ありふれたFGOで世界最強 (妖怪1足りない)
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プロローグ1

久々に書いてみようと思い投稿。書けるようになっただけ幸せです。



「せいっ!」

 

気合と共に少女が少年の面を目標に竹刀を振るうも、少年は難なくそれを竹刀で受け止める。

 

少女の攻撃は止まらず、胴を狙うもそれも少年は難なく防ぐ。

 

試合を開始してからかなりの時間が経っており、傍から見れば少年の防戦一方であるのだが、

 

実際は少女の攻撃は全て防がれており、恐ろしいことに少年は試合開始から一歩も動いていないのである。

 

「もうそろそろやめないか?」

 

少年、南雲ハジメがそう言うも、少女、八重樫雫は攻撃を続ける。

 

「今日こそ・・・今日こそ勝つんだから!」

 

そう言う雫にハジメは内心でため息をつき、そろそろ終わらせるかと考える。

 

雫が胴を狙って竹刀を振るよりも早く、ハジメの竹刀が雫の面を叩く。

 

「一本!それまで!」

 

審判を務める雫の父親が宣言する。

 

「あ~、今日も負けた!」

 

悔しそうに言いながら面を取る雫に対し、ハジメは面を取りつつ、

 

「まあ、そういうなって。前より剣筋が鋭くなってるぞ」

 

「それでもハジメに勝てなきゃ意味ないじゃない」

 

不機嫌な顔で雫が応じる。

 

「はは。まあ、『剣術無双』に勝つにはまだまだ修行が足りないな」

 

笑いながら雫の父親が話す。

 

「その『剣術無双』っていうのはやめてくださいよ」

 

「しかし、未だに試合じゃ無敗だから皆が『剣術無双』と呼んどるんだぞ」

 

「まだまだの身ですよ」

 

(それにこれはチートもあるからな)

 

そう思いつつこれまでの人生に思いをはせる。

 

ハジメには前世の記憶がある。

 

ハジメの前世は傭兵であり、世界各地で戦い続けてきた。

 

最後は銃弾が胸を貫き死んだ。

 

しかし、ハジメが気が付くと白い空間におり、そこには一人の人物がいた。

 

「あなたは?」

 

「ようこそ、■■■■。我はインドラなり。帝釈天の方が通りがよいか」

 

!!

 

驚きと同時に、■■■■は跪いた。

 

■■■■は帝釈天を信奉していたからだ。

 

「帝釈天様が私ごときに何用で?」

 

「お主のこれまでの我への信仰と、その戦いぶりが気に入ってな。

 

生き返らせることはできぬが、別の世界に転生させよう。無論特典もつけてな。

 

さて、特典は何を望む?」

 

「帝釈天様。その世界は危険な世界なのでしょうか?」

 

「そうさな。それこそ我を倒す必要がある位にな」

 

「・・・それならばFGOの力を求めます」

 

「ほう、そうきたか。あれならば神殺しも可能よな。

 

よかろう。その力を授けよう。簡単に死ぬなよ?」

 

「はっ!。ありがとうございます。」

 

「では行くがよい。■■■■。お主の人生に幸あらんことを」

 

そしてハジメは誕生した。

 

それからは驚きの連続であった。

 

最初にしたのはステータスの確認であったのだが、これが凄まじかった。

 

龍の心臓にアルジュナ・オルタと同じくインドの全ての神を吸収、筋力などのステータスが全てEX。

 

全身が魔術回路となっていた。

 

宝具、スキル、魔眼も全てあり。

 

これを見たハジメは驚きと同時に不安も覚えた。

 

この世界ではこれほどの力が必要なのかと。敵はどれほどの強さなのだと。

 

そして、赤ちゃんとなった自分の横の生物に目を見張った。

 

「フォウ?」

 

FGOに出てくるフォウがいることに。

 

フォウを見たハジメはオン/オフ可能なスキルの中で、すぐに千里眼のスキルを発動。

 

カルデアや魔術塔がないかすぐに調べた。

 

しかし、カルデアはおろか魔術塔、アトラス院といったものが無かった。

 

このことからここがFGOの世界でないことを確認。ひとまず安堵した。

 

魔術塔があったら即座に封印指定まっしぐらだからだ。

 

そうなるとこの世界はどこの世界か分からず考え込むハジメ。

 

なぜかいるフォウも気になる存在だ。

 

その時フォウがビー玉のような球をこちらに転がしてきた。

 

それを受け取ると頭の中に情報が流れ込んできた。

 

ここが現代日本であり、自分の名前が南雲ハジメであること。

 

家族構成や社会情勢など様々な情報が頭に入っていく。

 

最後にインドラからのメッセージとして、

 

『己を鍛えよ。そうでなければ死ぬぞ』と。

 

このメッセージを見てハジメは何としてでも生き残ると決めた。

 

流石に二度も途中で死ぬのは御免だ。

 

その為には鍛えねば。だが、今は赤ちゃん。

 

歩けるようになってからだなと考えた。

 

 

 

 




皆さん正月のガチャはどうでしたか? 私はアビーで爆死しました。


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プロローグ2

これはストックの分です。作者は早くは書けません。次が早いとかは考えてはいけません。それとこの作品は作者が書きたいから書いているだけですので、面白くないと感じたら、ブラウザバックしてください。


~ハジメ3歳~

 

 

 

 

ハジメは幼稚園に通っていた。それはいいのだが・・・。

 

先生も含めた皆が皆ハジメを畏敬の念で見ていた。

 

この状況にハジメはため息を漏らす。

 

試しにオンにしたスキル『カリスマEX』がいけなかった。

 

英雄王ギルガメッシュでカリスマA+なのだ。ギルガメッシュの3分の2が神。

 

それに対してハジメは神のそれが9割なのだ。

 

皆が見る視線が人ではなく神を見る目になるのも致し方なしである。

 

スキルを解除した後もこの有様である。ハジメの幼稚園生活はボッチで終わるのであった。

 

 

 

~ハジメ6歳~

 

この頃になるとハジメは各種の魔術を練習していた。

 

ルーン魔術、エジプト魔術、投影、宝石、虚数etc・・・。

 

筋トレなどでトレーニングはしているが如何せん6歳では限界がある。

 

そこで魔術をまずは押さえておこうという考えである。

 

より早く、より正確に。仮に今戦うとしても魔術中心になるだろうと考えた。

 

でも、マーリンの言う通り殴った方が速いんだよなとひとりごちた。

 

 

 

~ハジメ9歳~

 

ハジメは近所の八重樫道場へ剣術を習いに行くことになった。

 

最初は一人で木刀を振っていたものの、肉体や技量はサーヴァントのそれだが、

 

実際の対人戦でどの程度戦えるのか、それを知りたかったからである。

 

そこでハジメは同じ歳の八重樫雫と対面し、練習試合となった。

 

最初はスキルを全てオフ。素の状態で戦うことにした。

 

ハジメはなるほどと思った。雫のこの歳でこの速さは強いと言える。

 

同じ小学生なら負けないだろう。ハジメを除いてはだが。

 

一方の雫はいくら攻撃しても有効打が出ない状況にイライラしていた。

 

そのくせハジメは一切攻撃をしてこないのである。

 

一気に決めると雫が攻撃しようとしたその瞬間、ハジメの攻撃が胴を捉えた。

 

一本である。納得できない雫はもう一回と再戦を申し込んできた。

 

これをハジメは受け、各種スキルをオン、宝具の開帳もすることにした。

 

今度は一転してハジメが攻撃し続け、雫が防戦一方となった。

 

「無形」。ハジメが一言呟き雫に近寄り逆袈裟に竹刀を振る。

 

雫はこの距離なら当たらないと判断したが、雫の胴にハジメの一撃が命中した。

 

『無形』

 

斎藤一の宝具であり、相手に間合いを誤認させて斬る剣技である。

 

観戦していた他の門下生がざわざわと話し、雫に至っては呆然としている。

 

「勝負あり・・・ですね」

 

ハジメは師範である雫の父親に告げる。

 

「実力のほどよく分かった。ようこそ八重樫道場へ」

 

ハジメはこうして八重樫道場の門下生となった。

 

 

 

~ハジメ15歳~

 

 

 

この頃ハジメは様々な相手と対戦することが多くなった。

 

剣、槍、弓、短剣・・・。相手の武器は様々であった。

 

こうなったのはハジメが様々な剣の大会に出て、一度も負けなかった為である。

 

その為ハジメに挑戦するものが後を絶たないのだ。

 

ハジメも剣だけでなく、槍、弓等で戦うこともあった。

 

様々な戦い方に慣れた方が良いとの考えである。

 

別段負けてもハジメ個人は問題はないのだが、

 

道場の手前勝ち続けざるを得なかった。

 

そろそろ諦めて欲しいと思うハジメであった。

 

 

 

~ハジメ16歳~

 

 

 

ハジメは高校生になり、雫と同じ高校に入った。

 

入学式ではハジメが新入生代表を務めることとなった。

 

全教科オール100点を取ってしまった為である。

 

FGOに出てくるのは英雄だけでなく、科学者、数学者、

 

発明家、作家といった人物もサーヴァントになっている。

 

それらの能力を統合したのがハジメなのだから当然こうなってしまったのである。

 

もう少し自重しようと思うハジメであった。

 

そして、ハジメが17歳になった時、Fate(運命)が動き出す。

 

 




カードのご利用は計画的に。リボ払いはおすすめしません。(実話)


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プロローグ3

動悸がするので病院へ。皆さんも寒さに注意を。


その日ハジメは教室の中で始業の時間が始まるまで寝ていた。

 

するとそこへ一人の女子生徒が近づいてきてハジメを起こした。

 

「南雲君起きて。もうすぐ授業はじまるよ」

 

それと同時に他のクラスメートの男子から嫉妬の視線を感じ、

 

ハジメが顔を上げるとクラスメートの白崎香織が立っていた。

 

「ああ、おはよう白崎さん」

 

そう言いながら、こちらを特に睨んでいる男子四人組、

 

檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治に殺意を込めた視線を向けると、

 

四人共視線をそらした。

 

 

 

ハジメは1年の時この四人に絡まれたのだが、

 

校舎裏で逆に八極拳の練習台にしたのだ。

 

以来こちらを睨んできても、手は出してこなくなった。

 

「?。南雲君どうしたの?」

 

「いや、別に何でもない」

 

そういいつつ同じく机の上に寝ていたフォウを撫でる。

 

フォウはハジメのペットだが、クラスのマスコットキャラでもあるのだ。

 

もっともその正体を知っているハジメが、

 

フォウを常に監視下に置くためという理由もある。

 

「フォウ君気持ちよさそう」

 

香織が笑顔でフォウを見る。

 

美少女の笑顔を見て、これは人気が出るし、嫉妬の視線も受けるわけだと理解する。

 

 

 

 

「ハジメ、おはよう」

 

「雫、おはよう」

 

「また、香織は南雲に構っているのか。放っておいていいだろ」

 

「全くだぜ。放っておいても問題ねえだろ」

 

そう言った男子の一人は天之河光輝。

 

成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能の完璧超人。

 

そして、八重樫道場に通う門下生でもあり、ハジメには一度も勝てていない。

 

加えて成績面でもハジメが勝っており、ハジメをライバル視している。

 

もう一人の男子は、坂上龍太郎といい光輝の親友である。

 

努力とか根性とかが大好きな人間であり、傍から見ると才能だけに見えるハジメは、

 

嫌いらしい。現にハジメを見て顔を歪ませている。

 

雫も声を掛けたことで、さらに男子の嫉妬の視線が突き刺さる。

 

いい加減うんざりしてきたハジメは、スキル『深淵の邪視』を発動。

 

クラスメートを恐怖状態にしてこちらを見れないようにした。

 

ため息を吐きながらハジメは思う。こういうこともあるが、この世界は平和だ。

 

少なくとも前世で体験したようなことがない。

 

しかし、インドラは己を鍛えよと言った。そうなるといつそうなるのか?

 

叶うならばこの平和がいつまでも続きますように。ハジメは心の中で祈った。

 

 

 

 

しかし、その思いはあっけなく砕け散る。

 

教室全体にいきなり魔法陣が展開したのだ。

 

騒ぎ出すクラスメート。

 

その中でもハジメは魔法陣を消すべく宝物庫から、

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を取り出し魔法陣の破壊を試みる。

 

しかし、破戒すべき全ての符を発動するより早く魔法陣が爆発。

 

その後にはそこにいた人間の姿は無かった。

 




『深淵の邪視』ジル(キャスター)のスキル。

ハジメが使うと相手がハジメを見ることはほぼ不可能。

雫、香織という美少女に話しかけられている時に使用がほとんど。


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主人公プロフィール

FGO風に表記してみました。


主人公プロフィール(異世界召喚前。今後次第で変更あり)

 

前世

 

名前:■■■■

 

プロフィール1

 

身長/体重:181cm・71kg

出典:史実

地域:日本

属性:秩序・善   性別:男性

 

(柳生宗矩と身長・体重同じ)

 

プロフィール2

 

性格:冷静かつ物静か。

   依頼された任務は確実に遂行し、例え女、子供でも、

   敵とみなせば抹殺にためらいはない。

   その反面任務外では、女、子供に甘く、

   孤児院にお金を振り込んだりもしていた。

   死因は仲間の裏切りによる銃撃。

   

 

プロフィール3

 

好きなこと:子供、信頼できる仲間

嫌いなこと:仲間を裏切る者、人の矜持、信念を踏みにじる者、戦争

 

プロフィール4

 

最初はお腹いっぱい食べられるからという理由で、傭兵団に入団。

その後めきめきと頭角を現し、最終的には団長にまで上り詰めた。

 

プロフィール5

 

その後とある理由により傭兵団は解散。

フリーの傭兵として、世界中を回り活躍した。

 

プロフィール6

 

彼が願っていたのは、生き残りたいという思いであり、

それが結果、傭兵として彼を有名にした。

最後は謀略の果てに仲間の裏切りにより命を落としたが、

命尽きるまで戦い抜き、多くの敵を道連れにした。

 

 

今世

 

名前:南雲ハジメ

 

プロフィール1

 

身長/体重:182cm・68kg

出典:ありふれた職業で世界最強

地域:日本

属性:秩序・善/悪   性別:男性

 

(ギルガメッシュと身長・体重同じ)

 

プロフィール2

 

性格:基本的に前世と変わりないが、インドラの子という形のため、

   神に傾いており、より人を客観視して見るようになっている。

 

プロフィール3

 

仲間の裏切りにより命を落とした為、自分に悪意があるかないかを、

スキルをフルに使って見定めている。

 

プロフィール4

 

インドラの言う通り己を鍛え、様々なことを学んだ為、

各方面で名が知れ渡っている。

 

プロフィール5

 

前世と今世の環境の差に戸惑いはあるものの、

周囲に良き人間が多数いたため、属性は善に傾いている

 

プロフィール6

 

仮定としての話だが、悪に完全に傾いた場合、最悪のパターンとして、

災厄の獣(カーマを取り込んでいるため)と化す。

この場合冠位を含む全サーヴァントが戦いを挑んでも、

勝つことは不可能だろう。

 

パラメーター

 

筋力EX 耐久EX

敏捷EX 魔力EX

幸運EX 宝具EX

 

スキル(一部抜粋)

 

カリスマEX

ほぼ呪いに近いスキル。Bで一国を治めるのに充分なのに、

EXとなると神を崇めるようなものになる。神性EXも発動させるとほぼ神霊である。

 

黄金律EX

どれだけ財宝が入ってくるかのスキル。EXとなるとなにもしなくても財宝が手に入る。

 

バビロンの蔵EX+++

この宝物庫は全宝具が真名開放可能。

ギルガメッシュも持っていないカルナの神殺しの槍等も入っている。

また、この宝物庫は異世界の物も収集し、真名開放可能。

 



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幕間の物語:神の子の生誕

今回は短めです。


ある所に若い夫婦がいました。

 

この夫婦はある悩みを抱えていました。

 

なかなか子供ができないのです。

 

そこで夫婦はご利益があるという帝釈天を祀る寺で、

 

子供ができるようお祈りしました。

 

 

 

その夜、夫婦は同じ夢をみました。

 

それは白い空間に夫婦がおり、その前に帝釈天が座っています。

 

帝釈天は告げます。

 

「貴公らの願い聞き届けた。故に我の子を授けよう。

 

ただし、普通の子ではなく神の子故、

 

育て方次第で善にも悪にも傾こう。それでも良いか?」

 

それを聞いて夫婦は一瞬迷いましたが承諾しました。

 

それほど子供が欲しかったのです。

 

「承知した。それでは受け取るがよい」

 

帝釈天の手に白い光の玉が現れ、妻のお腹に吸い込まれました。

 

「普通の子と違い手がかからぬ。その子に好きなことをさせると育てやすいぞ」

 

帝釈天はアドバイスを送ると、「では、さらばだ」とその場から消えました。

 

そこで夫婦は目を覚ましました。

 

 

 

ほどなくして妻の妊娠がわかり、夫婦は喜びました。

 

そして、生まれたその子にハジメと名付けました。

 

夫婦は子供が成長するにつれ、異質さを見せ始めました。

 

幼稚園で描いた絵が幼稚園児のレベルではなく、プロのレベルだからです。

 

また、ピアノを教えてもいないのに完璧に弾きこなし、

 

複数の外国語はおろか古代文字すら読んだからです。

 

夫婦は夢の通り、この子は帝釈天の子だと理解しました。

 

夫婦は帝釈天の言う通り、子供に好きなことをさせてあげ、

 

愛情を深く注いで育てました。

 

そうすれば善の方に進むと思ったからです。

 

好きなことを習わせ、好きなことを学ばせました。

 

その結果、『剣は無双、槍は神槍、弓を引けば神弓』と称えられ、

 

各方面で有名になりました。

 

学業もおろそかにせず、よく学びました。

 

性格も良く、親のことを思いやり、よく手伝いました。

 

夫婦は息子を誇りに思いました。

 

自分たちは幸せ者だと。叶うならばこのままこの幸せが続くといいのにと、

 

強く願いました。

 

その為子供が欲しいと願ったお寺に、お願いに行きました。

 

この幸せがいつまでも続きますようにと。

 

その夜、両親の夢に帝釈天が現れました。

 

しかし、その顔は困っている顔でした。

 

そして、こう告げます。

 

「今回の願いは叶えられない。ただ、息子を信じ待て」

 

父親は問います。なぜですかと。

 

帝釈天は告げます。

 

「それは言えぬ。だが、息子を信じよ。

 

お主らの息子にはそれだけの力がある」と。

 

そう言うと帝釈天は消え、両親は目を覚ましました。

 

不吉な夢だと。

 

 

 

そして、いつもの通り息子が学校に行くのを夫婦は見送りました。

 

それが夫婦の見た息子の最後の姿でした。



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異世界召喚1

この作品がつまらないと思われるようでしたら、すぐにブラウザバックしてください。


爆発の後、ハジメが目を開けると、大聖堂の中にいるようであり、

 

自分が台座の上に立っていることに気が付いた。

 

周りを見るとクラスメート達がおり、

 

魔法陣の中にいた全員が巻き込まれたようであった。

 

台座の前には法衣のようなものを着た集団が祈りを捧げており、

 

その中から一番豪華な服をまとった老人が進み出てきて自己紹介を始めた。

 

どうやらここはトータスという場所の聖堂教会で、

 

老人の名前はイシュタル・ランゴバルドというらしい。

 

金星の赤い悪魔と名前が同じとは、

 

なんとも皮肉だなとハジメは場違いな感想を抱いた。

 

 

 

ここでは落ち着けないだろうということで、

 

ハジメ達一行は長テーブルと椅子が置かれた広場へ案内された。

 

前の席に畑山愛子先生と光輝達四人組、次にその取り巻き、

 

ハジメは最後方の席に座った。

 

この時点でハジメはスキル『天賦の見識』と『仮説推論』をオンにし、

 

情報の見落としがないようにしていた。

 

全員が席に座ったタイミングで、メイド達がカートを押しながら部屋に入ってきた。

 

クラスの男子の大半がこの状況でもメイド達に見とれている中、

 

ハジメは特に感慨を覚えなかった。

 

前世ではお偉いさんとの打ち合わせでメイドをよく見た為である。

 

逆に女子達の氷河期もかくやの冷たい視線に気づけよと、

 

他の男子達を見ていた位である。

 

全員に飲み物がいきわたるとイシュタルが話し始めた。

 

その話は前世も含めて実にクソッタレな話だと、ハジメが思うものだった

 

要約するとこのようなものだ。

 

 

 

・この世界はトータスと呼ばれている

 

・大きく分けて人間族、魔人族、亜人族の三つの種族がいる

 

・人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配し、

 

 亜人族は東の巨大樹海の中でひっそり生きている

 

・人間族と魔人族が何百年と戦争を続けている

 

・個の力は魔人族が、数では人間族が勝っており、戦力は拮抗

 

・魔人族が魔物を使役し始め、人間族の数の有利が崩れ危機的状況なこと

 

・エヒトという唯一神がハジメ達を召喚したこと

 

・エヒトの意思のもと魔人族を打倒し人間族を救ってほしいこと

 

 

 

この世界はまるでFGOの異聞帯だとハジメが思っていると、

 

愛子先生が突然立ち上がり猛抗議を始めた。

 

愛子先生の意見と同意見のハジメもここで初めて口を開いた。

 

「俺も愛子先生と同意見だ。異世界の戦争に参加する義務も義理もない。

 

早急に元の世界への帰還を要求する」

 

ハジメの言葉にイシュタルは申し訳なさそうに、残酷な現実を話した。

 

帰還は現状不可能だと。召喚したのはエヒトであり、その意思次第だと。

 

 

 

愛子先生はそれを聞き力が抜けたのかストンと椅子に座り、

 

クラスメート達はパニックになった。

 

その中でハジメは冷静さを保っていた。

 

スキル『天賦の見識』と『仮説推論』から帰還への方法をいくつか考えていた。

 

エヒトという神がこちらの世界に干渉できるのなら、インドラの子であり、

 

神性EXの自分なら干渉可能ではないか?

 

もしくはイシュタルが帰還方法を隠している可能性もある。

 

このトータスの情報が圧倒的に足りない。情報が必要だ。

 

ハジメが思考の海に沈んでいると、光輝がとんでもないことを言い出した。

 

戦うと。救済さえ終わればエヒトが還してくれるかもしれないと。

 

その言葉に龍太郎、雫、香織が賛成した。

 

 

 

ハジメは表情にこそ出さなかったが、心の中で馬鹿野郎と光輝を罵っていた。

 

戦争がいかに無残で残酷なものかを、前世でハジメは嫌というほど味わった。

 

ハジメから見れば、光輝が言っていることは、

 

命というチップを対価にギャンブルをするようなものだ。

 

そのほとんどが負けて野に骸をさらすことになるというのに。

 

一人の英雄が生まれるのにどれほどの命が亡くなるかを理解していない。

 

もしくは自分達が正義で魔人族が悪という正義感からかもしれない。

 

立場を変えて見れば、戦争に正義も悪もないというのに。

 

愛子先生はと視線を移すが、オロオロするばかりでどうしようもない。

 

後は五月雨式にクラスメート達が賛成に回り、結局全員が参加することになった。

 

ハジメはイシュタルを要注意人物として頭の中に記憶した。



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異世界召喚2

戦争に参加することとなったハジメ達一行だが、

 

日本では普通の高校生。戦い方などわからない。

 

そこは教会側もわかっているらしく、

 

この教会のある『神山』の麓にある『ハイリヒ王国』にて、

 

受入れ態勢が整っているらしい。

 

王国は教会と密接な関係にあり、強固なパイプを持っている。

 

ハジメ達一行は教会の正面門にやってきた。

 

それは荘厳であり、そこをくぐると雲海の広がった雄大な景色が広がっていた。

 

息苦しさがないのは魔術を使っているのだろうと、ハジメは考えた。

 

さらに進むと台座があり、巨大な魔法陣が描かれていた。

 

皆がそこに乗りイシュタルが呪文を唱えると、魔法陣が輝き台座が動き始めた。

 

どうやらこの台座はロープウェイらしい。

 

始めて見る『魔法』にハジメ以外の生徒は大騒ぎした。

 

やがて地上が見えてくると、国が見える。ハイリヒ王国の王都だ。

 

ハジメはこの国が王よりも教皇の方が地位が高いのだろうと考えた。

 

そうでなければ王を見下ろすような場所に教会を建てるはずがない。

 

厄介なことになった。ハジメはそう思った。

 

前世での中東での戦いを思い出したのである。

 

政治に宗教が絡むと非常に複雑なのである。

 

気の抜けないことになりそうだとハジメは思った。

 

 

 

王宮に着くとハジメ達は玉座の間に案内された。

 

途中、騎士や文官、メイド等とすれ違ったが、

 

皆が皆一様に期待、もしくは畏敬の視線を送ってくるのだ。

 

どうやらある程度ハジメ達のことを知っているようだ。

 

巨大な両扉の前に到着すると、扉の両サイドの兵士二人が、

 

イシュタルと勇者一行が来たことを告げ、扉を開け放った。

 

イシュタルは悠然と扉を通り、

 

光輝等一部の者を除き生徒たちは恐る恐る扉を通った。

 

 

 

扉を潜ると真っ直ぐ伸びたレッドカーペットと玉座があり、

 

玉座の前で初老の男が立ち上がって待っていた。

 

その隣には王妃と思われる女性。更にその隣には十歳前後の美少年、

 

十四、五歳の美少女が控えていた。

 

更にレッドカーペットの両サイドには、

 

左側に甲冑や軍服らしきものを着た者たちが、

 

右側には文官らしき者たちが、ざっと三十人以上佇んでいる。

 

玉座の前まで来ると、イシュタルは生徒達をそこで待たせ、国王の隣へと進んだ。

 

そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、

 

軽く触れない程度のキスをした。

 

ハジメの予想通り教皇の方が立場が上のようだ。

 

ハジメはスキル『天賦の見識』と『仮説推論』をオンにした状態を続けていたので、

 

これから取るべき最善の道を模索していた。

 

その後はただの自己紹介である。

 

国王の名がエリヒド・S・B・ハイリヒ。王妃がルルアリア。

 

美少年がランデル王子、王女がリリアーナという。

 

後は騎士団長や宰相といった高位の者達の紹介がなされた。

 

その後晩餐会が開かれ、

 

王宮から衣食住の保障と訓練における教官達の紹介もなされた。

 

晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。

 

ちなみにフォウは香織について行った。

 

 

 

部屋に入ったハジメは椅子に座り、怒涛のごとき今日一日を振り返る。

 

『天賦の見識』と『仮説推論』から導き出した結論は情報が足りないことだった。

 

国家体制、種族、文化、魔法、地理etc・・・

 

全ての情報が足りない。敵だという魔人族がどの程度の強さかも不明だ。

 

流石に自分の戦闘能力を上回る者はいないと思うが。

 

「『初歩的なことだ、友よ』(エレメンタリー・マイ・ディア)」

 

ハジメは宝具を発動した。

 

そうすると部屋に謎の球体が出現した。

 

この宝具は立ち向かう謎が真に解明不可能な存在であったとしても、

 

必ず、真実に辿り着くための手掛かりや道筋が「発生」する。

 

たとえば鍵の失われた宝箱があったとしても、鍵は「失われていない」ことになり、

 

世界のどこかで必ず見つけ出せるようになる。

 

(ただし、流石に手の中に突然発生したりはしない。

 

どこかに在るそれを、ハジメないし協力者が発見せねばならない)

 

ハジメの脳裏に前世での嫌な記憶が蘇った。

 

偽情報に欺かれ、傭兵団に大きな損害が出たのである。

 

あの時は事前情報と違い、兵力が倍近く違っていたのだ。

 

あのような愚は繰り返すまい。そう思うハジメであった。

 



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ステータスプレート

翌日から早速座学と訓練が始まった。

 

まず、生徒達に銀色のプレートが配られた。

 

不思議そうにプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが説明を始めた。

 

このプレートはステータスプレートと呼ばれ、

 

自分の客観的なデータを数値化して示してくれるらしい。

 

最も信頼できる身分証明書でもあるので無くさないようにとの注意があった。

 

プレートの一面に魔法陣が刻まれており、そこに一緒に渡した針で指に傷を作り、

 

血を一滴垂らすようにとの指示があった。そうすると所持者が登録され、

 

ステータスオープンと言うと自分のステータスが表示されるらしい。

 

また、これは神代のアーティファクトであることの説明もあった。

 

ハジメは後で魔術で解析しようと思った。

 

生徒達が言われた通りにするのを見て、ハジメも血を垂らす。

 

するとプレートが一瞬淡く輝いたと思うと、色が変化した。

 

驚く生徒達にメルド団長が説明を加えた。

 

個人により魔力の色は違い、プレートもその色になるらしい。

 

ハジメが自身の色を見ると、上半分が白、下半分が黒に染まっていた。

 

メルド団長がステータスの確認を促し、

 

ハジメも他の生徒達と一緒にプレートを見る。

 

 

 

南雲ハジメ

 

17歳 男

 

???

 

天職:創世滅亡神 錬成師

 

以下全て???

 

 

 

「」

 

ハジメは絶句した。

 

錬成師はわかる。だが、創世滅亡神とはなんだ。

 

神とは天職なのかと思った時に、とある本を読んだことを思い出した。

 

神とは人や狐といった神に仕える眷族が修行をし、

 

神になりたいものが勧請されて神になるのだと。

 

この神社に残りたいと思う眷族は神になれる力があっても、眷族として残るのだと。

 

ならば神が職業の一種と判断され、プレートに表示されたのではないか。

 

ハジメはインドラの子であり、神性EX。インドの全ての神性を取り込んでいる。

 

そして修行もしている。それならば神に至っていることになる。

 

とにかくまずいとハジメは思った。

 

こんなステータスでは大騒ぎになること間違いなしだ。

 

メルド団長が何か説明しているがそんなことはどうでもいい。

 

ならば、とハジメはこっそりとスキルを使った。

 

ハジメ以外のクラスメート達はステータスを申告し始めていた。

 

光輝が勇者であり、レベル1の時点でこの世界では、

 

トップレベルの団長のステータスに迫る。

 

他のクラスメートも戦闘系の天職だ。

 

最後にハジメが残り、メルド団長がプレートを申告するよう促す。

 

ハジメはメルド団長にプレートを渡した。

 

 

 

南雲ハジメ

 

17歳 男

 

天職:ランサー

 

ステータス

 

筋力B  耐久C

敏捷A+ 魔力E

幸運E  宝具

 

スキル

 

中国武術(六合大槍) A+++

圏境 (極) A-

絶招 B++

中国武術(八極拳) A+++

陰陽交差 B

 

 

 

これを見たメルド団長は困惑した。

 

明らかに他のクラスメート達と表示が違う。

 

メルド団長の困惑を見て他のクラスメート達が、ハジメのステータスを見て驚く。

 

明らかに表示が違うという者もいれば、

 

これ最高がA+++で最低がEってことという者もいる。

 

雫などハジメの戦闘能力を知っている一部の者は表示に納得しているようだ。

 

それを見てハジメは騒ぎにはなったが、想定の範囲内だと安堵した。

 

ハジメが使ったのは『幻術』だ。ただし、ハジメだと東京やニューヨークのような、

 

大都市すら再現可能だ。

 

多少の混乱はあったものの、ステータスプレートのことを切り抜けた、

 

ハジメであった。




ハジメのステータスプレートが白と黒なのは、

白が善と創世、黒が悪と滅ぼしを表しています。


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トータス

あれから二週間が経過した。

 

現在、ハジメは訓練の合間の休憩時間を利用して、

 

王立図書館にてこの世界のことを調べていた。

 

机には数冊の本が置かれ、物凄い速さでハジメは本を読んでいた。

 

最初はちゃんと本を読んでいるのかわからなかった司書も、

 

ハジメに質問したら本の内容を完璧に覚えており、

 

ちゃんと元の場所に戻すので、気に止めなくなった。

 

逆にさりげなく司書にならないか勧誘する始末である。

 

 

 

ハジメはまずトータスの魔法について調べた。

 

トータスにおける魔法は、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、

 

魔法陣に組み込まれた式の通りの魔法が発動するというプロセスを経る。

 

詠唱の長さ、魔力量、魔法陣に書き込む式の多さに比例して、

 

威力なども変わってくる。

 

ちなみに魔法陣は紙に刻んだ使い捨てタイプか、鉱物に刻むタイプの二つがある。

 

 

 

次にハジメは地理、人種の特徴を調べた。

 

亜人族は被差別種族であり、基本的に大陸東側の南北に広がる、

 

【ハルツィナ樹海】奥地に引きこもっている。

 

差別される理由は彼等が一切魔力を持っていないかららしい。

 

魔法は神からのギフトであるという価値観が強いのだ。

 

なお、魔人族はエヒトとは違う神を崇めているが、

 

亜人族を差別するのは同じらしい。

 

この魔人族は全員が高い魔法適性を持っており、

 

人間族より遥かに短い詠唱と小さな魔法陣で強力な魔法を繰り出してくる。

 

数は少ないが、南大陸中央にある魔人の王国【ガーランド】では、

 

子供まで強力な攻撃魔法を放てるようであり、

 

国民全てが兵士と変わらないなとハジメは考えた。

 

【海上の町エリセン】は海人族といわれる亜人族の町で、西の海の沖合にある。

 

亜人族の中で唯一、王国が公に保護している種族だ。

 

理由は北大陸に出回る魚介類の八割がここから出回っているからである。

 

ちなみに西の海に行くには、

 

その手前にある【グリューエン大砂漠】を越えなければならない。

 

この大砂漠には輸送の中継地として重要なオアシス【アンカジ公国】や、

 

【グリューエン大火山】がある。

 

【グリューエン大火山】は七大迷宮の一つである。

 

 

 

七大迷宮という言葉に、ハジメのスキル『天賦の見識』が引っかかった。

 

これは何かの鍵になる。ハジメにそう思わせた。

 

ハジメは続きを読み進める。

 

七大迷宮とは、この世界における有数の危険地帯である。

 

ハイリヒ王国の南西、グリューエン大砂漠との間にある【オルクス大迷宮】と、

 

先程の【ハルツィナ樹海】もこれに含まれる。

 

何故三つなのかというと、古い文献からその存在は信じられてきたが、

 

詳しい場所が不明なのである。

 

一応目星はついており、大陸を南北に分断する【ライセン大峡谷】や、

 

南大陸の【シュネー雪原】の奥地にある【氷雪洞窟】がそうではないかと言われている。

 

 

 

(一度現地に行って調べるか。最悪、千里眼で片っ端から探すか)

 

ハジメはさらに続きを読み進める。

 

【ヘルシャー帝国】は魔人族との戦争中、

 

とある傭兵団が起こした新興国で、軍事国家らしい。

 

使えるものは何でも使うという思想があり、

 

亜人族を扱った奴隷商が多数存在している。

 

帝国は王国の東に【中立商業都市フューレン】を挟んで存在する。

 

経済力を最大限に使い中立を貫いている。

 

何か欲しいものがあれば、ここに行けばいいという商業中心の都市だ。

 

世の中やはり金を持つものの方が強いのだ。

 

 

 

ここまで読んでハジメは訓練の時間が迫っているのに気付き、本を片付け始めた。

 

大体の大陸の情報は理解できた。特に迷宮は一度行く必要がありそうだ。

 

そこに何かがある。そう思うハジメであった。

 



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訓練

こうやって二次小説を書いてると、原作者の凄さと苦労がよくわかります。


訓練施設にやって来るとすでに何人かの生徒が談笑したり、自主練に励んでいた。

 

どうやら存外早く着いたらしい。

 

自分も訓練するかと支給された槍を構えた。

 

ここまでの二週間ハジメは訓練は一人で行っていた。

 

それもこれも二週間前のことに遡る。

 

 

 

ハジメのプレートの表示に不安を感じたのかメルド団長が、

 

試合形式の対戦を言い出したのだ。

 

クラスメート達の一部(檜山達四人組含む)もはやし立て、

 

やむを得ず対戦することとなった。

 

ハジメとしては不本意ながら、少し本気を見せた方がいいと判断。

 

試合開始の合図と同時にスキル『圏境(極)』を使用。

 

自らの存在を消失させ、箭疾歩(せんしっぽ)で一気に間合いを詰め、

 

手加減した宝具『神槍无二打』(しんそうにのうちいらず)を使用。

 

メルド団長を一撃で吹き飛ばしたのである。

 

メルド団長を倒して周りを見ると、皆呆然としている。

 

傍から見るとまばたきを一回したら、メルド団長が倒れていたのである。

 

何をしたのかすらクラスメート達はわからなかった。

 

「俺の勝ち・・・ですね」

 

そう言うと審判役の騎士は我に返り、ハジメの勝ちを宣言する。

 

クラスメート達もざわざわし始め、何をしたのか?、誰か見えた?、

 

と言った声がする中、メルド団長が立ち上がってこちらに向かってきた。

 

「いやあ、参った参った。何をしたかわからなかったぞ!」

 

「ハハハ。まあ、これで充分ですよね?」

 

「ああ、問題ない。むしろ頼もしい味方が増えてうれしいぞ!」

 

笑いながらハジメの背中をバシバシ叩くメルド団長。

 

その様子から悔しさのようなものは見られなかった。

 

周りのクラスメート達の反応は様々で、素直に凄いと称賛する香織。

 

顔色が青く染まっている檜山達四人組。対抗心を燃やす目をしている光輝。

 

やっぱりこうなったかという顔の雫。俺達もあんな風になれるのかな。

 

南雲君凄すぎ。といった他のクラスメート達の声。

 

これでステータスプレートの件は誤魔化せたなと、ハジメは安堵した。

 

 

 

そして現在に至り、あの試合を見てハジメに勝負を挑むクラスメートはいなかった。

 

ようやく静かに練習できるなと、ハジメはひたすら同じ動作を繰り返していた。

 

千の技を学ぶより一の技を徹底的に磨き上げることで、文字通りの一撃必殺を。

 

李書文の言う通りだとハジメは思っている。

 

戦場では同じ相手と何度も巡り合う機会は少ない。

 

それならば確実に相手を仕留める技があればいい。

 

戦場での実際の経験も含めたハジメの考えである。

 

 

 

訓練が終了した後、メルド団長から伝えることがあると引き止めた。

 

何事かと注目する生徒達にメルド団長が告げる。

 

明日から実践訓練の一環として【オルクスの大迷宮】に行く。

 

必要なものはこちらで用意するから、気合を入れて望めと。

 

ざわざわするクラスメート達の中、

 

ハジメはこんなに早く【オルクスの大迷宮】に行く機会が来るとは僥倖だと思った。

 

すでに図書館等で充分に必要な知識は得た。

 

考えていた例の計画を実行に移すチャンスが来たのだ。

 

そんな考えをハジメは顔に一切出さず考えていた。



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幕間の物語:論戦

それはステータスプレートの作成の翌日に遡る。

 

愛子先生が「やっぱり戦争はダメです!」と言い出したのだ。

 

多くのクラスメート達がやれやれまたかと思ったが、

 

一部のクラスメートがこれに同調。戦争反対を言い出したのだ。

 

これに光輝を始めとした主戦派は説得しようとしたが、

 

非戦派はハジメを本人の同意なしに、神輿に担ぎだしたのである。

 

 

 

実は異世界召喚前からハジメのクラスは三つの派閥に分かれていた。

 

光輝を中心とした光輝派、ハジメを中心としたハジメ派、

 

どちらにも属さない中立派である。

 

華がありリーダーシップを取ってきた、光輝が一番クラスで影響力があったが、

 

ごく普通の顔で物静かな為、華々しくはないが、

 

その能力で各方面に影響を与えるハジメが二番目に影響力があったのだ。

 

そして、愛子先生と同じくいち早く非戦を唱えたハジメをリーダーにしたのだ。

 

頭を抱えたのはハジメである。愛子先生と同意見だから賛成したのであって、

 

ハジメ本人にリーダーになるつもりはない。

 

そもそもハジメ派なるものが存在していること自体初耳だった。

 

とは言えクラスメート同士がいがみ合う自体は避けたかった。

 

前世の傭兵団でもその調整に苦労したのである。

 

戦場での仲間割れなど愚の骨頂である。

 

ハジメは光輝の元に赴き、代表者による論戦を提案。

 

クラスの意思統一を図るべきと持ち掛けた。

 

光輝もこれに同意し、代表者による論戦が開かれることになったのである。

 

 

 

王宮の会議室は生徒達が左右の席に分かれて座っていた。

 

主戦派が右側に座り、非戦派は左側に座った。

 

中立派は主戦派側の方が圧倒的に多かった。

 

会議は両者、代表を出しての論戦形式となった。

 

主戦派側は光輝、非戦派側はハジメである。

 

光輝は以前の通り、人間族の救済がなれば、

 

エヒトが元の世界に還してくれるかもしれないと主張。

 

それに対しハジメは、それまでにクラスメート達が何人死ぬのか。

 

救済に成功しても還れる確証はないと主張。

 

両者の意見は平行線を辿った。

 

ハジメは元から光輝の正義感と思い込みの激しさから、

 

意見は合わないと判断。いわば非戦派のガス抜きを狙い、

 

主戦派の意見に渋々ながら同意という方向で行こうと考えていた。

 

しかし、光輝の一言がハジメの逆鱗に触れた。

 

 

 

仮に仲間が裏切っても許すといったのだ。

 

この言葉にハジメは激高。

 

テーブルに拳を振り下ろし、破壊すると、

 

鬼神もかくやの表情を浮かべ、こう答えた。

 

「勝手な金策、私闘、仲間の裏切りは、仲間といえども俺が殺す!!!」と。

 

これはかつて前世で傭兵団を束ねた時の、鉄の掟であった。

 

そうしなければ癖の強い傭兵達を、束ねられなかったのである。

 

この時ハジメは怒りのあまり、無意識にスキル『カリスマ』がオンになり、

 

ハジメの怒りの感情と相まって、

 

部屋にいる全員に凄まじいまでのプレッシャーを与えた。

 

気絶する者、呼吸困難に陥る者などが次々現れた。

 

光輝はハジメの表情に顔が真っ青になり、

 

雫は長年の付き合いの中で、

 

見たことのないハジメの怒りの表情に恐怖し、

 

香織、愛子先生に至っては気絶していた。

 

皆が皆普段は物静かな、ハジメからは想像できない怒りの表情に、

 

純粋な恐怖を感じた。

 

それが数秒続き、ハジメがハッと気付き、『カリスマ』を解除。

 

その瞬間、部屋の空気が元に戻り、皆ゼーハーと息をしていた。

 

ハジメはバツの悪そうな顔をし、

 

「すまない。論戦は怒りで我を忘れた俺の負けだ」と言い、席に座った。

 

こうして一応戦争に参加するということで意見はまとまったが、

 

皆がハジメを絶対に怒らせてはいけないという点では、

 

心の中で一致したのは言うまでもない。



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月夜の語らい

ストックが尽きたので、ここから投稿が遅くなります。
ご了承ください。


【オルクス大迷宮】

 

それは、全百階層からなると言われる迷宮である。

 

七大迷宮の一つでありながら、冒険者や傭兵、新兵といった者達に人気がある。

 

その理由は階層ごとに敵の強さが推し量りやすいことと、

 

出現する魔物が地上の魔物より、はるかに良質な魔石を体内に抱えているからだ。

 

ここで魔石について説明しよう。要約するとこうである。

 

 

 

・魔石は魔物を魔物たらしめる力の核である

 

・魔石は魔法陣を作成するための原料となり、

 

 魔石なしでは3分の1まで効果が減衰する

 

・魔石は日常生活にも使われ大変需要が高い

 

・良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う

 

・固有魔法とは魔物が使う唯一の魔法である

 

・一種類しか使えない代わりに無詠唱、魔法陣なしで放てる

 

・上記のことが魔物が油断ならない理由である

 

 

 

ハジメ達一行は、メルド団長率いる複数人の騎士団員とともに、

 

【オルクス大迷宮】へ挑戦する者の為の宿場町【ホルアド】に到着した。

 

新米の訓練によく利用するようで、王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

ハジメは部屋に入ると気を緩めた。

 

明日から迷宮に挑戦することになっており、今回は行ってもニ十階層までだという。

 

ハジメは明日の計画を考える。

 

ハジメは明日、スキル『圏境』や『気配遮断』を使って姿を消し、

 

クラスメート達から離脱。死亡したと思わせて、

 

大迷宮の最深部へ単独で潜るつもりだ。

 

ハジメは知れば知るほどこの世界は歪だと思った。

 

戦争自体はハジメが宝具を全力開帳すれば、人間族が勝つだろう。

 

しかし、その後のことが問題だ。今度は元の世界に戻れるかわからない。

 

仮に戻れない場合、ハジメを脅威に感じ殺そうとするだろう。

 

それは御免だとハジメは思っていた。

 

 

 

 

ハジメは鍵は大迷宮にあると『仮説推論』で判断。

 

生き残り元の世界に帰還するには、

 

何としても大迷宮の最深部に到達する必要がある。

 

その為には死亡したと思わせて、単独行動で動くのが最善だ。

 

ハジメは他のクラスメート達を連れていくのは無理だと判断した。

 

ハジメから見れば足手まといになる。第一、メルド団長達が許さないだろう。

 

そうなるとやはり単独行動となる。

 

こういう時のために、食料や水といった必要物資は宝物庫に保管している。

 

問題はどこで離脱するかとハジメが考えていると、

 

扉をノックする音がした。

 

 

 

日本ではすでに深夜の時間。

 

檜山達が寝込みを襲いに来たかと、槍をつかむ。

 

しかし、それは杞憂に終わった。

 

「南雲君、起きてる? 白崎です。ちょっといいかな?」

 

意外な訪問客にハジメは槍を置き、扉に向かう。

 

そして、扉の鍵を開けるとネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「どうした? 何かあったか?」

 

「ううん。その、南雲君と話したくて・・・・・・やっぱり迷惑だったかな?」

 

「いや。構わない。どうぞ。」

 

「うん!」

 

香織は嬉しそうに部屋に入り、テーブルセットに座った。

 

一方のハジメは慣れた手つきで紅茶の準備を始める。

 

二人分を用意して一つを香織の前に差し出し、向かいの席に座る。

 

「ありがとう」

 

やはり嬉しそうに紅茶に口をつける香織。

 

ハジメも紅茶に口をつけ、カチャとカップを置く。

 

「それで話したいこととは何だ? やっぱり明日のことか?」

 

ハジメの言葉に「うん」とうなずき、思いつめたような表情になった。

 

「明日の迷宮だけど・・・・・・南雲君には町で待っていて欲しいの。

 

教官達やクラスの皆は必ず説得する。だから! お願い!」

 

話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する香織。

 

ハジメは困惑する。すでにメルド団長から先陣を切るよう言われているのだ。

 

それにそれでは離脱する計画が狂ってしまう。

 

「ちょっと待ってくれ。すでにメルド団長から先陣を切るように言われている。

 

流石にここで待てというのは無理だろう」

 

「違うの! そういうことじゃないの!」

 

香織は、ハジメの言葉に慌てて弁明する。

 

そして、深呼吸をした後「いきなり、ゴメンね」謝り静かに話し出した。

 

「あのね、何だか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど・・・・・・

 

夢を見て・・・・・・南雲君が居たんだけど・・・・・・

 

声を掛けても全然気付いてくれなくて・・・・・・

 

走っても全然追いつけなくて・・・・・・

 

それで最後は・・・・・・」

 

「消えてしまうのか?」

 

ハジメの言葉に「うん」と答える香織。

 

しばし静寂が辺りを包む。確かに不吉な夢だ。しかし、しょせん夢である。

 

そのような理由で待機の許可が出るとは思えないし、

 

ハジメが最高戦力である以上、許可が出たら他のクラスメート達から、

 

非難の嵐である。

 

それに例の計画も実行に移せない。故に行かないという選択肢はない。

 

 

 

ハジメは香織を安心させるため優しい声で話しかけた。

 

「しょせんは夢は夢だ、白崎さん。

 

今回はメルド団長率いる騎士団員もついているし、

 

天之河みたいな強い奴もたくさんいる。むしろうちのクラスは全員強いし、

 

敵が可哀想なほどだ。それになにより俺自身が最高戦力だ。

 

明日の迷宮への不安からそんな夢を見たんじゃないか?」

 

ハジメの言葉にそれでもなお、不安そうな表情を見せる香織。

 

「それでも不安だというのなら・・・・・・」

 

ハジメは香織の目に視線をしっかりと合わせ、

 

「俺を守ってくれ」

 

「えっ?」

 

ハジメの言葉に香織は驚く。

 

「白崎さんの天職は『治癒師』だったな。

 

何があっても・・・・・・例え俺が大怪我を負ったとしても、

 

白崎さんなら治せるよな? その力で守ってもらえるか?

