機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY (ichika)
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プロローグ
プロローグ


どうもお久しぶりです、作者のichikaです。

この話には前作のインフィニット・ストラトス・アストレイをご覧になっておいた方が分かり易い展開や場面がチラホラ出てきます。
この作品から読み始めても読み易い様に心掛けてはいますが、そういった場面が出てくるかもしれないという事だけを念頭に置いてくだされば私としても助かります。

それでは、お楽しみ下さいませ。


noside

 

それは、哀しき英雄が辿った物語であった・・・。

 

「この世界、任せたぜ・・・。」

 

「兄さん・・・!死ぬな・・・ッ!!」

 

世界を、友を、自身の弟すら欺き、

世界を一つの意思の基、統一へと導いた心優しきライアー(ウソつき)は、

何処か満足げな表情を浮かべながらもその生涯を閉じる。

 

「私はここまでですわ・・・、楯無と、お幸せに・・・。」

 

「逝くな、セシリア・・・!!」

 

「じゃあね・・・、秋良と、幸せにね・・・。」

 

「行かないで・・・、シャルロット・・・ッ!!」

 

彼を愛し、何処までも彼を信じた女達は、

彼を想いながらもその短くも燦然と輝く生涯に幕を閉じた。

 

役目を終え、満足そうに微笑みながらも、

彼等の魂は神の下へと召される、筈だった・・・。

 

―君達はまだ、こっちに来ちゃダメだよ―

 

しかし、彼らの魂は、ある場所へと流れていった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

ここは、何処だ・・・?

 

意識が僅かに覚醒するが、

瞼を開け、周囲を確認する事すら出来ない。

 

何も感じない・・・、音も、気配も・・・。

 

形容するならば、無の世界といった方が正しい・・・。

 

俺はどうなった・・・、世界は、どうなった・・・。

 

セシリアは・・・、シャルは・・・。

 

考えようとしても思考が回らない・・・、

考える度に意識が覚醒から遠退いて行くのがハッキリ分かった・・・。

 

だが、それでも俺は虚空に向けて手を伸ばす、

誰かが掴んでくれる事を期待している訳じゃないけどな・・・。

 

「セシリア・・・、シャル・・・。」

 

お前達は、今、どこにいるんだ・・・?

頼むよ・・・、俺を・・・、俺を独りにしないでくれ・・・。

 

そこで、俺の意識は再び途絶えた・・・。

 

何かが近付いて来る様な感覚を感じながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「おぉ・・・、なんという事だ・・・、天の力を過信し、単独で飛び出したばかりに・・・。」

 

オーブ軍艦、イズモ級一番艦イズモの格納庫内にて、

一人の女性が腰を屈め、

横たわる男性の遺体を撫でていた。

 

その声は悲しみに震え、瞳の端には涙の雫が滲んでいた。

 

「ロンド・ギナ・サハクよ・・・、これからという時に、私は自らの半身を喪ってしまうことになったのか・・・。」

 

自身の弟、ロンド・ギナ・サハクの遺体の顔を撫でながらも、女性、ロンド・ミナ・サハクは涙を溢す。

 

ロンド・ミナ及び、ロンド・ギナはオーブ五大氏族のひとつであるサハク家の出身であり、

現在は低軌道ステーション、アメノミハシラに居を構えている。

 

共に壮大なる野望を抱え、それに向けて動き出そうとした矢先に、彼女の弟であるロンド・ギナは、

赤きジャンク屋と青き傭兵に討たれ、命を落としてしまったのだ。

 

「だが、安心してくれ・・・、お前の野望は必ずや私が叶えてみせようぞ・・・。」

 

ギナの唇に着けられていた口紅を指で拭い、自身の唇に塗り付ける。

 

その身体は滅びようとも、お前の魂は常に自分と共に在るとでも言うう様に・・・。

 

その直後、カッと目を見開き、彼女は両腕を大きく広げる。

 

「これからは私を・・・!

私が創る世界を、天空から見守っていてくれ!!

イズモに指令を出せ、アメノミハシラへ帰還するとな!!」

 

ギナに向けて宣言し、

その後、自身の背後に控えていた、同じ顔を持った三人組へと指示を出した。

 

「了解しました、ロンド・ミナ・サハク様・・・。」

 

彼女の指示に淡々と、抑揚のない声で了解する彼らの名は、ソキウス。

 

ラテン語で戦友という意味を持った、戦闘用コーディネィターである。

 

彼等は地球連合軍、更に深い言い方をすれば、

連合軍を牛耳るブルーコスモスによって作られており、ナチュラルに害をなせない様に、服従遺伝子を弄られている。

 

本来ならば地球軍にいる筈の彼等が、

何故オーブ所属のロンド・ミナの下にいるのか?

 

それには理由がある、

ロンド・ギナは生前、ブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルに協力を申し入れたのだ。

 

もっとも、この申し出もギナの野望の足掛かりのひとつにしか過ぎず、事が済めば解消するというモノではあったが・・・。

 

彼から同盟の証しとして、薬物により精神をかき消されたフォーソキウス、シックスソキウス、サーティーンソキウス、そして、ソードカラミティ、フォビドゥンブルー、レイダー制式採用機、そしてロングダガー二機を受け取っていたのだ。

 

その結果として、この三人のソキウス達はブルーコスモスの処分から逃れ、彼女達に従っているのだ。

 

もっとも、心が壊されたからといっても、

彼らの自我が壊されているのかというのかは分からないのではあるが・・・。

 

そんな彼等に、ロンド・ミナは背を向け、

格納庫から去ろうとした、その時だった。

 

『ミナ様、我が艦の付近にモビルスーツの反応があります。』

 

「なんだと?」

 

艦橋からの艦内放送に眉をひそめながらも、

彼女は手近に設置されていたモニターに寄る。

 

まさか、先程の傭兵が装備を整えて攻めてきたのか?

 

そんな思考がミナの脳裏を過るが、

彼女はその考えを直ぐ様否定する。

 

その傭兵は、イズモの反応を察知しただけで撤退していった。

 

つまりはエネルギー、もしくは装備の問題があったのだろう。

 

イズモがこの宙域に入ったのは、

かの傭兵が撤退した直後なのだ。

 

ギナの遺体と、天を回収するのには然程時間はかかっていない、

つまり、何れ程優秀なクルーを抱えていようとも、

この短時間で武器の換装等の整備はとてもでは無いが不可能だ。

 

ならば、何が来たというのか・・・?

 

艦長を務める男の顔がモニターに映し出され、

彼はミナに向けて敬礼しながらも言葉を紡ぐ。

 

『反応はあるのですが、あまりに動きが遅く、

まるでデブリと同じ様に漂っている様であります。』

 

「機影を確認できるか?

ただの残骸かも知れんが、警戒を続けろ。」

 

デブリと同じ、つまりは過去にこの宙域、

もしくは近くの宙域にて撃破された機体の残骸がレーダーにかかっただけなのかも知れない。

 

だが、それにも一つの疑問が残る。

 

戦艦に搭載されているレーダーは、基本的には対象の熱紋を捉える物であり、デブリ等、熱を発しない物体には反応しない。

 

つまり、イズモに接近して来たのはデブリではなく、

熱紋を発しているモビルスーツということになる。

 

何故稼働しているモビルスーツが、

デブリと同じ様に漂っているのか?

 

それもまた、彼女にとっては理解し難かったのだろう。

 

『機影確認が出来ました、モニターに表示します。』

 

モニターに表示されていたモノが切り替わり、

イズモの外側、つまりは真空の宇宙空間が映し出された。

 

周囲のデブリに紛れ、ダークグレーの機体が確認出来た。

 

特徴的なブレードアンテナにツインアイ、

そして、無駄なモノを省いたアスリートの様な体躯。

 

「ストライク・・・。」

 

ロンド・ミナの背後に控えていたフォーソキウスは、

その機体に合点が言ったのか、抑揚のない声で呟いていた。

 

GAT-X105 ストライク。

オーブ所有コロニー<ヘリオポリス>にて開発されていた連合軍の試作モビルスーツの一機だ。

 

唯一、ザフトのクルーゼ隊による襲撃、及び強奪より逃れた機体であり、

連合軍戦艦、アークエンジェルに所属し、

数々のザフト機を討った事で有名である。

 

そのデータは連合の量産機、ストライクダガー、105ダガー、そしてオーブのM1シリーズに使用されている。

 

だが、かの機体はオーブ近海での戦闘で中破、

モルゲンレーテ本社のファクトリーにて修繕されていた筈だ。

 

その事は、モルゲンレーテで実際に確認したギナから聞いていた。

 

その後、オーブに身を寄せたアークエンジェルに引き渡され、

連合のオーブ侵攻戦にて、オーブ側の機体として参戦したと、あるパイプからの情報で聞いている。

 

現在はアークエンジェル、そして、イズモ級二番艦クサナギと共に、壊滅したオーブから宇宙へと離脱し、

宇宙の何処かに身を隠しているらしい。

 

この宙域にアークエンジェル、及びクサナギが来たという情報は無い。

 

ならば、今イズモの付近を漂っているストライクは、

アークエンジェルのモノではないという事は容易に想像できる。

 

では、この機体は何処のものだ・・・?

 

艦のクルー全員がそう思ったのも束の間、

突如としてロンド・ミナの指示が飛ぶ。

 

「すぐに機体を回収しろ!フォーソキウス、ソードで出撃しろ!」

 

『は、ハッ!』

 

「了解しました。」

 

あまりにも急な指示だった為、艦長は驚いた様な表情を見せるものの、直ぐ様イズモを寄せる様にクルーに指示を出す。

 

ソキウスはと言えば、いつも通りの無表情を崩さないまま、ソードカラミティに乗り込んでいった。

 

ロンド・ミナはといえば、表面上は落ち着いているかの様に見えるが、

よくよく見てみれば、何処か焦りの色が見てとれる。

 

何故そんなに焦る必要があるのか?

ストライクのデータは既にモルゲンレーテが取得している上に、デッドコピー機であるMBF-02 ストライクルージュも近々完成する予定である訳で、

別段、ストライクという機体は戦力として以外に価値は無い。

 

ならば、用があるのはパイロットの方か?

ストライクという極めて高価、そして高性能な機体に乗っているのだ、それなりに腕は立つパイロットである事は容易に想像できる。

 

しかし、どんな者が乗っているかも分からぬ筈なのだが、彼女は誰が乗っているのかを知っている様にも見える。

 

では、彼女はストライクのパイロットに会ったことがあるのか?

何時?何処で?どのタイミングで?

 

分からぬ事だらけな事この上無いが、

ミナがそう命じた以上、従う他無い。

 

程なくして、再度出撃したソードカラミティに抱えられたストライクがイズモに着艦し、

格納庫の床に寝かせられた。

 

その直後より、獲物に群がる蟻の如く、

ストライクのエマージェンシーシャッターを抉じ開け、パイロットを確保するべく、整備士達が動く。

 

特に破損した箇所も見受けられない為、

外側から手動入力により、ストライクのコックピットハッチが開いていく。

 

それを確認したロンド・ミナは、整備士達を押し退けるかの様な勢いでストライクのコックピットに入り込み、パイロットの男性を担ぐ。

 

ミナに担ぎ上げられたパイロットの頭部より、

ヘルメットが脱げ落ち、その顔が露になる。

 

癖のある黒髪を持ち、美形と呼んでも差し障りの無い容姿を持った二十前後の青年・・・。

 

「一夏・・・。」

 

ぐったりと衰弱したような様子ながらも、

何処か力強さを感じさせる彼に向けて、ミナは呟いた・・・。

 

彼の名は、かつて、別世界において、

何処までも愚直に自分の道を貫いた男、織斑一夏であった・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

ここは・・・、何処なのでしょう・・・?

 

暗闇の中、私の意識はぼんやりとながらも覚醒しました。

 

もっとも、それは今にでも消えそうなぐらい、弱々しいものでしたが・・・。

 

何も見えない、何も聞こえない・・・、

これが、地獄という場所なのでしょうか・・・。

 

一夏様は・・・、シャルさんは・・・、

何処にいますの・・・?

 

私を・・・、セシリアを独りにしないでくださいませ・・・。

 

「一夏様・・・、シャルさん・・・。」

 

虚空に手を伸ばした所で、私の意識は再び途絶えました・・・。

 

何が近付いてくる気配を感じながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

時は少し遡る、

ゴールドフレーム天にトドメを刺し、

イズモの接近を感知した傭兵、叢雲 劾は、

己が愛機、ブルーフレームセカンドLを駆り、戦闘宙域を離脱していた。

 

敵は倒せる時に倒す、それが彼の、傭兵のやり方であったため、後々面倒な事になりそうなゴールドフレーム天、正確にはそのパイロットを殺し、彼は共闘していたジャンク屋の男に思いを馳せる。

 

(ロウ、想いだけでは生き残れない・・・、

だが、それでもお前は行くのか、王道じゃない道を・・・。)

 

彼は想いの強さで生き残っている、

対して自分はどうだ?気分というものもあるだろうが、

金次第で誰にでも力を貸し、その依頼を実行するだけの傭兵・・・。

 

自分はそれでも構わないとは思っているが、

何かが足りないと心では感じている。

 

(俺も、王道じゃない道を行けるのだろうか・・・、

ふっ、らしくない、な・・・。)

 

自分の胸中に沸き上がった迷いに苦笑しなからも、

彼は自身の愛機を駆った。

 

暫く飛び続けていると、何かの反応があった。

 

「ん?」

 

機体を停止させ、アーマーシュナイダーを引き抜きながらも、彼は周囲を警戒する。

 

しかし、周囲を見渡してもこちらに向かってくる機影らしいものは何一つ見受けられない。

 

代わりに、少し離れた虚空を漂う、灰色の物体を見付けた。

 

特徴的なブレードアンテナにツインアイ、

そして、ジンよりも更に人間の様なフォルムを持つ機体・・・。

 

「あれは・・・、デュエル・・・?」

 

GAT-X102 デュエル。

ヘリオポリスにて開発されていた初期GAT-Xナンバーの初号機である機体だ。

 

MSとしては初めてのPS装甲実装機であり、

その性能は高く、ザフトのクルーゼ隊によって運用されている。

 

また、アークエンジェルより連合にもたらされたデータを基に、ソキウス専用機、ロングダガーや、そのナチュラル仕様機、デュエルダガーが開発されている。

 

しかし、そんな機体が何故この様な所を漂っているのかが理解できない。

 

確かに、劾が先程までいた空域にはザフトが展開していた様だが、

クルーゼ隊が展開していたとは聞いていない。

 

では、この機体は何処の所属だ・・・?

 

そこまで考えた時だった、劾は突如として雷に打たれた様な感覚を覚える。

 

何故か、乗っている者の正体が分かる気がした。

 

自分でも気付かぬ内に、ブルーフレームを動かし、

デュエルを受け止め、そのまま自分の母艦へと帰投していった。

 

『お帰りなさい、劾!!』

 

ブルーフレームのコックピットに、母艦である、ザフトより買い取ったローラシア級戦艦より通信が入る。

 

モニターに映し出されたのは、

今だ十にも満たないであろう少女、風花・アジャーであった。

 

彼女は見習い生であるが故に、目立った活動はしないものの、劾の代理人として交渉などの任務に当たることもしばしば見受けられる。

 

『あれ?その機体、どうしたの?』

 

『劾!それって連合のXナンバーじゃないか!』

 

風花の背後から姿を現した銀髪の美青年、

イライジャ・キールはブルーフレームが連れていた機体に、驚きの声をあげた。

 

それもそうだろう、GAT-Xナンバーと言えば、

試験的に造られた実験機でもあるわけであり、一機ずつしか製造されていない。

 

『どうしたんだよそんなレアな機体?

まさか鹵獲したのか?』

 

「いや、正確には保護だ、そうしなければいけない。」

 

『どういうことだ?』

 

劾の言葉の真意が分からなかったのか、

イライジャは聞き返すが、ハッチが開く振動を感じたため口を閉ざした。

 

劾がここに来てからでも尋ねられる、

そう考えたのだろう。

 

「ロレッタ、次のミッションの前に、

スネイルに進路を採ってくれ、この設備では十分な治療が出来ない。」

 

『どうしたの?まさか怪我人が乗ってるの?』

 

「あぁ、恐らくは、だがな。」

 

恐らく、という彼の口調には、

僅かな焦りの色が滲み出ていた。

 

それを、長い付き合いの中で培った感覚で察したロレッタは、

直ぐ様艦橋から出ていき、医務室へと向かう。

 

その間にブルーフレームは格納庫に入り、

デュエルを床に横たえる。

 

電源を切る間も惜しいと言わんばかりに、

彼は瞬く間に機体を降り、デュエルに取り付く。

 

「どうしたんだよ劾、その機体には誰が乗ってるんだよ?」

 

劾の様子が気になったのか、

格納庫にイライジャがやって来た。

 

その表情には怪訝の色が濃く出ていた。

 

だが、そんな彼の言葉も聞かずに、

劾はデュエルのコックピットハッチを開く作業を続けていた。

 

劾がそこまで冷静さを失うとは思わなかったイライジャは、

驚きに目を見開きながらもパイロットを確認するためにデュエルのコックピット付近に近付く。

 

「下がっていろ、開くぞ。」

 

劾の言葉通り、ゆっくりとデュエルのコックピットハッチが開いていくのを確認し、イライジャは身体を宙に浮かせる。

 

コックピットハッチが完全に開ききったところで、

劾がコックピット内に入り、パイロットの女性を担ぎ上げる。

 

その際、脱げかけていたヘルメットが、

身体を持ち上げられた弾みで脱げ落ち、女性の顔が露になる。

 

宇宙空間では邪魔にこそなれど、

優雅に揺れる金髪を持った二十歳前後の女性・・・。

 

「が、劾!まさか・・・!!」

 

「あぁ、間違いない・・・。」

 

彼女の顔を確認したイライジャが驚きの声をあげ、

劾は彼の言葉に同意する様に首を縦に振る。

 

そう、二人とも彼女の正体を知っていたのだ。

 

「「セシリア・・・。」」

 

そう、彼女はかつて、別世界にて、

愛しき男の為に戦い続けた女、セシリア・オルコットだった・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

ここは・・・、どこなの・・・?

 

僕の意識はうっすらと覚醒した・・・。

 

だけど、それもぼんやりとしてて、

今にも消えてしまいそうなものなんだけど・・・。

 

瞼を開いて、辺りを確認しようとしても、

まるで自分の身体じゃないみたいに身体に力が入らなかった・・・。

 

僕はどうなったの・・・?

 

一夏は・・・?セシリアは・・・?

 

「一夏・・・、セシリア・・・。」

 

僕を独りにしないで・・・、

三人で一緒だって、約束したじゃないか・・・。

 

虚空に向けて手を伸ばすけど、

僕の意識はそこで再び途切れた・・・。

 

sideout

 

noside

 

ジャンク船、リ・ホームは、

ゴールドフレーム天戦を終えたレッドフレームとプロトラゴゥを回収し、

戦闘を行っていた戦域を離脱していた。

 

その格納庫内にて、

レッドフレームのパイロット、ロウ・ギュールは、

破損した愛機の修理に奔走していた。

 

とは言っても、壊れたパーツの取り外し、

予備のパーツに換装する作業など、彼にとっては最早手慣れたものであり、瞬く間にレッドフレームは新品同然に修理された。

 

「う~ん・・・、レッドの修理は出来てもガーベラストレートが折れたままじゃなぁ・・・。」

 

茶髪を逆立てた男、ロウ・ギュールは、

持ち帰ったレッドフレームの主装備、

ガーベラストレートの残骸を眺めながらも頭をかきむしる。

 

先程の戦いにおいて、ガーベラストレートはゴールドフレームの攻撃により、半ばから叩き折られてしまった。

 

これでは、レッドフレームはメインウェポンを失ったままの状態になってしまい、エネルギー消費が激しいビームサーベル等の武器を使用し続けなければならない。

 

しかし、それでは機体の稼働時間が大幅に短縮されてしまうため、作業や戦闘にも支障が出てしまうことは、火を見るよりも明らかである。

 

だが、今現在の設備ではガーベラストレートを打ち直す事は不可能であった。

 

「やっぱり、グレイブヤードに行くしかねぇな、

久々に爺さんの顔も見てぇし、ちょうど良いぜ。」

 

グレイブヤード、

かつては世界樹と呼ばれた最初期のコロニーであり、

現在は戦禍を被り、廃棄コロニーと化してしまった場所である。

 

かの場所には、今や喪われ、再現不可と言われているロストテクノロジーの宝庫、または墓場でもあるため、

略奪者や海賊が狙い続けている場所でもある。

 

そんな無法者達をただ一人で撃退している凄腕の剣豪がいるのだが、彼とてもう歳だ、どれ程先が有るかは分からない。

 

「樹里!リーアム!グレイブヤードに行くぜ!

ガーベラを直してやろう!」

 

思い立ったが即決断、それが彼の本質だ。

 

もっとも、それに振り回される仲間としては少々頭の痛いところではあるが。

 

「分かりました、早速船の航路を変えますね、

着くまでは暫く時間があります、休まれてはいかがですか、ロウ?」

 

「休んでる場合かよ!レッドの修理は終わっても、

プロトラゴゥが動かないんじゃ後々苦労するだろ!

今の内に動いとかないとな!!」

 

黒髪長髪の男性、リーアム・ガーフィールドの提案を退け、

ロウはレッドフレームが牽引してきたプロトラゴゥを修理すべく動く。

 

その時だった・・・。

 

『ロウ、聞こえているか?』

 

ホログラム体であるキャプテンG・Gこと、

ジョージが姿を現す。

 

「どうしたんだジョージ?まさかさっきのヤツの追撃か?」

 

それだけは勘弁して欲しいとは思いながらも、

彼はジョージに向けて尋ねた。

 

可能性としては十分すぎる程に有り得た為、

彼は直ぐ様レッドフレームに搭乗しようと動き出した。

 

『いや、敵じゃない、近くに漂っているモビルスーツがいるのだよ。』

 

「漂っている?まさか人が乗っているのか?」

 

『その可能性も捨てきれない、直ぐに回収したいが、どうするかね?』

 

艦の制御を全て握っているジョージとは言えど、

この艦の舵を実質的に握っているのはロウ・ギュールであり、彼に一応の確認は取っている。

 

「分かった、直ぐに回収してくれ、

プロフェッサー、直ぐに医務室で準備してくれ。」

 

『分かってるわ、回収準備も始めるわね、

早く格納庫から出て頂戴。』

 

「頼むぜ。」

 

プロフェッサーに返答し、ロウとリーアムは直ぐ様隔壁を隔てたコントロールルームに退避する。

 

直後、格納庫の上部隔壁が開き、

鈍い振動と共に外部に設置されているアームが動き、漂う機体に向けて伸ばされる様がモニターに写し出される。

 

「コイツは・・・、まさか・・・!?」

 

モニターに写し出された機体に対し、

ロウは驚愕の表情を浮かべる。

 

『連合のモビルスーツだな、データは無いが。』

 

ロウの手に持たれている箱形のマシン『8』が、

機体の解析を瞬時に行う。

 

しかし、あまりそういう方面のデータは知らないらしく、

NO DATEとだけ表示されていた。

 

「これはGAT-X103、バスターですね、

連合が造った最初のMSの一機だとか・・・。」

 

その機体について、ほんの少しだけ記憶に在ったリーアムは、説明する様な口調で話す。

 

GAT-X103 バスター、ザフトに強奪された連合軍初期型GAT-Xナンバーの一機であり、ザフトのクルーゼ隊によって運用された機体だ。

 

その性能は極めて高く、地球連合第八艦隊の壊滅の一翼を担った。

 

後にアークエンジェルに収容され、

オーブのモルゲンレーテ社で修復され、そのままアークエンジェルの戦力となっている。

 

また、そのデータを基に、小数量産機、バスターダガーが開発され、戦線に投入されている。

 

「そんなことは良い!早く回収してやってくれ!」

 

「ロウ?」

 

自身の説明をどうでも良いと言われた事への怒り、驚愕よりも、

ロウが焦る理由に見当がつかないリーアムは、

怪訝の表情を浮かべながらも彼を見る。

 

ロウの手に持たれている『8』ですら、

『らしくないぞ?』と表示する程だ、よっぽどの事なのだろう。

 

そんな一人と一つの様子を他所に、

彼は焦燥に駆り立てられていた。

 

暫くして、フェイズシフトダウンを起こし、

ダークグレーの機体色になっていたバスターがリ・ホームの格納庫に着艦し、直ぐ様格納庫内にエアーが充填される。

 

しかし、そんな間すら惜しいと言うように、

ロウは隔壁が閉じると同時に工具を手に持ち、

コントロールルームから飛び出す。

 

「エネルギーが切れてるだけか・・・!?

これならなんとか手動で開けれそうだ・・・!!」

 

バスターの外部装甲に設けられていたコントロールパネルを操作し、

彼はバスターのコックピットハッチを開いた。

 

ハッチが開ききると同時にコックピット内に滑り込み、

パイロットの女性を担ぎ上げた。

 

それを見ていたリーアムは酸素マスクを用意し、

ロウに近付いていく。

 

それを確認した彼は、パイロットの女性からヘルメットを脱がせた。

 

ヘルメットの中より、鮮やかな金髪と、その顔が露になる。

 

「やっぱり、お前だったんだな・・・、シャルロット・・・。」

 

ため息混じりの声で、彼は彼女の名を呟いた。

 

彼女は、かつてとある世界にて、

愛しき男に付き従い、全てを捧げた女、シャルロット・デュノアであった・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

傷付いた三人の魂に降り掛かる残酷な現実、
愛しき者と散り散りになった彼等に待ち受ける運命とは・・・?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
謎めく記憶

お楽しみに~。


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謎めく記憶

noside

 

『アメノミハシラ、こちらイズモ、入港許可を願う。』

 

『こちらアメノミハシラ、了解、

35スペースゲートより入港されたし!』

 

青く輝く惑星、地球の衛星軌道上に存在する宇宙要塞、アメノミハシラに向け、

ゴールドフレーム、そしてストライクを収容した戦艦、イズモが進んでいく。

 

アメノミハシラ、

元はオーブが建造予定であった軌道エレベーターの登頂部として建造されたが、戦争の影響により開発計画は頓挫し、

現在は主に軍事ファクトリーとして、サハク家当主、ロンド・ミナ・サハクの管轄とされている場所である。

 

現在は壊滅状態にあるオーブの国民を匿い、

来るべき再起の時を息を潜めて待ち続けている場所でもあった。

 

アメノミハシラに帰港したイズモは、

着岸と同時にハッチとタラップを繋ぎ、

クルーの退艦準備を直ぐ様完了させた。

 

「医療班を急がせろ!なんとしてもこの者を救え!!」

 

「り、了解しました、ミナ様!!」

 

普段は平静を崩さないミナが血相を変え、

黒髪の青年を乗せたストレッチャーを引く衛生兵に向けて叫ぶ。

 

その様子に、周囲に控えていた全ての者は、

あまりにも驚くべき光景に絶句し、目を見開いていた。

 

「ミナ様!病棟の準備、完了しました!」

 

「よし、すぐに治療してやってくれ!!」

 

「ハッ!!」

 

しかし、そんな中にあったとしても彼等もプロ、

自分の為すべき事を弁えているため、

迅速な行動を起こし、ストレッチャーを移動させる。

 

医療班を見送ったミナの護衛を勤めていたフォーソキウスは、何時もの様に表情を崩さぬまま彼女に近付いていく。

 

「ミナ様、あの方の事をご存知なのですか?」

 

なんの抑揚も無く、ただ淡々と尋ねるソキウスの問いに、ミナは何か引っ掛かるとでも言うかの様に表情を変える。

 

「いや、何故か助けねばならぬ気がしたのだ、

彼には会ったことも、話した事も無い。」

 

「では何故ですか?」

 

彼女の返答に、理解できないとでも言いたげなソキウスは、表情を変える事はしないまでも、

僅かだが言葉の端に怪訝の色が滲んでいた。

 

「済まぬ、上手く言い表せぬのだ・・・、

兎も角、任務御苦労だったな、次の任務まで休むといい。」

 

「ありがとうございます。」

 

自分に対し、詫びと労いを同時にかけ、

歩き去っていくミナに礼をしながらも、

フォーソキウスは、イズモから運び出されるゴールドフレームとストライクに目をやる。

 

その瞳は虚ろで、感情一つ読み取る事は出来なかった。

 

心を壊された彼には、その事すらも分からないのだろうが・・・。

 

sideout

 

 

side一夏

 

「あ・・・、ぐっ・・・!」

 

身体に襲い掛かる鈍い痛みに叩き起こされるかの様に、

俺の意識は強制的に覚醒された。

 

ゆっくりと瞼を開いて見ると、

見知らぬ天井が飛び込んで来た。

 

「ここは・・・?何処だ・・・?」

 

確認の為に身体を動かそうにも、

起き上がるだけの力が身体に入らない。

 

暫く待てば身体を起こす事ぐらいは出来るだろうが・・・。

 

待てよ、そもそも何故俺は生きている・・・?

 

あの傷はどう考えても致命傷だった筈だが・・・。

 

切り落とされた筈の左腕の感覚もちゃんとある・・・、どうなっているんだ・・・?

 

それに、首に着いていたはずの待機形態が無い。

あれは認証コードが無いと外れない筈だ・・・。

 

では、まさか此処が死後の世界と言う場所か・・・?

 

「気がついたか?」

 

状況を把握できない俺に話しかけながらも、

誰かが部屋に入ってきた。

 

「お前はある機体に乗って、宇宙を漂流していた所を私が助けた、

何か覚えているか?」

 

首だけを動かし、声の主を確かめると、

そこには長い黒髪をなびかせた女性がいた。

 

「ロンド・ミナ・サハク・・・?」

 

どうしてロンド・ミナがいるんだ・・・?

いや、彼女が俺の前にいると言うことは、

俺は生きてると言うことか・・・?

 

いや、その前に漂流とはどういうことだ?

しかも宇宙を、だと・・・?

 

「やはり、お前も私の事を知っていたか・・・。」

 

「当然だろ?世界を浄化する為に共に戦った間柄じゃないか?」

 

やはりとはどういうことか?

というか、俺とミナは元から知り合いどころか、

世界の命運を握る放送を行った戦友の筈だが・・・。

 

「私はお前に会ったことも、名を聞いた事も、

そしてお前と共に戦った覚えも無い、

だが、何故かお前を知っているような気がするのだ。」

 

彼女の様子からは冗談を言っているような雰囲気は見受けられない。

 

自分で言うのもなんだが、人の様子を見抜く目は持ち合わせているつもりだ。

 

まぁ、これまで積み重ねた年月と経験を鑑みるなら、

当然の結果だと笑われるがな。

 

「分かった・・・、ロンド・ミナ、

今の世界の事と、この場所の事を教えてくれ。」

 

「分かった、これも何かの縁だ、教えよう。」

 

一度思考を整理した俺に諭すかの様に、

彼女は現在の世界情勢を語り始めた。

 

「今はC.E.71年7月7日、

ナチュラルとコーディネィター、地球連合とザフトが戦争を行っている直中と言うわけだ。」

 

「何・・・!?」

 

C.E.71年・・・!?

ナチュラルとコーディネィター!?

連合とザフト・・・!?

 

おいおい、冗談じゃねぇぞ!?

まさか、この世界は・・・!?

 

俺がいた世界じゃねぇのか・・・!!

 

sideout

 

noside

 

「今の情勢だけを言うと、マスドライバーを有するビクトリア基地は、

既に地球連合によって奪還された、

その半月程前にオーブは地球連合の手により滅びた。」

 

「・・・。」

 

女性、ロンド・ミナ・サハクは、

自身の目の前でベッドに腰掛ける男性、織斑一夏に向けて、この世界の情勢を語った。

 

彼は、それを受け入れがたいのか、

困惑や驚愕が入り雑じった表情をしながらも、彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

その様子を見たロンド・ミナは、無理もないとばかりに心配そうな表情を見せていた。

 

「大体の事は以上だ、他の情報を知りたければこの端末を使って調べると良い。」

 

大まかな事を話終えたミナは、

見舞いとばかりに持参していたノート型端末をベッドの横に置いてあった机の上に置き、

彼に背を向けて部屋から去ろうとする。

 

「お前の身体はまだ、完全には癒えきっていない、

今は身体を休めておけ、その後の事は、その時考えれば良い、

私は所用があるのでな、失礼するぞ。」

 

「ロンド・ミナ・・・、一つ、聞いても良いか?」

 

そんな彼女に向け、彼は言葉を投げ掛ける。

 

「なんだ?」

 

呼び止められたミナは、不思議そうな顔をしながらも振り向き、

彼の言葉の続きを待った。

 

「どうして、俺を助けた・・・?

アンタが俺を助ける理由なんて無い、なのに何故だ?」

 

彼の言葉に、彼女は面食らったかの様に目を丸くした。

 

特に理由など無く、気が付けばまるで脊髄反射の如く、

身体が先に動いていたのだから。

 

彼女は改めてそれを実感したのであろう。

 

だが、それを彼にそのまま言うのも何かと引っ掛かる為、あえて言わない事にしておく。

 

「お前は見殺しにされておいた方が良かったのか?」

 

「それは勘弁、命有る限りは生きたい性分でね。」

 

「そうか、ではな。」

 

彼女の返答に肩を竦める一夏の様子を可笑しく思いながらも、ミナは部屋から出ていった。

 

これから起こりうる何かに期待するかの様に・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

ロンド・ミナが部屋から出ていった後、

特にすることも無い俺は、彼女から手渡された端末の電源を入れ、

この世界に関する情報を呼び出す。

 

俺が知りうる限りの知識を検索のキーワードとして打ち込み、引き出された情報全てに目を通していく。

 

ファーストコーディネィター ジョージ・グレン、

コーディネィター、コロニーメンデル、そして、MS・・・。

 

どれも俺がいた世界には無かった、もしくは変わっていたものばかりだ。

 

どうやら、この場所、この世界は本当に、

俺が転生し、生きた世界では無いようだ。

 

ISというワードやそれに付随する情報も全て検索してみたが、ヒットしたモノは0、これで裏がとれた。

 

なるほど、それならば彼女の言葉も納得できる、

俺の名を覚えていた事も、女神の細工か何かかと勘繰れば楽に説明できる。

 

「そうか・・・、俺は・・・、俺は死ぬことさえ赦されなかったのか・・・。」

 

彼女が何のつもりで俺を生かしたのかは知らないが、

俺はただ独りでこの世界に流れ着いた様だ。

 

そう、俺独りで、だ・・・。

 

三人一緒に飛ばされたとも考えられなくは無いが、

そうならば同じ時に発見されていても可笑しくない筈だ、

なのに、俺は独りで発見され、生き残ってしまっていた・・・。

 

「セシリア・・・、シャル・・・、お前達は、先に逝ってしまったのか・・・、

いや、俺が離れてしまったと言うべきか・・・?」

 

俺は、これから独りで生きていくのか・・・?

この世界で、何をどうしろと言うんだ・・・?

 

なぁ、答えてくれよ・・・。

 

sideout

 

noside

 

スネイルにたどり着いたサーペント・テールの面々は、

ストレッチャーに乗せられた一人の女性を運んでいた。

 

「急ぐぞ、恐らくは衰弱しているだけだ。」

 

「ロレッタ、お願いだ、なんとしても助けてやってくれ・・・!!」

 

「任せてちょうだい、風花、手伝って!」

 

「うん!」

 

サーペント・テールのリーダーである劾と、

イライジャは切羽詰まった様な表情で頼み込むため、

ロレッタは尋常ではないと悟ったのか。傍らに居た風花に手伝いを頼みながらもストレッチャーを押し、医務室へと消えていった。

 

「・・・、ところでお前さんら、あの女と知り合いなのか?どう見ても連合の人間みたいだったが?」

 

ストレッチャーを見送った劾とイライジャに対し、

少し離れた場所から見守っていたリード・ウェラーがボトルに入った酒を傾けながら尋ねてきた。

 

確かに、今しがた運ばれて行った女性は、

連合製の試作MSに搭乗し、身に付けていたパイロットスーツも連合が支給している物のカスタム品であることは一目瞭然で合った。

 

それを傭兵である自分達が救う等という道理は無い、

人道的立場を持ち出されれば何かと否定しづらいが、

流石に裏切る危険性をわさわざ内部に率いれなくとも良いのではないか?

 

リードは一度そう考えたが、

劾とイライジャの反応を見る限り、どうやら知り合いらしいと推測出来たため、

何も言わずにいたが、焦り様が不自然に写ったため、

確認として尋ねてみたのだ。

 

あぁ、そうだ、とか、そうだぜ、

そう言った返答が返ってくる物だと予想していた彼に、

劾が予想外の答えを返した。

 

「・・・、いや、俺が知っているのはアイツの名前だけだ・・・、他は何も知らない、筈だ・・・。」

 

「なんだと・・・?」

 

あまりにも予想外の返答に、彼は眉をひそめた。

 

しかし、何時も寡黙で冗談を言わない劾が冗談を言うとは考えられず、更に何が何だか分からなくなっていたのだ。

 

「俺も、知っているのはセシリア・オルコットという名前だけだ・・・、アイツとは傭兵時代、ザフト時代、いや、それ以前にも会ったことは無い筈なんだ・・・。」

 

「じゃあ、何でお前達はアイツを助けようと思ったんだよ?」

 

リードには、自身が全く分からない領域で、

何かが働いたのだと思うしかなかったが、納得いく答えは返ってきそうにないと半ば見切りを着けていた。

 

「・・・、すまない、本当に分からないんだ・・・。」

 

「漠然とし過ぎて話せない・・・、ハッキリと分かったら改めて話そう・・・。」

 

二人はリードに向けて言った後、

自身達の機体の整備の為に格納庫に向かってしまった。

 

「ったく・・・、こっちでも少し調べてみるか・・・、何か分かるかも知らないからな・・・。」

 

ボヤきながらも、彼は自身の内に渦巻く得体の知れない不快感を消すために、

自身のパイプをフルに活用すべく動き出すのであった・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「うっ・・・?」

 

全身に走る筋肉痛の様な鈍い痛みに叩き起こされるかの様に、私の意識は覚醒しました。

 

ゆっくりと瞼を開いてみると、見知らぬ天井が飛び込んできました。

 

ここは、一体何処なのでしょうか・・・?

 

どうやら天国という訳でも、はたまた地獄という訳でも無さそうです。

 

では、一体この場所は・・・。

 

「あっ!お母さん!気が付いたみたい!!」

 

「あら、気分はどうかしら?」

 

私のすぐ近くから、まだ幼い子どもの声と、

少し落ち着いた女性の声が聴こえて来ました。

 

身体を動かす事もままならない為、

首だけを動かして声が聴こえてきた方向を見ます。

 

そこには、黒髪褐色の女性と、

茶髪の少女が並んで立っていました。

 

「貴女達は・・・。」

 

「私はロレッタ・アジャーよ、こっちは娘の風花よ。」

 

「よろしくね!お姉さん、大丈夫?」

 

ロレッタさんと風花さん(?)が私の傍に近寄って来ます。

 

何処かで会ったような気がしなくは無いのですが、

それが何時、何処でだったかまでは思い出すことは出来ませんでした。

 

「あの・・・、ここは一体・・・?」

 

腹部に触れてみても、抉られた傷は一切なく、

それどころか以前より肌触りが良くなっている様な気もします。

 

「ここは私達サーペント・テールの本拠地、スネイルよ、貴女は私達の艦の近くをMSに乗って漂ってたの。」

 

「サーペント・・・、テール・・・?」

 

何処かで聞いたことのあるような・・・、

無いような名前ですわね・・・。

 

「しがない傭兵だ、俺達はな。」

 

そう思っていると、部屋に二人の男性が入ってきました。

 

一人は癖のある黒髪を持った男性で、

もう一人はサラサラの銀髪を持ったとても美しい男性でした。

 

「劾さん・・・?イライジャさん・・・?」

 

「セシリア、お前も俺達を知っていたか・・・。」

 

知っていたとはどういうことでしょう・・・?

 

そんなに他人行儀ではない筈なのですが・・・。

 

「私に格闘の手解きをしてくださいましたでしょう?

イライジャさんとは何度もお会いして・・・。」

 

「すまない、俺達はお前を知らないんだ、

知らない筈なのに、何故か懐かしい気がする。」

 

「どういう事ですの・・・?」

 

何度もお互いに会話もして、その上で色々と訓練もさせて頂いた仲ですのに・・・。

 

ですが、二人のお顔には冗談の色一つ見えず、

寧ろ何処までも真剣な表情が見てとれます。

 

どうやら、一から物事をお尋ずねせねばならない様ですね。

 

「劾さん、よろしければ、今の年月を教えてはいただけませんか?

それと、世界情勢も・・・。」

 

何事も、情報が物を言いますからね、

一夏様もシャルさんもおられない今は、

情報収集でこれからの身の置き方を考えませんと・・・。

 

「分かった、俺が分かっている情報だけを教えよう、

今日はC.E.71年の7月7日だ、

現在の情勢を言うならば、ナチュラルとコーディネィター、簡単に言えば、地球連合とザフトが戦争をしている只中というわけだな。」

 

コズミック・・・イラ!?

そんな年号聞いたことありませんわ・・・!?

 

それに、ナチュラル!?コーディネィター!?

連合にザフト・・・!

 

まさか、まさかこの世界は・・・!

私達がいた世界じゃ無いのですか・・・!?

 

sideout

 

noside

 

「・・・、以上が俺達の知っている情報だ、

混乱するのも分かるとは思うが、今は休め、

身体と気持ち、両方を落ち着ける為にもな。」

 

全てを話終えた劾は、俯く彼女に向けて静かに言葉を発した。

 

無理もない、彼は内心でそう思っていた。

 

荒唐無稽な話ではあると思うが、

恐らく彼女は別の世界の住人だったとしか考える事が出来なかった。

 

彼女が自分の事を知ってる理由が、

嘗ての世界での自分に会っているからと考えれば何も不自然な事は無い。

 

しかし、何故自分やイライジャが彼女の事を知ってるのか、

その理由には全く合点がいかないのではあるが・・・。

 

「休んでる間に知りたい事があれば、

この端末を使って調べると良い、分からなければ俺達を頼れ。」

 

「何か用があれば、私を呼んでね、力になるわ。」

 

劾とロレッタはそれぞれセシリアに向けて声をかけ、

部屋から出ていこうとする。

 

風花とイライジャも、彼女の身体を休ませてやろうと、

彼等に着いて部屋から去ろうと動く。

 

「・・・、ひとつ、お訊ねしてもよろしいでしょうか・・・?」

 

そんな彼等に、セシリアは声を投げ掛けた。

 

その瞳にはある種の困惑の色が色濃く滲んでいる。

 

「どうして、私を助けて下さったのです・・・?

何の関わりも無い、私を・・・?」

 

彼女の問いに、一番面食らった表情をしていたのは、

意外にも劾だった。

 

なんと答えれば良いのか分からない、

そう言いたげな表情であった。

 

「そうしたかったから、だよな、劾?」

 

「あ、あぁ、その通りだ、不満だったか?」

 

助け船を出すかの様に言ったイライジャの言葉に乗る様に、

彼は少ししどろもどろになりながらも訊ね返した。

 

「ふふっ、いいえ、お助けくださり、ありがとうございました。」

 

そんな彼等の様子が可笑しかったのか、

セシリアは少し微笑んで彼等に優雅にお辞儀をしていた。

 

風花は、そんな彼女の気品に暫し呆然としていたが、

ロレッタに連れられる様にして部屋を後にした。

 

「気にするな、ではな。」

 

セシリアに笑み返した後、彼等は背を向け、

部屋を後にした。

 

何処か楽しむような表情で・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

劾さん達が退出された後、

独りになった私は手渡された端末の電源を入れ、

直ぐ様幾つかのキーワードを打ち込みました。

 

最後の確認という意味を込めて、

表示されたデータ全てに目を通します。

 

ユニウス・セブン、血のバレンタイン、Nジャマー、

そして極めつけはMSと呼ばれる存在・・・。

 

これでよく分かりました、ここは私達が生きていた世界とは全く違う場所なのですね・・・。

 

私はただ独りで生き残ってしまいました、

そう、ただ独りで・・・。

 

「私は・・・、生き残ってしまったのですね・・・、

お二人と分かれて・・・。」

 

何時も、どんな時でも隣にいてくださった一夏様も、

共に、一夏様から愛されていたシャルさんも、

今は、私の傍にいらっしゃいません・・・。

 

どうして私だけなのですか・・・?

私達は、三人で一つでは無かったのですか・・・?

 

答えてくださいな・・・、一夏様・・・、シャルさん・・・。

 

sideout

 

noside

 

ジャンク船、リ・ホームは、真空の宇宙を廃棄コロニー、グレイブヤードを目指し進んでいた。

 

一見すれば何事も無く、順調に航行している様に見えるが、

その船内は正しく戦場と呼ぶべきあわただしい雰囲気に包まれていた。

 

「衰弱してるだけかしら?他は異常は見られないわ、

樹里、彼女の治療を手伝って!」

 

「分かった!ロウは入っちゃ駄目だからね!」

 

「分かってる!プロフェッサー、樹里、頼んだぜ・・・!」

 

リ・ホームの一室を臨時の療養所とし、

そこに先程保護したバスターのパイロットを運び込むプロフェッサーと樹里の後ろ姿を見送り、

ロウはやはり何かと心配そうな表情を浮かべていた。

 

「ロウ、彼女は何者なのです?見たところ、組合の人間ではないようですが・・・?」

 

『そうだな、会ったことも無い上に、

連合のパイロットスーツを着ていたんだ、お前が助ける謂れはないぞ?』

 

リーアムは確認を取るかの様に、

8はこれまで経験してきたデータを検索していたが、

彼女の情報がヒットする事が無かったため、訝しむかの様な文字を表示した。

 

二人(と言っても片方は機械だが。)の記憶、記録にはロウがシャルロットと呼んだ女性の事は無く、

自分達とそれなりに長く共に行動してきた彼の知り合いならば、彼女の事を知っていても可笑しくは無い。

 

「いや、俺が知ってるのはアイツの名前だけだ、

それ以外の事は何も知らないんだ・・・。」

 

しかし、当のロウ本人すら知らないと言う風に話した為、リーアムは怪訝の色を更に深くし、8は『?』と表示していた。

 

「どういうことです?私はてっきりロウの知り合いだとばかり思っていましたが・・・。」

 

「いや、知り合いだったら覚えてる筈なんだ、

だけど、どうしてもアイツと会った覚えが無いんだ。」

 

行動、言動ともに迷いなく、そして真っ直ぐなロウにしては分かりにくい説明に、彼は更に理解しがたいといった表情を濃くしていく。

 

「何故です?名を知っているならば面識、もしくは噂やそれに付随する何かを知っていて当然では?」

 

「いや、全く無いんだ・・・、なのに、知ってる様な気がするんだ・・・、

ワリィ、今は上手く話せない、解ったら教えるからよ・・・。」

 

そう言いながらも、ロウはリーアムに背を向け、

格納庫の方へと去っていった。

 

直にグレイブヤードに到着する、

それまでに出来ることをやっておきたいのだろう。

 

「何時もの突拍子も無い思い付き、では無さそうですね・・・、一体、なんなのでしょうか・・・。」

 

疑念をぬぐい去ることは出来ないが、

今は事態の推移を見届けよう。

 

リーアムはそう割り切り、

艦橋へと歩みを進めていった。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「うっ・・・、ううっ・・・!?」

 

身体に走る鈍痛に、僕の意識は闇の中から一気に呼び起こされた。

 

ゆっくりと目を開いてみると、見知らぬ天井が視界に入った。

 

「ぼ・・・、僕は、どうなったの・・・?」

 

指一つ動かそうにも全身に走る激痛が妨げになって身体を動かす事もままならない。

 

そんなことよりも、身体が痛むということは、

僕は生きているということになる。

 

そんな馬鹿な事はない。

確かにあの瞬間、僕の身体は貫かれた筈だった。

 

でも、死んでない。

 

助かった?そんな訳は無い、全身から感覚が無くなる刹那を僕は体験した。

 

でも、ならばどうして・・・?

 

「あっ!気が付いた?」

 

その先を考えようとした時、

若い女の子の声が耳に届いた。

 

なんとか痛みを堪えて、首だけを動かして声がした方に目を向けると、

ベッドの脇から僕を見る女の子の顔が見えた。

 

「よかった~、起きないんじゃないかって、心配したわよ~!」

 

多分僕と同い年位だろうけど、

その自信なさげな様子から実年齢より幼く見えてしまう。

 

なんだろう、彼女を見てると、鈴を思い出すなぁ・・・。

 

気が弱いけど、それでも誰かの事をずっと心配してた優しい彼女を・・・。

 

「あ、あの・・・、君は・・・?」

 

「あ、ごめんなさい!私は山吹樹里、ジャンク屋をやってるの、貴女は?」

 

「僕はシャルロット・デュノア、こんな喋り方だけど女だよ、よろしくね樹里。」

 

「よろしくねシャルロット。」

 

握手は出来ないから取り敢えず互いに笑いあって敵意の無いことを示しあう。

 

ジャンク屋って一体どんな仕事してるんだろ?

廃品回収か何かかな?

 

って、そんな詮索は後で良いんだ、

今はこの場所が何処かって事を知っておかないと・・・。

 

「樹里、此処は一体何処なの?」

 

「えっ?あぁ、そうだった、教えないとね、此処は・・・。」

 

「此処はジャンク屋ギルド所属のジャンク船、リ・ホームだぜ、目が覚めて良かったな。」

 

樹里が説明しようとしたと同時に、

別の男性の声が聞こえてきた。

 

って、あれ?

あの逆立った茶髪に緑のバンダナって・・・。

 

「ロウ・・・?」

 

どうしてロウ・ギュールが此処にいるの?

 

それに船ってどういう意味なんだろう?

 

「やっぱりな・・・、お前も俺を知ってたな・・・。」

 

「やっぱりってどういう事・・・?

僕達は元から知り合いだよね・・・?」

 

僕の機体の整備を担当してくれたのは、他でもない彼だ、

そんな彼がどうしてこんな他人行儀にしてるんだろう?

 

「悪いんだが、俺はお前に会った事が無いんだ、

名前を知っている理由も分からない。」

 

「え・・・?」

 

何かの悪い冗談・・・?

 

いや、でも、彼の眼は嘘を吐いていない、そんな気がする。

 

いや、何かあるかもしれない・・・、

 

今は僕しかいないみたいだし、

情報は自分で集めないとね・・・。

 

「ロウ、今の世界の事、教えてくれないかな・・・?」

 

「分かった、今はC.E.71年7月7日、

地球連合とプラントが戦争をしている真っ只中だ。」

 

コズミック・イラ・・・!?

そんな年号聞いたことないよ・・・!?

 

それに地球連合にプラント・・・!!

 

まさか・・・、まさかこの世界は・・・!

 

僕達がいた世界じゃないの・・・!?

 

sideout

 

noside

 

「もうかれこれ一年以上戦争は続いているが、

一層酷くなっていくばかりなんだ、

ワリィな、あんまりこう言った事には詳しく無いんだ。」

 

説明を終えたロウは、

何処か申し訳無さそうに言葉を紡ぎ、

シャルロットを気遣わしげな目で見ていた。

 

彼女は教えられた事実に愕然としているのだろうか、

何処か思い詰めているような表情を浮かべていた。

 

(無理もねぇか・・・。)

 

彼は言葉にはしないながらも、内心ではそう感じていた。

 

荒唐無稽な話ではあるが、

恐らく目の前に横たわる彼女は別世界の人間であるかも知れないと、彼は奇妙な確信を抱いていた。

 

何故自分が彼女の名前を知っていたのかは理解できなかったが、

何故彼女が自分の名を知っているのかには何処か納得いくものがある。

 

彼女が別の世界の人間であるならば、

その世界での自分と関わりがあったからなのだと考える事は容易であった。

 

「(樹里、行くぞ、今は安静にしといてやらないとな。)」

 

「(あ、うん、そうね、行こう。)」

 

ロウは樹里に耳打ちし、彼女を先に部屋から退室させ、枕元にノート型の端末を置いた。

 

「俺達はこれから用事があるからこれでお暇させてもらうぜ、

何か知りたい事が合ったら、これを使ってくれ。」

 

彼女に声をかけた後、

彼は踵を返し、部屋を去ろうとした。

 

「ロウ・・・、もうひとつだけ教えて・・・、

どうして、僕を助けてくれたの・・・?

何の関わりもない僕を・・・?」

 

困惑の色が濃く滲んだ瞳を向けるシャルロットの言葉に、

ロウは一瞬返答に詰まった。

 

そんな理由なんて考えた事は無かった、

ただ、脊髄反射の如く、頭で考える前に身体が動き出したからだ。

 

だが、説明するにしても、どう説明すれば良いのか分からない、

だからこそ、自分に言える事はこれだけだった。

 

「そうしたかったからだぜ、別の俺と仲間だったんだろ?

仲間なら助け合わないとな!」

 

「・・・、そっか、そうだね・・・、ありがとう、ロウ。」

 

彼の言葉に目を丸くするも、

意味を理解した彼女は微笑み、彼に向けて礼を言った。

 

「気にすんなって、仲間なら当たり前だろ?

じゃあ、ゆっくり休んでろよ。」

 

今度こそ彼女に背を向け、彼は部屋から立ち去った。

 

グレイブヤードでやるべきことも間もなく終わる、

あとは蘊・奥老人の大往生まで自分が見守るためだけに、

彼は身体を動かしていたのだ。

 

だが、それだけではない何かが、

彼の心を動かしていた事に、彼はまだ、気付いてはいなかった・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

ロウと樹里が部屋を出ていった暫く後、

身体の痛みにも慣れた僕は、上半身だけを起こして、

彼が置いていった端末の電源を入れた。

 

何をするかなんて決まってる、

最後の確信を得るために、この世界の情報を探るだけだ。

 

彼の口から聞かされた単語と、

僕が以前から知っている全ての知識をキーワードに、

公開されている情報を探り当てる。

 

「プラント・・・、コーディネィター・・・、

地球連合・・・、ナチュラル・・・、それにMS・・・。」

 

どれもこれも、僕達のいた世界には無かった意味を持っているモノばかりで、僕が知ってる事は嘗ての世界で敵味方として戦った機体達の一部の名前だけ。

 

ISという言葉やそれに付随する諸々の単語を入れてみても、ヒットする結果は無し、これで確証が持てた。

 

ここは僕が生まれ、生きた世界とは別の世界だ・・・。

 

「僕は、生き残っちゃったのかな・・・。」

 

どうして、僕が生きてこの世界に来たのかは分からないけど、

僕は独り、生き残っちゃったみたいだ・・・。

 

そう、僕独りで・・・。

 

苦しい時も楽しい時も、ずっと一緒にいてくれた一夏も、セシリアもいない・・・。

 

どうして、どうしてまた独りぼっちになっちゃうの・・・?

 

ねぇ・・・?

どうして僕だけ生きてるの・・・?

 

なんでなのさ・・・。

 

sideout




次回予告

傷も癒え、動ける様になった一夏は、己の半身とも呼ぶべき機体との再会を果たす。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

目醒

お楽しみに


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目醒

noside

 

アメノミハシラのMS格納庫、

そこにはハンガーに固定されていたストライクがあった。

 

電源が入っていない為、ダークグレーの装甲色を持ったその機体は、

今だ訪れぬ主を静かに待ち続けている様でもあった。

 

「それにしても、ストライクなんてレアな機体に乗ってたなんて、あの男は何者なんだ?」

 

「さぁ?俺に聞かないでくださいよ、

病棟に運ばれてから誰も見かけて無いんですし。」

 

ストライクをメンテナンスしていた二人の整備員は、

各々の役割を決めた上で作業しつつも、ストライクのパイロットについて詮索をし始めた。

 

現在、ストライクのメンテナンスはほぼ手の付け所が無いまでに完了し、

何時でも出撃が可能な状態となっている為、

余裕が出来たのであろう。

 

「ロンド・ミナ様が保護しろと命ぜられた方だ、

何かしらの繋がりがあるのだろうな。」

 

「そうかも知れませんね、まぁ、自分達には関係の無い事ですね。」

 

「違いないな。」

 

彼等が身を寄せるアメノミハシラの主、

ロンド・ミナ・サハクとの繋がりがある以上、

自分達が口出し出来る事では無いと割り切り、二名の整備員は自分の為すべき事に戻っていった。

 

 

その頃、当の本人達はと言うと・・・。

 

「もう起きていて大丈夫なのか?」

 

一夏に宛がわれた部屋を訪れたミナは、

なんの支えもなく逆立ち腕立てを続けている彼に向け、軽く驚きを含んだ言葉を投げ掛けていた。

 

それもそうだろう、つい二、三日前まで目を覚ます事の無かった者が、

もう全快したと言わんばかりに動き回っているのだから、驚くのも当然というものだ。

 

「流石に寝てばかりでは身体も鈍っちまうからな、

それに、俺は案外丈夫なんでね。」

 

彼女の問い掛けに答える様に、

彼は片手で逆立ちをしてみたりして、自分の身体が完全に癒えた事を表現する。

 

転生して、スーパーコーディネィター並の身体能力を誇っていれば当然ではあるとは言えるだろうが・・・。

 

「まぁ、アンタとアンタの部下達が手を尽くしてくれたお陰でもあるんだけどな。」

 

逆立ちをやめ、両の脚でしっかりと床を踏みしめた後、彼はミナに頭を下げた。

 

「改めて礼を言おう、ロンド・ミナ、世話になった。」

 

「気にする事は無い、ところで、お前はこれからどうするのだ?行く宛も無いのだろう?」

 

彼女は頭を下げる彼を制し、

これからの身の置き方を尋ねる。

 

確かに、一夏は元々別世界の人間、

この世界での彼の身の置き場所は皆無に等しい。

 

そんな世界に独りで放り出されれば、

間違いなく命は無いだろう。

 

「そう言えばそうだな・・・、傭兵やってく自信もねぇし、連合やザフトに入るのもなんだしなぁ・・・。」

 

ミナの言葉に苦笑しながらも、彼は自身の身の置き方を自分なりに考えては否定した。

 

その様子が可笑しかったのか、ミナは自然と笑みを溢した。

 

「ならば、私の元で働いてみないか?

お前の能力に見合う待遇を約束しようではないか。」

 

「良いのか?得体の知れない俺を置いても?」

 

突然の申し出に目を丸くしながらも、

確認をとるかの様に尋ねる一夏の顔には、困惑の色が色濃く浮かび上がっていた。

 

それも当然と言えるものだ、

かつての世界での繋がりが微かに残ってはいるものの、彼等はこの世界では顔を突き合わせて間もないのだ。

 

特に一夏の側にはデメリットらしい物は何一つとして見当たらないが、

ミナの側には、彼の様な身分不明者を抱える事で、

最悪の場合、アメノミハシラに仕える全ての者に不信感を抱かせてしまうというデメリットが発生する事もあるだろう。

 

その危険性を孕んでも尚、彼女が自分を取り込もうとしている事に、彼は驚きを禁じ得なかったのだ。

 

「構わん、お前程の者をこのまま手放すのも惜しい、

それともお前は、恩を返す事もしないのか?」

 

何となく、一夏が義理や恩という言葉に弱いと感じたミナは、意地悪く笑みながらも彼に仕官を然り気無く促した。

 

そう言われてしまえば断れないのか、

彼は両手を上に挙げ、降参の意を示した。

 

「そう言われちゃぁ立つ瀬が無いよな、

分かった、ロンド・ミナ、アンタに仕えよう。」

 

「このロンド・ミナ・サハク、織斑一夏を我が配下とする事をここに宣言しよう。」

 

ロンド・ミナが差し出した手を、

一夏は苦笑しながらも取り、契りは成立した。

 

「もう動けるのだろう?着いてくるがよい、

お前を守っていた機体の下へ案内しよう。」

 

「分かった、っと、その前に着替えをくれないか?

寝間着じゃ格好着かねぇだろ?」

 

「それもそうだな、今用意させよう。」

 

自分の格好を思い出した一夏に言われ、

ミナは部屋の外に待機させていたサーティンソキウスに命じ、彼に見合うサイズの制服を用意させる。

 

暫く待っていると、綺麗に畳まれた制服を持ったサーティンソキウスが部屋に入り、

一夏に差し出した。

 

「すまないなソキウス、助かる。」

 

「お気になさらず。」

 

礼を言う彼の言葉に無機質に返答し、

ソキウスは部屋を去っていった。

 

一見して無愛想極まりないが、それも仕方ないと言えるだろう。

 

なにせ、薬物で精神をかき消されているのだ、愛想良く振舞えという方が酷だろう。

 

それを理解していた一夏は、ソキウスの様子に苦笑しながらも寝間着を脱ぎ、渡された制服に袖を通す。

 

「見事にサイズが合ってるな、俺が寝てる間に計ったのか?」

 

「検査の時にバイタルデータは全て録った、

これを見てみると良い。」

 

ミナから手渡されたデータを見た一夏の表情が驚愕に彩られた。

 

それもその筈だ、元々180㎝はあった身長が190近くなり、

全体的な身体の年齢は二十歳を示していたのだから。

 

「どういうことだ?確か俺は十六だった筈だ、

何がどうなってやがる・・・。」

 

前世を入れれば確かに四十近くの年齢なのだが、

部屋にかけられていた鏡に写る彼の姿は以前と変わらない様にも見えるが、更に大人びた印象を強く受ける容姿になっていた。

 

何故今まで気が付かなかったのかと言うと、

彼はつい先程まで現在の世界情勢、

及びMS、MAの操縦を、寝食惜しんで全て頭の中に叩き込んでいたため、ベッドの上から降りる事が無かったのだ。

 

背が高くなれば、見える風景が変わった等で気付くかも知れないが、

生憎、机とベッド以外、何も置かれていないこの部屋では、

それすらも気付きにくくなっていたのだ。

 

「ったく・・・、あのアマ、俺の身体に何しやがったんだ・・・、まぁ、この年齢ならある程度の融通は効きそうだがな・・・。」

 

めんどくさそうに頭を掻きながらも、

彼はどうした?とでも言いたげなミナに向き直る。

 

「何でもない、それよりも行こうぜ。」

 

「分かった、案内しよう。」

 

気を取り直し、彼等は連れ立って部屋を後にした。

 

sideout

 

side一夏

 

ロンド・ミナに連れられ、

俺はアメノミハシラ内に存在するMSファクトリーに脚を運んだ。

 

メカニック達の喧騒が聞こえて来たが、

以前の世界でも似たような所によく居たため、

これぐらいの事は既に慣れっこだ。

 

「着いたぞ、ここがお前がこれから利用する事になるMSハンガーだ、場所は大体覚えたな?」

 

「あぁ、分からなくなったら誰かを頼るさ。」

 

ロンド・ミナに短く返答しつつも、

俺は周囲の設備を確認する。

 

MSの武器であるとおぼしきライフルや、

今は使われていないMSデッキ等、俺が見たこともない光景が広がっていた。

 

ここに来て漸く信じる事が出来るな、

ISが存在しない、異世界の内の一つだという事を・・・。

 

それは良い、俺がこの世界に来たということは何かしらの任務があると言うことだ、

ならば以前の世界の常識など忘れ去り、この世界に身を染めるとしよう。

 

「凄いな・・・、これほどまでの設備、

人員、それに機体・・・、軍隊並、いや、それ以上か?」

 

「ここにはオーブより焼け出された民も集まっている、彼等全てに仕事を与え、いずれ訪れる再起の時の力を蓄えているのだ。」

 

なるほど、情報のみでなら知っているが、

オーブは既に滅んでいる、喩え残っている物があったとしても、それは所詮力を持たぬ小者のみ。

 

五大氏族の中でも今、最も力を有しているのがこのアメノミハシラ、サハク家だろう。

 

オーブの再建には、確かに力が必要となる、

ならば、強大無比な力を持って、反撃する、か・・・。

 

「再起の時、それはオーブの再建と言うことだけか?」

 

だが、オーブを奪回した後はどうなる?

オーブを支配している連合を排する様な行為を働けば、

間違いなく連合を敵に回す事になることは避けられないだろう。

 

その先に何がある?答えは至極単純な物になるだろう・・・。

 

「私の野望、世界支配の礎に過ぎぬ、

連合、ザフト、全てをオーブが支配することが私の望みだ、私の野望に手を貸せ、一夏?」

 

やはりな・・・、

だが、世界支配か、どうせ俺は戦いの中でしか生きられない、ならばそれに荷担するのも面白いというモノだ。

 

それに、俺にはもう・・・、守るべきモノなど何も無いからな・・・。

 

「なるほど、大体理解した、拾って貰った恩と、

アンタ個人への義理だ、俺も参加させてくれないか?」

 

「良いだろう、だが、その為にはそれなりの腕を着けて貰わねば困ると言うもの、分かっているのだろう?」

 

「あぁ。」

 

当然だ、俺には知識はあったとしても、

経験は無いと言うのが現状だ、現状では喩え動けたとしても、マトモに戦うことは不可能であると断言できる。

 

ではどうするか、

答えは至って単純、慣れろ、そして鍛えろ、それだけだ。

 

「では、私が直々に訓練を着けてやろう、

ソキウス達は恐らく加減をしてしまうだろうしな。」

 

なるほど、俺は見方を変えればスーパーコーディネィターと呼ばれる存在だが、

遺伝子を弄ってはいないため、ナチュラルであるという事には変わりはない。

 

ナチュラルを撃てないソキウスでは、

些か手に剰る存在と言っても過言ではあるまい。

 

「城主直々に、か?それは光栄だな。」

 

彼のロンド・ミナ・サハク直々に俺を鍛える、か・・・。

 

上等だ、ありがたい事この上無い。

 

「よろしく頼む、ロンド・ミナ、早速で悪いが、相手になってくれ。」

 

「良いだろう、直ぐに準備するがよい、

いや、その前にお前の機体に案内してやろう。」

 

俺の機体?

そう言えば何かMSに乗って漂流してたと言われたから、それの事だろうか・・・?

 

ロンド・ミナに連れられて暫く歩いていくと、

先程までの量産機が置かれていた場所ではなく、

ソードカラミティ、フォヒドゥンブルー、レイダー等のガンダムタイプの機体が置かれている区画にたどり着いた。

 

なるほど、量産機とワンオフ機で区画を分けているのか、確かにそれならば部材を混同させたりするミスも無くなるだろうから実に効率的だ。

 

と言っても、ここに置かれてるレイダーは制式採用機だから量産機といえば量産機なんだけどな。

 

にしても、本当にデケェな、

想像の中では大体の大きさは分かっていたが、目の前に立っているのを見ると、圧倒されてしまうものだな。

 

「着いたぞ、これがお前が乗っていた機体だ、名は、分かるな?」

 

ロンド・ミナが足を止め、彼女が見上げた先を見てみると、

特徴的なツインアイを持ち、アスリートの様に無駄な物を省いた様なスマートな印象を受ける機体が俺を見下ろしていた。

 

知ってるなんてものじゃない、

コイツとは幾つもの戦場を駆け抜けたんだ。

 

「GAT-X105、ストライクだよな、間違いない、俺の機体だ。」

 

「やはりな、バックパックを装備してない状態で宇宙を漂っていたのだ。」

 

そうか、お前まで来ていたのか・・・。

 

ロンド・ミナの言葉なんて耳に入らない、

俺の視線はストライクに釘付けになった。

 

以前の世界に俺と共に飛び込んだ機体だが、

あれはMSではなく、ISだった。

 

しかし、この世界にISは存在しない、

だからこそ、MSでなければ都合が悪い、

その為に、女神が手を回したんだと言うことぐらい、すぐに察する事が出来た。

 

なるほど、だからこそ、首に着けていた待機形態がなくなっていたのだな、これで合点がいったぜ。

 

だが、姿形は変わっても、コイツの本質は何も変わらない、

俺が最も慣れ親しんだ乗機であり、

何度も激しい戦いを乗り越えた相棒と呼べる存在・・・。

 

俺は独りじゃない、初めてそう感じることが出来た気がするよ。

 

「ロンド・ミナ、ストライカーパックの予備は無いか?

I.W.S.P.とは言わん、エールストライカーさえあれば、直ぐにでも俺は腕をあげてみせる。」

 

「すまない、エールは今は部材が手に入りづらい状況なのだ、I.W.S.P.ならば、ORB-02用の予備パーツがあった筈だ、それを組ませよう、

それまでは、M1Aにでも乗るといい。」

 

ミナは申し訳なさそうな表情を僅かに伺わせながらも、

M1Aが二機固定されている場所を指差した。

 

既に整備士達も作業を終えたようで、

周囲には殆ど人影は見えなかった。

 

「私の機体も整備が完了するまでの時は長い、

ならば、既に完成している機体を使う以外あるまい?」

 

「なるほど、その通りだな、それじゃあ、早速やらせて貰うかね。」

 

ロンド・ミナが言い切る前に、俺は動き出していた。

 

早く動きたい、出来る限り身体を動かしておきたい。

 

そんな感情が俺の身体を突き動かしていた。

恐らくは、寂しさを紛らわせるためなんだろうけどな。

 

漂流時に俺が着用していたと言われたパイロットスーツを身に纏い、

リフトを使用してコックピットに入る。

 

なるほど、これがMSのコックピットなのか。

 

実際に見たことは無いが、

戦闘機のコックピットに近いモノはあるな。

 

だが、モニターやペダル、それに操縦捍等は大きく異なっていた。

 

さて、乗り込んだは良いが、果たして俺に扱えるかが問題だ。

 

OSは並のコーディネィターが扱えるレベルに設定し、初心者向けのアシストも付けてはいるが、それでも不安は残る。

 

操縦マニュアルなんぞ、所詮はマニュアル、

何事も経験に勝るモノなど無いのだ。

 

為せば成る、そう思い込む以外成功する事も無いだろう。

 

「おい、あんちゃん!!」

 

「は?」

 

コックピットハッチを閉じようとした直前、

誰かが俺に話し掛けてきた。

 

あまりにも唐突だった為に、気の抜けた返事を返してしまったが、仕方ない事だと思う。

 

俺が声の主を確かめようと顔をあげると、

いかにも職人、と言わんばかりの中年の男性がコックピットを覗き込んでいた。

 

「ロンド・ミナ様から聞いたぜ!これからミナ様に仕えるんだってな!?」

 

「あ、あぁ、それはそうだが、貴方は?」

 

「俺か?俺はジャック・ウェイドマン!アメノミハシラの整備士長だ、あんちゃん、確かあのストライクのパイロットだったよな?」

 

呆然とする俺を置いてけ堀に、

ジャックと名乗った整備士は矢継ぎ早に質問してくる。

 

こういう気質のオッサンにはあった事があまりないから、正直対応に凄く困る。

 

「そ、そうだ、名乗るのが遅れてしまいました、

今日よりロンド・ミナ・サハクに仕える事になった、織斑一夏だ、よろしく頼みます、ウェイドマン整備士長。」

 

「おうよ、よろしく頼むぜ!」

 

握手を求めて差し出された手を握り、

俺は焦りが少し和らいだのを感じた。

 

やれやれ、何を焦っているんだ、俺は?

らしくない、あぁ、らしくないぞ。

 

「あんちゃん、いや、一夏はこれからミナ様と模擬戦をするんだってな?大体の配置は解るか?」

 

「はい、療養している間に操作法と操縦捍やフットペダル、それにコンソールの位置も大体覚えました、

後は自分の身体に馴染ませるだけかと・・・。」

 

「そうか!なら、心配要らねぇな!!頑張ってこいよ!!ストライクの方は俺が整備しておいてやるからな!!」

 

サムズアップしながらも言ってくれる事に安心したのか、

俺は自然と笑みが溢れた。

 

ありがたい、程よくリラックス出来た、

なんとか、やれそうだな。

 

「出撃します、ハッチを閉めるので下がってください。」

 

「おう!頑張ってこいよ!!」

 

ウェイドマン整備士長が離れていくのを確認し、

M1Aのハッチを閉じる。

 

ヘルメットのバイザーを下ろし、準備完了だ。

 

さぁて、まずはカタパルトまで歩かせねぇとな。

 

機体を固定していた金具が外れた直後、

俺は操縦捍を少し押し込んだ。

 

機体が動きだし、しっかりと格納庫の床を踏み締めて歩いていく。

 

ズンッ!という振動がコックピットにまで伝わり、

内心、気分の高揚が抑えられない。

 

さぁ、M1Aでの初出撃だ、

出来ることを出来る限りやれば良い、それだけで十分だ。

 

『進路クリアー、M1A、発進してください!』

 

「織斑一夏、M1A、発進する!!」

 

加速する際のGに、身体を抑え込まれる様な感覚に陥るが、どうという事は無い、

こんなもの、以前の世界で既に慣れている。

 

一つだけ違うことがあるとするならば、

飛び出す場所が重力も空気もない絶対零度の冷たさを持った真空の宇宙というだけだ。

 

周り一面を覆っていた無機質な壁が開けると同時に、

遠くに数多の星が煌めく宇宙へと飛び出した。

 

話には聞いた事はあったが、

本当に目の当たりにするとは夢にも思わなかったな。

 

「すげぇ・・・、吸い込まれちまいそうだ・・・。」

 

シートベルトで身体を固定しなければ、

身体が浮いてしまいそうな感覚があるから余計に実感出来る。

 

ここが本当に宇宙なのだと。

 

『来たか。』

 

宇宙の光景に見入っていると、

俺の気を引き戻すかの様にスピーカーからロンド・ミナの声が聴こえて来た。

 

「あぁ、出撃時のGには慣れてたからどうという事は無い、だが、本題はこれからだよな?」

 

『そうだ、まずはマニュアル通りに機体を動かしてみろ、模擬戦はそれからだ。』

 

「了解した。」

 

彼女に言われた通り、まずは機体の姿勢維持を意識し、ゆっくりとスラスターを吹かし、

彼女の機体の周囲を動き回る。

 

ここまではまずまずだな、

出来て当然というべきレベルだしな。

 

『初めて動かしたにしては、中々の動きではないか、

次に武器を使ってみろ。』

 

「OK、織斑一夏、M1A、狙い撃つぞ。」

 

M1Aの右手に保持されていたロングライフルをスナイプモードに切り換え、

遠くにあるデブリに照準を合わせる。

 

引き金代わりとなるボタンを押し込み、

ビームを発射した。

 

それは漆黒の宇宙空間を突き進み、

照準を合わせていたデブリに直撃した。

 

乗ってみて分かる、この機体は本当に誰にでも使いやすい、良い機体だ。

 

『ほう?なかなかやるではないか、もっと的外れな場所を狙うと思っていたが、どうやら杞憂の様だな。』

 

「機体のサポート機能のお陰だ、それがなけりゃ、とっくにひっくり返ってるさ。」

 

この機体の安定が保たれているのは俺の腕等では無く、単純にM1Aに搭載されているOSの優秀さの賜物だと言える。

 

それを自分の腕と履き違える程、俺は愚かでは無い。

 

まだまだ精進が必要な様だな、

面白い、だからこその命だ。

 

『では、私とのセッションでもするとしようではないか、そろそろ慣れてきた頃であろう?』

 

「望む所だ、よろしく頼む!」

 

ありがたい、変な癖を付ける前に、エース級以上のパイロットと戦える事なんて無い。

 

それが俺の技量の向上に繋がるならば、

何も躊躇う事など無い、ただ、やり遂げるのみだ!!

 

sideout

 

noside

 

ミナの言葉を受けた一夏は、

フットペダルを踏み込み、一気に彼女の乗るM1Aに向かっていく。

 

M1Aは元々、宇宙空間での使用を想定している為、

原型機であるM1アストレイよりも、宇宙空間では高い運動性能を誇り、AMBAC機能も三割増しな為、

量産機の中でも頭一つ抜きん出たスペックを誇っている。

 

その上、乗り手を選ばない操作性の良さも相まって、

アメノミハシラを守護する主戦力に恥じない活躍を見せている。

 

だが、その性能を活かし、限界以上の動きを見せるのも、性能を殺してしまうのもパイロットの力量次第という事であった。

 

ロンド・ミナ・サハクはコーディネィターとして非常に完成度の高い能力を誇っていると同時に、

自身が積んだ修練の賜物としての技量の高さを持っている。

 

それに対し、一夏は秘めたる能力はロンド・ミナよりも俄然上位に位置するも、MSを動かした経験が皆無な為、その能力を十全に発揮出来てはいない。

 

「くそっ・・・!!やはり慣れてないせいで巧く扱えんか・・・!!」

 

模擬戦用のシールドと一体化していた訓練刀を引き抜き、彼は相手に向けて迫る。

 

しかし、その差はあまりにも大きく、一夏が攻めているにも関わらず、ミナは微風でも吹く様な感覚で回避していた。

 

「良い機動だ、初搭乗でその機動は滅多に無い、

誇りに思って良い。」

 

「ありがたいが、俺はこんな事で満足できない性分でな!!」

 

機体を反らし、攻撃を避けるだけの行動に、

彼は内心で燻る焦りを隠せなかった。

 

嘗ての世界で最強と謳われた自分が翻弄される事への不甲斐なさが、その焦りをより大きくしているのであろう。

 

「(クソッ・・・!俺ごとき、マトモに相手にするのも徒労だって訳か!?)」

 

どれ程攻撃しようとも、直撃どころか掠りもしない事への苛立ちが、彼を力ませ、能力を十全に発揮しきれない状況へと陥らせていた。

 

「(MSの扱いには慣れていない様だが・・・、

ここまで戦い慣れているとは思わなかったな・・・、

良き者と手を組めたものだ・・・。)」

 

一夏が苛立ち始めている最中、

彼を相手取っているロンド・ミナは、内心冷や汗と高揚を抑えるのに必死だった。

 

まさか自分が心踊る相手と巡り会えるとは露程にも思った事もなく、ただ己の力を誇っていたのだ。

 

「(まだまだ粗い部分は多い、だが、磨けばいずれは・・・。)」

 

その先を想像し、彼女は僅かに身震いした。

 

何十を越える機体をたった一機のMSが相手取る、

正に一騎当千に値する場面を幻視したのだろう。

 

だが、それは現実になりうる可能性を持っていた、

 

何せ、織斑一夏という男は、

それを実現しうるポテンシャルをその身に秘めているのだから。

 

「だが、今はまだ、耐える時だぞ、一夏!」

 

一夏が駆るM1Aの斬撃を左腕に装備されていたシールドで逸らし、そのままの勢いで訓練刀を引き抜き、

コックピット部に直撃させた。

 

「ぐぅぁっ!?」

 

いくら慣れてるとは言えども、

自身の攻撃をいとも容易く流し、そのまま攻撃を叩き込まれた事による衝撃への備えが出来ていなかった彼の身体は、無慈悲に揺さぶられ、一瞬の硬直を生み出した。

 

「終わりだ!」

 

その硬直を見逃す程ミナは甘くない、

強引にスラスターを吹かし、後ろ回し蹴りを再びコックピットに叩き込んだ。

 

「がは・・・っ!?」

 

二度目の衝撃を堪える間もなく、

彼は激しくシートに押し付けられた。

 

彼の乗るM1Aは大きく後方に吹き飛ばされ、

付近を漂っていたアメノミハシラの構造部材に叩き付けられた。

 

「コックピットにサーベルの直撃、

実戦ならばお前は戦死だな、一夏?」

 

「そうだ・・・、俺の敗けだ、

それを認めない程、頑なじゃないさ。」

 

ロンド・ミナの問い掛けに顔をしかめながらも、

彼は降参の意を表した。

 

その拗ねた様な仕草に、

彼女は少々苦笑しながらも、彼が乗るM1Aを掴み、

アメノミハシラに向けて機体を駆った。

 

「お前はまだまだ粗い部分が多い、

だが、伸び白は計り知れない、熱くならず、今は堪えろ。」

 

「全くだぜ・・・、熱くなりすぎたか・・・。」

 

揺さぶられた際に首でも痛めたか、

首に手を当てながらも彼女の講評に返答し、

自分でも情けないと言わんばかりに溜め息混じりに呟いていた。

 

「だが・・・、これで生き甲斐が出来ると言うものか、な・・・。」

 

ヘルメットを脱ぎ捨て、パイロットスーツの胸元を大きく開きながらも、

彼は何処か愉しげに呟く。

 

まるで、我が意を得たりと言うかの様に・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

アメノミハシラへと戻った俺は、

汗を拭う事すらせずにストライクのコックピットに乗り込み、

OSの再設定を行っていた。

 

M1Aに乗っていて、ほんの僅かだけ感じた事なのだが、

並のコーディネィターが扱うレベルのモノでは、

俺の反応に付いてこれない様だ。

 

先程の模擬戦ではそこまで感じることは無かったが、

それは所詮、俺が慣れる為の試験稼働だったからであり、

もし、俺が機体の性能をフルに引き出そうと思うのならば、OSの設定を書き換えねばならない。

 

そういう訳もあり、早速作業に打ち込んでいると言う訳だ。

 

時はまだまだ来ない、何せ、ロンド・ミナが動くのは恐らくこの戦争の終結後、それも連合、ザフトが互いに疲弊しきった時だ。

 

漁夫の利を狙う様だがそれも戦略の内のひとつ、

卑怯もへったくれも無い。

 

俺も、狙うとすれば相手が弱りきり、

戦う力が皆無な時だろうしな、別にどうとも思わない。

 

それに掛かって負ける方が悪い、

戦いとは常にそう言うものだ、敗者は勝者に対してひざまづかねばならない。

 

そうさ、最後に王となるのは、

我が主、ロンド・ミナ・サハクだ。

 

今の俺は彼女の忠実な飼い犬、

ならば、彼女の野望を叶える為に、身体張ってやろうじゃねぇか。

 

何の為に、俺がこの世界に来たのかは分からねぇが、

やるべき事が出来た以上、それを為すために我武者羅にやるしかねぇんだ。

 

さてと、調整も大方終わった、後は実際に動かしてから考えるか。

 

コックピットから出て行き、リフトを操作してストライクのヘッドまで登る。

 

幾度となく死線を潜り抜け、

何度も俺の命を救ってくれた相棒・・・。

 

その姿をISからMSに変えても尚、

俺の命を護ってくれた大切な機体・・・。

 

「ありがとな、ストライク、お前とはまた、共に戦うことになる、

俺の命、もう一度お前に預けるぜ。」

 

機体が物を言わぬと分かっていても、

何処か俺の気持ちを汲んでくれているような気もする。

 

俺は孤独ではない、

お前だけでも、かつてのモノがこの世界に来てくれているなら尚更だ。

 

だが・・・、やはり両隣が寂しいな・・・。

 

物理的な理由だけでなく、精神的な理由もあるのだが・・・。

 

どうして俺だけ生かされたのだろうか?

孤独に苛まれ続けろという呪いなんだろな、これまで殺めた命への贖罪という意味の呪いだ。

 

だからこそ、セシリアとシャルが俺の傍にいてくれないのだろう、

これこそ、俺にとっては最大の苦痛であり、最大の咎だ。

 

だが、この痛みを抱えたまま生き続けなければいけない、

それが俺への罰だ・・・。

 

セシリア、シャル、共に逝けずにすまない、

俺はこの世界で生きていく、お前達を忘れる訳じゃないから・・・。

 

「じゃあな、もう少し待っていてくれ、何時の日か、俺は必ずお前達と・・・。」

 

ストライクと、此処にはいない二人に告げた後、俺はリフトに乗り込み、

アメノミハシラの床に降りてロンド・ミナの下へと歩く。

 

この世界こそ、俺が再び活きる場所なんだと、己に言い聞かせながらも・・・。

 

sideout

 




次回予告

離れ離れとなった者達への想いを募らせながらも、
彼女が進む道とは何なのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

惑い


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惑い

noside

 

セシリアがサーペント・テールに保護されてから数日後、

劾は格納庫にて、自身の愛機、ブルーフレームセカンドGの調整を行っていた。

 

ブルーフレームセカンドG、

以前、地球連合所属のコーディネィター、ソキウスが駆る二機のロングダガーに敗れ、バックパック部に甚大な被害を受け、尚且つ頭部まで持ち去られてしまったブルーフレームを、

劾とジャンク屋、ロウ・ギュールが修繕、改修した姿だ。

 

肩部にフィンスラスターと呼ばれる特殊スラスターを追加し、単体での機動力の向上と、急激な方向転換を可能とする推力の付与がなされた。

 

また、プロトアストレイシリーズに共通していた追加兵装の交換、混同が容易という点はそのまま継承され、彼の任務遂行の大きな手助けとなっている。

 

次のミッションは少々手荒な方法を採らねばならないミッションであり、装備の選択と整備を怠る事はあってはならない。

 

ふと、ブルーフレームの反対側を除いてみると、

そこにはフェイズシフトダウンを示す暗灰色の機体が佇んでいた。

 

特徴的なブレードアンテナとツインアイを持ち、

余分な一切合切を全て取り払った様にも見えるその機体は、GAT-X102デュエルであった。

 

セシリアを保護した後、劾は軽いメンテナンスの為、デュエルを確認したが、

これといって問題になりそうな点はなく、エネルギーと推進剤の補給だけで大方の整備は完了していた。

 

しかし、パイロットであるセシリアが今だ動ける状態では無いため、

この機体を動かす者はいないのだ。

 

だが、物言わぬその機体は、

ただひたすらに主の帰還を待ち望んでいるかの様にも見える。

 

「お前は、主を護ったのか?

ブルーフレームが俺を護ってくれた時の様に・・・?」

 

ふと、そんな言葉が口を突いて飛び出した事に気付き、

劾はらしくないと言わんばかりに頭を振った。

 

何時から自分は機体に対してそういうセンチメンタルな感情を持つようになったのだろうかと言いたげな表情が、彼の内心での驚きを物語っているだろう。

 

「そろそろ、起き上がれる頃だな・・・、

せめて、ここに引き留めて置ければいいが・・・。」

 

そう呟いた後、彼はブルーフレームの装甲を蹴り、慣性に従って居住区画への通路を目指した。

 

sideout

 

noside

 

「もう起きても大丈夫なの?」

 

食事を持って、劾と共にセシリアの部屋を訪れたロレッタは、

ベッドから降り、そわそわと落ち着きなく部屋の中を歩き回っているセシリアを見つけ、驚いた様な声をあげた。

 

彼女の反応はもっともなものだろう、

何せ、数日前まで起き上がる事処か、目覚める事さえなかった者が動き回っているのだ、驚かない筈はない。

 

「えぇ、寝ているばかりでは、身体が鈍ってしまいますもの、それに、もう全快しましたわ。」

 

ロレッタの問いに答える様に、セシリアは両手を広げ、快調だと言わんばかりに示していた。

 

「それもこれも、ロレッタさんやサーペント・テールの皆さんのお陰です、誠に感謝いたします。」

 

「良いのよ、怪我人を助けるのは当たり前よ?

それに経緯は分からないけど劾達の友達は助けないとね♪」

 

セシリアがしっかりと頭を下げ、礼をするのに対し、

ロレッタは気にする事は無いと笑い、彼女に顔を挙げさせた。

 

そんな彼女の笑みに、セシリアは少し照れ臭そうにはにかんだ。

 

扉の近くで佇んでいる劾も、安堵した様に口許を弛めていた。

 

「それよりも、これからどうするの?

貴女、帰る場所がないんでしょう?」

 

「そういえば・・・、そう、でしたわね・・・、

これからどうしましょうか・・・?」

 

ロレッタの問いに、セシリアは困った様な表情を見せながらも、何も思い付けないのか返答に窮していた。

 

それもそうだろう、

彼女はこの世界に来て間も無く、MSの扱いも出来なければ、それ以外の知識も圧倒的に不足している。

 

その様な状態では、この世界で生きていく事は、娼婦に身を堕とす以外不可能であると言えるだろう。

 

だが、ひとつだけ方法があることを、

ロレッタは既に思い付いていた。

 

それを提案しようとした時、劾が口を開いた。

 

「なら、サーペント・テールに入れば良い、

勿論、見習い隊員としてだがな。」

 

「えっ・・・?ですが、よろしいのですか・・・?」

 

彼女の困惑は尤もな物だ、

確かに、劾やイライジャとは少なからず繋がりはあっても、此処までしてくれる理由が分からないのだろう。

 

「構わんさ、それに、お前が乗っていた機体は、

お前と共に在りたがっているからな。」

 

「私の機体、ですか・・・?」

 

「あぁ、お前が乗ってやれ、その為にはサーペント・テールにいる事が一番手っ取り早いだろうしな、

それに、やるべき事を見付けられるかも知れんぞ。」

 

劾の話した内容に、セシリアは暫く考えるような表情を見せた後、何かを決めたような表情をし、顔を上げた。

 

「分かりました、不束者ですが、サーペントテールでお世話になります、よろしくお願いいたしますわ。」

 

「あぁ、こちらこそよろしく頼むぞ、セシリア。」

 

彼女の返事を受け取った劾は右手を差し出した。

 

セシリアもそれを受け、彼の右手を握り、

契りは成った。

 

「ロレッタ、セシリアに服を貸してやってくれ、

何時までも寝間着という訳にもいかんだろうからな。」

 

「分かってるわ、でも、こんなグラマラスな身体に合う服、合ったかしら?」

 

セシリアと手を離した劾は、

事の成り行きを見守っていたロレッタに声をかけるが、

当の彼女は、少々苦笑気味で、セシリアの方を見ていた。

 

「どういうことですの?

そこまで太くは無いと思いますが・・・、って!?

何ですのこれはぁ!?」

 

自分の身体に目を落としたセシリアは、

自分の体型の変化に驚愕、絶叫した。

 

と言っても、太っているのではなく、

背が約175㎝になり、全体的なプロポーションは以前より均整が取れた美しいモノに成長し、女性らしさを現す胸の膨らみは、自己主張の度合いをより一層強くし、少女から女性へと成長しきった事を、その身体は示していた。

 

「そんな・・・、私は、どうしてしまったのでしょうか・・・。」

 

他の者には、何故彼女が動揺しているのかと、

理解が及ばないであろう。

 

だが、彼女の元々の年齢は16であり、

いきなり20前後の身体着きになった事を理解しきれずにいたのだ。

 

「どうした?」

 

「い、いえ、何でもありませんわ・・・。」

 

彼女の様子を不審に思ったのか、劾は声を掛ける。

 

それを察したセシリアは、何事も無いと思わせる為に、直ぐ様平静を装った。

 

それもその筈、彼等にとって、今の自分の姿こそがセシリア・オルコットという人間の姿であり、此処でどう騒ごうとも、本当の自分の姿ではないと信じてもらえる筈もない。

 

そう結論付けた為である。

 

「そうか、これがお前が着ていたパイロットスーツだ、

代わりの服が手に入るまでは、すまないがこれを着てくれ。」

 

「分かりましたわ、何から何までありがとうございます、それから・・・、

よろしければ劾さんは席を外しては頂けませんか・・・?」

 

劾にパイロットスーツを受け取ったセシリアは、

何処か恥ずかしそうに、彼が部屋から去るように頼む。

 

「分かっている、恋人でもない男に、肌を見せるモノじゃないぞ。」

 

「っ・・・、ありがとうございます・・・。」

 

何気なく言った劾の言葉に、セシリアは表情を一瞬だけ曇らせたが、直ぐ様笑顔を取り繕い、彼に礼を返した。

 

劾もロレッタも、その一瞬を見逃しはしなかったが、

掛ける言葉が見付からなかった為に、敢えて何も言わずにいた。

 

愛しい男と女と離れ離れになってしまった彼女の心の痛みなど、

事情を知らぬ彼等には察することも出来ぬ事だろう。

 

劾は無表情を貫き通し、部屋から退室して行った。

 

「(好きな男・・・、もう、あの方はいらっしゃらない・・・、

でも、この気持ちは、捨てることは出来ませんわね・・・。)」

 

胸の内に走る痛みを堪えながらも、彼女は病人服に手をかけ、着替えていく。

 

ロレッタから渡されたインナーを着込み、

その上からパイロットスーツを着用し、準備万端と言わんばかりに手を叩く。

 

「準備出来たかしら?劾が外で待ってるわ、彼に着いていきなさい?」

 

「ありがとうございます、ロレッタさん、それでは、行って参りますわ。」

 

部屋から出たセシリアは、部屋の前の廊下で待機していた劾とアイコンタクトし、

彼等は格納庫の方へと歩いて行った。

 

sideout

 

sideセシリア

 

病人服から着替えた後、私は劾さんに連れられて、

無重力エリアまでやって来ました。

 

ISを使用しても感じる事の出来ない、

身体が水の中にいるような浮遊感は、当然の事ながら今までの経験の中にはありません。

 

本当に宇宙なんですね・・・。

今まで重力ブロックにいたためか、

なにかと宇宙にいるという感覚ではなく、地上にいる感覚のままでしたので、余計にそう感じます。

 

「劾さん、お尋ねしたいことがあります、

私の機体とは一体なんですの?」

 

先程、私に掛けて頂いた言葉、

私の機体と仰られていたでしょうか?

 

私の機体と言われましても、

以前の世界での愛機は既に壊されてしまった訳でして、私の機体と言うものは存在しない筈です。

 

「お前が漂流時に乗っていた機体だ、

俺達が使うわけにもいないから、お前に返そうと思う。」

 

あまり要領を得ない答えですが、今ある情報では答えに辿り着ける筈もありません。

 

ここはその機体を確認して置くことが、

私が答えへと辿り着ける近道なのでしょう。

 

暫く無重力エリアの通路を進んでいくと、

格納庫へと辿り着きました。

 

格納庫に入り、まず最初に私の目に飛び込んで来たのは、

私の10倍程の大きさを持った、人の形をした巨大な物体でした。

 

V字に伸びるブレードアンテナ、人間の眼の様なツインアイ、

その姿は、私にとって見覚えのある姿でした。

 

「ブルーフレーム・・・。」

 

「知っているのか?」

 

知っているなんてものじゃありません、

その姿と大きさは違えど、幾度となく刃を交えた事のある機体です。

 

パイロットとは、私が偽りの仮面を被っていた事もあり、反目しあっていましたが、

私が本心をさらけ出せていたのならば、よき友となれた事でしょう。

 

「はい、何度も戦った事があります、

この様な姿ではありませんでしたが・・・。」

 

「そうか、深く聞かない方がお互いの為だな。」

 

劾さんは納得したかのように、先導を続けるように宙を進んでいきます。

 

そこから少し進んだ場所には、

別の機体が佇んでいました。

 

ダークグレーの装甲色を持ち、細身ながらもどこかずんぐりとした体躯を持つガンダムタイプの機体・・・。

 

「これは、デュエル・・・?」

 

かつての姿とは異なる部分もありますが、

その面構え、特徴的なガンダムフェイスは見紛う筈もありません。

 

「お前が漂流時に乗っていた機体だ、確認するが、お前の機体で間違いないか?」

 

劾さんが確認するように私に尋ねられているのは分かっていましたが、

私の視線は目の前に佇む愛機に釘付けになっていました。

 

「間違いありません、私の機体ですわ。」

 

ですが、答えないことも失礼に値します、

劾さんに向き直りながらも答えました。

 

そんな私の様子を見て納得したのか、彼は深く頷いていらっしゃいました。

 

「貴方は、私について来てくれたのですか?」

 

気が付けば、私は慣性に任せて浮き上がり、

デュエルのヘッド部分まで行き、アンテナ部に触れながら、語りかけていました。

 

機体は意志を持たぬ無機物だと頭では理解していますが、

どうしてか、その言葉が口を突いて出ていました。

 

お二人がいなくなって、私は一人ぼっちになったと思っていましたが、

この機体だけでも、こんな私と共に在ってくれていることが、何よりの慰めになってくれました。

 

何故私がこの世界に飛ばされ、生かされているのか、

何故独りになっているのか、わからないこと尽くめで混乱していた思考が、ほんの僅かですが、

クリアになった様な気がします。

 

もう、かつての世界には戻れない、

ですが、この世界で目覚めたということは、私はこの世界でなすべき事があるのでしょう。

 

ならば、今は何も考えずに、ただただ、己の腕を磨く事のみに専念いたしましょう。

 

「劾さん、不躾で申し訳ありませんが、すぐにとは申しません、

どうか今一度、私に戦闘のご指南をお願いできませんか?」

 

「勿論だ、まずは計器の見方や操作方法を覚えてもらおう、

実際に操縦するのはまだまだ先だ、いいな?」

 

「勿論ですわ、いきなり乗れと言われても、不可能だと分かっていますもの。」

 

寧ろ、これから操る事になる機体の事を学べるのです、

これ以上に好都合な事はありません。

 

学んで活かし、そして強くなる、これまでやってきたこととなんら変わる事は無いでしょう。

 

やってみせましょう、立ち止まっていても分かることなんてありませんもの。

 

一夏様、シャルさん、其方に逝くのはまだまだ先になりそうです、

ですから、遅れて逝く無礼、ご容赦下さいませ、決して貴方方を忘れる訳ではありませんから・・・。

 

「付いて来い、人に物を教えるのは苦手だが、善処しよう。」

 

「はい、精一杯努力致しますわ。」

 

劾さんに呼ばれましたため、意識を回想から現実へと呼び戻し、

彼の後を追いました。

 

どれほどの事が出来るかなど分かるはずもありませんが、

生き抜くため、生きる意味を見出すため、足掻かせていただきましょう。

 

デュエル、申し訳ありませんがもう少しお待ち下さいね、

貴方とは、もう一度宙を駆ける事になります、

その時が来たならば、もう一度、私の命をお預けいたしますわ。

 

心の内で愛機に語りかけながらも、私の意識は既に別のモノへと向いておりました。

 

もう一度、自分の意志で立ち上がり、飛ぶためにも・・・。

 

sideout

 




次回予告

戻らぬ者、戻らぬ時、それは時として刃となり心に突き刺さる、その最中で、彼女は何を見るのだろうか。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
始動。

お楽しみに~。


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始動

noside

 

真空の冷たさと、底無しの闇が支配する広大な宇宙に浮かぶ、

廃棄コロニー群〈グレイブヤード〉より、一隻の宇宙船が、星の大海原に出港していった。

 

その船とは、ジャンク屋ギルド所属のジャンク船〈リ・ホーム〉である。

 

この船は、連合軍製の戦艦であるコーネリア級をベースに製造されており、

推力は民間で使用されている他の船よりも高く、彼等の航行の大きな助けになっている。

 

その艦橋では、四人の男女とホログラム体、

そしてトランクケース程の大きさの機械が、一堂に集結していた。

 

「グレイブヤードでは色々あって泣いちゃったけど、

ガーベラが直って良かったね。」

 

その内の一人である金髪の少女、山吹樹里は、

今だ僅かに涙の跡が残る顔をしながらも、隣の席に座っているロウに声をかけた。

 

先程、グレイブヤードにて、彼女達とも面識のあった老人、蘊・奥の死に際を見届け、

彼を埋葬した直後であるために、彼女達の間には沈鬱な空気が漂っているのだ。

 

「あぁ・・・、だけどさ、俺、これから何をすればいいのかわかんなくなっちまった・・・。」

 

彼女の言葉に答えながらも、彼は何処か思いつめた様な表情で呟いていた。

 

彼の脳裏には、彼の師である蘊・奥の最期と、その前に起こったザフト軍の襲撃がリフレインされていた。

 

実は、グレイブヤードにザフトが攻撃を仕掛けたのには訳があった。

 

その理由は、ロウ達がかつて地球の海中で発見したレアメタルであり、

それはザフトが開発した新素材金属であったのだ。

 

戦局が悪い方面へと流れていくのを防ぐため、少しでも自軍に有利な材料を揃えるために、

グレイブヤードに寄港していたロウ達を襲撃、レアメタルを奪還しようとしたのだ。

 

結果的には、ロウが愛機、レッドフレームを駆り、ザフト軍を撃退したが、

ただでさえ弱っていた蘊・奥老人は危篤となり、弟子であるロウに看取られてこの世を去った。

 

それ故に、彼は自分のせいで蘊・奥老人を巻き込んでしまったと、自責の念に囚われているのだ。

 

自分が関わることが事がなければ、彼はもっと静かに往生出来たのではないか?

問いかけても一向に答えが出る事の無い苦しみが、彼を苛む。

 

そんな彼に掛ける言葉が見当たらないのか、彼の仲間達は一様に彼を案ずるような表情をしていた。

 

「何よりも、まずは自分に出来る事をする、それでいいんじゃないかな?」

 

そんな空気を破るかのように、艦橋に新たな人物の声が響く。

 

その声に弾かれたかの様に、一同が艦橋の出入り口に目を向けると、

そこにはパイロットスーツに身を包んだシャルロットの姿があった。

 

「もう起きて大丈夫なの!?」

 

彼女の姿に驚いたのか、樹里は席から立ち上がり、

身体を宙に浮かべ、彼女の傍まで移動した。

 

「うん、あれだけ眠っていれば大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、樹里。」

 

樹里の問いかけに微笑み、シャルロットは彼女に例を述べ、

艦橋内の全員を見渡してから頭を下げた。

 

「ロウ、リーアムさん、プロフェッサーさん、ジョージ、それから『8』、

僕を助けて下さってありがとうございます、おかげで命拾いしました。」

 

「いいのよ、気にしないで。」

 

「それよりも、御体に大事が無い様で何よりです。」

 

プロフェッサーとリーアムはそれぞれに言いながらも、彼女に対して微笑みかけていた。

 

「良かったなシャルロット、

でもよ、お前これからどうするんだ?行く宛て無いんだろ?」

 

健康そのものと言わんばかりの彼女の姿に安堵しつつも、

ロウはこれからの身の置き方について尋ねた。

 

そう、彼女はこの世界の住人ではない、戸籍も無ければ、当然戻るべき場所も存在しない。

 

そんな状況で独り放り出されてしまえば生きていける保証など無い。

 

「そうなんだよね・・・、娼婦にでもなろうかな?

本当はやりたくないんだけどさ・・・、生きてくためにはそれしか・・・。」

 

生きていくためには仕方ない、そう話すシャルロットの表情は暗く、諦念すら窺えた。

 

そんな彼女の様子に、樹里達は何も言う事が出来ず、

ただただ、複雑な表情を浮かべる事しか出来なかった。

 

「なら、俺達と来いよ、歓迎するぜ!」

 

そんな中、ロウはいつも以上の笑顔で彼女に向けて言った。

 

「えっ・・・?」

 

その言葉にもっとも驚いたのは、リ・ホームのメンバーではなく、

言葉を投げかけられたシャルロットであった。

 

「行く宛が無いなら俺達と来ればいい、仲間なら助けあわねぇとな。」

 

「ロウの言う通りね、貴女の機体は用心棒には打って付けだし、

ここで会ったのも何かの縁、私は歓迎するわ。」

 

ロウの言葉に同意するようにプロフェッサーも言い、

僅かだが微笑みを浮かべていた。

 

「そうですね、行く宛がない方を見放す訳にもいきませんし、

共に行動してもらうのが効率的ですね。」

 

『歓迎するぞ!』

 

リーアムも、そして『8』も、彼女がリ・ホームの一員に加わる事を歓迎している様であった。

 

「来いよシャルロット、それとも俺達と一緒じゃ不満か?」

 

「ううん、とっても嬉しいよ、未熟者ですが、皆さんとご一緒させて下さい。」

 

ロウのからかう様な問いかけを否定しつつ、

彼女は深々と頭を下げ、彼等の提案を受け入れた。

 

「よっしゃ!よろしくなシャルロット!」

 

彼女の返答に、彼は満面の笑みを浮かべ、彼女に対して右手を差し出した。

 

「うん、またお世話になるね、ロウ。」

 

頭を上げた彼女は、差し出された手を微笑みながらも掴み、しっかりと握った。

 

まるで、何かの約束をするかのようにも見えたが、そんな事は今の彼等には関係の無いことだろう。

 

「よし、シャルロットも目覚めた事だし、あの機体を返さなきゃな。」

 

「あの機体?何の事?」

 

ロウの言葉の意味を察せなかった彼女は、僅かに首を傾げていた。

 

「まぁ、説明するよりも見て貰ったほうが分かり易いな、格納庫まで付いて来てくれ。」

 

シャルロットの肩を軽く叩き、彼は艦橋から先に出て行った。

 

残された彼女はと言えば、如何すべきかわからないと言う様に立ち尽くしていた。

 

「ロウに付いて行けば分かるよ、シャルロット。」

 

「そうだね、ありがとう樹里。」

 

そんな彼女の背を押すかのように、樹里は言い、

それを受けたシャルロットは微笑みながらも礼を述べた。

 

「あ、それと、シャルロットの方が年上みたいだけど、呼び方どうしたらいいかな?」

 

「へっ?僕と樹里って同い年位じゃ・・・、ッ!?」

 

樹里に言われ、それに言い返そうとした彼女は、

艦橋の遮光ガラスに映った自分の姿に絶句した。

 

嘗ての世界にいた時よりも背が伸び、身体の全体的なプロポーションは以前よりも均整のとれた美しいモノになり、女性らしさを表す胸の膨らみは自己主張の度合いをより一層強くし、少女から女性へと成長しきった事を示していた。

 

「(どういうこと・・・!?僕は確か、十六位だった筈なのに・・・!?)」

 

自身の身体の大きな変化に、流石のシャルロットも驚きを禁じ得なかった。

 

何故自分の姿が変わっているのか、それを理解することは至難の業であろう。

 

「どうしたの?」

 

そんな彼女の様子を不思議に思ったのか、樹里は彼女の顔を覗き込んでいた。

 

「あっ、何でもないよ、ちょっと髪伸びたかなって思っただけだから。」

 

そんな彼女に気が付いたのか、シャルロットは平静を装い、

彼女を心配させまいと笑みを取り繕った。

 

彼女は理解できたのだ、自分の姿が本当の姿で無いと言っても樹里達には分からないだろう、と、

何せ、彼女達が出会ったのはこの姿の自分であり、かつての自分ではないのだ。

 

「そう?なんだかびっくりしてたみたいだけど・・・?」

 

「ううん、何でもないよ心配してくれてありがと、

呼び方だけど、シャルロットでいいよ、じゃぁ、またあとでね。」

 

樹里に微笑みかけた後、シャルロットは先に出て行ったロウの後を追い、艦橋から出て行った。

 

「なにか、後ろめたいことでもあるのかしら・・・、それとも・・・。」

 

シャルロットの様子に、言葉に出来ぬ何かを感じたプロフェッサーは、

何かを思案する様な表情を見せる。

 

彼女が抱える何かを感じ取ったのだろうが、それが何なのかまでは、マッドサイエンティストである彼女にもわからなかった・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

ロウの先導に従い、僕は無重力フロアの廊下を進んでいた。

 

ホントに身体が浮き上がるんだね、重力があった居住ブロックにいたから実感が無かったけど、

宇宙にいるんだっていう実感が湧いてきたよ。

 

それにしても、身体が浮いてるって、なんだか不思議だね、

艦橋に行くまで随分と苦労したけど、慣れれば何とかなりそうだよ。

 

それよりもなによりも、今は気になる事がある。

 

「ねぇ、僕の機体ってどういう事なの?」

 

そう、さっき彼が言っていた僕の機体についてだ。

 

僕が乗っていた機体は、あの戦いで完全に破壊された筈なんだけど、

それのことなのかな?

 

「あぁ、お前が漂流時に乗ってた機体だよ、

俺達が使うわけにもいかないしな、お前に返すよ。」

 

確かに生身で漂流してたら、

間違いなく僕は死んでただろうね、そう考えたらどんな機体かは知らないけど、感謝しないとね。

 

しばらく進んで行った所にあった扉を抜けると、僕達は大きく開けた空間に出た。

 

「ここが格納庫だ、色々と部品が浮いてるから気ぃ付けてな。」

 

ロウの言葉通り、格納庫の中には大量のパーツが浮遊してて、

気を抜いたら、間違いなく頭をぶつけそうになってしまいそうだった。

 

そこから更に奥へと進んで行くと、僕達の目の前に僕の背丈の何倍もの大きさを持った鋼鉄の巨人が姿を現した。

 

「これは・・・、レッドフレーム・・・?」

 

大きさや形は違えど、その特徴的なガンダムフェイスに露出している赤いフレーム、

かつての世界では同志として共に戦った機体だ、見紛う筈はない、

それに、この機体に乗っていた少女の事も、忘れる事なんてできない記憶だ。

 

「おっ、やっぱり知ってたか、別の世界のこいつにも会ってたんだな。」

 

ロウは何処か誇らしげに言って、そこから更に先に進んで行こうとしていた。

 

何処に行くのかは知らないけど、そこに僕を待ってる何かがある事だけは確かなんだ。

 

「着いたぜ、お前を守った機体だ。」

 

彼が立ち止まり、彼が見上げた先に佇んでいたのは、

僕にとって馴染みが深いなんてモノじゃない機体だった。

 

砲撃手を思わせる様な力強いフォルムに、背面に背負われている二門の砲塔、

そして、何よりも印象に残るのが、頭部ブレードアンテナとツインアイ・・・。

 

見紛う筈がない、この機体は・・・。

 

「バスター・・・、だよね、間違いないよ、僕の機体だ。」

 

間違いない、姿や大きさが変わっても、この機体はかつての世界での相棒だ・・・。

 

「そうか、なら、ちゃんと持ち主に返さないとな。」

 

ロウが何か言ってるけど、その言葉の意味が頭の中に入ってこないぐらい、僕の意識は目の前の機体に向けられていた。

 

「君は、僕に着いてきてくれたの・・・?」

 

気が付けば、僕は宙に身体を浮かばせ、

バスターの頭部まで近寄っていた。

 

この世界に来て、僕は独りぼっちになったと思った、

でも、そうじゃないんだよね・・・?

 

バスター・・・、君がいてくれてるからそう思えるよ。

 

「それと、ありがとなシャルロット。」

 

僕がバスターを見つめていると、何故かは分からないけど、

ロウが唐突に礼を言ってきた。

 

「えっ?僕何かしたっけ?」

 

取り立てて何かをしたわけでも、何かを言ったわけでも無いから、

どうして言われたのかが見当も付かない。

 

「さっき、艦橋で出来ることをするだけだって、

お前が言ってくれたんじゃないか。」

 

そう言えばそんなこと言ったっけ?

僕はそうすべきだって思ってたから、ついつい言葉に出ちゃうんだよね。

 

「俺さ、さっきまでどうしたら良いか悩んでてさ、

でも、お前に言われて気付いたよ、出来ることしか出来ないんだからその中で出来ることをする、それで良いんだってな!」

 

「そう言う事なんだ、それで良いんじゃないかな?

悩んでる間にも時間は進んでる、なら、自分も進まないと、だよね?」

 

ロウに言った言葉だけど、それは僕自身にも向けた言葉だ。

 

無いものはない、いない人はもういない、

だったら、今いる人達と全力で今を生きないと意味がない。

 

だから、一夏、セシリア、ゴメンね、

そっちに逝くのはもっと後になりそうだよ・・・、

永い間待たせちゃうけど、赦してね。

 

二人を忘れる訳じゃないから・・・。

 

「ロウ、次の目的地に着くまでに色々教えてよ、

僕も出来る事をしないといけないからね。」

 

「良いぜ、これから一緒に頑張ろうぜ!」

 

そう言いつつ、彼は艦橋へ戻ろうとしていた、

恐らくは次の目的地を聞きに行くんだろう。

 

彼の後を追いながらも、僕はバスターを肩越しに見る。

 

僕を守り、僕について来てくれた大切な仲間・・・、

もう少し待っててね、君とはもう一度宙を駆ける事になるから、

その時はもう一度、僕の命を君に預けるよ、だから・・・。

 

「その時は、よろしくね。」

 

誰に向けて言ったわけでも無いけど、そんな言葉が口を突いて出ていた。

 

やる事はいっぱいある、でもするべき事は何一つ変わらない、

だから僕は僕の出来ること、やるべきことをやり遂げる、それでいいんだよね・・・。

 

sideout




次回予告

進むべき道は決して一つではない、目指すものは違えども、己の道を歩む者達が巡り会う。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

邂逅

お楽しみに。


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邂逅

GWと言うことで、連休中にもう一、二話あげたいと思います。


noside

 

ジャンク屋組合所属の宇宙船〈リ・ホーム〉に新たな仲間が加わってから早二日、

彼等の航路はL4コロニー群に存在するコロニー、メンデルに向けられていた。

 

メンデル、その地は嘗て、遺伝子研究が盛んに行われていたことで有名である。

 

現在はC.E.68年に発生したバイオハザードの影響により閉鎖され、

施設やその他の設備もそのまま放棄された。

 

尚、メンデルは地球連合の息がかかっていた時期があり、

軍部主導の下、戦闘用コーディネィターの開発、研究が行われていた。

 

その結果として生み出されたのが、サーペント・テールのリーダー、叢雲 劾や、

元ザフトの英雄、グゥド・ヴェイアであり、ヴェイアの遺伝子を基に作られたソキウスシリーズも、メンデルで作り出されている。

 

しかし、それは表沙汰にはなってはおらず、この事を知るのは限られた人物、当事者達しかいないのも事実であった。

 

そして、メンデルに向けて進むリ・ホームのメンバーは当然の事ながら、

この事実を知る由もなく、ただ、次の仕事現場がたまたまメンデルであるという、ある種の偶然の結果であると言うべきか・・・。

 

「今度の依頼ってプラントからの直接の依頼なんだよね?」

 

「えぇ、組合を通じての依頼です、

危険な仕事を組合が寄越すとは考えられませんので、大きな問題は無いでしょう。」

 

リ・ホームの艦橋で、今回の依頼内容の確認を行う樹里に対し、黒髪の男性、リーアムは説明するかの様に概要を話していた。

 

今回、彼等に舞い込んだ依頼の内容は、コロニーメンデルにいるディラー・ロッホと言う人物に、

MSのパーツの配達、及び、破損箇所の修理であった。

 

プラント政府からの依頼ではあるが、恐らく本当の依頼主はメンデルにいるディラー・ロッホなのだろうと予想する事が出来る。

 

もっとも、その人物が何をしているかまでは分かっていないのも事実ではあるが・・・。

 

「リ・ホームは港で待機しておくわ、目的のポイントにはMSで行ってちょうだい。」

 

「分かった、俺と『8』はレッドで、樹里とリーアムはバクゥで行こう、シャルロットも来るか?」

 

プロフェッサーの指示を受け、リ・ホームのメンバーは各々が登場する機体に乗り込むべく、

艦橋から出ていく中、

ロウはモニターを見ていたシャルロットに尋ねていた。

 

「う~ん・・・、僕はまだいいかな、バスターにも乗り慣れてないし、

それに何かあった時の為にも、船の近くにいるよ。」

 

「分かった、任せたぜ。」

 

まだMSに乗り始めて間もない彼女ではまともに機体を動かす事も難しい事は明確であった。

 

その為に、彼女はリ・ホームの周囲に残り、

機体の操作に慣れる事に専念するのだろう。

 

その意思を汲み取り、彼は彼女に船の近くにいること任せたのだろう。

 

「船の事は任せておけ!なんといってもこの私がいるからな!」

 

「私とシャルロットがいるから安心して行きなさい。」

 

『りょ、了解!』

 

軽すぎるジョージの言葉を遮る様に言うプロフェッサーの言葉に、出動組は苦笑を浮かべつつ、艦橋から出ていった。

 

「あ、あははは・・・。」

 

そんな様子に、シャルロットはひきつった様に乾いた笑いを漏らしていた。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

ロウ達が出撃していったのを見送り、プロフェッサーとジョージを艦橋に残して、

僕は格納庫までやって来た。

 

「待たせちゃったかな、バスター、

これからちょっと訓練するから付き合ってね。」

 

コックピットに乗り込み、『8』から聞いたOSの設定を行う。

 

なんでも、まともに調整されてない、若しくは自分の反射能力に合っていないOSでは、

戦闘どころか、動かすこともままならないらしい。

 

聞いた処によると、ロウがレッドフレームを動かせているのは、

『8』のサポートが大きな手助けになってるみたいで、OS自体に大きな変更はあまり無いみたい。

 

それは兎も角、僕はこの世界においてはナチュラルと呼ばれる人種だと思うし、

『8』に測定してもらった数値で事足りると思う。

 

それにしても、自分に機体を合わせるって、ISみたいでなんだか懐かしいかな。

 

「さてと・・・、今の僕に何処まで動かせるかな・・・。」

 

いきなり戦闘とかにならない限り落ち着いて操縦できるからいいんだけどね・・・。

 

まぁ、心配ばっかりしてても何も進歩しないんだけどさ。

 

じゃぁ、そろそろ行こう、バスター。

 

機体を固定していた金具が外れた事を確認して、

僕はフットペダルを少し踏み込み、操縦桿を押し込んだ。

 

僕の操作に応える様に、機体はゆっくりとながらもカタパルトまで移動を始めた。

 

懐かしいなぁ、初めてISを動かした時みたいだよ、

あの時は自分で望んでやってた訳じゃなかった、でも、今は違う。

 

自分の意志で宙を飛ぶために、新しい一歩の為に、僕はこの機体に乗ってるんだ。

 

『進路上に障害物は確認されない、何時でも行けるぞ、シャルロット。』

 

「了解だよ、ジョージ、シャルロット・デュノア、バスター、行きます!」

 

ジョージのアナウンスを聞きながら、僕はカタパルトから船外に飛び出した。

 

その直後、バスターの機体が大きく傾きかけた。

 

「うわっ・・・!思ったよりも難しいかな・・・!」

 

慌てて体勢を立て直すけど、今度は反対方向に機体が流れそうになる。

 

そういえば、宇宙では慣性が強く働くし、押し留めようとする力がないんだよね・・・!

 

「でも、そうこなくちゃね!」

 

難しいからこそ頑張れるんだ、だからこそ挑めるんだ!

 

新たな目標を見つける事が出来た僕は、フットペダルを更に踏み込み、宙を駆けた。

 

sideout

 

noside

 

シャルロットがバスターに乗っていた頃、彼女に先行して船を出たロウ、リーアム、『8』、樹里は、

各々の機体を駆り、依頼人との待ち合わせ地点まで移動していた。

 

コロニーメンデル内部は閉鎖されている事もあり、人の気配や生活の痕跡などは全くなく、

まさしくゴーストタウンならぬ、ゴーストコロニーと言うべき有様だった。

 

「指定されたポイントは此処の辺りですね。」

 

「よっしゃ、降りてみるか。」

 

指定ポイントが近づいた事を知らせるリーアムの言葉に、

ロウは仕事するぜと言わんばかりの返事をしつつ、レッドフレームをメンデルの地表に降下させていく。

 

高度が下がるに連れ、メンデルに存在する施設跡がハッキリと確認できるようになっていく。

 

どの施設も荒れ果て、かつての面影を僅かに残す程度でしかなかった。

 

「しっかし、随分と荒れてるな、こりゃ・・・。」

 

その様子をコックピットのモニター越しに見たロウは、

呆然と呟く事しか出来なかった。

 

諸行無常、栄華を誇った存在もいつかは寂れ、歴史に埋もれ消えていく・・・、

それを体現した様な風景に、遣る瀬無い気分を抱いたのだろうか・・・。

 

だが、今はそんな事を考えている場合ではないと頭を振り、彼は己の愛機を着地させた。

 

「おーい、誰かいないのか~?」

 

「何にもないね~。」

 

「おかしいですね・・・、指定されたポイントはこの辺りの筈なんですが・・・。」

 

地表に降り立った彼等は依頼主の姿を見つけるべく、辺りを見渡すが、

見えるのは殺風景な廃墟と、Ⅹ線で徹底的に消毒され、赤茶けた地表が見えるのみだった。

 

まさか依頼がデマだったのではないか?

彼等がそう思った矢先、突如として彼等の足場が大きく揺らぎ始めた。

 

「な、なんだ!?地震か!?」

 

「そんな!コロニーで地震が起こる筈がありません!!」

 

ロウの叫びを、リーアムは有りえないという様に叫び返した。

 

地震はプレート同士が押し合いを続ける事で発生した力と歪みが蓄積し、

それに耐え切れなくなったプレートが戻ろうとする事で発生する自然現象である。

 

だが、此処はスペースコロニー、プレートも存在しなければ地震も発生するはずが無い。

 

では、この揺れは何なのか?

その正体が掴めないのだ。

 

「地震ウイルスだぁ~!!」

 

完全に取り乱し、パニックを起こした樹里の悲鳴を、

リーアムは「そんなバカな」と、小さく突っ込んでいた。

 

そんな中、彼等の目の前の地表が割け、地中から何かが姿を現した。

 

「キャァァァ!!」

 

「敵かっ!?」

 

地中から現れた何かに対処すべく、ロウはレッドフレームの装備、ガーベラストレートを引き抜き、臨戦態勢に入った。

 

土煙が晴れ、そこに立っていたのは、モグラの様な色合いを持ったMSであった。

 

「此奴は・・・、グーンじゃないか!」

 

「これは驚きですね・・・。」

 

「モグラだぁ。」

 

ロウとリーアムは現れた機体に驚愕し、樹里はまたしても的外れな突っ込みをかましていた。

 

グーンはザフト製のMSではあるが、本来の用途は水中での運用にあり、

地中で活動できる筈はないのだ。

 

「驚かせてしまって申し訳ありません、ジャンク屋組合の方ですね、

私の名前はディラー・ロッホと申します。」

 

地中から現れたグーンは、敵意が無い事を示す様に両手を挙げた後、

コックピットハッチが開き、中から褐色の肌を持った青年が姿を現した。

 

彼こそ、ロウ達の依頼主である、ディラー・ロッホその人であった。

 

sideout

 

noside

 

「こりゃ、やっぱりスケイルモーターの振動でセンサーがいかれてただけだな、

持ってきた部品だけでなんとかなりそうだぜ。」

 

「そうですか、助かります。」

 

臨戦態勢を解いた後、ロウは早速グーンに取りつき、

各部のチェックを開始、すぐさま異常な点を発見し、修理に取り掛かった。

 

「ねぇ、こんなところで何をやってたの?」

 

サポートはリーアムが受け持っているため、手持無沙汰になった樹里は、

近くに佇み、作業の様子を見ていたディラーに近寄りながらも尋ねた。

 

「プラント評議会からの依頼で、ジョージ・グレンのDNAサンプルの発掘作業をしてたんですよ。」

 

「ジョージ・グレン!?」

 

彼の言葉を聞いた樹里の脳内では、高らかに笑いながらⅤサインをするジョージ・グレンの姿が浮かんだが、

それは違うという風に顔を顰め、薄い笑みを浮かべたクールな彼を想像しなおした。

 

彼女にとってのジョージ・グレンはファーストコーディネィターとしての彼であり、

現在の軽薄な彼ではないのだろう。

 

「メンデルでは彼の遺伝子も研究されていましたし、

それに、彼は我々コーディネィターの始祖でもありますから、そのデータが欲しいんでしょう。」

 

彼女の言葉に頷きつつ、彼は何処か楽しそうに語り始めた。

 

「最初の内は重機を使って作業していたのですが、このグーンが送られてきて重宝してたんです、

調子が悪くなった時は途方に暮れましたね、外は戦争も激しくなっていると聞きましたし、何時来てくれるのかも分かりませんでしたから、今はホッとしていますよ。」

 

おどけた様に肩を竦める彼の表情は安堵の色が濃く滲み出ていた。

 

確かに、自分の仕事に支障が出ている中、修理の手が何時来てくれるのか気が気でなかった事だろう。

 

「貴方一人で作業をされていたのですか?」

 

「はい、此処に派遣されたのは私一人です。」

 

「これだけの広さをたった一人でですか!?無茶です!非現実的もいいところです、

貴方には現実が見えていないのですか?」

 

自分の質問に答えた彼に対し、リーアムは非現実的だと叫んだ。

 

現実主義者〈リアリスト〉である彼にとって、たった一人でコロニー内部を丸ごと発掘調査している彼の行為は無謀、現実を見ていないとでも取れるのだろう。

 

「そうですね、でも、あれを見てください、あのエリアは既に発掘を終えたんですよ。」

 

そんな彼の指摘を素直に肯定しつつ、ディラーはとある方向を指差した。

 

そこには掘り返されたと思われる土石が高々と積み上げられた山がいくつも存在していた。

 

その量から推察するに、相当の面積を発掘したのだと思われる。

 

「あんなに広い場所を一人で掘ったの!?」

 

「はい、エリア毎に分けて発掘しているので、ほんの少しずつですが達成感もあるんです、

全てを終えるのが何時になるかは分かりませんが、明確な目標があるので遣り甲斐があるんです。」

 

驚いて尋ねてくる樹里に対し、自分のしてきた事を誇らしげに語る彼の表情は、

目標に向かって進んで行く者がする、誇りに満ち溢れた輝かしいモノになっていた。

 

「あの~、一つ提案があるんですけどぉ~・・・。」

 

「はい?」

 

「私たちの船にありますよ、ジョージ・グレンの遺伝子サンプル。」

 

「えぇっ!?本当ですか!?」

 

樹里の下心丸出しな申し出に、彼は驚きながらも、作業を続けていたロウとリーアムに確認を取った。

 

彼女の魂胆としては、リ・ホームからジョージを追い出したくて山々なのだろう、

だからこそ、ジョージ・グレンの遺伝子サンプルを探しているディラーに渡してしまおうとしたのだろう。

 

「まぁなぁ・・・。」

 

「出所は明かせませんが・・・。」

 

尋ねられた二人は、彼女に呆れつつも存在する事だけは認める様な返事をしていた。

 

その事について考え始めたが、暫く考えた後、答えを出したようだ。

 

「申し訳ありませんが、そのサンプルは受け取れません」

 

「えぇっ!?どうしてぇ!?」

 

折角ジョージを追い出せるチャンスだったにも拘らず、

彼は提供を断ってしまった事に理解できなかったのだ。

 

「確かに、そのサンプルは本物なのでしょう、

それを受け取れば私に依頼をしてきた評議会の人は満足するでしょう、

ですが、それは私が探している物ではありません、私の目標ではありません。」

 

「「?」」

 

「分かるぜ、その気持ち。」

 

彼の語る意味が分からなかった樹里とリーアムは顔を見合わせていたが、

ロウは我が意を得たりと言う風に笑いながら頷いた。

 

「折角の申し出でしたのに、すみません。」

 

「いいや、気にするなって、それよりも聞いていいか?」

 

「はい?」

 

グーンから降りたロウは、ディラーに対して唐突に質問していた。

 

「外ではアンタの同胞が武器を取って戦っている、

アンタは戦わないのか?」

 

その問いとは、彼が常々抱いている疑問だった、

戦争は泥沼化し、互いが互いを滅ぼさんと戦っている。

 

そこに参加しないのかと尋ねているのだろう。

 

「戦っていない同胞も、銃を持たない同胞も多くいます、

戦いたい人だけが戦えばいいんです、私には他にやるべき事があります、

それは、貴方方も同じでしょう?」

 

「その通りだ、気に入ったぜアンタ!」

 

「そう言ってもらえて光栄ですよ。」

 

彼の言葉に深く頷きながらも、ロウは笑いながらも彼の肩を叩いた。

 

周りに流されることなく、自分のなすべきことをただひたすらにやり通し、己の道を歩む、

そんな姿勢に強い共感を覚えたのだろう。

 

リーアムと樹里は、そんな彼等を不思議そうに眺めながらも、

何処か納得した様に頷いていた。

 

自分達の理解が及ばない場所で彼等は分かりあっている、彼女達に分かったのはそれだけであろう。

 

それから幾らもしない内に修理は終わり、別れの時がやって来た。

 

「じゃぁな!また何かあったら呼んでくれよ!すぐに駆けつけるからな!」

 

「はい!ありがとうぎざいました。、その時はよろしくお願いします。」

 

各々の機体に乗り込みつつ、彼等は別れの挨拶を交わす。

 

短い時間ではあったが、確かな交流が出来たのだ、名残惜しいものがあるのかもしれない。

 

「これから先、何かが見つかる事を祈ってるぜ。」

 

「はい、ロウ、貴方の目標が成就するといいですね、応援していますよ。」

 

「あぁ、それじゃな!」

 

最後の通信を入れた後、ロウはレッドフレームを飛翔させ、港まで戻っていく。

 

「(俺は、ナチュラルもコーディネィターも争わなくて済む、そんな世界を目指すぜ!)」

 

彼が目指すものがどこにあるのか、そして、どれほど困難かなどは関係ない、

望みさえすれば、何時かは辿り着ける、彼はそう信じていた。

 

故に歩き続ける、その目標に辿り着くまで、何時までも・・・。

 

sideout

 




次回予告

新たに動き始める者達の軌跡が、王道を行かぬ者達の軌跡と交ざり合う、その先に待つものとは・・・?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

第一章 XASTRAY 編

激動の始まり

お楽しみに!


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人物説明

新章に突入する前に一応のキャラ説明を・・・。


織斑一夏

 

性別 男

 

年齢 二十歳

 

嘗ての世界で、女神からの特命を受け、

世界を変えるために偽りの仮面を被り、悪逆非道の限りを尽くし、全てを欺いてきた男。

 

敵味方からは冷血非道、冷徹非情に思われていた彼だが、その本心は常に傍らに立っていたセシリアとシャルロットの幸せを願い、見方を変えれば自分のわがままとも取れる行為に彼女達を加担させる事に、深い後悔と悲しみを抱いていた。

 

転移直後に嘗ての繋がりが残っていたロンド・ミナ・サハクに拾われ、彼女が治めるアメノミハシラに仕える事になった。

 

愛しき者達を道連れにしてしまった事と、自分だけがのうのうと生き残った事を悔やんでいる。

 

そのせいか、嘗ての様な不遜とも取れる態度は鳴りを潜め、随分と大人しくなっている。

 

近頃、眠りに就く度に悪夢を見る様になる等、精神的に参っている。

 

趣味はMSの操縦及び採集

 

尚、実年齢は16(転生以前を含めれば36)だが、女神の思惑により肉体を二十歳前後に変えられている。

 

搭乗機体はストライク、M1A、ロングダガー。

 

 

セシリア・オルコット

 

性別 女

 

年齢 二十歳

 

かつての世界で織斑一夏を愛し、どれ程の罪を被ろうとも彼の右側に立ち続けた女。

 

彼の計画の終焉と同時に自分の命を生け贄として差し出し、その生涯を終えた筈だったが、女神の思惑により、この世界に転移させられた。

 

転移直後にかつての繋がりが残っていた劾に拾われ、サーペント・テールの準隊員として活動することとなった。

 

心の支えだった一夏とシャルロットがいなくなったために、精神状態があまり思わしくないが、それを微笑みの裏に押し隠し、任務や操縦訓練に明け暮れている。

 

主な乗機はデュエル。

 

尚、元々の年齢は一夏同様16だったが、今は二十歳前後の外見を持っており、スタイルも更に良くなっている。

 

 

シャルロット・デュノア

 

性別 女

 

年齢 二十歳

 

嘗ての世界において、自身を救い、愛した男、織斑一夏の左側に最期まで立ち続けた女。

 

その一途なまでの想いを捧げ、その命を世界の為に散らした筈だったが、一夏を転生させた女神の思惑により、この世界へと転移させられた。

 

転移直後に嘗ての繋がりが僅かながらも残っていたロウ・ギュールに保護された後、彼等と行動を共にする事となった。

 

心の支えだった一夏とセシリアがいなくなった為に、嘗て母親を亡くした際に味わった以上の孤独に苛まれているが、ロウや樹里の前ではそれを押し隠し、微笑み続けている。

 

尤も、その笑みですら、見る者が見れば偽りだと気付く様で、プロフェッサーは勘付かれている。

 

主な乗機はバスター

 

尚、前述の二人同様、元々の年齢は16だったが、女神の思惑によって二十歳前後の肉体を持ち、その世話焼きな性格も相まって母親の様な雰囲気を醸し出している。

 

 

機体説明

 

ストライク

 

形式番号 GATーⅩ105

 

嘗て、パイロットである織斑一夏がISの世界に入る時に女神から贈られた機体。

 

嘗ての世界ではISであったが、この世界への転移にあたって、ISでは都合が悪いために元々のMSへとその姿を変えた。

 

その姿を変えても主である一夏を、酸素欠乏症に罹る事を防いだり、イズモに彼を発見させる標となる事で守り抜いている。

 

バックパックを装備していない状態で発見された為、嘗ての様に多彩なバリエーションを誇るストライカーのすべてを失ってはいるが、アメノミハシラで組立途中で放置されていたI.W.S.P.があったため、それを専用装備とした。

 

主な装備はコンバットナイフ〈アーマーシュナイダー〉、

75mm対空自動バルカン砲塔システム〈イーゲルシュテルン〉、

57mm高エネルギービームライフル。

 

 

デュエル

 

形式番号 GAT -Ⅹ102

 

嘗の世界において、パイロットであるセシリア・オルコットの乗機であったブルー・ティアーズがセカンドシフトした機体。

 

嘗ての世界では更なる重装甲、重武装を施していたISだったが、この世界に転移するにあたって、C.E.71年現在の姿であるMS、デュエルへと姿を変えた。

 

その姿を変えても、主であるセシリアを守り抜き、劾に彼女を発見させるきっかけを作った。

 

追加装甲であるアサルトシュラウドやフォルテストラを装備していない状態で発見されたため、機動力は高いが防御力、火力面で難がある機体として運用されている。

 

主な武装は75mm対空自動バルカン砲塔システム〈イーゲルシュテルン〉、

175mmグレネードランチャー装備57mm高エネルギービームライフル、

ビームサーベル。

 

 

バスター

 

形式番号 GAT-Ⅹ103

 

嘗ての世界でパイロットであるシャルロット・デュノアの乗機であったラファール・リヴァイヴカスタムⅡがセカンドシフトした機体。

 

嘗ての世界では大火力兵装を多数装備したISだったが、この世界に転移するにあたって、C.E.71年現在の姿であるMS、バスターとなった。

 

その姿をISからMSへと変えても、主であるシャルロットを守り抜き、ロウ達に発見させる切っ掛けを作った。

 

三機の中でも、最も失った装備が少ない機体であり、シャルロットは操縦の違和感を感じる事無く使用している。

 

主な武装は、

220mm径6連装ミサイルポッド

350mmガンランチャー

94mm高エネルギー収束火線ライフル



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第一章 X ASTRAY編
激動の始まり


noside

 

C.E.71年7月中旬、地球、

赤道直下に位置する島国、オーブ。

 

その本土から少し離れた孤島の浜辺に、黒髪の男性と、金髪の少年が向かい合う様にして佇んでいた。

 

「それでは、頼みましたよプレア。」

 

「はい、導師様、精一杯頑張ります。」

 

黒髪の男性、マルキオ導師は、目の前に立っている少年、プレアに対し、優しく言葉をかけていた。

 

それに応える様に、プレアもまた、彼に対して穏やかな声で返した。

 

「貴方がもたらしてくれるモノで、多くの命が救われます、

ジャンク屋組合の方々にはお話ししておきました、きっと貴方に力を御貸し下さる事でしょう。」

 

「はい・・・。」

 

導師の言葉の最中、プレアの声色が僅かに翳る。

 

「どうかしましたか?まさか体調が優れませんか?」

 

マルキオは盲目ではあるが、その分聴覚が鋭敏であり、僅かな声色の変化も聞き分ける事が出来る上、

プレアに隠されている真実も知るため、彼の身体の心配をしたのだろう。

 

「いえ・・・、身体は大丈夫です、ですが、僕なんかで務まるのでしょうか・・・。」

 

「人には其々課せられた使命と言うものがあります、

貴方がどれほどの宿命を課せられていようとも、出来る事が必ずあります、

ですから弱気になってはいけません、貴方は独りではないのですから。」

 

「はい!それじゃぁ、行ってきます!」

 

弱気になった所に掛けられた言葉に、彼は笑顔を取り戻し、

マルキオに頭を下げた後、走り去って行った。

 

「プレア・レヴェリー・・・、幼き身に背負うモノはあまりにも大きい・・・、

ですが、その宿命から逃げてはなりません、その命の輝きを、最後まで持ち続けなさい・・・。」

 

プレアの気配が消えた後、マルキオは空を見上げながらも呟いた。

 

盲目の瞳には、今の景色は見えぬだろう、だが、彼にだけ見える何かがあるのかもしれない、

それが何なのかは、彼以外に知る者はない・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ロウ、所属不明機が接近しているぞ。」

 

メンデルでの仕事を終え、リ・ホームに帰還しようとしたロウに、

ジョージからの唐突な通信が入った。

 

「どうしよう、ここで戦闘になっちゃうのかな?」

 

「我々はジャンク屋としての安全が守られている筈ですが・・・。」

 

戦闘が起きるかもしれない事に不安を募らせる樹里に対し、

リーアムはジャンク屋の権利と立場を思い返し、不思議そうにつぶやいていた。

 

「ロウ、如何するの?僕が見てこようか?」

 

バスターに乗り、リ・ホームの周囲を飛んでいたシャルロットは、

レッドフレームに近づきつつ彼に尋ねた。

 

「いや、シャルロットはホームに着いて、港で待機してくれ、

もし戦闘になったらお前じゃ命がないぞ。」

 

「分かった、気を付けてね。」

 

彼の指示に頷きつつ、彼女はリ・ホームの方に機体を駆った。

 

それを見届けた後、彼は愛機を駆り、宇宙港から外へ飛び出した。

 

「あれか!」

 

その直後、遥か前方より、太陽光を浴びて鈍く輝く灰色の機体が見て取れた。

 

「連合でもザフトでもない・・・、何処の機体だ?」

 

彼の記憶の中に、向かってくる機体のシルエットに思い当たる機体はなかった。

 

個人所有の機体ではあるまい、いくら改造されていたとしても、

その基となった機体の面影は残る、だが、目の前の機体にはその様なモノは見受けられなかった。

 

だとすれば、どこかの軍隊が製造した新型機だと、ロウはすぐさま結論付けた。

 

その機体は、特徴的なフォルムを持ち、背面には一対のバインダーが装備されており、

極めつけは頭部のブレードアンテナと、ツインアイだった。

 

「こちらはジャンク屋組合の者だ!要件はなんだ!?」

 

すぐ目の前まで迫った機体に対し、彼はオープンチャンネルによる通信で呼びかけた。

 

「その機体、ガンダムだな・・・。」

 

「ガンダムだって!?」

 

スピーカーから聞こえてきた聞き覚えのない単語に驚くが、

考える事よりも先に、何時攻撃されるかわからない状況のため、警戒を続けていた。

 

「ならば知っているか?ガンダムに乗るパイロット、キラ・ヤマトの事を・・・?」

 

「・・・!?」

 

所属不明機が銃口を向けた事にではなく、そのパイロットの口から語られた人物の名に覚えがあったのだ。

 

「(キラ・・・、そうだ、あの連合のMSのパイロットの少年の事だ・・・!)」

 

数か月前、彼がマルキオ導師の住む島に出向いた際、その途中に出くわした戦闘に参加していた内の一機に乗っていた少年こそ、キラ・ヤマトだったのだ。

 

しかし、それよりもなによりも、何故目の前のパイロットは彼を探しているのかが分からないのだ。

 

一分か、それとも一時間か、撃たれるかもしれないという緊張が、

彼の時間感覚を狂わせていた。

 

「ふっ・・・、ジャンク屋如きが連合のエースを知っている訳がないか・・・、邪魔したなジャンク屋。」

 

暫くの後、質問に答えなかったロウに興味を失くしたのか、

所属不明機は銃口をレッドフレームから外し、反転して去って行こうとしていた。

 

「ふぅ・・・。」

 

緊張が解けたため、ロウは大きく息を吐いた。

 

「そうそう、この機体を見られたからには、このまま生かしておくわけにはいかんな!」

 

だが、その瞬間、所属不明機は振り向き様にマシンガンを発砲した。

 

「うおぁぁっ!」

 

それは寸分違わずレッドフレームに向かい、盛大な爆煙を巻き上げた。

 

「ビームサブマシンガン全弾命中、ガンダムは俺のハイぺリオンだけ存在すればいい。」

 

所属不明機、ハイぺリオンのパイロットはそう呟いた後、もう用はないと言う様に機体を反転させ、宙域より離脱していった。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「ロウ!大丈夫!?返事して!!」

 

港から出た僕の目に映ったのは、爆煙に包まれた機体の姿だった。

 

襲ってきた機体がどんな形だったかは確認できなかったけど、今はロウの無事が気がかりだ。

 

嫌な予感が僕の脳裏を過ぎるけど、それを振り払いながらも、

バスターを爆煙に近づかせ、機影を確認した。

 

「あぁ・・・、咄嗟にガーベラで受けたが、新しく打ち直したコイツじゃなかったら危なかったぜ・・・。」

 

通信が入ると同時に煙が晴れ、ガーベラストレートを構えたレッドフレームが姿を現した。

 

アンテナや装甲の一部に欠損が見受けられるけど、バイタルエリアへの直撃は無く、ロウも無事みたいだ。

 

「よかった・・・、今からホームまで引っ張るね。」

 

バスターを操作してレッドフレームの腕を掴み、少し離れた場所にいるリ・ホームまでゆっくりと牽引していく。

 

基本的な操作を練習しておいてよかったよ、何かあってもこうやって助けられないのって嫌だし。

 

「あれはビームサブマシンガン・・・、一体どこの機体なんだ・・・・。」

 

ロウが呟いた言葉に、僕の脳裏にはある機体の姿が浮かんできた。

 

もし、彼女が乗っていた機体に狙われたんだとしたら、今のバスターの装備じゃ対抗しようがない。

 

いや、今はロウを助ける事だけ考えよう、難しい事を考えるのはそれからだ。

 

「なんで、キラ・ヤマトを探しているんだ・・・。」

 

「キラ・・・?」

 

ロウが呟いた、聞いた事のある様な単語に、僕の意識は再び思考の海に引き戻された。

 

キラ・ヤマトと言う単語に覚えはある、でも、その言葉の意味が何だったのかまでは、思い出すことが出来なかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

同じ頃、L1宙域に一筋の閃光が迸っていた。

 

当然、宇宙空間に雷が発生するはずもなく、人為的に発生した現象であると推測できる。

 

その光の発生源は、二機のMSによる鍔迫り合いだった。

 

その内の一機はビームサーベルを保持し、もう一機はシースナイフの様なモノを保持してぶつかり合っていた。

 

「くっ・・・!流石は伝説の傭兵と謳われるだけはありますわ・・・!

まだまだ、私如きでは遠く及びませんか・・・!!」

 

ビームサーベルを構える青い機体、デュエルに乗るセシリアは、

自身の攻撃が全て受け流され、逆に相手のペースに引き込まれつつある事に驚嘆しながらも、

彼女は目の前の機体、ブルーフレームセカンドGに向かって行く。

 

「(まだまだ粗い、だが、僅か数日でここまでMSの操縦を習得するなんてな・・・、

まさに才能、資質があったということか・・・。)」

 

シースナイフ〈アーマーシュナイダー〉を構えつつ、劾はポーカーフェイスの裏で冷や汗を流していた。

 

たった数日で基本的な操作をマスターし、尚且つ、ルーキーにしては申し分の無い実力に成長した彼女に、

いや、正しくはその秘められた力に戦慄したのだろう。

 

今だ、自分の機体を捉えそうになる攻撃は無いものの、何時の日にか、彼女は自分に匹敵する実力を持つことになる、彼は第6感的な感覚で感じ取っていた。

 

「(だが、まだ負けんよ、俺は。)」

 

その未来を楽しみに思いながらも、今は彼女の粗さを失くす、

それのみを見ている彼は、アーマーシュナイダーを構え、再度デュエルに向かって行った。

 

そんな時だった・・・・。

 

『劾、セシリア、例の依頼の標的が動いた、たった今、プラントを出たみたいだぜ。』

 

彼等の母艦で模擬戦の様子を見ていたリードから通信が入った。

 

「例の依頼・・・?」

 

その依頼を詳しく知らないセシリアは困惑気味に表情を歪めるが、

クライアントに直接会い、その詳細を知らされ、処遇についての決定権もゆだねられた劾は、

「分かった」とだけ返し、母艦に帰投した。

 

「(どんな依頼なのでしょうか?前の様にMSの鹵獲でしょうか?)」

 

母艦へ帰投しながらも、彼女は次のミッションの内容を自分なりに想像していた。

 

つい先日、彼女自身は参加していないながらも、サーペント・テールが行った計算されつくしたミッションを見学しており、そのミッションはザフトのMS、モビルジンのカスタム機の鹵獲であった。

 

敵パイロットを殺す事無く、機体だけを確保してミッションは大成功の内に終わった。

 

なお、ミッション終了後に『切り裂きエド』との遭遇戦はあったものの、

それ以外に損失らしきものは見受けられなかった。

 

「(敵にも味方にも死人を出さずとも、成し遂げられるモノがある・・・、

以前の世界では考えもしなかった事ですわね・・・。)」

 

彼女にとって、事を成し遂げるためには何かを犠牲にしなければならない、

例えそれが、自身にとって大切なモノであったとしても、それを差し出す必要があるならば失うことも致し方なし、そう考えていた。

 

今でもその考えは間違ってはいなかったと思っているが、

彼等と行動を共にしている内に、仲間と生きるために戦い、大切なモノを守る方法があるのではないかと思う様になっていた。

 

「(私は・・・、まだまだ、未熟者ですわね・・・。))」

 

嘗ての自分自身の早計さを自嘲するかの如く、彼女は苦笑を浮かべて首を横に振った、

まだまだ学ぶべき事が自分にはある、そう言っているかのように・・・。

 

sideout

 

noside

 

母艦に帰投した劾とセシリアは、ブリーフィングルームに足を運び、

今回のミッションプランの説明を受けた。

 

ブリーフィングルームには既にサーペント・テールのメンバー全員が集結しており、

既に準備完了と言う状態だった。

 

「今回のミッション内容だが、ジャンク屋組合所属の輸送艦に積まれてるMSのパーツの強奪だ、

協定違反は承知の上だが、クライアントきっての要望だ、やるしかねぇな。」

 

「そうね、今回はブルーフレームの装備はスナイパーパックでいいかしら?」

 

リードの片手間説明に頷きつつ、ロレッタは劾に今回のミッションで使用する装備の確認を行っていた。

 

「あぁ、セカンドLでは何かと被害を大きくしてしまうからな、

なるべく被害は少ないに越したことはない。」

 

彼女の問いに答えつつ、彼は何やら思案する様な表情を見せた。

 

そのサングラスの奥の瞳は、イライジャとその隣に立つセシリアとの間を行き来している様にも見えた。

 

そして、何かを決断したかの様に、その端正な顔を引き締めた。

 

「イライジャ、お前とセシリアで例のパーツを運べ、もうセシリアにも任せても大丈夫だろうしな。」

 

「わ、分かった、でも、セシリアはいいのか?」

 

劾の予想外の指示に驚いたのか、イライジャは了解しつつもセシリアの方に顔を向けた。

 

今だMSを扱い始めて数日ながらも類い稀なる能力を発揮し、

ルーキーとは思えない技量をもってはいるが、いきなり大きなミッションに参加させてもいいのだろうかと、彼は思っていた。

 

「大丈夫ですわ、戦闘がメインではないようですし、一通りの操縦の復習にもなります、

ぜひとも、参加させて下さいませ。」

 

彼の懸念を他所に当の本人は大丈夫だと言う様に微笑み、ミッションへの参加に意欲的だった。

 

「分かった、サーペント・テール、ミッションスタートだ。」

 

彼女の意志を酌んだ劾は、ミッション開始の号令をかけ、真っ先にブリーフィングルームを飛び出していった。

 

「風花さん、どうかされましたか?」

 

そんな中、一人思いつめた様な表情をしている風花に気が付いたセシリアは、

どうしたのかと思い、彼女に尋ねていた。

 

「今回のミッションで奪うパーツ・・・、本当にそうしなきゃダメなのかなって思うの。」

 

「どういうことですの?」

 

風花の返答の真意が分からなかったセシリアは怪訝そうな表情をし、

その真意を問うた。

 

「そのパーツで多くの人が救われるかもしれないの、だから、アタシはマルキオ導師にそのまま渡した方が良いんじゃないかなって思うの・・・。」

 

「セシリア、何してる?早く行くぞ。」

 

風花の言葉を遮る様に、イライジャが出入り口の方から顔を覗かせ、

セシリアの出撃を急かした。

 

それに気付いた彼女は、彼に返答しつつ、風花の方に向き直った。

 

「風花さん、私はミッションの目的を存じてはおりません、ですから、事の正誤を判断する事は出来ません、

ですから、戻って来た時に、その事を詳しく教えて下さいませんか?」

 

自分に出来る事はやるべき事をこなすだけだと言いつつ、風花の意見も必ず聞くと言い、

彼女に微笑みかけた後、セシリアは身を翻して格納庫の方に向かって行った。

 

「セシリア!またあとで!」

 

自身よりも年上である彼女の、自分に対する対応、同年代の人物を相手にしている様な接し方に喜び、風花は表情を綻ばせた。

 

彼女は幼いながらもサーペント・テールの一員であるというプライドを持っており、

そのために子供扱いされる事を嫌がっている。

 

だからこそ、セシリアの接し方は彼女にとっても喜ばしいモノであり、

自分を一人の人間として見てくれていると思えるのだろう。

 

故に望む、必ず生きて戻って来て欲しいと・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

劾さんとイライジャさんに続いて格納庫に入った私は、

自分の愛機、デュエルに乗り込み、OSを立ち上げていきます。

 

しかし、まだMSに乗り始めてから数日も経っていませんのに、早速ミッションとは・・・。

 

ですが、任された以上、ミッションを完遂致して見せましょう、

それでこそ、拾って頂いた御恩をお返し出来るのですから。

 

「システムチェック・・・、OSパラメータ異常なし、エネルギー充填完了、デュエル、全システムオールグリーン。」

 

準隊員である私の出撃は劾さんとイライジャさんが発艦した後、つまりは一番最後という事になるのでしょう。

 

まぁ、最初に出て行くのは何かと気が引けますので、最後が気楽で良いのですがね。

 

『叢雲 劾、ブルーフレームセカンドG、出るぞ。』

 

『イライジャ・キール、ジン、行くぜ!』

 

劾さんとイライジャさんがまず先に発艦なされた後、私の乗るデュエルもカタパルトに入りました。

 

『進路クリアー、セシリア、何時でも行けるわよ。』

 

「畏まりましたわ。」

 

ロレッタさんからの通信を承り、ヘルメットのバイザーを下して、カタパルトの外側に広がる虚空に意識を向けます。

 

遠く、遥か彼方に瞬く星の光と、底知れぬ暗闇のコントラストが美しい景色に心奪われそうになりますが、

今はただ、目先にあるミッションに集中する事に致しましょう。

 

さぁ、共に参りましょうデュエル、この世界での初陣ですわ、

慎ましく働きましょうか。

 

「セシリア・オルコット、デュエル、参ります!」

 

出撃に際して、ISに乗っていた頃に似たGが身体に襲い掛かりますが、それは私を押し留める様なモノではありません、むしろ、立ち止まるなと言われている様にも思います。

 

発艦後、劾さんとイライジャさんに追いついた私は、二機の後ろに追従する様な形で機体を着けました。

 

そう言えば、標的は窺っておりますが、それがどの様なモノかは存じ上げませんわね。

 

風花さん曰く、その力で多くの命が救われるそうですが、

何故、MSのパーツが命を救うことになるのでしょうか?

 

考えてみても全く見当の付かないことでした。

 

外様である私如きが知らぬとも良い事なのでしょうか?

そうであるならば、私は何もお聞きしませんが、やはり気になる所ではありますわね。

 

「劾さん、今回の標的のパーツ、それがどんな意味を持つのですか?」

 

やはり、知らぬままでは何かと気になりますし、それで知らなくとも良いと言われれば大人しく引き下がればよいだけです。

 

「風花さんから少しお聞きしました、今回のターゲットが多くの命を救うと、

それを奪う事に彼女が若干の抵抗がある事も存じ上げております、正直に申し上げまして、私にはそのパーツの詳細というものが全く分かりません、無礼なのは承知しておりますが、お教え願えませんか?」

 

私は通信機に向けて、疑問に思っていたことを尋ねました。

 

これではぐらかされたり、聞くなと仰られた時は潔く諦めるとしましょう。

 

『あぁ、そういえばセシリアはいなかったんだよな、忘れてた。』

 

『すまない、説明したつもりでいた様だ、すまなかった。』

 

あら・・・、どうやら、説明しなかったのでは無く、説明するのを忘れていらしたようですわね・・・。

 

ですが、これで知る事が出来ますわね、今回のミッションの真の目的が・・・。

 

ですが、その先の言葉を、劾さんが語られた言葉に、私は絶句してしまいました・・・。

 

それは、存在するだけで善悪様々な事象を引き起こせる存在だったからです・・・。

 

「今回の真のターゲットは、Nジャマーキャンセラーだ。」

 

sideout

 

 




次回予告

激動のコズミック・イラ、その裏側では蠢く陰謀の存在があった・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

蠢く陰謀

お楽しみに。


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蠢く陰謀

noside

 

地球連合、ユーラシア連邦所属の宇宙要塞アルテミス。

 

そこは単なる宇宙要塞ではなく、全方位光波防御帯、通称『アルテミスの傘』を展開させる事で高い防御力を有し、陽電子砲の直撃をも防ぎきる事が出来る。

 

そのため、ザフトの侵攻も防ぎ、難攻不落の要塞として存在していたが、

補給の為に寄港したアークエンジェルを追撃してきたザフト軍クルーゼ隊の奇襲を受け、一度陥落した。

 

その後、以前から恨みを持っていた宇宙海賊達に占領され、司令官であるジェラード・ガルシアも捕えられるという大失態を犯している。

 

事態を重く見たユーラシア連邦上層部は傭兵部隊サーペント・テールに奪還を依頼、

叢雲劾とその愛機、ブルーフレームの活躍により奪還され、破壊されていたアルテミスの傘も修復された。

 

余談ではあるが、アルテミスがこれまで陥落しなかったのにはもう一つ理由があった。

 

それは、アルテミス自体が戦略的に有用な場所になかったため、

ザフトは実質上、アルテミスを放置していたため、一度も攻撃を受けることが無かったのである。

 

しかし、その間にも、連合軍最大の国家である大西洋連邦は着実に力を着け、

遂にはMSの開発、量産にも成功し、連合の指揮権を独占していったのだ。

 

ユーラシア連邦と大西洋連邦は水面下での対立が続いており、

ザフトとの戦争が終結した後は、互いに戦争を仕掛けるつもりでいるのが明白であった。

 

遅れを取る事になったユーラシア連邦は、ザフト戦終結後の連合軍部内においての発言力を高めるため、

地球連合協賛企業であるアクタイオン・インダストリー社との共同の下、大西洋連邦で開発されたダガーシリーズとは異なるMSの開発に着手した。

 

アルテミス指令室にて、司令官席に座ったジェラード・ガルシアと、

壁にもたれ掛った青年が何やら話をしていた。

 

「カナード・パルス特務兵、キラ・ヤマトは見つかったのか?」

 

「いや、何の手掛かりも掴めていない。」

 

ガルシアに問いかけられた青年は無表情で返し、どこか不満げな表情すら見せていた。

 

「まったく、役立たずめ!何のために動いているというのだ!」

 

ガルシアは何処か憤慨したかの様に吐き捨て、彼を罵った。

 

何か気に障る様な事があったのだろうか。

 

「分かっている!キラは俺が探し出し、俺が殺してやる!それでいいだろう!」

 

ガルシアの言葉に対し、カナードと呼ばれた青年は殺気を漂わせ、彼を睨みつけた。

 

その殺気に怯んだのか、ガルシアは縮こまってしまった。

司令官と言う立場にある彼が怯えるほどの何かがその青年にはあるのだろうか・・・。

 

「わ、分かっているならそうしてくれ、俺もアイツに恨みがある、

それで、次の任務だ、我がユーラシアの諜報部が入手した情報だが・・・。」

 

気を取り直した彼は、何処からか取り出した情報端末を眺め、次の任務についての指示を出そうとした。

 

ところが、それよりも早くカナードが動き、彼の手から情報端末を奪い取った。

 

「な、何をする!!」

 

「情報だけ寄越せばいい、どう動くかは俺が決める。」

 

「貴様・・・、上官に向かって・・・、いいな!?必ずキラを仕留めるのだぞ!!」

 

「分かっている。」

 

上官に対してのモノとは思えない態度に憤慨しながらも叫んだ彼の言葉を聞いているのかいないのか、カナードは生返事と共に指令室らから去って行った。

 

それを見届けた後、彼は大きく息を吐き、椅子に深くもたれ掛った。

 

「まったく・・・、これだからコーディネィターは扱いに困る・・・、似非人めが・・・、

まぁいい、利用できる内は好きにさせておいてやる、それに本物を消したところで自分が本物になれるわけでもない、人は自分が生まれ持った性質を消す事など出来ぬのだからな。」

 

何かを呟いている彼の表情には、ありありと侮蔑、嘲笑の色が濃く浮かび上がっていた。

 

何に対する嘲笑なのか、それを知る者は彼以外、何処にも存在しなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

指令室から出たカナードは、パイロットスーツに着替えた後、

自身の機体が置かれている格納庫に出向いた。

 

その機体とは、ジャンク屋、ロウ・ギュールを襲った機体であった。

 

CAT-X1/3ハイぺリオン

ユーラシア連邦が自国製MS開発計画、通称「Ⅹ」計画に基づき、軍需産業、アクタイオン・インダストリー社からの技術提携を受け、

独自に開発されたMSである。

 

ユーラシア連邦特有の技術、アルテミスの傘をMSに搭載し、絶大な防御力を持った機体を誕生させたのである。

 

ただし、アルテミスの傘はビームシールドであるため、バッテリーで稼働するMSでは稼働させる事の出来る時間は極端に限られてしまう。

 

その短い稼働時間を少しでも確保すべく、ハイぺリオンに搭載されている火器はカートリッジ式や、

出力の低い物が用いられている。

 

ハイぺリオンは形式番号から分かる様に3機製造され、1号機は特務部隊Xで、カナード・パルス特務兵がメインパイロットを務めている。

 

自分の愛機に乗り込んだ彼は、目を閉じ、自分の過去に思いを馳せていた・・・。

 

sideout

 

side回想

 

とある施設の一室に、何本ものケーブルに繋がれた椅子に座った少年がいた。

 

彼の瞳には生気が無く、ただ虚空を眺めている様にも見える。

 

そんな彼を、少し離れた場所から数人の研究者と思しき者達が眺めていた。

 

『これがメンデルで研究されていた実験体ですか?しかし、よく生きていたものですなぁ。』

 

『廃棄処分になるのを、研究員の一人が情けをかけて逃がしたそうです。』

 

『それは心優しい人だ、感謝せねばなりませんな、こうして我々もスーパーコーディネィターの研究が出来るのですからな。』

 

研究員達は口々に言いながらも、どこか興奮を抑えきれないでいた。

 

それもそうだろう、スーパーコーディネィターの研究はユーレン・ヒビキ主導の下行われていたため、

連合軍の研究者である彼等には見当も付かない事だろう。

 

だが、彼が研究していたサンプルが手元にあるなら別だ、自分達も同等の、いや、それ以上の成果が手に入ると信じて疑わなかった。

 

しかし、それを聞いている筈の少年は何のリアクションもすることもなく、

ただただ、人形の様に生気のない瞳を虚空に向けているだけだった。

 

この時から、その少年に地獄の日々が訪れるのであった。

 

それから暫く後、大小様々なケーブルが付けられたロードランナーで、

心拍数や脈拍を図るパッチを身体中に取り付けられた少年が走っていた。

 

そこから少し離れた場所に、モニターに向かい合う研究者達がいたが、

データが納得いくものではないのか表情は曇っていた。

 

『だめだ!!こんなデータではヒントにもならん!!』

 

苛立った研究者の一人が、力任せにキーボードを殴りつけながらも怒鳴った

 

『我々の手でスーパーコーディネィターを作る事は出来ないのか・・・。』

 

『こんな紛い物ではなく本物のスーパーコーディネィターならばよかったものを・・・!!』

 

そんな言葉が聞こえた少年は、研究員の一人を睨みつけた。

 

『なんて目をしやがる!生かしてもらってるだけありがたいと思えモルモットが!!』

 

それに気付いた研究員は手元のスイッチを押し込み、

少年に繋がれているパッチから死なない程度の電流を流した。

 

少年は苦悶の叫びを上げ、床に倒れて荒い息を吐く。

 

『まったく、痛い目に遭わないと解らないのは動物と同じだな!!』

 

研究員は少年に向けて吐き捨てるが、少年の目から敵意にも似た鋭さが消えることは無かった。

 

その後、少年は研究施設から脱走し、

独り砂漠を歩き続けていた。

 

何れ程歩いたのだろうか、身体は鉛が纏わりついているかの様に重く、水分を採っていないために頭がガンガンと痛む。

 

そんな中、彼の目の前に在ったのはジャンク屋組合の詰所だった。

 

警備は薄く、侵入しようと思えば直ぐにでも入り込める事が外観からも見てとれた。

 

詰所に侵入した彼は中にいた組合員全員を昏倒させ、

冷蔵庫に冷やされていた水を被る様に飲み干していく。

 

そんな時だった、彼の右腕に取り付けられた金属製の腕輪からけたたましいブザー音が鳴り響く。

 

この腕輪は発信器であり、脱走しても居場所を把握出来るようにと、彼に取り付けられた鎖でもあった。

 

『くそっ・・・!』

 

彼は悪態をつきながらもドリンクボトルを投げ捨て、

室内を見渡し、レーザーカッターの装置を見つけた。

 

その装置の上に自分の腕、正確には腕輪が付けられている部分を置き、レーザーを発生させて切断しようと試みた。

 

レーザーが腕輪に当たり、火花を散らすが、

特殊な素材で作られているのか、傷が付くだけで切断には至らなかった。

 

『駄目か・・・、ならばッ!!』

 

少年は悔しげな表情を浮かべるが、次の瞬間には何かを閃いたかの様に表情を歪ませた。

 

『此方を切り落とすまでッ!!』

 

彼が考え付いた生き延びる策、それは腕輪が付いている腕ごと切り落とすという事だった。

 

少年にとって、逃げ切る事こそ全てなのだろう、

それと腕一本を引き換えにするなら寧ろ安いぐらいだとも思っているのだろうか・・・。

 

『恐ろしい事を考えているな。』

 

『ッ!?』

 

自分以外の者の声が室内に響いた為、

少年は勢いよく声がした方向に身体を向けた。

 

そこには目元を隠すかの様なサングラスを掛けた黒髪の男性が、薄い笑みを浮かべながらも彼を見ていた。

 

『よほど追い詰められていると見受ける。』

 

『くっ・・・!!』

 

その男性に得体の知れない何かを感じた少年は、

地を蹴り、男性の頭部に飛び蹴りを叩き込もうとした。

 

『いきなりだな、君は。』

 

だが、男性は身体を僅かに反らすだけで蹴りを避け、

羽虫を払うかの様に腕を振るい、少年を弾き飛ばした。

 

『くっ・・・!追手か・・・!?』

 

『いいや、ただの通りすがりさ。』

 

自分を射殺す様に睨んでくる少年の視線を受け流しながらも、男性は薄い笑みを浮かべた。

 

『先程の動き、君は並のコーディネーターではないようだ、だがまだまだ若いな、表情から考えている事が筒抜けだ。』

 

男性は少年に指導でもしているかの様な口調で話しかけつつ、彼に対して値踏みでもするかの様な視線を向ける。

 

それに対し、少年は何処か観念したかの様に臨戦態勢を解き、気落ちした様に顔を伏せた。

 

『良い判断だ、賢いな、やはり、君は並のコーディネーターではないようだ、さしずめ、スーパーコーディネーターと言うわけか。』

 

『何故それを知っている!?』

 

自分の本質を言い当てた男性の言葉に、少年は動揺を隠そうともせずに問いただした。

 

『なに、私もメンデルに少々縁があるものでね、

その腕輪、この先にある研究所から逃げ出してきた様だな、君を突き出せば、何アースダラー貰えるだろうか?』

 

少年の腕に付けられている腕輪を見た男性は、少年の反応を窺う様に言葉を紡いだ。

 

男性の言葉に、少年は自分がこれまで過ごしてきた日々を思い返す。

 

自分を研究の対象、新たな何かを作る為だけの実験台として扱う研究者達の表情、自分に取り付けられた様々な器具、それら全てが彼にとっては地獄の責め苦に等しかった。

 

『殺せ・・・、彼処に戻る位なら死んだ方がマシだ・・・。』

 

呻く様な、そして呟く様な声で、彼はその言葉を絞り出した。

 

研究所に戻されるならば死を選ぶ、それほどまでに、彼は苦しめられたいるのだろう・・・。

 

『なるほど、だが、何故君は研究所から逃げ出した?

何かやりたい事でもあるのかね?』

 

その言葉に頷き、彼は少年に向けて脱走の真意を問うた。

 

『分からない・・・、俺が何の為に生まれたのかも・・・、俺は俺を生み出した奴の考えなんて知らない、俺の願いが何なのかも・・・。』

 

『なるほど・・・。』

 

少年の独白に、男性は浮かべていた笑みを更に得体の知れぬ物へと変貌していく。

 

それはまるで、人の運命を弄ぶ存在が浮かべる残酷な笑みだった。

 

『ならば、本物になれば良い、君が偽りの存在だとしても、君が本物を消せば、君が本物の存在になれるのだよ。』

 

『お、俺が、本物に・・・、本物になれるのか・・・!?』

 

男性の言葉に、少年の瞳の色が変わった。

 

それはまるで、今まで気付けなかった何かに気付いたかの様だった。

 

『それと一つ、君に警告しておこう、鎖に繋がれる事を恐れるな、

逆に君を縛る鎖でその爪を、その牙を研ぎ澄ませ、そうすればその鎖から解き放たれる時、君は今よりも遥かに強くなっているだろう。』

 

男性は言う、鎖は自らを縛る枷ではない、それらは研磨の為の道具、

繋がれるのではなく、それを利用して自身の力を研ぎ澄ませるための物だ、と。

 

少年と男性が向かい合ってどれほどの時間が流れた時だろうか、

外からけたたましいヘリのローター音が聞こえてきた。

 

恐らくは少年を捕らえるために研究所から差し向けられた特殊部隊と言うところだろう。

 

『どうやら、君のお迎えが来た様だな、私はなるべく人と会いたくないのでね、この辺で御暇させてもらうよ。』

 

『俺が、本物になれる・・・。』

 

男性が少年に背を向け建物の外に向かって行く中、少年は男性が語った言葉を反芻する様に呟いていた。

 

『キラ・ヤマトだ。』

 

『え・・・?』

 

去り際に投げかけられた言葉の意味を理解出来ずに、彼は男性に向けて聞き返した。

 

『君が倒すべき本物のスーパーコーディネィターの名だ、覚えておくと良い。』

 

『キラ・・・ヤマト・・・。』

 

その言葉を呟いた時、既に男性は室内にはおらず、代わりに銃を抱えた大勢の男達が室内に突入し、少年を床に押し倒していた。

 

だが、少年の瞳には、そんな男達は映らない、

何故ならば、彼の瞳が見据えているのは、顔も知らぬき標的だけだった。

 

『キラ・ヤマト・・・!キラ・ヤマトぉぉッ!!』

 

この時から、少年、カナード・パルスに生きる目的が見つかった。

 

果たして、それが正しい目的なのかは、誰にもわからないままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

「パルス特務兵。」

 

「ん・・・?」

 

自分の名と階級を呼ぶ声に、カナードは回想の海から現実へと引き戻された。

 

コックピットの外に目を向けると、そこには中を覗き込む眼鏡をかけた女性の姿があった。

 

彼女の名はメリオル・ピスティス、カナードが属する特務部隊Ⅹの隊員であり、作戦の立案を行う指揮官に近いポジションに立っている。

 

もっとも、彼女はカナードの意見を尊重している為、上層部からの命令を彼に伝達し、彼が進む方針を基に隊全体に指示を出すという役目に徹している。

 

「ハイぺリオン一号機、発進準備完了しました、何時でも出せます。」

 

「了解した、出撃する。」

 

メリオルの言葉に答えつつ、彼は伸ばしっぱなしにしている髪を纏め、その上からヘルメットを被り、機器を操作してコックピットハッチを閉じた。

 

機体に火を入れつつ、彼はキーボードを叩いてOSを立ち上げていく。

 

それと連動し、ハイぺリオンの機体はリフトでカタパルトまで移動し、発進体勢を整えていた。

 

彼は操縦桿を握り、発進ゲートの先の宇宙を、いや、正しくはこの宇宙のどこかにいる本物を見据えていた。

 

「カナード・パルス、ハイぺリオン、出すぞ。」

 

彼の宣言と同時に、白灰色の機体は星の大海へと飛び出していった。

 

パイロットの大願を、現実のものにするためにも・・・。

 

sideout

 




次回予告

コズミック・イラの宇宙で、彼等は歴史の裏側で動き出す歯車の存在に近付く。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

動き出す歯車


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動き出した歯車

noside

 

漆黒の闇と、絶対零度の世界が広がる真空の宇宙、

吸い込まれてしまいそうな感覚を覚える底の知れなさ、そして、遥か遠く煌めく星の海が、見る者全てに様々な印象を与える。

 

そんな無限に続く闇の中を、一隻の船が進んでいた。

 

両舷が前方へと突き出した形状を持ち、船体の目立つ場所にはジャンク屋組合の所属である事を示すマーキングが施された船、ジャンク船〈リ・ホーム〉だった。

 

「それにしても、あの機体はなんだったんだ?」

 

その艦橋内では船のメンバー全員が一堂に会し、何かを話していた。

 

その中心にいる人物、ロウ・ギュールの言葉から推察するに、メンデルで遭遇した機体についての集いである事だけは確かだろう。

 

「いきなり襲ってきたんだからきっと悪い奴よ!!」

 

樹里はロウが撃たれた事からその機体を悪者と決めた様だが、彼にはそれ以外にも腑に落ちない事があった。

 

「あいつ、キラ・ヤマトを探してると言っていたな・・・。」

 

「キラ・ヤマト?」

 

「ロウが地上で助けたあの少年ですか?」

 

彼が呟いた言葉に、樹里は誰だったかと言う風に首を傾げるが、リーアムには思い当たる節があった。

 

三人の口から語られた人物のデータを、『8』は液晶に映し出し、メンバー全員に見せていく。

 

そこには連合軍の軍服を着た、優しい顔立ちをした茶髪の少年の顔写真があり、その上には戦死、軍籍抹消を意味する赤い線が×字に引かれていた。

 

「あぁ、リーアム、マルキオ導師とプラントまで一緒に行ったんだろ?

そこからアイツがどうなったか、何か知らないのか?」

 

「プラントに着いてからは別行動でしたので、そこから先は何も存じてません・・・。」

 

ロウに尋ねられたリーアムは、どこか申し訳なさそうに答えた。

 

これで、唯一マルキオ導師に帯同していた彼からのヒントも断たれ、答えは入手できなくなった。

 

「ギガフロートで会った時に聞いときゃよかったな・・・、ただの少年兵だと思っていたが、なにかあるのか?」

 

「それなら、すぐにな何とかなるかもしれないわよ。」

 

そんな空気の中、プロフェッサーがロウに端末を渡し、次の依頼を表示した。

 

「これから合流する輸送船にマルキオ導師の代理人が乗ってるみたいよ、何でも導師が組合に依頼した件みたいよ。」

 

「おおっ!なら、早く聞きに行こうぜ!!」

 

「そうね、行きましょうか。」

 

テンションが上がったロウの言葉に賛成するかの様に、彼女は船の移動速度を速めようとコンソールを操作した。

 

「どうしたのシャルロット?」

 

そんな中、話に参加してこなかったシャルロットに気付いた樹里は、彼女に話かけていた。

 

「あ、ごめん、ロウが襲われたっていう機体に覚えがあるんだけど、確証が持てなくて・・・、

映像か写真があれば判断できるんだけどね・・・。」

 

「それなら『8』が記録してくれてるかもしれないよ。」

 

シャルロットの返事に、樹里は『8』の性能を思い出し、彼女に提案する。

 

ロウのサポートを請け負ってきた『8』の性能は確かであり、リ・ホームの面々は何度も助けられている。

 

『少しだけだが撮ってるぞ、見るか?』

 

「うん、お願いするね、『8』。」

 

『8』の表示を見たシャルロットは、微笑みつつ礼を述べ、映し出された映像に目を通す。

 

そこには、ビームサブマシンガンを構えた、特徴的なバックパックを持った白灰色の機体が映されていた。

 

その機体はまさしく、彼女がかつての世界で共に戦った者が駆った機体だった。

 

「間違いない・・・、ISだったから僅かに形が違ったけど、この機体はハイぺリオンガンダムだ。」

 

「知ってるのか?」

 

彼女の確信をもった言葉に気付いたロウは、驚きを含んだ声で尋ねた。

 

「うん、僕が知ってる中でだけどね、間違いないと思うよ、でも、はっきりと何処の所属なのかは僕にも分からないよ。」

 

「そうか・・・、なら、特徴的な装備はあるか?そこにヒントがあるかもしれないぜ。」

 

彼自身にも聞き覚えのない機体名だったが、シャルロットが知りうる限りの情報を知る事で、機体の出所を探ろうとしたのだろう。

 

「確か・・・、全方位に展開するビームシールドがあったかな?

展開してる間はビームも実弾も無効化してたと思うよ。」

 

「全方位に展開できるビームシールド・・・、まさか・・・!?」

 

シャルロットが話したキーワードに、彼は思い当たる節があった。

 

そう、全方位に展開できるビームシールド、そんな技術を保持している組織は一つしか思いつかない。

 

彼等にとっても因縁浅からぬ、あの意地汚い司令官がいる場所・・・。

 

「アルテミスの傘・・・、ユーラシア連邦か・・・!!」

 

黒幕に思い至った彼は、その表情を歪めた。

 

二度と考えたくもないと思っていた団体、正確にはアルテミスを指揮していた人物を思い出したためであろう。

 

「またあのおっさんと係るのかよ・・・、勘弁してほしいぜ・・・。」

 

「何かあったんだね・・・。」

 

ロウの嫌そうな表情から、関わりたくない人物なのだと察した彼女は、

その顔にありありと苦笑を浮かべていた。

 

「一度レッドフレームを取られそうになってね、それ以来は何もなかったんだけど・・・。」

 

「あー・・・、なるほど、分かったよ。」

 

樹里の耳打ちに納得し、彼女は苦笑の度合いを更に深めた。

 

まぁ、以前の面倒事の現況が再び関わってきたとなると、シャルロットは兎も角、ロウ達の辟易は計り知れぬのも無理はない・・・。

 

『おはよう諸君!!』

 

「「うわっ!?」」

 

そんな時だった、寝間着のままのジョージが唐突に姿を現した。

 

突然の事に、近くにいたロウとシャルロットは驚いたように声を上げた。

 

「い、いきなりなんだよ!?」

 

「脅かさないでよジョージ!?」

 

『そんな事より一大事だ!これから接触予定の船から救難信号が送られてきた!!』

 

突っ込む二人の言葉を流しながらも船長服に着替え、矢継ぎ早に状況を報告する。

 

「なんだって!?って事は、マルキオの代理人が危ない!!」

 

『ここから程近い!!リ・ホーム、全速前進だ!!』

 

先程までの雰囲気は消え去り、艦橋内は物々しい雰囲気に包まれた。

 

会った事は無くとも同じジャンク屋仲間、一刻も早く助けたいと思っているのだろう・・・。

 

sideout

 

noside

 

ロウ達が救難信号を受信する数分ほど前、とある一隻の貨物船が漆黒の宇宙を進んでいた。

 

船体の至る箇所にジャンク屋組合所属である事を示すマーキングが施され、

警護を担当するプロトタイプジンにも同様のマーキングが施されていた。

 

船が来た方角にはプラントがあり、積まれている物もプラントの物であったと考える事が出来る。

 

だが、果たしてそのパーツが合法的に持ち出された物なのか、または非合法な物ではなのかは、一人を除いて知る由もなかった。

 

「長かったな・・・、でも、これで多くの人が救われるんだ。」

 

その一人こと、プレア・レヴェリーは、輸送船のベッドに腰掛けながらも、これから訪れるであろう未来に想いを馳せていた。

 

自分が持ち帰ったとある代物が、地球に住む多くの人間の命を救う事が出来る。

 

そう考えると、マルキオ導師からの名を受け、プラントまで出向いた事も、そこで神経を擦り減らした事も無駄ではなかったと思えた。

 

「僕にでも、出来る事があるんだ・・・、こんなに嬉しい事はない・・・。」

 

呪われた宿命の下に生まれた自分でも、誰かを救う事が出来る、

今回の旅で、彼はそんな気持ちを抱いたのだろう。

 

そんな暖かな気持ちが、彼の胸に宿った直後、船内にけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「・・・っ!?」

 

あまりにも唐突だったために、プレアはベッドからずり落ちる。

 

まさか、デブリと衝突したのだろうか?

 

そう思った彼は急いで輸送船の艦橋に行こうと自分の部屋にから飛び出そうとした、まさにその時、何かが直撃したかの様に船体が大きく揺れ、彼は壁に叩きつけられた。

 

「うぅっ・・・!?」

 

肩を押さえながらもながらも立ち上がり、部屋を出て船外が見える場所まで移動した。

 

「そんな・・・!」

 

船外には、彼が想像もしなかった光景が広がっていた。

 

頭部を撃ち抜かれ、行動不能に陥った警護のMS、そして、船体の推進部からもうもうと黒い煙が立ち込めていたのだ。

 

ここに来て、彼は自分が、いや、この船が陥った状況を把握し、同時にその狙いにも合点がいった。

 

「・・・!ま、まさか、ドレッドノートを・・・!!」

 

それに思い至った瞬間、彼は全身の血の気が引いていく様な感覚を覚える。

 

何故ならば、この船に積まれているドレッドノートのとあるパーツは、確かに多くの人間が救われる可能性を秘めてはいる。

 

だが、それと同じ様に、誤った方向で使用されてしまえば、世界を更なる混沌とへ至らしめる事になってしまう危険性も孕んでいたのだ。

 

「あのパーツを渡す訳には・・・、っ!?」

 

どれほどの集団が攻めてきたのかは分からないが、少しでもパーツを護るべく駆け出そうとしたが、彼は突然床に倒れこみ、苦しそうに荒い息を吐いた。

 

「こんな、時に・・・・!」

 

胸を押さえながらも、彼は何処か忌々しげに呟いていた。

 

この様な一大事に何もすることができない自分に苛立っているのだろうか・・・。

 

彼が苦しんでいる最中、船体に何かが取付いたかの様な振動が走る。

 

徐々に薄れゆく意識の中、彼には何が起きているのかがハッキリと分かっていた。

 

恐らくは、この船を襲ったMSが船体に取りつき、格納庫からドレッドノートのパーツを盗み出そうとしているのだと・・・。

 

「やめて・・・、くださ・・・。」

 

姿も見えぬ盗賊に呼びかけるが、帰ってくるのは無慈悲な振動のみ、

起き上がる事すらままならない今の状態では、ただ盗まれる事を待つだけだった。

 

それからすぐ後に何かが外されるような音が響き、船体に取りついていた何かが離れていく様な振動が伝わる。

 

「待って・・・、返し、て・・・、ドレッド・・・、ノート・・・。」

 

意識が途絶える直前に、彼は遠ざかって行く三機のMSの姿を視界に捉えた。

 

先行する二機は何かが入れられているであろうコンテナを抱えて去って行く。

 

その二機の詳細を認める事は出来なかったが、殿を務めるかの様に二機を追従する青い機体の側頭部に施されているマーキングは確認できた。

 

1という数字に絡みつく蛇のマーキング・・・、今の彼にはそれを確認できた事が精一杯であった。

 

「サーペント・・・テール・・・。」

 

その言葉を呟いた直後、彼の意識は闇に呑まれた・・・。

 

sideout

 

noside

 

救難信号を受信してから数分後、リ・ホームは合流予定ポイント付近までやって来た。

 

艦橋から目視できる距離に近づいたため、ロウ、リーアム、そしてシャルロットは人命救助のため、各々の機体に乗り込んでいた。

 

『宇宙空間に出ての作業があるかもしれないわ、パイロットスーツの着用は忘れないでちょうだい。』

 

「勿論だ!」

 

「分かっています。」

 

「了解しました、プロフェッサー。」

 

艦橋にいるプロフェッサーの指示に、彼等は頷き、各々の機体を発艦させた。

 

リーアムのプロトジンと、シャルロットのバスターに先行して発艦したロウは、

真っ先に襲撃された輸送船に近づいていく。

 

彼が目にしたのは、エンジン部のみを撃ち抜かれた輸送船と、その周囲に展開していたであろう頭部を撃ち抜かれ、漂っているMSのみだった。

 

周囲を索敵してみるが、既に撤退した後の様で、周囲にそれらしき機影は見当たらなかった。

 

「最低限のダメージだけ与えたのか・・・、なんてすげぇ腕だ・・・。」

 

輸送船のエンジン部を一撃で打ち抜くとなると、それ相応の火力と、高い精密射撃の精度が必要になってくる。

 

つまり、この船を襲ったのは宇宙海賊などではなく、戦闘のプロフェッショナルなのだと、彼は容易に想像する事が出来た。

 

連合か、ザフトか、或いは何者かに雇われた傭兵か・・・、いずれにせよ、それだけの手練れが襲撃をした事だけが、今はっきりとわかっている事だった。

 

「MSの救出は私が、ロウとシャルロットは輸送船を頼みます。」

 

ロウに追いついたリーアムは、手近なジンに近づきながらも二人に通信を入れた。

 

恐らく、敵の姿が見えないのは撤退しただけではなく、今だ船内に潜んでいる可能性がある事を考慮したため、戦力を持つロウとシャルロットに行かせる心づもりなのだろう。

 

「分かった、行くぞシャルロット!!」

 

「うん!」

 

彼の言葉を受け、ロウとシャルロットは機体を駆り、輸送船に取りついた。

 

「ハッチを開ける、弾かれない様に下がってろよ!」

 

「分かってるよ!」

 

レッドフレームのマニピュレーターがMS用の開放レバーを操作し、

格納庫へと続くハッチを開かせた。

 

内部からの攻撃が無い事を確認し、二機は船内に侵入する。

 

「シャルロットは艦橋の方へ!!俺は他を当たってみる!」

 

「分かった!気を付けてね!!」

 

機体から降りた二人は、それぞれの役割を決めた後、行動を起こした。

 

艦橋がある方向へと向かうシャルロットを見送り、彼は別の格納庫へと通じる扉を開いた。

 

「酸素は十分にあるな・・・。」

 

暑苦しいヘルメットを脱ぎ、彼は扉の奥へと進んだ。

 

通路を暫く進んで行くと、彼は開けた場所に辿り着いた。

 

「な・・・っ!?こ、コイツは・・・!?」

 

彼はそこに横たわる様に置かれていた組立途中の機体を見つけた。

 

元からなかったのか、それとも盗まれたのかは分からないが、頭部パーツだけは何処を見渡しても見付からなかった。

 

「MS・・・!?これは、ザフトの新型・・・、ゲイツってやつか!?」

 

彼はその機体の形状から、かつてグレイブヤードで対峙したザフト軍の最新鋭機、ゲイツの名を探り当てた。

 

それに反応した『8』は、画面にゲイツのデータを表示し、ロウの判断の材料にしようとしていた。

 

「いや・・・、微妙に形が違うし、何より全身グレーじゃなかったぞ・・・?」

 

だが、彼は目の前に横たわる機体に違和感を覚えた、腕部や胸部にゲイツとは異なる点を幾つか発見した事と、機体色が大きく異なっている事が原因なのだと気付いた。

 

「うっ・・・。」

 

「っ!?誰かいるのか!?」

 

突然物陰から呻き声が聞こえたため、彼は弾かれた様に声が聞こえた方向を覗き込んだ。

 

そこには床に倒れ、蹲っている金髪の少年がいた。

 

何処か痛むのか、その表情は苦悶に歪んでいる様にも見えた。

 

「俺はジャンク屋組合のロウ・ギュールだ!助けに来たぞ!!」

 

少年を抱き起しながらも、彼は少年の容態を確認する。

 

特に傷口らしきモノは見当たらないため、恐らくはパニックによる精神的な何かで苦しんでいるのだろうと、彼は判断していた。

 

「ドレッド・・・、ノートを・・・。」

 

「ドレッドノート?この機体の事か?」

 

少年はロウの肩を掴みながらも、息を整える様に肩で息をしていた。

 

「マルキオ導師に頼まれた・・・、とても大切な物なんです・・・、

でも・・・、奪われてしまって・・・。」

 

「マルキオ・・・、って事は、お前が代理人なんだな?」

 

少年の言葉に今回の仕事の依頼人を思い出したロウは、彼に確認を取る様に尋ね、少年もそれを肯定する様に頷いた。

 

「(まさか・・・、こんな子供が・・・。)」

 

理解し難い、ロウは目の前にいる少年にそんな印象を抱いた。

 

自身は兎も角、樹里よりも遥かに幼く、下手をすればサーペント・テールの風花とそう変わらない年齢の子供が、どうして代理人となっているのか、その理由が掴めないのだ。

 

無論、少年の言っている事を疑ってはいない、それぐらいは彼が纏う独特の雰囲気で察する事が出来る。

 

では、何を疑問に思っているのか?

 

その正体に、彼はまだ気づく事が出来なかった。

 

しかし、今はそんな詮索をしている場合ではないと、彼は思考を止めるために頭を振った。

 

「でも、大丈夫そうでよかった、誰に襲われたんだ?」

 

今はこの船に乗っている全員の安全と、誰に襲撃されたかを明らかにする方が先決だと考えた彼は、呼吸も少し落ち着いてきた少年に向けて尋ねた。

 

だが、少年の口から発せられた言葉は、彼が想像もしなかったものだった。

 

「相手は・・・、蛇のマークのMS・・・。」

 

「・・・っ!?蛇、だって・・・!?」

 

その言葉に、ロウは表情を強張らせた。

 

少年が言う蛇のマーク、そんなマークを付けた者を知っていたからだ。

 

否、知っているなどと言うものではない、何度も相見えた因縁深き青の傭兵・・・。

 

「あれは・・・、傭兵部隊・・・、サーペント・テール・・・!」

 

「まさか・・・!劾・・・!!」

 

その時、ロウは本能的に悟っていた。

 

劾が出ているという事は、何か大きなうねりが起こりかけている、

そんな奇妙な感覚に襲われた彼は、唾を飲み込んだ。

 

世界を巻き込みかねない機械仕掛けの歯車が、今、音を立てて動き始めていた・・・。

 




次回予告、

新たな脅威と、新たな出会い、それは運命の悪戯なのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

勇敢なる者

お楽しみに~


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勇敢なる者

noside

 

ジャンク屋組合第17補給ステーションに、ロウ・ギュール一行の船、リ・ホームが停泊していた。

 

その傍らには、先程襲撃を受けた輸送船も補修作業の為に停泊している様が見受けられた。

 

リ・ホームの艦橋内では、輸送船の中で倒れていた、マルキオの代理人である少年を囲んでの集いが持たれていた。

 

「輸送船の人達、大丈夫だよね?」

 

「えぇ、大きな怪我もない様ですし、仕事中の事でしたので、組合からの保険も下りる事になっています。」

 

茶髪の少女、山吹樹里は、自身の斜め後方に立っていたリーアムに向けて尋ね、彼も頷きながら答えた。

 

その言葉に安堵したのか、彼女は一瞬だけ表情を緩めるが、今はそんな事よりも大事な事があると、視線を椅子に腰掛ける少年に向けた。

 

その少年は気落ちしているのだろう、何処か思い詰めた様な表情で俯いていた。

 

「大丈夫?何処か具合でも悪いの?」

 

そんな彼の様子を心配したのか、シャルロットは少年の肩に手を置きながらも、彼の表情を窺う様に覗き込んだ。

 

「大丈夫です・・・、それよりも、ドレッドノートの頭部を取り戻さないと・・・、あれは、導師に頼まれた大事な物なんです!!」

 

シャルロットに尋ねられた少年は、彼女に向けて微笑み返しながらも、全員に向けて自分がなすべき事と、奪われたパーツの重要性を語った。

 

彼の必死な声に、リ・ホームのメンバーは頷きながらも、何処か難しい表情を崩す事はなかった。

 

「しかしなぁ・・・、奪って行った相手が相手だ・・・、厄介な事この上ねぇ。」

 

特に、ロウはドレッドノートの頭部を奪って行った相手をよく知っている、

伝説の傭兵率いる最強の傭兵部隊〈サーペント・テール〉、その名を知られたエースパイロットですらも戦闘を渋る程の実力を備えている事は、深い関わりがある彼には身に染みて理解していた。

 

一筋縄で解決出来る様な問題では無い事も、彼は承知していた。

 

「で、でも、どうしてサーペント・テールがそんな海賊みたいな事をしたんだろう?」

 

「彼等も傭兵です、依頼人の頼みであれば、海賊紛いの行為も請け負う事でしょう。」

 

そんな事は考えたくもなかっただろう、樹里は自分もよく知る者達の所業に理解が追いついていない様だったが、冷静かつ的確なリーアムの言葉に、何処か悲しげな表情を浮かべていた。

 

「ロウ、サーペント・テールって、どんな人達なの?」

 

そんな中、サーペント・テールとの関わりが無く、話に付いて行けなかったシャルロットは、近くに立っていたロウにその意味を尋ねていた。

 

「そういや、シャルロットは会ったこと無かったっけな?

簡単に言えば、傭兵だよ、俺達と何度も何度も会ってる、最強のな。」

 

「傭兵・・・、なるほど・・・、厄介だね・・・。」

 

彼の言葉を聞いた彼女は納得の表情を浮かべつつも、何処か苦い表情をしていた。

 

『組合を通じてサーペント・テールとコンタクトを取ってはいるが、今だ返答は何も無い。』

 

「取り戻す前に依頼人に渡ってしまえば、探し出す確率はほぼ絶望的でしょう。」

 

「転売でもされたらそれこそ見つけられないわよぉ~!!」

 

ジョージとリーアムの言葉に、彼女は素っ頓狂な声を上げていた。

 

彼等の言葉通り、サーペント・テールに接触する前にパーツが依頼人の手に渡ってしまえば発見は更に難しくなるだけでなく、そこから転売される可能性すら出てくるため、発見は絶望的になる事は火を見るより明らかだった。

 

「なぁに、たとえどんだけ転売されても、組合の力で見つけ出して取り戻してみせるさ!」

 

彼等の言葉を聞きながらも、ロウはそんなマイナス思考を拭う様に力の籠った言葉を言い放ち、面々は彼の言葉に表情に希望を戻らせた。

 

「ロウさん・・・。」

 

「だから、それまではこの船にいればいいさ、なっ?」

 

縋る様な瞳で自分を見る少年に向け、ロウは勇気付ける様に笑いかけていた。

 

「はい!ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします!

あっ、そういえば自己紹介がまだでした、僕はプレア・レヴェリーと言います、皆さん、よろしくお願いします!」

 

「おう、よろしくなプレア、そうだ、俺は良いとして、みんなも名乗っといたらどうだい?」

 

プレアと握手を交わしながらも、彼は樹里やシャルロットを見渡しながらも言い放った。

 

「あっ、そう言われたら、まだ僕達の自己紹介がまだだったね。」

 

ロウの意図に気付いたシャルロットが納得した表情を見せつつもプレアに近づき、グローブを外した右手を彼に差し出していた。

 

「シャルロット・デュノアだよ、これからよろしくねプレア。」

 

「はい、よろしくお願いします、シャルロットさん。」

 

その手を握りつつも、彼は彼女に微笑み返した。

 

基本的に人当たりの良いシャルロットの笑みは、見る者の心を癒す効果でもあるのだろうか?

 

彼女と接しただけでとは言えないが、彼女と相対するプレアの表情は年相応の少年そのものであり、先程までの代理人としての表情ではなかった。

 

『キャプテン・ジョージ・グレンだ、よろしく頼むぞ!』

 

「私の事はプロフェッサーと呼んでちょうだい、よろしくねプレア。」

 

「リーアム・ガーフィールドです、これから共に行動する仲です、よろしくお願いしますね。」

 

『よろしく頼むぞ!』

 

ジョージ、プロフェッサー、リーアム、そして『8』が、彼に向けて歓迎の意を表していた。

 

「はい!ここでお世話になる間、僕に出来る事があれば何でも言いつけて下さい!」

 

「貴方はお客様です、そこまで無理をする事はありませんよ、プレア。」

 

何でもやらせてほしいというプレアに対し、リーアムは気持ちだけ貰っておくと言う風に微笑んだ。

 

「ふふん、ジャンク屋の仕事はハードよ~?貴方みたいな子供に耐えられるかどうか・・・。」

 

樹里は何やら別の意味で嬉しそうな表情をしていた。

 

どうやら、後輩が、それも年下の少年がやって来た事で、先輩風を吹かせたくなったのだろう。

 

ちなみに、そういう面で見るならばシャルロットも彼女の後輩と言う事になるが、彼女が年上だった事と自分よりも明らかに頼りになりそうな事を感じ取っているために、彼女に対して先輩風を吹かす事はない。

 

それはさて置き・・・。

 

「でも頑張ります!僕、OSの設定がナチュラル向けになっていればMSの操縦も出来るので!」

 

「えっ・・・!?そ、そう、頑張ってね・・・。」

 

だが、その目論見はあっけなく砕かれた。

 

まさか自分よりもスペックが高いとは露程にも思っていなかったのだろう、

樹里は「私より使えそう!?」とかなんとか言いつつ、思いっきり動揺してしまっていた。

 

「(笑うな・・・、笑うな・・・!!)」

 

そんなコントの様なやり取りを見て、シャルロットは唇を噛み締めて必死に吹き出すのを堪えていた。

 

流石に笑ってしまえば樹里が傷付くだろうと判断した様だが、見た目麗しき美女がそんな表情をするのはいかがな物だろうか・・・。

 

「・・・で、プレア、その奪われた物ってなんなんだ?」

 

そんな空気を破るかの如く、至って真剣な表情をしたロウがプレアに尋ねていた。

 

恐らくは、何故ドレッドノートの頭部だけが盗まれたのか、その真相を知りたがっているのだろう。

 

「・・・、僕の口から話すよりも、ジャンク屋の皆さんなら見て頂いた方が早いかも知れません、

あのMSが持っている本当の意味は・・・。」

 

ロウの言葉の真意を感じ取った彼は、表情を引き締めながらも話した。

 

そんな彼等の間に漂う雰囲気を感じ、動揺していた樹里も、笑いを必死にこらえていたシャルロットも平静を取り戻し、ロウとプレア、二人の出方を窺う様に無言を貫いていた。

 

「分かった、とりあえず格納庫に行ってからだな、ドレッドノートを詳しく見せてもらう事になるけど、構わないか?」

 

「はい、是非知っておいて欲しいので、皆さんに見て貰えると助かります。」

 

ロウの言葉に、プレアは至極真剣な表情を浮かべながらも答え、誰よりも先に格納庫へと足を向けた。

 

その様子には、何処か焦りの色も見てとれるが、誰もそれを指摘しようとはしなかった。

 

「(大したもんだよ、もっと取り乱すなりするかと思っていたが、かなり落ち着いているな・・・。)」

 

そんな彼の様子に、ロウは感心すると共に、何故か言葉では言い表せない不可思議な感覚を覚えた。

 

何故歳不相応な落ち着きを持っているのか、何処か達観したようなプレアの立ち振る舞いに違和感でも覚えたのだろうか・・・?

 

「(いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないよな・・・。)」

 

今はドレッドノートに隠されている秘密を知る事が先決と、彼は思考を切り替えて艦橋から出て行ったプレアの後を追った。

 

sideout

 

noside

 

同時刻、宇宙のとある宙域にて一隻の輸送船に近付く三機のMSの姿が在った。

 

先行する二機はコンテナを両サイドから持つ様にしながらも進み、少し遅れる様に追走する三機目の機体は、周囲に敵がいないかを確認している様な気配を漂わせていた。

 

輸送艦との距離が零に近づく直前に二機は制動をかけ、ゆっくりとコンテナを輸送艦の船体に置き、紛失しない様にとベルトでしっかりと固定していた。

 

「設置完了、戻るぞ。」

 

「了解だ、劾。」

 

「了解しましたわ。」

 

後方に待機していた青い機体、ブルーフレームセカンドGを駆る叢雲劾は、両機に通信を入れ機体を格納庫へと向けた。

 

それを確認した二機、イライジャ専用ジン改とデュエルはそれに追従する様に格納庫へと機体を進めた。

 

機体をハンガーに固定し、其々の機体から降りた劾、イライジャ、セシリアの三人は今後の指針を決める為に艦橋を目指した。

 

「あっ!劾!イライジャ!セシリア!お帰りなさい!」

 

艦橋に入った三人を出迎えたのはドリンクボトルを入れたクーラーボックスを携えた風花だった。

 

ロレッタは計器に付きっ切りであり、リードはといえば、相も変わらず酒が入ったボトルを傾けていた。

 

劾とイライジャにボトルを渡した後、彼女はセシリアの元に駆け寄った。

 

「お帰りなさい、セシリア!」

 

「ただいま戻りましたわ、風花さん。」

 

風花から手渡されたボトルを受け取りながらも、セシリアは慈しむ様な微笑みを彼女に向けていた。

 

この短い触れ合いの中で、彼女達の間にはある種の信頼関係が出来上がりつつあるのだろう。

 

「はぁ・・・。」

 

そんな中、渡されたドリンクに口を着けていたイライジャが大きく溜め息を吐いていた。

 

「どうしたイライジャ、疲れたのか?」

 

リードはそんな彼をからかう様に尋ねていたが、イライジャは複雑な表情を崩す事は無かった。

 

「いや・・・、本当にこれでよかったのかって思って・・・、あのままマルキオに渡しても良かったんじゃないか?」

 

「アタシもイライジャと同じだよ、このまま渡したらダメなの?」

 

イライジャの言葉に賛同するように、風花は劾に向けて尋ねた。

 

あれとは、先程ジャンク屋組合の輸送船から強奪してきたドレッドノートの頭部だという事は想像に容易かった。

 

「あれはまだマルキオには渡さない、それが最良だからだ。」

 

二人の意見を否定する様に、劾ははっきりと言葉に表した。

 

「なんでだよ・・・。」

 

自分の言葉を否定する様に語られた言葉に、彼は僅かに気落ちした様な表情を見せる。

 

「はっはっはっ、お前さんはまだまだ若いねぇ。」

 

「なんだよ?」

 

ちょっとは考えてみろと言わんばかりのリードに、イライジャは少しムッとしながらも問いただした。

 

「あれが地上へ降りれば、確かに救われる人も大勢いるでしょう、でも、それでもその力を悪用しようとする人間も出てくるわね、そうなったら、更に大勢の人が苦しむ結果になりかねないのよ。」

 

彼の言葉に補足する様に、ロレッタは今だ納得できないといった表情を浮かべるイライジャと風花に向けて言いながらも、少し離れたところにいるセシリアに目を向けた。

 

「セシリア、あなたは今回の事、どう考えているのかしら?」

 

セシリアに問いかけたのには二つの理由があった。

 

一つ目は新参者とはいえ、同じサーペント・テールのメンバーとなった彼女にも発言してほしいという思いと、もう一つは、傭兵ではなく、大局を見た上でどう思うのか、という意味が込められているのだ。

 

「そうですわね・・・、私は譲渡もせずに、このまま破壊した方が妥当かと思いますわ、今の情勢から考えて、導師を暗殺してでも手に入れようとする者が必ず現れる事でしょう。」

 

「おいおい・・・、流石に地球の連中もそこまで馬鹿じゃないだろ?」

 

猶予も無く破壊すべきだと答えたセシリアに、イライジャはその端正な表情を引き攣らせながらも答えた。

 

この美女はなんて物騒な考えを持っているんだ、そんな思いが彼の表情から筒抜けだった。

 

「バカは一人いれば賢者百人分の働きをするんだよ、セシリア、お前さんもまだ若いな、ちょっとは待つのも必要だぜ?」

 

「・・・、チッ・・・。」

 

リードに返された言葉に舌打ちし、彼はそこから先食い下がる事を諦めた様だ。

 

「・・・。」

 

「どうした?」

 

そんな中、風花はまだ何かに悩んでいる様な表情をしている事を不審に思い、劾は彼女に尋ねていた。

 

「うん・・・、今回襲った船、ロウ達の仲間なんだよね・・・、私達が係わってるって知ったらどう思うのかなって・・・。」

 

「・・・。」

 

風花の言葉に、劾は納得の表情を浮かべながらも、何かを思案するかの様に押し黙っていた。

 

「それも気になる所なんだよな・・・。」

 

イライジャも彼女に同意するかの様に言い、何処か複雑な表情を浮かべていた。

 

自分達と決して関わりの浅くない者達を思い浮かべ、彼等は少々複雑な心境に陥っているのだろうか、何処か迷いとも取れる表情を浮かべていた。

 

「あの・・・、何かあったのですか?」

 

彼等がそんな表情をする理由をイマイチ掴めなかったセシリアは、恐る恐る彼等に尋ねていた。

 

そんな彼女の様子に、劾達はまたしても失念していたという風な表情を浮かべた。

 

忘れがちだが、セシリアは二週間程前までは彼等と関わったことも無い、赤の他人同士だったのだ。

 

何故だかは分からないが、ずっと一緒にやって来たという感覚でいたため、彼女が知らない事も知っている前提で話を進めがちになっていたのだ。

 

「すまない、そういえばセシリアは会った事が無かったんだよな?」

 

何とかフォローをしようと、イライジャは少々焦りながらも言葉を発した。

 

「えぇ・・・、どの様な方かも存じておりませんわ・・・。」

 

彼の言葉に、セシリアは少し拗ねた様に小さく呟いていた。

 

そんな彼女の様子に、彼はまたしてもどうしたらよいものかと、気の利いた言葉を探し出そうとした。

 

「劾にブルーフレームをくれた人だよ、任務でよく会うんだ!」

 

「あら、そうでしたの、と言う事は、傭兵なのですか?」

 

風花の説明に、セシリアは一瞬で表情を緩ませ、彼女に尋ね返していた。

 

そんな切り替えの早さに唖然としながらも、俺の心労はなんだったんだと思わずにはいられなかったイライジャだった。

 

「ううん、ロウ達は傭兵じゃなくって、ジャンク屋って職業なの。」

 

「なるほど、大体把握いたしましたわ、曲がりなりにもお知り合いのお仲間を襲ってしまっていたのですね・・・。」

 

風花から聞かされた事を自身の脳内で整理し、彼女はロウと呼ばれる人物とサーペント・テールとの関係を察し、今回の件の複雑さを改めて思い知った様だった。

 

「そういう事だ、後ろめたい事がある訳ではないが、彼等にも説明をしておく必要があるな、風花、お前にその役目を任せたい。」

 

「うん!任せて!」

 

静観していた劾から、ロウ達の元に行ってくれと頼まれ、彼女はその表情を少しだけ明るくさせた。

 

彼女はサーペント・テールの他のメンバーに比べても比較的長い時間を彼等と共に過ごした事があり、彼等とまた会える事が喜ばしいのであろう。

 

いや、それだけではなく、サーペント・テールの一員として、非戦闘員である彼女が役に立てるという事も、彼女自身にとっては嬉しい事なのだろう。

 

「それと、セシリア、風花のボディーガードを頼めるか?下手をすれば戦闘にも巻き込まれる可能性もあるからな。」

 

劾は風花に微笑みかけた後、彼女を妹の様に見守るセシリアに尋ねていた。

 

彼の言う事は尤もだ、現にドレッドノートの頭部はプラントから持ち出されたパーツの一部であり、最も重要な物を積んでいるパーツでもあるのだ。

 

それをサーペント・テールが所持していると知られていれば、間違いなく何かしらの攻撃を行って来るだろう事は明確であった。

 

そんな中で風花を独り行かせればどうなるのかは想像するまでもなかった。

 

だからこそ、劾はMSを操縦できるセシリアに同行を頼んだのだ。

 

もっとも、それだけではなく、セシリアにも対外的な繋がりを持たせようという思惑も無いわけではない。

 

「お任せくださいませ、風花さんは私がお守り致しますわ。」

 

そんな思惑を知ってか知らずか、彼女は微笑みながらも快諾していた。

 

どうやら彼女も危険を回避させるべく、無理を言ってでも風花に同行するつもりでいた様だ。

 

「どうやら、それは後にしなきゃいけないみたいよ!」

 

そんな時だった、警告音を発した計器を確認したロレッタが声を張り上げた。

 

どうやら、所属不明のMSが一機、彼等の母艦へ向かって来ている様だ。

 

「追手か!」

 

「そうとも限らんが、なんにせよ、厄介な物には厄介が舞い込むモノさ。」

 

イライジャの声に、リードは何時もの軽薄さを潜めさせながらも答えていた。

 

彼の言葉通り、彼等が持っている物は非常に扱いに困る代物であり、万が一にでも第三者の手に渡れば、この世界を崩壊させる要因にすらなりかねないのだ。

 

「今あれを第三者に渡す訳にはいかない、迎撃するぞ。」

 

そんな緊迫した状況の中でも、劾は動揺する事無く格納庫へと急いだ。

 

「分かった!俺も出る!」

 

彼に追随する様に、イライジャも艦橋から飛び出し、己の愛機の下へと急いだ。

 

「私も参りますわ!」

 

彼等に続き、セシリアも自分の機体へと急ごうと動いた。

 

それを見た風花は、声をかけずにはいられなかった。

 

「セシリア!いってらっしゃい!!」

 

「えぇ、また後で!」

 

彼女の声に振り向き、微笑みと共に返しながらも、セシリアは艦橋から出て行った。

 

自分に為せる事をしよう、彼女の姿を見た風花は、ロレッタの隣のコンソールの前に腰掛け、自分にできる事、オペレートをしようとした・・・。

 

sideout

 

noside

 

誰よりも真っ先に出撃した劾は、ブルーフレームセカンドGスナイパーパック装備を操縦し、狙撃体勢に入っていた。

 

スナイパーの名称から理解できると思うが、本装備は狙撃戦に特化している。

 

主に、長距離からの狙撃、及び被害をなるべく少なくするための部位破壊に適しており、先の輸送船強襲事件も本装備を用いている。

 

右背面に大型スナイパーライフルを、左腕にはハンドガンを装備している。

 

なお、スナイパーライフルはミラージュコロイドより発展させたゲシュマイディッヒ・パンツァーの技術を応用し、僅かながらもビームの軌道を変更する事が出来る。

 

しかし、射撃に特化した分、接近された場合や高機動を要される場面では機動力の低下で不利になるというデメリットももちろん存在していた。

 

だが、この機体に乗るパイロットは生ける伝説とまで言わしめる最強の傭兵、叢雲 劾、

MS操縦のテクニックは超一流、状況判断の速さも並のパイロットを大きく上回っている、装備の不利があったとしても、賊が相手ならば歯牙にもかけぬ程の実力だ。

 

そんな驕りを見せず、彼は洗練された動きでスナイパーライフルを展開、所属不明機が接近してくる方に向けた。

 

「俺とイライジャで迎撃を行う、セシリアは輸送船の護衛を頼む。」

 

「わかりましたわ、お気を付けて。」

 

劾の指示を聞き、セシリアはデュエルを駆り、輸送船に張り付く様に護衛に回った。

 

狙撃用スコープを覗き、彼は接近してくる敵機の姿を捕え様としていた。

 

彼の目に、徐々に接近する機影が映り始めるが、そのシルエットは今まで見た事のない物だった。

 

「あの機体は・・・、なんだ・・・?」

 

「どうしたんだ、劾!?」

 

彼の呟きに反応したイライジャが声をかけてくるが、今の彼にはそれに答えている暇はなかった。

 

「(なんだ・・・、この奇妙な感覚は・・・?)」

 

今まで感じた事の無かった感覚に、彼は一気に警戒の度合いを強めた。

 

彼はトリガーに掛けた指が、グローブの中で嫌な汗で湿って行くのを感じていた。

 

それは、彼がこれまで数える程しか感じることの無かった、不気味さからくるものであった事も、彼は気づいていたのだ・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

ドレッドノートに隠された秘密を知るロウ達、その頃、サーペント・テールは窮地に立たされていた。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

天を往く者

お楽しみに。


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天を往く者

noside

 

「おいおい・・・、冗談だろ・・・!?」

 

ジャンク船〈リ・ホーム〉の格納庫に置かれているドレッドノートのコックピットに乗り込み、機体の詳細を調べていたロウは、その表情を引き攣らせながらも叫んだ。

 

彼が見ていたのはドレッドノートのOSであり、モニターには、

Generation

Unsubdued

Nuclear

Drive

Assault

Module Complex

と言う単語が表示されていた。

 

「これでGUNDAM〈ガンダム〉だって・・・!?」

 

「どうしたんですか、ロウ?」

 

「何かあったの?」

 

その叫びに気付いたリーアムとシャルロットは、ドレッドノートのコックピットを覗き込んでいた。

 

「プレア!なんだよこのOSは!?」

 

「ロウ、これはっ・・・!?」

 

「何々?どうしたの?」

 

ロウはプレアに向けて叫び、リーアムはその表示に絶句、樹里はシャルロットと共にコックピットまでやって来ていた。

 

「はい、これがドレッドノートのOSです。」

 

ロウに問われたプレアは隠す事すらせず、肯定の言葉を返すが、ロウとリーアムの表情はそれによって更に険しいものとなっていった。

 

「ふざけてるとしか思えねぇぞ、これは・・・。」

 

「まさか、そんな・・・。」

 

「何?どうしたの・・・?」

 

そんな二人の様子を不審に思ったのか、樹里はおずおずと尋ね、シャルロットは事の成り行きを見極めんと敢えて尋ねなかった。

 

恐らくは、彼等から発せられる尋常ではない何かに反応した故であるだろうが・・・。

 

「核だよ・・・。」

 

「へっ・・・?」

 

そんな彼女達に答える様に、ロウは小さく呟いた。

 

その言葉の意味を理解できなかった樹里は、冗談よねと言いたげな表情をし、シャルロットはそれだけで何の事かを理解し、口元を押さえていた。

 

「このMSには・・・、核エンジンが積まれてやがるんだよ・・・。」

 

彼が再確認させる様に話した言葉の意味を理解した彼女は、困惑から驚愕へとその表情を変えた。

 

「核!?危ないんじゃないの!?」

 

そう叫びながらも、彼女はドレッドノートから少しでも離れようと身体をばたつかせていた。

 

彼女の反応は尤もであると言えるだろう、なにせ、爆発する確率は低くとも、放射能が漏れる確率は決してゼロと言う事はないのだから。

 

そう、このMS、ドレッドノートは核分裂炉を動力源としていたのだ。

 

ロウとリーアムがこの事に気づいたのにはOSに表示された文字にあった。

 

翻訳すれば、この機体のOSは抑制されない核動力を使用した強襲モジュール複合体である事を物語っている。

 

「十分にシールドされているので大丈夫ですよ。」

 

そんな彼女を安心させる様に、リーアムは少々苦笑しつつも核エンジンが厳重にプロテクトされている事を伝えていた。

 

その言葉に安心したのか、彼女はばたつくのをやめ、シャルロットに引っ張ってもらいつつもコックピット付近に戻って来た。

 

「これで勇敢なる者かよ、ザフトの開発陣には相当ふざけたネーミングセンス持ちがいるみたいだぜ・・・。」

 

ロウは呆れつつも、機体のネーミングについて盛大に溜め息を溢していた。

 

恐らくは、機体の名に籠められた意味を、こんな危険なMSに乗る人間はなんて勇敢な者だろう、というある意味皮肉めいた意味で捉えたためであろう。

 

「で、でも核エンジンって使えないんじゃ・・・?」

 

「えぇ、Nジャマー環境下では核エンジンは起動しません、なのに何故・・・?」

 

樹里の疑問に答えながらも、リーアムも核エンジンが積まれているのかを理解できなかった。

 

確かに、核エンジン自体は連合とザフトが開戦する以前から存在はしていたが、血のバレンタインにおいて、ザフトが連合に行った報復の一環として、地球にNジャマーと呼ばれる核分裂を抑制する特殊物質を大量に埋め込み、地球上において核による発電を停止させた。

 

また、第二のユニウス・セブンを生み出さないために、宇宙空間にも大量に散布され、実質上、地球圏では核分裂炉の使用は不可能になった、筈だった。

 

「奪われたのは・・・、Nジャマーキャンセラー・・・、Nジャマーを無効化する物です・・・。」

 

「なんだって!?」

 

プレアのカミングアウトに、一同は驚愕の表情を浮かべ、彼を注視した。

 

それと同時に、何処か納得がいった様に頷いたり、考え込む様な表情を見せる者もいた。

 

「なるほど、Nジャマーを無効化出来る物を使えば確かに地球のエネルギー問題は解決できますね。」

 

「マルキオのおっさんが欲しがる訳がやっとわかったぜ。」

 

リーアムとロウは彼が語ったNジャマーキャンセラーが持つ意味と、マルキオ導師が何故このドレッドノートを欲しがった理由を知った。

 

確かに、地球にこの技術が下りれば、深刻なエネルギー問題に苦しむ地上の人々を救う事が出来る、故にマルキオはこの技術を欲しがったのだろう。

 

「この戦争が生み出した忌むべき存在・・・、その結果、です・・・。」

 

あからさまに呼吸を荒くし、肩で息をしていたプレアはよろめき、コックピット内に落ちそうになった。

 

「プレア!!大丈夫!?」

 

しかし、彼の隣にいたシャルロットが落ちる寸前の彼を抱き上げ、自分に抱き寄せる事で落下を防いだ。

 

「大丈夫、です・・・、それよりも、早く取り戻さないと・・・。」

 

彼女に抱かれながらも、プレアは身を起こそうともがいていた。

 

しかし、どう見ても尋常ではない彼の様子を黙って見過ごすシャルロットではなかった。

 

「どう見ても大丈夫じゃない!医務室に連れて行くから休む!いいね!?」

 

「は、はい・・・!」

 

有無を言わせぬ勢いで首根っこを掴む彼女のあまりの剣幕に、プレアはある意味で顔を青ざめた。

 

何故だか逆らえない、そんな雰囲気が今のシャルロットにはあった。

 

「(お、お母さん・・・!?)」

 

「(母親だな・・・、まるっきり・・・。)」

 

プレアの首根っこを掴んだまま出入口に向かう彼女に、樹里やロウは子供を叱る母親の姿を見た様な気がした。

 

確かにシャルロットは女性らしさ、そして母性を兼ね備え、尚且つ気配りも良いために実年齢より少し大人びて見られがちだ。

 

本人は年相応に見られないのが少し思う所があれど、それによって気持ちが軽くなる人間も多くいた事だけは紛れもない事実であろう。

 

それはさておき、ロウはシャルロットにではなく、彼女に引っ張られて行ったプレアに、何か得体の知れぬ感覚を覚えた。

 

身体の具合が悪いのは詮索出来ないとしても、何に焦っているのか・・・?

 

Nジャマーキャンセラーが手元に無い事に焦っているのかもしれないが、ロウの目にはその焦り様がもっと別の何か、強いて挙げるとするならば、残り少なくなった時間に追われている焦りに見えて仕方がなかった。

 

「(でも、なんでだ・・・?)」

 

だからこそ彼には理解しえなかった、なぜ人生を歩み始めたばかりの少年が残り時間を気にするのだろう・・・?

 

「(なんなんだ・・・、この奇妙な感覚は・・・?)」

 

言い表せぬ感覚に戸惑う自分を自覚しながらも、彼はドレッドノートのコックピットから降り、艦橋に向けて移動を開始した。

 

その心に幾つかの疑問と気味の悪さを抱えたままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

「劾!どうしたんだ!?」

 

リ・ホームが航行するポイントから遠く離れた宙域にて、ブルーフレームを駆る叢雲 劾は接近する所属不明機に対して先制攻撃を掛ける事が出来ずにいた。

 

一体どうしたんだ、そう思ったイライジャは彼に呼びかけるが、彼は押し黙ったままスコープを覗き込んでいる。

 

そこでイライジャは気付いた、こちらに向かって来ているのは只者ではないという事だ、だからこそ劾も彼の問いに答えるだけの余裕が無かったのだ。

 

所属不明機のスラスター光が目視出来る距離になった瞬間、彼の考えを肯定するかの如く、劾からの叫びが耳を打つ。

 

「気を付けろイライジャ!只者じゃないぞ!!」

 

「お、おう!!」

 

その声に気を引き締める間にも、機体のシルエットも次第に見える様になり、彼はジンの右マニュピレーターに装備されているマシンガンを接近する機体に向けた。

 

そして、機体前方100m辺りに、灰色の機体が止まった。

 

彼にはそのMSがジンやシグーの様なザフトMSの外見ではなく、寧ろ劾や知り合いのジャンク屋が乗っている機体に似ている様にも見えた。

 

何せ、形状は異なっているが、連合やオーブのMSに見られるブレードアンテナとツインアイを持ち、より人間に近い姿に見えるからだ。

 

「ほう?偶々見つけた船からよもやガンダムが出てくるとは思ってもみなかったな。」

 

スピーカーから聞こえてきた声は、イライジャ自身と同年代の青年のものだったが、それよりもまず先に、彼は不明機のパイロットが語った、聞きなれない言葉に首を傾げた。

 

「ガンダム・・・?」

 

ガンダム、そんな言葉を彼は聞いた事は無かった。

 

何かの機体の名なのかとも考えたが、自分や劾、そしてここにはいないセシリアの乗る機体の名称にはその様な単語は付いていなかった筈だ。

 

では、ガンダムとは何か・・・?

 

その答えを詮索するよりも先に、不明機のパイロットは言葉を続けた。

 

「貴様ら、キラ・ヤマトを知っているか?」

 

キラ・ヤマトという単語の意味が彼には分らなかった。

 

人物の事か、若しくはその名を冠したシステムか、或いは全くの別物か・・・。

 

何れにせよ、彼が知る限り、キラという存在は聞き覚えの無いものだった。

 

「・・・。」

 

彼も、そして劾もその問いには沈黙を貫く事にした様だ。

 

「返答無しか・・・、ならば消えろ!!」

 

答えぬのなら用はないとでも言う様に、所属不明機は彼等に銃口を向け、ビームサブマシンガンを撃ちかけた。

 

「うわっ!?」

 

「クッ・・・!!」

 

イライジャは機体を射線から逸らす事で精いっぱいだったが、劾は回避しつつも狙いを定め、スナイパーライフルのトリガーを引いた。

 

銃口から吐き出された光条は勢いよく突き進み、不明機に回避すらさせずに直撃した。

 

「直撃だ!!」

 

「いや、駄目だ!!」

 

イライジャはその光景に歓喜の声をあげるが、劾はそうではないと言う風に声を張り上げた。

 

彼の言葉を裏付けるかのように爆煙が晴れていき、左腕に特殊なシールドを展開して健在だった。

 

無論、その装甲には一切の欠損は見受けられず、完全に防ぎ切ったという証明に他ならなかった。

 

「なんだあのシールドは!?」

 

目の当たりにした光景に、イライジャは驚愕の叫びをあげた。

 

MSの装備としては見た事がない、奇怪な装備に驚いたのだろう。

 

「面白い、だが、その強さ、生かしてはおけん!!」

 

「来るぞ!!」

 

所属不明機から聞こえた通信に被さる様に、劾は彼に向けて警告を発した。

 

その直後、所属不明機は彼等に向かって来ながらもビームサブマシンガンを撃ちかけていく。

 

それにやられる程イライジャも劾も甘くはなく、散開しつつ死角から攻撃を繰り出すも、避けられるか防がれるかしてやり過ごされてしまう。

 

しかも、敵機はイライジャではなく、装備の面で有利にあると見たのか、劾のブルーフレームに攻撃を集中し始めた。

 

劾も死角から狙撃を試みるも、全て防がれてしまう事で不利だと判断したのか、敵機がマシンガンの弾倉を交換すると同時にスナイパーパックを排除、ほぼ同じタイミングでハンドガンを撃ち、敵機のビームサブマシンガンを相殺した。

 

それだけでは済まさないつもりなのか、灰色の機体は左マニュピレーターにビームナイフを保持し、アーマーシュナイダーを構えたブルーフレームと速度に物を言わせた戦闘に突入した。

 

「くそっ・・・!早すぎて追い切れない・・・!!援護する事も出来ないなんて・・・ッ!!」

 

その目まぐるしく動き回る二機の軌跡を捉える事、そして助太刀に入る事すらもイライジャには出来なかった。

 

機体性能だけではない、あの速度領域に着いていけるだけの技量が無い事を彼は自覚していたのだ。

 

故に、そんな自分の弱さを恨めしくも思っているが、無いものを強請っても無駄だという事は既に分っている。

 

そんな彼の目の前では、幾らかマシになったとは言えども、装備の不利によって劣勢を強いられているブルーフレームに灰色の敵機がビームナイフを突き立てようと猛攻を仕掛けていた。

 

「チクショウ!!俺にだって!!」

 

このまま見ている事は出来ない、そんな衝動に突き動かされたイライジャは敵機に突進しつつもマシンガンを連射した。

 

「てぇぇい!!」

 

「雑魚が、大人しくしていろ!!」

 

敵機は銃弾を回避しつつ振り返り、ビームサブマシンガン銃口上部からビームナイフを発射した。

 

「イライジャ!!」

 

劾が警告を発したが、彼には反応が間に合わなかった様だ、コックピットへの直撃は何とか回避したものの、右腕部の付け根に突き刺さった。

 

「うわぁっ!!くそっ・・・!なんて無様なんだ俺は・・・!」

 

操縦桿を前後に動かし機体が動く事を確認しながらも、彼は自分の不甲斐無さを恨んでいた。

 

「イライジャ、コンビネーションアタックを仕掛けるぞ!」

 

「あ、あぁ、了解だ!」

 

止まっている暇は無いと言わんばかりの劾の言葉に、イライジャはハッと顔を上げながらも敵機をブルーフレームと挟み込むようにして機体を動かす。

 

彼等が採った戦法は、一対一で倒せぬ敵が現れた際に使うコンビネーションの内の一つであり、今回のパターンは二機が別方向から波状攻撃を仕掛ける事で、相手に反撃、及び回避の先を封じる事の出来るモノなのだ。

 

初見でその意図を見抜ける者はそう多くない、だからこそ、身の危険を感じた際には出し惜しみを一切しないのがサーペント・テールという組織だ。

 

だが、相手がそれを見抜き、切り札を隠し持っている場合には裏目に出てしまう可能性も秘めた博打である事は否めなかった。

 

彼等の戦法の意図を見抜いたのか、灰色の機体は背面のバインダーを前方に展開し、その先端や腕部側面等から何やら基部の様なモノを展開した直後、眩き光で機体を包み込んだ。

 

「何の光だ!?」

 

「この光は・・・!」

 

目の前の光景に驚きながらも、彼等は別方向から同時攻撃を仕掛けるも、すべて光の壁に阻まれてしまう。

 

「馬鹿な!攻撃が効いてないのか!?」

 

その様に驚愕したのか、イライジャは声を張り上げながらも機体を動かした。

 

次の瞬間、光の壁の内側よりビームサブマシンガンが撃ち出されてきた。

 

「なっ!?内側からは撃てるのか!!」

 

驚愕しながらも、彼は自身達が置かれた状況に歯噛みした。

 

相手は鉄壁の盾を展開し、その内側から攻撃する事が出来る。

 

それに対して、彼等はそれを打ち破る術を持っていない、まさに追い詰められたという表現が当て嵌まるだろう。

 

灰色の機体はブルーフレームを追い込む様に銃弾を撃ち掛け、動きを見切ったのか、バインダー下部から大火力ビームを撃ち出した。

 

それは一直線にブルーフレームめがけて突き進んでいく。

 

劾も必死に避けようと機体を動かすが、イライジャの目から見れば到底間に合わない。

 

「逃げろ!劾ぃぃぃぃっ!!」

 

叫べども意味の無い事とは理解している、だが、それでも彼は叫ばずにはいられなかった。

 

彼の叫びも虚しく、光条はブルーフレームと交錯したかに思えた・・・。

 

sideout




次回予告

襲撃者を退けるサーペント・テールであったが、激動の波は彼等に傍観させる余地を与えなかった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

それぞれの思惑

お楽しみに。


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それぞれの思惑

sideセシリア

 

「あれは・・・、ラウラさんのハイぺリオン・・・!?」

 

戦闘宙域から遠ざかっていく輸送艦の傍に取り付きながらも、私は劾さんとイライジャさんと交戦している機体の事を思い出しました。

 

かつての世界において同志と呼べる方が操っていた機体、ハイぺリオンガンダム。

 

その特性と有効距離、そして弱点も熟知しています、当然、その厄介さも・・・。

 

「今のブルーフレームでは、勝てない・・・!!」

 

あの機体の特殊防御帯〈アルミューレ・リュミエール〉の前では、ライフル系の装備で身を固めている状態の機体に勝ち目は全くないに等しい、それを何とかしてお二人に伝えたいのですが、どういう訳か、通信が届きにくい状態になってしまいました。

 

「ロレッタさん!劾さん達との通信は繋がっていますか!?」

 

『ダメね!Nジャマーの影響で繋がらないわ!!」

 

やはり・・・!ご教授いただきました内容の中にNジャマーの事も含まれていましたが、まさかここまで酷いモノだとは思ってもみませんでした。

 

これではあのシールドを破る方法を伝える事が出来ません、それに、劾さんの指示を仰がなければ船の傍から離れることすら出来ません。

 

「こういう時に、私はどうすれば・・・!!」

 

不甲斐ない、かつての世界では最強の一角と自負しておりましたのに、結局何一つ自分で決める事も、動く事も出来ないではありませんか・・・!!

 

こういう時に、一夏様ならどう動かれたのでしょうか・・・、私はどうすれば良いのですか・・・!?

 

『セシリア!!貴女が想う様にやりなさい!!こっちは大丈夫よ!!』

 

迷い、悩む私を叱りつける様に、ロレッタさんの声が届きました。

 

迷うな、その間に為せる事があるのよと言わんばかりの声が、私の背を押してくれる様に思えました。

 

そうでしたわね、今も昔も戦場で信じていたのは私自身の判断でした、心の支えとなってくださっていた一夏様とシャルさんがいない事で、すっかり忘れてしまいそうでした。

 

そうと分かれば、私がやるべき事はただ一つですわね!!

 

「はいっ!!ロレッタさん、タクティカルアームズを!!あの機体に有効なのです!!」

 

『分かったわ!二人を助けてあげて!!』

 

『お願い!セシリア!!』

 

ロレッタさんと風花さんの声に頷きつつ、輸送艦のコンテナから射出されたタクティカルアームズの柄を掴み、スラスターを全開にして戦闘宙域に急ぎます。

 

遠目から見える光は、恐らくハイぺリオンがアルミューレ・リュミエールを展開した事で発生している光・・・!!

 

急がなければ劾さん達が危ない・・・!!

 

「デュエル、どうか急いでくださいな・・・!!」

 

こんな所で、私を救って下さった方を死なせるわけにはいかないのです!!

 

タクティカルアームズのスラスターも併用し、単体で出せる加速力の限界を突破しながらも突き進み、三機が目視できる距離に入りました。

 

その時、既にハイぺリオンはフォルファントリーの発射体勢に入っており、今にもブルーフレームを撃破しようという勢いでした。

 

このままでは劾さんが・・・!!

 

フォルファントリーの砲口から眩いばかりの光が発射され、ブルーフレームへと突き進んで行く。

 

「間に合えぇぇぇぇぇっ!!」

 

私はデュエルの出せる最大加速を以て、光弾が直撃する寸前にブルーフレームの前に割り込みながらもタクティカルアームズを掲げ、光弾とぶつけました。

 

激しい閃光が辺りを一瞬照らしますが、そんな事に気を向けずに、私はデュエルの腕を振りぬかせ、光弾の軌道を明後日の方角へと逸らしました。

 

ですが、その反動というべきか、デュエルの右腕は過負荷の為にモーターがオーバーロードし、スパークを散らしながらも稼働不可となってしまい、タクティカルアームズを手放してしまいました。

 

「劾さん!ご無事ですか!?」

 

『すまない、助かった!!』

 

背後に佇むブルーフレームに叫ぶ様に通信を入れますと、間髪入れずに劾さんからの通信が帰ってきました。

 

「間に合った様で何よりですわ!それよりもこれを!!」

 

残った左腕を振るい、ブルーフレームにタクティカルアームズを投げ渡します。

 

セカンドGの状態で使用できるのかは分かりませんが、今はそんな事を考えている暇はありません!

 

ハイペリオンが撃ちかけてくるビームサブマシンガンの銃弾を回避しつつ、私は劾さんに向けて叫びます。

 

「あのシールドにはタクティカルアームズが有効です!」

 

『その根拠は何だ?』

 

私の言葉を疑問に思ったのか、劾さんは真意を尋ねて来られました。

 

それもそうですわね、危機的状況の中で憶測や確証の低い方法を採るなど自殺行為も良い所、確証を持ちたいのでしょう。

 

ならば、端的に御伝えするのが一番ですわね!!

 

「あのシールドは光波防御帯、つまりはビームで構成されています!前の世界で一度戦った事がありますので間違いありませんわ!!」

 

『分かった、お前の意見に従おう、イライジャ、セシリアと援護を!!』

 

そう仰いながらも、劾さんはブルーフレームの左腕に装備されていたハンドガンをこちらに投げ渡してくださいました。

 

タクティカルアームズは大型のバスターソードであり、片手では少々扱いきれない装備でもあります、だからこそ、ご自身が勝負を決める心積もりだからこそ、私達に牽制を任せて下さるのでしょう。

 

『了解だ!遅れるなよセシリア!!』

 

「承知しましたわ!!」

 

劾さんとイライジャさんの言葉に返答しつつ、私はデュエルのスラスターを吹かし、イライジャさんと共に牽制に専念致します。

 

当然の事ですが、アルミューレ・リュミエールの前ではハンドガン程度の射撃やマシンガン程度の威力の射撃は跳ね返されてしまう事がオチです。

 

しかし、今の私達には勝機があります、劾さんの攻撃が中ればこの戦闘は私達の勝利です!

 

ですが、ハイぺリオンから発射される弾幕は厚く、劾さんですら取り付く事が中々出来ないようです。

 

「(このままではこちらが不利ですわね・・・!せめて、せめて隙を作れれば・・・!)」

 

しかし、今のデュエルの状態と装備、そして私の腕では返り討ちが関の山、こうして援護するだけでも精一杯です。

 

何か囮に出来る様な物があれば・・・!!

 

そう思った矢先、ハイぺリオンが移動する先に、劾さんが排除したと思しきスナイパーパックの存在が見えました。

 

「・・・!!」

 

これは使えますわね、装備を壊す事になりますが、此処を切り抜けるには致し方ありません、怒れれたら素直に謝りましょう。

 

「劾さん!!」

 

ブルーフレームに向けて叫びながらも、タイミングを見計らって弾丸を発射、スナイパーパックに直撃させます。

 

劾さんほどの手練れならば、これがどんな意味を持つのかなど、直ぐに見抜いて下さる筈です。

 

直後にパックはエネルギータンクが誘爆したのか、盛大に爆ぜ、接近していたハイぺリオンを巻き込みます。

 

尤も、この程度の爆発ではあのシールドは破る事が出来ないと分かり切っています、本当の目的は・・・!

 

爆煙がハイぺリオンの視界を塞ぐ、これこそが私達の策ですわ!!

 

爆煙を突き破る様にして、タクティカルアームズを腰溜めにしたブルーフレームが飛び出し、完全に虚を突かれたハイぺリオンに横薙ぎの一閃を繰り出しました。

 

それは一瞬だけアルミューレ・リュミエールと拮抗するかの様に閃光を散らしましたが、すぐに突破し、本体に迫って行きます。

 

「やった!!」

 

劾さんの勝利を疑わなかった私は、次の瞬間に起こった事に我が目を疑いました。

 

ハイぺリオンは機体がひっくり返る事も厭わずスラスターを全開にし斬撃を回避しました。

 

とは言え、直前にまで迫っていたモノを完全に回避する事は出来なかった様で、シールドの発生基の一部を破壊されていました。

 

「劾さん!離れて下さい!!」

 

攻撃を、それも大剣の一撃を繰り出した後となると、そこに生じる隙はあまりにも大きい。

 

そこを狙われでもしたら流石の劾さんも避ける事は出来ないでしょう、だからこそ、そこをやらせない事が私の使命なのですがね。

 

体勢を崩しているハイぺリオン目掛けてハンドガンを撃ちかけますが、あちらもやられるつもりなど無いらしく、左腕に展開したシールドで防ぎきってしまいました。

 

くっ・・・、相当の手練れが乗っている様ですわね・・・!

これは、面倒ですわね・・・!!

 

ですが、その間に劾さんは体勢を立て直し、ハイぺリオンから距離を置いた様でした。

 

『イライジャ、セシリア、潮時だ、撤退するぞ。』

 

『わ、分かった・・・!!』

 

撤退と言う事は、もう戦う必要が無いという事ですわね、私も命は惜しい物ですので、潔く撤退させて頂きましょうか。

 

「分かりました!」

 

ブルーフレームとイライジャさんのジンに続いて、私はデュエルを駆り、輸送船へ向けて撤退いたします。

 

エネルギーが少なくなったのか、ハイぺリオンはアルミューレ・リュミエールを消し、私達とは別方向へと去って行くのが、機体のズーム機能を使用する事ではっきりと確認できました。

 

それを認めた後、私は大きく息を吐きながらも、ヘルメットを脱ぎ捨てました。

 

慣れているとは言えど、少々暑苦しいですしね。

 

『セシリア、お前のお陰で助かった、ありがとう。』

 

『助かったぜ、ありがとなセシリア。』

 

そんな時、劾さんとイライジャさんが通信を開き、私に礼を下さいました。

 

「いえいえ、御二人が御無事で何よりですわ、それに、少しは御役に立てまして光栄ですの。』

 

この命を救って頂いた方々を護れたのです、それ以上に喜ばしい事など今はありませんわね。

 

『お帰りなさい、こっちは無事よ。』

 

輸送船に近づいて行くと、ロレッタさんからの通信が私達の機体に届きます。

 

あの後、他の敵勢は来なかった様で、戦闘宙域から無事逃れられた様ですわね。

 

『しかし、お前さんらが苦戦するたぁ、相当厄介な相手だったんだな。』

 

『あぁ、セシリアがいなければ危なかった、乗っているパイロットも、俺の様なコーディネィターだろう。』

 

やはりコーディネィターがパイロットでしたか、ナチュラルがあそこまでの操縦を出来るとは思えませんでしたし、予想通りというわけですわね。

 

『黒幕は恐らく、ユーラシア連邦だろう。』

 

『そうか!あれはアルテミスの傘!!』

 

『あぁ、対処法は解った、次に戦う時は負けない。』

 

劾さんとイライジャさんが何かを思い出すように話していらっしゃるのを聞きながらも、私はパイロットスーツの胸元を開け、息苦しさを解消しました。

 

あぁ、汗が凄い事になってますわね・・・、シャワーを浴びたいものですわ。

 

『Nジャマーキャンセラーを狙っていなかったとはいえど、ザフト側も動き出す頃合いだ、事は一刻を争う、か・・・、風花、セシリア、お前達に動いてもらう時が来たようだ。』

 

どうやら一息吐く暇も無い様ですわね、劾さんの言葉通りならば、近い内にザフトだけではなく連合もNジャマ―キャンセラーの存在に気が付く事でしょう。

 

そうなれば事態は大きく揺れ動く、その前にジャンク屋の方々と接触しておきたいのでしょうか。

 

『分かった、準備するね。』

 

風花さんを護衛する事が私に課せられている任務である以上は、すぐにでも動く必要がありますわね。

 

とは言え、今の状態のデュエルでは戦闘もまともに出来ませんわね、そこはしっかりと整備しておかなければ・・・。

 

「劾さん、今のデュエルでは少しまずいのですは・・・?エネルギーの問題もありますし・・・。」

 

『そうだな、エネルギーはここで補給しておいた方が良いな、機体の整備はロウの方が優れている、あっちに行ってからでも遅くはないだろう。』

 

なるほど、修理はロウと呼ばれていらっしゃる方にお任せすれば良いという事ですか。

 

嘗ての世界で面識があったかは憶えておりませんが、劾さんが信頼なされている方ならば問題はないのでしょう。

 

「畏まりました、風花さんの準備が出来次第、護衛ミッションに当たりますわ。」

 

輸送船の格納庫に機体を入れ、機体バッテリーの充電と推進剤の補給を行います。

 

あまり派手に動いてはいないものの、PS装甲機はエネルギーの消費が大きい訳ですし、こういった補給はとても大切ですからね。

 

出撃も近い事ですし、このまま備えると致しましょうか。

 

あぁ、でも、やはり汗ばんだままはレディとして少しあれですわね・・・・。

 

sideout

 

noside

 

「くそっ・・・!この俺のハイぺリオンによくもこんな傷をっ・・・!!」

 

サーペント・テールを襲撃した機体、ハイぺリオンのコックピットで、この機体のメインパイロットであるカナード・パルス特務兵は苛立たしげにヘルメットを脱ぎ捨てた。

 

先程の戦闘、彼は機体の性能と自身の技量を以て、先に出てきたガンダムタイプとジンのカスタム機を終始圧倒していた。

 

彼の見立てでは、アルミューレ・リュミエールを完全展開していれば、相手は攻撃の手立てが無く、なぶり殺しにするなりなんなり出来た筈だった。

 

ところが、蓋を開けてみればどうした、敵に損失らしきものは見当たらず、こちらはアルミューレ・リュミエール発生基部の一部を破壊され、エネルギーも殆ど枯渇させてしまった、実質上の敗走ではないか。

 

「あの機体はザフトに奪われたガンダム・・・!それが何故あんな所にいた・・・!?」

 

彼は自身の記憶から、途中より介入してきたMSの名称を探り当てた。

 

デュエル、連合が最初期に開発した試作型MSの内の一機であり、ザフトに鹵獲された機体でもある。

 

しかし、彼が襲撃した輸送船は民間、若しくは傭兵のものだった、軍用の物では勿論ない。

 

だが、そんな事は彼にとっては至極どうでも良い事だった。

 

自分の機体に、そして彼自身のプライドに傷を付けた二機の青いガンダム、それだけが重要だった。

 

「青いガンダム共め・・・、次こそは必ず墜としてやる!!」

 

初めて討ち漏らした敵に歯噛みし、彼は次回の必殺を誓いながらも、特務隊Ⅹの母艦オルテュギアへの帰還ルートを急いだ。

 

『カナード特務兵、こちらオルテュギア。』

 

そんな彼に母艦にいる副官、メリオル・ピスティスからの通信が届く。

 

「なんだ!?今そっちに戻る途中だ、話なら後にしろ!!」

 

敗走中の彼はナーバスになっており、彼女からの通信に若干の苛立ちを見せながらも叫んだ。

 

妙なとばっちりを食らった形になったメリオルだが、少しの動揺も見せずに言葉を続けた。

 

『了解しました、戻られてから詳しくお話し致しますが、ガンダムに関する情報が入りました。』

 

「なんだと?キラ・ヤマトのガンダムか!?」

 

彼女が発した単語に彼の眼は大きく見開かれた。

 

長年探し求め、今に至るまで発見する事が叶っていない標的が見つかったかもしれない事に、ある種の高揚を隠せないのだろう。

 

『詳細は後程、御早い帰還をお待ちしています。』

 

答えをはぐらかす様に通信が切られるが、カナードは口元を三日月形に吊り上げていた。

 

漸くこの機会が訪れた、自分の存在意義を確立するための絶好の機会が。

 

「遂に・・・、遂にキラと・・・、本物のスーパーコーディネィターに会える・・・!クックックッ・・・、待っていろキラ・ヤマト・・・、お前は俺がこの手で・・・ッ!!」

 

狂喜に満ち溢れた禍々しい哄笑が、ハイぺリオンのコックピットに木霊する。

 

執念、否、ある種の怨念を抱えながらも、ハイぺリオンは大宇宙の闇を突き進む。

 

暗闇が待ち受ける未来へと・・・。

 

sideout

 




時代が激しく唸りをあげる中でも、彼等は今だ動こうとはしなかった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

PAST

お楽しみに。


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PAST

side一夏

 

ここは・・・、何処だ・・・?

 

何も無い、ただ漆黒が支配する空間に、俺はただ独りで立っていた。

 

光も音もなく、無音の世界が広がっているのみで、他には何も見当たらなかった。

 

いつぞやの狭間の世界でもなければ宇宙空間でもない。

 

周囲を見渡してみるが、相変わらず漆黒の空間が続いているだけだった。

 

そんな時だった、突然足場が沈む様な感覚を覚える。

 

何事かと思い、自分の足元に目を向けると、血の色をした泥が俺の身体を飲み込もうとしていた。

 

「・・・っ!!」

 

なんなんだこれは・・・!?

 

抜け出そうと必死にもがくが、まるで身体を何かに掴まれている様で一向に抜ける気配もない、

いや、もがけばもがくほどに俺を捕える力が強まっている様な感覚を覚える。

 

その正体を探ろうと目を凝らすと、足元の泥から何本もの手が俺に向かって伸びてくるのが見える。

 

「ぅっ・・・!!」

 

それだけならよかった、俺にはそれが、誰の物であるのかまで判ってしまう。

 

『織斑一夏・・・!!貴様は私の誇りを踏みにじった・・・!!』

 

『貴様が・・・!!貴様のせいで・・・!!』

 

『お前のせいで私は・・・!!』

 

そうだ・・・、この手は、俺がこれまで殺して来た奴等のものだ・・・。

 

ひとつひとつの手にそれぞれ違った、だが内容はすべて俺への怨嗟、憎悪が込められていることが、俺を押しつぶす様に迫ってきている事ではっきりとわかる。

 

逃れられない過去が、俺の身体を絡め捕ろうとしているのだろう。

 

だが、呑まれてやるわけにもいかない、まだ何も終わらせてねぇんだからな!!

 

『どうしてなのですか・・・?』

 

『どうして僕達まで・・・?』

 

そう思った時、俺は全身の血の気が一気に引いていく様な感覚を覚える。

 

今まで聞こえていたどんな怨嗟の声よりも、ずっと恨みが籠っている。

 

いや、そんな事よりも、この感覚は・・・!!

 

「セシリア・・・!!シャル・・・!!」

 

『どうして私達まで殺したのですか?』

 

『僕達はまだ生きたかったのに・・・。』

 

セシリアとシャルの身体が泥の中から浮かび上がり、俺にしがみついて引きずり込もうと力を込めてくる。

 

表情は窺えなかったが、声の調子から俺への怨みで染まりきっている事は明白だ。

 

「俺は、そんな・・・!!」

 

そんなつもりはなかったと言い切る前に、俺の顔まで伸びてきた手に掴まれた。

 

『カエセ・・・、カエセ・・・!!』

 

その言葉を聞いたと同時に、どんどん身体が沈み、ついには首元まで沈んでしまう。

 

やめろ・・・!!やめてくれ・・・!!

俺は・・・、俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

頭まで飲み込まれた直後、俺の目の前は真っ暗になった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

絶叫と共に跳ね起きた一夏は、恐怖に目を見開き、荒い息を吐いていた。

 

少し落ち着いた彼は、恐怖に震える身体を抱きすくめたまま辺りの様子を見渡す。

 

そこは明かりが付いていないために薄暗いが、間違いなく、彼に与えられた部屋であった。

 

「夢、か・・・、いや、現実か・・・。」

 

それを認めた彼は、自身を落ち着けるかの様に大きく息を吐き、

ベッドの傍に置いていたテーブルの上にあったドリンクボトルを手に取り、頭から水を被る。

 

「(俺は・・・、どうしてあんな事をしたんだろうな・・・。)」

 

水を浴び、髪に付いた水滴を払う様に頭を振りながらも、彼は嘗ての自分に思いを馳せる。

 

嘗ての彼は、彼を転生させた者の依頼とはいえ、残虐の限りを尽くし、敵はおろか、自身の姉まで手に掛け、彼を愛した者達すらも利用していた様なものだった。

 

先程の夢の様に、誰に恨まれていてもおかしくはないのだと、彼は冷めた思考で振り返っていた。

 

「愛していると言っておいて・・・、道連れにする様な事をしておいて・・・、結局二人だけ死なせちまったんだ・・・、恨まれても・・・、憎まれても当たり前だ・・・、いや、呪い殺されても文句は言えないよな・・・。」

 

彼は自嘲気味に呟いた後、僅かだが寂しげに笑った・・・。

 

それはまるで、自分の大切なモノが粉々に砕け散り、手から零れ落ちていく事を嘆いている様に・・・。

 

大きくため息を吐いた後、彼はベッドから降り、

寝間着から普段着用している制服に袖を通し、自室からどこかへと出向いて行った。

 

sideout

 

noside

 

アメノミハシラ、地球の低軌道上に存在する宇宙要塞であり、

オーブ五大氏族、サハク家出身のロンド・ミナ・サハクが所有する、謂わば城の様な場所でもあった。

 

軍需産業にも引けを取らぬほどのファクトリー、

そして、今はそれ程強力ではないながらも、決して軽んじる事の出来ない戦力を有しており、来たるべき戦いの時に備え、目立った行動を起こすことなく息を潜めていた。

 

そのファクトリーの一角、ガンダムタイプの機体が置かれている区画の、さらにその一角、ストライクの前にて、黒髪長身の青年と、数名のメカニック達が端末を見ながら何やら言葉を交わしていた。

 

「装甲の電圧はどうすんだ?初心者用に高めに設定しとくか?」

 

「いえ、機動力にエネルギーを割きたいので、装甲の電圧は極力抑えてください。」

 

「分かった、関節部のチェックしとくぞ。」

 

メカニック達の中でも年長者であるジャック・ウェイドマンの指示に、彼等の周りに控えていたメカニック達は深く頷き、蟻が獲物に群がるようにストライクに取りついた。

 

「それにしても、此処のメカニックは勢いが違いますね、他の現場を見たことがありますが、それ以上だ。」

 

ジャックの隣に立つ青年、織斑一夏はその様子に感心したかの様に呟いていた。

 

今回の起動試験の為の整備には、彼の操縦の癖を知るジャックの監修の下、彼の意見を取り入れる為の集いが持たれていたのだ。

 

「そうだろう?オノゴロのモルゲンレーテにも負けてないさ、ミナ様のお力と、俺達の努力が有ってこそだよ。」

 

「でしょうね、だからこそ、俺も信頼して機体を任せられるというものです、これからロンド・ミナの所に行くので、後はお任せします。」

 

「分かったぜ、完璧に仕上げといてやるよ。」

 

ジャックの言葉に同意する様に答えた後、一夏は彼に行先を先を告げ去って行った。

 

sideout

 

side一夏

 

ウェイドマン整備士長にストライクの整備を頼んだ後、

俺は主であるロンド・ミナの下に足を向けた。

 

彼女の僕になってから既に一週間が過ぎているということもあり、ここのスタッフ達とは大体顔見知りになった。

 

要塞内部の構造も頭に叩き込んだし、近辺宙域の空図も覚えた、なんせ、MSに乗って訓練を行う以外、特にすることもないわけだ、暇を持て余していては、またあの二人の事を思い出してしまいそうになる。

 

忘れたくはない、だけど、その事を思い出す度に、

俺は彼女達に何もしてやれなかった事、死なせてしまった事への罪の意識に苦しめられ、孤独に苛まれてしまいそうになる。

 

だからこそ、覚える事を意図的に増やし、

敢えて思考が向かないようにする事しか、今の俺には出来なかったんだ・・・。

 

まぁ、その結果として様々な知識を吸収できたんだが、

やはり、それとこれとは話が別なんだけどな・・・。

 

そんな感傷に浸っている内に、俺はアメノミハシラの一室、つまりはロンド・ミナの私室へと辿り着いた。

 

流石にこの辺りに来れる人間はかなり限られているのか、人の気配はほとんどない。

 

迷ったら一大事になりそうだと、冗談交じりに思いつつ、

俺は彼女の部屋のインターホンを押した。

 

「ミナ、一夏だ、入っていいか?」

 

『待っていたぞ、入れ。』

 

彼女の返事と同時に扉が開かれ、俺は部屋の中に足を踏み入れた。

 

俺を迎え入れた部屋は、豪華絢爛と言うほどではないが、中世貴族の一室を思わせる様な造りになっており、

中でも圧巻なのが鏡に見せかけた大型のモニターであり、その装飾も相まって、ある種の荘厳さを醸し出していた。

 

「先程まで整備士達と話していたみたいだな?熱心な事だな。」

 

「あぁ、機体の出力と装甲の強度についてだ、やはり、

自分が使う機体なんだ、俺の癖を機体に反映させたくてな。」

 

彼女に勧められ、俺は彼女と向かい合う形で席に着き、

差し出されたワインに口を付ける。

 

葡萄の酸味とアルコールの香りが口の中に広がり、何とも言えぬ心地よい感覚を覚える。

 

「フッ、お前らしいな、だが、エースともなればそれぐらいの希望はあって当然だ。」

 

「まるで、俺の事を何でも知っている様な言い方だな、それに、俺はまだまだ駆け出しだ、エースなんていう大層な者じゃない。」

 

「謙遜しすぎだ、過ぎた謙虚は己の力量を過小評価することになる。」

 

俺の話をどこか愉しげに聞きつつ、彼女はコンソールパネルを操作し、モニターにある映像を映し出した。

 

そこにはハンガーに固定され、修復作業を受けている金色のフレームを持った機体、ゴールドフレーム天の姿があった。

 

戦闘で受けたと聞いた傷も既に修復され、ほぼ新造時に近い形で佇むその姿は、天空に佇む者としての威厳に満ち満ちていた。

 

これを見せるということは、俺を呼び出した理由は一つに絞られる。

 

「天の修復はほぼ完了したという報告を受けている、お前のストライクの整備が終わり次第、模擬戦を行いたい。」

 

やはりな、俺が聞く限り、ゴールドフレームはロンド・ギナがメインパイロットだった事もあり、彼女自身はあの機体に乗ったことが無い。

 

だからこそ、ストライクに今だ搭乗していない俺を、模擬戦の相手に誘ったというわけだ。

 

「なるほど、機体の調子を確かめるつもりか。」

 

「そうだ、お前にとっても良い訓練になることだ、悪くはないだろう?」

 

ごもっともだな、ロンド・ミナに相手してもらったのは最初の一回だけだった。

 

それ以降、俺は暇があればM1Aやロングダガ―を借り受け、大気圏に落ちないように気を付けながら機体を動かし、独りで訓練に精を出していた。

 

つまり、彼女は知りたがっているのだろう、

俺の今現在の実力を、そして自分がこれから使うことになる機体の事を。

 

「悪くない、寧ろ好都合だ、是非とも頼む。」

 

「良いだろう、明朝より試験稼働を開始する、それまで十分に休んでおけ。」

 

「分かった、ミナ、アンタも休めよ、コーディネィターとは言え、俺達は人間だ、身体が万全でないとまともに動けんからな。」

 

余計なお世話だとでも言いたげなミナの様子に苦笑しつつ、俺は席を立ち、部屋から退室した。

 

さて、俺は何処まで戦えるか、

もう一度確認できる絶好の機会だ、逃す手は無い。

 

I.W.S.P.の調整も完了したとウェイドマン整備士長に聞いたし、ストライクのOSは完璧なまでに俺に追従出来るレベルに設定しておいた。

 

俺がやるべき事はもう無いに等しい、

とは言え、最終調整でもしておくとするか。

 

どうせ、眠っても悪夢に魘されるだけだからな・・・。

 

「俺は・・・、やはり弱い、な・・・。」

 

偽りの仮面を被り、人としての感情を捨てた人形として生きていた時は、こんな気持ちにはならなかった。

 

それは、俺が受け入れきれない事実から逃げていた証なんだと思う・・・。

 

罪悪感から逃れるために、自分を使命と言う鎖で縛りつけていたに過ぎないのだ。

 

「俺は何がしたかったんだろうな・・・。」

 

分からない・・・、俺は何の為に戦ったのか、

何のためにこれから戦うのか・・・。

 

このまま進めば答えは出るのか?

本当にそれで良いのか・・・?

 

いくら悩んでも、今の俺には、その答えすら出せそうにもなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

翌日、アメノミハシラの格納庫の一角にて、

ダークグレーの機体と、漆黒の機体が出撃準備を行っていた。

 

「ミナ様、出撃準備完了しました。」

 

「ご苦労だった、出撃するぞ。」

 

漆黒の機体、ゴールドフレーム天のパイロット、ロンド・ミナ・サハクは、自身の反応にOSを適応させるべく、キーボードを叩き、数値を入力していく。

 

今回がゴールドフレーム初搭乗の彼女は、

この戦いに万全の状態で臨むべく、入念な微調整を行っているのだ。

 

「一夏!何時でも行けるぜ!」

 

「ありがとうございます、出撃します。」

 

ジャックの言葉に礼を交えて返しつつ、ダークグレーの機体、ストライクに乗り込んだ一夏は、

コックピットハッチを閉じながらも、凄まじい勢いでキーボードを叩き、OSの再調整を行っていた。

 

彼もロンド・ミナと同じく、ストライクで出撃するのは今回が初めてであり、

気合十分と言わんばかりの様子であった。

 

「待たせてしまったな、ストライク、もう一度宙を駆けるぞ、昔みたいにな。」

 

嘗ての相棒と再び宙を駆ける事が出来るという高揚が、自然と彼の表情と緊張を綻ばせていく。

 

『楽しそうにしているな、それほどX105に愛着があるのか?』

 

ストライクと天の間でチャンネルを開いていたため、ロンド・ミナは彼に対し尋ねていた。

 

「まぁな、コイツとは幾度となく共に戦ってきたからな。」

 

それほどまでに自分の表情に出ていたかと思いつつも、彼は彼女に返した。

 

だが、彼にとってストライクと言う機体はただの相棒と言うだけでなく、

最早半身と言っても良いほどの思い入れと、様々な思い出があるのだろう。

 

だからこそ、彼は一刻も早くストライクに乗る事を望み、

一心不乱とも呼べる姿勢でMS操縦技術を習得していったのだ。

 

「それに、天と戦えるんだ、楽しみじゃないわけないだろ。」

 

『私はどうでもいいという風に聞こえるぞ?』

 

意地悪く返すミナの言葉に、気のせいだと返しつつ、彼はヘルメットのバイザーを下した。

 

「さーてと、早く行こうぜ、ミナ。」

 

『うむ、先に行かせてもらうぞ。』

 

軽口を叩き合った後、ミナは先行して機体を動かし、カタパルトに機体を固定させる。

 

『進路クリアー、天、発進どうぞ!』

 

『了解した、ロンド・ミナ・サハク、ゴールドフレーム天、発進する。』

 

オペレートが聞こえた後、彼女は機体を駆って漆黒の宙へと飛び出していった。

 

「なんだよ、ミナもノリノリじゃねぇか、ま、俺も人の事は言えんな、

さーて、今から付き合ってもらうぜ、相棒。」

 

ミナが出撃していくのを見届けた彼は、口元に薄い笑みを浮かべながら操縦桿を操作し、

ストライクをカタパルトまで移動させた。

 

「(久しぶりだな、こうしてお前と宙を駆けるのもな・・・、

なんだよ、ちゃんと扱えるのかって?心配すんなって、壊さねぇ様に気を付けるからよ。)」

 

自身の心に語りかけてくるストライクに対し、彼は何処か軽妙に答えながらも、

共に宙を駆ける事が出来る喜びに打ち震えていた。

 

嘗て、異界の宙を共に駆けた関係、それがこの世界でも叶おうとしている事への歓喜だろう。

 

『進路クリアー、ストライク、発進どうぞ!!』

 

『了解!織斑一夏、ストライク+I. W. S. P.、出るぞ!!』

 

アナウンスと同時に、彼は機体のスラスターを吹かし、星の大海へと飛び出した・・・。

 

sideout

 




次回予告

ロンド・ミナ・サハクが掲げる世界支配の野望、それが行われるのは何時の日か・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

カウントダウン

お楽しみに。


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カウントダウン

side一夏

 

宇宙空間に飛び出した俺は、ロンド・ミナとの模擬戦を行う宙域まで機体を駆った。

 

流石はワンオフ機、量産機の比じゃないほどの推力を持っている、

だが、その分操縦は複雑化している上に、Ⅰ.W.S.P.を装備した弊害か、左後方へと重心が傾いてしまいそうになる。

 

くそっ!前の世界で使い慣れていただろうに、こうも勝手が違うか!!

 

『どうした?慣れたと聞いていたが?』

 

機体の姿勢制御に悪戦苦闘している最中、俺をからかう様なミナの声がスピーカーを通じて俺の耳に届く。

 

「そのつもりだったが、やはり簡単にはいかないみたいだぜ・・・!!」

 

何とか機体を安定させ、目の前の闇に眼を凝らすが、ゴールドフレームの姿は何処にも見当たらない。

 

レーダーや熱紋センサーをチェックしてみるが、反応は皆無・・・。

 

と言う事は、ゴールドフレーム天が装備している技術であるミラージュコロイドを展開しているという事か・・・!?

 

「っておい!いきなり隠れてんのかよ!?」

 

勘弁してくれ、二度目、それもストライクでの初出撃でいきなりミラージュコロイドで隠れる相手と戦えとか、ハンデありすぎだろうに!!

 

そう思っていると、漆黒の空間から突如としてビームが飛んで来た。

 

「うぉっ!?」

 

何とかコンバインシールドを掲げ、直撃だけは何とか防ぐが、相手が何処にいるのか分からないのでは反撃のしようがない。

 

「やべーぞおい・・・!これじゃぁ嬲り殺しがオチじゃねえか・・・!!」

 

周囲を警戒していると、今度はワイヤーアンカー〈マガノシラホコ〉がストライクに襲いくる。

 

咄嗟にビームライフルを捨て、機体を後退させるが、こうも立て続けに攻撃されては反撃すら出来やしない。

 

「おい!俺の訓練なら姿見せろよ!?」

 

叫びながらもガトリング砲を天がいるであろうと思われる場所に向けて発射すると、回避のためにスラスターを吹かしたであろう熱紋が確認できた。

 

「そこかっ!!」

 

咄嗟にレールガンをそのポイントに向けて発射し、同時にビームブーメランを投擲した。

 

『それでこそだ、隠れているわけにもいかぬな!』

 

ミラージュコロイドを解除した天はレールガンを回避しつつ、ビームブーメランを弾き飛ばし、こちらに向け突っ込んできた。

 

「白兵戦か!やってやるぜ!!」

 

右手に左脇から引き抜いた対艦刀を保持し、ミナの乗る天のトリケロス改と切り結ぶ。

 

パワーはこちらの方が上だが、ロンド・ミナの卓越した技量のせいか、こちらが押し込まれつつある感覚を覚えてしまう。

 

流石は俺の女王様だ、格が違いすぎるな・・・!!

 

『ふっ、なかなかの腕だな、前回よりも巧くなっているではないか、一体どんな鍛え方をしたのだ?』

 

「死に物狂いで覚えたまでさ!アンタの片腕になるに相応しい様にな!!」

 

スピーカーから耳に届く彼女の楽しげな声に返答しつつ、押してダメなら引いてみなの要領で彼女の機体から距離を置き、イーゲルシュテルンを牽制代わりに発射した。

 

『私の為にか?喜ばしい限りだ。』

 

俺の攻撃を軽やかなステップを踏むかの様に回避し、お返しとばかりに装備されている三発のランサーダートを全て撃ちかけてきた。

 

「こっちとしてはもう少し優しくしてほしいけどな!!」

 

避ければ確実にマガノシラホコがまた飛んでくるだろうし、此処は斬るしかないかね。

 

ミナも俺の対処に期待しているだろうし、やってやりますかね!!

 

「どっせぇぇいっ!!」

 

一発目を最小限の動きで回避しつつ、二発目の槍を半ばから断ち切る。

 

三発目は流石に避け切れる自信が無かったため、わざとコンバインシールドを貫かせ、シールドを捨てつつも彼女の機体に迫る。

 

『ほう、やるではないか!!』

 

「お褒めに預かり光栄ってね!!」

 

軽口を叩き合いながらも互いに向けて突き進み、機動力を以て死角からの攻撃を仕掛けるべく動き回る。

 

しかし、技量に大きな開きがあるせいかミナの動きは本気とは言い難く、どう見ても俺に合わせているとしか思えなかった。

 

嘗められているというよりは、俺のためにかなりの遠慮があるという事だろう。

 

まぁ、かと言って申し訳なさが無いわけではないが、胸を貸してもらっている以上は余計な事を考えずに戦わせてもらおうか!!

 

左側に武装が無いと言っても過言では無い天の左側に回り込みながらもレールガンを撃ちかけるが、彼女はそれを見越していたらしく、僅かに機体を後退させるだけで回避した。

 

『いい攻めだ、やはり、この機体の死角はこちらか。』

 

「そういう事だ、天には装備の追加が要りそうだな!」

 

彼女は仕返しとばかりにマガノシラホコを射出、推進器を使用せずに俺のストライクが移動しようとする方に的確に撃ち込んでくる。

 

『なに、この模擬戦のデータを見て考えさせて貰おうではないか。』

 

「俺なんかとの対戦がヒントになんのかい?」

 

『・・・、そうなってほしいものだ。』

 

嫌味にしか聞こえねーよ、ちょっと傷付いたわ、しかしまぁそれも致し方無しか、俺の技量は彼女には到底及ばない、本来ならば瞬殺されてもおかしくはない程の力量差だしな。

 

けどまぁ、このまま良いとこ見せずに終わるのもあれだな・・・。

 

「(だからよ、力貸してくれ、相棒!!)」

 

俺とお前の付き合いはあちらさんよりも圧倒的に長いだろ?

 

なら、見せ付けてやろうぜ、俺達の力をな!!

 

機体のスラスターを吹かし、天の左側に移動しながらも距離を詰めていく。

 

『またこちら側から攻めるか、お前ほどのパイロットが通じなかった手をもう一度使うのか?』

 

ロンド・ミナの呆れた様な声が俺の耳を打つが、そんな事は気にしていられない、今は狙うべきモノが見えているモノでね!!

 

『もう少し頭を使うかと思っていたが、私の見込み違いか、一夏!!』

 

期待を裏切られたと思ったのだろう、彼女は天のスラスターを吹かし、トリケロス改を腰だめに構えつつもこちらに突っ込んでくる。

 

「こっちのセリフだっての、臣下の考えも探らずに突っ込んで来てくれるなんてな!!」

 

横薙ぎされるトリケロス改を急制動をかけ、機体を沈める事で回避しながらも、技を発った直後の天に対艦刀の一閃を叩きこむべく操縦桿を押し込んだ。

 

『ちぃっ!!』

 

露骨に分かる様な舌打ちをしながらも、彼女はストライクのボディに蹴りを叩きこむ。

 

「がはっ・・・!まだだっ!!」

 

攻撃の最中だったため、キャンセルが利かなかった俺は大きく吹き飛ばされるが、左手に保持していた対艦刀を天に向けて投擲した。

 

『なんだとぉっ!?』

 

追撃を仕掛けようとしたミナは虚を突かれた為に回避しきれず、左脚部に直撃を許し、推進剤の誘爆を引き起こしていた。

 

よっしゃ!!一矢報いたぜ!!・・・、って、そうじゃねぇよ!!

