この素晴らしい世界に祝福を! このぼっち娘と冒険を! (暇人の鑑)
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第1章 おいでませ異世界!
第1話 この少年に異世界転生を!


久しぶりにこのすばのSSをやっていこうと思います。
突発投稿で不定期更新の失踪予備軍ですが、よろしくお願いします。


それではどうぞ!


「纏 凪斗(まとい なぎと)さん。ようこそ、死後の世界へ。

 

あなたの人生は、残念ながら終わってしまったのです」

 

 トラックに撥ねられて目の前が真っ暗になった俺は、いつの間にか何もないところにいた。

 いや、何もないというのはちょっと違う。

 

 

「……誰です?」

目の前には翼の生やした女性が立っているのだ。

 

 

「私は天界からの使いの者です。あなたの魂の行き場を導くために参りました」

 

そんな女性の言葉を、何故か俺は嘘だとは言えなかった………だってなんか体が透けてるし。

 

 

 

 

そして、はっきりと理解した。

 

 

 

 

俺は、交通事故で死んでしまったのだ。

 

 

 

「死んじゃったのか………」

 流石に落ち込んでいる俺に天使みたいな人は慰めてくれるように。

「はい。トラックにはねられて、即死でした。

 

 ……無理に納得しようとしなくてもいいですよ?ここに来た時、慌てふためいたり、訳も分からず泣き出したりする人もいるのですから」

 

「大丈夫です……さすがに車に撥ねられたら死んでも無理はないですから」

 なんとか理解はしたものの、やはり親や友達に突然会えなくなったのはかなり残念だけどな………でも、あと数十年もしたら、みんなここに来るか。

 

「と言うか、魂の行き場って言ってましたが、俺はどこへ行くんですか?」

 

とりあえず、しんみりムードはむず痒いので天使さんにこれからのことを聞いてみると、どうやら………

 

 1、赤ん坊からやり直し。記憶は消去

 

 2、天国で先人達とお話し。記憶は残る

 

ここまではまあわかるし、この二つなら忘れたくないこともあるので2を選ぶが、3つ目から急に意味がわからなくなった。

 

 

 3、異世界へ転生 記憶は残る

 

 

異世界ってなんだ。

ゲームみたいな世界にでも入れるのだろうか?

 

「異世界って、どう言うことですか?」

 

とりあえず聞いてみると、どうやらこういう事だった。

 

 

・魔王とその手先によって危機に晒されている世界で、死んだ人がこんなところは嫌だと天国などに行ってしまい、人口が少なくなっている。

 

・そこで、別の世界で若くして死んだ人を応援として転生させることになった。

 

・で、転生した人がすぐに死んでしまわないように、チートじみた能力を持たせよう!

 

 

 

 

「と、言うわけなんです……」

「へー……でも、それなら結構色んな人が行ってるんじゃないんですか?」

RPGの世界に入れるなんて、ゲーム好きな人にとっては夢みたいなものだろう。

 

 

だが、そんな俺の疑問に少し目を逸らしながら、天使さんは恥ずかしそうに。

 

「いえ、その………できるだけこの世界のことを知ってもらおうと色々と話すのですが、そうなると誰も行ってくれないんですよね………前任者の女神様は、そこのところをぼかしてたのか、うまく行っていたんですが…」

「不憫だ……」

 

たしかに、命の危険と隣り合わせのRPGな世界で、せっかく転生したのにまた死にたくはないだろう。

 

 

でもこれなら………

「上手くいけば記憶を残したまま、色んなことができるのか」

天国について聞いてみたが、どうやらドラゴンボールの天国のような光景ではなく、何もないところで、先人達の霊があるだけらしい。

 

 記憶は残るけど、これじゃあ話すこともないだろう。記憶を消して生まれ変わるのも嫌だし………それなら、もう俺の選択は一つだな。

 

 

「あの………

 

 

 

俺、異世界転生します」

 

 この真面目な天使さんに花を持たせるのも良い。

 

 そう考えながら、俺は異世界へ行くことを天使さんに告げた。

 

 

 

 

「それでは凪斗さん。この中から一つ、好きなものを選んでください」

 

少し嬉しそうな天使さんを横目に、俺は床に散らばった紙を拾い、内容を吟味する。

 

「無限の魔力だの、超強い武器だの、すごいものばっかりだ」

「たった一つしか与えることができませんので、慎重に選んでくださいね」

 

どれもとんでもないチートだよな……。でも、あんまりえげつないチートをやるのもな……なんかこう、一方的な俺TUEEEは楽しくない。

 

 

 そんな我が儘めいた事を考えながら探していると……良さそうな能力を見つけた。

「このエアーズワークスって言うの………面白いな」

 

この能力は、空気や風を自由に操ることで、スピードアップやアクロバットなどができるようになるらしい。更には、オリジナルの必殺技もあるんだとか……よし。

 

「これにしようかな」

そう言って紙を手渡した後。

 

 

 とうとう俺が旅立つ時が来た。

 天使さんは久しぶりにやるのか、少し緊張した面持ちで何かを唱え出す。

「それでは………天界規定により、この能力はあなたのものとして受理され、異世界へ転移するための全ての準備が完了しました」

 

 

その言葉と同時に、俺の足元に魔法陣みたいな模様が浮かび上がり、本当に旅立つんだと今更ながらに実感した。

「さあ、勇者よ!旅立ちなさい。願わくは数多の勇者候補の中から貴方が魔王を倒し、世界を救うことを祈っております。そしてその時は、どんな願いも一つだけ叶えて差し上げましょう!」

 

 

 

 そして、眩い光の中で、俺は何かに吸い込まれていくのだった。

 

 

 

 

 光が止んだようで、チカチカする目が回復した俺の前に飛び込んできた景色は、一面が白い雪化粧だった。

 

 

 

 俺たちの世界でも冬に入りかけだったので来ているものは学ランに防寒具だが、それでも寒いものは寒い。

 

 

 

 だが、それよりも俺は目の前の景色に感動を覚えていた。

 

 そこは、レンガの家が立ち並ぶ、どこか異国めいた雰囲気の街並み。

 

 車やバイクはおろか、電柱も街灯も見当たらない。

 

 そしてその代わりと言わんばかりに、獣の耳をつけた獣人みたいな人や、耳の長いエルフみたいな人が人間に混じってちらほら見えた。

 

 

「すっげえ………俺、本当に異世界に来たんだ!さっきまでちょっと疑ってたけど、これじゃあ疑いようがない!」

 

 ありがとう、そして疑ってごめんなさい天使さん!

 

 そんな感じで舞い上がっていたが、周りからの視線で慌てて湧き上がるものを抑えると同時に、ふと気づく。

 

 

「転生したはいいけど、どうやって暮らしていけばいいんだ?」

 俺、今金なしのホームレスじゃん。

 

 なんならチートスキルもらったって、どんなことできるかわかんない上に、武器とか薬草みたいなやつもないから戦えもしない。

 

 持ってるものといえば、中学校のカバンにお金がいくらか入ったお財布、登校前だったので未使用の体育着に筆箱、教科書が数冊ある程度だ。

 

 寒空の下、突如訪れた生命の危機に対して俺は色々考え始める。

「財布と筆箱とか以外は全部売るとして……まずは情報収集を……」

 

 と、道の真ん中でこれからどうするかを呟いていると。

 

「うう………ベタベタして気持ち悪いよぉ……」

 

 

 

 全身を粘液まみれにした女の子が、涙声でとぼとぼと歩いていた。

 




あとがきです。

まずは主人公の紹介といきましょう。

纏 凪斗
読み まとい なぎと
髪色 濃紺 瞳 青
年齢 14歳 職業 公立中学2年生
主人公。
なんの変哲もない男子中学生。
トラックに轢かれて死んでしまい、異世界へ転生することになる。ゲームや漫画が好きで、性欲や物欲もそれなり。性格も普通なので、キワモノ揃いのアクセルの街の面々やヘンテコな異世界に振り回されることもしばしば。


エアーズワークス
凪斗が貰った特殊能力。
空気や風を操ることができるようになり、浮上や高速移動などができるだけでなく、風属性魔法の威力が少し上がる上に、職業関係なく風属性の魔法が使えるようになる。また、神々の遊び心でも入っているのか、漫画やアニメの技がスキルとして使えるようになる。


大体こんな感じの子がゆんゆんと一緒に冒険します。

次回はゆんゆんとの出会いを描いていきたいと思いますので、何卒よろしくお願いします。


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第2話 この冒険譚に始まりを!

はい、2話です。

稚拙な文章ですがよろしくお願いします。


異世界に転生してすぐの事。

 

 これからについて考えていた俺の視界に飛び込んできたのは、全身が粘液まみれの女の子だった。

 

「うう……ベトベトして気持ち悪いよぉ…」

 

とりあえず台詞的に普段からこうと言うわけじゃないらしく、少し安堵する。

 

……いくら見た目が良くても流石にナメクジの擬人化とは話したくないし。

 

 とりあえず、粘液まみれのこの状態を放って置くのはダメだよな……

 

 

「えっと………大丈夫、ですか?みるからにやばそうだけど…」

 

とりあえず声をかけてみると、その女の子はすこしびくっとした後、あたりを見渡す。

 

 どうやら、自分以外に話しかけてるんじゃないかと思っているみたいだが、その異様な状況の人間が何人もいてたまるか。

 

 やがて、自分に話しかけられているのだと気づいたその子はなぜか深呼吸をして。

「え、ええと……大丈夫です。ちょっと、勝負してただけなんで……」

「こんな雪中で、なんで粘液絡みの勝負を……」

 

 この世界の住人は、雪が降り頻る中生臭い粘液で遊ぶのか?

 だとしたら相当嫌な世界に転生したもんだが……。

 

 

 まあ、まずはこの子だ。

「兎に角、そんな格好じゃ風邪ひいちゃうし、これで良ければ使うかい?」

 

そうして俺は通学に使っていたバッグから体操服とジャージが入った袋を取り出して差し出すと、その子はあたふたして。

 

「そ、そんな悪いですよ!初対面の方にそこまでしていただかなくても……」

 

と、断ろうとしたがそこで流石に寒かったのかクシャミをしてしまっていた。

「やっぱり寒いんだろ。シャワーでも浴びてそのヌルヌル落すか銭湯にでも……」

「しゃわー?せ、せんとう……?え、えーっと……よ、よくわかりませんけど、ありがとうございます……あ、あの、どうかしましたか?」

 そうしてその子に体操服を渡そうとしたが、ここでふと思い出す。

 

 

 

「すいません。銭湯……じゃなかった、お風呂屋さんってどこにあるのか、教えてもらっていいですか?」

 俺、まだここに来たばかりで何も知らないじゃん。

 

 

 

 

 大衆浴場前

 

「女子の風呂ってこんなに時間がかかるのかよ…」

お風呂屋さん改め大衆浴場に案内してもらった俺は、ヌルヌルだった子を浴場の前で待ち構えていた。

 

「にしても、俺がやったわけじゃないのに妙に視線が痛かったな…」

 

くだらないことを考えている間にも、浴場から出てきたのか体をホカホカさせている人たちが出たり、寒そうにしている人がはいったりしており、やがて。

 

 

「お、お待たせしました……」

 出てくる人の中に、お目当ての人物がジャージ姿でやってきた。

 

「サイズは…良かった、大丈夫そうだ」

「はい、ありがとうございます……」

上半身の一部がキツそうだが、それ以外はしっかりと入っているようだ……因みに一部とはもはや言うまでもない。

 

 

 視線がそっちに行かないように格闘していると。

「服を貸していただいたお礼を何かしたいんですけど…して欲しいことありますか?あ、えーっと…………その、え、エッチなこと以外で」

「………なんか、すいません」

 

 視線が向いていたのか、胸をヌルヌルになった服でも入っているのか、膨らんだ袋で隠すようにしながら、願ってもないことを提案して来た。

 これなら記憶喪失とか変な設定にしなくても色々教えてもらえそうだ。この子も変な子じゃなさそうだし。

 

「じゃあ、冒険者ギルド…の前に、まずは質屋とかの場所を教えてくれませんか?俺、冒険者になるためにこの街に来たんですけど、お金がないから物を売ろうとしたんです。でも、場所がわからなくて…」

 

 ひとまずエロは無しに、やってもらいたいことを挙げると申し訳なさそうに頭を下げながら。

「あ、そうだったんですね…すいません、もしかして、貸していただいた服ってお金に変えるつもりでしたか…?」

 どうやら気を使わせてしまったらしい。まあ、変えるつもりではあったけど今更だ。

 

「実はそうなんだけど…まあ大丈夫です。あんなヌルヌル状態の女の子を放っては置けないし」

「でも……」

 でも、どうやらこの子は相当な気遣い屋みたいだし、気にしなくてもいいと言っても気にするよな……そうだ。

 

 

 

「えっと……あなたはさっきまでの格好から見て冒険者ですよね?それなら……色々と教えてくれませんか?気軽に話せる人がいたらいいなーって思ってましたし」

 それなら、しばらくこの子に色々と教えてもらえばいいし、流石に全く知らない世界で一人ぼっちは辛いものがあるから、知り合いを作っておきたい。

 

 と、打算的な提案をしたところ、この子の目の色が変わった。

 

 

「ほ、本当に⁉︎本当に話し相手になってくれるんですか⁉︎わ、私と、お友達になってくれるんですか⁉︎」

「え、えーと……まあ、そうだけど…」

 

さっきまでの引っ込み思案は何処へやら、急にグイグイ来始めたその子にうなずきつつも、突然の変貌に驚く俺。

 

 なんというか、赤く輝き始めた瞳と相まって少し怖い。

 

 これで「やっぱやーめた」なんて言おうものなら殺されるんじゃなかろうか。

 

 

 

 

そんな俺の動揺も気づかないほど浮かれたその子は、目をキラキラさせつつ俺の手を引いて。

 

「任せてください!さあ、ギルドへといきましょう!」

 

喜色満面と言った感じでどこかへと走り出したのであった。

 

 

 

「これがギルドか……うん、それっぽい!」

 例の子に連れてこられたのは、この街の中心部に立つ大きな建物で、「冒険者ギルド」と書かれた看板を持つ建物だった。

 

 見た目も、ド○クエで見たようなギルドの建物が実際にあったらこうなると言わんばかりのもので、否応無しにテンションは上がる。

 

「冒険者になるにはまずはここで冒険者としての登録を行うんですが……」

 

と、そんな俺の隣で説明をしていたところで突然モジモジとして。

 

「ん?」

「えっと……お名前は……」

そういえば名乗ってないし名前を聞いてもいなかったな。

 

「マトイ ナギトです。故郷の友達からはナギって呼ばれてる……年は14。よろしくお願いします……で、そちらは?」

自己紹介の後に名前を聞くと、その子は少しの間を開けた後恥ずかしそうに。

 

 

「わ、わたしはゆんゆんって言います…年は13ですが、もう少しで14歳になります……」

 

と、名前と年齢を………

 

 

 

 

 

 ん?

 

「ゆんゆん?」

 なんだ、そのパンダみたいな名前は………そうか。

 

 

「ニックネーム?」

「本名です……」

 まじかよ。

 

 ニュースで見たキラキラネームがまだ可愛く見える変な名前だな、おい。

 

 しかし、それを今口に出すのは失礼だしこのまま話を進めよう。

 

「そうですか。よろしくお願いしますね」

「今の間はなんですか………?あ、あと敬語じゃなくても良いですよ?そっちの方が私も気が楽ですし……その、友達みたいだなって……」

 

 

 さっきから矢鱈と友達を強調してくるが……ひょっとしてぼっちなんだろうか。

 まあ、敬語ばかりの堅苦しさで肩が凝りそうだったし、この子も嬉しそうにしてるしそうすべきだろう。

「分かった。じゃあ早速案内頼むわ」

「分かりました、任せてください!」

 

 そうして俺は、ゆんゆんの後に続いて冒険者ギルドへと入っていった。

 

 

 

 冒険者ギルド。

 それは、冒険者に仕事……つまりクエストを与えたり、色々なサポートをしてくれたりする、プレイヤーのお供だ。

 

 そんな場所に入った俺は………

 

 

 

 喧騒と共に漂うある匂いに鼻を摘んだ。

 

「さ、酒臭い…て言うか、人多いな。クエストに行ったりしないのか?」

「冬は弱いモンスターが冬眠をするので、強いモンスターしかいないんですよ」

そんな匂いだと言うのに、ゆんゆんは全く反応を見せずに早速教えてくれる。

 

「でも、モンスターを放置しても良いのかよ?」

「本当は倒した方がいいんですが、そのモンスター達は私を含めてもこの街の冒険者には手がつけられない程に強くて…だから、冬までに稼いだお金で仕事の少ない冬を越す支度をするんです」

 

 それで飲んだくれてるのか……。

 

「でも、昼間から酒って……しかも、どう考えても20歳いってない人まで呑んでるし…」

 何というかダメ人間の溜まり場だ。

「特に何歳からって言うのはありませんよ?まあ、何があっても自己責任なんですが…」

 

緩いな!と驚く俺を横目にゆんゆんは意気込んだ様子で。

「それよりも、冒険者になるならまずは手続きをカウンターでやらなきゃいけないんで、先にそっちに行きましょう」

 

新参者には何かあるのか、ちょこちょこ向けられる視線を気にしつつゆんゆんと一緒にカウンターに向かうと、そこには金髪でスタイルのいいお姉さんがいたのでそっちに向かう。

 

……だって男の子だもん。

 

 カウンターの前に立つと、お姉さんが用件を聞いて来たので。

 

「えっと、冒険者になるために来たんですが、手続きをお願いできますか?」

 すると、お姉さんは事務的なスマイルを浮かべながら。

「そうですか。では、登録手数料がかかりますが大丈夫ですか?」

と、慣れた手つきで………って!

 

 

「やべ、換金してくるの忘れた!」

 

 そうだ、金がないとって売ろうとしてたんだった。

「換金……?モンスターの討伐でもやったんですか?」

「いえ、財布を落としたんで持ち物をいくつか売ろうかと…」

「は、はあ……」

 

 適当についた嘘に同情の視線を向けてくるお姉さんに、換金してからまた来る事を伝えようとした時。

 

「待ってください!服を貸してもらったお礼も兼ねて、ここは私が出しますよ」

「え?良いの?」

「はい!お友達ですし、先輩みたいなことしてみたいなーって…」

 

 いつの間に友達に昇格したのかは知らないが、そうして財布からお金を出したゆんゆんは、馴染みの深い学校のジャージ姿だと言うのにやけに尊く見えた。

 

「ありがとうございます、女神様……すいません、これでお願いできますか?」

 

 お金が入り次第、真っ先に返そうと心に誓いながらもお姉さんに貰ったお金を渡すと、苦笑いしながらも説明を始めてくれた。

 

 曰く、冒険者とは街の外に生息するモンスターの討伐を請け負う人……それ以外にもやることはあるので何でも屋みたいなもの。

 そんな人たちの総称が冒険者で、それぞれ適した職業に就くんだとか……まあ、ゲームでよくあるやつだ。

 貰った能力的に、戦士系になると思うけど、魔法も捨てがたいんだよな……。

 

 と、何に就こうか考えていると、カードを一枚渡された。

 

「なんだ、これ……」

「これは冒険者カードと言うんですが、それよりもこちらのレベルという項目をご覧ください。

 

ご存知かと思いますが、この世のあらゆるものは魂を体のうちに秘めています。そして、どのような存在であれ、他の何かの生命活動を止めることで、その存在の魂の一部を吸収できるのです……いわゆる経験値と呼ばれるものです。それらは普通、目で見ることはできないんですが……」

お姉さんが、カードの一部に指を差した。

「このカードを持っていると、吸収した経験値が表示されると同時に、レベルというのも同じく表示されます。これがいわゆる強さの基準であり、どれだけ討伐を行ったかもここに記載されていくんです。そして、経験値を貯めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。………これがレベルアップと呼ばれるものですね。

 

 

 つまり、このレベルが上がると新しいスキルを覚えるために必要なポイントなど、色々なご褒美があるので、ぜひ頑張ってくださいね」

要は、このカードに書いてあることが俺のステータス一覧ってわけだ……本当にゲームの世界の住人にでもなった気分だな。

 

 渡されたカードを宝物のように眺めていると、お姉さんは書類を差し出しつつ。

「そのカードはまだ使いますので、こちらに置いておいてください……手続きを踏めばちゃんとあなたのものになりますので……では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等を記入してください」

「は、はい……」

 ついはしゃいでしまったことに気恥ずかしさを覚えつつも、自分の特徴を書いていく。

 

身長162センチ、体重は確か…前に測った時は50キロだったはずだし50キロ。年は14、紺髪に青目……。

 

「はい、ありがとうございます。それでは……カードに触れてください。それであなたのステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。経験を積むことにより、選んだ職業特有のスキルを習得できるようになりますので、その辺りを踏まえて職業を選んでください」

 いよいよか……

 自分が数値化されるなんて日本じゃテスト以外で経験はないけど、大丈夫か?

 

 少しビクビクしつつカードに触れる。

 

「はい、ありがとうございます。マトイナギトさん、ですね。ええと……。敏捷性が非常に高いですね!あとは……筋力と器用度がやや高く、幸運値、知力と魔力、生命力は普通です………って、あら?」

 

 俺の能力を基準ごとに教えてくれていたお姉さんが、小首を傾げて。

「えっと……何か?」

「すでにスキルをいくつか習得していますね。でも、こんなスキルあったかしら……」

 

 どうやらもらった能力に関係するスキルを覚えていたらしい。

 

「因みに、ゆんゆんの職業は?」

 そんなお姉さんを尻目に、隣にいたゆんゆんに話しかける。

「えーと……ま、魔法使いですね!」

 なんで言い淀むんだ。ひょっとしてこの子もチート持ちなのだろうか?でも、銭湯やシャワーを知らなかったし……

 

 いや、銭湯やシャワーという言葉がない国や星から来たのなら、知らなくても納得がいくな。これ、場合によってはこの星の住人から教えてもらった方が良いんじゃ…って、考え込んでいる場合じゃないや。

 

「それで、俺に向いてる職業は何ですか?」

「は、はい!マトイさんのステータスでは、聖職者や魔法使いは難しいですが、それ以外でしたらどの職業にもなれますよ。ただ、敏捷性と器用度に優れていますので、私としては盗賊がおすすめですね」

「盗賊か……」

 

戦士系かと思ったが、意外にも勧められたのは盗賊だった。

「盗賊は、冒険に役に立つスキルが多くある割には派手さに欠けるためか、なり手が少ないのでパーティーを組む際に重宝されますよ?」

「成る程……」

 魔法使いに出なくとも、俺はチートのおかげで風属性のものだけだが普通に覚えられる。なら、おすすめしてくれた盗賊でも俺の希望は叶うとってわけだから……よし、盗賊にするか。

 

「分かりました。盗賊にします」

「承知しました。これで、冒険者カードをお渡ししてこちらの手続きは終了となります。それでは、これからのご活躍をギルド一同、期待していますからね!」

 

 

 そうして、職業に盗賊と書かれた冒険者カードを手に入れた俺は、懸念事項はあるものの、冒険者としての生活をスタートさせたのであった。

 




今回の紹介は、冒険者となった凪斗の現状です。

マトイナギト
レベル1 所持金0エリス 経験値0 スキルポイント 5
職業 盗賊
習得スキル 
突風 加速系スキル。短距離だが一方向に向けて一気に移動できる。
追風 加速系スキル。自分の周りに追い風を吹かせることで徐々に速度を上昇させることも可能。

こんな感じで、スキル名は風に因んだものにしていこうと思っております。
次回は、クエストへ行く準備をします。


と、いたことで次回もお楽しみに!


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第3話 この転生者にご教授を!

はい、第3話です。
今回はバトルの後に普通にスキルを覚えます。


 

不慮の事故で死んでしまった「纏 凪斗」.は天使さんに導かれ、チートスキルを携えて異世界へとやって来た。

 

 そして、赤い目の魔法使い「ゆんゆん」とともに向かった冒険者ギルドにて、盗賊冒険者「マトイ ナギト」に生まれ変わる。

 

 こうして多少の不安を抱えつつも、俺の異世界生活は幕を開けるのであった……!

 

 

 

 

 

翌朝。

「馬ってあったかいんだな……」

 

異世界に来て初めての夜を、馬と一緒に馬小屋で過ごした俺は、凍死から守ってくれた救いの神……お馬様の脇腹をさすっていた。

 

 

「にしても、金がない奴は冬でも夏でも馬小屋で寝泊まりするって……ほぼホームレスみたいなもんじゃんかよぉ…」

 冒険者は今の時期こそ宿を借りているが、春や夏などは馬小屋で寝泊まりする人も少なくないらしい………なって早々こんなことを知りたくなかったが。冒険者は言ってみればただのフリーターで、この世界には労働基準法って言う労働者のための法律なんてない……そんな世知辛いのが現実だ。

 しかも現在年下の女の子に借金をしていると言う情けなさのおまけ付きで………いっその事クズにでもなった方が楽なんじゃないだろうか。

 

 因みに、まだ持ち物は換金していない。登録が終わり、ゆんゆんに街中を案内してもらっていたら質屋が閉店してしまったのだ。

 

「まあ、そのお陰で今日はゆっくりと売りに行けるな………はあ、さっさと行くか」

 体を動かせるくらいには目が冴えたので、服についた藁を払った俺は、昨日の記憶を頼りに街へと向かうのであった。

 

 

 

「筆箱とシャーペン、教科書数冊で合わせて5000エリスか……ゆんゆんに1000エリス返すから4000エリスだとしても、1エリスが1円なら結構な額だよな」

 リサイクルショップのような場所に持って行った俺は、昨日1000エリス紙幣4枚を片手に、ギルドへと向かいながら、質屋でのやりとりを思い出す。

 

「この世界にとっては日本のものは珍しいものみたいだったな」

 日本でこんなものを売ったら1000円も行かないだろうが、この世界では使われてない素材のもので珍しいのか、貴重品として高く買ってくれた。

……まあ、体操服にジャージはまだ帰って来てないが、流石に女子が着たものを売り払うのはアウトな気もするので取っておく……のも何かダメだよな。でも、燃やすのは勿体無いし……。

 

 と、考えていると昨日から水しか飲んでない体は空腹を訴えてきた。

 

「……ギルドの酒場でご飯食べよう」

兎も角、紙幣を持ってギルドへと急ぐ俺であった。

 

 

ギルドへの道中。

 

「なんかいい匂いが……って、串焼きか」

 漂ってきた匂いに絆された俺が向かった先は、串焼きの屋台だった。

 

「あー、空腹に響く…値段も100エリスか。何本か買い食いするか」

 肉が焼ける匂いに空腹は刺激され、ギルドまでもう我慢できないと屋台に向かおうとした時。

 

「…何やってるんだろ」

 屋台にいた先客……いや、その後ろじっと見ている奴がいた。

 

 いや、見覚えのある袋を持ってるから誰かは明白だけど。

 

「ゆんゆんも串焼きを買うのかな?」

 多分、俺に体操服を返しに行く前の腹ごしらえだろうが、何故か店の前を行ったり来たりしていた。迷っているのか、或いは買い方がわからないのか……。

 

 息を潜めて見守っていると、やがて意を決したように串焼きを3本程度購入。

 

 そして、焼きたてらしい串焼きを幸せそうに頬張り始めた。

 

「……食事中に行くのは失礼だよな。別の場所に行こう」

 さて、俺も飯食いに行かなきゃ。

 

 

「ロングソードにショートソード、はたまたダガー……どれも5000エリスからか…」

 適当に朝食を済ませた後、俺は武器屋で唸っていた。

 

 

 盗賊職に必要な道具や防具を揃えるのは無理だとしても、せめて武器は揃えておきたくて来たのだが。

「どれも高いなぁ…武器がないしクエストも難しいのしかないのなら、しばらくバイトするしかないか」

 

 自分の予算では到底買えそうもない値段の武器たちを見て、思わずため息をついてしまう……いや、違うな。

 

 

 木の剣やナイフなど、買える武器はあるのだが、それを買ってしまうともれなく残金がまずい事になるのだ。

 

「どうだい兄ちゃん!何か欲しい武器は…」

「お金貯めて出直します…」

 

 どこかでバイトでも探すか…と、頭を下げながら武器屋から出て、今度こそ冒険者ギルドを目指して歩き始めたその時だった。

 

 

 

「ひったくりー!」

 誰かの叫び声が聞こえ、その数秒後に誰かが俺の前を突っ切る。

 

「そんなぁ…」

それからさらに数秒後に被害者らしき女の人が項垂れていた。まあ、流石にあそこまで距離を離されたんじゃ、流石にもう追いつけないか。

 

 いや、待てよ?

 

「いけるな……」

すでに習得していたスキルで、確か早くなるスキルが……あった。

 

「何を盗ったのかはしらないけど、人相が悪くて逃げてる奴を見つけりゃいいんだな…………」

 

 兎に角俺はその泥棒が走った方向へ向かい走り出して、そのスキルを発動させた。

 

 

「『追風』!」

 すると、後ろから前へと風が吹き、走るスピードが上がるのを感じながら走り続けていると、すぐにそれっぽい奴が見つかる。

 

「いた!」

 顔を布で隠し、なにかを抱えながら走ってる男の背中が見えたので、その男を抜かした後に急ブレーキ。

 

 

 息つく間も無く男の方を向いて、もう一つのスキルを発動させた。

「『突風』‼︎」

 男に向けて駆け出した瞬間、ミサイルのような勢いとなる。

 

「何だ⁉てめえは「食らえ‼︎」

 男が避けようとするのも許さずに、拳を突き刺したのだが。

 

 

「『バインド』‼︎………あ、ちょっとキミ⁉︎」

「え⁉︎うわぁっ⁉︎」

 男が倒れたことで標的が変更されたのか、誰かの放ったロープで拘束されてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 数分後。

「いやー、ごめんね?まさかあたし以外にあの泥棒を懲らしめようとした人がいたとは思わなくて……」

 男がお巡りさんに引っ張られていった後、ようやくロープによる拘束が解けた俺は、ロープを放った女冒険者に連れられて酒場にやってきていた。

「いやー、偶々ですよ。偶々……。にしても、さっきのバインドってスキルって、もしかして職業は盗賊だったりしますか?」

 聞きたいことがあったので質問しながら、奢りとして差し出された赤い液体を口に運んで……ん?これって⁉︎

 

「ブハッ⁉︎」

「だ、大丈夫⁉︎もしかして飲めない?」

「はい、恥ずかしながら……」

差し出された液体はお酒だったらしく、その妙な味に思わず吹き出してしまった。

 お酒を飲んだのは初めてだけど、こんなに苦いのか…。

 

「なんか、本当にごめんね……すいません、この人にジュースを。後、さっきの質問は当たり。アタシはクリス、盗賊職の冒険者さ」

 

 口元を拭っていた俺にジュースを奢ってくれたその冒険者は、どうやらクリスと言うらしい。

「いいえ。こっちこそ……僕はナギトです。14歳で、昨日冒険者になったばかりですが職業は盗賊です」

「お、ならあたしの方がお姉さんってわけだ。アタシは15だからね」

 

  俺より一つ上なのに俺が吹き出した赤い液体と同じヤツを美味しそうに飲んでるのか…。大人として認められる年齢が日本より早いのかもしれないな。

「でも、盗賊に必要なものや、スキルの覚え方も分からなくて……さっきだって、それを知りたくて武器屋に行った帰りだったんです」

 すると、クリスさんはなるほどねと一つ頷いて。

「なるほどね……。それじゃあ、ここで会ったのも何かの縁!折角だしこのクリスさんが盗賊について色々と教えてあげよう!」

 と、願ってもない提案をしてくれた。もちろん断る理由もない。

 

「本当ですか、ありがとうございますクリスさん!」

「じゃあ、このクリムゾンビアーを飲んだら教えてあげるよ!…………まあ、君のジュースが来ないとこれ飲み干しても意味ないから、もう一杯頼むけど、それでもいい?」

「は、はい……」

 

こうして、いくらか不安は残るものの、クリスさんに盗賊について色々教えてもらうことになった。

 

 冒険者ギルドの裏手の広場。

 

「さて。今から教えるわけだけど……そもそも、盗賊に必要なスキルは冒険者カードの現在習得可能なスキルってところから覚えればいいんだけど……君、スキルポイントは今いくつ?」

「5ポイントですね」

「まあ、まだレベル1だしね…」

どうやら、レベル1でも5以上のスキルポイントがある人もいるらしい。

 

「なら、あたしがお勧めするスキルをいくつか教えてあげるよ。まずは《敵感知》。これは、敵意を感じ取ることができるようになるスキルさ」

 

 そう言われてカードを見ると、確かに習得可能スキルの欄に《敵感知》と言うスキルがあった。消費ポイントは1。

 やり方は……

 

「スキルの文字をなぞって、タッチすればいいよ」

「はい………よし、これでいいかな」

 言われた通りにすると、体が淡く光った。

 

「ここに敵意を出せる人やモンスターがいないけど、敵意を感じるとピリッとするからね。そして次は……《潜伏》!」

 

そうして光が止んだと思ったら、叫び声と共にクリスさんはなぜかそこからいなくなっていた。

 

「あれ?いなくなっちゃったのかな」

 あたりを見渡しても誰もいないが、これがさっき聞こえた「潜伏」なのだろうか。

 

 にしても……

「やっぱり女ってよくわかんないんだよな……13歳のゆんゆんはすごいスタイルよかったのに、さっきのクリスさんは俺より年上なのに、男と言われても分からない……」

 なんかピリッとした……あそこにいるな。

 

 敵感知に反応があったので向いてみると、そこにはジト目のクリスさんが。

「キミ、敵感知を試したいのはわかるけど、いきなりセクハラとはいい度胸だね……。兎も角、今のが《潜伏》。姿を隠すことはできるけど、《敵感知》のスキルとは互いの効果を打ち消し合っちゃうのと、アンデッドには効き目がないから注意してね」

 先ほどやった、潜伏している相手の悪口を言って敵意を向けさせて、敵感知で見つける方法もいけそうだな。

 

 スキルの運用法について考えていると、気を取り直すようにクリスさんは。

「そして、今度があたしのイチオシスキルな《窃盗》だよ。これは、相手からランダムに一つものを奪い取るのさ。こういう風に……」

そう言って近くを歩いていた猫に手を向けて。

「『スティール』!」

 叫んだと同時にクリスさんの右手が輝き、思わず目を瞑る。

 

 

 そして目を開くと、クリスさんの手には猫がつけていた首輪が。

「こんな風にね……あっ、ちょ!待って、首輪は返すから引っ掻いてこないで!」

 

 クリスさんが猫に逆襲されている間に、《窃盗》スキルを覚えていると、首輪をつけ直された猫はどこかへさっていく。

「うぅ……なんとかつけることができたよ。さて、今度は君があたしにやってみなよ」

 

 それを見ていると、クリスさんが悪戯っぽい笑みを浮かべながらなかなか挑戦的な提案をしてきた。

「え?でも、ひょっとしたら…」

「大丈夫大丈夫!

 前にひどい目に遭った時の反省として、とられても良いものを何個か持ち歩いてるし。それにあたしは自慢じゃないけど運がいいからね。そうそう高価なものは取られないさ」

運が良ければ酷い目に合わない気もするけど……まあ、本人もそういうなら良いよね?

 

 俺の幸運値は普通だし。

 

「さあ!いつでもどうぞ?」

 折角色々教えてくれたんだし、あんまり変なものを取らないようにしないとな……。

「それじゃあ行きますよ………『スティール』ッ‼︎」

 

 

 そんなことを考えながらスキルを発動させると、先程のクリスさんと同じように俺の右手が輝きを放った。

 

 

 そして、右手には何かを掴んだような感触がある事から、とりあえず成功したらしい。

 

「でも、なんか薄っぺらいな。それに妙に生温かい……」

 と、手に入れたものを見ようと、視線を上げると。

 

 

 

 

「………………」

「…………へ?」

 

 

 

 

 

 

 そこには胸部あたりにあったはずの黒い布がない。

 

 

「……………⁉︎」

 少しぽかんとした後、クリスさんが顔を真っ赤にしながら条件反射的に胸元を手で抑えて蹲る。

 

 

 

 

 

 それを見て俺は慌てて手の中にあるものを見ると。

 

 

 

 

 

 

「アンラッキースケベかよ、畜生おおおおおおおお‼︎」

 

 

 手の中にあった黒い布を絶叫と共に地面へ叩き落とした。

 

 

 

「ちょっとキミ⁉︎なんて事してくれるのさ‼︎しかもアンラッキーってどういう事⁉︎」

「だ、だだだ、だって取れたんだから仕方ないじゃん!それに、こんな変な事態に巻き込まれてるんだからアンラッキーで良いじゃん‼︎と言うかそもそも、着てなくても認識されるほどでも……」

 

「言うに事欠いてよくも言ってくれたね⁉︎いや、それよりも………

 

 

 

 

早く、それをあたしに渡してあっち向いててよおおおおおお‼︎」

 

 

 こうして俺は盗賊スキルを覚えた代わりに、クリスさんへと酒を奢り、また呑まされる羽目になった。




いかがでしたか?

今回は盗賊スキルという事でクリスさんに教えてもらいましたが、カズマさんを超えてみました。

次回はゆんゆんと一緒に初クエストにしようと考えてますのでよろしくお願いします。

それでは、お楽しみに!


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第4話 この鍛治師と契約を!

はい。今回はオリキャラを1人、原作から1人出しますので、よろしくお願いします。


「新聞配達のバイトって、バイクなしだとクソきついな……」

「ばいく…?なんだいそりゃ?まあ良い、これが日当だ。受け取りな」

 

 クリスさんの服を剥き、アルハラを受けてから2日。

 二日酔いから何とか回復した俺は、金策の一つとして新聞配達のアルバイトを行い、早速給料を受け取っていた。

 

 渋る彼女に1000エリスを無理矢理返し、二日酔いを止めるための薬を買った事で、いよいよ残金が1000エリスになってしまったのだ。

 

 

 だから、二日酔いから回復した体を休める間もなくこうして労働に励んでいるってわけだ。

「にしても兄ちゃん偉いね。こんなに早く仕事をしてくれるバイトは初めてだよ」

「あはは……これでも僕、鍛えてるので」

 

 配達屋のおじさんに笑い返すが、勿論チート能力でスピードアップしているおかげである。

「じゃあご苦労さん!明日も頼むよ!」

「了解でーす」

 おじさんに手を振りかえし、姿が見えなくなるまで歩いたところでもらった日当を改めてみると、中には10000エリスが入っていた。

 

「すげえ、結構な金額じゃん‼︎」

 円換算して10000円。

 日本でもこんなにもらったことはないぞ……。

 

 何に使おうかと考えたか……考えてみたら、必要なものが多すぎる。

「とりあえず毛布と剣を買うか。そして後は食費や風呂代に…ロープとか盗賊に必要なものは、金が貯まってからで……」

 

 

 転生してからこんな世知辛いことばかり考えてるなと落ち込みながら、もらった日当の用途の優先順位とブツブツつぶやきながら歩いていると。

 

 

「だから、何でこれを店で取り扱ってくれないんだよ!そんじょそこらの武器より遥かに強いぜ!」

「てめえ、俺の武器にケチつけようってのか⁉︎鍛治貴族の落ちこぼれが、とっとと出てけ!」

 

 

「なんだ?」

 突然のやり取りに首を傾げていると、口論の後に目の前の鍛冶屋から1人の男が追い出された。

 

「いってえ……クソッ、どいつもこいつも家のこと持ち出してきやがって。あんな飾りばっかの剣のどこが良いってんだ」

 そう言って鍛冶屋の建物を睨んでいるのは、俺より少し年上そうな青年といった感じの人で、追い出された時にカゴの中身が地面に落ち、剣や防具などが落ちてしまっている。

 

 俺がそれを拾おうとすると剣を包んでいた布がはだけ、その剣の姿が露出されると…………

 

 

 

「すっげえ……綺麗」

 その剣は、片刃のショートソードとロングソードの中間のような長さの片刃の剣でどことなく、日本の刀を思わせる。

 また、鞘の部分に埋め込まれた石くらいしか装飾はないものの、緑色に煌めく刀身はそれを気にしなくするほどの美しさだった。

 

 

 その剣に思わず目を奪われていると。

 

「俺の剣の魅力に気づくとは、見る目があるじゃねえか」

 落ちていたものを拾い終えたその人が、俺に目線を合わせて話しかけてきた。

 

 すこしビックリしたが、気を取り直してその剣を返しながら立ち上がる。

「はい、すごく綺麗でした。今はまだ買えませんけど、お金があればすぐに買いたいくらいですよ」

 

 

 少しお世辞をこめながら感想を言うと、俺のことを観察するように見て。

「ん?剣を買おうとしてるって事は、冒険者か?」

「はい。まだお金もなくて、武器も揃ってないんですかね」

 

 

 質問に答えると、しばらく考え込んだ後。

「成る程な………よし。お前、この後用はあるか?」

 今日は正午にゆんゆんとモンスターを狩りに行くくらいで、その前にある用事と言えば、当面の武器を調達するくらいだ。

 なんでも、レベリングにうってつけの方法を知っているので教えてくれるとのことらしい。

 

「正午に狩りに行くので、とりあえず安い剣を買おうとしてたくらいですね」

 素直に答えると、決まりだと言わんばかりに歩き出し、なにをする気だと身構える俺に。

 

「ちょっと俺に付き合え。お前の防具を用意してやる」

 

 そう、白い歯を出して笑うのであった。

 

 

 

 

「すげえや。武器ばっかりだ」

「そりゃあ、鍛冶屋の工房だからな」

 街の外れにある小さな建物に招かれた俺は、その中にある大量の武器や防具を前に目をむいていた。

 

「それで、話って何ですか?えーっと…」

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はライト。さっきのやつも聞いてたんだしもう隠す必要もねーな……鍛治師で、一応元は鍛治貴族のボンボンさ。それで、お前は?」

 

 そういえば、さっきも鍛治貴族の落ちこぼれって呼ばれてたっけ。

なんて呼べば良いのか悩んでいると、それを察して名乗ってくれたので名乗り返す。

 

「僕はナギトです。一昨日冒険者になったばかりですが、一応盗賊職に就いてます」

「盗賊か……それなら、あんま重い防具にしないほうがいいな」

 名乗っただけなのに、何故か防具を選び始めるライトさん。

 

「あの…俺、お金が」

「ないのはわかってるよ。金は取らねえ……そもそも、ここにあるやつは追い出された腹いせに、実家からかっぱらってきた素材から作ったヤツだからな」

 俺の言葉に、選びながら不穏な返しをしてくるライトさんを前に、適当に理由つけて逃げようかとも考え始めたが時すでに遅く、ピックアップしたいくつかの防具を俺の前に並べていた。

 

 

 

 そして、並べ終わったところで腰を下ろし俺の目を見据えて。

「さて。こうして来てもらったのには訳があってな……俺と契約をしてくれねーか?」

 

 

 おっと、やっぱりこれ学校で言ってた悪徳商法ってやつじゃね?

「契約………内容は?」

 

 武器につられるんじゃなかったと内心頭を抱えつつ、内容を聞くと、ライトさんは口を開き、契約の内容を語り始めた。

 

 

 

 

 

 数分後。

「成る程……それなら問題ないです」

「だから悪徳商法じゃないって言ったろ?」

 

 詳しく聞くと、こう言うことだった。

 

・実家から持ってきた素材が底をつきそうだから、鉱山へ行きたいのだが、モンスターが蔓延っている中、戦う力もない自分が行くのは危険すぎる。

 

・また、作った防具を置いてもらおうにも鍛治貴族から追い出された落ちこぼれというレッテルが貼られた奴の防具を置いてくれる店はなく、冒険者ギルドで頼むと手数料がかかる上に確実に受けてくれる保証はない。

 

・そこで自分の武器を褒めた俺を見込んで、防具や武器をかなり安く提供・メンテナンスを行うから、必要な素材や鉱物などをダンジョンで見つけて来て欲しい。

 

 まとめるとこんな感じだ。

 

「でも、良いんですか?俺みたいななりたてのペーペーより、熟練の冒険者に頼んだ方が……」

「いや、熟練冒険者は他の街に行っちまうし、お前みたいな駆け出しに頼んだ方が、お前の成長に合わせやすくなる。それに、ファンのために作った方が、モチベーションが上がる」

 

 勝手にファン認定されてるし。

 この世界の住人は、勝手に認定するのが好きなんだろうか?

 

 だが、提案が魅力的なのもまた事実だし、この人も悪い人って訳じゃなさそうだ。

 

 

「気に入らなければ契約を取り下げてくれてもいい……どうだ?」

「……分かりました。その契約を受けましょう」

「決まりだ。これからよろしくな。ナギト」

 

 

こうして、当面の課題だった武器問題を解決したのと同時に、新たな知り合いを1人増やしたのであった。

 

 

 

 

「色々貰って、これでようやく冒険ができるな……さて、ゆんゆんは……いたけど、あれ……」

「まずは、これで俺の武器を使ってみてどうか確かめてくれ」とのご厚意の下、ライトさんの鍛冶屋で武器や防具を貰った俺は、待ち合わせの場所にやって来たのだが、ゆんゆんは誰かと話しているようだった。

 

 

 

 

「ゆんゆん。女として格上の私に対抗しようとして、見栄を張ったのでしょう?大丈夫。私はわかっていますよ」

「違うわよ!本当に冒険者、それも男の人と待ち合わせしたもん……」

 

 ゆんゆんと話していたのは、ザ・魔法使いといった感じのローブと帽子、魔法の杖を持った女の子だった。

 背丈はかなり小さいが、なかなかの美少女だ。

 

 

「赤い瞳に黒い髪……ゆんゆんの妹かな?その割にはなんだかゆんゆんの方が手玉に取られてるような気もするけど」

 まあ、それは兎も角そろそろ待ち合わせ時刻だし、ゆんゆんも待ってるみたいだから行くか。

 

 

「ゆんゆんお待たせ。……そっちのお嬢ちゃんも、お姉ちゃんとクエストに行くのかい?」

と、片手を上げて挨拶すると、ゆんゆんはパァっと顔を輝かせ。

 

「ナギトさん!来てくれたんですね、お待ちしてまし「おい。ゆんゆんの方を見てお姉ちゃんといった意味をちゃんと聞こうじゃないか?」

 

なぜか額に青筋を立てた小さい方に、胸倉を掴まれた。

 

「ちょ、めぐみん⁉︎」

「ええ⁉︎だって、ゆんゆんと比べたら幼く見えたもんだから…や、やめろ!首を絞めようとするな……てか、なんでそんなパワーあるんだよ⁉︎」

 

どうやら容姿に関する言葉は禁句らしいが、まさか……たしか、こう言うんだっけ。

 

「ロリババア?」

「この子と同い年ですよ!いきなり失礼な男ですね!」

 いやだって、ゆんゆんを見た後に見たら……まあ、ここは謝っておくべきだな。

 

「俺とあんま変わらなかったのか……悪かった悪かった」

 両手を上げて降参の意思を示すと、ようやく放してくれた。

 

 

「それで……妹じゃないなら誰なんだよ?お前は」

 

服のシワを直しながら聞くと、その子はフフンと笑い。

 

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操るもの‼︎」

 

 と、ポーズをとりながら名乗りを上げたが、ふと気になるフレーズが。

 

「紅魔族?なんだいそりゃ……」

 なんというか……中二くさい種族名だが、実在するのだろうか。名前?いや、ゆんゆんで耐性がついたからそこまで驚きはしなかったよ。

 

 まあ、それはいいとしてだ。

 ひょっとしたら妄想設定かもしれないと思い聞いてみると、めぐみんはなんで知らないんだと言わんばかりに。

「紅魔族とは、赤い瞳と高い魔力を持つ誇り高き種族なのですよ……でも、それはゆんゆんが名乗り上げで言っていたのでは?」

 

 つまりは、魔法使いのエリート集団みたいなもんか……でも。

 

「ゆんゆんからは普通の自己紹介しか聞いてないけど……ひょっとして、ゆんゆんにもこういう妙な名乗り上げがあるのか?」

「今、妙って言いました…?まあ、ゆんゆんは紅魔族の中でも名乗り上げを恥ずかしがる変わり者ですからね。族長の娘だというのに……」

 

 いや、どっちかっていうとゆんゆんの方が普通な気が……もしかしたら、この紅魔族は中二くさいのが普通なのかも?

 

「……ん?て言うことはゆんゆんってお嬢様なのか?」

「そ、そんなことありませんよ。普通の家庭の子です」

 

 もしそうなら対応を変えようかと思ったが、この反応を見る限り、町内会の会長の娘程度のものなのだろうか。

「ふーん……まあ、いいや。めぐみん、俺はナギトだ。よろしくな」

「こちらこそ……ところで、もしかしてあなたがゆんゆんの?」

 

 めぐみんが審査でもするかのような目を向けてくる……アレかな?友人が悪い男に引っかからないかのチェックみたいなもんかな?

 

「うん。ゆんゆんがレベル上げにいい方法を教えてくれるって言うから……」

「それってもしかして「養殖」……」

「だから言ったでしょう?ちゃんと男の人との待ち合わせだって」

「駆け出し冒険者を、レベル上げという餌で釣っただけではありませんか……まあ、ぼっちにしてはよくやったと思いますが」

「ちょっと!ナギトさんの前で何を言うのよ、私ぼっちじゃないから!」

 

「養殖」と言う単語は気になるが、ゆんゆんがめぐみんに対するなんらかの対抗策の一つとして、俺との待ち合わせを使ったって解釈でいいのだろうか。

 

「まあ、ゆんゆんがぼっちか否かはそこまで気にしないから、早く行った方がいいんじゃね?あんまり遅いと日が暮れちゃうよ」

「そ、そうですね!じゃあめぐみん、またね?」

 と、ゆんゆんがギルドを出て行こうとしたので後をついて行こうとすると、めぐみんが引き留めてこう告げた。

 

 

「それなら、私もついていっていいですか?友人のあなたに相談したいことがあるのです」

 

 

 

 

 

「なあ、そう言えば冬のモンスターって強いのが多いんだろ?レベリングで死んだりしないよな?」

「それは大丈夫ですよ。最近あることが起こって、そこまで強くないモンスターも出て来てるので。それに、強くても私が足止めして弱らせますから、ナギトさんはトドメを刺しちゃってください」

 

 冬の寒空にすこし震えながらも、隣を普通に歩くゆんゆんに聞くと、何故かめぐみんをチラ見しながら返事をしていた。

「………」

 それを受けためぐみんは目を逸らす。

「おい、何をやらかした?」

「何もやってません……それより!ゆんゆんに相談したいことがあったのです!」

 こいつ絶対なんかやったろと言う俺の視線から逃げるように、ゆんゆんへと話を振った。

「そう言えばそうだったわね。………それで、相談ってなんなの?承諾しちゃった後に聞くのも変な気がするけど…」

 

 ゆんゆんからの質問を受けためぐみんが、ゆっくりと話し始めた。

 

 

 

「つまり、国家転覆罪の冤罪をかけられたパーティーメンバーを助けたいから、何か知恵はないかって事か」

「そういう事です。ゆんゆんと……この際あなたにも聞きましょうか。何か良い案はないですか?」

 

 簡潔にまとめると、話の流れとしてはこうだ。

 

「機動要塞 デストロイヤー」の襲撃を阻止したが、その時に領主の屋敷に爆発寸前のコアを転送してしまい、結果として領主の屋敷が爆発。

 

 その後、屋敷を壊された領主がめぐみんのパーティーのリーダー……「カズマ」を国家転覆罪および魔王軍のスパイだとして逮捕した。

 

 その裁判が行われたが、前々から評判の悪い領主が圧力をかけた事と周辺人物からの心象により死刑になりかけたが、もう1人のメンバー、「ダクネス」の計らいにより判決を保留されている。しかし、領主の屋敷の弁償金やらなんやらで国家予算並みの借金を負わされた。

 

 で、それの解消と無罪を立証したいから力を貸してくれ。

 

 

 まあ、こんな感じだろう。

 

「うーん。カズマさんって魔王軍幹部を倒すのに貢献してるんでしょ?魔王軍のスパイならそんなことしないと思うんだけどなあ……」

「ただ、たまたまとは言え領主の屋敷をぶっ壊したのがなぁ……しかもその領主は悪徳なんだろ?絶対これ憂さ晴らしだろ」

 

 まあ、人権なんて特権階級にしかないような中世がベースの世界だから、圧力も通ったんだろうな。

 

 でも、これなら……。

「その領主こそが魔王軍のスパイってでっち上げられるんじゃないか?魔王軍の幹部を倒したやつを殺そうってんなら、そっちの方が考えられそうだぞ」

 

「でも、裁判には嘘を見抜く魔道具があるので、でっち上げはできないと思いますよ」

 

「まあ、できなくてもそうかも?って言う疑惑を持たせることが出来るのはでかいと思うが……」

と、考えていた俺に、敵感知スキルが敵の接近を教えてくれる。

 

「敵感知に反応あり!2人とも、お話はここまでだ」

反応した方を向くと、そこには……。

 

 

 

「でっかいアマガエル⁉︎……でも、なんでカエルがこの時期に出てくるんだ?」

 

 小さい民家程度のサイズの緑色のカエル1匹が、こちらに近づいて来ていた。

 

「アレはあまがえるじゃなくて、ジャイアントトードです!最近この辺りで頻繁に不審者による爆発騒ぎが起こっていまして、それによって冬眠から叩き起こされているのです!」

 

 めぐみんが、目の前に出て来たカエル……ジャイアントトードについて教えてくれる。

 なぜかそれをゆんゆんがジト目で見つめてるのがわからないが……

 

 

「なんたってそんな迷惑な……まあ、今言っても意味はないか!」

「ナギトさん!いけないと思ったら無理しないでください!私が仕留めます!」

「分かった……でも、アレだけ大きいなら!」

 

ここで、今回俺がライトさんのところでこしらえた武器を紹介しよう。

 

 まずは、体を守る防具は軽めのチェストアーマーとガントレット。後はアンクルガードにした。

 まあ、最低限の部位だけ一応守って、後は速さで避ければいいと言う感じだ。後は持ってる武器を傍目から見たら解らなくするのと、潜伏をした時により溶け込みやすいようにと言うことで、ゆんゆんのものと似ているが、それよりさらに長く、霞んだ色のローブを採用している。

 

 

 そして得物は、朝にお目にかかったあの片手剣だ。

 

「ジャイアントトードは、巨体によるプレスと、舌による捕食が主な攻撃手段です!」

「わかった……行くぞ、『追風』!」

 めぐみんの声を後ろに、カエルに向けて距離を詰めるべく走り出すと、同じく後ろにいたゆんゆんが詠唱を行い。

 

「ナギトさん!当たらないでくださいね………『ファイア・ボール』!」

 

魔法を唱えると、炎の球がカエルに放たれたので、いつでも振り下ろせるように構えて………

 

「連撃だ……『突風!』」

 

 ゆんゆんの魔法を避けたのと同時に一気に距離を詰め、着地したところを………!

 

「ゼェアアッ‼︎」

 間髪入れない形で、下段からの切り上げをカエルに食らわせた。

 

 

 その後後ろに飛んで距離を取ると、喉元を切り裂かれたジャイアントトードは、そのままどうと倒れ臥した。

 

「やりましたね!いい攻撃でしたよ」

「そっちこそいいアシストだったぜ!」

 

 やってきたゆんゆんとキャッキャしていると、またも敵感知に反応が。

 

 

「今度は……地下から⁉︎」

「まさか、またカエルが……」

 なぜか下から反応があったので、ゆんゆんやその隣にいためぐみんと共に、それぞれの武器を構えて警戒していると、やがて。

 

 

 地面から、やたらとでかいミミズみたいなやつが這い出てきた。

 

「な、なんだ?こいつ、すげえ気持ち悪い!」

 

「あれはジャイアント・アースウォームなのです!その名前の通り大きなミミズで丸呑みにしようとしてきますよ!」

 

 めぐみんによると、その名前はジャイアント・アースウォーム。タイヤほどの太さで、まだ全体が出てないものの、見えている範囲でもかなり大きいのがわかった。

 

「ひょっとして、さっきの戦いに引き寄せられたのか?」

「かもしれませんね……ナギトさん。丸呑みにしようと突っ込んでくるはずなので、避けられるようにしてください!さっきみたいに魔法で弱らせるので……ヒィ⁉︎」

「あれは食う気満々だなッ⁉︎」

 

 

 口らしき場所から唾液らしい液体を滴らせたソイツは、一気に距離を詰めてきたので俺は横に飛び、ゆんゆんが魔法を……って⁉︎

 

「さあゆんゆん!早くぶっ放すのです!」

「ちょっとめぐみん⁉︎私を盾にしようとしないで……い、イヤアアア!」

 

めぐみんがゆんゆんの後ろに隠れて身代わりにしようとしたらしく、魔法を打つタイミングを逃してしまっていた。

 

 てか、あいつは魔法使えるんじゃ………ああ、もう!

 

 

「作戦がめちゃくちゃじゃねーか!『突風』ッ‼︎」

 

俺は慌てて突風を使い、今まさにゆんゆんを飲み込もうとして口を開けたウォームに向けて、大上段から振り下ろす。

 

 

 横合いからの突然の攻撃に対応できなかったウォームは、頭をきりおとされながらも動こうとしたが、やがてこときれたように動かなくなった。

 

 

 

 小一時間後。

 

「うっ…………グスッ…あ、あんまりよおおお!めぐみんってばあんまりよおおお‼︎」

「謝りますからいい加減に泣き止んでください!そろそろカズマ達が帰ってくる頃ですから………ナギトも冒険者カードいじってないで手伝ってくださいよ!」

 

 よほど怖かったのかショックだったのかは分からないが、泣きじゃくるゆんゆんを連れて、俺はめぐみんが入っているパーティーの拠点にいた。

 

「いや、アレの盾にされそうになったら普通はそうなるだろうに。自業自得だろうがよ」

 レベルが2つ上がり、新たに覚えられるスキルが増えた事を、賞金と共に確認しつつもジト目でめぐみんに応対する。

「だから、あそこで撃ったらみんなを巻き込みかねなかったからと……!ほ、ほらゆんゆん!お詫びの温かい紅茶ですよ、これを飲んで泣き止んでください!こんなところを見られた日には、間違いなく私が悪者に……」

 因みにこれを巻き起こしためぐみんは1発しか魔法が撃てず、またその魔法も距離がないと味方を巻き込みかねないシロモノしか覚えてないと言う有様だ。

 

 なんとも扱いにくい魔法使いだな……。

「お前がいるパーティーって、本当に魔王軍幹部を倒してるのか?なんか胡散臭く思えてきたぞ」

「なにおう⁉︎」

 

 めぐみんに疑いの視線を向け始める俺だが、屋敷に行く途中で見たものを思い出す。

 

「あと、戻ってくる途中で検察官が「今度こそ逮捕だ逮捕!」って息巻いてたけど、アレはなんなんだろうな」

「ちょっと待ってください。そのことについてもう少し詳しく……」

 

 急に真顔で詰め寄ってきためぐみんに、その時のことを話そうとした時。

 

 

 

 

「……………」

「……………」

 

 ドアが開けられたと思ったら、そっと閉められた。

 




いかがでしたか?

ここでキャラ紹介を。

ライト
男 17歳
職業 鍛治師
本名はアーティファクト・フォン・ライト。
鍛治貴族である「アーティファクト家」の次男だったが、家の方針に反発した結果「落ちこぼれ」として追い出される。
ナギトが自分の武器を好評したことを見込んで、彼の武器を作る代わりに資材を取ってきてもらうと言う契約を結んだ。
家を出る時に資材を盗むなどのただでは転ばないところはあるものの、細かい装飾が苦手なだけで腕は確か。

今回は主人公の初戦闘回でした。
バトルスタイルは、基本的に速度を生かした一撃離脱を主とするつもりです。また、服装は「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」のリューさんをイメージしています。

そして次回はようやくこのすばの原作に入っていくので、原作読み直しをやるため少し遅くなるかと思いますが、ごゆるりとお待ちください。


それでは失礼します。次回もお楽しみに!


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第5話 このダンジョンにガサ入れを!