 

それならば俺は大丈夫だ」

 

しばらく香織はハジメをジーと見つめる。

 

ハジメも香織をジーと見つめた。

 

しばらく見つめ合った後、香織の微笑とともに沈黙は破られた。

 

 

 

「変わらないね。南雲君は」

 

「?」

 

香織の言葉にわからないといった風の表情をしたハジメに、

 

香織はクスクスと笑う。

 

「南雲君は私と初めて会ったのは、高校に入ってからだと思ってるよね?

 

でもね、私は中学二年の時から知ってたよ」

 

その意外な告白に、自分の記憶を辿るハジメ。

 

だが、記憶の中には無かった。

 

考えるハジメに、香織は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

「私が一方的に知ってただけだよ。

 

・・・・・・私が最初に見た南雲君は土下座してたから、

 

私のこと見えていたわけないしね」

 

その言葉にハジメの記憶が甦る。ああ、あの時のことかと。

 

小さな男の子とおばあさんのために土下座したのだ。

 

実際にはハジメは土下座していない。スキル『幻術』で見せた幻だ。

 

「それはまた、見苦しい所を・・・・・・」

 

「ううん。むしろ、私はあれを見て南雲君のことを凄く強くて優しい人だと思ったんだもの」

 

「?」

 

あれのどこにそんな要素がある? ハジメが思っていると、

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。

 

光輝君とかよくトラブルに飛び込んで行って相手の人を倒してるし・・・・・・

 

でも、弱くても立ち向かえる人や、

 

他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。

 

・・・・・・実際、あの時私は怖くて・・・・・・

 

自分は雫ちゃんみたいに強くないからって言い訳して、

 

誰か助けてあげてって思うばかりだった」

 

「白崎さん・・・・・・」

 

「だから、私の中で一番強い人は南雲君なんだ。

 

高校に入って南雲君を見つけた時はうれしかった。

 

・・・・・・南雲君みたいになりたくて、もっと知りたくて、

 

色々話しかけたりしたんだよ。南雲君よく寝てるけど・・・・・・」

 

「あはは、それは失礼した」

 

香織が自分を構う理由を知り苦笑いする。

 

「だからかな、不安になったのかも・・・・・・でも、うん」

 

香織は決然とした眼差しでハジメを見つめる。

 

「私が南雲君を守るよ」

 

その決意にハジメはうなずき返し、「ありがとう」と応じる。

 

 

 

それからしばらく雑談した後、香織は部屋へ帰っていった。

 

ハジメはベッドに横になり考える。

 

何としても元の世界に還る。その決意を新たに眠りについた。

 

自室に戻っていく香織の背中を月明かりの影に潜んでいた者が、

 

静かに見つめていた。その者の顔が醜く歪んでいたことを知る者は、

 

誰もいなかった。

 



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いざ迷宮へ1

翌朝、陽が出て間もない頃、ハジメ達は迷宮の前の広場に集まっていた。

 

そんな中ハジメは槍をしごきながらも、

 

興を削がれた感じになっていた。

 

事前に想像していた自然の洞窟のようなものとは違い、

 

入場ゲートのような入り口であり、受付窓口まであったのだ。

 

職員が迷宮の出入りをチェックしている。

 

ここでステータスプレートをチェックし、

 

出入りを把握することで死亡者の数を把握しているのだとか。

 

戦争が近い現状大規模な死者が出るのは避けたいのだろう。

 

入口付近の広場には露店が所狭しと並び、

 

さながらお祭りのごとき様相だった。

 

ハジメはため息をつきつつ、他の生徒達と一緒に、

 

メルド団長について行った。

 

 

 

洞窟の中は外の喧騒とは無縁で、

 

縦横五メートル以上ある通路は、明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、

 

明かりがなくてもある程度の視認が可能だ。

 

明るい理由は緑光石という特殊な石が多数埋まっているらしく、

 

迷宮はその鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

一行は隊列を組みながら進み、やがてドーム状の大きな広間に出た。

 

と、その時壁の隙間という隙間から、灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

メルド団長が、「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ。

 

あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが大した敵じゃない。冷静に行け。」

 

 

 

異世界の、いや、今世初の実戦か。

 

そう考えハジメは槍を構え敵を見る。

 

ラットマンという名称にふさわしく、外見はネズミっぽいが・・・・・・

 

二足歩行で上半身がムキムキだった。

 

同じ前衛の雫の頬が引き攣っている。気持ち悪いのだろう。

 

間合いに入ったラットマンを、光輝、雫、龍太郎、ハジメが迎撃する。

 

それと同時に、香織と特に親しい女子二人、

 

メガネっ娘の中村恵里と、ロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。

 

魔法を発動する準備に入る。

 

訓練通り堅実な陣形が出来ているなとハジメは思った。

 

 

 

光輝が純白に輝くバスタードソードを、

 

視認も難しい速度で振るい、数体を纏めて倒している。

 

彼の持つその剣は王国のアーティファクトの一つで、

 

名前はお約束に漏れず、『聖剣』である。

 

光属性の性質が付与されており、光源に入る敵の弱体化、

 

自身の身体能力の強化が自動で発動するという、

 

実に嫌な性質を持っている。

 

龍太郎は空手部らしく、天職が『拳士』であることから、

 

籠手と脛当てを着けている。

 

これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、

 

不壊の性質も付与されている。

 

龍太郎はどっしり構え、見事な空手技を披露し、

 

決して敵を後ろに通さない。

 

その姿はさながら盾役の重戦士のようだ。

 

雫はサムライガールらしく、『剣士』の天職持ちで、

 

刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、

 

ラットマンを一撃で切り裂いていく。

 

その動きは洗練されていて、他の騎士達が感嘆する程である。

 

ハジメもその動きを見つつ、敵の急所を槍で突き、

 

一撃で葬っていく。ハジメの武器は何の変哲もない槍であり、

 

『不壊』の能力が付与されているだけである。

 

だが、ハジメはこれでいいと思っている。

 

戦場で必要なのは、爆煙に燻され、

 

砂まみれになってもなお稼働する、

 

武人の蛮用に耐えうる武器である。

 

どれだけ高性能でも実用に耐えなければ意味がない。

 

それがハジメが前世の戦場で体験した結論である。

 

そうして戦っているうちに後方から詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、

 

灰となりて大地へ帰れ。”螺炎”」」」

 

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎が、

 

ラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。

 

断末魔の悲鳴を上げながら、パラパラと降り注ぐ灰となって絶命していく。

 

 

 

ハジメはこれがこちらの世界の攻撃魔法かと観察する。

 

前衛が敵を防いでいる間に、

 

後方で詠唱というゲームや小説でよくあるパターンである。

 

ハジメはこの世界では魔法使いは、単独行動は厳しいだろうなと感じた。

 

詠唱が長く隙が大きい為である。

 

ハジメはスキル『高速詠唱』もあり、即射できるが。

 

もっとも殴った方が早いとも感じている。

 

そうしているうちに広間のラットマンは全滅していた。

 

ハジメ達召喚組の戦力では一階層の敵は、弱すぎるらしい。

 

生徒たちの優秀さに苦笑いしながら注意する団長。

 

「それとな・・・・・・今回は訓練だからいいが、

 

魔石の回収も念頭に置いておけよ。

 

明らかにオーバーキルだからな」

 

メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、

 

やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 

 

そんなやり取りを見つつ、ハジメはスキル『直感』をオンにし、

 

気を緩めていた。これなら問題ない。

 

後は、どこで計画を実行に移すかを考えていた。

 

ハジメはこの時油断していた。長いこと戦場から遠ざかったことで、

 

勘が鈍っていた。悪意というものはどんな時でもあるものだということを。



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いざ迷宮へ2

ハジメ達は特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、

 

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われる二十階層に着いた。

 

迷宮の現在の最深部到達は六十五階層。

 

それは百年以上前の冒険者の偉業であり、

 

現在は四十階層越えで超一流。

 

二十階層越えで一流である。

 

生徒達は戦闘経験こそ少ないものの、

 

全員能力が高く、あっさり二十階層にたどり着いた。

 

最も迷宮で一番怖いのはトラップである。

 

致死性のトラップも数多くあるのだ。

 

トラップに対しては、フェアスコープというものがある。

 

これは魔力の流れを感知し、トラップを発見できるという優れ物だ。

 

ただし、索敵範囲がかなり狭く、スムーズに進もうと思えば、

 

ベテランの判断が必要だ。

 

ハジメ達がスムーズに降りてこれたのも、

 

騎士団員の誘導あってこそである。

 

メルド団長もトラップの確認が出来ていない場所には行くなと、

 

強く警告している。

 

最もハジメはスキル『直感』で大体の位置がわかるのだが。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく、

 

複数種類の魔物が混在したり、連携したりしながら襲ってくる。

 

今までが楽勝だからといって油断するなよ!今日はこの二十階層で終了だ!

 

気合を入れろ!」

 

メルド団長の声が響く。

 

ここまでハジメは槍で突き、薙ぎ、時に払うといった動作で敵を葬ってきた。

 

最深部に潜るために色々と技を試していたのである。

 

 

 

小休止に入り、ハジメが休んでいると、

 

スキル『直感』が警告を鳴らす。

 

またかとハジメは思った。

 

ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った視線だ。

 

ハジメがそちらを見ると視線が消える。

 

檜山達かそれとも他の誰かか。

 

いずれにしても気分の良いものではない。

 

『直感』も警告を鳴らしている。

 

休みなのに気の抜けないハジメであった。

 

 

 

一行は二十階層を探索する。

 

現在は四十七階層までマッピングされており、

 

迷うことはない。トラップにも引っかからないはずだ。

 

二十階層の一番奥の部屋は、鍾乳洞のように、

 

つららが飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。

 

この奥に二十一階層の階段があるらしい。

 

今日はそこまで行って訓練終了だ。

 

ハジメが使える転移魔術のような魔法は、

 

昔はあったらしいが、現在はないので、

 

帰りも地道に帰らなければならない。

 

道が狭く縦列になって進んでいると、

 

先頭を行くハジメの『直感』が警告を鳴らした。

 

よく見ると魔物が擬態しているのが見えた。

 

「魔物が擬態している! 注意しろ!」

 

ハジメは光輝達やメルド団長に注意を促す。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色し起き上がった。

 

壁と同化していた色は褐色となり、二本足で立ち上がる。

 

「ロック・マウントだ! 腕に注意しろ! 剛腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。

 

飛びかかってきたロックマウントの剛腕を、

 

龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、

 

地形により足場が悪く、上手く取り囲めない。

 

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、

 

後ろにさがりのけ反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

「グウガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

体にピリピリと衝撃が走り、ダメージはないものの硬直してしまう。

 

ロックマウントの固有魔法”威圧の咆哮”だ。

 

魔力を乗せた咆哮で相手を一時的に麻痺させる。

 

ハジメは高い対魔力で無事のため、ロックマウントに相対する。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えば、

 

サイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ、

 

香織達後衛組に向かって投げつけた。

 

(まずい!!)と判断したハジメは天井と壁を蹴り飛ばしながら、

 

後衛組の前に着地。

 

「『神槍无二打(しんそうにのうちいらず)』!!!」

 

宝具を使用し岩を破壊した。

 

破壊したのは岩ではなく同じロックマウントであった。

 

ハジメはふぅ~と息を吐き、香織達を見ると、まだ顔が青ざめていた。

 

そんな様子を見てキレる者が一人、正義感と思い込みの塊、

 

光輝である。

 

「貴様・・・・・・よくも香織達を・・・・・・許さない!」

 

純白の魔力が噴き上がり、それに呼応するように聖剣が輝きだす。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ、”天翔閃”!」

 

「あっ、ちょっと待て馬鹿!」

 

ハジメの言葉を無視し、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、曲線を描く光の斬撃が、ロックマウントを捉え、

 

真っ二つにする。ふぅ~と息を吐き香織達に笑顔を見せる光輝に、

 

ハジメが光輝の胸倉をつかむ。

 

そしてジッと光輝を見て言葉を放つ。

 

「お前は馬鹿か? 洞窟が崩落して閉じ込められたらどうするつもりだ!

 

時と場所を考えて技を使え!」

 

ハジメが光輝の胸倉から手を離すと、ゴホゴホと光輝が咳き込む。

 

 

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方向に視線を向けた。

 

「・・・・・・あれ、何かな? キラキラしてる・・・・・・」

 

その言葉に、全員が香織が指さした方向に目を向けた。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とはいわば宝石の原石みたいなものだ。

 

求婚の際に選ばれる宝石としてもトップスリーに入るとか。

 

「素敵・・・・・・」

 

香織が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりする。

 

そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。

 

もっともハジメは気付かなかったが。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。

 

グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。

 

これに慌てたのはメルド団長とハジメだ。

 

ハジメは『直感』がそこから警告が出ているのがわかったのだ。

 

同時に騎士団員がフェアスコープで鉱石のあたりを確認する。

 

そして一気に青ざめた。

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

しかし一歩遅かった。

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり輝きを増していった。

 

「メルド団長! 二十一階層へ! そちらの方が脱出が容易です!」

 

『直感』の警告が激しさを増す中、ハジメが意見を具申する。

 

現在クラスメート達は縦列で階層の奥に入っており、

 

この状態での上への撤退は難しい。

 

それならば下の階層にいったん降り、やり過ごすべきと判断したのだ。

 

しかし、その行動は一歩遅かった。

 

部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めた。



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神槍の真髄

一瞬の浮遊感の後、ハジメは地面に叩きつけられた。

 

それでもすぐさま立ち上がり、槍を構える。

 

同じくメルド団長や騎士団員達、

 

光輝達一部前衛組も立ち上がり、周囲を警戒する。

 

どうやら先の魔法陣は転移させるためのものだったらしい。

 

ハジメ達は長さ百メートル程の石橋の中央にいた。

 

橋の下は川などなく、闇が広がっており、

 

奈落の底といった様相だ。

 

両サイドにそれぞれ奥へ進む通路と、上へ昇る階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が叫んだ。

 

「お前達、すぐに立ち上がって、あの階段の場所まで急げ!」

 

メルド団長の指示に慌てて従う生徒達。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけはなかった。

 

橋の両サイドに魔法陣が現れたのだ。

 

通路側は十メートルあり、階段側は一メートル前後だが、数が夥しい。

 

階段側からは無数のトラウムソルジャーと呼ばれる骸骨兵士が現れた。

 

しかし、ハジメの『直感』は通路側の方がヤバいと警告していた。

 

外見はトリケラトプスに似ているが、強さのレベルが違う。

 

メルド団長が呻くように呟く。

 

「まさか・・・・・・ベヒモス・・・・・・なのか・・・・・・」

 

「メルド団長! 来ます!」

 

ハジメがメルド団長に言うと同時に、ベヒモスが凄まじい咆哮をあげた。

 

「グルァァァァァァアアアアアアアアッ!」

 

その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!

 

カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ!

 

ハジメ、お前達は階段へ向かえ!」

 

「了解! 天之河、撤退するぞ!」

 

メルド団長とハジメの言葉に一瞬怯むも、踏みとどまる光輝。

 

何をしている! とハジメが再度光輝を呼ぼうとすると、

 

ベヒモスが咆哮をあげながら突進してきた。

 

まずい! とハジメは思った。

 

このままでは撤退中の生徒達を全員圧殺してしまうだろう。

 

そうはさせるかと王国の最高戦力が多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、

 

ここは聖域なりて、神敵を通さず、”聖絶”!!」」」

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、橋全体が大きく揺れた。

 

撤退中の生徒から悲鳴があがり、転倒するものが相次ぐ。

 

橋の両側からモンスターに挟まれており、生徒達は半ばパニック状態だ。

 

(まずい!! このままだと撤退が出来ない!!)

 

そう判断したハジメは、混乱する生徒達の中へ入っていく。

 

そして、前方のトラウムソルジャーを槍で薙ぎ払った上で、

 

スキル『カリスマ』を発動して叫んだ。

 

「落ち着け! 騎士団員の指示の下撤退しろ! 前衛は前へ! 後衛は魔法で援護!

 

訓練通りに戦いながら撤退しろ!」

 

ハジメの言葉に徐々に落ち着きを取り戻したのか、

 

基本の陣形通りに戦いながら撤退を始めた生徒達。

 

(こちらはこれでいい。問題はあっちだ!)

 

今度はベヒモスの方向へ向かうハジメ。

 

 

 

ハジメが向かった先では、雫達が押し問答を繰り広げていた。

 

「お前等何やってる! 急いで撤退しろ!

 

・・・まずい! 障壁が破られる!」

 

ハジメの言葉と同時についに障壁が砕け散った。

 

衝撃波がハジメ達を襲い、吹き飛ばされる。

 

その後には倒れ伏してうめき声をあげるメルド団長と、

 

騎士達が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。

 

「ちっ! 時間を稼ぐしかないな。白崎さんは団長達の治療を!

 

俺が時間を稼ぐ!」

 

そう言って槍を構え突進するハジメ。

 

無茶だ! と言う光輝の声を無視し、

 

ハジメはスキル『圏境』で姿を消す。

 

ベヒモスは目標が消えたため、一瞬動きが止まる。

 

が、すぐにハジメの槍が背中に突き刺さり、悲鳴を上げた。

 

そこからはハジメの一方的な攻撃だった。

 

槍が視認出来ないほどの速さで突き、薙ぎ、叩く。

 

ハジメ本人も『圏境』を使い、時に姿を消し、

 

視認が困難なほどの素早い動きで動く。

 

その度にベヒモスの体に傷ができ、血がしたたる。

 

 

 

その動きに雫や光輝達は呆然と眺めていた。

 

これが”神槍”と呼ばれるものの力なのかと。

 

そして、自分達では足手まといにしかならないことも。

 

ハジメは一旦雫達の所まで戻る。

 

メルド団長の治療は終わったようだ。

 

「ダメか・・・」

 

ハジメの言葉に雫が尋ねる。

 

「ダメってどういうこと?」

 

「攻撃の威力が足りない。表面に傷がついているだけだ」

 

その言葉にハジメを除く全員が絶句する。

 

あれだけの速さで攻撃してなおその程度のダメージなのかと。

 

「他の団員が動けるまでは時間を稼ぐ! 動け次第全員撤退だ!」

 

ハジメの言葉に今回は全員がうなずく。

 

ハジメが再度攻撃を仕掛けようとした時、ベヒモスが動いた。

 

突進を始め、そして、ハジメ達のかなり前で跳躍し、

 

赤熱化した頭部を下に向けて落下した。

 

光輝達は咄嗟に横っ飛びで、ハジメは後方へ飛んで回避するも、

 

着弾時の衝撃波を浴びてもろに吹き飛ぶ。

 

ハジメは上手く衝撃波を流して無傷だが、他は満身創痍だった。

 

ベヒモスはめり込んだ頭を抜こうと踏ん張っている。

 

「お前等、動けるか!」

 

メルド団長が叫ぶようにたずねるも、ハジメの他はうめき声だ。

 

ダメージは深刻のようだ。

 

メルド団長が香織を呼ぼうとして振り返った視界に、ハジメを捉える。

 

「ハジメ! 香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」

 

その言葉にハジメが言葉を返す。

 

「いえ。それはメルド団長がやってください。俺に策があります」

 

「策?」

 

怪訝な表情をするメルド団長にハジメが策を伝える。

 

「なるほどそういうことか・・・だがハジメが一番危険だぞ」

 

「全員で帰還となるとそれしかないでしょう。それにさっきの戦闘を見たでしょう。

 

攻撃を喰らいはしませんよ」

 

笑顔を見せるハジメに、メルド団長はうなずく。

 

「頼んだぞ」

 

「了解」

 

それと同時にハジメはベヒモスに相対した。

 

「さて、第二ラウンドといこうか」

 

ベヒモスを睨みつつハジメは呟いた。



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奈落

オリジナル小説が書きたいと思う今日この頃。


その頃トラウムソルジャーの方はかなり数を減らしていた。

 

ハジメの指示が効いたためである。

 

その間に、メルド団長は回復した騎士団員と香織を呼び集め、

 

光輝達を担ぎ離脱しようとする。

 

「待って下さい! まだ、南雲君がっ!」

 

「ハジメの作戦だ! ソルジャーどもを突破して、

 

安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!

 

ハジメなら即座に離脱できるはずだ! 魔法で足止めしている間に、

 

ハジメが帰還したら上階に撤退だ!」

 

 

 

その頃ハジメは先程と同じ攻撃を繰り返していた。

 

狙うのは足の部分。そこを集中的に攻撃して、

 

頭を床から抜かせない作戦だ。

 

まだかと思いつつもここで例の作戦を決行するつもりだ。

 

上階へ上がったら、混乱の中から離脱するのだ。

 

「悪いが上にはいかせない。この階にいてろベヒモス」

 

ハジメはそう呟くと攻撃を続けた。

 

 

 

その頃、香織がみんなに叫んでいた。

 

「皆、待って! 南雲君を助けなきゃ! 

 

南雲君がたった一人であの怪物を抑えてるの!」

 

その言葉に橋の方を見る生徒達。

 

影が動くたびにベヒモスが傷ついていくのである。

 

「あの影、南雲か? どんな速さで動いてんだよ・・・」

 

「攻撃が全然見えない・・・・・・」

 

あまりの光景に呆然とする生徒達。

 

「そうだ! ハジメがたった一人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ!

 

前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな!

 

後衛組は遠距離魔法準備! 

 

ハジメが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

 

 

「頃合いか!」

 

ハジメは魔力が後方から高まっているのを察知。

 

ベヒモスから離脱を開始した。

 

攻撃が止んだため、ベヒモスが顔を出すが、

 

次の瞬間、あらゆる属性の魔法攻撃が殺到した。

 

ダメージはないが、足止めにはなっている。

 

「よし!」

 

そこまで見たハジメは上層階の階段へ向かい走る。

 

しかし、その直後ハジメは驚愕する。

 

多数の魔法の中から、火球が明らかにハジメを狙い向かってきた。

 

すぐさま火球を槍で弾き、スキル『千里眼』で過去を見て犯人を探す。

 

(檜山!)

 

すぐに犯人を割り出し、そちらへ向かい走るハジメ。

 

直後、『直感』が後方からベヒモスが接近しているのを探知。

 

即座に飛び退くハジメ。

 

しかし、ついに橋が崩落を開始。ベヒモスと一緒に落下を開始した。

 

「なめるな!」

 

ハジメは崩落していく橋の欠片を足場に跳躍を続けたが・・・・・・

 

(間に合わない!)

 

落下スピードの方が早くハジメは奈落の底へ落下していく。

 

ハジメは生徒達や騎士団員達の、

 

絶望を内包する様々な表情を見ることとなった。

 

 

 

(計画変更。ここで離脱する!)

 

ハジメは計画を変更し、ここから迷宮の最奥部を目指すと決めた。

 

だが・・・・・・

 

「檜山・・・・・・地上に戻り次第お前を殺す。

 

・・・・・・楽に死ねると思うなよ」

 

檜山はハジメの逆鱗に触れた。

 

落下していくハジメの顔は、ぞっとするほど冷たい笑みを浮かべていた。

 

 

 

一方の生徒達は迷宮を無事脱出した。

 

だが、どの面々も表情が暗い。

 

それほどハジメの死が衝撃的だったのだ。

 

あの戦闘能力をもってしても死ぬ。

 

いや、そもそもあの戦闘能力になれるのか?

 

絶望的な思いを抱えていた。

 

一方、メルド団長も表情が暗い。

 

いきなり召喚組の最高戦力を失ったのだ。

 

あの危機的状況での冷静な判断力、指揮能力は稀有なものだった。

 

あの召喚組を次に率いるとなれば光輝だが、ハジメには劣る。

 

戦力の大幅なダウンは避けられまい。

 

ため息を吐きつつ、ハジメが死亡したことを報告に向かった。

 

ホルアドの町に帰還した生徒達のほとんどは、すぐに眠りについた。

 

その頃、檜山はとある人物にハジメ殺しで脅されて、手駒にされた。

 

だが、彼らは知らない。ハジメが仲間の裏切りを決して許さないことを。

 

そして、裏切者がどのような無惨な最後を遂げてきたのかを。



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ハジメ離脱後

体調不良のため、少なくとも明日の投稿はありません。


ハジメは奈落の底へ落下の途中で、

 

宝物庫から巨大な弓であり飛行船である、天舟マアンナを取り出す。

 

落下が止まり、ハジメは宙に浮いた状態になった。

 

ハジメはマアンナを操り、緩やかに降下していった。

 

ハジメは奈落の底に着くと、マアンナと槍を宝物庫にしまう。

 

そして、宝物庫から神造兵装の剣である無毀なる湖光(アロンダイト)を取り出した。

 

同時に『千里眼』や『直感』といった各種スキルをオンにする。

 

「さて、どんな魔物が出て来るか・・・」

 

そう呟きハジメは通路を進み始めた。

 

 

 

洞窟は巨大なものだった。

 

縦横が大きく隠れる所も多い。

 

しばらく進んでいると、四辻の分岐点に到着した。

 

そこにはウサギに似た魔物がおり、ハジメを見るなり襲ってきた。

 

ハジメはそれを無造作に切り捨てる。

 

そして、ふと思った。これを食べたらどうなるのかと。

 

図書館の本には魔物の肉には毒があり、食べると肉体が崩壊すると書いてあった。

 

だが、ハジメにはスキル『頑健』や『天性の肉体』があり、毒は効かない。

 

火の魔術で肉を焼き始めるハジメ。途中、オオカミに似た魔物が襲ってきたが、

 

振り向かずに切り捨てる。

 

肉が焼けたので食べ始めるハジメ。

 

ジビエの味だなと場違いな感想を抱いた。

 

食べ終わると何か肉体に違和感を感じた。

 

ステータスプレートで確認すると、

 

自分が持っていなかったスキルがついている。

 

これはいいとハジメはにんまりした。

 

魔物を食べるとスキルが追加されるようである。

 

先程倒したオオカミも食べると、新たなスキルが追加された。

 

「それじゃあ、次行くか」

 

ハジメはさらに奥へ通路を進む。

 

その目は捕食者の目をしていた。

 

 

 

しばらく歩くと、今度はクマに似た魔物に遭遇した。

 

「悪いが俺の餌になれ」

 

そう呟き、アロンダイトの真名を開放する。

 

「最果てに至れ。限界を超えよ。彼方の王よ、この光をご覧あれ!

 

『縛鎖全断・過重湖光』(アロンダイト・オーバーロード!)」

 

アロンダイトを全力で振りぬくと、魔物は真っ二つになり、

 

勢い余って地面にアロンダイトがめり込む。

 

その時、ガキンと地中から音が鳴った。

 

何だ? そう思い地面を掘ると、

 

神秘的な美しい石が出現した。液体がぽたぽたと落ちている。

 

ハジメは知らなかったが、その石は『神結晶』と呼ばれる伝説の石だ。

 

内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。

 

それを『神水』と呼び、これを飲んだものはどんな怪我や病も治るという。

 

解析の魔術を使い、これが神秘の塊であり、効能も把握できた。

 

顔が思わずにやけるハジメ。安全なところで内包する魔力を抽出すればいい。

 

解析も完了しているから、投影で同じ物の複製も可能だ。

 

喜びながら魔物の解体作業に入った。

 

 

 

ハジメが迷宮で魔物を食い荒らしている頃、

 

雫は王宮内の一室で未だ眠りについている親友の香織を見つめていた。

 

あの日からすでに五日が経過している。

 

あの後高速馬車に乗って、一行は王国へと戻った。

 

勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

帰還を果たし、ハジメの死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰もが愕然とした。

 

召喚組の・・・いや、王国の最高戦力の死亡はあまりにも衝撃的であった。

 

王は茫然自失とし、イシュタルは、

 

神は我々をお見捨てになられたのかと呟くほどであった。

 

王宮内にもすぐに噂は広まり、皆が不安を感じていた。

 

問題はその後に起こった責任の所在である。

 

メルド団長をはじめとした騎士団、軽率な行動をした檜山達、

 

魔法でハジメを誤爆した魔法組。

 

これらが槍玉にあげられ、誰が責任を取るかで揉めたのである。

 

長い議論の結果、これは不慮の事故であるとして片づけることが、

 

国王の一言で決まった。

 

これ以上の戦力低下は容認できないとの判断である。

 

 

 

しかし、問題は魔法組内部で起こっていた。誰がハジメを誤爆したのか?

 

それぞれがあいつではないかという疑心暗鬼に陥ったのである。

 

前衛組も不安を感じていた。

 

ハジメに起こった誤爆が自分に起こるとも限らないからである。

 

光輝がリーダーシップを発揮して纏めようとするも効果は薄かった。

 

以前ならハジメが裏で調整を行っていたためである。

 

ハジメが裏で利害調整を行い、

 

光輝がリーダーシップを発揮して率いていたのである。

 

しかし、ハジメがいなくなりそれぞれの利害が噴出したのである。

 

最終的にメルド団長が何とか纏めたが、その表情は暗い。

 

ハジメがいなくなった途端にこのような事態になるとは・・・。

 

戦力面以外でもあまりにもハジメの死亡は大きすぎた。

 

そう思うメルド団長であった。

 

 

 

そのような事態の中で雫は思う。

 

私達はあまりにハジメに頼りすぎていた。

 

ハジメなら何とかしてくれる。

 

普段は目立たないけど、その能力でいつも皆をフォローしていた。

 

それについみんな頼ってしまっていた。

 

それが今回の事態を引き起こしていると。

 

雫は窓の外の空を見上げた。

 

その空は雫の心を映すように、曇っていた。



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金髪の吸血姫

「ああ、面倒だ」

 

ハジメは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で武器を射出。

 

魔物を屠っていた。

 

これは、ハジメにしては珍しい光景である。

 

通常ハジメは敵に応じて適した武器を取り出して戦う。

 

ギルガメッシュのように適当に武器を射出はしないのである。

 

ハジメは武具は職人が魂込めて作ったものであり、

 

丁寧に扱うべきと考えているからだ。

 

仮にギルガメッシュとハジメが相対した場合、相性は最悪である。

 

即座に殺し合いが展開されるであろうが、

 

それでもハジメが勝つだろう。

 

賢王のギルガメッシュなら、ハジメは命令に従うなりするだろう。

 

流石にハジメも精神的疲労を抱えていた。

 

いかに魔除けのルーンを張り、そこで睡眠を取るなどしても、

 

長期間迷宮を踏破するのは精神的に疲労するのである。

 

 

 

すでに五十階層降りてなお最奥に着かない。

 

そして、このフロアは異質であった。

 

脇道の突き当りにある開けた場所には、

 

高さ三メートル荘厳な両開きの扉があり、

 

その扉の脇にはサイクロプスとおぼしき、

 

彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

『直感』は良い意味と悪い意味両方の警告を出していた。

 

とはいえ、ようやくヒントになりそうなものが出てきたのだ。

 

行かないという選択肢はない。

 

ハジメが扉の前まで行くと魔法陣が扉に書いてあった。

 

面倒だと宝物庫から破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を取り出し、

 

扉の魔法陣を破壊する。

 

その途端、両側のサイクロプスの彫刻が動き出した。

 

「邪魔だ」

 

ハジメは即座にゲート・オブ・バビロンで武器を射出。

 

哀れサイクロプスは何の出番もなく殺された。

 

ハジメは何の感慨もなく、扉を開けた。

 

 

 

部屋に入ると、部屋の中央に巨大な立方体が置かれていた。

 

ハジメはその立方体に近づいていく。

 

「・・・・・・だれ?」

 

その声は弱弱しい少女の声であり、ハジメは出元を探す。

 

すると立方体の上の部分に、生首のように生えている人の頭部があった

 

「人・・・・・・なのか?」

 

ハジメが呟くと、少女は返答し、

 

「助けて・・・・・・お願い!」

 

ハジメは考え込むと宝物庫からある物を取り出した。

 

それは黄金の天秤であった。

 

「とりあえずなぜ封印されているのか理由を聞かせてくれ。

 

その答え次第で救出する。嘘はなしでな」

 

ハジメがそう言うと少女はしゃべり始めた。

 

自身が裏切られたこと。

 

自分は先祖返りの吸血鬼であり、凄い力をもっていること。

 

その力を使って頑張ったが、ある日お前はもういらないと。

 

殺せないから封印すると。

 

「つまりお前は王族だったということか?」

 

ハジメの問いにコクコクとうなづく少女

 

「殺せないとはどういうことだ?

 

例え首が切られても再生可能ということか?」

 

「それもだけど・・・・・・魔力、直接操れる。陣もいらない」

 

「それは・・・・・・凄まじいな」

 

ハジメは答え、天秤を見る。

 

天秤は全く動いていなかった。

 

実はこの天秤、嘘発見器である。

 

質問の回答に嘘がある場合、片方に天秤が傾くのだ。

 

『ルールブレイカー』!

 

ハジメは問題ないと判断。

 

立方体に『ルールブレイカー』を突き刺した。

 

たちどころに立方体は壊れ、裸の少女が現れた。

 

それを見てハジメは宝物庫から、適当なマントを取り出し、少女に渡す。

 

服の方は後でルーン魔術を使って作ればよいと考えた。

 

ルーン魔術は組み合わせ次第で、大体の物が作れる便利な魔術である。

 

「・・・・・・名前、なに?」

 

「南雲ハジメ。お前は?」

 

「・・・・・・名前、付けて」

 

「は? 自分の名前忘れたのか?」

 

「もう、前の名前はいらない。・・・・・・ハジメの付けた名前がいい」

 

「うーん・・・・・・」

 

ハジメは悩んだ。名前、名前・・・・・・

 

そう考えている時、一人の女性の名前が浮かんだ。

 

殺人機械にまで堕ちた自分を、人に戻した、前世でただ一人愛した女性。

 

そして、自らの手で殺さねばならなかった大切な女性の名前を。

 

「・・・・・・”ユエ”はどうだ?」

 

「ユエ?・・・・・・ユエ・・・・・・ユエ」

 

「ああ。俺の故郷で月を表すんだよ。

 

・・・・・・そして、俺の中で一番大切な・・・・・・大切な名前だ」

 

ハジメは遠くを見つめるような表情で言った。

 

「・・・・・・んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

「ああ。こちらこそよろし・・・」

 

 

 

 

そう考えていた時、『直感』が警告を鳴らした。

 

「上か!」

 

ハジメは少女を抱え、『縮地』で離脱する。

 

上から降りてきたのは、強いていうならサソリに近いものだった。

 

こちらを威嚇している。

 

「ユエ。少し待ってろ。すぐ終わらせる」

 

ハジメはそう言ってユエを床に降ろす。

 

「固有結界展開」

 

ハジメがそう言った瞬間、世界が塗り替わる。

 

燃え盛る無数の剣の荒野が姿を表す。

 

「これは・・・・・・」

 

ユエが困惑した表情を浮かべると、ハジメは、

 

「『固有結界』・・・術者の心象風景をカタチにし、

 

現実に侵食させて形成する結界だ。

 

結界内の世界法則を、結界独自のモノに書き替えたり、

 

捻じ曲げたり、塗り潰すことができる禁呪の代物だ」

 

ハジメはそう言うと、術式を展開する。

 

「此処に至るはあらゆる収斂。縁を切り、定めを切り、業を切り。

 

我をも断たん無元の剣製(つむかりむらまさ)」

 

すべての剣が砕けて雪の結晶のように散り、ハジメの手にただ一振りの刀が残る。

 

「――即ち。宿業からの解放なり!」

 

ハジメが刀を振るった瞬間、地面から凄まじいまでの火炎が吹き出し、

 

サソリもどきを悲鳴をあげる間もなく焼き尽くす。

 

「固有結界解除」

 

後には、ハジメとそれを見つめるユエの姿だけがあった。

 



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金髪の吸血姫2

元から超亀更新とタグに書いてありますが、作者の体調不良がひどいため、投稿間隔がかなり空く可能性があります。ご了承ください。


ハジメ達は一度、ルーン魔術で魔物除けを施した拠点で、

 

お互いの身の上を話し始めた。

 

ユエの服はハジメがルーン魔術でパパっと作った。

 

温度自動調節機能付きで、防御力も見た目以上に遥かに高い。

 

ハジメが作った以上、神造兵装になり、本来なら国の宝物庫行きクラスなのだが、

 

ハジメからすればそんなことはどうでも良かった。

 

ハジメが異世界の神々の王インドラの子であり、

 

創世と滅亡を司る神霊と知ってユエは驚くと同時に納得もした。

 

そうでなければここまで辿り着けないだろうからである。

 

一方のハジメはユエの力に驚愕した。ほぼノータイムで、

 

強力な魔法を全属性放てるのである。

 

これは純粋な魔術勝負では勝てないなと思った。

 

ちなみにハジメの血液を吸ったユエ曰く、

 

今までで誰よりも美味しい味だそうで、

 

また、魔力も増幅するので定期的に吸わせることになった。

 

 

 

そして、ユエにこの迷宮について何か知らないか尋ねると、

 

この迷宮は反逆者達・・・神代に神に挑んだ、

 

神の眷属が作ったとのことだった。

 

ハジメはなるほどと納得した。

 

ハジメの世界ではギルガメッシュが、神と人の袂を別った。

 

この世界ではそれが出来なかった為、歪な世界が構築されたのだと。

 

そして神代の魔法なら転移魔法があり、それを使っていたのだろう。

 

それなら迷宮をいちいち昇り降りしなくていい。

 

どうやら最奥にその反逆者の部屋があるらしい。

 

そこまで行けば脱出できるかもしれないとは、ユエの言葉だ。

 

そこでユエがハジメに尋ねた。

 

「元の世界に帰りたいの?」

 

「ああ・・・その為にこの迷宮に来たんだからな」

 

ハジメの言葉にユエは「・・・・・・そう」と言い、

 

「・・・・・・私にはもう、帰る場所・・・・・・ない」

 

「・・・・・・ユエも来るか?」

 

「え?」

 

「俺の元いた世界にだよ。戸籍とかは裏ルートとか当てがあるし、

 

俺自身も純粋に人ではないからな。家に来るといい。

 

両親も事情を話せば納得するだろ」

 

そう言うと笑顔で応じるユエ。

 

言って良かったと思っていると、

 

「むっ!」

 

「・・・・・・どうしたのハジメ?」

 

「いや、あいつらアレを倒したか。・・・・・・少々釘を刺して置くか」

 

ハジメの千里眼には、ベヒモスを倒した光輝達の姿が映っていた。

 

 

 

その頃ベヒモスを倒した光輝達は喜びあっていた。

 

光輝は言った。

 

「これで南雲も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を、

 

自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

 

「「・・・・・・」」

 

その言葉に香織と雫の表情が曇る。

 

その時、パチパチパチと拍手が響いた。

 

 

 

「ベヒモス討伐おめでとう。なかなかの動きだったぞ」

 

「・・・・・・南雲?」

 

光輝がまるで幽霊を見るような顔をし、

 

「南雲君!? 南雲君なの!?」

 

香織が叫び、

 

「ハジメ・・・・・・あんた生きてたの?」

 

雫が呆然とした表情でハジメを見る。

 

「ふむ。まあ、生きてはいるがここにはいない。

 

幻術による立体映像のようなものだと思ってくれ」

 

その言葉にメルド団長が叫ぶ。

 

「待ってくれ! ハジメの天職はランサーのはずだ!」

 

「ああ。すみませんメルド団長。あれは幻術で書き換えた物です

 

俺は地球最後の魔術師ですから、あれ位お手の物ですよ」

 

「なっ!?」

 

ハジメの言葉に全員が絶句する。

 

ハジメの天職はランサーではないのに、あれだけの戦闘能力をもつこと。

 

地球最後の魔術師という言葉に驚いたのだ。

 

「待て待て待て! じゃあハジメの天職は何なんだ!?」

 

メルド団長の言葉にハジメは答える。

 

「それは秘密です。今はそれを知る時ではありません。

 

でも、知らない方が幸せだったと思えるものですよ」

 

ハジメは笑顔で応じつつ、次の言葉を紡ぐ。

 

「そうそう。檜山。よくも撤退時に俺を狙って攻撃したな」

 

「なっ!?」

 

その言葉にメルド団長以下全員が驚き、檜山を見る。

 

その顔は真っ青になって震えていた。

 

「俺は言ったはずだ。仲間を裏切る奴は殺すと。

 

・・・・・・楽に死ねると思うなよ?」

 

そう言って檜山を睨むハジメ。

 

その殺意は幻術ごしでも伝わるほどだ。

 

今にも卒倒しそうな檜山を尻目に、ハジメは言葉を続ける。

 

「そういうわけで、俺はそちらに戻らない。味方に殺されたくないからな。

 

お前等も気を付けろよ? 誰が誰を狙っているかわからんからな。

 

俺は独自に元の世界に戻る方法を探す。

 

そちらはそちらで頑張ってくれ。では、通信を切る」

 

「待って南雲君! まだ・・・!」

 

香織の言葉を待たずにハジメの姿はかき消えた。

 

後に残された者達の反応は様々だ。

 

メルド団長はすぐに檜山を問いただし、

 

香織や雫はハジメが生きていることに安堵し、

 

光輝はなぜその力をこちらで使ってくれないと考えていた。

 

 

 

「ふむ。まあ、こんなところだな」

 

「通信終わったの?」

 

ユエが尋ねてくる。

 

「ああ。この後大変なことになるだろうが、俺には関係ない」

 

ハジメはそう言いつつ、料理作りを始めた。

 



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金髪の吸血姫3

「この剣は太陽の現身。あらゆる不浄を清める焔の陽炎。

 

『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!」

 

ハジメがガラティーンの真名開放を行い、

 

広範囲に太陽の力を纏ったエネルギー波が薙ぎ払う。

 

「ああ、多いな! これでもまだ減らないか!」

 

「”緋槍”!」

 

ユエも魔法を使い、敵を倒していく。

 

現在ハジメ達は百六十センチ以上ある草の生えた草原の階層で戦っていた。

 

ただ、敵の数があまりに多く、ハジメはユエを抱えながら戦いつつ、

 

次の階層を目指していた。

 

「ええい! 鬱陶しい! 奥の手の一つ使うぞ!」

 

いい加減イラついてきたハジメは、『エア』の使用を決断。

 

宝物庫から取り出した。

 

「原初は混ざり、固まり、万象を織り成す星を産む。死して拝せよ!

