天元の花(偽)、異世界に降り立つ。 (久しぶりに投稿したマン)
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おいでませ異世界へ!
一話
肌寒さを感じゆっくりと瞼を開くとボサボサ髪の毛を雑にまとめた無精髭のおっさんが起きた自分の方へ視線を向けた。
「ん、起きたか......ガキ」
「(は?何これ)」
あれから早十八年も経過した。当時は、ただ只管に困惑してばかりだった。ベッドで寝ていた筈なのに、目が覚めたら知らない男の顔が目の前にあったものだから、大きな声で叫んでしまった事は今でも覚えている。転生とはっきり自覚したのは、五歳になった頃風呂に入っている時水面に映る自分の顔が武蔵ちゃんの顔を見て理解した。
そこからはこれから出くわす先の未来で生き残れる様に必死に剣技を磨き続けて、何とか五輪の真髄の片鱗らしきものは身に付けられたが、そこからはスランプ的なものに陥り日々修練をしている。
「?」
休憩がてら雑にこれまでの事を思い返していた所にひらりと現れた白い手紙はゆっくりと私の膝に落ちた。辺り一面をキョロキョロと見渡して見るが、私以外の気配も形もなかった。
此処で深く考えても進まないので、落ちてきた手紙を開くと空に放り上げられていた。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その
私以外の叫び声が聞こえる最中、周囲の状況を確認する事が出来た事に「これも武蔵ちゃんbodyの恩恵か?」っと、余分な思考ができる程に落ち着いていた。今の状況は私と他三人と動物一匹が落ちている事が分かる。後は、落下地点には何かしらの物で作られた膜が見えているので死ぬことはないと考えたと同時に飛び込んだ。
落ちた場所は何処かの湖だった。他の三人と一匹は陸地の方へと向かっていたので、その後を付いていった。陸地に着くと、各々濡れた衣服を絞りながら愚痴り始めた傍ら、私は自分の刀を吹いていた。
「最後に、そこの着物の貴女は?」
「おお!俺も気になってたぜ!」
「......同じく」
拭きながら聞き耳を立てて、自己紹介する流れだというのは知っているけれど、私の前に派手な自己紹介をした金髪の男のせいで、変にハードルが上がってしまい不安ではあるがこのまましないで黙っている方がもっとヤバいので、勢いよく述べた。
「
『っ!』
三人共、私の名前を聞いて驚いた表情をした。まぁ、正史では宮本武蔵と言ったら男性というのが常識だから、驚くのは問題は....無い筈.....多分と言い聞かせている私と三人の様子を草陰から見ている
「(え!?)」
それから三十分程経過した頃、痺れを切らした金髪の男___十六夜は、草陰からはみ出ているうさ耳をぎゅっと力強く握りしめ、引っ張り出した。
「いい加減出てこい!」
「ふぎゃ!何するんですか!痛いじゃないですか!」
「何するも寝ぼけたことをを言うな!こっちはお前が出てくるのを待っていたんだぜ!」
「えっ!?そうなんですか!」
うんうんと頷く私たちにを見て、さっと青ざめた表情を浮かべた黒ウサギは勢いよく腰を曲げで謝罪した。
「大変お待たせして申し訳ございません!宜しければ、此処__〝箱庭〟について説明してもよろしいでしょうか?」
涙目になりながらも黒ウサギは何とか話を聞いてもらえるような状況にできた。私を含んだ四人は黒ウサギの前に座り込み、話だけは聞こうというぐらいには耳を傾けた。
「それではよろよろしいでしょうか。皆様、定例文で言いますよ!ようこそ!〝箱庭〟へ!我々は皆様に与えられたギフトを所持している者しか参加できない『ギフトゲーム』への参加資格をお渡ししたいと思い召喚させていただきました」
「ギフトゲーム?」
「そうです!皆様にお気づきでしょうが普通の存在ではありません!その特異的な力は、神仏や悪魔、精霊等の超常なる存在から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』は与えられた〝恩恵〟を用いるゲームとなっております。そして、箱庭はそういった恩恵を持つ様々な方々が自らの欲を満たすために造られたステージも存在します!以上で簡潔にこの世界の事を説明しましたが質問はありますか?」
発言をする為に久遠飛鳥は真っ直ぐと挙手をした。
「まずは初歩的な質問をさせてもらうわ。貴女の言う〝我々〟っていうのは、貴女を含めた集団なのかしら?」
「YES!異なる世界から呼び出されたギフト所持者は箱庭で生活するには数多の〝コミュニティ〟に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの〝
「.....〝主催者〟って誰?」
「うーん。それは様々ですね。というのも___」
流石に話が長いので略すと、このような内容だった。
・試したい、力を誇示したい等の者たちの事を主催者とされて、リスクはあるがちゃんとリターンもある。
・ギフトゲームは〝主催者〟が開催するものと互いの金品や土地、権利等の様々ものを賭けて行われる。勝者は賭けられたものを総取りする。
・法自体は存在するけれどギフトゲームを介した事は適用外とされる。なお、ゲームに参加した以上は自己責任となる。
「さて。皆様を呼んだ義務として、箱庭世界の説明をしてきましたが全てを説明するにはもう少しお時間を頂きます。しかし、いつまでも皆様を野外に出しておくのは忍びない。なので、残りの説明は我々のコミュニティでさせていただきますが、......よろしいですか?」
一通りの説明を終えたのか、息を整えながら一枚の封書を取り出した。
「おい、まだ俺が質問をしてねぇし、そいつもしてないだろ」
静かに聞いていた十六夜は声を上げながら私を指さした。話し始めから出ていた軽薄な笑みがなくなっている事に気づいた黒ウサギはは聞き返した。
「......どういった質問ですか?ルールでしょうか?ゲームのことでしょうか?」
「俺より先にまずはお前が答えろ」
へっ?てっきり、こいつから答えると思って考えてたんですけど......うーん。まぁ、これにしようかな。
「うどんってある?」
「えっ!?.....勿論ありますとも!では、十六夜さんはどういうことをお聞きになりたいでしょうか?」
「俺がただ一つ.....これだけ聞きたいのは手紙に書いてあった一文」
十六夜は視線を黒ウサギから外し、飛鳥、春日部耀、私の順で見回し、此処から見える都市へと向けた。小さく息を吸い込んで吐き出すかのように発した。
「この世界は......
「.........」
この世界に呼んだ手紙には確かに己の全てを捨ててこいと書かれていた。その価値があるのかと黒ウサギの返答を無言で待った。
「____YES。『ギフトゲーム』は人知を超えた者達が参加することができる至上の遊戯。この箱庭の世界は外界のどれよりも格段に面白いと黒ウサギは保証いたします♪」
____________________________________________________
黒ウサギについていくとそこには一人の男の子がいた。
「ジン坊ちゃん!新しい方々を連れてきましたよ!」
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性三人が?」
「はい!此方の御四人様が___」
そうですっと言い切りながら、こっちに振り替えると一人欠けていることにカチンっと固まった黒ウサギは、声を震わせながら聞いてきた。
「.......えっと、あれ?もう一人いませんでしたっけ?全身から〝俺様問題児!〟ってオーラを発している男性が?」
思い出したかのように飛鳥は黒ウサギの質問に答えた。
「あぁ、十六夜君の事?彼なら〝ちょっくらぁ世界の果てまで行ってくるぜ〟とか言いながら駆け出して行ったわあっちの方角に」
飛鳥が指をさした方角には空中から見えた断崖絶壁だった。あまりの出来事に呆然と立ち尽くした黒ウサギは怒髪天を衝くが如く私たちに問いただした。
「ど、どうして止めてくれなかったんですか!」
「〝止めるなよ〟って言われたもの」
「なら、何で黒ウサギに教えなかったのですか!」
「〝黒ウサギには何も言うなよ〟と言われたから」
「あー、何かごめんね?」
「そう言われると何とも言えないのですが.....そこの御二人はただ面倒だったのでしょう!?」
『うん』
飛鳥と耀の返事にガクリと膝から崩れ落ちた黒ウサギは数時間前の新たな人材に胸を躍らせた己が妬ましく思った。召喚したギフト所持者た達がこんな問題児ばかり来るなんて嫌がらせにも程がある。
そんな落ち込んでいる黒ウサギとは対照的のジンは顔面蒼白になりながら叫んだ。
「た、大変です!あっちにはギフトゲームの為に野放しになっている幻獣がいます!」
「幻獣?」
「そうです!ギフトを持つ獣を指す事で、主に生息するのが先ほど指をさした方角にある〝世界の果て〟付近にいます。出くわしたら最後、とても太刀打ちできません!」
「あら、それは残念。もう彼は終わりかしら?」
「ゲーム前にゲームオーバー?.......ギャグ?」
ジンの発言に焦る処か肩を竦める二人を横目に私は久方ぶりに滾るものを感じていた。
そんな私達を尻目に黒ウサギはため息を吐きながら立ち上がった。
「はぁ、仕方がありません。ジン坊ちゃんは黒ウサギの代わりに御三方の案内を頼みます」
「わかった。黒ウサギはどうするの?」
「一刻程であの問題児を捕まえてきますので!皆様はゆっくりと堪能して下さいませ!」
そう話し黒い髪を朱に染めて〝世界の果て〟へ高く跳び去り、あっという間に遠くの方へ消え去っていった。吹き上がる風から髪を抑えていた飛鳥は呟いた。
「......箱庭の兎って随分と速く跳べるのね。素直に感動したわ」
「黒ウサギは箱庭の創始者の眷属で力もそうですが様々なギフト以外にも特殊な権限を持ち合わせた貴重な種族です。余程の幻獣でなければ大丈夫です。」
ふーんっと空返事を返す飛鳥は心配そうにしているジンに向き直って話しかけた。
「じゃ、黒ウサギも堪能して下さいと言ってたし、お言葉に甘えて私達は先に箱庭に入るとしましょうか。エスコートは貴方がして下さるのかしら?」
「は、はい!コミュニティのリーダーを担っているジン=ラッセルです。齢十一の若輩ですが、よろしくお願いいたします。あの、三人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこの猫を抱えているのが」
「春日部耀」
「そして、着物を着ている彼女は」
「
ジンが礼儀正しく自己紹介したのを倣って、私たちもしっかりと自己紹介した。
彼の後から続いて、門を潜ると空から眩しい光が降り注がれた。上を見上げると透明の天幕越しに太陽が燦燦と輝いていた。外からだと中の都市が見えなかったの筈なのに、そう考えた私達を見抜いたが如く説明し始めた。
「箱庭を覆っている天幕は内側に入ると不可視化になるのです。この巨大な天幕は太陽を弱点とする種族の為に造られたものですから」
飛鳥は空を見上げながら皮肉を発した。
「へぇ~気になる話ね。此処には吸血鬼でもいるのかしら?」
「はい、います」
「.....そう」
自身が生まれた世界には存在しない生き物が、ごく当たり前ように存在する事にどこか複雑に感じた表情を浮かべる飛鳥。私はその二人の話を聞きながら街並みを眺めていた。すると、目の前に色々な種族達が賑わう噴水広場に視線を向けた。その周りには清潔感のあるお洒落な喫茶店が幾つも並んでいた。
「この中でお勧めのお店はあるのかしら?」
「すいません。今回の段取りの全てを黒ウサギに任せていたので、よかったらお好きな店を選んで下さい」
「それはなんとも太っ腹ね」
私達は近くにあった獣の傷跡のようなものが刻まれたが旗が掲げれている喫茶店に入った。そこに注文を取りに来た猫耳の少女が現れた。
「いらしゃいませー、ご注文はどうなさいますか?」
「そ、それじゃあ、紅茶を....と緑茶を二つずつ。後は軽食にこれとそれで」
『ネコマンマを!』
「はい!それでは注文を確認しますね。ティーセット四つにネコマンマを一つですね」
私と飛鳥、ジンは?を浮かべ首を傾げた。そんな私達を気にも留めずに耀は驚きの表情をしていた。
「三毛猫の言葉、分かるの?」
「それはもう分かりますよ!だって、私は猫族ですから」
猫耳の店員は長い鍵尻尾を振り回しながら店内に戻っていった。その様子を傍から見ていた私達は興味津々に質問をした。
「え?もしかして貴女も猫と会話する事って出来るの?」
動揺が隠せない飛鳥の質問に首をコクリと頷いて答えた。続けてジンが質問をした。
「猫以外にも意思疎通が出来るのですか?」
「うん。生きているのなら、どんな生物だって話は出来る」
「じゃあ、今までどんな生き物と話してきたの!?」
「雀や烏とか.....最近だとライオンか__」
「ライオン!?」
「う、うん。動物園で知り合った。他にも、虎とかゴリラ達とも友達になった」
ライオンと話す機会がある事に驚きを隠せない飛鳥とジンは耀の声を遮って声を上げた。私は一応前世の知識で知っていたので、特に驚きはしなかった。
「久遠さんと宮本さんは__」
「飛鳥でいいわ。春日部さん」
「私も武蔵でいいよ」
「う、うん。二人はどんな力を持っているの?」
「先に私から言っていい?飛鳥」
「.....ええ、構わないわ」
よし、これで変にハードルが上がらないぞ。でも、なぁ。武蔵ちゃんに特異な力ってあったっけ?それっぽいのを言おうかな?