第5話です。

主人公の武器についてまだ悩んでたりします。


 「見なかったことにしないでください、ちゃんと説明しますから!」

「いやいいよ、おまえがいじめっこなのは今更だし」

 

 そっと閉じられたドアを開け、めぐみんが慌てて出て行ったのでついていくと、そこには3人の男女がいた。

 

「……お、お邪魔してます…」

「あ、これは丁寧にどうも…」

互いにぎこちない挨拶をしていると、めぐみんが慌てたように杖を振りまわして。

 

「違いますよ!むしろ私は学生時代ゆんゆんを……!いや、その事は今どうでもいいのです!ゆんゆんのことで騒いでる場合では……」

「どうでもいい!どどど、どうでもいい……!私のことで騒いでる場合じゃないって……!わ、わあああああーっ!」

 

「おい、なんかさっきのトラウマになってんぞ?」

「ああっ!なんて面倒くさい……!ちょっとすいません、しばらく2人にしてくださいね!」

 

 めぐみんがそう言いながらドアを閉めたので、当然外にいるのは俺と例の3人だ。

 

「あんた、見ない顔だな。めぐみんやゆんゆんとなんかあったみたいだけど、知り合いか何かか?」

 

 どうしようか悩んでいると、緑のマントを身につけた男が話しかけてきた。

 

……日本人な顔立ちからして転生者なんだろうけど、チートを持ってる割には装備が貧相だ。

 

 何か嫌な予感を感じつつ。

「まあ…そんなところですかね?後、俺はマトイナギトです。以後お見知り置きを」

 

 怪しまれないようにすぐに名乗ると、その男は俺の顔を懐かしいものでも見るような目で見てきた。

「その名前とその顔立ち、どう考えても……まあいいや。俺はサトウカズマだ、宜しくな」

 

………まあ、考える事は同じか。

 

 

 そうしてカズマさんに続いて、青髪の女性がフフンと髪を払い。

「私はアクア。水の女神にして、アクシズ教団の御神体よ!」

 

 自信満々に言ってくるが、若干痛い。

「すいません。宗教には興味ないんで……」

「なんでそんな胡散臭い目で見るのよー!」

 確かに女神と言われても文句がつかないほどに綺麗だが、なんというか………この世界に送り出してくれた天使さんの方がよほど女神っぽい言動をしていると思う。

 

 

 やけに騒がしいアクアさんを尻目に、この中だと1番背が高く、また派手なドレスを着た金髪のお姉さんに目を向けた。

「で、あなたは?」

「うむ…私はダクネス。クルセイダーを生業としている…宜しく頼むぞ」

「因みに本名はダスティネス・フォード・ララティーナだぞ」

「そ、その名前を教えるのはやめろぉ!」

「ライトさんと同じだ……て事は、貴族だったりするんですか?」

 

 この世界では、基本的に苗字はない。

 大体がそのまま名前で、苗字があるのは俺やカズマさんのような転生者や、貴族くらいなんだとか。

 

「おう。しかもこいつは、この街の領主よりも偉い貴族だぜ」

「そんな人……じゃないや。そんなお嬢様が冒険者なんてやって大丈夫なんですか?」

「そ、それは………あ、アレだ!父が、私が冒険者稼業を行うのにそこまで否定的ではないから……あ、あの…できればそのお嬢様というのはやめてくれないだろうか」

 

 照れたように頼んでくるダクネスさんを見ていると、なんと言うか………いや、これ以上考えるのはよそう。これは自覚しちゃいけない奴だ。

 

 そうして話しているとドアが開き、そこにはようやく泣き止んだらしいゆんゆんが。

 

「お、お騒がせしました……」

 そう言いながら、ペコリとお辞儀をして去っていった。

 

 

 哀愁漂うその背中を放っておくわけには行かないと俺も後を追おうとしたが、時を同じくして疲れたような表情のめぐみんが出てきた。

 

「ナギト!先程検査官が何かを言っていたと言っていましたが、それについてもう少し詳しく……」

「え?でも俺ゆんゆんを追いかけないと…」

「そんなの、カズマ達に話した後で、好きなだけ追いかけてください!紅魔族の勘と言うか、なんだか嫌な予感が……!」

 と、俺を揺さぶっていたその時。

 

 

「サトウカズマ!サトウカズマはいるかああああ!」

 

 スーツに身を包んだ黒髪の美女が、かなりの剣幕で捲し立てながら扉を開けていた。

 

 

 

「なな、なんだよ!またカエルか⁉︎それとも、別の問題でも起こったのかよ!」

 

 気圧されたようなカズマさんがたずねるとその人は顔を赤くして。

「ダンジョンだ!貴様、ダンジョンで一体何をした!街の近くのキールのダンジョン!あそこで、謎のモンスターが大量に湧き出してるそうだ!」

 

「いや待てよ、それは俺たちには関係ないぞ?確かにあのダンジョンに潜った事はあるけど、何でもかんでも俺たちのせいにされちゃ敵わないよ」

 その言葉に他の3人が頷くと、その人は俺にも視線を向けた。

 

「俺?3日くらい前に冒険者になったばかりで、そんなのわかりませんよ」

 一応冒険者カードを見せると、確かにそうですねと頷く。

 

  

「しかし、あのダンジョンに最後に潜ったのはあなた方だと言う話なのですが。前例から言って、あなた方以外がやったとはとても……」

「そんな理不尽な!心当たりなんて全くないぞ………なあ、お前ら今回こそ大丈夫なんだよな?」

 

 カズマさんの言葉に一応は納得の表情を見せるお巡りさんっぽい人は、何故か急に視線の種類を変えた。

 

「しかし、そうなると困りましたね……。てっきりあなた達がまた何かやらかしたと思っていたもので。となると、誰か人を雇って調査しなくてはならないのですが……」

 

 そう。

「誰か都合のいい人はいないかな」とでも言いたいかのように……。

 

 勿論、俺でも感じ取れるものが他の人にわからないわけもなく、めぐみんとカズマさんがそれぞれ断っていた。

 

 すると、その視線はこの中で唯一、これと言った断り文句のない俺に集中した。

 

「えっと……俺ですか?まだレベル3のへっぽこなんですが…」

「今はレベルに糸目は付けませんし、あなた以外の冒険者も雇いますので、どうかご協力をお願いします」

 

 正直まともに役に立たないとは思うが……困ってるようだし、無碍にするのは良心が痛むよな。

 

「分かりました。俺でよければ協力します、えっと……」

「私は王都より派遣された検査官のセナと申します。ご協力感謝します………サトウさん、もし気が変わったらご協力をお願いします。私達は冒険者ギルドへと向かいますので。

 

 では、いきましょう。マトイさん」

「分かりました。じゃあカズマさん、お邪魔しました」

 

 

そうして屋敷を出た俺とセナさんは冒険者ギルドへと駆けていくのであった。

 

 

 

 冒険者ギルドにたどり着いた俺は、同じように謎のモンスターの調査を引き受けた他の冒険者と共に、キールのダンジョンへと向かっていた。 

 因みにゆんゆんは見つからなかったが、もしもの時のために援護に来てくれるようにと書置きをギルドのお姉さんに渡してある。

 

 

 

「あの、キールのダンジョンってどんなところなんですか?俺、始めたばかりでよく分からなくて…」

 

 近くを歩いていた前衛職らしき男に聞くと、地図を広げて教えてくれた。

「この近くにある、キールっていう魔法使いが作ったとされるダンジョンだよ。もう中身のお宝は取り尽くされていて、今じゃあ初心者パーティーの腕試しの練習場みたいになってんだ……なあに、心配すんな坊主。こんなに数がいるんなら楽勝よ」

 

「ですよね〜」

 そうして男2人で笑い合っていると。

 

「お二人とも。情報交換は結構ですがあまり気を抜かないように……それとこれを」

 ジト目のセナさんから一枚のお札を渡された。

 

 

「これは?」

「強力な封印の魔法が込められた札です。先ほどもお話ししましたが、モンスターが湧き出している原因として最も濃厚なのが、何者かが召喚しているという線です。

 なので、召喚者を倒した後に召喚の魔法陣にそれを貼ってください。

 魔法陣の中には術者を倒しても効果を発揮するものがありますので…」

 

 そう言って他の冒険者達にも札を分けていくのを見ながら進んでいくと、例の「キールのダンジョン」にたどり着いたが、そこには意外な先客がいた。

 

 

 

「あれ?ダンジョンには来ないんじゃありませんでしたっけ?」

 

 気づいた俺が声をかけると、先客はビクッとしてこちらを振り向いた後、もう来たのかと言わんばかりの顔をしたが、すぐにその表情を隠す。

 

「サトウさん………!こんな所でどうしたんです?もしや、モンスターの調査に協力してくれる気になったのですか?」

 

「え、ええ…!よく考えたら、謎のモンスターが発生しているというのは俺たちにとっても他人事じゃないと気付きましてね。

 それに、モンスターに怯える街の人を守る。これは、冒険者の義務ですから」

 

 なんて胡散臭さだ、絶対なんかやらかしたろ。

 

「これほどまでに、この場に嘘を見抜く魔道具があればと思ったことはありませんが、協力してくれるというなら感謝します。

 

 では、サトウさん達もこれをどうぞ」

 

 と、同じような目を向けつつもセナさんはカズマさんに札を渡しているが、何故かそれを拒否する。

 

「いや、わざわざモンスターが蠢くダンジョンに行かなくても、俺には考えがある……めぐみん!」

「任されました、バッチリです」

 

 そして、代わりにと言わんばかりに呼び掛けられためぐみんが杖を構えてズイと出た。

 

「何をする気ですか⁉︎…………ま、まさか!」

「ピンと来たか?そう、入り口に爆裂魔法を食らわせて、ダンジョンごと閉鎖してしまおうと……」

 

 これ、絶対この先に見られたくないもんがあるから証拠隠滅しようとしてんだろ。

 

 疑ってくれと言わんばかりの行動に違和感を覚えていると、セナさんは慌てたようとそれを止めていた。

 

 

 

 

「何故かしら……私、あの人形の仮面が生理的に受け付けないわ」

 そこから少し離れた所でアクアさんが不愉快さを隠そうともせずに石ころを投げようとしていた。

 

「成る程……確かに、ちょっと可愛いのが逆に不気味だな」

 俺は改めて謎のモンスターを見ると、ソイツはピエロみたいな仮面をつけたタキシード姿で、その小ささ的にはぬいぐるみを思わせる。

 

 そんな見てくれもあってか、カエルやアースウォームみたいな典型的なモンスターっぽさがないので逆に不気味だ。

 

 

 そしてそいつは、石ころを投げようとしたアクアさんに向かって突然猛ダッシュし、あっという間にアクアさんにしがみつく。

 

「ん?この動き………カズマさん、俺なんだか嫌な予感が」

「だよな……下がるぞ」

 

 

 そして、俺とカズマさんがコソコソと距離を取ると、まもなくその人形型モンスターは閃光と共に爆発を起こし、その爆心地には爆発に巻き込まれたアクアさんがヤ○チャを思わせるような倒れ方をしていた。

 

「成る程、栽○マンみたいなもんか」

「栽○マンとは何かはわかりませんが、このモンスターは動いているものに取り付き自爆すると言う習性を持っておりまして。冒険者ギルドでも対処に困っている状態なんです」

 俺の呟きに首を傾げながらも頷くセナさん。

「そりゃあ厄介だな」

 

「3人とも、なんでそんなに冷静なのよー!」

 心配するでもなく分析を始めた俺たちに突っかかってきたアクアさんには、心配はいらなかったらしい。

 

「致命的な威力はなく、攻撃手段も自爆しかありませんが、ちょっとでもダメージを受ければ自爆、ダメージはなくても動くものには引っ付いて自爆。

……つまり、遠距離から一体ずつ倒していくしかない状況なのです」

 

「ゆんゆんなら後方から強力な魔法でまとめて倒せたんだろうけど……まあ、無い物ねだりしても仕方ないしな…」

 めぐみんに視線を向けると、フィッと逸らされる。

 

 そもそもこのモンスターで何をしようとしてるのかも分からない状況に頭を悩ませていると、ダクネスさんが突然人形をゲシっと殴りつけた。

 

 

「ダクネスさん⁉︎」

「ちょ、お前何してんだよ⁉︎」

 その奇行に慌てふためく俺達や周囲の冒険者を尻目に、殴られた人形は先ほどと同じようにしがみつき、やがて爆発する。

 

 だが、その跡にいたのは……

 

「うむ。これなら行ける、問題ない」

 大したダメージを食らった様子もなく、ピンピンとしたダクネスさんだった。

 

「な、なんて硬さ……しかも、さっきの殴りも相当強い力だったぞ」

 

 まさかの怪力キャラだったダクネスさんにドン引きな視線を向けていると、そのダクネスさんは露払いを申し出た。

 

「私が前に出よう。カズマは後ろからついてこい」

「おう……それなら、ダンジョンに潜入する組と地上に出てきてるのを倒す組で分けようぜ。地上にもそれなりに湧いてるんだからさ」

 

 

 そしてカズマさんの一声で、この場にいた冒険者達でチーム分けをした結果、高レベル、前衛職の冒険者がダンジョンに。

 めぐみんを筆頭にした魔法使いや、俺のような低レベル冒険者はセナさんの護衛も兼ねて地上の人形を駆除することになった。

 

 

 因みに、高レベルかつ上級職の聖職者なアクアさんは本人の強い希望によりこっち組だ。

 

 

 そして、ダンジョン組が地下へと潜ったのを見計らって。

「それでは皆さん、駆除の方をよろしくお願いします!」

 

 セナさんの号令と共に、地上組が戦闘を開始した!

 




いかがでしたか?

次回は原作3巻編のラストバトルですのでお楽しみに!


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第6話 この仮面の悪魔に切り札を!

第6話、バニル戦です。


地上に湧いている自爆人形は大体50体。

 

 一方こっちの地上組の冒険者達の数は15人程度で、1人3から4体の割り当てだった。

 

 だがこちらには前衛職も魔法使いも、低レベルの冒険者が多いのでタイマンは無理だ。

 

 その為、何人かでチームを組んでそれで集団戦に持ち込もうと言うことになったのだが………

 

 

 俺は、この組み合わせになったことを心から後悔した。

 

「めぐみん!お前上級職のアークウィザードなんだろ?なんか使い勝手のいい魔法ないのか?」

「ありませんよ?私の魔法は、強靭、無敵、最強の爆裂魔法ただ一つ……小手先の技ばかりのゆんゆんと一緒にしないで欲しいのです!」

「今は小手先の技の方が嬉しいんだよ、この役立たずの固定砲台が!」

「なにおう⁉︎」

 

 めぐみんと言い合っている隣では、アクアさんが何故か焚き火の準備をする。

「アクアさん?いったいなにをなされてるので?」

「見ての通り焚き火ですけど?ほら、寒いから紅茶でも……だって、怪我した人がいないと私は仕事がないわけだし…」

「この乱戦時にくつろごうとしないでくださいよお!」

 

 

 このやりとりから分かる通り、俺は体よく問題児を押し付けられたのだ。

「1番レベル低いんだし、その上級職2人と一緒に組んでくれ」と言って俺に押し付けた他の冒険者達に文句の一つでも言ってやりたい……!

 

「カズマさんって実はすごい人なのかもな……いくらなんでも癖が強すぎるぞ」

「おい。これまでの発言の内容について話をしようじゃないか」

 

 やや重い性格をしながらも、色々な魔法を使えるちゃんとした魔法使いなあの子が物凄く恋しくなったが、残念ながらまだこの場にはいない。

 

 

「兎に角俺1人でやるしかないのか……だったら!」

 

 めぐみんをセナさんに預けた俺は、先程覚えた新しいスキルを使うために詠唱を行い、人差し指と中指に魔力を込めて風を纏わせた。

 

 それに感づいてこちらに走ってくる人形に向けて……!

 

「『ウインド・バレット』………BANG‼︎」

 

 銃を撃つような構えから、風の弾丸をぶっ放した。

 

 このスキルは、俺のチート能力がもたらした新たなスキルらしく、相手に向けて威力を高めた空気砲のようなものを何発か撃てるようになる。

 

 そして放たれた風の弾丸は人形に命中して、受けた人形は爆発と共に消えてなくなってしまう。

 

「痛ッ………反動が少しあるな。もうちょっと威力弱まんないのかな?」

 

 このまま撃ち続けたら肩を痛めそうだったので、もう一体の足元を今度は人差し指だけで撃ってみると、勢いが減る代わりに肩への反動はなかった。

 

「威力重視の二本指か、使いやすい一本指って感じだな……BANG!」

 

 使い方をなんとなく覚えたところに、先ほど足元を撃たれた人形が突っ込もうとしてきたので今度は当ててみると、どうやら攻撃をちょっとでも受ければ爆発するらしく、一本指の射撃でも先ほどと同じように人形は爆発した。

 

「後7体……なんとか行けるか⁉︎」

 後の2人がほぼ役に立たないのは目に見えてる為、剣を片手に気合を入れて集団で固まっている人形達へと突撃しようとした時。

 

 

「ああっ⁉︎ごめん、取り逃がしたモンスターがそっちに!」

「はあ⁉︎……クソッ、BANG!」

 近くで戦っていたペアが取り逃したのか、横槍から人形がかっ飛んできたので慌てて避けると、その避けたところに俺の正面にいた人形が走り込んできていた。

 

 

 

「『突風』!そして……しまった、弾切れ⁉︎」

 

 後ろに飛んで距離をとりつつ撃とうとするが、一回の詠唱で使える弾数は一本指での5発分らしく、先ほどまで纏っていた風は消えてしまっていた。

 

 

 詠唱しなおす時間もない今、突っ込んでくる人形を前にダメージを覚悟したその時だった。

 

 

 

「『ストリーム・ウォーター』‼︎」

 

 背後から突然激流が飛んできて、飛びかかろうとした人形を撃ち落とした。

 

「ナギトさん!今のうちに下がってください!」

 

「ゆんゆん!来てくれたのか!」

 

 

 続いてかけられた声に振り向くと、そこには目を紅く光らせたゆんゆんがワンドを構えていて、少し汗ばんでいることから、走ってここまで来たのが分かった。

 

 

 俺はゆんゆんがいるところまで撤退して。

「全く最高のタイミングだぜ、ありがとよ!」

「い、いえ…!遅れて来たんですしこれくらいは…!それより、あのモンスターはどういう…」

「アイツは攻撃されると爆発するし、動くものを見ると自爆特攻をやってくるんだ。だから、ほら…!」

 

 指を差した方を見ると、下がった俺に向けて残っていた人形が組みつこうと走って来ており、それをみたゆんゆんは詠唱の後。

 

「それならこれで…!『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 人形の足元に泥沼を作り、おおよそ7体くらいいた人形達をまとめて沈めてしまった。

 

 

「俺達が苦戦してたのをあんなにあっさりとやるのか……」

「え?えーと……ごめんなさい!せっかくのレベル上げのチャンスを!」

「いや、あんな数を1人でやるのは流石に無茶だったし全く問題ないんだけど、何というか……」

 

 理不尽なものを感じたが、今はそれよりも。

「こっちの配分は片付いたし、助太刀した方がいいよな?」

「そうですね。私に任せて下さい」

 そういや、俺が遠距離攻撃の手段を手に入れたことをまだ言ってなかった。

 

「いや、俺も魔法が使えるようになったし俺も行くよ。ゆんゆんに任せっきりなのも悪いしな」

 

 詠唱を行なって再び指先に風を纏わせたのを見たゆんゆんは、少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに笑うのであった。

 

「……はい!行きましょう、ナギトさん!」

 

 

 10分後。

 

 絶好調のゆんゆんと共に苦戦していた冒険者達を助け、地上に湧き出ていた人形をあらかた倒した俺は、負傷してダンジョンから上がって来た冒険者達も加えて、カズマさんとダクネスさんの帰りを待っていた。

 

 まあ、怪我をした冒険者はお茶を飲んでいたアクアさんの手によりヒールを受け、武器や防具に傷が付いた冒険者は応急処置をとっており、言ってみれば野戦病院だな。

 

 だが、そんな病院の中で暴れ回る狂犬がいた。

 

「なんですか、なんなのですか!遅れて来たくせにあんな主人公みたいな活躍をして!私がほぼその他大勢ではないですか!」

「そ、そんな理不尽なこと言われても!というか、そんなのめぐみんが

他の魔法を覚えればいい話じゃない!」

 

 おいしいところを前にお預けされたのが悔しかったのか、めぐみんが周りの冒険者にお礼を言われていたゆんゆんに掴みかかっていた。

 

「おい固定砲台モブみん。まだカズマさん達は帰って来てないんだから、ゆんゆんにちょっかいかけるんじゃないよ」

「この男、私の逆鱗を網羅しましたね⁉︎よろしい、ダンジョンの主の代わりに私が今ここでラスボスをやってあげようじゃないですか!」

 

 そう言ってめぐみんは変なポーズを取って威嚇し始めた。

「そんなに悔しいなら小手先の技でも覚えろって!あーあ!ゆんゆんはこんなに強いし優しくて頼りになる魔法使いなのになー!」

 

 わざとらしくゆんゆんを褒め称えてみると、ゆんゆんは口元をニヘラと緩ませて、クネクネしている。

「そ、そんな……言い過ぎですよナギトさん…。フフッ、めぐみんに勝っちゃった!」

「なにおう⁉︎勝負した覚えはありませんが、2人ともかかってくるといいですよ!活躍の機会がなくてイライラしてたのです、ここで鬱憤を晴らしてくれるわ!」

 

 そうして飛びかかって来ためぐみんに対抗していると、いつのまにかこちらに来ていたセナさんが頭を抱えて。

 

「3人とも元気が有り余っているのはいいですが、はしゃぎすぎですよ?まだ原因が分かっているわけでもないんですし、もうすこし緊張感を持って下さい」

「そんな紅茶を飲みながら言われても…いえ、なんでもございません」

 

 ヒートアップしていた俺たちは我に帰り、3人揃って踵を返すセナさんにペコペコした。

 

 

 俺は気を取り直すようにアクアさんが振る舞っていた紅茶を飲みながら冒険者カードを手に取る。

 

「結構レベルが上がったな…あの人形、結構経験値あったんだな」

 俺が倒した人形は通算8体。

 それによってレベルは8上がり、これでレベルは11だ。

「スキルポイントは余っていたのを含めて11…取り敢えず基本的なやつを覚えるか」

そうして新たに「片手剣」と言う武器の扱いが上手くなるスキルに「ウインドブレス」と言う風の初級魔法と、盗賊のスキルの一つ「罠探知」を習得してから、後はチート能力からいくつか覚えようと欄を漁っていると、なんだか見覚えのある名前が出てくる。

 

「螺旋玉、影分身……これN○RUTOからの輸入だよな。天界も日本の漫画って読むんだな…」

「スキルを覚えてるんですか?それならこれ、使ってみて下さい」

 カードをいじっていた俺に、突然ゆんゆんが鉱石を渡して来た。

 

「これは?」

「これはマナタイトって言う魔力が込められた鉱石です。本来なら、魔法使いが魔力を枯渇させないように魔力の肩代わりとして持つものなんですが……ナギトさん、先程の戦いで結構魔法を使ってたから魔力大丈夫かなーって思って…」

 

「魔力が尽きるとどうなるんだ?……ていうか、ゆんゆんは魔力大丈夫?使ってた魔法的に俺よりも使ってそうだけど…」

「倒れちゃいますね。あと、私はまだ魔力に余裕がありますからご心配いりません」

 どうやら、新しくスキルを追加することでさらに多くの魔力を使うことを見越して、回復アイテムをくれたようだ……いや、まじでこの子頼もしいんだが。

 

「ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

 折角だしゆんゆんからアドバイスをもらおうと呼び止めておいてスキル漁りを再開すると、他にも「ソードサイクロン」だの「ストームソード」だのと、やはりどこかのゲームで聞いたような名前が出てきていた。

 

 そして、探していくうちにある魔法にたどり着く。

「『ルミノス・ウィンド』……ラノベまで守備範囲内か」

「らのべ……ってなんですか?」

「故郷にある小説の一つだよ」

 「ダ○まち」のリューさんの必殺技で、詠唱はかなり長いけどカッコいいんだよな。

 

「それに、こんな魔法初めて聞きましたよ?必要なスキルポイントは5……一つのスキルにしては少し高めですね」

「そうなの?」

「ええ。魔法使いが一連の中級魔法を覚えるために必要なポイントは10で上級魔法は30……つまり、一つの魔法に必要なスキルポイントはかなり少ない事になるんです」

 ゆんゆんの話を捉え直すと、中級魔法や上級魔法はいくつかの魔法を一気に覚えるために10や30のポイントが必要で、一つの魔法に振り分けられるポイントは少ない事に対して、このスキルは一つの魔法を覚えるために5ポイントも使うってわけか。

 

「つまりは上級魔法…いや、それ以上って事だよな……」

「でも、それだけ強い魔法には多くの魔力が必要になるかもしれないので、気を付けてくださいね?」

 そうして俺は5ポイントを使って『ルミノス・ウィンド』を習得した。

 

 

 冒険者カードをしまって立ち上がると、中のモンスターを駆除し終えたのか、ダンジョンに突入していた冒険者たちが地上に戻ってきていた。

 

 

 だが……

 

「カズマさんとダクネスさんがいない……?」

「あ、そう言えば……」

 一緒に潜っていたはずの二人が見えなかったので、先ほどここに来る前に話していた冒険者の話を聞いてみると、より奥深くに消えていってから戻ってこないのだとか。

 

 

「何かに巻き込まれたとみるか、それとも何かを隠しているのか。どちらにせよ二人を探して事情聴取をしまいといけないようですね……すいせん!この中でまだ戦う事ができる冒険者の方々は、あのお二人の探索のお手伝いをしてほしいのですが……」

 

 セナさんの提案の元、消耗が少なかった冒険者たちでダンジョンの中へカズマさんたちを探しに行こうとなった時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!!!」

「「あああああああああああああああーッ⁉」」

 お茶をふるまっていたはずのアクアさんが、突然壇上の入り口に向けて魔法をぶちかました!

 

 

 

「あ、アクア⁉いきなりどうしたのですか、浄化魔法を……って、ダ、ダクネス⁉」

「ん?なあ今、ダクネスさんとは別の声の悲鳴も上がってなかったか?」

「たしかに……でも、今のは対魔魔法よね?あれを受けても人間のダクネスさんには影響がないはずなのに……」

 

 その突然の行動に唖然としながらも、聞こえてきた声に違和感を覚えていると、後からやってきたカズマさんがアクアさんに怒鳴る。

 

「おいこら!いきなり魔法をぶちかますなよ!」

「なんか、邪悪な気配がしたから撃ち込んでみたんだけど……」

 

 アクアさんの発言に俺は突発的に思いついてしまった。

「ダクネスさんが、魔王軍のスパイ⁉︎そして、悪魔だったのか」

 それにゆんゆんが一瞬驚いた顔をするが。

「ええ⁉︎でも、それなら対魔魔法の効果があったことが頷けますけど……」

「2人してアホなことを言い出さないでください!それよりあの仮面ですよ仮面!」

 

 めぐみんに突っ込まれた俺とゆんゆんがあらためてダクネスさんを見ると、たしかにその顔には突入前にはないピエロみたいな仮面がある。

 

 

「カズマさん!ダクネスさんについてるその仮面は⁉︎」

「ああ、ダクネスは今、魔王軍の幹部に体を乗っ取られているんだ!」

「魔王軍の幹部に⁉︎」

 俺とカズマさんのやりとりにセナさんが驚愕していると、アクアさんがすんすんと匂いを嗅いだ後、唐突に鼻を摘んだ。

 

「臭っ‼︎何これ、臭っ⁉︎

 

 間違い無いわ悪魔から漂う匂いよ!ダクネスったらえんがちょね!」

 

 えんがちょって言葉実際に使う奴初めてみた気がする……まあ、この状況じゃどうでも良いけど。

 

 そんな中で、幹部に身を乗っ取られたらしいダクネスさんが、ついにその口を開いた。

「フハハハハ、まずは自己紹介だ。

 

 忌々しくも悪名高い、水の女神と同じ名前のプリーストよ!

 

 

 我が名は(アクア!私自身は、匂わないと思うのだが…)……我が名はバニ(カズマも嗅いでみてくれ、臭くはないはずだ)やかましいわ!」

 

 

 ちょこちょこダクネスさんの声は聞こえてくるものの、主な声はその乗っ取った幹部のものだろうが……その声はどこか苦労を滲ませている。

 

「わ、我が名はバニル……!

 

 それにしても、出会い頭に対魔魔法とは……これだから、アクシズ教徒の者は忌み嫌われるのだ!

 

 礼儀というものを知らんのか⁉︎」

 そんな、抗議じみた声にアクアさんがわかりやすく煽る。

 

「やっだ〜、悪魔相手に礼儀とか何言っちゃってるんですかぁ?

 

 悪魔なんて人の悪感情がないと存在できない寄生虫じゃないですかぁ〜!

 

 プークスクス!」

 

 

 そして一拍置いて……!

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』‼︎」

 アクアさんが再び魔法を放ったが、今度は横飛びに避けられる。

 

「ちょっとダクネス!どうして避けるの⁉︎じっとしていてちょうだい‼︎」

「そ、そんなこと言われても……!」

 

 

 それをみてなんとか止める方法はないか考えていると、先ほどから隣で興奮していためぐみんが。

「カズマカズマ!私もあの仮面が欲しいです!あの仮面は紅魔族の琴線に激しく響きます!」

「アンタなにいってるのよ!どうみてもあの仮面はやばいわよめぐみん!」

「全くだこのバカが!あの仮面が幹部の本体なんだよ!」

 

 

 つまりはあの仮面を壊してしまうのが1番早いのか。

 

 とりあえず狙い撃ちができるように詠唱を済ませていると、めぐみんがゆんゆんとカズマさんに突っ込まれている隣で、セナさんが冒険者たちにダクネスさんの確保を命じていた。

 

 

「確かにアレは、手配書に示されていた悪魔ですね……皆さん、確保をお願いします!」

 そうしてアクアさんが浄化魔法を撃ち、それを当てるのを援護しようと、動ける冒険者たちが参戦する。

 

 俺も行くつもりだが、念のため。

「ゆんゆん、あの仮面を狙い打てる魔法は?」

「あんな密集している中で撃ったら、他の皆さんを巻き込んでしまいますよ!」

 魔法で狙い撃てないか聞いてみるも、申し訳なさそうに断られてしまう。

 他の魔法使いも同じ理由からか、ダクネスさんの確保には動けないようだ。

 

「そうなると、隙を見て壊すか……あるいは盗むかだな」

「スティールを使うにしても、対象が定まらないかも知れまんよ?まあ……近寄ればなんとかなるかもしれませんが」

「なら、突風で近寄ってスティールか……」

 他の冒険者を巻き込まないタイミングを見計らうしかないと思ってタイミングを伺っていたが………。

 

「な、なあ……あれ、相当ヤバくないか?」

 

 ダクネスさんは重そうな鎧と大剣をものともせず、アクアさんの魔法を俊敏に躱しながらも襲いかかる冒険者をいなし続けている。

 

「くそっ!あのダクネスが、こんなに手強いだなんて……!」

「当たらねえ!簡単に剣で弾き返されちまう!攻撃も剣速も凄いしよ……俺たちがやられないのが不思議なくらいだ……!」

「そんなあ!もし本気を出されたら、アタシ殺されちゃうわよ⁉︎」

 

「カズマさん、普段のダクネスさんって今くらい強いんですか⁉︎」

「普段は硬いが鈍臭くて攻撃が当たらないポンコツなんだよ!それならバニルを封じ込めておけば弱体化できるんじゃないかと思ってたんだが……でも、封じ込めておかないと殺人光線とかも撃てちまう!」

 元々の素材の良さが嫌な形でわかったって事か。

 

 

「フハハハハ!この体は随分と具合がいいな!筋力はあるし耐久力もある!更には忌々しい神々の魔法への耐性というオマケもついてくるとは!」

 つまり、接近戦には無類の強さを持ってるのに、弱点に対しても耐性を持った強ボスが目の前にいるって事だな。

「ダクネス!助かりたいか助かりたくないかはっきりしなさいな!」

「さあ!このへなちょこ冒険者め、キリキリとかかってくるがいい!」

 

 

 ちょっと帰りたくなってきた俺の前では、バニルがダクネスさんの声で挑発したことにより、それを受けた冒険者のヘイトが被害者である筈のダクネスさんに向かってしまっている………いや、表情的にはそれはアリとでも言いたそうだがな。

 

 だが、そんなヘイトを向けながらも、狙いをつけられたアクアさんを守ろうと動く冒険者達が、囲いを解いてアクアさんの前に立ちはだかっり…………

 

 

 

 俺が求めていたシチュエーションが図らずも完成する。

 

 今、ダクネスさんの背後には誰もいないから近寄ってスティールをかけても他の冒険者を巻き込む事はない!

 

 

「ちょっとあんた、良い加減しつこいんですけど!」

「それはこっちのセリフであるわ!ええい、人海戦術とは小賢しい!我輩が手を殺さぬからと言って、いつまでも調子に乗るな冒険者共よ!」

 

 

 俺は、他の冒険者に向けて襲いかかった所で潜伏を使って隠れつつも追風で素早く背後へと移動して………駆け出した!

 

「『突風』………そして!

 

 

 『スティール』‼︎」

 

 一気に距離を詰めて、窃盗スキルを発動させる。

「ぬぅ⁉︎」

 

 大剣を振るい、冒険者達の武器を叩き折っていたところで、突然背後から強襲してきた俺に驚いたらしいバニルが後ろに向けて横薙ぎを振るうが、ギリギリで当たらない。

 

 そして、そのスティールの光が止んだ後、俺の手にはこれといった感触がなかった…………って、ええ⁉︎

 

「フハハハハ!乱戦に紛れ、気配を消して我輩を不意打ちでくすねようとするとは、中々知恵が回るようだ……。

 

だが、残念ながら運は良くなかったようだな!」

 

 盗みに失敗した俺を嘲笑うかのように大剣の平たいところで頭を狙ってきたので、飛び上がりながら詠唱を行い。

 

「盗めないなら壊すだけだ!……『ウインド・バレット』ッ‼︎」

 風の弾丸を大剣に向けて全力で放ち、その反動を使って距離を取った。

 

「ええい、小賢しい……くっ、邪魔をするでない!」

 その隙に他の冒険者が取り押さえてくれるが、俺が体制を立て直すその短い時間で、力尽くで解かれる。

 

 

「フハハハハ!中々面白い戦い方をするな……どうやら貴様をまず無力化したほうが吉と見た!」

 

 今度は笑いながら突撃してきたので剣を抜き、応戦するが……!

 

「ぐっ……なんてパワーだよ、ダクネスさんは!」

「(お、おい!私が怪力女みたいに言うんじゃない、きっとバニルの使い方が上手いのだ!だから言い直せ!) やかましいわ怪力女!」

 何度か剣で撃ち合うものの相手のパワーと硬さが尋常じゃなく、俺の攻撃は全く響いていないのに、相手の攻撃は一撃一撃がこちらの剣を叩きおらんというほどの重さがあった………はっきり言って、仮面を壊しに行ける程の隙がない。

 

「BANG!BANG!……2本で剣を弾く程度だったし、1本じゃ大した事ないか!」

 ウインド・バレットを使いつつ距離を取るが、やはり距離稼ぎ程度だ。

 

「おい!そんな怪力と真っ向から撃ち合うな!」

「ダクネスの両手剣なんて、盗賊が相手にできるパワーじゃねえ!おい、逃げろ坊主!」

「そうよ!無理する事ないわ!」

 他の冒険者達はすでに殆どが無力化されており、俺にも逃げろというが……ここで逃げたらゆんゆんやめぐみんを筆頭にした魔法使いや、目の敵にしているアクアさんがやられてしまう。

 しかし、接近戦では勝ち目がないし、遠距離攻撃なんて大した威力に……いや、まだ一個だけあったな。

 

「フハハハハ!どうした、もう打つ手なしか?それなら優しい我輩からの名助言だ、そのまま何もせず戻るがいい!そうすれば貴様には手を出さないと約束しよう」

「さみしいこと言うなよ。後一手だけ見てからでも遅くはないだろ?」

 

 これでダクネスさんについたバニルの仮面を壊せるかはわからないが、ここである程度消耗させられればアクアさんも魔法を当てやすくなるだろう。

 

 

 そうして俺は、バニルの返答がない事にも構わず、頭から勝手に浮かび上がる言葉を紡ぎ出した。

 

 

 

 

「今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々…」

 

 紡ぎ出した言葉が、俺の周りに風を纏わせ始める。

 

「愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を。」

 

「………む?何かの詠唱にしては随分と仰々しいな。しかし、どういう事だ?我輩をしても聞いたことのない詠唱であるが……」

 必殺技と宣言したことで止めようとしたが、詠唱から何を撃つかがわからないので、こちらに近づいて来れないようだ。

 

……この隙に浄化魔法でも撃ってほしいが、アクアさん達も俺の魔法が何かわからず動けないのかもしれない。

 

 さっさと詠唱を済ませてしまったほうが良さそうだ。

「来れ、さすらう風、流浪の旅人。……空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。」

 ここまで唱えると、俺の周りには緑に輝く光を纏った風が吹き荒れていた。

 

「どうやら打たせるわけには行かなそうだな!大人しくしてもらうことにするぞ!」

「ちぃ、そのまま警戒してくれてればいいのによ!」

 危険だと認識したバニルが大剣を構えて突っ込んで来たので、急いで詠唱を完成させるが。

「………星屑の光を宿し、敵を討て‼︎」

 

 距離的に俺が撃つかバニルが剣を振るうのが先か……!

 

 

 すると、俺とバニルの間に一筋の稲妻が走り、バニルが一瞬だが動きを止めた。

 

「………ナギトさん‼︎」

 

 だが、その一瞬があれば十分だ!

 

 

 

 

 

「『ルミノス・ウィンド』ッッッ‼︎」

 

 

 俺は腕を広げ、星の光を宿した風をバニルに向けてぶち当てた‼︎

 

 

 

 

 

「ぐおおおおおッ⁉︎(おお!なんだこの暴風と光の渦は!美しいながらもガツンとした刺激が………⁉︎)」

 それと同時にもらったマナタイトの肩代わり分を差し引いても魔力が切れたのか、俺の体は意図が切れたように倒れそうになるが、何か黒いものが間に割り込んだことにより、その体が地につくことはなかった。

 

「ナギトさん……魔力切れですね。しばらく私に体を預けてください」

「……だけど、重くないか?」

「筋力はそれなりにありますし、大丈夫ですよ」

 

 電撃で隙を作ってくれたゆんゆんが、俺を背中におぶっていたからだ。

 その温もりと、嗅いだことのない匂いに張り詰めていた気が抜けるような感覚を覚えながら、バニルがいたほうに視線を向けると……。

 

 

 

「フハハハハ!なかなかいい余興を見せてくれた礼として、貴様らは見逃してやろう。さて……それでは引導を渡すとしようか!仲間の手で葬られるのだ、これ以上幸せなことはあるまいて!」

 

鎧や肌に多少の傷はあるものの、いまだにピンピンしていたバニルが、アクアさんへトドメを刺そうと詰め寄り始めた。

 

「本当、信じられないくらいの硬さだよな……俺、出し切ったってのによ」

「私の魔法でも、今のダクネスさんを止めるのは……でも、このままじゃアクアさんが!」

 

 

かろうじて動ける冒険者が壁になり、魔法使いが攻撃を始めるがまるで相手にならず、あっという間にアクアさんは壁際に追い込まれてしまう。

 

「ねえ!これピンチなんですけど!実は今までで1番ピンチなんですけど⁉︎カズマさーん!カズマさーん‼︎」

 

 アクアさんが泣き喚き、その場にいた誰もがこれで終わりかというムードを醸していた時だった。

 

 

 

「カズマさーん‼︎」

 

「しょうがねえなあああー‼︎」

 

 

 半ばやけくそ気味に、カズマさんがバニルとアクアさんの間に割って入った!

 




いかがでしたか?

今回も解説を。
ウィンド・バレット
 圧縮した空気を放つ。
威力は低いが取り回しの良い1本指と、火力に集中させた2本指のパターンを持つが、2本による射撃を全力でやりすぎると肩に怪我をする恐れがある。
ルミノス・ウィンド
「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのか」のリュー・リオンの必殺魔法。風に関する技であるため習得可能となっていた。
 詠唱が長いという弱点を持つが、上級魔法に匹敵するパワーを持つ。


次回こそは3巻編を終わりにしたいです。
皆さんお楽しみに!感想や評価をお待ちしています。


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第7話 この仮面の騎士と決着を!

第7話、3巻のストーリーが終わることになります。

それではお楽しみ下さい。


「カズマさん、一体何をするつもりだ……?」

「ひゃっ…⁉︎」

 

「しょうがねえなあああ‼︎」と声をあげて、バニルの前に立ちはだかったカズマさんの意図が分からず、思わずつぶやいた。

 

 失礼だとは思うけあんまり強そうには見えないカズマさんが、10人以上の冒険者を圧倒し、俺の必殺技を受けてもピンピンしているバニルの相手が務まるとは思えない。

 

「なあゆんゆん、切れた魔力の回復に普通はどれだけ時間がかかる?」

「あ⁉︎え、えーと……その……一晩……です……」

 

 今からでも復帰しようとゆんゆんに聞いたが、返ってきたのは戦力外通告だった。

 

「そうか……そうなると、カズマさんに全て任せるしかないって事だな」

 なぜか顔を赤らめてモジモジしているゆんゆんを不思議に思いつつも観戦に戻ろうとすると、すぐ近くまで来ていためぐみんが。

 

「おぶってもらったのをいい事に、この状況でセクハラを働くとはなかなかいい度胸ですね!ほら、プリーストを連れてきたのでさっさと降りて下さい!」

「せ、セクハラって、俺そんなつもりじゃ!」

 

 ゆんゆんが耳元で囁かれて赤くなってたことを教えてくれた。

 

 

 

 めぐみんが連れてきたプリーストのお姉さんにヒールをかけてもらった俺が、不慮の事故の影響でゆんゆんと気まずい雰囲気になりつつもセナさん達と合流すると、カズマさんがダクネスさんの意識を引っ張り出そうとしていた。

 

「おいダクネス!何悪魔に躾けられてるんだ?お前ってば、そんなちょろいお手頃女だったのか⁉︎」

「無駄だ小僧!この娘に貴様の声は(誰がちょろいお手頃女だ!躾けられてる訳じゃないぞ!) な、なんたる鋼の精神……」

 ダクネスさんの異様なスタミナは、どうやら俺との戦いによってある程度の支配権を取りもどしていたのか、先ほどよりも会話の節々にダクネスさんが出てくる頻度が高くなっていた……と考えておこう。そうでなければ俺自身が報われない。

 

「今からおれが仮面に貼られた封印の札をなんとかする!そうしたら一瞬でいい!体の支配感を取り戻して、バニルの仮面を投げ捨てろ!」

 

「なんとかって………盗むなり燃やすなりするのか?」

 カズマさんのステータスがどれほどのものかはわからないが、ちょこちょこ聞こえてきていた会話を聞く限り、ここにいる冒険者の中では最弱との事。

 

 つまり、俺よりも雑魚なあの人がどうやってあの化け物を出し抜くんだ…?

 

「貧弱な貴様が、この娘の身体を完璧に使いこなした吾輩の封印をどうやって解くというのだ?(うむ。今の私は誰にも負ける気がしない!)」

 いわば、本来の身体の持ち主お墨付きの無茶だが、そんな状況に趣でも感じたのかバニルはさらにその声のトーンを挙げた。

 

「フハハハハハ!

 

 この我輩をねじ伏せて!(封印の札を)剝がすとでも(言うのなら!)

 

 やれるものなら(やってみるがいい!)やかましいわ!」

 

 

「シンクロしてんじゃねえよ……」

「何というか、いまいち緊張しきれないですよね……」

 

 どうにも締らない掛け合いに先ほど繰り広げた戦いが何だったのかと理不尽なものを感じる。

 

 

 

「(スティールだ!きっとカズマお得意のスティールを使うつもりなのだろう!)」

「お前‼手の内をさらしてどうする!」

「カズマ! 

 

 あなたの後ろにはこの私がついてるわ。

 

 勇者っぽくやっちゃいなさい‼」

 

 

 まあ、その前で行われている戦いはどうやらクライマックスを迎えそうだが、得意技がスティールって、なんだか嫌な冒険者だよなぁ……。

 

 

 そんな俺の気分を置き去りにするように、カズマさんとバニルの間で繰り広げられようとする一瞬の決着の行方を、その場の冒険者やセナさんが固唾をのんで見守る中。

 

 

 スティールを警戒されたカズマさんが出した技は………⁉

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ティンダー』ッッ!!!」

「(ああっ⁉ズルいぞカズマ、卑怯者‼)フハハハハ!やるではないか、この見通す悪魔をだまくらかすとはな!」

 

 

 

「ティンダー……火の初級魔法!」

「……なるほどな!予告スティールは囮か!まあ、そもそも盗む必要がないもんな!」

 さらには事前に「俺が勝ったら約束していたすごい要求に、更にとてつもない要求を足させてもらう」とドMの餌を撒くことで、抵抗されにくくしていたのだろう。

 

「おいダクネス、根性見せろ!」

 実際、仮面に貼られた札は焼け落ち、ダクネスさんは早速仮面をはずそうとするが。

 

 

 

「嘘だろオイ……あの怪力で外せないのかよ……⁉︎」

 バニルが全力で抵抗しているのか、全く外せずにいた。

 

「カズマさん、どうするの…?もう、撃っても良いのかしら⁉︎」

「いや、浄化魔法を撃ってもきっとダクネスの耐性で……!」

 

 先ほどから少しも好転していない状況にいよいよ焦りを感じていると。

 

 

 

 

 

「(撃て。

 

 アクアの浄化魔法が効かないのなら……構わん。

 

 私もろとも、爆裂魔法を喰らわせてやれ)」

 

 ダクネスさんが覚悟を決めたように………って⁉︎

 

「正気ですか⁉︎

 

 俺のルミノス・ウィンドが無傷だった訳じゃないでしょう⁉︎」

「そうですよ!それなら私が上級魔法で……!」

 

 確かに、浄化や対魔の魔法に耐性があるのなら残された手が魔法による自爆攻撃しかないのはわかるが、だからと言って「強靭☆無敵☆最強」の爆裂魔法では最悪ダクネスさんが死にかねない。

 

 

 先程までの気まずい空気を気にするのも忘れてゆんゆんと共に呼びかけるが、強い口調で拒否された。

 

「(ダメだ!

 上級魔法や先程のナギトのスキルでは私の耐性が邪魔をして、この悪魔を倒す程の力を出せない。

 

 

 だからめぐみん!私に構わず爆裂魔法を!)」

 

 そうしてダクネスさんに促されためぐみんは泣きそうな顔で首を振る。

 

「だ、ダメです!我が爆裂魔法は、日々の鍛錬により更なる高みへと到達しています!いくら、ダクネスでも………‼︎」

 

 

 たが、そんなめぐみんや俺たちの声に耳を貸す様子もなく、ダクネスさんは広い空間へと歩き出した。

 

「バニル。

 

 お前といた時間は悪くなかった。

 

 

 だから……選べ。

 

 このまま爆裂魔法を喰らうか、私から離れて、アクアに浄化されるかをな」

 

 

 そんな呟きと共に遠ざかっていったダクネスさんが、やがてこちらに向き直り、両手を広げて重々しく告げた。

 

 

 

「我輩は悪魔である!

 

 

 敵対者である神に浄化されるなど…………

 

 

 

 

 

 

 

 真っ平だ!」

 

 

 何を選択肢にしたのか、バニルも爆裂魔法を撃たれることを望み始めている。

 

 

「さあ、めぐみん!」

 

 

 後退り、顔を青くしているめぐみん。

 

 

 固唾を飲んでことの次第を見守る俺を含めた冒険者たち。

 

 

 

 そんなキリキリと胃が痛む状況の中、カズマさんが覚悟を決めたようにセナさんの肩を叩いた。

 

 

 

 

 

「もしダクネスの身に何かあったら、俺が指示したって事で、あんたが証人になってくれ。

 

 

 

 

 

……今回も、全責任は俺が取る。

 

 

 

 

 

 めぐみん!」

 

 

 

 

 そうして、カズマさんの覚悟に決心がついたのか、遂にめぐみんが詠唱を始めた。

 

 

 

「"現世に忍び寄りし、叛逆の摩天楼"。

 

 

 "我が前に示されし、静寂なる信頼"。」

 

 詠唱が紡がれるたびに、凄まじい熱を持った光を纏った魔法陣がダクネスさんを中心に描かれる。

 

「なんて熱量だよ……。こりゃ、俺たちとは比較にならねえな……」

「ナギトさん。見ていてください……。

 

 

 これが『爆裂魔法』。

 

 

 私のライバルが撃つ、人類最大威力の攻撃手段です。」

 

「強靭・無敵・最強」と呼ばれるのもこの熱量を前には頷くしかない。

 

 

「ダクネスさん……大丈夫だよな?」

「私達には、めぐみんとダクネスさんを信じることしかできません」

 

 不安がる俺に、ゆんゆんが冷や汗をかきながらも、俺の目を真っ直ぐに見て告げた。

 

 

「"時は来た!今、眠りから目覚め、我が狂気をもって見界せよ!"」

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

「穿て‼︎

 

 

 

 

 

『エクスプロージョン』ッッッ‼︎」

 

 

 

 

 

 めぐみんの魔法が、灼熱の奔流と共にダクネスさんへと突き刺さった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 魔王軍幹部バニルは討伐され、ダクネスさんは瀕死の重症を負ったものの、アクアさんの介抱によってなんとかことなきを経た。

 

 あと、カズマさんに掛かっていた疑惑もあの戦いを見ていたセナさんが疑いを晴らすようにいろいろ手を尽くしたことにより、無事無罪放免になった。

 

 

「なーんてことがあった訳ですよ」

「成る程……しかし、お前卸したての剣で無茶すんなよなあ…」

 

 そして俺は、ライトさんの鍛冶屋にお邪魔して、防具や武器のメンテナンスをして貰う中でことの顛末について話していた。

 

「そうは言っても、相手は爆裂魔法に耐えるレベルの硬さだったんですよ?」

「なんでそんな奴がこの街に留まってるんだ……でも、これで俺の腕は分かっただろ?」

「ええ。お陰でやられずに済みました」

 

 人形の爆発や、ダクネスさんとのやり合いで傷ついていた防具だったが、ライトさんの手により既に修復されたのでピカピカだ。

 

 

 そうして剣の修復に取り掛かろうとしたライトさんが時計を見て。

「ああ……お、そろそろ時間じゃないのか?」

 

 

……おっと、もうそんな時間か。

「じゃあ、ちょっと行ってきますよ」

「おう。ウチの売り込みも頼むぜー」

 

 俺は、今日行われるカズマさんの表彰式に向かうために、冒険者ギルドへと向かうのであった。

 

 

 

 ギルドに向かうと、既に中は飲めや歌えやの騒ぎになっていたのだが。

「こっちでの馬鹿騒ぎに参加すれば、飲み仲間にしろ友達にしろ出来るかもしれないのにさ……隅っこで定食食べるのはどうなんよ」

「で、でも……私、そう言うことしたことないですし、いきなり参加して、「何この子、いきなり出てきてはしゃいじゃって、空気読めなーい」とかって思われたら嫌ですし……」

 

 その中から離れていたところでゆんゆんが定食を食べていた。

 友達が欲しいと言いながら、この子は何をやっているのだろう? 

 

「そんな陰湿なこと考えてるような顔してないって!もうちょっと気楽に考えようぜ」

「き、気楽にですか……?」

 ウェイトレスさんにジュースとカエルの唐揚げを頼みながら、もじもじとするゆんゆんをどうにかできないものかと考えていると、セナさんがこっちに来いと手招きをしていた。

 

「なんなんです?」

「何って、今回参加した冒険者への報酬だよ。カズマのパーティー以外では、にいちゃん達で最後だ」

「ああ、そう言う………ほらゆんゆん、報酬もらいに行こうぜ」

「え?ナギトさんの分の料理きましたけど……」

「それはそこに置いておいて下さい、ほら行くぞ!」

 

 冒険者の説明に納得がいった俺はゆんゆんを連れてセナさんのところへと向かった。

 

 

「冒険者、マトイナギト殿、同じくゆんゆん殿。

 

 今回のキールダンジョンの調査の報酬及び、魔王軍幹部バニルとの戦いにおいて解決へ向けての貢献をなさいました。

 

 よってわれわれはここに、調査報酬の30万エリスに特別報酬20万エリス、2人分で100万エリスを進呈いたします!」

 

 ずっしりと重い袋を手渡された俺は聞こえてきた喝采に腕を掲げて応え、ゆんゆんにも目を向けたが。

 

「ほら、ゆんゆんも………って、立ったまま上がってやがる」

 

 人の視線への耐性がなかったのか、顔を赤くして目を回していたので、慌てて先程までの隅っこに戻ると、カズマさん達が表彰され始めたので、ゆんゆんの介抱をウェイトレスさんに任せて人の輪に入ることにした。

 

 

 

「冒険者、サトウカズマ殿!

 

 貴殿を表彰し、この街から感謝状を与えると同時に、嫌疑をかけたことに対し、深く謝罪をさせていただきます」

 

セナさんが深々と頭を下げ、カズマさんに感謝状を渡され、それを見ていた冒険者達がわいわいとし始めるが、そのセナさんの後ろから来た騎士達が持ってきたものに、冒険者達は声を潜める。

 

 

………いや、正確には。

 

「そしてダスティネス・フォード・ララティーナ卿!今回における貴公の献身素晴らしく。ダスティネス家の名に恥じぬ活躍に対し、王室から感状並びに、先の戦闘で失った鎧に代わり、第一級の技工士達による全身鎧を贈ります」 

 

 新しい鎧をもらいながらも、自分の名前に顔を赤くして震えているダクネスさんを前に、からかうネタができたとばかりに目を輝かせていた。

 

 

 

 そう。あの人の本名をカズマさんがバラしたのである。

 

「おめでとう、ララティーナ!」

誰かの呼びかけにビクッと震え。

 

「ララティーナ、よくやった!」

「さすがララティーナだ!」

「ララティーナ!可愛いよララティーナ!」

 

そこから次々と呼ばれる名前に、ダクネスさんは耳まで赤くなった顔を両手で覆い、テーブルへと突っ伏すダクネス……いや、ララティーナさんはやはりいじめっ子気質を目覚めさせる何かがあった。

 

 俺もなんだかいじめたくなったので、近くの冒険者に耳打ちをして………。

 

 

「あ、それ!ララティーナ!ララティーナ!はい!」

 

「「「ララティーナ!ララティーナ!」」」

俺の掛け声に合わせて、ララティーナの名前をみんなに連呼させると。

 

 

「こ、こんな辱めは私が望むすごい事では………ええい!貴様らまとめてぶっ殺してやる!」

 

 恥ずかしさのあまりブチギレたダクネスさんが襲いかかってきたので蜘蛛の巣を散らすようにみんなが逃げたが……

 

 

「ナギト!お前がこの辱めの主犯だな⁉︎」

「いたたたた!ごめんなさいララティーナさん!割れる!頭が割れる‼︎」

 

 鎧のないダクネスさんが予想外に早く、アイアンクローを喰らう羽目になった。

 

 

 と、そんな騒ぎを収めるようにセナさんがカズマさんへの賞金授与のために呼んだことで、ギルドは再び静寂に包まれる。

 

 

 俺もアイアンクローから解放されたので、痛む頭を押さえながら、セナさんの前に立つ4人を見る。

「では………改めましてサトウカズマ一行!機動要塞デストロイヤーの討伐における多大な貢献に続いて、今回の魔王軍幹部、バニル討伐はあなたたちの活躍なくばなしえませんでした。よってここに………!」

 

 

 そこで一度言葉を切ったセナさんが、まずは一枚の紙をカズマさんに渡し…………!

 

「あなたの背負っていた借金、及び領主殿の屋敷の弁償金を報奨金から差し引き………

 

 

 

 

 

 

 借金を完済した残りの分、金、4000万エリスを進呈し、ここにその功績を称えます!」

 

 続いて渡した重そうな袋を見て、ギルド内に今日1番の大喝采が巻き起こった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆんゆん!バニルを討伐したのでこれで私がまた一勝ですね!だからそのシュワシュワを飲ませて下さい!」

「さっきギルドを出て行ったカズマさんとダクネスさんに、飲ませるなって言われてるんだけど………ちょ、ちょっと!私のシュワシュワを取ろうとしないでよ!」

 

 カズマさん達の祝賀パーティーという事で、ギルド内はまさに宴会ムード。

 

 

 そんな中で出て行ったカズマさんとダクネスさんに戸惑いながら、俺とゆんゆんも場に合わせてシュワシュワ……つまりはお酒を飲もうとしたのだが、釘を刺されていたことでジュースを飲んでいためぐみんに絡まれていた。

 

「おいおいお子様。シュワシュワが飲めないくらいで大暴れすんなよ……すげえや、日本の炭酸とは違うシュワシュワ感」

「あなたは私たちと同い年でしょう!喧嘩を売っているのなら買おうじゃないか!」

「こんなめでたい席で喧嘩しようとすんな!」

 そんなめぐみんを嗜めると、今度はこちらに掴みかかってきたので、ジョッキを机に置き、腕をがっしり組み合って対抗していると、周りの冒険者達が、それを見て騒ぎ出す。

 

 

 

 そんな、騒がしくも楽しい空気に俺は、これからの異世界生活が少しだけ楽しみになるのであった。

 




いかがでしたか?

現段階での原作の主要キャラと主人公の関係と印象を軽くおさらいしましょう。

ウィズ、ダスト、リーン等とはまだ会っていないので除外します。

カズマ→知り合いの冒険者の1人。弱そうだけど頭のいい人。
アクア→知り合いの冒険者の1人。らしくない女神。
めぐみん→知り合いの冒険者の1人。固定砲台なケンカ友達。
ダクネス→知り合いの冒険者の1人。ドMの怪力女。
クリス→知り合いの冒険者の1人。 盗賊スキルの師匠でアルハラしてくる人。
ゆんゆん→知り合いの冒険者の1人。色々重いけど頼りになる先輩。


これからどんどん増えていきますので、次回からもお楽しみに!
感想、評価の方もよろしくお願いします。


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第2章 ぼっちと始まる異世界生活with踊り子
第8話 この踊り子達と初冒険を!


第2章開幕です!

原作4巻にはゆんゆんがあまり出てこないので、オリジナル色強めとなります。

また、今回はスマホゲーム版からキャラクター達を登場させてみましたので宜しくお願いします。


前回までのあらすじ!

 

 不慮の事故で死亡し、異世界に転生した少年「マトイナギト」は、初対面の女の子にお金を借りたり、女盗賊の8102平野を晴天に晒したり、真冬に馬小屋で過ごしたりとさまざまな苦難に見舞われながらも、冒険者としての生活を始めた。

 

 そして、国家転覆罪に問われていた冒険者「サトウカズマ」とその仲間達と共に魔王軍幹部バニルの討伐に貢献して、棚ぼた的に小金持ちとなるのであった……!

 

 

 少し、昔話をしよう。

 

 あれは、調査報酬の50万エリスを貰って数日経ったある朝のことだった。

 

 

 

「へ⁉︎」

 金がなくなる不安に駆られ、いつもの新聞配達のバイトに励んでいた俺の目の前に飛び込んできた人物に俺は間抜けな声をあげる。

 

 

 いや、それはそうだろう。

「………おや、新聞配達か?これはご苦労」

 忘れもしない白黒の仮面をつけた大男が、町外れのそれなりに良い家が並ぶ路地にいたのだから。

 

「いや、待ってくれ。あんた………バニルか?

 

 ちょっと前にやり合った魔王軍幹部、バニルなのか?」

 

 タキシード姿に箒を持ち、ピンク色のエプロンをつけたそいつがこちらに近寄ってきたので、ウインド・バレットを唱えられるように構える。

 

 すると、その男は口元を歪め。

 

「フハハハハハ!少し違うぞ、小僧!魔王軍幹部ではなく、我が名はしがない魔道具店のアルバイトのバニルである!」

 と、そんなよくわからないことを言い出した。

 

「ちょっと待ってくれ。あの爆裂魔法を撃たれてあんたは粉々になってたよな?それがなんで普通に蘇ってんの?」

 

すると、バニルは額を指さして。

 

「何を言うか。あんなのを食らえば、流石に無事ではいられん……残機が一つ減ったので、二代目バニルというわけだ」

「バカにしてんのか!

 

 

………それで、魔道具店ってなんだよ。まさかそこにも幹部がいるとかじゃないだろうな」

 

 そうして魔道具店と言う看板が立つ建物を見ると、その扉が開き、中から出てきたのは……。

 

「あら?初めて見る方ですね……うちに何か御用ですか?」

「へ?今度はお姉さんが出てきた……?おいおい、もう意味がわかんねえぞ」

 

 野暮ったいローブに身を包んだ、血色の悪い顔の女性だった。

 

 

 

 

「ふぅ………成る程。つまり、バニルと店長………ウィズさんは魔王軍幹部同士の古い友人で。

 

 あなたは元々なんちゃって幹部だから危険性もないし、バニルも初代が死んだことで魔王軍幹部ではなくなったから、夢を叶えるためココでアルバイトを………ってことですか?

 

 まあ、夢の内容はアレですが………」

 ウィズさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、ことの経緯を聞いた俺は息を吐きながら寛いでいた。

………残りの仕事はこの辺りの家に配るだけなので少しくらい休んでも良いだろう。

 

「ええ。ですので、何か魔道具が欲しくなったらいつでもうちにいらして下さいね?」

 そうして俺は魔王軍の幹部だった男と意外な形で再会するのであった。

 

 

 

 そして、それから一週間近く経ったころ。春の陽気が見え始めて今に至る。

 日本でも春には出会いや始まりの行事が数多く行われるように、この世界でも厳しい冬を越したモンスター達が出てくるため、冒険者達にとっても仕事始めの季節だ。

 

 勿論、俺も例外ではなく。

「さてと。お仕事探しすっか」

 

 冒険者達がひしめくクエスト募集の掲示板を前に、初めてのクエストを何にしようかと考えていた。

 

 「ジャイアントトード討伐に、山小屋への荷物運び。あとは………ダンジョン探索…リザードランナー討伐…」

 クエストの難易度がどれくらいかはわからないが、どれかに決めないと他の冒険者に取られそうなので、地味なギャンブルである。

 

 こう言う時にゆんゆんでもいてくれれば色々教えてくれそうなんだけど………何故かどこにもいなかった。

 

 酒場の隅っこを見てもいないし、他の冒険者に聞いても「あの子は頭のおかしい方と比べると、あんまり存在感ないからな…」と言う反応をもらっただけだ。

「ソロはまだ怖いし、どこかのパーティーに混ぜてもらうかな…」

 

 と、今度はメンバー募集の掲示板を見に行こうとした時だった。

 

 

「アア、どうしたらいいの⁉︎

 

 私たちだけで高難易度のクエストにいかなければならないなんて……!

 

 こんなに可愛いアタシじゃあ、高難易度のクエストなんて無理よ!」

 

「だ、大丈夫だー、私がついているー。こう見えても槍の武術の大会で優勝したことがあるんだー」

 

「そ、そうですよー。ボク、アークプリーストですが、武道の心得もあるんです!」

 

「なんて頼もしいのかしら!可愛いアタシもついてるし、これならドラゴンとかでも怖くないわね!」

 

 ギルドの真ん中あたりで、3人組の女の子達が妙な芝居をしていたのだ。

 

 ショートカットのボクっ娘とツインテールのピンク髪、更には黒髪ロングの………ん?