 

なんで機体まで壊してんだ俺は!?今回は模擬戦だろうに!!

 

「ミナ!!すまない、大丈夫か!?」

 

慌ててストライクの体勢を立て直し、天の傍まで機体を駆った。

 

機体の姿は爆煙に包まれている為に見えなかったが、俺の背中には嫌な汗が流れ落ちていた。

 

しかし、一向に返事が返ってくる気配は無い。

 

バイタルエリアには当たっていないはずだが、万が一という事も当然ありうる・・・。

 

そう思った時だった、突然機体に衝撃が走り、俺は前のめりになってしまう。

 

「なんだっ!?」

 

何とか堪えながらも背後を振り返ると、そこにはミラージュコロイドを解除しながらも、マガノイクタチでストライクの機体を捕らえる天の姿があった。

 

まさか・・・!爆煙に紛れてストライクの背後に回ったのかっ!?

 

『油断だな、トドメを刺すなり何なりしておくべきだったな?』

 

「ちっ・・・!こいつは一本取られたぜ・・・!!」

 

そんな事を言っている間にも、既に半分を切っていたストライクのエネルギーはみるみる減少して行き、ついには底を尽きた。

 

PS装甲がダウンし、俺の敗北で模擬戦の幕は閉じた・・・。

 

「くそっ・・・!結局良い所無しかよ・・・。」

 

今回は良い線行ったと思ったんだけどな・・・、俺もまだまだ未熟者ってか・・・。

 

『いや、まさかこの私が被弾するとは思っても見なかった、どうやら、お前を過小評価していたようだ、すまぬ。』

 

「なんでミナが謝んだよ、天を傷付けちまった俺が謝るべきだろ・・・?」

 

折角修理したゴールドフレームにまたしても大きな傷を負わせてしまったんだ、ミナは兎も角、整備士の皆にどやされそうだな・・・。

 

『臣下の事を信じてやれぬのは王として失格ではないか、お前も、そしてオーブの民達も私は信じている。』

 

へっ・・・、ありがたいお言葉だ、こんな俺を信じてくれるとはね・・・。

 

ならば、俺もそれなりの態度は示さなければウソになるな。

 

「なら、俺もアンタを裏切らないと誓おう、その信に応え続ける事もな?」

 

『その心意気、嬉しい限りだ、頼りにしているぞ、一夏。』

 

俺の言葉に答えつつ、彼女はエネルギーが切れたストライクを掴み、アメノミハシラへと戻って行く。

 

俺はヘルメットを脱ぎ、熱を逃がすために首元をはだけさせた。

 

これでちょっとは暑苦しさもマシだろうが、やはり快適とは言い難かった。

 

「(わりぃなストライク、勝てなかったぜ・・・、なに、お前のせいじゃないさ、俺ももっと巧くなんねぇとな?その為にも、これから先もまだまだ付き合ってもらうぜ。)」

 

心の中でストライクに語りかけながらも、俺は少しだけ満ち足りた様な感覚を味わう。

 

嘗ての相棒と共に戦える、それだけでも俺には生きている意味が残されている様な気がするよ・・・。

 

ま、漸く人形から人間に戻れたんだ、気長にゆっくりやって行くとするかね・・・?

 

sideout

 

noside

 

「一夏様、いらっしゃいますか?」

 

アメノミハシラに仕える三人のソキウスの内の一人、フォーソキウスは、ある所用の為に主に近い存在である織斑一夏の部屋を訪ねていた。

 

既に模擬戦から二時間が経過しており、あまり休まない一夏でもシャワーがてら部屋に戻っているだろうと推測した彼は、無暗に探し回るよりも最短ルートで彼の部屋を目指したのだ。

 

まぁ、いなくとも館内放送なりなんなりで呼び出せば良いのだろうが、ソキウス達は何故か自分達で出向く事が多いのだ。

 

それはさておき、呼びかけと同時に扉が開き、尋ね人である一夏が姿を現した。

 

「どうしたんだソキウス、俺に何か用か?」

 

シャワーでも浴びていたのだろう、髪はまだ少し湿っており、服の襟元も大きくはだけていた。

 

「御休み中申し訳ありません、ロンド・ミナ様が御呼びです。」

 

「ミナが?一体何の用事だ?さっきこっぴどくウェイドマン整備士長に怒られたばかりなんだが・・・。」

 

彼の言葉に、一夏は少々苦い表情を浮かべながらもぼやいていた。

 

模擬戦終了後、彼はジャックと天の整備を担当していた整備士達に詰め寄られ、折角直した機体に何してんだ的な流れで説教を受けていたのだ。

 

三十分ほど怒られた後、見かねたロンド・ミナが天の強化改修を行う旨を伝え、それに整備士達が乗り気になったために漸く解放されたのだった。

 

それを思い出した彼は、頭痛でもするのだろうか、頭を抱えていたが、ソキウスにとってはどうでも良いことこの上ないので適当にあしらう事にしたようだ。

 

「それはロンド・ミナ様にお尋ねください、私は情報をお持ちする際に貴方をお連れする様に命ぜられただけですので。」

 

「あー、了解だ、何かあるのかもしれないし、行くとするか。」

 

「はい。」

 

フォーソキウスに急かされていると感じたのだろうか、一夏は苦笑の度合いをより深くし、襟元を正して、部屋から出、通路を歩き始めた。

 

彼に倣い、ソキウスも彼の後を歩き始めるのであった。

 

「なぁソキウス、一つ尋ねていいか?」

 

「なんでしょう?」

 

その道すがら、一夏からの唐突な質問があり、フォーソキウスは訝し気に彼の言葉を待った。

 

「ロンド・ミナの事、お前はどう思っているんだ?」

 

「質問の意味がよく分からないのですが、どういう意味ですか?」

 

「大した意味は無いさ、お前は何を思ってミナに仕えているんだ?その理由を知りたくてな?」

 

自分の質問に質問で返されるが、彼はそれすらも予想済みだったようで、更に深く尋ねていた。

 

「私はロンド・ミナ様にお仕えするのみです、それだけです。」

 

「そうかい、なら質問を変えよう、ロンド・ミナがやろうとしてる事、それについてどう思うんだ?」

 

事務的、機械的とも取れるソキウスの答えに苦笑しながらも、一夏は質問を続けた。

 

ミナをどう思うかではなく、彼女がやろうとしてる事についてはどう思うか。

 

彼なりの興味も含んでいるが、それは心を壊されているフォーソキウスに対しての探りに他ならない。

 

心を壊されているが故に、人形の様に諾々と従い続ける事を不憫に思っているのだろうか、それとも・・・?

 

「・・・。」

 

ソキウスはその問いに答える事は無かった、いや、答えられないと言うべきだろうか・・・。

 

彼等は考える事をしなかった、ただ直感で感じた事をそのまま抱え込んでいるだけなのだから。

 

「答えられない、よな・・・?すまなかったな、余計な事を聞いてしまったな。」

 

案の定の答えが返ってきた事に対して申し訳なく思ったのか、一夏はソキウスに対して謝りながらもミナの下へ向かう足を速めた。

 

それを見るソキウスの瞳には彼の後ろ姿が映ってはいるが、その瞳に映るものは何なのかまでは、一夏にも、そしてソキウス自身にも分からないままであったが・・・。

 

そこから彼等の間に会話は無く、気まずい雰囲気が漂う中、漸く彼等の主、ロンド・ミナの自室に辿り着いた。

 

「ミナ様、一夏様をお連れ致しました。」

 

『ご苦労だった、入れ。』

 

フォーソキウスはインターホン越しにミナに呼び掛け、彼女の返答と同時に扉を開き、一夏と連れ立って部屋の中に入って行った。

 

部屋の奥に置かれていたソファーに腰掛け、モニターに映し出された宇宙空間を眺めているミナは、二人が入ってきた事を確認し、彼等の方へと向き直った。

 

「何の用事だよミナ、天の強化改修案なら整備士達とやったらどうだ?アンタが直々に見ている方が彼等もやる気が起きるだろうに?」

 

「それもそうだが、別件だ、お前も世界情勢ぐらい見ておいて損はあるまい?」

 

少しは休ませてくれとでも言いたげな一夏に苦笑しながらも、彼女はソキウスから手渡された情報端末に目を通した。

 

「それはなんだ?」

 

「付き合いのある情報屋から買い取った情報だ、実に面白い内容だ、お前も見るがよい。」

 

尋ねてくる彼に対して端末を手渡しつつ、彼女はソキウスを傍に寄せ、何処か楽しげに笑っていた。

 

「ほう?CAT-X1/3 ハイぺリオン、遂にユーラシア連邦も独自にMSを造ったと言うわけか。」

 

「そうだ、ユーラシアも牙を持ったという事は、ザフトとの戦争も終結に近いと言う事だ、ザフトは強力だが所詮は小国、戦争においてモノを言うのは何と言っても国力だ、連合の勝利は揺るぎ無いと見て良いだろう。」

 

一夏の言葉に頷きながらも彼女はソファーから立ち、彼を抱き寄せる様に耳元で会話を続ける。

 

「だが、地球連合が戦争に勝利したとしても戦争は終わらぬ、奴等は一枚岩ではない、だからこそユーラシアは力を持ったのだ。」

 

「で、そこに俺達、真のオーブが付け入る事が出来る、だろ?」

 

「そうだ、我等はまだ戦う必要は無い、奴等が傷付け合うのを見ていればよい。」

 

彼から離れたミナは、モニターに何かの設計図を映し出した。

 

ゴールドフレーム天に見えるが、脚部や腰回りがマイナーチェンジされており、更に威厳に満ち溢れる姿になっている。

 

「そして時が満ちたら立ち上がり、真のオーブの力を世界に示すのだ!!」

 

誰に宣言するでもなく、彼女は両腕を広げながらも叫んだ。

 

それを見るソキウスは無表情ながらも、何処か悲しげな表情を見せていた。

 

主が進む道に思う事があるのか、それとも別の何かか・・・。

 

「御意、ロンド・ミナ・サハク様の御為に、我等の力、示そう。」

 

そんな彼の心情を知ってか知らずか、一夏は何処か愉悦に歪んでいる様にも見える笑みを浮かべ、膝を突きながらも頭を垂れた。

 

その姿はまるで、女王に忠誠を誓う騎士の様でもあった。

 

ソキウスは相も変わらずの無表情で彼等を見ていた。

 

「頼りにしているぞ、一夏、ソキウス。」

 

「承知した。」

 

「はい、ロンド様。」

 

それに満足しているのだろうか、ミナは彼等に声をかけ、彼等はそれに答えていた。

 

ナチュラルとコーディネィター、互いが互いに憎みあう世界の中において、その概念を超越した者の企み、世界を飲み込む野望は静かに、それでも確実に進行していたのであった・・・。

 

sideout




次回予告

今は無き愛しき者、今在る仲間、二つの温もりと絆が心を震わせる。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

仲間と友と

お楽しみに。


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仲間と友と

noside

 

L1宙域を航行するサーペント・テール所有の輸送船の格納庫にて、デュエルと小型艇の発進準備が進められていた。

 

既にジャンク屋組合を通じ、ロウ・ギュール一行への連絡は済んでおり、後は時間通り合流ポイントまで辿り着くのみだった。

 

「頼んだぞ、風花、ロウ達によろしく伝えておいてくれ、ミッションの終了は俺が伝えに行く。」

 

「うん、わかってるよ劾、アタシに任せて!」

 

茶髪の少女、風花・アジャーは自身の目の前に立つ男性、叢雲 劾の言葉に力強く頷いていた。

 

自分でも何か役に立てる事がある、サーペント・テールの一員としてのプライドを持っている彼女としては頼りにされている事が非常に喜ばしい事なのだろう。

 

「セシリア、風花をお願いね、勿論、貴女も気を付けるのよ?」

 

「はい、風花さんと二人で必ず戻ってまいりますわ。」

 

その傍らでは、ロレッタが自分の娘を預ける事になるセシリアに対して声をかけていた。

 

自分の娘を心配するのは親としては当然の心境であると言えるだろうが、その言葉はセシリアにも向けられていた。

 

それを察したセシリアは微笑みながらも頷き、必ず戻ってくる事を約束するかの様に話していた。

 

「じゃあ、行ってくるね!」

 

「あっ、風花、セシリアに迷惑掛けるんじゃないわよ~?」

 

「そんな事しないもん!もうっ!!」

 

もう行くと言う風花に対し、ロレッタはからかう様に声をかけ、それにむっとしたのか、風花はほんの少しだけ声を張った。

 

それを微笑ましく思いながらも、セシリアは自分も機体を発進させようとデュエルのコックピットまで移動しようと身体を宙に浮かせた。

 

「セシリア、俺からも頼んだ、お前も風花も無事に帰って来てくれると信じている。」

 

「はい、劾さんもお気をつけて、行って参りますわ。」

 

自分に向けて投げかけられた言葉に返答しつつも、彼女はコックピットに滑り込み、機体を立ち上げていく。

 

そんな彼女に、小型艇に乗り込んだ風花からの通信が入る。

 

『セシリア、こっちはいつでも行けるよ!』

 

「畏まりましたわ、私が先に出ますので、少しだけお待ちくださいね。」

 

彼女に返答しつつも、セシリアはコックピットハッチを閉じ、劾とロレッタが格納庫を出ている事を確認し、艦橋にいるリードとイライジャに通信を繋げた。

 

「イライジャさん、リードさん、行って参りますわ、ハッチを開けてくださいな。」

 

『了解だ、気ぃ付けてな。』

 

「風花、セシリアに迷惑かけるなよ?』

 

『イライジャまでなによ!!そんな事しないってば!!』

 

リードが酒を飲んでいるのであろう水音が聞こえ、イライジャのからかいにまたしても声を上げる風花のやり取りに苦笑しつつも、彼女は何処か暖かい感覚を覚えていた。

 

このアットホーム的な空気がそう感じさせてくれている事を理解し、彼女は表情を綻ばせた。

 

しかし、今はそれよりもまず先にやらなければならない事がある事を思い出し、気を引き締めるかの様に頭を振る。

 

既にハッチは開かれており、遥か遠く煌めく星々が彼女の瞳に写った。

 

「セシリア・オルコット、デュエル、参ります!」

 

スラスターを吹かし、輸送船の外に飛び出した彼女は、機体に制動をかけ、後を追いかけてくる様に発進してきた風花の小型艇に速度を合わせる。

 

『じゃ、行こうセシリア、私が座標教えるからついて来てね!』

 

「えぇ、頼りにしておりますわ、お願いしますわね。」

 

互いに通信を入れつつも機体を操作し、合流予定宙域までの移動を開始するが、如何せん距離がある、時間にして少なくとも半日は飛び続けねばならないであろう事は確実であった。

 

戦闘は兎も角として、宇宙空間を飛び続けるだけならば然程エネルギーや推進剤の消費は無い、が、やはり航路から外れてしまわない様に気を張り詰めていなければならないので、ある程度の疲労が蓄積されるのもまた事実であった。

 

無論、それに伴い、時間を持て余す事も当然の事ながら発生し、退屈な時間も存在するのもまた必然であった。

 

そして二人組で行動しているならば、退屈を紛らわせるための世間話が発生する事も、また必然で会ったのかもしれない。

 

『ねぇ、セシリア、少し聞いてもいい?』

 

「なんでしょう?お答え出来る事なら何でも構いませんわよ?」

 

発進後暫くして、風花はセシリアに向けて話しかけていた。

 

どうやら沈黙の気まずさに耐えきれなくなったのだろうが、それはセシリアにとってもある意味ではありがたい事ではあった。

 

なにせ、一人でいると以前の世界での思い出に絡め取られそうになるのだから・・・。

 

『セシリアって、此処に来る前は何処にいたの?劾とイライジャと顔見知りだったみたいだけど、何処かで会った事あったの?』

 

だが、彼女にとっては、過去を詮索される様な質問は、沈黙で思い返す事よりも辛い物でもあった。

 

「そう、でしたわね・・・、風花さんにはお話しした事、ありませんでしたわね・・・。」

 

風花にとっては何気の無い質問で会ったのだろうが、当のセシリアにとっては古傷を抉られるに等しい痛みだったのだ。

 

『えっ・・・!?ま、まさか、聞いちゃだめだった!?』

 

セシリアの表情が曇った事と、その声が痛みを堪える様に震えている事に気付いた風花は、自分が踏み込んではいけない地雷原に警戒もなしに踏み込んでしまった様な感覚に襲われた。

 

それと同時に、彼女は自身の軽率さを恨んだ、誰にでも思い返したくない記憶がある事、そしてそれを思い返す時に生じる痛みがある事、それらを知ってはいたが、今だ6歳の彼女にはそういった経験が少なく、ついつい忘れがちになってしまうのだ。

 

「いえ、構いませんわ・・・、ですが、信じては、もらえないと思いまして・・・。」

 

風花の困惑と後悔の念を感じ取ったのだろう、セシリアは何処か影のある笑みを浮かべながらも、気にする事は無いと言わんばかりに彼女に語りかけた。

 

それでも彼女から得体の知れない何かを感じた風花は、ここからどうやって話を続けようかと頭を悩ませるが、一向に良い考えが浮かぶ気配は無かった。

 

「それでもお聞きになりたいと言うならば、お話し致しますわ。」

 

『む、無理しなくても・・・!!』

 

やはり痛みを堪える様に話そうとするセシリアに、風花は遠慮がちに制止するが、彼女の話を聞いてみたいのも事実であるため、どうするべきか悩み所であった。

 

「いえ・・・、何時までもくよくよしていられませんもの・・・、忘れる事なんてできませんが、けじめを着けるためにも、聞いて頂けませんか・・・?」

 

『う、うん、聞かせて。』

 

傷を抉る様な事になるにも関わらず、話すと言ってくれた彼女の想いを無碍にする事も出来ず、風花は真剣な表情で彼女の話を聞こうと身構えた。

 

「畏まりましたわ、まずは、何からお話しするべきでしょうか・・・、劾さん達との関係もお話しすべきですわね・・・。」

 

一体どれほど話す内容があるのだろうか、セシリアは自身の脳内で話の内容を組立て始めた。

 

「先ずは、これを知っておいて頂きましょう、私は、この世界の住人ではありませんの。」

 

セシリアの言葉に、風花は一瞬理解できなかったのか呆けた様な表情を浮かべたが、その意味を理解した途端、その表情が驚愕に彩られた。

 

『ど、どういう事・・・!?』

 

「荒唐無稽な事だと理解してはおります、ですが、これは紛れもない事実なのです、私は以前の世界で劾さんとイライジャさんにお会いしております、だからこそ、私は劾さんの事を存じ上げております。」

 

信じられないと言う風に目を見開く風花に対し、セシリアは事実であると告げ、説明するかの様に言葉を続けた。

 

『で、でも、それならこっちの劾はセシリアの事を知らないはずでしょ?なんで知り合いみたいな雰囲気だったの!?』

 

「それは・・・、申し訳ありません、私にも分からないのです・・・、何か、特別な力が働いたのだとしか・・・。」

 

風花の質問に答えに窮したのか、セシリアは曖昧な答えを返す事しか出来なかった。

 

確かに、別の世界での関係が、何故僅かながらもこの世界にも引き継がれたのかは、彼女にも分からぬ事ではあった。

 

『う、うん・・・、それは分かったんだけど、セシリアは前の世界でどんな事をしてたの?劾達を知ってたって事は傭兵?』

 

「その辺りは特に詳しく説明させていただきますわ、どういう方々と一緒にいたのかも・・・。」

 

風花の質問に答えながらも、彼女は瞳を潤わせた。

 

彼女は思い返していたのだろう、嘗て愛し合った者達の事を・・・。

 

「劾さんは傭兵では無く、どちらかと言えば企業の私兵的な立場でしたわ、私も何度か格闘の手解きを施していただきましたわ、私は傭兵では無く、一介の学生でしたわ、ある時までは・・・。」

 

『へぇ・・・、学生かぁ・・・、そっちの世界ってどんな感じだったの?こっちみたいにMSとかあったりしたの?』

 

セシリアが話す、自分が知らない事への好奇心の為なのだろうか、風花は身を乗り出さんばかりに質問を口にする。

 

「MSではなく、ISと呼ばれるパワードスーツなら在りましたわね。」

 

『あいえす・・・?なにそれ?』

 

聞きなれない単語が飛び出したからなのか、彼女は首を傾げていた。

 

「一人の孤独な天才が作り上げた宇宙開発用の機械、とでも言うべきですわね、ですが、既存の兵器を圧倒的に上回る力を有しており、更には女にしか使用できないという欠陥を持ち合わせてもおりました。」

 

『なんなのそれ・・・、欠陥もいいところじゃない・・・。』

 

「えぇ、ひどい有様でしたわ、そのせいで女は自分達が優れていると勝手に思い込み、横柄に振る舞い、人類の半分であり、種の繁栄に必要である男達を虐げ始めたのです、此処に来て気付いたのですが、コーディネィターとナチュラルの確執に近しい物がありましたわね、もっとも、虐げている立場は真逆でしょうが。」

 

『・・・。』

 

セシリアが話す内容に言葉も出ないのか、風花は押し黙ってしまった。

 

何処の世界にもパワーバランスを崩すモノが存在し、そのために争いが起きる・・・。

 

力を持つ者は持たざる者を蔑み、持たざる者は持つ者を憎む。

 

それが人間の本質の一部だとは分かっていても、遣る瀬無い気持ちを抱いたのであろう。

 

「ですが、その体制に反旗を翻したお方がいらっしゃいました、その御方の名は、織斑一夏、その世界で三人しか見つからなかった男性でISを動かせる方々の内のひとりで・・・、私が・・・、心からお慕いし申しておりました御方ですわ・・・。」

 

『織斑・・・、一夏・・・。』

 

何処か愛おしげに話す彼女の声に、風花は女として彼女とその人物の関係を察した。

 

恐らくは互いに愛し合い、なくてはならない間柄だったのだろうと・・・。

 

「彼は誰よりも、何よりも力を持っておりました、だからこそ、歪む世界を見過ごせなかった、許せなかったのです、一夏様は同志を集め、世界を変える為に戦われました。」

 

何処か懐かしむ様な、そして、もう戻らない時を悲しむ様な声で話すセシリアは、堪え切れずに涙を零し始めた。

 

そんな彼女に声をかける事が出来ないのか、風花はただ静かに話の続きを待った。

 

たかだか生まれて数年の彼女が、男女のアレコレを経験しているセシリアに慰めの言葉をかける事など出来ないのだとでも思ったのだろうか・・・。

 

「私は一夏様に従い、唯一無二の、友と呼べる女性と共に戦い続けました・・・、戦いが終わり、一夏様の戦いが本当の意味で終了した時・・・、私達は死んだのです。」

 

『死ん・・・、だ・・・?どういうこと・・・!?』

 

静かに、そして悲しげに語るセシリアの言葉に、風花は先程よりも色濃く驚愕の色をその顔に浮かべていた。

 

死んだとは何なのか、彼女は現に自分とこうして会話しているではないか、そう言った疑問が彼女の頭を更に混乱させてゆく。

 

「私達を倒す役割を担った方に、この身体を切り裂かれましてね・・・、致命傷でしたが、即死は出来ませんでしたわ。」

 

何処か懐かしむ様な声色ながらも、セシリアは悲しそうな、そして申し訳なさそうな表情を窺わせた。

 

嫌な役目を押し付けてしまった事への負い目か、それとも共に同じ志を抱けなかった事への後悔か・・・、その表情は風花に彼女の過去を推察させる大きな手助けになっていた。

 

「知らせなかったとはいっても、嫌な役目を押し付けてしまいましたわ・・・、だから、彼も全身全霊で私を殺せなかったのです・・・。」

 

『その人、友達だったの・・・?』

 

「そうだとよかったのですが、私が拒絶しておりましたから・・・、全てを欺くために・・・、わたくし達を憎ませるためにも・・・。」

 

その問いに、彼女はイエスとも、ノーとも答える事が出来なかった。

 

彼は、自身を殺した男は彼女を友人だと思っていてくれた、しかし、彼女自身は敢えてそれを見ない様にしていた、でなければ、彼女が抱いた覚悟が揺らいでしまう様な気がしていたから・・・。

 

「ですが、それでも構わなかった、一夏様と唯一無二の友、シャルさんと三人でいられるなら、たとえ誰に恨まれても、憎まれてもそう在りたかった・・・、ですのに・・・。」

 

愛しき彼等を、共に過ごした暖かな時を思い出しながらも、堰を切ったかの様に涙が瞳から零れ落ちていく・・・。

 

一粒等ではない、幾つも、そして幾重もの雫が、そのサファイアを思わせる瞳から零れていく。

 

割り切れなかった想いが、かつての温もりが無い心細さが彼女を苛み、自然と涙を溢れさせたのだ。

 

「どうして・・・、どうして・・・っ、私だけが生きているのですか・・・?どうし私は独りなのですか・・・?」

 

その言葉はすでに、風花に向けられたモノでは無くなっていた、今はもういない、嘗ての愛しき者達に向けられた、ある種の嘆きだったのだ・・・。

 

『セシリアは独りぼっちなんかじゃないよ!昔の人達の事をどうこう言えるわけないのは分かってる!でも、セシリアには私達がいるよ!!』

 

「風花さん・・・。」

 

彼女の嘆きを肯定しながらも、風花は自分やサーペント・テールの皆がセシリアと共にいる事を教える。

 

嘗ての友の代わりではなく、今を生き、共に過ごしている自分達がいると・・・。

 

『代わりになるなんて言えない、でも、アタシは今、セシリアと一緒にいるよ!だから、独りじゃない、独りなんかじゃないよ!!』

 

「風花さん・・・っ!そう、ですわね・・・、私はもう、独りでは無いのですね・・・。」

 

彼女の言葉に、セシリアは涙ぐみながらも微笑んだ。

 

ありがとう、その言葉がその笑みには込められている様にも見える。

 

『そうだよ、アタシ達はちゃんと仲間、ううん、友達だよ、だから、独りぼっちなんて言わないで!』

 

「ふふっ、そうですわね、風花さんは私の友達、ですわね。」

 

ヘルメットを脱ぎ、頬を伝う涙の雫を拭いながらも、彼女は朗らかに笑った。

 

いない者はいない、なら、今いる者とやり直せば良いと、そう結論付けたのだろうか・・・。

 

「忘れる事なんて出来ません、でも、今は風花さんと共にいる、それが全てですわよね?」

 

『うん!あ、でもよかったら、その一夏って人の事、教えてよ!かっこよかったの?』

 

同性の友人と話す様な調子で言う風花に、セシリアは涙を拭いながらもからかう様に尋ねる事にしたようだ。

 

「まぁ、風花さんはおませさんですわね?もう男女のアレコレをお聞きになるつもりですか?」

 

『き、興味があるだけよ!そんな事より、ちゃんと教えてよ!!』

 

少し慌ててしまっていたのだろうか、セシリアの笑みが自分の下心を見透かし、それをからかったものだと思い、風花は拗ねた様にそっぽを向いた。

 

それと同時に、歳上の女性らしい余裕を持ち、自分がどんな情況に陥っていても、最後は笑うことの出来るセシリアを、彼女は羨ましいと思った。

 

それと同時に、自分も彼女の様になれればとも思う。

 

そうすれば、子供と侮られる事も、低く見られる事もないかもしれないと・・・。

 

「ふふっ、まぁ慌てずに、話は長いのですから、ゆっくりとお話し致しましょう。」

 

『むぅ・・・。』

 

自分はこんなにもせっかちだったのだろうかと、風花は思わずにはいられなかった。

 

彼女の対応は別段悪くないが、どうしても自分が知らない事を知りたがり、それを急いてしまう。

 

「一夏様はとてもお強い、それでも優しいお方でしたわ、そして・・・、見惚れてしまうぐらいに、素晴らしい御方でしたわ。」

 

思い出す様に一夏の事を語るセシリアの表情は、大人の女というよりも恋する乙女のそれに近しいものがあった。

 

そこから伺い知る事ができるであろう、彼女がどれほど彼を慕い、想っていたのかを・・・。

 

『そんなに好い人だったんだ・・・、良いなぁ~、アタシもそう言った人と会ってみたいなぁ。』

 

「ふふっ、風花さんも何時か素敵な殿方に出会えますわ、だって、可愛らしい風花さんを放っておくわけがありませんもの♪」

 

『か、可愛いなんていわないでよ!セシリアもからかってるの!?』

 

セシリアの体験を羨ましそうに聞いていた風花は、何時か自分もそんな人物と出会ってみたいという風に呟いた。

 

それを聞き逃さなかったセシリアはフォローの様なからかいを入れ、何時かは巡り会う事が出来ると語る。

 

「ふふふっ♪」

 

『もうっ!笑わないでってばぁ!』

 

セシリアの笑みにムッとした様に噛み付きつつも、風花自身も楽しそうに笑っていた。

 

年齢も立場も関係ない、そんな雰囲気の中で、彼女達は笑う。

 

相手と触れ合うために、そして、相手の事を知るために・・・。

 

sideout

 




次回予告

届かぬ者、触れられぬ者、今は亡き愛しき者へ、彼女は何を想うのか?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

愛しき人へ

お楽しみに。


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愛しき人へ

noside

 

宇宙区間、デブリベルトに四隻の船の姿があった。

 

一隻は白亜の戦艦、アークエンジェル、その真横に停泊しているのは水色の戦艦、クサナギ、更にそのやや右斜め後方にはワインレッドの戦艦、エターナルの姿があった。

 

彼等は別名、三隻同盟と呼称され、ナチュラルとコーディネィター関係なく構成されている。

 

元々の軍の在り方、ナチュラルとコーディネィターの争いの連鎖に疑問を抱いた者達が集い、ナチュラルとコーディネィター、つまりは連合とザフト、その両方を滅ぼさずに戦争を終結させようとする者達で構成されている。

 

大義は実に立派であり、聞こえはいいかもしれないが、理想で飯は食えないし、腹も膨れない。

 

特定の軍に属さない彼等は物資や弾薬を補給する手だても、そして当てもなかった。

 

これでは機を前に自分達が枯渇してしまうと考えた彼等は、どうにかして補給の手立てを整える必要があった。

 

そこで、エターナルの艦長であった、元ザフトの地上部隊隊長で、砂漠の虎と呼ばれていたアンドリュー・バルトフェルドは、自身を死の淵から救い出してくれたジャンク屋の存在を思い出し、彼等に物資の補給を依頼したのだ。

 

そのジャンク屋とは、たまたま戦闘の影響で地球へと降下していたロウ・ギュール一行であったのだ。

 

ジャンク屋組合は民間の組合なために中立を貫いており、言い方は悪いが、金さえ払えばどんな団体にも物資を届けることも請け負うのだ。

 

そんな理由で、現在ジャンク屋、ロウ・ギュール一行は三隻同盟と接触、補給活動を行っていた。

 

エターナルの付近に停泊するジャンク船、リ・ホームのとある部屋に、長い金髪をポニーテールにした女性と、ベッドに横たわる短い金髪を持った少年がいた。

 

「プレア、調子が悪いなら無理しちゃダメだよ、焦っても何にもならないんだから。」

 

ベッドの傍らに置かれていた椅子に腰かける女性、シャルロット・デュノアは、目の前に横たわる少年に言い聞かせるように話した。

 

彼女の優しげな雰囲気と言葉から、無理をしてでも起きていようとする子供を優しく叱る母親の様にも見える。

 

「はい・・・、御心配をお掛けします、でも、本当に大丈夫ですよ、発作も収まりましたし・・・。」

 

彼女に対して申し訳なさそうに言いながらも、もう大丈夫と言わんばかりに起き上がろうと身を起こす。

 

「だーめ、ここの所、ずっと気を張ってたでしょ?休める時に休まないと、もっと辛くなるからね?起きてても良いから横になる、いいね?」

 

しかし、それを許すシャルロットではない、プレアの肩を掴み、ベッドに横たわらせる。

 

流石に力が入らなかったのか、彼はされるがままに身体を横たえた。

 

「はい・・・、分かりました・・・、大人しくしてます・・・。」

 

「分かってくれたなら嬉しいよ、何かあってからじゃ遅いもの。」

 

微笑みながらも、彼女はどこか憂いが窺える様な表情を一瞬だけ見せた。

 

それを見逃さないまでに体力も集中力も戻ったプレアは、訝しげに彼女に尋ねてみた。

 

「シャルロットさん・・・?どうかされたんですか・・・?」

 

「えっ?どうしたの?」

 

自分がどんな表情をしていたのかに気が付かなかったのだろうか、シャルロットは驚いた様に目を丸くし、プレアに尋ね返していた。

 

「いえ・・・、なんだか、悲しそうな感じがしたので・・・、何となく、そう感じたんです・・・。」

 

「・・・、そっか・・・、分かっちゃう、か・・・。」

 

自分が一瞬だけ感じた心の痛みを、自分の年齢の半分にも満たない少年にまで見抜かれてしまったとなると、もう隠し事は出来ないと、彼女は何処か影のある笑みを浮かべた

 

「何か、あったんですか・・・?」

 

「そうだね・・・、さっきまでのプレアを見てたら、ずっと昔に死んだお母さんの事思い出しちゃってね・・・。」

 

自分はまずい事を聞いてしまったのではないかと言う風に、不安げな表情を浮かべる彼に、彼女は呟く様に話し始めた。

 

「僕の家は母子家庭だったんだ、お母さんと僕と・・・、二人で小さな田舎町で暮らしてた・・・。」

 

それは、シャルロットの過去、彼女が今も思い続ける者達と出会う、更に前の事だった。

 

「そんなに裕福じゃなかったけど、とっても幸せだった・・・、こんな時がずっと続いて欲しいって心から思ってた・・・、お母さんが病気になるまでは、ね・・・。」

 

思い出話を語り、楽しそうだったシャルロットの表情が暗く、寂しそうな表情へと変わっていく。

 

それは戻らぬ時を、戻らぬ者を嘆いている様にも見えた。

 

「僕が君よりちょっと年上ぐらいの時にお母さんの病気が分かってね・・・、僕に心配掛けさせたくなかったからだと思うけど、もう、手遅れだったんだ・・・。」

 

「・・・。」

 

「それから半年もしない内に、お母さんは死んじゃったんだ・・・、だから・・・、僕がもっと気を使ってあげてたら、助けられたんじゃないかって、そう、思っちゃうんだ・・・。」

 

自分が気を使っていれば、自分が気に掛けていれば助けられたかもしれない、それがシャルロットの、プレアに対する心配の根底にあるものだった。

 

それが分かったからこそ、プレアは焦っていた自分が少し申し訳なく感じた。

 

彼も、誰かに心配をかけたくはないのだ、身体の事で心配されても、誤魔化すなりなんなりして乗り切れればと思っていた。

 

だが、シャルロットはこの船のメンバーの中でも、特に自分を気遣っていてくれたのだ。

 

「ごめんなさい、シャルロットさん・・・、気を使っていただいたのに、僕は・・・。」

 

「ううん、いいんだよ、僕のおせっかいみたいなものだったし、こっちこそ、押し付けてゴメンね?」

 

申し訳なさそうに頭を下げようとするプレアを制し、彼女はこちらこそと言う風に頭を下げた。

 

「でもね、プレア、これだけは覚えてて、君はもう僕達の仲間、友達なんだ、一人で焦っても仕方ないじゃない、だから、皆で一緒に頑張ろうよ、僕達皆でさ?」

 

「はい、ありがとうございます、シャルロットさん。」

 

自分の手を取り、優しく微笑む彼女の姿に、プレアは微笑みながらも喜びの感情に包まれていた。

 

自分を仲間と、友と認めてくれた事、彼がこれまで感じた事のない関係性が嬉しいのだろうか・・・。

 

「じゃあ、約束だよ、一人で無理しない、いいね?」

 

「はいっ、シャルロットさんも、ですよ?」

 

シャルロットが差し出した小指に自身の小指を絡ませ、指切りで契りを結ぶ。

 

「うん、これで僕達は本当の意味で仲間だ、これからは甘えても良いんだよ、プレア。」

 

「か、からかわないでくださいよ!」

 

シャルロットの笑みに何を想像したのだろうか、プレアは手を振りながらも慌てていた。

 

思春期はまだとは言えど、シャルロット程の美貌を持った女がこれほど間近にいれば男の本能として何かを感じるのだろうか・・・。

 

「何してるの、シャルロット、プレア?」

 

そんな時に部屋の扉が開き、樹里が入って来た。

 

からかう様に笑うシャルロットと、何故か矢鱈と取り乱すプレアの姿に疑問を持ったのだろう。

 

「あ、樹里だ、どうしたの?」

 

「き、樹里さぁん・・・!」

 

しれっとしたまま振り返るシャルロットと、涙目で彼女をすがる様に見るプレア。

 

端からみ見れば明らかにシャルロットがプレアに何かした様にしか見えない。

 

が、相手は天然ネガティブを地で行く樹里だ、普通にじゃれてたとしか思えなかったようだ。

 

「補給終わったからそろそろ出発するって、二人とも準備してね、それからプレア、ロウが呼んでたけど、動ける?」

 

「は、はい!すぐに行きます!!」

 

樹里の言葉を何かの助け船かと思ったのだろうか、プレアはベッドから跳ね起きると脱兎の如く部屋から飛び出して行った。

 

「ふふふっ♪あれぐらいの男の子はからかい甲斐があるなぁ、反応が大袈裟なんだもの。」

 

「シャルロット・・・、一体何したのよ・・・。」

 

愉しそうに笑うシャルロットの確信犯的な何かを感じたのだろうか、樹里は呆れた様な表情を見せながらも彼女の隣に腰掛ける。

 

「エターナルへの補給も終わったし、後はまたドレッドノートの頭探しよね、私達も忙しいわよねぇ。」

 

「ふふっ、お疲れ様だよ、忙しかったのなら僕も手伝った方が良かったかな?」

 

「大丈夫よ、運搬とかは向こうの人達がやってくれたし、ほとんど何もしてないから。」

 

「そっか。」

 

二人きりになった彼女達は、年が然程離れていない事も相まってか、和やかな雰囲気の中で会話を始めた。

 

あまりゆっくりと女同士で話す機会も無かったのだろう、仕事も一段落した今は絶好の会話の機会だった。

 

「それはそうと、私さ、この一週間ずっと聞きたいなって思ってた事があるんだけど、聞いていい?」

 

「何かな?僕に答えられる事なら何でも答えるよ。」

 

以前から聞きたがっていた事があったのだろう、樹里は好奇心に満ち満ちた瞳をシャルロットに向けていた。

 

シャルロットとしても、樹里が自分の事を知りたがっているのならばそれに答える事が礼儀だと思っていた為に、答えられる範囲なら答えようとしたのだ。

 

だが、それは苦い思い出を呼び起こす事になる事も、また必然であった。

 

「シャルロットって、此処に来るまでは何してたの?ロウを知ってたって事は、やっぱりジャンク屋なの?」

 

樹里にとっては、本当に何気なしの質問であったのだろうが、その問いは、シャルロットにとっては、今は無き、愛しき者達への燻る思いを呼び起こすも同然だった。

 

「そっか・・・、そう、だよね・・・、まだ、話してなかったもんね・・・。」

 

「えっ・・・!?ま、まさか、聞いちゃダメだったの・・・!?」

 

シャルロットの表情が曇り、何処か痛みを堪える物に変わった事に、樹里は自分が踏み込んではいけない話題に踏み込んでしまったのかと焦った。

 

現に、シャルロットの雰囲気にいつもの明るさは無く、何処か悲壮感すら漂う沈鬱な物になってしまっていた。

 

「ううん・・・、大丈夫だよ・・・、知っておいて欲しい事でもあるから・・・。」

 

「で、でも・・・、無理しなくても・・・!」

 

自分の気持ちを優先して話してくれる事は嬉しいが、何も苦しい思いをしてまで話さなくてもと、樹里は彼女の言葉を遮ろうとしたが、シャルロットの手がそれを制した。

 

「いいんだ・・・、聞いてほしいんだ、僕の気持ちの整理を着けるためにも・・・、樹里に知っててほしい。」

 

「そ、それなら・・・、うん、聞かせてほしい、かな?」

 

彼女が話すと決めた以上、それを無碍にする事は出来ないと、樹里は姿勢を正し、聞く体勢を整えた。

 

「先ずは、そうだね・・・、僕がロウを知ってる理由から話そっか、そっちの方が後々の話にも繋がって行くし、これだけは大前提として知っておいて欲しんだ、僕は、この世界の人間じゃないってことを。」

 

「えっ・・・!?どういう事・・・!?」

 

突拍子もないシャルロットの言葉に、彼女は声をあげた。

 

この世界の人間ではないとはどういう事なのか、彼女はここに存在しているではないか・・・?

 

「荒唐無稽な話だと思ってるだろうけど、本当の事なんだ、僕は前の世界でロウとジョージに会ってる、だから彼等の事を知ってるんだ。」

 

彼女の驚愕を受けつつも、シャルロットは静かに頷きながらも言葉を紡いでいく。

 

その言葉は何処までも実直であり、彼女を欺こうとする気配は何処にも無かった。

 

「で、でも、仮にそうだとしても、それは向こうの世界での話でしょ?なんでこっちのロウが会った事も無いシャルロットを知ってたの?」

 

「それは・・・、うん、僕にも分からないんだ・・・、だけど、多分だけど人智を超えた何かが働いたとしか言えないよ・・・。」

 

そう、樹里の指摘の通り、シャルロットが出会ったのは以前の世界でのロウ・ギュールであり、この世界の彼ではない。

 

なのに何故、彼は初対面である筈の彼女を知っている様な素振りを見せたのかという疑問が残る。

 

それについては、シャルロット自身も良くは分かっていなかった為に、曖昧な答えしか返す事が出来なかった。

 

「わ、分かったわ・・・、それで、シャルロットは向こうの世界で何をしてたの?」

 

しかし、そこばかりを追求し続けていても話が進まないと思ったのだろうか、樹里は彼女の言葉を信じる方向で続きを尋ねていた。

 

「僕は日本って国で学生をやってたんだ、ロウと知り合ったのはとある開発企業での事なんだよ。」

 

「へぇ~、学生かぁ、企業って事は、やっぱりMSとかの?」

 

シャルロットが話す内容に好奇心を掻き立てられたのだろうか、樹里は前のめりになりそうな勢いで質問を繰り出した。

 

「ううん、僕がいた世界にはMSは無かったんだ、その代わりに、ISっていうパワードスーツが在ったかな。」

 

「IS・・・?何なのそれ?」

 

彼女の口から聞きなれない単語が出てきた為か、樹里は怪訝そうな表情を浮かべていた。

 

「簡単に言えば宇宙開発用の為の機械だった、でも、実際はどんな戦闘機よりも早く、どんな戦車よりも堅く、その上に強力な攻撃力があった、それだけなら良かったんだけど、ISには最大の欠陥があったんだ、女にしか動かせないっていう欠陥がね・・・。」

 

「えっ・・・、それって・・・。」

 

彼女の言葉に、樹里は現在の戦争の要因の一つを思い出した。

 

それは・・・。

 

「うん、ナチュラルとコーディネィターみたいなものかな、力を持ったと勘違いした女達は、男達を虐げ始めたんだ、当然、男達は納得出来なかっただろうね、本当に酷い有様だったよ、こっちとは真逆の対立関係だけどさ。」

 

「・・・。」

 

彼女が考えていた事を肯定するかの様に話すシャルロットの言葉に、樹里は悲しいような、そしてやはりかと感じる自分がいる事に気付いていた。

 

力を持つ者は持たざる者を蔑み、持たざる者は持つ者を嫉み、憎む。

 

それが人間の持つ性質の一つだと分かってはいても、何処か遣る瀬無い気分になっても仕方がない。

 

「でも、そんな世界に異を唱えた人がいたの、彼の名前は織斑一夏、世界でたった三人しか見つからなかった男性IS操縦者の一人だったんだ・・・。」

 

「織斑・・・、一夏・・・。」

 

その男性の名を呟くシャルロットの表情が、慈しむ様な、哀しむ様な表情になった事を樹里は見逃さなかった。

 

その表情は、心から愛する者を想う女の物であり、彼女はその一夏と言う人物とシャルロットとの関係を察した。

 

恐らくは、互いにとって無くてはならない、心の底から愛し合っていたのだろうと・・・。

 

「彼はとっても強かった、誰よりも、何よりも・・・、そして誰よりも優しかった・・・、だから、歪んで行く世界を許せなかったんだ・・・。」

 

「・・・。」

 

懐かしむ様に話すシャルロットは、堪え切れなくなったのだろうか、涙を零し始めた。

 

そんなシャルロットの様子に言葉を失いつつも、樹里は一言一句聞き逃すまいと耳を澄ませる。

 

「彼は仲間を集め、世界に反旗を翻した、僕も彼に従って世界と戦った、世界を元のあるべき姿へと戻そうとその力を振るったんだ、そして、僕は唯一無二の盟友と一緒に、戦って戦って、その終わりに、僕達は、死んだんだ・・・。」

 

「死ん・・・、だ・・・?どういう事なの・・・!?」

 

悲しげに話すシャルロットの言葉に、樹里は絶叫しながらも彼女にその真相を尋ねた。

 

ただ単純に信じられないのだろう、今自分の目の前にいて、話をしている人物が死んだという事を・・・。

 

「僕を殺す役目を請け負った子に、僕はここを貫かれて死んだんだ・・・、即死は、出来なかったけどね・・・。」

 

シャルロットは胸を、正確にはその下を指しながらも、何処か懐かしむ様な、悲しそうな、そして何処か申し訳なさそうな表情を窺わせた。

 

嫌な役目を押し付けてしまった事への負い目か、それとも共に同じ志を抱けなかった事への後悔か・・・、その表情は樹里に彼女の過去を推察させる大きな手助けになっていた。

 

「友達・・・、だったの・・・?」

 

「どうだったかなぁ・・・、僕が敢えて拒絶してた様なものだし、向こうがそう思ってくれてたのかも、もう分からないかな・・・。」

 

樹里の質問に、彼女はイエスともノーとも答える事が出来なかった。

 

嘗ての彼女は、全てを欺く為とはいえ、彼女を友と思っていた者の想いに背を向け、それらを全て踏み倒してきた様なものだったのだから・・・。

 

「でもね・・・、それでも構わなかったんだ・・・、一夏と、たった一人の友達、セシリアと三人でいられたら、それで良かった・・・、誰に恨まれても、憎まれても・・・、それなのに・・・・。」

 

話の途中、遂に堪え切れなくなったのだろうか、そのアメジストを思わせる瞳から大粒の涙を幾つも、幾重も零し始めた。

 

その涙には、割り切れなかった想いと、嘗て傍に在った温もりが今は無い事への寂しさから来たのだろうか・・・。

 

「どうして・・・、どうしてなのさ・・・、僕だけが生きてるの・・・?どうして僕ばっかり独りになっちゃうの・・・!?」

 

その言葉は、叫びは既に樹里に向けられたものでは無くなっていた。

 

それは、戻らぬ者を、愛しき時を嘆く様であった・・・。

 

 

「シャルロット、貴女は独りなんかじゃないよ・・・!シャルロットには、私も、ロウも、プレアだっているじゃない!!」

 

シャルロットの嘆きに、樹里は声を張り上げ、自分達が彼女と共に在る事を叫ぶ。

 

代わりになど成れない事は百も承知、だが、今の彼女と共に在る事だけはできると、樹里は彼女に向けて言う。

 

「その人達の代わりになるなんて言えない、言えないけど、私は今、シャルロットと一緒にいる、独りになんかじゃないでしょ?」

 

「樹里・・・。」

 

彼女の言葉に、シャルロットは伏せていた顔を上げ、彼女を見る。

 

「もう、私達は友達でしょ?だからさ、そんな寂しい事、言わないでよ・・・。」

 

「ゴメンね、気を使わせちゃったかな・・・、そうだ・・・、僕はもう、独りなんかじゃない、こんなにも想ってくれる友達がいるんだもの。」

 

自身の手を取り、自分の事でも無いのに泣きそうになっている樹里に感謝しつつ、彼女は頬をつたう涙の雫を拭った。

 

「一夏達の事を忘れるなんて出来ない・・・、でも、今は樹里が、リ・ホームの皆がいてくれてるんだ、寂しい事なんてないよね。」

 

「うん!」

 

彼女の言葉に、樹里は嬉しそうに笑っていた。

 

それは、二人の心が通い合った証拠でもあり、絆でもあった。

 

「それでさ、シャルロットとその人ってさ、どうやってそういった関係になったの?」

 

暗い話はここまでという風に、樹里は表情を緩めながらもシャルロットに男女間の事について質問していた。

 

彼女も一人の男に想いを寄せる乙女、恋バナの一つや二つ聞いてみたいという気持ちが強いのであろう。

 

「ふふっ、ロウとの関係進展の参考にするつもりなの?いじらしぃ~。」

 

「か、からかわないで教えてよ~!減る物じゃないでしょう?」

 

それに気付いたシャルロットの意地悪な言葉に、耳まで赤くしながらも、樹里は引き下がらずに尋ねた。

 

「そうだねぇ、僕が最初に好きって意思表示して、それを一夏が汲んでくれたんだよ、彼、ぶっきら棒に見えてもすごく優しかったから、すぐに一緒になれたんだ♪」

 

「へぇ~、すごく好い人じゃない・・・、羨ましいなぁ・・・。」

 

シャルロットの話の内容に、樹里は一種の羨望を抱いた。

 

彼女の想い人は、一言で表すなら機械バカであり、その他の事に無頓着と言っても過言ではないのだ。

 

そんな彼に、自分の想いを察して欲しいという事は極めて難しい話であった。

 

だからこそ、シャルロットの想い人の様に、片思いを察してくれるなど、夢のまた夢であるのだ。

 

「でもね、やっぱり最後はキチンと彼に伝えたよ、貴方の事を愛していますって、じゃないと、本当の意味で伝わらなかったと思うんだ。」

 

懐かしむ様に、そして慈しむ様に、彼女は樹里に自身の体験談を語り聞かせた。

 

自分の額を樹里の額とくっ付け、静かに話していく。

 

「だからさ、最後に必要なのは思い切りと、素直な気持ちだけだよ、だから、焦らなくていいんだ、自分の気持ちに納得して、それを伝えられるならきっと上手くいくからね?」

 

「うん・・・!私、頑張ってみる!シャルロット、ありがとう!」

 

シャルロットの言葉に、樹里はほんの少し自信を持てたのだろうか、少しだけ微笑んで彼女に礼を言っていた。

 

「うん、どういたしましてだよ、それじゃ、そろそろ艦橋に行こっか、何かあるんでしょ?」

 

「あ、うん、そうだったわね、じゃ、また今度、もっと深く教えてよね!」

 

「もちろんだよ、じゃあ、一緒に行こう。」

 

軽い会話を交わしつつ、彼女達は他のメンバーがいる艦橋に向けて移動を始めた。

 

これから先に起きる何かに向け、恐れずに進んで行く様に・・・。

 

sideout




次回予告

何故自分は独りなのか、どうして彼女達はいてくれないのか、罪と思慕の狭間で揺れる彼の想いとは・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

茨の様に

お楽しみに~。


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茨の様に

noside

 

地球衛星軌道上に存在する宇宙要塞〈アメノミハシラ〉。

 

そこは、オーブ五大氏族、サハク家出身であるロンド・ミナ・サハクにより治められており、密かに、そして確実に、オーブの再興の時に備え、戦力を蓄えていた。

 

その設備はオノゴロ島のモルゲンレーテに匹敵し、独自にMSの開発、配備を進めているのであった。

 

その格納庫の一角、ガンダムタイプ機が数機置かれている区画が、何やら活気付いていた。

 

「ロンド・ミナの指示で、天の改修計画を実行に移すそうです、先程配らせて頂きましたメモリーディスクに内容が記載されていますので、各自でチェックしてください。」

 

黒髪長身の青年、織斑一夏は自身の目の前に集結した整備士達に向け、指示を出していた。

 

今回は、先の模擬戦で破損したゴールドフレーム天の修復、及び強化改修を実行するよう、彼の直属の主、ロンド・ミナ・サハクから指示が出ていたのだ。

 

彼女は普段から忙しい為に、彼が代理として整備士達にし指示を下す事は、既に珍しい事では無くなっていた。

 

「了解したぜ、よーし、テメーら、仕事だ!!」

 

『応!!』

 

ジャック以下十数名の整備士達は、仕事が与えられた事と、強化改修というある種の実験に心踊らせていた。

 

自分の力を試そうとする者も、機械を弄れる事への悦びを募らせる者も、全員がその表情をイキイキと輝かせていた。

 

「さて、じゃあ俺もコックピットに・・・。」

 

「いや、待て一夏、なんで平然と混ざろうとしてんだよ。」

 

一夏も作業に加わろうと、リフトに乗り込もうとし、ジャックはそれを咄嗟に引き留めていた。

 

それに驚いた彼は目を丸くし、ジャックを凝視していた。

 

「いや、OSとかの調整なら俺も出来ますし、他の整備士達の手を煩わせなくて済むでしょう?」

 

「いやいや、そう言う事じゃなくてだな・・・。」

 

一夏の納得のいく様ないかない様な答えに、彼は呆れた様な表情をありありと浮かべていた。

 

当の本人は何の事か分かっていないのだろうか、怪訝の色が僅かながらも見て取れた。

 

「お前、殆ど休んでないだろ、遅番の奴からも、守備隊の奴からも聞いたが、四六時中、この城の何処かしらでお前と会ってる奴がいるんだよ。」

 

彼の言葉通り、一夏はこのアメノミハシラに仕えて以来、殆ど休む間も無く何かしらの訓練や調整を行っていたのだ。

 

「・・・。」

 

ジャックの言葉に、彼は無言を貫いていた。

 

だが、それは否定ではなく、肯定にも等しい沈黙であったが・・・。

 

「なぁ、頼むから少しは休んでくれ、でないと、いくらお前でも持たない。」

 

彼を休ませようと、ジャックは自分の作業に手を付けずに一夏を説得していた。

 

確かに一夏は強靭な肉体を持ってはいる、だが、それでも疲労の蓄積に耐えられる程、人体は強くはない。

 

睡眠なり休息なりを取れば疲労も回復するだろうが、今の彼はそれどころではない、文字通り休んでいないのだ。

 

「大丈夫ですよ、まだまだ動けますし、それにどうせ・・・、不眠症気味で眠れないんですよ。」

 

「・・・。」

 

大丈夫だと笑い、心配しないでくれという一夏の言葉の間を見逃さなかったジャックは、どう見ても大丈夫では無いと結論付けた。

 

不眠症という言葉に嘘はないのだろう、だが、その裏に何かを隠している事も確かであった。

 

だが、何か引き留める理由が無ければ彼も恐らく引き下がらない事は明白であり、作業に入ってしまうだろう。

 

「(何かあればなぁ・・・、何かねぇか・・・?)」

 

何か良い案は無いかと頭を捻る彼だが、一向に良い考えが浮かぶ気配も無かった。

 

「気を使っていただいてありがとうございます、仕事が終わったら一杯付き合いますよ、休憩がてらに。」

 

そんな彼に礼を言いつつ、一夏はリフトに乗り込み、器機を操作しようとコンソールに手を伸ばす。

 

「それだ!!一夏!良い酒があるんだ、ちょっと付き合えよ!休憩がてらに!!」

 

彼の言葉に閃いたのか、ジャックは一夏の腕を掴み、リフトから引きずり下ろそうとしていた。

 

「えっ!?ちょっ!まだ作業が!?」

 

「そんなもん、お前じゃなくても出来るっての!」

 

抵抗しようともがくが、ジャックはそうはさせないとばかりに引っ張っていく。

 

他の整備士達も、一夏のオーバーワークは承知していたため、彼等を引き留める様な事はしなかった。

 

将来のアメノミハシラを支えうる逸材をこの様な所で倒れさせるわけにはいかない、そういった雰囲気が彼等の間にはあった。

 

「男同士、腹割って話そうぜ!」

 

「わ、分かりましたから!引き摺らないで!?」

 

格納庫に、引き摺られていく彼の悲鳴が木霊し、それが聞こえなくなったと同時に、整備士達は各々の作業に戻っていった。

 

sideout

 

side一夏

 

ウェイドマン整備士長に引き摺られる事数分、俺は彼の部屋のソファーで荒い息を吐いて寝転んでいた。

 

あまりに勢いよく引っ張るもんだから、付いていくのに必死だったぜ・・・。

 

「わりぃな一夏、ほんの気持ちだ、まずはこれでも飲んで落ち着けよ。」

 

彼に渡された水を被る様に咽に流し込み、俺は溜め息を吐いた。

 

少し落ち着いた事もあり、俺は彼の部屋の内装に目をやった。

 

部屋の殆どが工具や機器、そして作りかけのメカで埋まっており、空いているスペースがあるとすれば冷蔵庫周りと、ソファーの周りぐらいなものだった。

 

非番の時も、何かしらを作っている事が、この部屋の様相が物語っていた。

 

「片付いてない部屋で悪いが、まぁ、寛いでってくれよ。」

 

「お言葉に甘えさせて貰いますよ、やっぱり、身体は誤魔化せないみたいですし。」

 

気を張り詰めていたためか、俺の身体には気怠さと疲労感が圧し掛かってきていた。

 

だが、どうせこのまま眠っても・・・、また悪夢に魘されるだけで、休息にもなりやしない、ここはウェイドマン整備士長に酒を御馳走になっておこう。

 

「ま、最初はビールでいいだろ、無重力だと、缶から飲むなんて出来ないからな。」

 

「そうですね、ここが宇宙ではないと錯覚してしまいそうですよ。」

 

「ははっ、違いねぇ。」

 

乾杯したのち、俺は何時以来飲んでいなかった酒に口を付けた。

 

禁酒してたわけじゃない、だが、当時は酒盛りをしている場合じゃなかった事だけは確かだった。

 

「ふぅ・・・、随分と久しく飲んでなかった気がしますよ、すぐに酔ってしまいそうです。」

 

「なんだよ、この程度で酔っ払うなよ?」

 

軽口を叩くが、アルコールがすぐに回ってきた様で、何とも言えぬ心地よい感覚が俺を包み込んでくれる。

 

「まぁ、あんだけ無理してりゃ当然だな、お前はもう少し自分の身体を労わるべきだぜ?」

 

彼は俺の事を考えて言ってくれたのだろう、その言葉からは優しさが伝わってきた。

 

だが、俺には、俺自身がそれを受ける価値がある人間なのか、疑わしくさえ思えてならなかった。

 

「・・・、それとも、無理をする理由があるのか?」

 

「・・・ッ。」

 

表情に後ろめたい想いが出てしまっていたのだろうか、彼はビールに口を付けながらも真剣な表情になり、俺を見据えてきた。

 

どうやら、隠し事は出来ない様だな・・・、腹を決めて、話すしか無い、か・・・。

 

「そう、ですね・・・、ずっと思ってたんです、俺は・・・、生きてていいのかって事を・・・、ここに来てから、ずっと・・・。」

 

空になった缶を握り潰し、俺は二本目に手を伸ばす。

 

自棄酒にしか思えないが、今は、ただこうする事でしか気を紛らわせなかった・・・。

 

「・・・、出来るなら、ここに来る前の事を、教えてくれるか?」

 

俺が話たがっている事を感じ取ってくれたのだろうか、彼は静かに告げてくれた。

 

「はい・・・、俺は・・・、俺は・・・、愛する人達を見殺しにしたんだ・・・。」

 

それに応える為に、俺はゆっくりと、俺が犯してきた大罪を呟く様に話し始めた。

 

「俺は、昔、こことは別の世界で、狂った世界を変える為に戦ってきました・・・、だけど、それは押し付けだったのかもしれない・・・、だって、俺は人を欺いて、殺してきたんですから・・・。」

 

「おいおい、もう酒がまわったのか?別の世界ってなんだよ?」

 

俺が酔ったと思ったのだろうか、彼は半分笑いながらも聞き返してきた。

 

そう思うのも仕方ないだろう、誰も自分が生きる世界以外に世界が存在するなど思いもしないのだから。

 

「いいえ、真実です、俺はこの世界で、拾われるまでにミナと会った事はありません、勿論彼女に聞いても同じ答えが返ってくると思います、俺が彼女をしていたのは、嘗ての世界での彼女に会った事があるからなんです。」

 

「なるほどな、だがよ、それが本当なら、どうしてミナ様は会った事も無いお前を知ってたんだ?」

 

俺の語る内容に納得しつつも、彼は疑問に思った点があったのか、指摘する様に尋ねてきた。

 

「えぇ、それについても確証は無いんですが、恐らくはこの世の物以外の力が働いた、とだけ考えて頂ければと、俺もあまりよくわかってないモノで。」

 

そう結論付けた俺の脳裏に次々に浮かび来るのは、俺に殺された者達の臨終の間際、そして、怨嗟の声・・・。

 

「俺はこの手で何百もの命を奪い、何千、何万もの運命を弄んだんだ・・・、だから、誰に恨まれても、憎まれても文句は言えない、それは分かってたつもりなのに・・・。」

 

そう思えていたのは、一重に俺の隣に立っていてくれた彼女達の存在が在ってこそだった。

 

彼女達を外道に引き込んでしまったのは、俺が彼女達に出会ってしまったせいだ・・・、俺と会わなければ、彼女達は普通の人間として、無暗に人を殺める事無く過ごせる筈だったのに・・・。

 

「だけど、今更になって、俺を愛してくれた人を・・・、生きるも死ぬも、ずっと一緒だと誓った人に、俺は何もしてあげられなかった・・・。」

 

そうだ・・・、俺は何もしてやれなかった・・・、その身を穢しても俺を慕い、信じてくれた彼女達だけを死なせてしまったんだ・・・!

 

「俺はこんな所で何をしてるんだ・・・?死ぬべきなのは俺だったのに・・・!俺が・・・、どうして俺が生きてるんだよ・・・っ!!」

 

久しく流す事のなかった、枯れていたと思っていた涙が零れ始め、俺の頬を濡らしていく・・・。

 

「どうして・・・!俺だけが生きてるんだ・・・っ!どうしてっ!!」

 

俺を独りにしたのは、お前達が俺を憎んでいるからなのか・・・?

 

なら、早く俺を取り殺しに来てくれ・・・!

 

俺を独りにしないでくれっ・・・!!

 

「お前は、独りになって辛いのか・・・?」

 

そんな俺に、ウェイドマン整備士長は何か言いたそうに話しかけてきた。

 

その突き放す様な声色でもなければ、俺を慰める様な口調でもなかった。

 

「お前は愛されてたって分かってんだろ?なら、愛されてたと誇りに思わねぇと、お前を慕った奴に失礼じゃないのか?」

 

「・・・ッ!」

 

「俺はお前の言うソイツらに会った事はねぇがよ、お前が想っていた奴等なら、本当にお前を愛してたに違いないさ、寂しいのは分かるが、前を向かなきゃなんねぇ時が今なんじゃないか?」

 

分かってる・・・、もう彼女達はいない・・・、なのに、俺は在りもしない温もりにすがって・・・、今を生きてはいなかった・・・。

 

「俺は・・・、歩いて行けるのでしょうか・・・。」

 

「さぁな、誰かの支えが欲しいなら、頼るのもアリだと思うぜ、人間、誰しも弱いんだしな。」

 

誰かに頼る、か・・・、俺は、今まで色んな奴等の想いを無碍にしてきた様なものだ、そんな俺が、今更どうやって頼れと言うんだ・・・。

 

「お前、友達いなさそうだからな、誰かに頼ったり、甘えたりする事を知らないだけだと思うがなぁ、そこん所どうなんだい?」

 

「・・・っ!?な、何を言ってるんですか・・・?」

 

一応いると思いた・・・、かったけどやっぱいなかった・・・。

 

うん・・・、仕方ないよね・・・、そうしなければならなかったんだし・・・。

 

だが、改めて考えると、何というかクるものがあるな・・・。

 

「ほら、いねぇんじゃねぇか、だからか、お前は何でも一人で抱え込んじまうんだ。」

 

痛い所を突かれている気分だが、不思議と悪い気はしなかった。

 

年上に自分の若さ、甘さを見抜かれている事に対する恥も無ければ、それに伴う怒りもなかった・・・。

 

「ははっ・・・、まるで、俺の事を何でも知ってる様な言い方ですね。」

 

「そんだけ顔に出てりゃぁ、分かってくれと言ってる様なもんだぜ、気付いてなかったのかよ?」

 

気付かない、か・・・、そう言えば、俺は自分自身の事なんて考えてみた事もなかったな・・・。

 

だから、自分が何を感じていたのかも、どう想われていたのかも客観的になって考える事も無かった。

 

「(俺は・・・、馬鹿野郎だな・・・。)」

 

何が世界を変える為に選ばれた者だよ、自分の事も分かってなかった奴がそんな事を語っていい理由なんてないのにな・・・。

 

「えぇ・・・、気付きませんでしたよ、何せ、今まで指摘してくれる友がいなかったんでね。」

 

「はっ、開き直ったのか?嘘が吐けない男だな。」

 

「昔は嘘吐きと呼ばれてましたけどね、こんな事で嘘吐いてもしょうがないですし。」

 

ウェイドマン整備士長のからかいに返しつつ、俺はビールを一気に咽に流し込む。

 

無性にそうしたかったからなんだが、それが今の俺には妙に心地よかった。

 

それと同時に分かった事もある、あの時、本当に正しかったのは俺ではなく、秋良達だった事を・・・。

 

俺は自分のやった事に誇りを持ち続けてはいる、だが、それでも急ぎ過ぎたのではないかと、今更ながらに突き付けられた気分だ。

 

誰かと手を取り合い、未来を目指して行く・・・、自分でそういう世界を目指したにも関わらず、俺は誰かと繋がる事をしなかった・・・。

 

それを悔やんでも、もう遅い、俺はあの世界から消えた、後は、彼等に任せるしかないのだから・・・。

 

「違いねぇな、よしっ、なら俺がお前のダチ一号になってやるよ、それでもかまわないよな?」

 

「いいんですか?俺なんかと・・・?」

 

「おうよ、お前は難しく考えてるかもしれんがな、案外簡単な事なんだぜ、お前が望みさえすれば何時だって出来るんだからよ。」

 

難しく考えすぎ、か・・・、そんな事、思った事もなかったな・・・。

 

気楽に生きられれば、どれ程楽な事だろうか・・・。

 

まぁ、難しく考えるのは程々にしておこう・・・、折角の好意を、またしても無碍にはしたくないからな。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ、ジャック、俺とダチになってくれ。」

 

「おうよ、改めてよろしくな、一夏、そうとなりゃ飲もうぜ、どんだけ愚痴っても聞いてやるからよ。」

 

拳をぶつけ合った後、ジャックは俺にジョッキに入った清酒を渡してくる。

 

というか、俺が愚痴る事前提で飲む事を確定させるのは正直やめてほしい。

 

彼女達以外の事は割り切れたつもりでいるし・・・。

 

「頂くとするか、ジャックも愚痴っていいんだぞ、ダチなんだし。」

 

「言うじゃねぇか、さっきまでベソかいてた奴がよぉ?」

 

「うるせぇ。」

 

こんな軽口の叩き合いを、同性との関わりなどいつ振りだろうか・・・。

 

懐かしさと楽しさ、二つの感情が浮かび上がってくる。

 

こういうのも、たまにはいいもんだな・・・。

 

「ま、何はともあれ、飲み明かそうぜ、一晩は付き合えよ?」

 

「望む所だ、ジャックこそ、潰れるなよ?」

 

互いに挑発的な笑みを浮かべつつ、俺達は全く同時にジョッキを傾けた・・・。

 

sideout

 




次回予告

宴会は続くよ何処までも、暴走する彼等は止まらない・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

番外編 降臨、丸いヤツ

お楽しみに~。


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番外編 降臨、丸いヤツ

シリアスが支配しているこの小説ですが、たまには息抜きと言うことでちょっとお馬鹿な話をひとつ・・・。


noside

 

一夏の身の上話が終わり、彼等が本当の意味で飲み始めてからすでに二時間が経過しようとしていた。

 

普段からそこそこ飲んでいるジャックと、久方振りの飲酒とは言えど、酒に強い一夏との飲み会は何の問題もなく進んでいた、様に見えた・・・。

 

「はははっ!!もっと飲めよジャック~、こんなもんじゃないだろ~?」

 

「お前こそ飲めよ!さっきから全然減ってねぇぞ~!」

 

煽る様にジョッキに酒を注いでいく一夏に対し、ジャックも負けじと彼のジョッキにビールを注いでいく

 

見ればわかるだろうが、この二人、顔を真っ赤に染め、すでに泥酔状態に陥っていた。

 

目の焦点は定まらず、酒を注ぐ手はよく見てみれば小刻みに震えており、時折酒を溢しそうにもなっていた。

 

何故こんな事になったのだろうか、そんな事を考える事もせずに彼等は酒を浴びる様に飲み干していく。

 

こうなった事には、実はちょっとした理由があった。

 

一つ目には、一夏が久方振りの飲酒だった事もあり、自分の限界をスパッと忘れていた事と、蓄積されていた疲労の為に酔いが一気に回った事にあった。

 

そして、もう一つには、ジャックの飲み過ぎにも原因があった。

 

次々に飲み干してゆく一夏に乗せられ、彼も普段以上に飲酒量が増えてしまったのだ。

 

二人とも、何処かで止める事が出来る人間がその場にいたのならば、ここまで泥酔する事もなかったのだろうが、不幸な事にこの部屋には彼等しかおらず、その結果としての泥仕合であったのだ。

 

「あぁ?酒がもう切れちまったじゃねぇか、しゃぁねぇ、取ってくるわ。」

 

何杯目になるのだろうか、ジャックはジョッキを片付け、冷蔵庫から新しい酒を取ってこようと動く。

 

しかし、彼も相当酒が回っているのか、千鳥足となっており、何時ぶっ倒れても可笑しくはなかった。

 

「う~ん・・・?ジャック、あれはなんだ~?」

 

そんな彼を見送りながらも、部屋に置かれていた作り掛けの何かを見つけた一夏は、どこに焦点を定めているのか分からない目でジャックに尋ねていた。

 

ハッキリ言って、彼も相当危ない状態である事は否めなかった。

 

彼が指差したのは、球体にも見えるが、所々内部機器が露出しており、組み立て途中である事を物語っていた。

 

「ん~?それか?そいつはAIだ、MSのサポートを行える様にしようとしてたんだけか・・・。」

 

随分以前から手を着け、暫く放置していたためなのか、彼は思い出しながら話していた。

 

というか、酔っ払っているために、その説明すら嘘か真か分からぬ状態である事は間違いない。

 

「しっかしなぁ、あんま進まなくて放置してたんだわ、興味あるのか?」

 

「面白そうだったしな、興味はあるよ。」

 

作り掛けの機械を渡された一夏は、それを見ながらも酒を呷った。

 

作りかけながらも、しっかりとした手順を踏んで作られてきたのだろう、作りはしっかりしているし、あと少し弄れば完成しそうな雰囲気があるのだ、完成した姿を見てみたくなるのも必然であると言えるだろう。

 

「もうすぐ完成しそうなのにな・・・、もったいないな・・・。」

 

「なんなら、今から作るか?プログラミングと組み立てだけで終わるだろうしな。」

 

何処か感傷的な一夏の呟きに反応したジャックは、どこから取り出したのだろうか、工具とプログラミング用のキーボード付き端末を彼に手渡した。

 

どうやら、自分と彼の二人がかりでやれば次の勤務時間までに作り上げられると思ったのだろう。

 

というより、どうしてその結論に至るのだろうかと疑問に思ったりはしないのだろうか?

 

いや、この酔っ払い二人に今何を言っても無駄だろう、自分が何をしようとしてるのかも理解しているのかも怪しいのだから・・・。

 

「俺は組み上げをする、一夏はプログラミングを任せていいな?」

 

「任せろ、一時間で組んでやるぜ~。」

 

もう何を言ってるのかも理解してないのだろう、あからさまにおかしい一夏だったが、酔っているのにも関わらずに驚くべき速さでキーボードに指を走らせていく。

 

だが、それすらも果たして意味のある文字を打ち込んでいるのかどうかは、当然の事ながら不明であるのだが・・・。

 

「やるな、俺も負けてられないな!」

 

負けてたまるか根性が発動したのか、ジャックもナチュラルとは思えない手捌きで調整をしていく。

 

だが、これまた正しい手順で行われているのかどうか怪しい事だけは、傍から見ていても判る事であった。

 

「ここはこうして・・・、エラー?それがどうした、そのまま打ち込んどきゃいいんだよ。」

 

「カチャカチャっとなっ・・・!うん?何か取れたな、ま、何処だか分かんねぇし、別にいいか。」

 

・・・、何やら物騒な音やら警告音が引っ切り無しに鳴り響いているが、この酔っ払い二人はそんな事お構いなしと言わんばかりに、手を止める事すらしない。

 

時折、二人の口からは何とも不気味な笑い声が漏れ、部屋の中に木霊していたのであった。

 

酒の力、恐るべし・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

『・・・キロ・・・、オキ・・・。』

 

誰かが俺を呼んでいる様な声が聞こえ、俺の意識は少し覚醒する・・・。

 

だが、なんだ・・・、なんなんだこれは・・・。

 

頭が割れる様に痛い・・・、それに身体も鉛の様に重い・・・。

 

腕を挙げようにも、重さと気怠さ、そして何よりの頭痛が邪魔をして思う様に身体を動かせない・・・。

 

『オキロ、イチカ。』

 

また聞こえた・・・、この声は・・・、誰だ・・・?

 

ジャックじゃない・・・、誰なんだ・・・?

 

寝起きの頭でそこまで考えた時だった、腹に何かが勢いよくぶち当たってきた。

 

「ゴフッ・・・!?」

 

あまりの衝撃に眠気も一気に吹き飛び、同時に猛烈な吐き気も込み上げてきた。

 

「うぅ・・・っ!?な、なんなんだ・・・!?」

 

リバースしない様に口元を押さえつつも、腹部に熨しかかってきた物の正体を見極めるべく身体を起こした。

 

「・・・、なんだこれ・・・?」

 

そこで俺が見たのは、バレーボール程の大きさを持った、オレンジ色の球体だった。

 

なんでこんな物が俺の腹の上に?いや、そもそもこんな球体、この部屋に在ったか?

 

そう思ってると、その球体が俺の腹の上でモゾッと動いた。

 

「うぉっ・・・!?うっぷ・・・。」

 

あまりに唐突だったために叫びそうになるが、再び込み上げてくる吐き気に何とか口を噤み、絶叫だけは避けた。

 

と言うより・・・、今日はなんでこんなに気持ち悪いんだ・・・?昨日の俺、一体何してたんだよ・・・?

 

ジャックと酒飲んでて・・・、二十杯目のビールを飲んだ所までは憶えてるんだが・・・。

 

『ハロ、イチカ、ゲンキ。』

 

「・・・、うぉぉぉぉぅ!?喋ったぁぁぁぁ!?」

 

球体が唐突にこっちを向き、そして喋った事もあり、俺は吐き気も忘れて絶叫してしまった。

 

俺の反応に気を良くしたのだろうか、謎の球体は耳(?)をパタパタと上下に振り、コロコロと転がる様な素振りも見せた。

 

一見して愛らしい様にも見えるが、それが何なのか分からない俺にとっては、その動きの一つ一つが、ある意味不気味で仕方なかった。

 

「ジャック!ジャァァァァック!!」

 

自分でも驚く程取り乱していた俺は、俺のすぐ傍で倒れていたジャックの身体を揺さぶり、彼を起こそうとした。

 

「うごぉぉぉっ・・・!や、やめてくれ一夏・・・!は、吐く・・・!!」

 

彼も気分が悪いのか、真っ青な顔で揺らさないでくれと言わんばかりに身体を震わせていた。

 

一体あれからどれ程の量を飲んだんだ俺達は・・・?記憶が飛ぶなんざ、シャレにもなんねぇよ・・・。

 

いや、それは兎も角、今はもっと大事なことがあるんだった・・・!

 

「それよりもあれを見てくれ!!なんだよあれは!?」

 

『ジャック、ゲンキ、ゲンキ。』

 

「・・・、って、おぉぉぉぉぉ!?喋ったぁぁぁぁぁ!?」

 

俺と同じリアクションありがとう、だが、ジャックが驚くって事は、彼もコイツの事を知らないと言う事か・・・。

 

「い、一夏!なんなんだよコイツは・・・!?」

 

「俺に聞くなよ!コイツに叩き起こされたんだよ俺は!!」

 

気味が悪いが、せめて奴の正体を知らないと、どういう風に対処すれば良いのかも分からない、ならば、ここで俺がすべき事はただ一つ・・・!

 

「な、なんだお前は・・・!?」

 

吐き気もすっかり消し飛んだためか、俺は恐る恐るその喋る球体に問うた。

 

こんな奇妙な物体は、俺の今までの経験の中でも全く覚えが無く、正直言って未知との遭遇を果たした様な気分だった。

 

『イチカ、ジャック、ハロ、ツクッタ、ツクッタ。』

 

そのハロと自称する球体は、敵意が無いのか耳の様な部分をパタパタと上下させ、俺の問いに答えた。

 

いや、待て待て、俺とジャックに造られた?一体どういう意味なんだ?

 

「ジャック、コイツを造った覚えあるか・・・?」

 

「いや・・・、あるにはあるんだが・・・、途中で放置してた筈なんだがなぁ・・・。」

 

ジャック曰く、これの基となる物を造ってはいたが、組立途中で放置していたという事らしい。

 

それならば当然、コイツは完成しておらず、棚に飾られたままの筈であろう。

 

だが、ならば何時コイツは造られたんだ?いや、そもそも、どうして俺も造った事になってるんだ?

 

「ハロさんや、俺達はお前を造った覚えは無いぞ?」

 

それに、なんと言っても、昨日は酒飲んでからの記憶が無いし、俺が造ったと言われても俄には信じられないよな・・・。

 

「いや・・・、一夏・・・、ソイツが言ってる事・・・、間違ってねぇかもしれないぜ・・・。」

 

酔いが若干醒めたのか、ジャックは俺達が倒れていた付近の床を指差していた。

 

何事かと思い、彼が指差す方向に目を向けてみると、そこには散乱した工具とナットやボルト、そしてプログラミング用の端末があった・・・。

 

これらの情報を整理して出てくる結論は・・・。

 

「・・・、えーっと・・・、泥酔して調子に乗った俺とジャックが、放置されてたハロを組み上げて・・・。」

 

「完成と同時に二人とも寝ちまって・・・、寝返りか何かで起動させちまった・・・、ってわけか・・・?」

 

二人して顔を見合わせ、表情を引き攣らせながらもパタパタと動いてるハロの方に目を向けると、ハロは頷く様にして転がっていた。

 

「「あぁぁ・・・。」」

 

それを見た俺達は、揃って溜め息を吐いた・・・。

 

酔っ払った拍子に何してんだと言う呆れと、突貫作業にも程がある期間で完成させてしまった事に対する後悔が入り混じった溜め息である事は間違い無かった・・・。

 

「まぁ・・・、何はともあれ、造っちまったものは仕方ないよな。」

 

外皮が無表情で固定されているために、様々な表情を思い浮かべる事の出来るハロの顔は、今の俺達のやり取りを聞いて、何処か不安そうにも見えてならなかった。

 

生まれてきた機械に罪は無い、それを悪にしてしまうのも、善にするのも所詮は人間次第。

 

だから、俺はコイツを受け入れる、俺が造り出した存在として、俺が面倒を見よう。

 

「ジャック、ハロを貰ってもいいか?これから何が出来るかを見ておきたいしな。」

 

「一夏がそう言うんなら譲るぜ、大事にしてやってくれや。」

 

俺の意志を酌んでくれたのか、彼は苦笑交じりながらも頷いてくれていた。

 

それをありがたく思いながらも、俺はハロの表面を撫でていた。

 

それに対し、ハロは子犬が撫でられるのと同じ様に、ただじっとしていた。

 

「何はともあれ、これからよろしくな、ハロ。」

 

『ヨロシクネ、ヨロシクネ。』

 

瞳代わりのLEDライトを点滅させ、ハロは嬉しそうに耳を動かしていた。

 

さて、コイツが俺のダチ二号になるか、それとも相棒二号になるのか、どちらにしても、楽しみだ・・・。

 

久しぶりに訪れた安息は、これから来る未来をほんの少しだけ照らしてくれたと、今の俺は思う。

 

もう大丈夫、本当の意味で、俺は独りではないのだから・・・。

 

sideout




次回予告

運命の悪戯か、それとも必然か、別たれた魂が今響きあう。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

再会、友よ 前編

お楽しみに~


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再会、友よ 前編

noside

 

地球圏L3宙域にほど近い宙域を、一隻の船がゆっくりとした速度で航行していた。

 

その様子はまるで、何処かへ向かっていると言うよりも、何者かと待ち合わせ、つまりはランデブーを待っている様に見える。

 

その船の名はリ・ホーム、ジャンク屋組合所属、ロウ・ギュール一行の母船でもあった。

 

何故ジャンク屋である彼等が、スペースコロニーや資源衛星も無いこの宙域にいるのだろうか?

 

それには、一つの大きな理由があったのだ。

 

それは、先日強奪されたドレッドノートの頭部の処遇について、サーペント・テールが直接彼等に会談を申し入れたのだ。

 

サーペント・テールとの繋がりがあった彼等は会談の申し入れを即座に承諾、指定宙域までやって来ていたのであった。

 

「遂に劾達からの返事が聞けるな・・・、なんであんな事したのか気になってたんだ。」

 

リ・ホームの艦橋内で、ロウはサーペント・テールが姿を現す時を今か今かと待ちわびている様だった。

 

プレアが焦らなくなったとは言えど、やはりジャンク屋の性分として、奪われた物の行方が気が気でなかったのだろう。

 

「でも、結構早く説明に来てくれただけ良いんじゃないかな?話が通じない人達じゃないんでしょ?」

 

そんな彼を宥める様に、シャルロットは穏やかな声色で彼に話し掛けていた。

 

彼女の言葉通り、強奪事件が発生してからまだ一週間も経ってはいない。

 

割りと直ぐに回答が得られたと思うべき期間である事だけは確かだった。

 

「シャルロットの言う通りね、何か良い返事があると良いわね、そう言えば、こちらに来るのは小型挺が一機と、護衛のMSが一機だそうよ、リーダー御本人が来るとは思えないけど、あの二枚目の坊やなら来るかも知れないわね。」

 

彼女の言葉に同意する様に、プロフェッサーは顎に手を当てながらも呟いていた。

 

彼女の言う二枚目の坊や、それはサーペント・テールの二番手、イライジャ・キールを指しての言葉である。

 

それは置いといて・・・。

 

「ちゃんと返してくれれば嬉しいんですが・・・。」

 

彼等の呟きを聞きつつも、プレアは何処か不安げに呟いていた。

 

それもその筈だ、彼はサーペント・テールと接触した事は無く、彼等の事を噂等でしか知らないのだ、どんな人物が来るのか、そして、自分に任されたドレッドノートを返してくれるのかと不安になっても仕方あるまい。

 

「大丈夫さプレア、劾は頑固だけど、話の分からない奴じゃない、話せばきっと分かってくれるさ。」

 

そんな彼の不安を酌み取ったのか、ロウは彼の肩に手を置き、心配ないと言う様に笑った。

 

「はい、ロウさん。」

 

彼の気配りを嬉しく思ったのだろう、プレアは笑みを浮かべつつも頷き、ほんの少しだけ安堵した様な表情を浮かべた。

 

ロウが大丈夫と保証してくれているのならば、そこまで構えなくても良いと言う事なのだろうと彼なりに結論付けたのだろう。

 

『レーダーに反応あり、どうやら遂に来たみたいだぞ。』

 

「おっ、やっと来たか!」

 

そんな時だった、レーダーを見ていたジョージが、彼等に待ち合わせ人の接近を告げ、モニターに接近する機影を映し出した。

 

それに反応した一同は待ちかねたと言う様にモニターの方を向いた。

 

そこには、リ・ホームに接近する一隻の小型艇と、それに帯同する様に寄り添う蒼い機体の姿が映し出されていた。

 

「あの機体は・・・、連合のⅩナンバーですね、確か、デュエルでしたか・・・。」

 

その蒼い機体に憶えがあったのか、リーアムは自分自身に確認させる様に呟いていた。

 

だが、その声には怪訝の色が色濃く滲み出ていた。

 

それもその筈、彼の機体は数か月前にザフトに強奪され、現在もザフトで運用されている上、サーペント・テールが所有している機体はブルーフレームとジンの二機のみ、デュエルは含まれてなかった筈なのだ

 

リーアムを含み、サーペント・テールと直接接触した事があるメンバーは、何故デュエルがサーペント・テールの小型艇を護衛する様に付いているのかが理解できなかった。

 

「・・・!あの機体はっ・・・!?」

 

そんな空気の中、、シャルロットは一際驚いた様に声を上げ、口元を押さえていた。

 

その驚き様は尋常ではなく、彼女の両隣に立っていたプレアと樹里がビクリと身体を震わせていた。

 

「ど、どうしたんですかシャルロットさん!?」

 

「び、ビックリしたぁ~!!」

 

プレアと樹里は彼女に向けて尋ねるが、シャルロットは心此処に在らずの様子であり、目を見開いてデュエルを注視していた。

 

「(あっ・・・、まさかシャルロットの彼氏さんが乗ってた機体に似てるのかな・・・?)」

 

何故こうも彼女が驚いているのか、その理由に合点が行った樹里は、少し心配そうにシャルロットを見た。

 

つい半日ほど前、彼女はシャルロットから過去の話を聞いており、その中で彼女が愛した男性の事を聞いたのだ。

 

今接近して来ているMSが、嘗て恋人が乗っていた機体に似ている事に驚いたのだと樹里は思い至ったのだ。

 

「どうしたんだシャルロット、あのMSに見覚えがあるのか?」

 

そんな事など露知らずなロウは、いきなり叫んだ彼女に怪訝の表情で話しかけていた。

 

樹里以外のメンバーも、彼同様、驚愕や怪訝の表情で彼女を見ており、それに気付いたシャルロットは慌てた様に笑顔を取り繕った。

 

「あ、ううん、何でもないよ、昔見たことあった機体に似てたんだ。」

 

「そうか?ならいいいんだけどよ、それじゃ、来客を出迎えようぜ。」

 

彼女の言葉に今だ不思議そうにするロウであったが、それ以上の詮索を止め、来客を迎えるべく、格納庫へと足を向けた。

 

「あ、待ってよロウ~!!」

 

「僕も行きます!」

 

彼を追う様にして、樹里とプレアは艦橋から出ていき、リーアムも何処かやれやれと言う風に彼等の後に続いて出て行った。

 

「(あの機体はデュエル・・・、まさか、セシリアが・・・?)」

 

彼の後を追いながらも、シャルロットは接近してくるデュエルのパイロットに想いを馳せた。

 

嘗ての世界で、唯一友と胸を張って呼び合う事の出来た女性・・・。

 

その彼女がこの世界にいるのではないかと、シャルロットは僅かな希望を抱いたが、それを直ぐ様頭の隅に追いやる様に首を横に振った。

 

「(いや・・・、そんな漫画みたいな事、あるわけないよ・・・、もう、いないんだから・・・。)」

 

下手に希望を持つと、裏切られた時の痛みは何倍にも膨れ上がり、自身を責め立ててくる事を彼女は身をもって理解していたのだ。

 

「(それに・・・、折角励ましてくれた樹里にも悪いし・・・、ね。)」

 

大きく深呼吸を数回繰り返し、今度こそ彼女はロウ達の後を追った・・・。

 

sideout

 

noside

 

「風花さん、あの船で宜しいのですか?」

 

同じ頃、デュエルのコックピットに座るセシリアは、隣を曳航する風花に通信を入れていた。

 

彼女達は現在、合流する手筈となっているジャンク屋組合所属の船、リ・ホームを視界に捉える場所まで接近していた。

 

『うん、あれで間違いないよ、向こうもこっちを見付けてると思うし、そのまま進んで。』

 

「畏まりましたわ。』

 

風花から届いた指示に頷きながらも、彼女は周囲を警戒しながらも進んで行く。

 

ランデブー直前、または最中を攻撃されては堪ったものではない、その為の警戒である事は明白であった。

 

「周囲に機影は確認できませんわね、これならば安心ですわね。」

 

待伏せや他勢力の襲撃がまだ無い事に安堵したセシリアは、少し大きく息を吐いていた。

 

ここに来るまでの間、ずっと気を張り詰めていた為に少し気疲れでもしたのだろうか・・・。

 

そんな時だった、リ・ホームのカタパルトが、彼女達を迎え入れるかの様に開いた。

 

『セシリア、先に入っていい?』

 

「えぇ、どうぞお先に、殿はお任せくださいね。」

 

風花が乗る小型艇を先に着艦させ、彼女も機体に制動を掛けつつ着艦した。

 

彼女達の乗る機体が格納庫に入ると同時に隔壁が閉じられ、エアーが充填されていく。

 

エアーが充填されきった事を確認したのだろう、リ・ホームの乗組員と思しき者達が続々と格納庫の中へと入って来た。

 

それを認めたセシリアは、機体の電源を落とそうとしたが、その際、格納庫に置かれていた一機のMSに目が留まった。

 

「あれは・・・、バスター・・・!?」

 

予想だにしなかった機体の存在に、彼女の目が驚愕に大きく見開かれた。

 

それもその筈、彼の機体は彼女が唯一友と公言できる者が駆った機体であり、それが存在するという事は、自分と同じ様に彼女もこの世界に来ているのではないかと、セシリアに思わせるには十分すぎる材料であった。

 

「(いいえ・・・、そんな都合の良い奇跡なんて、有り得ませんわね・・・。)」

 

だが、彼女はすぐさまその考えを否定し、頭の片隅へと追い遣った。

 

有るのか無いのかも判らない希望に縋っては、裏切られた時に生ずる痛みは何倍にもなり、その身を苛むと、彼女は理解していたのだ。

 

「(それに・・・、折角気を使っていただいたのに、私がこれでは風花さんにも失礼ですわね・・・。)」

 

何処か寂しさを覚えつつも、彼女はデュエルの電源を落とし、コックピットから降りた。

 

既に風花も小型艇から降りていた様で、たった今ヘルメットを取り、汗を払う様に頭を振っていた。

 

「風花・アジャー、サーペント・テールの代表として参りました。」

 

彼女の姿に驚いたのだろうか、茶髪の少女と金髪少年は驚愕に染まりきった表情を見せ、硬直していた。

 

無理もない、風花の隣に降り立ったセシリアはヘルメットの内側でそう思っていた。

 

彼女自身、風花の様な少女がサーペント・テールの一角を担っている事に驚いていたし、それが原因で彼女の不興を買ってしまった事があったのだから。

 

「そうか、お前が来たんだな。」

 

そんな中、茶髪を逆立てている男性、ロウ・ギュールは特に驚いた様子も見せずに、至って普通に接していた。

 

彼にとって、大事なのは年齢でも見てくれでもなく、その本質なのだという事が、初見であるセシリアにも伝わってきた。

 

「はい、アタシが全てのお話をお伺いします。」

 

「そ、それは良いけど、そっちの人は誰なの?サーペント・テールのメンバーなの?」

 

風花が話している最中、驚愕から我に返った樹里は、彼女とその隣に立っているセシリアを見ながらも尋ねた。

 

その言葉に、その場に集ったメンバー全員の視線が彼女に集中する。

 

「あっ、この人は・・・。」

 

「申し遅れましたわ、私はサーペント・テールの準隊員、セシリア・オルコットですわ、今回は風花さんの護衛のために参りました、どうぞ、お見知りおきを。」

 

説明しようとする風花を制し、セシリアはヘルメットを脱ぎながらも自己紹介をし、優雅にお辞儀をしていた。

 

その動作の一つ一つから気品が滲み出ており、見る者を引き込む美しさを振りまいていた。

 

「そうか、よろしくなセシリア、ところで、あのデュエル、右腕がおかしくないか?」

 

「あら、流石ですわね、実はここに来る前に戦闘を行いまして、少し壊れてしまいましたの、宜しければ後で見ていただけませんか?」

 

握手しながらも、自分が乗ってきた機体の不備を一瞬で見抜いた彼の洞察力に驚きながらも、彼女は事情を説明し、機体の修理を依頼した。

 

「おう、任せとけって、それも仕事の一つだしな、けど、その前にドレッドノートの事での答えをくれないか?」

 

「はい、できる限りのお答えをさせて戴きますわ。」

 

ロウの言葉に頷きつつも、彼女はさり気無く風花を自身の前に立たせた。

 

恐らくそれは、自分が役目をすべて掻っ攫ってしまう事を防ぐ目的と、彼女を立てようとする気持ちから来ている行為であった。

 

「小さい・・・、女の子・・・?」

 

そんな時、タイミング悪く茫然自失状態から立ち直ったプレアがそんな言葉を口走ってしまった。

 

それを聞いてしまった風花は、ブチっという音が聞こえるかの様に眉間に皺を寄せ、彼に詰め寄った。

 

「なによ!?アンタだって大きいとは言えないじゃないっ!!」

 

「えぇ!?あの・・・?」

 

風花の剣幕に気圧される様に、プレアは後退りしてしまう。

 

「まぁ、ここで立ち話するのも何だ、艦橋に上がろうぜ。」

 

「はい。」

 

彼に助け船を出す様に言ったロウの言葉に、彼女は彼から背を向け、ロウ達と共に歩いて行ってしまう。

 

「あんな女の子がドレッドノートを・・・?そんなバカな・・・。」

 

その様子に、プレアは呆然と彼女達を見送っていた。

 

その表情は信じられないと言わんばかりの色が強く滲み出ており、彼の動揺の具合がよく判った。

 

「ふふっ、貴方はまだまだ、女性の心と言うモノを分かっておられないようですわね?」

 

プレアの様子を可笑しく思ったのだろう、セシリアはクスクスと笑いながらも彼に近づいていた。

 

「えっと・・・?なんですか・・・?」

 

「もう少し気を遣いなさいと言う事ですわ、女性を怒らせると、恐ろしい事になりますから♪」

 

いきなり話しかけられた事に対する驚きで、プレアはまたしても仰け反りそうになるが、セシリアの雰囲気に彼を責める気配が無い事に安堵したのか、表情を和らげた。

 

「あっ、自己紹介がまだでしたね、僕はプレア・レヴェリー、マルキオ導師様の使いです。」

 

「あら、貴方がそうでしたの、手荒な真似をしてしまい、申し訳ありません、誠心誠意、御説明させて頂きますわ。」

 

プレアがマルキオの代理人だと知ると、セシリアは申し訳なさそうに頭を下げながらも語った。

 

サーペント・テールとしての意向はあったとしても、彼女自身は彼に対しての申し訳無さがあり、それを少しでも払拭したいのだろう。

 

「は、はい、でも、何時返してくれるんですか?なるべく早く地球に行かないといけないんです・・・!」

 

「・・・?」

 

何処か焦りを滲ませながらも話す彼の雰囲気に、セシリアは何か奇妙な胸騒ぎを覚えた。

 

何が彼を急かすのか、その理由に触れそうになった様な気分だったが、彼女にはその正体を明確にする事が出来なかった。

 

「取り敢えず、風花さん達を追い掛けましょう?話はそれからでも遅くはないでしょう?」

 

「はい・・・、わかりました。」

 

焦るプレアを宥めながらも、セシリアは先に行ってしまったロウ達を追いかけようと、出口に足をむけ、彼の背を押しながらも歩き始めた。

 

その時だった・・・。

 

「セシ・・・リア・・・?」

 

「っ・・・!?」

 

自分の名を呼ぶ声に、彼女は弾かれた様に顔を上げた。

 

その声に聞き覚えが有るどころではない、何度も、何時も聞いていた愛すべき友の声・・・。

 

彼女が顔を上げた先には、驚愕の表情でこちらを見る金髪の女性の姿があった。

 

その姿に、彼女は驚きのあまりに目を見開く。

 

忘れる筈が、見紛う筈がない、その姿は嘗て、共に愛しき男の隣に立ち続けた、唯一無二の友のものだった・・・。

 

「まさか・・・、シャルさん・・・!?」

 

sideout




次回予告

絆が巡り合わせた二人の再会は、これから訪れる未来への布石なのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

再会、友よ 後編

お楽しみに~


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再会、友よ 後編

noside

 

セシリア達が格納庫に降り立った頃、先行したロウ達から少し遅れて艦橋から出たシャルロットは、独り格納庫までの廊下を進んでいた。

 

少しゆっくりめに進んでいたためか、彼女が制御室に入った時には、ロウ達が宇宙服を身に着け少女と並んで艦橋へと戻ろうと制御室に入って来たところだった。

 

「おう、遅かったじゃねぇかシャルロット。」

 

彼女と目が合ったロウは、何処かからかう様に笑いながらも、戻るぞと暗に告げた。

 

「ゴメンね、ちょっと遅くなっちゃったよ、その子がサーペント・テールの・・・?」

 

「はい、風花・アジャーです、叢雲 劾の代理として参りました。」

 

シャルロットに尋ねられた風花は、仕事人の顔付きになりながらも自己紹介をし、彼女の前に立つ。

 

「そっか、よろしくね風花、僕はシャルロット・デュノアだよ。」

 

彼女の挨拶に微笑み、名乗りながらも右手を差し出し、彼女は握手を求めた。

 

「シャルロット・・・?」

 

シャルロットの名を聞いた風花は、少し驚いた様な表情を見せ、彼女を凝視した。

 

「うん?風花もシャルロットに会った事あるのか?」

 

風花の反応を疑問に思ったのか、ロウはシャルロットと風花を交互に見ながらも尋ねた。

 

「ううん、会った事は無いと思うの、でも、シャルロットの名前だけは聞いたことある・・・。」

 

「どう言うこ事ですか?誰かから聞いた等はありませんか?」

 

風花の曖昧な言葉に、リーアムは首を傾げながらも問うた。

 

彼と同じ様に、シャルロットも何処か不思議そうに彼女を見ていたが、そこである事に気付いた。

 

「あれ?プレアはどうしたの?」

 

「あ、ホントだ、いないね。」

 

彼女の言葉に、樹里は制御室内を見渡すが、プレアの姿は何処にも無かった

 

恐らくはまだ、格納庫の方にいる事は理解できるのだが、一応の確認と言うのも必要である。

 

「まだ格納庫にいるのかもな、しょうがねぇ、呼んでくるか。」

 

彼を呼びに行こうと、ロウは踵を返し、格納庫へと足を向けるが、シャルロットがそれを呼び止めた。

 

「待ってロウ、僕が呼んでくるよ、何かあったのかも知れないし、先に風花ちゃんを休ませてあげてて。」

 

「そうか?悪いな、頼むよ。」

 

彼女の申し出に少々申し訳なさそうな表情を見せるも、折角の申し出を断るわけにもいかず、彼はシャルロットに後を任せた様だ。

 

「うん、任せてよ、それじゃあ、また後でね~。」

 

彼等に告げた後、彼女は格納庫に通じている扉まで行こうと動き出した。

 

「あーっ!!思い出した!そうよ!シャルロット!!貴女なんですね!!」

 

「へっ!?」

 

いきなり叫んだ風花の声に、シャルロットは前のめりになりそうになったが、何とか体勢を立て直し、彼女の方に向き直った。

 

「な、何!?どうしたの!?」

 

流石のシャルロットもこれには驚いた。

 

予想もしていなかったタイミングでの叫びだ、驚かないわけがなかった。

 

「いえ、セシリアが貴女の名前をとっても懐かしそうに話してくれたんです、だから、アタシは貴女の名前を知ってるんです、でも、もういない人だって聞いてて・・・。」

 

「えっ・・・?」

 

何の気なしに言ったのだろうが、当のシャルロットには思いもしなかった言葉だったようだ、今までの驚愕など比にならぬほどに目を見開き、彼女に詰め寄り、肩を掴んだ。

 

「今、セシリアって言った・・・!?本当にセシリアって言ったの・・・!?」

 

「えっ・・・!?は、はい!」

 

彼女の何処か鬼気迫る表情に気圧されたのか、風花は後退りしそうになりながらも答えた。

 

先ほどまで温厚だったシャルロットが、詰問に近い形で尋ねてくる事に、ある種の恐怖を覚えたのだろうか・・・。

 

「セシリアは今何処にいるの!?お願い、教えて!!」

 

周りのメンバーも普段は全く焦る事のないシャルロットの焦燥に駆られた表情に、只事ではないと察した様で、止めようにも如何すべきか悩んでいる様だった。

 

「お、落ち着いてください!アタシと一緒にここに来てます!」

 

自身の身体を揺さぶる様に尋ねてくる彼女に、風花は困惑しながらも格納庫の方を指さし、答えた。

 

「分かった!ありがとっ!!」

 

それを聞いたシャルロットは彼女に礼を言うと、一目散に駆け出し、格納庫に入って行く。

 

あまりの衝撃に呼吸は不規則になり、心臓の鼓動もより強く脈打つ。

 

「(セシリア・・・!セシリア・・・ッ!)」

 

別たれてしまったと思った友が、何時の日も、忘れる事など無かった友がそこにいるかもしれない、それだけで彼女の心は踊った。

 

もう二度と会えぬ事を覚悟し、生きていこうと思った。

 

希望を抱いて裏切られる事を恐れ、探す事さえ出来なかった。

 

殆ど諦めて、叶うはずが無いと思っていた夢が、まさに今、現実になろうとしていた。

 

格納庫に出た彼女は、内部を見渡して目的の人物を探し始める。

 

バスターのすぐ傍には、先程着艦したであろうデュエルが佇んでおり、その近くにいると当たりを付けた。

 

その方向へと足を進めると、何やら話し声が聞こえてくる。

 

「取り敢えず、風花さん達を追い掛けましょう?話はそれからでも遅くはないでしょう?」

 

「はい・・・、わかりました。」

 

一つはプレアの声であるが、もう一人の声は涼やかな女性の声だった。

 

「(この声は・・・っ!)」

 

間違いない、その女性の声を聴いたシャルロットは確信めいた感情を抱いた。

 

何度も自分の傍らで聞き、耳に馴染んだ優しい声・・・。

 

それは、彼女の唯一無二の親友の声だった。

 

「セシ・・・リア・・・?」

 

震える声で、彼女の方に向けて歩いてくる金髪の女性に向けて、シャルロットは言葉を発した。

 

その言葉には、そうであってほしいと言う想いと、やや確信めいた何かが籠められていた。

 

「っ・・・!そ、その声は・・・、まさか、シャル、さん・・・!?」

 

彼女の声に弾かれる様に顔を上げた女性の表情は、驚愕に彩られていたが、その美しく整った顔が、普段どんな表情をしていたのか、シャルロットは容易に想像する事が出来た。

 

「えっ!?何!?何ですか!?」

 

日は浅いが、仲間として行動していたシャルロットと、今会ったばかりのセシリアが互いに驚いた様な表情を浮かべ、今にも泣き出しそうになっているのが理解出来なかったプレアは、彼女達の間で視線を右往左往させていた。

 

「セシリアだ・・・、やっぱり、やっぱりセシリアだ・・・!」

 

愛しき友の名を呟きながらも、彼女は自分の目頭が熱くなってゆくのを自覚していた。

 

いや、彼女は泣いているのだ、二度と会う事の出来ぬと諦めていた友が、昔と変わらず自分の前に立っている事に、彼女は喜びの涙を流していたのだ。

 

それを認めたのだろう、セシリアも顔をくしゃくしゃに歪め、泣きながらシャルロットの方へと向かってくる。

 

「あぁ・・・、シャルさんっ・・・!!」

 

「セシリアぁぁ・・・!!」

 

距離が縮まり、二人は互いの温もりを感じる様に抱擁を交わす。

 

「シャルさん・・・!また、会えましたわね・・・!」

 

「会いたかった・・・、会いたかったよぉ・・・!」

 

セシリアも、そしてシャルロットも、愛しき友との再会に涙し、嗚咽を堪えきれずにいた。

 

死を以て愛しき者達と引き裂かれ、この世界に流れ着いた時から、ずっと独りだと思っていた・・・。

 

「よくぞ・・・、よくぞ御無事でっ・・・!」

 

「うん・・・、うん・・・っ!」

 

しかし、それももう終わりだ、最愛の友は、今、確かに自分達の傍にいる、彼女達はそれを確かめる様に抱き合った。

 

「え?えぇ・・・?なんですか・・・!?」

 

そんな彼女達を見るプレアは、どうすれば良いのか分からず、狼狽えるだけで彼女達に話しかける事が出来ない。

 

しかし、幸か不幸か、そんな彼の状況を打破してくれる人物は既に格納庫から去ってしまい、戻ってくる気配も無いために助けを求める事も出来ない。

 

「(え?どういう事?シャルロットさんがセシリアさんを見た途端泣き出して・・・?セシリアさんもシャルロットさんを見て泣き出した・・・?どういう事なの・・・?)」

 

状況への理解が追いつかないのだろうか、彼は眼を丸くし、呆然と立ち尽くす以外無かった。

 

「えっと・・・?セシリア・・・?シャルロット・・・?」

 

そんな彼に救いの手が差し伸べられた。

 

シャルロットの様子がおかしいと思って格納庫へと引き返して来た風花が、きつく抱き合っている二人に恐る恐る話しかけていた。

 

それに反応したプレアは、心の中で大きくガッツポーズをし、この途轍もなく気まずい雰囲気を破壊してくれた彼女に感謝していた。

 

「「あっ・・・!」」

 

風花やプレアの存在に気付いたのだろう、セシリアとシャルロットは自分達の世界から立ち戻り、どちらからともなく慌てて抱擁を解いた。

 

「あ、あはは・・・、み、見てた・・・?」

 

シャルロットは二人の視線に対し、照れ臭そうにしながらも、何処か誤魔化す様に笑っていた。

 

セシリアも彼女と同じく、顔を赤くしていたが、そこには羞恥の色よりも、喜色の方が色濃く出ていた。

 

「やっぱり、その人がシャルロットなんだね、セシリア?」

 

「えぇ、この方が私の最初の親友、シャルさんですわ。」

 

風花の問いに、セシリアは胸を張って答えた。

 

そこには後ろめたさも迷いもなく、ただ真っ直ぐな想いだけが籠められていた。

 

「やっぱりそうなんだ!良かったねセシリア!」

 

彼女の晴れやかな表情を見た風花は、まるで自分の事の様に喜んでいた。

 

それもそのはず、愛しき者と離れ離れになる辛さを、彼女とて知らぬわけではないのだから・・・。

 

「後程ご紹介致しますわ、シャルさんにも、風花さん達にもね♪」

 

「そうだね、それよりも、まずはロウ達を追掛けようよ、風花ちゃんからドレッドノートの事を聞かなくちゃだしね?」

 

風花とプレアに笑いかけたセシリアに、シャルロットも朗らかに笑いながらも艦橋の方へと足を向けていた。

 

自分達の再会を喜ぶ事は後でもできる、ならば、今すべきなのは奪われたドレドノートの処遇と、サーペント・テールの意向なのだと、余裕を持って考える事が出来たのだろう。

 

彼女の言葉に同意する様に、プレアと風花も頷き、彼女達は連れ立って歩き始めた。

 

今、真に自分達がやるべき事を為すために・・・。

 

sideout

 

noside

 

「・・・と、いうわけで、任務については今は何もお話しできません!」

 

リ・ホーム艦橋内に、風花の言葉が響いた。

 

格納庫での一連の邂逅の後、艦橋へとやってきた彼女達は、ドレッドノートの頭部はサーペント・テールが預かり、何者にも渡す積りが無い事と、今現在ではプレアに返却する事はできないと告げた。

 

「なんだよー、それなら何の為に来たんだよ。」

 

「そうよねぇ~・・・。」

 

『話にならん!!』

 

それを聞いたロウ、樹里、そして『8』は落胆、そして批判的な反応を見せた。

 

彼等の反応は当然のモノであるといえるだろう。

何せ、何らかの理由を示してくれるのかと期待していたのだ、それが裏切られた事に対する落胆も含まれているのであろう。

 

「そうです!!あれは大切なものなんです!!返してください!!」

 

「落ち着いてください、プレア・・・。」

 

「熱くなっても仕方ないから、ね?」

 

マルキオからドレッドノートを任されていたプレアは風花に詰め寄りながらも叫び、リーアムとシャルロットは彼を落ち着かせようと声をかけていた。

 

ジョージとプロフェッサーはというと、彼等の様子を見ながらも納得のいく答えを得られなかった事に、顔を顰めていた。

 

「ごめんなさい・・・、アタシだって本当は・・・、でも、時が来れば、きっと・・・。」

 

「時・・・?」

 

彼等の反応を受け、自分も納得していないと申し訳なさそうに語る風花の言葉を、正確には呟きをロウは聞き逃さなかった。

 

時とはどういう事なのか、その意味が曖昧過ぎるために、彼はその真の意味を把握する事が出来なかったが、恐らくは時期の事を言っているのだという事だけは分かった。

 

「なぁ、それってどういう・・・。」

 

その真意を尋ねるべく、彼は彼女に話しかけるが、今まで静観に徹していたセシリアが彼を制し、口を開いた。

 

彼女も、恐らくは風花の呟きを聞き、それについての自身の考えを告げようとしているのだろう。

 

「そこから先は、私がお話させて頂きますわ、その時というモノについて・・・。」

 

静かに、だが、得体の知れない圧力を籠めた言葉に、シャルロット以外のメンバーは何事かと息を呑む。

 

先ほどまでの雰囲気は何処かに消え去り、今の彼女が纏っているものは仕事人としての殺気にも似た、鋭いモノだった。

 

「この度のNジャマーキャンセラーの強奪、それには深い訳がありますの、劾さん御本人の考え、そして彼に依頼したクライアントの意向とは少し異なる点があるかも知れませんが、私なりの解釈でその理由をお話しさせて下さいませんか?」

 

「は、はい・・・、お願いします。」

 

最後の一言が自分に向けられていた事に気付いたのだろう、プレアは慌てて頷き、話の続きを聞く体勢を整えた。

 

「Nジャマーキャンセラーの持つ意味、それの善の部分は皆様も知る所でしょう、地球上に埋め込まれたNジャマーの効果を無効化し、核の力を再び利用できる様になる・・・、マルキオ導師があれを手に入れようとなされたのも、恐らくはそれが理由・・・。」

 

彼女の言葉に、その点に気付いていた一同は、その通りだという様に頷いた。

 

そう、それについての想像は極めて容易い、しかし、だからこそと言うべきだろうか、あの力には悪魔の一面も存在したのだ。

 

「ですが、核の力が使えるという事は、同時にこの戦争を引き起こしたモノも、使用出来るという事にもなりかねません、しかもそれを送る先はザフトにとっての敵、地球連合が支配する地球です、導師から奪い取ろうとする者も、必ず現れる事でしょう。」

 

「なるほど、だからサーペント・テールがあれを盗んで、戦争を手っ取り早く終わらせようとする敵から護る、そういう事かしら?」

 

セシリアの説明に合点が行ったのだろう、プロフェッサーは納得の表情を浮かべながらも尋ね、それを肯定するかの様に、彼女は静かに頷いた。

 

「で、でも・・・!地球の人達だってそんな事をするのかな・・・?」

 

「一度だけでも、もう核は撃たれたんだよね?だったらもう、誰も躊躇わないだろうね・・・。」

 

樹里の必死の問いに、シャルロットは何処か諦めた様な表情で答えた。

 

彼女の言う通り、核はミサイルという形で既にプラントに撃ち込まれている、それがこの戦争の開戦の直接的な原因と言っても過言では無いだろう。

 

「ですから、今はその様な惨劇を回避する為にも、マルキオ導師にも、プレアさん、貴方にもお返しする事は出来ません・・・、どうか、分かって下さいませ・・・。」

 

これだけの理由を並べられてしまえば、返せとも言い辛いのだろうか、プレアは押し黙ってしまった。

 

だが、それだけに彼の表情にはある種の悲壮感が浮かび上がり、ある意味での絶望すら窺う事ができた。

 

「・・・。」

 

そんな彼を、シャルロットは痛ましげな表情で見ていた。

 

その様子は、年の離れた弟を気遣う姉の様だったが、今の彼女には彼に声を掛ける事が出来なかった。

 

「ですが、時が来れば、必ずお返し致しますわ、約束致します。」

 

セシリアはそんな彼に対し、深々と頭を下げながらも約束の言葉を口にした。

 

だが、それでも彼の表情が晴れる事はなく、それを見ていたロウや樹里も、声を掛ける事すら出来なかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

L1宙域に、ユーラシア連邦所属艦、オルテュギアの姿があった。

 

その見てくれはゆったりとした速度で進んでいる様にも見えるが、内部は戦争の様に慌ただしかった。

 

「ライトバインダー修復完了!エネルギー充填開始します!!」

 

「ビームサブマシンガン、弾倉充填、装着完了!!」

 

何人もの整備士達が、灰色の機体、ハイぺリオンに群がり、先程の戦闘で受けた損傷の修復、エネルギーの充電作業に精を出していた。

 

それをわき目に、コックピットから飛び出した黒髪の青年、カナードは壁際に設置されたコンソールの脇に待機していた副官であるメリオル・ピスティスの傍まで駆け寄った。

 

「メリオル・ピスティス!緊急通信とはなんだ!?」

 

「はい、こちらがそのビデオメールです。」

 

自身に怒鳴りつける様に尋ねるカナードの剣幕に怯む事無く、メリオルはモニターに映像を映し出す。

 

そこにはユーラシア連邦の軍服に身を包んだ男性、ジェラード・ガルシアの姿が映し出されていた。

 

『パルス特務兵!!』

 

「チッ!!」

 

彼の姿を見るや否や、カナードは露骨に表情を歪め、周囲に聞こえる程大きな舌打ちをしていた。

 

彼がそれほどガルシアの事を毛嫌いしている事が窺える一幕でもあると言う事は、本人やその周囲も既に周知の沙汰だった。

 

『キラ・ヤマトはまだ見つけられない様だが、まぁそれはさておき、我が情報部がザフトの不審な動きをキャッチした!』

 

「その情報部のデータが悪いからいつまで経ってもキラを捕捉できないのだろうに!!」

 

「カナード・・・。」

 

嫌味と自慢を織り交ぜながら語るガルシアの映像に、カナードは悪態を吐くが、メリオルはそれは言ってやるなと言わんばかりのトーンで彼を制止していた。

 

『そこで暗号通信の一部を解読した所、ザフトの新技術として面白いワードが確認できた、[核エンジン搭載MSを取り戻せ〕と。』

 

「なんだと!?」

 

だが、続けざまに発せられたガルシアの言葉に、流石の彼もその表情を驚愕に染めた。

 

核エンジンはNジャマーの影響で使用が出来ない、それにも拘わらず核エンジンを搭載しているMSがあるという事は・・・。

 

『無論、それが存在するという事はNジャマーを無力化する装置が開発されたという事だ、我々ユーラシア特務隊Ⅹは、そのMSを奪取し、戦力に加えるのだ!そうすれば・・・。』

 

画面の中のガルシアはまだ話を続けようとしていたが、要件はもう分かったとばかりに、カナードは紺オールを操作し、映像を切った。

 

「カナード?」

 

「クックックッ・・・、そうすれば俺のハイぺリオンは無制限にアルミューレ・リュミエールを使える様になる・・・、いいだろう、キラ捜しは後回しだ、先にそのザフトのMSを奪ってやる!」

 

邪悪な笑みを浮かべながらも、カナードは核のパワーを余す事無く使い、絶対的な防御力を持った己の機体で、本物や先程の蒼い二機を葬る場面を想像していた。

 

ガルシアの命令に従うのは些か癪だが、己の愛機の強化に繋がるのならばそれでも構わないと言う様にメリオルに告げた。

 

「メリオル!そいつの位置は分かるか!?」

 

「はい、暗号から座標を割り出し、そこに向かいます。」

 

「良いだろう、ハイぺリオンの修理が終わり次第発進する!」

 

彼女の言葉に頷き、彼は格納庫から居住ブロックに足を向け、その場から去って行った。

 

その後ろ姿を見送りながらも、メリオルは何処か妙な胸騒ぎを覚えていた。

 

「(どうしてそこまでして戦うの・・・?貴方は、何が望みなの、カナード・・・。)」

 

女としての勘か、それとも部下として思う所があるのか・・・、彼女は彼の心に秘められた何かに一抹の不安を覚えていた。

 

そして、彼が本当に望む事とは、果たして本物の抹殺なのか、それすらも今の彼女には怪しく思えてならなかった・・・。

 

「(・・・、いいえ、そんな事、ある訳ないわね・・・。)」

 

自分の内に浮かんだ考えを否定する様に首を振り、彼女は部下に指示を出すべく艦橋へと足を向けた。

 

自分の上官であるカナードの望みを実現させてやるために・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

久方振りに訪れた、友との時間を慈しむ様に、二人は過去に想いを馳せた。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

過去と今と

お楽しみに~


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過去と今と

noside

 

L3宙域を、ジャンク船、リ・ホームはゆったりとした速度で航行していた。

 

特に急ぐ仕事も無ければ、今向かうべき所も無いため、仕事の依頼を待ちながらのんびりと航行しているのであろう。

 

「うーん・・・、モーターが見事なまでにイカレてるな・・・、一体何やったんだよ?」

 

その格納庫内、正確にはそこに置かれているデュエルに取り付き、何やら作業しているロウは、少し離れた所に立ち、作業の様子を見ているセシリアに尋ねた。

 

「タクティカルアームズを無調整のまま使ってしまいまして・・・、やっぱり駄目でしたか・・・?」

 

「そりゃそうだ、レッドフレームとブルーフレームには専用のチューニングを施してるが、このデュエルは無調整なんだろ?タクティカルアームズを使っちまったらそりゃイカレちまうぜ。」

 

何処か不安そうに話す彼女に、彼は少し苦笑交じりで理由を話していた。

 

「そうですか・・・、直りますわよね?」

 

「任せとけって!俺は宇宙一のジャンク屋なんだぜ!完璧に直してやるぜ!!」

 

不安そうなセシリアを励ます様に笑いながらも、彼はデュエルの腕の修理を続けていた。

 

「それにしても・・・、世の中何があるか、本当に分からないよね。」

 

そんな彼女に、作業の様子を見ていたシャルロットはドリンクボトルを手渡し、しみじみと呟いていた。

 

「そうですわね・・・、つい先程まで、会えないと思っていましたのに、ね・・・。」

 

彼女からドリンクボトルを受け取り、口を着けつつも、セシリアは嬉しそうに呟く。

 

彼女の想いも当然であると言えるだろう、何せ、最初は自分だけが見知らぬ世界に飛ばされたと、孤独に苛まれながらも生きてゆくと諦めていたのだ。

 

そこに、嘗ての世界での最愛の友が、生きて同じ世界にいると知り、再び巡り会う事が出来たのだ、嬉しくない訳が無かった。

 

「うん、最初にデュエルを見た時はそんな事有り得ないって僕も思ったよ、まさかそんな都合よくセシリアが来てくれたなんて、考えられなかったんだもん。」

 

「お互い様ですわ、私もそうでしたもの。」

 

二人は互いの顔を見合わせつつも、何処か照れくさそうに笑っていた。

 

その雰囲気は、嘗ての世界でのモノと全く変わる事無く、ただ愛しい者との時間を楽しもうとする想いだけに包まれていた。

 

「本当に仲がいいんだね、セシリアとシャルロットって・・・、アタシが割り込める隙なんてないね・・・。」

 

そんな中、風花は彼女達の傍により、二人の仲の良さを羨ましそうに呟いた。

 

彼女はサーペント・テールと言う組織の中で育ってきたと言う事もあり、年上の大人達と接する機会は幾度もあった。

 

しかし、それと同時に、同世代の子供と接する機会は非常に乏しく、取り立てて仲の良い同年代の人間ははっきり言って皆無に近い。

 

それ故に、同性であり、同い年であるセシリアとシャルロットの関係を非常に羨ましく思っているのであろう。

 

「そうだね、僕の初めての友達だったし、同じ人を好きになってたからね。」

 

「えぇ、一度死ぬ直前までご一緒しておりましたもの、そんな御方を軽んじる事なんて出来ませんわ。」

 

そんな彼女に微笑みかけながらも、二人は自分達の思い出を語る様に話し始めた。

 

殺戮を繰り返すばかりの荒んだ日もあった、誰かの想いを踏みにじる時もあった・・・。

 

しかし、そんな辛い時でもいつも一緒に戦ってきた、最高の友と呼び合える間柄だったからこそ、共に想い合い、笑い合えて来れたのだ。

 

「いいなぁ・・・、アタシも二人とそういう関係になりたいなぁ・・・。」

 

同世代で同性は今だ会った事はないが、彼女達ならば自分を対等な存在として接してくれるかも知れないと、風花は直感でそう思っていた。

 

尤も、セシリアとシャルロットならば、友達と言うよりは姉と呼んだ方が良いかもしれないが、彼女の性分からすれば、やはり対等の存在で在りたいと願っているのだろう。

 

「ふふっ♪私と風花さんは、もう友達ではありませんか、焦らずとも、いずれもっと仲良くなれますわ♪」

 

「そうだね、セシリアの友達は僕の友達だよ、今はまだ会ったばっかりなんだもの、まだまだ先は長いんだ、これから仲良くしていこうね♪」

 

そんな彼女の心情を察した様に微笑みかけながらも、彼女達は風花の頭を撫でながらも語りかけた。

 

自分達の雰囲気は長い付き合いが在ってこそだと、だから無理をしてそうなろうとしなくても良い。

 

そんな彼女達の思いやりが溢れていた。

 

「セシリア・・・、シャルロット・・・。」

 

彼女にとって頭を撫でられるという事は、子供扱いされているのと同義だったが、今回は不思議と心地良さを感じていた。

 

二人が年上だからという訳ではない、恐らくは彼女を自分達と対等の存在として見ながらも、何処か妹を見る様な優しさを持っているからなのだろう。

 

「うん・・・、ありがとう・・・。」

 

同時に二人の姉が出来た様な感覚を憶えながらも、風花は笑っていた。

 

その笑顔は劾や母親のロレッタ、そしてサーペント・テールのメンバーにもあまり見せた事の無い、心からの笑みだった。

 

「ねぇ、シャルロット~、この前教えてくれた一夏って人の事、もっと知りたいんだけど~。」

 

そんな中、ロウを手伝っていた樹里が、自分が手伝える範囲が終わったのだろうか、彼女達の傍にやって来ながらも尋ねた。

 

どうやら、ガールズトークに気付き、自分も参加しようと考えたのであろう、その瞳はある種の好奇心に輝いていた。

 

「一夏様の事、ですか・・・?」

 

樹里の問いに、セシリアは困惑の色を浮かべながらも、隣に立つシャルロットの表情を窺う様に視線を向けた。

 

「うん!セシリアも知ってるんだよね?二人が好きだった人の事、気になるんだもん!それにさ、二人みたいに生きてるかもしれないじゃない、どんな人か知っておけば、シャルロット達が会えなくても、もし私が会えたら、その人に二人が生きてるって伝えられるでしょ?」

 

「「っ・・・!?」」

 

彼女の言葉に、セシリアとシャルロットは驚きに目を見開いていた。

 

どうやら、その可能性に辿り着いていなかったのだろう、親友との再会で、ある種の幸福を味わっていたため、愛した男も同じ様に生きている事を考える余裕が無かったのだ。

 

「(一夏様が・・・、生きているかもしれない・・・。)」

 

「(僕達が生きてるんだ・・・、有り得ない話じゃない、かな・・・。)」

 

確かに考えてみれば、何の不思議も無い。

 

彼女達は彼と共に死んだも同然、そんな自分達がこの世界に流されているのだ、彼も例外では無いと考える事も出来る。

 

だが、それは所詮可能性でしかない、高望みをし過ぎていれば、今度こそ裏切られるリスクも当然出てくる。

 

いや、今現在では裏切られる確率の方が高いだろう、何せ、彼の手掛かりとなるモノを何も見付けられていないのだから・・・。

 

だが、会えるものなら、どれだけ傷つこうとも、裏切られたとしても望みだけは捨てたくない、それが今の二人の共通の心境であった。

 

「(セシリア、一夏の事、教えてあげようよ、樹里はロウの事が好きなんだよ、だから、僕達の話も聞いて参考にしておきたいんだと思うよ。)」

 

「(えぇ、私もそう思っていた所ですわ、なるほど・・・、やはりそういう事でしたか、ふふっ、可愛らしいですわね♪。)」

 

気持ちは同じとばかりに、彼女達は互いに耳打ちし、樹里に向き直った。

 

「分かりましたわ、樹里さんがお喜びになりそうなお話をお聞かせ致しましょう♪」

 

「うんうん!聞かせて聞かせて!とびっきり濃いの!!」

 

彼女の言葉に、樹里は絵本の読み聞かせを心待ちにしている子供の様に表情をパッと明るくし、続く言葉を待っていた。

 

そんな樹里の様子に、風花とシャルロットは苦笑を浮かべながらも顔を見合わせていた。

 

「そうですわね・・・、シャルさんから既にお聞きになっているところもあるでしょうが、やはり、とてもお強く、そして何処までもお優しい方でしたわね・・・。」

 

愛しき男を、自分の運命を良くも悪くも変えた男を、彼女は慈しむ様に話した。

 

「優しいだけじゃなくって、自分で如何したいかを決めさせてくれる人だったね、まぁ、放任主義って言われたら否定できないんだけどね。」

 

シャルロットも語り始めるが、どこか冗談を言う様な口調で話し、何とか暗い雰囲気に持っていかない様に勤めていた。

 

「へぇ~・・・、セシリアもやっぱり、その人に好きだって言ってもらえたの?」

 

その事に気付かない様にしているのか、それとも本当に気付いていないのか、樹里は身を乗り出し、セシリアに尋ねていた。

 

彼女の隣にいる風花も、何だかんだで気になるのだろう、ジッと彼女達を見詰め、話の続きを待った。

 

「えぇ、最初は偶然、私とシャルさんの立ち話を一夏様が聞かれていて、その流れで言って頂けましたの♪そう何度も言ってはいただけませんでしたが、それでも、行ってくださる時は、大事にしてくださいましたわね♪」

 

「そんな事もあったね~♪あの時は恥ずかしくって、凄く暑かったよね~。」

 

セシリアの思い出話に、シャルロットはそんな事もあったと笑っていた。

 

そろそろ惚気に入ってきそうだが、生憎彼女達を止める者は、近くにはいない。

 

「いいなぁ~・・・、聞いてるだけで二人が幸せだったって分かるね・・・、あっ、そうだ、その人ってどんな顔だったの?」

 

二人の話にテンションが上がってきたのだろうか、樹里は一夏の容姿を彼女達に訪ねていた。

 

確かに、一夏の顔を知っていればセシリア達が彼に会えずとも、樹里や風花が彼にあった時に彼女達の存在を伝える事が容易になる。

 

そのためかどうかは定かではないが、樹里の判断は正しかった。

 

「え?一夏の顔・・・?教えたいんだけど・・・、写真とかあったかな・・・?」

 

「さぁ・・・?そういえば、一緒に写真を撮った事、ありましたかしら・・・?」

 

だが、当の本人達は、その問いに困惑し、顔を見合わせていた。

 

そう、彼女達は彼とあまり写真を一緒に撮った事が無かったのだ。

 

転移してきた為とも言えるが、かつての私物は悉く失われ、残っている物は皆無だった。

 

その為、彼に貰った指輪が無くなっていた事に気付いた彼女達は、残っていると思っていた唯一の繋がりが断ち切られたと思い、発狂しかけたという。

 

それは置いといて・・・。

 

「そっか・・・、絵でも書けたらいいのにね・・・。」

 

彼女達の反応に、樹里は何処か申し訳なさそうに項垂れた。

 

自分のせいで嫌な思いをさせてしまったとでも思ったのであろうか・・・。

 

彼女達の間に気まずい雰囲気が流れ始める、正にその時だった。

 

「おーい、セシリア~、デュエルの修理終わったぜ、後で動作確認しといてくれよ。」

 

修理が終わったのであろう、ロウが工具を持ったまま彼女達の方へとやって来た。

 

「あっ、ロウさん、お手数をお掛けしましたわ、ありがとうございます。」

 

それに気付いたセシリアは彼の方へ行き、その顔に笑みを湛えて一礼した。

 

「良いってことよ、俺も珍しいMSが弄れて楽しかったんだしな、それはそうと、さっきコックピットでこんなもん見付けたんだが、見覚えはないか?」

 

「はい?」

 

ロウがポケットから取り出したのは、写真の様な紙であったが、それに心当たりのない彼女は首を傾げながらも受け取った。

 

裏返しにされていたため、写真を見るために表側を見てみると、そこにはかつての世界でのセシリアとシャルロット、そして・・・。

 

「っ・・・!一夏様・・・!?」

 

「えっ・・・!?」

 

セシリアの声に驚き、シャルロットはその写真を覗き込み、口元を押さえた。

 

そう、そこに写っていたのは、彼女達が愛した男、織斑一夏のかつての姿だったのだ。

 

「え?この人が、一夏って人・・・?」

 

彼女達と同じ様に写真を覗き込んだ樹里は、彼の顔に釘付けになった。

 

癖のある黒髪、端正な顔立ち、この世界ではあまり見ない、黒曜石の様な黒い瞳、そして何よりも、その幸せそうな笑顔・・・。

 

その全てが魅力的でありながらも、何処か浮世離れしている様な美しさに、いや、正しくは得体の知れなさに樹里は息を呑む。

 

本当に彼は人間なのか・・・?

それだけが彼女の頭を占めていた。

 

浮かべている笑みまでもが何処か作り物めいており、人間にある感情というものが、写真に写る彼からは見受けられなかったのだから・・・。

 

「ねぇ・・・、セシリア・・・、この人って・・・?」

 

「ご安心くださいな・・・、この御方は、ちゃんと人間ですわ。」

 

彼女の思いを察したのか、セシリアは彼女を安心させる様に微笑んだ。

 

だが、その笑みには何処か影があり、哀しんでいる様にも見えた・・・。

 

「分かってるよ・・・、この時の彼、人間辞めてたから、感情の無い人形みたいに見えるんだよ・・・。」

 

「何と言えば良いのでしょうか・・・、私達の、消し去れない過去と罪という事ですか・・・。」

 

シャルロットの言葉に頷き、彼女はその写真を胸に抱き、静かに目を伏せた。

 

彼の事を想っているのか・・・、それとも、自身が犯してきた罪を、殺してきた者達の事を思い返しているのか・・・。

 

それは彼女達以外の誰にも分からなかった・・・。

 

「セシリア・・・、シャルロット・・・。」

 

彼女達の雰囲気に、風花は幼いながらも何かを感じた様で、不安げに彼女達を見ていた。

 

自分の知らないところで、彼女達は何をしていたのだろうか・・・?

 

その凄絶な過去に触れた様な気がして、彼女は何処か悲しげな表情を浮かべた。

 

「ですが・・・、くよくよしている暇は有りませんわね。」

 

「たぶん、彼も生きてると思うし、探し出してあげないとね。」

 

そんな風花の心配を他所に、セシリアとシャルロットは顔を上げ、新たな目標が見つかったと言う様に表情を引き締めた。

 

「そうか、なら、俺達も協力するぜ、一人よりも二人、二人よりも三人だ、大勢で協力した方が見つけやすいしな!!」

 

彼女達の意気に、ロウは自分も協力すると名乗りを上げた。

 

離れていても何時かは会える、そして探し出せると考えている彼にとって、二人の様に進もうとする姿勢は好ましく映るのだろう。

 

「ならアタシも!劾達に頼めば絶対に協力してくれるよ!」

 

「私も、かな・・・?頼りないかもだけど、二人の力になりたいな。」

 

風花、樹里も彼に同意する様にセシリアとシャルロットに告げ、ある種の決意を籠めた瞳を向ける。

 

「皆・・・。」

 

「ありがとうございます・・・。」

 

彼等の想いに触れ、シャルロットは感激に瞳を潤わせ、セシリアは微笑みながらも礼を述べた。

 

自分は、自分達は孤独ではないのだと、彼等に教えられた様な心地だったが、それでも、彼女たちの心は何時になく晴れやかだった。

 

「よっしゃ!やる事も増えた事だし、ぼちぼち行くか!早く見つけてやろうぜ!」

 

言うが早いか、ロウは彼女達に先駆け、格納庫から出て行こうとする。

 

どうやら、プロフェッサーやリーアム、そしてプレアに今後の方針を伝える為でもあるだろう。

 

「あっ!待ってよロウ~!!」

 

そんな彼を追いかける様に、樹里も慌てて動き出す。

 

その様子は、まるで親に付いて行くヒヨコの様にも見えるが、これも彼女の気質故だろう。

 

「あははっ、樹里ってば、慌てすぎだね。」

 

彼女の様子に苦笑しながらも、シャルロットはセシリアと風花と共に彼等を追いかける様に宙を進んで行く。

 

二人の表情に、最早迷いや自己憐憫の色は全く見えなかった。

 

その姿勢は、今度は自分達が彼を見付けてみせるといった想いに満ち溢れ、ただ進むべき道を進んでいる様だった。

 

その先に、彼がいると信じて・・・。

 

sideout




次回予告

迫り来る魔の手の元凶は、彼等が招き入れたのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

遭遇

お楽しみに~


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遭遇

noside

 

漆黒が支配する広大な宇宙に、一隻のザフト軍戦艦、ナスカ級が存在を気取られぬ様にゆっくりと航行していた。

 

その様子はまるで、何者かにひっそりと近づいている様であった。

 

そして、予定のポイントに辿り着いたのだろうか、艦は更に速度を落とし、船体中央のカタパルトを開いてゆく。

 

暫くして、数機のジンが発進し、全機が同じ方向へと突き進んでいく。

 

よく訓練されているのか、或いは指揮する者の腕良いのか、一糸乱れぬフォーメーションで標的へと進行するその様は、まるで時間との闘いであるオペの様にも見える。

 

指揮官機と思しきジンのカスタム機を先頭に、MS部隊はその先に在るザフトの秘匿技術を取り戻すべく、漆黒を切り裂いて進んでいく。

 

そう、彼等はザフトから密かに持ち出された秘匿技術、Nジャマ―キャンセラーの強奪のため、それを持っている船、リ・ホームを攻め落そうとしていたのだ。

 

狙われているとも知らぬ標的は、襲撃されると警戒すらしていないだろう。

 

故に、自分達に徐々に迫ってきている彼等の存在にまだ気付いていないだろう、その油断に付け入る隙があるというもの。

 

研ぎ澄まされた牙が、静かに、そしてしたたかに進行しつつあった・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

艦橋に戻ろうと通路を進んでいると、突如としてけたたましいアラートが鳴り響きました。

 

「何事ですの!?」

 

一旦驚きはしましたが、よくよく考えてみれば分かる事でした。

 

これは間違いなく、敵が接近して来ているに違いありませんわね・・・!

 

「ジョージ!どうしたんだ!?」

 

ロウさんがこの船の艦長、ジョージ・グレンさんに何があったのかを確認しつつも、何処か焦りの表情を浮かべておられました。

 

すぐさまジョージさんが現れ、状況を説明してくださいます。

 

『ナスカ級とMSが数機接近して来ている!狙いは恐らくドレッドノートだ!』

 

やはり・・・!!

 

厄介な物には厄介事が舞い込むとリードさんは仰っていましたが、本当にそうなっておりますわね・・・!

 

「やっぱり・・・!どうするセシリア!?」

 

シャルさんが何処か覚悟を決めた様な表情でこちらに向き直り、私に何かを聞こうとしている様でした。

 

と言いましても、やるべき事はただ一つです、彼女もそれは承知の上で尋ねてきたのでしょう。

 

「この船に乗っている方々の内、戦力を持っていますのはロウさんとシャルさん、そして私ですが、シャルさんは戦闘のMSでの戦闘経験は御座いますか!?」

 

「ロウとの模擬戦しかないけど、僕の機体は遠距離砲撃用なんだ、援護ぐらいなら出来るよ!!」

 

それでこそですわ、近接戦は私が、遠距離戦はシャルさんが受け持つ、前の世界での戦い方と何一つ変わらないではありませんか。

 

それがこの世界でも戦える様になるだけです、なんだか懐かしいですわね・・・。

 

「ロウさん!風花さんをお守りする事が私に課せられた任務ですわ、これから出撃致しますわ!!」

 

「セシリア!?無茶だ!デュエルはまだ直したばっかりなんだぞ!?動作確認もしないで戦闘なんて無謀だ!!俺が出て食い止める!」

 

私の言葉に、ロウさんは驚いた顔を見せ、私を止めようとしていました。

 

それもそうでしょう、彼は私達が別世界の人間だったと知っています、そんな人間が今だ触れて間もない兵器で戦場に出るなんて無謀だと言いたいのでしょう。

 

「いいえ、私達はもうこの件に関わりすぎています、今更逃れる事なんて出来ませんわ。」

 

「それに、僕達はもう仲間なんでしょ?なら助け合わないとだよね?」

 

私の言葉に追従して、シャルさんも彼に言葉を投げかけておりました。

 

相変わらず、私達は誰かに護られるばかりを良しとは出来ませんわね。

 

「僕達が先行して数を減らす!この中で火力があるのはバスターだけだよ!」

 

以前は破壊にのみ使ったこの力、今は仲間を、友をお守りする為に使わせていただきましょう!!

 

「樹里、風花ちゃんとプレアをよろしくね!僕達が何とかしてみる!」

 

「風花さん、樹里さんとプレアさんを頼みます!」

 

「待て!セシリア、シャルロット!!」

 

ロウさんが引き止めるより早く、私達は格納庫に向けて動き出していました。

 

そんなに離れていなかったため、直ぐに格納庫に到達し、私達はそれぞれの愛機に乗り込み、機体を立ち上げていきます。

 

この出撃準備の感覚・・・、何時ぞやの戦争の時と似ておりますわね・・・。

 

恐らくは、シャルさんが共に居て下さる事が大きな支えとなって下さっているのでしょう、私の心は、以前には無かった余裕というものが出来つつありました。

 

『セシリア、またこうやって戦えるね、僕達のコンビネーション、見せ付けてあげようよ!』

 

シャルさんも同じ事を考えていらしたのでしょう、通信機から自信に満ち満ちたお声が聞こえてきます。

 

恐らくは、彼女も私と同じ想いを抱いておられるのでしょう、声のトーンから何となく分かります、これも長い付き合いの賜物と言えるのでしょうか?

 

「えぇ、望むところですわ、一夏様がおられずとも、私達の戦いを今一度お見せ致しましょう。』

 

私には共に戦って下さる友が、そしてお守りしたいと心から思わせて下さる仲間がいて下さいます、それならば、この力、存分に振るわせていただきましょう・・・!

 

カタパルトまで機体を移動させ、発進の準備を完了させます。

 

さぁ、参りましょう、私達の本当の戦いは、これからですわ!

 

「セシリア・オルコット、デュエル、参ります!!」

 

sideout

 

sideシャルロット

 

セシリアのデュエルが発進した事を確認して、僕はバスターをカタパルトまで進める。

 

それにしても、ちょっと前まではセシリアが生きてるなんて思いもしなかった、そしてこんな風に一緒に出撃するなんて事は、まるで夢を見ている様な気分だよ。

 

でも、浮かれてなんていられない、目の前には敵が、僕達を殺してでもドレッドノートを奪おうとする集団が迫ってきているんだ。

 

だから、ここで僕達が討たれて、折角出来た新しい友達と、やっと再会できた親友と死に別れる訳にはいかない。

 

漸く新しい生き方が出来るんだ、だからこの力を、破壊の為だけに使ってきた力を、今こそ友を護る為に使う・・・!

 

さぁ、行くよバスター、これからは一緒に違う活き方を探そうよ、それが僕達の活きる意味なんだ!!

 

『進路クリアー、気を付けて行けよ、シャルロット。』

 

オペレーター代わりのジョージの通信が届き、ハッチが開いてゆく。

 

煌めく宇宙の星々の狭間に、人為的なスラスター光が瞬いているのが見える。

 

案外早く来たね・・・、こっちはまだ発進してないっていうのに・・・。

 

ぼやぼやしてる暇は無い、セシリアだけに任せる訳にはいかないしね!!

 

「了解だよジョージ!シャルロット・デュノア、バスター、行きます!!」

 

カタパルトから射出されたバスターは虚空に飛び出し、先行してたセシリアのデュエルを追いかける様に進んでゆく。

 

『シャルさん、バスターでロングレンジ射撃をお願いしますわ、斬り込みはこの私にお任せくださいませ。』

 

「了解だよ、油断しないで行こう、僕達はルーキーも良いところなんだし、ここで死んだら一夏にも会えないしね。」

 

『ふふっ、了解ですわ、生きて皆さんの下に戻りましょう、今度こそ、棄ててしまったものを取り戻すためにも!』

 

そう、僕達は生き残って、今いる友達と歩んでいく事と、今はいないけど、何処かに必ずいる人を見つける為に戦うんだ。

 

こんなところで死ぬわけになんていかない、だから、今は生きるために戦う!

 

「行くよ、バスター!!」

 

ガンランチャーとビームライフルを連結した長高インパルス砲を構え、先頭の一機に狙いを定め、僕はトリガーを引いた。

 

sideout

 

noside

 

火蓋が落された戦闘を、風花はリ・ホームの艦橋から険しい表情のまま見つめていた。

 

シャルロットの駆るバスターのロングレンジ射撃を紙一重で回避したザフト軍は、近距離戦闘に持ち込もうと間合いを詰めてくる。

 

しかし、簡単に打たれるほど彼女達も甘くない、バスターに接近するジンのカスタム機を、デュエルが頭部バルカンで牽制しながらもレッドフレームから借り受けたビームライフルで射撃、他のジンの接近を許さない。

 

更に、ジンが回避した先に向け、シャルロットがガンランチャーやミサイルを撃ちかけ、攻撃に転じさせないといったコンビネーションが出来上がっていた。

 

それもそうだ、セシリアとシャルロットは嘗ての世界で共に戦い続けた間柄、相手がどういう風に動けば自分がやるべき事も自ずと分かっているのだ。

 

故に、その連携の精度は非常に高く、ザフト正規軍の連携に勝っていた。

 

しかし、敵もそう易々とは墜ちてはくれない、散開し、ナスカ級からの艦砲援護を受けつつ挟撃を仕掛ける。

 

デュエルとバスターは互いの背を護る様に動きながらも攻撃を回避してゆくが、反撃の暇が無いのだろう、目に見えて攻撃が少なくなってきていた。

 

「セシリア・・・!シャルロット・・・!」

 

風花の隣に立つ樹里は、何処か不安げな声を漏らしながらも戦闘を見ていた。

 

そんな彼女達の目の前で、ジンのマシンガンがデュエルの装甲を掠め、バスターのミサイルを次々に撃ち落してゆく。

 

このままでは、いかにPS装甲で身を固めているデュエルとバスターとは言えど、エネルギーが枯渇してしまえばそこで終わり、嬲り殺しにされるのがオチだ。

 

『シャルロット!セシリア!待たせちまったな!!』

 

『ロウ!遅いよっ!』

 

『気を付けてくださいな!向こうは私達を殲滅するつもりですわ!!』

 

数の面で劣勢に立たされた彼女達を援護する様に、遅れてきたレッドフレームが戦線に参加、手近なジンにガーベラストレートを抜刀し、斬りかかった。

 

そのジンは銃剣を巧みに振るい、レッドフレームと切り結ぶ。

 

相当の手練れが乗っているのだろう、近接格闘が本分であるレッドフレームが押し切れずにいた。

 

『クッソ!躊躇いなしかよ!ちったぁ組合のマークを気にしやがれってんだ!!』

 

ザフトの攻勢に、ロウは悪態をつきながらもジンから間合いを取り、飛来してくる弾丸をガーベラで受ける。

 

その様子に、風花は唇を噛んだ。

 

自分達がドレッドノートの頭部を奪ってしまったせいで、リ・ホームがザフトの攻勢にさらされてしまっていると、彼女は思ってしまっていた。

 

自分達が奪わなければ、こんな所で寄り道を、遠回りを喰らう事が無く、リ・ホームは目的を果たせていたはずだと・・・。

 

『警告する!直ちに投降し、そちら所持しているわが軍のMSを引き渡せ!!さもなくば命の保証は出来ない!!』

 

自責の念に責め立てられる彼女の耳に、ザフトの司令官であると思しき男性の警告が届く。

 

その警告に、風花は不審を抱いた。

 

それもその筈、最初から命の保証をするのならば、攻撃などしてこない筈だ。

 

ならばこの警告は・・・。

 

「も、MSって・・・?」

 

状況を今だ飲み込めていない樹里が、訳を知っていると思ったのだろう、プレアに説明を求める様に尋ねた。

 

その判断は正しい、ドレッドノートを持ち出したのはプレアであり、その裏に隠された事情を一番理解しているのだから。

 

「ドレッドノートの事です、あれは正規のルートでザフトから持ち出した訳ではないので・・・。」

 

「えぇ~!?それじゃあ、向こうの言い分が正しいじゃない!?渡した方が良いじゃない!!」

 

「・・・。」

 

彼女の言葉に何も言い返せないのか、プレアは押し黙り、どうするべきか悩む様な表情を見せた。

 

彼女の指摘は尤もだった、正規ルートで持ち出した訳で無いのならば、悪党は自分達の方であり、言い逃れできない状況だ、命だけでも助けてくれるのならば、一もにも無く引き渡す事が筋であると言えるであろう。

 

だが、果たしてそれが正しい選択だと言えるのだろうか・・・?

 

「いえ!その必要はありません!!」

 

その選択肢の裏に気付いた風花は、きっぱりとNOと答えた。

 

「か、風花ちゃん!?どうして!?」

 

何故彼女がそれを拒否するのか、その理由が分からない樹里は彼女を凝視し、理由を問う様に叫んだ。

 

彼女の言葉を受けた風花は、彼女以外の全員が気付いているであろう事を説明する様に話し出した。

 

「アタシ達の命を助ける気なら、最初に攻撃を仕掛けてから交渉をしようなんてしません。」

 

『その通りだな。』

 

彼女の説明に同意する様に、ジョージは自分もそう思っていたと言う様に相槌を打った。

 

彼等の言葉通り、ザフトが彼等の命を助け様とするなら、交渉から入るなり、警告を発するなりしたであろう。

 

だが、目の前のザフト軍は問答無用と言う様にMSを展開、彼等を墜とそうとしていたのだ、そこからの交渉と言うのも甚だおかしな事だ。

 

「恐らくは、こちらが予想以上の戦力を持っていた事と、セシリアとシャルロットが思った以上に手ごわかった為に交渉に転じただけです、たとえ交渉に応じても攻撃を受けない保証はありません。」

 

「秘密を知った者は全員殺す、って感じよね。」

 

「そんなぁ~!?」

 

風花の解説に頷きながらも、やれやれと言った風に話すプロフェッサーの言葉に、樹里は涙声で叫んでいた。

 

何とかして命拾いしようと考えていたのだが、その方法があっさりと否定されてしまったのだ、彼女でなくても嘆きたくなるだろう。

 

そんな彼女を尻目に、プレアは何かを決心したかの様に顔を上げ、宣言する。

 

「僕がドレッドノートで出ます!!」

 

「!?しかし、あの機体は完全では・・・!」

 

彼の言葉に相当驚いたのだろう、コンソールを操作していたリーアムが振り返り、彼を制止する様に言葉を発した。

 

彼の言葉通り、現在のドレッドノートは動力源である核エンジンを起動させる為に必要なNジャマ―キャンセラーが搭載された頭部を奪われてしまっている。

 

そのため、サブバッテリーでの稼働に限定されてしまう上、急場しのぎの為に、ロウがグレイブ・ヤードで回収したゲイツの頭部をそのままくっ付けているだけだ、PS装甲の展開はおろか、通常攻撃すらそう何度も行なえないのが実情だ。

 

それを理解して尚、プレアは出撃を宣言したのだ。

 

「この船でまともな武装が残っているのはドレッドノートだけです、いくらシャルロットさんやセシリアさんが強いとは言っても、何時まで持つかわかりません、それに、これ以上この船の皆さんに御迷惑を掛ける訳には・・・!」

 

「分かりました、私もジンで出ます、これで数の不利も少しは軽減されるでしょう。」

 

彼の出撃の意志が固いと見たリーアムは、その意見を尊重する為なのか、自分も出撃すると言い、席を立った。

 

確かに、リーアムはコーディネィターであり、軍人や傭兵ほどでは無いにしろ、MSの操縦もでき、一応の戦闘経験も持っているため、護衛や迎撃ぐらいならばこなせるだろう。

 

「そんな・・・!そもそもこの状況は僕が招いたものです!ですから・・・!」

 

彼の申し出に、プレアは申し訳ないという様に声を上げ、彼を思い留まらせようと言葉を続けようとした。

 

この戦闘は自分が招いたもの、だから他人は巻き込めないし、落とし前を着けるのは自分独りでやるべきだと思っているのだろう。

 

だが、それは受け取る人間の感性では、仲間を信用していないと受け取られても仕方ない。

 

「いいですかプレア、貴方はもう私達の仲間です、それにシャルロットにも言われたでしょう?仲間なら頼り合ったり、助け合ったりするものです、遠慮しすぎてはいけません、好意は素直に受け取ってください。」

 

「リーアムさん・・・、すみません、ありがとうございます・・・!」

 

仲間なら助け合えばいい、迷惑を掛けても補い合えばいい、その言葉が嬉しかったのだろう、プレアは表情を輝かせ、大きく頷いていた。

 

まだまだ、遠慮をしている様にも見えるが、シャルロットやロウのお陰か、最初の時の様に誰かに頼らず、自分独りだけでやろうという姿勢ではなく、少しは誰かに頼るという事に抵抗が無くなってきたのだろう。

 

「それでは行きましょう、時間もあまり有りません。」

 

「はいっ!」

 

「二人とも気を付けるのよ、只者じゃないわ。」

 

艦橋を出て行く二人の背にプロフェッサーは注意を投げかけながらも、各機にプレアとリーアムが出撃する事を伝えていた。

 

そんな中、風花は独り、何か腑に落ちないと言う様な表情を見せていた。

 

恐らくはプレアの態度、他人の行為を素直に受け取れない理由が釈然としないのだろう。

 

彼女からしてみれば、こんな状況、たった独りで出て行った所で何が出来るわけでも無い、寧ろ、既に戦っているセシリア達の足を引っ張る事にもなりかねないのだ、此処は大勢で出張った方が戦力的にも妥当である。

 

それなのに何故、彼は何でも独りで抱え込もうとするのだろうか?

それが分からないために、彼女は心の何処かで不安に思っていた。

 

「(プレア・・・、貴方は何・・・?)」

 

本人がいない所でいくら考えても、一向に答えが出る気配は無く、彼女は只々、姉同然の友人と、その仲間達が返ってくる事を待つ事しか出来なかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ロウさん!シャルロットさん!セシリアさん!僕も戦います!!」

 

カタパルトから飛び出したドレッドノートに乗るプレアは、立ち止まる事なく突き進み、戦線に参加、先行して戦っていたロウ達に通信を入れた。

 

既に戦場は混戦と化しており、気を抜けば直ぐにでも撃墜されてしまいそうなぐらいの弾丸やビームが飛び交っていた。

 

『プレアか!?コイツら並の腕じゃ無いぜ!気をつけろ!!』

 

彼の接近に気付いたのだろう、一機のジンと切り結びながらも、ロウが警告を飛ばしてくる。

 

セシリアとシャルロットはそんな余裕も無いのだろう、虚空を縦横無尽に動き回り、余計な被弾を回避する様に戦闘を続けていた。

 

「僕だって戦えます!!」

 

彼に返答しつつも、プレアは一機のジンに狙いを定め、ビームライフルを撃つ。

 

当たれば一撃必殺の威力を持つビームを、そのジンは僅かに機体を逸らすことで回避し、反撃とばかりにマシンガンを撃ちかける。

 

「避けられたっ!?うわぁっ!!」

 

『プレア!!』

 

攻撃を避けられた事に動揺した彼は、撃ちかけられた弾丸をシールドを掲げる事で何とか防ぐも、大きく体勢を崩されてしまう。

 

それを察知したシャルロットが声をあげるが、彼女のバスターも敵からの攻撃を受けているため、彼の援護に回る事が出来ない。

 

セシリアとリーアムも、各々の敵を受け持っているため、手一杯だった。

 

そんな隙を突くかの様に、ドレッドノートを攻撃したジンがスピードを上げながらも迫る。

 

「あぁ・・・!」

 

これが戦争か・・・!?

 

プレアはある事情でMSに乗れるのだが、実際問題として戦闘に出るのは今回が初めてだったのだ。

 

自分を殺そうとしてくる敵と向かい合った事も無ければ、撃たれた事も無い、そんな彼が恐怖によって動けなくなるのも無理は無かった。

 

マシンガンでは余計なダメージを与えてしまうと判断したのだろうか、ジンは重斬刀を抜き放った。

 

しかし、それを見てもプレアの脚はすくんだままで、操縦捍を操作しようにも、腕も引きつって動かない。

 

このままでは討たれる・・・!

 

しかし、そんな彼を討ち取ろうと迫っていたジンの頭部が、何処からか飛来した光弾に撃ち抜かれた。

 

「はっ!な、何!?」

 

それに気づいた彼は、慌てて光弾が飛んできた方向に目を向けた。

 

そこにはビームサブマシンガンを構えた灰色の機体の姿があった。

 

『アイツは・・・!』

 

ロウはそのMSの事を知っているのだろう、ガーベラストレートを構え直し、緊張を更に強めていた。

 

『おやおや・・・、ザフトを追っていたら意外な者に出会ったな・・・、まさか生きていたとはな、ジャンク屋の赤いガンダム!』

 

どうやら、ロウと目の前の機体に乗るパイロットは、以前何処かで接触した事がある様だ、決して友好的では無いにしろ、話し振りから何となく判別できる。

 

だが、プレアはそんな事よりも気になる事があった。

 

「(なんだ・・・、この感覚は・・・?)」

 

言い表すなら暗く、冷たい感覚を、目の前にいるMSから感じていた。

 

それと同時に、自分と同じ様に尋常ならざる何かを持っている事も感じ取れた・・・。

 

「(貴方は・・・、なんだ・・・?)」

 

sideout

 




次回予告

突如現れた最悪の敵に、ロウ達はこの苦境を乗り切る策を講じる。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

戦術

お楽しみに~。


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戦術

noside

 

「あのMSは・・!」

 

ジャンク船、リ・ホームの艦橋で、風花は戦場に乱入してきた機体の姿に目を見張った。

 

その機体は、つい何日か前に劾のブルーフレームを追い詰め、セシリアの助力で何とか撤退させる事の出来た機体であり、その力は正しく本物、今のリ・ホームの戦力では倒せる敵では無い事は明白であった。

 

「どーしよ~!!新しい敵が出てきちゃったよぉ~!!」

 

「メンデルで襲ってきた奴ね、只者じゃなさそうなのは確かね。」

 

樹里とプロフェッサーの反応を見る限り、彼女達は既にあのMSと接触がある様だ、樹里の怯え方からして何かあった事だけは間違いない。

 

だが、これでハッキリした、あのMSは間違いなく危険であることが・・・。

 

だが、ここにいる彼女に出来る事があるとすれば、敵の動きを見極め、相手がどの様な戦法を使ってくるかを観察する事だけだった。

 

「(皆・・・、どうか無事でいて・・・。)」

 

仲間の無事を想い、彼女は小さく祈った・・・。

 

sideout

 

noside

 

「核搭載MSの情報を持つザフトを追っていたら、思いもしなかった奴と出会ったな・・・、まさか、生きているとは思わなかったぞ、赤いガンダム!」

 

ザフトとジャンク屋が入り乱れる戦場に乱入したMS、ハイぺリオンのパイロットであるカナードは、自身が撃墜したと思っていた機体がいる事に僅かに驚きながらも、銃口を赤い機体に向けた。

 

彼はアルテミスの指令であるガルシアが寄越した情報を基に、ザフトを追っていたのだが、どういう訳か、その標的がジャンク屋を襲っている様を捉えた。

 

しかも通信の内容をよくよく聞いてみれば、自分が追っていたMSをそのジャンク屋が持っていると言うではないか、これ程の僥倖、見逃す手は無い。

 

それに、自分がザフトを排せば、その技術は自分の機体が独占できる、願ったり叶ったりである事は間違いなかった。

 

故に戦闘に介入し、邪魔になるものをこれから排除しようと動いたのだ。

 

メンデルで遭遇した赤い機体も、彼に警戒しているのだろう、実体剣を構え、ハイぺリオンと向かい合う様な形で出方を窺っていた。

 

彼もそれを察知し、気を引き締め、赤い機体の出方に気を配る、自分の攻撃から逃れた機体だ、それなりの用心をしておいて損はないだろう。

 

そんな時だった、二機の、間に割り込む様に銃弾が発たれ、虚空を横切ってゆく。

 

それに反応した彼等は、まったく同時に弾丸が飛んできた方向へ目を向けた。

 

そこには銃剣を構えたジンのカスタム機、ジンハイマニューバの姿があった。

 

ジンハイマニューバ、既存のジンをベースに、次世代型スラスターを装備した機体であり、構成パーツの大半をノーマルのジンと共用しているため、生産性、整備性共に優れており、現在はエースパイロットを中心に配備が進められている機体の一つであり、多くの戦線で高い戦果を挙げている。

 

『やれやれ、極秘任務中にとんだ邪魔物が入ったモノだな、識別からして連合か?』

 

「なんだ貴様は?」

 

横槍に少し苛立ったのだろうか、カナードは棘を含んだ言葉を乱入してきたパイロットに投げ掛ける。

 

『質問に質問で返すとは、不躾な奴だな、まぁいい、私の名はミハイル・コースト、短い付き合いになるだろうが覚えておくと良い、まずはお前から処理してやろう。』

 

「処理だと?お前達がこの俺をだと?」

 

ミハイルと名乗った男の声に、カナードは僅かな侮蔑と、狂喜を滲ませた声で尋ね返した。

 

会敵したばかりで、戦闘能力もなにも分からない相手に対し、そんな言葉を吐ける彼を面白く思ったのだろう。

 

よほど自分の腕に自信を持っているのか、それとも己の力量も弁えられないただの愚か者か・・・。

 

『そうだ、そのMSがどの様な能力を持っているかは知らないが・・・、この私の指揮する部隊に勝てると思うなよ!!』

 

そう叫ぶや否や、ジンハイマニューバは速度を上げ、ハイぺリオンへと突っ込んできた。

 

「面白い、まずは貴様からだ!!」

 

ビームマシンガン、ザスタバ・スティグマトを構えた彼は、撃ち掛けられる弾丸を回避し、反撃にビームサブマシンガンを発砲した。

 

だが、彼が発った弾丸をいとも簡単に回避し、ハイぺリオンとの間合いを詰めながらも攻撃を仕掛けてくる。

 

「くっ・・・、やるな!」

 

思った以上の腕に、カナードは自分の中の何かが沸々と滾ってくるのを感じていた。

 

面白い・・・!キラ・ヤマトを見つける事は今だ叶っていないが、その代わりに腕の立つパイロットとよく相見え、その分、彼の生き甲斐である戦いを思う存分行えるのだ、心が沸き立って当然だ。

 

それに加え、ミハイルの僚機である他のジンからも攻撃が集中し始め、彼を責め立てて行く。

 

「ジンにしては動きが良い・・・、だが、数さえ揃えれば勝てると思っているのか!!」

 

相手の機体性能に感嘆しながらも、彼は敵のフォーメーションの杜撰さを見抜いた。

 

全機がただ同時、または時間差で攻撃すると言った、基本的かつ単調な攻めしか行ってこない。

 

確かに一般的なMS相手ならば効果的である事は間違いない、だが、カナードは曲りなりにもスーパーコーディネィターの資質を持っている、そんな彼に単調な攻撃が利く筈もない。

 

「バカめ!組織戦と言うモノを教えてやる!!」

 

この程度の敵など、自分の隊で磨いてきたフォーメーションには遠く及ばない、そう感じた彼は数機のジンから距離を取り、右手首から信号弾を発射した。

 

程なく、近隣宙域で待機していたオルテュギアが接近、六機のメビウスを発進させた。

 

メビウス、地球軍が開戦当初から使用していたMAであり、宇宙空間専用の戦闘機だ。

 

ただし、MAであるが故に旋回性がそれ程高くなく、高い機動性を持っていたMS相手には次々と撃墜されていった。

 

そんな時代遅れとも、そして無謀とも言える機体を何故彼は呼んだのだろうか・・・?

 

「兵器の優劣が勝敗を決する訳ではない、要は戦い方なんだよ。」

 

そう言いながらも、彼はコックピット内の機器を操作、ハイペリオンの特殊装備、アルミューレ・リュミエールを展開する。

 

「行くぞッ!!」

 

烈迫した意志と共に、彼はハイペリオンを敵の中枢へと突入させる。

 

それを認めた敵機は、ハイペリオンに向けてマシンガンやレールライフルを撃ちかけてくるも、光の壁に阻まれる。

 

「バカめ、このアルミューレ・リュミエールをその程度の攻撃で突破出来ると思うなよ!!」

 

アルミューレ・リュミエールは純粋なエネルギーで構成されたビームシールド、それを破れる兵器は今のところ、耐ビームコーティングを施された武装のみだ。

 

それを知っている彼は、それを基に戦術を立てていたのだ。

 

「これで終わりだッ!!消えろぉーッ!!」

 

トリガーを引き、彼はビームサブマシンガンを周囲に展開するザフトMSに向けて乱射していく。

 

一発一発の威力は低くとも、連続して降り注ぐ銃弾は、充分な驚異だった。

 

「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉーッ!!」

 

彼は叫びながらも、弾切れを起こしたカートリッジを排除し、別の弾倉を充填、再び乱射するという手順を繰り返した。

 

予備として腰部に装備していた弾倉が尽き、本体に接続していた弾倉も弾切れを起こす頃には、周囲に展開していたザフトのMS部隊は撃破されてはいなかったものの、大なり小なりダメージを負っていた。

 

「今だ、殺れ!」

 

それを確認し、後方で待機していた僚機に通信を入れ、自身は僅かに後退する。

 

ハイぺリオンを追尾しようと追いすがるジンもあったが、スラスターを破壊された機体も多く、速度もあまりにも鈍重だ。

 

それに、彼等は気付いていなかった、今のハイぺリオンはただの囮である事、そして本当の脅威は別にあるという事を・・・。

 

カナードの指示で、後方待機していたメビウスが編隊を組み、傷つき、回避もままならぬジンに襲い掛かった。

 

機首に装備されたリニアガンがジンの装甲を貫き、爆散させてゆく。

 

逃れる事も出来ないまま、ザフトは瞬く間に殲滅されてゆき、残ったジンハイマニューバは単独で戦線を離脱していった。

 

「一機逃がしたか・・・、まぁいい、邪魔者は消えた、さぁて、臨検をさせてもらおうか?」

 

敵戦艦もオルテュギアの艦砲で轟沈したところだ、これで邪魔者は完全に消え去り、この宙域に残るは自分達と、目標のMSを積んでるジャンク屋の船だけだ。

 

その船所属のMSはすでに帰投しているらしく、彼の周りで動くMSの姿は見当たらなかった。

 

「(もうすぐだ・・・、待っていろキラ・ヤマト・・・、この船に積まれている物を頂いて、貴様を・・・!)」

 

今だその姿をとらえた事も無い仇敵に向け、彼は仄暗い笑い声と共に狂喜を滲ませた。

 

それは、まさしく悪鬼と呼ぶに相応しいものであり、聞く者全てを震え上がらせるものだった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ザフトが・・・。」

 

同じ頃、リ・ホームの艦橋内は何とも言えぬ重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

自分達を追いつめていたザフトが、瞬く間に殲滅された事への驚愕が大きく、樹里は完全に取り乱してしまっていた。

 

「絶対的防御力を持った機体を敵中枢に突入させ、機動力を奪い、傷付いた機体を後方に控えたMAで止めを刺す・・・、恐ろしく計算されつくした戦法ですね・・・。」

 

そんな彼女の隣で、風花は至極冷静に状況を分析し、敵の戦法を評していた。

 

彼女の言葉通り、ハイぺリオン率いる連合軍は恐るべき戦法で、戦力的に上位に立っていたザフトを壊滅させてしまったのだ。

 

これを脅威と言わずして何と言えば良いだろうか・・・?

 

「ここまで計算された戦法を取ってくるなんてね・・・、今までの敵とは一味も二味も違うと言うわけ、か・・・。」

 

「で。でも、ザフトをやっつけてくれたんだし、いい人達なんじゃぁ・・・?」

 

プロッフェサーの溜息交じりの呟きに、もしかして助けてくれただけなんじゃないのと言いたげな樹里が、彼女の様子を窺う様に尋ねるが・・・。

 

「ないだろうな。」

 

「今のリ・ホームの戦力では絶対に勝てない相手である事は間違いないでしょう、それに、こっちを狙っているみたいです。」

 

「そ、そんなぁ~・・・!!」

 

彼女の考えを否定する様なジョージの呟きと、風花の冷静な分析に、彼女はまたしてもこの世の終わりの様な声を上げ、蹲ってしまった。

 

だが、彼女の絶望も理解できる物であることは間違いない、なにせ、一難去ってまた一難だ、泣きたくもなるだろう。

 

「・・・、プロフェッサー、皆を船に戻してください、私に考えがあります。」

 

「分かったわ、どうせ逃げ切れる様な相手でも無いでしょう、此処は策を講じるなりしてやり過ごしましょう。」

 

風花の言葉に同意する様に頷き、プロフェッサーは通信機を操作し、出撃中の各機体に通信を入れた。

 

「皆、船に戻って頂戴、少しでも時間を稼ぐわよ。」

 

危機的状況にも関わらず、プロフェッサーは何処か豹を思わせる様な顔で笑う。

 

「見せてやろうじゃ無い、ジャンク屋と傭兵の戦い方をね・・・?」

 

sideout

 

noside

 

「くそっ・・・、生き残りは私だけか・・・、何が精鋭部隊だ、使えぬ奴等め・・・!!」

 

宙域を離脱するジンハイマニューバのコックピット内で、パイロットであるミハイル・コーストは、自分が指揮した作戦が失敗した事に毒づいていた。

 

元々は医者である彼のプライドは高く、自分の腕に絶対的な自信を持っていた。

 

そのため、迅速且つ的確に戦闘を行い、敵を殲滅させる事においては、成功率95%という驚異の数字を残し、その神業的な戦術、戦い方、そして医師であったという事から、何時からか〈ゴッドハンド〉と呼ばれる様になっていた。

 

そんな彼が、突如として乱入してきたMSに敗れたのだ、毒づきたくならない方がおかしいといえるだろう。

 

「ちっ・・・!この私がオペレーションミスとは・・・!!まぁいい・・・、極秘任務の最中だったのだ、表沙汰にはなるまい・・・。」

 

彼の言葉通り、先程の作戦は協定違反の作戦だ、表沙汰になればザフトの、ひいてはプラントの立場を悪くしかねない問題だ、それをわざわざ公表する様なマネはしないだろう。

 

それ故に、彼の表向きの経歴に傷が付く様な事は無い、だが、それでも敗北した事への不満、悔しさが無い訳ではない。

 

「この借りはいつか必ず返してやるぞ、連合のMS・・・!」

 

何時か訪れる再戦を固く誓いながらも、彼の乗る機体は虚空を進んでゆく。

 

その先にある、新たな戦場へと・・・。

 

sideout




次回予告

ドレッドノートを狙うカナードと、ドレッドノートを護るプレアが今、巡り会う。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

ジャンク屋の戦い 前編

お楽しみに~。


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ジャンク屋の戦い 前編

noside

 

戦闘終了後、ユーラシア連邦所属艦〈オルテュギア〉に繋がれたリ・ホームの内部に連合の制服を着た者達が数人乗り込んで行く。

 

その中には、先程単機でザフト軍を壊滅させたカナード・パルスの姿もあった。

 

彼は特務兵という、他の兵の指揮を担う立場であるのと、自らの手で標的を捕える事に拘っているため、自ら乗り込んで来たと言う訳だ。

 

「さぁて、ザフトがお前達を狙っていたと言う事は、此処にあるんだろう?核搭載のMSが!」

 

艦橋に入った彼は、此処に来る途中の格納庫付近で捕縛したロウ、リーアム、プレア、そしてセシリアとシャルロットを連れ、艦橋にいた残りのメンバーを纏めて捕縛、中心に集めて座らせた。

 

「(あれがハイぺリオンのパイロット・・・?)」

 

「(若いね・・・。)」

 

カナードを横目で見ながらも、隣り合わせで座らされたセシリアとシャルロットは、彼の見た目の若さに驚きながらも、自分達にしか聞こえない程度の声量で話していた。

 

嘗ての世界での自分達の年齢と変わらぬ青年に対し、何か思う事でもあるのだろうか・・・?

 

「パルス特務兵。」

 

そんな時だった、リ・ホームの艦橋に一人の若い兵士が入ってきた。

 

何かのデータを持ってきているのだろうか、その手には情報端末が握られていた。

 

「見つかったのか?」

 

「いいえ、まだ・・・。」

 

成果が思わしくないのだろう、その兵士の表情は暗かった。

 

「(ジョージは?)」

 

「(隠れて貰っているわ、これからの動きに必要だからね・・・。)」

 

彼の意識が逸れている内に、ロウとプロフェッサーは耳打ちをし、情報を交換し、これからの方針を選択する。

 

「指示のあった赤い機体ですが、バラバラにして調べましたがターゲットではありませんでした。」

 

「チッ、ハズレか・・・、他の機体は?」

 

思っていた機体と、レッドフレームが一致しなかった事に苛立ったのだろう、カナードは露骨な舌打ちをし、気持ちを切り替えるかの様に次の報告を尋ねた。

 

「それが・・・、この船にはジャンクパーツを含めると相当な数のMSが格納されています、それらを全て調べるにはかなりの時間がかかるかと・・・。」

 

申し訳なさそうに告げる兵士の報告に、カナードはロウ達を睨みながら言葉を発した。

 

「協力しろと言ったはずだがな?」

 

「へっ!部外者に教えられるかってんだ!!こちとら生活が懸かってんだからな!!」

 

「そーよそーよ!!」

 

彼の言葉に、ロウと樹里は生活の為だと突っぱねた。

 

とは言え、それはただの時間稼ぎであり、彼は後ろ手で課せられた手錠を抉じ開けようとしていたのだ。

 

不幸中の幸いと言うべきか、円形に座らされた事で、背中に回された腕が見えにくくなっており、こそこそと手錠を外そうとする事が出来たのだ。

 

もっとも、銃を向けられている時点で絶体絶命に近い事だけは間違いなく、彼も内心で焦りながらも手を動かしていた。

 

「よし、例のウイルスを使え。」

 

「う、ウイルスだって・・・!?」

 

彼の反応を探る様に放ったカナードの言葉に、ロウは驚愕の声を上げた。

 

「そうだ、量子コンピュータを好きなように出来るウイルスだ、これを防げるコンピュータは存在しないのさ。」

 

カナードの指示を受けた兵士が胸元からディスクの様な物を取り出し、リ・ホームのコンピュータに読み込ませてゆく。

 

ロウの反対側に座らされたセシリアとシャルロットは、その説明を聞かされて思い当たる節があるのか、揃って驚いた様な表情をしていた。

 

それもその筈だった、彼女達は以前の世界で、彼等が使用しているウイルスと似た様なモノを使用した事があり、その経験からウイルスの効力の恐ろしさを知っているのだ。

 

「この前の奴が使ってたのと同じか・・・!」

 

独り語の様に呻くロウの脳裏には、グレイブヤードに立ち寄る前に遭遇した機体の姿が浮かび上がっていた。

 

ウイルスの力でMSのコンピュータを狂わせ、レッドフレームとブルーフレームを戦わせた悪魔の様な機体であった。

 

その時は『8』が居てくれたから何とか凌げたものの、今は拘束されている上に、『8』はある作戦のため、彼の手元にはいないのだ、対処のしようが無かった。

 

「素直に協力しておけば、無駄死にせずに済んだものを・・・、愚かだな・・・。」

 

彼等の対応を嘲る様に、カナードは銃口をロウへと向ける。

 

恐らくはリーダーであるロウを始末しようとすれば何かしらのリアクションが起きると踏んでいるのだろうか・・・?

 

「(いぃ・・・っ!?待ってくれよ、まだ外れてねぇんだよ!!)」

 

面には出さないも、彼は内心で盛大に焦っていた。

 

このままでは撃たれる、それだけは間違いないため、何か時間稼ぎをしようと頭を回転させる。

 

「ねぇ、君はどうしてキラ・ヤマトを追ってるの?」

 

そんな彼を助ける様に、カナードがキラを追っている事を知っていたシャルロットはカマをかける様に尋ねていた。

 

「(シャルさん・・・?一体何を・・・?)」

 

彼女の言葉の真意、そしてその意味を知らないセシリアは怪訝の表情を浮かべ、シャルロットの顔を見た。

 

「貴様!?キラを知っているのか!?」

 

彼女の言葉に、彼は予想以上の食い付きを見せた事に、ロウはこれならばと言葉を続ける。

 

「会ってどうする?何の用があるんだ?」

 

「お前もキラを知っているのか!!余計な質問をするな!こっちが質問をしているんだ!!」

 

彼の言葉に、カナードはお前が知る必要は無いと一喝、尋問する様な口調で問い質した。

 

「よくは知らない、だけど、アイツが乗ってたMSは最後までアイツを護ろうとしてた・・・、俺はメカが信じる奴を信じる、アンタのメカはアンタを護ってくれるのかい?」

 

その質問は、機械を、メカを愛する彼にとって、メカが護ろうとする程の人物ならば自分も信じられるという意味の問いであり、まともな人間ならすぐさま理解できるであろう。

 

「くっ・・・!!メカまでもが俺を蔑み、裏切るとでも言いたいのか・・・!?奴は完全で、俺は不完全だとでも・・・!?」

 

顔を怒りに染めながらも、彼はロウに向けて銃を構える。

 

どうやら、質問の意味をキラ・ヤマトとの対比と捉え、自分を貶された気分に陥ったのだと推察できる。

 

「(マズった・・・!!殺れる・・・!!)」

 

手錠を解除しきれていないロウは、撃たれる事を覚悟して身構えた。

 

だが・・・。

 

「やめなさい!貴方方はジャンク屋組合の権利に不法介入しています!!」

 

彼を庇う様にリーアムが立ち上がり、抗議の声をあげる。

 

それは一見脅しに聞えるが、ロウの手錠を外す為の時間稼ぎでしかなかった。

 

「これ以上暴挙を続けるならば、連合に対し、正式な抗議を行い───」

 

言葉を続けようとした彼の右肩を、カナードが発った一発の弾丸が撃ち抜いた。

 

真っ赤な鮮血が飛び散り、彼の身体が慣性で後方へと流されようとしていた。

 

「リーアムっ!!こんにゃろう!!」

 

彼が撃たれた瞬間に手錠を抉じ開けることが出来たロウは、手錠を投擲、カナードの手に握られた拳銃を弾き飛ばした。

 

「今よっ!!」

 

好機と見たのだろう、プロッセッサーが叫ぶと、彼等が座る床が下がってゆく。

 

どうやら、二層構造になっていた床の様で、緊急避難用であることは明白だった、

 

「調子に乗るなよ兄ちゃん!!」

 

「貴様っ!?」

 

リーアムの身体を庇う様に立ちながらも、捨て台詞を吐くロウに追い縋ろうと動くが、手が届く寸前に床が閉じ切り、カナードは彼等を逃してしまった。

 

「ふざけた仕掛けを・・・!!探せ!探し出すんだ!!」

 

腕に付けた通信機に向けて叫びながらも、彼はコンピュータを操作していた兵と共に艦橋を飛び出していった。

 

sideout

 

noside

 

艦橋下の隠し通路に、カナード等から逃れたロウ達が辺りを警戒しながらも集結していた。

 

既に全員が拘束から逃れており、プロフェッサーとシャルロットは負傷したリーアムの手当てに専念していた。

 

「リーアムは?リーアムは!?」

 

「大丈夫、肩に当たっただけだよ、でも、球を摘出しないと不味いわ。」

 

樹里の叫びに答えながらも、プロフェッサーは止血を行いながらも状況があまり思わしくない事に顔を顰めていた。

 

「すまない、もっと早く動くべきだった、ウイルスのせいで一部の機能が使えなくなっていてな。」

 

「いや、助かったぜジョージ。」

 

その傍らでは、姿を隠していたジョージとロウが言葉を交わしながらも対策を立てようとしていた。

 

「ロウさん、このままではいずれ捕まってしまいます、何とかしないと・・・!」

 

状況に焦りを感じているのだろうか、プレアは僅かに上ずった声でロウに話しかけていた。

 

だが、彼の言う事はもっともだ、敵は彼等を見付けていないだけで、艦のシステムの一部を掌握している、艦内の構造を読み取られてしまえば、それこそ捕えられかねない状況なのには変わりない。

 

「なに、格納庫に行きゃ色々ある、なんとかなるさ、ジョージ、他の場所の奴等の足止めを頼んだぜ。」

 

「任せておきたまえ。」

 

ロウの言葉に了解し、ジョージはホログラム化を解除して消えた。

 

「ロウ、劾から連絡があったよ、もうすぐ来れるって。」

 

「ありがとな風花、これでちっとは動きやすくなるぜ。」

 

風花の報告に、彼は勝算を見付けたのだろうか、表情を僅かに緩ませ、全員を見渡した。

 

「プロフェッサーとシャルロットはリーアムを頼む、俺達は格納庫に行ってドレッドノートを守るぞ。」

 

彼の力強い言葉に、全員が頷き、それぞれがやるべき事のために動き出した。

 

「俺達ジャンク屋と、傭兵の戦い方を見せてやるぜ!!」

 

sideout

 

noside

 

「うわぁ!?まただ!?」

 

「また勝手にシャッターが閉じた!?そんなバカな!!」

 

リ・ホーム内のとある通路にて、隔壁に阻まれ立ち往生している連合軍の兵士達姿があった。

 

彼等から逃れたジャンク屋のメンバーと、核搭載MSを探す為に船内を移動している彼等だったが、どういうわけか、シャッターや隔壁が独りでに動き、彼等の動きを阻害していたのだ。

 

「この船のシステムはこちらがウイルスで掌握しているんじゃなかったのか!?」

 

足止めを食らう内の一人、カナード・パルス特務兵は苛立ちを隠そうともせずに機器を操作している兵士に怒鳴る様に尋ねた。

 

「コンピュータは支配下にあるのですが、この船には別のコントロール系統が有る様で・・・、それには何故かウイルスが効きません・・・。」

 

「量子コンピュータを使ってないとでも言うのか?そんなバカな・・・。」

 

兵士の言葉に、彼は馬鹿げた事を言うなとでも言う様に言葉を紡ぐが、その可能性も捨てきれないと思考を巡らせた。

 

「何をしている!!ジャンク屋に手を出すな!!」

 

そんな時だった、彼等の背後から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。

 

彼等が振り向くと、そこには何故かアルテミスの指令、ガルシアの姿があった。

 

「ガルシア指令!?どうしてこちらに・・・!?」

 

「すぐに帰投したまえ!!」

 

「・・・。」

 

カナードの隣にいた兵は驚愕の叫びをあげるが、彼は何かの違和感に気付いたのだろう、持っていた拳銃でガルシアを撃った。

 

弾丸は狙い違わずに彼の頭を突き抜けるが、血飛沫などは飛び散らず、その姿は蜃気楼の様に揺らめいて消えてしまった。

 

「ホログラムだ・・・、何なんだこの船は・・・!」

 

まるで人をおちょくるかの様な仕掛けが施されているこの船の構造に苛立っているのだろう、カナードは歯軋りを堪える事が出来なかった。

 

だが、熱くなっていては、見つけられるモノも見付けられなくなると自分に言い聞かせる様に頭を振り、先に進もうと隔壁が閉じていない方へと歩き出そうとした。

 

「パルス特務兵!オルテュギアから緊急通信です!!」

 

「何?どうした!?」

 

情報端末を持った兵士が彼に近づき、母艦との回線が開かれている端末を手渡した。

 

そこにはメリオルの顔が映し出されており、何処か焦りの様な表情が窺う事が出来た。

 

『こちらに急速接近してくるMSの反応が有ります!数は2!!』

 

「なんだと!?まさか、あの時の蒼い奴か・・・!?」

 

彼の脳裏には、自分の機体に傷を付けた蒼い機体の姿が思い浮かんでいた。

 

何故、彼はそのMSが来ると感じたのだろうか・・・?

 

理由は、この船にもう一機の蒼いMS、デュエルがいるため、かの傭兵はこのジャンク屋との関わりがあり、仲間とジャンク屋が自分達に攻め込まれていると知り、救援に駆け付けたのだと判断したのだ。

 

「チッ・・・!面倒な奴が来たな・・・!メビウスを出せ、足止めぐらいは出来るはずだ!!」

 

『了解しました。』

 

通信機に怒鳴り付け、彼は傍らで待機していた部下に視線を戻した。

 

「正攻法では突破出来まい!こうなれば隔壁を焼き切れ!道具ならあるはずだ、探せ!!」

 

「了解しました!!」

 

彼の指示に、兵士はすぐさま動き出した。

 

「(ここまで来たんだ、無駄足なんて事はさせんぞ・・・!)」

 

折角訪れた、己の機体を強化する絶好の機会をこんな所で邪魔される訳にもいかない。

 

そんな仄暗い思いと共に、彼は隔壁の先にいるターゲットを睨みつけた・・・。

 

sideout




次回予告

連合の手に渡った核、それを知ったロウ達は迫る驚異を退けるべく、行動を起こす。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

ジャンク屋の戦い 後編


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ジャンク屋の戦い 後編

sideセシリア

 

負傷したリーアムさんを医務室へと連れて行くシャルさんとプロフェッサーさんを援護するため、私はロウさん達と共に格納庫へとやって参りました。

 

格納庫には大小様々なジャンクパーツや身を隠せるほどの大きさのコンテナが無造作に置かれており、隠れる事に苦労しませんでした。

 

私はロウさんとは別のコンテナの陰に隠れ、レッドフレームに取付いている連合の兵士達の様子を伺います。

 

今は二人しか見当たりませんが、他にもいるかも知れません、警戒は続けておいて損は無いでしょう。

 

『くそぅ・・・、レッドフレームを好き勝手にバラしやがって・・・!』

 

『レッドフレームが・・・。』

 

耳に付けた通信機からロウさんの悔しそうな声と、樹里さんの何処か気の抜けた声が聞こえてきました。

 

自分の機体がバラバラにされているのです、悔しさを感じる事は当然と言う事、私もデュエルがあの様にバラバラにされたらキレる事間違いなしですもの・・・。

 

「(どうされますの、ロウさん?私が飛び出して気を引きましょうか?)」

 

通信機に向けて彼に尋ねますが、流石に独断で動く様な真似は致しません。

 

『待ってろセシリア、俺達のやり方がある、失敗したら頼んだぜ。』

 

「縁起の悪い事を仰いますわね、ですが、お任せくださいませ。」

 

サポートは得意ですからね、私はそちらに専念させて頂きましょう。

 

『そんじゃ、俺達も行くぞ、『8』!!』

 

ロウさんがそう言うや否や、頭部や脚部を取り外されたレッドフレームが突如として動き出しました。

 

どういう訳・・・、そういえば、シャルさんから聞いた事が有りましたわね、ロウさんをサポートする疑似人格コンピュータがあると・・・。

 

つまりはそれがレッドフレームを動かしているのでしょう。

 

「うわっ!?なんで動くんだ!?」

 

「そんなバカな!?無人の筈だぞ!?」

 

突如として動き出したレッドフレームに驚いたのでしょう、連合の兵士二人は慌てて機体から離れていきます。

 

なるほど、これを狙っていたのですね。

 

『今だっ!!』

 

コンテナの陰から飛び出したロウさんは隠し持っていたスパナを二つ投擲、身体を浮かせていた兵士達に見事に命中させておられました。

 

流石はジャンク屋と言うべきでしょうか、トラブル対処能力は傭兵に勝るとも劣りませんわね。

 

「やったぜ!!」

 

通信機を介してではなく、普通にロウさんの声が聞こえてまいりました。

 

まぁ、作戦がうまくいった事が喜ばしいのだとは思いますが、油断は禁物でしょう。

 

「動くな!!」

 

「げぇっ!?もう一人いやがったか!?」

 

案の定と言う所でしょうか、見えない所にいた連合兵が現れ、ロウさんに銃口を向けていました。

 

このままでは彼の御命が危ういですわね・・・。

 

やはり、ここは後ろに回り込んで足と腕を撃ち抜いて行動不能にしたいところ、なのですが、先程捕えられた時に銃を奪われてしまいましたので、それも出来ません・・・。

 

どうするべきでしょうか・・・。

 

「待ってください!!ジャンク屋の皆さんは関係ないでしょう!!」

 

「なんだお前は!?」

 

「プレアさん・・・!?」

 

何故飛び出したのですか・・・!?貴方が出ても何も変わりませんわよ・・・!!

 

「僕がこの件のすべてを知っています!!」

 

この件のすべて・・・?

そういえば、プレアさんがマルキオ導師の代理人でしたか?

 

ですが、それとこれとは話は別ですわね、何とかしてお助けせねば・・・!

 

「そうか、では話を聞こう。」

 

彼の言葉に、連合兵はプレアさんに銃口を向け直しました。

 

その時でした、頭上から何やら大きな音が聞こえてまいりました。

 

「なんですの!?」

 

「なんだっ!?」

 

音の原因は、上部ハッチを何者かが突き破られようとしていました。

 

「・・・!まさか・・・!ロウさん!プレアさん!!」

 

私は皆さんに警告を飛ばし、コンテナの出っ張った部分を掴みます。

 

このタイミングでの来客と言う事は、恐らく、あの方が来て下さったのですね!!

 

ハッチを突き破り、蒼い機体がその姿を現します、その姿はまさしく・・・!

 

「ブルーフレーム!!」

 

その姿を現した機体は右手にタクティカルアームズを構え、左手には何やらコンテナを持っていました。

 

そういえば・・・、あのコンテナは・・・!?

 

緊急シャッターが閉じ、急激な空気の流失は収まりました。

真空の冷たさがあったものでしたから、とてつもない寒さが有りましたわね・・・。

 

コックピットから飛び出した劾さんは、何かに掴まり損ねて飛ばされた連合兵に近付き、鳩尾に一撃を入れて無効化していらっしゃいました。

 

あ、ついでに連合兵を拘束しておきましょう、後々抵抗されても困りますからね。

 

私が連合兵三人を捕まえている内に劾さんは床に降り立ち、ロウさん達と向かい合っていました。

 

「マルキオの代理人はいるか?」

 

「僕です、貴方が叢雲 劾・・・?」

 

「借りていたモノを返しに来た、受け取れ。」

 

劾さんがそう言うや否や、運ばれてきたコンテナのハッチが開き、内部に積まれていた物がその姿を現しました。

 

やはりそうでしたか・・・、私達がプレアさんから奪い、これまで護っていたもの・・・。

 

「ドレッドノート!でも、なんで返して下さったのですか?」

 

確かに、何故このタイミングで変換されたんでしょうか?情勢からして、もっと後になるのではと思っていましたが・・・。

 

まさか、恐れていた事が・・・?

 

「状況が変わった、Nジャマーキャンセラーの情報は最も悪い形で流失してしまった。」

 

「もしかして、連合に・・・!?」

 

私の想像を裏付けるかの様に発せられた言葉に、プレアさんは驚愕し、秘密裏に事をなせなかった事と、事態が最悪の展開に向かってしまった事を嘆く様に肩を落としていらっしゃいました。

 

ここにあるNジャマーキャンセラーが流失した訳ではなさそうですが、それでも、世界のバランスを崩す事には変わりがありませんわね・・・。

 

「風花、セシリア、俺達の任務は終わった、帰るぞ。」

 

なるほど、此処にあるNジャマーキャンセラーが悪用される事を、ひいては別の勢力に渡らない様に見張る事が私達に与えられた任務でしたわね、その必要が無くなれば、私達がドレッドノートに張り付いている必要もありませんものね。

 

ですが、このままシャルさんとお別れは寂しいですわね・・・、せめて挨拶ぐらい・・・。

 

「アタシ、まだここに残る!そう決めたの!!」

 

そんな時でした、プレアさんを心配そうに見ていた風花さんが、劾さんの言葉にきっぱりと返していました。

 

恐らく、プレアさんから感じる何かに気付かれたのでしょう、放っておけないと思われたのでしょう。

 

「そうか、なら、セシリア、引き続き風花の護衛を頼む、気を付けてな。」

 

あ、それとも私に気を使って下さったのでしょうか?

風花さんがここに残れば、自ずと私もここに残る事が出来ますからね・・・。

 

「はい、お任せくださいませ、必ずや、皆さんの下に戻りますわ。」

 

「あぁ、信じてるぞ。」

 

私にそう言い、劾さんはブルーフレームのコックピットに戻ってゆき、開かれたハッチから漆黒の宇宙へと飛び出して行きました。

 

『ロウ、敵は途中の隔壁を焼き切ってこちらに向かって来ている、あまり時間は稼げないがどうするね?』

 

ブルーフレームが去って行った直後にジョージさんが姿を現し、敵の動向を知らせて下さいました。

 

やはりと言うべきでしょうか、今の時点で最短ルートを通ってここに辿り着くならば、隔壁を突き抜けてくる事が一番の方法ですものね。

 

「やっぱりそう来るよな、よっし、まずはコイツを直しちまおう、あの兄ちゃんには渡せないからな。」

 

「えぇ!?でも、そんな簡単に直せるものなの!?」

 

直すと一言で言いましても、MSの頭部一つをくっ付けるだけですら、動力パイプやら駆動系統やら色々と接続しなければならない物が有ります、それらを取り付けて動かせる様にするまではやはりそれなりの時間が必要なはずです。

 

ですが、今の状況では出来ないと泣き言を言っている暇ではないでしょう、デュエルもバスターもバラされているかも知れません、今はできる事をする、それだけですわね。

 

「私も手伝います、やりましょう!」

 

「僕も手伝います!」

 

「アタシも!!」

 

私の言葉に追従する様に、プレアさんと風花さんも協力を申し出ておられました。

 

これだけの人数がいるのです、それぞれ手分けして作業すれば、より効率的に作業が進むはずです。

 

「よっしゃ、ジャンク屋の意地、見せてやるぜ!!

 

ロウさんの言葉に雄叫びを上げながらも、プレアさんと風花さんはコックピットへ、樹里さんは頭部を持ち上げるためのクレーンを動かしに制御室へ、ロウさんは下拵えをするのでしょう、先にドレッドノートの首元に行かれました。

 

それぞれがやるべき事を理解し、そして動く、当たり前の様でこれほど難しい事はありませんわね。

 

かつての私なら、誰かの力など借りずに自分独りで済ませようとしたでしょう、それが出来た世界でしたから尚更です。

 

ですが、今の世界では右も左も、そして自分が何の為に存在するかも分からぬもので、独りで出来るのはほとんど無いと言って良いでしょう。

 

ですが、お陰で学べた事が有りました、人は独りきりでは何も出来ぬと、寄り添って、支え合ってこそ力を発揮できるのだと・・・。

 

「(一夏様・・・、貴方様は今も、独りで戦っておられるのですか・・・?)」

 

もしそうなら、もう一度お会いする事が出来た暁として、私が貴方様を止めてみせますわ。

 

嘗て、ドレッドノートに乗った方に教わった愛の形を、貴方様にお届けするためにも・・・。

 

今はまだ見えぬ愛しき人に想いを馳せながらも、私は身体を浮かせ、ドレッドノートへと向かいました。

 

この危機を乗り越える為に、皆で次も笑いあうためにも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「これが最後です、もう少し待ってください!!」

 

隔壁が焼切られる光景を見ながらも、カナードは今か今かと忙しない様子であった。

 

オルテュギアから傭兵のMS二機が撤退したと言う報告は受けていたため、彼等は時間との勝負と言わんばかりに隔壁を突破していき、遂に格納庫と通路を隔てる隔壁に辿り着いたのだ。

 

「急げよ!何かされた後では遅い!必ず手に入れるんだ!!」

 

兵士を急かしつつ、彼は今にも焼切れそうな隔壁の向こう側にあるターゲットを睨んでいた。

 

自分の機体を強化するために必要な核を使用できるようにする装置、最初はそれさえあればよかったが今は違う。

 

散々人をおちょくる様な仕掛けで足止めを喰らっていた事と、素直に提供を拒んだジャンク屋にある種の怒りを覚えていたのだ。

 

この怒り、晴らさずにいられようかと言わんばかりに、彼は殺意を籠めた目をしていた。

 

そして、暫くの後、漸く最後の隔壁が破られ、壁が奥へと倒れた。

 

「ジャンク屋め、皆殺しだっ!!」

 

反撃を警戒する事も無く、彼は真っ先に格納庫内へと足を踏み入れた。

 

格納庫内を見渡しながらも進んで行くと、浮遊物が少なく、視界的に開けた場所に辿り着いた。

 

そこには、たった今起動してゆく一機のMSの姿があった。

 

「っ!?これは・・・っ!」

 

ダークグレーからトリコロールへと色づいてゆく装甲は、おそらくPS装甲を使っている事が傍目からでもうかがい知る事ができ、量産の機体で無い事は一目瞭然であった。

 

だが、そんな事は彼にはどうでも良かった。

 

何故ならば、彼の目を引いたのはその頭部、人間の目の様なツインアイ、そして四本のブレードアンテナ、それはまさしく・・・。

 

「ガンダムだとっ!?」

 

sideout




次回予告

動き出すドレッドノートと、それを狙うハイペリオン、二つの力が、今ぶつかり合う。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

ドレッドノートVSハイペリオン

お楽しみに~。


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ドレッドノートVSハイペリオン

noside

 

『プレア!アイツらが来たぞ!いけるか!?』

 

頭部の接合が完了したドレッドノートのコックピットに座ったプレアは、格納庫横のコントロールルームへと退避したロウの指示を聞きながらも機体を急ピッチで立ち上げていた。

 

「CPC設定完了、Nジャマーキャンセラー起動、各武装問題なし、核エンジン出力良好、ドレッドノート、全システムオールグリーン!!いけます!!」

 

機体が立ち上がった事を確認し、彼はドレッドノートのPS装甲を展開した。

 

「ドレッドノート、君の勇気を僕に!!」

 

自分一人の力では出来ぬ事でも、誰かと力を合わせれば出来る事が必ずあると知った彼は、この機体と立ち上がる事に決めたのだろう。

 

その言葉から強い意志が滲み出ていた。

 

そんな彼の眼の前には、パイロットスーツを着込んだ連合の人間が拳銃を構え、彼を睨み付けていた。

 

「(うっ・・・!なんだ・・・、この暗い感じ・・・!?)」

 

目の前の敵から発せられる黒い炎の様な意志に呑まれそうになりながらも、彼は操縦捍を握り締めた。

 

今は気圧されている場合ではない、自分だけが戦えるのだ、仲間の命は、プレアの腕にかかっている、こんな所で引いている場合ではないのだ。

 

「警告します!直ちにこの船から退去してください!従わない場合は力で排除します!!」

 

オープンチャンネルで目の前の男に呼びかけるが、彼は退却するどころか、ドレッドノートのツインアイを狙って拳銃を撃ち掛けてきたのだ。

 

「うっ・・・!?」

 

その強気な姿勢に今度こそ呑まれそうになったのか、プレアは思わず機体を後退させようとしてしまった。

 

そんな彼を叱る様に、コックピットに通信が届いた。

 

『プレア!!船の事なら気にするな!お前の好きにやれ!!』

 

「わ、分かりました!」

 

ロウの言葉に、意識を引き戻された彼は、一層強く操縦桿を握り締め、ターゲットカーソルを目の前の男に合わせ、トリガーを引いた。

 

「抵抗するなら、撃ちます!!」

 

ビーム兵器ではオーバーキルになると判断したのだろう、彼は頭部バルカンで威嚇射撃を行った。

 

敵は驚くべき身の熟しでバルカンの弾丸を回避し、遮蔽物の陰に隠れた。

 

それを確認したプレアは機銃の掃射を中断し、敵の出方を窺った。

 

敵は早急に排除したい所だが、彼とて無暗に船を傷付ける様な真似はしたくないのだろう。

 

そんな時だった、男が身を隠してから一分もしない内に、何やら嫌な音が聞こえてきた。

 

「どうしたんですか!?」

 

『不味いぞ、リ・ホームのエンジン制御を敵に取られた、アイツら、エンジンを暴走させるつもりだ!」

 

「なんですって!?」

 

自分の問いに答える様に聞こえてきたジョージの声に、プレアは驚愕の声をあげた。

 

エンジンを暴走させる、その意味を彼は知っていたのだ。

 

『このままでは臨界点を超えて、この船は爆発してしまうな。』

 

そう、このままエンジンが想定以上の出力を出し続ければ、間違いなくオーバーヒートによって爆発する事は目に見えていた。

 

だが、これは間違いなく脅しである事も彼は分かっていた。

何故ならば、この船には彼等以外に連合の兵も乗り込んで来ている、そんな中でこの船を自爆させれば彼等は味方を殺す事になる、そんな事はしないだろう。

 

だが、それを止める手立てを、今のプレアは持ち合わせていないため、どうする事も出来ない、これではこちらが追いつめられるばかりだと、彼も理解していた。

 

『これは私達を脅す積りですわね、あちらがそのつもりなら、こちらにも手がありますわ、プレアさん、聞こえていましたか?』

 

「は、はい!」

 

そんな時だった、唐突にセシリアの声が聞こえ、彼は思わず上ずった声で返事をしてしまった。

 

何か打開策でもあるのだろうか、彼女の声は強い意志に満ちていた。

 

『ビームライフルで右舷を撃ち抜きなさい!!そこに敵船のエンジン部がありますわ!!」

 

「えっ・・・!?」

 

思わぬ指示に、彼は驚愕のあまり絶句していた。

 

確かに、リ・ホームは現在、敵船と反対向きに停泊しているが、ここから撃てば、間違いなくリ・ホームにも大きな被害が出てしまう事は間違いなかった。

 

それを覚悟の上でやれと言っているのだ、正気の沙汰とは思えなかったのだろう。

 

『壊れても直せばいい!やるんだプレア!!』

 

『撃ちなさい、プレアさん!!』

 

「はっ、はいっ!!」

 

ロウとセシリアに押される様に機体を操作し、彼は言われるがまま、ビームライフルの銃口を右舷に向けて構えた。

 

『よしっ!そこだ、撃てぇっ!!』

 

「えぇいっ!!」

 

半ばやけくそながらも、彼は言われた位置に銃口を合わせ、トリガーを引いた。

 

sideout

 

noside

 

「なにっ!?」

 

敵のMSが、自分の船を撃った事に驚いたカナードは、思わず、隠れていた遮蔽物から身を乗り出し、状況を見極めるべく目を凝らした。

 

まさか、追い詰められて血迷ったのかとも考えたが、彼はその射線の先に存在するものに気付き、戦慄した。

 

「まさか・・・、見えないオルテュギアを撃ったのか・・・!?」

 

その推理は正しかった、ここは格納庫とはいえど、船首に近い辺りであり、船首を反対方向に向けていたオルテュギアからしてみれば船尾、しかもエンジン部であったのだ。

 

つまり、敵はそれと理解し、わざと自分達の船を撃ったのだ。

 

『すぐにこちらの船への干渉を解除、停止してください!さもないと貴方達の船を撃ちます!この距離なら絶対に外しません!!』

 

「くっ・・・!!」

 

目の前のMSからの警告が再度響き渡り、彼は盛大に顔を顰めた。

 

主導権を握ったと思いきや、まさか自分達が逆に追い込まれるとは思っても見なかったのだろう。

 

「くそっ・・・!!メリオル!!一旦引くぞ!!全員を船に戻せ!!」

 

『りょ、了解しました!!』

 

カナードの決断に、通信機の向こうにいるメリオルは了解しながらも、全員に向けて退却を命じていた。

 

カナードは今一度、目の前のMSを睨み付けた後、追撃を受ける前に格納庫から飛び出し、入ってきたハッチまで走った。

 

「くそっ!!このままでは済まさんぞ・・・っ!!」

 

この船には必ずや核を使える様になるシステムが存在している、それがどの様なMSに積まれているかはわからない。

 

だが、先ほど彼の前に立ちはだかった見た事もないMS、あれを調べる価値はある様に思えてならなかった。

 

「今に見ていろ・・・!必ず手に入れてやる!!」

 

暗い想いと共に、彼は母艦へと戻っていった・・・。

 

sideout

 

noside

 

形勢が悪化したためか、オルテュギアはリ・ホームへの干渉を停止し、艦内に残っていた兵の撤退が完了すると同時にエンジンを点火し、リ・ホームから遠ざかって行った。

 

ロウ達もその場に留まる事は危険だと判断したのだろう、リ・ホームも前進を開始、宙域から離脱し始めた。

 

『取り敢えずエンジンは正常、航行に問題はない、ウイルスも駆除しておいたぞ。』

 

「リーアムはプロフェッサーが診てくれてるよ、命に別状は無いみたい。」

 

ジョージは艦の状況を、シャルロットは撃たれたリーアムの容体を、格納庫に集った全員に報告する様に話していた。

 

彼女は先程まで、プロフェッサーと共にリーアムの治療を行っていたために、ドレッドノートの起動時に居合わせなかったが、自分が手伝える事が終わったために格納庫へとやってきていたのだ。

 

「よかったぁ~、もう安心ね・・・。」

 

彼女達の言葉から脅威が去った事に安堵したのだろう、樹里はホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「いや、船のシステムはまだ完全に回復してないし、ドレッドノート以外のMSはまだチェックが終わってないから動かせやしない。」

 

しかし、そんな彼女の気持ちを否定するかの様に発せられたロウの言葉に、樹里は再び泣きそうな顔になってしまった。

 

一難去ってまた一難というべきか、彼らは敵の追撃を予想していたのだ。

 

「このまま離れれば必ず敵は追ってきます!」

 

「そうなんだが・・・、レッドフレームがあれじゃなぁ・・・。」

 

風花の言葉に頷きながらも、彼は自分の愛機の現状に苦い表情を浮かべていた。

 

現在、レッドフレームは解体されてしまい、原型を留めているのが胴体と左脚部のみという散々な状況だ、これでは戦闘も出来る筈がなかった。

 

それに加え、解体されていないデュエルやバスターにも、下手をすればウイルスの影響が伝染してしまっているかもしれない、そんな状況で戦闘になれば、相手に操られてしまう恐れがあるため、確認作業を終えるまでは起動すら危ういのだ。

 

プロトジンは作業用に使われているために戦闘には向いていないため、最初から頭数には入っていない。

 

「こうなりゃ、俺かセシリア、若しくはシャルロットがドレッドノートに乗って出るしかないか・・・?」

 

まともに戦闘の出来るメンバーの顔を見ながらも、彼は使い慣れない機体で、これから攻めて来るであろう敵機と遣り合えるかと顔を顰めた。

 

自分の機体ならば使い勝手が分かるが、初搭乗でエース級以上の敵と遣り合えと言われるとなると不安にならない訳がなかった。

 

それはセシリアとシャルロットも同じであろう、特にドレッドノートの特性を知る二人からして見れば、使いこなせるか否かの問題が浮上してくるため、はっきり言って特性を知らないロウよりも不安は大きいだろう。

 

そんな時だった、ドレッドノートのコックピットから戻ってきたプレアが声を張り上げた。

 

「僕が・・・、出ます・・・!ロウさん達は、船とMSの修理を・・・、してください・・・!」

 

しかし、体調が優れないのだろう、彼は苦しげに肩で息をし、足元も覚束ないのだろうか、心なしかふらついている様に見えた。

 

「お前は休んでろプレア!!」

 

「そうだよ、そんな身体じゃ無茶だよ!!」

 

どう見ても大丈夫そうには見えないプレアを止めようと、ロウとシャルロットは彼に休む様に告げるが、彼は首を横に振りながらも彼等を見た。

 

「大丈夫、です・・・、それに、あの機体は、僕じゃないと真の力を引き出せないんです・・・。」

 

「真の力・・・?」

 

苦しそうに粗い息を吐きながらも、彼は自分でなければいけないと言い張った。

 

その言葉に引っ掛かる所があるのだろう、ロウは訝しげに呟いていた。

 

真の力とは何なのか、それが分からないのでは信頼したくとも出来ないのだろう。

 

「・・・、分かりましたわ、お行きなさいプレアさん。」

 

そんな空気を破る様に、セシリアが思いがけない言葉を発した。

 

「セシリア!?」

 

全員が彼女を注視し、特に驚いたのだろう、シャルロットからは問い質す様な声が上がった。

 

セシリアとて分かっているのだ、こんな状態の少年に戦闘を任せる事へ危険性を、そして何よりも、プレアを行かせたくないというロウ達の親心も・・・。

 

だが、それを理解して尚、彼女は彼に行けと言った理由があったのだ。

 

「あの機体、ドレッドノートとは嘗て戦った事がありますの、あの機体に積まれている装備が、特殊な力を持っていないと動かせないという事も存じ上げております。」

 

淡々と告げるセシリアの言葉に、リ・ホームのメンバーは今だ納得の行かない様な表情を見せていたが、何かを感じたのだろう、反論する事はなかった。

 

「ですが、今のプレアさんを一人で戦闘に出す訳にもいきません、だからこそ、風花さん、プレアさんと一緒にドレッドノートに乗ってあげてくださいませんか?」

 

「えっ!?アタシが!?」

 

突然話を振られた事に驚いたのだろう、風花は目を丸くしながらもセシリアに訳を尋ねる様な素振りを見せた。

 

「風花さんぐらいの大きさであれば、ドレッドノートのコックピットに入っても操縦出来るでしょう、それに、何かあった時には風花さんがドレッドノートを動かしてリ・ホームに戻ってくる事ができますわ。」

 

「なるほどな、だがよ、風花はMSの操縦が出来るのか?」

 

彼女の説明に納得したのだろう、ロウは頷きながらも風花に問い掛けていた。

 

確かにたとえ乗れたとしても、彼女がMSを動かせなければ何の意味もないどころか、ただの足手纏いになりかねない為に、確認を怠る事は出来ないのだ。

 

「あ、うん、MSなら前にブルーフレームを劾のところまで操縦していった事があります、だから、多分ドレッドノートも船に帰還させるぐらいなら動かせると思います!」

 

彼の問いに答える様に、風花は自分の経験を語り、MSを動かす事ぐらいなら出来ると伝えた。

 

途中、樹里が本当かと尋ねると、一応と答えていた事は割愛しよう。

 

「そんな・・・、危険です・・・、僕一人でも・・・!」

 

彼女を巻き込みたくないのだろう、プレアは引き留めようとしたが、やると決めていた風花は止まらなかった。

 

「アンタだって危険な事やろうとしてるじゃない、こんな時は皆で力を合わせないと!」

 

「でも・・・!」

 

力を合わせるべきだという彼女の言葉に納得できないのだろう、彼はまだ渋る様な表情を見せていた。

 

そんな彼を見た風花は、ある事を伝えようとした。

 

「ねぇ、なんで劾が仲間を持つか知ってる?」

 

「え・・・?」

 

彼女の質問の意味がよく分からなかったのだろう、プレアは彼女を凝視し、理由を尋ねる様な目をしていた。

 

やはり分かってないのかと思いながらも、風花は言葉を紡いでゆく。

 

「一人でもあんなに強い劾だよ、普通仲間なんていらないと思うでしょ?アタシもそう思ってた、でもね、劾を見て気づいたんだ、独りで出来る事は限られてる、でもね、仲間がいれば可能性は何処までだって広がっていくんだよ。」

 

最強の傭兵でも、独りきりでは成し遂げられなかったであろう任務でも、サーペント・テールという一つのチームでやって来たからこそ成し遂げられたのだと、彼女は気付いていたのだ。

 

劾一人の力じゃない、リードの情報、ロレッタのサポート、そしてイライジャの詰めがあってこそ、劾はミッションを成し遂げられたのだと知っていたのだ。

 

「だからね、一人で戦おうとしないで、貴方にはアタシ達がいるから、ね?」

 

「風花ちゃん・・・、皆さん・・・。」

 

彼女の言葉に、プレアは彼女を見つめた後、彼等の周りに立ち、その通りだと笑っているロウ達を見た。

 

そして気付いた、自分は一人じゃない、まだ日は浅くともこのチームの一員として過ごしてきたのだと・・・。

 

「ありがとう風花ちゃん・・・、お願いするよ・・・。」

 

「うん!任せて!!」

 

もう、彼の中に迷いはなかった。

独りの力の限界を、支えあう事で生まれる力に気付いたのだから・・・。

 

「よっしゃ!頼んだぜ、プレア、風花!!」

 

「気を付けてね、バスターが直ったらすぐに行くからね!」

 

ロウは頼もしげに、シャルロットは心配そうにしながらも彼等に声をかけ、自分達がやるべき事に向った。

 

「プレア、これを着て行って、サイズは大丈夫だと思うよ!」

 

『頼んだぞ!』

 

「ありがとうございます、皆さん!」

 

樹里に手渡されたパイロットスーツに袖を通し、彼はドレッドノートへと一足先に向った。

 

彼とて、自分がやるべき事が分かっているのだ、もう立ち止まる事はないだろう。

 

「風花さん、押しつけてしまう様ですが、プレアさんをお願いしますね?勿論、あなたも無事に帰ってきてくださいね?」

 

セシリアは風花に宇宙服を手渡しながらも、プレアを助けてやる様に頼んでいた。

 

共に行動した日は数える程しかなくとも、彼は彼女の仲間だ、心配にならない筈もない。

 

当然、この世界での初めての仲間である風花も無事に帰ってきて欲しいと願っているのだ。

 

「任せてよ、アタシがちゃんと連れて帰ってくるよ、皆の所に。」

 

セシリアの言葉に、彼女はにこやかに微笑みながらもパイロットスーツを着込んでゆく。

 

「セシリアって、すごいね。」

 

「何が、ですか・・・?」

 

風花の言葉の意味を理解できなかったのだろう、彼女は首を傾げ、問い返した。

 

自分なんて・・・、と思っている彼女だ、凄いと言われてもピンとこないのだろう。

 

「アタシね、ずっとプレアを止めようとしてたんだ、でも、セシリアはプレアに行けって言ったでしょ?普通なら出来ないよ。」

 

「あれは・・・。」

 

セシリア本人にとっては大した事ではなかったのだろう、何せ、心に従ってこそ、後悔しないと思っているのだ、彼がやりたいと言ったのなら、止めるなど愚問だ。

 

「だから、セシリアがやれって言った事、本当に凄いと思うの、アタシも、プレアを助けるよ、セシリアがやったみたいに!」

 

そう言い残し、風花はプレアを追う様にドレッドノートへと向かって行った。

 

「凄い・・・、ですか・・・。」

 

独り残されたセシリアは、何処か自嘲気味に呟いていた。

 

自分は何一つ、彼女に誇れる様な事を見せていない、それなのに、風花は自分を凄いと言ってくれるのだ、嬉しくもあるが、それと同時に、自分がそれに値する人間かどうかも分からなかったのだ。

 

「私なんて・・・、ただの弱虫ですわ・・・、本当に凄いのは、風花さん、貴女ですのよ・・・?」

 

自分にしか聞こえない程度の声で、彼女は羨ましそうに呟いていた。

 

彼女が持てていない輝きを持っている事への羨望か、それとも別の何かか・・・。

 

「雅人さん、どうか、プレアさんと風花さんをお守りください・・・、分かり合えなかった私達の悲劇を、あの方々にさせないためにも・・・。」

 

この世界にはいない、嘗てドレッドノートを駆った者に、彼女は祈った。

 

自分の友を、仲間をまた失わぬようにと・・・。

 

sideout

 

noside

 

「プレア・レヴェリー、ドレッドノート、行きますっ!!」

 

追撃してくる敵機を迎え撃つために、プレアは風花と共にドレッドノートに乗り込み、艦の後方へと機体を駆った。

 

敵船からもMSが発艦したのだろう、先程の戦闘でザフトを単機で壊滅させたMS、ハイぺリオンが彼等の方へと向かって来ていた。

 

「来た・・・!リ・ホームはやらせない・・・っ!!」

 

決意を籠め、宣言しながらもフットペダルを踏み込み、彼はハイぺリオン目掛けて突っ込んで行く。

 

向こうも彼を認識したのだろう、右腕に握られたビームサブマシンガンを撃ち掛けてくる。

 

「くっ・・・!流石に、やるっ・・・!!」

 

あちらが欲しがっているのはNジャマーキャンセラー、ひいてはドレッドノートというMSそのものだ、機体を破壊し尽くさなければパイロットなどどうでもいいのだろう。

 

その証拠に、ハイぺリオンはコックピット部への直撃を避けている様にも見えるが、腕部や脚部を狙って来ている、当たってしまえば、コックピットを焼かれる恐れはあるのだ。

 

「プレア!!」

 

彼が反撃しない事に焦りを覚えたのだろう、同乗する風花が攻撃しろと言わんばかりに声を上げる。

 

「待って・・・、今・・・!」

 

彼女の叫びに答えながらも、彼は眼を閉じ、真に撃つべき敵の姿を見ようとした。

 

縦横無尽に動き回るハイぺリオンのコックピットに座る人物ではなく、彼が纏う黒き闇が、彼の敵だった。

 

「行けっ!プリスティス!!敵はあの黒い炎だ!!」

 

彼の意志に呼応する様に、ドレッドノートの腰部に装備されていたアンカークローの様なモノが射出され、ビームを打ちかけながらもハイぺリオンを襲う。

 

しかし、そんなものは効かないとばかりに、ハイぺリオンは左腕のビームシールドを広げ、いとも容易く防御、プリスティスが接近してきた所に、銃口上部から発生させたビームナイフでケーブルを切断した。

 

それによって、ドレッドノートの戦力をダウンさせたと思ったのだろう、灰色の機体は更に速度を上げ、彼等に迫ってくる。

 

だが、彼等はまだ終わってなどいなかった。

 

「今だっ・・・!!」

 

プレアが意識を集中し、レバーを押し込むと、切断されたケーブルの先端のクローが外れ、ハイぺリオンの背後からビームを撃ちかけた。

 

それに気付いたのだろう、慌ててアルミューレ・リュミエールを展開しようと発生基を出していたが、ビームシールドが展開される前に、プレアは発生基を破壊していった。

 

「これって・・・?」

 

「ドラグーンシステム・・・、量子通信を使った、このドレッドノートの・・・、特別な力、だよ・・・。」

 

目の前で起きる無線端末の操作に驚いた風花に答える様に、彼は息を切らしながらも説明を続けた。

 

恐らくは、その力を使う事で体力を消耗しているのであろう、疲労の度合いが徐々に濃くなっているのが見て取れた。

 

しかし、その間にもプリスティスはハイぺリオンへの攻撃を続け、右背のバインダーやビームサブマシンガンを破壊していた。

 

攻撃手段を封じられたハイぺリオンはなす術がないのだろう、反撃すら出来ず、ただビームの雨に晒されていた。

 

「今なら・・・、終わりにするよ、ドレッドノート・・・っ!!」

 

それを認めた彼はトドメを刺すべく、本体が握っていたビームライフルを構え、二基のプリスティスとの三方向同時を攻撃を仕掛けた。

 

必殺の光条は、灰色の機体に向かって容赦なく突き進み、交錯した・・・。

 

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次回予告

敗北を突き付けられるカナード、だが、それは終演ではなく、更に燃え盛る要因となる・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

暴走する闇炎

お楽しみに~。


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暴走する闇炎

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ドレッドノートが撃った三つの光条は容赦なく突き進み、回避できずにいたハイぺリオンの右腕部、左肩アーマーを破壊した。

 

パイロットが失神でもしたのだろうか、ハイぺリオンは沈黙したまま、攻撃してこようとはしなかった。

 

「敵MS沈黙・・・、でも油断しないで。」

 

ほとんどすべての攻撃手段を奪ったが、油断は出来ない。

 

なにせ、騙し討ちでも画策されていては、それこそ気を抜いた時に再び攻撃されかねないのだから。

 

「・・・、うん・・・。」

 

相当苦しいのだろう、プレアは息も絶え絶えに返答しながらも、敵機への回線を開き、投降を呼びかけた。

 

「警告します・・・、あなたに勝ち目はありません・・・。」

 

無益な戦いは御免だと言う様に、彼は敵からの返答を待った・・・。

 

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『これ以上の戦闘は無意味です・・・。』

 

「うっ・・・。」

 

中破したハイぺリオンのコックピット内では、パイロットであるカナードが全身に走る痛みを堪えながらも、ドレッドノートのパイロットからの映像通信を見ていた。

 

手酷くやられたためか、エマージェンシーを告げる警告音が引っ切り無しに鳴り響き、彼自身も口の中を切ったのか、口元は血に塗れていた。

 

「アイツ・・・、ジャンク屋の船にいたガキか・・・?」

 

通信状況が悪く、若干ノイズが混じっている映像ながらも、自分に語りかけてくる敵のパイロットの姿はハッキリと認める事が出来た。

 

パイロットスーツを着ていても、その顔は見間違えなかった。

 

その少年は先ほどのジャンク屋の船に乗っていた内の一人だったのだ。

 

「あんな奴に、この俺とハイぺリオンが・・・、やられたのか・・・!」

 

撃墜されかけているショックよりも、自分の年齢の半分もいっているかどうかも怪しい少年に負けている事に苛立っているのだろう、彼は画面越しの相手を睨み付けていた。

 

『どうか・・・、投降してください・・・!』

 

「投降だと・・・!?」

 

少年が発った言葉に、カナードは怒りを再燃させたのだろう、バイザーに血が付き、見辛いヘルメットを脱ぎ捨て、口の周りに付いた血を拭いながらも叫んだ。

 

「この俺に敗けを認めろとでも言うのか!?」

 

彼にとって、負けを認めるという事はこれまでの人生を否定する様なものだ、たとえ死んだとしても受け入れられぬものなのだろう。

 

「誰が貴様なんぞに投降などするものか・・・!俺はまだ・・・っ!!」

 

まだ自分は負けていないと言う様に、彼は計器を操作し、ハイぺリオンを再起動させようと試みた。

 

『投降しないなら・・・、攻撃を再開します・・・!!』

 

敵パイロットからの言葉と共に、目の前のMSはビームライフルを再度ハイぺリオンに向けて構えた。

 

カナードは必死に機体を再起度させようと試みていたが、返ってくるのは無慈悲なアラートと、『SYSTEM ERROR』の表示のみだった。

 

「再起動しない・・・!?くそっ・・・、俺は・・・、俺はこんなところで死ぬのか・・・?ジャンク屋如きに殺されて・・・?」

 

あまりにもショックだったのだろう、彼の身体から力が抜け、シートにへたり込んだ。

 

殺される事が悔しいのではない、戦えぬ事が悔しいのだ。

 

「キラ・ヤマトを・・・、完全体を超えるなど・・・、所詮は驕った夢だったのか・・・。」

 

スーパーコーディネィターの実験体である彼は、本物を超える事を唯一の願いとして、望みとして生きてきた。

 

それなのに、彼はキラではなく、全く関係のない少年に敗れたのだ。

 

その現実が、彼の胸に突き刺さった・・・。

 

「殺れよ・・・、一思いに殺れ・・・っ!!」

 

掠れた声で、彼は叫んだ・・・。

 

そんな時だった、死んでいた筈のハイぺリオンが唸りを上げた。

 

「ハイぺリオン!お前も俺と共に戦うと言うのか!!」

 

エンジンの振動に歓喜しながらも、彼は己の愛機に確認する様に叫んだ。

 

コイツも自分と共に戦いたがっている、機体の損傷など構わない、戦えるのだと・・・。

 

「そうだ・・・、俺達はまだ負けてない・・・!!生きてる内は負けじゃないっ!!」

 

共に戦おうとする機体の意志に応える様に、彼はレバーを押し込み、左腕のビームナイフを取り出し、握り締めると同時に、左腕に残されたアルミューレ・リュミエールを展開、一気に加速しながらもドレッドノートへと突っ込んで行く。

 

『攻撃を止めて下さい!!』

 

敵機から警告が届くが、彼は構わずにフットペダルを踏み込み、敵を倒すべく突き進む。

 

『プレア!!撃ってぇっ!!』

 

敵機に同乗しているのだろう、少女の悲鳴が聞こえると同時に、ドレッドノートは三つの砲門からビームを撃ち掛けてくる。

 

ビームシールドを展開している為に機体中心への直撃は無いが、逸れたビームが脚部を掠め、その装甲に傷を増やしていく。

 

「オォォォォォッ!!」

 

機体へのダメージを無視し、彼は更に速度を上げ、自分の攻撃が届く間合いへと突き進んで行く。

 

間合いはどんどん縮まり、間合いに入る直前、彼はビームナイフを突きだした。

 

この距離では回避できまい、そう思っていたが、ドレッドノートは左腕を突き出し、彼の方へと向かってきた。

 

二機が交錯すると同時に、激しい閃光と衝撃により、カナードの意識は闇に呑まれた・・・。

 

sideout

 

noside

 

交錯した二機が離れた時、交錯前の姿だったのはドレッドノートだけだった。

 

シールドはビームナイフで切られてしまっていたが、それ以外に損傷は無く、戦闘を続行できる状態だった。

 

それに対し、ハイぺリオンは残っていた左腕も付け根から切り落とされ、全身からスパークを散らしながらも宇宙空間を漂っているだけだった。

 

「今よプレア!!トドメを・・・!!」

 

今が撃墜できる絶好のチャンス、そう判断した風花は彼の方を向きながら叫ぶ。

 

だが、肝心のプレアからの返答も反応もなく、ただ、苦しそうな粗い呼吸音が聞こえてくるだけだった。

 

「プレア・・・!?」

 

彼の身体を揺らして呼びかけるが、意識が朦朧としているのだろう、彼からは返事どころか、ジェスチャーもなかった。

 

「大変・・・!すぐにお医者さんに診せないと・・・!アタシじゃどうにも出来ない・・・!!」

 

彼の様子を見た風花は、危険な状態だと直感で判断し、リ・ホームへと戻る事を決めたようだ。

 

「うん、そうよ・・・!アタシはこの為に来たんだ・・・!今は船に戻らないと!!」

 

プレアの手を操縦桿から剥がし、彼女が代わりにレバーを押し込み、ドレッドノートの進行方向を変え、リ・ホームに向けて機体を動かした。

 

ドレッドノートはそれに応え、宙域を離脱しつつあったリ・ホームへと戻っていった。

 

去り際に、彼女は後ろを漂うハイぺリオンを振り返りながらも確認し、これ以上の追撃がない事に安堵し、大きく息を吐いた。

 

片腕を捥がれて尚、特攻に近い形で突っ込んできたのだ、今度は自爆覚悟でくる事も十分にあり得たため、気が気でなかったのだろう。

 

「あのパイロット・・・、一体なんなの・・・?」

 

戦い方だけでなく、彼が纏っていた異様な雰囲気に、風花はある種の不気味さを覚えた。

 

まるで、すべてを壊してもまだ足りないと、破壊を求めて彷徨う悪鬼の様な印象を受けたのだろう、彼女の表情は何処か複雑だった。

 

「また、会う事になるかも・・・。」

 

また合い見えるかも知れない、そう言った思いを感じながらも、彼女は友を救う為に宙を駆けた・・・。

 

sideout

 

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「ぐっ・・・!?」

 

全身に走る痛みに苛まれながらも、カナードの意識は覚醒した。

 

「カナード、目が覚めましたか?」

 

彼の覚醒に気付いたのだろう、近くでバイタルデータに目を通していたメリオルが簡易ベッドに横たわる彼に歩み寄ってきた。

 

「メリオル・・・?ここは・・・。」

 

「オルテュギアのメディカルルームです、大事がなくて、本当に良かった・・・。」

 

自分が寝ている場所を尋ねる彼に答えつつも、彼女は心から安堵した様な表情を見せた。

 

その表情は、部下としての物ではなく、ただ、無茶をする男を心配する女の表情に似ていた。

 

「・・・っ!!奴は!?ジャンク屋はどうした!?」

 

彼女の言葉に、気を失う前の事を思い出したのだろう、跳ね起きながらも状況を確認するためにカナードは叫んだ。

 

「撤退しました、一応追跡はしていますが・・・。」

 

自分の身体などどうでもいいと言う風な彼を、どこか悲しげな表情で見ながらも、彼女は状況を説明していた。

 

「くそっ・・・!」

 

自身の腕に付けられていた点滴用の針を乱暴に引き抜きながらも、彼は立ち上がろうとしていたが、身体が思う様に動かないのだろう、ベッドから転げ落ちた。

 

「カナード!!」

 

そんな彼の様子に、彼女は思わず駆け寄り、彼を支えようと手を伸ばすが、その手はカナードに払われてしまった。

 

「追撃するぞ・・・!準備しろ・・・!!」

 

「そんな・・・!無茶です!!」

 

彼の口から飛び出した言葉に、彼女は驚愕しながらも彼を引き留めるべく言葉を紡ぐ。

 

「ハイペリオンだって、起動不可能な状態ですし・・・、それに、貴方の体調だって・・・。」

 

そう、彼女の言葉通り、彼の搭乗機であるハイぺリオンは先程の戦闘で大破し、回収できた左腕やバインダーの一部を使っての修繕作業が続けられているが、パーツが足りないために完全修復は難しい状況である事に変わりはない。

 

「俺は・・・、スーパーコーディネィターになるのだ・・・、そのためにも、キラ・ヤマトと戦うまでは、誰にも負けられないんだ・・・!!」

 

ベッドの縁を掴み、何とか立ち上がったカナードは、絞り出す様に話した。

 

それは、執念とでも言うべき感情が籠められ、彼の想いの強さが伝わってくる。

 

「そのためにも、まずはあのガンダムを・・・!あのパイロットを倒さねば前に進めないのだ・・・!!生き抜き、勝ち抜き・・・!俺はキラの前に立たねばならぬのだ・・・!!」

 

「カナード・・・。」

 

その強すぎる執念を思い知らされたのだろう、メリオルは悲しげな表情を僅かに覗かせるも、すぐに副官としての表情を取り繕った。

 

「分かりました、我々は核エンジン搭載のMSの確保指令を受けています、止める事はしません、すぐにジャンク屋の状況を分析し、我々が動かせる戦力で襲撃可能か調べましょう、ですから・・・、無理はなさらないでください・・・、カナード・・・。」

 

自分に背を向けているカナードに告げながらも、彼女は彼が振り向かない事を願っていた。

 

もし、彼が今振り返れば、今の自分の表情を見られてしまうから・・・。

 

そう、悲しみに歪んだ、一人の弱い女の顔を・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「おっ、補給ステーションが見えてきたな。」

 

戦闘宙域から何とか逃げ延びた僕達は、ジャンク屋組合の宇宙ステーションに辿り着いた。

 

さっきの戦闘での被害はリーアムの負傷と、レッドフレームの解体、それとドレッドノートのシールドが壊された位で何とか助かった。

 

あ、それとプレアが体調を崩した事もあるね、本格的な医療設備とドッグがあるところに行かなくちゃいけなくて、僕達はここまで来たって訳なんだ。

 

ちなみに、セシリアと風花ちゃんはプレアの様子を見ていると言って、今は医務室に行ってるんだって。

 

僕は機体の様子見とかあったから行けなかったんだけどね。

 

「はぁ~・・・、一時はどうなるかと思ったわよ~。」

 

艦橋の窓から見える宇宙ステーションの姿に緊張の糸が切れたのか、樹里は床にへたり込みそうになっていた。

 

まぁ、それは仕方ないよね、連合軍に囲まれてたんだ、生き延びられた事がもう奇跡みたいなものだもの。

 

「はいはい、お疲れのところ悪いけど、着いたら直ぐに仕事よ、リーアムの分まで働いて頂戴。」

 

「うぇ~・・・、休ませてよ~・・・。」

 

休む暇は無いとばかりに急かすプロフェッサーの言葉に、樹里はもう疲れたと言う風な表情をしていた。

 

まぁ、あんな事があったら、せめて眠る時間ぐらいは欲しいよね、肉体的な疲れもそうだけど、やっぱり精神的な疲労の方もあるわけだし・・・。

 

でも、今はそんな事言ってる場合じゃないのも分かってるからね、取り敢えずやる気を出させとかないとね?

 

「(仕方ないよ樹里、今ならロウと二人っきりで作業できるかもしれないよ?)」

 

「な、なななななな、シャルロットぉぉぉ!?」

 

僕の耳打ちに、彼女は耳まで真っ赤にして、手を大きく振り回していた。

 

どうやら、それには気付いてなかったみたいだね、初心すぎるね。

 

まぁ、そこが樹里の可愛いトコでもあるんだけどね~。

 

「どうしたんだ樹里?何慌ててんだ?」

 

「ふぇっ!?」

 

そんな彼女の慌て振りに、ロウは頭の上に?マークを浮かべて樹里に尋ねていた。

 

そんな彼に、樹里は可愛らしい声をあげて、顔をトマトより赤くしていた。

 

あー・・・、あれは想像してるんだろうなぁ、ロウと二人っきりで作業してる様子を・・・。

 

僕も昔はそんな気があったからよく分かるよ、あれって案外恥ずかしいんだよねぇ・・・。

 

「な、何でもないわよぉ!気合よ、気合を入れてたのよ!!」

 

「そうなのか?まぁ、いいけどよ。」

 

照れ隠しなのか、樹里は腕を大きく振って誤魔化していた。

 

まぁ、今の状況じゃ誤魔化すのが精一杯だろうね、もったいないなぁ。

 

「はいはい、ラブコメはその辺にしておきなさい、もうすぐ着岸よ、準備して頂戴。」

 

騒がしい周りの様子を楽しそうに見ながらも、プロフェッサーが僕達に作業の準備を促してきた。

 

それじゃあ、一働きしようかな。

 

そんな事を考えている内に、リ・ホームはステーションの船舶固定アームに接続され、ステーションとの連絡用通路も取り付けられていた。

 

「よっしゃ、行くか!!」

 

接岸と同時に、ロウは待ち切れないと言う様に艦橋から飛び出して行こうとしていた。

 

その時だった、今まで姿を消していたジョージがホログラム化し、彼の前に現れた。

 

『ロウ、組合を介しての通信が君宛に入っているぞ。』

 

「俺に?誰からだ?」

 

ジョージの言葉に思い当たる節が無いんだろうか、彼は首を傾げながらも通信を入れてきた人物を尋ねていた。

 

まさかサーペント・テールの劾さんからなんて事は無いだろう。

 

ドレッドノートに関する彼の依頼は、別方面からのNジャマーキャンセラーの流失と言う形で達成されているんだ、今更連絡してくる意味は無い。

 

有るとすれば、こっちに居るセシリアと風花ちゃんの様子の確認ぐらいだろうけど、彼程の人物が仲間を束縛する様な事は無いと思うけど・・・。

 

まぁ、僕がどうこう考えても意味は無いと思うけどね。

 

『エターナルのマーチン・ダコスタからだ、話があるからエターナルに来て欲しいらしい。』

 

「ダコスタが?補給か何かか?」

 

エターナルって、この前補給に行った船の名前だったっけ・・・?

 

ダコスタって人がどんな人かは分からないけど、三隻同盟に関わりのある人なのは確かだろうね。

 

『補給ではないらしい、ただ来てくれという通信だったな、どうするかね?』

 

「何か有りそうだな・・・、まぁ、行ってみれば分かるか。」

 

そう言いながらも、彼は右手に『8』を握り、艦橋から出て行こうとして、どういう訳か、僕の方を見ていた。

 

どうしたんだろ?

 

「シャルロット、何か有るかも知れないし、ちょっと付いて来てくれるか?」

 

「僕は構わないけど、どうして急に?」

 

護衛か何かかと思うけど、そこまで気を張らなくても良い気がするんだけどなぁ・・・?