「天眼というものよ。わかりやすく言えば、目的を果たすにはどうすればいいかを見極める眼って言う事」
「流石と思う力ね。羨ましいわね.....だって、私の力は___」
「おんやぁ?そこにいるのは東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダージン君じゃないですか?」
飛鳥の話を遮った野太い声が入ってきた。声のする方向にはぴちぴちの紳士服を着ている___包んでいる男がいた。
・文章量を修正しました。
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二話
「おんやぁ?そこにいるのは東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダージン君じゃないですか?」
「僕らのコミュニティは〝ノーネーム〟です。勝手に変えないで下さい。〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパー」
「やかましい、この名無しが。風の噂では....新たな人材を呼び出したらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてなお、意地汚く存させるじゃないか。そうは思いませんか、お嬢様方?」
ぴちぴちの紳士服を着ている彼はガルドというらしい。私達が座るテーブルの空席に勢いよく座り込んだ。断りの一つも入れない態度を取るガルドに冷ややかな態度で返した。
「あら、失礼ですけど、同席をするならばまずはご自身の名を名乗り一言述べて席に着くのが礼儀ではなくて?」
「それは失礼した。私は箱庭上層に位置するコミュニティ〝六百六十六の獣〟傘下である」
「烏合の衆の」
「コミュニティのリーダーをしているって待てやゴラァ!!誰が烏合の衆じゃ!小僧!!」
「っ....ぷ....」
ジンの横槍を入れられ怒鳴るガルドを横目に私は笑うのを堪えていた。
「口を慎めろぉ....小僧。紳士で通っている俺でも看過できない言葉はあるんだぜ?」
「かつて森の守護者であった貴方だったら相応の敬意を払い礼を尽くしますが、2105380外門付近をを踏み荒らしている者にしか見えません」
「はっ、そういうお前こそ過去の栄光に縋り付いている野郎となんら変わりねぇ。自分らのコミュニティがどんな状態なのかを理解してるか?」
「はいはーい。一旦ストップ!」
このまま話がか進むと私や飛鳥たちがついていけないから間に入らないといけない。
「二人の話を聞いていて分からない所もあるけど、仲が悪いのは理解しました。そこを踏まえて質問するわ」
睨むようにジンに視線を向けながら聞いた。
「何か。私達に隠し事してない?例えば、ガルドが言ってたコミュニティの事とか?」
「うっ、それは,......」
私の言葉に思い当たるのか言葉を詰まらせたジンは目がキョロキョロ動き回り動揺が隠しきれていなかった。そんなジンに畳み掛けるように私は追及した。
「自己紹介の時に自分はコミュニティのリーダーだと言ってたよね?ならば、黒ウサギと同様に説明義務がある筈よね?違う?」
私の言っている事が当たっているのか、小さい呻き声がジンから発せられていた。その様子を見ていたガルドは画活気づくように饒舌に笑顔を浮かべながら話し始めた。
「その通りです、レディ?コミュニティのリーダーとして新たに加わる同志に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。だが、彼はそうしたがらない。よろしければ代わりに〝フォレス・ガロ〟のリーダーとして、コミュニティの大切さとそこの小僧___ジン=ラッセル率いるコミュニティを客観的に説明いたしましょうか?」
急にイキり始めたガルドに内心辟易しながらも、ジンへ一瞬視線を向けそのまま話を促した。
「....じゃあ、お願い」
「了解いたしました。コミュニティはそのままの意味で複数名が集まり作られる組織の総称です。様々な種族によって受け取り方は色々と違いはあるでしょう。此処までは基本中の基本。名と旗印を持たなければその集まりはコミュニティと認められません。特に旗印は自分達の縄張りだと主張する重要な物。ほら、この店にも掲げてあるでしょう?」
ガルドが指さした方向に喫茶店の店頭に掲げてある六本の傷が刻まれた旗印があった。
「六本の傷が入ったあの旗印はこの店を経営をしているコミュニティの縄張りである事を主張しています。仮に自信のコミュニティを大きくさせたければ、互いの合意で『ギフトゲーム』を行えばいい。私もそうやってコミュニティを大きくしましたから」
見せびらかすかのようにぴちぴちの紳士服に刻まれた虎の紋様があった。私と飛鳥、耀は周囲を見渡すと同じ紋様が飾られていた。その有様を黙って聞いていた飛鳥は若干冷汗をかいていた。
「その紋様が縄張りというなら、周囲のほどんどは貴方たちの支配下ということかしら?」
「その通り、この喫茶店のコミュニティは本拠が南区画にある為、手を出すことはできません。だが、2105380外門付近で活動する全コミュニティは私の支配下です。精々残っているのは本拠が別にあるコミュニティと支配するに値しない名無し共ぐらいです」
ふっふっと嫌味たらしい笑みを浮かべながら、縮こまっているジンを見つめている。
「では、此処からは貴方達所属する予定のコミュニティについての話です。数年前までは東地区最大手のコミュニティでした」
「へぇ、そうなの。意外ね」
「まぁ、リーダーは別でしたけれどね。そこの彼とは比べるのも烏滸がましい程優秀な男だったそうです。ゲームでの戦績は人類最高の記録保持者で、名実ともに東区画最強コミュニティだったらしいですから」
現在この付近の最大コミュニティ保持者のガルドとしてはつまらなさそうに淡々と語った。
「東西南北と分かれている箱庭で
「........」
「〝人間〟が立ち上げたコミュニティとしてはまさに快挙といえる数々の栄光を築いたコミュニティは、そこで目に付けられてはいけないものに付けられた。ゲームに参加させられ、たった一晩で滅ぼされました。『ギフトゲーム』が支配する箱庭の最悪の天災」
「天災?」
話を聞いていた飛鳥と耀は同時に聞き返した。数々の戦績を残したコミュニティがたったの一晩で滅んだ天災というのが、どことなく不自然感があった。
「これはたかが比喩ではありません、レディ達?彼らは箱庭で唯一にして最大の天災____俗に言う〝魔王〟と称される者達___以上でお話は終わりです」
「なるほどね。おおよそ理解したわ.......で?本題はにかしら。此処まで懇切丁寧に話すのだから何かしらの目的でもあるのでしょう?」
「ふっ、単刀直入に言いましょう。此処にはいない黒ウサギ共々、我がコミュニティに加入しませんか?」
「な、何を言い出すんですか!ガルド=ガスパー!!」
寝耳に水な発言にジンは勢いよくテーブルを叩いた。
「黙れ!ジン=ラッセル。元は言えば、旗と名を新しく改めていれば、ある程度の人材が残る筈だろう。その我が儘でコミュニティを窮地に追い込んでおきながら、どの面下げて呼び出したんだ!」
「そ.....それは」
「それに加えて何も知らねぇ奴だったら騙せると思ったのか?その結果として黒ウサギと同じ苦労を強いるってんなら、箱庭の住人の一人として通すべき仁義があるぜ!」
ガルドからの口撃にジンは微かに怯んだ。しかし、ガルドの口撃以上に私達に対する罪悪感が勝っていた。何も知らない私達を騙そうとした程、ジンのコミュニティは崖っぷちに追い込まれていた。
「......ふぅ、どうでしょうかレディ達。今すぐに返事は求めません。コミュニティに属せずとも箱庭でも自由は三十日保証されています。一度、呼び出したコミュニティと私達〝フォレス・ガロ〟のコミュニティを見比べ、十分に検討して___」
「結構です。だって、ジン君のコミュニティで間に合っているもの」
飛鳥はガルドの話を聞いてなかったのように紅茶を飲み干すと、笑顔で耀に話しかけた
「春日部さんと宮本さんはどうかしら?」
「.....別に、どっちでも。私は友達を作りに来ただけ」
「そう。では、私が春日部さんの友達一号として立候補しようかしら?」
ん?ここは流れに合わせて言うべきか?.....KYにはなりたくはないしね。
「じゃあ、私は二号として立候補しちゃおうかな?」
耀はしばし無言で考えた後、小さく笑いながら頷いた。
「.....うん。これからよろしく、二人とも」
『よかったなぁ.....お嬢』
ガルドとジンをそっちのけで盛り上げる私達を見たガルドは全く相手にされていない事に顔を引き攣らせた。ゴホンと大きく咳払いをし、再度問う。
「失礼ですが、断った理由をお聞きになっても?」
「だから、間に合っているのよ。これでも私は裕福な環境で育っているの。小さな地域を支配しているだけで末端に迎えられても、ちっとも魅力的に感じないわ。このエセ虎紳士」
ビシっと言い切られたガルド=ガスパーは飛鳥の物言いに怒りで体を震わせた。自称紳士として必死に感情を抑えながら話し続ける。
「お.....お言葉ですがレデ___」
「
ガチン!っと勢いよくガルドの口が閉じこんだ。本人は動揺しながら己の口を開こうとしているようだが、全く声が出ない。
「!?......!!?」
「私の話はまだ終わっていないわ。色々聞きださないといけないもの。
こちらも異変に気付いた猫耳の店員が私達がいるテーブルへ駆け寄ってきた。
「お客さん!駄目ですよ。当店での揉め事は控えてくだ___」
「ちょうどいいわ。そこの店員さんは第三者として聞いて欲しいの」
猫の店員の言葉に被せて、話を続ける。
「先程、貴方は互いの合意で勝負に挑み、勝利したと言ってたわ。けれど、私が聞いたギフトゲームは〝主催者〟が開催するものと互いの金品や土地、権利等の様々ものを賭けて行われるもの。ジン君、一つ聞きたいのだけれど、コミュニティ自体をチップにする事はあるの?」
「い、いえ、やむを得ない状況で稀にありますが、コミュニティ存続を賭けるのはかなり珍しい事です」
同じく聞いていた猫耳の店員も頷く。
「そうよね。来たばかりの私達でも分かるもの。〝主催者権限〟を持たない貴方がどうして出来たのか
教えてくださる?」
ガルドは口を閉じようという意思に反して言葉を紡ぐ。
「人質をとって脅迫や周囲のコミュニティを取り込みゲームをやらざる得ない状況にしていった」
「そんなことだろうと思いました。そんな方法で取り込んだコミュニティは素直に従うかしら?」
