英雄伝説 月光の死神(書き直し) (雨の剣士)
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士官学院編
士官学院へ


 暗い……暗い漆黒の闇。

 

 

 気付けば私はここに居た。

  

 

 いつから居たのか分からない。

 

 

 子供の頃の記憶はあまりない、あるのはパパから暴力を受けていた記憶だけ、きっと私はいらない子だったのだろう。

 

 

 そのパパとママに連れられてある場所に行き、私は体を改造されお屋敷で薬を飲まされ驚異的な身体能力と空間認識能力、そして情報処理能力と、人を遥かに超えた能力を手に入れていた。

 

 

 いつか迎えに来ると信じたけど誰も来ない。そんな時だった。()と出会い、彼が所属していた組織に身を投じて執行者になった。

 

 

 その彼も一年前に遠い所に行き、血の繋がらない最愛の妹も組織から距離を取って、自分の道を進もうとしている。それは良い事だろう。リベールでいい出会いがあった証拠だ。もう私が傍に居なくても大丈夫。

 

 

 だから私も一歩踏み出そう。成すべきことを成すために。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ー七耀歴1204年3月 トリスタ方面行き列車内にてー

 

 

 

「帝国か。本格的に滞在するのは久しぶりかな」

 

 

 窓から見える景色を見ながら懐かしい感覚に陥ってしまった。それだけの時が過ぎたのだろう。

 

 

「取り合えず暫くは学院生活を満喫しようかな。出番はまだまだ先だし」

 

 

 私はこれからトールズ士官学院に入学する。その為に赤い制服を着ているけど……確か士官学院って平民クラスと貴族クラスで別れていて制服が緑と白だった気がする。赤は無かったような……。

 

 

「ま、士官学院に入れるのはあの皇子のお陰だしある程度は返さないとね。色々と約束はさせられたけど」

 

 

 脳裏に浮かぶ某皇子。王位継承権は手放しているのにかなりの権限がある。まさかあんな方法で接触してくるとは思わなかったけどそこはヨシュア達が一枚上手だったかな。

 

 

「本当に出番が後の方で良かった。ここはヴィータやクロウに感謝かな……っと到着したね」

 

 

 列車が止まりトリスタ駅に到着。席を立ち列車を降りると緑と白の制服を着た生徒が大勢いる。赤は……今の所は1人ぐらい?うん、ほとんどいないね。

 

 

「取り合えず行こう。その前に」

 

 

 左手を開き何処からともなく2アージュ程の袋に入った特殊剣を取り出す。この剣はある人物から授かった大切な物。入学時に提出しないといけないらしく、事前に準備しておかないといけない。

 

 

「よし行こう」

 

 

 まずは駅を出る。最初に視界に映ったのはライノの花。この花は帝国外ではあまり見た事がない。おっと、花に見惚れている時間はないね。先に進まないと。

 

 

「それにしてもいい景色。先生から聞いていたけど……っとあれかな」

 

 

 大きな建物が見える。その前には緑の制服を着た小さな女子生徒と黄色い作業着を着たややぽっちゃりした男性生徒。確か会長のトワと技術棟のジョルジュだったかな。クロウから聞いたままだね。

 

 

「ようこそトールズ士官学院へ。アリア・グレイス・シアトルさんかな?」

「はい。お二人の事はクロウから聞いてますよ」

「そうなんだ。私達も聞いてるよ」

「彼と昔馴染みらしいね。色々と聞きたいけどまずは申請したものを渡してくれるかな?」

「はいどうぞ。入学式は講堂でしたっけ?」

「この先だよ。これから頑張ってね」

 

 

 ニコッと微笑む会長さん。クロウから聞いていたけど中々の破壊力。学院の天使とか言われているのは本当みたい。義妹(レン)と重ねてしまうのは少々マズイ気がするけど。

 うん、取り合えず先に進もう。講堂に入り一番目立たない位置にあった椅子に座る。暫く待っていると入学式が始まり軽く聞き流していると終盤に差し掛かる。そこで1人の男性が壇上に上がり新入生達に挨拶する。

 

 

(あの人はヴァンダイク名誉元帥だったかな。風格からして中々だけど……あ、話終わった)

 

 

 しまった。かなり大事な話をしていたのに聞き逃してしまった。これがもし先生だったら……間違いなく拳骨だね。後でクラスメイトに聞いておこう。

 

 

「ではこれより各クラスに分かれて貰う」

(ん?各クラス?)

 

 

 教頭と思わしき人物が言い、生徒と教官が去って行き私を含めた赤い制服を着た生徒だけ残る。数は……私を含めて10人か。それと残ってる教官は……。

 

 

(サラ・バレスタイン。元A級遊撃士か)

 

 

 彼女の事はよく知っている。何度かやりあったことがあるから。色々あって遊撃士を辞めたって聞いていたけど。

 

 

「はーい赤い制服の皆。これからオリエンテーリングをするから付いてきてねー」

 

 

 手を振りながら講堂を出ていくサラ。残っていた赤い制服達は後を付いて行き、私も1番後ろを歩いていると右斜め後ろから視線を感じる。

 その方向を見ると、そこには4人の人物。校門前で会った会長さんとジョルジュ。それと紫髪の色々と危なそうな女性。それともう1人。額にバンダナを巻いた男が居て彼と目が合う。

 

 

(話には聞いていたけどそこそこ楽しんでるじゃん)

 

 

 彼には近いうちに挨拶しに行くとして今はオリエンテーリングとやらをする場所に向かう。先に行った赤い制服達の後をつけ遅れて到着したのは古びた建物だった。

 

 

(確か旧校舎だったかな?それしても……)

 

 

 なかなか楽しそうな場所。いい魔力を纏ってるし鍛錬するにはいい場所になりそう。兄貴に追いつくためにも利用させて貰おうかな。

 

 

「さぁ入るわよ。付いてきなさい」

 

 

 サラが鍵を開けて中に入る。私を除いた皆は戸惑いつつも中に入り私は最後に入る。中は薄暗くて外と雰囲気が違う。以前クロウと来たオルディスの地下に近い感じだ。

 

 

(何が出るかは楽しみかな。それよりも……)

 

 

 今問題なのは地下の方。丁度私達の足元に大きな空間がある。気付いているのは私だけ。サラに気付かれないようにはしているけどチラチラこちらを見てるって事は気付いてるかな。

 

 

「私の名前はサラ・バレスタイン。今日から君達≪Ⅶ組≫の担任を務めさせてもらうわ。よろしくお願いするわね」

「な、Ⅶ組?」

「それに君達って……」

 

 

 自己紹介とクラスの事を話すサラ。周りの皆は驚いている。恐らくは聞いていた話と違うのだろう。詳しい事を知っているのは担当教官のサラぐらい。私も皇子さんから全部聞いたわけではないし。

 

 

「あのサラ教官?この学院の一学年は5クラスと記憶していますが。それも各自の身分にや出自別のクラス分けで」

「お、流石首席入学。よく調べてるわ。確かに君の言う通り5つのクラスがあって貴族と平民で別れていたわ。去年までね(・・・・・)

「え……?」

「今年から新しいクラスが立ち上げられたのよ。すなわち君達……身分に関係なく選ばれた(・・・・・・・・・・・)特科クラスⅦ組が」

(そう言えばここに居る子って結構有名どころ多いよね)

 

 

 改めてここに居る生徒を見る。何人かは知っている顔……といっても関係者やその家族を知っている。RFの令嬢に四大名門の一角の息子。帝都知事の息子まで。しかも猟兵も。

 他にも気になる子はいるけど今はいいかな。この後は大きな揉め事が起きそうだし。

 

 

「冗談じゃない!身分に関係ないクラスなんて聞いていませんよ!」

(ほらやっぱり)

 

 

 予想通りの展開。帝国ならではの考えだね。それもしてもちょっと意外かも。今言ったのは緑髪の青年。彼は確か帝都知事の息子さんだったはず。名前はマキアス・レーグニッツだったかな。それよりヒートアップする前にあの教官は止める……訳ないか。

 と思っているとサラは案の定笑顔で『若者同士すぐに仲良くなれるわよ~』って言った。それ逆に火に油を注ぐだけだけど……。

 

 

「ふっ……」

(あ。やると思った)

 

 

 マキアスの隣にいた金髪の青年が鼻で笑う。隣であんなこと言われたら貴族として黙ってないよね。四大名門の一角だし。

 

 

「君……何か文句でもあるのか?」

「別に……″平民風情″が騒がしいと思っただけだ」

「これはこれは……」

(ちょっとヤバいかも。絶対だれも止めないよね……飛び火されたくないし静観かな)

 

 

 出来れば止めてあげたいけど逆に目をつけられそうだし素が出るかもしれない。ここは教官か止めるまで見守っておこう。

 

 

「はいはい。文句なら後で受け付けるわ。時間もないし今からオリエンテーリングを始めるわよ」

 

 

 サラが手を叩き2人の言い争いを止め、壁に手を触れる。その時、壁にレバーがあるのが見え、私は気付かれないように後ろに下がると、サラはレバーを下げ大きな音と同時に床が傾き、下がっていた私とワイヤーロープを柱に巻いた銀髪の少女以外落ちていった。

 

 

「何避けてるのよ。アンタも行きなさい」

「はぁ……めんどいな……」

 

 

 ワイヤーロープをナイフで斬るサラ。フィーは私を見てから落ちて行く。

 

 

「始めから教官に虐められるなんで可哀想だね」

「あれぐらいしないと始まらないわ。アンタも降りなさい。それと何で猫被ってるのよ?」

「んー?なんの事?」

 

 

 誤魔化しの笑みを浮かべるとサラは導力銃を取り出し向けてくる。これは素直に聞いておいた方が良さそうだ。ついでに少しだけ戻っておこう。

 

 

「大丈夫だ。猫を被るのは学生の時だけ。失った青春を取り戻すには演じるのも必要だ」

 

 

 少し低い声とさっきとは違う笑みを浮かべながら言い下に降りる。少しサラの顔が強ばったのを見たが今はいいだろう。

 

 こうして私の士官学院での生活が始まった。

 

 

 

 



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Ⅶ組発足

ーパチン!!!

 

 

 乾いた音が響き渡る。地下に降りると同時に、目の前で黒髪の青年が金髪の女性にビンタされる。きっといい思い出になる。些細な事がとても大きなことに繋がるから。

 

 

(さてと、地下に降りてきたから切り替えて……)

 

 

 素から猫かぶりモードに切り替え周囲を確認。周りには特になく、出口が1つだけ。恐らくここはスタート地点。となるとオリエンテーリングは再び一階に戻って来る事か。

 ある程度推測していると、腰に携えていた端末が鳴り、サラの声が聞こえてくる。この端末は確かARCUSだったか。RF社とエプスタイン財団が協力して開発した次世代戦術オーブメント。クロスベルにいる義妹に話したら結構喰いついて来たのを覚えている。

 

 

『という訳だからクォーツを受け取りなさい』

(あ、また聞き逃した。一つの事を考えると周りが見えないのは悪い癖か。猫被ってると多いんだよね)

 

 

 かといって執行者……素の方は控えて欲しいってオリビエさんに言われてるし我慢するか。次第に慣れてくるし何だったら幼馴染と話せばいい。

 

 

『君達から預かっていた武具と特別なクォーツを用意したわ。確認してからARCUSにセットしなさい』

(……一応聞いておくか)

 

 

 サラの指示に従い私の武器が置いている場所に向かう。初めにクォーツを見てARCUSに嵌めた後、剣が入っている袋を持った時、会長さんに渡した時より重いことに気付く。

 袋を開け中を見ると銀色の魔剣ともう一つ。同じ色の細長い導力銃が入っている。見覚えのない物だが、導力銃についていたメッセージカードを見て犯人が分かった。

 

 

ー入学祝いだ。お前なら扱えるだろ?

 

 

(アイツ……)

 

 

 後で幼馴染(クロウ)を一発殴って置こう。猫被った私ではなく素のクールな私で。だけど今回ばかりは感謝しないと。盟主から授かった魔剣を使うと気付く人いるから。

 魔剣を手に取り銀色の光に変えて自身の体内に隠してから導力銃を後ろ腰に携え出口に向かうと、サラがさっき私が推測した通りの事を言ってから通信を切り、扉を開ける。

 

 

(さーてどうしようかな。確かに魔獣は居るみたいだけど……)

「フン……」

 

 

 金髪の青年。ユーシス・アルバレアが1人で行こうとする。マキアスがそれを止め、再び言い争い。それを流しながら聞いているとマキアスが先に行き、遅れてユーシスがダンジョン区画に行った。

 さて、私はどうするかだけど……人数と能力を考えると1人の方がいいか。

 

 

「お先に失礼。終点で会おう」

「え?」

「ちょっと!」

 

 

 挨拶してからダンジョン区画に入る。少し進んで行くと早速2体の魔獣と遭遇。纏っている気配から強さを見極め、導力銃を抜き頭を撃ち抜く。予想よりしっくり来る。もしかして≪工房製≫かな?

 

 

「だとしたらヴィータ経由。博士がレポート出せって言いそうだ」

 

 

 出来れば関わりたくない所だ。レンの事がある以上は接し方を考えないといけない。会う機会はないだろうけど。

 

 

「さてと、出来る限り早めに行こうか」

 

 

 魔獣の気配を頼りに接触を避けつつ先に進む。進んで行くと分岐点が現れ右か左どちらかに進まないといけないのだが……そう言えばマキアスとユーシスと遭遇していないな。思ったより先に進んでいるのか。

 

 

「ここは左。右は行き止まりだ」

 

 

 右に進み暫く直進。誰にも会う事無く中間地点と思わしき場所に来る。終点までまだ先がありそうだが……先に行った2人は大丈夫だろうか。

 

 

「余計な心配は不要か。この程度の魔獣なら問題ないだろう」

 

 

 この程度で支障が出るならサラもここをオリエンテーリングの場所にしないだろう。何かあればどこかでサラが見ているはず。それが無い以上は私の心配はいらない。

 

 

「終点までもう少し。油断せずに進もう」

 

 

 中間地点を通り抜け暫く進むと開けた場所に出る。先に階段が見えているという事は終点か。周囲に気配は……一つある。これはサラか。何もしてこないし出てこないって事は何かあるな。怪しい物はあの石像ぐらいだが……石像?

 

 

「まさか……」

 

 

 石像に視線を向けると、ゆっくりと動き出し台座から飛び降りる。これはガーゴイル……すなわち石の番人か。こんなものが何故ここにあるのか知らないが放っておく訳にはいかないだろう。

 

 

「来い番人。私が煉獄に送ってやろう」

 

 

 導力銃をガーゴイル向け殺気を放つ。それに反応しガーゴイルは翼を羽ばたかせながら急接近してくる。

 

 

「ふっ。それは愚策だそ番人」

 

 

 ガーゴイルの爪が私の顔を捕える瞬間に銃弾を頭に撃ち、頭を吹き飛ばす。残った胴体は私の横を通り抜け光を放ちながら消えていく。

 

 

「こんなものか。しかし……出てこいサラ・バレスタイン」

 

 

 近くの柱に向け言うと、柱の後ろからサラが出てくる。どこまで折り込み済みなのかは知らないが、あのガーゴイルについては聞いておきたい。

 

 

「最初に着いたのが私だから良かったが他の者だったらどうするつもりだ?」

「それはこれから分かるわ。アンタも隠れて見てなさい」

「そうか。なら見せてもらおう」

 

 

 近くの柱に身を隠し気配を消す。そして何故か同じ柱にサラも隠れる。

 

 

「どういうつもりだ?」

「別にいいじゃない。それより素が出てるわよ?」

「この場にいるのはお前だけだからな。他の誰かが来れば切り替える」

「あっそ。その誰かが来たわね」

(あれは……)

 

 

 私の次に来たのは男4人。1人は金髪の女性に頬を叩かれた黒髪の青年、後の2人は十時槍と魔導杖を持っている。

 確か叩かれた青年はリィンで槍の方がガイウス、魔導杖がエリオットだったか。ユーシスが居たのが意外だがどこまでやれるかお手並み拝見しよう。

 

 

(それにしてもあのリィンの中身は……)

 

 

 リィンの左胸辺りか。どす黒い何かがうごめいている。今は大丈夫みたいだがこれから先が心配だ。≪劫炎≫のようになって欲しくないが。

 

 

「アリア。悪いけど準備してくれる?」

「4人いれば十分……ん?」

 

 

 ガーゴイルの様子が変わる。私が戦った時より力を増し翼が大きくなる。それでもリィン達はアーツや技を駆使して連携し拮抗した戦いが続くが、ガーゴイルが放った火球がリィン達を薙ぎ払い戦局が変わる。

 

 

「これは……少しまずいか」

 

 

 導力銃を構えガーゴイルに銃口を向けると、リィン達の背後から矢が通り抜けガーゴイルの左翼を貫く。矢が飛んできた方向には金髪の女性たち。アリサ、ラウラ、エマの3人だ。

 

 

「大丈夫かそなた達!」

「君たちは!」

「援護します!」

 

 

 アリサ達が加わるが戦況は変わらない。少し押し返した程度だろうか。このままだと押し切られる。隙を作ろうと引き金を引く瞬間。今度は複数の銃弾がガーゴイルを襲う。この場にいない残りの2人、マキアスとフィーが合流し全員でガーゴイルを囲む。

 流石にこのまま隠れるのはマズイか。ここは加勢しよう。

 

 

「隙を作る。その間に一斉に攻撃しろ」

「え?」

「君は……いつからそこに居たんだ?」

「それは後でいい。今は目の前の敵に集中だ」

 

 

 導力銃に魔力を込め右翼を撃ち抜き撃墜。その瞬間を逃すことなくリィン達が一斉に攻撃。その時彼らを淡い光が包み込み、完璧な連携でガーゴイル倒した。

 

 

(今のはシンクロ?でも星光陣に近いか。もしかして今のが……)

「それがARCUSの真価。≪戦術リンク≫よ」

 

 

 背後から姿を現すサラ。拍手を交えつつ私達に前に来た彼女は満足そうに笑っている。本気なのかは分からないが。

 

 

「これにて入学式のオリエンテーリングは終わり訳だけど……もう少し喜んだらどうなの?」

「喜べるわけないでしょう!?」

「はっきり言って疑問しか浮かばないんですけど……」

 

 

 言っている通りだろう。様々な事が分からないうえで喜べるわけないが…発足者で高みの見物をしている彼に問い質したいが……。

 

 

(答える訳がないか。彼の思惑も分からないわけではないし出来る限りは付き合うとしよう。故郷の為にも)

 

 

 高みの見物をしている金髪の青年に視界を向けると、気付いた彼はニコッと微笑む。私はすぐに視線を戻すと、話が手際よく進んでいてサラが≪Ⅶ組≫に参加するかどうかを聞いていた。

 そして最初に名乗りを上げたのはリィン。それに続きラウラ、ガイウスと続き、残ったのは私とフィー、彼女は面倒臭そうにしながらも参加し、残ったのは私だけだ。

 

 

「アンタは……聞かなくてもいいよね?」

「うん。元からそう言った話だし。出来る限りは付き合ってあげる」

「これで全員ね。それじゃ……」

 

 

 サラは軽く咳晴らした後にⅦ組発足の宣言をした。

 

 




Ⅶ組発足。主人公のイメージと容姿はイースIXのアプリリスです。



では次の話で。


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幼馴染

 Ⅶ組発足から早くも半月。月に一度ある自由行動日と呼ばれる日の前日が来る。この半月はそれなりに楽しんでいた。授業のレベルはそれなりに高いけどついていけないわけでない。中でも得意分野の3教科。帝国史と数学、工学関係はお手の物だ。

 他の教科も手を抜きさえしなければ問題はないだろう。どちらかというと問題はある2ペアか。早めに何とかして欲しいのだが……。

 

 

「という訳で明日は自由行動日よ。基本的には何をしてもいいわ。部活に校内活動、届け出を出せば帝都に行っても大丈夫。何だったら私のように一日寝ててもいいわ」

(職務怠慢にも程があるだろう……)

 

 

 教官がこのような感じだ。一回誰かに雷を落とされればいいと度々思っているが無いという事は他の教官は諦めているのだろう。 

 私としてはもう少ししっかりして欲しい。教える身は大変だとは思うがどうしても先生を思い浮かべてしまう。私に色々と教えて頂いたあの人を。

 

 

(取り合えず明日は一日部屋に籠るか)

 

 

 明日の事を考えている間にもホームルームは終わり、私は教室を出て真っ直ぐ寮に戻ろうとしたのだが、教室を出てすぐにクロウが待ち構えていた。

 

 

「よぅ。お疲れさん」

「……誰ですか?」

「は?何言ってんだお前?」

 

 

 クロウは溜息を吐きつつ右腕を首に回してくる。どうやら私を逃がす気はないらしい。仕方が無いか。明日の事も含めて少し話しを聞いても貰おう。

 

 

「少し付き合ってくれ幼馴染」

「いいぜ。晩飯でも食いに行くか。臨時収入もあったしな」

 

 

 臨時収入……?少し気になるな。そこそこ金の使いに荒い彼が臨時収入を得るなんてあり得ない……と疑うのは良くないか。

 

 

「言っておくが先輩のお前が奢りだぞ」

「いやいや割り勘だろ。お前さんの方が持ってるんだから」

「情けない先輩だな。小父さんに鍛えられた博打術で少しは稼いだらどうだ?」

「それが出来たらいいんだが……って俺が何時も負けてる言い方するなよ!」

 

 

 あながち間違ってはいないだろう。去年の夏至祭の競馬も外していた。因みに私は穴を当てて数百万ミラを当てている。それを知ったクロウは本気で泣いていたが……その後は知らない。次の日には立ち直っていたからな。

 

 

「んじゃ行くぞ。食堂でいいか?」

「出来れば自炊したいが……」

「それもいいが、たまには外で食べよう。まだ食材も揃ってないだろ」

「それもそうか、なら明日にでも買い出しに行こう」

「そん時は俺も付き合うぜ。行くぞ」

 

 

 やや引きずられる形で食堂に向かう。外は既に日が沈んでおり、時計を見ると寮の門限まで3時間を切っている。ゆっくり食べれる時間はなさそうだな。

 

 

「どうだ学院は?」

「それなりだ。色々と問題はありそうだがそれも学生生活の1つだろう」

「俺以外に猫被ってるのもか?」

「別にいいだろう。時にはブルブランのように演じるのも必要だ。士官学院に入学したのは執行者の私ではなくただの私。お前の幼馴染だ」

「それじゃその幼馴染に甘えて今日は……」

「ご馳走様です先輩?」

 

 

 自分で言うのもなんだが、義妹に負けない笑顔で言いクロウに反撃の予知を与えない。うん、意外と性格を切り替えて幼馴染の反応を見るのも楽しいな。

 話の盛り上がっている間にも食堂に到着、それぞれ頼んでから席に向かいあって座る。私が頼んだのはサンドイッチでクロウはパスタだった。きちんとクロウの奢りだ。

 

 

「しっかしお前が士官学院に入りたいって言うとはな。どういうことだ?俺は凄く助かるが」

「別にいいだろう?私も一歩踏み出す時が来ただけだ。入学の仕方が少しあれだが」

「殿下に弱みでも握られたか?」

「弱みより約束だ。お前には話だろう?」

 

 

 詳しい事はまだ話せない。クロウや上司には話してあるが元より話す気はない。リィン達に聞かれてもだ。

 

 