 

『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

『エア』から放たれた空間を切り裂くほどの一撃。

 

これは効いた。ほとんどの敵を一撃で薙ぎ払った。

 

「はあ・・・次の階層行くぞ」

 

ハジメも疲れたのかそう言いながらも足取りは重い。

 

一体どこまで続くんだ・・・・・・ハジメはそう思った。

 

 

 

そのような思いを抱えつつも、

 

再び迷宮攻略に勤しみ、ついに百階層手前までたどり着いた。

 

この階層でハジメは現時点での武器類の点検や、アイテム補充に勤しんでいた。

 

「ハジメ・・・・・・いつもより慎重・・・・・・」

 

「次が百階層だからな。出来る限り準備しておく」

 

そういうと準備の続きを再開した。

 

翌日、ハジメ達は百階層に降り立った。

 

二百メートルも進んだ頃、前方に扉を発見した。

 

最後の柱を越えたその瞬間・・・・・・

 

扉とハジメ達の間三十メートルに巨大な魔法陣が現れた。

 

ユエが身構えると、

 

「ほい、『ルールブレイカー』」

 

ハジメが『ルールブレイカー』を突き刺し、魔法陣は消滅した。

 

ふう、とやり切った感のハジメに対し、呆然とするユエ。

 

「さて、行くか・・・どうした?」

 

ハジメの問いに対しユエは、

 

「それ、ズル過ぎる」

 

「えっ。最小の手間で最大の効率だろ。いちいち戦うの無駄だし」

 

そんな風にハジメがしゃべると、突然手で顔を覆って天を仰いだ。

 

「どうしたの・・・・・・ハジメ?」

 

「いや、あのバカ、まるで成長していない」

 

ハジメがそう言うと、

 

「仕方ない。また、幻術使うか」

 

 

 

ハジメがそう呟いたころ、勇者一行は、

 

ハイリヒ王国王都に戻っていた。

 

ちなみに檜山は地下牢に入れられていた。

 

これは懲罰というよりも隔離措置である。

 

ハジメが殺しに来るのが確定的だからだ。

 

それでも防ぎきれないだろうと、メルド団長は思っている。

 

天職でないランサーで、あれだけの戦闘能力だ。

 

その上、上位世界の魔術も行使可能となると、

 

実質王国側の戦力では勝てない。

 

光輝達を当てるという手もあるが、勝てないだろうと思った。

 

ハジメにはあるだろうものが、光輝達に無いのだ。

 

それをいつかは光輝達に教えなければならないが・・・・・・

 

メルド団長はもう何度目になるかわからないため息を吐いた。

 

ハジメは味方なら頼もしいが、敵に回ると最悪だとわかってしまったからである。

 

 

 

一方光輝達はヘルシャー帝国との会談に臨んでいた。

 

急遽、勇者対帝国使者の護衛との模擬戦が決定し、

 

一行はぞろぞろと場所を変えるのだった。

 

そして、いよいよ戦いが始まるその時、

 

「やめとけ、天之河。お前じゃ勝てない」

 

「南雲!?」

 

「おっと。幻術による立体映像で失礼。ガハルド皇帝。

 

天之河と同じ召喚組の南雲ハジメと申します。以後お見知りおきを」

 

「ほう・・・・・・てめえがあの”神槍”か・・・・・・。

 

くくく、羊の群れかと思いきや、てめえみてえな狼がいやがるとはな」

 

「お褒めの言葉ありがたく」

 

光輝達一同は驚愕した。相手が護衛ではなく皇帝であることを。

 

同時に疑問も浮かんだ。なぜ、南雲はここに幻術を使った?

 

皇帝は自分達を羊の群れと称し、南雲を狼と呼んだ。この違いはなんだ?

 

「ガハルド皇帝、天之河ではアレがありませぬ。

 

故に、代わりに私が対戦することでいかがでしょうか?」

 

「ほう。その腰に携えた剣で勝負すると?」

 

「ええ。もちろんこの剣も幻ですが。先に剣を当てた方を勝ちといたしましょう」

 

「その提案乗ったぜ。こいつじゃ確かにアレがねえからな」

 

アレ? 皆が怪訝に思う。

 

「では、審判合図を」

 

ハジメは刀を抜いて合図を求めた。

 

「試合開始!」

 

審判の言葉にハジメは即座に宝具を展開する。

 

『無形』

 

ハジメは無造作に皇帝に近づき刀を振るう。

 

逆袈裟の一撃。だが遠い。怪訝に思う皇帝。

 

しかし、遠いはずの逆袈裟が皇帝の身体に当たり、通り抜けていく。

 

驚愕する皇帝。

 

「そこまで」

 

模擬試合はハジメの勝利に終わった。

 

「ははははは!」

 

負けた皇帝だが、その顔は笑顔を浮かべていた。

 

「いいぞ! 幻でこの剣気! この殺気!

 

おめえさん相当修羅場を潜って、アレを経験したな」

 

「ええ。そうしなければ生き残れませんでしたから」

 

「いつか帝国に来い。歓待するぜ」

 

「今すぐとは参りませんが、途中で立ち寄ることもあるでしょう。

 

その時にお伺いいたします」

 

 

 

そうしゃべる皇帝とハジメに皆は困惑していた。

 

先程から出ているアレとは何だ。自分達になくハジメにはある。

 

それは何だ? 皆がそう思っていると、ハジメがこちらに声を掛けた。

 

「ああ。悪いな。いきなり現れて。戦闘職全員アレの経験が無い様だからな。

 

皇帝に勝てないと思って来たんだ」

 

「勝てないってどういうことだ南雲! 俺達はベヒモスも討伐し・・・」

 

「阿呆。強さの問題じゃない。覚悟の問題だ。それがアレの経験の差だ。

 

それがある限り皇帝に勝てやしない」

 

「だからアレとはなんだ南雲!」

 

「お前等全員戦争を理解してないんだよ。

 

戦争の前に恐らくアレの経験をさせるだろう。

 

お前等その時後悔しても知らんぞ。

 

特に天之河、そのままだと理想を抱いたまま溺死するぞ?」

 

「その通りだ坊主。お前等はハジメの言う通りアレを経験していない。

 

そのままだったら死ぬぜ?」

 

ハジメと皇帝の言葉に一同沈黙する。アレとは何だ?

 

一同がそう思っていると、

 

「さて。それじゃ俺の要件は終わりだ。

 

・・・・・・アレを経験したくなきゃ、

 

戦争に参加するな。それが俺の忠告だ。じゃあな」

 

そう言ってハジメの幻はかき消えた。

 

 

 

「お話・・・・・・終わった?」

 

そう問うユエにハジメは、

 

「ああ。伝えることは伝えた。後はあいつらが気付くかだ」

 

出来ればアレは経験してほしくないのだがと思うハジメであった。



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旅立ち

「さて、扉を開けるぞ」

 

「・・・・・・うん」

 

ハジメ達が扉を開けて進んだ先は・・・

 

「これは反逆者の住処・・・か?」

 

ハジメは呆然とする。

 

天井には太陽がある。いや、地下なのだから太陽らしきものか。

 

ハジメ達は各部屋を慎重に調べ始めた。

 

各部屋は長年使われていないようだが、

 

まるで誰かが維持管理をしているようだった。

 

川や畑もあり、逆方向に建物らしきものがあった。

 

ハジメ達はその建物の中へ進んだ。

 

建物は三階建てのようで、各階の部屋を慎重に調べながら進んでいく。

 

そして、三階の奥の部屋にたどり着いた。

 

その部屋の床には精緻な魔法陣が描かれており、

 

その奥には机によりかかるように白骨化した遺体があった。

 

この人物はここで最後に何を思って死んでいったのか・・・

 

ハジメは遺体に黙祷を捧げると、魔法陣へ踏み出した。

 

魔法陣が発光し、光がおさまると、一人の黒衣の青年が姿を現した。

 

ハジメにはその服と遺体を見て、これが何なのか察しが付いた。

 

そして、黒衣の青年オスカーの話は驚愕すべきものだった。

 

 

 

神代の少し後の時代、人々は争いを繰り返していた。

 

しかし、その争いを終わらせようとする者達が現れた。

 

それが『解放者』である。解放者はメンバーを集め、

 

人々の争いを終わらせようとした。

 

しかし、解放者のリーダーは偶然知ってしまった。

 

神が人々を駒に見立て遊戯を楽しんでいるということを。

 

これを知った解放者達は神に挑むも、

 

紆余曲折の末敗北。中心となる七人しか残らなかった。

 

七人は現状では勝つことは不可能と判断。

 

バラバラに大陸の果てに迷宮を作り、潜伏することにしたのだ。

 

そして、迷宮を攻略したものに力を譲り、神を討つ者が現れることを願って。

 

そして、ハジメの頭脳に魔法を刷り込むと映像は消えた。

 

「ハジメ・・・・・・大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。しかし、こういうこととはな」

 

まさにこれは異聞帯だ。狂った神を中心とした。

 

「ハジメはどうするの?」

 

「何もしない。この世界のことはこの世界の人間が解決すべき問題だ。

 

・・・・・・無論、こちらの邪魔をするなら神だろうと滅ぼすがな。

 

・・・・・・ユエはどうしたい?」

 

「私の居場所はここ・・・・・・他は知らない」

 

「・・・・・・そうか」

 

目を細めてユエを見つつ、言葉を続ける。

 

「あと何か新しい魔法・・・・・・神代魔法とやらを覚えたらしい」

 

「・・・・・・ホント?」

 

「ああ。生成魔法というやつだな。魔法を鉱物に付加して、

 

特殊な性質を持った鉱物を生成できる魔法だ」

 

「・・・・・・アーティファクト作れる」

 

「まあ、そういうことだな」

 

もっともハジメはこれがなくてもアーティファクトは作れる。

 

ルーン魔術で付与すればいい話である。素材さえあれば、ゲイ・ボルクも作れる。

 

「ユエも覚えたらどうだ?」

 

「・・・・・・錬成使わない」

 

「まあ、せっかくだし覚えておけ。覚えておいて損はないだろ」

 

ハジメにそう言われ、魔法陣に進むユエ。

 

また、オスカーが現れしゃべり始めるが、それを無視しつつ、

 

ハジメとユエは話を続けた。

 

「どうだ?」

 

「ん・・・・・・した。でも・・・・・・アーティファクトは難しい」

 

「まあ、魔術も相性とかがあるからな。そこは仕方がないか。

 

・・・・・・オスカーの遺体を埋葬しよう。

 

それが最後まで戦うことを諦めなかった者への礼儀だ」

 

「・・・・・・ん」

 

 

 

ハジメ達はオスカーの遺体を埋葬し、そこに墓石を立てた。

 

埋葬が終わるとハジメ達は地上への出口への地図を探し始めた。

 

オスカーがここを設計した以上、設計図があるはずである。

 

「あったぞ。ユエ。この迷宮の設計図だ」

 

ハジメ達は出口の位置を確認し、さらに探索を続ける。

 

素材や資料など現在では価値の高い代物を発見。

 

これらを宝物庫に入れ、さらに探索する。

 

そうするとオスカーの書いた日記を発見した。

 

それによるとどうやら他の迷宮を攻略しても、神代魔法が手に入るらしい。

 

「・・・・・・帰る方法見つかるかも」

 

「そうだな。地上に出たら残る七大迷宮の攻略を目指そう」

 

そして、少しハジメは考えてユエに告げる。

 

「なあ、ユエ。すまないがここで迷宮攻略の準備を色々済ませておきたい。

 

ユエにとってはあまり居心地の良い場所ではないだろうが、そこを曲げて頼む」

 

頭を下げて頼むハジメにユエは、

 

「・・・・・・ハジメと一緒ならどこでもいい」

 

そう言われ、照れるハジメ。前世と合わせれば結構な歳になるのだが、

 

ストレートに言われると、照れるものである。

 

 

 

「ふぅ~」

 

ハジメは湯船に入っていた。

 

普段は気を張り、冷静に戦うハジメも、お風呂は気持ちよく、

 

普段は見ることが出来ないほど、完全に弛緩していた。

 

そのため、侵入者の探知が遅れた。

 

目を閉じていたハジメが目を開けると、

 

一糸纏わぬユエの裸体が目に入った。

 

「・・・ユエ、俺は一人で入ると言ったはずだが」

 

そんなハジメの言葉を無視しつつ、湯船に入ってくるユエ。

 

『直感』が警告を鳴らしたため、じりと後ろへ下がるハジメ。

 

それに対してじりと近寄るユエ。

 

「・・・・・・一緒に入るのイヤ?」

 

「一緒に入るのはいいが、せめて前は隠そうか?

 

タオルは一杯あっただろ?」

 

「・・・・・・むしろ見て」

 

じりじりと近寄るユエに、じりじりと後ろへ下がるハジメ。

 

が、ついに壁にまでついてしまう。

 

ユエはさらに近寄り、ハジメに身体を密着させてきた。

 

「あっ! 俺先に出るから!」

 

湯船から脱出しようとするハジメ。だが・・・・・・

 

「ダメ」

 

どこからそんな力が出て来るのか、あっという間に引き戻されるハジメ。

 

この日、ハジメは大事なものを失った。

 

 

 

それから二か月が経過した。

 

いかに歴戦の猛者であるハジメも、ユエの前には勝てず、

 

開き直ってユエを受け入れてしまっていた。

 

どうせ元の世界に帰ったら、一緒に住むのである。

 

時間の問題であっただろう。

 

ハジメは宝物庫にあった宝石類から、

 

最高レベルの魔力が貯められる宝石を選択し、

 

ルーン魔術で加工。ネックレスや指輪としてユエに送った。

 

その際に一つ問題が発生した。ユエが左手の薬指に指輪をはめたのである。

 

ハジメが他の指に着けるよう求めるも、ユエは拒否。

 

押し問答の末、ユエが勝ち、左手の薬指に指輪をはめた。

 

これが後に修羅場の原因になるとは、ハジメはこの時思っていなかった。

 

 

 

それから十日後、ついにハジメ達は地上に出ることにした。

 

ハジメはユエに誓うように言った。

 

「ユエ。俺達の力ははっきり言って異端だ。当然その力を求める者が出るだろう。

 

最悪、世界を、神を敵に回すかもしれない」

 

ハジメの言葉に真剣に耳を傾けるユエ。

 

「だが、国が相手なら国を、世界が相手なら世界を、神が相手なら神を・・・・・・」

 

ハジメは一拍置き言葉を紡ぐ。

 

「滅ぼしてでもユエを守る。俺達は最強だ。全てを越えて元の世界に帰るぞ」

 

「・・・・・・ん」

 

邪魔をする者は、全て薙ぎ倒す。その決意を新たにするハジメであった。

 



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幕間の物語:雫から見たハジメ

私がハジメに直接会ったのは私の親が経営する道場でだった。

 

それまでにハジメの噂は聞いていた。

 

曰く、”神童” 曰く、”万能の天才”。

 

聞こえてくる噂は信じ難いものが多かった。

 

モナリザを完璧に書き上げた。初見の曲を完璧に弾いた。

 

そのどれもが信じられないものだった。

 

そして、実際にハジメに会ってみると、ごく普通の小学生に見えた。

 

これが神童? 聞いてみると、一人で木刀を振るっていたが、

 

限界を感じ、対人戦をしたいというのが入門理由だった。

 

 

 

それを聞いて私はあきれていた。

 

それでは素人と同じではないかと。

 

そこで私が対戦相手に名乗りを上げた。

 

一度叩きのめせば帰るだろうと思ったからだ。

 

そして、試合が始まったのだが、

 

その途端に異常さを感じた。まるで隙がない。

 

対人戦は初めてのはずなのに、隙がないのである。

 

とにかく私はハジメに打ち込んでみた。

 

面、胴、籠手。そのどれもを時に避け、時に捌く。

 

本当に対人戦は初めてなのかと思うほど、防御がうまかった。

 

こんなはずがない。私は小学生相手なら負けたことがなかった。

 

それが素人同然の相手に当たらないのである。

 

次第に私は焦り始めた。それがいけなかった。

 

私が攻撃に移った瞬間をハジメは逃さず、

 

ハジメの攻撃が私の胴を捉えた。一本だ。

 

私は納得いかず再戦を申し込んだ。

 

ハジメはそれを受け、二試合目が始まった。

 

今度は勝つ。そう考えていた私が甘かった。

 

ハジメは一転攻勢に出てきたのだ。

 

そのどれもが素早く、鋭く、的確な攻撃だった。

 

これが本当に素人なの!? 私は防戦一方になった。

 

そして、ハジメが一言ハッキリと呟いた。

 

『無形』

 

そう言うと、ハジメは逆袈裟で攻撃してきた。

 

私にはハジメの意図がわからなかった。

 

明らかに間合いが遠い。これでは攻撃が届かない。だが・・・

 

パンッ!

 

当たらないはずの攻撃が、私の胴に命中した。一本だった。

 

私は呆然とした。なんで? どうして当たったの? という思いと、

 

負けた・・・。素人同然の小学生に初めて負けたという思いがないまぜになっていた。

 

 

 

それから私の道場にハジメは通うようになった。

 

そこで私はハジメの異常さに気が付いた。

 

ハジメは一を知ったら十を知るどころではなく、百を知るような子だった。

 

恐ろしい勢いで私の道場の剣を吸収していく姿に、私は恐ろしさを感じた。

 

これが神童と呼ばれる所以なのかと。

 

ハジメは試合に出るたびに勝ち続けた。

 

そして、いつしか剣術無双と呼ばれるまでになっていた。

 

それだけじゃなく、槍では神槍、弓では神弓と呼ばれるようになっていた。

 

私も女子の大会では負けなかった。でも、ハジメにはどうしても勝てなかった。

 

そして、お父さんに呼び出されこう言われた。

 

「ハジメの剣術を真似てはいけない。あれは剣を越えた別の何かだ」

 

そう言われても納得は出来なかった。そこでハジメに頼んだ。

 

本気で出せる最高の技を見せてほしいと。

 

ハジメは最初は渋っていたが、根負けして私に技を見せてくれた。

 

それは私が見なければ良かったと思える技だった。

 

『無明三段突き』・・・縮地から三つの突きを同時に出す技。

 

天才剣士沖田総司が使ったという技。

 

これを見て私は知ってしまった。

 

私が一生をかけてもこの域には辿り着けないことを。

 

 

 

その後、私はハジメに尋ねた。どこを目指しているのかと。

 

その問いにハジメは『空』と答えた。

 

その答えがよくわからず困惑する私に、ハジメは説明した。

 

余計なものをそぎ落としてそれでもなお残る何か。

 

無二と言われる究極の一。

 

その更に先にある0(ゼロ)・・・・・・「」の概念。・・・と。

 

これはもう禅問答のようなものだからとハジメは笑った。

 

この答えに父親がハジメの剣を真似るなという理由を理解した。

 

これは私の様な凡人には辿り着けない思考だと。

 

 

 

そして、トータスに転移したあの日、

 

私が戦争への参加に賛成したのに対し、

 

ハジメは最後まで反対した。

 

なぜ最後まで反対したのかハジメに聞くと、

 

『あいつ等は戦争をわかっちゃいない。

 

戦争を遊び程度に認識している』と。

 

そう言ったハジメの眼は、戦争を経験した者の様な眼をしていた。

 

 

 

その後ハジメのステータスプレートを見た時に納得と疑問を感じた。

 

天職がランサーなのはまだ納得がいった。

 

でも、完全に自分のプレートの表示と違うのだ。

 

レベルの表記もなく、ステータスも数字ではない。

 

そこに疑問を感じた。

 

メルド団長もそこを不審に思ったらしく、

 

模擬試合をハジメに挑んだが、結果は圧倒的なハジメの勝ちだった。

 

私もそれで安心してしまった。まさかプレートを書き換えていたなんて。

 

 

 

その後私達は迷宮に挑戦し、

 

トラップにかかりベヒモスと対戦しなくてはならなくなった。

 

そんな状況でもハジメは冷静だった。撤退で混乱するクラスメート達を落ち着かせ、

 

ベヒモスに単身で挑んだのだ。無茶だと思った。

 

でも、ハジメの攻撃は視認出来ないほど早く、動きも影が見える程度だった。

 

それを見て安心すると同時に、歯がみもした。

 

私達が戦闘に参加しても足手まといにしかならないことに。

 

そして、撤退の時にハジメは奈落の底に落ちていった。

 

 

 

その後のことを私はよく覚えていない。

 

気付いたら迷宮を脱していた。あれだけの戦闘能力をもってしても死ぬ。

 

絶望感だけが心を支配していた。

 

その後私達は鍛錬を繰り返した。二度と仲間が死なないようにと。

 

そして、私達はベヒモスに再度挑戦し討伐した。

 

その時、拍手と共にいるはずのない人物が現れた。

 

ハジメだった。そんなはずはない。ハジメは奈落の底に落ちていったはず。

 

それに対しハジメは驚愕の事実を口にした。

 

ここにいる自分は幻術であること。天職はランサーではなく、

 

地球最後の魔術師だとも。

 

とても信じられなかった。天職がランサーでなくあの戦闘能力。

 

そして地球最後の魔術師だということが。

 

ハジメは檜山が自身を殺そうとしたことを告げると、消えていった。

 

私と香織は安堵した。別行動とはいえ、ハジメは生きているということに。

 

 

 

そして、次にハジメが現れたのは、帝国の護衛との模擬試合の時だった。

 

この護衛が皇帝だということに驚いたが、それ以上にハジメは私たちにこう告げた。

 

お前等にはアレがない。皇帝に勝てないと。

 

皇帝も同じことを言ったので、皆黙ってしまった。

 

 

 

その後、一人で考えてみた。アレとは何かを。

 

ハジメが私達を見る眼は憐れみに近かった。

 

皇帝の眼はこいつらは使えないという眼だった。

 

ハジメは何を伝えたかったのか時系列で考えてみた。

 

そして、恐ろしい仮説に直面した。

 

ハジメの言うアレとは、人を殺した経験ではないかと。

 

最初は否定した。でも、それなら納得がいく。

 

だとしたら、私はその時どう振る舞えばいいのか。

 

考えたが、ただ、時間だけが経過していくだけだった。

 

 



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残念ウサギ

【ライセン大峡谷】を走る物があった。

 

トータスの住民から見れば何かはわからないが、

 

地球の住民からみればそれが特殊大型装甲車両と見えるだろう。

 

しかし、これの本来の目的は別の所にある。

 

走っている物の名前は『虚数潜航艇シャドー・ボーダー』

 

虚数空間を移動できる乗り物である。

 

 

 

ハジメが運転をし、ユエは助手席に座っていた。

 

二人は会話をしながらシャドー・ボーダーを走らせていた。

 

この峡谷では魔法が使えない。

 

理由は発動した魔法の魔力が散らされてしまうからである。

 

そのような場所であるため、シャドー・ボーダーに近づいてくる魔物は、

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から武器を射出し、

 

魔物を蹴散らしながら走っていた。

 

このためシャドー・ボーダーが走った跡には魔物の死体が散乱していた。

 

 

 

しばらくシャドー・ボーダーを走らせていると、

 

双頭のティラノサウルスみたいな魔物に出会った。

 

それ自体は別に珍しくないのだが、

 

その足元で半泣きになりながら、逃げ惑うウサ耳の少女がいた。

 

そして、シャドー・ボーダーを見つけると、こちらへ全力で走ってきた。

 

双頭ティラノサウルスも引き連れて。

 

「はあ。仕方ない。ちょっとあの魔物退治してくる」

 

ハジメはそう言うと、シャドー・ボーダーを止め、天井部分に乗る。

 

そして、宝物庫から朱色の魔槍ゲイ・ボルクを取り出し、魔力を込める。

 

『刺し穿つ死棘の槍』(ゲイ・ボルク!)

 

そして、真名開放を行い双頭ティラノサウルスに投擲した。

 

今回はハジメの筋力、幸運などが合わさりすぐに音速を突破。

 

双頭ティラノサウルスの心臓をぶち抜き、そのまま反対側へ抜けていく。

 

ハジメの手にゲイ・ボルクが戻ると同時に、双頭ティラノサウルスは倒れた。

 

その衝撃でウサ耳少女は吹き飛び、シャドー・ボーダーに飛んでくる。

 

「きゃあああああーー! た、助けてくださ~い!」

 

「悪い。無理。一張羅が汚れるから」

 

ちなみにハジメの服は、FGOの斎藤一の初期の服装を模したものである。

 

ウサ耳少女はシャドー・ボーダーの側面に顔面から激突した。

 

気絶はしてないようだが、痛みをこらえて動けないようだ。

 

「・・・・・・なんて残念なウサギさん」

 

ユエの声がハジメの心の声を代弁していた。

 

「大丈夫か?」

 

ハジメがウサ耳少女に声を掛けたかと思いきや・・・

 

「よし。シャドー・ボーダーに傷はないな」

 

心配したのはシャドー・ボーダーの方だった。

 

ハジメの心の中では、シャドー・ボーダー>ウサ耳少女である。

 

ウサ耳少女の傷は治るが、シャドー・ボーダーは複雑な機構を持った代物だ。

 

仮に修理となると厄介なのだ。

 

この行動はハジメの中では自然な行動だった。

 

 

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、

 

シアといいます! とりあえず、私の家族も助けて下さい!

 

ものっすごくお願いします!」

 

そして、性格も中々に図太かった。

 

「さてと・・・ユエ、峡谷をとっとと抜けるぞ」

 

「・・・・・・ん」

 

『直感』が物凄く面倒な厄だと告げたので、さっさと逃げようとするハジメ。

 

「逃がしませんっ!」

 

ガシッとハジメの腰に腕を回してつかむシア。

 

「ええい! 放せ! 俺の『直感』が厄だと告げてるんだ!

 

俺達も忙しい! 死ぬ気でやれば何とかなる! だから放せ!」

 

実際前世でハジメは戒厳令の敷かれた都市に潜入。

 

任務遂行後、その都市から離脱ということをやっている。

 

死ぬ気でやれば何とかなるとはここから来ている。

 

「いいえ逃がしません! そうしないと未来が変わっちゃいます!」

 

この言葉にハジメが反応する。

 

「お前・・・千里眼、もしくは未来視の類を持ってないか?

 

少し話を聞いてやる。話をしてみろ」

 

迷宮を抜けた途端に面倒事に巻き込まれるとは。

 

幸運EXは仕事をしているのかと思うハジメであった。

 



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残念ウサギ2

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘、シア・ハウリアと申します。実は・・・」

 

シアの話の中身を要約するとこうだった。

 

ハウリアと名乗る一部族達は樹海にて百数十人規模の集落を作り、

 

ひっそりと暮らしていた。

 

そして、シアが生まれた。一族は大いに困惑した。

 

普通は濃紺の髪なのに、青みがかった白なのだ。

 

魔力まで有しており、直接魔力を操る術と、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

何とかシアを隠して育ててきたが、ついにばれて一族ごと樹海を出たのだ。

 

北の山脈地帯に逃げようとしたが、帝国兵と出くわし、峡谷に追い詰められたのだ。

 

 

 

「・・・・・・気が付けば、六十人以上いた家族も今は四十人ほどしかいません。

 

このままでは全滅です。どうか、どうかお願いです! 助けてください!」

 

それを聞いたハジメは視線を宙にさ迷わした後こう言った。

 

「無理だな」

 

ハジメの言葉にシアが口を開く前に言葉を続ける。

 

「千里眼で並行世界の未来も見て出た結論だ。

 

今のままでは、北の山脈地帯に逃げても俺達がいなくなった後全滅だ。

 

俺達もやらなければならないことがある。いつまでも守れない。

 

今のままだとここで全滅か、後で全滅かの違いだけだ」

 

ハジメの言葉に押し黙るシア。

 

恐らく彼女は未来視を持っている。

 

その未来は見えているはずだ。

 

ハジメの千里眼で見えるものは美しいものばかりではない。

 

醜く悲劇的な物事まで見えてしまう。

 

未来が悲劇的だとわかっていて、それでも進まねばならない。

 

それを彼女はどう受け止めているのだろう。

 

 

 

「・・・・・・まあ、”今のままなら”だがな」

 

そう言うハジメは自信に満ちた顔で言う。

 

「何か手があるんですか!?」

 

シアがそう聞くと、ハジメは答えた。

 

「その代わりハウリア族には地獄のキャンプを味わってもらうけどな。

 

とりあえず助けに行くぞ。アレに乗れ」

 

そう言ってハジメはシャドー・ボーダーを指し示す。

 

「そういえばお二人の名前を聞いてませんでしたね?」

 

「南雲ハジメ」

 

「・・・・・・ユエ」

 

「ハジメさんにユエちゃんと・・・」

 

「・・・・・・さんを付けろ残念ウサギ」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 

そんなやり取りを聞きつつ、

 

ハジメはシャドー・ボーダーのアクセルを全開にして飛ばす。

 

「そういえば必死で流してましたけど、この乗り物はなんです?

 

それにハジメさんの投げた槍、魔力が込められてましたよね。

 

なんでここで使えるんです?」

 

「まあ、それは走りながらな」

 

そう言いつつカーブでドリフトをするハジメ。

 

騎乗EXの能力は伊達ではないのだ。

 

ハジメはシャドー・ボーダーのことやら、

 

武器のことやら様々な事を走りながら説明した。

 

 

 

しばらくシャドー・ボーダーを走らせていると、レーダーに相当数の反応と、

 

魔物の声が聞こえてきた。

 

「っ。ハジメさん! もうすぐみんながいる場所です!

 

あの魔物の声・・・・・・ち、近いです!

 

父様達がいる場所に近いです!」

 

「わかっている! レーダーでも確認した。さらに飛ばすぞ!」

 

シャドー・ボーダーの限界ギリギリのスピードで飛ばした先には、

 

魔物に襲われている兎人族がいた。

 

「ハ・・・ハイベリア」

 

シアがワイバーンもどきを見て、呟く。

 

「ユエ、運転代わりに頼む! そのまま真っすぐ! 宝具で殲滅する!」

 

ユエに運転を交代したハジメは天井部分に乗り、宝具を展開する。

 

「神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定――全承認。

 

シヴァの怒りを以て、汝らの命をここで絶つ。『破壊神の手翳』(パーシュパタ!)」

 

ハジメの手に白い光球が現れ、それがハイベリアの頭上に瞬時に移動し出現。

 

強烈な爆発を引き起こした。

 

ハイベリアは瞬時に消し飛び、兎人族も地面を転がったが予測範囲内だ。

 

とりあえず間に合ったかと一安心するハジメであった。



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神威

書き方を変えてみました。


 その後、シアと短髪の初老の男性・・・シアの父親が抱き合って喜んでいた。

おっさんのウサ耳・・・ああ、予想はしていた。そりゃ歳を取ったのもいるだろう。

だが、予想以上に誰も得しないなと考えるハジメであった。

シアの父親の名前はカムであり、一族皆がハジメに礼をしてくれた。

ちょっと人を信用しすぎなのではと思うハジメであったが、素直に受け取ることにした。

 

 その後、移動を開始したのだが、流石にシャドー・ボーダーに四十人以上も乗せられるはずもなく、徒歩での移動となった。

当然のように多数の魔物が襲ってきたが、ハジメの王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)になす術なく葬られる。

黄金の波紋から武器が射出され魔物を葬る姿に、驚くハウリア族。

そして、ハジメは何気なしに呟いた。

「峡谷の出口に帝国兵がいるな」

「ど、どうしますハジメさん!?」

「邪魔するなら殺すまでだ」

「でも、同じ人間族ですよね?」

「・・・ん~、ちょっと違うんだよな」

「え? ハジメさん人間族でしょう?」

「あ~、これは体験してもらった方が早いな。帝国兵を実験台にするか」

 

 そうして峡谷の出口に到着すると、帝国兵がおり、下卑た言葉を口にしつつ、なめきった態度をしていた。

ハジメはこいつらの説得は無理と判断し、スキル『カリスマ』と『神性』を最大にしてオンにした。

その途端、ハジメの眼の色が全てを見透かすような空色に変わり、その場の空気が一瞬にして歪んだ。

ハジメを除く全員が動けなくなり、恐ろしいまでの圧力がのしかかった。

「我が命じる。帝国兵共膝まづけ」

その途端、帝国兵達が膝まづく。自らの意思ではなく、見えない何かからの圧倒的な命令。帝国兵達は冷や汗が止まらなかった。

「我は問う。他の兎人族はどうした? 帝国に移送したのか? 答えよ」

その中から隊長らしき人物が答える。

「兎人族は・・・数を絞って・・・全て移送済みです」

ハジメは眉をピクリと動かすとさらに言葉を続ける。

「それは嘘ではないな。答えよ」

「嘘は・・・申しておりません」

隊長らしき人物は真っ青な顔になりつつ答える。

「しからば我が命ずる。帝国兵共、全員自害せよ」

そうハジメが命ずると帝国兵達は剣を抜き次々と自らの首を斬っていった。

あまりのことに思考が追いつかない兎人族達。

そして、帝国兵達が全員自害するとスキルをオフにする。

途端に空気が戻り、兎人族達は皆へたり込んだ

 

 「ハ、ハジメさんあなたは一体・・・」

へたり込んだシアが問う。それに対してユエが答える。

「ハジメは異世界の神々の王の子・・・・・・創世と滅亡を司る神霊」

「えっと・・・・・・それってほぼ神様?」

「・・・・・・ん」

ユエの返答に絶句する兎人族達。それに対してハジメは、

「ああ。普段は力を抑えているからな。まあ、正確にいうと神造兵器に近いか。インドという国の神性全部と、他に世界中の歴史上の英雄、王、騎士とかの技能等も取り込んでいるし」

「何ですかそれ!? もう神とかそういう領域越えてるじゃないですか!」

「だから言ったろ。ちょっと違うって。外側だけ人で中身はもう別物。むしろ亜人族に近いぞ? それより連中の馬や馬車があるからあれを利用させてもらおう」

そう言って馬の方に向かうハジメ。ひょっとしてとんでもない人に頼ってしまったのではないかと思うシアであった。



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幕間の物語:インドラとブラフマー

 ハジメ達が【ハルツィナ樹海】に到着した頃、遥か彼方からその様子を見ている者がいた。

ハジメを下界に送り込んだ神、インドラである。座っているインドラの後ろから声をかける者が現れた。

「インドラよ。何を見ている?」

「ブラフマーか。何、送り込んだ息子の様子を見ているのよ」

そういうインドラの横にブラフマーは座り、インドラに尋ねる。

 

 「インドラよ。何故あやつを選んだ?」

「何故とは?」

「あやつはその功績により、英霊の座に登録が決まっていたはずだ。それをわざわざ使い、過去に送り込むという面倒なことをしたのはなぜだ?」

「ふむ。エヒトという下級世界の神が、上位世界の我らの世界に干渉した時、神々で対応を協議したな?」

「ああ。結果、懲罰するという結論を下し、お主に対応を任せたのだったな」

「それよ。神秘が薄くなった現世では我々は現界できん。となればカウンターパートを作る必要がある」

「それがあやつだったと?」

「そうだ。あの生存本能に戦闘経験。カウンターパートにするには打って付けだったのだ」

「しかし、あやつがエヒトを倒すとは限るまい?」

「確かに。しかし、倒せなくてもよいのだ。エヒトとやらの思惑通りにはいかないようにしてくれればいい。

最も、エヒトとやらを確実に殺せる力を持たせているがな」

「それはそうだが・・・エヒトとやらを倒せなければシヴァ神達に叱られるのではないか?」

「ククク・・・今は南雲ハジメだったか・・・。あやつは確実にエヒトとやらを殺すよ」

 

 その言葉にブラフマーはいぶかしむ。インドラはそれを見て笑顔で答えた。

「あやつは仲間の裏切りは許さんが、仲間に対する危害には絶対に落とし前をつける」

「なるほど・・・いずれエヒトとやらは強力な力を持ち、思惑通りにさせないハジメに苛立ち・・・」

「本人か仲間に危害を加える。そうなれば・・・・・・」

「ハジメは落とし前をつけるために戦う。・・・そういうことか」

「ああ、その通りよ。その時にエヒトとやらは絶望を経験するだろうさ」

そう言って再度、インドラ達はハジメ達を覗き込んだ。

 

 「・・・・・・」

「どうしましたかハジメさん?」

急に空を見たハジメにシアが尋ねる。

「見られているな」

「えっ!? もう他の亜人族が!?」

ハジメの言葉に慌てるシア。

「違う。ここではない遥か彼方からだ」

「遥か彼方って・・・何も見えませんけど?」

「違う世界だからな。・・・・・・見ているのはインドラと・・・ブラフマーか?」

「インドラって・・・ハジメさんの父親の?」

「ああ。下界に送り込んだ神だ」

「ブラフマーっていうのも神様何ですか?」

「創造神だ」

「それってめちゃくちゃ偉い神様なのでは?」

「シヴァ神、ヴィシュヌ神と同等の最高神だな」

「それが何で私達を見てるんです?」

顔を青ざめさせながらハジメに尋ねるシア。

「見ているのは俺だ。理由は知らん。が、あまり考えない方がいい。純粋な神の考えなど、神に造られた神にもわからん」

そう言ってシアの父親のカムの後に付いて行くハジメ。

慌てて付いて行くシア。

その様子をインドラ達は遥か彼方から見ていた。



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ハルツィナ樹海

 「それではハジメ殿、ユエ殿。樹海に入ったら我らから離れないでください。それと行先は樹海中心部の大樹でよろしいですか?」

「ああ、そこでいい」

「それとハジメ殿、気配は出来る限り消してもらえますかな?」

「やろうと思えば完璧に消せるが・・・どの程度でいいか見ながら教えてくれ」

そう言ってハジメは気配を消し始める。

「少し消しすぎです。今度は少し表しすぎ・・・そうそうその位でお願いします」

「わかった。この位だな」

「ええ。しかし、さすがですな。それでは参りましょうか」

 

 そう言ってカムとシアを先頭に樹海の中を進んでいく。

しばらくするとハジメが立ち止まった。

「どうかされましたか、ハジメ殿?」

いぶかしむカムにハジメが告げる。

「魔物に囲まれ始めている。総員戦闘準備」

ハジメはスキル『気配感知』で魔物の存在をキャッチしたのだ。

樹海に入るにあたり、ハジメが投影したナイフを構えるハウリア族達。

そんな中、ハジメは一言呟く。

「『天の鎖』よ!」

その途端、地面から穂先の着いた鎖が出現し、次々と魔物を串刺しにしていった。

シアは、突然の危機に硬直するしかなかった自分にがっくりと肩を落とした。

魔物を掃討し終えると、一行は再度進み始めた。

 

 しかし、樹海に入って数時間が経った頃、ハジメ達は歩みを止めざるを得なかった。

数、練度・・・こいつらは魔物じゃないとハジメは感じた。

相手の種族は虎の亜人であった。

交渉しようとハジメは思ったが、攻撃命令を出そうとしたので、スキル『神性』、『カリスマ』を発動。

同時に虎の亜人族の周辺に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開。いつでも射出できるようにする。

「人の話も聞かず、攻撃しようとした罪。本来なら我に対する不敬であり、皆殺しだが我も出来ればしたくない。故に交渉しよう」

「交・・・渉?」

隊長らしき人物が言葉を絞り出す。

「我らが目指すは大樹の下の迷宮也。お主達亜人族に危害を加えるつもりはない。最も攻撃されれば別だが。・・・ここは退いてもらえぬか?」

「一警備隊長の私に判断できることではない。・・・長老達に報告させてもらいたい。それまでここで待機していただきたい」

「構わぬ。良い返事を期待している」

 

 そうしてしばらくすると、霧の中から数人の人物が現れた。いわゆるエルフなのだろう。

そして、ハジメを見て驚いた後、ハジメに尋ねてくる。

「御身は如何なる存在なのですか? あなたは明らかに人ではなく神の類だ」

「異世界の神々の王の子にして、創世と滅亡を司る者也。お主が長老とお見受けしたがそうか?」

「はっ! 私はアルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっています。

その前にお聞かせ願いたい。”解放者”という言葉をどちらでお知りになられたのですか?」

「オスカー・オルクスの隠れ家でだ。その証拠にこの指輪を見せよう」

そう言うとハジメはオスカーが身に着けていた指輪を長老に渡す。

「なるほど確かに・・・・・・。私の名でフェアベルゲンに滞在の許可を出します。もちろんハウリア族も共に」

「ふむ。しかし、我は大樹に用があるのだが?」

「残念ながらすぐにとは参りませぬ。大樹周辺は特に霧が濃いのです。今からでしたら、十日後に霧が薄まります」

その言葉を聞き、カム達を見るハジメ。

「お主等・・・・・・忘れておったな?」

 

そこからはハウリア族内での責任のなすりつけ合いが始まった。

いつまでもギャーギャーワーワーする姿にいい加減イラついたハジメは、宝具詠唱を開始する。

「悲劇を以て衆生を救わん。シヴァの後光よ、崩壊と共に押し寄せよ。爆縮開始!」

「ちょっ!? ハジメさん待って下さい! 死にたくないいいーーーー!」

シアの悲鳴が響くが構わず宝具を展開する。

『破壊神の手翳(パーシュパタ)』……弾けて落ちよ!!」

パーシュパタの爆発で死屍累々のハウリア族達。

手加減しているので、死にはしてないが皆ピクピクとしている。

他の亜人達はその様子に、怒るどころか呆れた様子で天を仰いだ。

流石はハウリア族。残念な種族である。



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フェアベルゲン

 亜人族の案内で進むこと一時間程、突如、霧が晴れた場所に出た。

そこには門があり、そこをくぐると別世界であった。

「ふむ。素晴らしい。美しさと調和がとれた町よな」

ハジメはそう感想をもらす。

巨樹の中に住居があり、どの木もビルにして二十階ほどもあった。

「ふふ、フェアベルゲンを気に入ってくれてなによりです」

アルフレリックの表情が喜色に変わった。

 

 アルフレリックに会談の場へと案内されたハジメとユエは、アルフレリックから説明を聞かされていた。

オスカーの指輪が大迷宮の踏破者である証であり、ハルツィナ大迷宮への有資格者だという。

説明の最中、階下で揉めあう声が聞こえてきた。

ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、階下に向かった。

階下についてみると、ハウリア族と他の亜人族でもめ事が起きているらしい。

すでにシアとカムは殴られた跡がある。

ハジメは抑えていたスキル『カリスマ』と『神性』を引き上げ、言葉を発する。

「そこの亜人族よ。ハウリア族は我のものだ。それに手を出す意味がわからぬか?」

「貴様のような人間の小僧が有資格者だというのか!敵対してはならない強者だと!」

その言葉にアルフレリックが止めに入る。

「そうじゃ! それにやめよ! ハジメ殿は・・・!」

「・・・・・・ならば今この場で試してやろう!」

そう言って熊の亜人族がハジメに襲いかかった。

「愚かな・・・。獣風情が・・・。凶れ」

ハジメは歪曲の魔眼を発動。熊の亜人の四肢をあらぬ方向へ捻じ曲げた。

「ぎゃああーーーーーー!!」

「これでわかったか? わからぬならこの場の全員をこれと同じようにするが?」

この言葉に全員が押し黙る。

アルフレリックがここで口を開いた。

「ハジメ殿は異世界の神。ユエ殿は吸血鬼族じゃ。人間族ではない」

その言葉に驚く亜人達。異世界の神が何故ここに? といった顔を向ける。

「とりあえず詳しいことを話し合おう」

そうアルフレリックは話した。

 

 こうして話し合いが開かれ、ハジメが口火を切る。

「して、亜人族としてはどうなのだ? 我は大樹のもとに行きたいだけだ。

亜人族と戦う気はない。しかし、襲われては敵味方の区別なく殲滅するしかなくなる。

亜人族側の意思統一を図ってもらいたいのだ」

「長老衆は敵対しないというのが総意だ。末端の者にも伝える。しかし・・・」

「絶対ではないと?」

「そうだ。手加減して殺さないようにしてもらうのは・・・」

「我には出来るが、神を殺しにかかる以上それは無理だ」

「なれば我らは大樹への案内を拒否させてもらう」

「ほう?」

「ハウリア族には案内してもらえると思わないことだ。彼らは罪人だからな」

その言葉にハジメは魔力を一気に上げていく。

「お主等は勘違いをしている。ハウリア族は我のものだ。それに手を出すということは、それなりの覚悟を持っていような?」

ハジメの強烈なプレッシャーに冷や汗をかく長老衆。

「アルフレリック。我がハウリア族に放った一撃を見たであろう? あれは何重にも威力を抑えている。

その気になればフェアベルゲン、いや森丸ごと消滅も可能であるぞ?」

「そんなこと・・・!」

「出来ぬと思うならやって見せようか? 責任はお主等にあるぞ? 神性領域拡大・・・」

「待ってくれ! フェアベルゲンから案内を出すと言ってもか?」

「我が案内を頼んだのはハウリア族だ。それ以外は一切認めぬ」

「なぜそこまでハウリア族を?」

「神たる我に嘘を付けと? これはハウリア族との契約だ。であるなら契約を切るわけにはいかぬ」

「・・・ハウリア族はハジメ殿の奴隷として認めよう。これでよいか?」

「アルフレリック!」

「わかるであろう。ハジメ殿が本気であることを。亜人族全員の命を天秤に掛けることはできぬ」

 

 そこから話は進み、ハジメ達は大樹へと向かうこととなった。

「えと・・・これで家族は大丈夫なんですよね?」

「まあな」

ハジメは『カリスマ』と『神性』をオフにし、元に戻った。

「あの・・・こういう場合どう表現したらいいんでしょう?」

「・・・・・・喜べばいいと思う」

ユエの言葉にシアはハジメに全力で抱きつく。

「ハジメさん! ありがとうございます!」

「うおっと。いきなりなんだ?」

「むっ・・・・・・」

シアの行動に一瞬不機嫌そうになるものの、特に何もしなかった。

(だが・・・・・・)

周囲の亜人族には苦々しく思う者や、敵意を向ける者達がいた。

(これは長老衆の命令無視して攻撃してくるな)

そう思うハジメはとある手段を考える。

(本来やりたくはなかったが、・・・・・・ハウリア族をこのままにするわけにはいかないな)

ハウリア族の良い点はそのままに、悪い点を直す。

その手段はあるが、出来ればやりたくないハジメであった。

 



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肉体改造

 「さて、これから戦闘訓練をする」

突然のハジメの言葉に戸惑うハウリア族達。

「どうせ十日間は大樹に行けない。それまでにお前達に強くなってもらう」

「そ、それはどういうことで?」

尋ねてきたカムにハジメは答える。

「ハウリア族との契約は大樹への案内までだ。俺達がいなくなった後、お前達はどうする気だ?

