青の補色は橙色らしい (E.y)
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衝動的行動はおおよそ上手くいかない

ほぼ処女作、衝動的な書き込み、サブタイが全てを語ってくれている


私はドクターと呼称される人間だ、ロドス・アイランドと呼ばれる製薬会社で働いている。

その業務は大きく2つ、移動拠点ロドス全体の管理と、感染者に関わるあらゆる問題解決の指揮を取ること

後者の中には武力衝突に発展するものもある、というよりはそれがメインと言っても差し支えない、実際警備会社のように輸送等の護衛任務を受けることも珍しい事ではないからだ。

だからこそ、ドクターとして円滑な指揮を取るために、戦力となるオペレーター達とコミュニケーションをとり、オペレーター達を知り、信頼を勝ち取らなければならない。

なればこそ、オペレーターの声を覚えているなど当たり前のことである。

 

ーーーーー

 

「ドクター、ケルシー先生の所に書類を持っていきます。その間は休憩してても大丈夫ですよ。」

 

秘書であるアーミヤから声をかけられる、書類に没頭していた私だが、休憩という言葉に気を引かれ顔を上げた。

 

「それはいい!ついでにこのお金でケルシー先生の所にお茶菓子でも……」

「ド〜ク〜タ〜?その手には引っかかりませんよ!直ぐ戻ってきますからね!」

 

「冗談だよ、冗談」

 

「まったくもう!」

 

少し機嫌を損ねてしまったようだ、座りっぱなしだったし、立つついでにコーヒーでも淹れてゆっくりしていよう。

 

そう思った時だった、執務室のソファーに寄りかかる黒い影を目にしたのは

 

「誰だ、この時間に来客の予定は入れてないはずだが。」

「冷たいなぁ、アポ無しで来たのは謝るけどね。」

 

その声には聞き覚えがあった。

 

「モスティマか、また突然だな、どうせ艦内の通行証は発行してもらってないんだろ、待っててくれ、今……」

 

「いや、今その必要性はないよ、通行証ならもっと期間がながーい物をもらうから。」

 

どういうことだ?期間の長い通行証といえばロドスに勤務すれば貰えるものだが、モスティマはペンギン急便との契約対象外だし、もし契約するとしてもボスであるエンペラーから連絡ぐらい来るだろう。

おかしい、そういえば何故彼女はフードを下ろしていない……?

 

「本当に、お前はモスティマなのか」

 

「私は自分がモスティマだよ、なんて言った覚えはないな、そう、私はモスティマじゃぁない。」

 

言いながら彼女はフードを下ろし、こちらへ振り向いた、そこに居たのは角も光輪も翼もない、しかし間違いなくモスティマと同じ顔で、そして髪も目も、青ではなく、橙色をした誰かだった。

目の前の光景に目が離せなくなる、これは誰だ?モスティマと同じ顔、体型、声、なのに明確に彼女ではない……

 

「ドクターから離れて下さい!」

 

その声でようやくぼうっとした意識から戻ってきて、気がつけば彼女は、こちらの目を近くで覗き込んでいた。

 

「アーミヤ……いや、呼ぶならアーミヤ社長?アーミヤ社長、大丈夫だよ、私はドクターに危害を加えるつもりはないし、むしろその逆とも言えるね。」

 

「ならまずはドクターから離れて下さい……!話はそれからです!」

 

「おーけー、おーけー、これでいいかな?ゆっくり話そう、こちらとしても積もる話が……そんなにないけど、まぁ話してみたいことがここにはいっぱいあるんだ。」

 

そう言いながら彼女は両手を上げ、私から離れていった。

 

「ドクター、君にもね。」

 

ーーーーー

 

「私の名前は…実を言うとまだ無いんだ、思い出せないといった方がいいのかもしれないけどね?」

 

「それでは何故ロドスに来た、何故自分の名も思い出せない状況だというのにアーミヤ……はいいとしても、ドクターやモスティマのことを知っている、答えろ。」

 

乗り込む、という覚悟を決めていたはいい物の、その後をどうするかなど考えていなかった自分のノープランさにつくづく呆れている、おかげさまでこうしてドーベルマン教官から詰められてしまっていた、全てはこの軽い口が悪いのだ。

そもそも転生していきなり荒野に放り出されるのがおかしい、しかもこんな厄ネタ臭しかしない体にされるという始末。

口も悪い方向によく回るオプション付きだ、遠回しな言い方自体は元来のものなので自分を恨むしかないが。

 

「なに、レユニオンに襲われている人を助けた時、そう聞いたんだよ、声と顔が似てるサンクタみたいなサルカズみたいな青い人が居るとか、記憶喪失なドクターと呼ばれる指揮官が居るとか。」

 

これ自体は嘘ではない、このとき話を聞いたからこそ乗り込むこともできたのだから。

 

「ふん、では何故忍び込むような真似をした、何か後ろめたいことがあったのだろう?もうすでに何か細工したか?」

 

「そんなことはないよ、現に私は手ぶらだし……もしそうなら捕まるようなヘマは犯さない、入れたのに出れないなんて滑稽過ぎると思わないかい?

ここには単に、自分と同じ記憶喪失な人間が居て、ロドスでは多少経歴が怪しくても雇ってくれるって話を聞いたからさ、自慢じゃないけど、今の私には雨風凌ぐ手段も無くてね。」

 

「お前の言うことはどこまで本当か分からん、煙に巻くような遠回しな言い方は怪しいにも程が……」

 

そんな攻め立てる声はドアの開く音で中断された。

 

「もう大丈夫だ、ドーベルマン教官、彼女は監視と位置情報端末をつけて経過観察することで話が纏まった。」

 

「いいのですかケルシー先生、些か危険では。」

 

「問題ない、レッドを付ける、暫くここを離れる予定もないからな。」

 

え、レッドか……それはちょっと下手な動きできないなぁ、まぁもとよりする気もないんだけどね。

 

「今言ったことに依存はないな、もしあっても聞くかは別の問題だが。」

 

「いいや?ないですよ、ケルシー先生、こんな根無し草にありがとうございます。」

 

「ふん……ところで呼び名が無いのは面倒だ、とりあえず『オランジュ』とでも名乗っておけ、書類なんかもそれで通す、いいな」

 

「オランジュ……いい名前ですね、気に入りました。」

 

「ドーベルマン教官、端末にこいつの仮住居の場所を送る、案内してやれ」

 

「は、ただちに、ほら立て、私にも別の仕事がある。」

 

「もちろん、ついていくよ。」

 

一時はどうなるかと思ったけど、どうやら拾ってくれるようで安心したぁ……もし私ならまずこんな怪しいやつ舟に入れたり、ましてや仮住居を用意するなんて絶対しないだろうに。

ロドスの懐の広さには脱帽だ。

さて、明日はロドスを怪しまれない程度に探検しようかな、ゲーム画面で見るばかりだったあそこを歩けるなんて、今からとってもワクワクする……!




次はペン急書いてみたいな


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タスク管理は大体1つくらい忘れるもの

続いちゃった


さて、ドーベルマン教官から案内してもらって小一時間、とても視線を感じる。

原因は言わずもがなレッドだ、あの同族からやたら避けられる赤衣の暗殺者、観察と言っていたから何かされるわけでは無いだろうがとても落ち着かない。

しかし今はどこに行ってもこの視線がついて回るし、腰を落ち着けられるのもここしかない、だから寝る前に色々と状況を整理しておこう。

 

自分は地球生まれ日本育ちだ、アークナイツはほどほどに課金して楽しみ、理性回復剤の虜となっていた。

そして、ヘラグのじっちゃんが欲しいなぁ……と思いながら床につき、起きたらこの体で『テラ』の荒野だった、そう、テラだ、アークナイツの舞台にしてオリジニウムの起こす災害に振り回される、創作の中でもおおよそロクでもない部類に入る世界。

その後はここに来るまで大した時間は経っていない、精々一週間といったところだろうか、その間にここはどこなのか、何があり、どこへ行けばいいのかなどを助けた現地人に聞き、自分の力を理解し、心の情動が少なくなっている事を確認した。

 

最後の、心の情動だが、これはドクターとアーミヤに出会ったとき気づいた、もし地球にいた時のままの自分ならあの状況で、あれほどスラスラ言葉は出てこないだろう。というより、思い返せば助けるためとはいえ躊躇なく暴力を振るうことが出来たのもおかしい、地球では生まれてからそんな事をできた記憶はない。

 

それを踏まえて今後は……、とりあえずロドスの信頼を勝ち取ることが急務だ、それ以外には自分の力がどこまでできるかの検証、ロドス内で仕事を回してもらえるか、そういったところだろうか。

とりあえず今は寝よう、食事はともかく睡眠はテラに来てからほとんどしてない、レッドの視線も裏を返せば他の人間が滅多なことをできないというふうに考えれば、自然となんとも思わなくなってくる。

「おやすみなさい。」

 

レッドに向けて言ってみたあと、案の定帰ってこない声に苦笑しながら自分は床についた。

 

ーーーーー

 

「レッドに、気付いた…?いつから、もしかして、ずっと……?」

 

ーーーーー

 

『ピンポン、ピンポンピンポン、ピーンポーン』

 

この世界でも、呼び鈴の音は同じなのだなと、そう思いながら起床する。

備え付けの時計を見ればもう早めのお昼ご飯を取る時間だ……呼び鈴で呼ぼれているのだし、早く出た方がいいだろう。

 

『ピンポーン』

 

そこで思い出した、自分はモスティマに似ていることを、どのくらい似てるかといえばあのドクターが理解できなくて固まるレベルだ、他人の空似には無理がある、これは容姿を誤魔化す必要が有りそうだが……ここには容姿を誤魔化せそうな物はない、仕方ないから狸寝入りでも

 

『あーもう!居留守使おうったってそうは行かないんだから!テキサス!』

 

テキサス…???

 

『エクシア、流石に扉を壊すのは辞めた方が……』

 

エクシア……?????

 

『じゃあ私がやる!えーい!!!』

 

まずい!そう思ったときにはどう見ても正常な解除方法ではない電子錠つきの扉が勢い良く開け放たれた。

 

「あれ?モスティマ?……いない?」

 

ふぅ、なんとか隠れられたか、流石に布団に包まれば姿も見えないし、遮光カーテンもあるし、わかりにくいようベッドの隙間に入り込んだし、これならバレな

 

シャッ!グイグイ、ズルズル、ドン!

