記憶を辿って (ひとしずく)
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プロローグ

__ここは、ある魔法の世界。

 

この世界では、下級の3流魔法使い《ラリナ》、中級の2流魔法使い《ファリナ》…そして、上級の1流魔法使い《アリナ》と分かれている。

1流、2流、3流の魔法使いは、全て家系で決まる。

 

魔法で勝敗を決め、魔法で人を殺す。

魔法で、自分の人生全てが決まる。

 

そんな残酷な世界の中で、ある一人の少女がいた。苗字のない、ただ1人で旅をする少女…

 

その少女は、"ユキ"といった。

 

少女は、冷徹で、子供にして魔法の扱いが上手くて、けど力不足で、負けず嫌いで……そして、

 

__この世で1番、姉さんが大好きだった。

 

誰よりも大切だった。少女の、たった1人の"家族"だった。憧れていた、いつかは自分が姉さんを守ろう、そう思っていた。

 

しかし、あの日を境に、少女は目の光を消した。

 

 

…少女は絶望した。自分は無力だ、そう改めて叩きつけられ、実感した。自分を責めた。

 

 

"私のせいだ"と。

 

 

『貴方に魔法使いなんて、名乗る資格はないわ、"あの子"を……"あの子"を、返してよ!!!!』

 

 

___〖姉さんの仇を討つ〗、〖犯人を見つけ出す〗

 

今の私の使命はそれだけ。今の私ができること。やらなければいけないこと。

それ以外に、私の生きる理由はない。

 

 

でも、私の生きる理由を…一緒に見つけてくれて、与えてくれたのは………

 

 

 

『ねぇ、ユキ!』

 

『ユキちゃん…!!』

 

『ユキくん。』

 

 

 

なんとも個性的な貴方達だった。けど__

 

 

 

『私も…………×××みたいに………』

 

『俺だって……誰かの××になりたかったんだ…』

 

『……僕は………』

 

 

 

__私と同じように過去を背負った貴方達でもあった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

本作の作者、ひとしずくです!!

初投稿となります。この度はこの小説を開いていただき、ありがとうこざいます。

 

こちらはある復讐心を持った少女を主人公に、過去を背負った3人の主要人物によるお話です。

 

最初に言っておきます。

結構な気まぐれなので投稿頻度が遅かったり速かったりします。なんなら更新しない日が続くかもです

 

そして文章力の足りないところや語彙力のなさが目立つかもしれません。自覚はしております。

 

なにか誤字、脱字があったら教えてください。

確認次第、直ぐに対処致します。

 

ここ変だな、だったり、ここはこうした方がいい、と読んでて感じたら是非教えてください!

アドバイス(面白くない、つまらないなどのものは受け付けません)どうぞよろしくお願い致します。

 

できるだけ皆様が分かりやすく読めるようこちらも頑張っていきたいと思います!

 

こんな駄作者ひとしずくを、どうかよろしくお願いします!



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キャラ設定&1話『似た感情』

ユキ

 

 

 

・本作の主人公

 

 

 

・身寄りのいない旅する一人の少女

 

 

 

・依頼をもらいながら探偵の仕事をしている

 

 

 

・苗字がない

 

 

 

・苗字がないと悪い印象を与える為、ユキ=イリスという偽名を使っている

 

 

 

・姉と正反対で愛嬌がなく基本クール

 

 

 

・笑うことは勿論あるが、大体作っている

 

 

 

・発する言葉はたまに鋭い

 

 

 

・身長158cm

 

 

 

・15歳

 

 

 

・少女にしては大人びている

 

 

 

・知らないことも多い

 

 

 

・銀髪のロングヘア

 

 

 

・護身用にナイフを持ち歩いている

 

 

 

・ショルダーバッグを肩からかけている

 

 

 

 

 

 

 

シンラ=コーラル

 

 

 

・話を進めてすぐ出てきます

 

 

 

・1流魔法使いだった

 

 

 

・ある事情で家出をしてきた

 

 

 

・なにか起こっても冷静に対処する

 

 

 

・一途だが、傍から見れば変態

 

 

 

・変態発言多い

 

 

 

・身長172cm

 

 