「本当にお前は変わったな。ガキの頃はあんなに好奇心旺盛で活発だったのによ」

「そうだな。今ではとても懐かしい。両親からの暴力と教団の事がなければ今頃は……いや、思い出すのは止めておこう。あまり覚えていないからな」

「だな……俺達に過去は不要だろう。必要なのは熱く燃やす炎だけ」

「違いないが熱くなりすぎるなよ」

「その時はお前が止めてくれる。そうだろ?」

 

 

 笑いながら当然のように言ってくる。それが私の役目ではないのだがいいだろう。幼馴染だしある程度の我儘は聞くとしよう。

 

 

「その時が来ない事を出来る限り願いたい。私はお前の親ではないからな」

「分かってるよ。お前は猫被って青春を謳歌しな」

「ならいいが……っとそろそろ帰るか」

「お、もうそんな時間か。明日は自由行動日だからと言って羽目外すなよ」

「それはお前もだ。また」

 

 

 小さく手を振り食器を返却し寮へと戻る。気配の数から私が最後の様だ。門限はきちんと守っているから問題はないし教官があの調子だから多少は遅れても問題はないだろう。

 部屋に戻り制服からラフな服装へと着替える。普段は黒い長袖に同色のズボン。フード付きのマントと制服に比べればマシかもしれないがやはり慣れない。女性なら着なれない服装こそ着こなさないといけないだろうが……。

 

 

「私には縁の無い事だ。こんなことを言うと姉さんに怒られそうだが」

 

 

ーコンコン。

 

 

「ん?この気配は……」

 

 

 ノックと同時に扉の外から感じる気配。これはリィンか。切り替えて外に出よう。

 扉を開けると一歩下がった場所で赤い生徒手帳を持ったリィンがいた。そう言えばまだ持っていなかったか。

 

 

「忙しい所済まないアリア……って部屋では私服なのか」

「その辺りは何も言われてないからね。何かあった?」

「会長から生徒手帳を預かったんだ。これが君の分」

 

 

 私の名前が刻まれた生徒手帳を渡してくる。それを受け取り少し話しをしてからリィンは向かいにアリサの部屋に向かう。そろそろ仲直りして欲しい所だが……私が気にする必要はないだろう。

 

 

「さて、明日の予定を組みたいが何処に買い出しに行こうか。近くなら帝都だが転移術を使えばもう少し遠い場所に行ける。けど種類をそろえるなら帝都か。確かクロウも来ると言っていたし……」

 

 

 ある程度は余計な物を買う事を覚悟しておこう。お金なら事前に準備はしてある。足らない事はないだろうと信じたい。

 

 

ープルルルル。

 

 

「今度は着信か……」

 

 

 ARCUSではなく結社の通信機。これが鳴るという事は使徒か他の執行者という事になるが……誰だろう。通信機を手に取り画面に映った名前を確認。その名前を見た私は小さく溜息を吐きつつ応答する。

 

 

「私だ」

『こんばんは。夜遅くにごめんなさいねアリア』

 

 

 透き通る綺麗な声。通信をしてきたのは結社の第2使徒であるヴィータ・クロチルダ。私の上司である。

 

 

「何か頼み事か?生憎と私は……」

『分かってるわよ休暇中な事ぐらい。中々連絡してこないからお姉さん寂しくて……』

「なら隣の部屋の妹と代ろうか?」

『こほん。調子はどう?明日は自由行動日でしょう?』

「明日はクロウと買い出しに行く予定だ。何か必要な物があれば言って欲しい」

『そうね……ってクロウとお出かけ?』

 

 

 やや怖い声で言ってくるヴィータ。私とクロウが一緒に出掛ける事ぐらいはいつもの事だが、確かにクロウと出かける度に機嫌が悪かった気がする。原因は……兄さんか。

 

 

「私とクロウは幼馴染。決して貴女が考えている関係ではない」

『その割には定期的に出かけているみたいだけど……まぁいいわ。折角だから楽しみなさい。良い話聞かせてね』

「あぁ。レンには負けられない」

『頑張ってね。お休みなさい』

 

 

 通信が切れ、机の中に通信機を隠し、幻惑魔術でただの端末へと偽装する。部屋には結界を貼っているから誰にも気付かれないし入れないが念の為だ。

 

 

「明日は早いから寝よう。その前に……」

 

 

 机の上に置いてある写真立てを取る。中には大切な人達と撮った写真があり、写っているのは私を含め4人。その内の1人はもうこの世にはいないが、私達の心の中で生きている。

 

 

 

(お休みレン……先生。そしてレオンハルト)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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膝枕と襲撃者

ーどうして!どうしてなの!

 

 

 大きな女性の声が聞こえてくる。その声で目が覚めた私は目を擦りながら体を起こし、声が聞こえてくる隣の部屋の扉に耳を当てる。

 

 

「何で娘を売るのよ!貴方の借金に娘は関係ないじゃない!」

「それは俺のセリフだ!要らねぇのに胎みやがって!」

 

 

 パパとママが喧嘩している。最近は毎日のように。何を話しているかは私に分からない。でも何となく分かっていた。

 

 

「ともかくアイツは教団に売る。決めた事だからな!」

「っぅ……何で……」

 

 

 ママが泣いている。何故泣いているのは分からない。なのに分かっている自分がいる。何で?それが私には分からない。

 

 

「嫌だ……パパとママが喧嘩している所を見るなんて……私はどうすればいいんだろう……」

 

 

 何をすればいいのか分からないまま私は布団に戻る。

 

 

 そして次の日、私はパパとママに白衣を着た人達の所へ連れて行かれ、この日以降、私はパパとママと会う事は無かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……もう朝か」

 

 

 

カーテンの隙間から襲ってくる朝日で目が覚める。時計を確認すると現在は6時30分。いつもより一時間程遅く起きたようだ。

 

 

「原因はあの夢か……」

 

 

 子供の頃の記憶。最近では少しずつ戻っては来ているが実感はない。特に教団に連れられる前とレンと会うまでの記憶はごっそりと抜け落ちている。幸いにもクロウと再会し、子供の頃一緒に遊んだ事や、父さんに暴力を振るわれていたことは思い出したが。

 

 

「最悪だ」

 

 

 まだ覚めない睡魔を何とか払いのけ、ベットから出て制服に着替える。机の引き出しから化粧道具を取り出し、鏡を見ながら薄く化けた後、背中程まで伸びた黒髪を纏める。

 

 

「これでよし。待ち合わせは7時だから急ごう」

 

 

 椅子に掛けて置いたフード付きコートを羽織り寮を出るがクロウはまだ来ていない。寝坊……は流石に無いと思いたいので暫く駅の前で待とう。

 

 

「しかしあの夢は……どうやら私が思っていた事と違うみたいだ」

 

 

 今まで両親が合意の上で私を教団に売ったと思っていた。だがあの夢を見る限りは違うようだ。

 

 

「たとえ違っても売られた事実は変わらない」

 

 

 それに私にはレンや先生、クロウがいる。それだけでいい。あの人達がいるだけで私は生きている実感が掴めるから。

 

 

「よぅ。待たせたな」

「ん……遅いぞ」

 

 

 右手を上げながらやっと来たクロウ。女を待たせるとは最低な野郎だが時間には間に合っている。それでも先に来ていて欲しいが。

 

 

「さて、帝都に向かうか。買いたい物はメモしてある」

「了解だ。その前に何かあったか?」

「特には。ただの夢だ。早く行こう」

 

 

 駅に入り搭乗券を買ってから列車に乗る。帝都までは30分程で到着し、早速お店に入る。

 ここからはメモに書いてある必要な物を買っては寮に転移の繰り返し。途中でクロウが『あれ欲しい』とか言っていたが全部バッサリと切り捨てる。

 そうしている間にもお昼を過ぎ、私たちはマーテル公園で休憩することなった。

 

 

「今日はいい天気だ」

「昼寝には丁度いい気温。近くに芝生もあるし寝るか」

 

 

 近くの芝生に横になるクロウ。やれやれ、こういった所も変わらない。地面に寝るなと何度言った事か。

 

 

「全く……地面に寝るな。汚れるだろう?」

「下は芝生だから問題ねぇよ」

「そういうことではない」

 

 

 仕方の無い男だ。

 私はクロウの隣に正座し、彼の頭を膝に乗せる。俗に言う膝枕と言うものだ。

 

 

「珍しいな。お前が俺に膝枕するとは」

「……色々と大変なのは知っている。少しでも疲れを癒せ」

「助かる。目の保養にもなるからな」

「目の保養……そういう事か」

 

 

 上を向いているクロウの視線の先には私の平均より大きい両胸がある。そういえば男は皆女の胸が好きだとよく聞く。気持ちは分からない訳では無いが、人は外側より中側だと思っている。

 いくら外見を綺麗にしても中身が汚かったら意味が無い。度々先生からも『両方磨くように』と何度も言われている。

 

 

「言っておくが私より大きい女ならクラスに3人いるぞ」

「別に聞いてねぇよ。つか、俺は外より中を見てる。外見は二の次だ」

「意外だな。余程アンゼリカ・ログナーに苦渋を飲まされているようだ」

「本当だぜ。アイツのせいでどれだけど男が犠牲になったか。お前も気をつけろよ」

 

 

 言われなくても。と言ってから優しく頭を撫でる。そう言えば子供の頃にも似たような事があったか。確かあれはクロウが木から落ちて私に恥ずかしい所を見せた懐かしい出来事が。

 

 

「ふふ。お互いあの頃より成長したな」

「性格は兎も角中身は変わってねぇ。お前は相変わらず面倒見が良くて五月蝿い」

「悪かったな。だがそのお陰で今のお前がいる。3年前にヴィータの仲介で再会しなければどうなっていたか」

「……ま、色々と苦労してただろうな。本当に感謝してる」

 

 

 彼の声音から、心の底から感謝している事が分かる。今はまだ話せないが3年前の彼は色々と酷かった。他に3人の仲間がいたが、彼等にも話していないことが多く、吐かせるのに苦労した物だ。

 度々『余計な世話だ』と文句を言われたが幼馴染が辛い思いをしているところなど放っては置けない。彼に協力し、結社の計画に参加することにしたのもそこが大きい。

 

 

「少し話が変わるがいいか?」

「あぁ。どうかしたか?」

「さっきから視線が鬱陶しい。覚えあるか?」

「さて?覚えが無いな」

「嘘つけ。ったく……」

 

 

 ゆっくりと起き上がり体を伸ばすクロウ。先程から私達を見ている誰かから逃げる準備をしているようだ。私としても面倒事は避けたいところだ。

 

 

「取り合えず地下で迎え撃つか。折角寛いでいる所を邪魔されたからな」

「私としては面倒事は避けたい」

「俺も同じだが教団関係の可能性もあるだろう?早く行くぞ」

 

 

 近くにある帝都への近道へ向かう。誰も見ていないことを確認してから地下へと入って行く。地下は薄暗く魔獣が周回している。魔獣を討伐しつつある程度進んだ場所で止まり、出迎える事に。

 

 

「さーて何が出る事やら」

「少しは歯ごたえがあるといいが……来たぞ」

 

 

 姿を現したのは黒いスーツにサングラスを身に着けた集団。確か彼らはルバーチェ商会の者か。どうしてここに居るのか不思議だが、手短に拘束してTMPに突き出そう。

 

 

「お前が死神か?」

「あぁ。お前達はルバーチェ商会の者だな?何様だ?」

「話すつもりはない。ただ我々に力を貸せ。黒月の≪銀≫を倒すために」

「ん?≪銀≫ってあの≪銀≫か?」

「恐らくは。(だがどうして私に頼む?)」

 

 

 別に≪銀≫を倒すためなら私を雇う必要はない筈だ。ルバーチェ商会にはガルシア・ロッジがいたはず。彼ならば容易く抑えられるはずだが……。

 

 

「付いてきてもらおうか死神。抵抗すれば痛い目を見るぞ」

 

 

 黒服集団は導力銃と短剣を抜く。どうやら彼らは本気の様だ。だが彼らは1つ誤っている。それは私を安く甘く見ている。数で押せばどうにかなると思っているのだろう。

 

 

「行くぞクロウ。後ろは任せる」

「おうよ。前は任せるぜ」

 

 

 クロウは銀色の導力銃。私は魔剣・ディスキャリバーを取り出し黒服集団に向け蒼黒い闘気を纏う。

 

 

「疾く終わらせるとしよう」

 

 

 ディスキャリバーを目の前で縦に構えてから自身の分け身を隣に生み出し、同時に黒服集団を斬り抜ける。彼等が体勢を崩した所に更なる追い打ち。

 分け身を自身に戻してから漆黒の斬撃を放ち、黒服集団の両膝を着かせる。

 

 

「秘剣・朧蒼月……止めを刺せクロウ」

「おぅ。クロスレイヴン!」

 

 

 複数の銃弾を放ち、雨のように黒服集団に襲い掛かる。全弾命中し彼らは何も出来ず倒れる。本来の得物には程遠いが中々の物だ。

 

 

「お疲れさん。縛って一通入れるか」

「うん。面白い物を持っているがTMPに任せよう」

「……?まぁいいがどうしてお前が帝国に居るって知ってるんだ?」

「さぁな?それはクロスベル組に聞きたい所だ。帰るぞ」

「お、おい!」

 

 

 黒服集団を縛りサラの名前でTMPに連絡してからトリスタへと戻るのであった。

 

 

 

 

 



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改良と手合わせ

 自由行動日から数日。実技試験の日がやって来た。どんな内容か分からないが集中しよう。

 

 

(さて。どんな内容が気になるが……)

 

 

 色々と模索していると、サラはパチンと指を鳴らし見覚えのある傀儡を一体呼び出す。あれは確か戦術殻だったか。《教授》が使っていたのを覚えている。

 

 

「早速始めるわよ。最初はリィン、エリオット、ガイウスよ」

(初めに選ぶということは……)

 

 

 何かあると思いつつ見ていると、リィン達は戦術リンクを駆使して戦術殻を撃破。サラは満足そうに頷き、実技試験を続け私とフィーが残った。

 

 

「最後はアリアとフィーね」

「ん……」

「了解」

 

 

 3歩程前に出て導力銃を構える。サラが何か言いたそうな視線を向けてくるが無視だ。

 

 

「戦い方は自由でいいのかな?バレスタイン教官」

「えぇ。好きなようにしなさい」

「じゃサクッと終わらせよう」

 

 

 フィーも獲物を構えて実技試験の開始。私が牽制しつつフィーが接近し連撃を戦術殻に与える。体勢が崩れた所に、関節に1発撃ち込む。

 

 

「フィー止め」

「任された」

 

 

 フィーは双剣銃を心臓部に突き刺し内部に撃ち込んでとどめを刺す。戦術殻は機能停止し倒れる。うん、噂通りの動きと実力。あの2人にいい報告が出来そうだ。

 

 

(ざっとこんなものか。しかし戦術殻か……)

 

 

 アレを見ると嫌な思いでしか出てこない。使役していた男と面識があった。事ある度にクロウと彼の相棒について聞いて来たのを覚えている。

 

 

(一体誰があの教官に渡した?ギルド関係ではないだろうし)

「さて、これからⅦ組に関する特別なカリキュラムについて説明するわね」

(そう言えばそんな事もあったか。大方はクロウから聞いてるが……)

 

 

 それでも実際に説明を受けてみないと分からないが、サラが話したことをクロウが一年前に経験し楽しそうに話していた内容と変わらない。違う事と言えば班を二つに分けることぐらいだろうか。場所によれば色々と問題が起きそうだ。

 

 

「さ、班分けの紙を一部ずつ受け取りなさい」

 

 

 サラから書類を受け取り内容を確認。私はA班でメンバーはリィン、アリサ、エリオット、ラウラの4人と一緒で行き先はケルディック。B班は残りの5人で行き先はパルムだった。

 

 

「実習期間は2日程よ。各自それまでに準備を備えておきなさい。解散よ」

 

 

 こうして実技試験と特別なカリキュラム……特別実習についての説明が終わったのだが、何となく創設者の狙いが少し分かった気がする。

 

 

(とにかく程々にしよう)

 

 

 全力と手加減の間で上手にこなそうと決めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 その日の夕方。私はARCUSを改良するために技術棟に足を運んでいた。常にここに居るジョルジュに許可をもらい、作業机で手持ちの工具を使って改良していると、クロウとトワの2人がやってきて捕まってしまった。

 特にクロウは私のやっている事に興味津々で、トワもまたマジマジと見ていた。

 

 

「で?具体的にはどんな風に改造するんだ?」

「駆動時間を軽減させて高位アーツを短時間で放てるようにします」

「成程……でもどうやってするの?」

「簡単ですよ会長。時間が掛かるのは処理が関係している。正確にはプログラミングですね。なのでその部分を私が愛用している物に変更すれば……」

 

 

 持って来ていた折り畳み式の小型端末とARCUSを接続。端末を操作して開発したコードとプラグラムを導入。端末にcompleteと表示されたのを確認してから端末とARCUSの接続を切る。

 

 

「これでよし。後は試すだけだけど……」

 

 

 チラッとクロウを見ると、彼は嫌そうに視線を逸らすが、頬を引っ張りこっちを向かせる。

 

 

「強制だよクロウ。この場で相手を務まるの貴方だけ」

「嫌だ。お前の相手は疲れる」

「疲れるって……先輩なんだから聞いてあげようよ」

 

 

 トワも加勢するがクロウは首を縦に振らない。これは簡単にはいかないか。ここは彼の黒歴史の一部を明かそうか。

 

 

「おや?トワにクロウじゃないか」

「あ、アンちゃん」

「なんだお前も来たのか……(ってちょっとヤバいぞこれ)」

(この人は……)

 

 

 確かアンゼリカ・ログナーか。クロウが言うには数多の男を泣かせた女好き……。あまり接近するなと言われたばかりだが……どうしようか。

 

 

「一体何をしていたのかな?特にクロウ。私に黙ってⅦ組の女の子と話しているとはね」

「別にいいだろ。幼馴染なんだから」

「だからこそさ。アリア君。彼に妙な事をされてないかい?」

「特に何も。子供の頃から仲が良いですから」

 

 

 微笑みながら上手く躱す。彼女の言う妙な事は大体察するが少なくともアンゼリカ・ログナーが考えていることまではしていないと……思っている。

 

 

「ならいいがくれぐれも気を付けたまえ。君の様な素敵な子を見ると彼は獣と化すからね」

「誰が獣だ!幼馴染を襲う訳ないだろ」

「その割には以前温泉入った時ずーっと私の事見てたけど?」

「ちょ!その話は!」

「……ほぅ。その話は本当か?」

 

 

 アンゼリカ・ログナーの目から光が消える。この隙に私は退散しグラウンドに向かう。ここならある程度暴れても問題ないだろう。

 

 

「さて。まずは軽く……」

「あら?何してるのよアンタ?」

「……サラ・バレスタインか」

 

 

 私を見かけたから声をかけてきたのだろう。大方私が妙な事をしないかの監視だろうか。気持ちは分かるが少なくとも今は何もするつもりは無い。

 

 

「ARCUSを改良したから試し撃ちだ」

「ARCUSを改良か……え?改良?」

「あぁ。高位アーツを手短に発動するために。それと七属性のスフィアの点検をしないといけない。そうだ。丁度いいから付き合って貰えるか?」

「それは構わないけど……(って。私で相手が務まるか不安だけど丁度いいかしら)」

 

 

 サラは頷いてから導力銃とブレードを取り出す。私も導力銃を取り出してから周りに七属性のスフィアを顕現させる。このスフィアは私が生み出したものでそれそれ、炎・水・風・地・空・時・幻と一つ一つが私と繋がっており、私の魔力次第で威力が変化する。 

 

 

「始めようサラ・バレスタイン。≪紫電≫の力を見せて貰う」

「なら死神の力も見せて貰うわ。執行者一の頭脳と一緒に」

「いいだろう。死神の技。見ていくといい」

 

 

 導力銃を向け、まずは4属性のスフィアを放つ。それぞれから属性弾が放たれ、サラは的確に避けつつ反撃してくる。その反撃を空のスフィアで結界を形成し防ぐ。

 

 

「それ、そんな事も出来るのね」

「適材適所だ」

 

 

 結界で防ぎつつ先を読み銃弾を放つ。スフィアでの牽制も怠らない。均衡した読み合いが続く事数手。サラが先に動いた。

 

 

「ここよ!」

「……!」

 

 

 4属性のスフィアの間を雷を纏いながら一点突破。ブレードか目と鼻の先に迫ってくる。その瞬間に時のスフィアを導力銃に取り込み、自身の体に打ち込み加速。サラの背後に移動し、炎のスフィアを取り込み魔弾として放つ。

 

 

「フレア・バースト」

 

 

 放たれた瞬間爆発しサラを飲み込む。加えて風のスフィアを取り込み同様に魔弾として放つ。爆風が周囲を飛び交い、私の方にも飛んでくる。

 

 

(結構なダメージだと思うが……)

「雷神功!」

 

 

 爆風の中から雷を纏ったサラが飛び出してくる。小さな傷が至る所にあるが致命傷ではない。流石は元A級か。

 

 

「やるじゃないか≪紫電≫」

「正直危なかったわ。≪月光の死神≫の名前は聞いた事あったけどここまでやるなんて。でも……」

 

 

 私の導力銃に目を向ける。あぁ……確かヨシュアから話は聞いているのか。残念だが魔剣を披露する気は毛頭ない。見せてもまずはこの導力銃が壊れるのが最低限だろう。壊れる可能性は低いが。

 

 

「感謝するサラ・バレスタイン」

「こちらこそ。良い鍛錬になったわ。次は噂の魔剣で相手をして欲しいけど」

「なら、引き出してみることだ」

「やってやるわよ。それじゃあ遅くならないように」

 

 

 ブレードと導力銃をしまって校舎へと戻って行くサラ。見送ってから私も学生寮へと戻るのであった。

 

 



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初実習開始

 特別実習の朝早く。思ったよりも早く起きた私は制服に着替えて黒いフード付きのマントを肩に羽織る。両耳にピアスを付けて鏡を見て確認。問題が無いのを確認してから部屋を出る。

 

 

「さて、他の皆は……下みたいだね」

 

 

 私以外は揃っているようだった。私は素から学生モードに切り替えて声をかけようとした時、アリサとリィンを纏う空気が変わっていることに気付く。

 

 

(ようやく仲直りか。良かった半面もう少し見ていたかったけど)

 

 

 あまり意地悪するのは控えておこう。仮にクロウとの関係を知られると何を言われるか分からない。この場にいるのは、学生を演じている私。決して死神と本当の私の性格を知る時はまだ先だろう。

 

 

「お早う皆。私が最後みたいだね」

「おはようアリア。皆今来た所……ってあら?」

「そのマントは……」

「ふむ……」

 

 

 皆の視線が私のマントに向けられる。それもそのはずか。今まで身に着けていなかった物があるのだから。だからと言って説明の必要はないだろう。

 

 

「銃弾の予備を隠しているだけだから気にしないで」

「成程。でも導力銃に銃弾が必要なのか?」

「あまり聞かないよね。導力銃もそもそも見かけないし」

「少し特殊な物だからね。整備も大変だし、高威力の弾丸を放つには相手の弱点属性に合わせないといけない」

 

 

 これはあくまでも建前。この導力銃は既にスフィアと同調済みで状態も先日のサラとの手合わせで確認済みだ。不安な所と言えば私の異能と嚙み合うかだけど、異能はクロウに使うなって言われているから、今は関係ないか。

 

 

「B班は?」

「先に行ったよ。思ったより酷いけど」

「無事を祈るしかないな」

「あぁ。大丈夫だと……思う」

「最悪の事態にならないことを祈りたいわね」

 

 

 前途多難だ。どういった事情かは知らないが、あの2人の事は自分たちで解決しないといけないだろう。仲直りは難しくても今の状態が緩和されるだけでも変わるだろう。問題は切っ掛けだね。

 

 

「それじゃあ私達も行こう。ケルディックまでは列車で30分程だったかな?」

「確かそうだったはずよ。列車もそろそろ来る頃かしら」

「では行こうか」

 

 

 寮を出て駅に向かう。切符を買ってケルディック方面行の列車に搭乗。適当な所でリィン達は座り、私は通路を挟んだ反対側に座り、窓の外を見ていると、リィン達はケルディックがどういった場所なのか復習を始める。

 それを聞き流していると、目の前にサラが座る。彼女がいる事に驚きを隠せないリィン達だが、理由を聞き納得。その後に声をかけてくる。

 

 

「何かあったらお願いね」

「何かある前提?言っておくけど必要以上は干渉しないから」

 

 

 ケルディックで何かが起きる事を予測しているようだ。正直私の知った事ではないが、オリビエさんとの契約もある以上は無化には出来ない。せめて何が起きるかさえ分かったらいいけど。

 

 

「それにしてもアンタは何個顔があるのよ」

「今の私を含めて3個。その内の1つはよく知っているはず。少なくとも学生の間は出てこない。本当の顔は……うん。レン以外では出ないかな」

「……切り替えるの疲れない?」

「心配するところはそこ?」

 

 

 少し呆れてしまう。てっきり顔を使い分けている事を説教すると思っていた。だがサラの言いたい事は分かるが、性格の切り替えはある時(・・・)から続けているから疲れたりはしない。

 

 

「あの時の私には強い私が必要だった。生き残るためには」

「確かレンって子も……」

「それ以上は言わないで」

 

 

 ある意味では私より酷いかもしれない。≪楽園≫で一緒に居た期間は半年程だけど、出会った時から自分を壊さない為に、無数の十字傷を体に刻んでいた。今では殆ど消えているけど、きっと私より酷かったのだろう。だからこそエステル達には感謝している。

 

 

(それに比べて私はどうだろう。あの異能のお陰で強い自分で居続けないといけない。もう少しクロウを頼れたら……)

 

 

 瞼を閉じて精神を沈める。心を落ち着けせると、どす黒い何かが私の魂を掴んでくる。私の異能の本質。初めにいた教団の≪実験場≫で植え付けられた物。

 今では問題なく扱えているけど、少し制御を間違えたら一気に持っていかれる。それを知っているからこそクロウは、『出来る限り使うな』と釘を刺されている。

 

 

(せめて正体さえ分かれば……っと列車が止まったか) 

 

 

 列車が止まりケルディックに到着。リィン達と一緒に列車を降りて駅を出る。予想より田舎な雰囲気で、以前行ったリベールを思い出す。

 

 

「ここのライ麦ビールが美味しいのよね」

「この人昼間から飲むつもりよ」

(これでよく教官が務まる……)  

 

 

 採用したのは学院長か。2年前の出来事を考えると仕方が無いのかも知れない。私も≪風の剣聖≫と戦っている。彼は主にクロスベルで活動しているから大して影響は出ていないけど。

 

 

(私の朧蒼月は彼の裏疾風が元なんだよね。リィンが知ったら……ん?)