 

痛い……一瞬でバレたし引きずり出された、オオカミの特徴を持つループスには勝てなかったよ……。

 

「さーて!モスティマ!今回は色々と話を聞かせてもらうからね!おりゃあ!」

 

布団を引っぺがしたエクシアと、ついでにそれを見ていたテキサスが固まった。

 

「あはははは…お、おはよう?」

 

「え?モス…ティマ???輪っかは?!羽は?!角は?!っていうかなんでオレンジ色?!」

 

「いったい何が、というよりは本当にモスティマなのか?」

 

「勘がいいね、そう、私はモスティマじゃなくてオランジュって別人さ。」

 

そう打ち明けると同時に、暫くは他の人にも同じような反応をもらったりするのかなと思って若干げんなりする。

 

「え、でもテキサスは同じニオイだって……」

 

「同じとは言ってない、凄く似ているだけだ、しかし……別人とは思えない程に似てるな。」

 

「そうらしいね。」

 

まさかこんなに早くペン急組と出会うとは、ドクターにあらかじめ正体を隠す方法を相談しとくべきだった…!しかし好都合でもある、この二人に道を案内して貰おう、ちょうど案内役は欲しかったところだ。

 

「ところでお二人さん、ドクターの執務室ってどこにあるかわかるかい?昨日来たばっかりで道がわからないんだ。」

「モスティマと本当にそっくり……あ、道案内?いいよ!テキサスも用事は入ってないよね。」

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「なら、行こうか?」

 

ーーーーー

 

「正体を隠す方法?」

 

「うん、ドクター、このままだと質問攻めにあって大変だよ、私とモスティマって人には容姿が似てることしか同じところはないのにね。」

 

「一理はある…だが、正体を隠してその後モスティマと容姿が瓜ふたつとバレる方がもっと面倒だ、私もその時無駄な仕事にかかりきりにはなりたくない、アーミヤ、昨日言っていた件は?」

 

「はい、ドクター、朝の時点で各部署に通達しました、『モスティマさんと似た容姿の人をオペレーター候補としてロドスに滞在させています』と、血縁関係が無いことも直ぐに連絡します。」

 

アーミヤ社長がこちらを警戒しつつ教えてくれる、まぁいきなり危険な行動したからね、これからゆっくり信頼を築いていこう。

 

「昨日の時点で考えついていたとは、噂に聞いた通りの良い手腕だね。」

 

「そういうそちらは、容姿に似合わず詰めが甘い。」

 

「それはまぁ、私はモスティマじゃないからね。」

 

「……すまない、姿が似ているとつい別人の影を重ねてしまう。」

 

「気にしてないよ、もし悪かったと思うなら今度一緒にお茶でも飲まないかい?」

「ああ、もちろん。」

 

「それは良かった、ところで私はオペレーター候補な訳だけど、契約はいつできるかな?」

 

「まず検診を受けて、その後に実力を見てからだ、午後3時から検診を始める、道案内は外に居るオペレーターに頼んでおいた、少し時間はあるから、まずは食堂に行くといい。」

 

「あれ?エクシアとテキサスは?」

 

「あのお二方はケルシー先生に呼び出されていましたよ。」

 

そういえばエクシアはドアを壊していたな。

ケルシー先生のお叱りか……想像しただけでちょっと怖いね、機嫌はあまり損ねないようにしなくちゃ、手遅れかもしれないといえばそうかもしれないけどね。

 

「それじゃあ私はこの辺で、行くとするよ。」

 

外に待たせているオペレーターとは誰だろうか、検診と言っていたし医療オペレーターかもしれない、もしそうならフォリオプシスあたりには会ってみたいな。

 

ーーーーー

 

「やぁやぁ!お待ちしておりましたぞ!オランジュ殿!今回案内役を勤めさせていただく、Thermal-EXと申します!是非!サーマルとお呼びください!」

 

「よ、よろしく……。」

 

緑◯光かよ!!!!!




さて、Thermal-EX、いいですよね、出しちゃいました。
次話でセリフ考えるのが怖いです。


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知ってても傷つくことはある

一度書いたものを誤って消してしまった私「大丈夫、さっきまで書いてたから内容は覚えている!大丈夫!」
書き直した私「5割(消したやつと)違うわこれ!」


まさか案内役がサーマルだとは思わなかった、どういう意図なんだ……、まさか不審な行動をしたらまるごと吹き飛ばされるとか?

ないと思いたいがシエスタなんかのイベントだと、割とポンコツな選択肢出たりするし、ないとは言い切れないな。

 

「じゃあサーマル、食堂に案内してもらえるかな?」

 

「ええもちろん!私の熱い情熱にかけて!絶対に案内してみせましょう!」

 

暑苦しい、だがなんか声のおかげで許せる。CVって大事だな、今の私も水◯奈々ボイスだけど。

 

「そういえばサーマルは私とモスティマのこと、聞いてこないね?」

 

「おや、お聞きしたほうがよろしかったのですか?」

 

「いや、むしろ聞かないでくれて助かったよ、毎回決まった返しをするのは面倒だなぁとさっき思った所だから。」

 

「それならご安心を、皆様も深くオランジュ殿に聞いて来ることはないでしょうから!」

 

「そうかな、もしそうならやっぱり、人には踏み入れさせたくない領域が皆にもあるからなのかな?」

 

「もちろんそれもあるのでしょうが……ここはロドスです!様々な人が居るのですから、不思議なことなど日常茶飯事!というわけですな!」

 

それは確かに言えている、なんせ王族、社長、巫女、賞金稼ぎ、傭兵、暗殺者、占い師、警官に消防士……等々がいるのだ、不思議なことは起こって当たり前か。

 

「ありがとうサーマル、少し気が楽になったよ。」

 

「それは良かった!おっと、食堂に着きましたぞ!」

 

「おお、中々広いね、注文はあそこで?」

 

「ええ、そうですよ!では注文の間、私は席を取ってまいりましょう!」

 

さて、何を頼もう、食券売り場のメニューは中々多くて少し迷う、昼だし無難にパスタでいいかな。

 

「はい!ご注文はなんですか?」

 

「このペペロンチーノを頂けるかな?」

 

「ペペロンチーノなら作り置きがありますから直ぐに出せますよ!少しだけ待っててね!……ところで!アーミヤちゃんから聞いたオペレーター見習いさんって、あなただよね?こんにちは、私はグムっていうの!あなたの名前は?」

 

「オランジュっていうよ、ケルシー先生につけてもらった、……もしかして名前は通達されてない感じかい?」

 

「ううん、私があなたから直接名前を聞いてみたかったの!あ、こちらペペロンチーノです!これからよろしくね!オランジュさん!」

 

「うん、こちらこそよろしくね。」

 

元気いっぱいだな……こっちの話す隙が無い……でも、これでこのロドスにおいての生活は悪くないものだとわかった、イベントを知っている身としては、あそこまで元気なグムを見れてちょっと嬉しい。

 

さて、サーマルは……あそこだね。

 

「サーマル、席取りありがとう。」

 

「いえいえ!ああ、ドクター殿からオランジュ殿宛に連絡が届きましたぞ!どうやら急な共同作戦の依頼が来たようで、『実力は今日見せてもらう、検診が終わり次第訓練室へ来てくれ』と!いやはや、中々のハードスケジュールですな!」

 

「それはまた……疲れそうだ。」

 

実力を見せるのは少しだけ楽しみだったが、些か骨が折れるなぁ。

 

「よぉ!お前が昨日入ったっていう新入りかぁ?」

 

「……!そうだね、私はオランジュ、昨日からロドスでお世話になっているよ。」

 

「聞いた限りでも、これから大変そうじゃねぇか、これ、持っていきな。」

 

差し出されたチョコバーを手に取る、オーソドックスなカロリーが高そうな物だ、塩卵味ではなくてよかった……。

 

「おっと、自己紹介がまだだった、俺の名前はノイルホーン、重装オペレーターをしているぜ。」

 

「よろしく、ノイルホーン、このチョコバーは美味しくいただくとするよ。」

 

「おう!」

 

「ノイルホーン!訓練の時間だ。」

 

「おっと、ヤトウに呼ばれちまった、んじゃ!またな!」

 

「ええ、また。」

 

まさか、まさかここで推しに会えるとは、今はよく回る口に感謝だ、情動が少なくなっていても流石に推しには反応するらしい。

今日一日、頑張ろう。

 

「オランジュ殿?ペペロンチーノが冷めてしまいますよ!」

 

「うん、今食べるよ。」

 

ーーーーー

 

今日は昨日ロドスに乗り込んできたとかいう、たまにウチで術師オペレーターとして作戦に参加するやつに似た女を検診することになった、今目の前で大人しくしてるソイツは、とても大胆な行動で自分の身を危険に晒すようには見えねーが……。

 

「アタシはガヴィル、今日お前の検診をすることになった、オランジュ……で、いいんだよな?」

 

「ああ、今の所オランジュで通すつもりだよ。」

 

「よし、んじゃ早速だが、お前、自分が感染者かどうか分かるか?」

 

「多分……感染者だと思うが、ここに来るまで自分がどの種族なのかすら気にする余裕は無かったからね、確証は持てない。」

 

「ふーん、隣の部屋で着替えて、その部屋のベッドに寝転んでくれ、状態を見るだけだし、今回は滅多な事なきゃそれで終わりだ。」

 

「分かったよ。」

 

 

出てきた結果は、予想外の物だった、これは中々……いや、初めて見るものだ。

 

「まさかの病巣が背骨の中、そして内臓へ源石が進行せず、骨を伝う形で源石が広がろうとしている……レアケース中のレアケースだな、これは。」

 

「でも、結局病状が悪化すれば死ぬんだよね?」

 

「それはまぁな、ただ定着の仕方的にはそれなりの年数が経っているがその割に進行度が低い、血液中源石密度も平均に比べて高くはない。安心していい理由にはならねぇけど、一般の感染者よりかは長生きできるさ。」

 

「それは、良かったというべきなのか……。」

 

「アタシは別にいいと思うけどな、そう思っても、あ、いくら進行度が低いといっても体内の源石はあまり使うなよ、あと明日も来い。」

 

「分かった、また明日くる、ありがとう。」

 

「おう、大事にな。」

 

ーーーーー

 

「おや、オランジュ殿、終わりましたか、休憩は必要ですかな?」

 

「いや、大丈夫だよサーマル、行こうか。」

 

「了解いたしました!それでは!全速前進!」

 

自分が感染者ということは薄々気付いていた、でも改めて言われると少しショックを受ける。だが、自分も感染者となったことで、画面越しでしか分からなかったオペレーター達の苦悩がわかるようになった気がして、少し、少しだけ嬉しくもある。

それは不謹慎だと言われてしまうだろうか……。少なくとも他の人の前では言わないようにしよう。

チョコバーを噛み締めながら、そう思った。

 




最初はノイホが出てこず、そのあたりはプリュムがサーマルの言ってたことを教えてくれる予定でした。
なぜこうなった?


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知らない幸せも世にはある

初の戦闘シーンです(激短い)
練習として書いたので見逃して下さい……!


ノイルホーンからもらったチョコバーで元気を取り戻しているうちに、【訓練室】とプレートが付けられた部屋に来た。

 

「さて、私が案内するのはここまでです!私はこのあと燃料の補給を挟み、その後発電所の管理をしなくてはならないので!」

 

「うん、今日はありがとう、サーマル。」

 

「また次の機会に会いましょう!」

 

サーマルが通路を走行していくのを見送り、訓練室の部屋の前で息を整える。

自分に戦闘経験は1回しかない、だが、その1回で自分が自分にも分からない力を持っていることを知った、だから大丈夫だ……。落ち着いてやれば行ける。

 

「失礼するよ。」

 

「オランジュか、思ったより早かったな。」

 

「昨日の、ドーベルマン教官……だよね?」

 

そこにはドーベルマン教官を始めとして、何人かのオペレーターが

居た。

 

「ああ、その呼び方でいい、あまり私は口があまり上手くないのでな、直ぐに取り掛かりたい、準備運動とそこにある演習用の武器類を選ぶ時間はやる、だがなるべく早く選べ。」

 

「分かった。」

 

さて、武器類……か、あの時使ったのは適当な棍棒だったけど、何を使おうか。

色々持ってみたが、1番しっくり来たのは長めの棒だった。

振り回してみるがやはり動かしやすい、自分にこんな物を持った経験は大して無いはずなのだが、体の一部のように動かせる。

体が覚えている、と言うやつなのだろうか、もしそうなら、この体は……でもそれを気にしている時間はない。

 

「選び終わったよ。」

 

「ならばその棒捌きを見せてもらおうか?」

 

「気が済むまで付き合おう。」

 

ドーベルマン教官が鞭……ではなく、木剣を取り出した。

まぁ鞭は中々対処が難しい武器の気がするし、実力は図りづらいのだろう。

 