 

「顔見知りになっといた方がいい奴等が色々いるんだよ、シャルロットも顔ぐらい見せとくといいかも、って思っただけなんだけどよ。」

 

そういう事か、まぁ、どういう人達が三隻同盟を構成してるのかって気になるところだし、今のところ大きな依頼も無いみたいだから行ってみようかな。

 

それに、僕の新しい目的も果たせるかも知れないしね。

 

「うん、お願いするよ、もしかしたら一夏がいるかもしれないし、色々見て回りたいな。」

 

「分かった、それじゃ、行こうぜ。」

 

僕の返事を聞くと同時に、彼は先に艦橋から出て行った。

 

恐らくは格納庫にあった小型艇の用意に行ったんだと思う。

 

「樹里、悪いけどロウを借りてくね、それと、セシリアにも教えてあげてね。」

 

「うん・・・、大切な人、見つかるといいね。」

 

ロウと一緒に入れない事が寂しいのか、樹里は何処か影のある笑みで僕を送り出してくれた。

 

なんだか申し訳ないなぁ・・・。

 

出入り口に向かう途中、プロフェッサーが僕に追いすがり、耳打ちしてきた。

 

「(シャルロット、樹里の事は任せなさい、何とか言っとくわ。)」

 

「(ごめんなさい、プロフェッサー・・・、お願いします。)」

 

皆に気を使わせちゃってるのって、申し訳なさ過ぎてアレだね・・・、心が痛むよ。

 

でも、後ろめたい事ばっかり考えてても始まらない、僕は僕のやるべき事をやろう、今はそれでいいんだ・・・。

 

自分自身にそう言い聞かせ、僕はロウの後を追った・・・。

 

sideout

 




次回予告

プレアが魘される悪夢と、現実に迫り来る脅威、その狭間で彼は何を思うのだろうか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

巡り会うASTRAY

お楽しみに~。


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番外編 天ミナ

次話を予約投降した時に必要だと判断したために、この話を先行して投降します。


noside

 

アメノミハシラの格納庫。

 

そこはMSを格納しておく場所と言うだけでなく、機体の改修や整備を行えるファクトリーも兼ねた場所であった。

 

そこは普段より、ジャック・ウェイドマン整備士長を筆頭とした整備士達の熱気に支配された、まさに裏の戦場と呼べる場所だった。

 

だが、今日の格納庫の内部は、普段にも増して熱が籠っており、整備士達も一様に熱の籠った表情をしながらも各々の作業に打ち込んでいた。

 

「脚部装甲接合完了!次行っていいぞ!!」

 

「トリケロス改、装着開始!慎重に行けよ!」

 

金色のフレームを持った黒い機体に、次々と武装が取り付けられていく。

 

だが、その機体に元からあった気品を損なう様な鈍重さは何処にもなく、ただただ、その機体の美しさを引き立てる様な装備が装着されていく。

 

「OSのパラメーター、オールグリーン、接合箇所に異常は見られない、流石の手際だ・・・ハロ、機体のバランスチェック、どうだ?。」

 

『モンダイナシ!モンダイナシ!!』

 

その機体のコックピットに座り、キーボードを叩きながらも外にいる整備士達に向けて叫ぶのは、アメノミハシラの実質的なNo.2、織斑一夏であった。

 

新参者とはいえど、城を治める女王、ロンド・ミナ・サハクに迫る戦闘能力と、整備士達への的確な指示、そして、それを鼻に掛けないという所が、アメノミハシラに仕えるすべての者に好印象を与えていたために、彼がロンド・ミナに代わって指示を出す事に不満を持つ者はいなかった。

 

「一夏!外装や武装は全部載っけられたぜ!お前も降りて来て見てみろや!」

 

「分かったよジャック、今降りる、ハロ、引き続き機体のチェックを頼む。」

 

『ガッテンディ!』

 

ジャックの呼び掛けに応じた一夏は、ケーブルに繋がれたハロに指示を出しつつコックピットから降り、彼の傍に歩み寄った。

 

「お疲れさん、ゴールドフレーム天の改修、完了だ。」

 

「もう完成したのか・・・、予想よりも早かったな・・・。」

 

彼に釣られ、一夏もその黒い機体を見上げた。

 

改修されて間もないから当然であるといえるだろうが、その機体には傷一つなく、まさに天空を統べるに足る威厳に満ち満ちていた。

 

「MBF-P01-Re2 アストレイゴールドフレーム天改・・・、かなり手を加えたもんだな・・・。」

 

左腕部への鈎爪、腰部へのレイピアの追加、そして破壊された左脚部の改修、および、それに伴う右脚部の改修と、元となった機体から更に改修が施されていた。

 

当然、機体の表面だけでなく、内部、特にスラスター関連が徹底的に手が加えられており、シュミレーション上では大気圏内での飛行も可能という結果を叩き出していた。

 

「まぁ・・・、これぐらいせにゃ、長い戦いには勝てないだろうさ。」

 

彼のしみじみとした呟きに、ジャックは何処か遠い目をしながらも答えていた。

 

彼も疑問に思っているのだろう、この改修が、世界にとって、自分たちにとって本当に正しい事なのだろうかと・・・。

 

「天が完成したか?」

 

そんな時だった、彼等の背後から声が聞こえ、一夏とジャックは揃って振り返った。

 

そこには三人のソキウスを引き連れたアメノミハシラの女王、ロンド・ミナ・サハクの姿があった。

 

「こっ、これはミナ様・・・!わざわざ御足労いただきまして光栄であります!!」

 

まさか彼女がここに出向いて来るとは思わなかったのだろう、ジャックは居住まいを正し、最敬礼をしていた。

 

いくらこの城に仕えているからと言えど、ロンド・ミナに会える事はそうそう無いため、彼の様な一介の整備士にとって、ミナとの直接話をするのは緊張してしまう事柄なのだろう。

 

「ウェイドマン整備士長、そんなに気負う事などない、普段通りにしていてくれ。」

 

そんな彼に苦笑しながらも、ミナは気にするなと言葉を紡いだ。

 

彼女とて、あまり堅苦しいやり取りは好ましくないのだろう。

 

「そうだぜジャック、気ぃ遣い過ぎだって。」

 

「お前はもう少し私に気を遣え、何回私の酒を強請るつもりだ。」

 

「だって俺の部屋、酒置いてないし。」

 

一夏とミナのやり取りに、ジャックは密かに冷や汗を流していた。

 

一夏が表面的にフランクな事は彼も承知の上だが、仮にも上司であるミナにも普通にタメ口で話している事に、ある種の恐怖を抱いた。

 

だが、ミナも文句を言いつつもどことなく楽しそうにしているため、これでいいのだと自分に言い聞かせる事にしたようだ。

 

「まぁよい、天の出撃、出来るか?」

 

そんな事はいいとばかりに、ミナは思い出したかの様に、要件を尋ねていた。

 

それに気付いたジャックと一夏も表情を引き締め、機体の状況を告げた。

 

「機体のパーツの接合、及び、武装の装着は完了しました、出撃する事は可能です。」

 

「アンタの要望に合わせて改修したんだ、これで満足出来なきゃやり直しだけどな。」

 

「ご苦労であった、では、試運転でもしてみよう、一夏、デブリベルト付近まで付き合え。」

 

二人の報告を聞いたミナは満足げに頷いた後、一夏に同行する様に指示した。

 

ソキウス達でも良い所だろうが、彼女としては一夏の訓練のために付き合わせるのだ、それほど深い意味は無いのだろう。

 

「了解、ジャック、今回はレイダーで出る、天のスピード、ストライクじゃ追い付けなさそうだ。」

 

その言葉に了解した後、彼はレイダーが置かれている区画まで歩みを進めた。

 

どうやら、彼にも別機体にも慣れて置きたいという思いがあったのだろう、一夏にとってもこの申し入れは願ったり叶ったりだったようだ。

 

「では、私も行くとしよう。」

 

彼を見送った直後、ミナは天に乗り込むべく機体に近寄り、一夏が出しっぱなしにしていた乗降用のラダーに掴まり、コックピットまで登った。

 

それを見送ったジャックも、自分の仕事のためにその場を離れようとした、まさにその時だった・・・。

 

「ウェイドマン整備士長。」

 

「はっ!なんでしょう?」

 

唐突にミナに呼び止められた彼は、まさか不備があったものかとヒヤヒヤしながらも彼女の下に駆け寄った。

 

これから発進という時に、どんな小さなミスでも命の危険を招くものであるために、それを放置する事は許されないのだ。

 

「なんだこの丸いのは?」

 

『ハロッ!』

 

「あっ・・・。」

 

彼女が差し出した球体、ペットロボであるハロを見た彼は、気の抜けた声を漏らした。

 

どんなミスがあったのかと気を張っていたために、拍子抜けしたというのもあっただろう。

 

「こりゃぁ、一夏と自分が作ったペットロボでさぁ、まさか一夏の奴、置いて行きやがったのか・・・。」

 

「一夏の物か・・・、彼奴も抜けている所があるのだな・・・。」

 

ジャックの説明に、ミナは少し可笑しそうに笑っていた。

 

普段、凛とした表情を崩さない彼女の笑う所を見た事が無かった彼は、その表情に釘付けになるも、今はそれどころではないと自分を立ち直らせた。

 

「自分が預かっておきましょう、後で一夏に渡しておきますので・・・。」

 

「すまぬな、出撃する、下がっていろ。」

 

ハロを受け取ったジャックが下がった事を認めた彼女は、今度こそシートに腰掛け、コックピットハッチを閉じた。

 

機体の電源を入れ、OSのパラメーターを自分に合う物へと再調整し、発進準備を進めてゆく。

 

『ミナ、レイダーの発進準備は完了だ、いつでも出せるぞ。』

 

「了解した、少し待て、もうすぐ終わる。」

 

レイダーに乗り込んだ一夏からの通信が届き、彼女はそれに返事をしつつも機体を立ち上げてゆく。

 

その手捌きは、いかにコーディネィターとは言え、無駄なく、あまりにも正確なものだった。

 

「設定完了だ、発進する。」

 

『オーライ、先に出てくれて良いぜ。』

 

彼の言葉に短く了解とだけ返し、ミナはカタパルトへ機体を進めた。

 

別段、緊張などしない、何度もやって来た事なのだから・・・。

 

『進路クリアー、ゴールドフレーム天改、発進どうぞ!』

 

「了解、ロンド・ミナ・サハク、ゴールドフレーム天改、出るぞ。」

 

彼女の宣言と同時に、ゴールドフレームは漆黒の宇宙へと飛び出し、感触を確かめるように動いた。

 

「ほう・・・?天の時よりも出力が上がっているのか?」

 

コントロールスティックやフットペダルを操作し、機体のレスポンスを試しながらも、彼女は天の完成度の高さに改めて驚嘆していた。

 

「流石、腕の良い者が集まってくれた、と言うべきか・・・。」

 

自分の期待以上の結果を叩きだしてくれた、アメノミハシラの技術スタッフ達の技量に、彼女は無意識の内にそんな言葉を零し、自分でも少し驚いた様な表情をしていた。

 

これまでの彼女ならば、やってのけて当然と言う様な感想を抱いたのだろうが、今ではそうは無くなっていた。

 

ただ純粋に、素晴らしい仕事をやってのけた者への、ある種の敬意とも呼べる様な感覚が、ミナの胸中に渦巻いていたのだ。

 

『すまん、ミナ、遅くなった。』

 

そんな彼女の耳に、腹心とも呼べる存在である男の声が届く。

 

その声に、ミナは困惑から意識を引き戻され、機体のモニターを見た。

 

天に向かってくる、MA形態のレイダーの姿がそこにはあり、彼女の手前でMS形態に変形し、止まった。

 

「構わぬよ、機体のレスポンスも掴めたところだ、良い準備運動になったよ。」

 

『そうかい、アンタの希望通りって所か?まぁ、もっと深く確かめにゃならん所も有りそうだがな。』

 

「無論だ、着いて来い、置いて行かれたくなければな。」

 

一夏との短いやり取りの後、ミナはフットペダルを踏み込み、徐々に速度を上げながらも動き始めた。

 

『やる気満々って事かよ、ったく、推進剤が持つか不安だぜ。』

 

愚痴を零しながらも、一夏はレイダーをMA形態へと変形させ、彼女の後を追う様に動いた。

 

二機は螺旋を描く様に入り乱れながらも漆黒の宇宙を駆け抜けた。

 

しかも、速度もかなりの物が出ている筈であり、本来ならデブリとの衝突の危険性もあるにも関わらず、二機は更に速度を上げながらも、きめ細やかな操縦で機体を動かし、障害物を回避、若しくは破壊しながらも通り過ぎて行った。

 

「(ほぅ・・・?この私の動きに付いて来れる様になったとは・・・、流石と言うべきか・・・。)」

 

天に装備されているツムハノタチを引き抜き、機体への直撃コースにあるデブリを破壊しつつも、ミナは自身の動きにぴったりと追随してくる一夏の技量に純粋に感嘆していた。

 

MSを扱う様になって今だ一月行くか行かぬかの者が、彼女に肉薄できる程の腕を持っていれば当然と言わざるを得ないだろう。

 

『おい、ミナ、もう少し手加減してくれよ、レイダーは扱い慣れてないんだ、下手すりゃ俺が宇宙の藻屑だ。』

 

そんな彼女の耳に、何処か呆れた様な、それでいて勘弁してくれとでも言う様な一夏の声が届く。

 

どうやら、彼も彼で精一杯食らいついていただけの様だった。

 

だが、そんな言葉とは裏腹に、彼もMA形態のレイダーのクローに装備されている機関砲を用いて進路上のデブリを破壊し、道を作っていた。

 

「なんだ?だらしないぞ一夏、私の片腕になるのならば、もっと精進せよ。」

 

彼の言葉に苦笑しつつも、ミナはからかう様に言葉を投げかけた。

 

尤も、それは彼に対する期待の裏返しでもあるのだが。

 

『アンタの求めるレベルが高いんだよ、俺はトーシロもいいとこだっての。』

 

「そう言う割には、なかなかの腕を持っているではないか?」

 

音声通信の為に表情こそわからないが、一夏はその手厳しい言葉に困惑する様に返した。

 

その調子からして、彼は苦笑に引き攣り、肩を竦めているだろう。

 

それを察し、ミナは苦笑交じりにフォローする様に言葉を紡いだ。

 

『ま、やる事が他に無いんでね、必然的に腕は上がるさ、前みたいな強さは無いけどな。』

 

やる事が無いから、必然的に自身を鍛える事に時間を割くのだと言う一夏の言葉に、ミナは何とも言えぬ心地を抱いた。

 

自分を磨く事を悪いとは思わない、寧ろ、彼女の為にその力を着けると公言しているのだ、それ自体は非常に喜ばしい。

 

だが、一夏の行動にはそれ以外の何かがある様な気がしてならなかった。

 

休む事を知らず、自分の身体を限界まで追い込み、まるで自分自身を殺そうとしている様な、破滅へと向かっているのではないかとすら思えるのだ。

 

だが、それに気付いたとて、ミナ自身にはどうしてやる事も出来なかった。

 

何せ、彼の心を癒せるのは、自分ではないと気付いてしまっているのだから・・・。

 

「なるほどな、だが、無理はするなよ?」

 

『承知してるよミナ。』

 

そんな後ろめたい想いを押し殺し、彼女は自身の右腕とも呼べる男を気遣う様な言葉を投げかけた。

 

それは上官としてではなく、一人の人間として発せられたものの様にも聞こえた・・・。

 

「それでは戻るとしよう、機体の感触は掴めた。」

 

『模擬戦は良いのかよ?』

 

「構わぬ、此処に来るまでに大まかな感触は掴めた、問題は無かろう。」

 

『あれで感触を掴めるのかよ、流石だな、羨ましいよ。』

 

彼女のエース以上の実力と経験に裏打ちされた順応能力の高さに軽口を叩きながらも、彼はレイダーをMS形態に変更しつつも方向転換を行い、その直後に再度MA形態へと戻した。

 

『乗れ、余計な推進剤を使わなくて済むだろ。』

 

どうやら、サブフライトシステム代わりにでもなるのだろう、彼は彼女にそう告げた。

 

「すまぬな。」

 

彼の言葉に甘える様に、ミナはレイダーの上に機体を乗せ、出張った部分をしっかりと掴んだ。

 

『そんじゃ、行くぞ。』

 

「了解した。」

 

互いに通信を入れた後、二機はアメノミハシラに向けて漆黒の宇宙を駆け抜けて行く。

 

『そういやさ、その機体の名前、どうするんだ?』

 

その道中にて、唐突に一夏がミナに尋ねていた。

 

「何故だ?天改で良いのではないのか?」

 

彼の問いが腑に落ちなかったのだろう、彼女は首を傾げながらも尋ね返していた。

 

彼女自身、機体の名など別段気にも留めない、所詮道具にすぎないのだから。

 

だが、彼女の腹心である一夏は違った。

 

『アンタにとっては取るに足らないもんだろうけどさ、機体は己の命を預けるモノ、謂わば相棒みたいなもんだ、俺は相棒に何度も救われてきたんだ。』

 

「命を預けられる相棒、か・・・。」

 

彼の持論を、ミナは何処か興味深げに聞いていた。

 

自分の想いを強く持ち、例え精神的に追い込まれている状況でもそれを貫ける彼の強さと、それを共に作り上げてきた彼の愛機への想いが、彼の言葉には満ち溢れていた。

 

『だからさ、アンタの専用機になるんだ、改なんて他人が着けた便宜上の名前だ、アンタが名付けてやれよ。』

 

「名、か・・・、そうだな・・・、ギナが乗っていた天とは違い、私が乗るのだから、天ミナ、とでも名付けようか?」

 

彼に促されるようにして、ミナは自分でも安直すぎるのではないかと思いながらも、自分が考え付いた名を言ってみた。

 

『へぇ、ギナとは違う、良い名前じゃないか、アンタに似合うエレガントな名だ。』

 

「そうか・・・?お前に言われると、妙な心地になる物だ・・・。」

 

『なんか貶された気分だぜ、それ・・・。』

 

軽口を叩き合いつつも、天ミナとレイダーは、自分達が帰る場所へと戻って行った・・・。

 

sideout

 

noside

 

アメノミハシラへと戻った後、主であるロンド・ミナに呼び出された一夏は、シックスソキウスと共に彼女の自室へと続く通路を進んでいた。

 

「ったく・・・、少しは休ませてくれてもいいじゃないか、ミナの奴・・・、いや、動かせてくれるのはありがたいんだけどな・・・。」

 

ぼやきながらも、彼は自身の主の下へと向かっていた。

 

それもそうだ、帰投してからシャワーすら浴びる暇も無く呼びだされたのだ、彼でなくてもボヤきたくもなるだろう。

 

だが、そこには嫌そうな表情は何処にも見当たらなかった。

寧ろ、ありがたいと言う様な表情だった。

 

それもその筈だった、彼は止まっていては過去に囚われ、自殺願望が強くなってしまうのだ、少しでも動いて気を紛らわせておきたいのだろう。

 

「しかし、用事とか言いやがったか?一体何なんだ・・・?」

 

要件を全く知らぬ一夏は、自身の半歩後ろを歩くソキウスに尋ねた。

 

彼を呼びに来たのもシックスソキウスだ、何か知っていると踏んでの問いかけだった。

 

「詳細までは存じておりません、ミナ様が会わせたい人物がいるとだけ仰っていました。」

 

彼の問い掛けに平淡に答えつつも、ソキウスは無表情を崩す事は無かった。

 

いや、崩す事が出来なかったと言うべきなのだろうが・・・。

 

「会わせたい奴だと?まぁいい、今から顔を突き合わせるんだ直接会ってみるさ。」

 

「そうですか。」

 

自分の判断に素っ気なく答えるソキウスに苦笑しつつも、一夏は前にもこんな事有ったなと思い返すのだった。

 

そんな事を思っている内に、彼等はロンド・ミナが待つ部屋の前に辿り着いていた。

 

「ミナ、俺だ、入っていいか?」

 

インターフォンを鳴らし、彼は中にいるであろうロンド・ミナに問いかけていた。

 

『来たか、入れ。』

 

それに気付いたのだろう、スピーカーより彼女の涼やかな声が聞こえてきた。

 

音声が途切れると同時に、彼等を迎え入れる様に扉が開かれる。

 

それを認めた一夏は、ソキウスに先じて部屋の中へと足を踏み入れた。

 

「良く来たな、待っていたぞ。」

 

「何の用だよミナ、少しは休ませて欲しいんだが?」

 

彼女の姿を認めた一夏は、文句を言う様に問いかけた。

 

だが、そこには非難の色は何一つ見当たらなかった。

 

「そう怒るな、お前に会わせたい男がいるんだ、お前も嘗て会った事があるやもしれん。」

 

「誰だよ、もったいぶらずに教えてくれても良いんじゃないのか?」

 

はぐらかす様な彼女の言葉に、焦らさないでくれと言う様に返していた。

 

彼とて、ハッキリしていないままでは気が気でないのだろう。

 

「分かった、今通信が入っている、繋げよう。」

 

彼の様子に苦笑しながらも、ミナはコントロールパネルを操作し、鏡に見立てたモニターに映像を映し出した。

 

その映像に映し出されたのは、特徴的な眉毛を持ち、いかにも自信家と言う様な男性だった。

 

『よぉロンド・ミナ・サハク、今日はとっておきの情報を持ってきたぜ。』

 

その男の名はケナフ・ルキーニ、裏社会では名の売れた超一流の情報屋である。

 

彼は自分が提供した情報で世界が動く事を至上の悦びとしており、雇われ方次第ではどのような組織の情報であろうが入手し、それを売りつける事を生業としているのだ。

 

「ルキーニ、久しいな、今日はお前に会わせたい男がいる。」

 

そして現在は、自分の能力を高く評価してくれるアメノミハシラに優先的に情報を卸しているのだ。

 

『会わせたい野郎だ?美人な女ならともかく、野郎に興味は無いぞ?』

 

ミナの言葉に、ルキーニは勘弁してくれとでも言いたげな表情を見せていた。

 

まぁ、彼でなくとも見知らぬ相手を紹介される時に、麗しき美女を紹介されたいと思うのは男の悲しき性と言うべきなのだろう・・・。

 

「なに、違うお前が会っていればお前も思い出すさ。」

 

『サッパリ意味が分からんな・・・、まぁいい、アンタが会わせたいと言うんだ、この俺が会ってやろうじゃないか。』

 

雇い主の紹介する人物に会わない訳にはいかないと判断したのだろう、彼は怪訝の表情を崩さぬままその人物について尋ねていた。

 

だが、それを聞いていた一夏の表情には、何処か懐かしむ様な表情が浮かんでいた。

 

何せ、一夏はルキーニの事を知っているのだから・・・。

 

「久しぶりだな、ルキーニ、その言い方はこの世界でも変わらないんだな・・・。」

 

自身の姿を見せる為に、ミナの傍に歩み寄った一夏の姿を見たルキーニは一瞬だけ怪訝の表情を浮かべていたが、すぐさま、それは驚愕に彩られる事となった。

 

『お・・・、御大将・・・!?なんでアンタが・・・!?』

 

「ふむ・・・、やはり、お前もか・・・。」

 

ルキーニの反応に、ミナは何処か感慨深げに呟いていた。

 

それは、異世界で一夏と関わりがあった人物が他にもいたと言う、彼への慰めにも似た感情だったのかもしれないが・・・。

 

『いや・・・、それよりも、なんだ・・・?どうして俺は、アンタを知って・・・!?』

 

「理解できないのも無理はないさ、この世界でのアンタは俺に会った事が無いからな、俺は別のアンタと会ったんだからな・・・。」

 

『なんだよ・・・、だが、悪い気は、しない・・・。』

 

自身の困惑を、にべもない言葉ではぐらかした一夏の言葉に苦笑しながらも、ルキーニは何処か納得した様な表情をしていた。

 

それは、思考が後で来る、謂わば本能の様な物で感じ取ったからなのかも知れない。

 

『まぁいい、御大将もいる事だ、仕入れた情報を提供させてもらうぜ。』

 

「あぁ、頼む。」

 

だが、何時までも感傷に浸っているルキーニでは無かった、彼とてその道のプロ、仕事をしに来たのだからオンとオフは容易に切り替える事が出来るのだ。

 

『今回の情報はザフトの新技術についてだ、しかも、世界が荒れる程の規模のな。』

 

「ほう・・・?して、どれほどのものだ・・・?」

 

彼のもったいぶる様な言葉に興味をそそられたのだろう、ミナはその麗しき顔に愉悦を湛えた様な表情を造った。

 

まるで、待ち望んでいた何かが漸く訪れたかの様に・・・。

 

『その名もNジャマーキャンセラー、名称から分かると思うが、Nジャマーを無力化する新技術だとよ。』

 

「ほう、Nジャマーを無効にするか・・・、これで戦局はどう傾くか分からなくなったな。」

 

ルキーニが齎した情報に、ミナは口元を三日月型に歪めた。

 

それはまさに、自分が望んでいたシナリオが叶った時の物であるかのように・・・。

 

『あぁ、ザフトが造ったが、既に連合にも流れているそうだ、戦争も、思ったより早くカタが着くかもしれんぞ。』

 

彼の言葉通り、Nジャマーが無効化されたと言う事は核の力が使えると言う事になったのだ。

 

それが意味する事とは、戦争の切っ掛けとなった核ミサイルが、そして、それを応用した大量殺戮兵器が生み出される事を意味している。

 

それほどまでに、世界は終末に向かって加速しているのだ。

 

「そうか、面白い情報を感謝する。」

 

『あぁ、お買い得な情報だっただろう?それと御大将。』

 

ミナとやり取りした後、彼は視線を彼女の隣に控える一夏に目を向けた。

 

それに気付いた彼は、ルキーニの目を覗き込む様に居住まいを正し、続く言葉を待っていた。

 

『今度はアンタが喜びそうな情報を持ってくる、またよろしく頼むよ。』

 

「あぁ、その時はまた頼むよ、アンタの手腕、俺は信じているからな。」

 

この世界でも自分の為に情報を寄越すと約束してくれたルキーニの想いに触れたのか、一夏は微笑みながらも頷き、次の時を待つと言った。

 

それは、記憶でも経験でもない、心に刻まれた絆故なのだろうか・・・。

 

『あいよ、ではな。』

 

了解する旨の言葉を残して、通信は途切れた。

 

「ふふふっ・・・、これで私も動きやすくなる・・・、一夏。」

 

「はっ。」

 

その直後、ミナは何かを決意したかのように笑いながらも、傍らに立つ腹心に言葉を投げた。

 

それに反応した一夏も、普段の軽薄さを潜めさせながらも続く言葉を待っていた。

 

「もうじき戦争が終わる、それも両者とも相打ちに近い形でな、間もなくだ、間もなく世界は我々のモノだ。」

 

「そうだな、連合もザフトも滅び、俺達が漁夫の利を得る、まさに理想的だな。」

 

全く苦労せずに、彼等は世界を手に入れる場所まで来ていた。

 

誰の思惑か、世界は滅びの一途をたどって行く、だが、それは人類の終わりではない、国が滅んでも人間は生きている、それらを支配する事で、彼等は新たな国を、世界を作り出せるのだ。

 

「そうだ、我々が動く時がもうじき訪れる、我々がNジャマーキャンセラー、核の力を使わずとも、愚か者共は最早戦う力すら持ち合わせていないのだからな。」

 

彼の言葉に頷き、彼女は最早勝ちが決まったとばかりに笑い、祝い酒のつもりなのだろう、グラスにワインを注ぎ、彼に差し出していた。

 

「祝い酒か・・・?気が早いな。」

 

「これを祝わずにいられるか、これほどまでの行幸をな・・・?」

 

「そうかい、なら、俺も頂くとしようか。」

 

ミナから差し出されたグラスを受け取り、自分の顔の高さに掲げていた。

 

「では、祝うとしよう、我等真のオーブの旗揚げを、な・・・?」

 

彼と同じくグラスを掲げ、グラスの淵と淵を合わせ乾杯した後、彼等は全く同時にワインを咽に流し込んで行く。

 

それはまるで、この世のすべてを取り込んで行くかの様に見えた・・・。

 

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巡り会うASTRAY

noside

 

地球を見下ろす衛星、月の表面にて、二つの軍隊による激しい戦いが繰り広げられていた。

 

片や、バレルの様な物を十字に装備したMA、メビウス・ゼロ、片や全長18mのMS、ジン。

 

メビウス・ゼロの機体数は5機、ジンの総数は3機と言う、数の面だけ見ればMAの方が有利に思われる。

 

だが、ザフトが開発したMSは汎用性に優れ、旋回や機動力の面で、連合の主力であるMAを大きく上回っていたのだ。

 

開戦当初、圧倒的なまでの戦力差を持ちながらも、地球連合がザフトに敗退し続けたのは、これが原因だったのだ。

 

だが、当然連合も負けてばかりではなかった。

 

ガンバレルと呼ばれる特殊兵装を積んだ、メビウス・ゼロのみで構成された部隊を編成、これにより、ザフトとの戦線を維持しようとしたのだ。

 

ガンバレルとは、本体から離れ、独立稼働した兵装であり、謂わば、たった一機のMAがそれを使う事により、様々な方向からの一斉攻撃を可能としたのだ。

 

如何に高い機動性、運動性を持ったMSとは言えど、全方位に気を配らねばならない状態での回避はそう容易くは無い。

 

しかも、今展開しているメビウス・ゼロはジンの数を上回っている。

 

つまり、それだけガンバレルの数も増えるため、回避しなければならない攻撃の手数も増えていくのは明白であった。

 

たった今、ガンバレルの攻撃を何とか回避したものの、メビウス・ゼロ本体の攻撃に被弾した一機のジンが、スパークを一瞬散らしたかと思えば、次の瞬間には爆散し、真空の宙を彩った。

 

――ダメです・・・!殺さないで・・・!!――

 

その様子を、メビウス・ゼロのコックピットから、いや、戦場全体を眺める様に虚空を佇むプレアが見ていた。

 

その表情は苦悶に歪み、見たくないモノを無理やり見せられているかの様にも見えた。

 

それもそうだろう、この戦場は彼が、いや、彼の基になった人物が経験した戦闘だ、プレアはそれを見せ付けられているのだ。

 

――ヤメテ・・・!殺してはダメです・・・!!――

 

幾ら叫べども、幾ら手を伸ばそうとも、彼の声は破壊音に呑まれ、消えていくだけだった。

 

いや、そもそも届きはしないだろう。

 

なにせ、彼はその戦場にはいなかったのだから・・・。

 

――ヤメテ――

 

そう叫んだ瞬間、彼の目の前は暗闇に閉ざされ、彼の意識も闇の底へと沈んで行った・・・。

 

sideout

 

noside

 

「うぅっ・・・?」

 

「プレア?」

 

リ・ホームの医務室にて、ベッドに横たわったプレアが呻いたのを聞き、風花は彼の顔を覗き込む様に身を乗り出した。

 

「あ・・・?風花、ちゃん・・・?」

 

自分の顔を覗き込む彼女を認識したのだろう、彼は少し気怠そうながらも彼女の名を呼んだ。

 

余程心配していたのだろう、目元には薄らと涙が溜まっており、今にも零れ落ちそうになっていた。

 

「大丈夫ですか、プレアさん?」

 

そんな風花の頭を撫でながら、彼女の隣に立っていたセシリアが微笑みを湛えた表情を彼に向け、体調を尋ねていた。

 

「セシリアさん・・・、此処は・・・?」

 

「ジャンク屋組合の補給ステーションです、安心してください。」

 

セシリアに尋ねた彼の問いに答えたのは、少し離れた場所に座っていたリーアムだった。

 

撃たれた肩を包帯で巻いているため、何処か痛々しい様子が窺える。

 

「そうですか・・・、・・・ッ!あのMSは・・・!?あの人は・・・!?」

 

自分が気を失う前の事を思い出したのだろう、彼は思わず跳ね起き様としていた。

 

「大丈夫ですわ、プレアさん、彼は貴方が倒しましたわ。」

 

そんな彼を安心させる様に、セシリアは彼の身体を支え、ゆっくりとした優しい口調で話していた。

 

焦る必要は無い、そう言っている様にも見えた・・・。

 

「そう、ですか・・・、あの人からは、黒い炎が見えました・・・、とても悲しい炎が・・・。」

 

彼女の言葉に安堵したのだろう、プレアは大きく息を吐き、自分がハイぺリオンのパイロットに感じた印象を小さく呟く様に話した。

 

「他の皆さんはドレッドノートの整備とレッドフレームの整備を行っています、ここならば資材も手に入るので直ぐに完了するでしょう、あ、ロウとシャルロットは用事で出掛けています。」

 

「そうですか、皆さんが無事でよかった・・・。」

 

リーアムの説明にプレアは頷きながらも言葉を紡いだ。

 

まだ疲れているのだろう、彼は疲労を浮かべた表情を見せた。

 

「急に気絶しちゃったからビックリしちゃったよ、セシリアがアドバイスしてくれてなかったら危なかったよ。」

 

「本当だね、風花ちゃんとセシリアさんのお陰で助かったよ。」

 

風花の言葉に苦笑しながらも、彼は助かったと言う言葉で自身の幸運を喜んでいる様にも見えた。

 

彼はマルキオからの依頼を背負っている、それを完遂させずに死ぬ事は、彼にとっては何よりも後悔すべきものなのだろう。

 

「何処か、御身体が悪いのですか・・・?」

 

彼の様子から何かを察したのだろう、セシリアは彼の瞳の奥を見る様に視線を送った。

 

「いえ・・・、ドラグーンの操作に疲れただけです・・・、まさかあんなに疲れるなんて・・・。」

 

そんな彼女の視線に気付いたのか、彼は誤魔化す様に笑い、疲れただけだと言った。

 

だが、そんな事ぐらい、セシリアには御見通しだった、何せ、彼女も異世界ではドラグーン使いだったのだから。

 

「(嘘、ですわね・・・、幾らドラグーンの操作が初めてでも、気を失うなんて事はある筈が有りませんわ・・・、それに、先程の動きはどう見ても、私よりも巧い・・・。)」

 

先程の戦闘を見ていたセシリアは気付いていたのだ。

 

彼がドラグーンを、またはそれに類似する兵器を以前にも使った事があると言う事に・・・。

 

「(まさか・・・、過去に何かあったのですか・・・?)」

 

如何に空間認識能力を持っている彼女とは言え、人の過去を覗き込む事など不可能に近い。

 

だからこそ、彼が触れて欲しくない話題には触れない事にしたのだ、何時か、彼が話してくれると信じて・・・。

 

「ドラグーン・・・、初めて見たわ・・・、あれがあればアタシでも戦えそう。」

 

「あはは・・・、あれは誰にでも扱える訳じゃないんだ、かなり特殊なモノだからね・・・。」

 

風花の言葉に苦笑しながらも、彼はそんな事は無いと言う風に言葉を紡いだ。

 

彼の言葉通りだと、それを聞いていたセシリアは誰にも気付かれない程度に首を縦に振った。

 

「そうなんだ・・・?」

 

「連合のガンバレル・システムに似ていますね、あちらは有線式ですが・・・。」

 

よく分からないと言う風に首を傾げる風花に、リーアムは自分の記憶の中にあった、ドラグーンに似た兵器の名を口にしていた。

 

「えぇ、原理は同じです、ドレッドノートにはザフトで実用化した量子通信が使われているんです。」

 

「なるほど・・・、量子通信が実用化段階に入ったのですか、ザフトの技術力は凄いですね・・・、それなら、Nジャマーの影響を受けずに無線コントロールが可能ですね。」

 

彼の説明に捕捉する様に語られたプレアの言葉に、リーアムは納得しながらも、実用化が難しいと言われていた量子通信を実用化させたザフトの技術力に感嘆していた。

 

「連合のガンバレルは、今では使える人間はほとんどいないと聞いています、確か、以前はそれ専用の部隊もいたとの事ですが・・・。」

 

「ふぅん・・・、どっちにしても、プレアじゃないと操縦出来ないんでしょ?凄いじゃない!」

 

リーアムの言葉に納得したようなしてないような返事をしながらも、風花はプレアに向き直り、手放しに褒めようとしていた。

 

彼女からしてみれば、選ばれた人間が使える様な兵器を、目の前にいる少年が使う事が出来るのだ、純粋な尊敬の念すら覚えるだろう。

 

「・・・。」

 

「プレア?」

 

だが、当の本人は思い詰めた様な表情をしており、嬉しさなど全く無かった。

 

「凄くなんてないよ・・・、武器が、兵器が上手く扱えるなんて、全然、凄くなんてないんだよ・・・。」

 

「・・・。」

 

彼の言葉の意味を直感と自身の経験から察したのだろう、セシリアは複雑な表情で彼を見ていた。

 

自分は嘗て、技を、兵器を上手く使える様になるため、また、それで人を殺める為に自分の持つ力を磨いてきた存在だったのだ。

 

彼は自分とは違う状況で、そういった兵器の扱い方を憶えさせられたのだと、彼女は感じ取っていた。

 

だが、それと同時に、セシリアは自分が彼に何か言葉を掛けてやる権利が無い事も悟っていた。

 

彼女は人の命を奪う事を目的にその力を使っていたが、プレアは違ったのだ。

 

力を忌避し、寧ろ疎ましくさえ思っている、そんな彼に人殺しである自分が何も言えるはずが無い事ぐらい、彼女は冷めた思考で結論付けていた。

 

彼女自身、何をすれば良いのか、今だ答えが出てはいなかったのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

デブリベルト付近を、一隻の小型輸送船が航行いていた。

 

見たところ、荷物を運んでいる訳でも、はたまた、配達帰りという訳でもなさそうだった。

 

「この忙しい時に呼び出しやがって・・・、ダコスタの奴、何の用事だ?」

 

 

『まったくだ!』

 

その操縦室では、操縦桿を握るロウがぼやき、それに同意する様に『8』もビープ音を鳴らして、画面に文字を表示していた。

 

「来いって言ってただけだよね?通信を傍受されてたら拙い話なのかもね。」

 

副操縦士席に座るシャルロットは、彼からの又聞きながらも自分の予想を告げる。

 

確かに、補給やそれに準ずる依頼ならば、通信を入れるだけで事足りる。

 

だが、彼等を呼び付けた相手は、わざわざ自分達の所まで来させるのだ、何か裏があると見て良いだろう。

 

「補給じゃないと言うし・・・、話がある、って事だけか・・・。」

 

「うん、間違いなく何かありそうだね。」

 

彼の言葉に頷き、シャルロットはコックピットの外に広がる虚空を眺めた。

 

その先に待つ何かに想いを馳せているのか、それとも・・・。

 

『前方に反応あり、戦艦クラスが3つだ。』

 

そんな時だった、センサーで感知したのだろう、『8』がビープ音を鳴らし、目的に近づいている事を告げた。

 

「おっ、見えたか?」

 

目を凝らすと、そこには彼等の方に近付いてくる三隻の戦艦、アークエンジェル、クサナギ、エターナルの艦影が徐々に見えてきた。

 

「エターナル、こちらジャンク屋、ロウ・ギュール、着艦許可をくれ。」

 

『了解、そのまま進め、ロウ・ギュール。』

 

向こうも彼等の接近を確認していたのだろう、通信を入れると間髪入れずに許可が返ってきた。

 

「さて、理由を聞きに行くとしようぜ。」

 

「うん。」

 

二人は頷き合い、輸送船をエターナルのハッチに向け、進んでいく。

 

これから明かされる、真実にを知りに・・・。

 

sideout

 

noside

 

ジャンク屋組合所属の補給ステーションを、急な揺れが襲った。

 

「なに!?」

 

ステーションとドッキングしていたリ・ホームにもその突発的な揺れは伝わり、医務室内にいた風花は驚きの声を上げていた。

 

「これは・・・、この感覚は・・・。」

 

「はい・・・、彼が・・・、あの人が戻って来たんですね・・・。」

 

この揺れを引き起こした原因を感じ取ったのだろう、セシリアとプレアは顔を見合わせていた。

 

高い空間認識能力を持つプレアは兎も角として、セシリアも彼程では無いにしろ、空間認識能力を持っている、敵が発する気配を読み取る事も出来るだろう。

 

「まさか、もう攻めて来たんですの・・・?」

 

敵がもう攻め込んできたと考えたセシリアだが、それは到底難しいと思っていた。

 

何故ならば、ハイぺリオンは完膚なきまでに破壊され、辛うじて残っていたのはバイタルエリアと頭部のみだった、起動はおろか、修復すら完全でないと結論付けた。

 

だが、今このステーションを攻めて来ているのは、あのハイぺリオンのパイロットである事は紛れもない事実だった。

 

間違える筈もない、この世界に、黒い憎しみの炎を身に纏っている人間がどれだけの数いるだろうか・・・。

 

「・・・、僕が行きます。」

 

「・・・。」

 

何かを決心したのだろう、プレアはベッドから起き上がり、医務室の出口に足を向けていた。

 

そんな彼から何かを察したのだろう、セシリアはただ押し黙り、彼の様子を窺っている様だった。

 

「戦うのなら、アタシも一緒に!!」

 

彼が迎撃に向かうと思ったのだろう、風花は自分の役目とばかりに席から立ち、彼の後を追おうとした。

 

「いや、風花ちゃんは残ってて、僕は戦いに行く訳じゃないんだ、一人で大丈夫さ。」

 

「え・・・?」

 

自分が想像もしていなかった事を言われたためか、彼女は驚愕のあまり硬直してしまった。

 

「そんな・・・!ダメよ!殺されちゃうよ!!」

 

彼の思いに気づいたのだろう、彼女は必死になって彼を止めようとしていた。

 

彼女の反応は至極当然だった、敵はドレッドノートを、ひいてはそのパイロットであるプレアを狙っているのだ、今投降する様な真似をすれば、命の保証は無い。

 

「大丈夫、とは言い切れないけど・・・、でもそうしたいんだ、あの人の炎を、憎しみの炎をあんなに大きくしてしまったのは僕の責任なんだ、僕が戦ったから・・・。」

 

心配する彼女に大丈夫だと笑いかけながらも、プレアは決意を固めたと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

これは自分の責任、だから風花を巻き込む訳にはいかないと、彼の瞳は物語っていた。

 

「で、でも・・・!!」

 

理由を聞いても尚食い下がろうとする彼女の両肩を、今まで静観していたセシリアが落ち着かせるように掴んでいた。

 

「貴方の覚悟は分かりましたわ、お行きなさい、プレアさん。」

 

「セシリア!?どうして・・・!?」

 

彼の想いを理解していない風花ではなかったが、今の状況で行けと言うセシリアが信じられなかったのだろう、彼女を怒りと困惑が籠った目で見ていた。

 

「風花さん、プレアさんが決めた事なのです、私達が口出し出来る事ではありません、どうか、彼の想い通りにさせてあげてくださいな。」

 

自分達が縛り付ける事は出来ない、そう告げる彼女の言葉に、風花は何も言う事が出来なかった。

 

「プレアさん、必ず無事で戻って来るのですよ?良いですね?」

 

「はい、セシリアさん、風花ちゃんをお願いします。」

 

必ず生きて帰って来い、その言葉に頷きながらも、彼は医務室を飛び出していった。

 

それを見送り、セシリアは今だ続いている振動を引き起こしている人物に想いを馳せた。

 

「(あの男・・・、一体何の目的でプレアさんを・・・?)」

 

彼は当初、Nジャマーキャンセラーを狙っていた筈だった、だが、今はどうだ、リ・ホームに攻撃を仕掛ける訳でも無く、ただ挑発の様に攻撃紛いの事を繰り返しているだけだ。

 

この事から、彼女はハイぺリオンのパイロットがNジャマーキャンセラーではなく、プレアの方であると見抜いたのだ。

 

だが、その目的までは、彼女でも分からなかったが・・・。

 

「(プレアさん・・・、どうか御無事で・・・。)」

 

自らの弟の様な少年の無事を祈り、彼女は指を絡めていた・・・。

 

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noside

 

「出てこい!ガンダムゥゥ!!」

 

母艦、オルテュギアの艦載機であったMA、メビウスに乗り、カナードはリ・ホームが停泊するジャンク屋の補給基地に攻撃を仕掛けていた。

 

条約では、ジャンク屋への武力行使は当然の事ながら容認されていない。

 

だが、そんな事彼にとってはどうでも良かった、今はただ、自分の果たすべき目標に突き進むのみと、彼は機体を操り、攻撃を続けて行った。

 

『こちらステーションの守備隊だ!直ちに攻撃を停止せよ!!繰り返す!直ちに攻撃を停止せよ!!』

 

そんな彼の前に、二機のプロトジンが姿を現した。

 

その手にはマシンガンが握られ、いかにも戦えますと言った雰囲気だった。

 

「邪魔をするなぁっ!!」

 

だが、彼には守備隊の事など関係なかった、リニアガンの射撃で瞬く間にジンを撃破、旋回して再度攻撃を仕掛けようとした。

 

これだけ暴れれば、見ていられなくなるだろうと判断したのだろう、彼は威嚇射撃の様にリ・ホームの船体スレスレを狙い始めた。

 

そんな時だった、リ・ホームのハッチが開き、中からドレッドノートが発進してきた。

 

「来たか!!借りを返してやる!!」

 

遂に出て来てくれたと、彼は歪んだ歓喜の声を上げ、攻撃を仕掛けるべくトリガーを引こうとした。

 

だが・・・。

 

「・・・、なんだ・・・?」

 

ドレッドノートは武装の類いを一切装備せず、腕を広げて此方に向かってくるだけであり、まるで投降しようとしている様にも見えた。

 

『ステーションへの攻撃を止めて下さい!こちらは交戦する気はありません!』

 

訝しむ彼の耳に、先日の少年の声が飛び込んできた。

 

どうやら本当に戦うつもりが無いのか、ヘルメットを脱ぎ捨て、両手を挙げていたのだ。

 

「どういう事だ・・・?何のつもりだ?」

 

少年の行動が理解できなかったのだろう、彼は思わず少年に尋ね返していた。

 

『投降します、だからこれ以上の攻撃を止めて下さい。』

 

彼の言葉に嘘はない、カナードは何故かは分からなかったがそう感じていた。

 

待ち伏せという訳でもあるまい、MA一機を墜とすのにそんな搦め手を使う必要は皆無だ。

 

「・・・、分かった、投降すると言うのなら着いて来い、逃げたら後ろから撃つぞ?」

 

『分かりました。』

 

彼の脅しにも一切動じず、逃げる気配を見せない事を確認し、カナードはドレッドノートを先導する様に帰還ルートを先行してゆく。

 

そんな彼を追う様に、ドレッドノートもスラスターを吹かし、同じルートを進み始めた。

 

「(思わぬ物が手に入ったな・・・、これでキラを・・・。)」

 

彼は後を着いてくるMSが核エンジン搭載MSなのだと、直感で当たりを付けていた。

 

それを無傷で捕えたと言う事は、解析の手間も幾らか省け、それと同時に彼のもう一つの望みも叶えられるのだ。

 

自分の思惑以上に事が運ぶ事に、カナードは盛大な哄笑をあげた。

 

その声は狂喜に歪み、聞く者を震え上がらせるものではあったが・・・。

 

それぞれの思惑を抱えながらも、二機は漆黒の闇を突き進んで行った・・・。

 

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noside

 

「用ってなんだよダコスタ?俺達は今忙しいんだが?」

 

エターナルの通路を歩くロウは、自身の目の前を歩く短髪の男性、マーチン・ダコスタに要件を尋ねていた。

 

何を隠そう、ロウとシャルロットがこの船に来た理由とは、目の前にいる彼が呼び付けたからであり、それなりの理由があると言う事だ、気にならないはずが無い。

 

「用があるのは俺じゃない、あの人に聞いてくれ。」

 

だが、当の本人は何も知らないと言う風に苦笑しながらも、とある部屋を指差していた。

 

それにより、更に理由が掴めなくなったのだろう、二人は顔を見合わせ、ダコスタが開いた扉の奥に進んで行った。

 

そこは船室にしてはそれなりに広い部屋であり、艦長室である事が窺いしれた。

 

「わざわざ出向いて貰って済まないね、ロウ・ギュール君、それと見慣れない御嬢さん?」

 

「バルトフェルド艦長!久しぶりだな!」

 

自分達を出迎えた人物と会った事があったのだろう、ロウは怪訝そうな表情から一転し、久し振りに会う友人との会話を楽しむ様な表情を見せていた。

 

アンドリュー・バルトフェルド、嘗てはザフト地上軍の指揮官であり、砂漠の虎と恐れられた歴戦の将だった。

 

数カ月前に、アークエンジェル隊との戦闘に敗れ、左腕と左目、そして左足を失った。

 

その後、自身の副官であり、以前からクライン派であったダコスタに誘われる形でクライン派に参加、エターナルの艦長に就任後、その強奪とアークエンジェル、クサナギとの合流を企てた人物であったのだ。

 

ロウとは嘗て、地上にて命を助けてもらっているため、浅からぬ関係である。

 

一方、彼と初対面なシャルロットは、ロウがバルトフェルドと喋り出してしまったためにどうするべきか分からないのと、自分が御嬢さんと呼ばれていい年齢なのか分からないと言った二つの微妙な困惑に苛まれていた。

 

それは置いといて・・・。

 

「僕は君達みたいに自由の利く立場じゃないのでね、君達から出向いて貰わねばならないのだよ、申し訳ないね。」

 

「良いって事よ、それで、要件って何なんだ?」

 

何処か自嘲気味に話すバルトフェルドに対し、ロウは気にするなと言う様に話しながらも、ここに呼ばれた理由を優先する事にしたようだ。

 

「そうだったな、それについては僕から話すより、彼に聞いた方が良いだろう、入って来てくれたまえ。」

 

説明を求めてくる彼に応える様に、彼は扉の向こう側にいるであろう人物へと声をかけた。

 

ロウとシャルロットはバルトフェルドの言葉に釣られるように、自分達が入ってきた扉へと目を向けた。

 

扉が開くと同時に、入室して来ようとする男性の姿が彼等の目に飛び込んできた。

 

「お前は・・・!」

 

その姿に、ロウは驚きのあまり目を大きく見開いていた。

 

まさかここにいるなどと露程にも思っていなかったのだろう、何故お前がここにいるんだと言う様な表情を彼はしていた。

 

その人物とは・・・。

 

「劾・・・!?なんでここに!?」

 

その人物とは、サーペント・テールのリーダー、叢雲 劾、その人だった・・・。

 

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次回予告

ガルシアの思惑により、追われる身となるカナード、彼の危機を救う者とは・・・?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

闇の炎
お楽しみに~


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闇の炎

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地球連合構成国家、ユーラシア連邦所属の宇宙要塞アルテミスの指令室に、将校服を身に纏っている中年の男性が、気色満悦でモニターの向こうと通信していた。

 

「お喜びください!我が部隊は遂に・・・!遂に核エンジン搭載のMSを入手致しました!!」

 

中年の男性、アルテミス指令であるガルシアは、画面の向こう側にいる自身の上官に、部下が捕えてきたMSの事を報告していた。

 

その指令を受けたわけではないが、これはユーラシアの利益にらると予想したため、彼は独断で特務隊Xに支持を出し、捕獲させてきたと言う訳だったのだ。

 

「言うまでもありませんが、この機体にはNジャマーキャンセラーが搭載されているものと思われます!いやぁ~、苦労しました、ですが、我々特務隊Xなればこそ達成できた任務でした。」

 

まるで自分の手柄の様に語る彼だが、実際問題として、彼は情報を与えたのみで、それ以上の事は何もしていないのだ。

 

『・・・、ガルシア君・・・、君という男は・・・。』

 

だが、そんな彼とは対照的に、画面の向こう側に鎮座する将校は、何をやっているのだといわんばかりに首を横に振り、何処か呆れの色すら窺える表情すら見せていた。

 

『誰がそんな物を手に入れろと命令したかね?』

 

「い、いえ、しかしこの技術は・・・!」

 

痛い所を突かれたのだろう、ガルシアは途端に態度を崩し、急に言い訳まがいの事を始めた。

 

命令違反と言われてしまえばそれまでだ、彼の立場も危うくなるのだから。

 

『ユーラシア連邦司令部の決定を伝える、特務隊Xは本日をもって解散とする!!』

 

「なっ・・・!?」

 

自分の弁明を聞き入れないどころか、指揮する部隊の解散まで言い渡されたのだ、ガルシアの表情は驚愕に凍り付いていた。

 

『アルテミスの今後の任務については追って連絡する、以上だ。』

 

「何故です!?このMSの技術があれば、我々はザフトはおろか、大西洋連邦の奴等も倒せるのですよ!?」

 

折角手にした切り札を、興味が無いとばかりに一蹴した上官に、彼は理由を問い質す様に食い付いた。

 

だが、彼に返されたのは、鼻で笑う様に告げられる事実のみだった。

 

『何を言っているのかね、大西洋連邦は我々の同盟国、友人だよ、先日、我々ユーラシアは彼等と新たな軍事技術に対し、全面協力をする事となった、今後は我が軍にも大西洋連邦にも彼らが開発したダガーシリーズが配備される事になったのだよ。』

 

告げられる内容に愕然としているのだろうか、ガルシアは反論する事すら出来ずにただただ固まっている事しかできなかった。

 

それもそうだ、ついこの前まで敵と見定めていた国家が、急に友人だ等と言われても受け入れられる筈がない、彼の反応は当然と言うべき物なのだろう。

 

『CAT-Xシリーズは開発凍結だ、パルス特務兵は研究施設に戻ってもらう。』

 

「あ・・・、しかし・・・。」

 

Nジャマーキャンセラーを使えば、大西洋連邦との立場を逆転出来るとでも言いたいのだろうか、自失から立ち直ったガルシアは、再び意見しようと口を開こうとしていたが、それを見抜いたのだろうか、将校の口から驚くべき言葉が発せられた。

 

『核は・・・、Nジャマーキャンセラーは既に大西洋連邦の手の内にあるのだよ。』

 

「なんですとっ・・・!?」

 

思いもしなかった言葉に、彼は椅子に腰から崩れ落ちてしまう。

 

『プラント攻略の為の兵器も準備中との事だ、勝ち馬に乗る、当然の事だ、君は全てにおいて遅すぎたのだよ、ガルシア君。』

 

自分の失態を詰る様な言葉も、通信がそれっきり切れている事も、最早彼にとってはどうでも良かった。

 

今は、彼に恥をかかせた者の顔が、彼の頭の中を占めていたのだ。

 

「こうなったのも、あの不良品のコーディネィターのせいだ・・・!!あいつがモタモタしていたせいで・・・!!」

 

完全な八つ当たり、それも責任転嫁としか言い様が無い言葉を吐きながらも、彼は手荒くキーボードを操作し、何処かに通信を繋げていた。

 

「保安部!!あの出来損ないを・・・!パルス特務兵を拘束しろ!!」

 

『は、はっ・・・!!了解しました!!』

 

彼のあまりにも唐突な指示に驚いたのだろう、対応した保安兵はおっかなびっくりに返答しながらも、指示通りに実行すべく、素早く動き出していた。

 

それを見た彼は立ち上がり、忌々しいコーディネィターの顔でも殴るつもりなのだろうか、指令室から飛び出していった・・・。

 

sideout

 

noside

 

その頃、オルテュギアの作戦室では、カナード主導の下、ドレッドノートのパイロットであるプレアに対しての尋問が行われていた。

 

調書を書き記すメリオル以外に兵はおらず、ほぼ密会に近い形で進行している様なものだった。

 

「・・・、何故だ?」

 

不意に、カナードがプレアに小さく尋ねていた。

 

それの意味が分からなかったのだろうか、プレアは怪訝そうな表情で彼を見ていた。

 

「何故投降してきたのかと聞いている、答えるつもりはないのか?」

 

そんな彼の様子に苛立ったのだろうか、カナードは僅かに語調を強め、プレアに詰め寄っていた。

 

そこで質問の意味を理解したのだろう、プレアは彼をまっすぐ見据えながらも言葉を紡いでゆく。

 

「戦いは憎しみの炎を大きくするだけです、最初に僕が戦ったから、貴方はより強い憎しみの炎をもって襲ってきた・・・、もし、もう一度戦ってもそれで終わりと言う訳ではないんでしょう?だから、僕は投降してきたんです。」

 

自分はもうお前とは戦わない、そう言うようなプレアの言葉に、カナードは一瞬だけ呆れる様な表情を見せたが、すぐさまその表情に狂気の笑みを張り付けた。

 

「ふっ、終わるさ・・・、俺がお前を殺すか、お前が俺を殺すかすれば、戦いは終わるのさ。」

 

戦いは終わらないといプレアに対し、カナードはどちらかが死ねば戦いは終わるとだけ言い放った。

 

彼らの意見は双方正しい、だが、それ故に相容れない理論であった事も確かである。

 

そんな彼等を少し離れた所から見ていたメリオルは、何処か不安げな表情を浮かべていた。

 

カナードの事を心配しているのか、それとも彼の前に腰掛けるプレアの事を心配しているのかまでは、彼女以外に分かる筈もなかった・・・。

 

そんな時だった、彼女の手元にあった端末に通信が入った。

 

「はい、こちらオルテュギア作戦室です。」

 

メリオルが応答すると同時に、彼女は表情を強張らせた。

 

告げられた内容が、予想だにしなかったものだったからだ。

 

「カナード!!貴方に拘束命令が出ています・・・!!」

 

「なんだとっ・・・!?」

 

悲鳴の様な彼女の声に振り向いたカナードの表情は驚愕に染まっており、有り得ないものを見るようなものでもあった。

 

「もうすぐ保安兵が乗り込んできます!!出所は恐らく・・・!」

 

報告すると同時に、これを指示した人物に思い当たる節があったのだろう、メリオルは焦りを滲ませながらも彼に駆け寄った。

 

「ガルシアめ・・・!!血迷ったか!!」

 

カナードも思い当たったのだろう、忌々しげに吐き捨て、作戦室から飛び出そうと動いた。

 

その行動から見てとるに、ガルシアに接触するつもりなのだろうが、今の状況では無謀だとしか言いようがなかった。

 

「待ってくださいカナード!!貴方が出て行ってはいけません!!」

 

カナードが何をしようとしているのか察したのだろう、メリオルは彼を止めようと追いすがった。

 

「止めるなメリオル!!俺は・・・!!」

 

文句の一つ、いや、殴打の一つほど食らわせなければ気が済まないのだろう、彼は彼女の制止を振り切って出て行こうとする。

 

「ダメです!!いくら貴方でも多勢に無勢です!私に考えが有ります、艦橋へ急いでください!」

 

だが、メリオルの方が対応が早かった。

 

彼に行くべき場所を指示しながらも端末の音声回線を開き、オルテュギア艦内全てに放送を入れる。

 

「オルテュギア全乗組員に告げます!特務隊Ⅹはこれより、ユーラシアの指揮下を離れ、スーパーコーディネィター確保のための独自行動に移行、艦をアルテミスより緊急発艦させます、速やかに準備してください!!」

 

「なにを・・・!?」

 

彼女の対応にプレアとカナードは眼を丸くするばかりだった。

 

まさか、彼女が自分を逃がすためにオルテュギア全体を巻き込んでの脱走を企てるとは思っても見なかったのだろう。

 

「何をしてるんですか!二人とも急いでください!!」

 

「あ、あぁ・・・!」

 

「は、はいっ・・・!」

 

彼女の剣幕に驚きながらも、彼等は慌てて艦橋への廊下を直走った。

 

覚悟を決めた女は強い、そう感じながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「何をしとるか!パルス特務兵の身柄は押さえたのか!?」

 

アルテミスのコントロールルームに入ったガルシアは、コンソールに張り付いていた通信兵に状況を怒鳴る様に尋ねていた。

 

彼がカナードの捕縛を命じてから既に二十分近い時間が経っているが、捕獲されたと言う報せは一向に彼には届かなかった。

 

それにより、痺れを切らした彼は、情報が一番集まるであろうコントロールルームに出向き、状況を確認しようとしていたのだ。

 

「そ、それがまだ・・・!オルテュギアに連絡を取っていますが、通信が途絶しておりまして・・・!」

 

一人の通信兵が状況を説明するが、成果が思わしくないらしく、その表情は苦い物だった。

 

「えぇい・・・!忌々しい・・・!保安部隊を突入させろ!!抵抗する奴等も命令違反で捕えろ!!」

 

「は、はい・・・!!」

 

苛立つ彼の怒気に脅えながらも、通信兵達は情報を探し当てんと奔走していた。

 

だが、それすら苛立たしいのだろう、彼は拳を握り締め、モニターを睨み付けていた。

 

正にその時、コントロールルームにけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「なんだ!?何が起きている!?」

 

彼が確認する様に叫ぶと、手近にいた一人の通信兵が振り向き、悲鳴の様な声で報告した。

 

「た、大変です!オルテュギアが無断発進しようとしています!!」

 

「なんだとっ!?まさか、あの不良品め・・・、艦ごと脱走するつもりか・・・!?」

 

その報告に、ガルシアは眩暈がすると同時に、その可能性を考慮せずに指揮を執っていた自分の失態を悔やんだ。

 

だが、いくら悔やめどもう遅い、オルテュギアは今にも発進しようとエンジンを起動しているのだ、外部から止める事など出来まい。

 

「オルテュギア、直ちに停船せよ!!このままの出港は脱走とみなすぞ!!」

 

「ドッグの守備隊は何をしているんだ!!」

 

「ダメです!発進ゲートが閉じません!!」

 

一人の通信兵が停船を呼びかけるも、オルテュギアからのリアクションは無く、それどころか、ドッグ内のクレーンや固定用アームを薙ぎ倒しながらも発進、ゲートから飛び出して行ってしまった。

 

「くそっ・・・!どいつもこいつも・・・!!何をやっとる!傘を開いて阻止せんか!!」

 

「ダメです!既に有効範囲外まで離脱されました!」

 

悪態をつきながらも、彼はアルテミスの傘を展開するよう怒鳴るが、それも不可能だという報告があった。

 

彼の近くでは、別の通信兵がオルテュギアに停船勧告を続けているが、彼等がもう戻る気が無い事は明白であるために効果は皆無だった。

 

「まったく!能無し共めが!!」

 

苛立ちをぶつける様に、彼はコンソールを殴りつけていた。

 

「こうなったらバルサムに追撃させろ・・・!!」

 

「はっ・・・?しかし、よろしいのですか・・・?」

 

怒りに震えた声で発せられた彼の言葉に、周囲の兵達は戸惑った。

 

バルサムとは、アルテミスが有する三機のハイぺリオンの内の一機、ハイぺリオン二号機のメインパイロットである。

 

彼を発進させるという事は、ハイぺリオン二号機でオルテュギアを追撃、撃破しろと言っている様なものだ、いくら脱走中とはいえ、友軍相手にそんな事はしたくもないのだろう。

 

「そのために訓練させているのだろうが・・・!ハイぺリオン二号機、発進だ!!」

 

「りょ、了解しました!!」

 

「ハイぺリオン二号機、発進準備!これは演習ではない!!」

 

彼の指示に弾かれる様にコントロールルームは戦闘時の様な慌ただしさに包まれた。

 

いや、実際戦闘準備と言って過言ではないだろう、何せ、彼等は脱走兵という名の反逆者と戦う事になるのだから・・・。

 

それからほどなくして、アルテミスの出撃ゲートから一機のMSが漆黒の闇へと飛び出していった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「いいのか・・・?」

 

アルテミスを離脱したオルテュギアの艦橋で、カナードはこの脱走劇を企てた、自身の副官であるメリオルに尋ねていた。

 

その理由は聞くまでもない、彼を逃がすために、オルテュギア全体を巻き込んだ脱走を図ったのだ、彼女は良くとも、他の者達がどう思っているのか、少し気になったのだろう。

 

「我々特務隊Xは今だ任務を終えていません、任務終了後、解散の指令にも応じるつもりです、ガルシア指令の下ではいつ本部から切り捨てられてもおかしくありませんので。

 

気にする事はないとばかりに、彼女は追撃が来ないかとレーダーを確認しながらも答えていた。

 

彼女から言わせてみれば、ガルシアは自分の地位のみに固執しているだけでなく、作戦指揮官や要塞司令としては無能だとしか思えなかったのだろう。

 

だからこそ、このまま切り捨てられるのを待つよりも、特務隊Xとして独自に活動するために、彼の捕獲命令に乗じて脱走したのだ。

 

「それよりも、Nジャマーキャンセラーでは遅れを取りましたが、スーパーコーディネィターの捕獲なら、まだ我々にも挽回の可能性があります、それに、我々はまだその任務の停止命令を受けていませんので。」

 

「好きにしろ・・・。」

 

彼女の説明を聞き、カナードは彼女が自分に気を使ってくれている事に気付きながらも、あえて表には出さない事にしたようだ。

 

ここで表に出せば、彼女と、それに巻き込まれる形となった乗員の覚悟を無駄にしてしまうと思ったのだろう。

 

彼がそう思った時だった、メリオルが張り付いていたコンソールがけたたましい警告音を放っていた。

 

これは恐らく・・・。

 

「アルテミスより追撃来ました!数はMSが一機、ハイぺリオン二号機か三号機です!」

 

「来たか!ハイぺリオンで出るぞ!」

 

彼女の報告を受けたカナードは、自分が迎撃に出る事を告げ、格納庫へ足を向けようとしていた。

 

「まだ修理が終わっていません・・・!パーツが足りていなくて・・・!」

 

「起動すればそれでいい、ついでにパーツも取ってきてやる。」

 

彼を止めようと、メリオルは修理が終わっていないと告げるが、彼は止まろうとはしなかった。

 

それどころか、敵機を鹵獲してやるとまで言い出したのだ、彼の隣にいたプレアの表情は驚愕に彩られていた。

 

「戦ってはダメです・・・!今は逃げましょう!!」

 

このまま出れば彼が死んでしまうとでも思ったのだろう、プレアはカナードの腕にしがみ付き、行かせまいと必死だった。

 

だが、そんな彼を煩わしいとでも言う様に、カナードは彼を振り払いながらも睨み付けていた。

 

「戦わねばお前も死ぬだけだ!死にたくなければ黙ってみていろ!!」

 

戦わないという信念は良い、だが、戦うべき時に戦わなければ生き残れない、その言葉はそう語っている様にも思えた。

 

プレアが再度止めようとする前に、カナードは艦橋から飛び出していった。

 

自分を狙う敵を討つために、そして、生き残るために・・・。

 

sideout

 

noside

 

「カナード・パルス、ハイぺリオン、出すぞ!!」

 

完全に修復されていないハイぺリオンでオルテキュギアより発艦した彼は、艦後方から追撃してくるダークグレーの機体を視認した。

 

「二号機・・・、バルサムか・・・。」

 

『よぉカナード、墜ちたモノだなぁ?』

 

追撃してくるハイぺリオン二号機のパイロットの名を呟くと同時に、コックピット内のモニターにその人物の顔が映し出された。

 

如何にも自信家ですと言わんばかりに自信に満ちた表情は、彼とエースの座を争っていたパイロットの一人である、バルサム・アーレンド少尉だった。

 

『お前が脱走するとはなぁ?友軍相手に初陣とは気が進まないが、機体にシュミレーション以外の撃墜数を刻めるチャンスなんだ、投降なんてしないでくれよぉ?』

 

言いたい事だけ言って、バルサムは通信を切り、直後にアルミューレ・リュミエールを完全展開していた。

 

「ふん、誰が投降などするモノか。」

 

それを見た彼は、キーボードを自身の目の前に持ってきつつ、機体の調整を開始していた。

 

「こちらに残っているのは左腕と左背面のみ・・・、どうせ守って勝てる相手じゃない、ビームの収束率を、一点に集中させれば・・・!」

 

ビームナイフを左腕の格納スペースから抜き取りつつ、彼はハイぺリオン二号機へと突っ込んでゆく。

 

当然、バルサムも黙ってはいまい、目の前に半壊している敵機がいるのだ、撃墜の好機とばかりにビームサブマシンガンを撃ち掛けてきた。

 

だが、それも狙いは甘く、半壊したハイぺリオン一号機の推力でも十分避け切れる物だったが、長引けば五体満足な二号機に分があるため、彼は短期決戦とばかりに攻撃を開始した。

 

撃ち掛けられた銃弾を回避しつつ、左腕と左背のアルミューレ・リュミエールを展開、スピードを上げながらも二号機へと突撃してゆく。

 

傍からみれば、彼のその行為は特攻以外の何物にも見えないのだろう、現にバルサムは機体を回避しようともせず、ビームマシンガンを乱射しているだけだった。

 

「バカめ、消えろ!」

 

距離が縮まって行く中、カナードは左背のアルミューレ・リュミエールの収束率を変更、シールドではなく、ランスの様な形へと変更させた。

 

そう、アルミューレ・リュミエールは収束率を変更する事で攻撃にも転用できるが、それと同時に、一点に大火力を集中されると、突破を許すと言った弱点が存在していた。

 

バルサムはこれを知らなかった様だが、カナードは違った。

 

本物のエースとして数多の戦場を駆け、多くの敵と渡り合ってきたのだ、己の機体の事を熟知しておかなければ到底生き残れないのだ。

 

彼の目論見通り、光の槍は光の盾を突貫、そのままの勢いで二号機の頭部を破壊した。

 

それと同時に、一瞬システムがダウンしたのだろう、二号機を覆っていたアルミューレ・リュミエールが解除された。

 

そして、その隙を見逃すほど、カナードは愚鈍ではない。

 

すぐさま左手に保持していたビームナイフで二号機のコックピットを刺し貫き、パイロットごと機体を沈黙させた。

 

「ハイぺリオンは俺の一機だけ在ればいい。」

 

これで自分の機体を直せると言わんばかりに、彼の表情は愉悦に歪んでいた。

 

それと同時に、彼は接近していたオルテュギアの方を向き、口元を釣り上げた。

 

「見ていたかプレア!これが俺の戦いだ、俺は生きる為に戦うんだよ!ハーッハッハッハッ!!」

 

この戦闘を見ていたであろう少年に宣言しながらも、彼は何かに憑り付かれたかの様に笑っていた。

 

それは、これから来る、破壊の未来を喜ぶ笑いなのかは、彼にのみ知る所だった・・・・。

 

sideout

 




次回予告

エターナルに招かれたロウとシャルロットは、バルトフェルドと劾からドレッドノートに纏わる話を聞かされる・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

隠されし秘密

お楽しみに~。


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隠されし秘密

noside

 

デブリベルト付近を航行するエターナルの艦内、船長室に五人の男女の姿があった。

 

その内の二人の男女は、ジャンク屋組合のロウ・ギュールと、彼の護衛を務めているシャルロット・デュノアであり、彼等と向かい合う様にしている二人が、この船の艦長であるアンドリュー・バルトフェルドと、彼の副官であるマーチン・ダコスタである。

 

そして、最後の一人は、サーペント・テールのリーダーであり、生ける伝説と名高い傭兵、叢雲 劾である。

 

「どうして劾が?」

 

劾がここにいる理由が分からなかったのだろう、ロウはバルトフェルドに尋ねる様に彼を見た。

 

「劾君には立会人として僕が呼んだ、その方が君にも詳しい事情が話せると思ったのでね。」

 

ダコスタからコーヒーの入ったコップを受け取り、香りを楽しみながらも彼の問いに答えていた。

 

「(あの人が叢雲 劾・・・、セシリアを助けてくれた人・・・。)」

 

そんな彼等を見ながらも、シャルロットは劾を食い入る様に見詰めていた。

 

それもそうだ、彼は彼女の唯一無二の盟友、セシリア・オルコットの命を救ってくれた人物、セシリアにとっても、そしてシャルロットにとっても恩人の様な物だ、期を見て礼を言いたくて仕方がないのだろう。

 

「それで、ロウ君、そちらの麗しき御嬢さんはどちら様だね?見たところジャンク屋の人間ではなさそうだが?」

 

初対面のシャルロットの事が気になったのだろう、バルトフェルドは彼女を見ながらもロウに尋ねていた。

 

「僕はシャルロット・デュノアと言います、つい先日、ロウに助けてもらって、ご一緒させてもらってるんです、よろしくお願いします、バルトフェルド艦長。」

 

自分が挨拶し損ねていた事に気付いたのだろう、シャルロットは我に返り、自己紹介をしながらも彼に頭を下げていた。

 

「う~ん、美しいねぇ、ロウ君も隅に置けないな?」

 

彼女の事をロウの女だとでも思ったのだろうか、バルトフェルドはからかう様に笑いながらも尋ねていた。

 

「何勘違いしてるんだよ?シャルロットは違う奴の事を探してるんだ、俺なんかにゃ見向きもしないだろうぜ?」

 

彼の言葉を否定するように、ロウは冗談混じりながらも答え、そんな事は良いという風に話の続きを目で要求していた。

 

「そうか、まぁいい、君達にここに来てもらったのには訳がある、それについては劾君に聞いた方が早いだろう。」

 

彼の言葉を受け、バルトフェルドは浮かべていた笑みを潜め、真剣な表情浮かべながらも劾の方を向き、説明してやれとでも言う様に言葉を紡いだ。

 

「では、今回の件は俺から説明しよう、俺は数か月前にある男から今回の件に関する依頼を受けた。」

 

頃合いかと言う様に、劾は一歩前に踏み出し、ロウとシャルロットを見据えながらも言葉を紡いだ。

 

「その男は常にプラントと世界の今後の事について考えていた、コーディネィターだけでなく、ナチュラルにも未来が訪れるようにと。」

 

「その男って誰だ?聞く限りじゃプラントのお偉いさんに聞こえるが・・・?」

 

「それについては答えられない、守秘義務の内に含まれているからな。」

 

劾の口振りから、ロウは自分が抱いた想像を確かなものにするために彼に尋ねるが、答えられないと突っぱねられたのでここは諦める事にしたのだろう。

 

「話を戻そう、その男はザフトによって開発された新型MSの処遇について重大な決心をした。」

 

「そのMSが、ドレッドノートと言う事ですか?」

 

彼の言葉に、そのMSの存在に気付いたシャルロットは、確認する様に尋ね、劾の返事を待った。

 

「そうだ、YMF-X000A ドレッドノート、核のパワーで動く次世代の試作MSだ、あれは元々テスト機に過ぎず、データを集めた後に様々なパーツに分解され、核エンジン及びNジャマーキャンセラーを含めた機密パーツ以外は全て破棄される、筈だった。」

 

彼女の問いに答えつつ、劾は自身のクライアントであった男から聞かされていた情報を話しながらも、一旦言葉を区切り、全員を見渡してゆく。

 

それにどういう意味があるのかは、彼以外には分からなかったが・・・。

 

「それをその男はジャンク屋組合を通じて、全てのパーツがマルキオ導師に渡るように手配したんだ。」

 

「地上のエネルギー問題を解決するためにか。」

 

ドレッドノートがジャンク屋によって運ばれていた理由に漸く合点が行ったロウは、劾に彼が気付いてはいた思いを尋ねていた。

 

彼も、Nジャマーキャンセラーが持つ意味を知り、それがマルキオ導師に渡ろうとしている事で気付いていたのだ。

 

「その通りだ、マルキオならそのために尽力してくれる筈だと、彼は信じていたのだ、俺もそれには異存はなかった。」

 

彼の言葉が正しいという事を裏付ける様に、劾は己が聞かされた想いを答え、同時に自身の考えも告げていた。

 

「パーツはプラントから密かに運び出されたが・・・、それが本当に正しい選択だったかは、その男にも分からなかった、一つ間違えれば世界は更に混乱してしまう・・・、プラントの未来についても大きな責任があったその男が、プラントの脅威を生み出す事はあってはならないのだ。」

 

彼の言葉通り、プラントの指導者がプラントの未来を、コーディネィターの未来に脅威を生み出してはならない事は確かであり、選択肢を間違えてしまえばプラントは破滅の戸口に立たされたも同然となってしまう。

 

つまり、その男は敵であるナチュラルを救うために同胞を殺したことになりかねないのだ、それは本人にとっても、彼から多くの依頼を受けてきた劾にとっても望む物ではなかった。

 

「その事態を見守る監視者が、他でもない劾君と、サーペント・テールだったという訳か・・・?」

 

「クライアントから俺への依頼は、事態の変化を見極め、ドレッドノートの処遇を決めること・・・、つまりは、連合にもプラントにも不利益にならない様に監視する事が求められたのだ。」

 

「なるほど・・・、だからあんな海賊紛いの行為をしてでもドレッドノートを、Nジャマーキャンセラーを守っていたんですね。」

 

監視者という役目を負っていた彼の、サーペント・テールの行動に納得がいったのだろう、シャルロットは感心したような表情を見せ、彼を注視していた。

 

自分の予想、そして、セシリアが語った内容と合致していた事で、彼等が行った強奪事件の真相が語られたのだ、感心しているのであろう。

 

「僕は劾君がどの様な仕事をしているかは具体的には知らない、あえて聞くまい、劾君に討たれても困るしな。」

 

冗談混じりながらも、バルトフェルドは語りながらもコップをテーブルに置き、自身の懐に手を入れる。

 

「そこで、だ・・・、もう一つ厄介な問題がある、ドレッドノートのテストで得られたデータから生み出されたシステムの設計図がここにある。」

 

懐からなにやらメモリーディスクを取り出し、三人に見せながらも彼は真剣な表情を見せていた。

 

ここから先の話には、冗談を交える隙もないと、彼の雰囲気が物語っている。

 

「ザフトから出奔する時に盗み出してきたデータだが、僕はこのデータの扱いについて非常に悩んだ・・・、これは扱い様によれば、ドレッドノート本体よりも危険なシロモノだからだ。」

 

指でディスクを弄びながらも、彼は非常に難しい表情を見せていた。

 

それほど、そのデータが危険かつ、重要度の高いものだという事が、その言葉を聞いているロウ達にもヒシヒシと伝わってきた。

 

「このまま黙殺する事も出来る、そもそも存在しなくても良い物だからな、だが、それではあの人・・・、劾君のクライアントの想いを無視する事になりかねない、しかし、このまま宝の持ち腐れというわけにもいかない、そんな時だった、ロウ君の船にドレッドノートがあるという事を知った・・・。」

 

非常に思い悩んだという事が伝わってkる言葉と共に、彼はロウを見据えながらも言葉を紡ぐ。

 

「そこでこのデータを君に託したいと思う、それが良いのではないかと思いついたという事だ、劾君にはそのジャッジのために出向いてもらったのだ、で、劾君、君のジャッジはどうかな?」

 

ロウにデータを見せつつ、バルトフェルドは劾に視線を向け、これを渡しても良いかと尋ねていた。

 

劾は暫く考え込む様に目を伏せ、答えが出たと同時に口を開いた。

 

「ロウ・ギュールがそのデータを受け取る事に異存は無い、クライアントの意志に反する行為ではないからな・・・、だが、今後の事態の推移によっては大きな危険を伴う事になるだろう、俺はアイツの、ドレッドノートのテストに立ち会った事があるから分かる・・・、ドレッドノートにそのシステムが組み込まれれば、あれは更に強力なMSになるだろう、俺が思っている様なものならば、確実に・・・。」

 

彼は賛同しながらも、同時に危険が存在する事を危惧していた。

 

ロウならばそれを誤った方向へ持っていく事はしないだろうが、ドレッドノートに乗るのは彼ではない、それを思っての事だろう。

 

「だ、そうだが・・・、これを受け取るかどうかはロウ君に任せたい。」

 

「ちょっと待ってくれ・・・、その中には一体どんなデータが入ってるんだよ・・・?」

 

バルトフェルドと劾に、どうするのかという風な視線を向けられたロウは、受け取るべきか否かを決めあぐねていた。

 

メカニックとしては是非とも受け取ってそのデータを確認、作り上げてみたいと思うところではあるが、今までの話を聞けば、それすら出来そうにもない。

 

ドレッドノート単体ですら、一歩間違えれば世界を混沌の渦へと叩き落としかねない危険な機体だ、そこへより強力な追加武装があると言われれば、躊躇して当然と言えるだろう。

 

開けてはいけないパンドラの箱の様な気がしてならなかった彼は、思わず後退りしてしまいそうになった、その時だった、唐突にシャルロットが口を開いた。

 

「ドレッドノートに装備されてるドラグーンの発展型、かもしれないね・・・、危険かもしれないけど、受け取っても大丈夫だよ、ロウ。」

 

「シャルロット・・・?」

 

受け取れという彼女の言葉に、ロウはもちろんの事、劾やバルトフェルドですら軽い驚きをその顔に浮かべていた。

 

彼等の反応は至極当然と言えるだろう、今の今まで説明を、このデータの危険性を語られてなお、何の臆面も無く受け取れる筈がないのだ。

 

それなのに、シャルロットは躊躇う事無く受け取る事を勧めたのだ、それなりの理由があるのだろう。

 

「確かに、劾さんやバルトフェルド艦長が言ってたみたいに危険性は無いとは言い切れない、でも、僕はこれを、ドレッドノートを正しく使う事が出来る人がいる事を知ってる、彼なら、絶対に間違った方向へと持って行かないって、信じられるんだ。」

 

「シャルロット・・・。」

 

心配いらない、彼なら間違った道を歩む事はない、だから、自分達は彼を信じ、それを受け取り、彼に託してやるのだと・・・。

 

それに気付かされたロウは、彼女を見て頷き、バルトフェルドへと歩み寄っていく。

 

そこに迷いなどは一切無く、自分がやるべき事をやるという気概だけが窺えた。

 

「劾、バルトフェルド艦長、このデータ、俺達が必ず、正しく使える奴に引き渡す、だから、そのデータ、受け取るぜ!」

 

「分かった、ロウ君、シャルロット君、任せたぞ。」

 

彼の言葉に頷き、バルトフェルドはデータを手渡した。

 

それを受け取ったロウは、早速作ってやらんとばかりに艦長質を出て行こうとする。

 

「それじゃ、俺達は行くな!また補給が必要なら何時でも呼んでくれ!」

 

「あ、待ってよロウ!」

 

シャルロットが引き止めようとするよりも早く、彼は艦長室から出て行ってしまった。

 

「相変わらずだな・・・、お前も行け、帰れなくなるぞ。」

 

「あ、はい・・・、そうだ、劾さん。」

 

「なんだ?」

 

置いて行かれる前に早く追えという劾の言葉に頷きながらも、彼女は言いそびれていた事があったのを思い出し、彼と向き直った。

 

「セシリアを、僕のたった一人の親友を助けてくださってありがとうございます、セシリア共々、この御恩は一生忘れません。」

 

「お前がセシリアの・・・?そうだったのか、良かったな、また会えて。」

 

彼女がセシリアの友人である事に驚いたのだろうか、一瞬だけ劾は驚いた様な表情を見せるが、彼女の嬉しそうな表情に微笑んでいた。

 

それほど会いたかった者と再会できたのだと、彼女の表情から読み取る事が出来たからだ。

 

「はい、それじゃあ、僕も行きますね。」

 

彼の言葉に頷き、彼女はロウの後を追い、艦長室から出て行った。

 

「セシリアとシャルロットは出会った、か・・・、一夏とも会えるといいな・・・。」

 

不意に自分の口を突いて出た言葉に、彼自身も驚いたのだろう、人には見せない顔をしていた。

 

だが、それでも悪い気だけはしなかった。

 

互いに愛し合う者達が再び巡り会う事の何処に、負の感情を入れるのかと・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

ロウに追いついた僕は、彼と一緒にエターナルの格納庫まで戻り輸送船のコックピットに入った。

 

もうここに長居する意味は無いし、早く皆の所に行ってデータを見せてあげたいしね。

 

「シャルロット、良いのか?お前の捜してる兄ちゃんの事を聞かなくても?」

 

エンジンに火を入れながらも、ロウは何処か申し訳なさそうに僕に話しかけてきた。

 

今謝る位なら、もう少し時間を置いても良かったんじゃないかって事は言わないでおこう、それが彼の良い所でもあるんだし。

 

「良いよ別に、此処に居たとしても会えるかどうかは別問題だし・・・、それに、僕とセシリアなら、彼を見付けられるって信じてるから、今はプレアの事を優先してあげたいんだ。」

 

もし一夏がここにいるなら、それはそれで会いたい、探したいとは思うけど、今は時間が無いんだし、目の前にある事の方を優先したいって思うんだ。

 

僕だけじゃなくって、セシリアも、そして一夏も、不確定要素よりも目の前に確かに存在する事物の方を優先するだろうしね。

 

だから、どれだけ遠回りしても、どれだけ時間が掛かったとしても、何時の日にか、また会えるならそれで良いって思うんだよね。

 

「だから、早くリ・ホームに戻ろう、樹里達が待ってるよ?」

 

「あぁ、そうだな、行くか!」

 

僕の言葉に力強く頷き、彼は開いたハッチから輸送船を真空の闇へと繰り出した。

 

その先に待つ仲間の下へと戻るために、そして託されたモノを渡す為に・・・。

 

「(ねぇ、一夏、貴方は今、何処にいるのかな?)」

 

今はこの世界に生きていてくれるだけでいい、何時の日か、僕とセシリア、二人揃って貴方の下へ帰るよ。

 

そして、また昔みたいに三人で暮らそうよ・・・。

 

だから、今はもう少しだけ、仲間の為に働く事を許してね・・・。

 

昔、そう出来なかった分を、ここで取り戻すために・・・。

 

sideout




次回予告

月面基地を襲撃するカナード、その頃、ロウはある場所へと舵を採ろうとしていた・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

強襲

お楽しみに~。


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強襲

noside

 

L1宙域を一隻の戦艦、オルテュギアが非常にゆったりとした速度で航行していた。

 

特に行く宛も無いのだろう、行き先が決まるまでの時間つぶしと形容できるほどであった。

 

「連合軍月面基地を襲撃する!!」

 

その艦橋内にて、この船の実質的な舵を取っているカナードは、副官であるメリオルとその隣にいた少年、プレアに向けて宣言していた。

 

「ハイぺリオンでですか?」

 

「そうだ、補修パーツも手に入った、修理も間もなく終わるだろうしな。」

 

確認するかのようなメリオルの問いに答え、彼はモニターに表示された月面基地の見取り図を眺める。

 

月の裏側に面し、地球連合軍の宇宙拠点であるプトレマイウス基地からもそれなりの距離がある基地であり、主に物資を集める拠点であった。

 

「しかし何故・・・、まさか・・・!」

 

彼の提案の真意を読めなかったのだろうが、考えてみれば分かる事だったのだろう、メリオルとプレアは驚いた様な表情を見せた。

 

「そうさ、Nジャマーキャンセラーを手に入れる、アルテミスで俺が追われたのも、恐らくは大西洋連邦がそれを増産しているからだろう。」

 

彼等の驚愕に答える様に、彼は不敵な笑みを浮かべながらも語る。

 

「だからこそ、それをいただいてハイぺリオンをパワーアップさせるのさ!」

 

「待って下さい!」

 

彼の言葉に、プレアはある種の困惑と僅かな憤りを浮かべた表情で食い掛かった。

 

彼が止めに入る事ぐらい折込済みだったのだろう、カナードは僅かに口元を釣り上げるだけで、特に何も言おうとはしなかった。

 

「Nジャマーキャンセラーが欲しいならドレッドノートから取ればいいじゃないですか!基地を襲えば、また大勢の人が巻き添えになるのに!!」

 

プレアの反発は尤もだ、カナードがハイぺリオンで襲撃を掛ければ、死ななくて済んだ者が犠牲になる恐れもある、それを知っていて尚攻めようとする彼が許せないのだ。

 

「お前のドレッドノートには手を付けない、お前はいずれあれに乗り、俺と決着を着けるために戦うのだからな!」

 

「そんな・・・!たったそれだけの理由で・・・!」

 

だが、彼が止まらないのも、今のプレアでは彼を止められない事も分かっていたのだ、それ故に、彼はこれ以上何も言えずにいた。

 

「確かに、核エンジン自体は大戦前からありふれた技術です、ハイぺリオンに後付けする事も可能ではあります、ですが、肝心のNジャマーキャンセラーはドレッドノートの解析の結果から、我々の・・・、いえ、ユーラシアが持っている技術では複製は不可能の様です・・・。」

 

彼等の話を聞きながらも、メリオルは自身の考えを口に出してゆく。

 

彼女の言葉通り、Nジャマーキャンセラーは非常に高等な技術の結晶でもあるため、複製するにしてもそれ相応の技術力を要求される。

 

しかし、その肝心の技術力が彼等には足りず、複製する事は叶わないのだ。

 

ならば、手っ取り早く手に入れる方法は一つに絞られてくる・・・。

 

「ならば、既に量産されている物を使うしかありませんね。」

 

「だからって・・・!あなた方の味方の基地を襲うなんて・・・!!」

 

「いいえ、大西洋連邦は味方ではありません!」

 

自身の言葉に反発し、味方を襲うべきではないという彼の言葉に対し、メリオルは棘を含んだ言葉を彼に投げつける。

 

思いもしなかった言葉だが、それは残酷な事実を物語っていた。

 

「大西洋連邦は我々ユーラシアの事を捨て駒としか思っていません、現にアラスカでは、多くの同胞達が彼等の罠に嵌り、囮としてサイクロプスの餌食になりました。」

 

約二か月前、ザフトが連合軍最高司令基地であるアラスカを奇襲した際、情報を事前に掴んでいた大西洋連邦の手により、ユーラシアを含めた不要な兵力と共にザフト地上軍の八割を撃破、その結果、多くのユーラシアの兵士が犠牲となったのだ。

 

プレアもアラスカで起きた事は知っていたが、まさかそれが本当にあるとは思っていなかったのだ。

 

「我々、特務隊Ⅹは元々、来たるべき大西洋連邦との戦いの為に設立された部隊です、今回攻めるのは大西洋連邦の基地です、何の問題もありません、我々はパルス特務兵に従います。」

 

彼の言葉など聞く耳持たぬと言わんばかりに、彼女は作戦を了承、すぐさま作戦プランの立案に入った。

 

「決まりだな、どうしても止めたいのなら、俺を殺してでも止めるんだな!」

 

「そんな・・・!」

 

カナードは打ちひしがれるプレアの耳元で囁き、出撃の為に艦橋から出て行った。

 

それを見送る事しか出来ないプレアは、悔しそうに唇を噛みながらも、何も言い返せない、彼を止められない自分を憎んだ。

 

このまま戦い続けても、未来はやってくるのか・・・、そんな想いが、彼の中では強くなっていった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「なんだって・・・!?」

 

L2宙域を航行するリ・ホームの艦橋内で、今しがた帰還したばかりのロウは、残っていたメンバーの一人である樹里から聞かされた事に驚愕していた。

 

プレアがユーラシア連邦に投降していった事を聞かされた彼と、彼に帯同し、現場を知らないシャルロットは彼等がいない間に起こった事に驚きながらも、何処か納得したような表情を見せていた。

 

「俺達がいない間にそんな事があったのか・・・。」

 

「これからどうするの・・・?」

 

どうするべきか悩む様な表情を見せるロウに、樹里は今後の方針を尋ねていた。

 

だが、その真意はどちらかと言えば、彼にプレアの救出を懇願している様にも見えた。

 

「とりあえず、バルトフェルド艦長から預かったこのデータに入ってる、すげぇ物ってヤツを作ってみようと思う、それが最優先だな。」

 

既に話しておいたのだろう、彼はプロフェッサーに渡していたメモリーディスクを受け取り、全員に見せながらもやるべき事を話した。

 

それに対してあからさまに不満そうな顔をしたのは樹里と風花だけであり、後の全員は納得した様な表情を浮かべ、彼の言葉の続きを待っていた。

 

「ロウ、プレアの事は・・・?」

 

その空気が理解できなかったのだろう、風花は不満げに何故助けないのかと尋ねていた。

 

彼女は彼が投降する理由を聞いていたから尚更不安なのだろう、そんな想いがよく伝わってきた。

 

「アイツは自分で考えて行動を起こしたんだ、俺達が止めに入るなんて出来ねぇよ。」

 

「でも・・・!」

 

彼が自分で考えて起こした行動を止める事は、彼の考えを、想いを否定する事になる、そうは分かっていても心配なのだろう、風花はまだ彼に食い下がろうとしているが、それを見ていたセシリアが彼女の肩に手を置き、落ち着く様にと微笑んだ。

 

「風花さん、プレアさんを心配なさるのも確かに大切ですが、それ以上に信じて差し上げる事も大切なのです、此処はどうか、彼の思う様にさせてあげてくださいな。」

 

「セシリア・・・、うん・・・。」

 

彼女の言葉に、風花は落ち着きを取り戻し、食い下がる事を止めた様だ。

 

心配するだけでは、相手の事を本当に理解できないのだと、真の意味で分かり合うためには相手を信じる事が大事なのだと・・・。

 

「それは兎も角、そのデータを何処で作るの?」

 

「さっき見せて貰ったけど、相当な難物よ?作れるとしたらそれこそプラント・マイウスぐらいね。」

 

話が付いた事を察したのだろう、シャルロットとプロフェッサーはロウにデータの処遇について尋ねていた。

 

「あぁ、ここじゃ作れないだろうな。」

 

彼女達の疑問を肯定する様に、彼はあっさりとリ・ホームでは製造不可能だと言い切った。

 

それには訳があった。

 

リ・ホームにはそれを造るだけの資材も無く、同時に設備も十全とは言い難いのだ。

 

せめて造るのなら、もっと設備が整った場所と言いたいのだろう。

 

「同じクラスだと地上のデトロイトか、オーブのオノゴロ、宇宙なら連合の月面基地が有りますが、どれも民間が使える様な場所ではありませんね・・・。」

 

リーアムはMS製造施設がある場所を列挙してゆくが、それらは何処も軍需産業の施設であり、大なり小なりそれぞれの軍の影響が及んでいる場所だ、迂闊に立ち入れない場所でもあったのだ。

 

それだけに、わざわざドレッドノートを搬入しては間違いなく余計な厄介事を引き起こす恐れがあったのだ。

 

「それがあるんだよなぁ・・・。」

 

「えっ?何処に?」

 

意味深に笑うロウに、彼が言う場所が気になったのか、樹里は何処にあるのかと尋ねていた。

 

他のメンバーも、そんな場所が何処にあるのかと言わんばかりの表情で彼を注視していた。

 

「と言っても、断られる可能性もあるけどな、交渉してみる価値はあると思うぜ。」

 

自信ありげに笑う彼に、他のメンバー達は困惑の表情を更に濃くしていた。

 

「で?何処に行くの?」

 

船の進路を彼が指定する場所へと向ける為に、プロフェッサーは機器を弄りながらも尋ねていた。

 

「地球衛星軌道、オーブ直上の宇宙要塞、アメノミハシラだ。」

 

sideout

 

noside

 

月面基地では既に戦端が開かれていた。

 

連合軍守備隊はストライクダガーを中心としたMS部隊で応戦するが、たった一機のMS、ハイぺリオンに押されていた。

 

数で勝るストライクダガー部隊だが、ハイぺリオンは単体でも高い戦闘能力を発揮する機体であると同時に、乗り手であるカナードの技量も相まって、一般兵では太刀打ち出来ない戦闘能力を誇っている。

 

「雑魚に用は無い!どけぇっ!!」

 

ハイぺリオンの両手に保持したビームサブマシンガンが火を噴き、的確にダメージを与え、守備隊を撃破してゆく。

 

「Nジャマーキャンセラーは何処だぁっ!!」

 

撃ち掛けられるビームや銃弾を防ぎながらも、彼は手に入れていた図面を頼りに目的の区画へと進んでゆく。

 

狭い通路内ではハイぺリオンに分があるのだろう、一方的と形容するに相応しい有様だった。

 

暫く進んでゆくと、カナードは製造施設と思しき区画へと到達、すぐさま目標を探し始めた。

 

そこには、一際目立ったコンテナが置かれており、近くには核であることを示すマーキングが施された弾道ミサイルが幾つもも確認できた。

 

どうやら、此処がNジャマ―キャンセラーを核ミサイルに搭載する工廠の様であり、彼の目指していた場所である事を物語っていた。

 

「遂に手に入れたぞ、Nジャマ―キャンセラー!!これで俺のハイぺリオンは無敵だ・・・!」

 

空になったビームマシンガンの弾倉を棄て、腰に着けていた予備の弾倉を充填しつつ、空いたスペースにコンテナを固定した。

 

恐らくはこのコンテナに彼が探し求めていたモノ、Nジャマ―キャンセラーが入っており、それを手に入れた今、最早この基地には用はない。

 

コンテナを手に入れるや否や、彼はここまで来た通路を引き返し、基地から離脱していく。

 

「ん・・・?」

 

だが、彼の行く先を阻む様に数機のMSが展開していた。

 

「援軍か、時間をかけ過ぎたみたいだな。」

 

それを認めたカナードは小さく呟きながらも、目の前にいる敵機にビームサブマシンガンの銃口を向けた。

 

『よくも好き勝手にやってくれたな、小僧・・・。』

 

「なんだ、貴様・・・?」

 

その時だった、敵の指揮官と思しき機体、特徴的なバックパックを背負ったダガータイプから映像通信が入り、初老の男性が映し出される。

 

『俺の名はモーガン・シュバリエ、人は≪月下の狂犬≫と呼びたがる。』

 

「モーガン・・・、知らん名だな、退け、お前らに用は無い。」

 

モーガンと名乗る男性の言葉を無視しつつ、彼は鬱陶しそうに言い放った。

 

彼にとって、今その視界に捉えているのはモーガンではなく、図らずも彼と行動を共にしている少年、プレア・レヴェリーと、彼の宿敵、キラ・ヤマトだったのだ。

 

彼等、そこら辺にいるMSパイロットと同じ様にしか見えないのだろう。

 

『言ってくれるな小僧、俺は元々ユーラシアの大戦車部隊を指揮していた者だ、お前の事は上から聞いている、ユーラシアの脱走兵らしいな?同胞を討つのは忍びないが、俺が直々に引導を渡してやる!!」

 

「やれるものならやってみろ!!」

 

相手に戦闘の意志があると見たカナードは、ビームサブマシンガンを撃ち掛けようとするが、相手の動きの方が早かった。

 

『行くぞ!!』

 

モーガンの掛け声と共に、ダガーのバックパックから四基のバレルの様な物が分離し、独立稼働しながらもハイぺリオンにリニアガンやミサイルを多方向から撃ち掛けて行く。

 

この時のカナードは知らなかったが、モーガンが乗っている機体はストライクの正式量産機、105ダガーにガンバレルストライカーを装備した機体、通称ガンバレルダガーだった。

 

メビウス・ゼロの特徴を持ちながらも、MSとしての性能を持っているため、戦闘能力は決して低くないのだ。

 

「これは・・・!ドレッドノートの奴に似ている・・・!!」

 

一瞬驚くも、彼はその表情を愉悦に歪めた。

 

まさかこんな所で対ドレッドノート戦のシュミレーションが出来るとは思いもよらなかったのだろうが、それはまさに、彼にとっては行幸にも等しかった。

 

「ソイツを打ち破り!アイツとの戦いの予行演習とさせてもらおうか!!」

 

撃ち掛けられる弾丸を回避しながらも、彼はアルミューレ・リュミエールを展開、他の機体から浴びせかけられる銃弾を弾き返した。

 

「先ずはうるさい雑魚共を蹴散らしてやる!お前は後回しだ!!」

 

周囲に展開するストライクダガーに向け、ビームマシンガンを撃ち掛けながらも、彼はガンバレルの動きを追っていた。

 

このパターンを覚えておけば、必ずやドレッドノートとの一騎打ちでも役に立つと考えたのだろう。

 

彼が撃った銃弾に当たり、中破した機体が次々に戦列を離れ、あっと言う間に残ったのは彼とモーガンの機体だけだった。

 

「邪魔者はいなくなったな!さぁ、お前の力を俺に見せてみろっ!!」

 

『おのれ・・・!ここまでの力とは・・・!!まぁいい、部下は撤退させた、お前には完璧な兵器など無い事を教えてやる!!』

 

部下がやられた事に怒ったのだろう、モーガンはガンバレルを巧みに操作し、フォーメーションを組みながらもハイぺリオンを撃とうと狙いを定めていた。

 

「面白い!この無敵のアルミューレ・リュミエール、破れるものなら破ってみろ!!」

 

彼の宣言と同時に、ガンバレルの銃口から数発の弾丸が発たれ、一直線にハイぺリオンを目指して進んでゆく。

 

その先は、アルミューレ・リュミエールの基部があり、モーガンはそこを破壊する事で無敵のシールドに穴を開け、本体を討とうと考えたのだろう。

 

その考えは正しい、アルミューレ・リュミエールは幾つもの発生基から構成されるビームシールドだ、どれか一つでも欠ける様な事があれば当然の事ながら全方位から攻撃を防ぐ事は不可能となるのだ。

 

「ちぃっ!!」

 

カナードも一瞬でそれに気付いたのだろう、強引にスラスターを吹かし、直撃の位置をずらす事でハイぺリオンへのダメージを防いだ。

 

これは並のナチュラル、いや、コーディネィターにも難しい所業であり、スーパーコーディネィターの資質を持つ彼にしかなせない荒業でもあった。

 

『バカな・・・!?避けただとっ・・・!?』

 

「なかなかいい攻めだった、当たれば俺も危なかっただろう、だが、この俺の乗るハイぺリオンの力をなめるなよ!!」

 

驚愕し、硬直してしまったモーガンの隙を突くかの如く、ガンバレルを全て破壊し、本体目掛けてフォルファントリーを撃ち掛けた。

 

硬直しているモーガンでは避けられまい、そう思っていた彼だが・・・。

 

──背中の装備を切り離すんだ!!──

 

「言葉が走った・・・!?」

 

脳裏に閃いた言葉の直後、目の前のダガーはバックパックを切り離し、フォルファントリーの光弾を回避、武装が無くなった事で不利と感じたのだろう、カナードには目もくれずに撤退していった。

 

「今の感じはなんだ・・・?まるで誰かが頭に直接話かけてきたみたいだったが・・・。」

 

彼は不可思議な現象に首を傾げながらも、それが自分に向けられたものではないと当たりを付けていた。

 

敵機はその言葉に反応する様にして光弾を回避し、撤退して生き延びたのだ、間違いないだろう。

 

「メリオル、作戦は終了した、帰投するぞ。」

 

考えても答えは得られないとばかりに頭を振り、彼は空域より離脱しながらもオルテュギアに通信を入れた。

 

『カナード!!プレア君の様子が・・・!』

 

「どうした?」

 

彼の耳に返ってきたのは、副官の何処か焦った様な叫びだった。

 

それを訝しみ、彼は状況の報告を求めた。

 

『急に苦しみだして・・・!今は意識が有りません・・・!!』

 

「なんだと・・・?死なせるなよメリオル!早くメディカルルームへ!」

 

『了解しました!』

 

プレアの容態の急変を聞き、すぐさま介抱する様に命じた後、彼は機体の速度を上げ、母艦への帰路を急いだ。

 

「えぇい・・・!一体なんだって言うんだ・・・!」

 

訳の分からない事が立て続けに起こる事に苛立っているのだろう、口汚く吐き捨てながらも彼は機体を操った。

 

自分に傷を付けた者の様子を窺い知るために、そして、戦い続ける為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「見えて来たぞ。」

 

地球衛星軌道上に辿り着いたリ・ホームの艦橋で、ロウは目的の場所を指差しながらも宣言した。

 

彼の言葉に、メンバー達は一斉にその方向へと視線を向け、宇宙空間に佇む巨大な要塞の姿を目視した。

 

まだそれなりに距離はあるが、かなりの大きさを誇る場所なのだろう、目を凝らせば細部まで見て取れそうだった。

 

「要塞・・・?本当にあったんだ・・・。」

 

目の前に現れた要塞に目を奪われたのだろう、シャルロットは呆ける様に呟いていた。

 

異世界の人間であった彼女からしてみれば、宇宙に要塞がある事自体が驚きの対象であるが、目の前の要塞はある種の威厳を放っている様にも見えたのだろう。

 

「でも、どうしてこんな所があるって知ってたの?」

 

ロウが何故、この様な要塞の事を知っているのか分からなかった風花は、何処か困惑した様に尋ねていた。

 

「ちょいと前に知り合いの情報屋のオッサンに教えて貰ったんだよ、正確な情報だったからな、賭けてみる価値はあるぜ。」

 

彼女の質問に、如何にも自信ありと言う様に笑いつつ、彼は目の前に聳える要塞を、何処か意味深な目で見ていた。

 

それが理解できなかったのか、風花は首を傾げるだけで、それ以上追及しようとはしなかった。

 

『止まれ!何者だ!?』

 

そんな時だった、アメノミハシラも彼等を捕捉したのだろう、身元を判別するための通信が入った。

 

「ジャンク屋組合のロウ・ギュールだ、そっちのファクトリーを借りたくて来た、主に取り次いでくれ。」

 

『・・・、少し待て。』

 

彼が身元を明らかにし、要件を話すと、通信を入れてきた相手は待つように指示し、一旦通信を切っていた。

 

「だ、大丈夫なのぉ・・・?」

 

そんなやり取りに、樹里は心底不安そうに彼に尋ねていた。

 

彼女の反応は尤もだろう、何せ、彼等の前にある要塞は、以前ロウを何度も殺しにかかったゴールドフレームのパイロットが治めている場所だ。

 

撃退したとは言えど、その事で恨まれているかもしれないのだ、たとえ殺されても不思議ではない。

 

「奴とは面識がない訳じゃない、かといって友好的って訳でもないからな、まぁ、運次第だな。」

 

「そんなぁ・・・!」

 

ロウの無責任な言葉に、彼女は膝から崩れ落ちた。

 

もっと安全な場所に行くべきだと言いたげでもあったが・・・。

 

『ロウ・ギュール、許可が下りた、そのまま進め、MSに誘導させる。』

 

「おっ、ありがたい。」

 

暫くすると、先程通信に出た声が入港の指示を出し、割とあっさり通れた事に、ロウ達は一様に安堵の表情を浮かべていた。

 

それもそうだ、敵地に乗り込む様な物であったし、最悪撃沈させられる恐れもあったのだ、一先ずは安心しても良いだろう。

 

そんな時だった、要塞、アメノミハシラから二つの光が飛び出し、彼等の方へと向かってきた。

 

「何・・・?MS・・・?」

 

その姿は徐々に近付き、はっきりと目視できる距離に入った。

 

そのMSの姿に、風花やセシリアは驚いた様に目を見開いた。

 

何せ、その機体の姿や色合いが、彼女達が良く知っている機体に酷似していたのだから・・・。

 

「青い機体・・・!?ブルーフレーム!?」

 

「いや、M1の宇宙仕様だ、ここのオーブの宇宙要塞だからな、なにもおかしくは無いさ。」

 

風花の驚愕に答える様に、ロウは冷静な回答をしつつ、MSを寄越した要塞の主の姿を思い出していた。

 

彼との因縁浅からぬ、宿敵とも呼べる存在・・・。

 

「さぁて、ロンドさんよ、どう出てくるんだ?」

 

要塞へと目指しながらも、彼はその先を睨んでいた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ロウ・ギュール、よもやお前が自ら私の治める城にやってくるとはな・・・。」

 

アメノミハシラの一室で、城の主であるロンド・ミナ・サハクは何処となく興味深そうに呟いていた。

 

よもや、自身の弟が死亡する原因の一つとなった男が自ら彼女の前に現れたのだ、軽い驚きとそうまでしてここに来た理由に興味を惹かれたのだろう、そのために易々と彼等をアメノミハシラに引き入れたのだ。

 

「何か訳があるのか・・・、面白い、私が直々に要件を聞いてやろう、一夏、他の事は任せたぞ。」

 

「了解した、だが、良いのか?アンタの弟の仇だろ?俺が出て行って墜としてくるのによ?」

 

彼女の傍らに控え、共にワインを飲んでいた青年、織斑一夏は自身の主の選択に従いつつも疑問を口にしていた。

 

「構わぬ、殺す事は何時でも出来るが、ギナを打ち破った程の男だ、何をしようとしているのか気になるのだ、それを知った後でも遅くはあるまい?」

 

彼の懸念を笑いながらも、ミナはジャンク屋の男から要件を聞き、それが面白くなければ自分がどうにかすると彼に告げていた。

 

事実、此処は彼等の城だ、何の対策も無く飛び込んできた者が攻略、制圧出来る様な場所ではないのだ。

 

「分かった、ルキーニの情報だと、もう暫くすればザフトが攻めてくるらしい、俺もたまには動きたい、迎撃部隊と共にストライクで出る、ソキウス達は全員アンタの護衛に付けさせるそれで良いな?」

 

「良かろう、お前は信ずるに足る男だ、任せよう。」

 

一夏のプランを聞き、彼女は了解したと言わんばかりに首肯し、席を立った。

 

恐らくは、自らジャンク屋、ロウ・ギュールの下へ出向き、真意を問うのだろう。

 

「じゃ、俺も行くか、気を付けてな。」

 

「お前も、な、酒を酌み交わす者がいなくなると寂しいのでな。」

 

「承知した。」

 

軽口を叩き合い、一夏は一足先に彼女の部屋から退室、格納庫に置かれている自身の愛機の下へと向かった。

 

「さて、ロウ・ギュール、お前の真意、聞かせてもらうとしよう。」

 

彼が出て行った部屋で、ミナは独り呟き、グラスに入ったワインを飲み干した。

 

そして、女王の如き足取りで、彼女は自室を後にしたのであった・・・。

 

sideout




次回予告

ミナとロウ、己の道に誇りを持つ者同士が今、相見えた時、彼等は互いの道をどの様に示すのだろうか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

天空の城の主

お楽しみに~。


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天空の城の主

noside

 

デブリベルトに程近い宙域にて、小規模な戦闘が発生していた。

 

ザフトのMS部隊がカナードら、特務隊Xの母艦であるオルテュギアを捕捉、連合艦である事を理由に攻撃を仕掛けたのだ。

 

だが、戦闘が始まってすぐに、ザフトは窮地に立たされた。

 

敵が核の力を持ち、尚且つ絶対的な防御力を誇っている光の盾を装備していたのだ、ジンやシグーを中心に構成されていた部隊では、ハイぺリオンに傷一つける事すら不可能だった。

 

「ハーッハッハッハッ!!核のパワーを手に入れたこのスーパーハイぺリオンは無敵だぁ!!消えろ雑魚めっ!!」

 

そのコックピットで、パイロットであるカナードは圧倒的な戦力と、圧倒的な破壊に狂喜し、次々に敵機を撃ち、損傷し、動けない敵にもトドメを刺してゆく。

 

『もうやめてください!!艦を護るためならここまでしなくてもいいでしょう!!』

 

そんな彼を止める様に、予備のビームサブマシンガンを持ったドレッドノートが戦場に乱入し、彼のハイぺリオンと向かい合った。

 

「言った筈だぞ、俺を止めるには俺を殺すしかないとな!」

 

一頻り敵を殲滅したカナードは、プレアの言葉を一蹴しつつも周囲を見渡し、敵が生き残っていないか確かめていた。

 

するとどうだろう、ドレッドノートのすぐ傍を漂っていたジンが、助けを求める様に手を伸ばしていた。

 

とはいえ、その機体も最早半壊しており、戦闘不能である事は明白だった。

 

「フン、しぶとい奴がいる。」

 

だが、彼はそのジンにビームサブマシンガンの弾丸を浴びせかけ、爆散させた。

 

これも、彼の目の前にいる少年を挑発するためだけの行動だった。

 

『あぁ・・・っ!?貴方は・・・っ!貴方と言う人はっ・・・!!』

 

目の前で虐殺が行われた事に激怒したのだろうか、プレアは咽喉から血を吐く様な声で叫び、彼に銃口を向けた。

 

その行為は、カナードが待ち続けたモノだった。

 

「いいぞ!!俺を撃てプレア!!そのMSだって人殺しの道具だ!!それに乗った者の運命だ!!俺と戦えっ!!」

 

『僕は・・・っ!僕はぁ・・・っ!!』

 

彼の言葉に怯んだのか、それともただ人を撃ちたくないからのか・・・、プレアは戦意を喪失し、銃口を下した。

 

「どうした!?来ないのかプレア!良いだろう、その気になれば俺と戦えば良い、ハーッハッハッハッハッ!!」

 

彼の反応を嘲笑いながらも、カナードは狂った様に周囲の残骸を乱れ撃ち始めた。

 

その姿はまさに、戦うことだけに憑り付かれた者の姿だった・・・。

 

noside

 

side一夏

 

「出撃準備完了、いつでも出せるぞ、一夏!」

 

格納庫の一角、ストライクの前で待機していた俺は、ジャックから整備と調整が完了したという報せを受け、ヘルメットとハロを抱え、備え付けられていたベンチから立った。

 

何時も通りのストライクだが、実戦は初と言う事もあって少々大がかりな調整を施していた為に何時もより待たされる事になったが、それも大したものじゃない。

 

流石はウチのスタッフと言うべきか、仕事が早い上に正確と来ている、お蔭で俺は俺のやるべき事だけに集中できる。

 

「了解だジャック、ミナの周辺警護、頼んだぞ。」

 

リフトに乗り込みながらも、俺は傍に寄ってきたジャックに一つ依頼をしておく事にした。

 

「そこまで念を入れる事か?ソキウス達が周りを固めてるんだろ?そこまでしなくてもいいんじゃないか?」

 

「念には念を、だ、ジャンク屋とは言え、裏では何をやってるか分からん連中もいるかも知れん、ソキウス達ではナチュラルを撃てないからな、一番信用できるジャックに頼んでるのさ。」

 

『ヨウジン、ヨウジン!』

 

そう、相手の大多数は恐らくナチュラルだ、ソキウスでは何かあった時に危害を加えるナチュラルを止める事は出来ない、遺伝子でそう刷り込まれてるのだからな。

 

だからこそ、素のナチュラルである誰かに保険として張っておいて貰えば、後手を取る事もないだろう。

 

「まぁ・・・、お前がそこまで言うなら気を付けとくぜ。」

 

「ハロを頼んだ、俺は出るぞ。」

 

『キヲツケテナ。』

 

ハロをジャックに預け、俺はストライクのコックピットに乗り込み、機体を立ちあげて行く。

 

最早ストライクは何度も乗った機体だ、俺の手足同然に扱える様になったが、実戦は初めてだ、今の俺にやり切れるかどうか・・・。

 

今だ、俺の悪夢は続いている、それも日に日に鮮明に、より俺を食い殺そうとしてくる亡霊達が増えている様にも思えた・・・。

 

「俺に・・・、人が殺せるのか・・・?」

 

今の俺は、俺の技量では殺せないと分かっていた相手と戦っていたために、人を殺さずに済んでいた。

 

だが、これから戦うのは正規軍とは言えど、ミナより格段に劣る敵ばかりと見ていいだろう、戦線を維持するために、名立たるエースはこの様な場所には投入されないからな。

 

「何を怖がってるんだ・・・、昔は何百人も殺したじゃねぇか・・・、なのに・・・。」

 

それを誇らしいとは、今の俺には到底思う事は出来ない、寧ろ、人殺しと蔑んでくれる奴がいてくれる方がはるかに気が楽だ、俺がそういう奴だと、より強く自覚出来るからな・・・。

 

いや、俺に出来る事はただ一つだ、この城を護るために戦う、そのためなら敵を撃つのも正義、と思うしかないんだよな・・・。

 

セシリア・・・、シャル・・・、お前達は今の俺を嗤うか・・・?

何も出来ない、こんな惨めな男を・・・?

 

「管制室、ストライク、出るぞ。」

 

だが、今ここで悩んだとて、答えが出る筈もない、ならば、目の前の敵を倒す事で答え合わせを先送りにしよう・・・。

 

そうする事しか出来ない、それが俺の弱さなのだから・・・。

 

『了解しました、カタパルトまで進んでください、ハッチを開放します。』

 

管制室に通信を入れ、俺は機体をカタパルトまで移動させ、発進のタイミングを待つ。

 

『進路クリアー、ただし、近くに入港してくるジャンク屋組合の船があります、気を付けて発進してください。』

 

まだ入港していなかったのか?いや、待たされていたと言うべきんだろうな。

 

ま、後の事はミナに任せておけばいいだろう、俺は戦うだけさ。

 

「了解した、織斑一夏、ストライク+I.W.S.P.、行くぞ!!」

 

宣言と共に、俺は漆黒の宇宙へと飛び出し、これから来るであろう敵機の襲撃を待った。

 

さぁて、ザフトだろうが連合だろうが、この城は落とさせやしねぇさ。

 

それが、今の俺の役目なんだからな・・・。

 

sideout

 

noside

 

アメノミハシラに招かれたロウ達一行は、前後を近衛に囲まれながらも通路を進み、MS生産ファクトリーを見下ろすキャットウォークにやってきていた。

 

「うっひょ~!すげぇ設備だ!!」

 

眼下に広がる数多のM1Aの姿と、それに取り付き整備をする作業員、そして設備に至るまで全てが最高クラスと呼んで差し障りない水準を保持していた。

 

「すごい・・・!こんなに大きなファクトリーがあるなんて・・・!」

 

「アストレイがこんなにたくさん存在しているなんて・・・。」

 

彼の近くを歩いていたシャルロットとセシリアは、その規模は勿論、生産されているMSの数に圧倒されていた。

 

それもそうだ、自分達がこれまで触れてきたMSの数を優に上回る数なのだ、驚かない方がおかしいと言うものだ。

 

『オノゴロクラスの工場だな!』

 

「これは予想外です・・・、本当にここが使えるのですか・・・?」

 

『8』は感心しているのだろう表示を表し、リーアムは純粋に驚愕を表しながらもここが使用できるのかと訝しんでもいた。

 

全員がそれぞれに辺りを見渡していると、彼等が入ってきた入り口とは反対側の通路から三人のソキウスを引き連れた女性が姿を現した。

 

「あれは・・・、オーブのロンド・サハクですね。」

 

「あの人が・・・。」

 

リーアムの言葉に、風花は少し驚きながらも彼女を見ていた。

 

まさか、要塞を治めている者が、自分の傍にいるセシリアとシャルロットより僅かに年上という若さに驚いていたのだろう。

 

「ジャンク屋が、私の城に何の用だ?」

 

女性、ロンド・ミナ・サハクは何処か探るような口調ながらも、一行のリーダー格であるロウに尋ねていた、

 

「よぉ、久し振り、実はここの設備、ちょいとばかり貸して欲しいんだよ。」

 

「なんだと?」

 

彼女に気付いたロウは、前置きも無しに自分の要件をストレートに伝えていたが、当のロンド・ミナは、彼の意図を把握しきれずに表情を険しいモノへと変えた。

 

そんな彼女に、彼は自分の懐からメモリーディスクを取り出し、彼女に見せながらも近づいてゆく。

 

「ちょいと厄介なものなんでね、ここでしか造れないんだよ。」

 

彼が危険物を取り出したと思ったのだろう、彼女の傍に控えていた近衛が腰に着けていたホルスターより拳銃を抜こうとするが、ミナはそれを制し、彼に問うた。

 

「ほう・・・?それに協力して私に何のメリットがある?それを明確にしてもらいたいものだ。」

 

メリットを明確にされなければ、彼女でなくとも協力はしたくないだろう。

 

何せ、相手は敵対関係に無いにしろ、味方でもない男だ、協力するにはそれなりの見返りが必要となってくる。

 

それは、彼女の目の前に立つジャンク屋の男も理解しているだろう、故に彼女はそう問うたのだ。

 

「何もないさ。」

 

「何?」

 

だが、当のロウは何の臆面も無くメリットは何一つ無いと言い切った。

 

それが理解できなかったミナは、拍子抜けした様に一瞬だけ表情を崩したが、すぐさま彼を睨む様な目つきを作った。

 

「造ったモノは俺達で使う、データも残さない、ここでの事も公表しないでくれ。」

 

「フッ・・・、つまらんな、何をしに来たかと興味を持ったが、所詮は無知で無謀な人間でしかないのか・・・、お前のような者に関わり、ギナが死んだとは・・・、許せんな・・・!!」

 

彼の答えに、当初は見下す様な、そして馬鹿にする様な口調を取っていたミナだが、彼に関わったせいで死んだ自身の弟の事を思い出し、彼を殺気の籠った目で睨みつけていた。

 

そんな彼女から危険を感じ取ったのだろうか、ロウの傍に控えていたセシリアとシャルロットが動き、彼を庇おうとしていた。

 

だが、そんな彼女達の事など目に映っていないのか、ロウは眼下に広がるファクトリーの様子を眺めていた。

 

「ギナって奴は知らねぇけど、やっぱりここは良い現場だな、熱気があるし、皆目が輝いてるぜ。」

 

「なんだと?」

 

彼の思わぬ言葉に、ミナはまたしても小さな驚愕をその美しく整った顔に浮かべていた。

 

それもそうだ、彼の質問の意図が見えないため、どう反応すべきか分からないのだから・・・。

 

「いろんなファクトリーを見てきたけど、設備だけじゃなくて働いてる奴もここが一番だ、あんた、俺が前に言った事、覚えてくれてたんだな、いい人だな。」

 

「いい人?どういう事だ?」

 

ロウが自分をギナだと勘違いしている事は分かったが、彼が言ういい人とは何なのか、それが分からなかったミナは、目を丸くしながらも彼に尋ねていた。

 

「責任者が良くなきゃ、良い現場にはならないって事さ、だからだよ。」

 

「そういう事か・・・、ここの人間は地上で焼け出されたオーブの民だ、彼等は私を、サハク家を頼ってここに来たのだ、私には彼等を護り、オーブと言う国を護る義務がある、ただそれだけだ。」

 

彼の言葉の真意を理解したのだろう、彼女は自身の義務とも、責任とも呼べる事を語り始めた。

 

彼女とて、元はオーブの五大氏族の出身だ、苦しむ自国の民を見捨てられはしなかったのだ。

 

そんな時だった、ファクトリー内に突如として音楽が鳴り響く。

 

それは、ワーグナーの楽曲、『タンホイザー』であった。

 

「これは、ワーグナーですか・・・?でも、何が・・・?」

 

かつての世界では貴族の出であったセシリアは、作曲者の名を口にしながらも何があったのかと尋ねていた。

 

まさかただのBGMというわけではあるまい、彼女はそう思っていた様だ。

 

「敵だ、ここには力がある、それを狙う者は多い、だが、このアメノミハシラは落ちぬ、私の信の置ける者が今戦ってくれている、彼は強い。」

 

彼女の問いに答える様に、ロンド・ミナは心強い協力者がいる事を明かし、彼も彼女が護ろうとしている存在を護っているのだと語った。

 

「地上は既に大西洋連邦の支配下にある、私にはここを守り抜き、オーブという国の解体を防がねばならん、此処を失えばオーブの民は拠り所を失うのだからな。」

 

自分は第二のオーブの首長としてこのアメノミハシラを守り抜き、オーブの民を護る必要があると答える彼女の言葉に、ロウは頷きながらも彼女をまっすぐ見据えていた。

 

その瞳は、ただあるがままを見据えている様でもあり、ミナは彼の言葉を待った。

 

「政治的な事はよく分からないけどよ、国ってのは人の集まりの事だろ?ここの連中なら何処へ行ったってアンタの国の民としてやっていけるさ、場所は問題じゃない、そうだろ?」

 

「ふむ・・・。」

 

国は場所の事では無く、人間同士の集まりの事を言うのだと語るロウに、彼女は頭を叩かれた様な衝撃を受けた。

 

確かに、国とは元々、多くの人と人が集まり、外敵や敵国から身を護るための物だ、そこに場所、領土などは含まれていない、ただ人と人との繋がりを国と呼んでいたのだ。

 

そんなミナに、彼は自分が語った事を示す様に、自身の周囲にいた仲間達を見渡し、再び彼女の目を見た。

 

「俺達ジャンク屋組合だってそうだ、俺達の組織に決まった場所なんてない、皆バラバラさ、だけど皆ジャンク屋の商売に誇りを持ってる、だからこそどんな状況だとしても仲間ならすぐに分かり合える、相手の気持ちを理解できるんだ、初めて会う奴だって同じ気持ちを、目標を持った仲間だからな、バラバラでもジャンク屋組合の一員だって胸を張って言えるんだ。」

 

「なるほど・・・、国とは民の事であり、場所の事ではない・・・、か・・・。」

 

彼の語った内容は、これまで彼女が抱いていた野望、世界支配の考え方と180度異なっていた。

 

力で国土を広げ、権力者に支配された場所を国と呼ぶのではなく、同じ志を持つ者同士が寄り添い、分かり合い、手を取り合って生きていく事こそが国と言う存在なのだと・・・。

 

「(なるほど・・・、この男だからこそ、ギナは死ぬべくして死んだのだな・・・、私は・・・、私がやるべき事は・・・。)」

 

自分がこれまでしてきた事を間違いだとは思わない、だが、方向が間違っていたのだと、彼女は気付いていた。

 

やって来た事をこのまま続け、正しい方向へと修正するには時間が掛かるだろう、だが、彼女にはそれを実現するための道筋が、霧が晴れたかの様に見渡す事が出来ていた。

 

「良いだろう、自由に使うがよい。」

 

その礼と言わんばかりに、彼女は背を向けつつも設備の使用許可を出していた。

 

「おぉっ!ありがてぇ、あっ!!悪いが今は持ち合わせが無いんだ・・・、後払いでもいいか?」

 

「気にするな、もう貰っている。」

 

彼女の言葉に、ロウは訳が分からないと言った様な表情を浮かべるが、それよりもまず先にやる事があると自身に言い聞かせ、拳を握り締めた。

 

「よっしゃ!いっちょやるか!けど、その前にやる事があったな、風花、劾と連絡取れるか?」

 

「えっ?出来るけど急にどうしたの?」

 

ロウの言葉の真意が理解できなかったのだろう、風花はキョトンとした表情を浮かべながらも彼に尋ね返していた。

 

「アイツを呼び戻そう、この装備を使えるのはアイツしかいない、だろ?」

 

「うん!分かった!すぐに連絡するね!!」

 

呼び戻す相手は一人しかいない、今はここにいない彼女達の仲間、プレアの事だった。

 

此処に来たのも、彼に新たな力を託すためであり、それには何よりも彼の帰還が必要となってくるのだ。

 

「よぉし、宇宙一のジャンク屋の腕前、披露してやるぜ!!」

 

彼は拳を突き上げ、気合十分と言った風に叫んでいた。

 

そんな彼に触発されたのか、彼の周囲にいた面々は苦笑しつつも彼に倣って拳を突き上げ、揃って作業区画へと歩いて行った。

 

ただ二人を除いて・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

愛した者と愛されし者、再び巡り会えた奇跡が、彼らの心を震わせる・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

世界一のくちづけを
お楽しみに~。


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世界一のくちづけを

noside

 

「待ってください・・・!」

 

「むっ・・・?」

 

自室へと戻ろうとしていたロンド・ミナは、自身を呼び止める様に掛けられた声に反応し、その声の主を確かめようと振り向いた。

 

そこには、先程ロウ・ギュールと共にいたセシリアとシャルロットが息を切らしながらも彼女を見据えていた。

 

「セシリアにシャルロットか、どうしたんだ・・・、っ!?」

 

彼女達を見たミナは、自分の口から飛び出した言葉に驚いていた。

 

どうして目の前にいる二人がセシリアとシャルロットと言う名前なのだと思ったのか、それが自分でも分からなかったのだ。

 

主の突然の反応に、彼女の傍らにいたソキウスたちは歩みを止め、僅かに怪訝の表情を表に出していた。

 

「やっぱり、ミナさん、ですわよね・・・?」

 

「お前達、私を知っておるのか・・・?いや、何故私はお前達の事を知っているのだ・・・?」

 

自分の名を初対面の人間が知っていた事と、自分が彼女達の事を知っている理由が分からぬのだろう、普段は冷静な彼女も僅かに焦った様な表情を見せていた。

 

だが、何時までも狼狽えている彼女ではなかった、何せ、この様な事は、以前にも一度合ったのだから・・・。

 

「お前達、別世界の人間だな・・・?」

 

「はい、ミナさんも僕達の事を知ってるんですか?」

 

確認する様に問うた彼女の言葉に、シャルロットは頷きつつも探る様に尋ね返していた。

 

それは、質問と言うよりも、寧ろ確認と呼ぶべきモノであり、別段深い答えを要求している訳ではなかった。

 

「あぁ・・・、お前達の事は名だけ知っている・・・、だがそれだけだ、別の私がお前達とどの様な関係だったかは知らぬ・・・、済まぬな・・・。」

 

彼女の質問に答えながらも、ミナは少し申し訳なさそうな色を見せ、小さく謝罪の言葉を口にしていた。

 

「そう、ですわよね・・・、では、この方を・・・、一夏様がどこにいるか御存知ではありませんか・・・?」

 

そんな彼女の反応に一瞬だけ気落ちした様な表情を見せるも、セシリアは気を取り直し、懐から綺麗に畳まれた写真を取り出し、ミナに近寄りながらも見せていた。

 

その写真を見たミナは驚愕と同時に、やはりかと言う様な、何処か優しげな表情を見せた。

 

そんな主の表情が理解できなかったのだろう、ソキウス達はこっそりミナの手元を覗き見、一様に僅かに驚いた様に眉を動かしていた。

 

「一夏様・・・?」

 

「「・・・っ!?」」

 

ソキウスの一人、フォーソキウスが呟いた言葉に、セシリアとシャルロットは驚き、目を見開いていた。

 

その表情からは、まさかここに自分達が探し続けている男がいるのかと言う色が濃く滲み出ていた。

 

「まさか・・・!一夏様が・・・!?」

 

「ここに・・・、ここにいるんですか・・・!?」

 

彼等の反応から、彼女達が探していた男、織斑一夏がここにいるのだと確信した二人は、ミナに向けて、会わせて欲しいという様な目を向けていた。

 

自分達の全てを捧げてきた男が、心の底から慕い、再び逢える事を夢見続けてきた男がこの世界に、ここにいると分かったのだ、是が非でも会いたいだろう。

 

「あぁ、私に仕えてくれている、まさかお前達も生きていると思っていなかった、故に彼を外に出さなかったのだが・・・。」

 

ミナは、一夏が生きている事を教えながらも、まさか彼が愛していた女が生きているとは思ってもみなかったのだろう、その表情はある種の後悔が見て取れた。

 

もし、彼を発見した時にもっと深く探していたのならば、彼女達も同時に見付ける事が出来たかも知れないのだ、その分だけ、一夏が抱える苦しみを大きくせずに済んだかも知れないと・・・。

 

「生きてる・・・、一夏様が・・・!」

 

「うん・・・!生きてるんだよ・・・!やっぱり生きててくれたんだ・・・!」

 

その言葉に、二人は口元を押さえ、今にも泣き出しそうに瞳を潤わせていた。

 

最愛の男が、自分達の全てを捨ててでも共に在りたいと願った男が、すぐそこにいる、それだけで、彼女達の心は早鐘を打ち、歓喜によるた昂りを抑えられなかったのだ。

 

「すぐに会わせてやろう、だから、それまで泣くな、好きな男の胸で泣いてやれ、それが一夏のためにもなる。」

 

泣き出しそうな二人に近づき、ミナは彼女達の頭を撫でながらも優しく囁いていた。

 

泣くなら彼と共にいる時だ、自分には見せなくてもよいと、彼女は言っているのだ。

 

「「はいっ・・・!」」

 

「よし、ウェイドマン整備士長を呼べ、彼なら一夏の所在を知っている筈だ。」

 

「かしこまりました。」

 

瞳に涙を溜めながらも笑うセシリアとシャルロットの様子に微笑みながらも、ミナはフォーソキウスに命じ、彼に近いと思しきジャックを呼ぶ様に命じていた。

 

ソキウスが去り、数分もしない内に彼に連れられた金髪オールバックの整備士、ジャックが彼女達の前に現れた。

 

「ミナ様、御用件はなんでしょう?というより、この嬢ちゃん達は・・・?」

 

ミナに敬礼しつつ、ジャックは見慣れないセシリアとシャルロットの事を訝しみ、探る様に尋ねていた。

 

「一夏の妻達だ、奴は今どこにいる?すぐに会わせてやれ。」

 

「えぇっ!?マジですかぃ!?アイツからは死んだとばっかり聞いていましたが・・・!?」

 

彼女の言葉にかなり驚いたのだろう、ジャックはこれでもかと言わんばかりに目を見開きながらも、二人の顔を凝視していた。

 

彼の驚愕は尤もだろう、何せ、彼は以前に一夏より愛していた女達の存在は聞いてはいた、だが、彼の口振りから既に死んでいるとばかり思っていたのだ。

 

「色々訳ありなのだ、詮索してやらないでくれ。」

 

「わ、分かりました、そろそろ戦闘も終わる頃でしょうし、恐らくはストライクの近くにいるかと・・・。」

 

詮索してやるなと言う言葉に頷きつつ、彼は一夏が今おかれている状況を思い出していた。

 

戦場へと見送ったのはジャック本人であるし、一夏ほどの力量を持った男がよもや格下相手に討死するはずも無い。

 

故に、戦闘も終結している頃だと予想し、彼が戻ってくる場所を、ジャックは示したのだ。

 

「そうか・・・、なら、そこまで案内してやれ、一夏もそれを望む筈だしな。」

 

「ハッ!承知しました!嬢ちゃん達、付いて来な、こっちだ。」

 

主の思いを理解したのだろう、ジャックはミナに敬礼しながらもセシリアとシャルロットを先導する様に歩き出した。

 

「はいっ!」

 

「お願いします・・・!」

 

二人の暖かな想いに触れた彼女達はミナに、そしてジャックに頭を下げながらも彼の下へと急ぐ。

 

そこに、愛しき人がいるのだから・・・。

 

『ストライク、帰還します、整備士各員は補給作業の準備を行ってください。』

 

格納庫に入った三人を迎えたのは、戦闘に出ていたMSの帰還を告げるアナウンスと、それに反応して動き出す整備士達の姿、そして、MSハンガーに向けてゆっくりと歩いているストライクの姿だった。

 

「あれは・・・、ストライク・・・!」

 

「それにI.W.S.P.を着けてる・・・!間違いないよ・・・!あれは一夏の・・・!!」

 

その機体の姿に、セシリアとシャルロットは堪え切れずに涙を零していた。

 

I.W.S.P.は嘗て、彼女が愛した男が最も多用したストライカーであり、彼女達にとっても馴染み深い装備でもあったのだ。

 

そんな彼女達の目の前で、ストライクは機体をハンガーに固定、電源を切ったためにフェイズシフトダウンを起こし、鮮やかなトリコロールがダークグレーへと変色してゆく。

 

それから間もなく、コックピットハッチからパイロットスーツを着込み、ヘルメットを被った男性が姿を現し、ハッチの上でヘルメットを脱いだ。

 

「「・・・っ!」」

 

ヘルメットから零れた艶やかな黒髪、精悍な顔立ちの中にある寂しそうな影、そして切れ長の目から覗く黒曜石の様に黒い瞳・・・。

 

それは彼女達が間近で見続け、共に有り続けたいと願った者のそれだった・・・。

 

背格好はいくらか変われど、纏う雰囲気は全く変わらない・・・。

 

彼は・・・、彼こそは・・・。

 

「一夏様・・・っ!!」

 

「一夏っ・・・!!」

 

彼女達が愛し、会いたいと願い続けていた男、織斑一夏であった・・・。

 

aideout

 

side一夏

 

『一夏殿、敵機の殲滅完了しました、任務完了です。』

 

ストライクのコックピットの中で、俺は守備隊長からの通信を無味乾燥な心地で聞いていた。

 

ストライクでの初戦闘とは言えど、既に隅々まで知り尽くした機体だ、手足の如く扱える。

 

そのため、攻め込んできた敵の制圧にも、然程時間は掛からなかった。

 

「了解、交代要員の到着次第、順次防衛線を離れアメノミハシラに戻ってくれ、整備士達に仕事させてやれ。」

 

Ⅰ.W.S.P.のレールガンで敵のフォーメーションを崩し、そこへ後方に控えたM1A部隊による砲火で数を減らし、撃ち漏らしがあれば俺が対艦刀で切り裂いていくという、何の捻りも無い戦闘だった。

 

だが、それだけに、俺の心は棘でも突き刺されたかの様に痛む。

 

その痛みは多分、まだ俺は人を殺す事に本当の意味で覚悟を決めきれていないんだと思う・・・。

 

可笑しな話だ・・・、昔は毎日の様に人を切ってたんだ、戦争だって経験してる身だ、殺しになんて慣れてるはずだったのにな・・・。

 

それもそうか・・・、俺は人間を止めてたからな、人間にとって当たり前の事すら感じなくなってたんだ・・・。

 

だから、どれほど殺しても罪の意識に苛まれなかった、そのツケが今降り掛かってるのか・・・。

 

「くそっ・・・、何やってんだ俺は・・・、護りたい人がいないってだけで、このザマか・・・。」

 

苦しみを、罪を独りで支え切れていないんだ、俺は二人に依存しきっちまってたから・・・。

 

彼女達が居てくれたから強く振舞えてただけだったんだ、喪って初めて気付かされたよ・・・。

 

『一夏様、交代します。』

 

打ちひしがれる俺の耳に、M1Aに乗った守備隊員の声が届く。

 

何時の間にか俺以外の戦闘部隊は下がっており、俺が戻る番の様だ。

 

と言うより、何で皆俺の事を様付で呼びたがるのか・・・、新参者にその呼び方はぎこちないにも程があるぜ?

 

「了解した、後は頼んだぞ。」

 

『はい、お疲れ様でした。』

 

後を任せ、俺はアメノミハシラへと機体を借り、入港ゲートから格納庫へと侵入、何時もの様にハンガーまで機体を持って行き、メンテナンスベッドに固定、機体の電源を切った。

 

そう言えば、客人が来ているらしいな。

何かの交渉をしているらしいがどうなったのやら・・・。

 

ミナの事だ、簡単には交渉には応じないだろうが、それでもどうなったのかは気になる所、今から聞きに行ってみるとするか・・・。

 

コックピットハッチを開け、機体から出ながらもこの暑苦しいヘルメットを脱ぎ、汗の雫を払う様に頭を振った。

 

「一夏様・・・っ!!」

 

「一夏・・・っ!!」

 

乗降用のラダーを取り出そうと手を動かした、まさにその時だった・・・。

 

聞き覚えの、いや、耳に馴染んだ声が俺を打った。

 

「・・・っ!?」

 

あまりの衝撃にラダーを掴めずにつんのめるが、そんな事を気にせずに、俺は声のした方へと目を向けた。

 

そこには、ジャックの後ろに立つ薄金髪の女と、その隣に立つ濃金髪の女の姿があった。

 

見紛う筈がない、あの二人は、ずっと俺の傍にいてくれた女達の・・・。

 

「セシ・・・リア・・・?シャル・・・?」

 

あまりの事に、俺の口の中はカラカラに渇き、動悸も激しさを増し、眩暈までしてくる始末だ。

 

夢・・・?それとも疲れで見えてる幻覚か・・・?

 

いや、夢だろうが幻覚だろうが、幻なら俺を取り殺そうとしてくる筈だ、なのに、すぐ近くに見える彼女達は、今にも泣き出しそうな表情をしている・・・。

 

そこで、俺はもう一度頭を叩かれた様な衝撃を受けた。

 

これは夢などではない・・・、現実なのだと・・・。

 

「セシリア・・・!シャル・・・っ!!」

 

ラダーを取り出し、降下を始めるが地に足が着くまでの僅かな間も惜しかった、俺はストライクの膝辺りでラダーから飛び降り、彼女達を抱き締めるのに邪魔なヘルメットを投げ捨てながらも二人へと駆け寄る。

 

「一夏様ぁ・・・!!」

 

「一夏ぁ・・・!!」

 

二人も俺の方に駆け出し、どんどん距離が縮まって行き、俺達は抱き合った。

 

懐かしい香りと、二人の身体の温もり、そして、俺の身体に抱き着くこの感触が、幻でも、夢でも無い事を俺に教えてくれていた・・・。

 

「セシリア・・・!シャルも・・・!生きてて・・・、生きててくれたのか・・・っ!!」

 

「一夏様ぁ・・・!よくぞ・・・、よくぞ御無事で・・・!」

 

「会いたかった・・・、会いたかったよぉ・・・!」

 

生きていてくれた事は当然の事ながら嬉しい、だけど、それ以上に、こんな如何しようも無いバカ野郎を想い続けてくれた事に、俺は感極まって涙を零していた。

 

もう、堪えられない・・・、止め処なく涙が頬を伝って落ちて行った。

 

「ごめん・・・!ごめんな・・・!お前達にまでこんな・・・、こんなに辛い思いをさせてしまった・・・、こんな弱い俺を許してくれ・・・。」

 

俺のわがままなんかに付き合わせてしまったせいで、彼女達に苦しい思いをさせてしまった事への申し訳なさに、俺の口からは自然と謝罪の言葉が零れていた。

 

「いいのです・・・、良いのです一夏様・・・。」

 

「貴方にまた会えた・・・、それだけで僕達は幸せだよ・・・。」

 

そんな俺に、二人は優しく、そして涙声ながらもそんな事は無いと言ってくれていた。

 

彼女達の気遣いが、今の俺にはこの上なくありがたいものだった。

 

「ありがとな二人とも・・・、もし、こんな俺に愛想を尽かしてないなら・・・、前みたいに俺といてくれないか・・・?お前達がいてくれないと、俺はダメなんだよ・・・。」

 

心からの、そして何よりも大切な願いを、俺はセシリアとシャルに囁いた。

 

俺は二人がいてくれなきゃ何にも出来やしない、この一カ月以上の時間で身に染みて分かったんだ・・・。

 

だから、彼女達には傍にいて欲しい、これからもずっと・・・。

 

「はい・・・♪」

 

「喜んで付いてくよ♪」

 

俺のプロポーズに近い言葉に、セシリアは微笑み、シャルは半泣きながらも笑って頷いてくれていた。

 

それは、他でもなくOKをくれたという事・・・。

 

「ありがとう・・・、二人とも、愛してるぜ・・・。」

 

あまりの喜びに、嘗ての世界でも殆ど口にしなかった言葉が口をついて出ていた。

 

そうだ、俺は二人に好きだとも、愛していると言った事は殆ど無かった・・・、それなのに彼女達は俺をこれ程までに想ってくれている、それが嬉しかったんだ。

 

「私も、心よりお慕いしておりますわ・・・。」

 

「僕も大好きだよ・・・、だから、もう二度と離さないでね・・・?」

 

少しだけ驚いた様に目を軽く見開きながらも、彼女達は咲き誇る薔薇の様に笑ってくれた。

 

その笑みは、俺の記憶の中にあるどんな笑みよりも美しく、見惚れてしまいそうになるほどの可憐さがあった。

 

「あぁ・・・、離すもんか・・・!ずっと、ずっと一緒だ・・・!」

 

もう離さない、誰にも渡すものかという想いと、彼女達への愛を籠めて、俺は二人と唇を重ねた・・・。

 

sideout

 

noside

 

一夏がセシリアとシャルロットと口付けを重ねた瞬間、格納庫内に拍手と喝采の渦が巻き起こった。

 

三人が驚いて身体を離し、辺りを見渡すと、ジャックを筆頭とする整備士達、守備隊員に保安部員、そして格納庫にやって来ていたロウ達ジャンク屋とロンド・ミナの姿もあった。

 

「おめでとうさん御三方~!!」

 

「アツアツだなぁ~!見せつけてくれるぜ!」

 

三人を冷やかす様な、いや、祝福する様な言葉が格納庫中から聞こえ、一夏達はここがどこだったかを思い出し、顔をトマトよりも紅くしていた。

 

まさか衆人観衆の中でプロポーズ&口付けをかましたのだ、彼等で無くても恥ずかしくなるだろう。

 

「一夏~、アツイねぇ?こっちまで恥ずかしくなるだろうが。」

 

『ヨカッタ、ヨカッタ。』

 

ハロを抱えたジャックが彼等の傍に寄りながらも一夏の肩を小突き、ニヤニヤと笑っていた。

 

彼もまさか一夏達が目の前でイチャ付くなど思ってもみなかったのだろう、何処か気恥ずかしそうな表情を見せていた。

 

「セシリア、おめでとう~!よかったね~!」

 

「いいなぁ、アツかったね~。」

 

「か、風花さん・・・!」

 

「樹里・・・!?見てたのぉ・・・!?」

 

セシリアとシャルロットは、それぞれの妹分に祝福兼からかいを受け、更に顔を紅くし、噴火しそうになっていた。

 

子供には刺激が強い物も見せてしまっただろうが、それを気にかけている余裕は今の彼女達にはなかった。

 

「良かったな一夏、お前の望みが叶ったな。」

 

「ミナか・・・?どこから見てたんだ・・・?」

 

『アツイゼアニキ!』

 

主であるミナが話しかけてきたが、あまりの恥ずかしさに直視できないのだろう、彼はジャックから受け取ったハロで顔を隠しながらも、どの辺りから見ていたのかと尋ねていた。

 

いや、聞かずとも分かるだろう、ここは格納庫、一般の整備士も多く働いている、彼等の前でアツいアツい抱擁を交わしたのだ、目立たぬ筈もなかった。

 

「私はお前達が抱き合った辺りからだな、久方振りの再会で喜ばしいだろうが、少しは自重せよ。」

 

『マワリハタイセツニナ~!』

 

ミナはからかいとちょっとした咎めを、ハロは耳をパタつかせながらも彼の前で動いていた。

 

「だが、これでお前が苦しむ事も減った、これからはそなた達三人で私と共に、新たな世界の姿を作ってくれ、お前達が今示した様に。」

 

一夏達に向け、彼女は自分が作るべき世界の為に力を貸せと語る。

 

その言葉に、一夏は彼女の心境の変化を感じ取ったのだろう、何処か怪訝の表情を浮かべていた。

 

「どういう心境の変化だ?前までのアンタなら、そんな事言わなかった筈だぜ?」

 

「フッ・・・、そうだな・・・、民と言うモノを、国と言う言葉の本当の意味を、彼から教わったのだ、私もその道を信じてみたいのだ。」

 

彼の問いに、ミナはセシリアとシャルロットをからかっているロウを見ながらも答え、一夏ですら見た事の無い様な笑みを浮かべていた。

 

その表情から察したのだろうか、彼はただ何も言わずに頷き、愛しき者達を慈愛の眼差しで見つめていた。

 

その表情には、嘗ての破壊者としての面影は何処にも無く、ただ愛しき者達を見つめる一人の男の表情だけがあった。

 

「アンタが信じる道なら、きっと優しい世界になるんだろうな・・・、なら、俺も信じてみたくなったよ、本当の意味での国ってヤツを、さ・・・?」

 

小さく、それでいてハッキリとした口調で彼は自身の言葉を口にしていた。

 

誰かに強制される訳でも無く、決然たる想いを籠めて・・・。

 

今迄の覚束無い足取りとは打って変わり、彼はしっかりとした足取りで歩き始める。

 

もう、自分は独りではない、頼れる友と目指すべき目標、そして何よりも愛おしい者達の存在・・・。

 

これまでの彼が失くしてしまっていた物を、彼は遂に見つける事が出来たのだから・・・。

 

sideout

 




次回予告

分かり合えぬ者、分かりたいと思う者、すべての者の想いと共に、彼は勇気と共に行く。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

Xアストレイ

お楽しみに~。




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Xアストレイ

noside

 

──戦え──

 

誰かが叫んでいる、戦えと・・・。

 

「嫌だ・・・、僕は戦わない・・・!」

 

彼は、プレアは否と答え、聞きたくないとばかりに耳を塞ぎ、蹲る。

 

だが、声は一向に止むことは無い、指の隙間を抉じ開け、彼の耳を毒してゆく。

 

──戦え、お前の敵を殺せ、そうすればお前は苦しまずに済む──

 

敵を殺せば楽になる、戦わなくて済むと、声は彼に語りかけてくる。

 

一人の声ではない、何人もの、老若男女問わず様々な声が戦えと彼を責め立てる。

 

「嫌だ・・・!僕は戦いたくなんかないんだ・・・!!」

 

声から逃れる様に、彼は脇目も振らずに走り出す。

 

だが、そんな彼を暗黒の闇より出でし幾つもの腕が捕えんとばかりに追いかける。

 

「・・・っ!!」

 

彼の服を、腕を、脚を掴み、巨大な闇が蠢く場所へと引きずり込もうとしていた。

 

──殺せ、敵を殺す事がお前の運命だ──

 

「違う・・・!僕はそんな為に生まれたんじゃない・・・!!」

 

戦う為に生まれた訳ではないと、抗う様にもがくが、彼を捕える腕は一向に振りほどけず、もがけばもがくほどに彼を捕えて離さない。

 

──殺せ、ころせ、コロセコロセコロセコロセコロセ──

 

「嫌だ・・・!嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

 

押しつぶす様な声が聞こえた直後、彼の意識は闇に呑み込まれた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

 

絶叫と共に跳ね起きたプレアは、荒い呼吸と共に震える身体を抱きすくめ、自分の周囲を見渡した。

 

そこは、ユーラシア連邦脱走艦、オルテュギアの船室であり、彼に宛がわれた部屋であった。

 

それを確認した彼は、乱れた呼吸を整える様に深呼吸を数度繰り返し、漸く溜め息を吐いた。

 

先程の夢、彼を戦わせようとする呪縛は今に始まった事では無い、彼がこの世に生まれ出でてからずっと続いている、悪夢の様な現実であったのだ。

 

「大丈夫か?」

 

そんな彼に声をかけた者がいた、この艦の実質的な指導者、カナード・パルスであった。

 

プレアはその声に一瞬身体を強張らせるも、それが幻覚ではなくカナードの声だと分かると、僅かに安堵した様な表情を見せながらも彼を見ていた。

 

「心配してくれるんですか・・・?」

 

カナードが自分の体調を気遣ってくれているとは思えないのだろう、彼の声には僅かな戸惑いと、明らかな警戒の色があった。

 

「あぁそうさ、お前に死なれては俺は負けたままになるのだからな、心配ぐらいしてやるさ。」

 

彼の考える通り、彼はプレアと言う人間を心配しているのではない。

 

自分を倒したドレッドノートのパイロットとして、戦って倒すべき敵として見ているのだ、そもそもの心配の度合いが違っているのだ。

 

「僕は・・・、戦ったりしません・・・!!」

 

だが、プレアはカナードと戦うつもりなど無かった。

 

一時は激情に流されかけ、銃を向けはしたが結局は撃たなかった。

 

そもそも、彼はカナードとの戦いを避ける為にここに来たのだ、戦いなど強制されてもする気はないだろう。

 

「ふん、好きにしろ、だが、俺を負けたままにして死ぬのだけは許さんからな!!」

 

戦わないというプレアの言葉を鼻で笑いながらも、彼はあくまでも戦う姿勢を崩そうとはしなかった。

 

彼の、カナードの根底にあるのは勝利と生のみ、負けたままでは死んでいるも同然なのだろう。

 

相容れぬ想いを抱えた二人が睨みあっている最中、突然艦内にアラートが響き渡る。

 

それは、所属不明機の接近を知らせるアラートであり、大方、彼等と敵対する組織を識別する際に用いている物だった。

 

「メリオル!どうした!?」

 

カナードは持っていた端末を取り出し、艦橋にいる副官に通信を繋げていた。

 

『MSが一機、こちらに接近してきます、映像をそちらに送ります。』

 

彼女の言葉と同時に画面が切り替わり、オルテュギアに接近してくる蒼いMSの姿が映し出された。

 

「アイツは・・・。」

 

カナードは接近してくる機体に見覚えがあった。

 

それは一カ月前に、彼と交戦した事のある傭兵のガンダムだった。

 

『こちらサーペント・テールの叢雲 劾だ、プレア・レヴェリーに用がある、オルテュギア、直ちに停船せよ!』

 

「あの傭兵・・・、コイツに用があるだと・・・?」

 

怪訝の表情で、カナードはベッドから起き上がるプレアを見た。

 

まさか自分が知らぬ所で、この少年は彼の傭兵と繋がりを持っていたのかという思いを抱きながらも、彼は画面を切り替え、待機していたメリオルへと通信を繋げた。

 

「オルテュギア機関停止、あの傭兵の用件とやらを聞いてやろうじゃないか。」

 

『了解しました。』

 

彼の指示に頷き、メリオルは通信を切った。

 

その直後、エンジンを停止させ、制動を掛けているのであろう、僅かな振動が彼等の下に届く。

 

「プレア、お前に客人だ、出迎えてやれ。」

 

「分かりました・・・、格納庫へ行きましょう。」

 

プレアに告げながらも、カナードは彼を伴って船室から出て行き、格納庫を目指した。

 

sideout

 

noside

 

『そんな訳で、ドレッドノートの真の力を引き出すパーツを製作中だ!コイツはお前しか使いこなせねぇ、兎も角一旦戻って来い、プレア!!』

 

劾に手渡されたビデオメールに、プレアは何処か懐かしそうな、そして気難しい表情を浮かべていた。

 

劾はロウから預かったビデオメールを、オルテュギアにいるプレアに手渡しに来たついでに、彼の、プレアの覚悟を聞きに来たのだ。

 

「ロウさん・・・、風花ちゃん・・・。」

 

自分に向けてのメッセージを送るロウと、彼の後ろで不安げな表情を向けている風花の姿に、彼は申し訳ない様な表情を浮かべていた。

 

またしても、彼は友に、仲間に心配をかけてしまったのだ、後ろめたい想いがあるのだろう。

 

「こんな物をわざわざ見せるために来たのか?」

 

「そうだ。」

 

彼の手元を覗いていたカナードは、何処か興奮を抑えられないと言った口調で劾に確認を取っていた。

 

まさか、用件がドレッドノートを強化するから戻って来いという物だとは思っても見なかったのだろう、彼にとってはある意味で願ったり叶ったりだった。

 

「面白い!ハイぺリオンも強化されたのだ、ドレッドノートもパワーアップさせてやる!」

 

彼にとって、ドレッドノートは宿敵だ、自分のプライドを傷つけた張本人と呼んでも差し障り無いだろう。

 

彼のハイぺリオンは核の力を手に入れ、光の盾を無限に使用できるという状態にあるが、ドレッドノートは動力的な面はハイぺリオンと変わらないが、武装も少ないために不利なのは火を見るより明らかだ。

 

宿敵との戦いだ、なるべくフェアな状況で決着を着けたいのだろう。

 

「そして俺と戦え、プレア!」

 

「貴方という人は・・・!」

 

最早戦う事に憑り付かれているのだろう、カナードは嬉々とした表情でプレアに言葉を投げかけた。

 

この状況なら彼も断る事はしないだろうと思っているのだろうか・・・?

 

「プレア・レヴェリー、どうするかはお前自身で決めろ、だが、決めたら後悔はするな、それがお前の生き方という物だからな。」

 

カナードを睨むプレアに助け船を出す様に、今まで静観していた劾が口を開いた。

 

戦うか戦わないかも、決めるのはお前次第だ、だが、後悔しない様に選択する自由はお前に有ると・・・。

 

彼の言葉を聞き、暫く考える様子を見せていたプレアだが、何かを決心したかの様に顔を上げた。

 

「分かりました、ジャンク屋の皆さんの所に、僕は戻ります・・・!劾さん、道案内をお願いします。」

 

「了解した、すぐに出るぞ、準備しろ。」

 

彼の決意を受け取ったのだろう、劾は薄く微笑み、一足先に自分の機体の方へと足を向けた。

 

「行け!そして俺と戦うために戻って来い!何処へ逃げても、必ず探し出してやるからな!!」

 

「カナードさん・・・っ!!」

 

彼を追う様に、ドレッドノートへと向かっていったプレアの背に、カナードは戦えという言葉と脅しの様な言葉を投げ掛けていた。

 

あくまでも戦う事に執着する彼のオーラを、プレアは何処か寂しい想いで感じ取っていた。

 

彼は知らないのだ、そういう生き方以外の生き方を・・・。

 

sideout

 

noside

 

「は~い、帰ってきたわよ~。」

 

樹里に連れられ、プレアはアメノミハシラの一角、ロウ達が作業を行っている場所へとやって来ていた。

 

あの後、彼はドレッドノートに搭乗し、劾のブルーフレームの先導を受けてアメノミハシラに辿り着いたのだ。

 

「プレア!」

 

「おっ!帰ってきたな。」

 

『8』を手に持ち、何かの設計図を見ていた風花が彼を見るなり表情を輝かせ彼の下へと駆け寄っていた。

 

そんな彼女を微笑ましく思いながらも、ロウはお帰りと言わんばかりに手を挙げていた。

 

そんなロウの前には作業用のコントロールパネルがあり、彼はその前にプレアを招きよせた。

 

「セシリアさんとシャルロットさんはどうしたんですか?」

 

自身を友と、仲間と接してくれた二人の女性の姿が無い事に気づいたのだろう、彼は辺りを見渡しながらも尋ねていた。

 

誰よりも自分を心配してくれたシャルロットと、自分の背を押してくれたセシリアには、彼は仲間や友としての感情よりも、歳の離れた姉を見ている様な感覚なのだろう、せめてただいまの一言ぐらいは言いたいのだろう。

 

「あの二人なら、ちょっと用事で席を外してるだけさ、またすぐに戻ってくるさ。」

 

「そうですか・・・。」

 

今すぐにでも帰還を告げに行きたい所だが、彼は他に見ておくべき物があると分かっていたために、今はそちらに意識を向ける事にした。

 

彼の視線の先には、ダークグレーの色彩を持った円形のバックパックと、それに取り付けられようとしている四基の砲塔の様なものがあった。

 

一見するだけではそれが何なのかは理解できないだろう、だが、ドレッドノートのパイロットを務めるプレアには、それらが何の意味を持った物なのかハッキリと分かっていた。

 

「ロウさん、これは・・・、ドラグーンですよね・・・。」

 

「あぁ、知り合いから貰ったデータに入ってたんだ、ここでしか造れそうになかったんだよ。」

 

何処か苦い表情をしながらも尋ねる彼に、ロウはその通りだと頷き、ドレッドノート本体への装着作業に入った。

 

恐らく、ドレッドノートが、プレアが到着する以前にパーツ自体は完成していたのだろうが、本体がなければただの鉄屑でしかない、故に彼はそれを待っていたのだろう。

 

「すみません、ロウさん・・・、僕はこれを使って人を傷付ける様な事は・・・。」

 

そんな彼に、プレアは使いたくないという様な気を見せる。

 

カナードと行動を共にし、彼は戦う事の無意味さ、そして空しさを痛感していたのだ。

 

故に、カナードと同じ様に、兵器に乗って戦い、人を傷付け、殺す様な事はしたくないのだろう。

 

「まぁ、そう言わずに付けるだけはさせてくれ、折角造ったんだしな、使うかどうかはお前次第だよ。」

 

「・・・。」

 

使うかどうかはお前次第、そう言われれば何も言い返せないのか、プレアは押し黙り、電源が入れられたままで、PS装甲がONになっているドレッドノートに取り付けられてゆく新規パーツを眺めた。

 

そんな彼の目の前で、接合が終わったのだろう、ダークグレーだったバックパックと、それの四隅に設置されたドラグーンが赤みがかかったオレンジ色へと変色してゆく。

 

恐らく、バックパックやドラグーンにもPS装甲部材が使用されているのだろう事が、その変色から窺い知る事が出来た。

 

「凄く強そうだね!」

 

「これがドレッドノートの・・・、真の姿・・・?」

 

その姿に純粋な思いを抱く風花とは対照的に、プレアは何処か恐怖した様な表情を浮かべていた。

 

ただでさえ強力な機体であるドレッドノートに更なる戦力強化が施されたのだ、その分、破壊力も殺傷能力も上がっていて当然と言うべきだろう。

 

「ロウさん・・・、やっぱり僕はこれに乗る事は出来ません、僕は兵器に乗るなんて、もう耐えきれないんだ・・・!」

 

プレアは隣にいたロウと、風花に向けて、自身の心に抑え込んでいた心情を吐露していた。

 

彼は生まれながらに戦いを宿命づけられた存在ではあったが、彼自身、それを受け入れる事は出来なかった。

 

故に、彼は人殺しの道具である兵器に乗る事に耐え切れなくなったのだ。

 

「そうか・・・、けど、そんな風に思われてたらコイツも可哀想だな。」

 

「え・・・?」

 

自分の言葉を聞きつつも、ドレッドノートを見つめて語られたロウの言葉に、彼は僅かな驚愕と共に彼を見た。

 

今の言葉はまるで、ドレッドノートが兵器でないという風に聞こえたのだろう、彼の表情は怪訝の色が濃く滲み出ていた。

 

「道具ってのはさ、乗る人間が、使う人間がどう使うかによってどうなるかが決まるんだ、兵器として生まれたからって、何も人殺しに使われなきゃならないって事もないんだ。」

 

ロウは、困惑するプレアに向けて持論を、自身の経験を語っていた。

 

彼が乗るレッドフレームも、元々は戦闘用に作られたMSだ、しかし、それはロウがパイロットとなった事で、戦闘よりも、それ以外の用途に使われる事の方が圧倒的に多い、故に彼は、使い方は色々あるのだと伝えたいのだろう。

 

「だから、お前が人殺しをしないって決心があるなら、ドレッドノートは兵器にはならないさ、お前がそうさせないんだからよ。」

 

「兵器として生まれても・・・、それ以外の活き方がある・・・。」

 

大丈夫だと笑うロウの言葉に、彼は小さく、そして自分に言い聞かせる様に呟いていた。

 

その言葉は、確認というよりも、彼の中にある過去を思い返し、そうならないともう一度決心している様にも見えた。

 

 

「ロウさん、僕はこのMSで・・・、ドレッドノートであの人を救えるでしょうか・・・?」

 

あの人とは、結局分かり合えないまま今に至るカナードの事なのだろう、彼の言葉からは何よりの重さが感じ取れた。

 

「さぁな、だけど、俺はメカと乗り手との運命みたいなのを感じるよ、あの兄ちゃんの機体、ハイぺリオンは強力なバリアに守られてる、あの兄ちゃんの心も同じだ、殻に閉じ籠って、人との間に隔たりを作ってる、だけど、お前はその逆だな、ドレッドノートと同じ勇敢な奴だ、想いを何処までも飛ばせるドラグーンを、力を持ってる、乗り手とメカは似るんだってな。」

 

乗り手とメカの運命、それはジャンク屋であるロウにしか言い得ない言葉だった。

 

ドレッドノートも、そしてハイぺリオンも、図らずもパイロットと同じ道を歩んでいる、そして、性質まで似てくるのだと・・・。

 

「ドレッドノート・・・、僕はあの人を助ける為に君に乗る・・・、だから、僕に君の勇気をもう一度だけ貸してくれるかい・・・?」

 

ロウの言葉を聞きつつ、プレアは自分を見下ろす様に佇むドレッドノートを見上げ、問いかける様に呟いた。

 

メカに意志が在るかどうかは別として、勇敢な者という名のMSの勇気と共に駆ける事を、彼は決心しつつあるのだろう。

 

「コイツも、アストレイだな。」

 

「アストレイ・・・?」

 

ドレッドノートを見上げながら呟くロウの言葉の意味を理解できなかった彼は、僅かな困惑と怪訝の色を浮かべながらも彼を見た。

 

「≪王道じゃない≫って意味さ、兵器として生まれたのに人助けの為に使われるんだ、背中にデケェXを背負ってるから、さしずめXアストレイってとこだな。」

 

「王道じゃない・・・、Xアストレイ・・・!」

 

彼の言葉を反芻する様に、プレアは再度ドレッドノートを、Xアストレイを見上げながらも頷く。

 

自分がやろうとしている事は王道ではない、だが、それで良いではないか、何せ、それこそが人の生きる意味と言う物なのだから・・・。

 

「ま、どう生きるのも自分次第って事さ、お前の思うままにやれ、プレア。」

 

「はいっ!」

 

自分の心に従え、そう告げるロウに、もう迷いは無いとばかりに力強く返答し、彼は戦いに囚われている一人の男を思い浮かべていた。

 

「(カナードさん、僕は貴方を、戦いの呪縛から解き放ってみせます、このXアストレイで・・・!)」

 

自分と同じ様な境遇ながらも、自身とは違う環境にいた為に戦う事に憑りつかれた男・・・。

 

それはさながら、合わせ鏡の様であり、自分の影を映し出している様だったから・・・。

 

故に、彼はその男を救いたいと願う。

 

彼が知らぬ生き方があると告げるためにも・・・。

 

sideout

 




次回予告

最後の戦いに赴くプレアから、セシリアとシャルロットは彼に秘められた真実を知る。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

決戦にむけて・・・。

お楽しみに~。


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決戦にむけて・・・

noside

 

「・・・、そうか・・・、お前達には苦労を掛けてしまったな・・・。」

 

アメノミハシラの一室、織斑一夏の自室にて、彼の恋人であるセシリアとシャルロットは彼が用意した紅茶に口を付けていた。

 

ちなみに、セシリアの膝の上には一夏のペットロボであるハロがチョコンと乗っかっており、何処となく嬉しそうに耳をパタつかせていた。

 

先程まで、彼等が死に別れてからそれぞれ辿ってきた出来事を話し合い、これからについての話し合いが持たれていたのだ。

 

彼女達は当然の如く彼に着いて行きたいと答えたし、彼も彼女達に傍にいて欲しいと望んでいた為、彼の口添えで彼女達はアメノミハシラに仕える事となる予定だ。

 

「良いのです、一夏様・・・、それに・・・。」

 

「それに、多分あれは僕達の過去の罪のせいだよ・・・、だから・・・。」

 

「仕方無い、か・・・。」

 

『シャーネーナ、シャーネーナ。』

 

セシリアとシャルロットの言葉に、一夏は何処か自嘲するかの様に笑った。

 

贖罪、言われてみればそんな気がしなくも無かったが、まさかその通りだとは思ってもみなかったのだろう。

 

彼等にとっては、愛しき者と寄り添えない事は死ぬよりも、肉体を傷つけ続けられる事よりも辛く、苦しい事なのだ、それを身を持って、彼等は経験したのだ。

 

「だけど、これで良く分かったんだよ・・・、俺はお前達がいなけりゃダメダメなんだってな、ホント、辛かったさ・・・。」

 

そして、依存度が高かった一夏は、心底安心した、嬉しかったと言わんばかりに表情を綻ばせ、ベッドに腰掛けながらも話していた。

 

「それにしても、懐かしいね・・・、前の世界での僕達の部屋でのやり取りみたいだね。」

 

「そういえば・・・、ふふっ、本当に懐かしい・・・。」

 

そんな中、シャルロットは以前と同じ雰囲気の中にいる事を懐かしむ様な言葉を発し、それに気づいたセシリアも、何処か懐かしげに微笑んでいた。

 

二度と巡り合うと思っていた雰囲気の中に包まれているのだ、彼等で無くともセンチメンタルな気分になるだろう。

 

「そうだな・・・、凄く懐かしい、夢でも見ている気分だ、こうして、お前達にも再び会う事が出来た、それが何よりも嬉しいよ。」

 

紅茶を啜り、以前では浮かべる事すら稀だった穏やかな笑みを、その端正な顔に湛えながらも、彼は愛しき者達を見ていた。

 

嘗ての様な傲慢なまでの強さは無く、そこにはただ、一人の男としての優しげな表情だけがあった。

 

「そういえば、ジャンク屋の所に行かなくていいのか?MSの装備を造ってるんだろ?手伝わないのか?」

 

そんな中、彼は思い出したかの様に彼女達に問うた。

 

自分の傍にいてくれる事は嬉しいが、彼女達にも新しい仲間がいる、まずはそちらを優先してくれても良いとでも言っているのだろうか・・・?

 

「そうですわね・・・、そろそろ、プレアさんも帰ってくる事でしょうし・・・。」

 

「うん、僕達が迎えてあげないと、だよね・・・?」

 

言われてみて、どれだけの時間が経っているのかを思い出したのだろう、彼女達はテーブルにティーカップを置き、少々後ろ髪を引かれる様な思いを滲ませながらも席を立った。

 

弟分であるプレアの事は確かに心配であったし、戻って来たのならば迎えてやりたいと思う気持ちは彼女達の心にはある。

 

だが、それ以上に愛しき男の存在が、僅かな間でも傍を離れていると消えていなくなってしまうかもしれないといった恐怖心もあり、中々踏ん切りがつかないのだろう。

 

「心配するな、俺はここにいるよ、お前達が帰って来れる場所に俺はなる、だから、今はお前達がやるべき事をやれば良いんだよ。」

 

『イインダ、イインダ。』

 

そんな彼女達に笑いかけながらも、彼は自分はここにいる、何処にもいかないと告げていた。

 

彼とて、セシリアとシャルロットには傍にいて欲しいに違いは無いが、今は自分だけに二人を縛り付ける訳にはいかないと考えたのだろう、その言葉からある意味でケジメを着けて来いと言った様な感触すら伺う事が出来た。

 

「はい・・・!」

 

「分かったよ一夏、約束だよ?」

 

「あぁ、約束だ、行ってこい。」

 

心得たと笑い、部屋を出て行く彼女達を見送った後、彼はベッドに倒れこんだ。

 

『イチカ、ダイジョウブカ?』

 

急に倒れこんだ彼を心配したのだろうか、ハロが声をかけた。

 

「心配するなよハロ、安心して眠くなっただけさ、少しだけ眠らせてくれ・・・。」

 

心配そうに自身を覗き込むハロの頭を撫で、彼は瞳を閉じた。

 

どうやら、今の今まで気負っていたものが降りたために、これまで抑え込まれていた疲労や眠気が一気に押し寄せて来たのだろう、いくら彼でも、こればかりは抗い様も無く、素直に眠る事にしたようだ。

 

「(セシリア・・・、シャル・・・、ありがとな、俺はこれからはお前達のために・・・。)」

 

愛しき女達の事を思い浮かべながらも、彼は久方振りに訪れた、優しき眠りに意識を手放したのであった・・・。

 

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noside

 

「プレア!」

 

ドレッドノートが置かれている格納庫に入ったシャルロットは、目的の人物が機体の前で何かの調整をしている姿を発見し、彼の名を呼びながらも駆け寄った。

 

「シャルロットさん!ただいま帰りました、ご心配をお掛けしましたよね・・・?」

 

彼女の姿を見つけたプレアは表情を輝かせるも、彼女に心配を掛けたと思っているのだろうか、すぐにその表情が曇った。

 

「ううん、セシリアからも事情を聴いてたし、絶対に帰ってくるって信じてたからね、大丈夫だよ。」

 

そんな彼の表情を見たシャルロットは、彼を安心させるために大丈夫だと微笑んでいた。

 

そこには慈愛の表情で満ち溢れており、彼女の想いを窺い知る事が出来る。

 

「お帰りなさいませ、プレアさん、よくぞ御無事で戻って来られましたわね。」

 

「セシリアさん、ただいま、です。」

 

シャルロットより少し遅れて格納庫に入ったセシリアも彼と対面し、その帰還を喜ぶ様な笑みを、その麗しき顔に湛えていた。

 

プレアも、セシリアには背を押して貰う事が多かった為だろうか、穏やかな表情で戻った事を報告していた。

 

その三人の間にあるのは、ある意味で姉弟の様な雰囲気であり、何も言わずともそこにある絆が見えている様でもあった。

 

「Xアストレイ・・・、これから戦いに行くんだね・・・?」

 

そんな中、プレアの背後に立つMS、Xアストレイの姿に気付いたシャルロットは笑みを消し、真剣その物と言った表情で彼に問うた。

 

彼女の雰囲気を受け、彼も笑みを消し、決意の籠った目をセシリアとシャルロットに向けていた。

 

もう心は決まった、後は悔いの無い様に戦うだけだと言わんばかりに・・・。

 

「はい、戦いに行きます、カナードさんを救うために、僕という存在を彼に告げるためにも・・・。」

 

カナードを救うため、彼はそう言うが、セシリアにはその言葉に裏がある様な気がしてならなかった。

 

出会った頃から感じてはいた事だが、プレアは何か重要な事を自分達に隠している様な気がしてならなかったのだ。

 

それが何なのかは敢えて聞く事は無かったが、どうしようも無く引っかかる事があったのだ。

 

「プレアさん・・・、まさか貴方、この戦いで死ぬ御積りですか・・・?」

 

「・・・っ。」

 

そんな彼女の言葉に、プレアは見抜かれたと言わんばかりに肩を震わせた。

 

だが、何れはばれると思っていたのだろう、何せ、セシリアにも彼と同じ能力が備わっていたのだから・・・。

 

「セシリア・・・?死ぬ積りってどういう事なのさ・・・?」

 

彼女の言葉の意味が理解できなかったのだろう、シャルロットは驚いた様に目を見開き、セシリアとプレアを引き攣った様な表情で見ていた。

 

気付いていなかったのだろう、彼に隠された真実を、そして、残酷な現実を・・・。

 

「私だって信じたくありません・・・、ですが、この胸騒ぎだけは・・・、否定できませんわ・・・。」

 

彼女の驚愕に答える様に、セシリアは僅かに悲しげな表情を浮かべ、プレアの方に向き直った。

 

話せる物なら、自分達に聞かせてくれと言う、声なき言葉が彼女の表情から語られていた。

 

「・・・、分かりました、僕の運命を、宿命をお話します、聞いてください・・・。」

 

彼女の、全てを受け入れると言う様な雰囲気を悟ったのだろう、プレアは目を細め、覚悟を決めた様に口を開いた。

 

「僕がドラグーンを扱える理由が、空間認識能力に依る物だという事は、お二人も御存知だと思います、セシリアさんにもその閃きを感じますから・・・。」

 

「私の物は後天的に開花したと言うべきですが、プレアさんの物は先天的と言う訳ですわね。」

 

プレアの言葉に補足する様に、セシリアは自分の能力と彼の能力の違いを語った。

 

元々、彼女は嘗ての世界ではドラグーンの近縁種たる装備を使用しており、ある時にドラグーンを扱う様になってから、空間認識能力が開花したという存在だ。

 

そこに関わってくるのが織斑一夏という男の存在であるが、今は関係の無い事だった。

 

だが、彼女が気付いている通り、プレアはある時を境に使える様になった訳では無く、先天的、つまりは生まれ持って高度な空間認識能力を持っているのだ。

 

一見して些細な違いにも見えるだろうが、この話においては大きなキーワードに成り得る話なのだ。

 

「はい、ですが、僕は両親からこの力を受け継いだ訳ではありません、そもそも、顔も知らないんです・・・。」

 

「えっ・・・?」

 

両親の顔を知らないと言う彼の言葉を理解できなかったシャルロットは、思わず声を漏らしていた。

 

死に別れたとは言え、彼女は両親の顔を憶えている、寧ろ、彼女の人生の分岐路に多くの影響を与えている人物達だ、忘れられる訳が無かった。

 

親の影響を良くも悪くも受けない子はいない、それなのに、プレアは両親の事を知らないと答えたのだ、それが何故なのかが分からなかったのだろう。

 

言葉を続けようにも話す事が苦痛なのだろうか、彼は苦悶の表情を浮かべながらも胸元の首飾りを握り締めた。

 

まるで、何かに縋る様に、誰かに助けを求めている様にも見えた。

 

「僕は・・・、僕は意図的に生み出された存在・・・、クローンなんです・・・。」

 

「・・・っ!?」

 

クローン、その言葉にシャルロットは口元を押さえていた。

 

言葉としては聞いた事のある言葉だったが、信じたくない事実でもあったのだろう、その表情からは嘘であって欲しいと言わんばかりの色が見て取れた。

 

「この力を欲した連合が・・・、ガンバレルを使用できる人間を量産するべく生み出された存在・・・、それが僕なんです・・・生まれてから、僕はずっと戦う為だけに訓練されてきました・・・。」

 

ガンバレル等の独立稼働する兵装を自在に操れる程の高度な空間認識能力を持つパイロットは極めてその数が少ない上に、戦争ともなれば損耗や戦死によって更に数は減る。

 

これでは何時まで経ってもザフトに抗し切る事は叶わず、ジリ貧と言うべき状態に陥る事は明白だった。

 

そこで、連合軍上層部は空間認識能力を有するパイロットの数を確保するための策に出た。

 

それは、既に連合軍に在籍していたメビウス・ゼロのパイロット達の遺伝子情報を基に、彼等のクローンを製作を試みたのだ。

 

遺伝子操作が可能なこの世界だ、クローンなど創ろうと思えば直ぐにでも取り掛かれる、ある意味で理には適っているが、非人道的であると言わざるを得なかった。

 

そうして生み出されたの存在の一つが、今彼女達の目に前にいる少年、プレア・レヴェリーであったのだ。

 

生まれながらに戦う事を宿命付けられ、人間としてでは無く、ガンバレルを持つ兵器を動かす為の部品として扱われ続けてきたのだ。

 

「ですが・・・、その計画にも予想外の欠陥がありました・・・、クローニングが完全では無かったのです・・・。」

 

プレアに課せられた宿命は戦う事だけでは無かった。

 

彼に課せられたもう一つの宿命は、彼自身の寿命の短さだった。

 

彼の基となった人物からの能力のコピーは、それなりの精度を誇っていた、だが、それと同時に欠陥も判明した。

 

それは、テロメアと言う細胞の中にある遺伝子情報を司る物が、基となった人物の物そのままにコピーされてしまったのだ。

 

テロメアは人間が老化するに連れて徐々に削り取られていく物であり、細胞を調べればその人物の年齢が分かるのも、テロメアが克明に肉体年齢を示しているからなのだ。

 

つまり、クローンの基となった人物の年齢が二十歳だったとした場合、生まれてくるクローンはそのテロメアの情報を基に創られているため、赤子として生まれた瞬間から、既に二十年生きている人間と認識されてしまうのだ。

 

だが、問題はそこでは無かった、なにせ、頭数だけを揃えるのならば寿命など気にしている暇は無い、連合はそれを知って尚、クローンを使用するべく動いていた。

 

「僕に・・・、僕以外にも表れた症状・・・、この能力を使う度に細胞が次々に壊死していくんです。」

 

そう、彼等の最大の欠陥がそこにはあった。

 

能力を使う度に細胞が壊れ、その機能を停止し、そう長く生きられないと言う結果が示された。

 

それと同時に、身体の不調や異常、そして死と言った事例が次々に持ち上がったため、クローン計画は頓挫、実験体である彼等も殺処分される事となったのだ。

 

「殺される運命から逃れる為に、僕は施設を脱走して、オーブの近くまで逃げました・・・、そこで、導師様に拾って頂いたんです・・・、これが、僕のこれまで、です・・・。」

 

語り終えると同時に、彼は少し疲れた様に息を吐いた。

 

それもそうだろう、自身に課せられた呪いを、宿命をペラペラと話せる人間などいない、何せ、自分がそういう存在だと今一度突き付けられるのだから・・・。

 

「多分・・・、次の戦いで僕は力を使い果たすでしょう、でも、僕が戦わないとダメなんです、カナードさんも、僕と同じ境遇で生まれてきたんです、だから・・・。」

 

「だから、なんだって言うのさ・・・!」

 

自分が戦わなければならないと語るプレアの言葉を遮る様に、シャルロットは彼の肩を掴みながらも叫んだ。

 

その瞳には涙の雫が溜まっており、今にも零れ落ちそうになっていた。

 

「プレアが戦う必要なんて無いじゃないか・・・!命があと僅かしかなくても、生きなくちゃダメだよ・・・!」

 

「シャルロットさん・・・。」

 

戦ってはいけないと引き留める彼女の想いを、出会ってからずっと自分の事を心配してくれた人の優しさに今一度触れ、彼の心は温かい想いに満たされてゆく。

 

だが、それとて、プレアを戦わせない理由には成り得なかった。

 

「ありがとうございます・・・、でも、僕は行きます、やっと、自分の命の意味を見出せたんです、それを伝える為にも、僕は行きます!」

 

兵器として生み出された自分でも、こんなにも想ってくれる仲間が出来た、だからこそ、独り、自分の殻に籠り続け、他者からの想いを拒絶している男に、それを届けたいのだ。

 

たとえ、それが最後の命の輝きになったとしても、それでも行こうとしているのだ。

 

「でも・・・っ!!」

 

「シャルさん!!」

 

彼の決意を聞いて尚、食い下がろうとするシャルロットを止める様に、今の今まで言葉を発さなかったセシリアが一喝した。

 

何故止めると言わんばかりに、シャルロットは彼女の方を向くが、セシリアの表情が今にも泣き出しそうなモノであった事に気付いた。

 

そう、セシリアとて、プレアが命を投げ棄ててまで戦いに行く事は賛同しかねる、だが、それを止めれば、プレアが導き出した自分自身の答えを否定する事になる、そんな事はしてやりたくないのだ。

 

「プレアさんが出した答えなんです、私達は黙って受け入れてあげましょう、それが、私達の役目ですわ・・・。」

 

「・・・っ!!」

 

セシリアの言葉に堪え切れなくなったのだろう、シャルロットは大粒の涙をその瞳から零していた。

 

「行きなさい、プレア・レヴェリー、一人の友として、仲間として、そして一人の女として、私は貴方を応援いたしましょう・・・、ですから・・・。」

 

一人の人間として、彼を見送ると告げた彼女も、遂には堪え切れなくなったのだろう、言葉の途中より涙ぐみ、嗚咽を漏らしていた。

 

人の、それも自身の恋人と盟友の為以外に泣いたのは何時振りだろうか、考えても思い出せぬほど長く、人の為に流す涙を忘れていたのだから・・・。

 

 

「ありがとうございます、セシリアさん・・・、シャルロットさん・・・、お二人に出会えて本当に良かった・・・、こんなにも僕の事を想ってくれて・・・、最後に、一つだけ、良いですか・・・?」

 

「何でも、聞きますわよ・・・?」

 

プレアからの頼みだ、聞き逃せる筈もなく、二人は彼の言葉を待った。

 

「お二人の事を・・・、姉さんって・・・、呼んでも良いですか・・・?家族を知らない僕に、優しさをくれたお二人を・・・?」

 

「「・・・っ!」」

 

姉と呼ばれた事に、二人はいたたまれない気持ちになり、口元を抑える事で必死に声を泣き声を押し殺していた。

 

年下であり、何処か不安定な彼を心配していた故に、それを嬉しく想ってくれていた事が、彼女達への唯一の慰めにも思えたのだろう。

 

「はい、構いませんわよ・・・、ですから、また・・・、姉と呼んでくださいね・・・?」

 

「絶対に生きて帰って来るんだよ・・・?プレアは・・・、僕達の弟だから・・・っ。」

 

涙を湛えながらも、二人は微笑み、彼の頼みを受け入れた。

 

断る理由なんてない、そう思ったからだろう。

 

「それじゃあ、行ってきます、セシリア姉さん、シャルロット姉さん。」

 

二人に微笑み返しながらも、彼はドレッドノートのコックピットから降りてきたラダーに掴まり、コックピットへと消えていった。

 

それを瞬きすらせずに、一瞬一瞬を焼き付けようと、セシリアとシャルロットはジッと見送っていた。

 

最早、自分達が彼にしてやれる事は無い、後は彼の思うままにやらせてやるだけなのだと・・・。

 

ⅩアストレイのPS装甲が色づき、機体はMSハンガーを離れ、カタパルトの方へと歩いて行く。

 

時がやってきたのだ、これから彼は、死地に入るのだ。

 

格納庫に併設されたブースに入り、発進準備を進めているドレッドノートを見つめながらも、彼女達は指を組み、祈っていた。

 

どうか、彼の未来に光明がある様にと・・・。

 

『プレア・レヴェリー、Ⅹアストレイ、行きます!!』

 

発進を告げる彼の言葉と同時に、Ⅹアストレイは漆黒の宇宙へと飛び出していった。

 

「プレア・・・!プレアは・・・!?」

 

その直後だった、今の今までサーペント・テールに連絡を入れるために席を外していた風花がブースに駆け込んできた。

 

かなり急いで来たのだろう、肩で息をしながらも、彼女は必死の形相でプレアの事を探していた。

 

「風花さん・・・。」

 

「セシリア・・・!プレアは何処・・・?ねぇ、教えてよ・・・?」

 

セシリアの涙に濡れた表情から何があったのか悟ったのだろう、風花は恐る恐る彼の所在を尋ねていた。

 

いや、確認というべきだろう、彼女とて、もう既に何があったかなど分かっているのだから・・・。

 

「たった今、出撃されました・・・、最後の戦いへと・・・。」

 

「そんな・・・、アタシ、まだ何も・・・!」

 

プレアを見送る積りだったのだろう、彼女の表情からはある種の後悔の表情が窺えた。

 

それが、彼と会う最後のチャンスだったかも知れないのだ、それを逃してしまった事は悔やんでも悔やみ切れないのだろう。

 

そんな彼女を、セシリアとシャルロットは痛ましげな表情で見ていた。

 

そんな時だった・・・。

 

「追い駆けろよ、風花、伝えたい事があるんだろ?」

 

ブースに入ってきたロウが、プレアを追うべきだと彼女達につげていた。

 

「ロウ・・・?」

 

彼の言葉の真意が分からなかったのだろう、風花は怪訝の表情を浮かべながらも彼を見ていた。

 

それはセシリア達も同じだった、今更自分達に出来る事は無い、たとえ追い着いたとしても、既にハイぺリオンとの戦闘に入っている可能性すらある、そこに介入すればただの足手纏いになりかねないのだから。

 

「信じるんだ、プレアは必ず勝つって、その後に何があっても、それを受け入れる覚悟があるんなら、プレアの戦いを見届けてやるんだ。」

 

「ロウ・・・。」

 

彼の想いの勝利を信じ、因縁の対決を見届ける事が大切だと、彼は真っ直ぐな視線を彼女達に注いでいた。

 

それはまるで、風花がどうするかを試している様にも感じられた。

 

いや、実際試しているのかも知れない、何せ、彼はプレアの身体の事に薄らとながらも勘付いているのだから・・・。

 

「分かった・・・!このままじゃ嫌だもん・・・、何があってもプレアの戦いを見届ける、それがアタシのミッションだったもん!」

 

「そうだ、その意気だぜ風花、行って来いよ。」

 

自分がやるべき事を思い出し、改めて決意した風花は、宇宙服を取りに小型艇の方へと走って行った。

 

そのまま発艦するつもりなのだろうが、激戦区に小型艇で行くのは何かと心許無い。

 

「分かりました、私も参りますわ、私の任務ですもの。」

 

それに気付いたのだろう、セシリアは自身のヘルメットを取り、デュエルの方へと向かっていった。

 

風花を護る事が彼女の任務であると同時に、一人の人間として、プレアの最後の戦いを見届けようと心に決めたのだろう。

 

「シャルロット、お前はどうするんだ?行かなくていいんだな?」

 

盟友が動いても尚、如何するべきかと足を踏み出せずにいたシャルロットに、ロウは意地悪く問うた。

 

まるで、お前も行って来いと言う様に・・・。

 

「ロウも・・・、セシリアも皆意地悪だ・・・、そんな事言われたら・・・、僕も行かなくちゃいけないじゃないかっ!」

 

本当は自分が一番飛び出したくて如何しようも無かったのだろう、彼女はロウの横を通り抜け、自分の愛機の元へと向かっていった。

 

彼女にも迷いは無く、ある種の覚悟が見て取れた。

 

「ったく・・・、世話の焼ける奴等だぜ・・・、だけど、こんなに想われて・・・、お前は幸せ者だよな、プレア・・・?」

 

誰もいなくなったブース内で、ロウは薄く笑みながらも天井を見上げて目を閉じた。

 

それはまるで、誰かの死を悼み、流れ出そうになる涙を堪えている様でもあった・・・。

 

sideout

 




次回予告

誰がため、何の為に彼は行くのか、彼の想いの先にあるものとは・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

プレアの想い 前編

お楽しみに~


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プレアの想い 前編

noside

 

L4、廃棄コロニー群が存在する宙域に、二機のMSの姿があった。

 

灰色の機体、カナード・パルスが駆るハイぺリオンと、トリコロールの機体、プレア・レヴェリーの乗るドレッドノート、通称Xアストレイだった。

 

プレアからの通信に呼応したカナードが、申し合わせたかの様にこの宙域までやって来て、彼を待ち受けていたのだ。

 

「やっと戦う気になったか、嬉しいぞ!」

 

決着を着けられる事への喜びなのだろうか、狂喜を滲ませた声で叫ぶカナードに、プレアは胸を締め付けられる様な感覚を抱いた。

 

改めて感じたのだろう、彼が元から抱えていた闇を、自分が更に大きく、そして深くしてしまった事に・・・。

 

「カナードさん、僕は戦いたくはない、今からでもコックピットを降りて話し合いましょう。」

 

だが、彼を倒すべきか分からないプレアは、あくまでも話し合いを求めるが、カナードは今更何を言うのかと言う風に、Xアストレイを掠める様にビームサブマシンガンを撃ちかけた。

 

「くどいぞ、お前も俺を止めるつもりなんだろう?ならば、戦って俺を止めてみるんだな。」

 

戦う事で、自分に何かを示してみせろとでも言っているのだろうか、カナードの言葉にはプレアを試す様な色が窺えた。

 

それに気が付いたのだろう、プレアは大きく息を吐き、決意を籠めた目を、画面越しの彼へと向けていた。

 

「分かりました、戦ってでも貴方を止めてみせます!」

 

「そうだ、それで良い、行くぞ!!」

 

プレアに戦う意志があると見るや否や、カナードが動いた。

 

アルミューレ・リュミエールを展開するつもりなのだろう、機体の各所より発生基が展開されてゆく。

 

「そうはさせないっ!行って!プリスティス!!」

 

アルミューレ・リュミエールが展開されてしまえば、それを貫く兵装を持たないXアストレイでは不利だと判断したのだろう、プレアはプリスィスを射出、ハイぺリオンに対して攻撃を仕掛ける。

 

だが、その攻撃が届くよりも先に光の殻が展開され、プリスティスのビームを弾き返した。

 

「無駄だっ!!一旦展開されたアルミューレ・リュミエールを破る方法などないっ!!無限の核のパワーもあるのだからなぁっ!!」

 

叫びながらも、ハイぺリオンを挟み込む様に展開してきたプリスティスを、彼は腕部の発生基の出力を変える事でビームサーベルを形成、内側からの斬撃で二基とも破壊した。

 

「今度はこちらから行くぞっ!精々落とされん様に逃げるんだなっ!!」

 

ビームサブマシンガンの弾丸をまき散らしながらも、彼は回避運動に入ったXアストレイを追い回し、フォルファントリー下部のコネクターに、背面に装備されている核エンジンユニット直結のエネルギー供給用のパイプを繋げた。

 

フォルファントリーは元々、装填方式を採っていたビームキャノンだが、そこにエネルギーを直結出来れば弾丸を装填せずとも発射可能となったのだ。

 

その大火力の光弾を、回避を続けているXアストレイへ向けて発射した。

 

「くぅっ・・・!?」

 

呻きながらも、プレアはシールドを犠牲にする事で光弾を逸らし、機体本体へのダメージを避けた。

 

「どうしたっ!?背中のデカブツはただの飾りかぁっ!!」

 

攻撃する手段を無くしたとは思わない、何せ、自分は嘗てそうして敗れたのだから・・・。

 

「Xアストレイ!僕にあの人を救う勇気をっ!!」

 

押され気味になった事で、プレアも新装備を、そして、この戦いの切り札たる四基のドラグーンを射出、フォーメーションを取りながらもハイぺリオンに向けて飛ばした。

 

「いいぞっ!戦えプレアっ!!」

 

やっと応戦してきた事に喜んだのだろう、カナードは嬉々として攻撃を続けていた。

 

まるで、この戦いにすべてを賭けているかの様な勢いで・・・。

 

sideout

 

noseide

 

二機の戦闘が行われている宙域から少し離れたポイントにて、カナードの母艦、オルテュギアが戦闘の様子を見守っていた。

 

今回はカナード自ら単独出撃を望んだために、他の隊員達は皆、ブリーフィングルームや、艦橋にて、彼等の戦闘の成り行きを見ていた。

 

「我々はパルス特務兵のサポートをしなくても本当に良いんでしょうか・・・?」

 

そんな中、メリオルと共に艦橋で戦闘を見ていた一人の男性兵士が、彼女に問い掛けていた。

 

如何に強いカナードでも、万が一という状況もあり得る、まして、敵は一度とは言えカナードに打撃を与えたのだ、用心した方が良いと思っているのだろう。

 

「彼は独りで戦う事を望んでいるのよ、私達が手を出すのは無粋だわ。」

 

「ですが、我々も加われば勝率は上がる筈です!」

 

戦いに出る必要はないというメリオルに、兵士は理解できないとばかりに食い下がるが、メリオルの目は、黙っていろと言わんばかりに彼を見ていた。

 

「彼は自分一人の力を試したいのよ、たとえその為に死んだとしても・・・、っ!?」

 

説明する様に話している最中、彼女は、カナードが抱いている真の想いに触れてしまった。

 

「(戦って死ぬ事を・・・?死に場所を求めていると・・・?彼は戦って死ぬ事を望んでいるの・・・!?)」

 

それが真実かどうかは分からないが、メリオルにはそうとしか思えなかった。

 

戦闘に執着する理由も、スーパーコーディネィターを超えるためでも、プレアという少年を殺す為でも無く、戦いの中で自身という存在を終わらせたいのだと考えれば何も不思議でないと・・・。

 

嫌な予感が、彼女の中では徐々に強くなってゆく。

 

「(プレア・レヴェリー・・・、どうか・・・、どうか彼を、カナードを殺さないで・・・っ!)」

 

だが、戦場にいない彼女に出来る事はなく、ただ、彼を想って祈る事しか出来なかった。

 

運命の子、プレアに自身の想いを託して・・・。

 

sideout

 

noside

 

苛烈を極める戦闘は、カナードの内にある闘争心を激しく掻き立てて行く。

 

ドレッドノートはドラグーンを駆使し、彼が撃ち掛ける弾丸をいなし、時折彼に攻撃を仕掛けてくる。

 

アルミューレ・リュミエールがあるとは言えど、ここまで自身と渡り合う事が出来た敵機は今までに無く、彼は沸き立つ心が命じるままに攻撃を繰り返していた。

 

「俺は戦い、勝利する事だけで存在を許されてるんだ!お前に負けたままなど、在ってたまる物かっ!!」

 

負けたままでは、自分は存在を認めて貰えない。

 

それは、彼がこれまで過ごしてきた闇その物だった。

 

戦いを強要され、その中で戦果を挙げる事で身を立ててきたのだ、それ以外の事など、考えも付かないのだろう。

 

「貴方には戦いも勝利も必要ありません!もっと他に生き方がある筈です!貴方は人々の理想、高い希望を持つ者・・・、スーパーコーディネィターなんでしょう!?」

 

プレアは、彼が何者なのかを知っていた。

 

人類の希望、高き望みである最高のコーディネィターの資質を持った者である事を。

 

「違う!!俺はその失敗作だ!!キラ・ヤマトを生み出す過程で生まれた出来損ないなんだよ!!」

 

だが、カナードはそれを否定する、そして告げる、自分はその失敗作である事を。

 

並のコーディネィターを超える能力を有していても、所詮は紛い物でしかなく、本物には遠く及ばないのだと・・・。

 

どちらも正しい言い分だったが、それ故に話は平行線を辿る一方だった。

 

「こんな力、戦う事以外の何に活かせる!?」

 

自分の持つ力が、カナードには戦い以外での使い道が見いだせなかった。

 

そのためだけに鍛え上げ、磨き上げてきたのだ、活かし方も知らねば、何をすれば良いのかも分からない。

 

故に、彼は戦い続ける事で、自身の能力を使ってきたのだ。

 

「生まれながらにそんな特殊な力を持ってるお前如きに言われる筋合いは無いんだよっ!!」

 

それに、彼は自然に生まれながらにして高い力を持つプレアにだけは、能力についてとやかく言われたくは無かった。

 

自分よりも年下の少年が、彼の攻撃を捌き、尚且つ反撃まで行おうとするのだ、カナードからしてみれば、スーパーコーディネィターの様な存在にも見えるのだ。

 

そんなプレアから能力について言われれば、必然的に彼は自分が出来損ないであると強く認識させられてしまうのだ。

 

だが、彼はプレアと言う少年の過去について、あまりにも知らなさ過ぎた。

 

何せ、カナードは彼と戦う事にしか興味が無かったのだから・・・。

 

「僕こそ・・・、僕は・・・、クローンなんです・・・。」

 

疲労と、細胞の機能停止による身体機能の低下に苦しんでいるのだろう、プレアは荒い息を吐きながらも、自身に課せられた運命を語った。

 

これまで、たった数人にしか、それも、自身の恩人と、姉同然の存在にしか語った事の無い、呪われた真実を・・・。

 

「僕のオリジナルになった人の・・・、この能力を欲した連合に創られた・・・!だけどっ・・・!!僕は兵器として生きるなんて嫌なんだっ!!」

 

プレアもカナードと同じ、戦いのために、人を殺すための兵器として創られた。

 

だが、彼は兵器として、限られた人生を生きるのが嫌だった。

 

そう思えたからこそ、素晴らしい友に、仲間に、そして姉達に出会う事が出来たのだ。

 

それをカナードに伝えるべくして、彼は今、こうやって戦っているのだ。

 

「お前もか・・・、面白い!俺達は同じモノだ!戦うべくして生まれた存在だ!!」

 

だが、プレアの願いはまだ、彼には届かない。

 

自分が違う生き方が出来ると思わない彼には、プレアが抱いている思いなど、考えもつかない次元にあるのだろう。

 

「お前のその力と、俺のスーパーコーディネィターとしての資質!!その全てをかけて戦おうじゃないか!!俺達は戦う事しか出来ないんだからなぁっ!!」

 

戦う事しか出来ないと、カナードは叫ぶ。

 

そうなるべきと強いられ、自分もそうであるべきと、目標を定めて戦い続けた。

 

だから、兵器としてしか生きられないと・・・。

 

「違う・・・!そんな事っ・・・!絶対に違うっ!!」

 

そんな事がある分けが無いと、プレアは叫ぶ。

 

自分もそうして創られ、戦いを強いられた存在だった。

 

だが、そうじゃない生き方も出来た、その温かさも知る事が出来たのだと・・・。

 

正しさなんてない、だからこそ、両者共に、自身の想いを、その強さをぶつけ合っているのだった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「プレア・・・。」

 

戦闘宙域から少し離れた宙域で、風花はセシリアの操縦するデュエルのコックピットから、友であるプレアと、彼の因縁の相手、カナードの戦闘の様子を見ていた。

 

本当は小型艇に乗り込み、一人でもここに来るつもりだったが、セシリアとシャルロットも、彼の戦いを見届けるために機体を出すと言ったので、彼女は姉同然の存在であるセシリアのデュエルに同乗して、この宙域までやって来たのだ。

 

光芒が煌めく度に、彼女の心はまるで鷲掴みにされた様な感覚を覚える。

 

プレアは無事なのだろうか、生きているのだろうか・・・・?

 

もし自分に力があったのならば、彼女は戦場に入り、彼を援護したいと思っているのだろう。

 

だが、今の彼女には力がない、物理的にではなく、精神的にも、そして年齢的にも・・・。

 

全てに於いて、足りない事尽くめな彼女は自分の無力さを恨んだ。

 

見届けると覚悟して出てきたつもりだったが、実際は飛び出したくて堪らなかったのだ。

 

「大丈夫ですわ、プレアさんはお強い、必ず、私達の下へと戻って来て下さいますわ・・・。」

 

そんな彼女を宥めようとしているのだろうが、セシリアの声も不安で震えており、自分とシャルロットが飛び出さぬ様に、互いで互いを牽制し合っていた。

 

彼の覚悟を穢さない様に・・・、そして、自分達の役割を果たすために・・・。

 

sideout

 

noside

 

「僕も貴方もっ!!何かを・・・!戦う事を決められて生まれて来た訳じゃないんだ!!この力も貴方の能力も!どう使うかなんて自分次第なんだ!!」

 

撃ちかけられるビームサブマシンガンの弾丸を、ドラグーンのビームで相殺しながらも、プレアはカナードヘと叫んだ。

 

生まれ持って何かを決められた人間はいない、自分の在り方は自分で決める事が出来ると・・・。

 

「生まれ持った宿命を消し去る事など出来ないっ!お前ならば分かると思っていたが、所詮は平和に馴らされたただの餓鬼か・・・!!」

 

だが、カナードは彼の言葉を否定する、生まれ持った宿命は消し去れないと・・・。

 

彼の脳裏には、自分が幼い頃の、研究所時代の光景が蘇っていた。

 

身体に繋がれたケーブル、自分を見る研究員達の目・・・。

 

全てが彼の抱えている闇だった。

 

故に、同じ様に作られ、戦う事を強いられていた筈のプレアの答えに、彼は失望していたのだ。

 

「戦う宿命に苦しめられたのは・・・、貴方だけじゃない・・・!」

 

彼の言葉に、プレアも自身の過去を思い返す。

 

コックピットを模した装置に縛り付けられる様にして座らされ、データを採るためのケーブルを身体中に突き刺された事もあった・・・。

 

その全てが、プレアには苦痛であった。

 

だが・・・。

 

「だけど・・・、貴方が否定する平和な暮らしが・・・!皆の想いが・・・!こんな僕を支えてくれているんです・・・!」

 

それを覆い隠して有り余るのが、彼に向けられていた、色んな人々から送られた温かく、そして優しい想いだった。

 

マルキオが、同じ時を過ごした孤児達が、ロウ達リ・ホームのメンバーが、風花が、そして、セシリアとシャルロットがくれた温かな想いこそが、こうして彼と共に在り、支えてくれているのだと・・・。

 

「想いの力だと・・・?そんな物が何になるっ・・・!!」

 

それに気づかないカナードは、まるで否定するかの様に攻撃を続ける。

 

そんな曖昧で抽象的な物が何になるのかと、信じられるのは自分一人しかいないのだと・・・。

 

「貴方は気付いていないだけなんだ・・・!貴方も人々の想いの中で生きてるという事を・・・!!だから・・・!!」

 

人は誰かの想いの中で自我を形成し、そうして生きている。

 

そう信じるプレアは、その想いをカナードヘと届けるべく祈る、そして、想う。

 

「僕も貴方のためを想うっ!!」

 

想いを籠め、彼が持てる力を振り絞り、ドラグーンをハイぺリオンの上下左右へ展開、先端にある砲口からフィールドを形成、アルミューレ・リュミエールごと彼を包み込んだ。

 

「な、何だ・・・!?このフォーメーションは・・・!?」

 

攻撃するためでもなく、自身を護るためでもなく、ハイぺリオンを包む様に展開されたフィールドに、彼は驚愕、いや、困惑した。

 

「これが僕の想い・・・、貴方を包む・・・。」

 

優しげな声で、プレアは告げる。

これこそが自分の想いであると・・・。

 

「想いだとっ・・・!?そんなものっ!!」

 

だが、カナードはそれを払おうと、一基のドラグーン目掛け、ビームサブマシンガンを発砲した。

 

この距離ならば外す事もないと思ったのだろうが、その目論見は外れる事になった。

 

弾丸はハイぺリオン自身が展開するアルミューレ・リュミエールに阻まれ、消滅した。

 

「た、弾が外に撃てないだと・・・!?モノフェーズシールドが機能していないのかっ・・・!?」

 

まさかの事に、カナードは硬直した。

 

ハイぺリオンの攻撃が、どういう訳かアルミューレ・リュミエールの外に出ないのだ。

 

これでは、彼は攻撃する手段を封じられたも同然であり、打開するためには、シールドを外さなければならないが、そうすれば必然的にハイぺリオンは無防備になり、ドラグーンの攻撃に曝される運命にあった。

 

なんとかして破壊しようと、彼は我武者羅にビームサブマシンガンを乱射するが、無敵を誇るアルミューレ・リュミエールを破る事は出来なかった。

 

「僕は貴方の殻を無理に抉じ開けようとは思っていません・・・、ただ、貴方を・・・、貴方の全てを包み込む・・・!」

 

抉じ開けるのではなく、すべてを受け入れて包み込む・・・。

 

そうする事で、彼のささくれ立った心を癒し、その心に巣食う闇を晴らそうとしたのだ。

 

「くっ・・・!このっ・・・!!」

 

そんな中、破壊できないならば振り切るまでと思ったのだろうか、ハイぺリオンはスラスターを吹かし、フィールドからの離脱を試みる。

 

それに気付いたプレアも、Ⅹアストレイのスラスターを全開にし、ハイぺリオンを追い、フィールドを維持し続けた。

 

機動力では、ハイぺリオンよりもドレッドノートの方が勝っているために、カナードは一向に逃げ切れなかった。

 

「振り切れない・・・!ならば・・・!!」

 

振り切れないならば、別方向からの衝撃で破壊なり、機能を停止させればと思ったのだろうか、彼は廃棄されたコロニーの一基に猛スピードで突っ込み、自己再生機能を持ったガラスを突き破りながらもコロニー内に侵入していく。

 

それを追い、プレアもコロニー内に侵入、カナードが進む先に目を向けた。

 

そこは大小様々な建造物の数々が立ち並んでおり、ハイぺリオンはそれらを破壊しながらも飛んでいた。

 

「カナードさん!!止まってくださいっ!!」

 

コロニーだけでなく、彼自身の事を神秘しているのだろう、プレアは言葉を走らせる。

 

「・・・っ!温かい・・・、それに強い・・・?これが・・・、想いの力なのか・・・?」

 

自分に流れ込む様にして伝わってくる優しく、それでいて力強い感覚を、カナードは感じていた。

 

同時に、それがプレアの想いである事も・・・。

 

だが・・・。

 

「くっ・・・!俺はそんなものなど・・・!受け入れんぞっ!!」

 

人の想いをどうすれば良いのか、どう受け取っていいのかを知らぬ彼は、プレアの想いを拒絶する。

 

想いなど、絶対的な力の前では無力、無意味なのだと・・・。

 

「そんなまやかし・・・!このハイぺリオンが吹き飛ばしてくれるっ!!フォルファントリー出力最大ぃっ!!」

 

核エンジンユニットより伸ばしたケーブルを、バインダー下部のコネクターに接続、エネルギーの充填を開始した。

 

「っ!?ダメだ!!止めろぉーっ!!」

 

カナードが何をしようとしてるのか分かったのだろう、プレアは止める様に叫ぶが、ハイぺリオンは一向に止まる気配がない。

 

その先に待つ運命は・・・。

 

「うぉぉっ!!発射ぁぁぁっ!!」

 

カナードは、躊躇う事無くトリガーを引き、フォルファントリーの光弾を発射した。

 

それは光の膜にぶち当たり、一瞬だけ拮抗するかの様に見えたが、シールド内で乱反射し、ハイぺリオンの機体を襲い、破壊してゆく。

 

「ぐぁぁぁぁぁっ!!」

 

その余波はパイロットであるカナードすら襲い、凄まじい衝撃の後、地表に激突した様な一際大きな振動が襲いかかった。

 

「カナードさん!!大丈夫ですか!?」

 

発生基が破壊されたのだろう、アルミューレ・リュミエールは解除され、地表は捥げ落ちたパーツの数々が散乱していた。

 

「自分で撃った弾にやられるとはな・・・、失敗作には相応しい終わり方、か・・・。」

 

何とか無事だったのだろう、カナードはヘルメットを脱ぎながらも、何処か諦めた様に呟いていた。

 

自滅という終わりながらも、彼は何処か納得しているのだ。

 

想いに力に、そして、それを拒み続けた自分自身の愚かさに・・・。

 

それと同時に、コックピット内にエマージェンシーを告げるアラートが鳴り響く。

 

恐らくは先ほどの攻撃で核エンジンが不調をきたしたのだろう、間も無く爆発すると、モニターには表示されていた。

 

だが、それを見て尚、彼はコックピットから出ようとしなかった・・・。

 

「(想いの力、か・・・、俺も違った生き方をしていれば、プレアの様になれたのか・・・?)」

 

自分が違った生き方をしていれば、想いを受け入れたならば、彼と同じ様に生きられたのかもしれない・・・。

 

そう気付いてももう遅い、ここが死に場所と、彼は瞳を閉じた・・・。

 

「カナードさんっ!!」

 

自分の名を呼ぶプレアの声に、彼は意識を現実に引き戻される。

 

何事かと思い、モニターを見ると、そこにはハイぺリオンへと猛スピードで向かってくるドレッドノートの姿が映し出されていた。

 

「プレア!?来るな!!核エンジンが暴走しているんだぞ!早く逃げろ!!」

 

自分でも気付かぬ内に、彼はプレアに逃げる様に伝えていた。

 

自分の道連れになる必要はない、と・・・。

 

だが、それでもドレッドノートは止まらない、彼に、カナードに手を伸ばしていた。

 

「貴方を・・・!こんな所で死なせはしませんっ!!」

 

「プレア・・・!」

 

敵対していた自分すらも助けるというプレアの声に、カナードは頭を叩かれた様な感覚を覚えた。

 

人は想いの中で生きている、だから、カナードも救いたいのだという、彼の心が、そのまま伝わってきたのだ。

 

「(もし俺に・・・、その資格があるなら・・・!)」

 

果たして自分にそんな資格があるかは分からない、だが、それでも彼は生きたいと願った。

 

カナードは弾かれる様にしてハッチを開き、そこからドレッドノート目掛けて飛び出した。

 

ドレッドノートの両の手が、プレアの想いが彼を包んだ瞬間、ハイぺリオンの核エンジンが爆発、その衝撃で、彼の意識は闇に包まれた・・・。

 

sideout

 

 

 




次回予告

プレアに訪れた宿命に、カナードは、セシリアとシャルロットは何を思うのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

X ASTRAY編最終話
プレアの想い 後編

お楽しみに~


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プレアの想い 後編

noside

 

「プレアーっ!!」

 

ドレッドノートとハイぺリオンが戦闘を繰り広げていたコロニーから、盛大な爆発光が発生し、暫くの間瞬きながらも消えて行った。

 

その光景を目の当たりにした風花は、その付近で戦っていた自身の友の名を叫んだ。

 

それは核爆発による物であり、他でも無く、どちらかの機体が破壊された事を物語っていたのだから・・・。

 

嫌な汗が彼女の背を伝い、落ちて行くのが鮮明に感じ取れたが、ここで叫んだ所でどうなるわけでも無い事ぐらい分かっていた。

 

その時、セシリアがフットペダルを強く踏み込んだのだろう、突如としてデュエルが動き出し、爆発光が瞬いていたコロニーへと向かって行く。

 

「セシリア・・・!?」

 

彼女の行動に驚いたのだろう、風花は声を上げながらもセシリアの顔を見た。

 

その表情には、変わらず悲しみの色が出ていたが、今は何処か焦りの色すら窺う事が出来た。

 

「急ぎませんと・・・!プレアさんは・・・っ!」

 

「セシリア・・・?」

 

セシリアの焦りの理由に合点が行かなかいのだろう、風花は困惑の表情を浮かべていた。

 

モニターを見てみれば、シャルロットのバスターもデュエルに追随し、コロニーへと向かっていた。

 

通信回線をあえて繋げていなかったために、シャルロットの表情を窺う事は出来なかったが、セシリアと同じく焦燥に駆られている事だけは伝わってきた。

 

風花は知らなかったのだ、クローンであるプレアに課せられた、もう一つの呪われた宿命を・・・。

 

風花が困惑している内にも二機はコロニーに接近し、穿たれた穴からコロニーの中へと侵入して行った。

 

そこに待ち受ける、非常なる現実を見つめるためにも・・・。

 

sideout

 

noside

 

コロニー内部は酷い有様だった。

 

元々廃棄されてから時間が経っていた場所であったために、人的被害は皆無であった。

 

だが、元々廃墟と呼ぶべき内部の施設や町並みは、ハイぺリオンの核エンジンが引き起こした核爆発によってかなりの広範囲に渡って破壊し尽くされ、更地同然と言う有様だった。

 

爆心地から程近い場所には、パーツごとに見れば何とか判別できる程度のハイぺリオンの残骸があちこちに散らばっており、爆発の凄まじさと威力を物語っていた。

 

そこから数十メートル離れた場所には、フェイズシフトダウンを起こしながらも損傷が見られないドレッドノートが、何かを庇う様な恰好で地に横たわっていた。

 

カナードを受け止めると同時に、機体を反転させながらも核分裂による誘爆を防ぐためにNジャマーキャンセラーを停止させ、PS装甲で灼熱を、そして機体で影を作る事でソニックウエーブからカナードを護ったのだ。

 

幸いな事に、防ぎ様の無い放射能は、核爆発によって穿たれた穴からの酸素流失によって宇宙空間へと流されて行ったお陰で、ドレッドノートの方には影響が少ないと思われた。

 

「うっ・・・。」

 

ドレッドノートの掌の中にいたカナードは、負傷こそすれど何とか動ける様であり、掌の中から這い出てきた。

 

それを認めたのだろう、胸部コックピットよりプレアが降り、ふらつく足取りで彼の前にやって来た。

 

どうやら、最早身体が言う事を聞かない様だ・・・。

 

「プレア・・・っ。」

 

全身に走る痛みを堪えながらも、カナードはバツが悪そうに彼の名を呟いた。

 

散々貶して存在否定を続けていた自分を、彼は身を呈して助けてくれたのだ、何をどう言えば良いのか分からなかったのだろう。

 

「よかっ・・・た・・・。」

 

カナードが無事だった事を感じ取ったのだろう、安堵した様な表情を見せた直後、プレアは地面に崩れ落ちた。

 

「プレア・・・!?おい、しっかりしろっ!」

 

突然プレアが倒れた事に驚きつつ、カナードは彼に駆け寄り、その小さな身体を抱き起した。

 

近付いてみて初めて気付いた、プレアの表情からは血の気が引いて青ざめており、呼吸も不規則になっていた。

 

それに加え目も見えなくなりかけているのだろう、焦点が合っていなかった・・・。

 

「時が・・・来たんです・・・、こうなる事は・・・分かっていました・・・、僕に施されたクローニングは・・・、不完全だったんです・・・、こうしている間にも・・・、細胞が・・・。」

 

「なんだと・・・!?そんな身体で戦っていたのか・・!?」

 

プレアの身体に秘められた秘密を知らされた彼は、一瞬の驚愕をその顔に浮かべるも、何処か困惑にも似た色が垣間見えた。

 

「何故俺を助けた・・・!?お前がそうまでして・・・っ!?」

 

なぜそんな身体で自分と戦ったのか、どうして命を縮める様な真似をしていたのか・・・。

 

そんな感情が、カナードの表情からは読み取る事が出来た。

 

「手を・・・、もう・・・目がよく見えないんです・・・。」

 

カナードが掴んでくれる事を期待してだろう、プレアは右手を掲げていた。

 

目が見えていないのだろう、その手は宙を彷徨い、行き先を見付けられないでいる様だった。

 

果たして、その手を自分が掴んでも良いのか、その資格がある人間なのだろうか・・・。

 

プレアの望みは叶えてやりたい、だが、何かが彼の腕を引き留めていたのだ。

 

そんな時だった、爆心地に穿たれた穴より、デュエルとバスターが姿を現し、彼等に近付いてきた。

 

地に膝をつけた機体のコックピットからは、セシリアとシャルロット、そして風花が出てきた。

 

「プレアっ!!」

 

彼女達は何も躊躇する事無くプレアへと駆け寄った。

 

セシリアとシャルロットは、カナードに対して警戒の色を見せるが、彼がプレアを抱き上げていた事で、ほんの僅かだがそれを緩めた。

 

「プレアさん・・・!しっかり・・・!」

 

「しっかりしなよ・・・!プレアっ・・・!!」

 

プレアの頬に手を触れ、彼女達は声をかけた。

 

その声は既に涙声になっており、彼の宿命を知っている彼女達にしか抱けない想いが籠っている様にも感じられた。

 

「セシリア姉さん・・・、シャルロット姉さん・・・、それに、風花ちゃんも・・・?」

 

三人の声に気付いたのだろう、彼はほんの少し嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

姉と呼ばせてくれる女性が、自分の事を友だと言ってくれた少女が、自分の死に際を見に来てくれたのだ、彼で無くとも嬉しいだろう。

 

「カナード・・・さん・・・、手を・・・、貴方も・・・。」

 

三人がそれぞれ彼の手や頬に触れる中、唯一彼に触れていなかったカナードへ、プレアは手を差し出した。

 

彼はそれに一瞬戸惑いを見せたが、セシリアがそうしてやってくれと言わんばかりの視線を向けていたため、彼はその手を取った。

 

「温かい・・・、姉さん達も・・・、風花ちゃんも・・・、貴方も・・・、こんなに温かい・・・、僕を包んでくれる・・・、みんなの想いの中にいるんですね・・・。」

 

カナードの手の温もりを感じ、彼は辛そうな表情を押し殺して微笑んだ。

 

それほどまでに、自分は今幸福なのだと・・・。

 

「こんな俺でも・・・、温かいのか・・・?そう生きていいのか・・・?」

 

自分でも・・・、戦いだけに生き、造られた命であるカナード自身が生きても良いのかと言う問いに、プレアは静かに頷いた。

 

それは肯定であり、彼にそうすべきだと言う様でもあった・・・。

 

だが、その間にも、彼の体温は徐々に下がってゆき、呼吸の音もどんどん小さくなっていった。

 

それは、プレアと言う人間が、死に向かっていると言う事に他ならなかった・・・。

 

「プレア・・・!」

 

「最期に・・・、皆が・・・傍にいてくれて・・・、嬉しかっ・・・た・・・。」

 

シャルロットの呼びかけに微笑み、彼は四人への感謝の言葉を最後に目を閉じた。

 

そして、途切れかけていた呼吸音が完全に途切れ、カナードが握っていた手が、力なく地へと落ちた・・・。

 

それはプレアと言う少年が、此処に短すぎる一生に幕を下ろしたという事に他ならなかった・・・。

 

「プレアっ・・・!プレアぁぁぁっ・・・!!」

 

風花は彼の亡骸にしがみ付き、声を上げて泣き叫ぶ。

 

初めてできた同年代の友の、早すぎる死を嘆いて・・・。

 

「プレアさん・・・、よく、頑張りましたわね・・・。」

 

「もう、戦わなくて良いんだよ・・・、だから・・・、おやすみ・・・。」

 

泣き声を堪えながらも、セシリアとシャルロットは彼のおでこに口づけし、肩を震わせて泣いた。

 

ほんの一時だけでも、弟になった者の、その死を悼んで・・・。

 

「何故だ・・・、何故プレアは死んだ・・・?誰かのクローンだからか・・・?クローンは死んでも良い人間なのか・・・!?」

 

そんな中、カナードは憤りを籠めた声を上げる。

 

何故プレアが死ななければならないのか。

 

その理由がクローンだからなのだとすれば、彼には到底受け入れる事は出来なかった。

 

「俺はどうなんだ・・?失敗作の俺は生き残っているじゃないか・・・!俺は他人を殺してでも生き残ると決めていた筈だ・・・、これが俺が望んだ結果だとでも言いたいのか・・・!?」

 

生きる為に他者を犠牲にして強くなる、それが、カナードが生きてきた道であり、行動理念でもあった。

 

今回も、結果を見れば彼は生き残り、敵であるプレアは命を落とすと言う物だ、彼の勝利である事には変わりは無かった。

 

だが、今のカナードには、それがどうしても受け入れられなかった。

 

死を覚悟して自分を止めてくれた少年に、自分が本当の意味で負けたと気付いていたのだから・・・。

 

彼自身が気付かぬ内に涙が零れ落ち、プレアの服を濡らした。

 

それは、敗北への悔し涙ではなく、プレアと分かり合えなかった、分かろうとして来なかった自分自身への後悔の涙だったのだ。

 

「俺は・・・!俺はこれからどう生きて行けばいいんだ・・・っ!うぅぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

咽が張り裂けんばかりの声を上げ、彼は泣き崩れた。

 

それはただ、コロニー内に反射して虚しく響くだけで、誰も、その声に答える事は無かった・・・。

 

sideout

 

noside

 

アメノミハシラのとある部屋に、サーペント・テールのメンバーが集まっていた。

 

劾がプレアを案内した後、セシリアを保護した礼としてロンド・ミナ・サハク及び、織斑一夏両名から補給を兼ねて母艦ごと迎え入れられ、風花の帰りを待っていた。

 

任務報告を聞くだけではない、彼女が体験してきた事へのケアも兼ねていた。

 

そんな彼等が待つ部屋に、セシリアと共に風花が入って来た。

 

その表情は暗く、まだ涙の痕が僅かに残っている事が見受けられた。

 

「よぉ、お帰り風っぱな。」

 

それに気付いているのか否か、リードは相変わらず酒瓶を掲げ、彼女を迎えていた。

 

「どうした?元気無いな?」

 

そんな彼とは対照的に、イライジャは風花の元気がない事に気付き、心配そうに声を掛けていた。

 

ロレッタは彼女に心配そうな表情を向けるも、今は何も言うべきでは無いと判断したのだろう、何も言わずに彼女の方を見ていた。

 

「ううん、なんでもないよ・・・、劾、任務の最後の報告を・・・。」

 

そんな彼等の想いに気付いたのだろう、風花は笑みを取り繕い、目の前に立つリーダー、叢雲 劾に報告すべく表情を引き締めた。

 

彼女の様子に、セシリアは気遣わしげな表情を向けるが、劾は心配いらないとばかりに頷き、風花と向かい合った。

 

「ドレッドノートとハイぺリオンはL4宙域の廃棄コロニー群で戦闘、ハイぺリオンは核エンジンの暴走で大破するも、パイロットのカナード・パルスは生存・・・、プレアは・・・。」

 

戦闘の経過を説明しながらも、プレアの話になると堪え切れなくなったのだろう、彼女は大粒の涙を零した。

 

それを知っているセシリアもまた、瞳を潤わせながらも堪える様にして唇を噛みしめていた。

 

ここで自分が泣いてしまったら、風花が報告し終わる前に泣き崩れてしまうと思ったのだろう、故に、彼女は涙を堪えているのだ。

 

「プレア・レヴェリーは死亡・・・!Nジャマーキャンセラーは、カナード・パルスの手で地球に・・・!!」

 

何とか、自分の役目を果たそうと必死なのだろう、風花は涙を流しながらも報告を終え、劾を見た。

 

これで良いかと、もう泣いても良いのかと・・・。

 

「ミッション・コンプリートだ、よくやった、風花。」

 

もう堪えなくて良いんだと言う様に、劾は彼女の肩に手を置き、優しく微笑んだ。

 

その笑みに、最後の一線が崩れたのだろう、風花は火が着いた様に声を上げて泣いた。

 

「プレアが・・・!プレアがぁ・・・!!」

 

劾にしがみ付いて泣く彼女を慰める様に、ロレッタは彼女の身体をあやす様に抱き締め、リードとイライジャは、プレアの死を悼む様に目を閉じていた。

 

プレアの、少年の短すぎる人生を嘆くサーペント・テールのメンバーをしばし眺めた後、セシリアは、気付かれぬ様そっと部屋を後にした。

 

廊下に出た彼女は、気を抜けば溢れそうになる涙を必死に堪え、自分が戻るべき場所へと走った。

 

とある部屋に辿り着き、その中に入ると、ベッドに腰掛け、今にも泣き出しそうな表情のシャルロットと、神妙な面持ちで三人分の紅茶を用意する、彼女の愛しき人、織斑一夏の姿があった。

 

シャルロットはセシリアを見るや否や、アメジストを思わせる美しい瞳から涙の雫を零していた。

 

盟友の涙に釣られそうになるが、彼女はまだ泣くべきでは無いとばかりに堪え、一夏に向き直った。

 

「一夏様・・・、この件につきましては・・・。」

 

「シャルから大体の事は聞いたよ、お前達には辛かっただろうな。」

 

報告しようとするセシリアの言葉を遮り、普段と何一つ変わらない声で話す彼の言葉に、彼女は僅かな憤りを禁じ得なかった。

 

彼がプレアに会った事が無い事は承知している、だが、何故平然としていられるのか、彼はまだ、嘗てのままなのかと言う想いが、彼女の中で渦巻いていた。

 

「・・・、貴方様は・・・、泣いてくださらないのですか・・・?プレアさんと・・・、私達の弟と関わりが無かった事は存じております・・・、ですが・・・!!」

 

彼にも泣いて欲しかった。

 

プレアと言う少年の覚悟の末を、その輝いた命の痕跡を知って欲しかった。

 

泣かずとも、せめてその死を悼んで欲しかったのだろう、彼女はこれまでした事も無い表情で一夏を睨み付けた。

 

「俺が泣けば、ソイツは喜ぶのか・・・?」

 

「えっ・・・?」

 

ただ、黙って彼女の言葉を聞いていた一夏が振り向きざまに放った言葉に、セシリアとシャルロットは驚いた様に顔を上げた。

 

彼の言葉の真意が分からない訳じゃない、寧ろ、分かっているからこそ驚いているのだろう。

 

「面識の無い俺が泣いたとしても、プレアとやらは喜ばんさ、アイツを想い、共に過ごしたお前達が泣いてやる事が、アイツにとって嬉しい事なんじゃないのか?」

 

自分が泣かずとも、彼女達はそれぞれの意志で泣く事が出来る、人間に戻ったのだ、嘗ての様に三人全部同じという訳では無いのだから。

 

彼女達もそれに気付いていない訳では無い、彼が自分達が感じている痛みを感じていない事からも、経験してきた別れも違う事からも分かり切っている事だったのだ。

 

「だから、お前達は泣け、遠慮する事なんてないさ、俺が受け止める、お前達の涙も、悲しみもすべて、な?」

 

俯く二人に近づき、彼は彼女達の身体を抱きすくめた。

 

泣くなら自分の胸で泣け、そう言っている様にも感じられた。

 

「うぅっ・・・。」

 

「うぁぁ・・・!」

 

その優しさに、堪えていた想いが零れたのだろう、セシリアとシャルロットは彼の胸に顔を埋め、声を上げて泣きじゃくった。

 

自分達を、数えきれない程の罪を犯してきた自分達を姉と呼び慕ってくれた少年の、その命の痕跡を慈しむ様に、そして、あまりにも早すぎた別れを嘆く様に・・・。

 

そんな彼女達の背を優しく、あやす様にさすりながらも、一夏は瞳を閉じた。

 

自分は出会う事の出来なかった、その少年の死を悼む様に、そして、彼が慕った女達を、自分が護っていくと誓う様に・・・。

 

sideout

 

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L4宙域での決戦から一か月後の十月上旬、カナードはオーブ近海の孤島にある、マルキオ邸に隣接する教会にいた。

 

スーパーコーディネィターの資質を持っていた彼は、戦闘で負った傷を僅かな期間で癒し、彼のために戦い、その意味を教えた少年が身に着けていた首飾りを持って、マルキオ導師の下を訪れていたのだ。

 

「プレアが望んでいた、Nジャマーキャンセラーを俺が届けに・・・。」

 

「はい。」

 

目の見えないマルキオに、プレアの首飾りを手渡し、カナードは自分がやって来た理由を話した。

 

もうこの世にプレアはいない、だから、せめて彼に関わった者の務めとして、カナードは地球へ降り立ったのだ。

 

彼から首飾りを受け取ったマルキオは、何処か慈しむ様に微笑み、首飾りを撫でた。

 

それはまるで、自分の下へ帰ってきた少年を迎える父親の様であった。

 

「プレアの死についてだが・・・。」

 

そんな彼の様子にいたたまれなくなったのだろう、カナードは声のトーンを僅かに落とし、申し訳なさそうに言葉を紡ごうとした。

 

だが、その先の言葉をどう続けて良いのか、彼には分らなかった。

 

プレアが死んだのは、自分に関わりすぎたせいだと知っている。

 

自分と関わらなければ、彼はこの地で最期を迎える事が出来たかもしれない。

 

そう思うと、カナードはどの様な言葉を続けて良いのか、まったく分からなかった。

 

「それ以上は良いのです。」

 

そんな彼の言葉を遮る様に、マルキオは優しげな声で語った。

 

「貴方がプレアの死にどう関わったかは問題ではありません、私には分かります、プレアの想いは貴方に受け継がれています、ですから、彼の死は無駄ではなかったと感じられます。」

 

カナードがプレアとどういう関係だったかは関係無い、ただ、プレアという少年の想いを、カナードがしっかりと心に留めてくれている事が大切なのだと・・・。

 

「プレアの想いが・・・、俺の中に・・・。」

 

マルキオの言葉に、カナードは自分に言い聞かせる様に呟いた。

 

プレアの想いを、ただ一人の人間として生きる事の大切さを、今一度確かめる様に・・・。

 

「私の眼には光が射しません、その代わりに、人には見えない物が見えると感じる時があります、そして、貴方の傍にはプレアがいます、それを忘れないでください。」

 

彼の呟きに頷き、マルキオは言葉を紡いだ。

 

人には見えぬモノとなったプレアは、今もまだ、カナードの傍にいると、それを忘れずに生きて欲しいと・・・。

 

その言葉に頷いた彼は、マルキオに別れを告げた後に背を向け、浜辺を歩き始めた。

 

深夜に近いという事もあり、人の気配は全くなく、月明かりに照らされた砂浜と、耳に心地好い波の音が続くばかりだった。

 

──貴方がキラという人を殺したとしても、貴方が他の誰かになれる訳じゃないんです、貴方は貴方ですから──

 

そんな中、彼の耳に誰かの声が飛び込んできた。

 

聞き覚えのある声に辺りを見渡すが、そこに人影はなく、ただ白い砂浜が続いているだけだった。

 

だが、それでもカナードはその声の主に気付いていた。

 

この世界から消えてしまった少年が、魂だけになっても自分に語りかけてくれたのだと・・・。

 

「そうだな・・・、俺は俺だ、プレア・・・、俺は俺が行く道を探そう、お前がそうしたように・・・。」

 

星の煌めく夜空を見上げながらも、彼は呟いた。

 

自分は自分だと、そして、これからやる事があると・・・。

 

他の誰でもない、自分自身というものを探すために、彼は歩き続ける。

 

逝ってしまった少年を追いかけ、彼の様に輝くために・・・。

 

sideout




はいどうもでーす!

X ASTRAY編の完結です、とは言え、これからもこの作品は続いていきます。

それでは次回予告

戦いの渦が絶えぬ地球圏に、彼は何を追い求めるのか。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

第二章 南米戦争編

戦場ジャーナリスト

お楽しみに~


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第二章 南米戦争編
戦場ジャーナリスト


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C.E.71年9月末、地球衛星軌道上に位置する宇宙要塞、アメノミハシラ。

 

そこはロンド・ミナ・サハクが治める宇宙要塞であり、看過できない程の戦力と、オーブのモルゲンレーテに匹敵する規模のファクトリーを有しており、様々な勢力から狙われている重要拠点でもあった。

 

その宙域からほど近い場所に、一機のMSの姿があった。

 

その機体は、ジャンク屋組合から発売された作業用MS,レイスタであった。

 

つい数週間前に終了したヤキン・ドゥーエ攻防戦までの期間に発生した大量のMSのジャンクパーツを回収し、再利用できるパーツを繋ぎ合せて製造された機体だ。

 

今、その宙域にいる機体は、一瞥するだけでは元となったM1アストレイにも酷似していたが、背面に追加されたスラスターや、両手で保持しているガンカメラから別機体である事が判る。

 

「よっし、感度バッチリだ、ここからなら撮影できるぞ!」

 

そのコックピットの中で、黒髪の先のほうが金色に染まった特徴的な髪を持った青年がカメラスコープを覗きながらも呟いていた。

 

服装や乗っている機体からして、軍人では無い事が判る。

 

彼の名はジェス・リブル、MSに乗り、世界を見て回るナチュラルのフォトジャーナリストだった。

 

尤も、彼の取材先は主に戦場やそこにいる住民や兵士であるため、戦場ジャーナリスト的な側面が強いのだが・・・。

 

だが、本人にとってはそれが本望、誰も知らない様な場所へ行き、そこで起きた事をありのままで世界に伝える事、彼はそれを信条にしているのだ。

 

「さて、マティアスの情報だとそろそろ来る頃か?」

 

ガンカメラのズーム機能を使用し、彼はアメノミハシラ付近に展開する守備隊を写す。

 

どうやら、アメノミハシラ側も彼と同じ情報を掴んでいるのだろう、既に防衛体制が出来上がっていた。

 

その様子を見詰めながらも、彼は数日前に依頼された内容を思い出していた・・・。

 

sideout

 

side回想

 

一週間前、ジェスは地球にあるとある屋敷に出向いていた。

 

その一室、広間にジェスは呼び出され、彼のクライアントである人物、サー・マティアスと向かい合っていた。

 

「と言う訳で、今回は宇宙での取材なのよ、MSに乗れるジャーナリストの君に頼しか頼めないのよ、引き受けてくれるから?」

 

椅子に腰かけ、ジェスに依頼をするマティアスは、情報を集め、それを基に連合やザフトに対しての交渉のカードとして利用するといった事を生業としており、ジェスはフリージャーナリストであるが故に拠り所を持たなかったため、彼を雇う事で生の声や実情を知る事が出来る様になったのだ。

 

「ユーラシア連邦がオーブのアメノミハシラを攻める・・・、確かなのか?」

 

何度も彼の依頼を引き受けた事のあるジェスだったが、あまりにも先を行くマティアスの情報には最初は疑問にも思う事がしばしある。

 

だが、それらは現実に存在し、発生する事が確かだったため、彼はマティスの情報力の凄まじさを改めて実感していたのだ。

 

「えぇ、まだ公に・・・、と言うより、隠密作戦に近い形ね、当事者以外誰も知らないでしょう。」

 

彼の疑問に答える様に、マティアスは確信めいた言葉を織り交ぜながらも話した。

 

隠密作戦であると言う事は、その情報を、証拠となる瞬間を押さえておけばこれもまた一つの交渉カードとして使用できる、それに気付いたのだろう、ジェスは表情を輝かせながらも頷いた。

 

「分かったよ、マティアス、悪いけどまたMSを用意してくれないか?」

 

「分かったわ、直ぐに手配させましょう、貴方、あたしのタイプだから♪」

 

了解したジェスにウインクしつつ、彼はMSの手配を約束していた。

 

そのオカマの様な口調に今だ慣れていないのだろう、ジェスは苦笑とも愛想笑いとも取れる笑みを零しながらも、部屋から出て行った。

 

sideout

 

noside

 

「今回の依頼も、誰も知らない情報って言ってたな・・・、何時もながら、マティアスの情報網には恐れ入るよ・・・。」

 

依頼された時の様子を思い返しながらも、彼はアメノミハシラの周囲に気を配った。

 

第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦から既に半月が経過し、停戦に向けての準備が進められているが、それは所詮、再び訪れる動乱への準備でしかなかったのだ。

 

そして、今回のターゲットとなるのは、巨大なファクトリーを有するアメノミハシラと、それを狙うのが前大戦で多くの兵力と月面基地を失った連合軍であるという。

 

考えてみれば有り得ない話ではない、宇宙での生産工場の中でも、中立的立場かつ巨大な設備を有しているのは、アメノミハシラ以外に存在しない、手っ取り早く使える場所にこれ以上と無い場所でもあった。

 

彼がそう考えていると、スコープの先で一機のM1Aアストレイが動き、虚空に向けてライフルを発射した。

 

誤射ではない、その射線の先には幾つものスラスター光が見て取れ、アメノミハシラへと向かって行く。

 

「来たか!!」

 

ズーム機能を使用し、向かってくる機影を写す。

 

そこには、ざっと見て30機近い数を誇るストライクダガーの大軍が展開しており、アメノミハシラを守るM1A部隊と交戦に入っていた。

 

物量で勝るユーラシアの部隊だが、練度は然程高くない様で、少数ながらもエースパイロット級を揃えるM1A部隊と拮抗していた。

 

「ユーラシアは相変わらずの物量戦か・・・、だけど、防衛隊側が不利か・・・?」

 

その戦闘の様子を覗きながらも、ジェスは戦力差を分析していた。

 

確かにアメノミハシラのMS隊は精鋭揃いではあるが、所詮は私兵団、連合の様な大部隊を揃える事は出来ない。

 

故に、現在展開しているユーラシアの戦力の半数にも満たないアメノミハシラ側の状態を心配しているのだろう。

 

だが、そんな彼の不安を否定する様に、アメノミハシラから更にMSが出撃してきた。

 

「ソードカラミティにレイダーか!これは良い画になる!」

 

珍しいMSの出撃に興奮しているのだろう、彼は表情を輝かせながらもカメラを回した。

 

そんな彼の目の前では、戦列に参加したソードカラミティとレイダーがストライクダガー部隊と交戦に入っていた。

 

かなりの腕のパイロットが乗っているのだろう、コックピットやバイタルエリアを避けながらも、二機は的確にダメージを与え、ダガーを次々に退けて行く。

 

「これはアメノミハシラが有利・・・、ん・・・?」

 

このままユーラシア劣勢のまま終わると思っていたジェスの視界の端に、何かが映り込んだ。

 

彼はその方向へとカメラを向けると、MSが二機、凄まじい勢いでソードカラミティとレイダーへと突っ込んで行くのが見えた。

 

それは、それぞれのパイロット専用を現すパーソナルカラーに塗装された、ソードストライカーを装備した105ダガーだった。

 

「黒と赤のダガー・・・!?なんて速さだ!!」

 

黒いダガーはシュベルト・ゲベールを両手に保持し、赤いダガーはマイダス・メッサーを右手に保持していた。

 

彼の目の前で黒いダガーはソードカラミティに急接近、回避しようとするカラミティの両腕を切り裂いた。

 

その付近では、赤いダガーがパンツァー・アイゼンを射出し、レイダーの頭部を掴み、自身の方へと引き寄せながらもビームブーメランで頭部を切断していた。

 

それは、まさに一瞬の内に起こり、瞬きをしている間に終わっていた。

 

「一瞬で・・・!?なんだあの二機は・・・!?」

 

あまりの手際に、ジェスは驚愕した。

 

エースパイロットなんて生易しい物ではない、あの二機に乗っているパイロットは只者では無いと言う事しか、彼には分かり得なかった。

 

戦闘不能になったソードカラミティとレイダーにトドメを刺すつもりなのだろう、黒と赤のダガーは得物を構え、虚空を漂うだけの二機へと突っ込んでゆく。

 

墜とされる・・・!!

 

そう思った彼の目の前で、何処からか飛来した弾丸が二機のダガーの行く手を阻む。

 

威嚇射撃だったのだろう、進路に撃たれただけで直撃させる様な気配は微塵も無かった。

 

「何処から・・・!?」

 

慌ててカメラのズーム機能を使用してみると、アメノミハシラの傍に三機のMSの機影が確認できた。

 

「あれはデュエルにバスター・・・、それにストライク・・・!?」

 

その三機は、少し軍事を知っている人間であるなら常識と言われる機体だった。

 

GAT-Ⅹ102 デュエル

GAT-Ⅹ103 バスター

 

そして、GAT-Ⅹ105 ストライクだった。

 

大西洋連邦が最初に造った試作型MSであり、前大戦では連合、ザフトにおいて多大な戦果を挙げた機体達だった。

 

「何故あの機体が・・・!?それにストライクの装備・・・、あんなの見た事無いぞ!!」

 

デュエルとバスターは彼も資料映像で何度か目にした事があり、その装備の特徴は掴んでいたが、ストライクが背面に装備している物は、彼にとっては初めて目にするものだった。

 

驚愕する彼の目の前で、ストライクは腰元から二本の実体剣を引き抜き、黒いダガーへと向かってゆく。

 

それに応じたのだろう、シュベルト・ゲベールを構えた黒いダガーも動きだし、ストライクとの距離をどんどん詰めて行く。

 

四本の対艦刀がぶつかり合い、閃光を散らして辺りを一瞬照らしていた。

 

ストライクのパイロットもかなりの腕を持っているのだろう、ソードカラミティを一瞬で屠ったダガーを相手に拮抗状態に持ち込んでいた。

 

それを脇目に、赤いダガーとデュエル、そしてバスターも交戦に入っていた。

 

デュエルはビームサーベルで赤いダガーに切りかかり、バスターは回避した所に砲撃を加え、徐々に追い込もうとしていた。

 

だが、そう簡単に墜とされる気は無いのだろう、赤いダガーはそれら全ての攻撃を捌き、デュエルと切り結ぶ。

 

「なんて・・・、なんて戦いだ・・・!!すげぇ!!」

 

目の前で繰り広げられるエースを超えたパイロット同士が織り成す戦闘に、ジェスは目を奪われた。

 

殺し合いだと分かってはいる、だが、その事を忘れさせる様な凄まじさが目の前の戦闘にはあった。

 

それを見逃してはならないと感じたのだろう、彼はカメラを回し続けた。

 

だが、そんな熱気に水を差すかのごとく、レイスタのコックピットにアラートが鳴り響く。

 

「なんだ・・・!?これはMS反応!?」

 

彼が計器を見ると、アメノミハシラへ接近してゆく反応があった。

 

一機や二機ではない、一個中隊クラスの戦力だ。

 

「この角度は・・・、アメノミハシラの直上!?別働隊がいたのか!!」

 

反応があった方向へとカメラを向けると、そこには幾つものスラスター光が確認できた。

 

なるほど、守備隊が戦っていたのは陽動、本命は直上から攻め入る部隊だったのだ。

 

アメノミハシラ直上には守備隊は展開しておらず、全くの無防備と言って良い、完全に裏をかかれている様にも見えた。

 

ストライクや他の防衛部隊は陽動側の敵機と交戦しており、迎撃に向かう事が出来ない。

 

「このままじゃ・・・!アメノミハシラが墜ちる!!」

 

その時だった、もう間もなくアメノミハシラに取り付こうとしていたストライクダガーが四肢を寸断されてゆく。

 

「なんだ・・・!?」

 

何もない筈の空間から攻撃が次々に繰り出され、接近していたユーラシアの機体を戦闘不能へと追い込んでゆく。

 

しかも、その全てが武装や手足のみを破壊し、コックピットやその周辺には全く当たっていなかった。

 

『我が名はロンド・ミナ・サハク、連合の兵よ、何故我が城を攻める?』

 

困惑する彼の耳に、涼やかな女性の声が届く。

 

それと同時に、奇襲部隊の前方の空間が揺らめき、金色のフレームを持った黒き機体が姿を現した。

 

「あれがゴールドフレーム・・・!ロンド・ミナ・サハクか!!」

 

彼はその機体に乗る人物を知っていた。

 

天空の城を守護する女王、オーブのロンド・ミナ・サハクとその機体、ゴールドフレーム天ミナ。

 

先程の攻撃も、ミナの卓越した技量で敵機にダメージを与えていたのだと、彼は気付いた。

 

『こちらはモーガン・シュバリエ!そちらのファクトリーを提供して頂きたい!!』

 

驚愕と興奮に打ち震える彼に、新たな声が届く。

 

「モーガン!?月下の狂犬まで出て来たのかよ!!」

 

彼の目の前には、ガンバレルストライカーを装備した105ダガーの姿があり、損傷した味方を庇う様にゴールドフレームと対峙していた。

 

どうやら、今回の作戦においてのユーラシアの指揮官はモーガンの様だ。

 

まさかの展開に、ジェスは身を乗り出した。

 

ロンド・ミナが出てくる事は予想していたが、モーガンが出てくるとは思っても見なかったのだろう、カメラを覗き込む彼の表情は輝いていた。

 

『・・・っと言っても無理な話だと分かっている、すまないな、上層部の一部が軍需産業の社員に唆されているんだ。』

 

『そうと知りながらも戦うか?』

 

『軍人だからな、命令には逆らえんさ。』

 

オープンチャンネルで通信しているのだろう、モーガンの苦笑交じりの声と、ロンド・ミナの探る様な声が彼の耳に届く。

 

どうやら、この作戦を実行するに至った経緯を話しているようだが、そう簡単に話しても良い事なのだろうかとジェスは首を傾げた。

 

『そちの立場は分かった、この私が相手をしてやろう。』

 

『ありがたい!傭兵の御二人さん!これは俺の戦いだ、手出し無用で頼むぜ!!』

 

彼女の申し出に答え、モーガンは黒と赤のダガーに向けて通信を入れた。

 

どうやら、あの二機は傭兵が乗っていたらしいが、今の彼にはそんな事はどうでも良かった。

 

「これは・・・!世紀の対決だっ!!」

 

たった今、彼の眼前で行われようとしているのは、世間に名の売れたパイロット同士の戦いだ、その戦闘能力も、並のパイロットの比ではない。

 

そんな者達の戦闘が始まるのだ、若干戦闘マニアの気があるジェスにとっては、取材以上に自信が撮りたいと思える画なのだろう。

 

『行くぞ!!』

 

宣言と共に、モーガンはガンバレルを四基とも射出、ゴールドフレームの周囲へと展開させ、同時攻撃を開始する。

 

その攻撃は面と呼んでも差し障りが無いほどに多く、並のパイロットでは回避する事すら出来ぬだろう。

 

だが、ミナほどのパイロットともなれば回避する隙間など幾らでも探し出せるのだろう、ゴールドフレームはステップでも踏むかの如く弾丸の雨を回避し、ガンバレルを撃ち落そうと攻撃を仕掛ける。

 

その様子はまさしく、エースを超えた者が織り成す、美しくも苛烈な戦いだった。

 

「ミナもモーガンもすげぇパイロットだ・・・!いつかインタビューしてみたいぜ!!」

 

エースパイロットとしての彼等ではなく、一人の人間としての彼等の生の声が聴きたい、ジェスはそう願ってやまなかった。

 

人の声を聞き、その人物達と関わる、その事を世界へと伝えたいと言う想いに裏打ちされた願いでもあった。

 

だが、いくらそう願えども目の前で起こっている事は殺し合い、謂わば紛争に近しい物だった。

 

『くっ・・・!!』

 

ミナの正確無比な射撃が105ダガーを襲い、ガンバレルが瞬く間に二基破壊された。

 

「ガンバレルがやられた!モーガンがやばいっ・・・!!」

 

このままでは彼が負ける!

 

そう思うジェスの目の前では、ゴールドフレームが腰に付けていたレイピアを抜刀、残った二基のガンバレルを破壊、トドメを刺そうと105ダガーへと向かってゆく。

 

「・・・っ!!やめろぉーっ!!こちらジャーナリストのジェス・リブルだ!!モーガン!この戦いはアンタの負けだっ!!」

 

折角の人物が死ぬのが耐えられないのだろう、ジェスはレイスタを操縦し、二機の間に割り込みながらもオープンチャンネルで叫んだ。

 

『フッ!とんだ珍客のお出ましか?だが、貴様の言う通りだ、我々は負けた、ロンド・サハク、撤退を認めてはくれないか?』

 

彼の登場に苦笑しながらも、モーガンは時が来たと言わんばかりにロンド・ミナに尋ねていた。

 

『見事な判断だ、撤退を認めよう、追撃せぬよう、全機に達しておこう。』

 

「えっ・・・!?そんなあっさり・・・!?」

 

敵の撤退を嫌にあっさり認めたミナの言葉が信じられなかったのだろう、いくら止めに入った身とは言えど、ジェスは驚きを禁じ得なかった。

 

『部下を殺さない配慮に感謝する、次こそは本気で頼むぞ、ははは。』

 

MSで器用に敬礼し、モーガンは部下と傭兵二人を引き連れて撤退していった。

 

「何故・・・、っ!そうか!分かったぞ・・・!!」

 

何故モーガン達の撤退を認めたのか、その理由を考え付いたのか、ジェスはハトが豆鉄砲を喰らった様な表情をしていた。

 

先程、モーガンは上層部が軍需産業に唆されていたと言っていた、つまりは、彼にとっても納得がいかない命令であると言う事だと・・・。

 

「モーガンは初めから負けて撤退するつもりだったのか・・・!ロンド・ミナもそれを察して・・・!何てすげぇ奴等なんだ・・・!!!」

 

最初の一言を交わすだけで、刃を交えるだけで意志の疎通が出来てしまう、そこに痺れたのだろう、彼は目を輝かせ、撤退していくモーガンを見送り、ゴールドフレームに振り返った。

 

既にM1Aやデュエル、バスターはアメノミハシラへと戻って行こうとしていた。

 

それを確認したのだろう、ミナも機体を反転させ、帰還しようとしていた。

 

戦闘は終了したために、ジェスの仕事も終了した、ここに留まる必要は無い。

 

だが、目の前には己の信念を持ったエースパイロットがいる、こんな機会はまたと無いチャンスだった。

 

「待ってくれロンド・ミナ!!取材させてくれーっ!!」

 

それを無駄にはしたくなかったのだろう、彼は機体を動かし、ミナへと近づいて行った。

 

だが・・・。

 

『待て、ジャーナリスト、ミナに取材したいのならまずは事務所を通してもらおうか。』

 

「誰だ・・・!?」

 

突如若い男性の声がジェスの耳を打つ。

 

モニターを見ると、ストライクがレイスタとゴールドフレームの間に割り込み、レイスタの肩を掴んでいた。

 

どうやら、ストライクのパイロットが彼に接触通信を入れてきた様だ。

 

その声には僅かな警戒の色が窺えたが、ジェスを即座にどうこうしようという様な雰囲気ではなかった。

 

「ストライク・・・!さっきの黒い奴と戦っていた奴だよな?聞こえてるか!?俺はアンタにも取材したいんだ!頼むよ!!」

 

乗っている人間を知っている訳じゃないが、それでも、自分の目の前で凄まじい戦闘を見せた人物の、その本当の姿を見たいと言う想いが彼にはあった。

 

『俺にもだと・・・?どういうつもりだ・・・?』

 

ジェスの申し出の真意が分からなかったのだろう、ストライクのパイロットである男性は困惑の色が混じった声を零していた。

 

『良いではないか一夏、通してやれ、私は構わぬよ。』

 

ジェスの事に興味を持ったのだろうか、ロンド・ミナはストライクの肩に手を置きつつも取材を受け入れる様な言葉を発していた。

 

「ホントか!?ありがとう!!」

 

こうもあっさりと取材がもらえるとは思っても見なかったのだろう、ジェスは表情を輝かせていた。

 

写真を撮る事はもちろん好きだが、彼にとっては生の人間の言葉を聞く事こそ喜ばしい事なのだろう。

 

『私は先に戻る、ジャーナリストの案内は任せたぞ一夏。』

 

ストライクのパイロットに案内を任せ、ミナはゴールドフレームをアメノミハシラに向けて去って行った。

 

『はぁ・・・、ミナの奴・・・。』

 

自分に役目を押し付ける様なミナに、頭痛でもするのだろうか、パイロットの男性は盛大なため息を零していた。

 

『まぁ・・・、許可が出たんなら案内しないとな、えーっと・・・?』

 

道案内をするべく、彼はジェスに指示を出そうとするが言葉に詰まっていた。

 

どうやら、ジャーナリスト呼ばわりでは無く、ちゃんと名前で呼びたいのだろうが、如何せん、互いに初対面に等しく、顔も名前も知らないのだ。

 

「あっ、悪い、自己紹介がまだだったよな、ジェス・リブルだ、ジェスと呼んでくれ。」

 

それを察したジェスは映像回線を開き、自身の顔をストライクのパイロットに晒した。

 

それを見たストライクのパイロットは暫く考え込む様な様子だったが、ヘルメットを脱ぎ、顔を晒した。

 

『アメノミハシラの織斑一夏だ、一夏と呼んでくれ、着いて来てくれ、ジェス。』

 

「分かったよ、一夏。」

 

一夏に促され、ジェスは自分の機体を動かし、アメノミハシラへと進んでゆく。

 

自分の仕事をするために、そして、自身の目で現実を見る為に・・・。

 

sideout




次回予告

真実を追う者と過去を抱える者が相見える時、彼等は互いに何を想うか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

ジェス・リブル

お楽しみに。


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ジェス・リブル

noside

 

戦闘終了後、アメノミハシラに招かれたジェスは、制服に着替えた一夏に連れられ、通路を歩いていた。

 

MSを降りた時点で、彼は一夏に質問したいところだったが、まずは彼の主であるロンド・ミナからという事で、ジェスはそれに従ってロンド・ミナの部屋へと向かっていたのだ。

 

「へぇ、外から見ても大きい城だと思ってたけど、中もかなり広いんだなぁ。」

 

アメノミハシラの内装に感心しているのだろうか、ジェスはおのぼりさんよろしく、あちらこちらを見ていた。

 

「そんなに驚く事じゃないだろ、ちゃんと着いてきてくれよ。」

 

そんな彼の様子に苦笑しながらも、一夏は時折彼に振り向きつつ道案内を続けていた。

 

彼の言葉に気付いたのだろう、ジェスは置いて行かれてたまるかとばかりに彼の後を追った。

 

初めて入った要塞で迷わずに目的地まで辿り着けるとは、彼とて微塵も思ってはいないのだろう。

 

それから進んでいく事数分、どうやら目的の部屋の前に辿り着いたのだろう、一夏が立ち止った。

 

「ロンド・ミナ、ジャーナリストのジェスを連れてきたぞ。」

 

彼はインターホンで部屋の中にいる人物に呼び掛け、扉を開くのを待っていた。

 

『来たか、入るが良い。』

 

入室を許可する声が聞こえると同時に、扉のロックが外れる様な音が彼等の耳を打った。

 

ジェスに目配せし、一夏は扉を開け、彼を室内へと招いた。

 

それに応じ、ジェスは開いた扉の中に入っていった。

 

中では、椅子に腰掛けたロンド・ミナ・サハクと、薄金髪と濃金髪の美女が彼等を出迎えた。

 

案内が終わると、一夏は彼女達の方へと歩み寄り、ロンド・ミナの背後に控えた。

 

「よく来たな、ジャーナリスト、立ち話もなんだ、座ると良い。」

 

ミナに着席を促され、ジェスは椅子に腰掛け、カメラを取り出した。

 

どうやら録画機能に近しい物も搭載されているのだろう、普通の一眼レフとは少し変わった形をしていた。

 

「初めまして、ロンド・ミナ・サハク、俺の名前はジェス・リブル、今はとある人に雇われてあちこちを回ってるフリーのジャーナリストです。」

 

名乗らないのは失礼だと思ったのだろう、ジェスは頭を下げながらも自身の名を名乗った。

 

「我が名はロンド・ミナ・サハク、この城を守護する者だ、そなたを歓迎しよう。」

 

彼の仕草に好感を覚えたのだろうか、彼女は僅かに微笑みながらも名乗った。

 

「プライベート以外の事ならば何でも答えようではないか、手始めに何を聞きたいのだ?」

 

「う~ん・・・、それじゃぁ・・・。」

 

ミナの方は取材を受ける準備万端という状態だったが、当のジェスは何を聞くべきか決めきれていなかったようで、少し悩むような仕草を見せていた。

 

だが、彼とてプロのジャーナリストだ、聞きたい事は山ほど考え付く。

 

「じゃぁ、まずは・・・。」

 

聞きたい事が決まったのだろう、ジェスは口を開いた。

 

sideout

 

side一夏

 

ジェスの質問が始まり、俺はミナの背後に控えつつも彼が提示してくる質問に耳を傾けた。

 

最初はこの城を護る理由、次にヤキン・ドゥーエ戦役について、そしてオーブの事、そして最後に今後の展望と言った、まぁ、普通のジャーナリストが聞く様な質問ばかりだった。

 

こんなのだったら、わざわざ戦場に出てきてまで聞く事じゃない気がするんだが、彼にも何か考えがあるのだろうか・・・?

 

「ジェス・リブル、軍事や私の思想だけでよかったのか?」

 

ミナもそう感じていたのだろうか、彼に対して、何処かからかう様な口調で尋ねていた。

 

いや、アンタがプライベートの事以外でって最初に釘刺したから聞くに聞けないんだろうけどな・・・。

 

「う~ん・・・、あっ、それじゃあ一夏に聞きたいんだけどさ、ロンド・ミナの事をどう思うんだ?」

 

・・・、おい・・・、なんでいきなり俺に地雷臭がする質問をするんだよ!?

 

普通に答えたら答えたでミナにからかわれるし、それでいてアウトな答えしたら両隣の嫁さん二人の鉄拳が飛んできそうだぞ・・・!?

 

いやそもそも、そのどっちかしか答えられない俺もどうなんだよ・・・!?

 

「い、良いんじゃないかな・・・!?上司としても女性としても・・・!」

 

って、何言ってんだ俺ぇーーー!?

 

アウトだね!?完全にアウトな発言だよねぇ!?今の載せないでくれよジェスゥ!!

 

セシリアとシャルの表情は、自分達にも言ってくれとばかりに不満気だったが、特に物理的攻撃が無い事にホッと一安心だ。

 

「声が震えてるぞ?どうしたのだ?」

 

そんな怖い笑顔で俺を見ないでくれよ・・・、ミナさん・・・。

 

「なんでもございません、本心でゴザイマス。」

 

取りあえず無表情&無表情で乗り切ろうとしたけど、本心と言ってしまったのが不味かったのか、両サイドから俺の脇腹目掛けた肘打ちが飛んできた。

 

本当なら呻きたかったが、今の状況で呻くわけにもいかなかったので取り敢えず堪えた。

 

「ありがとうロンド・ミナ、俺の質問はこれで最後です。」

 

そんな俺達を他所に、自分の質問したい大まかな事が終わったのだろう、ジェスがミナに向けて頭を下げていた。

 

「うむ、ジェス・リブルよ、私からもそなたに聞きたい事がある、良いか?」

 

御苦労とでも言うような表情をし、彼女はジェスに伺いを立てた。

 

どうやら、彼女の中で気になる事があったのだろう。

 

「はい?なんですか?」

 

「そなたはMSに乗っていたな、何故MSに乗って戦場を見て回っているのだ?」

 

なるほど、それは俺も気になっていた事だ、普通のジャーナリストならばMSに乗る必要は皆無だ、それなのに、ジェスはMSに乗って世界を見ている。

 

そこには何かしらの理由があるのだろうと、彼女は興味を持ったのだろうな。

 

「へへっ、俺の自慢なんだ、今じゃMSは世界中に溢れる数存在してる、戦場の主役もMSだ、だから、同じ視点に立って取材が出来る、そこから見えてくる真実があると、俺は信じてるんだ!」

 

「MSと同じ視点に立つ事で見えてくるもの・・・。」

 

瞳を輝かせながら語る彼の言葉に、ミナはどこか興味深げな表情をしていた。

 

いや、彼女だけではない、正直な話、俺だって内心じゃかなり驚いている。

 

そこにある物を見るのにMSは必要ない、だが、彼はそれをしない、自分の目で確かめて、同じ視点で対象を見つめる事でそこにある事実を、真実を知ろうとしていたのだから・・・。

 

「とは言っても、まだまだ行った現場は少ないんだよな、クライアントに出会ったのもついこの間だったし。」

 

どこか恥ずかしげに、彼は頭を掻きながらも笑っていた。

 

まだまだ自分も大した事は無いと言いたいのだろうが、これほどの輝きを持つ事が、俺には何処か羨ましく思えてならなかった。

 

俺はまだ、何をすればいいのかも分かっていない、ただ、目の前にある物を熟すだけで精一杯だ。

 

夢や目標なんて、まだまだ見つけられていないに等しいんだから・・・。

 

「恥ずべき事ではないさ、そなたの信念、実に興味深いぞ。」

 

「ありがとうロンド・ミナ、そう言って貰えて嬉しいよ。」

 

ミナの褒め言葉に対して照れくさそうな表情を見せながらも、ジェスは笑いながらも席を立った。

 

どうやら、彼女へのインタビューが終わったために部屋を出ようとしているのだろう。

 

「おっと、忘れる所だった、写真もいいかな?記事と一緒に載せとかないとあれだからな。」

 

「構わん、我々だけの画で良いのか?」

 

「あぁ、一夏達も写ってくれ、良い画になるよ。」

 

俺達も写真に写れ、か・・・。

 

あまり気のりする事ではないが、構わんか。

 

椅子に腰かけるミナを囲う様に、俺達三人は並びを変えつつポジションを取った。

 

「それじゃぁ撮るぞ~。」

 

ジェスの言葉と同時にフラッシュが焚かれ、シャッターが切られた。

 

こうやって写真を撮るなんて、何時振りなんだろうか・・・。

 

思い出すだけで気が遠くなりそうな昔な気がしてならないな・・・。

 

「ありがとう、ロンド・ミナ、次は一夏に取材させて貰っていいか?」

 

「構わぬ、一夏、格納庫へ連れて行ってやれ。」

 

ジェスの言葉に肯きつつ、彼女は俺に指示を出していた。

 

どうやらジェスの見たい物が分かっているのだろうな。

 

「了解した、ジェス、着いて来てくれ、見せたいものがある。」

 

彼の肩を叩き、俺達は連れ立って部屋を後にした。

 

「はぁ~・・・!緊張したぜ・・・!」

 

廊下に出るや否や、ジェスは緊張が解けたのだろう、盛大な溜息と共に背伸びをしていた。

 

「どこに緊張する要素が合ったんだよ?」

 

こちらとしてはミナに対して緊張する要素を見出せないからな、余計にそう感じるんだろうけどな。

 

「はははっ、何となくだよ、一夏にもそういうのあるだろ?」

 

「どうかなぁ・・・、無いとは言い切れないけどな。」

 

彼女を前にして緊張する事は無いが、それ以外だと割かし多い気もしなくはないな。

 

っと、今はそんな事を考えてる場合じゃなかったな。

 

「まぁいい、着いて来てくれ、ストライクの装備について聞きたいんだろ?」

 

「あぁ、頼むよ!あんな装備見た事無いからな!」

 

彼を促し、俺は道案内らしく先を行き、ジェスを格納庫まで連れて行く。

 

「なぁ一夏、さっきとは別にもうひとつ聞いていいか?」

 

その道すがら、ジェスが唐突に俺に問い掛けてきた。

 

「俺は構わないが・・・、そうだな・・・、プライベートな話は記事に載せないってのなら何でも聞いてくれよ。」

 

流石にプライベートぐらいは秘密にしておきたい、何せ、俺の場合、嫁さん二人へのノロケで埋まりそうだしな。

 

「分かった、質問は・・・、一夏はなんでロンド・ミナに仕えてるんだ?」

 

ミナに仕えている理由か・・・、嘘は吐きたくないが、本当の事を言っても理解してもらえるかどうかは、怪しい所だな・・・。

 

「二か月ほど前に宇宙で死にかけてた所を拾ってもらったのさ、せめてもの恩返しって訳で、機体共々彼女に仕えてるって事だ。」

 

「へぇ・・・、って事は、一夏は連合のパイロットだったのか?ストライクに乗ってた訳だし?」

 

くっ・・・、やっぱりそれ以前を聞きたくなるよな・・・。

 

決して聞かれてはマズイとかそんな事は無いが、嘘だと思われるのが関の山だろうしな・・・。

 

「そう・・・、だな・・・、俺は連合の人間じゃなかったよ・・・。」

 

「?」

 

俺の言葉から何かを察したのか、ジェスは疑問符を頭の上に浮かべ、俺の目を覗き込む様な視線を向けてきた。

 

そんな目で、俺を見ないでくれ・・・。

 

俺が隠してる事にも・・・、俺の過去も見透かされている様な感じがしてくるよ・・・。

 

「他に聞きたい事は無いか・・・?今の質問にはまだ、答えかねるからな・・・。」

 

「あ、あぁ・・・、それじゃあ・・・。」

 

俺の雰囲気を察してくれたのだろう、彼はすぐに次の質問に移るべく、思考を巡らせている様だった。

 

気を遣わせてしまった事には純粋に申し訳なさを覚えるが、それ以上に安堵の方が大きかった。

 

何せ、俺自身が、今だに過去を受け止めきれていないのだ。

セシリアとシャルのお陰で幾分か苦痛が軽くなったとは言えど、俺が正面から向き合って、それを受け止めない限り、この苦しみは消えないのだから・・・。

 

「う~ん・・・、あっ!好みの女性のタイプはいるのか!?」

 

「・・・、はっ・・・。」

 

さっきまでの質問とは打って変わり、彼は俺のプライベートに質問の矛先を向けてきた。

 

少し驚いたが、ありがたかった事だけは確かだ。

 

「はははっ・・・、いきなりだな、良いぜ、答えるよ。」

 

唐突な質問だったが、気を紛らわせるにはちょうど良いしな。

 

「ロンド・ミナの部屋で俺の両隣に立ってた二人、覚えてるか?」

 

「ん?あの二人か?」

 

「あの二人が俺の好みの女さ、自分が持ってた立場とか全て捨ててでも、俺に着いて来てくれたんだ、彼女達以上の女なんていないね。」

 

最高の女達、その言葉に嘘偽りなんてない、何せ、何度も俺を絶望から救い出してくれたのは、彼女達なのだから・・・。

 

「そうなのか・・・、ありがとな一夏、いい事聞けたよ。」

 

「いいや、気にするなよ。」

 

そんなこんだしている内に、俺達はストライクの置かれている格納庫までやってきていた。

 

その頃には既に整備も完了していたのだろう、機体の周りには殆ど誰もいなかった。

 

ストライク自体の電源が切られているために、トリコロールの機体色はダークグレーに変わっているが、背面に装着されたストライカーはPS装甲を使用していないために何ら変わりなく装備されていた。

 

「型式番号 P202QX 統合兵装ストライカーパック、略してI.W.S.P. だ、写真なら幾らでも撮ってくれて構わないぞ。」

 

「へぇ~!アメノミハシラ独自のストライカーなのか?ストライク自体は資料で見た事はあるんだけど、このストライカーは見た事無くてさ。」

 

俺が許可を出すより早く、ジェスはストライクに向けてシャッターを切り続けていた。

 

やれやれ、よっぽど気になってたのか・・・?

 

「いいや、最初期のストライカー、エール、ソード、ランチャーの次に設計されてたストライカーさ、さっき言った三つのストライカーを統合した装備を目指して作られたんだよ、エネルギー消費の効率とかを考えて実弾主体の装備になってるけどな。」

 

「すげぇ・・・!たった一つのストライカーでどんな領域でも対応出来るのか・・・!」

 

俺の説明に、ジェスは目を輝かせながらも尋ねてくる。

 

そりゃ、今まで説明されてる内容だけ聞いてれば、どんなパックよりも強いと思うわな。

 

だが、それだけで終わらないのが兵器ってもんさね。

 

「俺の使ってるI.W.S.P.は、オーブのカガリ・ユラ・アスハが使ってた奴の予備機だ、連合軍でも、シュミレーションや実寸大モックアップは製作されてたんだが、今まで実戦で使用された事があるのは、俺のストライクが装備してる奴しかないらしい。」

 

「なんでだよ?こんな強力なストライカー、少数でも配備されてて当然じゃないのか?」

 

これに纏わる諸々の事情を知らぬ彼は、怪訝の表情を浮かべつつも俺に問うてきた。

 

まぁ、軍事に携わって無い人間からしてみれば当然とも言える反応だろうけどな。

 

「一つは重量だな、バックパックに武装を集中させ過ぎたせいで、モーメントが後ろに引っ張られてるんだよ、お蔭で、並のパイロットじゃコイツを動かす事さえままならないんだとよ。」

 

俺も最初の頃は苦労したもんだったな・・・、ひっくり返りそうになったり色々あってなぁ・・・。

 

だが、まぁ、それぐらいのレベルなら、エースパイロット級を中心に配備してもいいんだろうがな。

 

なにせ、ストライクの量産機、105ダガーはエース専用機だし。

 

「二つ目が一番重要なんだ、これが設計されたのはおそらくC.E.70年の末辺り、当時の連合にはPS装甲で身を固めたストライクに、これを装備して戦わせるだけのバッテリー技術が無かったのさ、オーブがこれのデータを手に入れたのは今年の六月辺り、いや、もしかしたらそれ以前に入手していたかもしれんが、ここにいる俺にゃ分からない事だ。」

 

俺はその場に立ち会ってた訳じゃない、憶測になる事間違いなしだ、これ以上、経緯について語っても無駄だろう。

 

ジェスも、何故使われなかったのかが聞きたいだろうしな。

 

「ま、二つ目はオーブの技術力で解決できたんだがな、これを使う予定だったパイロットの腕がお粗末だったらしい、結局、模擬戦で攻撃の一つも出来ずにひっくり返って、使われないまま終戦だったと聞いてる。」

 

「そんな背景があったのか・・・、知らなかったよ・・・。」

 

「仕方無いさ、御蔵入りを喰らってた兵器だしな。」

 

これがもし実戦に投入されていれば、連合とザフトの戦争はどうなっていたのかとも考えてしまうが、大局的には今と変わらなかっただろうな。

 

何せ、いくら強力な兵器でも乗り手が悪ければただの宝の持ち腐れだからな。

 

「だが、これもまだまだ改良の余地がある、発展させる伸び白も残ってるしな。」

 

「ここからさらに強くなるのか・・・!すっげぇ!!」

 

あくまでもこれからの展望なんだけどな、確かにコイツを使い続けるには相当な改良がいるだろう。

 

だから、ジェスにはあえてそういう説明をしておいた、将来的にそうなってゆくんだからな。

 

「以上が説明だ、戦闘の場面もさっきので良いんなら終わりだが・・・?」

 

「あぁ、十分すぎるぐらいだよ、ありがとうな一夏!」

 

感激を隠さないままに、ジェスは俺に握手を求めて手を差し出してきた。

 

どうやら、これが彼なりの人との関わり方なのだろう、こういう事にまだ慣れない俺としては見習いたいものだよ。

 

だが、手を取らねば失礼と言うものだ、俺は彼の手をしっかりと握り返した。

 

「こちらこそ、ご苦労様だ、ジェス、また宇宙での仕事があればここに寄ってくれ、護衛を含めた援助を俺が請け負うよ。」

 

「おいおい、ロンド・ミナを通さなくていいのか?」

 

「良いも何も、俺はここの実質的なナンバー2だぜ?ミナもお前の事を気に入ってるだろうし、何も問題なんてないさ。」

 

信念を貫く者への援助を、ロンド・ミナは惜しまない。

 

俺も、ジェスの姿勢、真実を自分の目で見て、考えてゆくという姿には強い感銘を受けた、個人的にでも彼の力になりたいと思う気持ちは強い。

 

らしくないと思うが、これほどまでに素直な感情を表せる人間に出会える事も少ないし、寧ろ、興味の方が強いと思ってよいだろう。

 

「ありがとな一夏!そろそろクライアントに報告しに行かなきゃいけないから、俺はこの辺で失礼するよ。」

 

「あぁ、いつでも寄ってくれ、歓迎するよ。」

 

握手を解いた彼は、ストライクの直ぐ傍に置かれていたレイスタに乗り込んでいった。

 

このままクライアントの所に報告に向かうのだろう、もう少し話をしたかった所だったが、これから先、また何れ・・・。

 

「また会おう、ジェス・リブル。」

 

近い内に、また彼とは会う事になるだろう・・・。

 

そう思いながらも、俺は星の狭間へと消えてゆくレイスタを見送った・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

アメノミハシラの取材が終わって間もなく、ジェスに新たな依頼がもたらされる、それは、彼にとって新たな始まりでもあった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

新たな旅立ち 前編

お楽しみに。


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新たな旅立ち

noside

 

C.E.71年10月

 

地球上に存在する、とある屋敷の広間に二人の男の姿があった。

 

一人は先日、アメノミハシラを取材に訪れたジャーナリスト、ジェス・リブルと、もう一人は彼のクライアントであるサー・マティアスである。

 

アメノミハシラ攻防戦から既に半月以上が経過した今日、ジェスは新たな取材の仕事のためにマティアスに呼び出されたのだ。

 

「で・・・、俺はこのポイントで何を撮ってくればいいんだ?」

 

手渡された紙切れに記されていた座標ポイントを眺めながらも、彼はその場所にあるターゲットについて説明を求めていた。

 

仕事をするにしても、まずは情報が必須になってくるのだ、行先にあるモノの概要は知っておきたいのだろう。

 

「今回のターゲットはザフトの巨大兵器よ、危険な取材になるでしょうけど、これが成功すればいいスクープになるわよ?」

 

自分の質問に返された答えに、ジェスは一瞬だけ驚いた様な表情を見せるが、すぐさま考え込むような表情を見せた。

 

「あら?不服かしら?スクープが欲しくないの?」

 

そんな彼の様子に気づいたのだろう、マティアスは探る様に尋ねていた。

 

尤も、彼にもわかっているのだ、ジェスがこの取材に不満を持っている訳ではないと・・・。

 

「違うんだよマティアス、俺はスクープが欲しい訳じゃ無いんだ!この目で見た事を、そのまま世界に伝えたいんだ!」

 

「あら、ご立派な事ね、そういう所好きよ。」

 

拳を握り締め、自分の思いを語るジェスに対し、マティアスは微笑みながらもある種の心地よさを味わっていた。

 

自分の信念を持ち、それに従って行動を起こす、そんなジェスのひたむきな姿が、彼にとっては心地よいのだろう。

 

「この仕事は人の為になるわよ、勿論、成功すればの話だけどね・・・?」

 

「分かったよ、引き受ける、準備が出来たら教えてくれ。」

 

マティアスの言葉を受け、この依頼を引き受ける事を決めたジェスは、自分の準備をするために席を立った。

 

食料の用意やカメラの点検、他にも色々とやらねばならない事は多いのだから・・・。

 

「えぇ、準備が出来たらまた連絡するわ。」

 

「あぁ、頼むよ。」

 

部屋から出て行こうとするジェスに声をかけ、彼が出て行った事を確認すると、マティアスは別室で待機していた誰かを呼び付けた。

 

「アイツは引き受けた様だな?」

 

扉を開け、部屋に入ってきたのは、癖のある金髪をややオールバック気味に後ろへ纏めた、黒い髭を生やした男性だった。

 

先程まで部屋にいたジェスとは対照的に、ピシッとスーツを着こなした、まさに伊達男と呼ぶべき風体だった。

 

「えぇ、ジェスに気付かれない様に護衛をよろしくね、マディガン?」

 

「分かってるよ、しかし、食えないオカマだな、アイツをけしかけるなんてな?」

 

マティアスの言葉に頷きつつも、マディガンと呼ばれた男性はからかう様に笑っていた。

 

「まぁっ!失礼ね、それが紳士にかける言葉なのかしら!?」

 

「ハッハッハッ、怒るなよ、金は貰ってるんだ、仕事はキッチリ引き受けるよ。」

 

マティアスの言葉を受け流しつつ、男性は悪気は無かったとばかりに笑い、手を振っていた。

 

「まったく、デリカシーが無いんだから・・・、それでも紳士なのかしら?」

 

「悪かった、俺も行くとするよ、準備があるんでね。」

 

彼の愚痴に平謝りしつつも、男性は身を翻し、部屋から出て行こうとしていた。

 

恐らくは、護衛の為に使用する機体の調整に出向くのだろう。

 

「まったく・・・、頼んだわよ。」

 

呆れながらも言葉を投げ掛けたマティアスに、男性は肩越しに頷き、部屋を出て行った。

 

独り残ったマティアスは、ため息を一つ吐いた後、思考を巡らせる様に瞳を閉じた。

 

「(さぁ、この難しい依頼、貴方はどう切り抜けるのかしら、楽しみにしているわよ、ジェス。)」

 

小さく笑みながらも、彼はこれから先の事を想っていた。

 

新たな火種の存在を知っているかの様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

『発進します、座席に座り、シートベルトを締めてください。』

 

マティアスとの面会から数日後、ジェスは宇宙へ上がるために、マティアスが手配したシャトルに乗り込んでいた。

 

彼専用のレイスタも積まれており、近辺宙域まで運んで貰った後に、単独で取材を行うのが、ジェスが考えている筋道だった。

 

だが、そうそう上手く行く訳が無い事は、彼自身が一番分かっている事だった、何せ、今回の撮影対象はザフトの大量破壊兵器なのだ、軍備も多数配備されていると見て妥当だろう。

 

当然、細心の注意は払う積りだが、そんな所に行き、もし見つかりでもしたら間違いなく命はないだろう事だけは確かであった。

 

「さて、と・・・、引き受けたのはいいけど、大丈夫なのか・・・?」

 

離陸たシャトルの船窓の外を流れる景色を眺めながらも、ジェスは今回の依頼の危険度にため息を吐いていた。

 

不確定ではあるが、何者かがその宙域に集まっているという情報もあり、果たしてこのまま行っても良いのかという思いが彼の中で渦巻いていた。

 

「せめて誰かを護衛に付ける位しても良いだろうに・・・、マティアスの野郎・・・。」

 

自分一人では間違いなく宇宙の藻屑になるかも知れない、そう考えれば考えれば考えるほど胃がキリキリと痛むが、それを押し殺して彼は目を閉じた。

 

せめて、個人的に傭兵でも雇いたい所だが、そう言った出費は彼の自己負担になるため、あまり気が乗らないのだが、ここはそんな贅沢を言っている場合では無いだろう。

 

それに、彼には馴染みの傭兵はいないため、こんな危険な依頼を進んで引き受ける様な物好きは先ずいないだろう事が直ぐに想像できた。

 

頭を抱えそうになった、まさにその時だった、こんな無茶な依頼を頼める人物がいる事を思い出した。

 

「そうだっ・・・!アイツが・・・、一夏がいるじゃないか!」

 

そう、つい一週間ほど前に天空の城で対面し、取材もしたMS乗り、アメノミハシラの織斑一夏だった。

 

彼はアメノミハシラのエースを名乗るに相応しい腕と、それに見合う性能を持ったMSに乗っている、護衛してもらうには十分すぎる戦力と言えるだろう。

 

しかし、ひとつ問題があるとすれば、彼の立場だ。

 

ロンド・ミナ・サハクの子飼いであるが故に、彼女の許可が下りなければ彼も動けないのだ。

 

「何かあれば寄ってくれって言ってたし、少し甘えてみるのもアリ、だな・・・!」

 

だが、ジェスは一夏が義理堅いと知っているため、彼に頼る事にしたようだ。

 

「(頼むぜ一夏、俺に力を貸してくれ!)」

 

sideout

 

side一夏

 

十一月に入り、暫く経った今日この頃、俺はアメノミハシラの格納庫で整備士に混じって機体の整備に精を出していた。

 

戦後のゴタゴタで世界が不安定な時期とは言えど、アメノミハシラは、いや、主であるロンド・ミナが行動を起こさない為に俺達の仕事も無くて暇なんだ。

 

だから、やる事と言えばこうやって整備士達の手伝いをするか、模擬戦を行うか、若しくはプライベートに時間を割くかのいずれかに限られてしまう。

 

娯楽が、いや、俺個人の趣味がもう少しあれば退屈など紛れるだろうが、生憎、すぐには思いつかなかったためにそれは断念している。

 

ま、嫁さん二人に時間を使うってのもアリだろうが、彼女達もこういった作業を何となく楽しんでいる節があるため、俺がどうこう言える問題でも無いんだよな。

 

てな訳で、俺は整備中のストライクのコックピットに潜り込み、ハロが収まるためのポッドを、操縦の支障とならない場所に増設する作業に勤しんでいた。

 

なんでも、ハロは擬似人格教育成長型自律支援コンピュータを内蔵していたため、経験を積ませれば俺の操縦のサポートは勿論、ハロ単体で機体を制御する事も可能と言う代物だった。

 

基礎を作っていたのはジャックと俺だったが、ハロを完成させた時は俺もジャックも完全に酔っ払っていた為にどういう風に完成させたのか全く記憶に残ってなかったんだ。

 

そのために、ハロを複製量産する事はおろか、もし破損や故障が起きた際に修復ができないという状況に陥ってしまっていた。

 

ホント、なにやってんだろうなぁ、俺・・・。

 

それはともかく、大まかな弄り方はジャックに教えて貰っていたし、ハロ専用のポッドも彼に造って貰っておいた。

 

なので、後は緩んだ場所とかが無いか確認するだけなのだが、これが案外難しいんだな。

 

「セシリア、スパナ取ってくれ、ここ緩んでる。」

 

「かしこまりましたわ。」

 

コックピットの外、つまりはリフトにいたセシリアからの返答があり、すぐにスパナが手渡された。

 

「ありがとな、休ませてやれなくて悪いな、あと一時間しない内に見送りに行くんだろ?」

 

手伝ってくれるのは純粋にありがたいが、流石に用事前に手伝わせるのは気が引ける。

 

そろそろ休んでもらうとしようか?

 

「大丈夫ですわ、一夏様と御一緒させて頂けるなら、私はへっちゃらですわ。」

 

「それに、こうやって過ごす時間も、僕は好きだな。」

 

大丈夫と言うセシリアの言葉に続ける様に、コックピットまでやって来たシャルが構わないと言う風に話していた。

 

気を遣わせてしまったか・・・?

そう考えてしまうと何処か申し訳ないよな・・・。

 

「すまん、だが、無理はしないでくれよ?」

 

「はい、勿論ですわ。」

 

「大丈夫だって、僕達は一夏がいてくれればそれで良いんだから。」

 

俺の心配し過ぎているとも取れる言葉を、彼女達は笑いながらも頷いてくれた。

 

やれやれ、俺の嫁さん達は俺が思ってた以上にタフみたいだ。

 

ついこの前まで、弟分を亡くして喪に服してたっていうのによ・・・。

 

だが、その強さのお陰で俺も救われてると考えたら、申し訳ないやらありがたいやらで少し居心地が悪いな。

 

まぁ、悪い気はしないが・・・。

 

「さて、作業が一段落したら見送りに行くぞ、俺も恩人に礼ぐらい言わなきゃな。」

 

呆けてる暇はない、何せこれから用事があるんだ、遅刻なんてみっともない真似など出来る筈が無いんだからな。

 

そう思いながらも、俺はシートに座り、キーボードを取り出しながらも、ハロが入る事で変動するOSのパラメーターの調整に入った、まさにその時だった。

 

コックピットに通信が入り、ウインドウにソキウスの顔が映し出された。

 

「どうしたんだソキウス、何かあったのか?」

 

『はい、アメノミハシラに接近してくるMSがあります、数は一機、こちらに通信を送ってきていますが、いかがしましょうか?』

 

「なんだと?」

 

敵か?いや、それにしては数が少なすぎるし、何よりわざわざコンタクトを求める必要性が何一つない。

 

だとすればこちらに寄港したいと言う事なのだろうが、目的も分からぬヤツを招き入れてはこちらが危険にさらされてしまうのがオチだ。

 

『間もなく目視できる距離に入ります、映像を回しましょうか?』

 

「頼む。」

 

何事にもまずは情報収集が肝心だ、そこから判断する材料があっても良いだろうしな。

 

外部の映像がウインドウに映し出され、こちらに接近する一機のMSの姿が確認できた。

 

それはM1シリーズに通じる輪郭を持っていたが、背面のスラスターや保持しているガンカメラと言った、原型機とは明らかに異なる部分も多く見て取れた。

 

しかも、その機体は見覚えがある、その乗ってる人間もだ。

 

「報道仕様のレイスタ・・・、ジェスか・・・?」

 

あの特徴的なガンカメラ、見紛う筈がない。

 

ジェスのMS、レイスタだが、一体何をしに来たんだ?

 

「通信回線を開け、俺がコンタクトを取る。」

 

『了解しました。』

 

『こちらジャーナリストのジェス・リブル!織斑一夏!応答してくれ!!』

 

俺の指示にソキウスが頷いた直後、レイスタとの通信回線が開かれた。

 

この声は間違えようが無い、暑苦しいが嫌いになれない声だな・・・。

 

「こちら織斑一夏、ジェス、聞こえてるか?」

 

『一夏ぁ!話があるんだ!聞いてくれないか!?』

 

喧しい声だ、頭の奥に響いてきそうだな。

 

だが、自分の想いに何処までもひたむきなジェスを、俺は煩わしいとは全く思えなかった。

 

「分かった、要件を聞こう、34番ゲートから入港してくれ、向かい合って話をしたい。」

 

『ありがたい!待っててくれよ!』

 

俺の指示に返した直後、ジェスからの通信は切れた。

 

さてと、大方予想がつくが、何かしら大きな依頼が入ったのだろう、それも単独での取材では手が余る程の・・・。

 

「やれやれ、また来てくれとは言ったが、こうも早いか・・・。」

 

少し愚痴っぽい言葉が零れたが、別に嫌って訳じゃない、寧ろやる事ができてありがたい位だ。

 

「嫌々じゃなさそうだね?」

 

それを見透かしたのだろう、シャルが悪戯っぽく笑いながらも俺に尋ねてきた。

 

「まぁな、さてと、ジェスを迎えるとしよう、セシリアとシャルは見送りの準備をしていてくれ。」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「一夏も遅れないでね?」

 

二人は俺の言葉に頷いた後、パイロットスーツに着替える為に踵を返して格納庫の出入り口まで歩いて行った。

 

さて、俺も自分の用事を済ませるとしようか。

 

ジェスがどんな目的でここに来たのかは、本人に会って直接確かめるとしよう。

 

彼流に言うなれば、自分で見て、考えると言ったところか?

 

冗談交じりに考えつつも、俺はM1Aのコックピットから降り、彼に会うべく歩みを進めた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「悪いな一夏!いきなり押しかけて。」

 

来客用のMS格納庫に着いたレイスタから降りたジェスは、この城のパイロットである織斑一夏に歩み寄り、再会を喜ぶように右手を差し出していた。

 

「気にするなよ、何かあれば寄ってくれと言ったのは俺なんだ、頼りにしてくれて嬉しいよ。」

 

一夏は気にするなとばかりに笑い、差し出された手を握り返した。

 

その雰囲気は、まるで友人同士と言うべき和やかな物であり、これが二度目の対面とは思えなかった。

 

「それで、何かヤバい仕事でも請け負ったのか?」

 

手短に済ませるつもりなのか、一夏は事の本題を尋ねる様に切り出しながらもジェスの様子を窺っていた。

 

「まぁ、な・・・、此処に行けって言われたんだ。」

 

彼の問いに頷き、ジェスは懐から何かが書かれた紙切れを取り出し、一夏に手渡していた。

 

それを受け取った一夏は、じっくりと確認する様に目を通し、僅かに驚く様に目を見開いていた。

 

「ジェス、この宙域に何があるんだ?」

 

「俺が聞いた話だとザフトの大量破壊兵器があるって聞いたけど・・・、急にどうしたんだ?」

 

彼の表情に驚愕の色が窺えた事に疑問を抱いたのだろう、ジェスは訝しむ様な表情をしながらも彼に問うた。

 

「いや、偶然と言うべきだが、俺とセシリアとシャルの三人で、この宙域に行く用事があるんだ。」

 

「用事ってまさか・・・、戦いにか・・・!?」

 

一夏の言葉に、ジェスは目を見開いて叫ぶ様に尋ねていた。

 

彼も予想していたが、大量破壊兵器という超極秘扱いの代物には間違いなく護衛やそれに相当する部隊が配備されていると見て良いだろう。

 

遠巻きから姿を撮影している際に見つかるならば、逃げる事に全力を尽くせば良いためにそれほど大きな戦力は必要ない、寧ろ、大部隊は隠密行動には向いていない。

 

だが、攻め込むのだとすれば、流石に小隊規模の戦力では無謀も良い所だ。

 

それなのに、一夏はたった三機でその要塞に行くと言ったのだ、正気とは思えなかったのだろう。

 

「いや、知り合いの見送りだよ、まぁ、危険な任務になりそうな事は間違いないか・・・。」

 

ジェスの言葉を否定しつつも、彼は何処か思案するような表情を見せていた。

 

だが、それもすぐに消え去り、何かを決めた様な表情を見せた。

 

「ジェス、俺達に同行してくれ、行先が同じなんだから都合が良い。」

 

「良いのか?いや、それを頼むつもりで来たんだけどさ・・・?」

 

彼の脳内で起きた自己完結に付いて行けなかったジェスは困惑した様な表情と、何処か申し訳なさそうな表情を見せていた。

 

「気にするな、お前に協力すると約束したんだ、それに目的地も同じなんだ、俺達と一緒に来た方が安全だろ?」

 

そんな彼に対し、一夏は気にするなとばかりに笑い、軽くジェスの胸に拳を当てた。

 

「それに、助け合いも必要だと教えられたんでな、お前を助けるよ、ジェス。」

 

「すまない・・・、よろしく頼むよ。」

 

その笑みに安堵したのか、ジェスは深く頷きながらも礼を述べていた。

 

「了解した、先にレイスタに乗っておいてくれ、ストライクを起動させてくる。」

 

彼の言葉に頷き、一夏は準備の為に踵を返し、格納庫を出て行った。

 

「これで安心して仕事が出来るな・・・!よぉしっ!やってやるぞ!!」

 

喜びのあまりガッツポーズをしながらも、彼は自分のやるべき事のために気を引き締め、レイスタのコックピットへと戻っっていった。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「シャルロット・デュノア、バスター、行きます!」

 

バスターに乗り込み、アメノミハシラから発進した僕とセシリアは、後から来るだろう一夏を待っていた。

 

お客さんが来てるって言ってたっけ?

もう少し遅く出ればよかったかな?着くまでにバッテリーが干上がっちゃうかもしれないね。

 

『少し早く出過ぎてしまいましたか・・・?』

 

一夏がまだ来ない事に戸惑っているのだろうか、通信機越しにセシリアの声が聞こえてくる。

 

彼を訪ねてるのは多分、この前アメノミハシラに取材しにきたジャーナリストのジェス・リブルだと思う、彼が直々に出迎えに行ったから間違いないだろう。

 

それにしても、一夏が直々に客人を出迎えるなんて滅多に無かったのに、一体どういった風の吹き回しなんだろうか?

 

彼に対しては何処か親し気と言う感じだし・・・。

 

別に束縛したいとかそういう感情は無いけど、なんて言えば良いんだろうね、よく分からないや。

 

そんな感情を持て余していると、ジェスが乗ったレイスタがアメノミハシラから出てきた。

 

「ジェス・リブル、こちらシャルロット、一夏はどうしたの?」

 

『えっと・・・、どっちだったっけ?ちゃんと話してなかったから覚えてないんだ・・・。』

 

僕が通信を入れると、困惑したジェスの声が聞こえてきた。

 

あー・・・、そういえば、ちゃんと自己紹介とかしてなかったね、悪い事しちゃったなぁ・・・。

 

「あ、いきなりゴメンね、僕はシャルロット・デュノア、一夏の左側にいた方だよ。」

 

映像通信を開き、ジェスのレイスタとコンタクトを取る。

 

顔も覚えて貰わないとダメだから、ヘルメットも脱いでの通信だ。

 

『では私も、セシリア・オルコットですわ、一夏様の右側に立つ女です、以後、お見知り置きを。』

 

『シャルロットにセシリアだな、俺はジェスって呼んでくれ、一夏とは仲良くさせてもらってるよ。』

 

むぅ、一夏と仲良くって・・・、何か妬けちゃうなぁ・・・。

 

昔の彼って、人を寄せ付けなかったから、僕とセシリアにだけ目を向けてくれてたから、その視線を独占できなくなった事に対するちっぽけな感覚なんだろうなぁ・・・。

 

あ、そうだった、今はそんな事考えてる暇じゃなかったよ、僕はもっと聞きたかった事が有ったじゃないか

 

「うん、よろしくねジェス、そう言えば、どうしてアメノミハシラに来たの?取材に来たって訳じゃなさそうだけど?」

 

つい一週間前に取材に来たばかりだし、こんなに早く顔を出す理由が分からなかったから、僕は彼に理由を尋ねてみた。

 

多分、それなりに重要な話だったんだろうし、僕達も知っておけば何かと手を貸せるかも知れないしね。

 

『あぁ、それがさ、これから取材に行く先がザフトの極秘兵器がある宙域なんだけどさ、俺一人じゃ流石にマズイって思ってさ、一夏に護衛を頼もうとしてここに来たんだよ。』

 

なるほど、確かに普通の傭兵に頼むより一夏や僕達に頼んだ方が安くつくし、何より、一夏とジェスはお互いにそれなりの仲だろうから気兼ねないよね。

 

そう考えたら、ジェスの行動は何一つ間違ってないんだよねぇ。

 

『なるほど、それで、一夏様は了承なされたのですか?』

 

話を聞いていたセシリアが通信に割り込み、一夏がどうするのかを尋ねていた。

 

行先も恐らく違うだろうし、一夏だけ付いて行く形になるんだろうけど、一応確認って所だね。

 

『あぁ、セシリア達と行先は同じみたいなんだ、アイツは戦いに行く訳じゃ無いって言ってたけどなぁ・・・。』

 

「『えっ・・・?』」

 

予想外の返答に、僕とセシリアは通信機越しにハモってしまった。

 

行先が同じってどういう事なんだろう?

 

僕達の行先はロウが見つけたっていう宇宙拠点だけど、ジェスが行こうとしているのはザフトの秘密基地、明らかに目的が違う様な気がするんだけどなぁ・・・?

 

『すまん、待たせてしまったな。』

 

訳が分からず、理由を尋ねようとした時だった、スピーカーから僕達の旦那様、一夏の声が聞こえてきた。

 

アメノミハシラの方を見てみると、I.W.S.P.を装備したストライクがこっちに向かって来ていた。

 

どうやら、彼も準備が出来たみたいだね。

 

「遅いよ~。」

 

『待ちくたびれましたのよ?』

 

『悪いな、準備に手間取ったんだ。』

 

僕とセシリアの言葉に、肩を竦めながらも答えつつ、彼はほんの少し笑っていた。

 

ホント、こういうやり取りって幸せだよね、どんな状況だったとしてもね♪

 

あぁ、そんな事考えてる暇じゃなかったね、今は聞かなくちゃいけない事があるんだった。

 

「ねぇ一夏、僕達とジェスの行先が同じって本当なの?」

 

『あぁ、ジェスに座標を教えて貰ったからな、間違いない。』

 

間違いない、か・・・、これでいよいよ分からなくなったなぁ・・・。

 

あれ・・・?待って・・・?

ロウが見つけた宇宙拠点が、元々ザフトの物だったって事なのかな?

