレスリングをするというシンプルな対決です!』

『あ、あのぅ……これ、なんでブルマなんですか…?』

『ルールだからです』

『で、でも…普段の体操服でも…』

『ルールだからです』

『えぇ……じゃ、ジャージを着たりとか』

『ルールだからですッ!!』

 

こ、この実況……できるっ!

 

顔を赤くし、今からでもブルマから衣装替えできないのかと訴える柔風を、ひたすら同じことを言って拒み続けた。

真顔のまま、まるで「何も邪なことは考えていませんよ」と言っているかのように。

 

男子生徒たちは男子生徒たちで「やめろぉ!(建前)ナイスゥ!(本音)」だの「何が日本一やお前…世界一や!」だのと実況の人を称賛する声を飛ばしている。

…まぁ、ブルマ状態の柔風なんてこんな機会じゃなきゃ見れないだろうしな。

 

【選べ ①ここで自分も実況を褒めるような発言をする ②もういっそふとももに挟まれる(柔風小凪か遊王子謳歌、もしくは権藤大子)】

 

……②、お前―――今回ばかりはありがとな。

もしここで権藤大子さんの名前がなかったら、「もうどうせ変態扱いに変わりはないし、いっちゃえ~」となっていたに違いない。

 

ありがとう…どうせ②を選んだら、どこからともなく現れた大子さんのふとももに挟まれ―――苦痛と絶望の中息絶えることになっていただろうからな。

 

今は実況の人に、惜しみない称賛を。

 

「いよっ、名実況!」

『ありがとうございます!ありがとうございます!』

 

恐らく、今の礼は俺に対してだけではなく、先ほどから彼を称賛している男子生徒全員に対してだろう。

 

まぁ女子陣の視線はまさしく絶対零度―――普段から俺が向けられているようなものなのだが。

 

『―――おぉっと!そうこうしている間に、早速遊王子選手が仕掛けた!』

 

この対決のために用意された専用リングに、早速遊王子が柔風を放り投げた。

 

いや力強くねぇかアイツ。なんでそんな軽々と同年代の女子を投げ飛ばしてんの?

どこからその力が湧いてんの?

 

『くらえっ!ドロップキーック!』

『きゃあっ!?』

 

リングの支柱から飛び降り、その勢いのまま蹴りつける。

油まみれなせいで、うまく回避のできない柔風は、まともにガードすることも無くドロップキックを喰らう。

 

『まだまだぁ!投げっぱなしジャーマン!』

『ひゃああああ!?』

 

…あれ?それって会話だとかを完結させないまま投げっぱなしにすることって意味じゃなかったか?

 

ジャーマンは多分ジャーマンスープレックスのジャーマンだろうけどさ。

 

『攻める攻める攻める!遊王子選手の猛攻が、柔風選手を追い込み続ける!これはもう、遊王子選手の圧勝かー!?』

『ちっ、なんだよ今のコブラツイスト。絞めが甘すぎるんじゃねぇか?』

 

…あの、先生。これ、別に殺意を持って戦ってるわけじゃないですからね?

 

にしてもすごい光景だな。

美少女二人が、ブルマ姿でヌルッヌルになりながら絡み合っている……正直に言うならば素晴らしい。

歴史上に名を遺した芸術家たちの絵画なんかよりも、よっぽど美しい物だといえよう。

 

見ればほら、男子たちはほぼ全員が口を半開きにしてこの光景を目に焼き付けているではないか。

誰か今「…すげぇ」と呟いていたしな。

 

『フィニッシュは必殺技で決まりだね!』

 

おっ、エグゼイドか?

 

『ひ、必殺技!?ね、ねぇ。もうやめに――』

『敗者に相応しいエンディングを見せてあげるよ、小凪たん!』

 

ハイパー無慈悲だったか。

というか、もうコナギ・ヤワ・カゼの設定は無い物になったのか。

 

その場で跳躍し(なんで平面からそんな跳躍が可能なのかが非常に気になる)そのままドロップキックの構えをした遊王子と、その場から微塵も動かない柔風。

 

序盤で察していたことだが、勝者はもう決まったようだ――と、誰もが思ったその時。事態が急変する。

 

なんと、遊王子の攻撃があともう少しで当たるというところで、柔風が自分の身を守るように体を縮こめたのだ。

たったそれだけで遊王子の攻撃が空振りし、そのままオイルで滑って、俺のいるお断り5の待機席に……うん?

 

【選べ ①ラッキースケベを期待してその場に留まる ②そんなものはあり得ない。渾身の蹴りでリングまで返してやろう】

 

①だな。

…あっ、違うぞ?俺はただ遊王子を蹴るなんて真似をしないためにこっちを選んだんだからな?

決してやましい気持ちなどはなく。

 

そもそもラッキースケベが遊王子相手に起こるって決まったわけでも無いだろ。

コイツの事だ。どうせ男子生徒か大子さんの…うっ、想像しただけでキツイな…

 

「ぶごぅっ!」

 

嫌なものが脳内に映っていたが、全身に来た衝撃によって全てなくなる。

ある意味助かったな。まぁ考えたのは俺のせいなんだけど。

 

「…いやぁ、ごめんね天っち」

「ん?そこまで痛くなかったし、気にしなくていいぞ?」

「それでもさ、ほら…あたしの不注意っていうか?」

「あれは柔風が避けただけだろ。お前が誤ること……な、い…」

「ん?どしたの天っち」

 

遊王子にのしかかられつつ、自分は無事だという事を伝えた…のだが。

先程の衝突の時に、俺の手か何かが遊王子の油まみれのブルマに引っかかってしまったのだろう。

 

つまり何が言いたいのかというと―――パンツが、見えていた。

 

「く、黒…!?」

「えっ……き、きゃああああああああああああ!?」

 

ついうっかりパンツの色を言ってしまった俺に、遊王子が素早く自分の下半身を確認。

しっかりブルマが剥ぎ取られている事を認識してしまった遊王子は、一瞬の硬直の後に絶叫。

 

マイクの電源は切られているのに、しっかり会場全体に響いた。

 

『い、一体何が起こっているのでしょうか!?ライト、ライトとカメラを早く!』

 

幸いこちらの方はスポットライトがなかったおかげで、俺以外の誰にも遊王子のパンツは見られなかったらしい。

 

急いでブルマを履かせ、遊王子から離れる。

…よし、大丈夫そう…だな?

 

『遊王子選手と、天久佐選手が衝突した…の、でしょうか?両者とも怪我はないようですが…』

「よ、よかったな遊王子。見られてなかっ」

「ま、まま…また…また見られたぁああああああああああ!!」

 

こっちは大丈夫じゃ無かった。

 

余程恥ずかしかったのだろう。

遊王子は目尻に涙をためながら、叫んで走り去っていってしまった。

 

『…えーっと…状況がよくわかりませんが、取り合えず追いかけてくださーい!』

 

実行委員らしき人達が遅れて追いかけるが、どうせ遊王子には追い付けまい。

アイツは本当に訳の分からん身体能力を持ってるからな。

 

『…あの、天久佐選手。何が起こったんでしょうか?』

『何がって…』

 

どう誤魔化そうか。

遊王子の名誉を守りつつ、俺が変態の誹りを受けないように…尚且つ叫んで走り去っていってしまうような『何か』…

 

【選べ ①「パンツ!パンツですよ!被りたいですね!」とニッコリする ②「…ぐへへ、何も起こってませんよ」とニヤニヤする】

 

変な勘違いされるだろ②!

でも①は俺はもちろん遊王子も被害を被るからNG!

 

『ぐ…ぐへへ、何も起こってませんよ』

『……そ、そうですか』

 

そんな引かないでくださいよ実況の人。

…けど話を広げられたりしたら、もしかしたら選択肢がもっとやばい事言わせたりさせたりしてきたかもしれないし……うん、ここはその反応に感謝。

 

観客席の方は…うん。明らかに全員引いてますね。

そりゃまぁ「ぐへへ」なんて言って邪推されないわけないんだけどね?

 

「…ねぇお兄ちゃん。結局何があったの?」

「…アイツのためにも、俺からは何も言えないな」

「まぁ多分パンツを見たとこかそこら辺でしょ?お兄ちゃんがブルマ脱がせたとか」

「脱がせてねぇし!あれは不可抗力だし!―――あっ」

「ふーん、なるほど。パンツを見たんだね?しかも不可抗力でブルマを脱がせたと」

 

うぐ、やられた。

まさかこんな簡単に話してしまうだなんて…にしてもゆらぎの勘鋭くないか?

パンツを見た、なんてすぐに思いつくもんか?

 

「ま、謳歌お姉ちゃんが自分で『また見られたー』とか言ってたし。大方そんな感じだろうなーとは思ってたんだけどね?」

「……まいりました」

 

無理だ。

いつまで経ってもコイツに勝てる気がしない。

 

この少ない情報だけでそこまで察するとは…恐ろしい。

 

「……そういえばさ、お兄ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんはさ。今気になってる人とかいる?」

「気になってる人って…その、恋愛的な意味でか?」

「それ以外に何があるのさー」

 

そう言って笑ったゆらぎに、どう答えるべきかと悩む。

正直なところ、居ない。いや居るわけがない。

 

だって、それどころじゃねぇし。

 

なんつーのかな。

彼女欲しいーとかを佐藤とか田中とかと言ってるけど、最近は女を見ても自分がいかに嫌われているかとかそういうのばっかり気にしちまうからなぁ…

 

だからまぁ、普通に居ないと答えてもいいのだが…もし理由とかを聞かれた時はどう返せばいいのやら…

ま、聞かれない可能性だってあるわけだし、普通に答えるか。

最悪馬鹿正直に話して、あまりの荒唐無稽さに馬鹿にされればいい。

 

「ま、居ねぇな」

「ふーん……あれ?でもふらのお姉ちゃんを狙ってるって」

「色々あるんだよ俺にも」

 

実際はただただ選択肢に言わされただけなんだけどさ。

 

「じゃあ、謳歌お姉ちゃんは?」

「ねぇな。俺なんかじゃアイツに釣り合わねぇし……あ、雪平も同じ理由な?俺なんかよりもよっぽどいい奴がいるさ」

「……はぁ~…お兄ちゃんがお兄ちゃんすぎてお兄ちゃんなんだけど…」

「壊れる壊れる。ゲシュタルト壊れちゃうって」

 

お兄ちゃんがお兄ちゃんすぎてお兄ちゃんってなんだ。それは本当にお兄ちゃんなのか。

そもそも俺はお前の兄ではないぞ。

 

付け足すように雪平についても言ったが…うん、誤魔化せたか?

 

「じゃあ小凪お姉ちゃんは?」

「なんで柔風が出てくるよ……もっとねぇわ。表ランキングの『嫁にしたいランキング』一位だぞ?天と地をはるかに上回る差があるっての」

「じゃあ宴先生お姉ちゃん」

「先生お姉ちゃんってなんだよ…ま、ねーな。―――ってか、なんでさっきから俺じゃ明らかに隣に立つに相応しくないような相手ばっかり引き合いに出すんだよ」

 

雪平も遊王子も、お断り5だなんだと言われていても、そう扱われている理由である『下ネタ+毒舌』も『お子様』も…言ってしまえば個性だ。

俺みたいに実害があるわけでは(あんまり)ない。

 

前に『恋愛的にはねぇな』とか言ったが、それは違う。

単なる負け惜しみというかなんというか―――実際は、『俺には勿体ねぇな』だ。

ちょっと癖の強い個性があるだけで、どっちも絶世の、とつけていいくらいの美少女となりゃ、普通は俺なんかじゃ相手にすらさせてもらえないだろう。

 

だって俺、実害のある変態だぞ?

…それさえなくなりゃこんな低く自分を評価しなくてもいいんだろうけどさ。

 

柔風は…まぁ言わなくてもわかるだろう。

 

宴先生だって…ほら、多少血の気が多いところさえ許容できりゃいい人じゃねぇか。

 

「……お兄ちゃんさー」

「なんだその呆れてものも言えないみたいな目」

「みたいな、じゃなくて呆れてものが言えてないんだよお兄ちゃん……はぁ、時間がたってもう少し恋愛に前向きな考えを持ったりしてるのかなーって思ったら…悪化してる…」

「なんでお前が嘆くんだよ…」

 

嘆きたいのはこっちの方だ。

絶対選択肢なんて訳の分からんもののせいで奇行に走らないといけないわ変態扱いされるわ、下落するだけの好感度を何とかするために、毎日必死に努力に努力を重ねて(運動の方だって、前までは真面目に特訓していたのだ)そこまでしてようやく『恋愛的には無いけどそれ以外ならまぁ許容範囲』という位置にさせてもらえてるわ……俺が何をしたって言うんだ。

 

「お兄ちゃんってさ、キスでもされなきゃその人から好かれてるって思えないくらいなんじゃないの?」

「そこまで鈍くねぇし!ってかそもそも鈍くねぇし!」

『あ、ただいま情報が入りました!えー…遊王子選手はいくら探しても見つからないため、棄権したものとし、今回の勝者は柔風選手ということにするそうです!』

「…アイツ、マジでどこまで逃げたんだ」

 

【選べ ①今までの奇行の中でも三本指に入るものを披露 ②いっそ新ネタを披露】

 

いや奇行はお前のせいでやってるだけだからな!?

それに、新ネタなんてねぇからな!!

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「うぅ、うぅぅう~…」

 

場所は変わって校舎の中。

教師含めほぼ全員がイベントステージの方にいるため、今この場には彼女一人だけだ。

 

そんな彼女…名を、遊王子謳歌。

先程天久佐金出にブルマを下ろされた挙句、パンツを見られた少女である。

 

「うあ~…あうぅう~…」

 

廊下のど真ん中であるにも関わらず、顔を真っ赤にして悶え続ける。

床を寝転がり続けるなど、普段の彼女ですら多少は忌避するのだが、今回ばかりはそんな余裕がないようだ。

 

実際、彼女の頭の中を埋め尽くしているのは『パンツを見られた』という事と『見たのが天久佐金出』だという事だけだ。

 

「……これもう、責任…とってもらうしか…」

 

呻き声から一転、何やら思いつめた様子で言葉を発する遊王子。

 

『責任をとってもらう』…つまり、男女の仲になってもらう、という意味である。

 

たった二回パンツを見られただけで…と思う人もいるだろうが、遊王子にとって二回見られたことはそれくらいに大きな出来事だった。

…何よりパンツを見られるよりも前に、他にも色々されたのだ。

 

―――それは、高校一年の冬と、高校二年生の春の事である。

 

 

 

 

 

 

 

「皆さぁああああんッ!!誰でもいいのでッ、『卑しい豚め』って罵りながら踏みつけてくださぁあああいッ!!」

 

…そんなふざけたことを宣いながら教室間を移動しているのは、天久佐金出だ。

 

勿論選択肢によってさせられているだけで自分の意志での行動ではないのだが、そんな事を知っているのも理解してくれるのも道楽宴ただ一人であり、他の生徒たちには『気味の悪い事を自ら叫びながら走っているキ●ガイ』にしか見えない。

 

それを他の人を見るのとは違う目で見ている女子が数人いるが、それを知っているのもまた、本人だけである。

―――まぁ、ぶっちゃけてしまうなら柔風小凪と雪平ふらの、遊王子謳歌の三人なのだが…今回大事なのは遊王子謳歌についてなので、前二人については割愛させてもらう。

 

高校一年の冬の時点で大分異性として意識しているあの二人に対し、彼女はまだ『何故か自分で望んでいない奇行に走っている面白い男子』とみているだけだった。

 

生まれつき人の考えを察する事に長けていた彼女には、天久佐が行っている奇行の()()()()は自分で望んでやっているものではない事を読み取れていた。

じゃあなぜそれをやっているのか、というところまではわかっていなかったが。

 

「へいそこのガール!俺と熱い夜を過ごさない?」

「えっ普通に無理」

「そうですよね。ごめんなさいマジで」

 

やたら高いテンションでナンパのような真似をし、拒否されて直ぐにテンションが急降下した彼を、周囲の生徒たちが鼻で嗤いながら見つめる。

天久佐は天久佐で、視線を真下に落として足早にその場を去ろうとしていた―――の、だが。

 

「おーいっ!ちょっと待ってー!」

「えっ、どちら様?」

 

溢れ出るネガティブなオーラをものともせず、遊王子が天久佐に声をかけたのだ。

無論、二人が会話するのはこれが初めてである。

 

「あたし?あたしは」

「―――そんなのはどうでもいい。わかったらさっさと俺を踏みつけてくれ」

「…おぉ」

 

もう一度言おう。

二人は、これが初めての会話である。

 

天久佐は、初めての会話で「さっさと踏みつけてくれ」と言った(言わされた)のだ。

因みに、こんな事は彼史上初である。

 

……そして、ここからの反応は選択肢が出るようになって以降初の事である。

 

「…すまん、忘れてくれ」

「いや、踏むくらいいいけど?」

「……いいけど、じゃなくてですね…そもそも本意じゃ無かったし……それで、どちら様?」

「あたしは遊王子謳歌っ!以後よろしくっ!」

 

『以後よろしく』…そんな事、選択肢が出てから一度も言われたことがなかった。

 

考えてみて欲しい。初対面でいきなり変態的な事を言ってきたり、訳の分からない行動をしたりする奴と、誰が以降も仲よくしようと思うだろうか。

天久佐は、この時点で大分遊王子謳歌と名乗る少女に絆されていた。

なんともチョロい男である。

 

「……俺は天久佐金出。よろしくな」

「知ってるよ、有名人だもん!」

「…そりゃ悪い意味でしょーよ……つかそんな有名なのか俺…」

 

まだ一年も経ってないんだぞ、と、事態の大きさを嘆く。

だが遊王子はそんな状態の天久佐を気にすることなく、彼の呼び方を決めた。

 

「天久佐…金出…うんっ、天っちにしよう!」

「…天っち?」

「あだ名だよ、あだ名。いい感じでしょー!」

「……あぁ、すっごく良い」

 

他に人が居なかったら泣いていた、と後に天久佐は語る。

 

あんな気持ち悪い要求をしてもなお、笑顔であだ名を呼んでくれる…当時の彼には、遊王子が女神に見えた。

その後は雪平を天使やら女神やらと呼んだりしているのだが、これは別に天久佐の女神判定が甘いというわけではなく、他の人が彼に厳しい(事情を知らない者だとするなら、真っ当な対応だが)だけである。

 

―――さて、ここまでならただのいい話。

だがそんなことを選択肢もどっかの神様も許さない。

 

【①全裸になり「これでも仲良くしてくれるのか」と問う ②なんか嫌われそうな事が起こる】

 

「は?」

「んん?どしたの天っち。なんか親の仇を睨んでるみたいだけど」

「えっ?あぁ、いや…なんでもない」

 

なんでもなくはない。

だがそれを話してしまうには、些か人が多すぎた。

 

もしこれが二人きりだったのなら、もしかしたら信じてもらえるかもと選択肢について話そうとしていただろう。

…まぁ、絆されてすぐだったからこう考えただけで、もうそんなことはしないが。

何より選択肢について話そうとすれば、何らかの力によって妨害されるのである。

 

……そんなこんなで、頭痛に頭を押さえながらも、天久佐は②を選んだ。

流石に全裸になるわけにはいかなかったのだ。

 

もしかしたら嫌われないかもしれない。

そんな奇跡を期待して。

 

「…てか嫌われるそうな事ってなんだよ

「ん?なんか言った?」

「いや、別になんでも―――うぉあっ!?」

 

呟かれた言葉が何だったのかを聞こうと身を乗り出したとき、遊王子が()()()()足を滑らせ、天久佐を巻き込んで倒れてしまった。

 

不自然に、という時点で選択肢関係なのだが、天久佐には転んでしまう事のどこに嫌われる要素があるのかがまるで分らなかった。

 

彼はこの時までわかっていなかったのだ。

自分の右手に感じる、この暖かくて柔らかい不思議な感触の正体を。

 

「…大丈…夫、か?」

「うんへーきへーき……えっ?」

 

視線を遊王子へと落とし、無事を確認した天久佐だったが、その途中で自分が何を掴んでいるのかを理解し、言葉が止まってしまう。

 

遊王子も遊王子で何をされているのかを理解していなかったようで、最初こそ何の問題も無いように振舞っていた……が。

 

「……えーっと…これは…」

 

遠回しな言い方はやめて、率直に、事実だけを伝えよう。

 

―――天久佐が、遊王子のおっぱいを右手で鷲掴みにしていた。

 

おっぱい。

そう、おっぱいである。

雪平がパイオツと呼び、天久佐が『小さい方がいい』と豪語する、おっぱいである。

 

それが、天久佐の右手に、しっかりと収まっていた。

 

「き……きゃぁあああ!?」

「ごはぁっ!?」

 

状況を理解した瞬間、遊王子は絶叫し、全力で天久佐の鳩尾を殴りつけた。

 

因みに高校一年生の時から遊王子の身体能力は人並み外れていたため、威力だけで言えばプロボクサー並みのパンチが天久佐の鳩尾に繰り出されたことになる。

 

それでも「ごはぁっ!?」だけで済んだのは、常から鍛えていたおかげだろうか。

 

顔を真っ赤にし、逃げるようにその場を去っていった遊王子に、追いかけるわけにもいかず手を伸ばす。

 

(あぁ、嫌われたな)

 

一部始終を見ていた女子たちからの侮蔑の視線に苛まれつつ、天久佐は悟りにも似た感情を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

……とまぁ、彼女はすでに、天久佐の被害に遭っていたのだ。

あの後雪平も使った『取り合えず都合の悪い記憶を消し飛ばす方法』によってその事は忘れさせられているが、天久佐が遊王子の胸を揉んだという事に変わりはなく。

 

彼女自身何事もなかったように振舞っているが、実はふとした時に思い出しては悶えていたのだ。

 

「…天っち、結局どう思ったんだろ」

 

少し落ち着いて、考えるのは天久佐の反応。

見られたり触られたりした後は羞恥心のせいで逃げてしまうのだが、それでも反応が気になってしまうのが乙女心だった。

 

天久佐が好きと言っていた黒の下着を着用していたわけだし、少なくとも悪い評価なわけではないと思うが…

 

「って違う違う!別に天っちが『黒いのが良い』って言ってたから最近黒い勝負下着をつけて学校に来てるとかじゃ――」

 

自ら全てを話しているという事に、なぜ気づかないのか。

この場に誰もいない事が救いだろうが、もし仮に天久佐に意識して欲しいのなら、直接言わない限りはそもそもスタートラインにすら立てないのだから失敗だ。

 

今回は、ただただ誰もいない空間に自分の恥ずかしい秘密を大声で明かしてしまっただけである。

 

「……天っち…お断り5なのに、モテモテだしなぁ…実はパンツとか見慣れてたり…」

 

思い出されるのは獅子守と箱庭の対決に割って入(らされ)た時の天久佐。

随分と手馴れた様子で道楽を口説き、箱庭を宥めていた。

 

…まぁ実際はあの権藤大子(おぞましい未亡人)から逃げる時によく使っていたから慣れていたのと、本人も覚えていないが何故か慣れていたという理由なのだが、それを知らない人間からすれば天久佐がかなりのプレイボーイに見えたことだろう。

 

実際、遊王子は天久佐が女の扱いに慣れているのではと勘違い始めていた。

…人の内面を読み取ることに長けているはずが、最近は天久佐関係となると非常に精度が落ちているようだ。

 

「はぁ…」

 

静まり返った廊下に、遊王子の溜息だけが響く。

 

…因みに、まだ彼女は天久佐への想いに気づいていない。

 

気づくのはもう少し先―――いつになるかは、今回は伏せておこう。




余談 【高校二年の春】

「…よっ、遊王子」
「あ、天っちおっはよ~!」

【選べ】

「―――はぁ…『う、疼くっ!俺の股間がぁ!』」
「お~。朝から元気だねぇ」
「その誤解を招く言い方やめてくれませんかね!?―――あぁ、違うんですよ皆さん、俺は別にスタンドアップしてるとかそんな事はなくって――」

【選べ】

「―――ぬぁっ!?」
「んおっ!?」

(こ、この両手に感じる柔らかさは……選択肢の言っていた、『運が良ければラッキースケベ』といのは…!)

「す、すまん遊王子!まさか転んだだけでお前の尻を揉みしだく事になってしまうなんて予期できなかっただけで」
「きゃああああああ!!」
「どぐぼぁ!?」


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①爆乳 ②貧乳

クラシック、有名な曲、知名度0のアニソンというお話。


『さ、さぁ!会場も再び盛り上がってきたところで』

『明らかにスベッてましたよ俺。無理に雰囲気良くなってるみたいに言わなくてもいいですって』

『…では、会場が恐ろしいほど静まり返って来たところで!次の対決に移りたいと思います!』

 

恐ろしいほどと付け足すほどでもないと思うんですがそれは……って思ったけどめっちゃ静まり返ってるな。

まぁ俺の披露した『三本指に入るほどの奇行』のせいなんだけどさ。

 

そんで、次の対決は…雪平と麗華堂か。

やけに闘争心を露にしている麗華堂と、普段通りの無表情の雪平……余裕がありそうなのは明らかに雪平の方だし、多分雪平が勝つだろう。

平常運転で行くのなら、まず雪平に負けはないだろうし。

 

『雪平ふらの…!あの時の雪辱を、今こそ果たしてやるわ!』

『それは()平と()辱をかけているのね。中々うまい事言うじゃない』

『そ、そんなオヤジ臭い事考えてないわよ!?』

『なら臭いオヤジの事でも考えているのかしら?ほら、あなたを毎晩抱いてる』

『なっ…!?そ、そんな事考えてもいないし、そもそも私は処女―――って何言わせんのよ!?』

 

今のは自爆でしたよ麗華堂さん。

 

ていうか勝負が始まる前なのに早速飛ばしてんな…特に雪平。

それに、親の仇でも見るように麗華堂の胸を凝視しているが…別に見たところで小さくはならんぞ。中のシリコンを抜かない限りは。

 

…つーか、シリコン入れたって言っても、流石にあの大きさななら…元からかなり大きかったって事だよな?

なんでわざわざシリコン入れるような真似を?

 

『あの、雪平選手。対戦パネルを…』

『パイオツの8で。―――パイとオツの伝道師にしてパイオツスレイヤー…その実力を思い知らせてやるわ』

 

なぜ雪平が選んだのか、ということについて軽く説明しよう。

…と言っても理由は至極簡単で、対戦方法が裏面に書かれているパネルの数字を、その前の試合で敗北したチームの方が選ぶことになっているだけなのだが。

 

実際先程の遊王子と柔風の対決も、柔風が選んだパネル(二十五番)の内容だったし。

 

『はい、8番ですね……おっと、『あだ名対決』!ルールは制限時間以内に相手にマッチしたあだ名を交互に言っていき、終了後の投票で一番多く票を取ったあだ名を決めた方の勝ちとなっています!』

 

あだ名対決…なんだろう、もうこの時点で大分酷いことになる予感がプンプンするんだが…

 

【選べ ①「あだ名対決…嫌な予感がぶるんぶるんしますね」 ②「あだ名対決…嫌な予感がツルペタストンとしますね」】

 

予感がぶるんぶるんするってなんだよ!?

 

でもツルペタストンなんて言ったら雪平に何されるかわからんし、こっちを選ぶしかないか…

それにまぁ、マイクの電源さえ切っておけば聞かれることは無いだろうし。

 

『あだ名対決…嫌な予感がぶるんぶるんしますね……ってなんでマイク入ってんの!?』

『なるほど、特に『パイオツスレイヤー』こと雪平選手が大暴れしそうですしね』

 

お、実況の人が良い部分だけ拾ってくれたな。

 

ぶるんぶるんのくだりで雪平が一瞬こっちを睨んできたけど……アイツ、大きいおっぱいへの恨みがすごいからな。

まるで親か親友を殺されたみてぇだ。

 

【選べ ①「まぁ、俺の股間の暴れん坊将軍よりは大人しいでしょうけど」と笑う ②取り合えず両チームの少女たち相手に股間を暴れさせる】

 

これもう選択肢式にする必要なくね?

一択じゃね?

 

『ええ、そうですねー…まぁ、俺の股間の暴れん坊将軍よりは大人しいでしょうけど』

『……え、えー…では、早速始めてくださーい!』

 

無視かいっ!

ここはなんか笑い話にして冗談みたいに流させてくれやいっ!

 

…でも変に広げられたら選択肢が以下略。

ここは下手に何も言わずに黙っておくのが吉。

 

【選べ ①黙らない。卑猥なことを叫ぶ ②黙らない。麗華堂の秘密を叫ぶ】

 

「おチン●ォ!!」

『…あの、天久佐選手。まだ出番は後ですので、落ち着いて』

『……本当、さっきからごめんなさいね』

 

一瞬くらい麗華堂のシリコンの話をしてやろうかと思ったが、良心には勝てなかった。

 

実況の人と観客の人…というかこの会場の全員に謝罪し、今度こそ黙り込む。

麗華堂と雪平の対決…まぁオチは見えているが、しっかりと見届けてやろう。

 

『…あだ名、ね。なら私から行かせてもらうわ。《意外と硬そう》』

『な、なんの話をしてるのよっ!』

『あなたのパイオツの話だけど?』

『か、硬くなんて無いわよ!』

『じゃあ《ダルンダルン》』

『ダルンダルンでも無いわよ!ちゃんとハリはある……っていうか交互ってルールなのにどうして連続で言ってるのよ!?』

『違うわ。勝負はすでに拷問に変わっている…この場では、あなたにターン等無いわ』

『なっ!?』

『ずっとずっと私のターン!ドロー!』

 

雪平が絶好調すぎる。

どこら辺が拷問なのかとか、なんで虚空から虚無を抜き取るような動作をしたのかとかツッコミどころが多いが…情報量多いし、一々反応するのは一旦やめておこう。

 

『《ホルスタイン》』

『誰が乳牛よ!?』

『《ファットマン》』

『爆弾でも無いわよ!』

『《ボンバーガール(物理)》』

『だ、だから爆弾じゃ』

『《重力に完全敗北》』

『ま、負けないわよっ!』

『…あら、矮小な人間風情が老化という自然現象に抗おうなんて、愚かしいわね。「重力なんかに絶対負けない」?ならその発言に対して《即落ち二コマの擬人化》というあだ名を贈るわ』

『即――ッ!?だ、だれがよ!』

『もちろんあなたよ、《オークのオ●ホール》…いえ、《ゴブリンの●み袋》かしら?まぁどちらにせよ《姫騎士》に変わりは無いのだけど』

『そ、そんなの…卑猥よっ!』

『卑猥?どこが卑猥だったのかしら?しっかり言わないと私はわからないわ』

『お…オナ●ールとか…は、孕●袋とか…』

『真昼間から、こんな公衆の面前でよくそんなことが言えるわね。《痴女》の名をプレゼントするわ』

『なぁっ!?あなたが言えって言ったんでしょ!?』

『嘘つきはヤリ●ンの始まりよ。そんな証拠も無しに私の風評を悪くしないでもらえるかしら』

 

…す、すげぇ。まさしくずっと雪平のターンだ。

こりゃもう、勝者は決まったな。

 

あまりに下ネタが飛び交ってるせいで、観客席が凍り付いてるけども。

 

―――しかし、ここで一気に流れが変わる。

 

『《シリコン入ってる》』

『シリコ…ッ!?は、ははは、入ってないわよ!?入ってないに、決まってるじゃない!!』

 

雪平が、ついにシリコンに触れた。

 

けど雪平はその事知らないはずじゃ…偶々か?

 

『その反応…怪しいわね。まさか本当にシリコンなんじゃ…』

『んなっ、そんな訳ないでしょ!?シリコン云々なんて言われたらこんな反応が普通よ普通!』

『私としては「●ンテル入ってる、みたいに言ってるんじゃないわよ!」って反応を求めていたんだけど…』

『そ、そんなコアな反応求められても…』

『いいえ、全然コアじゃないわ。確かにオークやらゴブリンやらを聞いて姫騎士や快楽堕ちを連想するのはコアな方だと言えるけど、「イン●ル入ってる?」は「うーん、マ●ダム」くらいポピュラー…もはや一般常識よ』

『ど、どっちも知らないわよ…?』

 

多分麗華堂はマジで知らないんだろうな。

 

…ていうか観客席の方でも「うーん、マンダ●って何?」とか言われてるし。

もうそのネタ通じる人大分いないだろ…俺はたまに使うけども。

 

それと雪平。オークとゴブリンの方も一般教養だと思うぞ。

 

『とにかく、これはパイオツ改めが必要ね』

『な、なによそれ…』

 

なんだよパイオツ改めって。

そんな御用改めみたいに言って……まぁ大体の意味は分かるけどさ?

 

けどまずくないか?このままじゃ全校生徒にあの爆乳の秘密が明かされてしまうことに…

 

【選べ ①庇ってやろう。具体的には自分が麗華堂のパイオツを揉みしだき有耶無耶にする ②庇ってやりたいが不可能だ。ここは鼻の下を伸ばして見つめよう】

 

すまん麗華堂。

俺に揉まれるよりも雪平に揉まれる方がまだマシだろ。

 

シリコン云々はまぁ……バレても、俺くらいは友達でいてやるからな。迷惑かもだけど。

 

『ほらほら、ここがええのか?ここがええのか?』

『ちょっ、やめっ…あんっ!そ、そんなとこ…!』

 

男子たちが固唾を飲む。

そりゃあの爆乳が偽乳だとしたら、それはもうかなりの衝撃だろうからな。

 

女子たちは、どこか期待した目で見る。

そりゃあの爆乳が偽乳だとしたら、今まで敵わないと思っていた相手が消える訳だからな。

 

俺はもちろん鼻の下を伸ばしている。

そりゃああの爆乳云々が関係ないにしても、選択肢に指示されてるからな。

 

あっ、ちょっとゆらぎさん。そんなに足を踏みつけないでください。

俺にはご褒美にしか―――いやならねーから。ご褒美とかないから。

 

【選べ ①「ッしゃぁ!!ゆらぎに足踏んでもらえたぁ!ンギモヂィイイイイ!」 ②「ゆらぎタソの足踏みィイイン!射精の百倍ンギモヂィイイイイ!」】 

 

はい、これは多分俺のせいですね。

 

でもだからってやり過ぎたと思うんだよな。

そもそもご褒美だとも思ってないからね?

 

『…このパイオツの真実、今に晒してあげるわ。ずばり、あなたのパイオツは―――』

『ッしゃぁ!』

『…ぇ?』

 

右手を掲げ、今にも麗華堂の秘密を明かさんとしていた雪平を、叫んで止める。

 

…お、タイミング的に、俺の変態発言で有耶無耶にできるのでは?

 

―――それと麗華堂さん、あんたも結構可愛い声出すんですね。

 

『…ゆ、ゆらぎに足踏んでもらえたぁ!ンギモヂィイイイイ!』

 

会場、完全に沈黙しています!

勿論雪平も麗華堂も呆然としています!

 

…あ、ゆらぎが何とも言えない顔してる。

なんでだ?俺がM発言するのは受け入れられないのか?

 

まぁどうせ『俺が麗華堂を庇うために自分をダシにした』と思ってるんだろうけどさ。

実際そうだし。

 

『…天久佐君。あなたがドMなのは周知の事実だけど、だからって今叫ぶ必要は無かったと思うわ』

『だ、誰がドMだ!?ただ叫んだだけだぞ俺は!』

『……まぁいいわ。麗華堂さん。あなたのパイオツは…』

 

くっ、ダメか…!

あんな事を叫んでもダメだという事は、現在俺に(観客たちが訝しまないように)誤魔化してやることは不可能だという事……

 

麗華堂…ま、まぁ。表ランキングから消えるだけだろうし、そんなに深刻に受け止めるなよな。

 

『…残念ながら本物ね』

 

―――ん?本物だと?

 

おかしいな、雪平が言っているパイオツ改めというものはよくわからないが、シリコン入りかどうかは揉めばわかってしまうだろう。

なのになぜ本物と…?まさか、庇ったのか?