 

 

「あれ、顔立ち的には日本人だよな………しかも、かなり前だけどテレビで見たことあるような……?」

 

 記憶を辿っている間にも、その女の子達の芝居は続いているが………その近くでくすんだ金髪のチンピラ……受付のお姉さん曰く要注意人物の「ダスト」が何故か転がってるのも意味がわからないので、とりあえず近くにいた冒険者を捕まえて話を聞くことにした。

 

 

「あの子たちって?」

「あの子達は「アクセルハーツ」っていう踊り子集団だ。この街を拠点として各地を回っているんだよ」

戦士風の男がそう教えてくれる………ふむ。

 

「じゃあ、あそこに転がってるのは?」

「ああ。アレはシエロちゃん……ショートカットの子に触ろうとして吹っ飛ばされたんだよ。あの子は男性恐怖症だからな。ちなみにピンク髪がエーリカちゃん、黒髪の子がリアちゃんだよ」

「…………ひょっとしてファン?」

「………余計な詮索は無しだぜ、少年」

 

 そうしてその男は、チケットのようなものを渡してさっていった。

「布教か?布教しようってのか?」

 

………サムズアップを添えた、アクセルハーツの公演のチケットを。

 

 

 

 まあ、チケットはどうでもいいとしてもその子達の周りにはあまり人がいなかったが…………あんな大根芝居じゃ逆に怪しいコスプレ集団だ。

 

 さらに言うと、キワモノ揃いのアクセルの街の冒険者は、危機回避能力は中々なものを持っている………低レベルの俺にアクアさん達を押し付けてきた程には。

 そんなこの街の冒険者が、わざわざ貧乏くじを引こうとは思わない事が、あそこに閑古鳥が鳴く理由ってわけだな………そもそも、大半の冒険者はすでに数人でパーティーを組んでいる為、3人も新たに雇おうとは思わないだろう。

 

 

「…『潜伏』」

 この状況で普通にメンバー募集掲示板に行ったら芝居をしているあの3人にロックオンされそうなので潜伏スキルを使って気配を消してから探そうとしたその時。

 

 

「ちょっとそこのあなた!潜伏スキルを使ってまで逃げようとするとか酷くない?見たところ1人なのに!」

 

エーリカとかいった人が、がっしりと俺の肩を掴んできた。

 

「敵意を出したわけでもないのになんで潜伏スキルが……!」

「アタシのスキル『看破』の前じゃ、潜伏スキルなんて役立たないわ!」

 

 潜伏スキルが通用しないほどの猛者かと思ったが、スキルを使われただけのようだ………いや、捕まったんだし安心はできないが。

 

 

「え、えーと……俺、レベルがそんなに高くないし。高難易度のクエストは………」

 とりあえずレベルを原因に断ろうとしたがリアさんが申し訳なさそうに。

 

「い、いや。高難易度って言っておけばレベルの高い冒険者が集まると思ってそう言ってただけで……。別に、レベルが低くてもついてきてくれるだけでいいから……!」

 どうやら選り好みしてただけだったらしい。

 

 そんな中、シエロという子がエーリカと俺を交互に見ながら。

「え、えーと……その男の子も困ってるみたいだ…………し…………あっ‼︎」

 

 止めようとした時に、突然声を上げた。

 

 そして、その視線の先には俺がもらったチケットが………

 

 

 これはまずい!

「見てよ、リアちゃん!この子ボク達のチケット持ってる!」

「本当だ!もしかして私たちのファンなの⁉︎」

 

 すると、エーリカはニヤリとした笑みを浮かべて。

 

「もう、そんなにアタシ達に会いたいなら、正直に言えば良かったのに。素直じゃないんだから〜」

 他の冒険者のところへ逃げようとしたが、その冒険者達もこの隙にとクエストへと向かってしまった………敬礼してる奴らには今度お礼参りでもしてやろう。

 

「そう言うわけで、よろしく頼むわね!」

「なんでこうお守り役ばっか………」

 こうして、俺の初めてのクエストはこの妙な3人組と冒険へ出かけることとなってしまったのであった。

 

 

 

 

「えっと………この人達は?」

「アクセルハーツとか言う踊り子集団だってさ。クエスト探してたらなんやかんやあってクエストに付き合うことになった」

 

 アクセルの街をでて少ししてから見えてくる山道にて。

 

 何か使える道具がないかとウィズさんの店に寄り、そこに居たゆんゆんを回収した俺は、今回の経緯を説明していた…………決して、貧乏くじのおすそ分けという事じゃない。

 

「へ、へー………そうなんですか…」

 それを聞いていたゆんゆんは、大人数の知らない人にビビって人見知りを発動していた。

………友達増えると言って張り切らせたんだが、後も簡単にへし折れやがった。

 

「2人とも、今日は付き合ってくれてありがとう。私はリア………職業はランサーだ。年は多分私の方が上だろうが、敬語じゃなくても構わない。それでこっちの2人は………」

「こら!普通に自己紹介してもつまらないでしょ!ここは……」

 と言いかけたところでエーリカがシエロさんとリアさんを連れて円陣を組んだ。

 

「「………?」」

 突然のことに俺とゆんゆんは顔を見合わせるが、すぐに円陣を解いた。

 

 

 解いたのだが………自己紹介としてはあまりにインパクトが強かった。

 

「ぼ、僕のこと……もっと知りたーい?教えろ教えろ、アークプリーストのシエロちゃん!」

「見た目はクール、中身はホット!リアで………ほっと、一息ついてね?」

 

「世界中のかわいさ大集合!可愛さ1000%、みんなのハートを鷲掴み、レンジャーのエーリカちゃんでーす!」

 

 

 本来は名乗り返さないと失礼なのだが、そのインパクトの強さには言葉は喉奥に引っ込んでしまう。

 

 それぞれの時間が一様に止まり、季節は春だと言うのに肌寒くなっていた所に………その沈黙を破る者がいた。

 

 

 

「わ、我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を操る者!やがて里の長となる者!」

 

………いや、この空気にとどめを刺していた。

 

「俺はナギト。職業は盗賊…………えっと。とりあえず、受けるクエストについて聞かせてくださいよ」

 

 白けた空気を強引になんとかすべく、俺はリアさん達が受けていたクエストについて話を促すのであった。

 

 

「こ………今回のクエストは、鉱山の鉱物を食べる虫「ライトワーム」と、それを餌にやってくる怪鳥「ジュエル・バードン」を討伐するクエストだよ」

 

 

 リアさんが受けたクエストの内容を説明してくれているが、その雰囲気は悲惨なもので、エーリカを除いた皆なの顔は何かを失ったようだ。

「『ライトワーム』は鉱石を好んで食べる芋虫型のモンスターです。食欲旺盛で、食べた鉱石によって様々な能力を使えますが、鎧を食べてくる場合もあるので気をつけてください。

 そして、その鉱物の要素をたっぷり蓄えたワームを餌にやってくるのが『ジュエル・バードン』。こちらはかなり好戦的で強いです。

 

 本来はワームの方を殲滅できればバードンがやってくることもなくなるのですが……今回は既に来てしまっているので両方倒さなくてはなりませんね」

 

「これを放置していると鉱石が食べ尽くされてしまい、鉱山が壊滅する。だから、速やかに退治してほしいとの事だよ………にしても、まさか虫を相手にするなんてね」

「ねえ、可愛いアタシは虫に触られたら気絶しちゃうんだけど……」

「で、できればボクも……」

 最悪の相性じゃねえか。

 

「クエスト要項読んでから受けてくださいよ……道理で高かったわけだ」

 ちなみにこのクエストの報酬は60万エリスでかなり高額な報酬だったのだが、戦うことになる相手の量と達成による鉱山関連の利益が見込めることを考えた今はそこまで高くは感じない。

 

 

「でも、なんでそんな高いクエストを?ジャイアントトード討伐とかでも良かった気がするんですが……」

 それを聞いていて思い浮かんだようなゆんゆんの質問に今度はシエロさんが答えた………男性恐怖症なだけあって俺が話してる時はリアさんの後ろに隠れていたが、同じ女であるゆんゆんは平気なようだ。

 

「公演に使う衣装や小道具、ステージの使用料にチケットの広告費。更にはボク達の生活費を稼がないといけないので、安いクエストだと足りないんですよ…」

「だったら普通に誘えば良かったのに。あんな芝居してたら逆に人寄らないぞ」

 

「それはアレよ。可愛いアタシ達が困ってたらきっと誰か助けてくれるって思って…」

 

 このエーリカはどうやらかなり自意識が強いようだが現実はそう甘くはないのだ。

 

 そんなことを考えていると、目の前には鉱山の入り口と書かれた看板があり、その向こうには。

 

「………なんか妙にでかいし、うじゃうじゃいるしでちょっと気持ち悪いな」

「……夢に出てきそうですよね……」

 ちょうどベンチくらいの大きさの金属色の芋虫が、20匹くらいで群れていた。

 

 その光景に顔を顰める俺とゆんゆんだが、後の3人はその比ではなく。

 

「ひ、ひい!あ、大きな虫が……!」

「いやあー!アタシあんなの触りたくないわ!きっと可愛さを捨てるわよ!」

「で、でもここでやらないと賞金が……!」

 

 俺とゆんゆんの後ろでガタガタと震えていた。

 

「ナギトさん、あの虫達は敵意を向けてきてますか?」

「『敵感知』に反応はないな………今はお食事中で周りに目がないのかも」

「それなら、私が魔法で見えてる虫は倒しますので、ナギトさんは逃げ出した虫を倒してくれると嬉しいです」

「了解……」

 

 

「ふ、ふたりともすごく冷静だね……」

 リアさん達の視線に尊敬の念が篭っているが、虫はアースウォームで耐性がついているだけだと思う。

 

「そんな事はないですが………ゆんゆん。この3人はどうしようか?」

 するとゆんゆんは少し考え込んだ後。

 

 

「シエロさんは皆に支援魔法をかけてあげてください。エーリカさんはそのシエロさんを守ってあげて………リアさんはナギトさんと一緒に撃ち漏らした虫を……」

「うう………コン次郎……」

 そう言ってリアさんは何故かずっと持っていたぬいぐるみを抱きしめる……てか、コン次郎って。

 

「そのぬいぐるみ、シエロさんに預けた方がいいんじゃないんですか?汚したくないでしょ?」

「いや、コン次郎がいないと安心できないと言うか……」

 

 ぬいぐるみを抱きしめながら首を振るリアさんは何というか……ギャップ萌えってやつだ。

 まあ、そんなに大事なら引き離すのもかわいそうか。

 

「俺が極力片付けるから、リアさんはコン次郎を守ってあげてください…」

「あ、ありがとう……」

 そんなリアさんがほっと一息ついた所で。

 

 

「準備はいいですね?じゃあ……行きますよ!

 

『インフェルノ』ーッ‼︎」

 

 虫の群れに向けて、ゆんゆんが炎の上級魔法を叩き込んだ‼︎

 

 

 

 

「『パワード』!『スピード』!『ガード』!」

 それを受けて4分の1程度は消し炭となったが、残った虫達が敵意を向け始める。

 

 短剣を持ったエーリカの後ろで、シエロさんが掛けた支援魔法によって身体が淡く光ったのを尻目に俺は剣を引き抜き、リアさんは槍を構えた。

 

 

 そして、その攻撃から運良く流れていた虫達はお返しと言わんばかりに粘液のようなものを吐き出して飛ばしてくる。

「『ウインド・カーテン』!………ナギトさんも!」

「分かった………『ウインド・ブレス』!」

 

 2人の風魔法で粘液を吹き飛ばすが、それが当たった岩はどろりと溶けていく。

「アレは消化液か………武器や鎧にあたるとやばそうだな」

 また、それだけでなく固まって動けなくする液体を飛ばしてくる奴もいるらしい………あれが、食べた鉱石による変化というやつだろうか。

 そうなると、反撃の可能性がある接近戦はやめておくべきだろうが、この中に遠距離の強い攻撃ができるのはゆんゆんだけだ。

 

 だが、もう一体の鳥モンスターがまだ現れてない段階でゆんゆんを消費させるのは良策とは言えない。

 

 そうなると………

「気づかれないように倒す……潜伏スキルで隠れた後に、後ろから不意打ちで倒すしかない!」

 そうして潜伏スキルを使おうとすると、同じく前衛に出ていたリアさんが顔を青くした。

 

「で、でも!そうなると私たちに標的が余計に……キャア⁉︎」

「ゆんゆんがガス欠になったら終わりだぞ………って、おおッ⁉︎」

 何か言いかけたリアさんに、虫モンスターが吹きかけた液体が数滴当たってしまう。

 

 

「………キャアアア⁉︎ふく、服が溶けて……ナギト、こっち見ないで!」

「いやっほ………じゃないや。リアさん!その鎧や服を脱ぐなり、溶けそうなところを切るんだ!放っておくと肌にまで沁みる!」

 どうやら鉄をも溶かす溶解液だったらしく、リアさんの服がじわじわと溶けて行き、白い肌が露わになるご褒美………いや、大惨事となっていた。

 

 

「いやぁん⁉︎アタシにも⁉︎」

「エーリカちゃん‼︎………ああッ!胸のところに⁉︎」

「BANG!BANG!…………BANG!」

「うう………コン次郎がいてくれて良かった。こうして前を隠せるんだから………!」

 

 涙目でうずくまるリアさんを庇うようにウインドバレットで牽制していると、となりではウインド・カーテンで弾ききれなかった液体でもかすったのか、エーリカにまで被害が及ぶ。

 

「ナギトさん!リアさんにマントを貸してあげて下さい!これ以上溶けたら色々見えちゃいます!………『ブレード・オブ・ウインド』!」

「分かった………あとゆんゆん!目眩しとかできないか?その隙にまとめてやっつける!」

 マントを脱いでリアさんに渡し、インナーのシャツにライトアーマーをつけた状態になったのを見たゆんゆんが、これが答えだと言わんばかりに。

 

 

「皆さん、目を閉じて下さい‼︎………『フラッシュ』ーッッッ‼︎」

「ライトさんの新しい武器、期待してるぜ………『潜伏』…!」

 

 俺は潜伏しながらベルトの後ろにくくりつけていた鉄の塊を取り出し、それを組み立てると…………そこから大鎌が出来上がった。

 

 これは、ライトさんが作った新しい武器で、名前はシンプルに「ポータブル・サイズ」。3つに折りたたむことで持ち運びを楽にすることができるのだ。

 辺りが閃光に包まれ、みんなが目を閉じている中で俺は潜伏を発動させて………!

 

 

「行くぜ………『突風』ッッ‼︎」

 

一気にワームの群れに突っ込むと同時に、大鎌で薙ぎ払いをくらわせた‼︎

 

 剣よりもリーチが長く、勢いがついた一振りは、標的になったワームを何匹かまとめて両断する。

 

「…今度はお前らだ!斬って斬って斬りまくる……!」

 

 フラッシュの明かりがワーム達の動きを止めている間に、俺は鎌で片っ端から斬りつけていった………おっと!

 

 

「逃さねえぜ………『ウインド・バレット』‼︎」

 

 逃げ出したワームの1匹を風の弾丸で打ち上げ、一気に切り抜けようしたその時だった。

 

 

「うわあッ⁉︎」

 突然大きな影が俺の前を横切り、その勢いに吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「ナギトさん!大丈夫ですか⁉︎」

「ああ。だけど今のは……」

 駆け寄ってきたゆんゆん達に手を引っ張って立たせてもらいつつその前を見ると。

 

 

 

「なんだ、あの鳥は⁉︎」

「すっごーい!宝石みたいにピカピカね!」

「エーリカちゃん!喜んでる場合じゃ……うう、虫の頭が嘴から見えてるよぉ……」

「ナギト、ゆんゆん!あれがもしかして……」

 リアさんの言葉にゆんゆんが頷いたことで、アレがもう一体のターゲットである「ジュエル・バードン」である事を理解した。

 

 その頭は鶏冠を生やした鶏のようでありながら、ダチョウのよう逞しい足に、鉤爪を持った大きな翼と、宝石のような輝きを持つ鱗に覆われていた。

 俺達が困惑している間にも、バードンは「ライトワーム」の生き残りへと襲いかかり、啄み始めている。

 

 そんな、しばらく食事タイムを見せられていた俺たちだが………その視線は。

 まるで、「足りないからあいつらを食うか」と言うものに………!

 

 

「ゆんゆん!敵感知にビンビン来てる!こいつら俺たちを食う気だ!」

「ええ⁉︎えーと、それじゃあ私は詠唱しますのでナギトさんは……!」

 こちらに翼を広げて威嚇するように迫ってくるバードンを前に、ゆんゆんと共に焦り始めていると。

 

 

 俺のマントをバスタオルの様に巻きつけたリアさんや、ゆんゆんのローブに身を包んだエーリカ、そしてシエロさんの3人が前に出た。

 

「いや。ここは私たちに任せて欲しい………ナギトやゆんゆんだけに押し付けたりはしない!」

「そうね!1000%の可愛さからくる強さ、見せてあげないと!」

「ナギトさんたちは休んでてください……今度はボクたちの番です!」

 

 

 

 突然の行動に互いに顔を見合わせる俺とゆんゆんを尻目に、リアさんは薙刀でバードンと突き合いを始めていた。

「行くよリアちゃん、エーリカちゃん!………『風のロンド』!」

「アタシも可愛くいっちゃうわよ!『炎のセレナーデ』!」

 

バードンの嘴でのつつきのラッシュを薙刀で受け流すその姿は、まるでどんな攻撃も流す激流の様なしなやかさを放つ中で、シエロさんの魔法により緑色の光を纏ったエーリカが、リアさんと打ち合っていたバードンを、炎を纏ったダガーで幾重にも切り裂いていた。

 

 いや、緑色の光を纏ったのはリアさんも同じで、バードンのつつきを食らっても応えてなさそうだ。

 

 

「すっげえ………踊り子冒険者の名前は伊達じゃないな!」

「そうですね。すごく綺麗……」

 

 そんな光景を前に目を輝かせていた俺たちの前では、エーリカの攻撃を受けたバードンがたまらず一旦後ろに下がるが、そこをリアさんは見逃がさず。

 

 

「これで決める………行くよ、『水のラプソディー』ッッ‼︎」

 

 水を纏っていることも相まって、正に激流を思わせるような連撃をバードンの体に叩き込んだ‼︎

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドにて。

 賑やかな酒場に5人分の乾杯がひびいた。

 

「いやー!今日は初めてのクエストだったけど楽しかったな!」

「はい!私もこんな多人数と冒険出来るなんて夢みたいでした!」

 

 ジョッキを片手にキャッキャしていた俺とゆんゆんを前に、新しい服に着替えたリアさんが笑みを浮かべて頭を下げた。

 

「2人とも、今日は本当にありがとう。急なお願い事だったけどすごく充実した冒険だったよ」

 

「いえいえ。でも、弁償しなくてよかったんですか?リアさんとエーリカの服……」

 聞けば冒険用の服はアレ一着だったらしく、今は2人とも普通の洋服だ。 

 

「アタシは気にしてないわよ?もちろんリアもね!」

「それどころか、報酬をボクたちに多めに分けてくれて、本当にありがとうございました!」

 

 ちなみに報酬の内訳はライトワームが1匹8000エリス。全部で20匹倒したから16万エリス。ジュエル・バードンが5万エリスだったので討伐報酬は21万エリス。そこにクエストの達成報酬が60万だったので81万エリスもらったが、俺とゆんゆんは10万エリスずつもらったあとは全部リアさん達に渡したのだ。

 

 まあ、流石にそれは申し訳なすぎると飯を奢ってもらったので結局は60万エリス渡したことになるが……俺たちは10万もあれば十分だ。

 

 

「そ、そんな……でも、お役に立ててよかったです」

「だな。俺も初めてのクエストだったけど楽しかった!」

 

 

 俺とゆんゆんが照れ臭さを交えつつ笑い返すと、リアさんは改めて。

「………そう言ってもらえるとすごく嬉しいよ。本当にありがとう2人とも。また、何かあったら………また、一緒に冒険してくれるかな?」

 

 返事は………勿論。

 

「喜んで‼︎」

 

 

 こうして俺の初めてのクエストは、踊り子達も含めた大冒険で幕を閉じるのであった。

 




 いかがでしたか?

今回はオリジナル要素強めなので解説も長いです。

アクセルハーツ
 アクセルの街を拠点として活動する踊り子集団。資金は観客からのチケット代とクエストの報酬であり、そのためメンバーのレベルは高い。

リア 職業 ランサー
年齢 18歳
アクセルハーツのリーダー的な存在の黒髪の美少女。天然ながらも真面目な性格で、薙刀を使いこなす。
「コン次郎」と呼ばれるキツネのぬいぐるみを常に持ち歩く変わった一面を持つ。
ナギトに異世界転生者と疑われているが、真偽の程は不明。

水のラプソディー
リアの必殺技。水を纏った薙刀による激流の様な連撃を食らわせる。
その流麗さは相手の攻撃する意志を押し流してしまう。

エーリカ 職業 レンジャー
年齢 17歳
アクセルハーツのメンバーで、ピンク色のツインテールの髪を持つ美少女。自信過剰でかまってちゃんなぶりっ子と、どこかアクアの様な性格を持つがアクシズ教徒ではない。

看破
相手の正体を見破るレンジャーのスキル。潜伏している相手を見つけることもでき、これによりナギトを確保していた。

炎のセレナーデ
エーリカの必殺技。炎を纏ったダガーによる連続攻撃。熱気は容姿も相まって見るものの魂を昂らせる。


シエロ 職業 アークプリースト
年齢 15歳
アクセルハーツのメンバー。大人しく気弱な性格のボクっ子。
男性恐怖症だが、チンピラを吹っ飛ばせるほどの力は持っている。
 
風のロンド
シエロの必殺技。癒しの力を持った緑に光る風を仲間に纏わせる。また、その風は相手の攻撃の勢いを抑えるほどの向かい風にもなる。

ポータブル・サイズ
ライトが作り出した試作武器の一つ。
三つに折りたたむことで持ち運びを容易にした大鎌。
刃の角度を変更することで薙刀としても扱える。

年齢はリア以外は適当に決め、スキルはゲーム版の効果を参考に考えてみました。
次回は4巻の序盤、めぐみんが逃げていたところからになりますので宜しくお願いします。

それではお楽しみに!
感想と評価をお願いします!


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第9話 この春空に大漁を!

第9話です。この回と次回で原作4巻のストーリーは終わります。

また、前回解説し忘れたこともあるのでそちらも解説していきます。


「えっと………なあ、なにかあったんだよ?」

「めぐみん?一体どうしたのよ、こんなところに来るなんて……」

 

 踊り子集団の「アクセルハーツ」と共に初めてのクエストをこなしてから数日。

「ジャイアントトード」の討伐クエストをこなした俺とゆんゆんは突然の来訪者に困惑していた。

 

 なにせめぐみんは、前に行った屋敷でカズマさん達と暮らしているので、寝床には困らないはず。

 

 それなのに、「しばらく泊めてほしい」と訪ねてきたものだから、とりあえずゆんゆんの部屋で話を聞くことになっていまに至る。

 

 

「……………」

 同世代の女の子の部屋と言うのに、俺が感じるものは妙な緊迫感だ。

………そもそも同じレイアウトの宿の部屋でドキドキもクソもないが。

 

 

「なあ、泊まるんなら理由を話してくれてもいいんじゃねーか?ゆんゆんも困ってるぞ」

 

 もう一度促すと、めぐみんは静かに語り出した。

 

 

 

「………と言うわけですよ。全く、人の気も知らないで………」

「成る程ね………」

「カズマさんが全部悪いとは言えないけどな……」

 めぐみんが涙ぐみながらも怒ってる様な口ぶりで話し終えたのを聞いた俺は、ゆんゆんが淹れてくれていたお茶を飲んでいた。

 

 ちなみにめぐみんの話の内容はこうだ。

 

 カズマさん達は今日、『リザード・ランナー』の群れを討伐するクエストに向かった。

 

 クエストこそ成功したもののカズマさんが木の上から落ちて死んでしまった………いや、まあこれだけでも大惨事だとは思うが。

 

 そして、アクアさんに『リザレクション』で蘇らせてもらったのだが、なんとカズマさんは生き返るのを拒否して赤ん坊からやり直すと言い出したのだ。

 

 で、その後何やかんやあってカズマさんは無事に生き返ったが、めぐみんはそのことがまだ許せなくて今に至るってことらしい。

 

 

 

…………ん?でも、なんかおかしいな。

「それでしばらく帰らないってなんか変じゃないか?お前の性格的にこんないい話で終わらないと思うんだけど」

 

 こいつは、色々ゆんゆんとは対照的だ。

 バトルスタイルや背丈に始まり、さらには性格もその例に漏れない。

 

 仲間意識が強いが喧嘩っ早く、やられたらやり返すタチのめぐみんがこの程度で済ませるとは思えないのだ。

 

 すると、ゆんゆんが少し咎める様な顔を向けて。

「ナギトさん失礼ですよ。いくらめぐみんだってそんな事は………」

「ええ。この私がやられっぱなしで終わるわけがありません。むしろその結果こうしてここに………ああッ⁉︎ゆんゆんやめて下さい、いきなり何をするのですか!」

「私のフォローや同情を返して!あんた一体何をやらかしたのよ!」

 

 

 めぐみんの味方をしようとしたものの、めぐみん自身の手によって無駄にされたことにキレていた………わかっちゃいたが、相変わらずオチがひどいな。

 

 ゆんゆんをなんとか宥めて、そのやったことを聞くと。

「カズマが生き返らないと言い出したので、カズマの体に落書きをしたのです」

 

………こいつの報復としてはなんか大人しいな。

「……因みになんてらくがきした?」

 

 

 一応内容を聞いてみると。

 

 

「聖剣エクスカリバー」

「な、なななな何やってんのよ、あんたバカなんじゃないの⁉︎」

 

 とんでもない落書きをしていためぐみんに、顔を真っ赤にしたゆんゆんが詰め寄る。

 

「お前それまさか、カズマさんの股間の近くに……」

 呆気に取られていた俺がなんとか出した質問には、更にあっけからんと。

「ええ、書いてやりましたとも。それでカズマが気付く前にここに来たというわけで……」

「お前、これ匿った俺たちまで被害を被らねえだろうな⁉︎」

 あの人は強くはないが敵にはしたくないタイプだ。もしこの落書きの逆襲の巻き添えでも喰らおうものなら何が起こるかわからない。

 

 とんでもない事態に巻き込まれてしまったと頭を抱えていると、ゆんゆんは顔を真っ赤にしてあわあわと。

 

 

「わ、わあ………、め、めめめ、めぐみんがぁ……カズマさんと一緒にお風呂に入った次には、服を脱がせてイタズラを……⁉︎」

「ちょちょちょ⁉︎や、やめろお!ナギトの前で、なんてことを言い出すんですか⁉︎」

「待て待て!お前カズマさんと混浴したの⁉︎あの人まさかロリコン……」

「な、なにおう⁉︎誰がロリっ子ですか⁉︎もし私の体を見てそう言っているのなら、タダでは済ませませんよ‼︎」

 

 

 そうして、それぞれに大きな傷を残しためぐみんの来訪イベントは、疲れきった3人の寝落ちという幕引きを迎えたのであった。

 

 

 

 数日後。

「1日一回のあの爆発は、めぐみんの仕業だったんだな………よし、ワンペア」

「ええ。1日に一回爆裂魔法を撃たないと死ぬ、って言い張ってまして………あ、ジョーカー……」

 

 ギルドにて………俺はこれを引くかな。

「しかし、途中にあったあの廃城の跡、魔王軍幹部のものだったなんてな………む、せっかく渡したのに」

「かなり前からめぐみんが爆裂魔法で破壊してたからか、もうほとんど倒壊してますけどね……ま、また……」

 

 俺たちは………よし、返品完了。あとは………

「でも、ひょっとしたらお宝とかあったりしてな……よし、これで上がりだ!」

「あー………負けました〜」

 

 よし、俺の勝ち………って、これは失礼。

 

 

 春の陽気が外に温もりをもたらしている中、俺たちはギルドの隅っこでババ抜きをして遊んでいた。

 それもただのババ抜きではなく、53枚のトランプを2人で分けて遊んでいるのだから、かなりの長期戦なのだ。

 

 

………要するに暇潰しだな。

「しかし、めぐみん達は湯治へ旅行か……金があれば俺も行ってみたかったな、アルカンレティア」

 

 ちなみに今日カズマさん達はこの街にはいない。

 日頃の冒険疲れを癒すため、「アルカンレティア」という街へ旅行に行ったのだ。

 

 ちなみにアルカンレティアとは、『水と温泉の都』と言われる様にかなりいい温泉が揃っている観光都市らしい………図書館の本にそう書いてあった。

 

 そんなところへ行きたいとこぼした俺に、トランプを切っていたゆんゆんは。

「あ、アルカンレティアはアクシズ教の聖地でもあるんですが………」

 

と、何故か死んだ目をしながら言ってきた。

「アクシズ教?なんだそれ」

 

 その言葉がわからず、聞き返すとゆんゆんはなんで知らないんだという顔をした後、泣き笑いの様な表情で。

 

「エリスっていうお金の単位が幸運の女神エリス様の名前から取られているように、この国ではそのエリス様を御神体としたエリス教団が国教になっている事は知ってますよね?」

「ああ。一応それは本にも書いてあったな」

 

 この世界についての情報が欲しかった俺は、ここ最近図書館で一般常識の本を読み漁り始めたのだ。

………地球の常識とかけ離れている面もあるのでなかなか覚えにくいけど。

 

 

「そんなエリス教よりも信者の数は少ないものの、熱狂的な信者が多いのがアクシズ教徒………水を司る女神であるアクア様を御神体にした宗教なんです」

「でも、それとお前の表情になんの関係があるんだ?」

 

 説明と表情の関連性が分からないが、何か因縁でもあるのだろうか。

 

「えっと……アクシズ教の人は頭のおかしい人が多いから、関わり合いにならない方がいいと言うのが世間の一般常識なんです……いや、別に悪い人じゃ………ないんですがね……」

「分かった、俺が悪かった!これ以上は言わなくてもいいから!」

 どうやら何かあった様だが、あまり詮索するのはやめにしよう。

 

 気を取り直すように別の話題を………

「えーと………この後どうするよ?何か近場のクエストでも受けるか?」

 

 振ろうとしたその時。

 

「緊急クエスト発令!緊急クエスト発令!手の空いている冒険者の皆様は、街の正門前まで集まって下さい!」

 

 突然のアナウンスに、俺たちは顔を見合わせた。

 

 アクセルの街の顔とも言える正門の前に集まった冒険者達の目に飛び込んできたのは、青空に点在する黒い何かだった。

 

 

「おい、なんだあの黒いの!ゴキブリか⁉︎」

「違いますよ、それだったらこんなに人来ません!」

 

 ゴキブリかと思ったら違うらしいが………どの道アレだけの量は流石に気味が悪い。

 

 いったいアレはなんなんだと一緒に来ていた冒険者ギルドの職員に詰め寄ろうした時、いつもいる受付嬢のお姉さんが。

 

「皆さん!あの黒い物体は、初鰹の大群です!それぞれ捕獲をお願いします!」

「………は?」

 

 耳を疑うようなことを言い出した。

 

 象ならまだダ○ボがいるし陸上動物だからまだわかるが、鰹は海水魚。なのになんで当然のように空を飛んでいるのだろう。

 

 

「…なあゆんゆん。鰹って海の生き物だよな」

「確かに普段の鰹は海にいますが、春と冬には空を飛ぶんですよ。春に飛ぶものが初鰹で、冬に飛ぶものが戻り鰹……な、ナギトさん!そんな変な物を見る目で見られるのは流石に心外ですよ⁉︎」

 その事態の意味がわからずゆんゆんに聞くが、帰ってくるのは頭がおかしくなりそうな単語の数々だ。

 

「じゃあアレか?ここでは年に二回、鰹が空飛んでやってくるのか⁉︎」

「いえ、どこに飛ぶかはランダムで………今年の春はここだったって話ですよ。この時期の鰹はさっぱりしてて美味しいんです」

「いや、旬なのはわかるけど!魚が空を飛ぶことに疑問を抱いてくれよ!」

「でも、さんまは畑から獲れますし鰹やマグロが空を飛ぶのは、別に珍しい事じゃあ……」

 

 ポ○テやボー○ボですら可笑しいのはテンポだけで世界観は割と普通なのに……!

 泥の中を泳いだ秋刀魚なんて美味そうに思えない。

 

 この世界の出鱈目っぷりに立ちくらみを覚えている間にも、ギルドの職員は檻に囲まれている、氷がたっぷり入った水槽を乗せた台車を何個も運んできており、お姉さんが声を張り上げた。

 

「それではみなさん!鰹を討伐したら、名前の書いたロープを巻きつけて、お配りする氷水の水槽まで運んでください!」

 

 何故か支給されたロープの意味をようやく知ったところで、冒険者は空を飛ぶカツオを倒さんと吶喊していった………

 

 

 いや、文面にしちゃダメだ。頭がおかしくなる。

 

 

 

「でも、鰹は空を飛んでるのに、遠距離攻撃ができない連中がどう戦うんだ?」

 鰹へと立ち向かう勇敢?な冒険者達を見ながらふと思ったが、それはすぐに解決した。

 

 

「うおっ……早いぞこいつゴファ‼︎」

「剣が折れたぁ⁉︎お前ら気をつけろ!こいつ頭はマジ硬え‼︎」

 

 

…………は?

「おい!なんかミサイルみたいなことしてんだけど⁉︎」

「みさいる……はわかりませんが、この時期の鰹は、勇敢さを競うために人を見ると突っ込んでくるんです!しかも頭がとても硬く、かなりのスピードで突っ込んでくるので安易に突っ込むとケガをしますよ!」

「求愛行動で特攻すんのかよ、またはた迷惑な!」

 

  隣を見ると、前衛の冒険者が突っ込んでくる鰹を、顔を顰めながらも受け止め、そこを魔法使いや別の冒険者が横から攻撃をして倒すと言うのが適したやり方のようだが……初めから横方向への攻撃手段を持っていればその限りでもない。

 

 

「魚のくせに人をおちょくりやがって、まとめて刈り取ってやる!」

 

 俺は剣よりこっちだと折り畳まれた大鎌を展開して、突っ込んできたところを………!

 

 

「おらぁ‼︎」

 鎌の左への横払いで、脇に刃を突き立てた。

 

「鎌は横から攻撃する武器だし、正面から突っ込むなら良いカモだ………おっと!」

 

間髪入れずに突っ込んできた2匹目は1匹目が刺さった状態で今度は右への横払いで刃を突き刺す。そして……

 

 

「2匹も刺さってんだ!普通に振り回しても十分重いぜ‼︎」

 

 3匹目には刃が付いてない方で大上段から振り下ろしてやった………2匹分の重さもあるのだ、硬い頭越しでもひとたまりもないだろう。

 

 

「大漁大漁!」

 

 目論見通りに3匹目を討伐した俺に、配られていた水槽を持って来てくれていたゆんゆんが駆け寄ってきた。

「ナギトさん!鰹は傷みやすいので早くロープで縛って氷の水槽に!ここは私が引き受けます!」

「分かった!」

 鎌から引き抜いた時の返り血に顔を顰めつつ倒した鰹を、名札をつけたロープで縛り、檻付きの水槽へとなげこむのであった。

 

「『ライトニング』!『ライトニング』!『ライトニング』!」

 

 戻ると、ゆんゆんが雷の魔法でカツオを撃ち落としており、地面には痺れて動けないカツオが何匹か転がっていた。

 

「なあ、あれ放っておくと鰹の痺れが解けちゃうんじゃ……」

「後で締めに行くので大丈夫です……『ライトニング』!」

「上手くやるもんだ………なら俺はもう入れてきたから、回収して来いよ。放置してると取られちまうぞ?」

「わ、わかりました……ナギトさん、危なくなったら呼んでくださいね?」

 

 そう言って痺れた鰹を締めに行ったゆんゆんに鰹が襲いかかってこないように、ウインドバレットで牽制をしながら周りを見ると、鰹に突っ込まれて気絶している冒険者や、傷を癒しているプリーストの姿がちらほら見える。

 

「BANG!BANG!……数は減って来たけど、こっちのダメージも蓄積して来てんな……この際、まとめて一気に倒せれば良いのに」

 爆裂魔法が役に立ちそうな時に限って、あいつアルカンレティア行っちまってるんだよな……。

 

 

 俺は、ようやく全て締め終えて戻って来たゆんゆんに聞いてみることにした。

「モンスター寄せの魔法とかってないか?集まって来たところを範囲攻撃できる魔法で一掃しようぜ」

「魔法使いはそこまで万能じゃありませんよ!プリーストの「フォルス・ファイア」があればいけると思いますけど……」

 

 それを聞いてさっきのプリーストに頼もうとしたその時だった。

 

 

「いやあああああああ!鰹がいっぱい来てるー⁉︎」

「どうするのリアちゃん!あんなに集めて私達だけで倒し切れるの⁉︎」

「あ、えーと………私もこんなにくるとは予想外で……」

 

 

 突然鰹達が一点に集まり出したので、その方向を向くと………見覚えのある3人組が、悲鳴を上げて逃げ出していた。

 

「ナギトさんがフラグを立てるから!」

「違うよ!アレ、俺とは関係ない……!けど、助けなきゃ………おい、なんでこっちにくるんだよお⁉︎」

 

 

 言いがかりをつけて来たゆんゆんに抗議していると、なんと鰹を引きつけてきた3人組は俺の方へと駆けてきたのだ。

 

 こうして、突然の鬼ごっこが幕を開けるのであった。

「クソがー⁉︎」

「な、ナギトさーん⁉︎」

 

 

 驚きの声をあげるゆんゆんの声に耳を傾ける間もなく走っていると、リアさんが追いついてきた。

「数日ぶりだね、ナギト!ちょっと助けてくれないかなあ?」

「こんな急に言われても、どうすることもできませんよ⁉︎誰か!誰か助けてえ‼︎」

「ちょっと!いきなり人任せってどうなのよ!」

「エーリカちゃん!ナギトくんの立場的にこっちの方が普通だよ⁉︎」

 

 シエロさんとエーリカが少し遅れながら何か言ってくるが、今はメンツを気にしている場合ではない。

 

 だが、走っているうちに他の冒険者達と距離が離れてしまい、助けを求めようにもこれは無理だ。

「チクショウ!こうなったら距離を稼いでルミノス・ウィンドしかない………ちょっとお先!『追風』‼︎」

「ええ⁉︎ちょ、ちょっと⁉︎裏切り者ー⁉︎」

 

 

 速度を上げた俺に後ろから非難じみた声が飛んでくるが、そんなの気にしてはいられないので、早速詠唱を開始した。

 

 

「"今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々 "。

 

 

"愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を"。」

 

 追風の力で素早く走りながら、魔法の詠唱を行う。

 

 走りながら魔法を唱えると言うこの行動は、普通にやろうとすると息切れを起こして詠唱が途中で途切れるか、唱えられても魔法が満足に撃てなくなるリスクがあり、普通はやらないのが鉄則だ。……そもそも魔法使いの戦闘スタイルでこれはそうそう起こらないイレギュラーというのもあるが。

 

 だが……レベルが上がった俺は、『並行詠唱』という別の行動をとりながら魔法を詠唱しやすくなるスキルを覚えた事で、それが可能になっていた。

 

 

 詠唱が進むにつれて、纏う風が強くなる。

「"来れ、さすらう風、流浪の旅人"。

 

 "空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ"。

 

 

 "星屑の光を宿し、敵を討て"ッ‼︎」

 

 

 その詩が終わる時……風は星屑を散りばめた光を孕んだ。

 

 そして、今……生まれる‼︎

 

 

「皆伏せて‼︎………『ルミノス・ウィンド』‼︎」

 

 

 

 こうして、鰹の群れに叩き込んだそれは、覚えて以来初めてまともな戦果を上げることに成功したのであった。

 




いかがでしたか?
解説に入ります。

ライトワーム
芋虫のモンスターで、鉱物を食べて育つ害虫。食べた鉱石により様々な能力を得る特徴を持ち、溶解液や硬化液などが例として挙げられる。

モチーフはウルトラ怪獣の「ケムジラ」。

ジュエル・バードン 
鳥のモンスターで、好戦的な性格を持つ。宝石や鉱物を集める習性があち、鉱物の要素を持つライトワームが大好きでエサとして求めにやってくる。また、家畜などの肉を食べる時もあるんだとか。
モチーフはウルトラ怪獣の「バードン」。

カツオ
魚の一種で本来は海に生息するが、春と冬にのみ空を飛ぶ。求愛の為に固く発達した頭を武器に、人間たちを襲うこともある。


並行詠唱
ナギトの新スキル。別の行動と魔法の詠唱を同時にできるようになるので、魔法を使うアタッカーであるナギトとの相性がいい。


いかがでしたか?次回をお楽しみに!感想や評価をお待ちしています。


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第10話 このドルオタと真剣殺陣を!

第10話です。
今回で第4巻の時間軸にあたるストーリーは終わりとなります。


お、お前………本当にいいのか?」

「男に二言はありませんよ」

 

 呼吸を止めて1秒、真剣な目をしていたので真剣な目で答える。

 

 

「やっぱやめたとかなしだぞ⁉︎もう返さないぞ⁉︎」

「いいですって。俺もそれ人からもらったやつですし」

 

 一枚の紙切れを大事そうに両手で包むライトさんに、俺は少し引きながらも宣言した。

 

 

 

…………いや、このやり取りにこんな緊張感はないな。

「アクセルハーツの公演チケットをくれるなんて……!お前と手を組んで良かった……‼︎」

「まさか、ファンだったとは……」

 カツオ狩りから一夜明け、いつも通りに武器のメンテナンスとその用具を調達しにきた俺は、いつぞやにもらったチケットを渡したところ、ライトさんは思わぬ反応を見せていた。

 

「てか、お前アクセルハーツの子達とよくつるんでるらしいじゃねえか。羨ましいぞ!」

「きっかけは褒められたものじゃないですけどね……で、メンテナンスはまだです?」

「お、おう……そうだったな。……このサイズの使い心地はどうだ?」

 

 羨ましそうにするライトさんにメンテナンスを続けるように促すと、作業をしながら聞いてくる。

 

 うーん……

「折り畳みだから持ち運びしやすいんですけど、何というか普通の鎌より重いのが……あと、耐久性が少し心配かもです」

 

 

 分解して、取りきれなかった血糊などの汚れをとっていたライトさんはそれを聞いて。

「まあ、折り畳みの分仕込まなきゃならないものが多くなるからそこは勘弁してくれや。

 

 ………あと、重さと耐久性と複雑さはトレードオフだ。軽い素材を使えば耐久性が心配になるし、耐久性を求めるなら当然重くなる…中に複雑な機構を組めばデリケートにもなったりしてな………まあ、それはおいおい考えて行くとして……」

 

そう呟いているうちに、武器の調整を終わらせたので代金を払おうとすると、手袋のようなものを渡された。

 

「今度はこれ使って感想を聞かせてくれよ。新しい商品の試作品だ」

「指抜きグローブ?手の甲あたりに石がついてるけど……これはなんです?俺、盗賊として手袋は一応持ってるんですけど…」

 何に使うのかが読めなかったので答えを聞く。

「その石は魔法石だ。言ってみればグローブ型のワンドってことだな」

「へー……ワンドがなくてもフルで魔法が撃てるし、指抜きならつけてても蒸れないしいいかも……分かりました、使ってみますよ」

「おう……あと、なんならアクセルハーツの子達にウチの武器を…」

「まあ……機会があれば」

 

 ライトさんの意外な一面を垣間見つつ、俺は鍛冶屋を出て街へと向かった。

 

 

「アクセルハーツ……悪い奴らじゃないんだが……」

 ギルドへ向かう道すがら、俺はあの3人のことを思い出す。

 

 数日前の大根芝居から始まったこの奇妙な関係。

 

 美少女達に囲まれて順風満帆に冒険できることはかなりの贅沢なのだが………

 

 一緒に虫と鳥を退治しに行ったり、カツオに追いかけ回されたり……。

 

「何というか、関わると妙なことばかり起こるからな……」

 

 アクアさん達と普段冒険しているカズマさんの苦労が少し分かったような気がしつつも、ギルドに行くと………。

 

 

「丁度いい所に!マトイさんに指名依頼がやってきていますよ?」

 

 今度は受付のお姉さんが、妙な事を言い出した。

 

 

 

「護衛クエストで、依頼人は……アクセルハーツ?なんたって一体……」

 

 ギルドのカウンターで内容を聞いた俺は、その内容に首を傾げていた。

「少し前に小劇場でコンサートをしていた時、熱狂的なファンに困らされたらしいんです。なので、ボディーガードをやってほしいとの事です」

「はあ………でも、なんで俺に?実績で見ればカズマさん達の方が向いてると思うんですけど…」

 

 俺の今レベルは15。狂ったドルオタにもそうそう負けないだろうが、それでも強敵を相手にするにはまだ役不足だろう。

 

 意図がわからないでいる俺にお姉さんは紙を差し出して更にこう付け加える。

「恐らく、知り合いに頼みたいという事なんじゃないでしょうか……?

 兎に角、詳しい話はホームでするとの事なので、この地図に記された場所へ向かってみてください」

「………よくわかりませんが、一応聞くだけ聞いてみますよ」

「わかりました。それでは、よろしくお願いしますね」

 

 

 

 数日後。

 

 地図にあった場所はバイトでも見る場所だったので、迷うことなくたどり着いた。

 

「貸し家か……まあ、女子3人で家を買うとは考えにくいしな。怪しい奴も近くに張り込んでる気配もないしな」」

 

 そこは、小さめの庭がある1階建ての家で、その近くには民家がいくつか並んでいる……閑静な住宅街的な奴だ。

 

「ゆんゆんは……いいや、後で話せばなんとかなるだろ」

 パーティーメンバーでもないのに、貸切というわけにはいかない。

 

 いい加減パーティーを組んでゆんゆん離れをしようとおもいながら呼び鈴を鳴らすと、パタパタと足音が聞こえて。

 

「あら、ナギトじゃない。依頼を見て来てくれたのね」

 目がチカチカするほどの鮮やかなピンク色の髪をした美少女……エーリカが出迎えてくれた。

 

「一応聞くだけだからな?……起きてるのはエーリカだけか?」

「ボクも起きてますよ。リアちゃんは……まだ起きて来ませんね。今から起こしに…………いくのでついて来てください。

 

 リアちゃんに今の状態のまずさを知ってもらういい機会なので……」

「お邪魔しま………いや、ちょっと?俺、今から何を見せられるの?」

 

 シエロさんの言葉に多分の不安が残るが、とりあえず上がる為に靴を脱ごうとして……………その手を戻した。

 

 

「……靴でいいわよ?」

「あ、いや………落ちているゴミを拾おうと………」

 靴で家に上がる習慣ってないんだよな………。

   

 

 

 

「何これ」

 

 そこは、まさしく別世界だった。

 

「良かったぁ…ナギト君がそっち側だったらどうしようと思ってたけど、その反応なら安心だね」

「いや、これはさすがに………」

 

 ここに黒髪の美人が寝泊まりしていると言っても、たいてい信じてはもらえないだろう。

 

 脱いだ服は脱ぎっぱなし、箪笥は開きっぱなしで。

 

 

 お菓子を食べた殻はそこらに散らばり、マグカップやスープ皿には、残ったものが沈澱してすごいことになっていた。

 

 そして、その部屋に鎮座したベッドには、気持ちよさそうに眠る汚部屋の妖精………違った。リアさんが目を開いていた。

 

 

「んん………?シエロ、エーリカ……?」

 言葉を失っている俺の前にいたシエロが。

 

「おはよう、リアちゃん。ナギト君が依頼を受けに来てくれたよ?」

「え?いや、まだ受けると決めたわけじゃ……」

 

 シエロさんに反論しかけたが、目線に飛び込んできたリアさんに思わず目を逸らす。

 

 ノースリーブのシャツに短いスカートという無防備な姿をした年上のお姉さん、さらにはとてつもない美人となればこうなるのも無理はないだろう。

 

 無理はないからこそ……この汚ねえ部屋とのギャップがひどい。

 

 

 すると、寝ぼけ眼のリアさんが俺に気付いたようだ。

 

「ナギトも来てたのか…?おはよう…………。

 

 

 突っ立ってないで適当に座ってくれ」

「足の踏み場がないんですが……。

 

 うーん、リアさんはまともだと思ってたのに、まさかの片付けられないタイプか…」

 

 潔癖症という訳ではないが、流石にこの状態の部屋には座りたくない。

 

「あーあー…下着まで散らかってるし。洗濯物が少なかったわけね…」

「ふえ⁉︎し、下着は流石に恥ずかしい……な、ナギトは見ないでくれ!」

「恥じらう所もっとありません?」

 この汚さの前では下着などそうそう気にならな………まあ、それはもういいや。リアさんも覚醒したし話をしよう。

 

「指名依頼が来てたんで一応話を……「リアちゃん⁉︎食べかけのお菓子にありさんが集ってます⁉︎」

「……別にいいじゃないか。アリだって食べなきゃ生きていけないんだから…」

 

 シエロさんの悲鳴に、なんでもないように返す光景に頭が痛くなってくるんだが………いや、話を進めないと。

「沸く場所がおかしいことに気付いてくれ…で、何があったのかを詳しく……「ちょっと!この瓶の中の飲み物腐ってるわよ⁉︎道理で家の中が臭いと………いますぐ捨てて来なさい!」

 

 今度はエーリカがビンを指さして叫ぶと、リアさんは心外だと言わんばかりに……

 

「そんなに怒ることないだろ⁉︎

 

 大丈夫だ、次の休みには必ず掃除を……!」

「話が進まないから今すぐやるぞ!この際俺も手伝うから!」

 

 

 

 

 

 数時間後。

「まあ、なんということでしょう。ゴミの廃棄場のようだったリアのお部屋が、年相応の乙女のお部屋に、生まれ変わりました……!」

「ふぅ……まあ、こんな所だな。スイッチ入っちまった」

 

 汚部屋に耐えきれずに本腰を入れた結果、自分の部屋でもここまでしないレベルで掃除をしてしまった……!

 

「すごい……自分の部屋じゃないみたいだ!」

「いつもこうしろとは言わないから、せめて他人を招ける程度の綺麗さは保ってくれよ?」

 そうしてピカピカになった部屋を見て、リアさんが驚きの声を上げる。

 

「こんなに綺麗に掃除できるなんて……!ナギト君、ちゃんと賃金は払うから定期的に掃除を……」

「本当!ついでにアタシ達の部屋も……!」

「俺は清掃員じゃないって…………それで、例の依頼についての話を……」

 

 俺はクエストについて話を聞きに来たのであって、掃除をする為にここへ来たわけじゃないのだ………んおッ⁉︎

 

 

「ナギト‼︎コン次郎を何処にしまったんだ⁉︎」

 突然リアさんが詰め寄って来るが、どうやらあのぬいぐるみの件のようだ。

 

「アレならもみ洗いした後、外に………って!折角片付けたのにまた散乱させんな!」

 

 結局話を聞けたのは、再び散らかしたリアさんを2人に預け、また片付けをした後の事だった。

 

 

 

「成る程……粘着気質のファンがいるから用心棒をやってほしいと……」

「そうなんだ。特にシエロに粘着していて……」

 

 客間で話を聞かされた俺は、シエロさんに目を向けると。

 

「はい。こんな感じの……」

 手渡された似顔絵らしきイラストを見ると、そこには丸々太ったおっさんのイラストが書かれていた。

 

「ドルオタか?しかもスーツ………これ、その後プロポーズとかしそうだよな。それか、なんらかの恨みを抱かれているとか………」

 俺の推測にシエロさんがビクッとする。

「………おい?まさか、そのファンをぶん殴ったとかじゃ」

「ち、違いますよ!

 手が出たにしても別のファンですし、それについてはちゃんと謝りました。

 しかも、それを反省して今は握手会の時は薄い手袋を50枚ほど付けてるんですから…」

「そこまでするほどの男性恐怖症が……?でも、そうなると怨恨の線は薄そうですけど、一応警察に話をしたほうがいいですよね。何かあったら遅すぎるぜ?」

「そうよね……けど、次の公演は今夜なのよ。今日相談してすぐに警察が動いてくれるとは限らないでしょ?」

「だから……暫くは君の力を貸してほしいんだ」

 そう頭を下げるリアさんに続いて2人も頭を下げて来た。

 

 ここまで聞いた上に、こんな事をされたら流石に断りづらいよな……我ながらちょろいが仕方ない。

 

「分かった。ゆんゆんにも声をかけてみますよ」

 

 そうして、俺はゆんゆんを呼びに宿へと向かうのであった。

 

 

 その日の夜、小劇場にて。

 

「……ゆんゆんはソロでレベリングに行ってて、声をかけることができませんでした。なので、今日は俺1人です」

「分かった。君だけでも来てくれてありがたいよ。一応、私達も警察官を何人か派遣してもらえることになったけど……それでも数日後になるらしいんだよね…」

 

 ゆんゆん不在のため、劇場スタッフの制服を借りた俺は1人、踊り子姿の3人と舞台裏にいた。

 

 今日は他の踊り子も何組か踊るので、そこで例のファンの姿を確認するためだ。

 

「………いた!あの緑のスーツ着たおっさんか」

「そうです。間違いありません」

 そして、劇場の最前列の席には、そのおっさんが………踊り子を前に狂喜乱舞している。

 

「……本当にシエロさんだけに執着してるのか?他の踊り子にもご執心みたいですが…」

「どうやら、踊り子が好きだけど、その中でも特にシエロが……って事じゃないかな……エーリカ?どうしたの?」

 たしかに、エーリカがやけに静かだと思っていたが、答えは意外なものだった。

「ねえ、あそこにいるのって魔剣の勇者じゃない?ほら、あそこに女の子2人連れてるの……」

「本当ですね……警察が呼んでくれたのかな?」

「いや、でもアイツは王都の方で活躍してるはず。ただの野暮用じゃ……」

 例のファンから少し離れた所に、王都で活躍していると新聞にも書いてあった凄腕冒険者の1人、「魔剣の勇者 ミツルギ」がいたのだ。

 

「何にせよ、もしかしたら助けてくれるかもしれない。後で声をかけてみよう」

 リアさんが客席へ行こうとしたがそれを止めた。

「そこまで待つ必要はないですよ。アイツの連れ……1人は盗賊と見た。だったら……敵感知を持ってるはずだ。敵意を向けて誘き寄せれば……」

「いますぐにでも話ができるってわけね!それじゃあ……」

 

 と、エーリカが何かをやろうとしたその時。

 

「それでは最後のユニット……アクセルハーツの皆さんです!」

 

 タイムリミット……アクセルハーツが公演をやる番が来てしまっていた。

 

 

 

 

「みなさん、こんばんはー!アクセルハーツでーす!」

 

 

 アクセルハーツがステージを始める後ろで、俺は早速敵意を向ける前に周囲を確認する。

 

「同じ盗賊は……いないか。なら、敵意を向けたら他のやつまで釣れることは無さそうだな………」

 

 もしかしたら別のやつが釣れるかもしれないけど、それならそいつも巻き込めばいいとして、敵意を向けようとしたその時。

 

 

「ねえキミ?こんなところで何してんのさ」

「……………師匠⁉︎」

 同じスタッフの制服を着たクリスさんが、俺の背後に立っていた。

 

 

「アクセルハーツの用心棒ね……君もなかなか面白いことになってるじゃんか」

「そんなこと言われても……ところで師匠こそどうしてここに?そんな男物の服着ちゃって…よく似合ってますよ?」

 

 舞台裏で久々の再会を果たした俺達は、声を潜めて話をしていた………雑音がステージに入らないようにと言う配慮だな。

「ちょっと神器の匂いがしたんだ。……でもまさかここで会うなんてね。あと、服について後でお話ししようか?」

「だって、あまりに自然だったから……それより神器って、こんな小さな劇場に?」

「………埒が開かないから話を戻すけど、おそらく今ステージにいる黒髪の子が持ってるんだと思うな……もう一つは、魔剣の勇者が持つあの魔剣だもん」

 おそらくアレはチートアイテムだと思うんだけど……って、あのピアニカが神器⁉︎

「アレ、ただのリズムメーカーだと思ってたけど、神器だったのか。………でも、アレがほしいのならダメですよ。アレはアクセルハーツにとっては大事な機材なんですから」

「だよねえ……それに、よくない噂があるわけでもないし、下手に盗むのも可哀想か……ねえ、アレの代わりに何か作ってあげることは」

「出来ませんよ。編集ソフトもパソコンもないんですし…」

 

 クリスさんが首を傾げているが、俺としてはその前の言葉の方が気になっていた。

 

 魔剣……つまりチートアイテムが神器扱いされるってことは、逆に言えばあのピアニカもどきがチートアイテムと言うことも出来る。

 

 チートアイテムは所有者本人にしか使えないはずだし、やっぱりリアさんは日本人なのだろうか。

 

 でも、それならなぜ日本人らしい動作を見せなかったのだろう?

 

 ひょっとしたら、転生するときに記憶を持っていかれたのか………

 

 

 と、考察に入り出したその時。

 

「キャッ⁉︎ちょっと、やめて下さい!」

 

 シエロさんの困ったような声がした。

 

 

 

 

 クリスさんと互いに頷き、慌ててその場へと向かうと。

 

 

「何故だ!俺はシエロの握手券付きのグッズを買ったんだぞ⁉︎

 

 こんな手袋越しでは無く、素肌に触れる権利がある筈だ!」

 

 例のおっさんが、チケットを片手に文句を言い出していた。

 

 

「はいはい、そこまでそこまで!」

「すいませんお客様。握手券の裏面に注意書きがありますので……!」

 師匠がさりげなく両者の間に入り、俺が離れるように促すも。

「うるさい!さあ、シエロちゃ〜ん。僕と握手を……」

 それを押しのけたおっさんがシエロさんの腕をガッと掴んだ。

 

 そうなると勿論………

「い、いやあああああああ⁉︎」

「ふべらっ⁉︎」

 全力の右ストレートがおっさんに突き刺さり、おっさんが吹っ飛んでいった!

 

「お、お客様あああっ⁉︎シエロさん、ストップ!」

「ちょ、ちょっとキミ⁉︎落ち着いて…」

「寄らないでええええ⁉︎」

 一応スタッフなのでシエロさんを落ち着けようとするが、パニックになったシエロさんのアッパーカットが俺たちに飛んでくる。

「「ゴファ⁉︎」」

「あ、えーと……3人ともごめんなさい!大丈夫ですか……?

 

 

 

 あの、ボク…男性恐怖症で、男の人に触られるとこうなっちゃうんです。だから……こう言うことはできないんです!

 

 だけど……どうか、僕たちのことを嫌いにならないでほしいんです!」

 

 地味に男扱いされていじけている師匠を慰めていると、そのおっさんは怒るかと思いきや………突然笑い出した。

 

「ファンの私にこんな暴力を振るうなんて…………いい!いいよ、シエロちゃん!僕、さらに気に入っちゃった‼︎」

 

 息を荒げ、頬を好調させながらそんな事を言い出すおっさんは、まるで獲物を前にした変質者のようだった。

 

「うわぁ……この人ドMなの?」

「エーリカ!人にはそれぞれ趣味が……」

 

 後ろでエーリカとリアさんがヒソヒソやっていたが……突然、その声が止んだ。

 

 いや、これを前にしたら止めずにはいられまい。

 

 何故なら………

 

 

「コイツ、トロール⁉︎………モンスターが擬態していたのか⁉︎」

 

 その体が緑色に変化し、頭からはツノが生えて………大きな鬼の姿になっていったからだ。

 

 

「トロールなんて呼ばないでくれ!俺にはチャーリーという名前があるんだ………それより俺、シエロちゃん連れて行ってお嫁さんにする………!

 

 シエロは、俺のものだああああ‼︎」

 

 

 そして、突然モンスターが現れたとなっては、その場にいた人々は悲鳴をあげて逃げ惑い始めた。

 

 

「最後の最後で台無しじゃないの‼︎アクセルハーツ、余計なことしてくれたわね⁉︎」

 他の踊り子達が何か言ったが、それを聞きつけたチャーリーがその踊り子達をまえに舌なめずりして。

 

「安心しろ。ついでにお前達も連れて行く。そして愛でてやるのだ……いでよ!手下達。他の踊り子達を捕らえるのだ!」

 

 トロールやゴブリンを呼び出して、そいつらは踊り子達を追いかけ始めた。

 

「ど、どどど、どうするのさ⁉︎こんな大群、アタシ達だけで止められないよ!お客さんの避難も済ませないといけないし……!」

「そうは言ったって、俺たちしかいないんだからやるしかないですよ、」師匠!」

 この場にある戦力は俺、師匠にアクセルハーツの3人。

 

 シエロさんを下手に動かしてその場にチャーリーを行かせるのは不味いから彼女はここで固定だとして……ダメだ、4人でチャーリーとその配下を止めつつ、客と他の踊り子達を守るのなんて不可能に等しい。

 

「ナギト!これを……それで、私たちはどうすればいいんだ⁉︎」

「アタシ達が原因だもの!全力で止めるわ!」

「ナギト君!指示を!」

 

……全く、なんでいつもこんなんばっかり……!

「とりあえず、師匠とエーリカ、リアさんは客と他の踊り子達を守ってあげて下さい!

 シエロさんはみんなに支援魔法を掛けて、あとは自衛!

 

 俺はコイツと……」

 

 マントと得物を着けながら、半ばヤケクソ気味に指示を出し、とにかく迎撃しないとと考えていた俺の隣に、1人の男が並んだ。

 

 

 

 

 

 

「キミ達だけで勝てる相手じゃないだろう?

 

 ボク達も力を貸すよ。さあ、一緒に戦おう!」

 

 ソイツは、俺より一回り背が高く、高級そうな鎧に身を包んだかなりのイケメンで。

 

 取り巻きに盗賊とランサーの女の子を連れた………

 

「魔剣の勇者………気づいてくれたか!」

「何ィ⁉︎あの魔剣の勇者一行までここに来ていたのか……モンスターをもっと連れてくるべきだったな…」

 

 ミツルギ御一行がそれぞれの武器を構えて助けに来てくれた。

 

「踊り子好きのトロール、チャーリー!このボクと仲間達が居合わせたことがお前の運の尽きだ!」

……いきなり出てきて主役ヅラを始めたのにはこの際目を瞑ってやろう。

 

「目的はチャーリーの撃退だけじゃねえ!客の避難と、踊り子達を捕まえに行ったモンスター達も……!」

 とりあえず、簡単に状況を伝えるとミツルギは少し考えたあと。

「クレメアは人々の非難の誘導を頼む。それからフィオは踊り子達に襲いかかってるモンスターを退治してあげてくれ。ボクはチャーリーを倒す!」

「わかったわ、キョウヤ!」

「任せてキョウヤ!」

 と、盗賊「クレメア」にランサー「フィオ」の2人に指示を出していた。

 

 それなら………作戦変更だ。

「俺がコレの支援をやるから、師匠は盗賊と一緒に非難誘導をお願いします!アクセルハーツの3人はランサーと一緒に他のモンスター達を!」

 シエロさんを動かして、そちらに行きたいチャーリーを俺とミツルギで足止めする。

 そうすれば、早く捕まえに行きたいと言う焦りを誘えるかもしれない……!