フェアベルゲンを追い出され、頼るべき者もいない。一族全滅だぞ?」

「・・・・・・・・・」

ハジメの言葉に沈黙するハウリア族一同。

いや、考えないようにしていたのか。

「とはいえ十日で出来ることは限られる。そこでだ。まずユエ。シアの特訓に付き合ってくれ」

「・・・・・・ん」

ハジメの言葉にユエはうなずく。

「他のハウリア族は俺が作ったテントの中に呼ばれたら一名ずつ入ってくれ。

ベッドが中にあるからそこに横になってくれ。俺が眠らせて処置を施す。

起きたら一日目は終了だ」

 

 「すいません。ハジメさん。処置ってなんです?」

シアの言葉にハジメは顔を向ける。そして祈りを捧げ始めた。

「我が父よ今から行うことを許したまえ」

「ハジメさん!? 何をしようとしてるんです!?」

「・・・・・・十日後にわかる。ユエ、シアの特訓頼んだ。ほら行って来いシア」

「むう。ちゃんと教えて下さいよ!」

そう言って二人は別の場所に移動した。

 

 「それじゃあカムから始めるから中に入ってくれ」

「お兄ちゃん、痛くないの?」

そう聞いてきた少年にハジメは返事を返す。

「大丈夫だ。問題ない」

そう言って、ハジメはテントに入り、カムをベッドに寝かせる。

「寝てるだけでいいのですか?」

「ああ。今から睡眠の魔術を使うから、寝てる間に終わる。今日の訓練はそれで終了だ」

「それで強くなれるのですか?」

いぶかしむカムにハジメは答える。

「ああ。問題ない」

そう言って、ハジメはカムを眠らせる。

そして、スキル『カリスマ』、『神性』をオンにすると、処置を始める。

「まずは神経系だな。これの一部を魔術回路にして・・・」

神の権能を駆使して処置を始めるハジメ。

 

 それから十分後・・・

「起きろカム。終わったぞ」

そして起きたカムだが身体に特に変化はない。

「何も変わってないようですが・・・」

「全員に処置が終わってから説明する。とりあえずそこの出口から出てくれ」

「はあ・・・」

特段の変化がないことにいぶかしむも外に出るカム。

「次の人どうぞ」

ハジメは次のハウリア族を呼ぶ。

こうして次々とハウリア族に処置を施すハジメ。

この日、ハウリア族はシアを除いて絶滅した。

 

十日後、大槌を担いでご機嫌なシアと、不機嫌なユエが帰ってきた。

「ハジメさん! ついにユエさんに勝ちましたよお!」

「ほう。ユエ。シアをどう見た」

「魔法適性は低い」

「むう。宝の持ち腐れというやつか。だが、そんな大槌担いでいる以上何かあるんだろ?」

「・・・・・・ん。身体強化に特化してる。正直化け物レベル」

「なるほどね・・・」

「ハジメさん! 私をあなたの旅に連れていって下さい!」

「・・・断る」

「なんでですか!」

「今のシアの実力なら大概の事は切り抜けられるはずだ。わざわざ死にに行くような旅に出る必要はない」

ハジメからはきっぱりと断るという意志が見て取れた。

「で、ですから、それは、その・・・・・・」

「・・・・・・」

シアの言葉を待つハジメ。

「傍にいたいからです! 好きなので!」

「・・・・・・は?」

言葉の意味を理解したハジメは問いただす。

「シア。何か変な物を食べたんじゃないのか? 毒キノコとか」

「食べてません!」

「待て待て! どう考えてもおかしいだろ。どこに恋愛要素があったんだ?

と、とにかく俺にはユエがいるわけだし」

「・・・・・・・・・・・・ハジメ、連れて行こう」

「は? ユエ? もしかして賭けたのは・・・」

「・・・・・・無念」

ユエはがっくりと肩を落とした。

 

 「はあ・・・わかったよ」

シアの気持ちの強さを察してかハジメも諦めた。

「ところで父様達は?」

疑問を投げかけるシアにハジメは答える。

「最終課題の魔物の討伐だ。・・・まあ、問題ない」

そう言いつつ、スッと眼を逸らすハジメ。

そして、霧の中から数人のハウリア族が姿を表す。

その中にカムを見つけ、シアが声を掛けようとしたが思いとどまった。

何かが違うからである。

「団長! 最終課題の素材持ってまいりました!」

カムが踵をビシッと揃え、ハジメに敬礼する。

ハジメも踵をビシッと揃え答礼を返す。

「ご苦労。だが、俺は一体だけでいいと言ったはずだが?」

素材の量が明らかに複数体分あるからだ。

「はっ!最初は一体のみでしたが、仲間を呼んでわらわら出て来たので、反撃した次第であります!」

「キッチリ全滅させてきました!」

「実に骨の無い奴らでした!」

これを見てシアは呆然と呟く。

「・・・誰?」

 

 「ハジメさん!? 父様達に何をしたんですか!?」

「落ち着け。口調が変わっているだけだろ」

「いやいやいや!? 顔つきとか変わってるじゃないですか! あれじゃまるで肉食獣じゃないですか!」

「・・・・・・大して変わってないだろ」

「ちょっと眼を合わせて答えて下さい! 一体みんなになんの処置を施したんですか!」

「・・・神の権能を使って、筋力、神経速度等の肉体改造。他に精神面で攻撃性を高めたりした。

それと神経回路を少しいじくって、魔術回路にして固有魔法を使えるようにした」

「何してるんですかあああーーーーー!? ハジメさん非人道的行為ですよそれ!?」

「ふっ・・・神に人道を求めるのが間違っている。あれはもうハウリア族ではない。スーパーハウリア族だ」

「カッコつけて言うセリフじゃないでしょう!? なんですかスーパーハウリア族って!?」

「具体的にいうなら完全武装した熊の亜人十人を、一人で仕留められる位の力を持たせた。これで安心だ」

「別の意味で不安ですよ!? 父様正気に戻って下さい!」

シアの言葉にカムは頬を緩めた。一瞬安心するシア。

「落ち着きなさいシア。私達は正気だ。ただ、団長のおかげでこの世の真理に目覚めただけだ」

「この世の真理?」

嫌な予感がするシアに笑顔でカムは言葉を返す。

「この世の物事は力で大半は解決できる」

「うわあーーーーん!? やっぱり優しい父様は死んでしまったんですぅ~!」

「・・・・・・ハジメこれどうするの?」

そう尋ねるユエに対し、「悪いとは思う。だが、俺は謝らない」

この返事である。



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見敵必殺

 「団長! 報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」

一人のハウリア族の少年が敬礼と共に発言した。

「発言を許可する。どうした?」

「は! 完全武装した熊人族の集団を発見! 場所は大樹へのルート!

我々への待ち伏せかと愚考いたします!」

「ほほう? 俺は忠告したはずだが・・・よほど死にたいらしいな・・・で?」

「はっ! 奴らの相手は我々ハウリア族に任せてもらってもよろしいでしょうか!」

「ふむ。カムはどう思う?」

カムはにやりと笑い、

「お任せいただけるなら是非」

「よろしい。たいそうよろしい」

そう言ってハジメはハウリア族全体に告げる。

「諸君! 哀れにも己を知らぬ愚か者共がいる! 奴らに本当の戦を教育してやれ!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

「俺からの命令は単純明快! 見敵必殺! 繰り返す。見敵必殺だ!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

「よし行け! 敵を殲滅せよ!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

そうしてハウリア族は次々と駆け出していく。

「うわぁ~ん、やっぱり私の家族は死んでしまったんですぅ~」

「・・・・・・ハジメ」

「やむを得なかった。仕方なかったんだ」

 

 「何がやむを得なかったですか!? 普通に鍛えればいいでしょう!?」

シアの言葉にハジメが言い返す。

「無理に決まってるだろ! 兵士としての体力をつけるのに三週間!

その上で武器や格闘訓練、荒れ地に放り出して地図とコンパスを頼りに目的地に着く訓練!

その他諸々やってたら一年とかじゃきかんぞ! そこにハウリア族のあの性格!

まともにやってる時間も方法もなかったんだよ! あれが最速の方法だ!」

ハジメの言葉に押し黙るシア。

そしてガックリと項垂れ、シクシク泣き始めた。

「正直悪いとは思ってるよ」

ハジメの言葉に涙を溜めながらハジメを見るシア。

だが、続くハジメの言葉にさらに泣くことになる。

「だが、俺は謝らない。本当はもっと殺人機械的に改造予定だったしな」

「うわあーーーーん! 外道がここにいますぅ~!」

森の中にシアの泣き声が木霊した。

 

その頃、大樹へのルート付近での戦いは終わりを迎えようとしていた。

いや、ハウリア族による一方的な虐殺と言うべきか。

残された熊人族は、大木を背にし、それをハウリア族が包囲する形だ。

そこにハジメが近づき叫ぶ。

「ハウリア族諸君! そこまでだ!」

それに対してカムが不満を見せる。

「何故です団長! 今からこいつらを殺す所なのに!」

「カム! 兵士とはなんの為にある!」

「それは大事な者を守る為です!」

「そうだ! そして、敵は降伏している。戦闘終了だ!」

「しかし・・・!」

「今のお前達は血に酔って、快楽の為の殺人をしようとした! それは兵士ではなく虐殺者の行為だ!

それをしてしまえばお前達は外道に堕ちる! だからやめろ!」

やはりこれが起こったかとハジメは思った。

戦場には狂気が存在する。今回のカム達のような事態を、ハジメは前世で何回も見た。

ゆえに止めたのだ。外道に堕ちないようにするために。

 

 「それと熊人族の。逃げようとするな。死にたいのか?」

そう言って逃げようとした熊人族の足を止める。

「長老衆に伝えろ。貸し一つだとな。それと今回の事態をキッチリ周知するように。

そうすれば見逃す。伝言はしっかりとな」

「わ、わかった」

そうして熊人族達は撤収していった。

 

 「さて。ハウリア族諸君。すまない」

ハジメがハウリア族に頭を下げる。

そんなハジメの態度に驚くハウリア族。

「戦において起こりうる、今回のような事態を、前もって教え忘れた俺の失態だ。本当にすまない」

「あのハジメさんが謝ってます。明日は雨でしょうか?」

「・・・・・・少し黙れ残念ウサギ」

シアの言葉にユエが辛辣なツッコミを入れる。

「昔の偉い軍人が言っていた。『兵を百年養うはただ国を守らんがため』と。

ハウリア族もそれを忘れず、家族を守る為に力を使ってほしい。今回の件は本当にすまない」

「頭をあげて下さい団長。団長のおかげで我々は強くなれたのです。我々も未熟でした」

カムがハジメに言葉をかける。

「それでもだ。今回の件は俺のミスだ。故に謝るのだ」

そう言ってハジメは顔を上げる。

「俺からの訓練は今日で終了だ。後は各自訓練を怠らないように」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

これならハウリア族は生き残ることができるだろう。

そう思うハジメであった。



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事前準備

大樹に向かって歩いていたハジメ達であったが、その大樹は枯れていた。

しかし、オスカーの指輪と同じ模様が刻まれた石板があった。

だが、入口らしきものはない。石板に書いてあることをよく読むと、

どうやら他の迷宮の神代魔法四つ。その中に再生魔法を含まなければならないらしい。

「どうやら他を回らないといけないらしいな。仕方ない」

ハジメ達はハウリア族と別れてシャドー・ボーダーを走らせ始めた。

 

 「そう言えばハジメさん次の目的地はどこですか?」

空調の効いた車内でシアが尋ねてくる。

「『ライセン大峡谷』だ。そこに大迷宮がある可能性がある」

「じゃあ、今日は野営ですか? それとも近くの村や町に?」

「一旦町に寄る。食料とかの必需品と、素材の換金もしないとな。

それにやっておきたいこともある」

「やっておきたいこと?」

「ああ。『陣地作成』スキルを使ってやっておきたいことだ」

「ところでハジメさん。先ほど私に着けた首輪。外れないんですけど」

「悪いが着けておいてくれ。そうでないとすぐに人さらいに狙われるぞ。

それにはルーン魔術で通信や位置がわかるようにしてある。

それと外すには一定量の魔力を流し込め」

 

 町の近くまでシャドー・ボーダーで走り、途中から徒歩で町を目指す。

流石にシャドー・ボーダーは目立ちすぎる。

町の前には門番がおり、ステータスプレートを求められた。

ハジメは素直にステータスプレートを渡す。

「『剣士』ねえ。それにしちゃあ珍しい武器だな」

「これは刀といってうちの流派の武器なんだ。普通には扱えない代物だ。

後、町に来た目的は食料の補給と素材の換金だ」

「それでそっちの二人は?」

「金髪のは戦闘中にプレートを無くしてな。ウサ耳はまあわかるだろ」

「ああ、なるほど」

そこからは問題なく町に入ることが出来た。

 

 「ハジメさんこの首輪・・・」

「言いたいことはわかるが我慢してくれ。シアの身を守る為だ」

そう言いつつ門番に言われたギルドを見つけ中へ入る。

ギルドのカウンターにはおばちゃんがいた。

「すまない。素材の換金をお願いしたいのだが・・・」

「素材の買い取りだね。それじゃあステータスプレートを見せてくれるかい?」

「? ステータスプレートがあると何か特典があるのか?」

「冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

「なるほど」

「他にも宿の料金の割引とかがあってね。登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

ルタとはこの北大陸共通の通貨だ。色で区別され青から金まであり、日本の通貨と同じ区切りだ。

「すまないが買い取り分から引いておいてくれ。今、ちょうど手持ちがなくてな」

「あいよ」

戻って来たプレートには天職欄の横に職業欄があり、冒険者と書かれその横に青色の点がついている。

これは冒険者のランクであり、ルタの色と同じである。

「門番にここで町の簡易な地図がもらえると聞いたのだが・・・」

「ほら、これだよ」

それはハジメが思っていた以上に詳細な地図であった。

「いいのか? これを無料でもらって?」

「あたしが趣味で書いているからね。構わないよ」

「では、ありがたく」

そしてハジメ達はギルドを後にした。

 

 ハジメ達が宿に宿泊して一夜、ハジメは部屋に残るといった。

「えっ? 何でですか?」

シアの問いにハジメは答える。

「言っただろ? 色々と作りたいものがあると。それには集中して細かい作業を必要とする物もあるんだ。

だから外に行くのはシアとユエだな」

そう言ってシアとユエを出かけさせるハジメ。

『陣地作成』スキルを発動し、工房を作る。

「それじゃ始めるか」

ハジメは作業を開始した。

 

 ハジメが気が付いた時には陽がとっぷりと暮れていた。

集中しすぎたかと思った所に、ユエとシアが帰ってきた。

「お帰り。何か問題はあったか?」

「・・・・・・特に何も」

「特にありません」

「必要な物は全部揃ったか?」

「ん。大丈夫」

「ですね。食料もたっぷり買い込みましたし。それにしても宝物庫って便利ですね」

「あくまで俺の投影品だがな。一からとなると今の俺じゃ無理だ」

そう言いながら、ハジメはあるものを取り出す。

「そんでシア。こいつはお前のだ」

ハジメはそう言ってシアに渡す。

それは思った以上に重く、シアは強化の魔法をかけ手に持つ。

「な、なんですかこれ?」

「お前用の新しい戦槌だ。名は『ドリュッケン』。こちらでいうアーティファクトになる。

俺が作ったから神造兵装になるな」

「神造兵装?」

「文字通り神、もしくは星が生み出した兵装のことだ。通常のアーティファクトとは一線を画す代物だ。

使い方はこれに書いてあるよく読んどけ」

ハジメは疲れたから俺は寝ると言い、そのままベッドに倒れこんで眠ってしまった。

それを見て二人はハジメをそのまま眠らせることにした。

 

 翌日、快晴の中ハジメ達は町の出口にいた。

ハジメは後ろを振り返り、ユエとシアを見る。

「それじゃいくか」

旅の再開だ。



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修羅場

 ハジメがハウリア族を鍛えている時、ハジメが考え込み始めた。

「どうかしましたか団長?」

一人のハウリア族が聞いてくる。

「いや、お前達は訓練を続けろ。少々野暮用が出来た。ついでに渡すものもあるしな」

「・・・・・・私も付いて行く」

そう言いだしたのはユエであった。

「ユエ? シアはどうした?」

「・・・・・・一時休憩」

「そうか。じゃあ一緒に行くか」

「・・・・・・どこへ行くの?」

「俺と一緒に転移した奴らの所だ」

そう言ってハジメ達の姿が消えた。

驚くハウリア族。

ハジメは転移の魔術を行使しある場所へ向かった。

 

 その頃光輝達一行はオルクス大迷宮に近い、宿場町ホルアドにいた。

遂に七十階層に突入し、二、三日の休養を取ることになったのだ。

そのホルアド郊外にて香織が一人で魔物と戦っていた。

天職『治癒師』の彼女が郊外で戦っているのは、迷宮の魔物より遥かに弱く、

捕縛魔法の攻撃転化という難題をこなすには、うってつけである為だ。

しかし、すでに戦闘訓練は数時間が経過しており、香織はふらふらとしていた。

そして限界に達しディロスという魔物の拘束が解かれ、香織に突進していく。

「何をやっている」

その声と同時にディロス達が切り裂かれていく。

倒れそうになる香織を支える人物を見て驚く。

幻術でしか姿を見せなかったハジメだった。

 

 「全く一人だけで何をやっているかと思えば・・・せめて誰か一人位戦闘職に付いてもらえ」

「南雲君?・・・南雲君なの?」

「消耗しすぎだな。こいつを飲め」

そう言って香織に神水を飲ませる。

神水を飲ませるとたちまち香織は回復した。

「っ!? 南雲君!? 本物だよね!?」

「ああ。本物だ。と言ってもそうここに長くいられないがな」

「ハジメ?」

ハジメが声の方を見ると、雫や光輝達が立っていた。

「おう。元気そうだな。今回は幻術じゃなく本物だ」

「南雲。ここに来たということは檜山を・・・」

光輝達が警戒する。

「そうと言いたいが違う。渡したい物があって持って来た」

「渡したい物?」

光輝達が不審そうな顔をする。

「まずはこれだ」

そう言ってハジメは光輝に袋を投げる。

「これは?」

そう問う光輝にハジメが答える。

「俺がルーン魔術を刻んで作った指輪だ。防御力の上昇と体力が徐々に回復する機能が付いてる。

サイズは自動で調整される。ああ、檜山の分はないからな」

驚く光輝達を横目に今度は雫に声を掛ける。

「雫にはこいつだ」

そう言ってハジメは一振りの刀を投げ渡す。

「これは?」

「対魔性特攻を付与した俺が鍛えた刀だ。魔物相手には凄まじい切れ味を発揮する代物だ」

そう言われて刀を抜く雫。

その刀は非常に精緻で綺麗な刀だった。

「ありがとう」

「礼はいい。しかし・・・」

「・・・・・・全員弱すぎる」

そう言ったのはユエであった。

ユエを初めてみた光輝達は、ビスクドールの如き美しいユエの姿にため息をもらした。

「南雲この子は?」

光輝の問いにハジメは答えた。

「ん?。俺の恋人だけど?」

その瞬間周囲の温度が下がった。

発生源は香織である。

「南雲君? どういうことかな? 説明してもらえる?」

そう問われたハジメは思わず後ずさる。

香織は笑顔なのに眼のハイライトが全然仕事をしていない。

『直感』が逃げろと最大限警告を鳴らしていた。

そんな香織にユエが左手薬指の指輪を見せ、ふっと笑う。

こいつは敵だと認識したのだ。

さらに周囲の温度が下がる。

この時全員がユエの背後に龍を、香織の後ろに虎を幻視した。

誰か何とかしろとハジメは周囲を見るが、全員眼をそらした。

ええい。全員使えねえな。ああ、俺もかとハジメが思っていると、香織が声を掛けてきた。

「南雲君? その子の指輪は何かな? 説明してもらえる?」

香織は笑顔なのに眼は完全に冷え切っていた。

これはあかんとハジメは判断。

ユエを抱き寄せると転移の魔術で逃げた。

「転移魔法! そんな物まで使えるのか!? しかも無詠唱、魔法陣なしで!?」

騎士は驚愕する。トータスでは失われた魔法だ。

一方の光輝達は香織の発する空気に震えていた。

「・・・・・・今度会ったら問い詰めなきゃ」

そう言う香織の姿は、恐らく大迷宮のどんな魔物よりも怖く映っただろう。

 

「ふう。やばかった」

「団長! いきなり現れないで下さい!」

「ああ、すまん」

そう言いつつハジメは思う。これ次会うときヤバいなと。

・・・・・・考えないようにしよう。現実から眼を逸らすハジメであった。



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ライセン大迷宮

 ライセン大峡谷には死屍累々と魔物の死体が転がっていた。

その一番先では現在進行形で魔物の死体が出来上がっていた。

「いい加減に鬱陶しいな」

魔物の死体を作っているのはハジメである。

シャドー・ボーダーを走らせつつ、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開。

そこから武器を次々と射出し、魔物の死体を量産していた。

 

 ライセン大峡谷の入口からオルクス大迷宮の出口まで虚数潜航。

そこからさらに二日経った所である。

「所でハジメさん。ハジメさんの宝物庫ってどの位入ってるんです?」

シアがもっともな疑問を聞いてくる。

「石斧から恒星間宇宙船まで様々だな。数は知らん。勝手に増えるからな」

「何かサラッとおかしい物まで出てきましたけど?」

「過去から超未来の物まで入っているからな。人間は愚かだが、人間の作る物は素晴らしい」

「一度宝物庫の中、見せてもらえます?」

「蔵の中に入るのはいいが、へたに触るなよ。危ないのもあるからな」

そう言いながら王の財宝で魔物を撃ち殺すハジメである。

 

 そうして更に走り続けること三日。

今日も収穫はなく野営の準備をする。

ルーン魔術で魔除けの結界を張り、料理の準備を始める。

以前はルーン魔術や投影魔術で道具を作っていたが、

トータスにきてからこちらの鉱石や神代魔法を手に入れたことで、

ハジメの魔術は更に幅が広がった。

おかげで道具類もパワーアップし、ハジメとしては料理が楽になった。

いつものように晩御飯を食べ、雑談した後、就寝の準備をする。

そんな中シアが抜け出そうとしていた。

「どこへ行くんだシア?」

「ちょっとお花を摘みに」

「わかった。魔物に気を付けろよ」

そう言ってハジメは横になる。

しばらくすると、「ハ、ハジメさ~ん! ユエさ~ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

何事かとハジメは武器を取り出し、ユエと一緒にテントを飛び出す。

シアの所まで着くと、シアが壁の一部を指さす。

「・・・・・・は?」

壁にはこう書かれていた。

おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪(実際はさらにイラッとする文字で書かれています)

『直感』が嫌な予感を告げていた。

「・・・・・・これ別の意味でヤバイ気がする」

ハジメがオルクス大迷宮で感じたのとは別種のヤバさだ。

「でも入り口らしい場所は見当たりませんね。奥も行き止まりですし・・・」

そう言っていたシアが、いきなりくるんと回った壁に消えた。

「・・・・・・確定だな」

ハジメはそう言ってユエと一緒に中に入る。

すると黒く塗られた矢達が飛んできた。

すぐさま『王の財宝』で迎撃して叩き落とすハジメ。

中には部屋があり、中央に石板があった。

そこには女の子文字で書かれてあり、内容をみたハジメの感想は、この迷宮を作った奴は性格が捩じ捩じ曲がった奴だと分かった。

「・・・・・・シアは?」

「あ」

回転扉をもう一度回すハジメ。シアはいた。扉に縫い付けられて。

彼女の状態は記すまい。ただ、お花を摘みに行った途中だったとだけ書いておこう。

その後シアは石板をドリュッケンで何度も破壊した。

しかし、地面に書いてある文字を見てさらにドリュッケンを振るう。

「・・・・・・とりあえずここはオルクス大迷宮とは違う変則型のようだな」

「・・・・・・ん」

 

 それから数時間後、嫌な予感は見事に当たった。

まず魔法がまともに使えない。魔力分解作用が強い。

こうなるとユエは戦力にカウント出来ない。

ハジメもルーン魔術といった魔術系はかなりきつく、『王の財宝』をメインに使っている。

ここで有効なのは物理型のシアだが、彼女は完全にキレていた。

ハジメはシアをなだめつつ、マーキングとマッピングを繰り返していく。

最もハジメもそろそろ最終手段を使うことも考慮し始めていた。

いきなりハジメの足の床が沈んだ。

そして左右の壁から回転のこぎりが襲ってきた。

ハジメはすぐさま『王の財宝』を射出して破壊した。

「物理トラップもありか。厄介な」

「でも『王の財宝』って便利ですよね。咄嗟でも射出出来ますし」

「まあな」

最もこの中で一番不味いのはシアである。

ハジメはカルナの黄金の鎧と神殺しの槍を装備しているので、通常兵器で殺すことは不可能。

ユエは自動再生があるのでこれも問題なし。

シアが命の危機が高いのだ。

ガコン。

今度は段差が引っ込みスロープになり、ご丁寧にタールまで出て来た。

ハジメは『王の財宝』から宙に浮く宝具を取り出し、ユエとシアを掴んだ。

そうして下を見るとサソリの海である。

上に眼をやると、またウザイ文章が書いてあった。

 

 そして別の通路に入ると今度は天井落下であった。

その後どの通路もトラップだらけであった。

ひたすら進むと今度はゴーレム騎士達が待ち受けていた。

それを何とかしつつ、先に進むと何と最初の部屋であった。

しかもメッセージボードにはご丁寧に、迷宮は常に変化、マッピング、マーキングは無駄と書いてあった。

これを見て遂にハジメは最終手段の使用を決断。

「ユエ、シア。俺の宝物庫の中へ。最終手段を使う」

その言葉にハジメを見る二人。

「ここまでやった以上は覚悟は出来てるだろうな。ミレディ・ライセン。こういう方法もあるということを」

スキル『カリスマ』、『神性』、その他諸々のバフをオンにする。

そして王の財宝を開ける。

「二人とも中へ。へたに中の物に触るなよ」

「ハジメさん、何する気です?」

シアの言葉にハジメは笑顔で応じる。

「この迷宮を丸ごとぶっ壊す」

 



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天地乖離す開闢の星

 シアとユエが蔵の中に入ると見えたのはずっと続く廊下であった。

後ろを見るとこちらもずっと廊下が続いている。

廊下には等間隔でドアがあり、シアが全力で引っ張っても開かない。

何らかの魔術的措置が施されているようだ。

「う~ん。ここがハジメさんの宝物庫ですか? 殺風景な作りですね」

「・・・・・・ん」

ユエも同意した。

「いらっしゃいませお客様」

背後からの声に二人が振り向くと、二本のステッキが宙に浮いていた。

「どうも私、サファイアと申します。こちらは姉のルビーです」

「ルビーです。いやあ、ここに人が入るのはマスターの両親以来ですね~」

「・・・・・・魔法のステッキ」

「ええ。私達はそうです」

「あの、ここってハジメさんの宝物庫ですよね? それにしては宝物が見当たらないんですけど」

「それぞれの部屋に分けて保管しています。見れる所だけ見ますか?」

「・・・・・・ん」

「それじゃあまずはここの部屋ですね~。わかりやすく驚く部屋ですよ~」

そう言ってルビーは部屋の扉を開けた。

それを見てユエ達は絶句する。

その部屋にはうなるほどの金銀財宝がうず高く積まれていたからだ。

「いいですね~その表情! この部屋を見せるとこの顔になりますよね~」

「これ全部本物ですか?」

シアが震えながら尋ねる。

「本物ですよ~。まあ、マスターの持つ財のほんの極々一部ですが。こんな部屋がいくつもありますよ~」

 

 その時警告音が鳴り響いた。

『警告、警告。エアの出力制限解除。これにより世界にダメージが及ぶ可能性有り。繰り返す・・・』

「姉さん! マスターを止めて来ます! これは不味いです!」

「わかりました! 急いで下さい!」

サファイアもルビーも切迫した声で答える。

「ルビーさん? エアって何ですか? それにこの警告は?」

「エアは乖離剣というもので、天と地を分けたとされる物です! 通常地球なら抑止力というものが働いて、出力が制限されるんです!」

「・・・・・・でもここはトータス。つまり・・・・・・」

「ええ! 抑止力は働きません! 仮に全力全開で撃った場合、世界規模でダメージが及びます!」

その言葉に顔を青くするシア。

 

「マスター! それは危険です! 世界規模でダメージが!」

「安心せよサファイア。この迷宮を破壊する程度には抑える・・・行くぞ!」

「原初を語る。天地は別れ無は開闢と言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣!

星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の終着よ。死を以て鎮まるが良い――『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』ッ!!」

 

 放たれるは天地を分けた一撃。地球においては抑止力が働くほどの破壊力も、このトータスでは邪魔するものはない。

魔法を散らす仕掛けもこの一撃には全くの無力。世界規模でダメージが行くような一撃はいくら大迷宮といえど、耐えられるはずもない。

凄まじいまでの破壊エネルギーが荒れ狂い、大迷宮を破壊していく。そして最下層まで破壊エネルギーが到達したのを確認すると、

宝具を停止した。後に残るは大迷宮だった部品のみ。最下層だけを残し、完全に大迷宮を破壊しつくした。

そしてハジメは最下層に降り立ち、王の財宝を開け、ユエ達を出す。ユエ達は目の前の光景に絶句する。

「何ですかこれ・・・」

「・・・・・・・・・」

「見ての通り最下層まで迷宮を破壊しつくした。さて、後はあれか」

そこには巨大ゴーレムがそびえ立っていた。

「な・・・」

「な?」

「なんてことしてくれるのかなああーーーーーー!」

巨大ゴーレムの叫びが木霊する。

「この迷宮作るのにどれだけの時間と資材かけたかわかる!? それを完全に破壊して!?」

「黙れ雑種。神たる俺を怒らせた故よ」

この時のハジメはキレていた。一人称が神の時は通常、我なのに俺に変わっているのが証拠である。

「神? エヒト・・・じゃないね」

「異世界の神々の王インドラが子にして創世と滅亡を司る神が俺だ。エヒトとやらがクラスメート達ごと召喚したのだ。ミレディ」

「ああ。あれ神まで召喚したの? 馬鹿だね~って名前なんで知ってるの?」

「俺の千里眼に見通せぬものなどない。無駄話は終わりだ。こちらは元の世界に帰る為に神代魔法を求める。エヒトとやらはここの世界の人間が倒すべきものだ。

というわけで早速死ぬがよい雑種」

「脈絡なさすぎ! というか殺る気満々だよね!? でも総数五十体の無限に再生する騎士と私、全員倒せるかな?」

「ならば消してやろう」

ハジメは両腕の魔術回路へ過剰な魔力を加えて暴走。右手に黒色。左手に白色のエネルギーが集まる。

「ヘブンズ・フィール起動。万物に終焉を。『双腕・零次集束(ツインアーム・ビッグクランチ)』!」

疑似的なブラックホールを形成し、五十体の騎士を飲み込んだ。

「嘘でしょ!? 反則過ぎる!」

「後はお前だなミレディ。死に方は決まったか?」

「まだまだ!」

ハジメはミレディの攻撃を避けつつ呟く。

「核は心臓。アザンチウム・・・世界最硬の鉱物か。ならば・・・固有結界展開」

そして一瞬にして世界が塗り替わる。

「え!? 何これ!?」

「固有結界。術者の心象風景を形にし、現実に浸食させて形成する結界だ。これで終わりだ」

「此処に至るはあらゆる収斂。縁を切り、定めを切り、業を切り。我をも断たん無元の剣製(つむかりむらまさ)――即ち。宿業からの解放なり!」

時間や空間、因果ごと断つ一斬。いかにアザンチウムといえどこれには勝てず、真っ二つにされる。

ミレディ・ゴーレムの眼から光が消えた。

 

 「ふう。力を使いすぎたか」

流石に疲れの見えるハジメ。

そこにユエとシアが駆けつける。

「もうびっくりしましたよハジメさん」

「・・・・・・凄まじすぎる」

「だから宝物庫に入れたんだよ。危険だから・・・ッ!」

ハジメは咄嗟にミレディ・ゴーレムを見る。

「ああ、大丈夫試練はクリアしたから」

そこからはミレディ・ゴーレムの話だった。

残りの大迷宮の場所、全部の神代魔法を手にいれること、ハジメは絶対将来エヒトを殺すこと。

そう言ってミレディ・ゴーレムは動かなくなったのだが。

「で、ミレディ。さっさと神代魔法をよこせ」

ハジメが見逃すはずもなく、ミニ・ミレディから重力魔法を手に入れた。

その他、鉱石や指輪を手に入れた。

もっとよこせとにじり寄る三人。

本来ならトラップで三人を何とかするのだが、ハジメが最下層の床以外、完膚なきまでに破壊したため何も出来ない。

この為、根こそぎ三人に持っていかれ、迷宮だった場所にはシクシク泣く一体のミニゴーレムが残された。

 



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冒険者のお仕事

 「ハジメさん遅いですね。やっぱりやり過ぎましたか」

「・・・・・・でもあっちが悪い」

二人はフューレン支部の冒険者ギルドで待機していた。

ハジメはここの支部長と話をしていた。

大迷宮からブルックの町へ虚数潜航。数日町に滞在し、フューレンへ向かう馬車の護衛任務をこなし、

フューレンへ着いた。そして、ギルドに着いた早々、ギルドにいた人物に絡まれて、相手をぶちのめした。

やったのはシアとユエである。

その後、ここの秘書官から支部長へと相手が変わり、話し合いを続けていた。

 そこにハジメが降りてきた。

「ハジメさんどうなりました?」

「北の山脈地帯へ行くことになった。冒険者としての仕事だ」

「北の山脈地帯ですか?」

「ああ。そこで行方不明になっている貴族の三男坊を探すのが任務だ。

すでに麓の湖畔の町の紹介状や資料は受け取っている。行くぞ」

ハジメは語らなかったが、ステータスプレートや様々なやり取りを支部長と行い約束を取り付けていた。

このため、本来は向かわなくて良い仕事を引き受けたのである。

 

 街道を爆走している一台の車があった。

もちろんシャドウ・ボーダーである。

シャドウ・ボーダーの最大速度に近い速さで飛ばしていた。

「しかし、この車凄いですよね。キッチンにシャワー、トイレもついてますし」

「まあ、車じゃなく船だけどな。海には無理だぞ?」

「・・・・・・船なのに無理?」

「ユエ。あくまで虚数空間を潜る為の船だからな。海は無理だ」

「それであとどのくらいで着きます?」

「このペースなら後半日だ。日が暮れるまでには着くだろう」

「それで町の名前は?」

「湖畔の町ウルだ」

「今日はそこで一泊ですか?」

「そうだなシア。その貴族の三男坊ウィルには悪いが、明朝救助に向かう」

「・・・・・・千里眼で分かってる?」

「ああユエ。わかってるんだが・・・」

「どうしたんですかハジメさん?」

「恐らく魔物を恐れて出てこれない状況だ。とはいえ夜間戦闘は避けたい」

「じゃあ、明日ですね。ウィルさんには申し訳ないですが」

そう言いつつシャドウ・ボーダーを飛ばし、日暮れ前に宿屋に到着した。

 

二階に部屋を取り、ユエとシアと一緒に一階に向かう。

そしてテーブルの椅子に座りご飯を待っていると、隣のカーテンがシャッと開いた。

「南雲君!」

「・・・・・・先生?」

「南雲君・・・やっぱり南雲君なんですね? 生きて・・・本当に生きて」

「あー、雫達の所には姿を現したんですけどね」

「それは聞いてましたけど、やっぱり本人を見ないと。所でこちらの女性二人は?」

ああ、やっぱりその質問来たかとハジメは思った。

「金髪の方がユエ。兎人族の方がシア。俺の女です」

「南雲君」

「・・・・・・何ですか先生?」

「二股かけてるとはどういうことですか!」

「平等に扱ってますよ? 宝石類も同じ物贈ってるし」

「でもですね・・・」

「二人とも現在の状況を認めてるんで問題ないです。

さすがに他の人の眼もあるんで場所を変えましょう」

 

 さすがに騒がしかったのでVIP席へ移動となった。

食事をしながら話すハジメ。

「橋から落ちた後どうしたんですか?」

愛子先生が聞いてくる。

「あのまま最下層までいって、出口の魔法陣を発見して地上に出ました」

「なぜ、直ぐに戻らなかったのですか?」

「何故戻る必要が? 檜山を殺していいと?」

「・・・・・・・・・」

ハジメの言葉に黙る愛子。

「それに・・・・・・」

そう言ってハジメはユエとシアを抱き寄せる。

「愛する人が出来たんだ。そう簡単に戻れん。それに・・・」

騎士達を見るハジメ。その眼には亜人族に対する侮蔑が含まれていた。

「そこの騎士達はシアを侮蔑している。いい加減にしないと・・・・・・」

ハジメはスキル『カリスマ』に全開の殺意を乗せて発動した。

凄まじいまでの圧力に皆が息を出来なくなった。

「少し緩めるか。これで息が出来るだろ?」

ようやく息が出来たので皆息が荒い。

「殺されたい奴から来い。シアに何かしたら死ぬぞ」

ハジメの眼が本気だとわかり、皆黙る。力の差もわかったからだ。

 

 「話を変えましょう。南雲君はなぜ最下層まで行けたのですか?」

愛子の質問にハジメは嘘をつくことにした。

「そもそも俺は地球におけるグランドキャスターです」

「グランドキャスター?」

「セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、アサシン、ライダー、バーサーカーの七つのクラス。

その中でその時代最高峰の者がグランド・・・冠位になります。これは災厄の獣が出た時に対処する者達です」

「つまり南雲君は最高峰の魔術師?」

「ええ。マーリンから冠位を譲られました」

「マーリンってアーサー王の!?」

「はい。そうです。だから最下層まで行けたのです」

皆が絶句する。つまりハジメは地球最後にして最高峰の魔術師だったことになる。

「ちょっと待ってくれ。それならなぜ天職を魔術師にしなかったんだ!?」

騎士の一人が尋ねる。

「何故って、殴った方が早いでしょう? 呪文噛みますし」

そんな理由かよと皆が呆れる。

「そうですか・・・。所で南雲君は清水君を知りませんか?」

「探しましょうか?」

「でももう夜ですよ?」

「先生。グランドキャスターには条件があります」

「条件?」

「千里眼を持っていることです。これは過去、現在、未来、並行世界を見ることができます」

「そんなことが・・・」

「出来ます。例えば今日の先生の下着の色は紫とかですね」

その言葉に騎士と男子生徒が身を乗り出す。

「ちょっとなんでわかって・・・まさか!?」

「ちょっと過去を見ました。他には・・・」

「ストップ! 南雲君。デリカシーに欠けますよ!」

さすがに愛子が止めに入る。

「すいません。でも信じてもらえたでしょう?」

「それはまあ・・・」

「それじゃあちょっと探しますね」

そう言って千里眼を使うハジメ。その表情が険しくなる。

「どうしたんです南雲君?」

ハジメの顔が険しいことに心配する愛子。

「先生。清水は魔人族側へ寝返りました」

「「「「「!」」」」」

その言葉に全員が驚愕する。

「そんなまさか!」

「しかも狙いは先生の殺害です」

さらに全員が驚愕する。

「う、嘘ですよね南雲君?」

愛子の言葉にハジメは首を振る。

「残念ながら・・・」

その言葉に茫然自失の愛子。

皆も同じのようだ。

「先に全員に言っておく。ことここに至っては俺が戦う。身内の不始末は身内でつける」

「それは清水君を殺害するということですか?」

愛子が言葉を絞り出す。

「状況次第だ。どちらにしても戦わざるを得ない」

「それが南雲君が見た物ですか?」

「ああ。どちらにしてもまだ時間はある。覚悟だけは一応しておいてくれ」

そう言ってハジメ一行は二階へ上がる。

残された愛子達は重苦しい空気に包まれていた。

 

 夜中、愛子は自室で眠れずにいた。

それほどハジメの言ったことが衝撃的だからである。

だが、良い情報もある。

地球最高峰の魔術師であるハジメが参戦すると言ったのだ。

オルクス大迷宮を踏破出来るほどのハジメの参戦。

これほど心強いことはない。

「先生。夜中に失礼」

驚いてドアの方を見るとハジメがいた。

「ああ。これは幻術です。伝える事があります」

「伝えること?」

「オルクス大迷宮の『創造者』から伝えられた『この世界の真実』についてです」

そして愛子はその真実に驚くことになる。

「そんなことが・・・」

「先生が一番冷静に事態を受け止められると思いまして」

「では南雲君が戻らなかったのは・・・」

「そういうことです。それでは」

「あっ!ちょっと待って!」

「何か?」

ハジメが訝しむ。

「八重樫さんから『香織を何とかして! 胃に穴が空きそう!』って。

何があったんですか南雲君?」

「あー聞こえない。聞こえない」

そう言ってハジメは消えた。

 



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シャドウ・ボーダーにて

ご報告:私自身の体調不良と作成が煮詰まってきた(個人的に質に納得がいかない)為、
数日程休載いたします。ご了承ください。


 夜明け。

ハジメ達一行は北の山脈地帯へ行くために宿を出発した。

シャドウ・ボーダーで3~4時間といった所である。

そうして北門を目指していると複数の人影が目に付いた。

愛子と優花達六人の生徒だった。

「理由はわかるがついて来る気か?」

ハジメはちらと馬に眼をやる。

「南雲君。先生は先生としてきっちりと話聞かなければなりません」

「昨日以上の話は無いが・・・やむを得ないか」

先生の性格からどこまでもついて来るだろう。だったら連れて行った方がましと考えたのだ。

「連れて行くんですか?」とシア。

「やむを得ない。そういう性格の人だ」

そう言ってハジメは蔵からシャドウ・ボーダーを出す。

黄金の波紋からシャドウ・ボーダーが出ると、愛子達が驚く。

「南雲君。これは?」

「虚数潜航艇シャドウ・ボーダー。地球の魔術の塊だ」

地球の魔術という言葉に生徒達が驚く。

こんな物が作られていたのかと。

「中に乗れ。ああ、下手にスイッチ類は触るなよ。危ないからな」

そう言って中に入るハジメ。

そして、愛子達も乗せてシャドウ・ボーダーは走り出した。

 

 悪路をものともせずシャドウ・ボーダーは快調に走る。

生徒達は中が外から見たよりも広いことに疑問を覚えたが、

ハジメの魔術で拡張したの言葉に納得した。

また、宝具とはアーティファクトと似たような物であり、

神造兵装という物の存在は皆を驚かせた。

ハジメがそういった宝具類を大量に持っていることも。

 

そしてハジメと愛子の話は佳境を迎えつつあった。

千里眼で確認したハジメに対し、千里眼に懐疑的な愛子。

それならば真実を判定する宝具を使っても良いとハジメは言い出した。

「この天秤は嘘をつけば片方に傾く。それならば納得するだろう」と。

これを皆の前で見せ、有罪なら処断するとハジメは言った。

流石に死刑はと拒否する愛子に、殺そうとした以上、殺される覚悟は出来ているはずだとハジメ。

「こればかりは譲れない。絶対に裏切り者は処断する」

その眼は絶対に譲らないという意志に固まっていた。愛子はこれ以上の説得は無理と判断。

そこからは双方沈黙を保った。

 

「ところで・・・」

「何ですか先生?」

「南雲君、白崎さんに何かしましたか? 彼女、最近ボクシングの練習をしてるんです。南雲君を殴る為だって」

「・・・いえ、ユエを恋人だと紹介した位です」

冷や汗を流すハジメ。

「そうなんですか? 他に何かしませんでしたか?」

「・・・・・・左手に着けてる指輪を見せた」

二人の話に割って入るユエ。

愛子はユエの左手の薬指の指輪を見て察した。

「南雲君」

「はい、先生」

「おとなしく白崎さんに殴られなさい」

「それが先生の言うセリフか! ここは仲裁に入る所でしょう!」

「嫌ですよ! 修羅場確定じゃないですか! ここはおとなしく殴られなさい!」

「先生は俺に死ねと!? あの冷え冷えとした視線は殺す気ですよ!」

「じゃあ、おとなしく死んで下さい」

「それが生徒に言うセリフか! それなら檜山達を処断してもいいですよね!」

「それとこれとは話が別です」

「あんたそれでも教師か! ここは仲裁に入るべきでしょ!」

「じゃあ、みんなに聞いて下さい。」

「おい。誰か仲裁に入ってくれる奴はいるか?」

その言葉に全員が視線をそらす。中には憐れみの視線を送る者もいた。

「畜生!」

「あの・・・・・・」

「シア! 仲裁に入ってくれるか!」

「いえ。ハジメさん。その白崎さん、私のこと知ってます?」

「・・・・・・」

その言葉にハジメの顔色が真っ青から白に変わる。

北海道の雪原もかくやの白さだ。

人間、ここまで真っ白になるのかと皆を思わせた。

「・・・・・・てない」

ハジメがポツリと呟く。

「え? 何ですか南雲君?」

愛子が聞き返す。

「シアの事説明してねえよ、畜生!」

肝心なことが抜けていたとハジメが言う。

このままでは、本気で殺されてしまう。

「先生! やっぱり仲裁を!」

「無理です! もう完全に修羅場確定です! 誰が仲裁に入ろうとするんですか!」

「教師は生徒の為に身体張るものでしょう!?」

「これは南雲君の女癖の問題でしょう! おとなしく死んで下さい」

「言うにことかいてそれか! こっちにも色々と事情があったんです!」

「じゃあ、説明すればいいじゃないですか」

「言う前に拳が飛んで来ますよ! ・・・このまま逃げ続けるしか・・・」

「でも還るときに絶対会うわよ?」

「・・・・・・・・・・・・」

遂に押し黙ったハジメ。

そんなハジメに愛子が優しく声をかける。

「何か言い残すことはある?」

「・・・・・・死なないように祈って下さい」

完全に眼が死んだハジメが運転するシャドウ・ボーダーは目的地に近づいていた。



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黒竜

 北の山脈地帯

千メートルから八千メートルの山々が連なる山脈地帯。

だが異常なのはその山々だ。

夏の環境のような木が生えている山もあれば、

真逆の環境のような場所もある。

ハジメ達が到着したのは、秋の紅葉地帯である。

皆がきれいという中、ハジメだけが眼が死んでいた。

千里眼で探ったら香織に殴られる未来しか見えなかった為である。

 ハジメ達は山登りを始めた。

千里眼で場所はわかっている。そこまで歩くのだ。

およそ一時間で六合目に到達。そこで一時休憩となった。

原因は愛子達がばてたことにある。

ハジメ達との体力差が激しいのだ。

ある意味予想の範囲内だったので別に問題ではなかった。

ハジメは眼が死んだままだが。

「先に言っとく。動揺するな」

「どういうことですか南雲君?」

愛子が尋ねる。

「この先に冒険者の物と思しき遺留品がある」

そう言ってハジメは進み始める。

ハジメが進んだ方向には遺留品らしきものが散らばっていた。

ハジメはそれらを回収。さらに先に進む。

そうすると今度はブルタール・・・オークに似た魔物・・・に襲われた跡を発見した。

今度はハジメは川の下流方向へ向かう。

 

 そして滝に到着した。

「滝裏の洞窟に一人生きている」

「他の人達は?」

愛子が尋ねるがハジメは首を横に振る。

それに沈黙する愛子達。

「ユエ、頼む」

「――波城。――風壁」

そうすると滝と滝つぼが真っ二つに割れた。

そうして奥へ進んでいくハジメ達。

そして一人の青年を発見した。

生きていたのはやはりウィルだった。

詳細を話そうとしたウィルを遮り、事情は分かっていると伝える。

そして、生きろと。生きていれば生き残った意味があると伝えた。

 

 日暮れまで一時間、急ぎ山を降りることにしたのだが、黒竜がそこにいた。

体長は七メートルほど。それがいきなりブレスを吐いてきた。

ハジメは退避を呼びかけようとしたが、愛子達が間に合わない。

「『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!』」

7枚の光の盾が花弁のように展開する。

本来FGOには存在しない。その為原典のローアイアスを蔵から出した。

「ぐっ!」

だがその黒竜のブレスは凄まじいまでの攻撃力だった。

一枚一枚と割れていく。

(トロイア戦争で大英雄の投擲を防いだアイアスさえもたないのか!)