「それでは始める!」

 

無言で身構える。ドーベルマン教官はジリジリと近寄ってくるが、レンジの差を気にして安易に飛び込んでは来ない。

ならばこちらから攻めるまでだ、飛び上がり、棒による突きを繰り出す。しかし

 

「甘い!」

 

簡単に受け流される、しかしこれで距離は詰められた。そこから棒で右斜め上、左斜め下から棒を振った後に突きをお見舞いし、ペースをこちらのものにする。

 

「中々やる様だが!足下の注意が疎かだ!」

 

ドーベルマン教官はしゃがみ回し蹴りをしてくるが……、難なく飛び上がって避け、バク宙で距離を取る。

 

「……今のは何だ?」

 

「私は人の意識に敏感でね。」

 

言いつつ姿勢をドーベルマン教官から見て左側に傾け、しゃがんで体の位置を極端に低くし、そのまま一気に走り込んでドーベルマン教官の後ろを取った。

 

「だからこういう事もできる。」

 

「なるほど、私の意識が右側に集中していたのを感じ取った訳か。」

 

「うん、まぁタネが分かれば対処されやすいけど、多体一なら中々役に立つよ。」

 

「どう思う?二アール。」

 

ドーベルマン教官が訓練室に居るオペレーターの1人、二アールへと声をかけた。

 

「そうだな、実力としては見ていて申し分ない、だが……あの加速は身体能力だけではないだろう?」

 

「少しアーツを使ったね、ちょっとだけ時間に干渉できるんだ。」

 

袖の中に隠し持っていた杖を見せながら言う。

 

「遠距離攻撃はできないのか?」

 

「できない、自分の近くで何かの作用を起こすのが精一杯さ。」

 

「そうか、実践としての実力は申し分ないとドクターには報告しておく。だが試験はこれだけではないことは知っているだろう。」

 

「知らされてはいないけど……まぁ座学とか、その辺のことだよね?」

 

「ああ、そうだ。明日には受けられるだろうから、連絡を待て。」

 

「うん、これで終わりかな?」

 

「あくまで実力を測る程度だからな、後は訓練を通して見せてもらう。」

 

まずはとりあえずの実力を教官が測って、それにあわせて普通のオペレーター達と一緒に訓練を行い、その結果で細かい能力を把握していくということらしい。

 

「ねぇ、少し、いいかしら。」

 

「スカジ?どうした。」

 

「少しあの子と話がしたいのよ、いいでしょう?」

 

「それはもちろん構わないが……。」

 

スカジが近づいてくる、実のところスカジもアークナイツの中ではかなり好きな部類のオペレーターだが、実際に相対し、興味を持たれると少し不安を感じてしまう、だが平常心で乗り切らねば。

 

「私に何か用かな?」

 

「あなた、アレの被造物ね、ここまで人に近いのは初めて見たのだけれど、何が目的?そもそも目的があるのか問いただすほうが先かしら。」

 

一瞬、スカジの動きが見えなくなり、ただ意識を向けられている場所に、ほぼ本能的な思考でアーツを発動し、手に持っていた金属棒を両手で向ける。

すると腕にとても耐えきれないと感じる程の重圧と、大きな金属音が私を襲った。

 

「ぐぅっ……なんの、つもりだい…?」

 

「質問するわ、あなたは、何が目的でここに来たの?」

 

「人の……助けになりたいからさ…!」

 

「へぇ、嘘にも見えないわね。」

 

「スカジ!何をやっている!」

 

「別に、ただ私は聞きたいことがあっただけよ。」

 

スカジが剣を下ろしながら言う、あの一撃は受け止めきれたのが奇跡とさえ思った強さだった、しかし敵対しようという意志はないように見えるし……何がしたかったんだ。

 

「あなたの名前は……オランジュ、覚えたわ。やっぱりアレはモノの作り方が下手ね、目を与えたのに、それの開き方は教えなかったみたい。でも、オランジュにとっては幸いだったと言えるのかしら。」

 

「キミの言ってることは全くもって意味が分からないんだが…?」

 

「別に分からなくてもいいわ、でも、そうね、もし助けが必要な時は私を呼びなさい、できる限り協力してあげる。私にも慈悲や、憐憫はあるもの。」

 

ますます言っていることが分からないが……スカジは自分の味方になってくれるらしい、言葉としてはこちらを憐れんでのことらしいけど。

 

「じゃあ、そういう時は遠慮なく頼らせてもらおうかな?」

 

「ええ、そうするといいわ。」

 

「……話は済んだか?」

 

「どうやらそのようだよ。」

 

「ならばそこにあるシャワー室を使ってから自室に戻るか、食堂に行くかしろ、基地の案内図は渡してやる。」

 

「いえ、私が案内するわ、いいでしょう?」

 

「さっきみたいなことをまた犯さないならな。」

 

「またさっきのことをするつもりはないわよ。」

 

「ならいい……。」

 

どうして、スカジはこちらに憐憫を向けてくるのだろうか、それだけの理由が自分にあるなら、自ずと過去も分かるかもしれない。

帰り道で聞いてみよう。




なんでこう……会話を書きにくいオペレーターを出しがちなんですかね……?


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信じることは毒にも薬にもなる

情報が足りない……設定集こうかいしとくれ……


ドーベルマン教官に言われた通り、シャワーを浴びている。程よい熱さの水が体を温め、体表の汚れを洗い流してくれていた。

そして自分がチグハグな存在だと改めて思う。前世は男だったはずだ、なのにどうして落ち着いて身を清めるということができているのだろうか……考えても仕方のないことだがひたすらに不安になる。

自分はどういう存在なのか、スカジは知っている様子だった。体を洗い終わったら聞かなければ。

 

「スカジ、入り終わったよ。」

 

「なら行きましょう。」

 

「途中で質問しながらでもいいかな?」

 

「構わないわ。」

 

「じゃあ1つめ、私のことを被造物と言ってたけれど……もしそのままの意味なら、私は何に作られたんだい?」

 

「海の1つ、私が狩り続けていたモノの根源、その近くにいるモノよ。」

 

「そっか、続けて2つめ、私は被造物だとして……模造品だね?」

 

「あら、勘がいいじゃない、そうよ。何を思ってアレが模造品なんて作ったのかは分からないけど。」

 

「……3つめ、なんで分かったの?」

 

「愚問ね、狩り続けていたのだから、自然とわかってくるようになるわ。アレが作るモノはいつもチグハグなのよ。」

 

「4つめ、私の価値観や倫理観の変化が何故なのか分かるかい?」

 

「さあ、それは知らないわね。」

 

「そうなんだ。」

 

「あら?悲観しないのね、普通今のを聞いて気分が悪くならない訳が無いと思っていたのだけれど。」

 

「悲観したってどーにもならないさ、むしろ色々謎が解けてスッキリとさえしてるよ。教えてくれてありがとう。」

 

「別に……するべきと思っただけよ。……私も変わったわね、昔は教えるどころか、狩りさえしていたでしょうに。ここはそういうところなのかしら。」

 

「アナタも変われる、って言いたいのかな?私が言えたことじゃないけど、口下手だね。」

 

「……。」

 

顔を逸らされてしまった、どうやらこのロドスでスカジは大分丸くなったらしい。ということは加入から少し時間が経っているのだろうか?時系列は気にしても無駄なのは分かっているが。

 

「ところでここ、どこだい?」

 

「………。」

 

「スカジ?」

 

「……………………。」

 

「スカジ……。迷ったね?」

 

「いいえ、そんなことないわ、ここを曲がれば……!」

 

「行き止まり、だね。」

 

それはもう見事に何もない行き止まりだった。若干途方にくれていると、後ろから足音が聞こえた。

 

「二人とも、なんでこんな所に?」

 

「ドクター。」

 

「やぁドクター、どうやら道に迷ってしまったようでね。私の部屋まで案内を頼めないかな、多忙なら行き方だけでも……」

 

「いや、元々行く予定だったから問題ない、案内しよう。」

 

「助かるよ。」

 

「ほら、スカジも行こう。ついでに一緒に夜ご飯はどうだ?」

 

「……。」

 

「いい案だねドクター、さっき運動したからお腹が空いてたんだ。」

 

さっきから黙っているスカジに目を向けてみると、少し頬が赤いように見える。どうやら迷っているところをドクターに見られて恥ずかしがっているらしい。やはり、このロドスは良い場所だ。

 

ーーーーー

 

「ドクター、さっき私の部屋にくる予定と言っていたけど、何の用だい?」

 

食堂でお腹を満たし、スカジと別れ、二人きりで部屋に戻りながら聞いてみる。

 

「ロドス内で使える携帯端末を渡すのと、仕事の話をしようと思ってな。このロドスでは戦闘以外でも様々な業務がある。もちろん戦闘オペレーターにもこなして貰う訳だが、なにか得意なことはあるか?」

 

「さぁ、やってみないことにはわからないよ。」

 

「そうだな…、そもそも記憶喪失ではどんな業務を任せたものか……明日には決めて通達する。明後日から頑張ってくれ。」

 

「それはもちろんいいよ。でも、ドクター…?」

 

「なんだ?」

 

「そんなに信用しても良いのかい?言っちゃなんだが私は怪しいにも程が有るんだよ?容姿も、境遇も、行動も……。どうして、受け入れられるのさ。」

 

「人を助けたいんだろ?」

 

「スカジから……いや、ドーベルマン教官から聞いたんだね。」

 

「ああ、私だって人を助けたいと思う人間だ、なら志を共にする者は信じるべきと、そう思っている。」

 

「とても正気とは思えないね。」

 

「それでも私は信じるよ。疑ってばかりじゃ世界は回っていかない。」

 

「分かった……、そんなドクターに敬意を表して、私はこのロドスを、人を助けるよ。そのためならいくらでも使ってくれて構わない。もとよりそれしかできないだろうし。」

 

「そう決めつけるのは早すぎる。」

 

「優しいね、ドクターは。」

 

ドクターが歩みを止め、私もまた立ち止まる、話すうちに部屋へ着いたらしい。

 

「それじゃあドクター?いい夢を。」

 

「おやすみ。」

ーーーーー

 

新しい朝だ。日差しが中々に眩しく、けたたましい目覚ましの音がする。貰った携帯端末の目覚ましは早速仕事をこなしてくれたらしい。

端末の通知を確認すれば、いくつかのメールが届いていた。内容は座学や訓練の時間配分、これを作成したのは……恐らく、ドクターなのだろう。仕事が早すぎる。

 

「午前中はひまになるなぁ、何をしようか。」

 

とりあえず食堂に向かうことにした。朝ごはんは食べる主義だし。

 

「うん、美味しそうだ……、いただきます。」

 

「あ!オランジュ!」

 

呼ばれて振り向けば、元気な赤髪のサンクタ、エクシアがいた。

 

「エクシア、おはよう。」

 

「おっはよう!ここ座っていいかな?」

 

「もちろんいいよ。」

 

「ありがとー!…… 主よ、あなたの慈しみに感謝してこの食事をいただきます。ここに用意された物を祝福し、私達の心と身体を支える糧としてください。」

 

目を瞑り、祈りを捧げる彼女を見ると普段とはまた違った印象を受ける。

そのまま食べ始めた彼女は暫くして、こちらが顔をよく見ていることに気づいたらしい。

 

「どうしたの?私の顔に食べかすでもついてるかな?」

 

「いや、きれいだなと思っただけだよ。」

 

「えー?もしかして私ナンパされてる?」

 

「違うよ、ただきれいと思っただけさ。」

 

「花を愛でるみたいに?私はよく分からないけど……。」

 

「うん、それが近いかな。」

 