「了解したよ弟子君!」

「分かった!」

「任せなさい!」

「うん!」

「こ、コレって……まあ、今はこの状況をなんとかするのが先か…」

 

 そうして各々が行動を開始して、チャーリーは当然シエロさんを追いかけようとするが。

 

「逃さねえぜ……『ウインド・バレット』‼︎」

 

 足元を狙い撃ってその動きを止めてやると、チャーリーは斧を片手にこちらに殺気を向けてきた。

 

「グッ……ええい、小癪な!俺の邪魔をしやがって。許さんぞ!」

「それはこちらのセリフだ!……行くぞ!我が魔剣の力を受けてみよ!」

 それに呼応するように魔剣を構えるミツルギが駆け出したのを皮切りに劇場の中での競り合いが始まった。

 

 

「パワータイプの撃ち合いは、やっぱり迫力あるなぁ……」

 

 

「ぬぅん!流石は魔剣の勇者だ……俺の武器がズタズタではないか」

「そっちこそ、僕のグラムを前にここまで耐え切るとは中々の業物を使ってるようだな」

 

 ミツルギとチャーリーの撃ち合いは、正しくパワーとパワーのぶつかり合いと言わんばかりのものであったが、武器の性能の差か、ミツルギの方が優勢だった。

 

「武器の強さを差し引いても、やっぱり王都で活躍してるだけあって、とんでもねえ強さだ……あんな力押しでやれるんだもんな」

 どちらもバニルと比べるとテクニックは微妙だが、パワーならダクネスさんのそれを若干ながら上回っている。

 

 

 そんな状況を不利と悟ったチャーリーは突然ニヤリと笑い。

「だが……お前がそれほど強くても、お前の仲間達はどうかな?

 

 言っておくが、俺の配下はヤワではないぞ」

 

 そんなハッタリじみた事を………おい、あいつ乗りやがったぞ⁉︎

「隙ありィ!お前の仲間たちは善戦しているぞ……グオッ⁉︎」

 よそ見をしたミツルギを、チャーリーが斧で仕留めに行こうと………!

「隙だらけのお前が言うなよ!魔剣さんも乗せられないで下さい!」

 

 仕方ないので、斧を振り下ろそうとしたチャーリーの脇腹を鎌で横薙ぎに斬り払うと、脇を押さえたチャーリーがこちらを血走った目で睨みつけた。

 

「ぐう………貴様、いつの間に懐に……!」

「悪いな!バレないように忍び込むのは得意技なんでね!……『ウインドブレス』!」

 片手で斧を振り下ろそうとしたので、下がりながら地面に散らばっていた小さな破片を風で目に飛ばしてやった。

「グアッ⁉︎……ええい、ガラスの粉や砂利を飛ばして目潰しとは、この卑怯者めが!」

 目を押さえているうちに後ろに下がると、ミツルギはスキルでも使ったのか、魔剣を輝かせていた。

 

「今度は釣られないで下さいよ!」

「す、すまない………助かったよ。あとはボクに任せてくれ!」

 

 そして、チャーリーが目線を上げた所でミツルギはその剣で横払いを放った!

 

「『ルーン・オブ・セイバー』ッッ‼︎」

 その一撃はノロノロと立ち上がったチャーリーを両断せんと迫ってはいたものの、最後っ屁と言えばいいのか、斧を囮にして回避した。

 

 

「ぐぅ……ここまでやるとは。ここは部が悪いな。手下どもは……」

 

 どうやら捕まえた踊り子達だけでもお持ち帰りしようと後ろに視線を向けるが。

 

「弟子君!お客さんの避難が完了したよ!ここからはアタシ達も!」

 

「キョウヤ!踊り子達も全員開放したし、手下のモンスター達も片付けたわ!」

 

「ナギト!私たちも手を貸すよ………大事な劇場をこんなにメチャクチャにして、絶対に赦さないから!」

 

 他のもそれぞれの仕事を終えて、こっちに助太刀に来てくれていた。

 

「チャーリー!これでお前は終わりだ!」

 ミツルギの言う通り、8対1では流石に勝ち目はないと悟ったチャーリーは。

 

「………しょうがない。今日のところは引くとしよう。だが……俺は必ずシエロをものにして見せるぞ!

 

『テレポート』‼︎」

 

 

 テレポートで逃げ出し、この戦闘の終わりを告げた。

 

 

 

 その戦いから一夜明けて。

 

「分かりました。では、我々の方でもチャーリーの行方を捜索しますので、アクセルハーツの皆さんも注意してください」

「はい、よろしくお願いします……」

 

 チャーリー一行が暴れ回り、劇場の中で大乱闘が起こった事でセナさんを筆頭とした警察官達が現地調査を行い、その場で戦っていたメンツはそれぞれ事後処理に奔走していた。

 

「……にしても、結果としては劇場の客席とステージの崩壊だけで、怪我人は1人もなし、か……」

「まあ、劇場とあの子達への評判はガタ落ちだろうけどね……でも、アタシ達にお金を請求しないらしいしいいじゃない」

 

 俺と師匠、ミツルギ一行は劇場の掃除と復興に駆り出され、アクセルハーツの面々は今回の事件を招いた一端として他の出演者達への謝罪周りだ。

 

「ボク達も信用回復のために色々話を回すけど………アクセルハーツはしばらく活動休止だろうね」

「被害者と言っても、全く控えないって言うのは無理だろうしな。………こりゃ、しばらくはあの3人に付き合ってクエストやることになりそうだ」

 

 ミツルギに頷き返し、再び作業に取り掛かった俺は。

 

 

 これがただの始まりにしか過ぎないことを知る由もなかった。

 

 

 

 

 その夜。

「マグロ、無くなったの⁉︎」

「ああ……カズマんとこの爆裂娘が吹っ飛ばしやがったんだ。

これで来年からは初マグロはなしだな。楽しみにしてたのによ………」

 

 俺達が劇場の修理に奔走している間に例のマグロが襲来していたらしく、その燦々たる結果を他の冒険者達から聞かされていた。

 

「そうか……それは残念だなあ」

「お前、カツオの件で参加したくないとか言ってたよな?嬉しそうな顔しやがって……」

「何のことかわからんなあ?さて、カズマさん達のところへ行くとするか」

 まあ実際、修理に加えてマグロ討伐なんて勘弁して欲しいので嬉しいのは確かだな。

 そうして何か騒いでいる4人組に話しかけようとしたその時。

 

 

 

「………‼︎」

バンとドアが開かれ、そこには同じく姿が見えなかった奴が。

 

「ゆんゆん……?でも、アイツこんな派手な登場するかな⁉︎

 

 ちょ、ちょっと引っ張らないでくれよ、怖いって!」

 

 違和感を覚えたが、それを口にする前にゆんゆんに手を引かれ、カズマさんたちの元へと連れて行かれた。

 

「ゆんゆんにナギトじゃないか。一体何があった?」

「さあ?俺は知りませんが……」

 

 カズマさんと共に首を傾げていると、やがてゆんゆんが。

 

 

 

「カズマさん!

 

 

 

 

 私………カズマさんの子供が欲しい‼︎」

 

 

 顔を真っ赤にして、とんでもない事を言い出した!

 

「………喜んで!」

「「おい」」

 

 ついでに、めぐみんとリアクションが被った。

 




いかがでしたか?

今回で第2章が終わるので、10話終了時点でのナギトの人間関係とスキル等を整理します。

冒険者 マトイナギト 男
職業 盗賊 レベル15 所有スキルポイント 7
スキル
チート関連
・追風 ・突風
・ウィンド・バレット
・ルミノス・ウィンド
・並行詠唱

盗賊スキル
・潜伏
・敵感知
・窃盗
・罠探知

その他
・片手剣
・ウィンド・ブレス

人間関係
ゆんゆん→先輩兼仲間。そろそろ頼りきりじゃダメだよな……⇔この町でははじめてのお友達で、同い年の冒険仲間。そろそろパーティーに誘いたいな……。

ライト→馴染みの鍛冶屋。ドルオタだった事にびっくり。⇔馴染みの冒険者。はじめての顧客。

カズマ→先輩。苦労人ポジションというシンパシーを感じているがスケベ。⇔後輩転生者でゆんゆんの友達。アイツのチート、なんか地味だよな……。

めぐみん→ゆんゆんの友達で、チンピラ気質なロリっ子。カズマさんに目をかけているのでは?⇔ゆんゆんの数少ない友達。よからぬ事をしないかと密かに心配。

アクア、ダクネス →1章終了時と特に変化なし。

クリス→師匠。初対面時の悶着は特に気にしていない……?⇔弟子。胸を見られたのは許してるわけではない。

ウィズ→魔道具店の店長さん。ゆんゆんがよく通ってるよなーと言う認識。⇔お客さんの1人。ゆんゆんさんの知り合い?

バニル→何でお前復活してんだよ……。と頭を抱えている。尚、バニルは口にしないもののナギトが転生者ということに気づいている。⇔成金小僧の同類。なかなかにすばしっこい。

ミツルギ→チャーリー戦の時に共闘。パワータイプ。⇔サトウカズマと違っていきなり突っかかってきたりはしないまともな男。

リア→真面目なのにズボラな年上のお姉さん。実は転生者なのでは?と疑惑を持つ。⇔冒険でも掃除でも頼れる年下の男の子。

エーリカ→ぶりっ子だけど、意外とまとも……?⇔生意気な年下だと思っていたけど意外と強い……?

シエロ→男性恐怖症のボクっ娘。⇔年下なのに凄いなあと感心。


 今のところはこんな感じです。尚、この作中でのアクセルハーツはオリジナル版と違い、グッズは自分たちで作っています。


 そして、次回はいよいよ5巻のストーリーに入りますのでお楽しみに!

 感想や評価をお待ちしています!


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第3章 おいでよ、紅の里
第11話 この無礼者に旅立ちを!


原作5巻、映画の紅伝説にあたる時間軸での冒険スタートです。

ちなみにアクセルハーツの中ではリアが最推しです。

黒髪ロング万歳!


……失礼、それでは第11話を楽しんでください!


 

ちょっと考えをまとめたいから付き合って欲しい。

 

 日本で子供を作ることが認められている年齢は、法律で言えば1番若くて16歳の女性と18歳の男性のペアだ………まあ、結婚できるのがこのペアが最速と言う理由からだが、この世界はちょっと違う。

 

 成人は15歳だが結婚は14歳からできるし、16歳から20歳のうちにするのが一般的で男女による年齢の差はない。

 つまりは、早くて14歳から子供が作れてしまうってことだ。

 

 これは、モンスターが蔓延り、医療がそこまで発展していない上に、飲酒や喫煙に対しての縛りがゆるいことで、日本と比べると平均寿命が50代と低い為、早く子供を作らないといけないと言う理由がある。

 

 あとは、寿命が短い分成熟速度が早くなり、14歳でも日本人で言う所の16歳程度にまで体が育つと言うこともあるのかもしれない。

 

 まぁ、ここまでの長ったらしい考察から何を言いたいかと言うと。

 

 

 ゆんゆんの爆弾発言は、俺を含めその場にいた冒険者をフリーズさせるには十分過ぎていたのだった。

 

 

 

 

 そんな爆弾発言の反響が冷めぬ中、カズマさんの屋敷にて。

「ナギト!ゆんゆんに何を吹き込んだのですか⁉︎少しはあなたを信じていたのに……この愚行、その命を持って償うが良い!」

「俺が知る訳ないだろ⁉︎そっちこそ何か知らないのか⁉︎」

 

 俺とめぐみんが互いに詰め寄っている隣では、カズマさんがやたらなキメ顔を見せていた。

 

 

 

「もう一回、言ってくれるかな……?」

「か、カズマさんの子供が欲しいと言いました!」

 とりあえず、何を言っているのかはわかっているようで少し安心するが……発言が正気じゃないのでやっぱり不安だ。

「俺としては、最初は女の子が良いんだけど……」

「だ、ダメです!最初の子は男の子じゃないとダメなんです!」

 

「……なあ、魔法とかで子供の性別って操作できるのか?」

「できる訳ないじゃないですか」

 だよなあ。

 

「ゆんゆん、正気に戻ってください。一体何がどうなって……」

「と言うか、何で突然子供なんて……?」

 俺達がとりあえず話を聞こうとすると、ゆんゆんは切羽詰まったように。

 

「わ、私とカズマさんが子供を作らないと世界が………魔王が!」

 

「「「魔王?」」」

 俺、めぐみん、ダクネスさんの声が重なった。

 いきなりスケールがデカくなったな………

 

 だが、当事者は世界よりも目の前の性欲にしか目がないようだ。

 

「そうかそうか、世界が………大丈夫だ。世界も魔王のことも任せてとけ?

 

 俺とゆんゆんが子作りすれば、魔王が何とかなり世界が平和になるんだろ?

 

 

 この俺が困っている人の頼みを断るわけがないじゃないか!」

 この、ゆんゆんを気遣ってるようでヤル気満々な発言だもんな……。

 

「クエストを受けようとした時はあれだけ嫌がっていたクセに!」

「本当ですよ!」

「うるせー!関係ない奴が口出ししてくるんじゃねえよ!せっかくやってきたモテ期なんだよ、邪魔すんな!」

 更にはめぐみんやダクネスさんの抗議にも逆ギレする始末………ゆんゆんには悪いけど、まずはカズマさんを何とかしたほうがいい気がしてくる。

 

 

 目の前で一触即発の空気を出している3人を前に、いくばくか冷静になった頭で考える………ここにきてから、考え込むことばかりだな。

 

 例え子作りをしたって、生理の周期的な問題で確実に生まれてくる訳じゃないし、生まれてきたとしても戦える年頃になるまでは10年以上は確実にかかる。

 作らなければいけない理由が何なのかはわからないけど、そんなに悠長にしていて大丈夫なんだろうか?

 

 と、考えている間に今にも一戦始まりそうな雰囲気になっていたところ。

 

「め、めぐみん………紅魔の里が……紅魔の里が無くなっちゃう‼︎」

 

 ゆんゆんが、またとんでもない爆弾をぶち込んできた。

 

 

 

 新たな爆弾を前に休戦したとでも言うべきか。

 

 ひとまずテーブルについた俺達はアクアさんが持ってきたお湯を飲んで落ち着いた後、話を聞く事になった。

 

「それで、どう言う事なんです?」

「お父さんから手紙が届いたの………それで……」 

めぐみんがゆんゆんから手紙を受け取り、それを読み出す。

 

「『…………この手紙が届く頃には、きっと私はこの世にいないだろう……』……⁉︎」

 不穏なワードが聞こえてきたと思ったら、手紙を読み進めるごとにめぐみんの顔が険しくなる。

 

「紅魔の里が、魔王軍の手先に蹂躙されているそうです……」

 絞り出したような声にその場の空気が先程のものとは別の方向に張り詰めたものとなった。

 

「待てよ、そんな状況で呑気に子作りしてる場合じゃないだろ?ますます意味が分からないぞ」

「もう一枚あります!そっちに……」

 たしかに、めぐみんの手元にはもう一枚の手紙が。

「こっちも読みますよ……『里の占い師が、魔王軍の襲撃による、里の壊滅という絶望の未来を視た日。その占い師は、同時に希望の光も見る事になる。紅魔族唯一の生き残りであるゆんゆん………』なぜゆんゆんが唯一の生き残り…?」

「良いから先を読んで!」

「私の身に一体何が⁉︎

 

 

『唯一の生き残りであるゆんゆんは、駆け出しの街である男と出会う事になる。頼りなく、それでいて何の力もないその男こそが、彼女の伴侶となる相手であった』」

 

 頼りなく、それでいて無力………

 

「おい、何でみんなしてこっち見るんだよ!まさか……ゆんゆんもそれだけの情報で俺のところに来たのか⁉︎ナギトだって……おい、何ガッツポーズしてやがんだ!」

「すいません、つい………」

ちょっとは頼りにされていた事に嬉しさを感じたが、今はそれどころじゃない。

 

「それ、今はどうでも良いだろう……めぐみん、続けてくれ」

「はい。『………やがて月日は流れ、その2人の間に生まれた少年は、旅に出る事になる。だが、少年は知らない。彼こそが、魔王を倒すものとなることを………!』」

 そこまで読んでめぐみんは、まさかと言わんばかりにカズマさんへと視線を向けた。

 

「お、俺たちの子供が魔王を……!」

「そんな悠長な…」

 今の危機に対して未来に任せてどうするつもりだと呆れをおぼえていると、アクアさんが食ってかかった。

「そうよ!ねえ、カズマの子供が大きくなるまで待つなんて私困るんですけど!3年くらいでまからない?まからないなら、その占いは無かった事にして頂戴!」

「お前、幼児に魔王退治させる気か……?」

 3歳児って……少年兵ですらない。

 

…………というか、そうやって考えていくとこの文章は本当にきちんとした手紙なんだろうか?

 今この時点で手紙の送り主が死んでいるかもしれないなら、もっと急いだ方がいいとかって予言が来そうなもんだが。

 

「里には、腕利きの占い師がいるんです!つまり……」

「分かった、そういう事なら任せとけ。世界のためだ、仕方ない」

「お、お前という奴は!普段は優柔不断なクセに、今日はどうしてそんなに男らしいのだ⁉︎」

 

 ダクネスさんがカズマさんの胸倉を掴んで揺さぶっているのを尻目に、俺もその手紙を見せてもらうと………………んん?

 

 

「……どうしたのです?何だか分かったようですが……」

「………そういう事か。コイツは傑作だ!」

「なになに?このアクアさんに見せてご覧なさいな」

 

 これ以上ここにいたらまずいと、アクアさん達に手紙の下を読むように伝えて俺は一旦外へ。

 

 

 そして数秒後。

 

「……………ブフッ‼︎」

 誰かの絶叫をBGMに、俺は思わず吹き出してしまっていた。

 

 

「おい、ちょっと待て!俺は一体どうしたら良い⁉︎ここで脱げば良いのか部屋で脱げば良いのか……⁉︎」

「この文の作者のあるえとは、里にいる同級生ですよ………でも、そうなると最初に読んだ手紙は本物みたいですね」

「なんだ、ただの作り話か……」

 

 モテ期到来と舞い上がった助平は、砂上の楼閣から地に落とされ、群衆はその光景に安堵する。

 

 そして、そんな光景が可笑しくて笑い転げていた俺は。

 

「私が勘違いしたのが原因なのは分かってますよ。でも、あんなに笑わなくたって良いじゃないですか!」

「俺、自分に嘘はつきたく無い………それに、まさかあんなオチだったなんて……プクク」

「また笑った……かっこいいこと言ってもダメですからね⁉︎」

 

 絨毯に正座をさせられた上、キレたゆんゆんに説教を食らっていた。

……釈然としないものはあるが、それを言っても何かやられそうなので黙っておいた方が良さそうだ。

 

「………と言うか、俺とばっかり話していて良いのか?里がやばいんだろ?」

……因みに、隣でカズマさん達が繰り広げている茶番でまた笑いそうになっているのは内緒だ。

 

「誰のせいだと……もう!仕方ありませんね、今回だけは許してあげますけど、もう少しデリカシーを覚えてくださいね⁉︎」

 

 こうして説教が終わったかと思うと、ダクネスさんが困惑顔で。

 

「笑い転げているナギトは論外として、めぐみんは随分と冷静だな……里が心配じゃないのか?」

「そ、そうだわ!ねえめぐみん、どうしよう……?」

 

 先程までの説教モードは何処へやら、弱気な顔をしたゆんゆんがめぐみんに縋り付くと。

 

「我々は魔王も恐れる紅魔族ですよ?そんなみんなが幹部如きにやられるとは思えません。

 それに……万が一のことがあってもここには族長の娘であるゆんゆんがいるのですから、血が途絶えることだけは無いでしょう。

 

 だから………こう考えれば良いのです。『里のみんなは、いつまでも私たちの心の中に……」と」

「めぐみんの薄情者!どうしてそんなドライな対応ができるのよ⁉︎」

「ちょ⁉︎」

 

 まさかのバッサリと切り捨てためぐみんに、ゆんゆんは胸倉を掴んで抗議していた。

 

 

 

 

 ところ変わって屋敷の外。

 

「す、すいませんでした!」

 いまだに顔が赤いゆんゆんがカズマさん達に頭を下げていた。

 まあ、結局カズマさんのモテ期はまた今度になっただけだが、公衆の面前で噂のタネになりそうな展開に持ち込まれたんだしな。

 

「いや、良いってことよ。それより、これからどうするんだ?」

「い、今から紅魔の里へと向かいます。あそこには、と、友達も……」

 はっきりと言い切れないのかよ。まあ、これ以上言うと襲われそうだから言わないけどね。

 

 

「そ、それじゃあ皆さん……めぐみんも、またね?」

 そう言ってとぼとぼと歩いて行くゆんゆんを見送り……ん?

「カズマさん?何で俺を見るんで?」

 

 視線を感じたので振り向くと、少し意外そうな顔で。

「え?お前は行かないのか?」

 

「行っても良いですけど、紅魔の里って強いモンスターばっかりだって聞くし、魔王軍まで来てるんじゃあ…」

 と、言いかけたところで俺はもう一つの視線を感じた。

 

 夜の闇に隠れてはいるが、何かを期待するような目でチラチラと…。

 ついてきて欲しいなら言えば良いのに、俺にデリカシーがないのならあっちはかまってちゃんじゃねえか。

 

「と言いたいところだけど、また自爆されて、変な噂の巻き添えを食うのはゴメンだし、ついて行くしかないよな……」

「回りくどいな……ほら、さっさと行ってやれよ。さっきからお前のことチラチラ見てるぞ」

 

 同じように見えていたらしいカズマさんに促される形で、俺も紅魔の里へ旅立つことになった。

 

 

 翌日。

「なあゆんゆん、まだ数日かかるんだしもう少し肩の力抜いたらどうだ?」

「それは分かってるんですが、やっぱり心配で……」

 昨日は馬車の最終発車時刻が過ぎていたので、俺たちは今日アルカンレティアへ行く馬車の中で、1番早く出発するものに乗り込んでいた。

 

 乗り込んでいたのだが、ゆんゆんがガチガチに固まっていたのだ。

 

 

 だが、その緊張の理由は、どうやら目の前の光景にもあるようだった、

 

 

 

「心配なのはわかるけど、目にクマができてるよ?」

「アタシほどじゃないけど可愛い顔してるんだし、もっと柔らかく行かないとね!」

「ほら、ハーブのお茶だよ?これでも飲んで落ち着いて……」

「え、えっと……皆さんに傷をつけないかも新しい心配事なんですが……」

 ハーブティーを飲みながら、ゆんゆんが不安げな視線を向けるのはもはやいつメンな3人組。

 

 

 なんと、アクセルハーツの面々が揃って助っ人を申し出てくれたのだ。

「大丈夫ですよ。ボクはアークプリーストだし武道も嗜んでいますから」

「アタシのスキルは色々役に立つんだから!可愛さだけでなく強さまで兼ね備えてるのがエーリカちゃんだからね!」

「ナギト達には色々助けられてるからね。これくらいどうって事ないさ」

 

 昨夜は馬車に乗れなかったが、だからと言って何もしていなかったわけじゃなく、俺は一緒に行ってくれる助っ人を探し、ゆんゆんは使えそうな魔道具を探していた。

 

 そして、たまたまライトさんの店に行ったら、同じくたまたま来ていたアクセルハーツとエンカウントしたので一応話をしてみたのだ。

 

「いやー、まさか来てくれるなんて思いもしなかったよ。リアさんもよく起きることができたな」

「ば、バカにしないでくれ!私だって、しっかり荷物を詰めて早起きできるように早く寝たんだ!」

「ナギト君に片付けてもらったお部屋を汚して、だけどね」

「しかも、寝坊しかけてるしね」

 あそこまで片付けたのにまた汚したのか。てか、寝坊しかけてるんじゃねえか。

 

「リアさんのイメージがどんどん壊れて行くなぁ…」

「遅れてないんだから良いだろう⁉︎」

 そんな風にやりとりをしていると、ゆんゆんがクスクスと笑い。

 

「なんだか、皆さんのやりとりを見ていたら、悩んでる自分がおかしくなって来ちゃいました。

 

……そうですよね。今から緊張してたらよくありませんもんね!」

 

 と、どうやら落ち着いてくれたようだ。

 

 

「じゃあ、ゆんゆんも落ち着いたことだし、発進してもらうか!」

「それでは、アルカンレティア行き、発車します!」

 

 馬車のおっちゃんが鳴らした鞭が、旅立ちのファンファーレとなり。

 

 

 春の陽気に包まれながら、俺たち5人を乗せた場所は、紅魔の里への道のりを走り出した!

 




いかがでしたか?今回はナギトがだいぶやらかしましたが、原作を読んでナギトと同じ反応をした読者の方は多いんじゃないかと勝手に思い込み、今回反映してみました。

 アクセルハーツを原作に組み込んだことで、本来の流れとは少し変わったストーリー展開となりますが、タグを少し修正しますのでご了承ください。

 そして、前回初登場のスキルの紹介を今ここで。

 並行詠唱 他の行動と並行して魔法の詠唱を行う時、円滑に行えるようになるスキル。これは他のスキルとは違ってパッシブスキルである。

 これもダンまちのリューさんがやってたことをこちらに取り入れてみたと言った感じです。

ここまで行ったところで次回は紅魔の里まで辿り着ければなあと思います。

 それでは、感想や評価をお待ちしています!

お楽しみに!


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第12話 この旅路にドルオタへの衝撃を!

今回は12話で、あの男がついに登場します。

果たして、ナギト達は無事に切り抜ける事ができるのか……。


 紅魔の里へ向かうために、旅を始めた俺達。

 

 そんな馬車の中で、どことなく抱えた違和感に耐えきれずにいた。

 

「3人とも、なんか前と変わってません?」

 馬車に揺られること数時間。

 俺は違和感の正体候補筆頭の3人……つまり、アクセルパーツの面々に、単刀直入に問いかけていた。

 

 3人の冒険におけるこれまでの装備は槍や短剣など、それぞれの得物程度で、防具もエーリカが左胸につけている胸当てくらいだった。

 

 なのに……

「ほとぼりが冷めるまで、冒険者稼業をやろうってことでね。今までの装備じゃ心許ないし、良い機会だから装備を一新したんだ」

 

 リアさんは胸部のライトアーマーに肩当て、脛当て付きのブーツをつけ、武器は水色を基調とした装飾入りのグレイブと円形の小さな盾になっている……ぶっちゃけると、背中に背負ったぬいぐるみがなければかなりかっこいい。

 

「チャーリーみたいな奴がこれからもくるかもしれないしね。可愛さに強さを合体したスーパーエーリカちゃんの爆誕よ!」

 エーリカは、手袋がガントレットに変わり、足には脛当てがついていた。武器は赤を基調とした短剣だ。

………他の2人と比べるとあんまり元から変わってないな。

 

「ボクも前に出て戦えるようにこんなのを……」

 最も姿が変わったシエロさんは、胸当て、肩当て、ガントレット、脛当てをフルで装備して、杖は緑を基調とした小さいメイスになっていた。

………武術の心得があるとは言っていたが、まさかの武闘派プリーストのスタイルである。

 

「うーん、相対的に俺がボロく見えるよな…」

「そんなボロっちいマントを羽織ってるからよ。新しいものに変えたら?」

「そうは言っても、これ大鎌が武器なのも相まって死神っぽいから気に入ってるんですよ?」

 

一応剣がメインウエポンのはずだったが、忍び寄って鎌で一気に刈り取った方が楽だと気づいてからは鎌がメインになりつつある。

 

「ナギトさんって、ちょこちょこ紅魔族に合いそうな一面がありますからね……」

「そういうお年頃なんだよ」

 流石にめぐみんレベルになる気はないが。

 

 ゆんゆんにそう返しながらも、広げていた地図を見る。 

「もう少ししたところで一旦休憩した後、さらに進んでそこで夜明かし。そして午前中にはアルカンレティアへ到着、ってところか」

「少し休んだら紅魔の里まで歩いて行きます。ここも半日で行ける距離じゃありませんので途中で野営することになりますね」

 ゆんゆんの言葉にリアさんは槍を見ながら残念そうにして。

「新しい武器に慣れたいんだけど、お風呂に入れないのは嫌だな……敵に会わないことを祈るばかりだ」

 

 フラグになりそうなことを言い出すが、今回は回収せずに済んだようだ。

 

 だが、一応……

「戦う時の作戦決めておきません?無策で勝てる相手じゃないだろうし…」

「そうだね。じゃあ……みんな冒険者カードを。それをみて決めよう」

 

 リアさんの提案でカードを見せ合いっこする……なになに?

 

 俺 レベル15 

 

 ゆんゆん レベル25 

 

 リアさん レベル22

 

 エーリカ レベル21

 

 シエロさん レベル18

 

 レベルとしてはこんな感じで俺が一番下である。

 

「ナギト、レベル低いのにチャーリーの時はずいぶん無茶したね。もっとレベル高いと思ってたよ」

「勇敢なんだかおバカなんだか……」

 2人が憐れんだ目で見てくるが、大きなお世話だ。

 

「俺のレベルに関してはどうでも良いから、陣形を決めようぜ!」

「露骨に話題を逸らそうと……でも、それはいう通りですね」

 シエロさんが賛成してくれたので強引に話し合いに持って行こうとしたその時。

 

 

「お客さん方!モンスターが現れましたよ!対処お願いします!」

 リアさんが立てたフラグは、少しの間をおいて回収された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは、チャーリーにトロール!相変わらず可愛くないわね」

「ボクたちが見た事がない人もいます!」

 俺達が降りた先にいたのは、先日も見た大鬼「トロール」とその親玉である「チャーリー」。

 そして………

 

「なんだ?あのおっさん。チャーリーの上司的なやつか?それにしては随分紳士っぽい見た目してるな……」

「アレがチャーリー……見た目の割にチャーミングな名前してますね」

 

 

 この中で唯一、チャーリーとは初対面のゆんゆんがそんな感想をこぼすが、俺達4人はその隣にいた紳士の方を注視する。

 

 

 そして、乗っていたワイバーンの背中から降り立ったその紳士は……!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……!本物のリアです。生で見るリアの太ももは眩しいです!スリスリしたいですね!」

「ふ、太もも……スリスリ⁉︎何を言ってるんだ⁉︎」

 

 本物のリアさんを前にご満悦のようだった。

 

 

「さ、流石あのチャーリーの上司なだけはあるな。変態性もずば抜けてやがるぜ」

「ええ。なんと言うかエロ親父よね……アタシにあんなファンがいないのは運がいいのかもしれないわ」

 

 狐のぬいぐるみを抱きしめて後ずさるリアさんを、ハアハアと息を荒げて眺めるおっさんに、俺とエーリカが引いたような目を向けると、その紳士は一つ咳払いした。

「失礼。私としたことが思わず興奮を。申し遅れましたが、私はダニエルと申します」

 

 

「そうかい……それじゃあ、悪いが俺達は忙しいんだ、お引き取り願うぜ!」

 剣を構えた俺が聞くと、ダニエルは肩をすくめて。

 

 

 

「やれやれ、察しの悪い方だ……決まっているでしょう。

 

 そこの踊り子3人を、私たちのお城へと招待しようと思いましてね。

 そして、シエロはチャーリーの……最推したるリアを私の花嫁に!」

「だ、ダニエル様!私の願いも叶えてくださるとは……!」

と、何とも頭の悪い野望を口にして、チャーリーは感極まったように男泣きを見せていた。

 

 

 

……何これ。

「おい、どうするよゆんゆん……頭痛くなってきたんだが」

「私に聞かないでくださいよ……!ナギトさんこそ、何かいい考えは浮かばないんですか⁉︎」

 その光景を前にして、ゆんゆんと2人でどうしたものかと考えていると、突然その腕を引っ張られる。

 

 

 

 

 

 そして、何かに包まれたか思えば……!

 

 

 

「ダニエル!悪いがそれはできないんだ………

 

 

 

 

 なぜなら、私は!」

 

 その声はリアさんのもので、彼女は一拍おいて。

 

 

 

 

 「この子ともう結婚しているから‼︎」

 とんでもないことを口に出して叫んでいた!

 

 

 

 

 

………………ファ⁉︎

 

 腕に身体を絡めたリアさんが、顔を赤くして叫んだ内容の意味がわからず、俺は大混乱に陥っていた。

 

 そりゃそうだ。リアさんとはただの知り合いだし………

………えーと。

 

 助けを求めてあたりを見渡すも、同じくポカンとしたゆんゆんにエーリカ、シエロさんは申し訳ないが役に立ちそうにない。

 

 

 

 そして、リアさんの顔が超至近距離にあったのでさらに別の方向を見ると。

 

 

 

 

 

 

 

 口から泡を拭き、汗に塗れている紳士は、今にも泣きそうになって………

「り、りりりり、リア………?そ、それは本当なのですか?本当に、その少年と婚約を………?」

 

 

 そんなバカなと言わんばかりに動揺していた。

 

 それはそうだ。ドルオタにとっては生き地獄の一つ「推しの恋愛報道」とその進化系「推しの結婚」を同時に受けたのだから。

 

 

 

 だがそこに、リアさんの更なる一撃が突き刺さる。

 

 

 

 

 それは………

「ああ!私は彼と婚約していて、既に新しい命が宿っている‼︎

 

 

 だから………すまない!私はお前の花嫁にはなれないんだ!」

「……………‼︎」

 

 

 

 

 

 最終進化「推しの妊娠報告」だった。

 

 

 

 

 ドルオタにとってまさしく死の呪文なこれは、当然ダニエルにも効果は絶大で。

 

「う、うああああああああああああああ‼︎そんなの嘘だあああああああああああ‼︎」

「だ、ダニエル様ああああああ⁉︎」

 粉々になったハートで咽び泣き、現実逃避でもする勢いでワイバーンに乗って帰っていった。

 

 

 

 

 チャーリーがダニエルを追おうとしながらもこちらを振り返る。

「ええい、そこのマント男!ダニエル様から推しを奪った罪は重いぞ!覚悟しておくのだな‼︎そしてシエロちゃん!次こそはお前を嫁にもらうからなあ‼︎」

 

 そして、そんなバカな捨て台詞を吐きながら手下のトロールと一緒に帰っていった………。

 

 

 

 

 こうして戦い自体は終わったのだが………。

「ナギトさん?言い残すことはありますか?」

「リア、ナギトに何したの……⁉︎」

「ナギト君?リアちゃん?ボク達とお話ししようか?」

 

 

 

 これは火消しの方が厄介そうだ。

「リアさん?これ俺たちが死ぬんじゃ……」

「………………ごめん」

 3人の般若を前に、俺とリアさんの冷や汗は止まることを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 野営場所にて、俺の足はピンチを迎えていた。

「もう!芝居ならそう言ってよね!」

「そうよそうよ!リアがあんまりに自然に言うから勘違いしちゃったじゃない!」

「ナギトさんも、すぐに否定してくださいよ!」

 リアさんと一緒に、3人に正座させられているのだ。

 

 

 車中にてアレはリアさんがダニエル達を追い払うために吐いた嘘だったと弁明したものの、流石にこれで凌げるわけがなかったってことだな。

 

……巻き込まれた俺は被害者で、ダニエルにも恨まれそうなので嘘ではすまないわけだが。

「いや、あそこで否定されるとこの芝居の意味がなくなるんだけど……」

「だとしても妊娠報告までする必要あったんですか?どう考えてもオーバーキル……」

 しかも、ゆんゆんの子作り発言があった後だしやけにタイムリーだ。

 

 

 とりあえず、リアさんに問い詰めると、申し訳なさそうに。

「だって!あのファンを追い払うにはこれくらいやらないとダメかなって………でも、ごめんナギト!また君に借りを作ってしまって……」

 謝って済む問題じゃないと思ったが、確かにこれ以外で無傷で突破することは難しいと思うので、これ以上責められないのがまた嫌な所だ。

 

 

「はぁ………まあ、あんなの相手に無傷で突破できたし今はもう良いですよ。でも、流石にもう勘弁してくださいよ……」

 

 不安事項がまた一つ増えたが、今は目の前の危機を何とかしようと感じに流れを変えようとすると、ゆんゆんが確認するように。

「ナギトさん?本当に手を出していませんよね?」

「だから出してねえよ!ゆんゆんも、同じ宿の隣部屋なんだから致していたら声でわかるだろうが!」

「い、致して……⁉︎」

 

 またも顔を赤くするゆんゆんをしばらく問い詰めていたが、それにキレたゆんゆんに謝り倒して、1日目が終了するのであった。

 

 

 

 

 

 初っ端からダニエルという変態の相手をしてすっかり疲れていた俺達は、休憩地点で密かにいってみたい場所であった『アルカンレティア』で疲れを癒そうとしたが………

 

 

「はあ、……アクシズ教徒、とんでもねえ奴らだな。ここまで温泉で疲れが取れるって実感が湧いたのは初めてだぜ……」

「だから私はそこまで期待しない方がいいって……ふぅ」

「そうだね……でも、やっぱり名物なだけあって気持ちいい…」

 

 

 俺達は…「頭のおかしいアクシズ教徒」の恐ろしさを思い知ることになった。

 街に入るや否や信者に取り囲まれ、シエロさんが男の信者をぶっ飛ばした事により、何としても入れてやると興奮した信者達から逃げてきたのだ。

 

「この温泉、前とは違って聖水になったんですって!神々しさまでプラスされてしまうのかしら……」

「頭のおかしさの間違いじゃないの…?てか、シエロさんはそもそもなんで男性恐怖症に……?しかもやたらと過激だし」

 

因みにこの会話は、男湯と女湯を遮る一枚の壁越しに繰り広げられている……混浴風呂もあるにはあるが、やたらに狭く水着もないので満場一致で却下になったのだ。

 

 俺は、原因を作ったシエロさんに核心的な質問をすると、返ってきたのは意外な答えだった。

 

 

「シエロさんって、貴族の御令嬢だったんですか?そんなイメージつかなかったな…」

「ダクネスさんと違って、わかりやすく特徴が表れてるわけじゃないですからね……ボクの本名は、ロイエンタール・アコード・シルエルト……エルロードに居を構える、貴族の長女なんですよ」

「因みにエルロードは、ベルセルク王国の隣に位置する国です。カジノで栄えた街で、金銭面での支援を行ってるらしいですよ」

 

 アクセルの大貴族の御令嬢のダクネスさん。紅魔族の族長令嬢のゆんゆん。そして、隣国の貴族の御令嬢なシエロさんか……

 

 なんというか、こんなところで冒険してていいのか迷う人たちが多いな、俺の周り。

 

「それって箱入り娘の純粋培養で、男に触れると倒れちゃうー、的なヤツ?」

「いいえ。むしろその逆です……。

 

「成し遂げたい方があるならば、己の拳で切り開くべし」が家訓なほど、かなりの武闘派でして……それで幼い頃から父には男の子のように育てられてきたんです」

「サイ○人かよ………」

 

 武術が使えるのはその影響らしい。

「でも、やっぱり女の子だから、どうしてもひ弱で……社交の場に出される度に、同年代の男の子達からバカにされてたんです…」

「それが嫌で男性恐怖症か……まあ、わからなくもないな」

 アルダープのような悪徳貴族にダクネスさんのような変態貴族、更には武闘派貴族か……色々あるんだな。

 

「あの、皆さん?そろそろ……」

「ああ。そろそろ行くか。俺たちは温泉旅行に来たんじゃないしな」

 

 

 こうして、アルカンレティアの温泉を堪能した俺たちは、またも迫ってきたアクシズ教徒達から逃げるように紅魔の里への旅を再開するのであった。

 

 

 

 紅魔の里への道はアクセルからアルカンレティアよりは距離こそ短い。

 

 だが。強いモンスターが蔓延るっているために馬車の類は出ておらず、その為歩きによる旅を強いられる事になる。

 

 そして、旅立ったのが午後だった為に、しりとりをしながら少し歩いたところで夕方になってしまった。

 

「山は暗くなるのが早いっていうけど、納得だね……」

「ちょっと怖いけど、夕焼けがロマンチックじゃない?」

「うん。ボク、外で寝るの初めてだけどなんかワクワクする!」

 

 アクセルハーツの面々がシート代わりの布を敷いて寛いでいる。

 

 

 そこから少し離れた所で、俺はゆんゆんと作戦会議を行っていた。

「この辺りに出るモンスターは一撃熊にグリフォン、ファイアードレイクに安楽少女とオークか。どのモンスターがどのあたりに出るとかわかるか?」

「グリフォンは空を飛んでいるのですぐわかりますし、夜行性ではないので夜は大丈夫です。一撃熊は餌がある森の中にいるのでそうそうこんな開けた道には来ないと思いますよ。あと、安楽少女は……」

 流石に紅魔族族長の娘なだけはあり、里近辺の地理状況にも詳しいようだ。

「そうなると、最優先で注意すべきはファイアードレイクとオークか?女性率高いしな」

 

 グリフォンは夜に動けず、熊は開けた道には出てこない。安楽少女はもっと先にいるから問題ないらしいから、やはり警戒すべきはオークだろう。

 

 この連中がろくでもない目にあわされる光景なんて見たくないし、オークが出たら俺が積極的に倒しに行くしかないな。

 

 

 すると、ゆんゆんは首を振り。

「いいえ。この場合オークに気をつけるべきなのはナギトさんです」

 

 と、変なことを言い出す。

「え?オークと言えば、女を狙うエロモンスターじゃ…」

 

 すると、ゆんゆんはとんでもないことを口にした。

「えっと……オークのオスはかなり昔に絶滅してます。

 

………たまに生まれても成人する前にメス達に弄ばれて、干からびて死んじゃうし……」

「何それ怖い!」

 つまりアレか。男の天敵か…。

 

 股間を押さえて震え上がる俺にゆんゆんが慌てて。

「でも、オークはもっといった先にある平原地帯にいるので、ここではまだ心配しなくていいですよ」

「それならいいけど……そうなると最優先で警戒すべきはファイアードレイク。後一応ゾンビや一撃熊に注意ってところかな」

「そうですね……でも、ここまで一体も敵と遭遇してないとなると先に誰かがいて、それを倒してくれているのかもしれないです」

「でもなぁ……それじゃあリアさん達が新調した装備の慣らしができないし、俺も新しいスキルを試せないのがな…てか、なんか焦げ臭くないか?」

 

 

 と、考えていたその時。

 

 

 ピリッとした感覚を覚えたと思ったら。

「いやあああああ!」

 エーリカの悲鳴がした。

 

 

 後ろを振り向くと、鉤爪を生やした4本足の鷲である「グリフォン」が空を飛び、地面には炎を吐いてチラチラと舌を出すトカゲ「ファイアードレイク」がこちらに敵意を向けていた。

「グリフォン……!」

「おいおい、マジかよ…ファイアードレイクまでいやがる」

「それもそうだけど、荷物が……!」

 

 慌てた様子のリアさん達がやって来ると、どうやらファイアードレイクの炎で荷物が焦げてしまったようだ……ぬいぐるみは死守したらしいが。

 

「ナギトにゆんゆん!アタシ達じゃ遠距離攻撃できないわ!なんとかしてー!」

「ナギトさん、私はグリフォンをやります!そちらはファイアードレイクの相手をお願いできますか⁉︎」

「分かった!リアさん達は荷物まとめてください。場所を変えましょう!」

「うん、分かったよナギト君!」

 そうして俺は、炎を吐くトカゲと戦いを始めた。

 

 

 魔法を使おうとすると、詠唱をさせまいと炎のブレスを吐いてくるのでそれを横に飛んで避ける。

「スキルを使おうとするタイミングで邪魔をしてくるな……流石に強敵がひしめく中で生きてるだけはあるぜ…」

 

 かと言って鎌で接近戦に持ち込もうとすれば、炎のブレスのいい的だ。

 

 

「このグリフォン、なかなか狙いが定まらない……!」

 ゆんゆんも、空を自由に飛ぶグリフォンには魔法の狙いが定められないようで、援護を頼むのは無理そうだ。

 

………それなら、俺とドレイクの状況を逆にしてやれば……!

 

 早速荷造りを終えていた3人に視線だけをやり。

「シエロさん!俺に筋力上昇の支援魔法を!リアさんは俺にその盾を貸してくれ!」

「ええ⁉︎いいけど……『パワード』‼︎」

「何をするつもりなんだ?」

 

 俺は筋力上昇のバフをかけてもらい、リアさんに盾を貸してもらう。そして………!

 

 

「飛んでけぇ!」

「な、なげたぁ⁉︎なんて事するんだ、ナギト!」

 円形の盾をフリスビーよろしく、ドレイクに向かって投げつけた!

 

 ドレイクは咄嗟に避けるが、ここから攻撃に移る余裕は与えない。

 

「『突風』………これで終わりだぁ‼︎」

 

 俺は空中に浮いた状態のドレイクに向けて、鎌をトップスピードで振り下ろした。

 

 腹に鎌を突き立てられたドレイクは、痙攣した後に動かなくなる。

 

 

 そしてその鎌に刺さったドレイクの死骸を………

 

「あーらよっと‼︎」

 

 鎌から引き抜くことも兼ねて、グリフォンに向かって投げつけた。

 

 相手はこちらを見向きもしていなかったのか、パワードで強化された筋力を使ってのドレイク投げは見事にグリフォンに直撃し、グリフォンはドレイクの死骸と共に落下していく。

「ナギトさん、これって!」

「態勢を立て直す前に早く!」

 

 それを見たゆんゆんが詠唱を手早く済ませ。

「『カースド・ライトニング』ッッ!」

 

 闇色の稲妻を、グリフォンに向けて放ち、胸を貫かれたグリフォンはきりもみを交えて地面に叩きつけられた。

 

 

 死骸に寄せられてモンスターがこないように森に投げ込んだ後、盾を回収した俺達はさらに進んだ所で野営をすることにした。

 

 

「シートが全焼、荷物が焦げた以外で、特に被害はないね…お尻が痛いけど、我慢するよ」

「それにコン次郎が無事だったのは良かったよ…」

「優先順位がおかしいわ!他の荷物の心配もしなさいよ」

 

 アクセルハーツが荷物を確認している隣で、暗闇の中でボソボソと話す。

「しかし、安楽少女がやられていたのがな……」

「しかも、斬り口が滴っていたので、少し前にやられたと考えるべきでしょうね…誰かが先に倒したのか、それとも一撃熊がかぎ爪でやったのか…」

 とは言っても、夜の帳が降りたが灯を灯してモンスターを呼びたくない為真っ暗闇だが。

 

「ちょっと怖いし、俺が夜通し見張るしかねえな。敵感知スキルの出番だ」

「疲れてる所をすいませんが、お願いできますか?明日はできるだけ早起きしますから」

「一応ヒールをかけておきますね…」

 

 そうして1人しりとりをしながら夜を明かし、軽い朝食を取ってから再び歩き出すと………どうやら安楽少女をやったのは一撃熊ではないようだった。

 

 

「多分4人分か………?靴の跡があるな。騎士とか兵士にしちゃ少なすぎるし足跡の形がバラバラだぜ?」

 そう。かなり新しい足跡が先に続いていたのだ。

「なんだか探偵みたいだね……でも、それなら少しペースを上げればその人達と追いつくんじゃないか?」

「そうですね。この先はオークが住まう平野ですし、多人数で行った方がいいかもしれません」

 

 足跡について話している俺、ゆんゆん、リアさんの後ろでエーリカやシエロさんが。

「オークのオスは居ないんですよね。良かった……もし触られたら気絶しちゃう自信がありますよ」

「アタシも、オークにだけはファンになってもらいたくないわ…」

 

 と、胸を撫で下ろしていた。

 

「エーリカ、シエロ。昨日みたいにグリフォンやファイアードレイクとかがくるかもしれないんだから、気を抜かないでね」

「そうそう。女でもいけちゃうオークだっているかもしれねえし、油断は……」

 

リアさんが注意を促し、俺が乗っかろうとしたその時。

 

 

 

 

「ちょっ⁉︎待っ………ふああああああああ⁉︎」

 

 聞き覚えのある声で、悲鳴が響き渡った。

 




今回はダニエルが初登場でしたね。

彼を出すか、女騎士の天敵ポジを出すかで迷ったのですがわかりやすくエロに走るのはどうかと思ったのでこちらにしました。

また、アクセルハーツに新しい装備を付与しましたが、リアが「シェンロンガンダム」をイメージして考えたくらいで、他の2人は大してベースはありません。
 ナギトの鎌を使っているときのイメージが「ガンダムデスサイズ」なので……。
そして、彼を追い払うための爆弾に巻き込まれたナギトの運命やいかに……。

また、今回ナギトの新スキルがお披露目できませんでしたがそちらは次回に持ち越しとなりますのでどうぞよろしくお願いします。

それでは感想や評価をお待ちしております。

次回もお楽しみに!


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第13話 この厨二の里に到着を!

いよいよ紅魔の里にたどり着きます。


「ナギトさん!今の声って……」

「あれ、カズマさんだよな………?」

 

 突如聞こえてきた悲鳴は、聞き覚えのある声によるものだった。

「か、カズマって……たしか、最弱職なのに魔王軍の幹部を倒したって言う?」

 リアさんがそう聞いてくるので頷くとエーリカが首を傾げて。

 

「でも、あの足跡は4人分だったわよね?」

「カズマさんは4人パーティーのリーダーだからな。アークプリーストのアクアさんに、クルセイダーのダクネスさん。そして、ゆんゆんの親友であるアークウィザードのめぐみん。この3人を連れているはずだ」

「し、親友………じゃなくて、ライバルですからね?」

 そんな緩みきった顔で言われても説得力は皆無だ。

 

「上級職ばっかりじゃないですか!でも、そんなすごいパーティーのリーダーさんが、なんでオークに……」

 

 シエロさんがどうしてと言う顔をしているが、まさか日本のゲームの常識で動いたんじゃ……。

 

「なあ、もし男がオークを倒したらどうなる?」

 嫌な予感がしたので聞いてみると、ゆんゆんが。

「かなり優秀な遺伝子を持つオスという事で、ここら辺に住まうオーク達全員に追われ続けることになりますね」

「だから、オークが絡むクエストの場合は男の冒険者は潜伏などで姿を隠すか、本気で女装をして性別がバレないようにするとかの方法で対策が必要なんだ」

 リアさんのくれた追加情報を加味して予測すると、多分日本における常識に則り、メスのオークを何らかの手段で倒したカズマさんが、追加でやってきたメスのオーク達に追われたって所だろう。

 

「様子を見にいって、危なければ助けに行こう。ナギトは潜伏しつつ私たちから離れないようにね」

「こんな所で死にたくはないですし、そうさせてもらいます……エーリカ、俺が消えたら看破を使ってみてくれ」

 

 頷いた俺は潜伏ではなく、新しいスキルを使うことにした。

「『フェード・アウト』……」

「『看破』……え、ウソ⁉︎」

 

 このスキルは潜伏と似ているが性質がまるで違う。

 潜伏は、自分以外の仲間に対しても使える上に盗賊系の職業に就いていれば誰でも覚えられる反面、今いる平原のような隠れるものがないようなところじゃ使えない上に、敵感知などの干渉を受けるスキルには効果がない。

 しかも、あくまで気配を隠すスキルの為、完全に隠れたわけではないのだが………こちらは完全に姿を隠せるし気配をほぼ消せる。

 

 更には、場所を選ばないしスキルによる干渉もレベルが低いとできないと言うかなり強いスキルだ。

……自分以外には使えず、使っている時は他のスキルを使えなくなる上に、魔力の消費が多いからマナタイトがあったとしても乱用できないと言う弱点はあるが。

 

 ちなみにこれはチート能力による技ではなく、盗賊が『鎌』スキルを覚えると習得可能になるスキルだが、そもそも普通は盗賊が鎌を使うケースがないらしいのでかなりの裏技的なスキルである。

 

「そこにいるならそれで良いさ。よし、行こう!」

 

リアさんが先陣を切って進み、やがてオークたちが群がっているのを確認したので、スキルを解除しつつ遠巻きに見ていると。

 

 

「助けてえ!めぐみん、いつものやつを!いつものやつをおおおおお⁉︎」

「こんな近くでは使えませんよ!ダクネスも落ち込んでないで、カズマを助けてあげてください!」

「うう……私の夢が……!」

 

 

 カズマさんはオークに捕まり、何故か倒れているダクネスさんをめぐみんが起こそうとしていた。

「捕まってる……ウソでしょ⁉︎」

「本当だね……」

 エーリカとシエロさんが驚く一方で、俺とゆんゆんは苦笑いだけだ。

「うーん、多分あの人俺より弱いからな。強いのは頭と運だけだぜ」

「そういえば、仮面の悪魔も言ってましたもんね…」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!早く助けに行かないと!」

 

 リアさんが飛び出そうとするが、あんな大軍相手にランサーだけで何かができるとは思えないので押し留める。

 

「もう少し近づいたらゆんゆんの泥沼魔法で不意打ちした方がいいですよ!」

「そ、そうだね……」

 再び足跡を立てないように近づくと……さっきよりもやりとりがよく聞こえてくる。

 

 

 

「話をしよう!話をしよう‼︎」

「エロトークなら喜んで‼︎さあ、話してごらん?あんたの今までの恥ずかしい性癖をさあ‼︎」

 

「「「「…………」」」」

 ズボンを脱がされたのを見て、女性陣が顔を背けた。

「ゆんゆん。魔法の詠唱は…」

「大丈夫です……」

 

 視線を向けずに受け答えをしながらその光景を見続ける。

 

 

 

「や、やめてえええ!名前を!俺あんたの年も名前も聞いてない!俺、これが初体験になるかもしれないんだ!

 

 最初は自己紹介から!私サトウカズマと申します‼︎」

 

 なんで自己紹介を?

 

 

「ピチピチの16歳、オークのスワティーナーゼでございます!さあ、アンタの息子にも自己紹介してもらおうか!アンタの自慢の息子を紹介しなよ!」

 

 

……ああ、コレは一戦始めるつもりだ。

「嫌!まだアタシは清いままでいたいから見たくないわ!」

「今そんなものを見たら、ボク倒れちゃう……」

「な、ナギト!早くなんとかしないと、キミ以外は女の子なんだから!」

「そうですよ、早く指示を!」

 

 顔を赤くして狼狽える4人をもう少し楽しみたかったが、これ以上はやめておくか。

 

「ゆんゆん、頼んだ」

「はい。それでは……」

 

 ゆんゆんにGoサインを出した時には、既にカズマさんは服を剥かれ、残るはパンツのみとなっていて、もはや少女のように咽び泣き始める。

 

 

 

 

「うちの息子はシャイなんですぅ‼︎お互いの名前を知ったってことで今日のところはお開きをおおお!アクア!アクア助けてえええ‼︎」

「か、カズマさーん‼︎」

 

 

 そこに、飛び出したゆんゆんがオーク達に向けて魔法を解き放った!

 

「『ボトムレス・スワンプ』‼︎」

 

 突如現れた泥沼に、オーク達は続々と沈んでいく。

 

 そして、カズマさんはこちらを見て。

 

「ゆんゆん!ゆんゆんじゃないか!う、うわあああああああ‼︎」

 

 よほど怖かったのか、泣き叫んでいた。

 

「紅魔の里に住まうオーク達!ご近所のよしみで今回のところは見逃してあげるわ。さあ、仲間を連れて立ち去りなさい!」

 

 その後からアクセルハーツの面々が出てきたのを見て不利だと思ったのか、オーク達はカズマさんを置いて立ち去っていった。

 

 

 

 静かになったその場では、カズマさんが泣きながらこちらに這いずってきた。

「ゆんゆん!ゆんゆん‼︎感謝しますううううううううっ‼︎」

「ええ⁉︎大丈夫、もう大丈夫ですから!あ、あの……大事なローブが洟まみれに………‼︎」

 

 

「ああああああっ⁉︎」

 助けたのにローブを鼻水まみれにされたゆんゆんが、困ったように悲鳴を上げた。

 

 

 平原地帯を抜け、森の中に入った俺達は小休息兼顔合わせを行なっていた。

 

「怖かったのね、カズマ。もう大丈夫、大丈夫よ…」

 

 アクアさんに介抱されているカズマさんは、先程のトラウマからか全く離れようともせず。

 

「ゆんゆん、感謝するよ。どれくらい感謝してるかと言えば。これからの人生で尊敬する人は?って聞かれたなら、ゆんゆんですって即答するくらいに感謝してる」

「や、やめてください。それ何かの嫌がらせみたいですから…」

 

 よくわからないお礼を述べて、ゆんゆんが困った顔をしていた。

 

「地図を見るにまだ距離がありそうだな……でも、コレだけいればなんとか…」

「そうだね。ようやく安心できそうだよ」

「アタシもうヘトヘト…」

「ボクも……」

 カズマさんはトラウマを抱えて使い物にならず、ダクネスさんはただの壁。アクアさんは制御ができないし、めぐみんは使い所が難しすぎると言うケチはつくけどな。

 

 口が裂けても言えないことを考えていると、4人の視線がこちらに向いていた。

 

「ナギト?そのお姉さん達は一体なんなのです?」

「しかも、1人はロイエンタール家のシルエルト嬢ではないか…」

 

 どうやらアクセルハーツのことを知らなかったようだ。

 

「この人達はここ最近仲良くなった踊り子さん達だよ。アクセルハーツって言って、今回の旅に助っ人としてついてきてもらったんだ」

「成る程。つまりはゆんゆんとナギトの仲間というところですか……ゆんゆん?私の知らない所で知り合いが増えていますね?」

 

 ヤキモチを妬いているめぐみんを横目に、自己紹介するように促すと3人が前に出た。

「ランサーのリアです。頼りにしてますよ」

「レンジャーのエーリカちゃんでーす!アタシの可愛さを覚えて帰ってね!」

「アークプリーストのシエロです……お久しぶりです、ララティーナ様」

「あ、あの…今は冒険者同士なんだし、ララティーナはやめてくれるとありがたいのだが…」

 やはり貴族同士で初対面というわけではなかったらしく、ダクネスさんは顔を赤くしていた。

 

「で、こっちにおわすのはサトウカズマとその御一行様だ。

 

 そこで丸まってるのがカズマさんで、膝枕してんのがアクアさん。とんがり帽子がめぐみんで、残りがダスティネス・フォード・ララティーナ」

「おい!残り物扱いは良いが、なんで私はフルネームなんだ!私にはダクネスという通り名が…」

「いや、そっちはいいの……?」

エーリカが困惑していると、めぐみんがつっかかってくる。

 

「おい、私の前置きがとんがり帽子とはどういう事か聞こうじゃないか。偉大なる爆裂魔法の使い手たるこの私を……」

「とんがり帽子の方が言いやすいんだから良いだろ……」

 

 相変わらず沸点の低いめぐみんを、疲れていることもあっていなしていると、ゆんゆんが不思議そうに。

 

「でも、どうしてこんなところに?めぐみんも、やっぱり里のみんなが心配になったの?」

 

 それに対してめぐみんは恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「ちょっと用事を思い出しただけです…」

「素直じゃないわね。やっぱりみんなが心配なんでしょ?そうなんでしょ?」

 そこでよせば良いのに、ゆんゆんが親戚のおばさんみたいな変な絡み方をするから……

 

 

 めぐみんは、ムッとした表情で立ち上がり。

「カズマにナギト。ゆんゆんの恥ずかしい秘密を教えてあげましょう。我々紅魔族は、体のどこかに刺青があるのですよ。そしてゆんゆんの刺青の場所は、内腿のそれは際どいところに………」

「やめてちょっと‼︎ナギトさん達に何を言うのよ!というか、なんで私の刺青の場所を知ってるのよ!

 爆裂魔法なんてネタ魔法使えないだろうし、めぐみんを取り押さえるなんて簡単なんだから!」

 ゆんゆんとめぐみんが威嚇しあっている後ろでは?

 

「うわ、あの人の顔が変わったわよ…」

「うん、さっきまでのトラウマ顔が嘘のように……」

「ダニエルやチャーリーに近いものがあるのかもしれないね…」

 アクセルハーツの面々がカズマさんの変貌に引いた視線を送るが、これに俺はピンときた。

 

「でも、それならめぐみんにもついてるんだよな?場所は違いとかってあるのか?」

 

 露出している部分にはないってことは……?と考え出す俺にめぐみんが顔を赤くして。

「ナギト、余計なことは言わなくて良いのです!それより支援魔法をください、アクア!この子に痛い目を見せてやります!」

「ひ、卑怯者!めぐみんはやっぱりズルい!昔からずっとズルい‼︎」

 

 と、こんな感じで騒いでたら当然と言えば当然なのか。

 

 

「お遊びはここまでだ、何か来るぜ⁉︎」

 何かが近づいてくる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ここら辺を探せ!人間の声がしやがったぞ!」

 耳障りの悪い声が騒ぎ立てるのを、咄嗟に茂みに隠れながら覗いていると、リアさんが袖を引っ張ってきて……。

「ナギト、潜伏は……!」

「こんな緊急事態で発動できませんって…今は静かにしてくれ、バレちまう……」

 

 静かにするように促して息を潜めようとするが……

 

「魔王軍ですか………短気なゆんゆんが、いつまでも大声を出しているからですよ!」

「私よりめぐみんの方が短気じゃない!」

「なにおう⁉︎」

 

 紅魔族の2人が喧嘩を始めやがった。

 

「めぐみん、今はそんなことをしている場合では……!」

「ゆんゆん落ち着け、見つかりたいのかよ…!」

 

 ダクネスさんと俺の2人で引き留めるも、2人は収まりがつかないようで無言で取っ組み合いを続ける。

 

 

 

 俺とダクネスさんはお前も止めろとカズマさんを振り向くが………。

 

 

「おい‼︎そんなことよりもゆんゆんの刺青の場所を詳しく‼︎」

「「ちょ⁉︎」」

 

 

 

「見つけたここだ!こんなところに隠れてやがった‼︎」

 

 

「畜生、これなら合流しない方がマシだったぜ!」

「お前と言うヤツは!お前と言うヤツは‼︎」

 

 カズマさんのやらかしにより、強制的に戦闘に突入した!