 

・20歳

 

 

 

・茶髪

 

 

 

・嫉妬深い

 

 

 

・1流魔法使いの家系から逃げ出したことを知って欲しくないため、極力苗字を隠している

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イグナ=レーンナイト

 

 

 

・後に出てきます

 

 

 

・ユキと同じように一人で旅をしている

 

 

 

・たまにおかしな発言をする

 

 

 

・不思議ちゃん

 

 

 

・いつでもヘラヘラしている

 

 

 

・緑色のショートヘア

 

 

 

・茶色のマントを羽織っている、大体フードを被る

 

 

 

・毒舌

 

 

 

・売られた喧嘩は買う

 

 

 

・身長165cm

 

 

 

・19歳

 

 

 

・2流魔法使い

 

 

 

 

 

アキ=マーベスト

 

・名前をあまり気に入っていない(女の子みたいだから)

 

・結構後に出てきます。

 

 

 

・1流魔法使い

 

 

 

・マーベスト家ではほとんど医師であることで有名

 

 

 

・大きく期待されている

 

 

 

・黒縁メガネをかけている

 

 

 

・イグナと仲が良くなる

 

 

 

 

 

 

 

イリス

 

 

 

・ユキの実の姉

 

 

 

・ある人物によってユキの目の前で殺される

 

 

 

・身長162cm

 

 

 

・18歳

 

 

 

・ユキと同様苗字がない

 

 

 

・しかし魔法の扱いが上手く強かった為、住民から良く好かれていた

 

 

 

・愛嬌がある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユキ、イグナ、シンラ、アキ、イリスともに"自身の魔法"というものを所持している。

 

 

 

後に登場させます。

 

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 第1話 『似た感情』

 

 

 

「"炎の大合唱"__!!」

 

 

 

 

 

 

 

目の前の相手に手をかざし魔法名を唱える。 狙いはあえて少し外しておく。

 

 

 

すると、大きな炎が相手の横へ発生した。

 

 

 

 

 

 

 

「"炎の大合唱"!?あれは……1流魔法使い《アリナ》しか使えないはずじゃ……!」

 

 

 

 

 

 

 

「あの子、一体何者!?」

 

 

 

 

 

 

 

周りからそう声が上がる。毎度この魔法を使うとそう言われる為、そろそろ聞き飽きて来る頃である。

 

 

 

"炎の大合唱"とは、簡単に言えば火属性の魔法だ。その火属性の中でも上級のものと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

だから、炎の大合唱は、"1流魔法使いが唯一使えるもの"とも言われている。そして、狙いが上手く行けば相手を容易く丸焦げにもできるのだ。私は、姉さんにこの魔法を教えてもらい使えるようになった。

 

 

 

私にも姉さんにも苗字がないし、考えれば3流魔法使いだと思う。姉さんは私よりも強かったから分からないけど…

 

 

 

つまり、1流魔法使いじゃなくても使えるということだ。

 

 

 

「クソッ……テメェ、何者だ………ッ!?」

 

 

 

先程の魔法で既にボロボロな相手が私を睨む。

 

私はそんな相手を嘲笑うように見下ろし言った。

 

 

 

「私はただの探偵よ。年齢は15。名をユキ=イリス。もし私が1流魔法使い《アリナ》だったらこの苗字くらい知っているはずでしょう?」

 

 

 

「じゃあ、さっきの魔法はなんだ!?あんなの、そこらの2流3流の魔法使いじゃ」

 

 

 

話を聞いていなかったのか訳の分からないことを言う。

 

1流魔法使い《アリナ》じゃないって言っているのに。

 

 

 

私はため息をついて、相手の言葉を遮る。

 

 

 

「"炎の大合唱"のことかしら?確かにそうね。あれは元々1流魔法使いが唯一使えるって言われている魔法。けど、1流でもない私が使えるってことは……分かるわよね?」

 

 

 

ああ、年下の私にやられるくらいだし、馬鹿だから分からないか。

 

なんて見下し発言を吐き出しそうになったが、やめておいた。これで自分の印象が悪くなって依頼が来なくなったら困る。依頼が来なくなったら、私の使命が……

 

 