 

『…まぁ、素晴らしい揉み心地だったわね』

『なっ、なっ……こ、この《乳揉み変態おんなぁああああああああ》!!』

 

顔を真っ赤にした麗華堂が叫ぶと同時、終了のブザーが鳴り響いた。

 

…すっかり忘れていたが、まだ勝負の途中だったっけか。

 

『終了です!では早速、今まで出てきたあだ名をリストアップしていきますので、一番いいなと思ったものに投票をお願いします!』

 

スクリーンに、『①意外と硬そう』、『②ダルンダルン』という風に、順番に先程でたあだ名が羅列されていく。

しかしまぁ、恐らく今回は麗華堂が勝ちだろう。

 

確かに雪平の言っている物も悪くは無かったんだろうが…最後の『乳揉み変態女』の破壊力が強すぎた。

見ればほら、結果はすべてに大きく差をつけて『乳揉み変態女』の勝ちだった。

 

―――うん、すごかったな色々と。

 

『勝者!麗華堂選手!―――では、両選手は所定の位置に戻って…』

『『ちょっといいかしら』』

『…は、はぁ。なんでしょうか?』

 

おかしいな、勝敗はもう決まったはずなんだが。

 

雪平だけならまだしも、麗華堂も異議を唱えるなんて…しかもタイミングばっちりだし。

やっぱりアイツ等本当は仲良しなんじゃねぇの?

 

『…私は大勢の前で胸を揉まれた』

『そして私は大勢の前で敗北した』

『…そう、ですね?』

『私たちは、こうして互いに恥ずかしい目に遭っている…』

『そうよね?』

『は、はぁ…まぁ…?』

『けど、私たちと同じくらい目立っていて尚、被害という被害を受けていない男がいると思うのだけど』

『ヒントを言うなら、「て」から始まって「さ」で終わる天久佐君よ』

 

雪平さん、しっかり天久佐って言っているじゃないっすか。

 

ていうか二人は誤解していると思う。

俺だって、大勢の前で『ゆらぎに足踏んでもらったぁ!』なんて叫んで恥ずかしくないわけじゃない。

まさかとは思うが、人前で恥ずかしい事をすることに喜びを覚えているのと勘違いされてるのではなかろうな。

 

『まさか』

『ええ、そのまさかよ』

『天久佐君にも、しっかり恥辱を味わってもらうわ』

『なんでだよ!?』

『理由はさっき言った通りだけど?さぁ、そんな貧相な顔をしていないでさっさとこっちに来なさい?』

 

ぐっ…ひょ、表情は結構いつも通りだと思うんですけど!?

 

しかし俺は大人なのでぐっと堪え、諦めと共にステージ上へ出た。

…まじで何されるんだよ、俺…

 

『し、しかし…恥辱と言っても、何をするんでしょうか?』

『パネル、カモン』

『あっ、了解しました……天久佐選手、適当に選んじゃってください』

『えっいいんですかそれで!?』

『まぁ時間はありますし…この二人相手に静止しても聞かなさそうだし

 

本音出ちゃってるじゃないですかやだー…

 

けどまぁ、わからないわけではない。

麗華堂は女王様気質で自分至上主義的考え方をしていそう(偏見)だし、雪平はもう…普段から中々傍若無人というかマイペースだからな。

 

『…パネル、ですか…じゃあ』

 

【選べ ①「シリコンの4で」 ②「僕の息子のサイズ的な意味で、15で」】

 

どっちもアウトだわ!バカ!

 

①だと麗華堂が、②だと俺が被害を被るんだわ!

ていうか②!俺は四捨五入したら16だからな!小さい方で言わせんじゃ―――痛ぁ!?

 

『ぐ……ぼ、僕の息子のサイズ的な意味で、15で…』

「ほう…」

「15か…」

「受けも攻めもイケる♂」

 

き、聞こえてくる声が全員男子っ!?

舌なめずりまで聞こえてくるんだけど!?

 

『15…』

『いや雪平までそんなボケ始めようとしなくていいから!収集つかなくなるから!』

『……違うわ天久佐君。私だってふざけていい時とダメな時くらいわかるわよ』

『そ、そうか…』

『どうやって慰めてあげればいいかって思っただけよ』

『よ、横幅あるから思ってるより小さくないからな!?そんな…慰められる程じゃねぇからな!?』

「はぇ~…」

「横幅…あるんすね~」

「私、気になります!」

 

だから興味津々な反応を見せないでくれよ男子たちぃ!

男からそんな目で見られても、俺はノーサンキューなんだけどぉ!?

 

…で、雪平は雪平で何で固まってんだよ。俺が下で返すのは予想外だったのかよ。

それとも何か!?俺が予想よりも小さくて且つ反応がマジだったことにドン引きしてんのかァン!?

 

『……で、対決の方法は?』

『えー…隠し芸対決です!』

『隠し芸?』

『はい。言葉の通り、自分の持つ一芸を披露し、一番評価が高かった人が勝利する、というものです』

 

思ったよりいい感じの勝負だな。悪くない。

さて、ここで披露するのは何がいいか…手品かグラスハープ、なんならサクランボの茎を口の中で結んだり、即席のリリックで全校生徒を驚かせてやるのもいいだろう。

 

【選べ ①手品を披露 ②利き乳輪を披露】

 

ま、まだ利き乳輪ネタ生きてたのか…

だがまぁ、①が普通に手品を勧めてきている以上、そんな明らかに卑猥な事はしない。

 

全校生徒の前だしな。

 

『ふふ、隠し芸というわけではないけれど…ピアノは昔からやってて得意なの。この勝負、私の勝ちね』

『随分と自信満々そうだけど、ピアノなんてどこにもないぞ?』

『スタッフが用意してくれるでしょう?』

『あ、ならちょっと待ってくださいね。今実行委員の人に持ってきてもらうので』

 

ほほう。麗華堂はピアノか。

何を演奏するのかはわからないが、楽器をやるんだったら俺もグラスハープをやれればよかったな。

 

まぁ選択肢が手品をご所望らしいし(利き乳輪?知らない子ですね)今回はそっちに…って、うん?

 

【選び直せ ①グラスハープ ②口の中で乳輪を結ぶ】

 

……ちょっと待って?

口の中で…何結ぶって?乳輪?えっ、乳輪を結ぶって何!?

もはや怖えよ!?

 

そもそも乳輪関係の特技なんて俺は持ってねぇからな!

①一択だコノヤロー!

 

『なら私は篳篥をお願いしようかしら』

『ひ、ひちりき?何よそれ』

『あら、ご存じないのかしら?音楽の授業で一度は名前を聞くと思うのだけど』

『えっ?―――あ、も、もちろん知ってたわよ、ええ』

『じゃあ、どんな曲を演奏する時に使うのかは知ってるの?』

『そ、そりゃあ……』

 

麗華堂…お前、マジか。

篳篥って言ったら、雅楽とか近代寄りの神楽を演奏する時には欠かせない…笛みたいなやつだろ。

確か竹で作られてるんだっけ?

 

【選べ ①「ヘヴィメタの時だろ」と助け舟を出してやる ②「エロゲのBGMでよく流れてるだろ」と助け船を出してやる】

 

どっちも違うだろ。

 

普通に考えろよ。

お前嫌だろ?聖●魔Ⅱの構成員に篳篥担当がいるの。

お前嫌だろ?セッ●ス中ずっと雅な音楽流れてるの。

 

俺はどっちも嫌だぞ。

…ああ痛い痛い痛い!わかったって、ちゃんと言うって!

 

『麗華堂。ヘヴィメタ、ヘヴィメタ』

『ヘビ、メタ?……そ、そうよ!ヘビメタよ!』

『ぷっ……い、いえ。雅楽とか、日本の古くから伝わる音楽を演奏する時に使われる楽器よ…ふふっ』

『なっ――』

 

雪平、笑ってやるなよ。

半分くらいは俺も悪いんだからさ。

そりゃまぁ知識がないからってヘヴィメタで使われていると勘違いする方も中々だけど。

 

あぁ、会場の人たちまで笑いを堪え切れてない人がちらほらと。

やめたげろよ。麗華堂さん顔真っ赤だぞ。

 

『あ、あなたねぇ!!』

『いやごめんって!けど知らなかった方も知らなかった方だと思うな俺は!』

 

実際、クイズ番組で『小学生でも解ける』って文言と一緒に出題されててもおかしくないし。

…麗華堂、まさか頭悪いんじゃ…

 

【選べ ①「そのデカパイに、脳の栄養も取られてんのか?」 ②「シリコン入れたら頭スカスカになんのか?」】

 

い、言いたくねぇー…

ここはまぁ、雪平がノッてくれる事に期待しよう。

 

『そのデカパイに、脳の栄養も取られてんのか?』

『は、はぁっ!?だ、誰が馬鹿よ!』

『いや篳篥でヘヴィメタ答えるのはバカだろ…』

『……ええ、そうね。それだけ育てるには、知能をいくらか犠牲にする必要がありそうだもの』

 

なるほど。だから雪平はボキャブラリーがすごいんだな。

…嘘です、冗談です。だからそんな『今なんか変な事考えたろ』みたいな目を向けるのはやめてください。

 

『わ、私はそんなに頭が悪いわけじゃ』

『でも成績優秀者のところには居なかったぞ?』

『そりゃ毎回下から数えた方が早いから…って何言わせんのよ!』

 

麗華堂さん。それ自爆って言うんですよ自爆。

 

『ピアノの用意ができたので、麗華堂選手お願いします。―――えーっと、雪平選手は篳篥ですか?』

『…普通にヴァイオリンをお願い』

『ヴァイオリンですね。――では、天久佐選手は』

『俺はグラスハープで』

『はい、グラスハープですね…えっ?グラスハープ?』

 

ピアノ、ヴァイオリンと来て、いきなりグラスハープなんて…そりゃ聞き返したくもなりますよね。

…そうだ、演奏前にちゃんと手の油とか落としておかないと…音が鳴らなくなっちまうんだよな。

俺の出番の時になったら、まず手を洗いに行かせてもらおう。

 

持ってこられたピアノの前に座り、ペダルの調子を確認する麗華堂。

その時点で大分様になっているが、果たして演奏の内容はどうか。

 

『ラ・カンパネラを演奏させてもらうわ』

 

おぉ、確かリストの曲だっけか。

アレってかなり難しいって聞くが、大丈夫なのか?

 

【選べ ①「モーツァルト?(無知)」 ②「カンタレラ?(難聴)」】

 

リストの曲って言ったじゃん。

で、カンタレラは毒薬じゃん。もはやクラシックですらないじゃん。

 

『カンタレラ?(難聴)』

『ラ・カンパネラよ。まぁ貧相なあなたの事だし、知らなくて当然だと思うけど』

『なんだよ、篳篥=ヘヴィメタとか言っておいて』

『そ、そそのかしたのはあなたでしょう!?』

『はいはい……それと、ラ・カンパネラくらいは知ってるからな俺だって』

 

あ、まーた顔真っ赤にしてら。

そりゃまぁ俺が煽るような真似したせいなんだけどさ。

 

―――っと、演奏始まったな。

…ふむ。まぁ悪くないんじゃないか?所々危なっかしいところはあるけど、ちゃんと演奏はできてる。

強弱だってはっきりしてるし、こうして人前でやれるくらいにはいい出来だと思うな俺は。

 

どこ目線だ、って言いたいだろうが、俺は結構ピアノ演奏を聞いたりしているからな。

上手い下手くらいはわかるんだ。

 

『……どうだったかしら?』

 

額の汗を拭いつつ、満足そうな顔で感想を求めてくる麗華堂。

それに対し、雪平は、若干認めたくなさそうに答えた。

 

『…すごかったわ。中々やるじゃない』

 

悔しそうだなぁ…確かにすごかったからなぁ。

 

けどまだ雪平は演奏してない訳だし、負けが決まった訳ではないだろう。

見ればほら、ヴァイオリンの準備も済んでいるようだし、今度は雪平のターンじゃないか。

 

『因みに麗華堂。俺もさっきの演奏はすごいと思ったぞ』

『ええ。当然よ!』

 

にしては頬が緩んでいるようですがそれは?

…麗華堂も、俺と同じく褒められるとすぐに調子に乗るタイプなんだろうか。

 

会場の人達の拍手も、未だに止んでいない…あ、止まったな。

まぁ雪平がヴァイオリン持って前に出たからなんだけども。

 

…さて、かなりハードルは上がっているが…どうだ?

 

『不肖雪平ふらの。情熱大陸…演奏させてもらうわ』

 

情熱大陸か。

普段無表情のコイツが…と思うと少し面白いな。

 

なんというか、情熱大陸というよりも平熱大陸というか……はい、つまらなかったですね。

 

…だが演奏はすごいな。

ピアノと同じでよく聞いているからこそわかるが、上手い方なのではなかろうか。

なんだろう、引き込まれる…って感じ?

 

『…結構上手くいったと思うけれど』

『あぁ、すごかったな。なんつーかこう…あー!語彙が少ない自分が恨めしい!…って感じ』

『ええ。素晴らしい演奏だったわ。―――これじゃ、あなたは中々大変じゃないの?』

『…確かにハードル高いな…お前ら二人の後とか、正直キツイんだが…』

 

ピアノ、ヴァイオリンと有名な楽器で、尚且つ有名な曲だったが、俺の場合はグラスハープ。

知名度なんてあってないようなものである。

 

まぁ名前の通りグラスの淵をなぞってハープのように音を出して演奏する事なのだが…こう、響きとかがよくってな。

それ以来練習とかを頑張って、まぁ人前に出しても恥ずかしくないレベルには仕上がっているが…

 

何を演奏しようか。

やっぱり有名な曲がいいだろうが…なんだろう。グラスハープと言えばこれ、みたいな曲ってそうそう見つからないよな…

まぁ音の響きとか余韻を楽しむ楽器だし、落ち着いた曲がいいよな。

 

【選べ ①あのアニメのオープニング、『S・●・L☆』にしよう ②あのアニメのエンディング、『●陽と●のCROSS』にしよう】

 

落ち着いた曲が良いって言ったろ!―――ってかなんのアニメだよ知らねぇよ!?

 

…ん?なんで知らないはずなのに『落ち着いた曲じゃない』ってわかってるんだ?

いや、なんとなく歌詞や曲調が脳裏に…?なんで?

伏字があるのにわかる時点で中々記憶に焼き付いてるやつだと思うんだけど…おかしーな。

 

ま、大人しく①にしよう。

 

『…えー…知らない人が殆どでしょうが、まぁ聞いてください。アフィ●ア・サーガの、『●・M・L☆』』

 

 

 

 

 

 

さて、結果を話そう。

大成功だった。

 

明らかに知っている人がいないだろう曲だったのに、なんとか演奏技術だけでカバーできた。

いやー、常の練習ってわけだね。これ大事。

雪平も麗華堂も、純粋に称賛してくれてるし。

 

…まぁ強いて言うなら、やっぱアニソンだからかな?好き好みが分かれてるって感じはあるな。

観客席の方でも、大きく拍手してくれている人と、礼儀的な意味で拍手しているだけの人で二分化されてるし。

 

やっぱり大衆受けするクラシックか、有名な曲の方がよかったのでは…とは思う。

 

『…いやぁ、全員素晴らしい演奏でした!では早速投票に移りましょう!』

 

実況の人の言葉に呼応するように、スクリーンに麗華堂と雪平、そして俺の顔写真(証明写真のような感じ)が横並びに表示され、その下にゲージのようなものが現れた。

恐らく、このゲージが投票数を示すのだろう。

 

……お、集計終わったみたいだな。

さて、結果は…

 

『はい、出ました!結果は御覧の通り、雪平選手の情熱大陸の勝利です!』

 

会場が拍手に包まれる。

勿論、俺も麗華堂も惜しみない称賛を贈る。

 

…ま、アニソンで一位は取れなかったか。

けど結構接戦だったな。

俺と麗華堂なんて票数同じだし、雪平だって圧勝ってわけじゃない。

 

うーん、選曲さえクラシックだったら、もう少し結果は違ったのだろうか。

…ま、あの曲もいい曲だったし、個人的には大満足かな。

 

―――けど、元々俺が前に出されたのって『俺だけ恥ずかしい目に遭ってないからここで恥を晒させる』という理由じゃなかったか?

別に恥ずかしい目になんて……あ。息子のサイズを(選択肢によって)公開することになったな。

それは流石に恥ずかしいかった…というか屈辱的だったな。

 

『…いい勝負だったわ。二人ともありがとう』

『ええ。最初こそアレだったけど、今は満足よ』

『あぁ。本当にいい勝負だったな』

 

【選べ ①「それはそうとお前ら、おっぱい揉ませてくれない?」 ②「それはそうとお前ら、お尻揉ませてくれない?」】

 

……オチ、つけなくてよくない?




その後の話 【雪平ふらの】

「…15センチ…大体この定規一本分……は、入るのかな……そ、それに横幅が大きいって言ってたし―――いやまだそういう関係でもないのに何考えちゃってるの私!?」


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①過去完了形ハーレム男 ②無自覚鈍感系ハーレム男

そのパンツは桃色だった、というお話。


もはやそういう才能があるのではないでしょうか?会場を静かにする才能。

 

…という皮肉を実況の人から受けた後、俺はゴミを見る視線に突き刺されながら自分の席に戻った。

今度は副将戦。本来なら吉原と夢島先輩が戦うことになっているのだが…

 

最初のメンバー紹介の時に言われていたように、夢島先輩は病欠している。

よってこの勝負は、俺たちお断り5チームの不戦敗となってしまうのだが…

それでは流石に味気なさすぎる、と現在観客席の全員が実況の人に猛抗議しているのだ。

 

でもそれの決定権限あるのって実況の人じゃなくて実行委員の人達なのでは?

 

『…皆さんの気持ちもわかりますが…お断り5チームの不戦敗で3対1、これで表ランキングの勝利が決定してしまうんですって』

『あの、一ついいでしょうか?』

『は、はぁ…なんでしょうか』

『どうしても対決したい人がいるのですが…その人との対決結果を、副将戦の結果にしてもらえませんか?』

『……えーっと…もしかしてその相手って…』

『はい。天久佐先輩です』

「ま、まじか…」

「天久佐のやつ、滅茶苦茶呼ばれるじゃん」

「でもあの全校放送の因縁って考えたら…」

「なるほど、女の取り合いか…」

「二枚目対三枚目…!」

「いいぞいいぞー!」

「見たーい!」

 

吉原…お前、まだあの件引きずってたのか。

俺が突然「連絡先交換しようぜいぇいいぇい」って言っても平然と交換してくれたのに、その裏ではいつ俺の寝首を掻こうかと黒い考えを抱いていたのか。

 

…まぁただ好きになった子に告白したら関係ない奴にキレられたなんら、引きずるよな…

 

『……はい、確認取れました!「全然オッケー、寧ろもっとやれ!」だそうです!』

 

ノリノリだな実行委員!?

イケメンに大勢の前で敗北させられるとか恥ずかしいんだけど!?

 

…いや、始まる前からネガティブじゃダメだ。

何事も全力で、勝つ気で挑まねば無礼だろう。

 

『というわけで天久佐選手、前へどうぞ!』

 

【選べ ①王者の風格と共に登壇。第一声は「叩き潰す」 ②敗者の風格と共に登壇。第一声は「ま、まいりましたぁ~ん」】

 

…いい事教えてやるよ絶対選択肢。

俺にだってなぁ…プライドはあるんだよぉ!

 

『―――叩き潰す』

『す、すごい威圧感です!まさしく『王位の復権』!』

 

それデ●デ大王の二つ名だからね?●安の殿堂だからね?

…あ、ド●ペンは似てるだけか。

 

『…では天久佐選手。再びパネルをお選びください!』

『なら今度は…』

 

【まぁまぁ、ここは私に任せときなって】

 

任せたくねぇんだよ!

また下ネタなんだろ!?

 

【①「6÷2(1+2)で」と知識人アピール ②「1+1は2じゃない。3にも4にもなれる!」と熱血主人公アピール】

 

①計算方法によって答え違う奴だろ!ってか一時期話題になってたんだから、知識人も何も関係ないわ!

で、②は②で全然関係ないだろ!結局何番のパネルがいいんだよ!?

 

『…ろ、6÷2(1+2)で』

『えーっと…1?』

『俺のやり方だと9です』

『9ですか……いや、9番はもう使われてるんですけど』

『そうだぞー。あたしが縊り殺しの9って最初に言ったじゃねぇか』

 

…あ、そうだった。

なんかもう、対決の内容が濃すぎて全然覚えてなかった。

しっかりパネルの9番のところも色あせて『もう使えません』って雰囲気出してるのに、なんでそのまんま9って言ったんだろ。

 

『では1番でもよろしいでしょうか?』

『あー…いや、だったら12番で』

『平常時のサイズですか?』

『え?』

『え?』

 

実況の人まで下ネタ使い始めたら収集つかなくなるだろ…

それにほら、そんなこと言ったら選択肢がまた悪ノリ――――

 

【選べ ①「もっと小さいですよ。親指一本分」と倍率を自慢する ②「ええ。でっかいでしょう?」と通常時の大きさを自慢する】

 

…悪ノリするんだって。こういう風に。

①だとその後の意味を察してもらえなかったら『小っさ』って感想だけで終わると思うんだけど。

 

…けど実際①の方が正しいんだよな…あれ?そう考えたら俺って●起時は二倍近く大きくなってるんじゃねぇの?

 

『…も、もっと小さいですよ。親指一本分』

『あっ……なんか、ごめんなさい』

『謝らないでもらえます!?なんか惨めなんですけど!?』

『気にすることは無いわ天久佐君。相手には「これが普通だから!」って言えばなんとか』

『わざわざマイクオンにしてまで話に入ってこなくていいから!』

『…ごめんなさい。そんな相手いないわよね』

『よ、余計なお世話―――』

 

【選べ】

 

…今度はなんですかね。

 

【①「さぁ、どうかな?」と強がる ②「は、はん!俺には性欲処理ペット、ショコラが居るんだい!」と見栄を張る】

 

悩む余地はないな。

 

『さぁ、どうかな?』

『…虚勢を張るのは結構だけど、余計惨めなだけよ』

『う、うっせーほっとけ!』

『大丈夫だよお兄ちゃん!だってお兄ちゃんには私が』

『はいはい、ありがとありがと』

『全然感情籠ってないじゃん!』

『そうっすね』

 

ゆらぎのその手の発言に本気で関わっていたら体力が足りなくなるからな。

何度も言うが、アイツからすればこの世の男性は『自分の兄』であり『愛を向ける対象』なのだ。

そんな誰にでも無償の愛を向けるような輩相手に、俺の本気の想いは向けられん。

 

アイツが他の男をお兄ちゃんと呼ぶたびに、寝取られたかのように感じてしまうからな。

寝取られは嫌いなんだ……っと、少し話がズレてたな。

 

『ではなぜ12に?』

『そりゃあ』

 

【まぁまぁ、こういう時こそ選びましょうや】

 

どういう時だよ。

いっつも選ばさせられてる気がするんだけど…って痛い痛い!悪かったって!

 

【①「俺が今まで抱いた女の数だ」 ②「俺が今まで抱いた男の数だ」】

 

俺は童貞だよ!

悪かったな小学生までしか許されないはずなのに高校生まで未経験のままで!

 

『…お、俺が今まで抱いた女の数だ』

 

え?なんで男の方にしなかったのかって?

そりゃ、観客席見てみてくださいよ。ホモがたくさんいるでしょう?

しかもかなりアクティブな。

 

もしここで『男抱いた事あるぜ(大嘘)』なんて言ったら『やっぱりホモじゃないか!』ってなって、この場がハッテン場になってしまうかもしれない。

奴らにはそういうスゴ味がある。

 

…まぁ、女を抱いたなんて嘘をついたところで、ドン引きされることに変わりはないんですけどね。

 

『……ま、マジですか?』

 

【選べ ①「ど、童貞ちゃうわ!」 ②「マジかなぁ?」】

 

否定させて!?

頼むからしっかりとした否定をさせて!?

 

『ど、童貞ちゃうわ!』

『あ、その反応で大体わかったので大丈夫です』

 

大体わかったはわかってないの証拠ですよ。

それは破壊者か。

 

…けどまぁ、俺が女を抱いた事があるなんて誤解が広がることは無くなっただろうし、これで良かったんだよな。

いやぁ、このままじゃスクールカースト最底辺の男のくせにヤリチ●って誤解されちまう所だったな。

 

【選べ ①「体が火照ってきた事ですし、全裸になっていいですか?」 ②何も言わずに全裸になる】

 

……今度は俺が変態であるという誤解を広めたいらしいなお前。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『なんか、すまんな。無駄に時間とっちまって」

『いえいえ。先輩らしさじゃないですか』

 

卑猥な発言と奇行をひたすら繰り返すのが俺らしさなのか。

ちょっと泣いてきていいですか?

 

【選べ ①この場で大号泣 ②対抗戦終了後大号泣】

 

冗談だったんだけど。

なんでマジで泣かなきゃなんだよ……まぁ、この対抗戦が終わってからなら良いけどさ。

 

――で、肝心な対決方法だが…なんと、腕相撲だそうだ。

変則的なルールも何もない、ただ相手の手の甲を机に触れさせれば勝ちというだけのシンプルな対決。

選択肢さえふざけなければ、すぐにでも終わるだろう。

 

【選べ ①敢えて左手で挑む ②敢えて足で挑む】

 

そうそう、こうやってふざけなければー…っておい。

なんで腕相撲に足で挑まなきゃいけねぇんだよ。

 

けどまぁ、①はギリギリ許容範囲だ。

左でも勝負できない訳じゃない。

 

『あの、天久佐先輩』

『ん?なんだ?』

『…どうせなら右でやりませんか?いえ、左が得意だって言うんだったらそれでもいいんですが』

『右にしようぜ!やっぱ右だよな、右右!』

『は、はぁ…』

 

選択肢側も、左手で構えた事で許してくれたらしく頭痛は無い。

ちょっとハイテンション気味になってしまったが、やっぱり利き手で勝負できるのはうれしい。

 

もしこのまま左手で勝負して敗北したら、納得がいかないだろうし。

 

『…あの、宴先生。レフェリーをお願いしたいのですが』

『あ?めんどくせぇーな…ま、やってやるかー』

 

先生、マイクマイク。

 

やたら面倒くさそうにしながらこちらに歩み寄り、すでに硬く握り合っている俺と吉原の手を上から掴む。

気だるげにしつつも、ちゃんとやってくれるようだ。

 

『カウントはこっちで勝手にやっていいのか?』

『はい。ですが、両選手の準備ができているかは確認してもらっていいですか?』

『…だってよ。で?』

『僕はいつでも』

『俺も…』

 

【選べ】

 

…準備できてるんだけど。

いつ始められても全然構わないんだけど。

 

【①「もう少し、もう少し待ってくれませんか?」 ②「あと小一時間待ってもらっていいですか?」】

 

待たせすぎだろ!

なんでこの状態から後小一時間も待たせるんだよ!?

心の準備できてなさすぎだろ俺!

 

で①は具体的にはどれくらいだよ!?

 

【①「もう少し、後二、三分待ってくれませんか?」】

 

あら親切。

けどその親切さを、選択肢を提示しないという方法で見せて欲しいんだよな…

 

『…もう少し、後二、三分待ってくれませんか?』

『ダメだ。四十秒で腹括れ』

 

四十秒で支度しなって事ですか。

いやもういつ始めてもいいんだけどね?

 

『四十秒あるなら、一つ宣言していいでしょうか?』

『あ、はい。お好きにどうぞ?』

『―――僕は、この勝負に勝ったら…ショコラさんに告白します』

 

もうすでにしてると思うんだけど……いや、あれは俺に妨害されたのか。

 

というか別に、俺に勝ったらーとかしなくてもいいと思うんだけど?

それはショコラと吉原の問題であって、俺の関係する話ではないと思うんだけど?

 

あー、でもあんな謎のマジギレされたら、一応許可取るような事しておきたいよな。

どうせならこの対決での勝利を、許可という事にしようと。

…あれ?俺のせいじゃない?この状況。

 

『…あの犬っころにか?』

『い、犬っころ?』

『はい。ショコラさんに告白します』

 

大事な事なんだな。二回も言ってるし。

 

…けど、この会場に本人が居るわけだし、こうやってマイク越しに言ったらもうそれはすでに告白なのでは…?

 

『…時間だ、さっさと構え直せ』

 

【選べ ①「先生はジムバッジが足りないので、言う事聞きませんよ」 ②攻撃を開始する。具体的には手を握りつぶす】

 

う、うわぁ…どっちもどっちなんだけど…?

だってほら、先生相手に①みたいなふざけた事言ったら殴られるだろうし。

けど②なんて卑怯な真似、とてもじゃないがしたくない。

 

少なくとも、今の吉原のような…俺じゃ眩しすぎて直視できないような奴相手にそんな真似はしたくないな。

けどなぁー…先生に、ジムバッジ云々かぁ…

 

『せ、先生はジムバッジが足りないので言う事聞まぶげあ!?』

『ふざけてねーでさっさと構えろ。お前の準備できてない状態で始めさせんぞ』

 

言い切る前にビンタされた件。

けどまぁ、ふざけた俺が悪いか……不本意だけど。

 

…しっかり相手の目を見据えて、腕に力を入れて…よし、いつでもいけるな。

アイツが本気で挑んでくるなら、俺が手を抜くのはダメだろう。

他人の恋路を邪魔するような真似な気もするが、ここは本気で勝たせてもらおう!

 

『レディ……ファイッ!』

『はぁあああああッ!』

『おぉっ…!?』

 

先手を取ったのは…いや。先に傾けさせたのは、吉原の方だった。

 

その細腕からどうやってその力を、と面喰ったが、まぁ案外余裕はある。

まだ様子見程度なのか、それともこれが力量なのか。

 

―――取り合えず、押し返してみるか。

 

『なっ…!く、おぉおお!!』

 

言葉にならない呻き声をあげる吉原と、ひたすらに無言な俺。

俺の場合はまだ余裕があるから無言なのだが、吉原は…多分、これが全力なんだろう。

 

まぁ、元々選択肢のせいで隙があれば逆立ちやら腕立て伏せやらとやらさせられていた俺が、大して鍛えているわけでもない(そういう事をしなさそうだという偏見)吉原と大接戦を繰り広げたり、ましてや呆気なく敗北することも無いんだろうが。

 

―――さて。本気で勝ちを狙うと決めている以上、もう続ける理由はない。

吉原には悪いが、勝たせてもらおう。

俺も、この勝負に勝って且つ黒白院先輩にも勝って、先輩から好きだと言われた上で参加者の女子の胸を両手で揉むという使命―――というか義務があるんだ。

 

こうして言葉にすると圧倒的にこっちの理由の方が酷いが、これも全て名も知らぬ神が悪い。

俺は悪く…悪く、ない…はず。そんな天罰を受けるような事した覚えないし。

 

【選べ ①もう少し遊んでみる ②一気にパワーダウン。大接戦を繰り広げる】

 

今考えたことが天罰に値する内容だったのか。

 

…①は選ばない。本気のアイツに、こちらが遊ぶようなつもりで相手をするわけにはいかない。

 

けど、えぇ…②ぃ…?これで負けたらお前、どうしてくれんの?

本気を出せずに敗北したって事になるんだけど?

それじゃ俺も嫌だし、何より吉原に申し訳が立たない。

ってかもう後がないんだよお断り5チーム!負けたら黒白院先輩に好きって言ってもらえないんだけど!?

 

つまり絶対選択肢が永久不滅になるって事なんだけど!?

 

―――ッ、催促が…!

 

仕方ない、パワーダウンを選ぶか…

大接戦とは書いているが、敗北するとまでは書いていないし…うん、これにしよう。

 

『ッ…!?』

 

瞬間、一気に右腕から力が抜けた。

徐々に、というわけではなく、ごっそりと持っていかれたかのような感覚だった。

 

…っと、そんなのに一々反応している場合じゃないか。

 

さっきまで押していたのが、このパワーダウンのせいで最初の均衡状態まで戻されてしまっている。

吉原も、突然力の抜けた俺に好機と感じたのだろう。

先程までよりも強い力で、俺をゆっくりと押している。

 

『ぐ、ぉおおおおおッ!』

『あああああッ!』

 

俺も声を出すようになり、次第に巻き返していく。

やはり声を出した方が力の入りがいい。

 

だが、現在の俺と吉原のパワーはほぼ互角。

後は、持久力での勝負だろう。

 

 

 

中心で拮抗しては、俺の方へ寄り。

再び拮抗したかと思えば、吉原の方へ寄り。

行ったり来たりを何度も繰り返させ、しばらく経った頃、ようやく吉原の力が弱くなってきた。

 

どうやら、先に体力を使い切るのはあちらのようだ。

ここでダメ押しに力を入れてしまってもいいが、それでは俺の体力が先に切れて逆転負けする可能性がある。

敢えてここは、そのままの力で…

 

【選べ ①脱力も大事。一気に力を抜く ②出し惜しみなどしない。後先考えずに全力で行く】

 

両極端なんだって!

俺、頭使って勝とうとしてたよね!?なんでそこで【自ら負けに行くような真似】か【馬鹿みたいな博打】の二択なの!?

 

…くっ、選択肢の妨害を頭に入れておかなかった俺の失態か。

だがどうする?

①が、ほんの一瞬脱力するだけですぐに許してもらえる物だと賭けるか?

それとも、②でこのまま押し切れる可能性に賭けるか?

 

……俺は…

 

『う、ぉおおおおおお!!』

『なぁッ…!?』

 

俺は、②に賭けた。

①があまりにも希望的観測すぎたというのが一番の理由だが、他にも『吉原の体力が、考えている最中にも目に見えて減っていたから』という理由もある。

 

予期せぬタイミングで、こうして全力を出せば…この状態なら、もしかしたらいけるかもしれない、と思ったのだ。

 

結果、俺は賭けに勝った。

 

吉原の手は若干の抵抗を感じさせつつもすんなりと倒れ、その手の甲を机へとくっつけたのだ。

 

『ゲームセッツッ!ウィナー、天久佐!!』

 

先生がやたらハイテンションで俺の手を取り、そのまま上に掲げさせる。

そこでようやく、『あぁ、勝ったのか』と完全に理解した。

 

言われるまで、どこか夢見心地だったのだ。

それくらいに力を出し切ったのか、はたまた別の理由か。

 

『…いやぁ、すごい戦いでしたね!』

 

実況の人(この人が実況しているのを、なんだかんだ聞いていない気がする)の言葉が、耳を通り抜けて反対の耳から出ていくように感じる。

 

何というか、それくらいに疲れたのだ。

いやぁ、こんな熱く腕相撲したのなんて、それこそ小学生以来じゃないか?

今日はもう、何もしたくないな…

 

『まいりましたよ、先輩』

『…吉原……いや、そんな大敗ってわけでもないだろ。運がよかっただけだ』

 

実際、あそこで吉原に踏ん張られてたら俺は呆気なく負けていただろう。

選択肢の指示にすぐに従わなかった事とか、そういう偶然が重なっての勝利だと思うな。

 

『…今回は、大人しくショコラさんは諦めます。ですが、次は…次は、絶対に勝ちます』

『―――なぁ、吉原』

 

【選べ ①「王者は逃げん。力をつけて、再び挑むといい」 ②「いや、勝ってもショコラ渡さねぇから」】

 

別にお前がショコラに告白しようが何しようが、俺にはあんまり関係ないぞーって言おうとしてたんだけども。

 

『王者は逃げん。力をつけて、再び挑むといい』

『―――はい!』

 

爽やかにいい返事をした吉原に、俺の良心がきゅっと痛む。

だが、彼がそれでいいと思っているなら今更否定するのもアレだろう。

俺は大人しく…

 

【選べ ①右手を突き上げて「そそり立つチン●の真似」 ②下半身を露出させ、実際に股間をそそり立たせる】

 

そうそう、大人しくチン●の真似ー…ってバカ。

今いい話風にしようと頑張ってたじゃん。

なんでそこで下ネタぶっ込んで来るかなぁ?