 

そう考えれば彼の言ってる事も、僕達が考えてる事も間違いじゃなくなる。

 

なんだ、考えてみれば簡単な事だったね・・・。

 

『まぁ、行けば分かるさ、ザフトの大量破壊兵器がどんなものかってな・・・、行くぞ、時間が無い。』

 

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼はそう呟きつつもストライクを先行させた。

 

『あっ!待ってくれよ一夏!!』

 

置いて行かれると思ったんだろうね、ジェスは慌てて彼の後を追いかけて行く。

 

まぁ、付き合いがまだそれほど深い訳じゃないし、先に行かれるとそう感じちゃうのも無理ないかな。

 

『シャルさん、私達も参りましょう?』

 

そんな彼等の様子を笑いを堪えながら眺めていると、僕が止まったままなのを訝しんだのか、セシリアが通信を入れてきた。

 

あはは、ボーっとしすぎてたかな?何があるか分かんないし、気を引き締めないとね。

 

「うん、行こっか。」

 

盟友の言葉に頷き、僕はバスターを動かし、デュエルと肩を並べながらも彼等の後を追った・・・。

 

sideout




次回予告

一夏達に連れられ、取材先に向かうジェスは、そこで自分のアストレイを抱く者達と巡り合う

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

新たな旅立ち 後編

お楽しみに


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新たな旅立ち 後編

sideセシリア

 

アメノミハシラを出てから実に数時間と言ったところでしょうか、私達は目的の宙域に辿り着こうとしていました。

 

道中ではそれなりにお話しが出来ましたわね、ジェスさんの質問にお答えしたり、一夏様との馴れ初めやプライベートの事など、途中より惚け話しかしていない様な気もしますが、充実した時間であった事は確かでした。

 

ですが、それを思い返す事は後に致しましょう、今はやらねばならぬ事があるのです。

 

『セシリア、シャル、聞こえてるか?』

 

そんな事を考えていると、ストライクとの通信回線が開かれ、一夏様の声が聞こえて参りました。

 

私とシャルさんを指名したという事ですので、何をするべきかは直ぐに理解できました。

 

「はい、聞こえておりますわ。」

 

『コンタクトを取ってくれ、でしょ?一夏の考える事なら僕達が一番分かってるからね。』

 

あらら、シャルさんにセリフを盗られてしまいましたわね、まぁ、気にする程の事では無いのですが。

 

『流石だな、頼んだぞ?』

 

私達の言葉を可笑しく思われたのでしょうか、声のトーンが何時もより揺らいでいるのが分かります。

 

ふふっ、やはり、こういう時間は愛しいモノですわね。

 

「お任せくださいませ、私は劾さん達にコンタクトを取ってみますわ。」

 

一夏様との通信を切り、私は以前に教えて頂いたチャンネルに合わせ、通信回線を開きました。

 

「こちらアメノミハシラ、セシリア・オルコットです、サーペント・テールの皆さん、応答を願います。」

 

直ぐに呼びかけに応じてくれるとは思っておりません、少し待つと致しましょう。

 

そう考えた私の視界には、虚空に佇む一隻の船の姿が映っていました。

 

その船は、ジャンク屋組合所属のジャンク船、リ・ホーム。

 

シャルさんがその命を救われ、私も御世話になった船・・・。

 

その船を見ると、どうしようもない私とシャルさんを姉と呼んで下さった、もうこの世にいない弟の事を思い出し、今でも胸が締め付けられる様な感覚を覚えます。

 

ですが、それを乗り越えねばと、最近は思える様になりましたの。

 

私には一夏様とシャルさんが共にいて下さいます、だからこそ、私達は三人で支え合って生きて行くのです、そのためには、この胸の痛みも受け入れませんと、ね・・・。

 

『こちらサーペント・テールの叢雲 劾だ、良く来たな、セシリア。』

 

そんな事を考えていますと、劾さんからの通信が入ってきました。

 

どうやら、ブルーフレームで周辺警護に出ていた様です、すぐに機体がこちらに近付いて来られました。

 

「お久しゅうございます、劾さん、今日はロウさん達の御見送りと、とある御方の警護で参りましたの。」

 

『そうか、お前達の推薦ならば怪しいヤツではないのだろう、着いて来い、ロウに取り次ごう。』

 

私が説明いたしますと、劾さんは頷きながらも機体を反転させ、リ・ホームへと進んで行きました。

 

どうやら、詳しく調べると言う事はしないおつもりなのでしょう。

 

「かしこまりましたわ、一夏様、進入許可が下りましたわ、このまま進んでくださいな。」

 

劾さんに返答しつつ、私はストライクに通信を入れ、許可が下りた事を報告、一夏様達の先導を開始しました。

 

『了解した、ジェス、着いてこいよ。』

 

通信が切れると同時に、ストライクとバスター、そしてジェスさんが乗っているレイスタが私の後を追い、船へと向かっていました。

 

さて、後は自分のやるべき事をやるだけですわね。

 

あぁ、忘れる所でしたわね、妹達との再会を、ね・・・♪

 

sideout

 

noside

 

「ロウ・ギュール、久し振りだな。」

 

ジャンク船、リ・ホームに着艦した四人は機体から降り、出迎えの為に格納庫にやって来ていたロウ・ギュールやサーペント・テールの面々と対面し、ジェス以外の者達は其々に再会を喜んでいた。

 

そんな彼等を横目に、一夏はジャンク屋、ロウ・ギュールに歩み寄りながらも握手の為に右手を差し出していた。

 

「久し振りだな一夏、元気そうで何よりだぜ。」

 

差し出された手を握りながらも、ロウは知り合いとの再会を喜ぶ様な素振りを見せつつも、一夏の隣に立つジェスを見た。

 

「ところで、その兄ちゃんは誰だ?」

 

「紹介が遅れたな、こちらはフリージャーナリストのジェス・リブル、ザフトの巨大兵器の取材に来たんだと。」

 

交わされていた握手を解きつつ、一夏は自身の背後に控えていたジェスを前に立たせつつ紹介していた。

 

「ジェス・リブルだ、ジェスって呼んでくれ。」

 

「俺はロウ・ギュール、ジャンク屋だ、よろしくな。」

 

少々警戒しているのだろうか、ジェスの口調は固く、一定の距離を置こうとするかの様な態度だった。

 

それを見てか、ロウと一夏は顔を見合わせて苦笑しつつも、今はそんな時では無いと互いに頷き合っていた。

 

「ロウ、早速で悪いが・・・。」

 

「分かってるさ、ジェスとか言う兄ちゃんにアレを見せてやってくれ、だろ?」

 

自分の言葉の先を予想し、すぐさま行動に移すロウの言葉に頷き、一夏はジェスに向き直った。

 

そんな彼等の間で交わされた何かが理解できなかったのだろう、彼は目を丸くするだけでどういう訳かと尋ねる事すら出来なかった。

 

『やぁ、一夏、久し振りだね。』

 

「うわっ!?」

 

そんなジェスのすぐ隣に、ホログラム体であるジョージが現れた。

 

唐突な出現に驚き、彼は大きく仰け反り、数歩後ろに下がりながらも胸を押さえていた。

 

心臓に悪すぎる、そう思っているのだろうか・・・。

 

「久し振りだなジョージ、此処にアレを映し出せるか?」

 

『もちろんだとも!』

 

そんな彼の背を、大丈夫だと言う風に軽く叩き、一夏はジョージにとある事を依頼し、彼もそれを快諾していた。

 

ジョージが手を広げると、何処かの映像が空中に投影される。

 

その光景に再度驚いたのか、ジェスは大きく目を見開きながらも、何が起こるのかと映像を注視していた。

 

そんな彼の目の前で、モニターの中の一点がさざ波を打った様に揺らめき、何か巨大な物体がその輪郭を現してゆく。

 

「・・・っ!?」

 

徐々にハッキリとした姿になってゆくそれを見たジェスは、声にならぬ声を上げ、瞳が落ちそうなほどに目を見開いていた。

 

彼が驚くのも無理はない、それは、人類を破滅の一歩手前まで追いやった悪魔の兵器だったのだから・・・。

 

「こっ・・・、コイツは最終決戦で使われた、ジェネシス・・・!?」

 

ジェネシス。

 

ザフトが第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で使用した大量殺戮兵器である。

 

内部で核爆発を起こし、発生したガンマ線をミラーに収束、それを目標目がけて照射する。

 

その威力は凄まじく、理論上では、地表に直撃すれば、たった一射分の強烈なガンマ線により、着弾地点はおろか、気象変動などを引き起こし、地表の約80%もの生物を死に至らしめる、まさに直径十㎞クラスの小惑星が激突した際と同規模の被害を齎すのだ。

 

幸い、それは未然に防がれたものの、もし地球に撃たれてしまっていればと想像すると、あまりにも恐ろしい結末を迎えていた事だけは想像に難くない。

 

「・・・の、バリエーションだ、多分こっちの方が先に作られたんだろうけどな、今は俺達が拾ったからな。」

 

驚愕と共に零れたジェスの呟きに、ロウは補足するように話した。

 

彼が目を凝らすと、ジェネシスのあちらこちらにジャンク屋組合所有である事を示すマーキングが施されている事が確認できた。

 

何かの準備をしているのだろうか、ゆっくりとミラーが動いている事も確認できる。

 

「ザフトの巨大兵器・・・、本当にあったのか・・・、っ!?」

 

暫し呆然としていたジェスだが、何かに気付いたのだろうか、唐突にロウに詰め寄ろうとしていた。

 

「アンタ!これを使って何をするつもりなんだ!?」

 

「うるさい兄ちゃんだな・・・、俺はこれを本来の目的のために使うつもりさ。」

 

一夏に羽交い絞めにされながらも騒ぐジェスに、ロウは困った様な表情を見せながらも説明を続けた。

 

「本来の目的・・・?」

 

ロウの言葉の意味を測り兼ねたのだろう、ジェスは暴れる事をやめ、何処か訝しむ様な表情を見せていた。

 

本来の目的とは何なのか、ジェネシスを大量殺戮兵器としてしか知らない彼は、それ以外の可能性を見出せなかったのだろうか・・・。

 

「そうだ、宇宙船を外宇宙に押し出す加速器としてな!」

 

「なんだって・・・!?」

 

ロウの自信満々な答えに、ジェスは我が耳を疑っていた。

 

加速器とは何なのか、それが分からなかったのだろう。

 

ジェネシスは元々、それぞれ存在する波形の中でも一番遠くまで届くガンマ線の性質を利用し、帆を張った宇宙船に風に見立てたガンマ線を照射、推進剤を使用せずに加速するためのスターターの様な装置に過ぎなかった。

 

このシステムは、大いなる星の海原へと人類を旅立たせるという、探究心を、夢を実現するための装置であったが、それを兵器としてしまうあたり、人間の愚かさを象徴している気もするが、ここにいる彼等にはそんな事などどうでも良かった。

 

「まずは火星あたりに行こうと思ってる、大分昔に火星圏に移住した奴らがいるだろうしな。」

 

「はっ!何寝言言ってんだよアンタ、そんなの無理に決まってるだろ。」

 

そんなロウの言葉を、ジェスは鼻で笑っていた。

 

理論上は可能と言うだけで、それを実際に成した者はいない、それに加え、火星に辿り着けるかも怪しいのだ、彼にとってはそんなバカげた事をやろうとする意味は無いとでも感じたのだろうか・・・。

 

「なんで無理だって思うんだ?」

 

「えっ?それは・・・、常識的に考えて・・・。」

 

だが、ロウという男はそう考えなかった。

 

真っ直ぐな瞳で、ジェスの目を覗き込みながらもどうして無理なのかを尋ねていた。

 

そんな彼の言葉に困惑しながらも、ジェスは常識的に考えて出来る訳がないと口にしていたが、ロウの言葉の凄みに呑まれてしまったのか、嘲る様な色は既に消え失せていた。

 

「誰もこんな方法で火星に行ったことなんてないんだ、常識なんて意味ないぜ!それに、常識なんて枠に囚われてたら、面白くも何ともないじゃないか!」

 

「・・・っ!!」

 

その言葉にジェスは頭を叩かれた様な衝撃を受けた。

 

常識など何の意味も無い、誰もやった事がないのならば自分がその第一番になれば良いと、ロウはそう言い切ったのだ、それは彼の理解を遥かに超えるものだったのだから。

 

ロウがそう告げた直後、彼等と少し離れた場所で会話を弾ませていたセシリアとシャルロットが、劾と共に近づいてきた。

 

「ロウ、ルキーニから連絡が入った、ザフトが迫って来ているそうだ。」

 

「分かった、頼むぜ劾、俺はもう少しやらなきゃいけない事があるからな。」

 

「問題無い、お前の頼みだ。」

 

迎撃に出る積りなのだろう、彼はロウの言葉に頷きながらも、愛機であるブルーフレームへと向かって行った。

 

「一夏様、私達も迎撃に参りますわ。」

 

「恩返しのつもりでね。」

 

今だジェスを羽交い絞めにしたままの一夏に、セシリアとシャルロットが近付きながらも、迎撃に出る旨を伝えていた。

 

それは恐らく、ロウや劾に対する恩返しの一つと考えているのだろう、彼女達の瞳にはそういった色が見て取れた。

 

「分かった、俺はジェスの護衛に残るよ、お前達も気を付けてくれよ?」

 

「はい♪」

 

「勿論だよ、行ってくるね。」

 

彼女達の言葉に頷きながらも、愛する二人の無事を願い、一夏は二人を送り出す。

 

セシリアとシャルロットが恩返しをしたいと言っているのだ、彼に止める理由も、止める積りも無かったからだ。

 

「さってと、仕上げをやっちまうか!」

 

彼女達を見送り、ロウは発進準備の残りを終わらせるべく、レッドフレームの方へと向かって行く。

 

皆それぞれが、己がすべき事の為に動く中、ジェスは自分の胸が熱くなってゆくのを感じていた。

 

「(この男・・・、本気で火星に行こうとしてるのか・・・?馬鹿げてる、馬鹿げてるのに・・・、チクショウ・・・!なんでこうもワクワクしてるんだ・・・!?)」

 

自分がこれまで考え付かなかった事を、誰もそう出来ると思わなかった事を、今この瞬間にやってみようとするロウの姿に、彼は強烈なトキメキを覚えた。

 

そうだ、自分が撮りたかった画は、出会い、取材してみたかった人物は彼の様な人間ではなかったか。

 

そう気付いた途端、彼は自分が先程口走った決めつけや嘲笑が、何処か恥ずかしく感じてきた。

 

ジャーナリストが偏見を持ってはならない、その時点で、在るがままの事象を歪めてしまっているからだ。

 

だからこそ、彼は自分はそうならぬ様にと心掛けていたつもりだったのだが、まだまだ、先入観にとらわれていたのだと痛感しているのだ。

 

「なに呆けてるんだ、ジェス?」

 

「一夏・・・。」

 

呆然といていたジェスの肩を叩き、一夏は彼の顔を覗き込んだ。

 

その表情からは、彼を心配していると言うよりも、こういう奴等もいるんだと告げる様な色が見て取れたため、ジェスはまたしても言いようのない感覚を覚えた。

 

「俺・・・、ジャーナリスト失格かもな・・・、先入観に囚われてたなんて・・・。」

 

「そうだな、だが、しょうがないさ、誰もやった事の無い事をやろうとしてるなんて、出来っこないって思うからな。」

 

意気消沈と言わんばかりのジェスの言葉を、一夏は慰めるでも突き放すでもなく、ただ、淡々と人間とはそういう物なのだと語った。

 

そんな事は彼にも分かっていた、だが、それ故に自分もまだまだ未熟なのかと打ちひしがれているのだろうか・・・。

 

「けどな、最初はそれでも良いじゃないか。」

 

「えっ・・・?」

 

そんな中、一夏が唐突に言った言葉に、ジェスは驚きながらも彼の顔を凝視した。

 

「誰だって今まで生きてきた中で見て来たものがあるし、その中から学んだ事だって山ほどあるんだ、最初っからあるがままを見るなんて出来っこないんだ、そう出来る人間に、俺は会った事は無いね。」

 

「あるがままを見る・・・。」

 

彼の言葉を脳内で反芻する様に、ジェスはしみじみと呟いていた。

 

あるがままを見る、言うのは簡単だが行うのはそれなりに難しく、そして忘れがちになってしまう事である。

 

だが、一夏はそれでも仕方ないと言う、これまでの経験で人は成り立っているのだと。

 

「だからさ、気付いた時からやればいい、俺なんて・・・、気付いていても出来なかった事が数え切れないぐらいあるし、その数だけ・・・、後悔してるさ。」

 

「一夏・・・?」

 

苦い思いがあるのだろうか、歯切れ悪く語る彼の言葉を、ジェスは妙な心地で聞いていた。

 

だが、それを、他人の過去を窺い知れる程人間は万能ではない、故に彼は、彼の言葉に込められた想いを、そして痛みを感じ取った。

 

「後悔してもいい、お前はまだやり直せるんだ、俺と違ってな・・・、だから、お前はお前の信念を貫け、それが正しい事なんだから。」

 

「そうか・・・、それしかないんだよな・・・。」

 

一夏の言葉に、ジェスは何とも言えぬ感覚を感じ取ったのだろう、少々詰まりながらも頷き、自分が見定めるべき方へと視線を向けたのであった。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

ジェネシスαから出撃した僕とセシリア、そしてサーペント・テールの劾さんとイライジャは、スラスター光が目視できる距離まで接近してきたザフトのMS部隊と向かい合っていた。

 

その光の数からして、こちらに接近して来ているザフトの部隊は二個中隊以上の数だと予想できた。

 

『凄い数のMS隊だぞ・・・、やれるのか・・・?』

 

目の前に迫って来ていたMS部隊の数に気圧されているのか、イライジャは何処か不安そうに言葉を漏らしていた。

 

僕はいい意味でも悪い意味でも、こういった大軍を相手にするのは慣れてるから何時もと同じ様に戦えば良いんだけど、傭兵とは言ってもこういう大軍を相手にする事は滅多にないと思われる彼では、流石に気が引けるんだろうか・・・。

 

『問題ない、俺達四人ならやれる。』

 

そんな彼の不安を払拭する様に、劾さんが通信を入れてきた。

 

四人って事は、僕達も戦力として信頼されてるって事だよね?

そういう事なら嬉しいね。

 

って、そんな余計な事考えてる暇なんてないよね、現に平然としてるけど狙撃タイプの機体がいたら、もう狙い撃たれていてもおかしくない距離なんだ、気を付けないと・・・。

 

『セシリア、シャルロット、援護は任せた、ビームには気を付けろ。』

 

『お任せくださいな。』

 

「了解しました、劾さんも気をつけてくださいね?」

 

僕達を心配してくれているんだろうか、劾さんから通信が入った。

 

まぁ、僕とセシリアが自分の意志で戦場に出たからって、僕達が死んだら一夏に合わせる顔が無いって思ってくれてるんだと思う。

 

劾さんもロウも、ミナさんも優しいからね、昔には無かった感情を向けられてるのが嬉しいな、なんてね・・・。

 

おっと、今はそんな事考えてる場合じゃなかったね、気を抜いたら、今度こそ本当に大好きな人達に会えなくなっちゃうんだ、気合入れないとね。

 

「さぁ、行くよバスター!」

 

ビームライフルとガンランチャーを超高インパルス砲形態に連結させ、全軍に先駆けて迫ってくる一機のゲイツに狙いを定め、トリガーを引いた。

 

高エネルギーの奔流は敵機に迫り、回避させる暇を与えずに頭部を破壊した。

 

うーん・・・、射撃の精度が少し落ちたかな・・・?

昔ならともかく、今はもう進んで殺そうとは思ってないけど、流石に落とす気で掛かったんだ、奪えたのが頭だけなのってどうなんだろうか・・・。

 

ううん、違うよね、今の僕が考えるべきなのは敵を倒す事よりも、友達を無事に送り出してあげる事なんだ、敵を落とせたとかなんて、今はどうだっていいんだ。

 

そう思い直した途端、ザフトのMS部隊が速度を更に上げ、僕達の方にビームやマシンガンを撃ち掛けながら向かってくるのが見えた。

 

どうやら、僕達を落とさないとジェネシスαを破壊できないと踏んだんだろうね、物量で勝ってる軍ならよく有りそうな力押しだね・・・。

 

でも、それは間違いなんだよね、何せ、こっちは最強の傭兵とその相棒、そして僕達がいるんだ、負ける気がしないね。

 

遠距離兵器を持っているバスターを先に落とすつもりなんだろう、こっちに数機のジンやシグーが向かってくるけど、セシリアのデュエルがビームライフルを撃ち掛けながらも迫り、左手に保持したビームサーベルですれ違いざまに二機のジンを切り裂いて行った。

 

劾さんとイライジャは僕達とは別方面の敵を引き付け、タクティカルアームズや手持ちのマシンガンで敵のMSを撃破していく様子が確認できた。

 

やっぱり、劾さんぐらいの力量があれば、どんな敵にも負けないんだろうね、僕達三人が向かって行っても勝てる自信が無いし・・・。

 

まぁ、味方になってくれてるなら、これ以上心強い人もいないだろうけどね!!

 

「まったく!証拠隠滅なんてくだらない事、やめにしてくれないかな!」

 

『あちらも仕事なのですよ、言っても止まりませんわ。』

 

ガンランチャーで迎撃しつつ悪態を吐くと、苦笑交じりの声でセシリアが突っ込みを入れてきた。

 

確かに、終戦協定をするにあたって、こんな大量殺戮兵器が残ってたらザフトが不利になるのは火を見るより明らかだ。

 

だからこそ、条約が締結される前に不都合な物は排除しておきたいのは分かるんだけどさ、よくもまぁ、二個中隊クラスで攻めて来れるよね。

 

そんな愚痴とも取れる事を考えながらも敵を攻撃していると、Nジャマーの影響で混線した通信からロレッタさんの戦況報告が聞こえてきた。

 

『ジェネシスαの反対側の宙域から新たなMS反応よ!』

 

やっぱり別働隊がいたんだ・・・!

劾さん達と正面からぶつかるだけだと消耗戦になるだけだからね、流石にもう一つ動かせる部隊を用意しておく事は当たり前だよね・・・。

 

『流石はルキーニ、正確な情報だ、高いだけはあるぜ、だが安心しな、もう手は打ってある、アイツならやってくれるさ。』

 

「アイツってまさか・・・?」

 

リードさんの口から発せられた言葉に、僕はある人物の姿を、そしてその愛機を思い出していた。

 

まさか、彼がここに来ているの・・・?

 

僕の勝手な想像かも知れないけど、もしそうなら・・・!

 

言葉に表せない感覚に突き動かされる様に、僕はバスターのスラスターを吹かし、ジェネシスαの反対側の宙域へと向かった。

 

僕がジェネシスαの反対側が確認できる場所まで来ると、星の瞬きと見紛う様な距離に、こっちに向かってくる敵機のスラスター光が瞬いているのが見えた。

 

もう間も無く射程距離になるけど、この距離だと当てる自信が無いなぁ。

 

でも、そんな事をする必要なんて無い、だって、僕以外にも味方はいるんだから。

 

機体のズーム機能を使用すると、先頭の一機が数発の銃弾を喰らって爆散するのが見て取れた。

 

この攻撃は間違いない、彼が好んで使った武器の銃弾だ・・・。

 

先手を撃たれた敵のMS部隊は、撃ってきた彼目掛けて銃弾を浴びせかけるが、その攻撃は光の壁に阻まれて四散した。

 

あの光はアルミューレ・リュミエール・・・。

やっぱり彼だ・・・。

 

『この程度の攻撃で、俺の、俺達のガンダムを・・・。』

 

スピーカーから、年若い青年の声が僕の耳に届いた。

 

透き通っているけども、何処までも自信に満ち満ちた声・・・。

 

煙が晴れ、そこには光の盾を左腕に広げたトリコロールのガンダムが、僕の弟が乗っていた機体が現れた。

 

特徴的だった背中のX字のドラグーンは撤廃され、今はギリシャ文字のΗに似たバックパックが装備されたドレッドノートだ。

 

『ドレッドノートイータを突破できると思うなよ!!』

 

ドレッドノートはパイロットであるカナード・パルスの言葉と共に動き、背中のバックパックをバスターモードへと変更、向かってくる敵に向け、核エンジンの恩恵を受けた超大火力ビームを撃ち掛けた。

 

回避しきれなかった数機のジンがそのエネルギーの奔流に呑み込まれ、漆黒の宇宙を爆発光で彩った。

 

だけど、まだまだ敵はいる、如何にスーパーコーディネィターであるカナードでも、数の面での劣勢は否めないだろう。

 

だから、彼にとっては不本意だろうけど、援護させてもらおうかな。

 

そんな事を考えつつも、僕はバスターの速度を上げながらも対装甲散弾砲を構え、ドレッドノートを狙おうとしていた敵機に向けて散弾を撃ち掛けた。

 

「カナード・パルス、こちらアメノミハシラのシャルロット・デュノア、援護するよ。」

 

『お前は、プレアの・・・!』

 

僕の接近に気付いたのだろう、彼は驚いた様な声を上げていた。

 

多分、プレアを死なせてしまった事に負い目を感じているんだろう、彼の声色からはそんな想いが感じ取れた。

 

「・・・、お前は俺を恨むか・・・?プレアを死なせた俺を・・・?』

 

「さぁ、どうだろうね、君を恨んでないと言えば嘘になるね。」

 

機体を背中合わせにし、周囲に展開する敵機を警戒しつつ、僕は言葉を発した。

 

プレアの命を縮める結果を生んだカナードを恨んでないと言えば、それは少なくとも嘘になってしまう。

 

それ自体は彼も分かっているだろう。

 

「だけど、恨んだ所でプレアはもういないんだ、だから、今を生きてる僕達がする事は、彼が望んだ事を、少しでも実現していく事じゃないかな?」

 

彼を殺す事でプレアが帰ってくるのなら、僕は喜んで昔の僕に戻って、カナードを殺しているだろう。

 

だけど、そんな事は有り得ない、夢や幻でしかない。

 

だったら、幻を追いかけるぐらいなら、今を、現実で彼が望んだ事を追いかける方が何倍も、何十倍も良い結果を生むだろう。

 

それに、憎み続けるのは疲れちゃうしね。

 

『プレアの想い、か・・・、そうだな、アイツの想いと共に、俺は在る!!』

 

僕が許したと思ったんだろうか、カナードは力強く頷き、ビームライフルを乱射しながらも敵機が犇めく方へと突っ込んで行った。

 

相変わらず、熱くなりやすいんだね。

 

「それで良いんだよ、カナード、君は僕みたいになっちゃダメだよ。」

 

全てを破壊して、友も仲間も失った、昔の僕みたいには、ね・・・。

 

だけど、今はその力を、友達の夢の為に使おうか。

それが出来る力なんだしね!!

 

そのために、僕はバスターのスロットルを開き、敵への攻撃を再開した・・・。

 

sideout

 




次回予告

旅立ちを見送るジェスは、ロウから特別な意味を持った機体を託される。
それは、彼の旅の始まりを告げる。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

アウトフレーム

お楽しみに。


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アウトフレーム

noside

 

「準備が終わったから俺達はもう行くぜ、一夏、ジェスの兄ちゃん、早くここから離れな。」

 

レッドフレームで出発の最終準備をしていたロウは、リ・ホームの格納庫に戻り、そこで待っていた一夏とジェスに退避するように伝えた。

 

「了解した、ロウ、セシリアとシャルを護ってくれた恩、俺は一生忘れん、本当に感謝している。」

 

ここに来た本当の目的を果たそうと、一夏はロウに歩み寄りながらも右手を差し出した。

 

彼にとって、セシリアとシャルロットの存在は何よりも大きく彼の心を占めていたため、彼女達の生還が、一夏の精神保養にとって大きな支えとなっていたのだ。

 

ただ、愛しい者達というだけでなく、彼にとっては何物にも代えがたい想いがあったのだ。

 

「いいよ、気にするなって、また会えて良かったじゃないか。」

 

「あぁ、ありがとう、長い旅になるとは思うが気を付けてな。」

 

彼の感謝、感激を感じ取ったロウは笑顔を浮かべながらも、別れを惜しむ様に彼の手を握り返していた。

 

「おうよ、早くリ・ホームから出な、また離れ離れになっちまうぞ?」

 

「それは勘弁してほしいな、ジェス、行くぞ・・・?」

 

長居していれば火星まで連れて行くと冗談めいて言うロウの言葉に苦笑し、握手を解いた一夏は自分の傍にいたジェスの方に向き直った。

 

だが、当のジェス本人は眉間に皺を寄せ、ロウを凝視していた。

 

ジェスの表情の理由が分からなかった二人は互いに顔を見合わせつつも、自分達が彼の気に障る様な事をしたのかと訝しんだ。

 

それほどまでに、ジェスが浮かべている表情に合点がいかなかったのだ。

 

「すまん!!」

 

そんな彼等に、いや、正しくはロウに対して、ジェスは勢いよく頭を下げていた。

 

「な、なんだ急に・・・!?」

 

唐突な謝罪に面食らったのだろう、ロウは後退った。

 

「俺はアンタのやろうとしてる事を嗤ってしまった・・・!何も分かったなかったのにだ・・・!!」

 

「な、なんだよ、そんな事で・・・。」

 

「そんな事なんかじゃない!ジャーナリストが先入観でモノを見るなんて事は、絶対にやっちゃいけない事なんだ!だから・・・!!」

 

ジェスは自身が取ってしまったしまった態度を後悔しながらも、ロウに詫びを入れていたのだ。

 

先程の態度はジャーナリストとしての彼にとっては、自分が最も嫌う行動を自分自身が取った事への羞恥にも似た何かがあるのだろう。

 

「う~ん、別に自分自身で気付いたんなら、それで良いんじゃないのか?」

 

「えっ・・・?」

 

だが、当のロウ本人は全く気にした様子も無く、ジェス自身が気付いたのならばそれで良いと笑っていた。

 

思いもしなかった言葉に驚きながらも、ジェスは彼の顔を凝視していた。

 

彼自身、心無い言葉を投げかけてしまったと言う自覚があるのだ、それが何の蟠りも無く許されるとは思っても見なかったのだろう。

 

「アンタ・・・、自分が馬鹿にされたってのに・・・、変わってるな・・・?」

 

「そうか?MSに乗ったジャーナリストって方が変わってるだろ?」

 

「それもそうだ!」

 

思わず零れたジェスの言葉に、ロウは自分と同じく彼も変わり者ではないかと尋ねていた。

 

その自覚があったジェスは、特に何も言い返す事無くその通りだと認め、ロウと拳をぶつけ合っていた。

 

変わり者同士、何か通じ合うモノがあったのだろうか・・・。

 

「だけど、それが俺の誇りなんだ、今じゃ戦場の主役はMSだ、戦場やそこにあるモノを見るには、やっぱり彼等と同じ視点に立つ事が大切だと思う、だから俺はMSに乗って戦場を見てるんだ!」

 

ジェスは自分の胸に手を当て、自分が掲げている信念を口にしていた。

 

MSに乗ってるからこそ、生身では感じ取れないモノ、見えないモノがある、それを見る為に、彼は己の道を行くのだ、と・・・。

 

「そうか・・・、分かった、良い物やるよ、付いて来な!」

 

「えっ?」

 

ジェスの言葉の中に、自分とは違う道ながらも、己の道を貫くジェスの志をみたロウは我が意を得たりと言う風に頷き、彼を先導する様に別の格納庫への通路へと向かって行った。

 

そんな彼の唐突な行動に驚いたのか、ジェスは訳が分からずに一瞬呆けるが、何かあるのだと結論付け、一夏と共に彼を追って通路を進んで行った。

 

「こっちだ、これをやるよ!」

 

「なっ・・・!?」

 

ロウに追いつき、辿り着いた先にあったモノの存在に、ジェスは息をのんだ。

 

流線的ながらも、何処か戦う事を目的としていたフォルムを持った、全長18mのMSが鎮座し、彼等を見下ろしていた。

 

「アストレイアウトフレーム、規格外のマシンだぜ!!」

 

「こ、コイツを、俺に・・・!?」

 

ロウがアウトフレームと呼んだMSに、ジェスの目は釘付けになった。

 

民生品のレイスタの様な継ぎ接ぎでは無く、最初から一機のMSとしての完成を迎えたMSであり、明らかに何処かの軍需産業が作り出したモノである事は明白だった。

 

「最初は一夏に譲ろうと思ってたんだが、一夏にはコイツよりも良いマシンがあるからな、自分用のMSを持ってない兄ちゃんに譲るよ、自由に使ってくれ。」

 

「そんな・・・、こんな高価なモノをか・・・?」

 

ロウの言葉に、ジェスは信じられないとばかりに言葉を詰まらせていた。

 

出会って間もない自分に、新品のMS一機を何の見返りも無しに譲渡しようとしてくれる事が不思議でならないのだろう。

 

「気にするなって、どうせ拾いモンなんだ、ジェネシスαの中で未完成で放置されてたのを俺が持ってた部材で組み上げたんだ。」

 

「あそこに?それってヤバいものじゃないのか?」

 

「どうかなぁ、確かに何もないとは言い切れないけどな、それを考慮しても御釣りが出るくらいの性能だって事は俺が保証するぜ、おっ!そうだ。」

 

機体の入手経緯に疑問を感じたジェスは、少々不安混じりながらもロウに問い掛けるが、当のロウ本人はにべもない言葉を返しつつ、何かを思い出した様で、アウトフレームのコックピットの方へと近付いて行った。

 

彼の返答に納得した様なしていない様な表情を浮かべながらも、ジェスはロウに付いてコックピットまで向かった。

 

「おい、『8』!!」

 

呼びかける彼の声と同時に、腹部コックピットハッチが開き、コックピット内が明らかになった。

 

「お前、地球に残りたがってたよな?」

 

『そうだ!!火星になんか行けるか!!』

 

コックピットを覗き込んだジェスの目に飛び込んで来たのは、アタッシュケース大の擬似人格コンピュータの姿であり、ロウの言葉に答えながらもストライキ中と言う文字を表示し、何処か不満げな様子が窺えた。

 

「どうせ残るなら、暫くこの兄ちゃんに付いて地球圏を見て回るってのはどうだ?」

 

『それなら構わんぞ!』

 

火星に付いて行かないのならば、ジェスに付いて行くというのはどうかと尋ねられた『8』は、火星に行くよりはマシだと感じたのだろうか、彼との行動を快諾していた。

 

「MSのサポートコンピューターか?」

 

「おいおい、『8』はモノじゃない、自分の意志でお前に力を貸してくれるんだ、口は悪いし頑固だが、頼れる奴なのは間違いなしだぜ!」

 

自分の相棒を、者としてではなくモノとして扱うジェスの言葉を訂正する様に、ロウは『8』が彼自身の意志を持って動いている事を説明していた。

 

そこに軽い非難の色を感じ取ったからか、ジェスは申し訳なさそうに頭を下げていた。

 

「すまん・・・、だけど、良いのか・・・?こんなにしてもらって・・・?」

 

厚遇してもらって申し訳ないのだろうか、彼はロウの顔を覗き込んでいた。

 

「気が引けるのなら貸しておく事にするよ、そんなに長い事いるわけじゃないからな、そうせすぐに帰ってくるからさ。」

 

「ロウ~!そろそろ行かないと~!」

 

そんな時だった、アウトフレームの足元から少女の声が聞こえてきた。

 

二人が振り向くと、一夏の隣に一人の少女が立ち、彼らを見上げていた。

 

「プロフェッサーとリーアムはサーペント・テールのシャトルに移ったよ。」

 

「おう。」

 

「その子も火星に?」

 

ロウに準備状況を話す少女の姿に、ジェスは軽い驚きを禁じ得なかった。

 

まだ成人もしていないだろう少女が、火星への過酷な旅路に同行するのだ、普通なら考えられないのだろう。

 

「離れ離れになんてなれないよ♪」

 

彼の言葉に頷き、少女、樹里は嬉しそうに微笑みながらもロウの腕に抱きついた。

 

ロウ自身も満更でもなさそうであったため、それなりの関係を築いているのだとジェスは感じ取った。

 

「付いて来るって言ってうるさくってな、まぁ、ジョージもいるし、俺が護るって約束したからな、大丈夫さ。」

 

自分が護る、そう言うロウの表情は照れくさそうにしながらも、何処か決意を籠めたモノの様にも見て取れた。

 

「そうか・・・、気を付けてな!」

 

そんな彼に対し、ジェスは右手を差し出し、見送りの言葉を投げかけていた。

 

「あぁ、アンタもな。」

 

差し出された右手を握り返し、互いの無事を祈り合う様な言葉を交わした。

 

「あっ、そうだ、一枚良いか?」

 

自身のジャーナリストとしての仕事を思い返したのだろう、握手を解いたジェスは左腕のポケットに仕舞っていた小型のカメラを取り出し、ロウと樹里に撮影の許可を求めていた。

 

「あぁ、これでいいか?」

 

彼の申し出に快く応じ、ロウと樹里は寄り添って写真に写る体制を整えていた。

 

「あぁ、ありがとう、・・・、よっし、上手く撮れたな。」

 

「そっか、帰ってきたら見せてくれな。」

 

「あぁ、もちろんさ、じゃぁな!」

 

また会えた時に写真を見せると約束し、ジェスは彼等に別れを告げ、アウトフレームの方へと向かって行った。

 

「相変わらず、思い立ったらすぐ行動、だな・・・、ロウ、樹里、旅の安全を祈っている、じゃぁな。」

 

ジェスの後姿を見ながらも、彼と共に行動するべく、一夏はロウと樹里に旅の無事を祈る言葉を投げ掛け、自身も愛機の下へと戻って行った。

 

「ジェス、アウトフレームを出せるか?調整が終わらんのなら俺が引っ張って行ってやるが?」

 

コックピットに戻った彼は、準備をしているであろうジェスに通信を入れつつも機体を素早く立ち上げて行った。

 

ロウ達の旅立ちを自分達の不手際で台無しにするわけにはいかないと感じているのだろう、彼の言葉からは何処か焦りの色すら窺う事が出来た。

 

『大丈夫だ、『8』がほとんど済ませてくれてたからもう出れるぜ!』

 

そんな一夏の不安を笑う様に、ジェスは興奮を隠しきれずに話していた。

 

どうやら、正真正銘のMSに乗った事が無かったため、レイスタとの完成度の違いに驚いていたのだろう。

 

「流石は『8』だ、仕事が早い、さて、新婚旅行の門出に水を差す訳にもいかん、行くぞ!」

 

彼の言葉を認め、一夏は冗談半分ながらもロウと樹里の門出を邪魔する訳にはいかないと言いつつ、リ・ホームのカタパルトからストライクを発艦させた。

 

『分かったぜ!アウトフレーム、GO!!』

 

彼の発艦を受け、自分も行く時だと感じたのだろう、ジェスは機体の名を叫びながらもアウトフレームで漆黒の宇宙へと飛び出した。

 

「リ・ホームから距離を取れ、下手をすればジェネシスの光線に呑まれてお陀仏だ。」

 

ストライクに追い付いてきたアウトフレームの肩に触れつつ、一夏はリ・ホーム及びジェネシスαから離れるべきだとジェスに伝えていた。

 

彼の言う通り、ジェネシスαの発射シークエンスは既に開始されており、もう間もなく推進器を装備したリ・ホーム目掛け、ガンマ光線が発射される手筈になっているのだ。

 

そんな中で近くにいれば、最悪ジェネシスの光に呑まれ、一貫の終わりなのだ。

 

『了解、撮影しながら下がるよ、一夏は周辺警戒を頼む、もし撃たれたら死んじまうからな!』

 

彼の提言に従って機体をジェネシスから遠ざけつつ、自身の依頼を果たそうとするジェスはリ・ホームが浮かぶ方向へとガンカメラを向け、撮影を続けていた。

 

彼とてその道のプロ、自身のやるべき事は重々承知しているのだ。

 

「そんな事になってミナに叱られるのは困るな、良いぜジェス、俺がお前を護ってやる、その代わり、良い画を期待してるぜ。」

 

『おうよ!任せろって!』

 

彼の思い、そして依頼を受けた一夏は苦笑しながらも了承し、周辺に展開するザフト及び傭兵部隊に気を配った。

 

攻撃をしているのは何も敵部隊だけではない、味方部隊も応戦の為に銃器を使っている、流れ弾など幾らでも飛んでくる恐れがあるのだ。

 

故に、宇宙空間では敵味方両軍の配置に気を配る必要があるため、地上戦以上に戦術が重要になってくるのだ。

 

「ハロ、ジェネシスの発射シークエンスのカウントダウンをこっちに表示してくれ、引き際の判断に使う。」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!』

 

ストライクのコックピットに増設されたポッドに収まったハロが、一夏の指示に従ってモニターにジェネシスαの発射シークエンスを表示、残り一分を切ったカウントダウンを開始していた。

 

「いよいよだな・・・、デュエルとバスターの反応は在るか?」

 

『カクニン、ハンノウアリ!ハンノウアリ!』

 

愛しの女達の生存を知り、一夏はホッと胸を撫で下ろしていた。

 

自分はここまで心配性だったのかと、彼自身思わずにはいられなかったが、それよりも何よりも、セシリアとシャルロットの無事を想っていたのだ。

 

そんな事を考えている内にもカウントダウンは遂に十秒を切り、ジェネシスが発射に向けて動いている事が確認できた。

 

カウントがゼロに近付いてゆく中で、一夏は無意識に操縦桿を握り締め、前代未聞の方法で外宇宙への航海に出る船に見入っていた。

 

そして、カウントがゼロになった刹那、ジェネシスαから眩いばかりの光がリ・ホームに向けて発射され、推進器でその光を受けたリ・ホームは徐々に加速しながらも進み、遂には星々の間に紛れて行った。

 

「ロウ、またいつか会おう・・・!」

 

無事旅立ちが成功した事に感激し、彼は拳を握り締めながらも小さくガッツポーズを作っていた。

 

その姿からは、誰かの偉業達成を喜ぶ色が見て取れ、嘗ての彼の様に他人に無関心と言う気は全く見て取れなかった。

 

「ジェス、良い画は撮れたか?」

 

そんな興奮が冷めやらぬ中、一夏は近くにいたジェスのアウトフレームに通信を入れ、彼の目的が果たせたかと尋ねていた。

 

『あぁ、バッチリ撮れたよ、だけど・・・。』

 

「どうした?」

 

写真は撮れたと言いつつも、何処か戸惑っている様な口調で話すジェスの言葉に、一夏は怪訝の表情を浮かべながらも彼に尋ねた。

 

『どうしてまだ戦うんだ・・・?もうロウ達は行ったのに・・・。』

 

どうやら、ジェネシスが発射されて尚、戦い続ける事に疑問を感じているのだろう、彼の言葉には憤りの色が濃く滲み出ていた。

 

「仕方ないさ、こっちはロウを送り出す事が仕事、あちらさんはジェネシスαの破壊が仕事だ、最初っから目的が違うんだ、あちらさんが退くまで戦いは終わらんさ。」

 

『そんな・・・、何とかして止められないのか・・・?』

 

ジェスに現状を説明しながらも、彼は内心であまり良くない状況だと毒づいていた。

 

それもその筈、サーペント・テール等は既にロウ・ギュールが発進するまでの間、ジェネシスαの護衛を依頼され、その間だけ戦う事になっている筈だ。

 

そして、予想以上に戦闘時間が延びつつあり、ザフト側もまず先に彼等の排除に動き出している為に撤退が出来ていないのだ。

 

それはつまり、今は戦線を支えられていても、時間が経てば経つほどにこちら側が不利になると言う事であり、彼等の敗北の可能性が色濃くなっていくのだ、せめて今すぐにでも戦いを終えて欲しいと、一夏自身思わずにはいられなかった。

 

自分が助太刀に入っても良いのだろうが、そうなればジェスが危険に晒される為に、自分が彼の傍を離れる訳にもいかないため、彼に打てる手立ては無かったのだ。

 

『どうしたんだ『8』?・・・、なるほど、その手が有ったか!!』

 

「ジェス?どうした?」

 

何かを閃いたとばかりに声をあげるジェスに、何がどうしたのかさっぱりな一夏は怪訝の表情を浮かべるが、そんな彼を置き去りにして、ジェスは行動を起こしていた。

 

『ツウシン!ツウシン!!』

 

「何?映像に出せ!」

 

その直後にハロが受信した通信が機体のモニターに映し出され、そこに映されたジェネシスαの映像が流れていた。

 

『こちらはジャーナリストのジェス・リブル!!ジェネシスαは撮影した!ザフト兵は退くんだ!!』

 

それと同時に、ザフトに撤退を勧告するジェスの言葉が流れ始め、一夏は彼の意図を悟った。

 

ジェネシスの存在を公表してしまえば、証拠隠滅の為に戦っているザフトは戦闘目的を失うと・・・。

 

「まさか、折角撮影したモノを全周波通信と光通信で送信しているのか・・・!?」

 

口ではそう呟きながらも、一夏はなんて無謀な行為なんだと肝を冷やした。

 

確かに兵を退かせるには十分すぎる材料だ、何せ、この通信は全周波と光通信を使っている為に、例え地球に居ようが月に居ようが、通信を受信できる手段があれば容易く読み取れる手段なのだから。

 

だが、それで容易く退いてくれるほど、ザフトも物分りの良い人間ばかりではないかもしれない、公表された事に怒り、ジェスを攻撃してくる恐れもあるのだ、到底自分一人の腕では護り切れない。

 

その可能性に辿り着いたために、一夏はⅠ.W.S.P.の対艦刀をいつでも引き抜ける様にとストライクの手を柄に添えた。

 

息が詰まった様な錯覚を覚える緊張の後、幾つものスラスター光が遠ざかって行くのが確認できた。

 

『やったぞ!ザフトが引き上げていく!!』

 

ジェスの言葉に、一夏は盛大な溜め息を吐きながらもシートに沈み込んだ。

 

その表情からはやれやれと言った色が濃く滲み出ており、彼の苦心ぶりを窺わせていた。

 

攻撃の一つや二つされても何もおかしく無い状況だったのだ、彼でなくとも一息吐きたくなるだろう。

 

「やれやれ・・・、上手い事退いてはくれたが、情報をばら撒くと言う行為は、ジャーナリストとしてはどうなんだ・・・?」

 

折角の情報をタダでばら撒いたジェスの行為は、確かにジャーナリストにとっては有るまじき行動なのだが、その結果として、自分達の側には犠牲者が出る事も無く戦闘が終結したのだ、感謝すべきか咎めておくべきか悩んだ彼であったが、此処は敢えて独り呟くだけで済ませておくようだ。

 

これで帰れると思い、一夏はストライクを動かそうとした。

 

だが、現実はそう単純では無かった。

 

『ケイコク!ケイコク!!』

 

「なにっ!?」

 

ハロが発した警告と共に、ストライクのモニターにスナイパーライフルを構える長距離強行偵察複座型ジンの姿が映し出された。

 

どうやら、乗っているパイロットが物分りの良い人物ではなかったようだ、非戦闘員であるジェスを撃っても、ザフトの不利益になる様な事を行ったのだ、特に咎められる理由も無いために攻撃すると言う手段を選んだのだろう。

 

「くそっ・・・!!この距離を狙えるか・・・!?」

 

咄嗟にジェスのアウトフレームを突き飛ばしながらも、彼はレールガンの照準を定めつつも毒づいていた。

 

決して狙えない距離ではないのだが、一夏自身、それほど射撃、主に狙撃が得意ではなく、距離が離れれば離れるだけ命中率は極端に低くなっている。

 

それは彼自身がゼロ距離格闘をメインとするインファイターである事を物語っており、射撃は牽制、及びゼロ距離での発砲用としているが、今はそうは言っていられない状況だ、何としても外す事だけは許されない。

 

「えぇい・・・!ままよっ・・・!!」

 

覚悟を決め、トリガーを引こうとしたまさにその時だった。

 

彼等を狙っていたジンの頭部があらぬ方向から飛んで来た弾丸に撃ち抜かれた。

 

「なにっ!?誰だ・・・!?」

 

彼の困惑に答える様に、頭部を撃ち抜かれたジンのスナイパーライフルを取り上げ、ナイフが装備された拳銃を持った一機のジンのカスタム機が現れた。

 

「あれはジンアサルト・・・?誰が・・・?」

 

ジェスを狙っていたジンを撃とうとした敵を倒したのだ、味方ではないが敵とも思えなかったが、目的が明らかになっていないために、彼は何時でも攻撃に移れる様に意識を外さなかった。

 

暫しの睨み合いの後、用は済んだとばかりに踵を返し、地球がある方向へと去って行った。

 

「さっきのジン、一体何者なんだ・・・。」

 

刃を交えて察した訳ではないが、その佇まいから強者の風格を感じ取ったのだろう、彼は盛大な溜め息を吐きつつも周囲を見渡した。

 

ザフトは完全に撤退し、傭兵達も既に撤退していった後の様だ、セシリアのデュエルとシャルロットのバスターが彼等の傍まで戻って来ているのが見て取れた。

 

『一夏~、終わったよ~。』

 

『劾さん達も撤退しました、私達も御暇致しましょう?』

 

戻ってくると同時に、ストライクのコックピットに通信が入り、何処か満足げな表情をした二人の顔が映し出された。

 

どうやら、彼女達の望みはある程度果たされたのだろう、その表情からはそんな色が見て取れた。

 

「了解、アメノミハシラに帰投する、ジェス、補給もいるだろうから付いて来いよ。」

 

『あぁ、頼むよ!』

 

恋人達の帰還を喜びつつも、ジェスに向けて帰還する旨を報告、三機に先行してストライクを走らせた。

 

彼の後を追い、アウトフレーム、デュエル、そしてバスターも追随し、アメノミハシラへと戻って行った・・・。

 

sideout

 

noside

 

「折角手に入れた情報をタダでばら撒くなんて・・・、なんてもったいないコトしてくれてるのよ・・・。」

 

ジェネシスαの一件から数日後、

地球上にあるとある邸宅にて、何かの報告書を読みながらも何処か不満げな表情を浮かべる男性の姿があった。

 

その男性はサー・マティアス、表社会のみならず、情報の面においてはかのケナフ・ルキーニを凌ぐ情報収集能力を持った者であり、一説には国家予算並みの資産を持つとも言われている。

 

「いや・・・、これは、その・・・。」

 

マティアスの前にはジャーナリストのジェス・リブルと、金髪の男性、マディガンが立っていた。

 

ジェスの表情は苦い物であり、失敗を咎められるのではないかと気が気でないようだが、マディガンは我関せずとばかりに事の趨勢を見ているだけだった。

 

少しは助けてくれてもいいんじゃないかと恨めしく思ったりするジェスだったが、戦いを止める為とは言えど情報を何の断りも無くばら撒いたのは彼の判断であり、彼の責任だ、誰も助け船を出す事は出来ぬのだ。

 

「まぁ、別に構わないわ、これで条約協定は連合側有利で進むだけだし・・・。」

 

呆れ顔ながらも、意図せず歴史に対して大きな転換を与えたジェスの事をある意味で評価しているのだろうか、マティアスは彼の独断を水に流したようだ。

 

違約金やそれに付随する何かしらを要求されると思い、生きた心地がしなかったであろう彼は、張り詰めていた緊張が解けたのだろうか、かなり緩み切った表情になっていた。

 

「って、それよりもコイツは誰なんだ?」

 

だが、今はそれよりも気になる事があったのだろう、気を取り直したジェスは隣に立つマディガンを指しながらも、マティアスに尋ねていた。

 

自分が知らずとも、此処に居ると言う事はマティアスの関係者である事は明白であるし、彼に尋ねた方が答えに近付けると判断したのだろう。

 

「カイト・マディガン、プロのMS乗りよ、君の護衛を頼んでいたの。」

 

「ま、俺の仕事は写真回収だ、お前はそののついでだ。」

 

紹介するマティアスの言葉に補足する様に、カイトはジェネシスαの写真回収が目的だったと話した。

 

「そうかよ・・・!そりゃありがとな!」

 

カイトの嫌味っぽい言い方にムッとしたのだろう、ジェスは顔を顰めながらも全然ありがたくなさそうに礼を返していた。

 

いくら自分を助けてくれたのだとしても、流石に嫌味を言われれば素直に礼を言いたくなくなるのも致し方ないだろう。

 

「さて、帰ってきて早々悪いけど、次の仕事よ、ジェス。」

 

「いきなりか!?ここ最近出ずっぱりだな・・・。」

 

彼等の雰囲気を微笑ましく見ながらも、マティアスは仕事の依頼があると告げた。

 

その言葉に驚いたのだろう、ジェスは少しは休ませてくれとばかりに声をあげた。

 

ここ一か月の間、彼は宇宙とマティアス邸の往復ばかりだったのだ、休暇も欲しくなって当然と言えるだろう。

 

「この仕事が終わったら休ませてあげるわ、だから、手に入れたMSで行って来て頂戴、貴方にしか出来ない仕事よ。」

 

仕事を依頼し続けているだけに、彼が働きづめで会った事を知っているマティアスは苦笑しながらも休暇を与える事を約束し、この仕事を依頼するようだ。

 

「あぁ、分かった!で、何処に行けばいいんだ?」

 

自分にしかできないと言う言葉に痺れたのであろう、ジェスは目を輝かせながらも行き先を尋ねていた。

 

良くも悪くも、ジェス・リブルと言う男は素直な人物であるのだ。

 

だが、続くマティアスの言葉に驚愕し、彼は絶句してしまった。

 

何せ、そこは・・・。

 

「場所は南米、ターゲットは連合の脱走兵、通称≪切り裂きエド≫よ。」

 

noside




次回予告

目的地を告げられたジェスは、協力者と共に英雄が戦う地に向かう。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

南米の英雄 前編

お楽しみに。


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南米の英雄 前編

noside

 

「南米・・・?切り裂き・・・、エド・・・?」

 

「あら?どうかしたのかしら?」

 

自分が告げた行き先を聞いたジェスが固まった事を受け、マティアスは何処かからかう様な笑みを浮かべながらも彼に問うた。

 

まさか怖気づいた訳ではあるまい、ジェスの表情からは恐怖など何一つ見受けられなかったのだから。

 

「あ、いや、何でもない・・・、ある人が予測した場所だったんだ・・・。」

 

驚愕から立ち直ったジェスは、自分が固まっていた理由を話した。

 

「ある人?それは誰の事なのかしら?」

 

ジェスにそれを示唆した人物に思い当たる節が無かったのだろう、マティアスは怪訝の表情を浮かべながらも問いかけていた。

 

「それは・・・。」

 

「そこから先は俺が説明させて頂きたい、サー・マティアス。」

 

ジェスの言葉を遮る様に発せられた声に、一同は扉の方へと振り返った。

 

そこには、独特なデザインをしたダークパープルを基調とした制服に袖を通した青年が立っており、彼等を真っ直ぐ見据えながらも彼等に近付いて行くようにゆっくりと歩いていた。

 

「あら?貴方は?」

 

「初めまして、サー・マティアス、俺の名は織斑一夏、アメノミハシラのロンド・ミナ・サハクの配下です、以後お見知り置きを。」

 

自分の名を尋ねるマティアスに答える様に、一夏は彼の前まで歩み寄り、膝を付いて頭を垂れた。

 

それが彼なりの義の通し方なのかは分からぬが、敵対する意思は無いと示すには最善の方法なのだろう。

 

「オーブの五大氏族のサハク家かしら?そんな大物の使いが何の用?というより、何故この場所が分かったのかしら?」

 

何故五大氏族の使いがいるのか理解できなかったのだろう、マティアスは怪訝の表情を浮かべながらも彼に尋ねていた。

 

「以前、そこにいるジェスにアメノミハシラでお会いしまして、此度のジェネシスαの件も、自分がジェスの護衛を務めましたので、ご挨拶とご報告を兼ねてお伺い致しました。」

 

「なるほど、貴方があのストライクのパイロットなのね、映像を見せて貰ったわ。」

 

一夏からの説明に納得する部分が有ったのだろう、マティアスは何処か納得した様な笑みを浮かべながらも彼の続く言葉を待っていた。

 

「恐縮でございます、では、本題に移らせて頂きたく存じます、お聞き受け願えますか?」

 

「えぇ、構わないわよ、何故貴方がここに来たのか、その理由を、ね?」

 

常々気になっていたのだろう、一夏がわざわざ自分の所まで来た理由が・・・。

 

「次の南米への取材に、護衛として参加させて頂けないでしょうか?もちろん、自分はMSを持っていますので、機体の手配は必要ありません。」

 

顔を上げ、マティアスの瞳を真っ直ぐ見据えた彼の目に、冗談めいた色は、全く窺う事は出来なかった。

 

それを察したのだろう、マティアスは浮かべていた笑みを消し、彼に疑問を投げかけた。

 

「あら?どうしてアメノミハシラのエース君が彼の護衛をしようだなんて、一体どういう風の吹き回しなのかしら?」

 

「ハッ、それには訳がありまして・・・。」

 

彼の問いに答えるべく、一夏はここに至る経緯を語り始めた。

 

sideout

 

side回想

 

「ジェス・リブルを連れて、何処へ行っていたのだ、一夏?」

 

ジェネシスαから帰投した一夏達を待ち受けていたのは、一夏の直属の主、ロンド・ミナ・サハクの何処かからかう様な笑みだった。

 

何処へ行っていたなど知っている様だったが、何故ジェスが行動を共にしているのか疑問に思ったのだろう。

 

「ジェスの仕事先が俺達が出向いていた場所と同じだったんだ、護衛も兼ねて同行してもらった、別にどうこうした訳じゃないさ。」

 

別に自分は何もしていないと言う様に説明した後、彼はそれにと言葉を続けた。

 

「ジェスに死なれたら、俺もアンタも寝覚めが悪かろう?」

 

「そうだな、御勤め御苦労と労うべきか?」

 

問い掛ける様に笑う一夏の言葉に、ミナはその通りだと笑いながらも答えていた。

 

それを聞いたジェスは縁起でもないと顔を顰めたが、既に過ぎた事だ、何を言っても自分が護られた立場だと分かっていたし、何も言う気は起きなかった様だ。

 

「ところで、ジェスさん、補給が済んだ後は如何される御積りですか?」

 

そんな彼等の事を微笑ましく思いながらも傍観していたセシリアがジェスに近付き、この後はどうするのかと尋ねていた。

 

「あぁ、補給だけさせて貰ったら、直ぐに地球に降りるよ、この件をマティアスに報告しないといけないし、仕事があるかもしれないしさ。」

 

「そっか・・・、ジェスも大変なんだね・・・。」

 

まだ仕事が待っているというジェスの言葉に、それを聞いていたシャルロットは驚嘆したように呟いていた。

 

自分達も訓練や雑務等でそれなりに忙しい毎日を送っているが、彼は毎日が修羅場の様子を間近から撮り続けている様なものだ、過酷さは自分達以上のものがあるかも知れぬと感じたのだろう。

 

「ジェス・リブル、今、マティアスと言ったか・・・?」

 

一夏と話をしていたミナが驚いた様にジェスを注視し、彼が語った人物の名を詳しく尋ねた。

 

どうやら、その名に心当たりが有るのだろうか・・・。

 

「あ、はい、俺のクライアントはサー・マティアスですが、どうしたんですか?」

 

ミナの問いの真意が分からなかったのだろう、ジェスは困惑したような表情を見せながらも、彼女の言葉を待った。

 

「やはり、あのサー・マティアスか・・・、途轍もない大物だな・・・。」

 

「ミナさん・・・?マティアスとはどの様な方なのですか?」

 

一人で納得している様なミナに説明を求める様に、セシリアがおずおずと尋ねていた。

 

そんな彼女の後ろでは、シャルロットも気になると言わんばかりの表情をしていたため、ミナは自分が知る限りの情報を語り始めた。

 

「サー・マティアス、裏社会において、彼以上の情報収集能力を持つ者はいないとまで言われる男だ、その腕はルキーニをも凌ぐと言われているが、その人となりを、過去をすべて知る者はいない・・・、そんな人物がジェス・リブルの雇い主だったとはな・・・。」

 

「そんな人が・・・?」

 

彼女の説明に、セシリアとシャルロットは、驚愕の表情でジェスを注視していた。

 

それと同時に思った事だろう、この世界にはどれほどの規格外な人物達がいるのか、と。

 

彼女達がこれまで出会った劾やロウ、カナードやプレア、そしてミナにしても、自分達が知る以上の力、能力を持っていたが、それを上回る名声を持つ者の存在がにわかに信じられないのだろう。

 

「これは我々としても、対応を考えねばな・・・、一夏。」

 

「あいよ、なんだ?」

 

暫し考え込む様な表情を見せた後、ミナは傍らでドリンクボトルに口を着けていた一夏を呼び、彼が口を離すと同時に言葉を紡いだ。

 

「ジェス・リブルに付いて地球に降り、次の取材地への護衛同行の許可をサー・マティアスに貰って来い。」

 

「「えぇっ!!?」」

 

彼女の指示に驚いたのは当の一夏ではなく、彼の恋人であるセシリアとシャルロットであった。

 

だが、彼女達の反応は当然と言えるだろう、もし一夏だけが地球に降りるとしたら、また何か月離れ離れになってしまうか分かった物ではない故に驚愕と非難を籠めた叫びをあげたのだ。

 

「なんでお前達が驚くんだ・・・、ただの挨拶回りだろ?アメノミハシラはサー・マティアスに敵対しないってアピールするためのな?」

 

「それは・・・。」

 

「そう、だけど・・・。」

 

彼女達の反応の真意に気付いていた一夏は苦笑しながらも説明しつつ、何処か嬉しそうに微笑んでいた。

 

自分が心の底から愛している彼女達が、彼と離れる事を嫌がっているのだ、男の身分としてはこれほど無い幸せでもあるのだろう。

 

「だが・・・、行先によっては俺だけ手に負えんかもしれないな・・・、そこん所どうだい、ミナ?」

 

「それも一理あるが・・・、お前達はこういう時に限って妙な知恵を発揮するのだな・・・。」

 

一夏の問いに納得の表情を見せながらも、ミナは彼の真意を見抜いていた。

 

自分一人では手に余ると言いつつ、その本意はセシリアとシャルロットも同行させようとしているのだ、それに気付けば苦笑したくもなるだろう。

 

「まぁよい、ウェイドマン整備士長に地上用の機体の調整を依頼しておけ、デュエルとバスターは地上では何かと不便だからな。」

 

今だ不満げな表情を浮かべているセシリア達に向き直りながらも、ミナは機体の用意を命じた。

 

それは他でもなく、彼女達の動向を許可したに他ならなかった。

 

「はい!」

 

「でも、なんでバスターじゃダメなんですか?調整次第じゃ地上でも十分に戦えますよ?」

 

セシリアは彼女の言葉に表情を輝かせながらも礼を述べていたが、何故自分の愛機を持って行ってはならないのか理解できなかったシャルロットは首を傾げ、ミナに問うた。

 

「地球じゃ重力が有るからな、I.W.S.P.装備のストライクなら兎も角、デュエルとバスターはサブフライトシステムが無いと飛べんだろ?」

 

彼女の疑問に答えるように、一夏はデュエルを指さしながらも答えていた。

 

彼の言葉通り、大出力スラスターを搭載しているストライカーを装備しているストライクならば、短時間ながらも滑空は可能であろう。

 

だが、デュエルとバスターはその機体構造上、大型のスラスターを装備していないため、出来てもジャンプ程度の跳躍だ、正直言って空戦や移動には大きな制限が掛かっている。

 

「それだけではない、恐らく次の戦場は、バスターにとっては鬼門だ。」

 

「どういう意味ですか?」

 

バスターでは役に立たないという様な主の言葉に、メインパイロットであるシャルロットはその美しい顔にありありと苛立ちの色を浮かべていた。

 

誰でも、自分の愛機を貶されて快く思わないだろうが、ミナの言葉には別の意味があったのだ。

 

「私がサー・マティアスであるならば、次にジェス・リブルに行かせる場所は、南米だ。」

 

「南米・・・?」

 

自分を見ながらも行先を予想する彼女の言葉に、彼は何故南米なのかと尋ねたそうな表情を浮かべていた。

 

それもその筈だ、彼は依頼された場所に飛び、そこの現状を撮影する事が仕事ではあるが、何か根拠がなければ素直に行く気が起きないのだろう。

 

「≪切り裂きエド≫と呼ばれる連合のトップエースが、連合を脱走し、南アメリカ合衆国の独立戦争に加担している、サー・マティアスなら、この様な大事を見逃す筈も無かろう。」

 

「連合のエースパイロットが、ですか・・・?」

 

トップエースと呼ばれたパイロットが脱走した事が理解できなかったセシリアは、僅かに驚いた様な表情を見せながらも彼女に尋ねていた。

 

それもその筈だ、地球連合軍の中でそれほどのパイロットまで上り詰められれば、将官は不可能でもそれなりの部隊を任される左官には成れたのだ、何故その可能性を捨ててしまったのか、彼女には理解できなかったのだ。

 

「もっとも、その理由は本人に直接会えば判るだろう、話を戻すぞ。」

 

話が逸れた事に気付いたミナは軽く咳払いし、何故バスターが使えぬのかという答えを語り始めた。

 

「今や地球は温暖化の影響が如実に現れている、だが、都市や工場区域の拡大によって酸素を供給する場所が削られている、故に南米のアマゾンは地上の酸素供給には欠かせぬ地域でもある、そんな場所でバスターの様な大火力MSを使えば、掛け替えのない森林地帯が忽ち焼失してしまうのだ。」

 

「あっ・・・。」

 

ミナの指摘に、シャルロットは場所が場所なのだと気付いた様だ。

 

現に、南アメリカのアマゾン地帯は地上最大の森林地帯であり、連合、ザフト両軍から永世中立地帯と定められている事からも、森林の焼失は地球にとってだけではなく、そこで戦闘を行った国家にとっては支持率の低下を招き、戦争を続ける事が困難になるなど言った、政治的要因も絡んでくるのだ。

 

いくら私兵扱いとは言えども、アメノミハシラはオーブの一部には変わりない上、そこに所属するシャルロットが森林を焼けば、間違いなくオーブへの批判は高まり、一つの国として立ち直る事は更に困難となるのだ。

 

それが理解できたが故に、シャルロットは食い下がる事をやめ、自身の早計さを悔やむように俯いていた。

 

「そう言うことだ、シャルには申し訳無いけど、ここは堪えてくれ、また次の機会にバスターで降りれば良いじゃないか?」

 

「うん・・・、ごめんね・・・。」

 

悄気る彼女の肩を抱きながらも、一夏は優しく言葉を投げ掛け、シャルロットを慰めていた。

 

彼とて、大事な仕事に愛機以外の機体で行けと言われれば素直にyesとは答えられないという心情がよく分かっていた、故にフォローを欠かさなかったのだ。

 

「しかしなぁ、飛べる機体と言えばレイダーしかないんじゃ無いか?どうするんだ?」

 

アメノミハシラにある空戦能力を持ったMSがレイダー一機しかない事を知っていた彼は、もう一機用意するなら何を宛がえばよいのかとミナに尋ねていた。

 

彼の言う通り、彼はストライクに乗ればいいとして、セシリアとシャルロットは愛機を持って地上に降りれず、アメノミハシラに置いてあるMSを借りる以外に無いのだ。

 

しかし、アメノミハシラには空を飛べるMSがレイダーしか置かれておらず、もう一機は必然的に宙を飛べないMSに限られてくるのだ。

 

厳密に言えば、天ミナも大気圏内での飛行も可能だが、その外見故に目立つ上に、主の乗機を借りて行く訳にもいかないのだ、最初から頭数に入れない方が賢いと言う物だ。

 

「なに、調整次第でどうとでもなる、準備が完了し次第、地球に降下し、ジェス・リブルに同行しろ、実地のデータ集めにはちょうど良い機会だ。」

 

気にする事では無いと言いつつも、ミナは手を掲げ、一夏達に指令を下した。

 

どうやら、敵対するつもりはない意思表示と、大気圏内でのデータ取りが目的の様だ、彼女の口調からは良い機会が巡って来たとばかりの色が見て取れた。

 

「休む暇無し、か・・・、了解、すぐさま取り掛かろう。」

 

そんな彼女の思惑に気付いた彼は神妙に頷き、自分の機体へと向かって歩き始めた。

 

どうやら彼も彼で、良い訓練の機会とでも思ったのだろう事が見て取れた。

 

そんな二人のやり取りを見ていたセシリアとシャルロットも、機体の件を相談するためにジャックの下へと急いだ。

 

何せ、初の地球での任務だ、準備は疎かにはできないのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「と、言う事がございまして、ロンド・ミナ・サハクがサー・マティアスに協力する事の証として、俺がここに使わされたと言う事でございます、勿論、それ以外の下心も抱えていると考えて頂いて構いません、事実、ミナもそう考えておりますので。」

 

アメノミハシラでのやり取りを語り終えた一夏は頭を垂れ、如何なる処遇がやってくるかとマティアスの言葉を待った。

 

「なるほど・・・、流石はロンド・ミナ・サハク、情報を入手するのが早いわね、まさかこういう形で貴方を接触させてくるなんて、ね?」

 

納得した様な表情を見せながらも、何処か値踏みするような目で、マティアスは彼を見ていた。

 

それもその筈だ、敵対関係に無い組織同士とは言えど、今まで何の接触も無かった組織同士だ、それぞれ何らかの思惑を抱えていて当然だ、警戒しているのが妥当と言うべきだろう。

 

「はっ、彼女とてアメノミハシラのトップ、これから先の事を鑑みれば、サーの御力が必要になってくると考えたのでしょう、自分は彼女に近い存在ゆえ、敵意が無いと示す為に遣わされたのであります。」

 

「そう・・・、じゃぁ、貴方をここで始末したら?」

 

「アメノミハシラ全軍を敵に回すとお考え頂きたい、もっとも、彼女は目指すべきモノのため、戦力を失うのを嫌い、今はなるべく戦いを避けているところではありますが・・・。」

 

自身の言葉に質問された言葉に、一夏は少々勘弁してほしいと言う表情を浮かべながらも、全面抗争になると答えていた。

 

もっとも、それはそうなっては欲しくないと言う色が窺える様な言葉であったが・・・。

 

「良いでしょう、私もアメノミハシラを敵に回すのは避けたいからね、ジェスの事、頼んだわよ。」

 

利害関係の一致か、それとも別の思惑か、マティアスは暫し考え込む様な表情を見せながらも、彼に同行を許可していた。

 

「はっ!この織斑一夏、必ずやジェスを護ってみせます。」

 

「えぇ、それじゃあジェス、これを持って早速南米に飛んでちょうだい。」

 

深々と頭を垂れる彼の姿勢に微笑み、一夏のすぐ傍に立っていたジェスを呼びつけた。

 

ほぼ蚊帳の外に置かれていた彼だったが、ハッと我に返り、マティアスが差し出したカードの様な物を受け取った。

 

「それは南アメリカ合衆国政府からの取材許可証よ、それがあれば≪切り裂きエド≫本人に取材が出来るわ。」

 

「南米政府からか?よくそんな許可が下りたな・・・。」

 

「あちらさんも宣伝したいんでしょ、自国の英雄ってモノをね?」

 

思いがけない物を渡された彼は感心した様な表情をしながらも、自身の雇い主であるマティアスを見ていた。

 

それと同時に思った事だろう、自分のクライアントは一体どれほどの脈を持っているのか、と。

 

「分かったよマティアス、すぐに準備する、けどな・・・!」

 

しかし、今はそんな事を気にしている場合ではないと感じたのだろう、ジェスは彼に対して頷きながらも、露骨に嫌そうな表情でカイトを見た。

 

「一夏がいてくれるんだ!アンタは来なくていいからな!!」

 

どうやら、先程の一件でカイトに対して、ジェスは相当な悪印象を抱いたようだ、一夏がいるから付いて来るなと叫んでいた。

 

「今回の仕事は俺が出る程じゃないさ、手間を掛けさせるなよ、野次馬ジャーナリストさんよ。」

 

「そうしろ!行こうぜ一夏!」

 

お前の事など気にしていないと言わんばかりのカイトの言葉に、ジェスは更に顔を顰めながらも部屋の外へと出て行った。

 

「相変わらず、自分の感情を素直に出せる面白い奴だな・・・、羨ましい限りだ・・・。」

 

他人から見れば、何とも感じが悪いとも取れる彼の態度だったが、それは自分の本音を隠せぬ故だと知っていた一夏は苦笑しながらも、誰に対しても自分に素直なジェスを純粋に好ましく思っていた。

 

それが、自分が失ってしまっているモノの一つだと気付いているのだから・・・。

 

「それでは行って参ります、サー・マティアス。」

 

「えぇ、あの野次馬さんの手綱、貴方に預けるわね、織斑一夏?」

 

マティアスの言葉に頷き、彼は先に出て行ってしまったジェスを追う様に部屋を後にした。

 

その様子を見送りながらも、カイトは彼等の姿が見えなくなった後、自分の雇い主に尋ねた。

 

「・・・、あぁは言ったが、あの男に任せていいのか?」

 

どうやら、一夏の事を、ひいては彼の思惑について思う所があるのだろう事が、カイトの表情からはうかがい知る事が出来た。

 

「さぁ?完全に信頼してる訳じゃ無いけど、ジェスがあそこまで信頼を寄せてるんですもの、彼に任せるしかないでしょう?」

 

「そりゃ・・・、そうだがなぁ・・・。」

 

心配するなと笑うマティアスの言葉に、彼は今だ渋面を崩さなかった。

 

主が良しとしている以上、彼も従うしかないのだが、何か思う所があるのだろうか・・・。

 

「さては、ジェスのコト、心配してるわね?素直じゃないんだから?」

 

「お、おいおい、よしてくれよ、誰が心配なんかするかよ。」

 

からかう様に尋ねたマティアスの言葉を、彼は冗談は勘弁と言う風に答えていた。

 

「あらら、素直じゃないわねぇ、まぁ、見ていましょう、ジェスと彼が、アソコでどうなるのかを、ね?」

 

残念と言う風に軽妙に笑いながらも、その次の瞬間にはその笑みは冷たい物へと変わった7。

 

それは、これから先に起きる何かを知っているのか、それとも、別の何かなのかは、誰にも分からなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

南米大陸の山岳部と森林地帯の狭間にある開けた場所に、一人の女性がマイクを手に持ち、自身の目の前に置かれているカメラを見据えながらも佇んでいた。

 

よく周囲を見渡せば照明やレフ板、音響機材やヘアメイク担当と思しき者もチラホラと見受けられるため、何処かしらの撮影隊だと推察できた。

 

「C.E.71年11月、地球連合の一部であった南アメリカ合衆国が独立を宣言しました、これにより、独立を認めない地球連合との武力衝突が発生、戦争へと発展しました。」

 

女性の口から語られる内容から推察するに、彼女達は報道関係者であり、南米で起こっている戦争の取材をしに来ているようだ。

 

「元はと言えば昨年の大戦開始時に連合最大勢力である大西洋連邦が南アメリカ合衆国を武力で併合した事に端を発する問題ですが、同族同士での殺し合いを行うナチュラルが如何に野蛮で原始的な種族である事を証明する出来事であると言えるでしょう。」

 

その内容は、今起こっているありのままを語っている様にも聞こえたが、時折、ナチュラルを侮蔑する様な言葉も聞こえており、ある種、コーディネィターを、その国家であるプラントに対するプロパガンダの様でもあった。

 

「以上、現場よりベルナデット・ルルーがお送り致しました。」

 

「・・・、はいOKです!!お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様。」

 

自分のレポートは終わったと言葉を切った彼女に、ちゃんと撮れたと伝える様に、カメラマンは手でOKサインを出し、それを見た彼女は自身のために用意されていた椅子に腰掛けた

 

それを認めたヘアメイク担当が彼女の背後に回り、髪型のセットを行っていた。

 

それをヘアメイクに任せた彼女は一息つく間もなく手帳を開き、何かを書き込んでいた。

 

恐らくは予定を確認しているだけではあるまい、彼女とてプロの報道関係者だ、自分の放送した内容での話し方、立ち振る舞いなどを振り返り、次に繋げるためのものなのだろう。

 

「ルルーさん、申請していた例のインタビュー、南米政府からの許可が下りましたよ。」

 

「ホントに!?」

 

そんな中、何かが書かれたボードを持った男性が彼女に近づき、申請していたインタビューの許可が下りたと告げていた。

 

その言葉に、ベルナデットは心底嬉しそうな反応を見せながらも頷いていた。

 

どうやら、この取材に何か特別な感情を抱いているのだろう、彼女からはそんな思いがにじみ出ていた。

 

「いよいよご対面ね、南米の英雄≪切り裂きエド≫と、ね。」

 

sideout




次回予告

目的地に向かうジェス一行だったが、その道は長く、険しいものだった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
南米の英雄 中編

お楽しみに。


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南米の英雄 中編

noside

 

ベルナデットが放送を行っていた頃、山岳地帯のそり立った崖に、四機のMSの姿があった。

 

MSのサイズですら、かなりの高さの崖を、その内の一機はワイヤーを崖の出っ張った部分に引っ掛け、ゆっくりと登っていた。

 

だが、MSの重みに耐えきれなかったのか、時折落石もあり、思うように進めていないようだ。

 

「くそっ・・・!マティアスの野郎、いくら空路が使えないからってこんな危なっかしいルートを指示しやがって・・・!!」

 

崖を伝い登る機体、アウトフレームのコックピットにて、ジャーナリストのジェス・リブルは何を好き好んでこんな場所を通らなくてはならないんだという風に愚痴っていた。

 

マティアス邸でのやり取りからすでに一週間が経っているが、『8』が注文していたアウトフレーム用の長期取材用パックが届くのを待っていたために出発が遅れ、取材の予定日の二日前となりながらも、今だ目的地には達していなかった。

 

『スクープのためだよ、我慢しろって。』

 

そんな彼の愚痴を、ストライク+I.W.S.P.に乗った一夏が苦笑交じりの声で仕方ない事だと窘めていた。

 

I.W.S.P.を装備したストライクは、増加した重量を補って余りある出力を生かし、自由自在とまではいかずとも、重力下での飛行を可能としているため、アウトフレームが崖から落ちぬように気を配りながらも真横を滞空、上昇していた。

 

「一夏達の機体はいいよなぁ、今の俺にとっては、空飛べるなんて羨ましい限りだよ。」

 

『そうでもないさ、コイツは燃費食いなんだ、だから、補給なしで動かそうと思ったらPS装甲をダウンさせっぱなしにしとかなきゃならんのだよ。』

 

飛べる機体を持つ事への羨望を向けるジェスの言葉に、一夏はそうでもないと苦笑していた。

 

現に、ストライクはPSダウンを起こし、トリコロールが美しい機体は、現在ダークグレーの装甲色のまま動いていた。

 

戦闘自体は行えるだろうが、ただでさえ限られているエネルギーをセーブしたいのだろう、彼の言葉からはバッテリー残量を気にしたような気配があった。

 

「そっか・・・、じゃぁ、俺も文句言ってないで早く登り切るかな!」

 

仕方ない事なのだと割り切り、さっさと面倒事を終わらせようとしたのだろう、ワイヤーの巻き取り速度を速めた途端、左ワイヤーを固定していた場所の岩が崩れた。

 

「なにぃぃぃっ!?どわぁぁぁぁぁ!!?」

 

何とか落下を防ごうと、ジェスは機体を操作して残っていたワイヤーにしがみ付くが、それだけでは落下の速度を殺しきれなかった。

 

『サブワイヤー発射!!」

 

しかし、アウトフレームに乗っていたのは、何もジェスだけではなかった。

 

『8』がコントロール系統に介入、アウトフレームの膝に仕込まれていたワイヤーアンカーを射出し、それを飛んできたレイダーの上に乗ったフォビドゥンブルーがキャッチした。

 

『大丈夫ですか、ジェスさん?』

 

『危機一髪だったね、怪我はない?』

 

少しも焦った様な様子を見せず、フォビドゥンブルーに乗ったセシリアと、レイダーに乗ったシャルロットは、何とか落ちずに済んだジェスに向けて尋ねていた。

 

「あぁ、助かったよ、セシリア、シャルロット、『8』も・・・、というより、何時こんなワイヤー何て仕込んだんだよ・・・?」

 

自分を助けてくれた二人と一つに感謝しながらも、ジェスは自分の知らない装備が積まれていたアウトフレームに驚き、改造に携わっていたであろう『8』にため息交じりに尋ねていた。

 

『備えあれば憂いなしとはこういう事なのだよ、フッフッフッ。』

 

『・・・、『8』、君そんなキャラだっけ?』

 

モニターに表示された『8』の台詞に、ロウ達と共にいた頃からの知り合いであるシャルロットは、苦笑というより、呆れた様な表情を浮かべながらもツッコんでいた。

 

『なんにせよ、助かったから良いじゃないか、先を急ごう、下手すりゃ大遅刻だぞ。』

 

そんなやり取りをおかしく思ったのだろう、一夏が通信に割り込みながらも、アウトフレームを引き上げる事に参加した。

 

彼の言葉通り、彼らは大幅に予定が遅れているために少々急がねばならない状態だ、少しの停止も許されぬのだ。

 

「分かってるよ、後二日で山を越えないとな。」

 

彼の言葉に頷きながらも、安定したコックピットの中で、ジェスは操縦桿を握り直した。

 

自分が取材するのだから、彼らに迷惑かけっぱなしにしないように気を付けねばと感じながらも・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「よし、今日はこの辺りで野宿にしようか。」

 

崖を何とか乗り越えてから数時間後、辺りはすっかり闇に包まれ、時折、野生動物の鳴き声も聞こえてくる森の中の開けた場所に、俺達は機体を止め、キャンプの用意を始めた。

 

「あうぅ・・・、お尻が痛い・・・。」

 

「丸一日、座りっぱなしでしたものね・・・、あたた・・・。」

 

レイダーから降りてきたシャルと、フォビドゥンブルーから降りてきたセシリアがそれぞれ尻を摩り、少し苦笑した様に顔を顰めていた。

 

その気持ちはよくわかるよ、俺もムチャクチャ尻が痛いし・・・。

 

というより、尻を摩る二人も見ていてなんか、クるな。

何処にとは言わん、察してくれ。

 

そう思いながらアウトフレームから降りたジェスの方に視線をやると、思いが通じたのだろうか、サムズアップしながらも笑っていた。

 

そうかそうか、俺の嫁さん二人の魅力、伝わったようで何よりだ。

 

我が意を得たりと、俺も薄く笑みながらサムズアップを返した。

 

「一夏、ジェス、変な事やってないでこっちを手伝ってよ。」

 

「お夕飯抜きにしますわよ?」

 

そんな俺達の邪な思いを見抜いたのだろうか、セシリアとシャルが俺とジェスをジト目で見ていた。

 

「悪かった、俺は火を起こすよ、ジェスはレーションを準備しておいてくれ。」

 

「分かった、飲み物温めといてくれな。」

 

前の世界では考えられなかった感覚を新鮮に感じながらも、俺は持ってきた着火剤を転がっていた朽ち木に塗りつけ、マッチで火を着けた。

 

そうこうしている内にテントの設営も終わったらしく、セシリアとシャルが俺の両隣まで戻ってきた。

 

火の上にセットしておいたポットから、紅茶の茶葉が入ったティーパックを沈めたコップ四つに、俺はゆっくりとお湯を注ぎ、何時もと同じ様に紅茶を作った。

 

「紅茶も持って来ているとは流石はセシリアだな、こういう所でもこの香りは良いものだな。」

 

出来上がった紅茶を三人に手渡し、俺は自分のコップに入った紅茶を口に含み、遥か頭上に広がる星空を眺めた。

 

宇宙から眺める星空とはまた違う、地上から見る星は美しく、それでいてすぐそばに煌めいているようにも見えた。

 

「これ、セシリアが調合したのか?普通に良いトコの茶葉を使ってるとばっかり思ってたよ・・・。」

 

「産地に拘りはありませんわ、それぞれ独特の持ち味を持っていますもの、上手に淹れればそれだけ美味しくなりますもの。」

 

ジェスの驚愕をやんわりと微笑みながらも、セシリアは紅茶に口を付けていた。

 

紅茶の事に関しては、彼女は俺達の中でも最も詳しい、それは以前の世界での付き合いでよく分かっている。

 

だからこそ、こういう遠征の時に疲れを癒すための茶葉の調合も上手い、流石だとつくづく思うよ。

 

そう思いながらも、俺はジェスの傍に置いてあった『8』と、彼に寄り添う様に置かれたハロを眺めた。

 

『ニーサン。』

 

『マイブラザー!』

 

・・・、どうやら、擬似人格コンピュータ同士、意気投合してるみたいだから放っておこうか・・・。

 

「しかし、長く生きてるが野宿は初めてだな、何か新鮮だ。」

 

温まった湯にスープの粉末を入れて掻き混ぜながらも、俺はふとそんな事を思い出していた。

 

「そう言えばそうでしたわね。」

 

「一日で何か国も回った事もあったけどね。」

 

セシリアとシャルも、俺の言葉にそう言えばと言うように笑いながらも、何処か慈しむ様な表情を見せていた。

 

彼女達との付き合いは長く、それなりに多くの事を経験してきたが、こういう風に火を囲んで、誰かとゆっくり話をするなんてした事がなかったっけな・・・。

 

なんて言うのだろうか、俺が生きてきた中でも、まだまだやった事がない事も、出来なかった事が幾つもあると思い知らされた気分だな。

 

それだけ、俺が何もかもの可能性を捨ててきたって結果だと言われている様だな・・・。

 

「そうなのか?なんか、一夏達の事、何にも知らないな、俺。」

 

「教えてないからな、聞いても信じてもらえやしないだろうし、聞いて気分が良いもんじゃないぞ。」

 

そんな俺達の言葉に、ジェスは何とも形容し難い表情を見せていた。

 

そんな彼に、俺はどう答えていいのかと一瞬言葉に詰まるが、語っても、聞いても気分が悪くなる話しか無いんだ、詮索は・・・、止めてもらいたいってのが本音だな。

 

「そうか、なら聞かない、いくらジャーナリストだからって、言いたくない事まで聞くのは無粋、だよな?」

 

「そうしてくれると助かるよ、ジェス。」

 

気を使わせちまったか・・・、ジェスには申し訳ない事しっぱなしだな・・・。

 

この落とし前は、仕事をキッチリこなす事でしか返せない、な・・・。

 

「さぁさぁ、そろそろお夕飯と致しましょう?」

 

「動いてなくても、お腹減ってるしね。」

 

握りしめた俺の拳を包む様に、セシリアとシャルの手が優しく添えられた。

 

それはまるで、俺に焦るなと言ってくれているかの様で、俺の中の焦燥を見抜かれている様な感覚にも陥った。

 

「・・・、そうだな、さっさと食って、明日に備えて寝るとしよう、でなきゃ遅刻だからな。」

 

そんな彼女達の思いを受け取りながらも、俺は持って来ておいた食料が入った包みからパンとレーションを四つ取り出し、全員に手渡した。

 

二人の思いを無駄にするつもりはない、むしろ、焦る俺を宥めてくれたんだ、冷静にいかないと、な・・・?

 

sideout

 

noside

 

その後、ジェス・リブル一行は何とか山岳地帯を抜け、目的の時間までに目的地まで到達する事が出来た。

 

指定された場所は南アメリカ軍第12基地、大西洋連邦並みとまではいかずとも、航空機が離着陸出来る程の距離の滑走路が目を引く場所だった。

 

ここにたどり着くまでの道中、連合、ザフト両軍に会敵する事もなく、戦闘にならずに済んで助かったと、後に織斑一夏は語っている。

 

それもその筈だった、戦闘を行うだけのバッテリーの余裕が無かったのだから・・・。

 

「着いたぁ・・・!」

 

そう言いながらも、シャルロットはMS形態に戻したレイダーのコックピットから降り、外の空気を思いっきり吸い込んでいた。

 

「長かったですわね・・・、それにしても、こんな山奥に基地があるなんて、思いもしませんでしたわね・・・。」

 

ストライクを挟んだ場所にフォビドゥンブルーを立たせ、コックピットから降りたセシリアは、眼前に広がる広大な基地の姿に驚嘆していた。

 

彼女達は実質、この世界の軍事拠点で見た事があるのはアメノミハシラだけであったために、かつての世界とはまるでスケールの違う基地の姿に困惑と驚愕、両方の感情を抱えているのだろう。

 

そんな彼女達の上空を、何かの影が通過していった。

 

それに釣られて見上げると、そこにはザフトの輸送用VTOLが滑走路の方へと降りていくのが見て取れた。

 

「あれはザフトの・・・?なんでだ・・・!?」

 

ザフトの輸送機が、何の用事があって南米軍の基地にやって来たのだろうか、そんな困惑がジェスの表情から読み取る事ができた。

 

「さぁな、だが、何かあっては困るな、穏便にいけよ。」

 

そんな彼の背を押しつつも、戦闘は御免だと言う様に一夏は笑っていた。

 

彼とて、ザフトと敵対した事は幾度となく有った為に、そう容易く気を許す事は出来ないのだろう。

 

そんな彼等の前でVTOLが着陸、中から数名が地上に降り立った。

 

「あら?連合のMSと・・・、見た事の無いMSね、どこの人達?」

 

そんな中、彼等に気が付いた女性がストライクやアウトフレームを見比べながらも彼等の方へとやって来た。

 

金髪と見紛う様な色彩をした髪を持った長身の女性は、どこかのモデルとでも言える様な雰囲気を纏っていたが、ジェスは彼女に見覚えがあった。

 

「アンタ・・・、確かザフト系列のキャスターだったよな?」

 

「えぇ、ベルナデット・ルルーよ、正しくはジャーナリストだけどね、貴方は?」

 

彼が尋ねると、ベルナデットはその通りだと頷き、自らの名を名乗っていた。

 

「俺はジェス・リブル、アンタの同業者だよ。」

 

自分が尋ねた手前、職業も明かすべきだと感じたのだろう、ジェスは名乗りながらも彼女に握手を求めていた。

 

「あら、と言う事は貴方もエドの取材に?」

 

その言葉を聞くや否や、ベルナデットは明らかに分かる様に態度を悪くした。

 

まるで、お前なんかによくも取材許可が出たな、とでも言う様に・・・。

 

その色が露骨に伝わってきたために、ジェスはムッと顔を顰めるが、この女にはそんな事言っても無意味だとばかりに溜め息を一つ吐き、話を続ける事にした様だ。

 

「しかし、どうして空路が使えたんだよ?」

 

「私達はプラント政府の代理人として取材に来たのよ、ザフトが特別に空路を開けてくれたのよ。」

 

「なにぃ、ズルいなぁ~!」

 

自分の質問に答えた彼女の言葉に、ジェスは自分の苦労は何だったと言わんばかりに声を上げた。

 

彼の反応は当然と言えるだろう、何せ、彼等はここに辿り着くのに二日以上の時間をかけて険しい陸路を進んできたのだから・・・。

 

だが、それはもう過ぎた事だ、今更幾ら愚痴った所で何も始まらないのだ、それぐらい彼にも分かっていた。

 

「しかし・・・、アンタ。」

 

「何?サインなら後にして頂戴ね?」

 

ベルナデットを見ながらも、ジェスは何処か感心した様に呟いていた。

 

そんな彼の様子を見た彼女は、有名人にサインを強請る物だと思ったのだろう、相変わらず見下した様子ながらも悪い気はしていない様だった。

 

「思ったより大きいな。」

 

「っ・・・!!」

 

ジェスが何の気なしに放った言葉に、その周囲の空間に亀裂が入ったような感覚を全員が覚えた。

 

その言葉に一番反応したのは、そう言われたベルナデットだった。

 

何を隠そうか、彼女は170㎝オーバーという、女性にしては長身と言うある種のコンプレックスを抱えているのだ。

 

無論、その長身も見方を変えれば抜群のプロポーションを引き立てているのであるが、それとこれとは話が違うらしい。

 

現に、彼女の額にはくっきりと青筋が浮き出ているのだから・・・。

 

「テレビで見た時も背が高いとは思ってたけど、まさか俺と同じぐらいとは思わなかっ・・・、あだぁっ!!?」

 

「ジェス、それ以上はいけない、セクハラになる。」

 

それに気付かない彼を、一夏は溜め息を吐きながらも後頭部に手刀を入れる事で制止していた。

 

一夏は元々、空気を読む事に長けている上に、セシリアとシャルロットと言う二人の妻がいる、女性の心の機微にそれなりの理解と洞察力を持っているのだ。

 

そのため、これ以上彼に話させ続けても良い事は何もないと判断したため、強制力を以て止めたのだ。

 

「すまないルルー女史、このバカの失礼な発言、俺が謝るよ。」

 

「ど、どうも・・・、って、貴方は?」

 

彼の対処に若干引いているのだろう、ベルナデットは困惑しながらも彼に名を尋ねていた。

 

「俺は織斑一夏、ストライクのパイロットだよ、誤解されない様に言っておくが、今回はコイツの護衛に付いて来ただけだ、こんな恰好をしているが俺達は連合軍じゃない。」

 

彼は自分の名を名乗った後、自身の両隣にいた二人の妻を、自己紹介でもしておけと言わんばかりに自分の前に出した。

 

そんな彼の意図を察したのだろう、彼女達は彼に向けて微笑んだのち、ベルナデットに向けて自己紹介を始めた。

 

「私はセシリア・オルコットと申します、よろしくお願いいたしますわね。」

 

「僕はシャルロット・デュノア、よろしくね、ベル。」

 

「べ、ベル・・・?」

 

自己紹介を受ける最中、シャルロットが放ったベルという言葉に、彼女はどうして初対面でそう呼ぶのかと言う風に困惑している様だった。

 

「え?ベルナデットじゃ長いし、他人行儀じゃない?だから、親しみを込めてそう呼びたいんだけど、ダメ、かな・・・?」

 

シャルロットの屈託のない、人懐っこい笑みを向けられた彼女は助けを求める様に一夏に目を向けるが、彼が自分は何も出来ないと言う様に笑っているのを見て、暫く考え込む様な表情を見せた後、観念したかのように溜め息を一つ吐いた。

 

「もう、分かったわよ・・・、好きに呼んで頂戴・・・。」

 

「ありがと、ベル♪」

 

彼女の許可に微笑んだシャルロットは、ベルナデット改め、ベルの手を取り、握手を交わしていた。

 

「あっ、じゃあ俺もベルって呼んでいいのか?」

 

「貴方に許可した覚えはないわよ。」

 

一夏からのダメージから持ち直したジェスは、それに便乗して呼ぼうとしていたが、即座にあしらわれてしまい、口をつぐんだ。

 

それと同時に思った事だろう、俺、何かしたか、と・・・。

 

「さぁさぁ、自己紹介はここまでだ、折角インタビューを許可してくれた人を待たせるのも失礼だ、さっさと行こうぜ。」

 

そんな彼らのやり取りを微笑ましく眺めながらも、一夏は時間が惜しいと言うように彼が待つであろう建物の方へと歩いて行った。

 

そんな彼の言葉に、各々が自分のやるべき事を思い返し、先ほどまでの和やかな雰囲気を押し殺して彼に続いたのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

遂に切り裂きエドと対面を果たすジェスは、彼の人柄と、その思いに触れる。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

南米の英雄 後編

お楽しみに


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南米の英雄 後編

noside

 

ジェス達インタビュアー一行は、南米軍の兵士に案内され、とある部屋の前までやって来た。

 

その部屋にこそ、前大戦において、数多くのザフト兵を薙ぎ倒し、僅かな期間でトップエースと呼ばれるまで至った男が待っているのだ。

 

誰も彼と対峙した事は無かったが、その戦果や二つ名から、かなり陰湿で残忍な性格の持ち主なのかもしれないと考えている彼らの顔には、緊張の色が濃く滲み出ていた。

 

何せ、失言でもしようものなら命はないかもしれぬのだから・・・。

 

「どうぞ中へ。」

 

案内役の兵士がドアを開けると同時に、ジェスとベルは息をのみ、部屋の中を覗き込んだ。

 

「よぉ!こんなトコまでよく来たな!まぁ、自分の部屋だと思って寛いでくれよ。」

 

そんな彼等を出迎えたのは、とても陽気な男の声だった。

 

一瞬何が起きたのか分からなかった二人は硬直するが、その人物が取材対象であった事に気付き、再度目を丸くしていた。

 

改めてへやを覗くと、ハンバーガーを片手に手を振る、ソファに腰掛けた褐色黒髪の男が彼等を出迎えた。

 

そう、彼こそが≪切り裂きエド≫の二つ名で呼ばれる元連合のトップエース、エドワード・ハレルソンだったのだ。

 

「まぁ、立ち話も何だし、適当に座ってくれよ。」

 

「「はい。」」

 

ソファーに腰掛けるよう勧める彼の申し出に頷きつつ、二人はエドと向かい合う様にソファーに腰掛け、それぞれの取材道具を取り出した。

 

その際、ジェスは『8』を自分とベルの間に置き、録画モードでスタンバイさせていた。

 

「それにしても・・・、綺麗な嬢ちゃんと・・・。」

 

「まぁ♪」

 

綺麗な女性と言われて嬉しいのか、ベルは表情を綻ばせていた。

 

綺麗と言われ、悪い気になる女性はまずもっていないだろうが、彼女もその例に漏れなかったようだ。

 

「汚い兄ちゃん・・・。」

 

「す、すみません・・・。」

 

そんな彼女とは対照的に、長い時間をかけてここまでやって来たジェスは、着の身着のままであったために、何処か申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

彼とて理解しているのだ、クライアントを前にしてみすぼらしい恰好は無礼であると・・・。

 

「・・・っと、絶世の美女二人を侍らせた色男、か?」

 

そんな彼等を順に眺めたエドは、二人とは違い、壁際で待機している一夏達三人を眺めた。

 

絶世の美女と称されたセシリアとシャルロットは、悪い気はしないとばかりに微笑みながらも一夏にもたれ掛り、彼もそれに応じて二人とより密着した様な体勢になった。

 

彼等の表情は幸せその物と言うべきであり、お互いの想いの深さを垣間見せていた。

 

「ったく、見せ付けやがって・・・、妬けちまうだろうが、ま、女は綺麗じゃないと困るが、男は汚かろうが何だろうが構いやしない、俺も人の事言えたカッコじゃないからな。」

 

そんな三人の様子をからかう様に笑いながらも、彼は自虐なのか何なのか分からぬジョークをかまし、声を上げて笑っていた。

 

(『これが≪切り裂きエド≫と呼ばれた男・・・?』)

 

そんな彼の姿を見たジェスやベルナデット、そしてセシリアとシャルロットは狐につままれたかの様に目を丸くしていた。

 

まさか、連合のトップエースで≪切り裂き≫という、陰惨なイメージが付き纏う二つ名を持った男が、これほどまでに高らかに声を上げて笑っているとは思わなかったのだろう。

 

「おっと、時間が無いんだった、二人いっぺんにで良いよな?」

 

「えぇ・・・。」

 

「勿論!」

 

インタビューが待っている事を思い出したエドは、気を取り直すかのように手を叩き、目の前に座るジェスとベルに対し、同時にインタビューを行って良いかと尋ねていた。

 

それを断るわけにもいかない二人は、それぞれの想いを滲ませながらも頷いていた。

 

「(何よ・・・、全然イメージが違うじゃない・・・、前大戦でコーディネィターを苦しめ、今はたった一人で連合に叛旗を翻したパイロットが、こんなにも軽薄な男だったなんて・・・、そんなのダメよ・・・!彼には〈英雄〉であって貰わないと・・・、人々の目を引くニュースにならないわ!)」

 

戦略や政治的思惑を尋ねるが、エドは軽妙に笑いながらもジョークを交えて質問に答えていた。

 

そんな彼の態度に、ジャーナリストであると同時に、不特定多数の人々に情報を届ける報道を、それもプロパガンダを行うに等しいキャスターとしての面も持ったベルは、失望とも、落胆とも取れる感情を持て余していた。

 

情報を伝える事は勿論彼女の仕事だが、そのためにはまず、何よりも人々の目に留まる様な華々しさや、現実離れした事柄を求めなければならない。

 

そうでもしなければ、喩え報道したとしてもただ日常の中に流れる音と同じ様に、それは流されて消えて行ってしまうのだ。

 

それだけに、たった一人で戦う男の姿が、世間が描く英雄像とかけ離れすぎていては何の意味も無い、そう断じた様だ。

 

だが・・・。

 

「(なんだよ・・・、全然イメージが違うじゃないか・・・!≪切り裂きエド≫がこんなにも面白い男だったなんて・・・!これだよ・・・、これだから取材はやめられないんだ・・・!!この事を、世界中の皆に教えてやりてぇ!!)」

 

ベルが取材を行う隣でカメラのシャッターを切り続けるジェスは、自身の胸の高鳴りを堪えるのに必死だった。

 

彼にとってのジャーナリズムは、そこで起こった事をそのまま世界に広める事にあり、そこの人間に対し、人々が注目するか否かなど考えていない。

 

ただ愚直に、そこでの体験を、出会った人物のあるがままを伝える事が、彼自身の使命だと考えているのだ。

 

同じジャーナリストでも、利益や政治的思惑があるのと無いのとでは、伝える内容にも大きな差がある事を、この二人は端的に表していたのだった。

 

どちらも報道の形として成り立っている物だからこそ、思惑の違いが浮き彫りになっているのだろうが、彼等はまだ、それには気付いていなかった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「・・・、質問は以上です、貴重なお時間をありがとうございました。」

 

「お嬢ちゃんが戦略とか政治とか、小難しい事ばっかり聞くから肩が凝っちまったぜ、俺は、そういう細かい事は苦手なんだよ。」

 

ルルー女史の質問が終わった直後、エドは勘弁してくれと言う様に肩を回していた。

 

まぁ、あんだけ質問攻めにされれば良い気にもならんだろう、俺も経験があるからよく分かる。

 

しかし、何故だジェス、何故一言も質問しないんだ?

これじゃぁ、来た意味があまり無いんじゃないのか・・・?

 

「そっちの兄ちゃんは一言も喋らなかったな、何か聞かなくても良いのかい?」

 

エドもそう感じたのだろうか、彼に対して何か聞かないのかと尋ねていた。

 

ジェス、何か聞いとけ、お前もエドの事を知りたいんじゃなかったのか・・・?

 

「う~ん・・・、あっ!」

 

おっ、何か思いついたみたいだな、だけど、流石に失礼な事は聞くなよ?

 

「好きな女性のタイプは!?」

 

って!!それ俺にも聞いてた質問じゃねーか!

 

ジェスがそれを口にした瞬間、両隣にいたセシリアとシャル、そして、ジェスの隣にいたルルー女史がズッコケていた。

 

正直、俺もこれだけは言いたい、お前にはそれしか質問はねぇのか!!

 

「ふっ・・・、ふふっ・・・、はーっはっはっ!!お前っ、面白いな!そんなインタビューをしてきたのはお前が初めてだよ!!」

 

「ど、どうも・・・!」

 

ところが、エドはそんな彼がお気に召した様だった、ここに来て最大の笑い声をあげ、身を乗り出してジェスの肩を叩いていた。

 

けったいな質問をして、どやされないかヒヤヒヤさせられたぜ。

 

「良いぜ、答えるよ、その質問を前にしてきた奴だよ、俺の胸に飛び込んで来てくれるソイツが、俺の中じゃ最高の女なのさ、そこにいる美人な御嬢ちゃん方よりも、な。」

 

「へぇ・・・、そりゃ、良い女性なんですね。」

 

あのトップエースにそこまで言わせるんだったら、確かにいい女なんだろうな。

 

まぁ、俺の嫁さん二人には敵わんさ。

 

そう思った矢先、耳を劈くけたたましい警報が俺達の耳に届いた。

 

「隊長!連合軍の攻撃部隊がこの基地に向かって来ています!!」

 

ドアを蹴破る様な勢いで南米軍の兵士が俺達がいる部屋に入り、隊長であるエドに近付きながらも状況を報告していた。

 

やはり、か・・・。

全く、面倒な時にお出ましとは、連合も空気が読めないのかよ。

 

「どうやら、此処に俺がいると嗅ぎ付けられたらしい、お前らは早く逃げろ!」

 

此方に接近して来ている敵の数が書かれているであろう書類を読みながらも、彼は俺達に退散する様に促していた。

 

「エド、アンタは逃げないのか!?」

 

退散しようとするプラント報道陣を尻目に、ジェスはエドに問いかけていた。

 

「逃げたいねぇ、逃げるってのは一番楽に戦いに勝てる方法だからなぁ、だけど、今は逃げられない、何せ、背負い込んでるモノが大きすぎるからな、逃げきれないんだよ。」

 

ジェスの言葉を鼻で笑い、エドはこのまま応戦に出る様だ。

 

何かを背負う、か・・・。

 

俺も昔は似た様な事をやってたっけ・・・。

 

だけど、エドの目には、昔の俺には無かった光が宿っている、爛々と輝く、熱い想いが・・・。

 

「分かった、俺も逃げない!アンタの取材の為にここに来たんだからな!」

 

「そうかい、好きにしな、だが、命は粗末にするんじゃないぞ!」

 

「勿論だ!!」

 

俺が過去に想いを馳せている内にも話は進み、ジェスはエドの戦闘風景を撮影するようだ。

 

ったく、流れ弾に当たっちまったらどうするつもりなんだか。

 

「あっ・・・!私達も・・・!!」

 

彼に後れを取る訳にはいかないとでも思ったのだろうか、ルルー女史達も彼等の後を追う様に部屋から出て行ってしまった。

 

「一夏様、私達も参りましょう?」

 

「僕達の任務はジェスの護衛だけど、流石に生身のまま戦場に出る人を護らない訳にはいかないよね?」

 

おいおい・・・、セシリアとシャルまで、何に感化されちまったんだ・・・?

 

だがまぁ、このままジェスだけ出すのもマズイ、か・・・。

 

「そうだな、行こうか。」

 

俺が護ってやらないとな、あの野次馬さんを、な・・・?

 

sideout

 

noside

 

「エドワード・ハレルソン、ソードカラミティ、出るぜ!!」

 

格納庫のシャッターが開くと同時に、≪切り裂きエド≫が搭乗したソードカラミティが南米の大地に立った。

 

ソードカラミティ

GAT-Ⅹ133

 

前大戦後期に開発されたカラミティを近接戦闘主体の機体へと改修した姿。

 

エドがこれまで使用してきたMSの中では4機目に位置する機体ながらも、ヤキン・ドゥーエ宙域の最終戦では数多のザフトMS群を切り裂き、連合の侵攻部隊の中核を担った。

 

その機体は、今度は彼の祖国である南米を護るために、嘗ての軍を迎え撃つ。

 

基地の縁、、詰りはジェスが登ってきた崖ギリギリに陣取った直後、彼に向けて迫ってくる三機の飛行物の姿が確認できた。

 

「ちっ、GAT-333 レイダーか、俺が元飛行機乗りだと知ってて嫌味のつもりかよ。」

 

その姿を認めたエドは、表情を顰めながらも吐き捨てていた。

 

そう、彼はMSに乗るまではMAのパイロットであり、自身が持つ異名も、MA時代についた名なのだ。

 

つまり、そんな彼相手にレイダーを差し向けたという事は、戦闘機乗りを戦闘機型のMSで討ち取るという、ある意味皮肉めいた何かが見え隠れしているのだろうか・・・。

 

「相手は飛行型だ・・・、どう戦う、エド!」

 

ソードカラミティから少し離れたポイントには、カメラを構えてシャッターチャンスを窺うジェスのアウトフレームの姿と、その足元にはジープに乗ったベル等、ザフトの報道陣がカメラを回しており、そんな彼等を護るように、周囲を一夏達、アメノミハシラMS部隊が立っていた。

 

折角の英雄の戦闘が間近で見られるのだ、これ以上の機会はそうないのだから・・・。

 

そんな彼等の目の前で、三機いるレイダーの内、二機が搭載していたミサイルをソードカラミティに向けて発射した。

 

「はっ!俺はソイツのテストパイロットだったんだぜ、癖はよーく知ってるさ!!」

 

だが、エドはシュベルト・ゲベールを一本だけ抜刀、飛んでくるミサイルの弾頭のみを器用に切り落としていた。

 

いとも簡単に遣って退けているが、並大抵の業ではなく、正に、機体を自分のモノにしていないと出来ないだろう事は、これを見ている全員が分かっていた。

 

ミサイルを全ていなした瞬間、彼は左肩のマイダス・メッサーを引き抜きながらも投擲、一機のレイダーの下部副翼プラットホームを切断するが、そのレイダーは機体主翼に装備してあったマシンガンを撃ちかけながらも彼に迫った。

 

「テメェは新兵か、狙いが甘い!!」

 

だが、その間を縫う様にソードカラミティが飛び上がり、二本のシュベルト・ゲベールで両翼を切断した。

 

「その機体で飛び上がってはダメだ!!的になるぞ!!」

 

飛び上がってしまったソードカラミティの姿に、ジェスは声を上げていた。

 

レイダーとは違い、エドの機体は大気圏内での自由飛行ができない、その為、一度飛び上がってしまうと、空戦型の恰好の的になってしまうだけだった。

 

それを証明するかのように、地面に着地しようと落下するソードカラミティにもう一機のレイダーが機銃を撃ち掛けながらも迫ってゆく。

 

幸い、乗り手の力量が然程高く無いようで、直撃する事は無かったが、それでも何発かの銃弾が機体を掠めた。

 

「「エド!!」」

 

彼がやられると思ったのだろう、ジェスとベルは全く同じタイミングで彼の名を叫んだ。

 

「引っ掛かったな、そう来てくれるのを待ってたぜ!!」

 

だが、エドはまったくの余裕の表情でそう言い放ち、左腕のパンツァー・アイゼンを射出、向かってくるレイダーの顔面を掴み、自身の方へと引き寄せながらもシュベルト・ゲベールを構える。

 

まさかそう来るとは思わなかったのだろう、レイダーは崩れた体制を立て直すためにMA形態からMS形態へと変更するが、それはまさに、隙でしかなかった。

 

その間にレイダーとの距離を詰めたソードカラミティはシュベルト・ゲベールを一閃、避ける事すら出来ないレイダーを真っ二つに切り裂いた。

 

「つ、強い・・・!これが≪切り裂きエド≫・・・!!」

 

レイダーのコックピットでその光景をまざまざと見せつけられたシャルロットは、エドの強さに舌を巻いていた。

 

ロンド・ミナレベルとまではいかないが、それでも、トップエースの名に恥じぬその力に戦慄したのだろうか・・・。

 

「撤退するのか、良い判断だ。」

 

残った最後のレイダーは、最早勝機は無しと見たのだろう、彼には目もくれず撤退していく様に見えた。

 

だが、そのレイダーは後方にミサイルを発射、ソードカラミティが立つ足場を攻撃した。

 

「なにっ!?まさかっ・・・!!」

 

その攻撃の意図に初めに気付いたのは、ストライクに乗っている一夏だった。

 

ミサイルが着弾した地点を皮切りに、崖が崩れ始めたのだ。

 

「うわっとぉっ!?」

 

逃げそびれたエドは足を取られ、崩落する岩石と共に崖の下へと落ちてゆこうとしていた。

 

「エドっ!!落とさせるかぁっ!!」

 

それを見た一夏達が助けに行こうと動こうとするが、それよりも早くジェスのアウトフレームがバックパックを排除、崖のギリギリまで駆け出していた。

 

「掴まれ、エド!!」

 

背後のサブアームが二本のアーマーシュナイダーを引き抜き、比較的無事な地面へと固定具代わりに突き刺し、腰部のワイヤーをソードカラミティに向けて投げ伸ばした。

 

それを見ていたのだろう、ソードカラミティは体勢を立て直し、シュベルト・ゲベールのレーザーを切りながらもワイヤーをキャッチした。

 

「大丈夫か!?今引き上げるぞ!!」

 

しっかりと掴まった事を認めたジェスはエドに声を掛けつつ、ゆっくりとソードカラミティを引き上げてゆく。

 

「コイツは驚いたぜ!!お前のMS、最高に良いマシンじゃないか!なんて名前だ?」

 

自由落下する自分の機体を引き上げて尚、平然としていられるジェスの機体にそそられたのだろう、エドは感嘆したような声を上げながらもジェスに尋ねていた。

 

「アストレイアウトフレーム!俺の頼れる相棒さ!!」

 

自分の機体を誇らしげに紹介しながらも、彼はエドを崖の上まで引き上げてゆく。

 

「取材対象に干渉するなんて、ね・・・、ジャーナリスト失格よ、ジェス・リブル。」

 

それを見ていたベルは彼の行動に目を丸くしながらも、ジャーナリストとしてあるまじき行為だと見ていた。

 

ジャーナリストはインタビューをし、そこにある事実を伝える事が使命ではあるが、取材対象を助ける事、深く関わりすぎる事はあってはならない、報道やジャーナリズムは、常に中道を往かねばならないのだから。

 

「だが、それがジェス・リブルという男だ、自分なりのジャーナリズムってモンを、アイツは持ってるんだ、そう言ってやるな。」

 

彼女の独白を聞き取っていたのだろう、ストライクから一夏がスピーカーモードを使って彼女に語りかけていた。

 

そういう規格外、破天荒な所も彼の本質、彼のジャーナリズムなのだと、彼は語っていた。

 

「そう、だけど、私には理解できないわね。」

 

「それで良いさ、俺もまだ、ハッキリとはわかんねぇからさ。」

 

彼の言葉にどうでもいいという風に返すベルの言葉に、一夏は笑いながらもこれからだなという風に呟いていたのであった・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

その夜、私達は南米軍第33仮設野営基地のテントに集い、ベルさん等、プラントの報道がどの様なものかと確認しておりました。

 

映像には、連合軍のレイダーを一瞬で屠るソードカラミティの姿のみが映し出され、エドさんのインタビューの大半が削られておりました。

 

『―――以上が先ほど行われた戦闘の様子です。」

 

「あっ!?俺が助けた場面がないじゃないか!!アイツ、カットしやがったな・・・!」

 

「そりゃ、主役は俺だしな。」

 

あのぅ・・・、ジェスさん・・・?

怒る所はそこですか・・・?

 

本当ならば、エドさんのインタビューが削られた事を起こるべきではありませんか・・・?

 

どうしたものかと一夏様を見ますと、何も言うなと言わんばかりに首を横に振られておられました。

 

本当にそれで良いのでしょうか・・・?

 

『たった一人の兵士に苦戦する連合軍には、≪切り裂きエド≫を倒さない限り未来はないと断言出来るでしょう、以上、現地よりベルナデット・ルルーがお送り致しました。』

 

「なんだよ・・・、これ・・・、プラントをヨイショするだけのプロパガンダじゃないか!こんな放送をしたら、連合はアンタを狙ってくるぞ!!」

 

連合軍を挑発、若しくは貶すための放送だと感じられたのでしょう、ジェスさんはエドさんにこれではより一層戦いが厳しくなってしまうとばかりに尋ねられておりましたが、エドさんの表情は何処か満足そうでした。

 

何故、そんな表情をされるのでしょうか?

このままでは自分が狙われ続けると言うのに・・・?

 

「良いんだよ、南米は広いんだ、俺独りで護り切るなんて出来やしない、だから敵が俺を目指して来てくれる方が戦いやすい、あのお嬢ちゃんもそれが分かってて報道してくれたのさ。」

 

なるほど・・・、そういう事でしたか、全く気付きませんでしたわ・・・。

 

敵の目を自分に向けさせる事で他の南米軍の兵士達の負担を減らし、被害を少なくする。

全を救うには一番の方法ですわね。

 

ですが、本当にそれが正しいのか、今の私には分かりません。

 

かつて、私達は自分達が全ての業を背負えばよいとばかり考え、世界そのものを救おうとしました。

 

結果的に全は救われましたが、私達の事を想ってくれていた御方達の想いを顧みなかった事は、今更になって悔恨にも似た感情を抱かざるを得ないのです。

 

だからこそ、エドさんがなさろうとしている事を、素直に称える事が出来ないのです。

 

ですが、私には何も言う資格は御座いません、だからこそ、この憤りは胸の内に覆い隠す事に致しましょう・・・。

 

「気付かなかったよ・・・、俺、まだまだだな・・・。」

 

御自分がこの放送の真意を見抜けなかった事への不甲斐無さでからでしょうか、ジェスさんは悔しそうに俯いておられました。

 

気付けないのも無理は無いでしょう、いくら多面的にモノを見ようとしても、まずは自分の持つ物差しで見てしまう、それが人間と言う物なのですから。

 

ですが、教えられてからでも遅くは無いでしょう、何せ、気付けるだけ良いのですから・・・。

 

「気付いてくれただけ良いさ、ところで、お前達は何時までここにいる気なんだ?」

 

エドさんも私と同じ想いだったのでしょうか、別に構わないと言いながらも、私達の滞在期間について尋ねてこられました。

 

私達はジェスさんの護衛の為にここに参った訳ですから、彼の取材が終わればすぐにでも立ち去れるのですが・・・。

 

「俺はアンタの戦いを見届けるつもりだ!だから、少なくともこの戦争が終わるまではここにいさせてもらうぞ!!」

 

「「えぇー・・・。」」

 

その言葉を聞いた一夏様とシャルさんが、勘弁してくれと言わんばかりの表情で、小さくタメ息を漏らしていました。

 

まぁ、私も本当はあまり乗り気ではないのですが、流石に移動時間よりも滞在時間が短いなどと言う事だけは嫌ですし・・・。

 

「あ、そうかよ・・・、これほど戦争が早く終わってほしいと思った事なんて無いぜ、全く・・・。」

 

エドさんも同じ御気持ちなのでしょう、頭を抱えてタメ息をひとつ、吐いておられました・・・。

 

私達が宇宙へと帰れるのは、いつになるのでしょう・・・。

 

そう思い、私もタメ息が出てしまいました・・・。

 

sideout

 

noside

 

北米大陸、カリフォルニアにある、大西洋連邦の基地のとある一室に、その人物達はいた。

 

「諸君達に集まって貰ったのは、他でもない、この男についての事だ。」

 

彼らの前に置かれていた席に腰掛けた初老の将官が、資料と思しきモノを手渡しながらも話を進めていた。

 

彼の目の前にいる三人は、それぞれに思う所があるのだろう、一概には形容しがたい表情を浮かべていた。

 

「諸君らもよく知る男だろうが、これ以上野放しにはできんのだ、乱れ桜、月下の狂犬、白鯨、諸君らの力で切り裂きエドを抹殺せよ!以上だ。」

 

彼らに向けて指令を下した将校は、席を立ち、その部屋を辞した。

 

「・・・、優秀なパイロットでしたのに・・・。」

 

彼が立ち去ったのを認めると、頬に桜の花弁の様な痣を持った女性が、どこか残念そうに呟いた。

 

彼女の名はレナ・イメリア、二つ名は≪乱れ桜≫。

元士官学校の教官であり、前大戦では数々の戦線で功名を挙げたパイロットである。

 

切り裂きエドこと、エドワード・ハレルソンとは、士官学校時代の教官と生徒の間柄であり、幾度となく顔を会わせた事があった。

 

「フン、昔からいい加減な奴さ、だが、アイツらしいと言えば、アイツらしいな。」

 

そんな彼女の言葉を鼻で笑いながらも、如何にも軍人であると言わんばかりの中年の男性が呆れたように肩を回していた。

 

彼の名はモーガン・シュバリエ、二つ名は≪月下の狂犬≫。

 

元々はユーラシアの戦車部隊を率いていたが、士官交換によって大西洋連邦へ移籍、その後はMS、105ダガーを駆って様々な戦場で多大な戦果を挙げており、エドとも、何度も共に戦った戦友と呼べる存在だった。

 

「そんな事なんてどうでもいい・・・、裏切者は赦さないわ、レナ、モーガン、エドは私が討ち取ってやる!!」

 

そんな彼らの言葉を聞いていた金髪の女性は、憤怒に染まった表情で立ち上がり、彼等に宣言するように言い放った後、部屋を辞した。

 

「≪白鯨≫、ジェーン・ヒューストン・・・、一番辛いのは彼女でしょうに・・・、よろしいのですか?」

 

そんな彼女の背を見ながらも、レナはどこか心苦しそうにモーガンに尋ねていた。

 

彼女は知っているのだ、エドとジェーンの、本当の間柄を・・・。

 

「任務に私情を持ち込まない、それが軍人だ、命令ならやるしかないだろうよ。」

 

そんなレナの言葉を大した事では無いとばかりに切り捨てながらも、モーガンはタメ息を吐いていた。

 

本当は彼女には殺せたくはないのだろうが、軍人たるもの、命令には逆らえないというジレンマに陥っているのだ。

 

そんな彼の思いを汲み取ったレナも、彼と同じ様にタメ息を吐きながらも、何かを憂うような表情を浮かべていた。

 

それが意味するものがどの様な物かは、彼女以外に知る者はなかった・・・。

 

sideout

 




次回予告

戦火に包まれる南米で、再会と出会いが彼等の運命を大きく変えて行く。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

私の英雄

お楽しみに


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私の英雄

noside

 

C.E.71年十二月上旬、地球、オーストラリア大陸に存在するザフト軍の基地、カーペンタリアに、それは降り立った。

 

ジンを彷彿とさせるアンテナを持ちながらも、これまでのザフトMSとは異なったデザインを持った、独特の機体だった。

 

それを見るのが初めてだったのだろう、周囲の兵士達は、皆一様に驚愕の表情を浮かべながらもその機体を注視していた。

 

『こちら管制室、X999A、搬送機の準備が完了した、そのまま進んでくれ。』

 

「こちらX999A、了解、これより搬送機に向かう。」

 

管制室からの通信に答えつつ、X999と呼ばれた機体のパイロットの男は直ぐ近くにある輸送機に向けて機体を移動させた。

 

ゆっくりとだが、一歩一歩確かめるような動きであり、何かを試している様な雰囲気すら窺えた。

 

「バランサーの調子がイマイチだな・・・、移動中にOSを見ておくか。」

 

機体の問題点を見抜きながらも、彼は自分自身の癖に苦笑していた。

 

自分はこれほどまでに仕事人間だったか、その表情からはこの言葉が当て嵌まるだろう。

 

「南米、か・・・、何か有りそうだな・・・。」

 

頭を振って表情を引き締めながらも、彼は得体の知れない胸騒ぎを覚えた。

 

第六感的な何かなのだろうが、それが分かるのは彼しかいなかった。

 

そうしている間にも、機体は搬送機の格納庫に入り、搬送機は離陸すべく隔壁を下し、滑走路を移動し始めた。

 

その光景をコックピットから眺める彼はまだ、この旅路が、彼の運命を大きく変えるものになるとは知らなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「おい、ジェス。」

 

同じ月のある日、仮設基地近くにある格納庫にやって来たエドは、格納庫に置かれてあるアウトフレームの前で困惑した様に佇むジェスを見つけ、声をかけた。

 

だが、肝心の彼は何か困惑した様な表情をし、エドに気付いていないのだろう、機体の頭部を見つめたまま微動だにしなかった。

 

どうしたものかと辺りを見渡すと、ストライクの前で何やら神妙な面持ちをしている一夏と、そんな彼をどうしたのだろうかとばかりの表情で見つめるセシリアとシャルロットの姿があった。

 

「そっちもそっちでどうしたよ、ってか、ここでいったい何があったんだ?」

 

この三人の方が答えが期待出来ると判断したのだろう、エドは彼らに歩み寄りながらも何があったのかと尋ねていた。

 

「あら、エドさん・・・、一夏様が・・・。」

 

「ん・・・?あぁ・・・、エドか、どうした・・・?」

 

先に彼に気付いたセシリアの声を聴いて、ようやくエドに気が付いたのだろう、一夏は心ここに在らずという様な声で尋ねていた。

 

「どうしたもなにも、ジェスもお前もどうしたんだ?話しかけても、近づいても気付かないって・・・?」

 

ジェスの様子は気になるが、今は取り敢えず目の前の彼の事が気になったエドは、詳しく聞きたいとばかりに尋ね返していた。

 

ジェス達が南米に来てから既に一週間以上が経っているのだが、ジェスは兎も角、一夏がここまで殺気立つ所を見た事は無かったのだ、気にならないといえば嘘になるだろう。

 

「ジェスの方はアウトフレームの機能追加をジャンク屋の人間がやってるらしいが、俺のは違う・・・。」

 

「なるほどな・・・、で、お前のはなんなんだ?」

 

最初に知りたがったジェスの問題は彼の言葉によって半ば解決されたが、次の一夏自身の問題が気がかりだった彼は、何を感じているのかを知るために彼に問いかけていた。

 

「何かを・・・、強烈な何かを持った誰かが、俺達の近くに来ている・・・、そんな感じがするんだ。」

 

「誰か、だと・・・?」

 

彼の要領を得ない言葉に首を傾げながらも、エドは辺りを見渡したが、特に普段と変わった様子は見受けられなかった。

 

強いて挙げるならば、ジェスが自分の機体を弄られている事で少々難しい顔をしているぐらいだったが、ジャンク屋相手に、一夏がそれ程の感覚を見出す事も無いだろうと、エドは意識を目の前の三人へと戻した。

 

「それが・・・、僕達は何も感じないから、一体何の事かさっぱりで・・・。」

 

「一夏様が感じられる程の強い気なら、私が感じない訳が無いのですが、一体なんなのでしょう・・・。」

 

シャルロットの言葉に続けながらも、セシリアも自分が感じない何かを感じる一夏の感覚を信じ切れずにいたのだろう。

 

「ふぅん・・・、そりゃぁ・・・、悪いが、俺にもサッパリだ。」

 

その感覚に、自分が感じた事のあるすべての感覚と照らし合わせたが、正体を掴み切る事は出来なかったため、何も知らないと答えた。

 

「すまん・・・、だが、どうしても気になるんだ・・・、少し辺りを見てくるよ。」

 

一言断りを入れるや否や、彼はストライクのコックピットから降りてきたラダーに掴まり、上昇を始めた。

 

「えっ!?一夏・・・!?」

 

「わ、私達も・・・!!」

 

そんな夫の唐突な行動に驚いたのだろう、シャルロットは声を上げ、セシリアは自分も付いて行こうと機体へと走ろうとしていたが、それを一夏が制していた。

 

「セシリアとシャルはジェスの傍を離れるな、敵襲があったらエドの迷惑になるだろ、護ってやってくれ。」

 

自分達三人が一気にここから離れれば、誰がジェスを護衛するのだと言い残した後、彼はコックピットへと潜り込み、機体を手早く起動させ、彼女達を踏み潰さぬ様に気を付けながらも格納庫の外へと向かい、スラスターを吹かしてジャングルの方へと飛んで行ってしまった。

 

「うわっ・・・!?な、なんだぁ・・・!?」

 

スラスターの推力による突風で、ストライクが出て行った事に漸く気付いたのだろう、ジェスが素っ頓狂な声を上げながらも辺りを見渡していた。

 

どうやら、自分の世界からようやく戻って来たのだろう。

 

「一夏がちょっとした用事で出てったのさ、で、アウトフレームの様子はどうなんだ?」

 

「あっ、あぁ、いきなりジャンク屋の人が来たと思ったらいきなり機体を弄ってて・・・。」

 

『心配いらない、装備の追加だ。』

 

ジェスの困惑に答える様に、『8』が装備の追加だと答えた。

 

だが、それに一番驚いたのは、他でもないジェス自身だった。

なにせ、彼はジャーナリストではあるが、所詮は民間人、武器を携帯する事は許されていない。

 

「おーい!武装とかやめてくれよ!こっちは民間なんだから!!」

 

「あーい、もうちょっとで出来るんで待っててくださいね~。」

 

余計な戦闘に巻き込まれるのは御免だとばかりの彼の心情を知ってか知らずか、アウトフレームのバックパックで作業をしている女性の真の抜けた様な声が聞こえてきた。

 

作業中とは思えない何とも緊張感の無いその声に、ジェスはおろか、エドや近くに来ていたセシリアとシャルロットすらも脱力しそうになっていた。

 

「あ、大体出来たので確認してくださ~い。」

 

「まったく・・・、本当に出来てるんだろうな・・・。」

 

如何にも不安だと言う様にボヤキながらも、ジェスはエドと共に機体のバックパックまで上ると・・・。

 

「どうですか~?」

 

「な、なんじゃこりゃぁ!?」

 

そこにあったあるモノを見て、ジェスは某刑事ばりの声で叫んだ。

 

人一人が足を伸ばしても楽に入れそうな大きさの四角形の箱に湯が張られているのだ、考えなくても分かるだろう。

 

そう、それはMSに本来ある筈もない設備であり、本当に必要なのかと疑いたくなるものだった。

 

「お風呂で~す♪これで長期の取材も安心ですよぉ~。」

 

そんな彼の驚愕に答える様に、そばかす顔のジャンク屋の女性、ユン・セファンはどんなモンだいとばかりに笑いながらも説明していた。

 

「いや、見りゃ分かるけど、これは・・・。」

 

あまりの事に驚いて、というよりは若干引いているのだろう、エドは引き攣った表情で呟いていた。

 

「これがお風呂のマニュアルです、あ、それと機体のバッテリーがレッドゾーンになるとお湯がぬるくなりますが、お風呂優先にもできますがどうします~?」

 

「・・・、そのままで良いよ・・・。」

 

彼女の説明に、そういう事を聞きたいんじゃないと思いながらも、流石に移動や取材に支障が出ない様な設定のままで良い事を伝えるため、ジェスは疲れたと言わんばかりの声色で答えていた。

 

「分かりましたぁ~♪それじゃぁ、何かあったらまたお呼びつけくださいね~。」

 

彼の返答を受けて、彼女は満面の笑みを浮かべると、アウトフレームの傍に置かれていたレイスタの個人カスタムに乗り込み、器用に手を振りながらも森林の方へと消えて行った。

 

「なんかトロ臭そうな姉ちゃんだったけど、本当に大丈夫なのか・・・?」

 

彼女のレイスタが見えなくなったと同時に、エドがタメ息を吐きながらも独り呟いていた。

 

如何にジャンク屋とは言えど、あそこまでのほほんとした人物を見た事が無かったのだろう。

 

『彼女はあれでもレイスタの開発者なんだぞ!』

 

「えぇっ!?あのレイスタの・・・!?」

 

人を見かけで判断するなとばかりの『8』の表示に、ジェスは驚いた様に声を上げていた。

 

自身も使っていた事があるレイスタを開発した人物だとは、夢にも思わなかったのだろう、彼の表情からはしまったと言わんばかりの表情が見て取れた。

 

「人は見かけによらねぇなぁ、で、早速試してみろよ、正真正銘の一番風呂だぜ。」

 

「そうだなぁ~、文句は入ってみてからでも遅くないかぁ。」

 

感心した様に呟きながらも、エドはジェスに対して風呂に入っておけとばかりに声をかけていた。

 

それに頷き、ジェスは早速入浴してやろうと言わんばかりに服を脱ぎ始めようとした。

 

まさにその時だった、格納庫内に警報の音が響き渡った。

 

「敵襲、ですか・・・!?」

 

あまりにも唐突な警報に、セシリアは表情を硬くしながらも、シャルロットと瞬時にアイコンタクトを交わし、自分達の乗機へと急いだ。

 

「あぁ、どうやら、仕掛けた網に連合が掛かってくれたみたいだ・・・、出撃するぞ。」

 

何が起こっているのかを説明しつつ、エドは表情を硬くしながらもソードカラミティへと走った。

 

だが、その表情には緊張だけではなく、何か別の色が混ざっている様にも見て取れた。

 

「お、おい、エド?俺も行くよ!!待ってくれーっ!!」

 

風呂に入ろうと、もう少しでズボンまで脱ぎ掛けていたジェスは、慌てて身嗜みを整え、彼らの後を追った。

 

せっかく他の報道陣がいない中での単独取材だ、これほどまでに無いチャンスに違いないだろう。

 

だが、この時の彼はまだ気付いていなかった。

エドが抱える、その想いに・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

レイダーに乗り込み、エドさんとジェスに付いて海岸沿いの崖までやって来た僕達は、その場で何かが来るまで待機することになった。

 

だけど、辺りは濃い霧に包まれていて、見渡そうにも霞んでよく見えないっていうのが実情だった。

 

と言うより、この霧はなんなんだろうか・・・?

 

『この霧はガルーアと言ってな、この時期の南米大陸の名物さ、南極で冷やされた海流がこっちで暖められて発生するんだよ、これに紛れれば、姿を隠したまま上陸できるって事さ。」

 

『これに紛れて連合が上陸するのか?まるで、敵の手口を最初っから読んでたみたいだな。』

 

エドさんの説明に感心しながらも、ジェスは彼がまるで敵の手口を読み、それを迎え撃つためにここまで来た事について尋ねていた。

 

確かに、元々所属していた組織が相手で、このルートを通って侵攻してくる可能性がある人と交流があったとは思うけど、どうしてここでその人が来るって感じたんだろうか・・・?

 

『アイツなら間違いなくそうする、アイツの事なら、俺はなんだって知ってるから、な・・・。』

 

『エドさん・・・?』

 

エドさんの声色の変化を、僕とセシリアは聞き逃さなかった。

 

それはまるで、本当は戦いたくない誰かと戦おうとしている様な・・・。

 

『それはそうと、ジェスは基地で風呂でも入ってろよ、こんな濃霧じゃ良い画なんて取れないぞ?』

 

それを悟られない様にするためなんだろうか、エドさんは声色を何時もの調子に戻して、ジェスに声を掛けていた。

 

濃霧じゃ良い画なんて撮れないから、というよりは、この戦いを見ないでくれと言う様な口振りだった。

 

やっぱり、かなり深い仲の人だったんだろうね・・・、僕で言うと、セシリアと、若しくは一夏と戦わなくちゃいけなくなるって所なのかな・・・?

 

『た、確かに・・・!だけど、諦めなかったら何とかなる!それに、ベルの鼻を明かしてやらないとやらないとな!!』

 

ジェスは彼の思いに気づかなかったんだろうか、もしくは、自分がやろうとしてる事に目がいって気付けなかったのか、取材を続行すると意気込んでいた。

 

本当は僕達が何とか言って引き下がらせるべきなんだろうけど、理由が弱すぎるから引き留められないんだよね・・・。

 

『・・・、好きにしろ、だが、くれぐれも戦闘の邪魔だけはしないでくれよ?』

 

彼の姿勢に折れたんだろう、エドさんはタメ息を一つ吐きながらも許可を出していた。

 

それじゃあ、僕達も覚悟を決めるしかないね・・・、何かあれば、止めに入らないと・・・。

 

『勿論だ!『8』、シューティングコート展開だ!』

 

彼の言葉に頷きながらも、ジェスはアウトフレームに実装された新たな機能を展開した。

 

それはバックパック上部が動き、そこから何か白い垂れ幕みたいなものが下りてきて、カメラを覆わないようにしながらもアウトフレームの全身を覆い隠した。

 

「これがアウトフレームの新機能・・・?」

 

『ほぉ!そんな変形も出来るのか!』

 

『ステルスとまではいかないけど、これで少しは見付かり辛いだろ。』

 

見付かり辛いとか、そういう問題じゃなくて・・・、まぁ、言っても聞いてもらえないのは何となく分かるから何も言わないけどさ・・・。

 

僕がタメ息を吐いている間に、アウトフレームが僕達の傍まで戻ってきながらカメラを構え、ソードカラミティの背を撮っていた。

 

僕達はジェスの両サイドに控え、攻撃が飛んで来ないように警戒に入った。

 

それが始まって数分もしない内に、ソードカラミティがシュベルト・ゲベールを引き抜き、海中から飛び出してきた何かと切り結んだ。

 

それは、甲羅の様なリフターを背負った水色の機体、フォビドゥンブルーであり、エースパイロット機である事を示す白い鯨のパーソナルマークが入っていた。

 

『やはり来たか、白鯨・・・、ジェーン!』

 

『まさかアンタが出迎えてくれるなんてね、エド!!』

 

わざと開いておいた音声回線から、エドと、フォビドゥンブルーのパイロットの女性の声が聞こえてくる。

 

やっぱり、顔見知りどころの話じゃないみたいだね・・・、あの女性〈ヒト〉、声色が揺らいでる・・・。

 

 

『分かるさ、お前がやる事は、なんでもな・・・!!』

 

拮抗状態から離れ、エドはシュベルト・ゲベールのレーザーを入れ、切り付けるけど、彼女はそれを見越して左側のシールドで防御した。

 

ゲシュマイディッヒ・パンツァーの効力でレーザーが拡散されているんだろう、辺りに火花が散った。

 

『私はアンタが裏切るなんて、思ってもみなかったよ!!』

 

『やはり・・・!レーザーでは切れませんわね・・・!』

 

エドさんがジェーンと呼んだ女性の、怒りに満ちた声と、セシリアの歯噛みする様な声が届くけど、僕の意識は別にあった。

 

ジェーンさんのあの怒り方は・・・、まさか・・・?

 

『裏切り者のエド・・・!モーガンにも、レナにも・・・、他の誰にも殺させはしない!!アンタは私が討つ!!』

 

怒りと悲しみが混ざったような怒声を吐きながらも、彼女はフォノンメーザーを発射したけど、所詮は音のビームだ、速度はそれほど速くないから、エドは難なく回避していた。

 

『やめろ、ジェーン!!分かってくれっ!!』

 

『分からないね!!アンタは全てを捨てて祖国を取った!!何故だ!?』

 

エドの言葉を怒声で返しつつも、ジェーンさんは魚雷をミサイル代わりに発射、エドはその弾頭だけを切り裂いて無効化していたけど、次の瞬間にはフォノンメーザーを撃ちかけていた。

 

『セシリア、シャルロット・・・、あの二人の感じ・・・、なんだと思う・・・?ただの知り合いとは思えないんだ・・・。』

 

彼らの言葉から何かを感じ取ったのか、ジェスは僕達に尋ねてきた。

 

やっと、だね・・・、エドさんがジェーンさんが来ると気付いてた、そう読んでいた時点で何か気付くべきだったとは思うけどなぁ・・・。

 

『えぇ・・・、シャルさんも感じておられるでしょうが・・・、あのお二人は恐らく・・・。』

 

セシリアもとっくに気付いていたみたいだね、あの二人の本当の関係に・・・。

 

『何故仲間を・・・!!何故私達を捨てた・・・!?』

 

セシリアの言葉を遮るように、ジェーンさんの怒声が僕達の耳を打った。

 

見れば、フォビドゥンブルーがトライデントでソードカラミティに格闘戦を挑んでいた。

 

エドさんは覚悟を決めきれていないのか、レーザーを切ったシュベルト・ゲベールでそれを何とか捌いていた。

 

『くそっ・・・!好きで捨てた訳じゃないさ・・・!けどな・・・、俺がいなければ、祖国の皆は・・・っ!!』

 

「エド、さん・・・!?」

 

いけない・・・!この血を吐くような叫びは・・・・!

 

大切な物でも捨てる時は捨てる覚悟をした人間の声だ・・・!!

 

分かるんだ・・・、分かるんだよ!僕も昔はそうだったから・・・っ!!

 

『シャルさん!これはっ・・・!!』

 

セシリアも気付いてしまったのだろう、焦ったような声で僕に問い掛けてくる。

 

止めたい、止めなきゃいけない・・・!!

 

これじゃ、エドさんは本当に英雄になってしまう、すべてを切り捨てた、人間を辞めた存在に・・・!!

 

何か止める方法はないの・・・!?

 

『・・・っ!!そうですわ・・・!ジェスさん、エドさんのインタビューを投影してください!!』

 

そんな時、何かを閃いたセシリアがジェスに向けて叫んでいた。

 

そうだよ・・・!あの二人が恋人同士なら、エドさんが言ってた最高の女は間違いなく・・・!!

 

『あぁ!?でも、どうして・・・!?』

 

「エドさんの最高の女は多分、彼女なんだよ・・・!あの二人の擦れ違いを一瞬でも止められたら、きっと・・・!!だから、お願いだよ・・・!!」

 

説明なんてしている暇なんてない、今すぐにでも辞めさせなきゃならないんだから・・・!!

 

『分からないけど・・・、戦いを止められるんなら・・・!!『8』再生を急いでくれ!!』

 

僕達の焦りが伝わったんだろう、ジェスは慌てながらも映像の投影準備に入った。

 

急いで、急いで・・・!ジェス!『8』・・・っ!!

 

sideout

 

noside

 

「祖国にイイ女でもいたのか!?だからか・・・っ!?」

 

「・・・、ジェーンっ・・・。」

 

理由を教えろとばかりに叫ぶジェーンの言葉に、エドはただ、何も言えなかった。

 

今更弁明したところで分かってもらえるなど、そんな都合の良い事など、最初から考えていなかった。

 

二本のシュベルト・ゲベールで攻撃をすべて捌き、返す一閃でフォビドゥンブルーの左側のシールドを保持するアームを切断、体制を崩したフォビドゥンブルーを蹴り飛ばした。

 

「あの時・・・、私に言った言葉は嘘だったのか・・・!?」

 

「・・・。」

 

血を吐く様に問いかける彼女の声に、エドは答える事が出来なかった。

 

何を言っても、今の自分の言葉は彼女にとっては偽りにしか響かない、だから、本当の想いを伝えられないのだ、と・・・。

 

「あの言葉が嘘なら・・・、私は何を信じればいい・・・!?何を想えばいいんだ・・・!?」

 

何も答えない彼に怒りながらも、ジェーンは過ぎし日々を思い返していた。

 

自分の質問に答えながらも、自分を優しく抱き留めてくれた広い胸、重ねた肌の感触、その全てが暖かく、彼女を満たしていた。

 

それが偽りだと思いたくなかった、なのに、エドは自分を置いて行った、そのせいで、自分はその満たされていた時の想いを嘘だと感じてしまっている、彼への想いを嘘だと偽れたら、どれほど楽か・・・、彼女にはそれが出来なかった。

 

そうしてしまえば、自分が彼に対して抱いている想いを否定してしまうから、そんな事は嫌だから・・・。

 

「答えろ・・・!私の質問に答えろ!!エドォッ!!」

 

何か答えてほしかった、自分の気持ちに応えてほしかった。

 

それが叶わない今、もはやどうとでもなれとばかりに彼女は涙の滴を零しながらも、トライデントを構え、ソードカラミティに向けて突進してゆく。

 

それは、特攻にも近しい悲壮感すら纏って・・・。

 

「(今も、あの言葉に嘘はないぜ、ジェーン・・・!だけどな、連合を脱走した時に決めたんだ、誰が敵になっても、南米の英雄として戦い続けると!!)」

 

あの時聞かれた言葉に打たれ、自分は彼女に惚れた。

 

だが、それでも自分は脱走兵で、彼女は連合の刺客なのだ、もはやどうする事も出来なくなっていたのだ。

 

だからこそ、自分が出来る事は黙して戦う事、たったそれだけの事だった。

 

フォビドゥンブルーを迎え撃つため、彼は二本のシュベルト・ゲベールを重ね合わせ、敵を討ち取らんと振りかぶった。

 

互いの得物の間合いに入った、まさにその時、彼らに向けて光が浴びせかけられた。

 

「「っ・・・!?」」

 

別の誰かからの攻撃かと、彼らは攻撃が当たる一歩手前で機体を止まらせ、その光の発生源を確かめようとした。

 

『う~ん・・・、あっ!好きな女性のタイプは!?』

 

『ふっ・・・、ふふっ・・・、はーっはっはっはっ!お前っ、面白いな!そんなインタビューをしてきたのはお前が初めてだよ!!』

 

「これは・・・、前のインタビューの時の・・・?」

 

流れてきた音声と、濃霧をスクリーン代わりに投影された映像には、ジェスの質問に軽妙に答えるエドの姿が映し出されていた。

 

『いいぜ、答えるよ、その質問を前に俺にしてきた奴さ、俺の胸に飛び込んできてくれるソイツが、俺にとっては最高の女さ、そこにいる美人な御嬢ちゃん方よりもな。』

 

「エド・・・、あなた・・・!」

 

「ジェス、セシリア、シャルロット・・・、あいつ等か・・・。」

 

この映像を流している人物達が、先ほどまで自分と行動していた者達だと気付いたために、エドは表情を綻ばせた。

 

そして、同時に自分が早まった真似をしなくて済んだと、何処か安堵した様な表情も浮かべ、目の前にいる最高の女に意識を戻した。

 

「何故・・・、何故私にも声をかけてくれなかった・・・、あなたの祖国を護るためなら、私だってその覚悟はあったのに・・・。」

 

どうして自分も一緒に連れて行ってくれなかったのかと、ジェーンは涙ながらに彼に問うた。

 

これほどまで自分を愛してくれているのなら、自分もそれに応えるために彼と共に戦うつもりでいたのだから・・・。

 

「これは俺の我儘なんだ、そんな事のために、お前を巻き込みたくは無かったんだ。」

 

だが、エドは彼女を愛しているからこそ、自分の我儘で傷つく事をさせたくなかった、だからこそ、自分だけが苦しめばいいと、独りでここまで来てしまったのだ。

 

しかし、彼はそれが大きな間違いだったと、すれ違ってしまった原因だと、後悔と共に感じさせられていた。

 

「あなたは私の英雄なんだ・・・、ずっと付いて行くって決めたんだ・・・、だから・・・、もう離れないさ・・・。」

 

「やれやれ、流石は俺が惚れた女だぜ、頑固なのも筋金入りだぜ・・・、だが、此処まで言い寄られて悪い気はしねぇさ。」

 

トライデントを捨て、自分の機体に寄り添ってくるフォビドゥンブルーをしっかりと掴みながらも、彼は感謝の念に包まれていた。

 

そして、早くここから出て、生身の愛しい女と抱き合いたいと、心の底から願ったのであった・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「さっきのは助かったぜジェス、改めて礼を言うよ。」

 

それぞれの機体から降りた私達は、何事も無かった事を喜びながらも機体の足元に集まりました。

 

エドさんはジェスさんの映像のお陰で助かったと、笑いながらも彼に礼を言われておりました。

 

「いや、俺は何もしてないよ、セシリアとシャルロットが先に気付いてくれなきゃ、俺も止められなかったからさ。」

 

私達に手柄を譲って下さるおつもりなのでしょうか、ジェスさんは自分は何もしていないと謙遜していらっしゃいました。

 

そのセリフを言わねばならないのは、寧ろ私達の方なのですが・・・。

 

何せ、私達は止めたいとは願えど、それを成すための手段を持ってはいませんでしたし、それに何より、大切な御方を喪ったと言う苦しみは、この身に染みて存じ上げております、だからこそ、何事も無かった、それだけで良いのです。

 

シャルさんも私と同じ心持だったのでしょう、自分は何もしていないと、微笑みながらも首を横に振っておられました。

 

お互い、喪う辛さを共有した身です、人形でなくなっても、そう言ったところは共感し合えるのです。

 

「そうか、二人にも礼を言うよ、あぁ、悪いけどなジェス、この事は報道しないでくれよ?気恥ずかしいからさ。」

 

あらあら、南米の英雄さんも、プライベートにもなると、それも女性とのアレコレはやはり秘密にしておきたいのしょう。

 

まぁ、私も芸能レポートを謳って、誰かの色恋沙汰に首を突っ込むのはいかがなものかと感じておりますし、これで良いのでしょう。

 

「良いさ、俺は自分の撮った絵で、誰かに想いを伝える事が出来た、それだけで満足さ!」

 

エドさんの頼みに快く答えながらも、ジェスさんは何処か満足げに頷いておられました。

 

どうやら、彼の信念である、誰かに自分が見た真実を伝える事が出来た事に満足し、それ以上を望まなかったのでしょう。

 

これほどまでに真っ直ぐ生きれると、眩しすぎて目を逸らしてしまいそうですわね・・・。

 

私が感心しておりますと、今まで口を噤んでいらっしゃったジェーンさんが唐突に口を開かれました。

 

「私からも礼は言うけどね、これで終わりじゃないよ、連合は南米の独立を決して認めやしない、だから、次々と刺客が送り込まれてくる、そう思っておいた方が良いよ。」

 

やはりそうですか・・・、たったこの一戦だけで戦いが終わる筈も有りませんし、エースが敗れたとなると、何が何でもその穴を埋める為に軍を送り込む、単純な事ではありませんか・・・。

 

しかし、私に出来る事は無いと言っても過言ではありません。

 

何せ、私達はここの人間ではありませんし、それに、ジェスさんの護衛と言う大きな任務も抱えております、だからこそ、私情で戦闘に介入すると言う事だけは在ってはなりませんし、一夏様が独断で動く事も、本当ならば私達が止めるべきなのですが・・・。

 

ですが、そうも言っていられなくなってきたのは事実ですわね・・・、一夏様、この状況を、貴方様はどうなされますか・・・?

 

心の内で、私は何処かに行ってしまわれた旦那様に向けて尋ねておりました。

 

まるで、心細さと不安を払拭してもらいたいかの様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ひ~ん・・・、迷ってしまいましたぁ・・・、此処は何処ですかぁ~?」

 

その頃、ジャングルのとある場所にて、一人の女性が道に迷っていた。

 

彼女の名はユン・セファン、ジャンク屋組合所属の技術者で、現在彼女が搭乗している機体、レイスタの設計者でもある。

 

彼女は元々、オーブのモルゲンレーテで技術者として勤めいてたが、連合のオーブ侵攻に際して、極端なドジの連続で脱出船であるクサナギに乗り損ね、置き去りにされてしまったと言う何とも見っとも無い経歴を持っていた。

 

非情に優秀な人材である事は間違いないのだが、如何せんトラブルメイカー的側面も持つため、仲間内からも評価が分かれる人物ではあった。

 

そして、彼女は今回も例に漏れる事無く、遭難一歩手前の段階に差し掛かっていた。

 

「ふぇ~ん・・・、ほぇっ?この先にエネルギー反応ですかぁ~?」

 

泣きかけたところで、機体が何かの反応を掴んだのだろう、彼女に知らせる様にアラートを鳴らしていた。

 

それを聞いた彼女は、何があるのやらと機体を向かわせ、行く手を塞いでいた木々をかき分けた。

 

「ひぃっ・・・!?」

 

だが、その先にあった光景に、彼女は短い悲鳴を上げた。

 

彼女の目に飛び込んで来たのは、開けた大地に横たわる、何十機と言う数のダガーLの無残な姿だった。

 

「これはダガーLさん達・・・、ひどいですぅ~・・・。」

 

機体のコックピットから出た彼女は、目の前に広がるMS達の亡骸を見ながらも呟いていた。

 

よくよく残骸を見てみると、攻撃されたであろう弾痕や刀傷から黒煙が上がっているのが見て取れ、破壊されて間もないと言う事を物語っていた。

 

彼女とてジャンク屋、機械を扱う職についているだけあって、メカに対する思い入れはそれなりに強いのだ、この惨状に心を痛めないはずが無かった。

 

「早く逃げろ、此処は危険だ。」

 

「うひゃぁ!?」

 

そんな彼女の真隣に、突如として男性が現れた。

 

そのあまりにも唐突な登場に驚愕しているが、彼はそんな彼女を置き去りにここから撤退する様に語った。

 

「え、えぇ~・・・?危険ってどういう事なんですかぁ~・・・?」

 

彼が何者かなのかも気になる所だろうが、それよりもまず先に、ここがどうして危険なのか分からなかった彼女は理由を尋ねていた。

 

「あれが見えないか?」

 

彼女の問いに、彼は険しい表情を崩さないままに視線を前に向けた。

 

それに釣られ、ユンもその方向を見て、絶句した。

 

彼女の驚愕は当然の反応であると言えよう、何故ならば、そこでは、灰色のバックパックを背負った白の機体と、肩を黒く塗装された黄色の機体が、目まぐるしく機体を交錯させながら激しい戦いを繰り広げていたのだから・・・。

 

sideout




次回予告

歯車が噛み合うように引き合わされた二人は、南米の大地で刃を交える

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

運命の邂逅
お楽しみにー。


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運命の邂逅

noside

 

エド達がジェーンと交戦する15分ほど前、ただ一人、ストライクで出撃した一夏は、ジャングルを進むに連れて強くなる胸騒ぎを感じていた。

 

「誰だ・・・、誰なんだ・・・?」

 

これまで感じたことのないまでの、自身の心を締め付ける様なプレッシャーだったが、恐怖や苛立ちなどの不快感は無く、彼を誘うようなものだった事に、彼は戸惑いを隠せなかったのだ。

 

「強い奴がいるのか・・・?俺はまだまだ弱いのに、そんな奴と戦えるかよ・・・?」

 

グローブの中で汗ばむ手で操縦桿を握り締め、彼は言葉に出来ぬ不安を押し隠し、ひたすら感覚が強くなる方へと歩みを進めた。

 

そして、そこからしばらく進んで行くと、ストライクのレーダーに反応があった。

 

「来たか・・・!?いや、それにしては数が多すぎるが・・・?」

 

レーダーに映るのは、まるでどこぞの軍隊よろしく一塊になって行軍しているMS部隊と思しき物と、それとは別に行動している機体が存在している事を彼に告げていた。

 

ここは早く現場に向かい、彼に纏わりつく妙な感覚の正体を突き止めたい所だったが、下手をすれば両方から攻撃されかねないだけでなく、更に厄介な事になりかねない火種でもあったのだ、此処は慎重に行動する事が賢明であると言えるであろう。

 

「いや・・・、此処で慎重に動いたとしても、向こうも俺を感じている筈だ・・・、それに、レーダーで捕捉できる距離って事は、もう見つかっていると考えるべき、なんだよなぁ・・・。」

 

やれやれと言った風に苦笑しながらも、彼は格納庫を出る時に、南米軍が所有するストライクダガーのビームライフルを借りてきて正解だったと思っていた。

 

彼は狙撃は不得手ながらも、乱射や早撃ちにはそれなりの自信があった、よって、ジャングルの様な限定空間では、彼の手の内にある兵装で十分対抗可能であると言えるのだ。

 

「よし・・・、ハロ、敵さんの機種を特定しろ、何処の機体か判断してから行動する。」

 

『リョーカイ、リョーカイ!』

 

今すぐに出て行くと、こちらから仕掛けたと見なされてしまうと判断したのだろう、一夏は同乗するハロに指示を出し、付近にいる機体の判別を急がせた。

 

分が悪ければ逃げる、そう判断したとも考えられるが、こんな縁も所縁も無い地で死んでたまるかと言った思いが強いため、彼はそのような選択をしたのだろう。

 

『カクニン!ダガータイプ、タクサン!!アンノウン1!!』

 

「正確な数は分かるか・・・?」

 

『ムリ、ムリ!Nジャマーツヨイ!!』

 

「弱ったなぁ・・・、だが、一機やそこらじゃないって事なら・・・、連合の大部隊って事なのか・・・!?」

 

だとすれば、非常にまずい状態に陥ったなと、彼は内心で毒づいた。

 

単独で飛び出してきたは良いが、目の前には連合の侵攻部隊が、しかもその中には先程から彼にプレッシャーを与え続けている者がいるかもしれないのだ、恐らく生きて帰れる保証は無いに等しい。

 

「まずったなぁ・・・、こりゃ、またセシリアとシャルにお別れ言わないといけなかったパターンか・・・?」

 

冗談めかして言っているが、内心は最早気が滅入りそうになっていた。

 

なにせ、折角最愛の人達と再会できたのに、自分の不手際でまたさようならとは悪いジョークにもなりはしないのだ、彼は乾いた笑みを浮かべながらも、一際強く操縦桿を握り締めた。

 

だが、それと同時に彼の耳に爆音が届いた。

 

「なんだ・・・!?見つかったか!?」

 

まさか自分に向けての攻撃かと、彼は木々の間から様子を窺った。

 

良くは見えなかったが、その先では、無数のダガーLが何かに向けて攻撃を仕掛けていた。

 

「俺に向けてるんじゃないのか・・・!?一体誰に攻撃を・・・!?」

 

身を隠すのをやめ、彼は木々をかき分け、開けた場所へと機体を出した。

 

そこには、攻撃を仕掛ける数十機のダガーLと、その攻撃を躱しながらも反撃を行う橙色の機体がいた。

 

『新手か・・・!?』

 

『あれはヘリオポリスの試作MSのストライク・・・!?』

 

Nジャマーの影響か、混線した通信からはダガーL部隊と思しき隊員達からの困惑と歓喜の声が次々と聞こえてきた。

 

それもその筈だ、ストライクは試作機とは言えど、元は大西洋連邦が開発した最初期MSだ、交戦の最中で現れれば援軍とでも思いたくなるだろう。

 

だが、一夏の意識は、ダガーLには向いていなかった。

 

彼の目は、たった一機でソードストライカーが主であるが、他にも多種あるストライカーを装備したダガーL部隊と交戦する、モノアイの機体に向けられていた。

 

そう、その機体からは、彼が強く感じていたプレッシャーが更に強く発せられていたのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「誰だ・・・?誰が、俺を見ているんだ・・・!?」

 

試作型のMSであるザク量産試作型のコックピットで、パイロットである青年は奇妙な感覚に惑わされていた。

 

この南米に降り立って、いや、南米に来る前から感じていた感覚が、彼に纏わりついて離れることが無かったのだ。

 

折角の実地試験であるのに、パイロットである自分がこの調子ではこの試作機の正確なデータが取れないではないかと、彼は頭を振り、その感覚を振り払おうとしていた。

 

だが、その感触は刻一刻と強くなってゆき、遂には操縦桿を握る彼の手を震えさせるまでに至った。

 

「なんだ・・・!?この感覚は・・・!?」

 

正体を確かめようとしたのか、声を張り上げて叫んだ瞬間、ザクのコックピットにアラートが鳴り響いた。

 

それに意識を引き戻された彼は、弾かれた様にレーダーを確認すると、そこには彼の機体が今いるポイントに向けて接近してくる強い反応が有った。

 

「この数は大部隊相当じゃないか・・・?何故こんな所に・・・!?」

 

驚愕する間も無く、彼がいる方向の反対側のジャングルから次々と連合のMS,ダガーLがその姿を現した。

 

一応は環境の事を考え、ソードストライカーやドッペルホルンと言った火力をピンポイントで与える事が出来る装備をした機体が多く見受けられたが、中にはエールストライカーやランチャーストライカーと言った、周囲の被害関係なしに攻める為の装備も見受けられたため、南米を攻め落とすための侵攻部隊である事は明らかだった。

 

『なんだあの機体は・・・!?何処の所属だ!?』

 

『モノアイ・・・、ザフトのMSか!?』

 

「くっ・・・、連合のMS部隊とは、厄介な事になったな・・・。」

 

データ測定用の飛行艇との間で開いていた通信が、Nジャマーの影響で混線してしまったのか、敵機のパイロット達の困惑と敵意が彼に伝わってきた。

 

あまり良くない状況に歯噛みしながらも、彼は機体の右背面からトマホークを引き抜きながらも構えた。

 

この機体は試作機であるため、無暗に交戦すれば敵に余計なデータを渡してしまう為に、交戦だけは避けたい所ではあるのだが、連合がそれを許してくれるわけも無いだろう。

 

それに、こちらから戦闘を仕掛けたとなれば、彼がザフトの立場を悪くしてしまう事にも変わりはないために、攻撃をされるまでは攻撃を仕掛けるつもりは無かった。

 

『コーディネィターめ・・・!ヤキンで散った仲間の仇だ!!死ね!!』

 

そんな最中、一機のダガーLが背中のドッペルホルンを彼の機体に向け、攻撃態勢に入っていた。

 

「くっ・・・!もう戦争は終わったのに・・・!!お前達は何時までこだわる気なんだ!!」

 

通信から聞こえてきたコーディネィター蔑視の言葉よりも、戦争でやられた仲間の仇と言う言葉に、彼はやる瀬の無い憤りと、僅かな怒りを覚えた。

 

戦争は起こってしまった事は、仕方が無かった事であるし、もう終わった事であるのだ、なのに何故、過去に囚われたまま戦い、敵が憎いと言うだけで戦いを続けようとする姿勢が、彼には許しがたい物だった。

 

「あんな醜い事を、此処でも繰り返すつもりなのかっ!!」

 

彼の言葉への返答のつもりか、ドッペルホルンの砲弾が撃ちだされた。

 

彼はその場から動く事無く手持ちのシールドで防ぎながらもそのダガーLに向けて背面のレールガンを展開、脚部を狙って撃ち掛けた。

 

その弾丸は狙い違わず着弾し、ダガーは地に倒れ伏した。

 

『ゴードン!!このっ、宇宙人がぁぁ!!』

 

僚機がやられた事で交戦の意志アリと見做したのだろう、他のダガーLがシュベルト・ゲベールを抜刀、ザクに受けて切りかかってゆく。

 

「くそっ・・・、味方がやられても攻めに転じるか、改めて連合の攻め手の嫌な部分を見せられたな!!」

 

切りかかってくるダガーLをブレードトマホークで切り裂きながらも、援護として浴びせかけられる弾丸を回避するために機体を動かした。

 

敵を葬るためならば味方が倒れてもそれを踏み越えて敵を攻める、兵法としては間違ってはいないが、彼にとっては、人間を捨て駒扱いするその戦法が許しがたい物だった。

 

交戦を開始した彼の耳に、新たな機体が接近した来たと言う事を告げるアラートが届いた。

 

「なに・・・!?新手か・・・!?」

 

その反応は連合軍の部隊も掴んでいたらしく、全機がその方向へと目を向けていた。

 

そこには、灰色のバックパックを背負うトリコロールの機体が、戦況を窺うかのようにその姿を現していた。

 

「あれは・・・!」

 

『あれはヘリオポリスの試作MSのストライク・・・!?』

 

同じ連合製の機体に乗っているとは言えど、どうやら行動を共にしていなかったのか、連合の兵達の間にも動揺が広がっていた。

 

だが、彼にはそんな事は関係が無かった。

何故なら、気が付いてしまったからだ、ずっと自分に纏わりついて離れなかった、奇妙な感覚を・・・。

 

『お前か・・・!?』

 

「お前なのか・・・!?」

 

そのストライクのパイロットから発せられた言葉に、彼も反応した。

 

間違いない、自分達は互いを呼び合っていたのだ、どういう事かは全く持って分からないのだが、各々の中にある何かが共鳴し合っている事だけは分かった。

 

ストライクは彼が乗るザク目掛け、スラスターを吹かして突っ込んでくる。

 

彼もそれに答える様にシールドを構え、ストライクのシールドとぶつけ合った。

 

「『俺を呼んでいたのはっ!!』」

 

互いのシールドをぶつけ合いながらも、全く同じ言葉を全く同じタイミングで叫んだ二人は、ほぼ同時に映像回線を開いた。

 

「こちらはザフト兵器設計局ヴェルヌ所属、コートニー・ヒエロニムス!そちらの官制名を聞かせろ!!」

 

ザクに乗るパイロット、コートニーはストライクのパイロットに向けて叫ぶ。

 

敵なら敵でも構わないが、これほどまでに自分に付き纏うプレッシャーを放つ相手がどんな者か知りたくなったのだろう。

 

『こちらはストライク、織斑一夏だ、今は訳合って南米軍と行動を共にしているが、連合軍じゃない事だけは保証できるぜ!』

 

パイロットと思しき青年が通信機越しにヘルメットを脱ぎ捨て、その艶やかな黒髪と端正な顔を晒しながらも連合の所属ではない事を告げていた。

 

『お前の感覚に釣られて来てみれば、連合に囲まれちまったんだよ、この状況でお前と戦う気はない!』

 

「連合の所属でないと言うのなら、その根拠を示して欲しい物だ!そうでなければ、俺も信用できない!」

 

シールドをぶつけているだけであるため、何時でも攻撃できる事は明確なのだが、一夏と名乗ったストライクのパイロットは、今の状況を考慮してかコートニーへの攻撃を行おうとはしなかった。

 

だが、それも自分を油断させるためのデコイだと疑った彼は、論より証拠とばかりに何かしら信用できる証を示せと叫んだ。

 

幾らこの状況があまり歓迎できたものではないにしても、たった今会ったばかりの、それも互いに何かしらの感覚がある中では、まずはそれを信じられなくなるのも致し方ないのであろう。

 

『なら、まずは連合を蹴散らすぞ!話はそれからだ!!』

 

そう言いながらも、ストライクは拮抗状態から離れ、後退しながらも手近なダガーLの頭部を撃ち抜き、その流れでビームライフルを捨て、アーマーシュナイダーを引き抜き、シュベルト・ゲベールを構えたダガーLの肩部に突き刺した。

 

『な・・・!?なぜだぁぁ・・・!?』

 

『て、敵だったのか・・・!?しまったぁぁ・・・!!』

 

まさかの連合製のMS、それも試作機が敵だとは考え付かなかったのだろう、兵士達の間では瞬く間に動揺の波が広がって行った。

 

「良い腕をしている!!ピンポイントで敵を無効化するとはな!!」

 

ストライクの動きの無駄の少なさに驚嘆しながらも、コートニーは向かってくるダガーLをブレードトマホークで切り裂き、レールガンでの牽制も行っていた。

 

『まだまださ、俺は、MSに乗り始めて半年も経ってないんだ!』

 

倒れ伏したダガーLからシュベルト・ゲベールを奪いつつ、一夏はI.W.S.P.の推力をフルに使って飛翔、上空からガトリング砲を撃ち掛け、怯んだ敵機をシュベルト・ゲベールで切り裂いた。

 

どれも極力コックピットが避けられてり、乗り手の技量の高さが窺う事が出来た。

 

「冗談を言ってくれる!シャレになってないぞ!!」

 

ストライクが邪魔だとばかりに投げ捨てたビームライフルを拾いながらも、コートニーは援護砲撃を行う砲撃機の脚部や腕部を狙い、射撃が出来ない様に攻撃を加えていく。

 

『そっちも流石だな、攻撃できる機体を少なくしていく、それには完全な破壊は必要ないってか?』

 

「そうだ、こっちの方が合理的だ、障害物も増えて戦いやすい!!」

 

『違いない!!俺のストライクも廃材利用できるってもんだ!!』

 

背中合わせになりながらも、二人は周囲の敵機の数を把握するために目を凝らし、どういう風に戦うかなどを瞬時に考案、それを共有していた。

 

その手際は正に、長年バディを組んでいないと出来ないほどの物であり、この二人が今しがた出会ったばかりである事が嘘としか思えぬ程だった。

 

先程の攻撃で10機は沈黙させる事が出来たらしく、ちょうど良い威嚇になったのだろう、迂闊に責められないとばかりに、ダガーL達は二機から距離を取り、出方を窺う様に得物を構えながらも及び腰になっていた。

 

『で?どうする?俺が向いてる方の敵は請け持つけど、そっちは任せていいんだな?』

 

「会ってまだ10分経ってない奴の事を信じろって?バカも休み休み言え。」

 

『そう言いながらやらせる気満々だろ?分かるさ。』

 

自分の心を読むなと返したくなったコートニーだったが、苦笑するだけに留めて前を向く事にしたようだ。

 

今、この場で信じられるのは己の判断のみ、よって、敵対しない確率の方が大きくなったストライクのパイロットならば、自分の背を任せられると判断した様だ。

 

「分かっているのなら聞くな、行くぞ!」

 

『応とも!!』

 

互いの背を護る様に、二機はダガー部隊に向けて飛び出して行く。

 

自分達よりも練度が高い敵機が迫ってきた事に恐れをなしたのか、ダガーL の部隊は浮足立ち、攻撃が彼等を掠める事はなかった。

 

そして、激しい銃撃音や金属を切り裂くような音が断続的に続いた後、それは終わった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「ざっとこんなもんか・・・?」

 

『そうだな、周辺に反応はない、終わった様だ。』

 

戦闘が終了した後、俺はストライクのコックピットで大きくタメ息を吐き、目の前に立つ機体に乗るコートニー・ヒエロニムスとかいう奴とコンタクトを取っていた。

 

あの機体はザフトの新型である事はこの際置いといて、俺が何よりも驚いたのが彼自身のMS操縦テクニックだった。

 

ミナやサーペント・テールの叢雲 劾程じゃないにしろ、スーパーエース級の腕前を持っていた、それこそ、純粋な操縦技術じゃ俺を遥かに上回るほどの、な・・・。

 

『それはそうと、織斑一夏、お前は南米軍と行動を共にしているとは言っていたが、本当は何処の所属だ?ザフトじゃないのは、分かっているがな。』

 

おっと、流石に非常時だったから共闘していただけだったのかよ、コイツはまともにやり合ったらまず勝てんだろうな・・・、どうしたものか・・・。

 

「さぁな、今はしがない護衛兵さ、この南米にいる間は、な?」

 

『答えないか・・・、力尽くで聞いた方が良かったのか?』

 

はぐらかした俺が悪いんだけどさ、流石にトマホークをこっちに向けるのは止めないか?

そんな事されたら戦う以外に道が無くなっちまうだろうが。

 

『それに、この機体を見られたからには、それ相応の対処をしなければいけないんだ、悪く思うな。』

 

「待てって!俺の話を聞け!!」

 

振り下ろされるトマホークを、咄嗟に引き抜いた対艦刀で何とか受け止め、拮抗状態を作り出した。

 

しっかし、なんて機体出力だ、完全にストライクを上回ってやがる・・・!これは、あまり歓迎できた差じゃないな・・・!!

 

『剣を抜いたな!そのストライクに装備しているストライカーのデータが欲しいんだ、一夏、少し付き合ってもらおうか!!』

 

ウソ吐け、そんな後付の理由なんていらねぇ、お前の心が伝わってきてるんだからなぁ!!

相手が戦うつもりなら俺も受けて立たねば男が廃る、やってやるさ!!

 

「なら、その機体のデータを見返りに貰おう!それで御相子だ!いいな!!」

 

刃を交える意志が双方にあると見受けると、コートニーは機体を巧みに操り、俺のストライクに攻撃を仕掛ける。

 

上段からの攻撃を避け、カウンター気味に繰り出した対艦刀の一撃はシールドで受けられ、逆にレールガンの銃口が突き付けられた。

 

I.W.S.P. のスラスターを強引に吹かし、発射される直前に拮抗状態から抜け出し、何とか直撃だけは避ける事が出来た。

 

「(なんて奴だ、射撃も格闘も巧い!!これは・・・、面白い・・・!!)」

 

経験も技量も、圧倒的とまではいかないが彼の方が上だ、今の俺ではまず勝てない相手と見て良いだろう。

 

だが、そんな事は今の俺にはどうでも良かった。

この世界に来て初めてかもしれないほどの心の昂りに、俺は完全に酔いしれていた。

 

戦いを忌避していた筈だったのに、俺は戦いのためにあるモノに関わっていた。

それは俺がこういう事に向いている証拠でしかないと、虐殺者である事を戒めるためだと感じていた。

 

だが、今の俺はどうだ、滅多に会う事のない程の強敵との戦いに酔いしれている、楽しんでいるじゃないか・・・?

 

熱くなる思考の中にある冷静な俺が、こういうのはやめたいと思っていたんじゃないのか?と問いかけてくるが、今の俺にはブレーキにもなりはしなかった。

 

どうせ、後で思い出して自己嫌悪するんだ、だからこそ、今はこの胸の高鳴りに任せて戦うとしよう。

 

「お返しだ!!」

 

上昇し、上から彼の機体めがけてレールガンを発射するが、彼は転がっていたダガーLの残骸を蹴り上げ、盾の代わりにして弾丸を相殺した。

 

レールガンの弾丸に貫かれたダガーLが爆散し、爆煙が一瞬俺達の視界を遮るが、この程度で俺達が止まる筈がなかった。

 

フットペダルを強引に踏み込み、操縦桿を押し込みながら急降下し、取り回しの悪いコンバインドシールドを棄て、両手に対艦刀を保持し、黒煙を切り裂く様に出てきたモノアイの機体と切り結んだ。

 

火花が散り、俺達の機体を照らしてゆく中で、俺達は好戦的な笑みを浮かべながらもこう思っていただろう。

 

もっと戦おうぜ、と・・・。

 

sideout

 




はいどーもです
この小説の最重要人物の一人、コートニー・ヒエロニムスが登場いたしました
今回のように、彼は一夏と特に関わっていくことになるでしょう。

それでは次回予告
ジャングルで繰り広げられる戦闘、それと時を同じくして、破壊の陰謀が蠢きつつあった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
青天の霹靂

お楽しみに


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青天の霹靂

noside

 

ジャングルで遭難し、運悪く戦場に入ってしまったユンと、彼女に退避を促すがっしりとした体躯の男性の眼前で繰り広げられる二機のMSの戦闘は苛烈を極めていた。

 

どちらも、苛烈な攻撃を繰り出し、まるで申し合わせたかの様に華麗に回避していく。

 

それは一見、MSで行われている演舞の様にも見て取れたが、時折バイタルエリアを掠める様な攻撃もあり、双方とも本気で相手に向き合っている事が伝わってきた。

 

「あの二機のパイロット達・・・、どちらも只者ではないな・・・。」

 

そのあまりにも苛烈な戦闘に、黒髪の男性はしみじみと呟きながらも、あまりの状況の悪さにどうすべきかと頭を悩ませていた。

 

このまま気付かずに見過ごしてくれれば一番ありがたいが、こうも近くまで来てしまったのだ、気付かれるのも時間の問題だろう。

 

そして、二機とも彼等の方に来られては、作業用MSのレイスタでは太刀打ちできない所か、ものの数秒で灰に還される恐れもあった。

 

「まだ気付かれてはいない、早くここから離れろ!」

 

だが、ここでじっとしている訳にもいかない、一刻も早く立ち去り、脱兎の如く逃げる事が先決だと、彼は隣でフリーズしているユンに転進を促した。

 

だが、彼女は呆然としており、彼の言葉が届いていないようだった。

 

「おい!聞こえてないのか!逃げろ!!」

 

「はひゃぁ!?わ、わかりましたぁ!!」

 

彼女の体を揺さぶると、ユンはやっと状況を呑み込めたらしく、青くなりながらもどこに行くべきかと辺りを見渡していた。

 

だが、そんな彼らに気付いたのだろうか、二機のMSが突如として戦闘を止め、ゆっくりと彼等の方へと向き直った。

 

「しまった・・・、遅かったか・・・!」

 

「はわわわ・・・!どどど、どうしましょ~!?」

 

気付かれてしまった事にパニックになるユンを宥めながらも、彼は歯噛みした。

 

ここで背を向ければ間違いなくどちらかに撃ち抜かれて御陀仏だ、手があるとすればひとつだけ、反対側に見える獣道に何とかして逃げ込む事ぐらいだった。

 

自分は戦いからは逃れられないか・・・、そう苦笑しながらも、彼はある方法で突破する事にしたようだ。

 

「操縦を代われ、ここを切り抜ける!」

 

「ふぇぇ~!?逃げ切れるんですか~?」

 

言われるがままにシートを譲りながらも機体のコックピットに戻った彼女は、彼にどうするのかと尋ねていた。

 

「ASTRAYタイプのOSか、装備は、足に固定用のクローがある、これならばやれる・・・!捕まっていろ!!」

 

彼女の問いなど耳に入っていないのだろうか、彼は一瞬で機体の特徴を掴みながらも、逃げ切れる事を確信していた。

 

大きく息を吐き、カッと目を見開きながらも彼は操縦桿を動かし、機体を操作した。

 

その動きをトレースし、レイスタはまるで拳法の型をするかのような動きを見せた。

 

「俺の名はバリー・ホー、元クサナギのMSパイロットだ!」

 

「あのクサナギに乗ってたんですかぁ!?私は乗り損ねたのに!」

 

男性、バリー・ホーは彼女の驚愕など知った事かとばかりに機体に取り付けられていた工具が入ったアタッチメントを全てパージし、目の前の二機に向けて走り出した。

 

そんな彼の行動を敵対行動だと見たのだろうか、モノアイを持った黄色の機体がトマホークを振りかぶりながらも彼らに向けて突っ込んできた。

 

その振りかぶった腕を、バリーは右足を蹴り上げながらも展開した脚部クローで捕縛した。

 

そのままの状態でスラスターを吹かし、飛び上がりながらもモノアイの機体の体制を崩させた直後、クローを離し、勢いを付けた蹴りを背面へと叩き込んだ。

 

あまりに強烈な蹴りだったのだろう、黄色の機体はそのまま地に倒れてしまうが、彼の攻撃はまだ終わってはいなかった。

 

その蹴りの反動を利用した彼は、レイスタを宙返りさせがらも体制を整え、あまりの事態に硬直していた白い機体の胴体にとび蹴りを食らわせ、地面へと倒した。

 

バリーは元々、無重力における拳法を極めんと修行を積んでいたが、偶々地球に降りていた際に連合のオーブ侵攻に巻き込まれ、以後MSパイロットとして活躍することになり、彼が修めてきた拳法を機体が完全にフィードバックできる程になっただけであり、これぐらいは朝飯前なのであろう。

 

まさに華麗の一言に尽きるその蹴りの応酬だったが、今の目的は撃破ではなく逃走だ、二機が起き上がる前に、彼は全速力で機体を走らせ、ジャングルへと逃げ込んだ。

 

「に、逃げられるんですかぁ~!?」

 

「この機体でこれ以上やり合ったら間違いなく死んでいた、今は逃げる事だけを考えろ!」

 

あまりに激しいアクロバティックの連続にグロッキーになっているユンの言葉に答えながらも、彼は少しだけ後方を振り返りながらも奇妙な感覚を拭い去れないでいた。

 

「(あの白い機体のパイロット・・・、どこかで・・・?)」

 

どこかで会った事がある相手かもしれないと、バリーは感じていたが、今は確認をしている暇ではないと、安全な場所まで機体を急がせた。

 

心の何処かで燻る念を隠すようにしながらも・・・。

 

sideout

 

sideコートニー

 

「くそっ・・・!なんだあのMS・・・!?拳法で俺達をいなしたのか・・・!?」

 

ザクを立ち上がらせながらも、俺は先程の機体に対して少々悪態をついた。

 

致し方あるまい、何せ、これまでに無いほど興奮した戦いに水を差され、このMSの姿を見られてしまった上に逃走を許してしまった、情けない事この上ないな・・・。

 

だが、もう熱もすっかり冷めてしまった、これ以上の戦いは機体への負荷を大きくするだけだろうし、ここら辺で撤退しておくとしようか。

 

「一夏、立てるか?」

 

すぐ傍で倒れていたストライクに手を貸しつつ、パイロットである一夏に声をかけた。

まさかやられてはいないだろうが、あんな強烈な蹴りを喰らったんだ、気分が悪くなっているだろう。

 

『俺は何ともない、だが、ストライクのバッテリーが心許無いな、補給を頼めないか?』

 

「お前、案外図々しいな。」

 

敵か味方かも分からない様な奴に、それもザフトを散々苦しめたストライクに乗ってるお前にザフトの人間がどういう感情を抱くのか分かっていないのだろうか・・・?

 

いや、この男はそこまで愚鈍ではない、寧ろ、大胆不敵で、そして計算高い奴だ、何となく理解できる。

 

『ザフトに初披露するこのI.W.S.P.のデータをこの模擬戦で譲ったんだ、安いもんだろ?』

 

痛い所を突いて来る男だ・・・、確かに、こんなストライカーはこれまで見た事が無かったし、大体の戦闘データも録れた、兵器開発者としてはこれ以上ない収穫だろうが、な・・・。

 

『良いじゃない、コートニー、彼は敵対しないわ、私が保証する。』

 

どうするべきか悩んでいた時だった、VTOLからこの試験稼働の様子を録っていたジャーナリスト、ベルナデット・ルルーの声が通信機から届いた。

 

『ルルー女史?何故貴女が?』

 

『インタビュー以来ね、織斑一夏、さっきの戦闘は見事だったわ、まさかコートニーと張り合えるパイロットだったなんて思いもしなかったわ。』

 

どうやら、ルルー女史と一夏は顔見知りの様だな、恐らくはこの前の≪切り裂きエド≫との面会の際に出会ったのだろうな・・・。

 

『それと・・・、コートニーも貴方も、どうして堅苦しい呼び方なのよ、ベルで良いわよ、と言うより、そう呼びなさいよ。』

 

「『えっ?』」

 

そんな所まで一緒なのか・・・、つくづく悪縁がありそうだな・・・。

 

『分かったよベル、それよりも早く補給させてくれ、バッテリーがレッドゾーンに入っちまった。』

 

『はいはい、案内するから付いて来て、それとコートニー、試験は終了よ、監視所まで撤退するわ。』

 

「了解、一夏、逸れても責任は取らないからな?」

 

『分かってるって、気を付けるさ。』

 

本当に分かっているのかは疑問だが、指令を受けた以上、案内しないわけにもいかないな・・・。

 

やれやれとタメ息を吐き、ストライクを先導するために、俺は機体を動かした。

 

だが、この時の俺はまだ気づいていなかった。

 

一夏との出会いが、俺の運命を大きく変える事になると・・・。

 

sideout

 

noside

 

「大陸をミサイル攻撃するだって!?」

 

南アメリカ軍第33仮設野営基地に、エドの驚愕の言葉が木霊した。

 

海岸沿いでの戦闘後、ジェーンを連れてこの基地に戻った彼等は、彼女から齎された情報に愕然としていた。

 

「連合は本気だよ、私とレナ、そしてモーガンがアンタの討伐に失敗したら、南米に向けてミサイルが降り注ぐ手筈になっている。」

 

三人のエースによるエドの抹殺に失敗した場合、連合はエドだけではなく、南米そのものを焼き払うべく無数のミサイルで攻撃を行うという、まさに狂気の沙汰である作戦という以外、何も言えないものだった。

 

その情報を伝えたジェーンは、エドの口利きもあって南米軍に迎え入れられ、これからは主に海軍方面で戦力になる事を約束していた。

 

「そんな馬鹿な事を・・・!」

 

「無茶苦茶ですわ・・・!これでは一般人の皆さんにどれほどの被害が出る事か・・・!」

 

彼等の話を聞いていたシャルロットとセシリアは驚愕しながらも自分達の耳を疑っていた。

 

自分達でさえ一般人に直接被害が出る様な真似はした事が無かったため、勝つためならば非戦闘員すら抹殺するというその狂気に、自分達とは違う恐怖を見たのだろう。

 

「い、いくら連合でもそんな事は・・・。」

 

「いや、プラントに核を撃ち込んだ連中だ、いざとなれば形振り構わずに攻撃してくる、勝つためにな・・・。」

 

そんな狂気の攻撃をしてこないよな?と尋ねる様なジェスの言葉を、エドは有り得るという言葉で否定していた。

 

そこに所属していたため、彼は誰よりも連合の事情を分かっているのだから・・・。

 

「このままじゃあ、二人を倒したところでこの国に被害が出るばっかりだよ、どうすんだい?」

 

「・・・。」

 

早く対処法を考えた方が良いと言う風に話すジェーンの言葉を受け、彼は暫しの間考え込むような表情を見せ、何かを思い付いた様に口を開いた。

 

「後顧の憂いを断つためにも、スッキリさせてから二人と戦おう。」

 

「何か方法があるんですか?」

 

奥の手があるとばかりなエドの言葉に、シャルロットはその手段が気になったのだろう、一体どの様なものなのかと伺いを立てていた。

 

「パナマ宇宙港からレイダーで一旦宇宙に出て、宇宙からミサイル基地を強襲する、一度やった事がある方法だ、何とかしてみるさ。」

 

「やられる前にやるって訳だ、八・八作戦の再現だな。」

 

「なんて大胆な方法ですの・・・?御身体が危ないのでは・・・?」

 

エドがかつて行った時の作戦を思い出したジェーンは納得の言った様な表情をしていたが、常識の斜め上の運用を行う事に、セシリアは表情を引き攣らせていた。

 

まぁ、宇宙に上がってすぐに降下と言う、人体にあまりに優しくない方法なのだ、正直言ってなるべく避けたい方法なのは確かだった。

 

「なぁに、フル装備での行軍よりは楽さ、俺はすぐに準備に入る、ここの護りは任せたぞ、ジェーン。」

 

「あぁ、ここはこの≪白鯨≫に任せな!護り切ってみせるさ。」

 

自身の恋人に、自分がいない間の国土防衛を依頼し、彼女はそれを快諾した。

 

「くっそ~!俺も付いて行きたいけど、アウトフレームじゃ宇宙には出られないしなぁ・・・!!」

 

エドの取材の為にここに来ていたジェスは、彼と彼について行きたいと思いはしたが、アウトフレームでは大気圏への再突入が出来ない為に動向を断念せざるを得ないため、それに対して悔しそうに拳を握り締めていた。

 

それを見ていたシャルロットは、自分が空戦機であるレイダーに乗っていた為に同行させられるのではと内心でヒヤヒヤしていたため、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「ジェス、ミサイルが本当に飛んできたらお前の出番だ、何としても生きのこって、連合の非道を世界に伝えてくれ、人々の為にな。」

 

そんな彼の思いに気付いたのだろう、エドは心配いらないとばかりに微笑み、もしもの時があればお前の力が必要なのだと伝えていた。

 

「あぁ・・・!分かったぜ!気を付けてな!!」

 

自分にやるべき事がある、それにシビれたのだろうか、ジェスは強い意志を瞳に宿しながらも頷いていた。

 

彼の意志に満足したのだろう、エドは深く頷いた後、出撃準備の為に部屋を出て行った。

 

その直後、部屋に備え付けてあった通信機が着信音を発した。

 

「こちらジェーン・ヒューストン、どうした?」

 

通信機の向こう側の相手に呼びかけながらも、ジェーンは何事かと確認を取った。

 

『こちら織斑一夏、エドワード・ハレルソン、若しくはジェス・リブルに代わってほしい。』

 

「なに・・・?分かった、少し待て、ジェス、織斑一夏という奴からだ、知り合いか?」

 

一夏と名乗った男の言葉を不審に思いながらも、何かしらの要件があると感じ取ったのだろう、ジェーンはジェスに受話器をジェスに手渡していた。

 

彼女の言葉に、セシリアとシャルロットは自分の夫が何処に行ってしまったのか気が気でなかったのだろう、安堵した様な笑みを浮かべながらも互いに顔を見合わせていた。

 

「あぁ、セシリアとシャルロットの旦那だよ、俺の護衛に付いて来てくれたんだけど、どこに行ってたんだ?」

 

「お嬢ちゃん達の男?まぁ、エド以上にイイ男なんていないだろうけどね」

 

ジェスの言葉を聞きながらも、ジェーンはなるほどと言う様な表情を浮かべていたが、自分の恋人が一番だと言う様に挑発的な笑みを浮かべていた。

 

なんだかんだで、彼女もエドへの想いは深いのだろう。

 

「こちらジェス、どうしたんだ一夏?」

 

『ベルがお前に、いや、南米軍に伝えたい事があるらしい。』

 

受話器の向こうにいる一夏は、何か重要な要件があるらしい声色で彼に伝えていた。

挨拶も抜きに用件だけを話すと言う事は、相当急ぎの事なのだろうとジェスは察した。

 

「ベルも一緒って・・・、お前一体どこにいるんだよ?セシリアとシャルロットも心配してるぞ?」

 

自分の護衛は兎も角として、嫁さんをほったらかして何処に行っているんだと、ジェスは少々非難を籠めた質問を投げかけていた。

 

まぁ、一夏もその辺りの事は理解しているだろうし、アフターケアは欠かさないだろう。

 

『あぁ、今はザフトの中立地帯監視所にいるんだ。』

 

「はぁ!?なんだってぇ!?」

 

一夏が答えたまさかのポイントに、彼は驚愕のあまりに声を張り上げて叫んだ。

 

『耳元ででかい声を出すなよ・・・、まぁいい、エドか、話の分かる南米軍の誰かを連れて来い、ザフトから伝えたい事があるそうだ、俺も彼等といる、それじゃな。』

 

「あっ!?一夏・・・!?」

 

要件を言うだけ言って切られた通信に、ジェスは頭痛がした様な錯覚を覚えた。

 

なんで一夏はこうもフリーダムなのだろうか、と・・・。

 

「どうしたんだい、ジェス?」

 

「・・・、一夏がザフトの基地まで来いってさ・・・、南米軍に通達したい事があるとか言ってたな・・・。」

 

「「「えっ!?」」」

 

ジェスが発した思わぬ言葉に、女性陣は驚愕に目を見開いていた。

 

何故南米軍寄りの彼がザフトと行動を共にしているのか、そして何故ザフトのメッセンジャーの様な真似をしているのか、情報があまりにも少なすぎて何が何だか分からないと言う事が本音だった。

 

「と、兎も角、指定された場所に行ってみたら分かるんじゃないかな?別段、拘束されてるって感じの声のトーンじゃなかったしさ。」

 

「そうだな、ザフトの思惑ってものが何なのか、ハッキリさせに行こうじゃないか。」

 

行ってみれば分かると言う彼の言葉に頷き、ジェーンは行くなら早く行くぞとばかりに、ジェスと共に部屋を出て行った。

 

裏表のない人だと苦笑しながらも、セシリアとシャルロットは一夏がどうしているのか気になっていたため、彼等を追い、自分達のMSの下へと向かった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「なるほど・・・、I.W.S.P.・・・、確かに強力な武装だ、全局面に対応可能な武装類に高度なセンサー、そして飛翔能力を付与できるほどのスラスターが装備されているとはな・・・。」

 

ザフト中立地帯監視所の一角で補給を受けているストライクのコックピット内で、ザフトのテストパイロットであるコートニー・ヒエロニムスは開示されたデータに目を通しながらも、感嘆した様な言葉を呟いていた。

 

彼はMSに乗って戦闘を行う軍人では無く、MSやその装備を開発する機関に所属しており、扱い的には一般人であり、研究者であった。

 

今回はザフトからの依頼を受けたため、開発された新型MSのテストを行っていたに過ぎないのだ。

 

「だが、このストライカーはあまりにもアンバランスだな、これではX105が元々持っている運動性の高さを殺す事になってないか?」

 

『ご名答、バックパックの重量の増加のせいで後方にモーメントがずれてるんだ、お陰で、ストライクの良さが四分の三ぐらいに減っちまってる、これしか使えるストライカーが無かったのと、俺の適正に合わせて使ってるだけさ。』

 

自分の推測に答える一夏の通信機越しの言葉に、彼はやはりかと言った様な表情を浮かべていた。

 

初見では、一夏の操縦技術によって動かされていた時は、彼自身が昂ぶっていた事もあってこの問題点に気付けなかったが、冷静になってデータを取り合ったからこそ分かる、I.W.S.P.は、良くも悪くも発展途上にあるストライカーなのだと。

 

「で、そのザクの感想はどうなんだ?機密扱いの機体なんだ、貴重な意見を聞かせてくれよ?」

 

『バランスが良い事だけは認めるが、武装のリーチがイマイチだな、ブレードトマホークは良いんだが、折角核エンジン積んでるんならビーム主体でも良かったんじゃないか?』

 

ワーカホリックなのかなんなのか、彼は自分が操縦していた機体に別の人間が乗っている事を気にせずに、その機体の率直な感想を尋ねていた。

 

試作機故にそれほど出来が良い訳でも無いが、ザフトのGシリーズのデータを流用して開発されたのだ、それなりに高性能な事だけは確かな機体を、評価を求められた一夏は中途半端と評した。

 

『ストライクよりは強力な機体だろうけど、拡張性が悪いし、何より単体じゃ飛べないってのもなぁ・・・。』

 

「それは俺も思ったところだが、何せザフトのGシリーズはそれぞれ理由があって本国に無いんだ、お陰でデータが無いからフィードバックし難いんだ。」

 

予想していた指摘に御尤も言う様に頷きながらも、彼はそれを見抜いた一夏の能力に驚き、そして確信していた。

 

やはり、自分が感じていた感覚は間違いではなかったこと、そして彼がその感覚にふさわしい男であると・・・。

 

『コートニー、一夏、お客さんが来たわよ、こっちに合流して頂戴。』

 

そんな時だった、格納庫内に放送が入り、ベルが彼等を呼びつけていた。

どうやら、呼んでいたジェス達が到着したのだろう。

 

「了解。」

 

『やっとか、待ち草臥れたぞ。』

 

其々に呟きながらも、二人は機体からラダーを使って降り、格納庫の外に出た。

 

そこには、アウトフレームとフォビドゥンブルー、そしてレイダーの姿があり、パイロットと同乗者達が降りてくる所だった。

 

「ん・・・?あれはナンバー12・・・?」

 

彼等に近付きながらも、コートニーの目はアウトフレームに釘付けになっていた。

 

「どうしたんだコートニー?」

 

その怪訝の表情に気付いたのだろう、一夏は彼の顔を覗き込みながらも何があったのかと尋ねていた。

 

「いや・・・、俺の思い過ごしだろうが・・・、あの機体、ザフトのMSじゃないのか・・・?」

 

「おっ、流石は技術者だな、あの機体はジェネシスαで未完成のまま放置されていたらしい。」

 

「あそこに・・・?じゃあ、あの機体は本当に・・・?」

 

自分の疑念に答えるように、かの機体の出所を語る一夏の言葉を受け、コートニーはその疑念を確信へと変えつつあった。

 

だが、今は機体の詮索よりもやるべき事があると、彼はその結論を頭の片隅へと追い遣り、降りてきた者達の方にいるベルの方へと歩み寄って行く。

 

そんな彼の反応が気になったのだろうか、一夏は不思議そうな顔をしながらも彼の後を追った。

 

「久し振りねジェス、美女を三人も侍らせてやってくるなんて大スクープね、スターでも滅多にない事よ?」

 

「からかわないでくれよベル、それぞれの旦那達に俺が殺される。」

 

二人が近づいてゆくと、からかう様なベルの声と、勘弁してくれと言う様な、そして自分が大変な目にあう未来を予見し、震えているジェスの声が聞こえてきた。

 

ジェスの言う旦那達に合点がいかなかったのか、コートニーは怪訝の表情を浮かべながら首を傾げたが、その旦那達の片方に該当していた一夏は、ジェスに対してそんなに怯えずともと苦笑していた。

 

「と言うよりさ、まだ南米にいるなんて思っても見なかったよ、何やってるんだ?」

 

「新型機のテストの取材をしているのよ、地球に居たからって理由でね。」

 

「またプロパガンダか?売れっ子キャスターは忙しいな。」

 

目的であったエドへの取材が終わったはずの彼女が、何故まだ南米の地にいるのか疑問に思ったのだろう、彼は目的を問うた。

 

その問いに、隠しても無駄だと感じたのだろう、ベルは仕事の内容をほんの一部だけ語った。

 

別段、これと言った他意は無かったのだろうが、ジェスは彼女の言葉の端から何かを、それも一つの事に執着している様な自分に対しての嫌味を感じ取ったのだろうか、少々棘のある言葉で返していた。

 

ファーストコンタクトが良くない形であったため、この二人は今だ相容れ無いのだろう。

 

「力を示す事も、平和のためには必要なのよ・・・、でも、あの機体に積まれているモノが、本当に平和を齎すのか、私にはサッパリ分からないけど、ね・・・。」

 

その彼の言葉を受け、仕方のない事だと言いながらも、後半は声のトーンが少々低くなっていた。

 

彼女とて、前大戦を引き起こしてしまった災いが、今また使われている事に対して思う所があるのだろうか・・・。

 

「戦争を起こすのは兵器じゃない、人間だ。」

 

彼女の言葉を聞いていたコートニーが唐突に声を上げ、全員が驚いた様に彼を注視していた。

 

彼の表情からは憤りと、そして僅かな怒りが見て取れた。

 

「兵器に罪は無い、戦争だって、扱う人間が兵器に罪を着せているだけだろうに・・・。」

 

「そうだな・・・、お前の言う通りだ、コートニー・・・、何よりも業が深いのは、俺達人間、か・・・。」

 

彼の想いの一端に触れたのだろう、一夏は苦い表情を浮かべながらも彼を宥める様に呟いていた。

 

彼も、人間の業に背を向け、兵器に罪を着せて消し去った経験があった、それ故に思い知らされているのだろう、自分達人間の愚かさに・・・。

 

「紹介するわ、新型機のテストパイロットのコートニー・ヒエロニムスよ、さっき中立地帯で数十機のダガーLからなる連合軍の侵攻部隊と会敵して、偶々居合わせた一夏と協力して殲滅したパイロットよ。」

 

「なっ・・・!?連合の侵攻部隊だって・・・!?」

 

「しかも、それをたったの二機で殲滅したのか・・・!?」

 

ジェスは侵攻部隊の存在に、ジェーンはたった二機のMSがその大部隊を殲滅したと言う事実に驚愕していた。

 

「一夏・・・、僕達をほったらかしでなにやってるのさ!」

 

「御一人で行かれるなんて・・・、私達は気が気でありませんでしたのよ・・・?」

 

その話を聞いたシャルロットとセシリアは一夏に詰め寄りながらも、各々の想いを口にしていた。

 

まぁ、せめて戦うなら自分達も連れて行けと言いたいのだろう。

 

「すまない・・・、君たちをまた不安にさせてしまったな、今度から気を付けるよ。」

 

死地から戻り、再び愛しい女達に会えた事を喜んでいるのだろう、彼の表情は穏やかな物であり、幸福で満たされている様にも見えた。

 

「イチャ付くのは私への充て付けと捉えていいのね・・・?」

 

そんな彼等を見ていたベルは、米神をひくつかせていた。

 

まぁ、目の前で男女がイチャ付いていれば、相手がいない者は正直居た堪れない気分にもなるだろう。

 

「まぁいいわ・・・、話を戻すけど、先に攻撃を仕掛けてきたのは連合軍の方である事、その映像証拠があると言う事、そして、ザフトはこの戦争には介入しない事を伝えたかったの、呼びだしてしまって申し訳なかったわ。」

 

「いや・・・、ありがたい情報だった、感謝している、悪いのは別働隊を送り込んだ連合の上層部さ、私に全て任せると言っておきながら・・・、くそっ・・・!」

 

ベルの謝罪に気にするなと言いながらも、ジェーンは憎々しげに吐き捨てた。

 

自分は信頼されていなかったと言われたようなものだ、属していた組織からそのような仕打ちがあれば、彼女でなくともそう感じて然るべきだった。

 

「いや・・・!待てよ、おかしいぞ・・・!?」

 

そんな中、何かに気付いたジェスは青くなりながらも叫んだ。

 

その表情からは焦りの色が濃く見受けられており、大変な事に気付いてしまったのだろう。

 

「この大陸にミサイルを撃ち込むつもりなら、別働隊なんて必要ないじゃないか・・・!?それなのにどうして・・・!?」

 

「・・・っ!?じゃあ、ミサイル攻撃の話は・・・、罠だったのか・・・!?私はまんまと使われたって事か!エドを誘き出すために・・・!!」

 

彼の言葉に、今現在の状況の矛盾に気付かされた彼女は、愕然と空を見上げた。

 

奇しくも、遥か彼方へと向かう白い飛行機雲の様な跡がどんどん上へと向かって行くのが見て取れた。

 

それは、エドの乗るレイダーが宇宙へと上がるための物だと、ジェーンは気付いた。

 

この状況は、宇宙で何かがエドを待ち受けているとしか考えられないが、最早時既に遅し、彼は行ってしまった。

 

「エドが・・・、エドが危ないっ!!」

 

残された彼等が出来る事と言えば、ただ彼の無事を祈る事しかなかった・・・。

 

sideout

 




次回予告

灼熱の大気圏において、二人の英雄が凌ぎを削っていた。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

月下の狂犬

お楽しみに~


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月下の狂犬

noside

 

地球の衛星軌道より僅かに高度が低い場所に、光が瞬いていた。

 

これが大気圏内ならば、雷やオーロラの輝きとも取れただろうが、宇宙でそんなモノは発生しない。

 

では何か?答えは至って簡単、それは人工の光だったのだ。

 

「くそっ・・・!!降下カプセルがやられちまった・・・!!」

 

爆発の中から飛び出したレイダーに乗る、≪切り裂きエド≫ことエドワード・ハレルソンは、自分が大気圏降下用に用意していた降下カプセルが破壊されてしまった事に歯噛みした。

 

ミサイル基地を大気圏外から強襲するにあたり、宇宙まで出てきた訳なのだが、まさか待ち伏せを喰らうとは予想だにしていなかったのだろう。

 

「まさかこんな所でアンタに会うなんて、思っても見なかったよ・・・!」

 

だが、彼はそれをやる人物を知っていた、それも嫌と言うほどに・・・。

 

現に、彼はやられたと言う表情はしているが、驚いた様子は見受けられなかった。

 

そして、彼の目の前には、4基のバレルの様な物を背負った105ダガーの姿があり、それは彼がもっとも会いたくなかった人物の一人が乗る機体だったのだ。

 

「≪月下の狂犬≫、モーガン・シュバリエ!!」

 

『会えてうれしいよ、エド、ジェーンがちゃんと伝えてくれているかヒヤヒヤしながら待っていたぞ。』

 

彼の叫びに答える様に、ダガーから初老の男性の声が聞こえてきた。

 

その男性の名はモーガン・シュバリエ、嘗てはエドの上官であり、共に戦場を駆けた戦友と呼び合う事の出来る仲だった。

 

「アンタが待ってたって事は、ミサイル攻撃はハッタリ、か・・・。」

 

『そうだ、俺に有利な場所で戦いたかったからな、少々、策を練らせてもらった。』

 

「コイツは一本取られたなぁ・・・、参ったぜ・・・。」

 

自分が罠に嵌められた事を知ったエドは、参ったとばかりに表情を顰め、この窮地をどう脱するべきかと考えを巡らせていた。

 

『下は灼熱の大気圏、降下カプセルは破壊し、お前は逃げる手段を失った、つまり、ここでお前の手元にある手段は3つ、降伏するか、この俺に討たれるか、灼熱に包まれて死ぬか、だ。』

 

「・・・。」

 

彼の口ぶりからして、投降を真っ先に勧めてくると言う事は、モーガンはエドを殺したくはないと心の何処かで思っているのだろう事が伝わってきたが、エドにとってはどの選択肢も採れないモノだった。

 

何せ、自分がやるべき事の為には、何としても生き残り、南米の地で再び戦う事が必要不可欠なのだから。

 

『俺だってユーラシアの人間だ、大西洋連邦が支配する今の連合の体制に不満はある、だが、軍人たる者、脱走は許されんのだよ、エド。』

 

説得をしているのだろうか、モーガンは自分の本音を語りながらも、軍人ならば命令に従うだけだと言い放った。

 

それは確かに正しい、上からの命令を熟すのが軍人の役目、それ以外の事は求められていないのだから。

 

だが、今の彼には到底それは受け入れられなかった、何せ・・・。

 

「そうだな・・・、なら、俺は軍人じゃないな。」

 

『ほぉ?ではなんだと言うのだ?』

 

軍人では無いと言い切った彼の答えに興味を持ったのだろう、モーガンは少々声を弾ませながらも尋ねていた。

 

そう、今のエドは軍人と言う以上に大きな役割がある、それだけが彼を動かす衝動なのだから。

 

「俺は≪切り裂きエド≫、南米の英雄だ、それで良い!!」

 

自分の今の役目、それは英雄として戦い続ける事、軍人ではない。

 

『面白い!ならば私を倒し、それを証明して見せろ、南米の英雄!!』

 

「くっ・・・!!」

 

彼の言葉に何かを感じ取ったのだろうか、モーガンはレイダーに向けてビームライフルで撃ちかけながらもガンバレルを展開した。

 

それを見たエドは光条を回避しながらも、忌々しげに舌打ちをしていた。

 

今の彼の機体であるレイダーは、ミサイル基地を攻撃するために、対要塞戦装備だ、機動力のあるMS相手には不利も甚だしい所だった。

 

それもモーガンの策略の内だが、今は装備の不利を言い訳にできる場合ではなかった。

 

レイダーの機動力を以て、四方から撃ちかけられる弾丸を回避しながらも、搭載されているミサイルを、モーガンの乗るガンバレルダガー目がけて撃ち掛けた。

 

本当は当たって欲しいとことだが、今は少しでも重量を減らし、攻撃を避ける事に専念した方が賢明だと判断したのだろう。

 

『そんな止まっているマト用の武器がこのガンバレルダガーに通用するものか!!』

 

予想通り、ミサイルは全てガンバレルからの攻撃に撃ち落された。

 

爆煙が彼らの視界を一瞬だけ塞いだが、それはなんの支障にもならなかった。

モーガンはレイダーの行く手を塞ぐように弾丸を撃ち掛け、決め手となりうるビームを回避先へと撃ち掛けた。

 

だが、エドも墜ちてたまるかと、機体を縦横無尽に動かす事で回避していくが、その度に徐々に高度が下がり始め、重力の井戸に引き摺り込まれるのも、既に時間の問題となりつつあった。

 

『どうした!大気圏もうすぐ下だぞ!?』

 

「言われなくったって分かってるよ!」

 

挑発する様なモーガンの言葉に答えながらも、彼は焦りを隠しきれてはいなかった。

 

一発逆転を狙おうにも、このままではそれすら出来ずに撃墜されてしまう恐れさえある中で、どうすれば良いのかと、彼は機体を必死にコントロールしながらも策を講じていた。

 

「(もったいねぇけど・・・、これしかないか・・・!!)」

 

機体を消耗させる様な戦いだけはしたくなかったが、四の五の言っていられる状況ではないため、彼は腹を括った。

 

そして、彼を墜とす気なのだろう、ガンバレルを直線状に配置し一点集中射撃を行う腹積もりらしい。

 

だが、それこそが彼にとっての一発逆転を狙える唯一のタイミングだった。

 

「今だっ!!」

 

レイダーをMS形態へと戻しながらも、彼は機体下部に設置されていた兵装プラットホームを掴み、ブーメランの様に投擲した。

 

それは弧を描きながらも突き進み、二基のガンバレルを破壊した。

 

それを受け、ストライカーが使い物にならないと判断したのだろうか、ダガーがバックパックを排除し、戦闘機へと変形させながらもレイダーの方へと突撃させてきた。

 

それを何とか回避したエドは、モーガンとの近接戦闘に持ち込もうと機体を動かそうとした。

 

『かかったな、エド!!』

 

「なにっ・・・!?なんだ・・!?」

 

だが、モーガンの勝利を確信した様な声と共に、レイダーが下へと引っ張られていくのが感じ取れた。

 

一体何が起こったのかと、彼は後方に目を向けると、先程切り離されていたガンバレルストライカーのケーブルがレイダーに絡みつき、引っ張られて大気圏へと墜ちて行くのが見て取れた。

 

それが戦力を消費させずに、エドを効率的に始末するためのモーガンの策略なのだと、彼は今更ながらに感じていた。

 

何とかこれ以上の加速を止めようと、機銃でガンバレルストライカーを破壊し、スラスターを全開にして重力からの離脱を試みるが、機体は降下していく一方だった。

 

『一度付いた落下の速度は容易く止められんぞ!エド、貴様が英雄だと言うならば、再び俺の前に現れろ、そうすればお前を英雄と認めてやる!!』

 

最早自分が手を下すまでも無いと判断したのだろう、モーガンは何かを言い残し、機体を離脱させていった。

 

「待てっ!モーガン・・・!!」

 

自分との決着はまだ着いていないとばかりに彼の名を叫ぶエドだが、すぐに彼のダガーの姿は見えなくなってしまった。

 

「チクショウ・・・!やってくれるぜあのオッサン・・・!しかし、コイツはヤバいぞ・・・!!レイダーは降下カプセル無しに大気圏突入が出来る様にはなってないってのに・・・!!」

 

灼熱に包まれ始めたレイダーのコックピット内で、エドは何とか機体を制御しようと操縦桿を動かしたが、内心は焦燥に駆られていた。

 

それもそうだろう、レイダーはTP装甲で機体を覆っているが、それは全身という訳ではない、バイタルエリアのみの採用の為、機体を完全に耐熱させる事は不可能だ。

 

もし、レイダーがPS装甲製ならば、希望はあったかもしれないが、それでもコックピットを焼く熱に、ナチュラルである彼が耐えきれる保証は何処にも無い。

 

確かに、PS装甲で身を固めた機体が大気圏を突破した例は幾つかある、だが、それらはすべてパイロットがコーディネィターであったため、その優れた身体能力で熱を耐えていたにすぎないのだ。

 

「だが・・・!こんな所で諦められるかっ!しかし・・・、この熱じゃナチュラルの俺にはキツイか・・・!くそっ・・・!頭を使うんだエド!何か方法は在るぞ・・・!!」

 

次第に大きくなってゆく機体が軋む音と、アラートが不協和音を奏で、彼の焦燥を掻き立てていくが、今の彼にこの状況はどうする手立ても無かった。

 

だが、その時、別の警告音が彼の耳に届く。

 

「なにっ・・・!?うわっとぉ!?」

 

機体前方に目を向けると、レイダーよりも更に巨大なデブリが彼目掛けて落ちてくる所だった。

 

何とか直撃する寸前に回避する事に成功した彼は、冷や汗をかきながらもタメ息を吐いた。

 

「危ねぇ・・・、あんなのにぶつかられたら燃え尽きる前にバラバラだぜ・・・、っ・・・!そう言えば、大戦中にデブリで大気圏突入に成功したジャンク屋がいたって、ニュースでやってたな・・・、それが本当なら・・・!」

 

この時、彼の脳内には以前見たニュースの映像の中で映し出されていた、コロニーの外壁だったデブリに身を隠したジャンク屋の船が大気圏へ突入していく場面がフラッシュバックしていた。

 

偶然の結果だが、彼も今窮地に立たされている、ならばダメ元でもやってみる価値はあるだろう。

 

「ダメで元々・・・!!やってやるぜ!!」

 

レイダーの体制を立て直し、デブリの陰に回り込んだ彼は、機体のスラスターで突入角度の調整を始めた。

 

「頼むぜ、燃え尽きないでくれよ・・・!!」

 

衝撃で揺れるコックピットの中で、エドは自分が見た報道に感謝していた。

 

彼は知らなかっただろうが、彼が見たニュースのジャンク屋はロウ・ギュールとその一行であり、その一行は今、南米に来ているジェスの護衛の一人、シャルロット・デュノアと一時ながらも行動を共にしていた事があったのだ。

 

一見して、何の繋がりも無いように見えた関係が、このように繋がる事もジャーナリズムの側面の一つなのだろう。

 

「なるほど・・・、ジャーナリストってもんは、報道ってものは人の役に立つんだな・・・、ジェス・・・!俺も信じてみたくなった・・・!!」

 

行動を共にするジャーナリストの本当の役目に気付いたのだろうか、エドは口元を緩めていた。

 

そんな彼を連れて、機体はデブリと共に振動しながらも落ちて行く。

 

少しはマシになったとはいえ、コックピット内の温度はサウナなんて生易しく感じられる程になり、高熱と振動で何度も意識が途切れかけるが、彼は何とか気合でそれを繋いだ。

 

それがどれほど続いた頃だろうか、身体を押す様な重力が彼の身体に纏わりついた。

 

外に目をやると、大気圏を何とか突破出来たらしく、雲と、その狭間から海が顔を出していた。

 

「何とか・・・、生きてはいるな・・・、英雄ってのも、疲れるなぁ・・・。」

 

コックピット内に籠った熱を逃がすため、ハッチを開けながらも、彼はヘルメットを脱ぎ捨ててタメ息を一つ吐いた。

 

身体は嫌な汗で濡れており、何とも気持ちが悪かったが、今は海の上だ、せめて陸地に辿り着くまではシャワーすら浴びれない。

 

「あぁ・・・、早く冷えたビールが飲みてぇ・・・。」

 

機体を南米大陸へ向けながらも、彼は大きなタメ息を吐き、帰還の途に就いたのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「マディガン、いるかしら?」

 

地球のとある場所にあるマティアス邸にて、その屋敷の主、サー・マティアスは電子型地球儀を眺めながらも、雇っているMSパイロット、カイト・マディガンを呼びつけていた。

 

「いるぜ、あの野次馬とアメノミハシラの兄ちゃんを助けに行けってか?」

 

何を言われるか分かっていたのだろうか、カイトは何処か諦めた表情をしながらも、自分がやるべき事を尋ねていた。

 

「あら、察しが良いわね、さてはずっと心配してたでしょ?ジェスと、アメノミハシラの色男クンを?」

 

「まさか!止してくれよ!」

 

からかう様に言うマティアスの言葉に、勘弁してくれと言う様に手を振りながらも、彼は否定するような素振りを見せなかった。

 

彼も、自分が関わってきた人物の護衛だ、出来る事なら最初から付いて行きたかったのだろう。

 

「あらそう、だけど、南米が大変な事になるわよ、クイーンの登場で、ね・・・。」

 

「クイーン・・・、なるほど・・・、ソイツはあの兄ちゃんでも手に余るな・・・、分かった、俺も向こうで合流する。」

 

クイーンと評する者の登場に、カイトの目の色が変わった。

どうやら、それほどヤバい人物なのだろうか・・・。

 

「えぇ、頼んだわ、報酬は弾ませておくから♪」

 

「了解、それじゃ、行ってくる。」

 

念を押す様なマティアスの声を背に受けながらも、彼は部屋から早足に出て行った。

 

どうやら、彼も彼で気が急いていたようだ。

 

「(クイーンとは言ったけど、それだけでは済まないわよ、何せ、チェスなら単体だけで突っ込ませるのは愚策だもの・・・。)」

 

チェスの駒、クイーンを掌で弄びながらも、彼は傍らに置いてあったチェスボードに目を向けながらも思った。

 

この状況、連合はエース二人を投入して敗れた。

これでもう、体裁を保つためには圧倒的な戦力を示すしかなくなったのだ。

 

「(さぁ、ジェス、一夏卿、貴方達はこの状況を、どう切り抜けるのか、見せて頂戴。)」

 

ジェスと、その傍らに付き添う一夏の事を思い浮かべながらも、彼はその先の未来に想いを馳せたのであった・・・。

 

sideout

 

noside

 

北米、デトロイトの工業地帯にある格納庫のひとつに、とある人物の姿があった。

 

その人物とは、元カリフォルニア士官学校教官、レナ・イメリアだった。

 

≪切り裂きエド≫討伐の指令を受けた彼女だったが、それを命じられた同僚達は脱走や討伐失敗の愚を犯していた。

 

――何が≪白鯨≫だ、何が≪月下の狂犬≫だ、役立たず共め・・・――

 

その格納庫の最奥に置かれている、ある機体を目指しながらも、彼女は先程まで顔を突き合わせていた将校の言葉を思い返していた。

 

仲間を、それも本心ではエドと戦う事に躊躇いを覚えている身だった彼等を嘲る様な言葉には、少々憤りを隠せなかった彼女だったが、それよりも何よりも、今だ戦いを続けようとするエドの事が、彼女は許せなかったのだ。

 

――君だけが頼りだ、≪乱れ桜≫、こうなったら、目には目を、刃には刃だ・・・、あの裏切り者と同じ機体を君に託す、何としても≪切り裂きエド≫を討て!――

 

エドを倒す事で、争いを一つ止められるのならば、嘗ての教え子だろうが容赦はしない、彼女の表情からはそんな意志が見て取れた。

 

そして、格納庫の奥、ソードストライカーが装備された105ダガーが置かれている区画を通り抜け、彼女はその機体の前に立った。

 

ライトが照らすのは、毒々しい青が基本配色ながらも、肩や胸部ビーム砲の周りが赤橙に塗り替えられた機体、GAT-X131 カラミティの改修型・・・。

 

「GAT-X133-1 ソードカラミティ初号機・・・、これであなたの運もこれまでよ、エド。」

 

機体を眺めながらも、彼女は決然たる意志を籠めて呟いた。

 

そして、この日より、南米の戦いは更に大きく動いていく事になるのであった・・・。

 

sideout




次回予告

激化の一途を辿る南米の戦争の中にも、希望は芽生え、それを紡ぐ者達は手を携えて行く。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

南米に集いし英雄
お楽しみにー。


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南米に集う英雄

side一夏

 

エドが宇宙から帰還した二日後、南米軍第33仮設野営基地に二組の来客があった。

 

一組は黄色に塗装されたレイスタから降りてきた、筋骨隆々の男性と、如何にもトロ臭そうなソバカス姉ちゃんだった。

 

「アンタは、まさか・・・、≪拳神≫バリー・ホー・・・?」

 

「あぁ、如何にもその通りだ。」

 

エドの呟きに、彼と向かい合ったバリーは頷きながらも彼を鋭い目で見た後、俺を一瞥して僅かに驚いた様な表情を作った。

 

どうやら、嘗ての俺との記憶の残滓が僅かに受け継がれたのだろうか・・・?

 

「お前・・・、織斑一夏、か・・・?」

 

「あぁ、久し振りだな、バリー。」

 

俺の方へと歩み寄りながらも、何処か確認する様に尋ねてくる彼の声は何処か震えており、俺との何かを強く感じている様にも思えた。

 

「何だ?一夏とバリー・ホーは知り合いなのか?」

 

俺達の関係性に何かを感じたのだろうか、ジェスが俺に尋ねてきた。

 

俺とバリーは、嘗ての世界で師弟関係にあり、俺はバリーから様々な拳法を学び、それらをISにフィードバックさせる事で力を着けると言った関係であり、それこそ、それなりに強い関係性である事は間違いはないだろう。

 

しかし、どう答えて良いものか・・・。

嘗ての世界での繋がりを説明しても、ジェスはおろか、他の誰も信じてはくれないだろう。

 

「まぁ・・・、少し、な・・・。」

 

だから、こう曖昧に答える事しか、今の俺には出来なかった。

 

「一夏との関係は察して欲しい、だが、俺はどうやら戦いからは逃れられんようだ、このまま逃げられるとも思えない。」

 

俺の思いを、迷いを汲み取ってくれたのだろうか、彼は話を逸らす様にこれからの戦いにどう向き合うかと話していた。

 

戦いからは逃げられない、ならばどう向き合っていくか、それが大切になってくるのだろうか、今の俺には到底出来ない事だろう、な・・・。

 

「なら、俺に、いや、この南米に力を貸してくれないか?」

 

そんな時だった、俺達の背後からエドが顔を出し、戦争への協力を依頼していた。

どうやら、少しでも戦力を増強し、名のあるパイロットを引き入れる事での戦意高揚も狙っているんだろう。

 

指揮官としては、味方のためを思ってくれるいい人だよ、彼は。

 

「≪切り裂きエド≫・・・、貴方とはヤキンの宙域では敵同士だった、今でもそれは忘れてはいない。」

 

「・・・。」

 

バリーの鋭い視線に、エドは何も言わずに彼から目を逸らさなかった。

それは、敵だった者への礼儀なのか、それとも、かつての所業から逃げないという覚悟か・・・。

 

どちらにせよ、エドはバリーに対して本気で向き合おうとしている事だけは伝わってきた。

 

「・・・、だが、それも既に過去の事、貴方自身への恨みは無い、これも拳の導き、俺も南米のために戦おう。」

 

「あぁ、よろしく頼むぜ。」

 

彼のその心意気に打たれたのだろうか、バリーは表情を緩め、エドと共に戦う事を受け入れたようだ。

 

それに感激したのだろう、エドは差し出された彼の手を取り、感謝の意を表していた。

 

「≪切り裂きエド≫に≪白鯨≫、それに≪拳神≫まで加わったとなると、この戦いの勝ちは決まりだねぇ!」

 

「おぉ!二つ名持ちが三人も!これは良い画になる!!」

 

南米軍に勢いが付くと、ジェーンは喜びながらもエドに寄り添い、ジェスはこの光景に興奮しているのだろうか、一心不乱にシャッターを切っていた。

 

しかし、そう楽観視しても良い状況なのだろうか・・・。

何せ、もう一人の客人がそれを伝えに来てくれたのだから・・・。

 

「そうとも限らんぜ、連合はまだ、兵を投入してくるさ。」

 

「げっ・・・!アンタは・・・!?」

 

話が終わるまで待っていたのだろう、ジェスの背後から上質なスーツを身に纏った伊達男が姿を現した。

 

確か、彼はサー・マティアスの所で会ったっけな・・・?

 

ジェスは彼に良い印象を持っていないのだろう、思いっきり表情を顰めながらも彼を睨んでいた。

 

「俺はカイト・マディガン、この野次馬の御守り一号さ。」

 

「なんだよ、御守りって・・・!?」

 

しかも一号って・・・、まぁ、俺達が一号って事もなかったんだろうが・・・。

 

「なんだよ、ジェネシスαでも助けてやったじゃねぇか、ちょっとは感謝してくれてもいいだろ?」

 

「うっ・・・!」

 

痛い所を突かれたという風に、ジェスは表情をしかめ、意地でも言いたくないのと言わなければなんかアレだしと言う様な色がせめぎ合っていた。

 

ホント、コイツは見てて飽きないよ、いろんな意味でな。

 

「アンタがあの時のジンのパイロットなのか・・・?」

 

「ん?あぁ、あの時のストライクのパイロットか、そうだ、あの機体は俺が動かしていたのさ。」

 

俺の問いに答えながらも、カイトは何処か値踏みするかのように俺を見ていた。

 

まぁ、これぐらいの視線なら慣れている、何せ、もっと酷い時は完全な物扱いだったヤツもあったしなぁ。

 

それはともかく、あの時は俺の代わりにジェスを護ってくれたようなもんだ、頭下げといても良い相手なのは確かだ。

 

「あの時は助かった、改めて礼を言う、俺だけではジェスを護り切れてたか怪しかったからな。」

 

「仕事だったからな、気にするなよ、で、何時まで正体を隠しておくんだ?アメノミハシラのトップガン?」

 

「なっ・・・!?」

 

唐突に放たれた彼の言葉に、エドとジェーン、そしてバリーは本当かと言う風に俺達を見ていた。

 

そういえば、俺達がどこの所属だとか、話した事なかったっけなぁ・・・。

 

「アメノミハシラって・・・、あのロンド・サハクの城か・・・!?」

 

エドが何処か勘弁してくれと言うように俺に尋ねてくるがアメノミハシラに一体どんなアレコレがあったんだろうか・・・。

 

「あぁ、身分を隠していたみたいで悪かった、ちょっとした理由でこの地に出向いたんだ、アメノミハシラとして、この戦争をどうこうしようって気はない・・・。」

 

それはミナも考えている事だろう、無暗に戦場にアメノミハシラとして介入すれば、余計な敵を作ってしまう事になるからな。

 

そう、コートニーと会うまでならそうであって欲しかったんだけどなぁ・・・、相変わらず、俺の考えなしに動く癖は治らないか・・・。

 

「・・・、つもりだったんだけどなぁ、この前、連合の大部隊と交戦しちまったし、俺も間違いなくエネミー認定されてるだろうしなぁ・・・。」

 

「「・・・。」」

 

苦笑しながら頭を掻く俺を、セシリアとシャルは何処か残念なモノを見るような目で見ていた。

 

いや、うん・・・、君らほったらかしにして悪かったとは思ってるけど、そんな顔しなくていいじゃない?一応君らの夫だから、君らの事が本当に一番だから・・・。

 

「なら、一夏達も南米に力を貸してくれ、アメノミハシラの人間じゃなくて、ジェス・リブルの護衛でここに来た織斑一夏、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノアとしてさ?」

 

そんな俺に、いや、俺達にエドは助力を求めるように参加しないかと尋ねてきた。

 

「誘ってくれるのは嬉しいが、良いのか?エド達が良くても、俺達余所者を南米軍が受け入れてくれるかなんて分からないぞ?」

 

そりゃ、いきなりやってきた余所者が仲間と言われても受け入れられんだろうし、何より、そんな奴と戦う事が出来るか不安だろうな。

 

「大丈夫さ、南米軍の皆は大西洋連邦と戦ってるみたいなもんさ、じゃなきゃ、私も受け入れて貰ってないさ。」

 

「ジェーン・・・。」

 

「そうだ、俺を受け入れてくれたんだ、拳に誓い、共に戦おう。」

 

「バリー・・・。」

 

余所者でも受け入れてくれると、信念を共に、志を共に抱けるのならばどこの人間だろうと関係ない。

 

そうか・・・、だから、南米は戦ってこれたのか・・・。

 

そりゃそうか、どこの人間だ、どこの人種だとか言ってたら纏まる物も纏まらんしな。

 

「セシリア、シャル・・・、悪いが・・・。」

 

二人には申し訳ないのだが、この現状を目の当たりにして何もしないままってのは、俺の中にある何かが許さないんだ。

 

勿論、実戦でのデータを録れるっていう打算も無い訳じゃないけどな。

 

「もう・・・、私達の旦那様は仕方がありませんわね・・・。」

 

「エド達と一緒に戦いたいんでしょ?雰囲気で分かっちゃうよ。」

 

そんな俺に、セシリアはタメ息を吐きながら、シャルは何処か諦めた様に笑っていた。

 

なんか、俺ってここ最近、二人に迷惑ばっかり掛けてる気がするなぁ・・・、申し訳ない限りだよ、ホント・・・。

 

「私達も、このまま見て見ぬフリをするのは不義にも程がありましてよ?」

 

「折角マディガンさんが来てくれたんだし、ジェスの護衛はお願いしてもいいんじゃないかな?」

 

「えっ・・・?」

 

シャルの言葉に、ジェスの表情が硬くなった。

 

いや、うん、今の発言は流石にどうかと思うぞ、シャル・・・。

 

「良い女達だな、羨ましいぜこの色男。」

 

「分かってくれるか?アンタとは仲良くなれそうだ。」

 

何処かキラキラした目で俺の嫁さん二人を見るカイトの言葉に同意し、俺も頷いておいた。

 

この二人の魅力が伝ってるんなら、俺としても嬉しい限りだよ。

 

それは兎も角、二人がここまで言ってくれるなら、応えなければ男が廃ると言うものだ、腹を括るとしよう。

 

「ごめんな、二人とも・・・、エド、俺達三人の力、この戦いのために使わせてくれないか?」

 

「勿論だ、よろしく頼むぜ!」

 

「助っ人が更に三人も加わって、此奴は勝ちも決まったもんだ!」

 

「だといいがな、この次の相手は強敵だぞ。」

 

勝ちは決まったとばかりに笑うジェーンを窘める様に、カイトは自分が持ってきた情報を話し始めた。

 

「次の敵はレナ・イメリア、≪乱れ桜≫の異名を持つエド達の教官さ、その技量はコーディネィターさえも凌ぐと言われてる。」

 

≪乱れ桜≫か・・・、やけに雅な通りなじゃないか・・・、だが、エド達の教官という事ならば、その技量は正しく本物だろう。

 

「やけに詳しいな、何でそこまで知ってるんだ?」

 

「俺は強い女が好みなんだよ。」

 

「へぇ、そうだったのか?」

 

「勿論、か弱い女性も大歓迎だ。」

 

「ただの女好きじゃねぇか!!」

 

なんだかんだ言いながら、この二人って実はナイスコンビなんじゃないか?

まぁ、凸凹コンビは最初はこんなもんだろうな。

 

「レナが強いのは良く知ってるさ、何せ私でも勝てなかったんだ。」

 

≪白鯨≫が勝てなかった相手となると、相当ヤバい相手なのは確かなんだろうな。

 

そんな相手がこれから来るとなると、流石に気が滅入るな。

 

だが、本当の問題はそこじゃない筈だ。

 

そんな事を指摘する為だけにわざわざこんな所に来ないだろう、もっと大事な事がある筈だ。

 

「それだけじゃない、ここの兵士はエドに頼り過ぎてる、エドがやられればすぐに瓦解するだろうぜ。」

 

彼のその発言に、その場の空気が凍りついたのを感じた。

俺も薄々は感じていた事だが、口にしてはいけない内容だろうに・・・。

 

「なんて事を言うんだ!!」

 

「事実だろ、それに、ここにいる人間なら分かっているだろうぜ。」

 

あぁ、その通りだ、俺もセシリアも、シャルも気付いていたさ。

 

確かにエドは強いが、自分に全てを背負い込もうとしている所が危うさだ、それをフォローできる人間がジェーン以外にいないと言うのも、大きな問題の一つだ。

 

「いいや、俺はそうは思わないぜ。」

 

「ほう?なんでだ?」

 

カイトが言った言葉を否定し、エドは笑いながらも持論を語ろうとしていた。

 

彼の真意が聞きたかったのだろうか、カイトは薄く笑いながらも言葉の続きを待っていた。

 

「連合は強力で強大だ、普通なら独りで戦うなんて馬鹿げた事なんてやろうとすら思わないだろう、だけど、俺はただ、目的を抱けたのなら、どんなに強大な相手にも立ち向かえる事を証明しているだけさ、それが伝わったら、俺はもう必要ない、皆がそれぞれに戦っていけるからな。」

 

なるほど、彼は自分が先頭に立って戦って行く事でその後に続く人々に戦い方を、生きざまを示しているのか。

 

だから、自分が倒れても、その志を引き継いでくれる人がいるからこそ戦えるのか・・・。

 

俺には、昔の俺には考え付かない事だったろうな、独りだった俺には、な・・・。

 

「俺も、この南米での貴方の戦いをニュースで見て、その想いが伝わってきたからこそ、共に戦いたいと思った。」

 

彼の言葉に頷きながらも、バリーは自分が影響を受けたというニュースについて語っていた。

 

やはり、誰かの心を動かすのが報道の、ジャーナリストの神髄なのか・・・、ジェス、お前のやってる事の本当の意味が、俺にも漸く分かった気がするぜ。

 

「あぁ、こうやって人は繋がっていける、想いを共有出来る、だからこそ戦っていけるんだ。」

 

「そうさ、まぁ、エドが負ける訳ないけどね。」

 

「そうさ、俺は英雄だからな。」

 

自分に寄りかかりながらも話すジェーンの言葉に頷きながらも、エドは自分は独りでは無いと強く感じている様だった。

 

英雄も所詮は人間、か・・・、俺が考えていた事とはまるで違うな・・・。

それだけに、俺がどれほど急ぎすぎていたのか、本当に思い知らされた気分だよ・・・。

 

「くぅ・・・!なんて痺れる言葉なんだ・・・!!決めたっ!!俺はこれからもエドを追い続けて、その一瞬を取り続けてみせるぜ!!」

 

そんな彼の言葉に感激したのだろうか、ジェスは表情を輝かせながらもエドを見ていた。

 

コイツも、どんだけ感化されやすいんだかな・・・。

 

「あぁ、これからも良い画を頼むぞ、ジェス!」

 

「あぁ!!」

 

エドの言葉に興奮しながらも頷き、ジェスは今にも走り出しそうな勢いでいた。

 

「おいおい・・・、あまりコイツを焚き付けないでくれよ、俺達の仕事が増えちまうだろうが。」

 

「だったらほっといてくれよ!」

 

「ははは、ちがいねぇや。」

 

「なんでエドまで・・・!?」

 

呆れるように言うカイトの言葉と、その言葉が間違いないという風に笑うエドの言葉に、彼は声を上げていた。

 

うん、ジェス、やっぱりお前、素直な分弄りやすいんだな・・・。

 

まぁ、それはさておき・・・。

 

「ま、そういう訳だ、俺達が共に手を携えられれば、負けはしない、だろ?」

 

まだ騒いでいるジェスを尻目に、エドは俺達を順に見ながらも問いかけてきた。

 

どうやら、仲間としての同意を求めているんだろう、そんな色が伝わってくるよ。

 

仲間として受け入れてくれたのなら、応えねば無礼というもの、俺達は全くの同時に頷いて、これから共に戦っていくという意志を示した。

 

「あの~・・・。」

 

まさにその時だった。

この場に相応しくない、あまりにも気の抜けた声が俺達の耳に届いた。

 

振り向くと、そこにはソバカスの姉ちゃん、ユン・セファンが何処か困ったような表情をして立っていた。

 

そういえば、いたな、この人・・・、あまりにも重い話だったから、存在を忘れてたよ・・・。

 

で、どうしたんだろうか・・・。

 

「あのぉ~・・・、私はどっちに帰ればいいんでしょうかぁ~・・・?道に迷ってしまってぇ~・・・。」

 

『・・・。』

 

な、なんて空気の読めない人なんだとばかりに、全員がどうすべきかと困惑の表情を浮かべていた。

 

なんとまぁ、締まらないなぁ・・・。

 

sideout

 

noside

 

「こっちだ、付いて来てくれ。」

 

南米軍第12基地の格納庫の前に、≪切り裂きエド≫ことエドワード・ハレルソンに連れられた一夏がいた。

 

なんでも、エドが会わせたい者達がいると言う事で、一夏は彼の案内でここにやって来たのだ。

 

「まさか、よそ者の俺に部隊を預ける気か?」

 

エドの意図に合点がいったのだろう、一夏はまさかと言う風に尋ねていた。

 

その表情からは、まさか自分が南米軍の指揮官をやれと言うのかと言った驚愕が見て取れたが、エドはその通りだとばかりに口元を歪めた。

 

「おうよ、ガンダムタイプのワンオフ機に乗ったエースが隊長だと、兵の士気が上がるんでな、お前には悪いが頼むよ。」

 

「俺は広告塔かなんかか・・・?」

 

「まぁ、そうでもあるな。」

 

はははと笑うエドに、少しは否定しろとよと思う一夏ではあったが、自身がそういう立場にある事も分かっていた為にタメ息を吐くだけで何も言わなかった。

 

「ほら、一時とは言えど部下になる奴らが待ってるんだ、行くぞ。」

 

そんな彼を置いて、エドはさっさと格納庫の中へと足を踏み入れていた。

 

少しは自分にも考える時間を与えてくれてもいいんじゃないかと思いながらも、一夏は彼の後を追って格納庫に入って行った。

 

そこには、修復が現在も進行している二機の105ダガーと三機のダガーLがあり、それぞれがソードやドッペルホルンなどのストライカーを装備していた。

 

「これは・・・、ストライクの量産機の部隊か・・・?でも、どうしてこの機体が?こんな新型なんて、大西洋連邦も売らないだろ?」

 

だが、一夏は何故その機体が存在しているのかが分からなかったらしく、隣にいるエドに尋ねていた。

 

そう、105ダガーやダガーLは前大戦末期には完成し、実戦投入されている機体ではあるが、新型量産機である事には変わりなく、ストライクダガーに代わる戦力として配備が進められている。

 

そのため、必然的に旧式となったストライクダガーは南米等の独自MSが開発されていない地域へと売り払われており、一夏の知る限り、南米軍の主力機はストライクダガーで占められていた筈なのだが・・・。

 

「あぁ、この機体はな、ジャングルで転がってた残骸を寄せ集めて直したんだよ、ストライカーも使えるから、幾つか修繕してあるんだぜ?」

 

「ジャングルに・・・?あっ・・・。」

 

エドが語った内容に思い当たる節があったのだろう、彼は合点がいった様な表情をしていた。

 

何を隠そう、彼は数日前にジャングルでダガーL中心の連合の部隊と交戦し、ザフトのコートニー・ヒエロニムスと共に壊滅させていたのだ。

 

そこからパーツを集めて来たのかと、彼はここにある機体達のルーツにどこか納得している様でもあった。

 

「そういえばそんな事もあったなぁ・・・。」

 

「あれを全部片付けたんだろ?やっぱり、トップエースに恥じない戦果だな。」

 

「やめてくれ、あれの半分は俺の手柄じゃないさ。」

 

トップエースと言う呼ばれ方がこそばゆいのだろうか、彼は何処か苦笑しながらもエドと共に機体の傍まで歩みを進めた。

 

それに気付いたのだろうか、機体の傍で整備士達と何やら話をしていた五人のパイロット達が彼等に向けて走り寄り、綺麗に横一列に整列、敬礼をしていた。

 

「御足労頂きまして、光栄であります!」

 

そんな彼等を代表する様に、リーダー格と思しき褐色の女性がエドに対して感激の言葉を投げかけていた。

 

「おう、ご苦労さん、今日はお前達に紹介したいヤツを連れて来たんだ。」

 

彼等に敬礼を返した後、彼は僅かに後ろに下がり、一夏を自分の前に出した。

 

「彼は織斑一夏、今日から南米に義勇兵として参加してもらい、この部隊の指揮を執ってもらう事となった。」

 

「織斑一夏だ、いきなり現れて指揮を執るとか言われて、思う所はあると思うが、俺も君達と共に南米を護る為に戦っていきたい、よろしく頼むよ。」

 

エドに紹介された一夏は自己紹介をしつつも、何処か申し訳なさそうに敬礼を返した。

 

彼の反応は尤もであると言えるだろう。

なにせ、いきなり現れた余所者が部隊長などと、従いたくても従えないのは当然の心理でもあるだろう。

 

「はっ!たった二機のMSで連合の大部隊を討ち果たしたと言う噂は常々聞き及んでおりました!お会いできて光栄であります、織斑卿!」

 

エドに勝るとも劣らぬ、鬼神の如き戦果を挙げたトップエースが目の前にいる事に感激したのだろうか、その女性は一夏に対して何処か興奮した様に敬礼していた。

 

彼女の両脇に控える他の隊員達も、一夏の事を畏怖と畏怖の念を籠めた瞳で見ており、まさに心強い味方が現れてくれたとでも思っているのだろうか・・・。

 

「申し遅れました、私は南米軍第56小隊所属のフィーネルシア・フェルミです、この105ダガーで、卿の下で戦わせて頂きます。」

 

「同じく、コージ・ジンクスであります。」

 

フィーネルシアの左隣に立つ日系人の青年は、どことなく無愛想な感じで礼をし、何も言わずに次の隊員へとバトンを回した。

 

「私はキース・チャップマンであります、天空からの導きに、心から感謝しております!」

 

そのコージの左側に控えていた眼鏡をかけた青年は、敬礼を返しながらも感激を伝えていた。

 

「アタシはミーナ・カーバイン、ヨロシクね、天空の英雄サン?」

 

フィーネルシアの右側に控えていた赤髪の女性は自分をアピールする様に挨拶を返していた。

 

その仕草は軍人とは程遠く、モデルか何かをやっているのではないかと勘違いする程だった。

 

「自分はネーヴェ・ヴァリーチェ、ヨロシク・・・。」

 

ミーナの隣に控えていた、少女と見紛う様な容姿をもった女性は、話すのは苦手とばかりにさっさと自己紹介をし、列から離れ、機体の下へと戻って行ってしまった。

 

「・・・、個性的なメンバーだな・・・、指揮のし甲斐がありそうだ。」

 

「申し訳ありません・・・。」

 

あまりのメンツに苦笑しているのだろうか、一夏は何処か皮肉交じりに呟き、その言葉にフィーネルシアは申し訳なさそうな表情をしていた。

 

彼女も、このアクの強いメンバーの扱いには苦労しているのであろう、そんな様子が伝わってくるような表情であった。

 

「気にしないでくれ、こういうのには慣れてるつもりだしな、よろしく頼むよ、フィーネルシア。」

 

だが、当の一夏はこれぐらい自然体でいてくれた方がやり易いとばかりに笑い、彼女に対して手を差し伸べていた。

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします、一夏卿!」

 

そんな彼の表情に緊張が解れたのだろうか、フィーネルシアも微笑み返しながらも、差し出された手を握り返した。

 

「よし、それじゃあ、全員の機体の状況と得意分野を教えてくれ、作戦を立てるぞ。」

 

『了解!』

 

握手を解いた後、彼は隊員達に向けて指示を飛ばし、自分のやるべき事を果たそうと仕事人の顔つきに戻った。

 

それを受けた隊員達も、自分達がやるべき事、一夏に指示された事を熟すべく動き始めた。

 

全ては、南米が勝つために・・・。

 

sideout

 




次回予告

南米の地で行われる決戦を前にして、戦士達は己の出来る事を為そうとしていた。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

決戦前夜

お楽しみに~


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決戦前夜

sideセシリア

 

「一夏様~、いらっしゃいますか~?」

 

第12基地の格納庫にやって来ました私とシャルさんは、愛しの旦那様であります一夏様をお呼びします。

 

これからの作戦について、一応の確認をしておこうと立ち寄った訳ですの。

 

一夏様はストライクの量産機部隊を率いて、私はジェーンさんと共に海で、シャルさんはバリーさんの援護として空を担当して戦う事となりましたので、いざと言う時に何処に集うべきかなど、細かく決めておきませんと、三人そろってアメノミハシラへ帰れませんものね。

 

「おう、セシリア、シャルも、そっちの訓練は終わったのか?」

 

「うん、バリーさんとも大体の打ち合わせは終わったし、後は僕達の事でちょっと決めておきたい事があるんだ。」

 

ストライクのコックピットから降りてこられました一夏様に用件を説明しながらも、シャルさんはスポーツドリンクが入ったボトルを手渡しておられました。

 

「あぁ、撤退先の事な、そうだなぁ、沿岸だと見付かり易いし、ジャングルの中の方が良いかもな。」

 

私達の考えていました事が伝わったのでしょう、一夏様は思案なさる様な表情を御見せになりながらも、場所の指定をなされていました。

 

「ですが、Nジャマーの影響を考慮しませんと・・・、通信が繋がらなければ合流が出来ませんわよ?」

 

「それもそうだな、だからと言って、明確な場所指定も難しいな・・・。」

 

そうなんですのよねぇ・・・、私達はこの南米の事をあまりよく存じ上げておりませんし、下手にしていしまえば、間違いなく混乱を呼びますし、市街地などには流石に近づけませんしねぇ・・・。

 

どうしたものでしょうか・・・?

 

「戦いが終わったらエドを目指して終結ってのもアリかもな、その方が色々と手間が省けそうだ。」

 

「そっか、確かにそれなら見つけやすいし、良いかもね。」

 

なるほど、勝鬨が上がった場所へ向かえば、必然的に合流できますものね、その方が効率的ですわね。

 

しかし、それを果たすためには、まず私達が生き残る事が最低でも必要となるでしょう。

 

厳しい戦になる事でしょうが、ここは何としても、最善を尽くすと致しましょう。

 

「隊長、お取込み中申し訳ありませんが・・・、こちらのデータにお目通しをお願いできますか?」

 

そう思っていた時でした、一夏様の部下と思しき褐色の女性がこちらに歩み寄り、一夏様に何かのデータを手渡されていました。

 

どうやら、機体の反応速度数値と、戦場での足場の関係が記されているのでしょう、それに目を通された一夏様の表情が険しい物に変わられました。

 

「ミーナはこのままでいいとして、コージのこの数値はなんだよ・・・、機体の適正と合ってないじゃないか、少し見てくる。」

 

「はい、お願いします。」

 

何か装備に問題があったのでしょう、一夏様は一機のダガーLの方へと歩いて行かれました。

 

「貴女は・・・。」

 

「あっ、申し遅れました、私は一夏卿の配下であります、フィーネルシア・フェルミと申します。」

 

私が名を尋ねるより早く、フィーネルシアさんは頭を下げてくださいました。

 

私達よりも僅かに若い程度でしょうか、同年代の女性にあからさまな敬語を使われますと、何かとむず痒い物がありますわね・・・。

 

「フィーネルシアさん、ですわね、私はセシリア・オルコット、一夏様の妻です、どうかお見知りおきを。」

 

「僕はシャルロット・デュノア、一夏の妻だよ、よろしくね~。」

 

「た、隊長の奥方様、ですか・・・!?」

 

私達が名乗りますと、フィーネルシアさんはどこか驚いた様に目を丸くされておりました。

 

・・・、なるほど、一夏様が既婚者だったという事に驚かれたのか、もしくは落胆でしょうか・・・。

 

「とは言いましても、事実婚というだけで、籍は入れておりませんが・・・。」

 

「そう、ですか・・・。」

 

やはり、一夏様に気があったという事ですか、妻としては旦那様が好い男だという事に悪い気は致しませんが、女としていうなれば、少々妬けてしまうのも致し方ないというものでしょう。

 

「でもねぇ、最近一夏って冷たいんだよね~、この前は僕達をほったらかしてザフトのエースと戦ったりしてたし、今は、ねぇ?」

 

「はっ・・・!?た、隊長をお借りしています、も、申し訳ありません・・・!!」

 

何処か含みのあるシャルさんの物言いに、御自分が一夏様を私達から盗っているのだと感じられたのでしょう、フィーネルシアさんは勢いよく頭を下げられておりました。

 

「シャルさん、何脅しているのですか、一夏様に怒られますわよ?」

 

「えへへ、ついやっちゃった♪」

 

私の戒めに、シャルさんは悪びれた様子も無く舌を少しだけ出しておどけていました。

 

そんな私達の様子を不安そうに見ながらも、フィーネルシアさんは続く言葉を待っている様でした。

 

しかし、フィーネルシアさんは何も悪くはありません、一夏様はのめり込むと周りが見えなくなる御方ですから、こういう風にほったらかしにされるのはもう慣れっこですもの。

 

本音を言うのでしたら、私達も一夏様の傍で戦いたいところですが、今回は一局集中よりも多方面に戦力を振り向けなければなりませんから、そういう訳にもいきません。

 

「フィーネルシアさん、一夏様の事、よろしくお願いいたしますわね?」

 

「僕達は一緒に戦えないからさ、だから、君に彼の事、任せても良いかな?」

 

「そんな・・・!私なんて、まだまだです・・・!隊長を、そんな・・・。」

 

御自分にはその力量が無いと表情を曇らせる彼女に、私は何処か安心感を抱きました。

 

自分の力を見誤らず、それでいて謙遜なされる姿勢は好感が持てます。

だからこそ、私達は旦那様の背中を任せても良いと、無意識の内に感じ取れたのでしょう。

 

「貴方だから、御頼みしているのです、私達の代わりなどとは申しません、貴女ご自身の想いで、一夏様の御傍にいてあげて下さいな。」

 

「セシリア卿・・・、シャルロット卿・・・。」

 

私の言葉に、彼女は不安げながらも私達を見詰め返した後、覚悟を決めて様にその表情を凛々しい物へと変えられました。

 

「分かりました、このフィーネルシア・フェルミ、必ずや、御二人に隊長をお返し致します、ですから、それまでお待ちください!」

 

「はい♪」

 

自分に任せてくれと言うフィーネルシアさんの言葉に微笑みながらも、私は心の何処かで楽しみにしていたのかもしれません。

 

私達の本当の姿を知らない彼女が、私達を癒してくれる事を・・・。

 

「フィーネルシア、一度模擬戦に出るぞ、お前も早く来い!」

 

「は、はい!」

 

一夏様に呼ばれたのでしょう、フィーネルシアさんは私達に一礼した後、エールストライカーを装備している一機の105ダガーへと走って行かれました。

 

もう少しお話ししたいところでしたが、今はその時ではないでしょう。

この戦争が終われば、またいずれ・・・。

 

「さぁ、シャルさん、一夏様の隊の方々にお飲物でも用意してお待ちしておりましょう?」

 

「だね、ここじゃあ、邪魔になるもんね。」

 

暴風に吹き飛ばされない内にお暇いたしましょう。

そんな事を考えながらも、私達は連れだって格納庫を後にしました・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

セシリアとシャルと別れた後、俺は隊のメンバーと模擬戦形式の訓練に出た。

 

ストライクも地上専用、それも密林地帯に存在する腐葉土等に対応するために接地圧を合わせるなどして地形条件に合わせてあるから、重力があるという以外は宇宙と変わらぬマニューバを見せる事が出来る様にしておいた。

 

その恩恵かなんだろうか、俺はたった一機で部下達のダガー五機と渡り合っていた。

 

レールガンで砲撃機の足元を狙い撃ち、体制を崩させて援護どころではなくする。

 

『うわっ・・・!?」

 

『なんて射撃の精度・・・!?』

 

彼等に立て直させ様としているのだろうか、俺に向かってくる二機のソードストライカー装備のダガーLの斬撃を半身になることで避けつつも、峰打ちで転倒させた。

 

『きゃっ・・・!?もぉ~!!手加減してくれてもいいんじゃない~!?』

 

『躱された・・・!?早過ぎる・・・!』

 

あまりの力量の差に為す術なく倒れ伏したミーナとネーヴェのダガーLを踏み台代わりにして飛び上がり、上空から攻めて来たフィーネルシアのエールストライカーを装備した105ダガーと切り結ぶ。

 

「攻めてくる角度は悪くなかったが、タイミングが遅かったな、討ち損じだ。」

 

『流石は隊長・・・!我々を歯牙に掛けぬほどお強いとは・・・!!』

 

お褒め頂くのはありがたいが、まだまだ満足はしていない。

俺はまだ、アイツに勝てていないんだ、この程度で満足していたら俺は勝てないんだ・・・!

 

だからこそ、俺は戦い抜い続けてやる、自分に気けじめを着けるためにも・・・!!

 

「アイツはもっと強かったぞ・・・、俺を恐怖させるぐらいに、な・・・!!」

 

ビームサーベルと拮抗させていたシールドを推力任せに押し込み、フィーネルシアの機体姿勢を崩させた。

 

「まだ、俺は強くなる・・・!!」

 

そのままの勢いでビームサーベルを弾き飛ばし、背後に回り込みながらも地表へと蹴り落とした。

 

『きゃぁぁっ!?』

 

通信機からフィーネルシアの悲鳴が聞こえてきたが、そこまで高度は高くないから怪我もしていないだろう。

 

「模擬戦終了だ、機体を格納庫へ戻せ。」

 

彼等の腕は大体分かった。

シュミレーション慣れしすぎているせいか、俺の様な我流の戦い方に弱いらしい。

 

腕は悪くないのだが、実戦経験不足と言わざるを得ないと言うのが本音だ。

 

まぁ、それは経験を積む以外にそれを補う事は出来ないから今すぐに強くなるのは難しいだろう。

 

『了解しました、あの、隊長・・・。』

 

「どうした?」

 

他の隊員達が帰投していく中、フィーネルシアが俺に何かを尋ねてきた。

先程の模擬戦の講評ならば格納庫でも良い筈だ、何がどうしたと言うのか?

 

『隊長、私は、貴方に付いて行けてますか?』

 

「どういう意味だ?」

 

意味が測りかねるな・・・、どういう事だろうか?

 

『セシリア卿とシャルロット卿に、貴方を頼むと言われました、ですが、私はこんなので良いのかって・・・。』

 

なるほどな、セシリアとシャルから頼まれた手前、こんな無様なままでいいのかって事か?

良い心がけだが、それは自分を追いつめる事にもなりかねんからな。

 

「気にする事は無い、お前はお前のまま、俺に付いて来てくれればそれで良いさ、あの二人の代わりなんて、誰にも務まりやしないんだからさ。」

 

そりゃ、前世から全てを捨ててまで俺を愛してくれている人達と比べるのは酷な話だ、入れ込み様も桁違いなんだからな。

 

だが、俺達の仲を承知したうえで、彼女は俺に付いて来ようとしてくる、それに答えてやらないと男が廃るってもんだ。

 

「だから、俺を信じろ、お前も、隊の皆も全員で生き残させてやるからな。」

 

『はい・・・!お願い致します!』

 

それで良い、今はただ、俺の背を追って来い、追い着けた時に、お前は知るんだからな。

 

「よし、基地に戻るぞ。」

 

『はい!』

 

俺の後に付いて来る事を確認しながらも、俺はストライクを基地に向けて飛翔させた。

 

さて、こんだけ期待されちゃ、身体張ってやらねぇと、な・・・?

 

sideout

 

noside

 

とある日の夜、南米軍のキャンプの一角にある仮設家屋の中で、ジャーナリストのジェス・リブルはコンピュータを使って、自身が取材していた内容を記事にまとめていた。

 

ここに来てからというもの、彼は様々な人物と出会い、その生の声を聞く事が出来た。

 

『エドワード・ハレルソン、人は彼の事を≪切り裂きエド≫と呼びたがるが、そんな通り名とは違い、彼は穏やかで明るい男だ、彼は南米の事を誰よりも思い、誰よりも前に立って戦っている、そんな彼を見ている人達なら、きっと分かる筈だ、彼は一人で戦っている訳じゃないと、共に戦う人々と共に戦っているんだと。』

 

記事に自身が撮った写真を貼り付け、彼はその日の記事の作成を終えた。

 

その写真には、ソードカラミティを背景にポーズを撮るエドの姿や、その協力者達、そして、南米の人々の姿が写っていた。

 

彼等の目には希望の光が宿っており、絶対に負けてたまるかと言う様な気概が見て取れた。

 

「俺の報道で、誰かにここの事を分かってくれれば、良いんだけどな・・・。」

 

ここの戦況は、彼が様々な媒体を通じて発信してはいるが、連合軍は攻め手を緩める事は無く、他の場所での反応も彼には届いていない。

 

それ故に、本当に自分の報道が誰かに届いているのかと不安になってくるのだろう。

 

「他の奴らに届いてなくとも、俺達にはしっかり届いてるさ。」

 

そんな彼の言葉に答える様に、背後から声が返られた。

振り返ると、そこにはビールジョッキを持った一夏が立っていた。

 

「相変わらず、ジャーナリストの悩みは尽きない、か?」

 

「一夏・・・、からかわないでくれよ。」

 

テーブルの上にジェスの分のビールジョッキを置きながらも、彼は手近な椅子に腰掛けながらも尋ねていた。

 

「まぁ、な・・・、俺がやってる事って、本当に誰かに伝わってるのかって、思ってさ・・・、俺が報道をしても、何も変わっちゃいないから、余計にそう思うんだ・・・。」

 

南米に来る以前からの付き合いである一夏ならば、自分の心情が吐露出来ると感じているのだろう、ジョッキを受け取りながらも、彼は何処か悔しそうな表情で呟いていた。

 

彼も不安なのだろう、自分がこのままやる事が正しいのかどうか・・・、彼には分からなくなりつつあった。

 

「人と人の輪は、そんな簡単には広がらない、情報だって同じだ、誰かを経て、また誰かに繋がって行く、ゆっくりと、それでいて確かにな・・・。」

 

空になったジョッキに新しくビールを注ぎながらも、彼は自分なりの言葉を紡いだ。

 

「だから、焦る事なんて無いさ、お前はお前に出来る事を、俺は俺に出来る事をする、それでいいんじゃないか?」

 

「自分に出来る事・・・、俺に出来る事・・・。」

 

彼の言葉に感じるものがあったのだろう、ジェスはその言葉を反芻する様に呟いていた。

 

「そう、だよな・・・、それしか出来ないなら、それだけをやり通せば良いんだよな!」

 

「あぁ、それが俺達に出来る事なら、やってみて行き当たったトコで考えればいいだろ。」

 

何かを理解した様に表情を明るくした彼の言葉に呼応しつつ、一夏はジョッキを顔の高さに掲げていた。

 

「ま、今は男同士で呑んで、明日への糧にしようぜ?」

 

「そうだな!遠慮なく呑むぞ~!!」

 

気負いすぎるなと言わんばかりの、一夏なりの気遣いに気付いたジェスは、それを無碍にはすまいとばかりジョッキを持ち直し、彼のジョッキと乾杯して一気にビールを咽に流し込んで行く。

 

「良い飲みっぷりだ、俺も釣られて呑みすぎてしまいそうだな。」

 

そん彼に負けじと、一夏はジョッキに口を付け、咽にビールを流し込んで行く。

 

「早々に潰れないでくれよ?ここに来てから呑めなかったから、じっくり楽しみたいんだ。」

 

「こっちのセリフだっての!」

 

それに対抗するかの様に、ジェスも彼が持って来ていたビールをジョッキに注ぎ直し、浴びる様にして飲み干してゆく。

 

普段から抱えるモノが多すぎる一夏と、危険に身を投じ過ぎているジェスには、それなりのストレスがあり、特に一夏は自身のプライドから、喩え自分の妻に対してでも弱った部分を見せたくはないと言う事もあり、こうやって吐き出す事がどれほど大切なのかと良く分かっていた。

 

だが、本人達がどう思っていようが彼等を取り巻く環境は、彼等を想い、寄り添ってくるのだ。

 

「一夏、ジェス、こんな寂しいトコで呑んでるなよな。」

 

そう言いながらも現れたのは、酒が入ってほんのり肌が赤くなったエドと、ジェーンだった。

 

「特に一夏、アンタ、自分の嫁をほったらかしにするのはどうなんだい?それに、隊員達とも交流しとかないと、隊長としての問題もあるよ?」

 

「それは言わないでくれよ・・・、まぁ、貴女の言う通りだ、カイトがセシリアとシャルを口説いてないかも心配だし、釘刺しに行くとでもするか。」

 

ジェーンの言葉に苦笑しながらも、彼は部屋から出て、

カイト達がいる場所まで行ってしまった。

 

「ジェス、俺達も行こうぜ、仲間同士なんだし、腹割って語り合おうぜ?」

 

「そうだな、先行っててくれよ、すぐに追い駆けて行くからさ。」

 

「おう、早く来いよ?」

 

彼を誘った後、待たせている者達がいるのだろう、エドはジェーンと共に部屋から出て行った。

 

そんな恋人達を見送り、彼は書き上げていた原稿を保存し、端末の電源を落としながらも願っていた。

 

今、この地で共に戦う者達に、真の勝利が訪れる様に、と・・・。

 

sideout

 

noside

 

それからさらに数日の後、南米軍の早期警戒レーダーが南米を取り囲むようにして侵攻してくる連合の艦隊の姿を捕捉していた。

 

「連合軍艦隊来ます!!領海内に侵攻中!輸送機の発艦も確認!!」

 

作戦指揮所に届いた報告を受け、エドを始めとする南米軍に参加するパイロット達の内、地上で連合を迎え撃つ者達はは自身の機体へと走った。

 

「ストライカーズ、発進準備は出来てるな!遅れるなよ!」

 

その中の一人、ストライク系の機体で編成された部隊長である織斑一夏は、愛機であるストライク+Ⅰ.W.S.P.に乗り込みながらも部下であるパイロット達に号令を飛ばしていた。

 

『コージ・ジンクス、105ランチャー、問題ありません、いつでも行けます。』

 

『ミーナ・カーバイン、Lソード、いつでもどうぞ~♪』

 

『キース・チャップマン、LD、準備OKです!』

 

『ネーヴェ・ヴァリーチェ、Lソード、行ける。』

 

四名の隊員達が機体を立ち上げながらも、出撃準備が出来ている事を彼に報告していた。

 

因みに、彼等の機体が装備しているストライカーは、一夏が隊長に着任してから行った模擬戦内での結果を考慮し、それぞれの適正に合わせて一夏が装備させたものである。

 

また、敵も彼等と同じくストライカーパックを装備した機体を多数投入してくる筈であるため、武器は敵から奪い取る事で幾らでも使用可能といった利点もあるため彼等の部隊は先駆けとして、大西洋側から侵攻してくる敵部隊を迎え撃つ手筈となっている。

 

『フィーネルシア・フェルミ、105エール、発進準備完了しました、指示をお願いします、隊長。』

 

「了解した、ストライカーズ各員に達する、この織斑一夏のストライク+I.W.S.P.に続け!!」

 

ストライクのPS装甲をオンにしながらも、彼は部隊の戦闘に立って隊を率いる様に機体の腕を挙げた。

 

それに呼応するかのように、彼の部下達は一人を除いて全員が得物を頭上に掲げた後、先行するストライクの後に続いたのであった。

 

暫く進んだ所で、彼等は一旦進軍を止め、各個に通信回線を開いていた。

 

「この先は手筈通り、隊を二つに分けて連合を挟撃する、敵に気取られない様に注意してくれ。」

 

一夏は隊員達それぞれを見ながらも、どう分けるかと頭を悩ませていた。

 

バランス良く半々に分け、其々に役割を当てて迎撃に当たる事が戦術的に好ましい事は分かっていた。

 

ソードが二機に遠距離支援機が二機、そして機動力を持った機体が二機と、巧く分けられる様になっており、何の迷いも無く隊を分けられる、筈であった。

 

『しかし隊長、お言葉ですが我等だけでは支えきれるかどうか・・・。』

 

『それに、三機ずつだと、どちらか片方ヤられた時、不利じゃないかしら?』

 

そう、彼の部下達は、一部を除いて腕が立つとはお世辞にも言えない、新兵に毛が生えた程度のレベルでしかなかった。

 

そのため、もし彼等の作戦に対応し、別働隊を攻める敵が現れた際に、一夏ならば対処可能でも、彼等にそれが出来るかと尋ねられれば首を傾げざるを得ないのは目に見えていた。

 

「だなぁ・・・、どうするべきか・・・。」

 

エドから預かった大切な兵士達だ、一人でも欠けてしまえば、エドに会わせる顔がないと彼自身痛感しており、自分の判断にそれが重く圧し掛かっているのであろう。

 

「(やっぱ、こういう時は俺が全部背負ってやる事がいいか・・・?ストライク、悪いが無茶に付き合ってもらうぞ?)」

 

覚悟を決めたのだろうか、彼はタメ息を一つ吐き、全員に向けて通達した。

 

「全員、よく聞いてくれ、俺がストライクで先行する、その後でフィーネルシア、ミーナとネーヴェはコージとキースの護衛を行いながらも敵を掃討してくれ、俺に注意を向ければ何とかなるだろう。」

 

そう、彼はストライクという、自機の希少性とそのネームバリューを使い、敵の気を向けさせる事で部下の負担を減らそうと考えたのだ。

 

それならば、下手に討たれる者は出ないだろうし、彼とストライクならば、何とかして生き残るのも不可能ではなかったからだ。

 

『なるほど・・・、分かりました、私が何とか皆を護って見せます、だから、隊長もどうか御無事で・・・!』

 

彼の指示に従うと言いながらも、フィーネルシアは彼を案じるような言葉をかけていた。

 

それは部下としての想いよりも、何処か独りの女性としての想いが滲み出ていた。

 

「分かっている、俺は宇宙に帰れんまま命を落とす気なんて更々無いからな。」

 

そんな彼女の言葉をありがたいと感じながらも微笑んだ後、彼は表情を引き締めた。

 

彼の勘から、敵はもうそう遠くない場所まで来ている事が分かる。

ここで悠長に構えている暇など無いのだ。

 

『テッキセッキン!テッキセッキン!!』

 

そんな彼の感覚を裏付ける様に、ハロが警告音と共に敵が近くにいる事を告げた。

 

「来たか!!各機ミッションスタート!生き残れよ!!」

 

『了解!!』

 

彼の指示と共に、隊員達は己の役割を果たすべく動き始めた。

隊の仲間を、南米を護るために。

 

「織斑一夏、ストライク+I.W.S.P.、行くぜ!!」

 

そして、彼も行く。

今度こそ、この力を護るために使う為に・・・。

 

sideout

 




次回予告

ついに始まった総攻撃に、英雄達は己が出来る事を為すべく戦いに身を投じて行く。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

英雄として

お楽しみに~


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英雄として

sideセシリア

 

『セシリア、準備は良いかい?』

 

「はい、何時でもよろしいですわ、ジェーンさん。」

 

南米大陸の西側沿岸部にて、私はジェーンさんと共に敵が来るのを待っておりました。

 

今の私の乗機がフォビドゥンブルーと言う事もありまして、海中での戦闘をする事となりましたの。

 

海の中と言う事で、正直に申し上げて怖くは無いとは言い切れませんが、今の私には心強い先立ちがいてくれていますから。

 

『頼りにしてるよ?アンタ達がこうやって手を貸してくれるんだ、私も頑張らないとね!』

 

「そんな・・・、勿体無いお言葉ですわ、愛する御方の下に戻るために、しっかりと生き残りませんと。」

 

『それもそうだねぇ!』

 

ジェーンさんは女性とは思えぬ程の豪快な御方ですわね・・・、何と言いますか、あの方を思い出しますわね。

 

それにしても、こうやって一夏様とシャルさん以外の方と共闘するなど、嘗ての世界では考えられなかった事ですわね。

 

昔の私達には、自分達以外を信じると言う概念がありませんでしたから、余計にそう感じられます。

 

こういう風に、誰かを信じられるようになったのも、サーペント・テールの方々と、私とシャルさんの弟の存在があればこそ・・・。

 

だからこそ、私は頂いた物を、また新しい形に変えて行くと致しましょう。

 

『敵さんのお出ましだね!さぁ、行くとしようか、セシリア!!』

 

そんな事を考えておりますと、ジェーンさんから敵が近くまで来たと言う警告が耳を打ち、顔を上げますと、彼女の機体が海へと入ってゆく姿が見受けられました。

 

敵が来たと言う事は、他の場所にも侵攻を開始したと言う事・・・。

 

一夏様やシャルさんは大丈夫なのでしょうか・・・?

 

・・・、いいえ、今は信じるだけしか、私には出来ません、ですから、今は私に出来る事だけをやると致しましょう。

 

ここで私が死ぬような事になってしまったら、一夏様やシャルさんがどうなってしまうのか分かりませんし、宇宙で帰りを待っている愛機の下に帰れませんし、ね・・・?

 

「セシリア・オルコット、フォビドゥンブルー、潜航します!!」

 

ここで勝って、我が家に帰ると致しましょう!

 

海中に潜ると、辺りは一気に暗くなり、視界も悪くなってしまいました。

本当にこんな中で戦闘が行えるのでしょうか・・・?