 

「……まぁ、少しは自分の頭で考えてみたらどうかしら?そしたら、1流魔法使いだとか、2流や3流魔法使いだとかは気にならないはずよ」

 

 

 

口の端を吊り上げ、相手を見つめた。

 

相手は悔しそうに唇を噛み、また私を睨んだ。

 

その目を乾いた笑いで返しておく。

 

 

 

相手の向こう…遠くを見つめた。

 

 

 

「そろそろ、かしらね。」

 

 

 

小さく呟いた。私はもう一度倒れる相手を見る。

 

そして相手に指を指し口を開く。

 

 

 

「今回の脅迫事件は……貴方が犯人よ。警察もそこまで来てる。観念なさい」

 

 

 

探偵や警察ならではのセリフだ。なぜ今言ったのかは……ただ私が生きてる内に一度は言ってみたかった、それだけである。

 

 

 

「探偵の方……ですよね?ありがとうこざいました」

 

 

 

いつの間に来たのか警察が私にそう話しかけた。

 

私は「ええ。そちらもいつもお疲れ様です」と言って頷く。

 

すると1分もかからず、犯人は警察に連行されて行った。

 

 

 

はぁ……ここでも、姉さんの手がかりは掴めなかった、か……

 

 

 

今日の依頼は終わりだ。今日もお疲れ様、私。

 

そう自分に言い聞かせる。そしてそのまま帰る場所はないが、どこかへ足を進めようとすると、

 

 

 

「あ、あのっ……探偵さん!今日は、本当にありがとうこざいました…!」

 

 

 

私よりも2つほど年上の女性が話しかけた。

 

この人は私に依頼をしてきた張本人。

 

脅迫状が来たから犯人をつきとめて欲しい、そんなような依頼だった気がする。

 

内容は確か……

 

 

 

"約束を果たさないならお前を殺す""許さない"

 

 

 

みたいな感じだったと思う。悪意ありの確信犯だ。

 

だが……こんな感情はどこかで………

 

 

 

ああ、そうだ。姉さんを殺した犯人に対しての殺意だ。

 

姉さんを……許さない、許せない………っ!!

 

 

……でも、1番殺してやりたいのは、無力な"自分自身"だ。

 

 

 

私はオドオドする女性に、

 

 

 

「__いいえ。依頼人の貴方が無事でよかった。またの依頼、お待ちしてるわね。」

 

 

 

そう言って作り上げた笑顔を見せた。



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2話 『吐き気』

__結局、姉さんの手がかりを掴むことは出来なかった。

はぁ、と深いため息をつく。

次の依頼場所へ行こう、そう思い足を進めようとすると、グーーと音がした。なんの音…?私は首を傾げる。しばらく考えてみると、

 

………私のお腹からだとわかった。

 

なんですぐ分からないんだ、という文句は受け付けない。

誰かに聞かれていないかと焦ったが、運良く周りには誰もいなかった。

そういえば、私は2日前から何も食べていない気がする

 

ついさっきあの女性から依頼に見合ったお金をきっちり貰ったし……なんとか食事は取れるだろう。

多分、1週間分くらい?

15の少女にはキツすぎるとは思う。

でも、仕方ない。姉さんの為だから。

 

直ぐにでも次の依頼場所へ行かなければいけないのに…そう思ったが、しかし、空腹には勝てない。きっと誰だってそうだと思う。……分からないけど。

 

私はすぐ近くにあった飲食店らしき場所に入る。

そこはバーのように上品な雰囲気を纏い、オーケストラで演奏しているような音楽がゆったりと流れていた。

 

そんな上品な店の風景に見惚れていると、1人の店員らしき男性が近づいてきた。

 

「いらっしゃいませ。1名様ですか?」

 

「ええ、1人です。」

 

そう言って頷く。店の中を一通り見渡してみる。

私が見たところそこまで混んではいないようだった。

 

「それではこちらへどうぞ。」

 

店員はそう言って店の奥に歩いていく。

私はそれに急いで着いて行った。

 

……この世界では、飲食店に少女が一人で来ても怪しまれない。それはなぜか。

 