 

『……そそり立つチン●の真似』

 

会場の反応は、言うまでもなく。

 

絶対零度の眼差しと、数名の嘲笑であった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

さて。

休憩時間を数分もらってようやく落ち着いてきたが、まだ完全に復活したわけではない。

 

何とか二勝二敗まで持ってこれたは良いが、最後は俺対黒白院先輩。

勝たなければ俺は社会的死。勝てば現状維持である。

 

―――はは、なんでこんな人生インフェルノモードなんだろ。

 

っとと、嘆いていても仕方ない。

今は状況を正しく確認しよう。

 

まず、俺は先程の戦いで疲弊しきっている。

何とか普通に会話したりできるレベルには回復したが、それでもベストコンディションとは言えない。

 

しかし黒白院先輩は現状、体力を消耗していない。

つまり、万全の状態という事である。

 

さて、体力云々を加味しなくても、黒白院先輩という『三年生になっても生徒会長を任せられる程の超人気者』と全校生徒の前で戦うというのは、明らかにアウェーである。

俺にだって一応コアなファンがいるらしいが、奇行に走る基本ハイスペックとソレの上位互換(奇行なし)なら、後者を応援するものだろう。

 

そして黒白院先輩自身も、俺レベルのスペックの持ち主である。

つまり、戦うには万全の状態且つ、俺が有利になりうる可能性のある場所であるのが最低条件だと言う事だ。

 

―――だが、現在の俺は疲弊状態。その上周りはほぼ全員敵で、先輩は万全の状態―――

 

「あれ?無理ゲー?」

「お兄ちゃん。戦う前から負けた気でどうするの?」

「そうよ天久佐君。あなたなら大丈夫。――あんな素晴らしいチン●の真似が披露できるんだもの。きっといけるわ」

「それ関係ねぇだろ!?」

 

二人が励まして(?)くれるのがありがたい。

完全に敵だらけというわけではないと実感できるのが、これほどまでに救われるとは。

 

ステージ上で微小と共に俺を待っている黒白院先輩から感じる威圧感が、若干減った気がした。

 

【選べ ①今ならいける。パンツを見せてもらおう ②今ならいける。おっぱい揉ませてもらおう】

 

いけねぇよ。

何をどう判断していけると考えたんだよ。

 

…うん、微塵も変わらないね選択肢君。

催促の痛みだけしか感じな―――痛ッ!?突然強くするのやめてくれません!?

 

「…あの、黒白院先輩。おっぱい揉ませてもらっていいですか?」

『え~?そういう事は、人前でしていい事じゃないと思いますよ~?』

「…ど、どう言う事だ?」

「まさか天久佐、マイクの電源入れてないからってめっちゃエロい事要求したんじゃ…」

「変態…」

「黒白院会長に何を言ったんだー!」

 

う、視線が痛い…

 

け、けどまぁ。さっきまでのオチをつけるかのような変態発言の時から―――いや、いっそ全校集会の度に向けられている視線だ。

別段ダメージは…ばっちり入ってますね、はい。

 

『あら~?なんか、まだ疲れてるみたいですけど…もしあれでしたら、私も違う人と対決することにしましょうか~?』

「はい?」 

『いいですよね~?』

『えっ?…す、スタッフさ~ん?』

 

ちょ、ちょっと待ってくれ。

トントン拍子で話が進められているが、俺以外と…つまり、雪平かゆらぎと対決するって事なのか?

 

それは困る。いや、ゆらぎは最悪頼みこめばちゃんと真面目に勝ちを狙ってくれるだろうけど、雪平は明らかにふざけにふざけるだろう。

それじゃダメだ。こっちは(社会的な意味で)命が懸かっている。

だというのに『選手を交代させられて、挙句ふざけられて負けましたー』なんて事になったら…うぷっ、考えただけで吐き気が…

 

『ちょ、ちょっと待ってくださいよ黒白院先輩!』

『ダメで~す。待ちませ~ん。そんな疲れ切った状態で戦うなんて、アンフェアじゃないですか~』

 

アンフェア云々を気にするというのなら、そもそも先輩とこの場で戦うという時点でほぼ負け確だと思うんだが。

唯一勝てる可能性があるのは、マジで失うものがもうほとんどない俺だけだろう。

 

そんな俺も現在満身創痍なのだが、それは最悪気合で何とかなる…はず。

 

とにかく今は、勝たなきゃダメなんだ。

勝って好きと言われて、ついでに誰かのおっぱいを揉まなきゃいけないんだ。

 

『あ、許可出ました!では、対戦相手を指名してください』

『え、いやいや俺は全然戦え…』

 

【選べ ①ここは大人しく引き下がろう ②ここは雪平を推薦しよう】

 

くっそコイツ②で雪平を引き合いに出すことによって逃げ場をしっかり奪っていやがる。

 

もしかしたら雪平が勝つ可能性だってあるが、そんなの宝くじで連続で一等当てれるレベルの可能性だろう。

そんなほぼ無に近い可能性に賭けるくらいなら…ここは、先輩がもっとマシな人を指名する可能性に賭けよう。

 

そうだな、阿邊とかどうだ阿邊とか。

アイツなら先輩の魅力に引っかからない(というかホモだ)し、友情を優先してくれる奴だからな。

…ただ問題点があるとすれば、先輩が阿邊を知らないという事と、俺がどんな見返りを要求されるかわからないという事があるが。

 

『……いえ、なんでもないです』

『ふふふ、天久佐さんは、しっかり休んでいてくださいね~。―――では、私は…ショコラさんを指名しま~す』

『しょ、ショコラ?吉原選手も言っていましたが…そんな生徒いましたっけ…?』

『生徒じゃねーな…天久佐のペットだ』

『ペット…あの、小動物と対決というのは…』

『いや女だ。金髪のな』

『―――はい?』

 

ちょっと待ってください先生。

その言い方は誤解を招くんですよ。

 

ほら観客たちの目が段々鋭く…元からだったわ。

 

「およびでしょうかっ!」

『あーマジで来ちゃったよこの子…』

「え、誰あの子…」

「滅茶苦茶可愛いな…」

「ちょ、あれは惚れるわ…」

「ってか、前の全校放送に出てたよな?」

「けど、天久佐先輩の『ペット』って話だよな…」

「え、どういうこと…?」

 

観客席から、ショコラがステージへと上がって来た。

しっかりその両手には菓子が抱えられており、餌付けされていたというのが目に見える。

 

『えっ、めっちゃ可愛い子じゃないっすか。この子が…?』

「はいっ!金出さんの…」

『あ、天久佐さん、ショコラさんにマイクを渡してあげてくださ~い』

 

…い、嫌だ。渡したくねぇ。

だってお前、ショコラだぞ?

 

確かに可愛いとは思うし、いっつも癒してもらってる。

それには感謝しかねぇし、食いすぎるのも多少は目を瞑ってやっていいだろうとは思っている…

 

けどなコイツ…アホの子なんだよ。

言葉だって、なんかひらがな多めって感じだし。

 

そんなので、あの黒白院清羅に勝てるのか?と聞かれれば…うん、コンマ数秒で首を横に振るだろう。

スリランカとかギリシャとかなら、首を縦に振るだろう。

それくらいには勝率がない。全くない。

いや、大食い対決とかならワンチャンあるか…?

 

『おお、声がおおきく!』

「…マイクで喜んじゃってるよこの子…」

『あ、じゃあ自己紹介をしてもらっても?』

 

じ、実況の人!?頼むからコイツに喋らせないでもらえません!?

だってコイツ、いつぞやの『揉んだり絡みついたり…あとバナナ』の話みたいに、変な誤解を招くような言い方を―――

 

『金出さんのペット、ショコラです!』

「学業補助ペットな!?」

 

学業補助、と付け足しても犯罪臭しかしないが。

もし数年前の、もう少し下ネタを多用していた俺なら『学業って、保健体育だろ~?』とか言って茶化したんだろうが…なんと、現在の俺は当事者である。

 

皆さんの反応は…はい、予想通りのゴミを見る目ですね。

「ペットだって…」とか「信じられない…」とか色々言われてますね。

 

『あ、ペットといっても別にひどい事はされてませんよ?いっつもかわいがってもらってます!』

「か、かわいがってもらってる!?」

「ベッドの上でって事か天久佐ァ!」

「ふざけんな!」

「そんな純粋そうな子になんて酷い事を!」

 

観客席の反応に、慌てて俺を擁護するような発言をしたショコラ。

だが、それは火に油を注いだだけだった。

 

そりゃ可愛がってるとか、意味深にしか捉えられないよな。

 

『時々いじわるもされますけど、すっごくいい人なんですっ!』

「…調教されてる…」

 

今「調教されてる」って言ったやつ誰だよ。

そんなことしてねぇんだよ。

 

『い、意地悪というのは…例えば何を?』

「そこそんなに話広げなくていいんですけど」

『そうですね…おかずを一品へらされたり…もまれたりしてます!』

『揉ッ!?』

 

実況さん、そんな大きな反応する必要…うん、主語がないからそうなっても仕方ないな。

 

実際には朝どれだけ呼んでも起きない時に頬っぺた摘んでるだけで、やましい事は何一つしていない。

おかずを一品減らしたのだって、アイツが俺の取っておいた菓子類を全部食ったからだ。

食い過ぎはダメだろ、という事だな。

 

―――いっつもクラスメイト達からお菓子恵まれてるらしいけど。

 

【選べ ①取り合えずいつもやってるみたいに()()()()()揉んでみる ②否定せず、威風堂々と構える】

 

否定させてください。

だってほら、周りの視線、冷めきってる。(字余り)

 

…はぁ、仕方ないのか…

 

『ほ、他には何かされてるんでしょうか!?』

『ほか……からみつかれたり、パンツを――』

「だぁああああそれは違うんだって!!」

 

うぐっ、痛い。

『否定せず威風堂々と構える』が続いているのに、無理矢理止めに入ったからか。

 

しかしこれは止めなきゃまずかった。

だってお前、絡みつく云々はまだ誤解だと言えるが……パンツを見せるように強要したのは、マジで言い逃れできないからな。

 

事情を説明しても『あぁ、選択肢のせいか』ってなるわけでも無し。

こればっかりはどうしても止めなければならなかったのだ。

 

『大丈夫ですよ天久佐選手。もうこれ以上何も失う物は無いじゃないですか』

「失う物あるから!まだほんの一握りくらいは残ってるから!」

『あの、マイク無しでマイクありと同じくらいの声量出すのやめてもらっていいですか』

「あ、発声練習の賜物ですかね?一時声優を目指してたり…いやそれは今どうでもよく!」

 

【選べ ①自ら誤解を招くような言い方をする ②「あの時のショコラのパンツはピンク色だったな」と言う】

 

お前…俺の事、嫌いなのか?(青春風)




一方その頃 【遊王子謳歌】

「…あれ?遊王子さん?」
「戻ってたんだー。さっきね、天久佐君が吉原君と滅茶苦茶いい勝負してたんだよー!」
「そ、そうなんだー!」
「ていうかどこ行ってたのー?」
「そうそう、いきなり叫んで走り去ってっちゃってさー?何があったの?」
「え、えーっと…あ!もう二人とも前出てるよ!見よ見よっ!」
「あ、誤魔化した~!」


数分後


「そ、そりゃ俺だってよく揉んでますよショコラの事!」
「えっ」


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①公開 ②後悔

天久佐ファンクラブ会員は隠れキリシタンと同じ扱いですので、というお話。


『では黒白院選手、パネルの番号を』

『1番でお願いしま~す』

『1番ですね』

 

微笑みを絶やすことのない黒白院先輩が、今は(いやいつもだが)恐ろしくて仕方ない。

 

だって、俺が(社会的意味で)生きるか死ぬかがこの勝負で決まるのだ。

勝負のカギを握る存在である黒白院先輩の一挙手一投足にビクビクしないわけがない。

 

『えー…じゃんけんです!』

「え、じゃんけん?」

「さっき腕相撲ってあったんだし、別にあり得なくはないよな」

「けどなんか…」

「物足りない感、ありそうだよねー…」

 

観客の人たちの発言はもっともだが、実は結構安堵していたりする。

 

だってじゃんけんなら単純な運勝負。

そして、ショコラは結構ツイている人間である。

 

下手に知能とかを必要としない単純な勝負なら、まだショコラにも勝ち筋がある。

 

【選べ】

 

なんだよ、俺もう何もすることないだろ?

何故かお前のせいでステージ上に残されてるけど、ただ突っ立ってるだけで良いって言ってたじゃんか。

 

【①全校生徒の好感度が下がるような事が起こる代わり、ショコラが勝利する】

 

どんな事だよそれ!?

というか俺の好感度ってまだ下がる余地があるんですね。

 

日ごろの努力のおかげかな?

 

…で、②は?

 

【②全校生徒が爆上がりする代わり、ショコラが敗北する】

 

全校生徒()!?

全校生徒そのものが爆上がりってどういうことだよ!?

 

少なくともデメリットしかない②は選べない…最悪好感度が下がったところで、選択肢さえなくなれば回復は可能なはず。

なら、俺が選ぶべきは①。①だろう。

 

『では早速、じゃ~んけ~ん』

『ぽんっ!』

 

ショコラが出したのはグー。

それに対して黒白院先輩が出したのは…チョキ。ハサミだった。

 

つまり、ショコラの勝利だ。

 

『かちましたっ!』

 

【選べ ①全力で褒める。具体的には撫でまわす ②全力で褒める。具体的には舐めまわす』

 

②だとお仕置き…いや、もはや拷問だと思う。

 

「よーし偉いぞショコラ~!流石だ!」

『えへへ~!』

「よし、今日はご馳走だ!何食べたい?」

『おすしが食べたいです!』

「おうおう、回らない店に連れてってやるぜ!」

 

素早くショコラへ近づき、ひたすら撫でまわしながら褒める。

殆ど晩飯の話になったが、回らない寿司くらい今の俺にはなんて事無い。

 

俺を社会的死から救ってくれたショコラはまさしく命の恩人。金だっていくらでも出すぜ!

 

「えー、なんか呆気なーい」

「あいこがもっと続くならまだいいけど…」

「ちょっと早すぎるよねー」

「天久佐-!そんな元気があるなら会長と戦えー!」

「もう他のお断り5でもいいからもっと楽しませろー!」

 

観客たちからのブーイングが聞こえてくるが、そんな事全然関係ない。

つーか気にならない。

 

んっふっふっ、だって黒白院先輩は『ショコラとの対決の結果を適用させる』と言っていたのだ。

なら、これから誰とどんな勝負をする事になろうが問題無し!

多少の奇行に走らせられようが、俺は全然気にせんぞ!

 

【じゃあ ①マイクを返してもらった上で「乳首当てゲームならやります」 ②マイクを返してもらった上で「ポッキーゲームの皮を被ったディープキスならやります」】

 

多少じゃねぇだろこれは!

…けど、実際にやるわけじゃないだろうし…言うだけならドン引きされるだけで済むか…?

 

『…乳首当てゲームならやります』

『それはちょっと無理ですね~』

 

でしょうね。

そこでノリ気になられたらこっちが困ってましたよ。

 

…しかしまぁ、会場の皆さんが許してくれるというわけでもなく。

罵詈雑言、殺意の籠った目線の集中砲火が…っておい、まだやるのか。

 

【選べ ①「喚くなよ小娘ども。乳首摘むぞ?」 ②「あんまりうるさいと、こうだぞ?」と言って乳首を摘む(山田アッー!太郎か阿邊源四郎)】

 

乳首ネタ続けんなよ!?

そして山田アッー!太郎ってなんだよ!?発音できてないだろお前!

 

…因みに阿邊源四郎は、阿邊の本名である。

 

『…わ、喚くなよ小娘ども。乳首摘むぞ?』

「ひっ…!?」

「いやぁ!!」

「ち、乳首!?」

「気持ち悪い…」

「天久佐きゅんならあり寄りの無し」

 

うん、予想通りの引かれ具合ですねーってオイ待て最後誰だ!?

権藤大子さんみたいな脂っこい声が聞こえた気がするんだが!?

 

『…えーっと…天久佐選手との対決で勝ったとしても、お断り5チームの勝ちには変わりはないのですが…構いませんか?』

『はい~。私がやりたいだけですので~』

『じゃあ、天久佐選手。また番号を…』

 

実況の人が、この混沌とした空気の中でも気にせずに進行させる。

…ってやべぇ、また番号を選ばなきゃなのか!?

それはつまり選択肢がふざけるという事なのでは―――

 

【選べ ①「英語で言ったら●ックスみたいなんで6で」 ②「10で」】

 

ほらこうやってふざける……

 

うーん…なんだろう、これだけ見る分には②がまともそうに見えるが、理由を明言していないだけで本当はとんでもない意味が隠されているのでは?と思ってしまう。

ってか選択肢が提示してきてるもんなんだし、十中八九酷い理由が隠されているだろう。

 

…だからって、①みたいな小学生か中学生みたいなくだらない理由を言うのもなんか嫌だ。

それだったら、②を選んで理由を聞かれないという偶然に賭けた方がマシな気がする。

 

これは…②にしておくか。

 

『10で』

『10?それは一体どうしてでしょうか?』

 

やっぱり理由は聞かれるか…まぁ、ここでどんな理由が出てくるかはまだ決まっていない。

 

頼むっ、①よりもマシな内容でありますように!

 

【選ぶ余地はないぞ】

 

えっ…それって…

 

【つまり一択だ】

 

それ単なる命令じゃないっすかね!?

 

【「僕の好きな《トップバストとアンダーバストの差》ですよ。つまりAカップです」】

 

あああああ言いたくねぇえええええ!!

 

だってお前、俺何度も『胸の大きさなんてどうでもいい(キリッ)』なんて言ってた(言わされてた)んだぞ!?

それなのにお前いきなり『ちっぱいだいすき~(意訳)』なんて…もうなんていうか、お断りって感じじゃん!

 

そこ!『もうすでに』とか言わない!

 

―――しかしもはや選択の余地はない。よしんばあったとしてもこれより酷い物が提示されるだけ…

腹を括るしか、無いのか。

 

『ぼ…僕の好きな《トップバストとアンダーバストの差》ですよ!つまりAカップです!』

『えー、10番は…しりとりです!』

『頼むから反応してくれよ!』

 

無視はダメでしょ無視は。

そもそも理由聞いてきたのそっちなんだけど?

 

「天久佐…貧乳が良いのか」

「アイツの部屋、ロリゲーばっかり置いてあるからな」

「ん?おねショタの方が多くなかったっけ?」

「男の娘もイケるらしいよな…つまり俺でも…」

 

あ、アイツ等コラァ!

田中の奴前に俺の部屋でスマ●ラやった時、しっかりエロゲー探索してたのか!

佐藤もしっかり俺のショタがお姉さんに好き勝手されるゲーム見つけてるんじゃねぇ!

赤川は赤川でなんだその反応!ラブコメで主人公の好きな女のタイプ聞いた時のヒロインか!

 

そして阿邊はなんで俺が男の娘まではセーフって言った(言わされた)のを覚えてるんだよ!?

何よりお前は男の娘と比較するまでもなくガチムチだからアウトなんだよ!

……そもそも男の娘だろうと同性はNGだからな俺は!!

 

…で、しりとり?

これまたシンプルな勝負だけど…選択肢がふざける余地がたくさんある勝負なんだよなぁ…

 

『あ、先攻後攻は腕相撲の時と同じくコイントスで決定いたしますので。表の場合は黒白院選手が、裏の場合は天久佐選手が先攻となります』

 

さっきと同じって事か。

まぁコイントスに変則的なルールも何もないだろうし、そこはあまり気にするもんでもないか。

 

―――っと、先攻は俺か。

スタートからしっかり考えないとな。

 

【選べ ①「おっぱいの《む》からで」 ②後先考えずに実況の人の胸を揉む】

 

男の胸をおっぱいと言わなかった事は褒めてやる。

けどな、①だと過剰に反応する奴が確実に居るんだよ。

そして②を選んだが最後、阿邊とかその他の俺を狙うホモが黙ってないのよ。

 

『俺が先攻みたいですし……おっぱいの《む》からで』

『え、その単語に《む》なんて…あっ、《無》ってことですか!』

 

あー!なんで言っちゃうかなー!

言われなかったらもしかしたらバレなかったかもしれないだろぉ!?

 

…しかしまぁ、俺が最もバレたくなかった相手はそう言う事に過剰に反応するからな。

全校生徒から冷たい目で見られることなんてもうどうだって…よくはないな。うん。

 

『では、天久佐選手。《む》から始まる単語をどうぞ!』

『じゃあ…』

 

末尾が同じ文字になるようにしたいな。

それも、パッと出てこないような難しい奴。

うーん…ラ行とか、ナ行とかか?

 

【選べ ①「《(おっぱい)》」 ②「《(ちっぱい)》」】

 

確かにナ行だけども。

間違ってはいないんだけども。

…いや、胸というのは別にやましい単語ではない。

 

卑猥に感じる方が悪いのだ。

それってあなたの感想ですよね、って言って誤魔化そう。

 

ん?ルビ振ってるからアウトじゃね?

 

『《(おっぱい)》』

『《猫》』

 

お、ルビ振ってあるからそうやって読む事になるのかと思ったけど、全然そんなこと無かったな。

読み方は普通に胸で良かった。

 

『《小物》』

『《海苔》』

『《倫理》』

「あぁ、天久佐の欠如してるやつか」

 

欠如してないし!

倫理観ちゃんとしてるし!

 

俺に…というか選択肢にないのはあくまで道徳と優しさだから!

そんな人の命?軽いよそんなの、とかは言わないから!

 

…ていうか、倫理観が欠如してるって言ってきたのが趣味で拷問器具のミニチュアを作ってる赤川なのがムカつくんだけど!?

あんな毎日嬉々として拷問の話してくる奴に言われたくないんだけど!?

 

『《理科室》』

『《釣り》』

『《リカバリー》』

 

リカバリー…あれ?そういや末尾が伸びる時ってどうするんだ?

 

『あの、伸ばすときって母音を採用するんでしょうか?』

『あー…伸ばす前の文字でお願いします』

 

【選べ ①「《リストラ》」 ②「《利用客減少》」】

 

い、嫌な単語出すなお前…社会人じゃないし経営者でもないからどちらの苦しみもわからないけども。

ただまぁ、下ネタとかよりは全然いい。

 

『《リストラ》』

『《ラスク》』

『《蔵》』

『《ランドセル》』

『《ルビー》』

『《ビニール》』

『《ルックイースト》』

『《トースト》』

 

【選べ ①「黒白院先輩のトイレになりたいですね」 ②「黒白院先輩を肉便器(トイレ)にしたいですね」】

 

あーぶっ飛んだ奴が来ちゃったよこれ。

 

別に《トイレ》って返そうとしていたわけじゃないんだよなぁ…

実際は《盗聴器》と言おうとしていたんだが…

 

【あ、なら ①「《盗聴器》…実はこの学校の女子全員の自宅に…」 ②「趣味は盗聴です。プライベートな会話とかを聞くと興奮しますよね」】

 

なら、じゃねぇよ!

そんなノリでんな事言わせんなよ!

 

…いや、言うけどさぁ…

 

『《盗聴器》…実はこの学校の女子全員の自宅に…』

「「「「いやぁあああああ!?」」」

『嘘嘘冗談!冗談ですから!』

 

盗聴器なんて思い浮かべた俺が悪かったのだろうか。

 

【そうだよ】

 

返事しなくていいから。

 

『《キツツキ》』

 

選択肢が来る前に言われたか。

まぁあのまま盗聴器ネタを続けさせられても困るしな。

 

…で、何を言えばいいんだよ?

 

【① 「《亀頭》」 ②「《鬼門》」】

 

下ネタか敗北か、って事ですか。

…どうしよう。正直もう敗北してしまっても全然問題は無い。

「好き」って言ってもらうのも、ショコラの勝利で確定してるし。

 

『あ、このまま天久佐さんが勝っても何のメリットも無いのはアレなので~…そうですね、さっき言ってた()()、させてあげもいいですよ?』

『―――マジですの!?』

 

そ、それってつまり―――おっぱい揉ませてくれる(特殊ミッションもクリアさせてくれる)って事っすか!?

 

語尾が若干おかしくなりながら聞き返した俺に、先輩は平素と変わらぬ笑みを返してきた。

無言は肯定、笑顔は肯定…つまり、このしりとりにさえ勝てば俺の完全勝利…?

 

…よし、勝つぞ。

 

『なら負けられませんね…《亀頭》』

『《牛》』

 

あれっ?スルー?

おかしいな、こんなド直球な下ネタでも全然意に介さないなんて…

 

観客たちも、亀頭なんて言ったのに全然引き気味じゃなかったし…あっ、もしかして《亀頭》じゃなくて《祈祷》だと思ったのか!

 

じゃ、邪推されなくて良かったー…

 

【選べ ①「因みにさっきのはチン●の話です」 ②「因みにさっきのはこれの事です」と言って見せつける】

 

そうそう、こうやって実物見せながら説明したかったー…ってオイ。

 

『ち、因みにさっきのはチン●の話です…《触覚》』

 

至る所から「うわぁ…」と聞こえてきた。

違うんだって。本当ならあんな事言ったりしないんだって。

 

ってか俺のファンが居るのだとしたら、こういう発言の時にこそいい反応をするべきじゃないのか?

…やっぱ嘘だったんじゃ…

 

『《口調》』

『《調理》』

『《理科室》』

『《ツリー》』

『《林檎》』

『《胡麻》』

『《前》』

 

【《選べ》】

 

べ?べか、ならベーカリー……って、なんでお前まで参加してる風なんだよ。

 

【①「《エスカリボルグ》」…出現するかも? ②「(僕の股間の)《エクスカリパー》」…露出させる?】

 

させねぇから!露出癖とか持ってねぇから!

 

で、①は●クロちゃんのやつだろ!

R‐18Gになっちゃうだろ!

 

…まぁ、出現する可能性は無いだろうし、大丈夫…だよな?

 

『え…《エスカリボルグ》』

『えすかりぼるぐ?…それって、本当にある単語なんですか~?』

『あ、はい。ありますよ。撲殺天使ド●ロちゃんってライトノベルに登場する…魔法?』

『なるほど~…では、《グラス》』

『《スリランカ》』

『《蚕》』

 

【選べ ①ゴー★ジャス風に「《コスタリカ》」 ②ゴー★ジャス風に「《バハマ》」】

 

伏字が機能してないと思うんですが。

 

…で、②。お前のソレはアレだろ。

何回かに一回やる、明らかに違う国の名前を言うのかと思ったら「そんな馬鹿な(バハマ)」って言う奴だろ。

●ー☆ジャスは俺のツボだからな。知ってるよ。

 

『Want You!君のハートに、レボ☆リューション!』

『…はい?』

 

黒白院先輩が、いつもの微笑を消して首をかしげてくる。

 

だが、選択肢の傀儡となった俺は、その程度では止まらない。

 

『俺の名はゴー☆●ャス、宇宙海賊さ!…ショートコント、転校生』

「は?」

「は?」

「は?」

「は?」

 

ゲーム仲間四人衆(田中、佐藤、赤川、阿邊)の心無い「は?」に泣き出しそうになるが、まだ肝心なコスタリカを言えていないので続行。

地球儀も無いし、そもそもあの派手な見た目をしているわけでもない…が、勢いで行くしかない。

 

『どうも!転校してきた、小須田里香です《コスタリカッ》!!』

 

もはや無反応である。

誰一人、何も言わない。

 

しかしネタはまだ終わっていない。

 

何も持っていないのにも関わらず、俺は地球儀を回すかのような素振りをした…というかさせられた。

その数秒後、地球儀がある(ように演じている)場所を強く指し、観客席に向かって叫ぶ。

 

『ここっ!《コスタリカ》!―――レボ☆リューション!』

 

…す、スベッたな…これは明らかにスベッた時の反応だ…毎日向けられてるからな、こういう視線。

 

いやこんな感情の無い瞳を毎日向けられてるって何やらかしてんだよって感じなんだけども。

…実際色々やってるよな、俺。

 

『えーっと…《小須田里香》でいいんでしょうか~?』

 

【選べ ①「コスタリカですよ。何ふざけてるんですか」 ②「コスタリカですよ。何馬鹿な事言ってるんですか」】

 

最初にふざけたのはお前だし、バカもお前だよ!

 

―――えぇ…①の方がマイルド、かなぁ…?言い方とか内容とか…

でも内容ほぼ同じじゃねぇの…?

 

『コスタリカですよ。何ふざけてるんですか』

「ふざけてんのはお前だろ!」

「そうだそうだ!常識人ぶってんじゃねぇぞ!」

「流石お断り5最強…やっぱり変人だな…」

「マジキチの天久佐ってあだ名…本当だったんだ…」

「最初の勝負の時のイケメンムーブから一転しすぎだよなぁ…」

 

酷いバッシングだな。

けど俺も同じ事考えてたから何とも言えない。

 

ふざけてるのも馬鹿なのもこっちなんだよなぁ…

 

『じゃあ、《カステラ》』

『《乱獲》』

『《空洞》』

『《浮き輪》』

『《和菓子》』

『《不知火》』

『《犬》』

『《ぬいぐるみ》』

『《三日月》』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『《帯》』

『《美容》』

『ま、また()か…う、う…《ウスターソース》』

『《墨》』

 

―――お、終わらねぇ!

 

そりゃすぐに決着がつくなんて思ってなかったけど、全然()を言う素振りを見せないぞこの人!?

 

何度か誘導したり、同じ言葉を続けてみたりしたが…なんかこっちの方が追いつめられてないか?

もう《う》から始まる言葉なんてパッと出てこないぞ?

 

【選べ】

 

…と、ここで選択肢か。

数分近く黙ってたが、何を言わせる気だ?

 

【①「《ミミミン!ミミミン!》」…両ミッション成功 ②「《蜜柑》」…両ミッション失敗】

 

ウーサミン!!―――じゃ、ねぇんだよ!

しかもソレ単語じゃねぇだろ!

 

…で、なんで同じ敗北でもミッションが成功か失敗かに別れるんだよ。

②だと、もう既にクリアさせてもらえる事になってる「好き」の件までアウトになっちまうのかよ…

 

『《ミミミン!ミミミン!》ウーサミン!(裏声)』

『うわキツ…天久佐選手、一体どうしたのでしょうか!?』

 

なんだとこの野郎。ウサミンの何処が電波だって?(言ってない)

―――実際、電波なんだよなぁ…

 

『あの~、結局続きは言わないんですか〜?』

『えっ、続き?』

 

それはつまり歌えという事でしょうか。

流石に嫌ですけど?さっきの時点で大分観客達の呆れ具合増してるんですけど?

 

まぁ呆れられてるのは最初からなんだけどね、HAHAHA!

 

『ですから~、まだ《墨》の後の言葉を言ってないじゃないですか〜』

『あっ、そっちか!』

『それ以外にありましたか〜?』

 

いや、無いですよ無い無い。ミミミンミミミンを《墨》の後にだす訳ないじゃ無いですかやだー!

 

【選べ ①正直に「《ミミミンミミミン》が単語です」…敗北 ②嘘をつくのも大事「あ、《密教》ですよ」…勝利】

 

なんで密教って言ったら勝利になるんだよ…ってそうか!

先輩がひたすら《う》で終わる単語ばっかり言っていたせいで、《う》で始まる単語がもう思いつきそうに無かった。

次に言われたら俺の負けだ、と思っていたが…それは先輩も同じ事だって事か!

 

『あ、《密教》ですよ』

『密教……《う》ですか~…』

 

悩んでいる様子だが…残念。多少卑怯な気もするが、俺の勝利はすでに選択肢によって確定している!

 

『ん~……《有頂天》』

 

―――ほらな。

 

『おーっと!黒白院選手、ついに《ん》で終わってしまったー!』

『あら~。負けちゃいました~』

「…お、おぉ…天久佐が勝ったのか」

「何というか…終わりはなんか…」

「味気なかった、っていうかね…」

「会長が二回も負けてるってのは中々インパクトある気がするけど…」

「それでもさ…」

 

あまり気にする様子もなく微笑む黒白院先輩と、ブーイングじみた呟きの聞こえてくる観客席。

 

そして平然とした顔をしつつ滅茶苦茶大喜びな俺!

 

やった!やったぞ!これでミッションクリアだ!

後は先輩を人気のない場所へ連れて行って、終了前に形だけの告白をしてもらった上で胸を揉ませてもらえばヨシ!

 

『はいは~い。皆さんが何やら物足りなさそうなので~…重大発表、しちゃいたいと思いま~す!』

 

―――重大発表?

 

実況の人(今更になって思ったことだが、この人司会だったんじゃなかろうか)が進行し始める前に、黒白院先輩が前に出た。

全身から『何かとんでもない事をしでかすオーラ』を感じるが…一体何をするつもりなのだろうか。

 

…ま、重大発表って言ってもそれほどすごい内容じゃないだろうし、終わるのを待とう。

話してる間に終了の準備をしておく…なーんて事、この学園の生徒(黒白院先輩を崇拝する人達)はしないだろうし、いくら話が長くなろうが終了時間に影響したりはしないでしょ。

 

『私、黒白院清羅は―――』

 

一度言葉を切り、一瞬だけ俺の方を見てきた。

 

その瞳は、いつもの表情の読めないものでも、鋭い猛禽のようなものでもなく。

―――まるで、いたずらが成功した子供のような…その癖どこか大人びた雰囲気を感じさせる…これまた不思議な瞳だった。

 

『…男性として、天久佐金出さんを好ましく思っていま~す』

 

そんな不思議な瞳と共に、そう言い放った先輩に、俺は……

 

『御冗談でしょう?黒白院さん』

 

思考回路をショートさせた。

 

―――えっ?何言ってんのこの人?えっ?

馬鹿なの?もしかしてもしかしなくても馬鹿なの?

 

いや嘘だって事も、俺が(というかショコラが)勝利したからそう言ってもらってるって事もわかってるけど…それって俺と先輩にしかわかりませんですよねぇ!?

 

だというのに、それを全校生徒の前で?全校生徒の前で言っちゃったの?

そんな事したら―――

 

「な、なんだってー!?」

「ウソダドンドコドーン!」

「うわぁああああ!!ふざけるなっ、ふざけるなっ!バカヤロォおおお!」

「どーしてぇええええええ!!」

「て、天久佐テメェゴルルァ!!黒白院会長とゴルルァ!」

「野郎オブクラッシャー!」

 

ほら混沌とする…

 

泣き叫ぶ者、現実を受け入れられない者、俺に怒りを向ける者、俺に刃物を投げつけて―――刃物!?

 

『―――えいっ』

 

ハサミやらなにやらを回避している俺に、黒白院先輩が可愛らしい声と共に抱き着いてくる。

常の俺ならば、こんな事を黒白院先輩だなんていう学園のマドンナ(半死語)に抱き着かれたりしたら幸福感で死んでしまっているだろう。

 

常ならば、だが。

 

既に俺にとってこの人は『神かそれに準ずるナニカ(取り合えず俺にとって良くないやべー奴)』という認識で確定している。

ショコラの正体に感づいているかのような発言に、あの『呪いをもう一個増やす』という脅し。

明らかに俺をこんな目に合わせている元凶もしくはその部下あるいは上司ですありがとうございました。

 

強いて超希望的観測をするなら、大勢の前で告白し、こんな抱き着くくらいに好きなのだと見せつけて他の女子をけん制しようとしているのかもしれないと考えることも―――うん、無理。あり得ないわ。

 

「て、天久佐!卑怯だぞ!」

「黒白院会長を盾に使うなんて!」

「お前人間じゃねぇ!」

「このデケェ害虫が、俺が今から駆除してやる!」

「これが人間のやる事かよぉおお!」

「オイコラそこ代われ!」

「黒白院先輩が、晴光の●頭に!?」

 

で、観客席は観客席で鬱陶しいな!

そりゃその反応もわかるぞ?俺だってその立場だったら同じ事やるだろうし。

 

けど言われる立場になると不快なだけだから。

いつもでもここまで酷い言われ方はしてないから。

 

『……とにかく先輩。離れてください』

『けど~…良いんですか~?』

『…くっ…で、でもやっぱりあんな事…』

『したいんでしょう?』

 

そりゃミッションクリアが目的ですからね。揉みたいに決まってるじゃないですか。

 

…だが、ここはステージの上。

この観客たちの前で、その人達が敬愛するような女性の胸を揉むなんて真似、とてもできない。

 

【選べ】

 

…ここでか。

 

恐らく、揉むか揉まないか、という選択肢だろう。

大勢の前でも、ミッションのクリアを優先するか。

特殊ミッションくらいは諦めて、通常ミッションがクリアしたという事だけを喜ぶか―――え、メール?