 

いいえ、この中でだからこそ、意義があるのでしょうか。

 

暫く進んでゆくと、それも更に悪化して光も届きにくくなってきました。。

 

これでは何処にいるのかも分かりませんわね・・・。

 

『ボサッとしてたらヤラれちまうよ!周りを警戒しな!!』

 

「はいっ!!」

 

いけませんわね・・・、何時敵が来るかも分かりませんのに・・・。

 

そんな時でした、前方から何かが接近している事を告げる警告音が耳を打ちます。

 

レーダーを確認いたしますと、音速を超える速度で何かがこちらへと向かって来ます。

 

MSにしては早すぎますわね・・・、これは、魚雷・・・!それもスーパーキャビテーティング魚雷・・・!!

 

それを近くすると同時に、私とジェーンさんは全くの同時にフォノンメーザーを発射、迫り来る魚雷を撃ち落しました。

 

『行くよ!!付いて来な!!』

 

「はいっ!!」

 

潜水艦から放たれたモノでないとするなら、この機体と同系列のMSと言う事・・・。

それならば、私の領分である格闘戦でなんとかなりますわね。

 

ジェーンさんと共にトライデントを構え、私は海中を突き進みます。

義を果たすために、そして生き残るために・・・!

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「バリーさん、もうすぐ降ろしますよ?準備は良いですか?」

 

南米大陸北側の上空を、僕はストライクダガーに乗り込んだバリーさんをレイダーで目標まで運んでいた。

 

今回は肉弾戦をMSで行うバリーさんを、僕が上空から支援するって形だ。

彼が危なくなれば、僕が助けに入ればいいんだけど、この機体で格闘戦が出来るだなんて思っちゃいない、寧ろ一番やっちゃいけない事だろうけどさ。

 

『あ、あぁ、問題はない・・・!』

 

声が上擦ってるけどどうしたんだろう・・・?

まさか、バリーさんみたいな歴戦の猛者が戦闘に向かうと言うだけで緊張するものだろうか?

 

いや、そんな訳は無いとは思うけど、よく分からないや・・・。

 

そんな事は後で考えればいいんだ、今はただ、やるべき事をやって、生き残る事だけを考えないとね。

 

このレイダーも悪くは無い機体だけど、愛機は別にあるし、もう一度バスターに乗るためにも、何としてでも勝たなくちゃいけないんだ。

 

それに、一夏やセシリアとは、まだ約束を果たせていないしね!

 

「この真下かな?バリーさん、降ろしますよ!」

 

『分かった、後は頼んだぞ。』

 

レイダーの高度を出来るだけ下げ、ストライクダガーが敵から約500mほど離れた場所に着地したのを認めた僕は、レイダーを操ってわざと敵の真上を飛行する。

 

僕を見付けたからだろうか、敵のダガーLが背中に装備されたカノン砲みたいなものを撃ち掛けてくるけど、自由に空を飛び回れるこの機体には当たりはしない。

 

それに、今の僕は陽動程度にしか役割を成しちゃいない、本命は、君達の目の前に迫ってるんだから、ねぇ?

 

『はぁっ!!』

 

森林から飛び出したバリーさんのストライクダガーが森林から飛び出し、手近なダガータイプのMSに得意の肉弾戦を挑み、蹴りや殴打を次々に繰り出していた。

 

凄いなぁ、どれもこれも敵を一撃で沈黙させてるなんて、僕には真似出来ないや。

 

だけど、僕には僕の役目がある。

 

「彼を撃たせやしないよ!!」

 

ライフルやカノン砲を構えるダガーLに向かって急降下しながらも、レイダーの機銃の掃射を浴びせかける。

これなら、たとえ外れたとしても牽制にはなるだろうし、バリーさんを狙わせないためにも効果的だよ。

 

まぁ、本当なら数は減らしておきたいところだけど、四の五の言ってる場合じゃないのはよく分かってる。

 

だから掛かって来なよ、この僕達が相手だ!!

 

sideout

 

noside

 

南米の北西部の市街地跡に、凄まじい爆音が響き渡った。

 

「くっ・・・!!」

 

そのすぐ傍にいたソードカラミティ二号機に乗るエドは、撃ちかけられたビームを何とか回避するが、彼の背後にあった建造物に直撃し、盛大に爆ぜた。

 

それを為した機体が爆煙の中からゆっくりとその姿を現し、彼の前に立ちはだかった。

 

「そんな・・・、敵もソードカラミティだなんて・・・!」

 

そう呟くのは、彼等から少しだけ離れた場所に隠れる様にしてシューティングコートを展開したアウトフレームに搭乗しているジェスだった。

 

彼とて、ソードカラミティという機体が、エドが乗る一機だけでない事は知っていた、だが、いざ同じ機体同士の戦いとなると、勝敗を決するのはパイロットの腕という事になるのだ。

 

「ソード使いの俺をソードで討つ気か?嫌味も程々にしてくれよ、レナ教官・・・!」

 

「投降しなさい、エド、この戦いに、南米の勝利は絶対に有り得ないわ。」

 

顔見知り同士なのだろう、勘弁してくれと言わんばかりのエドと、ソードカラミティ初号機に乗るパイロット、レナ・イメリアの冷たい言葉の応酬が始まった。

 

「貴方は勝ち過ぎた、だから連合は貴方だけを攻めるのを止め、この大陸全土に兵を送り込んだわ。」

 

「・・・っ!」

 

彼女の言葉に、操縦捍を握るエドの手が震えた。

 

レナの言う通り、ついこの間までは大挙して侵攻してこなかった連合が、最早形振り構わずに大部隊を送り込んで来ている。

それは間違いなく、戦術の初歩の初歩、圧倒的物量による殲滅戦だ。

 

これを招いたのは他でもない、エドの活躍故だ。

この時、連合とプラントは終戦条約の締結に向けての調整に動き出していた時期でもあり、軍のメンツを保つためにも、反抗する南米は鎮圧せねばならないのだ。

 

だが、彼の奮戦により戦闘は予想以上に長期化し、条約締結が目前に迫りつつある中、戦いは今だ終ってはいないのだ。

 

彼を討ちさえすれば良いと踏んでいた連合だったが、彼は名立たるエースを退け、逆に南米に反連合の勢いを加速させたのだ。

 

それにより、連合は圧倒的な戦力差を持って、南米を制圧すると言う最終手段に打って出たのだ。

 

それは、エド自身がよく分かっていた事でもあり、彼は目を伏せ、どうすべきかと言う様に表情を顰めていた。

 

「既にこの南米に多くの兵が送り込まれているわ、そう、貴方達の軍では太刀打ちできないほどのね。」

 

「・・・。」

 

ある種の投降勧告に、彼の心は僅かに揺れ動く。

このまま戦い続ければ、軍の人間だけではなく、多くの一般市民が巻き添えになるかもしれないのだ、彼とて、戦争を早く終結させたいのは山々なのだ。

 

「間もなく貴方の故郷が火の海になる、それを避けたいのなら、ここで貴方が投降するか、討死する以外ない!貴方の英雄ゴッコが、この国を滅ぼすのよ!」

 

「・・・!!」

 

英雄ゴッコという言葉に、彼はいよいよ進退を決めなければならなくなっていた。

 

ここで戦う事を止めてしまえば、今まで南米の為に戦い、討たれて行った者達や、今も戦い続けている者達に顔向け出来ないのだ。

 

だが、ここで戦いを止めれば、南米の独立と、自分の命と引き換えに南米の兵や、協力者達を生かす事が出来る事にも彼は気付いていた。

 

命の重さを、その身を以て重々承知している彼は、そのために迷い、後一歩を踏み出せずにいたのだ。

 

「エドっ!!迷うなっ!!」

 

そんな時だった、物陰から出てきたアウトフレームから、ジェスが彼に発破をかけた。

 

「バカが・・・!ジッとしてろ野次馬!!」

 

「なにっ!?伏兵・・・!?」

 

同乗するカイトは頭を抱えながらも彼を宥めようとしていたが、レナは彼等の事を南米軍の伏兵だと認識したのだろう、彼女はソードカラミティの右肩からマイダスメッサーを引き抜こうとしていた。

 

「待て、レナ!!アイツは民間のジャーナリストだ!!撃つな!!ジェスも何やってるんだ!!」

 

それを止めるべく、エドはレナに対して警告を発しながらも、ジェスを叱り付けていた。

 

だが、それにも動じず、言葉を続けた。

 

「俺はこの南米を、エドの事をずっと見て来た、エドのやってる事をどうこう言える立場にないのは分かってる、だけど、俺が見て来た《切り裂きエド》は本物だった!!ここで迷って戦いを放棄するなんて、アンタらしくないじゃないか!!」

 

「・・・ッ!!」

 

自分がこれまで辿って来た道が、戦い続けてきた姿勢こそが《切り裂きエド》であったと言うジェスの言葉に、彼は驚いたような表情を見せたが、それもすぐに穏やかな笑みに変わる。

 

「そうだよなぁ、ここで迷って戦わないなんて、俺らしくないよな、ジェス、お前の言う通りだ!」

 

自分にはやるべき事がある、それを成し遂げるまでは、立ち止まる事など許されないのだ。

だからこそ、彼は戦う、己のためだけでなく、すべての者のために。

 

「俺は南米の英雄!≪切り裂きえど≫だ!戦う理由なんてそれだけで十分さ!!」

 

「・・・、そう・・・、それが貴方の決めた道なのね・・・。」

 

シュベルト・ゲベールを両手に構えたエドを見たレナは、僅かだが寂しげな表情を見せた。

 

嘗ては共に戦ってきた仲で、それ故に自身の手に掛けたくは無かった存在を討たねばならぬ事への哀愁か、それとも別の何かか・・・。

 

だが、それも一瞬の事、その次の瞬間にはその表情も消え失せ、彼女は一人の戦士としての表情になった。

 

「ならば、私もこの戦争を終わらせるために剣を抜く!!貴方はここで散りなさい、≪切り裂きエド≫!!」

 

シュベルトゲベールを左背から引き抜き、その流れで右肩からもマイダスメッサーを引き抜きながらも投擲、エドのソードカラミティはそれを半身になって何とか回避した。

 

彼女を討つべく、エドも機体を動かすが、それより早くレナが左腕から射出したパンツァー・アイゼンがエドの機体の右腕を掴み、彼女の方へと彼を手繰り寄せる。

 

「くっ・・・!!」

 

機体がバランスを崩し、転倒しかけている所を狙い、レナのソードカラミティがシュベルト・ゲベールの斬撃を繰り出し、エドのソードカラミティのバックパックの一部を破壊した。

 

「レナのやつ・・・、砲撃戦が得意な筈なのにエドを翻弄している・・・!?」

 

その様子を見ていたジェスは、目の前でエドが翻弄される姿に驚愕していた。

 

近接格闘ではそれこそ負け無しと呼んでも差し障りの無いエドのソードカラミティを、本来は砲撃戦が得意なレナが圧倒しているのだ、ある種の戦慄を覚えても致し方あるまい。

 

『レナのソードカラミティの反応速度は並のコーディネィターを上回っているぞ!』

 

数値を測っていた『8』は、レナの動きがナチュラルとは思えぬモノだという結果を叩き出し、エドを上回る勢いを持っている事を示していた。

 

「得意の分野は最後まで取っておく、プロとして当然の戦法さ。」

 

「そんな・・・、エド・・・!」

 

同じ戦闘のプロであるカイトの口から飛び出した言葉に、ジェスはこの戦いにエドが勝てるのかと不安になっていた。

 

勝ち目がない訳ではない、ただ、それがあまりにも少なすぎるのだ。

 

「くそっ・・・!器用にソードを乗りこなしやがって・・・!妬けちまうぜ・・・!」

 

「貴方はシュベルト・ゲベールに頼り過ぎている、威力の高い武器は隙も大きいと教えたわよ。」

 

「こんな時でも授業かよ、レナ教官・・・!俺は落第生かっての・・・。」

 

荒い息を吐きながらも、彼は自分以上にソードを乗りこなしているレナに純粋な尊敬の念すら覚えていた。

 

彼女の言う通り、自分はソードに頼り過ぎている所はもちろんある、だが、それだけでない事も、彼は自負していた。

 

「だけどな、俺はコイツの剣を信じているんだ!!俺は、コイツで勝つ!!」

 

必殺の意志を籠め、彼はシュベルト・ゲベールを二本重ねにし、レナに向けて走り出した。

 

「いいでしょう!!南米の英雄の最期!見届けてあげるわ!!」

 

それを迎え撃とうと、この一撃で決着を着ける意志があると見た彼女は、ここに来て温存していたスキュラを使用した。

 

ベース機から幾分かパワーダウンさせているとは言えど、その威力は折り紙付きであるスキュラならば、一撃で勝負を決する力を持っているため、最後の最後でそれを使う事にしたのだろう。

 

胸部から放たれた光条はそのまま突き進み、ソードカラミティを捉える、筈だった。

 

だが、エドは機体を僅かに沈める事で、右肩アーマーと頭部右側を犠牲にしながらも更に突き進む。

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 

「なにっ・・・!?」

 

間合いに入り、必殺の意志が籠められたシュベルト・ゲベールは、受け止めようとした初号機のシュベルト・ゲベールを砕きながらも進み、遂にその機体を捉えた。

 

装甲が一瞬刃の動きを阻害するが、エドは構わず刃を振り抜く。

 

その拍子に、切り口から大量のオイルが血飛沫の様に吹き出し、彼の機体に降り注ぐ。

 

「やった・・・!やったぞ!!」

 

エドが勝った事に喜ぶジェスだったが、エドはそうではなかったようだ。

 

何せ、機体は血の涙を流しているかの様に汚れていたのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「レナ!無事か!?」

 

初号機が完全に沈黙した事を確認した後、エドは自機から降り、切り裂かれたコックピットまで攀じ登った。

 

それを見たジェスは、彼の後を追う様に機体を降り、彼を撮り続けていた。

 

「流石・・・、英雄は・・・、強いわ、ね・・・。」

 

当たり所が悪かったのか、レナは身体の到る所から血を流し、息も絶え絶えにエドの強さに感心していた。

 

「あんまり喋らない方が良いぜ、傷が酷くなっちまうだろ・・・。」

 

何とか喋れるぐらいには無事な事に安心したのだろう、エドは僅かに口元を緩めた。

 

自身の教官と戦っていたのだ、せめてそれが終わった後ぐらいは気を遣ってもバチは当たらんだろうと思ったのだろうか・・・?

 

「優しいのね・・・、あの子が貴方に惚れたのも・・・、分かる気がするわ・・・。」

 

そんな彼に、何処か呆れる様な表情を浮かべながらも、彼女は薄く笑っていた。

 

教え子に倒されるならば、教官としても誇らしいとでもいうのか、その表情には純粋な喜色が混じっていた

 

だが・・・。

 

「でも・・・、此処は戦場よ・・・、その優しさが、命取りと、教えたわよ・・・?」

 

だが、その表情のレナは、隠していた右手に握られた拳銃を、エドへと向けた。

 

それを見たエドの表情が、驚愕と困惑に彩られ、次の瞬間には恐怖が浮かぶ。

 

彼は気付いてしまったのだ、彼女は最初から軍人として自分を討とうとしていた事に、そして、そのために自分をここまで誘き寄せたのだと・・・。

 

「さようなら・・・、南米の英雄サン・・・。」

 

その言葉と同時に引き金が引かれ、発なたれた弾丸は彼の左胸を貫き、彼の身体はその弾みで宙を舞う。

 

「エドっ・・・!?」

 

その真下で写真を撮り続けていたジェスは、彼の身に起こった事が理解の範囲を超えていたのだろう、驚愕で身体が硬直してしまっているようだ。

 

だが、彼の目の前で、エドの身体が地面に叩き付けられると同時に自失から持ち直し、彼はエドに駆け寄った。

 

「エドっ・・・!!」

 

彼を抱き起すが、エドに意識は無く、左胸に穿たれた穴からは止め処なく血が流れ出すばかりだった。

 

抱き起す自分の手を濡らしていく彼の血に、ジェスの表情からはどんどん血の気が失せて行く。

 

それは、恐怖以外の何物でも無く、エドが死に向かっているのではないかと言う恐れ・・・。

 

「エドォぉぉぉぉぉッ!!」

 

彼の慟哭にも似た叫びが、廃墟に木霊しては消えて行った・・・。

 

sideout




次回予告

瀕死の重傷を負ったエドを救うため走るジェス、だが、戦争は思わぬ方向へと向おうとしていた。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

絶望を希望へ

お楽しみに~


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絶望を希望に 前編

noside

 

「ナイロビの議会の方はどんな様子ですか?」

 

地球、ユーラシア西部にある屋敷の一室で、膝に黒猫を抱いた血色の悪い男性が、モニター越しに誰かと話していた。

 

彼の名はロード・ジブリール、軍産複合体《ロゴス》のトップであり、ムルタ・アズラエル亡き後のブルーコスモスの実質的な指導者である男だ。

 

『スカンジナビアの外相、リンデマンが提案したプランが可決された・・・。』

 

「ほぉ・・・、あのプランが・・・。」

 

『だがジブリール!こんなふざけた条件が飲めるものか!!』

 

そんな彼の通信相手である年老いた議員は、憤懣を隠す事無く怒鳴っていた。

 

どうやら、そのプランの内容に不満があるのだろうか。

 

それもその筈、リンデマンが提案したプランには、国土やそこに存在する基地の扱いについても触れられており、条文には、《地上の国境線及び国家は戦前の70年2月10日の状況へと戻す》とされているのだ。

 

『国境線と国家を戦前の状況に戻すだと!?みすみす勝ち取った領土を手放せるものか!!』

 

「それはコーディネィターも同じ事、奴らをこの大地から追い出せるだけでも上々ではありませんか、それに、貴方方が手放すのは南米ぐらいでしょう、あそこはマスドライバーがある以外価値は無い土地だ。」

 

連合としては己の権力と武力を誇示するため、領土の問題は死活問題でもあったが、《ロゴス》のトップであり、ブルーコスモスの指導者である彼には、それよりも何よりも、この美しき青い大地からコーディネィターが出て行ってくれる事こそが何よりだった。

 

何せ、これまでの戦争だけが全てではないのだから。

 

『軍は条約可決前にカタを着けるべく大軍を送った、我々としても軍の面目だけは保っておきたいのだよ。』

 

「ふっ・・・、ナチュラル同士で戦うなど、愚かな事を続けたがる・・・。」

 

メンツが何よりも大事と言いたげな議員の言葉を嘲笑う様に、ジブリールは独り呟いた。

 

自分達の敵は南米ではない、ザフト、コーディネィターなのだ。

 

何れまた、大きな戦争が起こる事は目に見えている、何せ、この条約案が可決されるという事は、それを決めた代表達の信任問題に係ってくる。

つまりは、そう遠くなく失脚するという事・・・。

 

それは、自分達の意のままに動かせる代表を選出できる事と同義なのだ。

 

その時に連合に協力させるためならば、今は譲歩して独立を認めさせ、後々、ザフトとの戦争が起きた際に武力なり交渉なりして従わせれば良いだけの事なのだ、合理主義的な考えを持つジブリールからすれば徒労以外の何物でもなかった。

 

だが、この戦争の行方がどうなるのかを見ておくのもまた一興か・・・。

 

そう考えたのだろうか、彼は薄く笑みながらも愛猫を撫で、モニターに目を通したのであった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「ハァっ!!」

 

南米大陸のジャングル地帯で、俺の部隊は連合軍の侵攻部隊と交戦状態に入っていた

 

数ではこちらが格段に劣っている状況だが、部下のフォーメーションと、ストライクの性能、そして、敵軍の練度の低さによって何とか戦線を維持していられた。

 

まぁ、他にも相手がソード系主体だったのが幸いしているな、これで火器を使われてたら堪ったもんじゃない。

 

今しがた、俺は何機目になるか数えるのも億劫になってきたダガーを、敵から奪ったシュベルト・ゲベールで切り伏せ、振り向き様にそれを投槍の様に投擲、背後から俺を撃とうとしたダガーLを串刺しにする。

 

I.W.S.P.の対艦刀はまだ抜いていないため、エネルギーが続く限りは何とか戦えそうだ。

 

『隊長!御無事ですか!?』

 

「フィーネルシアか!そっちは大丈夫か・・・!?」

 

俺と背中合わせになるようにして飛来した彼女の105ダガーを敵の攻撃から庇いながらも、俺は周囲の状況を窺う。

 

今だ、俺の隊からの離脱者は無いが、それでも包囲網が時間が経つにつれて強化されていっている事だけは確かだった。

 

どうやら、俺達が目立ち過ぎてしまったようだ、倒した数よりも残ってる数の方が何倍も多いとは恐れ入る・・・!!

 

『何とか・・・!ですが、このままでは・・・!!』

 

機体の状況はまだ戦えるとは言えど、流石に戦闘経験の浅い彼女達には疲労の色が濃く滲み出ており、このまま戦い続ける事が本当に出来るのかも怪しく思えてくる。

 

「(撤退したいところだが、これ以上下がれない、か・・・!?)」

 

ストライクの武装は、敵から武器を奪い続けながらも戦っていたために消耗は殆どないが、他の隊員達はそうはいくまい、弾薬もエネルギーも心許無い所だろう。

 

だが、これ以上下がれば、基地に近付き過ぎてしまうために他の部隊では到底護り切れるとは思えない。

 

だからこそ、俺達がここで何としても踏み止まり、敵をひきつけ続ける事が最善だ。

 

分かっていた事とはいえ、流石にキャパを超えつつあるあるかもな・・・!!

 

そんな事に苦笑しながらも、こちらに向かって来るダガーの腕を、対艦刀を引き抜いた勢いのままで切り裂き、それを足場とばかりに跳躍、コージのダガーに向かって行く数機のダガーLに飛び掛かってその頭部や手足を切り落として行動不能にしていく。

 

武器を奪い、戦力としていくならば、この方法が一番手っ取り早いからな。

 

『隊長っ!!自分も前に出ます!』

 

「待て!お前の技量で格闘戦は無理だ!」

 

だが、牽制で崩せるほどの敵の混乱を誘発出来なくなってきたのも事実だ、どうする・・・!?

 

『きゃぁっ・・・!?このっ・・・!!』

 

『消耗が・・・!このままでは・・・!!』

 

ミーナやネーヴェも限界が近づいて来ているんだろう、焦燥に駆られた声が聞こえてくる・・・!

 

どうすればいい・・・!この状況を、俺はどうすればいいんだ・・・!

 

sideout

 

noside

 

その頃、アウトフレームに乗るジェスは、最寄りの南米軍基地へ向けて全速力で戻ろうとしていた。

 

撃たれたエドを救うために、彼はバックホームにエドと、成り行きで助ける事となったレナを収容し、カイトに応急処置を任せていたのだ。

 

『気道確保・・・!よし、レスピーダーに接続・・・!あぁくそっ!!もっと静かに走れないのか!!これじゃマトモに手当ても出来ん!!』

 

普段着ているスーツを脱ぎ、手袋を嵌めて応急処置を行っていたカイトは、ジェスの操縦に文句を垂れていた。

 

プロのMS乗りである彼は、こういう応急的な手当てにも明るかった事が幸いしているのではあるが、それでも、この様に部屋が丸ごと揺れる状況での手当てなど出来る筈もない。

 

「何とか頼むぜ、カイト・・・!!こんな所でエドを死なせる訳にはいかないんだ・・・!!」

 

彼の言葉に返しながらも、ジェスは只管に道を急いだ。

自分の手に南米の英雄の命が掛かっている、その重みを受け止めながらも・・・。

 

『前方にMS反応!!連合の侵攻部隊だ!!』

 

そんな時だった、『8』がビープ音を鳴らし、ジェスに前方注意の警告を発した。

 

「なんだって・・・!?もうこんな所まで来てるのか・・・!?」

 

彼が顔を上げると、道の先から黒煙が上がっている事が見て取れ、そこに近づくにつれて、鮮明に連合のMSの姿が見えてきた。

 

撃たれてはまずいため、彼はMS部隊と少し離れた場所で機体を停止させた。

 

『止まれ!!MSを停止し、パイロットは降りろ!!』

 

敵部隊の指揮官からだろうか、投降を勧告するかのような通信が届く。

 

だが、それに従ってしまえば、彼が守ろうとしている者が危機にさらされてしまうために、従う事は出来なかった。

 

「くそ・・・!こんな所で足止めをされるわけには・・・!!それに、今バックホームの中を見られたらまずい・・・!!」

 

『嘘を吐いて通るか!?時間が無いぞ!!』

 

何とかして通るために、嘘を吐いてでも通るべきだと『8』は言うが、彼には出来ぬ相談だった。

 

何せ、ジェスの信条は真実を伝える事であり、そのためにはまず、自分が嘘を吐かない事を心に決めているのだ。

 

「嫌だ・・・!たとえどんな事になっても嘘だけは吐きたくない・・・!!ここは・・・!!」

 

意を決したのだろうか、彼は生唾を飲み込み、連合の部隊との通信回線を開いた。

 

「こちらは報道関係の者だ!!現在重傷の負傷者を運んでいる最中だ!!通してくれ!!」

 

『怪我人だと?怪しいな、検閲に入る、見せてもらおうか!』

 

「時間が無いんだ!!」

 

『うるさい!言う通りにしろ!!』

 

ジェスの言葉を不審に思ったのだろう、連合の指揮官は全く聞き入れる様子は無く、寧ろ武器を持ち、アウトフレームにじりじりと迫ってくる。

 

『ジェス!!俺がコックピットに移る!!早くそこから出ろ!!』

 

「ダメだ!!俺じゃ手当てが出来ない!!お前はそこから動くな、カイト!!」

 

自分に出来ない事をやれるカイトに戦う事を任せてしまえばどうなるか、ジェスも気付いていたのだ。

 

『思い出したぞ、そのMS!南米軍のプロパガンダをやっているジャーナリストだな!?』

 

だが、現実は簡単に行くほど甘くは無かった。

 

先頭の一機に乗るパイロットが、ジェスの報道を見た事があったようだ、彼の乗るアウトフレームを見ながらも思い返す様に言葉を発した。

 

「違う!俺はただ、在るがままを伝えただけだ!!」

 

『認めたな!!お前は南米軍の一味だ!下らん報道をした報いだ、死ねっ!!』

 

「うわっ・・・!?」

 

弁明する暇も与えんとばかりに、ダガーはシュベルト・ゲベールを引き抜きながらもアウトフレームを切りつける。

 

なんとか直撃だけは回避するが、掠めた部分の装甲が抉れてしまい、生じた衝撃にジェスは呻いた。

 

『ジェス!!お前を死なせる訳にはいかん!俺に代われ!!』

 

この状況を見たカイトは、自分が戦わねばとばかりに声をあげたが、ジェスは再度それを拒否する。

 

「ダメだ!ここは、俺が切り抜ける!!『8』!ビームサインをバトルモードで!!」

 

『合点だ!!』

 

自分が今出来る事、それはここを何としても切り抜ける為に戦う事だけだと考えた彼は、同乗する『8』に武装の展開を依頼、腰部アンカーラック内からビームサーベルの柄の様な物がせり出し、アウトフレームのマニュピレータがそれをしっかりと掴む。

 

それと同時にエネルギーが送電され、ビームの刃が形成された。

 

『お前が戦うなんて無茶だ!!ジェス!!』

 

「俺が戦わなきゃ・・・!皆やられちまうんだ・・・!!だから・・・!!」

 

『・・・、好きにしろ・・・!まったく・・・!!』

 

そんな彼の行為を引き留めようとカイトは声を荒げたが、そんな事で止まる様なジェスでは無かった。

 

その熱意に折れたのだろうか、彼は止める事を止め、人の気も知らないでとばかりに大きなタメ息を吐き、治療に戻った。

 

『投降しないつもりか!構わん、破壊しろ!!』

 

ジェスに戦闘の意志が在ると認めた連合のMS部隊は其々の手に武器を構え、彼に攻め込んでゆく。

 

「『8』!サポートを!!」

 

『任せろ!!』

 

切りかかってくるダガーのシュベルト・ゲベールを何とか半身になりながら避け、擦れ違いざまに頭部をビームサインの光刃で破壊した。

 

だが、それと続けざまに別のダガーLが彼に襲い掛かるが、ビームサインをシールドのように広げ、何とかダメージを軽減させる事には成功した。

 

だが、そのせいで体制を崩してしまい、尻餅を付いてしまった様な格好になる。

 

立ち上がろうとするよりも早く、二機のダガーLが襲い掛かってきたが、『8』がとっさの判断で脚部サブワイヤーを発射、向かって来ていたダガーLの腕部を破壊した。

 

『危なっかしい・・・!マトモに見ていられん・・・!!』

 

揺れるバックホームの中から戦闘の様子を感じ取ったカイトは、その素人的な動きに頭が痛そうな表情をしながらも呟いていた。

 

だが、今のジェスにはそんな彼の声は届かない、目の前の事に集中しすぎているのだから・・・。

 

「まだ・・・!戦うのか・・・!?」

 

睨む彼の目の前では、指揮官機が撃破された事と、ジェスが戦術マニュアルに無い動きを見せた事で動揺が広がったのだろう、ジリジリと後退していく敵機の姿が見えた。

 

「(良いぞ・・・!そのままどっか行ってくれ・・・!!)」

 

このまま威嚇でもしておけば、いずれは南米軍の基地まで行ける、そう考えた彼はダガーとの距離をゆっくりと詰めていく。

 

だが、そんな彼の耳に、金属がぶつかり合う様な音が飛び込んでくる。

 

「・・・っ!?」

 

見ると、先程ノックアウトさせたダガーのパイロットが、持っていた拳銃をアウトフレームに向けて乱射していたのだ。

 

だが、彼の眼にはそんな事は写っていなかった。

彼が見ていたのは、そのパイロットの恐怖に引き攣った表情・・・。

 

「あ・・・、あぁ・・・!!」

 

それを見てしまった彼は、自分が今やっている事に気付いてしまった。

 

そう、彼は今、戦争を自らしてしまっているのだ・・・。

 

「くそっ・・・!!」

 

それに気付いてしまった彼は、敵部隊に背を向けながらもバックホームに装備されていた煙幕弾を発射、全速力で元来た道を逆走し始めた。

 

『南米軍基地とは真逆だぞ!どうした!?』

 

突然の逃亡に驚いたのだろうか、『8』がビープ音を鳴らしながらも尋ねてくるが、当のジェス本人はそれどころではなかった。

 

「俺は・・・、今まで何を見てきたんだ・・・!?何かを撮る事だけに気を取られて、大切な事を忘れていたんじゃないのか・・・!?」

 

自分がやるべき事は、そこにある出来事を取材し、それを全世界に伝える事だった筈だ。

 

取材対象と同じ様に戦う事や、まして人を殺める事が仕事では決してないのだ。

 

「俺がやるべき事はこんなんじゃない・・・!この現状を誰かに伝える事、それだけじゃないか・・・!なのに・・・!」

 

『ジェス!二人とももう長くは保たんぞ!』

 

『引き返して戦うか!?』

 

打ちひしがれる彼の耳に、エドとレナの容体が悪くなる一方だと告げるカイトの言葉が入り、彼等を救うために戦うかと尋ねてくる『8』の表示が目に留まるが、ジェスはどうすべきか決めあぐねていた。

 

「もう戦いは御免だ・・・、俺は人殺しをしに来たわけじゃないんだ・・・!」

 

もう戦いたくはない、だが、ここから一番近い南米軍基地は戻った先にある、他の基地に向かっていれば、その間にエドは間違いなく力尽きてしまうだろう。

 

顔も知らぬ連合軍人を殺してエドを生かすか、それとも戦いを避けてエドを見殺しにしてしまうか、彼は苦渋の決断を迫られていたのだ。

 

だが、選択肢はそれだけではない、中道を選ぶという手も存在していたのだ。

 

「そうだ・・・!ここからなら、ザフトの監視所が近い・・・!」

 

つい先日、一夏に呼ばれて出向いた先の事を、彼は忘れてはいなかった。

 

そこにいるジャーナリストのベルならば、何かと口聞きしてくれるやもしれないが、敵でも味方でもないのだ、受け入れてくれるかどうかなどの保証はどこにもない。

 

だが、それでも、僅かな希望でも縋るしかないのが現状、最早悩んでいる時間はどこにもない。

 

「『8』!目的地変更だ!!ザフトの監視所に行く!!ベルに連絡を取ってくれ!!」

 

『合点だ!!』

 

『8』に指示を出しながらも、彼は今出来る事、やるべき事の為に機体を動かした。

 

「(エド、頑張れ・・・!俺が必ず・・・!)」

 

sideout

 

noside

 

ジェスからの連絡を受けたベルは、医療スタッフと共に患者の到着を待っていた。

 

別段、彼女達ザフトが南米軍の急患を受け入れる義理は無いのだが、自分達は人道に則った事をする立場だ、ここで拒否すれば後々面倒になるだけでなく、露呈した際の信用問題に関わってくるため、特別措置として受け入れる事を決め、プラントにも密かに話を通していたのだ。

 

ここに来てどうも、自分が苦労する羽目になっているような気がする。

どうやら、ジェスと関わり過ぎているせいかも知れないと彼女は内心でタメ息を吐いた。

 

そんな時だった、遠くから地響きが聞こえ、それから間もなく、ジャングルよりアウトフレームが姿を現した。

 

「来たわよ、急いで!!」

 

『はい!!』

 

それを認めた彼女は控えていたスタッフに指示を出し、それを受けた医療スタッフ達はすぐさまストレッチャーや医療器具を抱え、アウトフレームに向けて走った。

 

ジェスのアウトフレームはバックパックを下ろし、中からカイトが姿を現し、中にスタッフを招き入れ、横たえられた二人をストレッチャーに寝かせた。

 

「急げ!三番棟なら使える!!」

 

リーダー格である医師が全員に指示を出し、スタッフ達はエドとレナが寝たストレッチャーを引いて建物の中に入って行った。

 

「エド・・・!」

 

そんな彼等を、機体から降りたジェスは祈る様な眼差しで見送っていた。

 

「二人は必ず助けるけど、これは人道的措置で特別なんだからね?」

 

そんな彼に、彼女は念を押す様に話しかけていた。

 

「あぁ・・・、頼むよ、ベル・・・。」

 

分かっていると言う様に答え、彼は彼女に向けて頭を下げていた。

 

あまり印象が良くない間柄だが、こういう時に頭を下げないのは如何なものか、ジェスもそう考えているのだろう。

 

彼女は別段気にした様子は無かったが、大事な話があると言う風に表情を引き締めた。

 

「それよりも、条約の骨子が固まったわ、調印ももうそれほど遠くない内に行われるらしいわ。」

 

「そうか・・・、でも、それがどうかしたんだ?」

 

彼女が話した内容に合点が行かなかったのだろう、彼は今話すべき事かと言う様に首を傾げていた。

 

そんな彼に、ジャーナリストなら今の世界がどんな風になっているのか知っておくべきじゃないかと言う様にタメ息を吐き、彼女は話を続けた。

 

「《国家及び国境線を70年2月10日以前の状態に戻す》、こんな条文があるのよ。」

 

「なっ・・・!?」

 

彼女が語った思いもよらぬ内容に、ジェスは絶句した。

 

そう、それはつまり、この戦争の目的が、違う形で達成されてしまうと言う事だ。

 

「そんな・・・!それじゃあ、此処の戦いは!?エドの戦いはどうなるんだよ!?」

 

これでは、今までの戦いが、エドの戦いが無駄になってしまうのだ。

 

「エドの戦いは、無駄になるっていう事なのか・・・!?」

 

「そう、ね・・・、でも独立は独立よ、これでここの無駄な殺し合いは終わるわ。」

 

それを肯定しながらも、彼女は平淡な声で答えた。

 

無駄な戦争が終わる、そこには彼女個人の想いが乗せられている様でもあったが・・・。

 

「いいや、戦争は終わらんだろうぜ。」

 

だが、そんな彼女の言葉を否定する様に、それまで話を聞いていたカイトが口を開いた。

 

「この戦い、連合は何としても条約可決前に南米を落とそうと躍起になるだろう、己の力を誇示するためにな、勝ち取る戦果を得られない南米軍の指揮はダダ下がり、次々と討ち取られて負けは見えている。」

 

「そんな・・・!」

 

無慈悲なカイトの言葉に、彼は項垂れてしまった。

 

確かに彼の言う通り、南米軍はエドが精神的主柱になっていると言っても過言ではない。

 

今でこそ、それなりに士気も、個々人の志は高くなっていて、尚且つ自分の意志で戦っている協力者達がいるとは言えど、エドの存在はあまりにも大きすぎたのだろう。

 

「だけど、私達はそれを伝えるわ、そうする事が報道者としての使命だもの。」

 

そんな彼の言葉を聞きつつも、ベルは自分の使命を優先させる事にするようだ。

彼女にとって南米は縁も所縁も無い地、それを優先させるよりも自分の使命こそが先決だと感じたのだろう。

 

「(俺は・・・、俺はどうしたらいんだ・・・!?)」

 

そんな中、ジェスは己が何をすべきなのか決めあぐねていた。

 

ジャーナリストとしてならば、一刻も早くこの事を発信すべきだが、彼個人の感情はそれを半ば拒否していた。

 

南米の為に戦っているすべての者の心を折る様な事だけは、決してやりたくないのだ。

 

使命と感情、その二つに、彼はジレンマに陥っていた。

 

――何があっても、お前は自分の信念を貫け――

 

――とにかくやれる事をやる、それが最善だろ――

 

そんな彼の脳裏に、嘗て一夏とエドが語った言葉が反芻する。

 

一夏の言葉は、自分に出来なかった事を悔やみ、それを彼にさせないために。

エドの言葉は、力強く、前に進むと言う志だけが籠っていた。

 

それは、彼の迷いを祓うかのようでもあり、彼に道を示している様でもあった。

 

「(そうだ・・・!俺が出来るのは・・・!!)」

 

彼はエド達と関わり続けてきた、それ故に、彼しか知らぬエドの一面を、想いを知る事が出来た。

 

それこそ彼が伝えるべき事柄であり、彼自身がやりたいと願ってやまぬ事だったのだ。

 

「俺もそうしたい、だけどベル、ひとつだけ頼みがある、俺にも話させてくれ!」

 

それに気付き、最早迷っている場合じゃないとばかりに顔を上げた彼の瞳には、強く輝く意志が在った。

 

「分かったわ、二つ目の貸しにしておくわ、付いて来て。」

 

そんな彼の熱意に、いや、彼の方がエドの身に起きた事を正確に伝えてくれると判断したのだろう、ベルは一瞬だけ考える様な素振りを見せたが、その場で許可を出し、放送の準備をしている報道スタッフの下へと向かった。

 

「あぁ、ありがとう!!」

 

そんな彼女の打算的な思惑に気付きながらも、彼は礼を述べながらもベルの後を追った。

 

今は、何よりも果たさねばならない役割があるのだから・・・。

 

sideout

 




次回予告
倒れてしまった英雄の願いを、戦うすべての者に伝える為に、彼は言葉を紡ぐ。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

絶望を希望へ 後編

お楽しみに。


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絶望を希望へ 後編

sideセシリア

 

「はぁぁっ!!」

 

海中でのMS戦はまさに苛烈という以外に言葉が見つかりませんでした。

 

周りには何十という数のディープフォビドゥンの部隊が、ジェーンさんと私のフォビドゥンブルーに攻撃を仕掛けてきます。

 

私の機体は既にトライデントが折られ、今は魚雷を撃ちかけながらも敵から武器を奪う事で何とか戦えている状態です。

 

ジェーンさんの機体は、集中的に狙われている事もあってか、片足が破壊されていました。

 

今もまた、無謀にも向かってくる敵をトライデントで突き刺し、別の機体に向けて放り投げながらも、狙い撃ちされぬ様に機体を動かし続けます。

 

『セシリア!!大丈夫かい!?』

 

「なんとか・・・!ですが、このままでは・・・!!」

 

このままでは、何れは海の藻屑と消えてしまうやもしれません・・・!

 

何とかせねばなりませんが、援軍はもちろん見込めませんし、なにより連合の増援がどれほどの数が来るのかも分からない中では、迂闊に後退などできません。

 

焦りが募っていく中で、それは唐突に始まりました。

 

『PBSのベルナデット・ルルーです、我々の得た情報によりますと、終戦条約の骨子が纏まり、採決に向けて動いている様です。』

 

「ベルさんのニュース・・・!オールハンド通信で・・・!?」

 

条約の骨子が纏まった・・・!?ヤキンまでのあの戦争の・・・!

と言う事は・・・!!

 

『この条約には、兵器の保有量や戦犯の処分など、様々な処遇が盛り込まれており、中でも、領土の問題も、70年2月10日時点に戻されます。』

 

「そんな・・・!!それでは・・・、この戦争は・・・!!」

 

『ですから、このまま戦争を続けても、何の意味もありません。』

 

『意味が無いだって・・!?ザフトの女が勝手な事を・・・!!エドの戦いをみすみす無意味にして堪るか!!』

 

ジェーンさんの憤りが籠められた声を聞きながらも、私も内心で憤りを抑えきる事は出来ませんでした。

 

この放送は中道と言えば中道なのでしょうが、この報道が真実であるならば、戦果が勝ち取れないも同然、私達はそうでなくとも、他の兵の方々にとっては士気に関わる重大な問題・・・!

 

士気が高かったためにやっと支える事の出来ていた戦線が、このままではもう間もなく瓦解してしまい、南米の独立は出来ません。

 

ですが、陸にいない私がどうする事も出来ません、私も、今は自分の敵で手一杯なのですから・・・!!

 

『ここで、《切り裂きエド》に関する情報が入っています、現場に居合わせたフリージャーナリスト、ジェス・リブル氏がお伝えします。』

 

ジェスさん・・・!エドさんに何がありましたの・・・!?

 

『ジャーナリストのジェス・リブルです、本日、連合軍のレナ・イメリアと交戦したエドはこれを打ち破ったものの、瀕死の重傷を負いました!!』

 

「そんな・・・!!」

 

『エド・・・!そんな・・・!ウソだっ・・・!!』

 

そんな・・・!エドさんが死にかけているなんて・・・っ!!

なぜそれを敵にまで伝える様な真似をするのです、ジェスさん・・・!!

 

彼の言葉に、エドさんが倒れたと言う事実に勢いづいたのでしょう、ディープフォビドゥンの勢いが先程にも増して激しくなり、私達に向けて襲い掛かって来ます。

 

『現在、懸命の治療が行われていますが今だに昏睡状態が続いています、それと同時に、皆さんには聞いてほしい事があります!!』

 

何を伝えようと言うのですか、ジェスさん・・・!!

旗色が悪くなる一方で、更にエドさんの事で何かあるのですか・・・!?

 

貴方と言う方は、真実を伝える為なら誰を絶望させても構わないと・・・!?

 

『現在、南米では戦闘が続いています、彼等は政治的手段によって、この戦いから意味を奪い去りました、しかし何故、彼等はまだ戦い続けようとしているのでしょうか!?それは、彼等が支配者で在ろうとしているからです!!』

 

「そんな事、言われずとも・・・!!」

 

改めて示さずとも、この戦いが起こっている事を見れば、連合が権力保持の為に動いている事など明白でしょう・・・!

 

『ですが、この放送を聞いている皆さんにエドの言葉を伝えたいんです、彼は嘗て言っていました、『俺は一人でも敵と戦える事を示そうとしているだけ』だと、南米の人々がそれに気付き、立ち上がってくれればいいと・・・!!』

 

「・・・っ!!」

 

その言葉は、カイトさんに指摘された事を否定するために仰られた言葉・・・!

そうでしたわね・・・!今、この時こそ、あの言葉が、あの想いが必要な時・・・!!

 

焦りに曇った目では見通せない、輝かしい想いを・・・!!

 

『エドは凶弾に倒れました・・・!だけど、≪エド≫は皆さんの中にいる・・・!!≪南米の英雄≫は、今も貴方方と戦っている!!俺はそう信じています!!』

 

『そうだよ・・・!その通りさ、ジェス!!私達はエドと一緒さ!!』

 

「はいっ!!」

 

私達は南米の旗の下に集った、同じ志を持って戦っているのです!

だから、エドさんが倒れたとしても戦える、戦わなくてはならないのです!!

 

『えぇい!!≪白鯨≫と≪天空聖女≫を嘗めるなよぉっ!!』

 

「この戦い・・・!!勝って終わりたいのです!!」

 

向かってくる敵のフォビドゥン系列機を相手取りながらも、私達はそれぞれを庇う様に入り乱れます。

 

こうする事で狙いを分散できますし、何より攪乱戦法も採れますからね・・・!!

 

しかし、こちらは数で圧倒的に負けています、そのために、幾ら策を練ろうと、物量で押し切られる事も起こりうるのです。

 

痺れを切らしたのでしょう、周囲にいるディープフォビドゥンから一斉に魚雷が撃ち掛けられます。

 

「このっ・・・!!」

 

運悪くと言うべきでしょうか、私の方へと魚雷が殺到してきました。

 

『セシリア!!避けな!!』

 

ジェーンさんが回避を促してきますが、あまりにも数が多すぎて、回避する事も敵わなそうです。

 

避け切れない・・・!!

 

次に来る衝撃を堪える為に身を強張らせた直後、何処からか飛来したフォノンメーザーと魚雷が、私に迫って来ていたミサイルを撃破してゆきます。

 

「助かった・・・!?一体誰が・・・!?」

 

メーザーや魚雷がやってきた方に目を向けると、エイの様な上半身を持ったMS、グーンの部隊がディープフォビドゥンの部隊に次々と攻撃を仕掛ける光景が目に飛び込んできました。

 

「ザフトが・・・?何故・・・?」

 

この戦争に不介入を決め込んでいた筈のザフトが、何故こんな事を・・・?

 

訳が分からずに混乱する私の耳に、通信機から別の女性の声が飛び込んできます。

 

『連合軍は直ちに兵を引け!!我々ザフトは国際法に照らし合わせ、攻撃を受けている南米軍を支援する!!』

 

なるほど・・・、国境線が開戦前に戻るという事は、連合は他国を侵犯している様なもの、ザフトがそれを支援するのは何も不自然はないという事ですか・・・。

 

ですが、これで連合は二つの勢力を相手取る事になり、不利なのは目に見えています、もう間もなく、戦闘を停止する事でしょう・・・。

 

「これで・・・、戦争が終わるのですね・・・。」

 

周囲からの攻撃が無いことを認めた私は、大きくタメ息を吐きながらもシートの沈み込みました。

 

戦いが終わった事に安堵しながらも・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「もういい加減に・・・!!意味の無い戦いを止めないか!!」

 

弾薬が尽きたレイダーをMS形態にし、倒したダガーから奪ったビームライフルやマシンガンを撃ちかけながらも、僕はバリーさんの援護を続けていた。

 

エネルギー兵装を使ってはいなかったから、まだ機体は動かせるけど、問題は僕達の体力だ。

 

戦闘がこれ以上長引いてしまうと、もうこの戦線を維持できる自信がない。

 

でも、一歩も退いて堪るものか、僕は戦う、南米が勝つために!!

 

『ちぃっ!!』

 

「バリーさん!!」

 

多くのダガーを相手取っていたバリーさんだったけど、多勢に無勢だったのか、左腕が切り落とされ、右肩にはシュベルト・ゲベールが食い込んでいた。

 

見て分かる、もうその機体は戦えないって・・・!

 

「バリーさん!!後退してください!!僕が何とかします!!」

 

彼を死なせる訳にはいかないし、まだ僕は戦える。

だから、バリーさんには逃げてもらわないと・・・!!

 

『いや・・・!こうなったらっ!!』

 

こうなってはって・・・!どうするつもりなんだろうか・・・?

 

って!そんな場合じゃないよ!!後ろからまだ斬りかかってくるダガーがいるんだから!!

 

「バリーさん!!避けて!!」

 

僕が警告を飛ばして間もなく、彼の機体は右側を切り裂かれた。

だけど、その瞬間、彼はコックピットから飛び出し、そのダガーのヘッドバイザーを蹴り破った。

 

「えぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

なんで人間がMSを破壊できるのさぁ!?

しかもなんで華麗に着地しちゃってるのさ!?18m以上あったよね!?

 

更に、その直後にどこからか弾丸が飛んできて、彼の右肩を撃ち抜いた。

見れば、一機の105ダガーの爪先に装備されているアンチマテリアルライフルに撃ち抜かれているみたい。

 

って言うか、それをあれを生身で喰らって耐えれてるって、どういう事なの・・・!?

 

「人間じゃない!!あの人絶対に人間じゃねぇ!!」

 

自分の言葉とは思えない言葉が口を突いて出たけど、今の僕には全く気付かなかった。

 

だけど、そうも言っていられる状況じゃないのは分かってる、幾らバリーさんでもこの状況は絶体絶命だ。

なら、彼を護るのはまだ戦える僕の役目だ・・・!!

 

そう思った時だった、彼を撃ったダガーが何処からか飛んで来た銃弾に撃ち抜かれ、地に倒れ伏した。

 

その方向に目を向けると、そこにはガトリング砲に変形させたタクティカルアームズを構えた青いガンダムと、その隣に立つジンのカスタム機の姿があった。

 

あれは・・・!あの機体は・・・!!

 

『こちらサーペント・テールの叢雲 劾、このジャングルの中にある村の守備の任務に就いている、即刻この近辺での戦闘を停止せよ。』

 

「劾さん!イライジャ!」

 

まさか、サーペント・テールがこの南米にいるとは思っても見なかったけど、これは正に僥倖だね!

 

そんな彼等に、警告を無視したダガーL達が向かって行くけど、タクティカルアームズをソードフォームに戻したブルーフレームはあまりにも美しい斬撃で敵を切り裂いていた。

 

見てるだけなんて出来ないね、僕も戦わないと!!

 

「劾さん!僕も援護します!!」

 

前に教えて貰っていた回線を開きながらも、僕は拾い上げたシュベルト・ゲベールを振るい、手近なダガーを行動不能にしてゆく。

 

『その声は、シャルロットか!』

 

『南米に降りていたのか、セシリアと一夏はどうした?』

 

驚いた様なイライジャの声と、優しげな劾さんの声が聞こえてきた。

 

名前、憶えて貰ってるみたいで良かったよ。

 

「二人とも南米にいます、後で皆と会いましょう!」

 

『そうだな、風花にも会ってやってくれ。』

 

終わった後の事を話しながらも、僕達は向かってくる連合の機体を倒し続けて行く。

 

もう少しだ、敵の気勢をそぐ事が出来れば、すぐにでも戦いは終わる。

 

だから、僕は戦い続ける、やっと見つけられた、仲間達と共に・・・!!

 

sideout

 

side一夏

 

「ジェス・・・!お前って奴は!!」

 

ストライクのコックピットの中で、ジェスが行った放送を聞いていた俺は、その放送の真意に触れていた。

 

南米はエドが倒れれば、すぐさま心が折れてしまうと指摘されていた点を、彼なりの言葉で、エドの想いを伝える事で払拭し、南米軍の心を奮い立たせた。

 

そうだ、プロパガンダと取られようとも、報道はこうやって人々を奮い立たせる事も出来るのだ、それに気付いた彼なりの答えなのだろう。

 

そのお陰で、俺の隊の士気は更に上がっており、劣勢を覆すには至らないが、それでもギリギリの状況でも戦えている。

 

「キース!!援護を!!」

 

『はい!!』

 

キースに敵から奪ったライフルを投げ渡しながらも、俺は迫ってくるダガーを左手で握っていた対艦刀で切り裂き、その流れで背後にいたダガーに対艦刀を投擲、串刺しにして沈黙させた。

 

だが、その直後、敵のダガーが撃ったドッペルホルンが運悪く左腕に着弾、対艦刀を弾き飛ばされ、ストライクも大きく体制を崩されてしまった。

 

「うわっ・・・!!しまった・・・!!」

 

『隊長!!』

 

大きく体制を崩した俺に、敵のダガーがライフルを向ける事が知覚できたが、機体のバランスを立て直すのが精一杯で、回避はとてもじゃないが出来そうにも無かった。

 

危機を回避しようとしているのだろうか、周りの時の流れが随分と遅く見える。

 

くそっ・・・!こんなところで・・・!こんなところで終わってたまるか・・・!!

そう思えども、今の俺に為す術はなく、ただ、撃ち抜かれる瞬間を待つだけだった。

 

敵の銃が火を噴く直前、そのダガーはどこからか飛来した弾丸に貫かれ、四散した。

 

「何っ・・・!?」

 

一体誰が・・・!?

そう思った時だった、モニターに上空から太陽光を背に受けて降りてくるモノアイの機体が映し出された。

 

あれは・・・!!

 

『無事か、一夏?』

 

「コートニー!助かったぜ!!」

 

まさか、ザフトが南米を助けに動くとは・・・、だが、そのお蔭で俺も命拾いしたんだ、素直に感謝しておこう。

 

『貸し一つだ、それで良いだろ?』

 

「あぁ、もちろんさ、だが、今は戦う!!」

 

そろそろエネルギーも心許無くなってきたところだ、一気に決めてやる。

 

ストライク本来の運動性を活かす為、俺はI.W.S.P.を排除、アーマーシュナイダーを逆手に構える。

 

「行くぞ、コートニー!!」

 

『OK!勝つぞ!!』

 

俺の合図と共に、俺達は展開する連合軍の部隊へと突っ込んで行く。

 

アーマーシュナイダーを手近なダガーに突き刺し、その隙に投げ飛ばしていた対艦刀を拾い上げ、迫ってくる敵を問答無用で切り飛ばす。

 

コートニーはその巧みな操縦テクニックで敵を寄せ付けず、両手に保持したブレードトマホークで切り伏せていた。

 

「やはり、流石だな!」

 

『そっちこそ!良い動きだ!!』

 

互いの腕に感嘆しながらも、俺達は敵に向かって行く。

 

俺は負けん、負けてたまるものか!

俺を信じて戦ってくれている南米の隊員達にも、助けてくれたコートニーに報いるためにも、俺は戦う。

 

勝ってこの戦いを終わって見せる!!

 

俺らしくもない感情とともに、刀を振るって敵を倒しながらも感じるものはあった。

 

勝ちたいがために戦い続けるって所は、変わらないんだってな・・・。

 

sideout

 

noside

 

それから間もなく、彼らがいるエリアでの戦闘は鎮静化した。

 

連合軍は、たった二機のMSによって次々と倒されてゆくのを目の当たりにし、戦意を喪失、次々と撤退していった。

 

「こんなものか・・・?」

 

「あぁ、周囲に敵の姿は確認できない、終わったんだよ・・・。」

 

軽くタメ息を吐くコートニーの言葉を肯定する様に、一夏は安堵した様に表情を緩めた。

 

長時間戦っていたせいもあったのだろうが、その表情には疲労の色が濃く滲み出ていた。

 

「隊長!我々は、南米は、勝ったんですね!!」

 

そんな中、漸く一夏達に追い付いたフィーネルシア達、ストライカーズの面々が、喜びを隠しきれない様子で彼に尋ねていた。

 

「あぁ、俺達の勝ちだ、形はどうあれ、南米は独立した、それを勝ちって言わずになんて言う?」

 

そんな彼等に、一夏はその通りだとばかりに笑い返し、自分達の勝利を確信させた。

 

その言葉が染み渡ったのだろう、彼の部下達は一斉に歓声を上げ、勝利を喜んでいた。

 

「隊長、か・・・、お前も大変なんだな。」

 

彼らしくもない姿を可笑しく思ったのだろうか、コートニーはからかう様な言葉をかけていた。

 

「からかわないでくれよ、自分でもこそばゆいんだからさ。」

 

そんな彼の言葉に、一夏は勘弁して欲しいと言うように肩を竦めていた。

 

自分でも柄ではないと思っていたのだろう、その仕草からは気疲れ等の色が見て取れた。

 

「隊長、これからどうされるんですか?」

 

そんな中、フィーネルシアが一夏達に歩み寄りながらもこれからどうするのかと尋ねていた。

 

そう、仮にも一夏は外の人間、この戦いに参加はしていたものの、それが終わればこの南米の地を去ってしまう事は明らかだった。

 

それが名残惜しいのだろう、せめて送別の儀ぐらいはしておきたいのだろうか・・・。

 

「そうだな、これからセシリアとシャルと合流するつもりだ、見付けるのは大変そうだが、何とかしてみるさ。」

 

「そうですか、でしたら、私も御二人に御挨拶をしなければなりませんね。」

 

「ははは、律儀だな、あの二人はそんな事されたら気を遣うんだけどな。」

 

彼女の言葉に返しながらも、彼は何処から探そうかと考えを巡らせた。

 

エドが倒れた今、彼を目指して集まる事は不可能であるし、他の場所を目指そうにも入れ違いになっては怖いと言うリスクが付いて回る。

 

だが、動かなければ見つけられないのまた事実、そのため、彼は探しに動く事にしたようだ。

 

「それじゃ、俺はそろそろ行くとするよ。」

 

「えぇ~?もう行っちゃうの~?もう少しぐらいいてくれたっていいじゃない?」

 

I.W.S.P.を拾ってきたキースとコージのダガーに手伝ってもらいながらも装備し直し、飛び立とうとする彼に向けて、ミーナがせめてもう少しだけでもここに居ればどうだとばかりに声を上げた。

 

自分達がこうして生き残れたのも一夏のお陰だからだと分かっているからだろうか、ほんの少しの時間でも良いから彼を持成したいと言う気色が見て取れる。

 

「ミーナ、隊長を困らせてはダメ、隊長にも帰らなければならない所がある。」

 

そんな彼女を窘めるように、ネーヴェは呆れを含んだ声をかけていた。

 

「悪いな、だが、俺の任務も終わった事だし、宇宙に帰らないとな?」

 

彼女達のやり取りを見ながらも、彼は何処か暖かい心地に包まれていた。

 

隊員から慕われ、信じて貰えている事に対する悦びなのだろう、それは、彼がこれまでに感じた事の無いモノだったのだ。

 

嘗ては得られなかった、得ようとしなかったモノの心地良さに、彼は自分のやるべき事を見出したに違いなかった。

 

だが・・・。

 

「っ!危ないっ!!」

 

唐突にフィーネルシアのダガーが動き、一夏とコートニーの機体を押しのけた。

 

「うわっ・・・!?」

 

「どうした・・・!?」

 

何が起こったのか、それを見極めようとした彼の目に、受け入れがたい光景が飛び込んで来た。

 

「あぁ・・・!」

 

ウソだと、夢で在ってくれとでも言うかのように、一夏は目を見開き、嫌々をする様に、弱弱しく首を振った。

 

そこには、彼女の機体がビームに撃ち抜かれている所だったのだ。

 

彼がそのビームが飛んで来た方へと目を向けると、彼が倒したはずの連合のダガーが、最後の足掻きとばかりに、倒れ伏したままライフルを撃ったのだろう様子が見受けられた。

 

トドメを刺し損ねていた、彼がそう理解するよりも先に、彼女の機体は被弾箇所から火を上げ、地に倒れ伏した。

 

「この野郎っ!!」

 

口汚く吐き捨てながらも、コートニーが誰よりも先に動き、レールガンを発射、そのダガーを木端微塵に撃ち抜いた。

 

「フィーネルシア!!」

 

「おい・・・!応答しろ・・・!!」

 

他の隊員達が彼女の安否を確かめるかのように呼びかけるが、彼女からの返答は無かった。

 

「・・・!!フィーネルシア!!」

 

隊員達の叫びに、漸く我に返ったのだろう、一夏はストライクのコックピットから飛び出し、彼女のダガーのコックピットに駆け寄った。

 

ハッチを開けようとしたが、衝撃で歪んでしまったのか、途中で何かに引っ掛かる様に、完全には開かなかった。

 

「離れろ、一夏!俺が開ける!!」

 

ザクから降りたコートニーは工具を取り出しながらもコックピットハッチに取り付き、慣れた手付きでハッチを抉じ開けて行く。

 

「早く!!頼む・・・!!」

 

焦燥を隠しきれない様子で、一夏は隣で作業を行うコートニーを急かす様に言葉を紡ぐ。

 

そして、間もなくハッチがこじ開けられ、人が通れるぐらいの大きさになった。

 

「フィーネルシア・・・!」

 

そこに間髪入れずに、一夏は滑り込む様にコックピットの中に入り、そこにあった光景に目を見開いた。

 

大量の破片が彼女の身体に突き刺さり、大量に流れ出た血が、コックピットを赤く染めていた。

 

一夏に次いでコックピットの中を覗き込んだコートニーは、その凄惨な場面を目にし、もう助からないと見切りをつけた様に目を伏せていた。

 

「隊長・・・、御無事で・・・。」

 

一夏の声に気付いたのだろう、彼女は苦痛に歪んだ表情に笑みを浮かべながらも、彼の無事を喜んでいた。

 

そんな彼女の想いが痛いのだろう、彼の表情は後悔の念を浮かべていた。

 

「よか・・・た・・・。」

 

「何故俺を・・・、俺を庇うんだ・・・!お前がこうまでして・・・!?」

 

彼女が自分を庇った事が腑に落ちなかったのだろう、彼は彼女の身体を支えながらも問い掛けていた。

 

自分が、誰かに庇われるほどの人間ではないと感じている彼の事だ、彼女の身を犠牲にするぐらいならば自分が撃たれていればいいと思っているのに・・・。

 

「南米を・・・、私の・・・故郷を・・・護って・・・くれたんです・・・、それに・・・貴方だから・・・。」

 

身体がもういう事をきかないのだろう、彼女は彼に向けて手を伸ばすも、それはもう、弱弱しく、何時落ちてもおかしくなかった。

 

その手を見て尚、一夏は彼女の手を取る事を躊躇った。

自分が、その想いに応えられるかどうか、彼は悩んでいたから・・・。

 

「俺は・・・、護れなかったのか・・・?部下を・・・、君を・・・!」

 

自分がもっとしっかりしていれば、周りを見ていれば、こんな事にはならなくて済んだのに。

そんな自責の念が彼を苛む。

 

「隊長・・・、どうか・・・。」

 

「フィーネルシア・・・。」

 

この国を頼むと言う様な、いや、他の想いが籠められた言葉と共に伸ばされた手を取ろうと、彼は手を伸ばしたが、後少しと言う所で、その手は力無く落ちた・・・。

 

「あ・・・、あぁぁ・・・。」

 

その手が落ちるのを、彼女が死ぬのを、ただ黙って見ている事しか出来なかった彼は、喘ぐ様に呻いた。

 

護れなかった、ただ、取り返しのつかない事に恐怖していたのだ。

 

「うぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・っ!!」

 

彼の血を吐く様な絶叫は、南米の晴天には、虚しく溶けてゆくだけだった・・・。

 

sideout




第二章完

と言うわけで次回からは独自展開メインの第三章へ突入いたします

次回予告
絶望を抱えたまま宇宙へと戻る一夏達を待ち構えるかの様に二つの影が迫る

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
第三章 空白の2年間編

そして宇宙へ

お楽しみに!


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第三章 空白の2年間編
そして宇宙へ


noside

 

地球、マティアス邸の一室にある電話が鳴り響いていた。

 

「アタシだけど、どうしたの?」

 

執務机で書類を眺めていた館の主、サー・マティアスは受話器を取り、向こう側にいる人物に内容を話す様に促した。

 

電話の相手は、ナイロビの会議に潜入させていた彼の配下であり、その報告をしてきたであろう事は想像に難く無かった。

 

『リンデマンプランが可決され、ナイロビ会議が閉会しました、それと、南米から連合軍が撤退を始めたようです。』

 

「そう、ご苦労様、引き続き動向を調べておいて頂戴。」

 

『かしこまりました、それでは、失礼いたします。』

 

部下からの電話が切れた後、彼は受話器を戻し、椅子に深く沈み込んだ。

 

「(これから五年、いいえ、もっと短い間で世界は動き出すわね、条約を結んだ連合のアーヴィング大統領も、プラントのカナーバ代表も時を待たずして失脚するでしょう。)」

 

この条約は、お互いが疲弊しきっており、尚且つ引き分けに近い形で終わってしまったため、両国共にそう容易く首を縦に振れる条件では無かった。

 

しかも、プラントにとっては連合有利の条約を結んだトップを決して許せはしないだろう。

 

故に、その先に在るのは退陣の未来のみ・・・。

 

「(そして、それを利用して新たなる力が動き出す・・・。)」

 

そう考えながらも、彼はこれから動き出すであろう勢力と、その野望に思いを巡らせた。

 

そして、同時に期待しているのだろう、彼が、ジェスがどの様にしてそれらに関わっていくのかという、未知への好奇心が・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「本当に、もう戻るのか?」

 

C.E.72年、1月の終わり頃、アメノミハシラへと戻る私達を見送るために、パナマ宇宙港まで見送りに来てくださったジェスさんが、何処か名残惜しそうに尋ねてこられました。

 

「一応、任務も終わった事だし、報告に戻らないとだし、それに・・・。」

 

彼の質問に答えながらも、シャルさんは隣に立つ一夏様を気遣わしげに見ておられました。

 

一夏様の表情は憔悴してしまっているように生気が無く、無理をしてここに立っておられるという様な、痛々しいものでした。

 

無理もありません。

何せ、自分を慕って従ってくれた部下に庇われ、その方を死なせてしまったのですから・・・。

 

「そうか・・・、もう少し、色んな所を一緒に回ってみたかったけど、それなら仕方ないよな。」

 

「あぁ・・・、すまないな、ジェス、マディガン。」

 

シャルさんの視線に、想いに気付いたのでしょう、ジェスさんは一夏様を気遣う様に言葉をお掛けになり、一夏様も心配ないとばかりに微笑まれ、お二人に軽く頭を下げておられました。

 

どうにかして、一夏様の痛みを和らげて差し上げたいところなのですが、責任感がお強い一夏様に下手な慰めはかえってその傷を大きくしてしまうやもしれません。

 

一番近くにいる私達が何も出来ない、それだけが悔しくてなりません・・・。

 

「それじゃ、もう出発の時間だから行くよ・・・、二人とも、近くまで来る事があったら寄ってくれ、ちゃんと歓迎するよ。」

 

そう仰いながらも、一夏様はお二人に背を向けられ、私達のMSが積まれているシャトルに乗り込んで行かれました。

 

足取りはしっかりしておられても、背中に背負われる悲しみは消えません。

その痛々しいお姿を見るだけで、私はどの様に御声かけすべきか分かりかねました。

 

「セシリア、シャルロット、アイツの事、支えてやってくれないか?」

 

「えっ・・・?」

 

そんな一夏様を見送られた後、ジェスさんが私とシャルさんを見ながらも、気遣わしげに言葉をかけられていました。

 

その意味が分からず、私達は顔を見合わせてしまいました。

 

「アイツは今、自分を信じられなくなりかけているだけだ、だから、二人が一夏を信じてやってくれれば、必ず立ち上がれるはずなんだ、だから、頼む!」

 

まるで自分の身内の事の様に心配してくださるジェスさんのお言葉に、私は何とも言えぬ程の感激に心を震わされました。

 

私達以外にも、彼を想ってくださる方がいらっしゃる、それだけでも救いになる様な心地でした。

 

それが、一夏様にも伝われば、きっと・・・。

 

「勿論ですわ、きっと、次にお会いになられる時は、すっかり元気になっておられますわ。」

 

「それじゃあ、二人とも気を付けてね!僕達も行くよ。」

 

お二人に礼を返しました後、私とシャルさんはシャトルの中へと足を進めました。

 

我が家に戻るために、そして、愛しの旦那様を支えるために・・・。

 

sideout

 

noside

 

何も見えない、何も聞こえない・・・。

ただただ、漆黒が広がるだけの空間に、ただ独り、一夏は立っていた。

 

いや、立っていたと言うよりは、脚に絡みつく鉛の様な重さを引き摺るように、足掻く様に歩いていた。

 

どれ程歩いた事なのだろうか、身体は重く、呼吸も乱れて来ていた。

 

「どこだ・・・、ここは、何処だ・・・。」

 

今だ見えぬ出口を求め、彼は重く気怠い身体を引き摺って進んでゆく。

 

だが、彼の足は何かに絡め捕られるかのように縺れ、それに釣られて彼も血の色をした沼に倒れこむ。

 

「教えてくれ・・・、俺は・・・。」

 

底があるかも分からぬ沼から這い出ようと、彼はもがきながらも自問していた。

 

誰に聞く訳でもなく、ただ譫言のように・・・。

 

――お前は、人形――

 

「・・・っ!」

 

そんな彼の声に答えるかのように、闇の中から声が聞こえてきた。

 

「誰だ・・・!?」

 

重い身体を奮い立たせ辺りを見渡すが、そこにはただ、赤黒い血の沼が広がっているだけだった。

 

――思い出せ、お前がやった残酷なゲームを――

 

謎の声が告げると同時に、彼の目の前に光が溢れ出す。

 

「・・・っ!!」

 

あまりの眩さに目を閉じ、慣らした後に目を開くと、風景は一変していた。

 

暗雲が立ち込め、辺りは炎の海と化した廃墟の風景だけが広がっていた。

 

「ここは・・・!!」

 

彼には、その場所に見覚えがあった。

否、それだけではない、何せ、彼はそこにいたのだから・・・。

 

その風景を見せ付けられ、呆然と立ち竦む彼を追い越すように現れた複数の機体、ISの数々は、炎の中に立つ何者かに次々と吸い寄せられる様にして向かってゆく。

 

だが、その何者かが振るう刃に次々と切り裂かれ、断末魔の悲鳴と鮮血が彼の眼前に迸る。

 

「やめろ・・・。」

 

その光景を見せ付けられた彼は、絞り出すように声を出すが、殺戮は止まらない。

 

新たに現れた十近いガンダムタイプの機体を相手にしながら、その悪魔は姿を現す。

 

漆黒のボディに生える堕天使の翼を翻す機体、ストライクノワールは、次々とガンダム達を切り裂き、屠ってゆく。

 

「やめろ・・・!」

 

目を閉じようにも、耳を塞ごうにも身体が動かない。

まるで、自分の身体ではないかのように・・・。

 

ガンダム達も、次々に討たれてゆき、最後に残っていたのは、屍と血の海だけ・・・。

 

その漆黒の機体は、ゆっくりと彼の方を向き、刀の切っ先で彼を指しながらも、どこか嘲笑うかのような表情を浮かべた。

 

そして、一夏は自分の身体に気づく。

そこには、目の前にいる悪魔と同じ、ストライクノワールの装甲が、刃があった。

 

「・・・っ!!」

 

慌てて刃を手放そうとするが、その柄は彼の手に溶け込む様に同化し、漆黒の装甲は、彼を飲み込むかの様にその面積をどんどん増やしてゆく。

 

――お前は人形、ただの、道具だ――

 

ふと、自分の近くで声が聞こえ、顔を上げるとそこには彼自身、狂喜に狂った顔があった。

 

――そして、悪魔はお前だ――

 

ニタリと笑い、悪魔は彼を飲み込もうと闇を広げてゆく。

 

動けない彼に、それから逃れるすべはなかった。

 

「やめろ・・・!!やめろぉぉぉぉぉ・・・!!」

 

抵抗も虚しく、彼の叫び声は闇へと溶けてゆく・・・。

 

sideout

 

noside

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

絶叫と共に、一夏は飛び起き、何かから逃れようとするかのように身体を振った。

 

そこに何時もの様な穏やかさは微塵もなく、見えない恐怖に駆り立てられた者が浮かべるような引き攣った表情を浮かべていた。

 

「一夏様・・・!?」

 

「どうしたの・・・!?落ち着いて・・・!!」

 

そんな彼の両隣に座っていたセシリアとシャルロットは、彼の唐突な行動に驚きながらも、何とか彼を落ち着かせようとその身体を抱き留めた。

 

「あぁぁ・・・!セシリア・・・!シャル・・・!俺は・・・!」

 

彼女達の声が聞こえ、自分に寄り添ってくれている事に気付いた彼は、ほんの少しだけ恐慌状態から抜け出すが、それでもまだ、その逞しい身体は恐怖に震えていた。

 

「酷い汗・・・、それに顔色も・・・。」

 

シャルロットに水を取ってくるように頼みながらも、彼女は持っていたハンカチで彼の汗を拭きとった。

 

「すまない・・・、もう、大丈夫だ・・・。」

 

愛しい女の甲斐甲斐しい姿に自制心を取り戻したのだろう、彼は彼女の手を取り、心配ないとばかりに微笑んだ。

 

「はい、お水持ってきたよ・・・、もうすぐでアメノミハシラに着くから・・・、大丈夫だよ、一夏。」

 

シャトルに積まれていた冷蔵庫で冷やされていたドリンクボトルを手渡しながらも、シャルロットは何処か不安げに彼の表情を覗き込んだ。

 

彼女達は気付いていたのだろう、彼が見ていた夢の内容を、その現実を・・・。

 

「大丈夫だ・・・、切り替えなくちゃならない事ぐらい、俺にだって分かってる・・・、だけど・・・。」

 

被るように水を飲みながらも、彼は弱々しく言葉を紡いだ。

 

まるで、物の重りに耐えきれず、軋みを上げるような、そんなギリギリの悲愴感があった。

 

「一夏様・・・。」

 

「苦しんだね・・・。」

 

そんな彼の苦悩の根源を共に味わってきたが故に、彼女達は気遣わしげに彼を見詰めるだけで、それ以上は何も言えなかった。

 

一夏は、自分達にもかなりの負い目を感じている節があるため、下手な慰めはむしろ、彼を追いつめかねないと気付いているのだから・・・。

 

彼女達に出来る事と言えば、ただ何も言わず、彼の震える身体を抱き留めてやる事しかなかったのだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

その頃、アメノミハシラから少し離れた宙域に、二隻の連合軍艦、アガメムノン級の艦影があった。

 

何処か目的地でもあるのだろうか、その動きは明らかにパトロールと言うよりは行軍と呼ぶべきだった。

 

その内の一隻のブリッジでは、オペレーターが艦内各所、及び僚艦への連絡に奔走しており、まるで戦闘準備を行っていると言わんばかりに緊張した雰囲気だった。

 

「戦闘宙域に接近、MS隊は発艦準備急げ!」

 

それを受け、艦長の男は受話器を取り、艦内の部下達に命令を伝達していた。

 

そう、彼等は連合軍の上層部より、ロンド・ミナ・サハクが治めるアメノミハシラを接収するように命令を受けているのだ。

 

その為に集めたMS隊は四十機近くを数え、アメノミハシラが出せるMS隊を優に上回る数を揃えていた。

 

だが、それだけで勝てるのならば、これまでの部隊が失敗する筈もないと、彼は脳内で冷静に実力を推し量っていた。

 

アメノミハシラは少数精鋭であることに間違いはない、トップのロンド・ミナ・サハクを始め、彼女に仕える者はそれこそ連合軍の一兵卒以上の技量を持っていると見て良い。

 

つまり、自分達だけでは勝利は危ういと言うこと、それだけは間違いはなかった。

 

だが、彼の表情は何処か勝利を確信している様にも見える、笑みを浮かべていた。

 

彼はそれを確信させるに充分すぎる、戦力があったのだ。

 

「この作戦、何としても勝たねばならん、傭兵のお前達に助力を請おう。」

 

彼が首だけで振り返ると、そこには長い黒髪を伸ばしっぱなしにした男と、その隣に立つ茶髪の女の姿があった。

 

彼が傭兵と呼んだのは、その二人であることは明白だった。

 

「あいよ、任せときな、アタシらも稼がなきゃ生きてけないんでね。」

 

「後払いとは気に食わないが、成功しようがすまいが、キチンと払ってもらう。」

 

女は自分に任せておけば全て片付くと言わんばかりに自信満々に豪語し、男は金が今だ支払われていないことが不服なのだろう、少々刺のある言葉で返していた。

 

彼等とて傭兵、自分達の生活が第一であり、金がモノを言う生活を送っているのだろう。

 

「分かっている、そろそろ戦闘だ、頼んだぞ。」

 

「任せろ。」

 

そんな彼等の言葉に頷きながらも、彼は出撃する旨を伝えた。

 

それを受け、傭兵の二人は足早に艦橋を後にし、自分達のMSの下へと向かって行った。

 

「・・・、全く、金に卑しい傭兵風情が・・・。」

 

そんな彼等を見送った直後、彼は誰にも聞こえないほど小さく、傭兵を罵る様な言葉を吐いた。

 

彼は気に入らないのだろう、何処の軍にも属さず、金次第でコロコロとその立場を変える、金の亡者その物と呼べる存在の事を・・・。

 

だが、それでも好都合と、彼は意識をモニターに映る天空の城に戻した。

 

所詮は傭兵、自軍の人間ではないため、好きに使い潰す事が出来る為、彼にとっては様々な利用価値がある。

 

そう、その存在を捨て駒としても使用できるのだから・・・。

 

そんな薄暗い思惑を乗せ、舟は進んでゆく、天から見下ろす女王の下へと・・・。

 

sideout

 

noside

 

「よぉ、やっと帰ってきたか!」

 

アメノミハシラのスペースポートに到着したシャトルから降りてくる一夏達を出迎えたのは、アメノミハシラの整備士長、ジャック・ウェイドマンであった。

 

よくよく見てみれば、彼以外にも数名の整備士達が列を作り、歓迎ムードの中で、三人は久方ぶりの本拠に足を着けた。

 

「ふぁぁ~!やっと帰って来たぁ~!」

 

「やはり、我が家は落ち着きますわね~、皆様も御変わりなくて、一安心ですわ。」

 

シャトルから降り、背伸びをしながら言うシャルロットと、何処かしみじみと呟くセシリアの表情からは、心地良さから現れる安堵の色が濃く滲み出ていた。

 

馴れない土地での生活はそれなりに苦労する事も多く、尚且つそこが戦場となれば尚更気疲れもするだろう、彼女達はリラックスする様に身体を動かした。

 

「ははは、そりゃ、ここが何処よりも一番良いトコだからな、仕方ないさ、なぁ、一夏?」

 

「ん・・・、あぁ、そうだな・・・。」

 

自分に尋ねるジャックの言葉に、一夏は心此処に在らずと言った調子で、引き攣った様な笑みを浮かべていた。

 

やはり、心に負った傷はあまりにも大きく、まともな感覚にはまだ戻れてはいないのだろう。

 

「ミナの所に報告に行ってくる、ストライクを頼むよ、ジャック。」

 

早めに話を切り上げたいと言う風に、彼は愛機の整備を依頼しながらも背を向け、そそくさと通路を進んで行ってしまった。

 

「・・・、アイツ、また何かあったのか?」

 

そんな彼の背を見送ったジャックは、彼の様子から何か感じたのだろう、一夏の飲み仲間である彼はその様子で悟った様だ、一夏の妻であり、傍にいたセシリアとシャルロットに真相を尋ねていた。

 

「南米軍での部下を死なせてしまったんです・・・。」

 

セシリアは痛ましげに目を伏せ、彼の質問に答えていた。

そこには、自分が何もしてやれない事を悔やむ様な表情だけがあった。

 

「彼はその子に庇われて、ね・・・、生き残ったみたいなものだから・・・。」

 

「なんてこったよ・・・、残酷過ぎんだろうか・・・。」

 

セシリアの答えに補足するかのように答えながらも、自分が付いて行っていたのに彼を傷つけてしまった事を悔い、唇を噛んでいた。

 

そんな彼女達の言葉に、ジャックは額に手を当てていた。

 

またしても彼を追いつめる事が、苦しめる事が起こってしまった。

それは只でさえ凹んでいる彼の心をより一層傷つけてしまっている。

 

だが、どれもこれも一夏本人が望んだ事でない事など承知しているため、より一層やり切れない感情だけがあるのだ。

 

「だけどまぁ・・・、立ち直るにゃ時間が要るからな、それまでは、お前さんらで受け止めてやんな、一夏の事をさ。」

 

そして、それを推し量って尚、彼が抱く一夏への信頼は、必ずや一夏が立ち直る事を確信させるには十分すぎるほどの物だった。

 

自分一人が支えるのではない、ここにいる全員が支えあっているのだと、ジャックは伝えたかったのだろう。

 

彼女達が彼等を見ると、全員がその通りだと言う様に笑みを浮かべ、力強く頷いていた。

 

「ふふふっ、皆さん、本当に一夏様の事を想っていて下さるのですね。」

 

「うん、皆の気持ち、本当に嬉しいな。」

 

そんな彼等の暖かな想いに触れ、彼を想っている者が他にもいてくれる事を、心の底から喜んでいた。

 

自分達は独りでは無い、彼等が感じさせてくれる暖かさに感激しているのだろう。

 

「アイツとはダチだからな、まぁ、今はそっとしといてやろうぜ。」

 

「そうですわね。」

 

だからこそ、今はそっとしておいて、彼が救いを求めた時に受け止めてやる事が大事なのだと判断した彼等は話を切り上げ、荷物もそのままなセシリアとシャルロットを部屋に戻らせてやろうと道を開けた。

 

「おっと、忘れる所だったぜ、デュエルとバスター、お前さん達が留守の間にバッテリーパックを新しいのにとっかえといたんだ、休んだ後に調子を見といてくれな。」

 

「まぁ、それは御手数をお掛けいたしました。」

 

「わざわざありがとうございます。」

 

帰ろうとしていた彼女達に、機体のバッテリーを交換しておいた事を、ジャックはデータを示している端末を二人に手渡しながらも伝えていた。

 

自分の機体に関わっている事だからだろうか、二人は足を止め、機体のデータに目を通した。

 

「なんと・・・、稼働時間が延びてますわね?」

 

「パワーエクステンダー・・・、これ凄いね、バスターには嬉しいエネルギーだよ。」

 

以前と比べた稼働時間の長さと機体出力の増大化に、彼女達の表情は驚愕と感嘆に彩られた。

 

オーブの、いや、アメノミハシラの技術力を改めて目の当たりにし、ただ、凄いとしか感想がないのだろう。

 

「おうよ、一応、今までのお前さんらのデータを基に調整してるから違和感は少ないと思うが、まぁ念のためだ、地上戦のデータも録って来てるだろうし、アップデートしとくか。」

 

職人だからなのかそういう気質だからなのだろうか、パイロットに最高のパフォーマンスをしてやりたいと言う想いが、彼の言葉からは色濃く滲み出ていた。

 

「はい、早速ですがよろしくお願いします。」

 

「こんなにしてもらって、休んでるわけにはいかないね。」

 

彼の想いに感激したのだろうか、彼女達は微笑みながらも頷き、自分達の機体の下へと行こうとした。

 

正にその時だった、けたたましい警報が格納庫に鳴り響く。

 

「敵襲か・・・!?」

 

『連合軍の艦影を確認、守備隊にスクランブル発令!』

 

彼の驚愕に答えるかのように、どの軍勢かを報せるアナウンスが響き渡り、全員の表情が緊張に強張った。

 

「シャルさん!」

 

「うん!!」

 

そんな中、セシリアとシャルロットは瞬時にアイコンタクトを交わし、すぐさま迎撃に出ようと愛機の下へと急いだ。

 

こんな自分達を受け入れてくれた、この家を護ると誓いながらも・・・。

 

sideout




次回予告

暗い思いに囚われる一夏、だが、迫る敵に彼は・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

来訪者 前編

お楽しみに~。


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来訪者 前編

side一夏

 

「ミナ、今帰った、入るぞ。」

 

格納庫から逃げる様にして、俺は主であるロンド・ミナの部屋にやって来た。

 

数か月ぶりに訪れた訳だが、慣れた場所だ、忘れる筈なんてない。

 

「俺がいない間に、何か新しい事は考え付いたかい?」

 

そんな事を考えながらも扉を開け、中で待っているであろう彼女に声をかける。

 

「よくぞ戻ったな、生憎、私の方は変わらずと言ったところだがな、ロウ・ギュールが示した世界への地図は白紙だ。」

 

何時もと変わらない不敵な笑みを見せながらも、彼女は鏡に投影された世界地図と、そこに示された情報を読んでいた。

 

所々に紛争などが起こっている事を示す炎のマークが付いていることから、その場所に生きる者をどう救うべきかも考えているのだろう

 

相変わらず、世界に目を向けてるんだな、流石だよ・・・。

 

彼女の凄さが、今の俺のダメさを浮き彫りにしてるようで、逃げ出したくなるような自己嫌悪すら覚えるよ・・・。

 

まぁいい、今は任務後の報告が最優先だ、俺個人の感傷よりも、な・・・。

 

「任務報告だ、ジェス・リブル氏は南米での目的を完遂、終戦まで見届けた、俺達のMSも地上戦のデータも録れ、おまけにザフトの新型MSのデータも録れた、良い収穫になったよ。」

 

「想像以上の成果だな、御苦労、暫く休むと良い。」

 

俺の報告に満足げに頷きながらも、彼女は労いの言葉を俺に向けていたが、俺の心は全くと言って良いほど、晴れることは無かった。

 

今もまだ、あの瞬間が目の前に浮かんでは消えていくような錯覚を覚えてるんだ、今の俺には、到底堪えられそうにもない・・・。

 

「ありがたい言葉だけど、まだ休めやしないさ、データの解析だったり色々有るし、な・・・。」

 

「お前、また何かあったな?」

 

苦痛が顔に出てしまったのだろうか、彼女は何処か探るように尋ねてくる。

 

やめろ・・・、話したら、俺が犯した致命的なミスを、彼女を死なせてしまった俺の弱さを見てしまう・・・。

 

「何も、ないさ・・・、何も・・・。」

 

だけど、ミナに吐き出して楽になりたいと思う、嫌な自分も心にいる事が、更に俺の心を乱す。

 

クソッタレめ・・・、俺はこんなにも脆かったのか・・・?

人の死を受け入れられない、現実から逃げ回っている様な奴なのか・・・?

 

「そうか、なら聞かぬ、お前が受け入れられるまでは、な?」

 

「ミナ・・・。」

 

俺の迷いを酌み取ってくれている事に、気を遣わせてしまっている事を申し訳なく思うが、それ以上にありがたいと思ってしまっているのは、俺の嫌な部分なんだろうな・・・。

 

だけど、話さなくていいと言われたんだ、今はその厚意に甘えさせてもらおう・・・。

 

そう思いながらも、俺は彼女に頭を下げ、自室に戻ろうと背を向けた。

 

まさにその時だった、敵襲を告げる警報が鳴り響いた。

 

「敵襲か!?」

 

「何処の手の者だ?」

 

焦りに若干上擦った声を上げる俺とは対照的に、彼女はいつもと変わらぬ冷静さで管制室と通信を繋げていた。

 

『連合の艦影を確認しました!既にMS隊がスクランブル発進しました、間も無く戦闘になるかと思われます!』

 

なんてこった・・・!ストライクが整備に出てる時に限ってこんな・・・!!

 

いや、機体がどうのこうのってよりも、今の俺が戦えるのかって言う不安がある時に限って、だ・・・!!

 

「連合軍か、やはりここに未練があるか・・・、正確な機影を割り出せるか?場合によっては私も出る。」

 

『Nジャマーの影響で正確な数は分かりません、ですが、ダガータイプとは明らかに違う機体が紛れています、機影の照合を急いでいますが、もう暫くは・・・!!』

 

なに・・・!?アンノウンが紛れている・・・!?

データに無い敵と戦うのは些かマズイな・・・。

 

如何に手練れが多いアメノミハシラのパイロット達でも、データに無い敵を相手にするのは怖い。

 

絶対的な技量を持つソキウスにしても、相手がナチュラルじゃ殺せないのでは意味が無い・・・。

 

それに、今の俺は戦えるのか・・・!?

身体の震えも収まっていない、こんな惨めな奴が・・・!?

 

どうすればいいんだ・・・、俺は、どうすれば・・・!

 

――隊長・・・どうか――

 

迷いに囚われていた俺の耳に、彼女の声が届いた。

この世にはいない、俺が護れなかった存在の声が・・・。

 

君を護れなかった罪滅ぼしに戦い続けろと、それが俺に出来る事だと言いたいのか・・・?

 

だけど、今はそれでも良い・・・、何か理由を付けてでしか動けないんなら、それでも構わないさ・・・!

 

だから・・・!!

 

「ミナ、俺が出る!」

 

「一夏?」

 

彼女に宣言した直後、俺は彼女の驚いた様な問いかけにも答えずに背を向け、格納庫へとひたすらに走った。

 

使える機体なら在る、俺の気持ち次第でどうとでもなるなら、やってやるさ・・・!

 

だから、もう二度とあんな思いだけは、仲間を失って堪るものか・・・!!

 

sideout

 

noside

 

「シャルロット・デュノア、バスター、行きます!!」

 

他の守備隊に先行して出撃したシャルロットは、久方ぶりに扱う事になった愛機の感触を確かめる様に操縦桿を動かしていた。

 

信頼を置いているジャック達の整備を疑う訳ではないが、やはり自分の身体に馴染んでいるか、パイロットとしてそれ以上の死活問題はないのだ、自分で確かめるまでは確信を持てないのだろう。

 

だが、少し機体を動かしただけで判る、この整備は紛れも無く、自分に合わせて調整され尽くしたモノである事を疑う余地は無かった。

 

「凄いや・・・!前より動かし易くなってる・・・!ロウの調整に上乗せしてくれたのかな?」

 

そして、それが単に自分に合わせた調整ではなかった事も、彼女は見抜いていた。

 

嘗て、ロウ達ジャンク屋と行動していた時に施して貰っていた調整から変更するのではなく、その調整を活かして更に向上させると言った、見事な職人技に感嘆しているのだろう。

 

「これは、前以上に大事に乗らないと怒られちゃうかな、頑張るぞ!!」

 

気合を入れ直し、彼女は目の前に迫ってくる敵MS隊に向け、ガンランチャーとビームライフルを構えた。

 

『シャルさん、牽制をお願いしますわ、私が接近戦を仕掛けます。』

 

「分かったよセシリア、僕達で護ろう!皆を、一夏を!」

 

『勿論ですわ!』

 

隣を進むデュエルからの盟友の言葉に頷きながらも、彼女は自分のやるべき事を見据えていた。

 

今、一夏の精神状態は最悪と言っても過言では無い上、機体も整備中であるため、彼がこの戦場に出てくる事は出来ないだろうと踏んでいるため、今度は自分が、愛しの男を護る番だと意気込んでいるのだ。

 

意気込む彼女の視界には、いくつものスラスター光が煌めきながらも押し寄せてくる様が写り込んでいた。

 

「まったく、連合は節操が無いのかな?自前でどうにかしなよ!!」

 

他国や他者を侵略してまでその力を維持しようとする連合の意地汚さにほとほと嫌気が差しているのだろう、彼女はガンランチャーやミサイルで弾幕を張りながらも、次々とダガーを撃破していった。

 

その手際は見事と言う以外に言葉が無く、ただ、鮮やかな技が光っていた。

 

『愚痴を言っても仕方ありませんわ、あちらも必死なのですから。』

 

シャルロットの愚痴を聞きながらも、セシリアは数機のM1Aを引き連れて突撃、部隊を的確に動かしながらも多くのダガーを相手取り、撃破数を重ねていく。

 

彼女もまた、エースの名に相応しい腕を誇り、雑兵など造作も無く屠れる程の実力を持っていた。

 

そんな彼女達が出れば、戦場に立つ兵士の士気は上がり、敵もそれに押されて、何れは退いてくれる、筈だった。

 

順調に戦線を押し返してゆく彼女達の耳に、別のMS反応が近づいて来ている事を告げるアラートが届く。

 

「新手・・・!?」

 

『ですが、どこから・・・!?』

 

慌てて周囲を見渡すが、何処にもそれらしき機影は見当たらないのだ、彼女達は背中合わせになりながらも索敵を続けた。

 

その時、彼女達の近くにいた一機のM1Aの肩部が何かに破壊された。

 

『うわぁぁっ・・・!!』

 

「『ユウさん!!』」

 

僚機の被弾に声を上げ、彼女達は損傷機を庇う様にフォーメーションを組む様に指示、自分達は辺りに散弾やバルカンを撃ちかける。

 

すると、それを避ける為か身を護るためか、その機体は空間の揺らめきと共に姿を現した。

 

「あれは・・・!!」

 

『鈴さんが乗っていた・・・!?色が違う・・・!!』

 

その黒き機体の姿に、二人は驚愕の声を上げた。

 

右腕に特徴的な盾を装備し、左腕にはクローの様な物を装備した漆黒の機体、それは彼女達が乗る機体達の兄弟機、GAT―X207 ブリッツ。

 

その機体は、嘗て彼女達と共に戦った異世界の者が駆った機体に酷似しており、彼女達の記憶にも深く刻まれたものであり、その特性も弱点も熟知していた。

 

「仲間を撃たせやしないよ!!」

 

『その機体を撃つのは偲びないですが、敵ならば致し方ありませんわね!!』

 

だが、今の自分達の仲間を傷付けるのならば、感傷を捨て、心を鬼にしてでも倒す、そう誓った彼女達は己の武器を構えて向かってゆく。

 

二対一ならば、コンビネーションプレイに磨きをかけてきた自分達ならば負けはしない、そう言った確信を以て、彼女達はブリッツを挟み込む様に展開しながらも攻撃を仕掛ける。

 

バスターがガンランチャーをばら撒き、それを回避した所にビームサーベルを構えたデュエルが突っ込み、斬りかかってゆく。

 

しかし、そんな単調かつオーソドックスな攻めでヤラれる程ブリッツのパイロットも愚鈍ではない、機体のスラスターを巧みに吹かし、見事に回避してゆく。

 

「中々やる・・・!!」

 

『ですが・・・!!まだ甘い!!』

 

だが、彼女たちの観察眼はそこに存在する僅かな綻びを見逃さなかった。

 

僅かだが、回避した際に一瞬だけ体制を立て直せていない瞬間があり、そこを突けば撃墜も可能だと判断した様だ。

 

「これで決める!!」

 

これ以上構っている暇は無いとばかりに、シャルロットはビームライフルとガンランチャーを連結させ、対装甲炸弾砲による高威力散弾を撃ちかけるべく構えた。

 

だが、それを妨害するかの如く、何処からか高出力ビームが飛来、シャルロットは何とか機体を動かす事で回避した。

 

「まだいたの・・・!?」

 

そのビームが飛んで来た方へ目を向けると、そこには四本のクローを広げ、ビーム砲の発射体勢を採っていたMAの姿があった。

 

『MA・・・!?火力だけで落とせるとでも・・・!!』

 

それを確認したセシリアは、デュエルのビームライフルを赤いMAに向け、トリガーを引いた。

 

だが、その赤い機体は瞬時にMSへと形状を変え、高い機動性であっさりとその光条を回避した。

 

二人は知らなかったが、その機体はGAT-X303 イージスであり、ブリッツと同じく彼女達の機体の兄弟機だった。

 

イージスは仲間であるブリッツを援護しようと、両腕にビームサーベルを展開、スラスターを吹かして彼女達に向けて突っ込んでくる。

 

「可変機・・・!?あんな機体まで持ってくるなんて・・・!!」

 

自分が見た事の無い機体の登場に歯噛みしながらも、シャルロットはこの状況をどう脱するべきかと思考を巡らせた。

 

ブリッツの対処法は兎も角、イージスへの対処法やデータは全く無く、手探りで戦闘を行わなければならない状況、一瞬でも気を抜けば殺される戦場で、そんな悠長にデータを採っている暇も無ければ退く事も出来ない。

 

援軍を頼みたいところだが、他の部隊は敵の大軍と交戦中、一夏もまた、戦場に出て来れるかどうか・・・。

 

だが、弱音を吐いている暇は無い、何としても生きのこり、守り抜いてもう一度彼の隣へ・・・。

 

背水の戦いは、まだ始まったばかり・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ジャック!!ソードカラミティを出せるか!?」

 

パイロットスーツに着替え、格納庫に入った一夏は他の整備士に指示を出していたジャックに叫ぶ様に尋ねていた。

 

自分の愛機が使えない事ぐらいは分かっており、今彼が使えるガンダムタイプはソードカラミティ以外にない状況だった。

 

「フォーソキウスが乗って行っちまったよ!ストライクも整備中だ、M1Aしか使える機体はねぇぞ!!」

 

「くそっ・・・!遅かったか・・・!M1Aじゃ今来てる敵に太刀打ち出来る訳ない・・・!!」

 

だが、それも今しがた発進したところだと告げられ、彼は焦りを隠せずに悪態を吐いた。

 

彼自身、自分の力量が機体性能の差を埋められる程高いとは夢にも思っていない。

それ故、防衛線には少しでも性能の良い、自分の特性と合致した使い勝手の良い機体を選びたかったのだが、その目論見は崩れてしまったのだ。

 

「何か・・・!何か使える機体は無いのか・・・!?」

 

こうしている間にも、仲間が撃たれているかもしれない、愛しき妻達が危険に晒されているかもしれないと考えると、彼の鼓動は早鐘を打ち、引っ切り無しに焦りを駆りたてて行く。

 

焦りに囚われる彼が顔を上げると、そこには彼を見下ろす金色の機体の姿があった。

 

「ゴールドフレーム・・・、コイツなら・・・!!」

 

ゴールドフレーム天ミナならば、アメノミハシラトップの性能を持つその機体ならば、どんな敵にも負けはしない、その力で、仲間を護れる。

 

そう考えた彼は、足早に天ミナの足元にあったリフトに駆け込んだ。

 

「一夏!?お前何やってんだ!?その機体は・・・!?」

 

彼がやろうとしている事に気付いたジャックは、驚愕の表情を浮かべながらも一夏を止めるべく駆け寄るがそれよりも早く、彼はリフトを上昇させてコックピットまで登ってしまった。

 

「俺がミナの代わりに出る!」

 

「バカ言ってんじゃねぇよ!ミナ様に叱られんぞ!!」

 

「分かってる!傷一つ付けやしない!説教なんて後で幾らでも受けてやるさ!!」

 

そういう問題じゃないと言いたげなジャックの制止を振り切り、彼はゴールドフレームのコックピットに滑り込み、OSを自分用に設定し直す。

 

「(後で戻せば良い、今は仲間を・・・!!だから、今だけは俺に力を貸してくれ、天!!)」

 

自分に出来る事は戦う事だけ、それでも、破壊だけを繰り返すよりは仲間を護るためと思い込めば幾らかは気が楽、そう考えているのだろう、彼は鋭い意志を瞳に宿し、機体の操縦桿を握り締めた。

 

「管制室、天ミナを出す!ミナに伝えておいてくれ!」

 

『了解しました、一夏卿、御武運を!!』

 

彼が管制室に報告する間にも、機体はカタパルトへと運ばれてゆき、発進の体制が着々と整えられてゆく。

 

ヘルメットを被り、バイザーを下ろした一夏は、カタパルトの先にある暗闇を睨み、敵を討つべく戦う者の表情を作った。

 

「今は戦う、今いる、大切な人達を護るために・・・!」

 

決意を籠めた言葉と共に、彼はカウントダウンを聞いた。

 

『進路クリアー、天ミナ、発進どうぞ!!』

 

「織斑一夏、ゴールドフレーム天ミナ、出るぞ!!」

 

決意を籠めて彼は行く、今だ癒えぬ苦しみと迷いを抱えたままに・・・。

 

sideout




次回予告

先に来た者と後に来た者、彼等の道は交わり始めた・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

来訪者 後編

お楽しみに~


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来訪者 後編

sideシャルロット

 

「この・・・!すばしっこい機体だね・・・!!」

 

アメノミハシラ付近の宙域で、僕とセシリアはブリッツともう一機の赤い機体を相手取っていた。

 

撃っては避け、斬りかかられては撃ち掛けの繰り返しだ、時間の感覚も狂い始めてる。

 

もうどれぐらい戦っているだろうか、相手の素早い動きに攻撃を決めきれず、徐々に本隊との距離が開いて行く。

 

それに気付いた時にはもう遅い、これが彼等の作戦だったんだ。

戦力を分断させて敵を叩く、分断作戦に見事に嵌められてしまった。

 

お陰で僕達二人は足止めを喰らって味方の援護に向かえない、ハッキリ言って歓迎できた状況じゃあ無いね。

 

「だけど・・・!!諦めるもんか・・・!!絶対に、僕が落とす!!」

 

一夏の苦しむ姿なんて見たくないし、何より、僕だって仲間が死ぬなんてもう御免だ!

だから、僕の大切な人達に害を為すのなら、容赦なんてしない!!

 

必殺の意志を籠めてビームライフルを撃ちかけても、ブリッツは回避して、その隙に赤い機体が格闘戦装備の無いバスターを狙って攻めてくる。

 

セシリアが何とかカバーしてくれてはいるけど、戦っている敵の相性があんまり良くないから、正直ジリ貧だ。

 

赤いMSもただ攪乱しているだけじゃなかった、時々MAに変形して突っ込んで来たり、高出力ビームを撃ってきたりしてるからね・・・!!

 

『シャルさん!このままでは・・・!!』

 

「分かってる・・・!だけど、退いちゃダメだよ!!」

 

そうは言っても、キツイかな・・・?

 

そう考えた時だった、デュエルの牽制を掻い潜った赤いMSが僕に体当たりしてきた。

 

「うわっ・・・!?」

 

しまった・・・!体制を崩された・・・っ!!

 

衝撃を何とか堪えながらも目をやると、そこにはビームライフルを構えたブリッツの姿があった。

 

このタイミングを狙っていたんだ・・・!!

一夏の事とか、いろんな事に気を取られすぎて周りを見てなかった・・・!!

 

そう気づいてももう遅い、次の瞬間に来るだろう衝撃に、僕は身体を強張らせた。

 

だけど、それが来る事はなく、代わりにブリッツを幾恵もの光が襲っていた。

 

「助かった・・・!?」

 

『一体何方が・・・!?』

 

僕を救ってくれたビームが飛んできた方向へ目を向けると、そこには漆黒の翼を広げた金色の機体の姿があった。

 

「『ゴールドフレーム!!』」

 

ミナさんだ・・・!ミナさんが僕を助けてくれたんだ!

 

頼もしすぎる援軍の登場に、僕とセシリアは歓喜したけど、次の瞬間にはそれすらも驚きに変わってしまった。

 

『シャル!セシリアも無事か!?』

 

「一夏・・・!?」

 

『どうしてその機体に・・・!?』

 

なんで一夏が・・・!?そもそも、戦える状態じゃなかったのに・・・!!

 

止めないと・・・!止めないと取り返しの付かない事になる・・・!!

 

『セシリアとシャルは守備隊の援護に回ってくれ、ここは俺が受け持つ!!』

 

「ダメだよ!今の貴方じゃ・・・!!」

 

『せめて私達も共に・・・!!』

 

『ダメだ!!』

 

なんでさ!?僕達じゃ一夏を助けられないって言う訳なの・・・!?

 

助け合いながらなら何とかなるかも知れないのに、それすらも否定するの?一夏・・・!!

 

『俺が、俺が全部吹っ切るために・・・!悪夢から逃げるためにも・・・!こいつらは俺独りで倒す!!』

 

悪夢・・・、一夏を苦しめる過去からの脱却・・・。

それが本音なの・・・?本当にそれが目当てなの・・・?

 

『頼むよ・・・、君達を失いたくは無い・・・、だから・・・!!』

 

『一夏様・・・。』

 

それが本音、か・・・。

大事に思ってくれるのは嬉しいけど、その事で彼に背負い込んで貰いたくないものもある。

 

だから・・・!

 

『分かりました、ですが、どうかお気をつけて・・・。』

 

「セシリア・・・!?」

 

なんで今の彼を独りにする様な事を・・・!?

今は僕達が傍にいないと不味いんじゃないの!?

 

『今はこれで良いのです、本当に危なくなったら、私達も戻りましょう?』

 

「・・・。」

 

彼の好きに・・・、か・・・。

 

確かに、彼自身の問題を解決できるのは彼しかいないんだから、僕たちがどうこう言っても無駄なことは分かり切ってたね・・・。

 

やっぱり、セシリアには敵わないなぁ・・・、僕は心配するだけしか出来なかったから・・・。

 

「分かった、行こう、セシリア!

 

『えぇ!』

 

今、彼に慰めも優しさも与えられないなら、せめて好きにさせてあげるのが女の役目かも知れない。

 

だから、今は彼に従おう。

 

だけど、必ず勝って・・・、一夏・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

連合本隊へと向かうデュエルとバスターを行かせまいとばかりにブリッツとイージスはビームライフルを構えるが、それを阻むかのように、俺はマガノシラホコを牽制代わりに射出、その卓越した技量で操作しながらも二機の攻撃を妨げる。

 

「悪いが、お前達は俺の相手をしてもらうぞ、仲間や妻を死なせる訳にはいかんのでね!!」

 

機体の感触を確かめる様にレバーを握ったり離したり、フットペダルの感触を確かめたりしながらも、俺は目の前の二機に視線を戻した。

 

「イージスとブリッツ・・・、まさかXナンバーが出てくるとはな・・・。」

 

あの二機はヤキン大戦の中期に撃破された筈・・・、それに、俺の記憶ではこの時期に再生機が存在したと言う事は無い。

 

それはつまり、目の前の二機がイレギュラー的存在で在る事は考えるまでも無い。

 

つまり、ここにあるブリッツとイージスは、この世界にあるべきではない物、俺達と同じ存在・・・。

 

「転生者・・・、なのか・・・?」

 

その可能性は十分に有り得る、もっとも、どっかのモノ好きが再生機を作ってないとも言い切れないけどな。

 

だが、俺には目の前の彼等が、俺と同じ境遇で別世界に連れて来られたのだと感じていた。

 

女神よ、アンタはまた誰かを狂わせたいのか、苦しめたいのか・・・?

所詮、俺達人間は神の遊戯の駒でしかないと?

 

彼等に罪は無い、そうは分かっていても、俺は憤りを堪え切れなかった。

 

「俺と同じ存在だったとしても・・・、罪の無い奴等だとしても・・・!俺の大切な人達を殺そうとするんなら・・・!!」

 

そう叫んだ直後、彼等は別々の方向から攻撃を仕掛けてきた。

 

ブリッツはトリケロスからビームサーベルを発生させ右側から、イージスは左側から斬りかかってくる。

 

後退する以外に避ける術はないがそこから先は防戦一方になっちまう、そんなのは俺の性にあわないんだよ!!

 

「見えているぞ!!」

 

ブリッツの斬撃をトリケロス改で受けながらも、イージスの腕にトツカノツルギを引っ掛ける。

 

切り結ぶ事が目的じゃない、敵のバランスを崩す事が目的だ。

 

イージス側のスラスターを全開にし、回転する事でイージスの体制を崩す。

 

「天ミナはこういうトリッキーな戦いが出来るんだよ!」

 

どうやら、目の前の二機はこういう搦め手には弱いらしいな。

 

戦い慣れしているのならば、今やったみたいな技に引っ掛かる訳がない。

 

「そこっ!!」

 

そのままの勢いでブリッツのトリケロスを弾き、胴に蹴りを叩き込んで吹っ飛ばす。

 

その隙に体制を立て直したイージスに近付き、ツムハノタチを引き抜いて僅かにフレームが露出する右腕の関節を突く。

 

PS装甲で覆われてなきゃ、他のMSとなんら変わらん防御力しかないんだからな。

 

破壊までは行かなかったが、イージスの右腕はスパークを散らし、もう動かす事すらままならないだろう。

 

「もう一撃・・・っ!?」

 

追撃しようとしたが、背後からブリッツがランサーダードを撃ちかけてきたため、機体を反転させつつもシールドで弾きながらも二機と距離を取る。

 

「素人かと思っていたが、そうでもないらしい、いずれは強くなるだろう・・・、惜しいな・・・。」

 

その力、味方に引き込めれば心強い存在となってくれただろう・・・、戦場以外で会えていれば、良かったのにな・・・。

 

だが、今は敵だ、容赦はしない!!

 

ブリッツへの牽制としてビームライフルを撃ちかけ、マガノシラホコでイージスとの距離を引き離す。

 

こうやって連携を取る暇さえ与えなければ数の差などどうと言う事は無い。

 

味方の危機に、イージスは残った左腕と両足にビームサーベルを展開、一気に俺を仕留める積りなのだろう、猪突猛進的な勢いで迫ってくる。

 

「手負いから先に仕留める!恨むなら恨んでくれていい・・・!!」

 

だが、俺もやられる訳にはいかない、マガノシラホコを戻しながらも天ミナ最大の特徴であるミラージュコロイドを発動し、姿を隠す。

 

ブリッツから発展させたコイツなら、不意を突くにもちょうど良い、一気に終わらせる!!

 

AMBACを使い、慣性で機体を動かしながらも、周囲を警戒しているのだろうか、ビームサーベルを無茶苦茶に振り回すイージスの右側に回り込む。

 

「悪いがトドメだ!!」

 

そのままマガノイクタチを展開し、イージスを捕縛すると同時にミラージュコロイドを解除、放電を開始した。

 

既にセシリアとシャルと交戦した後だ、そんなにエネルギーも残っていないだろう。

 

同時にイージスをブリッツの方に向け、攻撃できない様な態勢を取る。

フレンドファイアなんてやりたかないだろうからな。

 

『くそっ・・・!!離せ・・・!離せよぉ・・・!!』

 

接触回線が開かれてしまったのだろうか、敵のパイロットの女の声が聞こえてきた。

 

嫌なもん聞いちまったな・・・、今から殺す相手の声なんて・・・!!

 

だが、仕方ないんだ・・・!今は、仕方ないんだっ・・・!!

 

そして、間も無くイージスのエネルギーは底を突き、PSダウンを引き起こした。

 

「許せ・・・、許せ・・・!!」

 

目の前にいるのは人間じゃない、MSだ・・・!!

俺の敵なんだ・・・!!

 

断末魔を聞くのを無意識に拒んだのだろう、俺はイージスをブリッツの方へ突き飛ばしていた。

 

これで、終わりだ・・・!!

 

ツムハノタチを左手に握り締め、俺はイージスのコックピット目掛けて突き出そうと操縦桿を動かした。

 

だが・・・。

 

――どんな理由でも、人殺しが許される訳がないだろ!!――

 

「・・・っ!!」

 

そんな俺の耳に、この世界にいない男の声が耳に届く。

 

人殺しは許される事の無い罪・・・、俺はそれを犯し続けている、何人殺そうともう代わり映えはしない。

 

だが、殺さなくて済むのなら、俺と同じ存在を消さなくてもいいのなら・・・!!

 

「うぅぉぉぉぉ・・・っ!!」

 

機体に制動を掛けるのは間に合わん・・・!なら、軌道をずらす事ならば・・・!!

 

必死に操縦桿を動かし、コックピットからずれた切っ先はイージスの背面スラスターを破壊するだけに留まった。

 

そのままの勢いでイージスに組み付き、トリケロス改の銃口をコックピットに向けつつもオープンチャンネルを開く。

 

「ブリッツのパイロット、聞こえているなら投降しろ・・・、さもなくばイージスのコックピットを焼く!イージスのパイロットも妙な事をするんじゃないぞ、死にたくないんならな・・・!!」

 

応じてくれ・・・!でないと、この躊躇いが無駄になっちまうだろうが・・・!!

 

息詰まる様な時間がどれほど続いた事だろうか、アメノミハシラの方で瞬いていた光が目に見えて少なくなり、母艦がいるであろう方へと撤退していく様が見受けられた。

 

どうやら、彼等を見捨てたのだろう、いや、もしかすると、この二機のパイロット達は連合軍ですらないのかもしれない。

 

だったら、命を無駄になんて出来んだろう、自分達を見捨てた連合軍のためなんかにはな・・・。

 

ブリッツのパイロットも状況を理解してくれたのだろうか、トリケロスを手放し、降参の意思を示すかのように手を上に挙げていた。

 

「よかった・・・、これで・・・。」

 

殺さずに済んだ、そのれだけの思いが身体を支配していたのだろうか、俺の身体から張りつめていた緊張が抜けていくのが分かった。

 

『一夏卿!ご無事でしたか!?』

 

そんな中、連合の本隊と交戦していた部隊の内、もっとも損傷の少ないだろう機体が数機、俺の方に近付いてくるのが確認できた。

 

おっと、いけねぇいけねぇ・・・、こんな緩みきった顔、見せられんよな・・・。

 

「あぁ、俺は何ともない、味方の損害状況は?」

 

『小破二機と中破が一機のみです、死者は出ていません。』

 

良かった・・・、何とか護れたんだな・・・、大切な人達を・・・。

 

「そりゃ良かった、こっちに寄ったついでだ、コイツ等を連行しろ、機体共々だ。」

 

『はっ!承知しました!!』

 

寄って来た内の一機にイージスを渡しながらも、俺はアメノミハシラへと連行される二機の後姿を見送った。

 

さてさて、何とか護れたのは良いが、このまま帰ったら間違いなく誰かしらに説教されるよなぁ・・・。

 

自分で出てきたとは言っても、気が重いぜまったく・・・。

 

たけどまぁ・・・、そうやって俺の事を思ってくれてるんなら、良いかな・・・?

 

「さてと・・・、俺も帰るかな。」

 

こんな俺を案じてくれる人達の温かさに触れながらも、俺は天ミナをアメノミハシラへと向けた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「身柄確保ぉ!暴れんじゃねぇぞ!!」

 

ブリッツのコックピットから出てきたパイロットの手に手錠を掛けながらも、保安兵に交じって銃を構えるジャックは、ブリッツのパイロットを連れて独房までの通路を進んでゆく。

 

「おいコラ!妙なマネすんなよ!?捕虜は丁重に扱えーっ!!」

 

その隣では保安兵に腕を掴まれ、ジタバタと暴れるイージスのパイロットの女性が歩いており、格納庫内の空気は緊張で張りつめていた。

 

それもそうだ、如何に拘束されているとはいえど、敵が自分達の内部にまで入ってきているのだ、何時暴れられても不思議ではないため、保安兵達は密かに銃を構えている様な状態なのだ。

 

「おとなしくしてろ、撃たれるぞ。」

 

「ちくしょう・・・!アタシが負けるなんてぇ・・・!!」

 

男性は悔しそうに唇を噛む女性を宥めながらも、周囲を窺うかのように辺りを見渡していたが、逃げ出す隙も無い事に気付いたのだろう、諦めた様にタメ息を吐いていた。

 

そして、彼等はそのまま格納庫から去って行き、緊張が解れたのだろうか、その場にいた者達は何事も無かった事に安堵していた。

 

「いやぁ・・・、何にも無くって良かったねぇ・・・。」

 

「そうですわね・・・、まさかあの二機を鹵獲するなんて思いもしませんでしたわ。」

 

それぞれの機体から降りたシャルロットとセシリアは一触即発の雰囲気が解かれた事に安堵しながらも、何処か困惑の色を隠せずにいた。

 

それもその筈、先程連行されていったパイロット達は、さっきまで彼女達と殺し合いをしていた者達だったのだ、それを何故、彼は捕える様な真似をしたのだろかと言いたげな様子だったのだ。

 

そんな空気の中、天ミナのコックピットから降りてきた一夏が彼女達の傍に歩み寄り、ヘルメットを脱ぎながらも彼女達の目を、申し訳なさそうに見詰めていた。

 

「・・・、どうしてあんな事をしたのかって顔だな・・・、分かるよ。」

 

あまり問い詰めないでくれと言わんばかりの表情だが、そこには何か確信めいた想いがあるのだろう、そんな色が見て取れていた。

 

「一夏様・・・?」

 

「もう、良いの・・・?」

 

出撃前にあった、何処か思い詰めていた様な色はその影を潜め、今はやるべき事をやるだけと言う様な気概だけがあった。

 

「ん、あぁ、今は考えなくちゃいけない事があるんだ、ウジウジしてる暇なんてないよ、だから、セシリアとシャルには俺を支えてもらわないとな?」

 

まだ疲労の色は残っているものの、その瞳は生気を取り戻しつつあった。

 

「はい・・・♪」

 

「勿論だよ♪」

 

そんな彼の姿を喜び、二人は微笑んで顔を見合わせた後、彼に向けて頷いていた。

 

「よし、早速だけど耳貸せ。」

 

「はい?」

 

「良いけど・・・?」

 

彼女達に微笑み返した次の瞬間、彼は表情を引き締めながらも彼女達を自分の傍に寄せながらも呟いた。

 

「(アイツ等、俺と同じ転生者かもしれん。)」

 

「「えっ!?」」

 

唐突な言葉に、セシリアとシャルロットは驚きの声を上げていた。

 

転生者、その単語は一夏の口から語られ、彼も、そして自分達自身も転生者と呼ばれる存在であると知覚していたため、まさか、自分達以外の転生者が同じ世界に現れるとは思っても見なかったのだろう。

 

「とは言え、まだ確証はない、だけど、もし俺が最初に居た様な世界からの転生者なら、この絶世の美女の顔を知っている筈だしな、聞く価値はあるだろう。」

 

「ですが・・・、それを確かめてどうなさる御積りですか?」

 

確証は無いと言いながらも、何処か確信めいた何かを抱いている様だった。

 

それを不思議に思ったのだろう、セシリアは彼がやろうとしている事に合点がいかずに、何をするのかと尋ねていた。

 

「まぁ、そんなに難しい事じゃないさ、ウチの戦力増強にも良い機会だしな?」

 

「あぁ・・・、うん、何となく分かったよ、ダシに使われてるみたいで癪だけど、一夏の頼みなら仕方ないかな?」

 

戦力増強、その言葉に彼の真意を酌み取ったのだろう、シャルロットは納得の表情を浮かべながらも何処か呆れている様でもあった。

 

何時から自分の旦那はこうも情に脆くなってしまったのか、そして、そんな彼により一層惹かれている自分も、随分変わったなと苦笑していた。

 

だが、こういう感覚も悪くないと思えるのも、また事実だったのだ。

 

「さてと、頑張ってみるとしますかね?」

 

何かを決心して、彼等は連れ立って格納庫を後にするのであった。

 

sideout




次回予告

捕らわれし者達に差し伸べられた救いの手は、彼等を何処へ誘うか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

先達として

お楽しみに!


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先立ちとして

noside

 

「くそぉ・・・!こんなトコに閉じ込めやがってぇ・・・!!とっとと出せよぉ!!」

 

アメノミハシラの監房区画から、鉄格子を激しく叩く音や、女性の怒鳴り声が響き渡った。

 

鉄格子の感覚はかなり隙間は狭く、外部からも様子は窺う事が出来たが、内部からの脱出はどう考えても不可能に近かった。

 

「やめろ、玲奈、大人しくしていろ、でないと本当に次は無いぞ。」

 

鉄格子を乱暴に殴り続ける女性を宥める様に、質の悪いベッドに腰かけた男がタメ息を吐きながらも制止していた。

 

「けどよ宗吾!このままじゃ何にも出来ないじゃないか!アタシはそんなの嫌だぜ!?」

 

「分かってる、だからと言って騒いでも誰も相手にしてくれんだろうに。」

 

玲奈と呼ばれた女性は、自身が宗吾と呼ぶ男性に食って掛かるが、彼は喧しいと言わんばかりの表情で聞き流し、大人しくしているべきだと諭した。

 

確かに、これ以上騒いでいたら何時銃弾が飛んできてもおかしくは無いのだ、そうなれば間違いなく、自分達にこれから先と言う概念は無くなる、だからこそ、今は大人しく、機を窺うだけで良いと言いたいのだろう。

 

「物分りの良い男で良かったよ、話し甲斐がありそうだ。」

 

「「っ!?」」

 

そんな時だった、彼等を見ていたかのような声が聞こえ、二人は身を強張らせた。

 

自分達をここに連れて来た衛兵の声ではなく、別の若い男の声だった。

 

幻聴などではなく、耳を澄ませれば近づいてくるような足音も聞こえてきた。

それも一人の物ではなく、複数人の足音だった。

 

そして、鉄格子の外に、その人物達は姿を現した。

 

「よぉ、気分はどうだ?」

 

「「な・・・っ!?」」

 

姿を現した三人の姿に、彼等は自分達の目が信じられないとばかりに驚愕していた。

 

一人は癖のある黒髪を持った男性、もう一人は長いブロンドにウェーブを掛けた女性、そして、最後の一人は濃い金髪を背中で括った女性だった。

 

その者達の顔を、彼等は見た事があった。

 

「織斑一夏・・・!?セシリア・オルコット・・・!?」

 

「それに、シャルロット・デュノアまで・・・!?どうして・・・!?」

 

宗吾と玲奈は、自身達の記憶にあった名を口に出しながらも、本当にその人物かと尋ねる様な声色でもあった。

 

そう、目の前の三人は、彼等が以前読んでいた小説、インフィニット・ストラトスの登場人物であり、この世界には存在しない筈の者達だったのだ。

 

「やはり、俺達の顔を知っている、か・・・。」

 

「これで、一夏様の御考えが当たりましたわね。」

 

彼等の反応が予想通りの物であったからか、一夏は何処か憐憫にもにた表情を浮かべ、セシリアは納得の表情を作っていた。

 

「なんの事・・・!?いや、そもそも、なんでアンタ達がこの世界に・・・!?ここはガンダムSEEDの世界じゃないの!?」

 

彼等の反応に、玲奈は今だ冷静さを取り戻せていないのだろう、困惑に染まった声で答えを求めている様でもあった。

 

いや、困惑と言うよりは、彼等が何もかも見透かしている様なある種の不気味さに怯えているのかも知れないが・・・。

 

「そうギャァギャァ吠えるな、俺達の事も含めて教えてやるから黙ってろ、転生者。」

 

「「なっ・・・!?」」

 

玲奈の叫びに耳でも痛いのだろうか、彼は顔を顰めながらも、自分達しか知らない単語を口にした。

 

「なんで・・・!?」

 

「どうしてアンタがその事を・・・!?」

 

彼の言葉に、自分達の正体が見破られた事に驚いているのだろう、宗吾と玲奈は目を見開いて尋ねていた。

 

転生者とて、外見はこの世界にいる人間と何ら変わり無く、見破る事は極めて困難であるため、こんなにも一瞬で見破られるとは夢にも思っていなかったのであろう。

 

「俺も・・・、いや、俺達も転生者だから、だ・・・、大方、あのピンク髪の女神に転生させられた、だろ?」

 

「と言っても、僕とセシリアはその女神様には在ってないんだけど、多分前の世界で一夏と出会ってたからここに来れたんだろうけどね。」

 

「そんな・・・。」

 

「俺達だけじゃ、無かった、のか・・・?」

 

そんな彼等の問いに、何処か後ろめたい想いでもあるのだろうか、一夏は表情を翳らせながらも頷き、それを見ていたシャルロットも彼を案ずるような視線を向けながらも補足するように語っていた。。

 

「俺は元々、織斑一夏という人間じゃなかったが、前の世界に転生する時に一夏になった男だ、だから、この世界は三度目の世界、なのさ・・・。」

 

何処か苦しげな表情を浮かべながらも、彼は自分の現在に至るまでの経緯を語った。

 

事実を伝えるだけでなく、そこには、何処か自分を信じて欲しいと言わんばかりの色が滲み出ていた。

 

「一夏・・・、アンタは・・・?」

 

それに気付いたのだろうか、宗吾は僅かに彼を案ずるような表情を浮かべていた。

 

傭兵をやっているとは言え、根は善人なのだろう、その言葉からは悪意を感じる事は出来なかった。

 

「俺の事は良い・・・、今はお前達にある相談をしに来た、それだけでも聞いてくれ。」

 

「あ、あぁ・・・、分かった・・・。」

 

その表情に気付いたのだろう、彼は気にするなと言う様な笑みを浮かべながらも本題を切り出す事にしたようだ。

 

重要な話だと直感で察したのだろうか、玲奈も押し黙って一夏の言葉の続きを待っていた。

 

「お前等、ロンド・ミナに仕えろ、それだけを言いに来た。」

 

「「はっ・・・!?」」

 

彼が発した、予想だにしなかった言葉に、彼等は素っ頓狂な声を上げて固まった。

 

いや、それよりも怪訝の念の方が強いのかもしれない。

何せ、彼等二人はついさっきまで殺し合いをやっていた間だ、それを自分達の懐に取り入れようなどまずもって思わないだろう。

 

「おいおい、その顔は何だ?俺が血迷ったとでも言いたげだな?」

 

呆れた様に言う一夏に、いや、その通りだからと言いかけた宗吾と玲奈だったが、ここは敢えて突っ込まない事にしたようで、口を噤んで言葉の続きを待った。

 

「聞くが、お前等、これから先、生きていける算段、有るか?」

 

「「・・・っ!」」

 

表情を真剣そのものに戻した一夏の見透かした様な言葉に、二人は痛い所を突かれたと言わんばかりに身体を震わせた。

 

転生者である彼等の能力値なら、経験を積みさえすればどんな敵にも負ける事は無いと、心の何処かで考えていたのだろう。

 

だが、そんな浅はかな考えは、今回の戦闘で無情にも打ち砕かれてしまっていたのだ、今の彼等には、自分達の未来がどんどん暗くなるような錯覚すら抱いているのだろう。

 

「天ミナに乗っていたとはいえ、俺如きに負けるお前達程度じゃぁ、到底生き残れないぞ?特に、今の機体のままでは、な・・・?」

 

「アンタがゴールドフレームに・・・!?そんな・・・!!」

 

自分達を下した相手が目の前にいる男だとは思いもしなかったのだろう、玲奈は目を見開いて驚愕し、次の瞬間には気落ちしたかのように俯いてしまっていた。

 

同じ転生者でも、これほどまでに力量の差が出てしまっているのだ、悔しくないと言えば嘘になってしまうだろう。

 

「そうだ、だから、今のお前達では力不足も甚だしい、此処を生きて出れてもすぐに死ぬ、俺達も下手をすればそうだったからな、よく分かる。」

 

「だから・・・、ここの軍門に下って、生き残れって事か・・・?」

 

「そうだ、理解が早くて助かる、俺の感覚も鈍ってなくて良かったよ。」

 

彼の言いたい事が分かって来たのだろう、宗吾は呻く様な声で尋ね、一夏はそれを肯定する様に頷いていた。

 

だが、そうは分かっていても、宗吾は即決する事は出来なかった。

 

自分達がこの世界に来てからの日は浅いが、それでも何処かの軍に着く事も出来る期間は当然ながらあった。

 

それをしなかったのは、一重に自分達の自由を侵されたくなかったがためである。

 

そのため、連合やザフト、その他の勢力にも着かなかったのは、思想的な面もあっただろうが、自由が何よりも物を言っていた。

 

だからこそ、生き残るためとは言え、強力な後ろ盾が付くとは言えど、その申し出には素直に応じる事が出来ないのだろう。

 

それを見抜いていたからこそ、一夏は彼等に無理強いはしなかった、全て自由に決めろと言いたいのだろうか・・・。

 

「ま、すぐに決められないってのは分かる、だから、暫く待ってやるよ。」

 

だからこそ、今は時間を置く必要があると考えた彼は、話を切り上げて持って来ていた台車に乗せていたトレーに盛られた食事の数々を、小窓から中に差し入れた。

 

「時間を取らせた礼だ、毒なんざ入ってないから安心して食え、考えるのはその後で良いさ、それじゃ、失礼するよ。」

 

「待ってくれ!!どうしてここまでしてくれるんだ・・・!?アンタは、何なんだ・・・!?」

 

もう用は済んだとばかりに、彼はセシリアとシャルロットと共に去って行こうとしていたが、玲奈は堪らずに呼び止めていた。

 

自分達と殺し合いをしていたのにも関わらず、それでも尚、自分達を救おうとしてくれる彼の行動の本意が分からなかったのだろう、困惑が滲んだ声で、彼女は彼に問うた。

 

「俺は・・・、護るべき人を護れなかった・・・、果たすべき責任から逃げた、弱い男さ・・・。」

 

立ち止まり、彼女の問いに答えた彼の表情は、痛みを堪えているかの様に険しく、それでいて、悲哀に満ちている様にも見えた。

 

その意味が分からなかったのか、彼女は首を傾げながらも彼を見ていた。

 

もっと具体的な返答を期待していた為に、期待外れ的な落胆もあるのだろうか・・・。

 

「・・・、良い返事を期待している。」

 

見せたくない物を見せてしまったと言う様に、彼は再び背を向けてその場から去って行ってしまった。

 

残された二人は、暫く顔を見合わせた後、どうするべきかと言う様に押し黙っていた。

 

「・・・、良い返事ったって・・・、アタシらは・・・。」

 

自分達は敵で、アメノミハシラを落とそうとしていたのだ。

 

そこに私怨は無かったとしても、殺されて当然の行為をしていた訳だ。

 

だからこそ、彼が自分達に救いの手を差し伸べてくれるのか、理由が欲しかったのだろう。

 

「まず・・・、飯を食ってから考えよう、彼もそう言っていた事だしな・・・。」

 

困惑したままの玲奈を置いてけぼりに、宗吾は一夏が持ってきた食事に手を伸ばし、スープから口に含んだ。

 

「う、うん・・・、そうだよな・・・。」

 

彼のスタンスから、今は考えても仕方のない事だと割り切ったのだろう、彼女は考える事を止め、食器に並べられていたホットドッグを手に取り、口に含んだ。

 

「美味しい・・・。」

 

こんなに暖かい食事を口に含んだのは何時振りだろうか。

 

彼女達は、転生してからと言うものこんなにゆっくりと食事を採った覚えがなかったのだ。

 

忘れつつあった感覚を、生きることだけに執着していた中で薄れていた感覚に、玲奈は気付かぬ内に涙を溢していた。

 

その表情からは、先程までの切羽詰まった様な焦燥は何処にも無く、ただ安堵する様な色だけが窺えた。

 

「あの野郎・・・、何処まで馬鹿なんだよ・・・、ホント・・・。」

 

「そうだな、大馬鹿野郎だよ、アイツは・・・。」

 

そんな玲奈を慰める様に、宗吾は彼女の頭を撫でつつも、考えを止めてはいなかった。

 

「(アイツの下に着けば、今の生活からは脱却出来る、か・・・、それも悪くないな・・・。)」

 

彼が求める自由も、ここでならばある程度は保証される上に、機体の強化にも打って付け、これ以上ない条件だった。

 

「(俺達はまだ生き返ったばかりだ・・・、そう簡単に死んで堪るモノか・・・、俺が頭下げるだけで良いんなら・・・!)」

 

自分達が生き残るには力を着けるには、この方法だけが残されている。

彼の中で、答えは決まりつつあった・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「一夏様、何故あの御二人を引き込もうとなさるのですか?」

 

監房があった区画から、私達の部屋がある区画へと向かう道すがら、私はどうしても疑問に思っていました事を、一夏様に尋ねていました。

 

戦力増強のためだと仰っておられましたが、それ以外の想いがある様な気がしてなりません。

 

それがハッキリしないのが、何と言えば良いのか分かりませんが、もどかしく感じてしまうのです。

 

だからこそ、分かり易く答えを示して欲しいと思ってしまっている私も、まだまだ妻として未熟と言う事でしょうか・・・。

 

見れば、シャルさんも気になっている様で、一夏様の御顔を覗き込んでおられました。

 

「ん・・・、君達になら話しても良いか、な・・・、こんな事言うと、恥ずかしいけどさ・・・。」

 

恥ずかしい、ですか・・・、一体どのような理由なのでしょうか・・・?

 

その意味が測れない以上、聞かねば分かりませんわね。

 

「ただ、単純に助けたかったんだよ、アイツ等を、俺と同じ人間を、な・・・。」

 

「それだけ、なの・・・?」

 

ただ助けたかったから、そう呟かれた一夏様の御言葉に、シャルさんは何処か拍子抜けしたかのように呟いておられました。

 

ですが、そのお気持ちはよく分かります、何故、助けたいと思われたのか、私にも分からなかったのですから。

 

「俺達、いや、俺は前の世界で、色んな人の想いを無碍にしてきてしまった・・・、俺を想って止めようとしてくれた秋良や雅人、俺を想って力を貸してくれたダリル達、彼等は俺をずっと想ってくれていた・・・。」

 

何処か懐かしげに、それでいて何処か寂しげに語り始めた一夏様の御言葉は、何処か懺悔の様にも聞こえて参ります。

 

ですが、俺達と言わない辺り、私達に気を遣って下さっているのでしょうか・・・?

 

「なのに、俺は彼等を裏切った・・・、死ぬ事で責任から逃げた・・・、導く事も、共に生きていく事すらも捨てて・・・。」

 

「一夏様・・・。」

 

そう、私達は逃げていたのです、その世界で果たすべき責任から、なすべき事から・・・。

 

私も、今更ながらそれを悔いる事があります、やり残した事、償わねばならなかった事・・・、数え切れぬ事が浮かんでは、手から零れ落ちてしまう様な感覚すらありました・・・。

 

一夏様は、私達にも苦しみを与えてしまったと思われてしまっておられるのでしょう、それ故に、私達の何倍も傷付いておられるのですね・・・。

 

「だから、この世界に来たからには、俺が救えるモノは救いたい、伸ばされた手を、もう見捨てたくなんてないんだ、だから、俺はアイツラを助けたい、死なせてしまった奴等への、せめてもの償いとして・・・。」

 

償いですか・・・、咎人である私達には、当然の事ですわね・・・。

 

「ははは・・・、らしくないって、自分でも分かってるさ、そう思うだろ?」

 

恥ずかしげに、人差し指で頬を書きながらも、一夏様は照れ笑いを浮かべておられました。

 

らしくない事なんて、何処にもありませんわ。

私達に、決まりは無いんですもの。

 

「いいえ、それも貴方様らしいお考えですわ。」

 

「恥ずかしくなんてないじゃない、一夏らしい、優しさじゃないか。」

 

私と同じ事を考えておられたのでしょう、シャルさんも、そんな事は無いと言う様に頷かれ、力を籠めてそうするべきだと仰られておりました。

 

どうやら、情に脆くなったのは一夏様だけでは無かったようですわね・・・。

 

私も、シャルさんも、誰かを救いたいと、共に生きたいと思える様になれたのですね・・・。

 

なんだか、漸く人間に戻れたようで、むず痒いものもありますが・・・。

 

「ははは、優しい嫁さん貰えて、俺は幸せだよ、セシリア、シャル、ありがとう。」

 

そんな私達を見て、一夏様は、私とシャルさんの唇に口づけを下さいました。

 

「さっ、ミナのトコに謝りに行ってくる、先に部屋に戻っててくれ。」

 

「はい、行ってらっしゃいませ。」

 

「早く帰って来てね~。」

 

私達から離れ、ミナさんが居らっしゃる部屋へと向かう一夏様を見送った後、私達は静かに顔を見合わせて頷き合い、自室へと戻るべく歩みを進めました・・・。

 

sideout




次回予告

自分達に向けて差し伸べられた手を取る時、彼等は共に戦う事を決める。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRY X INFINITY

天空の誓い

お楽しみに。


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天空の誓い

side一夏

 

翌朝、俺はフォーソキウスを伴って監房へと出向いた。

 

取り立てて特別という程でも無い、ただ単に、答えを聞きに行くだけだ。

 

セシリアとシャルには部屋で休んで貰っている、連戦に連戦を重ねてる訳だ、少しは休ませてやらないと身体に障る。

 

まだまだ時期では無いとは言えど、いずれは俺の子を宿す事になるんだ、何かあっては俺は本当に立ち直れんやも知れん。

 

だから、二人には気を配ろう、今までも、これからも苦労をかけるんなら、俺がしっかりしないとな。

 

「一夏様、本当によろしいのですか?」

 

「構わん、俺が頭下げて済むんなら、な。」

 

「そうですか。」

 

ははは・・・、相変わらず無愛想な奴だな・・・、慣れきってるとは言っても、もう少し反応があっても良いんじゃないのか?

 

ま、それを望んだ所で、今の彼等にはそれすら叶わないからな・・・。

 

けどまぁ・・・、今はそんな事を気にしてる場合じゃないよな、ソキウス達に気を回すのは、またの機会にさせてもらうとしようか・・・。

 

そんな事を考えている内に、俺達は目的の場所まで辿り着いた。

 

「よぉ、昨日ぶりだが、気分はどうだい?」

 

「一夏、か・・・?」

 

俺に気付いたんだろう、宗吾とかいう男がこちらに向き直り、目の下に隈を作った、あまり眠れていない様子で俺を見ていた。

 

まぁ、捕えられてる状況下ではそんな簡単には眠れやしないだろう、俺にも経験はある。

 

「良くはなさそうだな、寝れなかったのか?」

 

「アイツにベッドを占領されててな・・・、床じゃ寒くて寝てられんさ・・・。」

 

俺の問いに苦笑しながらも、ベッドの上で爆睡する玲奈を指し、彼は大きな欠伸をしていた。

 

「ベッドを一つしか用意してなかったのは失念していたな・・・、すまない事をした、次はちゃんとした部屋を用意する。」

 

「期待させてもらうよ、で・・・、俺はどうすればいい・・・?」

 

おっと、世間話を暫く続けてから切り出すつもりだったけど、まさか向こうから聞いてくるとはな。

 

まぁ、答えてやらないと、俺が来た意味も無いしな。

 

「答えを聞きに来た、ミナに仕えるか、このまま死にゆく旅に出るか・・・、選ぶ権利はお前にある、俺は強制はしないさ。」

 

もう答えは出ているんだろうが、一応の確認だ、それぐらいしておかないと、彼の意志を尊重出来やしないからな・・・。

 

「答えは出たさ・・・、生きていてこそ自由がある、その通りだよ。」

 

「なるほどな、ある程度の制約を受け入れる代わりに生き残る、賢明な判断だ。」

 

なるほど、制約があってもやりたい事は出来るって気付いたのか・・・、俺には出来なかった事だよな・・・、なんか、羨ましいよ。

 

「だから、俺達をアメノミハシラに仕えさせてくれ、仇を為した以上の戦果を以て、俺達を受け入れるアンタに恩を返させてくれ。」

 

「俺の事なんて考えなくていい、アメノミハシラの為を考えろ、それだけでいい。」

 

彼の想い、仇を為した以上の働きをしてくれるという言葉を、俺は信じてみようじゃないか。

 

「フォーソキウス、カギを開けてくれ、ミナのトコに連れて行く。」

 

「かしこまりました。」

 

ソキウスに指示を出し、彼が牢屋のカギを開けると同時に中に入り、彼の手に一応手錠を掛けておく。

 

不意打ちでも喰らったら堪ったもんじゃない、これぐらいの用心はさせて貰わないとな。

 

「すまない、ロンド・ミナに忠誠を誓う所を見るまでは、手錠を掛けさせてくれ、他の者に示しがつかないからな・・・。」

 

「分かってる、あぁ、忘れる所だった、玲奈を起こさないと・・・。」

 

あぁ・・・、そう言えばいたな・・・、完全に忘れる所だった。

 

「起きやがれ、寝坊助女。」

 

ベッドのシーツを掴み、強引に引っ張る事で床に落としたが、勿論ダメージは少ないように配慮してある。

 

「ふぎゃっ!?な、何!?地震!?」

 

飛び跳ねる様に置きあがり、辺りを見渡す女の姿も、ある意味滑稽だが、まだこの世界に慣れ切っていない証と思うと、俺も初心を思い出せるような気がするな。

 

「宇宙ステーションで地震が起きる訳ないだろ・・・、立て、ミナのトコに行くぞ。」

 

とりあえず立たせながらも彼女にも手錠を掛け、ソキウスに連れられた宗吾と共に歩き出す。

 

「本当に、俺達を受け入れてくれるのか・・・?」

 

「ミナに助命嘆願をする、俺も出来うる限りの弁護をすると約束しよう。」

 

「放置されてた間に話が進んでる・・・!?説明を要求する~!!」

 

喧しい女だな・・・、そんなもん、後で幾らでもしてやる、だから今は黙って付いて来るだけで良いのにな・・・。

 

まぁ、俺と同じ境遇だと説明すれば、ミナも受け入れてはくれるだろう。

 

だから、俺は何としても彼等を救おう、それが俺に出来る、償いであるのなら、な・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ミナ、彼等と謁見して話を聞いてやって欲しい、俺からも頼む。」

 

宗吾と玲奈を連れて部屋に入った一夏は、開口一番に二人の話を聞く様に、自身の主であるロンド・ミナに向けて頭を下げた。

 

「尋ねて来て早々とは、お前も忙しい男だな。」

 

そんな彼の焦りを見抜いていたのだろう、彼女は薄く笑みながらも話を聞く様な態度を見せながらもからかう様に尋ねていた。

 

「そんな事、ねぇよ・・・、だが今は・・・!」

 

自分のせっかちな部分を見透かされ、彼はバツが悪そうに顔を顰めながらも、今は自分が救うべき存在の為に、その為の姿勢を見せる事が大切なのだとばかりに、彼は言葉を続けようとしていたが、ミナはそれを遮るかのように語り始めた。

 

「彼等があの二機のパイロットである事は私も承知している、あの機体と共に彼等が我々の力となってくれるやもしれぬと感じている、だが、それ以上に不信もある。」

 

「分かってる、だけど、それ以上に信じられる奴等だ、昨日話してるだけで分かったんだよ。」

 

ミナも強き力を取り込めることには賛成している様だったが、いざ懐に入れて裏切られれば堪ったものではないのだろう、その言葉からは、一城の主としての責任からくる不信感がアリアリと伝わってきた。

 

その事は彼も承知してはいる、だが、みすみす救える命を手放したくないと考えている彼は、それを考慮して尚、食い下がった。

 

「何故そう信じられる?何故そう思える?その根拠を示せ、そうでなければ納得出来ん。」

 

「それは、彼等が俺と同じ人間だからだ、生き返ったばかりのヤツを死なせる訳にいくか。」

 

彼女の目を真っ直ぐ見据えながらも、彼は秘密を明らかにしながらも、二人を保護する必要性を語った。

 

その瞳には迷いや邪念は何もなく、ただ、純粋な想いだけが宿っていた。

 

そんな彼の目を見詰めながらも、彼女は真意を酌み取ろうとしている様で、何もアクションを起こす事は無かった。

 

「(なんだ・・・、この異様な雰囲気は・・・!)」

 

「(肌が痺れる様な睨み合い・・・!これが本物の・・・!!)」

 

彼等の間に流れる空気の質が変わった事を察した宗吾と玲奈は、自分達が感じた事の無いほどに痺れる緊張に固唾を呑んだ。

 

まるで、隙を見せれば次の瞬間には命は無いと言う様な、一色即発と言うべき空気に満ちており、見れば、ミナも一夏も、互いを睨んだままの様にも見えるが、互いの気に当てられているのだろう、僅かに表情が硬くなっていたり、手が震えたりしていた。

 

そんな息詰まる様な時間がどれほど続いたのだろうか、根負けしたのか、彼の熱意に折れたのか、ミナは表情を緩めた。

 

「一夏、そなたがそこまで入れ込んでいるのなら、そなたの感覚を信じてみよう。」

 

「ありがたい、それでこそ助けた意義がある。」

 

緊張が解けたのだろうか、一夏は盛大にタメ息を吐きながらも冷や汗を流していた。

 

もし、聞き入れられなかった場合は、最後の手段として自分もアメノミハシラからの離脱、若しくはロンド・ミナと一戦交える気でいたが、どれも成功する確率は半分より低かったため、そうならずに済んで良かったと安堵しているのであろう。

 

「そなたはもう下がれ、ここ数か月、地球での戦闘から立て続けで休む間も無かったであろう、彼等を引き入れる代わりに、ストライクの整備が終わるまでの間、自室での謹慎を命じる、それで良いな?」

 

「・・・っ!?アンタ、そんな状態でアタシらに勝ったのかよ・・・!?」

 

ミナの言葉に、玲奈は信じられない物を見るような目を、斜め前方にいる一夏に向けていた。

 

それもそうだ、連戦続きで、尚且つ地球から戻ったばかりのパイロットが、今だ未熟とは言えど転生者である自分達をいとも容易く下したのだ。

 

その彼が、もしも万全の状態で戦闘に臨んでいたのならば、自分達は何も出来ずに殺されても不思議ではないと気付き、愕然としているのであろう。

 

「わかったよ・・・、休めばいいんだろ、休めば・・・、それじゃあ、失礼する、用があったら呼び出してくれる事を期待しているよ。」

 

命じられては逆らえないのだろう、彼はわずかに表情を歪めながらも彼女に頭を垂れ、背を向けて部屋を辞した。

 

「・・・、さて、お前達の名を名乗ってもらうとしよう、よもや、一夏の厚意を無碍にするつもりもあるまい?」

 

そんな彼を見送った後、彼女は目の前で跪く二名のパイロット達に目をやり、名を尋ねていた。

 

「俺は、神谷宗吾・・・、年齢は19、ブリッツのパイロットだ。」

 

「アタシは、早間玲奈、歳は19、イージスのパイロットだけど・・・、良いの・・・?」

 

彼女の問いかけに名乗りながらも、宗吾は彼女の気に当てられているのか恐る恐る答え、玲奈は彼らの意図が読めなかったのか、おずおずと尋ねていた。

 

先ほどのやり取りを見ていれば大体は分かったのだろうが、穏便に解決したとは言い難かったため、本当に自分達が助かるのか不安に思っているのだろう。

 

「宗吾に玲奈、か・・・、これから我々に忠誠を誓うのであれば、私はお前達を迎え入れよう、それが一夏の頼みであるのならば、尚更だ。」

 

「アイツ・・・、一体何者なんだ・・・?」

 

一夏の頼みであると言う言葉に、玲奈は彼がどれほどロンド・ミナに信頼されているのか、そして、何処まで愚直な男であるか測れずにいる様で、目を白黒させていた。

 

「アイツは脆い男だ、過去に囚われ、受け止めきれずにいる、だから、余計に捨て置けぬ存在なのだ、そなた達にも分かるのではないか?」

 

「まさか・・・、過去に何か・・・?」

 

ミナの言う脆さに気付いたのだろう、宗吾はハッとした様に顔をあげ、答えを求めるかのように彼女を見ていた。

 

監房の前で見せたあの後ろめたい様な、後悔の様な表情は、彼の抱えている闇に起因するものなのかと、彼は勘付いたのだ。

 

「あぁ、だが、それはプライバシーに関わる、私ですら干渉できん領域だ、知るには、本人、若しくは彼の妻達にでも聞くが良い。」

 

だが、答えられないと言う様に、彼女は答えをはぐらかしていた。

 

もっとも、ミナとて知らぬのだ、彼の奥底に宿る闇を、そこから生まれる喪失への恐怖の全貌を・・・。

 

「そう、か・・・、アイツ・・・、自分の事は気にするなって言うくせに・・・!誰かに頼れないのかよ・・・?」

 

彼の境遇に、そしてその苦しみの一端を知らされ、宗吾は憤りを隠す事無く表情を顰めた。

 

彼は、一夏は苦しみ続けているのに、自分の身を粉にしても誰かを救おうとする、その自己犠牲的な危うさを感じてしまったのだろう。

 

「それが一夏の危うさ、私もどうにかしたいと思っているのだがな・・・、彼は人に頼る方法を知らぬのだ、なまじ力があるが故に、な・・・。」

 

「そうか・・・、で、アタシらは何すりゃいいんだ?忠誠ったって、何を見せればいいんだよ?身体に爆弾でも仕込めって?」

 

自身の弟のような存在である腹心を案ずるかのように、彼女は憂いを帯びた表情を浮かべ、それを見ていた玲奈は、自分達が何をすべきかと尋ねていた。

 

一夏がこの城にとっても重要な人物である事は分かった、だからこそ、ミナが望むのは彼の事だろうと感じたのだろうが、そのためにはまず、自分達への疑念を払拭させる必要があった。

 

だからこそ、彼女はわざわざ、体内に爆弾を仕掛けても良いと言う様な発言をしたのだ。

 

「その様な事をする必要はない、ただ、彼の事を裏切らないで欲しい、それだけで充分だ。」

 

しかし、彼女はその申し出を断り、ただ、姿勢だけを見せてくれれば良いと、これから先に、一夏を救ってやる事だけで良いと語った。

 

仕えてくれるのならば、彼女は主として使うのみと判断したのだろう、その声からは先ほどからの怪訝の色が消えていた。

 

 

「ソキウス、手錠を外してやれ、もう必要ない。」

 

「かしこまりました。」

 

彼女の指示に頷き、フォーソキウスは二人の手錠を外し、解放した。

 

「神谷宗吾、早間玲奈、そなた達はこれより織斑一夏に仕えよ、彼にも直属の部下は在っても良かろう。」

 

「はっ・・・!ありがとう、ロンド・ミナ・・・!この恩は、命を懸けてでも!」

 

「拾われたからには、戦い抜くぜ!」

 

手錠を外された二人は、膝を付き、忠誠を誓う騎士の如く頭を垂れた。

 

それは、彼らなりの姿勢だったのだろうか、そこからは誠実さだけが伝わってきた。

 

「うむ、下がって良い、部屋に案内させよう、ゆっくり休むと良い。」

 

「あぁ、失礼するよ。」

 

もう用事は済んだとばかりに、ミナは二人に退席を命じ、それに従った宗吾達も、ソキウスの案内に従って部屋を去って行った。

 

「これで良い、一夏、そなたの未来がどの様なものか、私に見せてくれ・・・。」

 

彼等を見送り、独りになった部屋の中で、彼女はどこか愉しげに呟いた。

 

それはまるで、彼がこれから先の運命に抗う事を期待しているかのように・・・。

 

sideout




次回予告

漆黒の宇宙に二つの彗星が煌めく時、彼等は互いに響き合う。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

好敵手よ 前編

お楽しみに


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好敵手よ 前編

sideセシリア

 

C.E.72年2月6日、連合の侵攻から一週間が過ぎた日の事でした。

 

私達はアメノミハシラ艦隊の旗艦、イズモの艦橋に居ました。

 

今日は実地訓練と言う事で、私達三人がこの宙域になれる事をメインに訓練すると言う事です。

 

ちなみに、宗吾さんと玲奈さんは、一夏様のご命令でアメノミハシラで御留守番しています。

 

何か会った時の為に、一気に戦力を空ける訳にもいきませんしね。

 

「これがデブリベルト・・・、宇宙の墓場か・・・。」

 

映像に映されたコロニーの残骸や、破壊されたMSや艦艇の残骸を見ながらも、一夏様は何処か遣る瀬無い想いを口にされていました。

 

宇宙の墓場、言い得て妙というべきなのでしょう、この光景はそれ以外の何物でもありませんでした。

 

人間同士の争いの結果と言うべき世界が、そこには広がっているのです、まともな感覚を持っている人間でしたら、そう思わずにはいられないでしょう。

 

「こんな所で動かすの・・・?バスターが傷だらけになっちゃうよ・・・。」

 

シャルさん、お気持ちは痛いほど分かりますが、嫌がっても仕方ありませんわ。

 

いずれはここで戦う事があるかも知れませんし、慣れておくには良い機会でしょう。

 

「艦長、イズモはこの宙域で待機していてください、デブリの中に入って傷が付いたりしたらミナに顔向け出来ませんから。」

 

「了解しました、一夏卿、お気を付けて。」

 

一夏様は艦長さんに指示を出しながらも、これから進む場所の見取り図を見ていました。

 

暗礁宙域も甚だしい場所なのです、せめて何処にどういう残骸があったか見ておかねば明日は在りませんしね。

 

「よし・・・、大体分かった、セシリア、シャル、出るぞ。」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「はーい。」

 

さて、今日はデュエルにロングダガ―のフォルテストラを調整して着けて来ている訳ですが、上手く動かせるか分かりませんわね・・・。

 

一夏様もI.W.S.P.ではなく、アークエンジェルから流れてきたストライカーのテストをするとも言っておられましたし、何事もなければ良いのですが・・・。

 

ですが、疑心暗鬼になっていては出来る事も出来ません、とにかく前に進んでみると致しましょう。

 

そんな事を考えながらも、私達は艦橋を後にし、愛機の下へと向かいました。

 

sideout

 

side一夏

 

「織斑一夏、パーフェクトストライク、出るぞ!!」

 

イズモから発艦した俺は、ストライクに装備したストライカー、マルチプルアサルトストライカーの調子を確かめながらも機体を動かした。

 

ストライクの整備が終わって初めての稼働だ、感触を確かめておきたいってのもあるし、パワーエクステンダーの性能がどれほどのモノかってのも見ておきたかったからな、こうやってデブリベルトまで出向いているという訳さ。

 

それに、このストライカーはオーブのモルゲンレーテからの横流し品と言う事で、俺のストライクに装備してデータを録るために出てきた訳なんだが、コイツはなんだ・・・?

 

「くっそっ・・・!!重い!!」

 

とにかく後ろに倒れそうになる機体を、ハロのサポートでなんとか立て直しながらも悪態を吐く。

 

I.W.S.P.も大概重い装備だったが、あれは全部載せ前提のパックだ、取って付けのこのストライカーとはまるで違う。

 

「これ作った奴は阿保なのか・・・!?こんなもん・・・!!」

 

全部載せにしても、もっと遣り様は在ったろうに・・・!!

 

『一夏様、大丈夫ですか・・・?』

 

『もうI.W.S.P.に変えたら?どう見てもアンバランスだよ・・・。』

 

後から出てきたセシリアとシャルが心配そうに声を掛けて来てくれるが、正直、俺にはそれを気にしている余裕は無かった。

 

「いや・・・!少し動かしてコイツのデータを録る、幸い、攻撃さえしなけりゃそれなりの時間は動ける。」

 

ま、何もなければっていう大前提付きだけどな・・・。

 

ここら辺の宙域は脱走兵やテロリスト、宇宙海賊の隠れ家には打って付けの場所だからな、油断は出来ん。

 

「イズモから離れ過ぎん程度に動くぞ、キリの良い所で切り上げて・・・、っ!!」

 

機体を動かそうとした、まさにその時だった、俺の身体に電撃が走った。

 

何かに心臓を鷲掴みにされる様なプレッシャー、そして、これほどまでに無い高揚感・・・!!

 

間違いない・・・!この感覚は・・・!!

 

「アイツが、近くにいる!!」

 

そう分かった瞬間、俺はフットペダルを踏み込み、その感覚が強くなる方向へと急いだ。

 

『一夏様・・・!?』

 

『ちょっ・・・!?どうしたの!?』

 

俺の唐突な行動に驚いたのだろう、二人は必死に俺を追ってくるが、推力の差で追い着いて来れずにいた。

 

だが、そのスピードにも俺は満足できなかったのか、デブリを足場にして加速し、隙間を縫う様にして機体を走らせた。

 

もうすぐ、彼と戦える・・・!

そう思うだけで俺の心は逸った。

 

こんなに心が逸るのも俺らしく無いのは分かっている。

 

だが、それでも構わない、アイツとの戦いは最高なのだから・・・!

 

sideout

 

noside

 

その頃、一夏達がいた宙域にほど近い場所には、二機のMSの姿があった。

 

「レーダーに敵影なし、この辺りなら十分なデータが得られそうだな、そっちはどうだ?」

 

その内の一機、ザク量産試作型に乗り込むパイロット、コートニー・ヒエロニムスは、僚機である薄桃色に塗装されたゲイツに追加装甲や武装を施した機体、ゲイツアサルトに通信を入れていた。

 

ゲイツアサルトは、ゲイツにジンのアサルトシュラウドを取り付けた姿だが、元から計画されていた姿では無く、パイロットの趣向に合わせた現地改修型と呼ぶべきであり、その装備もビーム兵装をシールドに装備されているクローを除いて撤廃され、腰部にはレールガン、追加装甲のバックパックには五連装ガトリング砲が一対装備され、脚部にも四連装ミサイルポッドが一基ずつ装備されていた。

 

重装備ながらも、随所に配置されたスラスターによって、ある程度の機動力は確保されている様で、特に問題らしい問題も無く、彼のザクに曳航していた。

 

「バッチリよ、問題無いわ、久し振りにこの機体を使えるんだから、頑張らないとね!」

 

そんな彼の通信に、ゴーグルを掛けた女性が何処か嬉しそうに答えていた。

 

彼女の名前はリーカ・シェダー、歳はコートニーよりも一歳下の19ながらも、ザフトレッドを纏うエリートパイロットだ。

 

その腕前はコートニーも良く知る所であり、テストで付き添いが必要な時は、何時も彼女を指名する事が多いため、それなりに仲は良いと感じているらしい。

 

「それは良かった、俺もついこの前まで地球での仕事だったからな、宇宙は久し振りだ、感覚を取り戻すためにも付き合ってくれよ。」

 

「もっ、もちろんよ・・・!私で良いなら、いくらでも・・・!!」

 

久し振りと言う言葉に偽りは無かった。

 

彼はつい一週間前まで地球のカーペンタリアで実地訓練を行っていたのだ、故郷である宇宙に帰ってきて間もないため、まだ地上での感覚が残っているのだ。

 

そのために、リーカに付き添ってもらっての試験を兼ねた訓練をするためにこのデブリベルトまで出向いていたのだ。

 

それを依頼されたリーカは、申し出を受けた時は何時も飛び上がらんばかりの勢いで喜んでいるらしい。

 

それを見ている彼は、よっぽどMSを動かしたかったんだなと言う感覚で見ているようだが、当の彼女の想いは別の所にあるとは思いもしないだろう。

 

「ははは、お手柔らかに頼むよ、この機体に傷を付ける訳にも・・・、っ!?」

 

ブレードトマホークを引き抜こうと腕を動かした、まさにその時だった、彼の身体に強烈な何かが走り抜けた。

 

肌を焼く様なプレッシャーに、心をかき乱し、興奮させるような感覚・・・。

 

それは、以前、南米でも体験した、ある男が発していた物だった。

 

「まさか・・・!アイツか・・・!?」

 

確証はない、だが、この互いに呼び合っている様な感覚は、あの男以外に感じられなかったもの・・・。

 

ならば、それは・・・。

 

「っ!!」

 

「ちょっ!?コートニー!?」

 

唐突に自分とは別方向へと向けて機体を急がせるコートニーに呼びかけながらも、リーカは彼を追って機体を駆った。

 

だが、コートニーのザクの推力に、アサルトタイプのゲイツでは追い付く事が出来ないのだろう、徐々にその距離は開いていった。

 

「近いぞ・・・!どこだ!?」

 

感覚が一際強くなった辺りで、彼はブレードトマホークを引き抜き、周囲を警戒し始めた。

 

するとどうだろう、レーダーにMSが接近してくる様子が映し出され、その方向へと目を向けると、大きなバックパックを背負った白い機体、ストライクが彼のほうへと一直線に迫ってくる。

 

「やはり・・・!一夏か!!」

 

「コートニー!南米以来だな!」

 

ストライクに向けて叫ぶと、そのパイロット、織斑一夏も彼に向けて叫び返した。

 

自分の感覚が間違いでは無かった事、そして、自分の好敵手たる男が目の前にいると、二人は興奮を抑えきれない様子であった。

 

「やはり、俺達はつくづく縁があるらしい!でなければ、こんな所で出会う筈もない!!」

 

「言ってくれるよ、コートニー!それなら言葉は不要だな!!」

 

興奮しながらも、どこか誘うように話す彼の言葉に感化されたのだろうか、一夏もシュベルト・ゲベールを引き抜きながらも構え、間合いを取るかのように佇んでいた。

 

「あぁ!南米での続き、ここで始めよう!!」

 

「ちょっ!ちょっと待ってよ、コートニー・・・!私との模擬戦は~!?」

 

今にも飛び出そうとしていたコートニーを止めるかのように、追い付いたリーカは自分との模擬戦はどうするんだとばかりに食いついた。

 

折角、コートニーと戦える事を楽しみにしてここまで付いて来たのに、当の彼自身はそれをすっぽかして別の誰かと戦おうとしているのだ、彼女でなくとも非難したくもなるだろう。

 

「かかって来いよ、このストライカーのテスト以上のモノが得られるんなら、俺も好都合だ!!」

 

「ちょっと!壊しちゃダメだよ一夏!!」

 

「というよりも、テストはどうされますの~!?」

 

そんな彼女の言葉を聞き流しながらも、一夏はコートニーに飛び掛かろうとしていたが、彼に追い付いたシャルロットとセシリアが制止の声を上げるも、その言葉は届いていないようだった。

 

「「今はアイツと戦うだけだ!!」」

 

全く同時に飛び出し、鍔迫り合いをする二人の目には、ただ、互いにライバルと認め合う者の姿しか映っていないのだから・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

僕達を完全に放置して始まった、一夏とコートニーの戦いは、お互いに目まぐるしく入り乱れるほどに激しさをどんどん増していた。

 

シュベルト・ゲベールを避けたザクがトマホークで切り付けるけど、それを避けたストライクがアグニを撃ちかけ、それを避けたザクが間合いを取って・・・。

 

僕達ですら捉え切れるかどうか分からない動きで戦うもんだから、迂闊に割り込めない、完全な蚊帳の外状態で、どうしようもなく漂っている事しか、今の僕達にはできなかった。

 

だけど、僕が嘆きたいのは彼の助けが出来ないと言う、良妻が思い浮かべそうな事なんかじゃない。

 

「・・・、どうして男に走るかなぁ・・・。」

 

男の人って、なんで愛妻ほったらかしにしてまで男友達に走るのかなぁ・・・?

 

自信無くしちゃうよ?泣いちゃっていいんだよね?

 

『困った御人・・・、こんなにも納得できませんのに、強く怒れないのは惚れた弱みでしょうか・・・?』

 

苦笑いを浮かべているんだろう、セシリアが何処か呆れを含んだ声で聴いてくる。

 

うん、分かり切ってた事だけどさ、強く怒れないのはホント、惚れた弱みだよ、色んな意味で。

 

だけど、僕達はこんな事にはもう慣れっこだ、昔っから彼はそうだったから。

 

だけど、問題は目の前の彼女だ・・・。

 

『ぐすっ・・・、私じゃダメなの・・・?コートニー・・・?」

 

泣いちゃってる・・・、泣いちゃってるよ、しかもガチな方で・・・。

 

あー・・・、多分、彼女、コートニーって人の事が好きなんだ・・・。

 

なんか色々とデジャヴな光景だったからすぐに分かっちゃったよ。

 

「あー・・・、えっと、こちらバスターのシャルロット、ゲイツのパイロット、応答して?」

 

なんとか宥めないと、号泣されちゃうと色々と後ろめたいよホント。

 

旦那の尻拭いさせられてるみたいで癪だけど、仕方ない、やってみようか。

 

『えっ・・・?何・・・?』

 

ゴーグルで隠れてるから分かりづらいけど、完璧に涙目じゃないか、映像越しでも判るって相当だね。

 

「いきなり邪魔しちゃってゴメンね?彼、熱くなると周りが見えなくなっちゃうから・・・。」

 

『う、ううん、良いの、彼を満足させてあげられない私が悪いの・・・。」

 

ダメだ、この子、絶対にダメな領域に入りかけてる。

 

とにかく気を紛らわせないと・・・!!

 

「そんな事ないよ!君の機体、凄くハイセンスじゃないか!そのガトリングとか、レールガンとか!!」

 

『フォローの方向が変ですわよ!?』

 

セシリアに突っ込まれて初めて気付いた、なんで彼女の機体を褒めてるんだ、僕は?

 

もっと他に褒めるトコ有ったよね・・・?

 

しまった、やらかしちゃったかな・・・?

 

『わ、分かってくれる!?やっぱりMSは重武装に限るわよね~!』

 

「『えっ!?』」

 

まさかの食いつきに、僕達は揃って声を上げてしまった。

 

まさかこの子、こういう機体の事が本当に好きで堪らないのかな・・・?

 

『分かってくれる人がいてくれたのね!皆重装備を避けたがるから・・・。』

 

「うん、それは僕も分かる、大火力は戦ってて気持ちいいからね!」

 

どうしよう、彼女とはすごく気が合いそう、セシリア以来の衝撃だね、これ。

 

『大火力、ですか・・・、それも良いやも知れませんわね、シャルさんの戦いを拝見していますとそう思いますわ。』

 

『理解してくれる人が二人も・・・!夢じゃないわよね!?嬉しいんだけど!!』

 

ダメだ、いろんな意味でテンションが壊れてきた。

 

まぁ、何も出来ないからこうやって駄弁るのも悪くは無いかな。

 

『あっ、そうだ、まだ名前言ってなかったね、私はザフトのリーカ・シェダー、リーカって呼んでね!』

 

「リーカだね、僕はシャルロット・デュノア、シャルロットって呼んでよ。」

 

『私も自己紹介を、セシリア・オルコットですわ、以後、お見知りおきを。』

 

いつの間にか自己紹介タイムが始まっちゃってるけど気にしちゃいられない。

 

こんな所に男に振り回されてる女の子がいたんだ、仲よくなっておいたら後々いいかもしれないしね。

 

『シャルロットにセシリア、これからよろしくね!まさかデュエルとバスターが出てくるなんて思わなかったわ、それってジュール隊長達の御下がり?』

 

「ジュール隊長・・・?誰・・・?僕達ザフトじゃないから分かんないや。」

 

ザフトの関係者だと思われたんだろうか・・・、着てるパイロットスーツは連合のモノの筈だけど・・・。

 

それはそうと、他にもこに機体があったんだ・・・、なんだか複雑な気持ちだね。

 

『それにしても・・・、あのストライクのパイロット、凄いわね、特務隊並のコートニーに付いて行ってるなんて・・・、一体誰なの?』

 

話が一旦一段落すると、リーカは困惑した様子で一夏とコートニーの戦闘を見続けていた。

 

相変わらずの速さで戦ってるから、目で追いかけるのにも一苦労だよ。

 

と言うか、コートニーってやっぱり手練れだったんだね、それも相当の・・・。

 

いや、一夏とストライクの組合せと対峙して、互角以上に戦えるパイロットなんて極稀だった、アメノミハシラでも、一対一で彼に勝てるのは、それこそミナさんだけだしね。

 

「うーん・・・、オーブのスーパーエースって言えば良いのかな?僕達がオーブの人間かって聞かれたら自信ないけどさ。」

 

『ちょっと、シャルさん!?なにサラッと正体ばらしてますの!?』

 

あっ、自然な流れだったから喋っちゃったよ。

 

『オーブにあんな強い人がいたなんて・・・、ストライクももう型落ちなのに、新型と張り合えてるなんて・・・!』

 

あれー?気にしてない?それはそれで良かったけど、なんか構えてるのが馬鹿らしくなっちゃうね。

 

まぁいいや、ほったらかしにされた女同士で傷のなめ合いでもしておこう、どうせ死にやしないだろうしね。

 

「それはそうとリーカ、コートニーっていつもあんな感じなの?」

 

『えっ?うーん・・・、どうかしら?でも、熱くなったら没頭するのはあったかなぁ・・・?』

 

『まぁ・・・、一夏様と全く同じですわね・・・。』

 

あぁ・・・、今更だけど頭痛くなってきた・・・。

 

まぁ、似た者同士、響き合うモノがあるんだろうね、男同士のアレコレは全く理解できないけど。

 

さてと・・・、コレ、何時まで続くんだろうなぁ・・・、はぁ・・・。

 

sideout




次回予告

苛烈さを増す戦闘の中で、彼は何を見出だすのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

好敵手よ 後編

お楽しみに


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好敵手よ 後編

side一夏

 

「はぁぁっ!!」

 

『おぉぉっ!!』

 

滾る、この上なく滾る・・・!!

 

この世界に来て、こんな感覚を抱くとは夢にも思わなかった。

 

何度切り裂こうとしても斬れず、何度捌いても俺を切り裂こうと狙って来ている、こんなギリギリの攻防・・・!

 

最高だ・・・、あぁ、最高だよ・・・!!

 

俺と同等、若しくはそれ以上の奴が目の前にいて、俺を対等と見て向かって来てくれる・・・!!

 

戦士としてこれ以上ない誉じゃないだろうか。

 

「すげぇぜ、コートニー・・・!!南米の時とは大違いだ・・・!」

 

シュベルト・ゲベールを振り抜こうとしても、その先で待ち受けるトマホークに阻まれ、逆に体勢を崩されそうになるが、それを堪えて、何とか拮抗状態で押し留めながらも、俺は歓喜に染まった声を上げていた。

 

『伊達に宇宙に住んでる訳じゃないからな・・・!だが、お前もやるな・・・、一夏!!』

 

拮抗状態から離れたザクがレールガンを撃ってくるが、俺はそれを見越して機体を動かしていた為に当たる事は無く、お返しとばかりにアグニの大出力ビームを撃ちかける。

 

既に五つあったバッテリーパックの内の三つを切り離し、エネルギー的にも余裕があるとは言い難いが、今はそんな事はどうでも良かった。

 

ただひたすらに、コートニーとの戦いを楽しんでいたかった。

 

こんなに手数を尽くしても掠めるだけで傷一つ付けられてない・・・!

機体性能の差もあるだろうが、あれだけの高性能機に振り回されない彼自身の技量も相当なモノだ、データを見りゃ分かる。

 

「ハロ!データの収集はどうだ!?」

 

他に気を向けている余裕は無いが、せめてストライカーのデータと戦闘ログぐらいは気にしておかないと、後々の事に活かせやしないからな。

 

『ジュンチョウ!ジュンチョウ!!スゲーゼアニキ!!』

 

誰がそんな言葉を教えたんだか・・・!

 

さぁて、機体データは十分すぎる程に集められる、か・・・!

 

なら、心置きなく、限界まで戦うとしようじゃないか・・・!!

 

「コートニーっ!!」

 

『一夏ぁっ!!』

 

パンツァー・アイゼンのクローを射出したが、彼はそれを難なく避け、ワイヤーを引っ張って俺の体制を崩そうとしてくる。

 

だが、早々簡単に殺られる俺じゃない、彼がワイヤーを掴むと同時にマイダス・メッサーを引き抜いて投擲、直後にバルカンやミサイルを撃ちかけて反撃の暇を与えない。

 

『ちぃっ・・・!手数がI.W.S.P.よりも多いじゃないか・・・!!嫌なストライカーだ・・・!!』

 

「言ってくれる・・・!操縦はキツイんだよ・・・!!これでも使い慣れてないもんでなぁ!!」

 

その増えた攻撃の数を、彼は難なく回避して俺の方へと向かってくる。

 

「速いなぁ・・・!相変わらず良い機体だ、宇宙で映えるよ!」

 

『だが地上でダメ出しを喰らったんだ、改造の余地はまだある!!』

 

「根に持ってるのかよ・・・!よっぽど機体に思い入れがあるみたいだな!」

 

技術者の気性はサッパリ分からんが、コートニーがあのザクに思い入れがあるのはよく分かった。

 

さて・・・、どうやって切り抜ける?どう戦う・・・!?

 

「だが、俺もこの機体に愛着以上の感覚があるんだよ!!」

 

しょがねぇ・・・!この手を使うとするかね!!

 

そうと決まれば迷う暇は無い、エネルギーももうすぐレッドゾーンだからな。

 

マルチプルアサルトストライカーからアグニを切り離し、ビームを撃ちかけた直後にアグニをぶん投げる。

 

『おいおい・・・!血迷ったか!?』

 

「そう思うんなら、来いよ・・・!!」

 

アグニを切り裂いたコートニーの呆れた声が聞こえてくるが、俺は構わずに肩に付いていたユニットを二つとも排除、空になったバッテリーパックも全て排除して、エールのみになったストライカーの全推力を以て一気にザクとの間合いを詰める。

 

『そうさせてもらう・・・!!これが・・・!!』

 

「最後だっ!!」

 

渾身の一撃を打ち込むために、俺は回避をかなぐり捨て、シュベルト・ゲベールを振り抜いた。

 

コートニーもトマホークを振り抜き、俺達は全くの同時に交錯し、すれ違った。

 

sideout

 

sideコートニー

 

「くっ・・・!!」

 

ストライクの一撃を躱し切れず、ザクの左腕がシールドごと半ばから断ち切られてしまった。

 

なんて奴だ・・・!性能ではこっちが勝っていると言うのに・・・!!

 

対して、ストライクにはダメージが見受けられない、当たっていないのか・・・!!

 

まだ戦えるとは言えど、被弾してしまった以上、これは認めざるを得ないか・・・。

 

「俺の負けだ、一夏・・・!!」

 

こうまで楽しませてくれるとは・・・、正直、戦争は御免被りたいのだが、俺をここまで滾らせてくれるとは、こうも勝ちたいとは思いもしなかった・・・!

 

だからこそ、負けがこんなにも清々しいとは、な・・・。

 

『いや・・・、俺の負けだよ、コートニー・・・。』

 

「何っ・・・?」

 

俺がどういう事かと尋ねる前に、ストライクのPS装甲が落ちた。

 

つまり、俺の攻撃は当たっていたと言うことか・・・?

 

『PS装甲が無きゃ、もし、そのトマホークがビームなら、俺は死んでいた・・・、それに、こっちはもうエネルギー切れ、つまりは事実上の負けさ・・・。』

 

「そんなものはタラレバにしか過ぎないさ・・・、だが、実際相討ちも良いところだな・・・。」

 

『だろ?俺の機体も動くけど、帰りが怖いからな、ここら辺が引き際だよ。』

 

そうか・・・、もう、終わってしまうんだな・・・。

 

愉しい時間はすぐに終わってしまう、それが本当に残念でならないよ。

 

「そうだな・・・、機体の損傷からして、俺も帰った方が良さそうだ。」

 

『あぁ、名残り惜しいけど、その方が良いだろう。』

 

彼はストライクのバックパックにシュベルト・ゲベールを格納し、何処か名残惜しそうに呟いていた。

 

俺もその気持ちはよく分かるよ、これ以上に無い戦いだったからな。

 

「それじゃあ、また逢えたら良いな。」

 

『そうだな、戦場だろうが何処だろうが、会えるならまた会いたいもんだ。』

 

「あぁ、あの時の借り、返して欲しいものだよ。」

 

俺がからかう様に言ってみると、それもそうだなと言う様に苦笑し、彼は機体を翻して母艦がある方へと戻って行った。

 

さて・・・、俺も帰るか。

 

『コートニー・・・。』

 

「うぉっ!?リーカ・・・!?』

 

しまった、リーカを連れて来てたのを完全に忘れていた・・・!

 

『随分とお楽しみでしたね・・・、私とはあんなに楽しそうな顔しないのに・・・。』

 

「えーっと・・・、それはだなぁ・・・。」

 

マズイ・・・、言い逃れできん状況だ・・・、何せ俺から依頼しておいてそれを反故にしてしまったんだ、相当無礼だったのは間違いない・・・。

 

『良いのよ・・・、どうせ私はその程度の女だもの・・・。』

 

「うぐっ・・・!」

 

その自虐的な言葉が、今の俺の心には重く突き刺さる。

 

やってしまったな・・・、助け船を求めても、一夏は帰って行ってしまったし、これはどうしようも無い・・・。

 

何とかして機嫌を直さないとな・・・、じゃないと、後々に響いてくる・・・。

 

「あー・・・、すまなかった・・・、この後時間あるか?」

 

『あるけど・・・、もう一戦ならお断りよ?二番目みたいで嫌じゃない・・・。』

 

これはマズイ、完全にご機嫌斜めだ。

 

一夏と会う時は誰もいない時の方が良いかも知れないな・・・、心置きなく出来るし、迷惑かけないしな・・・。

 

「違う、お詫びと言っちゃなんだけど、食事でも一緒にどうだ?仕事に都合着けてでも良い、俺が全部持つよ。」

 

『えっ!?良いの!?行く!絶対に行く!!』

 

おっ、何とか機嫌直してくれたみたいだな、一安心だ。

 

「それじゃ、俺達も帰ろうぜ。」

 

『えぇ!早く早く~!』

 

「急かすなって。」

 

先行するリーカを追いかける為に、俺はザクのスラスターを吹かし、母艦へと帰投するルートに就いた。

 

心の奥で、今もまだ猛る炎を抱えたままで・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

『あっ・・・、そろそろ終わりみたいね・・・。』

 

コートニーさんのザクの腕が切り裂かれ、ストライクのPS装甲の色が落ちる事を確認したリーカさんが声を上げられ、彼等の方へと向かって行こうとしておられました。

 

もう終わってしまうのですか・・・、折角同じ様なタイプの殿方を好いてしまった女同士、もっと話をしていたかったのですが仕方ありません、彼女にも、私達にも戻るべき場所があるのですから。

 

『そっか・・・、残念だけど仕方ないね、後で一夏にキツく怒っとくよ。』

 

『ううん、セシリアとシャルロットと話せて嬉しかったわ、またどこかで会えると良いわね。』

 

「えぇ、次はこの様な形では無く、ゆっくりとお話しできれば良いですわね。」

 

出来れば、戦場では無い所で、友人同士としてお話ししたいものですが、お互いの組織と言う物がありますし、難しいのは分かっております。

 

ですが、そう思ってしまう所が、私達が人間に戻ったと言う証の一つである事に心地良く思ってしまうのもまた事実なのです。

 

ですが、今は帰られる友人を見送ると致しましょう。

 

『そうね!また何時か会いましょ!じゃあね!!』

 

その言葉を最後に、リーカさんは機体を翻して、コートニーさんがいる方へと去って行かれました。

 

『リーカ、コートニーと上手くいくと良いね。』

 

「そうですわね、こればかりはどうなるかは分かりませんが・・・。」

 

ですが、彼女ならきっと上手くいくそんな根拠も何もない感覚が私の胸には在りました。

 

想いが届くまで、彼女は歩みを止めないのですから・・・。

 

『セシリア、シャル、イズモに帰ろう、俺が限界だ。』

 

そんな事を思っていますと、ボロボロのストライクが私達の方へと帰ってきました。

 

『僕達をほったらかして勝手やってた一夏の事なんて知らないよーだ。』

 

『うっ・・・、悪かったよ・・・、だけど、良い成果があった、帰ってミナに進言したい事も見付かった。』

 

「それが私達をほったらかしにしておいての言い草ですか?」

 

少し申し訳なさそうにされていましたが、これぐらいの小言は言っても許されるでしょう。

 

ですが、もう慣れきっている事なので構いませんがね・・・。

 

『すまなかった、今日の夜は空いてたよな?酒出すから機嫌直してくれ、俺が悪かったから。』

 

『はいはい、今は許してあげるよ、お酒の席ではボロクソに愚痴ってやる。』

 

『シャルは酒癖悪いからな、こりゃキツそうだ。』

 

シャルさんの言葉に答えながらも、一夏様は機体をイズモに向けられました。

 

私とシャルさんも機体を並走させながらも、通信回線越しに文句と痴話喧嘩とも分からない言い合いを続けていました。

 

『何さ!僕がそんな酒乱みたいな言い方!?』

 

「事実ですわよ、慣れておりませんのに呑まれるから・・・。」

 

『ちょっ・・・!そう思うんなら止めてくれても良いじゃないか!?』

 

止めたのに呑まれていたのはシャルさんでしょう?

 

とは言えずに、私も一夏様も笑う事しか出来ずにいました。

 

『も~!!なんなのさぁ~!!』

 

非難の声を上げるシャルさんの言葉を聞きながらも、私達は帰路に就きます。

 

これから先の未来を楽しみにしているかの様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ジャック、さっきの戦闘のデータだ、思ったよりも質の良いのが録れた。」

 

アメノミハシラに帰投した一夏は、パイロットスーツから着替える事も無く、MSベッドに固定されたストライクに寄って来ていたジャックに、先程のテストデータを渡していた。

 

「おうよ、しかし、なにも壊してくるこた無いだろ、折角の寄贈品を・・・。」

 

それを受け取ったジャックは、折角のストライカーが半壊している事に少々呆れている様だった。

 

だが、それ以上に良いデータが録れていると知っている為に何も言わなかった。

 

「あのストライカーはダメだ、ビーム兵器があっても重すぎる、アレを使うぐらいならI.W.S.P.の方がやり易かった。」

 

「貴重な意見に感謝するぜ、パイロットの好みに合わなきゃ無意味だもんな!」

 

一夏の好みと合わない事を知ったのだろう、彼はパイロットに無理強いさせる事は整備士の名折れだとでも言うように、軽く笑い飛ばしていた。

 

「しっかし・・・、相当な相手だったんだろ?見た限りお前さんと同等か?」

 

ストライクの様子から、ジャックは彼が戦った相手の練度を見抜いたのだろう、険しい表情をしながらもどう調整すべきか思案していた。

 

整備士の仕事はパイロットの好みに機体を調整し、不備が無いようにする事であるが、それ以上にパイロットが生きて帰ってこれる様にするのも仕事の内だ、それを疎かにすれば勝利は無い。

 

まさに、整備の現場は第二の戦場とも呼ばれる所以だった。

 

「あぁ、機体は間違いなくストライクよりも高性能だった、完成度は此方が上だったが、気を抜けば一瞬でやられていたよ、技量では彼が、場馴れで俺がっていう僅差だったよ。」

 

「へぇ・・・、ソイツは問題だな、対策はあるのかい?」

 

一夏が興奮を抑えきれないと言う様に話すのを見て、どれほどギリギリの攻防を行ったのかと気になったジャックは、探るように尋ねていた。

 

それは戦闘単位ではなく、これから先の為の方針を聞いておきたいという好奇心から来ている様でもあったが・・・。

 

「あぁ、謹慎中から考えてたんだが、今日やっと纏まったよ、後でミナに直談判してみる。」

 

「相変わらず行動的だなぁ、そのバイタリティを若い奴らに分けてやってくれよ。」

 

「俺からそれを取らないでくれよ、ただのダメ人間になるだろうが。」

 

それもそうだなと言うように笑うジャックの様子に苦笑しながらも、彼は背伸びをしていた。

 

相当な疲労があるのだろう、少し動かすだけでも骨が鳴る音が聞こえていた。

 

「さて、そんじゃストライクの整備は任せて、お前は休んどけ、嬢ちゃん達のご機嫌取りするんだろう?」

 

「迷惑を掛けるよ、ジャック、よろしく頼む。」

 

自分の考えを見透かさないでくれというように笑いながらも、彼はパイロットスーツから着替えるために自室への帰路へと就こうとした。

 

「あっ、一夏じゃねぇか、案外帰ってくるの早かったな!」

 

「玲奈、それに宗吾もか。」

 

そんな彼を呼び止めたのは、つい先日彼の部下という扱いになった神谷宗吾と早間玲奈だった。

 

どうやら、先程まで訓練をしていたのだろう、彼等の表情には疲労と汗が浮かんでた。

 

「お勤めご苦労、その様子だと相当苦労している様だな。」

 

「あぁ、ついさっきまでシュミレーションをやってた所さ、と言っても、戦績は振るわなかったけどな・・・。」

 

敬礼してくる彼等に敬礼で返しつつも、一夏はどんな訓練をしていたのかを尋ねていた。

 

「シュミレーションか・・・、誰のデータと戦ったんだ?」

 

シュミレーションと言う言葉に興味を持ったのだろう、彼はその表情に挑発的な笑みを浮かべながらも尋ねていた。

 

いや、その相手に大まかな合点がいっていたのだろう、そのためにわざわざ問いただしていたのだ。

 

「アンタよ・・・、アンタのストライクのデータと戦ってたのよ・・・!」

 

そんな一夏の意図に気付いたのだろう、玲奈はムカつくと言う様な表情をしながらも答えていた。

 

よっぽど手痛い結果だったのだろう、悔しさを通り越した諦念が見えてもいたが・・・。

 

「なぁ・・・、あんな動きを本当に出来るのか・・・?どう考えても人間が出来る動きじゃないぞ・・・?」

 

データ上でのストライクが常識を逸した動きをしていたのだろう、宗吾はパイロットである一夏に真相を尋ねていた。

 

少なくとも、負けたままでは悔しいのだろう、本当かどうかを知って対策を立てておきたいのだろう。

 

「さぁな、俺の戦闘データを基にしてるとは言っても、完璧って訳じゃ無いからな。」

 

「だよなぁ~・・・!?あんなに凄い訳ないよなぁ・・・?」

 

「もっとも、あのデータは調整中なんだよな、低めに。」

 

「「えっ・・・!?」」

 

完璧ではないと言う言葉に、誇張だとでも思ったのだろう玲奈は安堵していたが、その次の言葉に絶句していた。

 

誇張では無くデータが弱いと言う事だった。

 

「ははは、俺はそこにあるデータよりも自分で集めたデータを信じるタイプなんでね、ま、たまにはシュミレーションも良いかもな、疲れないし。」

 

「そんなバカな・・・。」

 

勘弁してくれと言う様に、宗吾は頭を抱えていた。

 

自分の上官が相当な手練れだった以上に、そんな彼を従えるミナがそれ以上の腕前だとなると、もう頭を抱えるしかないだろう。

 

『伝達します、織斑一夏卿、セシリア・オルコット卿、シャルロット・デュノア卿の三名はロンド・ミナ・サハク様の下へ出頭してください、繰り返します、織斑一夏卿、セシリア・オルコット卿、シャルロット・デュノア卿はロンド・ミナ・サハク様の下へ出頭してください、以上、連絡終わり。』

 

そんな時だった、彼と彼の妻達がミナに呼び出された事を告げるアナウンスが流れた。

 

一体どういう事なのか分からないのか、一夏すらも怪訝の表情を浮かべていた。

 

「一体何の用だ・・・?だが、俺も今から行くとこだったけどな、ちょうど良い、お前等も来い。」

 

「はいよ、一夏卿。」

 

「お供しますぜ。」

 

ミナの計画や話を聞いておくのも良い機会だと考えたのだろう、彼は宗吾と玲奈を誘い、ミナの部屋に急いだ。

 

sideout




次回予告

拾われた命をどう使うか、彼等の悩みの日々は始まった

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

居残り組の訓練

お楽しみに


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居残り組の訓練

side宗吾

 

「さーて!訓練しようぜ、宗吾!!」

 

一夏に仕える事になってから数日の後、俺達は格納庫の一角に置かれていると言うシミュレーターの所に来ていた。

 

機体は一夏にやられてしまっている為に、修復してもらっている最中だったから、今はこうやって感覚を鈍らせない様に訓練する以外ない。

 

「分かってるっての、はしゃぎ過ぎんなよ、まだ白い目で見られてるんだから。」

 

俺の目の前を行くこの女は、自分がどんな環境にいるのか本当に理解しているのか、甚だ疑問だ。

 

俺達が生きてここに居れるのですらも奇跡に近いのに、その軌跡を理解して慎ましく動くなんて事は出来ないのだろうか?

 

まぁ、ある意味でテンションが上がっても可笑しくない状況である事には変わりないってのも事実だけどな。

 

「ならよ、アタシらが戦果挙げりゃ良いじゃねぇか、一夏だってそうだ、流れ者なのにここの№2だぜ?」

 

「アイツは特殊だ、俺達は今まで通り、マイペースに示して行けばいいさ。」

 

玲奈の言う事も一理ある、だが、俺は一夏程腕が立つ訳でも無ければ、人望もゼロに限りなく近い、ハッキリ言って彼の様になれるには相当の困難があると見ていいだろう。

 

だからこそ、今は静かに己を磨く、それだけでいい。

 

「分かったよ・・・、なら、シミュレーションだけでもアイツに勝ってみせようぜ!」

 

「はぁ・・・それなら好きにしろ・・・、だが、俺も興味はあるな・・・。」

 

一夏の技量の高さはこの前の戦闘で殺されかけたために、この身が一番良く知っている。

 

だが、それは彼が自分の機体では無いゴールドフレームに乗っていた時のモノだ、もし、彼がストライクに乗っているならどんな動きを見せるか、それを知っておいて損は無いだろう。

 

そんなものは建前にしか過ぎないんだろうが、今は心の赴くままに戦うとしよう。

 

それぞれシミュレーターに入り、自機のデータを打ち込んでミッション内容を選択する。

 

と言っても、その選択はどういう仮想敵と戦うかを決めるだけなので、正直言ってスクロールしてれば大体終わる。

 

これまでは連合やザフトのMSをメインに戦っていたから、今日はアメノミハシラのメンバーと戦ってみるのも良いだろう。

 

「有った、これこれ・・・、織斑一夏卿・・・、ストライク+I.W.S.P.っと・・・。」

 

俺のブリッツで何処まで通用するのかなんて分かりっこないが、格上相手の訓練程刺激になる物は無い。

 

「場所は・・・、宇宙空間で・・・、これで良し!」

 

環境条件も設定し終えるとすぐさまフィールドが構築され、俺のブリッツのデータが投影される。

 

「よっしゃ!神谷宗吾、ブリッツガンダム、やってやるぜ!!」

 

機体を操作し、宇宙空間を模したフィールドを感覚を確かめながら動いていると、どこからともなくレールガンが飛来した。

 

「うわっ!?いきなりかよ・・・!?」

 

あれはI.W.S.P.の砲撃か・・・!嫌に正確だな・・・!アイツ、狙撃が苦手とか言ってなかったか・・・?

 

「けど、一回避けたら後は・・・!?」

 

無いとタカを括っていると、今度はガトリング砲が飛んでくる。

 

「くそっ・・・!近付く隙も無いのか・・・!!」

 

何とかトリケロスを掲げて防御するが、俺の脚が止まった事を察知したのだろう、凄まじいスピードでストライクが迫ってくる。

 

「げっ・・・!?もう距離を詰めたのか・・・!?」

 

いや、冷静になればわかる事だ、こっちに向かって来ながらあれだけの精密射撃を行っていたんだと・・・!

 

だが、俺もやられてばっかりは見っとも無い、何とか機体を逸らして繰り出される蹴りを回避、すれ違いざまに回し蹴りを入れようと機体を動かすが、ストライクはそれよりも早く動き、コンバインドシールドでブリッツを殴り飛ばした。

 

「ウソだろ・・・!?こっちが先に動いてたんだぞ・・・!?」

 

これがアイツの・・・、一夏の反応速度なのか・・・!?

 

明らかに並のコーディネィターを上回っている上に、隙が無い。

 

「けど・・・、ビーム兵器が無いI.W.S.P.なら、一撃でやられる事も無い・・・!賭けてやるぜ・・・!!」

 

何とか体制を立て直し、ミラージュ・コロイドを展開、AMBACを用いてスラスターを吹かす事無く機体を動かし、ストライクとの距離を徐々に詰める。

 

「死角からなら・・・、っ・・・!?」

 

死角からなら避けられないと踏んだが、ストライクはイーゲルシュテルンやガトリング砲をあちこちにばら撒いていた。

 

「げっ・・・!?対処法モロバレかよ・・・!?」

 

失念していた・・・!この城には天ミナがあったんだ・・・!

 

弱点を熟知されていてはこんな物、無用の長物に成り下がっちまう・・・!!

 

すぐさまミラージュ・コロイドを解除し、銃弾を受けながらも後退、ランサーダートを牽制代わりに撃ちかける。

 

だが、ストライクはまったく動く事無くランサーダートを三つとも切り裂いた。

 

「おいおい・・・!これ、本当にデータ通りなんだろうな・・・!?」

 

有り得ないだろ・・・!しかも一本しか対艦刀使ってないのに・・・!

 

「こんなバケモノに勝てるか・・・!?」

 

いや、勝てないと言う反語は置いといて、冗談抜きでダメージを与えられる気がしない。

 

「いや・・・!勝てなくて元々!!格闘戦を!!」

 

近距離戦なら、負けても本望!

だから、俺は出し惜しみはしないぜ!!

 

ビームサーベルを展開してストライクに斬りかかるが、対艦刀と切り結ぶよりも先に軽くあしらわれ、逆にコックピット付近を攻撃された。

 

一発でアウトにはならないと言えど、どんどんエネルギーは減って行く一方だ、何れはエネルギーも尽き果て、敗北するだろう。

 

分かっていた事とは言っても、こりゃないぜ・・・。

 

ストライクは体勢を立て直せていないブリッツに追撃とばかりにイーゲルシュテルンを撃ちかけてくる。

 

「このっ・・・!まだ終わるかぁぁ!!」

 

ピアサーロックを射出、バルカンの弾丸を弾きながらもストライクのコンバインドシールドを捕縛、巻き取りながらもスラスターを吹かして一気に距離を詰める。

 

引っ張っておいたから体制も崩している、これならば・・・!!

 

せめて、この一撃だけでも・・・!!

 

「届けぇぇぇ!!」

 

だが、渾身の一撃が届くより早く、ストライクはシールドを手放し、対艦刀を両手に持ち、シールドを貫いてこちらに攻撃してきた。

 

「なにっ!?」

 

予想すら出来なかった攻撃に回避する事が出来ず、もろにその攻撃を喰らって体制を崩してしまう。

 

しかも、その一撃でブリッツのエネルギーが切れ、PS装甲が切れた。

 

その隙を見逃さず、ストライクは左腕に握っていた対艦刀をブリッツに突き刺した・・・。

 

――YOU LOSE――

 

画面がブラックアウトし、そこに赤い文字で敗北を告げられた。

 

「そんな・・・、手も足も出ないのか・・・!?」

 

攻撃すら与えられず、ほぼ一方的なまでの戦い・・・、これが、俺と一夏の実力差だとでも言うのか・・・!?

 

「ずげぇよ・・・!すげぇじゃねぇか・・・!織斑一夏・・・!!」

 

俺もそれなりにMSは乗って来たけど、アイツはそれを遥かに超えてる・・・!

 

「一体どんな訓練をすれば、此処まで強くなれるんだ・・・!」

 

過去に何かあったとか聞いてるけど、それが要因なのか・・・?

 

しかし、彼は過去に対して後ろめたい想いが有る様だった・・・、聞くにしても簡単には答えてくれやしないだろう。

 

いや・・・、そんな事を知るよりも、俺にはまずやるべき事がある。

 

せめて、独りでも彼に張り合える様に強くなる、それだけなのだから・・・!!

 

「よっし・・・!やってやるぜ!!」

 

もう一度戦うべく、俺はコンソールに指を走らせた。

 

戦士として、もっと強くなるためにも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「んがぁぁ~!!何よコイツゥ!?」

 

イージスのデータを使って訓練をしていた玲奈は、ストライクとの模擬戦を行いながらも発狂寸前と言いたげな叫びをあげていた。

 

MA形態に変形し、加速力で翻弄しようと試みても、進行方向へ射撃やビームブーメランによる攻撃が飛んでくる上、死角から格闘を仕掛けようとしても避けられ、逆に対艦刀で弾かれるという始末だったのだ。

 

「何よこれ~!?データ狂ってんじゃないの!?強すぎんじゃない!!」

 

今も四本のビームサーベル展開し、相手よりも多い手数で攻め立てても全く動じる事無くいなし、イージスの関節等、フレームが露出している場所や装甲の継ぎ目を狙って攻撃を仕掛けると言う、ある意味で容赦のない攻撃を仕掛けていた。

 

「強いクセにねちっこい攻撃ばっかだな・・・!それでも男かぁ!!」

 

実体兵装メインのストライクの装備ならば当然の戦法と言えるのだろうが、生憎冷静さを欠いている玲奈にはそんな考えが出来る筈も無く、ただ単に気に入らない故に苛立っているのだろう。

 

「男ならこんな風に一撃で決めてみろってんだよぉぉ!!」

 

一撃で勝負を決める様な技を打ってこない事に憤慨したのだろう、彼女はストライクと距離を取るように後退しながらもMA形態へと変形させ、スキュラを発射した。

 

ストライクはシールドを掲げるが、高出力のスキュラを止められる筈も無く、二秒と持たずにシールドが破られ、爆煙に包まれる。

 

「やったか!?やっぱ戦いはこうでなくっちゃ・・・!?」

 

勝利を確信したのだろうか、玲奈はガッツポーズをかますが、勝利宣言が聞こえない事にハッと我に返った。

 

ストライクの残骸が何一つ無い事に気付き、辺りを見渡す。

 

「どこ・・・!?どこから・・・っ!?」

 

その刹那、彼女の機体に衝撃が走る。

 

見れば、爆煙に紛れて近付いていたのだろう、イージスの下方から接近したストライクは、イージスの正面に回り込み、MA形態のままだったイージスのスキュラの砲口に対艦刀を突き刺した。

 

如何に身をPS装甲で固めているとは言えど、砲口を貫かれてはひとたまりも無く、あちこちからスパークを散らした。

 

「う・・・、うっそぉぉぉん・・・!?」

 

それを回避できる程の技量を持ち合わせていなかった玲奈は、閃光をあげて爆散した自機のデータに絶叫、項垂れてしまった。

 

「こんな事って・・・!こんなのって・・・!あんまりよぉぉ・・・!!」

 

手も足も出ず、良いトコなしの敗北だ、成り上がりたいと考えている彼女にとっては屈辱的な仕打ちであるに違いない。

 

「絶対こんな強くない・・・、訳でも無いか・・・、うん・・・。」

 

一度、彼の乗る天ミナに殺されかけている身だ、誰よりも織斑一夏と言う男の強さを知っていると言っても過言ではないだろう。

 

「でも・・・!同じ転生者って言うんなら・・・、アタシもこれぐらい強くなれるって事よね・・・!?」

 

しかし、そこはポジティブを地で行く玲奈だ、自分と同じ様な人間であるならば、自分も同じ境地に辿り着く事が可能と教えられたとでも解釈したのだろう、その眼にはこれまでにないほどの光が宿っていた。

 

「よっしっ・・・!やってやろうじゃん!アタシがアイツに成り代わってやるんだから!」

 

似合わない高笑いと共に、彼女はキーボードを叩き、次に対戦する相手のデータを打ち込んだ。

 

強くなるため、そして、自分を示すために・・・。

 

余談だが、調子に乗ってセシリアとシャルロットのデータを打ち込んでしまい、彼女達の連携プレーにまたもやなす術もなくフルボッコにされてしまうのは、また別のお話しであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

今だ動かぬアメノミハシラ、だが、その裏では新たな計画が動き出そうとしていた。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

二つの計画

お楽しみに


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キャラクター紹介

オリキャラ二人と今後、この小説にもっとも深く関わる原作キャラクターを紹介します。


早間 玲奈(はやま れいな)

女性 19才

身長160㎝ 体重52㎏

身長に比べて胸は控えめ。

キャライメージ セシア・アウェア・アハト

搭乗機 イージスガンダム

 

キャラ説明

一夏達を転生させた女神により転生させられた。

前世での死因は不明。

竹を割ったような性格で男勝りだが、年頃の女性らしい願望は勿論存在する。

しかし、些か口が悪いために誤解を受けやすい所があるが、根は真っ直ぐで情に脆い一面もある。

身長は女性にしては高めだが、何分胸がひかえめな事がコンプレックスらしい。

 

イージスの機動力を活かした一撃離脱の戦闘を得意とするが、経験が浅いため、一夏の乗る天ミナに敗北し、アメノミハシラの軍門に下ることに。

 

機体

GAT-X303 イージス

ストライクやデュエル、バスターと同じ連合軍初期Xナンバー機であり、可変機構を有した、機動力の高い機体である。

玲奈がこの世界に転生するにあたり、女神から授けられたものだと考えられる。

 

その性能はアスラン・ザラが駆った機体と全く同じであるが、後にバッテリーパックをパワーエクステンダーに交換した事により、稼働時間や機体出力が向上している。

 

 

神谷 宗吾 (かみや そうご)

男性 19才

身長 175㎝ 体重65㎏

キャライメージ グラーベ・ヴィオレント

搭乗機 ブリッツガンダム

 

キャラ説明

一夏達を転生させた女神により転生させられた転生者

前世での死因は不明。

普段は冷静沈着だが、誰にも負けぬ熱い想いを胸の内に秘める。

面倒見が良く、暴走しがちな玲奈のストッパーを務める事がしばしば見受けられる。

心の内に巨大な闇を抱えている一夏達の苦悩に気付くが、何も出来ない自分の無力に歯痒さを感じる等、仲間への想いは強い。

 

ブリッツの隠密性を活かした奇襲戦法を得意とし、相手の不意を突く攻撃で戦うが、経験の不足から一夏に敗北し、アメノミハシラの軍門に下ることに。

 

機体

GAT-X207 ブリッツ

イージスと同じく、連合の初代Xナンバー機であり、ミラージュ・コロイドを用いた奇襲戦に秀でた機体。

宗吾がこの世界に転生するにあたって、女神から授けられたものだと考えられる。

 

機体性能は、ニコル・アマルフィが駆った機体と全く同じだったが、後にバッテリーパックをパワーエクステンダーに交換した事により、稼働時間や機体出力が向上している。

 

 

コートニー・ヒエロニムス

男性 20歳

 

ザフト系列の兵器開発局、ヴェルヌ所属の研究者

技術関連に精通しているだけではなく、MSパイロットとしても非常に高い技術を有しており、有事の際には臨時の戦闘員としても参戦する事もある。

 

実はリーカから好意を寄せられているが、気付いていないために一向に関係は進展しない。

 

南米で一時共闘した一夏とその後幾度となく相見え、何時しか組織の隔てなく友情を育んでゆく。

 

今後とも、一夏との因縁が続いて行くと目される。

 

リーカ・シェダー

女性 19歳

 

ザフト軍所属のパイロットで、主に新型機のテストパイロットを務める。

エリートの証であるザフトレッドを身に纏い、それに見合うだけの高い技量を誇っている。

生まれつき盲目であるため、眼鏡型の電子デバイスを常に身に着けており、戦闘の際は性能が向上したゴーグル型のデバイスを着けて出撃する。

 

小柄ではあるが、セシリアやシャルロットにも劣らぬ程相当なグラマラスボディを持っており、制服の上からでもハッキリと分かる程の豊かな胸の持ち主だと分かる

 

密かにコートニーに想いを寄せているが、本人の踏ん切りが付かないのと、コートニー自身が彼女の想いに気付いていないために関係は同僚から進展しないままである。

 

ユニウス条約締結後にゲイツアサルトでコートニーの駆るザクの試験中に一夏達と遭遇し、自分達をほったらかして戦い始めた一夏とコートニーに、セシリアとシャルロットと愚痴を言い合っていた。

 

尚、二人は第二世代コーディネィターであるため、遺伝子的な相性が適合しなければ子を望めないが、二人とも婚姻統制に依る遺伝子検査を受け損ねている為に分からずじまいらしい。



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二つの計画

noside

 

「織斑一夏以下四名、ただいま到着っと・・・、いきなり呼びだすなんてどうしたんだ、ミナ?」

 

途中で合流したセシリアとシャルロットと共に、アメノミハシラの主、ロンド・ミナ・サハクの部屋までやって来た一夏達、Xナンバーパイロット達は何の用事だとばかりに用件を尋ねていた。

 

部屋の中ではミナ以外の五名分の椅子と、その前に置かれたワイングラスに注がれたワインがあった。

 

「おや?呼びつけたのは一夏達だけだった筈だが?」

 

「別に構わんだろう、二人にも働いて貰わなくちゃならないんだしな?」

 

宗吾と玲奈がいる事に、意地悪く尋ねてくるミナだったが、一夏は二人にも聞かせておくべきだとばかりに進言していた。

 

寧ろ、自分が二人も連れてくると予想してたんだろと言いたげだったが、それについては何も言わない事にしたようだ。

 

それを聞いた彼女は、その通りだと言わんばかりの表情を浮かべ、彼等に着席を促していた。

 

彼女の指示に頷き、一夏達はそれぞれ席に着き、彼女の話の続きを待った。

 

「諸君らに集まって貰ったのは他でもない、諸君らにこれから行ってもらう行動について話そうと思う。」

 

「漸く腹が決まったんだな、ミナ?」

 

ミナが話す内容に合点が行かなかった宗吾と玲奈は、一体何の事だと言う様な表情を浮かべていた。

 

だが、彼女の側近であり、実働している一夏は待ちかねたと言わんばかりの笑みを浮かべており、彼女の一言がどういう意味を持っているのかを予想させるに十分すぎるモノだった。

 

「うむ、ジャンク屋、ロウ・ギュールが示した世界、それを実現するための方法が見付かったのだ。」

 

「ロウの示した、世界・・・。」

 

彼女の言葉の真意を、その可能性を示した男と行動を共にしていたシャルロットは、なるほどと言う様な表情を浮かべながらも、何処か嬉しそうに微笑んでいた。

 

自分の友人が認められる事に喜んでいるのだろう、そんな想いが彼女からは伝わってきた。

 

「ミナ様、新参者の俺達にも、その計画ってのは理解できるものなんだろうか?」

 

「そう身構えなくても平気さ、なんせ、内容は割と単純だがらな。」

 

不安そうに尋ねる宗吾に対し、一夏は楽にしていろとばかりに声を掛けていた。

 

自分の計画を単純と言われたミナは少しばかりムッとした様な表情を見せていたが、一夏に抗議の目を向けると、彼は悪かったと言わんばかりに手を広げていた。

 

「まぁよい・・・、全員揃った事だ、始めるとしようか。」

 

これ以上何を言っても暖簾に腕押しと感じたのだろう、一つ咳払いをし、ミナはモニターに映像を投影した。

 

「これを見て貰いたい、今、連合やその他勢力に支配されている、または、支配されつつある地域だ。」

 

「あぁ、いくら条約が締結されるからって、連合もみすみす支配地域を手放せないだろうな、南米ですら、必死の抵抗があればこその独立だしな。」

 

連合に支配された地域で撮られた映像を見せながらも語る彼女の言葉に頷き、その一部であった南米の現状を知る一夏は事の重大さを噛み締める様に呟いていた。

 

「うむ、そこに暮らす者達はあまりにも強大な武力によって押さえつけられ、支配されている、反抗しようにも、それが出来る力が無い事が現状だ。」

 

「確かにその通りですわね・・・、いくら足掻いても、力ですぐ押さえつけられ、より苛烈な圧政が待ち構えている事は、目に見えておりますわね・・・。」

 

ミナの語る内容に同意し、補足するように呟きながらも、セシリアは何処か憂いを帯びた表情を浮かべていた。

 

実際、彼女達はそれを目の当たりにし、そうならない様に命を賭して戦い、散って行った者達を見て来ている、どれ程力の差があろうとも、自由の為に戦い続けた者達がいた事も知っていたのだ。

 

「で・・・、それをアタシらに聞かせて、どうしろってんです?確かに連合の姿勢は気に入らないけど、オーブの国民でもない奴等を、アタシらが助ける義理もないでしょうに?」

 

彼女達の話の先を読めなかったのだろう、玲奈はおずおずと挙手し、どうするのかと言わんばかりの表情をしていた。

 

せっかちかつ短気な彼女の事だ、さっさと答えを示し、自分がやるべき事を教えて欲しい所なのだろう。

 

「そう慌てるな、だが、そうだな・・・、玲奈、そなたに聞くが、国とはなんだ?」

 

「へっ?」

 

そんな玲奈の焦りを見抜いたのだろう、ミナは落ち着けとばかりに微笑みながらも質問を投げかけていた。

 

いきなりの質問に目を白黒させながらも、玲奈は誰かに助け船を頼もうとしているのか視線を右往左往させていたが、宗吾は分からんとばかりに肩を竦め、一夏達は頑張れとばかりにジェスチャーで返すだけだった。

 

「えーっと・・・、国境線で決められた場所の事・・・、じゃない・・・?」

 

助けが得られないと分かった時点で相当追い詰められたのだろうか、玲奈は普段の声色とは全く違う、自信なさげな声色で答えていた。

 

「玲奈、そこはハッタリでもなんでも良いからシャキッと答えろよ・・・。」

 

そんな彼女の言葉にタメ息を吐きながらも、宗吾はやれやれとばかりに首を振っていた。

 

勢いだけで解決しようとしてきた彼女だ、せめて出鼻を折られるまではガツンと行ってほしいのだろう。

 

「一般的に考えてその通りだと言えるだろうな、だが、これから私が行う計画のヒントをくれた男は、国とは人と人との繋がりだと語っていた。」

 

「国とは・・・、人と人との繋がり・・・。」

 

彼等のやり取りを可笑しく思ったのだろう、ミナは柔らかい笑みを浮かべながらも持論を掲げた。

 

彼女の言葉に、玲奈はその意味を反芻させる様に呟いていた。

 

これまで、自分が生きてきた世界とは異なった世界での価値観を取り込み、彼女なりにどう動くか、どう対処すれば良いかを判断する材料としたいのだろう。

 

「自分達の理想を追い、そのために誰かと繋がる事が出来る、それが会った事の無い者同士であったとしてもだ。」

 

出会ったことが無くとも、同じ志を持つ者同士ならば分かり合う事が出来る、その繋がりこそ、国家と呼ぶべきものであり、古代の人間が取っていた、外敵から身を護り、助け合いながら生きると言うコミュニティーの形であるのだ。

 

「無論、理想を他にする者達とは相容れぬ事もあるだろう、残念だが、人間とは頭の固い生き物だからな、それらにも対処できるよう、相容れぬ思想同士は関わらぬ様に働きかける積りでいる。」

 

だが、手を取り合える者もいれば、手を携えられない者もいる、それが世の常であり、人間が抱える、争いの根源たる存在でもあった。

 

これを取り除く事、失くす事は人間から自由を奪うのも同義であり、それは力による支配と何ら変わりのない非人道的であると言わざるを得ないのだ。

 

「なるほど・・・、それで、この計画が無意味な争いに苦しむ人々を救える、って事なのか・・・?」

 

「ご名答だ、やはり頭の回りが良いのは流石だな。」

 

これまでの話でミナがやりたい事が理解できたのだろう、まさかと言う様に尋ねる宗吾に、一夏は流石だと褒める様に笑っていた。

 

「うむ、だが、ただ単にその理想だけを掲げた所で、我々を知らぬ者達はこの計画に賛同はしないだろう、故に、我々はもう一つの計画を以て、この天空の宣言を示さねばならぬのだ。」

 

「もう一つの・・・、計画・・・?」

 

まだ足りぬと言うミナの言葉に、いや、正しくはその計画と言う単語に合点がいかなかったのだろう、シャルロットは首を傾げながらもどう意味かと尋ねていた。

 

「それについては、この俺から話させてくれ。」

 

「一夏・・・?」

 

突如として席を立ち、ミナの隣へと歩み寄る一夏の姿に、玲奈は何をするのかと言わんばかりに彼を見ていた。

 

事前に聞かされていなかったのだろう、セシリアとシャルロットも顔を見合わせており、彼とミナの間だけで交わされていた計画なのだろう。

 

「この計画には、もう一つ、俺達が出張る必要がある項目がある。」

 

「私達が、ですか?」

 

何故自分達が表に出る事になるのだろうか?

 

この計画は、自由を渇望する者達が立ち上がるための口実に過ぎない、それなのに、何をそれ以上行う事があるのか分からなかったのだろう。

 

「あぁ、アメノミハシラが持つ軍を、救いを求める者の為に使う事、つまり軍事的支援だ。」

 

「お、おい・・・!?それって・・・!」

 

何の臆面も迷いも無く言い放った一夏の言葉に、宗吾は驚いた様に立ち上がった。

 

そう、彼の言葉通りに意味を取るならば、それは連合やザフトへ反抗する組織や団体への幇助、つまりはテロを援助するに近しい行為なのだ。

 

「勿論、この方法が危ない橋を渡るモノだとは、ミナも俺も重々承知の上だ、だが、そうでもしなければ、争いは無くならない、この相互不干渉的な計画を敷かなきゃならないほどに。」

 

それを半ば肯定しながらも、一夏は仕方の無い事だと言い切った。

 

確かに、ミナが掲げた計画は相容れない思想同士の相互不干渉的な考えの下に成立しているが、それだけで大人しく従う者はまずもっていないだろう。

 

「だが、ここで俺達が持つカードを使う、ポーカーで謂う所のジョーカー、それがサハクの名だ。」

 

「サハクの名・・・?それがなんでジョーカーなの・・・?」

 

しかし、手はあると言いたげな一夏の表情から、更に何が何だか分からなくなったのだろう、玲奈は早く答えをくれと言わんばかりに急かしていた。

 

自分の家柄が何の役に立つのかと言われた様に感じたのだろう、ミナも少ししょんぼりとした様な、若干寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「お前・・・、そんな事も知らんでこの世界に来たのか・・・、セシリアとシャルなら兎も角・・・、宗吾、お前なら分かるよな?」

 

何故、この世界がアニメでの話であった世界から来たのにも関わらずに、そして、この世界に関しての知識が絶望的に少ないにも関わらずにこの世界に来たのか前々から疑問だったのだろう、一夏はもう説明するのも、ミナにフォローするのも徒労だと感じたのだろう、自身の参謀になりつつある宗吾に説明を丸投げしていた。

 

「はぁ・・・、サハク家はオーブ五大氏族の中でも暗部、主に汚れ仕事を引き受けてきた家柄で、その気になればアスハ家に成り代われるだけの地位がある、それは連合やプラントの首脳陣はとっくの昔に知ってる、つまり、その名を出すだけでそれなりに脅しに使えるんだ。」

 

彼の言葉を受け、自分に振るのはやめてくれと言わんばかりにタメ息を吐きながらも、彼は自身が知る限りの知識と情報を交えて説明し、一夏にこれでいいのかと確認を取るようにアイコンタクトを交わしていた。

 

「う~ん・・・、とにかく凄いって事しかわかんないけど、連合とかザフトに下手な手出しさせないってのが目的なわけ?」

 

「半分はそれで合っている、だが、もう一つはある意味で裏を掻く行為だけどな。」

 

何となくだが理解したのだろう、玲奈はこれで合ってるかとばかりに尋ね、一夏は半分だけは正解と頷いていた。

 

「もう一つは、そのネームバリューの影響を恐れた各国のお偉いさんは、躍起になってデマに惑わされるなとお達しするだろう。」

 

彼の言う通り、先程語られた内容から推察できるだろうが、これにはもう一つの意図があった。

 

それは、各国政府の対応による副次効果だった。

 

「そうなれば、放送を聞いただけでは半信半疑だった民衆は、国がそれを恐れていると勘ぐる、そして、ミナが行う宣言が真実だと気付く者も現れ、人々をそれぞれ集め始める。」

 

「なるほど・・・、国家の対応を逆手に取る方法ですか・・・、ですが、それがもう一つの計画に何の関わりがありまして?」

 

デマであると思いこませようとする度に、政府は自ずと宣言の信憑性を高めている事まで視野に入れた計画に舌を巻きながらも、今だ明かされぬもう一つの計画に対して疑問を持ったのだろう、セシリアは早く教えてくれと言わんばかりに尋ねていた。

 

「先に言っている様に、民衆は自ら戦う力を持ち合わせていない、だから俺達が有形、無形の支援を行う事も計画に入っている、だが、今のままでは成功できる望みは少ないだろう。」

 

「なんで?結構な念の入り様な気もするけど、何が足りないの?」

 

彼の言葉に違和感を覚えたのだろう、シャルロットは不思議そうな顔をしながらも説明を求めた。

 

確かに、この計画は国家の出方や民衆の行う動きを予想して立てられており、滅多な事が無い限り失敗は無いだろう。

 

だが・・・。

 

「これを見て欲しい、ザフトが開発した新世代MSの試作型だ、性能はストライクを優に超え、尚且つ改修すべき点も多く存在している。」

 

投影されていた映像を切り替え、彼は南米やデブリベルトで交戦した機体、ザクのデータを表示させた。

 

高級機の部類に入るストライクを超える性能を持つ機体、しかもそれが量産化の為の試作型であるとすれば、此処から導き出される結論は・・・。

 

「今後、一年もしない内にアメノミハシラにある機体は、ガンダムタイプを含めて、新型量産機と同程度、若しくはそれ以下の戦力に成り下がる事だけは確かだ。」

 

「それは・・・、ミナや一夏の技量を以てしてもカバーできないのか・・・?」

 

「無理だな、特に俺達は独りで多くを相手取る場合が多いからな。」

 

自分達の力量を以てしてもカバーできぬ性能差がこれからより顕著になっていく事を予想しているのだろう、一夏やミナの表情にはある種の感情からくる固さが見受けられた。

 

だが、そのままにして後手を取る程、彼等も愚鈍ではない。

 

「だから、それを出来る限り小さくするため、俺達も力を着ける、それがこの計画だ。」

 

キーボードを操作し、自身が立ち上げた計画を説明するようにモニターに新たな表示を映し出した。

 

そこには、『A.G.Remodelling Operation』と表された計画名と共に、ストライクを始めとする連合初期Xナンバー五機の姿が映し出された。

 

「謹慎中にプランを幾つか纏めておいた、それぞれの部屋のコンピュータに概要は送ってある、此処では大まかな説明しかしない、各々に合うプランかどうかは自分達で確かめてくれ。」

 

「何時の間にこんな計画を・・・、と言うか、どうやって改修するんだよ?」

 

あまりの手際の良さに驚いているのだろう、玲奈はどういう風に進めていくのかと尋ねていた。

 

「簡単な事だ、シュミレーションや実地でのデータ集めを通し、俺達の機体を俺達の好みと特性に合わせて発展強化させる、次の大戦までにな。」

 

「次の大戦って、まさか・・・。」

 

説明をしながらも、彼は何かを睨むかのような表情を見せていた。

 

「もう時間は長くは残されていないだろう、俺の見立てでは二年と持たずに条約は効果を失う、だから、この《アメノミハシラガンダム改修計画》は今、この瞬間を以て開始とする。」

 

「おいおい・・・、展開が早すぎて付いて行けないんだが・・・、ま、そう言ってもやるしかないけどな。」

 

彼の先を読んだ行動に驚いているのだろう、宗吾は何処か諦めたかのような声色で呟いていた。

 

「さて、話は理解してもらえただろう、A.G.R計画はそなた達に任せよう、そなた達の力になるのだからな、その方が良いだろう。」

 

自分の話を終えた一夏が席に着くのを確かめ、ミナはワイングラスを掲げた。

 

それに倣い、一夏達はワイングラスを同じ様に掲げるが、宗吾と玲奈は躊躇う様に彼等を見ていた。

 

「どうした?ワインは苦手か?」

 

「いや・・・、そうじゃなくてさ・・・。」

 

「アタシら、まだ19なんだけど・・・。」

 

躊躇う二人に声を掛ける一夏に、二人はまだ自分達が未成年である事を告げていた。

 

まだ前の世界での常識を捨て切れていないのだろう、彼等の言葉からは困惑の色が見て取れる。

 

「ははは、お前等、妙な所で律儀だな、安心しろ、この世界じゃ、コーディネィターは16で成人だから問題無い、何とも無い。」

 

「えっ?そうなの?」

 

彼等の困惑を他所に笑い飛ばす彼を見て、本当かとばかりにミナを見る玲奈だったが、そのミナも深く頷くだけであった。

 

つまり、それは肯定以外の何物でも無く、彼の言葉の信憑性を裏付けていた。

 

「成人がまだだと言うなら、ここで元服を迎えるのもアリだろう?」

 

「そっか・・・、なら、遠慮なく!」

 

誓いの場にそういうのは無粋だろと言いたげな一夏の表情から、何か違うモノを思ったのだろう、玲奈は何処か嬉しそうにワイングラスを手に取った。

 

それを見ていた宗吾は、自分だけやらないのもアレだと感じたのだろう、苦笑しながらもワイングラスを手に取り、彼等と同じ様に掲げていた。

 

「計画の始動を祝し、乾杯だ。」

 

ミナの音頭に、彼等はワイングラスに口を付けた。

 

「ふぅ・・・、さてと、部屋に帰って呑み直すかな。」

 

ワインを飲み干した一夏はグラスを置き、今日は休むと言いたげに席を立った。

 

「呑むよ~、たくさん飲むよ~!」

 

「はぁ・・・、今日はセーブして夜に備えましょうか・・・?」

 

彼の言葉を聞き、シャルロットは意気揚々と言った、セシリアはシャルロットを自分が止めねばと言った使命感をその麗しい表情に浮かべて席を立った。

 

「宗吾、玲奈、俺が酒を出してやる、付いて来い。」

 

「上官命令なら、断れないか?」

 

「そうね、でも、誘われたからには御馳走になるわよ!」

 

一夏に誘われた宗吾と玲奈も席を立ち、彼等はミナに一礼した後に部屋を後にした。

 

「・・・、さて、私も飲むとしようか・・・。」

 

独り残ったミナは、自室に置いてあったワインセラーから、見るからに高級そうなワインを取り出し、グラスに注ぎ始めた。

 

「さて・・・、この計画は、この世を、彼等を何処へ導くか・・・、私が見届けようか・・・。」

 

グラスに口を付けながらも、彼女は何処か楽しげに呟いていた。

 

彼女が配下に置く、五人の若人達の為す事に期待するように・・・。

 

sideout




次回予告

愛しい者へ、心震わせる者へ、そして亡き者へ、想いの在り処は何処か・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

貴方の傍で・・・

お楽しみに


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貴方の傍で・・・

sideリーカ

 

「・・・、そう、やっぱりあのストライクのパイロット、只者じゃなかったのね・・・。」

 

L5コロニー群、プラントの一つ、首都アプリリウス市内の高速道路を走るコートニーの車の中で、私は彼が戦っていたストライクのパイロットの事を教えて貰っていた。

 

「あぁ、織斑一夏・・・、一体何処の人間なんだろうな・・・、あそこまで強い男、これまでに出会った事が無かった。」

 

「セシリアとシャルロットはオーブのスーパーエースって言ってたけど、詳しくは分からないわね。」

 

普段は物静かなコートニーが、何処か興奮を抑えきれない様な感じを見せてるのは、それだけ一夏と言う人が強くて、彼にとって大きな存在だからなのかな・・・?

 

もしそうなら、今までそう出来なかった私からしたら、少し、ううん、とっても悔しい。

 

ついこの間出会った人の存在の方が、ずっと同僚やってる私よりも大きいって思われるのはそれなりに辛いモノがある。

 

「そうか・・・、だけど、ザフト側の人間じゃなくて残念だよ、こうやって顔を合わせて話す事が出来ないんだからな・・・。」

 

「ふぅん・・・、それって、ず~っと相手してもらえないから?」

 

「違うって、何をそんなに怒ってるんだよ?」

 

「別に・・・。」

 

男の人に嫉妬してるなんて、言える訳ないじゃないの・・・。

 

なんでそれを分かってくれないかな・・・?

いや、そんな事言っても、私達人間は万能なんかじゃない、どれだけ遺伝子を弄っても、人間は人間のままなんだから・・・。

 

でも、女心はそう簡単に納得できる程単純な作りにはなってない。

 

それは、神が気まぐれに与えたモノだとしても、そうなってるんだから仕方ない。

 

「女心は、MSを動かす事よりも、戦う事よりも難しいんだな。」

 

私の態度に苦笑しながらも、コートニーは何処かからかう様に呟いていた。

 

この人、本当は分かっててこういう態度を取ってるんじゃないかしら・・・?

自分で言うのも何だけど、私はそれなりに考えが分かり易い方だと思ってるけど・・・。

 

「そう思うなら、分かろうとする努力をしてよ・・・。」

 

「ははは、俺はMSバカなんでな、そういうのは分からん。」

 

そういうの、笑顔で言わないで欲しいなぁ・・・、だって、怒れなくなっちゃうんだもの・・・。

 

「はぁ・・・、どうしてこの人の事、好きになっちゃうかな・・・。」

 

ダメ男って訳じゃ無い、寧ろ技術者としての腕も、MSパイロットとしての腕前も確かで、ザフトレッドの私よりも給料は高いんだから尚タチが悪い。

 

「ん・・・、まぁ、折角二人きりなんだから、この話はしちゃ悪いな、そろそろ予約していた店に着くし、切り上げようか。」

 

私の独り言が聞こえたのか、それとも気を遣ってくれただけか、コートニーは小さく咳払いして、この話は御終いだとばかりにアクセルを踏み、高速道路の出口を目指していた。

 

不器用に見せかけて、実は優しいなんて、ね・・・、好きになって良かったって思えちゃう。

 

だから、何も言わないでおこうかな・・・、束縛なんてしたいとも思わないし、ね・・・?

 

高速を降りて暫く進んで行くと、全プラントの中でも特に人気のお店だった。

 

出される料理もお酒もそれなりに上質な物しか置いてないから、軍人の中でも高給取りしか行けない様な場所の筈・・!

 

「うそ・・・!?ここって予約が中々取れないんじゃ・・・!?」

 

しかも完全予約制になってるから、とてもじゃないけど直ぐに予約が取れる事なんて考えられないのに・・・?

 

「リーカには何時も手伝ってもらってばっかりで、今日に到っては彼との戦闘で蔑ろにしてしまったからな、ほんの感謝とお詫びの印だよ。」

 

そんな・・・!私が好きで付いて行ってるだけなのに・・・!

 

ここまでしてもらうと逆に気が引けて来たわ・・・!!

 

「あぁ、金の事なら心配するな、今まで使い道が無かった貯蓄を使う時だと思ったらいい機会だからな。」

 

「そ、そうじゃなくて・・・!私なんかとで、コートニーは良いの・・・?」

 

正直、コートニーはそれなりにモテる、ジュニアスクール時代の先輩後輩だったから、それなりに噂とか評判とか色々耳に入ってくる訳で、そのどれもが好印象なものしかないから、正直私としても気が気じゃなかった事だけは確かなの・・・。

 

だから、私なんかがこうやって一緒にいる事だけでも嬉しいのに、こんな良い所に連れて来てもらっても良いんだろうかっていう気持ちになるのよね・・・。

 

「リーカは俺とじゃ、嫌か?」

 

「そ、そんな事ない!」

 

コートニーと一緒で嫌な理由なんてある訳ないじゃない!

 

ただ、不釣り合いな気がして・・・。

 

「俺はリーカと食事をしたい、それで良いだろ?」

 

「はぅ・・・!」

 

今、なんかすごいことをサラッと言われた気がする・・・!!

 

リーカと一緒にいたい的な事を言われた気がする・・・!!

 

これはあれよね、欲張っても良いって事よね・・・!?

 

「うん・・・!」

 

「それは嬉しい、ちゃんとエスコートさせてくれるか?」

 

「勿論よ!お願いするわ・・・!!」

 

車から降りたコートニーは、私の方のドアを開けて、右手を差し伸べてくれた。

 

折角コートニーの好意を無駄にはしたくないから、私はほんの少しだけ躊躇いながらも彼の手を取った。

 

「それじゃ、行こうか。」

 

「うん!」

 

彼と腕を組み、私はこれまでにない位に満たされた心地で、お店の中へと足を踏み入れた・・・。

 

sideout

 

sideコートニー

 

「大丈夫かリーカ・・・?」

 

「らいりょうぶよ~・・・。」

 

食事を終え、二次会とばかりに俺の部屋に上がり込んだリーカは、何を考えていたんだろうか、途中のスーパーで買い込んだ酒を凄まじい勢いで飲み干し、遂にはベロンベロンに酔っ払ってしまっていた。

 

俺がほったらかしにした事を根に持っていたんだろうか、何となくだが愚痴の様な言葉も聞こえてたしな・・・。

 

「ほら、水を飲め、送って行ってもヤバそうだよな・・・。」

 

台所に取りに行っていた水が入ったボトルを手渡すが、最早力が入らないのだろう、だらしなく床に突っ伏していた。

 

男の部屋に上がって酔いつぶれるなんて、喰ってくれと言っている様な物だろうに・・・。

 

そう見られてないのか、俺がそうしないと同僚として信頼してくれているからなのだろうかは分からないけどな・・・。

 

「んぅ~・・・、コートニー~・・・。」

 

「はいよ、どうした?」

 

俺を呼ぶ声に返事を返すが、どうやら彼女は既に夢の中らしい、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

「やれやれ・・・、困った御姫様だ・・・。」

 

如何に空調が効いている部屋であっても、床で眠るのは身体に良くない、軍人なら体調管理には特に気を遣うべきなのは常識だ。

 

それに、寝ている時に彼女が掛けている眼鏡型のディスプレイが割れてしまってはそれこそ大問題だからな。

 

彼女は遺伝的に盲目であるため、この眼鏡型ディスプレイを装着する事で一般的なナチュラルと同程度の視力を確保しているんだ。

 

それでもMSを使う時は、性能が上がったゴーグルタイプのディスプレイを使って視力を強化しているんだ。

 

それを知らされた時は軽く驚いた事を良く覚えている、何せ、ザフトレッドの中でもトップに近い実力を持っていたんだからな・・・。

 

ま、それはさておき、今はこの御姫様を何とかするかな・・・。

 

そんな事を思いながらも、俺は彼女を御姫様抱っこの要領で抱き上げ、俺が使っているベッドに寝かせる事にした。

 

「それにしても、軽いな・・・。」

 

一般的な女性の身長よりも少し低い彼女の身体は軽く、鍛えているとは言えども何処か儚ささえ感じられてしまう。

 

いや・・・、それは彼女に対して失礼だな・・・、弱く見られて良い心地でいられる人間なんていないんだから・・・。

 

ベッドに寝かせた後、彼女の眼鏡を外して近くの台に置いておいた。

 

これで明日の朝まで快適に過ごせるだろう、女性に風邪をひかせる訳にもいかないしな。

 

「ふぅ・・・、呑み直すか・・・。」

 

彼女の愚痴や飲みっぷりを見ているとどうもそういう気になれなかったからな、独り静かに飲むのも良いだろう。

 

冷蔵庫で冷やしていた、気に入っているウィスキーを取り出し、氷を入れた二つのグラスに注いでゆく。

 

「・・・、本当はこんな事をするのは失礼だとは分かってるが・・・、お前は許してくれるよな、一夏。」

 

本来なら相手もいないのに酒が入ったグラスを二つ用意する事は、死者への手向けを意味するところであり、世間一般からはそう取られても仕方ないだろう。

 

だが、ここに居ない相手だからこそ、そして、その相手が敬意を払うべき相手であるならば許してくれるだろう。

 

「こんな形じゃなくて、何時か向かい合って飲みたいよ、お前ほどの男と飲む酒は、さぞ旨いだろうからな・・・。」

 

俺に初めての敗北を与えた男、負けを清々しく受け入れられるぐらいに認め合える男と語り合えるものなら、ゆっくりと、誰にも邪魔される事なく語り合いた。

 

「けど、今はこれで我慢だ、俺の好敵手《友》よ・・・。」

 

最高の友に語りかける様に、俺はグラスとグラスを乾杯させ、一気にウィスキーを呷った・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「ったく・・・、シャルの奴、調子に乗って呑むからすぐに潰れるんだ・・・。」

 

一升瓶を抱えてベッドの上で蹲っているシャルと、彼女を止めるべく頑張っていたが結局は巻き込まれて目を回して横たわるセシリアと玲奈を見ながらも、俺は愚痴と共に大きなタメ息を吐いていた。

 

シャルの酒癖の悪さは常々感じていたが、本来ならここまでひどくは無い。

 

恐らくはずっと溜め込んでる不安やらトラウマ、そして俺への不満が爆発してしまった結果、こうもひどく荒れるんだと思う。

 

ホント・・・、申し訳ないやら情けないやらで色々と辛いもんだ・・・。

 

「そういうアンタも、かなり飲んでたじゃないか・・・、よくケロッとしてられるよ・・・。」

 

まだ飲みなれていない為に顔を青くしながらも、宗吾は俺に呆れる様に呟いていた。

 

「慣れればそれなりに耐えられる様になるもんさ、初めての酒でぶっ倒れなかっただけ良いじゃないか。」

 

「アンタが倒れない様にセーブしろと言ってくれてなきゃ、今頃俺もあぁなってるさ。」

 

それもそうか、シャルに絡まれない様に離れてろと忠告しといて正解だったな、それを無視してたのが玲奈で、今じゃ完全に目を回してぶっ倒れてるからな。

 

ま、何はともあれこれで静かになったのは確かだ。

 

「さて・・・、寝る前の最後の一杯だ、ちょっとだけ付き合え。」

 

「まだ飲むのか・・・!?アンタ、その内アル中になっても知らんぞ・・・。」

 

その時はその時だ、今を生きないとな・・・。

 

四つのグラスを用意し、ジャックから貰ったスコッチを注いでいく。

 

アルコール度数はかなり高めだが、口当たりは良いために呑みやすい酒だ。

とは言え、呑みすぎると死にかける程には強い酒だけどな。

 

「なんで四つも用意するんだ?俺達の分だけで良いだろうに?」

 

何故四つもグラスを用意したのか分からなかったんだろう、彼は不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。

 

「ん・・・、死んだ部下と、俺の最高の好敵手《友》への敬意の形さ、何もしてやれないなら、せめてこれぐらいはな・・・。」

 

彼は知らないのだ、自分の命と引き換えに、こんなロクデナシの命を救った気高き女性を、そして、こんな俺を好敵手と認め、戦ってくれる最高のライバルを・・・。

 

彼は兎も角、俺が彼女にしてやれる事があるかは分からない、だけど、せめてこういう形でも思い返して、何かをするきっかけにでもなればと・・・。

 

「だから、大目に見てくれ、見っとも無い男だと笑ってくれても構わないからさ・・・。」

 

「一夏・・・、アンタ、俺達と会うまでに何があったんだ・・・?」

 

僅かに表情に出てしまったんだろう、彼は俺を案ずるかのような表情を向けてきた。

 

どうやら、俺の過去を知り、何とかしてやりたいとでも考えているのだろう、彼の表情からはそんな気配があった。

 

「気にするな、俺だって忘れられるもんなら忘れたいんだ、誰も信じなかった、過去を、な・・・。」

 

一時たりとも忘れられやしない、だからこうして酔えもしない酒に逃げてるに過ぎないんだ・・・。

 

それを、彼には知ってほしくは無い、まだ純粋で、若い彼には・・・。

 

「だからな、誰かを想って飲む酒なら、言い訳になるんだ。」

 

「アンタも強情だな・・・、部下の身としては、何も教えられないと戦いづらい事この上ないけどな・・・。」

 

「ははは、俺が話したくなるぐらい頼れる男になってみろ、そうすれば愚痴みたいに零すかもな。」

 

ま、コイツにはそうなれるぐらいの器があると見込んでるんだけどな・・・、コレばっかりはそう簡単にはいかんか・・・。

 

「今はヤケ酒に付き合ってくれ、それだけで十分さ。」

 

「はいはい、分かったよ、一杯だけなら付き合わせてもらいますよ。」

 

観念したのだろう、彼は詮索を止めてグラスを手に取り、俺のグラスと乾杯してスコッチを咽に流し込んだ。

 

コートニー、お前とも何時の日か、こうやって飲んでみたいもんだ。

 

話のネタは尽きないんだからな・・・・。

 

それに、南米にもまた行かなくちゃな、彼女への手向けも用意して・・・。

 

そんな事を考えながらも、俺はスコッチを呷った・・・。

 

sideout




次回予告

求める未来のため、彼等は力を求める、それが如何なる未来に繋がろうとも・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

マイスターズ セシリア編

お楽しみに~


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マイスターズ セシリア編

sideセシリア

 

『オルコット卿、デュノア卿、試験開始まで50セコンド、準備をお願いします。』

 

『了解です、セシリア、準備は良い?』

 

「準備完了、何時でも始められましてよ。」

 

管制官からの通信を受けたシャルさんからの通信に答えながらも、私は機体のバランスと出力を調整し、これから開始されるテストに備える事に致しました。

 

このテストは私のデュエルを強化するための第一段階、キッチリ熟しませんとね。

 

デュエルは私の特性に合わせて、ロングダガーのフォルテストラに、ドレッドノートが置いて行ったドラグーンを装備したモノになっております。

 

膨大なエネルギーを生み出す核エンジンが必要となるドラグーンシステムを使用するにあたって、フォルテストラには新たに幾つかのバッテリーパックを装備しておりますが、それでもPS装甲との併用ともなると長時間の運用は困難を極める事でしょう。

 

『フォルテストラのテストと、ドラグーンのテストを一度にするのもどうかと思うけど・・・、プレアが遺した武器なんだ、キッチリやり遂げようね。』

 

ですが、それも稼働時間を計るためです、今は亡き弟が使った絆を、こんな私が使わせて貰うのです、私も気合を入れると致しましょう。

 

「そうですわね、手加減はしませんわよ、シャルさん?」

 

『そう来なくっちゃ!』

 

『記録開始、試験開始してください。』

 

私達が意気込んだ直後、試験開始を告げる通信が入りました。

 

私は省エネの為に切っていたPS装甲をONにします。

 

「久し振りですが・・・、出来る限りやってみましょう!行きなさい、ドラグーン!!」

 

機体を操作しながらもバックパックからドラグーンを四基とも射出し、意識を集中させてフォーメーションを取りながらも攻撃を仕掛けます。

 

『うわっ・・・!やっぱりセシリアのドラグーン使いは凄いね・・・!逃げ場が無いや・・・!!』

 

オールレンジからの攻撃をシャルさんのバスターは巧みにスラスターを吹かして回避、避けられない物はミサイルで相殺するなどして完璧なまでに見切っておられます。

 

「そう仰いながら・・・!避けておられるではありませんか!」

 

シャルさんに怪我をさせないためにコックピットを避ける攻撃をしているのも原因なのでしょうが、それだけで避けれる程私の攻撃も甘くはない筈です。

 

『テストって言われてるけど・・・!やられっぱなしは性に合わないからね!こっちからも!!』

 

「そう来ると思いましたわ・・・!!ですが、負けませんわよ!」

 

バスターからガンランチャーやミサイルが雨霰と言うべき密度で飛んできますが、私は機体のスラスターを吹かして回避し、お返しとして右肩に装備されていたレールガンで応戦、同時にドラグーンの全砲塔からビームを撃ちだします。

 

『ちょっ・・・!?それ使ったらエネルギー切れるよ!?』

 

シャルさんの言う通り、先程から恐ろしい勢いでエネルギーが減って行くのを横目で確認しておりますが、恐ろしい限りですわね・・・。

 

量子通信システムがこれほどまでにエネルギー消費の激しい代物なのでしたら、有線型の方が使い易いやもしれません。

 

「そうですわね・・・!ですが、データ録りの為です、動けなくなったら連れて帰って下さいませ・・・!!」

 

『一夏と同じ事言うよね、君も、僕も・・・!!』

 

「夫婦とは、似てくるものなのですよ・・・!!」

 

シャルさんの言葉に答えながらも、私はデータが録り易いようにと機体を動かし続けます。

 

引っ切り無しに警告音が耳を打ちますが、それでも構わずに攻撃を続けます。

 

しかしながら、ビーム兵器にPS装甲、それに加えての量子通信システムのエネルギー消費は相当なモノですわね・・・、まだ模擬戦を初めて五分と経っておりませんのにもうイエローゾーンの四分の一まで減ってしまっております。

 

もし、フォルテストラ内に追加バッテリーが無ければとっくの昔にバッテリーは干上がっている事でしょう。

 

今ある技術だけでは、とても実用出来るレベルではありませんわね・・・。

 

核エンジンを持って来れば良いのでしょうが、一夏様からのお達しで、なるべく条約に抵触しない様な範囲での改修プランで進める様です。

 

ですから、この量子通信システムをどう改良するのかがキモになってくる事でしょう。

 

「エネルギーレッドゾーン・・・、もう長くは持ちませんわね・・・!」

 

『嘘!?もうエネルギー切れ・・・!?』

 

私の攻撃を捌き切るシャルさんから驚愕の言葉が返ってきますが、それに答える間も無く、バスターから対装甲炸弾砲が撃ちだされ、デュエルのフォルテストラに直撃します。

 

「きゃぁぁっ!?」

 

誘爆を防ぐために咄嗟にパージしますが、今の爆風でのダメージが襲い掛かります。

 

何とか体制を立て直しましたが、その時にはもう、戦えるだけのエネルギーは残ってはいませんでした。

 

程なく、デュエルのエネルギーは切れ、フェイズシフトダウンを引き起こしてしまいました。

 

『エネルギー切れを確認しました、今回のテストを終了します、帰還してください。』

 

管制官からの言葉を聞き、私は暑苦しいヘルメットを脱ぎ、大きく溜め息を吐きました。

 

「シャルさん、申し訳ありませんがエスコートお願いできますか?」

 

『言うと思ったよ、それじゃ引き上げるよ。』

 

私の頼みに応え、シャルさんはバスターを操作して、デュエルを牽引してアメノミハシラへとコースを取りました。

 

さて・・・、一息つく間も無く反省会ですわね。

 

ですが、久し振りのドラグーンのコントロールは疲れますわね・・・、シミュレーションを繰り返して勘を取り戻しませんとね・・・。

 

何れ訪れる、その時の為に、ね・・・?

 

sideout

 

noside

 

「セシリア、シャル、テストお疲れさん、見せて貰ったよ。」

 

格納庫に隣接されたシミュレータルームにやって来たセシリアとシャルロットを出迎えたのは、彼女達の夫であり、A.G.R計画の主導者である織斑一夏であった。

 

彼は二人にドリンクボトルを渡しつつも、先程の戦闘データをモニターに映し出されていた。

 

「セシリアの事信じてたから疲れてなんか無いよ、でも、デュエルの欠点は一目瞭然じゃないかな?」

 

「そうだな、だが、それはセシリアが一番分かってる筈だ、そうだろ?」

 

自分は大丈夫だと言うシャルロットの言葉に頷きながらも、一夏はセシリアの表情を窺うように尋ねていた。

 

どうやら、セシリアの口から先程の模擬戦で得られたデータについての判断が欲しいのだろう。

 

「はい、一言で評するなら、使い物にならないと言わざるを得ませんわね、非常に心苦しいですが・・・。」

 

自分の好む武装を、それも弟の様に思っていた者が使っていた装備を使い物にならないと評するのは辛いのだろう、苦虫を幾つも噛み潰したような表情を浮かべていた。

 

「やはりな・・・、量子通信システムにPS装甲、そしてビーム兵器の併用と来ればエネルギーも持たんか・・・。」

 

「えぇ、それにフォルテストラのせいで機体が重くて仕方ありませんわ・・・。」

 

予想していたと言わんばかりの表情で語る彼の言葉に頷きながらも、セシリアはドリンクを飲みながらも語っていた。

 

試験段階とは言えど、得られる成果よりもそれに伴うデメリットの方が大きいと思われると、使用するにもそれなりに考慮せざるを得ないのだ。

 

「ですが、改良すべき点でもあります、エネルギーの変換効率を向上させることさえ出来ましたら、実戦でも運用できるレベルになる筈なのです・・・、ですから・・・!」

 

だが、それでも自分の得意とする兵装を、そして、弟の想いを継ぐためにもこの武器を使いたいのだろう、セシリアはどこか切実な表情を浮かべながらも言葉を投げかけていた。

 

自分を変えようと思えたきっかけをくれた者への敬意と慕情が、彼女を突き動かしているのだろう。

 

「よし、良く言った、セシリアのプランは決まったな。」

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに、一夏は優しげな笑みを浮かべながらも端末を弄り、要望を記録している様だった。

 

「今回は希望を見出すための軽い確認みたいなもんさ、セシリアの希望でデュエルをブラッシュアップする、それが目的なんだ。」

 

「一夏も人が悪いねぇ~、今のやり取りだけ聞いてたら使わせないみたいな雰囲気だったよ?」

 

言葉を引き出した彼のやり方をからかう様に、セシリアの隣にいたシャルロットは何処か棘のある言葉を掛けていた。

 

それを受けた一夏は苦笑しながらも、そんな事は無いさとばかりに肩を竦めていた。

 

「ま、セシリアの要望は分かった、とりあえず開発部に研究依頼を出しておくよ、取り敢えずは第一段階は完了だ。」

 

「はい・・・♪」

 

人前だから、大胆なのはまた後でとでも言うように、優しく頭を撫でながらも労う一夏に、セシリアは満たされたような笑みを浮かべていた。

 

それは、愛する男に甘える女の表情でもあり、彼女の想いの深さが滲み出ている様にも見えた。

 

「それじゃ、部屋に戻るぞ、ジャックにデータを伝えてくるから二人はシャワーでも浴びて待っててくれ。」

 

「かしこまりましたわ、御早いお帰り、お待ちしております♪」

 

二人に部屋に戻る様指示を出した一夏は、まだやるべき事があるとばかりに踵を返し、パイロット控え室を後にした。

 

それを見送ったセシリアはもう一度深くシートに座り直し、少し疲れた様にタメ息を吐いた。

 

「どうしたの?」

 

「いえ・・・、久し振りにドラグーンを扱いましたので、少し緊張していましたから・・・、つい・・・。」

 

どうかしたのかと気遣わしげな表情で話しかけるシャルロットに微笑み返し、セシリアは疲れを振り払う様に立ち上がりながらも背伸びをしていた。

 

使い慣れているとは言えど、ブランクがある状態で扱いきれるか不安だったのだろう、いつも以上に気が張っていてもおかしくは無いのだ。

 

だが、それも一時の話だ、感覚さえ取り戻せば、彼女はまた手足の様に扱えるようになる事を見越していた。

 

「さぁ、シャルさん、お部屋に戻って旦那様をお出迎え致しましょう?」

 

「ん、そうだね、今日は何時間相手してくれるか楽しみだね♪」

 

「ふふっ、そうですわね♪」

 

何かを楽しみにしながらも、彼女達は他愛も無い会話を交わしながらも自分達の部屋へと戻って行った・・・。

 

sideout




次回予告

バスターのデータを睨むシャルロット、彼女が得意する戦いとは・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

マイスターズ シャルロット編

お楽しみに~


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マイスターズ シャルロット編

sideシャルロット

 

「こちらシャルロット、玲奈、聞こえてる?」

 

『こちら玲奈、聞こえてるわよ、何時でも行ける。』

 

バスターを操縦しながらも、僕は付近を帯同するイージスの玲奈に通信を入れた。

 

僕の考えるA.G.R計画のプランは、火器の見直しをメインにしてるからね、それなりに動けて、それなりに近接戦も出来て、それなりに強い銃器を持ってるイージスに仮想敵を依頼したんだ。

 

ストライク+I.W.S.P.でも良かったんだけど、地の速さならイージスの方が上だろうし、何より一夏が相手だと欠点を捉える前に終わっちゃう可能性もあるからね。

 

本当は、バスターのメインラウンドの一対多でのシミュレーションでも良かったんだけど、今日は調整中だったからこうやって外に出てくる以外無かったんだよね。

 

ま、それでも納得のいくデータは録らせてもらわないとね、骨折り損になっちゃうからさ。

 

『デュノア卿、早間卿、データ収集準備完了しました、何時でも始めて下さい。』

 

『了解、シャルロット卿、遠慮なく来てくださいよ?アタシもデータ録る積りで行くからさ!!』

 

玲奈ってば、やっぱり逸り過ぎだよね、一応僕―の方が実年齢は下だけど―と一つしか変わらないのに、ね。

 

まぁ、僕達は一時そういうのから離れてた時期があったからね、だから、嫌が応にも若さを捨てなくちゃならなかったからなんだけど・・・。

 

それはさておき、心置きなく戦わせてもらうとしようかな?

 

「うん、撃墜しちゃったら謝るよ、『君の恋人を死なせちゃった』って。」

 

『ちょっ・・・!?縁起でもない事言わないでよ・・・!?アタシとアンタの技量差ならそれも有り得るんだから・・・!?』

 

あはは、冗談だってば、からかいがある娘で面白いね。

 

さっ、ジョークはここまでだ、本気で行くよ!!

 

「シャルロット・デュノア、バスター、模擬戦開始します!!」

 

『ちょっと!!アタシの話聞いてるー!?』

 

彼女の言葉を無視しながらも、僕はガンランチャーやビームライフルを惜しむ事無く撃ちかける。

 

だけど、イージスはMAの推力を駆使して逃げ回っていた。

 

流石、機動力だけは逸品だね、それだけってのが玉にきずだけどさ。

 

「やるやる~、次はこれだよ。」

 

ミサイルを撃ちかけ、進路を塞ぐようにばら撒いてみても、イージスはすぐさまMS形態へと変形し、イーゲルシュテルンやビームライフルの斉射で全ていなしていた。

 

「へぇ・・・、腕を前は避けるので手一杯だったのに。」

 

『だからって、ちょっとは遠慮しなさいよ・・・!?』

 

あー、聞こえない、聞こえないよーだ。

 

誤魔化す様に、僕はガンランチャーとビームライフルを連結させて対装甲炸弾砲を形成、ミサイルの爆発で出来た爆煙に向けて構える。

 

『そっちがその気なら・・・!こっちだって・・・!!』

 

そんな言葉が聞こえると同時に、爆煙からMS形態のイージスが、ビームサーベルを展開してこっちに向けて飛び出してきた。

 

「不意打ちのつもり・・・!?甘いっ!!」

 

『どっちがぁ!!』

 

トリガーを引くと同時に、振り下ろされたビームサーベルにガンランチャーが切り裂かれてしまうけど、散弾がひとつ残らずにイージスに直撃する。

 

「しまった・・・!高くつくよ、これ!!」

 

『こっちだって・・・!エネルギーがかなり減っちゃったわよ・・・!お互い様ね・・・!』

 

軽口を言い合ってるけど、これで分かった事が一つある。

 

前後連結方式じゃあ、発射までに一秒に満たないラグが出来てるって・・・。

 

僕の反応も少し遅れたってのもあるけど、玲奈みたいに動きの速いパイロットや機体を相手取るには今の武装じゃ手に余るっていうのが分かっただけでも十分だね。

 

「けどまぁ、この機体だって格闘戦が出来ない訳じゃ無い・・・!」

 

ストライクやデュエルと同じフレームを使ってる訳だしね・・・!!

 

どれだけ動けるかってのも、今後の参考に見ておきたいところだし、ね・・・!!

 

「行くよ、バスター・・・!あとでキチンと手入れするから・・・!!」

 

使い物にならないガンランチャーを格納しながらも、バスターの申し訳程度のスラスターを吹かして、僕はビームライフルを撃ちかけて突っ込んで行く。

 

『その機体の速さでイージスに対抗出来る訳ないでしょうに・・・!!』

 

「それはどうかな・・・!?」

 

ビームを回避したイージスは、その出力を活かしてバスターの背後に回り込んできたけど、もうそんな事は織り込み済みだ。

 

「その手の相手をたくさんして来てるからね・・・!御見通しだよ・・・!!」

 

強引にスラスターを使って回し蹴りを叩き込み、イージスの体制を崩す。

 

『うっそ・・・!?アンタ、格闘戦も活けるクチなの・・・!?』

 

「十代の頃はね・・・!この機体でも、君に負ける気はしないよ・・・!!」

 

構う事なくイージスを殴りつけるけど、このやり方はあんまり好きじゃない。

 

やっぱり、サーベルの一本は欲しいね・・・!!

 

『やめっ・・・!フレームが歪む・・・!!』

 

「後で焼切ってでも抉じ開けてあげるから・・・!!」

 

『そういう問題じゃないでしょう・・・!!』

 

いくらXナンバー系フレームでもやり続けたら破損なり歪みなりが生じてくるだろうね・・・。

 

だけど、それもデータ採集の一環だからね、限界までやってみるよ!!

 

関節や装甲の継ぎ目、それから首を狙って殴り続ける。

 

こんなに近付いてしまったらもうビームライフルは使っても嵩張るだけだ、殴った方が良い。

 

だけど、限界は近い、引っ切り無しに警告音が鳴り響いてるんだし・・・!!

 

「これで・・・!ラストォォ!!」

 

『やられっぱなしには、ならないわよぉぉ・・・!!』

 

突き出した右腕と同時に、イージスの左腕がカウンターとばかりに飛んでくる。

 

そして、全くの同時にお互いの拳が相手の顔面を捉えていた。

 

その衝撃でメインカメラがイカレたんだろう、モニターにノイズが走り、視界が極端に悪くなってしまった。

 

『こちら管制室、103、303共にメインカメラの損傷を確認、M1Aスクランブル、二機を回収してください。』

 

管制室からの通信が聞こえ、何とか慣性で流されない様に体制を立て直しながらも、僕は暑苦しいヘルメットを脱ぎ、髪を止めていたリボンを解いた。

 

『いったぁ~・・・、何すんのよシャルロット・・・、イージスまで整備ドッグ長期コース確定じゃない・・・。』

 

「あはは・・・、ゴメン、久々の接近戦だったからテンション上がっちゃったよ・・・。」

 

砲撃戦ならそれなりに冷静でいられるんだけどね・・・、流石に格闘戦になると昔ほどとは言わないけど、それでも熱くなっちゃうなぁ・・・。

 

「でも、お陰様で良いデータが録れたよ、付き合ってくれてありがと。」

 

『良いわよ、アタシも訓練のつもりだったしね、良い経験になったわ。』

 

玲奈と通コンタクトを取っていると、アメノミハシラから二筋のスラスター光がこっちへ向かって来ているのが見て取れた。

 

恐らくはお迎えが来てくれるんだろうね。

 

さて、と・・・、戻ったらデータの見直しと要望のまとめだね。

 

やる事は多いけどやってやろう。

 

それが、僕達の力になるんなら、ね・・・。

 

sideout

 

noside

 

「お疲れ様、玲奈、イージスの調子はどう?」

 

模擬戦を終えたシャルロットは、ドリンクボトルを二つ持って、今回の相手であった玲奈の下を訪れていた。

 

玲奈もイージスから降り、今は備え付けのベンチに身体を預け、ぐったりとした様子であった。

 

「お疲れ~・・・、イージスは当分整備ドッグ入りよ~・・・。」

 

「ゴメン・・・、今度何か奢るよ・・・。」

 

「良いわよ・・・、シミュレーションやっとくから・・・。」

 

愛機が損傷した事に意気消沈しているのだろう、彼女はぐったりとした様子でドリンクボトルに口を付け、それを見たシャルロットも何と言えばいいか分からずに引き攣った様な笑みを浮かべるだけだった。

 

「で・・・、問題点は見つけられた訳・・・?そうじゃなかったら、アンタ達から一夏を寝取ってやる。」

 

「ウソでもやけっぱちでもそんな事言わないでよ、傷付くじゃないか。」

 

軽いのか重いのか分からないやり取りをこのまま続ける訳にはいかない。

 

そう判断したのだろう、シャルロットは彼女の隣に腰を下ろし、持って来ていたディスプレイにデータを映し出す。

 

「さっき、ガンランチャーを切られた時と、殴り合いをしてる時に感じたんだけど、バスターに足りてないのは取り回しの良い武器、だね。」

 

「武器?あぁ、そう言えば長物ばっかりだもんね、バスターって、器用貧乏なブリッツやイージスよりは一点特化型って感じがしてるけど?」

 

先程の模擬戦のデータを見ながら語るシャルロットの言葉に納得しながらも、玲奈は自機の特性を考慮しながらも言葉を紡いだ。

 

「うん、ロングレンジは圧倒的に強いけど、流石にクロスレンジだとストライカー着けてないストライクよりも何も出来なくなるからね、ちょっと見直す点かなって。」

 

「ほぇ~・・・、たったあれだけの戦闘で癖も欠点も分かるなんて、流石スーパーエースね・・・、羨ましいわ。」

 

「そんなんじゃないよ、ずっと昔から乗ってるし、身体の一部に近いから何となくね。」

 

欠点を次々に上げていく彼女の観察眼に驚愕しているのだろう、玲奈は舌を巻く様に驚き、ある種の畏怖を籠めた目でシャルロットを見ていた。

 

その視線をくすぐったく感じているのだろう、シャルロットは苦笑とも照れ笑いとも取れる様な表情を浮かべながらも話を続けようとしていた。

 

「あっ、でも感じたんだけどさ、やっぱりバスターって推力が少ないよね、せめてもう少しぐらいスラスターの数増やした方が良くない?」

 

そんな時だった、何かを思い出したかのように玲奈がディスプレイの数字を指差しながらも提案をしていた。

 

「へぇ、そこに気付くなんて君も良い眼をしてるんだね、僕もそう思うね、重力下飛行が出来るまで強化するのは難しいだろうけど、せめてそれなりに動ける様にしなくちゃだよね。」

 

「ほ、褒めても何も出ないわよ・・・!でも、シャルロットにそう言われると自信が着くわ。」

 

驚いた様な口調ながらも、自身を褒めるシャルロットの言葉がむず痒かったのだろう、玲奈は照れながらも口籠るように小さく呟いていた。

 

そんな彼女の表情を好ましく思ったシャルロットは、それで良いとばかりに立ち上がった。

 

「さて、と・・・、僕はジャックさんにこのデータを持って行くよ、玲奈は先に上がってくれていいよ。」

 

「分かったわ、お疲れ様。」

 

用事を済ませに行くと言うシャルロットの背中を見送った彼女は、一つ大きな仕事が終わったと言わんばかりにタメ息を吐き、ベンチに深く座り込んだ。

 

「あんだけ激しい模擬戦やった後に、よくもまぁあれだけしゃんとしてられるわ・・・、あの三人は化け物か何かなの・・・?」

 

模擬戦とは言えど実弾やビームを使った戦いだったのだ、まだ戦闘に慣れきっていない玲奈にしてみれば何時、どんな時に流れ弾で死ぬか分かった物ではないのだ、気が張り詰めてしまっていたのだろう。

 

それが一旦緩むと一気に疲労が押し寄せてしまうのも無理はない。

 

「けど・・・、それも何かあったからなのよね・・・、私達が知らない、昔に・・・。」

 

だが、彼女は気付いてもいた、化け物じみた体力とテクニックを持った彼等が、後ろめたい何かを抱えている事に・・・。

 

だが、それに気付いたとて、その根底にあるモノを理解出来ぬ彼女には何もできないと知っていた。

 

故に、奇妙なフラストレーションがたまり続けているのも、また事実ではあったが・・・。

 

「でも、一夏達には恩も義理もあるし、放って置けないってのが本音だけど・・・。」

 

それも余計なおせっかいかと言う様に、彼女は苦笑していた。

 

他人を気遣える余裕が出来た事に対する、自分自身への呆れか、それとも別の何かか・・・。

 

それすらも可笑しく思いながらも、彼女は汗に濡れ、倦怠感がまとわりつく身体を引き摺るように、格納庫を後にした。

 

sideout

 




次回予告

影に忍び、影から敵を討つため、彼は進んでゆく、その先がなんであろうとも・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

マイスターズ 宗吾編

お楽しみに


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マイスターズ 宗吾編

side宗吾

 

『オルコット卿、神谷卿、これより模擬戦のデータ収集を開始します、準備はよろしいですか?』

 

アメノミハシラのオペレーターの言葉を聞きながらも、俺はブリッツのコックピットでOSのパラメーターの見直しと、武装の調子を確かめていた。

 

今回の相手は、あのセシリアが駆るデュエルだ、生半可な状態でやり合ったらタダでは済まない相手だ、出来る限りの準備だけはしておきたい。

 

『宗吾さん、準備はよろしくて?』

 

「あぁ、俺は何時でも行ける、お手柔らかにお願いするよ。」

 

しかし、こんな美女が男勝りにMS動かして、城のトップ4に入る位の実力なのは未だ理解出来たモンじゃないな。

 

此処に入る前に一度戦って互角ぐらいだったのは憶えてるけど、あれもセシリアが遠征帰り直後の事で、万全の状態とはお世辞にも言い難い状況だったに違いない。

 

つまり、彼女が万全の状態で同じバトルスタイルで戦えばどうなるか、やってみなくても分かると言う物だ。

 

だけど、それは俺がただ未熟で、修羅場を知らぬヒヨッコだからだ、機体の性能なら同じ、いや、武装の数なら上回っていると言って良い。

 

だから、この戦いで自分の力量を確かめる、それからどういうスタンスで戦うかを考える、今はこれだけで十分すぎるぐらいだ。

 

『ふふっ♪かしこまりましたわ、一夏様が期待される御方の御力、見せて下さいませ?』

 

「おぉう・・・、いきなりプレッシャーを掛けないでくれよ・・・。」

 

穏やかな笑みから繰り出される重い言葉に、正直勘弁してほしいという感覚を抱くが、今はそれどころじゃないのは分かっている。

 

あの一夏が愛している女の力、この身を持って体験させてもらうとしよう!

 

『レコーダー起動させました、試験開始してください。』

 

「了解!行くぞセシリア!!」

 

『参りますわよ!!』

 

管制官の試験開始の言葉と同時に、俺達は互いに向けて飛び出し、まずは小手調べとばかりにビームライフルを撃ちかけていく。

 

俺も彼女も、なるべく相手を傷付けない様に手足を狙って撃ってるが、これも一歩でも間違えれば死に繋がりかねない危険な行為には違いが無い。

 

なので、俺達は相手に味方殺しと言う泥を塗らぬように注意しながらも、死なない瀬戸際を見極めながらも銃を撃ちかけていた。

 

『あら?前より射撃が上手になりましたわね、特訓でもされてますの?』

 

「そうか?セシリアに褒められると、その気になっちまうよ。」

 

自分では気付けない事を気付かせてくれるのが、生の人間と戦う事の良いコトなのかもな、今だって、何時も通りに戦っているだけだし、そんなに腕が上がったとも自分では感じられなかった。

 

もっとも、それはセシリアが俺よりも遥かに格上で、色んな奴等と戦ってきたが故にレベルアップの幅を見落とさなくなっているだけかもしれないけどな。

 

『射撃がお上手でも、その機体の特性は活かせませんわよ?』

 

「分かってるよ、格闘戦で!!」

 

ビームサーベルを展開し、撃ちかけられるビームの間を縫ってデュエルに接近、なるべくダメージを与えないためにもシールドを切りつける。

 

セシリアもそれを分かってくれていたのだろう、シールドを掲げてビームサーベルの光刃を受け止める。

 

『回避の腕も、攻撃の腕も巧くなっておられるとは・・・、貴方方のセンスには目を見張るものがありますわね。』

 

「涼しい顔で言われても実感できないさ・・・!」

 

もっと焦る様な表情とか、切羽詰まった叫びとかが聞ければ自分でも上達を感じられるところなんだろうけど、やっぱ地力が違い過ぎんのかね・・・?

 

『ですが、踏み込みが微妙に遅くズレておりますわ、折角の威力も落ちてますわよ!』

 

「うおっ・・・!?」

 

デュエルがシールドを押し返し、俺の体勢が崩れたところに回し蹴りが胴に突き刺さる。

 

盛大に蹴り飛ばされ、体勢を立て直せずにいる俺目掛け、デュエルはグレネードランチャーを構えていた。

 

「くっ・・・!あんなの喰らったら、一撃でPSダウンだろ・・・!?まだ終わらねぇよ・・・!!」

 

何とか右腕だけはデュエルの方に向け、ランサーダードを二発発射した。

 

それと同時に、デュエルもグレネードランチャーを発射、俺達のちょうど間ぐらいで激突し、盛大な爆発を引き起こした。

 

何とかヒットは避けられたか・・・?

 

『油断大敵ですわよ!!』

 

「なっ・・・!?」

 

その爆煙の中から飛び出してきたデュエルの跳び蹴りを避ける事が出来ず、またしても俺は大きく体制を崩してしまった。

 

「うわっ・・・!!すげぇテクニック・・・!それに、判断能力だな・・・!」

 

油断していた訳じゃ無かった、次にどうすれば良いかの判断が一瞬遅れたためにまたしても追いつめられているんだ。

 

『戦場は動き続けないと死にますわよ?今の間は、殺してくれと言っている様な物ですわ!!』

 

「手厳しいご指導感謝しますよ・・・!!もっと優しくしてほしいけど・・・!!」

 

甘ったれるなと言わんばかりにビームサーベルの光刃が迫ってくるが、崩した体勢のままで俺はビームサーベルを握るデュエルの腕を展開したグレイプニールで掴む事で振り抜かせず、そのまま密着してトリケロスでデュエルの左腕を抑え込む。

 

『あら?存外機転が利くものですわね、そう来ましたか。』

 

「使えるモノは上手く使え、だろ?」

 

『その通りですわ。』

 

一夏以外の男には案外素っ気ないんだな、セシリアって・・・!!

 

そんなくだらない事を考えながらも、俺はこの状況を如何しようかと無い頭を回していた。

 

膠着状態を作ったは良い、だが、このゼロ距離の攻防は如何すれば良い?