 

 

 背後から視線を感じ取り振り返る。振り返った先にいたのは白装束を纏った変態……ではなく怪盗。ただの気まぐれか任務か。分からないが彼が言うという事は絶対に何か起こる。

 

 

(はぁ……出来る限り面倒なことは避けたい)

 

 

 そんなことを思いながらサラの後を付いて行き、宿泊先の≪風見亭≫に案内される。中に入り女将さんと話をした後に部屋へと案内されたのだが……。

 

 

「嘘でしょ!男子と同じ部屋なんて!」

(部屋数考えると仕方ない気が……)

 

 

 気持ちが分かるけど我慢しないと。私は抵抗ないから気にしない……なんて言ったら誤解されるか。そんなことを思っている間に話は終わっており、女将さんから学院の紋章が刻まれた封筒を渡される。中には一枚の紙が入っており、実習内容が書かれている。

 上から順に、東ケルディック街道の手配魔獣。壊れた街道灯の交換。薬の材料調達と書かれ詳細も丁寧に。この書き方は……成程。

 

 

「これが実習内容……?」

「まるでお手伝いさんの様な……」

「中には魔獣討伐も入っているようだ……」

「……取り合えずサラ教官に聞いてみよう。こういった疑問に答えるために付いてきているはずだし」

(答えるかなぁ……)

 

 

 半信半疑だが一階に降りてサラの元に向かうが、彼女は昼前からビールを飲み、出来上がりつつあった。

 

 

(あぁ。ヴィータとそっくりだ)

 

 

 上司と重ねている間にリィン達は聞きたい事を聞き、サラからの返答を聞き、≪風見亭≫を出る。どうやらリィンは何かに気付いてたらしく、出てからアリサ達に聞かれて答えようとしたところでラウラが、先日ん自由行動日の事を言い、リィンが詳しく説明する。

 それを聞いた上で、どことなくあの人の狙いは分って来た。結構リベールの異変ん影響を受けてそうだ。

 

 

「なら手際よく計画的に進めよう」

「そうね。まずは……」

 

 

 10分程話をして、今日一日どうやって実習内容を進めるか決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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特別実習ケルディック編①

 話をした後、最初に向かったのは東ケルディック街道。初めに一番厄介な魔獣討伐を片付ける事になった。その道中に一通り戦術リンクと各自戦い方を確認していると、ラウラが何かを言いたそうにこちらを見てくる。大方、油断しない程度に加減している事に気付いているのだろう。

 

 

「それにしても……アリアの射撃は正確ね。魔獣が近づいて来た時の対応も完璧だし」

「間合いをきちんと見極めれば簡単だよ。相手の動きをよく見て予測。魔獣の類にも癖があるから」

 

 

 と言ったのは良いが、実際は経験を頼りにしている。他の執行者に比べて力は劣る。単純な力ならヨシュアとあまり変わらない。なのに格上の執行者と互角に戦えるのは、先生や兄さんに徹底して鍛えられたから。技術と頭脳を生かした戦い方を生かせば、格上相手にも勝てる。

 

 

(と言ってもマクバーンのように、戦術を力だけで壊されたら意味がないけど)

 

 

 彼だけは絶対に許せない。レオンハルトですら一本取ったのに、マクバーンは追い詰められたら劫炎で吹き飛ばしてくるし。お陰で異能を上限目一杯まで引き上げて暴走寸前だし。クロウには叩かれるし。散々な目になった。

 

 

「見つけたぞ」

「そのようだな。油断せず討伐しよう」

「えぇ。全力で支援するわ」

「回復任せて」

 

 

 発見した手配魔獣を戦術リンクを駆使して討伐。その様子を援護しながら見ていたけど、やっぱりリィンの中身は気のせいではなさそうだ。オリエンテーリングから気になってたけど。

 

 

(混ざり具合は私よりマシだけど、ちょっと危ないか。人の事言えないけど)

 

 

 アレを抑えるのに強い自分を作っている時点で彼と一緒か。何か切っ掛けがあればいいけど。そう簡単にはいかない。私は何時も……やめておこう。自分を責めるのは嫌だ。

 

 

「次行くわよアリア」

「了解」

 

 

 アリサ達と共に次の依頼に。向かったのは西ケルディック街道。最初は街道灯の交換で、リィンがやると言っていたのだが、心配だった私は言った。

 

 

「パスワードは覚えてる?」

「確か55……えっと手帳に……」

「アウト。私がやるね」

 

 

 リィンから交換する街道灯を受け取り手短に交換。時間をかけると魔獣が寄ってくる可能性があったのだが、3秒程度で終わらせたので魔獣は現れなかった。

 

 

「ふぅ。何でこんな消耗品使ってるのかな?中身を変えたら半永久的に光るのに。無駄な所にミラを使いすぎ」

「……(ねぇ。いつ交換したか見えた?)」

「……(ほんの一瞬だったよね。とても手慣れているというか。得意なのかな?)」

「……(ここは任せて正解だったみたいだな。少し愚痴ってるけど)」

「……」

 

 

 あれ?何か視線を感じるんだけど。特に変わったことはしていない気がする。キャラも崩れて……あぁ。もしかして今の作業の事か。もう少し時間をかけるべきだったかな。暇さえあれば端末やクロウの相棒弄ってたし。少し気を付けよう。

 

 

「さて、次に行こう。もたもたしてると日が暮れるよ?」

「あ、ちょっと待ってよ」

 

 

 何とか誤魔化すために、一足先に次の依頼に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 実習初日の夜。最後の依頼を終わらせた後に≪風見亭≫へと戻ろうとしたのだが大市で一悶着。何でも同じ場所を借りた商人2人居て許可証も持っていた。2人の争いはリィンとラウラが止めてオットー元締めさんが出て来たので事なきを得る。

 その後に元締め宅で、お茶をご馳走になりながら学院長との仲や実習依頼の事を教えてもらい、同じことを明日もお願いすると頼まれてから、お開きに。

 元締め宅を出て≪風見亭≫に戻り美味しい晩食を話をしながら食べた後に、リィンが士官学院の志望理由を切り出し、ラウラを始めに話し始めた。

 

 

「私は目標としている人物に近づくためだ」

「その人物って……」

「それが誰かは控えておこう。アリサはどうだ?」

 

 

 続いてアリサに話しは回る。彼女は実家とうまくいっていないらしく、自立がしたかったらしい。そこでエリオットは少数派と言い、士官学院とは別の進路を希望していたとか。

 その次にエリオットがリィンに聞くと、彼は少し間をおいて言った。

 

 

「俺は……自分を見つけるためかもしれない」

「「え?」」

「……」

 

 

 意外な返答が来たのだろう。アリサ達は少し驚き、リィンはすぐに『敢えて言うなら』と言い直す。そして、私の出番が来たわけだが……。

 

 

「で。アリアは?どうして士官学院に?」

「……言わないといけない?色々とプライベートが絡んでくるけど?」

「差支えない程度で構わないわ」

「もしかしていつも一緒にいるあの先輩が関係してるの?」

 

 

 出来る限りアイツと話している所を見られないようにしているのだが、意外と目撃されている。それも全部クロウがほぼ毎日絡んでくるからか。

 

 

「あの先輩がどの先輩かは聞かないけど半分当たり。一年程前に聞いてね。丁度私の義妹が迷惑かけた帝国の有名人とあった頃」

「帝国の有名人?それに義妹って……」

「血の繋がらない兄妹が多くてね。色々と大変な義妹と義兄達。士官学院の話を幼馴染のクロウから聞いたのは義兄が死んだあと。精神的にきつかった時に楽しそうに話してくるから。少しキレて殴ってしまって」

「それはクロウ先輩が悪い気がするけど……って、あの先輩と幼馴染?」

 

 

 アリサが少し喰いついてくる。そういえばアリサはルーレ市から来たと言ってたかな。もしかしてアンゼリカ・ログナーから聞いているのか。

 

 

「子供の頃からの幼馴染。再開したのは3年前だけどお互いに大分変ってて。放って置けないから個人的に(・・・・)面倒を見てる。アイツも私の事を放って置けないとか言ってたし。正直鬱陶しいけど」

「いいじゃない。そう言った存在は大切にしないと」

「なら、君が士官学院に入ったのはクロウ先輩が放って置けないからか」

「それともう一つ。言ったでしょ?義妹が帝国の有名人に迷惑をかけたって。その罪滅ぼし。後は……これはいいかな」

 

 

 正直最後の1つは言わない方が良いだろう。こればかりは私の問題だ。執行者になってから何度も兄さんや先生に言われている事。どうも私は自分の命を軽視しているらしい。それも無意識に。

 

 

「それよりお開きにした方が良いと思う。この後レポート書かないと。私はもう頭の中に入ってるからいいけど」

「もうそんな時間かしら?」

「はぁ。部屋に戻ったらすぐに寝そう……」

「もうひと踏ん張りだ。頑張ろう皆」

「……」

 

 

 言葉でアリサ達の背中を押しいったん解散。私は気配を消して≪風見亭≫から出て西ケルディック街道に。適当な所で腰を下ろして空を見上げる。

 夜空に光り輝く星、その中心にあるのは白銀色に輝く満月。子供の頃から満月を見上げるのは好きだ。この時間だけ昔の私の戻れる。

 

 

「いい月。出来れば1人で見たい所だけど……」

 

 

 こちらに近づいてくる気配が1つ。導力銃を取り出しクルクルと回していると、気配の正体であるラウラが声をかけてくる。

 

 

「夜風に当たったいるのか?」

「まぁね。君は……素振りか。熱心だね」

「無論だ。目標としている人物に近づくために。それともう一つ。そなたに聞かねばならぬことがある」

「……私はないけど?」

 

 

 導力銃を一周回し右手で持ち肩に乗せる。彼女の聞きたい事は大体分かる。故に私は余裕の笑みを浮かべつつラウラと視線を合わせる。

 

 

「どうして本気を出さない?そなたは剣士だろう?」

「どうしてそう思う?」

「そなたの左手。剣士特有のマメがあるからだ」

「へぇ……」

 

 

 成程。実習が始まってから何か言いたそうにして左手を見ていたのはそういう事か。確かに彼女の言う通り、左手には幾つかマメがあり皮膚が分厚い。だからと言って剣士とは限らないが……まぁいいだろう。

 

 

「で?君は私に本気を出して欲しい訳?手は抜いていないけど」

「出さない理由を聞いている。リィンのように理由があるのか?」

「どうだろうね。それに、本気を出す出さないは君には関係ないし、一流の使い手は力を奮う所を見極める。少なくとも君には出さないね。力の差が明白だ」

 

 

 ゆっくりと立ち上がり、ラウラの後ろに回り込む。銃口を背中に当てた所でラウラは気付き、慌てて距離を取る。

 

 

「っ!」

「ほらね。この程度に反応出来ないようでは一生無理だ。新入生最強と言われて天狗になっている証。私に本気を出して欲しいのなら、もう少し鍛えてね」

 

 

 ニコッと笑いながら言い、私はケルディックへと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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特別実習ケルディック編②

 実習日2日目。皆より早く起きた私は、1階で紅茶を飲んでいる。サラの言っていたライ麦のビールも飲んでみたいけど、私は今年で19歳。未成年で飲むと先生のアングリアハンマーが落ちてくる(過去に経験済み)。ちょっとぐらいなら許して欲しいけど。

 

 

(それにしても帝国の紅茶は美味しいね。流石にレンが淹れた紅茶には遠いけど)

 

 

 お茶と言えばレンかな。彼女の開くお茶会(外を除いて)で出すお茶はおいしい。毎回同じかと思えば少し違い、お菓子を用意する身とすれば結構大変だ。

 

 

(私は楽しいけど)

 

 

 一気に紅茶を飲み、カップを返却していると、2階からリィン達が降りてくる。朝の挨拶を交わし依頼を受け取っている事を話していると、≪風見亭≫の中にウエイトレスが慌てて入ってくる。その後に大市で騒ぎが起きていると言い、リィン達は飛び出していく。

 

 

「あー……慌てて出ていかなくても」

 

 

 こういう時こそ冷静に対応しないといけないのに。こんな調子だと先が思い知らされる。っと、私も行かないと。

 遅れて宿を出て大市に、その途中で領邦軍とすれ違い、嫌な予感がした私は大市に急いで向かう。大市では先日争っていた2人とオットー元締めがリィン達と話している。

 

 

(これは……)

 

 

 近くに視線を向ける。その先には壊れたお店がある。という事はもう一つの方も壊されているのか。どう考えても誰かの仕業だが……。

 

 

(怪しいのは領邦軍。裏にいる連中の事を考えると……)

「アリア。これから依頼をこなしてから今回の事件を調べるわ」

「了解アリサ(笛の事も頭に入れておこう)」

 

 

 リィンを中心に調査を開始。壊れたお店を調べてから今日の依頼を終わらせある場所へ向かう。向かったのは自然公園だ。その自然公園の前には商人が売る予定だった品物が落ちてあった。

 

 

「どうやら当たりね。後は……」

「中に入るだけだけと鍵がかかってるみたい」

 

 

 頑丈な鍵で門は閉じられている。ラウラが大剣を取り出し壊そうとするが、リィンが静止して居合斬りで鍵を音を立てる事無く斬り落とす。

 

 

「凄い。音もなく斬れたわ」

「凄くないよ。八葉の初伝の技だから」

「だがいい物を見せて貰った」

(抜刀術……)

 

 

 成程。八葉の抜刀術は静止して放つのか。私は動きながら放つから初めて見るタイプだ。以前戦った≪風の剣聖≫は早い動きでかく乱してきたし。

 

 

「さぁ行こう。魔獣の気配があるから注意して進むぞ」

 

 

 リィンを先頭に進み始める。途中で何度も魔獣と遭遇し、臨機応変に立ち回りつつ戦術リンクを駆使して撃破。最奥付近まで順調に進んだところで人の気配を感じ取り揃って足を止める。

 

 

(気配は四つ……いや、もう1人奥にいるか)

 

 

 覚えのある気配。これは注意しよう。リィン達は気付いていないみたいだし、先にいる盗賊団へ突入する準備をしている。

 

 

「よし行くぞ皆」

「「「おぅ!」」」

(さて、何が出るかな?)

 

 

 リィンを先頭に突入。盗賊団たちは驚きつつも銃を構える。私は一歩下がった所でリィン達を的確にサポート。前衛のリィンとラウラの活躍もありあっけなく撃破する。

 

 

「くそ!学生ごときに……」

「話が違うじゃないか……」

(成程……)

 

 

 今ので大体分かった。こちらを見ている気配の正体の事を含めて、これが仕込みだと理解する。そうなるとこの後に出て来るのは……。

 

 

「ん?今のは……」

「どうしたのエリオット?」

「今笛の音が聞こえた気がして……」

「笛……?」

「どうしてそんな音が聞こえたんだ?」

(……来る)

 

 

 笛の音に疑問を抱いている間に、大きな足音が響き渡り一体の大猿が姿を現す。大方この公園のヌシだろうが。大分と気性が荒く凶暴になっている。これは一苦労しそうだ。

 

 

「こいつはヌシか」

「かなり手ごわそうだがこのままには出来ぬ」

「えぇ。援護は任せて」

「全力で行くよ」

 

 

 獲物を構えなおして戦術リンクを結ぶ。その瞬間大猿は雄たけびを上げ乍ら地面を殴り、大地を揺らしてリィン達に膝を付かせる。そこを逃す筈も無く、大猿は急接近して拳を振るう。

 

 

「しまっ!」

「バーストエレメント!」

 

 

 四属性のスフィアを銃に取り込み発射。銃弾は大猿の目の前で爆発し視界を奪う。その間に気付かれないように異能を使って大地の震動を止める。

 

 

「よし。動けるねみんな?すぐに立て直す」

「っ。ありがとうアリア」

「そなたに感謝を」

 

 

 ひとまずこれで大丈夫か。アリサとエリオットも立て直したし大丈夫だろう。問題はどれだけ強化されているかだが。

 

 

「合わせてくれラウラ!」

「任せる良い!」

 

 

 リィンの攻撃に戦術リンクで合わせるラウラ。大きく体勢を崩した所にアリサとエリオットが炎属性のアーツで追撃。大猿の体は炎で燃え上がる。

 

 

「ど派手に一撃行こうか」

 

 

 全てのスフィアを大猿の上空に展開し一発ずつ打ち込み指を鳴らす。それぞれのスフィアから属性弾が雨のように降り注ぎ、大猿の体を貫く。

 

 

「止めだリィン」

「っ……炎よ!」

 

 

 刀に炎が纏い一刀両断。大猿は大きく後ろに仰け反りながら公園の奥へと逃げて行く。私は小さく息を吐きながらスフィアを手元に戻してから左胸に手を置く。

 

 

(大丈夫かな。強い私以外で使ったから心配だったけど)

 

 

 安堵の息を漏らしていると、領邦軍が姿を現し私達を囲む。どうやら私達を犯人にするようだ。どこまで用意周到なんだか。まぁでも大丈夫か。この状況を見逃す彼女達ではないだろうし。

 

 

「そこまでです!」

(来たね)

 

 

 青髪の女性を先頭に軍服を着た集団が現れる。鉄道憲兵隊と呼ばれる組織。そのリーダーがクレア・リーヴェルト大尉だ。

 

 

「一安心か……」

 

 

 思いつつもこの後にあるであろう調書の類をどう乗り越えるか考えるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 公園での出来事の後ケルディックへと戻った私達は事情聴取と調書作成。クレア大尉と話をしている最終にサラがやって来る。二人は意味深な話をしてから私の所に来る。

 

 

「お疲れ様。色々と大変だったみたいね」

「改めて古代遺物の力を思い知った。あまり強くなくてもあれだけ強くなるなんて」

「古代遺物か。どんな物?教えてくれると助かるけど?」

「……大丈夫。近い内に分かると思うし」

 

 

 根拠はないが、今日のリィン達を見て少しは期待できる気がする。いつかは敵に回る身としても、張り合いがある方が楽しいし潰しがいがある。

 

 

「そういう訳だから言わない。秘密の多い乙女は魅力的でしょ?」

「中身がヤバくなかったらね。期待してないからいいけど。さ、帰るわよ」

 

 

 サラはリィン達に声を掛け、荷物を持ってトリスタ方面行の列車に乗る。私はサラの向かいに座り、マントの内側に隠してあるスフィアのうち3個を器用に右指で器用に動かす。その光景を、通路を挟んだ先に座っていたアリサが見ていたようで、隣に座り声をかけてくる。

 

 

「珍しい物ね?見たことない物だけど」

「私が作った道具。スフィアって言ってね。この中に各属性を特殊なクォーツが組み込んでいる。昼間の大猿との戦いでも使ってたでしょ?」

「あぁ。あの空から降って来たあの銃弾ね。正体はこれか……」

 

 

 興味深々で見てくる。私は炎属性のスフィアのスイッチを押し中を開ける。中には複雑な回路に繋がれたクォーツが淡く光っていた。

 

 

「凄い。ここまで複雑な回路は見たことないわ。もしかして残りのスフィアも?」

「うん。このクォーツの下にはアーティファクトがあってね。それが導力元」

「アーティファクト……大丈夫なの?確か教会の許可が必要って聞いたけど」

「ふふ……」

(あ、この笑みは……)

 

 

 何かを察するアリサ。彼女とは初めに仲が良くなり、一緒に居る機会も多く、お茶会を開いたり晩御飯をご馳走したり、リィンとどうやって仲直りしたらいいかの相談を聞いたり、お陰でお互いの事は大体分かって来た。

 

 

「あまり危ない事はダメよ。それとクロウ先輩の餌付けも」

「え、餌付け……?」

 

 

 そんなことをしているつもりはないけど……でも『金欠だから助けてくれ』と懇願して来てそれ以来お弁当を多めに作っているからそうなるのか……。

 

 

リア(・・)は甘いのよ。もう少し厳しく行かないと」

「アイツは昔からアレだから。あぁ見えて良い所あるんだよ?何時も声を掛けてくれるし、気を使ってくれるし」

「そんな風には見えないけど……(って、さり気無く愛称で呼んでみたけど気付いていないのかしら?)」

「それにしてもアリサ。私の事をリアって呼ぶなんて。君で二人目だよ」

「ふぇ!気付いてたの!?」

 

 

 少し大きな声で驚くアリサ。頬も少し赤い事から恥ずかしいのかな。別に恥ずかしがることもないし、名前も似ているから、区別をつけるという意味では丁度いいかも知れない。

 

 