「へんなのー」

 

「あはは…。」

 

「ねぇ、オランジュの部屋に遊びに行ってもいい?!」

 

「構わないけど……、何も無いよ?」

 

「いいの!こないだのお詫びもしたいし!」

 

「そういうことなら、是非来てよ。」

 

「やったー!」

 

お詫びとは言っていたけど、多分私と話したいんだろうね、モスティマのことを……、エクシアの境遇に思うところはあるけど、今の私は何も知らないし、今の私でなくても知らなかったことだ。だから、答えることはできない。

ただ私がモスティマの模造品であることは……話すべきなのだろうか、話しても理解されそうにない話ではあるが……。




どちらも助けたいのは人で、感染者なんて括りには囚われない


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自分の実力は簡単には分からない

感想嬉しい……嬉しい……


まだ朝陽が差す殺風景な部屋で、エクシアと向かい合う。

 

「えっと、まずは……ごめんね。昨日ドアを壊したり床に落としたりしちゃってさ……。今は任務でいないけど、テキサスも「すまなかったと伝えておいてくれ。」って言ってたよ。テキサスはあたしが付き合わせちゃったところもあるし、許してあげてくれないかな。」

 

「あの時は驚いたけど、別に気にしてないよ。それよりも、ケルシー先生の説教ってどんな感じだった?」

 

「へ?え、えっと……ケルシー先生の説教はね、すごかったよ。どのくらいかっていうと背中の後ろにドラゴンが見えるくらいすごかった!」

 

ん、ドラゴン……?もしやMon3tr?いや、流石にそれは無いか、それくらい恐ろしかったっていう比喩表現だろう、多分。

 

「それは恐ろしいね、私は叱られないよう気を付けなきゃ。」

 

「あたしも二度と怒らせたくないよ……。」

 

少しの間、沈黙が流れる。どうやらエクシアは話の切り出し方に迷っているらしい。仕方ない、こちらから話を切り出そう。

 

「エクシア、君はここに謝罪をする為だけに来たんじゃなくて、モスティマについて話がしたいんじゃないかい?」

 

「なんで分かったの?!」

 

「謝罪だけなら食堂でも済むからね。」

 

「あ、確かに。……そうだよ、モスティマについて話がしたかったんだ。モスティマについてなにか知っていることはある?」

 

「そういう人が居る、とだけしか知らないなぁ。」

 

嘘だ、本当はもっと知っている。でも暴露すれば要らない争いを招くかもしれないし、言ったことを証明することもできない、何より、今は言うべきではない……、と思う。

 

「そっか、そうだよね、記憶喪失だからね……。ごめん、こんなこと聞いてさ、あたしも分かってたはずなのに。」

 

「いいんだよ。そうだ、そのモスティマについて話が聞きたいな。似てるって聞くし、どんな人か知ってみたいんだ。」

 

「分かった、モスティマの話なら任せて!ロドスで1番よく知ってるから!」

 

おお、いきなり元気になった……。エクシアには悪いが話についていくのが精一杯だ。……なんかデジャヴを感じる。

 

ーーーーー

 

結局、エクシアの話を聞いていたら午前中は終わっていた。でも、することは少なかったし、エクシアも楽しそうだったのでなんの問題も無かったが。

 

「さて、昼ごはんは済ませたし、次は訓練室か、どんな訓練をするんだろうか。」

 

携帯端末からロドス内部の地図を開く、この前それなりの間ロドスに居ると思われるスカジでさえ迷ったのだから、かなり広いと思っていたけど……、広いというよりはかなり複雑だ、ここを端末無しに歩くのは自殺行為だろう。

監視カメラはかなり多いようだから、迷ったら死ぬなんてことは無いと思うけど。

 

そこから数分ほどで訓練室までたどり着いた。中に入ると、ドーベルマン教官が待ち構えていた。

 

「あれ?ドーベルマン教官、龍門の共同作戦があるんじゃなかったのかい?」

 

「私は出撃メンバーに入らなかったからな、共同作戦とはいえあくまで龍門、あちらの組織の顔も立てなければならん。出撃人数は少数だ。」

 

「そっか、じゃあなんでわざわざ昨日、急に実力を測ろうとしたんだい?」

 

「貴様が得意とする戦闘分野が分からなかった、だから様々な分野のエキスパートを集める必要があったんだ。戦闘能力は多角から見た方が良いというのもある。」

 

「なるほど、教えてくれてありがとう。」

 

「ふん、今日は作戦立案について見せてもらう。そこに居る複数人を纏め、作戦を立てて課題をクリアしろ。」

 

「分かったよ。」

 

ドーベルマン教官の指差す方向には、幾人かのオペレーターが集まっていた。とりあえずは挨拶だ。

 

「やぁ、今回一緒に訓練をすることになったオランジュだ、とりあえずみんなの名前を教えてくれてもらえないかな?」

 

「昨日会ったな、重装オペレーターのノイルホーンだ。今日はよろしく頼むぜ。」

 

「ヤトウだ、先鋒オペレーターを勤めている。」

 

「プリュムと申します、同じく先鋒オペレーターとして戦闘に参加しています。」

 

「術士のドゥリンだよ〜。」

 

「私は術士オペレーターの12Fと申します。今回の訓練、共に頑張りましょう。オランジュ殿。」

 

「狙撃オペレーターのアンブリエルだよ、よろしくねー。あ、チョコ食べる?」

 

「医療オペレーターの、フィリオプシスです。今回訓練に参加します、オランジュさん、よろしくお願いします。」

 

「あたしはウタゲ、前衛オペレーターをやってるよ。今回はよろしく〜。」

 

「うん、みんなよろしく、あ、チョコは後で貰えるかい?それじゃあ今から資料を開けるから、もっと詳しくできる事を教えてくれると嬉しいな。」

 

本当は全員のスキルや特徴は知ってるけど、聞いておかないと不審すぎるから聞いておこう。

さて、訓練の内容は、仮想敵に対してオペレーターを配置して対処する、という物だ……資料に乗っている通りなら、これ、中々ハードでは?

重装系が多めに出るのは二人の術士オペレーターでカバーできるけど、それに混じって敵の術士が出てくるのはかなり難しい。ドゥリンが回避でカバーするにも限度があるから、ウタゲの差し込みが要りそうだ。あとは……オリジムシの大群、範囲術士が居てもこの量は……、いや、自分が回避盾になればウタゲとヤトウをそっちに割けるな。これで行こう。

 

ーーーーー

 

結果的に言えば、訓練の課題はクリアできた。ただ、自分の回避が上手く行かなくて、一度リテイクは挟む事になったが。

 

「ふむ、作戦立案能力はそれなりにあるようだな。お前たちはどう思った?」

 

「良かったと思うよ?あたしのレーダー発動のタイミングも考えられてたし。」

 

「作戦内容は良いものでした、ただ、ウタゲさんを後ろに配置する方が、安全性は上だった、と、考察します。」

 

「俺も概ね良かったとおもうぜ?ただ、俺はもうちょい敵を流して来てくれても良かったと思うな。」

 

「それは同感だ。」

 

「私も皆様と同じような考えです。オランジュ殿はブロックする敵をもう少し減らしたほうが懸命だった、とは思わざるを得ません。」

 

「まぁ実際、一度それが理由でリテイクしているからね。返す言葉も無いよ。」

 

実際少し辛かったし……、役に立ちたいという思いで足を引っ張っては意味がない。今後の訓練も通して自分の能力はきちんと測って行かなければ。

 

「さて、今回の訓練はこれで終了だ、明日は基礎訓練を中心に行う。それでは解散!」

 

「みんな、今日はありがとう、お疲れ様。」

 

「おう、お疲れ様。そうだ!この後空いてるやつで飲みに行かねえか?オランジュ、ロドスに酒場が有るんだよ、もちろん明日もあるし軽くだが、どうだ?」

 

時間を見ると、もう夕飯には問題ない時間だった。中々時間がかかったようだ。

というより、このロドスに酒場があるとは……!宿舎の枠の1つだったりするんだろうか。

 

「ぜひ行かせてもらうよ、お酒は……遠慮するけどね。」

 

「あたしはパス、雑誌の最新号が購買で出てるはずなんだ〜。」

 

「私はもう眠いから……また今度起きれる時に行くよ〜……。」

 

「私は行こう、ちょうど新しい酒が入ったらしくてな、それを確かめにも行きたい。」

 

「私も同行してよろしいでしょうか?」

 

「あたしも行こっかなー。」

 

「私は、この後も業務がありますので。」

 

「せっかくのお誘いですがすみません、この後ラテラーノ関係の手続きをする予定がありまして。」

 

「うし、えっと……5人だな、んじゃ行こうぜ。」

 

ロドスの酒場、楽しみだな。他の人も居るのかな。

 

 




そんな予定無かったのに、どうして酒場に行っているんですか?


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人の言葉を簡単に信用しないほうがいい

昇進マラソンはつらいぜよ。


さて、酒場に行くわけだけど、ふと思ったこととして自分の給料とかどうなるんだろうか?今のところ放り出された時に持ってた龍門弊でやりくりしていて、その量は少なくは無い、が無限じゃないし、明日ドクターに聞いてみよう。

 

「おし、着いたぜ。」

 

そこは確かに酒場……だけど、その家具はゲーム内でいうモダンホテルセットの物が多く置かれているようだ。宿舎の1つという推理は間違いじゃなかったらしい。

 

「中々いい雰囲気だね。」

 

「そうか?俺は上品すぎると思ってたんだが……まぁそんなことはいいか!何を飲む?」

 

「オレンジジュースで頼むよ。」

 

「あたしミルクセーキ〜」

 

「鬼島津を1つ」

 

「私はアイスティーでお願いします。」

 

「俺はビールっと、んじゃ頼んでくるぜ。」

 

注文を言いに行くノイルホーンの背を見送り、5人で手前側の席に座る。どうやら他にも客は居るようで、奥の方から陽気な声が聞こえてきた。

 

「ねぇねぇ、オランジュ、記憶喪失なのは知ってるけどさぁ、どうやってロドスに来たわけ?聞いたところ採用にひっかかった訳でもないらしーじゃん。」

 

「うーん、まぁ簡単にいうと押し掛けたんだよ、『他に行くところが無いから雇ってくれ!』とね。」

 

「普通その場合でも、事務室に連絡ぐらいしてから来るものですが……。」

 

「あはは、後先考えられる状況でもなかったんだ。」

 

「それならロドスに来て良かったな。そういう人間を見捨てないのがここのいいところだ。」

 

「つくづくそう思うよ。」

 

思った以上に話が弾む、どうやら訓練を通して心を開いてくれているらしい。特別なにかあった訳ではないのだが……こういうものなんだろうか。

 

「おいおい、飲み物も届いてないのに盛り上がりやがって。」

 

「お、ノイルホーン、鬼島津は?」

 

「ほいよ、あとオレンジジュース、ミルクセーキ、アイスティー、ビール……。」

 

トレーに載せて運ばれてきた飲み物たちが机に並ぶ、ここ最近ジュースにあたる飲料は飲めていなかったから、少し嬉しい。

 

「んじゃ、乾杯!」

 

「「「「乾杯。」」」」

 

「うめぇなぁ!やっぱ訓練の後の酒はいいぜ!」

 

「ふむ、中々イケるなこれは……!」

 

「うま〜。」

 

オレンジジュースは甘さ控えめだがとても美味しい。頼んで良かった。

 

「あ、そういえばなんだが、訓練の時すげぇ動きしてたよな、あれなんだ?」

 

「それは私も気になっていました。」

 

「アーツさ。自分の動きを速く出来るんだ、使い勝手はいいよ。」

 