 

《呪い解除ミッションクリア達成まで あと一人》

【①揉まない ②自分のやりたい事をやる】

 

待って、情報を理解しきれていないタイミングで攻めてくるのやめて。

 

えっ?ミッションクリア…まだなの?

他に誰が……まさか、宴先生?

 

いや、それは無い。

だって宴先生は参加したというよりも、俺が演技力対決の余った時間を潰すために呼ばれた時に手伝ってもらっただけだ。

何より女子じゃない。―――見た目は女子なんだけども。

 

じゃあ他に誰が…あっ、ショコラ?

 

確かにショコラは黒白院先輩と『お断り5のメンバーとして』戦ってた…えっ、つまり俺はショコラからも言われなきゃなの?

―――ま、それなら全然難易度低いし問題無いんだけどね?

 

そんで……痛い痛い。わかってるって。ショコラに好きって言ってもらうよりも先に黒白院先輩の胸を揉ませてもらうから。

②のやりたい事は、ミッションを両方クリアすることだから。

 

本人の許可も下りてるし、大丈夫だろ。

ショコラは言えばすぐに好きって言ってくれそうだし(吉原には申し訳ないが)もう全校生徒から嫌われまくるのは諦めるとして、ミッションをクリアしよう。

 

 

 

 

…という軽い考えが、後にあんな事態を引き起こすとは、この時の俺には微塵も予想できなかった。

 

そりゃ普段の冷静沈着さが維持できていたならもう少し踏みとどまれたのだろうが、生憎当時は黒白院先輩の柔らかさやらいい匂いやらミッション終了が近づいている事の危機感やら全員からの目線やらで、特に考えずに行ってしまったのだ。

 

その結果がアレなのだとしたら、俺はもう少し考えて行動しただろう。

 

……まぁ、考えた所で現実は変えられなかっただろうし、変わらなかっただろうが。




UOG社の開発段階商品 【天久佐&遊王子】

「ねぇねぇ天っち!ちょっと騙されてこれ飲んでみてよ!」
「騙されてってなんだよ!?怖いんだけど!?―――けど味は普通に…なんだろ、塩辛い…?」
「あたしのお父さんの汗からとれた塩で作った塩水だよっ!」
「うぼぉるるろろろろろぉえ…!」



「な、なんてもん作った挙句飲ませてくれてんだお前!」
「いやぁ、なんか『優秀な遺伝子の持ち主の体液には特殊な何かがあるはずだー』って話になって、じゃあ身近な優秀な人って事であたしのお父さんの汗を――」
「爪の垢を煎じて飲んだ方が何倍もマシ―――いや、同じレベルか。ってか何にしろ他人の体から出たモノなんざ飲みたくも食いたくもねぇわ!」
「え~?けど、ちゃんと人体に害はない程度に綺麗にしてるよー?」
「それでもだわ!」

【選べ】

「――――ま、まぁ遊王子の汗なら直にでもいただきたいがなっ!」
「お、おぉ。すっごい良い笑顔でとんでもない事言うねぇ」
「若干引くのをやめてくれよ称賛するならさぁ!」

【多分褒めてないと思うんですけど】

「返事しなくていいからッ!」
「んぇ?あたし何も言ってないよ?」
「――――そんな事より、脇舐めさせてくれない?」
「んー?……いいよ?」
「そこをこそ否定してくれませんかねぇ!?」


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①本音 ②嘘

あなたと私、というお話。


朝、朝である。

あの対抗戦から早三日…と言っても土曜と日曜を挟んだので、実質あの()()後の登校は初と言う事になる。

 

あの後、結局俺は全校生徒の前で黒白院会長の胸を揉みしだき、挙句はショコラに好きだと言わせた。

ミッションは確かにクリアになったが、会場はもう大荒れ。

 

実況の人からも『死ね』の一言をいただいたし、何より観客席からの投擲が酷かった。

俺に何の恨みが―――はい、黒白院先輩とショコラ(美少女二人)から告白されて且つその内一人の胸を揉みしだいた件についてですね。わかります。

 

気まずいやら何やらでさっさとステージから降りたかったのだが、そうは問屋が卸さない―――というか選択肢が許してくれなく。

やれ【①このままもうしばらく揉んでおく ②ついでに獅子守先輩の胸も揉む】だの【①「俺もショコラが好きだ」 ②「俺はチョコラータが好きかな」】だの【①全て回避する。勿論逆立ちで ②自ら全弾被弾する。勿論全裸で】だのと酷い選択肢が連続して出てきて―――ラストはもう、思い出したくもない。

 

まぁ権藤大子さんが召喚されて、ステージ裏で思い切り抱きしめられただけなんだけどね。

それが()()と言うにはちょっと―――いやかなりドギツイ内容だったんだけど。

 

「いよっ、天久佐!」

「おはよ、佐藤。随分元気そうだけど、どうし―――ごぶぁっ!?」

「え?あっはは、だろ?」

 

鳩尾に強い衝撃を感じると同時、少し体勢が崩れる。

その衝撃と痛みが『佐藤に殴られた』せいで発生したものだと知るのに、数瞬を要した。

 

いやいや、なんで笑顔を保って且つノーモーションで腹パンできるんだよ。慣れてないっすか?

 

「げほっ、ごほっ…佐藤テメェ、なんでいきなり俺を―――ぎゃばんっ!?」

「おっすおっす~!なんだよ天久佐、宇宙刑事みたいな断末魔して」

「お前が踏みつけてきたからだろうが…!」

 

田中に背中を蹴りつけられ、完全に地面に這いつくばる形になった。

それだけではなく、上からグリグリと踏みつけてきているのがタチが悪い。

これじゃ起き上がれないぞ…

 

ってか宇宙刑事みたいな断末魔ってなんだよ。

 

「……な、なんだってんだよお前ら―――ぶげぅ!?」

「お、悪ぃ悪ぃ。うっかりボーリングの玉顔面に投げちまった」

「大暴投すぎるだろオイ!ってかボーリングじゃなくてボウリングだからな!伸ばしたら穴開けるって事だからな!」

「じゃあ俺がお前のケツ、掘ってやるよ♂」

「ぎゃああああああ!?阿邊っ、おまっ、待て!待って!?マジでやめろくださいってか本当に脱がせようとするのをやめろよ!?」

 

恨みがましく田中を見上げていると、顔面にボウリングの玉がぶつかった。

歯は折れていないし、鼻血も出ていないが…まぁ痛い。痛いに決まっている。

 

だってボウリングの玉って、一般的な(何が一般的かはわからないが)ソレ成人男性の生首と同じ重さなんだろ?

どんだけ重たいんだよって話だよな。―――いや、成人男性の生首の重さって言っても全然わからんけど。

 

そして阿邊お前ズボンに手をかけるのをやめやがれください!

あっ、ちょっと待って、マジでベルト外しにきてるじゃないですかヤダー!

 

【しょうがねぇな助けてやるか ①この窮地を脱出できる。代わりに受難は続く ②もういっそ阿邊を受け入れてみる】

 

た、助かった?…うん、助かったな!

この後何か起こるのはまぁ仕方ないとしても、この地獄のような状況を脱することができるのはありがたい!

 

感謝っ…!圧倒的感謝っ…!

 

「……くっ、こんな訳の分からん空間に長々と居られるか!俺はもう教室に向かうぞ!」

「なっ、待ちやがれ!」

「よくもトーマスを!」

 

誰がトーマスを食った奇行種だ!

テメェ阿邊が強行に及ぶのを一回中断したら覚えとけよ!

 

「天久佐ッ!なんで俺を拒むんだッ!」

「お前が男だからだっての!」

 

別に俺に同性愛を否定するつもりは無い。

だが、それは第三者が俺の知らない場所でやっている場合だ。俺が巻き込まれるなら断固拒否する。

 

俺、普通に女が好きだし。

女好きかと聞かれれば頷けないけど、女にしか興味ないし。

 

【選べ ①「お前が男の娘になったら考えてやってもいいぞー!」 ②もういっそ自分が男の娘になる】

 

男の娘もなぁ!俺からすりゃ男なんだよ!(各方面に喧嘩を売るスタイル)

 

けど俺が今の容姿から変わるのは、親に対して失礼だと思うんだよな…まぁ二人なら気にしないだろうけど、俺が気にする。

ここは、言いたくないが…①にしておくか。前に似たような発言をしたことあるわけだし。

 

「お前が男の娘になったら考えてやってもいいぞー!」

「―――その言葉に偽りは無いな!?」

「偽りしかねぇけど!?男の娘でもアウトだけど!?なんで真に受けられてるの!?」

 

否定するが、阿邊は反応を見せない。

そりゃさっきの選択肢の『この窮地を脱出できる』の効果が続いてるせいで、意思に反して走り続けてるからな。

―――あぁ、変な誤解が残ったまんまになってしまう……

 

ま、まぁ?阿邊みたいなガチムチが男の娘になるなんて決してあり得ないだろうし…いいか!(脳死)

 

今はもう、さっさと教室に行くとしよう。

……あ、カバン向こうに置きっぱなしだ。後で回収しなきゃな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【①「ヘイヘーイ!」と声をかける。反応がもらえるまで繰り返す ②軽いスキンシップ。子供を作る】

 

なんていうふざけた選択肢が出てきたため、教室に向かう途中で遭遇した()()に、誠遺憾ながらうざいテンションの挨拶をすることに。

 

…まぁ、この人なら軽く許してくれるだろ。

 

「ヘイヘーイ!ヘイ!ヘーイ!」

「ぁ……っ」

「へ?…ヘイヘイヘーイ!」

 

おかしい、なぜか無視されてるぞ?

虫の居どころが悪いのか?そりゃ女神にだってそんなときはあるだろうけどさ。

 

…まぁ、ヘイヘーイって声をかけるのも終わったし、もう()()に無理に挨拶しようとする必要はないだろ。

 

【選べ ①敗北を認めるのはなんか嫌だ。このまま続けよう ②敗北を認め、普通に挨拶する】

 

――――俺、敗北者でもいいかなって。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ヘイへーイ!」

「ぁ…」

 

天久佐君が、声をかけてくる。

 

挨拶しようって思っても、なぜか言葉にならない。

 

―――でも、それもそうだよね。

 

『私、黒白院清羅は……男性として、天久佐金出さんを好ましく思っていま~す』

 

…黒白院先輩の言葉を思い出すだけで、胸がズキリと痛む。

 

『こ、これがおっぱい!なんて柔らかさ!』

 

黒白院先輩の…む、胸を両手で触って、嬉しそうにしていた天久佐君を思い出すと、涙が出そうになる。

 

『ショコラ!お前は、俺の事好きか!?』

『はいっ!大好きですっ!』

 

胸を触ったまま、ショコラちゃんに好きかって聞いて…好きって返されていた事を思い出すと、目の前が真っ暗になったみたいに錯覚しちゃう。

 

「へ、ヘイヘイヘーイ!」

 

ずっと、ずっと不思議で仕方がなかった感情。

天久佐君について考えるだけで、モヤモヤして、苦しくて…けど、温かくて嬉しくなっちゃう理由。

 

黒白院先輩に告白されて、その…胸を触って、ショコラちゃんからも告白されてる所を見て―――そこでやっと気づいたの。

―――私、天久佐君の事好きだって。

 

気づいたら、『あぁ、初恋に気づいたら、終わっちゃったんだ』って悲しくって。

『黒白院先輩にも、ショコラちゃんにも…私じゃ勝ち目ないや』って辛くって。

 

いつの間にか涙も流しちゃって、声に出ちゃいそうだった時に―――

 

『その、これ全部俺が勝利した時の賭けの報酬なんで、全然そう言う事は無いですからね。責めるなら俺だけにしてくださいね。―――因みに、恋愛的な云々は何もないですから』

 

その言葉で、少しホッとした。

 

少なくとも天久佐君は黒白院先輩やショコラちゃんから告白されても、恋人云々な話にはしていなくって。

いけない事なんだろうけど、まだ…私にも、チャンスがあるんじゃないかって。

 

冷静に考えたら『あの二人でも恋愛的に見ないのに、私なんかが…』ってなっちゃうんだろうけど、こう思わないと―――辛くって。

 

けどそれとこれとは別だよね……今こうして天久佐君を無視してるのも、絶対よくない事だよぉ…

 

「…て、天久」

「あ、髪飾り変えたんだな。似合ってるぞ」

「ふぇっ!?」

 

前使ってたのは罅が入ってたから変えたけど……今それを指摘されたら…似合ってるなんて言われたら…!

 

「―――ごめんなさいっ

「えっ、ちょっと!?」

 

背後から聞こえてくる声を無視して、走る。

 

廊下を走るのも、天久佐君を結局無視したまんまなのもどっちもいけない事だけど―――そんな事、気にしてる余裕…ないよぉ…!

 

だってだって、す…好きな人とお話するなんてぇ…しかも、髪飾りも褒められちゃって……

 

結局、教室につくまでは、走りっぱなしだった。

…こういう時に限って、珍しく一度も転ぶことは無かった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

どうも。結局完全に無視され、傷心中の天久佐です。

いやぁ、対抗戦の件がここまで周りに溝を作っていたなんてなぁ…自分、泣いても良いですか?

 

「あ、委員長。おはよ」

「…おはよう」

 

お、挨拶返してくれてんじゃん。

やっぱりクラスのリーダー的存在は違うな!姉御と呼ばせてもらうぜ!

 

【選べ ①「姉御!」 ②「兄貴!」】

 

本気で呼ぶつもりでは無かった。

それだけは伝えたかった。

 

「あ、姉御!」

「な、なんで姉御なの?」

「あっ、いや。何というか…」

 

【選べ ①真実を話す ②敢えて全然違う理由をでっちあげる】

 

なんで?なんで敢えてでっちあげる必要があるん?

 

「ほら対抗戦の時、色々やったじゃん。そのせいで、俺まともに挨拶返してくれる人すらいないんだよね」

「自業自得じゃなかったっけ…?」

「そ、それを言われると何も言い返せないんだけどさ…」

 

だってあれは選択肢が【①責任は自分にあると話す ②開き直ってハーレム王を名乗る】とか出してきたせいで…

 

まぁ後半に『恋愛的なサムシングはない』って自分で勝手に付け足して、変な誤解がないようにしたけどさ?

そこは一応選択肢のおかげっていうか?

いやどうせ自分で否定しただろうし、何も感謝する場所がないじゃないか!

 

「そこまでして、お…胸、触りたかったの?」

 

【選べ ①「今おっぱいって言おうとしてただろ」 ②「今パイオツって言おうとしてただろ」】

 

確かに気づきはしたけども!けどそれって普通は言わないじゃん!

ってか委員長相手にここまで絡むの初めてだろ!

 

「い、今おっぱいって言おうとしてただろ」

「うわぁ…天久佐のやつ、委員長にまでセクハラしてるぜ…」

「委員長がそんなこと言う訳ねぇのにな…」

「ま、メガネ外したら表ランキング狙えるレベルって言われるくらいの美人だし…」

「天久佐がセクハラしててもおかしくない…な」

 

おかしいからね?

なんで俺が悪いみたいになってるん?

そりゃセクハラチックな発言をしたのはよくないだろうけどさ、実際委員長だっておっぱいって言おうとしてたじゃん。

 

だのに、委員長がそんなこと言う訳ないって…委員長にだってそういう事言いたくなる時くらい、あるだろ。

 

【選べ ①有象無象に興味はない。さっさと雪平に会いに行こう ②もう少し、おっぱいと言おうとしていたかどうか問い詰めてみる】

 

問い詰める必要はないけどさ、なんで雪平に会いに行くって話になんの?

確かに席は近いけど、雪平目当てで席に座るわけじゃないからね?

 

「よ、雪平」

「…おはよう、【凄く卑猥な罵倒】君」

 

今、なんて?

 

なんか知らんけど、伏字みたいな音聞こえたぞ?

ってか文字に起こせないって書いてるじゃねぇか!俺の事なんて呼んだんだよコイツ!?

 

「あの、なんでそんな」

「あら、【とても人前では使えないような単語】君。随分やつれているようだけど」

「お前のその訳のわからん呼び方のせいじゃい!なんで現実で伏字聞こえてくるんだよ!?」

 

絶対選択肢があるんだから、あまりに酷い言葉を使ったら謎の力で伏せられるのもおかしくはない…?

 

いや、やっぱりおかしいだろ。

何があっても現実で『ピー音』がなっちゃダメでしょ。

 

でもその理論が適用されるなら、俺のこの絶対選択肢もあっちゃいけないものだと思うんだけど。

じゃあやっぱり伏字があってもおかしくはない…?

 

―――やめよう。このまま一人で考え続けてても埒が明かない。

 

「…ところで天久佐君、昨日の事だけど」

「昨日は休みだぞ」

「―――ほんの痴呆ジョークよ」

「なんつー冗談だよ!?」

「過ぎたことに拘泥するのは愚かな事だと思うわ。―――話を戻すけど、あの時…対抗戦の時の話だけど」

「過ぎたことだろそれこそ!もう全面的に俺が悪いって事で決定したろ!?」

 

その結果全員から結構マジで嫌われて(ファン的には大喜びだったらしい)挙句はその場でレンチとか鉄アレイとかそんなのを投げつけられるようになっちまったんだけどな。

 

…ってか雪平、いつもとなんか違くないか?

雰囲気と言うかなんというか…何かあったのか?

 

まぁ敢えて聞いて面倒くさい事になったら困るし何も言わないけどさ。

 

「…黒白院先輩やショコラさんとのアレについてだけど」

「だからアレは俺が賭けに勝ったからで」

「パイオツを揉んで、随分と嬉しそうにしていたじゃない」

 

そりゃ、初めて触ったからなぁ。

感動とか色々…あんな状況でも、ポジティブな感情の方が勝ったんだよ。

 

【選べ ①「結局お前は何が言いたいんだよ」 ②「俺が誰とナニしようが勝手だろうが!」】

 

なんでちょっと喧嘩売る風にいう必要があるんだよ!

 

…けどまぁ、聞き方はアレだが①は悪くない。

実際なんでコイツがここまで問い詰めてくるのか気になるしな。

 

下ネタには寛容な(なお彼女自身の胸の話はNG)雪平が、なぜ黒白院先輩の胸を揉んだことに関してこんなに怒っているのか。

…あ、怒ってるっていうのは確定してるわけじゃなくて、俺が勝手にそう思ってるだけだからな。

本当はどうなのか、なんてのはわからん。

人の感情を読むことに長けている俺でも、絶対にそうですと言い切るような自信は持ち合わせていないのだ。

 

―――と、そろそろ痛くなってくる頃だし、さっさと①選ぶとしますか。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私が通う学校、晴光学園。

県内有数…いや、もはや日本有数とも言っていいマンモス校であるここには、あるカーストが存在する。

 

それが、『表ランキング』と『お断り5』。

どちらも男女各五名で構成されていて、生徒たちの投票により、『是非お付き合いしたい人』と『顔はいいのに言動のせいで恋愛的にはNGな人』が毎年選ばれることになっている。

 

私は後者。

それもそうだと思う。口を開けばエッチな事とか酷い事とかばっかりな女の子、好きになる人なんていないだろうし。

 

…それで、今大事なのはこの『表ランキング』の一位である女性……黒白院清羅先輩。

同じ女だけど…何というか…すごい、って思う人。

成績優秀、文武両道、ミステリアスな雰囲気をまといつつも、どこか人懐っこい性格。

ある種の宗教団体のように、黒白院先輩を崇拝している人たちもいるのだとか。

 

そんなあの人が―――

 

『男性として、天久佐金出さんを好ましく思っていま~す』

 

天久佐君を…私の好きな人に、告白した。

全校生徒に発表する形で。

 

最初は、なんの冗談だろうって思った。

 

確かに天久佐君はかっこいいし頭はいいし運動もできるし優しいし、私が変な事言っても反応してくれるし…何より、本当の、この私を見ても可愛いって言ってくれたし(その後その記憶を無理やり消したのだが)…こ、後半はあまり他の人には関係ないだろうけど、とにかくまぁ、黒白院先輩と並んでいても別におかしくないような人だと思う。

…けど、私以上にエッチな事言うし、しようとしたりさせようとしたり…豚の真似はするし突然踊りだすし歌いだすし叫ぶしブリッジするし服も脱ぐし……お断り5の最強って呼ばれてるくらいに変な人で、私以外に天久佐君を好きになる人なんて、いないと思ってた。

 

けど…

 

『えいっ』

 

天久佐君に自分から抱き着いたのを見て、現実なんだってようやく理解して。

 

『こ、これがおっぱい!』

 

その後、天久佐君が先輩の胸を揉んで感動してるのを見て。

 

『ショコラ!お前は、俺の事好きか!』

『はいっ!大好きですっ!』

 

ショコラさんにも好きだって言われてるのを見て。

 

―――あぁ、もう無理だって思った。

 

だって、黒白院先輩(学園内の人気ナンバー1女子)ショコラさん(現在爆発的に人気を得ている可愛い子)に告白されて、断る人なんているわけがないから。

私の好きな人(天久佐君)が、想いを伝える前に、他の人とそういう関係になっちゃうと思ったから。

 

けど、天久佐君は天久佐君だった。

普通の人、の枠に当てはまらない事しかしなかった。

 

『本当、彼女らに俺への恋愛的好意なんて微塵もないんで!それに、先輩の胸触っちゃった時点でこんな事言うのはもう手遅れだと思いますけど、俺もそういうのは一切あり得ないってわかってるんで!身の程わかってるんで!』

 

はっきりと言ったわけではないが、二人の告白を断ったのだ。

 

恋愛的な事は一切あり得ない―――彼の自己評価がかなり低い事も関わっているのだろうが、とにかくあの二人相手にそういった感情を抱くことは無い。

そう言ったのだ。

 

こ…これって、どうなんだろう。

あの二人でもダメなら、私なんて眼中にすら入れてもらえないのかもしれないし、同じお断り5だから身の程的にオッケーってなるのかも知れない。(奇行にさえ目を瞑ることができれば、全然黒白院先輩やショコラさんともお似合いだとは思うけども)

私的には、勿論後者の方がうれしい。というかこっちじゃなきゃ困る。

 

―――と、ここまでが対抗戦の時の話。

 

「結局お前は何が言いたいんだよ」

「……」

 

今の問題を、しっかりと見つめなおそう。

 

私は、あの時の発言が本当に正しい物なのかどうかを確かめたくって質問してた。

けどそのまま聞くのが恥ずかしくって、つい問い詰めるような…語調の強いような聞き方になっちゃって。

そのせいで、「なんでそんな強く聞く必要があるんだよ?」って意味を込めて、こうして聞き返されて―――今に至ると。

 

明らかに私のせいだよね。恥ずかしいのがバレないようにするにしても、もう少しマイルドな言い方とかあったと思う。

別ベクトルで恥ずかしいけど、いつものノリで冗談めかしてって感じにするために、エッチな事も言っちゃってよかったかもしれない。

 

「…?あの、雪平?」

「…何かしら」

「いや、だから…結局、お前は何が言いたかったんだろうなーって」

「……あなたの●茎チン●で、二人同時に満足させるなんて無理って話よ」

「失礼だなお前!それに俺はちゃんと剥けてる―――って何言わせてくれてんだ!?」

 

い、今のは自爆だと思うな…

 

けどそっか、む…剥けてるん、だ。

そうだよね、15…なんだよね。うん。定規で測ってみたけど、確かに―――いやいや別に確かめてみたとかそんな事はなくって!

 

…誰に弁解してるんだろ、私。

 

「冗談よ。ただのタートルジョーク」

「―――タートルネック?」

「…そういえば、そういう聞き間違いをされるから『亀ジョーク』と呼ぶようにしていたわね。忘れてたわ」

 

…天久佐君、もしかしてあんな小ボケを覚えてたのかな。

だとしたらちょっと嬉しいかも。

あんなどうでもいい事でも、私との会話を覚えてくれてたって事だし。

 

―――って、今はそれどころじゃなくって。

 

「…私は、ね。その…」

 

頭の中には、二つの選択肢。

 

一つは、このまま素直な気持ちを伝えてみると言う事。

 

もう一つは……いつも通り、変な事を言って誤魔化すと言う事。

 

本当は、「私だって天久佐君の事が好きだから、あの二人から告白されてるのを見たら…気が気じゃなくって」って言いたい。

言えたらどれだけ楽だろう。

 

…まぁこれが言えるくらいなら、普段から本当の私で会話できてるはずなんだけどね。

 

でも、もう一つの方を選んでも…平行線のまま、何も変わらない事になっちゃうと思う。

いや、絶対なる。

だったら、素直に――――

 

「わ、私」

「そんな言いたくないなら別にいいぞ?なんか…オチが見えてるし」

「―――え、ええ。そうね……もう席に戻るわ。あなたも早く準備をした方が良いわよ」

「そうだな。時間も時間だしな」

 

…やっぱり無理!

無理だって!私って言っただけで心臓破裂しそうだったもん!

 

はぁ…天久佐君が被せて何か言ってくれなかったら、絶対いつもみたいにエッチな事か酷い事言っちゃって終わってたよぉ…

 

いつも通りの無表情を意識して歩くが、どうも足取りがトボトボしてしまう。

…そう感じているだけで天久佐君にどう見えているかはわからないけど、なんか恥ずかしくって……少し、早歩きになった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

【選べ ①「目と目が合う~」 ②「コノメニウー」】

 

確かに現在進行形で遊王子と目が合ってはいるけど。

この目に遊王子がしっかり写っているけども。

 

けどさ?俺最後に遊王子と会ったの、俺が不可抗力でブルマ剥ぎ取っちゃったあの一件以来なんだけど?

気まずすぎて声かけにくいんだけど?

 

それにほら、遊王子の方も顔真っ赤にして俯いてるし。

…なんか珍しいな。コイツが何日も前のこと(と言っても三日前なのだが)をずっと引きずってるの。

パンツ見られたのがそれくらい恥ずかしかったんだろうけど……コイツの羞恥心はイマイチよくわからない。

 

今だって制服はヘソ出し状態のまま来てるし、足だって…す、ストッキング?いや長さが違う。

これは…ぱ、パンスト…だと!?

えっ、今気づいたけどコイツパンストじゃん!前まで生足だったはずなのに、どうして急に!?

 

…ま、まぁ。俺の性癖にぶっ刺さってるからって、そういう意図のないだろう遊王子相手に欲情するわけにもいかない。

ここは冷静に、遊王子の足を見ないようにして会話しよう。

 

【あ、もう一つ ①「な、なんてエロいパンストなんだっ!」と言ってから歌い始める ②本当にパンストかどうかスカートを巻くって確かめてから歌い始める】

 

お前、お前…(言葉にならない)

 

「お、おはよう。天っち」

「な、なんてエロいパンストなんだっ!」

「はぇっ!?」

 

遊王子が顔を赤くして、大仰に驚く。

だが俺の口は止まらない。

既に俺の自由は選択肢に剥奪されているのだ。

 

「コノメニウー」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「トオイヒノー」

 

え、えっと…全然わからない。

 

「マナツノー」

 

ついさっき、天っちがあたしに、なんてエロいパンストなんだー!って言ってきて。

 

「カゲロウー」

 

で、突然歌い始めて。

 

―――全然わかんないんだけど!?

いや、いつも通り過ぎてちょっと「くすっ」ってなっちゃったけど、あたしの事褒めた直後にこれってどういうことなの!?

…ていうか、エロいって誉め言葉なのかな…?

ま、まぁ天っちが前に好きだって言ってたから履いてるんだし、意識してもらえてるなら良いかなぁ…

 

「けどやっぱりなんで歌いだしたのかわかんないんだけどっ!?」

「―――お、珍しいな遊王子。お前がツッコミに回るとは」

 

あたしも驚いてるよっ!

基本天っちが何やっても笑って流してるし(純粋に面白いから)一緒になってふざけたりしてるけど、ちょっと今はそういう気分というかなんというか―――とにかく乗れないのっ!

 

…でもやっぱり、天っちって自分でやりたくてやってるって感じじゃないよね。

無理してるっていうか…ぎこちなさ?とかがあるような気がする。

 

「しかしまぁ…明るさは戻ったな」

「明るさ?」

「いやほら、あんまり触れて欲しくないかもだけど…さっきまでいつもより暗かったって言うか…余所余所しかったっていうか?」

「あっ、あー…うん。それは大丈夫だよ、うん」

 

だってちゃんとスパッツも履いてるし。

ちょっと蒸れちゃってるけど、あんまり気にならないし。

 

…けどやっぱり…天っちを直視するのは…まだ、無理かな。

恥ずかしい、し。

 

「そ、そういえば天っち、あたしが居なくなった後でまたなんかやらかしたって聞いたけど」

「何も聞くな……俺が悪いんだ」

 

…いや、一応知ってるんだけどね。

 

みんな言ってたもん。天っちが生徒会長とショコラっちに好きって言われて、しかも生徒会長の胸を揉んでたって。

―――でもこの雰囲気…いつもの奇行と同じで、望まずにやった…?

 

「ね、ねぇ天っち」

「…ん?」

「前にも聞いたと思うけど、どうしてそんな心底やりたくなさそうにしながら変な事するの?」

「えっ」

「そんなにしたくないなら、しなきゃいいじゃん」

「えっ」

 

目を丸くして驚かれる。

でもそんな反応するような事でもないと思う。天っちって結構わかりやすい所あるからね。

 

「…いや、確かにしたくない。したくはないんだが…」

「?何かあるの?」

「そうだな……絵本で例えるなら、『くもだんなとかえる』って感じだ」

「…?そんな絵本があるの?」

「あー、知らなかったか。じゃあ」

()()さ~ん」

 

真剣に言葉を選びながら、あたしにわかるように説明しようとしていた天っちに、後ろから誰かが声をかけた。

 

ちょうど天っちの影に隠れて見えなかったけど、次の瞬間にはあたしにも見えるようになったし、何より声で分かった。

 

―――黒白院生徒会長だ。

 

因みになんであだ名で呼んでいないのかと言うと、結局あだ名呼びの許可を取っていないからだ。

流石に先輩に許可なくあだ名呼びはダメかなって。

 

「…なんでここに?」

「えへへ、会いたくなってきちゃいました~」

「説明になってな――――」

「天っち?」

「…お、俺も会いたかったぜマイハニー」

「あら~、それは嬉しいです~!」

 

…天っち、また嫌そうに言ってる…

いつも以上に露骨だよ、これ。

 

で、黒白院会長の方は何考えてるのか全然わからないし…

 

本当、何があったんだろ?

ショコラっちに聞いたらわかるかな?

 

「…はぁ…もうこの際来た理由は聞かないんで、要件を」

「ですから、会いたかっただけですので~。要件も何も、ありませんよ?」

「絶対嘘だろ……げっ」

 

また嫌そうな顔をする天っち。

 

けど今はそっちよりも、自分のこのモヤモヤの方が気になる。

 

なんでだろ。天っちが(確実に自分の意志とは関係なしに)マイハニーとか言っているのを聞いてから、ずっとモヤモヤしてる。

黒白院会長が密着気味なのも…なんか、ヤダ。

 

「…あ、あのさ天っち」

「じゃちょっと外で話しましょうか二人で!これで良いんでしょ!」

「あら、情熱的なんですね~」

「その言い方やめてもらえませんかねぇ!?」

 

あたしが声をかけるのを遮るように、天っちが声を張り上げた。

 

ほんの少し伸ばしかけていた手を引っ込めて、二人の間に視線を走らせる。

 

ニコニコ笑顔な黒白院会長と……前に天っち本人が言ってた言葉を借りるなら、苦虫をスムージーにして口の中をゆすいだうえでそのまま飲み干したような顔をしてる天っち。

 

明らかに天っちが迷惑そうにしている(けど客観的には天っちから誘っている)のに、モヤモヤしたのは収まらない。

それどころか、もっと強くなってる気がする。

 

結局、あたしが声をかけるタイミングも無く、二人は教室を出て行ってしまった。

 

 

 

……因みに教室を出ていくときの天っちは逆立ち歩きだったけど、それもまた嫌そうな顔をしながらやっていた。




今まで没になった選択肢たち【その1】

【①スカートを捲って「さては黒だな」 ②ズボンを下ろして「俺も黒だよ」】

【①空から地面が降ってくる ②地面から空が出てくる】

【①居候に息子を差し出す(意味深) ②外で軽く脱いでみる】

【①一時間の間、発する言葉が全て逆さまになる ②一時間の間、自分の重力だけ反転する】

【①ふんどしで生活する ②ふんどしになる】

【①注目を浴びてから脱ぐ ②ク塩酸を浴びる】


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①神の僕 ②女王様の雄豚

名前は大事、というお話。


誠遺憾ながら、黒白院先輩と例の人気のない場所まで来た。

俺が表ランキングの面々(一部除く)をフッた場所である。

 

ここからなら宴先生以外の誰にも見られないし、少しばかり踏み込んだ話をしても問題ないだろう。

 

「……で、結局何がしたいんですか?あなたは」

「何、とは~?」

「…ですから。あなたがこの絶対選択肢を送ってきている()かその関係者だってのはもう確定してるんですから、誤魔化さずに全部吐いてくださいって言ってるんですよ」

 

敢えて強気に言ってみる。

まだ先輩からは剣呑な雰囲気は出ていないし、最初っから弱気では話し合いも交渉も何もないからな。

 

そして、その判断は正しかった。

先輩は機嫌を損ねた様子もなく、そうですねぇ、と顎に人差し指を当てる素振りを見せながら一度考え、こう聞き返してきた。

 

「天久佐さん。あなたは、人を好きになった事がありますか~?」

 

【選べ ①「質問を質問で返すなあーっ!」 ②「おっと会話が成り立たないアホがひとり登場~~。質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか?マヌケ」】

 

お前ジ●ジョ好きかよぉ!

別にいいじゃねぇか聞き返してくるくらいよぉ!

 

…けどまぁ、マヌケとか言ってない分①の方がマシだよな。

それに選択肢について知ってるだろうし、多少変な事言っても流してくれるだろ。

 

「質問を質問で返すなあーっ!」

「…ですが、私の今出せる答えはこれが一番なんです~」

 

なら仕方ないな。

まぁ元々気にしてないんだけども。

 

【選べ ①「で、結局何がしたいんですかあなたは」 ②対抗戦の時に言い忘れていたので、「祝え!新たなるハーレム王誕生の瞬間を!」と言う】

 

俺②を言おうと思った事一度もないからな!?

対抗戦の時は勿論、今までに一度もないんだからな!?

 

…けど①は①で馬鹿だ。話が無駄に長くなる。

なんだってこう脱線させたがるんだよ、コイツ。

 

「…で、結局何がしたいんですかあなたは」

「ですから~、その答えが『人を好きになった事はありますか』って質問になってるんです~」

「いや、わかってるんですよ。俺は」

 

言外に選択肢のせいだ、と告げてみる。

 

因みに直接的に選択肢のせいだと言及しようとすれば、例の頭痛で妨害してくるので何も言えなくなる。

 

さっき遊王子に『くもだんなとかえる』で説明できたのは、実は奇跡だったのかもしれない。

例えにしてはダイレクトすぎるからな。

 

「で、人を好きになったことがある、ですか」

「勿論、恋愛的な意味で、ですよ~?」

 

む、両親はダメなのか。

俺は基本家族愛が行動原理なんだが。

 

バイトだって、昔母さんが仕事辞めさせられた時に、家計の手助けになればと始めたわけだし。

…まぁ最近はバイトよりも周りからの評価上げに奔走してるんだけど。

 

――で、恋愛的意味で誰かを好きになったか、ですか。

正直…無いな。

 

そりゃこの学園に来てからも来る前からも、可愛いなって思う子とかはいっぱい居たぞ?