「各コミュニティから幼い者達を人質に取っている」
飛鳥と耀は表情や態度に出てはいないものの二人の覆う雰囲気は嫌悪感に満ちていた。
「......そう。なんという外道ね。それで、その子達は今どうなっているのかしら」
「もう殺した」
その場の空気がピシッと凍り付くのを感じた。その場で話を聞いていた私を除く全員が一瞬思考を停止した。そのままガルドは飛鳥に命令された通り、淡々と答え続けた。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声がうるさくて___」
先程以上にガルドの口は勢いよく閉じた。
「怒りを通り越して、素晴らしいとさえ思ったわ____絵に描いたような外道は。他の所にもこいつと同じような事をしているのかしら....ジン君?」
飛鳥からの冷ややかな視線を受けながら、ジンは否定する。
「彼のような悪党は箱庭でも滅多にいません」
「そう。それはよかった。ちなみにだけど、この外道を箱庭の方で裁く事はできるかしら?」
「厳しいですね。彼が述べていた事は勿論違法行為になりますが、裁く前に外界へ逃げられると、無理です」
外界へ逃げる事もある意味では罰となるだろう。今まで築いたものが泡となるからだ。飛鳥はそんな事では満足しなかった。
「そう。ならば仕方がないわ」
パチンと飛鳥が鳴らすと、ガルドを拘束してた力は霧散し、体の自由を取り戻したガルドは叫びながら勢いよく立ち上がった。
「こ.....この小娘がァァァァァアァァァ!テメェ、一体どういうつもりかは知らねぇが、俺の上が誰かってわかってんだろうなぁ!箱庭第六六六外門を守る魔王が後見人だぞ!?つまり!俺に喧嘩を売るって事は魔王に喧嘩を売ると同義だ!その意味を理___」
「
ガチンと黙り込んだが、変形したガルドの太い剛腕が飛鳥に振り落とされた瞬間、私は彼女の前に出て刀で受け止め弾き返した。
「ギャ」
「ふぅ、危ない危ない。大丈夫?飛鳥ちゃん」
「ちゃん付けはやめて、でも助かったわ。ありがとう」
耀もどうやら飛鳥を守ろうとしてたようで、拗ねたように愚痴る。
「......むぅ、出そこなった」
飛鳥は何処か楽しそうに笑っていた。
「では、ガルドさん?私は貴方が何処の傘下だろうと何とも思いません。それは恐らくジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、自身のコミュニティを潰した〝打倒魔王〟ですもの」
飛鳥の言葉にジンは大きく息を呑んだ。魔王の名が出た瞬間、内心は恐怖に震えそうになった。しかし、自分達の最終目標を言われ、我に返った。
「......そうです。僕達の最終目的は、かの魔王を倒し僕らの誇りである名と旗印.....仲間を取り戻す事です!今更、そんな脅しに屈しはしません」
「そういう事なの。要するに貴方には喧嘩を買って、私達によって破滅する道しか残ってないのよ」
「く......くそが!」
弾き返した拍子に私は仰向けに倒れたガルドの背に馬乗りし首筋に刀を添えていた。地に伏したガルドに飛鳥は機嫌を良くしたのか足先でガルドの顎を持ち上げ、意地悪そうな笑顔で話し出す。
「しかしね。私はそれでも満足できないの。だって、貴方のような外道はさらに罰せられるべきだと考えたわ____そこで、提案というか命令かしら」
飛鳥は上げていた足先を離し、自身の指先でガルドの顎を乱暴に掴んで言った。
「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方のコミュニティの存続と私達の誇りと魂を賭けてね」
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三話
日が沈んだ頃。黒ウサギ達と噴水広場で集合し、先程の出来事を聞いた彼女は予想していた通りに地面に膝をつけて正座する私達にマシンガンのように説教と質問をしている。
「な、なんであの短時間で〝フォレス・ガロ〟のリーダーと接触して喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備の時間もお金もありません!」
言いたい事が収まった黒ウサギは、返答のない私達に聞き返した。
『全部むしゃくしゃしてやった。今は反省してます』
「黙らっしゃい!!」
偶々息が合ったのか、いつの間に口裏合わせしたのかような言い訳をする私達に叱咤する黒ウサギ。その様子を傍から見ていた十六夜はニヤニヤと笑いながら間に入る。
「別にいいじゃねぇの?見境なく喧嘩を売ったわけじゃねぇんだ。許してやれよ」
「十六夜さんは面白ければいいと考えのようですが。このゲームで得られるとしたら、自己満足しかないんですよ?」
耳が痛い事ではあるが、黒ウサギの言った通り。この『ギフトゲーム』は私達の自己満足でしかない。それに加えて、ゲームの報酬を取り決めた〝
「彼らの罪は時間さえかければ、必ず暴かれるでしょう。しかし、肝心の......その」
「確かに人質は既に亡くなっている。そこを責め立てれば罪は立証されるはそこ
「僕としても、彼を逃がしたくはないと思っています。だから明日、彼を叩き潰したい」
ジンも飛鳥の考えに賛成する姿勢を見た黒ウサギは諦めたように頷く。
「はぁ、仕方がない人達ですね。まぁ、十六夜さんに任せれば〝フォレス・ガロ〟程度何ともないでしょう」
黒ウサギは正当な判断のつもりだったが、十六夜と飛鳥はお互い顔を合わせ、怪訝な顔で言った。
「はぁ?何を言ってんだ。俺は参加する気はねぇぞ?」
「そうよ。貴方は参加しなくていいわ」
二人はフンっと鼻を鳴らした。その様子に慌てた黒ウサギは食ってかかる。
「な、何でですか!御二方は同じコミュニティの仲間ですから、此処は協力していかないと」
「勘違いすんじゃねぇぞ。黒ウサギ」
ピンっと人差し指を立て、真剣な顔で十六夜は話した。
「いいか?この喧嘩はこいつらが
「その通りよ。分かっているじゃない?」
「.......もう好きにしてください。」
今日、一日振り回された黒ウサギは反論する気力も残っていなかった。
________________________________
気を取り直して、コホンと咳き込んで話し始めた。
「そろそろ行きましょうか。本当は色々とセッティングしていましたが.....不慮の出来事続きで、今日は無くなってしまいました。いずれ後日という事で」
「大丈夫!大丈夫!無理しなくったって、崖っぷちなんでしょ?」
私の発言に驚いた黒ウサギはすかさず隣にいるジンを見つめた。彼は申し訳ない表情を浮かべているのを見て、自分達の状況は既にばれていた事を悟り、頭を下げながら話した。
「す、すいません。皆様を騙すのは黒ウサギとしても気が引けましたが、こちらも必死でしたので」
「いいわよ、別に。私は組織の現状とか気にもしてなかったもの。宮本さんと春日部さんは?」
飛鳥に振られた私と耀の表情を窺うかのように見つめる黒ウサギ。
「まぁ。コミュニティとか、どうとか分からないしねぇ?耀ちゃん」
「.....うん、私も同意見。あ、でも」
耀は思い出したかのように呟いた。その様子を見たジンは促すように問う。
「どうぞ遠慮なく聞いて下さい。僕らに出来る最低限の用意ならお任せください」
「そこまで大した話ではないよ。ただ私は毎日三食とお風呂、寝床があればいいなっと考えてただけ」
ジンは耀の要望に表情が固まってしまった。その様子を見た耀は慌てて取り消そうとしたが、黒ウサギが先程から持っていた物を掲げた。
「その事なら大丈夫です。十六夜さんがこんなに大きな水苗を手に入れてくれました!これで水問題は解決済みですし、水路も復活できます!」
一転して固まった表情も明るくなった。これに関して飛鳥も安堵の表情を浮かべた。
「私達がいた世界では水は当たり前にあったけど、世界が変わったら色々とあるものね。それに今日は理不尽に湖へ落ちたからお風呂に入りたかった所よ」
「うんうん。確かにねー今はある程度乾いているけど、中はまだ濡れているしね」
「あの召喚され方はマジで同意見だぜ。二度と体験したくない」
「あ、それは.....黒ウサギの責任外ですよ」
召喚された私達の責めるような視線に怖気ずく黒ウサギ。ジンは隣で苦笑する。
「あはは.....それじゃ、今日の処は拠点へ向かう?」
「あ、すいません。ジン坊ちゃんは先にお帰り下さい。『ギフトゲーム』が明日行われるので〝サウザンドアイズ〟皆様のギフト鑑定をお願いしないといけません。それにこの水苗もありますし」
黒ウサギから初めて聞いた言葉に私達一同は首を傾げた。
「〝サウザンドアイズ〟それはコミュニティの名前か?」
「YES。〝サウザンドアイズ〟は特殊な瞳のギフトを持つ者達が集める群体コミュニティで、箱庭の上層下層の東西南北。全てに精通してい超特大商業コミュニティです。実は近くに支店があります」
「それで、ギフト鑑定というのは?」
「勿論。ギフトの秘められた力や起源等を鑑定する事です。自分の力がどういうものなのかを理解してた方がより力を引き出せるは大きくなります。皆様も自分の力の出処は気になりますよね」
同意を求める黒ウサギに十六夜と飛鳥、耀は複雑そうな表情を浮かべた。各々思う事はあるが拒否する事なく、〝サウザンドアイズ〟へ向かった。道中私達は周囲の街並みを興味深そうに眺めていた。
「桜....かな。でも、冬だしなぁ~」
「花弁の形しているし、真夏になっても咲き続くかしら?」
「おいおい。何を言っているだ二人は、まだ初夏でも気合の入った桜があってもおかしくはないだろ」
「......?確か、秋だったと思うんだけど」
ん?っと噛み合わない私達は顔を見合わせて傾げた。その様子を見ていた黒ウサギは笑いながら説明した。
「此処にいる皆様は全く別々の世界から召喚されています。元々いた世界の時間軸や歴史、文化等の大筋は同じ物の細かい所は違う点もあります」
「ふ~ん。所謂パラレルワールドってやつか?」
「惜しいですね。正確には立体交差平行世界論というものですが....話すと色々と長くなりますし、機会があればまたお話ししましょう」
雑に話を切った黒ウサギは振り返った。如何やら目的地に着いたようだ。その店に掲げられた旗には蒼の生地をベースに互いに向き合う二人の女神像が刻まれている。これが〝サウザンドアイズ〟の旗印だろう。
その店の前に看板を下ろそうとしている女性店員に、黒ウサギは待ったをかけた。
「まっ」
「待ちません、お客様。当店は時間外営業はしておりませんので」
待ったをかける間も与えられなかった。黒ウサギは悔しそうに店員を睨み付けた。流石は大手商業コミュニティ。押し入る客の扱いは慣れている様子だった。