それは……家系の問題で家出をする少年少女が多いから。単純な理由だ。しかも探偵をしていても警察にはお疲れ様ですとしか言われない。

そんな決まりのようなものが、私にとってはありがたかった。これで少女だから、未成年だからといって追い返されたり探偵を辞めさせられたりでもしたら、お金も貰えず食事をも取れず餓死するところだ。

 

席に着いたのか、店員は立ち止まり、席を手で示した。私はありがとうこざいます、と言って案内された席に座る。

 

「それでは、ごゆっくりどうぞ。」

 

店員はそう言い残して席から離れて行く。

テーブルの端にあったメニュー表を取り、開いた。

ペラペラとページをめくり、あるところで止まってしまう。

 

 

………。

 

 

 

 

………!

 

 

いけない、スイーツの物だけ見てしまっていた。

ちゃんと食事を取らなきゃ、姉さんに怒られちゃうものね……けど………

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

…呼んでないのになんで来た。

呼んでもいないのに来たことと、店員のロボットかと思うほどの冷静な声に驚きながらもあ、えーっと……と考えるふりをする。気持ちを整える時間が欲しかった。

驚くのも無理はないはずだ。絶対に。

 

「ふぅ……よし。」

 

私は小さく呟くと、メニュー表のある料理を指差す。

 

「この……スパゲッティで……!」

 

いつでも私は冷静であること。自分の中のプライドだ。

自分の弱いところなど、見せて堪るものか。

 

……スイーツになど、負けてたまるか。

 

店員は注文料理を聞くと、かしこまりましたと言って席を離れて行った。

 

普通に考えて、呼んでもいないのに来る店員なんているのだろうか。まぁ…気にしても仕方ないか。

 

もう一度息をついて、呼吸をちゃんと整える。

その後、料理が届くまで、と思い、ショルダーバッグから1冊の本を取りだした。

この本は、私が唯一持っている本、そして世界で1つの本でもある。

 

別に私のために本を書いてくれと作家に直々に頼んだ訳じゃない。

簡単なこと、自分で書いたお話だからだ。

小説を書くのは好きだ。自分の思い通りに話が進んでいってくれるから。

 

私が書いたお話の内容は1話1話それぞれ違う。いわゆるいくつかの短編を集めた一つの小説。

 

1つはある国の王子と王女のお話で、2つ目は幸せというものを嫌い、苦しみに祈りを捧げる島の民のお話だったり……色んなお話を書いた。

これがもし現実になったら……そう思う。

しかし、王子と王女のお話は、いつかどこかで……

 

「お客様、こちら、パンケーキになります。」

 

先程も聞いた声……店員が声をかけた。

そこで思考が強制的に停止させられる。

 

パンケーキ……?パンケーキって、あの?

 

……そんなもの、私は頼んだ覚えはない。

確かに気になってじっと見つめていたものではあるが…間違えて頼んだなんてことはありえない。

 

「あの、これ……頼んでないのですが」

 

パンケーキを笑顔でテーブルに置いた店員に恐る恐るそう言った。店員は何かを思い出したように目を丸くした。

 

「ああ、申し訳ありません。こちら、あのお客様からのプレゼントということになっていて……言うのが遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。」

 

本当に申し訳なさそうに頭を下げて言う店員。

 

「え、……は?」

 

は?

声にも心にも出てきた2文字。意味がわからなかった。

もしかして……最初に入ってきた時のようにここは本当はバーだったりするの??

 

いや、私に限ってそんなこと…

 

私は店員があのお客様、と言って手で示した場所を見る。そこには一人の男の人が座っていた。

 

…知らない、

 

男の人は私の視線に気がつくと、こちらを向いてウインクをしてきた。

なんだろう、気持ち悪い、という感情しか出てこない。

 

呆然とその席に座っているしかなかった。

 

すると、その男の人は私に聞こえるような声量で店員に一度席を外すよと言った。しかもこちらに近づいてきたのだ。

 

逃げ出したい。ここにいたくない。気持ち悪い。吐き気がする。

 

酷い言葉が長々と綴られる。

 

「やぁ、君がなんとも綺麗で、ついプレゼントをしてしまったよ。是非美味しく食べてくれ」

 