けど恋愛的感情を抱いたかと聞かれればすぐにノーと答えるだろう。

悩む余地なんか無い。

 

「まぁ、ないですけど」

 

―――直後。

 

ズキ、と、頭が痛んだ。

選択肢関係の痛みとは違う、奥から響くような鈍い痛み。

 

痛み自体は一瞬で失せたというのに、薄気味悪さと言うか、気持ち悪さというか…そういった感情は、粘っこく残っている。

 

黒白院先輩の方も、何やら意味深げな笑みを浮かべている。

普段ならどんな笑みなのかもわからないはずなのだが…敢えてわかりやすくしているのだろうか?

それとも、繕う事もできないくらいに、感情があふれているのか?

…何にせよ、俺にとっていい事ではない気がするが。

 

「…で、それが絶対選択肢とどう関係するって言うんですか」

「ソレは、()()()()()()()()()に出現する、と言う事です~」

「…俺のようなって…」

 

俺の、普通の人と違う点…そして、黒白院先輩の質問……ダメだ、まったくわからん。

 

【選べ ①逆立ちすればわかるかもしれない。やってみよう ②ブレイクダンスをしてみたらわかるかもしれない。やってみよう】

 

やってみよう、じゃねぇんだよ。

 

なんで逆立ちするかブレイクダンスするかで理解できるんだよ。

体動かした所で、わからないのはわからない―――痛てて、やるやる、やりますから!

 

「…はぁ…移動中も逆立ちだったのに…」

「傍から見たら、まさしくお断り5ですね~」

「何ですかそのまさしくお断り5って…」

 

【なのにお前は… ①して欲しい奇行のリクエストを要求してみる ②自ら考案した奇行に走る】

 

俺はなんだよ。お断り5なのに、なんだよ?

ファンが居るってか?

けど連中は隠れキリシタン的存在らしいぞ。

 

大っぴらにできないって事は、やっぱり日陰者って事じゃねぇか。

 

――で、奇行のリクエストか、自分で考案……②の方が安全に見えるだろうが、もし選択肢の要求してくるライン通りの奇行ができなかったら、無限ループさせられてしまう可能性だってある。

 

…先輩のリクエストが酷な物じゃない事に賭けることにしよう。

 

「…せ、先輩は何かして欲しい奇行とかありますか?」

「して欲しい、ですか~…今は無いので、ストックさせてもらっていいですか~?」

「え、ストック!?」

 

それはつまり、別のタイミングで要求してくるって事ですか。

 

要求されれば、選択肢がその奇行に走るように強制するようなモノを提示してくるだろうし…

こ、こんな事になるくらいなら、何度かやり直しを要求される事覚悟で自らの奇行に走るべきだったか。

黒白院先輩なら事情も知ってるし、恥ずかしさは半減だっただろうし。

 

「…じゃ最後に一ついいですか?」

「はい~。なんなりと~」

「……どうして、先輩が俺に気があるように振舞う必要があるんですか?」

「じれったかったからです~」

 

―――は?

 

じれったかったって、何が?

 

「本来なら、この役目は()()()の物なんですが…中々動かなかったので、つい~」

「あの子…もしかして、ショコラの事ですか?」

「ふふ、どうでしょう~?」

 

確定だな。

隠そうともしていない。

 

…あまり大事な事でもない、のだろうか?

 

…それに、今回ばかりはイレギュラーが多すぎましたし

「い、イレギュラー?なんすか急に…世界観間違ってません?」

「さぁ~?どうでしょうね~?」

「ど、どうでしょうって…」

 

水曜ですか?―――通じねぇか。

 

っと、そんなふざけた事言ってるような雰囲気でもないな。

 

随分と神妙な面持ちで発せられた言葉に、若干気が抜ける。

だって、明らかにジャンルが違うし。

 

この絶対選択肢だって、出てくる内容は本気で自殺を考えるレベルだが…それこそ傍から見ればギャグチックな存在だろう。

それに、神とかその僕とかの話は出ているが、異能バトル的な話にはなっていない。

 

なのに、そんなドシリアスな顔と共に「イレギュラーが多すぎた」って強キャラ感を出されても…なんか違うものの話してません?ってなるだけだ。

 

「―――あ。最後に一つ、聞いてもいいですか~?」

「は、はぁ。構いませんが」

「……あなたの名前は、なんですか?」

「えっ、名前?」

 

何言ってんだこの人。

俺の名前は後にも先にも―――

 

天久佐金出(てんきゅうさかなずる)ですよ、()()()()

「―――金出(かなずる)さん、ですか~…」

 

悪かったですねキラキラネームで。

名前だけじゃなくって苗字までキラキラって、日本狭しと言えど俺くらいだろう。

 

因みに父さんは『天久佐誇二郎(てんきゅうさこじろう)』で、母さんは『天久佐白辺(てんきゅうさしらべ)』だ。

…若干キラキラかな?

 

「……いやなんですかその意味深な表情!?不穏すぎるんですけど!?」

「別に、普段通りですけど~?」

「絶対違いますよね!?明らかに何かを隠してますよね隠す気少なめで!」

 

声を荒げる俺に、途端に表情を普段の飄々としたものに変え、いそいそと立ち去っていく。

答える気はない、と言う事らしい。

 

―――いや、そんなバレバレな隠し方するくらいなら、さっさと言えばいいでしょうに。

普段のその感情の読めなさは何だって言うんですか。

 

【選べ ①壁に股間を押し当てて発狂。満足するまでやる ②この場から急いで移動。代わりに誰かに遭遇する】

 

誰かの正体を言ってくれよ誰かの!!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「じょ、女王様ぁ…!」

「の、のの、罵ってぇ…見くだしてぇ…!」

「―――はぁ」

 

足元に転がる豚を意識の外へと追いやり、ここ最近の悩みの種に向き合ってみる。

 

事は、いつぞやの『何故か天久佐金出に告白してしまった』一件から始まった。

どうしてそんな真似をしたのかも思い出せないし、そもそも天久佐金出について知ったのはその時なのだが…問題は告白した後の彼だ。

 

元々、私…麗華堂絢女は、他の生徒たちの語る評価でしか彼を知らなかった。

 

曰く、変人。

曰く、お断り5最強の男。

曰く、奇行種。

曰く、曰く―――

 

とにかく、周りからの評価に、彼を誉めるようなものはさして無かった。

そりゃ成績は常に学年トップだと言う事は知っているし(彼が一位の座から離れたという話を、終ぞ聞いたことがない)運動だって人並み以上にできるという事も知っている。

座右の銘は『やらない善よりやる偽善』だそうで、手助けを必要としている人が居れば基本は無償で助けるとも。

 

…意外といい評価の方も耳に入ってたわね。

でも問題はここからよ。

 

彼に告白した私は、ある違和感に気づいた。

他の男子からは感じない、ある大きな違和感。

 

―――そう、私の胸に視線を向けてなかったのよ。

 

「ぶ、ぶひぃ…はぁっ、はぁっ…」

「あ、絢女様ぁ!お慈悲をぉ!」

「…すげぇなアイツ…」

「でもあのおっぱいだぜ?あれくらい女王様でも…」

「お前ドMかよ」

「なっ、バカお前…俺はただ、なぁ?」

「…すごくわかる」

 

クラスの下賤な男子共は、今だって私の胸ばかり注視している。

そう。これが普通。

 

―――実際、隣に住んでる幼馴染が『おっぱいってのは大きければ大きいほどいいんだ!』って言ってたし。

それに、兄がわざと私の部屋に置いておくエッチな本にだって、大きい胸の子は男子からの視線が集中してしまうものだって書いていた。

 

だというのにあの男は、微塵も興味を示さないで…あ、挙句は私に『胸以外も素敵だぞ?』とか、『女の魅力は胸だけじゃない』とか―――

 

「麗華堂ォ!!」

「ッ!?」

 

突然の大声に、私含め全教室内の生徒が飛び跳ねた。

物理的に。

 

声の主の正体は、言うまでもなく。

休み時間に自分の教室から少し離れたこの場所まで来て、訳の分からない事をしている男なんてのは、一人しかいない。

 

――――件の、天久佐金出だ。

 

「…な、何の用よ」

「えっ、なんの用ってそりゃお前……アレだよ、アレ。●ーニ君、わかるかな?」

「わからないわよ……それに、ナー●君って誰よ?」

「えっ、ナー●君知らねぇの!?おか●さんといっしょ見てねぇの!?」

「見てないわよ子供向けでしょ!?」

「いやいや、ぐ~チョコ●ンタンとかポコ●ッテイトとか、結構大人も楽しめる作品もあってだな」

「知らないわよ!」

 

や、やっぱりおかしいわこの男。

 

「なんでわかんねぇのかなぁ?」とか呟いてるのが余計に理解できない。

別に、子持ちの母親とか父親とかがその手の番組を子供と一緒に見るのはおかしくないわ。そのための番組でしょうし。

けど高校生よ?この歳じゃ、まだそういう番組は見ないでしょ普通。

 

「でも●HKでやってる番組で一番好きなのは●撃の巨人かファイ・ブ●インだな。―――あ、フ●イ・ブレインの方は大分前に終わってたか」

「だから知らないわよ…」

 

でも進撃の●人なら、兄がリビングで見てたわね。

「見ろよ、この街破壊して人食ってるのが主人公だぜ」とか言ってたのも、なんとなくだけど覚えてるわ。

 

―――って!今はそんな事どうでもいいでしょ!?

 

「結局、なんで私の名前を叫んだりしたのよ!」

「えっ、あー……それはアレだよ、アレ。●ーニく」

「ナー●君に逃げたら何とかなるって思ってるんじゃないわよ!」

「に、逃げてねぇし!これは…戦略的撤退だしっ!」

 

なるほど、だったら逃げてるわけじゃないわね。

戦略的撤退と逃げは違う…蓮太郎…幼馴染もそう言ってたわ。

 

―――同じにしか思えないのは、私の国語力が低いからかしら?

 

「…説明する気はない、って事?」

「え?―――いや、お…」

「お?」

「お、お前に会いたくってな…」

「…はぁ?」

 

な、何言ってるのこの男!?

こんだけ話を脱線させておいて、理由は『私に会いたかった』ってだけ!?

 

…で、でもおかしい話では無かったりするわよね。

だってこの男…私に『魅力がたくさん』だのなんだのと……明らかに私の事、好きだもの。

なら、こうして突発的に会いたくなってここまで来てしまってもおかしくはない…?

 

『思ったことは、悪い事じゃなかったら全部正直に言う』とも言っていたし…

 

じゃあこの男は本当に、私目当てで…?

 

「……大丈夫か麗華堂、顔赤いぞ?」

「は、はぁっ!?そ、そんな訳ないでしょう!?」

 

やたらと棒読み気味に言われた言葉に、自分でも驚くくらいに過剰に反応してしまう。

 

―――こ、これじゃ私がチョロいみたいじゃないっ!

そりゃ兄にはよく『お前ってマジでチョロそうだよな』って言われてるけど、たかだかこれぐらいで…!

 

それに私は蓮太郎が好きなの!恥ずかしいから絶対誰にも言わないけど!

 

…蓮太郎は気弱だった私に明るく話しかけてくれて、いつも私を楽しませてくれた。

だから私も、蓮太郎が言う『おっぱいのバカでかい子』になるためにシリコンを入れたし、性格はキツイ方が萌えるだのと言っていたから自然とそういう風に変えた。

 

根本から自分を変えるくらいに好きな相手がいるというのに、他の男に靡いたりなんてするわけないでしょう。

 

そりゃあ、実のところコンプレックスになりつつあったこの胸の事を『関係ない、どうでもいい』って言ってのけられた事とか、『他にも魅力がある』とか言ってもらった事とか、挙句はシリコンが入ってるって事がバレそうになった時に、自分に視線を集中させる事で庇おうとしてくれた事とかは嬉しいって思ってるし…

最後のは結局、ただ彼への周りの目が冷たくなっただけだったけど、庇ってくれようとしたのには、不覚にもときめいた。

 

…で、そんな事を『奇行さえなければ男の表ランキングが不要になるくらいの超ハイスペックイケメン』にされた……ちょ、チョロいとかチョロくないとか関係なしに乙女心刺激されるわよこれ!?

 

私は蓮太郎の方がもっと好きだけど、もし好きな人が居なかったら、明らかに陥落してたわよ私!?

こんな少女漫画でもやらなさそうな王道展開されて惚れないなんて、他に好きな人がいるか異性に興味がないかのどっちかじゃない!

 

「…んじゃあ、俺もう帰るから」

「えっ、ええ。早く戻らないと、もうすぐで休み時間も終わるわよ…?」

「…本当、すまなかったな」

「べ、別に気にしてないけど…」

「それでも迷惑をかけたことに変わりはない。だから―――」

 

そう言って頭を下げようとした彼は、突然動きを止めた。

 

…よくよく考えてみれば、天久佐金出は奇行に走る前、必ず停止してるわよね。

彼をちゃんと見るようになったのはつい最近だけど、それでもわかるくらいには露骨に。

 

「―――だから俺の…渾身のDaisuke…最後まで、見てくれ…」

「…だ、Daisuke?」

 

鋭い眼光と、やたら弱々し気な声。

そのミスマッチさと、発言の中にあった知らない単語に困惑しているのにも関わらず、彼は気にせずに踊り始めた。

 

―――なぜかサングラスを着用して。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

人前でDaisukeを全部踊りきるという苦行を終えて教室に戻り、授業を受けた後に昼休み。

ショコラは今日は『調子がわるいのでおやすみします…』と言っていた学校にいないため、珍しく手持ち無沙汰である。

 

…ここ最近、アイツが何かやらかさないか(どちらかと言えばやらかしているのは俺である)と面倒を見てばっかりだったからな。

突然やることがなくなると、前まで何をしていたっけかとなってしまう。

 

―――ま、ジュースでも買いに行くか。

 

少し喉が渇いたし、あまり教室にいて奇行に走らせられても困るからな。

 

そんな事を考えながら移動していたその時、これまた珍しい人と遭遇。

 

「…あ、どうも」

「ッ、て、テンキューサ…」

 

チチル・ニューミルク先輩。

欧米系の見た目と、それとはまったく関係のなさそうな語尾の『アル』に、男女分け隔てなく接する人懐っこさ…そして麗華堂に負けず劣らずの爆乳から、女子の表ランキングメンバーに名を連ねている人だ。

 

初対面の人だろうと下の名前で呼ぶらしいし、誰とでも友達になろうと(この学園の全員と友達になると豪語しているのだとか)するらしいのだが…悲しいかな、俺は現在苗字呼びだし、あの時友達になることすら拒まれた。

 

―――挨拶はしたし…気まずいし、さっさと離れるか。

俺は空気の読める…というか、身の程を知っている賢い子なのだ。

 

【選べ ①出会いがしらのパイオツ改め ②出会いがしらの手品】

 

俺の手品はパイオツ改めよりも良くないものだってのかコラ!

何年も練習したんだぞこのヤロー!

 

…まぁ①みたいな名称から怪しい物を選ぶわけにもいかんし②にするんだけどさ。

 

見せてやるぜ、俺の軽い手品…!

 

「先輩、お手を拝借」

「こっ…はぇ?」

 

別に一本締めをするわけではなく、ただ先輩の手を俺の両手で握らせてもらっただけだ。

 

驚いた様子を見せられるし、心なしか先輩の顔も赤くなっているような気がするが、気にしたら心が痛むだけなので無視。

嫌がられてるとか、微塵も考えるんじゃないぞ、俺。

 

すっげぇどうでもいい話だけど、よくあるハーレム物アニメでヒロインが顔を赤くして照れてるのを見て「何怒ってるんだよ」とか的外れたこと言う奴いるだろ。

アイツ、案外間違ってないと思う。

俺からすりゃ先輩が照れてるようにも、怒っているようにも見えるわけだもん。

 

そりゃ好きでもなく苗字で呼ぶような友達にすらなりたくないような男に、突然手を掴まれたりなんかしたら不快にもなるよな。

 

そして「こっ…はぇ?」ってのが何を言いたかったのか。

コハ●ース?

 

…さて、先輩の右手をある程度にぎにぎした所で準備が完全に完了した。

さっさと披露してしまいましょうか。

 

「3、2、1…はいっ、花が咲きました!」

「えっ?―――わぁ…!」

 

手を放し、両手を開いて何も持っていなかった事を見せる。

…まぁ、もう手品をし終えた後だし、見せた所で…なのだが。

 

うんうん、先輩は純粋に驚いているようだし、ここで畳み掛けるとするか。

 

【選べ ①十八番ではだめだ。十七番で行こう ②ド派手に爆発させてみる】

 

十八番って、おはこって意味じゃねぇの!?

純粋に十八番目って事なの!?

 

…②は絶対にアウトだし(ニューミルク先輩の手を爆発四散させるわけにもいかない)①にするしかないが…十七番って、なんの話なんだ…!?

 

「…さて、その花びらを毟ってみてください」

「毟るアルか?」

「はい。まぁ…花占いみたいな感じで」

「花占い…」

 

なんでそこで顔を赤くされるのかはわからないが、まぁ俺の言っている事(言わされている事)の趣旨は伝わったみたいだし、いいか。

 

現在発言すら選択肢に支配されているが、させられようとしている手品の内容はわかった。

それでも、十七番って言うのは良くわからないが。

 

マジでどういう意味なんだろうな…

 

「あ、あれっ?花が…ライターになったアル?」

 

【選べ ①「ジ●ルノ」とドヤ顔 ②「●ルポ」とアへ顔】

 

うん、そうだよな。

お前ジョジ●大好きだもんな。

 

俺もあのシーンを再現してみてぇなぁってなって、その手品をやるようになったもん。

 

けど、挨拶程度の軽い手品(自分で言っているのに意味が分からない)でやるやつじゃねぇだろ。

そりゃこの距離ならできる手品だけど、もう少し離れてたらタネと仕掛けバレちゃってたからな?

 

―――あ、選ぶのは①です。

 

「●ョルノ」

「へ?」

「…なんでもないです」

 

【選べ ①ここで押し負けるわけにはいかない。何か叫ぼう ②半狂乱になりながら腹筋】

 

結局叫ぶのかよ!?

 

「…こ…このジョ●ノ・ジョバァーナには『夢』がある!」

「ジ●ルノ…ジョバーナ?」

「忘れてください。これはただの―――」

 

【選べ ①「中二病です」 ②「厨二病です」】

 

どっちも大差ないだろ!

何を変えればいいんだよ!若干発音変えろってのか!?

 

「…中二病です…」

「チューニビョー……聞いた事、あるアル!」

 

あるアルってなんだ。

それがあるなら、『ないアル』ってのもあるのか。

 

…気になるが、今はそこまで掘り下げないでおこう。

 

「確か、中学二年生くらいになるとかかる病気で…右手を押さえたり、眼帯をつけたり…中には突然叫んだりする人もいるって……あっ!テンキューサもそんな感じアルね!」

「誰が中二病ですか誰が!」

 

【選べ ①右手を押さえ、「抑えきれない…ッ!」と苦悶の表情 ②股間を押さえ、「抑えきれ――る」と涙】

 

②テメェ喧嘩売ってんのか!

そりゃ自分のにそこまで自信があるわけじゃないが、そこまで馬鹿にされて黙ってない俺じゃないぞ!

 

―――痛ぁっ!?おまっ、頭痛で攻めてくるのは無しだろあああああ痛い痛い!?

 

「…お、抑えきれない…ッ!」

「おぉ~…これが、チューニビョー…!」

 

感動されちゃってるよ俺。

あらぬ誤解と共に感動されちゃってるよ俺。

 

【選べ ①「俺と一緒にお茶しません?」とホテルに連れ込む ②「一緒に食べましょうよ」と校舎裏に連れ込む】

 

昼飯もう食い終わってるんだけど。

①は論外だから何も言わないとして、②の方も②の方でおかしいんだけど。

 

最近ショコラのペースに合わせて飯食ってるせいで太って来たしなぁ…ダイエットとは言わんが、食う量押さえて運動量を増やすようにしてるんだが…

 

ま、一日くらい大丈夫だろ。

―――この発言が命取りなんだがな。

 

「い、一緒に食べましょうよ」

「食べるって…あぁ、ランチの事アルね?オッケーアルよ!」

 

遭遇した当初の赤面ぶりはどこへやら。

明るい笑みとサムズアップと共に、俺と昼食をとることを肯定してきた。

 

うっ、眩しい…なんて純粋な笑みを浮かべる人なんだ…!

 

この純粋さは、俺が常日頃癒しの波動を感じているショコラや柔風のソレと比べても遜色ないな。

ニューミルク先輩も、国宝級の存在だったのか。

 

【選べ ①「あ、弁当無いんで、分けてもらえませんか?」 ②「ちょっとそこでジャンプしてみろよ。ヤングジャンプな?」】

 

①が図々しいし、②が何を言いたいのか全然わかんねぇんだけど!?

 

 

あ、ニューミルク先輩と一緒に食べる飯は美味かったですよ。

空気以外は。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『天久佐金出さんを、好ましく思っていま~す』

 

セーラの言葉を思い出すと、なぜか胸がチクチクする。

 

『ショコラ!お前は、俺の事好きか!?』

『はいっ!大好きですっ!』

 

ショコラ(前にお菓子をあげた事がある)がカナヅルに抱き着いていたのを思い出すと、やぱり胸がチクチクする。

 

勿論、カナヅルがセーラの胸を揉んでいた事を思い出しても同じだ。

 

…今まで、他の男子が同じような事を違う人とやっていたり言われたりしていてもなにも感じ無かったのに、なぜかカナヅルがやっていたり言われていたりするのを見るとこんな感じになってしまう。

 

『天久佐君に惚の字?』

 

うぅ…ミユキのあの言葉、本当に本当だったのかもしれないアル…

 

け、けどそんなすぐに惚の字になるのもおかしいと思うアル。

だって、カナヅルと話したのはあの時が一回目。そこまで『チョロい』女なわけがないアル。

 

―――けど、「まずはお友達から」って言葉とあの笑顔を思い出すと…なんか、キュンってなるアル。

 

い、いやキュンって感じじゃなくって!これは…そう、胸が締め付けられる?みたいなやつアル!

…あれっ?それってやっぱり恋なんじゃ…

いやいやそこまでチョロいわけが―――

 

「あ、どうも」

「ッ!?」

 

今日はミユキも休みだし、久しぶりに学食にでも行ってみようかなぁと教室を出ていたのが運の尽き…いや、幸運?

とにかく、そんな偶然がなければ、こうしてカナヅルに会うことも無かったはずアル。

 

―――こ、ここは自然に。そう、自然に挨拶をするアル。

もし変な態度をとって、ついさっきまで歩きながらカナヅルの事考えてたーなんて知られたら…恥ずかしいアル…

 

「て、テンキューサ…」

 

ち、違うアル!なんでカナヅルじゃなくてテンキューサって呼んでるアル!?

 

か、カナヅルだって訝しんで…無い?

これは…ただ『面識ある人とすれ違ったから取り合えず挨拶だけでもしておこう』って思ったから挨拶しただけで、別に返事とかはあまり気にしていないって事…アルか?

 

見る分には…駄目アル。全然何考えてるか読めないアル…

 

け、けどっ!苗字で呼んじゃったのに拘泥してる様子はなさそうだし、許容範囲内アルよ!

 

「先輩」

 

か、カナヅル?なんで手をワタシの方に…?

 

『こ、これがおっぱい!なんて柔らかさ!』

 

あの光景と発言がフラッシュバック。

 

恐る恐る、といった感じで伸ばされているこの手は、奇しくもセーラの胸を揉みしだいた時のソレに似ていた。

 

そして、ワタシの胸は…自慢ではないが、この学園の中でも一、二を争うくらいには大きい。

アヤメのには流石に敵わないと思うけど、それなり以上にはあるはずアル。

 

さらに、カナヅルは自分の意志でセーラの胸を触ったと言っていた…

なら、人並みよりは大きいワタシの胸を触ってきてもおかしくはない!?

 

「3、2、1…はいっ、花が咲きました!」

「えっ?」

 

勝手に熱くなっていたワタシの妄想に反して、カナヅルはただ両手でワタシの手を握っただけだった。

 

―――けど、カナヅルの手って…こんなに硬くって、ゴツゴツしてて…なんというか、力強いって感じの―――いやいやいやっ!それは後で考えるとしてっ!

 

…花が咲いたって…一体なんの事アル?

確かに手の中には何かがあるような感覚があるアルけど…

 

「――――わぁ…!」

 

カナヅルから視線を外して、手の中を見てみる。

するとそこには、一輪の花があった。

あまり花に詳しくないから名前はわからないが、綺麗な花だという事くらいはわかる。

 

カナヅルは、何もない所からこれを出して見せたアルか……ん?おかしくないアルか?

 

この花には、見てわかる通り皺一つない。

茎の部分も折れていないし、まるで生えていたものを今さっき切って来たかのよう。

 

多分、前にカナヅルが特技の所で話していた手品なんだろうけど…た、確かにすごいアル…タネも仕掛けも何もわからなかったアル…

茎まであるのに、こんな綺麗な状態でパッと出せるなんて…皆目見当もつかないアル…(手品のタネや仕掛けを当てるのが好き)

 

「さて、この花びらを毟ってみてください」

「毟るアルか?」

 

なんかちょっと勿体ない気もするアル……けど、手品がまだ続いてるって言うなら、マジシャン(カナヅル)の言葉には従った方が良いアルね。

 

「はい。まぁ…花占いみたいな感じで」

「花占い…」

 

 

花占い………そう聞くと、思い出すのはつい先日くらいの事。

ミユキに勧められて、カナヅルがワタシの事を好きかどうかを―――い、いやっ、ワタシが気になったからとかじゃなくって!

 

…けど、ミユキも最初の頃と大分違ってきたアルね。

ワタシがカナヅルに惚の字だって誤解(本当に誤解なのかどうか怪しくなってきた)した最初の頃なんて、「ちょっと天久佐君抹殺してくるねっ!」とか「私のスウィートエンジェルチチルちゃんを穢さんとする輩は、私が直々に裁く他ないんだよっ!」とか言っていたのに…

 

前に私が「別に好きとかそういうのは無い」って説明した時以来、妙にワタシとカナヅルをくっつけたがるようになって…

ついこの間なんて、カナヅルが一人でいるのを見かけた瞬間に、ワタシと一緒に声をかけようとしたりしてて…

 

まぁ、その時はカナヅルが突然服を脱いで「ロマンティックサブマリン!」って叫んだから、結局何も起こらなかったけど。

ロマンティックサブマリンって何だったアルか…いまだに皆目見当もつかないアル。

 

―――そういえば、ワタシは全然カナヅルについてわかってないアルね。

そりゃ知り合ったのがつい最近だから仕方ないだろうけど…にしても、名前と周りからどう思われているかって事しか知らないアル。

 

…逆に、そこまで何も知らないような人にここまでドキドキさせられているワタシって一体…

 

 

 

―――結局、カナヅルの手品(花を毟ったらライターが出てきた)のタネも仕掛けも暴けず、一緒に昼食をとって終わった。

 

あ…あーんまで要求されちゃったけど……これって、ミユキ風に言うなら…脈ありって、やつアルかね…?




昼食中のお話 【天久佐金出 チチル・ニューミルク】

「ん、美味しいですねこれ」
「テンキューサは学食は初めてアル?」
「基本自炊なんで。安く済みますしね」

…選択肢は俺に先輩の料理を食べさせたがっていたが…今日は先輩も弁当を持っていなかったらしく、内容通りの行動をしなかったのにも関わらず頭痛は去っていった。

これ、優しくなったって事でいいのか?

「…そういえば先輩。気になっていたんですが」
「ん?何アル?」
「ちょっと俺の名前、ここに書いてみてくれませんか?」

手帳とボールペンを手渡し、ちょっと書いてみてもらう。

前に名前で呼ばれていた時から…ちょっと気になってたって言うかね。

「えーっと…テンキューサ、カナヅル…これでいいアル?」
「やっぱり……あの、俺の名前って『てんきゅうさ かなずる』であって、『てんきゅーさ かなづる』じゃないんですよ」
「何か違うアル?」
「その…漢字で書くとわかりやすいんですが…俺の『ずる』は『いずる』からきてるんで、『つ』に濁点じゃなくて『す』に濁点が正しいんです。―――天久佐とテンキューサの違いはまぁ…説明しなくてもいいですよね」

イントネーションというかなんというか、その辺からなんとなく察していたんだが…うん、やっぱりそこ間違えられてたか。

というか日本人でも結構みんな間違えるからな。
俺の名前は『天久佐金出(てんきゅうさかなずる)』であって『かなづる』ではないのだ。

【選べ ①自分の上の口に「あーん」してもらう ②先輩の下の口に「あーん」する】

……特殊ミッション、成功させた意味あった?


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①キャラチェン ②キャラ弁

俺の中の俺、というお話。


「あらぁ、金出ちゃぁん?」

「oh…」

 

後方から聞こえてきた声に、ネイティブな溜息を一つ。

ねっとりとして脂っこく、悪寒を感じさせるこの声。

 

近所の未亡人(49)、権藤大子さんだ。

 

前にも話したと思うが、亡くなった旦那の若いころと俺が似ているとのことで、こうして会うたびに声を駆けられては…

 

「今、帰りなのぉ?」

「あ、あはは…そんなところですね…」

 

密着されるのだ。

 

俺だって健全な男子高校生なのだから、普通は女性に密着されたら嬉しさを感じる。

だが、大子さんはアウトだ。

 

脂ぎった肌と髪、恰幅が良いという言葉だけでは隠し切れないほどの贅肉…極めつけは驚くほどの厚化粧。

正直な話…あまり関わり合いになりたくないタイプの人だ。

 

いや、容姿で人を毛嫌いするのは良くない事なのだろうが…実際目にしてみると、「あぁ、人って見た目だなぁ」って思ってしまう。

 

【選べ ①素っ裸になって「抱いてください」 ②自販機を持ち上げて「筋トレ中ですので!」】

 

お前本当に大人しくならねぇな!

特殊ミッションを、わざわざ人前で…あんな嫌われるような事をしてまでクリアしたってのに、この結果がこれかよ!

俺何のために黒白院先輩の胸を揉んだんだよ!?

 

「……はぁ…」

「金出ちゅゎぁん?」

 

今のどうやって発音したんだ!?

 

…さて、自販機を持ち上げる…そんなことが可能かどうかか聞かれれば、俺は迷いなくノーと答える。

だってお前、自販機ってどれくらい重いかわかってんのか?

例えるなら…例えるなら、なんだ?具体的な数字がわからないな…

 

と、とにかく重いんだよ!!

 

…だが、持つことが不可能だからと言って、大子さん相手に全裸で「抱いてください」は自殺行為すぎる。

精神的にも、恐らく肉体的にも死ぬだろう。

もし通行人が居れば、社会的にも死んでしまうかもしれない。

 

そんなのは嫌だ。死因が大子さんに抱かれてなんて、絶対に嫌だ。

俺にだって、こんな俺にだって相手を選ぶ権利はあると思う。

 

…ってなわけで、自販機に挑んでみましょう!(自棄)

 

「ぬ、ぐ……おぉおおおおおああああああッ!!」

「か、金出ちゃん!?どうしていきなり自動販売機なんか…!」

「き……」

 

【あ、先こっちで ①「キツツキ」と言って、しりとりを開始 ②君が代を熱唱】

 

国家熱唱させんじゃねぇよ!余裕ねぇわ!

 

けどしりとりを開始の方は、意図を理解してもらえないと永遠に終わらないだろうし…大人しく歌うか。

 

【あ、国家なら ①Day●ream café ②ノー●イッ!】

 

難民かお前は!

 

…ってか、ソレ言うくらいなら天空カフェテ●アも入れろよ。

俺が一番好きなのアレなんだけど?

 

―――えっ、これで頭痛くるの!?痛い痛い、わかった、歌うから!

心を込めてD●ydream café歌うから!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「…つ、疲れた…結局全部歌う事になるなんて思わなかった…」

 

何とか大子さんから解放され、ようやく家に到着。

 

…そういやショコラが調子悪いって言ってたし、荷物置いたらおかゆの材料でも買ってきてやるか。

具合が悪い時は茶漬けかおかゆが一番だからな。(一番なのに二つとか言わない)

 

因みに俺は茶漬け派。

 

「ただいまー」

「……あ、おかえりなさーい…」

 

…何だこのすっげぇ元気のない声。

 

普段から明らかに「ザ・元気」みたいなテンションのショコラがここまで落ち着いてしまっていると…なんか、いっそ怖いな。

風邪か?

 

【選べ ①ショコラは風邪に違い無い。焼肉に連れていこう ②ショコラは風邪に違いない。高級イタリア料理の店に連れて行こう】

 

おかゆにするって言ってんだろ!がっつり食わせようとすんな!

 

「…大丈夫か?」

「……」

 

返事がない。

…まさか、まさかとは思うが…倒れてるとか、そんな事は無いよな?

 

急いで靴を脱ぎ、先ほど声が聞こえた場所…リビングへ向かう。

ドアを開け、カバンを放り投げると同時にショコラを探して―――見つけた。

 

…テーブルに突っ伏してるのか。

 

「…お、おい。起きてるか?」

「金出さん…」

「ど、どうした?腹が痛いのか?頭か?それとも気だるいとか…」

「……ません」

「…すまん、なんだって?」

 

普段と打って変わってボソボソと話すものだから、何を言っているのかが聞き取りにくい。

 

ここまで衰弱するとは…まさか、インフルか?

でもまだそんな時期じゃねぇし…早くに感染したって事か?

 

「お腹が……空きません…」

「しょ、食欲不振…だと…!?」

 

食欲不振が症状に現れる病気…と言われてもすぐには出てこないが、この大食漢(漢?)ショコラが「お腹が空かない」と言うなんて、明らかに異常事態だ。

 

顔色も悪いし、どうすればいいか…と、取り合えず病院に…?

―――いや。ここはチャラ神に連絡しておくのが吉だろう。

 

ショコラは選択肢を選んだら空から降って来た、神から送られてきた存在。

なら、一般人の物差しで考えてしまうのはよろしくないのではなかろうか。

 

 

 

 

「……あ、もしもし!?」

『ヘイヘイ金出君、こんな時間にどーしたんだい?』

「い、いや。なんか今日、ショコラの調子が悪くって…」

『そりゃ誰だって不調になるときくらいあるさー!心配しすぎだって』

「で、でも…()()ショコラが食欲がない、なんて言ってるんですよ!?()()ショコラが!」

『そんな強調しなくてもオーケーだって。―――ていうかそんな沢山食べる子だっけー?』

「目を離したら冷蔵庫の中身を空にしているような奴ですからね…一週間分の買いだめをダメにされた時は流石にキレましたよ」

 

あの時は酷かった。

まさかあの量を全部食うとは思っていなかった。

 

「…で、結局どうすればいいですかね?普通に病院に連れて行っていい物なのかどうか」

『うーん……取り合えずは経過観察かなー』

「け、経過観察て……こんな弱ってるんですよ?」

『んー…ま、一応こっちでも調べては見るけど…大丈夫だと思うよ?』

 

お、思うよってコイツ…

 

無責任な発言に、少しばかり怒りを覚える。

だがどれだけチャラかろうが神は神。

普遍的な男子高校生でしかない俺の考えを貫くよりは、大人しく従った方が良いだろう。

 

「…じゃあ、また何か事態が急変したら連絡します」

『オケオケー!んじゃ、バイビー』

 

通話が終了した事を確認し、いまだに机に突っ伏しているままのショコラに視線を戻す。

どうやら眠っているようだが…顔色は悪いままだ。

 

「…一応、おかゆは作っておいてやるか」

 

ショコラを二階の寝室まで運び、起こさないようにしてベッドに横たわらせた後、晩飯を作り始める。

…まぁ、このまま起きてこない可能性もあるが…その時は俺が食えばいい。

 

そうだ。もし俺が食う事になっても大丈夫なように、今から食う分は少なめに……ん?メール?

 

《特殊ミッション 同級生女子の濡れた姿を写真に収めよ(なおどこが何に濡れていても良い物とする)》

 

と、特殊ミッション…!?