「なんて商売っ気のないのかしら」
「そ、その通りです!閉店五分前で客を締め切るなんて!」
「文句があるのでしたら他所へ行って下さい。そして、貴方達は当店の出入りを禁じます。要するに出禁です」
「出禁!?これだけでするとか客を舐めすぎですよ!」
キャーキャー喚く黒ウサギを見下すような態度で店員は問う。
「〝箱庭の貴族〟であるウサギのお客様を無下に扱うのは失礼ですね。では、入店許可を取ってきますのでコミュニティの名前を伺ってもいいですか?」
喚いていた黒ウサギが一転して言葉が詰まった。そんな事を気にせず十六夜は名乗る。
「俺達は〝ノーネーム〟と言うコミュニティなんだが」
「ほう。どこの〝ノーネーム〟でしょうか?良かった旗を確認させていただいてもいいですか?」
店員の切り返しに、十六夜もぐっと黙り込む。これが所謂名と旗印を持たぬコミュニティのリスクが今の状況だった。
「(わ、忘れてました。〝サウザンドアイズ〟は〝ノーネーム〟お断りでした)」
大手だからこそ客を選び、信用できない客を追い払い。リスクを回避する。その場にいる全員の視線が黒ウサギに集まる。彼女は心の底から悔しい顔をして、小さな声で呟いた。
「......その......あの......私達には旗が__」
「いぃぃぃぃやほぉぉぉぉぉ!久しぶりじゃの黒ウサギィィィィィ!」
そこに店の奥から勢いよく叫びながら向かってくる白髪の少女に抱き着かれ、街道の向こうにある浅瀬の水路まで飛んで行った。
「!?キャーーーーー.........」
遠くになる悲鳴と共に水路落ちる音がした。その光景に私達は目を丸くし、店員は頭を抱えていた。
「ねぇ、店員さん。〝サウザンドアイズ〟ってこういった事のがあるの?別バージョンでやってみたいんだけど」
「そんなのはありません」
「お金払うから」
「やりませんので」
私の真剣なお願いを冷たく店員は切り捨てられた。黒ウサギに襲い掛かった白髪の少女は、黒ウサギの胸をすりすりと頬擦りしていた。
「し、白夜叉様!?何故、こんな下層に?」
「もうすぐ来ると思って来たに決まっておろう!オオ、ウオオオオオ、やっぱし黒ウサギは触り心地が良い!ほれ、此処か?此処がいいじゃろ!」
と、おじさん発言が飛び交う白夜叉と呼ばれた少女を無理やり引きはがす事に成功した黒ウサギは少女の頭を掴んで店の方へと投げた。その勢いで縦回転している少女を足で十六夜は受け止めた。
「ほい」
「ぐっ!お、お主。飛んできた美少女を足で受け止めるなんて失礼じゃろう!」
「やはは!十六夜様だぜ。以後よろしくな和風ロり」
一連の流れを見て困惑していた飛鳥は思い出したかのように白髪の少女__白夜叉に話しかけた。
「ところで、貴女はこの店の人かしら?」
「ああ、そうだとも。この〝サウザンドアイズ〟の幹部である白夜叉じゃよ、ご令嬢。仕事を依頼するならその発育のいい胸をワンタッチでよいぞ」
「はぁ、オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが怒りますよ」
ずっと冷静に対処する女性店員が上司の白夜叉に釘を刺す。先程、襲われた黒ウサギは濡れた衣服を絞りながら上がってきた。
「うう、どうして黒ウサギは濡れる羽目に合うのでしょう」
「......因果応報ってやつかな」
『お嬢の言う通りや』
水に濡れた事を気にせずに白夜叉は、ぐるっと私達を一人ずつ見回した。
「ほほう?お前達が黒ウサギが呼んだ新たな同志か。こうして異世界の人間がやってきたという事は......黒ウサギが遂に私のペットに」
「なりません!一体どういう起承転結が起こってそうなるのですか!」
突っ込みをする黒ウサギにふわりと流す白夜叉。
「まぁ、よい。話があるなら店内で聞こう」
「オーナー、よろしいのですか?ウチの規定では〝ノーネーム〟は」
「すでに〝ノーネーム〟だと分かっててなお意地悪をした店員の詫びじゃ。もしボスに怒られたら、私が責任を取ろう」
女性店員としては所属するコミュニティのルールに従っただけなのに、それを悪く言われたら拗ねてしまうのも当然だろう。そんな女性店員に睨まれながらも私達は暖簾を潜り抜けて店内に入った。
入ってみると外観からは想像もできない不自然な広さがあり、ショーウィンドウには見たこともない物が並んでいる。
「生憎、店は閉めたのでな。すまないが、私の部屋で勘弁してくれ」
白夜叉に案内されている道中は『ザ・和』を感じる内装だった。障子を開けて入った白夜叉の後に続くように部屋に入った私達は、上座に座る白夜叉と対面する形で腰を下ろした。
「改めて自己紹介をしようかの。私は四桁の門、3345外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉じゃ。黒ウサギとは多少縁があってな。彼女のコミュニティが崩壊してからはちょいちょい手助けをしている器の大きい美少女と思ってくれ」
「はいはい。色々と感謝していますよ、本当に」
白夜叉の言葉を適当に返す黒ウサギ。その隣で耀は傾げながら問う。
「外門って何?」
「箱庭の階層を示す門の事です。数字が小さくなるほど都市が近くなり、それと同時に大きな力を持つ者達もいます。それと黒ウサギがいるのは一番外側にある七桁の外門ですね」
黒ウサギの説明を聞きつつ、私達は箱庭の地形がバームクーヘンのようなだと話し合っていた。ちなみに私達がいる場所はバームクーヘンになぞらえて言うなれば、茶色い皮の部分だろう。
「ふふ、いい例えだな。この外門を越えるとそこは〝世界の果て〟と言われる場所がある。そこで『ギフトゲーム』で勝つと豪華な景品が貰える____その水苗の持ち主とかな」
白夜叉が指さしたのは十六夜が手に入れた水苗に向いていた。彼女が指しているのは水苗ではなく、その持ち主の事だろう。ふと、白夜叉の言葉が気になったのか黒ウサギは問う。
「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いですか?」
「知り合いも何も....あやつに神格を与えたのは私だぞ?何百年前だがな」
小さな胸を張って、はっはと豪快に笑う白夜叉を見た十六夜は獲物を見つけた狩人の如く獰猛な瞳を光らせ聞いた。
「へぇ?つまりお前はあの蛇より強いってことか?」
「ふふん。そうじゃ。なんせ、私は東側の〝
〝最強〟という言葉に___私、十六夜、飛鳥、耀は瞳を爛々と輝かせていた。
「なるほどな。此処でお前を倒せば、東側最強コミュニティとなれる訳だ」
「なんとも景気がよろしい話ね」
「そうだね。逃がす手はない」
「一度、その最強ってのを知っておきたいしね」
「お、落ち着いて下さい!皆様!」
慌てて止めに入る黒ウサギを横目に申し訳なく思うが、折角の機会を逃す剣士はいる筈がない。私を含めた四人の闘争心に目を見開いた白夜叉は高らかに言う。
「いいだろう。だが、一つ聞いておこうか。お主等が望むのは〝挑戦〟か____それとも〝決闘〟か?」
白夜叉は懐から〝サウザンドアイズ〟の旗印が刻まれたカード出した瞬間、視界が大きく揺らいだ。安定した歯科には見たこともない光景が広がる。それは黄金色の稲穂が垂れ下がる草原、白い地平線を覗く丘。森の湖畔。様々な風景が流星群の様に過ぎ去っていく。気付けば水平に太陽が廻る、白い雪原と凍った湖畔がある世界にいた。
「..........っ!?」
余りの超常現象に私達は息を呑み込んでいた。呆気に取られているのを見て、その外見からは想像出来ない表情を浮かべ発する。
「また名乗り直し、問おう。私は〝白き夜の魔王〟___太陽と白夜の星霊である白夜叉。お主等が求めるのは〝試練〟か?.....それとも対等の〝決闘〟か?」
白夜叉から来る圧倒的強者としての圧が私達に向けられている。此処までの圧力は経験した事がなかった十六夜は苦笑しながら手を挙げた。
「降参だ、降参。今のところは試されてやるよ」
恐らく、十六夜はどう転んでも勝ち筋がないのは知っているだが、引き下がるというのは己のプライドが許さない為の自身が譲歩出来るラインを言ったのだろう。その様子を見て笑いを噛み殺しながら問う。
「く、くく.......して、残りの童達も同じか」
「......ええ。私も、試されてあげてるわ」
「右に同じ」
飛鳥と耀も苦虫を嚙み潰したような表情で答える。一連の流れを見ていた黒ウサギは安堵の声を上げた。
「もういい加減にしてください!何処に〝階層支配者〟に喧嘩を売る新人がいますか!冗談にしては____」
「私はするよ。〝決闘〟」
『は?』
話の流れは紆余曲折あったけど〝試練〟をする雰囲気だった。そこに異を唱える私にその場全員の視線を集めていた。
「え?なんて言いましたか、宮本さん。聞き間違いじゃなければ〝決闘〟するって言いませんでしたか?」
「間違ってないよ。ほら、白夜叉さんぼーっとしないでさ。やろうよ〝決闘〟!」
「おい、流石に今回は____」
無理だろと止めようとした十六夜だが、静かに発しているオーラというか剣気に圧倒され止めるのを辞めた。その剣気を向けられている白夜叉は眼を見開いていた。
「(.....荒削りだが此処までの闘気___いや、剣気は久方ぶりじゃの。)」
小さく深呼吸をし、好戦的な笑みを浮かべ白夜叉は言った。
「.....いいじゃろう。受けてやろう」
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四話
ドクンドクンっと心臓の音が聞こえる。......私、緊張しているのかな。それもそうか、今まで会ってきた人達と比べて、纏う雰囲気が違う。今の所.....勝ち筋なんて全く見えはしないが、
「さて、先手はお主に譲ろう」
正面に立っている白夜叉は余裕の表情を浮かべ、先手を譲ってきた。
「先手譲って、後悔しないでよね!」
そう呟くと同時に白夜叉へ正面からぶつかりに行った。すると、鉄扇を私に向け振るうと、幾つもの火球が飛んできた。
「これくらい、何のその....!」
火球と火球の間を潜り抜け、白夜叉に一太刀与えそうに瞬間。私は九十度右へ大きく逸れた。
「ほう?今のをかわすか。流石と言っておこう」
数瞬程いた所には小さな陥没した後があった。恐らく、最初の火球らが消えずに私の元へと飛んできたのだろう。白夜叉の周りを走りながら、隙を伺っているけど.....やはり最強の主催者と言われる事もあり、付け入る隙がない。無理して突貫しても返り討ちに合うだろう。
「......ふぅ」
落ち着け私、きっとある筈よ。うーーーーん.......