 

 

「見ろよ……紅魔のガキがいるぜ」

 茂みから出てきた俺たちを待ち構えていた敵モンスターは、ゴブリンにオーガなど、人型の鬼系モンスターが主だったが、その雰囲気は違う。

 

 …しっかりと武装して、それなりの訓練を積んでいる兵士と言ったところだ。

 

 これまでの相手とは一味違うだろう奴らに、どう戦うかと悩んでいた俺の前にアクアさんが立ち塞がった。

 

 その行動の意図がわからず、固唾を飲んで見守っていると、急に口を歪めた。

 

 

「…………お?見た感じ悪魔もどきじゃないですか。やだやだー!下級悪魔にも昇格できない鬼みたいな悪魔崩れがなんですか、なんですかぁー⁉︎」

 

…………その煽りに、魔王軍の兵士はこめかみに血管を見せているが、アクアさんはさらに続ける。

………俺もあの煽り食らったら流石に鎌を叩き込みかねない。

 

「プークスクス‼︎今日のところは見逃してあげるからあっちにいって。

 

 

 ほら、あっちに行って‼︎」

 

 

 つまり、有効打を持たない相手に対してあそこまで煽ったと………?

 

 もうつっこむ気力も失せていた俺だったが、それに呼応するように現れた増援を前に、いやでも緊張感は高まる。

 

 

「おい、そこのプリースト………なんだって?散々煮湯を飲まされた紅魔族のガキが2匹だ。見逃してやるわけがねえだろうが‼︎」

 そう言って、20匹くらいいる兵士の視線はほぼ紅魔族の面々に向けられている。

 

 

「リアさん!ダクネスさん!」

「ああ、シエロ!一緒にゆんゆんを守るよ!エーリカはナギトを!」

「ああ、めぐみん達は私に任せろ!」

 

 

 

 ゆんゆんとめぐみんを守るようにリアさん、シエロさん、ダクネスさんが立ち塞がり、俺とエーリカがいつでも飛び掛かれるように構えていると、後ろで魔力が集まる気配が……って⁉︎

 

「先ほどはよくもネタ魔法と言ってくれましたね?ネタ魔法の凄さを久しぶりに見せつけてあげます!」

「ちょっと待ってよ………!まさか⁉︎」

 

 

 ゆんゆんが青い顔をして止めようとするが、今更あいつが止めるわけもなく。

 

 

「エーリカ、頭を低くして耳を塞げ!」

「い、いきなり何する…」

「『エクスプロージョン』ッッ‼︎」

 

 エーリカの頭を掴んで地面に押し付けると同時に、めぐみんが爆裂魔法をぶっ放した‼︎

 

 

 

 至近距離で放たれたことで巻き起こった肌を焦すような熱風と爆音に片耳を抑え、顔を顰めながらもそれが止むのを待つ。

 

 

 そして、長い時間が経ったような感覚に襲われながら視線を上げると、えぐられた木々に煮えたぎる大地、そこに倒れ伏す魔王軍の兵士達が視界に飛び込んでくる。

 

「ナギト、助かったわ……それにしてもコレが」

「ああ、アレが爆裂魔法さ……ったく。やってくれるぜ」

 

 グワングワンする頭を抑えつつ後ろを振り向くと、その場にいた味方全員が衝撃に巻き込まれている。

………死傷者はいないがコレはひどい。

 

 

 

「見ましたか!

 我が奥義たる爆裂魔法を!

 

 コレでもまたネタ魔法と言いますか?

 

 

 どうですカズマ!今の爆裂魔法は何点ですか‼︎」

「マイナス90点をくれてやる!

 どうすんだ!お前をおぶって逃げられるわけがねえだろうが!」

 

「ナギトさん、無事でよかった……」

「うう……ひどい目にあった」

「すごい威力だったね…」

 ゆんゆん、リアさん、シエロさんをなんとか立ち上がらせていると、生き残っていたゴブリン達の後ろから更なる大群が走ってきていた。

 

 

「び、びびび、ビックリさせやがって………!

 

 

 だが、今ので援軍がやってきたぞ、覚悟しろよお前ら……!

 

 

 泣いて命乞いをするが良い‼︎絶対に許さねえからな‼︎」

 

 それをチャンスと受け取った1匹がそんな啖呵を切るが……その「大群」の様子がおかしい。

 

 援軍というよりも、敗走兵みたいな…………。

 

 

 そんな俺の疑問を口にするまでもなく、答えはすぐそこにきた。

 

 

「な……⁉︎」

「こいつら一体……」

 突然俺たちの前にたった光の柱から、4人の男女が現れたのだ。

 

 

 ライダースーツにジャケットなど、それぞれ格好はバラバラだが………共通点もある。

 

 全員がテレポートを使える魔法使いであることと………紅い瞳を持っていることだ。

 

 

 その4人はこちらに声をかけることもなく、それぞれ詠唱を開始する。

 

 いや、詠唱というより………

 

「肉片も残らず消え去るが良い。我が心の深淵に眠る、闇の炎によって‼︎」

 

「永久に眠れ。我が氷の腕に抱かれて……‼︎」

 

 かっこつけ……かな?

 

 だが、それを口にすることはしない。いや………

 

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッッ!」

「『ライト・オブ・セイバー』‼︎

「セイバーッッ‼︎」

「バーッ!」

 

 残っていた魔王軍の残党を残らず倒した魔法の威力を前には、余計な口が挟まる余地がない。

 

 

 そして、そこに静寂が戻った時、その中の1人がこちらに声をかけてきた。

 

 

 

「遠く轟く爆発音に来てみれば……めぐみんとゆんゆんじゃないか」

 口ぶりからしてそこまで悪いヤツでもなさそうなその男に、魔力が回復してきたのか。

めぐみんがのっそりと立ち上がり。

 

「里のピンチだと聞いてきたのですが……」

 と、ここにきた理由を話すが、4人は首を傾げるだけだ。

 

 その反応にこちらも首を傾げていると、ふと思いついたように。

 

「所で、その人達はめぐみんの冒険仲間かい?」

 ゆんゆんの名前がここで出てこないのを見るに、ゆんゆんは故郷でもぼっちなのかもしれない。

 

 

 うなずくめぐみんに、その男は一息ついて。

 

 

「我が名はぶっころりー。紅魔族随一の靴屋のせがれにして、上級魔法を操るもの‼︎」

 

 と、紅魔族特有の名乗り上げをして来たので俺もやろうかと思ったが………だめだ、咄嗟に思いつかねえ。

 

「コレはどうも。我が名はサトウカズマと申します。

 

 アクセルの街で数多のスキルを習得し、魔王軍の幹部と渡り合った者です」

 どうしたもんかと悩んでいると、カズマさんがそれっぽく名乗り返していて、紅魔族の人たちはいい反応を見せている。

 

 そして、その視線は俺にも……

「俺はナギト。ゆんゆんの冒険仲間だ……よろしく頼むぜ」

「……さすが、里随一の変わり者のゆんゆん。集まる仲間も変わり者って所かな」

 良い年こいてそうで厨二病がデフォルトな奴らには言われたくないが、まあ良しとしよう。

 

 他の奴も一通り自己紹介を終えると、ぶっころりーさん達がテレポートで送ってくれることに。

 

 

 そして……テレポートの光が止んだ時、そこには。

 

 

「紅魔の里へようこそ、外の人たち。

 

 めぐみんもゆんゆんも、よく帰って来たね!」

 

 正に農村をイメージさせるような風景が、俺の眼下に広がっているのであった。

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
ここでナギトの新スキルを一つ。

鎌 使用ポイント1
鎌の扱いが上手くなるスキル。あまり使い手がいない。

フェードアウト 使用ポイント2
ナギトの新スキルで、盗賊が『鎌』スキルを覚えると習得可能になる特殊スキル。
潜伏と違って1人用かつ魔力の消費量がやや多いかわりに、場所を選ばず、他のスキルの干渉を受けにくく、気配だけでなく姿を完全に消せる。


いかがでしたか?次からいよいよシルビアとの戦いが始まります。ぜひお楽しみに!

感想や評価もよろしくお願いします。


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第14話 この転生者に郷愁を!

生存報告です。
色々悩んだ末にグダリましたが許していただけると幸いです。


 紅魔の里に辿り着いた俺たちは、ひとまずは手紙の送り主……つまり、族長さんに話を聞くことにした。

 

 だが………俺たちはそこで、今回の旅の目的を揺るがしかねない事実を聞かされることになる。

 

 

「お………お父さん?もう一度言ってくれない?」

 

 手紙を受け取ったゆんゆんが、本気で意味がわからないと言う顔で聞き返すが、それはそうだろう。

 

 

 なぜなら……

「いやあ、アレはただの近況報告だよ。つい筆が乗ってしまってな…」

 

 あの、焦燥感を煽られる文面の手紙は…………ただの近況報告だと宣ったのだ。 

 

「ちょっと何を言っているのか分からないです」

 その場の全員が思ったであろうことをカズマさんが代弁する。

 

 

「この手紙を読む頃にはこの世にいないだろう、って…」

「ああ、紅魔族のいつもの時候の挨拶じゃないか」

 

 

 

「時効の挨拶って……なんたらな秋のかんたらーって奴ですよね?」

「ああ。そうだよ……少なくとも、私が知ってるのはそれだよ」

「それがどうしてそんな挨拶になるのよ…?」

「ボクが知りたいです…」

 父娘のやりとりを聞いた俺とアクセルハーツの3人の認識が、「訳がわからん」で一致した瞬間である。

 

 

「魔王軍の基地を破壊することも出来ないって……!」

「ああ。破壊するか観光名所とするかで、意見が割れているんだよ…」

 

 そんな危ない観光名所があってたまるか。

 

「………ゆんゆん。お前の親父さんを一発ぶん殴って良いか?」

「………良いですよ」

「ゆんゆん⁉︎」

 

 娘からのまさかの発言に愕然としているが、今までの行動とその結果を鑑みればさもありなんだよな……。

 

 

 と、ここでダクネスさんが思い出したように問いかけた。

「待て。魔王軍の軍事基地は本当に建っているのか⁉︎」

「ええ、来てますよ?

 

 魔法に強いのが。そろそろくる頃かな………」

 

 と、待ち合わせでもしてるかのような軽さを見せ始めた族長に最早胡散臭さを覚え始めたその時だった。

 

 

「魔王軍警報。魔王軍警報。

 

 手の空いている者は至急、迎撃に向かってください。

 

 敵の数は千匹程度かと思われます」

「「千⁉︎」」

 

 アナウンスが流れ、その内容にその場の皆が息を呑む………はずだが、何故か紅魔族の面々は落ち着いた顔をしている。

 

「なあ、いくらなんでも落ち着きすぎじゃねえか?千って……ここの人口の倍くらいはいるだろ⁉︎」

 

 その落ち着き用に思わず問いかけるが、族長さん達は散歩にでも誘う様に外に出る様に促した。

「まあ落ち着いてくださいよお客人。良いものを見せてあげますので私について来てください」

 

 

 そんな言葉の意味が全くわからなかったが………大人しく族長の後をついていった俺は、嫌と言うほど知ることになった。

 

 

 

 

 それは、戦闘というにはあまりに圧倒的すぎた。

 

「シルビア様〜!撤退を!どうか、貴方様だけでも撤退をおおお‼︎」

「畜生、畜生!せめて奴らに近づければああああ⁉︎」

「だから紅魔の里を攻めるのは反対したんだ。だから、俺は行きたくないと……!」

 

 里にある崖の下には、泣き叫び、逃げ惑う魔王軍の兵士達。

 

 

 石の投擲を食らわせようとした大きな鬼も、投げることなく崩れ落ちて行く。

 

 

 迎撃に出た紅魔族達数十名達の上級魔法の嵐は、最早どっちが敵かわからなくなるレベルであった。

 

「どうです?観光の目玉にしようと思うんですよ!」

 

 負けることがないと知ってるからこその考えか。

 

 軍事基地があれば、当然兵士は補充されてまた攻めてくる。

 

 そこを魔法の雨あられで倒して行くのは、闘技場で奴隷を戦わせる見世物よろしく人気が出ると踏んで、観光名所にしようって訳だな。

 

 

………ホント、この里どうなってんの?

 俺は、その光景を少し引きながら眺めているのであった。

 

 

 

 一通り見終わった後、ゆんゆんはあるえという今回の騒動の発端とも呼ぶべき黒幕を制裁してくると離れていったので、俺はアクセルハーツと一緒に宿を探そうとしたが、族長さんに呼び止められていた。

 

 と、言うのも……

 

「ゆんゆんの素行?なんでそんなまた」

「いやあ、娘が時折手紙をくれるんだがね……親としては心配が拭えないんだよ」

「あの子はお友達がいないことがあってかかなりのお人好しでしょう?それで悪い人に騙されてないかと………」

 

 

 奥さん共々、ゆんゆんの普段の生活について聞きたいらしい。

 ちなみに奥さん………つまりゆんゆんの母親は、どこかゆんゆんの面影がある、セミロングで黒く艶のある髪の、若干口元や目元に小皺のある綺麗な人だった。………ちなみに、体型は遺伝の様だが、性格はそうでもないらしい。

 

 

「で、娘の手紙に君のことが書いてあったから、いったいどう言う男なのかと思ったんだよ」

「は、はあ……。と言うか、ゆんゆんって紅魔の里でも友達が……?」

 

 ゆんゆんが俺をどう書いたのかは知らないが、どうやら嫌われてはない様でほっとしながら聞いてみるとやっぱりか、と言う顔をしている奥さんが。

「ええ。あの子は名乗り上げを恥ずかしがるほどの変わり者……と見られていて、お友達があんまりいなかったんです。それに……」

 

 水晶に手を当て、そこから出てきた映像を見る様に言われたので見ると………。

 

「………1人バースデーパーティーに、1人チェス。1人ボードゲームって………!」

 

 そこには目を背けたくなる様な寂しい行いの数々が映し出されていた。

「と、この様な行動をとり始めてまして……」

「………トランプタワーがまだマシに思える程だぜ……」

 

 あの子はギルドの片隅にあるテーブルで、トランプタワーやジグソーパズルなどの一人遊びをやってることが多いが……その前提条件でさえこの切なさを掻き消してはくれない。

 

 

 そんな映像をみていると、族長さん達は先ほどまでとは打って変わって真剣な顔をこちらに向けて来た。

「それで……あの子はアクセルの街でうまくやっているのかね?」

 

………え?

「そんなの本人に聞いてみたら………いや、あいつは「大丈夫」しか言わねーか…」

「そうなんです。とても気遣いでいい子ではあるんですが……その分、自分のことについてあんまり話してくれないものでして」

 どうやら月並みのことしか手紙には書いてない様だった。

 

 要するにこの質問は、純粋に娘を心配する親心だな。

………親に会うことができない俺からすれば、向けてもらえることが羨ましい。

 

 

 

 

 でも、それなら……。

「まあ、たしかにぼっちでチョロい所はあるし、1人で勘違いして自爆することもあるけれど。

 めぐみんやカズマさん達。そしてリアさん……困った時に手を差し伸べてくれる人がいて、ゆんゆんはそれを心から感謝出来る。

 

 

 だから……そこまで心配しなくても大丈夫です」

 

 せめて、目の前にある親心には報いてやろうと思う。

 

 

 

 そんな意図を持たせた言葉が、どう届いたのかはわからない。

 

 

 だがしばらくして、俺の言葉を聞いていた族長さんが。

「……そうか。では最後に……君はウチの娘をどう思っているのだね?」

 

 と、とんでもない質問を投げつけてきた。最後の質問らしく直球なのに答えに悩むやつだ。

 

 

……全く、似てない親子だと思ってたが、親子揃って無茶振りしやがるし妙に強引じゃねえか。

 

 改めて俺とアイツの関係を考える。

 

 先輩………同業者? なんか事務的すぎるな。

 

 恋人じゃないし………パーティーメンバーでもない。それを言ったら殺される可能性が高いし、2人でパーティーと呼んでいいかわからん。

 

 そうなると知り合い…………いや、知り合いと言うにはもう関わりが濃すぎるだろう。

 

 

 そうなると………やっぱり、あれだよな。

「なんだかんだで、一緒にいて楽しいやつ…………「友達」だと思ってます」

 

 

 

 「友達」…………この一言に尽きるだろう。

 

 

 そして、その言葉は。

「そうか。ありがとう………これからも娘のことを頼む」

「……が、頑張ります…」

………少し気になるところはあるけど、どうやら報いる事につながった様だった。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 オークのオスは絶滅したと聞いていたが、どうやら後一匹いたらしい。

 

 その発見者の名前はめぐみんで、そのオークの個体名は「サトウカズマ」。

 

 発見者がゆんゆんの家に逃げ込んだことで、その存在が発覚した………。

 

 

「はじめてみた時からスケベそうだなーとは思ってたけど、まさか本当にやるなんてね」

「でも、めぐみんが言うにはゆいゆいさん……母親の許可をもらっていたらしいぜ?」

 

 紅魔の里の市街地で、俺はリアさん達に昨日起こったことを話していた。

 

 ちなみにさっきの話をまとめると、昨夜カズマさんが夜這いをかけようとして来たから、ゆんゆんの家に逃げて来たって話だな。

「お母さんまで何をさせようとしてるんだ……?」

 エーリカとリアさんが引いた様に話す隣ではシエロさんが。

 

「紅魔の里の武器は質がいいって聞きますからね、胸が高鳴ります!」

 1人、これから行く場所へと心を躍らせていた。

 

 ライトさんに聞いたのだが、紅魔の里の武器は出来が良い。

 

 インフェルノの魔法で通常より高い温度で鉄を精錬するかららしいが……そんな武器を拝見できると言うことで、シエロさんの武闘派貴族の血が騒ぐ様だ。

 

「シエロさんって、意外にも武器マニアとか…?」

「そうだね……気弱に見えて、意外と脳筋な発言する事も多いかな」

「ナギト君!リアちゃんまでひどいよ!」

 

 そんなシエロさんの提案によりまずは鍛冶屋へ行き、その後で色々回った後に、ゆんゆんが待つ「レッド・プリズン」物騒な名前の魔法学校がゴールになる。

 

「地図を片手に紅魔の里を回る……なんだかオリエンテーリングみたいだ」

 

 因みにゆんゆんは俺たちについてくるかと思っていたが、めぐみんとの先約があるとこの紙を渡してきた。

 

「なら、まずはチェックポイントに到達ね!」

 エーリカの声の通り、たどり着いた鍛冶屋の扉を開けると。

 

「おや。4人もここに来たのか?」

 

 ダクネスさんがこちらに気づいて声をかけて来た。

 

 

 

「うわぁ……!すごいですね。綺麗な光沢出してますよ」

「おお!わかってくれるか嬢ちゃん!」

 

 シエロさんと鍛冶屋のおっちゃんが、武器談義を繰り広げている隣で、俺達はダクネスさんと雑談をしていた。

 

「ここの鍛冶屋とは随分前から懇意にさせてもらっていてな。私の前の鎧もここで買ったのだ。

 で、いまはバニル討伐の時に貰った鎧をつけているのだが、やはりここの鎧に馴染みがあるので……」

「ほーん?

 鎧がなくても充分硬そうだけどな。でもまあ、そんなに良いものなら俺も買おうかな」

「アタシは良いわ。おニューの装備下ろしたばっかりだもの」

「うん。私も今の装備で十分かな」

 

 何か言いたげなダクネスさんは放っておいて武器達をみると、確かに今の武器よりも質が良さそうな武器が並んでいた。

 

「なんか武器を見ると心が躍るんだよな……男の子のサガってヤツかな」

「私もだ。この武器でどんな攻めができるのかと………」

「妄想と一緒にすんな!」

 

 嫌な同意をしやがったダクネスさんに突っ込みながら、様々な武器のウインドウショッピングを楽しんだ次は。

 

 

「猫耳神社……くだらねえもん祀りやがって」

「可愛さ10000パーセントになれますように!」

 同郷者の奇行の足跡に頭を悩ませ。

 

 

「で、伝説の聖剣って、これがあのなんとかカリバー⁉︎」

「シエロ?アレは王族のところにある物じゃ……」

 

 パチモンの聖剣にシエロさんが反応して。

 

 

「んー……落ち着くね。それに、このお茶に団子、どこか懐かしい様な味がするよ」

「……ん」

 甘味処でリアさんが気になる発言をしたりした。

 

 

 他にも童話を想起する湖や、里随一(唯一)の服屋。

 さらには「サキュバスランジェリー」と言うときめくワードフルコンプな店など、独創的な施設の数々を巡った末に…。

 

 

 

「ようこそ、わが母校レッド・プリズンへ!」

「よ、ようこそ………」

 

 ゴールに辿り着いた俺たちは、赤を基調とした制服姿のめぐみん達から歓迎を受けていた。

 

「何で、ゆんゆんまで……と言うか、ナギトの連れの目が痛いんだが?」

「昨日私にしたことを考えれば当然でしょう?あと、ゆんゆんに関しては泊まりに行ったら、仲間が泊まっているのに声をかけられずに寂しそうだったので誘っておいたのですよ」

「べ、別に寂しいだなんて……」

 

 さっきも少し触れたが、昨日俺達は族長さんと奥さんの厚意に預かり、ゆんゆんの家に泊めてもらっていた。

 

 それを踏まえてめぐみんの発言を元に推測してみると、恐らくゆんゆんが俺たちの為に何かしたいがどうしようか悩んでいた所に、逃げてきためぐみんが学園でのレクリエーションを持ちかけたのだろう。

 

 で、俺達が観光している間に準備をしていたってところか。

 

 

 ゆんゆんの足取りを考えていると、アクアさんが興味深そうにその制服を見ている。

 

「それってめぐみん達の制服?可愛いわね」

「そうでしょう、そうでしょう!伝統ある魔法学園を案内するのですから、正装に着替えて当然なのです」

 得意げなめぐみんだが、普段の格好とあんまり変わらないように思える。むしろ、こっちの方がゴテゴテついて豪華だ。

「自分が懐かしくなって着替えただけだろ」

「カズマってば、学校のことになると途端に辛辣よね……。きっと、馴染めなかった古傷が痛むのね」

「おいやめろ!プライパシーの侵害だぞ」

 

 

 そんなやり取りが聞こえて来る隣では、めぐみんと同じ格好をしたゆんゆんがいた………いつもより露出少ない格好で、何で恥ずかしがってるのかは謎だが。

「ナギトさん。その………似合ってますか?」

 

 そう言うことね完全に理解したわ。 

「ああ。委員長!って感じがしてすごく良いよ」

 

 ちなみに今の俺はいつもの冒険に行くときの格好から防具、マントを脱ぎ、黒いシャツにグレーのズボンの軽装状態だ……地味とか言うな、シンプルイズベストだ。

 

「いいんちょう?と言うのはよくわかりませんが、褒めていただいて嬉しいです……」

 ホッとしたように微笑むゆんゆんは、もし同じく日本にいたら間違いなく惚れてそうなレベルで可愛かった。

………マジで、見た目や性格は間違いなく良いのに、どうしてあんな虚しい一人遊びに興じるのやら。

 

 

 

「何だか微笑ましいね」

「そうね……今のゆんゆんはアタシに勝るとも劣らない可愛さよ」

「あはは……」

 

 後ろの3人の声に何だかむず痒い空気を感じていると、突然ドアがバタンと開かれて、そこには3人の人影が立っていた。

 

 

 その3人はめぐみん達と同じ制服を身に纏っており、決めポーズをとっていて、やがてそのうちの1人………ゆんゆん以上に色々育っている子が。

 

「我が名はあるえ。紅魔族随一の発育にして、やがて作家を目指すもの……!」

 

 それに続いて勝ち気そうなツインテールの子も。

「我が名はふにふら!紅魔族随一の弟思いにして、ブラコンと呼ばれし者!」

 

「我が名はどどんご!紅魔族随一の……!随一の………なんだっけ?」

 

「特に思い浮かばないなら、普通に名乗れば良いのに…」

「この流れでそれは無理だぜ、リアさん……まあ、後の2人も発育とブラコンだし何とかなるか……」

 リアさんの呟きに待ったをかけるがときすでに遅く。

 

 

「聞こえてるわよ!」

「ま、まだかっこいい名乗りを思い付いてないだけよ!」

「ご、ごめんつい…」

「天然は程々にお願いしますよ…」

 

 ふにふらとどどんこがこちらに詰め寄って来るのをいなしていると、めぐみんが。

「あるえ……それに、どどんことふにくら…」

「ふにふらよ!わざとね、わざとやってるでしょ!」

 

 ふにくら……じゃない、ふにふらに突っ込まれていた。

 

「里に帰ってきたって聞いて、あるえとふにふらを誘って会いにきたのよ」

「そう言うことですか……ところであるえ?うっかり信じてしまう人がいるので、もうあんな手紙は送らないようにしてくださいよ」

 

 そして、どどんこにここにきたわけを説明されためぐみんの釘刺しで、ゆんゆんにも被害が及んでいるが、この話題を出すならそれは避けられないだろう。

 

 

 と、ここでふにふら達が妙なことを言い出した。

 

「それにしても、手紙に書いてあったゆんゆんのパーティーメンバーって実在したのね!」

「本当よね。今度見に行ってやろうとおもってたけど……でも変ね。そうなると1人足りないし、4人くらい当てはまらない人もいるけどこの人たちは一体……?」

 

 

 1人足りない? 4人多い?

 

 

 その言葉の意味がわからず、その場の全員の視線がゆんゆんに向くと、ゆんゆんは意を決したように。

 

 

「しょ、紹介します!

 この人達が私のパーティーメンバーの冒険者の男の子にアークプリーストの女の子!

 

 ここにはいないけど、とても頑丈な金髪のクルセイダーのお姉さんもいるのよ!

 

 それで、最近ぼっちしていためぐみんを、仲間に誘おうとして………!」

 

 やたらな早口で頓珍漢なことを言い出していた。

 

「おい…」

「それって………」

 

 引いた目を送る俺や、めぐみんの方を見ようとしなかったが、アクアさんは………

 

 

「ええ。パーティーメンバーじゃないけどいつも助けてもらってるわ!パーティーメンバーじゃないけど!」

「ええ⁉︎」

 特に気にしてないように思わせて、思いっきり突き放していた。

 

「ええ。パーティーメンバーじゃありませんね」

「ちょ⁉︎」

 

 さらにめぐみんにも否定され、変な汗を浮かべ始めたゆんゆんに。

 

 

「「でしょうね……」」

「………………‼︎」

 

 ふにふらとどどんこがトドメを刺して、ゆんゆんは恥ずかしいのか顔を覆っていた………そりゃそうだ。これは、めぐみんとゆんゆんの立ち位置が逆だ。

 

「ナギト君。助け舟を………」

「妙な嘘を吐かなけりゃ良いのによ……」

 

 シエロさんに頷き返し、俺が前に出た。

「俺がゆんゆんと一応協力関係だよ。そんで、後ろにいるこの3人は今回の旅の助っ人で、「アクセルハーツ」って言う踊り子ユニット達だ」

 

 ゆんゆんが救いの神でも見るような目を向けてくる………もうちょっとよいしょしてやるかな。

 

「へえ……ま、まあ!変わり者だったとしても1人くらいはちゃんと仲間がいるのね!」

「ちなみに、あなたは何て名前なの?」

 

 

 どどんこに名前を聞かれたので、ちょっと小洒落て答えてやることにした。

「俺はナギト。

 

 逃げも隠れもするが、嘘はつかないマトイナギトだ。

 

 お見知り置き頼むぜ」

「え、ええ……よろしく、お願いします……」

 何故か狼狽えるどどんこ達の意味がわからないでいると、アクアさんが。

 

 

 

「でも、私はゆんゆんのことを心の中で「カエルスレイヤー」と呼んでいるわ」

「なにそれ?」

 一言一言を紡ぐように変なことを言い出し、カズマさんが困惑していた。

 

 

「ほら、ピカピカ光る剣みたいな魔法で助けてくれたじゃない」

 それって「ライト・オブ・セイバー」だよなと考えていると、同じことを考えていたのかあるえが。

 

「おや、立派な上級魔法じゃないか」

「ええ?ゆんゆんって中級魔法使いじゃなかったの?」

 

 

 それに乗っかるようにふにふらも………ん?

「中級魔法使い?普通、中級覚えてから上級魔法覚えるもんじゃ……」

「紅魔族はいきなり上級魔法から覚えるんだよ」

「マジかよ」

 王道もへったくれもないな。

 

 

「ゆんゆんって、半端な時期に中級魔法を覚えちゃったから、卒業までに上級魔法を覚えられなかったのよね」

「も、もう!そんなこと言わなくて良いよ………」

 

 ふにふらのさらなる暴露に恥ずかしそうにするゆんゆんの隣では、何故かめぐみんが表情を変えた。

 

 

 その意味をめぐみんに聞こうとしたが、それを問うことはできなかった………何というか、罪悪感のようなものを感じたから。

 

 

 

 

 小一時間後。

 

 教室に差し込んだ夕日を横目に、俺はゆんゆんに教室に残ってもらっていた。

「………さっきふにふらが言っていたのって…」

 

 さっきのふにふらの話とそれを聞いていためぐみんの顔が妙に忘れられなかったのだ。

「……めぐみんの方を見ていたということは、気になるって事ですよね?」

「……まあな。お前が意味もなく中級魔法を取る奴じゃないってことはわかっているつもりだ」

 

 紅魔族は、生まれながらのアークウィザードであり、普通なら初級から順を踏まないといけない所をいきなり上級魔法から覚えられるとんでもない一族で。

 

 その中でもゆんゆんは族長の娘なだけあって高い魔力を持つ、正にエリート中のエリートだ。

 

 それなのに、何故わざわざ中級魔法を覚えているのかが不思議で仕方なかったのだ。

 

 

 思ったことを言ってみると、ゆんゆんは少し照れ臭そうにした後、ぽつりと話し始めた。

 

 

「成る程な……」

「私は大したことはしていませんよ。ただ、放っておけなかっただけです」

 

 話をまとめるとこうなる。

 

 今から2年くらい前のこと。

 当時ここの学生だっためぐみんは、生まれ持った魔力の膨大さからいずれ歴史に名を残す大魔法使いになると将来を期待されていたが、そんな周囲とは裏腹に爆裂魔法を覚えようとしていた。

 

 爆裂魔法は威力とレンジ以外は色々と欠陥だらけのネタ魔法で、そんなのを覚えたら里のみんなに失望されてしまうと、当時のゆんゆんは反対していたそうな。

 

 だか、時を同じくしてめぐみんのペットであるちょむすけを狙って謎のモンスターが里に侵入し、その時に居合わせためぐみんの妹「こめっこ」にまで襲い掛かろうとしたのだが………めぐみんは、上級魔法を覚えるかどうかで踏ん切りがつかなかったらしく、そこでゆんゆんが中級魔法を覚えた………。と、言うわけだ。

 

 多分、めぐみんが申し訳なさそうにしてたのは、恐らく自分のせいで努力を続けてきたゆんゆんに、中途半端に中級魔法を覚えさせてしまったからであり、それをまだ引きずっているんだな。

 

 

「でも、どうしてそこまで……」

 流石にお人好しが過ぎると思い聞いてみると、ゆんゆんは。

「私………族長になりたいって言うのも、周りに褒められたことがきっかけで、それ以外は特にやりたいことがなかったんです。

 

 だから………自分の信じた道のため、周りの目を気にしないで進むめぐみんが、どうしようもなく眩しかった。

 

 そして…………ライバルとして、信じた道を諦めて欲しくなかったんです」

 

 こともなげにそう言ってのけており、俺はこの子の内にある芯の強さに少し敗北感を味わっていた。

 

 

 転生しただけで守りたい物があるわけでもなく、これと言った夢や目標があるわけでもない今の俺は、ゆんゆんのこの強さに言葉が出ない。

 

「強いな………少なくとも俺よりずっと」

「ナギトさん、それはどういう……」

 

 漏れ出た言葉に、ゆんゆんが反応したその時。

 

 

 外から何かの爆発音が聞こえた。

 




いかがでしたか?
次回はいよいよシルビア戦に突入していきますのでお楽しみに。

感想や評価をお待ちしています。


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第15話 この格納庫にお目付を!

このたび社会人となりましたので、更新速度がかなり落ちるかと思います。
とりあえず、コレを出してるので生きていると言うことでお願いします。


 突然起こった爆発は、街の外れからのものだった。

 

 そちらにはめぐみんの家があるとのことで、俺とゆんゆん、アクセルハーツはカズマさん達と共にそちらに向かう事にした。

 

 だが。

「あんな街の外れから進軍してきた割には、随分派手に動くじゃねえか」

「言われてみれば、そうですよね……辺りは森なんだから隠れていくこともできそうなのに、どうして…?」

 俺はこの行動に違和感を覚えていて、それはゆんゆんも同じようだった。

 

 昨日のような正面突破では勝ち目がないと理解して、街のはずれから奇襲しようと考えるのは理解できる。

 

 だが、それなら音を立てず、潜伏スキルの使用や森の中に隠れるなどの手段を駆使して、攻め込むべきだ。

 

 あんな派手にやった意図は一体………

「潜伏スキルが使えないか………あるいは陽動でもする気か?」

 そこにカズマさんが割って入る。

「鍛冶屋から戻ってきたダクネスが堪えてるのかもしれないし、今は急ぐぞ。俺たち以外にはあんまり紅魔族の人たちを呼んでないから、もしナギトの考えが当たってたとしても、戦力不足にはならないはずだ」

 

 因みに今向かっているのは俺たち5人に、ダクネスさんを除いたカズマさんのパーティーの3人。そして5人の紅魔族で合計13人だ。

 

 いや、今は考えるより動くのが先だな。

「そうですね……失礼しました」

「とにかく急ぎましょう。こめっこが……」

 

 めぐみんの心配そうな声に急かされて、俺達は爆発の煙が上がっている場所まで急いだ。

 

 

 

 

「何だこの女は!一体、何がしたいんだ!」

「シルビア様!こいつの目的が全くわかりません、お下がりを!」

「何で邪魔な女だ!攻撃がスカなくせに硬いとか……!」

 

 

 爆発があった場所までたどり着くと、ダクネスさんが魔王軍らしき集団のまえに立ち塞がっていた。

 

………相手の反応的にあまりの硬さに手こずっているみたいだな。

 

 

「ダクネス!よく持ち堪えたな、里の人たちを呼んできたぞ!」

 

 カズマさんが呼び掛けると、ダクネスさんは残念そうな顔をしてこちらを振り向く。

 

「カズマ!期待のオークがメスしかいなくてガッカリしていた上に、魔王軍の幹部は女と来た!どうなっているのだ、今回の旅は!」

「お前はちょっと黙ろうか、色々と台無しだから!」

 

 

「ダクネスさんと言い、シエロさんと言い……やっぱ貴族も人間だよなあ」

「格上のララティーナさんに失礼かもしれないけど、その納得のされ方は見過ごせないよ⁉︎」

 

 シエロさんの突っ込みを聞き流しながら相手を見ると、真っ赤なドレスを着こなした美女がそこにいた。あの人が魔王軍幹部か……。

 

「何をしてくるかわかりませんので、油断しないでください!」

「ああ。仮にも幹部だしな…女を斬るのは気が乗らないけど、そうも言ってられないか」

 

 剣を抜き、ワンドとダガーを構えたゆんゆんの隣に並び立つ。

 

「エーリカ、シエロ!」

「ええ!」

「支援は任せて、2人とも!」

 アクセルハーツもそれぞれ戦闘態勢に入ると、シルビアとか呼ばれていたその美女はダクネスさんに流し目を送った。

 

「そう……仲間が来るまでの時間稼ぎをしていたのね。

 ここまで耐え切ったことからして、かなり高レベルのクルセイダーみたいだけど……さっきまでのも、悟られないようにするための演技だったのかしら」

「バレてしまっては、仕方ない…かな………?」

 チラチラこっちを見てるあたり、単に性癖を満たしたかっただけだと思うが………。

 勘違いだとしても、物は言いようだよな。

 

 そして、カズマさんはその勘違いに乗る事にしたようで、一歩前に出た。

 

「シルビアとか言ったな。そこにいるクルセイダーは、アクセルで魔王軍幹部のバニルと渡り合った猛者だ!」

「バニルですって⁉︎アクセルの街に行ったきり帰ってこないって聞いてたけど。

 

……まさか、あなた達が⁉︎」

 その発言に、シルビアを始め魔王軍がざわつき始める。

 

「そう。俺の横にいるこのめぐみんが、バニルにトドメを刺した」

 

 次いで出た言葉に、紅魔族たちがざわつき、めぐみんは口元をニマニマさせる。

 

 

「カズマの煽りがヒートアップしてるような気がするんだけど…」

「多分反応が面白くて調子に乗り始めてるよね、あれ……」

「スケベでお調子者ねぇ……ねえ、本当にあの人が魔王軍幹部の討伐に関わったの?」

 

 アクセルハーツの面々が微妙な視線を向けているが、「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもんだ。

 

 

「それだけじゃない。

 デュラハンのベルディア、デッドリーポイズンスライムのハンス。果ては、機動要塞デストロイヤーに至るまで……!俺達4人が討ち取らせて貰った!」

「な⁉︎ベルディアにハンスまで……⁉︎

 

 アルカンレティアからの定時連絡が途絶えたことを考えると、嘘ではないようね……!」

 

 これまでこの世界の人類が、チート持ちの異世界人を使ってまでも討ち取ることができなかった魔王軍の幹部を、この人達は立て続けに………。

 

 他の奴らは、今まで何をしていたのかが気になる所だ。

 

 

 俺が不相応にも不甲斐なさを感じていると、調子に乗りまくっていたカズマさんが。

 

「……あなたがパーティーのまとめ役みたいね。名前を教えてくれないかしら?」

 

 忌々しげに唇を噛んでいたシルビアの一言で、一瞬動きを止め。

 

 

「………俺の名はミツルギ。

 

 

 ミツルギキョウヤだ。覚えておけ」

 

 

「あ、あいつ……他人の名前使いやがったぞ?」

「カズマさん………最低……」

 名前を覚えられるのにビビって、他人の名前を使いやがった……!

 

 

「この男、土壇場でヘタレましたよ」

「後ろに紅魔族やマントの人達がついてて、調子に乗っちゃったのね……」

 俺とゆんゆん、アクアさんにめぐみんがドン引きしていると、シルビアはカズマさんが腰に差していた日本刀もどきを魔剣グラムと勘違いしたようで。

 

「ミツルギって言えば、魔剣使いの……!まさか、こんな大物パーティーに出くわすなんてね……!」

「ここでお前を倒しても、紅魔族の力を借りたみたいでスッキリしないな……!」

 

 その言葉と後ろにいる人数を見て不利だと悟ったのか。

「感謝するわミツルギ。また会いましょう、その時こそ決着を………!

 

 

撤退!」

 シルビア達が、踵を返して逃げ出した!

 

「逃がすな!『ライトニング・ストライク』!」

「『ライト・オブ・セイバー』!」

「捕まえて、魔法の実験台だあ!」

 

 それを追いかけていく紅魔族の皆さんを見送り、ひとまずはこの戦いは終わりを告げた。

 

 

 

 その夜。

 族長さんの家に帰った俺とゆんゆんは、とんでもない知らせを受けた。それは……

「お父さん、それは本当なの……?」

「ワイバーンに乗ったトロールロード⁉︎」

「ああ。直接戦闘になったわけではないが、人間の姿でウロウロしていた所を遊撃部隊が見つけてな。不審に思って尋ねた所、トロールの姿になって飛んで逃げたらしい。見た目は老紳士のようだったとも言っていたな」

 

 なんと、先日出会ったあの紳士……ダニエルがここに来ていたというのだ。

 タイミング的に俺たちがシルビアのところに行っている時に忍び込んだのだろう。

 

「それで、ダニエルは何を⁉︎」

「分からないが……何かを探しているようだったな」

 族長さんが紙束を見ながら話す。

 

「あいつが探すものって言ったら、アクセルハーツ………特にリアさん。後は……」

「ナギトさんも、リアさんがついた嘘で逆恨みされてる可能性が高いですよ………お父さん、どこで見つけたのか分かる?」

 

 やはり陽動だったと頭を抱えていると、ゆんゆんに聞かれた族長さんは。

「目撃証言はいくつかあったが……最後に見つけたのは地下格納庫らしいな」

 

 その言葉に、ゆんゆんの表情が強張った。

「地下格納庫……?何だいそりゃ?」

 

 その表情の意味がわからず聞いてみると、代わりに族長さんが教えてくれた。

 

「………要するに、ヤバいものがわんさか眠っている場所って事ですか?」

「ああ。でもあそこは私や妻………里随一の学者にも読めない古代文字が書かれているんだよ」

 

 地下格納庫とは、用途も正体もわからない施設………「謎施設」の隣に併設されている格納庫で、そこには「世界を滅ぼしかねない兵器」という用途がわからないが兎に角凄いものや、魔法使いの天敵である「魔術師殺し」が眠っているんだとか。

 

「と言うことは、ダニエルの目的はその兵器……?でも、何でダニエルがそんな場所に。古代文字が読めたりするのか…?」

「分からないが……明日にでも遊撃隊に見張りを頼もうと思う。

 

 そして模写になってしまうが、これがその古代文字だ……」

 

 重々しく告げてきた族長さんの隣にいた奥さんが、何かが書かれた髪を見せてくれたので、拝見させてもらうと………驚愕した。

 なにせ、その古代文字は………

 

「日本語だ……!」

 

 俺が14年間慣れ親しんだ日本語だったからだ。

 

 

 

 

 

 夕暮れ時。

 ゆんゆんがリアさん達に報告に行っている間、俺は族長夫婦に連れられて、その格納庫にやって来ていた。

 

「上上下下左右左右BA………」

 そこには、生まれる前にあったとされる『ホームコンピューター』ことホムコンのコントローラーっぽいものと、裏技の代名詞である小並コマンドが記されていたので早速入力してみると。

 

「すごいな……!私たちやご先祖様が開けることができなかった扉をあっさりと……!」

「ええ……!ナギトさん?この後、私の持っている古文書の中で同じ文字のものがあるから、それを読み解いてはくれないかしら……」

 長年明けられてなかったことで苔のようなものがついた扉の先には地下に続く階段があり、中からはカビ臭い匂いがしてきた。

 

「では、私達はここで待っているから、何かわかったら連絡してくれ」

「分かりました」

 族長さん達に見送られて、松明を片手に階段を降り始める。

「放置されてた割には、ネズミや蝙蝠がいないな……」

 そこはコンクリートのようなものに囲まれた無機質な場所で、長年放置された割には埃やカビがあるだけで、ネズミや蝙蝠などはいなかった。

 

「まあ、カツオみたいな碌でもないやつだったらヤバいし、ラッキーってことにしとくぜ」

 

 独り言と共に格納庫の中をぶらついてみるが、そこにあるのは意味不明な魔道具らしきものばかり。

 

「まあ、これらについては奥さんに何とかしてもらうとして………お?」

 みるだけ見ておこうと物色してみると………見たことのある筒状のものが見つかる。

 

 それは、某SFにでてくるライトサーベルのような………

「うわ、光った!」

 スイッチらしきボタンを押すと。穴から青い光の柱が出てきたので、試しにマントに当ててみると………スパッと切れるが、魔力を持っていかれる感じがした。

 どうやら、使用者の魔力を吸い取って剣の光に変えてるようだ。

 

「……本物と比べるとゴテゴテしてるけど、威力は本物だな。そしてこれはゲームガールっぽいけどなんか………」

 

 ライトサーベルやゲームガールなど、ここにある日本で見たものは、 どこか手作り感が否めないものばかりだ。

 

 ここの格納庫を作ったのは、昔に転生した日本人なのは間違い無いだろう。

 そうなると散らばっている魔道具も、もしかしたら昔の日本で使われていたものを無理やり再現したものなのではなかろうか。

 

「でも、何でこんなところに……」

 とりあえず、少し持って帰れるように準備をしながら物色を続けていると、どでかい蛇のようなものがそこに鎮座していて、その前に「魔術師殺し」と書かれた看板があった。

 

 しかし……

「これ、魔術でできたゴーレムとかじゃなくてロボットだよな……この世界は魔術がある代わりに工学や科学が発達してないと思ってたけど、実は化学もそれなりに……?」

 

 この世界は中世とファンタジーが合体した世界だと思っていたが、サイエンスもそれなりにいけるのだろうか?

 

 この施設と世界への謎が深まっていた俺の視線は、机へと向いて……。

 

「本……それもこれ、日記か」

 

 そこにある手記を見つけた所で、族長さん達にそろそろ帰ろうと促された。

 

 

 その夜。

「ダニエルの目的は一体なんだ……?俺やリアさんを狙うなら、シルビア達といた方が会う確率は高いだろうに」

 

 あの後見つけたものを説明し、明日の朝から調査をすることになり。

 

「何かを探していたのなら、ここにダニエルにとって何らかのプラスになるものがあるってことじゃないかな?」

 

 アクセルハーツの面々は、安全策としてゆんゆんの家に泊めてもらうことになった。

 

 今は、一室に集まって情報共有中だ。

 

「ダニエルとシルビアが仲間なのかもしれないわよ?

 シルビアがアタシ達を惹きつけている間にダニエルが何かを探すって言う作戦かもしれないわ」

「その探す何かがわからないよね……ゆんゆん、心当たりはない?」

 

 見た目は全員風呂に入った後と言うだけあって、パジャマパーティーだが。

 

 シエロさんに話を振られたゆんゆんは少し考える素振りを見せる。

「んー……『世界を滅ぼしかねない兵器』とか、『魔術師殺し』とかならありますけど、それらが隠されている場所へ行くのはナギトさん以外は無理だと思いますよ…?」

「古代文字が読めるだなんて……意外と物知りね」

「意外は余計だ、意外は……。故郷の言葉が古代文字扱いって複雑なんだぞ?」

 

 俺以外にもカズマさんやミツルギあたりは普通に読めるだろうし、何ならリアさんも読めるかもしれないしな。

……それよりも。

「ダニエル達って、シルビア……いや、魔王軍の仲間同士なのか?ちょっとフリーダムすぎる気がするし、共同作戦なら、気にするそぶりくらいは見せてもおかしくないと思うぜ?」

 

 悟られないようにしてたと言われればそれまでだけど、それを引いても気にしなすぎではなかろうか。

「いくらモンスターでも、趣味はあってもいいんじゃないかな?それに巻き込まれる私達としては大問題だけどね」

 苦笑しながら取りなすような事を言い出すリアさん。

 

 それなら……。

「アクセルの街に帰ったら、ウィズさんに聞いてみますか。

あの人はなんちゃってとは言っても魔王軍の幹部の1人だし、ひょっとしたら何か知ってるかもしれない」

「そう考えるとアクセルの街って、片方は元ですけど魔王軍の幹部が2人いることになるんですよね…」

 ポ○モンでいうところのトキワシティみたいな街である。

 

「うーん……踊り子コンテストが控えてるのに、色々と問題が山積みだな…」

「何それ?」

 初めて出る単語だな。あれか?年一のお祭りとかか?

 

「踊り子コンテストは、各地にある踊り子ユニット達の中から1番のユニットを目指して競い合う大会よ。アタシ達はそれの優勝を目指してるの」

「そんな中で付き合わせちゃって、何だか悪いな」

 

 そんな大事なイベントが控えてるなら、断ってくれてもよかったのだがリアさんは。

「いや、大丈夫だよ。資金繰り出来ないと参加するための道具を調達出来ない訳だしね」

「………そう言ってくれるとありがたいな。なら、調査を早く終わらせてとっとと帰るとするか」

「そうですね……私もお手伝いしますよ。あの中は小さい頃から気になっていましたし」

 

 そうして、今日はもう寝ようという事でそれぞれの部屋に戻ったのだが………。

 

 

「はああッ‼︎」

「甘いぜ!」

 槍による突きを受け流して、大上段で振り下ろす。

「でぇやッ‼︎」

「振り下ろしなら、避けるのは簡単だよ!」

 振り下ろされた鎌を横に飛んで逃げられたので、詰め寄られる前に急いで地面から引き抜いて構える。

 

………簡潔に言うと、俺とリアさんは、鎌と槍でぶつかり合っていた。

 

「………にしても、リアさんは真面目だな。こんな夜にも特訓だなんてよ」

「ああ。ダニエルやチャーリーがここに居るなら……狙われてもおかしくない。その時の為に少しは強くなりたいんだ。ナギトも少しはその自覚があったんだろう?」

 眠れなかった所に、リアさんから特訓に付き合ってくれと頼まれたので、魔法学園の校庭でやり合っている。

………まあ、ストレッチみたいなもんだな。

 

 

「まあ、ダニエルの目的がなんであれ俺は狙われるだろうが、何とか自衛するさ……なんせ、綺麗な嫁さんと子供が居るらしいし?」

「そ、その事は忘れて欲しいな……!まあ、それに関しては少し責任感じてるんだよ」

 頬を赤くしながら突進してきたので、鎌の柄の方で弾き、鎌を軽く回してから押し当てるように突っ込んだ。

 

 

 そうして、しばらく押し合いが続いたので、互いに距離を取り、両方とも様子見に入ろうとしたその時。

 

 

 

 

「見つけましたよ、リア………そして、私のリアを返してもらいましょうか⁉︎」

 

 

 何時ぞや見たあの老紳士………ダニエルが俺たちの前に現れた。

 




いかがでしたか?

次回は魔王軍幹部とダニエルとの決戦の幕が上がりますので、お楽しみに!

感想、評価を待ってます!


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第16話 この合成美女に光剣を!

生存報告がてら更新です。


 夜中に抜け出した俺とリアさんの前に現れたのは、少し前に会った紳士……ダニエルだった。

「見つけましたよリア!そして……そこの少年!私のリアを弄んだ罪、ここで償ってもらいましょう!」

「ダニエル様、これは好機です!」

 

「みんながいない時に!」

 続いて出てきたチャーリーの言葉に、リアさんが苦い顔をする。

 

 今はゆんゆんやシエロさん達がいないので、かなりのピンチだ……とりあえず。

 

「お前とシルビアにとってのお宝はここにはねえんじゃねえの?格納庫はあっちだぜ」

 格納庫の方を指さすが、ダニエルはそう言うことかという顔で。

「ほう……魔王軍がここを攻めているとは聞いていましたが、シルビアが攻略を率いていたのですか………私の探し物の時間稼ぎとは、ありがたい事ですね」

 

………ん?

 コレを聞くとコイツとシルビア率いる魔王軍はグルじゃないのか。

 

「まあ、格納庫には入れなかったので、結婚資金の足しは手に入れられませんでしたが………ここで花嫁を手に入れられるなら些細な問題です!うおおおおおお!」

「ダニエル様………魔道具を奪ってここを破壊し、魔王軍へのアピールをするのでは……?うおおおおおおお!」

 

 

 チャーリーが何か言っているが、ダニエルは目の前のお宝に我を忘れているようで、雄叫びと共にその姿を変えた。

 

 それは、黒い肌に鎧を纏った大鬼で、見るからに雑魚ではないと分かる。

「トロールにトロールロード………俺たち2人で勝てるか…?」

 

 チャーリーが変身したトロールを含めると2体。

 チャーリーはミツルギと互角にやり合う猛者だったので、ダニエルはそれ以上の強さだと考えていいだろう。

 

 そんな奴らに俺たちがまともに戦えるとは思えないけど……リアさんはやる気のようだ。

「ナギト、行こう!ここで逃げたら紅魔の里が……!」

 

 逃げた方がいいと忠告しようとしたが、ダニエルがそれを許さず。 

「さあ!行きましょう………わが花嫁を奪いし者よ!私の愛で消え去るが良い!」

 

 

 斧を片手にこちらに駆け出した!

 

「『ウインド・バレット』………弾く事は無理か‼︎」

「フハハハハハ!さあ、踊りなさい!」

「一撃が重い……!こんなの何発も食らってたら持たない!」

 斧を連続で振り下ろしてくるダニエルに、ウインド・バレットで対抗するが、斧の勢いを殺すこともできていない。

 

 そうなると、鎌で受け止めるしかないが………その斧はとてつも無く重い一撃で、腕が持っていかれそうだ。

 

 

「ナギト!……うわぁっ⁉︎」

「傷をつけてはダニエル様に叱られるのでな……。手加減は得意では無いのだが」

 リアさんはチャーリーと戦っているが、あちらはチャーリーのタフネスに有効打を与えられずに苦戦している。

 

 

「『突風』‼︎」

「おやおや……逃げたところで、私を止める事はできませんよ!」

「スピードもあるのかよ!……ぐあっ⁉︎」

 

 後ろに飛んで逃げようとしたが、ダニエルがそこへと拳を叩き込んできたのを食らってしまい、後ろの木に叩きつけられた。

 

「痛ぇ………なんて一撃だよ。危うく意識もってかれるところだぞ」

「フフフ……これで終わりじゃありませんよ!」

「だろうな、チクショウ‼︎」

 

 痛みでよろけながらも立ち上がるが、ダニエルが追撃を仕掛けてくるので慌てて転がって避けると、そこにあった木が一撃でスパッと切り倒された。

 

「いつまでチョロチョロ逃げ回っていられますかねぇ……」

「だよなぁ……何か手は………」

 

 斧を片手にこちらに突っ込む構えを見せたダニエルを前に、何か手は無いかと焦る頭で探していると………腰にある違和感について思い出す。

 

 

 そうだ、腰に挿していたのは………!

 

「行けるか……?いや、やるしかねえか」

 これでどうなるのかはわからないが………手が少しでもあるのなら、それを打たない理由がねえ!

 

 

 痛みで焦る頭をなんとか落ち着かせた俺は、持っていた鎌を地面に下ろし剣……ではなく。

 

 あのライトサーベルもどきを構えてスイッチを入れる。

 何かに使えるかもと持ってはいたが………まさかここでお披露目するとは。

 

「む……?初めて見る形の武器ですね。最後の悪あがきですか?」

 先端から出た光の刃に、ダニエルは余裕の笑みへ一筋の冷や汗を垂らした。

「まあ、そんなところさ………行くぜ!『突風』‼︎」

「笑止!先程破られた技を使うとは、これでリアは私のものですね‼︎」

 

 

 スキルで距離を詰め、真正面から斬りかかった俺に、ダニエルは無造作に斧を振り下ろすが………!

 

「斧が………斬られたですって⁉︎」

 光の刃が、斧を溶かす様に切り裂いた‼︎

 

「ナギト、それって……」

「だ、ダニエル様⁉︎」

「そうか……光の持つ熱で、あいつの斧が溶断されたのか……!」

「ま、まさか……その様な武器を隠し持っていたとは……!」

 

 予想外の強さに俺は喜び、ダニエルは苦々しい顔をしたが。

 

「ですが……武器がなくなったとはいえ、あなたを捕らえてその武器を使えなくすればいい話です……!」

 ならばと言わんばかりに、掴みかかってきたのでそれを避けた………あれ?なんか動きが早くなってる様な。

 

「鎌の重さで体が鍛えられてたのか……!確かに、これの数倍は重いもんな」

「軽量化ですか……忌々しい!」

 ダニエルの攻撃を避け、所々で一撃を加える。

 

 

 そんなヒットアンドアウェイを繰り返していると、ダニエルの体には傷が目立つようになり、先ほどからの一転攻勢に焦りを覚えたのか。

「チャーリー、リアは一旦置いておいて下さい。2人がかりでやりますよ!」

 

 

 ダニエルはチャーリーを呼んだが……

「残念ね!可愛さ1000パー、エーリカちゃんのお出ましよ!」

「リアちゃんを連れ去らせはしません!」

「ナギトさんから離れなさい!もう人数的な有利は無いわ!」

 

 エーリカ、シエロさん、ゆんゆんが来てくれていたらしく、チャーリーを威嚇していた。

「ダニエル様、申し訳ございませんがそちらをお助けする事は厳しいです‼︎」

 その3人を前に攻めあぐねているチャーリーが、申し訳なさそうにダニエルに叫ぶ。

 

 

 やがて、それを見て不利だと悟ったのか。

「仕方ありませんね……ここは引きますが、勝ったとは思わない様に。そのおかしな魔道具も、トールハンマーが目覚めた暁には……!」

 

 気になる単語を残して、ダニエルとチャーリーは、テレポートのマジックスクロールで、その場から消え去っていった。

 

 

 

「ナギトさん!大丈夫ですか⁉︎」

「木に叩きつけられたくらいだよ……シエロさん、ヒールお願いできますか?」

「わかったよ………『ヒール』!」

 

 心配そうに駆け寄ってきたゆんゆんに答えながら、シエロさんにヒールをかけてもらった俺は、痛みが消えた体で伸びをする。

………この状況で眠気はまずい気がするからだ。

「みんな、よくここがわかったな…」

 眠気を誤魔化す様に話を振ると、どうやら俺たちが戦っている間に、魔王軍警報が鳴ったらしい。

 

 それで、俺たちがいないから探していた所に、校庭で魔力を感じたからそこに来たとのことだった。

「それで、2人は何で校庭になんかいたのよ?」

「いやー、ちょっと特訓をね…」

「眠れなかったから少し運動を……」

 エーリカのジト目に苦笑いしていると。

 

「良いところに!5人とも、一緒に来て下さい!

 

 

 

 カズマが、シルビアに攫われました‼︎」

 

 めぐみん、アクアさん、ダクネスさんの信号機トリオがこちらに駆け寄ってきていた。

 

 

 

 俺たちがダニエルと戦っている時に、シルビアが里のはずれの方から1人で侵入したらしい。

 

 それで、気づいた4人が応戦したが、カズマさんがシルビアの巨乳に絆され、連れてかれたんだとか。

 

 なんだか放置したい気分だったがそう言うわけにもいかないので、ぶっころりーとやたら綺麗な占い師「そけっと」も連れて格納庫に向かうと、そこには………

 

 

 

「遅かったな。シルビアならこの俺の華麗な機転で倉庫へと閉じ込めてやった。このまま1ヶ月くらい経てば、大人しくなるんじゃないかな」

 

 

 どうやら格納庫の中にシルビアを放り込んだらしいカズマさんがドヤ顔で………⁉︎

 

 

「格納庫に閉じ込めた⁉︎あの中には色々得体の知れないものがあるんですが……」

 シルビアの爆乳に釣られたり、得体の知れない所に放り込んだりと、フリーダムすぎる。

「何でナギトがそれを知っているのだ?いや、それよりも魔王軍の幹部が閉じ込められて日干しにされるとか……」

 ダクネスさんが、中から叩かれる扉に目を向けて憐れむ中、ぶっころりーとそけっとがカズマさんを褒め称える。

 

 

………あぶね、危うく色々疑いをかけられる所だった。

「俺たちが何度も逃したシルビアを捕まえるとは、やるねえ!外の人!」

 

 そこに、首を傾げたアクアさんが。

「ねえカズマ。さっきナギトが言ってたけど、ここって危ない兵器が保管されてる所じゃ無かったの?そんな所にあのオカマを閉じ込めちゃって、大丈夫なの?」

 蒸し返す様な聞き方にヒヤリとしたが、紅魔族の人たちは違和感を覚えなかったのか。

「なあーに、俺たちですら使い方が分からないんだ。シルビアに使えるわけがないさ」

「ええ。もし、シルビアがアレを扱えたのなら、逆立ちして里を一周してやるわ!」

 フラグになりそうな事をベラベラと………ん?オカマ?

 

 

「ちょっとみんなとめぐみん集合」

「え?ちょっと、何なのですか?」

 俺は、いつもの4人とめぐみんを連れてちょっと離れる。

 

「なあ、オカマってどう言うことだ?」

 聞くと、言い忘れてましたねと思い出したかの様に、俺たちに補足をしてくれた。

 

「シルビアはグロウキメラで………元々は男性だったらしいのです。そして、色々合成している間にいつの間にか女性の体つきと性格が根付いたのでしょう」

「男の人があそこまで綺麗な人に変わるのね………まあ、アタシは今のままでも1000パーの可愛さなんだけど」

「可愛さは今は置いておきなよエーリカ……それより、これは不味くないか?魔道具の使い方が分からなくても、自分の体に取り込むことは出来るんだろ?」

 

 リアさんの言葉に、ゆんゆんが顔を青くする。

「そ、それで魔術師殺しなんて取り込まれたら……!」

「まて、それ以上はフラグになるからストップを……」

 

 ついでにフラグを建てそうだったので慌てて止めようとしたその時………立っていた地面が突然揺れ始める。

「おい、なんかこれヤバイぞ!」

「カズマさんの言う通りですよ!みんな、逃げよう!」

 顔を見合わせる俺達に、カズマさんとシエロさんが逃げる様に言うが。

 

「ちょっとどうしたのよカズマ。そんなことよりも大事な話があるでしょう?今回はカズマ1人で倒した様なもんだけど、私たちはパーティーなんだし、賞金は山分けよね?フフ、賞金で何を買おうかしら!」

「毎度毎度お前ってやつは!おいお前ら、とっととずらかるぞ!」

 

 アクアさんのダメ押しにより、いよいよヤバイことが起きると確信したのと同時に。

 

 

 

突然地面が盛り上がり、あたりに土砂が飛び散った。

 

 

 

 そして、土煙が舞う中で月の光を浴びているのは……!

 

 

 

「アハハハハハハ!アタシ達が、ただ兵器を持ち出すだけだと思った⁉︎アタシの名はシルビア!