「最初に呼んだのは義妹。子猫みたいに甘えてきて可愛いんだ。少し悪魔も入ってるけど」

「……義妹?もしかしてリィンみたいに養女なの?」

「そういう訳では無いよ。ママはきちんといるし。パパは何処かに行ったみたいだけど。色々(・・)あって血の繋がっていない兄妹がいるんだ。兄は一年前に亡くなったけど」

 

 

 一年前のリベールで起きた事件。後にリベールの異変と呼ばれる出来事には結社が関わっていた。その出来事で兄は死に妹はクロスベルに。心の拠り所が二人も遠い所に行き泣いたのを覚えている。

 

 

「その時はクロウが傍に居てくれてね。人生で初めて彼に泣きついた。子供の頃はクロウを泣かしていたのに」

「あまり想像できないわね。普段があぁだし」

(あぁ可哀そうに……)

 

 

 今頃くしゃみの1つはしていそうだと思いつつ、トリスタに戻るまでアリサと話しているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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相談と調べもの。そして占い。

 ケルディックでの実習から早くも一月。学院での生活に少しずつ慣れてきたが新たな問題が発生。マッキーとユーシスのいざこざにリィンも加わる事に。以前の実習でユミルを治めるシュバルツァー家の養子と私達に話し、他の皆にも伝えたのだがそれが原因のようだ。

 そう思うと未だに身分が明らかになっていないのは私とアリサ、そしてフィーか。アリサの実家については察しているしフィーは元猟兵。私は……ジュライ産まれの執行者。今まで経験してきたことを含めると一番濃いかもしれない。明かすことは暫くなさそうだけど。

 それは置いておいて今の話をしよう。現在は昼休み。今日はクロウが泣きついてこなかったので1人のんびりとお弁当を食べようと思っていたけど、アリサが相談を聞いて欲しいと言われ、教室で二人でお弁当を食べながら話を聞いていた。

 

 

「で、相談って言うのがリィンへの誕生日プレゼント……」

「えぇ。何がいいか分からなくて」

「……」

 

 

 私にはとても答えにくい悩みだ。男性への誕生日プレゼントなんて送った事がない。レンには毎年レアなマグカップを送り、レンからは髪飾りを送り返されているけど男性は……。あぁクロウにはヘアバンドを上げてレオンハルトには毎年ケーキは作ったかな。プレゼントは送っていない。送られたことはあるけど。

 

 

「送るなら嬉しい物がいいよね。リィンの気も惹きたいよね?」

「っ……そうね」

 

 

 ほんのりとアリサの頬が赤く染まる。これは既に惚れているのかな。その辺は疎いし必要としていないから分からないけど。

 

 

「……胃袋を掴んでみる?」

「胃袋?」

「うん。私の先生が言っててね」

 

 

ーいいですかアリア。蒼の騎士の気を惹きたければ胃袋を掴みなさい。

 

ーえ?いきなりどうしたの先生?別にクロウの事なんて……。

 

ーいつまでもレオンハルトに頼ってはいけません。貴女の隣には彼がいますから。

 

ーあの……だからアイツはただの幼馴染だから、何の感情も抱いていないって。

 

 

「えっと、あの先輩の事好きなの?」

「絶対にあり得ない。ただの幼馴染だから」

 

 

 クロウがどう思っていても私には一生縁の無い物。過去の事がある以上人並みの幸せなど求めてはいない。そもそも幸せになる権利なんてないし。

 

 

「で?どうするアリサ?お菓子作りなら得意だから手伝うけど?」

「お菓子か……作るならケーキよね。作るなら基本的なショートケーキかしら」

「もっと凝るならミルフィーユとか?」

「何層にも重なっているアレね。それも含めて何か残るようなものも送りたいかしら」

 

 

 残る物か。リィンなら何でも受け取って身に着けてくれそうだけど。でもアイツは朴念仁っぽいしアリサの気持ちなんて絶対に気付かなそう。

 

 

「最後に決めるのはアリサだよ。私に手伝えることがあれば手伝う」

「ありがとう。もう少し考えてダメだったらまた相談するわ」

「了解」

 

 

 無事上手くいくことを祈りつつ、談笑しながらお弁当を食べた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 その日の夕方。ホームルームが終わり私は真っ直ぐ寮へ……ではなく。列車に乗りクロスベルへ。ここに来た理由は簡単だ。十三工房の1つである人形工房があり、半年近くレンがお世話になったのでそのお礼をマイスター事、ヨルグ・ローゼンベルクにお礼を言いに来ていた。他にも調べ事もあるから丁度良かった。

 

 

「さてと、おじ様の所に行く前に古戦場か。話しでは特務支援課が事後処理を済ませた後らしいし行っても大丈夫だろう」

 

 

 レンも既にリベールに行っている。私の事を知っている人はいないし、そもそも来ている事すら分からないだろう。手短に済ませて人形工房に行こう。

 歩くこと数十分。目的地である古戦場に到着。少し霊脈が狂っており、魔物の類がいるが魔剣の餌食なので一刀両断し魂を喰らう。

 

 

「ふぅ。今日も魔剣は調子いいね。面倒な物も居ないし」

 

 

 見たところは厄介な物はいない。この調子で……ん?後ろから誰か来てるか。数は4人。1人は私に似た気配みたいだ。何しに来ているかは知らないけど。

 

 

「急ごう。面倒事は避けたいし」

 

 

 足早に進み長い階段を降りる。降りていくほど忌まわしい気配が肌を襲ってくる。鬱陶しいと思いつつも下りていき一番下に辿り着く。

 

 

「この先か。ヨアヒムが魔人化した場所は」

 

 

 聞いた話を元に進み最奥に到着。事件から時間が経つが霊脈が強く乱れている。放って置くと面倒な奴が現れそうだ。取り合えず魔剣で周辺を斬って霊脈を正常に戻すか。

 

 

「ディスキャリバー。周囲を喰らえ」

 

 

 漆黒の闘気を纏わせ周囲を斬り伏せる。霊脈を乱していた原因を斬り魔剣に吸収させる。後は……背後にいる連中か。

 

 

「今すぐに撤退……」

「させる訳ないだろう?」

 

 

 背後から男に声を掛けられる。私は溜息を付きつつ振り返る。後ろにいた……正確には後を付けていたのは噂の特務支援課の4人。リーダーのロイド・バニングスを筆頭に、エリィ・マクダエルとランドルフ・オルランド、そしてティオ・プラトーか。

 

 

「何か用?ずっとつけてたみたいだけど」

「怪しい人がいると聞いてね。君はここで何を?」

「素直に言った方が身の為だぜ嬢ちゃん」

「この時期にここに来るとなると疑わないといけないのよ」

 

 

 まぁそうだよね。時期が時期だし。それにしても誰から聞いたのが気になるところだけどいいか。どのみちクロスベルは担当外だし。

 

 

「ここで何をしていたのかは言えないし話す気も無い。痛い目を見たくなかったら退いてくれる?」  

 

 

 魔剣を向けて殺気を放つ。いくら闘神の息子がいるからと言ってたかが警察。私の相手ではない。

 

 

「退けと言われて退く訳にはいかねぇな」

「あぁ。何者かは知らないがここに来た時点で『彼等』の残党の可能性もある」

「あの人たちと一緒にして欲しくないけど?まぁいいか。面倒事は避けたいけど、この時期に来た私も悪いし、少しだけ付き合ってあげる」

 

 

 7属性のスフィアを展開し魔剣を構える。特務支援課もそれぞれ獲物を構えて臨戦態勢。獲物を見て戦い方を解析し、速攻で決める事に。

 

 

「さぁ覚悟して。君達は一瞬で膝を付くことになる」

 

 

 指を鳴らしスフィアで特務支援課を囲む。無論彼らは警戒するが、既に遅い。スフィアから高威力の魔弾を撃ち的確に急所に当てる。

 

 

「うぐっ!これは!」

「球体から銃弾!?」

「逃げ場がありませんしこれは……(見たことの無い兵器。一体どうやって操ってるのか分からない)」

「しかも的確に急所を狙って、ぐぁ!」

 

 

 必死に防御するが完全には守れていない。逃げ場も無い以上放って置いても膝を付くが、こんな状況だからこそ力を発揮する人はいる。故に止めはきちんと刺す。

 

 

「純粋な漆黒の闇よ。数多の罪を彼らに示せ」

 

 

 ディスキャリバーに闇を纏わせ振り下ろす。特務支援課は闇のドームに覆われて黒雷に打たれ黒炎に焼かれる。

 

 

「ジェノシック・ノヴァ」

 

 

 小さく言いドームを爆発させる。周囲に爆風が吹き荒れ、直撃を受けていた特務支援課はゆっくりと倒れて意識を失う。それを見てから必要な情報を集めてこの場を立ち去った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここまで来れば大丈夫か」

 

 

 古戦場から遠くマインツ山道へと来た。ここからマイスターのいる工房へと向かうことが出来る。流石の特務支援課もここに来るとは思っていないだろう。

 

 

「それにしても面白い連中だ。クロスベル組は退屈しなさそうだね。それじゃ……」

 

 

 工房へと進もうとするが、当たりに霧が現れ鈴の音が響き渡る。また、煙の様な見覚えのある魔獣が現れ標的にされる。

 

 

「話には聞いていたけど……。あまり気は進まないかな。ルシオラ姉さん」

 

 

 この霧を発生させて魔獣を生み出している本人に訪ねる。少したってからロープを着た女性が姿を現し、両手で持っていた水晶を向けてくる。

 

 

「ふふ……ここで会ったのも縁。貴女の運命を占ってあげるわ」

「いつ死ねるか分かる?」

「貴女ね……。まぁいいわ。ちょっと待ちなさい」

 

 

 水晶に触れると、水晶は淡く光りだし、ロープを着た人物は水晶を覗く。何が映し出されているのかとても気になるが、彼女が言うのを待とう。

 

 

「……成程ね。このタイミングでマイスターの元を尋ねるは良かったかもしれないわ」

「どういう意味?」

「単刀直入に言うわね。心して聞きなさい」

 

 

 雰囲気が変わる。とても嫌な気配だ。この感覚は以前にも感じたことがある。一年前にレオンハルトが逝ってしまう前と同じだ。

 

 

「貴女は大切な物を2つ失う。1つは右腕よ。貴女ほどの使い手が失うとは思わないけど」

「……どうだろうね。レオンハルトの事もあるし。もう1つは?」

「貴女にとっての拠り所となる人物。その前に大きな試練があるわね。貴女の求めている言葉もその試練で分かるわ」

「誰が言うか気になるけど心にとどめておく。ありがとう」

 

 

 微笑みながらお礼を言うと、霧が晴れていきロープを着た女性の姿も消えていく。色々と気になる事を占っていたがあくまでも占い。当たる確率は限りなく零……いや、あの人の的中率を侮ってはいけない。

 

 

 

「備えておくかぁ……」

 

 

 少し憂鬱になりつつも工房へと向かうのであった。



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チェスと少女

 クロスベル滞在2日目。朝早くから作業をしているマイスターの元を訪ねていた。先日の占いの事を相談するためにだが、おじ様は作業中。邪魔をするわけにはいかないので近くでスフィアの調整をしていた。

 

 

「ん。回路が少し焼けている。修正するか」

 

 

 工具で焼き付いてる箇所を修正と組み替え。他にも改良を加えて出力を調整。魔術回路も変更してから粒子に変化させて体内に戻す。

 

 

「終わったか?」

「うん。ありがとうおじ様」

「別に構わん。で?儂に用があるんだろう?」

 

 

 どうやらマイスターもタイミングを伺っていたようだ。私は昨日の事を話す。話しを聞いたマイスターは机の引き出しからメジャーを取り出し右腕を掴む。

 

 

「じっとしていろ。すぐに済む」

「まだ確定ではないですよ?そもそも人間の腕と同じ制度を誇る義手を作れるわけがない」

「可能だ。人形と同じ要領で作ればいい。細かい調整はお前の妹の得意分野だろう?」

 

 

 この人話を本気にしている。あの人の占い的中率は洒落にならないけど、当たるかどうかは分からない。当たったことを考える事も必要だろうが、そこまでマイスターの世話になるつもりはなかった。

 

 

「後は任せておけ。お前も無茶はするな」

「了解ですおじ様。ではそろそろお暇します。レンの事はありがとう」

「気にするな。寧ろ儂の方が礼を言うべきだろう。元気でな」

「はい。おじ様も程々に」

 

 

 深く頭を下げ人形工房を出る。とりあえずはこの地に用はないが、お土産の1つはクロウに買って帰ろう。確かカジノも見てきて欲しいとか言ってたか。

 

 

「行かないといけないのかカジノ……」

 

 

 約束は約束だから行こう。あまり気は進まないけどね。多分自分が遊ぶために情報収集させようと思っているのだろう。そんなことを考えているなら少しは磨けばいいのに。

 などと考えつつクロスベルに。街中で買い物を済ませてから歓楽街へと向かいカジノの前に。入ろうとしたが、前には昨日出会った特務支援課が居た。

 

 

「で?どうやってチェスでイカサマしている奴をひっ捕らえるんだ?」

「そもそもロイドさんチェス出来るのですか?」

「一応人並みには……」

「人並みって……」

(チェスでイカサマって……)

 

 

 どう見ても出来るはずがないけど。警察が来ている時点で可能性があるわけか。で、碌に出来ないのに引き受けたと。どうしたものか。チェスは負けなしだけど、あまり面倒事は避けたいし……。

 

 

(うん。ここは気付かれる前に……)

「おや?貴女は……」

 

 

 去ろうとした時にティオがこちらに振り向く。それに釣られるように残りの3人もこちらを向き目が合う。

 

 

「君は昨日古戦場にいた子じゃないか!」

「おいおい。何でここに居るんだよ!」

(あぁ。最悪だ)

 

 

 さてどうしたものか。このまま逃げるなんて出来ないだろうし、昨日の件もある以上は簡単には逃がしてくれそうにないか。いや待って。確かレンがそれなりに世話になったって言っていた気がする。そこを何んとか突くか。

 

 

「そう言えばレンが世話になったみたいだね。ありがとう」

「え?レンって……」

「そう言えばお姉さんがいるって言っていたけど」

「お、おい。まさか……」

「何となく雰囲気も似ていますし……」

 

 

 これならいけそうだ。昨日の件は上手く誤魔化して……な訳行かないよね。

 

 

「私はアリア。執行者№Ⅹ、月光の死神。今は士官学院の生徒だけど」

「士官学院?」

「ん。マントの下に紅い制服着てるでしょ?今年度から出来た新設クラスの一員。因みに昨日古戦場にいたのは担当教官が元遊撃士でね。クロスベルに行くなら見に行ったらって。あの場所に居た物として。レンから聞いてるでしょ?姉は2つのロッジに居たって」

「2つのロッジ……」

「という訳だから手伝ってあげる。チェスでイカサマしてるって?」

「あ、あぁ。それは助かるが……(頼って良いのか?)」

 

 

 少し戸惑っているロイド・バニングス。レンの姉なら私の能力もある程度知っているはず。それに少し気になるしね。チェスでどうやってイカサマしてるのか。

 

 

「個人的にも気になるからね。チェス得意だから」

「だからと言って学生を連れていくわけにはいかない」

「なら勝手に入って行く」

 

 

 彼らの横を通り過ぎて中に入る。ロイド・バニングス達も慌てて突いて来たのを確認してから立ち止まり、何処にいるのかを聞く。

 

 

「で?イカサマしている人は?」

「確か一番を置くの席にいるが……(いいのか学生にこんなことさせて)」

(まぁ様子を見ましょう。レンさんのお姉さんだし)

(危ない事になりそうだったら止めましょう)

(だな)

「全部聞こえてるからお兄さん達」

「「「「っ!」」」」

 

 

 揃って驚く特務支援課。そんな彼らに目を向ける事無く一番奥の席に。その場所では豪華な指輪を幾つも嵌め、大笑いをしながらチェスをしている男性。ロイドに確認すると、彼がイカサマしているらしい。早速挑もうとしたが、私は男性の隣にいた小汚い少女に眼が行った。

 

 

「お兄さん。あの女の子は何時も一緒に居るの?」

「そうだ。彼がチェスをするときは一緒らしい」

「……成程。それじゃ一戦いくか」

 

 

 勝負が終わったのを見てから男性の向かいに座る。私が座り周囲がどよめくが、気にすることなく男性に声を掛ける。

 

 

「1つ手合わせを」

「はっ。ガキに興味はねぇ。引っ込んでろ」

「では()を賭けて」

「なっ!」

「ア、アリアさん!?」

 

 

 驚くロイド達。その反面男性は私をジーと見てにやける。これなら勝負に持ち込めそうだ。

 

 

「嘘ついてねぇよなガキ?」

「勿論。私チェス強いから。ティオ、ヘアゴム持ってる?」

「はい。どうぞ」

 

 

 ティオからヘアゴムを受け取り髪を纏める。コインを取り出して空中に弾き飛ばし、コインが裏になるように右手の甲で受け止め左手で隠す。

 

 

「さぁどっち?」

「……裏」

 

 

 男性が少し間を置いてから応えてから左手を動かしコインを見せる。

 

 

「先行どうぞ」

「ふっ」

 

 

 男性からスタート。まずは出方を伺いつつ動かしていくが、途中からこちらが押され始めてやや不利に。それにしてもこの人私の攻め方に迷うことなく返してくる。どうしてだろうね。

 

 

「んー。どうしようかな」

「ネタ切れか?まぁ所詮ガキだ。大人に勝つなんて早いんだよ」

「まだまだこれから。取り合えず王様逃がそう」

「っ!」

 

 

 王を動かした時、男性の隣にいた少女の表情が変わる。そこで私は確信し、頭で考えている事とは違う行動を行いコマを動かす。そして数分後……。

 

 

「チェック」

「何ィ!」

 

 

 完全摘ませてチェックメイト。周囲からは歓声が上がり、隣で不正が無いか見ていたロイド達も驚きの声を上げていた。

 

 

「さぁ。どうします?」

「もう一度だ!」

 

 

 再び挑んでくる男性。次の勝負は彼を見ず、少女の方を見ながらコマを動かしていると、少女は私から目を逸らし、さっきより速く決着がつく。

 

 

「チェック」

「……ぐぅっ」

 

 

 とても悔しそうにする男性。さぁ出ると思っていると、男性は勢いよく立ち上がり机を私に向けて蹴り上げてくる。

 

 

「くそがぁ!」

 

 

 私は瞬時に回避。その間に男性は少女と共に逃げていく。私はすぐに後を追ってカジノを飛び出す。何処に行ったか周囲を見渡すと、駅の方へと向かっている2人を発見。

 

 

「逃がさないから」

 

 

 フードを被り建物の上を走って先回りし、男性の鳩尾に一発叩きこみ意識を奪う。出来れば意識ではなく首を斬り落としたい所だが、流石に街中でやるわけにはいかないだろう。

 

 

「取り合えず近くに置いてメッセージカードも置いておこう」

 

 

 後の事は特務支援課に任せておこう。彼等ならうまくやってくれるだろうし、今日の夕方にはトリスタに帰らないといけないから時間を取られるわけにはいかない。

 

 

「さて、早くこの場を……」

「待……って」

 

 

 少女が服の袖を掴む。力の入っていない腕で私を行かせないように。その姿があの時のレンと重なった。私達がレオンハルトとヨシュアと会う切っ掛けになったあの時と。

 

 

「リアさん……だよね。少し前にスミレ色の女の子から聞いた」

「レンから?」

「うん。近い内に必ず来るから、見かけたら逃げなさいって」

 

 

 レンらしいけどどうして私?この事接点なんてない筈。会った事も無いしどういう意味だろう?少し調べてみよう。

 

 

「君両親は?」

「分からない。白衣を着た人に売られて」

「白衣……」

 

 

 あぁ。この子も私達と同じか。生存者は殆どいないと聞いていたし、生き残っても様々な能力を植え付けられて、環境に適応できず塞ぎ込んでしまう子供いた。レンのようにすぐに適応出来たら大丈夫だけど。

 

 

「名前は?」

「リューズ。でも本名は分からない」

「……偽名でもいいよ。レンは私に付いて行くように言ったんだね?」

「うん……」

 

 

 さてどうしようか。学生では無かったら連れて行くけど。勝手に行動するとオリビエさんに迷惑掛かるし……ん?オリビエ?