……………無理だ。私には、無理。

申し訳ないが、この人には少し我慢できない感情がある。

 

「………気持ち悪い。貴方は自分の顔を鏡で見た事がある?見たことがないならば今すぐみて。あ、もしかして毎日見てるけど気づいてないってやつかしら?申し訳ないけど、美味しくなんて食べれないわ。

 

 

 

__一度、死んだらどう?」



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3話 「貴方の元へ」

「__一度、死んだらどう?」

 

男の人を睨みつけ言う。

言う間にも吐き気はおさまらない。気持ち悪くて、気持ち悪くて仕方ない。

これだから男の人は嫌いだ。

 

男の人は私の言葉を聞くと、目をまん丸にさせて固まっている。

その時、頼んだスパゲッティが届いた。

 

「…それ、この人にあげてちょうだい。パンケーキも、返しておいて。代金はこの人に払わせて」

 

淡々と告げて店員をも睨みつけて男の横を通り過ぎ店を出た。

 

……私は悪くない。

 

姉さんがここにいたら、きっとそんな汚い言葉使わないのって言うだろうけど……絶対に絶対、私は悪くない。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

……あの店での食事を諦め、歩くこと数分。意識が朦朧として倒れそうでいる。

私は何も食べず生活をして、ただただマナを消費続けた。当然であろう。それなら別の飲食店に行けばいい……確かに、それもそうだ。

しかし、あの店以降、飲食店は見つからない。誰かが仕組んでいるのではないかと思うほど、おかしいくらいに見つからない。

だから私は、見つからずとも他の飲食店に向けて歩き続けるしかなかった。

 

「あっ……!」

 

足がもつれ、固い地面に倒れ込む。

コンクリートに顔や膝、肘をぶつけ、その場所が強く痛む。

 

歩く力も、立ち上がる力も、私にはなくなっていた。

立ち上がる力を下さい、と神に祈るしかなかった。神に祈るなんて、そんなの……

でも、私はそれしか出来なかった。

 

「……イグナ様、どうか…………」

 

_助けて。私にお慈悲をください。

馬鹿な願いだと、祈りだと、そう馬鹿にされたって構わない。

それでも、私は__

 

……ああ、そうか。

私は確かに姉さんを殺した犯人を見つけ出すことが使命。でも、姉さんに会うことが私の一番の願いであり使命だ。

 

ちょっとくらい、わがままを言わせて。

姉さんに会いたい。姉さんに会わせて、神様………

 

「姉さん……」

 

待っててね、私、貴方の元に行くわ。

この苦しみの檻から…逃げ出したいの………

 

私には、何もない…だから、もう…

 

"死なせて"

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

"あの家"からやっと逃げ出すことが出来た俺。

やっと自由になれる、と一人ブラブラ町を歩いていた。

そこで俺は、驚くべきことを目の当たりにする。

 

「……!?」

 

地べたに倒れる1人の少女がいたのだ。

綺麗な銀髪……まだ14か15程の子供か。

 

「え?ちょっ……ねぇ、大丈夫?」

 

俺は肩を揺らして声をかける。

少女からは唸り声だけが聞こえてきた。

 

「……良かった、生きてはいる………」

 

だが、ここからどうするか。

下手に連れて行っても誘拐犯扱いをされそうで怖い。

そして逮捕だーなんて言ったらあの家にまた逆戻りしてしまう。あいつらにまた馬鹿にされる。

そんなの、……絶ッ対に嫌だ。

 

「……でも、仕方ない、か…………」

 

ボソリと呟いて少女を雑に担ぐ。

その時、少女が寝言のような何かを吐息混じりに言った。

 

「…姉、さん………」

 

……気にすることでもないか。

俺は急いでどこか1泊のできる宿はないかと探し始める。

誘拐犯だと間違えられるのを恐れたはずなのに何故この少女を助けようとしているんだろうか。

俺にも分からない。だが……

 

__少なくとも俺は、この少女にはきっと何か重要な目的が、未来があると思ったから、だろう。



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4話 「知らない人」

…小さな光に眩しさを感じ、目を覚ます。

目を開けると見たことのない真っ白な天井。そして、温かみのある布団をかけられていた。

 

「……?」

 

まともに寝たのはきっと久しぶりだ。だが、なんとなく初めてのような感覚でもあった。

私は疑問に思いながらも身体を起こす。

 

その時、どこか気持ち悪さを感じた。

ウイルスや食中毒などの類のものではなく…

きっとこれは……空腹によるものだろう。

 

そうだ。私は…倒れたんだ。空腹で。そこを……誰に、助けられたんだろう?