 

 見ての通り………

 

 

 兵器だろうが何だろうが、我が身に取り込んで一体化する力を持つ、グロウキメラのシルビアよ‼︎」

 

 

 ラミアのように、蛇の下半身を持ったシルビアだった。

 

 

 

 そのシルビアはカズマさんに目を向けて。

「あなたとは色々あったけど、おかげで力が手に入ったわ………。

 

それに免じて見逃してあげる。そして………この里が滅びる様を、その目に焼き付けると良いわ!」

 

 そう言い残すと同時に、とんでもないスピードで里の時計台にまで上り詰め。

 

 

 

「あんた達!これは今までのお返しだよ‼︎」

 市街地に向けて、炎のブレスを解き放った‼︎

 

 

 

 里の焼き討ちをするシルビアが、狂った様に笑うのを眺めながら非難した俺たちは、里の高台にいる紅魔族の連中と合流した。

 

 

「お父さん、お母さん!無事だったんだね!」

「ゆんゆん……!良かったわ、無事でいてくれて」

「しかし、魔術師殺しが奪われるとは………申し訳ないお客人方。里に来てもらっている時にこんな事になってしまって」

 母娘の再会の横でそう謝る族長さんは、それを引き起こした犯人が目の前にいるなんて夢にも思ってなさそうだ……。

 

 

「状況的には………足止めが精一杯だな。テレポートを交えた集団戦法は頭がいいけど、このままじゃ詰む……」

 

 現在、里の全員が避難するまで自警団がシルビアを引きつけている所らしくこう着状態となっていた。

 

「里が……燃えていく……」

 あるえの悲しそうな眼差しに罪悪感を感じていると、カズマさんが冷や汗をかきながらめぐみんに聞く。

 

「な、なあ!あいつを止める方法はないのかよ……」

 

 すると、あるえがさっきの表情はどこへ消えたのか。

 

「魔術師殺しには……隠された対抗手段が、ある!」

 

 と、自信を漂わせて言い放った。

 

「ゆんゆん。本当にあるのか……?このライトサーベルでも、あいつを倒せるとは思えないんだが……」

「ちょっと、私にもそれは……ナギトさん、格納庫を物色していた時に何か見つけてないんですか?」

「時間的にそこまで深くは探索してないんだなコレが……でも、そんな秘密兵器があった様にも思えないような……?」

 

 その隠された秘密兵器についてゆんゆんと会話していると、アクセルハーツの面々がやけに騒がしい。

 

「何かあったんですかね……?」

「聞いてみっか……どうしたんです?3人とも」

 

 俺たちが不思議に思って聞いてみると………。

 

「リアちゃんがいつも持っているキツネのぬいぐるみと鍵盤を族長さんの家に置いてきたって……!」

「それで、取りに行くって聞かないのよ……!」

「だ、だって!コン次郎が!私の友達が…‼︎」

 どうやら忘れ物をしたらしい。

「家が燃えてないとは言っても、あんな化け物と魔王軍がひしめく中行けるわけないですよ!」

「そうだ!ここは、コン次郎二代目を手に入れるチャンスだと思えば……!」

「似た様なぬいぐるみじゃダメだ、コン次郎はアレだからコン次郎なんだ!」

 俺より年上のくせに子供みたいな事を……!

 

 

 新たに生まれた厄介ごとに頭を抱えていると、シルビアの攻撃が里のはずれの方に直撃した。

 

 

「おい、あっちは……!」

 カズマさんが驚きの声を上げ、めぐみんは………泣きそうな顔で慌てふためいていた。

「………こめっこが!こめっこがいません‼︎」

 

 めぐみんの妹がいない⁉︎

 

 突然の情報に、5人で顔を見合わせると、ダクネスさんが意を決した様に。

 

「めぐみんはカズマ達を魔道具のところへ案内してくれ!」

「ダクネス⁉︎ですが……!」

 

 めぐみんがそんな、と言わんばかりな視線を向けるが、ダクネスさんは安心させる様な笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だ……お前の家族は私が守る!」

「…………分かりました。こめっこを頼みます!」

 めぐみんが了承したので、どうやらあっちは2手に分かれる様だ。

 

 なら……しょうがねえ、俺も覚悟を決めるか。

「カズマさん達の作戦を成功させるためにも、俺が時間を稼ぐ……接近戦ならダメージを通せるかもしれないしな」

 

 その提案に目を見張る面々……わかってる。こんなの普通は無理だ。

「ナギトさん……⁉︎」

 ゆんゆんが泣きそうな顔で止めるが……でも、多少の無茶をしないとどうにもならない。

 

「シエロさん、支援をお願いします。

 

リアさんは俺が引き付けている間にコン次郎を……エーリカはその補助だ。

 

 

 カズマさん達はさっきの作戦を素早くやって下さいよ?いつまで持つかはわからないんですし」

「…………ああ。でも、無茶すんなよ」

「もしもの時には私が蘇生してあげるわ!思いっきりやってみなさいな!」

「すみません。私たちのために」

「騎士として、お前の覚悟に敬意を払おう……そして、必ずこめっこを助け出す!」

 なんか1人だけ縁起が悪いが………兎に角これで作戦は決まりだ。

 

「ナギト……本当にすまない。いつも君にばかり無理をさせてしまって」

「お礼に今度、アタシ達のコンサートの特等席へご案内するわ」

「精一杯支援します……だから、どうか死なないで!」

 

 そんなカズマさん達に続く様に、アクセルハーツも言葉をかけてきた。

 

「よし、お前ら!この際一か八かだ!アイツらに一泡吐かせてやろうぜ!」

「カズマさん⁉︎」

 罪滅ぼしでもしたいのか、カズマさんがそう声を上げた。

 

 

「一か八か、か………君たち外の人なのに、わかってるじゃないか!」

「悪くない………こんな展開。むしろ大好物……!」

「お父さんにあるえまで!ねえ、煽らないでナギトさんを……!」

 

 族長さんとあるえが、カズマさんの発破に好反応を示している。……確かに、この人らはこう言うノリ好きそうだもんな。

 

………あとは、やっぱりこの子か。

 

 

 俺は、尚も不安そうな表情で止めようとするゆんゆんの肩に手を置く。

「そんなに気にすんなよ……これでも、不利な戦いはやり慣れてるんでね」

「で、でも……!」

 

 尚も引き止めようとしてくるが……もう時間がないし、言葉を選んでる暇もない。少し恥ずかしいけど………言うか。

「そして俺には……頼れる相棒がいる。

 

 

 

 支援頼むぜ、ゆんゆん!」

 

 その突然の頼みに目を丸くしたゆんゆんの反応を聞くより先に。

 

 

 

「……告白ならもっとロマンチックにしないとダメでしょ」

「こ、告白じゃねーし⁉︎」

「まあまあ……兎に角行こう!コン次郎を助けるんだ!」

 

 

 俺とエーリカ、リアさんは、カズマさん達が里のはずれの方へ向かったのを見届けた後、シルビアの元へと走り出した。

 

 

「じゃあ…いってくる。死なないでねナギト」

「早く戻ってきてあげるから、それまでに死ぬんじゃないわよ!」

「おう、お前らもな」

 エーリカの潜伏スキルが自身とリアさんの気配を隠し、族長さんの家へ向かったのを確認した俺は、シルビアに向けてウインド・バレットを放つ。

 

「………まあ、そりゃ効かねえわな」

「ん?今までの魔法とは違うわね………撃ったのはあなたかしら?」

 

 その一撃は攻撃にもならなかったが、シルビアの視線をこっちに向ける事には成功した様だ。

 

「おう。昨日ぶりだな………そして、さようならだ」

「どうやら、アタシとやりあうつもりね?

 

………可愛い男の子は生かしてあげようと思っていたけど、残念だわ」

 

 寒気の様なものを感じたが、被りを振るった。

「お褒めに預かり光栄だ………余計な性別が混じってなかったら、落ちてたかもな」

「レディーの秘密は詮索するものじゃないわ……さあ、かかってらっしゃい!じっくりと遊んであげるわ!」

 

 

 そう叫ぶや否や、炎のブレスを吐いてきたので横に飛んで避けたのと同時に……

 

 

「『突風』‼︎」

 鎌を構えて最高速で突っ込んでいった。




いかがでしたか?

今回はダニエルとの小競り合いとシルビアとの開戦でした。


後2話か3話で5巻編は終わりとなりますので、ナギト達の戦いに幸あれ……!

次回をお楽しみに!感想や評価をお待ちしてます。


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第17話 この天敵に閃光を‼︎

今回はあまり劇場版と展開が変わらないので、ノリでサクサクいけました。

次回は難産となりますので亀更新でもお許しください。

それではどうぞ!


 魔術師殺しへのカウンターを探しに向かったカズマさん達に、こめっこを救出に向かったダクネスさん。そして、ぬいぐるみと鍵盤を探しに行ったリアさん達。

 

 

 そんな各々の作戦を完遂させるべく、俺とゆんゆんにシエロさんはシルビアに立ち向かっていた。

「あなたもアタシとひとつになるのよ!」

「その展開はボツだ!」

 

「行きますよ……『パワード』!『ブレッシング』!『スピード』!………そして、『風のロンド』!」

「触手を撃ち落とします………『ストリーム・ウォーター』‼︎」

 

 俺を捕らえようとした触手を、ゆんゆんの魔法が撃ち落としたので、シエロさんの支援魔法によりいつもよりも力強くなった足で地面を蹴って飛び上がり……全力で鎌を振り下ろす。

 

「ゼェア‼︎」

「支援を受けているとは言え、中々良い一撃じゃない!でも……!」

 

 胸元に出来た傷口は、取り込んだ能力によるものなのか、直ぐに跡形もなく消える。

 

「アタシの能力じゃあ、簡単に治せちゃうわ……って‼︎」

「このまま切り刻む!『ウインド・リーパー』‼︎」

 

 話を聞くや否やもう一度跳躍して、『ウインド・リーパー』………風を纏わせた武器で攻撃を行えるスキルを用いて、幾重にも切り刻んだ。

 

「再生するなら、連撃で勝負だ!」

「成る程……再生にかかる時間を少しでも引き伸ばして、アタシにアイツらをやらせないってわけね……いいわ!それならアタシの部下達が相手よ‼︎」

 

 すると、それを聞いていたのか。

「カッコいいですせ、シルビア様!どこまでもお供しますよ‼︎」

「そうだ!そこの人間、このお姿のシルビア様には、これ以上触れられねえと思いな‼︎」

 

 部下のゴブリンやオーガ達が、こちらに殺到してきた。

 

「お前らはお呼びじゃねえのに……!」

 シルビア一体なら気を引くのは簡単だが、乱戦状態では1人で気を引ける体数にも限界があるため、リアさん達が見つかる可能性が高くなってしまう。

 

 若干詰みを考えていたその時。

 

「部下達はボクとゆんゆんが引き受けます!だから、ナギト君はシルビアを!」

 そう言って、シエロさんがこちらに走ってきた。

 

「おい!そこのプリースト!俺たちを1人で相手にするなんて良い根性してんじゃねえか……!」

「やっちまえ!紅魔族を皆殺しにする前祝いだ!」

 そうして魔王軍の兵士達の1人がシエロさんに肉薄するが。

 

「ええええい‼︎」

「ふべらぁ⁉︎」

 

 一撃をかわしたシエロさんが、綺麗な右ストレートを顔面に叩き込み、それを受けた兵士は仲間達を巻き添えにして吹っ飛んでいった。

 

「「「「は?」」」」

 

 

 そのあまりのパワーに俺、シルビア、兵士達の表情がポカンとなる。

 

「武闘派貴族の令嬢ってすごい‼︎」

「パワードを多めにかけただけですから!」

 

 顔を赤くして訂正してくるシエロさんに、怒った兵士たちが囲おうとするが。

 

「『ファイア・ボール』‼︎」

 崖の上に陣取ったゆんゆんが火球を放ち、その兵士たちを焼き焦がした。

「ナギトさんはシルビアを!アイツらは私たちがやります!」

 

 

 どうやらあの2人は、兵士たちを食い止める気満々の様だ。

 

 

「分かった!………それじゃあ、ラウンド2だ!」

「ええい!小賢しい小娘達め!」

 俺は厚意に甘えることにして、シルビアとの死闘を再開した。

 

 

 

 現在、紅魔族達は里の住民の避難を殆ど終えたのか、下に降りてきて魔法の援護を始めており、ゆんゆんとシエロさんは兵士たちとの戦闘を開始する。

 

 そして………

「『逃走』……!『ウインド・バレット』。BANG!BANG!BANG!」

「普通にやっても効かないからって、目潰し狙いとは汚いわね……!ちょこまかと動き回っちゃって、腹立たしい!」

 

 俺は、シルビアを族長宅から引き離すべく、『逃走』スキルで逃げながら、『ウインド・バレット』で目を集中的に狙っていた。

 

「マナタイトは………あと3個か!リアさん達はまだか⁉︎そういつまでも持たねえぞ……」

 

 7個あったマナタイトが半分近く減っている焦りから、苛立ちも込めて族長宅の方に視線を向けると、それを感じ取ったのか。

 

「ふうーん?どうやら、やけに逃げてばっかりだと思えばあの家に何かがあるのかしら‼︎」

 

 シルビアが蛇の尻尾をバネの様に使い、族長宅を踏み潰そうとしたその時。

 

「『投擲』‼︎」

 族長宅から出てきたエーリカがシルビアに何かを投げつけて動きを止めた。

 

「熱ッ⁉︎アナタ、聖水の瓶なんて投げてくるんじゃないわよ‼︎」

 

 どうやら、聖水の瓶を投げつけた様だが……エーリカが出てきたと言うことは。

 

「『水のラプソディー』‼︎」

「もう1人いたの……⁉︎何人も出てきて、鬱陶しいわね‼︎」

 コン次郎と鍵盤を背負ったリアさんが、シルビアに槍の連撃をくらわせた‼︎

 

 

「遅いぜ、2人とも!」

「ごめんごめん………さあ、ここからは私たちも加勢するよ!」

「オカマなんかに負けるエーリカちゃんじゃないわよ………って、シエロ‼︎」

 

 無事に戻ってきた2人に安堵するが、その2人の声に振り向くと………。

 

「うう………敵の数が増えて、流石にこれ以上は!」

「あんなにいっぱいいたら、私の魔法の詠唱速度じゃ間に合わない!」

 

 シエロさんが顔に疲れを滲ませ、ゆんゆんも息が上がっていた。

「フフフ………見えているものだけが全てと思ってたのなら、大きな間違いだったわね?里の外にいた連中をやって来させたのよ!」

「伏兵か……‼︎」

 

 どうやら、シエロさんとゆんゆんの力を警戒して、増援を呼んでいたらしく、それらを相手取るうちにスタミナ的にヤバくなったのだろう。

 

「マズイぜ、コイツは!こっちが2人増えたところで、この数の差は覆せねえぞ………⁉︎」

「アハハハハハハッ‼︎とうとう打つ手が途絶えた様ね!ここからはアタシ達のターンよ!

 

 

 さあ、最高の部下達よ!このおバカさん達に地獄を見せてあげなさい‼︎」

 

 俺の毒づきを聞いて、シルビア達が攻め込もうとした時だった。

 

 

「そこまでだ‼︎」

 野太い声と共に、戦場に数人が降り立った。

 

 そして、その真ん中にいるのは………!

 

 

「我が名はひろぽん!紅魔族随一の族長にして、里の民を導く者‼︎」

 

「族長さん達か!これは頼もしいな!」

 ゆんゆんの親父さん………つまりは族長とその仲間達だった。

 

 リアさんが安堵の顔を見せる前では、そのおっさん達が『バーニング・フラッシュ』とか言う電撃系スキルを放ち、部下達を一掃……………

 

 

 

 

 

 かと思われたが。

「ぬぅ………!簡単には行かんか!」

「魔法なら強さに関わらず吸収かよ………!」

 

 シルビアが魔術師殺しの力を使って、部下達を守った様だった。

 

「名前通りの厄介さはあるな………!」

 

 作ったやつがこの場にいたらぶん殴ってやりたいレベルだ。

 

 

 

 そして、そんな力に戦いたのはシルビアも同じだったらしい。

 

「最高ではないか、この力は………!紅魔族は、自ら守ってきたものに滅ぼされるのだ……!」

 

 そして、何かの詠唱を始める。

 

「とりあえず……『レジスト』‼︎」

シエロさんが、俺達に状態異常耐性の魔法をかけて対策したのと同時に。

 

 

「絶望しろ………!

 

 

 

『エンシェント・ディスペル』‼︎」

 

 シルビアが聞いたことのない魔法を唱え、その魔法は崖の下にいた者たちを包み込んだ!

 

 

 

 突然のことに対応ができなかった俺たちは、体に異常がないかを調べるが……特に変わったところはない。

 

 

「なんだったんだ今の……?レジストをかけられてない紅魔族たちも平気そうだけど」

「ナギト!手下がくるから武器を構えて!」

 疑問を口に仕切る間もなく、攻め込んできた手下達に身構える。

 

 

 そして、紅魔族達も魔法を…………ん?

 

 

 

 

 

「地獄の業火よ、荒れ狂え………!『インフェルノ』………アレ⁉︎」

「魔法が………発動しない⁉︎」

 

 

 紅魔族達はなぜか魔法が…………って、まさか⁉︎

 

「魔法封じ⁉︎」

 

 俺が告げると同時に紅魔族達は慌てふためき、あちこちに逃げ始めた。

 

 

「テレポートも使えない!逃げろぉ!」

「やっぱり無理なんだ!魔術師殺し相手にするなんて!」

 

 だが………それを見逃してくれるほど、魔王軍は甘い奴らじゃないようで。

 

 

「魔法が使えない紅魔族なんて、ただの木偶だぜ‼︎」

「今がチャンスだ、皆殺しにしろ‼︎」

 

 逃げ惑う紅魔族達を狩ろうと、各々に行動を始めた‼︎

 

 救援に向かおうとするが、それよりも前に魔王軍が最初に目をつけたのは………

 

 

「ふにふらに、どどんこ!」

「あの子達、腰が抜けてるわよ⁉︎」

「そんな……!」

 

 ゆんゆんに絡んでいた、ふにふらとどどんこのペアだった。

 

 エーリカの言う通りに、恐怖で腰が抜けて動けない様だ。

 

 

「どうしたのかしら、お嬢さん達?残念ねえ………。

 

 可愛い男の子なら見逃してあげたけど………アンタ達紅魔族は、人をおちょくりすぎたのよ‼︎さあ、やっておしまい‼︎」

 シルビアが残忍な笑みを浮かべ、兵士たちにあの2人を倒す様に命令したその時。

 

 

 

「『ライト・オブ・セイバー』‼︎」

 

 

 

 聞き覚えのある声と共に、崖の一部が切り取られ、崖崩れとなって兵士たちに襲いかかった。

 

 撃ったのは勿論……!

 

「そこまでよ……魔王軍幹部、シルビア‼︎」

 ワンドを握りしめ、覚悟を決めた顔のゆんゆんだった。

 

 

 

 

 

 

 2人への傷はなかったことを確認した私は、安堵もそこそこに、シルビアに視線を向けようとすると、泣きそうな顔の2人が。

「ゆんゆん⁉︎」

「バカ、なんで……⁉︎」

 

 答えは一つしかないような質問をしてくる。

 

 

 その答えは……勿論。

「友達を……見捨てられないから」

 この里では数少ない友達を、見捨てることなんて私は出来ない。

 

 

 2人の視線がむず痒いが、それを顔に出して『切り札』を晒すわけには行かないので、今度こそ視線をシルビアに向けようとすると、崖の下から声がした。

 

 

「おい!何やってんだ、早く逃げろ!魔法使いが単騎でやれる相手じゃねえ‼︎」

 自分の置かれている状況を棚に上げて、よく言ったものだが………たしかに彼の言う通りで、私1人で太刀打ちできる相手じゃない。

 

 

 でも………彼は似たような状況でも、毅然と立ち向かった。

 

 私とシエロさんが他の敵を引きつけていたとはいえ、たった1人で魔王軍の幹部と戦うだなんて、前人未踏の重圧なのに、彼はそこから逃げなかった。

 

 

 何より………彼は、こんな私を「相棒」と言ってくれた。

 

 

 

 なのに、もし彼に全てを任せきってしまったのなら。

 

 

 ………あの人の「相棒」として隣に立てない。

 

 

 だから……これは。

 

 いや、この「雷」は私の誓いだ。

「我が名はゆんゆん‼︎

 

 

 アークウィザードにして、上級魔法を操る者!

 

 

 

 紅魔族随一の魔法の使い手にして………

 

 

 

 やがてこの里の長となるもの‼︎」

 

 私も、自分にできることを精一杯やってみせる‼︎

 

 

 名乗りあげと共に放った雷が止むと同時に、あちこちから湧き上がるコールに、恥ずかしさが出てくるが……ここまできたら最後まで演じるしかない。

 

「勝負よ、シルビア‼︎里を破壊すると言うのなら、先に私を倒して見せなさい‼︎」

 

 啖呵を切った私に、シルビアは面白いものを見るような目を向けて。

 

「あら、可愛い………でも、あなたみたいに本当に若くて可愛い子、嫌いなのよ‼︎」

 

 そう叫ぶや否や、とんでもないスピードで迫ってきた。

 

 その迫力に少し怖気付くが、慌てて被りを振って、背を向けて全力で駆ける。

 

 

 

「紅き瞳は、決して邪悪を許しはしない‼︎

 

 

 

 それが……紅魔の宿命‼︎」

 

 

 その先には………『切り札』が解き放たれる時を待っていた。

 

 

 

 

 先程のゆんゆんの名乗り上げは、後ろにいるカズマさん達が、作戦に使う魔道具の準備をするための時間稼ぎだった。

 

「全く、作戦ならもっとわかりやすく合図してくれよカズマさん!この魔法は時間かかるんだから!………『空を渡り、大地を駆け、何者より疾く走れ』………」

「悪かったって!でも、そっちもこっちも間に合ったんだから結果オーライだろ!」

「『セイクリッド・エクソシズム』!『セイクリッド・エクソシズム』!」

 

 それに気づいた俺は、シエロさんをリアさん達に任せ、急いでカズマさん達の元へと向かい、『ルミノス・ウィンド』の詠唱を行なっていた。

 

「ああ、年頃の娘がまさかネタ魔法を使うだなんて……!はしたないったら……」

「たとえ母と言えども爆裂魔法への侮辱は許しませんよ!」

 隣では、爆裂魔法の準備をしためぐみんが、母親に食ってかかっている。

 

「しかし、うちの物干し竿がねえ……」

「うむ……あれが、ウチの息子か」

 

 後ろで呑気なことを言い出しているのは、服屋のおっちゃんとめぐみんの父親だった。

 

「ナギト!めぐみん!もしもの時は頼んだぞ!」

「はい!」

「分かりました!」

 

 作戦としては、対抗手段の魔道具『レールガン(仮)』に、アクアさんが退魔の魔法を吸い込ませているので、それをカズマさんが『狙撃』で撃ち出す。

 

 それでダメなら、俺とめぐみんが『ルミノス・ウィンド』と爆裂魔法の合体攻撃を撃ってなんとかすると言うものだ。

 

 

「シルビア……楽しかったぜ。

 

 

 

 さよならだ!

 

 

 

『狙撃』‼︎」」

 

 そして、その作戦はついに実行に…………

 

 

 

 

 

 なるかと思いきや、レールガンから放たれたのは、小さな煙だけだった。

「「「「は?」」」」

 その場にいた全員が、その光景に表情を失っていたが………1人だけ大ピンチに陥っていた。

 

 

「すいません‼︎さっきのは無しってことで……!」

「できるかい‼︎」

 

 

 そう。シルビアから逃げていたゆんゆんだ。

 

 

 先程までのキリッとした表情は何処へやら、涙目で逃げ惑っている。

 

 

………まあ、アレで決まっても唱えたやつはどうすれば良いのかが謎だったしな!

「ナギト、行きますよ!…………星屑の風を纏いて、太陽をも霞ませよ………!

 

 

 『エクスプロージョン』‼︎」

「ああ、第二の矢ってやつだ‼︎………『星屑の光を宿し、敵を討て』………!

 

『ルミノス・ウィンド』ッッ‼︎」

 

 一瞬だけ目線を合わせためぐみんと頷きあい、それぞれの必殺技を解き放つ。

 

 

 

 

 そして、解き放たれた魔法はシルビアへと襲いかかる………はずだったが、これらはレールガンへと吸い込まれ、シルビアに届くことなく掻き消えてしまった。

「「はあ⁉︎」」

 

 当然、攻撃が不発に終わった俺とめぐみんは驚きの声をあげる。

 

 

……めぐみんには、魔力切れで倒れると言うおまけがつくけど。

 

 

「なんだよこれ、壊れてるんじゃねえか‼︎」

「どれ、貸してみろ!これはこうすれば……!」

「おい、止めろ!ブラウン管みたいな直し方でいけるわけねーだろうが!」

「わ、私!このこめっこっていう小さな命を守らないといけないから……」

 

 ダクネスさんがレールガンを殴りつけ始め、カズマさんがそれを慌てて止める。

 

 さらにその隣ではアクアさんが逃げようとすると言うカオスが繰り広げられ始めた中で、アクアさんに抱えられたこめっこがレールガンを指さした。

 

 

「ねえ、なんかピコピコしてるよ?」

 

 

 その発言に全員がレールガンを見ると、確かに側面の画面には「FULL」と表示されている。

 

 

 つまりこれは………!

 

「壊れていたんじゃねえ、魔力が足りなかっただけか………

 

 

 

 カズマさん‼︎」

 

 俺が叫ぶよりも先に、カズマさんは再びスコープを覗き込む。

 

 

 

 そして……!

「何か企んでるみたいね………!」

「シルビア‼︎

 

 

 

 俺の名前を覚えとけ!

 

 

 あの世に行ったら、他の幹部達によろしくな‼︎」

 

 シルビアとカズマさん、どちらが勝利を手にするかのギリギリの瞬間で………!

 

 

 

「どーん‼︎」

 そのどちらでもない声と共に、レールガンから閃光が放たれた。

 

 

 

 放たれた閃光はシルビアの胴体を貫き、レールガンは、一撃の負荷に耐えられなかったのか、銃口が壊れてしまう。

 

 

 

 そして、腹を撃ち抜かれたシルビアは、ようやく自分の状態に気付いたようで。

 

「あ、あれ?………あ、アタシ、これで…………お、終わり……⁉︎」

 

 あり得ないと言う顔と声を上げて、その場に崩れ落ちたと同時に大爆発が起こった。

 

 

 

 そんな、全てが予想外の形で終わったこの戦いにおけるダークホースは。

 

 

 

 

「我が名はこめっこ!

 

 紅魔族随一の魔性の妹! 魔王軍の幹部より強き者‼︎」

 

 

 美味しいところを総取りしていくのであった。

 

 

 

 

 魔王軍幹部シルビアは倒れ、俺は下からやってきたアクセルハーツと合流した。

「アレがレールガンか……爆裂魔法とルミノス・ウィンドを吸い込んで打ち出したなんて、信じられないくらい華奢な武器だね」

 

「しかも、もう壊れちゃってるわよ?これじゃあ使えないじゃないの」

 

「ま、まあ……そんな沢山作れるものじゃないんだと思うよ?」

 

 リアさん達がレールガンに興味を示している隣では、シルビアがいた場所をカズマさん達がなんとも言えないような顔で見つめている。

 

 

「悲惨な、戦いだったわね……。

 

 

 私はもう、2度と人を傷つけないと誓うわ……」

 

 

 アクアさんが、またもフラグになりそうなことを言い出したが、そろそろ勘弁してほしいところだが。

 

 

 

 

 

 

 

…………ん?

 

「おい、敵感知に反応があるぞ」

 俺の発言に、カズマさんがアクアさんに続いてお前もかと言わんばかりの目を向けているが、これはフラグではない。

 

 

 

 しかも………

「敵意がどんどん増えていくぞ!場所はシルビアの死体があった所だ‼︎」

 もし、これが嘘じゃなければ、シルビアは生き返りでもしたと言うことだが………。

 

 

 

 と、考えていた俺だっだが………敵意の元を見て、絶句した。

 

 

 

 

 

 なんと。

 

 

 

「ここで、終わらせて………なるかぁぁぁぁぁ‼︎」

「コイヨォ………コッチコイヨォォォォォ‼︎」

「キレイニナッチマッタァァゼェェェ‼︎」

 

 

 黒い甲冑と、毒々しいスライムのようなやつまで一緒に現れたからだが………それだけではない。

 

 

 

 シルビアはその2体を自分の身に合成していき、やがて………!

 

 

 

 

「アハハハハハハハハハハ‼︎」

 その姿を、ケンタウロスとも猛獣ともつかない、異様なものへと変えていく。

 

 その光景に対して俺は。

「マジかよ⁉︎」

 震える口で、呟くことしかできなかった。

 

 

 

 

 そして。

 

「危うく魂を持っていかれる所だったわ……!

 

 

 

 

 アンタ達は絶対に潰す‼︎」

 

 

 腹に当たる場所から口のようなものを出し、毒々しい色の激流を解き放った‼︎




いかがでしたか?

今回はナギトの新スキルを紹介します。

ウィンド・リーパー 消費スキルポイント 2

 魔力が篭った風を纏わせた武器で攻撃するナギトの必殺スキル。一撃の威力が高く、ある程度の連撃が可能。また、風の刃を相手に飛ばすこともできるので、ウィンド・バレットとの使い分けができるようになった。
 元ネタは特にない。

 逃走 消費スキルポイント 1
 短時間だが、敏捷値を高くするスキル。自分以外に効果はない。


 今回はゆんゆんにヒロインさせてみました。とはいっても、ここから少しずつゆんゆんのヒロイン描写を増やしていけたらなと思いますので、おたのしみに!


それでは、次回で5巻編は最終回になる予定ですので、しばらくお待ちください。

 感想や評価をお待ちしてます。



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第18話 この合成乙女に幕引きを‼︎

第5巻編、最終回です。

ちょっとグダリ気味かもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。


 この世界における常識を話そう。

 

 俺たちの敵………つまり、人類の敵である魔王を首魁とした組織が魔王軍。

 その魔王軍には8人の幹部がいて……1人倒すたびに、魔王城を守る結界が解かれる。

 

 そんな幹部達の中で、現在討伐されたのは3人……1人は残機が減っただけなので、実際完全に倒されたのは2人だ。

 

 1人目はデュラハンの『ベルディア』。

 アンデッド故の無尽蔵のスタミナと、生前が騎士であるが故の高い剣の技量を併せ持ち、どんな相手も時間をかければ確実に殺すことができる「死の宣告」を備え持つ死の騎士だ。

 

 2人目はデッドリーポイズンスライムの『ハンス』。

 物理攻撃をものともせず、魔法にも強い抵抗を持つ上に悪食でなんでも食べると言う隠れた強敵である「スライム」の中でも、触れれば即死間違いなしな猛毒を持っている。

 

 そんなチートじみたスペックを持つ2体が………今、1人のグロウキメラに集まり、俺たちにその牙を向けた。

 

 

 

「うおおおおお‼︎」

「エーリカ、走れ!走らないと死ぬよ‼︎」

「分かってるわよおおお⁉︎」

「いやあああああ!来ないでええええ⁉︎」

 

 毒々しい色の津波が迫ってくる中、俺たちは必死に距離をとっていた。

 

 津波の規模は相当なもので、逃げ切れるのかどうかはわからないが……振り返る時間も惜しいと走り続けている。

 

「景色が一向に明るくならねえ‼︎こうなったら…!」

「ナギト!ただでさえ早いのに、アタシ達を置いて逃走なんてしないわよね⁉︎」

「先読みすんな‼︎」

 

 逃走スキルを使おうとしたが、エーリカに釘を刺されたので断念するけど………正直使わないと逃げきれない。

 

 

 そんな絶望的な状況が続き……毒々しい津波が俺たちを飲み込もうとした時。

 

 

 

 

「『カースド・クリスタルプリズン』‼︎」

 

 

 聞き慣れない声と共に猛烈な冷気が飛んできて、毒々しい津波を一瞬にして凍らせてしまった。

 

 

 その状況に頭がついていけずにいると、2人の人影がカズマさん達の方に走ってきた。

 

 

 それは……

 

「あれ、魔道具店の店主さんだよね?」

「ああ。それにバニルまで………一体どうして」

 

 

「カズマさん、これは一体どういうことですか⁉︎」

 ウィズさんとバニルという、意外なメンツだった。

 

 アクセルにいるはずのあの2人が、どうしてここにいるのやら……?

 

 助かったことへの安堵よりも困惑が勝り、リアさんと顔を見合わせているとカズマさんとアクアさんが何かやり出したので、もっと近くで聴きに行こうとすると、氷の天井の一部が剣で貫かれ、引き抜いたことで出来た穴からシルビアが顔を出した。

 

 

「ウィズ……⁉︎それに、バニルまで……!」

 

 どうやら、シルビアもここにこの2人がいることは想定外なようだ。

 

 そんなシルビアに対して、いつもと変わらない様子で。

 

「お久しぶりですシルビアさん。どうか一つ、ここは穏便に……!」

「出来るかい‼︎」

 

 話しかけて、ツッコミを食らっていた………明らかに殺意マックスでやばそうなやつ相手に停戦を持ちかけるとは、豪胆なんだかマイペースなんだか……。

 

 そして、バニルも仮面で表情は読めないが顎に手を添えて。

 

「ふむ………魔王軍に我輩の生存が知られてしまうのは、大変都合が悪いな…」

「「「裏切り者どもが‼︎」」」

 

 シルビア、ハンス、ベルディアの抗議が、妙な実感がこもってる気がするが……なんか考えない方が良さそうだ。

 

 

「下がっているが良い。貴様らが束になったところで奴には敵わん」

「だろうな……お前ら、全力で逃げるぞ‼︎」

 

 ウィズさん達はシルビアと一戦やる気っぽいので、俺たち9人は全力で逃げるが………魔王軍幹部の半分以上が集結して、更に戦うって考えてみればやばいよな。

 

 

 

「ねえ!よく分かんないけど、カズマのせいでまた失敗したのね⁉︎

 嫌よ、馬小屋暮らしに戻るのは!

 私もう贅沢を覚えちゃったんだから、絶対内職なんて無理だからね‼︎」

「馬鹿なこと言ってないで走れ‼︎くそ、なんだあのバケモンは……!」

 

 

 カズマさんがアクアさんに怒鳴り返しているのを横目に後ろの戦闘を見ると、あの状態のシルビアにはウィズさんの魔法はおろか、バニル人形による集団自爆でもほとんどダメージが入ってないようだ。

 

「小技を当て続けてガードを剥がすか、ガードの上からでも当てられる大技を当てるか……どの道現実的じゃないぜ!」

「カズマ!何か手は無いのですか⁉︎あと、さっきの爆裂魔法を返してください」

「んなこと言ってる場合か!あの2人が相手でもほとんど隙がない奴なんだぞ⁉︎

 

クソ……!何か隙はないのか………⁉︎」

 

 ゆんゆんに背負われためぐみんに突っ込むカズマさんは、頭を掻きむしっていたが………ふと、動きを止めた。

 

 

 その行動に戸惑う俺たちだが、構う様子もなく。

 

「しょうがねえなあああああああ‼︎」

 

 ヤケクソ気味に、いつもの台詞を叫んだ。

 

 

 

 

「心の準備はいいか…?」

「うむ………いつでも行けるぞ!」

 

 受け答えをする前ではシルビアが地面に叩きつけ、その衝撃でウィズさんが吹っ飛ばされた。

 

……まだだ。まだココじゃない。まだ………‼︎

「裏切り者には死を……!」

 

 地面に倒れたウィズさんを、そのまま握りつぶそうとした瞬間………

 

 

 

 今だ‼︎

「潜伏解除‼︎行け!」

「ああ!」

 俺は潜伏を解除し、ダクネスさんと共にシルビアの前に登場した。

 

 

「な……⁉︎」

「…………‼︎」

 そして、俺の声を合図に突撃したダクネスさんが横薙ぎに払った一撃は、前脚に見事に命中する。

 

「ぐぁ………って、あの子とウィズは……⁉︎短時間でどこに⁉︎」

「よそ見をするな、私はまだいるぞ!はああああ‼︎」

「何なの、これ……⁉︎アタシの力に匹敵するなんて!」

 

 俺を見失ったシルビアが焦り、その隙に攻撃を仕掛けたダクネスさんの力に驚いていた。

 

「危ないところをありがとうございました。それにしても、凄い隠れ方してましたね」

「バレないように忍び込むのは得意技なんでね………アイツと組むことになる事は流石に予想外でしたけど」

 

 ウィズさんを連れて同じく潜伏で隠れているカズマさん達のところへ向かう。

 

「無事だな⁉︎ウィズ……ここからが、本当の戦いだぜ‼︎」

「か、カズマさん⁉︎」

「これ、カズマさんの指示なんすよ」

 

 じつは、ここまでは作戦だったのだ。

 シルビアとウィズさんがやりあっている隙に、バニルを憑依させたダクネスさんと俺が潜伏で隠れつつ接近。

 

 そして、ピンチに陥ったので潜伏を解除して視線をこっちに向けるや否や、ダクネスさんが突撃。

 

 そのダクネスさんが注意を引いた隙に、ウィズさんと合流した俺は『フェード・アウト』を使い、光の屈折で姿を消す魔法を使ったウィズさんと共に潜伏で隠れて居たカズマさん達の元へと帰還………って感じの。

 

「そいじゃあ、ウィズさんを紅魔族のところまで護衛で俺は任務完了だけど……」

「アクア様からお話は聞きましたが………カズマさん、本当に大丈夫ですか?」

 

 そして、俺はウィズさんを紅魔族が避難してるところまで送れば任務完了だが………ウィズさんの言う通り、カズマさんのこの後を考えると案ずるなと言う方が無理だ。

 

 

 現在遠くへ向かっているめぐみん、ゆんゆん、アクセルハーツの面々が放つ必殺の一撃を確実に当てるための自爆戦術を取ると言い出したのだ。

「これだけやらなきゃならないんなら、しょうがねえだろ?………まあ、俺の運の良さをとくと見せてやるさ」

「私のブレッシングもね!」

 なんて事ないように、とんでもないことを言い出すカズマさんだが………たしかに、この大博打を成功させるには、幸運値が一番高いカズマさんしか適任者がいないのは事実だ。

 

 ならばせめて………

 

「苦しまないように、一撃で仕留めてもらうぜ」

「もうちょい、マシな慰めをくれよな………でも、頼むわ」

 

 俺は俺の任務を完了させる!

 

 

 俺は、シルビアに向けて駆け出したカズマさんに背を向けて。

「重くないですか………ヒャッ⁉︎」

「ウィズさん、しっかり捕まっててくれ………『逃走』‼︎」

「あ、あの……!手をもうちょっと下の方にしてもらえませんか?お尻を思いっきり……きゃあああああ‼︎」

 

 ウィズさんを背負って紅魔族達の元へと走り出した。

 

「オラオラぁ!死神もどきと亡霊のお通りだぁ‼︎」

 

………やけに掴んでるものが柔らかいのが不思議だけどな。

 

 

 

「………すいません、思いっきり痴漢やらかしちゃって」

「い、いえ……私が素早く行動できるスキルを持ってなかったのが悪かったんですから……」

 

 紅魔族の所へと着いた俺は、ウィズさんのお尻を思いっきり掴んで爆走して居た事に気づいて、土下座して謝り倒し。

 カズマさんが、「充実と幸せは違う」と悟り、恋をしたい乙女(?)なシルビアにありがちな告白をして、合体したところまでを見届けた。

 

………合体と言っても、キノコみたいに生やしてあるだけに見えるが。

 

「すっげえ……魔力を一箇所に集めてる。しかも、これを遠くに譲渡するんだもんな」

 

 俺は、ウィズさんが里のみんなの魔力を一箇所に纏めている様子を眺めていた。

「周りに漏れ出ている魔力で、俺の魔力も全快してるし……」

 

 集約された魔力はとんでもない量で、密度も相当なもの。

 

 漏れ出た魔力で俺もおこぼれに預かれるレベルだ。

 

 そして、この現象に紅魔族たちもウィズさんがただの人間ではない事は気づいているようだ。

 

 だが。

「闇の者か………そう言う展開、嫌いじゃないぜ」

「ええ!むしろあなた、ノリをわかってるじゃない!外の人なのに!」

 

 彼らの琴線に触れたようで、嫌な顔をするやつは1人もいなかった。

 

 

 これで、こっちの準備もじきにできそうだが……肝心の攻撃手はどうなんだろ。

 めぐみん、リアさん、シエロさんにエーリカ。

 

 

 そして………。

 

「ナギト、だっけ?ゆんゆんの所へ行ってあげて!」

「あなた、あの子の彼氏なんでしょ⁉︎」

 

 ゆんゆんは大丈夫か………ん⁉︎

 

「ふにふらにどどんこ……だったか⁉︎

 

 何言ってんだ、ゆんゆんとはそこまで行ってないぜ⁉︎」

 友達で仲間ではあるが、彼氏ではないはずだ。

 

「むむ、娘の彼氏だと⁉︎」

「あらまあ……でも、あの子の手紙にもよく出てくるものね」

「ええ⁉︎違うんです、誤解です‼︎」

 

 族長さんの見る目が少し険しくなる隣で、奥さんが成る程と言わんばかりの表情だ。

 

 そこかしこでざわめき始めるが……まあ、アイツが心配なのは確かだな。

「みんなのことが心配だから、ちょっくら言ってくるぜ……ウィズさん、あとは任せた‼︎みんなが心配だからな!……『追風』‼︎」

「は、ははは、はい……!いってらっしゃ……い……?」

 俺は言い訳じみた捨て台詞を残して、ゆんゆん達が待機している場所へと急行した。

 

 

 数分後。

「ナギトさん!どうしてここに⁉︎」

 

 突然現れた俺におどろいたゆんゆんとリアさんがこちらにかけてきていた。

「ふにふらとどどんこに頼まれてな。ゆんゆんが心配だってさ!」

 先程の内容をそのまま話せるわけがないので、少し改変して話すと、リアさんが不思議そうに。

 

 

「……ナギト?妙に顔が赤いし目が泳いでないか?」

………どうやら、さっきのがよほど衝撃的だったらしい。

「気のせいだぜ………それより、他のメンツは?」

 ボロが出る前に話を振ると、シエロさんは精神統一でもしているのか深呼吸をしており、エーリカは自己暗示をかけているようだ。

 

 そして、何だかんだで大丈夫そうな2人とは対照的に。

 

「………」

 めぐみんは、罪悪感に苛まれているように俯いていた。

 

「………どうしたんだ?」

「その、爆裂魔法しか使えないから、カズマさんをまた死なせる事になるのかって……」

……成る程ね。

 

 まあ、仲間意識が強いコイツに仲間ごと討てなんて言われたら、こうなるのも無理はないかもな。

 

 

 だが……悪いがコイツには覚悟を決めてもらわないと困る。

「めぐみん……カズマさんはお前の爆裂魔法を信じてるんだ。お前の爆裂魔法なら、きっとシルビアを倒せるだけの力を持ってるってな」

 

 そして、そんな俺の意図を知ってか知らずか。

「そうだよ………それに、そうじゃなかったら、こんな作戦なんて立てないよ」

 ゆんゆんがそう語りかけ、それにめぐみんがハッとした表情になる。

 

 そこに、ゆんゆんが少し意地の悪い質問をする。

 

「めぐみんはもう………爆裂魔法を信じてないの?」

 

 だが………めぐみんの爆裂魔法は、ゆんゆんが、自分の未来を変えてでも守ろうとしたものであり。

 

 カズマさんが自らの命を賭けてまで信じたものだ。

 

 それをめぐみんが信じなければ………この2人、いや、この場にいる全てを裏切る事になるのだ。

 

 

 すると、それが伝わったかどうかはわからないが……

「………やりますよ。私はやってやりますとも‼︎

 

 

 

 シルビアを必ず倒してみせます‼︎

 

 

 

 みんな………勝ちますよ‼︎」

 

 

 この反応を見れば、答えなんてわかりきっていた。

 

 

 

 数分後。

 

「お前ら、準備はいいか⁉︎」

 

 ウィズさんが渡してきた魔力の渦の中。

 

 俺が確認すると、返ってきたのはそれぞれの詠唱だったが…リアさんがこちらに視線を向けて。

 

「ナギト!こっちに来てルミノス・ウィンドを!私達のスキルと重ねがけするよ‼︎」

 と、白い光に包まれながら手招きをしていた。

 

「出来るのかよ⁉︎」

「光を纏う風を、私達のスキルに混ぜ込むんだ!多分行けるはず!」

「……分かった!この場限りのカルテットと行こうぜ!」

 

 迷ってる時間がもったいないので、リアさん達の方に入って詠唱を開始した。

 

 

「我が名はゆんゆん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、最高の魔法使い‼︎」

「我が名はめぐみん!アクセル随一の魔法の使い手にして、最強の魔法使い‼︎」

 

 お隣さんも、紅い瞳を爛々と輝かせて魔法の準備をしているので、俺も詠唱を開始すると、3人の詠唱が再開した。

 

 

 

「炎はアタシの祈りに応え、さらに激しく昂る!」

 エーリカの言葉で、赤い光が渦を巻く。

 

 

「水は私の祈りに答え、乾きを絶ち、潤す!」

 リアさんの言葉に、青い光が赤い光に重なるように渦を巻く。

 

 

「風はボクの祈りに答え、全てに等しくそよぐ!」

 シエロさんの言葉に、緑色の光が2色の光に交わり………!

 

 

 

「炎よ!水よ!風よ!私達の祈りに答え、全てを宿す力をここに!」

 リアさんの言葉に応えるように、3色の光はやがて白い光の塊となった。

 

「ナギト!」

「ああ!

 

 "今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々"。

 

 

 "愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を"。

 

 

 "汝を見捨てし者に光の慈悲を"。

 

 

 "来れ、さすらう風、流浪の旅人"。

 

 

 "空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ"。

 

 

 

………"星屑の光を宿し、敵を討て"‼︎」

 

 いつもよりも魔力がこもったルミノス・ウィンドは、満天の星空よりも多くの光の粒が宿っていた。

 

「リアさん!俺はいつ撃てばいい⁉︎」

「私達の後に被せるようにやってくれ!」

「分かった!」

 

 リアさんと最後の打ち合わせが終わると、ゆんゆん達の方も詠唱を終えたようで。

 

 

「…………ナギトさん‼︎」

 

 こちらに目配せしてきたので、その代わりに。

 

「………頼んだ‼︎」

 

 Goサインを出すと、ゆんゆんが。

 

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッッッ‼︎」

 

 

 とんでもない大きさの光の剣を上空に生み出して。

 

 

「吹けよ嵐‼︎

 

 

 響けよ爆炎‼︎

 

 

 爆裂魔法はロマンなんです………どんな不可能も可能にする、最強の魔法なんです‼︎

 

 

 

『エクスプロージョン』ッッッッッッ‼︎」

 

 めぐみんの爆裂魔法が、光の剣を弓矢のように解き放ち、シルビアへとその剣先を向けた‼︎

 

 

 

…………そして今度は。

「「「『エレメンタル・ストリーム』ッッッ‼︎」」」

「『ルミノス・ウィンド』ッッッ‼︎」

 

 

 リアさん達が放った光の螺旋に、俺のルミノス・ウィンドを纏わせて、さながら流星のような輝きを持つ螺旋へと変貌したものが、先程の光の剣に纏われた。

 

 

 そんな、六身一体の一撃を、タイタニックよろしく胸元にカズマさんを生やしたシルビアは。

 

 

「愛‼︎」

 

 紫色のバリアーらしきものを張って、真っ正面から受け止めた。

 

「バリアかよ⁉︎」

「私達の想いは……絶対負けない!」

「リア!シエロ!ナギト!気張るわよ‼︎」

「望むところだよ、エーリカちゃん‼︎」

 

 俺たちが魔力を追加で込めると、勢いが増すが……。

 

「夢‼︎」

 

 さらに張られたバリアーに阻まれ。

 

 

 

「希望‼︎」

 

 

 

 ダメ押しと張られたバリアーに押し返され始めていた。

 

「クソ‼︎これ以上はマズイぜ⁉︎」

 焦りを感じた俺がカズマさんは何をしているんだと考え始める。

 

 

 そんな攻防の中、シルビアが願うように語り始めた。

 

「そんな魔法で、私の人生は奪えない‼︎

 

 

 行くのよ、私は先へ……未来へ‼︎」

 

 だが、そこでカズマさんが何をしたのか………バリアーが一瞬緩んだ。

 

 

 

 そして、6人全員で同じ事を考えたのだろう。

 

 

 

 

「「「「「「はあああああああああッッッ‼︎」」」」」」

 

 

 気合の叫びと共に、最後の力だと言わんばかりに魔力を込め……とうとう、シルビアの胸元を貫通する。

 

 

 

 

 

「「アバババババババババ⁉︎」」

 

 

 

 カズマさんとシンクロして断末魔をあげるが…………もう、ここを逃したら俺たちに勝機はない。

 

 

 だから。

 

 

「これで終わりだあああああああああッッッ‼︎」

 

 

 

 

 俺達は一切の迷いもなく全てを出し切り………ついに、シルビアとの戦いに決着をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………その時だった。

 

 

 

「『バインド』‼︎」

 

 聞き覚えのある声と共に放たれたロープが、一瞬にしてリアさんを縛り上げ、空中に巻き上げた。

「キャッ⁉︎」

 

 そして、そのリアさんが巻き上げられた先には。

「ハーッハッハッハー‼︎

 

 シルビアが倒れる時を待ちわびていました。

 

 

 リアは確かに貰いましたよ………それでは、ご機嫌よう‼︎」

 

 

 ダニエルが変身したトロールロードがいて、ソイツは高笑いと共に夜空へと消えていった。

 

 

 

 

 

……………嘘だろ、オイ⁉︎

 

 

 

 

 

 2日後。

 シルビアに勝利した事による余韻に浸る間も無く、俺とゆんゆん、エーリカ、シエロさんはアクセルの街へ向かう馬車に乗っていた。

 

「やられた……アイツ、俺たちがシルビアとやりあって消耗する時を待ってたんだな」

「ええ。卑怯な奴らよ!」

 シエロさんにエーリカが、悔しさを顔に滲ませていた。

 

 因みに、ゆんゆんはもう少し里にいるのかと思っていたが……とある事情によってこっちに逃げるように帰っていた。

 

 それは……名乗りあげによって『雷鳴轟く者』と言う二つ名を付けられた上に、ふにふら達が口走った事により、一気に注目の的になってしまったからだ。

……感想?族長さんを宥めるのが大変だったとだけは言っておこう。

 

 

 にしても。

「今度こそはのんびり出来ると思いきや、またも厄介ごとか…」

 俺がため息をつくと、ゆんゆんが苦笑いする。

「アハハ……でも、私は好きですよ?毎日が楽しいし……」

「……まあ、暇過ぎよりか良いのは認めるけどな」

 

……どこか図星をつかれた気がしたので、俺は誤魔化すように外の景色を眺めて………これからの行動に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

「みんな、寝てるよね………?」

 そろそろアクセルに着く頃。

 

 私がふとみんなの方を向くと、ナギトさんやリアさん達は全員夢の中に旅立っているようだ。

 

 

 誰も起きていない事を確認して、私は………。

 

 

「………これからもよろしくです、ナギトさん」

 

 

 

 ちょっと大胆に………一瞬だけ、頬へと唇を当てた。




いかがでしたか?
 ここで、章終わり時点でのナギトの状態です。

冒険者 マトイナギト 男
職業 盗賊 レベル17 所有スキルポイント 3
スキル
チート関連
・追風 ・突風
・ウィンド・バレット
・ルミノス・ウィンド
・並行詠唱
・ウィンド・リーパー

盗賊スキル
・潜伏
・敵感知
・窃盗
・罠探知
・逃走
・フェード・アウト

その他
・片手剣
・ウィンド・ブレス
・鎌
人間関係
ゆんゆん→先輩兼相棒。おとなしいけど、たまにかっこいい。⇔冒険仲間で勇敢な男の子。相棒って言ってくれたけど、出来ればもっと……。

ライト→2章終了時点と、特に変化なし。

カズマ→先輩転生者。すけべなお人好し。⇔後輩転生者でゆんゆんの友達。

めぐみん→ゆんゆんの友達。意外とナイーブな面もある。⇔ゆんゆんの友達。意外と無茶するな……。

アクア→フラグメーカー。⇔知り合い。

ダクネス→貴族の令嬢でドMなクルセイダー。意外と良識的?⇔冒険仲間。勇敢な一面がある。

クリス→2章終了時点と特に変化なし。

ウィズ→魔道具店の店長さんで、超強い。⇔知り合い。

バニル→2章終了時点と特に変化なし。

ミツルギ→2章終了時点と特に変化なし。

リア→冒険仲間で、真面目なのにズボラな年上のお姉さん。中身は意外と年下?⇔冒険仲間。頼れる冒険者。

エーリカ→冒険仲間。意外と常識的……⇔冒険仲間。頼れる年下。

シエロ→男性恐怖症のボクっ娘で、武闘派貴族の御令嬢。⇔冒険仲間。すごく速くて強い。


・エレメンタル・ストリーム
 アクセルハーツの3人が放つ合体技。火、水、風の3属性を併せ持つ強力な光の渦を相手に叩き込む。

次回からは6巻の時間軸に突入していきますが、アイリスはあんまり出てこないかと思われます。
………ゆんゆんが6巻だとほぼ出ないからね。
 そのかわり、このファン要素がガッツリと絡んでくるのでお楽しみに!


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第4章 アクセルハーツの激震
第19話 この性悪美人に交渉を!


 新章開幕です。
 今回はあのトレジャーハンターが参戦します。

 稚拙な文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。


前回までのあらすじ。

 

 異世界転生を果たした少年「纏 凪斗」は、冒険者「マトイ ナギト」としての第二の人生を歩み出した。

 一通の手紙から、仲間である「ゆんゆん」の生まれ故郷「紅魔の里」に向かい、そこに攻め込んでいた魔王軍の幹部「シルビア」を、先輩転生者「サトウ カズマ」一行と、踊り子ユニット「アクセルハーツ」の3人組と力を合わせて討伐したが………

 

 突如現れたドルオタトロールにより、アクセルハーツの一人である「リア」が誘拐されてしまうのであった。

 

 

 アクセルに帰ってきた翌日。

 この国の王女が来訪するとの事で、アクセルの街はちょっとしたお祭り騒ぎになっていたが、俺達が立っている状況にはあまり関係なく。

 

「踊り子コンテスト本選への出場を勝ち取ったのに、まさかこんな事になるなんて……」

 

 俺とゆんゆんが様子を見に三人の家に行くと、そこでは沈み切った顔のエーリカとシエロさんがいた。

 

「ダニエルの居場所がわからないから、探しようが無いな……」

「ですよね……」

 

 その沈みっぷりに、俺とゆんゆんは互いの顔を見合わせる。

 

「折角踊り子コンテストで優勝して、パパとママに見つけてもらえると思ったのに……」

 ん?それは一体どう言う………

 

 俺の表情から何かを察したらしいシエロさんが、エーリカについて教えてくれる。

「エーリカちゃんは生まれた時から孤児院で育てられたんです。それで、ご両親に自分のことを見つけてもらうために、踊り子を始めたんですよ」

「なるほどね………」

 

 自分で選んだ道とはいえ、見つけてもらう両親がもういない俺からしたら、羨ましい話だ。

「なんでこんな時に、リアが攫われるのよ………!」

 

 いつも能天気そうなエーリカが、やけに弱々しく思えた。

 

 

………我ながらちょろすぎるが、それが俺の良いところだ。

「………仕方ない。放っておけねえもんな」

「…ナギトさん?」

 それに…コイツが萎れてるのもなんか調子が狂う。

 

 だから……

「………2人は、リアさんが戻ってきた時に備えて、練習を続けてくれ」

「………ナギト、もしかしてリアを助けに行ってくれるの⁉︎」

 

 エーリカが泣きそうな顔で詰め寄ってきたので、慌てて引き剥がし。

 

「出来る限りのことはやるよ………でも、あんまり期待すんなよ?」

「………保険かけないでよ、バカ」

 

 

 そうして、ゆんゆんにギルドで待っててもらい。

 

 

「ダニエルさんについて、ですか?」

「ああ。アイツは魔王軍と何らかの関わりがあるっぽいから、ウィズさんなら何か知らないかなって……」

 

 俺はまず、ウィズさんにダニエルのことについて聞いていた。

 

 魔王軍の幹部だったウィズさんなら、ダニエルのことについて何か知ってるかもと踏んだのだが……ウィズさんは申し訳なさそうに。

 

「ナギトさんには申し訳ないのですが………私も、そこまで深い仲というわけではありませんよ?」

「いや、知ってる範囲で良いから……頼む!今はどんな情報でも欲しいんだ!」

 深くは知らないと言っても、恐らくは俺たちより情報を持っているだろうし………第一、情報が少なすぎる俺たちにとっては、藁にも縋りたいのだ。

 

 手を合わせて頼み込むと、ウィズさんは。

 

「………分かりました。私が知る限りの情報をあげましょう」

 

 微笑みを浮かべて、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

 

「ダニエルさんは、元々魔王軍の幹部候補生だったんですが……。

 ナギトさんもお分かりかと思いますが、踊り子に対して強い執着を持っていまして。

 魔王さんの命令を無視した行動が目立って除籍処分となり、その後は行方を眩ませていたんです」

「でもアイツ、魔王軍へ力をアピールするために紅魔の里に来てたらしいぞ」

 その後リアさんに会って目的が変わったっぽいが。

 

「ダニエルさんは、魔王軍の中でもかなりの行動力をお持ちでしたからね。里での動向を聞きつけて、やってくる事くらいなら不思議ではありませんよ」

 

 でも、紅魔の里には欲しいものがなかった感じだったような………

「他に何か情報は…」

「すいません。これ以上は私も……」

………まあ、ダニエルが何かを狙っている事は理解できたからよしとしよう。

 

「ありがとう、ウィズさん」

「いえいえ。また何か困ったことが有れば相談に来てくださいね」

 

 そうして俺は魔道具店を後にして………ゆんゆんの待つ冒険者ギルドに向かった。

 

 

 

「成る程……なかなか厄介な相手ですね」

「ああ……しかも、ダニエルが潜伏してる先もわからないんだよな」

 

 冒険者ギルドにて。

 「俺」と「ゆんゆん」はこれからどうするかを話し合っていた。

「なーお」

「こら、そこには料理が乗るんだから、昼寝すんな……」

 白い毛玉がテーブルに寝転んだので、地面に下ろしてやると、そこで昼寝を始める。

 

 現在分かっているのはダニエルの背景のみで、潜伏先などはわかっていない。更には………

 

「お父さんとお母さんに確認したけど、トールハンマーなんて言う武器はなかったそうですし…」

 

 ダニエルが「トールハンマーさえ手に入れば…」と愚痴っていたのが気になったので帰る前に調べてもらっていたが、紅魔の里にはトールハンマーらしきものは保管されてはいなかったらしい。

 

……ゆんゆんが俺の足元をチラチラ見ているのを不思議に思っていると、ウェイトレスのお姉さんが料理と一緒にミルクの入った皿を持ってきた。

「ちゃんとした盗賊の師匠がいれば、何か知ってるかもしれないけど……ここ最近姿が見えないんだよな。…………ほら、ミルクだ」

「にゃーん!」

 ミルクという言葉に反応したのか、人の足を使って器用によじ登った………のはこの際どうでもいいとして、師匠と言うのは女盗賊の「クリス」さんの事である。

 

 

 前に劇場で出会った時に神器について関心を示しているのなら、トールハンマーについても知ってるかも……と思ったが、クリスさんはここにいなかった。

 クエストにでも行っているのだろうか?

 

「トールハンマー……文字通りに捉えるなら、雷の神様のハンマーって事ですよね…?」

「それがどんなものかは分からないけど……あの口ぶりからして場所はわかってるけど手に入れ方が分からないって事だと思うんだよ」

「封印……ですよね。もしかしたらリアさんを誘拐したのってただ踊り子が欲しいからってだけじゃないのかも……」

「……リアさんが復活の鍵を握ってるかも、って話か……ああ、ミルクこぼしちまってるな。後で洗ってやらないと」

 それなら、机の上でミルクをこぼした奴の処理と、復活を止めなきゃやばいんだろうが……ん?

 

 なんかゆんゆんがもう我慢ならんと言わんばかりの顔だ。

「どうしたゆんゆん?」

「私が聞きたいですよ!その猫は一体どうしたんですか⁉︎」

……そう言えばそうか。

 

「ギルドに向かってる途中で、木箱の中に入ってるのを見つけてな。なぜか懐かれた」

「うにゃ」

 

 魔道具店からギルドに向かっている途中で捨て猫がいたのを見つけたのだが、箱を開けてやったら付いてきたのだ。

………まあ、懐かれてるのは良い気分だが、現在お世話になっている宿に連れて行くこともできないのでどうするかを迷っているのだ。

「へえ……わぁ!この子、私の膝の上で丸くなりましたよ?」

「人懐っこいんだな………」

 

 机の上で足についたミルクを拭き取ってやると、ソイツはゆんゆんの膝の上で丸くなった。

 

………話がいちいち止まるが、色々シリアス気味な俺の冒険者生活にはこれくらいの癒しが妙に心休まるものだ。

 

「しかし、トールハンマーのありかもダニエルの居場所も分からないんじゃなあ……」

「少なくともダニエルの居場所が分かれば、リアさんを救出できるんですが…」

 と、頭を悩ませていた時だった。

 

 

 

「それらしい場所に、心当たりがあるわよ?」

 何処からか聞こえた声に視線を向けると、そこには一人の女性がいた。

 

「………えっと、どちら様で?」

 俺はもちろん知らないし、ゆんゆんも知らなそうなので誰かを聞いてみると、その人は長い髪を払って。

 

 

 

「私はメリッサ。トレジャーハンターをやっているわ……その脳に焼き付けなさい」

 メリッサと名乗ったその人は、かなりの美人でスタイルも良いが………言動がやけに高飛車っぽい。

 更には自分の身体的特徴をある程度理解して利用しているのか、つけている防具もやけに露出が多い気がした。

 なんというか………ラフレシア的な罠でも持ってそうだな。

 

 少し警戒していると、ゆんゆんが驚いたような顔で。

「ナギトさん!この人は、この街の冒険者の中ではかなりの実力を持つトレジャーハンターですよ!この人ならきっと…!」

……ゆんゆんが、有名人にでも会ったかのようなリアクションを見せてきた。

 

 たしか、「トレジャーハンター」は盗賊系職業の上位職だったはず。それで名前が売れてると言うことは、本当に高い実力を持っているのだろう。

 

 だが……いくら有名人だったとしても、一度張り付いた印象はなかなか解せないもので、俺の警戒が弱まる事はなかった。 

「…………」

「どうしたのかしら、坊や?そんな難しい顔しちゃって……」

「いや、どうして食いついてきたのかが分からなくて。……何が狙いだ?生憎、払える物なんてないぜ」

「他人を悪党みたいに言わないで頂戴。単に戦力が欲しいだけよ」

「戦力?」

 

 妙なことを言い出したので、とりあえず話を聞くことにした。

「トールハンマーは、トロール達がたむろしている城の中にあるとされているわ。

 トロールは動きは遅いけど、醜く肥え太っているから私の一撃でも一撃ってわけにはいかないのよ。それを何体も相手するだなんて疲れるじゃない」

 

 トロールのチャーリーがリアさんの槍の連撃をタフネスで耐えていたのを考えると、この人のメインウェポンであるダガーじゃ決定打に欠ける……って事だろうか。

「あの巨体相手にチクチクやってもなあ……つまり、その露払いでもしろってか?」

「わかったのなら話が早いわ………どう?悪くない話でしょ?」

 話だけ聞くと悪くはないが……

「なんで俺たちに?俺たちより強い冒険者なんてたくさんいるだろ」

 

 俺達に話を振ってきた理由がよく分からない。

 

 今の俺がレベル17で、ゆんゆんは26。

 

 デストロイヤーやらベルディア、バニルと戦ってきたこの街の連中の中には、俺たちより強い奴がいても不思議じゃない気がするんだが……。

 

 そんな俺の疑問にメリッサは。

 

「あなた達は、私が持っている情報が欲しいでしょ?しかも、露払いと言っても、強い奴らにはパーティーメンバーが多くついてるじゃないの。

 

 自ら分け前を減らすなんてヘマはしないわ」

「数が2人しかいない上に、情報を欲しがっている私達が適任だった……って言うわけですね」

 情報を餌に高くせしめようって事か…やっぱり裏があるんじゃないか。

 

 

……なら、こっちも向こうが知らなそうな情報を餌にするまでだ。

「まあ、トールハンマーがなくてもトロールの親玉は、魔王軍の幹部候補だったらしいからな……。財産を隠し持っていてもおかしくないよな?ゆんゆん」

「え?あ、あ………そうですね。着ている服もずいぶん良いものでしたし」

「………ふーん?」

 ダニエルが魔王軍の幹部候補生だった事は、俺くらいしか知らないが………どうだ?