 

 

「そうか。その手があった。大分我儘聞いてるし、時間的にも今からなら何となるか」

「……?どうかしましたか?」

 

 

 可愛らしく首を傾げるリューズ。取り合えず今すぐに帝都に向かうか。連絡方法はあるし、上手くいけばお姫様の目も誤魔化せるだろうし。

 

 

「よし行こうリューズ。その前に着替えてからね」

 

 

 一旦工房に戻り、リューズの体を綺麗にして服を着替えさせてから帝都に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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皇子と姫

 クロスベルでの出来事から数時間。オリビエさんに連絡を入れてからリューズと共に帝都に向かい、駅で待っていたクレア・リーヴェルトの案内の元、カレル離宮へと向かっていた。

 

 

「忙しい所ごめんね大尉さん」

「気にしないでください。殿下から頼まれましたから。事情も事前に聞いています」

 

 

 流石は帝国の皇子。こういう時は本当に頼りになる。問題は……リューズか。帝都に来てからずっとベッタリくっついている。私の右腕に抱き付きキョロキョロと周りを見渡している。

 

 

「ちなみに大尉さんは私の事はどれぐらい知ってる?」

「……少なくとも殿下や姫様に敵意が無い事は。宜しくない話は知りませんね」

「そうだよね。レンを守る以外は危ないことしてないし」

「危ない事?お姉様は危ない事をしてたの?」

「うーん。妹が開く血まみれのお茶会の仲介は……ん?お姉様?」

 

 

 少し前に聞いた覚えがある言葉が耳に入り、帝国の某姫様が脳裏に浮かぶ。うん、きっとレンの仕業だろう。ここに来る前に一通り話は聞いている。イカサマ男の監視が無い時はレンが頻繁に会いに来て、私の事を話していたらしいし。

 

 

「で……いるのはオリビエだけ?」

「……どうでしょう」

 

 

 これは嫌な予感する。色々と覚悟した方がよさそうだと思っている間にカレル離宮に到着。車を降りて離宮の中へと入って行く。途中で何人かの衛兵とすれ違い、その数を見てオリビエ意外にもう1人いる事を確信する。

 

 

(あのお姫様……)

 

 

 脳裏に再び過ぎるお姫様。さぁ今度はどんな無茶ぶりを言われるかと思っていた時だった。

 

 

「アリアさん!」

 

 

 可愛らしい声と同時に1人の少女が抱きついてくる。金髪と赤いドレスが特徴的な帝国の至宝。そして、今日会いに来たオリビエさんの妹であるアルフィン・ライゼ・アルノール。私は彼女のお気に入りである。

 

 

「久しぶりお姫様」

「はい。お会い出来て嬉しいです。お元気ですか?」

「ん。お姫様も元気そうでよかった。取り合えず離れて」

「嫌です」

 

 

 即答ですかお姫様。すっかり懐かれてしまった。どうして懐かれたのかはあまり聞かないで欲しい。恐らく近い内に明かすことになるだろうから。

 

 

「そのお姫様。お兄さんは来てる?」

「後もう少しで来られます。それよりアリアさん。私の事はアルフィンとお呼びください」

「……それは流石にご勘弁を」

 

 

 相も変わらずなお方だ。押しが強いというか度胸があるというか。確かリィンの妹と親友だったかな。お姫様の事だからリィンにも本気で手を出しそう。

 

 

「あの……お姉様?この人は誰?」

「あ……。ごめんリューズ。この人は……」

「私はアルフィン・ライゼ・アルノールですわ。お兄様から伺っています」

「アルフィン……?」

「帝国のお姫様。帝国の至宝。凄い女性」

「お姉様よりも?」

「うん。私よりも……」

「いえ。アリアさんの方が凄いですわ」

 

 

 私から離れてから満面の笑みで言うお姫様。それを聞いたリューズの目がキラキラと輝く。やっぱり一年前のアレが原因だよね。ヨシュアの紹介で初めてオリビエと会ったあの日。あの一日は久しぶりに刺激を感じたいい日だった。

 

 

「お姫様。もしかして一年前の事を未だに……」

「あの日はとても刺激的でした。まさかこの場に暗殺者が2人も潜入しているとは。クレア大尉が居たとはいえ、貴女が事前に気付いていなければ私は今頃……」

「あはは……(アレ気付いたのはレンのお陰なんだよね。毒入りの紅茶)」

 

 

 未だに忘れる事など出来ないあの一日。常日頃からレンに感謝しているが、あの日は本当に心の底から感謝した。

 

 

(血に濡れたお茶会よりヒヤヒヤしたね。何とか暗殺者は撃退出来たけど……)

 

 

 あの日の事を思い出していると、離宮の奥から1人の男性が出て来る。この男性を私は待っていた。オリヴァルト・ライゼ・アルノール。王位継承権は手放している≪放蕩皇子≫。私は愛の狩人だったかな。そっちの方が印象が強い。

 

 

「久しぶりだねアリア君」

「半年ぶりかなオリビエさん。忙しい所ごめん」

「気にしないで欲しい。色々と我儘を聞いて貰っているからね。それでその子かな?」

「うん。実は……」

 

 

 クロスベルであった事と一通り説明。出来る限り傍に置いておきたいのだが、私にも立場がある以上はずっと傍に居られない。かといって士官学院に連れて行くわけにも行かない事を話す。

 

 

「僕は別に構わない。と言いたいが君も忙しいよね?」

「……事が始まったら。契約もそれまでだし、直ぐに連れていけたらいいけど、場合によっては難しいね。嫌な占いも聞いたし」

「占い?もしかしてシェラ君の……」

「ま。そういう事。だから比較的安全な所にこの子を連れて行きたいけど。良い所あるかな?」

「それなら君に引き合わせた子の場所は?」

 

 

 成程。言い出して切っ掛けを作った妹に責任取れと。確かにリベールなら安全か。エステルさんなら安心出来るし、クローゼさんにコンタクトも取れる。たまには無茶ぶり言ってもいいか。

 

 

「そうだね。取り合えず連絡してみる。リューズは?」

「レンの所?でもあの子がお姉様の傍に居てあげてって」

「私は大丈夫。少しだけあの子の所にいて欲しい。ちゃんと迎えに行くから」

「本当?」

「本当。だからお願い」

 

 

 優しく頭を撫でる。リューズは少し考えてから小さく頷き納得してもらう。それから愛用している折り畳み式の端末を取り出す。机の上に置き、起動させてからあるアプリを起動させて≪子猫≫にメッセージを送る。

 

 

「連絡宜しくっと。レンの事だからすぐに返事が来ると思う」

「では暫くはお茶会と行こうか。淹れてくれるかい?」

「了解。お姫様は?」

「私もお願いします」

「ん。では腕を振るわせて」

 

 

 慣れた手付きで紅茶を淹れて皆に渡す。勿論近くで立っていた大尉さんにも渡し一服。オリビエとお姫様に士官学院の事を話していると、端末の画面に≪子猫≫からボイスチャットの要請が届き、パネルを叩いて応答すると、スピーカーからレンの声が聞こえてくる。

 

 

『もしもしお姉ちゃん?どうしたの?』

「ちょっと相談。リューズを暫く預ってくれる?」

『リューズ……あの子の事ね。無事に保護出来て良かったわ』

「よく言うよ。裏で根回ししておいて。それより今大丈夫?話が長くなるし、後ろ慌ただしいけど」

『大丈夫よ。赤毛のお兄さんがオーバルギアのテストに付き合っているだけだから』

 

 

 赤毛……アガットの事か。そしてオーバルギアという事は今いるのはツァイス中央工房。早速楽しんでいるようで良かった。あと謝った事も。

 

 

『ふふ……。リベールは楽しいわ。出来れば会って伝えたいけど』

「ならおいで。思いっきり抱きしめてあげる」

『それはまた今度って言いたいけど丁度いいわ。お願いしたいことがあるし、ジョゼットに送ってもらう。ちょっと待ってて』

「了解。オリビエさん」

「あぁ」

 

 

 色んな手続きをオリビエにお願いして通信を切る。今の話は大尉さんも聞いていたから大丈夫だろう。レンのお願いが気になるが楽しみにしておこう。

 

 

「それではお姫様。また今度」

「はい。次はゆっくりとお話ししましょう」

 

 

 お姫様に挨拶をしてから、私とリューズは帝都へと戻って行った。

 

 



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再会と別れ

 カレル離宮を離れて帝都に来た私達。レンが来るまで時間を潰してから空港へ行くと、丁度山猫号が到着。レンが勢いよく私に向かって飛び降りてくる。

 

 

「こ、こらレン!」

 

 

 慌てて受け止めるのと同時にレンは思いっきり抱きついてくる。久しぶりに会った影響か、何時もより甘えてくる。それこそ子猫みたいに。

 

 

「危ないよレン。いきなり飛び降りるなんて」

「お姉ちゃんなら受け止めてくれるって信じてるから」

 

 

 信頼してくれて何より。それにしても見ない間に少し大きくなったかな?身長も高くなって少し重……っと女性に重いは言ったらダメだ。

 

 

「思ったより早かったね。ジョゼットもありがとう」

 

 

 甲板に居た1人の女性にお礼を言う。ジョゼット・カプア。カプア特急便帝都支部の支部長で元空賊。あの人ともリベールに謝りに行った時に会って仲良くさせて貰ってる。

 

 

「気にしないでアリア。ボクも君に会いたかったし。帰るついで」

「いつもお疲れ様。それじゃあレン。リューズの事はお願いね」

「任せて頂戴。今日は泊って明日帰るから。リューズもいい?」

「……」

 

 

 レンが聞くと、リューズは少し頬を含まらせながらドレスを引っ張る。どうやらレンが私に甘えている事が気に食わない様子。妬いているのかな。

 

 

「ドレスが伸びるわリューズ。いくら取られているからって。お姉ちゃんも随分懐かれたわね」

「レンより素直で接しやすい」

「あら?レンは素直よ」

「そうだね。未だに私と一緒に寝たいって言うし」

「っ!そ、そんな事ないわ」

 

 

 頬を赤く染めながら否定するレン。私としてはそろそろ姉離れして欲しいが、まだまだ先だろう。久しぶりに会って甘えている時点で。

 

 

「さて、改めてリューズの事はお願い。事が終われば迎えに行くから」

「了解。それと頼みたいことは端末に送ってあるから」

「ん。リューズもいい子にね」

 

 

 優しく頭を撫でて微笑む。リューズは恥ずかしいのか顔を逸らしレンも離れる。後の事はレンに任せてリベールに向かうのを見送り、トリスタへと戻って行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ふぅ。久しぶりの学生寮……ん?アリサ?」

「あ……。おかえりリア」

 

 

 学生寮に帰って来て最初に会ったのはアリサ。私の帰りを待っていたようだ。どうして待っていたのか気になるが、先日の話を思い出し、少しニヤケながら言った。

 

 

「上手くいったみたいだね。よかった」

「えぇ。気に入って貰えたわ。所で貴女は何処に行ってたの?」

「クロスベル。知り合いがいたから会いに」

「そうなの。でも最近大きな事件があったような……」

 

 

 そういえばクロスベルタイムズに大きく載っていたね。あまり興味ないけど、情報源としては役に立つ。

 

 

「ふふ。その辺りは私達には関係ないかな」

「そうね。今は士官学院の授業とかに付いて行くので精一杯だし」

(激務で慣れてる身からしたら楽なんだよね……)

 

 

 確かに授業のレベルは高いけど、結社の任務の方がきつい。頭を使わないといけないし、潜入任務とか神経使うし。今の方が気楽でいいかな。

 

 

「実技試験も近いし、念入りに予習はしておいて損はないよ」

「うぅ。そう言えば来週ね。弓の調整しておかないと。また明日ねリア」

「ん。また明日」

 

 

 アリサが自室に入って行く。それを見てから部屋に入り荷物を置いて、クロスベルで買ったお土産を持って再び外に。トリスタの中心にある小さな広場に向かってからクロウのARCUSに連絡を入れ、暫く待っているとクロウが姿を現す。

 

 

「よぅ。クロスベルはどうだった?」

「色々と回収してきた。まずお土産」

 

 

 袋の中からみっしぃのストラップを取り出す。クロウは『何故?』と言いたそうな表情を浮かべる。失礼な。この可愛らしい姿と表情が分からないなんて。

 

 

「クロスベルのマスコット。可愛いよね」

「お前……意外とこういうの好きだよな」

「可愛いは正義。ここはアネラスと同じ考え。なのであげる」

「お、おぅ……」

 

 

 やや引きながら受け取るクロウ。そういえば子供の頃に似たような出来事があったような気がする。でも思い出せない。何かあったような気がするけど。

 

 

「で?古戦場はどうだった?例のヨアヒムって奴がアジトにしてたんだろ」

「ん。霊脈が暴れてただけだった。グノーシスぐらい落ちてると思ってたけど」

「落ちてたら怖いだろうが。しかし向こう側はどう動くか。結局どうなんだ?」

「知らない。姉さんと先生が出向いてるし。メインはマリアベルだからね。あの人は嫌いだけど」

 

 

 姉達の代わりで先生の護衛に付いて行き会ったことがある。至宝を受け継いだクロイス家の末裔。彼女の扱う錬金術は中々厄介な物だった。流石にD・G教団を裏で操っていた連中だ。

 

 

 

「教授とは違っていい性格してる」

「お前も十分良い性格してるよ。子供の頃から苛めやがって」

「君が弱いだけ。今は違うでしょう?お互いにあの頃より成長してる」

「だな。もうお前に泣かされなくて済む」

「大丈夫。男は女の尻に敷かれる運命だから」

「ふっ。アリアみたいに面倒見が良くてなんでも出来る女なら構わねぇよ」

 

 

 どや顔で言われても困るんだけど。というか私に面倒を見て貰うのは確定なんだね。でも、事が終われば大陸各地に一緒に旅をする予定だし、最終的には面倒見る事になるのか。

 

 

(でも、そのお陰で変わりたいって思ったのは事実だし)

「しかしお前。執行者モードじゃなくても全然問題ないじゃねぇか」

「あ……言われてみればそうだね。今が楽しいからかな。君はどっちの私が良い?」

「決まってんだろ。ありのままのアリアだ。少なくとも執行者のお前は嫌いだな」

「そっか……」

 

 

 幼馴染に言われると少しきつい。それだけ再会した時のインパクトが大きかったのか。今の私はクロウの知っている私だし、もう少し様子を見て見よう。

 

 

「なら君の好きな私でいてあげる。その代わり何かあったら頼んだから」

「任せな。あの時と同じ様に抱きしめてやる」

「ふふ……ありがとう。クロスベルの事は整理して話す。あと私の異能の事も。最近夢を見るから近い内に分かるかもしれない」

「了解だ。あんまし無茶すんなよ」

「ん。また学院で」

 

 

 微笑んでから手を振り、寮へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ーククク……ハハハハハ!これは素晴らしい!

 

 

 

「……」

 

 

 

 近くで立っている白衣の男が歓喜の声をあげる。何が嬉しいのか、何が素晴らしいのか。今の私には分からない。それに……私は……私は……。

 

 

(誰か助けて……パパ……ママ……)

 

 

 あれからパパとママは来てくれない。助けに来てくれない。もう痛いのは嫌だ。毎日体を開かれて、変な薬を投与されて、体を弄られる日々。何度も死にそうになった。私以外の子供たちは毎日死んでいる。昨日話した子は次の日には冷たくなっている。誰か……この地獄から助けて……。

 

 

 

「この調子なら濃度を上げても問題ない。次は……」

(もう駄目だ……強い自分を作らないと。生き残る為に……)

 

 

 今の自分を封じ込め、強い自分をイメージして作り出す。数多の人体実験を受け、自身に埋め込まれた異能の使い方は手に取るように分かる。その内の1つ、イメージしたものを作り出す。それで性格を……。

 

 

『待ちなさい。幼き少女よ』

「!?」

 

 

 頭に声が響く。それと同時に目の前に黒い球体がいきなり現れる。その球体からはとても強い力を感じる。白衣の男は……気付いていないのか。

 

 

(誰……?)

『私はある事情でこの世界に来た精霊とでも思って欲しい。同じような存在がこの世界に2つある』

(え……?)

 

 

 この世界?同じような存在?言っている意味が分からない。でもなぜかこの精霊の言っている事は信じられる。

 

 

『ふむ……このままだと君は死ぬ。強い自分を作り出しても意味がない。そこで一つ提案だ。私の力を受け継いでほしい。その変わり君を助けよう』

(助けてくれる?)

『あぁ。どのみちここに居れば周辺を壊しかねない。だから頼む』

(うん……分かった)

 

 

 彼の願いを受け入れ力を受け継ぐ。球体が体の中に入り、私の魂と混ざり合って溶けて行く。傷が癒えて痛みが消えていき、凄まじい力が沸き上がってくる。けど怖くはない。経った今自分の力になったから。

 

 

「む。何だこの気配は……っ!?」

 

 

 白衣の男がようやく気付く。気付けば私は拘束を解き、右手に闇を纏って胴体を貫いていた。

 

 

「ぐっ……なん……だと」

 

 

 右手を抜くと、白衣の男はゆっくりと倒れる。右手には真っ赤な血が纏わりついており、胴体を貫いた感触も残っている。何をしたのか、何があったのか。理解する暇も無く、後ろから誰かに殴り倒される。

 

 

「やれやれ……異物が入り込んでくるとは。まぁいい。どのみち≪楽園≫送りだ」

(銀髪の……男?)

 

 

 最後に銀髪の男を見て意識が落ちる。次に目を覚ましたのは≪楽園≫だった。

 

 

 

 



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VSリィン・マキアス・ユーシス

「うぅ……ん?もう朝……」

 

 

 強い朝日で目が覚める。今日は実技試験と次の特別実習場所を発表する日だけど調子が優れない。クロスベルから帰って来た日に見た夢が頭から離れないから。

 

 

「外の世界の存在かぁ……」

 

 

 心当たりがるのはマクバーンと私の持つ魔剣・ディスキャリバー。加えて盟主から使徒や執行者に与えられる外の理の得物。あまり興味が無いとは言わないけど、知りたいと思う。本当にゼムリアの外に世界があるのか。

 

 

「どうして士官学院に来てから夢を見るのだろう?教授に暗示を施されている訳でもない。そもそも精神耐性が異常だから不可能だけど」

 

 

 だとするとあの精霊さんがまだ私の中に居る。力を託しても何かしらの形で残っているのか。もしかするとあの力もう一段階上があるのかもしれない。

 

 

「少し試してみよう」

 

 

 抱きしめていたみっしぃ人形を枕の隣に置き、鏡の前に立つ。結界を貼って外に気配を漏れないようにしてから力を開放。黒い闇が全身を覆い、髪が銀色に染まり、目が黄金色に輝く。

 

 

「……恐ろしいほど落ち着いてる。強い自分ではないと制御出来ない筈なのに」

 

 

 それは良い事だと思う。使うたびに恐怖を感じていたら前には進めない。自分の力すら満足に扱えないのかって女神の元でレオンハルトに笑われる。

 

 

「今は大丈夫かな。油断はできないけど」

 

 

 力を抑え姿を元に戻す。それから結界を解除して制服に着替えた後、壁に立てかけてある鞘に納めた魔剣を後ろ腰に携える。魔導銃は左腰に携えて準備完了だ。

 

 

「よし。今日も頑張ろう」

 

 

 髪を束ね、士官学院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「それじゃ早速始めるわよ!」

 

 

 予定通り実技試験を始めるサラ。前回と同じ戦術殻を呼び出すが、少し形状が変わっていた。そういえば教授も自分好みに形を変えていた。そう言った意味では実技試験に持ってこいだろう。

 

 

「最初はアリアを除いたA班よ」

「え?」

「アリア以外……?」

「……」

 

 

 嫌な予感しかしないんですけど……。あれか、自由行動日にクロスベルに行ったり、オリビエや姫様に会っていたことを怒っているのかな?だとすると面倒事を頼まれるよね。

 

 

「何かしたのリア?」

「さぁ?取り合えず頑張って」

「勿論よ」

 

 

 気合い十分のアリサ。他の3人も特別実習の時と同じ様に連携したら大丈夫だろう。流石にあの大猿よりは格下だからね。

 

 

「では始め!」

 

 

 実技試験が開始する。私の予想通り、リィン達は戦術リンクを駆使して難なく突破。サラは満足そうに頷いていた。ケルディックでの事を知っているから当然と言えば当然だろう。

 問題B班だった。1人多い筈なのに悪戦苦闘。その理由は間違いなくマキアスとユーシス。前回の特別実習も散々だったってサラが愚痴ってたのを覚えてる。

 

 

「理由は分かってるわよねアンタ達?」

「……くそ」

「……ちぃ」

 

 

 これは深そうな傷だね。果たしてどうやって解決する事やら。というか私の実技試験は一体何だろう?流れ的にこのまま実習地の発表だよね?

 

 

「それじゃあ次の実習地を発表するわよ。受け取りなさい」

「……(ヤな予感しかしない)」

 

 

 紙を受け取り実習地を確認し、見た瞬間大きな溜息を吐いてしまった。私は再びA班だが、メンバーがリィンと前回のB班。そして行先はバリアハートだった。

 

 

「冗談じゃない!?」

 

 

 大きな声をあげるマキアス。何となくこの先が読めた私は魔導銃を取り出す。その間にもユーシスも同様に認められないとサラに言うが、実習地がバリアハートである以上は外せない。ならマキアスを外すべきだろうが、サラからしたら尚の事外せないのだろう。

 

 

「ねぇサラ。あの馬鹿2人同じ班にした理由は分かるけど、同じ班の私からすれば面倒事が増えるのは嫌だ」

「あら。トラブルメーカーの首に縄をかけるのは得意でしょう?」

「アレは無理だね。重症だ。所詮貴族はあぁだの決めつけてる時点で。違うかなマキアス?もう少し柔軟な思考を持って、全ての貴族が君の思っている人ではない。ユーシスだってどうしてマキアスが貴族を嫌悪しているか聞かないと。私はどうでもいいけどね。自滅する分には止めないし」

「「……」」

「間違ってるなら正して見なよ。どのみち私の実技試験は受けてないし、君達2人叩きのめすぐらい楽勝だから」

 

 

 ニコッと微笑んで喧嘩を売る。サラが止めない事ぐらいは分かっている。こうなるって事は予想済みだろうし。

 

 

「止めないよねサラ?」

「好きにしなさい。けど程々にね」

「了解」

 

 

 魔導銃を右腕で回しながら皆の前に立ち銃口をマキアスとユーシスに向ける。

 

 

「さぁ来なよ。ここまで言われて何もしない小物ならそれまでだけど」

「……いいだろう」

 

 

 ユーシスが応えてからマキアスと視線を合わせて前に出て来る。その途中でエリオットが2人に声をかけ、またアリサが私を止めてくるが、微笑んで受け流す。

 

 

「いいね。男ならそう来ないと。ルールはどうするサラ?」

「実技試験と同じでいいわ。膝を付いたら負け。アリアが負けたらメンバー変更を考えてあげる。それと2人だと少ないからリィンも手伝ってあげなさい」

「え?でも流石に……」

「相手を普通の女の子と思ったら痛い目を見るわよ。アリア、アレ(・・)使っていいから」

「アレ?」

「ふむ……(もしや後ろ腰に携えている……)」

 

 

 別に使わなくても大丈夫だけど。まぁいいか。八葉一刀流に触れるいい機会だし。

 

 

「よし。なら!」

 

 

 後ろ腰に携えているディスキャリバーを抜く。リィンの刀やラウラの大剣。ユーシスの持つ騎士剣とは全く違う形状の魔剣だが、力は封じ込めている。この世界の剣ではないとは気付かない。

 

 

「ラウラがリアは剣士って言ってたけど……」

「禍々しい剣だな……」

(あれは……まさか……)

「「……」」

 

 

 それぞれ反応を見せる中、マキアスとユーシスは獲物を抜き、リィンも刀を抜く。流石のリィンも剣を見て乗ってくるか。中身も見て見たいし、少しちょっかいを出してみよう。

 

 

「さぁ始めようか」

「「「!?」」」

 

 

 構えると同時に蒼い闘気を放つ。それと同時にサラは『始め』と言う。最初に向かってきたのはユーシス。素早い剣裁きを繰り出すが、私は正確に受け流す。

 

 

「ちぃ!」

「まだまだ甘いね」

「ユーシス!」

 

 

 背後から距離を詰めてくるリィン。騎士剣を弾き、ディスキャリバーを逆手で持って刀を受け止める。

 

 

「今だマキアス!」

「君に言われなくても!」

 

 

 銃をこちらに向けてくるマキアス。それより早くARCUSを向けてシルバーソーンを放つ。銀色の剣がマキアスを覆い、電撃が襲い掛かる。その一撃でマキアスが片膝を付き、刀を弾いてからダメ押しの一撃を放つ。

 

 

「燕弧斬」

 

 

 弧を描くように斬撃を放ちショットガンを弾き飛ばす。これでまずは一人。

 

 

「次は誰?」

「隙が無い……」

「ならば作ればいいだろう」

 

 

 ARCUSを起動させるユーシス。それは妨害したいが、リィンが時間を稼いでくる。ユーシスならその間に詠唱を終えるだろう。

 

 

「それをマキアスと出来たらいいんだけど」

「その気持ちは痛いほど分かるよ」

「だね。なら真っ先に潰そう。興味があるのは君だから」

 

 

 少し後ろに下がってから、ユーシスの背後に一瞬で移動し、気付かれる事なく急所に一撃入れ片膝を付かせる。これで2人。

 

 

「今のは……」

「全く……見えませんでした」

「私でも見えなかったぞ」

「……(速い。老師よりも)」

「さて……」

 

 

 ディスキャリバーに黒い炎を纏う。それを見たリィンが固唾を飲む。反応しないか。個人的には何かしらの反応があってもいいのに。

 

 

「ん……本気出さないのリィン?」

「何を言ってる。本気でやってるぞ」

「そう。なら強引に引きだしてもいい?」

「っ……」

 

 

 少し殺気を向ける。その時に左胸辺りにどす黒い何かがあるのを感じ取る。成程そこか、しかも底が見えてこない。下手に手を出すと危ないかな。

 

 

「次の一撃で仕留める。耐えられるかな?」

 

 

 先程と同じ様にリィンと間合いを一瞬で詰め、ディスキャリバーを振り上げる。リィンが防御体勢に吐いたのを見てから、瞬時に炎を雷に変えて胴体に叩きこむ。

 

 

「黒雷剣」

 

 

 姉の剣技を元に編み出した技。加減はしてるけどかなりのダメージだろう。リィンはゆっくりと膝を付き、サラは手をあげる。

 

 

「そこまで。アリアの勝ちね。特別実習頑張ってきなさい」

 

 

 

 無事実技試験は終了したが、前回以上に大変な特別実習になりそうだ。

 

 

 

 