「やった事ないけど!ぶっつけ本番でやるしかないでしょ!」
一発で斬撃を飛ばす事に成功した私の中で「何となくこう振れば、飛ばせる」という奇妙な感覚を感じていた。
「ふむ。この程度見飽きる程受けたあるぞ」
「だと、思った。これならどう?」
呆気なくその斬撃を鉄扇で薙ぎ払った白夜叉に近づき私は勢いよく二刀を振り払った。その瞬間、私は近くいるのは拙いと考え、白夜叉から距離を取った。
「だから、言ったじゃろう.....見飽きたっと」
「なっ!.....ぐっ」
「惜しかったの~......もう少しで一撃を当てられそうじゃったな」
「.....っ」
全然惜しそうな顔を浮かべすに話す白夜叉に、私は先程の飛ぶ斬撃然り、もしかしたら宝具を放てる可能性が頭に過った。物は試しで、形から行う事にし_____持っている二刀を鞘に納め、目を瞑る。
___南無
それは正に己自身が出せる限界を超えた一撃であった。だが、相手は最強格の一人である白夜叉はいとも簡単に跳ね返して........
その後、十六夜、飛鳥、耀の〝試練〟の『ギフトゲーム』が行われ無事にクリアし、話はギフト鑑定についてなった。
「ふむ。ギフト鑑定は私の専門外というより無関係と言ってもいいところじゃがな」
白夜叉としては、ゲームの褒美で依頼を頼まれると思っていたようだ。困惑の表情を浮かべ自身の白髪を掻きながら、私達へ視線を向けた。
「ほうほう.....なるほどお主達全員の素養は高いのは見てわかる。とはいえ、お主達は自分の力はどの程度把握しておる?」
「わっかんない!」
「企業秘密」
「右に同じ」
「以下同文」
「はぁ、要するに教えたくないというわけじゃな。先程の事もあるが、話が進まんじゃろう」
「俺は別に鑑定なんざ、必要ねぇ。そもそも人に値札を貼られるのが嫌なんだよ」
十六夜の発言に同意するように頷く飛鳥と耀。その様な反応に困った白夜叉は、ふと妙案でも浮かんだのかニヤリとした表情で言う。
「ふむ。何がどうであれ〝主催者〟としては、〝試練〟制した者には褒美をやらねばならない。ついでに、武蔵にも与えようかの。ちょいとばかし豪華じゃが、コミュニティ復興祈願としてはいいだろう」
そう白夜叉が拍手を二度すると、私達一人一人の前に光り輝くカードが現れる。カードそれぞれには名前と自信に宿るギフトの名称が書かれていた。
それそれ名と
「ギフトカード!」
「お中元?」
「お歳暮?」
「お年玉?」
十六夜、飛鳥、耀のボケに律儀にツッコミをいれる黒ウサギ達を放っておいて私は白夜叉に聞いた。
「さっきの空間を生み出す際に出したカードには〝サウザンドアイズ〟が刻まれてたけど、私達のギフトカードに何も刻まれてないのは何故?」
「それはじゃな、それはなお主らが〝ノーネーム〟だからの。少々味気のなくなっているが、文句は黒ウサギにでも言ってくれ」
「ふぅん。じゃあこの水樹ってやつも収納できるのか?」
茶番がひと段落したのか十六夜は持っている水樹にカードを向けてみると、光の粒子となって十六夜のカードへ吸い込まれていった。カードを見ると水樹の文字が【
「おお?これすげぇな。もしかしてこのまま出せたりするのか?」
「出せるとも、試しに出してみるか?」
水を出そうとする十六夜を止めようと黒ウサギがやって来た。
「だ、駄目ですよ十六夜さん!水の無駄遣いをしないで、コミュニティに使って下さい!」
チッ、とつまらなさそうに舌打ちをして水を出すのを止めた十六夜。黒ウサギはまだ安心していないのかハラハラと監視している。その様子を傍から見ていた白夜叉は高らかに笑っていた。
「そのギフトカードの正式名称は〝ラプラスの紙片〟といってな.....要するに全知の一端だ。そこに刻まれているギフトネームはお主らの魂と繋がっており、鑑定出来ずとも凡そのギフトの正体は分かるというもの」
「ということは、俺と宮本は特例って訳だ」
ん?と私と十六夜のを覗き込む白夜叉。そこには確かに【
「......いや、そんな事がある筈ない」
パシッと私達のギフトカードを取り上げた白夜叉は顔色を変えて、これ以上ないような雰囲気を発している。真剣な表情で不可解だとばかりにギフトカードを見ている白夜叉。
「【
「つまりそのラプラス?でも鑑定が出来なかったって事でしょ?」
「ま、そういう事だ。俺的にはこの方がありがてぇ事さ」
白夜叉から自分達のギフトカードを取り返して懐にしまった。それでも白夜叉にとっては腑に落ちないのか怪訝な表情で私達を見る。
「(強力な力を秘めている事は確かという事じゃな。しかし、全知のラプラスがが鑑定が出来ないという事は....無効化した?まさかな)」
白夜叉の脳裏に浮上した可能性を苦笑と共に振り切った。修羅神仏が集まる箱庭では、無効化にギフトはさして珍しくない。それは一つの事に特化した場合だ。逆廻十六夜と新免武蔵藤原玄信は強力な奇跡を宿している者が、その奇跡を打ち消すなんて矛盾を抱えているなど有り得ない。まだラプラス側に問題があった方が信憑性が高いというもの。
六人と一匹は暖簾が下げられている店の前へと移動して、白夜叉へと私達は一礼した。
「今更だが、聞かせてくれ。お主たちが所属しているコミュニティの状況を理解しておるのか?」
「ああ、名と旗の事か?聞いてるぜ」
「ならば、取り戻すには魔王と戦うことも?」
「聞いているわよ」
「.......では、全ての事を承知の上でコミュニティに加入するのだな?」
白夜叉の発言にドキリとした表情で顔を逸らす黒ウサギ。もしあのままコミュニティの現状を話さずに誤魔化し続けたら、折角呼んだ同志を手放す羽目になっていたのだから。
「だって、打倒魔王なんてワクワクするじゃん!」
「〝ワクワクする〟で済ましていい話じゃないのだが。......全く、若さゆえの無謀というか蛮勇か。まぁ、魔王というものがどういう存在かコミュニティに帰ればわかるじゃろう。それを見た後に魔王と戦う意思があるのなら止めんが。......そこの小娘二人は今のままじゃ死ぬぞ」
飛鳥と耀を指をさして、断言とも言える忠告をされた。二人はそんな事はないと言い返そうとしたが、魔王と同等かそれ以上の実力を持つ白夜叉の物を言わせない威圧感に圧倒された。
あの後さらに白夜叉に苦言を言われた二人は〝ノーネーム〟の拠点に向かう道中、終始無言で歩いていた。寂れた門前に着いたと同時に黒ウサギは口を開いた。
「ここから先が我らのコミュニティでございます。しかし、本拠の館まではさらに歩かねばならないのでご了承ください。この近辺はまだ魔王との戦いの名残がございますので......」
「ほう?魔王との戦いの名残か.....気になるなぁ?」
「私もその天災が残していった傷跡とやらを見せてもらおうかしら」
「......気になる」
「私も私も!是非ともこの眼で確認したいな!」
機嫌を悪くして無言だった飛鳥と耀は白夜叉に塵芥の如く扱われたのを気にしているようで、その訳を自身の眼で見定めようとしているのだろう。
「......では、門を開けますね」
黒ウサギは躊躇いつつも目の前にある門を開ける。すると、開く門の隙間から乾ききった風と砂塵が吹き抜けていった。完全に開いた先にあったのは一面に広がる廃墟だった。
「っ、これは一体?」
十六夜は元は木造建築の一部と思われる破片を拾い上げて、軽く握りしめると乾いた音と共に崩れ落ちていった。
「.......一つ聞くが、黒ウサギ。その魔王とのギフトゲームを行ったのは_______今から何百年前の話だ?」
「わずか三年前の事でございます」
「ハッ。おいおい、そりゃあ面白い話だな。いや、まじで......風化しきった街並みが
そう黒ウサギらのコミュニティは......何百年の時が経過したかのように崩れ去ったように見えた。周囲を探索しても、とても三年前まで人が住んでいるとは思えない有り様に、冷汗を掻く私達。
「......断言するぜ。如何に力を振るわれたとて、こんな事にはならない筈だ。それに木材のこの崩れ方なんて、数百年単位じゃないけりゃ無理だ。自然崩壊したとしか思えない」
黒ウサギは周囲にある建物から目を逸らして、俯きながら答える。
「......魔王とのゲームはそれ程__それ以上の凄まじい戦いでございます。この土地が奪われなかったのは自分達の力の誇示と見せしめの意味を兼ねてでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると玩具と遊ぶ子供の如くゲームを挑んできます。そして、敗北した者達は心を折られて、去っていきました」
先程、白夜叉とのギフトゲームにて、ゲーム盤を出したのはこの為だった。力がある者同士の戦いは周囲を傷つけるからだ。魔王らはその光景を敢えて楽しんでいる。
しかし、私と十六夜だけは目を爛々に輝かせ、不敵に笑った。
「いいね、いいね!そう来なくっちゃ、面白くないしね!」
「ああ!魔王と戦うんだ!これ位じゃなきゃな!」
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五話
本拠の屋敷に着いた頃には、灯りがないと周囲が見えない程に暗くなっていた。月明かりに照らされて、シルエットだけが浮気彫りにされている本拠は老舗の洋風ホテルのようなが外装である。私は下から上へと見上げて、感嘆の声を発した。
「おー!これはすごいね。で、何処の部屋を使っていいの?」
「我々__コミュニティの伝統としましては、序列が高い方から最上階から順に......となってますが、今はそのような事を気にせずにお好きな部屋を使って下さいませ」
「そうなの。じゃあ、あそこの別館は?」
黒ウサギの話を聞いていた飛鳥は目の前にある屋敷とは別にある屋敷を指した。
「ん?ああ、そこは子供達用の屋敷です。元々は別の用途で使ってましが、警備とか安全面を考えて、子供達は此処で住んでいます。もし、飛鳥さんがよければ120人の子供達の屋敷でも......」
「遠慮するわ」
飛鳥は即答した。異世界に一日目との事もあり、肉体や精神共に疲れているのに大人数の対応をするのは億劫なのだろう。兎に角私達は箱庭やコミュニティに関係の事を話し合う前に「お風呂に入りたい」という欲望を最優先として、黒ウサギにお風呂の準備を頼んだ。
「一時間程、お待ちください!ただちに掃除してきますので!」
と私達を貴賓室へと案内した後、掃除に取り掛かりに行った。あの慌てようから察するに、とても汚れているのだろう。
『お嬢.....ワシも風呂に入らなあかんか?』
「ちゃんと入らないと駄目だよ?三毛猫」