 

……おい、良いところでじゃれつくな。

 

 毛玉が交渉中の俺の肩の上に乗ってきたので、机の上に下ろしてやると……メリッサの顔色が変わった。

 

「………きゃ」

「きゃ?」

 

 

「きゃわわわわわ‼︎

 

 ね、ね……猫ちゃん⁉︎しかも、子猫だなんて…!

 

 ねえ?この子触って良いかしら?触って良いわよね⁉︎」

 その変貌に俺とゆんゆんが呆気に取られたが、メリッサは横目もくれずにその子猫の背中に手を置いて、さすりはじめた。

 

「モ、モフモフ……‼︎すごいモフモフしてるわ………‼︎」

「なーおー………」

「な、まさか………⁉︎お、お腹まで触らせてくれるの⁉︎」

「にゃーん!」

 

 

「……なあ、この人誰だ?」

「……メリッサさん、ですよね?」

 人懐っこいソイツがお腹を見せ、それに狂喜乱舞するメリッサは………何というか、さっきの傍若無人っぷりが嘘のようだった。

 

 

「んはぁー‼︎なんて愛くるしいのかしら⁉︎やっぱり子猫は天使だわ……」

………だが、これは!

 

「実はその猫は捨て猫で、これから飼い主を募るわけだが……」

「かわいいでちゅねぇ………⁉︎

 

 

………詳しく聞かせなさい」

「急に素に戻るな……ちょっと怖いぜ?」

「レディーに向かって怖いだなんて、ガキのくせになかなか良い度胸してるじゃない。

 

 まあいいわ?さっきの話を早くなさい……私は天使に癒しをもらうんだから」

 既にやり切ってる感があったんだが……まあ、話に乗ってくれたのならこの際なんでもいい。

 

「その猫はたまたま俺が見つけた捨て猫で、これから飼い主を募ろうと考えてたんだが………」

「………見つけた財宝は、私とこの子猫ちゃんのものよ」

 なんて食いつきっぷりだ。

 

 ………てか、本当に捨て猫かどうかもはっきりしてないのに、もらう事が決まってんのかよ。

「話が早すぎるが……。まあ、よろしく頼むぜ」

「あはは……」

 

 まあ、これで……。

 

 

 俺たちは、トレジャーハンターの「メリッサ」からの協力を取り付ける事に成功するのであった。

 

 

 

 メリッサの話では、トールハンマーのある場所はアルカンレティアの近くにあるらしい。

 なので………

「また同じ場所へ向けた馬車の旅かよ…」

 

 猫をライトさんの所へ預けた俺は、もはや見慣れた光景となった発着場にいた。

 

「ゆんゆん、そろそろテレポートとか使えないのか?」

「まだスキルポイントが足りなくて……でも、今回は前より早い馬車ですから……少しは退屈な時間が少なくなると思いますよ?」

 

 ゆんゆんの宥めるような言葉の通りに早くなったとしても、代わり映えしない景色と言うのがいただけないのには変わらないんだけどな……。

 

 

 そう、不満を漏らす俺をメリッサは面倒くさそうに馬車に押し込んだ。

「ガタガタ泣き言を言うんじゃないわよ。

 

 私と天使ちゃんとの生活がかかってるんだから、さっさと上がり込んで根こそぎ巻き上げてやるわ」

「言い方はアレだが、事実その通りだな……」

 

 俺の隣に座り込んだゆんゆんが、不安げに。

「あ、あの……本来の目的を忘れてませんよね?リアさんを助けて、シエロさん達アクセルハーツが優勝できるように……!」

 

 聞いてきたので、バカにするなと言わんばかりに答えてやった。

「それ忘れてたらこの度自体意味なくなるからな。流石に覚えてるよ」

「……そうね。流石に契約は守るわ」

 因みに契約内容は、メリッサに、リアさんの救出を完了させるまで協力してもらう代わりに、手に入れた財宝の8割と、子猫をメリッサに引き渡す……と言ったものだ。

 

 

「なら良いんですが……」

「さあ、其れじゃあいきましょうか」

「おう。それじゃあ……」

 

 出発してくれ、と言おうとした時だった。

 

 

「そこの馬車、ちょっと待ったー!」

「ま、間に合いました……!」

 

 突如現れた人影が、俺たちの前に立ち塞がった。

 

「エーリカさんにシエロさん⁉︎」

「二人とも、どうしてここに⁉︎リアさんが戻ってくるまで待ってろって言った筈だぜ⁉︎」

 その正体に俺とゆんゆんが驚いていると、何を今更と言った様子でエーリカが。

 

「それは分かってるわよ!でも……リアを助けに行くんでしょ⁉︎

 

 任せっきりにしたくないわ!アタシ達も連れて行きなさい!」

「だけどな……危険すぎるぜ!」

「そうですよ!怪我でもさせたら……!」

「私も同感ね。劇物の面倒を見ながら戦うなんて、出来れば遠慮願いたいわ」

 

 エーリカの言うことがわからないわけじゃないが、ダニエルが踊り子に強い執着を持っているのもまた事実。

 

 紅魔の里に行った時とは違い、踊り子コンテストが近い今………他の誰かが捕まったらいよいよ詰む。

 更には、怪我でもさせたらたとえリアさんを助け出せたとしても、3人揃えた意味がなくなる。

 そんな爆弾を抱えるなんて、出来ればごめん被りたいと言うのが、俺達の意見だ。

 

 だが、エーリカとシエロさんは真剣な表情で。

 

「危険は重々承知………。でも、黙って待ってるなんて出来ない!

 

 リアはアタシ達の大切な仲間だから………ね?シエロ」

「もう、守られてるだけじゃ嫌なんです。

 

 それに、これはボク達アクセルハーツの問題ですから‼︎

 

 

 

 お願いです、一緒に連れて行ってください!」

 

 これはテコでも動かなそうだと頭を悩ませていると、メリッサが。

 

「……絆なんて一エリスにもならないのに、強情な子達ね。

 

 分かったわ。ついてきなさい……でも、自分の身は自分で守ってよね」

 

 意外なことを言い出して、その言葉にエーリカとシエロさんがパアッと表情を輝かせた。

 

……リアリストな面がありそうなこの人は、意地でも反対するかと思ったんだが。

「……いいのか?」

 

 俺が聞くと、手をヒラヒラと振りながら。

「良いも何も、お宝が待ってるのよ?ここでウダウダやって無駄な時間を過ごしたくないわ」

 

 すこし、表情を緩めてそう言った。

 

 

……全く。

「素直じゃねえな」

「……バカなこと言ってないで行くわよ」

「そうですね。早くリアさんを助けてあげないと」

 

 

 さりげなくフォローに入ったゆんゆんが、エーリカとシエロさんを馬車の中に招き入れる。

 

 

 そして、今度こそ。

 

「アルカンレティア行き。発車しまーす!」

 

 

 リアさん救出作戦の幕が上がった。

 

 




いかがでしたか?まずはキャラ紹介を。

メリッサ 性別 女 年齢 20歳
職業 トレジャーハンター
 アクセルの街では有名な凄腕トレジャーハンターで、傍若無人な性格をしている。
 自らの実力と美貌に自信を持ち、それを駆使して自分に有利な取引を持ちかけたりと狡猾な行いをする一方で、可愛い動物には目がなく、言葉遣いが幼児のソレになることもしばしば。
トールハンマーの情報を餌にナギト達に近づいた。

子猫 性別 オス

白猫で、捨てられていたところをナギトがたまたま拾った。
人懐っこい性格で、メリッサとの交渉の際に大活躍した。

尚、ナギトは名前をシロかタマのどちらにするか悩んでいる。


 今回はメリッサさんに登場してもらいましたが、書くのが難しいです……。

 次回はリア救出作戦から物語を進めますので、お楽しみに!

 感想や評価を待っています。


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第20話 このズボラダンサーと再会を!

 お久しぶりです。

 今回はゲームのストーリーを読み、噛み砕き、再設計すると言う手間があったので遅くなってしまいました。

 その割にはあまりクオリティが高くありませんがご了承ください。


 メリッサの調べによると、トールハンマーは城の中に封印されている魔道具で、その城には時折踊り子グッズや踊り子を運んでいるトロールが見受けられるらしい。

 

……つまり、ダニエルがリアさんを拉致している場所はトールハンマーが封印されている城って認識で問題ないだろう。

 

 と、言うわけで俺とゆんゆんは、トレジャーハンターの「メリッサ」、リアさんを助けると付いてきたエーリカとシエロの3人と共に、奪還へと動き始めていた。

 

 

 

 アクシズ教徒に気づかれないように、潜伏を発動させながらアルカンレティアを抜け出した俺達は。

 

 

 モンスターと出くわしながらも、荒野の先に存在した城の近くにたどり着いていた。

「なんか禍々しい雰囲気だな、おい」

「周りと違って、ここら辺だけ空気が重い……魔力が漂ってるからかしら…?」

「確かに…爆裂魔法の近くにいた時と似たもんを感じるよな」

 武器の封印がこのあたりに影響を与えているのか、妙な感じを覚えている俺達の前では、メリッサが悪い顔をしていた。

 

「どうやらここに封印されてるのは嘘じゃなかったようね。なんだかゾクゾクしてきちゃうわぁ…!」

 

「3人とも、慣れてるなぁ……」

「この中に、本当にリアがいるの……?ねえナギト。ここってお化け屋敷とかじゃないわよね⁉︎」

 

 そんなメリッサとは対照的にシエロさんとエーリカは、ただならぬ雰囲気に少々怯え気味だった。

 

「お化け屋敷の方がまだマシだぜ……?そんなに怖いならアルカンレティアまで下がってた方が良いんじゃないか?」

 見かねた俺がそう聞くと、二人は首を振り。

「いいや、アタシ達も行くわ!ここまできてやっぱなしなんて嫌だもの!」

「ボクも、もう任せっぱなしは嫌ですよ」

 断固としてついてくるようだった。

 

「そこ、ウダウダやってないで行くわよ」

「ああ、悪い………んで、どうやって城に忍び込む?」

 注意をしてきたメリッサに謝りながら眺めていると、城の近くには見張りらしきトロールがいた。

 

「他の見張りもあるかもしれないから……さっきみたいに潜伏して進んで行くしかないわ」

「ソレが現実的か。あのトロールを倒して進むってのも考えたが…」

「倒れてるのを見つけられたら面倒よ。無駄に手間を増やすことはないわ」

「へいへい…そいじゃあ、さっきみたいに「ムカデごっこ」だな」

「………もっと可愛いものにしなさいよ。アタシ、ムカデ嫌いなのに」

 

 エーリカのツッコミを聞き流し、潜伏を使える俺とメリッサを先頭にした二両の人間列車が城の中へと侵入していった。

 

 

 

 城の中は、外の重苦しい雰囲気とは打って変わって綺麗なものだった。

 

「さーて、リアさんはどこにいるのやら……パンフレットとかねーの?」

「あるわけないでしょ。それより、情報よりトロールの数が少ないわね……まあ、むさ苦しくなくていいけど」

「まあ、あの外観からこの中身は想像できませんよね……」

 

 俺に突っ込むメリッサの話から、もっと多くのトロールがたむろしてるかと思いきや、先ほどからトロールに一体も出会っていなかった。

 

 どこかに溜まっているのか、中が汚れるのを嫌ってあんまり徘徊させてないのか……。

「そんなことより、早くリアちゃんを探しましょう!」

「そうよ、のんびりしてたらコンテストが……!」

「のんびりしてるわけじゃないけど……まあ、長居は無用、ってね」

 

 焦った様子のエーリカとシエロさんに急かされる形で、城の曲がり角に差し掛かった時。

 

 

「…………あ」

「…………あ?」

 

 

 曲がり角から、見覚えのある太った男が現れ………シエロさんと目があっていた。

 

「しまった、バレた⁉︎」

「その割には動きが遅いな………偶々で動きが鈍いのか?」

「偶々でも出会ってるんですから、警戒を!」

「フフフ……さあて豚さん?ズタズタにした上にお宝のありかを吐いてもらおうかしら⁉︎」

 

 ゆんゆんとメリッサの声に合わせて、シエロさん以外の4人が武器を構えて警戒していると、その男ことチャーリーは……。

 

 

 

「………夢?そっか、夢か‼︎

 

 

 シエロのことを考えすぎて、夢にまでシエロが出てきたのか!

 

 

 

………でも、いつの間に寝たんだ……?」

 

 よくわからないが、下らなそうなことを宣い始めた。

 

 

「え?えーと……」

 その夢の中認定されたシエロさんが、意味がわからないと言う顔をしていると、チャーリーは更なる行動に移る。

 

「まあいいか。

 

 夢なら、何をしても良いんだよね?

 

 

 おおおおおおお、シエロおおおおおおお‼︎」

 

 丸い巨体からは想像もつかない跳躍力で、シエロさんに飛び付こうとルパンダイブを繰り広げ………

 

 

「いやあああああああああ⁉︎」

 

 シエロさんの右ストレートで吹っ飛ばされた。

 

 まるでゴム毬のように跳ねたチャーリーは、殴られた頬を押さえて。

「うぼぁ………⁉︎

 

 

 くうぅ………このパンチ、夢じゃない⁉︎

 

 

 ほ、本物のシエロちゃんだ‼︎どうしてここに⁉︎」

 

 ようやく慌てた反応を見せたことから、さっきまでのは寝ぼけていたようだった。

 

 

 

「リアさんを奪還しにきてんだよ!」

「ぬう⁉︎貴様達は⁉︎」

 

 ついでに、俺達にも気付いてなかったようだ。

 

「はじめまして豚さん。早速だけど、隠しているお宝の在処を教えてもらおうかしら⁉︎」

 

 メリッサが、まるで獲物を前にした獣のような目をして聞くと、狼狽えながらもチャーリーは。

 

「ふふん、これでもダニエル様の側近……!

 

 そう簡単に情報を漏らすわけがないだろう!」

 

 と、胸を張っていたが。

 

 

「………リアちゃんはどこ?」

「この奥の部屋だよ、シエロちゃん……!」

 

 

 

 推しに釣られてあっさりとバラしていた。

 

「簡単に言いましたよ⁉︎」

「ここまでの苦労はなんだったんだよ……」

 

 驚くゆんゆんの隣で立ちくらみを覚えていると、チャーリーは慌てて口をつぐみ。

 

 

「…………おのれ!巧妙な手口で口を割らせるとは、なんと卑劣な……!」

 憤慨していたが………間違いなく、あれはただの自爆だ。

 

 

「うるさいわね。

ちょっと人語を理解できるからと言って、調子に乗らない事よ豚さん?」

「ぶ、豚呼ばわりとは失敬な!

 

 私はオークなどではない!誇り高きトロールだ‼︎」

 

 

 

「奥の部屋とか言ってたな。

 

 

………エーリカとシエロさんは早くそこへ」

「私は二人のサポートを!」

 メリッサと言い争いを始めた隙に、シエロさん達をリアさんがいる部屋へと向かわせようとしたが。

 

 

「情報を漏らしたのみならず、取り逃がしたなどと報告できないからな……!

 

 古代兵器復活の邪魔をさせないためにも、今ここで捻り潰してくれるわ!

 

 ウオオオオオオオオ!」

 

 気取られていたらしく、即座に通せんぼをされた挙句……

 

 

「ケッ、そう簡単にはいかねえか!」

「ナギトさん、戦闘態勢を!」

 

 

 唸り声と共に、その姿を本来のトロールへと変えていた。

 

「ああ、行くぞみんな………って、どうした?エーリカ」

 

 

 

 その変貌に慌てて武器を構えた俺は、引いたような視線を送るエーリカが謎で声をかけると。

 

 

「うっわー………久々に見たけど、気持ち悪いわね…。

 

 

 全然可愛くない……」

 

 エーリカが、生理的な嫌悪すら感じさせるような表情でチャーリーを見ていた。

 

「ええ……⁉︎き、気持ち悪い…⁉︎」

 

 その反応にショックを受けた様子のチャーリーを見て、シエロさんが慌てた様子で。

 

「え、エーリカちゃん?なんだか、落ち込んでるんだけど……謝った方がいいんじゃあ…」

「だったらシエロはどうなの⁉︎

 

 変身したモンスター形態、気持ち悪いと思わない?」

 

 チャーリーが、エーリカの質問を耳にしてシエロさんに視線を向けるが、そのシエロさんは……。

 

 

「気持ち悪いとまでは言わないけど、可愛くはないかな……?」

 

 傷口に塩を振りかけていた。

 

 

「か、可愛くない………シエロちゃんに、可愛くないって………!

 

 どうして……⁉︎」

 

 

 完全にorzな感じになっているチャーリー………敵ながら哀れだが、俺たちにとってこれはチャンスだ。

 

 

「ゆんゆん、今だ!」

「……可哀想だけど、割り切らないとダメですよね。

 

『アンクルスネア』!」

 

 ゆんゆんが放った魔法が、チャーリーの脛を拘束する。

 

「ぬう⁉︎拘束系の魔法か………だが、このくらいなら」

 

 と、力任せに魔法を解こうとしたが……ゆんゆんの詠唱はそれより早く。

「『スリープ』!」

「ほど………く………の…………は……………」

 

 

 間髪入れずに放たれたスリープの魔法で、チャーリーはなす術もなく眠ってしまうのであった。

 

 

 

 チャーリーを無力化させた俺たちは、リアさんが閉じ込められている部屋らしき場所に辿り着き、鍵はメリッサの『鍵開け』スキルにより解かれた。

 

 そして、扉を開いた俺たちを待ち受けていたのは………!

 

 

「な、何なのよこの匂い‼︎」

「く、臭い……⁉︎ナギトさん!この部屋、とてつもなくゴミ臭いですよ‼︎しかも、めちゃくちゃにいろんなものが散乱してます‼︎」

 

 タンスやクローゼットは開け放たれ、空き瓶、包装などのゴミが散乱しており………まるでごみ収集所のような悪臭を漂わせていた。

 

 しかも、所々には謎のキノコが生え出し……蟻やゴキブリがちらほら見えている。

 

「一体、ここは何なのよ……⁉︎部屋の内装が良い分、余計に汚さが引き立つわ」

「一体、ここで何が……⁉︎」

 

 メリッサが鼻を摘みながら文句を言う隣で、ゆんゆんがハンカチで口を覆いながら戦慄している。

 

 たしかに、この部屋の状態は何か一騒動起こったと考えるのが普通だが………俺はこの光景に見覚えがあった。

 

 

「いや、これって………」

「ナギト君も、同じことを考えたようですね」

「まあ、ナギトは一回見てるもんね…」

 

 そして、同じく見覚えがありそうな二人が賛同する。

 

「ナギトさん、何でそんなに冷静なんですか⁉︎」

「何でって言われても………」

 

 慌てた様子で食ってかかってきたゆんゆんに応対していると、その部屋の中央に鎮座するゴミの山がモゾモゾし始めたので。

 

 

「リアさーん!おはようございまーす!」

「ねえ?あなた、このゴミの山を見て気が狂ったの⁉︎こんなところにその例のリアがいる訳……」

 大声で叫んでみると………?

 

 

 

「んん……?ナギト、エーリカ、シエロ………助けに来てくれたのか?」

 

「「いたぁ⁉︎」」

 リアさんがこちらに反応し、それにゆんゆんとメリッサが驚きのあまりポカンとしていた。

 

「このゴミの山の中で寝てるなんて………リアちゃんらしいな……」

「この部屋に入った時から、リアの無事は何となく察したわ」

「折角の再会なのに、あっさりとしすぎじゃ……」

 

 苦笑いするシエロさんとエーリカに、引いた視線を向けるゆんゆん。

 

「部屋をこれだけ汚せるって事は、リアちゃんが元気な証拠ですから…」

「部屋の汚さで無事を確認されるなんて……それって、女としてどうなの…?」

「いや、前行った部屋も中々……スープは皿の底で凝固して、飲み物は腐って変な色に…」

「止めて!そんな醜い話、これ以上聞きたくないわ……!ナギト、次は私の目的に協力してもらうから、早く宝物庫に行きましょう!今すぐにいきましょう!」

 

 部屋の汚さに耐えきれなかったらしいメリッサが俺の腕を掴んで外に出ようとするが……闇雲に行っても意味がない。なんせ……

「チャーリーから場所聞いてねえぞ⁉︎」

 

 そんな俺の疑問に、よっぽどこの汚さが嫌なのか。

「大丈夫よ。私の「宝感知」スキルがお宝を呼んでいるから………!」

 トレジャーハンターらしからぬ力で俺を連れて行こうとするので、ゆんゆん達に助けを求めたら。

 

「リアちゃんの新しい服は持ってきてます。だから、着替えが終わるまでナギト君とメリッサさんは……」

「そう!じゃあ、お言葉に甘えて外に行くわね!」

「待ってるだけだからな⁉︎宝物庫に行くのはみんなで一緒だからな⁉︎」

「な、ナギトさんー⁉︎」

 

 

 リアさんが着替え終えるまで、メリッサのお守りをさせられる事になった。

 

 

 リアさんと合流した後、宝物庫にて。

「この燭台は純金ね………それなりの額にはなるかしら。

 

 あとこの魔道具も、冒険者に高く売れそうだわ……!」

「悪い顔してやがんな………」

 

 メリッサ主導の下、俺達は宝石や金貨などの宝を袋に詰め込んでいた。

 

 流石に元魔王軍幹部候補なだけはあるのか、詰め込んでいるものはどれもそれなりの価値がありそうだ。

 

「ナギトさん?何だか私、罪悪感が湧いてくるんですけど…」

 盗賊という職業柄か、そこまで抵抗のない俺がせっせと袋に詰め込んでいる隣では、居心地の悪そうな顔をしたゆんゆんが悲しそうな目で訴えてきており、リアさん達も乗り気じゃなさそうだった。

 

「メリッサ!流石にそろそろお暇しようぜ、バレちまう!」

 そんなみんなの想いを代弁しながらメリッサに呼びかけると、一仕事終えたようなほくほく顔で。

 

「分かってるわよ……金目の物は詰め込んだし、もう大丈夫よ」

 風呂敷のような布に包まれた大荷物を背負ったメリッサがこちらにやってくるが………うん。

 

「こうやって、大きな袋を抱えていると…………まるで、泥ぼ……」

「違うわ、トレジャーハンターよ。

 

 分かってくれるわよね?可愛い踊り子さん?」

 

 シエロさんが、俺も思っていたことを口にしていて、メリッサに真顔で突っ込まれていた。

 

「か、可愛い……!

 

 

 はい!メリッサさんは泥棒ではなく、トレジャーハンターです!」

 

 

「ナギト?エーリカがあの人に手懐けられてる気がするんだけど…」

「メリッサの頭がいいのか、エーリカが単純なのか……」

 メリッサの言葉にあった「可愛い」という単語であっさりと言いくるめられたエーリカ……流石にチョロい。

 

 

「と、とにかく……。早く脱出しましょう!」

「私のスリープで、あの人にいつまで効くかわからないんですから……」

 苦笑いしたシエロさんとゆんゆんが入り口に向かおうとしたその時、アナウンスらしき音声が鳴り響いた。

 

 

「城内放送!見つかっちまったか……」

「……あの豚にかけてたスリープが解けたんじゃない?」

「でも、それならもっと騒がしくなってるはずですよね?一体何が……」

 空気が張り詰める中、アナウンスの後に声が聞こえ始める。

 

「マイテス、マイテス………リアさん、リアさん。

 

 

 女神のように可愛いリアさん。聞こえますか?

 

 

 大事なぬいぐるみは預かりました。返して欲しかったら、玉座の裏にある隠し扉から、祭壇の間に来てください」

 

 

………え?これだけ?

 

「……ぬいぐるみ?」

「リアさんは、きつねのぬいぐるみを大事にしているんですよ。

 

 でも、そういえば今日は背負ってませんね」

「ぬいぐるみを背負うの……?」

 

 首を傾げるメリッサにゆんゆんが説明しているが………。

 

 

「そう言えば、今日はいないわね……なんか違和感があったんだけど、スッキリしたわ」

「でも、なんでアレを……正直、城の中にあるトロールを全部追跡にやるとか言い出すかもと思ってたんだけど」

 思いついたように手を叩くエーリカの隣で俺は困惑していた。

 

 

 もっと色々あるかと思ったんだが……。

 

 

 と、意図がわからないでいた俺の前でリアさんが顔を青ざめさせ。

 

 

「ど、どどどど、どうしようナギト!コン次郎が攫われてしまった‼︎」

 慌てふためいた様子で俺に食ってかかってきた。

 

 しかし………

「リアさん落ち着け!あのゴミの山からアレを見つけ出せる訳ないだろ⁉︎」

「アレとか物扱いするな!コン次郎と言う立派な名前があるんだ!」

 

 コン次郎が心配なリアさんは、頭が回ってないようだ。

「あー、そうそう。コン次郎ね。すっかり忘れてたわ……」

「でも、だからって態々ダニエル達の言葉に乗るわけ……」

 

 エーリカが思い出したかのようにジト目を見せ、シエロさんが少し期待するかのような顔をするが……今のリアさんなら。

 

「行くに決まってる!コン次郎は、孤独だった私を慰めてくれた初めての友達なんだ……本当にコン次郎がダニエルの手に⁉︎」

 こう言い出すに決まってるんだよな………って、おっと?

 

「ゆんゆん、変な気を起こすなよ……ぬいぐるみを友達扱いはちょっと変だぜ」

「わ、分かってます……」

 

 そんな歯痒そうな顔で頷かれても………

 こいつの「友達」と言う言葉への弱さも相当なもんだな。

 

 

 そんな中、リアさんの問いかけをどこかで聞いていたのか。

 

「リアちゃん、助けて………ボク、コン次郎だよ…………」

 

 

 放送を流していたスピーカーらしき魔道具から、コン次郎の声………ぬいぐるみが喋るわけがないので、おそらくチャーリーかダニエルが適当に声を当てているのか、そんな声が聞こえてきた。

 

 普通ならすぐに三文芝居だと分かりそうだが………混乱状態に陥っているリアさんからしたら、本当にコン次郎が助けを求めてると思ったのか。

 

 

「間違いない……コン次郎の声だ!」

「ぬいぐるみはしゃべらないでしょ………この子、見た目によらず痛い子なのね」

 

 あの傍若無人なメリッサが少し引いた様子を見せているレベルで、リアさんがいわゆるアホの子と化していた。

「心優しいコン次郎を人質に取るなんて、卑劣な真似を……!

 

絶対に助け出さなくては……待っていてくれ、コン次郎‼︎」

 

 どんな顔をして接すればいいのかわからない状態の俺たちをさておき、リアさんは憤りと焦りを滲ませたような顔で何処かへと走り去って………‼︎

 

 

「え⁉︎ちょっと、リアさん⁉︎」

「リアちゃん!一人で行ったら危ないよ⁉︎」

 

 困惑の声をあげる俺と時を同じくして、シエロさんとエーリカも走り去って行ってしまった。

 

 

「シエロさんにエーリカさんまで……!どうするんですか⁉︎きっと、さっき言っていた祭壇にまで行くつもりですよ⁉︎」

「全く、呆れるほどに一途だぜ……俺たちも行くしかないだろ」

「報酬はあの子達を助けないと貰えないから付き合うけど……9割にさせてもらうわよ」

 こうして俺達は本来の隠密行動から一転、ダニエルとの直接対決に赴く事になったのであった。




いかがでしたか?
メリッサのキャラが本当に描きにくいです……

次回は、ダニエルとの対面となりますのでお楽しみに。

それでは、評価や感想待ってます。


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第21話 この古代兵器に復活を!

 生存報告を兼ねて更新です。


「ここが祭壇………あのでっかい魔法陣にトールハンマーが封じ込められてんのかね」

 

 リアさん達を追いかけていた俺たちがたどり着いたのは、大きな魔法陣が床に刻まれている大きな空間だった。

 

「お城の外で感じたものがより一層強くなってます……一体、どんな武器なの…?」

「……価値のあるお宝なのは間違いなさそうだけど、すこし危険な香りがするわね…」

「それよりも、今はリアさん達だ。一体どこに消えた…?」

 

 部屋こそやたらと広いが、そう距離は離されていない筈だ。

 

 

 そうして部屋を見渡すと……魔法陣を挟んで向かい側に3人と一匹を見つける。

 見つけたんだが………

 

 

「か、可愛くないとは聞き捨てなりませんな!トロールは結構愛嬌もあるのですよ!」

「可愛くない可愛くない可愛くなーい!世界の可愛い代表として、断固として断固として物申すわ!」

「ダニエル様!そこまでムキにならないでください、従者として少し恥ずかしいです!」

 

「………いたわね」

「いましたね」

「ああ……何してんだ?アイツら」

 

 エーリカとダニエルが、何かを言い争っている様子だった。

 

 

「リアさん!これは一体……」

「えっと……」

 リアさん達の近くまで来て話を聞こうとすると、リアさんやダニエル側のチャーリーはどう言えばいいのか悩んでいる様子だ。

 

 これは当事者に話を聞いたほうがいいとエーリカに話を聞こうと振り向いた時、ダニエルとエーリカがこっちに詰め寄ってきた。

 

「ナギトも言ってやってよ!アタシとトロールのどっちが可愛いかを!」

「トロールはオークやゴブリンなどと違って愛嬌があると思います!貴方も彼女にそれをわからせてあげてください!」

「エーリカはまだわかるけど、何でお前まで俺に頼んでるんだよ…」

 

 二人とも顔がマジで………尚更こんなところで何やってんだ感がすごい。

 

「エーリカさんはなんか質問の意味が変わってません…?

 

 トロールが可愛くないかどうかって議題……だと思うんですが…」

「子供の口喧嘩ね。

 

 しかも、比較対象がオークやゴブリンって……醜い争いだわ」

 

 困惑しているゆんゆんに、バッサリと切り捨てるメリッサ。

 

 まあ、オークにゴブリン、トロールでの可愛さ対決なんて最下位争いみたいなもんだが。

 

 

……とりあえず。

「二人とも今から封印を巡ってやり合うんだから、もうちょっとこう……緊張感をだな…」

「「……!」」

「目的を忘れてるんじゃねえよ‼︎」

 

 本題そっちのけでかわされたバカな論議は、強制終了させてもらう事にした。

 

 

 

「そうでしたね……確かに、可愛いかどうかなどどうでもいい事でした。しかし……今回は特別にこの姿で戦わせていただきましょう!」

「ガッツリ気にしてんじゃねえか」

「お黙りなさい!」

 

 仕切り直すように戦闘態勢に入ったダニエルは、先程の論議を気にしてか、あのトロールロードの姿にはならないようだった。

 

「ダニエル様、正気ですか⁉︎………この人数相手にこのままでは流石にキツい、流石に私は変身しますよ?……うおああああおおおお‼︎」

 

 まあ、チャーリーは変身してトロールの姿になったが。

 

「……やっぱり気色悪いわね」

「それはもう聞き飽きた。精神攻撃など、もう通用しない!」

「その割には、ちょっと表情変わったような……」

「エーリカちゃん、リアちゃん!今はそれは良いでしょ⁉︎」

 

 やはり可愛いを自称するだけあって、可愛くないものにはとことん厳しいエーリカさん……言いたいことはあるが、今はいいや。

 

「それでは、行きますよ……チャーリー‼︎」

「かしこまりました、ダニエル様!」

 

 ダニエルとチャーリーが、戦闘態勢に入っているからな。

 

「ナギトさん、来ます‼︎」

「やるしかねえな……行くぞゆんゆん、皆!」

「ああ!」

「任せなさい!」

「うん!」

「仕方ないわね……」

 こうして、魔法陣が煌めく祭壇での戦いが幕を開けた。

 

 

「私が囮になる!その内に皆んなは攻撃を……シエロ!支援をお願い!」

「うん……!『プロテクション』、『パワード』‼︎」

 

 迷わずリアさんに向かっていったダニエルの一撃を槍で受け止めたリアさんが、俺たちに攻撃を促した。

 

 だが……

「シエロオオオオ‼︎」

「させるかよ!」

 もう一人がシエロさんに迫った為に俺が割って入り、鎌で受け止めた。

 

 そう。

 今回はチャーリーの相手もしなくてはならない為、ダニエルにみんなでかかる事はできない。

 

 そうなると………より強い方であろうダニエルに戦力を回した方がいい。

 

「俺とゆんゆんでチャーリーの相手をするから、後のみんなはダニエルを!」

「分かったわ!でも、早めにこっちに来てよね!」

「分かりました!行きますよ……『ライトニング』‼︎」

 

 ダニエルに4人がかかっていったのを尻目に、ゆんゆんがチャーリーに魔法を放つ。

 

「さすがは紅魔族といったところか、だが……!」

 チャーリーは横に飛んで避けた。

 

 しかし……飛んでいる時は踏ん張りが効かない!

「『突風』……『ウインド・リーパー』‼︎」

「ええい!こんなタイミングで……」

 

 俺は、地面に足がつく前にチャーリーに肉薄し、『ウインド・リーパー』による連撃を仕掛ける。

 

 

「中々の攻撃だが……深手には至らんぞ!」

 

 直撃はしたが、チャーリーの巨体を吹っ飛ばす事はできず、分厚い脂肪の盾に阻まれてダメージにもなってなさそうだ。

 

 お返しとばかりに振られた斧を鎌で受け止める。

 

「やっぱ、一撃が重い……!」

「フハハハハ!トロールの恐ろしさ、思い知らせてくれるわ!」

 相変わらず、とんでもない威力の一撃だが……ダニエルのものよりは軽い。

 しかも……

「力任せの癖に、偉そうに言うんじゃねえや!」

「何ィ⁉︎」

 斧を押し付けてくるだけなので、鎌を逸らしてやるだけで簡単に態勢を崩していた。

 

 このチャーリー、ダニエルと比べると駆け引きでは劣るようだ。

 

「ナギトさん、離れていて下さい……『ストリーム・ウォーター』‼︎『ライトニング』‼︎」

 その隙にゆんゆんが、水と雷の中級魔法をチャーリーに打ち込む。

 

「アガガガガガ⁉︎

 

 そ、その若さにしては凄まじい威力……!やはり、紅魔族は伊達ではないな…」

 

 タフネスが自慢のトロールでも、豊富な魔力から放たれた中級魔法のコンボはキツイのか、膝をついていた。

 

……つまり、追撃のチャンスだ。

「まだまだ終わらないぜ!」

 俺は、ライトサーベルを引き抜いてチャーリーに迫る。

 

「寄るな!」

「『ウインド・バレット』‼︎」

 追い払うように片手で斧を振りかぶっていたので、全力のウインド・バレットで斧をはたき落とす。

 

「コレで終わりだ‼︎」

 かつてダニエルの斧をも切り裂いた光剣で、チャーリーに斬撃を喰らわせようとしたその時。

 

「……何⁉︎」

 突然地面が激しく揺れ始めた。

 

「この城が揺れるとは……しかし、今のうちに‼︎」

 

 その揺れに戸惑っている内に、チャーリーには逃げられてしまうが、それに反応する間も無く、突如として空から雷がほとばしる。

 

 落ちた先は………祭壇に広々と刻まれていた紋章だ。

 

「祭壇に……⁉︎」

「私たちが突入した時は、雷雲なんて無かったはずなのに……」

 先程までとは明らかに違う空模様に、やって来たゆんゆんと顔を見合わせていると、またもや同じ場所に雷が落ちた。

 

 その、自然現象ではなさそうな雷の落ち方にリアさん達は大丈夫かと思って視線を向けると。

 

 

「フハハハハハハ!やりましたよ、私はついにやりました!」

「おお………!と、言う事は‼︎」

 ダニエルとチャーリーが興奮冷めやらぬといった顔をしていた。

 

 そのダニエル達から少し離れた位置に4人が固まっていたのでそちらに合流する。

「リアさん!みんな……何があった⁉︎」

「分からない!私が必殺技を使おうとしたら、急に……!」

 リアさんが必殺技を使おうとしたら……?

 

 頭にはてなを浮かべている俺に応えるように、ダニエルが。

「『女神の如き舞いを披露せし者、蒼き衣を纏いてこの地に降り立つべし』………やはり、私の目は本物でした!

 

 

 リアこそが、この条件に当てはまる踊り子だったのです!」

 

 分かりやすい説明をしてくれた。

 

 つまり…………!

 

「嵌められたか‼︎」

「やたらと逃げてばかりだと思ってたけど。

 

 祭壇で技を使わせて儀式を行わせる作戦だった……ってとこかしら?豚のくせにやるじゃない」

 

 普通に踊ってくれと頼んでも、これだけやれば断られるのは目に見えてる。

 それなら、追い込まれたふりをして祭壇まで誘導し、その上で必殺技の『水のラプソディー』を儀式の踊りとして使ったと言う事だろう………意外と狡猾なドルオタである。

 

 

「見て!だんだん稲妻が何かの形になってるわ!」

「あれは………槌?でしょうか?ハンマーって言っていたからもっと大きいのかと思ってましたけど……」

 エーリカ達の声の通り、迸る雷は何かの形を為して………

 

 やがて、ゴツいデザインな金色の槌がその場に鎮座した。

 

「とんでもない魔力だな……」

「ええ。まさに古代兵器、って感じですよね…」

 

 俺とゆんゆんが戦慄していると、ダニエルがその槌を手に取り。

 

 

「フハハハハハハ‼︎ 

 

 とうとう手に入れました!

 

 最強の古代兵器『トールハンマー』を‼︎」

 

「トールハンマー……高く売れそうだけど、危ない香りがするわ」

 

 メリッサも口調は冷静ながらも冷や汗を流していた。

 

「どうするのよどうするのよ、大ピンチじゃない!」

「本当にすごい魔力ですね……!」

 

 そうして各々に戦慄しているこちらと違い、ダニエル達は大喜びだった。

 

「ダニエル様!ついに………ついにやったのですね!」

「ええ。後は、ここにいる冒険者達にとどめを刺せば終わりです……

 

 

 もちろん、踊り子達は丁重に扱いますが」

 そして、こちらを攻撃する気も満々なようだ。

 

「逃げ道は無いのか⁉︎」

「逃すとお思いで?

 

 残念ながら、あなた方には逃げ道も勝機もない!

 

 それをわからせてあげますよ、今すぐにね‼︎」

 

 各々に武器を構える俺たちの前で、ダニエルはそのハンマーを振りかぶり……!

 

 

 

 勢いよく振り下ろした。

 

「唸れ!稲妻よ‼︎」

 

 それと同時に城を揺るがすほどの稲妻が俺たちを襲った。

 

 

「「「きゃあああああ⁉︎」」」

 

 

「なんつー破壊力……城が揺れたぞ⁉︎」

 当たった奴はいないが、その威力は城を揺るがすほどのものだ。

 

「ナギトさん、あんなの一発でも喰らえば死んじゃいます!気をつけて下さい!」

「ああ……でも、あんなんどう対処すれば」

 

「ボクの結界の魔法でも、あんなの耐えきれそうに無いです……!」

「それどころか、こんなのが世に出たら大変な事に……!

 

私は、なんて事を……!」

「真面目ねえ……知らない振りして逃げちゃえばいいのに」

 

 リアさんが顔を青くしているが、あれは流石に事故みたいなもんだ。

 

 メリッサみたく知らんふりして……は無理だな、この人の場合。

 

 

「クックック……今更恐れ慄いても遅い‼︎

 

 ダニエル様!もう一発お見舞いしてやりましょう!」

 

……って、おい⁉︎

 

「もう1発来るのか⁉︎」

 

 チャーリーの声に一瞬死を覚悟して、雷がこちらに当たらない事を祈りはじめたが。

 

 

 

「ナギトさん!あれ、ダニエルさんも感電死しかかってませんか⁉︎」

「はあ⁉︎」

 

 なぜか、攻撃をしていたはずのダニエルが感電していた。

 

「え?え?どう言う事だ…?」

「よく分からないけど……」

「ボク達、助かったのかな?」

 

 

「えええ⁉︎ど、どうしてダニエル様が感電死しかかってるんですか⁉︎」

 

 チャーリーが慌てて駆け寄ると、ダニエルは荒い息を吐いて。

「わ、私にも分かりませんが……これは、大きな誤算です。

 

 一体、どうしてこのような……?」

 

 ひょっとして、力が強すぎて生半可に使うと逆に痛い目を見る……とかかな?

 

 そんな想像をしていると、チャーリーが地面に落ちていた紙を拾い上げた。

 

 

「ああ!ダニエル様、ここに兵器と一緒に復活した取扱説明書があります‼︎」

 

……取説⁉︎

 

 

「なあ、あれって電化製品とかじゃないよな⁉︎古代兵器なんだよな⁉︎」

「で、でんかせいひん……?よくわかりませんが、多分古代兵器ですよ!ねえ、メリッサさん⁉︎」

「古代には、きっと取扱説明書と一緒に封印しておく風習があったんでしょ……訳の分からない事を言い出さないでちょうだい」

 メリッサにそう言われて少しは落ち着いたので、チャーリーの話を聞くことにする。

 

 

「『今回はトールハンマーのご利用、誠にありがとうございます。

 

 トールハンマーは、古代の言葉で「打ち砕くもの」を意味します。

 

 凄まじいエネルギーの塊である為、生身で扱うのは危険です。』……」

 

「そう言うのは、使う前に言って欲しかったですね。

 

 まあ、読まなかった私の落ち度でしょうか…」

 

……やっぱり俺、アレが電化製品にしか思えなくなってるんだが。

 

「それで?続きを」

「はい。

 

『安全にご使用いただくためには、手袋型の魔道具『ヤールングレイプル』を併用してください』との事です」

 

 

「必死に手に入れたものの、それ一個じゃ効果を発揮しないとか……悪徳商法みたいな古代兵器ね」

「それを伏せて売りつけて……的な?」

「まあ、そんなところよ」

 ダニエルに促されたチャーリーが続きを読んでいる前でメリッサが頭を抱えている。

 

 まあ、そんな俺たちに構わずチャーリーは説明書を読み進めて………

 

 

「なお、ヤールングレイプルは遥か北にある「ウォルム山」に安置されていま「チャーリー!それは言わない方が……!」

 

 

 とんでもない情報を教えてくれた。

 

「お前ら、聞いたか?」

「ええ。この可愛いお耳でバッチリとね!」

「あんな物が制御可能になったら、どれだけの被害が出るかわからない!私達の手で無力化するんだ!」

 

 だが……問題はどうやってここから逃げるか、だ。

 

「口を滑らせた失態を取り返すためにも……!ここからは一歩も出さない!」

 

 ダニエルはハンマー使用の代償を受けて動けないとしても、チャーリーはほぼ無傷だ。

 数は圧倒的にこちらが多いけど、戦ってる間にダニエルに回復されても厄介だし……ここは!

 

「ゆんゆん!ありったけの魔力で水の魔法を使ってくれ……流れに乗って脱出する!」

 祭壇は天井がひらけているから、風魔法で打ち上げられながら脱出するのもアリだろうが……それだと脱出した後で落下死の危険がある。

 

 だから……水の流れに乗って脱出しちまおうと言う話だ。

「何⁉︎そんな事をすればこの城が水浸しに……」

 

 ゆんゆんにそう叫ぶと、チャーリーがそうはさせないと向かってきたが……ゆんゆんの詠唱の方が早かった。

 

 

「行きますよ‼︎

 

 

 

『ストリーム・ウォーター』ッッッ‼︎」

 

 そうして生み出された大量の水の流れに乗って、俺たちは城の外まで流されて行ったのであった。

 

 

「お、おのれええええええええ⁉︎」




いかがでしたか?

今回はトールハンマーの復活回でしたが、取説付きの古代兵器ってなんぞやと、このすば世界の出鱈目さをしっかり表してる魔道具だな……と、ゲームをやりながら感心しています。

次回は、ウォルム山へ向けての準備としてあの姉妹が出てきます。

どうぞ、お楽しみに!


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第22話 この獣人姉妹と収穫を!

更新です。

ぜひ、楽しんでいってください。


 リアさんをダニエル達の城から奪還した俺達は、アクセルに急いで戻り。

 

「ええ⁉︎一振りで雷を呼ぶ古代兵器、ですか……」

 

「ああ。今はまだ制御ができないみたいだが、もしもダニエルが『ヤールングレイプル』を手に入れたら相当ヤバい……」

「近くで見てましたけど、威力は爆裂魔法以上でした」

 俺とゆんゆんは冒険者ギルドで報告を行っていた。

 

 まあ、リアさんが復活条件に当てはまっていたがために復活したとは口が裂けても言えない為、そこは隠しての報告になるが。

 

「俺たちやこの街だけでどうにかなる問題じゃないから、他の街や王都に援軍を頼めないか?」

 トールハンマーとダニエル、そしてチャーリーの特徴をある程度伝えてからこう締めると、受付嬢のお姉さんは申し訳なさそうに。

 

「確かに、アクセルの街だけで抱え込めませんので、すぐにでも王都に援軍を要請したいのですが………じつは、最近王都で大変なことが起こっているんですよ」

 

 と、不穏なことを言い出した。

「大変な事?まさか、王都にも魔王軍幹部が攻め込んでるとかじゃないよな……」

「いえ、そうではなくてですね………」

 また先日のシルビアパターンかと思いきや、首を振られた。

 受付嬢のお姉さん曰く、大変な事というのは……

 

 

「義賊、ですか?」

 

 そう、この頃王都に盗賊が出没しだしたのだ。

 

 ある程度良くない噂がある貴族の家に夜な夜な侵入し、魔道具や金品を奪っていく………まあ、内容だけ聞くと爽快ものだな。

 

 だが、王都は人類と魔王軍の戦いにおける人類側の砦であり、この国『ベルセルク』の王族が暮らす場所。

 

 当然ながら警備も厳重な中での犯行という事で、王都がちょっとした騒動になっている為、アクセルの街に応援を送ってくれるのがいつになるかわからないとの事だった。

 

 

「それじゃあ……」

「ああ。ダニエルがヤールングレイプルを手に入れるより先に、俺たちが回収するしかない、か……なら、そう時間はないぜ」

 つまり、王都からの強い援軍もないままに、ヤールングレイプルを手に入れにいかなくてはならないのだ。

………ウィズさん曰く行動力のあるダニエルならすぐにでも取りに向かっていそうだし、できればすぐにと言うオマケもついている。

「すいません、なんかあったらまた報告します!」

「え?あ、ちょっとまっ……」

 という事で、お姉さんへのお礼もそこそこに俺たちは街へと繰り出した。

 

 

 

 街へ繰り出した俺達は、フードコート的なところで見知った顔を見つけたので、ウォルム山について聞いてみたが、帰ってきた答えは……

 

 

「ウォルム山に関する情報はないわよ。あそこには宝があるダンジョンがあるわけじゃないし……そもそも、今私はこの天使ちゃんとの新生活をエンジョイしたいもの、協力もできないわ」

 

 実にメリッサらしい答えだった。

「そうか……てか、メリッサがこんなところにいるなんてな。もっとこう……高そうなホテルの一室にいそうなイメージがあったんだが」

「なんかわかります……お宝をあちこちに並べて、みたいな感じですよね」

「そういうところじゃペット持ち込み禁止の場合が多いのよ。それに、イチゴはやっぱりとれたて新鮮な物に限るわ」

 

 メリッサは好物らしいイチゴを食べながら答える。

 

 と、それを見ていたゆんゆんが思い出したかのように。

「ナギトさん、今から八百屋さんに行きましょう!」

 

 素っ頓狂なことを言い出した。

「八百屋?腹減ってるんなら、ここでなんか買ってけば良いじゃんか」

 財布を片手に何か買おうとした俺をゆんゆんは顔を赤くして引き留めた。

「そういうわけじゃないです!北の大地で育てられた野菜は美味しいっていうじゃないですか。だから、もしかしたら……」

 

 北の大地での話は知らないが、考えとしては理解した。

 

 つまり、野菜の名産地について知っている人達からウォルム山に関しての情報が得られるかも……って、ところか。

 

「他に思いつかないし、それで行ってみるか」

 

 という事で、俺達は商店街に出向くことにした。

 

 

 十数分後。

 俺たちは商店街の八百屋や果物屋に足を運び、聞き込んで回ったのだが……

 

「分かったことといえば、サムイドーって言うところで作られた農作物が美味くて、ウォルム山はその近くにあるってことだけか」

「そうですね……すごいですよこのリンゴ。いつも食べてる果物より美味しいです」

「……たしかに、モロコシも美味い」

 ウォルム山がどういうところかという情報と、大量の果物や野菜を手に入れたくらいだった。

 

 リンゴを食べているゆんゆんに頷きながら、とうもろこしを齧ると、地球のものよりも甘みが強い上に歯応えがすごい。

 

 小腹が空いてたからとても……じゃなくて。

 

「問題はウォルム山への行き方がわからないことだよな。アクセルのギルドに地図はないらしいし」

 

 つまり、肝心の行き方が分からないのであり、そこに俺たちは頭を悩ませる。

 

 

「リアさん達が何か知ってるかもだけど……あの3人にはコンテストが控えてるしな」

「連れ回すのは、躊躇しますよね…」

 自分のせいだからって、私も行くと言い出したリアさんを説得したばかりなのだ。

 

 行き方が分からず、応援もそこまで期待できない。

 そんな、なかなかにくそったれな状況にどうするかを悩んでいると。

 

 

 

「ウォルム山って、あのウォルム山か?」

 と、突然声をかけられた。

 少しびっくりしながら後ろを振り向くと、そこには小さな女の子が。

 

「ああ、そうだけど……そちらさん、一体?」

 背丈はめぐみんより少し小さいくらいで、服装はオーバーオール。

 

 どことなく、農家の子供みたいな感じの子だが……頭には大きな獣の耳があった。

 いわゆる獣人ってやつか。

 

 そして、その獣人の子は無邪気そうに笑い。

「ミーアはミーアだ!よろしくな!」

 と、胸を張った。

 

「ああ。俺はナギト。こっちの女の子がゆんゆんだ」

「よ、よろしくね!ミーアちゃん……ところで、ウォルム山について知っているみたいだけど……!」

 逆に、緊張気味のゆんゆんが話を振ろうとすると、ミーアの後ろからもう一人の人影が現れた。

 

「こんなところにいたのねミーアちゃん……あら?その子達は?」

 その人は、おっとりとした美人で……雰囲気はどことなく母性的だった。

 

 背丈は俺より少し高いくらいで、年は一回りくらい向こうのほうが高そうである。

「俺はナギトって言います……み、ミーアさんにはウォルム山についてちょっと聞きたいことがございまして……」

 見た目、声共になかなかのストライクなそのお姉さんに、少しドキドキしながら応答すると、その人は微笑んで。

 

「そうだったの……私はエイミー。ミーアちゃんと一緒にこの街にお野菜を売りにきたわ。よろしくね?ナギトくん」

 名前を呼ばれて、顔が赤くなってないかと考え始めた俺の隣で、どこかもやついたものを抱えていそうな顔のゆんゆんが。

 

「私はゆんゆんです。その…ウォルム山って知ってますか?」

 

 と、単刀直入な質問をしているからこそ、その表情の意図がわからなかった。

「……どうしたん?」

「な、なんでもないですよ?」

 その顔でなんでもないわけないと思うんだが………まあ、いいや。

 

「ウォルム山は、北の大地にある大きな火山のことだな。ミーアのところのもんなら、みーんな知ってるぞ!

 

 獣人の村はその近くにあるんだからな!」

「へー…」

 ミーアがそう答えてくれたので、相槌を打っていると。

 

「ひょっとして、ナギト達はウォルム山に行きたいのか?」

 と、耳をピコピコさせて聞いて来た。

「ああ。でも、行き方が分からなくてな……」

 

 この場にケモ耳やらモフモフやらに目がないメリッサがいなくてよかったと思いながら答えると、ミーアが分かった!と手を叩き。

「分かった!丁度ミーア達も野菜の仕入れに村に帰るところだから、案内してやってもいいぞ!」

 と、願ってもない提案をして来た。

「あらミーアちゃん、道案内してあげられるなんて偉いわね。

 

 でも、ウォルム山になんのご用かしら?」

 

 エイミーさんにそう聞かれ、すこしドキッとしながらも。

「実は、そこに安置されている魔道具が、世界の命運を握りかねないことが分かって……それを魔王軍に取られたら、大変なことになっちゃうんです。

 

 だから……お願いします、俺たちをウォルム山に案内してください!」

 と、ゆんゆんと一緒に頭を下げると。

 

「お前、なんか凄いな……ミーアにはよくわかんないけど案内してやるぞ!」

「私も良いわ。でも……」

 

 ミーアに続いたエイミーさんの言葉に頭をあげると、

 

「モンスターも沢山出る、とっても危険な場所だから。

 

 

 ちゃんと準備しないと「めっ」よ?」

 

 実に破壊力のある念押しをして来た。

 

 そして、そんな感じでエイミーさんのお姉さん力にドキドキしっぱなしな俺は、その後ろで誰かがこっそりと聞いて来た事など知る由もなかった。

 

「ナギト……ゆんゆん………。やっぱり、私も……!

 

 

 2日後。

 カズマさんにも頼もうかと思って訪問したところ、なんとカズマさん達パーティーは王女様との会食を行う予定が近いことから、断られてしまった。

 

 アクセルハーツに声をかけるわけにはいかないし、メリッサも先日先手を撃たれている。

 仕方がないので、俺たち2人と獣人姉妹で行こうかと考えてたんだが……。

 

 

 ギルドのお姉さんが、懐かしい顔を応援として連れて来ていた。

 

 ウォルム山の入り口付近。

「劇場で会ったと思うけど……改めて。

 

 僕はミツルギキョウヤ……ソードマスターだ。

 

 世界を揺るがしかねない魔道具の回収……僕も協力させてもらおう」

「俺はナギトだ。宜しく頼むぜ、魔剣の勇者さんよ」

「ああ。この僕とグラムに任せてくれ」

 そう、前に小劇場で一緒に戦った魔剣使いことミツルギである。

 

「私はゆんゆんと言います……短い間ですが、宜しくお願いします!」

「ミーアはミーアだ!宜しくな!」

「エイミーよ。怪我したら手当てしてあげるから、いつでも言ってね?」

「ええ……よろしくお願いします」

 

 自己紹介を軽くしながら登り始めているが……厚着をしていても寒い。

「とんでもねえ寒さだな……もっと着込んでくればよかったぜ。ミツルギはよくいつもの格好で平気だよな」

「見ているこっちが寒くなりますよ……。初級魔法覚えようかしら…」

 

 ミーアやエイミーさんはここの環境に慣れてるだろうから、普段着でも平気というのは理解できる話だが……こいつまで平気そうにしているとはどう言う事だろう?

 

「なあ、その防具の中にカイロとか仕込んでるのか?」

「カイロなんてここにあるわけがないだろう?防具に防寒のエンチャントをかけてるのさ」

「マ○クラかよ!」

 思わず突っ込んでしまったが、今度服屋で頼んでみようかな……

 

 ちなみに、俺の格好は軽装状態からコートを着てマフラーと手袋をつけ、その上からマントを羽織っており、ゆんゆんも似たようなものだ。

 

「かいろ…?」

「マ○クラってなんだ?カマクラの仲間か?」

「カイロは故郷にあった使い捨ての防寒アイテムだよ。マ○クラってのは……」

 俺のツッコミに怪訝な顔をしたゆんゆんとミーアの質問に、どう答えようか迷っていたとき。

 

 

「……敵感知に反応あり!お前ら、戦闘準備だ!」

 

 何かの気配を感じた俺がそう声をかけ、みんなが武器を構えたのとほぼ同タイミングで……

 

「キャベキャベー!」

「トウモロコオオオオオオン‼︎」

 何かが鳴き声と共に突っ込んできた‼︎

 

 数分後。

 突っ込んできた奴らとの戦いは、ようやく終わろうとしていた。

 

「『ライトニング』!……ナギトさん、今です!」

「ああ!まとめて薙ぎ払ってやるぜ!

 

『突風』………そして、『ウインド・リーパー』!」

 

 ゆんゆんが放った落雷に驚いたのか、動きを止めたそいつらに風の刃を振るって仕留める。

 

「キャベキャベ……!」

「トマァ⁉︎」

「コオオオン‼︎」

 

 断末魔と共に動かなくなったのは………もう、通算何体目になるか分からないが、キャベツとトマトととうもろこしだった。

 

 この山では、一撃熊なども出るがそれより厄介なのはこの野菜達だとのこと。

「俺はサラダを作りに来てるわけじゃねえ……」

「野菜……昔、めぐみんと畑仕事をしてた時に散々揶揄われたことを思い出しますよ」

 

 ここまで来ればもうわかるだろう。

 

 ウォルム山の頂上にある祠を目指して登っていた俺達に襲いかかったのは、この野菜達の集団だったのだ。

 

 信じたくはなかったが、この世界の野菜達は有り余る生命力から飛んだり鳴き声をあげる。

 そして、食べられまいと攻撃をしてくると言う厄介な性質を持っていて、普段店に並んでいるヤツは農家の手によって締められた後のものなんだとか。

 

「しかし、ミーアやエイミーさんは手慣れてるな……普段からこう言うのやってんかな」

「そうですね……紅魔の里でも、農家の人たちってレベル高いんですよ?」

 

 農家に足を向けて眠れないのは、どこの世界も一緒らしい。

 

 そんなことを考えていると、ミツルギがこちらにかけて来た。

 

「大丈夫か?」

「ああ………あの野菜が意外に強くて驚いたけど、大したことはなかったさ」

「なら良いがよ……登り始めてまだ1時間も経ってないのにこの乱戦だ。思いやられるぜ」

 ミツルギの返答を聞きながら、山の頂上を見上げる。

 

 ウォルム山の頂上は、入り口から登って1日くらいかかるらしく、今は始めの始めと言ったところ。

 

 だと言うのに、出てくる野菜はかなりの数かつかなりの強さ………正直、しばらく野菜が嫌いになりそうだ。

 

「マナタイトは多めに持って来てありますけど……ちょっと不安です」

「疲れた時はここの野菜を食べれば、あっという間に元気になるぞ!活きの良い野菜ほどなまら美味いからな!」

「そ、そうなんですか?えーと……」

 俺のぼやきに首肯したゆんゆんが、ミーアに野菜を勧められてキョドっている……俺たちの中でぐいぐい来るタイプがいないから、慣れてないんだろうな。

 

 そんな光景にどこかほっこりとしたものを感じていると、エイミーさんが空を見上げて。

 

「あら?

 ねえ、ナギト君。あそこで空を飛んでいるのって……」

 気になることを言い出したので俺も空を見上げると。

 

 

 

「行きましょうダニエル様!

 

 古代兵器を操れる力を手土産に、魔王軍へと戻る為に!」

「ええ。

 

 そして最終的には、踊り子も手に入れる為に!」

 

 

 ダニエル達が、ワイバーンに乗って空から行こうとしていたのだ。

 

「くっ!小型竜に乗ってショートカットするとは、卑怯な!

 

 こうしてる場合じゃない、急いで追うぞ!」

…………その手があったかと思ったのは内緒にしておこう。まずい状況には変わらないんだし。

 

 しかし、アイツらは俺たちが下にいる事には気づいてない……いくら上空にいても注意散漫じゃなかろうか。

「ま、待ってください!走ってもワイバーンには追いつけません!」

「だけど、それ以外に手が……!」

 急いで向かおうとするミツルギと、それを止めようとするゆんゆん。

 

 そんな相対する意見を持った2人が、俺に視線を向けて来たので。

「いや、手ならある……ゆんゆん、エイミーさん。力を貸してもらうぜ」

 

 俺は、ふと思いついた作戦を実行に移す事にした。

 

 

「『パワード』!」

「ありがとうございます……ゆんゆん、心の準備はいいか?」

「は、はい……あの、重くないですか?」

 

 エイミーさんに、筋力増加の支援魔法を掛けてもらった俺がゆんゆんに声をかけると、背後からゆんゆんがボソボソと返事をした。

 

「筋力増加の支援魔法がかかってるんだ。軽いもんだぜ……」

「なら良かったです…」

 

 そうして、今から行うことに備えるように、首に回している腕の力が強まり……!