「なるほど、あの回避術はそれを利用していたのですか。」

 

「うん、まぁ派手なことは出来ないから、一長一短ってとこかな。」

 

「私も聞きたいことがあるんだが、良いだろうか。」

 

「別に構わないよ。」

 

「あのスカジの一撃を耐えきったという噂は本当か?」

 

「そんな噂流れてるんだ……。うん、嘘ではないよ、ただあれが本気の一撃だったかどうかは私には分からないけども。」

 

あの時部屋に居た誰かから話が漏れたんだろうか、流れて困る噂では無いからいいが。

 

「それはすげぇな、模擬戦で俺も受けた事あるが、あの時は腕が吹っ飛ぶかと思ったぜ。」

 

「スカジってあの怖そーな人?」

 

「スカジ殿も、話してみればあまり怖い人ではありませんよ。少しズレては居ますが……。」

 

話し込んでいるうちにお腹が空いてきた。

 

「ねぇ、ご飯はどうするんだい?」

 

「ああ、あそこで注文すればそんなに時間はかからないで出てくるぜ。」

 

「分かった、行ってくるよ。」

 

「おう。」

 

来てみたはいい物の、何を頼むか迷うな……、カレーか、タコライスか……、どちらも美味しそうだ。

 

「おや、誰かと思えば、この前来たとかいうオペレーター見習いのオランジュさん?」

 

「うん?そうだけど、君はどなたかな?」

 

「僕?僕は第三作戦小隊所属、先鋒通信員のエリジウムさ、よろしくね。」

 

「エリジウムか、よろしくね。」

 

「えっと……、唐突ですまないんだけど、僕は君がここに乗り込んで来たことは知ってるんだ。ドクターは一部のオペレーターのみに知らせたつもりだろうけど、僕の耳に戸は立てられなくてね。おっと、それで何か要求するとか、そういうことはしない。なにか事情があったんだろうし、『好奇心は猫を殺す』とも言うからね!僕はリーベリだけど。」

 

「君が私の事を知ってるのは分かったけど、それで何もしないなら、なんで話そうと思ったんだい?」

 

「簡単に言うと、誠実さは大事ってことさ。オランジュさんもそう思うだろう?」

 

「それは確かにそうだね。」

 

「それじゃあ僕はこの辺で、また会おう。」

 

「ごめん、もう一つだけ聞いていいかな?」

 

「なんだい?」

 

「ここはカレーとタコライス、どっちが美味しい?」

 

「難しい質問だね、辛いのは苦手かい?」

 

「うーん、中辛くらいまでなら食べれるってところだよ。」

 

「それならタコライスがオススメさ!」

 

「ありがとう。」

 

ーーーーー

 

「本人が居なくなったところで、話がしたいんだが……、お前ら、アイツのことどう思った?」

 

「率直に言って、自己犠牲が過ぎる。」

 

「私もそう思いました。」

 

「いくら回避がうまくても、一人で四人ブロックしようとするのは流石にね〜……。」

 

そうだ、アイツは訓練中、無理に複数人のブロックを受け持ち、そのくせ大した弱音は吐かず。しかも二回目は無理矢理体張ってクリアしやがった。

 

「正直見ていて危なっかしいったらなかったぜ。事前に考えた作戦では俺が少し辛くなる場面も出てくるはずだったってのに、アイツが受け持つから余裕が出来ちまってたしよ。」

 

「美徳ではあるが、いい傾向ではない、注意するべきだろうな。」

 

「いえ、どうやら自分の実力を把握しきれていないところもあるようです。暫く様子を見て、それでも無理をするようであれば注意する、というのはいかがでしょうか。」

 

「あたしもそれでいいと思うよー、反省はしてたみたいだしー?」

 

「よし、ならそれでいくか。」

 

しかし、自己犠牲ね……、記憶が無いのも関係してるんだろうか。まぁ考えてもしかたねぇ、今は酒を楽しむとしよう。

ーーーーー

 

エリジウムと話し、その後1時間程訓練したメンバーと喋ってから、帰路についた。そして廊下で見覚えのある黒フードを見つけた。

 

「やぁドクター、また会ったね?」

 

「オランジュか、ロドスでの生活は馴染めているか?」

 

「うーん、とりあえず訓練のメンバーとは仲良く慣れたかも。」

 

「それは良かった。」

 

「あ、ドクター、給料はどうなるかって聞ける?"

 

「給料か……、明日からロドス内での仕事をしてもらうが、そうだな、その分の給料は1週間後から払えるよ。それまで手持ちは持つかな?」

 

「それくらいなら大丈夫さ。」

 

「そうか、それじゃあおやすみ。」

 

「うん、おやすみ……、あ、そうだ、エリジウムが私のこと、盗み聞きしてたそうだよ。」

 

「なに?エリジウム、またか……。」

 

「それじゃぁね。」

 

すまないな、エリジウム、でも激辛は食べないと言った私にわざと甘口なカレーではなく、実は激辛なタコライスをオススメした君が悪いのだよ。

おかげでメンバーの前で醜態を晒すことになったんだから……。

 




エリジウム、キャラが立ってて良いですよね。
Wガチャで完凸しました。え?「Wは?」だと?スゥッ-……


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衝動的行動はオススメしない

昇進マラソンは続くよどこまでも……。


新しい朝である。今日は午前中に基礎訓練、午後は通常業務だったはず……。午後は2時間程空きができるし、そろそろ替えの服とか買っておかなければ。

 

ーーーーー

 

午前中の基礎訓練は、正に基礎訓練の名の通り単純なトレーニングと少しの模擬戦が主だった。

どうやらこの体はそれなりに体力があるようで、生前(?)とは比べ物にならないほど、快適に長時間動くことができる。そのおかげでドーベルマン教官のしごきをクリアできたのだから、スカジのいうアレには少しだけ感謝だ。してもいいものなのかは分からないけども。

そして次は通常業務、何をするかは分からないが、医療区画という場所の指定的に物を運んだりする体力仕事だろう。

こちらとしても深く考えなくていい業務は助かる。最近は考えることが多いし。

よし、着いた。どうやらあの人が諸々の説明をしてくれるらしい。

 

「君がドクターの言っていたオランジュさんか、私は医療オペレーターのサイレンス。よろしく。」

 

「うん、よろしく。あ、オランジュでいいよ。」

 

「そういうことなら、私もサイレンスで構わない。」

 

「ところでここでの業務は何かな?ドクターには場所しか教えてもらってないんだ。」

 

「そうだな、簡単に言えば……、子守りだ。」

 

「うん?」

 

え?

 

ーーーーー

 

聞き間違えたのかと思ったが、嘘ではないらしい、その証拠に目の間まで案内された部屋の中からは子供の高い声が聞こえてくる。

 

「ドクターは一体何を考えているのやら……。」

 

「さぁ、でもドクターの選択だし、間違ってはいないんじゃないかしら。」

 

「だといいけどね。」

 

「ほら、そろそろ入りなさい。大丈夫、あなた一人って訳でも無いんだし。」

 

「そうするよ。」

 

ドアを開けば、その音に反応したらしい子供たちの目線が一斉にこちらを向いた。どうやら幼稚園から小学校低学年程の子供たちが集められているらしい。

 

「待っていたぞ。」

 

「子供たちの世話をするのは始めてでね、色々教えてもらえると助かるよ、レンジャー。」

 

「まかておくといい。みんな、こちらは今日わしの手伝いをしてくれる、オランジュさんじゃ。」

 

「ご紹介に与ったオランジュだよ、こんにちわ。」

 

「こんにちはー!」「オランジュさん?こーどねーむ?」「ねぇねぇ!あなたも戦闘オペレーターなの?」「なにができるのー?」「わぁ、本当にモスティマさんにそっくりだ!」「好きなものってなにー?!」

 

「おぉう……、元気いっぱいだね。」

 

「みんな、質問は1つずつじゃ。手を挙げて、指された人から質問しなさい。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「おっと、これは私が指すほうがいい感じかい?」

 

「うむ。」

 

「それじゃあ……、そこのキミ。」

 

「レンジャーさんと一緒で、オランジュさんも戦闘オペレーターなんですか!」

 

「うーん、まだ見習いってところかな。でもすぐに見習いからぬけて見せるさ。」

 

「わぁ!がんばってね!」

 

「うん。次は、キミかな。」

 

「いつロドスに来たの?」

 

「実は四日前なんだ、だからまだ始めて見るものばかりだよ。」

 

「じゃあじゃあ、後で案内してあげる!」

 

「それは嬉しいな、ぜひ頼むよ。」

 

ーーーーー

 

あの後質問を沢山され、一つ一つ答えていけばだんだんと私そのものについてではない質問も交じるようになっていき、結果的には質問コーナーだけで業務時間は終了してしまった。

 

「……レンジャー、思っていた以上にこの業務は疲れるね。」

 

「そうじゃな、なにせ子供は元気いっぱいじゃ。それよりも、わしはお主がしっかりと子供と向き合って話せるとは思ってなかったわい。」

 

「おや、私はレンジャーと初対面のはずだけど。」

 

「ノイルから聞いたんじゃよ、お主のことはのう。優しさがあることは聞いておったが、口ぶりからしてもう少し冷めているものかと思っておったわ。しかしどうやらそれはわしの先入観だったようじゃ。すまなかったのう。」

 

「別に謝ることじゃないさ。誰しも先入観を持つことはあるし、子供と接する相手がどんな人間か、考えておくことが大事なのは分かるよ。」

 

「そう言ってもらえると助かるわい。……それではまた明日じゃ。」

 

「うん、じゃあね。」

 

本当に疲れた……、悪いものでは無かったけどね。なんか最近は相手の元気さに押されることが多くなった気がする。年を取ったんだろうか、前世は普通に高校生だったけど。

それはさておき、購買部に行かなくては、買いたいものが色々ある。

 

ーーーーー

 

「やぁ、オランジュ!購買部にようこそ!大体生活に必要な物はここで揃うよ!」

 

「うん?どちら様かな?」

 

「あたしはクロージャ!ロドスの技術責任者だったり、ロボット開発したり、購買部の運営をしたりしてるよ。よろしくね!」

 

「よろしく、クロージャ。替えの衣服が欲しいんだけど、売ってる場所はどっちの方かな?」

 

「服だね、服はキミからみて左の、突き当り近くにあるよ!」

 

「ありがとう。」

 

さてさて、どんな服があるのかな。

待ってくれ、何だこのラインナップは……、クロージャがオシャレな服をオペレーターに着せたりしてるのは分かっていたけど、なんというか……、オシャレな服はもちろんあるけど、凝り性故なのか大体高価だし、標準価格なのは基本的にダサTとオーソドックスな無地の各種ズボンとシャツ、ジャケットのみだ。

なんでダサTがある、それも割とバリエーションが多いし。

とりあえず無地の下着たちはさっき取った買い物カゴに突っ込んでおいて、服は……とりあえず黒い長袖と、白い半袖のYシャツ2枚、黒のスキニーパンツ2枚で……。

 

ーーーーー

 

「毎度ありー!」

 

買ってしまった、そう、ダサTを。

違うんだ、ダサTは特に安かったし、部屋着にする分には悪くないと思っただけなんだ。

決して【僕のしっぽはもっふもふ〜♪】とか、【まだ休んじゃ駄目ですよ。】とか、【ダーッと行って、ドンッと倒して、パパッと片付ける!】みたいなダサTの文言に惑わされたわけではない、本当に違う。うそじゃないよ。

でもやっぱり、女性になったのだからファッションには気をつけた方がいいんだろうか?化粧なんかも当然したことがない私に、ファッションとか全くもって分からないけど……。