流石のハジメも焦りを覚えた。ハジメはともかく、愛子達がもたない。

その間にも一枚一枚割られてゆく。

「――禍天」

そこにユエの重力魔法が直撃。黒竜は地面に叩きつけられる。

これなら効いたと思いきや・・・

咆哮と共に即座に復活。ウィルに狙いを定めて襲いかかった。

「この・・・!」

ハジメは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開。竜殺しの逸話を持った宝具に絞り、射出した。

危険を感じたのか黒竜は全てを回避するが、またウィルに狙いを絞る。

「ユエ、ウィルを守れ! 先生はそいつら連れて退避しろ!」

ハジメは原典のヴィマーナを取り出し、空へ飛んで行った。

 

 戦場は空中へと移った。

ヴィマーナを駆り、竜殺しの宝具を射出するハジメ。

対して黒竜は追いかけたり、ブレスを吐くが、ヴィマーナのスピードには追いつけない。

次第に黒竜は傷を負っていく。

愛子達はその空中戦を呆然と見つめていた。

どう見てもハジメの乗り物は音速を越えているからだ。

ハジメはどこで仕掛けるか考えていた。

ならばとヴィマーナをユエ達の所へ着地させる。

やはりと言うべきかウィルを狙い攻撃を仕掛ける黒竜。

「ああ、そうだろうな」

そう言ってハジメは一振りの剣を取り出す。

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす――『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)』!」

これは効いた。

地面に墜落する黒竜。

ところが驚いたことに女性に変わった。

これに一同は驚愕する。

「こいつは・・・竜人族か?」

ハジメは頭痛を覚えた。幸運EX仕事しろと。

 

 ハジメは神水を飲ませたうえで、グレイブニルで身体を縛る。

いかに黒竜といえどグレイブニルは破壊できないだろう。

その上でハジメは金属バットを蔵から取り出す。

何をするかと皆が見ていると、黒竜の尻を持ち上げ、そこに思いっきり一本足打法からケツバットをかました。

「ぎゃあああーーーーーーー!」

竜の弱点であるお尻にケツバットは効いた。黒竜は眼を覚ました。

あまりの痛みに声も出せずにいる。

「知ってること全部話せ。次は釘バットでお尻にいくからな」

皆がドン引きする中、黒竜は話し始めた。

 

 要約すると異世界の来訪者について調べに来たらしい。

だが、途中でこの山脈で眠ってしまった。

そこに男が来て操られたという。

その後ウィル達を襲い、ハジメ達を襲った。

最もハジメのバルムンクは流石に効いたらしく、それで意識を取り戻したらしい。

「それは本当か?」

「竜人族の誇りにかけて嘘ではない」

「・・・・・・きっと嘘じゃない」

「ユエ・・・・・・?」

「竜人族は高潔で清廉。だからきっと嘘じゃない」

「ふむ。この時代にも竜人族のあり方を知る者がいるとは・・・」

「・・・私は吸血鬼族の生き残り」

「なんと! 吸血鬼族の・・・。三百年前に滅んだと聞いておったが・・・。

しかし、そこのハジメと言ったか? お主人間ではないな?」

それに愛子が反応する。

「何を言っているんですか! 南雲君は人間です。両親も普通の人でした!」

「いや、違う」

それに対し黒竜はキッパリと否定する。

「そやつの心臓。竜の心臓じゃ。そんな物普通の人間が耐えられるわけがない。

それにそやつ神性を抑えておるな? お主何者じゃ?」

その言葉に皆がハジメを見る。

ハジメはスキル『カリスマ』、『神性』を全開にし、話し始める。

「くく、良く気付いた。我は神々の王インドラが子にして、

創世と滅亡を司る神なり。よくぞ我が正体を見破った!」

「くっ! この神性。間違いなく神か! とんでもない者が召喚されたな!」

ユエとシアを除く全員があっけに取られる。

そしてあまりの圧力に全員が動けない。

「う、嘘ですよね南雲君?」

「本当だ。・・・本来人間として生を終えたかったのだがな」

それはハジメの本心であった。

水色の瞳が寂しさを現していた。

「さて、黒竜よ覚悟は出来ておろうな?」

とどめを刺すべくハジメが近づく。

それをユエが押しとどめた。

ユエの説得に折れたのはハジメだった。

自身がつくづく女、子供に甘いなと思う。

黒竜のグレイブニルを外す。

黒竜はティオ=クラルスと名乗った

ティオは今回の責任を取ると約束した。

そして、ハジメの千里眼は恐るべき物を見た。

「ふむ。不味いな。魔物は万単位だ。ウルの町まで後一日といったところか」

その言葉に愛子は混乱した。トラウマを抱えた生徒達、非戦闘職の愛子。

戦力的にどうにもならない。

「落ち着け」

静かにそれでいて威圧感のある声を出したのはハジメだった。

「忘れたか? 今回は我も参加すると。たかだか数万。滅してくれよう」

普通なら何を言ってと思うところだが、神たるハジメが言うのだ。

勝算があるのだろう。

「さて、町へ戻るぞ」

そういってハジメは全員を転移させた。

 



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ウル攻防戦

 愛子達からの情報によりウルの町は騒然となった。

役場にはギルド支部長、町の幹部、司祭達が集まっており喧々囂々たる有様である。

ハジメはやれやれといった様子で、言葉を開く。

「静まれ」

ハジメの厳かでありながら、威圧感のある声に皆が黙る。

「ここには豊穣の女神に、創世と滅亡を司る神たる我がいる。

故に落ち着いて議論せよ」

そう言い放ち全員を落ち着かせた。

「南雲君ごめんなさい」

「別に問題はない。それより、ふふ、生徒を戦場に参加させるのを嫌がっていた、

先生が我を戦場に投入するとは皮肉だな」

その言葉に愛子は言葉に詰まる。

「戯れだ。許せ。どちらにしても放置は出来まい」

「勝算はあるんですか?」

「ふふ。勝算が無ければ住民を退避させている。勝算があるからこそ戦うのだ」

 

 現在、ウルの町は土壁に囲われていた。ハジメが権能で作った即興の防壁である。

その土壁の上にハジメ達はいた。そこに愛子達がやってきた。

「先生か・・・。ティオを操っていた黒ローブの男を捕まえればいいんだな?」

「はい。お願いします」

「・・・・・・その結果どうなっても知らぬぞ」

「わかっています」

「承知した」

愛子の話が終わるのを見計らって今度はティオが話しかけた。

「お主に話が・・・・・・というより頼みがあるんじゃが聞いてもらえるかの?」

「何だ?」

「お主ウィル坊を送り届けたらまた旅に出るのじゃろ?」

「ああ」

「うむ。頼みというのはそれでな。妾も同行させてほしい」

「我らが行く先は困難な道。それでも同行するか?」

その覚悟はあるのかと全てを見透かすかのような水色の瞳がティオをとらえる。

「もちろんじゃ。それにのう・・・妾、自分より強い男としか伴侶として認めないと決めておったのじゃ」

「調査とかはどうするつもりだ?」

「問題ない。ご主人様の側にいる方が絶対効率がいいしの」

「まあ、それは後だ。来たぞ」

ついに魔物の大群がやってきた。

 

 「よくも集めた物だ。数は六万弱。到着まで後三十分」

「ハジメさん」

「・・・・・・ハジメ」

「ふふ。さて始めるか」

そう言って悪童のごとき笑みを浮かべるハジメ。

「聞け! ウルの町の諸君! すでに我らの勝利は確定した!」

ハジメは声を張り上げる。

「ここには二人の神がいる! 一人は豊穣の女神愛子様!

もう一人は創世と滅亡を司る我だ!」

住民がざわざわと騒ぎ出す。

「愛子様は『豊穣』と『勝利』をもたらす! 滅亡を司る我が剣となりて魔物を滅しよう!」

そう言ってハジメはエミヤ・オルタの銃を投影。

「I am the bone of my sword.---So as I pray, unlimited lost works.」

宝具を使用し、プテラノドンもどきを吹き飛ばしていく。

その後住民達を前にして言い放つ。

「愛子様、万歳!!!」

ぬけぬけとのたまった。

それは瞬く間に伝播してゆき、愛子様コールになった。

愛子自身の突き刺さる視線を無視し、魔物達に向き直った。

「それじゃあ始めるか」

 

 突如として砂埃が舞い始める。

「・・・・・・ハジメ何するの?」

ハジメだろうと推測しユエが問う。

「固有結界だ。大群には大群で対抗する」

「え!? 何ですかこの人達!?」

シアが声を上げる。

そこには完全武装した兵士達が多数現れた。

ハジメ自身もブケファラスに乗り、軍団の正面に立つ。

「ここに集うは一人の偉大なる王に率いられた猛者達!

さあ再び集え! 共に最果てを夢見た猛者たちよ! ここに刻む轍は我らの誉れ!

『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』! 蹂躙せよ!」

魔物の大群と王の軍勢が激突する。共に万の大群だが、

『制圧軍略』、『カリスマ』等を使用している、

ハジメの方が押していく。逃げ出していく魔物もいるが、固有結界内ではそれも叶わない。

この光景を町の人は呆然と見ていた。町の周囲が砂漠に変わり、万の兵がいきなり現れたのだ。

この光景には愛子達も呆然としている。

やったのはハジメだが規格外すぎる。これが地球最高峰の魔術師の力なのかと。

「さて、逃がすわけなかろう」

ハジメはブケファラスを走らせ、黒フードの男をブケファラスの後脚で蹴り飛ばす。

気絶した男のフードを剥ぐと、やはり清水であった。

「さて、先生はどうするかな?」

ハジメはため息をつかざるを得なかった。

戦はハジメ側の勝利に終わった。

「皆の者、勝鬨を上げよ!」

兵士達がその呼びかけに応じ勝鬨を上げた。

 

 ハジメ達は場所を町外れに移して、愛子達と合流した。

直接連行されてきた清水を見て愛子はショックを受けた。

「起きよ。面倒な」

ハジメは清水を蹴り飛ばし無理矢理叩き起こす。

そして清水が語ったことは、ハジメが千里眼で見たことと同じだった。

そしてハジメを見て喚きたてた。

「黙れ雑種」

ハジメからの凄まじい圧力を伴う言葉に黙り込む清水。

「本来貴様を殺しても良かったものを、先生に配慮して生かしたのだ。

そもそも貴様など眼中にない雑種。身の程をわきまえよ」

そう言って清水を見下ろすハジメ。

一方、言われた清水は顔を真っ赤にするも、ハジメの圧力に言い返せない。

 

 そして愛子が清水の説得中に事件は起きた。

愛子を羽交い締めにしたのだ。

そして、何かを取り出そうとするが、何故かあせる。

「探し物はこれか? 雑種」

ハジメが取り出したのは、十センチ程の針であった。

「たわけが。武器を隠し持ってないか調べるのは当たり前であろう。

それ、返すぞ雑種」

そう言ってハジメは清水に針を投擲する。

針は清水の額を刺し貫き、清水は崩れ落ちる。

そして今度は、ゲイ・ボルクを取り出す。

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!』」

そう言って愛子へ向かってゲイ・ボルクを投げる。

ゲイ・ボルクは愛子の横を通り、後方にいた魔人族に命中した。

「見逃すと思うか雑種が」

「南雲君! 清水君が!」

「ああ、そうだな。我が殺した」

「何も殺さなくても!」

「そうしなければ先生が死んでいたのだぞ? 戦場での甘えは命取りだ」

「・・・・・・」

「結果はどうなっても知らぬと言ったはずだが?」

「でも・・・・・・」

「そうだな。非難もされよう。殺したのは我だ。恨みもされよう。我がしたのだからな。

復讐にも答えよう。我はそれだけのことをしたのだからな」

ハジメはシャドウ・ボーダーを取り出す。

「先生の理想は幻想に過ぎん。だが、我のようになるな・・・心が折れぬようにな」

そう言ってユエ達全員を乗せ走り去った。

後には、愛子達と町の喧騒だけが残された。

 

 北の山脈地帯を背にシャドウ・ボーダーが街道を南に疾走する。

ハジメは運転をシアに譲り、外の景色を見ていた。後部座席に乗っているウィルが、ハジメに対し、少々身を乗り出しながら気遣わし気に話しかけた。

「あのハジメさん。あのままで良かったのですか? 特に愛子殿は・・・」

「あれでいい。俺がいない方がいいだろう」

「理由を教えてくれませんか?」

「理由?」

「清水という少年を殺したことについてです」

「敵だから・・・ではダメか?」

「それならば連れて来ないでしょう。あの場で殺した理由です」

「・・・・・・ハジメは一人で背負いこみすぎ」

ユエが会話に加わる。

「・・・・・・愛子を傷つけないようにするため。だからあえて悪役になった」

「それはどういうことでしょうかユエ殿?」

「・・・・・・あそこまで堕ちたら誰かが殺さなければならない。

でも愛子達では殺せない。だからあえてハジメが殺った」

ユエが説明するとこうだ。戦場で殺すことは可能だが、あえてしなかった。

改心する心が残っていればという希望をハジメも持っていた。

しかし、もはや清水は底まで堕ちていた。そのためハジメがあえて悪役になってまで、

清水を殺したと。

「ならばそう愛子殿に説明して・・・」

「あの精神状態じゃ不可能だ。それにこれでいいんだ。これで。

このことで先生が俺を殺そうとしても、それは受け入れるよ。

復讐という感情があれば生きようとするだろう」

そう言うハジメのその顔は寂しさに満ちていた。

そこにユエがハジメを包む。

「ユエ?」

「・・・・・・ハジメ、修羅に堕ちてはダメ。私もシアもティオもいる。

だから一人で背負いこまないで」

「・・・・・・ん」

ユエに身を委ねるハジメ。ハジメは神だ。だが、一割は人間だ。

これが壊れたら、ただの破壊するための機械になるだろう。

その危険性をユエは本能的に察したのである。

一行が次に目指す場所はフューレンである。

 




スキル
魂の灯火:EX
ハジメが守り通している人間としての灯火(じんかく)。
大切なものが増えることで、その輝きは強くなる。


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平和主義者

 フューレンに入ってすぐ冒険者ギルドにある応接室にハジメ達は通された。

待つこと五分、支部長のイルワが現れた。

ウィルとの再会を喜ぶイルワ。

そして、ハジメ達と会話を始めたが、驚いたことにウルで起きた騒動を知っていた。

「ずいぶんと長い耳をお持ちですね」

ハジメがそう応じると、イルワは理由を話した。

どうやら長距離連絡用のアーティファクトを用いたらしい。

そこからはステータスプレートの話に入った。

ここに記すまでもないが、全員が異常値である。

なお、ハジメのステータスは相変わらず一部を除き全て?である。

まあ、神をステータスで測ること自体無意味なのだろうが。

なお、ランクは全員金ということになった。

 

 その後ウィルを伴ったウィルの両親とも面会した。

面会は終始和やかに行われ、ウィルの両親はお礼を言って帰っていった。

「さて、シアと観光区へ行く約束だったな。しかし、買い出しはどうするか・・・」

「・・・・・・買い物は私とティオでしておく。シアを連れて行って」

「・・・・・・いいのか?」

「ん・・・・・・その代わり・・・・・・」

「代わりに?」

ユエはハジメの耳元で囁く。

「・・・・・・今夜はたくさん愛して」

ユエの言葉はハジメにとって破壊力抜群であった。

なおその夜、行為の前にシアとティオの気配に気付いたハジメが、

二人を大晦日恒例の番組であるタ〇キックを、二人の尻に見舞ったのは蛇足である。

 

 翌日、ハジメはシアと一緒にメアシュタットとという観光区の水族館に訪れていた。

そして出会ってしまった。ハジメの記憶の中にあるシー〇ンである。

ちなみに説明文では念話が出来、名前はリーマンであった。

それからしばしリーマンと念話で会話するハジメ。

傍から見ればシュールな光景である。

しばし会話した後、別れるハジメ。

数分後、リーマンが突然居なくなるという事件が発生したが、些末なことである。

 

 一方その頃、ユエとティオは買い出しのため、商業区を歩いていた。

話の中心はハジメとシアに関するものだった。

その時、建物の壁が轟音と共に破壊され、二人の男が吹き飛んできた。

もはや屍状態である。建物からは壮絶な破壊音が響き渡っており、

よく見ると黄金の波紋から武器が射出されていたりする。

やがて建物は音を立てて崩れた。

「やっぱり二人の気配か」

「・・・・・・ハジメ何やってるの?」

「ん? 人身売買の裏組織と喧嘩。というより拠点を潰して回ってる

ちょうどいい。一人では面倒だ。手伝ってくれ」

そうしてハジメは事情を説明し始めた。

 

「むう」

「どうしましたハジメさん?」

ハジメはシアと散策していたのだが、『直感』が引っかかり、『千里眼』を使用。

「・・・下水道に子供がいる。恐らく3~4歳」

「大変じゃないですか! 早く助けましょう!」

ハジメ達は移動を開始する。

そしてある地点で止まった。

「ここだな」

ハジメは地面に手をついて『錬成』を行った。

そういえばほとんど使わないスキルだなと思いつつ穴を開けた。

ハジメは子供を助け出すと穴を塞いだ。

「とりあえず別の場所に移動しよう」

ハジメは子供を蔵から出した毛布で包むと、

神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を出し、空中へ走り出した。

「この子、海人族の子ですね。どうして、こんなところに・・・・・・」

「まあ、まともな理由ではないのは確かだな。とりあえず宿に戻るぞ」

宿に戻ると少女は目を覚ました。ミュウと名乗り、とりあえずハジメ達はミュウをお風呂に入れた。

その間にハジメは服をパパっと作成。お風呂から出てきたミュウの髪を乾かす。

「ハジメさん、なんだかミュウちゃんに甘くありません?」

「・・・・・・昔、女、子供に甘いと言われたことはある」

落ち着いた所でミュウから話を聞く。

「・・・・・・裏オークションの類か」

ハジメは苦い顔をした。

「・・・・・・ハジメさんどうしますか?」

「本来なら保安署がベターだが・・・・・・」

ハジメは少し考えて告げる。

「俺達でミュウを連れて行こう。シア、ちょっとミュウを頼む」

そう言ってハジメは出かける準備をする。

「ハジメさんどこへ?」

「ちょっとその馬鹿共と話し合う。俺は裏の連中と違って平和主義者だから」

そう言ってハジメは出かけた。

 

 「・・・・・・まあ、そういうわけで話合い出来ずに拠点潰してるんだが数が多くてな。手伝ってくれ」

「よいぞ。で、場所は?」

「ああ、この地図の丸がついている所だ。千里眼で確認した。俺はオークション会場へ行ってくる」

こうして各自がそれぞれの場所を目指した。

ハジメはオークション会場の地下にいた。

子供達がいるのでこれが今回の商品なのだろう。

「何だてめえは!」

「邪魔だ雑種。目の前から消えろ」

警備していた男達を、王の財宝で吹き飛ばす。

そのまま牢の鍵を破壊。子供達を逃がす。

「さて、フィナーレは派手にいくか」

そう言ってオークションの舞台に立つハジメ。

「紳士、淑女の皆様。ようこそ会場へ。そしてさようなら」

そう言って蔵からM61A1バルカンを取り出し、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)を発動。

そしてぶっ放した。

たちまちの内に阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。

客は逃げようとするが、ハジメがあらかじめ張った結界の為に逃げられない。

客が全滅したのを見たハジメは、オークション会場から姿を消すと、

今度は空の上に転移する。

今度はFー15を蔵からだし、騎士は徒手にて死せずを使用。

オークション会場にミサイルと爆弾を全弾叩きこんだ。

見事なまでにオークション会場は吹き飛んだ。

「汚い花火だ」

ハジメは呟くと、Fー15を町の外に向けた。

 

「ところで何か言うことはないかい?」

フューレンの支部長イルワが頭を抱える。

建物の損壊、死者・行方不明者多数。

イルワが頭を抱えるのも無理はない。

そして、主犯であるハジメはというと、

「俺は裏の連中と違って平和主義者ですから」

平和主義者だから先手を打って潰しましたとハジメ。

「ミュウちゃんはどうするのかね?」

「俺達で送りますよ」

「では依頼という形で送還するよ」

「ありがとうございます」

子連れ狼ならぬ子連れ神の旅が始まる。

 



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ホルアド再び

 左手側のライセン大峡谷と、右手側の雄大な草原に挟まれながら、

虚数潜航艇シャドウ・ボーダーが、太陽を背に西へと走っていく。

現在はシアが運転している。性格が少々変わるという難があるが。

ハジメはミュウの世話を焼いていた。

すっかりパパ呼びされているが、前世ではこの位の子がいても不思議ではなかった。

元が子供好きもあって、すっかりパパ化してしまっている。

そして、ハジメ達一行は宿場町ホルアドに到着した。

本来なら素通りしても良かったのだが、フューレンのイルワから頼み事をされたので、

それを果たすために寄り道をしたのだ。

 

 「四ヶ月か・・・」

「・・・・・・ハジメどうしたの?」

「いや、迷宮で奈落に落ちてから四ヶ月。たった三文字だが長く感じたのさ」

「ふむ。ご主人様はやり直したいとは思わんのか?」

「ない。仮にもう一度同じことが起きても、同じルートを辿る」

明確な口調でハジメは言った。

「ほう・・・・・・なぜじゃ?」

「もちろんユエに会いたいからだ」

「・・・・・・ハジメ」

「・・・・・・冒険者ギルドに行こう」

若干の恥ずかしさを覚えつつも、ハジメは冒険者ギルドに向かった。

 

 冒険者ギルドに入ると、明らかに深刻な何かが起きており、皆ピリピリしていた。

こちらに殺意を向けて来たので、ハジメも凄まじいまでの圧を加えた殺意を叩きつける。

「今、殺意を向けたやつ、死にたいならすぐに消すが?」

ハジメがこう言うと、皆眼をそらした。

そうしてハジメは受付嬢の所に向かう。

「支部長はいるか? フューレンの支部長から手紙を預かっているんだが・・・・・・

本人に直接渡せと言われているんだ」

これがステータスプレートだとハジメは受付嬢に渡す。

「き、金ランク!?」

はあ~っとハジメは頭を抱える。今更だが個人情報をさらすなと思った。

「ああ。もうとりあえず支部長呼んで」

「は、はい。少々お待ちください!」

 

 五分も経たないうちにギルドの奥から猛スピードで走ってくる音が聞こえた。

ハジメには黒装束の少年に見覚えがあった。

「・・・・・・遠藤?」

「南雲ぉ! 助けてくれぇ!」

遠藤の尋常ではない様子に、ハジメは嫌な予感がした。

「っていうかお前・・・・・・冒険者してたのか? しかも金って・・・・・・」

「まあな」

「つまり迷宮から自力で生還。冒険者の最高ランクをもらえる位強いってことだよな?」

「そうなるな」

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! このままじゃみんな死んじまう!」

「落ち着け。状況がわからない。メルド団長はどうした?」

「迷宮に潜ってた騎士はみんな死んだ!」

「・・・・・・そうか」

ハジメはここまでの話で状況は相当切迫しているのがわかった。

ハジメが何が起こったか聞こうとすると、支部長が現れ、別室で話が始まった。

 

 「・・・・・・魔人族・・・ね」

ハジメが呟く。

対面のソファーにホルアド支部長のロア・バワビスと遠藤が座っていた。

「さて、南雲。イルワからの手紙でお前のことは大体わかっている。

随分と大暴れしたようだな」

「巻き込まれただけですよ」

「手紙には、お前の金ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限りの

便宜を図ってやってほしいという内容が書かれていた。

一応事の概要は掴んでいるがな。六万近い魔物を単独で殲滅。

半日でフューレンの裏組織の壊滅。お前が魔王だと言われても驚かんぞ」

「魔王? そんな者ではないですよ」

「すまないが、支部長からの指名依頼を受けてほしい」

「・・・・・・勇者達の救出、か」

「そ、そうだ! 南雲! 一緒に助けに行こう! 南雲の強さならきっとみんなを助けられる!」

「・・・・・・」

ハジメは即答しない。少し考えてこう付け加えた。

「受ける。が、檜山は対象外だ」

「な、なんでだよ! 仲間だろ!」

「仲間?」

ハジメは小馬鹿にした笑みを浮かべて応じる。

「仲間を殺そうとした奴が仲間? はっ、笑わせるな」

その上でハジメはこう言った。

「檜山を殺しても不問とする。これが条件だ。これが飲めないなら依頼には応じない」

「他の面で便宜を図る。それでもか?」

「ああ。これだけは譲れない。遠藤。この条件が飲めないなら無理だ」

「そ、そんなことできるわけ・・・・・・」

「じゃあ、この話はお終いだ。帰らせてもらう」

ハジメが席を立とうとした時、ロアが止めた。

「・・・・・・わかった。その条件で手を打とう」

「ロア支部長!? なんで!」

遠藤の抗議にロアが口を開く。

「お前はメルドが言ったことを覚えているか?」

「・・・・・・光輝だけは逃がすようにです」

「そうだ。勇者を失うわけにはいかんのだ。その為には他を切り捨てざるを得ない」

「ああ、勘違いするな。檜山以外は助けると言っているんだ。そこまで薄情じゃない」

「・・・・・・南雲、お前変わったな」

「変わるだろう。仲間が裏切ればな。ああ、清水も裏切ったから始末したぞ」

「な、何で・・・!」

「何で? ウルの町を魔物六万で攻めてきて、魔人族に寝返ったからだよ。

先生の殺害もしようとしたしな」

「そんな・・・・・・」

清水のした行いに愕然とする遠藤。

「今やクラスメート達を信用できない状態だ。だから合流しないんだよ」

これでわかっただろというハジメ。

「ロア支部長。ミュウを預かって下さい」

「わかった。気を付けてくれ」

「よし。いくぞ遠藤。さっさと案内しろ。でないと間に合わなくなるぞ」

これで檜山を殺す大義名分を得た。

これまでは王国の庇護があったため、手を出すのを控えていたのだ。

最も暗殺ならわけないのだが。正面から殺すと決めていたのだ。

ハジメは誰にも悟られないようにしつつ、ゾッとするほど冷たい笑みを浮かべた。

 



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ハジメ、死す

 時間も惜しいので、雑魚を王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を射出しつつ走り抜ける。

遠藤はハジメの攻撃方法に驚嘆した。

途中の魔法陣で転移しつつ、七十階層まで一気に走る。

 

 「さて、魔法陣を使って七十階層まで来たが、ショートカットする」

「へ? ショートカット?」

遠藤が疑問をぶつける。

「ちょっとハジメさん! まさか、またあれをやるつもりですか!?」

「当たりだ。何、威力は抑える。起きろ『エア』」

ハジメは『エア』を蔵から取り出す。

「ここがちょうどいい。遠藤少々揺れるぞ」

「原初は混ざり、固まり、万象を織り成す星を産む。死して拝せよ!

『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

ハジメはエアのエネルギーを真下に放出。

階層をぶち抜いていく。

そして、香織達がいる階層までぶち抜いて停止させた。

「ではいくぞ」

下へ落下するハジメ。シア達も後に続いた。

ちょうど戦闘の最中だったようだ。

その中に檜山を見つけた。

千里眼で地下牢から出されており、

迷宮攻略をしていたのは知っていた。

即座に殺したいが自重する。

まずは任務が優先だ。

「ユエ。連中の守りを。シアは騎士を見てくれ。

ここは俺一人で充分だ」

ハジメは『カリスマ』、『神性』をオンにする。

「さて、そこの女魔人族。疾く失せよ。そうしたら追わぬ」

女魔人族の返事は魔物の攻撃であった。

「馬鹿が。相手との格も分からぬか」

ハジメは宝具の準備を始める。

「ここに我が宿業を解き放とう。神と人の子として、罰を下す。見るがいい、これが崩壊だ。『破壊神の手翳(パーシュパタ)』!」

階層内を破壊エネルギーが荒れ狂い、シア達以外の人間は立っていられなくなる。

宝具が止まった時には、女魔人族も魔物も消滅していた。

香織達は呆然としていた。自分達が死にかけた相手を一撃で消し去ったからである。

 

 「シア。メルド団長の容体は?」

「神水が効いたので大丈夫です」

「そうか。それは良かった」

ハジメはそう言うと、ユエの方に向かう。

「迷惑かけて悪いな」

「・・・・・・ん。大丈夫」

「さて、では説教をしようか。天之河。お前なぜ敵なのに剣を止めた?」

「それは・・・・・・」

「我は『千里眼』ではっきり見たぞ。やはりアレ・・・殺人を経験してないな?」

「もしかしてあの時皇帝に勝てないと言ったのは・・・・・・」

「その通りだ。だから勝てないのだ。この言葉を送ろう。偽善者が」

「偽善者だと!?」

「殺人はどんな正義をふりかざそうが悪だ。魔人族側から見れば我々が悪だからな。

何故そのことに気付かぬ? 愚か者が」

「しかし・・・・・・」

「もう次は助けぬ。理想に溺れて溺死するがいい」

ハジメはもう光輝に興味を無くした。

 

「さて、我が救援依頼を受けた理由わかるか?」

その言葉に遠藤を除く全員が首をかしげる。

「簡単だ。檜山を殺しても罪に問わぬと言われている」

「「「「「!」」」」」

全員が驚愕する。

「何を驚いている。現に我は裏切った清水を殺している」

「なっ!」

光輝が絶句する。

「今回はギルド公認よ。神たる我を殺そうとした罪は重いぞ?」

「神?」

雫が疑問を呈する。

「・・・・・・神々の王インドラの子にして創世と滅亡を司る神。それがハジメ」

ユエの回答に全員が絶句する。

「じょ、冗談だよね?」

雫が声を震わせ話す。

「・・・・・・嘘じゃない。しかもインドの全神性、世界の英雄達も取り込んだ、神に造られた神。それがハジメ」

今度こそ全員が絶句する。

もはや神の領域を越えている。

とどめにユエはこう告げた。

「・・・・・・先に言う。ここにいる全員の攻撃を与えてもダメージゼロ。勝てない」

「さて、説明はここまでだ。どのように死にたい檜山? 選ばせてやろう」

ハジメは殺意を一気にむき出しにした。

その凄まじいまでの圧迫感に、皆がわかってしまった。どうやっても勝てないと。

檜山はもはや絶望で顔面が真っ白である。人間絶望するとここまで真っ白になるのかと思わせた。

 

 「待ってくれ!」

その時一人の人物が叫んだ。

「メルド団長。貴殿の発言は許可していない。だが、特別に許そう。申せ」

「発言の機会をいただき感謝します。檜山の行いを許してもらうことは出来ないでしょうか?」

「否。我を殺そうとした罪は重い」

「そこを何とか名誉回復の機会を与えていただけませんか?」

「・・・・・・よかろう。メルド団長には恩がある。それに免じ、一時預かりとする。だが、次はないぞ?」

「はっ! 重々承知致しております」

「そういうことだ檜山よ。次はない。わかったな」

檜山はこくこくと頷く。

ハジメは『カリスマ』と『神性』をオフにする。

「ふう。このしゃべり方は疲れる」

「・・・・・・ハジメお疲れ?」

「ああ。面倒だから一階層に転移するぞ」

そうして全員を転移させた。

 

 「パパ~」

ハジメを入口でミュウが出迎えてくれた。

この時ハジメは『直感』で香織が動いたのを検知。

(来た! 落ち着け。顔面一発でKOはないはず!)

見事に香織の拳がハジメの顎を捉えた。

(よし! 耐えた。これで・・・)

この見通しが甘かった。

宙に浮いたハジメの足を掴み逆向きにする。

パイルドライバーの態勢だ。

(あ、これ死ぬ)

一瞬で判断したが遅かった。

ハジメはそのまま頭から地面に激突。

地面に突き刺さった。

千里眼で殴られるのは見たが、プロレス技までは見ていなかったのである。

ふー、と満足気な表情の香織。

他の生徒達は神をも恐れぬ行為に恐怖した。

結局こうなったかというシア。

香織のKO勝利である。

 



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修羅場、再び

筆が乗らずに続きが中々書けない状態です。


 今やホルアドの町の入口は惨状に包まれていた。

攻撃魔法が飛び、拳が大地を抉る。

ユエと香織。女同士の一人の男を巡るバトルは激しさを増すばかりだ。

光輝達は香織怖さに近寄れず、ハジメは未だ気絶中だ。

ユエの後ろに龍が、香織の後ろに刀を持った般若が幻視され、

とてもではないが近づけない。

なぜこうなったのか? 話はハジメが香織にパイルドライバーを喰らった直後に遡る。

 

 「・・・・・・ハジメに何してるの?」

怒りをにじませたユエが香織に詰め寄る。

それに対して香織は怒りをにじませ答える。

「私は南雲君が好きよ。好きな男が女増やしてたら怒るでしょ?」

そう言ってシアとティオを見やる。

そう言った香織を見て、はっ、と見下すユエ。

「・・・・・・要は自信がない。私は特別。だから増えても気にしない」

その言葉に香織がピキッとキレる。

「横からかっさらった泥棒猫がよく言うわね」

「・・・・・・好きと言えなかったチキンがよく言う」

 

 そこからは戦いで語り合うことになった。

魔法を遠慮なくぶっ放すユエに、拳で殴りかかる香織。

魔法が大地を破壊し、蹴りが風圧を起こす。

「おい! ハジメは起きないのか!?」

原因であるハジメに止めさせようとする光輝。

「無理じゃ。当分目を覚まさん」

ハジメのダメージから無理というティオ。

「くっ!? 二人とも止め・・・」

「「邪魔!」」

止めに入った光輝が、香織の拳で宙に打ち上げられ、ユエの魔法で数十メートル飛んでいった。

これを見て誰も止めに入る者はいなくなった。

「おい、起きろ南雲! このままだと町まで破壊される!」

遠藤が必死にハジメに呼びかける。

「・・・・・・ご主人様、そろそろ狸寝入りも限界じゃぞ?」

「いや、無理。死ぬ」

「起きてんじゃねえか! いつから起きてんだよ!」

「遠藤。最初からだ」

「じゃあ二人を止めてくれよ! 止めなきゃ町がやべえんだよ!」

「さっきパイルドライバー喰らった俺に、また、喰らってこいと? 殺す気か?」

「神なんだから何とかなるだろ!?」

ハジメは眼をつむりつつ答える。

「神でも・・・・・・出来ないことはある」

「とにかく止めてくれ! もうハジメが行かなきゃ無理だ!」

「はあ・・・」

ハジメはため息をつきつつ、『カリスマ』、『神性』を全開にする。

「二人ともそこまでだ!」

ハジメは左手で香織の拳を止め、右手でユエの魔法を弾く。

「全く・・・二人とも少し頭を冷やせ」

二人に周囲を見てみろと促すハジメ。

もはやホルアドの入口周辺の地形は変わっており、ひどい惨状である。

「南雲君いつから起きてたの?」

「最初からだ」

「・・・ってことは私が南雲君を好きなことも・・・」

「聞いてる」

全く・・・自分のどこがいいのか? 考えてもわからないハジメである。

 

 「・・・決めた。私も南雲君についていく!」

香織が決然と言い出した。

「いや、待て待て。俺達の旅は危険で・・・」

「何か問題でも?」

ギロリとにらむ香織に眼をそらすハジメ。

とてもではないが否定など出来ない。

「そういうわけでよろしくユエさん」

「・・・・・・よろしく香織」

二人仲良く握手・・・ではなかった。

ユエの背後に龍が、香織の背後に刀を持った般若を皆が幻視した。

どう見てもバチバチである。

皆がハジメに憐れみの視線を向ける。

 

 「ミュウ、いい天気だなあ」

「うん。パパ。いい天気だね」

ついに現実逃避をハジメは始めた。

「ちょっと!? ハジメさん!? 現実から眼を逸らさないで下さい!」

「何を言っているシア? 俺は正気だ」

「いやいや! 今、現実から眼を逸らしてたでしょ!」

「それは違う。スルーしようとしただけだ」

「それ言い方変えただけでしょ! 潔く現実を認めて下さい!」

「私と旅するの嫌なわけないよね?」

香織の威圧感を伴った視線に、拒否など出来るはずもない。

一方のユエからは、コイツ連れてくのオーラが出ていた。

「雫、天之河のフォロー任せた」

ハジメは疲れた声で雫に頼む。

よく考えれば、いずれはこうなったのであるが、ハジメは恋愛に関しては前世は経験が少なかった。

いわゆる商売での女遊びは経験豊富だったが。今世では恋愛経験は異世界に来るまでなかった。

ハジメは各種の能力が高かった為、高嶺の花扱いだったのである。

ハジメは蔵からシャドウ・ボーダーを取り出し、皆を乗せた。

ハジメの背中は煤けていた。

目指すはグリューエン大砂漠にある、七大迷宮の一つ、グリューエン大火山。

ハジメ達は西に進路を取った。

 

 三週間後、ホルアドの町に愛子達が帰ってきた。

雫は先生との再会を喜び、ハジメ達について話した。

まず、ハジメが正式に異端者認定を受けたことだった。

雫は思う。誰を差し向けても無理だと。

仮にクラスメート達を差し向けても、今のハジメはユエ達の方が大切であり、

躊躇なく殺害を実行するだろう。

それを愛子に述べると、愛子も同意見だった。

「・・・・・・思えば南雲君に背負わせすぎだったのかもしれません」

「先生それは・・・・・・」

「南雲君が清水君を殺した時、ショックを受けました。でも、彼の去り際の悲しい瞳でわかったんです。

私達じゃ殺すことが出来ないから、あえて悪役になったんだと」

「ハジメは昔から色んな物を背負わされてきました。私達はそれに気付かずに頼りきってしまった」

「ええ。よく考えれば南雲君はみんなと同じ学生なんですよね。でも、何でも出来てしまう。

だから私も南雲君なら大丈夫と思ってしまいました。・・・南雲君の心の内を気付かずに」

「今のハジメは何を思って行動しているんでしょう?」

「南雲君から直接聞きました。夕食の後にみんなに話すけど。みんなが帰還できるように、方法を探しています。

・・・結局、全てを南雲君に背負わせてしまってる。私は教師失格ですね」

「そんな! 先生は頑張ってます!」

「いいんです。・・・南雲君は確かに人を殺してます。でもそれは大切な者を守る為にやってる。それが苦しくても。それだけの覚悟を持っている事に、私は気付けませんでした」

「・・・・・・・」

確かにそうだ。ハジメは色んな物を背負って生きてきた。それは救済者と言ってもいい位。

でもそんな茨の道、悲しすぎる。誰かが支えてあげないといつかは・・・・・・

そこまで思ってはっとする。

壊れたハジメはあらゆる物を破壊するだろう。創世と滅亡を司る神なのだから。

そしてこの世界は最悪の結末を迎えることになる。

「八重樫さんどうしました?」

先生が心配そうに見つめる。

「だ、大丈夫です」

(香織・・・ハジメを支えて。そうでないとハジメは・・・)

雫の思いは虚空に消えていった。



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幕間の物語:ハジメの前世

投稿するかどうか迷った話


 「ああ、これおいしいですね!」

「・・・・・・ん、おいしい」

「ふむ。これはおいしいのう」

「おいしい」

現在ハジメ達一行はグリューエン大火山に向けて野営中で、

ハジメが蔵から取り出した、神代の酒を飲んでいた。

そして程よくお酒が回ってきた時、シアが聞いてきた。

「ハジメさんは神なんですよね? その前は人間だったんですか?」

ハジメは一瞬硬直した後、「そうだ」と返す。

「じゃあ、ハジメさんの前世の話を聞かせて下さい。酒のつまみに」

「・・・・・・」

ハジメは少し黙った後、面白くないぞと前置きし話を始めた。

 

 「俺の家は貧しくてな。粟をおかゆにしたもので飢えを凌いでいた」

そう言って酒をあおる。

「そんな時に見つけた仕事が傭兵だった。口減らしもあって俺はそこに入った。

訓練はきつかったが、腹一杯飯が食えるのが幸せだった。そうして数年後俺は初陣を迎えた。

そこで戦場の洗礼を浴びたよ。人を初めて殺したのもこの時だ。

それから数年間戦い続けた。当時の団長は弱い方の味方をするという方針でな。

例えお金が安くても弱い方についた。おかげで正義の味方と味方からは言われるようになった。

その方針は俺が団長になっても続けた。しかし、味方に裏切り者がいてな。いわゆる『戦争屋』という、

戦争を長引かせようという奴さ。そのおかげで傭兵団は壊滅。解散となった」

 