 

 

トリケロスはシールドを抑え込んでいる為にライフルもサーベルも向けられない、グレイプニールも右腕を押さえる為に使っているから尚の事。

 

『さて、此処からどうなさるのですか?』

 

俺に手が無い事を見透かしてか、セシリアは意地悪く尋ねてくる。

 

此処で無いって言っても彼女は嗤わないだろうが、何か目に物見せてやらねば俺のちっぽけなプライドが許さない。

 

「少しは・・・、足掻かせてもらうよ・・・!!」

 

左腕を押し込みながらもグレイプニールのアンカーを射出し、スラスターも全開にして一気に体勢を押し崩す。

 

些か強引だったが、今は気にしちゃいられない、我武者羅でもやり通してやる!!

 

『きゃっ・・・!?なんて強引な・・・!!』

 

「悪いけど、これでフィニッシュだ・・・!!」

 

今迄堪えていた右腕を押し込み、デュエルのコックピットにトリケロスの銃口を突き付けた。

 

「俺の勝ち・・・、っ!?」

 

勝ったと思ったのも束の間だった。

 

シールドだけに上手く力を乗せて逃がしたのだろう、デュエルは体勢を崩してはいたものの、何時の間にか左手に握られていたビームサーベルの柄がコックピットに当てられていた。

 

『ふぅ・・・、ヒヤヒヤしましたわ・・・、流石ですわね・・・。』

 

「いや・・・、あの状況から相打ちに持ち込めるって・・・、有り得ねぇ・・・。」

 

規格外にも程があるってものだ、一夏はこれを更に上回るのだから笑えない、しかも、全盛期には程遠い実力で、だ・・・。

 

『互いにサーベルを展開していれば撃墜されていましたわね、試験はここまででよろしいでしょうか?』

 

「あぁ、そうしよう。」

 

セシリアの提案に頷き、管制官に試験終了の暗号を送った後に機体をアメノミハシラに向ける。

 

帰ってからの講評をきちんと聞いて、これからの糧としていこう。

 

俺はまだまだ未熟だから、やるべき事からコツコツと、な・・・。

 

sideout

 

noside

 

「お疲れ様でした、宗吾さん。」

 

模擬戦が終わった後、セシリアはベンチで寛いでいた宗吾に近付き、手に持っていたドリンクボトルを手渡していた。

 

「ありがとう、こっちこそ付き合ってもらって助かったよ、セシリア程の手練れに相手してもらえば俺も色々とダメな部分が見えるってもんだ。」

 

「身に余る評価ですわ・・・、私はそんな大層な者ではありませんわよ?」

 

若干興奮しているのだろうか、彼は彼女の力量に心からの賞賛をしていたが、当のセシリアは何処か苦笑気味に否定していた。

 

彼女からしてみれば、嘗ての経験のトラウマも相まって、人を殺すための技を称賛されたところで、自分はろくでなしだと思い知らされているのだろう。

 

「それに、私をお褒め下さるより前に、御自分の癖は掴めまして?」

 

目を背けい、忘れてしまいたい過去への回想が酷くなる前に、セシリアは少し引き攣り気味な微笑みを浮かべながらも問うた。

 

今回の模擬戦は宗吾メインだったのだ、セシリアばかり話していても意味が無いと判断しての行為だろう。

 

「そ、そうだな、俺としては未熟さが目立ってるとしか思わなかったけど、欲を言えば、もうちょい武装が欲しかったってぐらいだな。」

 

彼女の微笑みから得体の知れぬプレッシャーでも感じたのだろうか、宗吾は何処か焦ったように話を戻し、自分のデータを確認しながらも、どうだろうかと言う様にセシリアに意見を求める様な視線を受けた。

 

「そうですわね・・・、確かに、デュエルやブリッツは武装面においては些か心許無い印象を受けますわね、宗吾さんが抱かれている感想は正解に近いかと。」

 

「やっぱりそうか・・・、もう二本ぐらい刀積んどこうかなぁ・・・、他にあったら教えてくれないか?」

 

自分の抱いた感想が間違ってないと分かるや否や、彼は表情を明るくしながらも更なる意見を求めていた。

 

自分に対しての尊敬の目を向けてくる彼に対して、何処かくすぐったさを覚えたのだろう、セシリアは苦笑しながらも別のデータを呼びだしていた。

 

「こちらをご覧下さいな、ここにヒントがありましてよ?」

 

「これは・・・、ゴールドフレーム天ミナ・・・?」

 

セシリアが示したデータに一瞬だけ合点が行かなかったが、それを理解した瞬間に、彼の表情には納得と驚愕の笑みが浮かんでいた。

 

「そうか・・・!ブリッツにもミラージュ・コロイドがある、それを応用すればマガノイクタチも使えるのか!」

 

「その通りですわ、それに、天ミナには武装面のエネルギー効率もかなり優れておりますし、参考にするにはこれ以上ない機体ですわね。」

 

「なるほどなぁ・・・!気付かなかったよ、やっぱり経験が違うのか?俺にゃ考え付かなかったよ。」

 

「・・・っ。」

 

提案に感謝しているのだろう、宗吾は彼女の経験からくる洞察力を褒め称えていた。

 

だが、それを受け取る側が誇れる事では無かった場合、それは只の棘になる事に彼は気付けてはいなかった。

 

「昔やった戦いの経験なんだろうなぁ、一夏やシャルロットとも―――」

 

「宗吾さんっ!!」

 

「っ!?」

 

そんな彼の言葉を遮る様な叫びに、宗吾は隣に座るセシリアを覗き見た。

 

自分の不躾な言葉に怒っているのではなく、何処か自分自身の過ちを悔やむかのような表情が浮かんでいたが、彼にはその正体には気付く事が出来なかった。

 

「・・・、申し訳ありません・・・、そろそろ、ジャックさんの所に行かれた方がよろしいかと・・・、私は、まだ・・・。」

 

「あ、あぁ・・・!すまない、不躾だった・・・、それじゃあ、また!」

 

彼女から発せられているプレッシャーに気圧されてしまったのだろう、宗吾は詫びを入れ、そそくさとその場を後にした。

 

折角逃げるチャンスをくれたのだから、逃げなければ後は無いと感じたのだろう。

 

そんな彼の後姿を見送りながらも、セシリアは自分自身が情けないと言わんばかりにタメ息をを吐いていた。

 

「宗吾さん・・・、貴方方は知らずとも良いのです・・・、私達の・・・、決して許される事の無い、過去を・・・。」

 

ドリンクを飲み干し、彼女は忘れたいと言わんばかりにタメ息を吐いた。

 

絶対に忘れる事など出来ない過ちを、それを止めようとしてくれた、忘れる事の出来ぬ者達に想いを馳せ、遣る瀬無い想いを抱きながらも、彼女は立ち上がり、その場を後にした。

 

今は止まれない、贖罪はその後で・・・。

 

sideout




次回予告

宙を駆ける紅い彗星の如く、彼女は駆けて行く、今だ見えぬ高みへと辿り着くためにも・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY ⅹ INFINITY

お楽しみに。



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マイスターズ 玲奈編

side玲奈

 

『こちらブリッツ、イージス、応答してくれ。』

 

「こちらイージス、そろそろ試験宙域よね、気を引き締めてくわよ。」

 

アメノミハシラから少し離れた宙域まで、ブリッツを曳航してきたアタシは宗吾と話をしながらもこの試験プランを立てていた。

 

可変機はサブフライトシステムにもなるし、今の今まで他の機体のアシになるなんて事はした事も無かったから、ちょうど良い練習にもなったけど、本題はソコじゃない。

 

今回、アタシのイージスの起動試験と、可変機構の癖を掴むために動かしているの、そのために宗吾に付き合ってもらう訳だけど、ブリッツも色々癖のある機体だから、何となく互いの訓練にもなるでしょうしね。

 

『あいよ、一応機体のレスポンスも確かめたいし、速い機体の相手はちょうどいい。』

 

「バディ組んでる仲だけど、こうやって向き合うことは無かったしね。」

 

アタシ等って、それなりの期間MSには乗ってるけど、やっぱり生き抜くことに必死だったから、こうやってゆっくりと確かめあう事も無かったわね。

 

『試験とはいえ、実弾を使うんだ、お互い気を付けていこうぜ。』

 

「分かってるわ、まだ恩の一つも返せてないからね。」

 

それに、アンタと死に別れるのも御免だから、前は寿命で死ねてないんだし、次の死は寿命で迎えたいからね。

 

『オーライ、気合入れてくぞ。』

 

「勿論よ!死ぬんじゃないわよ!!」

 

宗吾に戦闘の意志アリと見て、アタシはブリッツに向けてビームライフルを撃ちかけながらも突っ込んで行く。

 

速度だけならイージスは圧倒的だし、武装に偏りのあるブリッツの左側に回り込めば勝てる、そんな算段もあるしね。

 

けど、それを見越してか、宗吾はトリケロスを掲げる事でビームを防ぎ、こっちの進路を阻む様に回り込んでくる。

 

読まれてるの・・・!?何故!?

 

『こっち側に回り込む事は織り込み済みだ、一夏に教えて貰っておいて助かったよ。』

 

「なっ・・・!それ卑怯じゃないのよ・・・!!」

 

『卑怯もラッキョウも戦いの内ってね。』

 

一夏・・・!あの狼め・・・!!

 

実力あるくせに、妙に狡猾で人の裏を掻いてくる・・・!!

 

でも、それで生き残ってこれたんだろうな、じゃなきゃあんだけ強くもなれなかっただろうし・・・。

 

そんな事を考えている間にも、宗吾はトリケロスからランサーダードを一発だけ撃ちかけてくる。

 

当たったらそれなりのダメージはあるけど、実弾はまだ回避がしやすい、だからアタシ程度の腕でも回避するのは造作も無い。

 

「そんな程度の攻撃ぃ!効くわけないでしょ!!」

 

イージスの機体を逸らし、ランサーダードを回避した直後だった、飛んで来たグレイプニールに右腕を掴まれた。

 

「しまっ・・・!?」

 

『遅い!!イージスの機動力が形無しだ!!』

 

手繰り寄せられる反動で体勢を崩し、そこに飛んで来たブリッツの蹴りを回避できずに直撃してしまう。

 

だけど、まだ終わってはいなかった。

 

宗吾は吹き飛ばされるイージスを、ワイヤーを巻き取る事で引き寄せて逃がさず、追撃とばかりにトリケロスの縁で殴ってくる。

 

「くぅっ・・・!!これ、前にも・・・!!」

 

ついこの間、シャルロットのバスターに殴られ続けた時のことを思い返す。

 

あの時も、アタシはこの機体の速さだけを過信して突っ込んで、それでやられてしまった様な物だった・・・。

 

なのに、何の学習も無しなのか、アタシは・・・!!

 

いや、まだ終わっても、それどころか始まっても無い・・・!!

 

だったら、やれる事をやるだけよ!!

 

「やられっぱなしは、性に合わないのよっ!!腕の一本は覚悟せい!!」

 

両足にビームサーベルを展開して、殴られた衝撃で反り返った所で後転し、蹴り上げの様な形でビームサーベルの斬撃を叩き込もうとした。

 

『なにっ!?』

 

それに反応しきれなかったんだろう、宗吾は何とか機体を逃がそうとしたけど、グレイプニールのアンカーを切り裂かれていた。

 

「惜しかった・・・!でも、まだよっ!!」

 

腕を掴んでいたグレイプニールのクローを引き剥がし、体勢を崩したままのブリッツへ蹴り飛ばした。

 

勿論、それだけじゃ避けられる事ぐらいは分かってる、ならばどうするかって?

 

「こうするのよっ!」

 

すかさずビームライフルの銃口を向けて、クローを撃ち抜いて爆散させた。

 

『あぁ!?何しやがんだ!?』

 

折角の武器を破壊された事を非難したかったんでしょう、宗吾はビームサーベルを展開してこっちに向かってきた。

 

それを待ってたのよ、手数はこっちが上だしね!!

 

「出来る事をしたまでよっ!!」

 

スラスターを強引に吹かして斬撃を回避し、AMBACを利用した前転から踵落としの要領でビームサーベルを振るう。

 

『うぉっ!?そう来たかっ!』

 

予想だにしなかった攻撃だったろうけど、宗吾は全く焦る事無くトリケロスでビームサーベルを防ぎ、スラスターを全開にしながらもアタシを弾こうとしていた。

 

けど、推力ならこっちの方が上!!押し切ってやる!!

 

「しぶといっ・・・!流石は宗吾ね・・・!」

 

『お前こそ、腕を上げたな・・・!!だが・・・!!』

 

推力で押し込むことが出来ないと判断したんだろうか、ブリッツは力任せにトリケロスを振るって拮抗状態を破り、その勢いで回し蹴りを打ってきた。

 

当たったら体勢が崩れて撃たれる事は間違いなし、その後に追撃が来たらそれでゲームオーバーね。

 

「避けてやろうじゃんっ!!」

 

すかさずMAに変形させながらも急速離脱、そのままの勢いを着けたまま旋回して突撃する。

 

『なにっ・・・!?しまった・・・!!』

 

渾身の蹴りを外した宗吾は体勢を僅かに崩してしまい、動くのが一瞬遅れていた。

 

その一瞬が戦場で命取り、この勝負・・・!!

 

「貰ったぁぁ!!」

 

そのまま突っ込み、捕縛形態をとってブリッツを掴む。

 

腕もガッチリ掴んでるから、向こうはもう何も出来ない筈だけど、こっちには必殺の一撃がある!

 

「スキュラ発射ぁ!!チェックメイトぉ!!」

 

スキュラの発射ボタンを押したと言う想定で宗吾に向けて叫ぶと、抜け出そうともがいていたブリッツが抵抗を止めた。

 

『あー・・・、負けだ負けだ・・・、俺の負けだよ・・・。』

 

「やりぃ!これで良いっしょ!」

 

ブリッツを解放しながらもイージスに掴まらせ、アタシはアメノミハシラへと戻るコースを辿った。

 

『くそぉ・・・、最近全く良いトコ無しだなぁ、俺・・・。』

 

そう言えば、宗吾は格上との戦いばっかりしてるから戦績も全然振るわないし、相性の悪いアタシと戦って負けて更に勝率を下げてるんだ、落ち込んでも仕方ないわよね。

 

アタシも、まだまだ満足できないって事ね・・・。

 

「仕方ないわよ、その機体でそんだけやれてる事に自信持つしかないわよ。」

 

『そう言われてもなぁ・・・。』

 

あちゃー・・・、逆効果かぁ・・・。

 

まぁ、人の事心配してられる程、アタシも強くないからね・・・。

 

如何したモノかしら・・・。

 

sideout

 

noside

 

「二人ともお疲れ様、良い戦いだったよ。」

 

格納庫横の控え室に戻って来た二人を、ドリンクボトルを持ったセシリアとシャルロットが出迎えた。

 

「ありがとう、セシリア、シャルロット、一夏はどうしたんだ?」

 

「今はジャックさん達と次の行き先について相談されていますわ、あの方が責任者ですもの。」

 

セシリアとシャルロットが来ているにもかかわらずに一夏の姿が見えない事に疑問を感じたのだろう、宗吾は彼女達に尋ねていた。

 

その疑問を払拭するかのように、セシリアは格納庫の方へ目を向けていた。

 

「そっか・・・、アイツも大変よね、まだここに来て半年ぐらいしか経ってないんでしょ?よくやるわ。」

 

シャルロットからドリンクボトルを受け取り、咽を潤すために呷りながらも呟いていた。

 

そこには純粋な畏怖と挑戦的な感情が見て取れたが、その実態は彼女本人にしか分からぬ事だったが・・・。

 

「「・・・。」」

 

彼女の言葉に思う所があったのだろう、セシリアとシャルロットは表情を僅かに翳らせていた。

 

二人は、一夏がどの様な過去を辿って来たか、それにどれほど苦しんでいるかを知っているのだ、そんな彼女達からしてみれば、その称賛は思う所があるのだろう。

 

人の骸を積み上げて造った功績など、忘れてしまいたいのだろうか・・・。

 

「どうしたんだ?」

 

その事を全く知らぬ宗吾は、何処か勘ぐりながらも彼女達に話しかけていた。

 

何があったんだと、何故話してくれないんだとでも言うように・・・。

 

「何でもないよ・・・。」

 

「それよりも、御二人は何かを見付けられまして?」

 

話を逸らそうとしているのだろうか、二人は愛想笑いの様な笑みを取り繕いながらも、先程の模擬戦の感触を確かめていた。

 

「う~ん・・・、アタシは取り立てて何か直さないとって所は無かったと思うわ、最初の被弾だって機体が悪かった訳じゃ無いしね。」

 

「俺の方は目にセシリアに指摘された通りだったよ、今一度、プランを改めようかねぇ・・・。」

 

イージスの宇宙における戦闘能力は問題にならないにせよ、ブリッツの方は手数や戦法の幅が限られてしまっている事が大きな問題となってしまっているのだろう、彼は渋面を浮かべながらも話していた。

 

「なるほど、それならばプランθは如何でしょう?天ミナの模倣に近い形態になるでしょうが、そこはお好みで変えられますわよ?」

 

「それに、手数を増やすならライフルの類いを積んでみるのも良いかもね、幅を広げるためにはちょうど良いかも知れないよ?」

 

ブリッツの強化プランを瞬時に考案し、幾つもあるプランの中から最良のモノを選択、提案していく様は機体を知り尽くしていなければならない物だった。

 

「プランθ・・・、かなり用途は限られてくるが手数は増える・・・。」

 

「けど、稼働時間も問題ね、マガノイクタチも積んどくのもアリね。」

 

彼女達の言葉を聞き、宗吾と玲奈は自分達の考えを口に出していた。

 

「ですが、その辺りの事は宗吾さん自身が決めて下さい、動かすのは貴方なのですから。」

 

「じゃぁ、僕達は次の地球行きの準備しとくから、二人とも早く休んで用意しといてね。」

 

自分達の言いたい事を言い切ったのだろう、セシリアとシャルロットはもう用は無いとばかりに微笑みながらもその場を去ろうとした。

 

「あぁ、ありがとう、次の会議は俺達も呼んでくれ、決めてくれるならそれはそれで良いけどさ。」

 

「知らないままなのも嫌だしね。」

 

去って行く二人に手を振って見送りながらも、何処か複雑な表情を浮かべていた。

 

彼女達の過去に思う所があったのだろうか、その表情は暗かった。

 

「あの三人・・・、何かあるのか・・・?」

 

「教えてくれても良いじゃない・・・、そんなに、アタシらは頼りないの・・・?」

 

過去に何かあった事に気付いても何もしてやれないどころか、知る事さえ許されないのだ、自分達が彼等とは対等でない事をまざまざと思い知らされている心地なのだろう。

 

長い時間を共に過ごし、同じ業を背負っているであろう三人と、何も知らぬ自分達とでは埋められぬ差があると・・・。

 

だが、それも事実であるために、彼等の葛藤は深いのだ。

 

「いいさ・・・、だったら辿り着いてやるさ、アイツ等が頼れるくらい強くなって、聞いてやるまでよ!!」

 

「あぁ、信じて貰えるまで戦うだけだな。」

 

しかし、簡単には引き下がらないのが玲奈であり、その相方である宗吾だった。

 

自分達がそれに見合うだけの人間になれれば、彼等も教えてくれる。

 

今は無理でも、何時の日か腹の底から語り合える様になるまで・・・。

 

「いよっし!次の準備しようぜ!!」

 

「あぁ、張り切り過ぎて熱だすなよ。」

 

「子供か!?」

 

その想いを胸に、彼等は他愛も無いやり取りをしながらも自分達の部屋へと戻ってゆく。

 

何時の日か、彼等の隣を歩けるようにと・・・。

 

sideout




次回予告

逃れられぬ過去に翼を捥がれ、飛び立てぬ魂は何を想うか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

マイスターズ 一夏編

お楽しみに


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マイスターズ 一夏編

side一夏

 

また、ここか・・・。

 

何時ぞやの廃墟、最後の戦いとなったあの場所に、俺は只一人で立ち尽くしていた。

 

暗雲が立ち込め、時折雷鳴も聞こえる中でも、一際耳を劈く音が俺の耳を打ち続ける。

 

自然に発生している音では無い、金属と金属がぶつかり合う、途轍もなく不愉快な音・・・。

 

その発生源のすぐそばに、俺は立っていた。

 

白と黒の機体が刀を振るい、相手を切り殺さんと戦っていた。

 

どちらからも必殺の意志が見え、相手の心臓や頭を狙って斬撃を打っていた。

 

知らない訳がない・・・、俺が犯した大罪・・・、俺の、消せない過去・・・。

 

「こんなものを、俺に見せて何がしたいんだ・・・?」

 

だが、今更こんなものを見たところで、俺には何も変えられない、取り戻せないじゃないか・・・?

 

そうしている間に、黒い機体は左腕を落とされ、胸に刃を突き立てられて倒れた。

 

「俺が負け犬だとでも言いたいのか?俺には、何も出来ないと・・・?」

 

そんな事ぐらい、この俺が一番よく分かっている、だが、それだけだ。

 

俺はそうならない道を選ぶ事が出来る事を、今の世界で生きる事を、もう一度許されたのかもしれないのだから。

 

――本当にそうか?――

 

「誰だ・・・!?」

 

いきなりの声に辺りを見渡すが、そこにあるのは地に倒れ伏した黒い悪魔、ストライクノワールしかなかった。

 

いや、その声の正体を、俺は知っていた、気付いてもいた。

 

静かに黒い悪魔に歩み寄ると、ソイツは音も無く立ち上がり、俺の目の前に佇んだ。

 

――お前は人形、ただの道具だ――

 

「そんな事を言うためだけに俺の前に来たのか?いい加減消えてくれないか、俺は昔とは違うんだ。」

 

分かり切っているのに、もう整理のついたモノが俺の前にしつこく現れては、俺の感情をかき乱す。

 

それは、目障り以外の何物でもない。

 

――俺に消えて欲しいのなら、なぜ貴様は戦う?――

 

「なんだと!?」

 

俺の言葉に問う形で発せられた言葉と同時に、その悪魔はその姿を変えた。

 

「っ!!」

 

それは見紛う事の無い、俺自身の嘗ての姿・・・。

 

――過去を嫌っているのならば、戦いから逃げれば苦しまないのに、何故お前は戦い続けている?――

 

「それは・・・!!」

 

その問いに、俺は何も答える事が出来なかった。

 

そうだ・・・、人殺しの戦いから逃れる方法は幾らでもあった筈だ、なのに、俺は戦い続けている。

 

それは、今も人を殺めていると言う現実でしかなかった。

 

「だが・・・!昔とは違う!!俺は・・・!」

 

――やる事がある、か?それなら、何故俺を認めない?――

 

「っ・・・!?」

 

俺の言葉を遮る様に発せられた言葉に、俺は何も言えなくなってしまった。

 

正しくは無いとは、もう二度と御免だとは思っていても、善悪の観点からみればあれは必要な犠牲だった事には変わりはない。

 

ただ、俺が受け入れられないだけであると、改めて突き付けられてしまうと反論のしようが無かった。

 

――お前は弱くなったよ、誰にも勝てない、誰も護れない、そんな愚かな人間に戻っちまってさぁ?――

 

「なんだと・・・!?」

 

弱くなっただと・・・!?俺が・・・!?

 

そんな事がある訳ない・・・、有り得るか・・・!!

 

知らぬ間に纏っていたIS、ストライクの腰から対艦刀を引き抜きながらも飛び掛り、その憎たらしい顔を切り飛ばそうとした。

 

だが、奴は俺が振るう対艦刀をいともたやすく回避し、こちらに反撃とばかりにビームブレイドの刃で切り付けてくる。

 

使い慣れ、自分の体の一部同然に扱えるストライクでも、相手はその上を行っていた、攻撃が全く当たらない。

 

これほどの差があるのか・・・!?今と、昔じゃ・・・!?

 

「くっ・・・!!」

 

――俺はこの程度じゃない筈だぞ?もっと強く、鋭かった、それが見る影もない――

 

そんな筈があるか・・・!機体の違いはあったとしても、俺はお前と同じ人形だった・・・!

 

それを分かってまだ戦うしかない俺が・・・!

 

幾ら否定しようにも、攻撃は届かぬばかりか、カウンターの様に放たれた斬撃がストライクの胸部装甲を抉り、その拍子に体勢を崩した俺の腹にレールガンが立て続けに撃ちこまれた。

 

「ぐぅあぁぁっ・・・!?」

 

それを回避する事が出来ずに大きく吹き飛ばされ、俺は背中から地に叩き付けられてしまう。

 

夢なら、早く醒めて欲しいものだ・・・、こんな事が・・・!!

 

起き上がろうと顔を上げると、そこには嘲笑を浮かべた奴の顔があった。

 

――そんな事にも気付けない様じゃ、本当に墜ち切った様だ、無様な男だな・・・、クックックッ・・・、ハーッハッハッハッ!!――

 

「待て・・・!俺は・・・、俺は・・・!!」

 

呼びとめる俺の声に返す事も無く、奴は哄笑と共に闇の中へと溶けて行った。

 

何が・・・、俺が弱いだと・・・!?

 

何が弱い理由なんだ・・・!?

 

殺しを率先してやらなくなったのが要因だとでも・・・!?

 

だが、あんな事は、もう二度と・・・!!

 

「くそっ・・・!くそぉぉぉぉ!!」

 

何が答えなのか、何が正しいのか・・・、その理由すら分からなくなった今の俺には、憤りを吐き出すかのようにただ叫ぶ事しか出来なかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「っ・・・!!」

 

自身の叫びで目が覚めた一夏は、荒い息を吐きながらも目だけ辺りを見渡していた。

 

そこは彼が宛がわれた部屋であり、就寝時間の為に暗く、枕元の小さな明かりだけが部屋を彼等を照らしていた、

 

「俺が・・・、弱いだと・・・?そんなはずが・・・。」

 

起き上がる事無く、そして、隣で眠っている最愛の妻達を起こさない様に、彼は小さく自問するように呟いてた。

 

そんな筈はないと否定したかった、だが、現実はどうだ?

 

嘗ての様な絶対的なまでの力は失せ、今は部下一人さえ護れなかった彼が、自分は弱くなってないと言えないのも用然と言えば当然だった。

 

「・・・、くそっ・・・、あの力が正しかったとでも言うのか・・・?」

 

自分の腕に縋る様に眠るセシリアとシャルロットの身体を離し、彼は静かにベッドから降り、少し離れた所に設けられた備え付けのコンピュータの前に腰掛け、キーボードを静かに叩き始めた。

 

だが、その手は小刻みに震えており、苦しげな様子が伝わってくるようでもあった。

 

「今まで頼る気はなかったが・・・、やはり、この呪縛からは逃れられないのか・・・?」

 

コンピュータの中にあるファイルの内の一つ、彼が任されたガンダム改修計画の予想図、設計図が入ったファイルを開き、彼はその中にある、更に認証が必要なデータをパスワードを入力する事で開示した。

 

そこには、新型のストライカーの設計図が記されており、所々に正確な数値までもが記載されていた。

 

「プランN・・・、ノワールストライカー・・・、コイツだけは、もう見たくも無かったんだけどな・・・。」

 

自分が嘗て好んで使用し、大量の血を浴びる為だけに使用した、彼にとっての悪魔のストライカー、それがこの装備だったのだ。

 

この時代にはまだ設計すら開始されていない、データ収集段階の装備なのだが、彼の記憶から導き出した出力は、シミュレート上では強化された天ミナをも超える出力を叩きだしていた。

 

無論、使いたくないとは言えど、このストライカーは今も彼がもっとも好む武装類が装備されており、ベースにするには打って付けのモノである事には変わりなかった。

 

「これを使えば・・・、強さを取り戻せるのか・・・?」

 

強さを取り戻せたところで、過去の自分に戻ってしまうのならば願い下げなのだろうが、今の自分では護れなかった者がいる以上、このままという訳にもいかないと言うのが実情であるために、気持ちが揺らいでしまっているのだろう。

 

「ふっ・・・、らしくないぞ・・・、織斑一夏・・・、迷いに迷う、それが人間だろ・・・、そうだろ・・・?」

 

弱弱しい苦笑を零しながらも、彼は嫌な汗を流すために席を立ち、シャワールームへと入って行った。

 

故に気付いてはいなかったのだろう、ベッドで眠っていたセシリアとシャルロットがほんの少しだけ身体を起こし、彼を見ていた事に・・・。

 

「一夏・・・、また、あの時の夢を見てたんだね・・・。」

 

彼の後姿を見ていたシャルロットは、彼が感じている苦しみを、その根源である過去に想いを馳せながらも、何もしてやれない自分の無力を嘆くかのような表情を浮かべていた。

 

自分達も彼と同じ業を経験して来た身であり、それ故にどうする事も出来ないのだ、何故ならば、彼は彼女達もその道に引き込んでしまったと言う苦しみがあるのだから・・・。

 

「あれは・・・、ノワールの・・・?」

 

ベッドから降り、一夏が着けっぱなしにしていたコンピュータの画面を覗き見たセシリアは、そこに表示されていたデータに、軽い驚愕の表情を浮かべていた。

 

それは、彼が苦しむ過去を体現したモノであり、忌避していた物でもあった。

 

「これを御使いになられる御積りなのでしょうか・・・、ですが・・・。」

 

「うん・・・、また、あの時の苦しみに苛まれるだけ、だよね・・・。」

 

忌避していたモノにまですがる思いで、彼は自分の弱さを打ち消そうとしてるのだろう、彼女達には彼のそんな想いが痛いほどに伝わって来ていた。

 

だからこそ、自分達も何かしてやれないものかと、彼の苦しみの種を摘んでやれない物かと思っているのだろう。

 

だが、答えはいまだ見える事無く、彼女達もまた、彼と同じ様に苦しみの中でもがいているだけだった・・・。

 

かつて犯した罪に苛まれながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「・・・、以上が次のミッション内容だ、諸君達には各々の機体のデータを集めてくる事を目的とする、質問はあるか?」

 

『ありません。』

 

北米大陸、カリフォルニアにある連合軍基地のとある部屋にて、一人の連合軍指揮官と、その部下と思しき五名の若者たちの姿がそこにはあった。

 

司令官と思しき中年の男は、若者達に指示がいきわたった事を確認し、満足そうに頷きながらも席を立ち、さっさと部屋を出て行ってしまう。

 

一連の動作を窺うに、彼は自分の部下と言えど、兵士の事など何とも思っていないのだろう。

 

ただ使える戦力であるから使っている、そんな雰囲気が見て取れた。

 

「またテロリストの殲滅かぁ?俺らも忙しいねぇ~。」

 

「ほんと~、裏の部隊の筈なのに最近出ずっぱりよね~。」

 

そんな若者たちの内の、黒人の青年と濃い化粧の女性はどこか呆れた様な声で話していた。

 

裏の部隊、その言葉が意味するところは全くもって計り知れないのだが、彼等の言葉から察するに相当な意味を持っているのだろう。

 

「俺は戦えればそれで良いさ、テロリストだろうとコーディネィターだろうと、潰す時の悲鳴は格別さね。」

 

「ふん、お前らしい、コーディネィターは人類の敵だ、命令が無くとも、俺は潰しに行く。」

 

そんな彼等の会話を聞いていた黒髪を伸ばしっぱなしにした青年と、赤髪の青年はそんな事よりも優先すべきモノがあると、その雰囲気が物語っていた。

 

「お前も戦いたいんだろう?空を見上げてるのも、潰したムシの数を数えてるんだろうなぁ?」

 

「・・・、どうだろうな・・・、だが、準備は必要だ、俺は失礼する。」

 

黒髪の青年は、隣にいた灰色の髪を持った青年に尋ねていたが、彼は素っ気なく返した後、そそくさと部屋を後にした。

 

「へっ・・・、無愛想な奴だぜ、だがまぁ、やる事やってるだけ良いか・・・?」

 

そんな彼を見送った後、黒髪の青年は苦笑しながらも呟き、交戦的な笑みを浮かべた。

 

これから自分達が行う破壊を、心待ちにしているかの様に・・・。

 

sideout




次回予告

目的のため、再び地球へと降りる一夏達、そこで待つ新たなる試練とは・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

重力の底へ

お楽しみに~


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重力の底へ

side一夏

 

『こちら管制室、射出タイミングまで150セコンド、各員、準備をお願いします。』

 

「こちら降下シャトル、発進準備完了、何時でも出せるぞ。」

 

大気圏突入用のシャトルのコックピットにて、俺は管制室と発進前の交信を行っていた。

 

数か月ぶりの地球への出立だし、降下地点の気象情報や時刻などは操縦の仕方にも大きな影響を及ぼすために、準備を怠る事は出来ない。

 

今回は地球の各地でデータを集める予定だ、その足掛かりとして、まずはオーブのモルゲンレーテとの接触から始まる旅になるだろう。

 

副操縦士席に座る宗吾も、何処か緊張の面持ちでその時を待っていた。

 

固くなるなりすぎるなとは言っておいたが、経験の浅い彼にはまだ酷な話だろう。

 

その固さにある種の初々しさを覚えながらも、俺は作業を続けた。

 

『一夏、聞こえているか?』

 

「ミナか、俺達がいない間はルキーニの情報を頼って動いてくれ。」

 

通信を入れてきたミナに対応しながらも、俺は計器を確認し、発進の準備と効果地点のデータを入力する。

 

『分かった、オーブに降りたら、出迎えに来させているある技術員に会うと良い、彼女もお前に会いたがるだろうからな。』

 

「誰の事・・・、ってのは聞かないでおくよ、色々と詫びなきゃいけない事もありそうだしな。」

 

あの人の事なんだろう、俺が何も言わずに逝ってしまった事を、一番怒ってそうな関係だったしな・・・。

 

「じゃあ、行ってくるよ。」

 

ミナとの通信を切り、俺は操縦桿を握り、開いた隔壁の間から青い星、地球へ向けて発進した。

 

一番大気圏に近いスペースゲートから発進したため、すぐにでも突入準備をしなければ色々とヤバい。

 

「大気圏突入シークエンス開始、シャッターを下ろせ、眼が死ぬぞ。」

 

「了解っと・・・、しかし、ひどい揺れだ・・・。」

 

俺の指示に答えながらも、宗吾は頷きながらもスイッチを押し、輸送シャトルの遮光シャッターを下ろす。

 

「ツラいか?なら、セシリアかシャルと変わって貰え、あの二人は色々となれてるから大丈夫だ。」

 

「いいや、大丈夫さ・・・、こういうのに慣れとかないと、後々面倒だろ?」

 

分かっているじゃないか、これから先、何度も地球に降りる機会はあるだろうし、下手をすればMSでの単独降下なんて荒っぽい事もする事になるやもしれん。

 

比較的安全なシャトルでの降下から慣れといてもらわないと、こちらとしても運用の幅が狭まるからな。

 

「けど、アンタもこういう事をする機会は少なかったんじゃないのか?これで何度目だ?」

 

「二度目だな、前は数カ月前にジャーナリストのジェス・リブルと南米に降りたぐらいだな。」

 

「へぇ、それにしちゃ慣れてるって感じだな、羨ましいよ。」

 

彼は俺の慣れの早さを羨ましがっているのだろうが、今の俺にはそう捉える事が出来なかった。

 

戦いを多く経験した事、そこでの戦いの苛烈さを生き抜いて来れた事を羨ましがっていると、俺は考えてしまった。

 

「そうでもないさ・・・、力が無ければ、こんなにも苦しまずにいれたのに、な・・・。」

 

「?」

 

力が無ければ、こんなに多くの戦いに赴く事も無く、戦いに行く事も無くなり、誰かが死ぬのも見る事が無かったのにな・・・。

 

だが、持ってしまったもの、背負ってしまったモノには責任というモノがある。

 

だから、せめてそれを果たすまでは戦い続けるしかない、それが力を持つ者が出来る唯一の事・・・。

 

「気にするな・・・、ただの独り言だ、それより、しっかり操縦桿握ってろ、俺が動かしているとはいえど、しっかり気を張ってろ、そうでないと墜ちるぞ。」

 

「お、おう・・・、聞かせてくれたっていいのによ・・・。」

 

俺の指示に頷きながらも、彼は何処か不満げに小さく呟いて操縦桿を握り直した。

 

聞こえてるぞ、俺の身の上話を聞きたいって本音がな・・・?

 

だけど、もう少し待ってくれてもいいだろう・・・?

 

俺が、自分の弱さにきちんと向き合って、それを本当の意味で受け入れられる様になるまで・・・、それまでは話せないから・・・。

 

俺が自分自身の覚悟の弱さにどう向き合うかを決めあぐねている時にも、シャトルはどんどん降下してゆく。

 

縛り付け、留まらせようとする枷の様に絡みつく重力と共に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「来たわね・・・、サハク家の遣いが・・・。」

 

地球、オーブのオノゴロ島にある軍用滑走路脇に設けられた管制塔にて、一人の女性が降下してくるシャトルの機影を見ながらも呟いていた。

 

モルゲンレーテの技術士である事を表す制服を身に付けながらも、何処か女性らしい柔らかな雰囲気を纏う女性であり、華やかな美しさは無いが、静かに咲く水仙の様な美しさがそこにはあった。

 

彼女の名はエリカ・シモンズ、モルゲンレーテの技術主任であり、元首であるアスハ家だけでは無く、アメノミハシラを治めるサハク家とも繋がりを持っている。

 

また、彼女はヘリオポリスで極秘開発されていたアストレイシリーズの開発者であり、そのデータを基にM1シリーズの開発をサハク家の指示の下に行ったのも彼女であった。

 

連合軍によるオーブ侵攻によって国が壊滅した後は戦艦クサナギに乗り込み、三隻同盟のメカニック達と共に陰からカガリ・ユラ・アスハやラクス・クライン、彼女達と共に戦った者達を支え続けた。

 

「ミナ様か・・・、それともギナ様の遣いか・・・、どちらにしても、あまり関わりたくない相手なのに、ね・・・。」

 

だが、そんな彼女でも苦手としているのが、今回会う事になっているサハク家の人間だ。

 

確かに、以前からの付き合いはあるとは言えど、彼女はギナが掲げていた理念に、そしてその野望に賛同する事が出来なかったのだ。

 

しかし、それだけならば表面的な付き合いをしていればよかったのだが、ギナがオーブの指導者としての地位を得る為に、彼女にカガリを殺す様に仕向けさせたことがあり、その事が切っ掛けでエリカはサハク家と取引を止めようとしていた。

 

その矢先、ミナから会ってほしい者があると言われてしまったために、気が進まなかったがここまで出向いたのだ。

 

だが、不満はそれだけではない、連合の支配が薄れたとは言えどオーブは今だ復興の最中であり、モルゲンレーテも施設を再建している途中であったのだ。

 

そんな忙しい時に自分が現場を空ける事は出来ないにも関わらずに引っ張ってこられたのだ、不満も溜まってもおかしくは無かった。

 

「シモンズ主任、シャトルが到着しました、我々も参りましょう。」

 

「分かってるわ、あぁもう・・・、文句の一つは言ってやりたいもんだわ・・・。」

 

部下の進言に答えながらも、エリカは大きく溜め息を吐いて管制室から出て行き、エレベータを使って滑走路に降り立った。

 

着陸したシャトルまではそれなりの距離があったため、彼女は部下が回していたジープに乗り込み、シャトルの方に向かった。

 

そんな彼女達の前ではシャトルの格納部分のハッチが開き、数機のガンダムタイプMSが姿を現した。

 

「あれは・・・、ヘリオポリスのG・・・?」

 

デュエル、バスター、イージス、ブリッツ、I.W.S.P.を装備したストライクだった。

 

ヘリオポリスで生産されたのはそれぞれ一機だけ、二機目は存在するはずが無いのだ。

 

例外として、ストライクのデータと余剰生産された予備パーツで製造されたストライクルージュが存在するが、それも現在はモルゲンレーテの倉庫内に佇んでいる筈だ。

 

だが、そんな機体がなぜ目の前にあるのか、幾つかの可能性が彼女の脳裏を過ぎったが、今はそんな事を考えている場合ではないとばかりに頭を振り、彼女は立ち止まったストライクの前にジープを停車させた。

 

彼女達がジープから降りた事を確認したのだろう、ストライクのコックピットハッチが開き、中から長身の男性がラダーを使って降りてきた。

 

「貴方がサハク家の遣い、で良いのかしら?」

 

「そういう建前で来てる、出迎えに感謝しますよ。」

 

降りてきた男性に確認しながらも、エリカは探る様に尋ねていた。

 

流石に苦手としている家からの遣いなのだ、警戒しすぎるくらいでも良い位だと感じたのだろう。

 

警戒の色が伝わって来たのだろう、男性は何処か苦笑しているかのような声色で話していたが、ヘルメットが着けっぱなしだったことを思い出したのか、ヘルメットに手を掛けて脱いでいた。

 

一体どんな顔をしているものかと睨む様な目つきを取っていたが、ヘルメットを脱いだ彼の素顔を見るや否や、その表情は驚愕の色に染まった。

 

その艶やかな黒髪、切れ長の瞳から除く黒曜石の如く黒い瞳・・・。

 

それらの特徴を兼ね備えた青年に、彼女は見覚えがあった。

 

「一夏・・・、なの・・・?本当に一夏なの・・・!?」

 

「えぇ、お久し振りです、エリカ・シモンズ、帰ってきましたよ。」

 

驚愕に目を見開き、彼女は彼に近付きながらもその頬を撫でた。

 

彼に出会った事は無いが、心に湧き上がる喜色と悲哀に塗りつぶされた思考は、そんな事を考えさせずにいた。

 

「どうして・・・、貴方の事を・・・?でも・・・、なんで・・・?」

 

「詳しい事は出来る限りお話しします、人払い、お願いできますか?」

 

何故自分が彼の事を知っているのか、出会えた事にこれほどまでの歓喜と悲哀が湧きあがるのか、混乱する中で答えを知ろうとしたエリカだったが、一夏は柔らかく笑むだけで答えず、ゆっくり話がしたいと切り出していた。

 

それもその筈だ、この事は彼等以外の人間が聞いた処で理解すらできないのだ、限られた人間だけで密会する様な形が一番望ましいだろう。

 

「分かったわ、案内する、着いて来て。」

 

「了解です。」

 

彼の意図を汲み取った彼女は周囲の部下に指示を出しつつ、彼に付いて来るように促しながらもジープに乗り込んだ。

 

それを受け、一夏もストライクのコックピットに戻り、走り出したエリカ達のジープを追いかけて機体を駆った。

 

各々が、やるべき事があると、そして、話したい事があると言う様に・・・。

 

sideout

 

side宗吾

 

モルゲンレーテの秘匿格納庫に機体を置かせてもらった後、俺達はエリカ・シモンズ主任に案内された来賓室のソファに腰掛け、今回ここを訪れた目的と、ミナから預かった伝言を話していた。

 

しかしながら、一夏達とエリカ主任の間に嘗ての世界から通じるアレコレがあるとは思わなかった。

 

並行世界の同じ人間とはいっても、所詮は別人の筈なのに、彼女は彼を知っていた。

 

一夏曰く、前にも同じ事が何度かあったらしく、考えが及ばない領域で起こっているのだそうだ。

 

つまり、詮索しようにも答えは得られそうにないので、俺も追及はしないでおこう。

 

名前と既視感以外、彼女は彼について何も覚えていないらしいしな・・・。

 

「そう・・・、貴方達はミナ様に仕え、ミナ様が新たに目指す理想の為に働いている、と言う事なのね・・・?」

 

「えぇ、ギナが抱いていた野望をミナは止めたんだ、世界征服もオーブの首長も眼中にない、そうアスハの小娘にも伝えて欲しいそうです。」

 

「ちょっ・・・、一国の代表に向かって小娘ってのは・・・。」

 

流石に言って良い事と悪い事がある、仮にも相手は次期オーブの首長なんだ、如何に裏のアレコレを知るサハク家の名前を出せるからとは言えど、これは不敬罪に問われても文句は言えんだろうに・・・。

 

「ロンド・ミナからの伝言は以上です、後は、俺個人からの頼み事なんですが、聞いてくれませんか?」

 

「良いわよ、私に手伝える事なら力になるわ。」

 

だが、当の一夏やエリカ主任は全く気にした様子も無く話を続けていた。

 

って、そんな軽い事で良いのかよ・・・、今のは肝が冷えたよ・・・。

 

他のみんなもそうだろうと思い、顔色を窺う様に女性陣を見てみると、セシリアとシャルロットは話は全部一夏に任せたと言わんばかりの表情で紅茶を啜っており、玲奈に到っては出された菓子を食っているだけで話自体にはあまり興味がなさそうにしていた。

 

そんな事で良いのか・・・?本当に良いのか・・・!?

 

「これからアフリカの砂漠地帯に試験稼働をしに行くのですが、オーブ軍の潜水艦を一隻貸してくれませんか?現地での足は個人的な伝手を頼るつもりです。」

 

初めて砂漠地帯に行くと聞いた時、何故オーブからもっとも遠いアフリカ大陸を目指すのかと疑問に思った者だ、何せ、遠回りにも程があるしな。

 

それに、まさかオーブから潜水艦を拝借させるなんて思いもしなかったよ。

 

「アフリカで・・・?なるほど、貴方達の機体を連合軍に見られる訳にはいかないものね。」

 

だが、エリカ主任の言葉を聞いて、俺は初めて彼の意図に気付く事が出来た。

 

なるほど、言われてみればユーラシアのゴビ砂漠や北アメリカの山岳地帯はそれぞれ連合軍の勢力域だ、俺達の機体では迂闊に踏み込めやしない。

 

それに比べ、アフリカは中立及びザフトの勢力域、俺達の機体がザフト軍と交戦しても連合軍を疑う筈だ、こっちに降り掛かるリスクは少ないし、勝手に連合とザフトが牽制し合ってくれる形になるから俺達への追及は幾らか軽くなる。

 

尤も、それは保険でしかない訳で、俺と玲奈の機体は一時期連合とも行動を共にした事もあるし、身バレはしているかもしれないからな。

 

「勿論、見返りとしてゴールドフレームのデータを持ってきました、ミナからも許可を貰っているので遠慮せずに受け取ってください、これからのM1の後継機造りへの参考にでもしてもらえれば、こちらとしても光栄です。」

 

そんなの何時の間に録って来たんだよ・・・!?協力を取り付けられるってこういう事か・・・!!

 

「よく持ってこれたわね・・・、相変わらずやり手なのね。」

 

うん、俺もそう思う、何せどうやってミナを丸め込んだのか、その手腕が謎だからな。

 

まぁ、アメノミハシラにオーブがちょっかいかけない様に牽制して来いってのも含まれてるからかもしれんが、それを実際にやるんなら俺にも教えといてくれ、後で確認したくなるしな。

 

「はぁ・・・、カガリに怒られるかもだけど、ここまでされたら手伝わない訳にはいかないわね、分かったわ、一週間以内に動かせる様に手配するわ、貴方達は降りてきたばっかりだし、休んでいなさい。」

 

「ありがとうございます、エリカ主任、御厚意に感謝します。」

 

何とか話が着いた様で、エリカ主任は立ち上がって俺達に微笑んだ後に部屋から出て行ってしまった。

 

あの人にもやる事が増えてしまったから、一秒でも早く仕事をこなしたいんだろう、本当に色々と大変だろうなぁ・・・。

 

「よっし・・・、大陸までのアシは確保出来た・・・、次は砂漠での移動手段だな・・・。」

 

「宛はあるのか?」

 

確かに、飛べるストライクは兎も角、他の四機は歩いたりジャンプしての移動だ、砂漠では効率が悪すぎるし、快適してしまった時に制空権を取られるとマジでシャレにならない。

 

だからこそ、空中を移動できるようにSFSの類いを調達するんだろうけど、一体どうするのか・・・。

 

「あぁ、前に南米に行く前に会った事のある御方がいる、それなりに幅が効かせてもらえるだろうし、一度直談判してみるよ。」

 

「裏の権力者って事?そんな人と関わって大丈夫なの?」

 

一夏の言葉に、さっきまで出されたケーキを貪っていた玲奈が話に割り込んできた。

 

どうやら、それなりに聞き耳を立てておかないと面倒な話だと感じたようだ。

 

「オネェ口調以外は紳士だから大丈夫だ、尤も、何を考えてるかイマイチ見通せないのが怖い所だ。」

 

「アンタですら考えが読めないのは相当な御仁なんだな・・・。」

 

そりゃ警戒もするわな・・・、そうでなければ喉笛を食いちぎられてもおかしくは無いだろうし。

 

「全員で行かなくても良いだろうし、俺独りで行ってくる、お前達は骨休めでもしといてくれ。」

 

一夏の言葉を聞くや否や、セシリアとシャルロットの表情が少しムッとした様なものに変わってしまった。

 

この二人も、それなりに一夏への依存度が高いなぁ・・・、それは一夏本人にも言える事なんだろうけど・・・。

 

「セシリアとシャルロットは連れて行かないのか?」

 

「機体を護って貰わないとな、モルゲンレーテを信頼できない訳じゃ無いが、ホームじゃないんだ、警戒しとかないと戦場で死んじまうかもしれんからな。」

 

彼女達の視線が妙に痛かったため、何とかフォローしようとしたが、彼は大丈夫だと言わんばかりに笑い飛ばし、さっさと部屋を出て行ってしまった。

 

やべぇよ・・・、やべぇよ・・・、どうすんだよこの空気・・・。

 

セシリアは溜め息吐いてるし、シャルロットは地味に歯軋りしてるし、玲奈はそんな雰囲気に引き攣った様な苦笑を浮かべる事しか出来なかった。

 

誰か・・・、あのフリーダム貴公子を連れ戻してくれ・・・、でないと・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ん~、今日も良い天気ね~、そう思わない、マディガン?」

 

「呼びだされたと思えば茶会かよ、まぁ、良いけどな。」

 

地球、マティアス邸の庭園に、二人の男性の姿があった。

 

一人はこの屋敷の主、サー・マティアスと、そのお抱えプロMSパイロットであるカイト・マディガンだった。

 

特に何をするでもなく、出されたお茶と菓子をつついての雑談をしている様だったが、カイトはそんなに乗り気でない様で、苦笑とも渋面とも取れる様な微妙な表情をしていた。

 

どうやら、報告がてら寄った所を付き合わされているのだろう、用がないのならさっさと御暇したいと言う様な感じが彼からは見受けられた。

 

「ジェスはオーブに取材に出向いているみたいだから、話し相手がいなくて退屈だったのよ、助かったわ。」

 

「へいへい、夜までは付き合うよ、後は次の準備をさせてくれ。」

 

「ありがと♪イイ男は違うわね。」

 

クライアントからの頼みと来れば断れないのだろうか、彼は苦笑しながらも頷きながらも紅茶に口を付けていた。

 

そんなカイトを見ながらも、マティアスは満足と言わんばかりに微笑み、自分も今を味わおうとでも言うように紅茶を啜った。

 

そんな穏やかな雰囲気を破るかのように、黒服のSPがマティアスに駆け寄った。

 

「マティアス様、アメノミハシラの織斑一夏卿がお見えになられました、マティアス様と会いたいと申されておりますが、いかがいたしましょう?」

 

「あの色男が・・・?アイツ、精神をやられかけてただろうに、こんなにも早く・・・?」

 

SPの報告に最も驚いたのは、マティアスでは無くカイトであった。

 

それもそうだろう、彼は一夏が負った心の傷の原因を知っていたし、その時の彼の様子も鮮明に思い出せた。

 

廃人寸前まで落ち込んでいた彼が、数か月も経っていないのにも関わらずに現れたのだ、驚かない方がおかしいだろう。

 

「アメノミハシラの色男クンが現れたなると、色々とロンド・ミナの思惑が絡んでいるのか、それとも・・・。」

 

だが、彼の訪問の思惑を測るかのような表情を浮かべながらも、マティアスは考えを巡らせていた。

 

一度だけジェスの紹介で顔を合わせているが、所詮はその程度の付き合い、取り合わずに門前払いしても構わないのだろうが、彼はオーブのロンド・ミナの腹心であり、それなりに様々な仕事を熟しているだろうと考えられた。

 

つまり、話を聞くだけ聞いてやろうと言うのが、彼の出した結論であった。

 

「通して頂戴、丁重にもてなす様に。」

 

「承知しました、マティアス様。」

 

マティアスからの指示を受けたSPは一礼した後、そそくさと待たせている一夏の下へと動いた。

 

客人を待たせるのは如何なものか、それが分かっているのだろう。

 

「マディガン、貴方も彼の話を聞いてみる?良い話かもしれないわよ?」

 

「分かったよ、俺もアイツの顔を拝んでやりたいと思っていたところさ。」

 

雇い主の誘いを断れない性分なのだろうか、マディガンは苦笑しながらも席を立ち、先に謁見の間へと言ってしまった。

 

「さぁて・・・、天空からの遣いは何を教えてくれるのかしら・・・?」

 

ギブアンドテイクが鉄則なこの世の中、彼が求める根回しと持ってくる情報、それを楽しみにしているのだろうか、マティアスは立ち上がり、マディガンの後を追う様に部屋へと戻っていたのであった・・・。

 

sideout




次回予告

マティアスとの会談を終えた一夏は、カイトと共に夜の街へと繰り出した・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

一夏とカイト

お楽しみに


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一夏とカイト

side一夏

 

「織斑卿、お待たせいたしました、こちらへ。」

 

「助かります。」

 

案内役のSPの言葉に礼を言った後、俺はサー・マティアスが待っているであろう部屋へと足を踏み入れた。

 

此処に来るのは二度目だが、今回はジェスがいないと言うアウェーだ、気を引き締めて掛からなければ喉笛を食いちぎられてもおかしくは無いだろう。

 

さて・・・、此処は俺の腕の試し処だ、何とかしてみよう。

 

「よく来たわね、織斑卿、歓迎するわ。」

 

部屋の奥に進むと、以前と同じ様に椅子に腰掛けたサーが俺を出迎えてくれた。

 

その隣には、俺の事を軽い驚きを含んだ目で見てくるカイト・マディガンの姿があった。

 

この人には警戒と言う感覚が無いのだろうか、それとも別の思惑があるのか・・・、計り知れない分薄ら恐ろしいモノだ。

 

「御久し振りですサー・マティアス、突然の訪問、失礼いたしました、お許しください。」

 

「構わないわ、今はそれほど大きく世界も動いていないから、ゆっくりできるからね。」

 

俺が謝罪と共に挨拶すると、彼は別に気にしていないとばかりに笑い、鷹揚に頷いていた。

 

「で・・・、アタシを頼って来たと言う事は、何か大きなヤマでも抱えてるの?」

 

流石、サー・マティアスだ・・・、俺が何故尋ねて来たのかなんて御見通しという訳か・・・。

 

これは、世間話なんて無粋な真似などせずに切り出すのが良いな・・・。

 

「はい、今回、我々は砂漠地帯でのMSテストを行う事になりまして、現地での移動手段の手配をお願いしにきました、無理を承知の上でお願い致します、ザフト軍のグゥルを四機、オーブのモルゲンレーテまで回して下さいませんか?」

 

目的を明かしながらも頼み込むと、サーの表情が軽い驚きと共に見開かれた。

 

恐らくは、アメノミハシラが新型機の開発に着手したと言う想像をしたんだろう。

 

「砂漠地帯で?それって、新型機のデータ集めって事かしら?」

 

「左様でございます、ロンド・ミナが密かに進める計画の基盤を作るための一環として、自分が中心となって進めているプランの一つです。」

 

彼の問いに答えながらも、俺はSPに頼んでデータを彼に渡してもらい、内容を見ておいてもらった。

 

敵対する気はない、寧ろデータを流す協力をすると言う姿勢を見せておけば、後々の協力を取り付けやすくできる。

 

勿論、デメリットも存在するから易々と使える手段では無いけどな・・・。

 

「こんな極秘扱いのデータを見せて貰っちゃってもいいの?」

 

「この程度ならば構いません、こんなものよりも、ミナの思惑を他の国の人間に悟られる方が自分達にとっては痛手ですから。」

 

そう、これは所詮二年後辺りの完成予想図でしかない、かなり厳しくなるとは言えど修正は効くし、変更もできる、だからこそ、こうやって協力姿勢を見せるには持って来いなんだよな。

 

「そう・・・、ロンド・ミナの思惑も知っておきたいところだけど、見返りが必要みたいね・・・。」

 

俺の真意に気付いたのか、サーは少しだけ愉悦の笑みを浮かべながらも考え込む様な表情を見せ、何かを決めた様に俺を真っ直ぐ見据えた。

 

「織斑卿、アナタの頼み、聞き受けたわ、すぐに手配させましょう、聞きたい事はあるけど、また次の機会にでも聞かせて貰うわ。。」

 

「はっ!ありがたき幸せ、痛み入ります。」

 

よし、これでなんとか上手く試験を行える手筈は整えられた。

 

後はオーブに戻って準備でもするとしよう。

 

「はい、次も良い土産話を持ってお伺いさせてもらいます、今後ともよろしくお願いたします。」

 

「えぇ、またいらっしゃい、マディガン、アナタも行って良いわよ、話したいんでしょ?」

 

「良いのかよ?まぁ、感謝するよ。」

 

俺が頭を下げている間に、サーはなにやらマディガンと話しており、それが終わった後にマディガンが俺の方へとやって来た。

 

「色男の兄ちゃん、今からちょっと付き合ってもらえるか?話がしたい。」

 

「話・・・、構わないよ、俺も、アンタに礼を言えてなかったからちょうど良い。」

 

話の内容は想像できなかったが、誘われた以上は断る理由も無い。

 

それに、頼んだ物が届くまではまだ時間がある、それまでの時間つぶしと考えればいいだろう。

 

「それでは、失礼します。」

 

もう一度サーに頭を下げ、俺はマディガンと一緒に部屋を辞した。

 

さて・・・、セシリアとシャルへの土産、考えないとなぁとか考えながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「マスター、バーボンをロックで頼む。」

 

「俺も同じのを頼みます。」

 

マティアス邸からカイトの運転する車で市街地へと赴いた二人は、人気の少ない路地へと入り、そこでひっそりとやっているバーへと足を踏み入れた。

 

カイト曰く、そこは裏の世界の住人達も足を運ぶ店で、それなりに情報も行き交うとの事らしい。

 

「悪くない雰囲気の店だな、良いトコを知ったよ。」

 

「そう言えばアメノミハシラからあまり出ないのか・・・、地上にも良い所は色々とあるさ。」

 

立場上、あまり地上や他のコロニー都市に行かない一夏にとって、初めてのバーと言う事もあり、何処か感心した様な表情を浮かべていた。

 

そんな彼を見たカイトは、納得しながらも出かけてみるのもアリだと言う様に彼の言葉に相槌を打っていた。

 

「お待たせいたしました、つまみの品をご用意しましょうか?」

 

「いや、今はこれだけで良い、後で頼むよ。」

 

「かしこまりました、またお申し付けください。」

 

ゆっくり話がしたいと言わんばかりの言葉で、マスターからの提案を退けたカイトは、カウンターから離れたボックス席に一夏を連れて移動していく。

 

「まぁなんだ、付き合わせたからにはそれなりに楽しませてやる、呑めよ。」

 

「ありがたく頂くよ、マディガン、アンタには世話になりっぱなしだな。」

 

席に向かい合う様に座った彼等はグラスを掲げ、乾杯して口を付けた。

 

「ん・・・、旨い酒だ・・・、何時もはワインしか飲まないから新鮮だよ。」

 

「男なら気取らずにこういうモノを飲むのも良いぞ?」

 

「それもそうだな、ワインも悪くないがずっと飲んでると飽きも来る。」

 

カイトの言葉に同意しながらも、彼はワイン独特の酸味とは違う味わいに感嘆しながらも呟いていた。

 

諸々の事情でアル中一歩手前だと自嘲している彼だが、あまり口にしない酒には疎いのだ。

 

「で・・・、お前、もう大丈夫なのか・・・?」

 

そんな彼を見て、早々に話題を切り出した方が良いと感じたのだろう、カイトはグラスをテーブルに置き、真っ直ぐ一夏の目を見据えていた。

 

「あぁ・・・、まぁ、一応は・・・、だけど、彼女の事は、まだまだ吹っ切れてないよ・・・、なんせ、目の前で、な・・・。」

 

彼の言葉に、一夏はグラスの中に入った酒を一気に呷った。

 

目の前で命が消えるさまを、彼は何度も見てきてはいた。

 

だが、それはある種の覚悟を決め、自分が手を下した結果での事であり、覚悟する暇も無く、唐突に奪われてしまったのだ、傷は深く、痛々しい。

 

「夢にだって出てくる・・・、初めて俺を慕ってくれた部下を・・・、死なせてしまった瞬間が・・・。」

 

機体に穿たれたビーム痕、開いたハッチの中にあった血にまみれたシート、そして、力無く落ちた手・・・。

 

その全てが彼の頭から離れる事無く、今もまた駆け巡る。

 

その度に、自分が嘗てやった事、出来た筈の事、出来てしまった事、そして今、出来なかった事への後悔が膨らんでは彼を押し潰そうとしていた。

 

「慣れてない訳じゃ無いのに・・・、それでも、きついもんだな・・・。」

 

世話になっているからか、それとも場馴れしているからか、カイトに対して、彼は己の心情を隠さずに吐露していた。

 

だが、それではまた挫けてしまう、闇に落ちて二度と上がって来れなくなる。

 

故に、歩みを止める訳にはいかないのだ、潰されないために、二度と闇に落ちないためにも・・・。

 

「けど・・・、何時までもウジウジもしていられないんだ・・・、俺は、アメノミハシラを支えなきゃならないんだ、今度こそ、信じる人達の為に戦うって決めたから・・・。」

 

「お前・・・、何でもかんでも一人で背負い込みすぎだろうに、そんなんじゃ、その内また潰れるぞ?」

 

だが、その言葉に呆れたのだろうか、カイトは何処か宥める様に呟いていた。

 

また自分が潰れる、そう言われた一夏は顔を上げ、彼を見た。

 

カイトの表情には突き放す様な冷たさは無くとも、何処か諭す様な色が窺えた。

 

「悩むなら死ぬまで悩め、泣くなら枯れても泣き続けろ、そうやってでも歩き続けりゃ何とかなる、誰だって消したい過去はある。」

 

酒を呷りながらも、カイトは何処か忌々しげな表情を浮かべていた。

 

彼にも、消したい過去が、否定したい過去はあるのだろうか・・・。

 

「だがな、そんな過去も今を作る大事な道だろうが、否定し続けても、何時かは受け入れられるようになるさ。」

 

「マディガン・・・、アンタも・・・?」

 

そんな彼の雰囲気から何かを感じ取ったのだろう、一夏は何処か縋る様な表情で彼を見ていた。

 

出来る事なら道を示して欲しい、どうやって乗り越えるのか、そのヒントを与えて欲しいと言わんばかりの目だった。

 

「道は幾らでもある、それはお前にも分かっているだろう?逃げ続けるのも道、抗い続けるのも道だ、納得するまで悩め、受け入れられるまで苦しめ、それしか出来ないのが人間だから。」

 

「・・・。」

 

幾らでもある道の内、どれを選ぶべきか分からない彼には、まだ何をすべきかは決められなかった。

 

だが、何時かは決めなければならないと分かっている、破滅か、再臨か、それとも別の・・・。

 

「ま、難しく考えすぎないこった、今は飲んで忘れろ、楽しい事だけ考えてろ、そうすりゃいくらか楽だぞ?」

 

カウンターに手を振り、新しい酒をボトルで頼んだカイトは、もっと飲めとばかりに酒を注ぐ。

 

「そう、だな・・・、何時か・・・、何時の日か・・・、きっと・・・。」

 

答えは今だ出ない、だけど、今は心配してくれている男と共に酒を酌み交わす方が大切だと考えたのだろう、一夏は湿っぽいのは嫌だと言わんばかりに、若干引き攣った顔で笑う。

 

「あぁ・・・、そう言えば、俺の事は一夏って呼んでくれ、その方が呼びやすいだろ?」

 

色男の兄ちゃんという呼ばれ方しかされていないと思い出したのだろうか、一夏は自分の事を名前で呼んでくれと言う様に頼んでいた。

 

せめてそう呼んでくれたら、距離感が縮まるとでも考えているのだろうか・・・?

 

「なら、俺の事はカイトで良い、ジェスのバカもそう呼んでるからな。」

 

「分かったよ、カイト、酒、ありがたく頂くよ。」

 

カイトから受けた言葉に頷きながらも、彼はグラスに入った酒を呷る様に咽に流し込んでゆく。

 

せめて、全てを忘れさせてくれるような時間を過ごせればいいと言わんばかりに・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

『各機に通達します、間も無く目標地点に到達します、発艦の準備をお願いします。』

 

カイトとの宴会から一週間後、俺はアフリカ大陸付近の海を航行していた。

 

あの後、数日としない内にサー・マティアスからグゥルが届き、エリカ主任が掛け合ってくれたおかげで潜水艦もすぐに発進できたために予定よりも早くデータ収集が完了できそうだった。

 

余った時間はプライベートに回せばいいし、それに、セシリアとシャルのご機嫌取りをしないと後が怖いしな。

 

結局、あの後夜が明けるまで飲んで、千鳥足で移動艇に乗ってオーブまで半分死んだように眠りながら戻った。

 

時差ボケやら二日酔いやらで頭が痛んでいたから寝かせて欲しかったんだが、宛がわれた宿舎に戻ると仁王立ちしていた嫁さん二人と、二人を宥めようとして返り討ちにあった宗吾と玲奈の姿があった。

 

流石にあの怒気に近い覇気を出していた二人を無視する事は出来ず、結局数時間こっぴどく叱られた後に俺の意識が疲労と二日酔いで途絶えてその日は終わった。

 

その後、二日間は二人ともヘソを曲げたままだったけど、こうやって出発する事になると気持ちの切り替えはしてくれるらしく、何とか機嫌を直してくれた。

 

いや、今はそんな事は気にしないでおこう・・・、折角彼に愚痴を聞いて貰ったんだ、俺が今やれる事、後でやるべき事をしっかりと分別しておかないと、また俺は大切な物を失ってしまうかもしれないんだから・・・。

 

「了解しました、トダカ二佐、無理を言ってしまって申し訳ありません、俺達の出撃後は潜っておいてください、流石にザフトや他の勢力に見付かるのは避けたいですし・・・。」

 

俺は管制官の声に返しつつも、この潜水艦の艦長である中年の男性に、申し訳ないと思いながらも頼みを入れておいた。

 

如何にエリカ主任からの口添えがいくらかあるとは言っても、俺はオーブ軍の人間じゃないし、トダカ艦長よりも実年齢を含めて年下だ、偉そうに出来る立場に無い為に、下手に出ているのが妥当だ。

 

こういう状況にも関わらずに横柄な態度を取る奴は、所詮たかが知れている、俺も反面教師にさせて貰っているよ。

 

『分かっております、織斑卿、サハク家からの頼みとあれば、我々も断れません、お気になされるな。』

 

「ですが・・・。」

 

『それに、私個人としても、貴方の手助けになればと思っております、何故そうしたいのかは解りかねますが、私個人の気持ちと思って頂ければ光栄です。』

 

俺の言葉を遮る様に語られる言葉には、彼個人の強い想いが籠められていた。

 

そう言えば・・・、昔助けた戦艦の艦長・・・、トダカって人だったか・・・?

 

まさか、な・・・、そんな事まである筈ない・・・。

 

だけど、今はある筈の無い絆を頼るとしよう、それが出来るんだから・・・。

 

「分かりました、ありがたく頂戴します、それでは。」

 

『御武運を。』

 

トダカ二佐に敬礼を返し、俺は通信を切り、他の皆へ通信を入れる。

 

さぁ、出撃の時間だ、サクッと終わらせて、早く宇宙へ帰ろう・・・。

 

「出撃する、各機俺に続け!織斑一夏、ストライク+I.W.S.P.、行くぞ!!」

 

浮上と同時に開いたハッチから飛び出した俺は、他の四人が飛び出してくるのを待つために滞空し、周囲の索敵を行う。

 

ハロも一緒に来ているから広範囲の索敵が出来るし、データ収集にも持って来いだ。

 

「周囲に敵影なし・・・、コレなら見つからなくて済みそうだな・・・。」

 

『一夏様、全機発進致しました、参りましょう?』

 

『これが無いと飛べないのも不便だね、昔は気にならなかったけど、ね・・・。』

 

大気圏内での飛行能力を持たないMSに空戦能力を付与する為の装備、グゥルに乗ったデュエルやバスターに乗り込んだセシリア達から通信が入る。

 

どうやら、何とかうまくグゥルに機体を固定できたみたいだ、これでなんとか行けるだろう。

 

「了解した、宗吾、俺も乗せてくれ、推進剤を残しておきたい。」

 

『了解、何かあったら率先して戦ってくれよ?』

 

ふっ、喰えない奴だ、俺の考えを見透かすとはな。

 

だが、それで良い、お前はそうやってデカくなれば良いさ。

 

「試験宙域に着いたら、真っ先に周囲を警戒しろ、ミラージュ・コロイドを使用する敵がいるかもしれん、レーダーだけに頼るな、それから砂の動き方にも目を配れ、でなきゃ地に足着けて戦えないからな。」

 

『うっげぇ・・・、そんな細かいトコまで見なきゃならないのかよぉ・・・、そんな事しなくても何もないって・・・。』

 

気が短くて我慢弱い玲奈からしてみれば、藁の山から針を見付ける様な作業や、動きながらの細やかな微調整は苦手極まりない作業であり、何が何でも避けたいところだろう。

 

「そうだな、何もなければいいな、あったら全員死ぬだけだ、それでも良いか?」

 

だが、それを怠る事で起きる災いは、何もかもを奪う、そう、誰かの小さなミスが、俺達全員の命を以てして払わねばならないツケになるかも知れんからな・・・。

 

『いえ、しっかり警戒します!』

 

まったく・・・、これだから脳筋は使いづらいんだ・・・、昔っからそうだ・・・。

 

「後120セコンドで目標のポイントだ、各機、ミッション開始準備・・・。」

 

『ゼンポウチュウイ!ゼンポウチュウイ!!イル!イル!!』

 

「なにっ・・・?」

 

何かいるのか・・・!?こんな時期に、こんな僻地で何をしているんだ・・・!?

 

いや、考えてみれば分かる事だ、俺達の様に人目の付かない場所で機体を動かして、そのデータを録ろうとするのが妥当だと・・・。

 

だが、そう冷静に考えた所でもうどうにもならない所までやって来てしまっている。

 

此方が捕捉したと言う事は、あちらさんも見付けている事だろう、今引き返せば間違いなく敵は追ってくる、ならば、迂回して敵を振り切るしか道は残されていない。

 

それも、それなりに足止めをして、だ・・・。

 

「各機、第一種戦闘配備!!合戦用意!!」

 

『了解・・・!神様への祈りは、通じなかったみたいだね・・・!!』

 

シャルが俺の指示に返しながらも、何処か忌々しげに吐き捨てた。

 

誰にも見つからぬ様注意を払っていたのに、運悪く出くわしてしまったのだ、恨み辛みも言いたくなるという物だ。

 

だが、神に祈るという不確かな事よりも、今は自分達と自分達の愛機の力を信じて戦うだけだ。

 

そう思いながらも機体を走らせるが、不意に機体前方から警戒音が聞こえてくる。

 

「ロックオンされた・・・!?回避しろっ・・・!!」

 

宗吾のグゥルから飛び降り、射線と思しきラインから逃れた直後、数瞬前まで俺達の機体があった場所を超高インパルス砲の火線が薙いだ。

 

『今のは・・・!!バスターの・・・!?』

 

『そんなバカな・・・!だって、シャルロットの機体はここに・・・!?』

 

セシリアと玲奈が驚愕に満ち満ちた声で叫び、完全に狼狽えてしまっていた。

 

まさか、予想の中でも最悪の中の最悪だ・・・。

 

向こうからもこっちに向かって来てくれているらしい、機体の輪郭がハッキリと目視出来た。

 

赤い機体、イージス。

黒の機体、ブリッツ。

青と灰の機体、デュエル。

巨大な砲を構える機体、バスター。

 

そして・・・。

 

「ストライク+I.W.S.P.・・・!!」

 

間違いない、俺達の目の前にいるのは・・・!!

 

「Xナンバーだとっ・・・!?」

 

sideout




次回予告

同じ機体、同じ装備を持った者達がアフリカの砂漠で相見える時、彼は己の闇と向き合えるか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYⅹINFINITY

鏡写しの者達

お楽しみに~


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鏡写しの者達

noside

 

「なんだぁ、あれは?」

 

「アタシらと同じ機体じゃない、どうなってんのよ?」

 

空中を滞空するストライクと、グゥルに乗って旋回する自分達と同じ機体を見たブリッツのパイロット、ダナ・スニップと、デュエルのパイロット、ミューディー・ホルクロフトは軽い驚愕と共にデータを探っていた。

 

自分達はこの砂漠地帯に潜伏するコーディネィターを中心に構成されるテロリストの極秘排除を名目に、この地域に僅かに残るザフト軍基地を掃討する様に指示を受けていたのだ。

 

かなり正確なMS配備数や地形データなどを仕入れてきたはずであり、目の前に存在する機体、自分達と同じXナンバー機体はそこには記載されていなかった。

 

「さぁな!イレギュラーさんのお出ましだな!」

 

「ここに居るという事は、コーディネィター、俺達の敵だっ!!」

 

だが、そんな事はお構いなしと言うかのように、バスターのパイロット、シャムス・コーザと、イージスのパイロットであるエミリオ・ブロデリックは戦意をむき出しにしながらも攻撃せんと己が得物を構えた。

 

彼等は連合軍第81独立機動軍、通称《ファントム・ペイン》の所属であり、謂わば、裏の汚れ仕事を担当する影の部隊であるのだ。

 

今回の作戦は新型機開発の為のデータ収集も兼ねていたため、この機体群を見られたからには口封じをせねばならないと考えたのだろう。

 

「待て、俺達と同じ目的を持った友軍かもしれない、確認出来るまでは撃つな。」

 

だが、そんな彼等を制止するかのように声を上げたのは、ストライクに乗った銀髪のパイロット、スウェン・カル・バヤン少尉だった。

 

だが、それも緊張も動揺も感じさせる様な声の揺らぎは無く、あくまで平淡な声色であったが・・・。

 

「こちら、地球軍第81独立機動軍、スウェン・カル・バヤン少尉、そちらの所属と官制名を聞かせろ。」

 

味方だとすれば後々面倒な事になると判断したのだろう、彼は平淡ながらも明確なプレッシャーと共に目の前の機体達に問うた。

 

『こちら、ストライクのパイロット、バヤン少尉、貴方の要求には答えられない、だが、ここで戦闘を行うのは無益だ、お互い、なかった事にして去ろう。』

 

「男の声・・・、誰だ・・・?」

 

彼の言葉に答える、自分と同年代の男の声の主に何かを感じたのだろう、スウェンは何かを探るかのように僅かに眉間に皺を寄せた。

 

何処か、似た様な男と自分は戦った事がある、そんな感覚が拭えないのだ。

 

「けっ!なーにが無益な争いだぁ?何か隠し通したい理由でもあんのか?」

 

「そんなゲタに乗ってるんだから、ザフトだって事?コーディネィターはやっぱり油断ならないわね。」

 

だが、そんな彼の言葉を聞いていたダナとミューディーには、彼等が隠し事をしている様に感じたのだろう、言及とも、挑発とも取れる言葉を投げかけていた。

 

だが、スウェンには僚機からの声は届いていなかった。

 

彼は、記憶の海に想いを馳せ、似た様な感覚を放っていた者を感じ取ろうとした。

 

「(この感触・・・、以前宇宙で戦った、ザフトの・・・。)」

 

ザフト軍が極秘に開発していると噂された新兵器の奪取、若しくは破壊の為にL5近くまで出向いた際、その一部と思われた新型MSと交戦した経験が彼にはあった。

 

結局はその目論見は外れ、新型機は交戦を開始して間も無く停止し、戦闘不能に陥ったのを見て、彼は目的のモノを獲れなかったと判断し、その宙域から撤退した。

 

しかし、彼は知らなかった。

 

そのMSのパイロットは、技術者兼任パイロットであるコートニー・ヒエロニムスであり、そのコートニーは目の前にいるストライクのパイロット、織斑一夏と幾度となく相見え、鎬を削っていたライバルの様な関係であると・・・。

 

だが、それ故に、彼等を近しい存在だと感じてしまったのだろう、操縦桿を握るその手が若干強張った。

 

こんなプレッシャーを与える人間が他にいるものか、目の前にいるのは宇宙で遭遇したあの男だと・・・。

 

「そういう事か・・・、コーディネィター!!」

 

自分達の前に立ち塞がり、何度も邪魔をしてくる、まるで害虫の様だと彼は感じていた。

 

その傲慢さに、彼は不快感を拭えなかった。

 

だから、彼は今の状況などどうでも良かった。

 

相手がテロリストだろうが正規軍だろうが、彼に与えられた使命であり、呪縛だった。

 

「全機、コーディネィターを討て!!」

 

「言われずとも、最初からそのつもりだ!!」

 

彼の指示に、然も当然と言わんばかりに飛び出したのは、イージスに乗るエミリオだった。

 

それに連られた様に、他の三機も敵機に向かってライフルやミサイルを撃ちかけながらも砂漠を直走る。

 

砂の流動が激しい砂漠でも体勢を崩す事無く動けているのは特殊部隊ならではの調整ゆえか、それとも、パイロットの腕か・・・。

 

どちらにしても、並の部隊では出来ない部隊運用だった。

 

そして、スウェンもまた、憎むべき敵に向かってトリガーを絞る。

 

その目的が、果たして正しい事なのかも考える事もせずに・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

やっぱりこうなったか・・・!

 

連合軍に真っ当な手段は通用しない、予想はしていたがクルものはある。

 

だが、やられたからには応戦し、誰一人欠ける事無く撤退させる、それが今の俺の役目だ。

 

今回のミッションは事実上失敗だ、誰か一人でも欠ければアメノミハシラにとっての、俺にとっても痛すぎる損失だ、撤退を優先させるに選択肢は残されていないんだ。

 

だから、俺は・・・!

 

「各機!各自応戦しながら撤退しろ!!絶対に尻尾掴ませるなよ・・・!!」

 

『だけど、データ集めは・・・!?』

 

「戦いながら録れ!!それぐらいの事はやってみせろ!!」

 

ここに来た意味を問う玲奈の言葉を封じながらも、俺は牽制の為にビームライフルとレールガンをそれぞれの方向へと撃ちかけた。

 

だが、向こうもかなりの手練れ部隊なんだろう、あっちのストライクは軽やかな身の熟しで弾丸を全て回避してしまう。

 

こりゃぁ・・・、途轍もなく厄介な敵と出くわしちまったもんだぜ・・・!!

 

今回の埋め合わせは、また別の場所でやらなくちゃな・・・!

 

「セシリア!シャル!他の機体を押さえて宗吾と玲奈から撤退させる!!俺はあのストライクを押さる!!」

 

『了解いたしました・・・!お気を付けて!!』

 

『援護なら任せてよ・・・!貴方をやらせはしないからね!!』

 

二人の返答を聞きながらも、俺はストライクのスラスターを全開にして敵のストライクへと突っ込んで行く。

 

向こうも俺に反応したんだろうか、こっちに向かってくる。

 

まったく・・・!!鏡合わせしてるみたいで気持ち悪い・・・!!

 

だが、それだけでは説明のつかない不快感が付き纏って離れない、これは一体どういう事なんだ・・・!?

 

いや・・・!戦ってみれば分かるかもしれない・・・!これまでも、そうやって感じ取って来たんだから・・・!!

 

まったく同じタイミングで対艦刀を引き抜き、コンバインドシールドを掲げてその斬撃を全く同時に受け止める。

 

相手もかなりの場数を踏んできた相当な手練れだという事は分かった、だが・・・。

 

「なんだ・・・!?この感触は・・・!?」

 

さっきまで感じていた不快感が更に大きくなり、俺の身体中を駆け巡る。

 

いや、不快感と言うよりも、既視感と言った様な感覚に戸惑っているだけかもしれないが・・・!!

 

あの男、スウェンからは何も感じない・・・、昂ぶりも、人を殺す事への恐怖も、悦楽も・・・!!

 

「これは・・・!まさか・・・!!」

 

それに気付いた事で、俺もまた気付いてしまった。

 

そうだ・・・!これは、嘗ての・・・!人形だった時の俺の・・・!!

 

「お前は・・・!人形・・・!?」

 

俺自身の闇に言われた言葉が口を突いて出た。

 

そう言えば、連合軍には兵士を洗脳や薬物によって肉体や精神を強化する技術があると聞いたことがある。

 

現に、アメノミハシラにいるソキウス達は精神操作や薬物での人格破壊を引き起こされている。

 

そうだ・・・!俺もそうだった・・・、誰かに命ぜられるがままの人形になって、何も感じなくなっていた・・・!

 

だが・・・!

 

「だけど・・・!今は違うっ!!」

 

今の俺は、人形なんかじゃない・・・!!

だから、俺は俺の戦いをしたい、人間として・・・!!一人の男としても!!

 

「バヤン少尉!聞け!何故戦う!何のためにだ!!」

 

『なんだと・・・?』

 

俺の質問の意図を掴めなかったのだろう、彼は静かに、そして平淡な声で呟いていた。

 

「俺は今、誰かの為に戦っている!自分の為に戦っている!だから教えろ!!お前は何の為に戦う!!」

 

何の為に戦うか、その答えが、嘗ての俺と似ている彼から得られると思ったから・・・!!

 

鍔迫り合いから離れ、ガトリングを撃ちかけながらももう一度相手のストライクに突っ込む。

 

『世迷言を・・・、コーディネィターの言う事など!』

 

コーディネィター、その単語からだけは強い憎しみを感じた。

 

しかし、それだけだ、後の言葉からは激昂も、悦楽も何も感じ取れなかった。

 

やはり、この男・・・!洗脳されているのか!!

 

「コーディネィターが何だ!ナチュラルが何だ!!そんなもん関係ないだろうが!!俺達は人間だ!それに何の違いがある!!答えろぉ!!」

 

俺達は外から来た人間だ、人種の違いはあっても、人間は人間だと思っていた。

 

中身が違うから、遺伝子を操作しているから人間と認めないのか!?

 

歪みか・・・!以前の俺の言い方で表すならそれが適切だろう。

 

ナチュラルも、コーディネィターも互いを恨み、憎みあう!

 

その結果がこれなのか!?

 

認めない、認めたくない、そんな憤りにも似た感情が心の奥底から湧き上がって留まるところを知らなかった。

 

『・・・。』

 

「そんな争いを続けても・・・!虚しいだけだっ!!」

 

まるで自分に言い聞かせる様な言葉が口を突いて出ていたが、それは俺の紛れもない本心だった。

 

だから、俺はその憤りを、今感じている想いを力に変える。

 

相手のシールドを弾き飛ばし、我武者羅に対艦刀を振るって体勢を崩し、追撃にレールガンを撃ちこむ。

 

わざと回避しなかったのか、それとも避けられなかったのか、弾丸が直撃した奴のストライクは砂漠に叩き付けられる。

 

あっちはまだ戦えるだろうが、今の俺にはコイツの相手をしている暇は無い。

 

部下を、最愛の妻を助ける事が、今の俺がやるべき事だから・・・。

 

ストライクのスラスターを吹かし、別方向で戦っている仲間の下へと急ぐ。

 

今だ燻る、憤りの熱を胸に抱えたままで・・・。

 

sideout

 

side宗吾

 

「くっそ・・・!何時もの事ながら無理難題を・・・!!」

 

一夏からの指示を聞いた後、俺はストライクの背中を見送りながらも毒吐いた。

 

俺は向かってくるイージスとブリッツの二機を、玲奈と連携しながらもなんとか凌いでいた。

 

セシリアとシャルロットは俺達を先に逃がせと言う指示を受けたんだろうが、正直なところ、制空権を取っていてもこのグゥルの取り回しの悪さのせいで火線を避けるだけで精一杯だ、とてもじゃないが援護なんて望めやしないだろう。

 

いや、だからって悲観はしない。

 

俺だってパイロットの端くれ、自分の身と、自分の大切な人達ぐらい護ってみせるさ!!

 

『待ちやがれよぉ、コーディネィター!同じ機体同士、殺し合おうぜ!!』

 

「殺し合い、か・・・!一夏が一番嫌がりそうな言葉だな・・・!!」

 

当然、このMSに乗っている俺だって、虐殺やそれに近しい事なんて御免だ、そんな事をするために俺は転生した訳じゃ無い、もう一度生きる為に生を受けたんだ!

 

『宗吾!あのイージスの脚を止めたいの!一瞬で良いからグゥルを棄てて!』

 

「なんだって・・・!?そのあと如何すりゃいいんだよ!?」

 

砂の上になんて落ちてみろ、今の俺じゃ脚を取られて良い的になるしか未来が無い。

 

接地圧を変えりゃ良いだけの話だろうが、地に落ちるまでの時間なんて極僅かだ、その間に変更できる奴なんて、スーパーコーディネィターのキラ・ヤマトや、それに準ずるパイロット達だけだろう。

 

生憎、俺にはそんな高い技量なんて無い、だからこそ、その提案を素直に受け入れる事が出来なかった。

 

『上手い事拾ってやるわよ!!男ならウダウダ言ってる暇があったらやんなさい!!』

 

俺の後ろに回り込んだ玲奈は、イージスをグゥルからジャンプさせ、スキュラの発射形態を取ろうとしていた。

 

なるほど、そういう事かよ・・・!もっとうまく説明しろよ!!

 

「無茶苦茶だな・・・!信じるぞ!!」

 

ブリッツを飛びのかせつつもスラスターを全開にしたグゥルを、向かって来たイージスとブリッツ目掛けて突っ込ませた直後、元いた空間をスキュラのビームが薙いだ。

 

予想外の攻撃だったからだろうか、敵のイージスとブリッツは左右に避けていたが飛び上がった後の事を考えていなかったようだ。

 

スキュラがグゥルに直撃し、視界を一瞬だけ覆う。

その隙にランサーダードを牽制代わりに撃ちかける。

 

本当は撃墜するつもりでビームでも良かったが、エネルギーを残すためにはこれが一番良かった。

 

直撃を確認するよりも早く、俺は近寄って来たイージスの所まで飛び上がり、腕を掴んでグゥルに乗せてもらう。

 

『撤退するわよ!!』

 

「あぁ!やったぜ!」

 

全速力で戦域を離脱しようとする俺達を追う様にビームが撃ちかけられるが、距離が開いた為に掠める事も無かった。

 

セシリア達も、敵を抑える事を止め、俺達の後に続いた。

 

「一夏は・・・!?」

 

だが、指揮官である一夏のストライクはまだ追い着いては来ない。

 

彼がやられる筈なんてないと思いたかったが、今は逃げる事だけに必死なために悪い方向に思考が行きがちだった。

 

背後を見ると、バスターが超高インパルス砲を構え、こちらを狙っていた。

 

どうやら、セシリアとシャルロットに完全に抑え込まれた事に御立腹の様だ、あからさまな殺気が伝わってくる。

 

だが、その背後から飛び掛ったストライク+I.W.S.P.がレールガンでデュエルを地に倒した直後、流れでバスターのライフルを切り裂いた。

 

『一夏の奴・・・!おいしい所ばっかり取って行くよなぁ、ホント!』

 

『でも、助かったから良いじゃない、ほら、急いで!』

 

俺達が離脱している事に気付いたんだろう、一夏は起き上がろうとしていたイージスとブリッツにレールガンを撃ちかけながらも、俺達を追って戦線を離脱させていた。

 

ホント、すげぇ奴だよ、G四機を手玉に取るなんて、そんじゃそこらの奴には出来やしねぇ。

 

『皆無事か!?早く撤退するぞ!なるべく遠回りで良いから海へ出ろ!』

 

『一夏様、お乗りくださいな。』

 

追い着いたストライクの通信を聞き、デュエルが手を伸ばしてストライクを掴んでグゥルに乗せていた。

 

あの夫婦も、かなり息の合った動きを見せるよな、私生活は首を傾げたくなるような事もあるけど・・・。

 

「全員無事だ!収穫は!?」

 

『後で話す!行くぞ!』

 

「了解!」

 

一夏の言葉に返しながらも、俺は背後に目を向け、攻撃が無い事を確認し、息を吐いた。

 

あの五機・・・、またどこかで戦う事になるかもしれない。

 

そんな予感を抱きながらも、俺達は退路を急いだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

「だぁぁ!コンチクショウ!逃げられちまった!!」

 

敵のストライクが撃ったレールガンの直撃は避けられたものの、その余波によって引き起こされた、軽い地滑りに巻き込まれたブリッツのコックピットから這い出たダナは八つ当たりの様にヘルメットを投げ捨てながらも忌々しげに叫んだ。

 

彼自身には怪我はないが、おめおめと敵を逃がすだけでは無く、主導権を終始握られてしまったのだ、虐殺に近しい戦い方を好む彼からしてみれば、面白くなくて当然だろう。

 

「わめくな、次だ・・・、次に戦う時は容赦はしない・・・!」

 

同じく砂に埋もれたイージスから這い出たエミリオは、雪辱を晴らさんとばかりに意気込んでいた。

 

このチームの中でも、最もコーディネィターに対する侮蔑意識が高い彼にとって、今回の事実上の敗北は許しがたいモノだろう。

 

「元気な事ね、今はここから生きて出る方法でも考えたら?」

 

「まったくだ、俺のバスターなんて、修理ドッグ行き確定だろ?」

 

手酷くやられたデュエルとバスターから降りたミューディーとシャムスは、二人の反応に軽く呆れながらも、何処か憤りを堪え切れないと言わんばかりの表情で敵が去った方角を見据えていた。

 

エースである自分達を抑え込んだだけではなく、討ち取る事も出来たであろう実力を持った部隊がいたのだ、内心複雑なのだろう。

 

そんな彼等から少し離れた場所に佇むストライクのコックピットハッチの上に立ち、虚空を見据えていたスウェンは、戦闘中に敵の男からの問いを思い出していた。

 

「何の為に戦う、か・・・。」

 

その問いに、彼は答える事が出来なかった。

 

やるべき事は理解している。

コーディネィターを全て殲滅する事、それが自分に与えられた使命だと。

 

だが、自分の意志は果たしてそれを是としているのだろうか?

 

いや、彼にはそれすらも分からないのかもしれない、洗脳されているからとか、そういう次元では無く、もっと深い領域で・・・。

 

「次に戦う時は・・・、俺が・・・。」

 

今回は自分の負けを認めるが、次に相見える時は必ず仕留めるとでも言いたいのだろうか、彼は僅かに目を細めて呟いていた。

 

だが、その言葉に答えるモノはおらず、言葉は砂塵と共に何処かへと消えて行った・・・。

 

sideout




はい、どうもです。

今回の話で、定期更新は終了させて頂き、これからは月1ぐらいの割合で更新していきたいので、皆様にはお待ちいただく事になりますが、より良い物を届けられるために精一杯頑張って行きたいと思います。

それでは次回予告

砂漠から帰還した一夏達は、その翼を癒すべく街を散策するのであった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

優しい一時

お楽しみに


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優しい一時

sideシャルロット

 

「ねぇ一夏、あれで本当に良かったの?」

 

連合軍との交戦から、何とか逃げ延びて潜水艦に着艦した後、僕はストライクの足元にいた一夏に、さっきの戦闘での事を聞いてみた。

 

折角同じ機体同士での戦いだったのに、まともにやり合わずに逃げる事を重視した戦いなんだ、正直なところ、データは録れたといっても雀の涙ほどで、とてもじゃないけど満足出来るモノじゃなかった。

 

それは彼も同じだろうし、せめてもう少し戦っていても良かったんじゃないかなって思うんだよね。

 

「良かったって・・・、撤退した事に怒ってるのか?」

 

「違うよ、録れたデータがあんな少なくていいのかって事だよ。」

 

何処か清々したような表情をしながらも、少しおどけた調子で聞き返す彼に、若干の戸惑いを感じながらも、質問の真意を改めて尋ねた。

 

なんだか・・・、作戦前とは雰囲気が少し違う様な・・・、どういう事なの・・・?

 

「ま、人命第一で動いたらあぁせざるを得ないさ、それに、俺の目的は大方達成できたから満足さ。」

 

「目的、ですか・・・?」

 

僕達の話を聞いてたんだろう、セシリアがこっちに来て彼に尋ねていた。

 

セシリアも理解出来なかったんだろうね、目的が何なのかってね・・・。

 

「まぁ、黙ってても仕方ないし、君達には知る権利がある、ちゃんと話すよ。」

 

問い詰められてるって思ってるんだろうか、彼は降参だと言わんばかりに手を挙げて言葉を紡いでいく。

 

「さっきのストライクのパイロット、昔の俺に似ていた・・・。」

 

「えっ・・・?」

 

だけど、その瞬間に彼は表情を硬くし、何処か憤りが滲む表情で話す。

 

その雰囲気に、そして、人形と言う単語を連想した僕達は、ただ聞き返す様に言葉を発するしか出来なかった。

 

もし、彼の言う通り、相手が人形だとしたら、彼は昔の自分と戦った事になる。

 

それは、直接刃を交わさないと分からない、感覚的なモノだと思うけど・・・。

 

「悦楽も、憎しみも、何も感じなかった・・・、それが怖かったよ、俺もそうだったと考えると、余計にな・・・。」

 

「一夏様・・・。」

 

その気持ち、痛いほどわかるよ・・・。

 

僕も、そしてセシリアも人形だったから、大切な人にそうならない生き方を教えて貰えたから・・・。

 

だけど、彼は誰からも教えて貰えなかった。

 

人間としてどう向き合うか、どう答えを出すか、それを自分で見つけようとしていたから。

 

「あんな思いを、もう誰にもさせたくない、そう思ったら妙に気分が軽くなった気がするんだ。」

 

「一夏・・・?」

 

けど、吹っ切れたと言う様に笑う一夏の表情には前までの張り詰めた様な色は無くて、昔とは違う色の輝きがその瞳に戻った様な気がした。

 

「怒り任せで戦った事は後悔すべきだったけど、お陰で立ち上がらせてもらう覚悟もできた。」

 

力強く拳を握り締めて語る彼の言葉には、今までにない力強さが満ちていた。

 

昔、人形になる前のそれに近い感触に、一抹の寂しさと懐かしさを思い出したけど、今はそんな感覚は後回しにして、彼を見てないとね。

 

「漸く腹も決まった、あのストライカーのデータを基に新しい翼を作る、それが一番の強化策になるんなら、な?」

 

「まさか、ノワールを・・・?」

 

あのデータを使うという事は、、彼は嘗ての自分の象徴を背負って行く事になる。

 

それは、何よりも辛い事の筈なのに・・・?

 

「まさか見たのか・・・?あれ、ロックかけてた筈なんだけどなぁ・・・、っと言っても、君達には丸分かりか・・・?」

 

「どれだけの間、夫婦をやっているとお思いですか?貴方様の事を、一番近くで見て来たのは私達ですわよ?」

 

「そうだよ、貴方の苦しみを分かるなんて言いやしないけど、貴方の事を一番思ってるのは僕達なんだから。」

 

彼の事を全部分かるなんて言える訳がない、それが出来たのは人形だった頃だけだ。

 

今、僕は彼が感じてる痛みを、間接的にしか知る事が出来ない。

もし、彼の痛みも苦悶も全部分かるんなら、それは僕達が人形だからだ。

 

だから、一番近くで彼を見続けてきた、想ってきたと言う言葉だけが、今の僕達にとっての真実なんだと思う。

 

「そうだな、その通りだ。」

 

僕達の言葉を受けて、彼は微笑みながらも背伸びをしていた。

 

かなりの疲労感があったのか、少し動かしただけで骨が鳴る音がしていた。

 

「さて、と・・・、一旦部屋に戻って休もう、オーブに戻ったら報告書やら観光やらで忙しいしな?」

 

「それを目的に組み込んでも良かったの・・・?」

 

休みたいって言うのが本音だったのかな・・・?

いや、もしかしたらミナさんの指示なのかもしれないね、働き詰の彼に休んで来いって・・・。

 

まぁ、オーブは政治的に関わるよりも、観光で訪れた方がメリットの多い場所だって言うのは認めるけどね。

 

そんな事はどうでもいいかな、彼が僕達に何かしてくれるのなら、それを甘んじて受けるのも妻の役目というものだろうし・・・。

 

一夏とセシリアと、三人で過ごしたいって言うのが僕の想いだから、ね・・・♪

 

sideout

 

noside

 

「か~っ・・・!!やっと終わったぁぁ・・・!!」

 

モルゲンレーテの応接間に、コンピュータに向かっていた玲奈の歓声にも似た様な叫び声が木霊した。

 

オーブのオノゴロ島にあるモルゲンレーテ本社に戻った一夏達は、使用した機材や会敵した機種、そして戦闘時間や操作性などを記した報告書を提出する為にコンピュータに向かっていた。

 

どうやら、エリカからデータを多めに渡して欲しいと言う旨の依頼が入ったらしく、彼等は少々ウンザリしながらもレポートを纏めていた様だ。

 

「時間が掛かり過ぎだ、お前の半分の時間で終わらせた宗吾を見習え。」

 

「苦手なモンは仕方ないでしょ~・・・!」

 

既に報告書の作成を終えた一夏は、別の作業をしながら彼女の叫びを平淡にあしらっていた。

 

その対応は、集中させてくれと言わんばかりの冷たく突き放す様な物だった。

 

「で、何を作ってるんだ?それも俺達の分まで・・・?」

 

報告書をコピーし終えた宗吾は、凄まじい勢いでキーボードを叩く一夏の手元を覗き込みながらも尋ねていた。

 

彼からは急いで作っている様な気配が見受けられていたが、そこまで切羽詰まった様な色が見受けられなかったために疑問に思ったのだろう。

 

「待ってろ、もう少しで出来上がりだ、国内での移動手段は持っておくべきだからな。」

 

「移動手段て・・・、どうしようって言うのよ?」

 

彼の言葉の真意を測り損ねたのだろう、玲奈が首を傾げながらも宗吾と顔を見合わせていた。

 

一夏の思惑は何時も見抜けない事が多いが、今回は更にその気が強かったのだろう。

 

「よっし・・・、出来た、全員、これ持って置け。」

 

暫くして作業を終えたのだろう、一夏は隣にいたセシリアとシャルロット、そして宗吾と玲奈にもなにやらカードらしきものを手渡していた。

 

彼等がそれに目を通すと、そこには各々の名前と顔写真が載っていた。

 

「これって・・・、免許証?」

 

「あぁ、不法侵入者と間違えられない様にしておく必要があったし、軍用車も借りられるだろうしな。」

 

「観光の為だけにカードの偽造までする君が凄いよ・・・。」

 

「そんな事の為だけに、か・・・!?」

 

観光目的での偽造を平然と行う事に驚いたのだろう、宗吾と玲奈は目を丸くし、開いた口が塞がらないと言わんばかりの表情をしていた。

 

いや、それ以前に一夏がここまでマルチな才能を発揮できる事に驚いている事も大きいのだろう。

 

「さぁて、仕事は一先ずお休みだ、三日後の出発まで存分に楽しんでおけ、折角の南国だしな。」

 

「おい・・・、良いのか・・・?良いのかこんな事で・・・!?」

 

最早観光気分になっている彼の切り替えの早さに付いて行けないのだろう、宗吾は一夏を引き留めようと声を上げたがまったく意味は無かった。

 

何せ、切り替えておかなければならない時があると、彼は知っていたのだから・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「ここがオーブ市街か・・・、やっぱり、ひどい有様だ・・・。」

 

軍施設からバイクを拝借した俺は、他の四人と共にオノゴロ島の市街地にやって来た。

 

連合軍が仕掛けた戦争からまだ一年も経っていないから当然と言えるのだろうか、それとも軍事施設から然程離れていなかったからか、所々に弾痕や焼け焦げた跡が見て取れた。

 

そう、廃墟同然で、人も片付けの為に慌ただしく動く作業員と、地面に蹲って動かない浮浪者ぐらいしか見当たらない。

 

まったく・・・、こんな有様を見るぐらいなら、海に出ておけば良かった・・・。

 

こんな現実なんて無かったように煌めく海の方が、精神衛生にはよっぽど良い・・・。

 

「本当に・・・、人が生活していたなんて、嘘の様ですわね・・・。」

 

「こんな事を・・・、僕達もしていたのかな・・・?」

 

セシリアは痛ましげに目を伏せ、シャルは何処か過去に思いを馳せながらも震えていた。

 

無理も無い、俺達の嘗てはこれと似たような事をしていた。

 

怒る事こそすれど、非難する権利なんて有る筈が無いんだ。

 

「っ・・・。」

 

「無理して付いて来る必要は無かったんだ、モルゲンレーテの社員用プールにでも入ってても良かったんだぞ?」

 

その惨状は、今だこの世界に来て、戦い始めて間もない宗吾と玲奈にはまだ刺激が強すぎたようだ、二人とも表情が蒼褪めており、今にも倒れそうなほど震えていた。

 

俺は二人に、これから行く所に付いて来ることは無いと釘を刺しておいたが、二人はそれを断って付いて来た。

 

「大丈夫だ・・・、慣れておかないと・・・、咄嗟の時に死ぬだろ・・・?」

 

「こういう所も、戦争の内でしょ・・・?」

 

だが、二人は俺を心配させないつもりか、引き攣った笑みを浮かべて俺の提案を蹴った。

 

どうやら、戦うためにはこういう場面こそ見なきゃいけないとでも思っているのだろうか・・・。

 

「これが戦争か・・・?関係の無い人間まで巻き込んで、逃げる人間も巻き込んでいく事が戦争か?俺達がやろうとしている事は、こうならせない様にする事だ、よく覚えておこう。」

 

それは、二人に向けて言ったつもりでも、自分に言い聞かせる様な言葉になっていた。

 

二度とあんな事をして堪るものかと、あんな裏切りをして堪るかと言い聞かせる様に・・・。

 

「場所を変えよう、こんな所じゃ気分も変えられない・・・。」

 

此処に居るのが嫌になった俺は、メットを被り直してバイクに跨った。

 

せめて、何もない場所で心を落ち着けられれば、と・・・。

 

俺に倣うかのようにセシリア達もバイクに跨って俺の後を追ってくる。

 

しかし、ひどいモノだ、施設が自爆したからと言うのも大きな要因の一つだとは思うが、ここまで被害が大きいとはな・・・。

 

国のトップの一存で破壊したは良い、だが、後の事を考えてはいたんだろうか?

 

確かに、あの時の状況から、連合との戦闘は避けられても、次はザフトが攻めてきていただろう。

 

運が無かったと言えばそれまでだが、果たして抗戦が、自決が正しい道だったのだろうか?

 

嘗て、俺がやっていた戦いは、一体何の為にあったんだろう・・・。

 

世界を変えると言いながらも、その実、戦いを楽しんでいたに過ぎないんじゃないか?

 

あぁいう風に、路頭に迷って苦しむ人達の事も考えていたんだろうか?

 

俺は、何がしたかったんだ・・・?

 

悩んでも、悔やんでも遅い事なのに、俺は嘗てに想いを馳せていた。

 

全てを救う事なんて出来やしないのは分かっているつもりだ、なのに、少しでも多くの人を助けたいと思っている事は傲慢か何かなのだろうか?

 

結局、幾ら悩んだ所で答えなんて出せるはずが無いのに、俺は答えを求め続けている。

その意味すらも、既に分からなくなりつつある中で・・・。

 

気が付けば、俺達は湾岸線沿いを走っていた。

 

この辺りは一番の激戦地だったのだろう、先程いた市街地よりも酷い有様だった。

 

「ここも・・・、安らぎを求められる場所じゃないのか・・・?」

 

一体何処に行けば俺は苦しまずに済むんだ?

 

一体何をすれば、この苦しみは終わるんだ?

 

救いを求める様に視線を彷徨わせた先に、俺はあるモノを見付けた。

 

その場所だけ新しく整備されたかのように、周りの殺風景さとは浮いた印象を受ける足場に、海を見渡す崖の際にひっそりと建つ石碑があった。

 

「あれは・・・?」

 

離れていては詳しく分からないとでも思ったか、俺は道の端にバイクを止め、その石碑へと歩み寄った。

 

出来てまだ真新しいのだろうか、オーブの公用語である日本語で記されており日系人の俺には苦も無く読み取れた。

 

「戦没者慰霊碑・・・、か・・・、手向けの花束ぐらい、持って来れば良かったかな・・・。」

 

手向けになる物も、捧げるモノも用意できずに来てしまった事に申し訳なさが頭を過ぎった。

 

死んだ人達に、せめてもの手向けとして何かをしたかったんだけどな・・・。

 

「一夏様・・・?」

 

「これって・・・、オーブ侵攻の時の・・・?」

 

「あぁ、新しさから考えて、そうだろうな・・・。」

 

追い付いてきたセシリア達の言葉に答えつつも、俺はせめて黙祷だけでもと、俯いて瞳を閉じた。

 

戦った者も、巻き込まれた者も、安らかに眠れるように祈りながら・・・。

 

俺に倣って全員が黙祷を始めた時だった、背後から誰かが近付いてくるような気配が感じ取れた。

 

足音としては二人か三人といったところか・・・?

 

黙祷を止め、後ろを振り向くと、そこには花束を抱えたピンク色の長い髪を持った少女と、少女に付き添われるように立っている、何処か心に傷を負った様な雰囲気を漂わせた茶髪の少年が立っていた。

 

二人からは、何処か浮世離れした様な印象を受けたが、後々考えればそれは錯覚でもなんでも無かった様な気がした事を、今の俺は知らなかった。

 

「あら?観光の方ですか?」

 

この辺で見かけない顔だとでも感じたのか、少女は不思議そうな顔をしながらも俺達の方へと歩み寄ってくる。

 

「まぁ、そんな所だよ、コペルニクスから降りてきたばっかりでね。」

 

曖昧に誤魔化したつもりなのか、宗吾はコペルニクスからやって来たと言う嘘を吐いていた。

 

まぁ、俺達の本拠を知られても困ると言うのがあるからどうこう言わんが・・・。

 

「そうですか・・・、此処へ来られるのは初めてですか?」

 

「あぁ・・・、偶然見つけて、手向ける花も用意できなかったけどな・・・。」

 

俺達の雰囲気に何かを察したんだろう、少年は憂いを帯びた目で俺を見てきた。

 

この感じ・・・、何か苦しみを抱えて生きている人間の・・・。

 

と言う事は・・・、彼も何かに苦しんでいるのだろうか・・・?

 

いや、そんな詮索をしたって無意味だ、俺は彼じゃない、苦しみを分かる事なんて出来ないんだから・・・。

 

「でしたら、このお花とご一緒でも、よろしいですか?」

 

「すまない、助かるよ。」

 

少女の申し出をありがたく受け取り、俺は彼女が花を手向ける所を見ていた。

 

小さな音を立てて花が慰霊碑の前に手向けられ、俺達はもう一度黙祷を捧げる事にした。

 

暫くの間、祷りを捧げた後、俺達は誰がそうする訳でも無く向き合っていた。

 

ピンクの少女は俺達を真っ直ぐな、だけど真意を悟らせない瞳で俺達を見据え、俺は俯く少年を見た。

 

「君達は・・・、よくここに来るのか・・・?」

 

「いいえ、私達もここに来るのは初めてですわ、貴方方もそうでしょう?」

 

俺の質問の真意に気付いたんだろうか、それともただ額面通りに受け止めたんだろうか、彼女は何処か笑みながらも答えていた。

 

この少女・・・、只者じゃないな。

普通の人間ならば引き込まれる様な何かを持っているのだろうが、生憎、それなりの場数を踏んで来ている分、自分を見失っても何かに縋る様な真似はしないし、したくない。

 

せめて、答えは自分自身で見つけたいから。

 

「そうだな、少年、君もそうか・・・?」

 

「はい・・・、でも、実感が湧かなくて・・・、どうして、なのかも・・・。」

 

まだ、傷が癒えないと言うわけ、か・・・。

 

俺も人の事を言えた立場じゃ無いけど、何時までも引き摺る訳にもいかないから・・・。

 

「なるほどな・・・、ありがとう、それを聞けただけでも、ここに来た意義はあったよ。」

 

「それは何よりですわ、私達も、貴方方とこうして出会えて嬉しく思いますわ。」

 

お辞儀を返す少女に頭を下げつつも、俺は何処か値踏みする様な感触を感じた。

 

少年からでは無い、目の前にいる少女からだ。

 

彼女は恐らく、数々の修羅場を潜り抜けている、自分が引き込んだ人物たちの手によってな・・・。

 

彼女とはあまり付き合いたくはない、近付いてはならないと本能が警鐘を鳴らしているような気がした。

 

「それじゃあ、俺達は行くよ、今日中に回りたい所があるんでな。」

 

「あら、それではお見送りさせて頂きますわ。」

 

「あぁ、縁があればまた会おう。」

 

車道まで出て来てくれた二人に手を振ってから、俺達は再び道を走り出した。

 

さて・・・、時間はまだ少しだけある、海にでも行ってから、帰るとするかな・・・。

 

そんな事を考えながらも俺は行く。

 

戦いにどう向き合うか、その答えを求めながらも・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

宇宙に戻った一夏達は、己が力を着ける為に戦い続ける、それが如何なる道へと続こうとも・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

BEGINNING

お楽しみに


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BEGINNING

noside

 

「はぁ!?これを超えるストライカーを作れだぁ!?」

 

C.E.72年7月初旬のある日、アメノミハシラの格納庫に絶叫が一つ響いた。

 

その声の主は、アメノミハシラの整備士長兼A.G.R計画の技術長、ジャック・ウェイドマンであった。

 

普段から威勢が良く、それなりに大きな声での指示を飛ばす彼だったが、今回の叫びは普段のそれとは異なった様子であった。

 

「近くで叫ぶなよ・・・、耳が痛い。」

 

「喧しい!」

 

そんな彼の叫びに顔を顰めていたのは、計画の主導者であり、アメノミハシラの№2、織斑一夏だった。

 

彼等の反応を見るに、ジャックの叫びは一夏からの無理難題を受けた事によるモノだと考える事が出来る。

 

「お前がこんなデータを何処で手に入れたのかとか、設計できたとかはあえて聞かないがよ、これ以上の性能は無理があるぜ?」

 

渋面を作りながらも、ジャックは手渡されていた資料に再び目を通していた。

 

その資料とは、一夏が自身の過去の経験から密かに作成していた、ノワールストライカーの正確な数値を示したデータであった。

 

その出力は、一夏が現在使用しているI.W.S.P.を優に上回っているのだ、このまま造ったとしても実戦でも十分通用するレベルまで引き上げられるだろう。

 

だが、そのレベルでは到底満足できないのだろう、一夏は首を横に振りながらもジャックの言葉を否定した。

 

「これじゃダメなんだよ、ジャック・・・、ストライクレベル以上の量産機がこれから出てくるんだ、最低でも今の二倍のスペックが欲しいんだ。」

 

「二倍だとぉ!?しかも、ストライクも込みでフルチューンか!?一体どれだけの時間が掛かると思ってんだ!!」

 

スペックを二倍にする、言葉に出すのは簡単だが、それに要する時間は想像を絶している事は確かだ、今現在では技術力も、そして必要なデータも何もかも不足していたのだ。

 

「無茶を承知で頼む!後一年半、いや、十四か月で作ってほしい、足りないデータは全員で集めてくる、何が何でもだ!」

 

「・・・っ!」

 

何時になく熱心な一夏の表情から何かを感じたのだろうか、ジャックは言葉に詰まりながらも考えを巡らせた。

 

確かに、先を見越して物を考えると、大きな戦乱が起きていないこの時期、力を着けるには持って来いであり、新型試作機やそれに準ずる機体群も開発される時期なのは明白であった。

 

特に独自の立場を貫くアメノミハシラの事を考えれば、多少の無理をしてでも開発の歩みを進めなければならないのは自明の理だった。

 

それに加え、この時期に得られたデータが後々の開発の糧になる事も考えられるため、残された選択肢は一つに絞られてくる。

 

タメ息を大きく吐き、彼は諦めたように後頭部を手で掻いた。

 

「分かったよ・・・!試作のパックを造る、まずはそれで様子見だ、他の四機の事もあるんだ、ストライクだけに感けてる訳にもいかんよ。」

 

「すまない・・・、頼んだよジャック、後でシミュレートした細かいデータを渡すよ。」

 

何処か焦燥に滲む表情をする一夏に、多少時間が掛かると釘を刺しながらも、ジャックは数名の技術士達を呼びよせ、ノワールのデータを手渡していた。

 

「なるべく早く頼むぞ!時間はいくら有っても足りないんだからな!」

 

「任せてくれ、二日以内に持ってくる。」

 

彼の言葉に頷き、一夏は踵を返して格納庫からシミュレーターが置かれている区画まで去って行った。

 

「ったく・・・、ぼさっとしてないで、俺達も動くぞ!解析を始めろ!!」

 

やるしかない、そう覚悟を決めたジャックは、部下の技術士達に号令の激を飛ばし、ストライクの戦闘ログの解析に着手した。

 

そう、戦争が無くとも、整備や開発の現場は常に戦場なのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ドラグーンをどうしましょうか・・・。」

 

一方その頃、自室に籠ってデュエルの武装類、戦闘データの総見直しを行っていたセシリアは、ある一つの問題に頭を悩ませていた。

 

それは、彼女が最も得意とするドラグーンの事だった。

 

既に他の武装の問題点や種類、それから機動力や防御力など、使い慣れた機体の長短を判別する事など造作も無い事であり、粗方片付いた。

 

しかし、いくら彼女であっても積まれていない武装に疎いのは無理はない。

 

「ビームはエネルギー効率が良くありませんし・・・、かと言って実弾はPS装甲には効きませんわね・・・。」

 

大出力ビーム兵器やPS装甲が普及している今の戦場における実弾の優位性は失われたに等しく、配備が残っているとしてもエネルギーの確保のための苦肉の手段でしかないのだ。

 

しかし、そのビーム兵器やPS装甲も、バッテリー駆動の機体にとっては活動時間を大きく制限されるものであり、そう易々と数を装備できないのが実情だ。

 

「基本思想はドレッドノートがありますから、どうとでも成りますが・・・、後は私の好みと機体の活動的余裕ですか・・・、設計と言うのも難しいモノですわね・・・。」

 

テーブルに置いておいた紅茶を啜りながらも、彼女はこれまで経験したことが無かったMSの設計や武装の設計を行った事が無いんだ。

 

「しかし・・・、ビームや実弾も今では絶対的な破壊力はなさそうですわね・・・、ハイぺリオンのシールドはどちらも効きませんし・・・。」

 

それに加え、今はビームをシールドにしたシールドも開発され、実用化されているのだ、多面的攻撃を行える武装すら弾かれてしまうのだ。

 

そのため、アルミューレ・リュミエールなどの純粋なエネルギーで構成された兵装にも対応できる装備が必要となってくるのだ。

 

「あら・・・?突貫できる兵器・・・、何かあった様な・・・?」

 

だが、彼女の脳内では既にその問題に対処できる装備が思い返されていた。

 

それは、嘗て共に行動していた最強の傭兵が使い、数々の戦果を挙げた武装・・・。

 

「タクティカル・アームズ・・・!そうですわ・・・!ラミネート装甲で刀身を構成すれば・・・!」

 

タクティカル・アームズはその刀身をラミネート装甲で構成されており、ビームサーベルと切り結ぶ事も出来る。

 

そして、その原理を応用すればビームで構成されたアルミューレ・リュミエールなどのシールドにも対応できる理想的な実体剣だ、使わない手は無い。

 

「ビームサーベルを発振させればPS装甲も貫く事が出来る・・・!これですわ・・・!!」

 

何かを閃いたのだろう、セシリアの指がキーボードを直走り、何かを構築していく。

 

そして、無我夢中で仕上げた武装は・・・。

 

「ソードドラグーン・・・、これならば近接戦でも使えますわね。」

 

自身が得意とする二つの戦い方を実現できる武装、それはセシリアにとっては是が非でも欲しいモノだろう。

 

生き残る為に、今度こそ信念の下で戦うためにも。

 

弟が抱いた夢と希望、そしてその輝かしい想いを継ぐ事を決めたセシリアは、データをコピーした後、部屋を飛び出して行った。

 

次こそ、間違えないためにも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「まただ・・・、まだ遅い・・・!」

 

同じ頃、シミュレーターの前で軽い苛立ちを浮かべているシャルロットの姿があった。

 

見た限り、結果が思わしくないのだろう、INCOMPIETEの文字が表示されていた。

 

「バスター自体は良い動き出来るのに・・・、武装が追い付いてない、か・・・。」

 

スラスターの数は少ないが、適切な箇所に配置されている為に、AMBAC機能などを使えばそれなりに動ける。

 

だが、問題はその偏り切った武装類に問題があった。

 

「前後連結式のビームライフルとガンランチャー・・・、好きなんだけど使い勝手悪いなぁ・・・。」

 

そう、バスターはその設計思想上、長物が多く、取り回しがあまり良くない装備のみで構成されている。

 

無論、運用上は近付かれない事を大前提とされている為にこの装備に落ち着いた訳なのだが、彼女の立場上、一機でオールラウンドを熟す必要があるのだ、少しでも多くの戦況に対応できる武装が何よりも望まれる。

 

「うーん・・・、それに、バルカン砲が無いのもねぇ・・・、せめてイーゲルシュテルンみたいなのがあれば牽制にもなるんだけどなぁ・・・。」

 

シャルロット自身は射撃寄りのオールラウンダーであり、それなりに格闘戦も熟せる、そのため、近接戦装備も少しは欲しいと言うのが本音なのだろう。

 

「せめて、連結のタイムロスだけは何とかしないと・・・、無駄も多いし・・・。」

 

自分の好みである大火力は潰したくはない、だが、要らない時間のロスで身を危険に晒したくはない、そんなジレンマに焦がれながらも、シャルロットは精一杯頭を捻った。

 

「あれ・・・、そう言えば、銃剣を使った事、あったよね・・・?」

 

しかし、シャルロットも幾度となく激戦を潜り抜けた来た猛者だ、様々な武器を使用し、見て来てもいた。

 

そして、彼女はそれに対処できる武装を使っていた事を思い出したのだ。

 

「そうだ・・・!ヴェルデバスターのあのビームライフルならラグが少ないし、近接戦にも対処できる・・・!使わない手は無いね!!」

 

彼女が嘗て使った武器の中に、近接戦も武装連結によるタイムラグも解決できるものが有ったのだ。

 

虐殺に用いた武器を使うのは些か気が引けるが、今はそんな事を言っていられる状況ではない。

 

寧ろ、嘗てと全く同じでは無く、そこから更に発展させればいい、そう考えたのだろう。

 

「早く仕上げないとね、時間は限られてるんだし、皆の足手纏いにはなりたくないしね。」

 

自分が中心になるという心積もりで、シャルロットはキーボードに指を走らせ、武器のデータを構築していく。

 

少し時間は掛かるだろうが、彼女はやり遂げるだろう。

 

自分の為に、愛する夫の為に、愛する盟友の為に、そして、掛け替えの無い友の為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

そのまた同じ頃、格納庫に置かれているブリッツのコックピットでは、メインパイロットである宗吾がデータとにらめっこをしながらも頭を抱えていた。

 

「ブリッツの機動性は兎も角として・・・、問題は武装とミラージュ・コロイドの応用だよなぁ・・・、天ミナのデータも貰えればそれで良いんだけど・・・。」

 

自身の機体の問題点と言うより、活かし切れていない自分の不甲斐無さと、闇討ち同然の戦い方に苦手意識を感じているのだろう、彼の表情からはブリッツの方向性を転換しようかと言う様な色さえ窺う事が出来た。

 

ブリッツは元々試作機と言う事もあり、ストライク等X100系フレームに特殊機能を詰め込んだX200系フレームに属している。

 

そのため、特殊機能であるミラージュ・コロイドを無視すれば、X100系となんら変わる事の無い機体である事になる。

 

それ故に、武装の追加とスラスターの改良だけで済ませてしまいたい所だったが、折角ミラージュ・コロイドを搭載しているのだ、活かしたいと言うのも彼自身の本音だった。

 

「俺に扱いきれる自信ないし、少ない装備でどう戦うかを考えるべきかなぁ・・・?」

 

扱いきれないのなら切り捨てても構わないとは思えど、折角の特色を潰すのはあまりにも惜しい。

 

そこが彼の頭を悩ませる最も大きな要因だった。

 

「けどまぁ・・・、暗器は欲しいよな、ナイフの一本や二本は有っても良いかね?」

 

「さぁね、でも、ブリッツには御似合いかもね。」

 

自分の言葉にかぶせる様にして発せられた言葉に顔を上げると、そこにはパイロットスーツを着込んだ玲奈がハッチの縁を持ちながらも彼を見下ろしていた。

 

「いきなりだな、玲奈、お疲れ様。」

 

「ん、お疲れ、お互い大変ね、こんな事になるなんてね・・・。」

 

玲奈から手渡されたドリンクボトルを受け取りながらも互いに労い合う

 

そこには信頼感に満ちており、彼等の仲の良さが窺えた。

 

「そう嘆いても仕方ないさ、運命だと割り切って戦ってくしかないだろ?」

 

「そう言われちゃそうなんだけどねぇ・・・。」

 

自分達が生きる為とはいえど戦いに身を投じているのだ、彼等の上司である一夏達とはまた違う葛藤があるのだろう、彼等の表情には苦いものが有った。

 

「ま、俺のブリッツは武装の追加だけで何とかなる、イージスは?」

 

しかし、湿っぽい話はしたくないとばかりに、宗吾は両手を挙げながらもおどけた風に返していた。

 

「ん・・・、さっきまでレイダーを借りて動かして分かったわ、参考には出来るけどベースには出来ないわね。」

 

「やっぱりな・・・、一夏の言った通りって訳か?」

 

それを察したのだろう、玲奈はうんざりとしたような表情を見せながらも話し、それを聞いた宗吾もげんなりとした様子を見せた。

 

「旋回性能は悪くないけど、お陰で速度が出ないし、飛べたところで意味ないってのが本音よね。」

 

「確かになぁ、貶したくはないけど、所詮は量産機ってとこか?」

 

欠点を挙げていく彼女の言葉に、彼もまた自分の事の様に悩んでいた。

 

イージスは可変機であり、その機構上、他の機体を参考にする事は難しい。

 

そのため、同じX300系統であるレイダーに望みが託されたわけだが、量産機故の癖の無さが仇となり、彼女の求める速さが実現できないという始末だったのだろう。

 

「それに、装備の配置も参考に出来やしないわ、あれ、外付けが基本だもの。」

 

「可変機の外付けはデッドウェイトになるしな、イージスは殆ど組み込み式だったっけ?」

 

「そうなのよ・・・、まぁ、飛べなかったら武装なんて何の意味も無いけどね・・・。」

 

自分には好きか嫌いかを分けるぐらいしか出来ない事への不甲斐なさに嘆いているのだろうか、玲奈は肩を落として呟いた。

 

もっと、自分の手で愛機を活かしてやりたい、共に空を駆けてみたいと思えど、彼女は無力だったのだ。

 

「まぁ、考えても仕方ない、今分かった事だけでも報告しよう、それが一番の近道かもしれないしな。」

 

「そうね・・・、それが一番よねっ。」

 

分かること、出来ることを優先しようとする二人には、進むしかないというある種の覚悟も見てとれた。

 

自分に出来る事を確実に熟し、何時かは誰かに頼って貰える様にと・・・。

 

sideout

 




次回予告

闇に潜む者として、彼は戦う、力尽きるまで・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

遺物を求めて

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遺物を求めて

side宗吾

 

『宗吾、今回の任務の手筈、分かっているな?』

 

イズモの格納庫内に置かれているブリッツのコックピットで待機していた俺に、一夏が通信機越しに話しかけてきた。

 

「あぁ、分かってるよ、酸素があるかも分からないし、さっさと探そう。」

 

彼の言葉に返しながらも、俺は改めて今回のミッション内容を思い返す。

 

今回はデータ収集をメインとし、グレイブ・ヤードでの活動がメインになっていた。

 

その主な目的としては、俺のブリッツの新しい近接武器の刀身に、レッドフレームが使用していると言うガーベラ・ストレートに近いモノにするための盗掘なんだ。

 

盗掘と言えば聞こえは悪いが、実際問題としてその通りなのだから言い訳はしない。

 

先人達の墓場に手を出す行為は流石に気が引けるけど、この行為を無にするか、有意義な物にするかは俺の手に掛かっている。

 

だから、気合い入れてかからねぇとな!

 

「行こうぜ一夏!援護頼むぜ!」

 

『了解した、先に出るぞ。』

 

一夏のストライクが先に出た事を確認し、俺もブリッツをカタパルトへと進める。

 

この発進ももう何度目になるんだろうな、つい半年前までは普通の学生をやっていた事がウソのようだ。

 

けど、それは前の世界での話、今の俺はMSパイロットだ、感傷に浸っている暇なんてない。

 

だから・・・。

 

「神谷宗吾、ブリッツ、行くぜ!!」

 

気合の籠った声で叫びながらも、俺は真空の宇宙へと飛び出した。

 

機体を注意して動かしながらも、俺は周囲の状況を観察するように目を動かした。

 

コロニーの残骸に紛れてMSの残骸なども漂っており、この場所で行われた戦闘の凄惨さを物語っていた。

 

「ひどいもんだな・・・、これが戦争なのか・・・?」

 

『どうだろうな・・・、コロニーを盾にする連合ももちろん非道だろうが、それと知って攻撃するザフトも、結局は人間だって事なんだろう。』

 

「人間だから、こんな酷い事ができる、ってか・・・?」

 

認めたくないけど、本当にそうなんじゃないかと思ってしまってる辺り、俺もニヒルになってきたのかとも考える時がある。

 

まぁ・・・、こんな様子ばっかり見せ付けられたら嫌でもそうなるか・・・。

 

『見えたぞ、あれがグレイブ・ヤードだ、入港ハッチがある筈だから注意して探せ。』

 

「了解、周囲の警戒を頼む。」

 

おっと、今はそんな事を考えている場合じゃない、集中して進入路を探さないとだな・・・。

 

モニターをズームモードに切り替えながらも目を凝らすと、掠れた文字ながらも宇宙港である事を示す表記のある隔壁を発見し、それを一夏に通信を入れて場所を教える。

 

『俺が外を警戒しておく、お前は中に入って探索を続けろ、なるべく物品は壊すんじゃないぞ、俺達は海賊じゃないんだ、そこら辺を弁えておけ。』

 

「分かってるよ、それじゃあよろしくな。」

 

彼の指示を受けながらも俺は宇宙港に近付き、脇に配置されていたコード入力型のキーを入力し、ハッチを解放して中に入った。

 

通路を進んで行き、行き止まりになった所でブリッツを停止させ、ハッチから降りて人が歩けるほどの広さしかない通路を進んでゆく。

 

しかし・・・、中は荒れ放題と言うか、人がいなくなって長い間手入れもされていなかったって所なんだろうか・・・。

 

酷い有様だ、諸行無常と言われればその通りなんだろうけど、虚しくもなる・・・。

 

「ここに、本当に何かあるのか・・・?」

 

話や、以前の記憶の事を頼りに考えてると、この場にいるとその事すら信じられなくなってしまう。

 

明かりも無い通路を、手に持った懐中電灯の明かりを頼りに進んで行くと、どうやら通路を抜けきって、人が生活していた空間に出た様だ。

 

けど、かろうじて生きのこっている非常用の電灯の明かりも心許無く、非常に暗い中での捜索を強いられる事は必須だった。

 

「ったく・・・、何処をどうやって探せばいいのやら・・・。」

 

酸素があるのかどうかも分からないけど、ゆっくりと行くとしようじゃないか。

 

けどまぁ、まずは詫びを入れる事から始めようじゃないか。

 

ヘルメットを脱ぐことは出来ないが、眼を閉じて頭を垂れて黙祷する。

 

墓荒らしをしに来ている様なもんだ、せめて、敬意だけは示しておかないとな・・・。

 

そんな時だった、俺の足元で何かが動いた。

 

「うぉっ!?」

 

慌てて足元を見ると、そこには何か大きめの物体が俺の足元にすり付く様に動いていた。

 

「なんだっ!?」

 

ライトで照らしてみると、黒っぽい大きな犬が俺の脚に身体を押し付けていた。

 

「アイェェェ!?犬!?犬ナンデ!?」

 

あまりに想定してなさ過ぎた出来事に、俺は一瞬だけパニくってしまう。

 

『どうした?何かあったのか!?宗吾!!応答しろ!!』

 

俺の悲鳴を聞いた一夏が何か言ってくるが、今の俺に気にしている余裕はなかった。

 

「はぁはぁ・・・!なんだよ・・・!と言うか、なんで犬がこんな所に・・・?と言うか、酸素が残ってるのか?」

 

犬と言っても酸素が無けりゃ生きてけない訳だし、それはこのコロニーにまだ酸素が残っていると言う証明でもある。

 

それに気付けた俺は、ヘルメットを脱いだ。

 

「ん・・・、お前のお陰で余分な酸素を使わずに済んだよ、ありがとうな。」

 

腰を落とし、行儀よく座る犬の頭を撫でた。

 

「お前だけか?他に住んでる奴は?」

 

まさか人がいるとは思えないが、コイツが一匹でいるのも何かとおかしな話だからな。

 

尋ねると、その犬は俺から離れて何処かに向けて走って行く。

 

「あ!おい、待てよ!!」

 

その犬の事が心配になったんだろう、俺はここに来た目的も忘れて追い駆けた。

 

だが、道は荒れ放題で思う様に走る事が出来ないが、俺は犬を追いかけて走った。

 

それからどれほど走った頃だっただろうか、犬が何かの前で立ち止まった。

 

「やっと止まった・・・!どうしたんだよ・・・?」

 

荒い呼吸を整えながらも、俺は犬の目の前にあるモノにライトを当て、それを見た。

 

「これは・・・?」

 

そこには、電源が落ちているだけで、機材自体には全く傷みが無いコンソールと、その脇に新しく作られたであろう墓が立てられていた。

 

「ここは・・・、まさか・・・!」

 

辺りを照らすと、補助電源を入れる為のレバーが見付かり、俺はそれに駆け寄ってレバーを押し上げた。

 

すると、その空間に生き残っていた全ての機材や照明に光が灯り、眩いばかりの光が視界を埋め尽くす。

 

光に目が慣れると、そこは途轍もなく広い空間である事が分かり、幾つもの墓と、その中心に存在する刀剣匠が使う様な台を巨大化させたようなものがあった。

 

いや、そのためだけに使う場所じゃなかったんだろう、聞くところによると、このグレイブ・ヤード、いや、世界樹は様々な技術分野のエキスパートが移住した場所らしい。

 

一つの空間で色々な実験をしていたとしても何ら不思議はないし、新しい技術を作ろうと思えば自然な流れであると考えられる。

 

「すげぇ・・・、ここが、技術の墓場なのか・・・!」

 

「宗吾!無事か!?」

 

俺が感激して辺りを見渡していると、大型のライフルを持った一夏が俺達の方へと走ってくる。

 

どうやら、さっき俺が上げた叫びを悲鳴と誤解して助けに来てくれたんだろう。

 

「一夏・・・!すまない、俺は何とも無いよ。」

 

「この野郎、心配させやがって・・・!」

 

すぐさま誤解だと伝えると、彼は心底安心したかのように息を吐き、辺りを見渡していた。

 

「驚いたな、まさかこんなにも早く見つけられるとは思わなかったよ、お手柄じゃないか。」

 

「いいや、コイツのお陰だよ、俺独りだったら迷子になってたかもしれないしな。」

 

お手柄だと褒める一夏の言葉に、俺は足元で行儀よく座る犬の頭をなでる。

 

それなりにデカい犬なのに、大人しい奴だな。

 

「犬・・・?もしかして、ここの住人の飼い犬だった奴か?」

 

「だろうな、でも、コイツ以外に生体反応は見当たらないし、飼い主はもう・・・。」

 

ここが廃棄されて早二年以上が経過している。

 

その戦禍の影響で大勢の技術者が死んだと聞いている。

 

この犬が生き残っていると言う事は、数か月前まで飼い主が生きていて、食料の備蓄があったと言う事だろう。

 

けど、今はそんな感傷に浸っている場合じゃない、やるべき事があったんだ。

 

「一夏、周囲の警戒とソイツの相手を頼む、俺はデータを集めるよ。」

 

「良いぜ、ハロを使って作業すると良い、性能はどんなAIよりも遥かに良いからな。」

 

「サンキュー、ありがたく使わせてもらうよ。」

 

彼が手渡してきたハロを受け取り、コンソールに接続、データの読み取りを開始した。

 

流石の規格外性能を持っているだけのことはある、ハッキングなんて俺がやるより早く終わったし、すぐにデータの表示、及びコピーを同時進行で行っていた。

 

「凄い量だな、俺独りでやってたらどんだけ時間が掛かった事か。」

 

『40ビョウデシタクシナ!!』

 

どっかで聞いた事有る様なセリフ喋るよな、このハロ・・・。

 

どんなプログラムを仕込まれて造られたのかが気になって仕方ない。

 

「っと・・・、あったあった、ガーベラ・ストレートのデータ、これがあれば十分だ。」

 

「見つかったか、念のために見せてくれ。」

 

俺の言葉に、一夏は犬を連れて此方に歩み寄り、開示されたデータに目を通した。

 

俺の目で見る以外にも、熟練した一夏の目ならば見落としも少なくなるだろうし、彼に着いて来てもらって正解だったよ。

 

「・・・、間違いない、前の世界で見たデータと違わない数値だ、アメノミハシラなら再現できる。」

 

「ホントか・・・?なら。」

 

「あぁ、ミッション・コンプリートだ、引き上げるぞ、お疲れさん。」

 

彼が確信めいた笑みを浮かべるのを見て、俺はガッツポーズを憚ることなくかました。

 

盗掘しておいてなんだが、せめて世界を、人々に生きる希望を与える為に使わせてもらうつもりなんだ、詭弁だと言われても、俺は戦うつもりだから。

 

先に通路を引き返す一夏の後を追おうとしたが・・・。

 

「・・・、お前・・・。」

 

何故か俺の脚にすり寄って離れない犬の姿に、何処か哀愁を感じてしまう。

 

飼い主も死んで、ここに独りぼっちは辛いだろうに・・・。

 

如何するべきか・・・。

 

「なぁ、一夏・・・、コイツ・・・。」

 

俺はせめて、罪滅ぼしの気持ちもあるが飼い主への義としてコイツを救ってやりたい。

 

そうじゃないと、そう遠くなくこの犬は死んでしまうから・・・。

 

難しい事だってのは分かってる、それでも・・・。

 

「アメノミハシラで・・・。」

 

「自分で決めろ、話を着けるのもお前が全部やるって言うんなら俺は咎めたりしない、ソイツが入る位の密閉されたケージ、さっさと探せ。」

 

「・・・!分かった・・・!ありがとう!」

 

ったく、素直じゃない奴だぜ。

 

さっきから表情が俺以上に曇ってたくせしてな。

 

けど、許可は貰ったんだ、さっさと準備しないとな!

 

使命感に突き動かされるようにして、俺は辺りをもう一度捜索し始めた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「うわぁ~!フカフカだね~♪」

 

「本当・・・、先程までの様子が嘘の様ですわね。」

 

アメノミハシラの士官用のブリーフィングルームに、シャルロットの弾んだ声と、セシリアの慈しむ様な声が響いた。

 

彼女達の足元には綺麗に毛並みを整えられた、宗吾がグレイブ・ヤードで保護した犬が行儀よく座り、何処か嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

宗吾に連れられてアメノミハシラにやって来た犬は、まずシャワールームに連れていかれ、身に着いた汚れを洗い流してもらい、今はこうやって綺麗になってここでお披露目と言う形になっていた。

 

「前の世界でドッグトリマー目指してて良かったわ、じゃないと誰も洗えないんだもの。」

 

そんな彼女達と犬の様子を眺めながらもジュースを啜る玲奈は、何処か満足げに微笑んでいた。

 

意外な所で嘗ての技術が役立ったのだ、少しは誇らしくも思いたいだろう。

 

「にしても、優しい所あるのね、ちょっと惚れちゃいそうよ?」

 

「やめてくれ、ほんの仏心さ、そういう事にしてくれよ。」

 

そんな彼女からの賞賛がくすぐったのだろう、宗吾は照れくさそうに笑って席を立ち、犬に歩み寄った。

 

「綺麗にしてもらって良かったなぁ、良いじゃないか。」

 

彼が頭を撫でると、犬も嬉しそうに鳴き、彼の顔を嘗めていた。

 

「はははっ!やめろよ、くすぐったいだろ・・・!」

 

「ふふっ、懐かれてるね、犬好かれの体質?」

 

くすぐったそうに笑う宗吾を見て、シャルロットは優しい笑みを浮かべていた。

 

これまでにないほど癒されているのだろう、切羽詰まった状況の中にいる彼等には癒しが必要だったために、ちょうど良かったのだろう。

 

「そう言えば、この子の名前は如何される御積りですの?」

 

そんな中、セシリアは犬の名前をどうするのか尋ねていた。

 

何時までもただの犬呼ばわりは寂しいと感じているのだろうが、すでにこの犬には伝八と言う前の主人に付けられた名前があったのだが、その事を彼女達が知る由も無かった。

 

「ん、そうだなぁ、主人の墓の前にいたみたいだし、忠犬なんだろうな。」

 

「へぇ、ハチ公みたいね、良い話だわ。」

 

そんな事も知らずに、宗吾は何気なしに伝八がいた場所の様子を語り、その様子から嘗ての世界の日本で所縁があった忠犬の名を思い出した玲奈は、感心した様に呟いた。

 

「それやめて、本当にやめて・・・っ!」

 

彼らの言葉に、シャルロットは突然涙目になり、首を横に振っていた。

 

「ど、どうしたの・・・!?」

 

彼女の唐突な涙に驚いた玲奈は彼女の体をさすって理由を尋ねていた。

 

「ハチ公・・・、僕が日本に来て初めて一夏に勧められた本なんだよぉ・・・!ダメだよぉ・・・!!」

 

「えぇ~・・・。」

 

まさかの返答にどう返せばいいものか、玲奈は思いっきり苦笑を浮かべていた。

 

確かに、一途に飼い主を待ち続けたハチ公は忠犬として有名であるが、まさかヨーロッパ系のシャルロットが心打たれるとは思ってもみなかったのだろう。

 

感動とは国境を超えるものなのだと、彼女が同時に納得した瞬間でもあった。

 

「で、でも意外だな、シャルロット達の方だったらパトラッシュが有名じゃないのか?」

 

「それもおやめくださいぃぃ・・・!」

 

話の流れを変えようとした宗吾だったが、今度はセシリアが顔を両手で覆って泣き崩れてしまった。

 

「うわっ!?セシリアまでどうしたんだよ!?」

 

「私はあのお話が苦手でぇ・・・!一夏様にお見せいただいた物ですがぁ・・・!」

 

「アイツほんと何やってんの!?」

 

またしてもな展開に宗吾は思わず叫ぶ。

 

一夏が何でそのお涙頂戴系を勧めたのか全く理解できなかったのだろう、困惑と同時に意外と言う様な表情が見受けられた。。

 

ちなみに、パトラッシュことフランダースの犬の人気があるのは意外にも日本だけであり、他の諸外国の反応はそれなりに冷ややかだそうだ。

 

「何の騒ぎだ、うるさいぞ。」

 

その混沌を極める空間に割って入ったのが、事の元凶こと織斑一夏だった。

 

その手にはドッグフード等が握られていたために、それらを伝八の為に調達しに行っていたことが伺えた。

 

「誰のせいで・・・!いや、お前のせいじゃないけど・・・!」

 

「何の話だ?まぁいい、パトラッシュ、こっち来な。」

 

「ワザとだろ!?ワザとなんだろ!?」

 

あまりにもピンポイントすぎる呼び方に宗吾が突っ込むが当の一夏はと言うと、はははと笑い流すだけで一切取り合わなかった。

 

どうやら、確信犯の様である。

 

だが、そんな彼の悪戯に釘を刺すつもりなのだろうか、伝八はそっぽを向き、宗吾の方へとすり寄ってきた。

 

「嫌われてやんの!傑作ね~?」

 

「笑うなよ・・・、皆が見てる・・・。」

 

その様子を見て笑う玲奈に向けて、一夏は少々傷付いたと言わんばかりの表情を浮かべたが、何かを思い出したのかタメ息を一つ吐いた。

 

「とりあえず、ミナと話着けて来てやった、それについての良いニュースと悪いニュースがあるんだが聞くか?」

 

「な、なんだよ・・・?まさか、返してこいとかって事か・・・?」

 

彼の言葉から嫌な予感がしたのだろうか、宗吾は表情を強張らせた。

 

だが、一夏はその懸念を他所に苦笑を浮かべながらも結論を述べた。

 

「安心しろ、ミナからの許可は貰ってきたよ、彼女も犬好きだからな。」

 

「ホントか!?良かったなぁ、わんこ!」

 

その言葉に、宗吾は伝八の頭を撫でて自分の事の様に喜んだ。

 

どれほど小さな命であろうとも救えたことには変わりないのだ、手放しで喜んでいた。

 

だが、それだけでは安心できない、何せ、悪い方の事を聞いていないのだから。

 

「で、悪い方だ、これは俺も驚いたよ。」

 

「な、なんだ・・・?」

 

苦笑と言うよりは呆れの色が強い一夏の表情に、全員が息を呑む。

 

まさか、何かあったのかとでも言うように。

 

「ミナの奴、犬アレルギーらしい。」

 

『・・・、えっ?』

 

一夏の言葉に、一瞬何を言われたのか分からなかったのだろう、四人は酷い間を開けた後にやっとの事で聞き返した。

 

「見てて哀れだよ、犬が好きなのに触ったら喘息とか酷くなるらしい。」

 

「えっ?ミナってコーディネィターよね?そのアレルギー問題は解決できなかったの?」

 

「知るか、大方、戦闘能力に特化しすぎたせいでおざなりな部分が出たんだろう。」

 

苦笑する一夏に、玲奈はどういう事だと言わんばかりに尋ねるが、彼とて真相を知っている訳ではない。

 

もっとも、彼も知りたいとは一切思わなかったそうだが・・・。

 

「ま、なんにせよ、宗吾、お前はお前の仕事をして来い、例のデータの解析が始まる、立ち会って確認して来い。」

 

「おっ、分かったよ、すぐに行く。」

 

宗吾は一夏の指示を受けると敬礼を返し、格納庫に向けて歩き出そうとしていた。

 

時分が扱う事になるであろう武器なのだ、間近で見てどうなるか確認しておきたかったのだろう。

 

そんな彼を追う様に、伝八も付いて行こうとしていたが、それを止めたのは玲奈だった。

 

「はいはい、わんこ、すぐに戻ってくるから待ってなさい。」

 

頭を撫でながらも、心配する事は無いと話しかけていた。

 

「頼んだ、ジャックさんに頼んで早く切り上げてくる。」

 

彼女に頼んだ後、彼は微笑みながらも部屋を出て行った。

 

護るべきモノの為に、そして、自分の為に強くなるために・・・。

 

sideout




次回予告

新たなる力は、彼等に進むべき道を示してくれるのだろうか、喩えそれが新たな戦いを生むとしても・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

牙と唸りと

お楽しみに


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牙と唸りと

sideセシリア

 

A.G.R計画が始動して早半年近い月日が流れました今日この頃。

 

毎日少しずつ、様々な組み合わせで起動試験を行った結果、想定より早く基礎データが集める事が出来ました。

 

各々が持つ動かし方の癖や多く使う武装、そして好みのOS設定など、一言では語り切れないほど膨大なデータが蓄積され、漸く一つステップを踏み出せる段階までやって参りました。

 

とは言え、これらはまだまだ序の口で、本当に必要になってくる武器に必要なデータは、試作機を使って録って行く他在りません。

 

「・・・って感じなんだが、此処までは良いか?」

 

あら、いけませんわね、今はジャックさんに新しい装備のレクチャーを受けている所ですのに。

 

「はい、大丈夫ですわ、続きをお願いします。」

 

「おうよ、一応新しく作っておいたアサルトシュラウドに量子通信システム用のグラビカルアンテナを着けといたから、前よりはロスも少ない筈だ、ダメならもっと考えるけどな。」

 

デュエルに装着されてゆく新規製作のアサルトシュラウドを見ながら話されるジャックさんの言葉を聞きながらも、私は開示されたデータに目を通して行きます。

 

今回、新たに装着されたアサルトシュラウドの腰と両肩に、それぞれ一対のソードドラグーンが装備されております。

 

今回は試作型と言う事で、刃にはラミネート装甲を用いてはおりますが、ビーム刃を発生させる事は出来ません。

 

まぁ、後々でイージスから技術流用すれば何とでもなりますので、今はこのままでの稼働制限を見ると致しましょう。

 

「ドレッドノートのドラグーンのデータを解析して造ったは良いが、正直な話、十分でも動きゃ良い方かもしれんぞ。」

 

「構いませんわ、これからデータを録って参りますので、また良い物を造ってくださいまし。」

 

忠告と言うよりは念押しと言う様なジャックさんの御言葉に微笑み返しながらも、私はデュエルのコックピットに入り、機体を立ち上げて行きます。

 

新しい装備が入っているだけありまして、何時もとは設定を変えねばなりません。

 

もっとも、ドラグーンならば操る事は造作も無い事ですが、念には念を、ですわ。

 

「さて・・・、今回は付き合って頂きますわよ、ハロさん?」

 

『ワッカリマシタ!』

 

一夏様からお借りしたハロを繋ぎ、なるべく動かない様な場所に置いた後、私は機体をカタパルトまで移動させます。

 

さぁ、参ると致しましょう。

私が誇りを取り戻すための更なる一歩の為に・・・。

 

『進路クリアー、デュエル、発進どうぞ!』

 

「セシリア・オルコット、デュエル、参ります!!」

 

カタパルトから飛び出した私は操縦桿を握りながらも感覚を一層研ぎ澄ませ、大きく息を吐きます。

 

さぁ、試させて頂くとしましょう、私の愛機の牙の唸りを!!

 

「行きなさい、ソードドラグーン!!力を示しなさい!!」

 

四基のドラグーンを全て射出し、デュエルの周囲を弧を描く様にして飛ばしながらも、私はバッテリーの消耗具合を確かめます。

 

やはり、量子通信システムの為に削られるエネルギーの量は馬鹿にはなりませんわね、これはサブバッテリーの増設も考えねばなりませんか・・・。

 

『オルコット卿、これより模擬ターゲットを射出します、スタンバイお願いします。』

 

「了解しましたわ、よろしくお願いいたします。」

 

さて、本腰を入れて戦うと致しましょう。

 

そう思った直後、アメノミハシラからデブリが射出され、私の方へと向かってまいります。

 

大きさ、材質全てが異なっているために、様々なデータが録れる事でしょう。

 

「行きなさい、ドラグーン!!」

 

私の意志に呼応するかの如く、四基の牙はデブリに向けて突貫、まるで紙でも切り裂くかの様に破壊してゆきました。

 

流石はアメノミハシラの技術力、この短期間でこれほどまでの完成度を実現させて下さるとは、頭が下がる思いですわね。

 

それに、操作のラグが少なくて、まるで手足を伸ばしているかのような感覚のままで戦えるのです、何やら懐かしい感触がしますわね。

 

ですが、感傷に浸るのはまた後で、今は目の前の試験を熟すとしましょう。

 

『ゼンポウチュウイ!ゼンポウチュウイ!!』

 

「なっ!?」

 

そう思った時でした、ハロさんが警告を発し、私は反射的に機体を動かしていました。

 

デュエルとドラグーンがさっきまでいた空間を、レールガンの砲弾が凄まじい勢いで通りすぎて行きました。

 

「今のは、I.W.S.P.の・・・っ!」

 

『随分と懐かしい動きを見せてくれるじゃないか、セシリア、昔を思い出してしまったよ。』

 

「一夏様・・・、出て来られるなら一言お声かけ下さいな、ビックリするではありませんか。」

 

一夏様からの通信と共に、アメノミハシラの格納庫から飛び出してきたストライクが私のデュエルの前に立ち止まります。

 

本当に、御心に素直な御方ですこと・・・。

 

『対MS戦闘の想定でやっとかないとダメだろう、俺が相手になるよ、妻の力を知っておくのも夫の務めだからな。』

 

「私達にその様な建前が要りますか?ですが、御申し出はありがたく受け取らせて頂きましょう。」

 

久方ぶりの一夏様との模擬戦、何かと気合を入れねば結果は残せないでしょう。

 

『行くぜ、見せてくれよ!!』

 

「えぇ、行きなさい、ドラグーン!!」

 

対艦刀を引き抜き、此方へと向かってくるストライクに向け、私は四基のドラグーンを突撃させます。

 

ですが、私のドラグーンの軌道を読んでいるのでしょう、白い機体を掠める気配すらありません。

 

「牽制の為にビームライフルを持ってくるべきでしたわね・・・っ!」

 

エネルギーの効率を確かめるために、ビームライフルを置いてきたのは痛い所ですが、そうは言ってもいられません。

 

『牽制の為のエネルギーさえ惜しいみたいだな、効率の向上を提案してみるか?』

 

直接戦う事でまだまだ完成度が低い事を感じ取っているのでしょう、一夏様は何処か試す様な口調で尋ねて参ります。

 

可愛げのないお言葉です事・・・!私がどうするかのかなど御見通しでしょうに・・・・!!

 

「えぇ・・・!!そのつもりですわよっ・・・!!」

 

しかしながら、言われてばかりややられてばかりも、些か面白くありません。

 

ですから、私も吠えると致しましょう!!

 

「行きなさい、ソードドラグーン!!私達の想いに応えなさい!!」

 

ストライクのバックパック、I.W.S.P.を狙い、私はドラグーンを突撃させます。

 

同時にデュエルも前進させ、イーゲルシュテルンを撃ちかけながらも退路を断ち、徐々に包囲網を狭めて行きます。

 

一夏様は豪快な戦い方からは考えられないほど機体や資材を大事にされる御方、喩え戦況に合わなくなった装備でも、戦いが終わればなるべく回収されると言う、MS乗りとしては見習うべき姿勢を御持ちです。

 

ですが、そこに付け入る隙が生じるのです。

 

被弾させたくないと思うあまりに機体が回避に動くため、こちらは誘い込みを掛ける事が出来ます。

 

そして、討ち取るまでは行かずとも、せめて見返してしまいたい気持ちはあります、吹っ切れて頂くためにはそれも良い刺激となる事でしょう。

 

「そこっ!!」

 

研ぎ澄ませた感覚を利用し、私はドラグーンを縦横無尽に動かして行きます。

 

エネルギーに余裕はありませんが、データを録るためです、出し惜しみは一切致しませんわ!!

 

『くっ・・・!相変わらず良い動きをする・・・!!良い完成度じゃないか!!』

 

しかし、一夏様はストライクを巧みに動かし、ドラグーンの攻撃を全て回避しておられました。

 

いいえ、それどころか、撃ち落そうとレールガンやガトリング砲の照準を合わせようとしておられるなど、眼が慣れきっている事が窺えました。

 

「そう仰って・・・!以前と同じ様に避けておられるではありませんか・・・!!」

 

以前の世界よりもかなり見劣りするとは言えど、これほどの御力・・・!

やはり、一夏様は侮れませんわね・・・!!

 

ですが、私も一人の戦士、戦場では負ける訳には参りません!!

 

「負けませんわよ・・・!そこっ!!」

 

一夏様からの攻撃が無いにしても、今だ命中はゼロ、流石に戴けませんわね・・・。

 

しかしながら、私も攻撃をワンパターンにするつもりはありませんわよ!!

 

荒っぽい攻撃は流儀に欠きますが、私なりの戦い方をお見せすると致しましょう!!

 

二基のドラグーンを突撃させながらも、私はデュエルのスラスターを全開にし、ストライクに飛び蹴りを仕掛けます。

 

『いきなりだな・・・!だが、貰った!!』

 

しかし、その程度の攻撃ならば、一夏様は簡単に回避して私の後ろを取ってくる事など織り込み済み、ですので・・・。

 

「三段構えは用意してありますの!!」

 

後方に控えさせておいたもう二基のドラグーンが、ストライクの背後から襲いかかります。

 

『やばっ・・・!?』

 

反応されても機体を避けさせる事が出来なかったのでしょう、一基のドラグーンは対艦刀を弾き飛ばし、もう一基はI.W.S.P.を貫きました。

 

『このっ・・・!何しやがる!!』

 

推進剤に引火して爆発する直前にI.W.S.P.を排除した一夏様は、その勢いのままコンバインドシールドをデュエルにぶつけて体勢を崩しに掛かります。

 

「きゃっ・・・!?」

 

攻撃が中った事で気が抜けていたのでしょう、私は回避する事も出来ずに大きく体制を崩します。

 

機体が重いせいか、中々体勢を立て直す事すらできません。

 

ですが、一夏様は吹き飛ばされる慣性を利用して、アーマーシュナイダーを引き抜いてこちらに向かってまいります。

 

「ドラグーン・・・!!」

 

照準を合わせる暇も無くドラグーンを突撃させますが、一夏様は機体を掠める事すら気にせずにこちらへ向かって来ます。

 

『チェックメイト・・・!!』

 

そのまま、コックピットに切っ先を突き立てられ、敗北を認めざるを得ない状況になった事で諦めが付きました、ドラグーンを全て格納し、私は臨戦態勢を解きました。

 

「はぁ・・・、また私の負けですか・・・、残念・・・。」

 

『お前なぁ・・・、I.W.S.P.を壊すなよ・・・、使えるストライカー無くなっちまったじゃねぇか。』

 

一夏様の小言を聞き流しながらも、私はエネルギーの残量を確認します。

 

やはり消費量が多かった様で、既にレッドゾーンの後半にまでなっていました。

 

効率向上と武装類の見直しをせねばなりませんわね・・・、いえ、いっそアサルトシュラウドを固定するのもアリですか・・・?

 

『聞いてないな・・・、まったく・・・、気に言ってたのに・・・。』

 

「申し訳ありません、勝気が急いてしまいましたわ。」

 

悪気が無いと言えばウソになりますが、それでも考え事をしている中では上の空になってしまうのは仕方ありませんわね・・・。

 

さて・・・、どうしたモノでしょうか・・・。

 

『とりあえず、射撃武器と手持ちの近接装備の類いは積んどいたほうが良いかもしれん、後で設計担当のオイゲン主任に掛け合ってみよう。』

 

「一夏様・・・?」

 

『君に死なれちゃ、俺とシャルはもう立ち直れん、だから必死に悩む、俺達夫婦の問題としてな・・・。』

 

そんな事を仰って・・・。

 

気付くと、口元が緩んでおり、心が満たされる様な感覚を受けました。

 

惚れた弱みか、何かですか、私は今すぐにでも旦那様を抱き締めたいという想いが強く宿ります。

 

『さっ、帰るぞ、講評はまた後だ。』

 

何処か誤魔化す様にそっぽを向き、アメノミハシラへと戻ってゆく一夏様の事を可笑しく思いながらも、私はストライクを追って機体を帰投させます。

 

ほんの少し、胸に宿った暖かい気持ちを慈しみながらも・・・。

 

sideout




次回予告

その想いは、願いは何を見て抱くモノなのだろうか、それが善きモノか悪しきモノかも分からぬままに・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

熱き熱情

お楽しみに





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熱き熱情

sideシャルロット

 

「これが新しい武器、ねぇ・・・、随分と御立派じゃない?」

 

僕の隣に立つ玲奈が、何処か感心した様にまじまじとバスターを眺めているのを、僕は何処か複雑な想いで聞いていた。

 

今、バスターのビームライフルとガンランチャーと交換される形で装備される新型ビームライフル《ガレオス》は、嘗ての僕の機体のデータを使って製作されたモノだ。

 

僕が提出したヴェルデバスターのビームライフルと、カナードのドレッドノートイータのΗユニットを参考にして造ったんだけど、正直な話、これでいいのかと思うんだよね。

 

嘗てと決別したいと思っていても、結局はそれに縋る様な形になってるんだ、人殺しの僕とはいってもプライドはあるんだ。

 

けど、そんなプライドのために使わなかったらその内討死する事は必須だから、悩み所なんだよね。

 

「まだ試作型だからね・・・、立派じゃなくてもいいけど。」

 

彼女の言葉が今の僕にとっては皮肉にしか聞こえなかったから、つい言葉に棘がある様な言い方になってしまう。

 

そんな自分に自己嫌悪しながらも、僕はヘルメットを被り、バスターへと歩み寄った。

 

「ジャックさん、バスターのテスト、初めてもいいですか?」

 

「おうよ、派手にぶちかましてやれや、データもよく録れるしな!」

 

整備は万端なんだと分からせてくれる様な笑みを見せてくれるジャックさんを信頼し、僕はバスターのコックピットに乗り込む。

 

「さてと・・・、玲奈、そっちは出れる?」

 

『いつでもどうぞ、それにしても、イージスでの観測試験なんてとんでも無い事やるわね・・・。』

 

機体を立ち上げながら通信を入れると、玲奈からの呆れた様な声が返って来た。

 

今回の試験は、イージスのMA形態時の速度と、通信性能を活かしての射程距離、及びビームの拡散率を測定するというモノだ。

 

拡散率を調べれば威力の計算も出来るし、それに見合うエネルギーの消費なのかも分かる、だから、今回はハロをイージスに搭載しての威力測定試験を行う事にしたんだ。

 

敵に見られない様にするために、一夏とセシリア、宗吾やアメノミハシラMS部隊の皆は周辺の警戒に出て貰ってる、これだけの規模の索敵網なら敵が近寄ってくる事もない筈だ。

 

試射はMS隊が展開していない宙域に目掛けて撃つつもりだから、フレンドファイアなんて事は無い、と思いたい。

 

まぁ、考えるのは後にしよう、今は出来るを一つ一つやって行こう、それだけが今の僕に出来る事だから。

 

「さっ、行くよ、予定よりも開発が遅れてるんだから。」

 

『了解、アタシに任せときなさいって。』

 

頼もしくそう言う玲奈の言葉を可笑しく思いながらも、僕はバスターをカタパルトまで移動させる。

 

もう慣れきったこの発進も、僕達の新たな一歩だと思うとなんだか感慨深いモノがある気がしなくもない。

 

「シャルロット・デュノア、バスター、行きます!!」

 

『早間玲奈、イージス、出るわよ!!』

 

別の宇宙港から飛び出した玲奈のイージスがMA形態に変形し、漆黒の宇宙を切り裂いて飛んでゆく、その姿はまるで流星の様な鮮やかささえ放っている様な錯覚を受けた。

 

「速いなぁ、でも、あれなら見逃す事も無いかな。」

 

イージスが飛んで行った方向へ向けて、僕はガレオスビームライフルを連結して構える。

 

『こちら玲奈、観測地点まで到達、何時でも良いわよ。』

 

「了解、デブリにターゲットを合わせる、観測開始して。」

 

スコープを作動させ、約100Km先のデブリに照準を合わせる。

 

宇宙空間は地球でやるよりも拡散率が低いし、長距離射程の観測には持って来いの場所だ、砂漠で超高インパルス砲のデータは録って来てるから、再試験の必要は無い。

 

そんな事を考えながらも、僕はトリガーに指を掛け、それを絞った。

 

その瞬間、砲口から大出力ビームの奔流が迸り、漆黒の宇宙を切り裂いて進んでゆく。

 

そして、僕の狙いを違えずに、大出力ビームの奔流はデブリに直撃、デブリを跡形も無く消し飛ばしながらも闇の中へと消えて行った。

 

「初撃命中!観測結果を送って!」

 

『了解っ!今出すわ!!』

 

玲奈に通信を入れると、すぐに観測結果が送られてきた。

 

命中結果は良好、拡散率を表す数値はシュミレーション上で計算された数値と違わない結果を示していた。

 

その結果に、僕はある種の興奮を抑えられなかった。

 

破壊衝動なんかじゃない、感慨というか、嬉しいというか・・・?

 

「流石は新型のライフルだね、命中精度も悪くないし、次は連射力を試してみようかな?」

 

データに目を通し、他の皆に帰投要請を出しながらも、僕は管制室との回線を開いた。

 

「管制室、こちらシャルロット、擬似ターゲットの射出をお願いします。」

 

『こちら管制室、了解しました、良いデータを期待しています。』

 

直ぐに返事があると、宇宙港のカタパルトから幾つものデブリがこっちに向かってくる。

 

どこで拾ってくるものなのかも見当の付かないような物もチラホラ混ざってるけど、今は気にする事でもないかな。

 

「ハロ!!マルチロック!!」

 

『ガッテン!!』

 

素早く合わせられたカーソルを一瞥し、僕は連続でトリガーを引いた。

 

それに応える様に、二丁のビームライフルが火を噴き、次々とデブリを灰塵に帰した。

 

「元のビームライフルに比べて連射力が二割ぐらい上がってるね、エネルギーの効率をもうちょっと考えないと、調子に乗って撃ってたら直ぐにカラッポだ。」

 

『ヨウジン!ヨウジン!!』

 

用心しなきゃだよね、その通りだ。

 

僕はバカスカ撃つから余計にバッテリーが早く干上がっちゃうからね。

 

『シャルロット、結果はどうだった?』

 

そう思っていた時だった、イージスがこっちに向かって戻ってくると同時に、玲奈からの通信が入った。

 

律儀な子だね、遠くからでも通信は出来た筈なのに。

 

「バッチリだよ、イージスが観測してくれてたお陰で充分すぎる程集まったね、ありがとう玲奈♪」

 

『良いって良いって♪アタシの機体のデータ取りも出来たわけだし、一石二鳥じゃない。』

 

「・・・、そっか、なら良いんだ。」

 

悪気が無いのは分かってるけど、やっぱり色々と経験してない玲奈じゃ、僕達とは見えるものや感じるものが違うんだね・・・。

 

でも、君はそのままでいてね、それが僕達にとっても救いになるんだし、ね・・・。

 

『で、まだエネルギー残ってるんでしょ?試しに模擬戦しない?』

 

「それが目的で買って出たの・・・?別に良いけど、実弾だよ?」

 

別に軽い模擬戦程度なら受け持ってもいいんだけど、今のバスターに積んでるのはこのビームライフルしかない。

 

ミサイルは軽量化のために全部抜いてきたし、下手をすれば彼女に怪我どころか命さえ奪う結果になるかもしれない。

 

そうなったら、僕はもう立ち直れないんだよね・・・。

 

『なーに言ってんのよ、そんな事ぐらい分かり切ってるわ、それに、何時までもアタシをヒヨッコ扱いしてんじゃいわよ、アンタ達が強いのは分かってるけど、仲間なんだからちょっとは信じてくれても良いじゃない!』

 

「っ・・・!!」

 

その言葉に、僕はまた頭を叩かれたかのような感覚を覚えた。

 

確かに、彼女の言った通りかもしれない。

 

心配していると言ったら聞こえはいいけど、それは彼女の事を下に見て軽んじてるという事に変わりはない。

 

それに気付いた時、僕は何だか胸のつっかえがまた一つだけ落ちた様な気がした。

 

僕達が何だろうと、彼女にとってはそんな事なんてどうでもいい、ただ、目の前にいる一人の女を見ているだけなんだ。

 

「はははっ・・・、君は相変わらず、僕達の仲に入り込むのが上手いね・・・、考え続けるのが馬鹿らしくなるじゃないか。」

 

『ちょっと、それどういう意味よ!?アタシが何も考えてないみたいな言い方は無いんじゃないの・・・!?』

 

何も考えてないなって思ってないよ、考えてる事が単純だなって思ってるだけ。

 

でも、それは悪い事じゃない、色々考えすぎて堂々巡りになる僕達に比べたら、彼女は真っ直ぐ前に進めてるから。

 

だから、僕も自分に蹴りを着ける為に彼女の胸を借りよう、そうする事で前に進めるのなら。

 

「行くよ、避けないと本当に死ぬよ?」

 

『ちょっと!?いきなりぃ!?』

 

僕がビームライフルを向けると、玲奈は慌てて射線上から逃れ、その高い機動力で足の遅いバスターを攪乱する様に動き始めた。

 

厄介な戦法だよ、こっちとは相性が悪すぎる。

 

「まったく・・・!!嫌味なのかなその動きは・・・!!相性に気を遣ってくれてもいいんじゃないかな!!」

 

『気ぃ遣ってたら間違いなく死ぬわ!!アンタ相手に手加減なんて出来る訳無いでしょ!!』

 

謙遜しないでよ、君の延び白は僕達何かよりも遥かにあるんだ、その内、対等どころじゃない話になれるだろうからね!

 

現に、前に戦った時よりも動きが格段に良くなってる、結構本気で撃ってるって言うのに・・・!!

 

『こわっっ!?コックピット狙ってない!?今当たりかけたんだけど・・・!?』

 

「気のせいだよっ!ほら、反撃してくれないとデータ録れないじゃないか!!」

 

ガレオスビームライフルを連結させ、大出力ビームをイージスが動く先に向けて発射する。

 

それを避けれないと判断したのか、玲奈はシールドを掲げてビームを防ごうとしていたけど、あまりのエネルギー量に耐えきれなかったのか、シールドはいとも容易く用を為さなくなった。

 

『げぇっ!何よその威力っ!!』

 

溶断される前に何とか逃げた玲奈はビームサーベルを展開してこっちに向かってくる。

 

やっぱりそう来るよね、バスター相手に近接戦は絶好のサンドバッグでしかない。

 

でも、ある程度、それは予想してる、この機体の特性は誰よりも僕が知ってるからね!!

 

バスターのスラスターを強引に吹かして斬撃を回避し、カウンター気味に蹴りを叩き込もうと動く。

 

『同じ手には乗らないわよ!』

 

流石、僕と何度か戦っただけは有るね、手札を覚えて来たみたいだ。

 

だけど、その程度じゃ僕のバスターは捉えられないよ!

 

イージスが身を沈めて蹴りを避けて、隙が出来たと見るやいなや、彼女はすぐにカウンターのビームサーベルを発生させたケリを叩き込もうとしていた。

 

でもね、僕は僕の真似事で倒せるほどヤワじゃないよ!!

 

イージスの間合いよりも更に深く懐に入り込み、ライフルの下部に配置していたグレネードランチャーを突き付ける。

 

デュエルのグレネードとドレッドノートイータのグレネード弾を基に開発してるから、威力はそれなりに高いものがある。

 

本当は牽制用に積んでおこうと提案したけど、至近距離からならPS装甲だって無傷じゃ済ませないよ!!

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

『ちょっ!?まっ・・・!!』

 

玲奈の困惑する声が聞こえてくるけど、僕は迷わずに操縦桿を押し込んでトリガーを引いた。

 

その直後、直撃したグレネードが激しい閃光と共に爆発し、イージスを大きく吹き飛ばした。

 

『きゃぁぁっ!?』

 

あまりの威力に体制を立て直せないイージスに向けて、シミュレートモードに切り替えたライフルを構え、コックピットに狙いを定めてトリガーを引いた。

 

エネルギーの量も心許無かったし、機体をこれ以上消耗させないためにも、これが一番手っ取り早いんだよね。

 

『いてて・・・、無茶な事するわね・・・!むち打ちになっちゃうところだったわ!』

 

「ごめんごめん、悪気は無かったんだ、つい熱くなっちゃったよ。」

 

玲奈からのボヤキを聞き流しつつ、暑苦しいヘルメットを脱いで汗を拭った。

 

結構良いデータが録れたね、やっぱり玲奈を相方に選んで正解だったよ。

 

『悪びれない図太さも羨ましいわ・・・、アンタ等はやっぱ凄いわ。』

 

「それ、嫌味にしか聞こえないけど素直に喜んでいいのかな?」

 

まぁ、素直に物事をハッキリと言えるトコには好感を持てるけど、それとこれとは話が違うからね。

 

「まぁ、付き合ってくれてありがとうね、玲奈、君のおかげで色々と分かったから。」

 

『ほぇ?なによいきなり?お礼される事なんて何もしてないわよ?』

 

気づいてないならそれでもいいんだよ、僕が勝手に救われてるだけだから、ね・・・?

 

「さっ、お腹も空いたし帰ろっか?ご馳走するよ。」

 

『ん、ありがたく頂くわ、乗って頂戴。』

 

僕の言葉に頷いた玲奈は、イージスをMA形態に変形させてアメノミハシラに向けて機体を駆った。

 

それはまるで、僕達の想いを、未来を運んでいくように・・・。

 

sideout




次回予告

何時の日か、戦場ではない場所で会いたいと願いながらも、二人の想いは交錯する。
演舞が織り成す景色とは・・・?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

また会う日まで

お楽しみに


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また会う日まで 前編

side一夏

 

『一夏卿、こちら艦橋、目的ポイントに到着しました、発進準備を開始してください。』

 

「こちら一夏、了解した、直ぐに発進します。」

 

デブリベルトの外縁部の辺りにやって来たイズモの艦橋から発進を促す通信が入った。

 

それもそうか、こんなところ、一刻も早く用事を済ませて立ち去りたい様な場所だ、俺だって長居はしたくない。

 

それに、このデブリベルトに価値があるとすれば、何もしてなくても何かが起こる事、そして、それが外にばれにくいって事だけだろう。

 

さて、今回は俺の新型ストライカーのテストのためにここまでやって来た。

 

二週間ほど前にセシリアにI.W.S.P.を破壊されてしまい、この新型ストライカー、今はプロトタイプだから正式な名はないが、が完成するまではマルチプルアサルトストライカーの残った部分だけを利用して何とかカバーしてきた。

 

一応完成したストライカーはI.W.S.P.の設計思想をそのまま引き継いだ形となり、シュベルト・ゲベールを一回り小さくした対艦刀を右背に一本と、左背にバルカンポッドを一基搭載、二対あるウィングにはそれぞれ数基ずつミサイルを装備してある。

 

そして、スライドして両脇から出てくるような構造になったレールガン一基と、もう一基はビームキャノンという武装配置になった。

 

スラスターはI.W.S.P.のデータから、より効率の良い配置が施されているため、実質上、推力は1.5倍にもなっていた。

 

「けどまぁ、欲を言えば対艦刀は二本あった方が良いよなぁ。」

 

使いやすいし、戦い易いからなぁ。

 

まぁ、今回は宇宙でのデータ計測が目的だし、限界以上の動きを求めることも無い筈だ、それほど手間取る内容じゃないのは確かだと言えるだろう。

 

「さて、今日も最後まで付き合ってもらうぞ、相棒。」

 

『ガッテン!ガッテン!!』

 

相棒であるハロに声をかけた俺は、愛機であるストライクを動かしてカタパルトまで移動させる。

 

ハッチが開いてゆき、いつでも発信してくれと言わんばかりの状況を見て、俺は改めて操縦桿を握りしめた。

 

『進路クリアー、ストライク、発進どうぞ!!』

 

「了解、織斑一夏、ストライク、行くぜ!!」

 

何時もと同じように漆黒の宇宙へと飛び出した俺は、PS装甲をオンにしながらもストライカーの推力を確かめるように宙を駆った。

 

「凄いな、相変わらず手足を伸ばしてるみたいに機体が付いてくる・・・!」

 

調整の賜物か増大した推力に機体が振り回されるということも無く、しっかりとマニューバを取れている。

 

流石はウチのメカニックだ、パイロット好みだけじゃなくてメカの特性をしっかり把握してる、良い仕事してるよ。

 

「さて、やってみるか!」

 

持ってきていたビームライフルとシールドを改めて持ち直し、俺はペダルを踏み込んで機体を加速させた。

 

「さて、試すとしようか・・・?」

 

操縦桿を操作し、レールガンを試し撃ちしようとした、まさにその時だった。

 

「・・・っ!!」

 

突然、身体に稲妻が走った様な感覚を受けた。

 

全身の産毛までもが逆立つ様な感覚、それは強大な力を持っている相手への畏怖、そして、歓喜だ。

 

そうだ、間違いない・・・!この感覚は、アイツが発していたプレッシャー・・・!!

 

「ったく・・・!!退屈な試験かと思えば、命の危険迫ってんじゃねぇか!!」

 

だが、恐怖などしていない、むしろ、普段の俺ならば絶対に抱かない興奮すら覚えている。

 

「行ってやるよ、今からそっちにな!!ハロ、イズモに連絡、一時間で戻ると!」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!』

 

ハロに指示を出しながらも、俺はストライクのフットペダルを踏み込んで感覚が強くなる方向へと急いだ。

 

きっと、彼も俺に気付いているのだから・・・!

 

sideout

 

sideコートニー

 

『ヒエロニムス技術員、X1000のテストに入ります、所定の位置まで進んでください。』

 

「了解した、こちらでもモニタリングしているが、詳細なデータが欲しい、そっちでも採取頼む。」

 

デブリベルトの外縁部のとある場所にて、俺は新型MSのテストに臨んでいた。

 

数カ月前に開発が凍結された機体、X999のデータと、ある好敵手から貰ったストライクのデータを合わせて造り上げた新型機、ZGMF-X1000《ザクウォーリア》の初めてのテストだ。

 

パック交換式のビーム突撃銃に両腰に二基ずつ着いたグレネード、左肩に搭載されたシールドに収納されているビームトマホークと言う基本装備に、ウィザードと呼ばれる換装型のバックパックが装備される機体に仕上がった。

 

今回はその実験機として、機動戦型装備《ブレイズウィザード》を装備して来ている。

 

機動力を重視した装備ではあるが、搭載されているファイヤビー誘導ミサイルのポッドを装備している為に火力もそれなりに確保されている。

 

その出力は総合的にゲイツの二倍近くにもなり、スペックはそれこそストライクを上回るモノがある。

 

量産化の計画の話も出ている程良い機体だ、俺も開発に携わったし、それなりに思うモノがある、気合入れて掛かろうじゃないか。

 

『コートニー、聞こえているかしら?』

 

操縦桿を握り直した時だった、試験監視艦に乗っているスポークスマン、ベルナデット・ルルーからの通信が入った。

 

どうやら、次期議長閣下から直々に要請が降りているらしい、試験には必ずと言っていいほど彼女が付いて来る。

 

もっとも、上の思惑や彼女の仕事については気になる事も多い、だが余計な詮索はしない、それはやがて、自分の身を滅ぼす事にも繋がりかねないからな。

 

「聞こえている、良い報告が出来る様に頑張ってみせる。」

 

『えぇ、貴方の腕は最高よ、それ程の腕があれば軍でトップガン張れば良いのに。』

 

ったく、嫌味で言ってるのか本気で言ってるのか・・・。

 

俺がMSに乗るのは、ただメカを動かすのが好きだからに過ぎない、戦争して手柄を上げたいとかそんな理由なんかじゃないと言うのに・・・。

 

とは言え、アイツと戦う時だけはそんな事も考えられなくなる程に気分が高揚しているのは確かだ。

 

まるで、何も取り繕う必要は無いとでも言うんだろうか、自分でも驚く程素直になれている気がしなくもない。

 

「また・・・、アイツと会ってみたいな・・・。」

 

彼と腹を割って話してみたい、自分の想いを知ってもらいたい、そんな気持ちが強く渦巻く。

 

だが、今はやるべき事をやるとしよう、結果を出して、次に繋げてやらないとな?

 

「さて・・・、これより試験を開始する、まずは・・・。」

 

ビーム突撃銃の性能を確かめようと構えるが、その直後、稲妻に打たれたかのような衝撃が俺の身体を走り抜ける。

 

全身を焦がすように走る感覚、そして、この胸の高鳴り・・・!!

 

普段なら全く感じる事の無いであろう感触、だが、既視感を感じるもの・・・、それは・・・!!

 

「まさか・・・!?まさかアイツが・・・!!」

 

『コートニー?どうかしたの?』

 

俺の歓喜の声に聞き返すベルの声も耳を素通りしてしまうほどに気を惹かれている事が分かる。

 

レーダーや目視で辺りを見渡しても、まだ何も見えない。

 

だが、確かに感じるこの感覚だけは偽り様も無い、南米でも、そして、半年前に感じたものなのだから・・・!!

 

「最強のストライク乗りがやってくるぞ・・・!俺に惹かれてな・・・!!」

 

スラスターを全開にし、感覚が強くなる方へと走る。

 

分かる、分かるぞ・・・!すぐに近くに来ている・・・!!

 

「・・・!来たっ!!」

 

メインカメラのズーム機能を使い、漆黒の闇と星々の間に煌めくスラスターの光を見付ける。

 

それは一直線にこちらへと向かって来ており、それに連れて感覚もより強くなってくる。

 

『こちらストライクの織斑一夏だ!コートニー!聞こえてるな!』

 

「こちらコートニー・ヒエロニムス!やはりお前だったか、一夏!!」

 

彼も俺を見付けたのだろう、通信を入れつつもスロットルを上げた様だ、光が更に近付いてくる。

 

そして、暫くもしない内にストライクの姿が肉眼でも確認できる距離に入り、その姿がしっかりと確認できた。

 

「あれは・・・、ストライカーを新造したのか・・・?」

 

『あぁ、テスト機だけど前のよりも良い性能だ、それに、ソッチの機体も新型だろ?お互い、都合のいい時に出会うもんだな。』

 

まったくだ、何時も都合のいい時にお互いぶつかって、それでいて良いデータが録れるんだ、一石三鳥と言っても過言ではないほどに。

 

「そうだな、なら、もう分かっているんだろう?コイツの稼働試験をさせてくれ、良い機体に仕上がってるんだ。」

 

『あぁ、勿論だとも、俺の新しいストライカーも今日が初稼働なんだ、お前が相手ならこれ以上ない僥倖さ!』

 

なるほど、相手にデータを与える代わりに相手のデータを貰う、等価交換も良いところか?

 

しかし、今の俺達にはそんな建前なんぞ要らんか?

 

「良いだろう、俺が相手になる、行くぞ!!」

 

『受けて立つぜ!コートニーっ!!』

 

ビーム突撃銃を構え、ストライクに向けて突っ込んでいくと、ストライクも俺に向かって突っ込んでくる。

 

「こちらから行かせてもらう!!」

 

トリガーを引き、ビームを撃ち掛けるが、ストライクは僅かに機体を動かすだけで回避してしまう。

 

『お返しだ!!』

 

アイツも俺と本気で戦うつもりなんだろう、頭部バルカンを撃ち掛けながらも蹴りを放ってくる。

 

何とか回避してビーム突撃銃を構えるが、向こうもそれを見越していたのだろう、ビームライフルを俺に向けていた。

 

相変わらず、なんて奴だ・・・!

 

ゾクゾクさせてくれる、無駄な戦いを好まない、この俺を・・・!

 

全くの同時に距離を取りながらも、俺達が考えていたことは同じだっただろう。

 

最高の戦いを望む、と・・・!!

 

さぁ、俺達の宴を始めようぜ、一夏!!

 

sideout

 

noside

 

「あのストライクは・・・、まさかあの織斑一夏が・・・?」

 

いきなり現れたストライクと交戦に入ったコートニーのザクウォーリアの姿を見詰めながらも、試験監視艦に乗り込むジャーナリスト、ベルナデット・ルルーは驚嘆の表情を浮かべながらもその戦闘を追い続けた。

 

それはかつて、南米で遭遇したエースパイロットであり、その腕前はコートニーに勝るとも劣らない程のものだった。

 

どこの所属だったかは深く聞いていなかったが、ザフトの人間でないことだけは明らかであったことをよく覚えている。

 

「どうして彼がこんなところに・・・?それに、コートニーはどうして分かったの?」

 

だが、彼女にはそんな過去を思い起こしている暇はなかった。

 

なぜ彼がこんな場所に現れたのか、そして、なぜコートニーはレーダーがストライクを捉えるよりも早く存在を察知していたのか。

 

前者は偶然の産物だと考えられるだろうが、後者は明らかに説明が付かない。

 

運命か、それとも別の何かが、彼らを結び付けているのではないか、とまで考えてしまうのも無理はなかった。

 

「ルルー女史!コンディションレッド発令させます!ザクを下げて戴きたい!」

 

悠長に構える彼女に痺れを切らしたのだろうか、艦長と思しき人物がザクの撤退を進言する。

 

既に周知されたMSとは言えど、ザフトの識別コードを持っていなければそれは敵も同然、そして何より、新型機のデータを録られる訳にはいかないのだろう。

 

だが・・・。

 

「必要ないわ、MS隊の出撃はナシ、このまま監視を続けて。」

 

彼女はその打診を蹴り、戦闘に目を戻した。

 

「何故です!?これではデータが・・・!!」

 

「コートニーが自分からやり始めた事よ、けじめぐらい着けてくるわ、それに、ザクの性能を測るには丁度いい相手だわ。」

 

食い下がろうとする艦長の言葉を一蹴し、彼女はコートニーの思惑に考えを巡らせた。

 

恐らく、コートニーが戦い始めた理由はザクがストライク以上の性能を持つ機体であるかどうかを再確認するため、そして、ストライクの新型バックパックの性能を知るためなのだとでも思っているのだろう。

 

それ故に、失うデータよりも得られる確信とデータの方が大きいと判断し、戦闘を続行させたようだ。

 

尤も、彼女も気付けてはいないのだ、コートニーと一夏という男達の間にある、その繋がりに・・・。

 

「織斑一夏、貴方の本当の力を見せてもらうわよ。」

 

損得勘定で見る彼女の思惑を他所に、ストライクとザクの戦いはさらに苛烈さを増してゆく。

 

まるで、鎖から解き放たれた二匹の獣が争うかのように・・・。

 

sideout




次回予告

何故巡り会うか、何故戦うか、その答えは彼等だけが知るだろう・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

また会う日まで 後編

お楽しみに


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また会う日まで 後編

sideコートニー

 

デブリベルトで始まった俺達の戦いは、苛烈を極めようとしていた。

 

単純な性能評価試験になるとタカを括っていたが、まさか、最強の好敵手が出てくるとは思いもよらなかった。

 

撃てども撃てども当たる気配が無い、いや、当たらない事が当然なんだ。

 

何せ、アイツは俺よりも間違いなく強い、そう確信できる何かを漂わせてくるから。

 

『そこだっ!』

 

「チィッ!!」

 

大きく舌打ちをしながらも、ストライクが撃ってくるビームを何とか回避する。

 

相変わらず恐ろしい位の射撃精度と反応速度だ、並のコーディネィターのそれを遥かに上回っている・・・!!

 

回避するだけでこれほどまでに身体に恐怖と快感が走り抜ける事も少ないだろう。

 

「お返しだっ!!」

 

機体を捻りながらも撃ったビームは、いとも容易く避けられてしまい、逆にこちらがバルカンの掃射を浴びせかけられる。

 

『相変わらず、巧いな!!』

 

「このっ・・・!押しといてよく言うぜ!!」

 

嫌な男だ、分かっていてからかっているのか?

 

だが、やられっぱなしも気に食わない。

 

持っていかれる事を承知でビーム突撃銃を持ち直し、ストライクのビームライフルを狙撃する。

 

それが功を奏したのか、ビームは狙い違わずストライクのビームライフルを貫き、爆散させた。

 

とは言え、こちらも新型のビーム突撃銃をバルカンで破壊されてしまった事には変わりはない。

 

『やってくれるよ、コートニー!!』

 

「それはこっちのセリフだっ!!」

 

まったくの同時にライフルを手放しながらも、ストライクは右背から対艦刀を抜刀、俺はザクの左肩に装備されているシールドからビームトマホークを取り出して構える。

 

小回りならこちらが勝るだろうが、あの一夏の事だ、そのぐらいのハンデなど物ともしないだろう。

 

「行くぞっ!!」

 

『おうっ!!』

 

まったくの同時に飛び出しながらも、俺はビームトマホークを振りかぶり、ストライクのボディを狙って振り下ろす。

 

だが、一夏はそれを見越していたのか、シールドで防ぎながらも受け流し、振り向き様に対艦刀を横薙ぎしてくる。

 

『やっぱこの程度、楽に避けるよな・・・!?』

 

「この野郎・・・!殺す気で掛かってるな!?」

 

何とか機体を沈める事で回避するが、ヘッドに掠った様な鈍い衝撃が襲い掛かってくる。

 

直ぐに体勢を持ち直し、トマホークを振るうが、ストライクは華麗に宙を舞い、あっさりと回避してしまう。

 

「なんて奴だ・・・!」

 

あまりにも正確で、あまりにも美しい動きに目を奪われてしまう。

 

人間業では無い様な動きの連続が、俺に衝撃を与え、そして心を昂ぶらせる。

 

良いぞ・・・!この心地良さ、戦いの中にいるというのにクスリを決めた様な心地にさせてくれる・・・!

 

「お前との戦いは、麻薬みたいなモノか・・・!!」

 

『人を薬物扱いしやがって・・・!まぁ、人の事は言えんか・・・!!』

 

軽口を叩き合いながらも、俺達は更にスロットルを上げて相手へと向かってゆく。

 

さぁ、もっと楽しもうじゃないか!この世の宴だ!!

 

sideout

 

noside

 

「こ、これほどまでとは・・・!」

 

試験監視艦の艦橋にて、そんな驚愕の声を発したのは誰であるか。

 

艦橋の内部は水を打ったかのように静まり返っていた。

 

目の前で繰り広げられる戦闘の激しさに、そして、その美しさに目を奪われてしまったのだろう。

 

誰もが瞬きする事すら忘れて光景に見入っていた。

 

「えぇ・・・、コートニーをこうも熱くさせるなんて・・・、織斑一夏、一体何者なの・・・?」

 

その声に答える様に、驚愕に憑りつかれたような声ながらも、ジャーナリストのベルナデット・ルルーは考えを巡らせていた。

 

ストライクの接近を告げられてから開始したデータ測定は良好に進んでおり、機動性や運動性にに関してはシミュレートした数値を上回っていると言って良いほどだった。

 

足りていない物と言えば、ブレイズウィザードのファイヤビーミサイルの威力と追従性能位な物で、取り立てて計測する必要はなかった。

 

だが、彼女にとって、今はそんな事など気にも留めていなかった。

 

視線の先には白亜の機体、ストライクがあり、彼女はそのパイロットの能力に驚嘆していた。

 

南米で見た時も、コートニーに匹敵する凄まじい戦士だとは思っていたが、今の動きはその時を軽く超越していた。

 

コートニーが手を抜いているせいでそう見えるのではない、むしろ、彼も好敵手の出現で普段以上にキレのある動きをしているのだ、ジャーナリストたるもの、その違いぐらい見抜けなければ仕事にならない。

 

だが、それを差し引いてもストライクの動きは異様としか形容できなかった。

 

「まさか、彼が、デュランダル議員が仰っていた、スーパーコーディネィターという存在なの・・・?」

 

そんな彼の動きに、彼女はかつてインタビューした一人の議員が話していた事を思い出した。

 

彼は遺伝子工学の出であり、今は閉鎖されたコロニーメンデルで人の遺伝子、取り分け、コーディネィターが抱える諸問題についての研究を主に行っていた人物であった。

 

何が彼をそうさせたのかは全く以て見当も付かないが、議員職に就いてからというもの様々な手段を用いて足場を固め、プラント国民だけでなく、穏健派、急進派問わず多くの議員達からも支持されるほどの地位を築いていた。

 

だが、特筆すべき点はそこではない、彼が語った内容だった。

 

コーディネィターは元来、ナチュラルの親が自身の子により良い能力を付与しようと生み出された存在だった。

 

ある者は運動に、またある者は芸術に、そしてまたある者は戦闘能力に秀でた者達が生み出された事は既に周知の事であった。

 

だが、彼は憶測ではあるがと付け足した後で、それら全てに秀でた最高のコーディネィターの存在があるかもしれないと語っていた。

 

そのコーディネィターの事を分かり易く言うなれば、スーパーコーディネィターと言うのだそうだ。

 

故に、目の前でエースクラスのコーディネィターですら出来そうにない動きを平然と行い、尚且つトップエースクラスの腕前を持つコートニーと渡り合う織斑一夏という男がそれに価する存在だと感じたのだろう。

 

「だとすれば、これは報告すべきなのかしら・・・?」

 

自分のもう一つの仕事を思い浮かべながらも、彼女は静かにコンソールを操作し、映像を録画し始めた。

 

自分がこれから仕える事になる、男の姿を思い浮かべながらも・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「ハロ!データはどうだ!?」

 

『チョーイイネ!サイコー!!』

 

何処かで聞いた事のある様なハロの電子音声を聞きながらも、俺は必死にストライクを操っていた。

 

コートニーの機体から繰り出されるトマホークの斬撃を何とか回避し、こっちからも攻撃するが、まるで暖簾に腕押しだ、当たる気配すら全くない。

 

半年前に見たザクと言う機体に良く似ている、と言う事は、こちらが正式採用型であり、量産前提の構造になっているんだろう。

 

「そう考えたら、この性能はおかしいよな・・・!!」

 

前のザクの性能に慣れきってたから何とかなってるが、こんなレベルの量産機がわんさか出てくると考えると堪ったもんじゃない。

 

現に、今こうやって互角に持ち込めてるのも必死扱いてストライクを限界まで酷使しているお陰だ、整備が悪かったらとっくの昔にオーバーヒートしてお陀仏ってレベルだ。

 

コートニーの経歴に泥を塗るのは些か忍びないが、生き残るためだ、それなりに頑張らせてもらおうか・・・!!

 

「ハロ!後の為にデータ録るぞ!ストライカーのリミッターを解除してくれ!!」

 

ハロに叫びつつも、俺は必死にOSの設定を片手で行う。

 

今回、この試作ストライカーには出力を安定させるためのリミッターが取り付けられている、そのため、それを外せば今以上の速度が手に入る事だけは確かだ。

 

無論、今のままでも並のエースが使う分には十分すぎる程の出力だが、相手はスーパーエース以上の実力を持つコートニーだ、手加減なんて出来やしない。

 

危険は伴って大いに結構、そうでもしなきゃ充分なデータなんて録れないからな・・・!!

 

『イイノカ?イイノカ?』

 

良いも悪いも無い・・・!今ここで覚悟決めておかねぇと、どの道通っても未来はねぇ。

 

「やれ!出力もレッドゾーンギリギリまで上げちまえ!!」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!』

 

行くぜストライク・・・!俺達の力を見せてやろうぜ!!

 

『カイジョセイコウ!セイコウ!!』

 

「おっしゃ!行くぜ、コートニィィィィ!!」

 

『一夏ァァァァ!!』

 

スロットルを全開にし、一気に突っ込んで行くと、むこうもそれを察したか、トマホークを振り上げて突っ込んでくる。

 

唸りを上げる機体を操りながらも、俺は対艦刀を振るう。

 

間合いに入った瞬間、お互いにシールドでガードしながらも相手の体勢を押し崩そうとスラスターを吹かすが、全くの同時に行っている為に、ただ高速で動きながらも回っている様にしか見えない。

 

「うぉぉぉぉっ!!」

 

『うぁぁぁぁっ!!』

 

雄叫びを上げながらも、互いの得物を振るい続け、相手を打ち負かそうと更に己の中のギアを上げていく。

 

アドレナリンが何時もの何倍も出てるせいか、身体は激しく燃え盛っている様な熱を持っているというのに、頭の中はそれに反比例して冴えわたって行く。

 

この病み付きになりそうな感覚・・・!たまんねぇ・・・!!

 

「はぁぁっ!!」

 

強引に対艦刀を振り抜きながらも後退し、レールガンとビームキャノンを発射しようと展開する。

 

だが、コートニーはそれより早く背面のスラスターの様な物の上部を展開させ、無数のミサイルを発射してくる。

 

『これを喰らえ!!』

 

「くっ・・・!?ミサイルポッドだったのかよっ・・・!!」

 

まさかの装備だったが、今は驚いて止まっている場合ではない・・・!!

 

必死にスラスターを吹かして後退しながらも、レールガンとビームキャノン、そして、ウィングに装備されていたミサイルを全て発射して相手が撃ってきたミサイルを全て撃ち落す。

 

「どんなもんだっ・・・!?」

 

だが、爆煙で視界を塞がれた一瞬の隙を突くかのように、煙を切り裂いてトマホークを振り下ろすザクが現れた。

 

これを狙ってたのかっ・・・!!

 

そう思えども身体は反応して直ぐに回避行動をとらせる。

 

だが、流石に至近距離にまで迫ったモノを回避しきれず、身体を揺さぶる様な鈍い衝撃と共にストライクの左腕が根元から持って行かれてしまった。

 

『レフトアームハソン!ハソン!!』

 

「構わんっっ!!」

 

頭に響く様な衝撃を堪えながらも叫び、俺は残った右腕を横薙ぎした。

 

その一閃は、回避しようと動いていたザクの左足を切り飛ばし、大きく体制を崩させた。

 

『何をっ・・・!!』

 

「まだまだぁぁ!!」

 

互いに崩れた体制のまま、俺達は全くの同時に蹴りを放ち、相手の胴に叩き込んだ。

 

横殴りの衝撃に身体が揺さぶられ、体勢を立て直す暇も無く大きく吹っ飛ばされてしまう。

 

「ぐぅぅっ・・・!!」

 

『うぁぁっ・・・!!』

 

俺もコートニーも呻き声を上げ、中々動く事が出来ずにいた。

 

だけど、俺はまだまだ戦える・・・!

まだ俺もストライクも、そして、コートニーも折れてなんかないんだから・・・!!

 

だが、機体は持っていたとしても、付いて行けていないものが有ったらしい。

 

引っ切り無しに耳を劈く警告音の原因を探ろうと計器に目をやると、ストライカーに問題が発生している事が分かった。

 

どうやら、俺があまりにも無茶な加速方法を取った事と、リミッターを解除した事による出力に耐えきれなかったのだろう、ストライカーが悲鳴を上げていた。

 

「ウソだろ・・・!?まだ、途中だってのに・・・!!」

 

ストライク本体は今だ戦える位にチューンされていたが、俺専用とは言えど試作型のストライカーでは荷が重かったか・・・っ!

 

『俺の勝ちか・・・!?一夏っ!!』

 

まだ終わってないだろと言いたげなコートニーの言葉に、俺の中にある何かに再び火が燈る。

 

あぁ、まだ終わりなんかじゃねぇ・・・!

俺の炎は、まだ燃えているぅっ!!

 

「あぁ!まだ終わらんよっ!!」

 

ストライク本体のスラスターを吹かしながらもストライカーを排除、何故か取り入れられていた戦闘機形態へと変形させながらもザクへと突っ込ませる。

 

なるほど、この複雑な機構のせいで強度が落ちていたのか、これは帰ってからオミットする様に進言しないとな。

 

『なにっ!?戦闘機だとっ!?』

 

まさかこんなギミックが仕込まれているとは思いもしなかったのだろう、彼はザクを射線上から逃がそうとしていた。

 

「逃がすかっ!!」

 

だが、そうさせてやるほど俺も甘くない、すぐさま対艦刀をジャベリンの様に投擲し、ストライカーに直撃させる。

 

ビーム刃を発生させていたからか、ストライカーは推進剤に引火して盛大な爆発を引き起こす。

 

『しまった・・・!?ストライカーを囮にっ・・・!?』

 

「今だっ!!」

 

残った右腕にアーマーシュナイダーを持たせながらも、俺はストライクのスラスターを全開にし、ザクの懐へと飛び込む。

 

「これでっ・・・!終わりだっ!!」

 

『負けて堪るかぁぁぁ・・・っ!!』

 

突き出したナイフの切っ先はザクのモノアイを貫き、負けじと振り下ろされたトマホークはストライクの右足を切り落とした。

 

その直後、エネルギーが切れたのか、ストライクのPS装甲の色が落ち、ザクのビームトマホークのビーム刃が消えた。

 

「エネルギーレッドゾーン突入・・・、帰りのエネルギーしか残ってねぇや・・・。」

 

『あぁ・・・、折角楽しめていたのにな・・・。』

 

接触通信に切り替えながらも、俺達は全くの同時にヘルメットを脱ぎ、通信機越しの相手を見詰める。

 

男に対してここまでトキメキに近い感覚を覚えるなんて、俺はどうかしてると思う。

 

だけど、こんなに楽しいと思える事も少ないだろう、だからこそ、こうやってたまに会うだけで純粋に喜べるんだよな・・・。

 

「けど、良いデータが録れたよ、コートニーのお陰だ。」

 

『こちらこそ、ザクの評価試験には良すぎるデータだよ、破損状態からの修復のやり方も計れる、と言っても、辛口な評価を下されそうだけどな。』

 

それもそうか・・・、けど、仕方ない事だと分かってくれているだろう。

 

俺とコートニーは、何処かで似ているんだから・・・。

 

「そろそろ約束の時間だ、名残惜しいが、失礼させてもらうよ。」

 

『あぁ、またどこかで会えると良いな、戦場では無い、何処かで・・・。』

 

何時かは、戦場ではない何処か別の場所でゆっくりと酒でも酌み交わせれば、と・・・。

 

あぁ、そう言えば・・・。

 

「ハロ、データをコートニーに送ってやれ。」

 

『ガッテンデイ!!』

 

ハロに指示を出し、コートニーのザクに今回の戦闘で得られたストライカーのコピーデータを転送する。

 

特にリミッターを解除してからの数値だ、絶対に今後のMS開発の役に立つだろう。

 

『良いのか?企業秘密なんじゃないのか?』

 

「良いさ、これでザフトからの俺達への追及も誤魔化せる、それに、俺はお前の事を信頼している。」

 

それに、この程度なら流失したところで別に困りはしないからな。

 

だが、それ以上に俺は彼の事を信頼している、立場とかそんな事がどうでも良くなる程に・・・。

 

『・・・、分かった、このデータ、俺が責任を持って扱わせてもらう、それがお前に、親友に対する礼儀だ。』

 

「親友・・・?俺なんかが、か・・・?」

 

俺なんかを・・・、虐殺を繰り返すばっかりのロクデナシを、親友と呼んでくれるのか・・・?

 

その言葉を聞くのは何時以来だろうか・・・、俺にとっては、ある意味での救いにもなるから・・・。

 

「・・・、あぁ、親友だ、俺とお前は友達だ。」

 

『あぁ、また会おう。』

 

通信機越しに拳を合わせた後、ザクはストライクから離れ、母艦がある方向へと帰って行った。

 

「親友、か・・・。」

 

懐かしい感覚を抱きながらも、俺はイズモが待っている方角にストライクを向かわせる。

 

嘗て、俺が裏切った後もその言葉を使ってくれた男の事を思い出し、少しだけ胸が痛むのを自覚する。

 

こんな俺でも、受け入れてくれる人たちがいると言う事、それがこんなにも嬉しい事だったと今更ながら感じてしまった。

 

「もう少し、頑張ってみるか・・・。」

 

何時か、自分にも、過去の自分にも向き合える時が来る筈だから・・・。

 

訪れるかも分からない希望を、今は信じられるようになったから・・・。

 

sideout




次回予告

また会える時のため、また戦う時の為に、彼は進んで行く、たとえそれが絶望を深めるだけだとしても・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

進化の鼓動

お楽しみに


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進化の鼓動

sideコートニー

 

「で・・・、その結果がこれと・・・。」

 

試験監視艦に戻った俺を出迎えたのは、何とも不機嫌と言いたげなベルの言葉だった。

 

「・・・、仕方ないだろ、最高のストライク乗りが相手なんだ、僅差しかないスペックじゃこうなって当たり前だ。」

 

弁明の余地は無いが、せめてこれぐらいは言い訳させてほしいモノだ。

 

「だからって、機体をこんなにしただけとは言わせないわよ?」

 

「大丈夫だ、ザクのデータは完璧に録れているだろう、それに、ストライクの新しいストライカーのデータもわずかだが録れた、十分すぎる収穫だろう。」

 

中破したザクを指差しながらも、俺は彼女の脇を通り抜ける。

 

彼から貰ったデータはメモリに移し替えて消去したため、ザクには俺だけが録ったデータが残っているだけだ。

 

「それもそうね、お疲れ様、また後で報告書纏めておいて。」

 

「了解した、任せておいてくれ。」

 

気取られない様に気を付けながらも、少し急ぎ足で廊下を進み、宛がわれた部屋に入る。

 

人が入らない様にロックを掛け、監視カメラの映像もダミーを流す。

 

こういう小技も用意しておくものだな、そうでなければ、一夏の好意を無碍にしてしまう所だったからな。

 

持参しておいた端末にメモリを差し込み、ファイルを開く。

 

端末の画面に表示されるデータに目を通しながらも、メモを取る手は止まらない。

 

スペックは俺が使っていたブレイズウィザードと大して変わらなかったが、それはリミッターを掛けている間だけだ、外した後はかのフリーダムに勝るとも劣らない速度を叩きだしていた。

 

「流石一夏だな・・・、これほどまでの出力を操り切れるなんて・・・。」

 

ストライカーの構造に問題があったからだろう、最後の方に動きが鈍り、ストライカーを囮にしたのもその為だと考えられる。

 

調整は完璧だったんだろうが、このストライカーでは一夏の反応速度に耐えきれなかったのだと推測できる。

 

そう考えれば考える程に恐ろしい奴だ、戦闘能力だけなら並の戦闘用コーディネィターを遥かに上回っているなんて考えられやしないだろう。

 

このデータを用いれば、どんな機体だって作れてしまいそうだ。

 

それに、ザクの後に計画されている新たなXナンバーの存在もある事だ、これは有効活用できる事間違いなしだろう。

 

「だが、どうすればストライクは奴に追従出来たんだ?」

 

確かにストライクは連合初期GAT-Xナンバーの中でも特に運動性の高い機体だったが、それも所詮は整備がしっかり行き届いてこその代物。

 

そう考えれば、一夏はかなりの設備やスタッフが揃っている組織に所属しているのだろう。

 

そして、リーカは彼の女が彼をオーブのスーパーエースだと言っていたと聞いたらしい。

 

つまり、そこから導き出される答えは・・・。

 

「アメノミハシラ、あそこか・・・?」

 

オーブ本国の人間じゃないだろうから、考え得るならあそこしかないだろう。

 

彼処には世界屈指のファクトリーと、一国が保有すべき以上の戦力がある、それはザフトや連合が何度も攻撃を仕掛けても落とせない事からもよく分かる。

 

しかも、そこでXナンバー機に乗っているという事は、パイロットの中でもそれなりに地位のある人物と見ていい。

 

いや、アイツほどの人物が一パイロットなんていう小さな枠で収まる筈がない。

 

やれやれ、とんでもない大物と戦ってるんじゃないのか、俺は・・・?

 

だが、俺とアイツとの関係は変わらないだろう、織斑一夏と言う一人の人間と、俺は友人なんだから。

 

「まぁ、今度会った時にでも聞いてみよう。」

 

だから、また会って話せることを楽しみにしておこう。

 

共に酒でも飲みながら、語り合える日をな・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

『イズモ、帰投しました、第五整備班は第十三ドッグに集合してください。』

 

整備士の人達と共に宇宙港に併設されたドッグにやって来た僕とセシリアは、M1A二機に支えられてイズモから降りてくるストライクを見た。

 

左腕と右足が完全に破壊されていて、相当な戦闘だった事が分かる位の消耗状態だった。

 

「一夏様があそこまで傷を付けられるなんて・・・!」

 

「うん、多分彼だよ、ザフトのコートニーって人とやり合ったんだろうね。」

 

セシリアの驚愕の声に答えながらも、僕は半年ほど前にデブリベルトで遭遇したザフトの機体を思い出していた。

 

あの時のパイロットは一夏と同レベルかそれ以上の腕前を持っていたから、もし、一夏が彼と戦っていたんだったら、一夏が熱くなってストライクのダメージを無視した戦い方をとってもおかしくは無い。

 

「これは怒っとかないとダメだよね、セシリア?」

 

「それはそうですが・・・、一夏様は分かってらっしゃいますわよ?」

 

セシリアは優し過ぎるなぁ、もっと僕達との時間を増やしてって言うぐらい良いんじゃないかな?

 

まぁ、束縛するのはあんまり好きじゃないし、どっちかって言えば束縛はされる方が心地いいぐらいだけどね。

 

「お、セシリア!シャル!ただいま!」

 

イズモから降りてきた一夏が壁を蹴って僕達の方まで慣性で移動してくるのを見て、僕とセシリアは両サイドから手を伸ばして彼をしっかりと抱き寄せる。

 

「お帰りなさいませ、旦那様♪」

 

「僕達の亭主は留守が多いね?」

 

彼を出迎えつつ、僕達はしっかりと一夏の身体に腕を回して抱き着いていた。

 

何時も眠る時は彼の隣で身体を寄せてるけど、起きてる時は意外と触れ合う時間も少なくなってるからね、こういう時に体温とか息遣いを感じておかないと、ね・・・?

 

「亭主元気で留守がいい、って知らないか?ま、君達と離れてた間は寂しかったのは事実だけどな。」

 

「お上手ですこと・・・♪」

 

「今は誤魔化されておくよ♪」

 

こういう風に誤魔化されるけども、別に気にしちゃいない。

 

だって、幸せなんだからね・・・?

 

「しかし・・・、ストライクが・・・。」

 

彼から身体を離したセシリアが、ドッグへ運ばれていくストライクを痛ましげな表情で見ていた。

 

自分が使った機体じゃなくても、ずっと慣れ親しんできた白い機体は僕達にとっても大切な機体だから。

 

「あぁ、完全な俺の力不足だよ、ストライクにも無茶させちまった。」

 

何処か憂いを帯びた目で、だけど、何処か熱を帯びた声で呟いていた。

 

それ程に戦いが興奮するものだったんだろう。

 

「コートニーって人と戦ったの?」

 

僕の推測を肯定する様に、彼は深く頷いていた。

 

「あぁ、俺がここまでやられるのはアイツとミナしかいない、それに、俺の最高のライバルだ、熱くならない訳が無いだろ。」

 

「やはり、あの御方でしたか・・・、戦果は如何でしたか?」

 

一夏の言葉に確信を得たんだろう、セシリアは先頭の様子を尋ねていた。

 

それを知る事で相手の戦力を知ろうとしてるのか、それともただの好奇心なのか・・・。

 

「アイツの破損はメインカメラと左足だけど、俺はあの有様、機体の性能は量産前提でストライク以上、正直言って、これから先、今のままじゃやってけないわな。」

 

なるほど、新型と運悪く遭遇したって事か・・・。

 

それならストライクがここまでボロボロになるのも頷けるね。

 

「それでは・・・、計画を早めるのですか?」

 

一夏の言葉からある種の何かを感じ取ったのか、セシリアが何かを尋ねていた。

 

多分、機体を全面改修させる時期を早めようとか、そういう提案だろうと何となく分かる。

 

データは大体揃っているから、今から計画を開始しようと思えば不可能じゃないのは分かるけど、此処から先はアイデア勝負になってくるのは明らかなんだよね。

 

「あぁ、計画を変更して、MSの建造段階に入る、データが集まっている機体だけはな。」

 

「それって、イージスを除いてって事?」

 

玲奈には悪いけど、イージスは開発が行き詰ってるのは事実で、データも思う様に集まっていないのが現状だ。

 

スキュラを撤廃して、変形構造を見直す案が出てるけど、そうなると特徴を潰すから嫌だと玲奈から拒否されている。

 

気持ちはよく分かるから、僕達もあえて何も言わずにプランを何度も洗い直してるけど、どん詰まりになってもうかなりの日数が経過しているのも事実なんだ。

 

「あぁ、新造する様に働きかけるが、データが集まってないんじゃな・・・、まぁ、最悪の場合、俺がコートニーからデータ貰ってくるか何かしてやれれば早いんだけどな。」

 

そう言いながらも、今はそんな場合じゃないと言う様に首を振って、一夏は僕とセシリアから離れて通路を進み始めた。

 

「ジャックに今回のデータと俺の要望、それから計画を早める事を提案してくる、二人は先に部屋に戻っておいてくれ。」

 

振り返りながらも進んで行く一夏に手を振った後、僕はセシリアに向き直る。

 

「一夏のストライクが改修ドッグ入りなら、僕達四人の機体は少し後回しにしても良いかな?」

 

戦力を減らす訳にもいかないし、何より、整備士の人達には短い期間で最高の仕事をしてもらわなくちゃ困るからね。

 

「そうですわね、一夏様のご意向次第でしょうが、私達は私達の出来る事を致しませんと、ね?」

 

シャルさんの言葉に頷き、私達は通路を自室に向けて歩き始めました。

 

私達の、信じるモノを信じて・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「と、いう訳なんだ、変形機構を撤廃して強度を高めて欲しい。」

 

ドッグに足を運んだ俺は、半壊したストライクの前で仁王立ちしているジャックに歩み寄り、先程の試験データを手渡しながらも提案した。

 

「なるほどなぁ、さっきの戦闘でオーバーロードしたって訳か、ソイツは悪かった。」

 

「謝る必要なんてないさ、俺も無茶しすぎたんだ、お相子さ。」

 

ジャックも俺の戦い方は熟知しているだろうから、それに装備が追随できなかった事が純粋に悔しいんだろう、あっさりと自分の力不足を詫びてくれた。

 

だが、詫びなければならないのは俺の方だ、折角仕立ててくれた装備を壊しただけでなく、ストライクまでレストアさせる羽目になったんだ、色々と申し訳ないよ。

 

「で、注文はストライカーの構造見直しだけでいいのか?武装類の総見直しもできるが?」

 

「そうか、なら・・・、ミサイルとバルカンポッドを撤廃して、代わりにスケールダウンした対艦刀を二本に増やしてくれ。」

 

I.W.S.P.と同じ装備系統の配置なら、目隠しをしていても操縦できるし、武装の操作も単純化出来るから機動に意識を割ける。

 

まぁ、それは俺が戦争のためだけに生きているような感覚がするから嫌なんだけどな・・・。

 

「了解したぜ、ついでに、リミッターも外して強度をもう一度見直して見るわ、当分ストライクもレストアだしな。」

 

「あぁ、思い出した、その事で少し話があるんだ、良いか?」

 

忘れるところだった、ここに来たもう一つの理由を、な?

 

懐からメモリースティックを取り出し、振り向いた彼の胸元のポケットに滑り込ませる。

 

「プランSに基いてストライクを改修してほしい、ハイぺリオンやザクでデータは集まっている筈だしな。」

 

「おいおい、あのプランかよ、お前、廃案にしたんじゃなかったのか?」

 

ジャックの言う通り、ストライクの幾つかあった改修プランの内、プランSは色々と問題があって一度は廃案になったが、俺は何度も見直しを繰り返して構造をある程度簡略化する事で問題を少なくしたつもりだ。

 

「取り敢えず装備の類いを見直して、加速装置だけを取っ払った、これでエネルギー効率も重量も何とかなる筈だ。」

 

「確かに・・・、あれさえ取り除けば安定が取れた機体になるけどなぁ・・・。」

 

元々、SSというプランをメインに推そうと考えていたんだが、そのプランのメインになるべきシステムが完成の目処どころか、そのシステムを開発する為のデータすら集める事すらできなかった。

 

だが、SならばI.W.S.P.の純正強化のストライカーと、少ない機体改修で済むために、現状では一番手っ取り早く再現できるストライカーだと言えるだろう。

 

だからこそ、今のままでも充分に再現できる代物だという事だからこそ、そこで今は折り合いを着けておこう。

 

「頼む、今はストライクも戦えない、だからせめて、戦えるようにならないとな。」

 

「そりゃそうだ、早速部材を掻き集めておくぜ、お前さんに頼まれた期限も、そろそろ半分を切っちまうしな。」

 

戦時中にしては長めの期間だが、休戦時と考えれば可なり短い期間だ、無理強いしちまってるようで申し訳ない限りだ。

 

「よろしく頼むよ、ミナのところに報告に行く前に、ちょっと失礼するよ。」

 

「おうよ、嬢ちゃん達の要望も纏めておいてくれ、そろそろ、イージス以外の機体を一通り内部から改修させてもらうからよ。」

 

「OKだ、伝えておく。」

 

彼の言葉に答えながらも、俺はストライクの足元に置かれていたリフトに乗り込み、ストライクのヘッド部分にやって来た。

 

そこまで頭部の損傷は酷くないとタカを括っていたが、予想以上のダメージを受けていた様だ、あちこちにひび割れや亀裂が見て取れた。

 

「相当な無茶をさせちまったな・・・、ゴメンな、ストライク・・・。」

 

相棒とも、己の身体の一部とも言える機体をここまで傷着けてしまった。

 

それは、俺がまだ未熟であるという証拠に他ならないだろう。

 

けど、コイツの無理があったればこそ、俺がこうして生きている事に他ならない。

 

「ホント・・・、お前には感謝しかないよ・・・。」

 

ここまでボロボロになっても、文句ひとつ言わずに俺の操縦に応えてくれる、最高の機体・・・。

 

だから、このままになんてさせて堪るか、絶対に綺麗に仕上げてやらないとな。

 

「だから、少しの間だけど休んでてくれ、俺達が、次のステージに行く時まで、な?」

 

ストライクのヘッドを撫で、俺はリフトに乗り込んで床まで降りた。

 

さぁて、休んでる暇なんて無い、一秒たりとも無駄にはしたくない。

 

信じてくれる人たちのためにも、俺は強くなくちゃいけないからな。

 

それが、俺に出来る唯一の事なら、なおさらだ。

 

喩え、俺のこの身が壊れても、誰かの為に戦えるのならそれで良い。

 

だから、俺は戦って行こう、今の仲間達と友と共に・・・。

 

sideout




次回予告

プランを取り纏めた一夏達は、計画を新たな段階へと推し進める、それが、新しき戦いに備える旗印になるべくと・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

REVOLUTION

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REVOLUTION

side宗吾

 

「そんじゃあ、プランσで改修するって事で良いんだな?当分は装甲も全部剥がして、内部から見直すから大分時間が掛かっちまうぜ?」

 

C.E.72年の11月、遂に始まったMSのアップグレードの現場に、俺はジャック主任の説明を受けながらも装甲を剥がされていくブリッツを眺めていた。

 

一応、OS等のシステム周りは俺達も噛む事になってるが、流石にメカニックや武装類に関しては要望を伝える事しか出来ないから、せめてこうして説明を受けに来ているんだよな。

 

「はい、お願いします、グレイブ・ヤードのデータや天ミナのデータを使用していいとロンド・ミナから許可も貰いましたし、自分が考えて決めた事です、止める必要なんて無いですよ。」

 

ジャックさんの問いに答えながらも、俺はこの間、一夏がストライクを中破させながらも持ち帰ったデータを思い出していた。

 

どうやら、量産が決まる前のザクウォーリアと戦闘になったんだろう、ストライク以上のスペックを持つ新型機に対抗するには最早手段がこれしかないとしか言いようがない。

 

それに、シミュレーションしてみたらブリッツは手も足も出ないまま負ける可能性が高いと言われたら尚更だ、俺が反対なんか出来る立場に居ない。

 

「そうかい、なるべく早く仕上げたいが、どうせすぐにアップデートの繰り返しだろうから、一回目から念入りに手を加えさせてもらうぜ。」

 

ははは・・・、やっぱり一回で終わらせないって言う俺達の魂胆は丸見えかぁ・・・。

 

まぁ、分かってもらっている方が何かと円滑に進むだろうし、別段気にする事でもないか。

 

さて、ここで油を売っている訳にもいかない、何せ、まだまだやるべき事は残っているんだから。

 

「お願いします、俺は兵器開発部の方に行ってみるんで、失礼しますね。」

 

今開発されているガーベラ・ストレートタイプの近接装備の進捗状況と、これから新たに装備する武装のプランの最評価が残ってるんだ、まだまだ休めやしないよな。

 

それに、プランの総点検と追加案の提出もまだまだ残ってるんだから、余計に気が滅入りそうだよ。

 

だけど、せめて、自分に出来る事ぐらいは自分でやり切って、一夏が頼れるぐらいになってやらねぇとな。

 

アイツが、腹を割って全てを話せるぐらい、頼もしくなって、な・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「そこをなんとか・・・、お願いできませんか・・・?」

 

「ですが、セシリア卿・・・、これ以上の装備追加は稼働時間の更なる低下に繋がりかねません、もう一度御一考なされては・・・。」

 

アメノミハシラ兵器開発部門にて、私は開発担当主任のオイゲンさんと相談ごとをしております。

 

その内容は、デュエルの発展型に新たに近接装備の充実を図るという名目でした。

 

メインとなるドラグーンはイージスのビームサーベル発振技術を応用したビーム刃発振タイプへ発展させることが決まり、アサルトシュラウドも機体軽量のため、本体の装甲を排除しての固定装備方式に変更する手筈となっております。

 

ですが、そこまで決まっておきながら、プランGの問題点は今だ払拭しきれずにいました。

 

それは、ドラグーンの射出によって生じる、本体の装備の減少でした。

 

ソードドラグーンはカタールの様に手持ち式にもなる様に再設計されましたが、その機能を使う事はまずもって少ないでしょう。

 

だからこそ、ドラグーン展開時でも使用できる装備が欲しかったところなのですが、私が依頼したビーム兵器と実体剣の併用と言うプランは、バッテリー問題から難色を示されてしまいました。

 

「《クロイツ・ルゼル》は確かに実現は可能ですが・・・、これを使うとなるとバッテリーの増設を考えねばなりません・・・。」

 

「これ以上、重量を増やして機動性を下げる訳にもいかない、と言う事ですわね・・・。」

 

「はい、申し訳ありませんが・・・。」

 

申し訳なさそうに頭を垂れる主任の言葉を反芻しながらも、私は改めてドラグーン稼働時のエネルギー消費に目を通しました。

 

一度目の試験と二度目の試験を比較し、何かヒントになる物がないかと・・・。

 

「あら・・・?これは・・・。」

 

そんな矢先でした、とあるデータが目に留まり、私はそのデータを注意深く見直しました。

 

「どうかされましたか?」

 

「これをご覧になって下さいな。」

 

主任にそのデータを手渡すと、軽く驚いた様に目を見開いていました。

 

「二度目の方がロスが大きい・・・?これはどういう・・・?」

 

「恐らく、有線から無線に切り替えた事での弊害でしょう、これがエネルギーを逼迫させていたのでしょう。」

 

どうやら、安定的なエネルギー供給が出来ていた有線式から不安定な無線通信式に切り替えた為に、エネルギーを余分に使う結果に陥ってしまったという事なのですね・・・?

 

ということは・・・、これさえ見直せれば装備の追加も夢ではないということですか。

 

なるほど、それならば話は早いですわね。

 

「では、量子通信システムの改良、省エネルギー化をお願いしても宜しいでしょうか?」

 

「はい、これさえクリアできれば実戦投入も可能です、何とか仕上げて見せます。」

 

私の依頼に即答し、主任はそそくさと席を立ってご自身の研究室へと戻られてゆきました。

 

さて、私は機体のプラン見直しに精を出すと致しましょう。

 

それが何れは役に立つ時が、きっと来るはずですから・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

「これでどうかな、まだバランスは取れてると思うけど・・・。」

 

僕は今、設計部に来て、機体のバランスの再調整を行っていた。

 

バスターは武装の追加とそれに伴うOSのアップデートで済ませるつもりだから、内部構造自体を弄るなんて事は他の機体より少ないと思う。

 

でも、その分武相の追加や装備の変更で生じるバランスの変化だけは他の機体より大きいから、気合を入れて見直さなくちゃいけないんだよね。

 

「ですがシャルロット卿、これでは些か不恰好ではありませんか?卿の好まれるスタイルを否定するつもりは毛頭ありませんが・・・。」

 

設計主任のメイラムさんの言葉に、僕はもう一度機体の設計図に目を通す。

 

確かに、主任の言う通り、背中には一対のレールガン、腰にはガレオス並行連結式ビームライフル、肩にはミサイルポッド、そして腕には固定式のビームサーベルと手持ち式のダブルガトリングガン、過積載にも程がある装備だった。

 

これじゃあ、折角の機体の運動性を殺す事にもなるし、何より一度に全部使える訳でも無いからもう少し考えるべきなんだよね。

 

「うーん・・・、じゃあどうしようかなぁ・・・、ガトリングは外したくないし・・・、かと言ってレールガン外すと破壊力が落ちるし・・・。」

 

なるべく攻撃力は落としたくないし、出来るだけ多面制圧が出来る様にしておかないと砲撃機としての強みが無いしね。

 

何か良い案は無いモノかな・・・、このままじゃ、一向に進まないしねぇ・・・。

 

「でしたら、僭越ながら御提案がございます、こちらをご覧ください。」

 

「これ、ですか・・・?」

 

主任が提示したデータに目を通しながら、僕は自分が考えていたプランとの違いを確かめていた。

 

全体的に大きな変更は無いけど、何かが違う様な・・・。

 

「・・・、あっ、ガトリングが腕に内蔵されてるんだ!」

 

「はい、これならばビームライフルを持っていても邪魔にはなりません、それに加え、もう片腕にはビームサーベルを内蔵させ、格闘戦にもある程度対処可能にしております、総合的な破壊力は下がりますが、これならば取り回しが良く、燃費も少しはマシになって、却って手数も増えるでしょう。」

 

なるほど、その説明でなんとなく理解できたよ。

 

やっぱり、重武装にするにしても整合性は大事だからね。

 

「良いですね、コレ!うん、取り回しも良いし、ガトリングの追加もあるから申し分ないよ!」

 

「お気に召されたようで何よりです、では、改めてウェイドマン技術長に掛け合ってきます、後は我々にお任せください。」

 

僕が納得いった様な素振りを見せると、主任はそそくさと席を立って部屋を出て行っちゃった。

 

やっぱり、仕事人としてやるべき事を早くやってしまおうって事なのかな?

 

「さてと・・・、僕も動こうかな、今からならシミュレーターも空いてるだろうし、丁度良いかな。」

 

そんな建前を言いながらも、僕は部屋を後にして格納庫へと向かった。

 

身体を動かしてないと囚われてしまいそうな過去から逃げる様に・・・。

 

sideout

 

side玲奈

 

「はぁぁ・・・、ホント、アタシってダメね・・・。」

 

格納庫の一角、キャットウォークから愛機であるイージスを眺めながらもタメ息を吐いた。

 

投げやりになってるのが非常に申し訳ないけど、タメ息の一つ吐いても気分は晴れない。

 

他の皆の機体の改修が開始されたけど、アタシのイージスはデータ不足と計画書の未完のせいで改修計画が先送りにされてしまった。

 

スキュラを装備したままでは変形した状態での重力下飛行は不可能という結果が出てるけど、アタシは長所をみすみす殺す事なんて出来やしなかった。

 

でも、それはある意味で正しい事なんだと、アタシは納得もしている、だからこそ、余計に悔しいんだけどね・・・。

 

「はぁ・・・、アタシだけおいてけぼりか・・・、やんなっちゃうわ・・・。」

 

妥協したくはない、でも、そのせいで皆に迷惑掛けたくなんてない。

 

そこん所がジレンマになって、結局堂々巡りになってるだけなのは理解している。

 

だけど、やっぱり割り切れないのよねぇ・・・、アタシも、まだまだね・・・。

 

「悩んでたって仕方がないぞ、笑えよ。」

 

そんな時だった、不意にアタシの後ろから耳に馴染んだ声が聞こえてきた。

 

それと同時に、アタシの頭に何やら重さが圧し掛かってくる。

 

「・・・、いきなりなご挨拶ね、宗吾・・・。」

 

こんなことする相手なんて一人しかいない、アタシの相棒の神谷宗吾だけだ。

 

「アンニュイな雰囲気だしてたら気にもなるさ、仲間同士なんだ、少しは心配もするさ。」

 

「仲間、ねぇ・・・、アンタは気楽でいいわ・・・。」

 

せっかく心配してくれてるのに、素直になれないのはアタシの悪い癖よね・・・、少しは素直になりたいもんだわ・・・。

 

「ははは、機体の案が決まってるからな、それなりには楽さ、でも、お前はそうじゃない、そうだろ?」

 

「アンタねぇ・・・、人が一番気にしてる事を何の臆面も無くよく言えるわね。」

 

そうやってアタシの気を紛らわせようとしてくれてるのは分かるけど、せめてもう少しましな言い方はないワケ?

 

まぁ、怒ったところで八つ当たりにしかならないから、そんな事はしないけどもね・・・。

 

「仕方ないさ、玲奈が望む高火力兵装を内蔵したままだと変形パターンも限られてくる、その中で飛べるのがなかったんだからな。」

 

「うっ・・・、痛い所を突いてくるわね・・・、アンタ、アタシの事なんでも知ってるワケ?」

 

「バディ組んでるのに、相手の事を知らないのは可笑しいだろ、それに、玲奈とは長い付き合いだ、それなりに見てるさ。」

 

宗吾ってば、何時からそんなキザなセリフを吐くようになったのかしら?

なんだか、むず痒いったらありゃしないわ。

 

でも、女の身としては自分を見てくれているってのは嬉しいもんよね。

 

「あぁ、そう言えば一夏から伝言を預かってるんだ、忘れてたよ。」

 

「アタシに?一体なんなのさ。」

 

一夏からの伝言ならそれなりに重要な案件が多いだろうから、アタシは無意識の内に背筋を伸ばしていた。

 

イージスの改修に関することか、それとも新しい任務か・・・。

 

「武装を外付けにすることで火力と機動力を確保、それから、可変機構を見直して機動性を高める案を彼が出してきた、これで考えてみろよ。」

 

「外付けかぁ・・・、レイダーの時にあんまり好きじゃなかったんだけどねぇ・・・。」

 

それが、一番の解決案なんだけど、なんだか味気無いし重くなるから好きじゃないのよねぇ・・・。

 

まぁでも・・・、その程度の好き嫌いで予定を遅らせちゃったんだし、少しぐらい妥協しないとやってられないわよね・・・。

 

「分かったわ、でも、スラスター系統がまだまだ速度不足だから、そこだけは突き詰めるわよ。」

 

「他のトコに諦めつけて、一点特化させるわけな、了解した、一夏とジャックさんに伝えとくよ。」

 

そう言って、宗吾はアタシの頭を撫でてさっさと行ってしまった。

 

彼は彼なりに、一夏の副官として忙しいんでしょうけど・・・。。

 

「・・・、アタシを子供扱いすんなよ、ばか・・・。」

 

同い年だってのに、何時もアタシにはあんな感じで・・・。

 

まさか、女として見られてないのかなぁ・・・、そうだとすれば、かなり悲しいわよね・・・。

 

「さっ!!クヨクヨなんてしてらんないわね!アタシはアタシの道を行く~ってね。」

 

マイナス思考を振り払うように声を張り上げ、アタシはイージスを一瞥してから格納庫から出て行く。

 

悪いけど、もう少し待ってて頂戴ね、イージス。

 

次飛ぶ時は、もっと速く、もっと高く飛べるから・・・・。

 

sideout




次回予告

彼等は一体何なのか、何を想い、何を見て生きるのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

番外編 ソキウス達の日常?

お楽しみに


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番外編 ソキウス達の日常?

noside

 

ソキウス。

 

それはコロニー・メンデルで研究されていたグゥド・ヴェイアの遺伝子を基に、地球軍によって作られた戦闘用コーディネィターの総称である。

 

確認されているだけで、サーティーンまでのナンバーがあるが、それ以降のナンバーがあるかは不明であり、その中でも、C.E.72年末まで生き残っていると確認されているのはスリー、フォー、シックス、サーティーンのみである。

 

他のナンバー達は、その力を恐れた地球軍の手によって処分、若しくはそれを恐れて脱走したため、ほとんどのソキウスはこの世には存在していない事になっている。

 

そんな彼等の中でも、アメノミハシラに仕える三人のソキウスは薬物によって精神を破壊され、人形同然にサハク家と、その家臣達に諾々と従っているらしい。

 

そんな彼等の日常を、今回は追ってみたいと思う。

 

sideout

 

side一夏

 

その日、俺達はA.G.R計画の進捗状況を確かめる会議のついでに、俺の部屋で酒盛りをしていた。

 

大酒呑みのガンダムパイロット五人が集まれば、それなりに話も色々飛び出してくるもので、最近の調子やら、アメノミハシラ構成員の事、それから、下の話も何でもござれと言うカオスな話し合いになっていた。

 

だが、全員がそれなりに飲酒している中での話だ、後々にその話の細かい内容なんざ覚えている訳がない。

 

そんな中で、誰がポツリと呟いたか、とある人物達の話になった瞬間、俺達は一気に酔いが醒めるような気がした。

 

「そう言えば、ソキウスって、普段何してるんだろう・・・?」

 

「何ってそりゃ・・・、あれ・・・?」

 

多分玲奈が口にしたんだろう疑問に、俺も同じ疑問が頭を擡げた。

 

そう、俺達はソキウス達が普段どんなことをしているのか、全く知らないのだ。

 

「そう言えば・・・、気付けば誰かの斜め後ろにいる事が多いですものね・・・。」

 

セシリアも何故そんな事に気付かなかったのかと言わんばかりに、ワインが入ったグラスを置いて考え込む様なしぐさを見せた。

 

彼女は一度、この城にやって来た当初、ソキウス達の虚ろな目に若干怯えていた節があり、正直あまり関わらない様にしていたのは見え見えだったが、最近ではなれてしまっただろうからそうでもないだろう。

 

「部屋も何処にあるか分からないし・・・、もしかして、まともな扱い受けてないんじゃぁ・・・。」

 

「まさかそんな・・・、ミナが許すはず無いさ・・・!」

 

シャルの震えた声に、宗吾は有り得ないとばかりに声を上げた。

 

アメノミハシラは厳格な労働規律があり、シフトもかなりの余裕を持って組まれている。

 

それに加え、事情がちゃんと把握できる者はナチュラルやコーディネィターの区別なく受け入れるという、まさにホワイトな職場であると言っても過言ではない。

 

そんな中で、ソキウス達だけが不当な扱いを受けているとは考えたくも無いし、自分達を拾ってくれた恩人がそんな事をしているとは考えたくも無いだろう。

 

「けど、確認しとかなきゃいけないのは確かだな、それに、知らないままってのも気味が悪い。」

 

俺も、部下の待遇には気を配らなければならない立場だ、疑問が出て来たのならば早急に調査、対応するのが人の上に立つ人間の仕事だろう。

 

「今から・・・、と言うよりも、次にソキウスを見かけたらなるべく気取られない様に付けるぞ、そして、生活状況の把握、そこからの事は情報が集まり次第決定する、良いな?」

 

「OK、ソキウス救済大作戦、ここに決行って訳ね!」

 

「そんな大層な事でしょうか・・・?」

 

玲奈の完全に酔っ払っている様な声に呆れているのか、セシリアは苦笑しながらもワインを呷った。

 

今日の所は、全員が酔っ払ってしまっている状況だ、正直言ってまともな内偵が出来る筈もない。

 

故に、諦めて疲れて眠るまで飲んで飲まれてしようかな・・・。

 

sideout

 

side宗吾

 

翌日、と言うよりも目が覚めてからすぐ後、俺達はソキウス達の素行調査を開始した。

 

取り調べが目的ではないにしろ、仲間を調べてるんだ、正直言って気が滅入るよ。

 

という訳で、俺達ガンダムパイロット五人衆は絶賛張り込みの真っ最中でございます。

 

ちなみに、顔を出してる順は、一夏、俺、玲奈、セシリア、そしてシャルロットの順です。

 

誰に説明してるんだろうね、うん。

 

「気取られないようにしとけよ、顔に出てる。」

 

「マジか・・・。」

 

俺はそんなに分かり易い人間なんだろうか、一夏に指摘されて初めて自分が小難しい顔、若しくはくだらない事を考えてる時の顔をしていることに気付いた。

 

もしかして、俺って隠密に向いてない様な気もしてきたけど、今はそんな事はどうでもいいか。

 

俺がそんなどうでもいい事を考えていると、通路の向こうからソキウス達が三人そろってやって来るのが見えた。

 

「何時も三人組だよね、誰かに呼び出されない限りは。」

 

「ですわね。」

 

シャルロットとセシリアが俺の頭の二つ上で口々に話していた。

 

この二人、通路の先を良く見ようと身体を前かがみにさせてるんだけど、それの弊害が起こってる事に気付いてないんだろうなぁ・・・。

 

「巨乳なんて・・・、巨乳なんて・・・。」

 

俺の真上に居る玲奈が、何とも言えない表情で俺に圧し掛かって来ているのは気のせいではあるまい、胸囲の格差社会とは、今この瞬間にも精神を蝕むのだ。

 

「お、B-15ブロックに向かう通路に入るみたいだな、追おう。」

 

『了解。』

 

若干一名、眼に光が無いまま一夏の言葉に返し、俺達は壁に沿ってソキウス達の後を付けた。

 

ちなみに、B-15ブロックは普段からあまり人が来ない区画と言う事でアメノミハシラ内におけるサボり場や、ヤリ場になっている事で有名だ。

 

俺達はそういう趣味は無いから、ここら辺にはほとんど足を踏み入れたことが無い。

 

「もしかして、ソキウスって・・・。」

 

「シャラップ。」

 

玲奈が女の口から言っちゃいけない単語を言おうとするのを、シャルロットが言わせるものかと言った感じに言葉を被せて遮っていた。

 

流石に、その言葉聞いたら俺と一夏は即離脱しなければいけないからな。

 

そうこうしている内に、ソキウス達はB-15ブロックの奥まった場所にある、とある部屋へと入って行った。

 

あまり知られたくない事なのだろう、周囲を見渡して、かなり警戒してから入って行ったんだ、きっと何かあるに違いない。

 

入ってから暫くして、俺達はなるべく音を立てずに部屋の前にやって来た。

 

「こんな所で一体何を為されておいでなのでしょう・・・?」

 

「さぁな、俺達にさえ知られたくないヒミツか、或いは本当に低待遇か・・・。」

 

セシリアが何処か不安げに呟くのを尻目に、一夏は早速ハッキングを開始した。

 

どうやら、暗証番号を入れるタイプのオートロックドアだから、彼の手腕が必要になってくる。

 

「カードスキャナーもなければ、鍵穴も無いのね、これってある意味特注じゃない?」

 

「おいおい・・・、あからさまに扱いが違うじゃないか・・・。」

 

俺達の部屋の扉と完全な別物である事に気付き、より一層不安が掻き立てられる。

 

扱いが悪いなんて考えたくも無い、どうか、この嫌な予感が外れていてくれ・・・!!

 

「ロックの解除を確認・・・、自動では全部空いてしまうから手動で開ける、いいな・・・?」

 

祈る様な表情で、一夏は俺達に目配せした。

 

それに応える様に俺達も神妙な面持ちで頷き返した。

 

そして、一夏の手が扉に掛かり・・・。

 

sideout

 

noside

 

扉が僅かに開いた隙間を覗き込む様に、五人は再び上下に折り重なる様にして部屋の奥を覗き込んだ。

 

そこは眩いばかりの光に溢れており、彼等ですら目が慣れるまでに暫し時間を要する事となった。

 

いや、それだけではない、聞きなれない音楽も聞こえてくる。

 

「なんだ・・・?」

 

その音楽に顔を顰めながらも、一夏はその光の奥を見た。

 

そこには・・・。

 

決め顔しながらディスコミュージックにノッて踊るソキウス達がいた。

 

愉しいのか愉しくないのか、いつも通りの無表情のままで踊っているのだ、ある意味怖い。

 

「「「「「・・・、・・・。」」」」」

 

その光景を見た一夏達は、一様に某やきうゲームの主人公が見てはいけない物を見た時にする表情をしていた。

 

それもそうだろう、一見ノリノリに動いてはいるが、表情は普段のままなのだ、何度も言うが、何時ものままなのだ。

 

そんな彼等が妙にキレのいい動きでダンスを踊るのだ、想像すら出来なかっただろう。

 

「(えーっ!?アタシ等より広い部屋貰ってない!?)」

 

「(キレッキレだぁ・・・!?)」

 

自失から抜け出した玲奈は部屋の好待遇に驚愕し、シャルロットはダンスのキレの良さに驚いていた。

 

普段からそれなりに良い動きを見せるソキウス達だが、ここまで軽快な動きを見せられるとある意味で戦慄すら覚えてしまうのが道理と言う物だろう。

 

「(わ、私は夢でも見ているのでしょうか・・・!?)」

 

「(セシリア・・・、俺ら疲れてるんだよ・・・、きっと・・・。)」

 

自分の頬を何度もペチぺチと叩くセシリアとは対照的に、一夏は現実逃避でもしているかの様にハイライトから光が消えていた。

 

目の前で繰り広げられる訳のわからない光景を、彼自身受け入れたくないのだ。

 

「(明日からどういう顔して会えばいいんだろう・・・、というか、アイツ等絶対に精神壊れてないだろ・・・。)」

 

そして、宗吾は彼等と次に会った時にどのような顔をして会えばいいかを考え、頭を抱えていた。

 

そして、もうなかった事にしたいのか、彼はそっと扉を閉めようとした、まさにその時だった。

 

突如内部から手が伸び、扉を掴んでゆっくりと開けて行く。

 

「見たな・・・?」

 

頭上から降り注いだ抑揚のない声に、まさかと言わんばかりの表情で顔を上げた一夏達の眼前には、眼を限界まで見開いたソキウス達の顔が在った。

 

女性が羨む白い肌も、男性にしては少し高い声も、そして、中性的で整った容姿も、今の彼等にとってはただ恐怖の対象でしかなかった。

 

「「「「「ウワァァァァァァァァァァア!!!?」」」」」

 

歴戦の猛者である彼等ですら、この状況では腰を抜かして、恐怖に憑りつかれた某ダディの様な絶叫をするしか出来なかった。

 

そんな彼等の哀れな叫びが、アメノミハシラ中に聞こえたとか、聞こえなかったとか・・・。

 

sideout

 

side玲奈

 

一通り絶叫した後、アタシ等はどういう訳かソキウス達の部屋に招かれた。

 

脅迫でもされるのかと内心凄い不安だけど、ソキウス達が何を考えてるのか分からないからどう切り抜けるかも考え付かない。

 

そんな事を思いながらも、アタシは無意識の内に部屋の中を見渡していた。

 

ディスコを踊るためのちょっとしたステージやビリヤードの台、それに加えてダーツ台やバーカウンターなども揃ってる。

 

娯楽室か何かと思えるような場所だけど、アメノミハシラ構成員全員が使えるラウンジはこことは違う場所に用意されてるし、何より、ここみたいな型落ち品が集まっている様な場所なんかじゃない。

 

「皆様は、何故こちらへ・・・?」

 

そんな事を考えてた時だった、フォーソキウスがアタシ等に何故ここに来たのかを聞いてきた。

 

あまり知られたくなかった事なんでしょうね、ほんの少しだけどやってしまったという色が見え隠れしてるし。

 

「お前達がどういう扱いを受けてるか知りたかっただけだ、俺の部下の扱いは、俺がしっかりと把握して良い質を提供してやらなけりゃいけないだろう。」

 

彼等の目を、背ける事無くしっかりと見据えながらも一夏は言葉を紡いだ。

 

彼らしい、不器用だけど包み隠さない言い方は、ある意味で交換が持てるけど、今のタイミングで言って良いのかしら・・・?

 

「一夏様・・・。」

 

そんな彼を、ソキウスは何処か驚いた様な目で見ていた。

 

まさか、彼等も自分たち自身の事を案じてくれているとは考えもしなかったのかしら?

 

一夏がそんな薄情者な訳無いじゃない、なんせ、最初は敵だったアタシと宗吾すら、転生者だから捨て置けないって理由で、ロンド・ミナに頭を下げてまでして助けてくれたんだから。

 

「こんな隅っこなんかに居ないで俺達のところに来いよ、俺達は仲間だ、何も遠慮する事なんて無いんだよ。」

 

「そうだよ、ソキウス達がいないと、みんな心配しちゃうから!」

 

「えぇ、私達が保証しますわ。」

 

ホント、一夏もシャルロットも、それにセシリアも御人好しよね。

 

ここまで親身になってくれたら、折れない訳にはいかないわよね。

 

「我々が・・・。」

 

「皆様と共に・・・?」

 

「よろしいのですか・・・?」

 

今迄、ギナからは散々人形扱いを受けてきた彼等はまだ、アタシ等の言葉を信じられなさそうだった。

 

それは仕方ないけど、これ以上、彼等が苦しむままなんて嫌なのよ。

 

「断る理由なんてないさ、俺達は同じ方向を向いてる仲間だ。」

 

「仲間なら、お楽しみぐらい一緒に過ごさなくちゃでしょ?硬い事言わないで、アタシ等と来なさいよ。」

 

だから、アタシと宗吾も手を伸ばす、掴める相手の手を、放したくなんてないから。

 

「・・・。」

 

どれぐらい沈黙が続いた事だろうか、ソキウス達は互いの顔を見合わせ、アタシ等の顔を見た。

 

「ありがとう・・・、ございます・・・。」

 

「気にすんなって、何かあれば、俺達がお前達を救ってみせる。」

 

頭を垂れるフォーソキウスに、一夏は右腕を差し出して握手していた。

 

彼なりの心遣いなんでしょうね、そうやって人と繋がって行く事をモットーにでもしているのかしら。

 

でもま、これで一件落着でしょうから、これから先の事を考えましょうか。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「がぁぁ・・・!?また負けたっ!!」」

 

「うっそ・・・、これで何連敗よ・・・。」

 

あの日から数日の後、レクリエーションルームに宗吾さんと玲奈さんの恨めしげな声が響きました。

 

「八連敗・・・、だよね・・・?」

 

シャルさん・・・、それを言わないでくださいな・・・。

 

私達の手元にあるモノは、トランプのカード。

 

そう、たった今、私達はポーカーの勝負をしている最中でした。

 

つまり、先程の勝負は宗吾さん達のボロ負けでした・・・。

 

無論、私達と戦っている訳ではありません、御二人のお相手は・・・。

 

「宗吾様・・・、玲奈様・・・、そろそろ掛け金が無くなりますが・・・。」

 

「せめて一回勝つまではやらせてくれよ・・・!」

 

サーティーンソキウスさんの言葉に、宗吾さんはそこを何とかと言わんばかりの調子でもう一戦と言う様に勝負を頼まれておいででした。

 

ですが、勝てる見込みは少ないでしょう、何せ、彼等は完全なポーカーフェイスですもの・・・。

 

「読めない・・・、考えが読めない・・・、勝てない・・・。」

 

玲奈さんがテーブルに突っ伏していらっしゃいました。

 

数回戦って、一回も勝てないんですもの・・・。

 

「一夏様・・・?」

 

そういえば、先程から一夏様が妙に静かなような気がしますが、どうかされたのでしょうか・・・?

 

「ここはこうするのか・・・?」

 

「はい、バックスピンはこう掛けて下さい。」

 

別の場所で、シックスソキウスさんとフォーソキウスさんにビリヤードを教わっておられました。

 

どうやら、かねてより不得手であったビリヤードを自分のモノにしておきたいがために、こういったゲームが御得意なソキウスさん達に師事されておられるのでしょう。

 

「僕も近くで見とこっと。」

 

「あ、でしたら私も。」

 

シャルさんがビリヤード台の方へ行かれるので、私もそれに着いてゆく事にしました。

 

今は取り込み中なのでしょう、一夏様は真剣そのものと言う様に姿勢を低くし、玉の軌道を読もうとされておいででした。

 

「ふっ・・・!!」

 

息詰まる瞬間、一夏様は白いボールを突き、次々とボールを穴に落として行かれました。

 

「・・・、どう・・・?」

 

「順番が違いましたね、番号順ではないといけません。」

 

「またか・・・、俺、プレッシャーに弱かったっけ・・・?」

 

ソキウスさんの御言葉に、一夏様はガックリと肩を落とされておられました。

 

「お気を落とさないでくださいな、何事も数を重ねませんと・・・。」

 

「そうそう、何度だって挑戦あるのみだよ、ね?」

 

私とシャルさんは、一夏様の背中をさすりながらも励ましてみます。

 

旦那様にこういった事は逆高価な気もしますが、少しは良い気紛れにはなるでしょう。

 

「ははは・・・、せめて、ちゃんと出来る様にはなりたいけどな。」

 

一夏様は乾いた笑いを浮かべながらも、一夏様はまた台に向かってしまいました。

 

ソキウスさん達も、一夏様の手元を見る様に台へと向かわれました。

 

「ねぇ、セシリア、ソキウス達も変わったね。」

 

そんな時でした、シャルさんが私に耳打ちしてこられました。

 

「えぇ、私もそう思いましたわ、以前よりも表情が柔らかくなられましたもの。」

 

見る人が見れば分かる程度でしょうが、ソキウスさん達の目に、僅かな光も見える様にもなっておられます。

 

あの日、私達が尋ねた事は間違いではなかった、そういう事なのでしょう。

 

「一夏様なら、きっと、彼等に光を齎せるでしょう。」

 

何時か、私達に光を見せてくれた時の様に・・・。

 

あの時の様な人格に戻られた、今の一夏様ならきっと・・・。

 

私達と初めて出会った頃の、優しい一夏様なら・・・。

 

sideout




次回予告

影の者、行く道は違えど、その生きざまを示せるならば・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

影の者

お楽しみに。


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影の者

side宗吾

 

「神谷卿、目的地に到着しました、発進準備をお願いします。」

 

イズモ艦橋にて、俺は出撃の要請を依頼してくるオペレーターの言葉を聞いていた。

 

「了解しました、索敵を続行してください。」

 

「了解しました。」

 

今回は、久々に行われるブリッツの起動試験だ、気を抜いて掛かる訳にはいかない。

 

場所はデブリベルト外縁部、俺達アメノミハシラ勢の試験場として御馴染みになりつつある場所だった。

 

しかし、何時もとは毛色を変えて、アメノミハシラからかなり離れた場所に設定、何時もとは漂っているデブリが異なる状況で試験を行う事になった。

 

とは言え、障害物がある中での戦闘はブリッツに乗る俺が一番多く経験する事になるからこそ大切にしておきたい経験なんだよ。

 

さぁて、頑張るとしようかね。

 

背筋を伸ばしながらも、俺は艦橋を後にした。

 

sideout

 

noside

 

「神谷宗吾、ブリッツ、出る!!」

 

イズモから発進したブリッツは、機体の調子を確かめる様に漆黒の宇宙を進んだ。

 

まるで泳ぐような動かし方だったが、あまりスラスターによる熱紋を察知されないための手段なのだろうか。

 

今回、彼の機体の左腕には、なにやら巨大なクローの様な物が三つ装備されていた。

 

これまで装備されていたグレイプ・ニールの様に、腕の外側に配置されているのではない、左手首が見えない様に、三つのクローが巨大な拳の様に腕を取り巻いていた。

 

「おっと・・・、やっぱり少しバランスが崩れてるな、調整しねぇと。」

 

その新装備の調子を確かめる為の試験機動ではあるが、この試験の結果次第で機体の設計思想が大きく変わる恐れもあるため、宗吾はいつも以上に力を籠めて機体を動かしていた。

 

「しっかし、動かすだけならアメノミハシラの近くで良い筈なんだけど・・・、どうしてここに来させたんだ・・・?」

 

彼は、上司である一夏が何故デブリベルトでの稼働試験を命じたのか、その理由に合点が行かない宗吾は首を傾げていた。

 

ここではしっかりとしたデータが録れるかどうかも怪しい、もし、海賊やその他勢力にぶつかる事を前提としているならば話は違うが、そう都合よく出てくるとも考えにくい。

 

「まぁ、試しにやってみるかなぁ。」

 

そう考えながらも、何事もやってみなければ分からないと言う様に、彼はブリッツのトリケロスを一つのデブリに向けて構える。

 

だが、その時だった、以前よりも強化されたレーダーが何かを捉えた。

 

「なにっ・・・!?敵かっ!?」

 

だが、周りには大小様々なデブリが無数に浮遊しており、、MSの機影は見当たらなかった。

 

しかし、宗吾は気付いていた、戦い方の一つとして、遮蔽物に身を隠す戦法があるのだから。

 

「そこだっ!!」

 

彼は、少し離れた場所に在ったデブリに向けて、ビームライフルを発砲した。

 

そのデブリがビームに貫かれる一瞬前に、紅い影が彼に迫ってきた。

 

「なにっ・・・!?あれは・・・!?」

 

彼に迫ってくる機体は、背面から一本の対艦刀を引き抜き、彼目掛けて振り下ろした。

 

だが、それぐらいならば回避する事は出来ため、彼はスラスターを吹かして斬撃を回避した。

 

「あれは・・・、ソードカラミティ・・・!?」

 

その機体は、アメノミハシラにも存在する、カラミティのバリエーション機、ソードカラミティだった。

 

バーミリオンの機体は、太陽光を背に彼を見下ろすかのように切っ先を向けてきた。

 

「一体誰が・・・!?アメノミハシラの誰かか・・・!?」

 

だが、そうならば話が来ているだろうし、何よりここに来させる意味も無い。

 

それに加え、ソードカラミティの左肩には誰かのパーソナルマークも入っている。

 

アメノミハシラでパーソナルマークを持っている人間は、ロンド・ミナ・サハクだけだが、そのマークですらない。

 

では、このソードカラミティに乗っているのは誰か?

 

彼がそれを考えるよりも先に、ソードカラミティはスラスターを吹かしながらも、猛然と突っ込んできた。

 

「あぁもう!やってやるさ!!」

 

しかし、何時までも混乱している程宗吾も愚鈍ではない、すぐさまスラスターを吹かし、突き出された対艦刀を回避し、死角からビームサーベルで切り付ける。

 

だが、相手もそれを見越していたのだろう、半身になるだけであっさりと回避し、スキュラの発射体勢に入った。

 

「ウソだろっ・・・!?」

 

発射直前にフットペダルを思いっ切り踏み込み、強引に操縦桿を倒す事で直撃だけは回避する。

 

しかし、避けきれなかった右肩に大出力ビームが掠り、先端が溶け出した。

 

「おい!お前一夏だろ!?」

 

自分の動きを読み、尚且つ嫌がらせの様に大火力で攻めて、この後にネチネチ小技が来る、そんな嫌味な戦い方をするのはこの世で数人といない。

 

故に、彼はそれを最も得意としている男を思い出し、相手に向かって叫んだ。

 

とは言え、接触回線を開いている訳でも無いので、届いているかどうかも怪しい所ではあるが・・・。

 

だが、そんな彼の事などお構いなしに、ソードカラミティは後退しつつも左肩のマイダス・メッサーを投擲し、緩急をつけた攻撃を交え始めた。

 

「うぉっ・・・!?だけど、甘い!!」

 

しかし、普段からソードカラミティを相手に模擬戦を繰り返す宗吾にとって、その攻撃は予想の範疇の事でしかなかった

 

マイダス・メッサーを躊躇いなくビームライフルで打ち抜き、そのまま爆煙に紛れ、ミラージュ・コロイドで接近して終わらせる。

 

その戦法を取ろうとした矢先、ブリッツの頭部をパンツァー・アイゼンのクローがしっかりと拘束、ブリッツの体勢を崩しながらも一気にアンカーを巻き取った。

 

「しまった・・・!!だけど、まだまだぁ!!」

 

このままでは逃れる事すらできずに、対艦刀で一刀両断されてしまうのは目に見えていた。

 

だが、彼にはまだ奥の手があった、いまだ試した事の無い、新装備が。

 

「コイツでぇっ!」

 

彼が思いっ切りレバーを押し込むと左腕のクローが展開し、得物を振らせんと言わんばかりにソードカラミティの右腕を捕縛した。

 

だが、それだけではない、紫電が奔り、ソードカラミティからブリッツへエネルギーが流れ込む。

 

そう、ブリッツの左腕に搭載されているクローの正体、それはゴールドフレーム天に装備されているマガノイクタチを基に開発されたものだった。

 

その名も、《ハービヒト・ネーゲル》、大鷹の爪と言う名を冠した兵器だ。

 

ミラージュ・コロイドを使用するマガノイクタチを逆輸入する形で採用し、天に装備された物よりも小型化させた代わりに数を二本から三本へと変更し、拘束性の強化を図っている。

 

また、クローを展開させた際は、その名の通り大鷹の爪の様にも見え、一度捉えた獲物を離す事は無い。

 

「これで終わらせる・・・!!」

 

いきなり襲いかかって来られたが、折角のワンオフ機だ、破壊するには惜しいと考えたか、若しくは、単純に殺しをしたくないからか、彼は放電を続けながらもトリケロスで威嚇するだけで済まそうとした。

 

しかし、彼は忘れていた、自分の間合いに入ったという事は、相手の攻撃の間合いにいるという事、そして、敵を捕縛していては逃げ場が無いという事を。

 

その甘さを着くかのように、ソードカラミティはブリッツを掴んでいた左腕のパンツァー・アイゼンのクローを外しながらも、左腕をトリケロスの裏に滑り込ませ、銃口をコックピットから外す。

 

そして、そのまま勝負を決める腹積もりなのだろう、スキュラをチャージし始めた。

 

避けようと思えれば避けられる、しかし、そのためにはハービヒト・ネーゲルを外す必要があり、それを外すと対艦刀で切り裂かれるのがオチだ。

 

つまり、彼は王手を掛けたつもりが、逆に誘い込まれてしまっていたのだ。

 

「ばっ・・・!?こんな至近距離で撃ったらお前もタダじゃ済まないぞ・・・!?やめろぉ!!」

 

自分が死ぬのは勿論勘弁だが、相手にも傷付いてほしくは無い、それが、彼なりに今も持っている考えであり、行動理念だった。

 

だが、そんな事は戦場に出れば何の意味も持たない、生きるか死ぬか、それが全てであるのだから。

 

「くっ・・・!?」

 

もう終わった、そう考えた彼は、きつく目を閉じた。

 

だが、いくら待てども、その瞬間は来なかった。

 

「なに・・・?」

 

拍子抜けした様な声を上げ、彼は目を開けて眼前のソードカラミティを見た。

 

『任務完了した、これよりそちらに向かう。』

 

『了解しました、模擬戦終了、着艦を許可します。』

 

「は・・・?」

 

ソードカラミティのパイロットがイズモと通信している事が理解出来なかったのだろう、彼は馬鹿みたいに口を開けて呆ける事しか出来なかった。

 

無理も無い、先程まで彼を殺す気で掛かって来ていた相手が、何故自分の味方とやり取りしているのか、まだまだ彼の理解が及ばない事が多すぎるのだろう。

 

『まだまだだな、忍びの兄ちゃん、これじゃこの先生き残れないぜ?』

 

「くっ・・・!勝ったからって上から目線で・・・!誰なんだ、アンタ・・・!?」

 

自分の未熟さを指摘されてはぐうの音もでないのだろう、宗吾は悔しげに口元を歪めながらも、相手の正体を確かめるべく叫んだ。

 

負け犬の遠吠えにしかならないと知っていながらも、それだけでは悔しいからだろうか・・・。

 

『俺の名はカイト・マディガン、プロMSパイロットだ、お前の上官とは呑み仲間さ。』

 

「はぁ・・・?の、呑み仲間・・・?」

 

まったく予想だにしていなかった答えが返ってきたために、彼はまたしても呆けたように口を開いた。

 

傍から見れば、何と間抜けな顔だと言われる事だろう。

 

『詳しい事は後で一夏に聞け、俺は報酬を取りに行く、置いてくぞ。』

 

「お、おぉい・・・!?」

 

ソードカラミティがイズモに向けて奔り出したのを見て、彼もブリッツをイズモへ向けた。

 

今だ困惑に支配された思考で、何の事かを必死に考えながらも・・・。

 

sideout

 

side宗吾

 

「お疲れさんカイト、いきなり連絡して悪かったよ。」

 

アメノミハシラに戻ると、少し大きめのアタッシュケースを抱えた一夏が俺達を出迎えてくれた。

 

俺の前を歩く、金髪黒ひげの伊達男は彼を見るや否や、如何にも愉しかったと言わんばかりの表情をしていた。

 

どうやら、今回は一夏の差し金だったらしい。

 

「気にするな、折角エドから盗ん・・・、貰った機体を動かす機会がもらえたんだ、ありがたい位だ。」

 

「おい!?今盗んだって言いかけたよな・・・!?あんなワンオフ機どうやって盗むんだよ!?」

 

一夏に応えるマディガンの言葉に突っ込むが、一夏も彼も完全に聞き流していた。

 

コイツらには、そんな事どうでもいいんだろうか・・・?

 

「あぁ、あのソードカラミティ、カイトが持って行ってたのか。」

 

「一夏も知ってんのかよ・・・。」

 

もうヤダ・・・、なんでこう、重い事を軽く流す様な人がいっぱいいるんだろう・・・。

 

「ま、カイトのお陰で、コイツの良い訓練にもなった、これはほんの気持ちだ、受け取ってくれ。」

 

俺の困惑を他所に、一夏は手に持っていたアタッシュケースを胸の高さまで持ち上げ、中身を見せびらかす様に開いた。

 

その中に入っていたのは二本のワインボトルと、それを揺らさない様に敷き詰められた現ナマだった。

 

・・・、何この・・・、なに?

 

どこぞの時代劇で見た様な景色だけど、取引って実際にこんな事してるの?