「へぇ?耀ちゃんってやっぱり動物の言葉がわかるんだぁ~」
「うん」
『オイワレェ!お嬢の事、馬鹿にしてんのか!寝床を毛玉だらけにすんぞぉ!コラ!!』
「三毛猫、やったら駄目だよ」
ニャーニャーと鳴く三毛猫に反応した耀が注意をしている様子は傍から見るだと相当不気味な状況だ。動物の言葉がわかるって知らなければ、ヤバい奴認定を受ける事が間違いなしだ。飛鳥は気まずそうな表情で耀に質問をした。
「言いたくないのであれば、言わなくてもいいだけれども。......友達が出来なかった理由はもしかして?」
「......いなかった訳じゃないよ。その友達が人間じゃなかっただけ」
耀から「それ以上は詮索するな」と、拒絶の声色に飛鳥は口を塞いだ。その瞬間、廊下から黒ウサギの声が聞こえてきた。
「皆様!お風呂の用意が出来ました!女性陣からでよろしいでしょうか!十六夜さん」
「いいぜ。俺は何番風呂でも好きに入れる男だぜ?」
「そう?ありがと、十六夜君。先に入ってくるわよ」
先を行く飛鳥の後を続くように私と耀、黒ウサギはついていった。
女性陣達は大浴場で体を湯で洗い流した後、ほっとした心地で寛いで湯に浸かっている。大浴場は外にある箱庭の天幕と同じ仕組みなのか、天井が透けて満天の星空が広がっていた。
黒ウサギは一日の疲れを降ろすかのようにグッと背伸びをし、星空へと視線を向ける。
「今日は長い一日でした。新たな同志を引き入れるのがこんなに大変な事だなんて、黒ウサギは思いもしなかったですよ。想像以上でした」
「ん?それって私達への文句かしら」
「そ、そんな事はありませんとも!」
飛鳥の指摘にバタバタと湯面を叩きながら動揺する黒ウサギ。その横で私はまったりと湯に浸かっていた。
「あー、極楽、極楽。こんなに気持ちのいい湯は始めてだなぁ」
「それは恐らく水樹から溢れ出た水を使っているからですね。ですから、耀さんの三毛猫も気に入るとおもいますよ」
「......そうなんだ。今度、三毛猫を一緒に入れようかな。ねぇ、黒ウサギは三毛猫の言葉ってわかるの?」
「YES!もちろんです。〝
小さく頷いた耀はどことなく嬉しそうな雰囲気を出しているのは気のせいではないだろう。
「そういえばさ!明日のギフトゲームってどんなゲーム?が行われるのかな」
翌日には〝フォレス・ガロ〟とのギフトゲームが行われるかが予想がつかないので、そこのところに詳しそうな黒ウサギに聞いてみた。
「うーん。これは黒ウサギの予想なのですが、今日の白夜叉様のような専用のゲーム盤とかを呼び出す事はないと思いますので、彼らの得意分野の〝力〟を使う単純な肉弾戦になるのではないでしょうか?でしたら、武蔵さん達ならば、問題はないでしょう。余程運任せのゲームでない限りは心配無用です」
疑問符を浮かべた飛鳥は聞き返した。
「運任せのギフトゲームってあるの?」
「YES!ギフトゲームは多岐にわたるジャンルのゲームがありますから、純粋な〝運気〟を試すギフトゲームはたくさん存在してます。例を挙げるとサイコロを使用したゲームでしょうか」
「へ、へぇ」
飛鳥は複雑そうに頷いた。コミュニティの存続を賭けたゲームを行う中で、運に頼るなんて華がないにも程があると思った。
「ギフトゲームは楽しければ、いいものだと思ってたけど......今後のコミュニティを考えるなら、無茶はできないわね。二人はどうかしら?」
話題を私と耀へと振った飛鳥。湯船にふけっている耀が気を取り直す間に私が答えた。
「うーん。難しく考えるのは面倒だし、楽しければいいんじゃない?....ね!耀ちゃん」
「っ!、......私もそう思う」
気を取り直した耀は話の流れがわからなかったので、とりあえず同意を示した。そんな耀の事を気にせずに嬉しそうな表情で肯定する黒ウサギ。
「お二人の言う通りでございます!ゲームを楽しむのは一流プレイヤーの素質ですよ」
今更になって〝フォレス・ガロ〟のギフトゲームを無償で引き受けた事を気にしていた。元々勝てると思っている試合だ。〝全財産〟を賭けろとでも言うべきだっただろう。
ギフトゲームの話題から別の話題に変えようと黒ウサギが近づいてきた。
「ところでなのですが御三方。こうして裸の付き合いをしているのですから、よろしかったでしょうか黒ウサギに御三方の事も知りたいです。ご趣味とか故郷の事とかナド」
「それを聞いてどうするのかな。黒ウサギは?」
「いやー、それはもう!ただの好奇心でございますヨ!待ちに待った女の子同士の会話をしたいという気持ちでいっぱいでございます!」
喜々とした黒ウサギの様子と言動で怪しさしかないのだが、それ他意のない純粋な質問に飛鳥と耀は気がいまいち乗らなかった。というのも、箱庭からの招待状には『己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの〝箱庭〟に来られたし』という一文が書かれていた。捨ててきたものを今更に振り返る真似はしたくないという共通の考えがあったからだ。そんな二人を置いて、私は黒ウサギに箱庭に来るまでの武者修行の事を話そうとした。
「私の場合は、〝無空の領域〟を目指して武者修行の旅をしていたんだよね」
「やはりそうなんですか!」
「....〝やはり〟って?」
「あっ!失言でした!気にしないでください!」
私と黒ウサギの話し合いを見て、気に揉んでいた事が馬鹿らしく思ったのか混ざってきた。
「ただ私の事を話すだけじゃなくて、黒ウサギの事も知りたいわ。互いに情報交換といった感じで話し合いましょう?......それでいいかしら?」
「うん。それなら」
「YES!そうしましょう!」
「決まりね」
「だね!」
女の子同士しばらく湯に浸かりながら、歓談を続けるのだった。
______________________
翌日___箱庭2105380外門。ぺリベット通り・噴水広場前。
私達六人と一匹は〝フォレス・ガロ〟居住区へ向かう道中、昨日訪れた〝六本傷〟の旗が掲げられている喫茶店前を通ると声を掛けられた。
「あっ!昨日のお客様!もしかして決闘しに行くんですか!」
『お、鍵尻尾の姉ちゃんか!そやそや今からお嬢達の討ち入りやで!』
ウェイトレスの店員さんが近寄ってきて、一礼をしてきた。
「うちのボスからもエールを頼まれました!2105380外門の全てを好き勝手やったアイツを二度とそんな真似ができないようにしてやってください!」
ぶんぶんと右腕を振って応援してくれる店員さん。飛鳥は照れ臭そうに頷き返した。
「ええ!そのつもりよ!」
熱烈なエールを背に一同は〝フォレス・ガロ〟の居住区画へと向かう。
「あ、皆さん。見えてきました.....けど?これは一体どういうことでしょうか」
目的地に辿り着いたものの予想してた居住区とは違って、木々が所狭しと言わんばかりの森林へと変貌し、元から在ったであろう住居や門にはつたが絡み合っていた。
「.......ジャングル?」
「まぁ、虎がリーダーのコミュニティだしな。別に可笑しくもないだろ」
「いえ、それは違います十六夜さん。本来の〝フォレス・ガロ〟の居住区は普通のものでした。......もしやこの木々は」
何かしらの確信があったのかジンは近くにある木を触った。その樹木はまるで生き物のように脈動を行っており、肌を通して胎動も感じさせた。
「やっぱり、〝鬼化〟している.....まさか!」
とある事実に辿り着いたジンに飛鳥は門柱に貼られている〝契約書類〟指した。
「ジン君。あそこに〝契約書類〟が貼ってあるわよ」
その〝契約書類〟にはこう書かれていた。
出せそうだったら、出したいキャラ決めて欲しいです。
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六話
ゲームテリトリーにて配置。《/big》《/center》
「ガルド自身を織り込んだギフトゲーム....!?」
「それに指定武具ってのも、気になるね。......こりゃあ、拙いな」
「そうですね」
ジンと私、黒ウサギが鬼気迫る様子に、飛鳥は心配そうに声を掛ける。
「このゲームはそんなに危険なの?」
「いえ、ゲーム自体はそこまで難しいものではありません。問題なのはゲームのルールです。これでは飛鳥さんや耀さん、武蔵さんの攻撃では彼を傷つける事が出来ません」
いまいち要領を得ていない飛鳥は聞き返した。
「......どういうことかしら?」
「このギフトゲームは〝
ジンは頭を抱えてるようにしゃがみ込んでしまった。
「すいません。これは僕の落ち度でした。あの時ルールまで決めておけば、こんな事にはならなかった筈です」
ギフトゲームのルールを決めるのが〝主催者〟である以上、挑戦者側の意見を入れないと不利な状況に身を置く羽目になるので、本来なら〝契約書類〟を作成する際にはルールをその場で決めるのは定石と言っても過言ではないだろう。
しかし、ギフトゲーム参加経験が無いジンはその事に気づく事が出来なかったのは無理のない事だ。
「必死こいて五分五分の状況に持ってきた訳だ。まぁ、観戦者としては面白そうな展開だな」
「随分と気楽そうに言ってくれるわね。......指定武具に関する事が詳しく明記されてないから、最悪の場合指定武具を見つける前に彼と遭遇する可能性だってあるわ」
そう呟いた飛鳥は険しい表情で〝契約書類〟に穴が空くほど見つめている。彼女は自身から吹っ掛けたゲームに責任感を感じているのだろう。
「大丈夫だって!ギフトゲームはある程度公正公平に行われると思うし、全く指定武具が見つからない事なんてないと思うよ?」
「武蔵さんの言う通りです!指定武具に関するヒントさえなかったら、ルール違反になりますから!この黒ウサギがいる限りはそんな事は見逃さないですよ1」
「武蔵や黒ウサギがこう言ってるだし、お互い頑張ろ」
「ええ、そうね。これ位のハンデをあげないと、あの外道のプライドをボコボコにしてやる甲斐がないもの」
落ち込み気味だった飛鳥を私や黒ウサギ、耀の檄で立ち直らせた。そもそもこれは私達が
私達女性陣の知らぬ所でジンと十六夜は話し合っていた。
「このゲームで負けるなんざ。今後の俺の作戦が成り立つ事すらできない。だからこそ、負けた瞬間に脱退するからな。今更、変える気なんてないぞ、御チビ」
「......もちろん分かっています。絶対に負けませんから!」
それぞれ思いを巡らせながら、四人は門を開けて通り抜けた。