 俺には人を見る目がなかった。

そう自嘲し再び酒をあおるハジメ。

「・・・・・・それからどうしたの?」

ユエが尋ねる。

「俺はフリーの傭兵となった。せめて団長の意志を継ぐという理想という嘘と共にな」

「嘘ですか? 理想は叶ったんじゃないんですか?」

シアが聞いてくる

「理想を叶えた、か。確かに俺は正義の味方とよばれたさ。

だが、実際はそうじゃない。生き残りたい。ただそれだけだった。

殺して、殺して、また殺して。

団長の意志を継ぐと嘘を言い、多くの人間を殺して、

無関係な人間の命なぞどうでもよくなるぐらい殺して、結果的に、殺した人間の数千倍の人々を救ったよ。

だが戦いが終わる事はついぞなかった。

生きている限り、争いはどこにいっても目に付いたもんだ。

次第に自分が何で戦っているのかさえ分からなくなった。」

そう言いきって、酒をあおるハジメ。

 

 「戦わなければ良かったんじゃないの?」

そう言ってくる香織。

「・・・・・・出来なかったのさ。すでに俺は正義の味方と言われていたしな。

もはや自分がついた嘘で自分の首を絞めていたのさ。それに、俺には戦う以外の生き方を知らなかった。

そして最後は、その助けた人々の中から、傭兵になった奴に裏切られ殺されたよ。

結局、俺は生き残ろうと足掻いて殺し続けた最低の男ということだ」

ハジメの言葉に全員が黙った。

シアは後悔した。人の過去を詮索するのは、時にパンドラの箱を開けてしまうことを。

「それじゃあ恋愛関係とかは・・・・・・」

「やめろ!」

話題を変えようとしたシアに、ハジメが怒鳴る。

これ以上の詮索は許さない。そういう意志が見て取れた。

「話を続けるぞ。死んだ後に本来俺は英霊の座に行くはずだった」

「英霊の座?」

シアが尋ねる。

「いわゆる英雄専用の場所だ。輪廻の輪から外れ、時に抑止力に使われたり、

聖杯戦争と呼ばれる戦争に呼ばれたりするんだ」

「ふむ。ご主人様。聖杯戦争とは何じゃ?」

「七騎の英霊とマスターが万能の願望器聖杯を巡って争う戦争さ。

基本的に七つのクラスに分けられる。俺ならアーチャー、アサシン、バーサーカーが該当する」

「ふむ。万能の願望器か。それは争うのう」

「そこに介入したのがインドラだ。インドラは俺の魂を加工し、現世へ送った」

「・・・・・・その意図はもしかして」

シアが尋ねる。

「・・・・・・現在の状況だ。何かが起こることは分かっていたがな」

まさか異世界召喚とはなと言い、酒をあおる。

「俺の話は以上だ。これ以上は何も出てこないぞ?」

 

 「じゃあ、ハジメさんの世界の事教えて下さい。シャドウ・ボーダーって他にもあるんですか?」

シアが話題を変える。その後は様々なことを話した。

こんな戦わずに済む穏やかな日々が、いつまでも続けばと思うハジメであった。

 

 



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グリューエン大砂漠

 魔人の王国――魔国ガーランド

荘厳な王城の廊下でフリード様と呼ばれる男とミハイルという男が話していた。

ミハイルという男の彼女であるカトレアが死んだと聞かされた為だ。

しかもウルの町での任務も失敗。担当のレイスも死亡したというのだ。

しかも勇者ではなく、イレギュラーただ一人にやられたという。

そして、その直後そのイレギュラーはオルクス大迷宮に向かったという。

つまりカトレアが死んだのはそいつが原因だということだ。

「レイスが死の直前に仲間に創世と滅亡を司る神、南雲ハジメと言い残した」

「つまりカトレアが死んだのはその男に!」

「恐らくそうだ。敵は強大。私がいない間の留守は任せた。私は大火山に向かい、

さらなる神代魔法を手に入れる」

「フリード様・・・・・・」

創世滅亡神と最強の魔人。奇しくも目的地は同じ。

勝利の女神が微笑む・・・いや、無理矢理でも振り向かせるのはどちらか・・・・・・。

 

グリューエン大砂漠は赤同色の世界だった。

四十度を越える環境である。

その中をシャドウ・ボーダーは走っていた。

シャドウ・ボーダーは冷暖房完備なので問題ない。

ここを普通に馬車で越えるのはキツイだろうなとハジメは考えていた。

 

 「香織。ハジメパパはやめてくれ。ミュウに言われるのはいいが、

流石に同級生に言われるとなんともなあ・・・」

シャドウ・ボーダーを運転しつつ、ハジメはミュウに水を飲ませている香織に、注意する。

そこにユエが香織に対抗してきた。

勘弁してくれと思うハジメ。

なにせこの二人がハジメの話題を始めると、ハジメの趣味趣向や性癖が暴露され、

高確率で流れ弾が飛んでくるのだ。

これがクリティカル率が高く、街中でやられた日には、ハジメの社会的地位が暴落間違いなしである。

もっともホルアドではすでにハジメの社会的地位は暴落しているが。

流石にシアがミュウの教育に悪いからと止めた。

ミュウはいつの間にか戻ってきたフォウを撫でている。

ハジメは死んだ魚の眼をしつつシャドウ・ボーダーを走らす。

 

 そこにティオが注意を促す。

三時方向に何かあるようだ。

サンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっているようだ。

関わらないようにしようとハジメがしていると、

「っ掴まれ!」

一気にシャドウ・ボーダーを加速させると後方からサンドワームが飛び出してきた。

さらに二体目、三体目と襲いかかってくる。

「ちっ!」

ハジメは『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を展開。

即座に射出する。

「シア! ミュウに見えないようにさせろ!」

射出しつつ爆散させ、サンドワームを全滅させた。

 

「ハジメくん! あれ!」

「・・・・・・白い人?」

とりあえずシャドウ・ボーダーを白い人に近づける。

「こいつは・・・」

ハジメはうめいた。

明らかに身体に異常があった。ウィルス系列かと疑う。

香織が浸透看破を行使する。これで使った相手のステータスが見れるのだ。

「魔力暴走状態?」

「外に魔力が排出出来ないの。このままだと内臓破裂も。天恵よ、ここに回帰を求める――”万天”」

香織は中級回復魔法を行使。しかし・・・。

「ほとんど効果がない。どうして?」

「ちょっと変わってくれ。俺がやる」

そう言うとハジメは弱体解除のスキルの中から、『奇蹟』を行使した。

「あ、治ってる」

香織はそう呟いた。

「香織。念のため俺達も診察しておいてくれ。空気感染の可能性もあるからな」

「うん。わかった」

幸い全員感染してはいなかった。

 

 男性は香織の大雑把な事情を聞いているうちに冷静さを取り戻したようだ。

助けた男性の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。

アンカジ公国の領主の息子だった。

彼は事情を説明した。

 彼と同じ症状の疫病が発生し、オアシスを調べたところ毒素が検出されたこと。

救援要請すべく王国へ旅だったことだ。

ビィズは深く頭を下げた。ハジメ達に力を貸してほしいと。

皆の眼がハジメに注がれる。

「・・・了承した。その依頼受けよう」

「では王都へ・・・」

「いや、ひとまずアンカジに向かいたい。原因がわかった」

ハジメは千里眼ですでに見通していた。オアシスが汚染された原因を。

訝しむビィズをシャドウ・ボーダーに乗せ一行は一路アンカジに向かった。

 

 砂漠の国でありながら水の都に見える。アンカジ公国はそういう美しいところだった。

ひとまずビィズの父親がいる宮殿に向かう。

ハジメ達は領主ランズィの執務室へ通され、ビィズの父親ランズィと話した。

「病人を一ヶ所に集めてほしい?」

「ああ。治療手段がある。だから一ヶ所に集めてほしい。

オアシスの汚染も見通しがついている」

ハジメの言葉に驚く皆。

「ハジメ君。何か治療手段があるの?」

香織が声を掛けてきた。

「宝具・・・こっちで言うアーティファクトを使う。

それなら治療できるはずだ」

そこからは早かった。感染している者を一ヶ所に集めた。

ハジメは宝具を開帳する。

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!

『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!」

そうすると旗から光が溢れ出し、患者に降り注ぐ。

そして治療が終わった。

 「よし。次はオアシスだな」

今度は一行はオアシスに向かう。

「やはりオアシスの底に魔物がいるな」

「魔物ですか!?」

ビィズが驚く。

「ああ。全員少し下がってくれ。退治する」

ハジメは金剛杵を蔵から取り出した。

「ハジメ殿それは?」

ランズィが尋ねる。

「父親の武器さ。それじゃいくぞ」

「牛頭天王、東方神、帝釈天の金剛杵、すなわち聖仙骨より造られし神の槍。

今こそ来りて、あらゆる敵を撃滅せん・・・・・・。『釈提桓因・金剛杵』!」

金剛杵が回転しつつ、雷撃を纏う。それをハジメは投擲した。

そうすると体長十メートルはあるスライム型の魔物の死体が現れた。

「なんだ・・・これは・・・」

ランズィの言葉が妙に響いた。

「これが汚染の原因だろ。恐らく固有魔法だ」

「水質はどうだ!」

ランズィが部下の一人に尋ねる。

「・・・・・・いえ、汚染されたままです」

「少し待て。俺が浄化しよう」

ハジメは『神性』と『カリスマ』をオンにし、水神ヴァルナの権能を使った。

「これで浄化できたはずだ」

「今度はどうだ?」

ランズィが部下に尋ねる。

「浄化されてます! 今度は大丈夫です!」

その言葉にランズィは胸をなでおろす。

なんにせよこれで水と疫病の問題は解決できたのであった。



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グリューエン大火山

 「しかし、あの魔物は一体何なのか?」

ランズィは訝しむ。

「恐らくは魔人族の仕業と推察されます」

「魔人族だと!? ハジメ殿、思い当たる節があるのか!?」

「すでに豊穣の女神と勇者が襲われました。今回もそれに関連するかと」

その言葉にランズィは考え込む。

「魔物の事は聞き及んでいたが対策が甘かったか・・・・・・」

ランズィは呻くように呟く。

「ハジメ殿。国民を代表して感謝する。ありがとう」

国王以下全員がハジメ達に礼をする。

「はは。気にしないでくれ。人の命がかかっていたしな」

ハジメは特に気にする必要はないといった感じだ。

「それで頼みがあるんだが、香織とミュウを預かってくれないか?

まだ無症状の患者の心配があるから、香織は残したいし、

ミュウを連れてグリューエン大火山に挑むのは無理があるからな」

「わかりました。厳重にお守りいたします」

「うん。わかったハジメ君」

「パパ、早く帰ってきてね」

「うん。わかった。いい子にしてるんだぞ」

こうして残りのメンバーでグリューエン大火山に挑むことになった。

 

 グリューエン大火山。

それはアンカジ公国の北百キロに存在する。山というより丘である。

この迷宮には挑むものが少ない。魔石が少なくうまみがないのと、

巨大砂嵐で覆われているためだ。

その中をシャドウ・ボーダーが進む。

「っちっ!」

ハジメがハンドルを切るとサンドワームが現れた。

それらをハジメ、ユエ、ティオが迎撃する。

そうして砂嵐を突破。シャドウ・ボーダーでは角度的に無理になったところで、

徒歩に切り替える。

ハジメの事前の予想通りと言うべきか砂嵐の眼の部分は暑かった。

今回ハジメはこれを予想して、皆に魔術礼装を配っていた。

耐熱仕様なので、皆比較的体調は良好のようだ。

頂上に着くと内部に続く大きな階段を発見した。

「いくぞ」

ハジメの号令のもと、階段を降りて行った。

 

 グリューエン大火山はとんでもない所だった。

通路や広間の至る所にマグマが流れている。

「これは厄介じゃのう」

「仕方ない。こうしよう」

ハジメは『カリスマ』、『神性』をオンにする。

「権能でこの火山を掌握した。これで間欠泉のようにマグマが出たりもしない」

ほう、と皆がハジメの力に納得する。

「しかし、相変わらずご主人様は規格外じゃの」

「はは。暑いしさっさと終わらせて帰ろう」

どんどん下に降りていくハジメ達。

途中、魔物を退治しつつ、一時休憩を取る。

水の膜で覆い、中を涼しくする。

「しかし、冒険者が挑戦しないのもうなずけますねえ」

シアの言葉にハジメが答える。

「ああ、リスクの割にリターンが少ない。これではな」

雑談しながら休憩を終え、さらに先に進む

 

 最下層まで降りたハジメ達が見たのは、マグマの海に浮かぶ小島だった。

「どうやらあれが解放者の隠れ家のようだな」

「さて、最奥を守っているガーディアンはどこにいるのかのう?」

そこにマグマの海や頭上のマグマの川から、炎塊が打ち出されてきた。

「散開!」

ハジメが指示を出し、各自が迎撃する。

ハジメは中央の島を目指そうと、マグマの海をモーゼの如く割ろうとしたが・・・。

「!。マグマの海に魔物がいる!」

そして、マグマの海から次々とマグマ蛇が顔を出した。

「恐らく核・・・魔石があるんだろうがそれを壊すしかない」

ハジメの言葉に全員がうなずくのと、敵が一斉に襲いかかるのは、ほぼ同時だった。

ティオがブレスで纏めて破壊する。

しかし、すぐに再生した。

シアが中央の島を指さし声を上げる。

よく見てみると、岸壁が光っており、その鉱石は百個あるようだ。光っているのは八個。

ティオのブレスで破壊した数と同じだ。

これを見たハジメ達は攻撃を開始する。

ハジメはフェイルノートを取り出し、直死の魔眼で核の位置を特定。

次々と破壊していく。

シア、ユエ、ティオもマグマ蛇を次々と破壊していく。

「これで、終わりだ」

ハジメはグリューエン大火山攻略の最後の一発を放った。

刹那――

頭上より極光が降り注いだ。

(!!。回避・・・無理だ!)

「ハ、ハジメぇ!!!」

ユエの悲鳴が響き渡った。

 



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グリューエン大火山2

諸事情により、投稿間隔が空きます。主な理由として体調不良、別作品の制作等です。
ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。


 「『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!』」

ハジメは回避は間に合わないと判断し、アイアスを展開する。

神の状態の為二枚破られたが、防御に成功した。

その間にユエ達にも攻撃が行われたが防ぐのに成功している。

同時に感嘆半分、呆れ半分の男の声が降ってきた。

「まさか私のウラノスの直撃を防ぐとは・・・。

女共もだ。まさか総数五十体の灰竜の直撃を防ぐなどありえんことだ。

貴様等何者だ?」

上空にはおびただしい数の竜と、一際大きい白竜に魔人族の男が乗っていた。

「雑種ごときに答える必要があるか? そもそもウルの町や、

オルクス大迷宮で襲ってきた魔人族のように奇襲でしか戦えぬ臆病者の種族には、

自分の名前さえ名乗れはしまい」

その言葉に男は一瞬眉をピクリと動かした。

「気が変わった。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

「くっくっくっ。愚かな道化よな。こういうのはどうだ?」

ハジメがそう言うと竜同士が同士討ちを始めた。

「何っ!」

フリードは竜をコントロールしようとするが効かない。

ハジメはスキル『竜の魔女』を使い、竜のコントロールを奪ったのだ。

「くっ!ならば!」

フリードは神代魔法を発動しようとする。

「させるか!。標的確認、方位角固定・・・・・・『不毀の極槍(ドゥリンダナ)』! 吹き飛べッ!」

ハジメの一撃に左腕を粉砕され、内臓にもダメージを負うフリード。

フリードは白竜の上から吹き飛んだ。

落下したフリードにハジメ達が近づく。

「さて、どうする?」

「この手は使いたくなかったが必要な対価と割り切ろう」

「何を言っている?」

フリードが小鳥の魔物に何かを伝えた直後、グリューエン大火山全体が揺れ、

マグマが荒れ狂い始めた。

「なにをした?」

「要石を破壊しただけだ」

「要石・・・だと・・・まさか!?」

「その通りだ。この火山は噴火した記録はない。それが抑えていたからだ。

大迷宮もろとも果てるがいい」

「馬鹿か?」

ハジメはそう言うと権能を行使する。

するとマグマが治まった。

「何をした貴様!?」

フリードが尋ねる。

「簡単なことだ。要石を修復した。それだけのことよ」

「馬鹿な! そんなこと人間族に出来るはずが!?」

「ああ。人間ならな」

「まさか、貴様本物の・・・・・・」

「その通りよ。貴様等の言葉で言えば異界の神というやつよ」

「くっ!」

フリードはグリューエン大火山攻略の証を使い、ショートカットの道を開き、

白竜と共に撤退した。

「追わぬのか?」

ティオが提案する。

「我等の最終目標は元の世界への帰還だ。必要以上に戦う必要はない」

ハジメはこの世界のことはこの世界の住人が解決すべきだと追わないことにした。

 

 「・・・・・・これは空間操作の魔法か」

どうやらグリューエン大火山における神代魔法は空間操作らしい。

「さて、帰るか」

「・・・・・・帰ろう」

「暑いし帰りましょう」

「そうじゃのう。もう用もないしのう」

全員賛成でフリードが使ったようにショートカットをして、アンカジへと帰還した。

 

「パパ~!」

ミュウがハジメを出迎えてくれた。

「ただいまミュウ。いい子にしてたか?」

「うん!」

ミュウの元気な姿にほころぶハジメ。

「お帰りなさいハジメ君」

「ただいま香織。他に症状が出た人はいるか?」

「ううん。大丈夫」

「そうか。それなら安心だ」

後はミュウをエリセンに連れて行くだけだ。

ハジメ達は数日アンカジで過ごした後、エリセンに向かい出発した。

 



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エリセン

なろうの方に恋愛のオリジナル小説始めました。作者名は鏡花水月です。
よろしかったらお読みください。


 ハジメ達はエリセンに到着した。

ハジメは町の入口の兵士にステータスプレートを見せ、

イルワの依頼書の他、事の経緯が書かれた手紙を提出した。

それを見た兵士は少々お待ちくださいと言い、数分後隊長を連れて戻ってきた。

隊長はサルザと名乗り、ハジメに敬礼をした。

「南雲ハジメ殿。依頼完了を確認した。しかし・・・」

「?。何か問題が?」

「その子の母親が怪我を負っている。精神的にも参っている状態だ」

「問題ない。こっちには最高の薬もあるし、治癒師もいる」

「む。そうか。ではよろしく頼む」

 

 「パパ、パパ。お家に帰るの。ママが待ってるの! ママに早く会いたいの!」

「そうだな。会いに行こう」

ハジメ達一行はミュウの家に向かう。

そんな中、香織が不安そうな小声で尋ねる。

「ハジメ君。さっきの兵士さんの話って・・・」

「精神の方はミュウが戻れば問題ないだろう。

怪我の方は香織、詳しく見てやってくれ」

「うん。任せて」

 

 そんな会話をしていると、通りの先で騒ぎが聞こえた。

どうやらミュウの母親――レミアという――がミュウを怪我を押して迎えに行こうとしているらしい。

ミュウが玄関口で倒れこんでいる二十代半ばの女性に向かって、、精一杯大きな声で、

「ママーーッ!」と言いつつレミアの胸に飛び込んだ。

周囲の人達から暖かい視線が注がれる。

ハジメもミュウを母親の元に戻せて良かったと思った。

そんな中、ミュウが母親の怪我に気付き、ハジメを呼んだ。

ハジメをパパと連呼するものだから、周囲は騒然である。

うわあ、行きたくないと思いつつも、仕方なくミュウの元に行く。

ハジメはレミアを家の中に運び、香織を呼ぶ。

香織が診察すると、足の神経が傷ついてはいるが、香織の回復魔法で治るとのことだった。

ただ、デリケートな場所なので、後遺症なく治療するには時間が掛かるとのことだ。

ハジメは最初はスキルか宝具を使うか考えたが、やめておくことにした。

治癒専門の香織がそう言う以上、下手には使えない。

香織が治癒をしている間に、ハジメ達は今までの経緯をレミアに伝えた。

全てを聞いたレミアは、ハジメ達に何度もお礼を繰り返した。

そうしているうちに香織の治癒も一段落ついたため、

宿を探しに行くとお暇しようとするハジメに、

レミアは自分の家を使って欲しいと訴えた。

レミアの元に届けたら少しずつミュウから距離を取ろうと考えていた旨をハジメが伝えると、

レミアは、お別れの日とは言わず、ずっとパパでもいいですのよと笑みをこぼした。

ハジメは周囲の温度が冷たくなっていくのを感じた。

冗談でもやめてくれというハジメ。

だが、レミアはうふふと微笑んで本気とも嘘ともつかない表情だ。

あれ? ここ南極だっけ?

周囲の空気の寒さに嫌な汗が出るハジメ。

その後もひと悶着あり、深夜には一応の落ち着きをみせた。

明日からは大迷宮攻略に向けて、様々な準備をしなければならない。

そして、残り少ないミュウといられる時間も。

そう思いつつ、ハジメは床についた。

 

 それから五日。準備を万全にしたハジメは遂にメルジーネ海底遺跡の探索に乗り出した。

「そういえばハジメさん。海に潜る手段は?」

シアが桟橋で聞いてくる。

ハジメは無言で蔵から次元境界穿孔艦ストーム・ボーダーを取り出した。

「え? なにこれ? 潜水艦?」

香織がハジメに聞いてくる。

「次元境界穿孔艦ストーム・ボーダー。シャドウ・ボーダーをコアユニットとしている。

魚雷や対艦ミサイルも発射可能だ」

「ふむ。これは地球の魔術のみで作られているのかのう?」

ティオが聞いてくる。

「ああ。正確には少し違うが概ね合っている」

「地球の魔術ってこんなものまで作れるんだね」

香織が感嘆の声をあげる。

「操作はどうするんですか?」

シアが聞いてきた。

「俺の分身体・・・性別や見た目が異なるがそいつらが操作する。ちなみに俺がキャプテンだ。

とりあえず乗ってくれ」

そう言ってユエ達を船に乗せるハジメ。

ミュウとレミア。そして他の海人族に見送られ、次元境界穿孔艦ストーム・ボーダーは出港する。

異界の海。そこには何が待ち受けているのか。

気を引き締めるハジメであった。

 



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メルジーネ海底遺跡

 エリセンから西北西に三百キロメートル。

メルジーネ海底遺跡の存在する場所だ。

ポイント周辺の水深が幾分浅いことはソナーとカメラでわかった。

とりあえずミレディの教えに従い、月が出る夜を待つことにした。

今はちょうど夕方の頃。地平線に太陽が半分沈んでいる。

太陽の光が伸び、海の彼方まで続いている。

ハジメは思った。このストーム・ボーダーなら太陽の光を辿り、

地球へ帰還出来るのではないかと。

馬鹿な考えだと思い、苦笑する。

いかにストーム・ボーダーといえどもそれは無理だ。

 

 「どうしたの?」

そんなハジメの様子に気付いて声をかけてきたのは、香織だった。

先程まで船内でシャワーを浴びていたのである。後ろにはユエ達もいる。

「・・・日本を思い出していた。こういう光景は地球と変わらない」

ハジメの言葉に同意する香織。

「だが、もう元通りにはいかないな。良い意味でも悪い意味でも」

ユエ達を見つつ、呟くハジメ。

良い意味はもちろんユエ達に出会えたこと。

悪い意味はクラスメートを殺したこと。

ハジメは瞑目する。

僅かの間にあまりに変わってしまった。

仮に地球に帰れたとしても、元通りとはならないだろう。

こういう時は酒に限るのだが、あいにく迷宮攻略をしなければならない。

その時、香織やユエ達がハジメの周りに集まる。

「・・・・・・ハジメ。一人で抱え込まないで。みんなで分け合う」

ユエがハジメを見て呟く。

「そうだよ。喜びも悲しみもみんなで分け合おう」

香織がそう言った。

シアやティオも同意する。

ハジメは苦笑する。

ハジメにとってここにいるみんなは大切な者だ。

それを奪おうというのなら、何者だろうと容赦はしない。

ハジメは固く心に誓った。

陽が沈むまで、ハジメ達は甲板で寄り添いあっていた。

 

 陽が沈み月が現れるとハジメは懐からグリューエン大火山の攻略の証であるペンダントを取り出した。

ペンダントを月にかざすと変化が現れた。

ペンダントの穴開き部分に月の光が溜まっていくのである。

そしてそれは、海面のとある場所を指し示した。

女性陣はその神秘的な演出にため息をもらした。

いつまで発光しているかわからないので、早速ストーム・ボーダーで潜航する。

その場所は海底の岸壁地帯だった。

昼間にも調べた場所である。

ストーム・ボーダーが近寄り海底の岩石の一点に、ペンダントの光が当たると、

岸壁の一部が左右に開きだし、その奥には暗い道が続いていた。

ハジメはクルーに進むよう指示。

ストーム・ボーダーは暗い洞窟を進んでいく。

ハジメ達はもしストーム・ボーダーがない場合を話していた。

普通に考えれば超一流の魔法使い数人が必要だ。

この中だとハジメとユエが挑戦可能となる。

ユエは魔法で。ハジメはスキルと権能で挑戦することになる。

これは気を引き締めてかかる必要があるとハジメは考えた。

 

 するとその直後、横殴りの水流がストーム・ボーダーを襲った。

「キャプテン! 一定方向に流されています!」

「進路このまま! 船体を水平に保て!」

ハジメがクルーに命令し、船体を水平に保つよう指示を出す。

そして、そのまましばらく進んでいると、ソナー員から報告が届く。

「ソナーに感! 数は多数! 敵と思われます!」

「魚雷戦用意! 全門発射!」

ハジメが魚雷発射を命じ、魚雷発射管から複数の魚雷が発射される。

「命中まで三十秒!」

クルーが時計で時間を測る。

そして・・・・・・。

「弾着、今!」

魚雷が敵を吹き飛ばした。

「敵性体全滅した模様!」

「引き続き警戒を厳と為せ」

クルーの報告に、ハジメは指示を出す。

その後、度々出て来る敵を魚雷で吹き飛ばしながら進む。

そうしてしばらくすると、クルーから報告が入る。

「キャプテン。マッピングの結果、どうやら我々は洞窟を一周したようです!」

その言葉に皆が顔を見合わせる。

今度は何か見落としがないか、調べながら進む。

すると、五ヶ所にメルジーネの紋章があった。

ハジメは先程のペンダントを翳してみる。

すると、紋章が光輝いた。

残りの紋章にも同じことをすると、ついに洞窟の壁が真っ二つに分かれる。

何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。

ハジメはストーム・ボーダーを前進させる。

すると突然の浮遊感と共に、一気に落下した。

全員が悲鳴を上げる。

そして、ストーム・ボーダーは地面に叩き付けられた。

船内にも衝撃は伝わり、クルーの中には椅子から落ちる者もいた。

ハジメ達の中で一番頑丈でない香織が呻き声を挙げる。

「大丈夫か香織?」

「だ、大丈夫。それより、ここは?」

船内から外を見ると、外は海中ではなく空洞になっているようだ。

「被害報告!」

「ソナー異常なし!」

「こちら機関室。異常なしだ!」

「船体に損害なし!」

どうやらストーム・ボーダーに異常はないようだ。

周囲に魔物の反応も無かったので外に出る。

ストーム・ボーダーをハジメは蔵にしまう。

ここからが本番のようである。

さて、ここはどんなコンセプトで作られている迷宮なのか。

今までの迷宮以上の難易度になりそうだとハジメは思った。



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メルジーネ海底遺跡2

 洞窟の奥に見える通路に進もうとユエ達を促す寸前でハジメがユエに呼びかけた。

「ユエ」

「ん」

その一言でユエが障壁を展開する。

直後、ウオーターカッターのごとき水流がハジメ達に襲いかかった。

香織以外の皆に動揺はない。

突然かつ激しい攻撃に、香織がよろめく。

それをハジメが支えた。

「ご、ごめんなさい」

「気にするな」

そう言われて香織は思う。

自分は足手まといにしかならないのではないか?

その思いが香織の胸中をよぎる。

「どうした?」

「えっ。な、何でもないよ」

「・・・・・・そうか」

香織は咄嗟に誤魔化し、ハジメは特に何も言わない。

そして香織は気が付いた。

ユエがこちらを見ていることに。

女としてのプライドで、こちらを見るユエを睨み返す。

その間にティオが火炎を繰り出し、天井を焼き払う。

その正体はフジツボの魔物だった。

魔物の排除を終えると、ハジメ達は奥へ進む。

通路は先程の部屋よりも天井が低くなっており、

海水は膝上ほどまであった。

ハジメは蔵からボートを出し、それを漕いで進む。

途中魔物が出て来るが余裕で対処出来る。

「弱すぎる」

ハジメの呟きに香織以外の全員が頷いた。

今までの迷宮の経験からしたらおかしいのだ。

その答えは通路の先にある大きな空間で示された。

 

 「なんだ・・・?」

半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。

シアがその壁を壊そうとドリュッケンを振るった。

だが、壁は壊れず、その飛沫がシアの胸元に付着した。

付着した部分がどんどん溶けていく。

ティオが咄嗟に炎で焼く。

「また来るぞ!」

今度は天井部分から無数の触手が襲いかかってきた。

ユエが障壁を張り、ティオとハジメが炎で焼き払う。

「不味いな・・・。このゼリー魔法も溶かすようだ。炎が勢いを失う」

障壁もじわじわと溶けている。

そして、遂にゼリーを操っている魔物が姿を現した。

それは十メートル程もある巨大なクリオネだった。

全身から触手を飛び出させ、頭部からは無数のゼリーの飛沫が飛んだ。

「ユエも攻撃をして!防御は私が!――”聖絶”!」

それにユエも頷き、ティオ、ユエ、ハジメの炎が巨大クリオネに直撃し、爆発四散する。

「まだだ! これは・・・。不味い!」

「どうしたのじゃ、ご主人様?」

「奴には魔核がない! ここは奴の腹の中だ!」

その言葉と同時に巨大クリオネも本気を出してきた。

「一時撤退だ! 地面の下に空間がある。覚悟を決めろ!」

全員の同意の返事を聞いたハジメは、『エア』を使用。

地面の亀裂を更に広げる。

地面に大穴が開いたため、海水が一気に流入する。

全員が大穴に流されていった。

 

 「全員無事か!?」

岸にたどり着いたハジメが皆の無事を確認する。

「・・・・・・ん。大丈夫」

「大丈夫ですぅ~」

「大丈夫だよハジメ君」

「全く、ご主人様がいなかったら、全員バラバラになっておったぞ」

ティオが愚痴るのは訳がある。

ハジメ達が落ちた場所は、巨大な球体状の空間で、何十箇所にも穴が開いており、

その全てから海水が噴き出し、あるいは流れ込んでいて、まるで嵐のような、

滅茶苦茶な潮流となっている場所だった。

このためハジメは『神性』と『カリスマ』をオンにし、水神ヴァルナの権能を使った。

瞬く間に潮流が治まり、『千里眼』で魔法陣の位置を特定し、一つの穴に皆が入っていったのである。

「それと全員服を着替えてくれ。俺は後ろを向いてるから」

そう言って後ろを向くハジメ。

女性陣は自分の服が透けているのに気付き、宝物庫から替えの服を出して着替える。

女性陣が着替え終わった後、ハジメ達は深部を目指して探索を開始した。

 

その後しばらく進み密林に入る。密林を抜け出た先は船の墓場であった。

夥しい数の帆船――戦艦の残骸が横たわっていた。

どの船も激しい戦闘跡が残っていた。

そして、ハジメ達が墓場の中腹に入ると起こった。

空間がぐにゃりと曲がり、ハジメ達は船の甲板に立っていた。

「固有結界・・・いや、空間魔術の類か?」

ハジメは起きた出来事に当たりを付ける。

そして、二国の何百隻もの船が双方共、魔法を撃ち合う。

そして、ハジメに直撃コースで炎弾が飛んできた。

ハジメは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で迎撃したがすり抜ける。

「何ッ!」

「待って、防ぐから――”光絶”!」

香織が障壁を展開し炎弾を防ぐ。

ハジメは確認のため、近くの炎弾に王の財宝を打ち込むもすり抜ける。

ならばと王の財宝から魔杖のみを選択。魔術を打ち込む。

今度は破壊できた。

「なるほど・・・。実体を持った幻術で魔法しか効かないか」

「ふむ。そうなるとシアは戦えんの」

「香織。回復魔法はどうか試してみてくれ」

ちょうど怪我をした人物が出たので試してみると、消滅した。

「やはりか・・・・・・」

「今、私、人を殺し・・・・・・」

「香織。これは実体を伴った幻術だ。気にするな」

「ハジメ君・・・・・・。うん、そうだね。ごめんなさい。

ちょっと取り乱しちゃったけど、もう大丈夫」

「・・・・・・」

香織の言葉に黙るハジメ。

ハジメは何となくだが察していた。

 

 そのうち一部がハジメ達に襲いかかって来た。

数もどんどん増えていく。

「各自、戦闘開始! シアはユエの側に! 香織もここでは回復魔法も強力な攻撃だ! 攻撃に回ってくれ!」

こうして魔法を行使した戦闘が始まった。

言葉の端々からこれが宗教戦争だとハジメは理解した。

ハジメの顔が歪む。

前世でもこれが多かった。

信仰と宗教は別物なのだ。

宗教が絡むと、人間は狂信的に戦う。

中東での戦争がわかりやすい。

一方でハジメは香織を気に掛ける。

その戦う姿勢は気丈であるが・・・・・・。

その後二国の大艦隊は、ハジメ達に殲滅された。



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メルジーネ海底遺跡3

改めて自分の書いた物を読み返すと、こんなの書いたっけと記憶がないのがあったりします。


 「げほ、ごほ、おえ」

「ほら、我慢するな」

現在、女性陣全員が戦闘が終わった直後から吐き戻していた。

それぞれの背中をさすって回るハジメ。

そして、ある程度のところで治まり、ハジメは飲み物を渡す。

「一旦ここで休憩だ。俺も魔力を消費したしな」

そう言って深呼吸するハジメ。

竜の心臓があるとはいえ、魔力は無限ではないのだ。

「ハジメ君は強いね」

香織が呟く。

「?」

「だってハジメ君は平気じゃない」

「・・・・・・前世で何度か経験したよ。

俺だって平気じゃない。慣れてしまったんだ」

そう言って香織達を見る。

「お前等の反応が正常だ。俺はどこか壊れているのさ。

だから、慣れるな。俺のようになるな」

自嘲気味に語るハジメ。

そして話を切り替える。

 

 「香織。お前を見てて思ったが、ユエ達に劣等感を抱いているだろ?」

ハジメの言葉に香織が言葉を失う。

「それは間違いだ。もし、俺がミュウの母親レミアの脚を治していれば後遺症が残っていたはずだ。あの時、香織がいたからこそ後遺症無しに治ったんだ。

それにこの大迷宮でも活躍してる。劣等感を持つ必要はない。ユエは俺にとって特別だが、

俺にとってここにいる全員が仲間、・・・いや家族のように大切なものだ。

それに香織が言ってただろう。喜びも悲しみも分け合おうと。

その言葉が俺は嬉しかった。だから皆で乗り切ろう」

そう言い切るハジメ。

香織はハジメが言った言葉の意味を咀嚼していた。

 

 「行くぞ。目的地は墓場の最奥にある豪華客船だ」

ハジメ達一行は豪華客船だった物を目指す。

香織は未だ考え事をしているようだ。

言うべき場所を間違えたかとハジメは思う。

せめて大迷宮攻略後にしておけば良かった。

気まずい雰囲気のままだが、今は迷宮攻略に集中だと思い直す。

ハジメ達は豪華客船の最上部にあるテラスへ飛んだ。

すると周囲の景色が変わり始める。

「全員気をしっかり持て。どうせ普通じゃない」

ハジメの言葉に全員が頷く。

幻術は終戦記念パーティーから始まり、平和に終わると思いきや、

人間族の国王が豹変。殺戮の場へと切り替わった。

そして幻術は終わった。

ハジメや香織が受けた衝撃はましだったが、ユエ達にはきつかった。

「神の凄惨さを見せつけて内部を探索させる。中々いい神経してるな。解放者共は」

ハジメにしてみれば信仰はその人と神の一対一の関係である。

他人がどうこう言うものではない。

それがこれではこの世界の住人には相当こたえるであろう。

王様達が入っていった扉の奥は闇で真っ暗だった。

ハジメはランタンを蔵から取り出し、一行はさっきの光景を考察する。

そうして進んでいると、白いドレスを着た女の子がいた。

そして、ケタケタ笑いながら、関節を捻じ曲げこちらへ向かってきた。

悲鳴をあげる香織。ユエが魔法で消滅させた。

 

 どうやら香織はお化け屋敷が苦手だったようだ。

ハジメの腕を掴んで離さない。

その後もお化け屋敷の仕掛けさながらの敵が現れたが、

ハジメ達の敵ではなかった。

そして、ついに船倉にたどり着いた。

少し進んだところで勝手に扉が閉まった。

香織は泣き顔である。

すると今度は濃い霧が発生した。

そして、四方八方から矢が飛来した。

「ここにきて物理トラップか。厄介な」

「守護の光をここに――”光絶”!」

香織が障壁を展開し、防御する。

直後、凄まじい勢いの暴風がハジメ達を襲った。

その勢いにバラバラになるハジメ達。

そして、騎士風の男など様々な亡霊が襲いかかった。

「チッ!」

ハジメはそれらを撃破していく。

そして、霧が晴れ始めた。

「全員無事か!」

「大丈夫じゃ」

「・・・・・・大丈夫」

「大丈夫です」

そして、香織も無事だった。

「香織も無事だったか」

「すごく怖かった」

「そうか・・・・・・」

ハジメはそう言いながら、蔵から一振りの大剣を香織に向ける。

「な、なんで剣を向けるのハジメ君!?」

「その演技はやめろ。全て見えているぞ」

ハジメの千里眼には、香織にとりついた女の亡霊が見えていた。

「ウフフ、それがわかってもどうすることもできない・・・・・・。

もう、この女は私のもの」

その時、女の耳に鐘の音が聞こえた。

「―――聞こえるか、この鐘の音が。

それこそお前の天運の果て。受け入れ、魂を解くがいい。それが、人として安らかに眠る最後の機会だ」

ハジメの声色が変わる。

亡霊もハジメの異変に気付いたようだ。

「お前は俺の大切なものに手を出した。あの世へ送ってやる」

ハジメは宝具を開放する。

「聴くがよい。晩鐘は汝の名を指し示した。告死の羽―――首を断つか、『死告天使(アズライール)』・・・・・・!」

大剣が香織に振るわれた。



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メルジーネ海底遺跡4

ユエ達はハジメが香織に大剣を振るうのを確かに見た。

しかし、香織からは血が出なかった。

ハジメの剣は亡霊のみを昇天させたのである。

倒れそうになる香織を抱きとめるハジメ。

香織の眼が開かれる。

ハジメは香織の顔を間近で見ていた。

亡霊の残滓が残っていないかを見ていたのである。

香織の身体は自然と動き、ハジメの唇に自分のを重ねる。

驚き硬直するハジメから、そっと唇を離す香織。

「何してる」

「答えだよ」

「答え?」

「ハジメ君が言っていたことに対する答え。

独占したいとは思うよ。でもみんな家族のように大事って、

ハジメ君が言ってたからそれを尊重する。あ、でも、

ユエさんとの特別は争うから」

「・・・・・・香織がそれでいいならそれでいい」

ハジメはため息をつきながら応じる。

香織は自分より遥かに精神力が強い。

俺はそう思えないだろうとハジメは思った。

香織は取りつかれた影響か、少しふらついているので、

ハジメがおぶって一行は魔法陣へと向かった。

 

 魔法陣で転移した後、皆が周囲を警戒するが、魔法陣以外特に何もなかった。

どうやらメルジーネの隠れ家に着いたようだ。

祭壇に到着したハジメ達は、全員で魔法陣へと足を踏み入れる。

そこでいつも通り脳内を精査され、記憶を読み取られた。

そして、ここでようやく再生の魔法を見つけた。

そして、メイル・メルジーネもオスカーと同じくメッセージを残していた。

だが、それはハジメの存在――神を否定するようなものだった。

映像が終わるとメルジーネの紋章を刻んだコインが現れた。

ハジメは黙して語らない。

何かを考え込むようにただ眼を閉じていた。

シアが樹海の大迷宮の話を持ち出し話題を変えようとする。

しかし、シアやハジメが思い出したのは、兵士と化したハウリア族であった。

 

 証をしまった途端、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

ハジメは即座に蔵からストーム・ボーダーを出し、全員を乗せる。

「強制排出とは過激だな。総員戦闘態勢!。全兵器使用自由!」

「ソナーに感!。ダメです当たります!」

ソナー員の絶叫が響く。

ストーム・ボーダーは半透明の触手に激突した。

そこには先の巨大クリオネがいた。

「魚雷発射用意!。攻撃後急速浮上!」

ハジメはクルーに命令を出す。

「魚雷発射用意!。・・・魚雷発射!」

砲雷長の命令により全発射管から魚雷が発射され、巨大クリオネは爆発四散した。

「敵性体撃破!」

「急速浮上急げ!」

クルーからの報告に、浮上命令を下すハジメ。

だが、巨大クリオネの再生能力はハジメの考えを上回っていた。

「ソナーに感!。敵性体上方に展開中!。回避間に合いません!」

ストーム・ボーダーはすっぽりと巨大クリオネに飲み込まれてしまった。

「魚雷発射用意!」

「ダメですキャプテン!。船体に傷が・・・!」

「いいからやれ!。このまま溶かされるよりましだ!」

「は・・・」

またも魚雷が発射され、巨大クリオネを爆発四散させる。

「こちら機関室。軽微な浸水あり!」

しかし、ストーム・ボーダーも無傷とはいかなかった。

それでも急速浮上するストーム・ボーダー。

「浮上後飛行モードへ!」

「アイ、キャプテン!」

「え!?。これ飛べるの?」

香織が疑問を呈する。

「ああ。空中なら流石に大丈夫だろ」

そう言っている内にストーム・ボーダーは飛行を始めた。

これで一安心と思った一同は凍り付くことになる。

ストーム・ボーダーの高度は現在百メートル。

その背後から高さ五百メートル以上、幅一キロに渡る大津波が襲ってきたのだ。

「機関室!。機関全力だ!」

「こちら機関室!。さっきの衝撃でこれで全力だ!」

機関長からの回答に呻き声を上げるハジメ。

「総員対衝撃態勢!。飲み込まれるぞ!」

「――”縛煌鎖” ”聖絶”!」

「――”聖絶”」

香織が全員を繋げる光の環を作り出し、ユエと共に障壁を張る。

「ハジメさん津波の中に触手がいます!」

「わかっている!。航海長回避だ!。『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!』」

航海長に回避を命じ、自身はアイアスを展開する。

「全員何かに掴まれ!」

そして、ストーム・ボーダーは津波に飲み込まれた。

 

 滅茶苦茶に振り回されたストーム・ボーダー内で、ハジメ達は絶望的な光景を見た。

巨大クリオネは二十メートル以上になっており、なお大きくなっていく。

今はアイアスを始めとした障壁に守られているが、どこまで持つか分からない。

香織、シア、ティオは絶望の表情をしていた。

しかし、ハジメとユエは生き残る方法を必死に考えていた。

ハジメの生き残る意志を帯びた眼を見て、正気を取り戻す香織達。

そして、各自が生き残る為の行動を開始した。

そんな中クルーから意見具申が来た。

「キャプテン、『ブラックバレル』の使用を具申します」

ハジメの顔が険しくなる。

「却下だ。あれは対エヒト用の切り札の一つだ」

「・・・・・・ブラックバレル?」

ユエが疑問に思う。

「・・・とにかく却下だ。今、他の方策を探す」

そうしてハジメは思考の海に沈む。

アレを使うか?。いや、こちらも被害が出る。

考えろ。さっきはなぜ追わなかった?