 

「あ、かわい子ちゃん、起きた?」

 

誰かに話しかけられ、驚いて体を震わせる。

即座声のした方を向くと、私よりも遥か年上らしい男の人が首を傾げながらこちらを見ていた。

貴方は誰、と聞こうとすると、先に男性が口を開いた。

 

「ねぇ、パン焼いたんだけどさ。食べる?」

 

…!

目を見開いてしまった。パン、食べ物…!!

一瞬でも早くこの気持ち悪さをどうにかしたい。

 

「……え、ええ。」

 

素直にありがとうとも言えず、私は小さく頷いた。

男性は分かったと明るく言って部屋の奥へと歩いていった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

…しばらくして、ほのかなパンの香ばしい匂いが私の鼻を刺激した。先程からグーというお腹の音がやまない。

それほどお腹が空いていたということなのだろうか…?

 

男性が姿を現す。その手にはパンの乗った皿とジャムがあった。そして…コップまで。

 

「お待たせしました、どーぞ。かわい子ちゃん」

 

………そのかわい子ちゃんという呼び方はどうにかならないのか。

どこかむず痒くなる。

 

「…あ、ありがとう。えっと……その、いただきます」

 

出された食事に少し困惑しながらも手を合わせ言う。

男性はニッコリと笑って、はーいと頷いた。

 

その頷きを了承と受け、空いたお腹をはやく満たす為にパンを頬張る。パンのかすが口の周りにつくのがわかる。しかし、食べることは止められなかった。

 

「あはは、そんなに急いで食べなくても…パンは逃げないよ、ゆっくり食べな」

 

うっすらと笑みを浮かべて男性は言う。

さっきからこの人は笑ってばかりだ。

 

…楽しそうでなによりだわ。

 

「ねぇ、あらたはろうしてわたしをたふれたの?」

(ねぇ、貴方はどうして私を助けたの?)

 

「もう、何言ってるのか分からないよ。ほら、ちゃんと飲み込んでから、ちゃんと話して?」

 

男性は飲み物の入っているコップを手渡す。

それを受け取ると、口の中に頬張ったパンを飲み物で流し込んだ。

 

……ココアだ、甘くて美味しい。

 

「んんっ……ねぇ、貴方はどうして私を助けたの?」

 

咳払いを1つして、男性に聞いた。

男性はあごに手を当て、考えるポーズをする。

 

「それが、俺にも……あっ、そうだ。君、名前は?かわい子ちゃんって呼ぶの、恥ずかしいしさ」

 

……だったら最初から呼ばなければいいじゃない。

確かに名乗らなかった私も悪いけど。

というより、今、絶対に話をはぐらかした。質問を質問で返された、というのはまさにこの事だろう。

 

「……私は、ユキ。貴方は?」

 

そう言って1口ココアを飲む。

……うん、やっぱり、美味しい。

 

「俺?俺はね__

 

 

……シンラ。シンラだよ。

 

君可愛いからシンって呼んで欲しーな。」



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5話 「隠し事」

「シンラ。シンラだよ。君可愛いからシンって呼んで欲しーな。」

 

…シンラ、彼の名前は、シンラ。頭の中で名前を復唱する。どこかで聞いたことのあるような、ないような…そんな変な感覚に陥る。

 

「……そう。じゃあお言葉に甘えて、シンって呼ばせていただくわね。」

 

シンの口説きのようなものは触れないでおく。

なんとなく、面倒なことになりそうだから…。

するとシンは少し口を尖らせた。

 

「あっ、可愛いってとこは触れてくれないんだ〜……まぁいいや。俺はユキちゃんって呼ばせてもらうね」

 

ユキちゃん……ちょっと、馴れ馴れしい呼び方。

呼び捨てならまだ……まぁ、私も彼のことをシンってあだ名のようなもので呼ぶのだし、彼だってなんて呼んでもいいか。

私の気にしすぎね。

 

「分かったわ。……ところで、シンの苗字は?