あのクリアしても大していい事の無かった、特殊ミッション…!?

 

《クリア報酬 選択肢の内容緩和》

 

選択肢の内容緩和……言葉だけ聞けば魅力的なのだが、一度特殊ミッションをクリアし、そのクリア報酬を手に入れた身としては…

はっきり言おう。全然期待できない。

 

《ペナルティ 選択肢の内容激化&嫌われやすさ補正》

 

…だからと言ってクリアしなければ、このペナルティが俺を苛むのだろう。

そして、報酬はしょぼいくせにペナルティはやたら厳しいのだろう。 

 

モチベーションは上がらないが…やるしかないんだろうなぁ…モチベーション上がらないけど。

 

《タイムボーナス》

 

あ、タイムボーナスを忘れてたな。

前回は終了間際にクリアしたから獲得できなかったけど…引き続き記憶の欠片なのか?

 

《やり直し権》

 

なんだそれ。

やり直すって一体何の話……うん?まだ説明がある?

 

《選択肢によって自分の望まない結果に陥った時、一度だけやり直すことができます》

 

―――や、やり直せる…だと…!?

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は流れ翌日。

結局昨日ショコラは起きてこず、朝になって俺の前に姿を見せた。

―――相変わらずの、疲れ切った様子で。

 

何も変化がない以上、心配にはなるが神に連絡するのも気が引ける(というか意味がなさそう)ので、今日はそのまま学校についてきてもらう事にした。

留守番させている間に悪い変化が起きたりしたら大変だからな。

 

【選べ】

 

……で、今朝は大人しいなって思ったらこれか。

ようやく特殊ミッションをクリアした恩恵がーって思った瞬間これですか。

 

【①ショコラに抱き着く】

 

お前…病人だぞ?

人前でってだけで大分アウトなのに、この状態のショコラって…流石に休ませてやれよ。

 

学校まで連れてきた俺が言えた事じゃねぇけど。

 

【②雪平ふらのに抱き着く】

 

えっ、雪平?

聞くまでもないだろそんなの。

ただでさえ「嫌い」って言われるくらい嫌われてんのに、今なんて羅刹のオーラを放ってるのよ?

昨日の気まずい雰囲気を一日経っても纏ったままなのよ?

 

―――けどそうか。ショコラか雪平のどちらかに抱き着かなきゃいけないってなら俺は―――

 

【③遊王子謳歌に抱き着く】

 

③!?

えっ、三択目!?

なのに抱き着くという事に変わりはないの!?

 

―――さて。

遊王子、遊王子か……アイツ、一日たったのにまだ顔赤くして「照れてる状態(モード)」のままなんだよなぁ…

普段からしているへそ出しについては何も感じていないらしいが…羞恥の基準がわからん。

 

ただまぁ、今の遊王子に抱き着くのはアウトだ、という事に変わりは無かろう。

 

普段のアイツなら、ギリギリ冗談で済ませてもらえたかもしれないが…この状態のアイツにそれを求めるのは酷だろう。

 

ならやっぱり、ショコラに尊い犠牲となってもらう他ないのか…?

 

【④逆立ちで教室を移動し、柔風小凪に抱き着く】

 

逆立ち好きかお前!

四択目ってのにツッコむ以前の問題だろその人選と移動方法はよぉ!

柔風なんて、俺が触れ合ってはいけない存在ベスト10の堂々一位だろうが!

 

なんか選択肢の数が増えたけど、結局ショコラが被害者となることに変わりはないじゃねぇか。

…何だろう、俺が悪いわけではないのに申し訳ない。

もう少し雪平とか遊王子とかと仲良くなっておいて、スキンシップくらいなら笑って流してもらえるようにした方が良かったな。

 

…抱き着くのって、異性の友人間でのスキンシップの枠組みに入れていいのか?

 

【⑤箱庭ゆらぎに抱き着く】

 

まだ選択肢があるのか―――ん?ゆらぎ?

ちょっと脳内シミュレーションさせてもらおうか。

 

『ゆらぎー!』

『わぶっ!?お、お兄ちゃん…?』

『いやぁ、愛する妹に抱き着きたくなってな、はははー!』

『お兄ちゃん…!私たち、最高の兄妹だね!』

『あははー!その通りさシスター!』

『うふふー!』

『あははー!』

 

―――いけるッ!

 

や、やったぞ!これなら俺以外は誰も傷つかずにすむ!

 

【ただし】

 

ん?

……あぁ、教室間の移動の話か。

逆立ちくらいやりますよいくらでも。

 

【教室間の移動は全裸で行うものとする】

 

と゛う゛し゛て゛た゛よ゛ぉ゛!!

 

なんでお前俺を虐めるのに余念がねぇんだよ!?

逆立ちなら許容してやるって姿勢を見せた瞬間にどうして全裸を提示してくるんだよ!?

 

……ちくしょう、これじゃショコラが犠牲なのに変わりないじゃねぇか…

 

【⑥麗華堂絢女に抱き着く】

 

麗華堂か。

まぁ無理だろうな。

表ランキングだって時点でアウトだし、そもそもアイツは俺を毛嫌いしてる節があるからな。

 

胸の大きさ以外は雪平そっくりだな、こうやって考えると。

 

【のではなく、そのおっぱいのシリコンに転生する】

 

いやなんつーもんに転生させようとしてんだお前!

抱き着くんじゃなくてシリコンに転生ってどういうことだよ!?

 

くそ、提示される数が増えてもコイツはコイツって事か…ふざけ始めてやがる。

…いや、ふざけてるのは最初からか?

 

【⑦爽星素直に抱き着く】

 

最初のノリに戻りやがった。

けど相手がなぁ……爽星ぃ…?

 

表ランキング二位なだけでなく、本性が中々アレな方に?

抱き着けと?

 

…この選択肢は見無かった事にしよう。

 

【⑧チチル・ニューミルクと乳る】

 

いやつまらねぇからな?

乳るってのがどういう意味なのかわからんけど、つまらない事に変わりはないからな?

 

…そしてそれをすることも無いだろう。

あの先輩は、柔風やショコラと同じ…純粋なオーラの持ち主なんだ。俺が関わっていいような人じゃない。

 

(バカ)

 

ド直球だなオイ。

でも⑨って出てくるとそう考えてしまうその気持ち…わからなくはない。

 

【黒白院清羅に抱きしめられる】

 

まさかの受動。

先程までの能動から一転、受けに回るのか。

 

まぁ選ばないけどね?対抗戦の時にあんなことがあったんだし、選ぶはずがないんだけどね?

 

【⑩道楽宴を絞める】

 

絞める側ですか。

結局俺も絞められると思うんですけど。

 

【⑪権藤大子さんに抱き着く】

【⑫権藤大子さんに抱き着く】

【⑬権藤大子さんに抱き着く】

【⑭権藤大子さんに抱き着く】

【⑮権藤大子さんに抱き着く】

【⑯権藤大子さんに抱き着く】

【⑰権藤大子さんに抱き着く】

【⑱権藤大子さんに抱き着く】

 

待て待て待て待て多すぎるって流石に!

なんで『さよなら●教えて』みたいになってるんだよ!?フェ●チオか!

 

選ばねぇからな。絶対にソレだけは選ばねぇからな?

ゲシュタルト崩壊するくらいに現在進行形でずっと出てきてるけど、絶対選ばないぞ俺は。

 

申し訳ないが今回はショコラに犠牲になってもらう。

権藤大子さんに抱き着くなんて選択肢が出た時にはもう決定したからな。

 

―――さて、全員の視線を逸らさせるような何かがあればいいんだが…

 

【選べ ①「う、産まれるっ!みんな見ないでっ!」 ②「う、産ませるっ!みんな見てっ!」】

 

…なんでここは二択なんだよ…

 

「う、産まれるっ!みんな見ないでっ!(渾身の棒読み)」

「「「ひゃぁあああ!!?」」」

「「「おえっ…!?」」」

「「流石に出産萌えは無いわ」」

 

なんか反応が不服(マジに受け取られている所や、数人の男子のズレた反応についてだ)だが、ここはもう気にしない。

さっさとショコラに抱き着いて、頭痛が消えたと同時に離れる。

今はそれだけだ。

 

「すまん、ショコラっ」

 

小声で謝罪し、机に突っ伏しているショコラに抱き着く。

 

あまり不快に感じられないように、軽く覆いかぶさる程度で抱き着いたのだが…それでもショコラの温もりやら柔らかさやらいい匂いやらが五感を刺激してくる。

―――こ、ここが学校じゃなかったら…もし、二人きりだったら…危なかったな。

 

しかし、そんな事を考えている余裕は一瞬でなくなった。

 

「……金出さん…あの、そのぉ…恥ずかしいです」

 

その言葉に、俺から目を背けていた全員がこちらに向き直った。

 

彼らの目に映るのは、顔を赤らめて恥ずかしがるショコラと、それに抱き着く俺の姿。

 

本当ならさっさと言い訳やらなにやらをしなければならないのだろうが、まだ催促の頭痛は続いている上に、ショコラのこの発言の方が問題だった。

 

…は、恥ずかしい?お前、前に俺に抱き着いてきた挙句匂いまで嗅いでたよな?

 

「み、皆さんも見ていますし…」

 

えっ…人目気にするような方でしたっけ?

いや、それが悪い事とは言わないし、寧ろその反応が正しいんだろうけど…どうして今になって?

 

後、催促まだ終わらないんですね。

 

「あっ、でも…金出さんにこういう事をされるのは嫌というわけではなく…む、寧ろ嬉しいといいますか…」

「えっ、あの、ショコラさん?」

 

流石に声を出す。

なんかちょっと暴走気味?な気もするし、この辺で一度止めた方が良い気が…

 

―――あ、催促止んだ。

 

「―――その、こういうのは…二人きりのときがいいです…」

「「ッ!!?」」

 

空間に罅が入った。

少なくともそう錯覚させられるくらいの圧を感じた。

 

頬を赤く染め、目を涙がこぼれない程度に潤わせ、俯き気味に発せられたその言葉が持った破壊力は、果たしていかほどの物であっただろうか。

 

「「「天久佐ェ…」」」

「「「屑…」」」

 

―――うん、この反応が普通だよね。

そりゃ体調不良気味の美少女に抱き着いてそんな事言わせたら、誤解のあるなしに関わらずこう言われますよね。

 

…はぁ、どう申し開きをすればいいんだろうか。

 

男子の殺気交じりの視線と、女子の文字通りのゴミを見る目に晒されながら、俺は心の中で涙を流した。

なんかもう、泣くしかできねぇよ…それも心の中で。

 

「皆さん、落ち着いてください」

 

だから、混沌とし始めた教室に突如として凛と響いたその声に、俺も間の抜けた声を出してしまったのだ。

 

声の主の方をぎこちない動作で見てみると、そこには先程までの体調不良ぶりはどこへやら、直立不動で全員を見据えるショコラが居た。

 

―――いや、なんか雰囲気が違う?

 

「先ほどは場所が場所だったので取り乱してしまいましたが、皆さんは誤解なさっています」

 

冷静に…どこか普段よりも知性的に話すショコラに、俺含め全員が何事かと目を見開く。

だがショコラはそれを意に介することなく話を続けた。

 

「私は金出さんをお慕いしていますし、金出さんにはいつも可愛がってもらっています。金出さんのソレは友愛やら家族愛やらに近しい物ですし、皆さんの考えるような不健全な事は存在しません」

 

―――えっと、誰?

 

いっつもひらがなで喋ってるみたいな雰囲気が出てるはずなのに…なんか、漢字を多用してるような印象を受ける。

まぁそれはあくまで感じ方の問題だから、気のせいの可能性だってある。

 

だがこの表情と語調はおかしい。

少なくともクラスメイト達が動揺しざわめきだすくらいにはおかしい。

 

声音は普段の五割増しくらいに静かで、持ち前の明るい雰囲気はどこからも感じられない。

その上目の輝きも通常の五割減だ。

キャラチェンにしたって変わり過ぎだろう。

 

それにコイツから「お慕いしています」なんて単語、普段なら出るわけがない。

コイツは大きく「好き」か「嫌い」でしか物事を判断しないような奴…だったはずだ。

俺がショコラを理解できていなかっただけかもしれないが。

 

「金出さん、どうかしましたか?」

 

ニッコリと俺に微笑んで見せるショコラだが、その笑顔もいつものソレとは大違いだ。

 

普段の能天気さはどこへやら、慎ましやかで穏やかな…大人びた笑顔をしている。

 

「いや、なんかお前…違くない?」

「違う?私は普通にしていますが…」

「…それが普通なのだとしたらあなたはどこのどなたなのでしょうか?」

「?私はショコラですよ?」

「いやいや。なんかオーラだとかそういったものが全然違うから。見た目そっくりの誰かって言われた方が全然納得できるから」

「…あぁ。なるほど。いきなりこの口調で話し始めたら、確かに混乱されてしまってもしかたありませんね…」

 

そう言うと、もう半歩踏み出せば密着してしまいそうな位置から、俺とショコラの周囲に群がっているクラスメイト達の方へと近づいた。

 

「どこから話せば良いでしょうか……私、ショコラは、今の今まで記憶喪失だったんです」

「……はい?」

「突然そう言われてもよくわからないでしょうが、つい先ほどまでは何も思い出せてはおらず、自分の名前すらわかっていない状態でした」

「えっ?でもショコラちゃんはショコラちゃんって…」

「名前は金出さんがつけてくれましたので」

 

…まぁ、チョコレートかチョコラータかのどちらかって言われて、マシなのはチョコレートだよなーって感じで選んだだけなんだけどさ。

 

「…とにかく、右も左もわからないまま、能天気に生活してきたのですが…昨日の朝、寝ぼけてベッドから転落してしまった時に、強く頭を打ったんです。正確には転落して無理やり起き上がろうとした時に寄り掛かった棚から落ちてきた本が激突した、ですが」

 

なるほど、あの大きな物音は本が落ちた音だったのか。

俺の部屋で物が落ちるなんて日常茶飯事だし気にも留めてなかったが…まさかショコラの頭にぶつかっていたなんてな。

 

「その時からずっと気分が悪く、一度学校をお休みしても一向に回復しなかったのです……今思えば、あれが記憶が戻る前兆だったんでしょうね」

「じゃあ、お腹が減りませんなんて言ってたのも?」

「はい。そのせいでした。――――で、ですが…金出さんに、その…抱きしめられた瞬間、一気に全身が熱くなって、頭の中に電流が…いや、いっそ雷が落ちたような衝撃を感じ、全てを思い出したのです」

 

雷が落ちたような衝撃を感じるくらい俺の抱擁はとんでもなかったのか。

 

そりゃ確かに結構な頻度で選択肢に馬鹿にされているこの容姿だ。

奇行は選択肢(コイツ)のせいだと知っているショコラでも、『普段の行動関係なしに気持ち悪い』と強い衝撃(ダメージ)を受けてしまったのだろう。

 

【選べ ①信じられん。試しに自分の頭を叩いてみよう ②信じる他ない。自分の頭を叩いて反省しよう】

 

結局どっちも叩くのかよ!

ってか反省って何を反省すりゃいいんだよ!?

自分の容姿なんて、衣服と清潔感以外どうしようも無いだろうが!

 

…でも①選んだら、叩いた後に続けて何かをさせられるんだよなぁ…(経験則)

 

「急な事で皆さん驚かれたでしょうが、これが本来の私です。先日までの馴れ馴れしい言動をお許しください。そして、今前通り仲良くしてくださいね」

 

誰もひたすら一人で頭を叩き続ける俺を気に留めない。

 

これだよこれ!この無反応(というか無視)が一番助かるんだよ!

 

「金出さんも、今まで―――あ、あの。なぜご自身の頭を?」

「反省してるんだよ」

 

させられているんだよ。

 

ごめんなさいねついこの間まで自分の顔に自信持ってて。

だって昔はモテてたし?顔が良いんだろうなぁって自分でも思うじゃないっすか。

 

それが気に入らなかったんですよね、選択肢さん。

 

―――そして数名、今の説明と俺の行動で笑ったな?

何が面白かったのか言ってみろよオイ。

 

【選べ ①何が面白かったのか聞いてみる(ショコラ) ②何が言いたかったのか聞いてみる(ランダム)】

 

別にショコラは笑ってねぇだろ!

 

「…で、結局ショコラは何が言いたかったんだ?」

「あ、あの…私に言われてもわからないよ?」

「いや全くもってその通りですよね委員長」

 

ランダムで失敗するのは久しぶりだな、とどうでもいいことを考えつつ、ショコラ亜種に向き直る。

 

【選べ ①もう一回ランダム ②「うーん、マ●ダム」】

 

関係ねぇだろ②!

ってかそのネタは対抗戦の時に雪平が使って大部分の人から理解されてなかったじゃねぇか!

 

くそっ、もう一回ランダムなのか…!

 

「で、何が言いたかったんだ?」

「いやなんで俺に聞くんだよ」

「すまん赤川。俺もよくわからない」

 

外したな。

まぁ今回は比較的交流の多い奴…というか友人で良かった。

 

傍から見りゃ変な奴に変わりはないが、ここで(基本誰とでも話すが)滅多に話さない奴が選出されたら気まずくなっちまう所だった。

 

――さ、今度こそショコラに説明を求めよう。

 

「すまんかったなショコラ。結局お前は何を言おうとしてたんだ?」

「えっ…あ、今までご迷惑をおかけしました、と。それと…これからも、よろしくお願いします」

 

【選べ ①「いいよ」 ②「だめだよ」】

 

断る余地ないだろ。

 

確かにいまだに信じられんよ?タチの悪い冗談だって言われた方が全然納得できるし。

けど、もしコイツが本当に本来のショコラなのだとしたら…前と対応を変えるのは、よく無いだろう。

 

多少中身に変化があったくらいで、こっちが敬遠する理由だってないしな。

 

「いいよ」

「ありがとうございますっ!」

 

…一瞬かつてのショコラの片鱗が見えた気がする。

 

まぁ、こうして感情を強く前面に出すようなことは無くなりそうだなと思うと―――少し、物寂しい気もするな。

 

「天久佐君、これは一体どういう事なのかしら?」

「さぁ…?全然理解が追い付かねぇけど、自分で『これが本当の自分だ』って言ってるんだから…信じてやるしかねぇだろ」

「聞き方を訂正するわ。これはどういうシチュエーションプレイなのかしら」

「訂正前が正しいからな?別にそんないかがわしいものじゃ」

「確かにそうね。天久佐君ならもっとハードなプレイをさせているはずだもの」

「お前俺の事なんだと思ってんの!?」

「『性欲という言葉のゆるキャラ』でしょう?」

「『性欲の擬人化』よりも酷い!?」

「名前は『ハラ間瀬太郎』で、主に九州北部で愛されてるのよね」

「なんでジョン万次郎みたいに言うんだよ…ってかなんで九州北部!?ご当地ゆるキャラなの!?」

「口癖は『(゚∀゚)(丸括弧まるターンエーまる)』」

「ま、まるかっこ…?いや顔文字じゃねぇか!どんな口癖だよ!?」

 

というかあの情報から顔文字だと判断できた俺って結構すごくねぇか?

…すごくはねぇか。

 

しっかし雪平…なんか様子がこう、変じゃね?

怒気をまとっているというかなんというか…いやそれは昨日からか。

 

【選べ ①聞いてみる ②触らぬ神に祟りなし ③君子危うきに近寄らず】

 

わ、わざわざ三択にして聞くなと念押ししてきてる…のか。

 

けどやっぱ気になる…というか聞かなきゃ多分しばらくこのままだろうし、さっさと原因解明させたい。

だって昨日含めて、俺雪平に胸の話してないのよ。

胸以外の下ネタならあったかもしれないけど、マジで胸の話は振らされてないんだよ。

だから理由がわからない。なんで怒っているのかわからない。

 

と言うわけで、聞いてみよう(自殺行為の時間だ)

 

「なぁ雪平」

「なにかしら」

「なんでお前そんなに怒ってるんだ?」

「……怒ってなんて無いわ。そもそも私は普段から温厚。怒りなんて感情を持たずに生まれたと誰もが言っているわ」

「いや前に俺に緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)しといて何言ってんの?」

「あら、そんな事あったかしらね」

「あったわ!技名まで叫んでたろお前!」

「とにかく、『晴光の微笑みの爆弾』と呼ばれる私には関係ない話ね」

「なんで●☆遊☆白書なんだよ!?」

「朝の教室天久佐君が奇行に走って独りぼっち♪」

「歌うなや!それに歌詞無理やりすぎる癖に的確すぎるだろ!」

「的確?それは違うわ」

「えっ…それって…」

「あなたは四六時中ドン引きされて独りぼっちじゃない」

「うっせぇわ!」

「あら、私が思うより健康なのね」

 

なんでコイツさっきから歌系のネタ使ってんだよ。

まぁ健康なのは間違いないけども。

 

「でもそうやってすぐに声を荒げてると、すぐに不健康になるわよ」

「誰のせいだと」

「ヤギのパイオツでも舐る(ねぶる)といいわよ」

「いやなんでヤギなんだよ!?」

「あら、豚専?」

「ヤギじゃなかったら豚なのかよ!?――ってかその言葉前にも聞いたぞオイ!」

 

確か宴先生に言われたな。

あの時は…そうだ。雪平が女神に見えてたんだった。

 

今?悪魔じゃないかな。

 

「ってかヤギだろうが豚だろうが乳飲んだ所でその場の怒りは抑えられねぇだろ…」

「?あなたは動物の乳を舐める事に意味を見出すのでしょう?」

「なんでだよッ!?」

「あなたにとって豚のパイオツは怒りを抑えるだけでなく、貧血を直し解熱作用があって、咳止めになり筋肉痛を押さえ、胃腸を整え熱を下げ、消化を支えてくれるのよね」

「ほとんど七草がゆの効能じゃねぇか!」

「この場合は天久佐がゆね」

「『さ』しかあってねぇよ!…ってかお粥でもなんでもねぇだろソレ!」

「じゃあ天久佐パイオツ」

「それは俺のパイオツだろ!」

「…こんな時間からそんな卑猥な言葉、恥ずかしくないの?」

「お前が言うか!?」

 

なんだろう、埒が明かない気がする。

 

さりげなく催促の痛みも消えているし、もうコイツと漫才じみたやり取りをするのは終わりにしよう。

 

…とにかく今はショコラだショコラ。

記憶を取り戻したというのなら、今までは何も無かった選択肢関連の情報が手に入るかもしれないし…何より、コイツの本当の名前を知ることもできるだろう。

早速詳しい話を…あ、ダメか。これは家で聞いた方が良いな。

誰にも聞かれちゃいけない話だろうし。

 

―――っていうかショコラ、なんか言いたげな顔をしているが…どうしたんだ?

 

「お二人の関係は記憶に残ってはいましたが、こうして実際に見ると…」

「見るとなんだよ…もしかして」

 

【選べ ①「お似合いカップルか?」 ②「夏×金よりも良いカップリングか?」】

 

すまん雪平ッ!①一択だわこれ!

 

「お…お似合いカップルか…?」

カップル!?

「少し、違いますね…ただ、お二人の愛情表現がこのようなのを知っていましたが…こうも仲睦まじいと、嫉妬してしまうなぁと」

愛情っ!?

「……なぁ雪平。さっきからなんか言ってるか?」

「…別に、何も無いわ」

 

にしてはさっきから雪平の方から随分と可愛いらしい声が聞こえてきてたんだが…幻聴?

でも前に何度かこう言う事があった気がしなくもないぞ?

 

って事はやっぱりさっきの声は雪平が…?

いや、無いか。流石に無いな。

 

「…ってか、カップルとかふざけた事言った上で言うのはアレだけど…どこに仲睦まじさを感じたんだよ」

「?そういう所ですよ?」

「どういう所ですの?」

「?」

「??」

 

お互いに不思議そうにするだけで、言葉すらない。

 

いやいや、さっきの会話聞いてた?

下ネタか毒しか吐かれてなかったんですけど?

これがもしアイツのデレだったとしたら、『下デレ』&『毒デレ』とかいうわけのわからん新境地が生まれるんですけど?

 

「そもそも、愛情表現という所は否定していないじゃないですか」

「それは―――」

 

言い忘れただけなんだけど。

そう言おうとしたが、時すでに遅し。

大人しくなった(当社比)選択肢は、黙っていられなかったらしい。

 

【選べ ①鼻で嗤う ②微笑と共に誤魔化す】

 

もうこの叫びは何度目になるかわからないが、それでも言わねばなるまい。

 

―――説明させて!?

 

「…ふっ…さて、な」

えっ…そ、それって…!

 

…やっぱり可愛い声、聞こえてくるよなぁ?

何?俺幻聴やばいの?

本格的に病院行った方が良いの?

 

「……やっぱり」

「あん?」

 

色々な感情が混ざりに混ざってなんか虚無に至りそう(中二病並感)だったが、ショコラが何かを呟きだしたのでそちらへ意識を向ける。

 

「ちょっと――――いえ、かなり…妬いてしまいます」

 

唇を尖らせ、拗ねた様子でそう言ってのけたショコラに――――俺は、ただこの言葉を贈るしかできなかった。

 

「誰お前」




次回予告 【爽星素直、作者】

「晴光学園表ランキング女子の部第二位、爽星素直ですっ!」
「作者です。よろしくお願いします」
「…えーっと…次回は、ショコラ?ちゃんのお話らしいですね!」
「ええ。原作がそうなので、その予定です」
「予定?変わるかもって事ですか?」
「いやぁ、まだ一文字も書いていないどころかタイトルすら決まってないのでね。もしかしたら別の回になるかもしれません」
「…じゃあ、次回予告する意味あります?」
「いい質問ですね。―――ぶっちゃけありません」
「―――――じゃあ、一ついいですかー?」
「なんでしょう?」
「……なんでアタシだけ対抗戦後の話無いの?」
「えっ」
「え?」
「だ、だってまだ天久佐君の事完全に好きになった訳ではないじゃないっすか」
「そりゃお断り5最強の変人だし、好きになるわけないじゃん」
「えぇ~?でも反吐が出ると言いつつ超嬉しいなんて言って」
「ぎゃあああああ!!?なに言ってくれてんだテメェ!!」
「わっ、ちょっと爽星さん!?メッキ!メッキ剥がれてますよ!?」
「チッ、後で覚えとけよ―――――では、今回はここまで!次回もお楽しみにー!」
「後で!?あっ、お、お楽しみにー…」


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①Ali●e A life ②Go! N●w!

砕かれる心象風景、というお話。

…龍騎要素ほぼゼロです。


時は流れ午後七時、場所は変わり自宅。

記憶を取り戻したとか言っていたショコラは、特にその状態から変わることなく大人しい雰囲気のまま一日を過ごした。

前までは授業中に眠っていたのに、今日はしっかりと姿勢を正して聞いていたし、教室を移動して菓子をもらいに行くような事も、クラスメイト達から菓子をもらう事も無かった。

 

それが何ともまぁ品行方正過ぎて、かつてのショコラとの温度差に若干引いてしまう。

 

いや、いい事なんだろうけどね?

でも俺にとっての『ショコラ』は前のショコラなわけで…

 

「…神に連絡しておいてはいるけど、大して何も情報は無かったしなぁ…」

 

やたら説明口調で話したが、実際大した情報は無く終わった。

 

ショコラが記憶を取り戻したとか言ってます、と話したら「ならその子から詳しく聞いた方がいいんじゃない?バイビー」と言って電話を切られたのだ。

…本当にやる気あるんだろうか、あの神は。

 

「金出さん」

「ん?どうしたショコラ」

「ご飯ができたので…」

「えっ、ご飯って…その、お前が作ったのか?」

「は、はいっ」

 

考え込んでいると、ショコラから声をかけられる。

 

ご飯ができた、と言っているが…まさかコイツが作ったと?

料理のさしすせそを知らず、手伝いを頼んでも皿を出すくらいしかできなかったコイツが?

 

いくら記憶が戻ったとは言え、流石に信じられない。

確かに台所の方から物音は聞こえていたが…まさか料理を作っている音だったなんて、微塵も考えていなかった。

 

間の抜けた顔をして質問する俺に、若干照れくさそうにしながらもうなずいてくるショコラ。

 

うーん…そうか。

手料理か。女の子の。

 

【選べ ①クールにいただく ②己の心のままに叫ぶ ③一口も食べずに全て捨てる】

 

「イェエエエエエエエエッイ!!」

「わっ!?ど、どうかしましたか!?」

「FOOOOO!!」

 

突然叫びだした俺にショコラが驚くが、それを無視してさらに狂喜乱舞。

 

昔はモテた、等と語っている俺だが、その実女の子の手料理をもらったことは数度しかない。

しかもその全ては同一人物…だった気がする。

これもまーたあんまり覚えてないんだよなぁ…すっげぇ大事な事だと思うんだけども。

 

…と、いう事でだ。

俺は現在、記憶に真っ当に残るという意味では初めて美少女からの手料理をいただけると言う事になる。

これを喜ばずして、何を喜べばいいだろうか。

 

―――まぁ、③があまりにもゴミ選択肢だったのもあるんだけどな。

 

「……ふぅ。じゃ、早速食べようかな」

「え、えーっと…?」

「今の叫びは心の声だから気にしなくていいぞ」

「は、はぁ…」

 

呆れ気味な目を向けてきておられる。

少しテンションを上げ過ぎたか。

 

…っていうか、今になってようやくテーブルの上を見てみたけど…多くね?

ハンバーグ、カルボナーラ、チャーハン、ミックスサラダ、ラザニア、きつねうどん等々――――この短時間で、一体どうやって作ったというのだろうか。

参考までに言っておくが、我が家の台所は一般的な家庭のソレと同程度のサイズしかない。

つまり、台所が広かったなどと言う理由では決してないのだ。

 

さらに言うなら、なぜか主食枠が多い。

でも、ショコラだからな…元々大食いで、それを基準に作ってしまったのだろう。

それにこの量だ。二人で食べるつもりなのだろう。

 

まぁおかしいよな。

俺の分をショコラが作って、ショコラの分を俺が作るって…時間とか色々無駄じゃね?

 

【選べ ①全て一人で食べる ②一口食べ、酷評し、全て捨てる】

 

お前には人の心ってのが無いのか!?

―――そういえば無かったな!

 

「…な、なぁショコラ。これ…全部俺が食っていいか?」

「えっ?」

「あぁ、いや。その…ほら、すっごい美味しそうだし?ついついそう言っちゃっただけで…なんならショコラの分は俺があとで作るし―――」

「い、いえ。そういう意味で驚いていたのではなく。――――その、そこまで喜んでもらえるなんて思っていなかったので…嬉しくって」

 

照れた様子を見せるショコラに、「変わったなぁ」なんて思いつつも、なぜ俺が「一人で食べる」なんて馬鹿な事を言った事に対してツッコまないのかを問うてみる。

 

すると、中々に予想外な返事が返って来た。

 

「あ、私に食事は不要ですので、元々全て金出さんに食べてもらおうと…」

「えっ?」

「はい?」

「…食事、不要?」

「あ―――はい。記憶を失っていた頃の私は、それはもう四六時中何かを口にしていましたが…本来なら、神の僕たる私には食事はおろか睡眠すら最悪必要ありません。何日かに一度だけ、どちらもほんの少し摂取すればそれだけで十分なので」

 

何それ初耳なんですけど。

 

じゃあ俺が今まで出していた多額の食費は…全て、無駄だったと?

―――いやでもショコラが飯食って目を輝かせて破顔させてるのを見るのは嫌いではなかったというか好きだったし、不要だからってそんな『人外』みたいな扱いをするのは俺的にどうなのかって話だし…うん。今までのは無駄じゃない。

自分の満足のためにやってたんだ。

課金と同じだな。うんうん。

 

「あれ?でもお前、クラスの連中と昼飯食ってたろ?」

「皆さんと食事をとるという行為自体は楽しいですし…不要だとは言え、摂ったから何か悪いことがあるというわけでもありませんから」

 

微笑んで見せるショコラに、何度目かの「変わったなぁ」という感想を抱く。

そりゃ記憶が戻ったとなりゃ幾分か変わってても仕方ないだろうけど…ここまで大きな変化があるなんて、予想だにしなかった。

 

「…まぁ、冷めちゃ悪いしさっさと食うか…本当にいいのか?全部俺が食っちゃって」

「はい。それに…金出さんは、沢山食べる人だと記憶していますから」

「―――本当はそこまでフードファイターじゃないからな俺」

 

ショコラが食っている所を見ると、つられて俺もついつい食べちゃうだけだ。

本来の俺はもっと小食……少なくとも、家族や田中達からはそういわれている。

 

「そ、そうだったんですか?それはその…ごめんなさい」

「いや、謝られるような事じゃねぇさ。それに―――」

「それに?」

「ショコラレベルの美少女が、俺にって作った料理だ。残すわけないだろ」

 

可愛いは正義。

キュート、イズ、ジャスティスである。

 

絶対選択肢のせいで恋愛…いや、女性と無縁の人生を送る事になる前からモットーにしている事だ。

他のモットーには「やらない善よりやる偽善」等があるが、それはどうでもいい話で。

 

とにかく、可愛い子が俺のためにと頑張ってくれたのだ。

そしてその結果として手料理がここにある。

いくら山のようにあるからと言って、食べない理由があるだろうか?いや無い。

 

では早速、いただきましょう!

いやぁ、美少女の手料理ですよ、手料理!

見た目と匂いはいい感じだが、味はわからない…けどま、不味くても完食するんですけどね?

 

んじゃあ取り合えずこのカルボナーラを一口……ッ!?

 

【選べ ①心の底から(感想を)出す ②腹の底から(中身を)出す】

 

「うまい…!うまいぞこれ!」

「ほ、本当ですか!―――よ、良かった…」

 

俺に聞こえないように声を出したショコラだが、その手が小さくガッツポーズしている事は視界の隅に映った程度でも簡単に分かった。

というか俺、鈍感難聴の対極な存在だし。

どんだけ小さく言ってても聞こえるぞ?

 

「うまい、うますぎる…!控えめな味付けかと思ったら、しっかり口の中に風味が残って…ほんのりかけられたブラックペッパーが良い味出してるのもいい。パスタとソースもうまく絡まってて…最高だ」

「そ、そうでしたか!ぜひ、他のもどうぞ!」

「おう!」

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~!食った食った!ご馳走様!」

「お粗末様でした」

 

さて、完食した感想ですが(ギャグなし)すっごく美味しかったです。

まぁ見た通り量が多すぎるなぁとは思ったけど、それがどうでもよくなるくらい美味でした。

 

一つ一つ語っていきたい所だが、そんな事をしていれば文字通り日が暮れるので割愛。

 

―――さて、皿洗いでも…うん?

 

【選べ ①ショコラに全てやらせて自分はテレビを見る ②ショコラに家事をさせるのは申し訳ない。皿を舐めて綺麗にしよう ③ショコラは本来何のためにいるのか。オ●ペットの意味を思い出せ】

 

…えぇ……取り合えず③は考えるまでもなく除外ね。

 

ショコラに全ての家事を押し付けて、自分だけが楽な思いをする…なんてのは、俺のポリシーだとかなんだとかに反するのでやりたくない。

やりたくないが……流石に皿を舐めまわして綺麗にするなんて、衛生面的にも絵面的にもアウトだ。できるわけがない。

 

すまないが…①を選ばせてもらおう。

 

「な、なぁショコラ」

「はい?」

「皿洗い、任せていいか?」

「任せるも何も、元々私がやるつもりでしたので!金出さんはお疲れでしょうし、休んでいてください!」

 

嬉しそうにそう言うと、俺の返事も待たずに食器を台所へと持っていき始めたショコラ。

…家事をすることの、何がそんなに楽しいんだろうか。

 

働くことに生きがいを感じるんです、なんて馬鹿な事を言い出したらどうしよう。

労働はあくまで金をもらうための過程であって、そこに快楽も何もないはずなんだがな。

 

―――っと、勝手な憶測で物を語るのは良くない。

父さんも前にそんな事を言っていた気がする。

 

今の俺にできるのはテレビを見て無駄に時間を使う事だけだ。

選択肢がそう言っているのだし仕方ないだろう。

…でもこの時間の番組って、何があったっけか。

最近はバラエティすら見てないからなー…深夜アニメならタイトルも時間も暗唱できるんだが。

 

【選べ ①ドラマを見る ②パシ●ミナエースの好きな作品を一つ】

 

②は何なの?発表しろって事なの?