__________________________________
門の開閉がゲームの開始の合図だったのか、門に絡みついていたツタが退路を塞いだ。私達の目の前には太陽の日差しを遮る程の密度で木々が生い茂っていた。もはや、人が住むような場所ではない。いつどこから襲われてくるかがわからないので周囲を警戒する私達に冷静に呟く耀。
「大丈夫。匂いで私達の周りには誰もいないよ」
「あら、犬にも友達がいるの?」
「うん。20匹もいる」
耀のギフトは生きている動物の友人がいればいる程に強くなるから、様々な状況にも適応できる。そして、身体能力が高いのはそういった理由からきている。
「どう?耀ちゃん。アイツの場所は詳しくわかる?」
「んー、わからない。風下にいるけど、匂いがしないから建物にいるのかも」
「じゃ!まずは指定武具を探しに森を探索しよっか......ね?ジン君」
「そうですね。では、あっちに行きましょう」
ジンを先頭に森を探索する私達。〝フォレス・ガロ〟居住区画に生えている奇妙な木々は家々を巻き込んで成長したようで、屋根や壁を突き破っていた。黒ウサギは大規模なゲームを行う事は不可能と言っていたが、周囲の状況を見た私は油断ならぬ相手だと気を引き締めた。
「......それにしても何も見つからないね。ゲームや指定武具に関するヒントとか見当たらないしさ。どう?耀ちゃん。何か見つかった?」
散策している私達とは別に近くあった高い樹のてっぺんから周囲を見渡していた。
「ここから真っ直ぐに本拠らしきものが見えた。恐らくそこにガルドがいると思う」
スタっと下に降りてきた耀は本拠がある方角を指を指した。
「にしても、よく見つけたわね春日部さん。どうやって見つけたの?」
「......私には鷹とかの鳥の友達がいるから」
「なるほど、そういう事ね」
私達は警戒を怠らずに本拠へと向かう。しかし、本拠に向かわせまいという意思があるかのように、道が絡み合っている。
「(これだけの木々を鬼化するなんて......,もしや彼女が関係しているのか?)」
ゲーム開始前からあった確信をさらに深めたジンは、ない事だと頭を振り払った。何故なら、そんな事が出来る人物がいる筈がないのだから。
「お?見えてきたよ。本拠の屋敷も吞み込まれてるね」
〝フォレス・ガロ〟の本拠に辿り着くと虎の紋様が刻まれた扉はボロボロになっており、扉としての役目は果たせない程だった。それに加えて窓ガラスや豪華な外装がツタや木々によって原型がとどまっていなかった。
「ガルドは二階にいるよ。中に入っても大丈夫」
本拠内に入ると、内装もボロボロに崩れていた。贅を尽くした家具や絵画はあちこちに散在している。本拠がここまで壊れていると、舞台となった〝フォレス・ガロ〟に疑問を持ち始めた。
「いくら切羽詰まったからといって、彼が本当に作ったものかしら?」
「それは.......分かりませんが、舞台を作る事自体は〝主催者〟側以外でも外注できますからね」
「それにしては、無防備過ぎじゃない?罠とかなかったよね耀ちゃん」
「なかったけど、それは森自体が奇襲する為に作った.......訳でもないと思う。だって、本拠に隠れる必要性がない。そもそもここを壊す必要性すらない」
あの自己顕示欲が強いガルドがその象徴である豪華な本拠をボロボロにする理由がない。ここに来て全く別の緊張感に襲われた。一階全体をそれぞれ手分けして、指定武具や攻略の鍵となるものを探した。虱潰しに探し回った私達は手掛かりとなるものが見つかった。そこで一縷の望みを賭けて、ガルドが待ち構えている二階へ向かおうと話になった。
「私と春日部さん、宮本さんで二階に行くから、ジン君はここで見張って欲しいの」
「どうしてですか!?ギフトだって持ってますし、足手まといにならないですよ!
「話を聞いてたかしら。私はもしもの事があった際に唯一通り道に誰もいないのは拙いと思って、ジン君にここの見張りを頼んでいるのよ?私達は倒しに行くのではなく、ヒントを探るために二階に行くの。わかった?」
「.............わかりました」
渋々とだったがジンは頷いた。彼とて飛鳥の言っている意味は理解している。だが、感情の方は不満がだらだらだった。ジンを背に二階への階段を上がると、外から見たのと想定外の造りをしていた。
「どういうことなの?外から見た感じ、こんな風にはなってない筈よ!」
飛鳥が若干パニック状態に陥るのも仕様がない。目の前にはだだっ広い空間とその奥にある大扉しかないのだ。意を決して奥の部屋に飛び込んだ先に待っていたのは、理性を失った
「GYAAAAAAAaaaaaaaaa!!!」
視界に入ってきた生き物を轢き殺すかの如く、突進を仕掛けてきたガルドを受け止めた私は二人に指示を飛ばす。
「耀ちゃんは私がこいつを抑えている内に背にある物を取って!飛鳥ちゃんは私か耀ちゃんが不意の一撃を受けそうな瞬間に避けるように命令する準備をしてて!」
「うん!」
「わかったわ!」
ガルドの叫び声を聞いたジンが一階から駆けつけてきた。
「どうして!ガルドと戦っているですか!」
「ジン君!その話は後で説明するから!」
今はその事を話している場合ではないので、後へ回しておく。目の前にいるワータイガーから巨体の怪物へと変貌したガルドを見たジンは彼がどうしてあのような姿になったのかを悟る。
「鬼!しかも、吸血鬼化!やっぱりそうだ!」
「そんな場合じゃないでしょ!私やジン君が今できる事を探して行うのよ!」
「そ、それはそうですね!すいません」
ジンと飛鳥が話し合っている傍らで耀は見事な事に指定武具である〝十字の銀剣〟を奪取する事に成功した。
「やった。奪い取れたよ武蔵......この後はどうするの?」
「後は、私が殺るからその剣を私の後ろに突き刺して置いてくれる?」
「了解」
私の言う通りに従った耀は〝十字の銀剣〟を地面に刺して離れていった。
「すぅ.....っ!よし取った」
後ろにある剣を取る為にガルドを奥の方へと弾き飛ばした。戻ってくる前に直ぐ様抜き取り、勢いよく突っ込んで来るガルドの頭へ突き刺し込んだ。
「っ!____GYAAAAAAAaaaaaaa!!!」
ガルドは最後の断末魔を上げながら、崩れるように倒れ伏した。刺さったまんまの剣を抜くと夥しい血が噴出した。倒れたのを確認した私の後ろから飛鳥達と観戦していた十六夜と黒ウサギが駆け寄ってきた。
「流石、といったところね」
次回ペルセウス編
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七話
登場は二巻です。
出せたら出します。
ゲーム終了後、十六夜のサポートがあったもの〝ノーネーム〟のリーダーとして、〝打倒魔王〟を目標を宣言し、自拠点へと戻ってきた私達。先程昔の仲間が景品とされているゲームに参加申請を嬉しそうに届けに行った黒ウサギが今にも泣きそうな表情で帰って来た。
「何かあったな?」
「......はい、実は申請しに行った先でゲームが延期という事を知りました。もしかしたら、中止になるという可能性もあるそうです」
黒ウサギはウサ耳を萎れさせ俯いてしまった。よっぽど昔の仲間が戻る事を心待ちにしていたのだろう。一方でゲームが出来ない可能性が出てきた事に私達は肩透かしを食らっって頭を抱えてしまった。
「ええ~~、折角黒ウサギの元仲間に会えると思ったのにな」
「ああ、俺も同じ気持ちだぜ。白夜叉に言っても如何にか出来ないのか?」
「それは不可能でしょう。聞いた所によると巨額の買い手が付いたそうですから」
ゲーム延期を聞いて不快そうな表情だった十六夜がより不快感を強めた表情になっていた。それは売り買いに向けた不快感ではない。ゲームの景品として一度は出したものを、金を積まれたから取り消したコミュニティに対してのものだった。
「......所詮は売買組織か。エンターテイナーとしては三下にも劣るレベルだ。そもそも〝サウザンドアイズ〟は巨大な商業コミュニティじゃないのか?誇りはないのかよ」
「十六夜さん、それは仕様もない事です。〝サウザンドアイズ〟は直轄の幹部が半分、傘下が半分で構成されている群体コミュニティなのです。そして、今回の主催は傘下コミュニティである〝ペルセウス〟が主導で行っており、〝サウザンドアイズ〟の看板である双女神に傷が付く事さえ、気にならない程の金やギフトがあれば撤回もあり得ます」
冷静に達観した事を話している黒ウサギだが、十六夜が感じている何倍もの悔しさを堪えている。そのような心境でも話せているのは、箱庭においてギフトゲームは絶対の不文律。魔王に敗れて散り散りになってしまい、所有された仲間を集めるのは一筋縄ではいかない。......それでも元仲間を取り戻す事が出来るのもギフトゲームである。今回はそのチャンスがなかっただけなので、次回に賭けるしかないのだ。
「はぁ、次に期待か。一つ聞くが.....その賭けられていた仲間は一体どういう奴なんだ?」
「そうですね。言い表すならば、超絶プラチナブロンドの御髪をお持ちで、指を通すとシルクのように肌触りが良く、濡れている時なんて光に反射してキラキラと輝くんですよ!」
「ほほう?そんな可愛い?綺麗?な女の人会ってみたいな~~」
「ああ、同感だぜ。見応えありそうだな!」
「そう!そうなんですよ十六夜さん武蔵さん!黒ウサギの先輩でもありまして、困ってる時は大変お世話になっておりましたとも!なので、再び会えると思い喜んでいたのですよ.....」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。黒ウサギ」
私と十六夜、黒ウサギの会話の間に、割って入って来た声の方へその場にいる皆は向けた。そこにいたのは窓ガラスをコンコンとノックする金髪の少女がにこやかに笑っていた。窓の外でういて少女に驚愕した黒ウサギは急いで窓を開けた。
「レ、レティシア様!どうしてここに!?」
「敬称はよせ。今は人に所有されている身だ。〝箱庭の貴族〟である黒ウサギが所有物に敬意を払うなぞ。背中を後ろ指で指されるぞ」
開いている窓からレティシアと呼ばれた少女が苦笑しながら入室した。目に前の彼女は金糸を編んだような金髪を特注であろうリボンに結ばれており、血のような赤色で塗られているレザージャケットに囚人の拘束具を彷彿させるスカートを身に纏っている。先程の黒ウサギが先輩と言ってたにしては随分と幼く見える。
「こんな所からすまない。ジンには今の私を見られたくないのでな」
この場にいないジンはガルドの一件で行うべき業務が押し寄せており、その対応をするためあちこちに足を運んでいる。飛鳥と耀はそのサポートへジンと共に行動している。