ダサT、私は安かったら旅行先とかで買っちゃいます。なんか手っ取り早くご当地感でますし、部屋着にすれば問題ないですし。
……たまに間違えて来たまま外でちゃうんですがね。


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用事がある日の前は早く寝たほうがいい

危機契約の備え?
ッスー…


ダサT購入から3日がたった。ドクターは遅れてあちらに合流し、共同作戦を終わらせたようだ。今日帰ってくるらしい、そして私は……、あの3日前から、特段変わった生活をしていたわけでは無い。

たまにエクシアが部屋に遊びに来ることもあったけど。

その理由は、単に休みが無かったのだ。加えて言えば、その休みや外出許可がいつ取れるかも分からなかったし。ケルシー先生に聞くのは……、うん、あの人いつも忙しそうだからね。決して怖いとかではなく。

そういうことで、労いつつ、諸々の事を聞きにドクターの元へ向かっている。

 

ーーーーー

 

今日は、というより、明日はようやくの休日である。相手方の顔色を伺いつつ作戦指揮を取る激務のあとには、流石にアーミヤも休暇を用意してくれたらしい。

 

「みんな、今日までお疲れ様、ここの会計は私が受け持つから、自由に飲むといい。もちろん、何時帰ろうが自由だ。ただし、私が帰ったらお開きとする。まぁそう楽に潰れはしない、安心しろ、乾杯!」

 

《乾杯!》

 

ふぅ、やっぱり酒はうまい、私もドクターのはしくれだ、そうそう思うがままに飲める日は作らないし、そもそもアーミヤに監視されてるから出来ない。今日アーミヤが居ないのは、私に気を使ってくれているのだろう。ありがたいことだ。

 

「やぁドクター、お疲れ様。」

 

「オランジュか、3日ぶりだな。どうかしたのか?」

 

「労いと、あと休日とか外出許可はどうなるのか聞きたくてね。」

 

「ああ、そういえばゴタゴタでその辺決められなかったな。ええと……、うん?明日は休日ということになっているが、ケルシー先生から話はなかったのか?」

 

「それは、そのだね、聞きに行く機会が無かったというか。」

 

「飄々とした口ぶりの割に、嘘を言うのが下手すぎるだろう。外出許可は……そうだ、明日私の護衛として外に出ないか?護衛は業務になってしまうと言えばそうなんだが、どうしてもというならばそれでいいだろう、アーミヤもケルシーも、もう一人くらい護衛を付ければ許してくれるだろうし。」

 

「いや、そこまで急を要する案件は……。」

 

「あ!リーダー!戻ってたんだ、オランジュも一緒で……、何の話をしてるの?」

 

「外出許可について話してたんだ、明日外出してみないかとな。」

 

「ドクター、オランジュを連れて行くなら、あたしも連れて行って。」

 

「どうした、そんな深刻そうな顔で。」

 

「だって……。」

 

「だって?」

 

「オランジュ部屋でダサT着るんだもん!!!」

 

「え?」

 

「ダサT来てるのは面白いんだけど、「もし他の人に見られたら絶っ対変だからやめた方がいい」って言っても部屋着が無いっていうし!普通のを買ってきてって言ったらなんか増えてたし!」

 

「そ、そうか……。」

 

「こうなったらあたしも一緒に龍門へ行ってちゃんとした服を買わないと!あと髪もよくボサボサにしたままだから切ったりしなきゃ。」

 

「本当に必要かな、それ?」

 

「いーるーよ!オランジュは無頓着すぎるの!」

 

「そういうことならいいよ、明日一緒に龍門へ行こうか。」

 

「あっりがとう!リーダー!」

 

でも、私はいいと思うんだけどなぁ、ダサT……、私も何着か持ってるし。今度彼女の物を見せてもらおうかな。

 

「明日の予定も決まったところで、私は飲むのに専念しようかな。」

 

「お酌しようか?」

 

「いや、大丈夫だよ。明日のために早く寝るといい。」

 

「それなら、おやすみドクター。」

 

「おやすみー、リーダー。」

 

「おう、おやすみ。」

 

明日は楽しくなりそうだ。

 

ーーーーー

 

「エクシア、本当にダサTはダメかな?」

 

「ダサTは面白いけど、せっかくならオシャレな方がいいでしょ!」

 

「それはそうかもしれないけど。」

 

正直、滅多にオシャレに興味を示さないモスティマそっくりのオランジュを着せ替えたい、という下心がない訳じゃない。

でも実際オシャレには全く知識が無さそうだし、あたしがしっかりオシャレを教えてあげなくちゃ!

ソラにもオランジュに似合いそうなファッションを聞いてみよっかな、そういうのはソラのほうが詳しいし。

 

「ねぇ、1つ聞きたいことがあるんだ。」

 

「どうしたの?」

 

「どうして、私にそこまでしようって思うんだい?」

 

「……オランジュは、話し方と顔はモスティマに似てるけど、でも、中身はモスティマに全然似てないから、かな。」

 

「それはどういうことだい?」

 

「モスティマはもっと掴みどころが無くて、飄々としているからね。オランジュは嘘が上手くないし、生活も杜撰だし、ましてやダサTなんて着ちゃう。だから全然似てない……、なのに、気づけばどこかに行っちゃいそうなところはモスティマとそっくり。だから、こう、掴んでおかなくちゃ!って思うんだ。」

 

「うーん、私はどこかに行くつもりも無いけどなぁ。」

 

「まぁそういう気がするってだけだよ、気にしないで!」

 

「そうするよ、でも、もし私がどこかへ行ってしまうとき、エクシアはどうするんだい?」

 

「どうしてもって言うなら、止めないよ。でもそうじゃないなら、思いっきり掴んであげる!」

 

「ふふっ、じゃあそのときは頼んだよ。」

 

「まっかせて!」

 

ーーーーー

 

やはり、人との繋がりはいつ、どこであっても嬉しいものだ。

でも思ってもみなかったことを言われたな、「どこかに行っちゃいそう」……か、ここ以外のどこにも行くところは無いのに。

それよりも明日のために準備をしておこう、大したものは持っていかないけど、外出自体久々だし、備えておくに越したことはない。

 

今の気分はまるで遠足前日の子供のようだ、でもこの世界での都市を見るのは初めてになる上、本編で何回もシナリオの舞台となっている龍門、ワクワクしない方が無理というもの。

本当に、楽しみだなぁ。




外出ウキウキお姉さんになっている。
エクシアは若干の母性に目覚めつつある、なんで?


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望みは割とすぐに打ち捨てられる

オランジュもドクターも「私」だから差別化が難しい……、でも安直な語尾とかには頼りたくなかっのでザウルス


「忘れ物は無いか?」

 

「バッチリおっけーだよ!リーダー!」

 

「大丈夫さドクター、元々持っていく物も少ないからね。」

 

「それじゃあ出発しよう、ノイルホーン、安全運転で頼んだよ。」

 

「任せな。」

 

龍門へは車で行くらしい、確かに近郊とはいえ、ここに来る途中で龍門は見ていない、ロドスも中々大きいので影になってしまっていたのだろうが、多くの人間が住む移動都市が隠れて見えないとなると、それなりに遠いはずだ。

 

「結構揺れるから、シートベルトはしっかり閉めろよ。」

 

「あいあいさ〜!」

 

「うん、そうするよ。」

 

エンジンが低い唸りを上げ、車が荒野を走り始める。

 

「あ!ほら!あそこに見えるのが龍門だよ!」

 

「どれどれ…、おお、思ったよりは近いね。」

 

向こう側に見えてきたのは、ポツンとある大きな都市、移動都市という性質上仕方ないのかもしれないが、現代日本で生活していた私からすると異質な光景に見える。

 

「さて、龍門につく前に復習だ、感染者である君が行くことはあちらの警察組織に許可を取っている上、君の体表に鉱石露出は無いが、龍門は感染者に大して排他的な都市のため、感染者であることを仄めかす言動は禁止する。いいな?」

 

「もちろん分かってるよ。私も不用意に敵を作りたくはないし、ロドスにとって困ることになるのも避けたい。」

 

ドクターから『は?』という視線を感じる、あの時のことは本当に反省してるから、だから許してくれ……。

 

「もしバレても、あたしと一緒なら逃げられるよ。龍門は私の庭だからね!」

 

「それは頼もしい、でもその知識はきっと借りずに済むよ。」

 

「是非そうであって欲しい……。」

 

ーーーーー

 

「おし、着いたぜ。」

 

「お、運転ありがとう、ノイルホーン。」

 

「いいってことよ、んじゃ5時間後にここで。」

 

「ああ、帰りもよろしくな。」

 

私たちは車から降りて、ロドスへ戻るノイルホーンを見送った。

 

「よし、あっちのゲートから入る、ついてきてくれ。」

 

「わぁ!あそこのゲートって来賓専用じゃん!ラッキー!」

 

どうやら特別待遇らしい、まぁ協定を結んでいる組織のトップが来るなら当たり前か。

そこは一般用のゲートとは違い、入り口が広く取られ、掃除もこまめに成されているようだ。その入り口には、刀を持った女性がいた。

 

「待っていたぞ、ドクター。」

 

「チェン?お出迎えしてもらえるとは聞いていなかったが。」

 

「なに、近くへ寄ったついでだ。新しく入ったオペレーターも来ると聞いたしな、ロドスに所属している人間は、危険人物も含まれているということを知っているのに、警戒しないわけが無いだろう。」

 

「でも私を警戒したところで、なにも出てこないよ?」

 

「貴様が新入りか。」

 

「申し遅れたね、私はオランジュ。行く宛が無かったから、ロドスに拾ってもらったのさ。」

 

「龍門近衛局督察隊隊長、チェンだ。くれぐれも荒事は起こさないようにしろ、さもなければ少し痛い目を見てもらうぞ。」

 

「相変わらずおっかないな〜……。」

 

「貴様もだ、ペンギン急便!毎度毎度街を壊して!」

 

「ひえーっ!」

 

「まぁそのくらいにしておいてくれ、オランジュは今まで、ロドス内で加入後問題を起こしたことは無いし、性格、言動についての問題が報告されたことも無い。荒事を起こすことは無いよ、そう思ったから連れてきた訳だし。」

 

「ふん、だといいが。……私は業務があるので戻る、しかしオレンジ色の髪の女が暴れていると通報が入ったら、飛んででも行くからな。」

 

まるで嵐のような人だった、あれがチェンか、エクシアの言うとおりおっかなかった。名前を呼ぶときはどうしよう?無難にチェン隊長でいいかな。

 

「まさか、チェンが来ているとは……、大丈夫か?オランジュ。」

 

「全然大丈夫だよ、ドクター。それよりも早く行かないかい?時間は有限だからね。」

 

「賛成!ほらドクター、早く!」

 

「わかった、わかったよ、行こう。」

 

ーーーーー

 

「先ずは腹ごしらえだな、どこにしようか。」

 

「エクシア、オススメはある?」

 

「それなら……、あそこのカフェでどう?歩き回るんだし、軽いほうがいいでしょ。」

 

「いいね、そうしよう。」

 

ーーーーー

 

「ボス、ターゲットを発見しました。我々の本命も一緒です。しかし、一人こちらの情報に無いものが居ます、どういたしますか?」

 

《作戦は決行する。イレギュラーは一応警戒しろ、容赦はするな。》

 

「了解。」

 

ーーーーー

 

「ねぇ、楽しく食事を終えてお買い物と行きたいところだけど、お客様だよ。」

 

「え?ほんと?」

 

「ほんと。見られてるね、どうやら私は目的じゃなさそうだ。」

 