 

__あっ、言い難いなら言わなくてもいいのだけど。」

 

苗字は、と聞いた時、シンは先程までニコニコだった表情を酷く歪ませた。そんな表情に驚いて、シンに突如言わなくてもいいと言ってしまう。

 

気まずい雰囲気は、あまり好きじゃない。

 

「……ごめんね。俺は、………ええと、ユキちゃんの苗字は?良かったら教えて欲しいな」

 

そっちは教えなかったくせにこちらには喜んで聞くのね。

そう心の中で毒を吐く。これだから私は、周りに性格が悪いのよ、って言われるのよね……。

 

私には……苗字は、ない。

だから1流魔法使い《アリナ》にも、2流にも、3流にも属しない。簡単に言えばただの"一般人"だ。

 

「……ないわ。」

 

ボソリと呟くように言うと、シンが目を丸くした

 

「え?」

 

「苗字は、ないわ。」

 

服の裾を握って答える。

ああ、これで私は追い出される。どこにも属しない人間なんて必要ないと言われて。

 

失望される。絶望される__。

 

「そうなんだ!?苗字ない子なんて初めて聞いた!でもさ、昨日使ってた炎の大合唱、凄かったよね?」

 

……今度は、私が目を丸くする番だった。

昨日、使ってた、炎の大合唱………それは、事件を解決する為に使用した魔法……

 

「え?貴方……見てたの?」

 

「?……うん。」

 

……

 

…………

 

………………。

 

見てたのなら一言声かけなさいよ!!!!

いや確かに私が彼の立場だったら声かけないけど…こういう時に言われるのなら先に言ってもらってた方が楽だったわ!!!!

空腹で倒れてたなんて恥ずかしすぎるじゃない……!!

 

「あっ、そう。もういいわ。

 

それじゃあ、私、もう行くから!!!!」

 

顔を真っ赤にさせて立ち上がる。

シンはえ、と口を半開きにして驚いていた。

なんで?と言わんばかりに。

 

「食事を提供してくれてどうもありがとう。礼はまた次会った時によろしく頼むわ。」

 

上から目線すぎる発言なのは、自分でもわかっている。

けど……恥ずかしすぎて、もうここにはいたくなかった。気にするほどでもないってことも、分かってる。

けど、彼が、もし、姉さんだったら、きっと私は失神してると思う。魔法の使いすぎでもなく空腹"だけ"で倒れたのだ。無理、無理すぎる。

 

私は踵を返して部屋の玄関に向けて歩く。

 

その時、誰かに手を掴まれた。

掴んだ人物はもちろん……シン、なのだけれど。

 

「行く、ってさ……どこに行くの?」

 

目をキラキラさせて私を見つめ聞く。

どこにって言ったって……次は隣町までってところかしら

 

「……隣町のシクロスまでだけど」

 

「…!俺も!俺もついてっていい!?」

 

「勝手にし……って、はぁ!?何言ってるのよ、貴方…!」

 

シンの想定外な返しに驚いてつい声のボリュームが大きくなってしまう。

無理に決まってる、と言って断ると、お願い!!というシンの必死な声で返される。

何度かその会話を続けると、シンが突如静かになる。

やっと諦めたか…?と思ったが、そんなことはなかった。先程よりももっと、信じられない爆発発言が待っていた。

 

「食事を提供したお礼、ってことじゃダメ?

それがダメなら……代わりのお礼ってことで、ユキちゃんの体で払ってもらおうかなー」

 

ニヤリと笑って、シンは言う。

恥ずかしさよりも怒りがふつふつと湧き上がる。

初対面と言ってもまだ変わりない人物になんて失礼な言い様だ。私は手を振りあげてシンの頬に向けて平手打ちをかます。

最後のセリフさえなければ、まぁ仕方ない、と私が引いてあげたと言うのに。

 

 

「__最低。あんた1回死になさい!!!!」



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