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バリアハートへ

 特別実習の朝。いつも通りの時間に起きて準備を済ませた後。部屋を出て一階に降りようとしたのだが、エマがフィーの部屋の扉を叩いていた。

 

 

「フィーちゃん。起きてください!朝ですよ!」

(またか……) 

 

 

 日常茶飯事のこの光景。こういう時は強行突破しかない。例え怒られても。フィーなら怒る所か普通に起きてきそう。

 

 

「GOエマ。突入だ」

「え?そ、それは流石に……」

 

 

 遠慮するエマの横を通り扉を開けて中に入る。フィーは案の定ベットで爆睡している。フィーの頬を引っ張るが起きる気配が無い。これは中々強敵だね。

 

 

「フィー。起きないと抓るよ」

「ん……あと8時間……」

「ダメ。休みならいいけど今日は実習だから。ちょっと痛いよ」

 

 

 少し強めに頬を抓ると、フィーはゆっくりと瞼を開けて上体を起こし大きな欠伸をする。いつも通りのマイペースだ。取り合えず急いで準備しよう。

 

 

「制服に着替えて。髪は私が解くから」

「サンクス」

 

 

 制服に着替えるフィー。それから髪を解き整える……うん、レンにやってるのと全く変わらないのは気のせいだろうか。それに年も近いから、厳しくしてしまうし。

 

 

「これでよし。もう少し余裕をもって起きる事」

「……」

「ん?どうかしたフィー?」

「別に。お姉ちゃんが居たらこんな感じだったのかなって思っただけ。手慣れるし」

「フィーみたいに素直な妹なら大歓迎だけど」

 

 

 姉と慕ってくれる3……2人。リューズの事はまだ分からないけどレンは色々と大変。リベールの一件なんて特にそうだ。よもやクローゼやオリビエに睡眠薬入りの紅茶を飲ませるなんて。どの面して謝りに行けばいいのか大変だった。

 

 

「さて、リィン達は下で待ってるから行こう」

「めんどいな。あの2人と一緒なんて」

「気持ちは分かるけど抑えよう。ほら」

 

 

 フィーの背中を押し、外で待っていたエマと合流し一階へ。先にリィン達が待っていたが空気が重いのは言わずもがな。

 少し話しをした後に、準備を済ませてからトリスタ駅に。先にアリサ達B班が来ていたので軽く談笑してからセントアークに向かうのを見送る。

 

 

「よし。俺達も行こう」

 

 

 リィンを先頭に列車に乗る。私は通路を挟んで1人で座り、愛用の端末を取りだして電源をON。チャットを開くとレンからメッセージが届いていた。

 

 

「なになに……リベール王国の端末を繋げるネットワークの構築か」

 

 

 これはまた難題だ。正直リベールの導力ネットワークは遅れている。それは以前訪ねた際にエリカに突っ込んだほど。その構築となると生半可な物では駄目だろう。

 

 

「それと実習先の写真……」

 

 

 通路の向こう側を見る。そこではユーシスとマキアスが再び言い争っているが、リィンの一言で収まり一時休戦となる。これなら何となりそうかな。写真撮れるといいけど。

 

 

「ん。所でリアは何をしてるの?見慣れない端末触ってるけど」

「妹からの電子メールの返信」

「電子メールですか?」

「それに妹って……」

「色々大変だからね」

 

 

 あまり深く入り込まれないように誤魔化す。端末を閉じて、腰に携えている鞄の中に端末をしまう。鞄の中には、セブンスフィアと簡易的な治療キットを含めて色々入っている。

 

 

「で?もういいの二人とも?」

「あぁ。一時休戦だ」

「あくまでも一時だが」

(これはダメだ。根本的に解決してない)

 

 

 助け船を出すべきだろうか。あまり世話を焼くと2人の為にもならないし。飴を与えすぎるのは良くないし。

 

 

(どうしたものか……)

「所でリア。妹ってどんな子?」

「気になるフィー?」

「ん。ちょっと気になるかも」

 

 

 出来ればあまり興味を持って欲しくない所だが、自慢の妹を宣伝するチャンス。似ているところもあるし。

 

 

「教えてあげる。おいでフィー」

「じゃ、失礼して」

 

 

 膝に座り位置を調整してからもたれてくるフィー。彼女の頭が丁度私の胸の部分に来る。こういう所もレンに似てる。理由は違うかもしれないけど。

 

 

「む。エマとは違う意味で凄い」

「フィーちゃん!?」

「こらこら……エマを困らせない。あと男子もいるんだから」

 

 

 あの3人は紳士だと信じたい……いや、リィンは女たらしっぽいから紳士とは言えないかな。しかも天然も混じってそうだし。そう思うと以前に先生が話していた想い人と似てる気がする。

 

 

「それと大きければ言い訳ではない。肩凝るし大変だよねエマ?」

「アリアさんの言う通りですよ。大きいと大変で……って!男子の前で言わせないでください!」

 

 

 顔真っ赤にしながら怒るエマ。ヴィータと違い真面目だから弄って楽しい部類だ。ヴィータはサラっと受け流すから面白くないんだよね。大人の余裕って奴。

 

 

「アリア。俺達も居るから程々に頼む。聞かないようにはしているが」

「分かってる。胸の大きさより今は妹の自慢をしないと」

 

 

 フィーの頭を撫でながらレンの事を話す。流石に結社の事は話せないが、共通している部分、特に猫のような所。似ている訳ではないが共通している場所は多い。

 

 

「あの子は寂しがり屋でね。今は信頼できる人の所にいるけど、少し前までは私の後をずっとついて来てたんだ。流石に危ない所は来たらダメって言ってたけど」

「私もレオやゼノの後に付いて行って怒られた。『お前にはまだ早いって』」

「いいじゃない。あの2人らしいと思う。それだけ愛されてるって事だよ。あの2人にも猟兵王にも」

「……ならリアは?どうして結社に入ったの?」

「……」

 

 

 素直に答えるべきだろうか。幸いにも私とフィーの会話だからリィン達には聞こえていない。知っても問題は無いけど。

 

 

「私と同じ思いをさせない為。ただそれだけだよ」

「同じ思い?何かあった?」

「色々と。フィーなら大丈夫だろうけど聞かない方が良い。それに到着したしね」

 

 

 列車がバリアハート駅に止まる。荷物を持って降りると同時に駅員が派手にユーシスを出迎える。ユーシスがやや驚いている所をも見ると、事前に伝えていた事と違うのだろう。そうなると仕組んだ人物は後ろからくるあの人か。

 

 

「私がよこしたのだユーシス」

「兄上!?」

 

 

 背後から現れた人物。ユーシスの兄であるルーファス・アルバレア。気配で大体の力は分かる。レオンハルト以下デュバリィ以上って所かな。私は多分負けない。魔剣を抜かなくても。

 まぁ解析は置いて置き彼に付いて行く。駅を出ると車があり乗る事数分。宿泊先であるホテルに到着し、中に入ると支配人が小走りで登場。ユーシスを特別な部屋へ案内し、私達は普通の部屋に案内すると言ったが、ユーシスが少し怒りながら『同じ部屋だ』と言い、男子と女子で別れて部屋に入る。

 

 

「流石貴族の街。部屋もベットも大きい」

「そうですね。場所はどうします?」

「私は最後でいい。荷物を置いてるから」

 

 

 部屋の隅に荷物を置き、エマとフィーがそれぞれ寝るベットを決めたのを確認してから自分が寝るベットの上にマントを置く。

 

 

「大丈夫2人共?」

「ん。大丈夫」

「はい。行きましょう」

 

 

 部屋を出て一階に降りる。先にリィン達が来ており、ケルディックで見た依頼の入った封筒を持っていた。早速中を見て確認。依頼は前回の初日同様3件だ。

 

 

 

ーオーロックス峡谷道の手配魔獣

 

ー穢れなき半貴石

 

ーバスソルトの調達

 

 

 このうち上二つが必須で一番下が準必須。どれもバリアハートらしい依頼だ。さて、今回も前回と同じ立ち回りをしないといけないわけだが、今回ばかりは苦戦しそうだ。

 

 

「取り合えず話を聞きに行こう。それから順番を決めようか」

「そうですね。手配魔獣は準備も必要ですし最後で良いかもしれません」

「そうだな。ならまずは一番近い場所から行こう。案内は俺がする」

「その方が助かるね。マキアスも良い?」

「異議はない。今は休戦中だからな」

 

 

 どうやら今の所は問題ないらしい。警戒すべき依頼は半貴石と手配魔獣か。貴族も多いだろうし、()がいる事を視野に入れて行動しないといけない。後マキアスが暴走しないように気を付けよう。それとユーシスとの戦術リンク。

 

 

「行くよリア。まずはお店から。それからソルト」

「了解」

 

 

 フィーの後を追いホテルを出る。前回以上の波乱万丈な特別実習が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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特別実習バリアハート編①

 そんな訳で特別実習が始まった。最初にバスソルトの調達の話を聞きに行くと、取れる場所がオーロックス峡谷道らしく、手配魔獣の討伐と一緒にやる事に。なので半貴石の件を聞きに工房へと向かい、依頼人である若い男性から話を聞いていたのだが、工房の端にいる1人の男を見て苦笑いを浮かべていた。

 

 

(やっぱりいたよブルブラン……)

「おや……?」

 

 

 ヤバい。変態……怪盗紳士に気付かれた。私はすぐに視線を男性に戻し話を聞く。男性は近い日に結婚するらしく、指輪を求めて訪ねたらしいのだが、お金に余裕が無く、その代わりとして近くで採れる樹の雫を探しに来たらしい。

 

 

(結婚か。近い内にレンも……いや、あの子は無いかな。まずは姉離れしてもらわないと)

 

 

 どうかリベールでヨシュア達と仲良くしている事を祈ろう。寂しい思いはきっとしない筈。エステル達に心を開いているから。

 

 

 

「リア。取りに行くよ。あの男爵が場所を教えてくれた」

「ん。行こう」

 

 

 工房の出口に向かう。その途中でブルブランと視線が合うが気にしない。止まればリィン達に気付かれないように何か言うに決まっている。エマも居る以上は安易に接触したくない。

 

 

(今の私は学生だからね。これからの事を考えると、面倒事は残したくない)

 

 

 結社に手を貸すのは今回が最後。後ろ盾が無くなるのは結構大変だが何とかなるだろう。最近は不信感もあったし。

 

 

「よし行こう皆。魔獣も居るから気を付けよう」

「了解です。戦術リンクも惜しむことなく使いましょう」

「繋ぐ相手は限定されるけど」

「こらこら……」

 

 

 樹の雫を求めて街道を進む。時間が掛かるかと思っていたが思ったよりも早く見つけ丁寧に採取。工房へと戻り、依頼主に渡そうとしたのだが、工房には先程いなかった貴族の男とメイド。とても嫌な予感がして仕方が無かった。

 

 

(そういえば樹の雫って漢方薬の代わりになるって聞いたような……)

 

 

 あくまでも噂だ。少なくとも私は試そうとは思わない。お腹壊したくないし。でもこの場に貴族がいるって事は……。

 なんて思っていると、目の端で私達が採って来た樹の雫を口に入れる。それも私達の前で。

 

 

(マジか……ちょっと引く……じゃなくて)

 

 

 いくら何でも食べる……というか人としてダメだろう。食べるのは人の勝手だし彼の手に渡った理由を説明してくれたらリィン達も納得するが、話す事も無く、私達の前で食べるのは宜しくないと思う。レンがもしやったらすぐに拳骨だ。

 

 

「っ!貴様!」

(あー……そうなるよね)

 

 

 マキアスが貴族の男に詰め寄る。止めるべきだろうが、安易に仲介するわけにはいかない。これも彼らにとっての試練の1つ。これからは今よりもっと大きな壁が立ち塞がるのだから。

 

 

(個人的には斬り伏せたい所だけど)

 

 

 その気持ちをぐっと抑え込んでいる間に、ユーシスが貴族に問い詰め、理由を聞く。流しながら私は聞いていたが、大体は予想通りだった。 漢方替わりになる樹の雫。あくまでも噂なのに信じるなんて。

 ともかく理由を聞き、青年にはそれなりのお金を渡していたらしく、青年はそのお金で何とか指輪を用意するらしい。

 

 

(幸福はお金では買えない。必死に努力して掴み取る物。全ての貴族は彼みたいではないと頭で分かってるけど)

 

 

 どうしてお金を持っている人は全て金で解決しようとするのだろうか。少なくとも私はお金で解決しようとは思わないし無駄遣いもしない。結構持っている方だけど大抵は貯めるか、贈り物で奮発するぐらいだし。

 

 

「俺にも事情を説明してもらおうか?」

「ユ、ユーシス様!」

 

 

 そして詰め寄るユーシス。この後は冷や汗を流しながら貴族は弁明し去って行く。その後に青年が残念そうに去って行ったのを私達は見送った。

 ひとまずちょっとしたトラブルがあったが依頼は完了。報酬を受け取ってから次の依頼である魔獣討伐とバスソルトの調達のために街道へ。魔獣は思ったよりも早く発見し、さっそく討伐と行きたかったが、マキアスとユーシスが『今度こそ戦術リンクを』と言い、必然と戦闘メンバーから外れてしまった。

 

 

(どうなっても知らないんだから)

 

 

 溜息を吐きながらも戦闘開始。最初は上手く連携していたが、いきなりユーシスとマキアスの戦術リンクが切れる。分かってたはいたが戦術リンクが切れたことに動きが散漫になる。

 

 

「っ。エマ頼む!」

「は、はい!」

「援護するよ」

 

 

 3人はすぐに対応し、戦術リンクを結び直して撃破。リィン達は安堵の息を漏らしていると、ユーシスとマキアスが詰め寄り、互いの首元を掴んで戦術リンクが切れたことで言い合いを始める。

 

 

「どういう事だユーシス・アルバレア。何故あのタイミングでセンター切れる!」

「それはこちらのセリフだマキアス・レーグニッツ!」

(あー……私は知らない……ん?)

 

 

 撃沈したはずの魔獣から気配を感じる。どうやら詰めが甘かったようだ。ゆっくりと起き上がり、気付いていないマキアス達に襲い掛かる。それに気づいたリィンが咄嗟に庇おうとするが、まだ依頼が残っている状態で怪我をされると困るので、導力銃を抜き、脳天を撃ち抜いて仕留める。

 

 

「全く……詰めが甘い。リィンも直ぐに盾になろうとしない。自己犠牲は見苦しいから」

「あ……助かったよアリア」

「ん。見事な早撃ちだね」

「どうも。さて……」]

 

 

 視線をユーシスとマキアスに向ける。2人は今の光景を見ていたようで、申し訳なさそうに反省していた。確かに自分たちが原因で友達が怪我を負ったとなれば当然だろう。だがきちんとけじめはつけないといけない。

 

 

「2人共。けじめはきちんとね。えい」

「「っぅ!?」」

 

 

 私は2人の頬を強めに抓った。2人はとても痛そうな表情を浮かべている。この頬抓りは結構効き目があったりする。レンで実証済みだし。

 

 

「いたたたた!何をする!?」

「えぇい。やるならもう少し手加減をーーー」

「ん?もっと痛い方が良い?」

「「そんなことは言っていない!!」」

 

 

 お。いい感じに息が合った返答だ。この調子で息を合わせてくれたら嬉しい所だけど。その為にはお互いの事をもっと知らないとね。特にマキアスの貴族嫌いは異常だ。

 

 

「な、なぁアリア。そこまでにしたら?2人も大分反省してるだろうし」

「ん?何か言ったリィン?この際だからきちんと反省して貰わないと」

「そ、そうか……(こ、怖いな……)」

 

 

 ニコッと微笑みながらリィンに応えると、彼は少しだけ顔を青ざめる。きっと目が笑っていないことに気付いてるのだろう。ともあれ私は5分程頬を抓った所で解放。2人の頬は少し赤く腫れあがっていた。

 

 

「貴様。ここまでやる必要が……」

「ん?もう一度抓られたい?」

「っ……悪かった」

「マッキーは?」

「……済まなかった」

 

 

 2人揃って私達に謝る。本当に反省しているみたいだからいいだろう。しかしここまで上手くいかないと幸先不安だ。出来る限りはリィン達で乗り越えて欲しいし、私としても一致団結してⅦ組で一人前になって欲しいし。

 

 

「と、とにかく反省したならいい。報告に行こう」

「そうですね。大分時間も消費しましたし」

「ん。とっとと終わらせよう」

 

 

 オーロックス砦に向かい始める私達。その途中に、マキアスの貴族嫌いを聞くべく、リィン達から少し距離を取って声を掛けるが、先に頬を抓った事を誤っておこう。

 

 

「頬大丈夫?抓った女が何を言うかって思うけど、つい妹と同じ感覚でやってしまったから」

「頬なら大丈夫だ。昔姉さんに悪い事をした時に抓られたし、頭も冷えたから。だが……もう少し加減して欲しかった」

「それはごめん。で、マッキーに聞きたいことがあってね」

「それは構わないが……ん?マッキー?」

「渾名。嫌だった?その代りリアって呼んでいいから」

「嫌では無いが知り合いを思い出してね。それで聞きたい事って?」

 

 

 マキアスに貴族嫌いの件を聞く。彼は少し複雑そうな表情を浮かべる。これは聞いてはいけない内容か。だけどいつまでも引きずっていられるのは困る。せめて何で嫌いかぐらいは教えて欲しい。

 

 

「まぁ無理には聞かない。私も人には言えない人生送ってるし。隠し事の一つや二つは仕方ない」

「いや……ありがとう」

「でも、貴族嫌いって事は皇帝陛下も嫌いって事だよね?」

「ま、待ってくれ。何でそうなる?」

「オリビエが嫌われる理由は分かるけど。女も男も行けるし」

「誰だオリビエって?それに男と女もいけるってどういう趣味してるんだ?」

 

 

 今頃変態皇子はクシャミの一つはしているだろうか。近い内にⅦ組とのちょっとした食事会もあるだろうし、その時に色々と暴露してあげよう。

 

 

「近い内に会えるから楽しみにしておいて。ほら砦に到着」

 

 

 話している間にも砦に到着。衛士さんに報告を済ませた後にバリアハートへと戻るのだが、その道中、上空を銀色の傀儡が通り過ぎ、その直後に領邦軍が戦車と一緒に通り過ぎて行った。

 



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特別実習バリアハート編②

 特別実習初日は特に問題なく終わった。晩食はユーシスが子供の頃からお世話になっている場所で食べ、途中でブルブランが介入してきたが無視した(きちんとヴィータには報告済みである)。ともあれ、銀色の傀儡に関しては気になるが、彼女に関しては後だ。今は実習2日目を乗り切らないといけない。その為にも……。

 

 

「起きなさいフィー。時間だよ」

「……スヤスヤ」

 

 

 何故か私のベットに潜り込んでいるフィー。気付いたのは数分前の事。妙に重いと思って起きると、フィーの顔が目の前にあったのだ。

 

 

「ふわぁ。おはようございますアリアさん……ってなんでフィーちゃんがアリアさんのベットに?」

「何でだろうね?助けてくれるエマ?」

「分かりました。少し強引ですが引き離しましょう」

 

 

 フィーの腰に両腕を回すエマ。そのままフィーを引っ張るエマだが、フィーは私に思いっきり抱きついて離れようとしない。この光景を見ていると昔のレンを思い出す。中々起きないしいつの間にか潜り込んで離さないしで大変だった。しかも引き剥がす役がデュバリィで、毎回蹴られていた気がする。

 

 

「んん……引っ張らないでエマ。あと5分……」

「ダメですよフィーちゃん。アリアさんも迷惑ですから」

「いや、私はどんとこいだから迷惑ではないかな。程々にして欲しいけど」

「甘やかしてはいけません」

「姉は妹に甘いよエマ……そうだよねリア?」

「確かにそうだけど……って起きてるじゃん!」

 

 

 突っ込みながらフィーを引き剥がす。そのまま座らせて酷い寝癖を直し制服に着替えさせる……って昨日も同じこと私はしたような気がする。

 

 

「ん。ありがとリア」

「はいはい。それじゃあ私達も準備しよう」

「はい。皆さん待っているかもしれませんし急ぎましょう」

 

 

 私とエマも制服に着替えて身支度を済ませる。髪を束ねてマントを羽織った後、魔剣を後ろ腰に携えて導力銃を左腰に。それからフィーとエマと共に一回に降りると、何やら仲良く話しているリィン達の姿があった。

 

 

「おはようございます皆さん。その様子だと仲直りした様ですね」

「っ。仲直りなどしていない!」

「男のツンデレはモテないよ」

「こらフィー……」

 

 

 とにかく蟠りが解けたようで良かった。これなら今日の実習は上手く行くだろうと思っていたのだが、やはりうまくいかないのが現実だ。アルバレア家の執事であるアルノーがユーシスを連れて行ってしまった。

 

 

「なにこれ。タイミング最悪」

「だが家の事なら俺達は何も言えない」

「このメンバーで何とかしないとね。えっと内容は……」

 

 

 実習内容を確認し、初めに魔獣討伐を片付けるために街道へ。意外と近くにいたので直ぐに発見。戦術リンクを駆使して撃破。手応えを感じながらバリアハートへと戻ったのだが、今度は私達が領邦軍に囲まれてしまう。

 

 

(あー。そうなるか)

 

 

 大体の予想がつき、溜息を吐いている間にも、マキアスがオーロックス砦潜入容疑で連行。勿論リィン達も反論したが軽く脅されこれ以上何も言えず、ただマキアスが連れて行かれるのを見ているだけだった。

 

 

「くそ。何でマキアスが連れて行かれるんだ」

「先日の砦での騒ぎの時はマキアスさんも居たのに」

(どう思うリア?私的には銀色の傀儡が怪しいし……)

(ふふ……。まぁ見ていよう)

 

 

 領邦軍……貴族派の狙いは直ぐに分かる。その対処をするのは私達ではなく、教官達だろう。このまま時間が解決するのをも待っても良いが、そんなことリィン達がするはず無いだろう。一応貴族側の人間である私も少し許せないし。

 

 

「取り合えず喫茶店に入って作戦会議しよう」

「そうだな。いきなり詰め所に行っても門前払いだ」

 

 

 ひとまず喫茶店に入って作戦会議。どういった方法を取るか話し合うがいい案が出てこない。私としては地下水道から詰め所の地下に行くのが良いが、そんな案出て来るはずも無いだろう……と思っていると、カウンター席に座っていた見覚えのある人物が地下の事を話して去って行く。

 

 

「今のは……」

「そう言えば昨日地下に繋がる扉を見つけたが……」

「行ってみる以外ないと思う。というか行こうよ」

「そうだねフィー。大事になる前に行こう」

 

 

 そんな訳でマキアス救出作戦を開始し、さっそく地下水道に繋がる扉の前に移動。リィンが開けようとするが当然鍵がかかっているので開く事はない。

 

 

「鍵がかかってるな。当然だけど」

「ふふ。ここは私に任せて」

 

 

 制服の内ポケットに入っているピッキング道具を取り出し鍵穴に。カチカチと少し動かすと、ガチャンと大きな音が鳴り扉が開く。

 

 

「これでよし。行こうか」

「いや。良くないだろう?ピッキングなんてどこで教わったんだ?」

「乙女の必須技術だよ」

「ん。リアの言う通り。これぐらい乙女の必須技術だね」

「いや、俺が聞きたいのは……まぁいい。開いたのは事実だし行こう」

 

 

 リィンを先頭に地下水道の中に入る。中は少し薄暗く、魔獣も周回しており危険な場所だが、こちらは4人いるので問題なく進んで行くと、途中でユーシスと遭遇。彼も気になることがあるらしく屋敷を抜けてきたらしい。こちらも事情を説明すると、ユーシスは狙いに気付いたようで、このままマキアスを一緒に救出しに行くことに。