「増援を呼ぶ、それまでは引きつけよう。」

 

「いいのかい?」

 

「ここで襲いかかって来ないということは、それなりに襲撃の準備は時間がかかるか、何かしらの作戦があるのだろう。ならその時間は有効活用させてもらう、どうせなら襲撃を取り押さえて、多数を龍門に引き渡したい。」

 

「増援が来るまではどのくらい?」

 

「2時間くらいのはずだ。」

 

「じゃあそれまではお買い物だね!」

 

「そうしよう、相手に不審がられては逃げられる可能性もある。」

 

「じゃあお洋服屋さんに行こっか、昨日ソラにいいお店教えてもらったんだよ。」

 

「へぇ、それは少し楽しみだな。」

 

「バッチリコーディネートしてあげるから、覚悟してよね!」

 

「あくまで速戦即決で頼むよ。」

 

「そう言うと思って、試着してもらう服は大体どういうものか考えたよ。ちゃんと機能性もある、作戦にも着ていけるやつがあるはず!」

 

「でも、それって少し割高になるんじゃないかい……?」

 

「強引についてきたのもあるし、半分くらいならあたしが貸すよ。その代わりお給料出るようになったら、ピンチの時に奢ってちょ!」

 

「そういうことなら、いいよ。約束しよう。」

 

「じゃあそのときはよろしくっ!」

 

「増援を呼んだ、やっぱり2時間はかかるらしい。それじゃあ……、洋服屋に行こうか。」

 

ーーーーー

 

「あ!あそこのお店だよ!」

 

エクシアが指差す方向にあったのは、やや庶民的にも見える雑貨屋と洋服屋が合わさったようなお店だった。ショーケースにはシンプルなワンピース、装飾の派手なコート、ポケットの多いジャケットに、アクセサリー、無骨で耐久性に優れそうなブーツ等々……。どうやらかなりの種類の服を扱っているらしい。見ているだけでもワクワクする。中に入るのが楽しみだな。




チェンは我がロドスに居ないのですが、メインシナリオに出てきたのでセーフ…!セーフ…!


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お披露目は後回し

ききけーやくがくりあできない


お店の中は服を始めとして、小物やバッグがところ狭しと並んでいた。置き方はかなり大雑把で、分類分けはあまりされてないらしい。

 

「ここは中々……、面白いところだね。」

 

「そうだな、だがこの中から目当てモノを探すのは大変じゃないか?」

 

「普通の服とかならそうなんだけど、確か頑丈な服は固めて置いてあるはず……。あ!あそこ!」

 

「ホントだ、商品ポップがあるね。」

 

ーーーーー

 

「で、私に着て欲しいっていうのはどれだい?」

 

正直着せ替えられるのはあまり得意ではないし、オシャレな服を着るのが好きとも言いがたいから、そんなに多くないといいんだけれど。

 

「えっとね、これと、これと、これ!」

 

「3セットね、わかったよ。」

 

3セットなら余裕で着れる、よかった。

 

「ホントは10セット来てほしかったんだけど……仕方ないからね。」

 

あってよかったとは言えないけれど、襲撃に少しだけ感謝しなきゃいけないかもしれない。

 

「じゃあ試着してくるよ、覗かないでね?」

 

「大丈夫だ、同じ過ちは二度も繰り返さない。」

 

冗談で言ったんだけど……、ドクターは一体何があったんだ。口ぶりからして誰かの着替えを覗いてしまったらしいが。

 

ーーーーー

 

「さて、着たよ。どうだい?」

 

私がまず試着したのは、黒と白のゴスロリを思わせるフリルの付いたシャツと、同じくフリルの付いたスカート、その上からジャケットを着たものだった。

 

「アーミヤみたいな服装だ。」

 

「確かに言われてみればそうだね。」

 

「……。」

 

「次、着るよ。」

 

ーーーーー

 

今度は白いワイシャツの上に黒いコートを着て、下半身には黒いハーフパンツとタイツ、ネクタイも締めているかっちりした服。

 

「意外と動きやすくて、中々いいね。」

 

「オレンジ色の髪とギャップがあっていいな。」

 

「……。」

 

「エクシア?次着るよ?」

 

「うん、ちゃんと見てるから大丈夫だよ。」

 

さっきからすごい集中して見られている感じがする……。

 

ーーーーー

 

3セット目は、黒いワイシャツと裏地と縁が黒色をした、表面が白くロング丈のジャケットに白色のミニスカートを合わせたコーディネート。

 

「ん、このジャケットはポケットが多くて便利そうだね。スカートも案外動きやすくて悪くない。」

 

「上品さと活発さがあっていい感じだ。」

 

「………。」

 

「エクシア、エクシアからも感想が聞きたいな。」

 

「うぇ?!に、似合ってると思うよ、かわいい。」

 

「さっきからどうしたんだい?黙りこくって。」

 

「そうだな、なにかあったか?」

 

「いや、なんでもないよ。」

 

それにしてはすごい注視されてたと思うけど……、まぁいいか。

 

「それで、どれが良かったかな?私はどれも良かったと思うんだけど。」

 

「でも最初のやつはあまり合ってなかった気がする、オランジュ意外と背高いし。」

 

「あと2つか、……じゃあこういうのはどうだい?」

 

ーーーーー

 

「買い物というのも中々悪くないものだね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「おやドクター、その紙袋は?」

 

「これは、アーミヤに渡そうと思ってな。いつも頑張って貰ってるし。」

 

「いい心がけじゃないか。」

 

「気に入ってもらえるといいんだが。」

 

ドクターの眼前に居た私に対して、様子見などせず焦った様子で話しかけてきたあたり、かなり大切に思われてそうだし、大抵のものなら喜んで貰えそうだけどなぁ。

 

「ところでリーダー、増援までは?」

 

「あと45分といったところだ。そろそろ合流しやすい地点に移動しよう。」

 

今まで感じていた視線が強くなってきたのを感じた。これは注視とかではなく、恐らく複数人からの視線だ。

 

「ドクター、合流地点まで迂回しながら鬼ごっこになりそうだ。」

 

「やはり2時間は持たなかったか。」

 

「リーダー分かってたの?なら何か勝算があるんだよね?」

 

「もちろん、逃げるなら龍門に精通したエクシアが居るこちらに分がある、それに……。」

 

「それに?」

 

「龍門近衛隊にも手伝って貰おう。元々通報はする予定でもあった、ただ、あくまで正当防衛とした方が色々やりやすい。もう少し待つぞ。」

 

「待つ云々言ってる暇は無さそうだ、ドクター。相手の視線が分散した、恐らく包囲に動いているね。」

 

「正面突破だ、走れ!」

 

「エクシア、右をお願い、私は左を。」

 

「おっけー!」

 

相手が近づいて来るのを感じる、恐らくもう襲いかかって来るだろう。

 

「エクシア、ドクター、恐らくそこの路地裏に一人いる。私が対処できるよ。」

 

「頼んだ。エクシア、その敵と相対してもまだ銃は出さないでくれ。それから先導して人通りの少なく、目につきやすい広い場所、逃走経路もあると尚いいが、そういう場所があれば案内を頼む。」

 

「中々難しい注文だね、リーダー!でも安心して、今の時間帯なら全部満たせる場所があるよ!」

 

「よし、オランジュ、あくまで逃走優先、反撃以外の攻撃はまだ禁止する。」

 

「了解。」

 

ちょうど路地裏から飛び出してきた敵の攻撃を右へのサイドステップで避け、首を掴んで覆面に覆われた顔面を膝で打ち抜く、相当効いたらしい、相手はそのまま崩れ落ちてしまった。

盾を持っているので機動盾兵だったようだが、やはりゲームと現実は違う。

 

「ドクター、盾くらいは持ってってもいいかい?」

 

「大丈夫だ、警棒の準備も頼んだ。」

 

「直ぐにでも出せるよ。」

 

「わかった、目的地で合図をだしたら、どっちも武器を抜いてくれ。」

 

「オッケー!」

 

「了解。」

 

ーーーーー

 

エクシアの先導についていき、時折攻撃を察知して二人に伝える。持ってきていた盾も割と耐久性が高く、大いに役立ってくれていた。なるほど、確かにこれは正面からの戦闘では厄介かもしれない。どちらにせよ敵は舐めないほうがいいようだ。

 

「オランジュ、エクシア、敵はどこだと思う?所属の話だ。」

 

「レユニオンっぽいけど、それにしては、裏道を走るあたし達に食いつけてるのが不思議だね。」

 

「私は……、分からないかな、知識がそもそも少ないし。」

 

ほんとにどこなんだろうか、龍門のスラム出身のレユニオンメンバーとかならまだ分からないこともないが、ここは都市部だ、スラム出身にしては精通している道がおかしい気もする。

いずれにせよ、一筋縄では対処できる相手じゃなさそうなのは確かだけど。




はい、服はあとでのお披露目となります。
オランジュはモスティマと同じで身長が171です
危機契約で更新頻度おちます


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予定に予想外はつきもの

危機契約はだめでした(敗北)。
テスト期間も被ってるのでもうちょい亀になります。


「で、エクシア、あとどのくらいだ?」

 

「ちょうどここを出た先だよ!」

 

そこは様々なオフィスのあるビル街に囲まれた大きな交差点だった。なるほど、この時間帯は仕事があるので人通りは少ないし、周囲のビルからも見やすい。

 

「さて、ドクター?ここでとにかく耐えればいいんだよね?」

 

「その通りだ。合図のあとは武器を使用して足止めしながら、合流地点まで逃げる。道案内はまたエクシアに頼むよ。」

 

「オッケーリーダー!」

 

今まで通ってきた道からレユニオン?達が押し寄せてくる、数は十数人と行ったところだけど、対応できるかはまだ分からない。

 

「ドクター、どうやって耐えるんだい?私は十数人を同時に捌き切ることはできないよ。」

 

「相手の歩幅をずらす、というよりは時間稼ぎかな。周りが注目してくれればそれでいい。オランジュ、話をしに行くから、私のすぐ横に居てくれ。」

 

「了解。」

 

どうやらドクターは話術でどうにかするつもりらしい。

 

「標的に接近!」

 

「戦闘指揮官だ!油断はするな!」

 

「ロドスめっ!」

 

「…………ペンギン急便……。」

 

「なぁ!君たちに1つ聞きたいことがある。」

 

「誰かお前たちと話を!」

 

「待て、約束は守ってもらう。そういう約束だろう?」

 

「っち……。」

 

「話はできるってことでいいのかな。」

 

「ああ、構わん。」

 

「それじゃあ……、君たちの正体はなんだ?レユニオンだけでは無さそうだけども。」

 

「ご名答だが、正体までは言えない、言える立場じゃないからな。ただ、そこのラテラーノ人と……、オレンジ髪を置いて行ってくれるなら、俺達はお前に手出ししないとだけは言っておこう。」

 

「もしそうしたら、私はレユニオンに襲われるってわけだ。」

 

「またまたご名答だな。だがまぁ、敵は少ないほうがいいだろ、条件を呑まないか?」

 

「私は長生きしたいんでね、遠慮させてもらうよ。空も曇ってるし、どうせなら終点は青空がいい。」

 

「その返答は残念だが、考え方は悪くないな。だから言っておこう、お前に青空を見せてやれなくてすまない。」

 

「いつまで話をしているつもりだ!」

 

「待たせたな、話は終わった。いいぞ、やれ。」

 

「オランジュ!」

 

「分かった。」

 

業を煮やしたのであろうレユニオンが一人突っ込んでくる。即座にドクターの前へ盾を構えながら飛び出して、敵の手から振るわれた剣を受け止めた。

 