 

「ふっ・・・、お前も悪だなぁ、一夏ぁ?」

 

「カイト程じゃないさぁ・・・、はははっ。」

 

なぁ、わざとだろ、わざとなんだろその小芝居・・・。

 

ホント、この二人の今の顔、凄いあくどい顔してるからなぁ・・・。

 

「ありがたく頂戴するよ、マティアスに差し入れてやるのも悪くない。」

 

「それなら、もう二本付けるよ、ジェスに飲ませてやれよ。」

 

マティアスにジェスって奴がどんな人物か知らないが、この二人にとって重要な意味を持つ人間だという事は察せた。

 

特に、二人ともジェスには何やら色々な想いが顔に出てるしな。

 

「折角だし、呑んで行ってくれ、セシリアとシャルにも言えば酌ぐらいしてもらえるぞ?」

 

「そいつはありがたい!良い女に注いでもらえる酒程旨いモノは無いからな!」

 

はははと軽妙に笑いながらも、一夏とカイトはさっさと歩いて行ってしまう。

 

というより、理由付けて呑みたいだけだろうに・・・。

 

まぁ、話も聞いてみたいところだし、俺も着いて行くか。

 

そう思いながらも、俺は彼等を追いかける様に歩き始めた・・・。

 

sideout

 

noside

 

その後、一夏の部屋に招かれたカイトと共に酒宴が始まり、その部屋にいた織斑夫妻及び、宗吾と玲奈、そしてカイトはいつも以上の量を飲んで行く。

 

地球で呑んで以来の酒盛りだった一夏とカイトは世間話や下世話な話を交えて杯を酌み交わし、それに呆れながらも、セシリアとシャルロットは夫と夫の友人に酌をしつつも自分達もワインを咽に流し込んで行く。

 

そんな酒豪達の異常なペースに呑まれたのか、普段から一夏達と酒を飲む機会が多い筈の玲奈さえ、普段の四分の一にも満たない時間で潰れてしまっていた。

 

「うっ・・・、なんだよ・・・、本当にザルだよな・・・!そろそろ身体に悪いぞ・・・!?」

 

矢鱈と酒に強い上にアルコール依存症気味な一夏と、彼と普段から飲んでいる上に体質的に元々強いセシリアとシャルロットは兎も角、カイトまで異様に酒に強いとは思いもしなかったのだろう、宗吾は蒼い顔をしながらも口元を抑えた。

 

仕方あるまい、今だ二十歳になったばかりの、酒を飲む機会すら稀だった彼では、その差は埋めがたいものが有るのだから。

 

「なに小さい事を言ってるんだ、今を楽しまないとやってられんぞ。」

 

「楽しむ・・・、か・・・?」

 

カイトの呆れた様な声に、宗吾は首を傾げながらも問うた。

 

彼の言葉には目の前の酒盛りに対してと言うよりも、宗吾自身に対しての言葉がある様に感じられたから・・・。

 

「目の前の事で精一杯になるのと、目の前の事を精一杯やるのは違う、気持ちの入れ方が違うからな。」

 

「よく分からないな・・・、どういう事だよ・・・?」

 

カイトの言葉の意味を理解出来なかったのだろう、彼は少しムッとした様な表情を浮かべていた。

 

無理も無い、言うなら言うでハッキリズバッと言って欲しいのが彼の性分なのだから。

 

「それだよ、答えを焦り過ぎている、それが戦闘にも出てるってこった、眼の前しか見れないから、裏を掻かれるのさ。」

 

「うぐっ・・・。」

 

自分のその場凌ぎのやり方を勘付かれていた事にぐうの音も出ないのか、宗吾は苦い表情を浮かべた。

 

自分はそこまで分かり易いのか、隠密戦主体の自分が情けない・・・。

 

「大方、コイツ等のアレコレ聞き出したいからってのもあるだろうが・・・、気にしすぎだろ?」

 

「知った様に言うな・・・、アイツには、もっと大きな何かがあるんだ・・・、俺達も知らないほどの苦しみが・・・。」

 

酒のつまみを新しく調達しに行った一夏を指しながらも、カイトは宗吾に問うた。

 

気にするほどの事が彼にあるのかと言いたげだったが、宗吾は首を横に振りながらも否定した。

 

一夏の苦しみを理解して尚、その本質を知って彼の助けになりたいと思っているのだろう、宗吾の口ぶりからは一夏を案ずるような色が見て取れた。

 

「俺も力になりたいんだよ・・・、アイツが苦しむなら、その苦しみを消してやれるような男に・・・。」

 

「無理だな。」

 

自分の想いを否定する様なカイトの言葉に、宗吾はありありと苛立ちの色を浮かべた。

 

想いが軽いと捉えられた事に対する憤りか、それとも、自分が未熟だと上から目線で言われている事への怒りか・・・。

 

だが、カイトはそんな彼の突き刺す様な視線など気にも留めない、なお言葉を続けた。

 

「アイツの苦しみは誰かに知ってもらう事で軽くなる訳じゃ無い、寧ろ、知られる事で余計に苦しむ事になるもんだ。」

 

「っ・・・。」

 

何処か遠い眼をしながらも、カイトは一夏の抱える闇に、その根源たる過去に考えを巡らせる。

 

一夏の誰にも触れて欲しくない過去を知る訳ではないが、一夏の異様なまでの他人の命への執着、喪失の恐怖から、何かを読み取る事は容易かったのだろう。

 

故に、彼は感じたのだ・・・、一夏は何もかもを失い過ぎた反動で、より執着が強くなりすぎているのだと・・・。

 

「だからって・・・、何もしないままって・・・!」

 

だが、宗吾はそれを見て見ぬふりなど出来なかった。

 

彼にも、苦しんで欲しくなどないから・・・。

 

「待つことをするんだ、それがアイツを救う唯一の手立てだ。」

 

カイトはそれを受け、宗吾がやるべき事を口にする。

 

「待つ事・・・?」

 

その真意を理解出来なかった彼は、カイトにどういう事かと言わんばかりに尋ね返した。

 

「アイツが抱えてるモンは、アイツにしか分からないし、どうしようもない、手出しできないならどうなるか見届けてやるのも一つの手助けだ、だったら待つことが一番良い。」

 

待つ、それは一見放任にも見えてしまうが、別の見方をすれば、それは相手を信じて見守るという事。

 

それは途轍もなく長い時間かもしれない、だからこそ、待つことは動く事よりも難しいのだ。

 

「あの嬢ちゃん達も、きっとそうしてる筈だ、乗り越えるその時を待ってるのさ。」

 

「待つ、か・・・、それで良いんだ・・・。」

 

戻って来た一夏の両隣で杯を傾けるセシリアとシャルロットを見ながらも、カイトはその時が来ることを確信していた。

 

それがいつ来るのか、分かる時が来るのか分からない宗吾は、何処か不安げながらも、自分に言い聞かせる様に呟いた。

 

それでいいのだと、一夏は自分を裏切らないと信じて・・・。

 

「だから、今は楽しめ、その後は先を見続けろ、それがお前のやるべき事だ。」

 

「・・・、あぁ、そうさせてもらうよ。」

 

諭す様に言うカイトの言葉に頷きながらも、宗吾はウォッカが入ったグラスに手を伸ばす。

 

それを見たカイトも、自分のグラスを掲げ、彼と目を合わせた。

 

「そんじゃ、もう一回呑み直せ。」

 

「あぁ、乾杯だ。」

 

乾杯した二人は、ウォッカを咽に流し込んでゆく。

 

「ぷはっ・・・、きっつ・・・。」

 

「ははは、まだまだだな、お前さん。」

 

青い顔をする宗吾を見て笑うカイトにつられ、宗吾もまた笑みを溢す。

 

今を楽しむ、その思いを肴にして・・・。

 

sideout




次回予告

消えない過去、それを知りながらも彼は進む、何時かは受け入れられる日が訪れると信じて。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

猛獣

お楽しみに


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猛獣

side一夏

 

「ハァァァッ!!」

 

俺は、戦いの中にいた。

 

何時もと変わらない戦場だと思っていたが、今日は違った。

 

今、俺を支配するのは僅かな怒りと、大きな憤りと、自己嫌悪のみ。

 

コートニーと戦う時のような高揚も無ければ快感も無い、只々、不快感だけが付き纏う。

 

「お前は・・・!お前だけは・・・っ!!」

 

無我夢中でMSを操り、ビームサーベルで目の前にいる、パープル主体の機体へと斬りかかる。

 

だが、俺と同じ様な思考回路を持っているからか、奴はいとも容易くそれを回避、持っていた刀でこちらを切り付けてくる。

 

その度に、嘗ての俺の姿が脳にフラッシュバックし、更に俺を掻き乱す。

 

何時までも付き纏って消えない、この苛立ちを更に掻き立てる存在、それが今の俺でさえ気に喰わなかった。

 

「消えろよっ・・・!消えてくれよっ・・・!!このっ、亡霊がぁぁっ!!」

 

怒りと憤りを乗せ、俺は、何度も刃を振るった・・・。

 

sideout

 

noside

 

一時間程前のアメノミハシラMS格納庫・・・。

 

「ストライクの改修が予想以上に延びてるな・・・、なんでだ?」

 

C.E.73年二月頃、一夏は昨年末に中破して以来中々進まない愛機、ストライクの改修計画に疑問を抱き、現場総主任であるジャックに直談判しに来ていた。

 

とは言え、開発現場のメンバーとて、MS開発だけを手掛けている訳ではない、MS整備から修復、更には戦艦の手入れやアメノミハシラ全体の補修点検なども全て担っているのだ、如何にシフトが余裕を持って組まれているとは言えど、人手が幾らあっても足りない状況には変わりなかった。

 

「いやぁ・・・、思った以上に内部システムの調整に時間が掛かっちまってんだ・・・、お前、相当ストライクに無茶させてるだろ?」

 

尋ねてきた一夏の言葉に、ジャックは申し訳なさそうに答えていた。

 

二か月ほど前のデブリベルトの戦闘で、ストライクは全体の40%近くにに及ぶダメージを受けたが、外見以上に内面にダメージは深刻であり、修復は困難を極めているようだ。

 

「あぁ・・・、あの一戦で限界を超えたと・・・、なんか、申し訳ないなぁ・・・。」

 

それを知って、一夏は表情を曇らせた。

 

自分の実力が愛機を酷使し、そのボディをボロボロにしてしまっている。

 

その事を負い目と感じているのか、彼の言葉からは心底申し訳ないという様な色が窺えた。

 

だが、彼等はそのまま立ち止まっている訳では無かった。

 

「けど、安心しろや、完璧に仕上げてやる、なぁに、完全に御釈迦になった部分は取っ払って最新のに換えておくからよ、お前さんはしっかり頑張ってくれや。」

 

心配ないと言う様に笑うジャックの言葉に頷き、彼は踵を返して格納庫の一角へと足を踏み入れた。

 

そこには整然と並ぶM1Aが数機置かれており、その全てがいつでも戦えると言わんばかりの状態だった。

 

「今日はコイツで出よう、ソードも今は整備中だしな。」

 

ガンダムタイプは全体性能のアップデートを行う為に、天ミナを除く全機が調整中、デュエルとブリッツに到っては、改修案の完成、及び、データの収集が終了したために一足先に強化改修を施すと言う運びになった。

 

そのため、今現在使えるMSは、量産機であるM1A、若しくはロングダガ―しか存在していなかった。

 

そのため、今回の訓練において、彼は使い慣れた量産機であるM1Aを乗機に選び、周辺宙域の警戒に出る手はずだった。

 

だが、現実とはいつも予定通りに行く事ばかりでは無い、まして、人間が引き起こす事象に、絶対はないのだから。

 

それを表す様に、格納庫内に敵襲を報せる警報が鳴り響いた。

 

「ちっ・・・!こうも都合の悪い時に限って敵襲かよ!」

 

愛機が改修途中であるため、彼が乗れる機体は必然的に限られてくる上に、今は乗り換えの機体の場所まで走る時間さえ惜しい。

 

故に、彼は舌打ちをしながらもM1Aのコックピットに滑り込み、自分専用のOS設定を施していく。

 

もっとも、それでさえ急ごしらえに過ぎないのは否めないが・・・。

 

「管制室!MS隊を発進させろ!俺も出る!」

 

『了解しました!MS隊全機スクランブル!繰り返します!MS隊全機スクランブル!!』

 

管制室のアナウンスを聞きながらも、彼はヘルメットのバイザーを下ろし、M1Aのコックピットハッチを閉じた。

 

幾度となく繰り返した発進準備だ、滞りなく進むが、彼は気を抜いてはいなかった。

 

「織斑一夏、M1A、出撃する!!」

 

そして、出撃ハッチへと辿り着いた彼は、機体のスラスターを点火し、漆黒の宇宙へと飛び出して行った。

 

そのままの勢いで、彼は守備隊と合流、先陣を切る様にして部隊の先頭に立った。

 

「敵は?」

 

『ザフトの二個中隊クラスが接近中、主にジンタイプとゲイツタイプの混成部隊と思われます。』

 

索敵能力を強化されたM1Aに乗るパイロットの報告を受け、一夏は自分たちの戦力と相手の戦力比を考慮した作戦の立案を急ぐ。

 

普段ならば、彼の愛機であるストライクが先行し、敵のフォーメーションを分断、その後に掃討を掛けるという単純極まりない作戦を採れた。

 

だが、それは一夏自身の高い能力と、ストライクの性能が併立してこそ成り立つ作戦であり、今回の彼の乗機ではとてもではないが実行できた作戦ではない。

 

それは彼も承知している所ではある、だが、味方に死者は出さないと決めている一夏の事だ、自分が多少の無理をしてでも、仲間や友を護りたいのだろう。

 

「よし、第六班と第五班は射撃援護、第二班は前衛、第三班は突撃援護だ、誰一人死なずに戻るぞ!」

 

『了解しました!』

 

彼は部下のMSパイロット達に通信を入れた直後、乗機のスラスターを吹かし、敵の軍勢へ突っ込んでゆく。

 

彼の接近を感じ取ったからだろうか、敵からビームやサブマシンガンの弾丸が飛来する。

 

しかし、彼はそれにすら気にも留めず、まるで泳ぐ様にして隙間を掻い潜って行く。

 

その直後、彼の後方に控えていたMS隊から援護射撃が発射され、彼を狙っていた敵陣のMSに突き刺さり、宇宙に光芒を煌めかせる。

 

「今ので二機撃破を確認!!三方向より攻めると思われる!各機警戒を続けろ!!」

 

彼は部隊に指示を出しながらも、M1Aが出せるトップスピードを維持したまま突撃を掛ける。

 

その彼を先に仕留めようという魂胆なのか、パープルの機体色を持った三機のジンタイプがビームライフルを連射しながら彼のM1Aへと向かってくる。

 

その機体は、ZGMF-1072M2 ジンハイマニューバ2型

ジンの改良型であるジンハイマニューバの直系機である。

 

直線加速における推力は先代機であるハイマニューバに劣るが、MSの利点である姿勢制御や、旋回能力は先代を凌駕している上に、ゲイツで初めて搭載された小型ビームライフルを標準装備しているなど、その性能はかなり高い。

 

現在開発途中であるザクウォーリアを除けば、制式配備から一年近く経っていてもその性能は高く、主に特殊部隊や精鋭部隊にのみ配備されている。

 

「そのMSは初めて見る、だが、ジンの形をしている以上、性能は大体分かる!!」

 

だが、所詮はその程度、週に二度は必ず海賊や正規軍の相手をするアメノミハシラという立場と、普段から質の高いパイロット達と行う訓練や模擬戦、そして、彼自身がこれまで戦ってきた強敵達と比べてしまえば、特殊部隊所属とは言えど、その辺に居る様なエースパイロット程度では彼の相手にはなり得なかった。

 

彼は接近してくるジンを牽制する様に頭部バルカンを掃射し、回避した一機に急接近してシールド裏に隠し持っていたビームサーベルを発振して両腕を両断した。

 

そのまま、振り向き様に背後を取ったもう一機の頭部を撃ち抜き、腕を斬ったジンハイマニューバ二型を蹴り、最後の一機へと蹴り飛ばす。

 

「悪いけど、搦め手だろうがなんだろうが、大切な人を護りたいんでね、御引き取り願おうか!!」

 

フレンドファイアを恐れて彼への攻撃を躊躇った一瞬の隙を突き、一夏はビームライフルでハイマニューバ二型のライフルと、腰に着けられていた刀の様な物を撃ち抜いて破壊した。

 

「それで言い訳出来るだろ、さっさと帰りやがれ!」

 

相手を殺さない訳ではない一夏だが、血が流れる事の痛みを知っているため、意味の無い戦いにおいてはなるべく敵にも味方にも死者は出さない様に心掛けていた。

 

無論、それは欺瞞であり無謀であるが、今ある命をみすみす消えさせるなど、彼には到底出来なかった。

 

だからこそ、彼は自分の力の行使を傲慢と取られても構わないと、彼はその力を振るう。

 

仲間を、大切な人を護る為に・・・。

 

その時だった。

 

――ほう・・・、面白い奴がいる・・・――

 

「っ・・・!?」

 

彼の脳裏に言葉が迸った。

 

周りを見渡しても、そこにあるのはただ煌めく地球と、その手前にあるアメノミハシラだけであり、彼にプレッシャーを与えるモノなど無い筈だった。

 

「この感じ・・・!まさか、奴か・・・!?」

 

だが、その声に彼は覚えがあった。

 

自分自身の中にある、闇の化身の声だと・・・。

 

「姿を現せ・・・!悪霊が!!」

 

感覚が一際強くなったところに向けて、彼はライフルで狙撃した。

 

だが、その光条は目標を捉えることなく素通りし、代わりにビームが彼に向けて迫ってくる。

 

「きたっ・・・!!」

 

先程のビームを撃ったジンハイマニューバ2型が彼の方へと向かってくる。

 

その肩には、エースパイロット搭乗機である事を示す。竜のパーソナルマークが描かれていた。

 

――中々やる、私の相手に相応しい!!――

 

そのジンはビームライフルを捨て、腰に着いていた刀の様なものを引き抜き、彼の乗るM1Aに斬りかかる。

 

だが、その程度でやられる一夏ではなかった。

振るわれる刃を紙一重で躱し、左手に保持していたサーベルで斬り付ける。

 

しかし、どうやら先程の戦闘を見られていたからか、相手は先読みのごとく機体を伏せて回避し、回し蹴りを叩き込む。

 

「むんっ・・・!!」

 

全身が揺さぶられる感覚を堪え、一夏は吹っ飛ばされながらもライフルを投擲し、相手に防がせる事で追撃を回避した。

 

だが、これで彼は手持ちの武器を一つ失った事になり、残っているものはサーベルが二つと頭部バルカンのみとなった。

 

「これで充分!当たらないモノを持っててもっ!!」

 

普段の彼ならば、武器を粗末にするようなことはしないが、強敵と戦う時にそんな事を言ってはいられないのだ。

 

彼は右腕にも残ったサーベルを保持させ、ビームを発進させながらも、自分の影とも呼べる敵へと迫った。

 

「ハァァっ!!」

 

右手に保持するサーベルを振るうが、ジンはシールドで受け流し、刀を振るう。

 

しかし、それを見越して動いていた一夏はシールドを掲げると同時に逆手に持ち替えたビームサーベルを突き立てようとした。

 

「これでどうだっ!?」

 

だが、彼の攻撃を紙一重で躱し、ジンは頭突きをする様に身を乗り出すが、彼はスラスターを強引に吹かす事で機体を前に出し、激突させて相殺した。

 

「コイツ・・・!強いっ!!」

 

コートニーと同レベルとまでは行かなかったが、自分と思考が似ている分やり辛いと感じたのだろう、彼は相手の悪さに歯噛みしていた。

 

戦闘面での思考が似ているという事は、相手が考える手の内も自ずと分かってくるという事であり、決着も着きにくいという事に他ならなかった。

 

だが、彼は退く事など考えなかった。

 

護りたい人がいるから、今度こそ、嘗ての自分と決別したいから・・・。

 

それだけの想いを胸に、彼は再び間合いを詰めた。

 

sideout

 

side一夏

 

「このっ・・・!墜ちろぉぉっ!!」

 

バルカンを撃ちかけながら死角を取ろうと機体を動かすが、奴はその先を読んで機体を回避させてこっちを誘い込んでいる様に攻撃を仕掛けてくる。

 

クソッタレ・・・!過去の俺に仕込まれた人格の一つと戦う事になるなんて思いもしなかった・・・!!

 

――良い!良いぞ!!もっと楽しませてくれ!私に恐怖を感じさせてくれ!!――

 

接触回線の通信などではない、脳に反芻してくるような声に、俺の怒りが掻き立てられていく。

 

怒りと憤り、そして、嘗ての所業と救えなかった人たちの最期が俺の頭に浮かんでは心を掻き乱す。

 

だけど、逃げてたまるものか!

 

あのまま何もかも考えないで人形のままでいられたらどれほど楽だったか、何も感じずにいられたらどれ程心地の良いモノだったか!

 

でも、それは俺じゃない、俺の形をした何かにしかならない!

 

怒りも悲しみも憤りも、人間に戻れたからこうやって感じられる。

 

友の大切さも、信じてくれる人の想いも、そして、愛する人から向けられる愛を感じられる!

 

それが俺の罪ならば、俺は逃げない!今度こそ、闇と向き合ってみせる!!

 

決別の意志を籠め、俺はジンのコックピット目掛けてサーベルを振るい続ける。

 

コイツに手加減なんてしていられる状況じゃない、だったら、俺は全力でコイツを討ち取るだけだ!!

 

――良いぞ!それで良い!私を楽しませてくれ!!――

 

「こんな事が楽しいもんか!!お前なんかと戦っても、楽しくもなんともねぇ!!」

 

奴が振るってくる刀を何とかシールドで防ぐが、これも何時まで持つか・・・!

 

向こうは実体剣を使ってくる以上、M1Aのシールドでは何時か叩き斬られてしまう事は何よりも明らかだ。

 

だが、アレを何時までも捌けるほどエネルギーや推進剤にも余裕がある訳じゃ無い。

奴は俺をある程度消耗するまで戦わせてから仕留める積りだったんだろう、仲間を嗾けて来た時から何となくかんじた。

 

その捨て駒的な戦法、ムカつくなぁ・・・!!

 

無人機ならばともかく、この俺ですら生きてる友軍を捨て駒にした事は無い。

 

コイツ、相当戦いに飢えているのか・・・!

だとすれば、尚更捨て置けない!!

 

「ここで因縁を終わらせるっ!!」

 

左腕のサーベルを振り抜きつつ、その場で一回転した勢いを付けて右腕のサーベルを振り抜く。

 

だが、それは奴のシールドを捉え、切り裂いただけだった。

 

「しまった・・・!?」

 

誘い込まれたのかっ!

 

そう感じた時には既に遅い、奴は刀を振り抜いてM1Aのシールドごと左腕を持って行く。

 

――終わりだっ!!――

 

「くっ・・・!!」

 

体勢を崩した俺目掛け、奴は刀をコックピットに突き立てようと迫ってくる。

 

ここで・・・、ここで終わるのか・・・!?

 

何も出来ないで・・・、なにも残せないで・・・!

まだ、やりたい事だってっ・・・!!

 

幾ら悔やんでも、時が止まってくれよう筈も無い、刀は真っ直ぐ俺の方へと突っ込んで来て・・・。

 

『一夏卿!!』

 

その時だった、何処からともなくビームが飛来し、それと同時に通信が入る。

 

――なにっ・・・!?――

 

不意打ちに驚き、奴は攻撃の手を一瞬止める。

 

だが、それは俺にとっては生への好機っ!!

 

「おぉぉぉぉっ!!」

 

ビームサーベルを横薙ぎし、奴の右手首を切り落とす事だけは叶った。

 

もっとも、体制も崩れ崩れだったから、それが精一杯ってのもあったが・・・。

 

改めて振り返ると、幾つかのスラスター光がこちらへと向かって来てる。

 

恐らくは、アメノミハシラのMS隊なんだろう。

 

――くっ・・・!これでは戦えんかっ・・・!!――

 

損傷状況と数の振りから戦闘続行は不可能と判断したのだろう、奴はスラスターを吹かして宙域を離脱していった。

 

「何とか退いてくれたか・・・。」

 

安堵すると同時に、俺はヘルメットを脱いで籠った熱を逃がす。

あぁ、嫌な汗で濡れちまってる・・・、早い事シャワー浴びてぇ・・・。

 

『一夏卿!御無事ですか!?』

 

そんな事を考えていると、俺の下へM1Aの一個小隊が合流してきた。

 

さっきのビームも、彼等に助けられた形なんだろう。

 

「あぁ、助かったよ、お陰で命拾いしたよ、味方の損害は?」

 

『負傷者ゼロ!全機無事です!!』

 

俺は、護れたのかな・・・、いや、護って貰ったのかな・・・。

 

誰かに慕ってもらえる事が、これほどにない歓びになるなんて、昔は考えもしなかったな・・・・。

 

「ありがとう、さ、戻ろうか、俺が一杯奢ろう。」

 

『了解!!』

 

その心地いい感覚を胸に抱き、俺は機体を我が家へと向けた。

 

何時かは、この闇も晴らせるように、光を掴めるように、と・・・。

 

sideout




はいどーもです。

私ごとですが、今月からとある国家試験に向けての対策講座が始まるため、更新ペースをまたしても落とさなければならない状況になってしまいました。

今度こそ、不定期更新になってしまうかもしれませんが、今後とも私どもの小説をよろしくお願いいたします。

それでは次回予告

氷河の奥に秘められし想い、それは十字に籠められし希望か・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

グレイシア

お楽しみに


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グレイシア

noside

 

C.E.73年四月某日、オーブ上空の衛星軌道に存在するアメノミハシラは、普段と変わらぬ威厳を誇って聳え立っていた。

 

その宙域に近づく、幾つものMSの機影を除けば・・・。

 

「これより、アメノミハシラの攻略を開始する、気合入れてかかれよ、生活が懸かってるんだからな。」

 

その内の一機、連合の105ダガーの海賊仕様に乗るリーダー格の男は、手下達に指示しながらも、地球の青を背に受けて聳える城を見た。

 

彼の機体のバックパックには、自作したのだろうか、ランチャーストライカーに無理やりシュベルト・ゲベールをくっ付けた様な装備だった。

 

一見して不格好だが、手数を増やせればなんでもいいのだろう、突っ込むのは手下たち、ジャンクから直したジンやゲイツが主だった。

 

「これで失敗すれば、明日からは白飯にはありつけん、無茶をしてでも乗っ取るぞ!」

 

戦後の軍縮で職にあぶれた彼等は、宇宙空間を漂うMSを自力で掻き集め、動けるMSで略奪を繰り返しながらも漸く海賊軍とでも呼べるような規模の戦力を揃えた。

 

しかし、できたのはそこまでだった、MSや武器を揃えるのが精一杯で、それで資金が尽きてしまったのだ。

 

そのため、生活をどうにかするため、彼等は今だ陥落の恐れすら見せないアメノミハシラへと進撃、一気に億万長者への道を駆け上がるつもりなのだろう。

 

彼らの前に聳えるその城を統べるロンド・ミナ・サハクの優雅さをそのまま体現したかのように、アメノミハシラは地球の青を受けて煌めいていた。

 

だが、その優雅さとは裏腹に、アメノミハシラはオーブから実質上離脱しているだけではなく、一国が保有する以上の戦力を有し、尚且つそれに見合うだけの技術力を兼ね備えたMS製造ファクトリーを抱えていた。

 

しかも、そのファクトリーは何処にも所属していないにも関わらず、世界トップクラスの質を誇っている。

 

そう来れば、連合もザフトも、大戦が終わってから自陣勢力の回復を計るためにMS生産ファクトリーをほしがるのは必至だった。

そのため、世界トップクラスのファクトリーを持つアメノミハシラを何度も襲撃しているが、どれも失敗に終わっている。

 

それだけではない、連合やザフトから出される賞金や勲章を目当てに、海賊や傭兵が幾度となく奇襲をかけたが、一度たりとも成功した試しはない。

 

いや、それどころか、逃げる手段を奪われた挙句、壊されたMSを修理してやる代わりに法外な料金をせしめる事も多々あるため、泣きっ面に蜂状態であるのは分かるだろう。

 

だが、それを推し測っても、アメノミハシラを落とせば勲章と報奨金、もしくは経営の金で孫の代まで潤うとまで言われているのだ、是が非でも手に入れたい要所であるのは変わりないだろう。

 

故に彼等は無理を承知で、生きる為に進む以外残されていない道を行くしかないのだ。

 

しかし、正規軍や海賊、手練れの傭兵が幾度となく襲撃を掛けても、天空の城を落とせない事には大きな理由があった。

 

それは、アメノミハシラには、ロンド・ミナ・サハクの懐刀たる五人の猟犬がいるが故だった。

 

『頭!MSが一機、こちらに突っ込んできやがりますぜ!!』

 

手下の通信に目をやると、MSがたった一機で十五機はいるであろう、海賊のほうへと突っ込んでくるのが見えた。

 

映し出された機影に、彼は見覚えがあった。

 

「あれは、連合のGタイプか、ちょうどいい手土産になるぜ!」

 

それはGAT-X102 デュエルに近いフォルムを持っていたが細部が異なっていた、故に、彼はそのMSがデュエルのバリエーションであると推測し、特性を判断した。

 

「各機、射撃戦で行くぞ!あの機体は格闘戦主体だ、嬲り殺しにすりゃ、PS装甲なんざ意味ねぇ!」

 

『おうさ!!』

 

彼の指示に応えるように、部下のMSから一斉にマシンガンやビームが雨霰の様に撃ち出され、蒼い機体へと向かってゆく。

 

だが、その面の様に思える銃撃の隙間を縫うように、蒼い機体はあっさりと回避してしまう。

 

「なにっ・・・!?」

 

彼が驚くよりも早く、その機体は動いていた。

 

機体の両肩部と腰部から何かが射出される。

 

「回避っ・・・!?」

 

彼が散開するように呼びかける間もなく、彼の両サイドにいた二機のMSが、右足を残した手足と、装備されていた武装が瞬く間に寸断されていく。

 

「馬鹿なっ・・・!?この距離でだと・・・!!」

 

一瞬の内に二機を葬った敵に、彼は得体の知れぬ恐怖を覚えた。

それと同時に確信した、アメノミハシラが落ちぬ、本当の理由も・・・。

 

sideout

 

noside

 

「二日連続の襲撃ですわね、流石、ルキーニさんの情報ですわね、時間も規模も予想の範囲内ですこと。」

 

蒼の機体のコックピットで、パイロットのセシリア・オルコットは感心したように呟いていた。

 

自身の機体の仕上がりは勿論の事、それを試す機会にも感激しているのだろうか、その表情は力強い色に満ち満ちていた。

 

だが、彼女の瞳はその先を見据え、今から押し寄せるであろう敵機に狙いを付けていた。

 

先ほどの攻撃は、彼女が操る装備の特性を活かした業であり、彼女が最も得意とする戦法だった。

 

しかし、それだけでは終わらせない、まだまだ調べねばならないスペックは多々残っているのだ、まだほんの小手調べと言っても良いだろう。

 

故に、彼女は立ち止まらない、今、自分がやるべき事をやるために。

 

「参りますわ、プレアさん、私を見守っていて下さいませ。」

 

今は亡き弟への想いを胸に黙祷した後、彼女は決然と前を力強い目で見据えた。

 

「セシリア・オルコット!デュエルグレイシア、参ります!!」

 

操縦桿を押し込み、フットペダルを踏み込んだ彼女は、向かい来る敵の只中に向かって愛機、デュエルグレイシアを走らせる。

 

その機体はデュエルをよりセシリアの適正に合わせて改修した、正にセシリアのためだけのデュエルだった。

 

A.G.R計画はただ改修するだけではなく、ほかの人間がそのワンオフ機に乗っても性能を引き出せない仕様にすることが当初から盛り込まれていた。

 

故に、アメノミハシラ構成員で唯一、高度な空間認識能力を持つセシリアに合わせた機体とは、正に計画そのものの本質を表していた。

 

「行きなさい、クリスタロス!!」

 

ギリシャ語で澄み切った水を意味する名を持ったソードドラグーンが、まるで激流の様に海賊へと押し寄せ、その戦闘手段を奪ってゆく。

 

如何に海賊とは言っても、ドラグーンになど滅多に御目に掛かれない兵器には為す術もないのだろう、先程の二機と同じ様に、一瞬で手足と武装が破壊されて沈黙していく。

 

それならば、近接戦で倒してしまえば良いと言わんばかりに、残った十機ほどの機体が彼女の方へと殺到してゆく。

 

「そう来ることは織り込み済みですわ、ですので、こちらでお相手致しましょう!」

 

だが、セシリアはそれを読んでいたのか、敵機を攻撃しやすいように機体を動かして行く。

 

その際に、デュエルの腕に装備されていたビームガンが回転し、両手に収まった。

 

どうやら、装甲と一体化させて手を塞がない様にするための試みなのだろう。

 

接近してきたジンタイプの頭部を撃ち抜き、踏み台代わりにして加速、虚を突かれた敵に接近してビームを連射、腕と武器を全て撃ち抜いて無効化していく。

 

だが、彼女の背後からゲイツタイプが二機急接近、そのクローで刺し貫こうとしていた。

 

一機で敵わないなら集団で囲めば良い、そう考えた結果なのだろう。

 

だが、セシリアは焦る事無く機体を操作し、腕と一体化していた刃を展開し、トンファーの様に構えた。

 

そして、ビームクローを受け止めるや否や、展開していたソードドラグーンで手足もろとも切り刻む。

 

まさか、拮抗している所からの背面攻撃が来るなど想ってもみなかったのだろう、ゲイツは何も出来ずに沈黙した。

 

「御免あそばせ、決め技は何でも構いませんの。」

 

だが、セシリア自身は勝負を決めるのは自分の腕であり、戦術であると考えている、使える手なら、不意打ちも辞さないのだ。

 

「か、頭ぁ・・・!」

 

「わ、分かってる・・・!なんなんだアイツは・・・!?」

 

まさに悪夢としか言いようがない光景に、海賊達は恐れ慄いた。

 

僅か一分で味方機の半数が撃墜、しかもコックピットや動力部などを綺麗に避けた攻撃墜としているのだ、格が違いすぎた。

 

無論、まだ勝てる手が無いとは言えないが、それすら望み薄だろう。

 

「こ、こうなりゃアグニを使うぜ・・・!お前等、アイツの脚を止めておけ・・・!!」

 

戦艦すら一撃で沈められる威力を持つアグニで勝負を決めたいのだろう、彼は部下に足止めを命令し、アメノミハシラを狙いながらもデュエルを誘き出そうとしていた。

 

どうせなら、避けられない状況にしてから撃った方が撃墜できる確率も上がり、アメノミハシラにも損害を与えられると、一石二鳥であるのだ、それを採らない訳が無かった。

 

「半数を落としても、まだ向かって来ますか!クリスタロス!」

 

その作戦を知らぬセシリアは、鬼気迫る勢いで向かってくる敵に対し、ソードドラグーンで敵を切り裂きつつも、攻撃を回避していく。

 

だが、彼女は知らない故に徐々に誘い出されていたのだ。

嘗ての一夏でさえ滅多に使用しなかった、絶大な破壊力を持ったアグニの射線上に。

 

「これで十三っ・・・!?」

 

そこで気付いた、リーダー格の一機がアグニを構え、彼女を、厳密にはその後ろにあるアメノミハシラを狙っている事に・・・。

 

ここで自分が回避してしまったら、アメノミハシラは甚大な被害を被ってしまう、そうなれば、アメノミハシラの構成員の誰かが命を落とす恐れもあった。

 

「そんなことっ・・・!させません!!」

 

ならば、残された道は一つ、一歩も退かずに敵を討つ、それだけだった。

 

彼女はトンファーの様に大型の実体ソードを構えながらも、一直線に距離を詰めて行く。

 

「こっ、これで終わりだぁぁ!!」

 

実体を持った死が近付いてくる事に恐怖しているのか、海賊の長は上擦った声を上げながらも、アグニのトリガーを引いた。

 

砲口から迸る大出力ビームの奔流は何にも阻害される事なく突き進み、デュエルに直撃した。

 

アグニの直撃を受ければ、幾らワンオフ機でもひとたまりもないないだろう。

 

「や、やったか・・・!?」

 

勝利を確信しかけた彼の目に、信じられない光景が飛び込んで来た。

 

なんと、デュエルを避ける様にアグニの奔流が真っ二つに分かれて逸れてしまっていたのだ。

 

いや、逸れているのではない、斬られているのだ。

 

「そんな馬鹿な・・・!?アグニを切り裂いただとっ・・・!?」

 

如何に実体があり、切れ味が鋭い刃でも、所詮はその程度でしかない。

刀身に耐ビームコーティングでも施されていないのであれば、ただの打撃装備でしかないのだ。

 

「まさか、ラミネート装甲で出来ているのかっ・・・!?」

 

だが、彼は耐ビーム性を持つ装甲ラミネート装甲を思い出した。

 

ラミネート装甲はビームの直撃を排熱によって無効化できる代物だった。

 

しかし、それもC.E.71年現在での話であり、二年も経ったこのC.E.73年ではザフト、連合など正規軍のみならず、ラミネート装甲を一撃で貫通できるビーム兵器が民間にも出回っている為に、実質装備していても只の金食い虫にしかならない物でしかなかった。

 

「・・・っ!アメノミハシラっ・・・!!恐るべしっ・・・!!」

 

だが、彼は気付いてしまった、その機体が所属している場所を、その技術力を。

 

アグニを切り払ったデュエルは脇目も振らずに一直線に彼の方へと突っ込んでくる。

 

アグニは連射の利かない武器だ、このままではやられる。

 

そう考えるより早く、彼はシュベルト・ゲベールを抜き放ち、デュエルの刃を受け止めようとした。

 

だが、デュエルは左足の外側に着いていたスラスター兼用ラックから何かを引き抜き、ダガーに向けて投擲した。

 

それは、ダガーの右腕の付け根に突き刺さり、盛大に爆発した。

 

「ぐぁぁぁぁっ・・・!?」

 

切り結ぶつもりも無いとでも言うように爆ぜた勢いで体勢を崩した彼に、蒼い悪魔は距離を一気に詰めて両断した。

 

シュベルト・ゲベールを握り直す間もない、まさに一瞬の内に事は終わっていた。

 

あまりに美しい太刀筋に、スパークすら散らさない、まさに豆腐を斬ったかのようにダガーの両の腕は断ち切られた居た。

 

だが、幸いにも脚部と背面スラスターだけは無傷だ、逃げかえる事は出来るだろう。

 

「こ、こんなバケモノに勝てる訳がねぇ・・・!!」

 

勝てる見込みは何一つない、だが、ここで諦めれば明日からの生活は無い。

 

だが、戦いを続ける意思を見せれば、それこそこの場で未来どころか今すら消し去られる事は確かだった。

 

どうすれば良いのか、彼は決断を迫られていた、命を取るか、プライドを取るか・・・。

 

しかし、そんな彼等に最早興味を失ったのか、若しくは見逃してやるとでも言いたげなのか、デュエルは展開していたソードを折りたたんで格納、背を向けてアメノミハシラへと帰って行った。

 

だが、それと入れ代わるかのように、無数のMSのスラスター光が接近してくる。

 

「っ・・・!!」

 

その瞬間、彼は悟った、アメノミハシラのMS隊で、掃討、若しくは鹵獲の後、法外な料金をふんだくるつもりなのだと。

 

「は、破産する・・・!!お、オメェ等!に、逃げるぞぉぉ・・・!!」

 

『へ、へい・・・!!』

 

手下たちもマズイと思ったのだろう、彼の指示が出るや否や、すぐさま残ったスラスターを点火、一目散に撤退していった。

 

「も、もう海賊稼業なんて御免だぁ・・・!!あんな恐ろしい奴がいるなんて聞いてねぇよ・・・!!」

 

もうこんな危ない賭けは、それも負けが見えた賭けは懲り懲りだと言う様に、彼等は脇目も振らずに逃げ帰った。

 

余談だが、その後今回の海賊たちはあまりの恐怖からか廃業し、今は地球圏の何処かでデブリの清掃作業を請け負う業務をジャンク屋組合から依頼される事になったというらしい・・・。

 

sideout

 

sideセシリア

 

「セシリア、海賊退治ご苦労さん、グレイシアの初陣にしちゃイマイチな相手だったかな?」

 

「一夏様・・・、御出迎えありがとうございます♪」

 

愛機から降りた私を出迎えて下さったのは、私の愛しの旦那さまでした。

 

戦闘後の軽い疲労感はありましたが、ある種の高揚を抑えきれずに、私は一夏様に跳び付くようにして抱擁を交わします。

 

何時もなら人目を憚る所なのですが、たまにこうやって愛を確かめるのも、夫婦としての務めでしょう♪

 

「おっと、セシリアは甘えん坊だな、ま、後でたっぷり甘えさせてやるから、今は報告よろしく。」

 

まぁ♪でしたら、足腰立たなくなるまで可愛がって頂きましょうか♪

 

しかしながら、今はお仕事を優先させていただきましょう。

 

「デュエルグレイシア、とても素晴らしい機体ですわ、思うより先に機体が動きましたもの。」

 

一夏様から身体を離し、私の愛機の姿を見ながらも先ほどの戦闘を思い出しました。

 

私の目の前に聳えるのは、型式番号AG-GAT-X102 デュエルグレイシア。

 

英語で氷河という意味を持つ、私のデュエルを特殊近距離戦特化型へと改修した姿です。

 

デュエルのネックであった火力と防御力の不足を補うために、PS装甲で製作されたフォルテストラⅡを、本体のPS装甲と交換する形で装備し、増大した重量を補うための大出力スラスターを装備した姿です。

 

大きな特徴といえば、やはり肩部と腰部に二基ずつ装備されたドラグーンが大きいでしょう。

 

開発スタッフの皆さんの尽力のおかげもありまして、バッテリー機であるデュエルでもドラグーンをメインウェポンとして使用できるまでに低燃費仕様へと改良してくださったものを搭載しております。

 

とはいえ、高度な空間認識能力を保持していなければ使いこなせないという欠点はそのまま残っておりますが、私以外の人がこの機体に乗り込む事はないでしょうし、大した問題ではないでしょう。

 

さらに、近接戦能力を強化するために装備されたのが、私の意見を反映して製作されたビームピストル搭載型耐ビームソード クロイツルゼルです。

 

刃に特殊な加工を施したレアメタルを使用することにより、ラミネート装甲以上の耐ビーム性の確保と、宗吾さんがグレイブ・ヤードから持ち帰ったガーベラ・ストレートのデータを参考にした切れ味を誇る、この機体の最大の武器といえる装備です。

 

かつての私が好んで使ったビームピストルも持ち替えの隙を生まないために一体化したために、構造は複雑になりましたが、私としては満足のいく仕上がりとなっていました。

 

内面にもかなり手を加えてはおりますが、特筆すべき点ではないでしょう。

 

「本当に・・・、良い機体ですわ、私の想いを、どこまでも届けてくれるような・・・。」

 

嘗てのドラグーンにも、私は願いを籠めていたでしょう、ですが、今のドラグーンに託す願いは、機体に対する想いは、あの時とは全く違うものになるでしょう。

 

倒すためでも、滅ぼすためでもない、護るための想いと願いを、私は愛機に籠めます。

 

「そうだな・・・、願い続ければ、いつかきっと届くさ。」

 

いつか、きっといつの日にか、氷河は解けてグレイセス(尊きもの)へと変わっていくことでしょう。

 

人の祈りに善悪はない、それを悪しきものにしない事こそ、私のすべき事なのです。

 

人を信じ、人の温もりを愛して、人としての愛を信じて生き抜いた、彼の想いを、私は継いで行ける、これからも。ずっと・・・。

 

sideout




次回予告

影に生き、影として闇を払う、それが未来へと繋がると信じて。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

スキアー

お楽しみに


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スキアー

noside

 

「くっそ・・・、俺としたことが、ドジッった・・・!」

 

地球圏のデブリベルト付近を進む小型艇のコックピットで、一人の男が周囲を警戒しながらも毒づいていた。

 

彼の名はケナフ・ルキーニ、裏の社会では名の知れ渡った凄腕の情報屋であり、その手腕を高く買ってアメノミハシラやサーペント・テールは彼に情報を買いに出る程だった。

 

普段の彼は不敵な笑みを崩さないが、今の状況が思わしくないのだろう、その表情は硬かった。

 

レーダーに目をやれば、いくつもの光点が彼を追う様に迫ってくる事も確認できる。

 

「折角御大将が喜びそうな情報を取り付けられたってのに・・・!あの女狐に勘付かれるとはっ・・・!!」

 

彼は今に至る前に、プラント側のとある人物から依頼を受けていたのだ。

 

その人物はアメノミハシラの将軍、織斑一夏の知り合いだと言っていたため、彼は少々警戒しながらもプラント本国に出向いて直接依頼内容を受け、その言葉が事実だと言うことを確認してアジトの一つへと戻ろうとしている最中だったのだ。

 

しかし、ルキーニが対立している組織の構成員が後を付けていたらしく、プラントを出て間もなく、連合の戦艦とMSに追われる羽目になったのだ。

 

更にタチの悪いことに、どうやら彼を追跡している部隊は公式部隊ではなく、裏の暗殺をメインに働く部隊のようだ、執拗な追跡やその無駄の無さからそれが窺い知る事が出来た。

 

尚且つ、ミラージュ・コロイドで姿を隠しているからなのか、辺りには何も見えなくとも光点だけが接近してくるという、嫌なプレッシャーの掛け方だ、優れた情報屋であっても戦闘要員ではないルキーニの体力と精神力はすでに限界に近づいていた。

 

そんな彼に、もう鬼ごっこはお終いだといわんばかりに、ミラージュ・コロイドを解除した三機の敵機が姿を現した。

 

その機体は、GAT-S02R NダガーNだった。

 

連合軍主力MS、105ダガーにGAT-X207 ブリッツのデータを用いてマイナーチェンジさせた機体である。

 

ブリッツの課題であったミラージュ・コロイドによるエネルギーの圧迫を、条約で禁じられている核エンジンを搭載する事で解消、実質上無限のステルス機能を有した機体へと進化させたのだ。

 

しかし、条約違反を犯している機体である事は間違いなく、今回のような隠密作戦や、表沙汰にならない暗殺などをメインに活動する裏部隊を中心に配備されている。

 

しかも、その裏部隊はルキーニと敵対する組織の長の息が強く掛かっており、彼を殺害するように命令を受けてきたに違いないとは、想像に難くなかった。

 

「くそっ・・・!俺の悪運もここまでか・・・!!」

 

如何に動きの速い宇宙艇とはいえど、所詮は直線加速のみ、旋回能力はMSのそれよりも遥かに劣る。

 

つまり、デブリベルトやその付近では、圧倒的にMSのアドバンテージがあった。

 

それを教えてやるつもりなのか、一機のNダガーNがデブリを蹴って急接近、左腕のクローを展開してその刃を突き立てようとした。

 

もうだめか、彼が覚悟を決めたその瞬間、何もいなかった空間から突如としてビームライフルの光条が彼らの間目掛けて撃ちかけられた。

 

それは牽制として放たれた様に見えて、実際は宇宙艇に迫ったNダガーNに向けられており、それを察知した機体はすぐさま機体を宇宙艇から離した。

 

「助かったっ・・・!?」

 

彼がその先に目をやると、地球の蒼をバックに佇む漆黒のMSの姿が飛び込んでくる。

 

「ゴールドフレーム天・・・、いや、違う・・・!?」

 

彼の記憶の中にある、自分を利害関係の一致で救ってくれるような人間で、黒い機体に乗る者はアメノミハシラのロンド・ミナ・サハク以外考えられなかった。

 

だが、彼の目の前にいる機体には、その特徴的な翼がなく、左腕が肥大化したかのような独特な姿をしていた。

 

だが、それ以外の機体外観に、彼は見覚えがあった。

 

その機体の名は・・・。

 

「ブリッツ・・・?」

 

sideout

 

noside

 

「あっぶねぇ・・・、何とか間にあって良かったぜ・・・。」

 

ルキーニの窮地を救ったMSのコックピットに座しているパイロット、神谷宗吾は自分の射撃が護衛対象であるルキーニが乗る宇宙艇に当たらずに済んだ事に安堵し、盛大なため息を吐いた。

 

彼の射撃の腕はお世辞にも抜群とは言い難いものであり、射撃は苦手と自称する一夏と同レベルという程度だったならば尚更だ。

 

とはいえ、その一夏や主のミナのスペックが高すぎる事と、射撃専門のシャルロットに囲まれてしまえば、必然的に自分の腕を信じられなくなってもおかしくはない。

 

だが、彼も紛う事無きスーパーエースに近い存在であることは疑う余地もない。

 

「さてと・・・、キッチリ護らなくちゃ、あの計画もおじゃんになる、何としてもな・・・!」

 

自分を救ってくれたロンド・ミナと、友人であり、救いたい相手である一夏の姿を思い浮かべ、彼は操縦桿を握りなおし、決意と共に前を向く。

 

進みたい明日を、そのカギとなる者を護るために。

 

「神谷宗吾!ブリッツスキアー、いくぜっ!!」

 

漆黒の烏が今、その爪を突き立てるべく動き出したのだ。

 

「NダガーNか!コイツのテスト相手には打って付けだな!」

 

宗吾は巧みにデブリを蹴ってスラスターをなるべく使わない移動法を用い、牽制の為のビームライフルを撃ちかける。

 

しかし、敵も腕利きを集めた特殊部隊だ、そんなもの苦もなく回避し、宗吾の愛機、ブリッツスキアーへと迫る。

 

同じタイプの機体同士、しかもこちら側が数が多い、更に言えば核動力も持っているというこれほどまでに無いアドバンテージを持っている、これで負ける筈があるだろうかとばかりに、三機のNダガーNはビームライフルを撃ちかける。

 

「そんな攻撃!当たるかっ!!」

 

だが、相手の射撃がそれ程巧くないと判断した宗吾は機体を逸らすだけで回避、自身の愛機を奔らせる。

 

散開した内の一機に急接近し、右腕に装備しているトリケロス改Ⅱで切りつける、と見せかけて、ガードの体制を取ったNダガーNを蹴り飛ばし、ビームを撃ちかける。

 

「少し大人しくしといてくれ、核機体は爆発すると厄介なんでね。」

 

この近距離で核分裂炉が爆発すれば、自分も危険だと判断し、彼は武装が集中する右腕を肘から撃ち抜いた。

 

だが、それだけではない、彼は如何に敵でも生きる命を奪いたくはないのだ。

 

一夏の様に心にこびり付いて剥がれないトラウマを持っていなければ、今だ人を殺すような覚悟も持てない。

 

いや、だからこそかもしれない、誓いを立てればそこから逸脱することも無くなり、その信念の下に戦うことが出来る。

 

故に、彼は戦う、仲間も、友も、そして、生きる者すべてを守りたいと誓ったから。

 

だが、敵にはそんな彼の信念など知った事ではない、ブリッツスキアーを囲う様に二機のNダガーNが忍者刀を構えて迫ってくる。

 

所謂、挟み撃ちで確実に葬る心算なのだろう。

 

「見えてるぜっ!お前からだっ!!」

 

しかし、普段から戦闘能力の高いメンバーと刃を交える事の多い宗吾は怯むことなく、前方から迫る一機に向けて突進、今まで隠していた左腕を展開した。

 

丸められた拳に見えたそれは、展開することで猛禽類を思わせるクローへと変化し、敵の腕を刀ごと捕縛した。

 

その武装の名はハービヒト・ネーゲル、グレイプ・ニールから発展した大型クローである。

 

本来ならば、そのままマガノイクタチでエネルギーをすべて奪うところだが、相手は核エンジン機だ、幾らエネルギーを奪っても意味がない上に、接触したままでは攻撃を避けることも出来ない。

 

故に、彼はマガノイクタチを発動させながらも間髪入れずに右腕で右腰に装備していた直刀を引き抜き、シルト・ゲベールで切り付けてきたNダガーNの右腕を根元から断った。

 

「次っ!!」

 

そして、背後から斬りかかる最後の一機に振り向きながらも、彼は掴んでいたNダガーNを放り投げて両機の動きを封じようとした。

 

それは見事功を奏し、二機のNダガーNは激突して僅かに体勢を崩す。

 

それに狙いを付け、宗吾はトリケロス改Ⅱ裏に装備していたピストルを左手に握らせてトリガーを引く。

 

その銃口から弾丸が発射される直前、僚機を蹴り飛ばしたNダガーNはその射線から離脱した。

 

だが、蹴り飛ばされ避けることもままならない機体は頭部と武装の集中する右腕をピンポイントで撃ち抜かれる。

 

「チッ!味方を犠牲にしてまで任務が大事かよ!」

 

味方の命をも投げ捨てるその戦術に憤り、彼は舌打ちしながらも吐き捨てた。

 

彼にとって、味方とは、仲間とは何者にも代えがたい存在であるのだ、それを犠牲にする行為は、何よりも許し難い。

 

だが、そんな事など知った事かといわんばかりに、NダガーNはミラージュ・コロイドを展開、その姿を隠して攻撃を仕掛けようとした。

 

同じ機種とはいえ、エネルギー的に大きなアドバンテージをNダガーNは持っている、ならば、徐々にいたぶって精神をすり減らし、弱ったところを壊せばいいと考えたのだろう。

 

しかし、その手は宗吾も既に読んでいる、いや、それ以上のものを彼は隠し持っていた。

 

「甘いっ!俺だって何回もやった戦法だぜ!!」

 

すかさず彼はトリケロス改Ⅱから何やらミサイルのようなものを発射し、それは十メートルほど進んだところで爆ぜた。

 

すると、すぐ傍にいたNダガーNのミラージュ・コロイドが解除され、その姿を現した。

 

「掛かったな!それは対MC特殊弾頭だ!これでもう隠れられんぞ!!」

 

それはどうやらミラージュ・コロイドを一時的に無効化する効力があるらしい、言ってみれば、アンチ・ミラージュ・コロイドのフィールドを張った様な物だ。

 

それを見越していた宗吾はすぐさま直刀を抜刀し、一気に間合いを詰めていく。

 

あまりの事態に硬直してしまったNダガーNが動こうとした時には既に避けられない間合いにまで詰められており、もはや為す術は失われていた。

 

そして、彼の華麗な刃がNダガーNの手足を、豆腐でも切り裂くようにして切り落とした。

 

核爆発させても危険だと考えた彼は、ひとまず目的を果たすことを優先することにしたようだ、直刀を腰の鞘に納め、先に行った小型艇を追う様にデブリの中へと消えていった・・・。

 

sideout

 

side宗吾

 

「宗吾、ルキーニの護衛任務、ご苦労であった、ここまで早く戻って来れるとは思いもしなかった。」

 

アメノミハシラに戻った俺を出迎えたのは、一夏では無く主であるロンド・ミナだった。

 

珍しい事もあるもんだが、今回の護衛対象の事を考えればそうでもないんだろうな。

 

「お褒めに預かり光栄だ、まぁ、情報屋を匿うにはちょうどいい時期だろうからな。」

 

ミナに軽く頭を垂れて、俺は後ろにいた情報屋、ケナフ・ルキーニを彼女の前に立たせた。

 

今回のメインは彼だ、俺は単なる護衛人でしかないんだから。

 

ちなみに、彼が使っていたシャトルは攪乱の為にデブリベルト外縁で破壊させてもらった。

 

事故ったか、若しくは別の勢力が襲撃したかのように見せかける事が出来たらベストという体でやっって来た。

 

勿論、それらしくみせて来たし、上手く誤魔化せると良いんだが、期待しないで過ごしますかね。

 

「助かったぜ、ロンド・ミナ、それから、忍びの旦那もな、これからは力の限り協力させてもらうぜ。」

 

「頼りにしている、一夏にも会ってやってくれ、今回はそのために来たのだろう?」

 

一夏に用事・・・?一体何の事だ?

 

ツートップの思惑はあまりよく分からんことも多いが、後で感心させられる事も多々あるから、俺は突っ込まない様にしてる。

 

けど、裏で色々やってるんだろうなぁとは思ったりもする。

 

今回は何処をどんな風に強請るのやら・・・。

 

「あぁ、渡したい伝言が有ったんだ、それを届けに行くとするか。」

 

「うむ、では宗吾、そなたもゆっくりと休め、次があるぞ。」

 

「了解した!」

 

ミナとルキーニを敬礼して見送り、俺は改めて愛機の方へと向き直った。

 

今はPSを落としているから暗灰色の装甲をした機体は、先程まで陰に紛れて戦った最高の機体だ。

 

型式番号はAσ-GAT-X207、その名はブリッツスキアー。

 

A.G.R計画に基いて、ブリッツを更に隠密戦及び、奇襲戦用に特化させた俺専用のブリッツだ。

 

基本コンセプトは極力変えずに、不足していた火力の強化と稼働時間の延長を主な改良点に据えて開発が続けられ、俺の意見も多分に反映して完成させたんだ。

 

左腕の肘から下は一見して巨大な握りこぶしの様な物に置き換わっているが、それはクローの収納状態でしかない。

展開すればそれは正に大鷹の爪の如く敵を捕えて離さない強力な武装になるモノだ。

 

外見で他に変更した点があるとするなら、頭部のセンサーアンテナが一回り巨大化された事と、スラスターカバーが更に大型化して、推力も上がった事ぐらいだろうか。

 

一番変わったのが武装だよな、イーゲルシュテルンの改良型が胸部に装備されたり、両腰に刀一本ずつ着けてるし、トリケロスは実体剣としての機能を持たせたり、ハンドガン隠したりしてるし、更にえげつなくなったよ。

 

まぁ、俺の意見が一番反映されたのは、対MC特殊弾だな。

 

あれをランサーダートの代わりに二発装備してるから、一回の戦闘で二回は隠れた敵の存在を炙り出せる。

 

尤も、こっちもミラージュ・コロイドを使えなくなるっていう欠点もあるから遣いどころは考えないとすぐにやられちまうな。

 

ま、味方護れるなら少しの苦労ぐらい背負ってやらないとな。

じゃないと、一夏と肩を並べられねぇから・・・。

 

この機体を完成させるにあたって、一夏から言われた事は、俺はあまり表に出さないという事だった。

 

ユニウス条約が締結された今、古い機体の改修型とはいってもミラージュ・コロイドをMSやその他兵器に使用する事は禁じられている。

 

アメノミハシラは何処の国家にも属していないとは言っても、それを破れば独立国家では無くただのテロリスト認定されてしまいかねない。

 

故に、彼は散々悩んだ挙句に俺を裏の重要な仕事のみに当たらせる事にしたんだそうだ。

 

まったく・・・、言ってくれりゃ俺も一緒に考えたのにな、妙な所で律儀な男だよ・・・。

 

「なーに黄昏てんの?そんなにブリッツが好きなの?」

 

そんな事を考えていた時だった、玲奈が俺の傍に歩み寄り、肩を叩いて意識を呼び戻してくれる。

 

彼女も、随分と刺々しさが消えて女らしくなったもんだ、一部分以外は。

 

「まぁな、玲奈の次位には好きだ。」

 

「はいはい、アタシもアンタが好きよ。」

 

こんな感じで軽口を言い合える様になったもんだ、昔はもっと固い感じでピリピリしてたしなぁ。

 

そりゃそうか、今とやる事は変わらなくても、昔は明日命があるか分かったもんじゃなかったしな。

 

明日を考える余裕が出来るってのは、本当に良い事なんだな・・・。

 

ま、今は彼女を見つめるとしようかな、俺の大切な生涯の相棒をな。

 

「なんなら、機体の報告会兼ねて飯でも食うか?酒も用意するし。」

 

「ん、そうね、一夏達抜きで二人っきりで呑みましょ。」

 

俺の言葉に頷いて、玲奈は何処か楽しげにスキップして先に行ってしまう。

 

やれやれ、可愛らしいお嬢様は気紛れだこって。

 

そんな事を考えつつも、俺はブリッツスキアーにもう一度向き直り、軽く敬礼した後に彼女を追う。

 

これからも、影として生きて、未来を作ろうと心に誓って・・・。

 

sideout

 




次回予告
一夏に届けられた情報と、とある依頼が彼をまた進ませる。


次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

空を駆ける

お楽しみに


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大空を翔る 前編

side一夏

 

憂鬱だ・・・、どうしてこんな事になるのか・・・。

 

地球のとある場所で、俺は周りにいる人間に気付かれない様に小さく溜め息を吐く。

 

今、俺はとある国のとある応接間にて、俺は今回の仕事の要となる人物との接触を図ろうとしていた。

 

あぁ、本当に億劫だ、出来ればこの国の中枢とは極力関わりたくない。

この国には色々と厄介な爆弾や地雷がゴロゴロと転がっていて、下手すりゃそれがアメノミハシラにまで飛び火する、本当に厄介だ・・・。

 

だが、今回は親友の頼みだ、少しでも無茶しないとやってられないからな。

 

そんな事を考えながらも、壁の模様を目で眺めながら待つ事数十分、漸く扉が開き、SPに囲まれた一組の男女が応接間に現れた。

 

「おぉ!アメノミハシラから遠路遥々お越しいただき、感謝する、織斑卿!」

 

その内の、薄い紫の髪を持った男がへらへらとした笑みを浮かべながらも、俺の方に握手を求めてやってくる。

 

「ご多忙の中、お時間を下さり誠にありがとうございます、ユウナ・ロマ。」

 

指紋を残さない為に付けていた手袋を外し、俺は男、オーブの軍事官僚であるユウナ・ロマ・セイランと握手する。

 

俺とそんなに歳も変わらんと言うのに、ボンボンの顔してやがる・・・、こんなやつが国の中枢にいて良いのか・・・?

 

ま、他人様のお家事情なんて知ったこっちゃない、俺が考えるのは俺の家の事情だけで良い。

 

「あまり時間が取れずに済まない、私がオーブ首長国連合代表首長、カガリ・ユラ・アスハだ、よろしく頼む。」

 

ユウナ・ロマとの握手を解くと、何処か影のある笑みを浮かべた少女、カガリ・ユラ・アスハが握手を求めて手を伸ばしてきた。

 

勿論、それを拒む理由も無い、それに、最初は外面良くしてりゃ、話も進みやすいだろうしな。

 

「いえ、私どもの為にお時間を設けて下さって光栄です、私は織斑一夏と申します、御見知りおきを。」

 

彼女とも握手を交わし、俺は促されて着席する。

 

さて、もうここがどこだかお分かりだろう。

そう、ここはオーブ本島の行政府の一室なのだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

時は遡る事半月前、宗吾が助けたケナフ・ルキーニによって齎されたとある依頼から始まった。

 

「プラントの人間から、映像メール・・・?俺にか?」

 

「御大将に直接渡せと依頼されたからな。」

 

「そうか、ありがとうルキーニ。」

 

ルキーニから手渡されたビデオメールのメモリーを掌で弄びながらも、一夏はこれをどうするべきか考えていた。

 

自分の正体が何故プラントに知れてしまったのか、それに合点が行かなかった。

 

確かに、自分は何度かザフトと交戦しているし、何度も親友と刃を交えて来た身だが、それ故の情報管理もキッチリ熟していた筈だ。

 

仮に、自分の素性を親友が勘付いていたとしても、彼はそこまで思慮が浅い人物では無いため、プラントの上部にまで情報は行かないだろう。

 

そして、もし自分の事をプラントの上部が知っていても、こうやってわざわざビデオメールを寄越すはずが無い。

 

「どうしたもんか・・・、なぁ、ミナ・・・。」

 

「そなたが決めると良い、私はそなたを尊重したい故にな。」

 

「そりゃどうも・・・。」

 

ミナは彼がどうするかが気になっているのだろう、判断の全てを委ねる積りでいるのだろうが、少しは気にしてくれと言わんばかりに彼は乾いた笑いを零した。

 

「じゃあ、一緒に見てくれ、それからどうするかは俺が決める。」

 

「うむ、それならば良かろう。」

 

内容を確認する事だけはやってくれと言いたげな一夏の懇願に折れたか、ミナは仕方ないと言わんばかりの苦笑を浮かべて席に腰を下ろした。

 

一夏は慣れた手付きで機材を弄り、メモリーに入った映像を再生した。

 

『・・・、これで映っているか・・・?』

 

映像には何処かの部屋と、この映像を撮っているカメラを弄る男性がいた。

暫くゴソゴソとカメラを弄っていたが、しっかり撮れている事を確認し、椅子に腰掛けてレンズを見据えた。

 

『拝啓織斑一夏卿、プラント兵器開発局所属のコートニー・ヒエロニムスだ、このような形で便りを送る事を許して欲しい。』

 

「コートニー・・・!」

 

その送り主に合点が行った一夏は、席を蹴飛ばす様に立ち上がった。

 

そう、その送り主は彼の親友であり、幾度となく刃を交えたライバルだったのだ。

 

『今お前がどこにいるかは敢えて聞かないが、出来れば俺に力を貸して欲しい。』

 

彼の困惑と歓喜を知らずに、画面の向こうのコートニーは話を続ける。

 

『これは極秘事項なんだが、今度新型のMSのテストを地球のカーペンタリアで行う事になった、だが、カーペンタリア周辺だけでは正確なデータが録れないと上層部から指摘があった。』

 

「つまり、場所を提供してほしいってか・・・?」

 

コートニーの説明から、何かを感じ取ったのだろう、一夏はその先の説明を予測するように呟いた。

 

『察しの良いお前なら分かるだろうが、オーブのオノゴロ島とカーペンタリアを試験の間だけ行き来出来る様に協力してもらえないだろうか?もちろん、協力の報酬は俺がキッチリ用意させてもらう、オーブ本国にも、お前にも渡るように・・・。』

 

「コートニーの奴・・・、俺の立場気付いてやがるな・・・?」

 

協力させる気満々なコートニーの説明を聞きながらも、彼は苦笑しつつ後頭部を掻いた。

 

別段、協力しても良いのだが、オーブ本国は彼にとってあまり良い印象が無いために関わりたくないのだろう。

 

無論、報酬と言う言葉を聞き逃さなかったわけだが・・・。

 

『本来なら、こんな事を頼むのは筋じゃないと分かってる・・・、だが、お前と一度顔を合わせてみたい、それが、お前の友としての俺の気持ちだ・・・。』

 

「コートニー・・・。」

 

『ちゃんと会って、酒でも飲みながら話そう・・・、良い返事を期待している。』

 

本心を真っ直ぐ伝えられた一夏は、一瞬目頭が熱くなるような感覚を感じる。

その雫が零れる事は無かったが、それでも、感激しているのだと分かっていた・・・。

 

カメラの映像が途切れると同時に、一機のMSの設計図が代わりに表示される。

しかも可変機らしく、航空機の様な設計図も共に表示されていく。

 

「この機体が・・・、テスト機・・・!?」

 

「ほう・・・、先払いにしては、とんでもない物を寄越してくれるな・・・。」

 

まさか設計図を送ってくるとは思わなかったのだろう、ミナですら驚愕に目を見開いていた。

 

そして、連絡先の番号も同時に流れており、彼の連絡を心待ちにしている事が窺える。

 

「親友にここまでさせておいて、行かねば男が廃るぞ?」

 

「分かってるよ・・・、コートニーの頼みなら断る訳無いしな。」

 

からかう様な視線を向けるミナに返しつつ、彼は早速段取りを考えるべく動き出す。

 

「俺は試験期間含めて数週間ほどここを空けてオーブに降りる、その間にイージスとバスター、それからストライクにこの機体のデータを反映させる様に言っといてくれ。」

 

「よかろう、私がそなたの代理で現場で指揮させてもらうとしよう。」

 

もはや相手が何をして何を欲するのかを理解しているからだろうか、二人は矢継ぎ早に指示と確認を繰り返す。

 

そこには、目に見えずとも確かに存在する強い信頼があった。

 

「あぁ、それと、オーブと交渉する時の手札として、俺にアメノミハシラとしての階級をくれ。」

 

「なるほど、相手に揺さぶりを掛ける、か?ならば、軍部元帥とでも名乗ると良い、そなたほどの男が一介のパイロットに収まるなど言語道断である故にな。」

 

「よりによってそんな大層な役職くれんのかよ・・・、やり難い事この上ないぞ・・・。」

 

役職を与えられたら与えられたで面倒なのだろうか、一夏は何処か苦笑しながらも手帳に段取りを書き記し、早速作業に取り掛かる。

 

その先に待つ、友との邂逅に期待しながらも・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

そんな事があって早半月だ、手札はなるべく増やして来たし、ゴマ擂りや脅しの文句も考えてきている。

 

まぁ、ユウナ・ロマを納得させるのは簡単だろうが、理解したうえで首を縦に振らないのが横にいるカガリ・ユラ・アスハという女だ。

 

ミナに聞く限りじゃ、どうもウズミ前代表が掲げた理念に固執しすぎている節があるそうだ、そこを突けば簡単に崩せるか・・・、それとも更に意固地になるか・・・。

 

「本日はわざわざお時間をいただき、重ねて感謝申し上げます、アスハ代表、ユウナ・ロマ、改めて自己紹介を、私はアメノミハシラ総帥、ロンド・ミナ・サハク配下の軍部元帥、織斑一夏であります。」

 

「アメノミハシラからの通達も届いている、楽にしてくれ、織斑卿。」

 

「はっ!」

 

軽い役職自己紹介をするが、彼女の表情にはあまり動揺は見られない。

その代わり、ユウナ・ロマの表情には軽い驚愕と期待の色が浮かんでいたが・・・。

 

なるほど、さすがはヤキンの大戦を生き抜いただけはある、が、まだまだ若い。

なんせ、動揺は見えなくとも、憤りは見えるんだからな。

 

サハク家は前当首がアスハ家を公然と批判していた立場であり、ギナに到っては目の前にいる女を殺そうとした事もあるのだ、悪い印象や黒い策略を抱えてると取られても仕方ないわな。

 

だが、そこで使うのが隣にいるセイランの坊ちゃんだ、彼は割と、タカ派らしいし、カガリを誰よりも欲しているという情報も不確定ながら入って来ている。

 

まぁ、首長を懐柔できたならば、実権は自分達にある様なもんだしな、そりゃ策を弄するってなもんだ。

 

なので、俺はその感情に付け入るとしよう、昔みたいなやり方でな・・・?

 

「あまり手間取らせはしません、今日は一つ頼みごとを聞き届けてもらいたく存じます。」

 

「頼み・・・?ロンド・ミナ様からの通達か?」

 

俺の言葉に食いついたのは、目論見通りユウナ・ロマだった。

ここまでは予想通り、後はこちらの腕次第か・・・?

 

「いえ、これは私が懇意にしております、プラントの技術者からの頼みでもあります、まぁ、簡潔に申し上げますと、MSのテストに協力してほしい、そういう事です。」

 

「なっ・・・!?」

 

俺の言葉を聞いたカガリ・ユラは、テーブルを殴らんばかりの勢いで手を突き、俺を睨み付けた。

よし、この反応を引き出せたらこっちのペースだ、俺が遅れを取る筈もない。

 

ユウナ・ロマは国力強化のためならこういう事には目敏い筈だ、うまく味方につければ上々だ。

 

「ザフトに協力しろと言うのか!?断る!オーブは中立を貫く国だ!」

 

「まぁまぁ、カガリ、卿の話を最後まで聞こうじゃないか、断るのはそれからでも遅くはない、すまないな、織斑卿。」

 

激昂する小娘を宥める様に、ユウナ・ロマは薄い笑みをそのにやけた顔に張り付けて俺に声をかける。

目論見通りだ、これで畳み掛ければ勝てる。

 

「いえ、お気になさらないでください、アスハ代表には少々、難しいお話だと思っておりましたので。」

 

お前に政治は向かないという嫌味をたっぷり込めて、俺は彼に倣って取り繕った笑みを浮かべる。

 

所詮、オーブは俺達にとって母国じゃないし、それと言った思い入れも無い。

俺が情を入れ込むのは、それこそアメノミハシラや命の恩人達以外にない。

 

だからこそ、多少脅迫してでも有利に話を進めるとしよう。

 

「協力と言いましても、空路を開ける程度の物です、オノゴロの滑走路を一つ解放して、ザフトのカーペンタリアとの間を飛行するだけです、それ以上の事はさせないと、向こうは約束してくれました。」

 

「ほう・・・、それで、我が国へのメリットは?」

 

相変わらず納得できないといったカガリを差し置いて、ユウナ・ロマは興味深げに尋ねてくる。

 

どうやら、思った以上に協力する内容が少なかった事が幸いしたな。

ルキーニ曰く、彼は連合を牛耳るロゴスのロード・ジブリールと面識があるらしいし、不用意にザフト色を出すと断られていたかもしれん。

 

「新型可変MSのデータと、その試験データを提供してくれるそうです、その場には私も立ち会いす故、反故にする事は無いでしょう。」

 

オーブも可変機を試作している段階だとエリカ主任から聞いておいて助かった。

何せ、ただの新型MSと言うよりも、新型の可変MSと言っておけばそれだけ話が上手く進んでくれるしな。

 

「なるほど、それはオーブにとっても良い話だ、僕らオーブも力を着けねばならないからね。」

 

一々ねっとりとした喋り方だこって・・・、ま、気にする事じゃないか。だが、軍備強化を狙っているこの男との利害関係は一致している、もう2手踏み込めば勝てる。

 

「待てっ!強すぎる力は争いを呼ぶっ!お前だって分かっているだろう!?」

 

カガリはその事を理解してなお、俺に食いついてくるようだ。

伊達に前大戦を生き抜いたわけじゃなさそうだ、誰よりも武力の恐ろしさを知っていると見た。

 

だが、それ故にその力の使い方を一つと規定してしまっている。

昔の俺のように、力=破壊と思い込んでいるが故に、柔軟性を見失っている。

 

そんなんじゃ、施政者には向かん、所詮は器ではないという事か・・・。

 

「いいえ、護るために、想いを遂げるために力が必要なのです、オーブの理念を護る事も、民を護る事にも力がいるのではありませんか?」

 

結局力の使い方なんて、兵器の使い道なんてそれを使う人間が決める事だ。

 

何かを護るために力を振るえるならば、俺はどんな強力な力でも最善の使い道を探すだけだ。

それを怠る人間は、決まって力を悪と断じてしまう、故に進歩しないんだよ。

 

「そっ、そうだよカガリ!こんなチャンス滅多にないじゃないか!それに、ザフトへの顔向けも出来る!何にも悪い事なんて無いじゃないか!!」

 

畳み掛けるべくして語気を強めた俺に便乗するように、ユウナはカガリをまくし立てる。

 

どうやら、俺を利用して上手く立ち回りたいらしいが、アンタも俺の掌の上さ、せいぜい、額面上で思惑通りに進むのを見ていればいいさ。

 

「・・・っ!だが、それでは・・・ッ!」

 

「では貴女は、自分の親が作った理想の為に国民に死ねと仰るのですね?」

 

「・・・ッ!!」

 

言葉に詰まり、漸く絞り出した言葉をあっさりと封殺され、更に自分の理念の犠牲になる対象を上げられれば最早ぐうの音も出ないのだろう、小娘は愕然とした表情で固まった。

 

信じている理念の犠牲になるのは自分ではない、自分の国の民だという事を突き付けられ、思考が回らないのだろう。

 

「御父上を敬い、理念を護りたいという貴女のお気持ちも分かります、ですが、民は貴女の為に税金を払ってる訳じゃ無い、それをお忘れなく。」

 

国民の事を考えられん政治家は要らん、そんな奴は只の金食い虫だ、軍備縮小を謳う前にそっちを粛清してほしいもんだ。

 

俺も戦争はしたくないが、一つの手段としてある程度力が無くちゃな、護るためにも、生きるためにも・・・。

 

コイツはまだまだ、政治家としても人間としても三流だ、二流の俺にここまで一方的に責められるんだからな・・・。

 

だから、今の内にアメノミハシラには勝てないという印象を植え付けさせてもらうとしよう。

 

さぁ、チェックメイトだ・・・。

 

「国を護るために、今はザフトの開発に協力して技術を手に入れましょう、それでよろしいですね?ユウナ・ロマ?」

 

「も、勿論だとも!許可させてもらうよぉ!いやぁ!とてもありがたい話だったよ!!」

 

お前では話にならないという意味も込めて、俺は決定を促す言葉をカガリでは無くユウナに投げた。

 

俺の言葉の意図が、貴方こそ真のオーブの指導者だ、とでも受け取ったのだろうか、彼は表情を輝かせながらも承諾していた。

 

ボードがどうなっているのかも分からないのに、よくもまぁそんな事を考えられるもんだ。

 

大将首を討ち取ったと言わんばかりだったが、それを手に入れたのは俺なんだよなぁ・・・。

 

それに気付かないまま、彼は俺に握手を求めて立ち上がる。

受けなければ交渉は成立しないしな、ここは仮面の笑みを貼り付けて握手を交わしておく。

 

「では、一週間後の明朝より、オノゴロの滑走路を使用させて頂きます、ザフトには私が伝えましょう。」

 

「あぁ、頼んだよ織斑卿!いやぁ、素晴らしい!!」

 

まったく・・・、コイツはどうして扱いやすいのか・・・、まぁ、これで親友に恩返し位は出来るか。

 

「では、私はこれで失礼致します、本日はありがとうございました。」

 

俺は今だ打ちひしがれるカガリ・ユラと、してやったりと言わんばかりのユウナ・ロマに頭を下げ、部屋を辞した。

 

もう少し、難しいと思ったんだがなぁ・・・、俺の杞憂に終わったな。

 

だが、これで良い、これ以上この国に居ては俺も面倒に巻き込まれる。

さっさとカーペンタリアにトンズラさせてもらおう。

 

そんな事を考えながらも、俺はさっさと行政府を後にした・・・。

 

sideout

 

noside

 

『ってな訳で、また半月ぐらい帰れねぇわ、バスターとストライクのブラッシュアップを頼んどいてもいいか?』

 

アメノミハシラ総帥、ロンド・ミナ・サハクの自室に備えられていたスクリーンに、飛行艇で移動中の一夏からの通信が映し出されていた。

 

どうやら、途中経過と帰還時期についての報告なのだろう、少しウンザリした様子が見て取れた。

 

「うむ、委細承知した、私がそなたの代わりとなる契りを交わしたのだ、そなたはそなたのすべき事を完遂せよ。」

 

その部屋には、ロンド・ミナ以外にも、セシリアやシャルロット、そして宗吾と玲奈といったアメノミハシラ大幹部が集結し、彼の話に耳を傾けていた。

 

だが、彼の妻であるセシリアとシャルロットは、何処か不満げに画面を睨みつけていた。

 

どうやら、彼からはすぐに戻るとだけ言われていたのだろう、ある意味で裏切られたと言った表情だった。

 

『了解っと、宗吾、玲奈、セシリアとシャルの面倒見といてくれ、帰ってきたら謝るからさ。』

 

「おい、さらっとアタシらを巻き込むんじゃないわよ、今ここで謝んなさい。」

 

無茶振りをされた玲奈は頭痛でもするのか米神を抑えながらも呟き、宗吾は腹を抑えて苦笑していた。

 

『ここで弱み見せたら着いてきそうだしな、あえて何も言わんよ、じゃあな。』

 

これ以上話したら色々と面倒と言う様に、彼はさっさと通信を切った。

 

そこで会合は終わりなのだが、部屋の雰囲気は先程以上に重たい。

 

「・・・、これは、少々お灸を据える必要がありそうですわねぇ・・・。」

 

「ふふふ・・・、僕達より男を優先するんだもんねぇ・・・。」

 

そんな空気を作り出しているセシリアとシャルロットは、ハイライトから少し光が消えた瞳をしながらも薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 

ナチュラルでありながら非常に容姿レベルの高い彼女達がニタァと笑うのだから余計に不気味だ。

 

「ま、まぁまぁ二人とも・・・、今回は一夏が単独で当たらないと顔が立てられないんだし、な・・・?」

 

そんな彼女達を宥めようと、宗吾は冷や汗を流しながらも制止の声を掛けていた。

 

今回の依頼は一夏に向けて寄せられたものであるし、他の人間が無暗に関わる訳にはいかない。

そのために、アメノミハシラの他の幹部や人間を連れて行けば余計な波風が立つ事は予想される事であり、彼の立場を悪くするような行動は慎んでしかるべきだ。

 

それは無論、彼女達も承知の上ではある。

 

だが・・・。

 

「『ちょっと行ってくる』と言って、何週間も帰ってこない人がなにを仰るのかっ・・・!!」

 

「今初めて依頼の話を聞いたよっ!!」

 

セシリアとシャルロットが怒る理由、それは訳も告げずにさっさと行ってしまった夫に怒り心頭の様だ。

どうやら、テストには参加できずとも連れて行く事ぐらいはしてほしかったのだろう。

 

そんな彼女達の本音を聞いた宗吾達は、呆れた表情をしながらもタメ息を吐いていた。

 

一夏の愛妻家ぶりも大概だが、それに輪を掛けてセシリアとシャルロットの独占欲は強かったのだから・・・。

 

「こうしちゃいられない・・・!すぐにオーブに降りよう!」

 

「いや、待ちなさいって、バスターの最終調整終わらせてからにしなさいよ、あと三日で終わるんだから・・・。」

 

すぐにでも旅支度を始めようとするシャルロットを宥めながらも、玲奈は必死にアメノミハシラに残るように進言した。

 

バスターの改修がもう間もなく終了し、慣熟試験も行える前段階に来ているのだ、そんな重要な時期に留守にされては堪った物ではないのだろう。

 

それに、玲奈のイージスも、ザフトよりもたらされたあるMSのデータが大いなるヒントとなったため、既に新造段階に入っており、アップデートも一夏のテスト終わりを待つのみとなっている。

そのため、いざという時に出せる戦力を減らしたくはないのだろう。

 

「でしたら、すぐに終わらせて参りましょう!男なんかに寝取られる訳にはっ・・・!!」

 

「いや・・・、それは大丈夫だろぉ・・・。」

 

最早聞く耳持たんと言わんばかりにフルスロットルなセシリアのテンションに呆れ、宗吾は現実逃避をする様に遠くを見ていた。

 

何処へでも好きに行ってしまえ、けど俺に迷惑はかけるなと言わんばかりの想いが浮かんでいた。

 

「行きましょう、シャルさん!」

 

「勿論だよっ!!」

 

夫への憤りMAXのまま、彼女達は部屋を飛び出し何処かへ行ってしまった・・・。

 

「・・・、ミナ、アタシ等泣いていいわよね・・・?」

 

そんな彼女達を見送った玲奈は、頭を抱える宗吾の背中をさすりながらもミナに問いかけた。

その眼は、涙の雫で少々潤んでいた。

 

「そうだな・・・。」

 

そんな彼女を哀れに思ったのか、ミナも苦笑して二人をあやす様に抱き締めた。

 

せめて、心労が軽くなればとでも言うように・・・。

 

だが、彼等は知らなかった。

セシリアとシャルロットに訪れる、新たな運命に・・・。

 

sideout

 




次回予告

重力の底で再び邂逅する一夏とコートニー、彼等の出会いが、新たなアストレイを刻んでゆく。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

大空を駆ける 後編

お楽しみに


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大空を翔る 後編

sideコートニー

 

「良く来てくれた、一夏!」

 

オーストラリア大陸、カーペンタリア基地の応接間に入った俺は、先にその部屋で待っていた相手、アメノミハシラの大幹部、織斑一夏に握手と抱擁を求めて近付く。

 

「コートニー、また会えてうれしいよ。」

 

彼も俺の姿を認め、羽織っていたマントと革の手袋を外して俺の方に歩み寄り、握手と抱擁を交わした。

 

その行為は、俺と対等の立場でいたいと言う彼なりの気遣いなのかもしれない。

 

宇宙で、MSの通信機越しには何度も顔を合わせていたが、こうやって直に彼と会うのは一年以上前の、南米以来だ、懐旧の感情が湧きあがり、留まる所を知らなかった。

 

だが、今はそんな感傷的になっている場合じゃない、積もる話は数多くあるが、それは後回しでも全然かまわないだろう。

 

「来てもらって早々に悪いが、機体のOSの調整を手伝ってほしい、お前もテストに参加してもらう予定なんだが・・・。」

 

「分かってるよコートニー、そのつもりで来てるんだ、用事は早く終わらせて、飲みにでも行こう。」

 

俺の言葉に、彼は身体を離して仕事モードに切り替わっていた。

相変わらずメリハリキチンとしてるやつだ。

 

「そうだな、着いてきてくれ、お前が使う機体に案内しよう。」

 

だが、俺だってそれが出来ない訳じゃ無い、むしろ、きつい仕事を終わらせた後の酒は何倍も美味いからな。

 

さて、気合入れて掛かるとしようか・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

『テスト開始まで180セコンド、YX21R、YX22Rの両機は発進の準備をお願いします。』

 

三日後、OSの調整を終わらせた俺とコートニーは、改めて実機試験に移る手筈となった。

 

可変機のOSを弄るのは初めてだったが、コートニーとの相談と俺が持ってきたイージスのOSデータを照らし合わせて、何とか実用段階までこぎ着けた。

 

だが、逐次データを更新しながらのテストになるだろうが、一向に構わない。

普段からそうやってテストして来ているからな。

 

そんな事を考えつつも、カーペンタリアの滑走路に誘導された、MA状態の機体のコックピットで、俺はOSと機体の調子を確認するためにキーボードに指を走らせた。

 

『一夏、二号機を墜とすんじゃないぞ、廃棄予定の機体だが、高いんだからな。』

 

「大丈夫だ、俺のストライクに掛けてる金に比べりゃ安いさ。」

 

コートニーの言葉に冗談を返しつつ、俺は計器の調子を確認しつつ、操縦桿の具合を確かめる。

 

今回俺が乗る機体は、白いボディに赤いラインが入ったザフト製試作可変MS、ZGMF-YX22R プロトセイバー二号機、ザフトが新たに計画している新型ガンダムタイプのプロトタイプ二号機だ。

 

コートニーが乗るのはZGMF-YX21R プロトセイバー初号機だ、カラーリング以外に二号機との差異は無い。

と言っても、この機体色は多分に俺の個人的な趣味も入ってるけどな、元々は初号機と大差ないカラーリングだったらしい。

 

この装甲色の変更が出来るのも新型のPS装甲、ヴァリアブルフェイズシフト装甲、通称VPS装甲の出力調整の賜物であり、新技術の象徴とも言えるだろう。

 

主な武装は高エネルギービームライフル、両肩部に装備されるヴァジュラビームサーベル、そして、背面に一対装備されるアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲だ。

 

他にも、牽制用のビーム砲や対ミサイル迎撃用の機関銃だったりと、それなりにバランスの取れた機体だ。

 

だが、この機体のもっとも大きい特徴は、航空機形態へのトランスフォーム、つまりは変形だ。

 

その性能は単純な航空機として見ても、ストライクの支援機として製作されたスカイグラスパーを遥かに上回る速度と旋回性能を持った、極めて優秀な性能を誇っている。

 

正直、ザフトの技術を侮っていた面はあったが、ここまで優秀な機体を作り上げてくるとは思いもしなかった。

しかも、これでもテスト段階で、制式採用機はこの機体の問題点を解決した、更に強力な機体に仕上がる事と考えると、俺達が考えてるプランも今一度見直すべきかとも考えてしまう。

 

あぁ、本当に恐れ入るよ・・・。

 

だが、今は依頼された手前、そんな野暮ったい事なんて考えずに、キッチリ仕事を熟すとしよう。

 

今回の仕事は一週間かけてオーブとカーペンタリアを行き来するコースでの飛行試験だ、連続して往復しても良いが、機体の状況やバッテリー具合も考えて、一日につき片道だけの仕事になるだろう。

 

まぁ、最終的にはオーブで仕事は終了、機体もオーブで解体すると聞いている。

つまり、最終日にカーペンタリアを発った後、この機体はザフトの登録から抹消されるという手筈になっているため、その後の処遇は俺の手に一任されているという訳だ。

 

なるほど、報酬の合計がデカすぎるだろうに・・・。

 

「ま、何往復かするんだろうが、後で酒でも飲もう、オーブの良い店は知ってるからな。」

 

『良いだろう、遅れるなよ!コートニー・ヒエロニムス、プロトセイバー初号機、テイクオフ!!』

 

俺の言葉に返しながらも、スラスターに火を入れた初号機が飛び立っていく。

 

さぁてと、俺も行きますか!!

 

「織斑一夏、プロトセイバー二号機、発進する!!」

 

スロットルペダルを踏み込み、操縦桿を思いっ切り引き挙げて離陸する。

重力が身体を縛るように纏わりつくが、それすら気に留めずにどんどん速度を上げて空を駆ける。

 

「良い加速性能だ・・・、それに、こうも簡単に飛べる機体があるなんてな。」

 

イージスも宇宙空間では良い機体だったが、この機体は戦う場所を選ばない万能機だ、宇宙だろうが大気圏内だろうが、安定して高い戦闘能力を発揮できる。

 

だが、問題は装備が直線でしか使用できないモノしかないという点であり、使うには相手の裏を掻く戦法を取る必要があるだろう。

 

まぁ、俺がコイツに乗って敵と戦う事は無いだろうから、そんな事を考えても無駄だろうな。

 

『こちら初号機、これより機動試験を開始する、二号機、ついて来てくれ。』

 

「了解、二号機、フルマニューバで追尾する、抜かされるなよっ!!」

 

通信を入れてきたコートニーに応えつつ、俺はスラスターを全開にして弧を描く様に機体を奔らせる。

 

急激な加速によって生じる凄まじいGが俺の身体を押し潰す様に圧し掛かってくるが、今の俺にはそんなものない様にしか思えなかった。

 

『いきなり無茶苦茶な機動をするんじゃない、テストにならないだろ!』

 

機体をバレルロールさせながらもツイストさせる様に飛ばしていると、コートニーの茶化す様な声が聞こえてくる。

 

だが、それは俺を宥めるようなモノでは無い、寧ろ、負けてられんと言う様な色が聞こえてくる。

 

その証拠に、彼は俺と同じ軌道を描いて機体を奔らせている。

接触するかしないかの瀬戸際でやってる分、スリルが半端ない。

 

『初号機!二号機!テストメニューから外れています!速やかな遂行をお願いします!』

 

俺達の動きをモニターして随伴しているディンのパイロットから警告が飛んでくるが、構うモノか。

機動試験なら実戦さながらの動きをした方が良いに決まっている。

 

だから、一々メニューを順番に熟す必要なんて無い。

オールクリア以上を叩きだして黙らせてやる。

 

「黙って計測だけしてろ、どの道、ディンじゃコイツには追いつけんよ!!」

 

フットペダルを踏み込み、操縦桿を操って機体を縦横無尽に駆け巡らせる。

本当に良くできた機体だ、どうしてこれがプロトタイプなのか・・・。

 

ぜひとも分解して解析してみたいもんだ。

 

だが、今は友の事だけを見て、友の事だけを考えよう。

 

超高速飛行による振動がコックピットを震わせるが、俺は構わず機体を奔らせ、後方から追尾してくる初号機に目をやった。

 

だが、その瞬間、ロックオンされた事を告げるアラートが鳴り響き、俺は反射的に機体を急旋回させた。

 

その直後、二号機がいた空間を二本の小口径ビームが通り過ぎる。

 

恐らくアムフォルタス上部に着いている小口径ビームだろう。

 

「いきなりだなっ・・・!!俺を殺す気かっ!!」

 

『お前なら避けてくれると信じていたさっ!!』

 

そんな信頼はいらんと思いつつも、俺もやられてばかりでは気が済まないらしい。

スラスターを全開にし、初号機の後ろを取るべく動く。

 

そして、照準を合わせる事もせず、初号機に勘でウィング下部に装備していたビームライフルでビームを浴びせかける。

 

だが、彼もそうそうやられるつもりはないのだろう、射線から逃れるべく高度を上げたり下げたりしていた。

 

途中で海面スレスレを飛び、時折飛沫が巻き上がるがそれすら機体の速度に着いて来れていなかった。

 

「やるなっ!!」

 

『伊達に開発に関わってないからなっ!』

 

軽口を言い合いながらも、俺は二号機の高度を下げて海面スレスレで背面飛行させる。

俺の意図が分かったのか、コートニーも俺の機体の真上に機体を持って来て、接触するか否かの状況を作り出した。

 

普段の俺なら安全第一で調子に乗らないだろうが、コートニーがいる時は別だ、調子に乗って楽しまないと損だからな。

 

だが、そろそろ真面目なテストに戻らないと色々と恐そうだ、最後に派手にかまして戻るとしよう。

 

「コートニー!!」

 

『あぁ!!』

 

俺の意図に気付いたのだろう、初号機が真上から離れて行き、それを確認して俺も機体を立て直しつつMS形態へ変形させる。

 

凄まじい変形の仕方だな、腰が回転する構造とは恐れ入る。

技術部連中とよくいるせいか、それともただの責任者気質だからかそんな事を考えてしまいつつも、俺は肩部にラックされていたビームライフルを右手に握らせる。

 

そして、変形した初号機と全くの同時にライフルの銃口を相手に向けて構え、回転しながら飛び続けた。

 

それを二十秒ほど続け、どちらからともなく離れて再度MA形態へと戻し、トップスピードで並走する。

 

『「お見事!」』

 

これまた全く同時に相手を褒め称える言葉が飛び出し、俺は口角を吊り上げてまた笑う。

 

あぁ、これだよ。

久しく忘れていた戦いの中での刺激。

忌避していても逃れられない過去の残滓。

 

それらすら、今の俺を酔わすように押し寄せてくる。

 

殺しを楽しむつもりなど今の俺には毛頭無い、寧ろ、唾棄すべき事だ。

だがせめて、生きる事の悦びをこうやって見出しても良いじゃないか。

 

『このままオノゴロまで飛ぶぞ、少し遊び過ぎた。』

 

「オーライ、さっさと終わらせようぜ!!」

 

短く言葉を交わしながらも、俺は改めて水平線の彼方にあるその場所を睨んだ。

 

sideout

 

noside

 

「遂にっ・・・!!」

 

「やっと来れたっ!」

 

機動試験最終日の夕方、オノゴロ島軍事基地の近くにある丘にて、二人の美女の叫びが木霊した。

 

黄昏が彼女達の金髪を艶かしく輝かせるが、彼女達の憤怒に満ちた表情がそれを台無しにしていた。

 

彼女達がいる場所は、ちょうど基地の正面ゲートに近い場所でもあったため、双眼鏡を使えば基地から出てくる車両や人物の様子を窺う事も出来る、まさに偵察には打って付けの場所だった。

 

その二人、セシリアとシャルロットは、一夏に遅れる事二週間でアメノミハシラからオーブに降り立ち、彼女達の夫である一夏に文句の一つ、若しくは腹パンの一つでも叩き込もうと決心していた。

 

本来ならば、テストが始まる前にカチコミを掛けていたところだろうが、奇しくもバスターの改修が完了し、機動試験が開始されてしまった為に来訪が遅れてしまったのだ。

 

だが、それはある意味で好都合なタイミングであったかもしれない。

何せ、今日はテスト最終日、一夏にカチコミを掛けても他に何の影響もない。

 

「あっ!出て来たよっ!一夏だ!!」

 

双眼鏡を覗いていたシャルロットが、基地から出てきたジープに乗る一夏の姿を見付けて声を上げた。

 

「あれですか・・・!行きますわよ、シャルさん!!」

 

「うん!!」

 

基地側から悟られぬように身を隠していた木の陰から飛び出し、用意していたバイクへと走り出そうとした、まさにその時だった。

 

「きゃっ!?」

 

「うわわっ!?」

 

別の木の陰から飛び出してきた女性とシャルロットが出合い頭にぶつかり、盛大にズッコケた。

 

「シャルさん・・・!?それと、大丈夫ですか・・・!?」

 

妻の事を気にしつつも、セシリアはシャルロットとぶつかった女性に駆け寄った。

 

シャルロットが頑丈なのは熟知している分、見知らぬ女性の方が重要と認識したのだろう。

 

「あ、あたた~・・・、だ、大丈夫ですよぉ~・・・、め、眼鏡何処にありますか~?」

 

大丈夫だと答えながらも、女性は自身が掛けていた眼鏡が何処かへ行ってしまったらしく、手をばたつかせて辺りを手探っていた。

 

どうやら、彼女が掛けていた眼鏡の様な物は、ただの眼鏡という訳ではないのだろう。

 

「私が掛けますわ、じっとしていてくださいまし?」

 

彼女の右太ももの傍に落ちていた眼鏡型デバイスを見付けたセシリアは、拾い上げつつも彼女の顔にそれを装着した。

 

「あっ、ありがとうございます!いきなり飛び出してごめんなさい・・・!」

 

「ううん、こっちこそすみませんでした・・・、少し焦ってて・・・。」

 

女性とシャルロットは互いに顔を合わせて謝罪の言葉を口にしつつ頭を下げていた。

 

シャルロットも急いではいたが完全な私情であったため、自分に非があると分かっていたのだろう。

 

「あら・・・?もしかして、リーカさん・・・?」

 

そんな中、一人冷静だったセシリアがシャルロットの前にいる女性の顔を見て、もしやと言う様に尋ねていた。

 

「えっ・・・?あっ、もしかして、セシリアとシャルロット・・・!?うわぁ!久し振り~!!」

 

「あっ!リーカだったんだ!久し振りだね~!」

 

それぞれ、嘗てデブリベルトにて愚痴を言い合った相手だとハッキリと認識したのだろう、懐旧の笑みを浮かべながらも手を叩き合って再会を喜んでいた。

 

実に一年半ぶりの対面なのだ、驚きの方が強い筈だったが、性質が良く似た男を好きになった者同士でのシンパシーがあるのだろう、その表情は輝いていた。

 

「お久しゅうございます♪もしや、コートニーさんを追いかけて来られたのですか?」

 

「もしかして、セシリア達も一夏って人を追いかけて・・・?」

 

相手がそれぞれ何を目的としてオーブへ降り立ったのか、その理由に合点が行ったのだろう、三人は呆れた様な表情を浮かべながらも立ち上がった。

 

ここで談笑している場合では無い、折角口が三つに増えたのだ、女三人寄れば喧しいとやらを見せ付けてやる、そんな色が彼女達からは見て取れた。

 

「行くよリーカ!男落とすなら積極的に行かないと!!」

 

「御力添え致しますわ!」

 

リーカに予備のヘルメットを手渡しながらも、シャルロットとセシリアはバイクに跨りエンジンを始動させる。

 

追い駆けるなら今の内が良い、それにリーカを同行させるつもりなのだろう。

 

「勿論よ!二人の彼氏にも、ビシッと言ってあげないとっ!!」

 

彼女もそれに乗り気且つ、コートニーと同行している一夏に文句の一つでも言ってやろうという心積もりに切り替わったのだろう、シャルロットのバイクの後ろに跨った。

 

リーカが捕まったのを確認し、二人はバイクを市街地に向けて走らせた。

 

酒屋やそれに準ずるパブやクラブがあるのは決まって市街地だ、それに、セシリアとシャルロットに到っては以前一夏と訪れた場所が幾つかあるため、行先に見当は付け易かった。

 

酒を飲んで出て来た時か、ハシゴする時を見計らってカチコミを掛ければいい、そう考えながらも彼女達は直走ったのであった。

 

「・・・、なぁ、ホントに追い駆けなきゃダメか・・・?」

 

「仕方ないでしょ・・・、そういうお達しなんだからぁ・・・。」

 

三人が去った後、米神を抑えながらも木陰から出てきた男女の姿があった。

 

頭痛でもするのだろうか、その表情は固く、瞳も濁っていた。

 

彼等は盛大に溜め息を吐きながらも踵を返し、丘の反対側に隠してあった黒塗りの車に乗り込む。

 

「なぁ、玲奈、このままどっかぶらついて、ホテルで一泊して帰らないか・・・?どうせ明日か明後日には一夏もアメノミハシラに帰ってくるし・・・。」

 

「一晩中愛してくれるなら歓迎するわ・・・、でもね宗吾・・・、ミナの命令には逆らえないわよ・・・。」

 

その二人組、神谷宗吾とその恋人、早間玲奈は何処か遠くを見ながらも会話を続けた。

 

どうやら、彼等の主であるロンド・ミナより、セシリアとシャルロットの監視を言い渡されたのだろう。

 

「一夏に怒られないかなぁ・・・、というか、総帥以外の幹部が全員不在って何気にヤバくないか・・・?」

 

「ホントそうよね・・・、ミナの懐の深さは逆に怖いわ・・・。」

 

自分達は命令を受けているから兎も角として、セシリアとシャルロットはほぼ独断で動いている様な物だ、それに加えて、一夏は彼等がここに降り立つより前から不在なのだ、これでは仕事が回らないと感じているのだろう。

 

宗吾は、一夏が自分達をアメノミハシラに残したのは、戦力の確保が最大の理由と気付いていた。

 

現に、一夏の読み通り、数日前に傭兵と海賊の合同軍が攻めて来たのだ。

無論、誰一人殺さず死なさず戦闘を終わらせたが、それも幹部の内四人がいたからに過ぎない、全員が万全の状態で揃っていたならば、もっと余裕があっただろう。

 

本音を言うならば、一夏にもう少し説明して行ってほしかったが、彼も多忙な身だ、自分達が意図を酌まねば回らない事も承知していたし、彼の妻二人が暴走する事も承知の上だった。

 

「ま、一夏への弁明は考えようか・・・、俺達には大義名分がある訳だが・・・。」

 

「さっさと終わらせましょ・・・、セシリアとシャルロットの奢りで呑んでやろうじゃないの・・・。」

 

だが、頼まれた事はやり遂げるとばかりに、宗吾は一夏への弁解の文言を考えながらもシートベルトを締めた。

 

「そりゃ、憂さ晴らしにはちょうど良いや、シートベルトしてろよ、見失わない内に追い駆けないとな。」

 

「オーライ♪行きましょ!」

 

シートベルトを締めた玲奈は、我が意を得たりと笑みを浮かべながらも宗吾の右腕に腕を絡めた。

 

それを好ましく思いながらも、彼はサイドブレーキを解除し、アクセルを踏み込んで車を走らせた。

 

先に行った者達を追いかけるため、そこに加わるために・・・。

 

sideout




はいどうもです。
年内最終投稿でございます。
来年も何卒よろしくお願いいたします。

次回予告
宿命の七つのアストレイが、今、巡り会う。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

願い

お楽しみに。


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願い

side一夏

 

「一週間お疲れさん、コートニー。」

 

「こちらこそ、お疲れ様だ。」

 

宿舎の駐車場にジープを止め、そこから歩いて十分ほどのパブに足を運ぶ。

 

少し路地裏に入って行く場所でもあるから、軍の関係者も中々来ない場所だ、ゆっくりと寛げる。

 

そこでまずは何をするでもなく、俺達はバーボンを注文し、カウンター席に並んで座る。

 

「まずは乾杯と行こうじゃないか。」

 

「あぁ、ずっとそうしてみたいと思ってた。」

 

ずっとって何がだよ、という野暮な事は聞かず、俺はコートニーとグラスを掲げ、乾杯して一気に酒を呷る。

 

度数が高めだからか、空きっ腹に呑むとクラッとクルが、今は気にしない、目の前にいる親友との語らいを楽しもうじゃないか。

 

「ふぅ・・・、それにしても、まさかこうもスムーズに事が運ぶなんて思ってもみなかった、一体どんな脅し文句を使ったんだ?」

 

グラスの中の液体を一気に飲み干して、コートニーは探るような笑みを浮かべて尋ねてくる。

 

それは、俺が最も聞いてほしくないクチの話だ、オーブ首脳を脅したなんて、笑い話にもならん。

 

「人聞きの悪いことを言うんじゃない・・・、それに、仕事の話は酒の席でしたくない性分なんだ、また後で教えてやるさ。」

 

「くっくっ・・・、お前にも聞いてほしくない話はあるんだな、まぁいいさ、俺も、最近は自重してるんだ。」

 

「何をだよ・・・、女にでも怒られたか?」

 

お前に言われたくないと言わんばかりに、彼は俺の脇腹を小突いてくる。

 

やめろ、擽ったくて飲めんだろ。

 

軽口の応酬、それがこんなにも心地好いとはな・・・。

気の置けない距離感、そして、付き合いやすいと思える雰囲気が、今までの、以前の世界からの俺が感じた事が無い様な、新鮮で甘美な物だった。

 

宗吾や玲奈は、俺の部下であると同時に、既に友人と呼んでいい距離に入っている、だが、彼等は俺に何処か遠慮がちで、俺も彼等に心の何処かで遠慮している。

それは、俺と同じ境遇であり、そして決定的な違いがある為に生まれる、ある種の溝だ、双方が無意識に作ってしまう、謂わば似て非なる者同士とでも言うべきか。

 

セシリアとシャルは、嘗ては他意無く一個体と呼ぶべき存在だったからか、遠慮は無いが配慮も無い、言ってみれば近すぎるが故の無遠慮、って奴かな・・・?

 

しかし、コートニーは間違いなくその二つの括りには居ない。

 

同一ではないし、境遇も違う、そして何より、気を遣わないが配慮はある、だから相手と楽しもうと相手と向き合える。

 

これが、友人であるって事なのかな・・・?

そうだと、良いんだが・・・。

 

だからなのか・・・?いつもは気を緩めると不意に出てくるあの光景が、今は浮かんですら来ない。

 

これが、俺が求めていた安らぎの一つなのか・・・?

 

「ま、今は男同士で酒を楽しもうじゃないか。」

 

「あぁ、勿論さコートニー。」

 

互いに笑い合い、俺達は二杯目のグラスに手を伸ばし、乾杯の意を籠めてグラスを掲げて褐色の液体を呷った。

 

アルコール度数が高い酒の為、咽が焼けるような熱を帯びてくるが、それすら、親友との酒を楽しむにあたっての一つの刺激にしかならなかった。

 

なら、楽しむついでに、彼について知ってみるのも良いかもしれんな・・・。

 

「なぁ、コートニー、前々から思ってた事、聞いても良いか?」

 

「ん?ウチの新型以外の事なら何でも答えてやるぞ?」

 

「仕事の話は聞かないさ。」

 

まぁ、当たらずも遠からず、って奴なんだろうけどな。

というより、まだ新型あるのかよ。

 

それはさて置き・・・。

 

「お前は、どうして軍人にならなかったんだ?いや、言い方が悪かったな、どうして技術者になったんだ?」

 

「藪から棒になんだいきなり・・・、まぁ、話した事、無かったか・・・。」

 

俺の唐突な質問に、彼は驚いた様に目を丸くしていた。

まぁ、確かにいきなりに過ぎる発言だったとは思っているが、酒の席だ、無礼講で行かせてもらおうじゃないか。

 

「あぁ、失礼な話かもしれんが、お前ほどの腕前のパイロットが技術者ってのも最初は驚いたもんだよ、そっちメインの方が、地位も給料も高いんじゃないのか?」

 

技術者の大まかな給料は俺がよく分かっている、決裁書類に目を通すの俺達の仕事だし。

 

それに、パイロットなら危険手当や武勲を挙げての手当も出る、俺みたいに、戦いから逃れたい理由でも無い限り、前線を志しても良い筈なんだが・・・。

 

「そうだな・・・、一夏、お前、夢はあるか?」

 

「夢・・・?」

 

質問を質問で返してきたコートニーの表情には、何処か少年っぽさが窺えた。

そう、まるで幼い頃、自分の夢を語る少年の様な・・・。

 

「そうだ、俺には夢があるんだ、だから技術職にいる。」

 

「話が見えないな・・・、強い兵器でも造りたいのか?」

 

新しく頼んだアイルランド産スコッチを口に含みつつ返すが、彼は単純な想いを抱く男ではないだろうと考えていた。

 

何せ、兵器を、言ってしまえば、彼は機械に対してかなりの思い入れを持っていそうな様子だったからな。

 

「俺はな、戦争をさせない為の兵器を創りたいんだ、誰も傷付かなくて済む様な、争いが起きない世の中に繋がる兵器を。」

 

「戦争をさせない、兵器・・・。」

 

アルコールが回ったからか、それとも熱意からか、彼の口から熱を帯びた言葉が飛び出してくる。

 

その言葉は、俺の心に深々と突き刺さり、耳にこびり付いて離れてはくれなかった。

 

俺は嘗て、兵器を一方的に悪と決めつけて消し去った事が有る、二つ目の命と大切な女達の命、そして、数え切れぬ程の人間を生贄にして・・・。

 

今でも信じている、あの行動は決して、無意味じゃ無かったって・・・。

 

だけど、彼の話を聞いていると、人間のエゴと言う物を思い知らされている様な気分だ。

 

「絵空事だというのは分かっている、でも、夢なんだ、子供の頃から願った、俺の夢。」

 

「そうか・・・、夢を、叶える為に、か・・・、良いな、そういうの。」

 

照れくさそうに、だけど誇らしげに語る彼の表情を見て、俺はまた自己嫌悪に陥って、それを誤魔化す様にグラスに注いだ液体を一気に飲み干した。

 

誤魔化すために酒を飲むのか・・・、嫌な呑み方だ、セシリアとシャルに当たらない様に気を付けなければ・・・。

 

「笑わないんだな。」

 

「人の夢を笑う奴は、夢が無いから嘲笑うんだ、夢が無い事を恥じて、ある事を妬むんだ。」

 

「なるほどな、違いない。」

 

試す様に聞いてきた問いに、俺の個人的な感想を返してやると、彼はまた違った笑みを浮かべて酒を呷った。

 

愉しそうに飲む、浮き沈みが激しい俺とは大違いだ。

 

「で、人に質問しといて自分も答えないのは不公平だよな、お前の夢は?」

 

「俺の、夢・・・。」

 

そんな俺の目を覗く様に、彼は俺に尋ねてくる。

 

その問いに、俺は返す答えが浮かんでこなかった。

 

夢、か・・・、生きる事だけに、過去にだけ囚われてるから、目標が無いのか、俺は・・・。

 

「・・・。」

 

だからか、俺は彼に返す言葉も無く押し黙ってしまう。

 

「す、すまない、無理に聞くつもりは・・・。」

 

俺が押し黙ってしまった事が、気に障ったとでも感じたのだろうか、コートニーが何処か申し訳なさそうに肩を揺さぶってくる。

 

あぁ、またか・・・、こうされると、また自分が嫌になる、彼は悪くなんかないのにさ・・・。

 

「いや、謝るのは俺の方だよ・・・、すまない・・・。」

 

ちゃんと笑えてるかも怪しい笑みを彼に返しながらも、俺はグラスに残っていたスコッチを一気に飲み干す。

 

呑みやすいが度数の高いそれでも、俺は酔う事が出来なかった。

 

我ながら、女々しくてめんどくさい男だ・・・、しみったれて、何時までもウダウダして、さ・・・。

 

くそっ・・・、これじゃ酒が不味くなるだけだ・・・。

 

「いや、大丈夫だ、気分を変えよう、ついでに場所も。」

 

「あぁ・・・、浜風に当たりたいよ。」

 

コートニーの申し出を素直に受け取り、俺はカードで支払いを済ませて連れだって店を出た。

 

ここ最近切ることをしなかった髪が浜風にさらわれて靡くが、それすら俺の心を宥める事はできなかった。

 

それをどう思ったのか、コートニーもどこか顔を顰めているように見えて、それも俺を自己嫌悪に陥らせる。

 

ダメだ・・・、こんな湿気てる事を望んでるわけじゃないのに・・・。

 

誰か、この空気を換えてくれ・・・。

 

「「一夏(様)--っ!!」」

「コートニーッ!!」

 

そう思った時だった、聞こえてきて欲しいが、聞こえてはいけない声が聞こえてきた。

 

げんなりするより先に、驚きがやってくるが、振り向いた先には予想外の人物とセットになった二人組の姿があった。

 

「セシリア!シャル!それと・・・、誰?」

 

「リーカ!?どうしてオーブに!?」

 

俺の隣でコートニーが目を見開いて驚いている事から、セシリアとシャルと共にいる女は、彼に関わりがあるのだろうと予想できる。

 

というより、なんで彼女達が地球に居るのか・・・、待機してろと命令しておいた筈なんだが・・・・。

 

まぁ、さっきまでの空気を殺してくれたのだから、それはそれで良いか、な・・・?

 

sideout

 

noside

 

バーから出てきた一夏達を問い詰める様に、セシリアとシャルロット、そしてリーカが彼等の前に立ち塞がった。

 

コートニーはまさかの人物達の登場に面食らった様子であったが、一夏は彼自身の妻二人の介入を半ば予想していたのだろう、驚愕と歓喜、そして呆れが混在する様な、何とも言えない表情をしていた。

 

だが、そんな彼にも予想出来なかったのは、リーカの登場であった。

 

彼と彼女は、一時同じ宙域に居たのはいたが、顔を合わせた事は一度も無く、話した事も一度たりともない。

故に、どう対処すべきか分からないのだろう。

 

そのため、コートニーが彼女の知り合いであると目星を付け、一夏は彼に耳打ちするように尋ねた。

 

「(おい、コートニー、あっちの女、誰?)」

 

「(ザフトの赤服パイロットのリーカだ、腕は確かだぞ。)」

 

「(なるほど、お前の女か?)」

 

「(何言ってるんだ・・・、違うに決まってるだろ・・・。)」

 

「(ふ~ん・・・。)」

 

自分の問いに答えたコートニーの答えに、一夏は絶対それだけじゃないだろうなと思いながらも追及は止めた様だ。

 

恋人関係でも無い女が、男を追いかけて来るなど普通なら考えられないのだ。

いや、一方的な想いゆえの追跡なのかも知れないが、とは一夏は考えなかったようだ。

 

「コートニー・・・、もしかして、男の人の方が、良いの・・・?」

 

「な、なんでだよ!?俺にその気は無い!!」

 

リーカの、コートニーの男色の気を疑う発言に、彼は慌てて弁明する。

 

確かに一夏とは話をしたいとはずっと想ってはいた、だが、それは友情からくる物であるのは説明するまでも無いと考えていた。

 

だが、彼は一つ見誤っていた事が有った、それは、その未説明が男同士の間でしか成り立たないという事だ。

 

恋する女に見向きもせず、男にばっかり感けていれば、女からしてみればそれこそ、同性愛者のそれと見受けられても致し方ないだろう。

 

「だ、だって・・・!私といる時よりも楽しそうじゃない・・・!」

 

「い、いや、それは誤解だ・・・!!というか、何言ってるんだ・・・!?」

 

「この前なんて・・・!私をほったらかしにしてたじゃない・・・!!」

 

「あれは仕事が入っただけだ・・・!」

 

だが、今の彼にはそれを一つ一つ解いて行く余裕は無かったのだろう、普段の冷静さからは想像できないぐらいに慌てていた。

 

それは、これはストーキングされた事による恐怖が上回った結果なのだろうか、それとも、リーカには色々と負い目があるからなのかは、誰にも分からなかった。

 

「一夏様も一夏様ですわっ!」

 

「どうして何もなしに一か月も留守にするのさっ!?」

 

一方、一夏に対して依存度が高いセシリアとシャルロットは彼を鬼の形相で問い詰めたが、当の本人は煩わし気ながらもじゃれ合い程度にしか思っていないのだろう、ある種の柔らかさが見て取れた。

 

どうやら、彼も彼で傍らに彼女達がいない事に思う処が有ったのだと考えられる。

 

「それは、まぁ・・・、悪かったな・・・、ホントはもっと早く帰るつもりだったんだ、色々とたて込んじまってな、というより、あの女止めてやれよ、コートニーとは付き合ってすらないんだと。」

 

「「えっ?」」

 

だが、一夏が弁解よりも先に詫びを入れた事で頭に昇っていた血が降りて冷静になったのだろう、セシリアとシャルロットが気の抜けた返事を返した。

 

「えっ・・・?僕達、まさか・・・?」

 

「まさか、早とちり、でしたの・・・?」

 

「うん、ストーキングの片棒担いだだけ、だな・・・。」

 

まさかリーカとコートニーが自分達の様な関係では無いとは思わなかったのだろう、二人は愕然とした様な表情を見せ、一夏は二人の恋愛面での短絡思考を呆れる様な表情を浮かべていた。

 

普段、彼女達が冷静な時の判断能力は一夏に勝るとも劣らない程に優れているが、彼等がこの世界に来てからと言う物、一夏も含めて少々直情的になっている為、一旦熱くなると外部から覚ましてくれる横槍が無い限り暴走し続けてしまうのだ。

 

だが、それだけならば良かったが今回はリーカと言うオマケまで付いて来ているのだ、手が付けられなくなってしまった。

 

「そ、それよりも、なんでここに来たんだ!?ザフトの仕事はどうしたんだ・・・?」

 

「は、話を逸らさないでっ・・・!私・・・っ!!」

 

そんな彼等のすぐ脇で、コートニーとリーカの口論、もとい痴話喧嘩はヒートアップしていく一方だった。

 

理由を説明してほしいコートニーと、自分と一夏とどっちが大事か聞きたいリーカでは、そもそも論点がずれていた。

 

そんな二人を見て、自分達では止められないと思った一夏達三人は如何すべきか手を拱いていた。

 

まさにその時だった、突如として強烈な光が五人を照らした。

 

『っ!?』

 

「はーい、痴話喧嘩はそこまで、近所迷惑よ?」

 

「良い歳した大人が何やってんだ・・・、落ち着いてくれよ・・・。」

 

驚いてその光の発生源に目をやると、そこには大型の懐中電灯を持った茶髪の女と、長い黒髪を持った男性が呆れた顔をして立っていた。

 

「まさか・・・?玲奈・・・、宗吾もか・・・?何故ここに?」

 

光に目が慣れた一夏は、その二人が自分の部下である早間玲奈と、神谷宗吾であると気付いたのだろう、軽い驚愕と共に尋ねていた。

 

「ミナからアンタの嫁二人の追跡を命じられてねぇ。」

 

「そこの二人、ミナの命令無視ってここに来てるんだよ。」

 

「なんだと・・・?」

 

彼の問いに、二人は肩を竦めてやれやれとでも言う様に答えた。

 

それを聞いた一夏は、半目になってセシリアとシャルロットを睨む。

すると、二人は悪戯がバレた子供のようにそっぽを向き、口笛を吹いて誤魔化そうとしていた。

 

どうやら、今になって自分達の行動の重大さに気付いたのだろう。

 

もっと巧い誤魔化し方は無いのかと思った一夏だったが、もういいやと言わんばかりにタメ息を一つ吐いて全員を見渡した。

 

その場にいる全員が、宗吾と玲奈の介入によって本来の冷静さを取り戻していた。

 

「まぁ、取り敢えず立ち話も何だからさ、どっかで軽く呑みながら話しないか?説明する事色々あるし、な?」

 

このままでは埒が明かないと判断したのだろう、宗吾は自分が持っていたクーラーボックスを掲げながらも全員に提案していた。

 

どうやら、合流する前に用意していた酒類が入っているのだろう。

 

そんな彼の提案に全員が頷き、それぞれ相手と腕を組んだり手を引っ張りしながらも連れだって歩き始めた。

 

それぞれが、様々な想いを胸に抱えて・・・。

 

sideout

 




次回予告

夜の海岸で巡り会った七人の若人達は、その瞳に何を見る?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY



お楽しみに


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第三章最終話


noside

 

一悶着終えた七人は、そのままの脚で夜の海岸に歩いて出ていた。

 

どうやら、バーで飲むには少々騒がしくなる人数でもあったため、人目に付きにくい場所を選んだのだろう。

 

「灯りは・・・、こんなもんかな?」

 

「そうだな、というか、ランタンなんて良く持って来てたな・・・。」

 

「車に積んであったのよ、ささ、座って座って。」

 

手際良く席を整える宗吾と玲奈に、一夏はタメ息を吐きながらも尋ねる。

だが、答える気が無いのか、分かってるでしょとでも言いたいのか、玲奈は上手くはぐらかし、全員を円状に座らせ、自分は宗吾とシャルロットの間に座った。

 

宗吾の隣にはコートニーが、その隣にはリーカがいるという座席になっており、どうやら親睦を深める為の位置の様だ。

 

そして、セシリアとシャルロットに注がせておいた酒を全員に配ってゆく。

 

「じゃあ、全員グラス持って、一夏元帥、乾杯の音頭取ってよ?」

 

「げ、元帥・・・!?」

 

玲奈の発言に、リーカは驚いた様に素っ頓狂な声を上げた。

 

自分より遥かに階級の高い人物がいるとは思わなかったのだろう、その表情は一瞬にして更に固さを増していた。

 

「・・・、身内人事だから気にするな・・・、それに、酒の席じゃ関係ないさ。」

 

「は、はぁ・・・。」

 

呆れた様にリーカを宥める一夏だったが、それでもまだ緊張気味なリーカは生返事しか出来なかった。

 

どうやら、一夏に対してコートニーを横取りする悪いヤツ的なイメージを抱いてしまっているのだろう・・・。

 

「ま、良いさ、まずはこの七人の出会いを祝して、乾杯っ!」

 

『乾杯っ!!」

 

「か、乾杯・・・!」

 

その緊張を祓う為に、一夏は敢えて大袈裟に声を上げ、それに合わせてアメノミハシラの四人とコートニーが勇んで応じ、リーカも遅れて乾杯する。

 

各々が他のメンバーとグラスを合わせ、一気飲みが如くグラスに入った酒を飲み干していく。

 

「くぅ~!外で呑む酒は違うわね~!ささっ、どんどん呑みましょ!!」

 

「えっと・・・、わ、私は良いかなぁ~・・・?」

 

久し振りにヤケ酒では無い楽しめる飲みが出来てテンションが上がったのか、玲奈は満足げに二杯目を注いでいく。

それを見たリーカは、苦笑いを浮かべながらもグラスを地面に置こうとした。

 

彼女とてコーディネィターではあるが、そこまで飲める自信は無いらしい。

 

だが・・・。

 

「気にしない気にしない、酔ったら酔ったで、介抱してくれるヒトがいるでしょ?いや、あんなコトやこんなコト、かしら?」

 

「かっ・・・!?」

 

目敏くそれを見付けた玲奈によって二杯目が注がれ、完全にシモの方に話を持って行った彼女の言葉に、酔いでは無い何かによって、リーカの顔は一気に赤くなった。

 

どうやら、その手に関する免疫はあまりないらしい。

 

「初対面の奴に何下ネタぶっこんでんだ・・・、あっ、そう言えば自己紹介がまだだったな、俺は神谷宗吾、アメノミハシラ中将で一夏の部下だ、よろしくな!」

 

自分の恋人が下世話な話をしている事に呆れながらも、まだ自己紹介していない事に気付いたのだろう、話題を変える意味も込めて、宗吾は改めて名乗った。

 

「アタシは早間玲奈、同じく中将で一夏の部下よ、今後ともよろしく!」

 

「一夏達は南米で会ってるから分かると思うが、プラント兵器開発局所属のコートニー・ヒエロニムスだ、よろしく頼む。」

 

「私はザフト軍ラビット小隊所属のリーカ・シェダーよ、リーカって呼んでね!」

 

彼につられて、玲奈達も互いに自己紹介を始めていた。

どうやら、それなりに打ち解けてきたようだ。

 

「では、私も改めて、アメノミハシラ軍部大将のセシリア・オルコットです、お見知り置きを。」

 

「アメノミハシラ軍部大将、シャルロット・デュノアだよ、改めてよろしくね?」

 

それを見ていたセシリアとシャルロットも、コートニーとリーカに対して改めて名乗っていた。

親しき仲にも礼儀あり、意味合いは違えどそれを実行しようとしているのだろう。

 

一夏はその間に全員のグラスにウォッカを注ぎ、改めて乾杯して一気に飲み干していた。

 

「しかし・・・、総帥を除くアメノミハシラ幹部と飲めるとは思いもしなかったよ・・・、俺達はよっぽど運が良いらしい。」

 

「皮肉にしか聞こえないわよ・・・、ま、アンタ等の新型のお蔭で、アタシの機体の改修が一気に進んだから文句は言えないわね。」

 

コートニーが自分の置かれた立場を改めて俯瞰し、感心していると、玲奈が半目で睨んだ後、意味がないとばかりにタメ息を一つ吐いてグラスの中の液体を一気に呷った。

 

「あ、えっと・・・、元帥閣下は・・・。」

 

「だから身内人事だって、階級とか気にするなよ・・・、コートニーとは、ライバルであり親友だ、君が思ってるコトは何一つないよ。」

 

「そ、そう・・・。」

 

苦笑しながらも話す一夏の言葉に、少々安堵しながらもリーカは彼への追及を諦めた。

 

それを見ていたセシリアとシャルロットは顔を見合わせて笑いながらも、グラスを傾けた。

 

「しかし・・・、妙なもんだな、ザフトの関係者とこうやって呑むなんて思いもしなかったよ。」

 

「俺もだよ、だが、アメノミハシラ大幹部との付き合いがあるのは行幸だった、今回の件は、特にな。」

 

宗吾は自分の上官と同等の戦士と飲めることが純粋に楽しいのか、何時も以上にその表情は笑みで溢れていた。

 

それに答えるコートニーは、自身の幸運を喜び、この至福の時を噛み締めているようにも見て取れた。

 

彼はその立場上、同期と呼べる人間が殆どいないため、同年代と酒を酌み交わすことも少ないのだ。

そのため、同い年、もしくは一つ下しかいないこのメンバーに対して、ある種の親近感を覚えているのだろう。

 

「そういえばさ、なんでコートニーって技術官なのよ?一夏並みなら前線出ても良いんじゃない?」

 

そんな時だった、何の気無しに玲奈が発した言葉に、一夏とコートニーの表情が曇った。

 

つい三十分ほど前に、一夏が同じ質問をして、聞き返されて詰まってしまっていたのだ。

もし、この場でそれをしてしまうと、先ほどの二の舞になる、そう確信した二人は全く同じタイミングで表情を硬くしたのだ。

 

だが、そんな事など露知らず、他のメンバーは興味深げに彼を見ていた。

 

そんな空気の中、一夏とコートニーはアイコンタクトを交わし、どうすべきかを一瞬で判断、諦めた様にタメ息を吐いていた。

 

「そうだな・・・、一夏にはさっきも話したが、俺は戦争を、争いをさせない兵器を造りたいから、メカニックになったんだ、俺の夢のためだよ。」

 

玲奈の問いに、一夏に配慮しながらもコートニーは答えた。

だが、それは偽りではなく本心であることに違いはなかった。

 

その証左に、彼の顔には熱っぽさが出ており、まるで少年のような無垢な感情だけがあった。

 

「ふぅん・・・、変わってるわね、でも、嫌いじゃないわ。」

 

それを察することは、出会って一時間も経っていない玲奈にもでき、羨ましそうに微笑んだ。

 

「私も、初めて聞いたんだけど・・・、二番目、かぁ・・・。」

 

だが、対照的に面白くなさそうなのはリーカだった。

 

自分の方が付き合いが長いのに、先に知ったのが一夏である事に嫉妬しているのだろう。

 

それに気付いた一夏は、更に苦笑の度合いを深くし、何かを察した宗吾も可笑しそうに頬を緩めていた。

 

彼等の間には、親しい仲にある者同士でしか出せぬ雰囲気が流れており、初めて集まったとは思えぬ程、穏やかで優しい時が流れていく。

 

「そうだっ!コートニーにばっかり語らせるわけにはいかないわね、アタシ等も夢語ろうじゃない!」

 

だが、その空気を破るように、玲奈が突如として声を上げた。

 

それにギョッとして、コートニーは飲んでいたウォッカを噴き出しかける。

先程は何とか回避できた地雷原にまた突っ込みに行くのかとでも言いたげに、彼は玲奈を驚愕の表情で見詰めた。

 

だが、それを知ってか知らずか、玲奈は言葉を続けた。

 

「アタシの夢は、一夏に勝つ事!そして、宗吾の御嫁さんにしてもらう事よっ!!」

 

「なにを恥ずかしい事を・・・、まぁ、俺も一夏に勝って、玲奈と添い遂げる事、それが夢だな。」

 

何の臆面も無く言い放たれたその言葉に、宗吾は僅かに赤面しながらも自身の夢を、願いを口にした。

 

嘗ては生きる事のみに執着していた彼等がそれ以外を望む事が出来るのは、一重に一夏の助けが有ったからだ。

そんな彼を超える事と、互いに添い遂げる事、それが今の彼等の夢で在り、生きる意味だった。

 

「良いなぁ・・・、私も・・・。」

 

臆面も無く、堂々と交際宣言している宗吾と玲奈を羨ましく思っているのか、リーカは少し寂しそうにコートニーの横顔を見つつ、小さくタメ息を吐いた。

 

想いを寄せている男が、自分に気がある素振りを見せてくれなければ彼女でなくとも嘆きたくなるだろう。

それを分かっているセシリアとシャルロットは、温かい目で二人の様子を見ていた。

 

「んじゃ、次はリーカね、夢発表しましょうよ?」

 

「えっ!?わ、私っ・・・!?」

 

玲奈の意地の悪い投げかけに、リーカは顔を羞恥で耳まで赤く染めた。

 

玲奈も気付いていて、わざと発破を掛けようとしているのだろう、その表情は、友人の恋を応援する女のそれが有った。

 

「うぅっ・・・、私の・・・、私の夢は・・・。」

 

他の六人の目が自分に注がれている事に気付き、リーカは少々しどろもどろになったが、意を決した様に大きく息を吸い込み、口を開いた。

 

「こ、コートニーに好きって言ってもらう事ですっ!!」

 

「ぶはっ・・・!?り、リーカっ・・・!?」

 

リーカの思いもよらなぬ発言に、コートニーは飲んでいたウォッカを盛大に噴き出す。

 

まさか、好意を寄せられているとは露にも思わなかったのだろう、彼の狼狽はかなり滑稽でもあった。

 

「ひゅ~!大胆ねぇ~。」

 

「コートニーがあんなに驚くとは・・・、鈍い奴だ・・・。」

 

玲奈は満面の笑みを浮かべ、一夏は呆れた様な表情を浮かべていた。

初対面の自分達ですら気付ける感情の機微に、一番近くにいる筈の男が気付けないとなると、少々呆れもするものだ。

 

「何時も、優しくてカッコ良くて、でも人の事より機械の事が好きなコートニーが好きなのっ・・・!や、やっぱり自分で伝えたいのっ!!」

 

「すっげぇ・・・、マジだよこの子・・・。」

 

真摯に思いの丈を伝えるリーカの、その熱に胸を打たれたか、宗吾は感服した様にしみじみと呟いた。

 

自分は何となく、告白と言う形ある方法で恋人とくっ付いた訳ではない。

そのため、半ばやけくそ気味とはいえど思いの丈を伝えたリーカが羨ましいのだろう。

 

「リーカ・・・、俺は・・・。」

 

「それは、僕達がいないトコでやりなよ、知られたくないでしょ?」

 

すぐに答えを出そうとするコートニーの言葉を、シャルロットが遮る様に話した。

 

どちらの結果に転ぼうとも、全員が知るのは後で良い、そう考えているのだろう。

 

「次は僕だね、僕は一夏とセシリアと、優しい家庭を築く事、だね。」

 

「私は、一夏様とシャルさんと共に生きる事、ですわね。」

 

そして、自分達の夢は同じだと言わんばかりに、シャルロットとセシリアは顔を見合わせて微笑んだ。

 

彼女達にとって、一夏も含めた三人で添い遂げる事が、嘗ての世界からの願いであり、夢でもあった。

今度こそ、幸せに生きる、その想いだけが彼女達の胸には宿っているのだ。

 

そして、セシリアとシャルロットは、貴方は如何なの?と言わんばかりに自分達の間にいる一夏に目を向けた。

 

「俺は・・・、俺の、夢は・・・。」

 

その視線に気付いた一夏は、表情を僅かに歪めて声のトーンを落とした。

 

幾度も裏切りを働き、幾つもの夢を消し去って来た自分が夢を語っても良いのか、そして、夢を語れる程自分は何を望んでいるのか、それが分からないのだ。

 

「(あっ・・・、しまった・・・!)」

 

「(やっべ・・・、一夏のトラウマ、踏み抜いた・・・?)」

 

「(だから話したくなかったのに・・・。)」

 

一夏の凄惨なトラウマを察した玲奈と宗吾はしまったと言わんばかりに表情を歪め、コートニーは先程の一夏の表情を思い出して苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。

 

そして、彼等は同時に悟ってしまった、一夏の語りたくない、思い出したくない過去を呼び起こすキーワードが、夢であるという事を・・・。

 

「(えっ、何この空気・・・?お、お通夜・・・!?)」

 

だが、一夏との関わりが浅いリーカは、急に空気がお通夜並みに重苦しくなった事の理由に合点がいかなかったのだろう、全員を見渡して視線を右往左往させていた。

 

いや、それはある意味で仕方がないのかもしれない。

彼女はただ、その問題に踏み込むにはあまりにも部外者過ぎただけなのだから。

 

「(申し訳ありません、皆様・・・。)」

 

「(でも、一夏にも、変わって貰わないと・・・。)」

 

そんな友人達の反応に気付いていながらも、セシリアとシャルロットは一夏から視線を逸らさなかった。

 

自分達は誰かと関わる事で嘗ての自分と決別し、生きたいと心の底から思える様になった。

だからこそ、今、この時に一夏に変わって欲しいのだ。

過去の罪に人一倍責任を感じて、その念に囚われ続けるだけの牢獄から抜け出して、自分達と生きて欲しいのだろう。

 

「俺の夢は・・・。」

 

全員の思いに気付いている一夏は、どうするべきかとウオッカの液体に映る自分の顔を覗き込んで自問自答した。

 

夢は幾らだってある、だが、それを口にしても良いモノかと、自分が夢を望んでも良いのかと。

 

だが、今この瞬間を自分が心地良いと思えるなら、それが永遠に続いて行けるなら・・・。

 

「俺の夢は、夢が叶った後の皆と、こうやって酒を飲む事だ、俺には夢が無い、けど、誰かの夢を叶える手伝いくらいなら、今の俺にも出来るかもしれない。」

 

一夏には夢がまだ無い、だが、無いからこそ誰かの夢を願える。

自分の夢の代わりに誰かの夢を叶える、良くも悪くも彼らしい答えだった。

 

「だが、宗吾と玲奈にはまだまだ負けんよ、もちろん、コートニーやリーカにもだ。」

 

「そうこなくっちゃ、簡単に叶う夢ならこっちから願い下げよ。」

 

「あぁ、難しいから夢なんだ。」

 

一夏の挑戦的な笑みを受けて、玲奈と宗吾はニヤリと笑った。

それは、一夏が自分達の挑戦を何時でも受けると言った言質を取ったからか、それとも、ただ認めてくれることが嬉しいからかは分からなかったが。

 

「って、私達も含まれてるのね・・・。」

 

「リーカ、コイツはそういう男だ、だから俺も負けたくないって思える。」

 

少しげんなりと、だが、それ以上にこの集まりの中心人物に身内と認められている事が嬉しいのか、リーカははにかんだ笑みを浮かべて、コートニーに身体を少し預けた。

 

そんな彼女の心中を察したか、あるいは、先程の告白を受けて心境が変化したのか、コートニーは彼女の肩に腕を回し、一夏に対して好戦的な笑みを浮かべていた。

 

互いにライバルと認め合いつつ、友人として接するという想いを、目に見える形で表しているのだろう。

 

「ふふっ♪私達も負けませんわよ?」

 

「一夏には、僕達をずっと見て貰わないとね?」

 

彼等の、一夏に向けられる想いが嬉しいのか、セシリアとシャルロットは慈愛の笑みを浮かべて愛しの夫の腕に抱き着いた。

 

今だ苦しみから逃れられない彼に、せめてもの救いがある事が、彼女達にとっても救いに成り得るのだ。

 

「あぁ、俺達の夢を、俺達で叶えよう。」

 

愛する妻達に微笑みかけ、彼は頭上に煌めく満天の星空を見上げた。

 

宇宙から見る輝とは違う、宝石箱の様な煌めきと、三日月のかすかな光が、彼等を包む様に見詰めていた。

 

「俺達は、手を取り合って生きていけるんだから、な。」

 

視線を戻した彼が前にグラスを突き出すと、それに応じて他の六人もグラスを重ね合わせた。

それはある種の誓いであり、友情を示す形であった。

 

「俺達は・・・。」

 

『仲間だ!』

 

想いを口にした彼等は、示し合わせて酒を一気に呷った。

まるで、杯を交わす様に、友情を確かなものにする様に・・・。

 

「ささっ!湿っぽいのはここで終わりっ!!どうせ明日にゃ暫くお別れだし、このメンバーで呑むわよ~!!」

 

一番最初に呑み切った、メンバー1の元気印、玲奈が声を上げて全員のグラスに違う酒を注いでゆく。

 

「あ、あはは・・・、大丈夫かなぁ、私・・・。」

 

彼女の勢いに、リーカは苦笑しながらも、何処か楽しそうに呟いた。

 

そんな彼女達の様子に、他のメンバーもつられて楽しげに笑う。

 

 

満天の星空の下、彼等が巡り会ったその日は、彼等に訪れる事になるその未来へ向けての、新たな一歩となるのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

新たな力が目覚める時、歴史は新たに動き始める。
それがたとえ、如何なる未来へと繋がろうとも・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY
第四章 天空の宣言編
新章への扉

お楽しみに


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第四章 天空の宣言編
新章への扉


noside

 

プラント、アプリリウス市の行政区画のとある場所のとある部屋に、三名の男女の姿がそこにはあった。

 

「コートニー・ヒエロニムス君、ベルナデット・ルルー君、わざわざ呼び寄せてしまってすまないね。」

 

「いえ、議長のご要請ならばお受けいたしますわ、ねぇ、コートニー?」

 

「はい、それに、自分も興味がありましたので・・・。」

 

窓際に立つ男性の言葉に、彼に招かれていたジャーナリストのベルナデット・ルルーと兵器開発局のコートニー・ヒエロニムスは大丈夫だと言わんばかりに頷いていた。

 

「そうか、それは良かった、これからの世に、強い兵器は勿論の事、情報を制する事も必要不可欠だ。」

 

二人の返答に、彼、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは柔らかく笑んだ後、二人に数枚の資料を手渡した。

 

ギルバート・デュランダル。

元々はコロニー・メンデルで遺伝子研究を主に行っていた学者であったが、政治の道へと方向転換、その類い稀なる手腕と、融和を唱える思想に共鳴した一般大衆だけでなく、穏健派急進派問わず多くの議員たちからも支持されるカリスマ性を誇っていた。

 

無論、それだけならば他国の指導者と何ら変わらない様にも見えるが、それだけでない事は明白でもあったが、それは誰も知りうる余地のない事だった。

 

そんな彼が手渡した資料には、それぞれに付き一人ずつの顔写真とそれに付随する細やかな情報の類いが記載されていた。

 

「そのためには、我々の新たな力を内外に示す事が必要不可欠だ、そのために、君達が推薦する彼等にも見て貰いたいのだよ。」

 

「それは良いお考えですわ、きっと、彼等も見届けてくれますわ。」

 

「・・・。」

 

デュランダルの想いに賛同するように答えたベルナデットは、朗らかに笑って見せた。

 

この翌週から行われる、ザフトの新しい力を示す発表式典に置いて、自分達が新たなる一歩を踏み出せると微塵も疑っていないのだ。

 

だが、そんな彼女とは対照的に、コートニーは考え込む様な表情で自身の手元にある二つの資料に目を通した。

 

一つはフリージャーナリストのジェス・リブルとその愛機、アウトフレームのモノ、そして、もう一つが彼が最も因縁深い相手であると自負している男、織斑一夏の資料があった。

 

そう、その資料とは、式典兼MS公開試験の招待者名簿と言うべきものだったのだ。

 

「(なぜ、議長は彼を呼び寄せるんだ・・・、なにか、裏があるのか・・・?)」

 

ジェスは兎も角、一夏はアメノミハシラのナンバー2であり、そう簡単に公に姿を現さない存在だ。

それに加え、コートニーは彼の正体を誰にも明かした事は無い。

 

つまり、どうやって彼を見付けだせたのか、それに到るまでの経緯を見出せなかったが故の不気味さを感じているのだろう。

 

「(一夏・・・、お前は、この事をどう思う・・・?)」

 

その不気味さを払拭しようと、彼は今ここにはいない友に向けて問うた・・・。

 

sideout

 

noside

 

同じ頃、アメノミハシラでは久方ぶりの再開劇が行われていた。

 

「ジェス、カイト、久し振りだな。」

 

「一夏ぁ!久し振りだなぁ~!!」

 

アメノミハシラの客間にて、フリージャーナリストのジェス・リブルは、アメノミハシラのナンバー2、織斑一夏と実に二年ぶりの再会を喜び、彼と固い握手と抱擁を交わした。

 

南米での見送り以来、長い間顔を合わせていなかった彼等だが、そこには苦楽を共にした確かな絆があった。

 

「よぉ一夏、随分と御大層なモノ着込んでんじゃねぇか、偉くなったもんだな。」

 

「勘弁してくれ、これは肩が凝るんだ。」

 

カイトのからかいに、一夏は困ったように笑うが、その表情には懐旧の念が強く滲み出ていた。

 

確かに、一夏の制服は二年前とは異なり、ロンド・ミナ・サハクが纏う様なマントを身に着けている。

地位が高い人間にしか着けられない代物だが、彼はそれをあまり好ましくは思っていないのだ。

 

「まぁ、MS弄る時とかは作業服着てるけどな、引っ掛かったら洒落にならん。」

 

「そりゃ御尤も。」

 

だが、そんな見栄は必要ないと感じているのだろう、二人は軽妙に笑い合いながらも握手を交わした。

 

「で、宗吾の奴は如何した?今日は見てないが・・・。」

 

そんな中で、カイトは嘗て会った一夏の部下、神谷宗吾の姿が見えない事に疑問を抱き、彼に尋ねていた。

 

一夏の副官であるなら、この場に顔を出していてもおかしくはない筈なのだが、とでも考えているのだろう。

 

「あぁ、アイツは仕事で地球に降りてる、まぁ、機を見てこっちに戻ってくるかもしれないけどな。」

 

「そうか・・・、少しは成長したかどうか見てみたかったが、仕方ない。」

 

一夏の説明に、カイトは何処か納得した様に口元を歪めた。

どうやら、宗吾の行先が分かったのだろう。

 

「おっと、そんな話をしている場合じゃなかったな、何か依頼があるんだろ、ジェス?」

 

だが、そんな話をしている場合ではないと気付いたのか、一夏はジェスに向けて尋ねていた。

どうやら、今回も今回で別件の用事があったのだろう。

 

「あぁ、俺達、これからプラントのアーモリー・ワンに取材に行くんだけどさ、マティアスに聞いたら一夏達も招待されてるみたいじゃないか、なんだったら一緒に行かないかって聞きに来たんだよ。」

 

そう言えばそうだったとでも言う様に、ジェスは彼に今回の要件を手短に話した。

 

彼は、プラントのキャスター兼ジャーナリストのベルナデット・ルルーの推薦招待により、アーモリー・ワンで行われるザフト製新型MSの公開テストに取材に行ける事になっていた。

 

そのついでに、彼女から今回の公開テストに招待されている者達のリストを貰ったのだが、そこに一夏達の名前が記載されていた為に、話を聞くためにアメノミハシラへと赴いたのだ。

 

「あぁ、コートニーから招待を受けたが、まさかデュランダル新議長殿直々の推薦だったとは思いも寄らなかったがな。」

 

「どういう事だ?」

 

だが、一夏の口から飛び出した言葉に耳を疑ったのか、ジェスはもう一度説明してくれと言わんばかりに尋ね返した。

 

まさか、プラントの新議長が他国の重要人物を呼びだすとは思いもしなかったのだろう。

 

「コートニーから招待を受けた時、俺は何気なく誰が俺を呼び寄せたか聞いたんだ、そしたらデュランダルの名前が出て来るじゃないか、まさかプラントのトップにまで俺の事が伝わってるなんて・・・。」

 

何故自分の事がプラントにまで伝わっているのか、それに合点が行かなかった一夏は頭を抱えていた。

 

コートニーと幾度か会っているが、所詮は所属不明のアンノウンという扱いにしかなっていない筈だし、彼は気付いていたが所詮はその程度、プラントの首脳陣が気付く問題でもない筈だった。

 

しかも、一夏は念には念をという事で、情報屋であるケナフ・ルキーニに痕跡の消去を依頼し、何処にも存在しない亡霊の様に曖昧で、見付けられないモノとして今までやり過ごして来たのだ。

 

更に言えば、コートニー程の男が、彼の属する場所に気付いていたとしても、易々と口外するとは思えないのだ。

故に、何処から情報が漏れたのか見当も付かない状況になっているのだ。

 

「なるほど、そりゃ俺にも分からん、だが、お前は行くんだろ?」

 

「あぁ、聞かなきゃいけない事も多々あるからな。」

 

誰に何を聞くのかは言わずもがな、彼等はやるべき事を見出している様だった。

 

「なに、俺とシャルの機体も完成した、新型同士のテストには持って来いだ、乗ってやるよ、誘いに。」

 

「なにっ!ホントなのかっ!?取材させてくれよっ!」

 

心配いらないと言わんばかりに言い放った一夏の言葉に、ジェスは興味を惹かれた様に瞳を輝かせてカメラをむけようとしていた。

 

どうやら、一夏の乗る新型機が気になって仕方ないのだろう。

 

「アーモリー・ワンで目一杯動かしてやるさ、あぁ、それはそうと、頼んでおいたものは持て来てくれたか?」

 

「あぁ、アレな、マティアスに頼んでもらってきたよ、三つで良かったのか?」

 

何かを思い出したように、一夏はジェスが取り出したパスの様な物を三つ受け取っていた。

 

表面には一夏とセシリア、そしてシャルロットの顔写真と、その裏にはジャンク屋組合のマークが刻印されていた。

 

「ジャンク屋組合の条約監視委員の証明パス、確かにあったら便利だとは思うけど、どうして欲しがるんだ?」

 

彼にパスを手渡したジェスは、お前の立場でこれがいるかと言わんばかりに尋ねていた。

 

そのパスは、ジャンク屋組合の中にある、条約監視委員会が発行する証明書の様なものであり、ただ招待されるよりもより自由な行動が可能となるモノである。

 

「このパスがあれば何かあってもプラントから即トンズラできるぜ、何も無い事を祈りたいがな。」

 

「怖い事言うなよ・・・!」

 

彼の疑問に答える様に軽妙に話す一夏の言葉に冷や汗を流すジェスの様子に、カイトはタメ息を吐きながらも事の趨勢を見ていた。

 

「さて、出発は3日後だ、キッチリ持成すから楽しんでけよ。」

 

「酒か!いいねぇ、二日酔いで移動するのも悪かねぇ、勝負してやる。」

 

「うぇっ!?どんだけ呑む気だよっ!?」

 

一夏の言葉に乗り気なカイトと、ナチュラル最強の男とコーディネィターの二人に挟まれたジェスは素っ頓狂な声を上げた。

 

間違いなく酔い潰される、彼の脳裏には、嘗ての南米軍でのキャンプで悪酔いした一夏とカイト、そしてエドとジェーンに絡まれ、吐くまで飲まされ続けた記憶が蘇って来ていた。

 

その時の当事者が二人もいるのだ、正直言って逃げたいのだろう。

 

だが、そんな彼の表情にも嫌そうな色は無かった。

 

「(一夏、もう大丈夫なんだな・・・。)」

 

かつて、南米で見せたあの死にそうな顔を、押し隠したか吹っ切れたかは分からなかったが、今は浮かべていない事が、ジェスは安堵した様な心地で見守っていた。

 

それならば、自分は酒に付き合う事で、もう少しだけでも気を紛らわせてやるか。

そう考えた彼は、一夏に肩を組まれながらも歩いてゆく。

 

友と呼べる者達との語らいを楽しむべくして・・・。

 

sideout

 

noside

 

「MS五機をメンテナンスベッドに固定完了です!」

 

一週間後、ジャンク屋組合が用意した輸送用シャトルにて、L4宙域に存在するアーモリー・ワンに乗り込んだ、ジェス、カイト、一夏、セシリア、そしてシャルロットの五名は、アーモリー・ワンの来訪者用格納庫に自分達の機体を預けていた。

 

「よろしくお願いします、あと、充電も。」

 

「分かりました、責任を持ってお預かりします。」

 

一同を代表して、ザフトの整備士が持ってきた承諾書にジェスがサインし、五人は迎えが来るという場所に向けて歩いた。

 

すると、二台のジープが走って来て、彼等の前に止まった。

 

「おっ!ベルじゃないか!」

 

「久し振りねジェス、それから一夏達に御守の彼も?」

 

「仕事だからな。」

 

どうやら出迎えの人物と言うのはベルナデットなのだろう、彼女は柔らかい笑みを浮かべながらも手を振って彼等を招き、それに応じてジェスも手を振りかえす。

 

いや、出迎えは彼女だけではないらしい、もう一台のジープに乗っていたのは、一夏が良く知る者達だった。

 

「良く来てくれた、一夏!」

 

「セシリア!シャルロット!来てくれてありがと~!」

 

コートニーとリーカはジープから降り、穏やかな笑みを浮かべて一夏達に歩み寄った。

 

「コートニー!お招き感謝するよ。」

 

「リーカさん、お元気そうで何よりですわ♪」

 

「二人とも、随分仲良くなったんだね♪」

 

一夏はコートニーと握手を交わし、セシリアとシャルロットはリーカと抱擁を交わして再会を喜んでいた。

 

「あら?リーカとも知り合いなの?」

 

そんな彼等の様子を窺ってたベルナデットは、まさか既に面識があるとは思わなかったのだろう、軽い驚きに目を見開いていた。

 

それもその筈、彼女はコートニーと仕事をする事は多々あれど、リーカと仕事する機会は少なく、一夏達と会う機会も非常に少ないのだ。

 

故に、接点を見いだせないのだろう。

 

「仕事先でよく会うんだよ、それにしても、ベルも久し振りだな。」

 

「えぇ、久し振り、深くは聞かないでおくわ。」

 

「助かるよ。」

 

彼女の疑問に一夏があいまいに答えると、ベルは仕方ないと言わんばかりに肩を竦めてジープに乗り込んだ。

 

「一夏達は俺達の方に乗ってくれ、そう言えば宗吾と玲奈は如何した?」

 

一夏達をジープに乗せようとするコートニーだったが、彼等の一行の中に見知った顔が二人ほど欠落している事に気付いたのだろう、首を傾げて一夏に問うた。

 

「宗吾は地球に降りてる、玲奈は機体の最終調整の為に残してきた、防衛戦力が出払っちまったら困るしな。」

 

「なるほど、また会って話をしたかったが仕方ないな。」

 

宗吾と玲奈の不在理由を告げる一夏の説明に納得したコートニーは、少し寂しげに笑っていた。

 

一時とはいえ、共に杯を傾けた仲だ、もっと互いを深く知ってみたかったのだろう。

 

だが、一夏が宗吾をここに連れて来なかったのには、彼の機体の存在も大きく影響している事は否めなかった。

 

ブリッツスキアーはユニウス条約で禁じられているミラージュ・コロイドを装備した機体であり、その機体を公にするという事は一夏達の立場を悪くしかねない材料でしかない。

 

そのため、宗吾はアメノミハシラの中でも、特に表に出ない影の存在になりつつあるのだ。

 

しかし、そんな事など知る由も無く、コートニー達は一夏達をジープに乗せ、今回の目的地まで向かう。

 

その道すがら、格納庫の間を通り抜ける事も何度かあったため、量産体制に入ったザクウォーリア等の新型機の数々が彼等の前に姿を現した。

 

「ザクがついに量産化されたか、こりゃやり辛くなるなぁ。」

 

「あれがザクウォーリアですか・・・。」

 

「南米で見たザクより見た目がすっきりしてるね。」

 

その機体とやり合った一夏は苦笑し、セシリアとシャルロットは造形のシンプルさに驚いている様だった。

 

「ふふっ♪それだけじゃないの、あのザクはウィザードシステムって言うバックパック交換方式を採用してるの!一夏のストライクのデータが活かされてるの。」

 

「あぁ、一夏の戦闘データはザフトが持っていたストライクのデータを遥かに上回る質だったからな、ナンバー12のデータも反映させたら、恐ろしい位完成度が良くなった。」

 

そんな三人の反応に気を良くしたのか、リーカとコートニーはザクウォーリアの開発経緯を改めて語った。

 

ユニウス条約で機体保有数が限られた中で、どれだけ機体に汎用性を持たせられるかが連合ザフト両陣営でのカギになったのだ。

 

そうなれば、バックパックのみの変更でどんな状況にでも対応できるX105という機体は、非常に参考になる機体であると言えるのだ。

 

「俺かー・・・、ってか、前から気になってたけど、ナンバー12って何?」

 

自分と自分の機体のデータが使われていた事をとやかく言うのではなく、一夏は前々から気になっていたナンバー12に言及する事にしたようだ。

 

「ザフトが唯一奪取出来なかったストライクを模した機体だとでも思ってくれ、機密事項に入るから、すべては語れないんだ。」

 

「なるほど、大体察した。」

 

苦い顔をするコートニーの表情がバックミラー越しに見えたからだろうか、一夏はそれ以上何も言わずに車外を流れる景色に目をやった。

 

そのまましばらくすると、フェンスに仕切られた広大な土地が見えて来た。

どうやらそこが、今回の主な活動場所になるのだろう。

 

入場口には関係者以外立ち入れない様になっているのだろう、ゲートキーパーの詰め所が作られ、そこにいる警備員にパスを見せないと入れないという仕組みになっている様だった。

 

「ここが試験場か・・・、やけに広いな・・・。」

 

「あぁ、主に四機の新型をテストしている、俺とリーカと、後二人がそれに参加している。」

 

停車したジープから降りた一夏達が辺りを見渡していると、コートニーが軽い説明をする様に話す。

 

その言葉から、彼等は今回関わる新型機が四機存在する事を悟り、大まかなテスト内容も窺い知る事が出来た。

 

「こっちよ、あそこに待ってる彼が、今回共に行動してもらうパイロットよ。」

 

彼等に続いてジープから降りたベルナデットが、全員を先導する様に仮設テントまで歩く。

 

そこには、ザフトレッドを纏った、神経質そうな顔だちをした男性が仮設コンソールの前に腰掛け、何処か明後日の方向を気だるげに眺めていた。

 

「彼はマーレ・ストロード、コートニーやリーカと同じく、今回のテストパイロットの一人よ。」

 

「あ、ジェス・リブルです、これからよろしく。」

 

彼女がその男性、マーレを紹介すると、ジェスは笑みを湛えて握手をしようと手を差し出した。

 

「ふん、ナチュラルの記者にナチュラルのパイロット共・・・、こんなヤツラを呼び寄せるなど、議長は何をお考えなのか・・・。」

 

だが、それを見たマーレは、ジェスのコトを、いや、その場にいたナチュラル全員を嘲笑う様に吐き捨て、そっぽを向いてしまう。

 

その言動が頭に来たのか、セシリアとシャルロットは僅かに顔を顰めた。

 

いきなり貶されては、気分も悪かろう。

 

「マーレ!!これから協力し合う人たちになんて事を!!」

 

そんな彼を咎める様に声を荒げるベルナデットだったが、そんな事など知らんと言うかのように、マーレは横目で睨みつけるだけで訂正や詫びの言葉を口にはしなかった。

 

「すまない、一夏、ジェス・リブル・・・。」

 

「いや、大丈夫だ、口が達者って事は腕は確かなパイロットなんだろう、楽しみだよ。」

 

同僚の暴言を詫びるコートニーの言葉に、一夏は何処か皮肉気に言葉を返した。

 

それに気付いたか、マーレは一夏とコートニーの両名を睨んだが、すぐさま鼻で笑って明後日の方向を向いてしまう。

 

どうやら、マーレは他のテストパイロット同士ともあまり仲が良くないのだろう。

 

「しかし、もう一人は如何した?ここには居ない様だが・・・。」

 

「あぁ、シンなら、そろそろ来るよ、ほら。」

 

もう一人のテストパイロットの姿が見えない事に気付いた一夏が辺りを見渡しながら尋ねると、リーカはある方向を指し示した。

 

全員がそれにつられて目をやると、四機の航空機の様な物が彼等の上空を飛ぶ。

 

「見た事の無い形状・・・、戦闘機が新型なのか?てっきりMSだと・・・。」

 

カメラを構えるジェスだったが、飛んで来たのがMSでは無く戦闘機タイプの機体だという事に少々落胆しているのだろう、その声色からは気落ちした様な色が伝わってくる。

 

「いや、違う、あれは・・・。」

 

「まさか・・・!」

 

だが、その機体達の違和感に気付いたのだろう、カイトとセシリアが声を上げた。

 

そんな彼等の予想を裏付ける様に、その戦闘機たちはトランスフォームを開始する。

一番戦闘機に近い形の一機がブロック形態へと変形し、その上下に、胴体と下肢へと変形した二機が合体。

 

そして、最後の機体からモジュールが切り離され、それが背面に装備され、PS装甲がトリコロールへと色づく。

 

その姿は、もはや戦闘機と呼べるものでは無く、それは正しく・・・。

 

「MSになった・・・!?」

 

「合体変形だと・・・!?」

 

MSへ合体したその機体に、一夏達は度肝を抜かれる。

予想だにしないその奇抜さに、誰もが二の句を告げなかった。

 

「あれが新型の一機、ZGMAF-X56S インパルス、パイロットはシン・アスカ、ザフトの新時代を担う機体よ。」

 

誇らしげに機体を語るベルナデットの言葉は、一夏達には届いていなかった。

ジェスは新型の奇抜さに、そして、アメノミハシラの三人はその機体に、戦士としての本能を抑えきれずに、胸を押さえて好戦的な笑みを浮かべていた。

 

早く戦ってみたい、そんな感情が彼等からは見て取れた。

 

こうして、波乱に塗れる公開テストが、開始されるのであった・・・。

 

sideout




次回予告

国に尽くす者、国に裏切られた者、立場は違えど、同じ国を見ている二人の思いが交わる時、少年は何を想うか。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

シン・アスカ

お楽しみに


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シン・アスカ

noside

 

アーモリー・ワンの試験場にて、ジェス・リブル一行はインパルスのテスト稼働の様子を見学していた。

 

ジェスはアウトフレームに乗り込んで撮影を、一夏達は仮設の官制所で解説を聞きながらもその動作の一つ一つに気を配っていた。

 

そんな彼等の目の前で、インパルスは基本形態とも言える姿、フォースシルエットを装備、その高い機動性と滑空能力で、トリコロールの機体が宙を駆ける。

 

「エール以上の滑空能力か・・・、それに、分裂するのも厄介だな。」

 

その能力を見た一夏は、ストライク以上に幅が広い運用が可能な機体であるインパルスに舌を巻いていた。

 

ストライクの流れを汲んだ機体とは言えど、その設計思想は、外部から見た彼でさえ分かる位に別物であり、一つの機体に更に多くの役割を持たせているのだと見抜いていた。

 

「あぁ、あの機体、インパルスはザフトの新しい設計理念に基づいて製作された機体だ、力の入れ様も変わってくる。」

 

一夏の言葉を受け、肯定しながらも話すコートニーの目の前で、インパルスはフォースシルエットをパージ、飛んで来た砲撃型パック、ブラストシルエットを装着、装甲色も濃緑を基調とした色彩へと変化した。

 

「ふぅん・・・、でもさ、どうして分離合体のシステムにしたの?整備とかパーツ供給とか面倒じゃない?」

 

説明に疑問に思ったのか、シャルロットはシステムの煩雑さについて言及した。

 

確かに、一々分離し気にするよりも、一体のMSとして製造した方が遥かに整備性も良く、取り回しも良い筈だ。

それなのに何故、わざわざ分離変形を選んだのかが気になったのだろう。

 

「俺の私見だが、前大戦において、試作機量産機問わず数多の機体が投入されたが、戦場で活躍したのは、フリーダムやジャスティスなどの、極めて高い実力を持つ一部のエースが乗った機体が戦局を左右していた、ザフトはこの考えをより推し進めて、たった一人のエースパイロットが戦場を支配するというコンセプトを打ち立てたんだ。」

 

コートニー曰く、有象無象のパイロットよりも、エースの中でもとりわけ、スーパーエースと呼ばれる存在が一人、全ての状況で対応できる機体があれば、条約に関わらず戦場に置いて有利に立てるという。

 

つまり、一人のエースパイロットのみで戦争を勝ち抜く事が出来るという訳だ。

 

確かに、コートニーや一夏など、自他共に認める超エース級パイロットならば、それに見合うだけの性能を持った機体さえ与えられれば、鬼神の如き力で他を圧倒できるだろう。

 

だが・・・。

 

「そんな荒唐無稽な話がありまして・・・?機体も人員にも限りがありますのよ?」

 

「確かに簡単な話じゃない、だが、その実践の第一歩として、インパルスは設計されたんだ。」

 

そんなバカなとでも言いたげなセシリアの言葉を肯定し、コートニーは更に解説を続ける。

 

「コアスプレンダーを中心に、チェスト、レッグの両フライヤーで機体を構成し、そこに武装類を遠隔で届けられるシステム、それら全てを射出し、エネルギーをデュートリオンビームで送電できる専用戦艦、ミネルバまで含めて、インパルス・システムはコンセプト通りの理想的な兵器として存在するんだ。」

 

「ソイツはイカれた発想だな、人間を何だと思ってるんだ・・・。」

 

インパルス・システムの構想を語るコートニーの言葉に、一夏は何処かげんなりとしたように答えた。

 

パイロットを酷使するやり方が気に喰わないのか、その表情は冴えない。

 

「確かに、一人に重圧を背負わせている事は否めない、だから、あの三機がインパルスをサポートする。」

 

ブラストシルエットを排し、対艦刀を装備したパック、ソードシルエットを装備したインパルスを尻目に、彼等は他の三機の新型が置かれている格納庫へ脚を進めた。

 

「X24Sカオス、X31Sアビス、X88Sガイア、この三機にもコアスプレンダーに相当する分離式コックピットブロックを内蔵する計画があった、つまりは、インパルスと合体して様々な形態を取る事も想定されていたんだ。」

 

「でも、あの三機が持つ可変機構をインパルス・システム方式にすると、海や砂漠などの局地の対応が上手くいかなかったから、今じゃあの三機が局地でインパルスをサポートする形に落ち着いたの。」

 

リーカもプランそのものに関わっていたからか、問題点を指摘しつつも現在に至る経緯を語った。

 

「なるほど・・・、どこともプランの方向転換は有るって事な・・・。」

 

「私のグレイシアも何度行き詰ったか・・・、思い出すだけで頭が・・・。」

 

その説明に一夏は感心した様に呟き、セシリアは米神を押さえて苦笑した。

 

開発過程で起こった方針転換など、アメノミハシラでも幾度となく起こった事だ。

更に言えば、ドラグーンをメインに据えていたデュエルグレイシアは一番早くロールアウトしたはしたが、最も改修点が多く、制作に長い時間が掛かっているのだ。

 

「まぁ、その内インパルスにカオスやガイアのパーツが組み込まれる構想もある。」

 

「そりゃねぇ・・・、そうじゃなきゃ意味ないよね。」

 

そんな彼等を他所に説明を続けるコートニーの言葉に、シャルロットはそりゃそうだと言わんばかりに笑っていた。

 

その説明からして、組み込まれない事は無いと踏んでいたのだろう。

 

「最終的には戦艦すら不要になる、シルエットなど各パーツやドラグーンで制御し、エネルギーや武器などは好きな時に呼びだせる、それがインパルス・システムの究極の到達点だ。」

 

「くだらん!夢物語だ!そもそもユニウス条約で機体保有数が限られた、苦肉の策だろうが!」

 

インパルス・システムの終着点を語るコートニーの言葉にかぶせて、今まで静観を決め込んでいたカイトが有り得ないと言う様に声を張り上げた。

 

確かに、戦艦すら必要ない運用方法など常識では考えられないのだ、寧ろ必要ないと言われれば言われるほど疑わしくなっても仕方あるまい。

 

「今は、な・・・、実証段階のプランだ、また何時変更が入るか分かった物じゃない。」

 

そんな彼の言葉をその通りだと肯定しつつ、コートニーは肩を竦めつつ苦笑した。

 

説明を終えた彼等の前に、テスト稼働から戻って来たインパルスとアウトフレームが立ち止まり、コックピットからそれぞれのパイロットが降りてくる。

 

「お疲れ様、シン、ジェスも。」

 

テストを終えたシン達を労う様に、リーカがドリンクボトルを手渡そうと動く。

 

「ありがとうリーカ!キンキンに冷えてるっ!!」

 

冷えたドリンクボトルの中身を一気に呷り、ジェスはサッパリしたと言う様に笑う。

 

「どうも。」

 

そんな彼とは対照的に、シンは無愛想に受け答えしつつ、さっさとベンチの方に歩いて行ってしまった。

 

「・・・、愛想の悪い少年だ・・・、昔の俺にそっくりだ。」

 

嘗ての、一番荒んでいた頃よりも少し前の自分の姿を重ねた一夏は苦笑しつつも、シンに声を掛けようと動こうとした。

 

だが、それを制するように、コートニーが彼の肩に手を置いた。

 

「一夏、待ってくれ、シンは、オーブの人間だったんだ・・・。」

 

「なんだって・・・?それは本当か!?」

 

苦い顔をしたコートニーの言葉に、一夏は驚きのあまりに一瞬ふらつく。

 

オーブの出身である者が、ザフトのパイロットになっているなど考えたくないのだろう。

 

いや、考えてみれば分かるだろう、彼がザフトにいるという事は、彼がコーディネィターであるという証左であるということだ。

 

それに加えて、彼がオーブからプラントへ移住した理由なんて考えるまでも無い、二年前のオーブ侵攻戦の犠牲になった問い事ぐらいしか思いつかなかった。

 

「なんで・・・、とは、聞かなくても分かるよ・・・、アスハの理念の犠牲者ってトコ、だね・・・。」

 

「私達にも無関係では、有りませんね・・・。」

 

それは、セシリアとシャルロットにとっても重く響くものだった。

 

属している組織は違えど、元を辿れば彼女達もオーブの組織に属している。

オーブの民を救う責任があるのだ。

 

「だが・・・、彼はもうザフトレッド・・・、しかも、新型機のパイロットだ、それに、オーブに戻れとは今更言えんな・・・。」

 

しかし、彼は自分に出来る事の範疇に無いと考えていた。

 

「すまない・・・、そういう奴がいると、先に教えておけば良かったな・・・。」

 

「コートニーは悪くない・・・、最初から組織を明らかにしておかない俺が悪かったんだ・・・。」

 

その事に負い目を感じたのか、コートニーは詫びを入れようとするが、一夏はそれを制して歩みを進めた。

 

彼の進路にはベンチに腰掛けたシンの姿が有り、一夏の真意を読み取る事は容易かった。

 

それに気付いたセシリアとシャルロットが彼を追おうとするが、一夏は首を横に振る事でそれを制した。

 

独りでやる、そんな意志が彼からは伝わってきた。

 

今は彼の言う通りにする、その想いで彼女達は愛する男の背中を見送った・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

コートニーの話を聞いて、俺はいても立ってもいられなくなった。

 

二年前の、オーブの戦禍に巻き込まれた少年の事が気になったんだろう、気付けば俺は、脚を彼の方へと向けていた。

 

だが、俺が出来る事なんざたかが知れてる、それに、彼の心を逆なでするだけかもしれない。

いや、例えそうだったとしても、俺は彼を見て見ぬふりなんて出来なかった。

 

「よう少年、良い動きしてたじゃないか。」

 

備え付けられていた自販機で紅茶を調達し、彼の隣に腰掛ける。

 

「貴方は・・・、確かコートニーさんの知り合い、でしたか・・・?なんの用です?」

 

「織斑一夏だ、MSパイロットやってる、よろしくな。」

 

警戒心、いや、ある種の無関心ってトコなんだろうか、彼の言葉には突き放す様な色が窺えた。

 

けどまぁ、この程度、昔の俺に比べれば可愛いもんだ。

 

「シン・アスカだったな、コートニーからある程度話を聞いてる、腕の良いパイロットで、オーブの、人間だったと・・・。」

 

「っ・・・!!」

 

俺の探りに、彼は表情を強張らせる。

どうやら、かなり根深いもんが有りそうだな・・・。

 

「だからなんです?それが貴方に何の関係があるってんですか?」

 

俺に対して苛立ちに近い感情を抱いた、か・・・。

これは、骨が折れる・・・。

 

「あるさ、俺が、オーブの亜流に属してる人間だからな。」

 

だから、俺も手札を晒す。

俺とは何のかかわりの無い事柄だったとしても、ミナの理念には反したくない。

 

それが、俺の信念でもあるんだから。

 

「アンタっ・・・!!」

 

「君の身に起きたことを、俺は知らない、だから、君に対して何も言えない。」

 

オーブに近い人間だと分かるや否や、俺に敵意を剥き出しにしてくる。

それで良い、君の心を俺に教えてくれ。

 

それが、俺のやり方だから。

 

「でも、君がここに来る事になった原因を教えてくれ、オーブの後始末、俺に着けさせてくれないか?」

 

敵意の瞳に、俺は憐みでも情けでもなんでもない、ただ真っ直ぐな、知りたいという想いだけを籠めて彼を見据える。

何も知らないから憐れまないし同情もしない、ただ、話を聞きたいだけだと視線で訴えた。

 

「別に俺を信じなくったっていい、だけど、俺はアスハの理念に納得はしても協賛はしていない、俺は、アスハと対立する裏側の人間だからな。」

 

「そんな事・・・、口では何とでも言えますよ・・・、アスハの綺麗事みたいに・・・。」

 

俺の言葉に耳を傾けてくれるが、まだ苛立ちが先立っている・・・。

だが、仕方あるまい、彼はまだ幼いんだからな。

 

「理念に家族でも殺されたような言い方をする・・・、もしかして・・・?」

 

「本当に、嫌な人ですね・・・。」

 

俺の言葉に、シンは苦虫を噛み潰した様な、何とも言えない表情をしていた。

図星を突いちまったって事か・・・、やっぱ、俺の察しの良さは時として、相手の心を傷付ける刃だな・・・。

 

「軽率だったよ、すまない・・・、けど、本当にそうなのか・・・?」

 

だけど、彼の事を知る為に、俺が出来る事といえばこうやってカウンセリング紛いの事をする事しか出来ない。

 

おかしな話だ、一番カウンセリングが必要なのは、他でもない俺自身だろうに・・・。

 

「俺の家族は、皆、戦争に巻き込まれて死にましたよ・・・、アスハが後生大事にした理念のせいで・・・!」

 

「・・・。」

 

彼の言葉に、悲哀と憎悪、そして、僅かな思慕の念が入り混じる。

 

彼はオーブの事を信じていた。

どんな事が有っても、国が自分達を護ってくれると・・・。

 

「俺はオーブと言う国を信じたかった・・・、でも、オーブは抗戦を選んだっ・・・!誰が犠牲になるのかも分からずに・・・!」

 

「そうだな・・・。」

 

シンの言葉に熱が宿る。

それは、オーブと言う国だけでは無く、その時、何も出来なかった自分への絶望も含まれている様に感じた。

 

「だから・・・、俺はオーブが憎い・・・、人を護れない国なんて・・・。」

 

「滅べばいい、か・・・。」

 

彼の言葉に被せた俺の言葉に、シンは静かに、無言で頷いた。

 

だが、俺には、彼のそれがどこか強がりに見えてならなかった。

 

滅べばいいなんて思っちゃいない筈だ、彼はただ、俺達施政に携わる人間が国民に対して償いたいという、誠意を見せて欲しいんだろう。

 

「君の想いは分かった、俺もオーブ亜流組織に属する男だ、オーブの国民に対して責任を取る義務がある。」

 

だから、俺は彼に対して誠意を見せる必要がある。

それが、如何なる形であろうとも。

 

懐から銃を取り出し、弾が入っている事を確認してセーフティーを解除する。

 

「君達オーブの国民に対して、何も出来なかった俺達を許せないというのなら、これで俺を撃て、それで君の怨みが晴れるなら、この命一つ賭けたって良い。」

 

彼の手に拳銃を握らせ、俺の心臓に銃口を突き付ける。

 

その様子に、遠巻きに見ていた皆の顔色が変わる。

青ざめている者、驚愕に目を見開いている者、それぞれ表情は違っていたが・・・。

 

「護ってやれずにすまなかった・・・、だが、これだけは聞いてほしい、俺達は、君の様な人間を生み出さない為に戦う、アスハとは違うやり方で、これからの世界に投げかける。」

 

俺は視線を逸らさない、彼の紅い瞳を見詰め、真っ直ぐに想いを伝える。

嘗ての様な、力に頼ってばかりのやり方じゃない、今の俺のやり方で彼と向き合うのだ。

 

息詰まる様な空間の中で、どれ程の時間が流れたのだろうか、トリガーに掛けられていた彼の指が、ゆっくりと外された。

 

「・・・、貴方だけが悪いんじゃない・・・、それに、貴方を殺したって、家族は帰ってこない・・・。」

 

「シン・・・。」

 

拳銃にセーフティーを掛け、彼は瞳に涙を滲ませながら俺を見た。

 

まだ若く、幼いその顔が悔しさと悲しみに歪み、泣きたいのを堪えている様に強張っていた。

 

「一夏、さん・・・、には、怨みなんて無い・・・、それに、貴方を撃ったら、貴方を想う人が俺を撃つ、から・・・。」

 

「そうだな・・・、君に無暗に撃たせようとしてしまったな・・・、すまない・・・。」

 

涙を零す彼の頭を抱き寄せ、周囲に泣き声が聞こえない様にする。

 

「だけど、泣いたって良い、家族を想って泣ける君が、正しいから・・・。

 

家族を失った少年に、家族を棄てた俺がなんて言い草何だろうな・・・。

こんなセリフ、言えた様な人間じゃないのに・・・。

 

でも、俺に出来る事はこれぐらいなんだ、だから、少しでも出来る事をやらなくちゃいけないんだ・・・。

 

家族を、仲間を裏切った罪を、自分自身の罪として受け入れるためにも、な・・・。

 

sideout




次回予告

漆黒の宇宙を切り裂く光、それは炎と共に籠められた願いと共に煌めく。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

イグニート

お楽しみに


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イグニート

noside

 

「こちらガイアのリーカ・シェダー、シャルロット、準備は良い?」

 

『いつでもどうぞ、先に出てて。』

 

デブリベルト宙域にて、ナスカ級試験観測艦の格納庫内にスタンバイされているガイアのコックピットで、テストパイロットであるリーカ・シェダーは、今回のテスト相手であるシャルロットに向けて通信を入れる。

 

デブリベルト宙域においての実戦形式による合同テストには、それぞれの陣営の新型機のデータを録り合うという意味合いがあった。

 

とは言え、それは暗黙の了解に近い形であり、明文化されている訳では無かった。

 

だが、そんな事など知った事では無いというのは、この公開テストに参加している織斑一夏の談である。

 

「バスターと戦うのは初めてだけど、そっちも新型なのよね?」

 

『まぁね、驚かせてあげるよ。』

 

友であり、腕の立つパイロット同士であるが故か、リーカもシャルロットも口角が若干吊り上がっていた。

 

それは、これから始まる模擬戦の激しさをきたしているが故なのだろうか・・・。

 

「じゃあ、先に出て待ってるわね、リーカ・シェダー、ガイア、テイクオフ!!」

 

威勢のいい掛け声と共に、リーカは自機のガイアを宇宙へと奔らせる。

VPS装甲が色付き、黒を基調とした機体色へと変化していった。

 

彼女自身のパーソナルカラーは薄桃色ではあるが、今回は自分の専用機という訳では無い、テスト終了後は、正式なパイロットへと引き渡されるため、OS以外の設定はあまり弄れないのだ。

 

今回のテストは、ジェス・リブルの乗るアウトフレームが撮影の為に近くにいるため、かなり気を遣った模擬戦になるだろうが、リーカにとっては構いはしなかった。

 

友人の実力を測れる絶好のチャンス、それを逃して堪るモノかと考えていた。

 

そんな彼女の機体の前に、母艦から飛び出してきた機影が現れる。

 

それは、今回の相手であるシャルロットが駆る機体・・・。

 

「その姿・・・!?」

 

だが、その機体の姿は、彼女の知るバスターとは大きく異なっていた。

 

基となった機体のフォルムは残っている、だが、そこに追加された様々なパーツにより、受ける印象が全くと言っていいほど違ったのだ。

 

頭部はクリアパーツで形成されたバイザーを纏い、肩部はフットボール選手の様に大きく盛り上がり、背面には突き出した砲門が一対見受けられた。

 

そして、脚部は上半身とのバランスを取るようにスラスターが追加され、推力の低下を防いでいるようにも見受けられた。

 

「その機体・・・!本当にバスター・・・!?」

 

戸惑うリーカに、シャルロットは高らかに宣言する。

自身の新しい力を、未来への道を切り開く、炎の機体を。

 

『これが僕の新しい力、バスターイグニート!!』

 

noside

 

sideシャルロット

 

リーカの機体、ガイアを前にして、僕は改めて操縦桿を握り直した。

 

彼女の腕を良くは知らない、けど、テストパイロットに選ばれるぐらいの腕はある。

だから、僕も油断は出来ない、たとえ、自分専用の機体で相手するとしても。

 

「行くよ、僕の新しい力・・・!!」

 

バスターに大幅な武装の追加、そして、OSに改良を加えた、究極の砲撃特化機体。

 

僕の弟の想いを継ぐ、僕の機体!!

その名は・・・!!

 

「シャルロット・デュノア、バスターイグニート、行きます!!」

 

ラテン語で炎を表す機体を、僕は炎にも負けない熱い心で操る。

 

両腰に装備されるガレオス並行連結式ビームライフルを両脇に抱え込み、ガイアを狙って発砲、牽制に用いる。

 

ガイアは変形によるトリッキーな動きと高い格闘戦能力で敵を攪乱、各個撃破する機体だ、なら、隙を見せずに叩く事が勝利のカギになるだろう。

 

『うわっ・・・!?なんてパワー・・・!?』

 

牽制とは言っても、このビームライフルはドレッドノートみたいな核エンジン機体のパワーをバッテリー機で再現した代物だ、そんじゃそこらのライフルなんかじゃ足元にも及ばないパワーを秘めてる。

 

と言っても、サブバッテリーの容量を大幅に増やしてるからこその破壊力の増大って言うのもあるけどね。

 

『でも、スピードで攪乱すればっ・・・!!』

 

バスターの新しいパワーに脅威を見出したか、ガイアはMA形態に変形しながらも、デブリを足場に、次々とデブリに跳び移って行く。

 

デブリを蹴って加速する動きなら出来る人達は一杯知ってるけど、デブリからデブリに跳び移るのは容易では無いよね。

 

「それで攪乱できる程僕は甘くないよっ!!」

 

背中に二門装備されているレールガンを使って、足場になりそうなデブリを片っ端らから撃ち抜いて行く。

 

『わわっ・・・!?全身武器庫ねっ・・・!?でも、ガイアの力はこんなものじゃないわ!!』

 

彼女は驚きながらも、機体をMS形態へと変更、背中の小型のビーム砲をこっちに撃ちかけてくる。

 

やるねぇ、でも、負けないよ!!

 

肩部のカバーを開きながらも後退、ミサイルをばら撒いて弾幕にする事でビームを防ぐ。

 

「女は秘密を隠すから美しいんだよっ!!」

 

そう、バスターに隠されてる武器はこんなもんじゃない。

まだまだ隠している機能だってあるんだから。

 

向かってくるガイアに狙いを付けて、左右のビームライフルを連結させる。

 

「これでもっ!!喰らえぇぇ!!」

 

連結した事によるパワーの相乗効果によって威力が増大した極太ビームがガイアに襲い掛かる。

 

この威力、アグニとは比べ物にはならないぐらいの高エネルギーだね、設計段階から携わってたとは言え、実際に使うと驚きも一入だ。

 

『凄いっ・・・!!でもっ、避けられない訳じゃ無いっ・・・!!』

 

背中のスラスター兼ビームブレイドを強引に使って、ガイアはシールドを機体とビームの間に入れる事でダメージを軽減、見事に回避してみせた。

 

「さっすがっ・・・!!」

 

一夏と同レベルのコートニーが相方に選ぶぐらいだから腕は立つだろうと思ってはいたけど、アメノミハシラ幹部と比べても遜色ない腕前だね・・・!勧誘したくなっちゃうじゃないか・・・!!

 

『今度はこっちから行くわよっ・・・!!』

 

ガイアは右肩にビームライフルを接続して右手を空け、そこにビームサーベルを保持して向かってくる。

 

なるほど、砲撃機の弱点である格闘戦を挑もうってつもりだね、でも、それぐらい御見通しっ!!

 

殴り掛かる要領で右腕を前に着きだし、腕に装備してあった固定式ビームサーベルを展開、突きだす形で振るう。

 

『嘘っ・・・!?ビームサーベルっ・・・!?』

 

この装備は予想外だったんだろう、彼女はシールドを前に掲げる事でなんとか防いだ。

 

「ここも、イグニートの間合いだよっ!!」

 

右腕を払って左腕を突き出し、カバーを開いて内蔵していた四門ガトリングガンを展開、ガイアのコックピット目掛けて撃ちかける。

 

『ガトリングっ・・・!?そんなモノまでっ・・・!?きゃぁぁっ!!』

 

「どうだ!!」

 

『くっ・・・!まだぁっ・・・!!』

 

ガトリングの掃射に耐えながらも、リーカはバスターに向けてバルカンを連射、ヘッドバイザーを狙ってくる。

 

「やめっ・・・!?そこはダメっ・・・!!」

 

このパーツ高いのにっ・・・!!傷付けないでよ・・・!!

距離を取るべく蹴りを入れ、何とかバルカンの掃射から逃れた。

 

あっちゃぁ・・・、傷付いてたらヤダなぁ・・・。

ジャックさんや皆に怒られちゃいそうだよ・・・。

 

『や、やるわね・・・!!流石はシャルロット・・・!!』

 

「褒め言葉として受け取っておくよ・・・!!」

 

流石、やられっぱなしにはいかないよね、リーカだからこそ出来る荒業なのかもね。

 

でも、ザフトの新型に匹敵するパワーが手に入っただけでも儲けものだね・・・!

 

『でも、まだ負けてないわ!!これからよっ!!』

 

「望むところ!!リーカの力、僕に見せてよ!!」

 

でも、まだ模擬戦は終わっちゃいない。

 

だから、僕達はもう一度得物を構えて相手と向き合う。

それが、今を生きる僕達に出来る事だから。

 

「見せてあげるよ、僕の本気を!!」

 

ガイア以外にもカーソルを合わせて、狙いを定める。

 

これが、僕専用のバスターの力だ!!

 

「全砲門完全開放!!フルバーストっ!!」

 

ビームライフルを、レールガンを、ミサイルを、そしてガトリングを遠慮なしにぶっ放す。

 

あぁ、これだよこれ、圧倒的な弾幕とパワー、目の前に広がる爆炎、これだから重装備は止められない。

 

圧倒的な弾丸やビームが漂っていたデブリを砕き、蒸発させていく。

たまんないなぁ、これこそMSがあるべき姿だと思うんだよね。

 

『きゃぁぁ!?や、やり過ぎよシャルロットぉ~!!』

 

あまりの弾幕に、リーカが悲鳴を上げるが知ったこっちゃない。

君の実力はその程度じゃ無いはずだよ。

 

閃光と爆炎が晴れた時、模擬戦開始当初に辺りを漂っていたデブリは全て破壊され尽くしていた。

 

いやぁ、ここまでキレイになるとは思わなかったね、一夏達の模擬戦も捗るだろうね。

 

『シャルロット、リーカ、二機のデータは一通り採れたわ、一旦帰投してちょうだい。』

 

ありゃりゃ、もうそんな時間か・・・。

 

確かに、バカスカ撃ち過ぎたね、サブバッテリーを沢山乗っけたとは言っても、その分エネルギーを喰う武装をてんこ盛りにしてるんだ、もうちょっと戦略を練らないとね。

 

「ゴメンねリーカ、作戦終了だって。」

 

『ひ、酷い目にあったわ・・・、全く近付けないなんて・・・。』

 

まぁ、負ける気はしなかったしね、でも、リーカだから撃墜なんていう事態は無かったと言えるね。

 

『でも流石ね、そんなに強い機体を操れるなんて普通じゃないね。』

 

「あはは、これしか能が無いけどね。」

 

機体をナスカ級に向けながら、僕はヘルメットを脱いで髪を結んでいたリボンを解く。

 

ちょっと興奮しすぎちゃったね、暑いや・・・。

 

でも、これからはクールに、熱く行こうか。

僕の夢を、弟の夢を叶える為に・・・。

 

sideout

 

sideコートニー

 

「凄まじい破壊力だ・・・、恐ろしい機体を創るもんだな?」

 

ブリッジでシャルロットとリーカの模擬戦を見ていた俺は、隣でモニターを見ていた一夏に感想を漏らした。

 

AI-GAT-X103 バスターイグニート、恐ろしい程に強力なパワーを持っている機体だ。

イグニートはラテン語で炎を表す言葉だが、シャルロットはどちらかといえば風が似合うような気もするが・・・。

 

いや、一夏を挟んでセシリアとの対比を考えるなら炎で良いのか、セシリアは氷河だったし・・・。

 

それは兎も角、一番目を見張るのは追加された武装類だ。

 

ガンランチャーとビームライフルが外された代わりにそれを補って余りある火力の新型ライフル≪ガレオス≫や、背面に装備されるアポロニアスレールガン、そして、隠し武器の内蔵型ガトリングとビームサーベル。

 

データ上、火力は原型機の2.5倍に跳ね上がっているのに、機動力や運動性に目立った劣化は無い。

それが意味する所を考えると、乾いた笑いしか出て来ない。

 

近接戦に備えている辺り、アメノミハシラが立たされている状況を如実に知れるから、兵器開発は経緯を知る事も面白いんだ。

 

「ウチの五機の新型の内、火力は最高だよ、OSやマルチロックオンシステムの改修に時間が掛かったけどな、本当なら一番最初にロールアウト出来た機体さ。」

 

なるほど、オーブで試験した、プロトセイバーのアムフォルタスのデータを転用したからその分遅れたという訳か・・・?

 

アメノミハシラの戦力が増強されるのは、プラントにとっては痛い誤算だろうが、俺個人は如何という感慨も浮かばない。

 

むしろ、俺は友人達に銃を向けるなどしたくも無い。

プラントが裏でアメノミハシラを手に入れる事を画策している事は百も承知だが、それがそうしたというのだ。

 

俺は軍人じゃない、だからこそ、興味無しの一言で済ませているのだ。

 

一夏達が何処に属する人間か知らない奴等は、傭兵にしては十分すぎる戦力を持つ彼等の事を畏怖と恐怖が入り混じった表情で見ている。

多分それは、何時か彼等が敵になる事を危惧しているのだろう。

 

まぁ、一夏を含めた五人にアメノミハシラトップのロンド・ミナ・サハク、そして一国が保有すべき戦力以上の力を持ったMS隊、それら全てが敵に回ると考えると、俺ですら身体が震えてくるよ。

 

だが、今俺の目の前にいるのはアメノミハシラと言う組織じゃない。

 

下手をすればフリーダムのパイロット以上のポテンシャルを持つ、最強のMS乗りだ。

 

当代一と呼んでも過言では無い、その力を俺は知っている。

戦う度にその力を高め、次々に有り得ない機動を旧式機で見せてくれる恐るべきパイロット。

 

戦場で一番出会いたくない相手だ。

 

だが、そんな相手がライバルとして俺を見てくれる事は、男としても武人としてもこれ以上に無い誉だ。

 

「一夏、ジェスのアウトフレームの補給が終わったら俺達も出るぞ。」

 

「分かった、セシリア、シン!お前達も出る準備してくれ、タッグで模擬戦をするぞ。」

 

「かしこまりましたわ♪」

 

「えっ・・・?俺も、ですか?」

 

セシリアは嬉しそうに、シンは戸惑ったように声を上げていた。

 

彼は先日の一夏との話し合い以来、彼にある程度心を許している様にも見える。

 

そして、一夏はシンに、自分以上のMSパイロットに成り得る可能性を見出している。

だから気に掛けているのだろう、彼はシン・アスカという少年を、弟のように大事に想っているのだ。

 

「あぁ、俺達の戦いを間近で見て貰いたい、君にも良い刺激になる筈だ。」

 

「それに、貴方の機体は一夏様、私の機体はコートニーさんの機体と非常に良く似た性質です、どうタッグを組んでも、良い結果が生まれましてよ?」

 

一夏の言う通り、彼等レベルの達人級MSパイロットの腕を間近で見れば、まだまだ素人に毛が生えた程度のシンには非常に良い経験になる。

 

それに加え、コンビネーションを組む形にしても、2ON2の訓練には非常に良い。

 

なるほど、よく見ている。

流石は何百人の部下を抱えてるだけは有るよ。

 

「来いよシン、お前も俺達の仲間なんだ、一緒にいられる期間ぐらい、面倒見てやるからさ。」

 

無理強いはしていない、だけど、彼の人懐っこい笑みを見てしまえば、断りにくいのも事実だ。

それに、シンは力を欲している。

 

その力を持っている一夏は、彼にとっても憧れに値するだろう。

 

「はい!」

 

そして、シンは彼の本当の力を知りたがっている。

だから、彼の誘いを断る事をしない。

 

そして俺も、彼の新たな力に興味がある。

誰にも、何の不都合も無いのだ。

 

「俺にも見せて貰いたいものだ、お前の新しい力をな。」

 

俺が挑発的な笑みを見せてやると、彼もまた、交戦的な笑みを浮かべて俺を見据えた。

 

「あぁ、見せてやるぜ、俺のストライクをな。」

 

あぁ、最強のパイロットの力を俺は知る事が出来るんだな。

 

出来るなら、俺が携わった機体にもう一度乗り込んで、その力を示して欲しいモノだ。

 

「行くぞ。」

 

先行してブリッジを出て行く一夏を追って、俺達も後を追った。

 

これから始まる、名手達の美技を、この目に焼き付ける為に・・・。

 

sideout




次回予告

力はただ、力でしかないのかもしれない、それでも、未来を切り開けるなら・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

S

お楽しみに


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S

noside

 

『こちらブリッジ、各機発進準備願います、模擬戦を開始します。』

 

ナスカ級試験監視艦の格納庫に待機してあったそれぞれの機体のパイロット達は、それぞれのコックピットに届くオペレーターの通信にそれぞれ返し始める。

 

「こちらコートニー・ヒエロニムス、カオス了解、これより発進する。」

 

「こちらシン・アスカ、インパルス了解、何時でも行けます!」

 

コートニーとシンは己が機体の中でオペレーターに返しつつ、機体に火を入れていた。

 

これから始まるのは、ザフトの最新鋭機二機と、アメノミハシラ最新鋭機二機による模擬戦だ。

艦橋で見守る観測員や、パイロット詰め所でその様子を窺うMSパイロット達にも緊張している様な色が窺えた。

 

パイロット達は誰が勝つか、どの組が勝つかを予想して賭けをしている為、自分が掛けた金が消えるか増えるかで気をもんでいるのかも知れないが・・・。

 

そんな彼等の思惑に気付いていながらも意に介さないのが、今から戦いに出る者達だ。

 

「シン、俺が先に出る、俺とお前で組むぞ。」

 

「はい!」

 

カオスのコックピットで発進準備を整えたコートニーは、今回のバディであるインパルスのシンに通信を入れた。

 

観測員の代表であるベルナデットに一夏がタッグマッチを申請したところ、所属が同じペアならば許可するという旨であったため、結局はザフトVSアメノミハシラの構図が出来上がった訳だ。

 

この方式は、ザフト側からすれば新型機の連携の質を確かめる事が出来る上に、アメノミハシラの新型機の性能と、その連携を見れるという具合なのだ、許可しない訳にはいかなかった。

 

無論、パイロット達はその思惑がある事ぐらい気付いていたが、それぞれの腕を知る良い機会だとでも感じたのだろう、何も言わずに指示に従っていた。

 

今回の運用艦がナスカ級と言う事もあり、インパルスはMS形態に合体している状態で発進する手筈になっていた。

 

「コートニー・ヒエロニムス、カオス、出るぞ!」

 

「シン・アスカ、インパルス、行きます!!」

 

そして、気合十分と言わんばかりに、コートニーのカオスとシンのインパルスが先じて飛び出して行く。

 

漆黒の空間に飛び出るや、PSをオンにしたモスグリーンとトリコロールの機体が宇宙で踊った。

 

モスグリーンの機体、カオスは背面に二機のガンバレルの様なポッドを背負い、胸部には中型のビーム砲が装備され、爪先にはクローの様な物も確認できた。

 

トリコロールの機体、インパルスは、見てくれだけならばストライクと酷似している姿をしており、今回は高機動型シルエットのフォースを装備して出撃していた。

 

カオスの動きは一見して腕の良いパイロットが操っていると分かる程に滑らかであり、まさに優雅とでも評するべき機動をしていた。

 

そして、インパルスの動きはまだまだ固い部分が多々見受けられ、パイロットの経験の浅さを証明している様にも見える。

 

「シン、硬くなるな、訓練を思い出せ、今回は実弾を使用するが、お前の相手は相当の手練れだ、安心して戦え。」

 

「は、はい!」

 

まだ新兵に毛が生えた程度でしかないシンを安心させる様に、コートニーはまだまだお前ではかなわないと言う様に釘を刺していた。

 

確かに、最新鋭機のテストパイロットに選ばれる位の力量を持つシンだが、開戦前よりテストパイロットを務めるコートニーや、アメノミハシラトップエースの一夏やセシリア程の腕を持っている訳では無い。

 

故に、少しの油断が大きな事故に繋がりかねないのだ。

 

シンもそれは重々承知しているため、逆に力んでしまっているのだ。

 

「セシリア・オルコット、デュエルグレイシア、参ります!!」

 

そんな彼等の前に、アメノミハシラの大幹部、セシリア・オルコットが駆る蒼の機体、デュエルグレイシアが姿を現した。

 

追加装甲を固定装備したその機体は、腕部に大型の実体ソードが装着され、腰部と肩部に四基のソードドラグーンが装備されていた。

 

「あれが、デュエルグレイシア・・・。」

 

「まるで、ドレッドノートじゃないか・・・、テストパイロットだった俺への挑戦状か?」

 

その機体を見たシンは、自分達のザフトMSとの違いに困惑し、コートニーは自分が嘗て搭乗した核MSの存在を思い出して苦笑していた。

 

しかし、そんな彼も気付かないだろう、セシリアがドレッドノートとそのパイロットに深く関わっていたという事に・・・。

 

「ふふっ、私目当てではありませんわよね、コートニーさん?貴方のお目当ては、あの御方ですわ。」

 

そんな彼の想いを知ってか知らずか、セシリアは悪戯っ子のような笑みを浮かべ、MSで器用に恭しくお辞儀をさせた。

 

その姿はまるで、主の降臨を迎える臣下の様でもあった。

 

ナスカ級試験艦より、この試験に参加する最後の一機、アメノミハシラの最高幹部が乗る白の機体が姿を現した。

 

フレームこそストライクとは全く変わらないが、肩部に追加されたスラスターや、直線化された頭部ブレードアンテナ、腰部に装備される拳銃や、脚部に装備されているスラスター兼用ラックなど、様々な変更点が見受けられた。

 

そして何よりも、ストライクを象徴する背面のバックパックも、新型が用意されていた。

 

「あれが・・・!!」

 

シンがその姿に驚愕し

 

「一夏の機体・・・!!」

 

コートニーが驚嘆する。

 

その白亜の機体は、アメノミハシラの未来を象徴する機体だった。

 

セシリア達の機体から少し離れた場所に、その機体は制止した。

 

「待たせたな、これより、模擬戦を開始する、データ計測を開始してくれ。」

 

『了解しました、計測を開始します。』

 

一夏がオペレーターに通信を入れると、各機のモニターにMISSIONSTARTの文字が躍った。

 

その瞬間、カオスとグレイシアが真っ先に動き、それにワンテンポ遅れる様にインパルスがグレイシアを追って動いた。

 

「シンさん、貴方は私がお相手致しますわ、貴方の御力、見せて下さいな!」

 

シンを試すつもりなのか、セシリアは最初からソードドラグーンを四基とも展開、インパルスに突貫させる。

 

しかし、その軌道は敢えて読み易いポイントを攻めている。

少々手加減しているのだろう。

 

「負けませんよっ・・・!!俺だって赤なんだ!!」

 

それに気付いていながらも、シンはインパルスの推力を活かしてソードドラグーンを回避し、反撃のタイミングを見計らってビームライフルを撃ち掛ける。

 

「まぁ、私のドラグーンの中でも反撃する隙を見付けますとは・・・、これは、見縊っていた無礼を詫び、本気でお相手する以外ありませんわね!」

 

クロイツ・ルゼルのソードモードで撃ち掛けられたビームを払いつつ、セシリアはシンのポテンシャルに歓喜、自分の本気をぶつけても良い相手だと判断した様だ、ドラグーンの挙動を変え、一夏やシャルロットなど、自分の仲間達にしか見せない本気のフォーメーションでインパルスを攻め立てる。

 

「動きが・・・!?なんだっ・・・!?」

 

ソードドラグーンの動きががらりと変わった事に驚愕したのか、シンは悲鳴をあげつつも必死にインパルスを駆った。

 

「セシリアの奴、本気になりやがったな、シンに未来を見たみたいだな。」

 

「あぁ、恐ろしいドラグーンの動きだ、だが、今は・・・。」

 

「あぁ、俺もお前しか見えてないさ、コートニー!!」

 

そんなバディの様子を気にしつつも、この二人には、互いのライバルの事しか目が向いていなかった。

 

「行くぜハロ!スペリオルのスロットルを完全開放していくぜ!!」

 

『ガッテンテン!!』

 

コックピットに増設された専用の台座に収まったハロに声を掛けつつ、彼は操縦桿を動かし、腰部ホルスターに装備されていたピストルタイプのビームライフルを引き抜き、右手に保持する。

 

それに呼応し、コートニーもまた、カオスのビームライフルを白の機体へ向ける。

 

「織斑一夏、ストライクスペリオル、行くぜ!!」

 

「コートニー・ヒエロニムス、カオス、迎え撃つ!!」

 

新たな機体の名を叫び、一夏は最高のライバル目掛けて突き進む。

 

カオスもそれに応じて突き進み、相手にビームを撃ち掛け、紙一重で撃ち掛けられるそれを全て回避、一瞬交錯した後に反転する。

 

AS-GAT-X105 ストライクS≪スペリオル≫

アメノミハシラの最高幹部、織斑一夏の為に造られた、アメノミハシラ最強のMSである。

スペリオルとは、極めて優秀なと言う意味を持つ。

 

元々運動性や拡張性に優れていたストライクを、一夏が近接格闘戦を重視した仕様へと変更した機体であり、駆動系統の大幅な改良や、OSの反応速度の上昇を念頭に開発された。

 

ストライク+I.W.S.P.の純正進化とも呼べる機体であり、そのスペックはゴールドフレーム天ミナを上回るスペックを誇っている。

 

その背面に装備されるストライカーの名は、神鳥の名を持つ、ガルーダストライカー。

 

I.W.S.P.最大の欠陥だった重量と実体兵装に偏った武装類を徹底的に改善し、スラスターの性能の強化を図った結果、旧式機の改修型とは言え、C.E.73年の最新鋭機に匹敵する性能を有するに至っている。

 

武装は龍殺しの異名を持つ、小型化されたレーザー対艦刀≪アスカロン≫二振り、中型ビームキャノン、そして、115mレールガン≪アポロニアス≫が装備されており、対PS装甲機に対しても十分な脅威になりうる武装類で身を固めているのだ。

 

「連射力が高いな・・・!ビームピストルとは考え付かなかった!!」

 

撃ち掛けられるビームの雨霰を回避しつつ、コートニーはカオスのライフルをストライクSに向けて撃ち掛ける。

 

しかし、ストライクSはそれを鮮やかな身の熟しで回避し、その高い推力で距離を詰めて行く。

 

「早い・・・!これまでとは比べ物にならないだと・・・!?」

 

「そこだっ!!」

 

ストライクSの機動性と加速性を遺憾なく発揮する一夏の技量に舌を巻きつつ、コートニーはカオスの機動性で回り込まれない様に機体を動かす。

 

だが、その動きを予想し、更に上回る動きで回り込もうとするストライクSの姿に、彼の背には冷たい汗が伝う。

 

以前より、織斑一夏と言う男は腕の良い、最高クラスのパイロットである事は知っていた。

旧式機にも関わらず、新型テスト機に乗り込む自分に迫る程の技量を持つのだ、只者では無いと常々感じていた事に代わりは無い。

 

だが、彼がもし、自分に見合った最新鋭機を与えられればどうなるか、それは考慮した事はあまり無い。

 

目の前に迫る、ストライクの皮を被ったフリーダムの様な機体が、織斑一夏と言う最高のパイロットによって完璧に操られている。

 

それが意味するところは・・・。

 

「(まだ、一番得意な間合い・・・、対艦刀を使っていないのに、なんだこのキレは・・・!?恐ろしいな!)」

 

交錯する一瞬を狙って、ビームを発生させた脚部クローで蹴りつけるが、白の機体は一瞬で身を沈めて回避し、すれ違った瞬間に、左足に追加されたスラスター兼用ラックからビームナイフを引き抜き、カオス目掛けて突き付けてくる。

 

「くっ・・・!?」

 

「ちぃっ!!」

 

なんとか機体を逸らす事で回避したが、掠ってしまったようだ、機体に小さな傷が着く。

 

「ビームナイフか・・・!?アーマーシュナイダーの代わりにしては、大層なモノを装備している・・・!!」

 

「ビームクローとかアリかよ・・・!だが、イージスで慣れてるんでね、見切ってるぜ!」

 

機体を急反転させながらも、カオスはストライクSに銃口を向けるが、それよりも早く反転したストライクSが投擲したビームナイフが、ビームライフルを貫いていた。

 

「なっ・・・!?この反応速度は・・・!?」

 

ビームライフルを爆発する寸前に投げ捨てつつビームサーベルを抜刀し、ストライクSを睨む。

 

さてどうしたモノか、生半可な戦法では間違いなく勝利は掴めない。

しかし、正攻法で行っても勝てる見込みは少ない、そう思わせる程に一夏と機体の相性が優れていたのだ。

 

だが、そんな困惑以上に、コートニーはこれまでに感じた事の無いほどの高揚と、目の前に佇む最高を打ち負かしたいという衝動に駆られる。

 

自分は正規パイロットでは無い、だが、男として退く訳には行かないのだ。

 

「行くぞ、一夏!!これを受けてみろ!!」

 

ならば、自分の機体を信じ、出来る事の全てを相手にぶつける、それが最良手だと考えたか、彼はカオスの背面に装備される二基の機動兵装ポッドを展開、ビームとミサイルを多角的に撃ち掛ける。

 

「ドラグーンだって・・・!?聞いてねぇぜ・・・!」

 

機体を捻り、ビームの直撃を回避し、ミサイルをビームピストルで撃ち抜いて爆散させる。

 

その挙動を一瞬でやってのけた一夏の表情には、野獣のように好戦的な笑みが浮かび、瞳は闘志でギラついていた。

 

「良いぜ・・・!俺も本気だ!!」

 

ビームピストルをホルスターへと格納し、彼はガルーダストライカーより対艦刀≪アスカロン≫を二本とも抜刀、切っ先をカオスに向けて構える。

 

「行くぜ、コートニー!!」

 

「こい!一夏っ!!」

 

二機は互いに申し合わせたかのように一気に加速、相手目掛けて得物を振るった。

 

対艦刀の斬撃をシールドで受け流し、ビームサーベルを横薙ぎするが、ストライクSは左腕に装備していたスモールシールドで受け止め、そのまま滑らせるように間合いを更に詰める。

 

しかし、この程度の斬撃の受け合い避け合いなど、既に何度も経験している二人にはまだまだウォーミングアップに過ぎない。

一瞬の拮抗状態から瞬時に離れた二機は、それぞれに装備されている大型火器の使用に踏み切る。

 

ストライクSはガルーダストライカーに装備される中型ビームキャノンを、カオスは胸部に装備されるカリドゥス改複相ビーム砲を撃ち掛ける。

 

全く同じタイミングで撃ちだされたビームの奔流は互いにぶつかり合い、その威力を相殺した。

 

「良いぜ・・・!良いぜコートニー!もっと行くぜ!!」

 

「望むところだ、一夏っ!!」

 

ゾクゾクさせるようなその戦いに酔いしれたか、一夏とコートニーのギアはどんどん加速してゆく。

 

二年前の南米から、何も変わらない。

ただ、目の前にいる最強と戦うだけだと。

 

sideout

 

side一夏

 

「ふぅ・・・、かなり燃えたな、オーブの時以上だ。」

 

それから十分後、模擬戦を終えた俺達はナスカ級試験艦の休憩ルームでパイロットスーツの胸元をはだけて熱を逃がしつつ、シャルとリーカから渡されたドリンクを飲んで一息入れていた。

 

良い感じに高揚したまま、俺は先程の戦闘で得たデータに目を通す。

 

「いやぁ~!凄かったなぁ一夏ぁ!ストライクS!ザフトMS以上じゃねぇか!」

 

「落ち着け野次馬バカ、だが、俺が見てきたMSの中でも最高峰だな。」

 

熱くなるジェスを宥める様に押さえながらも、カイトは俺の機体に最大の賛辞をくれた、

 

その言葉、二年かけて造り上げた甲斐があるってもんだ。

 

「二年かけた、俺達の旗手さ、最高なのは当然さ。」

 

「お前らしくも無い、最高だなんて言葉、初めて聞いたぞ。」

 

俺の前の長椅子に腰掛けながらも、コートニーは何処か苦笑するように話しかけてくる。

 

だが、さきほどの戦闘の熱がまだ残っているのか、彼は何処か熱っぽい言葉で伝わって来た。

 

「AS-GAT-X105・・・、完全にストライクの皮を被ったフリーダムじゃないか、火力に機動力、I.W.S.P.を遥かに上回っている、バッテリー機で、だ。」

 

「凄いですね・・・、インパルスよりも、上の機体・・・。」

 

コートニーの説明を聞いていたシンは、何処か驚愕した様な表情で固まってしまっていた。

 

俺はフリーダムと言う機体、キラ・ヤマトという歌姫の騎士団のトップエースが駆ったその機体の動きを実際に見た事は無いが、ザフト製ガンダムの建造に多く携わってきたコートニーならば知っていてもおかしくは無いか。

 

「シン、セシリアのデュエルグレイシアはどうだった?」

 

そう言えば、シンはセシリアと戦っていたんだよな。

 

「はい・・・!あんな凄い動き、見た事ありません!全く見えませんでした!!」

 

「ですが、私のドラグーンを見事に回避されていましたわ、高機動型のシルエットとは言え、見所がありましたわ。」

 

興奮気味に話すシンと、歳の離れた弟を見る様な表情を浮かべるセシリアから、その戦いがかなり身になる者だったと推察できる。

 

最初の内にセシリアクラスのドラグーン使いと刃を交えておけば、後々出てくるドラグーンにも対処できる目を養えるだろう。

 

「でも、あんなハイスペックな機体、何処で造ったのかしら?そこをお聞かせ願いたいわね?」

 

「あれ?何時こっち来たの?ベル?」

 

何時の間に来たのだろうか、ベルが俺とセシリアとシャルを見て尋ねてくる。

なるほど、そろそろ誤魔化せなくなってきたと・・・。

 

「二年前、南米では状況が状況だったから深くは聞かなかった、だけど、今こんな力を見せられちゃ、聞いておかなくちゃ、私の首が飛ぶわ、色んな意味でね?」

 

なるほど・・・、プラント本国の思惑もあるって事か。

だが、俺をここに招いたのは、恐らくコートニーでは無く、プラントの上層部だろうと推察できる、此処に来るにあたってコートニーにも確認を取っている事だ、確証は高いだろう。

 

だが、俺も死ぬに死ねない身だ、帰るまで身分は隠し通させてもらおう。

 

「生憎、等価交換で何かがある訳でもないのに情報を出す訳にもいかんな、そうだな・・・、ここに居るメンバー全員の呑み代出してくれるなら考える。」

 

「接待しろってこと・・・?嫌味な男ね・・・。」

 

とは言え、シンを除いたここのメンバーは俺の正体知っている訳だし、まぁ、バレるリスクはあるわな。

 

しかし、彼女を味方に引き込んでおくと色々便利なのは確かだな・・・。

さぁて、どう動くか・・・。

 

「あれ?ベルって一夏の所属知らないのか?知ってるものだとばっかり・・・。」

 

「ジェス?貴方も知ってるのね・・・?って、護衛してもらうぐらいだからそうよね・・・。」

 

ジェスめ・・・、余計な事を口走る・・・。

 

この調子じゃ、下手したら誰かが口走るのも時間の問題だな・・・。

 

「しょうがねぇな・・・、プラントで一番いい酒を出す店に連れて行ってくれ、そこでここに居る奴以外誰も寄せ付けない事を条件に、インタビュー形式で応じよう、どうだ?」

 

これなら彼女の顔も立てられるし、その気になれば酔い潰してトンズラする事も出来るし、尚且つジェスと彼女を色々させてやる事も出来る。

 

我ながら、いやらしい作戦だよ。

 

「うぅ・・・、分かったわよ・・・!はぁ、今月の給料が・・・。」

 

情報を集めたいからか、それとも上からの圧力が凄まじいからなのか、彼女は喜びと悲哀でごっちゃになった様な笑みを見せて肩を落とした。

 

『ゴチになります!!』

 

「「えっ!?」」

 

リーカとシンを除いた全員がベルに向かって合掌し。リーカとシンはマジかよ的な顔で驚いていた。

 

ここに居る全員が本気で飲んだら、そりゃ恐ろしい金額になるわな。

ま、俺の情報を聞き出そうと思ったら、それに見合った額の報酬を用意してもらわないとな。

 

「はぁ・・・、交際費だけで大丈夫かしら・・・、局もあんまり出してくれないのよねぇ・・・。」

 

ご愁傷様。

 

ま、アーモリー・ワンに来て以来禁酒させられてるんだ、せめて息抜きは必要だからな。

 

さて、俺はこのまま進んで行こう。

愛する人たちと、何処までも・・・。

 

sideout




次回予告

音も無く忍び寄る影、それは新たな波乱の幕開けとなるのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

陰謀の陰

お楽しみに


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機体説明

ストライクS<スペリオル>

型式番号 AS-GAT-X105

 

アメノミハシラ機体改修計画に沿ってストライクで得たデータをベースに近代化改修を施された機体。

スペリオルとは英語で極めて優秀なという意味

 

アメノミハシラカスタムMSの中でも、最も力を注がれて完成した機体であり、アメノミハシラの次世代の旗手である証を持って生まれた。

 

元々汎用機であり、運動性や拡張性に優れていたストライクを、近接格闘寄りに振り向けるために四肢の制御プログラムを大幅にベースアップ、稼働範囲を拡大させ、運動性能を大きく向上させた。

この事から分かるように、武装よりも内面の改造、アップデートに手を加えられた為、他の陣営の新型機以上の運動性を誇るに至り、その性能はザフトのセカンドシリーズ機に匹敵する性能を有する。

 

また、基となったストライクは防御の面をPS装甲に依存した機体であったが、一夏の意向により、コックピット周辺のPS装甲裏にラミネート装甲を新たに実装、このため、PSダウン時等の緊急時におけるパイロットの生存率を大きく向上させる事に成功した。

 

ただし、このラミネート装甲も極僅かの配置であるため、ビームの直撃をPS装甲で和らげて漸く一撃堪えられるかどうかと言う程度であり、そう何度も受けられるという訳ではない。

 

また、パワーエクステンダーを搭載しているが、一夏がストライカー毎のエネルギーの振り分けをあまり好まなかったため、ストライカーによっての装甲色の変化はない。

 

ベース機からの主な変更点は、頭部マスクラインが若干細くなった事、ブレードアンテナが直線を描くように鋭利化、及び肩部がスラスター装備型(アカツキの肩に酷似)に変更された。

 

武装

19㎜対空自動バルカン砲塔システムイーゲルシュテルンⅢ

 

バスターとブリッツを除く初期型GAT-Xナンバーに搭載されていたイーゲルシュテルンを、弾芯や炸薬の改良により、威力はそのままに、口径を四分の一にまで切り詰める事に成功した。

そのために、装弾数の増加、及び、高度な冷却システムやセンサー類を搭載できる余剰スペースが生まれ、本機の性能強化の一端を担っているとも言える。

 

ビームナイフ ロムテクニカRBW改

 

ハイペリオンに搭載されていたビームナイフの改良型。

両脚部に新設されたスラスター兼用ラック内に装備されている

送電システムの改良により、より少ないエネルギーでビーム刃を発生させる事が可能となった為、アーマーシュナイダーの代わりに搭載される事となった。

また、掌から射出するものも実装される予定だったが、整備性の極端な悪化が見込まれたために採用が見送られる事になった。

 

AS-1 ビームピストル

腰部に設けられたホルスターに装備された拳銃サイズのライフル。

先行開発されたクロイツ・ルゼルピストルモードを参考に製作され、近距離を主なバトルフィールドとする本機のゼロ距離射撃能力を向上させる大きな要因となった。

 

専用スモールシールド

一夏の意向により、近接防御用様に装備されたスモールシールド。

ストライクやM1シリーズに装備されるシールドに形状は似ているが、その面積は半分以下程しかない。

主に銃撃からの防御よりも、近接格闘の際に剣撃を受ける為に使用されるが、ビームを振動によって拡散防御する特殊合金を使用している為に、通常ライフルのビーム程度ならば数発受ける事が出来る。

小型化によって軽量化された事もあり、取り回しにも優れており、二刀流戦術を主とするストライクSの運動性を殺す事は無い。

 

専用ストライカー

 

ASP-X05 ガルーダストライカー

 

I.W.S.P.のデータを基に新造されたストライカー。

ガルーダはインドの神鳥、ガルダの英読み。

 

I.W.S.P.は全領域対応型のストライカーであり、強力な火器を搭載したストライカーではあったが、あまりにも機能を集約させ過ぎた為の重量の増加、及びパイロットが受け持つ処理の膨大化が顕著であると同時に、実弾兵装主体の装備は、PS装甲が普及したC.E.73年代において、ストライクSのメインストライカーとしての運用は困難を極めた。

 

その為、ストライクSの性能をより強化する為のストライカーの新造を余儀無くされ、パイロットである一夏も、その必要性を強く進言していた。

 

その言葉を受け、メカニック達はデータの解析及び試作機の製作を同時進行させ、一夏が要望するスペック以上のモノを目指し、完成を急いだ。

 

形状は、同じくI.W.S.P.のデータを基にオーブ本国で開発されたオオトリに酷似しているが、戦闘機へと変形する機構を廃し、純粋なストライカーパックとなったため、MSと接続した際に折り畳まれた機首が有った部分に中型スラスターが装備され、加速性及び機動性はオオトリを上回る性能を持っている。

また、レーザー対艦刀を二本装備するためのスペース確保の為、バルカンポッドが撤廃され、ミサイルや機銃も軽量化の為に全て取り払われており、射撃兵装はレールガンとビーム砲に依存する結果となっている。

 

また、ストライクSの運動性を100%発揮するために、本機はリミッターを最初から設けなかった為、並のナチュラルは愚か、並のコーディネィターですら十全に扱い切る事は不可能となったが、メインパイロットである一夏の卓越した技量に絶大な信頼を寄せているメカニック達は、彼の技量に追随させる為、非リミッター状態を常に万全の物とする為の調整を行っている他、PS装甲部材で制作したことによって強度も向上し、ストライクSの活用の幅を更に広げている。

 

11メートルレーザーブレイド アスカロン

背面に二本装備されている中型対艦刀。

I.W.S.P.の対艦刀をベースに、ソードカラミティのシュベルト・ゲベールのデータを転用、PS装甲を切断可能とするために改良が加えられ、威力と取り回しの良さを両立する事に成功した。

また、機体の稼働時間の確保のため、ビーム刃ではなくレーザー刃が使用されているが、対艦刀とレーザー刃の相乗効果によって、絶大な切断力を誇り、取り回しの良さにも優れていると言う、極めて優れた兵装である。

 

115㎜ビーム砲

本ストライカー右側に装備される。

ランチャーストライカーに装備されていたアグニや、イージスに装備されていたスキュラを参考に開発された中型ビーム砲。

エネルギー効率を大幅に向上させたために、この手の兵装では破格の低燃費を実現している。

 

120㎜レールガン アポロニアス

本ストライカー左側に装備される。

バスターイグニートに装備されるレールガンと同系列の兵装。

I.W.S.P.のレールガンを参考に開発されているために、射撃精度と威力は折紙付きである。

 

 

デュエルグレイシア

型式番号 AG-GAT-X102

 

デュエルで得られたデータを基に近代化改修を施された機体。

グレイシアは英語で氷河

 

ベーシックかつ高い運動性を誇っていたデュエルだったが、火力と防御力には些か問題があった。

 

それを解消するために目を着けたのが、ロングダガーに装備されていたフォルテストラだった。

火力と防御力を向上させるフォルテストラだったが、重量の増加による運動性の低下は免れなかった。

そのため、本機はフォルテストラをフルフェイズシフト化する代わりに、本体のフォルテストラ装着時の露出箇所以外のPS装甲を排除、フォルテストラを固定装備する事で機体の重量増加を極力抑え、運動性と火力、防御力を並立させる事が可能となった。

 

背面の大型スラスターはストライクI.W.S.P.の影響を色濃く受けて大型化し、主翼も装備された為に重力下においてもある程度の飛行を可能とした。

 

また、メインパイロットであるセシリア・オルコットの適性に合わせ、近接兵装主体の装備と、ドラグーンシステムを採用した兵装を多数搭載している。

 

ドラグーンシステムは量子通信システムを使用しているためにエネルギーの消費が膨大であり、使用するには核エンジンが必要となってくる。

しかし、メカニックの尽力によって量子通信システムの効率向上を達成した事で消費エネルギーを抑え、ドラグーン装備数を必要最低限に留める事で実用レベルまで漕ぎ着けた。

 

また、本機のデータは後にブルーフレームの新形態の開発に活かされる事となり、サード及びDは本機の影響を色濃く反映している。

 

武装

19㎜対空自動バルカン砲塔システム イーゲルシュテルンⅢ

ストライクSに装備されたものと同一。

 

クロイツ・ルゼル ビームピストル装備型耐ビームソード

セシリアの発案によって両腕に試験実装された兵装。

対非PS装甲機及び対PS装甲機両方に対して有効であり、武器持ち代えによるタイムラグを大きく短縮させる事に成功した。

ピストルモード時は連射力とエネルギー効率を重視したために威力は低いが、牽制用の装備であるために問題視はされていない。

また、この装備を使用するためにシールドを装備できなくなったが、刀身に特殊加工を施されたレアメタルを使用した事によりライフル程度ならば防ぐ事ができ、角度さえ調整すればインパルス砲の高エネルギービームも切り裂く事が出来る様になった。

ただし、これもスーパーエースのみが使用できる技術である事には変わりなく、真面なパイロットならば間違いなく使用しない。

イージスのビームサーベル発生技術を転用したため、刀身にビーム刃を発生させる事が出来るために、対艦刀譲りの威力がある。

イメージとしてはブルデュエルのリトラクタブルビームガンが、ガンダムアストレアのプロトGNソードと一体化した様な物。

クロイツ・ルゼルは独語と仏語を掛け合わせた造語で十字架に籠められし願いを意味する。

 

ドラグーンシステム クリスタロス

ドレッドノートのデータを解析し、改良した量子通信システムを搭載した本機に実装された第二世代型ドラグーン。

同時期に実装されたZGMF-X24S カオスに装備された複合兵装ポッドの様に、誰にでも扱えるドラグーンでは無く、エネルギーの大幅な節約を目指した形であるために、本質的にはコンセプトが真っ向から食い違っている。

更に、エネルギーの消費を極力抑えるために、ドラグーンは四基のみの搭載となり、両手に保持し、カタールとしても使用できるソードタイプ四基のみの装備となっている。

クリスタロスはギリシャ語で澄み切った水を表す

 

スティレット推進式装甲貫入弾

脚部に増設された装甲にあるウェポンラック内に装備されている。

セシリアが好んで使う装備である。

連合のダガーLやウィンダムに装備されているモノと同名の装備だが、こちらは小刀の様な形状になっている。

 

 

バスターイグニート

型式番号 AI-GAT-X103

 

アメノミハシラ機体改修計画に基づき、バスターで培ったデータを基に近代化改修を施された機体。

イグニートはラテン語で炎

 

大火力特化機であったバスターは、確かに強力な機体だったが、限定空間や想定外の近接格闘戦ではその性能を発揮しきれないという問題が露呈してきた。

 

そのため、本機はその長所を殺す事なく、ある程度の近接格闘戦も行える様に改修が行われている。

 

また、タイムラグを生むとして、前後連結式のビームライフル、ガンランチャーを廃止、より高威力を期待できる新型のライフルへと換装した。

 

頭部にはシビリアンアストレイDSSDカスタムに装備されるバイザーに酷似したバイザーが新設され、本機の要であるセンサー類の保護する役目を担っている。

 

ただし、武装の大幅な追加による重量の増加は免れず、運動性能が若干低下したが、ストライクの四肢の分散処理プログラムのデータを参考にし、システム周りをバージョンアップし、スラスターも追加した為に、それも最低限に抑える事に成功した。

 

それと平行し、火器管制システムやサポートシステムを大幅にアップデートした事によって超長距離射撃やマルチロックオンの精度も大幅に向上した。

 

 

武装

六連装ミサイルポッド

両肩部に装備されるミサイルポッド、バスターでは接近された際の弾幕用としてと搭載されていたが、本機は完全な攻撃用として使用される。

 

ガレオス平行連結式大出力ビームライフル

シャルロットの意見から生み出された大出力ビームライフル。

彼女が前後連結式を使い勝手が悪いと判断した為、平行連結式へと変更されたが、ビームの収束効率はベース機よりも向上し、より少ないエネルギーで大出力ビームを撃つ事が可能となった。

また、ドレッドノートイータからのデータ提供を受け、牽制や非PS装甲機用のグレネードランチャーを銃身下部に搭載している。

デザインはヴェルデバスターのバヨネット装備型ビームライフルから銃剣を外した姿。

 

120㎜レールガン アポロニアス

背面に二基新設されたレールガン。

フレキシブルアームの稼働により、射角を自在に変更することが出来る他、取り外して両手に保持する事も可能。

I.W.S.P.のレールガンのデータが活かされ、高度な精密射撃を行う事が可能となった。

 

アルカディア四連装バルカンポッド

左腕に実装されたバルカンポッド。

普段はカバーで隠されており、使用時はスライドして展開される。

イーゲルシュテルンと同口径ながらも炸薬の改良により威力を強化、非PS装甲機ならば瞬く間にハチの巣にできるほどの威力を持つ。

 

リヒト・アステール固定式ビームサーベル

右腕側面に設けられた固定式ビームサーベル。

刀身を円形状ではなく、刀の様に薄い形へと変更したが、威力は全く衰えていない。

本機の格闘戦力確保のために設けられた唯一の近接兵装。

リヒトはドイツ語で光、アステールはラテン語で星

 

 

ブリッツスキアー

型式番号 Aσ-GAT-X207

 

ブリッツで得られたデータをベースに近代化改修をほ施された機体。

スキアーはギリシャ語で影

 

高い隠密性と白兵戦能力を誇っていたブリッツだったが、ミラージュ・コロイドシステムの搭載によるエネルギーの大幅圧迫や、右腕を失うと武装がほぼ無くなるという欠点が、改修を行う当初からの問題でもあった。

その為、本機は武装増加及びエネルギー効率の向上を目標に製造されるに到った。

 

スラスターの熱紋が察知されにくいようにスラスターカバーが更に大型化、それに伴っての大出力化に成功したが、大気圏内の重力下飛行は実現できていない。

 

また、ミラージュ・コロイド展開時に、スラスターの熱紋が察知されない様に、ワイヤーアンカーが掌や爪先に実装され、デブリに引っ掻ける事でスラスターを使用せずに移動することが可能となった。

 

また、スラスターに使用される推進剤をガスを放出しないものへと変更し、更なる隠密性の強化を図っている。

 

天ミナのデータが色濃く反映され、マガノイクタチの改良型が搭載されるなど、事実上、五機の中でも稼働時間は最も長い。

 

武装

 

19㎜対空自動バルカン砲塔システムイーゲルシュテルンⅢ

ストライクS等に装備される物と同一、原型機には無かった装備だが、ミサイル迎撃用に胸部に二門装備した。

 

攻盾システム トリケロス改Ⅱ

ベース機からの引き継ぎ兵装だが、ランサーダードがパイロットである宗吾から不評だったために撤廃され、代わりに縁が鋭利化し、より実体剣としての機能が強化された。

また、裏側にストライクSが装備しているAS-1ビームピストルを隠すように装備し、ゼロ距離戦闘でのトドメに使用される。

オプションとして、特殊弾頭やアーマーシュナイダーなども装備するなど、忍者の暗器を彷彿とさせる装備でもある。

 

忍者刀 コガラス

腰部に一本ずつ装備される実体剣。

デザイン的には直刀や忍者刀を連想させる。

主に敵のセンサーや関節を狙い、バランスを崩させる目的の為に装備されているが、グレイブヤードに遺されていたガーベラストレートのデータを解析して製作されたために、切断力も非常に高い。

しかし、本装備を使用するために、ブリッツスキアーは関節等の整備に際して微妙な調整を要する様になり、整備性には疑問を残している。

 

ハービヒト・ネーゲル

マガノイクタチの技術を応用し、左腕のピアサーロックを発展させた兵装である本機最大の特徴。

猛禽類を連想させる3つの鉤爪状のクローが標的を掴み、エネルギーを放出、吸収する。

ピアサーロックのように外側に纏めて3つのクローが搭載している訳ではなく、3つのクローが腕を囲う様に配置されており、ネーミングもそのデザインが大鷹の爪に似ている事から来ている。

ワイヤーアンカーを用い、鉤爪を撃ち出すという案も有ったが、効率が悪く、命中率もそれほど上がらないというシュミレーション結果を考慮し、不採用となった。

 

ワイヤーアンカー

掌や爪先に実装されたアンカー。

移動用に設けられた装備だが、相手を拘束し振り回すなど物理的攻撃も一応は可能。

 

 

イージスシエロ

型式番号 AC-GAT-X303

 

イージスを基に新造された機体。

五機の中で唯一新造された機体でもある。

シエロはスペイン語で空

 

ベース機であるイージスは宇宙空間でのMA形態での加速力、機動性は他の追随を許さなかったが、そのMA形態が仇となり、大気圏内では自由飛行は不可能であった。

 

その為、イージスシエロは重力下における自由飛行は勿論、大気圏内でも宇宙空間と同等のスピードを発揮できる事を最低条件に製造が開始された。

 

しかし、アメノミハシラにはレイダーしか可変機体が存在しておらず、そのレイダーも大気圏内飛行は可能ながらも、パイロットである玲奈が求める速度を出すには至らず、結果としてこの方式の採用は見送られてしまったため、開発は行き詰まり、五機の中で最も完成が遅れていた。

 

だが、そこへ一夏がザフトから譲り受けたプロトセイバーが持ち込まれ、一夏の操縦による地上でのデータも申し分無く揃っていた。

 

ここへ来て、開発は一気に加速し、プロトセイバーの構造を踏襲した結果、遂に本機の完成を見るに到った。

 

しかし、イージスの内部構造をセイバーの構造に近付けた為に、スキュラを撤廃せざるを得なくなり、火力の低下を防ぐことが出来なくなった。

その為、急遽クロト・ブエルが搭乗したレイダーのデータをケナフ・ルキーニやサー・マティアスから入手、武装面に反映させる事となった。

 

また、追加アーマーを装備するためのコネクタも随所に設けられ、オプションによるミサイルやガトリングの追加も可能。

 

武装

60㎜ビームライフルベース機からの引き継ぎ兵装。

破壊力は変わらないが、エネルギー変換効率の向上により、破格の低燃費を実現した。

 

ツォーンⅡ

GAT-X370 レイダーに搭載されたツォーンの発展型。

撤廃されたスキュラに代わる兵装であると同時に、近接格闘時におけるゼロ距離射撃用の武装であり、普段はフェイスマスク裏に隠されている。

しかし、この武装の追加の為に冷却システムやセンサー類の配置を見直さざるをえない状況に陥り、スペース確保の為にイーゲルシュテルンは撤廃されている。

 

グラム・ゼファー115㎜ビームキャノン

新設されたウィングバインダーの間に背負うように新設されたビームキャノン。

プロトセイバーのアムフォルタスビーム砲を基に開発され、核のエネルギーを使わずとも高い破壊力を得られる様にエネルギー変換効率の向上が図られている。

また、後方にスラスターが装備されているため、本機の加速性の向上に一役買っている。

ただし、MA形態のみ使用可能であり、ツォーンⅡとの住み分けが図られている。

 

 

腕部ビームサーベル発生型ブレイド トルメント・フロスト

ベース機からの引き継ぎ兵装だが、MA形態では機首となる部分でもあるため、空気抵抗を軽減させる為にクローの大型化が図られており、その副次効果として実体剣としての機能にも優れている。

 

脚部ビームサーベル

ベース機ではクローが有った部分を、ビームサーベル発生基に置き換えた。

MA形態において捕縛形態が不採用となり、脚部のクローは無用の長物となったために撤廃され、本装備が採用された。

 

 

MA形態

イージスの最大の特徴は、MSからMAへの変形にあった。

その変形機構により、イージスは通常MS以上の加速力、機動性を誇るに到った。

 

だが、そのロケットの様なMA形態は、宇宙空間での加速は見込めるが大気圏内では重力や空気抵抗に抗う事が出来ず、自由飛行は不可能であった。

MAとして、大気圏内での自由飛行が不可能であると言う大きすぎる問題を克服するため、本機はザフトより入手したプロトセイバーの構造を踏襲し、航空機の様な形状へと変更した。

 

また、ウィングバインダーを新設し、ベース機に欠けていた浮力の問題を解消し、重力下飛行を可能とした。

それと同時に、オーブ本国で開発されたムラサメの様にシールドに依存した変形は、シールドが破壊された後、変形が出来なくなるといった点から新ためられる事となり、腕部をそのまま機首へと変形させる方式を採用した。

これにより、シールドはセイバー系同様、下方からの攻撃への防御、及び空力制御に機能し、本機の飛翔能力の向上に大きな貢献を果たしている。

また、この形態の際、腕部ブレイドは展開状態で機首として機能すると同時に、ビームサーベルを発生させた状態で敵機に突撃、串刺しにして撃破すると言う、ベース機が得意とした一撃離脱の戦法を引き継いでいる。

 

形状はゼータタイプとアリオスガンダムの中間




画像が無いとイメージし辛いですが、平にご容赦を


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陰謀の陰

noside

 

「・・・、それで、ルキーニの足取りはまだ掴めないのかしら・・・?」

 

『はっ・・・、全ての情報が巧妙に隠されており、痕跡が掴めません・・・。』

 

某宇宙ステーションのとある部屋・・・・。

その部屋は、中世アジア風の屏風などで飾られており、その部屋の主の趣味を反映している様にも思えた。

 

部下からの情報に一瞬だけ表情を顰めるが、部屋の主であるその女性はまぁいいと言う風に紅茶を啜った。

 

「まぁいいわ、私達の手から逃れられる筈も無くてよ、それより、アーモリー・ワンに潜り込ませたスパイからの情報は如何かしら?」

 

『はっ・・・、そろそろ試験も大詰めになるそうで・・・、ですが、本当によろしいのですか・・・?』

 

その女性に尋ねられると、通信先の相手は渋る様に答えながらも尋ね返した。

 

どうやら、その先に待つ命令を知っているが故に躊躇っているのだろう。

 

「良いのよ、スパイなんて、幾らでも換えが効くのだから、それに沿えないのなら、貴方達も同じ道を辿る事になるわ。」

 

『・・・!か、かしこまりました・・・!!』

 

脅しとも取れるその言葉を聞き、通信先の相手は自分に降り掛かるやもしれぬ厄災に恐れ、その意思に沿おうと通信を切った。

 

「ふふふ・・・、バカな人達ね、まぁいいわ、私の、人類の幸福の為に働いて貰うわ。」

 

だが、彼女にとって、それは取るに足らない存在なのだ。

 

人を単位としてしか見ない、彼女にとっては・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

『はぁ・・・、頭痛い・・・、どんだけ呑むのよ・・・。』

 

ストライクSの公開から四日後、俺達はもう一度デブリベルトまで戻って来て、MSの公開テストに就いていた。

 

アーモリー・ワン出発の四時間前まで飲んでいたからか、通信機からベルの頭の痛そうな呻きが聞こえてくる。

 

アーモリー・ワンに戻った俺達は、アーモリー・ワンでも有名な酒屋で取材という名目で呑み始めた。

 

俺はベルとジェスの取材を受ける傍らで、彼女を真っ先に酔い潰そうとした。

テキーラやウォッカを中心に頼み、質問一つにつき一回呑ませるという手段を使ったのだ。

 

いやはや、彼女があまり飲めない女で助かった、正直な話、疲れも有ってそんなに飲める気がしなかったからな。

 

てなわけで、二日酔いが数名出ているが、結果オーライだ。

 

『ベルってお酒飲めない人だったんだね~、ビックリしたよ。』

 

『いや、一夏達が異常に強いからだよ・・・、俺だって、気持ち悪いって・・・。』

 

オープンチャンネルから聞こえ来るシャルの呆れた声と、ジェスの気分の悪そうな声が交互に聞こえてくる。

 

アメノミハシラの連中は大酒飲みが多いから、あの程度の飲酒は慣れている。

だが、普段飲まない奴がいれば、それこそこの世の地獄だろう。

 

『あれぐらい呑めませんと、ウチではやって行けませんわよ?』

 

『いや、本当に勘弁してください・・・、俺、まだ十六・・・。』

 

『若いな、エースたる者、あれぐらいで潰れていてはダメだな。』

 

セシリアの言葉に、まだまだ若いシンは顔色を悪くして言い、コートニーは意地悪く笑った。

 

シンは大酒のみのセシリアとシャルに絡まれ、数杯飲まされた挙句にぶっ倒れたという始末だった。

プラントは十六で成人だから煙草も酒も問題にはならなかったが、真面目に過ぎる彼は酒を飲んだことが無かった上に、金髪ボインの美女に囲まれてテンパった部分があるんだろう。

 

情けないとは思うが、それぐらいのほうが可愛げが有って良い。

ま、俺の嫁さんをやる気は無いけどな。

 

『ふん、ナチュラルと酒を飲むなど・・・、コーディネィターの恥晒し共め。』

 

そんな時だった、割り込んできたマーレがまたしても嫌味を吐いてくる。

俺はナチュラルでもコーディネィターでもない存在だから何とも思わないが、相当嫌な奴と言う事は考えなくても分かる。

 

後で聴いた話、彼は二年前の大戦において、白鯨ことジェーン・ヒューストンに苦しめられたザフト水軍の一員だったらしく、元々コーディネィターの選民意識に染まっていた思考が、更に歪んで悪質化したそうだ。

 

ナチュラルは勿論の事、ナチュラルの肩を持つコーディネィターすらも敵と断じている、味方にいて欲しくない人間である事は確かだ。

 

腕は立つそうだが、それを考慮しても味方にはなりたくない。

普段から近くにいなくちゃならないコートニー達は御愁傷様だ。

 

『マーレ!!ご、ゴメンね皆!後で私が撃墜しておくから!!』

 

そんな彼を咎める様にリーカが声を上げ、不穏な事を言い放つ。

 

なるほど、同陣営からもこの扱いか・・・、どうやら、テストパイロットの基準は実力と裏事情にのみ左右されるらしい。

 

さて、どうしたモノか・・・。

 

「さて、私語はここまでだ、ベル、テストを開始する、各艇へ通達してくれ。」

 

だが、難しい事を考えるのは後で良い、今はやるべき事をやるだけだ。

今回の試験は俺のストライクSをリーダーとした異所属七機編成編成でのチームプレイを見るらしい。

 

とは言え、所属が異なる機体同士、連携は兎も角、個々の機体性能を見たいのだろう。

 

『了解したわ、レコード開始、各員持ち場について。』

 

ベルは各艇へ指示を出し、MS各機に通信が入る。

 

「各パイロットへ通達、これより、デブリベルトにおける機動性及び運動性、各々の回避法を図る。」

 

『了解!!』

 

『ナチュラル風情が命令を・・・、ちっ・・・!従ってやる!』

 

一名ふてぶてしい奴がいるがそんな事は些細な事だろう。

 

俺はストライクSのフットペダルを踏み込み、デブリベルトへ突っ込む。

 

「織斑一夏、ストライクS、先行する!!」

 

『シン・アスカ、インパルス、追走します!!』

 

ストライクSを追うようにインパルスが付いてくる。

シン、君の手並みを見せてもらおうか。

 

デブリベルトは無数のデブリが地球の重力に引かれてリング上に集まった宙域だ。

そこは大小様々なデブリが、それぞれランダムに動き回る場所だ。

 

しかも、デブリ同士の衝突も起こり、その度に軌道や形、規模が変わり、予測も難しくなる。

 

その中をMSで突っ切ろうと思うのは、悪手だと言えるだろう。

 

「そんなもん、予測しながら進めばいい!」

 

しかし、ここにいるのはザフトとアメノミハシラのトップエースだ、この程度のデブリなど、回避することなど造作もない。

 

『セシリア・オルコット、デュエルグレイシア、切り裂きます!!』

 

『コートニー・ヒエロニムス、カオス、突破する!!』

 

ドラグーンを持つセシリアとコートニーは、道の先にあるデブリを切り裂き、ミサイルで破砕した。

 

『シャルロット・デュノア、バスターイグニート、穿つ!!』

 

『リーカ・シェダー、ガイア、突貫するわ!!』

 

シャルはバスターイグニートの大火力でデブリを爆砕し、ガイアはビームライフルとビームブレイドを上手く使い、追突を見事に回避していた。

 

「シン、あのデブリに突っ込む、息を合わせろ!!」

 

『はい!!分離して抜けます!!』

 

ストライクSのスラスターを強引に噴射し、AMBACを使うことでデブリを回避する。

インパルスは四つの戦闘機へ分離し、デブリの各所に空く穴を見事に通り抜けた。

 

「やるな!俺より機体の扱いが丁寧だ、見習わせてもらうよ!」

 

『そんな事は・・・!でも、嬉しいですよ!』

 

デブリを抜けてすぐに合体し、シンはインパルスの最高速度を持って更に奥へと進んでゆく。

 

そうだ、シン、そうやって飛んで行け。

君は、飛べるんだから・・・。

 

いつか、俺もそうやって飛べるようになるために、俺は彼と機体を奔らせ続けた。

 

sideout

 

noside

 

「ふざけやがって・・・、ナチュラルと、それに乗せられた愚か者が・・・!!」

 

アビスのコックピットの中で、テストパイロットであるマーレ・ストロードは不愉快だと言わんばかりに吐き捨てた。

 

気に入らない、自分はこんな機体になど乗りたくは無かった。

 

彼が欲しかったのは、セカンドステージの中でも、その意義を体現しているインパルスただ一つ、他の機体は所詮付属品でしかないのだ。

 

その付属品に乗せられているだけでも癪なのに、インパルスに乗るのは自分よりも年下の、それも新兵同然の男だ。

プライドの高い彼にとって、それだけで許されない屈辱なのだ。

 

さらに、その男が、自分が見下すナチュラルとつるんでいるのだ、唾棄すべき事だ。

 

故に、彼は邪魔者を排除する事に注力する。

それがたとえ、同胞であっても・・・。

 

「邪魔者は、これで消えると良い!」

 

sideout

 

noside

 

「おぉ~!!やっぱりMSは宇宙が映えるなぁ!しかも、陣営が違うMSのそろい踏みって、中々撮れないぜ!」

 

MS達の動きを、少々離れた場所からアウトフレームで撮影するジェスは、その光景の豪華さに感激の声を上げた。

 

彼がMSに乗って写真を取る様になった理由の一つ、MSの迫力と美しさに魅入られた彼にとって、眼前の光景はカメラマン魂を刺激して止まないのだ。

 

「宇宙の怖さを知らんからそんな事が言えるんだ!気を引き締めろ!」

 

だが、真に宇宙の恐ろしさを知るカイトにとって、今いる場所がどれほど危険で、どれ程護り辛い場所か良く分かっていた。

 

故に、純粋な好奇心だけで動かれては堪った物ではないのだろう。

 

「へいへい、分かってますよ・・・、ん・・・?」

 

カイトの言葉にウンザリしつつも、カメラのシャッターを切り続けるジェスは、受信性の高いアウトフレームのセンサーが、何処からか発せられた信号を捉えた。

 

「何の信号だ・・・?」

 

それに気付いた彼は、その発信源を捕捉すべく、高性能センサー搭載型のガンカメラを辺りに向けた。

 

「あそこか・・・?一体何が・・・?」

 

信号は直径数百mほどのデブリの内部から発進されており、僅かだが熱紋も感知された。

 

他の機体は気付いていないのか、それとも、アウトフレームの強化されたセンサーでしか捉えられなかったかは分からなかったが、彼以外にその信号に言及する者はいなかった。

 

「なら、少し見て来るか・・・!」

 

ならば、動けるのは自分以外いない。

そう思うよりも先に、彼はアウトフレームのスラスターを吹かしてデブリへと向かう。

 

「ジェス?どうした?」

 

カイトがそれに気付き、ジェスに通信を入れる。

 

「少し見てくる!大丈夫だよ。」

 

「まったく・・・、人の気も知らないで・・・。」

 

着いて来なくていいと言わんばかりの彼の言葉に、カイトはタメ息を大きく吐いて、その機体を見送った。

 

デブリに到着したアウトフレームは、空洞の様に空いていた穴から内部へ侵入し、何かないかと捜索を始める。

 

センサーはどんどん肥大化していく熱紋を示しているが、何があるかまではサッパリわからなかった。

 

「『8』、ライトを点灯してくれ、もっとよく見たい。」

 

『ガッテンだ!』

 

『8』に依頼すると、アウトフレームに取付けられているライトが点灯し、空洞の中を照らした。

 

すると、その奥には、エネルギーを収束させている砲台の姿があった。

 

「こ、これは陽電子砲・・・!?なんでこんな所にっ・・・!?」

 

『まずい!トラップだ!!』

 

予想だにしなかった事に愕然としたジェスは、一瞬反応が遅れてしまう。

 

その一瞬の内に、陽電子砲は臨界点を迎え、今にも発射されようとしていた。

 

「くっ・・・!エネルギー全開・・・!!」

 

一瞬の硬直から立ち直った彼は、アウトフレームのビームサインを引き抜いてシールド状に展開、何とか身を護ろうとした。

 

その瞬間、彼の視界は白く染まった・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「っ・・・!シンっ!!」

 

突如として、進行方向にあったデブリが爆ぜ、陽電子の光条がこちらに向かってくる。

 

なんとかシンに警告を飛ばしつつ回避する事には成功したが、一体何が起こったんだ・・・?

 

『だ、大丈夫です・・・!でも、一体何が・・・!?』

 

無事に回避できたシンは、目の前で起こった事に困惑しているのだろうか、声が上擦っていた。

 

まさかデブリに何か仕掛けられていたのか・・・?

 

『あそこは、ジェスが向かっていた場所だ・・・!』

 

「なんだって・・・!?」

 

ジェスが向かった・・・!?という事は、巻き込まれたのか・・・!?

 

『テスト中に事故を起こすとは・・・!まったく迷惑なナチュラルめ!!』

 

「あれが事故な訳があるか!!トラップが仕掛けられていたんだ、恐らく、狙いはインパルスだ!」

 

こんな時でも嫌味を吐く事を忘れないマーレに怒鳴り返しつつ、俺はこの状況を推察する。

 

俺とシンのみが通るルートに仕掛けられていたという事は、俺かシンを狙って仕掛けられていたという事が推察できる。

 

そして、表向きは所属不明な俺を殺すメリットは何処にも見当たらないし、あるとすれば、ザフトの新型たるインパルスの破壊とパイロットの殺害・・・!

 

要するに、これはシンを狙ったという訳か・・・!!

 

『ならば我々は撤退する、新型機を狙ったのだとすれば、ターゲットは我々だからな。』

 

『でも、ジェスが・・・!!』

 

リーカが何とか救助に向かおうとするが、マーレはあっさりと機体をナスカ級に向けてさっさと撤退して行った。

 

こんな時に撤退しても意味が無かろうに・・・!!

 

『一夏様!この宙域を離脱していく小型艇が・・・!!』

 

『なにっ・・・!?」

 

セシリアの報告に、俺はその小型艇の姿をモニターに捉える。

その船は、このテストに同行していた別のジャーナリストが乗り込むモノで、俺も一度話した事が有る人物が乗っているものだった。

 

この宙域を、撮影区域内を出ようとしているのか、その速度は徐々に上がっていた。

 

こんな時にまさかエンジントラブルと言う事もあるまい、これは、逃亡だ・・・!

まさか・・・!!

 

「セシリア!コートニー!!あの船を追ってくれ!!恐らく、この件に関わっている、絶対に逃がすな!!」

 

彼がこの件を仕組んだかどうかは定かでは無い、だが、逃げるにしてはタイミングが出来過ぎている。

 

それに、仕組んでないにしても、ここで逃げるという事は俺達の機体の情報を盗んだとも考えられる。

言ってみれば、スパイと言う事だ、余計に逃がす訳にもいかない。

 

『了解いたしましたわ!!』

 

『任せてくれ、ジェス・リブルを頼んだ!!』

 

俺の指示にすぐさま反応し、セシリアとコートニーは小型艇を追う様に機体を奔らせる。

 

グレイシアとカオスならそれなりに速度も出る、何とか追い続けられるだろう。

 

「リーカはシンを護ってくれ、シンが真っ先に狙われていた、二度目があるかもしれん!」

 

『わ、分かったわ!!』

 

『一夏さん!俺だって行けます!!』

 

リーカへの指示が、まだ自分が未熟だからだという風にでも聞こえたか、シンはインパルスをデブリへと向けようとした。

 

「シン!!君は狙われている、だから、デブリの中じゃ満足に戦える訳じゃ無い、ここは俺達に任せてくれ!」

 

シンを、まだまだ未来のある彼をこんな所で死なせる訳にはいかない。

 

無論、ジェスも死なせない、俺が必ず助け出す!

 

「もう誰も!俺の目の前で死なせやしない!!」

 

誰かが死ぬなんてまっぴらだ、だったら、力の限り、俺は手を伸ばす。

それで救えるなら、立ち止まっている訳にはいかねぇんだ!!

 

「シャル!カイト!行くぞ!!まずは道を作る!!」

 

『勿論だよ!』

 

『俺に命令するなよ!だが、助かる!!』

 

シャルとカイトに通信を入れつつ、レールガンとビームキャノンを展開し、不規則に、そして勢いよく動き回る無数のデブリに照準を合わせる。

 

同時に、シャルのバスターイグニートもガレオス並行連結式ビームライフルを連結させ、大出力ビームを撃つ準備を整えていた。

 

「『ツインバスターシュート!!』」

 

大火力火器の掃射に、眼前で壁のように立ちはだかるデブリは焼かれ、まるで貫かれた様に道を抉じ開けた。

 

『なんて火力だ・・・!デブリに道が!!』

 

「驚いてる暇は無い!!行くぞカイト!!」

 

『あぁ!!』

 

その空間に新たなデブリが戻る前に突っ切る、唯一俺達が出来る救出法だ。

だったら、立ち止まっている暇なんてない、真っ直ぐ進むだけだ。

 

ストライクSの強大な推力を以て、俺は一目散にジェスがいる筈のデブリへと突き進む。

 

どうやら資源衛星だった物の様だ、それなりに大きく、それでいて、小型のマシンや一般的なMSなら通れるような穴も見付かった。

だが、さっきの爆発の衝撃か、穴は全て塞がっており、とてもではないが進入は出来そうにも無かった。

 

「ダメだ・・・!完全に塞がってる・・・!」

 

『通信も繋がらん・・・!これじゃあ抉じ開け様にも・・・!』

 

なんて状況だ・・・、ここで下手にビームで抉じ開けようものなら、中にいるアウトフレームに当たってしまうかもしれない・・・!

 

だからと言って、実弾や対艦刀でチマチマ削っても時間が掛かってしまう。

それでは生存率も大きく低下してしまうので、救助の意味が無い。

 

如何する・・・!?どうすれば良い・・・!?

 

その時・・・。

 

『マシタダ!マシタダ!!』

 

「何っ!?」

 

突如としてハロが警告を発し、俺は咄嗟に後退しつつデブリから飛び上がる。

 

するとどうした、デブリを突き破る様に、内部から超高インパルス砲の火線が飛び出してくるじゃないか。

 

「このエネルギー反応は、アグニの・・・!?」

 

まさかアウトフレームの武装ではあるまい、何せ、彼の機体は民間機なのだ、武装類は積んでない筈だ。

 

だが、穴が出来たのは幸いだ、中へ入らねぇと・・・!

 

『ジェスか!?無事なんだな!?』

 

『カイトぉ!一夏も・・・!助かったぁ~!』

 

中を覗き込んだカイトのジンが、中で片膝を付いてアグニを構えているアウトフレームを発見する。

 

まさか、本当にアグニを撃ったのか・・・?

偶々このデブリの中にあったとはいえ、それをストライカーとして接続しなければ使用出来ない筈だが・・・?

 

いや、今はそんな事を考察している場合じゃないか・・・!

 

「無事で良かった・・・!今引き上げる!」

 

穿たれた穴から内部に侵入し、アウトフレームの腕を掴んで引っ張り上げる。

 

どうやらスラスターが破損しているらしく、自律飛翔は難しそうだ。

 

「カイト!手伝ってくれ、このまま担いでいく。」

 

『分かった、まったく、世話の焼ける奴だぜ。』

 

『ははは・・・、返す言葉も無いや・・・。』

 

カイトの愚痴に、ジェスは愛想笑いを浮かべて誤魔化す様にしていた。

ホント、野次馬は身の危険顧みずに情報を追うから手に負えない。

 

だけど、ジェスの場合はそれが良い方向へ向かう事もあるから、責めるに責められないんだよな。

 

しかし、そんな事はどうでもいい。

問題はジェスの機体の事だ。

 

何故ジェスの機体は、ジェネシスαにあった機体、要するにザフト系列のガンダムなのに連合のストライカーパックを装着できたんだ・・・?

 

ロウが手を加えたのは外装だけだと聞いているから、内部構造やシステム類に大きな変更は無いだろう。

つまり、この機体は基からストライカーを装備できる機体だったという訳か・・・。

 

「コートニーが言っていたナンバー12・・・、ジェスの機体が・・・?」

 

ここに来た時と、二年前の南米でコートニーの口から語られた機体の型式番号・・・。

それはストライクを模した機体だという事は想像に難くない。

 

「という事は・・・、デュランダル議長はその事を知っていた・・・?」

 

恐らく、デュランダルほどの人物になると、こういう公の催しに参加する人間の所属や所有機などはすべて割り出せるほどの脈を持っているだろう。

 

だから、俺の所属にも勘付いているだろうから、ベルを使って確証を得ようとしたと考えられる。

 

そこから考えると、ジェスの機体もザフト製MSがルーツであることを知った上で呼び寄せた、という事になる・・・。

 

「一体、俺達に何をさせる気なんだ、デュランダル・・・。」

 

得体の知れない気味の悪さに歯噛みしつつ、俺はジェスを運んで帰投した・・・。

 

sideout




次回予告

訪れるは厄災の音、新たなる火種が灯される時、世界は混迷へと墜ちて行く。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

ガンダム強奪

お楽しみに


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ガンダム強奪

sideシャルロット

 

デブリベルトでの事件から一週間後、僕達はアーモリー・ワンの一角にあるパーティーホールにいた。

 

報道陣から軍関係者、それに加えて僕達みたいな招待客も大勢いる立食パーティー形式で行われる式典に参加してるんだ。

 

勿論、僕達も正装で出席しているけど、軍服じゃなくてドレスだったりタキシードだったりを着て来ている。

流石に空気読んでるよ、じゃないと所属がばれちゃうからね。

 

ジェスが巻き込まれた事件の首謀者と思われる人が乗っていた高速艇は、デブリベルトの一角で大破している様子がコートニーとセシリアが目撃して報告している。

 

僕達も撮られた映像と写真で見たから、見失ったという事じゃなかった。

 

それにしても、デブリに衝突して大破した様子だという事だけど、潜入して情報集めるスパイが、そんな間抜けな事で終わる様な物だろうか?

 

僕達アメノミハシラ幹部三人はブリッツタイプのMSの存在を疑ってたけど、周囲に機影や熱紋も見当たらなかった。

 

ミラージュ・コロイドを使用した機体が出てきて、ワイヤーを使った移動法を用いていたのかとも思ったけど、ミラージュ・コロイドディテクターに反応すら見当たらなかったから、事故として処理される事になってしまった。

 

色々と疑問点が多くって、何となく腑に落ちないけど、今のところ特に何もないから僕達も何も出来ないんだよね。

 

でもって、今日行われている披露会は、インパルス、カオス、ガイア、そしてアビスの四機のMSの正パイロットの発表も兼ねているんだよね。

 

「あ~あ・・・、ガイア、良い機体だったのになぁ・・・。」

 

でもって、その正規パイロットに選ばれなかったリーカは、少しだけ気落ちしているみたいにタメ息を吐いていた。

 

それなりに愛着があったんだろうね、僕もたまにテストパイロット紛いの事はするから気持ちは察する事が出来る。

 

ちなみに、シンとマーレはそのまま自分達が乗っていた機体の正パイロットに選ばれ、さっきまで壇上で紹介を受けていたんだよね、まぁ、それが終わった後はインタビュー攻めなんだろうけどさ。

 

「仕方ないさ、アフリカの砂漠地帯のエース、カシマ隊の隊長に受領されるみたいだ、リーカはどちらかといえば宇宙軍だしな、地形的な経験も加味された采配もあるんだろう。」

 

それに関係の無い技術職のコートニーは、仕方ないと言わんばかりに肩を竦めていたけど、それで彼女の気持ちが晴れる訳でもないんだよね。

 

「ミネルバはどう見ても遊撃部隊の配属になるだろ、選ばれていたらそれこそ、会える時間が減るんじゃないか?」

 

そんな彼女を可笑しく思ったのか、一夏は意地悪な笑顔を浮かべて問いかけていた。

なるほど、確かにその通りだ、ミネルバに配属されたら、それこそ会える時間が減っちゃうもんね。

 

誰、とは言わない、もう分かり切ってる事だもんね~♪

 

「ふぇっ!?そ、そそそ、そうねっ・・・!?」

 

わっかり易いな~・・・、でも、その方が見てて可愛いよね♪

 

「あっ!皆さん!」

 

リーカを微笑ましく思いながら見ていると、僕達五人に気付いたのか、インタビューから逃げ出してきたシンがこっちに駆け寄ってくる。

 

なんだか、子犬が駆け寄ってくるみたいで可愛いなぁ、彼も打ち解けたらトコトン懐くタイプの子だろうし、間違っては無いかな。

 

「よぉ、シン、正パイロットに選ばれるとはやるじゃないか、おめでとう。」

 

彼を見た一夏は、歳の離れた弟を見る様に優しい目をして賛辞を送った。

 

アーモリー・ワンにいる間、一番シンを気に掛けてたのは一夏だったね、そう言えば。

弟のように思っていた子が、華々しい機体に乗れるのは自分のように嬉しいんだろうね。

 

「一夏さんの動き、勉強になりました!本当はもっと聞きたい事とかあったけど、明日からミネルバに移らないといけないんで・・・。」

 

シンも一夏に笑い返すけど、もうすぐ別れなければならない事を悟っているから、少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「ふふっ♪生きてさえいれば、何時かは会えますわ、ですから、生きる事を諦めないでくださいませ。」

 

「そうだね、もっと腕を上げて、男を上げたら僕達に会いに来て、歓迎するよ。」

 

まぁ、僕達もプレア程じゃないけど関わって来た仲だ、別れを惜しむ気持ちはある。

とはいっても、若い子を取って食うみたいな節操無しじゃないからね?

 

そんなことしたら一夏が嫉妬で大変な事になるしね。

まぁ、セシリアと僕も、一夏が若い女の子に目を向けてたら嫉妬に狂うけどね。

 

それは兎も角・・・。

 

「シン、気を付けてな。」

 

「はいっ・・・!この三週間、ありがとうございました・・・!」

 

一夏の言葉に感極まった涙を滲ませて、シンは彼と抱擁を交わした。

 

一時の別れかもしれないし、永遠の別れかもしれない。

だけど、だからこそ今を大切にしたいという想いが垣間見えた。

 

暫くの抱擁の後、シンは僕達に敬礼して何処かへ走って行った。

 

「コートニー・・・、また機会があれば、シンの事を気に掛けてやってくれ。」

 

「分かっている、何処まで出来るか分からないが、出来るだけやってみよう。」

 

そんな中、一夏はコートニーにシンの後見を頼んでいた。

 

所属が違うから自分は助力は出来ないけど、所属が近いコートニーならばと、男同士の友情で感じ合っているんだろうか。

 

むぅ・・・、少し妬けちゃうよ、そういうの・・・。

 

「さて、こんな堅苦しい式典抜け出してバーで呑もう、肩が凝る。」

 

「それもそうだな、リーカも一緒に来るか?」

 

「もちろん!」

 

お酒好きだよね、僕達って・・・。

まぁ、こんな息苦しい所で呑むよりもずっと美味しいのは確かだよ。

 

セシリアは貴族出身だから社交界は慣れてるだろうけど、僕や一夏はまだまだ慣れない事の方が多いんだよね。

 

「まぁ、これが終わったらまたしばらくは会えないんだ、存分に楽しもうぜ。」

 

「そうだな・・・、同じ組織なら気にしないで呑めるのに・・・。」

 

まーた同じ事言ってる、ホント、お互いに好き合ってるんだね。

 

 

まぁ、リーカとも会えないし、機体の近くで呑んでおこうかな。

 

さぁて、夜は長い、今日も楽しませてもらおうかな。

 

sideout

 

noside

 

「ちっ!インパルスだけ先にミネルバに移されたか、特別扱いしやがって・・・!!」

 

パイロット決定式典の翌日、マーレはインパルス以外の三機が置かれている格納庫で悪態をついていた。

 

何もかも気に入らないという風に苛立っているのか、普段から神経質な表情も一段と険しかった。

 

現在、カオス、ガイア、そしてアビスの三機は、ミネルバへの移送を控えての最終調整が行われていた。

そこにはマーレを含めて、三名のパイロットが待機しており、他の二名は和気藹々とは言わないが、世間話でもしているのか、何処か楽しげに話をしていた。

 

だが、彼はその二名と言葉を交わす気にもなれなかった。

ガンダムパイロットに抜擢された事で満足している愚図共になど掛ける言葉など無い、何せ、自分は自分に与えられたモノに到底満足など出来ないのだから。

 

「(だが、俺は諦めん・・・、何時か俺の手にインパルスを・・・!!)」

 

故に、彼は手段を択ばない心積もりでいた。

作戦中の事故だろうが、休暇中の事故だろうと、シン・アスカを排する事は可能なのだ。

 

さぁ、どうしてやろうか・・・。

彼が下卑た笑みを浮かべた、まさにその時だった。

 

格納庫の入り口付近で銃声と悲鳴が上がった。

 

「なにっ・・・!?」

 

振り返ってみれば、三人の男女が格納庫の中に侵入しつつ、辺りにいるザフトの人間に手当たり次第銃を乱射して蹴散らして行く姿が見て取れる。

 

その手際は敵ながら見事と言うべきモノであり、マーレが自失から立ち直る一瞬の隙を突いて肉薄、彼の左胸に銃弾が撃ち込まれた。

 

「まさか・・・、連合軍が・・・、バカな・・・。」

 

身を抉る様な焼け付く痛みに呻きながらも、彼は床に倒れ伏した。

新型のガンダムを狙ってきた事は直ぐに理解した、だが、それに今の今まで気付かせぬ敵のやり方に強い怒りと憎悪を抱いていた。

 

「これだから・・・、ナチュラルは、嫌いなんだよ・・・。」

 

怨嗟の声で呟いた直後、彼の意識は闇に呑まれて消えて行った・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「騒がしいな・・・、何だっ・・・!?」

 

アメノミハシラガンダム3機と、コートニーが調整中のプロトカオス、そしてリーカ専用のザクファントムが置かれた格納庫の周りがやけに騒がしくなったことに気付き、俺達は其々の機体から降りて辺りを見渡す。

 

少し離れた格納庫ブロックから黒煙が立ち上り、時折爆音まで聞こえてくる。

 

「何があった?」

 

コートニーは手近にいた警備兵を見付け、何があったのかを確かめる。

普段は置かれているだけだった機体も動いているという事は、何かデカい事が有ったな?

 

「し、新型MS三機が強奪されました!!」

 

「なんだとっ!?」

 

若い警備兵から齎された情報に、俺達は思わず我が耳を疑ってしまう。

一体どういう警備をしていたら盗まれるなんて間抜けな事をやらかすのやら・・・!

 

そんな時だった、リーカが持っていた通信機に通信が入る。

 

「こちらリーカ・シェダー!」

 

『リーカ、私よ!』

 

リーカがそれに出ると、通信機越しにベルの切羽詰まった様な声が聞こえてくる。

どうやら、相当マズイ状況らしい。

 

『一夏達と一緒にいるなら、彼等に伝えて欲しいの、来賓に危険が及ぶ可能性があるから、早くアーモリー・ワンから逃げなさいって!』

 

「了解した、ベル、警告感謝する!」

 

リーカから通信機を拝借し、向こう側にいるベルに了解の返事を返す。

さっさと逃げろという事は、俺達への様々な追及を和らげるという、彼女個人の思惑もあるんだろうから、今はありがたく貰っておこう。

 

『やっぱりね、貴方達は仲が良くて助かるわ!それじゃあ、無事を祈ってるわ!』

 

連絡が行き届くタイムラグが少なくて安心したのか、彼女は次の相手に通信を入れるべく俺達との通信を切った。

 

「どうやら、思ったより早くお別れみたいだな。」

 

「あぁ、だが、道中に敵がいないとも限らん、俺達も出る!」

 

「友達見送るのに、危険が一杯なんて寝覚めも悪いからね!」

 

ふっ、リーカもだいぶ、俺達寄りの思考になって来たな。

だが、良い女は気も強くなくちゃ、男のケツを叩けないしな。

 

「ありがたい!だが、嫌な予感がする、俺達よりもジェスとカイトの方へ回ってくれ、あの二人も俺の大事な友達だ、死なせたくない。」

 

しかし、問題は俺達以外にも来賓がいて、その中にはジェスやカイトもいる。

正直な話、俺達三人よりも情報を集める立場にあるジャーナリストのジェスの方が狙われやすい。

 

恐らく、ザフト側からの追撃や、来賓を逃がさないための部隊も展開している可能性がある、それを考えると、俺達のように戦力がある者にまで護衛の戦力を振り向けて貰う訳にはいかないのだ。

 

「外にも敵が待ち構えている、か・・・、分かった、彼等は俺とリーカで護る、気を付けてな。」

 

「あぁ、世話になった、また会おう。」

 

俺はコートニーと、セシリアとシャルはリーカと握手と抱擁を交わして自分たちの機体へと走る。

 

降ろしていたラダーに掴まり、コックピットに潜り込むと同時にすぐさま機体を立ち上げる。

 

「セシリア、シャル、コートニー達が出たハッチから出る、そのままアメノミハシラに帰るぞ。」

 

『かしこまりましたわ。』

 

『ミナさんに報告しとかないとね。』

 

そういえば、推進剤は足りるかな・・・。

まぁ、無駄遣いしなければ地球まで行ける位はある、何とかなるか。

 

そんな事を考えながらも機体が立ち上がると、コートニーのプロトカオスとリーカのザクファントムが解放されたハッチから先行する。

 

これで、当分はお別れ、か・・・。

もう少し彼等との時間が続いてほしかったが、今はそれどころじゃない。

 

それに、ジェスとカイトは彼等に任せればいい、俺達は俺達のやるべき事をやるんだ。

 

「よし、織斑一夏、ストライクS、発進する!!」

 

『セシリア・オルコット、デュエルグレイシア、参ります!!』

 

『シャルロット・デュノア、バスターイグニート、行きます!!』

 

決意と共に、開放されたハッチから漆黒の宇宙空間へと飛び出し、俺達は機体のスラスターを吹かして本拠の方へと奔る。

 

道中に何があるかは知らんが、それでも行くさ。

 

俺がやるべき事は、まだまだ残っているのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「・・・、そう、分かったわ、ご苦労様。」

 

地球、マティアス邸にて、屋敷の主である男性、マティアスは部下からの報告を受けて表情を顰めた。

 

その報せとは、数刻前にザフトの新型G兵器が何者かによって強奪され、アーモリー・ワンが戦場になった事、そして、デュランダルとの会合の為にその場に居合わせたオーブ代表、カガリ・ユラ・アスハがそれを目撃していたという報せだった。

 

「まさかこんなに早く事が動くなんて・・・、やってくれるわね、マティス・・・。」

 

その強奪事件を、影で情報を流す事で引き起こした人物に合点が行ったのか、彼は表情を顰めた。

 

まさかこんなに早く仕掛けてくるとは思いもしなかったが、よくよく考えてみればこれほど無い絶好のチャンスだったのではないか?

 

新型の三機が連合に奪われる、しかもその場にはプラントの議長とオーブの代表がいた。

幸いにして両名とも無事だったが、最悪の場合は両国が大混乱に陥る恐れもあった。

 

そこに付け込めば世界を大きく動かし、組織の本懐を遂げる事も容易くなる、何とも気に喰わない状況だろうか。

 

だが、今ならばまだ取り返しがつかない所までは行っていない。

必ず何処かで手を打てる、そのための手札もこちらにはあるのだ。

 

その手札は、一枚では効力は薄いやもしれぬ、だが、掛けあわせる事で相乗効果を発揮してくれるモノだと、彼は知っているのだ。

 

「そろそろ、貴方達の力を借りるかもしれないわ、準備しておいてくれるかしら?」

 

「お任せください、隠密行動は、俺の任務ですから。」

 

その札の一つを握る青年に声を掛けながらも、マティアスは先日の事を思いだす。

 

自身をアメノミハシラの遣いと名乗り、事が済むまで彼の下で指示を仰ぐと協力を申し出た青年は、自身を影と称し、その時まで静かに身を潜めている。

 

彼の上官である織斑一夏やロンド・ミナ・サハクほどでは無いが、相当な人物が来ていると察したマティアスは、ミナの協力を素直に受け取る事にしたのだ。

 

それが、自分の願う事に繋がらるならばと・・・。

 

頭を垂れる青年に微笑みかけつつ、マティアスは彼に惜しみない期待を込めた声を掛けた。

 

「えぇ、期待しているわ、神谷卿?」

 

sideout

 




次回予告

動き出した歯車、狂い行く世界、墜ちる墓標、混迷する宙を切り裂く風が吹き荒ぶ。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

シエロ

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シエロ

sideセシリア

 

「今帰った、ミナはいるか?」

 

アーモリー・ワンからアメノミハシラに帰って来た私達は、この城の主であるミナさんを探して玲奈さんに尋ねました。

 

ですが、出迎えに来たのは玲奈さんだけで、他の方は慌ただしく動き回っておられました。

 

玲奈さんもパイロットスーツに着替えておられましたので、一体どんな重要な事なのでしょうか・・・。

 

「三人ともお帰り~、ミナならジェネシスαに警告に出てるわ。」

 

「警告だと・・・?」

 

警告とは・・・、それに、ジェネシスαに出ていらっしゃるのですか・・・?

一体、今何が起こっているのでしょうか・・・?

 

「状況を説明してほしい、今何が起こっている?」

 

ですが、まずは状況を見極めてそこから動く、それが一番ですわね。

 

「まぁ、帰って来てばっかりで悪いけど、すぐに出ないといけないって事ね、これを見て。」

 

「なんだ・・・、これは・・・!?」

 

玲奈さんが見せて下さった情報端末には、信じられない情報が表示されていました。

 

「ユニウス・セブンが、動いている・・・!?」

 

「そんな・・・!あれは安定軌道にあるのに・・・!?」

 

まさか、ユニウス・セブンが動いて、地球の重力に引かれて落ちているだなんて・・・!!