 

 

「しかし、俺達としては最悪なタイミングだが、父上にとっては最高のタイミングだったのか」

「えっと、それはどういう意味ですか?」

「簡単だよエマ。マッキーのお父さんは帝都知事で宰相閣下が信頼している人物。という事はマッキーを捉えて革新派にゆさぶりをかける事が出来る。ま、小物がやる馬鹿な事だけど。加えて私たちの事を舐めてるし。これはきちんと教え込まないとね」

「何を教えるんだ……」

 

 

 それは決まっている。喧嘩を売る相手はきちんと見て判断しないといけない。私のように裏世界の住人には特に。よく破隗のおじ様も言ってたしね。ルーちゃんもだけど。その手の人物と取引や仕事を引き受ける時もあるし。

 

 

「にしてもリア。流石に状況を直ぐに理解出来るね。戦闘時の先読みや戦術組もそうだけど。団長やゼノ達と死合いした時以上」

「私は頭脳タイプだからね。力が無い分は頭を回さないと」

「よく言うよ。あの時のリアは凄まじかった。共和国でやった刀使いよりも剣技は遥かに上だし、戦術も完璧で二度とやりたくなかったって。あと色々とえげつない」

「それはどの私に言ってるの……」

 

 

 猟兵王とその仲間たちと戦ったのは4年程前か。たまたま東方に用事があってルーちゃんと一緒に行った。まぁその時に猟兵王以外に素敵な出会い(・・・・・・)もあったね。滞在したのは1年程だったけど楽しかった。

 

 

「おや?アレは……鉄の扉か?」

「どうやら着いたようだが」

 

 

 領邦軍の詰め所に繋がる扉の前に到着するが、扉は固く閉ざされており開ける事が難しかった。魔剣で斬っても良いがそれはよろしくないだろう。

 

 

「ここは任せて」

「フィーちゃん?」

 

 

 フィーは扉の数か所に小型爆弾を張り付けて距離を取ると、スイッチを押して爆破させる。爆発により扉がゆっくりと倒れてくる。それを見たリィン達は驚いていた。

 

 

「ば、爆弾?」

「なんてものを持ってるんだ……」

「ん。元猟兵だからね。これぐらいは持ってる」

「元猟兵……」

 

 

 フィーは≪妖精≫と呼ばれた猟兵。2年前にあった西風と星座の団長の死闘の後にサラに拾われたらしい。あの件は裏世界にも結構衝撃が走ったのを覚えている。私はその時の妙な違和感も覚えたけど。

 

 

「さ。行こうよ。今の音で気付かれた可能性もあるし」

「そだね。調整が甘かったし」

「ちょ。2人共!」

 

 

 私達の後を遅れてついてくる3人。気付かれないように階段を上るとすぐ牢屋を発見。その中でマッキーが『何で僕が……』と頭を抱えていた。

 

 

「意外と元気そうだな。マキアス・レーグニッツ」

「っ。ユーシス・アルバレア……それにリィン達」

「良かった無事で。直ぐに出しますね」

「んじゃ離れて」

「え?ぬぉ!?」

 

 

 銃口を鍵穴に当てて撃ち抜く。離れていなかったマッキーはとても驚いていたが気にせず扉を開けてマッキーを引っ張り出す。このまま逃走……と行きたいが、タイミングよく領邦兵が降りてきた。

 

 

「貴様ら!」

「あー。見つかった。みんな目をつぶって。眩しいよ」

「っ。分かった!」

 

 

 スフィアの一つを導力銃を取り込み地面に閃光弾を撃ち兵士の視界を奪う。その間に地下へと逃走し元の場所へと走るのだが、背後から何かが近づいてくる気配を感じ取る。

 

 

(この気配は……)

 

 

 軍用犬の類か。基本的に猟兵団が使役している事の方が多いが、まさか領邦軍が使役しているとは思っても居なかった。

 

 

(それだけ落ちたという事か。カイエン公も所詮あの程度だし)

「皆。後ろから何か来るぞ」

 

 

 どうやらリィン達も気付いたようだ。少し開けた場所で足を止めると、2匹の軍用犬が姿を現す。とても鍛え上げられた中々な軍用犬だ。

 

 

「これは……軍用犬か」

「何でこんなものが居るんだ?」

「話は後だ。直ぐに仕留めるぞ」

 

 

 戦術リンクを結び得物を抜く。流石に荷が重いと判断し導力銃とスフィアを展開し援護。サポートに徹しつつ後ろから見ていると、先日とは比べ物にならない連携を見せてくれる。そのかいあってか軍用犬はを直ぐに制圧。無事に勝利を収める。

 

 

(いい感じ。オリビエの思惑通りかな。でもまだまだ)

 

 

 まだ甘い所もあるが、これから改善したらいいだろう。私と対峙した時にまだ甘かったら容赦なく攻めるだけだ。

 

 

「貴様ら!ようやく追いついたぞ」

 

 

 笛の音と共に来る領邦兵。軍用犬が倒れているのを見て私達を包囲する。勿論ユーシスが反論するが下がらない領邦軍。こうなるとただの学生では何もできない。時間はかかるが皇子にメッセージでも送ろうかと、思った時。領邦軍の背後からルーファス・アルバレアとサラが姿を現す。

 

 

「あ、兄上」

「サラまで……」

(タイミング良すぎでしょ……)

 

 

 そう思いながら事後処理を見届けるのであった。

 

 

 



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テスト勉強

 さて、バリアハートの実習から早くも数週間。あの後の事はルーファス・アルバレアの介入によりあっという間に片付いた。ユーシスとマキアスの件も片付いたし大丈夫……と思ったら、今度は元猟兵と明かしたフィーとラウラが少しよろしくない感じに。理由は大体分かるが、今は気にしている余裕はなかった。何故なら……。

 

 

「さぁ明日から中間テストよ。頑張ってねみんな」

 

 

 素晴らしい笑顔を私達に向けるサラ。そう明日から中間テストが始まる。なぜサラが笑顔なのかが気になりが放って置こう。で、テストの事だが私は特に問題ない。きちんとノート取ってるし、テスト対策用ノートもあるし、実は殆ど勉強することなく、入試テストの順位が5位だったりする。

 

 

(ま、あの時は仕方ないね。オリビエが悪い)

 

 

 よもや話の次の日が入試何て思っても無かった。ある程度の知識は納めているけど専門は数学と導力工学関係や戦術。苦手は分野は無いけど士官学院だ。ある程度は勉強してから挑みたかった。

 

 

「それじゃあ頼んだわよみんな。無茶をしない程度に」

 

 

 ホームルームが終わり私は教室を出ようとするがアリサに捕まってしまいテストの話をすることに。話を聞くと意外と皆は苦手な教科や不安な教科があるらしい。それぞれ補うようにペアでテスト勉強をするようだ。

 

 

「リアはどう?不安な教科はある?」

「残念ながらなかったり。暗記系は一度見たら覚えるし、数学は得意分野。軍事学は戦術を組むうえで必須。帝国史はある人に叩きこまれてるから復習の必要はないかな。時事問題も情報は入ってくるし」

「さり気無くえげつないこと言ってるわね。まぁいいわ。聞きたい事があったら後で訪ねるかも」

「ふふ。アリサなら大歓迎。じゃ行くね」

 

 

 皆より先に退室。そのまま学生寮に戻ろうとした時、背後から冷たい殺気を感じ取り振り返ると、そこにはニコニコと微笑んでいるアンゼリカが居た。

 

 

「やぁアリア君。少しいいかな?」

「なんでしょうログナー先輩?」

「なに。君にしか頼めないことがあってね。生徒会室に来てくれるかな?」

「はぁ……いいですよ(クロウだね絶対)」

 

 

 というかログナ―さんが来た時点でそれしかないのだが。取り合えず行こう。ログナーさんの後を付いて行き生徒会室に入ると、中ではとても素晴らしい笑みを浮かべて仕事してる会長と、その前で顔を真っ青にしたクロウが立っていた。

 

 

「アリア君を連れてきたよトワ」

「ありがとうアンちゃん。アリアちゃんもごめんね」

「いいですよ会長。何かありました?」

「うん。クロウ君に勉強を教えて欲しいんだ」

「……は?」

 

 

 何を言ってるんだこの人?と思いかけたが、トワから去年のクロウの単位を見て納得。この馬鹿、仕込みと遊び惚けて勉強を全くしていなかった。さらに話しによれば留年危機だったらしい。

 

 

「で。私達は言っても無駄だから幼馴染に頼もうって。サラ教官から色々聞いたから」

「あの酒飲み野郎……。それは良いですけど、何で勉強しないの?最低限しないといけないじゃない」

「それは分かってるが面倒だ。それに……」  

 

 

 クロウはこちらに向き、ドヤ顔で言った。

 

 

「何かあったら面倒見てくれるだろ?」

「「「……」」」

 

 

 よし。今すぐにこの男を締めあげよう。裏側では色々と面倒を見てあげるけど表は別だ。自分から士官学院に入ったんだから最後まできちんと成し遂げないと。

 

 

「ん?どうしたアリア?何かマズイ事言ったか?」

「……会長。少しこの馬鹿借りますね。後絶対に10位以内に入れるので」

「うん宜しく。あまりやり過ぎないようにね」

「え?どうした?何でそんなに怒って……」

「い・く・よ?」

「お、おぅ……」

 

 

 少し怯えているクロウの腕を掴んで学生寮に。まだ誰も戻ってきていないようで都合がいい。部屋へと戻りさぁ勉強……と行きたかったが、部屋の中に大きな怪しい箱があり、中からここに居るはずの無い気配を感じ取る。

 

 

「ん?何だこの箱は?でかいな」

「……ちょっと待ってて」

 

 

 私は机に向かいガムテープを取り出して端末の電源の入れる。今からある人物に連絡を入れる。あの大きな箱を送り届けてもらう為に。

 

 

「さてと。送り先はリベールのロレントっと」

「リベール?何でそんなところに?」

「何でって?だって私に連絡を入れずに勝手に来る悪い子だから」

「悪い子って……え?」

 

 

 クロウは恐る恐る箱に手を伸ばすと、勢いよく開きクロウの顎に直撃。そのまま後頭部を壁に強打し意識を失ってしまった。思わず同情してしまったがまぁいいだろう。問題は中に入っていた子猫の方だ。

 

 

「全く……連絡を入れてって言ったるよねレン?」

「あら。荷物が送られて来るって紫電のお姉さんに聞かなかったかしら?」

「そんなこと聞いて……ARCUSにメッセージ?『昼頃に荷物来るらしいよー』あの酒飲み野郎……」

 

 

 相変らず抜け過ぎだろう。そんなんだから嫁ぎ先が見つからないんだろう。まぁいい、来てしまったのは仕方が無いし、取り合えず理由を聞くか。

 

 

「で。何しに来たの?」

「お姉ちゃんに送りもの。だけどまだ細かい調整がまだだから端末と工具借りてもいいかしら?」

「いいよ。どれぐらい滞在する?」

「うーん……1週間ぐらいかしら。結構大変だし」

 

 

 レンは入っていた箱の中から黒く細長い箱を取り出す。中を開けると、私が今使っている導力銃より一回り大きい導力銃と、その半分ぐらいの長さの黒い導力銃が分解されて入っていた。

 

 

「ふふ。ツァイス中央工房で開発している特殊導力銃を元にお姉ちゃん仕様にレンが一から開発した物」

「へぇ。それは嬉しいな。でもどうして?」

「ネットワーク構築のお礼と、お姉ちゃんサイトに色々と情報を投稿してるから」

「勝手に何を…… 全く。あまり騒がないように。サラには伝えて置くから。それと今からあの馬鹿と勉強するから邪魔しないで」

「分かったわ」

 

 

 レンが笑顔で答えて机に向かい、机の下に隠してある大きな工具箱を取り出して作業を始める。私は気絶いているクロウを叩き起こす。どうやら気絶する前の記憶が無いらしくレンが居て驚いたが私が事情説明し、ついでに説教する。

 

 

「いい?せめて赤点取らないで。君が馬鹿なのは知ってるから」

「んなこと言ってもレベル高いんだよ」

「じゃぁ何で入学できたの……」

 

 

 突っ込みたいが抑えよう。クロウは頑張れば出来るんだし、もっとやる気を出して欲しい。裏側も大変だけど、表側も頑張って欲しい。やれば出来る子なんだから。

 

 

「大変だけど頑張って。今年中にケリを付けるんでしょ。終わったら何でも付き合ってあげるから」

「……そうだな。わりぃ。苦労を掛ける」

「いいさ。当然私の私の夢にも付き合って貰うから」

「分かってる。全力で応援するぜ」

「じゃあ勉強。テスト範囲教えて」

(……仲良いわね本当に。付き合えばいいのに)

 

 

 テスト範囲を教えて貰い、ノートを見せて貰ったが案の定何も書いていなかったので、トワに連絡してノートの写しを転送してもらう。その時にトワと少し話をした時に、年齢云々の話になりつい年上とばらしてしまい、次から『遠慮しなくていいよ』と言われるのであった。

 

 

「じゃ軽くおさらいしながら予想問題作るから解いて」

「オーケーだ」

 

 

 テストに出そうで重要な個所を私なりに予想してクロウに教える。それと同時進行で端末に問題を作っていく。数学は数字を変えて少し応用問題に。時事問題は重要な出来事を纏める。導力工学は何が何でも暗記してもらおう。

 歴史はヴィータに叩きこまれているので80点以上は取れる。他の教科は平均点以上取れるように底上げ。クロウは頑張れば出来る男だから大丈夫。睡眠時間も2時間あれば問題ない。

 

 

「ん。重要な所はこんな所か。それじゃ問題作ったから解いて」

「おぅ(って教えながら片手でキーボード叩いてたよな。しかも画面見ずに)」

 

 

 端末の画面をクロウに向けて私は席を立とうとすると、目の前に紅茶の入ったマグカップが置かれるのと同時にレンが膝に座る。どうやら彼女の休憩みたいだ。

 

 

「ふぅ。それにしてもいい年なのに勉強も出来ないのね蒼のお兄さん」

「そ、そんな訳ねぇぞ。この問題は……次だ!」

 

 

 解けずに次の問題に行くクロウ。とても不安だ。回答を見た時に赤点以上あるだろうか。トワに大口叩いた以上は何とかしないと。

 

 

「因みにアリア。10位以内に入ったら何かしてくれるのか?」

「え?」

「え?じゃねぇよ。何かないと気合い入んねぇ」

「……」

 

 

 こういう所も昔から変わらない。いつまでも中身は子供なんだから。でもクロウの言う事も分かる。何か……何かか。

 

 

「……何して欲しい?」

「ちょっと待て。少し間があったよな今?」

(お姉ちゃんの意外な弱点よね。男心が分かっていないというか。そんなんだと彼氏出来ないわよ)

「んー……。少し考えるから問題解いてて」

 

 

 確か引き出しに観光地関係の雑誌が入っていた気がする。スフィアを動かして雑誌を引き出しから取り出し雑誌を開く。どこかいい所が無いか見て見るが定番ばかりで心が動かない。

 

 

「うーん。やっぱり自分で見つけた秘境の方がいいかな」

「その代わり命がけかしら」

「そうだね……」

 

 

 でも命がけで行くに値するだろう。何か所かピックアップをしておこう。朝から行けば夕方には帰って来れるだろうし。

 

 

「さて、私も勉強しますか」

「レンも作業に戻るわ」

 

 

 机に戻るレン。それからクロウに勉強を教えつつ私もテスト範囲の見直しを始めた。

 

 



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普通は難しい。

 中間テストは問題なく終了。正直な所ちょっと難しかったぐらいで苦戦はしなかった。因みにクロウは真っ白に燃え尽きているのをトワと確認した。それから一週間が経ち、テスト結果とクラス平均が張り出され見に行こうと思ったが、その前にクロウの結果を見に行くことに。

 

 

「えっとクロウは……ん?何かとても悔しがってる?」

 

 

 それだけ悪い結果だったのかと思い見ると、クロウの順位はⅪ位。結構いい結果……と思ったが、確かⅩ位以内でご褒美だったか。まぁいい。頑張ってたのは見てたし少しは飴を上げてもいいだろう。

 

 

「惜しいねクロウ。けど頑張ってたのは見てたから今度秘境デートしよっか」

「秘境デートって……まぁいいか。日にち……は来月の自由行動日で良いか。場所はどうする?」

「ん。それはこちらで決めて置く」

「了解。んでお前の結果は?」

「あぁ。今から見に行くよ」

 

 

 クロウと一緒に結果を見に行く。既に多くの人が張り出された紙の前にいて、今の位置からは全く見えないが、とても悔しそうにしているマッキーの姿が見える。これはもしかしてエマがトップか。流石に私がトップなわけないから。

 

 

「ここに居たのねリア。Ⅰ位おめでとう。しかも満点じゃない」

「え?満点?」

「取り合えず見に行こうぜ」

 

 

 生徒の間を通り抜け張り紙の前に。自分の名前を探すと、一番上に私の名前はあり、その下にマッキーとエマの名前があった。そして点数は1000点と全部満点だった。

 

 

「思わぬところに伏兵が……」

「まさか満点を叩きだすなんて……」

「……(逃げよう)」

 

 

 とても嫌な予感がした私はクロウとアリサに一言言って逃げた。きっとよからぬことが起きるはず。ただの学生である私は基本的に首を突っ込まない。当然だが執行者の私も裏稼業の私も。だから今目の前で起きている私達の実技試験なのにもかかわらず、何故かパトリックと取り巻き一行とリィン達の対人訓練とか私の知った事ではない。

 

 

(士官学院のレベルって結構高い筈なんだけど。どうして満点……)

 

 

 手を抜いたわけではないし、本気でやった訳ないのだけど。暫く普通に学生を楽しもう。今回は偶然だ偶然。

 などと思っていると、グラウンドの方からパトリックの罵声が響き渡る。そんな事私はどうでもいいし、リィン達に何か言ってるけど私に気にしない。この程度は学生生活では日常茶飯事……。

 

 

「特に貴様が一番気に食わん!」

「……ん?」

 

 

 おや?パトリックが私の方に指を指している。一体何か彼にしただろうか?思い当たる事はないしそもそも会う事がない。彼のお父さんとも面識ないし。

 

 

「貴様が傭兵まがいの事をしている事を僕は知ってるんだぞ!汚らわしい女が学年一位など認めるか!どういった方法で士官学院に入ったのか知らんが、貴様のような奴が居たら士官学院の評価が下がる!」

「……(め、めんどくさ……)」

 

 

 どうやって裏稼業の事を知ったのかは知らないけど、とにかくめんどくさい人だという事は分かった。こういう相手はあまり気にしない方が良いし無視するのが最善だ。リィン達との決着はついているし、早急に教室に戻って貰おう。

 

 

「ねぇサラ。もう実技試験は終わってるよね?彼らもそろそろ戻らないと匣眼鏡……じゃなくてトマス教官にお説教されるけど?」

「え?あぁそうね。貴方達戻りなさい。今回の敗因を貴方達の実技試験の課題にするから。そこの君達もよ」

 

 

 グラウンドの入口にいた2人の女子生徒もにも伝えるサラ。しかしパトリックは納得していない様子で私を睨んでから校舎へと戻って行く。問題はこの後だろうか。パトリックが言った事がリィン達は気になるようで私の方を見てくる。ここは少し説明するか。

 

 

「パトリックの言った事は気にしなくていい。半分正解で半分間違い。確かに傭兵に近いことはしてるけど今は休職中。あぁサイト自体は活動中だけど皆が思っているような穢れ仕事は引き受けてない。どちらかと言えば遊撃士よりかな。そうだよねサラ?」

「だとしても違法ギリギリじゃない。頻繁にギルドとやりあってるし、アンタの幼馴染も心配してるわよ。連中が許せないのは分かるけどやり方あるって」

「それを言われたら何も言えないかな」

 

 

 もう1人の幼馴染。その子は故郷で遊撃士を務めている。しかもA級昇格も近いとか。お互いの立場上簡単に行かないけど、基本的には仲良くやっている。そろそろ連絡取って置こう。

 

 

「そういう訳だから気にしないで……って言う方が無理だけど、皆色々言われたみたいだし、次言われないように今回以上の成績残そうよ」

「……まぁ」

「確かにそうだけど……」

「ふん。一理あるか」

 

 

 ひとまずなんとかなりそうかな。気になれば個人的に聞いてくるだろうし。しかし貴族派の情報網も侮れないな。サイトへのアクセス手段を限定しておこう。

 

 

「さて。色々とあったけど次の実習地を発表するわ」

 

 

 見慣れた紙を取り出すサラ。次の実習地か。今までの場所を考えると次も中々手応えありそうだ。クロウ達もそろそろ動き出すだろうし、八合わないように気を付けよう。ただでさえ学生寮に面倒なメイドが来ているし。

 

 

「はいリア。貴方の分」

「ん。ありがとう」

 

 

 アリサから紙を受け取り内容を確認。私は再びA班で向かうのはノルド高原。メンバーはリィン・アリサ・エマ・ガイウス・ユーシスと私。前回とは違うが再び6人編成で残りのエリオット・マキアス・フィー・ラウラはブリオニア島だった。

 

 

(ノ、ノルド……)

 

 

 あぁ、よもやノルド高原とは。これはまた大変な事になりそうだ。何処までオリビエとの約束を守れるか。仕方ない。幼馴染に連絡入れる予定だったし、裏で色々手を回すか。

 

 

「それじゃあ解散。頑張ってねみんな」

 

 

 いつも通りの締めくくりで実技試験が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 その日の夜。いつものように晩食とお風呂を済ませてから自室に戻り、私の机で作業を続けているレンにチョコケーキと紅茶を差し出してから端末を取り出してベットに座る。今からある人物に連絡を取る為、何時もレンと連絡とるのに使用しているアプリを開いて暫く待つこと数分。モニターに金髪の令嬢の顔が姿を現した。

 

 

『あら。珍しく端末が鳴ったと思えば珍しい顔が現れたね』

「いきなり酷いねリディア」

 

 

 溜息交じりに返答。彼女の名前はリディア。クロウと同じ幼馴染で遊撃士。今は故郷ジュライを拠点にしているB級遊撃士である。

 

 

『で?私に連絡したという事はついに結社から足を洗って私の相棒……遊撃士になる覚悟が出来たのね。貴女なら最低でもB級待遇で迎えてくれる。むしろA級でも……』

「こらこら。今はその話はいいから」

 

 

 隙あれば勧誘してくる幼馴染。勿論これからの進路を考えると決してない話ではない。むしろ有りだと思っている。私の身に何かあれば幼馴染と妹に泣かれるから。

 

 

『クロウはどう?学院生活頑張ってる?』

「それなりに。でも成績が危ないみたいでね。いい加減な所は昔から変わらない」

『アイツに行っても無駄。子供の頃私達がどんな目に合ったか」

「確かに。僕……っと。行けない。昔の癖が出てしまった」

 

 

 クロウもそうだが彼女と話をしていると昔に戻ってしまう。色々あったけどそれだけ充実していたか、あの頃の地獄を彼等が消してくれたか。とにかく、今の私がいるのは、ジュライを出ていった私達を見つけようと遊撃士になり本当に見つけた彼女のお陰。レオンハルトとレン、そしてリディア。いろんな人達が背中を押してくれたからだ。

 

 