「残念だけど、ドクターには今後も青空を見てもらわなきゃいけないんだ。殺させはしないよ。」

 

「ハッ!あんな奴を生かしておいては、屍が積み重なるだけだ!」

 

「オランジュ!後退しながらで構わない。あと三十秒稼いでくれ。」

 

「朝飯前だね。」

 

「舐めやがって……!」

 

実際三十秒なら用意に稼げる。直接受けずに、なるべく受け流し続ければ問題ない。

 

「クソっ!敵の武器を使うとは……!」

 

「臨機応変だよ。君だって武器がなかったらそうするさ。」

 

「俺は貴様のような恥知らずとは違う!」

 

「おやおや、大分手厳しいね。でも戦力に困って別の組織に頭下げに行くような人たちには、言われたくないかな。」

 

「貴様ァ!」

 

どうやら図星らしい。より相手の攻撃は苛烈になるが、精彩さは無くなり、やたらめったらに武器を振り回すので仲間も援護ができなくなっていた。

 

「オランジュ、後ろに向かって走れ、使って構わない!」

 

「待っていたよ。」

 

その言葉と同時に、懐から警棒を展開し、怒りによって防御が緩くなっている相手の脇腹へと思い切り振り抜く。鈍い音と共に、相手は膝から崩れ落ちた。

 

「貴様……!武器は無いはずじゃ……!」

 

「素直に信じちゃったのが、どうかと思うよ?」

 

「やはり、恥知らずだな……!」

 

「そうかもね。それじゃあバイバイ!」

 

最終的に勝てばよかろうなのだ、命がかかっているのに正々堂々等とは言っていられない。

 

ーーーーー

 

「民間人が騒ぎを見て通報してくれた。あくまでこちらが攻撃していない時に通報を行っていたから、こちらが発端であるということにはならないだろう。」

 

「いざという時の保険か、確かに大事だね。」

 

「二人とも!あんまり話してる場合じゃないよ!結構追ってきてる!」

 

「怒らせちゃったみたいだ。とにかく全力で逃げるしかないね。」

 

今はなんとかたまに襲ってくるレユニオンたちを殴り倒し、走り回っている、しかし、いつか限界は来る。それまでに増援が間に合えばいいのだが。

そこで、背中に視線を感じた。今までの襲撃者とは違う、冷静な視線だ。それはこちらを一瞬見たあと、エクシアに視線を向けたらしい。嫌な予感がする。

 

「危ない!」

 

「オランジュ!?」

 

必死にエクシアへ追いつき、その背中を庇った。そこに背後から迫ってきたのは、硬い瓶のようなもので、砕ける音と衝撃をくらった後、凄まじい熱さが背中を襲った。

 

「火炎瓶か……、中々痛いね、これは。」

 

「オランジュ、ちょっと、コレ大丈夫!?」

 

「流石ロドス購買部のジャケット、外傷は大して貰ってないよ。ただ、ちょっと打ちどころが悪かったかな。」

 

「オランジュ!早く進むぞ!」

 

「そうだね、うーん……。エクシア、ドクターを頼めるかい?逃げる算段はあるけど、それだと歩幅を合わせられないんだ。」

 

「オランジュ…?何言ってるの!?怪我を庇って一人で逃げられるわけ……!」

 

「怪我人と一緒に、逃げおおせ続けることも難しい、だよね?」

 

「……エクシア、行こう。」

 

「リーダー!」

 

「だいじょーぶ、私は必ず合流できるよ。」

 

「……奢りの約束、絶対守ってもらうからね。」

 

「約束を反故にはしないさ。そら、行ったいった。」

 

「すまない。助かる。」

 

ーーーーー

 

「どうやら、お仲間はお前を見捨てていったようだな。」

 

「見捨てたんじゃないさ、お互い約束は破らないと言った、それだけのことだよ。」

 

「まぁそこはどうでもいい。先ずはお前からだ、相手方の増援が来る前に人質は欲しかったんでな、いい様に利用させてもらう。」

「さて、そう上手く行くかなっ!」

 

即座にアーツを発動し、素早い動きでドクターとエクシアが消えた路地とは別の道を駆け抜ける。

訓練を通して1つ分かったことがあった。このアーツは扱いが難しい上に、発動時間が短く、加速の度合いを調整しづらいため、逃げでは【発動して追手を引き離し、また追いつかれたら発動して引き離す】という使い方しかできない。

 

「とりあえず身を隠そう、こっちに戦力を割いてくれるといいんだけど……。」

 

ーーーーー

 

「クソッ、てっきり虚勢かと思ったが、ここから逃げおおせるとは。」

 

「アレは放っておいて、ドクター共を追いかける。」

 

「いや、怪我した状態であれだけ動いたんだ、大分弱っているはず……。交渉用の人質は、こちらの戦力を使ってサブプランとして追う。《モロトフ、やれるな?》」

 

《了解、追撃を開始する。》




普通、人は火炎瓶がぶつかって壊れるほどの威力で体に投げられたら怪我くらい負う……はず。

評価はモチベーションという話はホントだと書き始めて思いましたまる


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1614004263

なんで?なんで、ネームド敵キャラなんて出しちゃったんですか?


どうやら一時的に撒けたらしい、でもここまで通路の分岐は少なかったから、気づかれるのも時間の問題だろう。

ジャケットによってやけどは防げたけど、見た目は悪くなってしまっているし、何より焦げ臭さが強い。

 

「仕方ない、簡単に着替えるとしよう。」

 

元々来ていたズボンとシャツはそのままに、上着のみ先程購入した白に黒縁のジャケットを羽織る。

 

そこでまた視線を感じた。先程の冷静な視線だ。

 

「流石に二度も喰らわないよ!」

 

アーツによる一時的な加速で火炎瓶の射程から逃れる。

 

「……一芸だけでは仕留めきれんか、厄介な。」

 

「お褒めに預かり光栄だね。」

 

声の先に居たのは、背中の装置へと繋がれた何かしらの射出機を携える大男だった。

 

「中々面白そうなものを持ってるじゃないか、アーツでその機械から火炎瓶を射出しているのかい?」

 

「そうだが、知っていたところでどうにかなるわけでもあるまい。」

 

「そうだね、確かにそうかもしれない。でもこの問答の間でわかったことはあるよ。」

 

「ほう?」

 

「視線が妙に減った代わりに、熱に浮かされたようなモノは少なくなった。多分だけど、あの交渉人と同じ派閥の人達……でしょ?」

 

「勘がいいな、益々厄介だ。悪いが、もう問答する気もない。」

 

相手が射出機を構え直す、相手の視線さえこちらに向いているが、意識は私の後ろ……、退路を塞ぐ撃ち方をするつもりだ。

どうしよう、下がれば敵は居ないが火炎瓶を撃たれる、しかし、ここで戦闘してもジリ貧になるだろう。ならば答えは1つ。

 

「死なないでくれよ、利用価値があるからな。」

 

相手の射出機から勢い良く火炎瓶が飛び出す。

 

「そう言いながら、ダメージの大きくなりやすい火炎瓶を使うのはどうかと思うよ!」

 

背後から吹き出す火炎の熱さを感じながら、敢えて踏み出し、相手へと警棒を振り下ろした。

 

「意識を悟るのが得意なくせに、隠すのはあまり得意じゃないのか?」

 

「まだ見習いの身でね!」

 

振り下ろした警棒は簡単に止められた。予想以上の速度でサーベルを抜刀したらしい、スカルシュレッダーのように遠近共に強いタイプかもしれない。

 

「さっき言われたことをそのまま返すよ。厄介だ。」

 

「ふん、光栄だな?」

 

これはまずいかもしれない、とにかく先ずは周りを排除するところから始めるべきだろうか。そうなればもう一度逃走を……。

 

「逃がさん。」

 

アーツを発動し、逃げようとした瞬間、火炎瓶が退路へと飛来する。

アーツは無限に使えない、ならアーツを使い続けて逃げを狙うのは得策とは言えないだろう。

 

「これは、腹をくくるしかないのかなぁ。」

 

「そうだな、大人しく捕まってくれ。」

 

「そうしたいのはやまやまさ、私も痛いのは嫌いだからね。でも、約束しちゃったからさ、そう簡単に捕まってはあげられないよ。」

 

「ならば仕方ない、せいぜい死なないように頑張ってくれ。」

 

会話が終わると同時に、様々な方向からより強い意識を感じ取り飛び退くと、先程までいた場所に数本のクロスボウの矢が突き刺さった。

狙いは正確で、先程のレユニオンよりも厄介かもしれない。

しかし、アーツを用いた移動を捉えられる程では無さそうだ。

 

「つまり矢を避けながら君をはっ倒せばいい訳だ、簡単だね。」

 

返事代わりの火炎瓶を加速でスローになった視界でキャッチし、相手に投げ返す。

だが相手は自身が炎に包まれても身じろぎ一つしない、その上炎は瞬間的に消えてしまった。

その様子を見ていたところに間髪入れず矢が襲いかかるが、それも横飛びで躱し、勢い良く敵の懐へ飛び込む。

そこで思い切って警棒をスイングするが、やはり刃に防がれた。

しかし……

 

「ここなら援護射撃はできないね!」

 

「チッ、面倒な……!」

 

近接戦闘に持ち込めば、火炎瓶と、援護射撃を封じることができる。

 

「そう上手く行くと思うな!」

 

そう言うと、敵は火炎瓶の射出機を下に向け、地面へ火炎瓶を射出した。

地面を焼いて、相手に距離を取らせようという魂胆だ。

 

「その手は読んでいたよ!装備が耐火性の時点でね!」

 

炎が広がる前に大柄な相手の体を駆け上がり、頭を踏み抜きながら遠方へジャンプする。

 

「ぐぉっ……!」

 

頭を踏み抜いたことでかなりのダメージになったらしい、今なら逃れられる、そう確信してアーツを発動し、全速力で路地裏を駆けた。

 

ーーーーー

 

《モロトフ、逃したか。》

 

「《申し訳ありません、直ちに逃走経路を予測して追撃をかけます。》」

 

《いや、いい、作戦変更だ。相手の向かっている地点が分かった、徐々に数を集め、一気に強襲する。お前も来い。》

 

「《了解》」

 

ーーーーー

「リーダー!もうそろそろ時間じゃない?!」

 

「そうだな、合流地点へ急ごう、相手も疲弊して徐々に数を減らしているようだし。」

 

「オランジュ、大丈夫かな……。」

 

「あのスカジの攻撃を受けきる技量があるし、特殊なアーツも持っている。多分……大丈夫だろう。」

 

《ドクター、聞こえてるかい?》

 

「《エリジウム、増援はもう着きそうか?》」

 

《バッチリだよドクター!人員もよりすぐりさ!》

 

「《それなら良かった、それと、オペレーターオランジュとはぐれた、龍門に精通したオペレーターの追加増援を求めるかもしれない、アーミヤかケルシーに伝えておいてくれ。》」

 

《了解!》

 

「さて、何事もなければいいが……。」

 

ーーーーー

 

あの敵から逃れて、それなりの時間が経ったが……、完全に視線を感じなくなった、巻いたのだろうか………?

いや、あの時屋根上に敵は居たはず、先程追いつかれたのも相まって、追って来られない道理はないと思うが……もしや私の方を諦めた?

人質を取りたかった旨の事をあの敵は言っていた、つまりもし諦めたのなら人質が必要ではなくなったということになる。

 

ドクターとエクシアが危ない、罠か、目的地に先回りかは分からないが、確実にあちらを捕まえる算段が整った可能性が高いだろう。

援護に行かなくては!

 




ぐおぉ投稿速度に乱れが


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