それともこの場で見ろって事なの?

 

―――現在時刻、八時三分。

深夜と言うには早く、その手のアニメを見るには早すぎるだろう時間帯。

…いや見る時間は人それぞれだから何とも言えないが。

 

時間だけが問題というわけではなく、テレビがある場所とショコラが居る場所…つまりリビングと台所が近いという事も問題だ。

この真っ当な状態のショコラの前で、堂々と『美少女吸血鬼に「体液なら何でもいい」と言われて精液を飲ませる男子高校生の話』を見る訳にはいかないだろう。

前までのショコラでも同じだ。

 

―――ま、ここまで長く悪い点を話す必要は無かったか。

とにかく①だ、①。

この時間にやってるドラマがあるのかどうかはわからないが、やっていたとしてもそんな不健全な物はやっていないだろう。

 

「…っと、まさか本当にやっているとは」

 

これは…恋愛ドラマか。

―――あ、響歌さん(遊王子の母さん)出てんじゃん。

あの人ってまだドラマに出演してたりするんだな。

もうニュースのコメンテーターしかやってないと思ってたわ。

 

「…金出さんがドラマを見ているのって、新鮮ですね」

「確かになぁー…全然こういうの見ねぇし……ってかもう終わってたのか。ま、隣座れよ」

「あ、どうもです」

 

ショコラが着席したのを見て、再びテレビに視線を向ける。

この俳優…最近ネットニュースで見たな。

なんかのランキングで一位取ってたような…あんま覚えてねぇな。

 

『―――んっ』

「…」

「……」

 

演技力高ぇな、なんてことを考えながら楽しんでいたその時、まさかのキスシーンが流れた。

まぁ恋愛ドラマだ。こういう事があっても仕方ないだろう。

 

…だがなぜこんな時間から結構ハードなディープキスなんだ。洋画か。

 

こんなのこの時間から流してちゃ…気まずくなるだろ。

今の俺とショコラみたいに。

 

チラリとショコラを横目で見てみると、頬を染めて俺とテレビとを交互に見てきていた。

…うん、そりゃ異性で二人きりの状態でこんなの見たら…まぁ意識しちゃうよな。

前までのショコラならわからなかったが、今は記憶を取り戻し、清楚系と成ったショコラ。

ディープキスという行為自体は知っていても、それを見るのは中々に衝撃的だったのではなかろうか。

 

「…チャンネル、変えようか?」

「あっ、い、いえ!全然、構いませんよっ!?」

「…気持ちはまぁ、わからなくはねぇよ?」

「えっ!?」

「え?」

 

なんでそこで驚くんだよ。

 

そりゃ気まずいってのくらいわかるぞ?

実際俺だって気まずく思ってるわけだし。

 

まさかこいつ、俺はこの程度じゃ何も感じないくらい精神が屈強だと思っていないか?

そりゃ選択肢の奇行を毎日人前でやらされて、その上で動じずにいるんだからなぁ…精神的に強い人だと勘違いされても仕方ないか。

 

「―――じゃ、じゃあ!」

「んぉっ、どうした?」

「…その……か、金出さんは…」

 

指をせわしなく動かし、次の言葉が言えずにいるショコラ。

これは俺が察するべきなのだろうが、どうしても続きがわからない。

 

だからと言って「あっ、そうだ(唐突)俺風呂入れてこなくちゃ」なんてこのタイミングで言うのは流石に空気が読めてなさすぎる。

そんな真似できない。できるはずがない。

できるとすればそれは強く毛の生えた心臓を持った奴か、超弩級がつくくらいの朴念仁―――

 

【選べ ①その場のノリで、ショコラにディープキス ②「あっ、そうだ(唐突)俺風呂入れてこなくちゃ」と立ち上がる】

 

または絶対選択肢(この馬鹿)である。

 

②の空気を読めていない発言が、つい先ほど俺が考えた文章なのが余計に腹立たしい。

しかし①がダメな事は一目瞭然…これでイケると判断する奴が居れば、それはただただ自意識が過剰な奴かマジモンのイケメンだけだろう。

それもとびっきりバカの。

 

「わ、私とキ―――」

「あっ、そうだ(唐突)俺風呂入れてこなくちゃ」

「……へ?」

「……すまんショコラ、後で聞くわ」

 

返事を待たずに部屋の外へ出る。

だってそれしか俺にはできないのだから。

 

―――いや気まずッ!めっちゃ気まずいんですけどッ!?

 

なんか言いかけてたじゃん、ちゃんと話そうとしてたじゃん決心できてた様子だったじゃん!

それをお前()、風呂入れてこなくちゃって言って、黙らせたのか?

 

…愚かー!一から十まで愚かー!

でも全部選択肢が提示したモノだから俺にはどうしようも無い。

言ってしまえば不可抗力。

 

他の人…何よりショコラからしたら俺が悪いんだろうが、今回ばかりは運がなかったと諦めて欲しい。

俺もいつもそうやって精神的ダメージを軽減してる。

 

仕方なかったってやつだ。

 

【選べ】

 

そして、俺が選択肢に責任を押し付けるか悪口を言うかすれば、こうして必ず顔を出してくるのも仕方がない事なのだ。

この出しゃばり屋め。これ以上俺をどう苦しめるというのだ。

 

【①壁を舐める ②便器を舐める ③ショコラにディープキス】

 

なぜそこまでしてショコラとディープキスさせたがるんだコイツ。

俺が選ぶわけないだろ。

 

普段ならプライドやらなにやらでやらないだろうが…この場合の最適解は①。

諦めて舐めさせていただきましょう。

 

後でしっかり掃除するので、父さんも母さんも許してください。

 

「…レロ、レロォ…ど、どうしてこんな真似を…」

 

催促の痛みがなくなるまで舐め続けた後、嘆く。

…さっさとアルコール除菌シートで拭くべきなのだが、そんなのはどうでもいいと言わんばかりに嘆く。

 

何が悲しくて気まずい空気を作らされたり壁を舐めさせられたりしているんだろうか、俺は。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「はぁ~…生き返るなぁ~…」

 

風呂はいい。

この文化を作った人間に、俺は生涯敬意を表し続けるだろう。

 

因みに風呂の文化を作った人間と、サウナという文化を作った人物は同じくらい尊敬している。

どちらも心を洗い流し、調えてくれる素晴らしい物だからな。

 

ロウリュをしてくれる店員さんにも同じくらい敬意を表するし、心を癒してくれる的意味では小動物やら柔風やらニューミルク先輩やらかつてのショコラやらにもそのような念を抱いている。

 

まぁ一番尊敬しているのはエロ漫画を描いてる人なんだけどな。

こればっかりは譲れない。

だって、男の子だもン。

 

―――なんてどうでもいい、とりとめのない事が頭の中で出たり消えたりを繰り返していたのだが、突然その平穏な時間をぶち壊すような事が起こった。

 

「…し、失礼します」

「んー…?なんだ、ショコラか――――ぇえええええええええええええッ!!?」

 

俺のゆるゆるふわふわしていた心象風景が、まるで鏡が割れるようにして砕け、そのまま朝焼けに包まれて…いやいや、龍騎のオープニングじゃ無く。

とにかく心の中の平穏が音を立ててくだけ散ったのだ。

 

戦わなければ生き残れない世界の戦士が頭の中を駆け巡るくらいには驚愕したし、衝撃的だった。

 

えっ、なんで?なんでショコラが浴室、入って?

 

一糸まとわぬ姿が視界に映っているという現実と、俺が入っているのに風呂に入ってくるはずがないという固定観念がせめぎ合い、更なる混乱を呼ぶ。

 

―――ってか改めて思うが、体つきエロいな。

出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでる…ハリのある体っていうか…いやいや!何冷静に思春期男子みたいな事考えてるんだよ俺!?

…いや思春期男子だからまともなのか?

 

「よ、浴槽…失礼しますね」

「えっ、あ、あぁ…」

 

随分と長い事考え込んでいたらしい。

体を洗い終えたショコラが、恐る恐る湯舟に入って来た。

 

―――うん?

 

俺の家の浴槽は、一般的な家庭のソレと変わりないサイズしかない。

今よりももっと体の小さかった子供の頃にお父さんと一緒に入ったが…その時でも、かなり密着しなければいけないくらい狭かったはずだ。

 

その中に、体格的には子供と言えないような肌の男女が入る…?

 

ちょ、やばくないっすかねぇ!?

 

「ごめんショコラ!なし、今の無し!見て、この浴槽かなり狭いから今の状態で入ってこられると…!」

「ん…しょ。な、何とか入れました…ね?」

 

当たっている。

何が?

胸が。

 

…お前向き合う形で入ってくるか普通!?

 

【選べ ①もう我慢できん。いただきます ②待て待て、しっかり理由を聞こう。なぜこんな真似をしているのかと】

 

―――そうだよ、理由だよ理由!

なんでコイツいきなり一緒に風呂に入りだしたのさ!?

 

前のアホの子だった時でもそこまではやってなかったってのに、なんだって清楚系になって混浴なんて真似を…?

 

「な、なぁ!?」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

声が裏返ってしまった。

ダメじゃないか。

俺が緊張してどうする。

 

―――いや無理ィ!思春期男子が、目の前に全裸の美少女が居て平常心保って冷静に思考&行動できるなんてソレ幻想だから!

理性を縛り付けてるだけでも十分頑張ってると言えます。

さっきの選択肢だって、一歩間違えれば①を選んでいた可能性だってあった。

 

それでもこうして②を選んだって…俺すごくない?

 

「……なんで急に、風呂に…?」

「ま、まだお風呂に入ってませんでしたし…」

「な、なるほど…」

 

確かにショコラはまだ風呂に入っていなかったな。

 

…って「なるほど」とはならんでしょ!

俺と一緒に入ってることの説明にはなってないからな!?

 

「…じゃ、じゃあどうして俺が入ってるってわかってて入って来たんだ…?」

「……」

「あ、あの。ショコラさん?」

 

返事が返ってこない。

な、なんなの?俺なんか触れちゃいけない話題に触れたの?

 

「…金出さん」

「なんでしょう…?」

「好きです」

 

―――なんて?

 

今コイツ、なんて?

好き?好きって、何が?

なぜ今そんな事を?

 

「好きです。金出さん」

「…た、食べることが?」

「違います」

「アッ、ハイ」

 

あまりに真剣な目をして言うもんだから、こっちもふざけるにふざけられない。

 

でも、なに?

それと俺が居るにも関わらず風呂に入って来た事がどう関係してるの?

 

「―――ダメ、でしょうか?」

「いやわかんねぇんだって。なんでいきなりそんな事言いだしたのかもわかんねぇし、混浴状態になったのかも分からないし…何より近い近い!さっきより密着してきてるの何なの!?俺の事ヘタレだから手を出すはずがないって見くびってんだったらお前マジで一生心に残る傷ができることに―――」

「金出さんなら、良いですよ…?」

 

ショコラサン、それ殺し文句過ぎませんかね。

 

潤んだ瞳で俺を見てくるだけでなく、話している最中にも近寄ってきている。

コイツ、マジで一回男の恐ろしさを教えてやった方が良いんじゃなかろうか。

 

「……その、好きってのは…likeの方の?」

「loveの方です」

 

だ、断言されちった。

 

もはや密着度合いは抱き着いている、ってレベルだし、なんか雰囲気までもエロくなってきてるし、理性とか何やらがもう限界気味なんだが…

 

そもそも、なんでいきなり俺の事を好きだなんて言ってきたんだ?

はっきり言って、コイツに好かれるような事をした覚えが無いんだが…

 

「その…どうして俺なんだ?別に俺、お前に好かれるような事してないよな…?」

「わかりません。―――ですが、恋することに、理由は不要だと思います」

 

一理ある。

 

誰かを好きになることに、理由なんてのは不要だろう。

相手に好意を持っていれば、そこに至るまでの過程やらなにやらはどうでもよい…そんな気もする。

 

「……ですので、その…さっき、金出さんは「気持ちはわからなくない」と言いましたよね?」

「まぁ、そうだな」

「それは私と同じで―――キスしたい、と思っていたと言う事ですよね?」

「なんで!?」

 

えっ、気まずいって思ってたんじゃないの!?

そりゃ確かに濃厚なキスシーンだったけども…だからって「じゃあ実際にキスしたいなぁ」ってなるか普通!?

 

「……やっぱり、金出さんは違いましたか…で、ですが!私は…金出さんと、キス、したいです!」

 

ぐい、と顔を寄せてくる。

互いの目には、互いの顔しか映っていないような距離だ。

 

自然と息が荒くなるのを感じる。

―――緊張して当然か。

全裸の美少女に、もう数センチでキスができる距離に接近されて…ドキドキしない男がいるわけがない。

 

「…金出さんは、私の事…嫌い、でしょうか…?」

「そ、そんな事は、無い…けど」

 

俺だってショコラは好きだ。

だがその好きはラブじゃない。ライクだ。

恋愛感情的なモノは微塵もない。

 

…が、そんな事は今の暴走気味のショコラには通じないらしい。

 

「な、なら……」

 

さらにゆっくりと近づいてくる。

次第に、唇と唇が触れ合いそうになる。

 

これではダメだ。ダメだろう。

その場の雰囲気に流されてキスだなんて、絶対に良くない。

 

だが拒みたくないという思いがあるのも事実だ。

 

あぁ、もう触れてしまう―――と、次の瞬間。

 

【選べ ①このまま唇を奪い、舌をねじ込む。確実に嫌われる ②逃げる。全力で逃げる。なんやかんやショコラが前に戻る】

 

「すまんショコラ!ヘタレな俺を許してくれッ!」

「きゃ…っ!?」

 

ショコラを押しのけ、浴槽から無理やり出る。

しかし立ち上がる時の力が強かったのか、ショコラが倒れ、浴槽の角に頭をぶつけてしまった。

 

それに気づいた瞬間、下半身を隠すなんていう必要最低限の事すら忘れて、真っ先にショコラの身を案じた。

 

「お、オイ!?ショコラ!?」

「ん…う、うむぅ…」

 

ダメだ、目を覚まさない。

そんな強くぶつかったようには見えなかったが、当たり所が悪かったのだろうか。

確かに音は酷かったような気もするけども…

 

「……ん、あ、あれ?金出さん…?」

「ショコラ!?―――あ、あぁ…良かった。ごめんな?俺が無理やり押しのけたりしたから…」

「えーっと……ごめんなさい。なんの話だか、さっぱりです」

「―――ショコラ?」

「はい?」

「…お前、ショコラだよな」

「はい」

 

返事を返してくる。

だが、先ほどまでのショコラと何かが違う。

そう、まるで―――かつての、記憶を失っていた時のショコラと同じような雰囲気を……

 

「まさかッ!?」

「んみゅ?」

 

未だに状況を飲み込めていない様子のショコラの肩を掴み、目を合わせる。

 

俺の考えが正しければ、今のショコラは―――

 

「…お前、記憶は?」

「きおく?まだ何も思いだせていませんよ?」

 

…やっぱりか。

 

どうやら先程頭をぶつけたせいで、また記憶喪失状態になったようだ。

 

「それより、どうして私はここに…?金出さんと、おふろ?」

「そこも覚えてないのか?」

「…?はい」

 

本気で分かっていない様子だ。

…そこの記憶まで無くなるとは、な。

 

「―――取り合えず、一旦出ようか」

「はい!」

 

…そういやコイツこの状態だと…羞恥心、そんなにないんだな。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……って感じだな」

「なるほど…記憶のもどった私はそんなふうだったと…」

 

風呂も上がり、テーブルに腰かけながら先程までの…記憶が戻った時のショコラについて話した。

本人は意外そうにしているが…それが普通だよな。

 

記憶が戻った時の自分はこんな感じだろうと予想できている奴なんていないだろうからな。

 

「…金出さん」

「ん?」

 

少々真剣な表情をして、俺の名前を呼んでくる。

何か聞きたい事でもあるのだろうか?

随分と大事な話のようだが…まぁ、軽く説明した程度だし、記憶が戻っている間に何をしたのかーとかでちゃんと聞いておきたい部分があるんだろ。

 

「私、お腹がすきました」

「いや真っ先に出てくるのがそれかいっ!?」

 

呆れた。

けどそれがショコラらしさなのかもしれないなぁ…とも思う。

 

確かにコイツ晩御飯食べてないし、腹減ってても仕方ないのかもな。

 

「―――はぁ…わかった。リクエストは?」

「ピッツァが食べたいです!」

「よしっ、任せとけ!」

 

前までのショコラに戻った―――それはつまり、アイツにとってはあるべき記憶が消えたという事だし、俺にとっては呪いに関する情報がわかるチャンスを失ったって事で、正直めでたい事でも何でもないが…

はっきり言ってしまえば、俺はこっちのショコラに戻ってくれて嬉しかった。

 

だからまぁ…これは、お祝いみたいな感じかな。

この時間から一からピッツァを作るってのはアレかもだけど。





「マルゲリータできたぞー」
「わぁ…!おいしそうですねぇ…!」
「ははは、おかわりもいいぞ」

その日のショコラが食べたピッツァの枚数は、まさかの三十二枚だった。
けどもし材料があったら、多分まだまだ食ったんだろうな…


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①まさかの水着回!? ②まさかの下着回!?

しばらくこの作品すら投稿が難しくなりそうです。
できるだけ書き溜めできるように頑張りますが。


【選べ ①奇声と共に扉を開ける ②規制と共に扉を開ける】

 

…という訳のわからない選択肢に始まり、数回程奇行に走った後にようやく落ち着くことができた。

俺がふざけている(ふざけさせられている)間に、クラスの連中はショコラが自分たちの知るショコラに戻った事を知ったらしい。

その間ずっと無視されてたんだけどさ。それでもずっと奇行に走らされるわけよ。

 

マジで特殊ミッションって何だったんだろうね、あははは。

 

―――まぁ、今回の場合はやり直し権なんて言う素敵ワードが出てるんだ。

絶対にクリアしてやろうという気ではいる。

具体的には、ショコラをプールにでも誘って濡れ濡れ(物理)にさせるとか。

最悪手を水に濡らしてもらって…でもいい気はするが、流石にそれじゃ失敗になる気がするのでやめておくが。

 

淡い期待とか、持つだけ無駄だし。

 

「…天久佐君」

「ん?」

「ショコラさんが普段通りに戻ったようだけど…結局昨日のは何だったのかしら?」

「あー…俺にもよくわからん」

 

アイツ自身が昨日全体に説明していたが、その説明が実際の理由だと受け止めた奴は少なかったらしい。

それは先程の奇行の間のクラスメイト達の会話からもわかっていたことだが、雪平もその一人らしい。

 

けど本人からの説明が納得できないからって、俺に聞くのはどうかと思う。

俺の方が良くわかっていないのだ。神が云々とか知ってしまっている分余計に。

 

「…やっぱりそういうプレイだったんじゃないの?」

「なんでそうなる…」

 

今日の雪平は平常運転みたいだ。

まぁ不機嫌なオーラは変わらずだが。

 

別に俺とショコラにそういう事があるわけ―――

 

『金出さん。好きです』

『loveの方です』

『恋することに、理由は不要だと思います』

 

―――ここで思い出すかぁ…

 

いや、昨日の今日だし、忘れてたって事はないよ?

ないけどさ?

なんで今これが頭に浮かんじゃうのかなぁ…って、なるじゃん。

 

顔が赤くなっていたら嫌なので、手で隠す。

すると、やはりまぁ雪平が不審そうにこちらを見てくるじゃないか。

 

「…そんな自ら顔を覆いたくなるようなハードプレイを…」

「ねぇよ!なんもねぇから!」

「何もしない…放置プレイって事?」

「なんでそうなんの!?」

「否定はしないのね」

「明らか否定の意志が込められた発言だっただろ!」

「でもしっかり否定したわけではないわ。言葉なしに理解し合えるなんて、所詮は幻想よ」

 

何とまぁ否定しがたい事を…

確かにな。言葉にしなくても伝わる…なんて、そんなの現実にはそうそう無い事だしな。

 

なんでコイツ時々深い事言うんだろ。

 

「…というか、何もしなかったの?」

「してねぇよ。するわけねぇだろ」

「―――おめでとう」

「え、何が?」

「あなたは正真正銘の『ホモ』だという事が証明されたわ」

「俺にそっちの気はねぇよ!ってかそれで責めるのやめろよ最近LGBT云々が厳しいんだからさぁ!」

「別に誰も見ないような作品なんだから何してもいいでしょ。メタな話とか」

「それはプライドも何もかもを捨てきったネタだろ!」

 

雪平まで()()()()ネタを使いだしたら、マジで収拾がつかなくなる。

流石に軌道修正が必要だ。―――ついでにホモ…いや、ゲイの話は逸らしておこう。

 

「あのな。俺はショコラとは何もしてない。けどそれは俺が女に興味がないからじゃない」

 

【そうそう。こういう理由だもんね】

 

…どういう理由だよ。

 

 

【①「だって男じゃなきゃ興奮しないし」 ②「幼女じゃなきゃ興奮できないよ」 ③「性欲って一周回ると悟れるようになるんだぜ」】

 

どれも違うわ!

なんで三択用意してコレなんだよ!?

 

…いいか?俺は別に女に興味がないわけじゃない。

寧ろ有り余ってるさ。性欲も、情熱も。

けどな?紳士なんだよ俺は。

いくら好きだと言われたからと言って、そういう関係でもないいたいけな少女と淫らな行為に及ぶというのはダメだと思うんだよ。

常識的に考えてな?

だから―――痛いッ!?つい最近のソレと比べ物にならないくらいにあばばばばっ!?

 

「ぐっ……いいか雪平。性欲って…一周回ると悟れるようになるんだぜ」

「…」

 

おい、なんだその無言は。

そしてなんだその目は。

言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃないか。

 

【そうだよ(便乗)】

 

ちょっと待って?

選択肢さん?

 

【それはそれとして ①「だって男じゃなきゃ興奮しないし」と言って服を脱ぐ ②「幼女にも穴はあるんだよなぁ…」 ③ショコラを呼び、ナニも無かった事を説明してもらう。本当にやましい事がないならね】

 

やましい事?あるわけねぇだろそんなの!

③だ③!一択だろ!!

 

【じゃあ質問】

 

し、質問?

 

【風呂場で抱き合った事や、キスしそうになったこと。舐めまわそうとした事はやましい事に入らないんですか?】

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!

今ソレを掘り返すんじゃねぇよッ!

 

【えっ、あなた的には居候の交際関係にもない金髪美少女の裸体をしっかりと、そうしっかりと目に焼き付けた挙句キスの一歩手前まで行ったのは全然…全ッ然やましい事じゃないって事になってるんですか?マジで?】

 

うぐっ…い、いやそれは!

 

【「一生心に残る傷をつけてやる」】

 

ヺア…(言葉にならない呻き)

そ、ソレはさ…なんつーか、男の怖さを舐めてた様子だったからで…

 

【で、ナニをするつもりだったんです?まさか、そのナニで?(笑)】

 

笑うなぁああああああああ!!

 

く、くそっ!良心の呵責なんか知るかっ!

俺は③を選ぶ!選んでやるからな畜生!

 

「しょ、ショコラ!」

「んみゅ?どうかしましたか?」

「…昨日、俺たちには何も無かった事…ちゃんと説明してやってくれ」

「昨日ですか…ピッツァがおいしかったですね!」

 

何を説明してんだコイツ。

…けどまぁ、このままピッツァの話に持っていけばいいか。

ナイスアシスト?

 

「そうだ。俺は昨日コイツにピッツァを作ってやっただけだ。石窯でな!」

「…ショコラさん。つかぬ事を聞くのだけど…それ以外で何か記憶に残っている事は?」

「目がさめたら金出さんとおふろに入ってました!」

「\(^o^)/オワタ」

 

渾身のオワタの真似で誤魔化そうとしたが、ダメだったようだ。

 

雪平どころか教室内の全員がドン引き…もしくは嫌悪感にあふれた瞳を向けている。

 

あははー…ですよね。

俺もそっちの立場だったら同じ反応してるもん。絶対。

 

「…ほら、ピッツァの話しようよピッツァの」

「風呂?やっぱり白濁としたいかがわしいイカ臭い行為に耽っていたんじゃない」

「違うわ!無実だわ!」

「…と、犯人がそう言っているけど。ショコラさんの意見が聞きたいわ」

「犯人ておま」

「んー…私はそのかんのきおくがないので、わかりません!」

「ッ!?記憶が飛ぶくらいに…ですって…!?」

「いやいや無いから。全然ないから」

 

でもショコラにその間の記憶がないのは確かだし、覚えているのは俺だけで…もっとしっかりと言うなら、覚えているのは犯人の烙印が押されている俺だけで。

それなら、雪平達の邪推の方が信ぴょう性が高いという事になってしまう。

 

本当に何もしてないんだけどなぁー…

寧ろ何もしないように必死だったんだけどなぁー…

 

「…あなたが目を覚ました時、天久佐君は何か言っていた?」

「えーっと…なんでしたっけ。確か…お…おし…あっ、『無理矢理おしこんだせいで』って言ってました!」

「違うだろ!?」

「無理やり押し込んだ…ッ!?」

「お前もお前でなんだよその反応!」

 

でも自分自身なんて言ったのか全然覚えていない。

あの時はとにかく「無事で良かった」としか考えてなかったし…

 

あ、待って違うんです皆さん。

マジで何もしてないんですよ俺。

 

…え、前科?バナナの件?

それも誤解なんですけど!?

 

「…なるほどね、やっぱりそういうプレイを」

「ち、違う違う!そうじゃ、そうじゃない!!誤解だ!」

「五回?盛りすぎじゃないかしら」

「その同音異義流行ってんのか!?」

 

ダメだ、これ以上この話題を掘り下げてもいい事がない。

今は何とか話を逸らし―――うん?

 

なんだ?窓の外に何かが……あぁ、遊王子が浮いてるのか。物理的に。

 

「えぇええええええ!?」

「叫んだ所で罪は消せないわよ」

「いや外!窓の外!遊王子!浮いてる!」

「そんな原住民みたいな説明をした所で騙されないわよ。人が空を飛ぶなんてあり得ないもの」

「信じる信じないは良いから取り合えず見てみろよマジで!」

 

窓の外で浮遊している遊王子を指さし、結構本気で叫ぶ。

しかし誰も俺の言葉を信じようとしない…まぁ当然だろうけども。

 

だがこの光景は現実だ。

騙されたと思って見てみろと全員に訴え、窓の外へ視線を向かわせる。

 

そこには、空中でポーズをキメている遊王子の姿が。

 

「「「「えええええええええっ!!?」」」」

「ほらな!?」

 

…良かった。俺にだけ見えてる幻覚かと思った。

 

しかしアイツ、なんで浮いてるんだ?

いくらUOGとは言え局所的な無重力空間を生成するような物は作れないだろうし…

ってか遊王子の今居る場所が無重力だったら、このまま地球の外へ放り出されてるはずだし。

 

あ、ポーズ変えた。

 

【選べ ①負けてられない。自分は地面に埋まろう ②遊王子にできて自分にできないなんてあり得ない。飛ぼう ③元々()()()()し、良いじゃん】

 

ムカつくなコイツ…

①も②も正直選んだら酷い目に遭うだろうし選べないが…③だと、俺が()()()()奴だと認めることになるわけで…

 

別に良いんだけどさ?

事実なんだけどさ?

―――第三者に、しかも浮いている原因であるコイツに言われるのは…ムカつく。

 

まぁ自分の安全と天秤にかけたらムカつきなんてどうでもいいんだけども。

 

「よっ、と…みんなおはよう!」

 

ポーズを何度か変えた後、空中で一回転し、その勢いのまま教室に入って来た遊王子。

着地の姿勢も綺麗で、体操の選手かかと思ってしまう程だった。

 

…そんなとんでもない事を何度か重ねて行っておきながら、本人はいたって自然体なのが不思議でならない。

これが遊王子謳歌が遊王子謳歌たる所以なのだろうか。

 

「あれ?どしたの天っち。そんな鳩が―――」

「そりゃ人が空中浮遊なんてしてたら誰だってそんな反応になるに決まってるだろ」

「―――来いよ豆!鉄砲なんか捨ててかかってこい!って言ったみたいな顔して」

「どんな顔だよ!?」

「豆イトリクスって事ね」

「何上手い事言ったって顔してんだよ…」

 

そもそもメイトリクスは挑発した側であって、遊王子の発言における豆はベネットを指しているはずだ。

その時点でちょっとネタとして破綻……なんで真面目に批評してるんだよ俺。

 

「…あのな遊王子。普通人ってのは知り合いだろうがそうじゃ無かろうが、空中に浮いている奴がいたら驚くもんなんだ。そうじゃない奴は驚きのあまり反応できていないだけでな」

「えー?でも天っちいつも浮いてるじゃん」

「同じ事もう言われたわ!…ってか『空中に』って言ったろ!」

 

選択肢だけならず、遊王子にまでそれを言われるとは思いもしなかった。

別に好きで浮いてるわけじゃないんだけど。

 

【嘘だぁ】

 

嘘じゃねぇし!

そしてよりによってお前がそれを言うのかよ!?

 

【①それはそれとして、遊王子にパンツの件について質問する ②一昨日のパンストについての感想を千文字で述べる ③言葉は不要。スカートをめくってパンツを確認する】

 

ふ゛さ゛け゛ん゛な゛ッ゛!゛!゛

 

…いかんいかん。クールになれ天久佐金出。

勿論KOOLではなくCOOLだ。

えーっと、順番に確認しよう。確認。

 

一つ目。恐らく対抗戦の時の話を掘り返そうという事だな?

せっかく名実ともに本調子になって帰って来たというのに、わざわざ俺の方から切り出す必要はないだろう。

本人も触れて欲しくない話題だろうし。

 

二つ目。これは何も言うまい。

感想なんて言ったって気持ち悪いだけだ。

 

三つ目。論外。

これでは名実ともに変態になってしまう。

…いや、対抗戦のラストのアレのせいで、もう変態扱いは板についてしまったかもしれないが。

 

――――全部アウトに決まってんだろうがッ!!

なんで①から③まであってソレなんだよ頭に盲腸でもできてんのかお前ああああああああッ!?痛いっ!?

 

…ち、畜生。催促が来やがった…!

う、ぐ…こ、こうなりゃ自棄だ、やってやらぁ…!

 

「ゆ、遊王子!」

「んん?どしたの天っち?―――あ、もしかして」

「そう、そうだ。そのまさかだ!」

 

敢えて俺から口にするような真似をしなくて済んだのはありがたい。

催促の痛みも消失したし、これでオッケーなのだろう。

 

「ふふふ……このスパッツが目に入らぬかー!」

 

なんの衒いも無く、遊王子はスカートを捲り上げた。

次の瞬間、俺の視界に映っていたのは、パンストと、その上から着用されたスパッツだった。

 

…な、なんという…

 

【①股の下に潜り込んで「ぜ、絶景だー!」と叫ぶ ②残念そうに「スパッツかぁ…」と呟く】

 

ふ、不幸だー!(神浄並感)

 

「す…スパッツかぁ…」

「っ、しょ、ショックなんだ…んんっ。これでいつブルマを履かされてもモーマンタイだよっ!」

「そんな機会そんなにないと思うんですけど」

 

普通に生活していてブルマを着用するタイミングなんて、そうそうないだろう。

女子の体操服だって、今はジャージが主流だからな。

 

「……じゃあ、どうして浮いてたんだ?」

「えっ、あー…それは怪人から逃げてたからで――――」

「み、つ、け、た、ぞォヲオオヲヲヲオオオオ!!」

 

扉が勢いよく開かれる音と、地獄の底から響いているかのようなおぞましい声に肩を震わせ、そこに目を向ける。

そこにはハゲで有名な生活指導の岸辺先生がいて、恐ろしく獰猛な表情をして遊王子を睨んでいた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「……聞きてぇか?あ?聞きたいかよお前のお仲間さんが何しでかしてくれたのかをよォ~~~!!」

 

ま、マジでどうしたって言うんだこの人…

 

話を聞く所ではないだろうと判断し、視線を遊王子に向ける。

俺の視線に気づいたアイツは、たははーと笑ってから事の顛末を話始めた。

 

「いやぁ、岸辺センセってハゲじゃん?」

「曇りのない瞳でえぐい事言うなぁ…」

「で、最近かなり強力な育毛剤が開発できたし、試作品だけど使ってみる?って聞いてみたの」

「本当になんでも作るなUOG…」

「勿論副作用が何かわからないし、そこは気を付けてねーって注意したんだけど…ぶふっ、しっかり副作用が出てねー?」

 

何笑ってんだコイツ。

その副作用が、そんなに面白かったというのだろうか?

 

「見てよ岸辺センセの頭!ワカメだよっ!」

「なんだよワカメって……うわっ、マジじゃん」

 

笑いながら先生のカツラの隙間を指さす遊王子。

それに対し半ば訝しむようにして目線を動かすと、本当にワカメが視えた。

 

―――えっ?頭から生えてきたって事?

 

「そうだ…その通りだ……コイツが、コイツが俺の頭を…ワカメ畑にしやがったんだァあああ!!」

 

【選べ ①大爆笑 ②中爆笑 ③小爆笑】

 

全部爆笑じゃねぇか!

 

「あっははははっははっはははは!!」

「て、天久佐ゴルルァっ!笑ってんじゃねぇ!!」

「…いや、だって先生は「副作用がある」って聞かされてたんですよね?」

「そりゃそうだが…」

「それを承知で使って、ワカメが生えてきたからキレてるんですか?」

「う…それを言われたらまぁ…」

 

激昂していた先生だが、俺の指摘によって冷静さを取り戻していく。

別に遊王子を庇っているとかではなく、俺が爆笑したことが有耶無耶になればいいなぁと思ってやっているだけなので悪しからず。

 

「…もうすぐ予鈴もなりますし、終わりにした方が良いのでは?」

「………ち」

「ち?」

「チクショーッ!!」

 

時計を見つつ進言すると、先生は顔を真っ赤にして走り去っていった。

…生活指導教員的に、廊下を走るのはありなのか?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

時は流れ昼休み。

俺はある重大な危機に瀕していた。

 

「……なんで先輩がここにいるんですかね」

「あら~?いつもみたいに清羅って呼んでくれないんですか~?」

「やめてください。その発言は俺に効く」

 

厳密には俺を殺意に満ちた目で見てきているクラスメイト達に、だ。

 

おかしい。

俺はただいつも通りに食事をとろうとしただけで、それ以外には何もしていないはずである。

だというのに、黒白院先輩(悪夢)が教室の中に入ってきて、俺のすぐ隣にまで歩いてきた。

もう一度言おう。おかしい。

 

「本当にどうしてここにいるんですか」

 

先輩は答えない。

…恐らく、名前で呼べばすぐさま返事をしてくれるだろうが…そんなの、こんな状況でできるわけがない。

 

【選べ ①「清羅たん」と呼ぶ ②「清羅にゃん」と呼ぶ ③「清羅ママ」と呼ぶ ④「清羅姉」と呼ぶ ⑤「清羅たそ」と呼ぶ ⑥―――】

 

せめて普通に「清羅」って呼ばせて!?

なんでそんな距離感おかしい呼び方を強要するんだよ!?

 

「せ、清羅たん…」

「たん?」

「なんでもないですッ!!」

 

力強く否定する。

これで無かった事になればいいなぁ…なんて事は考えない。

どうせ無駄だし。

 

ただこの勢いのまま、話を逸らす事は可能だ。

 

「名前は呼びましたし、いい加減ここに来た理由を教えてくれていいんじゃないですかね?」

「理由ですか~…では、これをどうぞ~」

 

相変わらずの間延びした声と共に、先輩は封筒を俺に手渡してきた。

金一封とかだろうか?