 

「き、筋力が強化されたのはゆんゆんもだから、あんまり強められると首が……」

「あ!すいません……」

 首を絞められそうになったので、慌てて力を弱めるように止めた。

 

 

「その子をおぶって高くジャンプし、魔法を放って撃ち落とす……君、堂々と不意打ちをするのかい?」

「あっちがチート使ったんだから、ノーカンってやつさ…少なくとも走って追いかけるよりは現実的だろ?」

 模範的な勇者気質なコイツからしたら邪道もいいところなんだろうが……今はそんなことを言っている余裕はないのだ。

 

 ちょっと賛同しきれていないような顔をするミツルギにそう返し、俺はおぶっているゆんゆんに最後の確認をする。

「チャンスは一度きりだ……ゆんゆん、絶対に外すなよ」

「はい、どうぞ……!」

 

 少し緊張気味なゆんゆんが頷いたので……俺はスキルを発動した。

 

 

「『ハイジャンプ』‼︎」

 足に力を込め切った後に大地を蹴ると、体は高く飛び上がり……ダニエル達がワイバーンに乗っている高度よりも高い位置にやって来た。

 

 このスキルは、高くジャンプすることができるスキル。

 飛べる高さは筋力によって決まるが、今みたいに誰かをおぶっている場合はそこまで高く飛ぶことができない為、今みたいに筋力増加の支援魔法を掛けてもらう必要があるのだ。

 

「ゆんゆん、意識はあるか⁉︎」

「はい、大丈夫です!」

 急な動きにゆんゆんが気絶してないか確かめると、ゆんゆんは寒そうにしながらも大丈夫そうだった。

 

 そして、高く飛び上がると言うことは……そこから一気に地面に落ちていくと言うことでもあるので、安全に降りるにはもう一つスキルを使う必要がある。

 

「『ホバリング』!」

 

 空中にある程度とどまることができるこのスキルで、落ちるスピードを遅くするのだ。

 

 

 そうしてゆっくりと落ちながら、ゆんゆんが詠唱を終えて……。

 

「『カースド・ライトニング』‼︎」

 

 闇色の雷を放ち、ワイバーンの片翼を撃ち落とした。

 

 そうなると、バランスを崩したワイバーンはきりもみで地面に落ちていく。

 

「「うわあああああああああ⁉︎」

 

 そんな突然の墜落に悲鳴をあげるダニエル達だが、やがて地面へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 そんなことがあってからさらに1時間後。

 襲いかかってくる野菜を倒したり、潜伏してやり過ごしたりしていた俺たちは、疲れを軽く癒すべく休憩をとっていた。

「今頃、ダニエル達はどうしてんのかな…」

「撃ち落とされた後は、私たちと同じく歩いて登るしかないと思いますが……どのくらいのペースで来るのかしら」

 

 ライトサーベルの熱で、ゆんゆんが覚えた初級魔法によりカップに注がれた水を沸かし、そこに粉を入れて作ったお茶を飲みながら話す隣では、ミーアとエイミーさんが。

 

「みんなお疲れ様。倒した野菜はご飯にしましょう?」

「ミーア、焼きもろこしが食べたい!」

「はいはい。あとで作るから、楽しみにしててね?」

 

 なんとも微笑ましい会話をしているのを眺めていると、落ち着かない感じのミツルギが。

「なあマトイ……本当にのんびりしていていいのかい?

 

 ダニエル達がどのルートで来るかは分からないが、僕達が敵をある程度倒しているんだぞ?

 そうなると、当然ペースは僕達よりも早くなるんじゃ……」

 

 と、不穏なことを言い出していると。

 

 

 

 

「いましたよダニエル様!奴らです‼︎」

 

 そんな声と共に、あの二人組がこちらにやって来た。

 

 ゆんゆんが驚いた様子で。

「私達の攻撃から、1時間で……⁉︎」

「よもや、ワイバーンを撃ち落としてくれようとは。

 

 お陰で歩く羽目になりましたよ……!」

「ダイエットに協力してやったんだ、ありがたく思ってくれや…」

 

 そう、先ほど話題にも上がったダニエルとチャーリーだ。

 

 

 俺が軽口を叩いている間に、休息ムードから一転して戦闘態勢に入ると、一番前にいたミツルギが。

 

 

「お前がダニエルか……これ以上先へは行かせない!

 

 この魔剣の勇者、ミツルギが相手だ‼︎」

 

魔剣を抜いて構えたと同時に高く飛び上がり。

 

「『ルーン・オブ・セイバー』‼︎」

 

 ダニエル達に斬りかかったが、間一髪で避けられていた。

 

「いやはや、確かに中々の太刀筋……」

「こんなのをまともに食らったら………ん?」

「まだまだ行くぞ……ん?なんだ、地面が揺れて………!」

 

 

 ミツルギが、更に追撃をしようとした時……地面が揺れだす。

 

「ナギトさん!これって……」

「地震か……⁉︎伏せるぞ!」

 

 俺とゆんゆんが地面に伏せると、ミーアが。

「なあ。この辺は崩れやすいから、あんまり派手な技は使わない方が良いぞ?」

 と、なんて事ないように言い出すと同時に。

 

 

 

「そう言う事はもっと早く言ってほしかったかなあああああああああ⁉︎」

「のわあああああああ⁉︎」

「こ、これは一本取られましたねえええええええ⁉︎」

 

 魔剣を振り下ろした先の地面が崩れ、ミツルギ、ダニエル、チャーリーは麓の方まで転がり落ちていった!

 

 

 とりあえず、落ちていった方向へ呼びかけてみる。

「ミツルギ⁉︎………大丈夫か⁉︎」

「ぐっ………皆んな!僕は大丈夫だから、先に進んでくれ‼︎」

「ナギトさん!どうしましょう……」

 

 どうやら無事みたいだ。

 ゆんゆんの思惑通り、できれば助けてやりたいが……今はそれよりもヤールングレイプルを手に入れる方が先。

 

 ならばせめて………

「ミツルギ‼︎骨は拾ってやるからなああああああ!」

「心配の方向が間違ってるんだけどおおおおおお⁉︎」

 

 

 一応声をかけて、俺たちは急いで頂上を目指すことにした。

 

 

 

 数時間後。山の中腹にまできた俺たちは今度こそ休憩をとっていた。

 

「エイミー、おかわり!」

「おいおい、まだ食うのかよ……」

「みているこっちがお腹いっぱいになる食べっぷりですね…」

 

 エイミーさんが作ってくれた野菜炒めや焼きもろこしは、かなりの絶品で、戦いで持っていかれた魔力がだいぶ戻ったようだが………俺たちの2倍近い量の食事をモリモリと頬張るミーアには、ある意味脱帽ものだ。

 

「あらあら……!たくさん食べられて、偉いわね……」

「偉いんですか……?それより、ミツルギさんは大丈夫なんでしょうか」

「本人は死んではいないみたいだけど……早く頂上に登って、ヤールングレイプルを取ったらとっとと探しに行こうか」

 

 

 と、料理を食べる作業に戻った俺たちの前に。

 

 

「………良かった!追いついた…………」

「「リアさん⁉︎」」

 

 

 ここにいないはずの人が、ひょっこりと姿を表した。

 




いかがでしたか?

では、スキルの紹介を。

ハイジャンプ 消費ポイント1
高くジャンプすることができる「エアーズ・ワークス」関連のスキル。
飛距離は筋力値に左右される。
元ネタは星のカービィから「ハイジャンプカービィ」。

ホバリング 消費ポイント1
 空中にとどまることができるスキル。落下の衝撃を殺すときなどに使うことができるので、主にナギトはハイジャンプと併用して使う。


ミーア 獣人 13歳 女
獣人の子供。好奇心旺盛で活発、天真爛漫だが食いしん坊。
野菜を売り歩くエイミーの手伝いをしている。
ナギト達に声をかけ、ウォルム山までの案内をした。

エイミー 獣人 18歳 女
 ミーアの姉。穏やかで心優しく、母性的な性格と見た目をしているが、かなりのシスコン。
 獣人の村で取れた野菜を他の街に売る仕事をしている。

 次回はリアがナギト達に合流するところから始めますので、ぜひ、お楽しみに!

感想や評価をよろしくお願いします。


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第23話 この雪山に争奪戦を!

久しぶりです。
頑張って捻り出したんで、ぜひ読んでください。


「「リアさん⁉︎」」

 ウォルム山の中腹あたりで休憩していた俺たちの前に現れたのは、この場にいないはずのリアさんだった。

 

「あ、あんたなんでここに⁉︎俺たちがなんとかするから良いって言っておいたはずだぜ?」

「そうですよ!コンテストの本選が近いのなら、練習したほうがいいんじゃ……」

 

 アクセルの街でついて行くと言い出した時に説得して、なんとか納得してもらえたと思っていたのに……。

 

 俺とゆんゆんが食ってかかると、リアさんは申し訳なさそうにしながらも。

 

「ごめん!

 2人の気持ちは分かるし、そう来るのも当然だと思う……でも!

 

 あれから考えたんだ……やっぱり、2人だけに任せることなんてできない。古代兵器の復活は……私がしてしまった事だから」

 

 と、はっきりと口にした。

 

「そりゃそうだけど……でも、リアさんが抜けて練習ができなかったら、せっかくのコンテストでの優勝が……!」

 エーリカやシエロさんは、止めたりしなかったのだろうか?

 

 気持ちはわかっても行動への納得はできないと食い下がる俺に。

 

「優勝をするためにも来たんだ。

 

 私が攫われなければ、こんなことにはならなかった……そう思ったら、コンテストの練習に集中できなくて……!」

 

 リアさんは、よほど思い詰めていたのか少し泣きそうになりながらも。

 

「だからお願いだ、ナギトにゆんゆん。

 

 良かったら私も連れていって欲しい……気がかりを残したままでは、コンテストに臨めそうもない…!」

 

 頭を下げたリアさんに、ゆんゆんが思い出したかのように。

「リアさん……あの、エーリカさんやシエロさんには?」

「私が考えてるのを見て、悩んでるくらいなら行けって……」

 そう苦笑するリアさん。

 

 まったく、エーリカと言いシエロさんと言い、リアさんに甘いんだから。

………これだけ聞かされたら、追い返すわけにはいかないじゃねえか。

 

 

「手間取らせやがるな……でも、こんなところまでついて来た奴に、帰れとは言えないし、言う権利もないわな」

「……!じゃあ!」

「……いいか?」

 

 視線を向けると、3人からOKサインが出る。

 

「しゃーねえな……自分の身は自分で守れよ?

 そして、さっさと回収してお暇するぜ」

「………!ありがとう、ナギト…」

 涙ながらに微笑むリアさんは、何というかとてつも無く……

「その笑顔は心臓に悪いから、抑えてくれると助かるかな」

「ええ?えっと……」

 心が持っていかれそうな感覚を晒していると、ゆんゆんが苦笑して。

 

「素直じゃないんですから……ナギトさん?」

「ピュアと言ってくれ…」

 こうして、ミツルギの代わりにリアさんを含めた5人組で、ウォルム山頂上への道を再び歩き出した。

 

 

 数時間後。途中参加のリアさんと共に野菜達と戦いながら進んでいた俺たちは、ようやく山頂の近くまでたどり着いていた。

「疲れたし酸素が薄い……なあエイミーさん、後どのくらい歩けば頂上だ?」

「後10分くらいよ。後少しだから頑張ってね?」

 連戦の後で疲れた体に、薄くなっている酸素はなかなかきついものがある。

 

 因みに、ダニエル達はミツルギが足止めをきっちりやってくれているのか、出会うことはなかった。

 

「ナギト。ヤールングレイプルが手に入ったらこの後どうするんだ?」

 

 その道すがらでリアさんに話を振られて、そう言えば考えてなかったことを思い出す。

 

 そうだな……

「壊しちまうのが手っ取り早いんだろうが……多分無理だろうな」

 

 爆裂魔法以上の威力を持つ魔道具を制御できるほどの魔道具を、どうやったら壊せるんだって話だ。

 

 すると、ミーアが閃いたかのように。

「なあ、ナギト。その手袋、ミーアがもらってもいいか?

 

 手袋があったら農作業に便利だし、野菜を育てるのに使う!」

「だったら軍手でも使ってくれ……少なくとも魔道具でやる事じゃねえ」

 この世界に軍手があるかは謎だが……ヤールングレイプルで農作業をやる意味はないのは確かだ。

「とってもいい考えだわ。

 流石は、賢くて偉いミーアちゃん、いい子いい子……」

「そこは賛同するところじゃありませんよ?」

 ……賛同しているエイミーさんに関しては、とりあえずとてつもないシスコンと言うことだけが分かったが、疲れている今あんまり突っ込ませないで欲しい。

 

 

「ナギトさん。ここは冒険者ギルドに預けたほうがいいんじゃないですか?」

「それよりも、王都にでも預けるのはどうかな……?アクセルの街よりも警備は厳重だろ?」

 それならと、ゆんゆんとリアさんがそれぞれ意見を口に出してくれたので、考えてみることにしよう。

 

 たしかに、王都に預ければ厳重な警備の庇護下にはいるので、ダニエル達が取りに来ようともそうそう問題はないだろうが……義賊騒動でバタバタしているらしい王都が、果たしてダニエルなんて厄介なやつを呼び込む物を受け入れてくれるのやら。

 

 そうなると…やはり、ゆんゆんの言う通りアクセルに預けるしかなさそうだな。

 とりあえず、やばいものってのは伝えてあるから、すぐになんらかの措置をとるだろ。

 

「まあ、取らぬ狸のなんたらはやめにしようぜ。まずは手に入れるのが先さ」

「……その例えは分からないけど、まずは頂上に……」

 

 と、そこでミーアが。

「ん?この辺……前に来た時と何か違わないか?エイミー」

 

「ミーアちゃんも同じことを思ったのね……多分、トールハンマーが復活した影響じゃないかしら」

 それにエイミーも頷く。

 

「ここから遠く離れた場所に封印されていた物が?」

「ひょっとしてトールハンマーが復活したら、ヤールングレイプルが一緒に復活するんじゃないですか?」

 つまり、トールハンマーが復活しない限り封じ込められたままってわけで……

「もしかしたら、その存在すら知られていなかったのかな…?」

 

 あのメリッサが碌な宝がないって言ってたのも、リアさんの予想通りに存在が知られていなかったのなら頷ける。

「なら、それに呼応して突然変異したモンスターが出てくるかもってか?」

 ゆんゆんは俺の質問に、緊張感を漂わせて。

「私もこういう経験はありませんので何とも言えませんが……皆さん、気をつけてくださいね?」

「うん!ミーア、全部残さず食べる!」

「あらあらミーアちゃん……でも、お腹壊しちゃダメよ?」

「得体の知れないものを食べようとしない方がいいんじゃないかな……?」

 

 

 本当にブレない2人に、リアさんが苦笑していると……俺たちの後ろから声がした。

 

「フハハハハ‼︎ とうとう追いつきましたよ!」

  

「ダニエルに……チャーリーも一緒か!」

 ここでは初めて会うリアさんが、追いついてきたダニエル達に驚きの声をあげていると、ダニエルの後ろで荒い息をついていたチャーリーが。

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……

 崖崩れに巻き込まれた仲間を見捨てて、先を急ぐだなんて酷い奴らだ!

 

 貴様ら、それでも人間かぁ⁉︎」

 

 そう指をさしてくるが……まさかトロールに、そんな正義の味方みたいな台詞を吐かれる日が来るとは思わなかった。

 

 

 何ともいないモヤモヤを抱える俺だったが、その後のダニエルの言葉にそのモヤモヤは頭の中から追い出される。

 

 

「ですが……その様子ですと、ヤールングレイプルはまだ見つかっていないようですね。

 

 残念ながら時間切れです。そこをどいてください」

 

 ダニエルが退く様に告げるが…

「馬鹿言うなよ。こっちもここまできたら引き下がれないんだぜ?」

「ナギトさんの言う通りよ……あなた達に、ヤールングレイプルは渡さないわ!」

 ヤールングレイプルを求めてここまでの山道を登ってきたのに、今更はいそうですかと帰るわけがない。

 

 覚悟を決めた様な表情のゆんゆんと共に武器を構える。

「やれやれ……物分かりが悪いですね。

 

 ならば……少しお仕置きしてあげましょう!」

 そんな俺たちに、呆れた顔をするや否やで殺気を放ちはじめたダニエルと一触即発の空気を醸し出していると、下から足音が聞こえてきた。

 

 

「そこまでだ!この魔剣グラムから、そう簡単に逃げられるとは思うなよ!」

 そのすぐ後に、ここまで登って追いかけてきたらしいミツルギが、俺たちの横に並び立つ。

 鎧や顔にあちこち傷がついているものの、大したダメージは受けていない様だ。

 

「無事で何よりだ……骨を拾いに行く手間も省けたしな」

「君、それ本気で言っていたのかい……?

 僕には、女神様から与えられた使命がある……それを果たすまでは死ぬわけにはいかないさ」

 

 そんな、勇者っぽいセリフを恥ずかしげもなく言ったミツルギは……なんと言うか、本当に童話とかに出てくる勇者みたいだと思った。

 

 

……俺も同じ勇者候補なのに、どこでこんなに差がついたのやら。

 

 考えると虚しくなるので、強引に思考を中断してダニエル達との戦いに臨もうとした時。

 

 

 突然、地面が揺れだした。

「おい、誰だ大技使ったやつ!」

「なんでそこで僕を見るんだ⁉︎前ので懲りたよ!」

 

 ミツルギではない様なので周りを見ると、ゆんゆんとリアさんも首を振る。

 

 じゃあ、ミーアかエイミーさんかと思って振り向くと、2人はまずいと言わんばかりの表情だった。

 

「え、え、エイミー!これってもしかして……!」

「ええ……不味いわ!騒がしくしたせいで、サムイドーの王様が目覚めちゃったのかも……⁉︎」

 

 サムイドーの王様⁉︎

「おいおい、何がくるんだよ⁉︎」

「わかりませんが……こんなところじゃ逃げ場がないですよ⁉︎」

「そ、そんな……!」

「くっ……僕のグラムで倒せるのか?」

 

 エイミーさんの発言に対して、各々に困惑の表情を浮かべている間にもその振動は強くなり、やがて。

 

 

「メロメロオオオオオオオオン‼︎」

 

 雄叫びとともに、球体らしき何かが地面から飛び上がった。

 

 

 その何かが地面に降り立つと、全体像がはっきりとわかる様になり……その姿に対して。

 

「……メロン?」

 

 赤いマスクに覆われてはいるが、上のヘタやマスクからチラ見えしている模様から、それがメロンだと推測する。

 

……なんでここにメロンがいるのかと言うのは、残念だが分からなかった。

 

「エイミーさん、あれは一体⁉︎」

 そんな謎のメロンを前にして疑問を投げかけると、エイミーさんは実際に見るのは初めてなのか、声を震わせた。

 

 

「あれは、この山の主にしてサムイドーの王様…………

 

 

最高級「マスクメロン」よ!」

「そのまんまかよ!」

 小さい頃、マスクメロンと言うメロンがあることを知った俺は、「メロンがマスクかぶってるのかな」とか思ったりしたものだが……まさか、その想像通りのメロンがあるとは思わなかった。

 

 ダジャレみてえな生物ばっかだな、この世界!

 そして、そのマスクメロンは……

 

「メロメローン‼︎」

 

 咆哮と共に襲いかかってきた‼︎

 

 

「ナギトさん!あのメロン、すごい魔力を感じますから気をつけてください!」

「りょーかい!」

 突っ込んできたメロンを横っ飛びで避けた俺たちは、ダニエルに目をやる暇もなくそれぞれ攻撃の準備に移る。

 

 

「カットメロンにしてやるぜ‼︎……『ウインド・リーパー』!」

「追撃は任せてくれ!」

「ゆんゆんやエイミー達は私が守る!2人はメロンを!」

 

 俺が放った風の刃を避けた所にミツルギがグラムを振り下ろす。

 

 だが……

「くっ……かすっただけか⁉︎」

 

 どうやら急激な方向転換もできるらしく、マスクに切り傷をつけたくらいだった。

 

 そして、グラムの一撃を避けたメロンは、眼前に光を溜めて……!

 

 

「メロメロ〜ン‼︎」

 

 光線のようなものを俺たちに発射した。

 

「うわぁ⁉︎」

 俺は、隣で驚くリアさんの腕を掴んで。

「『突風』‼︎……野菜が魔法を使えるのかよ⁉︎」

 

 咄嗟に避けるが当たった場所は雪が溶け、中の地面は暗く焦げていた。

 

「ありがとう、ナギト……」

「ああ……それにしても、なんてえ威力だ。崩れやすい雪山で、あんまり撃たせすぎるのも不味いか?」

「もしかしたら、雪崩が起こるかも知れないわ……この山には人は住んでいないけど、気をつけてね?」

 

 エイミーさんの言葉に、少し安堵する。

 流石に、雪崩に巻き込まれて村が壊滅……とかになったらやばいからな。

 

「なら、撃たせないように断続的に攻撃を加えるしかないか……?」

「でも、アイツは宙に浮いていて、なかなか俊敏だぞ?君もさっきのでわかるだろう?」

 ミツルギの言う通り、確かにあのメロンは大きさの割にはなかなかに早い。

 サムイドーの王様と言うあだ名は伊達ではないようだ。

 

 だが……素早さなら俺もそれなりに自信がある!

 

「なら、俺がそのメロンの上から魔法を撃って、地面に釘付けにするから、みんなでタコ殴りで!」

 

 そうして俺はハイジャンプを使い、メロンのさらに上の高度まで飛んだところでホバリングで留まる。

 

「『ウインド・バレット』‼︎」

 

 そして、メロンを地面に打ち付けるようにウインド・バレットを連射する。

「成る程……拡散させて籠みたいに囲ったわけか」

「威力はお察しだけどな……!よし、地面についたぜ‼︎」

 

 取り回しのいい1本指、威力重視の2本指が今までのウインド・バレットの撃ち分けだったが、指を5本全て使うことにより、威力は低いが広い範囲に拡散して撃つことができるようになったのだ。

 

「今だ!『水のラプソディー』‼︎」

「リアさんに続く……!『パワー・スラッシュ』‼︎」

「私も行きます!……『ライトニング』‼︎」

 

「メロメロメロメロ〜⁉︎」

 

 そんな、拡散弾の檻の中で地についたメロンに、3人の攻撃が襲いかかる。

 

「メロ…メロ〜ン……」

 少し、慄いたように声をあげるメロンだがこの後に……あれ?

 

「そう言えば、ダニエル達は……⁉︎」

「『ライトニング』……ナギトさん!今は戦いに集中してください!」

 

 ダニエルはどこだと見渡していると、地上からゆんゆんがそう咎めてきた。

 

「お、おう……」

 俺は、嫌な予感を感じながらもウインドバレットでの押さえ込みを続けていた。

 

 

 

 数十分後。

「あのメロン、最初の時と比べて抵抗しなくなってきてねえか?」

 マスクメロンとの戦いを繰り広げている中で、俺はある変化を感じていた。

 何というか、怯えて必死に耐えているというか……。

 

 とにかく、マスクメロンが最初に見せていた敵意をあまり感じないのだ。

「大分弱ってきましたね…」

「そうだね…」

「メ、メロロ〜ン…」

 

 そんなことを考えている間にも、逃げ場もなく攻撃を受け続けてきたマスクメロンは、グロッキー状態である。

「よし、みんなは下がってくれ!ここはぼくがトドメを……」

 

 そして、ミツルギが魔剣グラムを構えてトドメを刺そうとした時。

 

「待て!」

 ミーアが突然割って入ってきた。

 

「うわっと⁉︎

 

 ど、どうしたんだい?急に目の前に出てきたら危ないだろう?」

 

 ミツルギが注意するが、ミーアはそんなことはどうでもいいと言わんばかりに。

「マスクメロン……何だか怯えてる!だから、ここはミーアに任せろ!」

 

 と、必死な顔をしてメロンを庇いはじめた。

 

「エイミーさん!ミーアちゃんを…」

 俺が地面に降り立つと、ゆんゆんがミーアをマスクメロンから離れさせようとしていたが、エイミーさんは少し考え込むような仕草の後後。

 

「大丈夫。ミーアちゃんは素直な子だから……きっと、マスクメロンの気持ちがわかったのよ」

 

 まさに、お姉ちゃんな見解を示した。

 

 

「ナギトさん…」

「分かってる。もしもの時にはすぐに飛び出す……突撃要員になるなら、ライトサーベルを」

「はい、ありがとうございます」

 ミーアがメロンと話し合いを始めたのを見て、ゆんゆんに促された俺は武器を構えて待機していた。

 

……一応、ゆんゆんにライトサーベルを渡して警戒しているが、果たして……?

 

 

 そして、その場にいたみんなが固唾を飲んで見守っている中で。

 

 

「ミーアは敵じゃないぞー?ここにいる奴らも、優しい奴ばっかりだからなー?」

「メ、メ〜ロ〜ン〜…」

 

「なまら、怖かったんだよな?だから攻撃したんだよな?

 よしよし……」

「メ〜ロ〜ン、メ〜ロ〜ン‼︎」

 言葉はわからないが、声のトーンからどうやらミーアの言葉に賛同しているらしい。

 

「ナギトさん?私、なんだかすごくひどいことしてた気分なんですが…」

「そ、そうだね…」

「まあ…あの盤面じゃあ、ああなるだろう?」

「一応心の中でごめんなさいをするしかねえな」

 

 怖がるメロンを地面に押し付け、タコ殴りにした事に罪悪感を感じて

いる俺たちが顔を寄せ合ってヒソヒソやっていると、エイミーさんが。

 

「すごいわミーアちゃん……『果物一の暴れん坊』の異名を持つマスクドメロンを、こんなふうに手懐けてしまうだなんて…!」

 

 と、まさかの戦わずして戦いを終えたミーアに拍手喝采を浴びせていた。

 

「ほら、お帰り。

 

 もう人を襲ったりしたらダメだぞ?」

「メロロロロ〜ン‼︎」

 

 こうして、ミーアにすっかり絆されたマスクメロンは、遥か遠くの空へと帰っていくのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 って、それで終わりじゃない。

 

 

「よし、これでようやくヤールングレイプルを手に入れられるね。早く手に入れて、コンテストを……!」

 リアさんのいう通り、ヤールングレイプルを手に入れて……って、そうだよ!

 

 

「なあ、そう言えばダニエル達はどうした⁉︎さっきからずっと見てねえんだが…?」

 嫌な予感がして聞いてみると、ゆんゆんが考え込む仕草の後に顔を青ざめさせた。

 

 

「もしかして、私たちが戦っている間にヤールングレイプルを……」

「だ、だが!あの混戦の中で巻き込まれるかも知れないリスクを冒してまで……」

「アイツ、行動力は只者じゃないらしいぞ…」

 反論しようとしたミツルギが冷や汗を流し、いよいよこれはまずいと思った俺が直ぐにヤールングレイプルのある場所へと向かおうとしたその時。

 

 

「フハハハハ‼︎その必要はない!」

 

 高笑いと共にチャーリーがやってきた。

 

 

「チャーリー!どういう事だ、それは!」

 リアさんが声をあげると、その後ろから。

「露払い、感謝しますよ。

 

 お陰で……ヤールングレイプルを我が手に収めることができました」

 

 皮肉も交えてるのか、これ以上なく慇懃な口ぶりでこちらに歩み寄ってくる声がした。

 

 

「そ、そいつが……ヤールングレイプル…」

 そしてその声は……勿論ダニエルのもの。

 

 

「マスクメロンと戦っている隙に出し抜くとは……。

 

 卑怯だぞ、お前たち‼︎」

 

 

 ミツルギがそう叫ぶが……俺がダニエルだったとしても、恐らく同じ手段をとったと思う。

 

 最悪の事態に陥ってしまったと頭を抱える俺の前では、ダニエルが興奮冷めやらぬと言った顔で。

 

 

「さあ、ついに念願のヤールングレイプルを手に入れました!

 

 

 トールハンマーの真の力……今こそ‼︎」

 

 ヤールングレイプルを纏った腕で、トールハンマーの力を使おうとしていた。

 

 

 

「おい、まずいぜ!あんなもんを自由に使われたら、マジで勝ち目がない………お前ら、ここはズラかるぞ!」

「そんな危ないものを放置しておくのか⁉︎やってしまったことは仕方ないとして、それを取り返そうとは……!」

「やろうとすればここでみんなあの世行きだわ!

 

 ここは引いて作戦を立て直すしか……!」

 

 妙なところで正義感を発動させたミツルギに叫んでいると、ダニエルは。

 

 

「安心してください。

 

 散々私の邪魔をしてくれたあなた方を……今更逃すわけがないでしょう‼︎

 

 

 唸れ、稲妻‼︎」

 

 

 

 誰1人逃すつもりはないと宣言したと同時に、複数の雷を放ち、その稲妻の一つが、エイミーさんへと突き刺さろうとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイミー、危ない………

 

 

 

 

ああああああああああ⁉︎」

 

 

 黒い残像と共に、リアさんがエイミーさんを突き飛ばし………

 

 

 その稲妻に鎧越しから胸を貫かれた。

 

 

 

「リアさん⁉︎」

 その、あまりに突然の事態に誰もが固まる中、一番最初に体が動いた俺がリアさんの元に駆け寄り、抱き起こす。

 

 

「おい、おい!

 

 

 しっかりしろ、目を開けてくれリアさん‼︎」

 

 声を限りに叫び、揺すってみるが……胸に黒く焦げた穴が空いたリアさんはされるがままで何の抵抗もなく、ぐったりとしたままだ。

 

「ナギトくん………リアさんは……?」

「…………ゆんゆん、ライトサーベルを貸してくれ、早く!」

「は、はい!」

 

 ゆんゆんからライトサーベルを受け取り、リアさんの瞼を開けて光を当ててみるが………瞳孔に動きがない。

 

 

 

「リアさん………私を、庇って……⁉︎」

 

「あ………ああ……リアを、傷つけるつもりはなかったのに……‼︎」

 

 エイミーさんが慄き、ダニエルがそんなまさかと言わんばかりに呟く中で……俺は、告げた。

 

 

 

「リアさんが………死んだ。

 

 

 即死だ!」

 

 

 俺の言葉に、ミツルギとゆんゆんは固まり、エイミーさんは膝から崩れ落ちる。

 

 ミーアがそんなエイミーさんに駆け寄り………。

 

 

 

「そ、そんな………リアが、死んだ?

 

 

 

 う、うおおおああああああ‼︎」

 

 ダニエルは、その場で泣き崩れた。

 

 

 

「この馬鹿野郎!エーリカたちになんて説明すりゃ良いんだよ、こんなの…‼︎」

 

 俺を信じてリアさんを託したエーリカたちに、「リアさんは冒険の途中で死んでしまいました」なんて、口が裂けても言えないが………こうなっては言うしかない。

 

 

 あんまりにあんまりな無茶をしたリアさんの亡骸にそう叫ぶしかなかった俺の前では、悲しみに暮れたダニエルが慟哭を続けている。

 

「推しを死なせてしまうなんて、前代未聞の大失態……‼︎

 

 

 もうダメだ……死のう……‼︎」

「ダ、ダニエル様落ち着いて‼︎

 

 

 自分に向かって雷撃を撃ち込もうとするのはおやめ下さい‼︎」

 そして、自害をしようとしたところでチャーリーに止められていた。

 

 

「くっ、トールハンマーを手に入れる力を得ても、ダニエル様がこのご様子では流石に分が悪い…!

 

 ひとまずは、撤退だ‼︎」

 

 そんなダニエルの様子を見て流石にまずいと思ったのか、チャーリーがダニエルと共に撤退をしようとする。

 

 その2人を誰も追撃しようと……するだけの気が起きないほど、突然のことにショックを受けているようだった。

 

 俺も……今はこの後を考えるのに精一杯で、とても仇討ちにいくだけの気力がない。

 

「うおおおああああ‼︎リーアー‼︎」

「ほら、ダニエル様‼︎

 

 いつまでもお泣きになってないで行きますよ‼︎」

 

 

 ダニエル達はその場から立ち去っていき、戦いこそ終わったが………そこにあったのは、ヤールングレイプルをも奪われてしまったと言う事実と、リアさんが死んでしまったと言うもう一つの事実だけだった。

 

 

 

 俺のマントの上に横たわらせたリアさんの亡骸を前に、ミツルギたちは悲しみに暮れている。

「くっ………仲間の1人も守れないで、何が勇者だ!

 

 僕は、勇者失格だ……!」

「エイミーを守ってくれて嬉しいけど……リアが動かないのは、なまら悲しい……」

「ごめんなさい、リアさん……私のせいで……‼︎」

 

 エイミーさんはリアさんの前で泣き、ミーアはそのそばでエイミーさんに寄り添っている。

 

 

「……ナギトさん、これから、どうするんですか……?」

 

 そんな3人から少し離れたところで、俺とゆんゆんは話をしていた。

 

 ゆんゆんも泣き腫らして瞼が赤いが、俺が考え込んでいるのを見てこちらに来てくれていたのだ。

 

 そんなゆんゆんにありがたみを感じながらも、考え付いたことを話す。

「リアさんの死体を担いで、大急ぎでアクセルの街へ行くぞ」

「アクセルに………?あっ‼︎」

「そう言うことさ」

 今、アクセルの街には王女様が会食に来ていて、そこにはカズマさんたちも参加する。

 

 つまり……そこには、王都の関係者と蘇生魔法が使えるアクアさんがいると言うことだ。

 

 

 そこにリアさんの死体を持っていき、蘇生させてもらった後にこの事件について王女様たちに聞いてもらえば、流石に何かしらの対応はしてくれるだろう。

 

 なにせ……爆裂魔法以上の火力を持つ古代兵器を制御可能な、危険人物が現れてしまったのだから。

 

「そうなると……遺体の傷みを防ぐためにも、氷結魔法を」

「ああ……頼むぜ」

 

 少し希望を持てたような顔のゆんゆんと、作戦の煮詰めに入っていると…涙目のミツルギ達がこちらを訪ねてきた。

 

「キミ達……なんの話をしているんだい?」

 

 死体の処理について……とは言えない。

 

 とは言っても、まだ確定事項じゃない以上今の考えをペラペラと話すわけにもいかない。

 

 そうなると………まあ、こうなるわな。

「エイミーさん、アクセルの街に行く最短ルートを教えてくれ」

「……いきなり、どうしたの?」

 

 

 絶望の表情をしているエイミーさんを、少しでも安心させようと俺は。

 

「……神頼み、かな」

 

 そう、不敵な笑みと共に告げた。




いかがでしたか?
今回もちょこちょこ解説を。

ウインド・バレット(拡散)
 ナギトが生み出した新しい撃ち方。全ての手の指を使うため、最大で1回に5発同時に撃つことができるが、指一本における威力は低いため、足止めなどに使用する。

 次回は、リアの正体について触れていくので、お楽しみに!

 感想や評価、待っています。


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第24話 この転生者に告白を!

更新です。
ちょっとシリアス気味ですが楽しんでいってください。


 現在、アクセルの街にはこの国「ベルセルク」の第一王女『ベルセルク・スタイリッシュソード・アイリス』嬢が来訪している。

 

 その目的は、これまで多くの勇者達がなし得なかった魔王軍幹部の討伐を成し遂げた冒険者「サトウカズマ」とその仲間達との会食であり。

 

 仲間達の1人にいる『ダスティネス・フォード・ララティーナ』嬢の自宅である「ダスティネス家」の邸宅にて執り行われていた。

 

 

 そして、仲間達と一緒に2日かけてアクセルの街まで戻ってきた俺は。

 

「いきなり来て、当家のお嬢様を出せと言われましても……普段ならまだしも、今は無理ですよ」

「そこをなんとか……せめて、話を通してくれるだけでもいいからさ」

「そうは言われましても、ただ今アイリス姫との会食中ですので…」

 

 守衛のお兄さんと、押し問答を続けていた。

 まあ、普通ならこんな話を通してくれるわけないのはわかっているが……話の内容的に聞いてもらわないとまずいのだ。

 

 だからこそ大衆浴場で汚れを落とし、懐かしの中学の制服を着てフォーマルな感じで来たのに……。

「大体、貴族の屋敷に事前の約束なしに来るだなんて、非常識にも程がありますからね?他の貴族なら無礼撃ちされても文句は言えませんよ?」

 

 

「それは分かってるんだけど、この話はむしろそのお姫さんにも聞いてもらわなきゃならん話で……」

「そんな事を私に伝えようとしていたのですか⁉︎通せるわけないでしょう、そんな話!というか、そんな話聞きたくありませんよ!」

 

 青ざめた守衛さんに、断固反対の意思を示されてしまった。

 そこはぼかして、「大事な話があるから少し聞いてほしい」とでも言ってくれれば良いのに、真面目なんだか頭が硬いんだか………

 

「あー、だったら!会食してるメンツの中に青髪の女性がいるはずだから、その人を呼んでくれ。この際それで良いから……」

「譲渡してるつもりなんでしょうけど、一守衛の私には荷が重すぎますよ⁉︎お願いですからお引き取り下さい!」

 

 そう言って俺の背中を押して門の外に追いやろうとするお兄さん。

 

 こうなったら、打ち首覚悟で侵入してやろうかと考え始めたその時。

 

 

「やけに騒がしいと思ったら……ナギトか?

 

 こんな時に、何をやっているのだ?」

 なぜか、袖が赤く汚れたダクネスさんが俺に気づいて声をかけてきた。

 

 

「お嬢様……あ、こら……!」

「ダクネス……じゃない、ララティーナさん!丁度いいや。少し話があるんだが……!」

 

 声をかけてきた隙に守衛のお兄さんをかわし、ダクネスさんの近くまできて話しかける。

 

「ララティーナ呼ばわりはやめろ!

 と言うか、今私はアイリス様との会食の最中、ゴタゴタがあったのでドレスを変えようとして、たまたま通りかかっただけだぞ?

 

 お前の話を聞いてやるほどの余裕は……」

 

 と、難色を示すダクネスさん。

 

「いや、そのアイリス様にも関わりかねない事態になったんだ!だからできれば王族関連の人に話を聞いて欲しくて…」

 そこに食い下がるように俺がアイリス姫の名前を話に出すと。

 

「……分かった。すぐに着替えるから応接室に案内しよう」

 途端に態度が変わったが、聞いてくれるのならありがたい。

 

……でも、今の一番の目的はこっちじゃない。

 

 

「ちょっと待ってくれ。外に置いてきた物があるから、それを持ってきたいんだが……」

 その為に呼び止めると、ダクネスさんは怪訝な顔をして。

「え?ああ……別に構わないが、危険な物ではないだろうな?」

「ある意味で危険かな…?」

 危ないものではないが………下手に扱うと中身が大変なことになる。

 

「……私が改めて、問題なければ良いだろう」

 

 そうして、ダクネスさんに見せたものは………。

 

「お、おい!

 

 これって……」

「だから言ったろ?

 

 ……アクアさんを呼んできてくれ。頼む」

「………お前、何を話す気だ?」

「…ちょっと、シャレにならない話」

 

………リアさんの遺体を収めた棺だった。

 

 

 

 

「ナギトさん、お待たせしました。

 

 アイリス様の教育係を務める、レインと申します。

 一応貴族ですが……ダスティネス家程の家格があるわけではないので、そこまでかしこまらなくていいですよ」

  

「助かります……」

 小さな応接間に通された俺は、目の前に現れた女性に軽く会釈をしていた。

 

 その人…レインさんは、金髪碧眼という貴族の特徴を揃えているものの、ダクネスさんや新聞で見たアイリス姫と比べると、どこか地味な印象だ。

 

「それで……お話と言うのは?」

「ええ、まずは単刀直入に言うと……トールハンマーって魔道具を知ってますか?」

「……ええ。たしか、古代兵器で稲妻を生み出す、とか」

 

…詳しくは知らないパターンか。

 

「その稲妻の威力はなんと、あの爆裂魔法に及ぶのですが……魔王軍の関係者であるダニエルが、封印を解いてしまったのです」

「まさか、爆裂魔法に……⁉︎ですが、アレは単独では使えない欠陥兵器では……」

 思い出したかのように首を傾げるレインさんに。

 

「それを制御するための魔道具が、ウォルム山にあったんです。

 

 それで、それを先に手に入れてしまおうと俺達はウォルム山へ向かったのですが……」

「ダニエルに、奪われてしまったのですか?」

「ええ。そして、そのトールハンマーで仲間が……」

 あの時には考える余裕もなかったが、改めて話した今になって、守れなかったと言う後悔が俺に突き刺さる。

 

 言葉から何かを感じ取ったのか、レインさんは慌てたようなそぶりで。

「こ、これ以上は大丈夫ですよ!

 

 ただ……魔王軍の関係者と言いましたが、なぜあなたはそれを知っているのですか?」

 

 どこか疑わしさを感じるような目で聞いてきた。

 まあ、魔王軍の関係者と言い切った事が、引っ掛かったのだろう。

 

「自分で、「魔王様に認めてもらって、魔王軍への再雇用を…」とか言ってたんですよ。

 

 つまり……魔王へ自分の力を誇示する為に…」

「王都が狙われる可能性があるから、こうして報告してくださったんですね……ありがとうございます。

 

 王都で会議にかけますが……後々、お話を伺う可能性がありますので、その時はよろしくお願いしますね」

「ええ……こちらこそ、急にこんな話を聞いてくださって、感謝します」

 話がまとまったのならと、レインさんが立ち上がった時。

 

 

「ナギト、アクアが蘇生を終えたそうだ」

 ダクネスさんが、応接室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

「蘇生が終わったけど、しばらくは無理しちゃダメだからね……」

 リアさんの蘇生を終えたアクアさんは、俺に軽い説明を終えると眠そうに目を擦って部屋を出ていき。

 

 目が覚めたら、エーリカ達の元へ送り届けようと見守っている中で俺は考えていた。

 

 

 アクアさんの話だと、死者の蘇生には条件が二つある。

 

 一つは死体の状態だが……幸運値モリモリにしたとは言えど、チリからカズマさんが蘇生できてたことを考えると、今回のリアさんの死体の状態はかなり良かったとも言えるだろう。

 

 二つ目は魂が現世にとどまっているかと言うことであり……こちらはかなり危なかったらしい。

 この世界の女神様である「幸運の女神」エリス様がリアさんの魂を天国に送ろうとしていたところに滑り込んだんだとか。

 

 因みに、魂を天国に送った後だとリザレクションを使っても死者を生き返らせる事ができない。

 

 

 これが、この世界における死者蘇生のルールなのだが……アクアさんがさっきの説明で気になることを言っていたのだ。

 

「あと、この子既に一回死んでるらしいけど………まあ、カズマさんを何回も甦らせてるんだし今更よね」や。

 

「この子、かなり前に見覚えがある気がするのよね……」とか。

 

 補足だが、基本的には一回死んだ事がある人間も蘇らせることはできない。

 

 そうなると、この世界で一回死んでいたと考えるのが自然だが……シエロさん曰く、リザレクションは「存在するけど、まず覚えられる人がいないレベルのスキル」であり、アークプリーストですらも覚えられる奴は普通いないらしい。

 

………そう考えると、リザレクションを使える上に複数回死んだ人間を蘇らせてしまうアクアさんは、やはり人間とは根本的に違うと言うことだ。

 

 閑話休題。

 

 つまり、リアさんがもしこっちの世界で既に死んでいたとすれば、そもそももう居ない可能性が高いので………もう一つの可能性である「どこか別の星で死んで、ここに転生してきた」が考えられる。

 

……要するに俺たちと同じく「転生冒険者である説」だ。

 

 というか、恐らくそれだろう。

 ミツルギの話ではアクアさんは、カズマさんに連れて来られるまでは日本で死んだ若者をこの世界に転生させていたらしいから、「見覚えがある」というアクアさんの発言も頷ける。

 

 更には、前に師匠がミツルギの魔剣とリアさんが持っていた鍵盤が「神器」だと言ってたし。

 

 何より、リアさんのような顔立ちの人は、日本でよく見ていた。

……つまり、リアさんは日本で死んで、あの鍵盤と共にアクアさんに送り込まれた転生者という事だ。

 

 しかし、そうなると……。

「なんで、そのことを覚えていない様子だったんだ…?」

 

 と、謎が新たな謎を呼んだので考えようとした時。

 

「ん、んん……?」

 微かな声と共に、リアさんは重々しく瞼を開いた。

「リアさん……」

 

 声をかけるが、リアさんは自分の状態を認識するのが先らしく俺の言葉は聞こえてないようだ。

「ここは……そうか、私はアクア様に蘇らせて頂いたんだ」

 

 そうして体の様子を確かめていたリアさんがこちらを向くまで見守ろうとしたが……声をかけることにした。

 

 

「傷は、どうなったのかな……?」

 そんなことを言いながら、服を脱ごうとしやがったからだ。

 

「リアさん、俺いますって!」

「きゃあ⁉︎な、ナギトか……⁉︎み、見ないでくれ……!」

 

 顔を赤くして、布団で身を隠したリアさんは、初めて俺がいることに気づいたようだ。

 

「後ろ向くから、そのうちにさっさと確認してくれよ……」

「見たら承知しないからね…」

 

 慌てて後ろを向くと、後ろから「まるで、初めから傷なんてなかったみたいだ」と安堵の声が聞こえてくる。

 

「もういいかい?」

「うん、待たせたね……」

 

 許可を得たので振り返ると、雷撃で射抜かれた胸の部分が破れていたのか、棺の中に入っていたコン次郎で隠すようにしたリアさんは。

「ここは何処なんだ……?それに、ナギトはなんで学ランなんか来てるんだ?」

 

 困惑と郷愁が混じったような目を向けてきていた。

……この服を学ランと呼んだか。

 

「ここは、ダスティネス家……ダクネスさんの実家だよ。後………なんでこの衣装が学ランだってわかったんだ?」

 

 その目でもう確定だが、念のため確認すると。

 

 

「そうか………流石はナギトだね。ある程度わかってたのか?」

「ある程度はね……でも、わからないこともあるぜ」

 どこか茶化すように言ってやると、少しの逡巡の末に決心した様子でリアさんは。

 

 

「……なら、答え合わせをしよう。

 

 

 

 

 私は、日本からこの世界に転生してきたんだ」

 

 そう、はっきりと告げた。

 

 

 リアさんが、改めて懐かしいものを見るような目を向ける。

「『マトイナギト』と言う名前からして……そっちも、そうなんだろ?」

「まあな………それで、正解したご褒美として一つ聞きたいんだが」

 俺は耐えられなくなり、聞きたかったことを聞こうとすると。

 

「分かってる……今までどうして聞いてこなかったか、だろ?」

「差し支えない範囲で、頼むぜ」

 

 一つ首肯を挟んだのち、ゆっくりと語り始めた。

 

 

「私は元々………日本でアイドル活動をやっていたんだ」

……テレビで見たことあったと思ってたが、そう言うことか。

 

「なんて名前のグループだったっけ?」

「言っても分からないさ。大勢いるうちの1人だったからね………」

 

 

 アイドル養成所で研修生としてレッスンを重ねたリアさんは、デビューしてアイドルとしての経験を積み重ねていき、やがては芸能界へその名前を浸透させていく………はずだったが。

 

 

 そのアイドル生活は突然奪われることになる。

「喉の病気……?」

「ああ……それで、歌が歌えなくなったんだ。

 

 そして、ショックを受けている時に追い討ちをかけるように、交通事故で………この世界に転生したんだ」

「悪りぃ……なんか、余計なこと聞いちまったか?」

「構わないさ……今となってはね。

 

 この世界で、再び歌が歌えるようになったんだから……」

 

 それが一番嬉しかったよと笑ったあと、その表情は再び陰る。

 

「でも……私はこの世界を救うと言う使命を帯びた、転生者だから。

 

 昔のように歌を歌い、踊っているわけには行かないって思った」

 

 そうして高校では薙刀部だったことも相まって、ランサーとしてレベルを上げていったんだとか。

 

 だが……ここで再び転機が訪れる。

 

 

「記憶を、失っていたのか………?」

「ああ……ある日、馬車がモンスターの襲撃にあってね。

 

 放り出されて、崖から落ちたんだ」

 

 さらりととんでもないことを明かされて、息を呑むが……同時にどこか納得した。

 

 

 そこにいるとは思わない同胞にあえば、多少なりとも変わった反応を見せるものだが……リアさんとはそんなやりとりをしていない。

 

 俺がそこまで気にしてなかったこともあるが………それは、リアさんも自分が日本人であることを忘れていたからではないだろうか。

 

 

「で、そこでエーリカやシエロさんと会って、アクセルハーツの誕生って訳かい?」

 話の重さに耐えかねた俺が話を進めると、リアさんはすごく嬉しそうに。

「ああ。自分の名前も、転生者だってことも忘れていたこともあるけど……すごく嬉しかったんだ。

 

 この世界に来ての、初めての仲間だったから……!」

 

 俺で言うところのゆんゆんみたいな存在って訳だな。

 

 ところで……

「リアって言うのは、この世界での名前だろ?本名はなんて言うんだよ」

 

 冒険者カードあたりに書いてありそうなもんだが、ふと気になったんで直接聞いてみると。

「本名なんてどうでもいい。

 

 もう、こっちの名前で呼ばれ慣れてるしね……それよりナギト。

 

私は、踊り子を続けてもいいんだろうか?」

「…………………は?」

 

 とんでもない質問で返された。

 質問を質問で返すなとか、言わなきゃいけないことはあるんだろうが……それすらも俺の頭の中から一瞬飛ぶ程に、その質問のインパクトは強烈だったのだ。

 

「何でそんなこと………踊り子、やりたくないのか?」

「そんなわけない!そんな訳無いけど……私は、転生者で………!

 

 一刻も早く魔王を倒すために動き出した方がいい気が……!」

「ああ……」

 つまり、転生者として使命を果たすのを優先した方がいいんじゃないかって話か。

 

……なんだか耳が痛いなあ。

 日々を楽しく生きたくて、そのために冒険者をやっている俺とくらべれば、まさに勇者候補の鑑だ。

 

 でも……俺から言わせりゃリアさんは硬すぎるんだよな。

「確かに俺たちは、魔王を倒す勇者としての使命を受けて転生した転生者だけど、そんなもん後付けさ………て言うか」

 

 俺は、近くにあった鏡をリアさんに向ける。

 

「そんな悲しそうな顔でやってたら……いつか壊れちまうし、アクアさんもそんなの望んじゃいないと思う」

 だけど………今勇者としての使命を語るリアさんの顔は、どこか強迫観念に駆られたようで………どことなく辛そうだ。

 

 そして、リアさんを転生者として送り出したアクアさんも……こんな辛そうな顔してまでもやってほしいとは思わないだろう。

「なんせ"汝、何かの事で悩むなら、今を楽しく生きなさい。楽な方へと流されなさい。そして、自分を抑えず本能の赴くままに進みなさい"……なんて教えを説くんだからな。やりたいことを優先して何が悪い?」

「……!」

 

 正直、アクシズ教徒の素行は大いに問題があるが……教義に関しては納得させられるものも多い。

 なんというか、肩の力を抜いてくれるのだ。

 

 それに……。

「リアさんは踊り子をやってて、エーリカやシエロさんに出会って、俺たちにも出会ったんだ。

 

 あの2人、今頃きっとリアさんが戻ってくるのを待ってるんじゃねえか?」

「シエロ……エーリカ……!」

 

「今リアさんがやるべきことはエーリカ達に元気な姿を見せて、コンテストに優勝する事さ。

 

 後のことはその時になったらゆっくり考えても遅くは無いだろうぜ?」

 

 瞳を潤ませうつむいていたリアさんだったが、ようやく顔を上げて。

 

 

「………そうだね。その通りだ」

 

 どこか、憑き物が落ちたかのような笑顔を見せた。

 




いかがでしたか?
 因みに今更かもしれませんが、ナギトの口調や振る舞いは「新機動戦記ガンダムW」の「デュオ・マックスウェル」をモチーフにしています。
 
次回から6章編の終盤に突入しますので、お楽しみに!


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第25話 このコンテストに始まりを!

生存報告です。

もう少し仕上げてから……と思ってたら1年経ってました。


それではどうぞ!


 ウォルム山での一件から1週間近く経った。

 

 生き返ったとはいえ、一度死なせてしまったことでエーリカ達から大目玉を喰らった俺は、お詫びとしてゴミ溜め……リアさんの部屋の掃除をしたり、買い出しに駆り出されたり、果ては洗濯以外の家事をやりながらゆんゆんの手料理を食べたりと、慌ただしい日々を過ごした。

 

 その間にもダニエルが攻めてくるかと思いきや、王都に特に異変があったという知らせはなかった。

 

 案外、リアさんを殺したショックからまだ立ち直れてなかったのかもしれないが……まあ、平和なのは良いことだ。

 

 

 んで、そんな言わば臨戦態勢みたいな状況の中。

 

 

 

「いやー、すっげえ人だな!そんだけ人気あんのか」

「パンフレットを見ると、何千もの踊り子ユニットの中から予選を勝ち抜いた8組が参加するらしいですからね。

 踊り子ファンの人や、そうで無い人たちにとっても注目度が高いのも頷けます」

 

 俺とゆんゆんはアクセルハーツのマネージャーとして、踊り子コンテストの本選会場に足を踏み入れていた。

 

 

 会場の客席にて。

「おお〜、ここが会場か!なまらでっかいステージだな!美味そうなもの売ってる屋台も一杯だ!」

「ああ…あんなにはしゃいでるミーアちゃん……!これだけでお腹いっぱいだわ…」

 

 ミーア達も応援に行くとのことで一緒にきたのだが………それにより俺は頭を痛める事態に直面した。

 

 それは……。

 

「お姉さんがなんでも買ってあげるわよ!だから……ミーアちゃんのお耳、触らせてもらっても良いかしら⁉︎」

 

 

 不審者というか変態じみたことを宣うそのお方は。

 

「まさかここにいるとは……この組み合わせだけはアウトだったのに」

「あはは……」

 

 先日一緒にダニエルのところへかち込んだトレジャーハンターこと、メリッサだった。

 

 

 

「いやあ!くすぐったいから止めろよ!」

 返答もなくもふり始めるメリッサにミーアがみじろきして、抗議するがメリッサはもふもふに我を忘れているようだ。

 

 

「あの、メリッサ……さん?ミーアちゃんが嫌がっているから、やめてもらって良いかしら……?」

「じゃああなたでも良いわ。はうう、きゃわわ!

ちょっとツンってするだけだから!先っぽだけだから〜!」

「ふえ⁉︎ちょ、ちょっと待って、耳は弱いのー!」

 

 それを注意したエイミーさんも、その代わりとしてメリッサからの洗礼を受けている。

 

 美女2人がこうしてキャッキャウフフするのは……

「ナギトさん?ここは止めに行く場面ですよね?」

「わかった、わるかったからその無言の圧力やめてくれよ……」

 目の保養として焼きつけようとしたら、ゆんゆんにストップをくらったので仕方なく止めに行く。

 

 「百合の花を散らすのは無粋」って、クラスのヲタ友に言われてたんだがな。

 

「そこまでだメリッサ。これ以上はお巡りさんが来るぞ」

「……本当はもっと楽しみたいけど、仕方ないわね」

 そんな、本当に名残惜しそうな顔で言われても。

 

「今回はリアさん達の応援に行くんだからな?メリッサやミーア達もモフ道中や食べ歩きならまた今度にしてくれや」

「ナギトさん、そろそろ……」

 

 メリッサ達に釘を刺していると、ゆんゆんが袖を引っ張ってステージ裏に視線を向ける。

 

「………そうだな、戻るか」

 

 その意味を理解した俺は、メリッサ達に一言言ってから控室へと向かっていった。

 

 

 

「んじゃ、俺よりもわかってるだろうが、改めて本選のルールを説明させてもらうぜ」

 アクセルハーツの控室にて。

 

 ゆんゆんが差し入れに持ってきていたレモネードを飲む3人を前に俺は告げる。

 

「本選に出るのは8組で、まずはこの中から4ブロックに分かれて対戦する。

 

 審査員の評価と観客の盛り上がりを見て勝敗を決めて、そこから勝ち進んだ4組が後日、総当たりで決勝戦を行うってわけだな」

 

 ダニエルが動きを見せてこないとはいえ、危険な状況なのには変わらないし……そもそも、義賊騒ぎで王都はかなり浮ついている。

 

 そんな中で、踊り子コンテストをぶっ通しでやるのは危険すぎるという事があって、決勝戦は後日行うことになったのだ。

 

「でも、その決勝もこの一戦で勝ち抜かないと出られないし、相手も各地の予選を勝ち抜いた猛者集団ばかりらしいので……皆さん、頑張ってください!」

 

 ゆんゆんの声に、3人はごくりと唾を飲んで緊張している様子だ。

 

 

 まあ、そうなりゃマネージャーのやることは応援だよな。

「エーリカ。お前はカワイイんだろ?なら、それを審査員や客たちに思い切り見せてやれ!」

 発破をかけるように告げると、エーリカは待ってましたと言わんばかりに。

「ナギト‼︎今なんて言ったの?ねえ、今なんて言ったのー⁉︎」

「エーリカさん、折角のお化粧が崩れちゃいますよ!」

 鼻息荒く詰め寄ろうとしたところを、ゆんゆんに止められた。

 

 とりあえず、エーリカはゆんゆんがなんとかしてくれると思うので、シエロさんに視線を向ける。

「ここ1週間練習を見てきた中でも、シエロさんが努力してるのはよく分かった。

 だから自信を持っていけ!誰もシエロさんのことを笑わせないからよ?」

「ナギト君……うん!ボク頑張るよ!」

 少しぽかんとした後、シエロさんも拳を握り締めながら頷いた。

 

 そして、カワイイの催促をしてきたエーリカをかわしながらリアさんに。

 

「リアさん……いまのリアさんの使命は、このコンテストで優勝することだ。今はそれだけ考えてれば良い。

 

 その後は……死ぬまでに見つければ良いさ」

「そんな悠長にしていて良いのか……?でも、今はこれに集中しないとね」

 

 下手したら俺達の正体がゆんゆんにバレるので、ある程度ぼかしながら伝えると、リアさんは苦笑しながらも頷いた。

 

 それを見て最後にみんなに何か話そうとも思ったが、ドアを叩く音がしたので。

「そいじゃあゆんゆん、ちょっと席を外すから一言頼むわ」

「ええ⁉︎私もですか⁉︎えーっと……」

 

 事情を知るゆんゆんに後を任せ、俺は扉の向こうにいた騎士達に顔を出すのであった。

 

 

 

「んで、どうなった?俺は早く戻りたいんだが……」

「お待ちください。今、報告書を持って参りますので」

 

 

 王城に連れてこられた俺は、従者達らしき男達に広間へと通された。

 

 今回連れてこられたのは他でもなく……ダニエルのことについてだ。

 

 なんでも、俺がマネージャーごっこをしていた間にダニエルについて調べていたらしい。

 

 

 出されたお茶を飲んでいると、王都の役人らしき人が対面に腰掛けた。

「結果を知らせる前に、まずは先日のご報告を感謝します。

 

 我が国に国難をもたらしかねない古代兵器とその使い手に関する情報、ありがたく頂戴しました。」

「まあ、今のところ動きはないけど……それは時間の問題だろうな」

 

 ダニエルは兎も角、チャーリーはリアさんに対してはそこまでの執着は見せておらず、仕事に関してはダニエルよりも真面目だ。

 

 チャーリーの説得でダニエルが立ち直ったら……その時こそ攻め込んでくるだろう。

 

「差し当たっては、王都より密使を放ち、独自調査を行いました。

 

 その結果……」

 

 差し出された紙を見ると………そこに書かれていたのは驚きの内容だった。

 

「魔王軍幹部よりも高い賞金がかけられてやがる……!」

 

「調査の結果です。

 我々は、また魔王軍幹部候補ダニエルを極めて危険な人物と判断し……5億エリスの懸賞金をかけさせていただきました」

「ごっ……⁉︎」

 たしか、シルビアの懸賞金は3億エリスだったはず。

 つまり、王都からしたらダニエルの方が厄介な存在だと言うことになった訳だ。

 

「ですので、是非ナギト殿にもご協力をお願いします」

「いや〜、王都の冒険者にでも募集かけた方がいい気もするがな……まあ、俺も手を貸すけどさ」

 

 と、話を進めていると聞き覚えのある騒ぎ声がした。

 

 

 そういや、今日でアイリス姫がカズマさんをここに拉致して1週間くらいか。

「………そういや、カズマさんは元気してるかい?」

 

 すると、その人は遠い目をして。

「いや、その……アイリス様の勉強の邪魔をしたり、食堂からつまみ食いをしたりと、アイリス様によからぬ影響を与えているようで……」

「……ダクネスさんもきてるみたいだし、もう少しの辛抱だぜ」

 大丈夫だろうか、この国の未来は。

 

 一抹の不安を抱えながら、コンテストの会場に戻ると。

 

 

 

 

「ナギト……大変だ!私たちの衣装がなくなってしまった‼︎」

 

 アクセルハーツの面々が、血の気が引いたような顔でとんでもないことを言い出した。

 

 

 

 1時間後に始まるこのコンテストでは、ステージに上がる衣装が登録されている。

 その為、衣装が汚れたからと言って予備の衣装を使うことはできない。

 

 

 つまり……衣装がなくなったアクセルハーツは、壇上に立つことすらできないレベルの危機にさらされていた。

 

 

「どうしようナギト!ないの!私の超絶可愛い衣装がどこにもないの!」

「落ち着いて、エーリカちゃん!ナギト君を揺らしても服は出ないよ!」

 涙目で揺さぶってきたエーリカを引き剥がし、ゆんゆんに。

 

「なくなったって、どういう事だ?うっかり他の場所に置き忘れた、とか、誰かに預けたとか…」

 

 すると、ゆんゆんも慌てたような口ぶりで。

「そんな筈ないですよ!衣装の入った袋を壁にかけておいたのは、ついさっきの事なんですから!」

 

 と、速攻で否定してきた。

 

 そうなると、相手チームの妨害工作かファンの暴走を考えるのが普通だが…。

「どうしようナギト……このままじゃ棄権に……!」

 焦りを滲ませた表情のリアさんに、どう返したもんかと悩んでいると。

 

 

 

「棄権……?リア達のショー、見れないのか?」

 後ろからこの場で聞こえないはずの声がしたので振り返ると、そこにはミーア、エイミーさんにメリッサが。

「み、皆さん⁉︎」

「3人とも、どうしてここに?」

 

俺とゆんゆんが目を丸くしていると、エイミーさんが事情を説明してくれた。

 

「本番前の激励に来たんだけど……話は聞かせてもらったわ。何とかならない?」

 

「何とかって言われても………その、無くなった衣装があれば問題ないんだよ」

 

 エイミーさんに、困ったように返すリアさんを見ていたミーアが残念そうに。

 

「なまら楽しみにしてたのに……」

 そんな、ミーアの声に反応したのは。

 

 

「任せなさい!

 

 ここはトレジャーハンターの腕の見せ所、私が見つけてあげるわ!

 

 

 だから……あとでミーアちゃんのお耳、モフモフさせてね……?」

 

 

 ケモナーみたいなことを言い出したメリッサだった。

 




いかがでしたか?

次回はいつになるかわかりませんが、書こうとは思いますのでよろしくお願いします。


それでは、次回もお楽しみに。


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