「・・・火をあまり使っていない」

「火が弱点なの?」

香織が聞く。

「恐らくな。少し時間をくれ。強力な宝具を解放する」

「しかし、ここは海中じゃぞ?」

ティオが疑問を呈する。

「俺は海中でも活動可能だ。巨大クリオネを倒すには、絶対の一撃が必要だ」

ハジメは決断した。仮にエヒトと敵対した場合に用いる切り札の一つを使うことを。

ハジメは海中に出て、巨大クリオネと相対する。

ハジメの黄金の鎧が分かれ、槍と一体化する。

それと同時にハジメの周辺の海水が沸騰、蒸発していく。

「神々の王の慈悲を知れ。絶滅とは是、この一刺。インドラよ、刮目しろ。

焼き尽くせ、『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』! ・・・・・・是非もなし」

神々の王でさえ扱えきれなかった神殺しの槍から放たれたあらゆる不浄を焼く炎。

その炎は瞬く間に分離も許さず、巨大クリオネを焼き殺した。



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新たな誓い

 ハジメ達がメルジーネ海底遺跡を攻略し、

ストーム・ボーダーで飛行して、エリセンに帰り、

再び町に話題を提供してから六日が経っていた。

帰還した日からハジメ達は、ずっとミュウとレミアの家にお世話になっている。

この六日ハジメ達は、新たな神代魔法の習熟と装備の補充をしていた。

だが、問題は二つあった。一つはミュウのことである。

大迷宮の攻略にミュウを連れて行くわけには行かないのだ。

もう一つは三日前の夢に現れたインドラからの指令である。

何とか譲歩を引き出したものの、それでも難しい話である。

ハジメは頭を抱えつつ、海にいるミュウ達を見た。

いつかは出発しないといけないと分かってはいるが・・・・・・。

 

 そうしてハジメが悩んでいると、海中から突然レミアが現れた。

「ありがとうございます。ハジメさん」

「どうしました突然?」

「うふふ、娘の為にこんなにも悩んで下さるんですもの・・・・・・。

母親としてはお礼の一つも言いたくなります」

「それは・・・、分かっていましたか」

「知らない人はいませんよ。ユエさん達も考えて下さってますし、

ミュウは本当に素敵な人達と出会いましたね」

ミュウ達を見て、再度ハジメに視線を転じると、今度は少し真面目な表情で口を開いた。

ハジメ達はもう十分にしてくれたと。すべきことの為に進むようにと。

ミュウも成長し、他の誰かを気遣えるようになったと。

それを聞いたハジメは、明日出発するとレミアに宣言した。

 

 夕食前にハジメ達はミュウにお別れを告げた。

それを聞いたミュウは懸命に泣くのを堪えていた。

それを見たハジメは言葉を紡ぐ。

待っていてくれ。必ずミュウのところに戻ってくると。

戻ってきたら今度はハジメの故郷を見せると。

それは新たな誓いでもあった。

ここにいる全員が生きて帰れる保障はない。

ハジメは万能でも、全能ではないのだ。

それでもここで誓う。

必ず全員で戻って来ることを。

翌日、ハジメ達はミュウとレミアに見送られ、エリセンを後にした。

 

 ハジメ達は一旦、アンカジ公国へ向かっていた。

オアシスの汚染源たる魔物は退治し、水や土壌も浄化したが、

再度魔物を放っている可能性もあるからだ。

アンカジの入場門には商人の行列が出来ていた。

それらを無視し、シャドウ・ボーダーを走らせるハジメ。

門番はハジメの存在に気付き、武器を持たず出迎え、他の部下に伝令を走らせた。

ハジメ達はシャドウ・ボーダーを降り、蔵にシャドウ・ボーダーをしまう。

「やはり、異界の神様でしたか!。戻って来られたのですね」

ほっとした表情を浮かべる門番。

ちなみに異界の神様というのはもちろんハジメのことである。

オアシスを浄化した後、ハジメ自身が異界の神を名乗り、迷宮攻略後、

数日いる間に金運を授けたりした為である。

ハジメ達はすぐに通され、部屋で待機していた。

ランズィが来たのは十五分後位である。

随分と早い。やはり、ハジメ達の存在は重要なのだろう。

「久しい・・・・・・というほどでもないか。無事なようで何よりだハジメ殿」

「こちらこそ。救援は順調なようですね。一応オアシスが無事か見に来ました。

ご案内願えますか?」

もちろんとランズィは答え、オアシスを見に行く。多数の民がハジメを見ようとついて来る。

ハジメが確認したが問題はなかった。

その場を立ち去ろうという時、事件が起きた。

聖教教会関係者と聖教騎士の集団がハジメ達を包囲した。

そして、司教がハジメを異端者認定したと告げた。

驚くランズィ。

 

 その時、ハジメが『カリスマ』と『神性』をオンにし最大にした。

その途端、全員が動けなくなった。

「全員頭を垂れ跪け。異界の神々の王インドラより神託がある。

司教はしかと本山に伝えよ」

全員が頭を垂れ跪く。凄まじいまでの圧力であった。

「エヒト神は即座に使徒にされた上位世界の人間を元の世界に戻せ。

これが呑めぬ場合、我が懲罰を加える。これは最終警告である」

この言葉に司教が反発する。

「異端者が何を言って・・・!」

「黙れ」

ハジメは即座に司教を黙らせる。

「我はインドラの息子にして、創世と滅亡を司る神也。

我が言葉は異界の神々の王の言葉と心得よ」

この言葉に司教が絶句する。

「ああ、証拠を見せようか。聖教騎士達よ。自害せよ」

ハジメの言葉に聖教騎士が次々と自害していく。

司教は恐怖を感じた。

「これでも大幅に条件を緩めたのだ。

シヴァ神の意見はエヒト神の抹殺だったのだからな。

それを我が土下座までして条件を緩めたのだ。

これを呑めぬとあらば、我に恥をかかせることになる。

司教よ。本山にしかと伝えよ」

これがハジメが頭を悩ませていたインドラからの指令である。

業を煮やしたシヴァ神がエヒト神の抹殺を急遽命じたのだ。

これに慌てたのはハジメである。

ハジメの考えはあくまで地球への帰還であり、エヒトの抹殺は考えていない。

無論、邪魔をすれば戦うことになるが。

その旨をインドラに説明し、大幅な譲歩を勝ち取ったのである。

 

 『カリスマ』と『神性』を解除し、皆がゼーハーと息をする。

司教はそそくさとその場を立ち去っていった。

「ハジメ殿、それは本当なのか?」

ランズィが問う。

「・・・本当です。シヴァ神は俺がやらない場合、代わりの者を派遣すると」

「・・・代わりの者とは?」

「俺から人間性を無くした者・・・動くもの全てを殺す者です」

その言葉に皆が絶句する。

「ハジメ殿、それはつまり人間も亜人も魔人も関係なく殺すということかね?」

「その通りです。インドラの息子の俺でも、ここまでが譲歩の限界でした」

「・・・本山の連中がまともな判断をすることを祈るよ」

「俺もエヒト神がまともな判断をすることを祈ります」

その場の全員に重苦しい空気が満ちた。

 



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リリアーナ

 長居は迷惑になるとハジメは判断し、一両日中にアンカジを後にした。

ハジメがシャドウ・ボーダーを飛ばしていると、

隊商が盗賊に襲われているのがわかった。

香織が割られる前まで張られていた障壁を見て、知り合いがいるようだ。

香織がハジメに助けるように頼み切る前に、ハジメはシャドウ・ボーダーを加速させた。

シャドウ・ボーダーはドンドン加速していく。

「あ、あのハジメ君?。まさかと思うけど・・・」

「このシャドウ・ボーダーも宝具だ。宝具を開帳する」

そうしてシャドウ・ボーダーは盗賊達に突っ込んでいく。

「駆け抜けるは前人未到・・・・・・未完の馬よ、輝ける轍を残せ!

 ああ・・・・・・人生はとても楽しい! 『境界を超えるもの(ビューティフル・ジャーニー)』!」

言ってることは綺麗だが、やってることは盗賊を轢き殺してるのである。

香織は引き攣った笑みを浮かべた。

確かに自分が頼んだことだが、やってることは交通事故である。

 

 そのまま一気に駆け抜けると、香織は隊商の元へ。

ハジメ達は盗賊の討伐に当たった。

そして盗賊達は数分と経たず、全滅した。

そしてフードを被った人物が近づいてきた。

隊商の障壁を張った人物である。

それはなんとハイリヒ王国の王女、リリアーナであった。

一国の王女がお供を付けず、お忍びで隊商に乗る。

何かあったと考えるべきだろう。

ハジメはそう思った。

「香織、治療は終わったか?」

ハジメは香織に尋ねた。

ハジメの姿を見て、リリアーナは懇願する。

「異界の神たるハジメさん!。どうか助けて下さい!」

リリアーナの態度は必死であった。

そんな中、ハジメ達の元へある人物が近寄って来た。

「お久しぶりですな。息災・・・・・・どころか随分とご活躍のようで」

「確か・・・・・・モットーだったか」

「覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。

危機を助けてもらえたのは二度目ですな。あなたとは何かと縁がある」

 

 このモットーはかつてブルックの町から、

フューレンまでの護衛での隊商のリーダーである。

この世界の商人の性をハジメに教えた人物でもある。

ちなみにハジメは投影魔術で複製した宝物庫の指輪を渡しており、

装備品等の値引きといった便宜を図ってもらえるようにしている。

リリアーナはホルアドまで行く予定だったようだが、ハジメ達に会えたことで、それを止めた。

『直感』が警告を発しているので、ハジメは嫌な予感がした。

その後、モットーはアンカジへ向かっていた。

そして、リリアーナが語った言葉は最悪の一言だった。

「愛子さんが・・・・・・さらわれました」

ハジメはリリアーナから詳しく話を聞き、責任の一端が自分にあると判断。

「先生を・・・・・・救出する」

そう呟いた。

 

 ハジメは千里眼を行使。王宮の現在と過去を見た。

そして、ハジメの顔が鬼になった。

凄まじいまでの魔力の奔流が立ち上り、ユエ達も声をかけられない。

リリアーナに至っては、正に神の怒りを見てしまった。

「檜山の糞が。やはり裏切ったか!」

やはり殺して置くべきだったと、ハジメはそう吐き捨てた。

「・・・・・・ハジメ、何を見たの?」

ユエが代表で問う。

「今回もクラスメイトが裏切った。裏切った首謀者は恵里。檜山は部下だ」

「そんな・・・・・・!」

香織が驚く。

「騎士団の大半は恵里の手駒になっている。メルド団長は真犯人に殺された」

「ふむ。真犯人とは?」

ティオが聞く。

「エヒト神の眷属だ。王達も魅了で操られてる。

・・・・・・これで俺もエヒトに懲罰を執行しないといけなくなった」

「懲罰とはどういうことですか!?」

リリアーナが問いただす。

ハジメはアンカジでの事を話した。『解放者』達のことも。

「そ・・・・・・んな・・・・・・」

崩れ落ちるリリアーナを支える香織。

今まで信じてきたものが、全て崩れた者の表情だった。

「ど、どうするんですか!。ハジメさん!」

シアが尋ねてくる。

「・・・・・・先生の救出を最優先。それと神山の迷宮を攻略する」

「・・・・・・恵里達は?」

ユエが問う。

「俺達にすぐに危険がない以上、後回しだ。ただし、状況次第では行動が変わる」

ハジメのプランはこうだ。

まずは先生を救出する。

次に神山の迷宮を攻略。

その後、王宮に隠密裏に潜入。

恵里と檜山を暗殺。

この流れで行う。

ただし、何らかのトラブルが発生した場合、各自の身の安全を最優先。

リリアーナには悪いが、エヒトが関わる以上、悪辣な罠も予測される。

王は諦めて、今のところ無事なランデル王子の救出を最優先することになる。

 

 「ここまでで何か質問は?」

「父上達は何とかなりませんか?」

ハジメの説明にリリアーナが問う。

「現状どの程度の魅了かが不明だ。

眷属による妨害も考えると、解呪に手間取る。

無事なランデル王子を救出するのが優先だ」

ここにいるメンバー以外は全て敵と判断すべきとハジメ。

敵は一国。だが、遅れを取るつもりはない。

ハジメはいざという時の為に、ある者達を作っていた。

これを使うのは戦争時しかないが、それを使うのも辞さない覚悟だ。

「これはあくまで上手くいった場合だ。当然、エヒトの眷属や教会関係者、

恵里達等の妨害が予想される。各自気を引き締めてくれ」

ハジメの言葉に全員が頷いた。

 



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アンリミテッドブレイドワークス

 愛子が神山の部屋に閉じ込められ三日が経っていた。

脱出しようとするも、魔法を封じられなす術もなかった。

こんな時に頼りになる生徒の名前を呟く。

「・・・・・・南雲君」

「はい。先生。何ですか?」

「ほわっ!?」

有り得ない声に素っ頓狂な声を上げる愛子。

窓の外を見ると、ヒポグリフに乗っているハジメの姿があった。

ハジメは罠の有無を確認すると、錬成で穴を開け、中に入って来た。

そして、手首の魔法封じの腕輪を破壊する。

「なぜここに・・・・・・」

「もちろん、助けに」

「わ、私の為に?。南雲君が?」

「リリアーナ姫から事情は聞きました。それで救出に来ました。

教え子を殺した俺が救出に来たのは嫌でしょうが、少しの間だけ我慢して下さい」

そう言ったハジメの手を愛子は思わず握った。

「先生?」

「君に会いたくなかったなんていうことは絶対にありません。

助けに来てくれて、嬉しいです。清水君のことは今も・・・これからも割り切れないと思いますが、

南雲君がどういう気持ちで行ったのか理解しているつもりです。南雲君を恨んだり、嫌ったりなんてしません」

「先生・・・」

「あの時は、きちんと言えませんでしたから、今、言わせて下さい。

・・・・・・助けてくれてありがとう。殺しをさせてしまってごめんなさい」

「・・・礼は受け取るけど謝罪はいらない。あれは俺の意志でやったんです。

そろそろ行きましょう。天之河達の所には姫様達が向かっているはずです。

合流してから、これからどうするか話し合って下さい」

「わかりました。・・・・・・南雲君気を付けて下さい。教会は、頑なに南雲君を異端者認定しました。

それに、私をさらった相手は、もしかしたら南雲君を・・・」

「立ち塞がる者は全て潰す。それだけです」

強靭な意志を宿したハジメの瞳に、愛子は頬が熱くなるのを感じた。

 

 愛子が再びハジメに声をかけようとした時、異変が起きた。

すぐさま千里眼で確認するハジメ。

「タイミングがいいのか悪いのか・・・」

愛子に視線を移し告げる。

「先生。魔人族の襲撃だ。王都を覆う大結界が破られた」

「魔人族の襲撃!?。それって・・・!」

「敵は大軍。完全な不意打ちだ。現在、王都は戦場ってことだ」

ハジメは敬語を止め、普段の形に改める。

そして、愛子をヒポグリフに乗せ、自身も乗って操り始めると、

その瞬間、部屋の中に強烈な光が降り注いだ。

ハジメはヒポグリフの能力を使い、攻撃を無効化する。

「不意打ちとは上等だな」

「仕留めたつもりだったのですが、イレギュラー」

そう答えた女は、端的に言えば、銀髪のワルキューレだった。

「ノイントと申します。”神の使徒”として、主の盤上より不要な駒を排除します」

それに対し、ハジメはカリスマと神性をオンにし、最大で相対する。

「ノイントと申したか。それがエヒトからの回答と受け取って良いのだな?」

これはハジメの最終確認だ。これが是ならエヒトを懲罰しなければならない。

ハジメからの最大限の神威にたじろぎつつも、ノイントは気丈に返す。

「はい。イレギュラーの排除が私の仕事です」

「で、あるか」

ハジメはそう言うと呪文を詠唱しだした。

 

 I am the bone of my sword.

――― 体は剣で出来ている。

 

Steel is my body, and fire is my blood.

血潮は鉄で 心は硝子。

 

I have created over a thousand blades.

幾たびの戦場を越えて不敗。

 

Unknown to Death.

ただの一度も敗走はなく、

 

Nor known to Life.

ただの一度も理解されない。

 

Have withstood pain to create many weapons.

彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

 

Yet, those hands will never hold anything.

故に、生涯に意味はなく。

 

So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.

その体は、きっと剣で出来ていた。

 

そして、世界が塗り替わった。

果てなき荒野に無数の剣が突き刺さっている心象風景が広がる。

「なっ!?」

ノイントは世界が変わったことに驚く。

「えっ!?。これ何ですか南雲君!?」

「固有結界。術者の心象風景をカタチにし、現実に侵食させて形成する結界だ。

世界と繋がり自然を変貌させる「空想具現化(マーブル・ファンタズム)」の亜種であり、

展開すると、結界内の世界法則を、結界独自のモノに書き替えたり、捻じ曲げたり、塗り潰すことができる。

・・・我の持つ固有結界の中で一番我の心象風景に近い物だ」

自嘲気味に応じるハジメ。

愛子はハジメの言葉に、悲しみを覚えた。

どうしたらこんな風に変わってしまったのだろうかと。

「さて、ノイントよ。ここでは我がルールの世界だ。死して果てるがいい」

ハジメはそう言うとゲイ・ボルクを蔵から取り出し、ノイントと相対する。

「それじゃあ、始めようか!」

異界の神と神の使徒との戦いが始まった。

 



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神の使徒

 ハジメとノイントとの戦いはハジメが押し続けていた。

ノイントの武器は二メートルを越える大剣で、分解の固有魔法が掛かっている。

当たればタダでは済まない。当たればだ。

しかし、ハジメ相手には当たらない。

完全に全ステータスが上だからだ。

インドの全神性と英霊達を統合した習合神と、神の使徒。

格が完全に違いすぎた。

交錯するたびにノイントから血がしたたり、

上へ飛ぼうとすれば神性特攻の武器が飛んでくる。

戦況は完全にハジメ有利であった。

「さて、まだやるか?」

ノイントに問いかけるハジメ。

ノイントの答えは、大剣での攻撃であった。

が、ハジメが目の前から消える。

「そうか。それじゃあ遠慮なく殺してやるよ」

背後からの突きを何とかしゃがんでかわすノイント。

そのノイントを蹴り飛ばすハジメ。

ノイントはバウンドしながら飛んで行った。

 

 「もうあきた。この一撃、手向けと受け取れ」

そう言って、ノイントに突進するハジメ。

起き上がり、それを迎撃しようとするノイント。

「その心臓貰い受ける! 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』!」

ゲイ・ボルクをかわせると判断したノイント。

だが、そう甘くはなかった。

ゲイ・ボルク。

突けば必ず相手の心臓を貫く呪いの槍。

その正体は、槍が相手の心臓に命中したという

結果の後に槍を放つ因果逆転の一刺。

結果ありきの一撃なので回避は不可能とされる。

それを知らないノイントは結果、心臓を貫かれ死亡した。

 

 ハジメはノイントの身体、武器を研究用に回収し、ヒポグリフに乗り、固有結界を解除した。

途端に高度八千メートルの神山に戻った。

そこにティオが到着した。

「ティオ、いいタイミングだ。先生を預かってくれ」

「ご主人様はどうするのじゃ?」

それに対してハジメはにこやかに応じる。

「教会の奴等を山ごと吹き飛ばす」

「えっ!?。南雲君何を言ってるんですか。いくら何でもそれは・・・」

「先生を閉じ込めた時点で共犯だ。消えてもらう」

蔵からマアンナを出し、ヒポグリフを蔵に収納する。

そして、空中にゲートが開き、金星が姿を現す。

そして、金星はバスケットボール大に収縮する。

「よしよし今回もよろしくな。大いなる天から大いなる地に向けて!

またの名を『ジュベル・ハムリン・ブレイカー』!!」

そして、マアンナから放たれた一撃は、教会の結界もなんら効力もなく、教会を吹き飛ばした。

巨大なきのこ雲が出現し、正に核クラスの破壊力である。

この現場を愛子は顔を引き攣りながら見ていた。

南雲君だけで、一国を滅ぼせるんじゃないかと。

実際は、宇宙すら滅ぼせるのだが。

 

 いやあ、スッキリしたと言いたげな顔のハジメ。

異端者認定には実は、あまり良い感情を持っていなかったのである。

その時ティオが普通じゃない人物に気づいた。

ハジメ達はその人物の後をついて行った。

ハジメがいくつか質問するが、それに答えない。

それについて行くと、紋章が刻まれていた。

「あんたは『解放者』なのか?」

その問いと同時に別の部屋に皆転移させられた。

今回の魔法は魂魄魔法であった。

「これは・・・・・」

これにはハジメも驚いた。

そして、同時に納得もした。

ミレディはこれで生きていたのだろう。

「ご主人様。そろそろ王都に戻らんと」

それに、はっとするハジメ。

ユエ達が戦っているのを思い出したからである。

「そうだな。急いで戻ろう」

ハジメは蔵から『疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』を出し、

全速力で飛ばした。

ジェットコースターを遥かに越えるスピードに愛子が悲鳴を上げるが、ドンドン速力を上げる。

何か嫌な予感がしたからだ。

その予感は的中した。

胸から剣を突き出し、息絶えた香織の姿があった。

 



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マハー・プララヤ

 「どういうことだこれは?」

ハジメの眼には信じ難い光景が広がっていた。

香織が檜山に抱かれて死んでいる。

死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。

死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。

死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。

死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。

死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいる。

それが理解した瞬間、ハジメの姿が消えた。

檜山を壁へ気絶しない程度に蹴り飛ばし、香織を抱きかかえる。

「ティオ!。頼む!」

「うむ。任されよ!」

香織をティオに渡し、恵里達と相対する。

そして、濃密な殺気を纏い、咆哮する。

「フリード。そして、恵里!。ここまで来た以上覚悟は出来ているだろう!

お前達に我が権能を見せよう!。我の怒りを見るがいい!」

 

 そして、ハジメは魔力を集約し始めた。

魔力の集約量から途轍もなくまずい何かとフリードも恵里も判断。

ハジメに攻撃を始めた。

だが、通らない。魔法も斬撃もあらゆる攻撃が通らない。

ハジメの魔力がドンドン肥大化していく。

そして、十分な量に到達したのだろう。魔力の収束が止まった。

フリードも恵里も信じられないものだった。

アレが炸裂すれば大陸全土、いや世界が滅ぶクラスの魔力量だった。

「廻剣駆動!。星の灯火は消え、諸人は運命を裁かれる。

我は神の力を継ぎ、その役割を果たす。 世界は廻り、悪は滅する!

『帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)』!! 還るべき場所に、還るといい・・・・・・」

そして、世界が真っ白に覆われた。

 

 ティオたちが眼を開けると真っ白な空間にいた。

他にいるのは香織、愛子、ユエ、シアだった。

そして、ハジメが何か作業をしていた。

「ご主人様!。ここはなんじゃ!。なんで我等だけおるのじゃ!」

ティオの声に無機質な声でハジメは答えた。

「トータスは滅びた。今、我が再構築を行っている。我の権能だ」

「・・・・・・!」

ユエ達は絶句する。

遂にハジメが自身の権能を使ったのだ。

「ここをこうして・・・・・・よし、戻すぞ」

ハジメがそう言うと皆が元いた場所に戻った。

「な・・・・・・」

フリードがまず絶句した。自身の率いた軍勢がいなくなったのだ。

恵里も絶句した。自身が操っていた兵がいなくなっていたのだ。

「驚いているところ悪いが、二人に質問だ。さっき俺が蹴り飛ばしたのは誰だ?」

「誰ってそんなの・・・・・」

言いかけて恵里の顔が青ざめる。名前が出てこない。

いや、蹴り飛ばしたというのを見た記憶がない。

「まさか・・・・・・!」

「そのまさかだよ。さっきの大軍の指揮してた奴等の名前は?」

「・・・・・・存在そのものを消したのか!」

「ご名答。我が権能は創世と滅亡。然るにこれ表裏一体。

存在自体なかったことにしたんだよ」

「・・・・・・!」

フリード達は絶句する。ここまで規格外なのか。

「ではなぜ我らを生かした?。貴様なら消すのは容易だったはずだ」

「フリードには我の恐ろしさを伝えてもらわねばいけなかったのでな。

恵里を連れて疾く失せろ。次はないと思え」

冷え冷えとした声でハジメが応じる。

ハジメが人間性を無くしたら、こうなるのではと思わせる声だ。

これ以上の交戦は無意味と判断したのか、恵里を連れ撤退を始めるフリード。

ハジメは敢えてこれを見逃した。

 

 「ユエ、シア、神山へティオと共に行ってくれ」

「・・・・・・わかった」

「了解です!」

ユエ達に指示を出すと、雫に駆け寄る。

「雫。神水だ。天之河に飲ませろ」

「ハジメ・・・・・香織が・・・・・」

「大丈夫だ。俺達に任せろ。俺達を信頼しろ」

そう言ってハジメはユエ達の後を追った。

 



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幕間の物語:ハジメの蔵

 「蔵の中が見たい?」

ハジメは声を上げる。

場所はミュウの家の中で、香織が言い出した。

「うん。ミュウちゃんも見たいって言ってて・・・」

「パパの蔵の中はどうなっているか見たいの!」

「それは私も見たいです」

「レミアさんまで・・・」

ハジメはため息をつく。

「わかった。ただし、勝手に触るなよ。危険な物もあるからな」

こうしてハジメの蔵の中の探訪が始まることになった。

 

 ハジメが蔵の門を開け、次々にみんな入っていく。

そして、最後にハジメが中に入った。

蔵の中は延々と廊下が伸び、等間隔にドアが設置してあった。

「まずはここからだな。ユエとシアは見ただろう?」

「もしかしてその部屋は・・・」

「その通りだ」

ハジメがドアを開けると金銀財宝が唸りを上げるほどうず高く積まれていた。

ユエやシアは一度見たから、衝撃はましだが、他のメンツは固まった。

「ご主人様・・・これは全て本物なのか?」

ティオは震えた声で聞く。

「もちろん本物だ。最も俺の財の極々一部だがな」

ハジメの言葉に絶句するティオ達。

ハジメがこれらの黄金を見ても何の感傷も湧いていないからだ。

つまり、ハジメにとってはこれらは特に財とは見ていないのである。

「わあ、きれい」

ミュウは素直な感想を口にし、宝石を手に取る。

「あはは。綺麗だろ?。ミュウにやるよ」

「パパ、ありがとうなの」

「さて、次の部屋行こうか」

そう言うとハジメは今度は別の部屋を開けた。

 

 そこは刀剣を集めた部屋だった。

いずれも聖剣や魔剣と呼ばれるような代物である。

ティオはほうとため息を漏らした。

これほどの刀剣が一か所に集まっているのは、凄まじいものである。

「ここは刀剣の間。まあ、これも極々一部だが」

その言葉に驚くティオ。

これだけの数ですら、極々一部だというのか。

 

 その後次々と驚く部屋を案内された。

槍のみ集めた部屋。

魔術の道具を集めた部屋。

シャドウ・ボーダー、ストーム・ボーダーの整備工場。

とにかく質・量共に膨大であった。

この世界のどの国もこれほどの財はあるまいと思わせるものだった。

「ご主人様。この蔵はどれ位の財があるのじゃ?」

ティオがハジメに尋ねる。

「さてな。勝手に蔵が集めるからな。種類はともかく量は知らん」

「だからあの攻撃方法か・・・」

ティオはハジメが蔵から武器を射出しているのを思い出した。

「あれは悪い癖だ。その内、治さんとな」

「ちなみにだが最大何発撃てるんじゃ?」

「さてな。五千はやったことがあるが、それ以上は知らん」

ティオの顔が引き攣る。

正に武器が雨あられと降り注ぐということだ。

 

 その時ユエがある扉を発見した。

他の扉と違い、重厚な扉だ。

「・・・・・・ハジメ。あの扉の部屋は?」

ユエの質問にハジメが一瞬固まる。

そして、返答する。

「あれは、世界を滅ぼせる兵器群をまとめた部屋だ。

少しでも操作をミスれば、世界の終わりだ」

「あはは。そんな冗談・・・」

そう言いかけたハジメの表情を見て固まる。

表情が本気だと言っているからだ。

 

 「・・・・・・もういいだろう。外に出るぞ」

ハジメは門を開けた。

ハジメに皆が慌ててついて行く。

こうしてハジメの蔵の探訪は終わった。

この中で得をしたのは宝石を貰ったミュウであった。

 



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たった一日の出来事

 王都侵攻から五日経った。

リリアーナは目の回る忙しさだった。

国王を含む首脳部は、恵里の傀儡兵に殺され、

政治態勢の立て直し、騎士団の再編成。

亡くなったもの達への慰問。やることが山積みであった。

また、愛子を含むクラスメート達も皆表情が暗い。

恵里の裏切りが影を落としていた。

中でも雫は心ここにあらずといった表情だ。

ハジメが香織を生き返らせるようなことを言ったが、

神であるハジメでもそれが可能なのか不明である。

 

 また、教会が何も行動を起こさないのも問題だった。

実態はハジメが宝具で吹き飛ばしたせいだが。

このため、国民の間では不安が広がっていた。

動揺を防ぐため、カバーストーリーを立てて、混乱を収めた。

 

 リリアーナと光輝は時間を縫って、話し合っていた。

話がハジメの話に及ぶと、光輝は色々な感情がないまぜになった表情をした。

クラスメート達でもハジメの戦闘力は評価が分かれた。

前線組はその差に絶望し、居残り組はもはや諦めた。

人と神ではここまで違うのかと思わせるものであった。

そして、リリアーナが神山の方を見ていると、

三頭の馬に引かれた戦車がこちらへ向かって来た。

そして、リリアーナの前で停車した。

ハジメ、ユエ、シア、ティオの四人である。

「よお、雫。ちゃんと生きてるな」

「香織は!?。香織はどうなったの!?」

その言葉にハジメは神妙な顔になった。

「蘇生は成功した。したんだがちょっと本人が頑固でな。

詳しいことは本人から聞いてくれ。もう来る」

 

 もう来るという言葉通り、空から人影が見えた。

「やっぱりまだ駄目か」

ハジメはそう言うと空中へジャンプし、人影をキャッチして降りた。

その人影に愛子とリリアーナが驚く。

その人影はノイントだったからだ。

すぐに注意喚起され、皆が戦闘態勢に入る。

そこにハジメが中身は香織だから大丈夫と言った。

どういうことかと詰め寄る雫に、ハジメが理由を説明した。

神代魔法に魂魄魔法があり、それで元の肉体に戻そうとしたが、

香織から待ったがかかった。

このまま弱いままじゃ嫌だから、強い肉体が欲しいと。

その言にホムンクルスの肉体を培養するか考えた時、

ノイントの肉体使えるんじゃないかと。

やってみた結果、定着に成功し、元の肉体は冷凍保存で宝物庫の中にあると。

 

 「まあ、そういうわけだ」

ハジメは軽く口にするが、結構作業は大変であった。

「ハジメ。恩ばっかりだけど、どうもありがとう。返せる当てはないけどね」

「気にするな。俺がやりたくてやっただけだしな」

「ところでなんで先生がさらわれたの?。神代魔法と関係があるの?」

雫の質問にハジメは愛子を見て、説明を促す。

そして、愛子は説明を始めた。

全ての説明が終わった後、真っ先に文句を言ったのは、光輝だった。

その文句にハジメは言っても自分の言葉を信用しなかったろと返した。

「でもこれから一緒に神と戦うなら・・・・・・」

その光輝の言葉に、ハジメは大笑いした。

「はははははははは!。二回も死にかけた所を救われ・・・普通は感謝する所を感謝もせず、

・・・それで神と戦う・・・はははははははは!。天之河、お前は救いようのない道化だな!」

「なんだと!」

「事実だろう!。人も斬れぬ勇者様なぞ邪魔なだけだ!。そもそもインドラからの命令は懲罰だ。

エヒトを倒すことではない。それはこの世界の人間のすることだ」

「お前は俺より強いじゃないか!。なんでその力を使わない!」

「阿呆が。力を使うか使わないかはそいつの意志だ。

力があるから倒せ?。何の権限があってお前は言ってるんだ?

意志が弱いからお前は敗北するんだよ」

これ以上は時間の無駄と吐き捨て、養豚場の豚を見る目をするハジメ。

 

 リリアーナが今度は残ってもらえないか願い出た。

せめて防衛体制が整うまでは。

しかし、ハジメもエヒトと事を構える以上、迷宮攻略を急ぎたいと説明。

王都の大結界は修復すると約束した。

ハジメが帝国領を通って大樹海の迷宮に向かうと説明すると、リリアーナが帝国に行くので、

ついて行くと説明した。

そうすると光輝達もついて行くと言い出した。

「いや、勝手に行け。そして、死ね」

ハジメが光輝を見る目は北極並みに冷たかった。

「無理なんですね?」

愛子がハジメに尋ねる。

「無理です。死にたいならどうぞ」

「一つだけでもいいんです。神代魔法を手に入れさせてくれませんか?」

愛子が頭を下げて頼む。

「ハジメお願い!。一つだけでもいいから神代魔法を手に入れさせて!」

雫が必死になって頭を下げて頼む。

鈴や龍太郎も頭を下げて頼んだ。

「・・・・・・一度だけだぞ」

雫達の必死の姿勢にハジメが折れた。

本来なら足手まといは御免である。

しかし、今後のことを考えると、

勝てないまでも死なない位はなってもらわないと困る。

流石にこれ以上クラスメート達の死亡は見たくないのだ。

果たして元の世界に帰るまでに何人生き残れるのか・・・。

気が重くなるが表情には出さないハジメであった。

 



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たった一日の出来事2

 夕方。

神山の巨大な壁を利用して作られた忠霊塔に人影が佇んでいた。

そこに立っていたのは、ハジメであった。

花が立てかけられており、

何をするでもなく、瞑目してそこに立っていた。

「・・・・・・先生か」

振り向くことなく来た人物を当てる。

後ろから来たのは愛子であった。

「南雲君・・・・・・」

「すまない。誰が死んだかを分からなくさせてしまって」

「それは・・・・・・仕方なかったと思います」

ハジメの使った『帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)』。

この宝具の為、誰が死んだか分からなくなった。

メルド団長や檜山はまだわかるが、一般騎士団員は把握すら不可能に近い。

遺族には元からいなかったことになっているのが唯一の救いだが。

とはいえ、『帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)』を使わなければ、

あの数は殲滅出来なかったであろう。

もしくは王都ごと破壊する宝具等か。

 

 「・・・・・・南雲君は辛くないんですか?」

「慣れたよ。慣れたくもなかったが」

ハジメの瞳は悲しさを帯びていた。

「責めないんだな」

「えっ」

「檜山のことだ。俺が存在自体を無くしたことを」

「それは・・・」

「俺は怒りのままに宝具を行使した。

神としてそれはあってはならないことだ」

自嘲気味に語るハジメ。

「インドラは何故俺を選んだのだろうな。

もっと良い人物の魂を使えば良かっただろうに」

「南雲君・・・」

「先生は先生のままでいてくれ。決して俺のようになるな」

そう言ってハジメが立ち去ろうとした時、愛子が声を掛けた。

「先生は知っています。南雲君は周りの人達が殺しをしないようにしていることを。

そして、南雲君がその為に殺しをしていることも。南雲君は十分優しいです。

けど、もっと自分を労わって下さい。このままだと南雲君は・・・」

 

 「修羅に落ちるか・・・。だが、それもありかもしれない」

「南雲君!」

愛子が大きな声を出す。

「それはダメです!。ユエさん達も悲しみます!」

ハジメの肩を掴んで揺さぶる愛子。

その眼には涙が溜まっていた。

「先生・・・もう止められないのさ。

誰かがやらなければならない。それが出来るのは現状俺だけだ。

何としても皆を元の世界に帰すよ。例え命を引き換えても」

ハジメの言葉に遂に愛子は泣き出した。

「ダメです!。そんなのただの自己犠牲です!

そんな方法で救済されても、先生も誰も嬉しくありません!」

「仮にそれしか方法がなかったとして、クラスの奴等が止めると思いますか?

天之河あたりなら実行させますよ。間違いなくね」

「そんなことは・・・」

「今のクラスを見ればわかるでしょう。清水が、檜山が、恵里が、次々と裏切った。

今やクラスの仲はバラバラです。帰れるならやらせるでしょう」

「・・・・・・・・・」

愛子は沈黙せざるを得なかった。

ハジメの言葉には一理あったからだ。

「そういうことです。ああ、俺は先生を裏切りませんよ。

それが人間としての最後の矜持ですから」

そう言うとハジメは先に帰っていった。

後には無力感だけが残る愛子が残された。

 

 「ただいま」

ハジメはユエの元に戻って来た。

ユエはポンポンと太ももを叩いた。

ハジメは素直にユエの太ももを枕にし、横になった。

どちらとも何も言わない。

お互い言う必要がない位、お互いの心がわかった。

ユエはハジメをギュッと抱き寄せた。

ハジメはそれを素直に受け入れた。

ハジメにとっては、ここが帰る場所なのだ。

 

 その頃、愛子はハジメとのやり取りを雫に話していた。

雫は自身が予測したことが当たったことに頭が痛かった。

「八重樫さんどうしましょう」

「・・・・・・今はハジメに頼るしかありません」

「でもそれじゃ・・・・・・!」

「ユエさんと香織に頼んで、何とかしてもらいましょう。

特にユエさんのことならハジメは素直に聞きますし」

「無力ですね。私達」

「・・・・・・ええ。それに分かったことがあります」

「分かったこと?」

「ええ。ハジメは香織が死んだ時、躊躇なく創世と滅亡の権能を使いました。

今回は蘇生に成功したから良かったものの、もし死んだら・・・・・・」

「権能を際限なく使う?」

「はい。それこそ機械的に使うでしょう。ハジメの権能は不出来なものを消すようです」

「不出来じゃないものって赤ちゃんか聖人位じゃ・・・」

「そうです。この世界は間違いなく地獄になります」

雫の予測に絶句する愛子。

エヒトもひどいが、ハジメがデウスエクスマキナと化したら、さらなる地獄が顕現する。

もはや笑うしかなかった。先生としてなんて無力なのだろう。

それもこれもハジメに頼りすぎたツケなのだから。



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to the beginning

 次元境界穿孔艦ストーム・ボーダーが空を駆ける。

時速2万9000kmの超高速・超音速で飛べる艦である。

その性能の凄まじさに雫達は絶句した。

飛行性能もさることながら、潜水艦でもあり、

虚数空間という特殊な空間も移動できるという。

なによりこれは地球の魔術で作られたという点で、

クラスメート達を驚かせたのだ。

ハジメの宝具も地球の物だから、驚きだが、

ストーム・ボーダーは次元が違った。

原子力潜水艦以上の大きさの物体が空を飛ぶ異質さ。

全力を出す必要もないだろうとのハジメの命令の元、

旅客機のスピードで、ストーム・ボーダーは空を飛んでいた。

 

 「こんなのが地球で作られているなんて凄いですね」

愛子は雫に話しかけた。

「ええ。UFOの正体ってこれなのかしら?」

雫は疑問に思った。

今回はクラスメート達全員をハジメは連れて来ていた。

王都の守りは大結界の復旧と、ハジメ製作アルテミス・レプリカで大丈夫と判断した。

このアルテミス・レプリカ。FGOの本元には及ばないが、それでも十分な威力がある。

クラスメート達全員を連れて来たのは、ひとえにハジメの猜疑心である。

 

 「雫・・・ここにいたのか」

「光輝・・・」

「しかし、凄いなこれ」

「そうね。光輝一人?」

「龍太郎や近衛の騎士達はシアさんの料理を食べてるよ。

鈴はリリィとおしゃべり。南雲は艦長席で指揮を取ってる」

南雲の名が出た途端、苦々しい表情に変わった。

「ハジメが気に入らないの?」

「これだけのものを持っていて、あれだけ強くて、

何でこの世界を救わないんだよ。おかしいだろ」

「天之河君、南雲君もギリギリの精神状態なのよ」

愛子の言葉に光輝は訝しむ。

そこで愛子は現在のハジメの状態を語った。

「そこまで追い詰められていたなんて・・・・・・」

ハジメの精神状態を知り、衝撃を受ける光輝。

「確かにハジメは強いわ。でも、精神まで鋼じゃないの。

私達はやれることをしないと」

雫が言葉を続ける。

 

 不意にストーム・ボーダーが進路を変えた。

三人は顔を見合わせる。

帝国へは一直線で行けるはずだ。

三人は急ぎ艦橋へと向かった。

艦橋ではハジメが指示を出していた。

「砲雷長、対地ミサイル発射用意!」

「アイ、キャプテン!」

「ハジメ、どうしたの!?」

雫が尋ねる。

他のメンバーも勢揃いしていた。

「画面を見てくれ」

雫達は正面のディスプレイを見る。

二人の兎人族と帝国兵とのリアル鬼ごっこが始まっていた。

また、その後方には帝国兵の馬車が見えた。

「目標帝国兵。外すなよ砲雷長!」

「アイ、キャプテン!。対地ミサイル撃て!」

対地ミサイルが発射され、帝国兵達を跡形もなく吹き飛ばした。

呆然とする兎人族の二人。

「着地態勢に入る。慎重に降ろせ」

「アイ、キャプテン」

ストーム・ボーダーは兎人族の前に着地した。

 

 「久しぶりだな。健康そうでなによりだ」

「「団長!」」

「余計かと思ったが、実地テストも兼ねて兵器を使った。

おとり作戦を壊してすまないな」

「「「「「「恐縮であります。Sir!」」」」」」

待ち伏せていたメンツも合わせて、唱和した。

ハジメやユエは慣れているが、他はドン引きである。

シアがパルに色々尋ねるが、中二病全開である。

仕方なく他のメンツに尋ねるが、こちらも中二病全開であった。

ハジメにも付けようとする始末である。

ハジメは変な二つ名をつけられると嫌なので、第六天魔王を名乗った。

 

 そんな中、森人族・・・アルフレリックの孫が尋ねて来た。

手枷足枷が痛々しい。

本来守られているはずのアルフレリックの孫が、

捕まってこの状態ということは、

どうやら樹海で異常事態が起きたようだ。

ハジメはそう推察し、亜人達を樹海に送ることにした。

アルフレリックの孫・・・アルテナの枷を全て外し、

鍵を錬成し、パルに全員の枷を外すよう指示を出す。

 

 全員の枷を外し終えると、全員をストーム・ボーダーに乗せ、

樹海に向けて飛び立った。今回も厄介なことになりそうだ。

ハジメはそう思った。

 



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樹海焼失

 ハジメは帝都から少し離れた場所で、リリアーナ達と、

パル達をストーム・ボーダーから降ろした。

そして、ハルツィナ樹海に向けて針路を取り、高速で向かった。

 

 ハルツィナ樹海はその姿を大きく変えていた。

魔人族の襲撃を退けた後、間髪入れずに帝国が侵攻。

森を直線に焼きながら進む手段に出たのだ。

おかげで樹海はひどい状態である。

いや、ハウリア族がいたからこの程度で済んだとみるべきか。

ストーム・ボーダーを着陸させて皆を降ろす。

 

 「さて、いくか」

ハジメは皆に指示を出し、フェアベルゲンへ向かう。

フェアベルゲンはこの焼け跡の先にあるはずだ。

途中で香織が森を再生させようとしたが、ハジメはフェアベルゲンに着いてからと止めた。

ここでやられては道が分からなくなる為である。

一行が奥へ進む度に霧が濃くなる。

そうして一時間程歩くと、シアが前方に武装集団がいると警告を出す。

リーダーらしき虎人族をよく見ると、以前面識のあるギルだった。

ギルはアルテナの姿を見て驚いた。

今回は待たされることもなく、フェアベルゲンに向かえた。

 

 フェアベルゲンは予想通り様変わりしていた。

フェアベルゲンそのものの破壊跡がひどかった。

そうこうしているうちに、アルフレリックが現れ、孫と抱擁をかわした。

「ハジメ殿。孫娘を救われるとは思いもしなかった。心より感謝する」

「礼はハウリア族に言ってくれ。俺は連れて来ただけだ」

そう言ってハウリア族はどこにいるか尋ねるハジメ。

アルフレリック曰く、ちょうど都の外にでているという。

すぐに戻ってくるようだが。

その間アルフレリックの家に世話になることにした。

 

 アルフレリックの家でちょうどお茶を飲み干したところで、ハウリア族の男女が飛び込んできた。

全員がハジメにビシッと敬礼をし、ハジメも答礼を返す。

見たことのない顔もいるので、他の兎人族も取り込んだのだろう。

「ここに来るまでにパルに事情は聞いた。中々活躍したそうじゃないか」

「「「「「恐縮であります、Sir!」」」」」

ハジメはハウリア族達にパルからの情報を伝えた。

「なるほど。・・・・・・必滅のバルドフェルドからの伝言は受け取りました。

わざわざありがとうございます、団長」

「えっとハジメ。団長ってどういうこと?」

雫が疑問を呈する。

「ああ。ハジメさんの前世が傭兵団の団長だったんですよ。だから団長です」

シアが言った言葉に驚くクラスメイト達。

「ということは戦争にももちろん・・・」

「参加しています」

愛子の疑問にハジメは答える。

「ハジメさんは正義の味方と呼ばれてて、有名だったんですよ」

「結局、味方の裏切りで殺されたがな」

シアの言葉にハジメが苦々しく返す。

「もういいだろ。ところでハウリア族は皆二つ名を持ってるのか?」

「はっ!。持っております。団長の二つ名はどうしましょう?」

「第六天魔王でいい。ある意味相応しい。現状動かせる兵力は?」

「総勢百二十二名になります」

「それくらいなら一度に運べるな。全員を集めろ。帝都へ運ぶ」

「了解であります!。直ちに!」

そう言うとハウリア族は出て行った。

 

 「ハジメさん大迷宮に行くんじゃ・・・」

「そんな心配した状態で行けるわけないだろ。カム達を助けにいくぞ」

「ハジメさん・・・・・・」

ハジメはシアの髪の毛をわしゃわしゃする。

「うわわ!。何するんですか!?」

「遠慮するな。俺達の仲だろ。それとも俺達を信頼できないか?」

「いえ。皆さんの迷惑に・・・」

「ならねえよ。仲間を頼れ。俺も頼るから」

「・・・・・・お願いします。父様達を助けて下さい」

「OK。それで充分だ」

その時、ちょうど準備が整ったとの報告がハウリア族の兵から入った。

アルフレリックとアルテナに見送られながら、ストーム・ボーダーは帝都目指して飛んで行った。

 



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ヘルシャー帝国

 雑多。

ヘルシャー帝国の首都を表すとしたらこの単語だろう。

軍事国家のためか、住人も粗野な人間が多い。

ちなみに今しがたハジメがぶちのめしたのも、荒っぽく声をかけてきた者だ。

今回は場所が場所なので、ハジメ組と勇者組のみで他はストーム・ボーダーに残した。

女性陣はあまり快く思わず、男性陣も気持ち的にいいものではない。

奴隷売買も非常に盛んで、光輝が暴れそうだったので、

雫に視線で光輝を止めるよう促した。

ハジメの意を察した雫は、光輝に近寄り会話をして抑えた。

ハジメはすまないと雫に目線で謝意を表した。

 

 雫がハジメにカム達の行方をどこで探すのか聞いてきた。

ハジメは冒険者ギルドへ行くと答えた。

金ランクなら大抵の情報は得られるからだ。

最もハジメはカム達が捕まっていると考えていた。

カム達のレベルで外に誰も出られないとは考えにくいからだ。

「もしもの時は帝都を消滅させるまでだ」

「・・・・・・塵も残さない」

「ハジメさん・・・ユエさん・・・」

ハジメとユエの言葉に感動するシア。

「いやいやいや!。それ冗談だよね!?」

雫からツッコミが入る。

「大丈夫だ。『帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)』なら被害は最小限だ」

「それ万単位で人が消えるアーティファクトだよね!?。全然大丈夫じゃないよ!?」

 

そんなことを話していると、前方の町の様子が変わり始めた。

魔人族が暴れた後であった。

そのがれきの山を亜人の奴隷が片付けを行っていた。

ハジメ達から少し離れた所で、犬耳少年に帝国兵が近寄り始めた。

ハジメ達は一部始終を見てたので、何をしようか明白である。

光輝が大声を出しながら駆けだそうとした時、弦を弾く音と共に、帝国兵が倒れた。

光輝には何が起きたかわからなかった。

「正義感は結構だが、時と場所を選んでくれ」

「今の南雲か!?」

ハジメはフェイルノートを用いて、帝国兵を倒したのである。

「お前はあの亜人達を見て何とも思わないのか!?」

「悪法でもここでは法だ。それでも助けたければ、帝国兵を何千人と斬り殺せ。

そうすれば亜人を何万人と救える。正義の味方とやらの誕生だ」

「それなら南雲がやれば・・・」

「お前は人殺しを他人に薦めるのか?。自分は手を汚さずに?