 

「開けても?」

「どうぞ~」

「……これは…アクア・ギャラクシーのチケット?」

 

確か、巨大なプールだったか。

他にも飲食店等のスペースが多数存在しており、水着で遊べるテーマパークという扱いをされていたのを覚えている。

今でもよくテレビ番組で紹介されてるからな。

 

しかしそんな所のチケットを、どうして俺に?

 

「対抗戦で勝利したチームに、副賞として渡すようにしてるんです~」

「なるほど…」

 

俺、疑問には思ったけど声には出してないんですよね。

どうしてわかったんでしょうか。

 

…気にしたら負けか。

 

「あれ?じゃああたしも貰えるのー?」

「もちろんですよ~」

 

俺の背後から顔を覗かせてきた遊王子にも、チケットを渡す。

…よくよく見たらコレ、一日フリーパスじゃん。

確か一万ちょっとするらしいが…口ぶりから察するに、お断り5陣営全員分用意しているようだ。

 

どこからその金捻出してるんだ…?

 

「しかしプールか…しばらく行ってなかったなぁ」

 

プールだけでなく、海とか川とか…水辺に行ってない気がする。

泳げないって訳でもないんだけどな。

 

《呪い解除ミッション アクア・ギャラクシーにて、遊王子謳歌の泣き顔を撮影せよ》

 

――――また二つのミッションに奔走させられるのか…

 

振動と共にスマホの画面に表示されたメールの内容に、俺は両手で顔を覆って嘆いた。





「因みにチケットって、ショコラとかゆらぎの分もあるんですか?」
「はい。ありますよ~?」
「…夢島先輩は?」
「あの人は出場すらしていないので、ありませんね~」


ちょっと溜飲が下がった天久佐であった。(※吉原と対戦するようになってしまった理由を参照)


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①【急募】女の子を泣かせる方法 ②【緊急】女の子を泣かせたいんだが

長い間やってみたいと思っていた事に挑戦してみるために試行錯誤していたら、かなりの時間を要してしまいました。
仕様が良くわからなかったんですよね。
ちゃんと説明書いてるくせに。


それと今回と次回は毎分投稿です。
だからなんだって話ですけどね。


「お兄ちゃん!」

「…あ、貴方が落としたのはこのアクア・ギャラクシーのチケットですか?それともチケットが貴方を落としたのですか?」

 

選択肢による訳の分からないセリフと共に、アクア・ギャラクシーのチケットを手渡す。

周りの目が痛いが、今回の言葉は訳が分からなかっただけでドン引きまではされなかった。

 

もうこれだけで幸せな気がしてきた。

末期って言うんだよね、こういうの。

 

「アクア・ギャラクシーって……も、もしかして水着デート!?」

「え、デート?」

 

デートな訳……デート?

俺デートの正しい概念を知らないんだけど、これはデートと呼べるのか?

 

別に互いに好意を抱いているというわけでもないし、そもそもチケットを持っているのは俺とゆらぎだけというわけではないけど…男女で出かける、という点は間違っていない。

 

昨今ではデートも男一人女一人だけとは限らないというし、間違いではないのではなかろうか?

 

【え、マジで言ってるのソレ? ①「で、でででででででで…!?」と童貞らしくデートという言葉に過剰反応 ②「デートではねぇな。まぁお前がどうしてもって言うなら今度二人でどっか出かけてやっても構わないが?」とモテ男アピール】

 

バカにしてんのか全体的に!?

①は言うまでもなく、②だって遠回しに「モテ男(笑)」って感じに馬鹿にしてるんだろオイ!

 

た、確かに童貞なのは否定できないけど。

 

「…で…デートではねぇなまぁお前がどうしてもって言うなら今度二人でどっか出かけてやっても構わないが?」

 

息を切らすことなく高速詠唱。

恐らく、この場の誰も俺の発言を聞き取れなかったことだろう。

 

選択肢に昔「東京特許許可局は無いけど京都特許許可局はあるかもしれないけどそれがもしあったとしたら東京都庁の丁度真ん前に東京特許許可局もあるかもしれないかも」なんて謎文章を一分以内に三回噛まずに繰り返しで読まさせられたからな。

早口言葉は得意と言っても過言では無かったりする。

 

「え、本当!?」

「ちょっと待て聞き取れたのか今の!?」

 

俺の高速詠唱を聞き取れた奴なんて、今まで一人居たかいなかったかだというのに!?

 

…いや、もしかしたら今回は誰にでも聞き取れてしまう程度の速度だった可能性だって―――あぁ、違うわコレ。

だって一年生たち驚いてるし。

「今の聞き取れたの!?」って言っちゃってるし。

 

「そんなのどうでもいいじゃん!今大事なのは、本当に今度デートしてくれるのかどうかって事だよ!」

「そ、そんなのってお前なぁ……まぁ、一緒に出掛けるくらいは何ら問題ないけど」

「言質とったからね!?」

「なんでそんな必死なんだよ」

 

言質をとるだなんて表現を使う程の事だろうか。

…いや、コイツからすれば「生お兄ちゃん」とのデート(笑)はかなり大事なイベントとなるのだろう。

 

俺にはまるで意味の分からない単語だが、どうやら普通の兄とは何かが違うらしいし、こんな必死になってしまう何かがあるのだろう。

 

「…まぁ、聞いてもどうせ訳わかんねぇしいいや。もう教室戻るから、取り合えずコレは受け取っといてくれ」

「あ、うん。―――デートの件、忘れないでね?」

「あのなぁ…」

 

俺は約束事を忘れたり、無かった事にしたりはしない。

選択肢に強制されない限りはな。

 

全く。俺の妹を自称するくらいなら、俺がそういう奴だってことくらいわかっておいて欲しいんだがな。

 

【選べ】

 

な、なんだよお前。

まさか早速忘れさせようとして―――

 

【①絶対に忘れないという事の意思表示。指切り(物理) ②誓約書を書き、拇印を押す】

 

違った。

なんかすっごい大事にしようとしてるだけだった。

 

なんだよ指切り(物理)って。

マジで切り落とせってか。

 

―――でも②もなんかなぁ…重たいよな、色んな意味で。

 

…まぁ、ここは②だよな。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「それで、結局ゆらぎっちはくるの?」

「あぁ、来るってさ」

 

誓約書を書いた後、「こっちのデートは勿論だけど、水着デートも楽しみにしてるからねー!」って言われたからな。

あれは来る、と言っているということでいいんだろう。

 

「あの、ちょっといいかしら」

「ん?どした」

「アクア・ギャラクシーの件。遠慮させてもらおうと思って」

「えっ!?ふらのっち来ないの!?」

 

先ほどから一言も発さずに硬い表情のままだった雪平が、突然そんなことを言ってきた。

一体どうしたのだろうか。せっかくタダで流行りのレジャー施設に行けるというのに。

前に偽札製造をやたらと欲しがってたりと、金が絡む話には目がないと思っていたが…?

 

「一体どういう風の吹き回しだよ?タダなんだぜ?タダ。金がかからないんだぞ?」

「……天久佐君が私をどう認識しているのか、よく分かったわ」

「金の亡者だろ?」

 

…あー、わかった。その言い方が不服なのは分かったから、そんな目で見てくるな。

 

やたらと鋭い視線をこちらに向けてくる雪平に、両手をあげる素振りを見せて謝罪の意を示す。

いや、謝罪というか、降伏か。

 

「…けど、本当にどうしたんだよ。水着持ってないのか?」

「別に、そういうわけではないけど…」

「もしかしてふらのさん、およげないんですか?」

「………な、なんの事かしら」

 

返答にかなり時間がかかってたし…これは、確実だな。

 

確かに自分が泳げないのが露呈するのは恥ずかしい事だろう。

俺だって同じ立場なら似たような感じではぐらかすだろうし。

 

けどまぁ、泳げないだけならなんら問題ない。

アクア・ギャラクシーは確かにプールが一番の売りだろう。

しかしプールで泳ぐだけではなく、ただ施設内を散策しているだけでも十分楽しめるのがアクア・ギャラクシーなのだ。

 

ちゃんと公式ホームページで調べた情報だから、間違いはないだろう。

 

「泳げないくらいなんも問題ねぇじゃねぇか。なんなら一緒に―――」

 

【選べ】

 

練習してやっても―――って言おうと思ってたんですけど。

 

なんだよ、この文脈と全く関係ない事言わせんのか?

 

【①溺れようぜ! ②海のモズクになろうぜ!】

 

なんで一緒になっておぼれてやる必要があるんだよ!?

独りでおぼれるよりも複数人でおぼれてる方が恥ずかしさも軽減するとでも思ってんのか!

それに②はプールだから海関係ねぇし、そもそも藻屑であってモズクじゃねぇんだよ!

 

―――でもまぁ、冗談風に受け取ってもらえるのは多分②だよな。

ツッコミどころが多いし。

 

「一緒に、海のモズクになろうぜ!」

「…天久佐君って、本当に駄洒落のセンスがないのね」

「その認識は極めて遺憾だ」

 

さっきの駄洒落は俺の意思とまるで関係ないし、それに俺の駄洒落はもっとウィットに富んでクールだ。

不当な評価は訂正を要求する。

 

「…でも、泳げないだけなら来ない理由にはならなくない?」

「そ、そんな事ないと思うけど」

「だって、アクア・ギャラクシーはプール以外にも楽しめるとこ、沢山あるじゃん。売店とか」

 

遊王子が、俺の思っていたことを言う。

 

そう。実際アクア・ギャラクシーは楽しむ要素が多いのだ。

行ったことないけど。

 

まぁ強いて欠点として挙げるのであれば、売店にしろ何にしろ水着で行かなければならないという点があるのだが。

前に佐伯の奴が「親戚全員が集まった時にアクア・ギャラクシーに行くことになったんだけど、正月太りの爪痕のせいで俺だけ行くに行けず…」なんてことを話していたのは今でも記憶に新しい。

 

横幅が大きい…というか、自分の体に自信がない奴とかはアクア・ギャラクシーを歩くのにかなり度胸というか勇気というかが必要となるとされている。

 

―――アレ?もしかして雪平が渋ってる理由って…

 

【よし、言え ①「お前まさか、胸の事気にして…?」 ②「お前まさか、おっぱいの事気にして…?」 ③「お前まさか、パイオツの事気にして…?」】

 

よし、言え…じゃねぇんだよ!

お前、そんな事堂々と言える訳ねぇだろ最悪殺されるぞ俺!?

 

相手がもし他の奴なら侮蔑の瞳だけで済んだかもしれない。

だが雪平はダメだ。いかんでしょ。

 

コイツは自分の胸をコンプレックスに思っているはずだ。

少なくとも俺が知っている情報をまとめればそうとしか考えられない。

 

でなきゃ、前に選択肢のせいで「今日も可愛らしい胸だね」って言わされた時のレスポンスがビンタだった理由が見当たらない。

 

……悩もうにも、そろそろ催促が来る…あ、やっべ来ちまったたたたたたっ!?

わ、わかったわかった!言うから!言いますから!

 

「―――お、お前まさか……む、胸の事気にし」

「は?」

「な、なんでもありません」

 

目がマジだ。

あれ以上何か言っていたら、俺は殺されていた。

 

―――ってか、最後まで行ってねぇのに催促の痛み無くなってんじゃん。

いきなり優しくなったのか…それとも何か裏があるのか。

 

「…で、結局来ないのか?」

「そうね…」

「ならこのチケットは金券ショップにでも」

「それは違うわ」

「なぜにダンガン●ンパ」

 

チケットを売った分の金を向こうでの飯代にしようかと思ってたんだが…

なんで来るつもりもないのにチケットを売るのを止め―――いや、全然疑問に思うようなこと無かったわ。

俺だって、行かないにしても自分の分のチケットで誰かが飯食うの嫌だし。

 

確かに今のは配慮が無かったな。

売って金にするのは、雪平が権利を持っているべきだろう。

 

「そう、だよな。悪かった。このチケットを売る分の金は、お前が好きに使うべき金だもんな」

「…え、えぇ。そうよ。売るにしたって、権利は私にあるべきだもの」

 

若干虚を突かれた様子で、俺の言葉にうなずきながらチケットを取る雪平。

その一連の会話を聞いて、遊王子が不服そうに頬を膨らませる。

 

「えー?ふらのっち、ソレ売っちゃうの?」

「…別に、ペットのヤギの餌でも構わないけど」

「お前ヤギ飼ってんのかよ」

「ヤギですかー…シェーブルチーズがたべたくなりますねっ!牛乳アレルギーの人でも食べることができて、なんでも西洋いがいの地域ではこちらのほうが好まれるらしいですよ!」

 

シェーブルって確か、フランス語でヤギって意味だったよな。

じゃあ直訳したらヤギのチーズか。

 

いやショコラさん、なんでそんな詳しいんですか?

 

「へぇー、そうなんだ」

「はいっ。しかも、シェーブルチーズの方が牛乳のチーズよりもとくちょうてきな()()()があるとされていまして…」

 

だからなんでそんな詳しいんだよ。

 

ショコラの語るシェーブルチーズの情報を流し聞きしながら、今日の晩飯は多分これが要求されるんだろうなとスマホを取り出す。

家にシェーブルチーズなんてありはしないが、ネット注文すれば晩飯には間に合うだろうからな。

 

でもシェーブルチーズを使う料理、か。

何を作ればいいんだろうな。

 

「……って、今はチーズの話は良いだろ」

「それもそうですね…という事でふらのさん。いずれチーズをおすこし分けていただきたく」

「ええ。考えておくわ」

 

【選べ ①「考えておくわ(わけるとは言ってない)」←()内も読む ②「俺のミルクはいるかい?(意味深)」←()内は読んでも読まなくてもいい】

 

言う相手が悪いだろコレは。

 

①はなんか話が長くなりそうだし、②だと絶対(選択肢が)言わんとしている事を当てられて恥をかくことになる。

ってか男がミルク、とか言ったら()()()()()()でしかねぇだろ。

 

でも…(意味深)を言わずに、「え?俺が家に貯蔵している牛乳って意味だったんだけど?」って言えば話が長くならず、しかも恥をかかずに済むのではなかろうか?

試してみる価値はある…と、思う。

 

「俺のミルクはいるかい?」

「―――相変わらず卑猥ね、天久佐君」

「おいおい、俺はただ」

 

【選べ ①「お●んぽのミルクって意味で言ったんだぜ?」 ②「●ーメンって意味で言ったんだぜ?」】

 

や……やられた…ッ!?

 

く、くそっ!この野郎、コイツを狙ってたって事かよ!?

隙の生じぬ二段構えを以って、俺に確実に(社会的な意味で)致命傷を与えるために―――痛いッ!?

 

催促か…!腐りきってやがるぞこの外道(絶対選択肢)

 

ア゛ァ゛ッ゛!?(激痛)

 

「お……お●んぽのミルクって意味で…言ったんだぜ?」

「何昼間っから盛ってんだお前」

「げっ、先生!?」

 

絞り出すようにして声を出すと、突然背中を蹴られた。

 

宴先生だ。

声の主も、俺の背中を蹴ったのもこの人だ。

相変わらず暴力的というかなんというか…

 

ってか雪平の奴、もういなくなってるし。

俺が聞くに堪えない下ネタを言うと察したのだろうか。

 

「げっ、ってなんだげっ、って。舐めてんのか」

「痛い、痛いです先生。追加で蹴り続けるのやめてください」

 

まるで表情を変えずに、ひたすら俺の背中を蹴ってくる。

地味に痛い。

いつもの関節技の方が痛いけど、連続してくるからこっちの方がなんか辛い。

 

「…つーか、今日は先生の授業ないでしょ。なんで教室に」

「用事がなきゃ悪いか?」

「え、えぇ…別に悪かないですけど」

「まぁお前らに言う事があって来ただけなんだけどな」

「いやあんのかよ!?」

 

なんでそんな「何もないのに来たけど、文句あるか?」みたいな事言ったんだよこの人…

 

「ほら、前の対抗戦の副賞で、アクア…なんだっけな…ま、キャバクラみたいな名前のプールのチケット貰ったろ」

「アクア・ギャラクシーですよ。どこがキャバみたいなんですか」

「あくあ・ぎゃらくし~なんて明らかにそういう店だろ」

「それは言い方が悪いのでは」

 

あっ、すいません。

要らん事言ったのは謝るので睨みつけてくるのはやめてください。

次に何が来るのか恐ろしくなるので。

 

「…で、あたしもチケット貰う事になったから、せっかくだしついでにお前らも連れてってやろうかと思ってな」

「車に乗せてくれるって事っすか?」

「あぁ。さっきの話を聞く限り、雪平は来ないみたいだから…席もそんな狭くならねぇだろうしな」

 

こういうのを、渡りに船と言うのだろう。

元々移動手段をどうするかは決めてなかったし、ここはお言葉に甘えさせてもらうとしようか。

 

…ってこたぁ、もう一回ゆらぎの教室まで足を運んで、当日は先生が送迎をしてくれるって旨を伝えなきゃいけねぇって事か。

一年の連中も、大分俺の奇行に慣れつつある様子だったが…それでも精神は摩耗する。

自慢じゃないが、俺の精神は普通の人のソレに比べて数倍貧弱だからな。

あんまり恥を晒し続けてると…また心が折れる。

 

あ、『また』の下りは掘り下げないので悪しからず。

 

「…じゃあ、ゆらぎにも乗せてもらうって事話してくるんで。当日はお願いしますね」

「おう。酔い止め忘れんなよ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ただいまー!ですっ」

「なんでこんなに元気なんだコイツ」

 

時は流れて放課後。

疲れ気味の俺と対照的にやたらと元気が有り余っている様子のショコラに苦笑いしつつ、急ぎパソコンの前に向かう。

 

前のように、ミッション攻略のためにネットの力を頼ろう思ったのだ。

 

だがネット記事を探すだけでは『○○する○○の方法(法則)シリーズ』かそれに類するものが引っかかってしまう。

それはダメだ。

もし俺が権力者なら、理由もなしに全て焚書するくらいにはダメな本だ。

ついでにネット記事の方はクラウドからも削除してやりたい。

 

さて、ここからどうすべきか、だが…やることは一つだ。

●ちゃんねるを使う。

 

某知恵袋を使っても良かったが、今回は●ちゃんねるだ。

スレで成功したらこれからはこちらを使えばいいし、もしダメなようなら次は知恵袋を頼ればいい。

 

とにかく、俺は二度とあの『例のシリーズ』関係に頼りたくないのだ。

 

「ってな訳で、早速スレを立てるとしますか……あ、ショコラ。棚の中に入ってるお菓子、三つまで食べていいぞ」

「はーいっ!」

 

ショコラの元気な返事を耳に、俺はスレを建てるのだった。




【その後】

天久佐「えーっと、スレ……よくよく考えたら、俺●ちゃんねるやったことねぇな」
ショコラ「ファミリーパックは偉大な発明ですねっ!」


ゆらぎ「みっずっぎー、みっずっぎー!…でもその後のお兄ちゃんとのガチデートの方がもっと重要なのでは」


ふらの「……流石に水着は、ね…」


遊王子「ねぇお母さん!アクア・ギャラクシーに行く日、ちゃんと朝起こしてね!絶対楽しみ過ぎて遅くまで起きちゃうから!」


宴「…この水着、一昨年のなんだがな…微塵も苦しくねぇどころかピッタリじゃねぇか」


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【急募】同級生(女)を泣かせる方法

僕自身が掲示板経験ないんで、皆さんが思ってるのと違うかもしれません。

一応他者様の作品を見たりして学びはしましたが、至らぬ点がありましたら鼻で嗤うだけにとどめておいてください。


1:操り人形名無し 

頼む、俺に同級生(女)を泣かさせてくれ

 

2:操り人形名無し 

2げと

 

3:操り人形名無し 

は?

 

4:操り人形名無し 

スレタイがすでにクソ野郎なの草

 

5:操り人形名無し 

状況が読めない

 

6:操り人形名無し 

これは安価という認識でおk?

 

7:操り人形名無し 

>>6 安価でもいいけど、実行するのは今日じゃない

 

8:操り人形名無し 

>>1 取り合えずコテ付けて状況を簡潔に説明しろ

話はそこからだ

 

9:操り人形名無し 

?????

 

10:神様の玩具 

>>8 色々あって同級生の女を泣かせる事になった

 

11:操り人形名無し 

説明って言葉の意味調べてこい

 

12:操り人形名無し 

これはバカ

 

13:操り人形名無し 

状況の説明とは

 

14:操り人形名無し 

『色々あって』www

 

15:操り人形名無し 

神様の玩具ってなんだよ

池沼か?

 

16:操り人形名無し 

>>15 糖質だと思われ

 

17:神様の玩具 

>>15

>>16 どっちもちげぇよ

理由は説明しようにもできないけど、取り合えず同級生さえ泣かせられればいいんだ

 

18:操り人形名無し 

つべにホラー系のスレとしてあげられてそう

 

19:操り人形名無し 

>>17 じゃあ理由は良いから、スペックうpしてくれ

 

20:操り人形名無し 

溢れ出るクソ野郎感

 

21:操り人形名無し 

まさかこんな所に同じタイプのヘンタイがいるとは…

 

22:操り人形名無し 

>>21 通報した

 

23:操り人形名無し 

>>22 待て、自称神の玩具をわすれてるぞ

 

24:神様の玩具

>>19 俺→現在高校二年生。

イケメン(笑)

諸事情でクラスメイトの女子が泣いてる所を写真に収める必要がある

 

泣かせたい相手→同じ年で、クラスメイト。

天真爛漫でいっつも笑顔。

可愛い。

後おっぱいおっきい

 

25:操り人形名無し 

>>24 おっぱいの情報いるのか?

 

26:操り人形名無し 

>>25 いる(鋼の意思)

 

27:操り人形名無し 

>>25 いる(鋼鉄化)

 

28:操り人形名無し 

>>25 一番重要だろ

 

29:操り人形名無し 

これからターゲットの事はおっぱいちゃんと呼ぼう

 

30:操り人形名無し 

>>29 天才

 

31:操り人形名無し 

>>24 イケメン(笑)

自分から言うのか…

 

32:神様の玩具 

おっぱいもイケメン(笑)もどうでもいいから、取り合えず方法を一緒に考えてくれ

何としてでもおっぱいちゃんを泣かせて写真を撮らなきゃいけないんだ

 

33:操り人形名無し 

>>32 一々発言が畜生なんだよなぁ

 

34:操り人形名無し 

>>32 イケメンがおっぱいを泣かせて写真を収めるというパワーワード

 

35:操り人形名無し 

今北産業

 

36:操り人形名無し 

>>35 産業にするまでもなく

   話は全く

   進んでない

 

37:操り人形名無し 

実行は今日じゃなくて後日なんだよな?

 

38:操り人形名無し 

もしやるなら、当日は実況してもらう必要があるな

 

39:操り人形名無し 

まずどこでやんのよ

 

40:神様の玩具

>>39 アクア・ギャラクシーとかいうでかいプール

 

41:操り人形名無し 

アクア・ギャラクシーにおっぱいおっきい子と行くのか…

 

42:操り人形名無し 

イケメン(笑)を自称するだけはあるな。

もしかして非童貞?

 

43:神様の玩具

>>42 童貞

 

44:操り人形名無し 

>>43 食い気味www

 

45:操り人形名無し 

>>43 ここまで堂々と童貞発言できるやつは心の面で非童貞

 

46:操り人形名無し 

>>43 つまり俺達は非童貞だった…?

 

47:操り人形名無し 

も、元から俺は非童貞だし!

 

48:操り人形名無し 

バカが独りおるぞ

 

49:操り人形名無し 

仲間はずれが一人

 

50:操り人形名無し 

はい、二人組作って―

 

51:操り人形名無し 

>>50 みんなのトラウマ

 

52:操り人形名無し 

>>50 おいやめろ

 

53:操り人形名無し 

そもそもアクア・ギャラクシーってなんや

 

54:操り人形名無し 

>>53 茨城辺りにあるクソデカプールと遊園地みたいなやつや

 

55:操り人形名無し 

>>53 家族か恋人と行くとこや

ワイらは一生無縁

 

56:操り人形名無し 

他に一緒に行く奴とかいる?

そいつらのスぺもうp頼む

 

57:神様の玩具

>>56 構成は男子高校生(俺)、女子高校生(おっぱいちゃん他二人)、同伴の教師(女)

おっぱい以外の女子高生→一人は金髪の犬みたいな奴で、もう一人は自称妹

どっちも可愛い

 

同伴の女教師→ロリな癖にやたら暴力的な人

でも可愛い

 

取り合えず他のメンバーはそれぞれ『犬』『妹』『ロリ』で

 

58:操り人形名無し 

>>57 は?

 

59:操り人形名無し 

>>57 は?

 

60:操り人形名無し 

>>57 は?

 

61:操り人形名無し 

>>57 アクア・ギャラクシーに女四人と行くのか…

 

62:神様の玩具 

因みに誰に対しても恋愛感情は一切ない

 

63:操り人形名無し

>>57 本命いる?

おっぱいちゃんとか

 

64:操り人形名無し 

聞かれる前に答えてやがる

 

65:操り人形名無し 

恋愛感情なしで複数人の可愛い子とハーレム状態でプールに行って、その内一人を泣かせた挙句写真を撮りたいのか…

 

66:操り人形名無し 

なんやコイツ

 

67:操り人形名無し 

犬っぽいとロリ教師はまぁギリギリ理解できるとして、自称妹ってなんや

 

68:神様の玩具 

>>67 文字通り、年上年下男女関係なしに自分の兄or姉と扱う奴って事

でも何故か俺だけは生お兄ちゃん呼ばわりなんだよな。

血のつながりは一切ないってのに

 

69:操り人形名無し 

ラノベにありそう

 

70:操り人形名無し 

イケメンで複数人の女に囲まれて、全員キャラが立ってる…明らかラノベ主人公なんだよなぁ

 

71:操り人形名無し 

妹とか犬とかロリは泣かさんでええんか?

 

72:神様の玩具

>>71 今回のターゲットはおっぱいだけ

なんかいい案はないか

 

73:操り人形名無し 

その泣くってのは、嬉し泣きの事か?

 

74:操り人形名無し 

お、いい話だったか?

 

75:神様の玩具 

>>73 それでイケるならそれでもいいけど、多分普通に泣かせた方が早いと思う

 

76:操り人形名無し 

やっぱり畜生じゃないか…(呆れ)

 

77:操り人形名無し 

『早いと思う』www

 

78:操り人形名無し 

じゃあ玉ねぎを目の前で切るとか?

 

79:操り人形名無し 

鼻にワサビチューブ突っ込む

 

80:操り人形名無し 

心を込めて、心温まるいい話を朗読する

 

81:操り人形名無し 

怖い話をするとか、怖い映像を見せるとか

 

82:操り人形名無し 

アイスクリーム一気食い勝負を仕掛ける

 

83:操り人形名無し 

>>82 アイスクリーム頭痛じゃ涙は出んぞ

 

84:神様の玩具 

>>78

>>80

>>81

採用

 

85:操り人形名無し 

>>84 ワサビチューブも採用しろよ

 

86:操り人形名無し 

>>84 ワサビが入ってないやん!

 

87:操り人形名無し 

>>84 一番人気ワサビ

 

88:操り人形名無し 

情け容赦なくワサビチューブを鼻に突っ込む外道ムーブ、彼の脚質にはあっていますね

 

89:神様の玩具 

じゃあワサビ採用するわ

 

90:操り人形名無し 

>>89 よう言うた!それでこそ男や!

 

91:操り人形名無し 

くすぐるのは?

足の裏とか

 

92:操り人形名無し 

タコ殴りにする

理由を聞かれても、無言で泣くまで殴り続ける

 

93:操り人形名無し 

アクア・ギャラクシーなら、ウォータースライダーに無理矢理つれてきゃええんちゃう?

 

94:操り人形名無し 

>>92 ソレやったら本格的にクソ野郎やんけ

 

95:操り人形名無し 

いっそ頼み込んでみるとかどうよ

 

96:操り人形名無し 

辛いもん食わせとけ

 

97:操り人形名無し 

>>91 足の裏なら舐める方が良い

 

98:操り人形名無し 

>>97 うわぁ…

 

99:操り人形名無し 

>>97 イッチ、変態仲間やぞ

 

100:神様の玩具 

>>99 そもそも俺変態じゃないし

 

101:操り人形名無し 

?????

 

102:操り人形名無し 

どの口が言うんやそれ

 

103:操り人形名無し 

にほんごではなそ

 

104:神様の玩具 

取り合えずアイスと殴るの以外全部採用

 

105:操り人形名無し 

>>104 太っ腹やな

 

106:操り人形名無し 

けどそんな時間あるんか?

 

107:神様の玩具

一日中遊べるフリーパスがあるからダイジョブ

 

108:操り人形名無し 

>>107 えっ、あのめっちゃ高いやつ?

 

109:操り人形名無し 

イッチ、富豪説

 

110:操り人形名無し 

金持ちの道楽か?

そのおっぱいちゃんとやらを泣かせるの

 

111:神様の玩具

金持ちではない

チケットは学校のイベントで手に入った

 

112:操り人形名無し 

>>111 どんな学校だよwww

 

113:操り人形名無し 

茨城ってそんな事できる学校あったっけ?

 

114:操り人形名無し

>>113 一個あるぞ

名前は覚えてないが、生徒数が千人超えてるマンモス校があったはず

 

115:操り人形名無し 

もしかしてここか?

https://www.seikou.ed.jp/high/index.html

 

116:神様の玩具 

特定やめ

 

117:操り人形名無し 

ホームページ見てみたけど極彩色がバックってなんだよ

目がチカチカすんだけど

 

118:操り人形名無し

イッチの学校おかしいよ…

 

119:操り人形名無し 

ってかイベントって、この対抗戦とかいう奴?

 

120:神様の玩具 

>>119 せやで

 

121:操り人形名無し 

人物紹介の時点で面白いのなんなの

 

122:操り人形名無し 

このお断り5とかいう連中の基地外っぷりやばいなwww

恥とかねぇのかwww

 

123:操り人形名無し 

天久佐とかいうやべー奴よ

 

124:操り人形名無し 

>>123 頭脳明晰でスポーツ万能で顔が良くて性格が良い基地外とかどんな奇跡だって話だよな

 

125:操り人形名無し 

結果だけ見たけど、勝者お断り5らしいやん

 

126:操り人形名無し 

>>125 ん?チケット貰えるのって、普通は勝者側だよな

つまりイッチは…?

 

127:神様の玩具 

>>126 そうだよ、俺が天久佐だよ

 

128:操り人形名無し 

>>127 うっそだろお前www

 

129:操り人形名無し 

>>127 確かにイケメンだけど、マジで基地外じゃん

精神病?病院行った?

 

130:操り人形名無し 

>>127 天久佐とか、埼玉県民ワイも知っとるぞ

水戸市の恥とか色々

 

131:操り人形名無し 

じゃあ、おっぱいちゃんってのがこの遊王子って子?

 

132:神様の玩具 

>>129 奇行に関してはノーコメ

病院は行ってない

>>131 こっちは全部ノーコメ

 

133:操り人形名無し 

確定だな

 

134:操り人形名無し 

え、遊王子ってあのUOGの?

大企業の社長令嬢泣かせて写真収めるつもりなの?

 

135:操り人形名無し 

自分の性癖のために大企業を相手にするイッチは男の鑑

 

136:操り人形名無し 

>>135 ただのバカだろ

 

137:操り人形名無し 

つーかホームページに天久佐の生態記録って動画シリーズあるのなんなの

 

138:操り人形名無し 

>>137 生態記録wwwwwww

 

139:操り人形名無し 

生態記録とか作られてるらしいけど、それってイッチ公認?

 

140:神様の玩具

>>139 知らんかった

あの性悪生徒会長のせいだろどーせ

 

141:操り人形名無し 

性悪なのか…

 

142:操り人形名無し 

すっげぇ崇拝されてる感あったけど、やっぱり裏の顔とかあるん?

 

143:神様の玩具 

>>142 裏云々以前に表がない

あの人自分の人気わかってるくせに、全員の前で俺に嘘告白してくるし抱き着くし

しかもそのネタ数日間引っ張るし

 

144:操り人形名無し 

公開処刑やん

 

145:操り人形名無し 

両者ともに恋愛感情等は一切なし?

 

146:神様の玩具

>>145 誰があんなの好きになるんや

 

147:操り人形名無し 

ツンデレ?

 

148:操り人形名無し 

ツンデレだな

 

149:操り人形名無し 

男のツンデレに需要ないぞ

 

150:操り人形名無し 

恋愛感情ないにせよ、あんな密着されたらドキドキするもんだと思うけど

 

151:神様の玩具

誰がツンデレや

>>150 死の恐怖の方が性的興奮に勝ってた

でも会長のおっぱい揉んだ時は流石に興奮が勝った

 

152:操り人形名無し 

は?

 

153:操り人形名無し 

は?

 

154:操り人形名無し 

は?

 

155:操り人形名無し

ちょっと待て

 

156:操り人形名無し

>>151 kwsk

 

157:神様の玩具

>>156 色々あって、生徒会長のおっぱいをみんなの前で揉んだんや

 

158:操り人形名無し 

相変わらずの説明力不足

 

159:操り人形名無し 

その色々の所を説明しろ

 

160:操り人形名無し 

抱き着かれて死の恐怖を感じてたくせにおっぱいを自分から揉んだのか…(困惑)

 

161:神様の玩具 

色々の下りは説明できん

適当に考えておいて

 

162:操り人形名無し 

>>161 常識しらずのボーグバカやん

 

163:操り人形名無し 

>>162 いてててててて

 

164:操り人形名無し 

そこにおっぱいがあったから揉んだんやろ

ワイだってあんなことされたら揉むわ

 

165:操り人形名無し 

>>157 で、揉み心地どうやった?

 

166:操り人形名無し 

揉み心地こそkwsk

 

167:操り人形名無し 

確かにそこは気になる

 

168:操り人形名無し 

揉んだなら揉んだなりに感想はあるやろ

 

169:神様の玩具

>>165 女体の神秘を知ったというか、世界の全てを手に入れたのような全能感

服の上からだったけど、ブラの感触とか含めてエロかった

 

170:操り人形名無し 

>>169 これは童貞

 

171:操り人形名無し 

全ww能w感wwww

 

172:操り人形名無し 

>>169 ワイも今度風俗行ったら服の上から揉んでみるわ

 

173:操り人形名無し 

>>172 現役JKじゃなきゃ意味ないと思うぞ

 

174:操り人形名無し 

因みにイッチは他に何かエロい事したん?

 

175:操り人形名無し 

前戯までしたことあるやろコイツ

で、本番だけしたことない奴や

 

176:操り人形名無し 

>>175 呼んだ?

 

177:操り人形名無し 

おいオフロスキーおるぞ

 

178:神様の玩具 

>>174 同級生のパンツは何度か見た

最近は同級生(女)と風呂入ったな

 

179:操り人形名無し 

は?

 

180:操り人形名無し 

あのさぁ…

 

181:操り人形名無し 

これだからイケメンは

 

182:操り人形名無し 

なんでセクロスだけしてないんや

 

183:操り人形名無し 

一緒に風呂入ったなら最後までしろや

ゴム無かったんか

 

184:神様の玩具

>>183 実際ゴム無かったし

そもそも恋愛感情とかなかったし

 

185:操り人形名無し 

>>184 いいか小僧、好きな子で童貞卒業は若いうちに見られるくだらない夢だからさっさと目を覚ましとけ

じゃないと一生捨てれなくなるぞ

 

186:操り人形名無し 

>>185 先駆者ニキ…

 

187:操り人形名無し 

>>186 先駆者ニキは草

 

188:操り人形名無し 

人生 称号『童貞』獲得RTA

 

189:操り人形名無し 

>>188 人との交流を最低限にする

多分これが一番早いと思います

 

190:神様の玩具 

話の趣旨がズレてんだけど

頼むからもっと、俺におっぱいちゃんを泣かせる方法を教えて欲しい

 

191:操り人形名無し 

>>190 当日安価しろ

 

192:操り人形名無し 

取り合えず今まで決定した案を実行して、それの結果を報告してから安価

 

193:操り人形名無し 

じゃあ祭りの打ち合わせは終了と言う事で

 

 



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