『さて。そろそろ本題かな?要件は何?デートのお誘い?』

「残念。デートは来月クロウと。貴女に頼みたいのはジンさん達に一言連絡して欲しい。面倒な事を起こすからね」

『身内なら止めようとして。言っておくけど私は認めて無いからね。クロウの想いは分かるけど、やり過ぎだと判断したら絶対に止めるから。リアは無理だけどクロウは止めれるから』

「分かってる。その為に私がいるんだから。福音の時みたいな事にはさせない」

 

 

 あの時と同じ思いはしない。今の所暴走しそうなのはカイエン公か。目を光らせて置けば問題無いだろう。私とヴィータの裏は簡単には付けないだろうし。

 

 

「そういう訳だから一つお願い。実は……」

 

 

 特別実習の行き先と大まかな計画について話す。私の立ち位置はリディアは知っているので、追いそれ簡単には首を突っ込めない事を知っている。その上である程度動けるリディアに頼むという訳だ。

 

 

『成程。それは大変だ。ただでさえ共和国と帝国の間だし簡単には介入出来ないけど、問題が発生したら話は別。了解。こっちでも動くよ。ジュライも少し落ち着いてるし、おば様の宿も手伝いも無いからね』

「ありがと……って、宿手伝ってるんだ?もしかして私の事言った?」

『秘密。クロウが馬鹿やってることは話したかな。というか今凄い人気だよ。ジュライで一番大きいし、宿泊者も多い。時間があれば様子を見に行ったら?後ろで爆睡している天才は一応区切り付けたんでしょ?』

「……まぁね」

 

 

 エステルやヨシュアのお陰でレンは過去と区切りを付けて新しい家族と前に進んでいる。時折こっそりと様子を見に行っているようだし。それを思うと私もそろそろ一歩進むべきだろう。パパは兎も角ママはジュライで宿の女将を務めてるし私の事をリディアが話しているのを知っている。

 

 

『ま、どのみち全部終わったらジュライに強制帰還だけどね?問題山済みだし』

「分かってる。でも私だって忙しいからね。孤児院への資金等支援で」

『本当に優しいね。自分と同じ思いを子供達にして欲しくないから貧しい孤児院とか支援して。出来る事ならその辺りで私達と衝突して欲しくないけど』

「それはごめん……っと。もう遅いね。また連絡する」

『了解。クロウによろしくね親友。お休み』

 

 

 リディアは微笑み通信が切れる。さて、根回しは終わったし次はレンかな?そろそろワタシの所に来た本当の理由を聞かないと。

 

 

(大方誰かと喧嘩……いや考えにくいか)

 

 

 理由を考えながらマントを手に取りレンにかけようとすると、何やら寝言が聞こえてくる。

 

 

「お姉ちゃん……行かないで……」

「……レン?」

 

 

 か弱い声でレンは言った。しかも涙を一粒流して。何か悪い夢でも見ているのだろうか?お姉ちゃん……恐らく私で『行かないで』って事はもしかしていなくなる夢?ルシオラの占いも不吉だったし……。

 

 

「行くかリベール……」

 

 

 特別実習の前に片付けないといけないことが出来たのだった。

 

 



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いざリベールへ

 朝早く。いつもの私服に着替えた私はサラと、アリサを追いかけてきたシャロン・クルーガーに一言言ってから帝都に。ここからリベール行きの飛空艇……ではなくジョゼットの山猫号に乗ってリベールへ。勿論お礼に私が作った苺のタルトを作って渡している。ヨシュア達にもう少し豪華な物を。そんな感じでリベールへと向かっているのだが少し時間が掛かりそうなのでジョゼットとお話をしていた。

 

 

「成程ね。それで事情を聞きにリベールに行くのか」

「そう言う事。因みに誰にも言ってないから楽しい事になりそう」

 

 

 リベールには伝えていない。その方が楽しいから。今からでも目に浮かぶよ。エステルが叫びながら驚く姿を。

 

 

「どれぐらいかかりそう?」

「あと5分ぐらいかな。ゆっくりしてて」

 

 

 定位置に着くジョゼット。私は甲板に移動して風に当たる。基本的に転移での移動が基本の私にとって飛空艇の風は滅多に感じ取れない。特に山猫号は珍しいタイプだから尚の事だ。

 

 

「アンゼリカが持っている導力バイクも中々よさそうだね。製品化したらアリサに値だってみようか」

 

 

 出来る事ならタダで……は無理かな。予想だけど買った値段より改造費の方がかかりそう。お金はそれなりに持ってるけど改造費って馬鹿にならないし……。入手手段も非合法だしね。

 

 

『アリア。そろそろ到着するよ』

「おっと。もう到着か」

 

 

 船内に戻り数分。山猫号が着陸し、ジョゼットにお礼を言ってから首都グランセルへ。クローゼさんに挨拶をしたいけどそれは後。周囲に誰もいない場所に移動して転移術でロレントにあるヨシュアの家の前に転移する。

 

 

「おや?人の気配がしない」

 

 

 という事は誰もいないのか。これはギルドの支部に顔を出す必要がある。ロレント支部か。これならオリビエを連れてくるべきだったかな?色々と黒い歴史が復活するだろう。丁度いい薬だ。

 

 

「あれぇ?リアさん?」

「あ……エステルさん?」

 

 

 背後からツインテールの女性……エステル・ブライトに声を掛けられる。手に紙袋を持っている所を見ると買い物帰りだろうか。だけどタイミングとしては丁度良かった。

 

 

「おはようエステルさん。今日は休み?」

「うん。ヨシュアは用事があってツァイスにいるわ。どうしたのいきなり?確か士官学院に通ってるよね?今の時間は授業中だと思うけど?」

「今日と明日は休みを貰ってる。少し聞きたい事があって。出来ればヨシュアやティータも居てくれると嬉しい」

「もしかしてレン……しかいないわね。いきなり荷物を持って出ていったと思えば……」

 

 

 エステルのこの様子。どうやらレンは誰にも言わずに飛び出していったようだ。レンにしては珍しい行動だろう。

 

 

(行かないで……か)

 

 

 ルシオラの占い。レンが見た夢。とても嫌な予感がする。占いはあくまでも占い。当たる確率は知れているが、彼女の占いは予知の様な物だ。確実に当たると言った方がいい。少なくとも私は外れた頃が無いからだ。

 

 

「取り合えずあの2人に会いに行こうか。あたしも今から行く予定だし。ちょっと待ってて」

「あ、うん」

 

 

 家に入って行くエステル。少し待つと愛用の棒と一緒に姿を現し、ツァイスに向かう前にロレント支部に。あちらに向かう事を伝えるようだ。私は入るわけにはいかないので外で待っていたのだが、ここに思いがけない人物が姿を現すのだった。

 

 

「え?リア?」

「んっ!?」

 

 

 聞き覚えのある声に体が反応する。間違いないこの声はつい先日聞いたもの。すなわち……あぁ声のする方向を向きたくない。だから反対方向に向こうとしたのだが、勿論彼女はそれを許してくれる筈も無かった。

 

 

「こっち向きなさい幼馴染。学生の貴女がどうしてここにいるのかしら?」

「さ、さぁ?何でだろうねリディア?」

 

 

 ニコニコと微笑みながら近づいてくる幼馴染・リディア。どうして彼女がここに居るのだろうと考えたが、思い当たる人物など一人しかいない。帰ったら〆よう。

 

 

「取り合えず挨拶してくる。リアは待ってるように」

「……分かってる」

 

 

 リディアも支部に入り私は外で待つこと数分。揃って支部から出て来る2人。しかも数件の依頼を引っ提げて。ひとまずそちらを片付けてから向かうべきだろう。

 

 

「依頼はあたしが片付けるからリディアさんとアリアさんは先に向かってて」

「オッケー。行くよリア」

「了解。後で落ち合おう」

 

 

 エステルと別れて空港に。ツァイス行きの飛空艇に乗って向かう。到着までに時間があるので再び甲板に出て外の風を感じ取る。

 

 

「山猫号とはまた違った風。良い感じ」

 

 

 リベールは緑豊な国だから風がとても良い。優しい感じがする。帝国は強く意思を感じるからあまり好きではない。

 

 

「いい風だねリア。子供の頃に街道を翔けた事を思い出すね」

「一体いつの話しだが。もうあの頃には戻れない。僕の体は……っと。行けない、気が抜けている」

「いい傾向よ。もう少し肩の力を抜かないと。別に私達の前ぐらい昔でいいじゃない」

「リディア……。でも私は……」

 

 

 彼女の優しさが辛い。でもとても救われる。今の私を動かす心の支えの一つだから。その優しさに私は答えて守り抜く。レオンハルトとの約束だから。

 

 

「リア。私の知っている貴女は正義の死神。弱い子供達に手を差し伸べる格好いい死神で優しい女性。子供の頃から何も変わらないね」

「そうさせたのはどこぞの馬鹿クロウと世話焼きリディアかな?僕が居ないとダメなんだから」

「それは今も同じじゃない?特にクロウは。試験勉強もそうだし、例の騎神の準起動者になって欲しいって頼むぐらいだし」

 

 

 確かにそうかもしれない。小父さんの件があったとは言っても根は変わらない。覚悟を決めて変わったとは言っても幼馴染には筒抜けだ。

 

 

「リア。≪剣帝≫と同じ道に進んだらダメだから」

「善処する」

「そこは分かったでしょ?」

「あうっ」

 

 

 右頬を引っ張られる。意外に力が強いリディア。これがあるから私もクロウも逆らえないのだろう。いつかまた3人で馬鹿な事が出来るのだろうか。子供の頃と、レンやレオンハルトと過ごした日のように。

 

 

「分かったからリディア。そろそろ到着するし勘弁して」

「ん。じゃあ戻ろう」

 

 

 飛空艇内に戻り着席。暫くして飛空艇が着陸し、私達はツァイス内に入ったと同時だった。空港の入口にいたティータ・ラッセルに声を掛けられたのは。

 

 

「こんにちはリアさん。レディアさん。お久しぶりです」

「ティータ?久しぶりだね。身長伸びた?」

 

 

 以前見た時より少し身長が伸びたような気がしてティータの頭を撫でる。彼女は頬を赤めて照れていた。こういう反応はレンと共通しているからついつい撫でてしまう。

 

 

「あ、あぅ……」

「こらこら。そうやって犠牲者を増やさない」

 

 

 後頭部にいいチョップを叩きこんでくるリディア。中々いい角度だ。さて、時間も限られている事だし要件を話してしまおう。私はティータにレンが私の所にいる事と朝の事を話す。

 

 

「という訳でね。何か知ってる?」

「うーん……最近はあまり会っていなくて。作業に没頭してるのは知っていますけど。まさか帝国に居たなんて。多分リューズちゃんも知らないと思います」

「そっか。ヨシュアなら知ってるかな?」

「お兄ちゃんも知らないかも。会って聞いてみましょう。レイストン要塞に居ますよ」

「ん。んじゃ行こうか」

 

 

 ツァイスを出てレイストン要塞へと向かう。要塞の入口には1人の兵士がいたので事情を説明し、リディアが遊撃士手帳を見せたので、ヨシュアのいる演習場へと案内してもらうと、演習場にはヨシュア以外にユリア大尉とシード大佐、そしてカシウス・ブライトが居た。

 

 

「少将。お客人をお連れしました」

「客?今日はヨシュア以外来ない筈……む」

「え?リア?」

 

 

 私を見て驚くヨシュアと警戒するカシウス・ブライト。私は敵意が無い事を伝えるが、警戒を解く筈がないので、ヨシュアにリベールに来た事情を伝える。

 

 

「という訳でね。事情を聞きに来たんだ」

「そっか……やっぱりリアの所か。忙しいのに済まない」

「いいよ。可愛い妹分の為だから。その様子だと事情を知ってそうだね。待ってるから用事を済ませなよ。その辺でリディアと軽く模擬戦してるから」

「ふふ……良いわよ。こちらは気にしなくていいわヨシュア」

「大丈夫。用事は終わってるから。それに……父さん。丁度いいと思うけど?」

 

 

 意味深な言葉を言うヨシュア。カシウス・ブライトは少し考えてから小さく頷き言った。

 

 

「ふむ。確か君はオリヴァルト皇子に協力していると彼から聞いている。1つ頼みを聞いてくれないか?」

「仕事の依頼ならサイトを通じて。内容次第だけど」

「こら。ごめんなさいカシウスさん。何でも引き受けるので」

「助かる。頼みというのはユリアとシード。2人と模擬戦をして欲しい」

 

 

 模擬戦……これはまた面倒な事を頼んできたものだ。ヨシュアとエステルに頼めばいいのだが、あのカシウス・ブライトの事だ。きっと色々考えているはずだ。乗っかかるのは嫌だが断るのも勿体ない。

 

 

「いいよ。レンが世話になってるし。リディア」

「了解。お二方もいいかな?」

「あぁ。こちらは何時でも構わない」

「胸を借りる。アリア殿にリディア殿」

 

 

 そんな訳でユリアとシード。二人と模擬戦をすることになったのだ。



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親友との約束

「それじゃあ始めようか。ARUSUは行けるリディア?」

「勿論。背中は任せて」

 

 

 リディアと戦術リンクを結び彼女は銀色のガンブレードを2本取り出し構える。彼女の得物はガンブレードで近距離から遠距離までこなすオールラウンダーだ。

 

 

「ほぅ。腕を上げたようだなリディア。それにそれは……」

「えぇ。帝国で開発された第五世代の戦術オーブメント。あまり出回っていませんが、少しずつ普及しています」

「んじゃ。久し振りに起こすか」

 

 

 後ろ腰に携えている魔剣を抜き封印を解除する。それにより銀色の刀身は赤く染まり柄が黒く染まる。魔剣・ディスキャリバーの封印を解除した第一形態だ。

 

 

「あら珍しい。人外相手には原則解放しないって言ってなかった?」

「時と場合。さぁ行くよ。そちらの2人もいいかな?」

「勿論だ。よろしく頼む」

「胸を借りさせていただく」

 

 

 獲物を抜く2人。ユリアが細剣でシードが太刀。2人とも接近型だが、今まで戦ってきた剣士の型に嵌めるのは良くないだろう。まぁ……基本的な部分は共通しているから問題は無いかな。

 

 

「では……始め!」

 

 

 カシウス・ブライトの号令と同時に黒い影を纏いながら急接近。超高速で切り抜ける。

 

 

「ぐっ」

「っぅ!?」

 

 

 膝が崩れる2人。そこを逃さずリディアが2人の足元に煙弾を放ち2人を覆って視界を奪う。当然だがこちらも中の2人の場所は分からない。普通に見ていたらだけど。

 

 

「3時の方向。角度は15度の位置にお願い」

「ラジャ」

 

 

 指示を出した方向に銃弾を放つリディア。『ガキン』とユリアのレイピアが上へと弾かれたのを確認して煙幕に潜入。流れるような一撃でユリアを斬り伏せながらシードにも一撃入れて煙幕から退散する。

 

 

「ちぃ!」

 

 

 シードが剣風で煙幕を切り払い二人の視界が良好になったところをリディアが逃さず魔法弾を放つ。シードとユリアは瞬時に防御したところを私が逃さない。

 

 

「隙あり」

 

 

 シードとユリアの腹部に一発ずつ蹴りをいれて分散。私はそのままユリアの方へと向かって一撃、二擊と繰り出す。ユリアは上手く防ぐけどやや遅い。私はそこに漬け込んで三擊目で彼女の剣と上体を後ろに反らす。

 

 

「しまったっ!」

「こいつはおまけ!」

 

 

 隙だらけの腹部にヴァルターから奪った正拳突きを喰らわせてユリアをダウンさせる。実際に経験してるから分かるが、威力を押さえても急所に当たればかなりのダメージになる。

 

 

「次は……」

「来てるよリア!」

 

 

 私に急接近してる来るシード。刀が鞘に収まっていると言うことは抜刀術。紅葉斬りか残月のどちらか。構えの僅かな違いから前者だと予測する。

 

 

「とった!」

「…っ!」

 

 

 鞘から刀が抜かれる。それと同時に私は後ろに下がりながら気付かれないように剣に魔力を集約し、振り上げようとした時だ。

 

 

「止まれシード!」

「!?」

 

 

 カシウスの声で急停止と同時に剣を振り上げる。彼の声のお陰でディスキャリバーの先がシードの顎を掠めるだけで済んだ。

 

 

「惜しい。止まらなかったら大怪我だったのに」

(全くあの子は……)

「で?まだやる?正直私の為にならない手合わせだけど。個人的に准将とやりたいしね」

 

 

 軽くカシウスに殺気を飛ばすが彼は顔色を変えず、むしろ笑って受け流した。流石に乗ってこないかな。お互い似たような戦い方をするから楽しいと思ったけど。

 

 

「残念。ならここまででいいかな?私も暇では無いから」

「そうだな。ヨシュア、後の事はこちらに任せて話をしてくると言い」

「分かった父さん。支部に戻ろうかリア」

「ん。リディアも来て。あとシェラさんも呼んで欲しい」

「うん。分かった」

 

 

 後の事をカシウスに任せてヨシュア達と一緒に支部へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 要塞からツァイスへと戻りエステルとシェラさんと合流。軽く挨拶し、支部の空き部屋でシェラさんに占ってもらう事に。

 

 

「で?何を占って欲しい訳?」

「私…ではなくリディアを占って欲しい。これから先の事を」

「何で私なのよ……」

「まぁまぁ。頼めるかな?」

「任せなさい」

 

 

 シェラさんはタロットを取り出す。これは中々本格的だね。さて……私は後ろを向いておこう。水筒に入れてある紅茶を飲んで一息ついていると、後ろからあまりよくない気配が漂ってくる。

 

 

(嫌な予感……)

 

 

 そう思っていると肩に手を置かれる。振り返ると超深刻な顔を浮かべたリディアがいた。その顔を見て子供の頃に秘密基地で会談話をしたことを思い出す。クロウが面白がってからかったんだよね。ぶっ飛ばされたけど。

 

 

「リア……1ついい?」

「ん?どうしたの?」

 

 

 彼女の顔を覗き込むと、リディアは勢いよく抱き付いてくる。しっかりと両腕を首に回して離さない。この抱きしめ方は、リディアが私を見つけた時と同じだった。

 

 

「今すぐ結社を抜けて。仕事辞めろまでは言わないから。貴女のお陰で数多の脛にキズがある人が救われている事は私も教会も知ってるから」

「……リディアも私と同じか。大丈夫。あくまでも執行者とナンバーは後ろ盾だからいつでも抜けれる。レオンハルトもレンも居ないし、先生には恩も返したし。でももう少し待って。私達の幼馴染が頑張ってるから」

「それは分かってるけど!死んだら意味無いんだよ!?」

「そうだね。でも未来は変わるから」

 

 

 リディアの頭を優しく撫でる。落ち着かせるように背中も撫でると、リディアは小さく溜息を付いてから離れる。その時にちらっとタロットの配置を見て納得。レンが私の元に来た理由も。

 

 

「……帰るよ私。帰ってレンに『大丈夫』って言ってくる」

「それが良いね。早めに買ってくるように伝えて置いてリア。リューズも心配してるって」

「分かった。今日は有難う皆。リディアも今度埋め合わせするから」

「うん。無茶しないでね」

 

 

 リディアの頬を軽く撫でてから帝国へと戻る出会った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 その日の夕方。予定より早く学生寮へと戻り自室に戻ったのだが、部屋の中には誰もいない。レンが調整していた導力銃も無い所を見ると外かな。シャロンの気配は寮の中にいる。ちょっと探しに行くか。

 戻った事をシャロンに伝えて再び外に。気配を探っていると、街道から気配を感じ取り向かう。途中魔獣に襲われるが正確に脳天を撃ち抜き仕留めると、少し開けた場所でクロウとレンが向かい合っていた。お互い得物を抜いて。

 

 

「……何してるの二人とも?特にクロウ。私の妹に何してるのかな?」

「げぇっ!?アリア!?俺は悪くねぇぞ。お前の妹がーーー」

「レンのせいにしないで!」

「うぉっ!?」

 

 

 容赦なくクロウの首を狙うレン。クロウは後ろに下がって回避し、レンはクロウの動きを観察しつつ追い詰めていく。しかしクロウは反撃する気配はなく私にレンを止めるように視線を送ってくる。だけど今のレンを私が止める訳にもいかない気もするのでクロウには頑張って貰う。

 

 

「蒼のお兄さんが居なかったらお姉ちゃんは死なないわ。そもそも貴女が危ない事してなければお姉ちゃんは結社を抜けてたはずよ!」

「んな事俺に言うな!それにアイツは執行者としてではなく親友として助けてくれてるんだろ!リディアだってそうだ!」

「煩い!」

 

 

 鎌を振り上げるレン。クロウは導力銃で防ぎつつ距離を取ってダブルセイバーの間合いで反撃。その反撃に対してレンは鎌で正面から受け止め、漆黒の導力銃を向ける。

 

 

「っ!?」

「貰ったわ!」

 

 

 迷うことなくレンは引き金を引くが、クロウは殺気と銃口の位置で弾道を読み回避。鎌を弾き返して後ろに下がる。

 

 

「あぶねぇなおい。危うく死ぬところだったぞ」

「お墓は作ってあげるかしら?レンは優しもの」

「何処が優しいんだよ。おい親友。どー言う事だよこれ。俺はお前の妹に何かしたか?」

「多分リディアと同じ占い。最悪ん配置で未来を変えるなら、私が計画から手を引くかクロウが死ぬかだって」

「そう言う事よ。次で決めるわ」

 

 

 レンの纏っている闘気が膨れ上がる。最後に会った時とカルバートでヴァン坊から聞いた時とは全然違う。どうやら一皮剥けた様だ。姉としては嬉しいが、今は喜ぶわけにはいかない。

 

 

「レン。未来は変わる。それに…『守るために生きろ』でしょ?」

「……あ。その言葉は……」

 

 

 空気が変わる。張り詰めた空気は無くなり、レンが纏っていた闘気も消えていく。これで落ち着いてくれたらいいが、一応止めを刺すために、レンを抱きしめる。

 

 

「あぅ」

「よしよし。お姉ちゃんは大丈夫。だから……今のお姉ちゃん達と仲良くして。私は大丈夫だから。大好きな親友達が居るから」

「!?」

「ん?どうかしたクロウ?」

 

 

 いきなり驚くクロウ。心配して声を掛けるが『問題ない』と手で合図してくる。何か不味い事でも言ったかな?頬も少し赤いし。

 

 

「という訳だから心配しないで」

「……」

「レン?」

「……分かったわ(お姉ちゃんて実は天然なの?蒼のお兄さんも意識してるし)」

「よし。じゃあチケット取ってるから夕方の便で帰ってね?」

「……え?」

 

 

 チケットを見せながら言うと、レンはこの世の終わりのような顔を浮かべながらチケットの時刻を見て、顔を真っ青にしながら学生寮へと走って行った。仕返し大成功。こっそり来たからこれぐらいはやり返さないとね。

 

 

「なぁ…アリア。さっきの大好きな親友って…誰の事?」

「そんなこと言ったっけ?」

「言ってた。お前の親友ってなれば相当絞れるぞ。リディアは当然としてブライト姉弟。レンやティータと……」

「そこで自分入れないんだね」

 

 

 普段とは違う笑みをクロウに向ける。すると彼の表情が少し変わった。どこか懐かしんでいるような表情だ。おっと……少し気が緩み過ぎかな。

 

 

「帰るよクロウ。今週末特別実習だから準備しないと。あの銃も細かい調整しないとね」

「……おぅ(はぐらかされたか)」

 

 

 クロウと一緒にトリスタへと戻った。因みに次の日に学校を休んだバチがあったのか風邪をひき特別実習に行けなかったのは別の話しである。

 

 



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