そういうのをな、卑怯者と言うんだよ。大体今回の目的はカム達の救出だ。

目的を間違えるな」

そう言い放つと、ハジメは冒険者ギルドへ向かって歩き始めた。

他の皆も慌ててついて行く。

 

 帝都の冒険者ギルドは、まんま酒場であった。

いつものようにこちらを威圧してくるので、

こちらも『カリスマ』と『神性』をオンにし、こちらも威圧する。

流石に気絶者は出なかったが、一気に冒険者の脅威度が跳ね上がる。

カウンターの女性に亜人族のことを聞くと、

もう一人のマスターを指し示す。

ハジメは初老のマスターに先程と同じ質問をし、一番強い酒をボトルで頼んだ。

マスターは無言でボトルを出す。

どうやら飲めば教えるということらしい。

ハジメが蓋を開けると強烈なアルコール臭がし、皆が顔をしかめる。

香織達が止めようとするが、それよりも早くハジメが飲み始めた。

そして、ボトルの酒を一気に飲み干した。

飲み干したボトルをドンとカウンターに置く。

「わかった、わかった、お前は俺の客だ」

マスターは両手を挙げて降参の意を示す。

どうやらマスターは相応の情報を掴んでいるらしかった。

曰く、数日前に大捕り物があり、兎人族数人が城に連れていかれたらしい。

「マスター、どの程度の金額で深い情報が売れる?」

マスターは最初冗談かと思ったが、このハジメという少年から感じるのは、

歴戦の傭兵の雰囲気だ。どう見ても冗談で聞いたとは思えない。

「・・・・・・警ら隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」

「わかった。訪ねてみよう。世話になった」

そう言ってハジメ達は冒険者ギルドを後にした。

 

 ハジメ達が去った後、マスターに女性のマスターが近づく。

「言って良かったのですか?」

「言わなければあらゆる手段で言わせただろうさ。

あの少年の眼。全てを見透かすような眼だった。

嘘をついてもすぐにバレたさ。それにあれは殺しに慣れた者だ。

絶対に敵に回してはいけない相手だ」

「何が目的なのでしょう彼らは」

「さてな。我々は知らぬ存ぜぬを決め込むのが最善だよ」

そう言いつつマスターは再びグラスを磨き始めた。

 



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潜入

 「欲しい情報は得られた。今晩、カム達のいそうな所へ潜入する。

潜入するのは俺とユエとシアだけだ。香織達はパル達の所で待機してくれ」

「それはわかったけどネディルって人が嘘をついている可能性はないの?」

「それは大丈夫だ。そいつの身体に直接聞いた。何をしたかは聞かない方がいい」

ハジメは目をスッと細めると笑顔で応じた。

この表情に察しのいい雫は、ハジメが何をしたか想像がついたが、聞かないことにした。

碌な手段ではないことは確かだからだ。

 

 ここにきて光輝が話し合いで何とかならないか意見したが、ハジメは却下した。

対価に何を払うのかと。

帝国とてメンツがあるのだ。

タダで引き渡すはずがない。

そうなれば後は、武力行使となる。

結局、結論は同じなのだから、自力で奪還した方がいいのである。

 

 「作戦について話すぞ。天之河達は正面で派手に暴れて陽動。適当な所で撤退。

俺達は陽動に帝国兵が気を取られている隙にカム達を救出する。簡潔に言うと以上だ。

それとこれを渡しておく」

ハジメはルーン魔術でパパっと目元を隠す仮面を作った。

それを光輝達に手渡す。

「南雲これは?」

「正体を隠すためだ。正体がバレるとリリアーナの交渉に影響を及ぼす。

付けると誰か分からなくなる魔術付きだ。色で各自誰か判断しろ」

 

 「ちょっと待ってハジメ」

雫から異議が上がる。

「何だ?。何か問題でも?」

「何で私がピンクなの?」

「香織から実は可愛い物好きと聞いてな。それでピンクを割り振った」

親友のまさかの裏切りに愕然とする雫。

それを無視し話を続けるハジメ。

「時間まで各自身体を休めてくれ。揉め事は極力控えるようにな」

こうして雫の仮面の色はピンクに決まった。

 

 夜になり捕まったハウリア族を救助に来たハジメ達だが、

ハジメは放置しようかどうか考えていた。

やれ鬼だの悪魔だの魔王だの・・・魔王は第六天魔王で合ってるが。

こいつら影で上官のハジメをこう思っていたとは・・・。

やはり俺には人を見る目がないとため息を漏らした。

「よし。お前等。それが上官に対する態度か」

ハウリア族全員が沈黙して硬直する。

そして、声のした方を向くとハジメがいた。

「「「「「げえっ!団長!」」」」」

「ああ。しっかり聞こえたよ。お前等、後で地獄見せるからな」

そう言ってあっさりと牢の鍵を開け、ユエが皆を完全回復させる。

カムは今、尋問中のようでここにはいないらしい。

ハジメは転移魔術を行使し、ハウリア族を予定地点に送ると、

カムの救出に向かった。

 

 厳しい警備をスキルと魔術であっさり突破し、カムのいる尋問部屋に着いた。

中から怒声が聞こえるが、それを言っているのはカムだった。

ピー音連発のそれに頭を抱えるハジメ。

こんな兎人族に誰がした・・・。

俺だったわ。

面倒なのでスキル『圏境』と『気配遮断』で部屋に入ると、

中の帝国兵の喉をあっという間に切り裂く。

中にいたカムは先程のハウリア族よりダメージが深かった。

これでよくピー音入りの怒声を言えたものである。

ユエがカムを完全回復させ、ハジメの転移魔術で予定地点に転移した。

 

 予定地点にてハウリア族が喜び合っているのを、

ハジメが見ている時、背後から風切り音が響いた。

「投影開始」

即座に干将・莫邪の夫婦剣で防ぐ。

相手の得物は黒い鞘に覆われた刀だった。

「・・・・・・何のつもりだ雫」

そう言いつつ原因は予想がついている。

仮面の色がピンクだったのが気に入らなかったのだろう。

雫の言葉の端々からもピンクのダメージが深かったらしい。

「こんのぉ!。奔れ――― ”雷華”!」

バチバチと放電する黒刀。

しかし、当のハジメはむしろ感心するように見ていた。

「ちょっとハジメ。電撃を流しているのになんで平気なのよ」

「いや、普通に俺も放電出来るし。そもそもインドラ・・・雷神の息子だぞ?」

「くっ!。今回は引くわ。いつか一発殴ってやる」

 

 「団長。少しよろしいでしょうか」

カム達がハジメの方へ歩み寄って来た。

真剣な表情からただの挨拶ではないと察し、

ルーン魔術で即席の椅子を作り、車座状に配置した。

その内の一つにハジメは腰掛け了承の意を伝えた。

そしてカム達は語り始めた。



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ハンマー

仕事関連で更新期間が空きそうです。


 カムは何があったのかをハジメに伝えた。

その結果捕虜になったことも。

そして、カムは本題をハジメに伝えた。

ハウリア族は帝国に戦争を仕掛けると。

その言葉にハジメはピクリと眉を動かし、

カムとハウリア族以外は動きを止めた。

今、カムは何と言った?

帝国に戦争を仕掛ける?

たった百名ほどで?

 

 その静寂を破ったのはシアだった。

血迷ったのかとカムに問い詰めるが、カムは平然としていた。

頭に血の上ったシアは、宝物庫からドリュッケンを取り出し、

力ずくで止めようとする。

にらみ合うシアとカム。

止めたのはやはりハジメだった。

神の状態になり、シアとカムに強烈な圧力を浴びせた。

「シア、少し落ち着け。カムの話を最後まで聞け」

「ご、ごめんなさい」

ハジメの圧力に頭に上った血が引いたのか謝るシア。

ハジメはカムの方に向き直る。

「カム。まさかとは思うが、我が参戦すると思っているのではないな?」

カムは笑いながらハジメの言葉を否定した。

カム達は血迷ったわけでもなく、至極冷静だ。

そうなると理由が気になる。

ハジメはカムに理由を問うた。

 

 カムの言によると皇帝が気に入り、兎人族狩りをしようとしているのである。

ハウリア族だけなら生き残れるものの、他の兎人族を巻き込むことになる。

ハジメはハウリア族の戦術を暗殺と推察。カムも肯定した。

だがとハジメは思った。

カムの取る戦術は極めて分の悪い賭けだ。

向こうが暗殺に怯えるか、フェアベルゲンに帝国が再侵攻するか。

後者の方が確率が高いだろう。

フェアベルゲンに防ぐ力はなく、兎人族を差し出すだろう。

 

 シアはハジメの方を見た。

ハジメはため息とともに告げた。

「帝国はハウリア族・・・我のものに手を出した。故に我も参戦する」

その言葉に驚くカム。確かにフェアベルゲンにてハウリア族はハジメのものになったが、

己達のミスで今回の事態を招いたのに、助けるとは思っていなかったのである。

「よろしいので?」

「構わぬ。あの国は元々気に食わなかったのだ。ある物の実験台にもちょうどいい。

だが、あくまでも攻撃の主力はハウリア族だ。それゆえ策を授ける」

「策、ですか?」

「ああ。皇帝の首などいつでも取れると相手にわからせる策だ。

装備品も我から支給しよう」

 

 「ちょっと待ってくれ南雲!」

ここで光輝が間に入った。

「何だ?」

不快感を示すハジメ。

「今は魔人族相手が優先だろう?。人間族の国同士で連携しないと魔人族相手には・・・」

「勘違いするな天之河。ハウリア族は我のものだ。神のものに手を出した罪は重い。

それ相応の報いは受けてもらう」

「皇帝を説得するなり方法があるんじゃないか?」

なおも食い下がる光輝にハジメは鼻白む。

「説得の材料は何だ?。間違いなくそれ相応の物を要求されるぞ。

お前は人を斬れるのか?。カム達の方がお前等より人を殺す点に置いて強い」

ハジメの言葉に黙る光輝。

ハジメはさらに続ける。

「大体天之河、お前は勘違いしている。神と人では思考が違う。

そしてお前には我に対する敬意がない。神を相手にしてるのにだ。それは不敬だ」

本来ならば処刑しているところだとハジメ。

 

 ハジメはハウリア族に向き直り告げる。

「装備品は我が出す。策もだ。皆は作戦通りに動いてくれればいい!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

「雑魚には構うな!。狙うは皇帝の首ただ一つ!。貴様ら気合を入れろ!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

「ハウリア族の手にかかれば、帝国など一日で滅ぶと教えてやれ!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

「カム。やれるな?」

「Sir! Yes Sir!」

「よろしい。たいそうよろしい」

ハジメはハウリア族を見つめる。

皆が皆戦う者の眼をしていた。

「作戦名は『ハンマー』!。文字通り帝国のプライドを叩き割ってやれ!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

「後始末は我に任せよ!。諸君らはためらわず任務を遂行せよ!」

「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」

 

 その後、作戦の詳細を詰めた後、各自休息となった。

シアはハジメの横に座り、中々離れたがらなかった。

ハジメも拒否する気もなかったので、シアの自由にさせた。

 



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裁定

 一夜明けて東の空が白み始めた頃、二人の人影があった。

ハジメとユエである。

ハジメとユエ久しぶりの二人だけであった。

その二人はキスを繰り返していた。

もちろん事前にハジメがルーン魔術で人払いの結界を張っている。

久々の二人きりなのだ。邪魔されてたまるかとハジメは思っていた。

ユエはシアも特別なのかと聞いてきた。

その言葉をハジメは否定し、大切ではあるが特別はユエだけだと答えた。

これはハジメの本心である。

その後もキスを繰り返すが、光輝達が起きた気配がしたので、終わりにした。

二人は名残惜しそうに見つめ合った後、光輝達の所へ向かった。

 

 しばし時間が経ち、帝城にて、リリアーナ王女とガハルドがハジメの話をしていた。

そこにガハルドの部下が息を切らして駆けこんで来た。

「陛下大変です!。南雲ハジメを名乗る人物が城に来ました!

異界の神として看過できない事態が発生したと!

要求を飲めない場合は首都を消滅させると!」

リリアーナとガハルドが顔を見合わせると、外から轟音が響いた。

何事かとリリアーナ達が外を見ると、ハジメが黄金の波紋を展開させ、

剣や槍等の武器を射出し攻撃していた。光輝達はユエ達に動きを制限されているようだった。

ハジメの実力をリリアーナから聞いていたガハルドは、これは不味いと判断し現場に向かった。

 

 「おい南雲!。もうやめ・・・」

「黙れ天之河。こいつらは俺の大切なものを侮辱した。我自ら裁定を下すまでよ」

ハジメがエアを取り出そうとした時、

「待ってくれ!。ヘルシャー帝国皇帝ガハルドだ!。一体なぜ我々に攻撃を加える!」

「お前の所の兵士が我の大切なものを侮辱した。これが我自ら裁定を下した理由よ」

「我が国の兵士が無礼を働いたことは謝る!。それで看過できない事態とは何だ!」

「お前達が捕まえて拷問にかけた兎人族な。あれは我の所有物だ。

神のものに手を出したことがどういうことか分かるであろう?

我のものと分かっていて手を出したのか?。答えよ」

嘘は認めぬ。水色の瞳からはそう言っていた。

「そのことに関しては全く知らなかった。分かっていれば手を出していない」

ガハルドは素直に返答した。

「・・・嘘はついてないようだな。よかろう。こちらも矛を収めよう」

ハジメは黄金の波紋を消し、戦闘態勢を解く。

ガハルドはようやく一息つけた。

ハジメ達一行はリリアーナのいる部屋へ案内された。

 

 「それで?」

リリアーナからの第一声がそれだった。

「シアを侮辱した愚か者に裁定を下したまでだ。

ハウリア族に関することもあったしな」

「なぜ急にこちらに?」

「夜になればわかる。それ以上は説明する気はない」

その後のリリアーナの追及ものらりくらりとかわすハジメ。

その内ガハルドとの謁見の時間となった。

謁見の間に入るハジメ。

複数人の護衛が隠れていることがわかった。

こうして会談は始まった。

ガハルドはハジメに宝具を貸し出さないか問うたが、

神がそうやすやすと渡すと思うかと拒否。

一時剣呑な雰囲気が流れるも、ガハルドが引いた。

その後はお互いの腹の探り合いが続いた。

そして最後にリリアーナの婚約という爆弾をガハルドが投下して会談は終わった。

リリアーナの婚約という事態に問いただす光輝達。

一方のハジメ達はそれもあるだろうと予期していたので、大して驚かなかった。

ハジメはパーティーの準備で忙しいのである。

そう。ある意味でのパーティーという名の裁定を。

ガハルドは勘違いをしていた。

矛を収めたのはハジメだけなのである。

ハウリア族はその鋭い牙を研いでいることに。

 



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パーティーは踊る

 リリアーナがパーティーで着るドレスを選別している時、ドアがノックされた。

部屋に入って来たのはハジメであった。

なぜこの部屋にとリリアーナが聞くと、面倒事だと言って壁に寄りかかった。

そうしていると、ノックもなしに扉が開かれ、男がずかずかと入って来た。

リリアーナの相手のバイアスだった。

バイアスはリリアーナ以外の全員に部屋から出るように指示した。

皆が従うなか、ハジメは動かなかった。

「さっさと出ろそこの奴!」

この言葉にハジメは答える。

「俺より弱い奴には従えないな雑種」

その言葉にバイアスは剣を抜いて襲い掛かるが、

ハジメ相手ではあまりに遅かった。

即座に顔面にパンチを見舞い、ノックアウトさせる。

用事は済んだとばかりにバイアスは引きずられ、廊下に放り出される。

「用事はこれだけだ。自室に戻る」

そう言ってリリアーナの部屋から退出するハジメ。

リリアーナはハジメが千里眼でこの事態を見て助けに来たとわかり、

心の中で感謝した。

 

 自室に戻ったハジメは黙っていた。ユエ達もハジメが集中していることを悟り、

黙っている。やがてハジメは静かに目を開けた。

「流石は帝城。防御が固いが粗方のトラップは片づけた」

そして笑顔で応じる。

「首尾は上々。後は仕掛けを御覧じろ。主役達の為に俺達も着飾るぞ」

 

 その頃、帝城の至る所で暗殺が仕掛けられていた。

警備の兵達が次々と消されてゆく。

ハウリア族の面々が音もなく静かに、行動していた。

全ての情報はハジメの身に着けたルーン魔術のアクセサリーで、

ハジメが適宜、指令を飛ばしていた。

正に死の饗宴が始まったのである。

 

 帝城内のパーティーは豪華絢爛であった。

最も帝国貴族相手に愛想笑いを浮かべたハジメには、

不穏な情報が入っていたが、おくびにも出さない。

そうこうしているうちに、大仰に扉が開けられ、

リリアーナとバイアスが入って来た。

その姿に皆が困惑した。

リリアーナは漆黒のドレスを着ていたのだ。

祝いの席に着るような服ではない。

一方のバイアスも不機嫌であった。

とてもこれから夫婦になると思えない二人であった。

「何かあったのあの二人?」

雫がハジメに尋ねる。

「問題ない。踊るかユエ」

「・・・・・・ん」

雫の質問をはぐらかし、ハジメとユエはダンスホールで踊り始めた。

元王族で踊りの心得があるユエと、スキルを用いて踊るハジメ。

その踊る姿は見事なもので、二人に注目が集まった。

やがて二人は踊り終わり、次はティオだったが、

その前にリリアーナがハジメの前に進み出た。

 

 「一緒に踊ってくださいますか、ハジメさん?」

「バイアスはいいのか?」

「あの方は愛人と踊っていますから」

「ふむ。それではお手を拝借」

うやうやしくリリアーナの手を取りダンスホールの中央へ導くハジメ。

リリアーナとハジメはゆったりと踊り始めた。

「先程はありがとうございました」

リリアーナが小声で囁く。

「千里眼でリリアーナに暴力を振るうのが見えたからな。

最も一時しのぎだが」

ハジメも小声で返す。

「もし、助けてと言ったら助けてくれますか?」

ハジメは少し考えてこう言った。

「助けてほしいなら助けてといえ。

そうすれば世界を敵に回しても助けてやる」

リリアーナは目を見開く。

ハジメがそう返答するとは思っていなかったからだ。

踊り終わり二人が離れる。

 

 「さて、シア。準備完了だ。行って来い」

ハジメの言葉に頷き、会場から出て行った。

檀上ではガハルドが演説をしていた。

一方のカムも同胞に気合を入れていた。

「さて、パーティーの始まりだ」

ハジメは小声で言いつつ、顔をニヤリとさせた。

 



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帝城落城

 双方の合図と同時にパーティー会場は真っ暗になった。

カム達の攻撃が開始され、異様な状況に会場は混乱に陥った。

大声でガハルドが喝を入れるが、異方向からの連続攻撃により、

防戦一方となった。

その間にハウリア族は次々と標的を仕留めていく。

 

 『助けてほしいか?』

「え?」

『念話だ。ハジメだ。助けてほしいか?』

『それは・・・・・・』

『時間がない。決めろ』

『助けて・・・ほしいです』

『承知した。花嫁泥棒とはな』

そのハジメの言葉と共に、リリアーナは持ち上げられる。

そして、即座に移動した。

「神妃となるわけだが我慢してくれ」

ハジメは笑顔を見せ、リリアーナも笑顔で応じた。

 一方ガハルドとハウリア族の戦いは激戦を迎えていた。

魔法が飛び、双方の剣劇が絡みあう。

そして、最終的に勝ったのはハウリア族だった。

ここにいないシアはというと、会場の外で増援を防いでいた。

ハウリア族最強の戦力を配置し、増援を阻止していたのだ。

 

 「毒かっ!」

ガハルドは叫んだ。

「その通りだ皇帝陛下」

リリアーナを抱っこしたまま、ハジメが喋る。

「条件はなんだ?」

「減点だ」

黄金の波紋を一つ出し、ガハルドの部下を殺害する。

「てめえ!」

「減点」

さらに部下が殺害される。

「言葉と態度に気をつけろ。全員殺してもいいんだぞ?

カム。誓約の首輪をつけろ」

ハジメの言葉に応じて、カムが首輪をガハルドに着ける。

「誓約・・・だと」

「誓約の内容は四つだ。現亜人奴隷の解放、樹海への不可侵・不干渉、

亜人族の奴隷化・迫害の禁止、その法定化と法の遵守、これを誓え」

「もし断ったら?」

「我が権能をもって帝都を消滅させる。嘘だと思うなら拒否すればいい」

「そのようなこと・・・・・・」

「出来ないとでも?。王国でのことは伝わっていないか・・・ならばこれならどうだ。

ハジメの手に白い球が現れ消える。

『破壊神の手翳(パーシュパタ)』……弾けて落ちよ!!」

帝城に破壊音が伝わる。

「どこを破壊した!?」

「大したことじゃない。軍の治療院を破壊しただけだ」

「な・・・てめえ・・・」

「望むのならもっと大区画を吹き飛ばせるが・・・どうする?」

「かーっ!。わかったよ」

「それとリリアーナ姫は俺がいただく。文句は言わせん」

「わかったよ!。畜生!」

 

 そして誓約はなされ正しく発動された。

「さて、後は帝都の民の意識改革だな」

「差別意識が今更変わるとでも?」

ガハルドの言葉にハジメは笑みを浮かべ答える。

「コイツなら可能だ」

ハジメがそう言うと天空に巨大な機体が現れた。

「知性体教導用大型端末・霊子情報戦型攻撃機。アフロディーテ・レプリカ。

オリュンポスの神々を模した物の一機だ」

ハジメはそう言うとアフロディーテ・レプリカの能力を開放する。

「ぐあ!」

ガハルドをはじめとした帝国の者達が苦しむ。

一方、ハジメ達には何ともない。

「どうなってるのハジメ!?」

雫がハジメに問いかける。

「「知性体教導用大型端末・霊子情報戦型攻撃機」の名の通り洗脳してるんだ。

今回は亜人に対しての差別を無くすように調整している」

「だから私達には何もないってこと?」

「そうだ。その気なら精神崩壊まで持っていける。それがアフロディーテ・レプリカの力だ。

レプリカだから本物より落ちるがな」

雫はこんな物を作れるハジメに呆れた。

やがて洗脳は終わり、皆が亜人に対する差別が無くなっていた。

 

 「ハジメさんありがとうございます」

リリアーナ姫は深々とお辞儀をした。

「まあ、花嫁泥棒になったがな」

「まさか花嫁泥棒なんて鈴も驚きだよ」

「・・・・・・私は構わない。私は特別」

「これにて一件落着と」

ハジメが纏めにかかる。

「「「「「お前が言うな」」」」」

全員の叫びが一致した瞬間であった。



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Oath Sign

 空をストーム・ボーダーが駆ける。

ストーム・ボーダーの下部には急造のゴンドラが付いており、

奴隷だった亜人達が乗せられている。

別に転移魔術でフェアベルゲンに転移しても良かったのだが、

ハジメ自身が異界の神だと帝都の民に理解させる目的もあった。

そんな中ハジメは何をしているかというと、艦長席で指揮を取っていた。

とはいえ、気楽な空の旅の為、前世の鼻歌を歌いながらである。

 

 「随分と気楽ですね」

リリアーナは『愛らしき白き牡牛』(キオニス・タウロス)に乗っている。

これは戦闘能力皆無のリリアーナにハジメが与えた宝具である。

これの他にも、『青銅巨人の超重槌』(スフィリ・トゥ・ターロー)を渡しており、

リリアーナを充分に守る態勢を整えている。

神妃となっているリリアーナを守るにはこれ位必要なのだ。

 

 「実際気楽だからな。だから前世の歌も鼻歌ででるさ」

「あ、前世の歌なんだ。道理で聞いたことがないと」

雫がハジメの言葉に反応する。

「そういうことだ。楽器を使って弾くことも出来るぞ」

「凄えなこれは。俺用に一機用意してくれ。言い値で買うぞ」

ハジメ達が話している所に、ガハルドが話に割り込んで来た。

「それは無理だ。魔術の塊だからな。機密情報が多すぎる」

「そう言うなよ。一機だけ小さいのでいいんだ」

「・・・ヘリコプターというタイプのなら改造して渡せる。それで我慢してくれ」

「おお!。約束だからな!」

ガハルドはハジメの答えに満足して応じる。

このような話をしつつ、ストーム・ボーダーはフェアベルゲンに向かった。

 

 ハルツィナ樹海の目の前にストーム・ボーダーを着地させ、

ハジメは全員をストーム・ボーダーから降ろし、

転移魔術で一気にフェアベルゲンに到着した。

フェアベルゲンの者達はびっくりしたものの、

その後はそこかしこで感動の再会が果たされた。

「香織、皆を回復してくれ」

「うん、わかった」

香織の力で皆が回復する。

すると香織を女神と崇める者が続出した。

「ハジメ殿、皆を助けてくれたことに礼を言う」

「やったのはハウリア族だ。感謝は彼らにしてくれ」

アルフレリックとハジメが会話を交わしていると、

カムが演説を始めた。

人材勧誘の演説である。

これにはハジメも頭を抱えた。

聞かなかったことにしようとハジメは思った。

 

 その後、奥に案内され、長老衆とガハルドが会談をもった。

皇帝の敗北宣言と誓約の内容が伝えられた。

その後一時両者険悪になったが、ハジメが睨みを利かせ、

何とか無事に会談は終了した。

その後、転移魔術で皇帝を帰国させ、別の話題へと切り替える。

ハウリア族の扱い、領域が決められた。

会談を終え、外を見ると、外はまだお祭り騒ぎだった。

皆がお祭り騒ぎの中へ飛び込んでいった。

ちなみにリリアーナは、転移魔術で王国に帰ることになった。

今回の重要案件を協議しなければならないからである。

リリアーナが神妃となったこともある。

ユエ達がしているのと同じ、宝石一式を渡し、

リリアーナ達を王国へ転移させた。

 

 カムによってハジメはシアがいる木に案内された。

そこでシアの母親の事や、様々なことを話した。

そして、木の上から見る景色は美しかった。

そして、シアに膝枕をされながらハジメは思った。

この世界で大事なものが増えていく。

それを奪うものはエヒトだろうが魔人族だろうが容赦はしないと。

 



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幕間の物語:模擬試合

体調不良の為、現在これが限界。


 「俺と模擬試合がしたい?」

ハジメが正気かと言うような顔をする。

ここはフェアベルゲンのアルフレリックの家。

ハジメは読書を中止し、香織達を見る。

「うん。どこまで強くなれたか、テストしようと思って」

香織は真っ直ぐハジメを見つめる。

ハジメはため息を吐きつつ、問いかける。

「方式は? 言っとくが俺の全力だとテストにならないぞ?」

「それは分かってる。だから今回は技のみでの勝負をしたいの」

雫が説明する。

「主に剣術での勝負か・・・。分かった。やろう」

ハジメはおもむろに立ち上がり、蔵から剣を取り出す。

「何その剣? 光輝の剣に雰囲気が似てるけど」

雫が疑問を抱く。

「聖剣だからな。エクスカリバーと言えばわかるだろ」

ハジメの言葉に雫達が驚嘆する。

「え? アーサー王伝説の? 本物?」

「本物だ。今回は力を抑えている。拘束を解かずに戦うから安心しろ」

そう言ってハジメは外に出る。

雫達も慌ててハジメについて行った。

 

 模擬試合はハウリア族の訓練場で行うことになった。

「さて、来るといい」

ハジメは剣を構える。

雫達も各々の武器を構える。

それからしばらく時が流れる。

「・・・これもダメ」

雫は幾度となく想像の中で攻撃をハジメに仕掛けているが、

全て雫が叩き伏せられている。

光輝や龍太郎、香織も想像上で攻撃を仕掛けているが、

雫と同じことになっていた。

「・・・・・・面倒だ。来ないならこちらからいくぞ」

ハジメがそう言うと同時に、ハジメの姿が消える。

それと同時に鈴が張っていた結界が、コンマ秒以下で破壊される。

これに一番に反応したのは香織であった。

大剣でハジメの攻撃を受け止める。

そこに雫がハジメに斬りかかるが、ハジメは余裕を持って躱す。

さらに光輝と龍太郎の攻撃がハジメを襲うが、

ハジメはバックステップでそれを躱す。

時間にして三秒にも満たない攻防。

違うのはハジメは涼しい顔なのに対し、雫達は汗びっしょりであることだ。

ハジメは力の大半を抑えているのにこの状態なのだ。

ハジメが全力の場合、コンマ秒以下で試合は終わるであろう。

 

 「あー、試合方法変更。一対一でやろう。その方が加減しやすい」

頭を掻くハジメ。

ハジメが想定した雫達の戦闘力と、実際の戦闘力に落差があったためだ。

そこからは一対一の戦いとなった。

この中で一番強いのは香織であろう。

まだ身体に慣れていないが、慣れればユエ達とも戦えるであろう。

勇者組はこれから次第だろう。

ハジメはそう判断した。

(しかし、人を斬ったことのないこいつらに出来るのか?)

ハジメは一瞬思ったが考えないことにした。

その時はその時だ。今は考えるまい。

ハジメはそう思いつつ、模擬試合の相手を務めた。

 



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ハルツィナ大迷宮

体調不良がひどいです。


 「天之河。右だ」

ハジメが指示を飛ばす。

霧の中から襲いかかる魔物達。

もっともハジメ達は魔物の討伐を手伝わず、勇者組に任せていた。

樹海の魔物で迷宮へのウオーミングアップをさせているのだ。

もっともオルクス大迷宮の魔物相手と違い、苦戦しているが。

そんな中、香織は自主的に魔物の討伐に加わっていた。

ハジメから見ても徐々にノイントの肉体に馴染んでいるのがわかる。

そうこうしているうちに、ハジメ達は大樹に到着した。

ハジメは石板の前に行き、大迷宮の証をはめ込む。

ここからが本番だと全員に注意をうながす。

ハジメはハウリア族に大樹から離れるよう指示する。

ハジメの指示通りにハウリア族は撤退を開始した。

大迷宮の証をはめ込み終えると、大樹がみるみるうちに再生し、

青々とした葉を茂らせた。

そして、正面の幹が左右に分かれ、洞を作った。

皆がそれぞれ頷き合うと洞の中に入っていった。

洞の中は大きなドーム状の空間であった。

直後、入口が逆再生のように閉じた。

そして、足元に大きな魔法陣が出現し光を放つ。

「転移系魔法陣だ! 転移直後に注意しろ!」

ハジメが注意した直後、全員の視界が暗転した。

 

 ハジメ達の視界に映ったのは樹木生い茂る樹海であった。

「南雲・・・どっちに向かえばいいんだ?」

光輝の問いにハジメは鼻を鳴らして答える。

「とりあえず探すしかないな・・・『天の鎖』よ!」

ハジメはいきなり『天の鎖』を発動し、ユエ、ティオ、龍太郎を絡めとる。

光輝達はハジメの行動に一瞬呆然とした。

「消えろ雑種」

『王の財宝』から各種の武器が放たれ、ユエ達を串刺しにした。

そうすると赤銅色のスライムになり、地面のシミになって消えた。

「流石大迷宮だな。いきなりやってくれる」

ハジメが苦々しく呟く。

「ハジメさん・・・ユエさんとティオさんは・・・」

「恐らく転移した時に別の場所に飛ばされたんだろう。

赤色スライムに擬態させて、背後から襲う算段だったんだろう」

「なるほどね・・・・・・それにしてもよくわかったよね」

「魂を見れば簡単に見分けがつくけどな。それ以外なら普段との違いに気付く必要があるな」

なるほどと全員が納得する。

 

 それから樹海の中を歩くことしばし、二時間ほど歩いたころ、それは聞こえてきた。

おびただしい数の羽音だ。

ここで勇者組が前に出て戦う姿勢を示す。

ハジメ達は様子を見ることにした。

しかし、ここは大迷宮。外の魔物とはあまりにも違う強さと戦術に削られる勇者組。

無論、ハジメ達にも襲いかかっているが、ハジメは『王の財宝』で、

シアはドリュッケンでまとめて叩き潰し、香織も銀羽の弾幕で撃ち落としていく。

その頃勇者組は追い詰められていた。

その様子を見たハジメはため息をもらした。

『王の財宝』の門数を増加させて、武器を放った。

次々と『王の財宝』が直撃し、轟音が響く。

煙が晴れた後には、魔物の死骸が残されていた。

「とりあえずこんなところか・・・次行くぞ」

ハジメは何の感慨もなく呟くと、先へ進む。

慌てて皆は樹海の奥へと進むのであった。

 

 それから二時間ほど経った頃、

大迷宮の樹海は真っ赤に染まっていた。

「果てるがいい! 雑種共!」

そう言って熱線銃を乱射するハジメ。

某どら焼き中毒のロボットが持つ熱線銃の為、鉄筋ビルを一瞬で灰にする威力である。

もう片方には原子核破壊砲を持ち、こちらも乱射しまくる。

シアと香織が止めようとするが、「あっ?」という声と共に、

眼が完全にいっちゃってるハジメの顔にすごすごと引き下がる。

雫と鈴と光輝はがたがた震えていた。

この原因は細かくは省くが、猿モドキがユエの偽物を持って来たことに起因する。

これでハジメがキレた。

後は、『王の財宝』から大量破壊兵器のオンパレードである。

MLRS、ナパーム弾、クラスター爆弾etc・・・。

各種大量兵器を展開しぶっ放していく。

そして、ついに恐れた事態が起きた。

銀河破壊爆弾をハジメは取り出したのである。

「こうなったらこの銀河丸ごと吹き飛ばしてやる!」

これに慌てて左右からシアと香織が止めに入る。

二人の懸命の説得に落ち着いたのか、攻撃を止めるハジメ。

「まあ、なんだ。視界が開けて探しやすくなったな」

コホンと咳払いしつつ、そっと銀河破壊爆弾を元に戻す。

雫達は何も見なかったことにした。

何でそんな物を持っているのか聞くのが怖かったのである。

 

 「ん?」

そんな時ハジメが妙な気配を捉えた。

そして出て来たのはゴブリンである。

光輝が即座に斬りかかるが、ハジメが『天の鎖』を発動。

光輝を拘束する。

「南雲! これはどういうことだ!」

「あれはゴブリンじゃない。ユエだ」

ハジメはそう言うとゴブリンに近づく。

そして、念話で会話をする。

やはりユエであった。

最もハジメは魂を見れば分かるが。

ティオと龍太郎もこの状態になっているとハジメは判断。

急ぐ必要があると皆を促した。

そして十分後、ゴブリンになったティオをハジメ達は見つけ出した。

 



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ハルツィナ大迷宮2

リハビリも兼ねて短め。


 ハジメ達はトレントと呼ばれる木の魔物と相対していた。

枝、葉、実、根全てが致死性の攻撃である。

大きさもオルクス大迷宮の比ではなかった。

それに対して戦っているのは、光輝、雫、鈴、そしてオーガに似た生物になった龍太郎である。

ここに至る道中、オーガ同士の死闘に遭遇したのだが、そのうちの一体が龍太郎であった。

逃げようとせずひたすら前に行く姿勢に、皆がコイツだと感じた。

その後、雫からめちゃくちゃ説教を受けた龍太郎。

ともかく全員が合流し、ハジメ達は探索の末、巨木にたどり着いたのだが、

その巨木が暴れ始めたのだ。

強さ的にもこの階層の主であろう巨大トレント。

今回は香織も回復要員で参加している。

 

 (これはどうしたものかな)

ハジメは悩んでいた。

光輝達はそろそろ限界が近い。

しかし、それで大迷宮に攻略と認められるかどうか・・・。

『ご主人様よ。何を悩んでおるかは大体わかるが、問題ないと思うぞ』

「どういうことだティオ?」

『恐らくじゃがハルツィナは絆を試しておるのじゃろう』

「絆か・・・なるほど」

確かにそれを試している節がある。

そう思考してハジメは決断する。

『谷口、死にたくなかったら結界を解くな。全て焼き尽くす』

ハジメは念話の返事を待たずに行動に移す。

「此処に至るはあらゆる収斂。縁を切り、定めを切り、業を切り。

我をも断たん無元の剣製――即ち。宿業からの解放なり!」

 

 強力な一振りが巨大トレントを焼き尽くす。

無論、谷口達に直撃しないように調整してだ。

結界の外が炎に染められたのを見たトラウマか、雫と鈴は眼の光を失くし、

龍太郎は冷や汗を流している。

光輝はいとも簡単にトレントを倒したハジメを見て歯がみした。

そんな時、メキメキと言う音と共に木が再生し、瞬く間に巨木となった。

そして、幹が裂けるように割れて中に空洞が出来上がる。

「なるほど。中ボス兼次への入口というわけか」

ハジメは呟き中へ向かう。それをユエ達と光輝達が追った。

全員が洞にはいると扉が閉じられ、足元から魔法陣が輝きだした。

「また転移だな……」

ハジメはユエとティオを抱き寄せた。

無駄かもしれないが、何もしないよりはましだろう。

そしてハジメの視界は一面光に塗りつぶされた。

 

 ――――――――ジリリリリリリ!

目覚ましの音にハジメは眼を覚ます。

それと同時に自室のドアが開き、制服姿のユエが姿を現す。

「ハジメ。おはよう」

「ああ、おはよう。ユエの偽物」

そう言って偽物を睨むハジメ。

「ハジメどうしたの!? 私、ユエ……」

「黙れ! 幻術を得意とする俺が、騙されると思うか!

偽物がユエの姿で、声で真似をするな!」

怒りの咆哮と共に、ハジメから強大な魔力が立ち昇る。

ハジメはエアを取り出す。

「この空間ごと壊してやる」

エアの三つの円筒が回る。

「裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣! 受けよ! 『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

ハジメの怒りと共に世界が切り裂かれた。

 

 背中と後頭部に当たる冷たく硬い感触と乾いた空気。

それを感じてハジメの意識は急速に浮上した。

「ああ、くそ……」

頭を振り周囲を確認する。

棺のような物が並んでいた。

ハジメはその中の一つを覗いた。

ハジメは驚いた。琥珀の塊の中にユエがいた。

死んでいるのかと思ったが、気配感知で生きていると確認し安堵する。

「早く戻ってこいユエ。無性にユエの声が聞きたい」

ハジメがそんなことを考えていると、棺が発光し、琥珀は完全に消えてしまった。

ハジメはユエが呼吸をしているのを確認し、棺から持ち上げ抱きしめる。

ユエはゆっくりと眼を開ける。

「ユエ、お帰り」

「……ん、ハジメ?」

「想像はつくが、正真正銘のハジメだ。

俺はユエが本物だと信じる」

「どうしてそう思うの?」

「魂だ。魂の深い所がそう言ってる」

「…………私も同じ」

ハジメはユエを改めて抱きしめた。

ユエも同じくハジメを抱きしめた。

 



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ハルツィナ大迷宮3

 ――ゴホンッ!

「ん? シア目覚めたのか」

シアが目覚めたことに気付き、シアのウサ耳をもふるハジメ。

ウサ耳をもふられて嬉しそうにウサシッポをパタパタさせるシア。

「シアはどうやって理想世界から抜け出したんだ?」

「それはもちろん、今の自分を否定するなんて出来ませんし、

したくありませんでしたから、こんな世界嫌ですぅー!

家族を利用しやがって、ふざけんなーーって」

「……なるほど。強くなったな」

「ええ。これからも、私はハジメさんやユエさんの隣にいたいですからね。

その道が痛みや苦しみを伴うものだったとしても」

ハジメはシアを抱き寄せる。

「ハジメさん?」

「お帰りシア」

「はいです!」

 

 三人が話をしていると、琥珀の一つが輝きだした。

「あれは確か……」

ハジメが呟くと同時に、その人物を照らし出した。

「ん……」

「お帰りティオ」

「ただいまなのじゃご主人様」

「…………そうか。よく戻って来たな」

ハジメはティオが見た夢を察したのか優しかった。

 

 次に脱出出来たのは香織だった。

ハジメ達を見て安堵すると、ハジメをもう一度見て、

顔を真っ赤にして一気に離れた。

「どんな夢を見たんだ?」

「これは、その、あの……」

聞いてやらない方が良さそうだとハジメは思った。

 

 「まあ、何にしても俺達は全員帰還出来た訳だ」

「ですね。それで勇者さん達の方はどうします?」

シアが残りの琥珀を見る。

「そうだな。最終的には破壊だが、とりあえず自力で脱出するまで待つか。

そうでないとここに来た意味がないしな」

「どれくらい待ちます?」

「飯食って一休みする位の時間でいいんじゃないか?

あまりだらだらと時間を費やすのもなんだし」

「あの、ハジメさん……」

「ん?」

「もし、私がユエさんと同じことになったら……やっぱり怒ってくれます?」

ハジメは一瞬目が点になったものの、すぐに返事を返す。

「当たり前だ。自分の大切な者をダシにされて怒らない奴はいない」

「あ……えへへ。そうですかあ」

嬉しそうにウサ耳を動かすシア。

そして各自がめいめいに過ごしていると、体感で3時間が経過した。

 

 「そろそろ潮時か?」

「……ん。確かに」

「区切りをつけないと切りがありませんし……」

そこに香織がストップをかける。

「もう少しだけダメかな。雫ちゃん達ならきっと……」

香織の言葉にハジメはやむなく同意する。

そして遂に琥珀の一つが輝き出した。

「あの琥珀は……雫ちゃん!」

「ほう。八重樫か。やっぱりな」

ハジメは賛嘆の声を上げる。

香織に抱きかかえられ、雫はただいまと返事した。

その後部屋の中央でティータイムとなった。

雫が夢の内容を小声で呟いているが、ハジメは聞こえないふりをした。

 

 それから数時間待ったが、強制脱出が決定された。

これ以上は時間の無駄とハジメが割り切ったのである。

「それじゃあ香織、分解で頼んだ」

「うん。わかったよ」

香織は分解で琥珀を溶かす。

そう時間をおかずに三人は目を覚ました。

その中でも鈴の言葉から夢の内容を察し、痛々しかった。

香織と雫は悲痛な表情を浮かべる。

やはり恵里の裏切りは痛かったのだ。

ハジメもそれは理解できた。

前世では裏切りの連続だったからだ。

しかし、大迷宮は立て直す時間を与えなかった。

部屋の中央に魔法陣が出現した。

「全員備えろ。己の心に負けるな」

ハジメが全員に言うと同時に、魔法陣が爆ぜた。

 



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