「そうですか!......で、では!黒ウサギは紅茶でも淹れてきますね!」
久々に会えた元仲間にウキウキとスキップでもしそうな位の足取りで紅茶を淹れに行った。自分に視線が集まっている事に気が付いたレティシアは私達に声を掛ける。
「どうした?じっと私の顔を見て......何か付いているのか?」
「そりゃ_______」
「おおぉ!黒ウサギから聞いてた通りの美人さん.......いや!美少女!も~~最っ高!」
「武蔵、人が言おうとした所を被せるな!」
「えぇ.....いいじゃん別に」
「こいつ......!」
私と十六夜のやり取りを傍らで見てたレティシアは心の底から哄笑を上品に口元を押さえて席に着いた。
「ふふ。白夜叉から聞いてた通りだな。君らが十六夜と武蔵か」
お盆に人数分の紅茶を乗せてやって来た黒ウサギはそれぞれの前に一つずつ丁寧に置いた。
「して、どういう用件で来られたのですか?レティシア様」
今ここにいるレティシアは誰かに所有される身分にも拘らず、主に逆らってまで古巣にやって来たのは余程の用件なのだと私達は予想していた。
「用件という程のものじゃない。噂に聞く新生したコミュニティがどの程度のものかを見定めに来ただけだ。ジンに会いたくないというのも、今の私じゃ合わせる顔がないからさ」
〝見定めた〟と言ったレティシアにハッと黒ウサギは思い出した。〝フォレス・ガロ〟戦にて鬼化した木々は予想していた中に〝レティシア様がやったのではないか?〟という考えがあり、彼女の発言からその予想が事実となった。
「ん?どういう話の流れになってるの?今の言った事って、そんなにヤバい?」
「そういえば言ってなかったな。私は元魔王であり、吸血鬼なんだ。しかも.......純血の吸血鬼だ」
箱庭のにて創始者の眷属である黒ウサギの一族が〝箱庭の貴族〟と呼ばれているように、箱庭の太陽でのみ浴びれる吸血鬼の一族を〝箱庭の騎士〟と呼ばれている。彼らが授ける恩恵はあらゆる儀式様式を省き、互いの体液を交換する事により鬼種化する。この恩恵を与えられた者は食人気質を持つことになるが、純血以外の吸血鬼からは鬼種化する事はない。食事である血を吸う行為は独自にギフトゲームを開催し、参加チップとして吸血を行う。そのため人と吸血鬼は共存し合い、互いにルールを尊重している。
太陽の日を浴び、平穏と誇りを胸に守護する姿から純血の吸血鬼を〝箱庭の騎士〟と呼び称されるのだ。
「なるほどねー?納得した!」
「.......だな」
「え?」
「は?」
「こっちの話だから気にしなくいいよー」
関係のない話へ逸れかけたので、本筋に戻るよう促した。
「......実はな。新たに仲間を呼び出してコミュニティの再興しようとする話を聞いた時は、なんて愚かな.....と憤りを感じた。実現するにはどれだけの茨の道を歩む事を理解してないと黒ウサギは理解してないのかと思っていたしな」
「.............」
「そんなお前達を説得する為のチャンスを伺ってた時.......神格級のギフト保持者の男、白夜叉と互角とはいかぬものの良い動きをする評価した剣士がいるという事を知った」
黒ウサギの視線が十六夜と私に反射的に向いた。恐らく私達の事は白夜叉から聞いたのだろう。何故四桁に居を構えている白夜叉がわざわざ最下層である七桁にいたの理由は、レティシアを連れてくる為だったのだろう。
「その事を知った私は一つ確認しようと考えた。その新人は一体どういう力を秘めているのかどうかを」
「......結果は?」
黒ウサギは真剣な眼差しで問う。レティシアは微かに笑いながら答えた。
「生憎、ガルドでは試金石にならなかった。君はあの場での判断力と行動力はよかった。だが、他の二人はまだ計りかねている。.........この場に足を運んで来たものの、お前達になんて声を掛けたらいいか悩んでいる」
何故、自分はここに来てしまったのか分からないレティシアは遠目から見定めて思った事を伝えず、己の心内に秘めて立ち去る事だってできる......にも拘らず、わざわざ会いに来てたという事は何かしら伝えたい気持ちがある筈だ。...........そんな彼女に呆れた表情を浮かべて十六夜は笑う。
「はっ、古巣に檄を飛ばしに来たんじゃねぇ。ちゃんとやれているかを確認して、自分を安心したいという自分善がりなだけだろ?」
「.......言われてみれば、そうなのかもしれないな」
十六夜が掛けた言葉を肯定するレティシア。〝自分の古巣を託す〟という目的は果たされなかった。というのも、飛鳥と耀は人間レベルでは相当な才能を持ってはいるが、所詮は人間レベル......今後戦うであろう相手には神格級がいるかもしれない。しかも、まだまだ原石だ。元仲間の将来を託すには些か力が足りないにしても、〝フォレス・ガロ〟戦が終わった後に説得するにはもう遅い。
元々考えてた計画が私達の活躍のおかげ?せい?で中途半端になってしまった。そんな自嘲をしているレティシアに十六夜が声を掛けた。
「なら!そんな悩みを振り払う方法があるぜ」
「何?」
「あんたは俺達が魔王と渡り合えるのかが不安でしょうがない。そこでだ!一騎打ちのゲームでその力を間近で見定めればいいさ」
十六夜の意図を理解したレティシアはスッと立ち上がった。彼女は涙目ながらも高らかに笑っている。
「ははっ!.....そうか。下手に工作せずに初めからそうすればよかったな。その方が分かりやすいしな!」
戦う雰囲気が出てきて焦る黒ウサギは二人を諌める為に、私に助けを求めて声を掛ける。
「武蔵さん。お二人を止めましょうよ」
「え?なんで、面白そうじゃん」
黒ウサギは頼みの綱?である私に裏切られたような反応を返されて、結局この状態を変える事が出来ず静観に徹する事にした。一方、十六夜とレティシアは中庭へと移動しており、いつでも一騎打ちを始められる態勢に入っていた。
「やっぱり吸血鬼って、翼が生えているだな」
「正確に言えば飛んでいる訳ではないんだが........なんだ。制空権を握られるのは不満か?」
「いや?別に制空権取られても、打ち堕とせばいい話だ」
「そうか」
向かい合っている二人は天と地で分かれて向かい合う位置は一見十六夜に不利な戦いになりそうだが、そんな事は特段に気にしている様子のない姿勢にレティシアは評価した。
どのギフトゲームにおいても、対戦者の実力は未知数なのは基本中の基本だ。例えば、対戦相手が空を飛び回る鳥人を飛び回れない人間が不平不満を漏らそうとも
「(ふむ、気概は十分だ。後はそれに実力が伴うか....だ)」
空を舞うレティシアは微かに笑みを零した共に黒い翼を大きく広げ、己のギフトカードを十六夜へと向けた。黒と金、紅の三色が彩るギフトカードを取り出したレティシアに焦る黒ウサギは驚愕して叫んだ。
「レ、レティシア様!?そのギフトカードは一体!?」
「下がっていろ黒ウサギ。力試しとはいえ、これは決闘である事には違いない」
ギフトカードが光輝き、中からギフトが粒子となり溢れ出した。粒子が集まり、形成したそれは......西洋の騎士のような長槍だった。
「互いに一撃を振るい、倒れた方が負けとしよう。......では、行くぞ!」
「おうよ!」
レティシアは息を整え、大きく広げた翼をぎゅっと縮める。全身を引き締め、手に持っている長槍を勢いを乗せて投擲した。
「はぁあ!!」
十六夜へ向かう長槍は瞬く間に熱を帯び、それは熱線と言っても過言ではないだろう。流星の如く落下する長槍を前に十六夜は獰猛な笑みを浮かべ、
「ハッ.......しゃらくせぇ!」
_____弾き飛ばした。
「え?」
「は?......ぐっは!」
驚きを通り越して、呆然とするレティシアと黒ウサギ。長槍を弾き飛ばした勢いのまま十六夜はレティシアの腹部へと殴り込んだ。十六夜の一撃を食らったレティシアは常識外の実力を目の当たりにした瞬間、己の目測を恥じた。しかし、その実力に安堵した。
「(こ、これほどの.....であれば!)」
レティシアは地面に叩き落ちる覚悟を決めた瞬間。観客側で見ていた黒ウサギによって抱き込まれた事により、十六夜から受けた傷以外は受けずにすんだ。
「な、黒ウサギ!何をする!」
一騎打ちに割って入られた事による憤慨ではなく、黒ウサギに自身のギフトカードを掠め取られた事に対してだった。そんなレティシアの抗議を気にも止めず、ギフトカードを見た黒ウサギは震えた声で向き直った。
「..........ギフトネーム:〝
「っ!」
私達.....特に黒ウサギに気付かれたくなかったのか、さっと目を背けるレティシア。黒ウサギの方へ歩み寄っていった私と十六夜。
「え?元なんだから神格とか無くなるじゃないの?」
「いえ、そういう事ではなくてですね。......武具には多少残っているので自身のギフトに残っていないと言っていいでしょう」
黒ウサギの説明に納得したのか、呆れた表情で肩を竦めた十六夜は盛大に舌打ちをした。自信満々に勝負を挑まれたのにも関われず、手を抜いたと言ってもいい程の状態で相手にされた事が不満だったのだろう。
「チッ!どうりで手ごたえが無かった訳だ。他人に所有されちまったら、ギフトも奪われちまうのか?」
「......それは違います。魔王に奪われてのは〝人材〟であって、ギフトではありません。武具や防具等の手に触れる系のギフトとは違い。十六夜さんのような所持している人と魂の繋がりがある系のギフトは基本は相手の合意が必要です。例え隷属させた相手だろうとも、奪う事は不可能です」
要するにレティシアは己の命と言い換えてもいいギフトを差し出した事だ。三人から何とも言えない視線を受けたレティシアは苦虫を嚙み潰したような顔を逸らした。黒ウサギは苦々しい表情で問う。
「レティシア様は元から鬼種の純血と神格を備えており、その為魔王と称する程の力を誇っていました。ですが、今の貴女は当時の十分の一もありません。何故このような......」
「それは......」
何度も言葉にしようとして呑み込む動作を繰り返した。そして、回数を重ねるごとに間隔長くなり、口を閉じてしまった。私はこの鬱蒼した状態を頭を掻きながら言う。
「あの.....黙って聞いてたけど、さ。お腹空いてきたし、おうどんでも食べない?」
「そういえば昼飯食ってなかったな!屋敷の方に戻ろうぜ」
二人は沈鬱そうな表情で、静かに頷くのだった。
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