 

「既にジャンク屋のチームが調査に出たわ、だけど、もう止められないぐらい軌道がずれている、ザフトがジュール隊を向かわせて破砕活動をするみたいよ、だけど、それが出来るかどうかは分からないけどね。」

 

「破砕、ですか・・・。」

 

確かに、このままでは地球人類は壊滅、それに加え、地球も人類や動植物が住める環境では無くなってしまいますわね・・・。

 

それを少しでも回避するためにも、ユニウス・セブンの残骸を小さく砕き、完全なる破滅を回避する、という事ですわね・・・。

 

しかし、よくそんな詳細な情報がこれほどまで早く届けられているのは、ある意味で不自然ですわね・・・。

 

「これは、全てルキーニさんから齎された情報ですの?」

 

「いんや、流石にルキーニの旦那でもここまで正確で詳細な情報はも少し掛かるわ、これは、サーマティアスから齎された情報よ。」

 

「やはり、サーの御力添え、か・・・。」

 

なるほど、これで繋がりましたわ、サーマティアスの御力ならば、この情報を掴む事など容易いという事、そして、今、サーの傍には宗吾さんがおられます、アメノミハシラへ最速で情報を伝える事も出来るでしょう。

 

「と言う事は、そろそろ俺達に動けと言いたいのか・・・。」

 

「でしょうね、じゃないと、ミナが自分からジャンク屋に出向く筈も無いわ。」

 

でしょうね・・・、世界が大きく動くタイミングを教えて下さる代わりに、本気で動けと言いたいのでしょうか・・・。

 

「だが、まずは全軍にスクランブルを待機させろ、アメノミハシラ、ひいてはオーブに墜ちるユニウス・セブンの残骸を防ぐ、ミナがジャンク屋の協力を取り付けない限り、ミナの宣言も実行には移せないしな。」

 

しかし、物事には順番と言う物があります、幾ら重要な事柄でも、目下に迫っている危機を無視して出来る程甘くはありません。

 

今の最優先事項は、ユニウス・セブンの地球落下の阻止、そして、ザフトが破砕した際に生じる破片の除去、ですわね。

 

「とりあえず、アタシもすぐに出る準備するわ、PS装甲の機体は、限界高度ギリギリで活動って事で良いでしょ?」

 

「勿論だ、もし大気圏に落ちても大丈夫なように、俺と玲奈がそのギリギリのラインで留まる、セシリアとシャルはその手前でなるべく撃ち落してくれ。」

 

「かしこまりましたわ。」

 

「出来るだけやってみる、大気圏落下だけは避けたいけどさ。」

 

単独飛行が出来るストライクSとイージスシエロは兎も角、デュエルグレイシアとバスターイグニートは重力下飛行は不可能ですから、妥当と言うべき判断でしょう。

 

「よし、準備にかかるぞ、補給が終わり次第発進する、良いな?」

 

「「「了解!!」」」

 

しかし、今はそんな細かい事を考えている場合ではありません。

今は護るべきモノの為に動く、それだけですわ。

 

それが、この世界に生きる人々を救う手段にも繋がるのですから・・・。

 

sideout

 

noside

 

その後、ザフト軍ジュール隊とミネルバの活躍により、ユニウス・セブンはメテオブレイカーにより真っ二つに分割され、その両方が地球に直撃しないコースへと外れた。

 

しかし、それでもまだ、破砕した際に生じた大小様々な残骸は、無慈悲に地球へと降り注いでゆく。

 

大気圏で燃え尽きる程の大きさならば問題は無かっただろう、だが、大気圏で燃え尽きず、尚且つ、甚大な被害をもたらす程の質量と巨大さを持ったデブリの方が圧倒的に数が多かった。

 

故に、一つでも地球に落としてしまえば、数え切れぬ程の命が一瞬の内に失われる。

いや、それだけでは無い、連合とプラントの関係がさらに悪化し、最悪の場合は開戦と言う最悪の結末すらあり得る。

 

特に、オーブと言う国は今だ連合の支配下にあり、その余波に巻き込まれてしまう恐れがあった。

オーブと言う国を護るためにも、彼等は立ち上がった。

 

「第五小隊、準備は良い?一番槍はアタシ等が務めるわ、一つとして地球に落とすんじゃないわよ!!」

 

『了解!!』

 

アメノミハシラ防衛ラインよりも前に出た所で、迎撃部隊の先鋒を任された部隊長、早間玲奈は自身の愛機のコックピットで部下のパイロット達に通信を入れる。

 

機動力の最も高い彼女の機体ならば、縦横無尽に動き回り、落下するデブリに対応できると踏んだフォーメーションなのだろう、最低限の随伴機しか彼女の周りにいなかった。

 

「アタシが突っ込んだら、カイとユウヤはミサイルで出来るだけ砕く事に専念して、マキナは拡散状況と二人のサポートをよろしく、実弾だからアタシの機体にゃ通らないし、心置きなくやりなさい!」

 

一夏達の指示の仕方を身近で見続けたからか、彼女の指揮も様になっており、的確かつ無駄の無いフォーメーションが組まれていた。

 

『了解しました!』

 

『早間卿もお気を付けて!』

 

「分かってるわ、旦那もまだ帰って来ないし、会えるまでは死にやしないわ。」

 

部下からの返答を聞き、彼女は改めてヘルメットバイザーを下ろし、操縦桿を握り直す。

 

やっとこの時が来た。

自分の我儘のせいで機体の完成は大幅に遅れてしまったのだ。

 

だが、迷惑を掛けてしまった仲間のお陰で自分の機体は完成させて貰えたのだ。

その落とし前は、ここで付ける事が出来ると彼女は意気込んでいる。

 

風の様に宙を駆ける、それが今の自分にやるべき事なのだ。

 

「じゃあ、行くわよ、アタシの新しい力!新しい翼!!」

 

そのために、今戦うべき時は逃げない、新しい力で、仲間の為に!

 

「早間玲奈、イージスシエロ!行くわよ!!」

 

彼女の想いに応え、新しき翼は羽ばたく。

 

AC-GAT-X303 イージスシエロ

早間玲奈のイージスと一夏がザフトから譲り受けたプロトセイバーのデータを掛け合わせ、新造された最新鋭可変MSである。

 

大気圏内での飛行が最低条件として製作されたが、ザフトの最新鋭MSであるプロトセイバーのデータを流用し、変形をある程度簡略化した結果、軽量化にも成功し、大気圏内での最高速度は、速度面に特化して製作されたストライクSを上回る性能を有するに至った。

 

また、玲奈が好んでいたスキュラは内部構造簡略化のために撤廃されたが、頭部に新造されたツォーンⅡを、背面にはスラスターユニット兼用のビームキャノン≪グラム・ゼファー≫が装備された。

 

そして、一番極めつけは腕部のビームサーベル発振器が、デュエルグレイシアに装備されるクロイツ・ルゼルの様に大型化した大型ブレード≪トルメント・フロスト≫が装備されている。

ビームサーベルの発振機能は引き続き残されており、レーザー対艦刀と同等以上の威力を誇る上に、MA形態時は機首にもなる部分である。

 

脚部サーベルは実体刃が軽量化の為にオミットされ、発振器のみに置き換えられている。

 

「けどまぁ、今回はミサイルユニット主体なのよね、頼んだわよ!!」

 

しかし、イージスシエロ最大の強みは、マルチウェポンブースターと呼ばれるMA形態専用追加ユニットを装備する事により、直線加速力とオプション装備される武装による攻撃力の強化が成される点にあった。

 

ストライクのストライカーパックの思想を引き継いだモノになっているが、主にスピードと火力を増強する為のモノであり、MS形態では使用不可能である装備でもある。

 

取り回しには若干難があったが、今回の様にただ単純にデブリを破砕するだけならば全く問題は無かった。

 

今現在も開発が進んでおり、今回はミサイルユニットを装備していた。

 

左右八門ずつ、計十六のミサイルポッドから次々とミサイルが発射され、墜ちてくる破片に直撃して粉微塵へと還して行く。

 

「砲撃開始!!撃ち漏らすんじゃないわよ!!」

 

『了解!!』

 

彼女が後方に控えるM1A部隊に指示を飛ばすと、間髪入れずにミサイルやバズーカの弾丸が飛んでくる。

それらは狙い違わずに玲奈が砕いたデブリを更に細かくし、大気圏で燃え尽きる程度の大きさへと変えて行った。

 

「よっし!その調子よ!そのまま続けて!!」

 

『僕も援護するよ、避けてね!!』

 

デブリの間を駆け巡るイージスシエロに、別働隊の指揮を採っていたシャルロットのバスターイグニートから通信が入る。

 

どうやら、一斉射撃による広域撃破を狙いたいのだろう、玲奈の視界に全砲門を開放した、頼もしき友の機体が入り込む。

 

「任せた!アタシに構わず、思いっ切りやりなさい!!」

 

自分の機体も、そして、友の腕も信じられる。

だから、自分はこのまま飛び続けるだけだと。

 

『言われなくても!イグニート、全砲門完全開放!!』

 

彼女の言葉を受け、シャルロットは自身の愛機の最大火力で落ちてくる破片を一掃する。

その一発一発の火力は凄まじく、如何にPS装甲で身を固めた機体ですら一撃で沈黙させうる威力を持っていた。

 

だが・・・。

 

「やるわねぇ~!やっぱ、火力は正義ね!!」

 

その致死の嵐の中を、風となったイージスシエロは泳ぐ様に進んでゆく。

 

推力だけでは無く、彼女の細やかな操縦で火線を避けていた。

 

アメノミハシラメンバーの中でも、特にシャルロットのバスターと戦いを重ねた玲奈は、その癖を見抜いて回避しているのだ。

 

勿論、読めていたとしても反応し、回避できるほどの腕前が無ければそれも不可能だ。

故に、その繊細かつ鮮やかな動きこそが、彼女の力量の高さを如実に表していた。

 

だが、そんなシャルロットにも当然カバーしきれない程に、破砕しきれなかった破片は多かった。

 

それらは地球の重力に引かれ、どんどん高度を下げ、遂にはアメノミハシラの防衛隊の眼前にまで迫った。

 

「けど、速さも正義よ!!」

 

しかし、そこは遊撃隊である玲奈だ、イージスシエロの全推力で追いすがり、機首に展開したトルメント・フロストにビーム刃を展開、大型のデブリに突撃して叩き割る。

 

そして、その勢いのままに手近なデブリへと突撃、次々に砕いてゆく。

 

その姿やまさに八艘跳びと表すに相応しく、風の如き素早さを持っていた。

 

「行くわよ!アタシのイージス!!この宙を駆けるわよ!!」

 

もう彼女は、誰かの後を追いかけるだけではない。

 

仲間の為に、信じられる友の為に、その理念の下で飛び続ける。

 

これまでの鬱憤を、全て晴らすためにも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「戻ったぞ、一夏、破片の撤去作業、ご苦労であった。」

 

「おう、戻って来たって事は、ジャンク屋には避難要請をしてきたって事か?」

 

デブリの除去作業を終えた直後、見計らったかのようなタイミングで帰って来たミナが、限界高度スレスレで撤去作業を続けていた一夏に声を掛けていた。

 

それは労いでもあったが、ある種の確認の様にも取る事が出来た。

 

ミナは先程までジャンク屋組合の総本部であるジェネシスαに、ソキウス達を伴って警告に出向いていたのだ。

 

「ユニウス・セブンの管理を任されていたのはジャンク屋組合だ、それをあのようなテロに用いられては、崩壊するのは時間の問題だ。」

 

「だろうな、さっきルキーニに聞いたよ、連合の艦隊が、ジェネシスαに攻撃を開始したと。」

 

「やはりか・・・、悪い方へ、局面が変わって行くな・・・。」

 

何者かの思惑か、それとも必然か、物事が破滅の一途を辿っている。

 

誰かが一石投じねば、それに歯止めを掛ける事が出来ないほど、地上も宇宙も混乱の只中にあった。

 

「一夏、ジャンク屋組合の組合長以下、客人たちを集めてから計画を発する、そなたも準備に取り掛かると良い。」

 

そして、そのための手札を揃えていたのがロンド・ミナ・サハクと言う女王であり、

 

「遂にか・・・!分かった、すぐに用意させる。」

 

その配下である織斑一夏も、彼女の意に沿う様に手札を切れる状況を、ゆっくりと作っていたのだ。

 

「動くぞ、我々の、いや、人類の未来のために。」

 

「おう!」

 

そして今、彼等は動き出す、理想を現実のモノとするために・・・。

 

sideout




次回予告

裏切りか、それとも必然か、運命の歯車は狂い、彼等を新たなる場所へと誘う。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

裏の思惑

お楽しみに


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裏の思惑

noside

 

「・・・、以上が、地表に落ちたユニウス・セブンの残骸による被害の総計です、カーペンタリアとジブラルタルから救助部隊と救援部隊を被災地に向かわせ、混乱の鎮静化を図らせています。」

 

プラント、アプリリウス市にある評議会舎の一室、議長室にて、ジャーナリストのベルナデット・ルルーは寄せられた情報をデュランダルに報告していた。

 

破砕活動が妨害された事もあり、予想よりも多くの破片が地上へと落下、衝撃による都市部への被害に留まらず、沿岸部でも海に落ちた破片によって引き起こされた津波によって、甚大な被害が出ていた。

 

地球軍の施設も被害を被っており、すぐには救援も出せない状況になっていたのだ。

 

そのため、プラントは人道的支援の名目によって救援物資を持った部隊を地球の各地へと派遣、ジャンク屋とも協力して復興支援を進めていた。

 

だが、彼女の仕事はそれで終わりでは無かった。

 

「現在もテロリストに支援した組織があるとみて、現在軍が捜索活動を進めています。」

 

「そうか・・・、早く終わって欲しいモノだ、これ以上長引けば、それこそ世界は混沌に沈む、永遠に。」

 

軍の調査報告を聞いたデュランダルは鷹揚に頷きながらも、哀しみを湛えた声色で呟いた。

もっとも、本心から言っている言葉かどうかまでは判別できなかったが・・・。

 

「えぇ・・・、それと、ジャンク屋組合が所有するジェネシスαにも、ユニウス・セブンに現れたテロリストグループの機体が襲撃を行った事が確認されました。」

 

「なんだと?それで、その者達はどうなった?」

 

頷きながらも報告するベルナデットの言葉に、デュランダルは驚いた様に身を乗り出しながらも続きを問いただした。

 

「えっ?そ、その者達はジャンク屋組合が独自で排除した模様ですが・・・。」

 

常に冷静沈着で掴み所のない彼が僅かに焦りを見せた事に驚きを隠しきれないベルナデットは、少々上擦った声で報告を返した。

 

「そうか・・・、それは何よりだ、ジャンク屋組合には感謝せねばならないね。」

 

「・・・。」

 

その報告に安堵したか、デュランダルは一息吐いてシートに深く沈み込んだ。

まるで、予想が狂わなくて済んだチェスのプレイヤーの様に・・・。

 

だが、それの真意に触れかけてしまったベルナデットは、それを見過ごす事は出来なかった。

良くも悪くも彼女はジャーナリストであったのだから。

 

「(ユニウス・セブンが落下しても、ガンダムが盗まれても動じなかった議長が、ジェネシスαへの襲撃に焦っている・・・?まるで、イレギュラーが起こったみたいに?確かに、奪われて良いモノではないけど、どうして・・・?)」

 

動じないと言われれば聞こえはいい、だが、それは全てを予見していたとも取れるのだ。

 

ジェネシスαへの襲撃に動揺したというのは、それが予想外の出来事であった証左である。

つまりそれは、それ以外のすべてが予想通りである事を仄めかしているのだ。

 

「(議長は、私達の知らない何かを知っているんじゃ・・・?)」

 

疑問は、疑念へと代わるモノである。

しかし、ここでそれを表に出してはならない。

 

そう決めた彼女は、ここで別の話題を切り出す事にした。

 

「それで、議長、先日もお願いさせて頂きましたように、私も地上へ降りて、被害の状況の調査に加わりたいのですが・・・。」

 

「あぁ、あの件か?出来る事なら、君には本国に残って報道を続けて欲しいと思っている、地上はまだ、不安定だからね?」

 

ユニウス・セブンが落ちて間もない頃、彼女はデュランダルに地上の取材を申し込んでいたのだ。

特に被害が酷い地域に入り、その現状を見たいと・・・。

 

だが、彼はそれを引き留めようとするかのように、中々取材の許可を出さなかった。

普段は依頼してくる事も多い彼が何故渋るのか、それに合点が行かなかった為に、彼女はそれを確かめる為に切り出したのだ。

 

「ですが、私もジャーナリストの端くれ、現地の状況を自分の目で見たいのです、どうか許可をお願いします。」

 

「ふむ・・・。」

 

彼女の想いを受け止め、デュランダルは小さく嘆息しながらも執務椅子に深く座り込み、暫く何かを考える様に視線を彷徨わせた。

 

そして、暫くして首肯し、端末を操作し、許可証を発行する。

 

「受け取りたまえ、これで地球でも取材が出来るだろう。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

かなり渋っていた件をあっさり許可してしまったのだ、ベルナデットの表情には拍子抜けした様な色が一瞬浮かんだ。

 

そして、彼女はそのまま一礼して議長室を退室、自宅に戻るべく駐車場に止めてある愛車の下へと向かう。

 

だが、その間にも思考を止める事は無かった。

 

「(ユニウス・セブンの・・・、いいえ、セカンド・ステージMSの件から薄々は考えていたけど、何かが、いえ・・・、誰かが陰で動いているとしか思えないわ・・・。)」

 

愛車に乗り込み、走らせながらも彼女はジャーナリスト特有の裏を読む事に意識を割く。

 

「(あの大戦から二年・・・、連合軍によるザフトMS強奪、ザフト脱走兵によるユニウス・セブン落下・・・、どちらも敵愾心を煽る様に引き起こされた・・・、まるで誰かに操られる様に・・・?)」

 

偶然と切り捨ててしまえばそれまでの事ではある。

だが、偶然にしては出来過ぎている。

 

まるで、チェスで動かされる駒の様に、世界が動いて行っている様にも感じられたのだ。

 

「(でも、誰が・・・?何の為に・・・?)」

 

だが分からない、何故世界を操ってまで戦争を引き起こそうとするのか、そのメリットは皆無に等しいのに・・・?

 

そう思った時だった、彼女の車の進行先に、一台の軍用車両が止まり、中から数名のザフト軍部隊員が降りてきて彼女に停車を命じる様に誘導灯を振っていた。

 

彼女は不審に思いながらも車を路肩に寄せ、近付いてくる隊員の一人に尋ねる。

 

「・・・、なんです・・・?」

 

「すみません、少し降りて頂けますか?」

 

自分が停車を求められる何かをしたわけでも無いのに、と思いながらも彼女はエンジンを止め、車から降りた。

 

「一体何事です?ザフトがこんな・・・。」

 

憮然とした表情を浮かべながらも、彼女は目の前にいる男に尋ねる。

一体何の用があって自分の前に現れたかと・・・。

 

「貴女には、南米の英雄、エドワード・ハレルソンを密入国させた疑いが掛けられています、事情聴取のため、我々と来て頂きます。」

 

「そんな・・・!?だって、あれは・・・!?」

 

男の口から発せられた言葉に、ベルナデットは愕然とした。

 

確かに、エドをプラントに入国させたのは彼女だ。

だが、それはプラントの上層部に話を通し、人道的立場からの保護も同然だった。

 

だが、それには裏の思惑も当然絡んでいる。

エドを密入国させることを見逃すという点は、明るみに出れば連合軍を敵に回すデメリットも存在する。

 

しかし、それを考慮して尚、彼女の行動を見逃したのは、一重に彼女の有用性があればこそ。

 

つまり、この事が意味する所は・・・。

 

「御同道願えないなら、その場での処分も任されています、どうぞ、賢明なご判断を。」

 

半ば脅しの様な言葉を掛けながらも、部隊員の男は携えていたライフルをわざとらしく音を立てて見せ付ける。

 

逃走すれば射殺も已む無し、上からそう命じられているのだろう。

 

最早話し合いが出来る状況ではないと判断し、彼女は歯噛みした後、彼女は大人しく連行される事となった。

 

後に、彼女は知る事になるのだが、同刻、ミハイル・コーストが勤務する病棟に匿われていた南米の英雄、エドワード・ハレルソンが、何者かの手により発見、拘束されたのだ・・・。

 

sideout

 

sideコートニー

 

『二年前に地球連合軍を脱走し、南米戦争に参戦していた南米の英雄、エドワード・ハレルソンが、先ほどプラント、ディセンベル市内の病院にて発見され、身柄を拘束されました、また、密入国を幇助した疑いで、PBSのキャスター、ベルナデット・ルルーも逮捕され、大西洋連邦に身柄を引き渡される模様となっています。』

 

「そんな・・・、ベル・・・。」

 

アプリリウス市のMSハンガーで緊急ニュースを見ていた俺とリーカは、そのニュースに歯噛みした。

 

俺の友人の一人、ベルが密入国の手引きを行ったとして逮捕された。

普通なら大きな問題ではない。

 

しかし、匿った人物が大物に過ぎ、また、時期も最悪過ぎた。

 

エドワード・ハレルソンは南米を率いる事の出来る大物、だが彼は連合を脱走し、南米独立の為に戦い続けた反逆者だ、連合側からすれば真っ先に消し去っておきたい人物だろう。

 

そして、彼が発見された場所がプラント、そして、匿った人物がプラント中枢を報道し続けてきた人気ジャーナリストとくれば・・・。

 

「最悪な事になったな・・・、連合との戦いは、避けられそうもない・・・。」

 

それは、プラントの思惑と受け取られても仕方がない。

寧ろ、その方が自然だ。

 

だが、それにしては状況があまりにも出来過ぎている気がする。

 

南米の英雄を匿ったのは二年前、そして、その時はこんな大事件が幾つも起こる様な気配は無かった。

 

火種はあった、だが、着火剤や燃え移る燃料足りうる事象は、火種からあえて切り離されていた筈だ。

誰かが、裏で世界を動かすなにかが、これら全てを仕組んでいる様にも感じられる。

 

・・・、いいや、所詮これは憶測でしかない・・・。

そんな程度の事で疑い続けたら、それこそ何も出来ない。

 

それよりも、今は考えなければならない事が有る。

 

「リーカ・・・、本当に行くのか・・・?」

 

このニュースが流れる数分前、リーカにある命令が言い渡された。

 

それは、連合軍へ引き渡されるエドワード・ハレルソンと、ベルの護送だ。

 

疑惑の渦中にいる人物達を護送するということは、それなりに厄介な思惑も絡んでくると想定して然るべしだ。

 

つまり、リーカにも身の危険が迫ると見て良いだろう。

 

「うん・・・、命令された以上は、行かなくちゃ・・・、それに、私が帰って来れたら、今起きてる事以外何も無かった、って事も分かる筈よ。」

 

「リーカ・・・!それはっ・・・!!」

 

自分を賭けるつもりか・・・!?

こんな、限りなくクロに近いグレーに・・・!?

 

「もし、私に何かあったら、コートニーはすぐにここから逃げて、貴方は軍人じゃない、脱走じゃないわ。」

 

「そうじゃない・・・!君も危ないんだぞ・・・!?悪い事は言わない、中立宙域で引き返してこい、たとえ何かあっても・・・!!」

 

喩え何かあったとしても、恐らく何かが起きるのはどの軍にも属さない中立の場所だ、そこに入って、連合の護送人に引き渡せば何も起こらない。

 

リーカが傷付かなくて済むんだ・・・!!

 

「ダメよ、コートニー・・・、私は軍人なの、命令された以上、従うしかないわ・・・、それに、信じたいの、きっと大丈夫だって。」

 

「リーカ・・・。」

 

決意を籠めた目で見つめ返されて、俺は何も言えなくなってしまう。

 

確かに、喩え疑惑があっても、まだ裏切られた訳じゃ無いから、従う以外に道は無いと・・・。

 

「・・・、分かった・・・、だけど、必ず生きて会おう、君が居なくなったら、俺は・・・。」

 

「うん、約束する、きっと貴方の所に帰って来るわ、折角一緒になれたんだから・・・。」

 

俺はリーカの身体に腕を回し、彼女の小さい身体を抱き締める。

 

永遠の別れなんて縁起でも無い事など思考から追い出し、顔を寄せて唇を重ねた。

 

数瞬の後、どちらからともなく身体を離し、俺は踵を返して機体の方へと歩いてゆくリーカの背中を見送る事しか出来なかった・・・。

 

胸の中で燻る、妙な胸騒ぎを否定しきれないままに・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ふふふっ・・・、議長さんも御莫迦さんね、利用価値のある人気キャスターをみすみす手放すなんてね。」

 

とある場所で、その女はモニターに次々と表示される情報に目を通していた女、マティスは自分の手元に配られるカードの巡りの良さに口元を歪めた。

 

彼女は一族と呼ばれる組織の統領であり、連合やプラントだけでなく、地球圏に存在する勢力に裏から干渉する組織力を持っていた。

 

プラントに匿われていたエドを炙り出したのも、ジャンク屋組合本部、ジェネシスαをテロリストに襲撃させたのも、連合上層部やロゴスにテロリストグループが使用していた機体の映像を流したのも、全ては彼女の手引きによるものだったのだ。

 

だが、世界を思い通りに動かすには、まだ手は足りていない。

故に、相手が取りこぼした手札を取り、自分のモノにしていく、それが彼女のやり方であった。

 

「南米の英雄にはこのまま消えて貰っても構わないわね、でも、人気キャスターさんにはまだまだ働いて貰えるわね、私が新しい場所を与えてあげれば、ね・・・。」

 

一人呟きながらも、彼女はコンソールを操作、何処かに通信を繋げる。

 

「私よ、スカウト0646と、RGX-04の出撃準備をさせて頂戴、出撃先は追って指示するわ。」

 

『了解しました、マティス様。』

 

通信先の相手は彼女に了解を返し、通信は途切れた。

 

「ふふふっ・・・!見ていなさいマティアス!私の勝ちよ!!」

 

そこにいない仇敵に対し、彼女は勝ち誇ったように高笑いをあげた。

 

それはまるで、現世に現れし、魔女の笑い声のような不気味さを漂わせていたのだ・・・。

 

sideout

 

noside

 

同じ頃、アメノミハシラにて・・・。

 

「ジャンク屋組合到着まで時間が無い、機材のセッティングと地上と回線接続を急げ!MS隊はスクランブル待機、放送終了まで敵の接近が無いか、警戒を厳とせよ!」

 

アメノミハシラ軍部元帥、織斑一夏は部下達に指示を飛ばし、これから始動する計画への準備を進めていた。

 

二年かけて熟考し、下準備も進めてきた計画が遂に実行に移されようとしているのだ、彼の感慨もひとしおなのだろう。

 

そんな中だった、ルキーニが亡命してきたから新たに設けられた情報部の部員が、息を切らせて彼の下へ走ってくる。

 

「織斑卿!!た、大変です!!」

 

「どうした!?敵襲か!?」

 

予想していた敵の襲撃があると予想した一夏は、すぐに自分が迎撃に向かうために動こうとした。

 

「い、いいえ!これをご覧ください!!」

 

「なんだ・・・?」

 

手渡された情報に目を通していた彼のめが驚愕に見開かれる。

 

そこには、数分前に彼の友人の一人、ベルナデット・ルルーが南米の英雄、エドワード・ハレルソンを密入国させた疑いで連合に引き渡されるという情報が記されていた。

 

「ベルが・・・、連合に・・・!?」

 

「は、ハイ!で、ですが、これは間違いなく・・・!!」

 

一夏の驚愕に答えながらも、情報部員はこの件の裏について言及していた。

 

彼も気付いたのだろう、間違いなく、連合にエドとベルナデットを引き渡すつもりが無い事に。

 

「マズイな・・・、間違いなく、中立宙域でドカンだ・・・、しかも、護衛にリーカが就くだと・・・!?」

 

更に悪い情報が追加されていく。

護送任務に就くのは、ラビット小隊所属のリーカ・シェダーだ。

 

彼女は、彼の親友であるコートニー・ヒエロニムスの恋人であり、彼にとっても友人と呼ぶべき者だ。

 

彼女もこの件に関わっているという事は、裏を知ればすぐさま消される事は間違いなかった。

 

「くそっ・・・!こんな時に・・・!」

 

出来る事なら、すぐに自分が駆けつけて救いたい。

大切な人達を護るために、自分はこの力を持ったのだから。

 

だが、それ以上に、彼にはアメノミハシラを背負う義務がある、更に言えば、この計画は彼も一翼を担っているため、今アメノミハシラを空ける事など許されない。

 

「なら、アタシが行ってこようじゃない。」

 

そんな時だった、機材の設営を手伝っていた玲奈が彼に近付き、挑発的な笑みを浮かべながら尋ねた。

 

「玲奈・・・。」

 

「リーカはアタシにとっても友達だし、護りたいって気持ちはアンタに負けちゃいないわ、それに、イージスシエロの速さなら、十分間に合う。」

 

彼女にもやるべき事は当然ある、しかし、一夏に比べればフットワークは軽い。

更に、イージスシエロは航行能力も非常に高く、直線加速速度はアメノミハシラ随一でもあった。

 

「シャルロットにはだいぶ前に言った気もするけど、アタシを信じなさいよ、誰一人死なせず帰って来るわ。」

 

「・・・、迷っている暇は無いか・・・、分かった、オプションVの使用を許可する、救出作戦を急行せよ。」

 

真っ直ぐな目で見られるのは弱いのか、彼は苦笑しながらも出撃の許可を出した。

 

救える手段があるならば、実行しなければ気持ちが嘘になる。

故に、彼は信頼できる友に、この件を任せる事にしたようだ。

 

「あいよ、任せときな、その後はここに連れてくる手筈で良いわよね。」

 

「勿論だ、彼女達にも聞いて貰おう、俺達の想いを、その先に待つ、未来への福音を。」

 

sideout




次回予告

友の危機に、彼女は風を纏って駆けつける。
友を護るために、未来を築くために・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

紅の烈風

お楽しみに


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紅の疾風

noside

 

「すまないな、ベル・・・。」

 

「・・・。」

 

プラント領宙域と連合領宙域の狭間に位置する中立宙域を進む護送シャトルの中で、南米の英雄ことエドワード・ハレルソンは自身の隣の座席に座るベルナデット・ルルーに謝罪していた。

 

二人は囚人服を着せられ、両手首には逃走防止用の錠が嵌められていた。

 

それを見るベルナデットの表情はやつれ果てており、その瞳は絶望に支配された様に光を窺う事は出来なかった。

 

無理も無い。

今迄信じていた組織から、とてつもなく大きな裏切りを受けたに等しいのだ。

 

しかも、それは完全な濡れ衣であり、トカゲの尻尾切りだった。

 

一方的な罪の押しつけを受け、彼女は発言する機会すら与えられなかったのだ、彼女の受けた傷は大きく、それでいて深かった。

 

「俺が連合に引き渡されるのは仕方ないとしても、あんたは何もしていない、大丈夫さ、きっと無実は証明される、あの野次馬バカも、そう言ってたろ。」

 

だが、エドはまだ、彼女にも希望があると言わんばかりの表情で話していた。

 

歪められた事象は真実足り得ず、何時かはメッキが剥がれる様に嘘偽りが明るみに出る。

 

それを信じ続け、追い続ける一人の男を、二人は知っていたのだ。

 

「・・・、ジェス・・・。」

 

ジェス・リブルという男は真実をありのままに見詰め、それを世界に投げかける事を信条としている男を思い、彼女は虚ろな目を、漆黒の闇が広がる宇宙へと視線を彷徨わせた。

 

様々な思惑が蠢く闇では無く、真実の輝に縋る様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

そんな二人を乗せたシャトルを護衛するザフト側の機体、薄桃色のパーソナルカラーを持ったブレイズザクファントムに乗るリーカ・シェダーは、緊張した面持ちで周辺の警戒を続けていた。

 

彼女は、コートニーが予想していた、ザフト側の工作や襲撃を警戒しているのだ。

 

プラントがこのまま大人しく二人を引き渡すとは、彼女自身も思えなかった。

故に、連合の宙域に入るまで、一瞬たりとも気を抜く事が出来なかったのだ。

 

そんな時だった、彼女の機体のレーダーが何かを捉える。

 

敵襲かと身構えたが、それが出立前に渡されていた、連合側の護衛人が乗る機体の識別信号だった事に安堵する。

 

モニターに表示されたMA、エグザスが旋回し、シャトルを挟んで並走する。

 

TS-MA4F エグザス

ガンバレルを搭載していた連合製MA メビウス・ゼロの発展機であり、新型のガンバレルを搭載した機体である。

 

実弾兵装に偏っていた先代機とは異なり、対PS装甲機も想定に入れているため、ガンバレルにはビーム砲がそれぞれ二門装備されており、ビームカッターも装備されている為にある程度の近接攻撃も可能となっている。

 

もっとも、MAでしかないため、直線機動においては加速力や推力はMSを凌ぐが、旋回能力までは強化されていないのがネックとなっている。

 

特に、ガンバレルは高度な空間認識能力を保有する人物でしか操る事が出来ず、実質専用機というカテゴリーから脱する事は無かった。

 

その機体に乗るのは・・・。

 

「護送任務ご苦労、ザフト機は帰投して構わんぞ。」

 

リーカの通信機越しから聞こえる声は、初老の男性のモノであり、どこか圧力の様なものも感じられる。

 

「いえ、中立宙域の間は私も同道させてもらいます。」

 

「連合は信用できないからか?」

 

「いえ、任務を遂行したいだけです。」

 

彼女の言葉に気を良くしたか、映像通信を開き、自分の顔をリーカに晒す。

 

どうやら、軍人同士として通じ合う何かがあったのだろう、

 

「うむ!良い心がけだ、気に入ったぞ、俺はモーガン・シュバリエ、元ユーラシアの戦車乗りだ。」

 

その男は、嘗てエドワード・ハレルソンの上官であり、月下の狂犬と呼ばれた歴戦の猛者であった。

 

南米戦争に置いては、エドを死の間際にまで追い遣った程の実力と作戦を練る事の出来る知将でもあった。

 

「私はリーカ・シェダーです、リーカって呼んでください!」

 

相手、しかも自分より歳が上の人物に名乗らせておいて自分が名乗らないのは無礼だとでも思ったのか、彼女はすぐさま名乗った。

 

親子ほどの歳の差、しかも所属が違う者同士ながらも、軍人としての心意気が似ていた事で気が合ったのだろう、お互いの語り口は非常に穏やかであった。

 

「リーカ、つかぬ事を聞くが、あのシャトルは本当に安全なのか?」

 

そんな時だった、モーガンが唐突に話を切り出してきた。

 

中立宙域はそれぞれの領有宙域より広いため、無言で進むにはあまりに長い時間を重苦しい雰囲気で過ごさねばならないのだ。

 

それを少しでも軽減するための、彼なりの気遣いなのかもしれなかったが。

 

「一応、出撃の一時間前にある程度の見回りはしました、特に怪しいモノは有りませんでしたが・・・、機関部や内部までは、とても・・・。」

 

「そうか・・・。」

 

リーカからの話では、普通に見える範囲には爆発物など怪しい物は見受けられなかったという。

 

だが、彼女の声色からは自信が窺えなかった為に、モーガンは表情を顰めた。

 

恐らく、彼は彼女の心情を察したのだ。

ザフトが、何やら暗い思惑を抱えているのかもしれないという、彼女の苦悩を・・・。

 

「だが、俺達は軍人だ、疑惑があるとはいえ、与えられた軍命に逆らう事は許されない。

 

「・・・、えぇ・・・。」

 

だが、軍人である以上、彼女達はそれに従って動く以外ないのだ。

 

それを分かっているからこそ、彼等は今ここに居るのであり、疑いながらも機体を駆っているのだ。

 

しかし、それでも拭いきれぬ疑念があるのは否めず、それ故に更に疑心暗鬼を誘うという悪循環におちいっているのであろう。

 

彼等の間に横たわる雰囲気が更に重苦しくなりかけた時だった、彼等の機体のコックピットに所属不明機の接近を報せるアラートが鳴り響く。

 

「なんだ・・・!?」

 

「まさか、敵襲・・・!?」

 

レーダーに映った、謎の機影に二人は一気に臨戦態勢に入り、シャトルを庇う様にフォーメーションを取る。

 

そして、そんな彼等の前に、その機体は姿を現す。

 

ダークグレーの機体色に、白のラインが入った機体・・・。

 

「止まりなさい!停止しなければ発砲します!」

 

『嫌だね、僕のボスから、そこにいる人気キャスターさんを助ける様に言われてるんだ、君達こそ、退いてくれないかなぁ?』

 

「若い声・・・、それに、見た事の無いMSだ、力尽くでもやるというなら、容赦はせんぞ!!」

 

リーカの警告を無視し、その機体、プロトセイバー初号機はその速度を一層速め、彼等に向かってくる。

 

それを迎え撃つために、リーカ達は攻撃を開始する。

 

その攻撃を回避しながらも、プロトセイバーは武装を破壊しようと攻撃を仕掛けるが、どちらもエースパイロット同士の戦いだ、簡単にはやられなかった。

 

「攻撃を中止し速やかに撤退しなさい!さもなければ海賊行為とみなして撃墜します!!」

 

『出来るもんならね、僕は強いんだ。』

 

「調子に乗るなよ小僧!こちらは軍から正式な護送任務を受けているんだ!」

 

リーカの警告に返したその少年に対して、モーガンは生意気なと言う様に叫ぶが、その攻撃が黒灰色の機体を掠める事は無かった。

 

『ふぅん、だったらどうして、シャトルに爆弾なんて仕掛けられてるの?そんな事も知らないの?ザフトのお姉さん?』

 

「っ・・・!そんなっ・・・!?」

 

「ちっ・・・!やはりか・・・!!ルルー女史もエドのバカも簡単に渡すつもりも無いってか!!」

 

その少年の言葉に、リーカは驚愕のあまり一瞬硬直し、モーガンは予想が的中した事に憤り吐き捨てた。

 

恐らく、リーカが確認できなかった機関部やそれに準ずる場所に巧妙に仕掛けられていたのだろう。

機関部や推進部に仕掛けられていたならば、小規模の爆発でも船体が完全にバラバラになる程の爆発を起こせるだろう。

 

「そんな・・・、プラント政府が・・・、コートニー・・・。」

 

自分が途轍もなくマズイ所に送り込まれている事に、薄々気づいていながらも改めて突き付けられてしまえば衝撃も一際大きくなるのだろう、彼女は今にも泣きそうな表情で震えた。

 

だが、その一瞬の硬直は、戦場においては死を意味するに等しい。

 

それを証明するかの如く、プロトセイバーの放ったビームがザクファントムのビームライフルと右腕を捥いだ。

 

「きゃぁぁっ!!」

 

「リーカ!!動け!死ぬぞ!!」

 

身体を揺さぶる衝撃に、リーカは漸く現実に引き戻される。

 

ここで悩む場所では無い、ただ一つの真理、生き残るために戦うという概念しかない。

 

リーカは少しでも長く生きるべく、何とか機体を動かし、背面のミサイルポッドから何発ものミサイルを撃ち掛ける。

 

『何してんのさぁ!真面目にやってよねぇ!!』

 

だが、そのミサイルの隙間を抜け、一気にリーカの機体の眼前に迫る。

 

「くっ・・・!このぉ!!」

 

リーカは左肩のシールドからビームトマホークを抜刀、プロトセイバーのビームサーベルと切り結ぶ。

 

エース同士の戦闘では、よく起きる鍔迫り合いだったが、今回はその様相は違っていた。

 

『それに、爆弾なんて、僕なら簡単に止められるんだけどねぇ!!』

 

「なに・・・!?まずい!リーカ!!ソイツと距離を取れ!!」」

 

「えっ!?」

 

『フリーズ。』

 

少年の言葉の意味に気付いたモーガンはリーカに警告を飛ばすが、それも僅かに遅かった。

 

その瞬間、ザクファントムの計器類が一斉にエラーを示す。

それは、ウィルスに機体を乗っ取られた証左だった。

 

「そんなっ・・・!?動いてっ!お願いっ・・・!!」

 

『あはははっ!!ほぉらっ!大人しくしといてよっ!!』

 

「きゃあっ・・・!!」

 

残った左腕を斬り飛ばされ、リーカの機体は大きく吹き飛ばされる。

 

かろうじて動かせたスラスターを全開にしつつ、漂流だけはしない様に減速させる。

 

「そのウィルスはユーラシアの一部の人間しか知らない筈・・・!!貴様!」

 

『さぁね、僕もこの機体を渡されただけだから知らないよ、そんなこと。』

 

「あくまで白を切るつもりか、良いだろう、お前を倒して聞き出してやる!!」

 

自身が嘗て属していた組織に関わるモノが出て来た事にモーガンは驚きながらも叫ぶが、少年は切り捨てるかの如く機体をモーガンへ向かう。

 

それを迎え撃つべく、モーガンはガンバレル四基を全て展開する。

 

『バカだなぁ、僕はウィルスなんて無くても強いんだからさぁ!!』

 

そんな彼を嘲笑うかの如く、その機体はMA形態へと変形、更なる加速力で一気にエグザスへと迫る。

 

「可変機っ・・・!!このぉ、こけおどしがぁぁ!!」

 

モーガンはその機体の隠された機能に驚愕するが、それも一瞬で持ち直し、四基のガンバレルを駆使し、波状攻撃を仕掛ける。

 

それは、致死の嵐の如し激しさを以てプロトセイバーを攻め立てる。

 

『ばかだなぁ、ウィルスなんか無くったって、僕は強いんだからさぁ!!』

 

しかし、その嵐を、その少年はまるで泳ぐ様に受け流していた。

いや、直撃する事も無ければ、掠める事すらなかった。

 

『なんたって、僕はサーカスの出身だからねぇ!!』

 

彼の口から語られた、サーカスと言う組織は、戦争孤児のナチュラルや、親の要望通りにコーディネィトが出来なかったコーディネィターの子供を集め、戦闘の為だけに生きる戦闘のプロを作り上げる事を目的に存在していた組織である。

 

その全貌は謎に包まれており、本当の思惑は、かのケナフ・ルキーニすら調べようのないほどだった。

 

だが、噂によると、サーカスには卒業試験と言う物があり、それを生き残れればサーカスから抜けだす事が出来るのだ。

 

サーカスを抜けた人物には、カイト・マディガンがいるが、その少年もまた、その地獄より生き延びた強者である事は違いなかった。

 

その実力に恥じない動きで、彼はライフルの連射で瞬く間にガンバレルを二基破壊、瞬時にMS形態に変形して旋回、背面のアムフォルタスビーム砲で残った二機のガンバレルも撃ち落してしまう。

 

「こ、コイツはっ・・・!?」

 

あまりにも凄まじいパイロット力量に、モーガンは絶句する以外になかった。

 

『さぁ、ガンバレルは全部ロスト!これで終わりだっ!!』

 

「モーガンさん!!」

 

プロトセイバーがビームサーベルを抜き放ち、エグザスへ迫って行くのを、リーカは何もする事が出来ずに見る事しか出来なかった。

 

彼女の機体はウィルスに犯され、武装も殆ど失った。

牙を捥がれ、後は死ぬのを待つだけになっていた。

 

モーガンが倒されれば、次にヤラれるのは自分だった。

 

「(ごめんなさい・・・、コートニー・・・、私、もう・・・。)」

 

ここで終わるつもりは毛頭ない、だが、それでも状況は絶望的だ、もう逆転の余地は無い。

 

自分が、愛しい男の下へ戻れないと悟ると、彼女は悔し涙と共に唇を噛んだ。

 

もう、大切な人に会えないという悔しさが、彼女の頬を伝い落ちた。

 

『諦めるんじゃぁ、無いわよぉぉぉ!!』

 

正にその時だった。

怒鳴る様な女の声が宙域に響き渡り、無数のミサイルやビームがその宙域を薙いだ。

 

巧く攻撃が当たらない様に撃たれていたからか、モーガンやリーカ、そしてエドワードとベルナデットが乗るシャトルには当たらず、プロトセイバーに攻撃が殺到する。

 

『誰だっ!?僕の邪魔をするなっ!!』

 

『生憎、それが仕事なのよねっ!!』

 

その攻撃を何とか避けた少年が怒号をあげると、それに応える様に声が響く。

 

すると、攻撃の発射されたポイントより、何かが急速に接近してくる。

 

それはまさに・・・。

 

「紅い、彗星・・・?」

 

『違うわね、紅の烈風よ!!リーカ!!』

 

「その声は、玲奈・・・!?」

 

その言葉を否定しつつ、その姿を現したのは、小型戦闘艇にも匹敵する巨大さを兼ね備えた、紅い何かだった。

 

「あれは・・・、ミーティア・・・!?」

 

自身の友が引き連れて来たその装備に見覚えがあったリーカは、その名を呟いた。

 

先の大戦で三隻同盟の一角、エターナルが搭載し、フリーダム、ジャスティスによって運用された究極の移動砲台、それがミーティアだったのだ。

 

だが、それは細部が異なっており、更にカラーリングまで白から紅に塗り替えられていた。

 

そして、MSが納まるべき場所には、MA形態に変形した機体、イージスシエロがあった。

 

そう、その装備こそ、イージスシエロの巡航能力を更に高め、攻撃力を飛躍的に向上させるオプション、ヴェルヌだった。

 

ミーティア改≪ヴェルヌ≫をイージスシエロ専用に改修し、多面制圧強襲用兵装に造り替えたパックだった。

 

しかし、直線加速こそ爆発的な加速が見込めるが、旋回能力は著しく低下する。

 

今回の様に、戦場に急行せねばならない時の様な場合にのみ使用される装備であったが、パイロットである玲奈にとって、それは些細な事でしかなかった。

 

友人を助けられるなら、兵器なんて一度きり使うだけで良い、それは、彼女の上官であり友人である一夏も同じ想いの筈だった。

 

『こちら最強最速の女パイロット、早間玲奈!そこのプロトセイバー!さっさと撤退しなさい!今なら見逃してやるわ!こんなくだらない思惑に巻き込まれて、死ぬのは嫌でしょ?』

 

『くそっ・・・!嫌になるなぁ、どっかのお姉さん・・・!!』

 

玲奈の警告を聞きや否や、プロトセイバーのパイロットは忌々しげに吐き捨てた後、思案する様に口を閉ざす。

 

どうやら、戦うべきか否かを決めあぐねている様でもあった。

 

『分かったよマティス・・・、撤退する、命拾いしたね、おじさん達!!』

 

『賢明な判断ありがとう、感謝するわ。』

 

上からの判断が下ったのか、少年はプロトセイバーをMA形態に変更し、宙域を離脱して行った。

 

『こちら、アメノミハシラ幹部、早山玲奈よ、シャトルはコース241に進路を取りなさい、間に合ってよかったわ、リーカ。』

 

「玲奈・・・。」

 

通信回線を開き、その顔に笑みを浮かべながらもウィンクを飛ばす玲奈に、リーカは胸の内で感激の念が渦巻くのを感じる。

 

友人とは言え、たった一度しか顔を合わせた事の無い自分や、面識のないベルナデットの為に駆けつけてくれたのだから。

 

『また、七人で呑みましょうよ、未来の為に!』

 

「うん・・・!!」

 

屈託のないその笑みに、リーカは先程までとは違う涙で頬を濡らした。

 

海岸で杯を酌み交わした、七人でもう一度会える希望が、生まれた事を感じて・・・。

 

sideout

 




次回予告

誰も皆、絶望に踊らされ生きる術を見出せずにいた。
その絶望の闇を照らすべく、彼等は表舞台に姿を現す。

次回、機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

天空の宣言

お楽しみに


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天空の宣言

noside

 

「玲奈・・・、私達、これからどうなるの・・・?」

 

アメノミハシラに到着した玲奈は、シャトルに乗っていたベルナデットとエドワード、エグザスに乗っていたモーガン、そして自身の友であるリーカを案内する様に先じて歩みを進めていた。

 

玲奈はアメノミハシラの制服の上に紅のマントを羽織り、アメノミハシラの将軍としての地位を誇示していた。

他のメンバー、モーガンとリーカは自軍の制服に身を包み、ベルナデットとエドワードはアメノミハシラより貸し出された制服に身を包んでおり、今だ定まらない立場である事を表していた。

 

その最中、リーカは玲奈に向けて質問をしていた。

 

自分の進退も気になる事だろうが、それ以上に気になる思惑があるのだろう。

 

「俺達も気になる所だ、不可侵かつ不落の城であるアメノミハシラに、部外者の俺達をこうも容易く招き入れるんだ、何か思惑があるんだろ?」

 

「確かに助けてくれた事は感謝するわ、だけど、理由ぐらい聞かせて貰いたいものね。」

 

玲奈が自身より年下且つ、経験も浅い小娘と見たか、モーガンとベルナデットは彼女に問いかける。

 

さっさと理由を教えて欲しいという事もあるだろうが、それよりも不安の方が大きいのだ。

 

無理も無い、国の思惑に巻き込まれ、命を落とす瀬戸際まで追い込まれていたのだ、精神も疲弊していてもおかしくはない。

 

「ん、アタシに聞くより、もっと上の人間に聞いたら?中将って言っても、上には上がいる訳だし?」

 

恍ける様に、だが、それでも至って真面目に、玲奈はその問いに答えた。

自分よりも上の人間に聞くべき事は聞いてほしい、その一言が彼女の思惑を表している様にも取れた。

 

「上の、人間・・・?」

 

「ほら来た、アタシより上の男がね。」

 

ベルナデットがその言葉の真意を問おうとするが、それよりも早く出迎えが来たのか、玲奈は視線を通路の先に向ける。

 

その先には純白のマントに身を包んだ青年が立っており、一行の姿を認識したのか、その青年は彼等に向かって歩いてくる。

 

「任務ご苦労、だが、中将なら中将らしく振舞う事を覚えたらどうなんだ、玲奈。」

 

「あら、それは申し訳ないわね、元帥閣下。」

 

その青年、アメノミハシラの女帝に仕えるキング、織斑一夏は玲奈に苦笑しながらも問うが、もう慣れてしまったとでも言う様に、玲奈は彼の前に跪いた。

 

「い、一夏・・・!?それに・・・!?」

 

「元帥だと・・・!?この小僧が・・・!?」

 

一夏と面識はあったが正体を聞けずじまいだったベルナデットと、面識のないモーガンは驚いた様に彼を見た。

 

若干20代の前半の若者が、国のトップに近い立場に居るのだ、普通ならば考えられない事だろう。

 

「身内人事さ、気にする事ないよベル、それと、シュバリエ大尉、エド、無事でよかった。」

 

階級で呼ばれる事がむず痒いのか、彼は更に苦笑の度合いを濃くし、肩を竦めた。

 

「そして、リーカ、君が無事で何よりだ、君に何かあったら、俺はコートニーに顔向けできない所だった。」

 

「一夏・・・、貴方は・・・。」

 

一夏の柔らかい笑みを浮かべながら、リーカの身の無事を喜んでいた。

 

それを見た彼女は、どうしてそこまで肩入れしてくれるのかと困惑する様に尋ねた。

 

「君は俺達の友達だ、だから、命を懸けて護る、次にまた、笑って会う為に。」

 

「なーにキザな事言ってんの、ま、アタシもリーカの事友達だと思ってるし、死なれちゃ寝覚めが悪いのよ。」

 

一夏と玲奈の言葉に、リーカはまたしても涙が出そうになった。

 

ここまで自分の事を大切に思ってくれる人物が他にいただろうか?

 

彼等の暖かい心意気が、彼女の胸を打った。

 

「到着して早々に悪いが、貴方方にはこの城の主、ロンド・ミナ・サハクの言葉を聞いて貰いたい、もう間もなく、我々が何年も温め続けた計画を、全世界に向けて発信する。」

 

「ロンド・ミナの・・・?それって・・・?」

 

一夏の言葉に、リーカは表情を強張らせる。

 

ロンド・ミナの計画とは一体どのような物なのか。

そしてそれは、今の世界にどのようにして作用するのか。

 

その全貌が見えない故に、恐怖心にも似た何かを感じているのだろう。

 

「案内しよう、世界へ投げかける波紋を、貴方方がどう受け取るかは、貴方方で決めて欲しい、我々は強制しない。」

 

踵を返す一夏に従う様に、玲奈もまたマントを翻してその先へと進んで行く。

 

そんな彼等の背中を、どうするべきかと悩んだ客人一行は、ここでじっとしていても仕方ないとばかりにアイコンタクトし、彼等の後を追った。

 

その先に待ち受ける、世界に投げかける問いを、自身達で受ける為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

数時間後・・・。

 

地球、サー・マティアス邸にて・・・。

 

『我が名はロンド・ミナ・サハク、今はどの国家にも属さぬ自由の思想家だ、私はこれより、地球圏すべてに向けてある計画を発信する、それについてどのように考え、どの様に行動するかは個人の自由だ。』

 

「始まったわね、女王の宣言が。」

 

「はい、我らが二年間温め続けた計画です、これを見られて損はありません。」

 

画面の向こうで名を名乗り、宣言を開始したロンド・ミナ・サハクの様子を、屋敷の主であるマティアスと傍らに控える宗吾が眺めていた。

 

それぞれの思惑があるのだろう、二人の表情からは興味以外の何かが見て取れた。

 

「じゃあ、そろそろ動くわよ、この放送が終わり次第、宙に上がるわ。」

 

「かしこまりました、傭兵達にも伝えておきます。」

 

主の下を離れ、今はマティアスの駒として動く宗吾は恭しく一礼し、その場を辞した。

 

どうやら、この屋敷に来ている他の人物達にも任務開始を告げに行くのだろう。

 

『ユニウス・セブンの落下はまだ記憶に新しい、連合もザフトも互いを非難し、その矛先はジャンク屋組合にまで向けられた、だが、考えてみて欲しい、その非難は果たして正しい物なのだろうか?』

 

ここ最近に起こった大事件、ブレイク・ザ・ワールドを引き合いに出しながらも、今の世界の流れ、その怒りの矛先に疑問を投げかけたのだ。

 

「ふふっ・・・、差し詰め、天空の宣言とでもいうのかしら?ロンド・ミナ・・・、貴方達になら、この世界の行く末、任せられそうだわ。」

 

その映像に満足しているのか、彼は席を立ち、何処かへ歩いて行った。

 

その足取りは、まるで何かの覚悟を決めた様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

同時刻、とある宙域に存在する、一族と呼ばれる組織が管轄する宇宙ステーションで、一族の長である女、マティスは、ロンド・ミナ・サハクが行っている演説を聞いていた。

 

「遂に動いたわね、イレギュラーK・・・、アメノミハシラ・・・!」

 

彼女の瞳には爛々とした怒りの炎が揺らめき、表情は忌々しい物を見る様に歪められていた。

 

彼女のいうイレギュラーとは、彼女の組織から見て、排除すべき存在であり、彼女の思惑通りに動かない人物達の事を指していた。

 

また、イレギュラーには世界に大きな影響を与える存在が多いのも、イレギュラーと呼ばれる所以となっていたのだ。

 

2~Aまでの数字には十三の人、若しくは組織が示されており、2にロウ・ギュール、4にプロフェッサー、6に叢雲 劾がその名を挙げられている。

 

しかし、言い換えてみればそれは、その者達を消し去れば、彼女の邪魔をする人間が軒並み排除できるに等しいのだ。

 

故に、動き始めたイレギュラーを止める手を持たない彼女には、その放送を恨めしく見る以外無かったのだ。

 

『この世に、闇が広がっている、人々は皆、何も見えぬ中で怯え、他者の悲鳴を頼りに逃げ惑うばかりだ、そして、その悲鳴を生み出す闇が奏でる伴奏によって、人々は踊らされているのだ。』

 

「そう、闇を操る、それが私の役目、不幸の上に幸福は成り立つ、故に限りる幸福を振り分けるためにね。」

 

ミナの言葉を聞きつつ、彼女は自分達の目的を改めて確認する様に呟いた。

 

一族とは、人類を永続的に存続させるために、世界に影から働きかけ、戦争や紛争による間引きや、息のかかっている企業に圧力をかけ、満足に時給が出来ない国家に支援を行っているのだ。

 

だが、それは正義や悪、正誤の概念を飛び越え、ただ当たり前の行為として提供しているに過ぎない。

 

たとえ、戦争でどれ程の人間が死のうと、支援でどれだけの人間が救われようとも、彼女には一切関係ないモノだった。

 

『だが、考えて欲しい、その闇に潜む、何者かの手によって踊らされているとすれば?それが今の国家であり、政治と言う物だ、自分達以外に敵を作ることで恐怖を生み出し、民をコントロールしているのだ。』

 

「何を今さら、それが国と言うものでしょう?そんな当たり前の事を言うためだけにこんな放送をしているのかしら?」

 

彼女の語りに、マティスは呆れた様に呟き、嘲笑う様にタメ息を吐いた。

 

天空の女王とも噂されるロンド・ミナ・サハクがよもやこのような低俗な次元の話をするなどとは思っても見なかったのだろう。

 

だが・・・。

 

『だが聞いてほしい、私はこれから、全く新しい国家のあり方を提示する。』

 

「なんですって・・・!?」

 

その発言に、マティスの表情が一気に強張った。

内心で馬鹿にしかけていた人物からの思わぬ宣言、それは彼女を慌てさせるに十分すぎる重さを持っていた。

 

『ある人物が私に、「国家とは人である」という思想を説いた、その人物だけでなく、自分達の真実を、信念を持つ者達がいる、故に、彼等はどれほど深い闇が世界を包もうとも、他者に踊らされる事なく世界を見通し、自分のリズムで踊るのだ、彼等の様に、世界中の人間が自分の中に在るメロディーで踊る事が出来れば、今の国家と言う物は必要なくなる、政治もその役割を大きく変えるだろう。』

 

「イレギュラーの事・・・!!でも、誰もが彼等の様になる事は不可能だわ!!」

 

彼女の言う事は確かに正しい、だが、全ての人間が、イレギュラーの様になれる事は不可能にも等しかった。

 

何せ、一般大衆とは、声の大きい方へ流される性質を持っている、それ故に、自分の意思を押し通す事は、非常に難しいのだ。

 

『無論、彼等は一部の特殊な存在であると言える、私もそう思っていた、だが、そうでは無い事を知った。』

 

「なにっ・・・!?」

 

誰もがイレギュラーになれるわけでは無いという言葉を肯定しつつ、彼女はそれを否定する言葉を続けた。

 

まるで、イレギュラーになる方法があるとでも言う様に・・・。

 

『ジェス・リブルと言うジャーナリストを知る者は少ないだろう、この者は平凡だ、だが、南米戦争やユーラシアの英雄事件、そしてユニウス条約の調印式、彼は時代の転換に立ち会い、影響を与えてきた。』

 

「ジェス・リブル・・・、マティアスが抱える平凡な男のはず・・・、でも、これは・・・。」

 

ミナが語る男を、マティスは嘗て、つまらない平凡な男と断じた事が有った。

 

だが、よくその足取りを見てみれば、彼はC.E.の歴史に刻まれるであろう事件の現場にいて、その中心的な人物達と関わりを持ち、その者達に影響を与えているのだ。

 

それは、イレギュラーにしかなしえないものだと考えていた。

しかし、自分が平凡だと断じた男がそれをやってのけている、それは、彼女ですらも認めざるをえなかった。

 

『何故平凡な男が大いなる影響を与えられたか、それは彼もまた、自らの信念に基づいて動く男だからだ、分かるだろう、特別な人間でなくとも、特別な存在でなくとも、己の信じるモノの為に進む事で、自分を変え、世界を変えて行けるのだ。』

 

「何を世迷言を・・・!青臭い理想論だわ!!」

 

その言葉を受け入れられないというかのように、マティスは表情を歪めながらも叫ぶ。

 

そう、理想論で片付ける事は出来る、だが、現実はそうでは無いのだ。

 

平凡と断じた男を目指せば、世界を変えれるなど、受け入れられない屈辱にも等しいだろう。

 

『一人一人の生き方が変われば、世界もその在り方を変えて行く、その新しい世界には国土も国家も無い、ただあるのは信念のみだ、他者の理念を妨げぬ限り、人は己が理念に従って生きるべし、その生き方が出来る者こそ、新しい世界の構成員である資格を持てる、そこにはナチュラル、コーディネィターの区別も無い。』

 

「何が資格よ・・・、結局は他人とのかかわりを拒絶している世界じゃない!世界と繋がらずに生きる事なんて、出来る筈がないわ!!」

 

ミナの言葉に返す彼女の言い分は尤もだ。

一部と全部と言う言葉があることからも分かるだろうが、個とは全を構成する物であり、全とは個の集合体でしかない。

 

ミナの今言っている事を要約すれば、全を個に分け、その個が繋がりを一切持たずに存在している様なものなのだ、今の世界では到底考えられぬだろう。

 

『無論、私はバラバラに生きろと言っているのではない、志を同じくする者と手を取り合い、この世界にたち向かう事も出来るだろう、嘗て、大戦を終結に導いた三隻同盟もまた、一つの志を共有していたのだ。』

 

だが、ミナは彼女の正論を否定する言葉を紡ぎながらも、虚空へと両手を伸ばす。

 

その手を取ったのは、伝説の傭兵、叢雲 劾と、アメノミハシラの最高幹部、織斑一夏だった。

 

それが、見る者にとって何を意味するのかは、分かる者にしか分かるまい。

だが、最強の傭兵と天空の守護者が女王の両脇に佇むという事が、どれ程のチカラを持っているか、推して測るべしだろう・・・。

 

『故に、私は私の理想に共鳴する者を、自らの理想の為に立ち上がり、新たな世界の一員となる者達の為に戦おう、もし同志と呼べる者に危機にあった時は躊躇う事なく私を呼べ、私と私の同志たち持てる力の全てを用い、その者を全力で護ろう。』

 

そして、そんな彼等が、新世界を望む民たちを支援すると高らかに表明した今、世界が欲する力が味方に着くも同然と言う意味だ。

 

力を持たぬ者達を助力し、真の意味での平和と共存を求める為に彼等は遂に立ち上がったのだ。

 

『この放送を聞いても俄には信じられまい、だが、それでも構わぬ、私は強制しない、我等を呼ぶ声あれば地球圏すべてに馳せ参じよう、最後に今一度宣言しよう、己の信念に従って生きよ!さすれば永遠と無限を持つ闇の恐怖に打ち勝てる!我々個々の力で、それは為せる!』

 

締めくくる様に宣言された言葉と共にミナは一礼し、彼女の周りに佇む者達もまた頭を垂れた。

 

そして、その放送は終わる事無く再放送に入った。

 

恐らく、ジャンク屋組合が持つ、地球圏全域に張り巡らされた回線ネットワークを用いてのエンドレス放送に入ったのだろう。

 

それは、これからもその放送が世界に波紋を投げかけ続けると同義だった。

 

「こんなふざけた事っ・・・!」

 

マティスはその美しく整った表情に憤怒の色を浮かべ、コンソールを殴りつける。

 

このままでは、自身の思惑通りに世界が動かなくなる。

それは、一族の長として許すまじ事態だった。

 

彼女は毟るように受話器をひったくり、部下に連絡を取る。

 

『ま、マティス様!?どうされました・・・!?』

 

「連合の艦隊を動かしなさい!!これ以上、あの城を野放しにはしない!!アメノミハシラを、叩き落とせ!!」

 

sideout

 

noside

 

「・・・、賽は投げられた、あとは、世界の動きを見よう。」

 

放送の収録を終えたミナは、小さく息を吐き、周囲の様子を窺う。

 

既に手筈は完璧に整えられており、地球圏全域に放送が開始されていた。

 

放送の影響がどれほどあるかは分からない。

だが、既に南米など、連合に圧政を強いられている地域からは協力や助力を乞う声も上がって来ている。

 

そして、彼女の下には南米の英雄、エドワード・ハレルソンがいる。

彼もこの宣言には賛同し、南米に戻って指揮を執ってくれる手はずだった。

 

無論、全ての人間が従った訳では無い。

 

「俺は賛同しない、俺は軍人だ、連合の指示に従って戦うだけだからな。」

 

「強制はせぬ、そなたの機体は損傷が多い、コペルニクスまでシャトルで送らせよう。」

 

踵を返し、アメノミハシラから去ろうとするモーガンに、ミナは小さく笑みつつも返した。

 

彼もこの放送の意味を理解し、尚且つ自分の生きる道を貫こうとしている。

形は違えど、それも確かに宣言通りの生き方であった。

 

「俺は次の依頼に向かう。」

 

「うむ、サーの依頼だ、完遂してくれ。」

 

そして、傭兵、叢雲 劾は仕事の為に一旦アメノミハシラを離れる事となった。

 

その依頼内容を知ってか知らずか、ミナは鷹揚に頷きながらも彼を見送った。

 

其々の思いを胸に、彼等は動き出していた。

 

「ミナ、恐らく連合軍が攻めてくるだろう、第二戦闘準備で全部隊を待機させる。」

 

「指揮は預ける、一夏、頼むぞ。」

 

「了解。」

 

一夏の言葉に頷き、全幅の信頼を寄せる腹心に返しつつ、ミナは世界の流れを見るべくコンソールへと目を向けた。

 

各国の動きは迅速で、デマに惑わされない様にとの勧告が幾つも出ていた。

 

だが、そんな中でも、オーブやスカンジナビアなどの一部国家では、何のリアクションも無かった。

 

一見すれば無視されているとも取れるが、今回に限っては違っていた。

 

「(黙認か・・・、獅子の娘よ、今は感謝しておこう。)」

 

敵対関係に在れど、世界を憂う気持ちは同じ。

 

今、彼女は若き獅子の娘が置かれている状況と、自分のこれからを見据えつつも思った。

 

世界は変わって行く。

 

大きく、それでいて異なった形を伴って・・・。

 

sideout

 

noside

 

「リーカ・・・、そんな・・・。」

 

プラント、アプリリウス市内にある、議長室に招かれていたコートニー・ヒエロニムスは、恋人であるリーカ・シェダーがMIA認定を受けた事を、プラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルによって知らされた。

 

「残念でならない、彼女は良いパイロットだった、君とも、関わりが深かっただろうに・・・。」

 

死者を悼む様に沈鬱な表情を浮かべるデュランダルに、コートニーは強い怒りを覚えた。

 

自分が、そして彼女自身が予見していた最悪の事態が現実に起こってしまった。

 

リーカが何事も無く帰って来れたなら白、そうでなければ黒という賭けは、リーカが戦死したかもしれないという最悪のリターンで証明されてしまった。

 

そして、それはプラント政府が、ひいては目の前にいる男が仕組んだ策略なのだ。

それに巻き込まれ、自分の恋人は死んだかもしれない。

 

そう考える度に、コートニーは拳を握り締め、怒りが表情に出ない様に努めながらも俯いた。

 

出来る事なら、今すぐ殺してやりたいとも思った。

 

だが、それをすれば自分の未来はない。

 

故に、彼は冷静になるように言い聞かせながらも、懐に仕舞っていた辞表届を出そうとした。

 

今回の一見、最悪の目が出た場合はすぐにプラントから逃げるという形を取るという約束だった。

 

本当ならば、そうなってほしくなかったのだろうが・・・。

 

「コートニー・ヒエロニムス君、彼女の死を無駄にしてはならない、今ここで逃げれば、彼女を死なせた世界を変えられない。」

 

「っ・・・!?」

 

自分の思惑を見透かしたように放たれた言葉に、彼は絶句する。

 

まるで、あの時の会話を盗聴されていた様に、先手を打たれてしまっていた。

 

「そのためにも、君にはこれまで以上にザフトの力になって貰いたい、君の力に見合う地位も用意させてもらった。」

 

「なっ・・・!?」

 

しかし、それは序の口だったようだ。

ザフトでの地位を与えるという事は、軍人として正式に戦いに参加しなければならないという事を示していた。

 

「議長、私は・・・!」

 

「君が戦いを好んでいない事は私も充分分かっている、私だってそうだ、このまま争い続けても、どうにもならないのだよ。」

 

辞退しようと声を上げようとするが、それを遮る様にデュランダルは言葉を続けた。

 

その表情には、物憂げな表情しかうかがえなかったが、コートニーにはそれが作り物のように映っていた。

 

まるで、人間の命を駒の一つとしか見ていない様な、そんな雰囲気がかすかに感じ取れたようだ。

 

「君にはぜひ知ってもらいたい、私が目指す本当の世界を、そして、その役割をね・・・?君が目指す、戦争をさせない兵器の在り方を、私は示せるつもりだよ。」

 

「っ・・・!!」

 

柔らかい、だが、人間が浮かべる者では無い笑みに、コートニーは心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に陥った。

 

嫌な汗が全身から吹き出し、今にも倒れそうなほどに震えが止まらなかった。

 

だが、それと同じくらい、自身の夢で在る、戦争をさせない兵器を実現させる道術を知っている様な口ぶりにも惹かれたのは事実だった。

 

友の、恋人の想いを裏切りたくはない。

だが、ここで辞退しても真相に近付きすぎた自分に未来は無い事も分かっている。

 

そしてそれ以上に、夢を捨てるか、捨てないかという選択肢も、彼には突きつけられていた。

 

「どうする?コートニー君?」

 

最終通告の様な一言に、彼は歯を食いしばり、怒りを押し殺しながらも首肯する。

 

逃げられない事は十分分かっていた。

故に、せめて残された夢だけでも叶うならと、彼は受け入れてしまったのだ。

 

「ありがとう、期待しているよ、コートニー君。」

 

「・・・っ、はい・・・。」

 

sideout




次回予告

天空の宣言に対抗すべく動こうとする一族、だが、終焉の時は訪れる。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY
第四章最終話 真実の先へ

お楽しみに


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真実の先へ

side宗吾

 

「サー・マティアス、本当にこれでよろしいのですか?」

 

宇宙空間を、とある場所に向けて進むブリッツスキアーのコックピット内で、俺は補助シートに腰掛ける男性、サー・マティアスに確認を取っていた。

 

目的の場所を知らされて、俺は柄にもなく驚いたもんだ。

何せ、その場所は彼にとっての敵の本拠地だ、乗り込むにしても流石に無謀すぎる気もしなくもない。

 

「構わないわ、神谷卿、そうでもしないと、貴方達アメノミハシラの計画も危ういわ。」

 

「ですが・・・。」

 

俺達の事も考えてくれるのは嬉しいが、状況はどう見てもよろしくない。

 

まるで、その先に命が無いのを覚悟している様な、そんな想いが伝わってくるようだった。

 

「この世界のこれからに、一族の血縁は必要ないわ、それはアタシにも言えるコト、だから貴方は正しい事をしてるの。」

 

俺の言葉を遮って、彼は憂いを帯びた、それでも何処か澄んだ目で諭してくる。

 

そこまでの覚悟があるのならば、俺はもう止められない。

だから、彼の思う様にお膳立てする事しかない。

 

俺は無言で頷き、サブフライトシステム代わりのブースターから降り、ミラージュコロイドによる慣性移動に入る。

 

そのまましばらく進んで行くと、球体の様な要塞が見えてくる。

 

そこが、俺達の目的地、彼にとって最後の場所なのだ。

 

「ミラージュ・コロイド・ウィルス散布開始、連合軍宇宙要塞、メンティラへの潜入を開始する。」

 

言い聞かせる様に呟きつつ、俺は操縦桿を握り締め、ゆっくりと機体を開いたハッチから侵入させる。

 

一応、熱紋が出ない動かし方をしているが、それ以外でばれては元も子も無い。

一動作ごとに、俺は全神経を集中させて機体を動かす。

 

だが、それも杞憂に終わった様だ。

ミラージュ・コロイドやミラージュ・コロイドウィルスで細工しまくったからか、侵入警報なんてなる事なく、目的の区画まで侵入できた。

 

そこには、発進準備を整える一隻の戦艦、ガーディー・ルー級の姿があった。

 

「着いたわね、マティスはこれに乗って逃げるつもり、なら、待ち構えて見届けてあげるわ。」

 

「サー・・・。」

 

本来なら、俺は人間として止めるべきだ。

死ににいこうとする人を、みすみす活かせる訳にはいかない。

 

たとえ、命令に背いているとしてもだ。

 

だが、そんな俺の事を、彼は優しく微笑む事で制する。

 

「ありがとう、これで終わるの、アタシの背負う因縁が、そして始まるの、誰にも惑わされる事の無い、本当の世界が。」

 

本当の世界と言う言葉は、俺達が築こうとする世界の事を指すのか、それとも、別の何かか・・・。

 

だけど、本物の男の覚悟を止める程、俺は無粋ではないつもりだった。

 

だから、俺は頷き、そして、上官である一夏にすら滅多にしない、最敬礼で彼を見送る。

 

コックピットハッチが開き、最後の微笑みを残し、彼は通路へと降りて行った。

 

彼の姿がガーディー・ルー級の中に消えるのを確認した後、俺もこの場を退散する事と相成った。

 

どうか、彼の行く先に、彼の本懐が在るよう祈りながら・・・。

 

sideout

 

noside

 

同時刻、オーブ直上の衛星軌道上に聳える城、アメノミハシラでは・・・。

 

「リーカ、本当に良いんだな?」

 

展開するMS隊の先陣に位置取る純白の機体、ストライクSのコックピットで、アメノミハシラの最高幹部、織斑一夏はある機体に乗り込む人物に向けて通信を入れていた。

 

その相手は、ザフトに裏切られ、アメノミハシラに保護されたばかりの女パイロット、リーカ・シェダーだった。

 

そんな彼女に向ける彼の声色には、相手を心配する様な色が混ざっており、無理しなくても良いと言わんばかりの語気だった。

 

「・・・、天空の宣言は、個人の意思を尊重するのよね・・・?」

 

「あぁ、そうだ、だから出てくる事は止めない、けど、君は・・・。」

 

天空の宣言を引き合いに出されても困るがとでも言いたいのか、一夏は彼女の言葉に歯噛みした。

 

自分が言いたい事はそうではない。

ここでアメノミハシラと共闘するという事は、本格的にザフトと交戦する意思を示す事に他ならない。

 

何せ、アメノミハシラを狙うのは、何も連合軍だけではないのだから。

 

だが、それを知っていて尚、リーカは友と呼べる者達と肩を並べる事を選んだ。

 

「ザフトから見捨てた私を真っ先に救ってくれたのは、この城の皆よ、だったら、それに報いないと友情も恩も、全部が嘘になっちゃう、そんなの、死んでも嫌だ。」

 

静かに、それでいて、妙に熱の籠った声で、自身の決意を語るリーカに、一夏は何も言えなくなる。

 

これ以上苦しむ様な真似をしてほしくない。

だが、誰かと一緒ならばそれを受け止められる、そんな想いが彼女からは伝わってくるのだ。

 

それを否定し、戦うなと言う事など、一夏には出来なかった。

 

「死んでも嫌とは、大きく出たもんだ、分かった、君が死なない様に、俺達が共に戦おう、共に生きる、それが俺達の夢だったな!」

 

「うん・・・!!」

 

だったら、死力を尽くして、何が何でも生き残る。

生き残って、その先にある夢を掴む、それが、今出来る事だと。

 

『連合軍艦隊捕捉しました!!アガメムノン級5隻!!』

 

そう覚悟を決めた時だった、索敵に出ていた僚機からの通信が、彼等の耳を打った。

 

数としてはこれまで攻め入って来た数よりも僅かに多い位だったが、今は状況が状況だ、何が何でも護り切らねばならない。

 

「おいでなすった!!リーカ、二号機は君のモノだ、好きに使え!」

 

「うん!リーカ・シェダー、プロトセイバー二号機、GO!!」

 

裂帛した気合と共に、薄桃色の装甲色を持った機体、プロトセイバー二号機が前線へ躍り出る。

 

その機体は、数か月前に一夏が親友であるコートニー・ヒエロニムスより、機動試験の見返りとして送られたものだ。

 

テスト当時は白い装甲色に、計測用の赤いラインが入っていたが、現在はリーカの手に渡り、彼女のパーソナルカラーである薄桃色の装甲色に調整されていた。

 

元々テスト機であったため、試験終了後は廃棄される予定であった。

 

そのため、強度などを一切考慮されていなかったが、受け取り直後から再調整や整備を繰り返し施した結果、アメノミハシラのMSの中でも、特に頑強なMSとして日の目を見る事となった。

 

「俺も行くか、各機、フォーメーションを取りつつ迎撃!一機たりとも欠けて帰るんじゃないぞ!」

 

『了解!!』

 

死ぬなと言う、唯一絶対の命令と想いに呼応し、彼の後ろに控えるMS隊からは勇んだ応答が幾つも返ってくる。

 

彼の想いに応え、命を懸けて生き残る、その想いだけがアメノミハシラの精鋭たちに息衝いていた。

 

「織斑一夏、ストライクS、行くぜ!!」

 

故に、彼は宇宙を駆ける。

 

それが、未来へ続く歩みだと信じて・・・。

 

sideout

 

noside

 

そして、そこから更に一時間ほど経過した時、宇宙のとある場所では・・・。

 

「サー・・・、やはり、貴方はそれを望まれていましたか・・・。」

 

宇宙空間に佇む一機のMS、ブリッツスキアーのコックピットで、宗吾は独り呟きつつも、目を閉じ、静かに敬礼をしていた。

 

その視線の先には、船体の各所から爆発光を散らすガーディー・ルー級の姿があった。

 

無論攻撃を受けたわけでは無い、隠密作戦をメインとする船が、敵機に気付かれる事など滅多にないのだから。

 

そんな艦が、何故今にも爆散しようとしているのか。

 

その理由など、一つしかあるまい。

 

内部からの自爆、それが艦の末路だった。

 

「呪われた血統を全て断つ、か・・・、それには自分自身も含まれていた・・・。」

 

マティアスの望み、それは、一族の支配より世界を解き放つ事、そして、一族の滅亡だった。

 

だが、彼自身も一族の出、これからの世界に在ってはならない存在だった。

 

故に、彼は血を分けた妹、一族の長であるマティスと共に散る事を選んだ。

 

人類は、誰かに導かれずとも歩いて行ける存在だと示すために・・・。

 

「でも・・・、だからって死ぬ事なんてないじゃないですか・・・。」

 

それは彼も頭では理解している。

だが、どうしても心が納得できなかった。

 

如何に彼の熱意に負けたとしても、死んでほしくなど無かった。

 

生きて、その先の世界にいて欲しかった。

 

生きている事は素晴らしい。

それが、彼が二度目の命を授けられ、一夏に救われた時に感じた事だった。

 

「貴方の想いは、俺が継ぎます、誰も犠牲にならなくても、幸せになれる世界を、俺が・・・。」

 

だから、人が人として生きられる世界を、人間を単位としてでは無く、一人格として見る事が当たり前の世界を、彼は望む。

 

それが、真に正しい世界だと信じているから。

 

「今度こそ・・・、きっと・・・。」

 

小さく呟き、彼は機体を反転させて帰路に就いた。

 

そこで待つ仲間達と、共に歩むために・・・。

 

sideout

 

noside

 

その頃、L5宙域に存在するプラントコロニー群のひとつ、アプリリウスの兵器開発部門では・・・。

 

「・・・。」

 

格納庫の一角で、その男、コートニー・ヒエロニムスは苦痛と悲嘆に苛まれながらも目の前に聳える機体を見上げていた。

 

此処に来ることは、彼も何度かあった。

だが、それは一介の技術者としてだ、今の様な状況でなど、来たくも無かっただろう。

 

その表情は、語るまでも無く彼の心境を如実に表していた。

 

彼の服装は、先日までの作業服では無く、ザフト軍属を示す赤い制服に身を包んでいた。

 

更に、左胸には銀色に光るバッチの様な物が着けられていた。

 

それは、ザフト軍の中でも、特に実力の抜きん出た者にのみ選ばれる特務隊である事を示す称号、FAITHだった。

 

FAITHとは、軍の命令体系に縛られず、独自に行動できる権限を持った者の事を指し、その権限は非常に強く、独断でMSや艦を動かす事が出来る程だ。

 

だが、言い換えてみればそれは、上層部にマークされていると同義であり、常に監視が為されている様でもあった。

 

後ろ暗い思惑や、組織に対する疑念が無いモノにとっては気付かぬ事だろうが、生憎、彼は違ったのだ。

 

『今日から、君にはこの機体の開発と調整、並びに実戦でのテストを行ってもらいたい。』

 

彼に直接命令を下す事になった男の声が、彼の頭に響き、こびり付いて離れなかった。

 

まるで、そう在って当然だと、それが正しい道だと言わんばかりに、その男はコートニーに戦いを、そのための兵器の開発を強いた。

 

冗談じゃない、自分の望む兵器の姿は、争いをさせない為に存在するものだ。

 

こんな、争いを助長し、全てを破壊するために在る様な兵器ではない。

 

しかし、それでだけではないと彼も気付いていた。

その男は、争いの果て、戦争がなくなった後の兵器の姿を見ている。

 

不幸な事にそれは、コートニーが抱く理想と合致してしまっていたのだ。

 

無論、興味が無いわけでは無い。

だが、彼とて自身が置かれた状況は良くないと分かっている。

恋人が陰謀に巻き込まれて生死すら分からず、そして、自身はその陰謀に気付いてしまったが故に、こうやって監視と、半ば強制される形で戦いに身を投じる事となった。

 

逃げれば、自身の夢と命は無い、故に、彼はその欲求を呑む以外になかった。

 

「リーカ・・・、一夏・・・、皆・・・、俺は、俺はどうすれば良いんだ・・・?」

 

ロケット型のペンダントに飾った写真に写る友と恋人に問いかけるも、その問いに答える者は誰一人としていなかった。

 

そこにあったのは只一つ。

 

彼を見下ろす、無機質で冷たい双眸だけであった・・・。

 

sideout




次回予告

地球を訪れていた火星からの来訪者、マーシャン。
彼等と対峙した時、一夏が抱く想いとは。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

最終章 終わらない明日へ編

マーシャン

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最終章 終わらない明日へ編
マーシャン


noside

 

その日、太平洋赤道直下に浮かぶ島国、オーブに接近する艦影があった。

 

その船の名はアキダリア、火星圏に存在するコロニー群より、地球圏査察のために派遣された面々が乗る船であった。

 

地球圏で行われている政策やそこに住む人間を見るなど役割は多く、メンバーの士気も高かった。

 

「オーブに寄港する、これは決定事項だ。」

 

その艦橋の艦長席に陣取る銀髪の青年、アグニス・ブラーエは目の前に映し出された島、オノゴロ島を鋭い目で真っ直ぐ見据えていた。

 

どうやら、目的の人物がいる場所が、オノゴロ島だから接近しているのだろう。

 

「ですが!これを見て下さい!!数日前、ザフトの戦艦ミネルバが、連合軍の奇襲を受けたんですよ!しかも、オーブの側からも発砲されている!これがなにを意味するのか、貴方方にも分かる筈です!」

 

アグニスの決定が不服なのか、ザフトグリーンの制服を身に纏う青年、アイザック・マウは声を荒げて抗議した。

 

彼の言葉通り、彼等が訪れる数日前、ザフト軍戦艦のミネルバを、待ち伏せしていた連合軍の攻撃を受け、あわや撃沈という危機的状況に追い込まれていたのだ。

 

オーブ領海に逃げ込む算段もあっただろうが、オーブ側からも巡洋艦や護衛艦が数隻現れ、ミネルバに向けて艦砲射撃を撃ち掛けていたのだ。

 

それが意味するところは、オーブが地球連合軍に与したという、何よりの証左であった。

 

尤も、見る者が見れば分かるだろうが、オーブ側の艦砲射撃は一発も直撃していないどころか、動かなければギリギリ当たらないポイントに撃ち掛けられているのだ。

 

オーブの軍人にとって、国を焼いた軍と、直前に世界滅亡を未然に防いだ艦、どちらが重んじられるべきかなど、考えるまでも無かったのだろう。

 

だが、アイザックがオーブを素通りしろという理由はそれだけではない。

 

この数日前、アグニスら使節団は連合のとある基地へ寄港、その際に連合軍第81独立機動軍、通称ファントムペイン二番隊の襲撃を受けていたのだ。

 

その際は何とか切り抜けられたから良かったものの、今のオーブは連合に与しているため、連合の部隊が寄港する事も容易いのだ。

 

故に、オーブにいる間に連合軍部隊の接近、及び交戦となってしまっては堪った物では無いと言いたいのだろう。

 

「それがどうした、俺達の旅の目的は地球圏の査察だ、地球圏を構成する国家の一つを素通りなど、我慢ならん!!」

 

だが、それがどうしたというのか、オーブはオーブと言う国として今も存在している。

そこに在る仕組みや人の在り方を見ずして、どうして素通りできようか。

 

たとえ、厄介事が舞い込んで来ようとも、自らの手でそれを跳ね除け、道を開けばいい、それだけだ。

 

「それに、この国にはあのキラ・ヤマトがいる、俺は彼を知りたいのだ。」

 

「キラ・・・?あのキラ・ヤマト・・・?」

 

アグニスが発した言葉に、アイザックは合点が行った様に尋ねた。

 

キラ・ヤマト。

その名は裏世界の人間には名の知れた人物のものだった。

 

その人物は、ヤキン・ドゥーエ戦役で世界を滅びから救った英雄の名であり、三隻同盟の中心的な人物でもあった。

 

「でも、どうしてオーブにキラがいると?」

 

「聞けばキラ・ヤマトは、オーブの出身らしい、キラは世界を救った、その人物の働きは世界にとっても有用だ、故に、彼と会わずに俺達の目的は達成できん、だからオーブに行く。」

 

世界を救った英雄が考える事を知る事で、世界を導く力と言う物を知りたいのだろう。

 

「ですが・・・!!」

 

「まぁまぁ、アイザックさん、アグニスがこういう性格なのはもう分かっているでしょ?」

 

それでも止めようとするアイザックを宥める様に、褐色の肌を持つ金髪の青年が割って入った。

 

彼の名はナーエ・ハーシル。

アキダリアの副官である人物であった。

 

「ここはアグニスの言う通りに、ね?」

 

「・・・、分かりました、でも、僕は船に残りますよ!それで良いですね!!」

 

ナーエにまで言われてしまえば、もはや言い返せないのだろうか、アイザックは大きく溜め息を吐いて、勝手にしてくれと言わんばかりに言い放った。

 

ザフトから付けられたお目付け役らしく、彼は職務に忠実且つ、敵対組織への疑念を拭えなかったのだろう。

 

「好きにしろ。」

 

取り合う気も無いのか、アグニスはあっさりと切り捨て、舟の進路の先にある島を睨んでいた。

 

そこで待っている、何かに想いを馳せる様に・・・。

 

sideout

 

noside

 

オーブに寄港してから数日の後、アグニスとナーエの二人はモルゲンレーテの施設にいた。

 

結果的に言えば、二人はオーブ首長であるカガリと面会する事ができた。

 

とは言え、その時間はごく限られた短い間だった。

何せ、カガリは国防省のトップであるユウナ・ロマ・セイランとの政略結婚が目前に迫っており、すぐにでも準備を行わなければならない状況だった。

 

それを推して尚、アグニス達との面会時間を設けてくれた事に感謝しつつも、彼等はカガリの国に尽くそうとする姿勢を感じ取っていた。

 

政略結婚を受け入れ、自らの幸せを捨ててでも国を護りたいと思う気持ちに、彼は強い感銘を受けていた。

 

だが、それと同時に思う処があったのも確かだ。

 

個人の幸せを無視して世界が成り立つというのなら、世界を回しているのは何か?という疑問だった。

 

キラ・ヤマトの様に、一人の人間が世界を動かした例もある。

 

それ故に、彼は悩んでいたのだろう、世界のあるべき、本当の姿と言う物に。

 

「アグニス?どうしました?」

 

「っ、ナーエか・・・、いや、何でもない、考え事をしていただけだ。」

 

モルゲンレーテの格納庫に通じる通路を歩いていた事を失念していたと言わんばかりに、アグニスは頭を振って先程までの考えを思考の外へ追い遣った。

 

その答えを見付けに来ているというのに、地球人と言う存在を知るために来ているのに、一々悩んでいても仕方ない、全てを見終えてから考えればいいと、彼は答えを下したようだ。

 

「貴方らしくないですね?気分でも悪いのですか?」

 

「慣れない地球の重力に、今更酔っているのかも知れん、情けない話だ。」

 

自分の身を案じてくれる副官兼友人の言葉に苦笑しつつ、彼は大丈夫だと言う様に呟いた。

 

なるほど、重力酔いか、それなら、変に思考を堂々巡りさせている事にも納得出来るやもしれない。

 

だが、今はそんな事を考えている場合では無いことは確かだ。

 

「しかし、本当にデルタを触れさせていいのか?」

 

気分を切り替える様に、アグニスはある疑問を口にした。

 

今現在、アグニスの持ってきた機体は、地上でのデータをインストールするためにモルゲンレーテの技術者に預けている。

 

とはいえ、アグニス等はマーシャンであり、機体もある地球人の手が加わっているとはいえ、ほぼ火星圏の技術で作り上げた機体だ。

 

その、技術体系の異なった場所に見せても良いのかと言う懸念を、募らせていた。

 

「アキダリアのスタッフをお目付け役で付けていますし、機体全てを見せている訳ではありませんから大丈夫では?それにここはアストレイの故郷でもありますから、アップデートには最適な場所では?」

 

心配いらないという風に話すナーエの言葉には、ある種の因縁めいたものを仄めかす様な色が窺えた。

 

それがなにを意味するのかは全く分からないが・・・。

 

「アストレイ、か・・・、それはデルタを改修したあの男が付けた名だろう、ここと直接的な繋がりは無いさ。」

 

「そうですかね?」

 

関係ないと言いつつも、アグニスが何処か感傷的な想いを抱いている事に気付いたナーエは、何処か柔らかい笑みを浮かべて彼の後に続いた。

 

暫く歩いて行くと、漸く格納庫に出たのか、多数のMSが置かれている区画に辿り着いた。

 

圧巻、その一言に尽きる様子を眺めながらも、更に奥へ進んでゆく。

 

「っ・・・!?」

 

だが、アグニスの脚は、とある二機の機体の前で止まった。

 

目を見開き見上げるは、漆黒の装甲に金色のフレームが映える機体と、PSダウンを示すダークグレーの装甲色を持った、特殊なバックパックを背負う機体だった。

 

「珍しい姿の機体ですね?」

 

「あぁ、この二機は明日の式典に出席される客人の機体です、こちらではバッテリーと推進剤の補給以外、何も触るなと仰せつかってますので、ここに置かせて頂いております。」

 

「そうなんですか?中々に用心深い方々なんですね?」

 

固まってしまったアグニスに変わり、ナーエが手近な整備士に尋ねていたが、そんな事はアグニスにとってどうでも良かった。

 

その機体から何かを、乗り手から滲み出て機体に染みついた想いを感じ取っていたのだ。

 

「アグニス?デルタの所に行くのでは?」

 

「あ、あぁ・・・、今行く。」

 

動かないアグニスを訝しむ様に話しかける副官の声に、漸く我に返ったアグニスは上擦った声で返しながらも動き出した。

 

後ろ髪を引かれる様な感覚を抱いたままに・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「へぇ・・・、アイツ等がマーシャン、火星からの使者か・・・?」

 

「うむ、遠路はるばる、このような時期にご苦労な事だ。」

 

俺達の機体の前にいたマーシャンの使節団と思しき銀髪の男と金髪の男を、俺とミナは格納庫を一望するVIP室から見ていた。

 

俺達の機体に興味を持ち、あまつさえ何かを感じ取った様な表情をしていたな・・・。

 

だが、それとこれとは話は別だな。

 

「しかし、彼等が我々の想いに賛同してくれるか、それとも反発して敵となるか・・・。」

 

今回ここに来たのはオーブ首長の結婚式に参列する為だったが、ハッキリ言って出ようが出まいが別にどうでも良いって言うのが本音だった。

 

俺が、いや、アメノミハシラとして気になっているのは、カガリ自身よりもオーブに訪れているマーシャンの動向や、その思想に傾いている。

 

アメノミハシラが現在推し進める天空の宣言は、人々に対して個人の思想を尊重し、干渉しあわず、尚且つ手を取り合うという、ある意味で矛盾している様な声明だった。

 

まだまだ浸透には時間が掛かるだろうが、それでも確かに進行している計画なんだ。

 

それを、地球圏の外から来た彼等が何を思って、何をしてくるか。

アメノミハシラとしては知っておいて損は無いんだ。

 

「さぁな、こっちからちょっかいは掛けられんだろうさ、だが、明日辺り、なんかありそうだよなぁ。」

 

だから、接触するチャンスが欲しいわけだが、ただでは食いつくまい。

 

そこで、まずは何か起きるまで大人しく身を潜めて、何かあれば横槍入れて関心を向けさせる。

 

それで話を聞き、話を聞いて貰おうという魂胆だ。

 

俺が考案したんだが、我ながら中々にアクドい手だこった。

 

ある程度、この国で最近起こった、表沙汰にならない事件の概要は耳に入れてる。

 

それが、世界にとっても非常に大きな意味を持った人間がらみと言う事も、勿論知っている。

 

「ほう、ルキーニからか?」

 

「あら?やっぱりバレちまうよなぁ・・・?」

 

俺の考えを見透かしたのか、ミナは意地悪く尋ねてくる。

 

「何年そなたの主を務めていると思っておるのだ、それに、私も知らぬわけではないからな。」

 

「流石だなぁ、やっぱすげぇよミナは。」

 

っと、今はそんな事言ってる場合じゃなかったな。

 

「三日ほど前か、アカツキ島にあったアスハの別荘が何者かの襲撃を受けて壊滅、偶然その場に居合わせたマルキオ導師の話から推察するに、歌姫を狙った襲撃である事は間違いない。」

 

「ふむ・・・、という事は、旧三隻同盟のメンバーが集まっていた所を襲撃したのか・・・、下手人は恐らく、ザフト・・・。」

 

俺が事件の大まかな概要を話すと、ミナはその裏に隠された真相を一瞬で見抜いていた。

 

流石、天空の女王だこって、俺なんかより圧倒的な存在だよ、ほんと。

 

「あぁ、連中はプラントへの移住も計画していたそうだが、それも難しくなったという訳だ、で、現在アカツキ島の秘密ドックに、モルゲンレーテの技術者が何人もシフトを割かれてる、まるで、戦いに出る前の準備みたいだな。」

 

あそこに隠されているのがなにかはおおよそ合点がいく。

 

もっとも、今更動いた処で世界にイイ影響はないだろうけどな。

 

「なるほど、なんとも都合の良いタイミングだな、良かろう、明日は私が出る、その後はそなたに任せるとしよう。」

 

とは言え、俺達は自分の意思で動こうとする者達を止めるほど無粋では無いし、宣言がそれを許さない。

 

だから、それを見守り、邪魔をしようとする者を排する、それだけだ。

 

「分かった、こっちでも準備はしておくよ。」

 

「頼むぞ。」

 

「了解。」

 

ミナに敬礼し、俺はVIPルームを後にした。

 

火星からの客人に見付からないよう格納庫に入って、機体の調整でもするか?

 

いや、前にコートニーと入ったバーで飲んでるのも悪かないな。

 

って、そんなことはどうでも良いな。

 

あのマーシャン達がなにを見せてくれるのかは分からない。

だが、きっと有益で、有意義な何かを齎してくれるだろう。

 

だから、俺は見てみたい。

 

俺達が投げかけた波紋の、その答えを・・・。

 

sideout

 




次回予告

攫われるカガリを追うべく駆けるアグニスの前に、天空の女王が立ち塞がる。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

宣言の下に

お楽しみに


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宣言の下に

noside

 

「アグニス、式典の方は見なくても良いのですか?」

 

翌日、モルゲンレーテのファクトリーで愛機の調整を行っていたアグニスは、すぐそばでテレビ中継を見ていた副官、ナーエにその中継を見なくて良いのかと尋ねられた。

 

その言葉には怪訝よりも、やはりかと言う思いと、確認のための意味が込められていた。

 

現在、オーブ首長国連合代表、カガリ・ユラ・アスハと軍部官僚、ユウナ・ロマ・セイランとの結婚式典が行われていた。

 

現在は街中を公用車で走り回るパレードを中継しているが、その先には海が見える沿岸の教会にでも行き、式を執り行う心積もりなのだと推察できた。

 

だが、それはオーブを他国から狙わせないというカガリの決意の表れで在ったし、政略結婚であるという事実は覆しようも無い。

 

しかし、それも見る者が見なければ全く分からない程に、巧妙にカモフラージュされる程、情報操作されていた事も事実であったが・・・。

 

「必要ない、式典が終わるまでここに留まると決めはしたが、式典自体に興味はない、何処にでもある政略結婚だからな。」

 

アグニスにとって大事なのは、政略結婚という事実よりも、カガリが抱いた覚悟だ。

 

自身の身を犠牲にしてでも、国の為に尽くす。

何と清く、気高いモノだろうか、と。

 

「そうですか?何かあるとは思いますが?」

 

「くだらん、そうだとしても、アスハ代表が国を想って決めた事を、俺は邪魔など出来ん。」

 

とは言え、彼もこの事に思う処はある。

 

人一人の幸せを犠牲にしたところで、国は果たして幸福になるのかという想いだけだ。

 

だが、一人の幸せを無視してでも国益を優先せねばならない事はある。

それぐらい、彼も考えれば分かる事だった。

 

ならば、それだけでいい、自分のやるべき事をするだけなのだ。

 

そんな彼の想いを酌んだか呆れたか、ナーエは苦笑しつつも視線を式典を中継しているモニターに視線を戻した。

 

そのモニターには、海岸に近い崖に造られた祭壇に新郎新婦が到着し、婚姻の儀が執り行われようとしている所だった。

 

何も無ければ、このまま終わる。

誰もがそう思っていた時だった。

 

突如としてファクトリー内にけたたましい警報が鳴り響く。

 

「な、なんだっ・・・!?」

 

それは機体の調整に意識を割いていたアグニスにも届き、彼は強張った声で状況を尋ねた。

 

「あ、アグニス!これは・・・!!」

 

「っ・・・!?」

 

ナーエが見せたモニターには、ウェディングドレスを身に纏ったカガリを腕に抱えて飛び去る蒼い翼を持った白い機体の姿があった。

 

それが意味する事など考えなくても分かる。

これは・・・。

 

「国家元首を拉致しただと・・・ッ!?」

 

今目の前で起こっている事は、国家反逆罪に相当する行為、国家元首の誘拐だった。

 

「代表が攫われた!!」

 

「警備の部隊は何をやっていたんだ!!」

 

「こちらかの追撃はどうなっている!?」

 

唐突過ぎる事件の発生に、ファクトリー内は混乱の渦中に叩き落とされていた。

 

しかし、そんな事で時間を浪費していては、誘拐犯に逃げられてしまう事は火を見るより明らかだった。

 

「ッ・・・!!」

 

周りの様子を無視し、アグニスは羽織っていたコートを脱ぎ捨て、下に着ていたパイロットスーツのジッパーを閉め、自身の機体に飛び乗った。

 

自分は彼女の想いの末を見届けると決めた。

ならば、こんな誘拐如きで邪魔をさせてなるものか。

 

「アグニス!?何をするつもりです!?」

 

そんな彼に、ナーエは越権行為だと言いたげに制止する。

 

確かに、これはオーブ国内で起こった事件でしかない。

他国の、マーシャンである自分達が関わるべきヤマではないと。

 

「分かっている!だが、このまま見ているなど我慢ならん!!」

 

だが、それを承知で突き進むのがアグニス・ブラーエと言う青年の心だった。

 

「分かりました、ここの司令官と話を着けてくれば良いのですね?」

 

「頼むぞ!俺は追撃に出る!!」

 

それが分かっていたからこそ、ナーエはそれ以上食い下がる事をやめ、司令官室がある方へ走った。

 

副官の行動に感謝しつつ、彼はハッチを閉じ、機体のOSを立ち上げていく。

 

キーボードの上を走るその指の速度は凄まじく、彼がレベルの高いコーディネィターである事を物語っていた。

 

『こちらオーブコントロール!GSF-YAM01の発進許可が下りました!発進どうぞ!!』

 

なんと都合の良い事か、彼がOSの調整を終えると同時に発進許可が下り、閉ざされていたシャッターが開いてゆく。

 

そのシャッターの外へ愛機を向かわせ、外に出た瞬間に、彼は思いっきりフットペダルを踏み込んだ。

 

「了解した!アグニス・ブラーエ、デルタアストレイ、行くっ!!」

 

裂帛した気合と共に、彼の愛機、デルタアストレイは蒼い空を目指して飛翔する。

 

GSF-YAM01 デルタアストレイ

火星圏に存在するコロニー群のひとつであるオーストレールコロニーで開発された、火星圏で開発されたガンダムタイプであり、正式名称はデルタと呼ばれる機体。

 

火星圏を訪れていたロウ・ギュールの力添えで完成したMSであるためにアストレイと言う名がつけられているが、オーブのアストレイとは何の関係も無い。

 

武装はビームライフルとロングソードタイプの実体剣のみだが、本機最大の特徴は、搭載された緊急加速システムに合った。

 

緊急加速推進システム≪ヴォワチュール・リュミエール≫

デルタアストレイに搭載されている核エンジンが発生させる膨大なエネルギーを推進エネルギーへと変換し、破格の推力を発揮するシステムなのだ。

 

本領を発揮できるのは無重力かつ摩擦抵抗の無い宇宙空間が適しているが、大気圏内でも、MS形態のまま音速に近い速度を発揮する事が出来る為、推進システムのある種究極とも呼べるシステムであった。

 

だが、それは搭乗者に凄まじいG負荷が掛かるため、パイロットは専用のパイロットスーツを着用した上で連続使用にも制限が掛かり、コックピットも他に類を見ない特殊設計となるなど、機体そのものにも大きく手が加えられている事が分かる。

 

『GSF-YAM01、応答せよ!こちら第3航空小隊!我々と御同道願う!』

 

追跡する道すがら、同じファクトリーから発進したMA形態のムラサメが二機、デルタに並走、その内の一機から通信が入った。

 

そのパイロットの表情は硬く、何としてでも元首を救いたいという想いが滲んでいた。

 

『了解した!アスハ代表を何としても救おう!!』

 

その想いを受け止め、アグニスは共に戦う事を確約、ムラサメを置いて行かんばかりに加速し、現場へ急行する。

 

『先行したムラサメ隊は所属不明機に撃墜された模様!第二陣は現場へ急行、所属不明機を確保せよ!!』

 

「くっ・・・!相当なパイロットか・・・!?」

 

オペレーターの切羽詰まった様な報告を聞き、アグニスは状況の悪さに歯がみした。

 

カガリを拉致した相手は相当腕の立つパイロットだという事は想像に難くない。

ならば、自分が何とかしなければならないと、彼は感じていた。

 

そこから直走る事数十秒、レーダーと彼の目が、遥か前方を飛ぶ所属不明機を捉える。

 

「あれか・・・!っ・・・!?」

 

一気に加速し、距離を詰めようとした時だった。

彼は反射的に機体を動かしていた。

 

その瞬間、デルタアストレイの頭部と、ムラサメ二機のウィングが突如飛来したビームに貫かれる。

 

「ぐゥゥゥッ・・・!!」

 

加速していたところへの攻撃は思った以上に衝撃をアグニスに伝えていた。

 

その衝撃に呻きつつ、彼は何とか愛機を立て直し、空中で制止、墜ちていく僚機と自身の機体のダメージを確認した。

 

幸いにして、デルタアストレイの受けたダメージは頭部補助カメラの一部だけであり、戦闘続行に支障は無かった。

 

「機体ダメージは軽微か・・・!まだ行ける!!」

 

一度足を止められれば追撃は困難になるとは分かっている。

現に、彼を撃ったと思しき青い翼の機体は詰まっていた距離をどんどん開いてゆき、遂には追撃が困難な場所まで行ってしまった。

 

だが、デルタは最速のMSだ、ヴォワチュール・リュミエールを使えば追い着ける。

そう確信し、システムを発動させようとした、まさにその時だった。

 

『その機体を追ってはならん、マーシャンよ!』

 

「なっ・・・!?」

 

突如として通信が入り、彼は驚いて辺りを見渡す。

 

だが、彼の周辺空域に動くものは何一つ存在せず、上には蒼い空が、下には煌めく海が目に入るばかりだった。

 

しかし、そんな彼を嘲笑う様に、彼の機体より数百m離れた所の空間が歪む。

 

その歪みからは一機のMSの姿が徐々に現れて来ており、遂にはその姿を現した。

 

「ッ・・・!その機体、式典に出席している者の・・・!!」

 

その機体を、アグニスはファクトリーで見ていたのだ。

 

全てを見下ろすかのごとく威厳に満ち満ちたその風貌は、全てを統べるもとしての風格を表している様にも思えた。

 

『我が名はロンド・ミナ・サハク、天空の宣言に基づき、そなたを止める者だ。』

 

「ロンド・ミナ・サハク・・・!退けッ!このままではアスハ代表が!!」

 

『お前、カガリを知っておるのか・・・、なるほど、だが、退く訳にはいかんのだ。』

 

その機体のパイロット、ロンド・ミナは納得した様な表情を浮かべながらも通さないと言わんばかりに道を塞いだ。

 

だが、それはアグニスの琴線に触れる行為でしかなかった。

 

彼が護りたい者を護るという行為を踏みにじる行動としか映らなかった。

 

「退けと言っているッ!!」

 

激昂した彼は、漆黒の機体にビームライフルを向け、実体剣を引き抜いていた。

 

だが、それが意味するところを、激昂する彼は気付けなかった。

 

『自身の信念の為に銃口を向けるか、それも良かろう、だが、私の敵になるというのだな、マーシャンの男よ?』

 

「ッ・・・!!」

 

冷たく平淡な言葉に、アグニスは自身が取った行動を漸く悟った。

 

銃を向けるという行為は敵となる事を明示する行為である。

今の彼が取った行為は、まさにそれに相当しただろう。

 

だが、それだけで彼は動揺したりはしない。

何せ彼も、彼なりに信念を持っていたのだから。

 

「それでも仕方あるまい・・・、国の為に身を捧げようとする彼女の覚悟を、俺は護りたいのだっ!!」

 

故に、彼は退かなかった。

 

スラスターを全開にし、死角から回り込もうと大袈裟な機動で攪乱、一気に距離を詰め、実体験を振るった。

 

だが、ロンド・ミナは天ミナの腰部に装備されていたトツカノツルギを僅かに引き抜くだけで拮抗させた。

 

『では問おう、果たしてそれがカガリの為になるのか?』

 

「知った様な口を利くなっ・・・!!」

 

一手防がれてももう一手とばかりに、彼は左手に握っていたライフルの銃口を向けようとした。

 

だが、それよりも早く天ミナの右腕が動き、トリケロス改がデルタアストレイのコックピットに突き付けられた。

 

『確かに国とは重要な意味を持つだろう、だが、その国とは人がいなければ何の意味もなさない、組織もまた然り、個人に幸せを感じさせられない国など、それこそ無意味、無価値だ。』

 

「何をっ・・・!!国に尽くす事の方が、何よりも重んじられるべきだ!!」

 

思想の対立は平行線を辿る一方だった。

個人を重んじるミナと、国を重んじるアグニスの意見は、相反してしまっていた。

 

だが・・・。

 

『私は天空の宣言に基づき。個人の信念に従って生きる者を尊重している、故に見過ごせん、マーシャンよ、そなたは己の生き方を他者に強いている、それを見過ごすわけにはいかぬ、全ての人間が、そなたと同じ様に生きる必要などない。』

 

「ッ・・・!!」

 

自身の言葉の理不尽、そして矛盾を指摘され、アグニスは返す言葉も無く気圧された。

 

他者に強いる事、それは、普通ならば暴君と呼ばれても仕方のない事だった。

 

『だが、そなたの考えもまた、一つの思想だ、尊重されるべき考えだ、私は否定しない。』

 

フォローとも取れたその言葉だったが、それはこれ以上戦っても自分に勝てる見込みは無いと突き付けているに等しかった。

 

「・・・!」

 

これ以上続けても無意味、そう悟ったアグニスは歯を食いしばり、断腸の想いで剣を収め、臨戦態勢を解いた。

 

『賢明な判断に感謝する、理解してもらえたようで何よりだ。』

 

「あぁ・・・、ロンド・ミナ・・・、貴女の言った事は正しいし、理解も出来る・・・、だが・・・、どうしても・・・、どうしてもッ・・・!!」

 

理解出来るのは確かだ、だが、それでも、彼には自分の信念を曲げる事が耐えられなかった。

 

「我慢ならんッ・・・!!」

 

彼の魂の叫びが、その空域の木霊したのであった・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

天空の女王と接見するアグニス達に這い寄る影が迫っていた。
影を払うため、天空の白騎士がその姿を現した。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

テラナー

お楽しみに


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テラナー

noside

 

マーシャン。

 

それは、主にコーディネィターを中心とした火星圏移住者が、過酷な火星での環境に耐えうる存在として設計、調整されて生み出された、火星圏第一世代コーディネィターと呼ぶべき存在だった。

 

しかし、火星圏はそれだけで生き延びられる程余裕のある場所では無い。

 

故に、マーシャンは個々に何かになるために与えられた能力がある。

 

例えば、政治家になるために生み出された人間。

例えば、軍人になるために生み出された人間。

 

言葉にすれば簡単に聞こえるだろうが、マーシャンの世界とは、人が特定の型に嵌められて生きている様な物だった。

 

だが、マーシャン達はそれを疑問に思う事は無いのだ。

なにせ、彼等は生み出されたその時から、そうなるように育てられてきたのだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「と、いう訳で、我々は地球圏、テラナーと争うつもりは一切ありません、先日のあの追走も、アスハ代表を救うための行動です。」

 

カガリ・ユラ・アスハ誘拐事件の翌日、アグニスとナーエはマルキオ邸に招かれ、邸の主であるマルキオ導師と、天空の女王であるミナに、自分達が地球圏に来たワケを話していた。

 

彼等が来た理由は、地球圏の人間が火星圏の敵とならないかどうかを見極める為だった。

 

「ふむ、そなた達の使命とやらは理解した、火星圏に余裕が無いという事もな・・・、だが・・・。」

 

得心したと言う様に頷くミナだったが、腑に落ちない事が有ったのだろうか、薄い笑みを浮かべ、座っていた椅子の肘置きを指で叩きながらも問うた。

 

その意味を測り損ねたか、アグニスとナーエは視線だけでどういう事か問うた。

 

「アグニスとやら、そなたの話には些か疑問がある、地球圏と火星圏はそれこそ一年で辿り着ける距離に無い、なのに何故、そなた達は争いを恐れるのだ?」

 

「ッ・・・。」

 

ミナの問いに、アグニスは核心を突かれたかのように渋面を作る。

 

どうやら、それが地球圏へ訪れた、最大のネックだったのだろう。

 

「アグニス、ここに居る御二方は信頼に足ります、口外する恐れもありませんし、話しても良いのでは?」

 

「ナーエ・・・。」

 

話すべきか話さないべきか悩んでいたアグニスに、ナーエは信じろと言わんばかりに背を押した。

 

その穏やかな表情に腹を決めたか、アグニスは深呼吸を一つし、口を開いた。

 

「他言無用で頼むが、これは火星と地球の今後の付き合い方に関わる、重大なキーだ・・・。」

 

その雰囲気が伝わったか、ミナもマルキオも表情を引き締めた。

 

「火星のとある地脈である鉱物が発見された、正確な埋蔵量などはこれから調べるが、膨大な量が埋まっている事が予想される、その鉱物は火星にとって地球圏との交渉の材料に使えるが、一歩間違えれば、火星圏に災いを呼び込んでしまうものだ。」

 

「その鉱物とは、一体・・・?」

 

意味深に語るアグニスの口調に違和感を感じたのか、マルキオはその真意を尋ねた。

 

嫌な予感を拭えなかったのだろう、その表情は硬かった。

 

「なるほど、地球圏との交渉に使えるという事は、火星では役に立たないという事か。」

 

だが、その話を聞いていたミナは合点が行ったように呟く。

 

アグニスの口から語られていた、火星にとっては哄笑の札で在ると同時に災いの種であるという言葉から、その正体を察したのだろう。

 

「その鉱物とやらは、Nジャマ―キャンセラーのベースマテリアルだな。」

 

「・・・、そうだ・・・。」

 

ミナの言葉に、アグニスは渋面を崩す事なく頷いた。

 

Nジャマ―キャンセラーは、核分裂を抑制するNジャマーを無効化する代物である。

 

とは言え、それにも勿論材料が必要となってくるのが必然であり、地球圏ではそのベースマテリアルたる物質は希少であり、生産されたNジャマーキャンセラーの数量も限られていた。

 

「現在、そのベースマテリアルは大西洋連邦が流通を掌握しているからこそ均衡は保たれているが、それが大量に存在するとなると・・・。」

 

「核攻撃の危機に、世界は再び見舞われるという事ですか・・・。」

 

「そうだ。」

 

ミナの説明にマルキオが苦い顔をし、アグニスがその説明をその通りだと肯定した。

 

確かに、このまま世界にこの情報が知れ渡れば、地球圏のすべての国家が火星圏へ大挙して攻め入り、火星の鉱脈を全て独占しようと戦争を引き起こすだろう。

 

そうなれば、火星は終わりだ。

火星の人間が滅ぼされるという最悪の展開が待ち構えているのだ。

 

それは、将来的に火星圏の指導者となるべく調整されたアグニスにとっては見過ごせない事実だった。

 

「だからこそ、テラナーを見て、どう対応するべきかを考えねばならんのだ!」

 

「見て考え、か・・・。」

 

力を籠めて宣言するアグニスの言葉に、ミナは呆れとからかいを含んだ言葉を投げかけた。

 

「その割には、お前は血の気が多いようだが、大丈夫なのか?」

 

その言葉に、アグニスはそんな事は無いと言いたげだが、的を射た発言だったが故に言い返せずにいた。

 

「まぁ、それは兎も角、アグニスが起こした行動は、決して間違いでは無かったでしょう?」

 

それをフォローするように、ナーエがアグニスを抑えつつ問うた。

 

国家首相を助けようと動く事は、決して間違いではないと。

 

「客観的に見れば、称賛されるべき事です、ですが、あれはカガリ様の御仲間が、カガリ様を想っての行動なのです、あの時、もし追撃が成功していれば、と考えると・・・。」

 

「な、何っ・・・!?」

 

マルキオの言葉には、アグニスの言葉をある意味で否定するような色があった。

 

その中にあった、カガリの仲間と言う言葉に合点が行ったのか、目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。

 

「まさか・・・、まさかあれは・・・!!」

 

アグニスは昨日の襲撃に現れた蒼い翼のMSの姿を思い出す。

 

それは、以前データで見た事が有る、第二次ヤキンでの英雄が駆った機体、ZGMF-X10A フリーダム。

 

そして、その機体を駆るパイロットの名は・・・。

 

「キラ・ヤマトだというのか・・・!?」

 

「そうだ、あれを為したのは、キラ・ヤマトという男だ。」

 

彼の言葉に、ミナは肯定する様に続けた。

 

「だ、だが・・・、俺には理解出来ん、世界を救った英雄が、何故こんな事を・・・?」

 

だが、それを信じられない程にアグニスは取り乱していた。

 

いや、無理も無いだろう。

アグニスにとってキラ・ヤマトという存在は世界を破滅より救った英雄であり、世界の為に行動を起こせる人物だと思っていたのだ。

 

故に受け入れられなかったのだろう、自分が抱いていたイメージと異なる事をしでかしたのだ。

受け入れろという方が難しいだろう。

 

「英雄とて所詮は人、それぞれの腹の内など分かるまいよ。」

 

「だが・・・。」

 

そんな彼の浅慮を嗤う様に、ミナは吐き捨てる様に言い放った。

 

しかし、まだ受け止めきれないアグニスは呆然と答えた。

ミナの言葉に思う処が有れど、それは事実であるが故に言い返せないのだろう。

 

「そなたがあのキラを理解出来ないというのなら、そなたはキラという人間のその部分しか見ていないという事だ。」

 

「ッ・・・!!」

 

人間を見ていないと言うその言葉は、アグニスに衝撃を与えるに十分すぎる位だった。

 

人間を見ていない。

それは、オーストレルコロニーの将来的な指導者となるべくして生まれたアグニスには有ってはならない事だった。

 

だが、無理もあるまい。

火星での調整は、個人に最初から適性を持たせている。

 

それが意味するところは、型に嵌った人間を生み出しているに過ぎない為、それ以上を見る必要が無いのだ。

 

その事に気付かされ、アグニスは自身の至らなさを痛感しているのか、彼は俯きつつも唇を噛んだ。

 

何の為に自分は地球に来たと言うのだ。

地球人を知るためではないのか・・・?

 

「まぁ、仕方あるまい、地球に存在する地域ごとにすら差はある、地球圏と火星圏という規模になれば、相違も大きくなるだろう。」

 

そんな彼の悔しさを見て取ったか、ミナは柔らかく笑みつつもその間違いを肯定した。

 

違う人種同士での思想の理解は困難、生活の環境が違えばそれも致し方ないと・・・。

 

「その相違を確かめるためにも、そなた達の行く先に護衛を一人付けよう、こちらが仕入れた情報によれば、連合軍の空母がオーブへ向かって来ているという話もある。」

 

「なに・・・?」

 

ミナの言葉に、アグニスは意外な言葉を聞いたと言わんばかりに聞き返した。

 

いや、彼だけでは無い、ナーエですら目を見張ってミナを見ていた。

 

連合軍の接近も気になる所だが、何故自分達に護衛を付けるのかが理解出来なかったのだろう。

 

「マーシャンであるそなた達の考えと、そなた達がテラナーと呼ぶ彼、その認識の差異と交わる点、それを見るのも良いだろう、彼は腕も立つ、動向人には申し分ないだろう。」

 

言うが早いか、ミナは扉の外に向けて、入室してくるように声を掛けた。

 

「俺をお呼びか?マイロード?」

 

それに応じる様に、純白の軍服に身を包み、同じく純白のマントを羽織った青年が部屋に脚を踏み入れた。

 

背は高く、しっかりと鍛えられたことが分かる体つき、その身体に乗る顔は端正であるが、何処か鋭さを感じさせる風貌をしていた。

 

「調整中にすまぬな、マーシャン達に興味が湧いた。」

 

「そうかい、まぁ、俺も興味が無いと言えばウソになるしな。」

 

「ならよい。」

 

一言二言会話を交わし、その男はアグニス達に向き直り、敬礼を取った。

 

「アメノミハシラの軍部元帥、織斑一夏だ、用心棒として貴方方に同行させて頂こう。」

 

「元帥、ですか・・・!?」

 

名乗る一夏の階級に驚いたのは、アグニスでは無くナーエであった。

 

カガリも若いリーダーではあったが、所詮世襲でしかなかったのは感じ取れた。

 

だが、目の前にいる男は、それすら付属品でしか無い様に堂々と存在していた。

 

歳は自分達よりも僅かに上だろうが、それでも若すぎると言うのが彼の見解だった。

 

「火星圏オーストレルコロニー使節団、アグニス・ブラーエだ。」

 

「よろしく頼むよ、火星から遥々来た客人さん?ま、俺の階級は身内人事だから気にするな、一介の兵士だと考えてくれれば、君達もやり易いだろ?」

 

「そうだな、だが、我々の道中に同行を許可するつもりはないぞ、力なら既に十分に揃っている、お前がどれだけの力を持っていようと関係ない、それに既にザフトの目付が付いているんだからな。」

 

握手を交わす一夏とアグニスだったが、当のアグニスは余計な手助けは要らないと言わんばかりに突っ撥ねた。

 

いきなりやって来た人間を信じろと言う方が難しいのは事実だった。

 

「ほう、ザフトねぇ、気にするな、一時とはいえ戦線を共にした事もある、それに、俺が負けるのはこの世でただ一人だと分かり切ってるからな。」

 

「なに・・・?」

 

だが、それを理解しているが気にするほどじゃないと言わんばかりに笑い飛ばす一夏に、アグニスは眉間に皺を寄せた。

 

その言い草はまるで、目の前にいるアグニスなど眼中にないと言わんばかりの色が滲んでいたからだ。

 

「貴様・・・!」

 

「アグニスとかいったか、ミナとの戦いは見ていたよ、良い腕をしているのは分かる、だが、俺が目指す男はもっとスゲェ奴だ、だから分かる、俺を拒んでも得は無いって事がな。」

 

激昂するアグニスを尻目に、一夏は自信たっぷりと言わんばかりに笑った。

 

その激しさすらそよ風にしか感じていないのか、彼の表情には余裕が浮かんでいた。

 

「大きく出たなテラナー・・・!良いだろう、貴様の助力など必要無い事を証明してやる!模擬戦で貴様が勝てば、同行を認めてやる!!」

 

アグニスは熱が一周回って逆に落ち着いたか、一夏に対して挑戦状を叩き付けた。

自身の実力に自信を持つアグニスだからこそ、言われっ放しは耐え難い屈辱だったのだ。

 

だからこそ、彼は目の前の男に勝負を挑むつもりだった。

 

「ははは、良かろう、受けてやる、三時間後にオーブ沖にある無人島に来い、俺独りでもてなしてやるさ。」

 

一夏もその挑戦を受け、時間と場所を指定した。

負けるつもりはない、その瞳はそう物語っていた。

 

「何をやっておるのだ・・・、だが、奴らしい・・・。」

 

そんな彼等の間に散る火花に呆れつつ、ミナは仕方ないと言わんばかりに苦笑した。

 

だが、彼女も見てみたかったのだろう。

 

マーシャンとテラナー。

その二つが交わる時に見える、新たな道を・・・。

 

sideout




次回予告

空を駆ける白と赤、その二人が見る視線の先には何が広がるのだろうか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

デルタ

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デルタ

noside

 

『目的座標に到着しました、AS-GAT-X105、並びにGSF-YAM01は発進してください。』

 

「来たか・・・、あの男に目に物見せてやる・・・!」

 

MS輸送空母、タケミカヅチの格納庫に置かれていた機体、デルタアストレイのコックピット内で、パイロットであるアグニスは、険しい表情を崩さぬまま、その先にある島を向いていた。

 

彼はある男と戦う為にここに来たのだ。

 

いきなりやって来て、自分の事を格下扱いした、気に喰わない男に自身の力を見せ付ける。

それが、ここまで来た一番の理由だった。

 

彼の表情は、その逸る気持ちを抑えきれなかった。

自分の方が強く正しい、それを証明できる機会と言わんばかりに。

 

「やれやれ・・・、講師役は柄じゃないんだがなぁ・・・。」

 

その言葉を、ストライクSのコックピットで聴いていた一夏は、タメ息を吐いて笑っていた。

 

どうやら、その自信過剰さに呆れているのか、それとも面白く思っているのか・・・。

 

『やれやれは、こちらが言いたい気分なのですが?織斑卿?』

 

だが、それを聞いていた艦長であるトダカは、そのやる気の無さに苦笑しながらも突っ込んでいた。

 

彼等にとっては、いきなり模擬戦に向かうための脚に成れと言われ、文句の一つも言わずについて来ているのだ、上官がそれでは、自分達の労力はなんなのだと言いたいのだろう。

 

「おっと、失礼しましたトダカ艦長、まぁ、若い奴に稽古を着けるのも、嫌いじゃない。」

 

『貴方だってお若いでしょうに・・・、しかしながら、貴方が負ける理由など無いのでは・・・?』

 

まだまだ二十代も前半、身体的にも絶頂期にある彼が年寄り臭い事をいう事に苦笑しつつ、本人の強さに感服している様だった。

 

以前、砂漠地帯で見た凄まじい戦士としての戦いぶりに、彼は現場指揮官としてこの上ない頼もしさと、それと同等の恐怖を覚えた。

 

味方になれば、確実に勝利を齎す存在で在り、敵対すれば文字通り悪夢を見せられる程の実力の持ち主。

それが、織斑一夏であり、その愛機であるストライクSだった。

 

故に、トダカは一夏が勝つと疑わなかったし、アグニスの事を過大評価する事も無かった。

 

「勝負は時の運、ツキが無い時は何やっても勝てませんよ、それに、あのアグニスとかいう男は、強い信念を持っている、故に侮れません。」

 

『左様で・・・。』

 

侮れないと言う一夏の言葉に、トダカは感服したと言う様に目を伏せた。

 

強大な力を持ちながらも、それに溺れない心、戦士としての心構えに純粋な尊敬の念すら抱いているのだろう。

 

だが、それは一夏が過去に犯した罪を知らぬからこそ感じる念ではあったが・・・。

 

「出撃します、計測、頼みます。」

 

『了解しました、MS発進!!』

 

一夏の通信に、トダカは敬礼を返して指示を飛ばす。

 

その号令を受け、パイロット二人はヘルメットのバイザーを下ろし、操縦桿を握り締め、フットペダルを踏み込む。

 

「アグニス・ブラーエ、デルタアストレイ、出るぞ!!」

 

「織斑一夏、ストライクS、発進する!!」

 

同じく、だが趣の違う白を纏った機体が、曇天の中へと飛び出して行った。

 

彗星の如く宙を駆けていく二機は、牽制し合う様に互いをみている様だった。

 

「何時でも来い、君を侮るつもりはない、全力で行かせてもらうけどな。」

 

「望むところだ!その鼻っ柱圧し折ってやる!!」

 

上空1万フィートに到達した瞬間、一夏はストライクSのバックパック、ガルーダストライカーより対艦刀を引き抜く。

 

それに対するように、アグニスもまた、デルタアストレイのライフルを構え、実体験を引き抜き、一気に迫って行く。

 

間合いに入った瞬間、アグニスは牽制のためにトリガーを引き、ストライクSにビームを撃ち掛けた。

 

しかし、一夏はそれを牽制用と見切っていた様だ、機体を逸らす事で回避、斬りかかったデルタアストレイの斬撃を舞う様に回避した。

 

「なっ・・・!?」

 

相手がPS装甲機とは言え、真っ二つにするつもりで斬りかかったのだ、これまで、彼の斬撃を避けた者がいなかったのも、その驚愕を増幅させている要因の一つでもあった。

 

「良い機体捌きだ、牽制で仕留められれば御の字、しかし一番自信があるのは近接戦か、俺と同じタイプとは恐れ入る。」

 

冷静に分析する一夏の声も、アグニスにとっては焦りと怒りを掻き立てるモノでしかなかった。

 

何せ、自分の力に自信を持っているからこそ、負けるなど思っていないからこそ、強者の出現は何よりも驚愕に値するものだったのだから。

 

「だが、素直すぎるのが弱点だ、雑兵程度なら気圧されるだろうが、俺は違う。」

 

すれ違いざまに振り向こうとしたデルタの脇腹に、ストライクSの爪先が突き刺さる。

 

「ぐぅぅっ・・・!?」

 

自分が防御態勢に入るよりも早く入った攻撃に、アグニスは大きく吹っ飛ばされながらも呻いた。

 

速い、それも圧倒的に。

アグニスは自身の背に、冷たい何かが触れた様な錯覚を覚えた。。

 

「俺が、反応できなかった・・・!?出力はこっちが上なんだぞ・・・!?」

 

ストライクSのデータを事前に見ていたから分かる。

確かに、バッテリー駆動の機体にしては凄まじい性能を持つ機体と言う事は分かる。

 

だが、所詮はその程度、スピードも機体のパワーも、核エンジンを搭載し、尚且つヴォワチュール・リュミエールを持つ機体だ、性能面で劣っていると言えば、対弾性ぐらいのモノだ。

 

それなのに、一瞬で自分の背後を取るその技量は凄まじいものが有る。

 

「ハッ!君の実力を見せてくれるんじゃないのか?」

 

「ぐっ・・・!嘗めるなぁぁ!!」

 

そんな性能差を物ともせず、一夏はアグニスを挑発するように声を発する一夏に、頭に血が昇ったかギアを上げた様にデルタを動かし、ストライクSの懐に飛び込もうと動く。

 

その動きは速さを活かした攪乱戦法であり、彼が一騎打ちに置いて最も得意とする戦法であった。

 

だが・・・。

 

「良い速さだ!!切り札を使わずに動けているなら、流石としか言いようがないな!!」

 

それは一夏も得意としている戦法なのだ。

 

デルタアストレイと全く同じ動きをしながらも、一夏は実体剣の剣戟を捌き、受け流し、自身の攻撃のタイミングを見計らって対艦刀を振り抜いていた。

 

機体そのものの速さでは無く、速さを殺さない操縦と加速を心得た、達人級の操縦テクニックで対抗していた。

 

その技量は、機体の性能差をカバーして有り余る程であり、その剣閃は、徐々にデルタの機体に近付いていた。

 

「俺が、俺が押されているだって・・・!?ば、バカな・・・!?」

 

攻撃が相手を掠める事無く外れている事に驚愕するアグニスの表情に、僅かだが恐怖の色が差し込んだ。

 

どうやら、自分が及ばない領域に相手がいる事を、アグニスは瞬時に察したようだ。

 

それが意味するところ、それはつまり、自分は勝てないという事を認める恐怖だった。

 

「くっ・・・!!ならば、性能で押し通すまで・・・!!ヴォワチュール・リュミエール!!」

 

だが、それでも退けないと言うのがアグニスの本音だった。

 

悔しいが、あの織斑一夏と言う男の強さは本物だ。

伊達や酔狂で世界を見下ろす高みにいる訳では無かった。

 

しかし、だからどうしたと言うのだ。

自分の力が足りていないなら、相手が持っていないモノをフルに使い、一気にカタを着ける。

 

自分は負ける訳にはいかない、ならば、可能な限り足掻き続けてやる。

それが、勝利を掴む唯一の方法なのだと気付いたのだろう。

 

「その光・・・!!」

 

「これでっ・・・!どうだぁぁぁっ!!」

 

更に速度を速めたデルタの動きに驚愕の声を上げる一夏に、アグニスは一気に距離を詰めていく。

 

先程までの速度ならば、ストライク系でも何とかついては来れただろう。

だが、今のデルタは光を推力に飛んでいる、大気圏内とはいえ、その加速は次元が違っていたのだ。

 

負ける訳にはいかないのだ、これまで積んできた訓練と自分自身の素養、そして、意地の為にも・・・!!

 

突き出された突きを回避し、ストライクSの直上を取ったデルタは、一気に急降下しながらも剣を突き立てようとした。

 

チェックメイト、彼がそう確信した時だった。

 

「お見事、だけど、その程度でやられるほど、俺は鈍らじゃないぜ。」

 

その瞬間、ストライクSが背負っていたバックパックが排除され、ストライクSがデルタの切っ先から逃れられるだけの隙間を生み出した。

 

「なっ・・・!?」

 

決めたと思っていた攻撃を外された事に驚き、アグニスは一瞬制動を掛けるのが遅れた。

 

その一瞬が、大きな命取りだった。

 

「チェックメイト、俺に煽られてからソイツを出したのが間違いだったな。」

 

自由落下しながらもデルタに追い付いたストライクSが、対艦刀を手放した手に握ったビームピストルを振り向いたデルタのコックピットに突き付けていた。

 

「っ・・・!!」

 

その銃口を突き付けられたアグニスは信じられないと言う目で、その白い機体を見ていた。

 

機体の性能だけでは無い、相手の手の内を見切った上での一手、それを冷静に決めるだけの胆力に状況判断能力、その全てを総動員して、この一瞬に賭け、その上で勝利したのだ。

 

それは、認めざるを得ない、覆しようのない事実だった・・・。

 

「俺の・・・、負けだっ・・・!お前の、同行を、認めるッ・・・!!」

 

「・・・、そうか。」

 

負けを認めるアグニスの宣言に、一夏は平淡な声で一言だけ返し、ハロのコントロール下に置いていたガルーダストライカーを再度装着、デルタアストレイを牽引し、母艦であるタケミカヅチへと機体を奔らせた。

 

「(この世界に来てから誰にも使った事の無い、あの回避方法法を俺に使わせるとは・・・、この男、中々に見込みがありそうだな。・・・。)」

 

アグニスの潜在能力に気付いたか、一夏は感心した様に笑みながらも、その双眸は異なった景色を見ている様だった。

 

それが何かは、何れ、アグニス自身が身を以て体験する事となるだろと、期待しながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「マーシャンはまだこの地にいるのだな?」

 

「は、報告ではその様に・・・。」

 

その頃、オーブのとある軍港に設けられた施設の一室で、三名の男がいた。

 

一人はオーブ首長国連合の氏族、セイラン家当主であるウナト・エマ・セイランであり、それと向かい合うのは地球連合軍第81独立機動軍、通称ファントム・ペインに所属するホアキン中佐、及びスウェン・カル・バヤン中尉であった。

 

何故地球連合軍に属するスウェン達がオーブの地にいるのか。

それは先程の言葉からも分かるように、取り逃がしたアグニス達、マーシャンを仕留める為だった。

 

「そうか、では、同盟国として貴国にマーシャン殲滅に協力を要請する。」

 

「分かっております、どの様な協力も惜しみません、ただ、国民の手前、本土付近での戦闘は・・・。」

 

協力要請に応えつつも、ウナトはオーブ本土での戦闘をしない様に依頼した。

 

オーブは二年前の大戦時に国土の多くを焼かれ、それは国民の記憶に今だ生々しく刻まれている。

 

そんな状態で、国土付近の戦闘を見れば、一気に大混乱に陥る事は想像に容易い。

 

故に、彼は施政者として、相手の面目を立てつつも出来る限りの予防策を取ったのだ。

 

「・・・という要望だ、なるべく本土付近での戦闘は避けるよう留意し、オーブ軍の選抜隊と共にマーシャンを討て。」

 

「はっ!」

 

それぐらいならばいいだろうと言わんばかりに、ホアキンは背後に控えていたスウェンに指示を下し、スウェンもまたそれを諾々と受理した。

 

そこには、機械的なまでの淡々とした事運びのみがあり、情などは一切見受けられなかった。

 

「(汚い仕事ばかりさせられるファントム・ペインが、偉ぶりおって・・・!厄介なマーシャンと共倒れになれば良いのだ・・・!)」

 

それを見ながらも、ウナトは自身がオーブの実質的指導者でもあるにも関わらず、下手に出なければならない事に内心憤慨しており、彼等を疎ましく思っている様だった。

 

だが、彼もまだ気付いていないのだ。

表裏などに関わりなく、世界を見ている者達が、今この国にいると。

 

そして、その者達を蝕む悪意は、刻一刻と大きくなり、ゆっくりと近付いて行くのであった・・・。

 

sideout

 




次回予告

敗北を知り、自棄になりかけるアグニスに、一夏は自身の戦いの意味を告げた。
それが、何の意味も持たなかったとしても・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

マーシャン追撃隊

お楽しみに


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マーシャン討伐隊

noside

 

「何を落ち込んでるんだ、負ける事ぐらい誰にだってあるだろうに。」

 

模擬戦の翌日、一夏は砂浜に座って海を眺めるアグニスに声を掛けた。

 

その背中がやけに煤けて見えたからか、一夏はアグニスの隣に腰掛けて、その心地を尋ねたのだろう。

 

「・・・、話しかけるな・・・、敗者に声を掛けるのは、勝者故の嫌がらせ以外に何がある・・・。」

 

「捻くれた思考だこって、昔の俺にそっくりだ。」

 

さっさと何処かへ行けと言わんばかりに突っ撥ねるアグニスの様子に苦笑しながら、彼は嘗ての自分を思い出した。

 

今の彼ほど頭が固いわけでは無かったが、それでも他者を寄せ付けず、自分が信じるやり方以外を認めようとしない。

それ故の独善に陥り、過ちを犯したのだ。

 

それに気付いた時、彼の周りには誰もいなくなっていた。

唯一愛していた二人の、同じ咎を背負わせてしまった妻達だけだった。

 

その苦しさたるや、今も感じ続けている程だった。

 

そんな苦しい事を、年若い彼に経験してほしくないのだ。

 

「勝ち続けて来たから悔しいのか?それとも、自分の力だけを信じてるからか?」

 

「貴様に何の関係がある・・・、なにが言いたい・・・?」

 

一夏の探る様な言葉に苛立ったか、アグニスは彼を睨みつける。

 

お前に俺の何が分かるのか、その表情からはその苛立ちがアリアリと滲み出ていた。

 

「分かるさ、お前はお前の力しか信じちゃいない、だから、他人が自分と同じように、役割を持って生きていない時が済まない、違うか?」

 

その言葉は、アグニスが以前ミナに指摘された言葉と全く同じだった。

 

自分の生き方を他人に強い、それから外れそうになると許しがたい思いに駆られ、力を振るう。

 

それは正に、暴君と言わざるを得ない身勝手なモノにしか映らない。

 

その姿は、火星圏の未来の指導者が取るべき姿ではないのだ。

 

「っ・・・、だが、火星と地球は・・・!」

 

「考え方が違う、それは分かっている、だけど、ここは地球圏だ、火星圏の考えを押し付けられても困るんだよ。」

 

それは地球の考え方だと言い返そうとしたアグニスの言葉を、一夏はピシャリと遮った。

 

確かに、アグニスの考え方は火星圏で共通している認識であるし、社会システムの基盤となっているモノだ。

 

だがしかし、それは所詮火星圏でのみ通用する考え方だ。

地球圏では好きか嫌いか、ナチュラルかコーディネィターかで、それぞれの対応が決まっているのだ。

 

今、一夏達はそれを変えるべく世界に問いを投げかけ続けているが、それでもこの考え方が変わって行くまでに時間が掛かる事は必須だった。

 

だからこそ、押し付けようとはせず、ゆっくりと時間を掛けて受け入れてくれるまで続けるつもりだった。

 

しかし、アグニスのやり方はどうだ?

火星圏での考え方を地球圏の人間にも強いている節がある。

 

そのやり方は、通常の武力による侵略よりもなおたちの悪い、精神への侵略に他ならないのだ。

地球の人間はそれを忌み嫌い、自分の考えを他者に押し付ける事はしないのだ。

 

それはある意味、生態系が完成されている地球圏と、完成に向けて意思をある程度統一せねばならないほどに余裕の無い火星圏の違いがあるのだろう。

 

しかしながら、だからと言って火星の考え方を地球人に押し付けた所で、地球の人間がそれに従うかと問われれば否としか答えは帰って来ない。

 

地球人が火星圏にとっての敵か味方かを知るために派遣されているアグニスが、わざわざ敵を作りに来てどうするのだ。

一夏は遠回しにそう言っているのだ。

 

それを理解出来ない程アグニスは愚鈍では無い。

 

「分かっている・・・、分かっている・・・!!だが・・・!!」

 

「落ち着け、答えを急くな。」

 

すぐに答えを出そうとするアグニスを諌め、一夏は彼の肩を掴んだ。

 

「答えを急ぎ過ぎるな、君はまだ答えを持っていない、そんな中で解を出せば、君は間違った答えを出す、それは君の為にならない。」

 

答えを急ぎ過ぎて間違え、歪んでしまった過去を持っていたからこそ、一夏は彼の今の状況を見過ごす事は出来なかった。

 

故に、御節介だとしても、自分には彼をある程度導く役目があると感じていたのだろう。

 

「だから、俺に君の答えを探す手伝いをさせて欲しい、君が間違った選択をしない様に、な?」

 

「ッ・・・!」

 

手を差し出す一夏の表情には敵意は一切なく、ただ、真っ直ぐな想いのみが乗せられた視線だけがあった。

 

決めるのは君自身だ。

その視線はそう物語っていた。

 

「アンタ、最初からそう言えなかったのか・・・?」

 

「生憎、口下手なもんでね、行動でしか自分を示せないのさ。」

 

先に言えと言わんばかりに表情を歪めるアグニスに対し、一夏もまた笑顔に表情に崩した。

 

行動で示す。

奇しくもそれは、アグニスが実践する行為と全く同じだった。

 

それに気付いたか、アグニスは笑みを浮かべて彼の手を握った。

 

それは、アグニスが地球圏の人間と初めて交わした握手であった。

 

約束を交わす男同士の空間に、突如として割り込むものが有った。

 

通信機がけたたましい呼び出し音を発し、彼等に何かが有った事を告げていた。

 

『アグニス!応答してください!アグニス!!』

 

「ナーエ?どうした?アキダリアに何かあったのか?」

 

一夏の愛機、ストライクSのアキダリア搬入の為に、先に母艦に戻っていたナーエからの通信に、アグニスは母艦に何かあったのかと言わんばかりに尋ね返す。

 

脚が無くなれば、自分達の旅が続けられなくなる。

その事を危惧しているのだろう。

 

『アキダリアは即刻出港せよと言うオーブ側からの通達がありました!一体何をしたんです?』

 

「なんだと!?」

 

ナーエから齎された情報に目を丸くし、一夏の顔を見るが、彼の顔にもまた、驚愕の表情が浮かんでいた。

 

どうやら、オーブの亜流組織に属している一夏でさえ、この突然の通達は寝耳に水だったのだろう。

 

「わかった、すぐに戻る!出港準備を進めておけ!!」

 

『分かりました!気を付けて下さいね?』

 

ナーエとの通信を切り、アグニスは一夏に目配せした後に港へ向けて走り出した。

 

それを受け、一夏もまた、近くに置いてあったバイクに走り、アグニスを拾うべく走った。

 

この時の彼等は気付いていなかった。

 

敵は既に、彼等のすぐそばまで来ていたと言う事に・・・。

 

sideout

 

noside

 

『各機最終チェックを開始せよ!』

 

その頃、オノゴロ島の軍港に近いMS格納庫内では、けたたましいサイレンと共に、慌ただしく整備兵たちが走り回っていた。

 

それはさながら戦場のような雰囲気であり、今にも出撃が迫っている事を物語っている様でもあった。

 

その格納庫には5機の連合製量産型MS、105ダガーの改良機、スローターダガーが置かれており、すでにエンジンが入っているのか、何時でも発進できると言わんばかりの状態であった。

 

「105スローター・・・、本当にアストレイより上なんでしょうね?」

 

その内の一機、ソードストライカーを装備したダガーに乗り込むのは、ホースキン・ジラ・サカトは、機体の出力を、自分が以前乗っていたM1アストレイと比較し、本当に戦える程に良い機体なのか疑問視していた。

 

確かに、ダガータイプとアストレイタイプは前大戦後期に開発された機体群であり、性能も当時からしてみれば悪くないモノだった。

 

しかし、今ではロートルと化している事は否めず、各戦線で新型との配備転換が行われている真っ最中であったのだ。

 

故に、使い慣れたアストレイの方がまだ戦いやすいと感じている彼にとって、アストレイ以外の旧式に乗る事は理解しがたいのだろう。

 

「そんな事は関係ない、同盟国の方のご厚意で与えて頂いた機体だ、これで任務に出ずして何をするんだ。」

 

そんなホースキンに釘を刺す様に、ライトニングストライカーを装備しているダガーに乗り込む男、ガルド・デル・ホクハは軍人然とした答えを返した。

 

ガルドの言う通り、105は連合のファントムペインより与えられた機体であり今回の任務はファントムペインのパイロット、スウェン・カル・バヤンが指揮を執る事になっている。

 

故に。連合系の機体の方が連携を取り易く、オーブの側にとっても同盟国であると示すための良い道具にもなる。

それを考えてみれば、取り立てて不平を言うほどでもないのだろう。

 

「考えすぎだぜガルド、俺達は俺達の出世の為に働きゃ良いんだよ、そのためのチャンスだろうよ。」

 

エールストライカーを装備する機体に乗り込む金髪の青年、ファンファルト・リア・リンゼイは私利私欲の為に戦えば良いと割り切っている様だった。

 

この作戦に参加するオーブ側のパイロット5人は、全員が下級氏族の出身であり、自身の家の株を上げる為に軍に身を置いている者ばかりであった。

 

故に、オーブや連合に顔を売る絶好のチャンスを逃すまいと気合が入るのも無理は無かった。

 

「けっ、セイラン家の坊ちゃんはカガリを護れなかったんだ、こりゃ、俺もカガリの夫になるチャンスが巡ってきた訳だ!」

 

I.W.S.P.を装備した機体に乗り込む黒髪の男、ワイド・ラビ・ナダガは一気にオーブ首長の夫になれるチャンスと言わんばかりに、一番気合が乗っている様だった。

 

確かに、彼の機体に装備されているI.W.S.P.は、カガリのストライクルージュに装備されていた武装だ。

 

それを使い、任務を達成したとなれば、民衆の目にはカガリの意思を受けている兵士とも取れるのだ。

カガリに近付くためには、手っ取り早い手段でもあった。

 

「僕に、戦えるんでしょうか・・・。」

 

「お前がやれないなら全部俺が代わってやるよ。」

 

ランチャーストライカーを装備する機体に乗り込んだ少年、サース・セム・イーリアは気弱に呟くと、ワイドは情けないと言わんばかりに笑い飛ばした。

 

5人の内、最も若いサースは、没落した家の再興の為に軍に在籍させられているのだ。

その胸中たるや、語るに及ばないだろう。

 

「無駄口は終わりだ、指揮官殿が御出でだ。」

 

リーダー格であるガルドが号令をかけると、全員が会話を止め、開けていたコックピットハッチを閉めた。

 

全員の機体がハンガーから離れると同時に格納庫のシャッターが開き、その前で待ち構えていたであろう黒い機体、ストライクノワールが彼等の目に映った。

 

「全機発進準備完了しました!」

 

「分かった、これよりマーシャン討伐作戦を実行する。」

 

『了解!!』

 

全員が揃っている事を確認したスウェンは、発進の号令をかけた。

 

それに呼応し、5人もまた勇んで応じた。

 

その手が、アグニス達に辿り着くまで、もう時間は残されていなかった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「待たせた!アキダリア発進だ!!」

 

「遅いですよアグニスさん!!もう何日待ったと思ってるんですか!!」

 

アキダリアに戻ったアグニスが開口一番指示を出すと同時に、オペレーター席に座っていたアイザックが切羽詰まった表情で詰め寄った。

 

そう言えばザフトの所属だったかと、アグニスは場違いなどうでも良い思考でそんな事を考えていた。

 

確かに、ザフト軍属のアイザックにとって、オーブと言う土地は敵国であるのだ。

そんな場所に、上陸はしていないとは言っても何日もいると言う事は、想像以上に精神を擦り減らしていると言う事は想像に難くなかった。

 

だが、そんな彼を労わってやれる程、状況に余裕は無かった。

 

「知らん!さっさと席に着け!舌を噛むぞ!!」

 

「分かりましたよぅ・・・!」

 

指揮官席に座る事なく指示を出すアグニスに、もう何を言っても無駄と諦めたか、アイザックもまた席に着き、発進の準備を進めていた。

 

そんな時だった、その男が艦橋に脚を踏み入れた。

 

「イズモ級ともナスカ級とも作りは違うが、良い船だな。」

 

「っ・・・!?」

 

白いパイロットスーツを身に纏った青年の登場に、アイザックは目を見張った。

 

そのパイロットスーツは、連合とオーブで普及しているタイプのモノであり、ザフト軍以外の人間が使用する者でもあった。

 

「あ、あああ、アグニスさん!?なんで敵がこの船に!?」

 

「落ち着け、彼は俺達の味方だ。」

 

敵に侵入されたと言わんばかりに焦るアイザックに一喝し、アグニスはその男に向き直った。

 

「一夏、彼はアイザック、ザフトの兵士だ、お前とは反りが合わないかもしれんが・・・。」

 

「構わないさ、俺は君に力を貸すとは約束した、だから、そこの彼の事は何にも気にしてないよ。」

 

先にどういう人物が帯同しているかを告げていなかった非礼を詫びるアグニスに対し、一夏は気にしないでくれと、推しかけた自分の方が無礼だと言わんばかりに笑っていた。

 

「俺の名は織斑一夏、天空の女王、ロンド・ミナ・サハクに仕える者だ、よろしくな。」

 

「ロンド・ミナって・・・!?あのアメノミハシラの女王・・・!?」

 

「まぁな、とは言え、今は一介の兵士だ、仲良くしようや。」

 

一夏の所属が明らかになった途端、アイザックは驚愕の表情で彼を見ていた。

 

だが、所属に関わらず、一夏は今協力すべきだと提案した。

 

だが、手を差し出さないのは、ザフトとはまだ関わるつもりはないと言う事の裏返しでもあった。

 

「とにかく急ごう、恐らくオーブ領海を出れば連合軍が攻めてくる、大型の空母が一隻入港していたのを確認している、恐らく一個中隊クラスの戦力を投入してくる、俺達の手元にある機体じゃ少々厳しいやもしれん。」

 

「分かっている、アキダリア出港後、第1種戦闘配備だ!俺と一夏で迎撃に出る!アイザックはナーエと共に待機してくれ!」

 

「アグニスさん!?」

 

なぜ出会ったばかりの男の事を信じられるのか、二人の間に起こった事を知らぬアイザックには理解しがたい物があった。

 

だが、今はそれでも構わなかった。

今はやれる事をやるのみ。

 

それが、アグニスが決めた事だったのだ。

 

「行くぞ一夏!」

 

「承知した、次の目的地までは護るさ!」

 

艦橋を飛び出していくアグニスの後を追い、一夏もまた格納庫へと走る。

 

今いる場所の人間を、誰一人として欠けさせないために。

 

アグニスという男の答えを知るために・・・。

 

sideout

 




次回予告

火星の民のため、地球の自由を求める民の為、想いを重ねる二対の刃が空を駆ける。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

リーダーの資質

お楽しみに


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リーダーの資質

noside

 

「アグニス、7時の方角から三機接近中、恐らくはストライクタイプだ。」

 

出撃を控えた機体のコックピットで、一夏は今回のバディであるアグニス・ブラーエに声を掛ける。

 

彼がハロに指示し、索敵させた範囲内に三機の飛行する機体の姿を捉えていたのだ。

 

その三機は彼の乗るストライクSに近い機体であり、原典となったストライクの派生機であった。」

 

『分かっている、あの黒い機体だけは俺に任せて欲しい、一度戦った事が有る。』

 

アキダリアの捉えた映像を見たアグニスは、一夏にある機体にだけは手を出さない様に言い含める。

 

どうやら、自らの手で確かめたい事、成し遂げたい事が有るのだろう。

 

「了解、なら、俺は残りの機体全てを請け負おう、105系の扱いなら自信がある。」

 

それに短く了解と返しながらも、一夏は自身の機体のOSを調整し、大気圏内でのマニューバを意識した設定を施した。

 

どうやら、本気で戦う為に機体を自分の身体に合わせているのだろう事が窺えた。

 

『フッ、心強い事だ。』

 

『アグニス、織斑卿!アキダリアのハッチを開きます、イイですね?』

 

頼もしいという想いを籠めたアグニスの言葉が返ってくると同時に、ナーエの通信が入った。

 

どうやら、作戦の開始が間近に迫っているという事が窺える。

 

『分かった!アグニス・ブラーエ、デルタアストレイ、出る!!』

 

通信を受けるや否や、アグニスは勢いよくアキダリアより飛び出し、戦場へと身を晒した。

 

「おいおい、お前が先に出るんじゃ、俺の立つ瀬がないだろ・・・!」

 

その無鉄砲なほどに真っ直ぐな男に、ある種の好感を憶えつつも、一夏は自分の今の立場を、役目を再確認する。

 

「連合兵の一掃、及びマーシャンの護衛、ついでにオーブに被害は出さない、か、場所が場所だけに厄介なこった。」

 

海図と敵の戦力展開を見ながらも、一夏は苦笑と共にタメ息を吐いた。

 

如何もやり辛い、それが彼の純粋な感想だった。

 

連合兵を倒すだけならば、彼の技量と愛機の性能を駆使すればそう難しくは無い。

 

だが、今の場所はオーブの領海外数kmの地点、今だ小島が見えるだけでなく、振り返ればオーブの島影も見える。

 

この様な所で戦えば、近くにオーブの漁船や客船が航行している可能性もあるため、無辜の民を危険に晒す事になる。

 

それだけは、施政者の片腕として働く一夏にとって許されざる行動であるし、極力避けねばならない事態でもあった。

 

いや、それだけでは無い。

連合にとってオーブは同盟国を称していても所詮属国の立場だ、資材も人材も、自国から出すよりも遥かに都合がよい。

 

故に、指揮官機以外のMSには、オーブのパイロットが乗っている可能性だって十二分にある。

 

現に、彼の手元にはオーブ軍の内情や、五大氏族以外の氏族がどうなっているかという情報が、ケナフ・ルキーニや、彼の下について情報を操るようになったベルナデット・ルルーより齎されていたのだから。

 

「やれやれ・・・、この戦いが終わったら、アグニス達とは一旦お別れ、だな・・・。」

 

自分のやるべき事がまたしても増えた事に呆れているのではない。

オーブの事情と捨て置けない自分の甘さと、それに伴う苦難のことを思うと、自分はとんだマゾヒストかとさえ自虐したくなる気分だったのだろう。

 

「まぁいい、今は役目を果たさせてもらうとしようじゃないか。」

 

だが、自分のやれる事をやる。

ただそれだけだと思考を切り替えた一夏は、ストライクSのフットペダルを踏み込んだ。

 

「織斑一夏、ストライクS、出るぞ!!」

 

白色の機体が曇天の空を舞い、既に開かれていた戦線へ急いだ。

 

アグニスのデルタアストレイは、漆黒のストライクと交戦を開始していたが、二機のスローターダガーが手柄を競い合う様にデルタアストレイを攻撃していた。

 

「アグニス!!」

 

一夏はガルーダストライカーに装備されているレールガンとビームキャノンを展開、4機の間を牽制するように撃った。

 

『すまん!助かったぞ一夏!!』

 

「お安い御用だ、敵から目を離すなよ!!」

 

3機の敵から離脱したデルタアストレイはストライクSと肩を並べ、黒と白が睨み合う形を取った。

 

だが・・・。

 

「ッ・・・!!」

 

一夏の目は、その漆黒を纏うストライクに釘付けになった。

 

それは、嘗ての彼が駆り、悪逆の限りを尽くした、悪魔の機体そのもの。

 

一夏自身が抱える闇その物だった。

 

「ストライク、ノワールッ・・・!!」

 

自身に対する怒り、憎しみ、そして、過去を見る事への恐れ、それら全てが入り混じった様な呻き声を上げた。

 

今すぐに飛び出し、その憎き機体を切り裂きたい思いに駆られる。

 

だが、今の彼の傍らには仲間がいる。

護らねばならない存在がいる。

 

それが彼の、怒りと恐怖に溺れそうになる理性を繋ぎ止めていた。

 

『その機体、ストライクの改修機か・・・、貴様、あの時の男か。』

 

「その声、あの時のストライクのパイロット・・・!!」

 

その葛藤の最中、黒い機体、ストライクノワールに乗り込むパイロット、スウェンが口を開いた。

 

その声に聞き覚えがあったからか、一夏もまた驚いた様に問い返した。

 

そして、両者共に機器を操作し、映像通信を開く。

 

嘗ては通信機越しのサウンドオンリーでの会話であり、顔を合わせるのは初めてであった。

 

『一年前の砂漠以来、か・・・、貴様、このような所で・・・!』

 

「それはこっちのセリフだ・・・!何故マーシャンを狙う!?」

 

交わらない想いが軋轢を生み、一夏とスウェンの言葉はぶつかり合うばかりだった。

 

『コーディネィターを排除する事に理由など必要ない、貴様もここで討つ!!』

 

ブルーコスモスの思考に染まっているスウェンに、その言葉に答える義理も理由も無かった。

 

『お前の相手は俺だ!』

 

ストライクSを庇う様に前に出たデルタアストレイが、ストライクノワールが振ったビームブレイドと切り結ぶ。

 

彼もまた、スウェンとの因縁を持つが故に、自分が相手をしたいという想いがあるのだろう。

 

『貴様・・・!コーディネィターッ!!』

 

「アグニス!」

 

怒りに表情を歪めたスウェンとは対象的に、一夏は身を乗り出した。

 

幾ら機体の性能差が有れど、アグニスの腕では互角でしか勝負を動かせない。

 

故に、一夏は仲間を助けようと動こうとした。

 

だが・・・。

 

『余所見してんじゃねぇよ!』

 

ノワールの傍に控えていた、I.W.S.P.を装備したスローターダガーがガトリングを撃ち掛けながらも割り込む。

 

「邪魔をするなッ!貴様等ッ!」

 

機体を巧みに操り、弾丸を回避したが、必然的にアグニスとの距離は離されてしまう。

 

『お生憎、出世が掛かってるんでね、その機体も墜させてもらうぜ!』

 

『お前には渡さないぜ、ワイド!』

 

もう一機の、エールストライカーを装備したスローターダガーもストライクSへの攻撃を開始し、一夏は一度に二機を相手取る事になった。

 

「チッ・・・!なぜマーシャンを狙う!?何が目的だっ!?」

 

ビームピストルで両機を牽制しつつ、一夏は叫ぶ。

 

何故無用に争うのか、何故異星の来訪者にまで牙をむく必要があるのか。

 

その理由が、彼を憤らせた。

 

『ハッ!下らねぇこと聞くんじゃねぇよ!ここでファントムペインに恩を売っておけば、俺達下級氏族でも出世出来るんだよぉ!!』

 

『そのためにも、討たせてもらうぜ!!』

 

「ッ・・・!!」

 

何を聞いているのかと言わんばかりに放たれた言葉に、一夏は驚愕に固まりかける。

 

自分の予想が当たってしまった事と、護るべき対象と戦わねばならない苦悩。

それが、今の彼を攻め立てていたのだ。

 

如何するべきか、その答えを出せずにいた。

 

その時だった。

 

彼の後方を進んでいたアキダリアに対し、砲撃が開始された。

 

その二射は直線で突き進み、アキダリアの艦橋を掠めていく。

 

直撃こそ免れたが、牽制や脅しには十分すぎたのだろう、アキダリアは航路を変えた。

 

「あれは、アグニとライトニングストライカーの砲撃か・・・!?別働隊がいたのか・・・!?」

 

『たった一発で装備を見抜くなんて、アンタやるなぁ!けど、それだけじゃねぇぜ!!』

 

自分も何度も使用した事のあるストライカーの装備を思いだし、特性を理解した一夏は歯がみしつつも対処法を考えるべく思考を働かせる。

 

だが、その彼の能力の高さを見抜いた敵パイロットの宣言と同時に、アキダリアの船体が何かに座礁するように止まった。

 

「海中にも伏兵がいたのか・・・!?」

 

彼の驚愕に答える様に、海中よりソードストライカーを装備した機体まで現れた。

 

その左腕にパンツァー・アイゼンが無い事を考えると、海底の固定し、アキダリアを掴んで錨のようにしているだろう事が窺えた。

 

その機体は、終わりだと言わんばかりにアキダリアの船体をシュベルト・ゲベールで切り付けていく。

 

「ちっ・・・!俺とした事が・・・!」

 

『悪いねぇ!俺達の出世の為に、討たれてくれや!!』

 

これで、一夏が把握した敵勢力は6機、こちらの3倍の戦力であった。

 

自身の読みの甘さに唇を噛みつつ、一夏はそれでもと前を向く。

 

確かに先手は取られた、だがそれだけだ。

まだ勝負は終わっていない。

 

これから幾らでも逆転できる、その確信があった。

 

気合を入れ直している一夏を討つべく、I.W.S.P.を装備した機体がトドメと言わんばかりに対艦刀を引き抜き、エールストライカーを装備した機体と共に挟み込む様にして迫る。

 

並のパイロットならば逃げきれずに撃墜されるであろうそれを、一夏はまるですり抜ける様にして回避し、一気に加速、アキダリアを襲うダガーを狙ってレールガンを撃ち掛けた。

 

自分が狙われた事が分かったか、その機体は一旦攻撃をやめ、船から飛び降りる様にして離脱、一旦海中へと逃げた。

 

「お生憎様、打たれる訳にはいかないんだよな、宙に帰らなくちゃいけないんでね。」

 

愛機を反転させつつ、ビームピストルで二機からの追撃を回避、オープン回線を開いた。

 

「オーブの兵よ、俺の声を聞け!俺の名は織斑一夏!アメノミハシラの軍部元帥なり!!」

 

『ッ・・・!!』

 

その宣言と同時に、スピーカーの向こう側にいるオーブの兵達が息を呑む。

刹那、その戦域の砲火が一瞬止む。

 

仕方あるまい。

オーブの兵にとって、アメノミハシラは第二のオーブであり、その国のトップに近い者に弓を引いていたのだ。

 

それは、出世に飢えている彼等にとっては、出世の道を断たれる未来を予想してしまうほどだった。

 

「俺に弓を引いた事は気にするな!だが、聞け!出世の為にマーシャンを襲ったところで、君達の出世はない!」

 

彼等が連合に捨て駒にされている事を告げ、一夏はこの無用な争いに加担する事をやめさせようとした。

 

出来る事ならば、彼もオーブの民に、兵に銃口を向けたくはない。

故に、引いてくれるならそれで良いとさえ思っていたのだ。

 

だが、彼等下級氏族が強いられている現実を知っていた。

家長でさえ地位も名誉も無く、ただ戦場で一兵士として使われるだけ、それが彼等の現実だった。

 

故に、その現実から何とか脱するためには、藁にでもすがる思いでこの作戦を完遂する事が絶対条件となっていたのだ。

 

彼等がこのまま退く事は出来ない事も分かっていた。

 

だから、かれはもう一つの切り札を切る。

 

「手柄を立てたくば、この織斑一夏を討ってみせよ!さすれば諸君らはアメノミハシラの将軍となれるであろう!」

 

自分を討てば、その地位が手に入ると言う事を宣言した。

 

それは、自分だけを狙って来いと言う暗黙の宣言でもあった。

 

「さぁ、度胸のある奴だけかかって来い!俺は真っ向から諸君を迎え撃つ!」

 

『面白れぇっ・・・!その賭け、乗ったぜ・・・!!』

 

『織斑卿!その首、我等が貰い受ける!!』

 

一躍大出世のチャンスが降って沸いた事に歓喜し、オーブ兵たちの攻撃が一斉に一夏へと集中する。

 

賭けには勝った。

あとは、彼等を傷付けずに無力化させるだけだ。

 

「行くぜ、若造ども・・・!お前等の全力、この俺が試してやる!!」

 

それを実現させるべく、彼は愛機を駆り、再び戦火の中を舞い踊った。

 

自分の、忌まわしき力を、今は信じて・・・。

 

sideout




次回予告

交わされる銃口と想いは、一夏に新たなる選択を迫る事となる。
その選択の先が、喩え破滅であったとしても・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY

閃光の果て

おたのしみに


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閃光の果て

side一夏

 

『その首!我らが貰い受ける!!』

 

『一躍トップかよ!良いねぇ、俄然負けられねぇ!!』

 

2機の空戦可能なダガーが俺のストライクSへ向かってくる。

 

ガトリングやレールガン、接近してのサーベル攻撃で攻めてくるが、まだまだ粗い部分が目立つ。

 

だが、俺達に比べれば未熟というだけで、贔屓目抜きで見れば準エース級の実力はある。

戦力増強のためには、是非ともウチに来て欲しい人材なのは確かだな。

 

ま、俺の示した道に上手く食いついてくれたみたいで何よりだ。

アメノミハシラでの地位は、オーブ国内での地位と比べても良い物だと感じてくれていなければ、このように俺を狙ってくれさえしないからな。

 

ならば、俺はその期待を裏切る事無く彼等を下し、彼等を救う。

それが、アメノミハシラの将軍としての、今の俺の役目の一つだ・・・!

 

「受けて立つ、ハロ!!」

 

『アバレルゼー!!トメテミナー!!』

 

クロスグリッドターンを用い、撃ち掛けられる弾丸の全てを回避、一番短い刃であるビームナイフを二本とも引き抜いてエール装備のダガーを迎え撃つ。

 

嘗めている訳では無い、ただ、間合いが近すぎるせいで対艦刀は使い辛い。

故に、こっちの方が小回りは効く。

 

妥当な判断だと思いたい。

 

『お初に御目にかかる!俺はオーブの騎士!ファンファルト・リア・リンゼイ!その首を貰い受けるぜ!!』

 

「俺の首は安くないぞ、君達の想い全部つぎ込んでも、果たして届くかな?」

 

ビームサーベルを二刀流の要領で振り、ストライクSのコックピットを狙って行く。

 

だが、それを見切っていたか、俺は半身になって機体を逸らしつつ、ビームナイフを振り、サーベルのビーム発生基のみを切り落とす。

 

二本とも切り下せたのは僥倖だったが、これで終わるまい。

 

『やりますね・・・!だが、まだまだぁ!』

 

やはりな。

ソイツはそこそこやるらしい、すぐさま腰から予備のビームサーベルを二本とも抜き放ち、ストライクSを落とそうと迫ってくる。

 

だが・・・。

 

『邪魔すんなよファンファルトォ!その方は俺の獲物だぁ!!』

 

I.W.S.P.を装備したダガーに乗る男は、この戦いに参加している誰よりも手柄を欲しているようだ、仲間を巻き込む様にガトリングを撃ち掛けて攻撃を中断させてくる。

 

慇懃無礼だが、似合わん口調だ。

まるで、政敵と相対した時の俺みたいだな。

 

『ワイド!!何しやがる・・・!?』

 

「まったく、手柄を焦るな!」

 

ファンファルトと呼ばれた男のダガーを足場にして離脱しながらも、機体を捻って左手のビームナイフを投擲、ワイドと呼ばれた男のダガーの左腕の付け根に直撃させる。

 

『なにぃぃっ・・・!?』

 

『ワイドッ!?な、なんて腕だ・・・!!』

 

離脱するワイドのダガーに驚愕するファンファルトだが、その隙を俺が逃す事は無い!

 

もう一本のビームナイフもと適するべく機体を動かそうとしたが、それより早く、アグニとライトニングストライカーの砲撃が俺を狙って打ち掛けられる。

 

『申し訳ありませんが織斑卿、内輪もめる様な奴でも仲間なのです、討たせるわけにはいきません!』

 

サウンドオンリーの通信ながらも、俺を狙った砲撃機のパイロットから通信が入る。

 

その声からは、出世したいと言う欲よりも、仲間を討たせないと言う意思が伝わってくる。

 

「お前、イイ覚悟あるじゃねぇか、気に入った・・・!!」

 

俺の好きなタイプの信念を持つ男だ、お前はアタリ、なんだろうな!

 

何時もは封じ込めているこの戦闘に身を任せる本能も、今は解放しようじゃないか。

 

俺を昂ぶらせてくれる何かを持つ、この愛おしいオーブの子等のために!

 

「お前等、かかって来い!俺も本気だぁ!!」

 

ストライクSのスラスターを全開にし、再びアキダリアを狙って浮上したソード装備のダガーへ一気に詰め寄る。

 

『俺の方を狙ってくるのは、計算済みですよ!!』

 

アキダリアへ脚を付けたソイツは左肩部アーマーよりマイダス・メッサーを引き抜き、こちらに投擲してくる。

 

牽制のつもりなんだろうな、避けた所へ飛び上がり、シュベルト・ゲベールで一閃、分かり易いが効果的な策だ。

 

コイツは策士なんだろうな。

最も、昔の俺には遥かに及ばないが。

 

「そうかい!なら、止めてみな!!」

 

マイダス・メッサーが回転しながら此方へ向かってくる所へビームナイフを投擲、相殺する。

 

それと同時にアスカロンを一本引き抜き、ガルーダストライカーの強烈なパワーを持った加速で強引に突き進みながらも、一気に間合いに入る。

 

『貰ったッ!』

 

「こちらがな!」

 

シュベルト・ゲベールの一閃を身体を鎮める事で回避しながらも、アスカロンの一閃でダガーの脚を斬り飛ばす事に成功する。

 

『何っ・・・!?』

 

「後で引き上げてやる、それまで大人しくしておいてくれ。」

 

バランスを崩したダガーの腹を蹴り、海へと落とす。

 

まずはこれで一機無力化した、あと4機を早く落として、アグニスの救援に行かないとな・・・!

 

「ストライク!俺に応えろッ!!」

 

一気にフットペダルを踏み込み、エールの推力でも着いて来れない程の加速で一気に孤島へ機体を奔らせる。

 

『まさか・・・!?』

 

『ガルド達を先にやろうってか・・・!?』

 

俺のやろうとしている事を見抜いたか、二機の空戦機は俺を追いかけて来る。

 

だが、遅い。

エールもI.W.S.P.も、俺が二年かけて研究し尽くした。

 

そのデータを基に開発されたコイツには着いて来れやしないさ!!

 

一気に二機を引き離しつつも撃ち掛けられるアグニの大出力ビームを回避し、牽制代わりにレールガンとビームキャノンで二機の手前の海を砲撃して目くらましをした後、急降下して二機の目の前に降り立つ。

 

『まさかっ・・・!?』

 

「その砲撃も、得意じゃないが何度も考察はしているさ。」

 

ビームサーベルを引き抜いて来る前に対艦刀の一閃で二機の脚を斬り飛ばし、追撃としてビームピストルで両腕の関節を狙って撃ち抜き、行動不能にする。

 

「もう少し待ってな、悪い様にはしない!」

 

ストライク元来の脚部の運動性を用いて身を屈めつつスラスターを一気に吹かし、地を蹴り上げると同時に跳躍、スラスターだけで飛び上がるよりも圧倒的に速い速度で駆け上がる。

 

『は、速い・・・!?』

 

『バカな・・・!?MSで出来る動きじゃ・・・!?』

 

「甘い!!」

 

やはり、実戦経験の少ないのはオーブ兵の弱みだな。

だが、腕の良いパイロットを腐らせる訳にもいかん。

 

だから、お前達には悪いが、勝たせてもらおうじゃないか!!

 

『くっ・・・!ワイド!挟み込む!!サシでは勝ち目がない・・・!』

 

なるほど挟み撃ちか、だが、その程度で俺が墜ちる筈ないだろうが!!

 

臆することなく前方から向かってくるエールを迎え撃つべく、対艦刀を二本とも引き抜く。

 

『分かってらぁ!!ここで勝たなきゃ・・・、ッ!?』

 

後ろにも気を配っていたから気付いた、I.W.S.P.の機体が突如として違う方角へと向かって行く。

 

作戦ミスか、それとも仲間を見捨てる屑か・・・?

 

『な、なんだ・・・!?機体のコントロールが・・・!?』

 

『ワイド!?何をやってる!?』

 

『俺は何もしてねぇ!!機体が勝手に動いてんだ・・・!!』

 

わざと通信を繋げていた為に、焦るパイロット達の会話が聞こえてくる。

 

機体のコントロールをロストしただと・・・?

 

まさか、量子ウィルスか・・・?

有り得なくはない、何せ、連合の中でも暗部部隊だ、その程度の装備なら有していてもおかしくは無い。

 

それに、使っている機体はあの黒い機体、ストライクノワールのパイロットだと断言できる。

 

昔の俺も躊躇う事なく使っていたからな。

 

「だが、何の為に・・・!?」

 

味方にそんな御大層なモノを仕込む必要は無い。

 

効力があるとすれば敵のコントロールを奪ったところに攻撃を仕掛けるか、同士討ちさせる様に仕向ける事の方が何倍も有効だ。

 

尤も、同士討ちを仕向けようにも、俺の機体にはハロと言う量子コンピュータから独立したAIが存在する。

つまりは、ウィルスに対抗する手段を持っているために効き目は無いが・・・。

 

では、何故味方機のコントロールを奪う?

 

オーブの兵を使い捨ての駒のようにしか思っていなくとも、無意味な行動だとは分かる筈だが・・・?

 

いや待て・・・、何かがおかしい。

薄々感じてはいたが、何故この部隊は初期のストライカーしか装備していない?

 

そもそも、空戦機ならばよっぽどムラサメの方が優秀だ、なのに何故、わざわざストライカーを装備させたダガーで出てくる?

 

その答えは、俺自身が一番分かっていた事じゃないか・・・!!

 

「ちっ・・・!そういう事か・・・!!」

 

このままではマズイ、恐らく、奴の狙いはマーシャンの殲滅では無く、アグニスただ独り。

 

「ファンファルト!お前はここに残ってろ!!」

 

『織斑卿・・・!?』

 

「これは罠だ・・・!彼は俺が救う!』

 

部下ではないが、それでも位は俺の方が遥かに上だ、従ってくれるだろう事を祈りつつ、俺はI.W.S.P.装備のダガーを追った。

 

その先では、デルタアストレイとストライクノワールが凄まじい速さで交錯し、デルタの左腕が飛び、ノワールストライカーが破壊されていた。

 

それを見計らったか、ダガーは一気に速度を上げ、落ち行くノワールへと迫って行く。

 

「やはり・・・!逃げろ、アグニスッ・・・!!」

 

警告を飛ばすがもう遅い、I.W.S.P.が強制的にパージされ、一瞬の交錯の後にストライクEに装着された。

 

『あの連合ヤロウ・・・!最初から俺らを利用するつもりでぇッ・・・!!』

 

『ッ・・・!?』

 

その状況を理解出来なかったせいで、アグニスは硬直してしまっている。

 

これは、マズイ・・・!

 

スラスターを全開にして距離を詰めるが、最早間に合わなかった。

 

ストライクE+I.W.S.P.はデルタアストレイとの距離を詰め、残っていた右腕と左わき腹に対艦刀を突き刺した。

 

『ぐぁぁぁっ・・・!!』

 

「アグニスーーーーッ!!」

 

苦悶の悲鳴を上げながら落ちていくアグニスのデルタに追いすがり、何とか空中でキャッチする事には成功した。

 

だがこれでは戦えない、俺も、そしてスウェン・カル・バヤンもそう感じているだろう。

 

『コードδ、機能停止を確認、アンノウンを確認するもエネルギー残量微量のため追撃は中止、これより帰投する。』

 

友軍への報告をした後、ストライクEは俺を睨むように一瞥、そのままオーブ本島の方へと戻って行った。

 

見逃してくれた、か・・・。

 

安堵のタメ息が漏れたが、今はそれどころでは無い・・・!

 

「アキダリア!すぐに救護班を用意しろ!デルタを着艦させる!」

 

『り、了解しました・・・!』

 

上擦った声のザフトの軍人の声を聞きながらも、俺はアグニスを、待たせているオーブの兵達を救うべく機体を奔らせる。

 

もう、俺の目の前で誰も死なせない・・・!

あの時みたいに、個の腕の中にある命を消させてなるモノか・・・!!

 

救えなかった者への贖罪にも似た心地を抱えながらも、俺は操縦桿を握り締める。

 

間に合ってくれと、無事でいてくれと、心の底から願いつつ・・・。

 

sideout




次回予告

ファントム・ペインから逃れたアグニス達を見送り、一夏は救った者達と共に宙へと戻る。
だが、運命の魔の手は彼を離そうとはしなかった・・・。

次回機動戦士ガンダムSEESASTRAY X INFINITY

宙の景色は

お楽しみに



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宙の景色は

side一夏

 

『ストライクS、デルタ、着艦します!救護班は格納庫へ急いでください!』

 

俺がデルタを抱えて戻ると、既に救護班が格納庫に到着、救助の準備に取り掛かっていた。

 

アグニスの事を心配したのだろうか、ナーエやアイザックの姿も見受けられる。

どうやら、艦橋から走って来たのだろう、肩で息をしている事が窺える。

 

「下がっていろ、コックピットを抉じ開ける。」

 

ストライクSを動かし、パイロットを傷付けない様に気を付けながらコックピットブロックの装甲を剥がす。

 

マニピュレータが人間並みに器用に動くストライクタイプだからこそ出来る技ではあるが、パイロットの技量を問われる高等技術に過ぎるのも否めない。

 

だが、俺の腕なら問題ないがな。

 

コックピットハッチが剥がされると同時に、待機していたマーシャンの救護スタッフがパイロットであるアグニスを救出し、ストレッチャーに乗せて艦内の救護室へと急行して行った。

 

見た限り、致命傷は追っていない筈だ。

生き残るかどうかは、彼の生命力と運次第だ・・・。

 

「ミッションインコンプリート・・・、俺はここまで、だな。」

 

アグニスの次の目的地まで同行するとは言ったが、仕事が出来てはそれも叶わない事だ。

 

もうここには用は無い、さっさと御暇させて頂こう。

 

「ナーエ、ハッチを開けてくれ、オーブの兵を救助に向かう、短い間ではあったが、世話になった。」

 

『織斑卿・・・。』

 

実際、俺はなにもしちゃいないが、それでも一時は行動を共にした相手ともなるとそれなりに思うモノはある。

 

だから、せめて気持ちだけは残しておこうじゃないか。

 

「アグニスに伝えてくれ、光を信じろと、何時かアメノミハシラに来いと。」

 

アイツが生き残れたのなら、恐らく地球圏の様々な組織を尋ね、その考え方と行動を学んでいく事だろう。

 

その過程で、俺達の考え方を、戦いを知ってほしい。

それが俺の思う、マーシャンとの共存の一歩にもなる筈だから・・・。

 

『分かりました、卿もお気を付けて・・・。』

 

「あぁ、またな。」

 

敬礼を返しつつ、開かれたハッチより発艦、海に沈んだダガー二機の救出に向かう。

 

死んではいないだろうが、それでも長時間放置は出来ない。

 

待っていろ、俺の目の前で、もう誰も死なせはしないから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「全員揃ったな、無事で何よりだ。」

 

それから十分と経たない内に、海に沈んだ二機のダガーを救出した一夏は、砲撃タイプの機体を倒した孤島に降り立っていた。

 

彼も機体を降り、五人のパイロットの前に立ち、彼等を睥睨していた。

 

「織斑卿、此度の無礼、何とお詫びすれば・・・。」

 

そんな彼に対し、パイロットの内の一人、浅黒い肌を持った青年、ガルド・デル・ホクハは膝を付き、今にも土下座せんばかりの様子を見せていた。

 

どうやら、一夏の事は天空の宣言の放送で知っていたのだろう、その表情には愕然とした様な絶望が浮かんでいた。

 

仕方あるまい。

所詮下士官である彼等が、高官である一夏に弓を引くなど言語道断、その場で処刑されてもおかしくない状況なのだ。

 

「気にするなと言った、次下らんこと言ったらブッ飛ばすぞこの野郎。」

 

「(口悪っ・・・!?)」

 

戦闘後のハイテンションに陥っているからか、何時もの二割増しで口の悪い一夏の言葉に、ファンファルトは声に出さないまでも驚いた様に表情を引き攣らせていた。

 

元帥である男が、まさかブッ飛ばすという過激発言をするなど、思いもしなかったのだろう。

 

「俺が俺を狙えと言った、それに君らは任務中だった、命令違反や上官侮辱罪は適用されん。」

 

「い、いや、しかし・・・。」

 

マーシャンを狙わせないため、将軍である自分の地位をダシにし、マーシャンの一行を狙えと言う命令を護らせた。

 

形はどうであれ、彼等5人の状況を、連合からの命令も、オーブ本国からの命令も、そして、一夏からの命令をも護ったという極めて異例に過ぎる場所に追い込んだのだ。

 

だが、それに気付いていながらも、納得できないのが、追撃隊の5人だった。

 

何故自分達を殺さなかったのか、何故このように直接話をしているのか、それが理解出来なかったのだ。

 

「アメノミハシラとは言え、俺もオーブの軍人だ、仲間をみすみす死なす訳にはいかん。」

 

「織斑卿・・・。」

 

部下の命は必ず守る。

一夏の言おうとする事が分かったか、ガルドは心を打たれた様に呟く。

 

その裏にある何かには、流石に気付けなかった様だが・・・。

 

「まあ、俺に負けたのは事実だ、君達の本国での出世は当分お預けだな。」

 

「ッ・・・!!」

 

しかし、それも束の間の事だった。

何処か挑発する様な言葉に、ワイドとホースキンは表情を顰める。

 

さっきまで良い事言っておいて、結局は嫌味でも言うつもりか。

その苛立ちを必死に抑え込んでいる様にも見えた。

 

「しかし、君達の実力は買おうじゃないか、実戦経験が少ないオーブにこんな良いパイロットがいるとは思いもしなかったさ、本当に惜しい事をしたよ。」

 

だが、そんな彼等の様子を悟ったか、一夏はまたも語り続ける。

 

まるで、俺の話を聞けと言わんばかりに。

 

「そこで提案だ、君達にアメノミハシラのMS隊に転属する権利を与えたい、アメノミハシラで開発した新型機のパイロットとしての地位もな。」

 

「ッ・・・!?」

 

まさかの提案に、一同は驚愕のあまり声も出なかった。

 

将軍と言う地位は手に入らなかった。

しかし、その将軍に見出され、まさか新型MSのパイロット、しかも本格量産前の先行生産型という、エース級パイロットですら中々手に入らない地位をポンと与えられる事になったのだ、驚かない方が無理も無かった。

 

無論、一夏も只でその地位を与える訳ではない。

 

アメノミハシラに忠を誓う者だけでなく、様々な思惑を持つ者を腹の内に取り込む事で、天空の宣言の意味を広げようとしているのだ。

 

それは、彼自身がロンド・ミナの思想を、アメノミハシラを、そして、天空の宣言の未来のみを優先させている事を如実に示していた。

 

「無論、本国での出世は不可能になるし、家の再興も出来るかどうかは分からん、だが、変わりゆく世界の中心で、世界そのものを相手取る英雄には成れるだろう、君達の働き次第では、一国の将官など、ちっぽけな存在にする事すら容易い。」

 

「ッ・・・!」

 

英雄、その一言にもっとも惹かれたのはワイドだった。

 

彼は誰よりもカガリの夫と言う地位を欲している。

故に、一国の将官と言う、どうしてもカガリの下にならざるを得ない地位よりも、世界を相手取る英雄は大きく、それでいて魅力的であったのだ。

 

「強制はしないよ、俺も地球にずっといる訳にもいかないからな、俺について来てくれる奴だけ連れて行こうじゃないか。」

 

言うが早いか、彼は踵を返し、愛機のコックピットハッチから垂らしていたラダーに掴まって昇って行く。

 

後ろから撃たれると言う事を考えていない愚者か、それとも撃たれないと確信している豪胆か。

どちらにしても、一夏のその行動は、追撃隊の5人の出方を試すものだった。

 

その意図に気付いたか、ガルドはすぐさま立ち上がり、差し出された一夏のストライクSの掌に脚を掛ける。

 

「お、おい、ガルド・・・!正気か・・・?」

 

「ホースキン、俺達は織斑卿に生殺与奪を握られている、それに・・・。」

 

まだ理解出来ないと言わんばかりのホースキンに、ガルドは考えてみろと言わんばかりに言葉を紡ぐ。

 

ここに置いて行かれてはどうなるか分かった物では無い。

さらに付け加えるならば、一夏がその気になれば、この場で銃殺する事も出来る。

 

それを加味して考えてみても、今の彼の言葉は信に足るモノであると感じられたのだろう。

 

「それに、俺はあの御方の目に、さっきまでの言葉以上の想いを感じた、だから、信じてみたくなった。」

 

「だ、だが・・・。」

 

「俺も、ガルドに賛成だ。」

 

信じられると心の底から感じたガルドは、迷うことなくその掌に身を預ける。

それを止めようと食い下がるホースキンを止めるように、ファンファルトはガルドと同じ様にストライクSの掌に乗った。

 

「ファンファルト・・・!」

 

「あの人、ワイドの機体が乗っ取られた時、一番に俺を逃がそうとしてくれたんだぜ?それに出世のチャンスまでくれるんだ、同じ死ぬなら、バカな事やってやろうぜ?」

 

「なに難しく考えてんだよ、英雄に成れるんだ、これ以上ないチャンスじゃねぇか。」

 

ファンファルトもまた、ガルドと同じく一夏を信じた。

それとは対照的に、ワイドは自身の功名出世の為に付いて行く事を決めた様だ。

 

良くも悪くも、自身の立身出世にしか興味の無い、ワイドらしい選択であった。

 

「ガルドが行くなら、僕も・・・。」

 

「サースまで・・・、くそっ・・・、俺も行く、ここで俺だけ帰ったら何て言われるか・・・!」

 

最年少のサースまでMIAになっては、自分だけおめおめ逃げ帰って来た臆病者と言う評価を与えられかねない。

 

そんな不名誉な事になる位ならば、いっそ新天地で戦い、立身した方がマシと考え、彼もまた、掌へと身を任せた。

 

『全員乗ったな、振り落とされるんじゃないぞ。』

 

それを見届けた一夏はスピーカーで注意を促しつつも風圧で彼等が吹き飛ばされないように左手でしっかりと風よけを作って飛翔する。

 

その先の未来へ、宙の景色を見る為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

その頃、プラントコロニー群、アプリリウス市に設けられた宇宙港の一角にて、数名のザフト兵が集められたブリーフィングが行われていた。

 

「以上だ、質問はあるかな?」

 

その男、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは目前に控える数名に大丈夫かと念を押す。

 

それに対し、ザフト兵の中でもトップクラスの者が属する部隊FAITHの隊員達は口を揃え、NOと答えた。

 

直属であるが故に、何の疑問も持たず、従う者がほとんどだった。

 

だが、その大半以外で、ただ独り、その男だけは浮かない顔をしたまま、心此処に在らずと言った風に返答していた。

 

「・・・。」

 

デュランダルが部屋を辞した直後、彼は頭を抱えてシートに深く沈み込む。

 

最悪の事態に陥った。

その表情からは絶望、そして、諦観にも似た何かが見て取れた。

 

「結局、俺は戦う事しか出来ない、か・・・。」

 

何が争いをさせない兵器を創るだ。

結局自分がやっているのは、血で血を洗う戦争で、その場に躍り出る最新鋭の兵器を駆って、敵を屠り続ける事だけだった。

 

「何が夢だ・・・、俺は、結局何を・・・。」

 

自分は一体、何の為にザフトに入った、何の為に、陰謀渦巻くプラントに残ったのだ。

 

結局は、命惜しさに駒に成り果てただけではないか。

それが、彼のプライドに傷を付け、更なる沼へと陥らせている元凶でもあった。

 

だが、彼はもう逃げられる立場にいなかった。

 

コートニーは監視の最も強い立場、FAITHの実働部隊長に任命されていたのだ。

エース級以上のパイロットの上に立つ者として、デュランダルと直接面と向き合う立場に押され、今では片腕的な扱いまで与えられてしまった。

 

それが何を意味するか。

語るに及ばない事は明らかであった。

 

「一夏・・・、俺は、お前を、お前の大切な物を、壊さなくてはならないのか・・・?」

 

絶望に打ちひしがれる彼の手より、一枚の資料が零れ落ちる。

 

そこには、ただ一文の作戦名のみが記されていた。

 

それは、彼にとっては受け入れがたく、何よりも逃れられない呪縛だった・・・・。

 

その作戦名は

 

『オペレーション・フォーリンエンプレス アメノミハシラ攻略戦線の概要』

 

彼の友人たちが集う、天空の城を落とせと言う命令であった・・・。

 

sideout

 

 




はいどーもです

別作品の方でもあとがきに書かせて頂きましたが、ここでも一応のご報告を・・・。

私事で大変申し訳ありませんが、仕事や資格試験の都合のため、暫くの間、更新ペースがこれまで以上に落ちる事が予想されます。

私めの稚作をお待ちいただいている皆様には申し訳ありませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

それでは次回予告を

宙へ戻る一夏は、自らの立場から若者への指導に身を入れる。
その背後に忍び寄る、闇に気付かないままに・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

宙に戻りて

お楽しみに


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宙に戻りて

約4ヶ月ぶりでございます(白目)

長らくお待たせして申し訳ありません。

こちらは不定期になりそうですが、なるべく早期の完結をめざし、ぼちぼち書いて行きます。

それでは、ごゆるりとお楽しみ下さいませ~。


side一夏

 

「お帰りなさいませ一夏様、御荷物をお持ちいたします。」

 

約一週間ぶりに、我が家であるアメノミハシラへと戻った俺を、フォーソキウスとサーティーンソキウスが出迎えてくれた。

 

ホント、律儀な奴等だ、ソキウスって奴は・・・。

まぁ、その境遇自体には色々思う処はあるがな。

 

っと、今はそれどころじゃなかったか。

今は、俺の後ろにいる奴等の事を考えてやらねぇとな。

 

「あぁ、すまない、彼等の軍籍を作ってやりたい、悪いが管制室へこれをすぐに届けてくれ。」

 

軍服の懐より、俺はガルド達5人から預かったオーブの軍籍証をフォーソキウスに、仕入れて来た土産をシックスソキウスにそれぞれ手渡す。

 

オーブ沖での戦闘の後、俺に付いて来ることを選んだ5人を連れて戻った訳だが、やはりと言うべきか、周囲に控えているアメノミハシラのスタッフの表情には怪訝の色さえ浮かんでいる。

 

まぁ仕方あるまい。

俺とて、馴染んでいるとは言ってもここ数年で参じた新参者だ、高位にいるとは言っても、出過ぎた真似は古参のスタッフには反感を与えてしまう危険だってある事に変わりは無い。

 

だが、だからといって、俺は救える奴等をみすみす見捨てたくなんてない。

たとえ、それは俺の自己満足だったとしても・・・。

 

「ミナ様がお留守の間に、よろしいのですか?」

 

ソキウス達も、表情は崩さないまでも、何処か怪訝の色が窺える声色で尋ねてきた。

 

オーブを発つ前に、暫く地球に留まるミナから、アメノミハシラへ戻れという伝言を受け取っていたからこそ、俺はこうも早く宙に戻って来たという訳だ。

 

ミナが地球に残った理由はと言うと、南米やユーラシアなどの、連邦の圧政を受けている地域に赴き、自らの足で、想いで立ち上がらせるために、天空の宣言の理念を説くためだ。

 

ミナが不在の間、俺は総帥代理としてアメノミハシラを守護する役目を負ったという訳だ。

他の幹部も護衛と、そして、アメノミハシラが行う、支援と言う物に説得力を持たせるために同行している。

 

まぁ、それはさておき・・・。

 

兎角、ミナの命令を第一にしている彼等にとって、如何に主に近い立ち位置にいるとは言っても、俺の命令は度し難いものなのだろう。

 

「分かっている、咎ならいくらでも受けるさ。」

 

だ、そんな事ぐらい百も承知だ。

 

面倒は俺が全部背負い込めばいい。

軍籍さえ作ってしまえば、彼等の居場所を確保できる。

 

それに、ミナも俺が何かをしようとしていた事ぐらい勘付いていただろうし、今後の情勢を鑑みて、腕利きを揃えておきたいとも考えていただろう。

 

「それに、彼等はオーブで虐げられた者達だ、アメノミハシラとして救うのが道理だろう?」

 

「そうですか・・・、了解いたしました。」

 

理詰めで返したところで、ソキウスからはそれ以上の答えが返ってくる事は期待できなかった。

 

まぁ、コイツ等との付き合いもそれなりに長い付き合いだ、最早分かり切った事ではあるけどな。

 

俺に一礼し去って行くソキウス達を見送り、俺は改めて5人のパイロット達に向き直る。

 

地球から出たことが無いのか、それとも緊張のしすぎか、直立する5人の表情には疲れが見て取れた。

 

仕方あるまい、昨日まで地球で使い潰されるだけだったのが、今では天の城の一員、状況が動きすぎて困惑するのも無理は無かった。

 

「もう良いぞ、楽にしろ。」

 

俺が待機指示を解くと、彼等は体勢を崩し、少し足を開いて楽な体勢を取った。

とはいえ、表情だけは硬いままだったが。

 

「遠路ご苦労、と言いたいところだが、休むより先に見て貰いたいものが有る、付いて来い。」

 

そう、俺はまだ約束の一端を果たしていない。

口だけの男と思われないためにも、まずはそれを果たしておかないとな。

 

俺が踵を返し、目的のMSがある方へ向かうと、彼等だけでなく近くで様子を窺っていた衛兵が2名、俺達を追ってくる。

 

まぁ、仕方ない事か。

俺はこの城の№2、そして彼等は俺が引き入れたとはいえ、所詮は部外者でしかない。

何時、俺に対して危害を加えるか分かった物ではないと言う危機感もあるのだろう。

 

ホント、この城の人間は忠に篤い方々がいて助かるよ。

俺も期待に応えたくなっちまうから、尚更だな。

 

ま、そんな俺個人の感傷よりも、今は新入りの教育をしないとな。

 

そう思いながらも辿り着いた格納庫の奥、そこには既には先客の姿があった。

 

「お帰りなさい、閣下、久し振りの地球はどうだった?」

 

粟色の髪をポニーテール風にまとめた眼鏡の美女、リーカ・シェダーの笑みが俺達を出迎えた。

 

作業服に着替えていると言う事は、かなり長い事此処に居るな?

なんせ、此処は新たに設けられた、リーカの機体と新型試作機の為のスペースだからな。

 

「良い収穫があった、君と玲奈の直属の部下候補を見付けて来れた。」

 

「そ、その話、本気だったのね・・・。」

 

冗談な訳あるかよ。

何せ、この城の可変機乗りは2人しかいないんだ、その二人の部隊を作らずしてどうするってんだ。

 

それに、足の速い部隊があれば色々と動かし易いんだわ。

 

「お、織斑卿、この方は・・・?」

 

俺達二人で話し込んでいると、ファンファルトがおずおずと尋ねてくる。

いけねぇいけねぇ、今はそれどころじゃなかったな。

 

「紹介が遅れたな、彼女はアメノミハシラ少将、リーカ・シェダーだ。」

 

「よろしくね、私も新参者だし、一緒に頑張ろ!」

 

一夏の紹介に、リーカはまだまだ慣れないアメノミハシラ式敬礼で5人に微笑みを向けた。

 

だが、それに驚いたか、5人は目を丸くして彼女を見た。

 

「し、少将・・・!?」

 

まぁ仕方あるまい、俺も若いと自覚してはいるが、彼女ほどの若さで少将はまずいないだろう。

 

俺が推したから人ごとじゃあ無いんだけどさ・・・。

 

「まぁ形式的なモンだ、君らも名乗りたまえ。」

 

それはさて置き、今は馴れ初めを優先させないとな。

そうでなけりゃ、ここに来た意味が無い。

 

「ガルド・デル・ホクハであります、オーブでの階級はニ尉でした。」

 

「ファンファルト・リア・リンゼイであります、元第八兵隊所属の三尉でした。」

 

「サース・セム・イーリアです、階級は准尉、でした・・・。」

 

「ホースキン・ジラ・サカトであります、元三尉です。」

 

「ワイド・ラビ・ナダガ元三尉であります、少将、良ければこの後お食事でも・・・。」

 

「鞍替え速いな、ワイド。」

 

お前はカガリの夫になりたかったんじゃないのか・・・?

まぁ、あの小娘の夫になった奴は、将来苦労するだろうな、色んな意味で。

 

「あはは、面白い子もいるんだね、でも、一応彼氏いるのよ。」

 

それを気にした様子もなく、リーカはからからと笑って切り返していた。

 

肝の強い女は嫌いじゃない、コートニーが選んだ女なのだから尚更だ。

 

だが、そんな事を考えていても話が進まない。

本題に入らせてもらおうか。

 

「そういう事だ、まぁ自己紹介はこの辺で良いだろう、リーカ、彼等の機体を見せてやってくれ。」

 

「了解です閣下♪」

 

リーカに依頼し、格納庫の機体にスポットライトを当てる。

 

そこにはプロトセイバーを含め、10機のMSが置かれていた。

 

「一番手前にあるMSは、リーカの乗るプロトセイバーだ、元々はザフトで造られた機体だが、裏取引で此処に在る。」

 

「これがザフトのMS・・・、なんと美しい・・・。」

 

PSダウンを起こしているその機体に釘付けになる5人に説明しながらも、俺はコンソールを操作してハンガーの位置を入れ替える。

 

そして、1機の機体を彼等の前に晒した。

 

「これは、ムラサメ・・・?」

 

その機体は、オーブでの制式量産体制に入った可変MS、ムラサメに良く似ていたためか、ファンファルトが驚いた様に呟いた。

 

だが、オーブと断交に近い状態のアメノミハシラが、オーブで配備されているモノをそのまま採用するはずもない。

 

「この機体は、正確にはムラサメでは無い、型式番号 AY-TMS30 ヤタガラス、プロトセイバーの完全量産を目指して製造された機体だ。」

 

そう、この機体は正確にはザフト製可変MS、セイバーの解析と量産を目的に製造されており、可変機構もムラサメでは無くセイバー寄りとなっている。

 

「ムラサメよりも加速力がある機体、いわばじゃじゃ馬だ、乗りこなすには骨が折れるぞ。」

 

そのためか、ムラサメよりも、旋回や加速力を含めた空戦能力は15%向上している。

また、武装面も低燃費且つ強力なビーム兵装を搭載し、更にはオプションとしてミサイルや長距離レールガンなどの装備も行えると言う、量産機としてはこれ以上ない性能に仕上がっている。

 

尤も、パイロットが受け持つ処理はそれ相応に高度な物を求められるようになるし、高い操縦技術も必要となってくる。

 

エース級が使うには申し分ない機体だが、やはりテスターは多いに越した事はない。

 

だからこそ、彼等にチャンスを与えるついでにアメノミハシラの役に立ってもらおうと言う訳だ。

我ながら嫌な事をするもんだ、進むしか道を残してないんだからな。

 

「だが、今は休め、明日より俺とリーカとの模擬戦で感覚を掴んでもらう、以上、解散!」

 

全員に向き直り、俺はこの場の解散を宣告し、自室に戻るべく彼等の前より去った。

 

さて、彼等がどうやって俺の期待に応えてくれるか、楽しみにしていようじゃないか。

 

アメノミハシラの為に、その力を活かしてもらうためにもな・・・。

 

sideout

 

noside

 

「織斑卿、少しお時間よろしいですか?」

 

格納庫でのやり取りから2時間後、一夏の自室に訪問者が現れた。

 

その者は、一夏がスカウトしたガルドとファンファルトだった。

 

「どうした?荷物の整理は終わったのか?」

 

尋ねてきた2人を無碍にするわけにはいかないと、一夏は彼等を自室に招く。

 

休もうとしていたのだろうか、シャワーを浴びた後のバスローブを羽織っており、テーブルの上にはワインボトルが1本とグラスが置かれていた。

 

元々大酒呑みである一夏だが、オーブに降りていた間は禁酒していたらしく、眠る前の1杯と洒落込むつもりだったのだろう。

 

「はい、上士官の部屋をいただけるとは思っても見ませんでしたが・・・。」

 

一夏の問いに、ファンファルトは苦笑しながらも頷いた。

まさか上士官、主に佐官クラスが使用する部屋を与えられるとは思っても見なかったのだろう、驚きと緊張がその表情からは窺い知れた。

 

「マントはやれんが、せめてこれぐらいはしてやらんとな、まぁいい、掛けたまえ。」

 

上士官の待遇を与えねば、新型テスト機のパイロットには見合わないと言う一夏は、ガルドとファンファルトに笑みつつも着席を促し、客人用のグラスを2つ取り出して二人の前に置く。

 

上官に勧められては断る訳にもいかず、ガルドとファンファルトは顔を見合わせて席に着き、一夏のグラスと自分達のグラスにワインを注ぐ。

 

「悪いな、招いておいて酌をさせるなんてな。」

 

「上官に酌をさせるほど無礼な事なんて無いでしょうに。」

 

からかう様に話す一夏の言葉に、ファンファルトは苦笑しながらもガルドを見た。

 

ガルドもまた、その通りですと言わんばかりに苦笑しながらも頷く。

 

上下関係は弁えている辺り、彼等はそれだけ忠義に篤い人物で在ると窺える。

 

「まあいい、まずは乾杯といこうじゃないか。」

 

一夏が掲げたグラスに、二人も応じて自分達のグラスを掲げて乾杯する。

 

彼等はグラスに注がれた赤い液体を咽に流し込んで行く。

 

「ふぅ・・・、これで君達も俺の部下だ、契約の盃にしては洒落てるだろ?」

 

空になったグラスを置き、一夏は一息ついて新たな部下達に目配せする。

 

それは、今の状況を楽しめているかと探るようでもあった。

 

「えぇ、本国でもした事の無い事でしたから、新鮮です。」

 

問われたガルドは、どう答えればよいモノかと悩みながらも、自身の思う処を話す。

 

この様に上官と談笑しながら呑む酒など、本国では経験した事は無いし、親子の盃のような形など、これまでに見た事さえなかった。

 

その様な事を平然と行う、目の前にいる男の度量には目を見張るものが有るのもまた事実。

故に、彼は一夏に従う事を受け入れ、世界と戦う道を選んだのだ。

 

「ワイドやホースキンは如何思っているかは分かりませんが、俺とガルドは貴方に従うと決めました。」

 

ファンファルトもまた、ガルドと同じ想いを抱いていた。

 

大した武功を挙げる機会も与えられないオーブ軍の中で、出世を焦るばかりで結局は良いように使われるだけだった自分を見出したのは、他でもない一夏だった。

 

その真意がどこにあるかは分からないが、自分達に地位と機体を与えたのは紛れもない事実であり、それ以上に誰も死なせないと言う想いも信じるに値するモノだった。

 

ならば、その恩と想いに応える事こそ、今の自分に与えられた使命であるとも感じているのだろう。

 

「そりゃ嬉しい事を言ってくれる、なら、俺はお前達を死なせない様に頑張らないとな。」

 

その言葉に、一夏の表情が若干強張るも、それを悟らせないように笑みを浮かべた。

 

ファンファルトもガルドも知らぬ事だったが、一夏は嘗て、自分を慕った部下が、自分を庇って戦死したと言う過去がある。

 

既に2年も前の事になるが、その事件は今だ彼の心に影を落としていたのだ。

 

「(結局、俺は何一つ前に進めてない、か・・・、嫌になるよな全く・・・。)」

 

それを晴らせないのも、結局は自分が何も答えを見付けられていないからだと気付いているからこそ、彼は余計に自己嫌悪に陥るという悪循環に居た。

 

それを晴らせる者は、何処にもいないのだ。

 

そんな心境を目の前の部下達に気付かれないように小さく息を吐き、彼は自棄のように酒を咽に流し込む。

 

今だ振り切れぬ過去と、死なせてしまった者達への悔い、そして、自分自身への不甲斐無さ、怒りを全てのみ込むように・・・。

 

sideout

 




次回予告

答えの出ぬまま部下の指導を行う一夏の前に、彼は姿を現す。
それは、決して両者の望む形では無かった・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

迷える瞳

お楽しみに


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迷える瞳

side一夏

 

「今日の訓練はここまでだ、全員、機体の調整を行った後休息に入れ。」

 

アメノミハシラに戻ってから1週間が経った頃、俺はリーカと共に、新しく入って来た元オーブの5人に訓練を着ける日々を送っていた。

 

元々パイロットとしての修練は積んできた軍人だったから、然程教えると言うほどの事をしている訳でも無かったが、やはり出力の高い可変機を扱うのは難しかった様で、操縦に四苦八苦していたな・・・。

 

まぁ仕方あるまい、ムラサメもまだ量産が始まったばかりの機体だ、名のあるパイロットや中級以上の氏族に優先的に配備されているのが現状だ。

 

何せ、旧式のM1がまだ現役を張っているからな、下級氏族の彼等は航空機にすら乗る事さえ稀だったに違いない。

 

尤も、アメノミハシラもM1Aを主戦力としている点では同じなんだが、オーブよりはマシな筈だ。

 

それはさて置き・・・。

 

「ハッ!御教授感謝します!織斑卿!!」

 

ガルドの敬礼に倣うように、他のメンバーも敬礼を返す。

 

ホント、生真面目な奴等だよ。

特にガルドとファンファルトは、アイツを思い出してしまうほど、俺を慕ってくれている。

 

だからかどうかなんて考えなくても分かる。

俺もついつい熱が入り、いつも以上の訓練をしてしまった。

 

まぁ、結局俺は何も出来ていないままで、何も変わってなんかいないんだがな・・・。

 

そんな俺の感傷なんて、今はどうでも良い、か・・・。

 

「大分動きが様になって来たな、変形もよどみなく出来る様になっているのは流石だよ、スカウト出来て何よりだ。」

 

「お褒めに預かり光栄であります、よろしければこの後もう一戦お願いできませんか?」

 

俺が褒めると、ファンファルトは何処か喜色を浮かべながらも俺に教導の続きを志願してくる。

 

面白い誘いだが、この後は予定があるからな。

 

「すまないが、次は俺とリーカが模擬戦をするんだ、同格同士でやり合うのも悪くない。」

 

「貴方程のパイロットと同格って、私そこまでじゃないよ・・・?」

 

何を言う。

リーカの腕はこの俺が良く知っているさ。

 

新型機のテストパイロットに成れるだけでなく、高性能可変機を手足のように操れるだけの実力は、アメノミハシラ幹部の中でも高位に在ると見て良い。

 

だからこそ、その腕を買っている事は、紛れもない俺の本心であった。

 

「そんな事は無い、君はセシリアとシャルと同格なんだ、俺達に近いパイロットってのは間違いないだろ。」

 

「もう、煽てるのが上手なんだから。」

 

俺の褒める言葉がまだむず痒いか、リーカは苦笑しながらも俺を小突き、さっさと愛機へと乗り込んでいく。

 

さてと、相方がやる気になったんだ、俺も行かないとな。

 

「ま、そういう訳だ、第二戦闘配備のまま、見学しておけ、ここは常に狙われているからな、機を抜くんじゃないぞ。」

 

部下たちに指示を下し、俺はヘルメットを被り直してストライクSへと乗り込むべく動く。

 

最近は10機ロールアウトしたヤタガラスの内、ソキウス用に調整されていた機体を拝借し、5人の新兵を鍛える事に重点を置いてMSに乗っていたからな、自分の機体に乗るのは実に10日ぶり、オーブでの戦闘以来だ。

 

「ハロ、システムチェック、今回は機体の調整を行いながら模擬戦を行う、付き合ってくれるよな?」

 

OSの調整を行いながら第2の相棒であるハロに機体のシステムをチェックするよう声を掛け、

 

『シ~ンパ~イナイサァ~!!』

 

少し電子音声の音程が高かったような・・・、プログラムが少しバグったか?

まぁ、気にすることじゃないか・・・。

 

そんなくだらないことを考えている内に機体はカタパルトへと運ばれていく。

 

『閣下、お先にどうぞ。』

 

「ウチの空気にずいぶん染まった事で・・・、まぁ、いいだろう。」

 

リーカの軽口に、今はここを空けている玲奈の面影を見たが、そんなこともまた些末なことだ。

 

『進路クリアー、システムオールグリーン!AS-GAT-X105 ストライクS、発進どうぞ!』

 

「了解、織斑一夏、ストライクS、発進する!!」

 

いつもと同じように漆黒の宇宙へと飛び出し、いつものようにマニューバを確かめるように機体を操作する。

 

「相変わらず良い調子だ。」

 

ジャックを筆頭とする整備士たちの腕に感服しながらも、俺は相方が来るのを待った。

 

この、相手を待つ時間も精神統一の一つだと考えれば案外悪くもないものだ。

 

『リーカ・シェダー、プロトセイバー、GO!』

 

しかし、それもすぐに終わったようだ、薄桃色の装甲色に調整されたプロトセイバーがMS形態のまま飛び出してくる。

 

俺が乗っていた時、速度重視では無く、機体の安定を優先した調整を行ったための装甲色だが、奇しくも彼女のパーソナルカラーと合致していたのは出来過ぎだろうな。

 

まぁ、俺のストライクSも、俺の好みの出力に合わせたらパーソナルカラーである白になっただけだけどさ。

 

『お待たせ一夏、条件はいつもので良い?』

 

「あぁ、問題ないよ、いつでも始めてくれ。」

 

いかんいかん、模擬戦するんだっけな。

 

気を引き締めつつ、リーカが配置についたことを確認し、俺は両腰のホルスターからビームピストルを引き抜き、いつでも攻撃に移れるように構える。

 

それに反応し、リーカもライフルを構え、警戒するように表情を引き締めた。

 

「君と実際に戦うのは、そういえば初めてだったな。」

 

『そうだったね、何時もはセシリアたちと戦ってることの方が多かったわね。』

 

俺とリーカもそれなりに付き合いはあるが、俺はコートニーや宗吾と、リーカはセシリアやシャルと戦うことの方が多かった。

 

だが、共に戦線を張った事もある間柄だ、手の内は熟知している。

手練れを相手にする時は、いかに模擬戦でも気を抜けば死が隣り合わせにある事を忘れてはいけない。

 

まだ、死ぬわけにはいかない、からな・・・。

 

「では、セシリアとシャルが認める腕、俺にも披露願おうか!」

 

『望むところよ!!』

 

俺がピストルの銃口を向け、ビームを撃つよりも早くリーカは機体を動かし、俺の背後を取るべくプロトセイバーの機動力を動かす。

 

良い動きだ、無駄の少ない機動で相手の背後を取る、一騎打ちにおける先手を取るためのセオリーだ。

 

「さすがに速いな!」

 

だが、それはMS乗り、いや、戦人にとっては至極当然の事でしかない事は分かっている。

 

だからこそ俺も動き、背後を取り返そうと機体を動かす。

 

ストライクSの性能をフルに活かし、プロトセイバーに向かって行く。

 

あちらは速度の出る機体だ、ならば、こちらは小回りを優先させて攻めればいい、それで対抗できる。

 

それに、負けるのは気に喰わないんでな・・・!

 

フットペダルを踏み込み、プロトセイバーが向ける銃口を蹴り飛ばし、ビームピストルで牽制射撃を行う。

 

『くっ・・・!そっちもやるね・・・!!』

 

弾かれたプロトセイバーの体勢を立て直し、浴びせかけられるビームを躱しながらも、彼女は機体を縦横無尽に動かし、俺の死角を狙ってくる。

 

良い手だ、だが、その攻め方は俺が何度もやって来た事だ、対処法も、自分の死角も承知済みだ!!

 

「甘いっ!」

 

死角にプロトセイバーが入った瞬間に後方宙返りし、撃ち掛けられるビームを回避しながらも、その流れの中でレールガンを発射する。

 

『きゃぁっ・・・!?』

 

それは狙い違わずにプロトセイバーの右腕に直撃、握られていたビームライフルを弾き飛ばす。

 

「まずは一本!!小手有りだ!」

 

『くっ・・・!嘗めないでねっ!!』

 

リーカはビームサーベルを展開、こちらに接近戦を仕掛けてくる。

 

俺の得意な近接戦を挑む辺り、挑戦者の心持にいるんだろうな、だが、それを蹴る程俺は鬼じゃない!

 

「そう来なくちゃな!!」

 

『勝負よっ!!』

 

負けじとアスカロンを二本とも抜き放ち、プロトセイバーと切り結ぶ。

 

此方は旧式の改修型、あちらは最新鋭実験機、パワーの差はあまり無いらしいが、格闘戦のノウハウがあるのはこちらだ!!

 

一気にスラスターを吹かしつつ、プロトセイバーを押し込んで行く。

 

『こ、こっちが押し込まれてる・・・!何て腕なの・・・!?』

 

「それはこっちのセリフだ・・・!」

 

俺が本気出してるのに、少しずつしか押し込めないだと・・・!?

 

流石、元ザフトのエースだ、アメノミハシラ大幹部に比肩しているとは恐れ入る!!

 

「だが、格闘戦では負けんよ!!」

 

近接戦闘は俺の領域だ、そこで負けるなど、名折れも良いトコロだ!!

 

対艦刀を滑らせるように動かし、受け流す様にしてプロトセイバーの体勢を崩し、回し蹴りをその背に叩き込む、

 

『きゃぁっ・・・!?さ、流石に格闘戦じゃ勝てない・・・!!』

 

近接戦を挑むのは不利と即座に判断し、彼女は機体をMA形態へ変形させ、圧倒的な加速で俺を攪乱し始める。

 

「流石に速い・・・!これはマズイかな・・・!?」

 

如何に小回りが利くとは言え、MAの加速力は如何にストライクSでも追いつけない速度を叩きだす。

間合いに捉える、そのタイミングを計る事さえ、相手が超一流のパイロットでは難しいのだ。

 

良いぜ・・・!それでこそ俺が模擬戦の相手に選んだだけはある。

だからこそ、負けられん、彼女の腕に応える為にも、俺は見せなければならないんだ!!

 

小回りに劣る対艦刀を戻し、ビームナイフを展開、MAでは追い切れない程に縦横無尽に動き回り、的を絞らせない様にする。

 

その分身体に掛かる負担は増えるし、並のパイロットならレッドアウトしかける勢いで動く。

 

だがこれで、この方法でMAの欠点である、直線機動しか出来ないと言う弱点をあぶり出し、こちらから攻めやすいように誘導する。

 

『嘘でしょ・・・!?あんな無茶な機動、身体が堪え切れる訳・・・!?』

 

「生憎、俺の身体は無駄に頑丈でね・・・!この程度の機動で、潰れる訳がねぇ!!」

 

完全に動きを乱したプロトセイバーの死角に回り込み、一気に決着を着けるべく機体を操った。

 

『し、しまった・・・!?」

 

「これで、チェックメイト・・・!!」

 

終わらせようとした、まさにその時だった。

ストライクSのコックピットに緊急通信が入る。

 

「なんだ・・・!?こんな良い時に・・・!!」

 

折角の勝負に水を刺された心持になったが、通信の内容的に考えて重要な事に他ならない。

苛立ちを内心に抑え込み、俺はその通信を開く。

 

『御大将!!まずい事になった!!』

 

「何があったルキーニ!?」

 

ルキーニがこうも焦って俺に連絡してくるなんて・・・!

 

まさか、ミナ達の身に何か・・・!?

 

『ザフトの特務隊がアメノミハシラを狙って接近中だ!!もうすぐ近くまで来ている!!』

 

「何だと・・・!?」

 

ルキーニの情報網を掻い潜ってこの城に攻め込むだと・・・!?

しかも特務隊だと・・・!?

 

なんてこった・・・!特務隊クラスの敵なんて、幹部の大多数が出払っている今、追い払う事すら出来ないかも知れんな・・・!!

 

「ちっ・・・!管制室」

 

『はい、閣下!!』

 

だが、このまま何もしない訳にもいかん。

急遽開いた回線にも、オペレーターは慌てる事無く応じる。

 

「全隊にスクランブルを掛けろ!!ザフトの艦隊が接近している!」

 

『了解しました!こちらも広域センサーで感知!残り3分で有効射程に入ります!!』

 

3分か・・・!一体そんな近くに来るまで何故気付かなかったのか・・・!

 

その方角へ目を向けると、MSのスラスター光らしき光も向けられ、向こうもこちらを捕捉している事が窺えた。

 

「まさか、ミラージュ・コロイドでの慣性航行で近くまで来ていた・・・!?」

 

なんて古典的でめんどくさいやり方で来たんだ・・・!

一杯喰わされたぜ・・・!!

 

しかも、総帥以下幹部の大半が掛けている時に来るとは、デュランダルは相当嫌な手を知ってやがるぜ・・・!

 

「リーカ!俺達で先行して敵を食い止める!」

 

『う、うん・・・!!」

 

だが、嘆いてばかりいられない・・・!

俺達の家は、俺の手で護ってみせる!!

 

ストライクSのフットペダルを踏み込み、MA形態のプロトセイバーを追ってザフト軍が迫る方へと機体を急がせた。

 

数はざっと一個中隊規模、か・・・!

ちょいと厳しいかもな・・・!

 

「リーカ、死ぬなよ・・・!コートニーに顔向けできんからな・・・!」

 

『なにそれ・・・!閣下を死なせる方が、皆に顔向けできないよっ!!』

 

良く言うぜ・・・!

 

その返しに苦笑しながらも、俺は機体の速度を上げて突っ込んで行く。

 

会敵まで残りわずかとなった時だった、それは唐突に訪れた。

 

『聞こえるか、アメノミハシラ元帥、織斑一夏・・・。』

 

「『ッ・・・!!』」

 

その声は、俺とリーカに衝撃を与えるには十分すぎる程だった。

 

「なんで・・・!?」

 

『どうして・・・!?』

 

その声は、俺達にとっても大切な男の声・・・!

俺の・・・、俺の・・・!

 

『こちらはザフト特務隊≪ミスティルティン≫隊長、コートニー・ヒエロニムスだ・・・、即刻、アメノミハシラは武装解除しろ・・・!』

 

その声と共に、青い装甲色を持ったガンダム、インパルスタイプのMSが急速に迫り、俺達の目の前で停止する。

 

「『コートニー・・・!!』」

 

俺の親友であり、リーカの大切な人、コートニーだった・・・。

 

sideout




次回予告

予期せぬ友との望まぬ再会に、一夏の銃口は精彩を欠く。
しかし、それが彼の甘さでもあった・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

墜ちる白

お楽しみに~


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墜ちる白

御無沙汰しています。

四か月以上もお待たせしてしまい申し訳ありません。

ウルトラマンの方で鬱展開が一区切りついたので、今度はこちらの番ですね(黒笑)


noside

 

「何故・・・、何故なんだ・・・!?」

 

地球衛星軌道上、アメノミハシラがある宙域にて、ザフト軍と接触した白亜のMS、ストライクSのコックピットで、一夏は考えもしなかった展開に理解が追い付いていないのか、困惑の声を上げた。

 

その表情は、彼の部下が見れば愕然とするような、らしくも無いほどに取り乱したように冷静さを欠いている様にも見えた。

 

驚愕のあまり目は見開かれ、唇は小さく震えていた。

 

それだけ、彼は今の状況を受け入れる事が出来ていないのだろう。

 

「なぜお前がここにいる・・・!コートニーッ・・・!?」

 

「・・・。」

 

一夏の血を吐く様な問いにも、コートニーはただ押し黙るばかりだった。

 

応えたくとも応えられない。

雰囲気がそう物語っていた。

 

「もう一度警告する、アメノミハシラは即刻武装を解除、全面降伏を要求する、応じなければ、武力を以て対処させてもらう。」

 

張り詰めた空気の中、それ以上を問われたくなかったか、コートニーは警告文を読み上げるかのように、努めて機械質に告げた。

 

その様子に、一夏はデジャブを覚えた。

 

まるで一緒なのだ。

嘗て、自分自身がそうであったように、自分自身を器と、人形と仮定した時と、まるで同じだった。

 

痛みも何も感じない様に心を何処かへ追い遣った、あの虚ろな自分の姿と、今のコートニーがダブって見えたのだ。

 

「やめろ・・・!やめるんだ、コートニーっ・・・!!その先に行くんじゃない!!」

 

その先に、その果てに何が待つか、身を以て知っているからこそ、彼は無意識にフットペダルを強く踏み込み、目の前の機体に迫った。

 

止めなければならない、自分の友が、自分の犯した罪に近い事をしようとしている、それを成そうと心を捨てようとしている。

 

それだけは、何としてでも止めなければならなかった。

 

「要求が拒否されたとみなし、攻撃を開始する・・・。」

 

その行動を見て取ったコートニーは、自身の蒼き機体、デスティニーインパルス3号機を動かし、それを迎え撃つ。

 

「チッ・・・!リーカ!君は防衛部隊の指揮を執ってくれ!コイツは俺が説得する!!」

 

答えが帰って来なかった事に歯がみしつつ、一夏は相方へ指示を飛ばし、アメノミハシラを護る様に伝える。

 

「で、でも・・・!」

 

「今の君ではアイツには勝てない!!早く行け!!』

 

今のコートニーの危険性を理解しきれなかったリーカが声を上げるが、一夏はそれを制して一人でデスティニーインパルスへと向かって行く。

 

今の彼女に、恋人の変わり果てた姿を見せたくないと言う想いもあっただろうが、それでも、彼は一人で対処せねばならない問題だった。

 

デスティニーインパルス

型式番号はZGMF-X56S/θ

ザフトのセカンドステージ機であり、パック換装による万能性を持ったインパルスに、フォース、ソード、ブラストのシルエットを、ストライクのI.W.S.P.のように一纏めにして完成したデスティニーシルエットを装備させた機体である。

 

また、チェストフライヤーにも、肘部にビームブーメランが追加され、両腕部にはビームシールド発生基が新造されるなどの改修が施されており、機動力、火力、近接格闘能力の全てにおいて、インパルスの各シルエットのそれを上回っている。

 

更なる新型の開発の為に、セカンドステージ機の中でも特に性能が高かったインパルスがベースとなり、実験機として計4機が開発されている。

 

だがそれだけではない。

コートニーが駆るデスティニーインパルス3号機は、一夏のストライクやストライクSから得た戦闘データを余す事無く使用しており、単純な戦闘能力はそれこそ、ストライクSの完全上位互換と言っても過言ではない領域にあった。

 

それを、元から特務隊長レベルにあったコートニーが使えばどうなるか、その結果は想像に難くはない。

 

親友を止めようと必死で機体を動かしながらも、牽制としてビームピストルで撃ち掛けるストライクSの攻撃の悉くを、デスティニーインパルスは僅かに機体を動かすだけで回避、ビームライフルを連射しながらも一気に距離を詰めていく。

 

「こ、この動き・・・!まさか、俺のッ・・・!!」

 

自身の動きの幾つかがフィードバックされている事に気付いたのだろう、一夏はデスティニーインパルスの機動に歯がみする。

 

贔屓目抜きにしても、ストライクSは核動力機を除けば最高峰の性能を持つ機体だと断言でき機体である。

だが、それ故に、敵が戦闘で得るデータの質も必然的に良質な物になる。

 

それを与えたのは、コートニーのため良かれと思ってやった自分自身。

 

それが今、自身の首を真綿のように締め付けていると考えると、一夏はどうしようもなく歯がみしたい心持になった。

 

「なぜなんだコートニー!!何がお前をそうさせる!?」

 

周囲のザフトMSの動きと、守備隊に先じて戦線を開いたリーカの様子に気を配りながらも、一夏はデスティニーインパルスの動きに追い付くべく、ストライクSを操る。

 

一夏とコートニーの技術的な差はほとんど無く、寧ろ、得意とするスタイルも非常によく似ている。

 

だが、今のコートニーは、一夏がかつてそうであったように、心のリミッターが外れかけている事が窺える。

 

その証左に、一夏の動きの先の先を読み、無駄のない動きでフラッシュエッジによる投擲を行い、回避する先々へビームライフルによる攻撃を仕掛けていた。

 

無駄のない、あまりに冷たい攻撃に、一夏は一気に自身の最大レベルによる警戒を持ち、アスカロンを抜刀、機体の限界を無視した機動で射線を回避、一気にデスティニーインパルスとの間合いを詰めていく。

 

それを見て、小手先だけで落とせない事を元々知っているからか、エクスカリバーを抜刀し、接近に備える。

 

「答えろ!コートニーっ!!お前が何故この城を落とそうとする!?」

 

一夏はアスカロンの一閃でフラッシュエッジを切り裂いて無効化し、ビームをシールドで逸らす様に防いだ。

 

伊達にトップガンを名乗っている程彼も鈍らでは無い、持てる力を使い、何とか凌いでいた。

 

「俺はザフトの特務隊長、議長に命令されれば、こうするのも仕方がない。」

 

「答えになっていないぞ・・・!!お前の本音を聞かせろ!!お前の夢はどうした・・・!?俺達は親友じゃなかったのかッ!?」

 

血を吐く様な一夏の問いにも、コートニーは何も答えずに対艦刀、エクスカリバーでアスカロンを受け止めるだけで、冷然と答えていた。

 

まるで、自分が言う事全てが正しく、間違っていないと聞こえる様な感触のまま、コートニーは一夏に向かって行く。

 

「アメノミハシラの思想は理解はするが、共感しない、そういう事だ。」

 

「ッ・・・!」

 

自分の言葉が届いていない、そう気付いた一夏は唇を噛み締める。

 

本当に嘗ての自分と同じ、思考も全てかなぐり捨てた修羅、その存在が目の前には存在した。

 

「だったら・・・、俺はその思想を護るために戦ってやるよ・・・!コートニーッ・・・!!」

 

修羅が相手なら、自分も何かを護るために修羅にならざるを得ない。

そう判断したのだろう、一夏は覚悟した様に呻きながらも、操縦桿を握り直し、一気にスロットルを開いた。

 

拮抗状態だった二機が、徐々にストライクSがデスティニーインパルスを押して行くように対艦刀を押し込んで行く。

 

だが、それでも一夏は勝っていると言う気がしなかった。

 

何せ、デスティニーインパルスは、ストライクSの力を受け流す様に動き、拮抗状態から離れては胸部CIWSでの牽制を行い、捌いて近付こうと動けばその先に大出力ビームが撃ち掛けられる。

 

「チィッ・・・!何ていやらしい戦い方だ・・・!」

 

実弾に強いとはいえ、PS装甲は対実弾防御力と引き換えにエネルギーを喰う代物である以上、バッテリー機であるストライクSにとってそう何度も受けたくない攻撃である事は事実だった。

 

それを知っていて、牽制として使い、本命を撃ってくるそのいやらしい戦い方に、彼は何とも言えぬ、込み上げてくる苦い何かを感じざるを得なかった。

 

そのいやらしさたるや、嘗ての自分とはベクトルの違う、相手を一撃で屠る事を目的としていた頃の自分とは違う、相手を嬲る様な戦い方だと思い知らされているようだったのだ。

 

だが、今の彼は一城の主に代わり、アメノミハシラの守護を任される身、たった一人と向き合っている訳にもいかない。

極僅かなゆとりを集中させ、アメノミハシラの動向を見やる。

 

漸く守備隊が全機発進したのだろう事が見て取れ、プロトセイバーも数機の敵MSを相手取っていたが、余裕がないのか、敵をアメノミハシラに近付けさせない事で精一杯の様子だった。

 

「コートニーッ!!人形になんかなるなっ!!」

 

その状況に歯がみしながらも、彼は叫ぶ。

その先に行ってしまえば、何時か必ず救いのない泥沼に陥る事となると、彼自身が身を以て知っている事だったから。

 

だが、コートニーは何も答えない。

 

その代りとでもいうのだろうか、次々に繰り出される剣戟に、一夏は徐々に押され始めた。

 

無理もない、彼は本気になれないのだ。

 

今のコートニーが、一番の親友が、嘗ての自分と同じく、誰かの操り人形になろうとしているのだから。

 

だが、その迷いが仇となっているのも事実だった。

 

競り負けた証拠に、右手に握られていたアスカロンが半ばから叩き折られた。

 

「くぅっ・・・!!」

 

「終わりだ・・・、一夏っ・・・!!」

 

「ッ・・・!コートニーッ・・・!?』

 

一瞬だけ揺らいだ声を聞き、一夏はまたも希望を持った。

 

まだ、彼は自分を殺す事に躊躇している、それが分かれば、自分の声は届くと。

 

だが、それよりも早く、エクスカリバーが連結され、そのまま横薙ぎの一閃が叩き込まれようとしていた。

 

「ッ・・・!!」

 

回避をする間もない。

終わる、一夏は目を見開きながらも、唇を噛み締めた。

 

死ねない、こんな所で、死ぬわけにはいかないと・・・。

 

「ダメェェェッ!!」

 

その刹那、漆黒の闇を切り裂く叫びと共に、一条のビームが二機の間を薙いだ。

 

「「ッ・・・!!」」

 

その瞬間、全く同時にストライクSとデスティニーインパルスは動き、互いに距離を取った。

 

「コートニーッ!!もうやめてっ・・・!一夏達と争う事なんてないじゃない・・・!!」

 

防衛隊が完全に出撃し、漸く加勢に動けるだけの余力が出来たのだろう、プロトセイバーが彼等の間に割り込み、リーカがコートニーに向けて叫ぶ。

 

その声は、恩人である友と恋人の間で揺れ、今にも泣きそうな程に霞んでいた。

 

「ッ・・・!?り、リーカッ・・・!?何故ここに・・・!?」

 

今になって漸くリーカの存在に気付いたのだろう、彼は信じられないと言わんばかりに目を見開いていた。

 

恋人が生きていたと言う喜びよりもまず先に、恐怖や困惑が入り乱れた、焦りに心を支配されているようだ。

 

「一夏達に助けて貰ったの・・・!だから、もうやめて・・・!私達が戦いう意味なんて・・・!議長に従う意味なんてないじゃない・・・!!」

 

自分が此処に居る経緯を簡潔に伝えながらも、剣を下ろしてくれと懇願する。

 

自分を殺そうとし、今も望まぬ戦いを強いている議長に忠を立てる必要が何処にあると。

 

「違う・・・!議長は俺に争いをさせない兵器の在り方を教えてくれた・・・!この城を攻略し、それを成す・・・!!」

 

コートニーは頭を振り、自分に与えられた命令が正しいと叫ぶ。

 

その瞳に正気は無く、盲信するしかないと言わんばかりに苦しみだけがあった。

 

「ふざけるな・・・!この城に住む奴等の生活はどうなんだよ・・・!結局、お前が使っている兵器は争いを生んでるじゃねぇか!!」

 

だが、一夏も既に冷静を欠いていた。

その言葉に、この城の主代理としての責任を刺激され、激昂した様に言葉を上げる。

 

「ッ・・・!だまれぇぇっ!!」

 

自分が行っている事が侵略に他ならないと指摘され、コートニーは絶叫に近い声を上げ、光の翼を広げて一夏に迫って行く。

 

「コォォトニィィィッ!!」

 

残ったアスカロンと自身の持てる全てを使って対抗しようと試みるが、機体の地力の差か、それとも組み込まれたシステムの差か、劣勢に立たされる。

 

「くっ・・・!これは、俺が求めた・・・!!」

 

「終わりだッ・・・!墜ちろぉぉぉッ!!」

 

そのシステムの正体に気付くが、それは状況を打開するモノには成り得なかった。

 

体勢を崩され、今度こそトドメを刺すと言わんばかりに振り下ろされるエクスカリバーの一閃が迫った。

 

だが、一夏は何とかアスカロンを犠牲にする事でエクスカリバーを弾き飛ばす。

 

「このッ・・・!!」

 

だが、デスティニーインパルスの武装はそれだけではない。

 

すぐさまテレスコピックバレル延伸式ビーム砲を展開し、隙が出来たストライクSに砲口を向ける。

 

「やめてぇぇぇ!!」

 

しかし、それ以上はしてはいけないとプロトセイバーが二機の間に再び割り込む。

 

これ以上二人が争う必要は無いと、もうやめてくれと・・・。

 

「「ッ・・・!!」」

 

一夏とコートニーは同時にそれに気付くが、既にトリガーに掛けられていた指を外す事には間に合わなかった様だ。

 

「リーカっ・・・!!」

 

撃たれるという感覚が伝わって来たからか、一夏は無意識にストライクSを動かし、プロトセイバーを強引に退かすと同時に自身の機体も射線上から退避しようと動かす。

 

だが、それよりも早く、砲口から閃光が迸り、ストライクSに殺到、機体の右腕を捥ぎ、コックピットのすぐ脇を掠め、装甲を熱量で消し飛ばした。

 

「ぐアァァァァッ・・・!!」

 

その誘爆がコックピット内で起き、一夏は咽が張り裂けんばかりに絶叫する。

 

「あぁっ・・・!い、一夏アァァっ・・・!!」

 

自分が助けられた事に、一夏が叫んでから機体が一切の動きを止めた事で、最悪の事態が起こったと理解したリーカは、半狂乱になりながらも彼の名を呼んだ。

 

だが、彼女よりも絶望していた者がいた。

 

「い、一夏・・・?そんな・・・?うそだろ・・・?」

 

コートニーは、信じられない、信じたくないと言う思いで自身の手を、親友を撃ったその手を愕然と見る。

 

自分が撃った、自分がやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分が殺した・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その過ちに気付いた時、彼は恐怖した。

 

酒を酌み交わし、笑い合った友を、この手に掛けてしまった恐怖に呑まれてしまった・・・。

 

「うそだ・・・、嘘だ・・・!ウソだぁァァァァッ!!」

 

受け入れられなかった感情が悲鳴となり、混沌の宙に溶けていくばかりだった。

 

sideout




次回予告

破れた一夏と、友を撃ってしまったコートニー。
過去と今に、二人は苦しむ。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

悪夢

お楽しみに


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悪夢

noside

 

「閣下・・・!閣下・・・!!」

 

「メディック!!ストレッチャーを速く!!飛んで来てくれ!!」

 

中破し、コックピットのすぐ脇が抉られたストライクSに、整備兵や医療班、MSパイロット達が一斉に群がった。

 

ストライクSが沈黙したすぐ後、傭兵部隊Xが救援に駆けつけたため、ザフトは分が悪いと撤退して行った。

 

デスティニーインパルスはストライクSに手を伸ばそうとしていたが、ドレッドノートイータを駆るカナード・パルスの手によりそれは遮られ、何かを思い詰めるようにしながらも撤退して行った。

 

その後、ストライクSは早急に回収され、現在必死の救出作業が行われている最中であった。

 

出撃していた隊員達や衛兵、整備士、そして、表情を一切変えられないソキウス達ですら、不安げにその様子を見守っていた。

 

「一夏・・・!お願い・・・!返事して・・・!!」

 

愛機の電源を落とす間も無く駆けつけたリーカも、涙を零しながらも、応答の無い一夏に呼びかけ続ける。

 

自分を庇ったせいで、恩人を喪うなど、到底堪えられるモノではない。

 

本来ならば、自分が撃たれていた筈。

それを庇った一夏が傷付いてしまったのだ、何も思わないはずが無かった。

 

「死ぬんじゃないぞ一夏・・・!今開けるからな・・・!!」

 

コードを入力し、ハッチを開けようとしたが半分ほどしか開かなかったため、ジャックは工具を使ってセーフティーシャッターを抉じ開ける。

 

熟練の機械職人のジャックの作業は流れるように進むが、それでも周囲で見守る者達には、何分も、何十分もかかっているかのような感覚があった。

 

急がなければならない。

この機体に乗っているのは、アメノミハシラの柱となる男、こんな所で死なせる訳にはいかない。

 

それに加え、彼の妻は地球に降り立っている。

こんな所で死なせてしまっては、彼女達に顔向けができないのだ。

 

戦闘が終了してから既に十分ほどが経過しており、生存率も著しく低下する時間となっている。

 

最早間に合わないのではないかと言う空気が蔓延しはじめるが、その手が止まる事は無かった。

 

そして、シャッターがこじ開けられ、人がしっかりと通れる程に広がった時、彼等の視界にそれは飛び込んで来た。

 

『ッ・・・!!』

 

それを見た者は皆、青ざめたまま何も言えなくなる。

 

パイロットスーツのあちこちにはおびただしい数の破片が突き刺さり、尋常でない程に流れ出る血がシートや計器類を染めていた。

そして、誰もが言葉を失ったのは、彼の右腕が元の形を留めないほどにへしゃげ、有り得ない方向へ向いている事だった。

 

恐らく、至近距離で何かの機器が暴発し、彼の腕とその周囲を抉ったのだろう。

パイロットスーツの防御力も、万能ではないのだから。

 

「そんな・・・!閣下・・・!!」

 

「俺達は・・・、何も出来なかったんですか・・・!?」

 

その凄惨な光景を目の当たりにし、自身も戦闘の際に負った傷を抑えながらも、ガルドとファンファルトは、自身達を拾ってくれた恩人の今の有様を受け入れる事が出来なかった。

 

自分達が加勢していれば、彼はこの様な事にはならなかった筈だ。

 

それなのに、自分達は何も出来なかった。

それが、何よりも悔しかった。

 

「あぁ・・・、そんな・・・、一夏・・・。」

 

自分のせいだ。

自分のせいで彼は・・・。

 

絶望したリーカは、虚ろな目で、膝から崩れ落ちた。

 

自分のせいで、一夏は死んでしまった。

その現実を受け入れる事が出来なかったのだろう。

 

もう手遅れ、誰もが一夏が死んだと理解し始めた、まさにその時だった・・・。

 

「ぅ・・・こ・・・、と・・・」

 

『ッ・・・!?』

 

不意に一夏の左腕が動き、うわ言のように何かを小さく呟いた。

 

小さく掠れながらも、何処か鬼気迫る様に感じられたのは、彼の心の声そのものだったのだろう。

 

全員が信じられないと言わんばかりの表情で、彼の言葉と動きに釘付けとなる。

 

何せ、死んでいてもおかしくないほどの傷を負った者が、まだ戦おうと動いているのだから。

 

「ぃ・・・、ぁ・・・。」

 

まるで、まだ戦わんとしているかのように、その手は操縦桿へ伸ばされようとしていた。

 

だが、既に意識を保つ体力は無く、気力だけで動いている様なものだ、彼の手は操縦桿に届く事は無く、だらりと垂れ墜ちた。

 

「え、衛生兵・・・!早く来い・・・!!生きてるぞ・・・!!」

 

その様子に、ジャックは我に返り、近くで待機させていた衛生兵を呼びつけた。

 

すぐさま駆けつけた衛生兵の手により、一夏はコックピットから担ぎ出される。

 

だが、予想以上に身体の損傷が激しいのか、少し動かしただけでも尋常ではない程の血が流れ落ち、一目で危険な状況だと判断できた。

 

「緊急OPEだ!!輸血の準備!!ありったけの血を持って来い!!」

 

駆けつけた衛生兵の一人が叫びながらも、別室に待機する者へ連絡を飛ばす。

今すぐにでも治療を始めなければ命は無い、そう判断するには十分すぎる程だったからだ。

 

すぐさまストレッチャーに寝かされた彼は、人工呼吸器を着けられOPEルームへと運ばれて行った。

 

「一夏・・・!しっかり・・・!死なないで・・・!!」

 

それに付き添うリーカは、手を組んで神にも祈った。

 

どうか、彼の命が助かる様にと。

 

彼を想い、そして、自分の周りが壊れない事を願いながらも・・・。

 

sideout

 

noside

 

「お、俺は・・・、俺は、一体何を・・・?」

 

プラントへの帰路を辿るナスカ級戦艦の一室で、コートニーは頭を抱え、蹲っていた。

 

その表情には恐怖、後悔、様々な色が入り混じり、自分でも整理できずにいる様でもあった。

 

「い、一夏・・・。」

 

首から下げているロケットペンダントに貼られている写真に写る、黒髪の青年の名を呼び、彼は何処か救いを求めるように抱き締めた。

 

先程、彼は途轍もなく大きな過ちを、それも許されざる程に想い罪を犯してしまったのだ。

 

彼は、親友である織斑一夏を、この手で討つという罪を犯したのだ。

 

更に罪深いのは、一夏を庇った自身の恋人を殺める寸前だった事も、彼に追い打ちを掛けていた。

 

命令だった。

彼は討つべき相手を討っただけ、自分自身をそう納得させようとも、一夏やリーカ、友人の笑い声や姿が脳裏にフラッシュバックし、すぐさま血の色に塗りつぶされるという事の繰り返しだった。

 

「俺は、俺は・・・!」

 

―――よくやったじゃないか――――

 

その光景を消そうと頭を振るう彼の耳に、嘲笑う様な声が届く。

 

思わず顔を上げると、彼の目の前にいたのは、何処か不気味に歪むほど、嘲笑う様な笑みを浮かべた彼自身の顔が在った。

 

―――お前は戦争の無い世界に一歩近づいたぞ、お前の敵を討つ事でな―――

 

「ッ・・・!違う・・・!一夏達は敵じゃない・・・!!」

 

嘲笑う様な声に、彼は声を張り上げて否定する。

 

一夏は敵じゃない、自分の大切な友だと・・・。

 

―――ならばなぜ、お前は友を撃つ?それが正しいとでもいうのか?―――

 

「ッ・・・!!」

 

自分のした事を改めて突き付けられ、彼は再び絶句する。

 

そう、どう取り繕おうが結局は何も変わらない。

 

友をこの手に掛けたという、消しがたい罪は・・・。

 

―――おめでとう、お前は、立派な人殺しだ―――

 

「や、やめろ・・・!やめてくれっ・・・!!」

 

耐え切れず、彼は遂に悲鳴を上げて蹲った。

 

これまで経験した事の無い、罪の重圧に押しつぶされつつも・・・。

 

sideout

 

noside

 

同じ頃、地球にて・・・。

 

「ユーラシアでの活動は大まかに終わったな・・・、これで一仕事終えたって感じだな。」

 

ユーラシア連邦支配地域から離脱する輸送機のコックピットで、宗吾は何処か感慨深げに呟いていた。

 

元帥である一夏と、少将であるリーカを除いた総帥他、幹部4名は、連合支配地域に赴き、天空の宣言に賛同する者を募るべく、各地を廻っていた。

 

主に戦力援助を押し出しているため、強力な機体がバックにある事を示すために、彼等は自身の機体とその腕を言用いて説得に当たった。

 

大規模な戦闘にはならなかったモノの、少なくない戦闘も熟しており、連合やザフトの侵攻を凌いだ事もあった。

 

その結果と言うべきか、少数ながらも賛同者が得られ、圧政から逃れるべく抗う者達への支援も行っていける様になりつつあった。

 

つい三時間程前まで戦闘を行っていた彼等だったが、疲労の度合いはそれなりに濃く、先にオーブに戻ったミナと合流して休みたいと言いたげだった。

 

「ホント、大変だったよね~、早くウチに帰りたい・・・。」

 

待機シートに座っていたシャルロットが、パイロットスーツを半分脱いだ状態でタメ息を吐いていた。

 

かなり長い間戦闘を行っていたのだろう、機体は兎も角、パイロットである彼女達の消耗もそれなりに大きいのだろう。

 

「そうですわね・・・、一夏様、どうされているでしょうか・・・?」

 

アメノミハシラに、総帥代理として残った一夏の事を案ずる様に、セシリアは小さく呟いていた。

 

一夏は彼女達とは別行動を取っており、既に一か月は会えていないのだから、彼の事が恋しくなるのも無理はない。

 

「アイツなら大丈夫でしょ、もしかしたら、リーカとよろしくヤッてるかも~?」

 

そんな彼女を茶化す様に、玲奈は二ヒヒと笑いながらも言い放つ。

 

一夏とリーカと言う、それなりに相性の良い二人が揃っている状況なのだ、何があってもおかしく無いと言いたいのだろう。

 

「やめろ、一夏がコートニーに対して不義理な事、するはずないだろう。」

 

そんな玲奈の軽口を宥める様に、宗吾はそんな事は無いときっぱり言い放つ。

 

一夏程義理堅い人物が、自分の親友の恋人を寝取ると言う真似をしでかすはずが無い。

 

彼を信頼する宗吾らしい答えだったが、それは全員の共通認識だっただろう。

 

「ま、酒でも持って帰ってやろう、アイツもそれが楽しみだろうしさ。」

 

「マスドライバー使うのも何度目だっけか・・・。」

 

宙に上がるために用いるマスドライバーの強烈なGに酔う事もしばしばあったが、今となっては最早それも慣れっこだったようだ。

 

まぁ、出来る事なら慣れた場所にいたいと思うのは、彼等が人間であるからこそだったのだろうが・・・。

 

そんな時だった。

彼等が乗る輸送機に、通信が入ってくる。

 

「こちら宗吾、どうぞ。」

 

『神谷卿!大変よ・・・!!』

 

通信に出た宗吾の耳に届いたのは、アメノミハシラにいるベルナデット・ルルーの切羽詰まった様な声だった。

 

アメノミハシラに拾われて以降、諜報部の一員として頭角を現してきた彼女だが、このような通信をしてくる事は殆どないため、余程の案件だと察した。

 

「ベルナデットさん、どうしました?まさか、アメノミハシラに何か・・・!?」

 

宗吾の予想と同じ事を皆が考えたのだろう、全員が表情を硬いモノにしていた。

 

アメノミハシラの危機になる程の敵が攻め込んで来たコトが事実なら、一機でも早く宙に上がる必要がある。

故に、その足がある玲奈は自身の機体に向けて走り出していた。

 

『悪いニュースが二つ・・・!一つはザフト軍の攻撃を受けたわ・・・!MS隊の被害は撃墜が10・・・!』

 

「なんてこった・・・!俺達が地球に居るって分かってて・・・!!」

 

その報告に、宗吾は自分達の留守を狙われたと歯がみする。

 

総帥や幹部たちの大半が出払っており、戦力で言えば二割ほど低下している状況なのだ。

 

それを補うために傭兵部隊Xやサーペント・テールに声を掛けていたが、丁度交代のタイミングを狙われたのだと推察できた。

 

それを狙った相手の親玉であるデュランダルの手腕に、宗吾は悔し気に表情を歪めた。

 

『何とか防衛には成功・・・!でも、一夏が・・・!』

 

「一夏が・・・!?一夏がどうしたの・・・!?ベル・・・!?』

 

一夏の事に言葉を詰まらせるベルに、シャルロットは青ざめながらも問いかけた。

 

一体何があったのか。

これまでの報告から、最悪の状況が頭を過ぎっていたのだ。

 

『一夏は・・・、元帥はシェダー少将を庇って負傷・・・!現在、OPEの最中よ・・・!!』

 

「そ、そん、な・・・、一夏が・・・?負けた・・・?」

 

一夏が墜とされた事に、宗吾は現実を受け入れる事が出来なかったのだろう、その手と声は震えていた。

 

アメノミハシラの絶対的戦力となった一夏が負けるなど、これっぽちも考えていなかったのだろう。

 

その衝撃は推して測るべしだった・・・。

 

だが、それも一瞬の事、一つ大きく息を吐き、司令官の顔つきを作った。

 

「直ぐに宙に戻る、他の傭兵達にも、特に一夏と関わりがあった奴等に連絡してくれ、友の危機だと・・・!」

 

『りょ、了解しました・・・!』

 

宗吾の指示に、ベルナデットは敬礼を返し、すぐに通信を切った。

 

「(一夏・・・!死ぬんじゃないぞ・・・!)」

 

上官であり、友である一夏の事を案じながらも、彼は操縦桿を握りつつ指示を出す。

 

「玲奈!オーブにいるミナに連絡して来い!一夏が死にかけていると!!」

 

『なっ・・・!?りょ、了解よ・・・!!』

 

宗吾の指示の内容に驚きながらも、玲奈はすぐさま機体を輸送機より発進、オーブに向けて機体を奔らせた。

 

「セシリア、シャルロット、一夏は死なない、信じろ・・・!!」

 

自分より永く、嘗ての世界より一夏と共にいるセシリアとシャルロットの動揺は大きかったが、それを抑える為に、彼は自分が気丈に振舞わなければならないと己を律した。

 

自分が、彼の代わりとなってアメノミハシラを支える。

その決意が伝わって来ている様だった。

 

「(死ぬなよ・・・、一夏・・・!死ぬんじゃないぞ・・・!!)」

 

心の中で、友への祈りを捧げる宗吾の瞳には、決意にも似た光が宿っていた。

 

今度は、自分が導く番だと・・・。

 

sideout




次回予告

斃れた一夏の魂は、嘗ての記憶の旅路を辿る。
そこに、彼は何を見るか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

過去に囚われて

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過去に囚われて

side一夏

 

ここは、何処だ・・・?

 

何も聞こえない、何も見えない。

ただ、自分が何処かへと墜ちていっている様な感覚だけが酷く鮮明に理解出来る場所に、俺はいた・・・。

 

手足の感覚も無い、目を開けているのか、閉じているのかさえ分からない。

ただ、酷く疲れた様な感覚が、全身に纏わりついて来ていた。

 

俺はどうなったんだ・・・?

リーカは無事なのか?

 

コートニーは・・・?

 

そうだ、コートニー・・・。

その先に行ってはいけない・・・。

 

全てを、何もかもを失ってしまう・・・。

 

俺が味わったその苦しみを、お前が味わう事なんて無いんだ・・・。

 

そうだ・・・、こんな所にいる場合じゃない・・・。

 

皆が、皆が危ないんだ・・・。

待っていろ・・・、今、俺が・・・。

 

―――いい加減、楽になったらどうだ?―――

 

もがこうと意識を集めている中で、その声はまた唐突に聞こえてくる。

 

あぁ・・・、何を言うんだ・・・・。

俺は、帰らなくちゃならないんだ。

 

コートニーを、俺と同じ様な絶望に染めては・・・。

 

―――生きる為の言い訳が他人の事か?相変わらず、愚かな男だな?―――

 

言い訳なんて・・・、しているはずが無い・・・。

コートニーを救いたいのは。俺の本心・・・。

 

―――本心を偽るな、お前はただ、眠りたいのだろう?―――

 

そんな事は・・・、そんな事は無い・・・。

 

―――見せてやるよ、お前がしてきた事を、お前の傷を―――

 

その声が聞こえた瞬間、目の前に光景が始めた。

 

『君にね、世界を救ってほしいの。』

 

『どう救えと言うんだ?』

 

『大きな悪となって、全てを滅ぼした後に、彼に斃されて欲しいの。』

 

『彼・・・、秋良か・・・。』

 

これは・・・、まさか・・・。

 

―――そうだ、あの時の、全ての始まりの瞬間さ―――

 

そう、あの時、前の世界で一度死にかけた時に、あの女と話した・・・。

 

俺が、人形になる瞬間・・・。

 

『そう、だから二人を選んだの、君には大変な厄を押し付けちゃうけど・・・。』

 

やめろ・・・。

 

『良いぜ、俺を使え、あんたが望む世界になる様に。』

 

その先を見せるな・・・。

 

『先に地獄へ行って待っていろ、どうせすぐに、俺もそっちに行くさ。』

 

振り下ろされる刃、飛び散る鮮血だけが俺の目の前に突き付けられ、全てが克明に飛び込んでくる。

 

『なんでだ・・・!アンタはなにがしたいんだ!!』

 

秋良の声がする。

そうだ、これは・・・。

 

『実の姉を殺して、アンタは何がしたいんだ!!』

 

俺が裏切ってしまった。

選ばれたと図に乗って、傀儡になったと気付かぬままに、神の遣いだと振舞って・・・。

 

弟を、あの世界について来てくれた弟を裏切ってしまったんだ。

 

―――そうだ、お前は裏切った、今までを、そして、これからも裏切って行くだろう―――

 

やめろ・・・。

俺は、二度とこんな事は・・・。

 

こんな事をしないために、戦うと決めたんだ。

 

だから、あんなことになる前に、コートニーを・・・。

 

―――疲れただろう―――

 

え・・・?

 

―――お前はもう戦いたくないんだろう?だから、今も目覚めない―――

 

違う・・・。

 

―――良いんだ、赦そう―――

 

そう聞こえた瞬間、俺の意識はまた、闇の中へ真っ逆さまに墜ちていく。

 

―――だから眠れ、もう誰も、お前を傷付ける事は無い―――

 

ヤツの声が遠ざかって行く。

 

これが、安らぎ・・・?

 

俺の、終わり・・・?

 

これが・・・、死・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――さようなら、織斑一夏―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

sideout

 

noside

 

「リーカっ!一夏の容態は・・・!?」

 

一夏の撃墜から数日後、ミナを筆頭とするアメノミハシラ幹部5名は帰還を果たし、集中治療室の前に辿り着いた。

 

今帰ったばかりというべきなのだろう、全員が血相を変えていた。

 

先頭にいたミナは、集中治療室内を窺える窓の前に立ち竦んでいるように見えたリーカに声を掛けた。

 

集中治療室の前には、リーカのほか、ガルド等新兵5人と、カナード、アグニス、そして、ジェスの姿もあった。

 

皆、一夏と多かれ少なかれ付き合いのあった者達であり、全員が最強のMS乗りに迫っている死を恐れている様な雰囲気だった。

 

「ミナさんっ・・・!皆っ・・・!!」

 

彼等の姿を見たリーカは、堪えていた涙を再び流していた。

 

無理も無い、今の今まで、一夏が倒れた現状のアメノミハシラを護っていたのは彼女だ。

自分自身のせいで一夏が死にかけている事を気に病んでいない筈も無く、それを押し殺していた緊張の糸が、安堵で切れてしまったのだろう。

 

「一夏は、今っ・・・!」

 

リーカは嗚咽を零して身体を震わせながら、集中治療室の方を指差した。

 

『ッ・・・!!』

 

そこを覗き込んだ幹部5人は、そこにあった光景に絶句した。

 

無理も無い。

 

全身に巻き付けられた夥しいまでの包帯と、輸血のチューブ、酸素マスク。

 

だが、一番はそこでは無かった。

 

本来あるべき身体の、特に上半身の右半分の損傷がひどく、右腕の肩から下が無くなっていた。

 

「そ、そんな・・・、一夏、さま・・・。」

 

「う、嘘でしょ・・・?いちか・・・。」

 

絶対的戦力であり、以前の世界からの経験から、一夏が負けるとは思ってもみなかったセシリアとシャルロットは、夫の変わり果てた姿に、大粒の涙を零す。

 

何時もは笑みを浮かべているその端正な顔が、今は血の気も無く青ざめ、黒曜石の輝きを持った瞳は閉じられ、死んでいる様にさえ見えてしまうほどだったから。

 

故に彼女達は今、今度こそ死に別れてしまうかも知れない、そんな恐怖を感じているのだろう。

 

「あの一夏を討てる相手なんて、まさか・・・?」

 

玲奈は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべながらも、一夏に匹敵し、一瞬の隙を突いて撃破できる相手を、自分自身が知り得る限りで思い返した。

 

「ザフト・・・、だとすれば、まさか・・・?」

 

宗吾は、玲奈が思い至ったであろう相手に、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

どうか外れていてくれと、その眼にはそんな想いが見て取れた。

 

「リーカ、一夏を討ったのは、誰なんだ・・・?」

 

その嫌な予感を確かめるため、宗吾は恐る恐るリーカに尋ねた。

 

リーカを庇って瀕死ならば、それをさせたくない程の相手だったと思えたから。

 

「機体は、デスティニーインパルス・・・、パイロットは・・・。」

 

その問いに、リーカはしゃくりをあげながらも必死に言葉を紡ぐ。

 

「パイロットは、コートニー、だったの・・・!」

 

自分を救ってくれた者を、自分の最愛の人が撃つという最悪の結果、しかも両名は親友同士という悲劇を受け入れられないのかだろう、膝から崩れ落ちて声をあげて泣きじゃくった。

 

最悪の結果を齎してしまったのは、自分自身の甘さ故。

それが、彼女を苛んでいるのだろう。

 

「やっぱり、か・・・、なんてこったよ・・・、クソッ・・・!!」

 

現実の残酷さに、宗吾は壁を思いっ切り殴りつけた。

 

親友同士が叩か悲劇を引き起こした元凶への、やり場のない怒りをぶつける様に。

 

「ごめんなさい・・・!ごめんなさい・・・!私が、私が弱いばっかりに・・・!!」

 

親友の夫を傷付けてしまった事に、アメノミハシラの柱を奪ってしまった事に、リーカは血を吐く様な叫びで謝罪していた。

 

罪悪感が、止め処なく溢れる涙と共に零れ、彼女を抉って行った。

 

「謝るな、一夏はそんな事、望んでない。」

 

だが、そんな彼女の謝罪を、宗吾が遮った。

 

周囲にいた者達の、様々な想いを籠めた視線が彼に集中するが、彼はそれに構わずに続ける。

 

「一夏は、俺達の誰にも死んでほしくないと思ってる、それに加えて、自分の命なんて無いも同然とも思ってるに違いない。」

 

「「・・・。」」

 

宗吾の言葉に、セシリアとシャルロットは何も言えず、只々涙を流しているばかりだった。

 

彼の推察は間違っていない。

寧ろ、一夏の願いその物と言っても過言では無い事も知っている。

 

嘗ての罪の意識を背負い過ぎたあまり、夢を、未来さえを望めない程に自分の事を軽く見て、周囲を護る事に固執し、失う事を恐れている。

 

そして、生きる事の意味を見失ってもいる。

 

故に、彼女達は一夏が生きる事を諦めているとさえ感じているのだ。

最早、彼は目覚める事はないと、死へと向かっていると絶望しきっているのだ。

 

だが・・・。

 

「一夏が・・・、一夏が死ぬもんか・・・!必ず、必ず俺達の所に帰って来てくれる!」

 

宗吾はそれに気付いて尚、彼が帰ってくる事を信じていた。

 

根拠は無い、だが、一夏への絶対的な信頼と確信は強く持っていた。

一夏の奥底にある本当の苦しみを、一夏が撃ち破れると信じているから。

 

だから、彼は信じられた。

自分の信じる、織斑一夏と言う男を。

 

「信じるんだ、一夏は強い、必ず、もう一度笑ってくれるさ。」

 

信じているから、彼は笑えた。

それまで、自分が支えるのだとも、覚悟も出来ていた。

 

それは、一夏を支えると決めた彼にしか持ちえない、強さの形なのかもしれない。

 

宗吾の言葉に、その姿勢に、沈んでいた者達の瞳に希望と言う光が戻る。

 

ここで絶望している場合では無いと、まだアメノミハシラは狙われている。

今ここで踏ん張らねば、彼が帰って来れる筈も無いと。

 

「まずは部隊の再編から行う、機体の修復と資材の確保、傭兵達は警護の強化を依頼したい。」

 

「そうだな・・・、よっしゃ、オメェ等!やってやるぜ!!」

 

宗吾の指示に、ジャックを筆頭とする整備班は即座に了解と返し、自身の持ち場へと戻って行く。

 

先の戦いで損傷した機体も少なくない、その補修作業を再開させるためにも、立ち止まってはいられないと気付いたのだろう。

 

それと同じく、カナードを始めとする傭兵もまた、MSデッキへと踵を返して戻って行く。

 

宗吾の言葉通り、一夏の強さを知っているから。

それを信じ、彼が戻るまでここを死守する、そんな気概が感じ取れた。

 

「俺はこの事件をレポートさせてもらうよ、一夏が戦った証を、神谷卿の想いも、全部記事にして世界に伝える、信じる事の強さを、俺も信じてるから。」

 

一夏と行動を共にしていたジェスもまた、己が為すべき事の為に動く。

そこにあるのは、真実を伝えたいと言う想い。

 

彼が想う、友への敬意の形だった

 

「ありがとうジェス・リブル、頼んだ。」

 

短く言葉を交わし、ジェスもまた宛がわれた客室に戻って行く。

 

この場に残ったのは、総帥と大幹部、そして、一夏に拾われた5人だけだった。

 

他の者達と異なり、まだ打ちひしがれる者が多く、一歩を踏み出せずにいた。

 

「俺達に出来る事をするぞ、一夏は必ず帰ってくる、諦めるな!」

 

そんな状況でも、ミナでさえ俯いていた状況でも、宗吾は仲間達を鼓舞し続けた。

 

誰かが死にかけた程度で、一夏は止まらなかった。

死にかけているなら自分が救う、そんな姿勢を持っていた。

 

だったら自分も立ち止まらない。

それは、誰よりも近くで彼を見て来た宗吾だからこそ持ちえた、一種の気概だった。

 

彼は、一夏から直接与えられた、一夏の白と対を成す黒のマントをはためかせながらも踵を返し、格納庫への道を歩いた。

 

そこにあるのは、彼が理想とする男の強さが現れており、自分に付いて来いと言わんばかりの凄味が有った。

 

そこに一夏の背と同じ物を見たか、ガルドとファンファルトは彼を追った。

 

自分に出来る事を成すために。

それが、自分達を救ってくれた男への忠義の形だと信じて・・。

 

sideout

 




次回予告

彼は何を想い、何を成して来たか。
それを知らずとも、宗吾はそれでも彼を信じた。
それが、前に進めるきっかけと信じたから。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

信じること

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信じること

side宗吾

 

「こりゃまた・・・、相当酷くやられたもんだな・・・。」

 

集中治療室前からそのままの脚で格納庫に出向いた俺の目に飛び込んで来たのは、一夏の愛機、ストライクSだった。

 

戦場に煌めくかの如く舞う白く気高い機体は、今や見る影も無く鉄の床に横たえられていた。

 

右腕は完全に消え失せており、特にバイタルエリア付近の被害が酷く、コックピットの右側はPS装甲が完全に無くなっている状況だ。

ストライカーに至ってはバイタルエリア付近の被弾を受けて大破、最早使い物にならない状態だった。

 

「あぁ・・・、本体は兎も角、ガルーダは御終いだ、レストアのしようもねぇ。」

 

俺の横でそれに頷いたのは、アメノミハシラの職人親父として名の通るジャックさんだった。

 

彼は一夏を救出した後、独自に戦闘データの解析や機体の修復を試みていたらしい。

 

相当なショックを受けた筈なのに、それでも自分の仕事を疎かにしない職人気質には頭の下がる思いだ。

 

そのおかげでブラックボックス内にあった戦闘データは何とか取り出す事には成功し、現在は解析も進んでいる。

 

だが、肝心の機体修復作業は遅々として進まなかった。

 

何せ、コックピット周りだけでは無く、デスティニーインパルスの戦闘の際に一夏が行った無茶な機動に付いて行けなくなった部位が悲鳴を上げている状況なのだ、最早新たに造り直した方が早いとさえ思われるほどだった。

 

彼の機体の操縦法は機体の柔軟性に物を言わせた強引かつ関節稼働部を限界までに活用して行う無茶苦茶な動かし方だ。

調整がうまくいっていたとしても、戦闘の度に微細な調整を要されるほどだった。

 

しかし、今回の相手は一夏と同等かそれ以上の戦闘技術を持ったコートニーと、ストライクS以上のスピードとパワーを持ったデスティニーインパルスだったのだ。

 

彼は、コートニーを引き戻すために持てる力の全てを、いや、限界を超えた力を引き出そうとしていたに違いない。

 

故に、機体に絶大な負荷が掛かり、デスティニーインパルスの最後の一撃が楔となって、機体を再生不能に追い込んだと推察できる。

 

それは良い、だが・・・。

 

「生憎だが、ストライク系列を新造できるパーツは残っちゃいねぇ、あっても、イージスを解体した時のパーツしか流用出来ねぇよ。」

 

既にヤタガラスを始めとした新型機の量産体制に入る前段階に来ており、一からストライク系を作り出すパーツなど残ってなどいない。

 

仮に残っていたとしても、それは玲奈がイージスシエロに引き継がなかったパーツだけであり、とてもではないがストライクとの互換性は低く、使い物にならない。

 

PS装甲部材はジャンク屋を当たれば入手可能だったが、X100系フレームを構成する部材が不足していたのだ。

 

アストレイ系に用いられるフレーム部材よりも強度の高いモノは現在アメノミハシラには無かったため、建造が不可能だった。

 

故に、考えられる手は二つに一つ。

ストライクSを廃棄し、他の所から機体を引っ張ってくる事。

もう一つは、ストライクSを修繕する事になってくる。

 

「だが、一夏が万全になったとしても、今のコートニーにこの機体で勝てるだろうか・・・。」

 

しかし、ストライクSが完全な状態に直されたとして、一夏が復活を遂げたとして、彼と同等の技量を持つコートニーが駆る、ストライクSを超える機体に勝つ事が出来るだろうか。

 

如何に一夏が強いとはいえ、相手は修羅へと墜ちかけている存在、真面にやり合って勝てる可能性は極端に低くなるだろう。

 

情けない話だが、俺にそれを止められる技量も無いし、領域にもいない。

 

コートニーも友達だから、何とかして止めたい想いはあっても結局は一夏に頼らざるを得ない自分が本当に嫌になる。

 

「何を悩んでいる、このままにしておく必要など何処にも無い。」

 

自己嫌悪に陥りつつあった俺を叱咤するかのように、背後から声が投げかけられた。

 

その声に振り向くと、透き通るような銀の髪を持った少年、火星からの客人であるアグニス・ブラーエが険しい顔で俺達の方に歩み寄って来ていた。

 

「ミナとの会談は終わったのですか?アグニス代表?」

 

オーブで知り合った一夏からの招待を受けて、ミナとの会談をセッティングしたらしいが、仲介人である彼が倒れてしまった今、ミナとの会談も短縮されたと言う事か・・・?

 

「アンタの方が歳は上だろう、堅苦しい言葉はいらないさ。」

 

「そりゃ助かる、慇懃無礼は肩が凝るんだ。」

 

一夏なら上手くやるだろうが、俺には出来てないな。

アグニスもそれを見越して、いつも通りで良いと言ってくれたんだろう。

 

「この機体には、一夏にはしてやられた、俺のデルタの3度の負けの、二回目を着けた奴だった。」

 

中破したストライクSの装甲に手を這わせながらも、しみじみと呟いた。

 

それだけ、彼の中でこの機体の印象が強かったのだろうか・・・?

 

「俺が負けたのは、一重に俺の未熟だが、この機体と一夏が負けたのは、相手が力量以上の性能を持っていた事に他ならん、そうでなければ、一夏が負けるはずなど無い。」

 

「それは・・・。」

 

純粋に驚くしかなかった。

俺達よりも遥かに短い関わりの中で、彼は織斑一夏の力量を、機体の凄まじさを理解していた。

 

「相手と同等の速ささえあれば、一夏は必ず勝つ、だが、彼は今それを準備できない、動けるのは、今起きてる俺達だけだ。」

 

「それは・・・。」

 

何か確信があるのか、彼は雄弁に語る。

 

一夏は強いと、何のためらいも無く、自分が見て来た織斑一夏を語り、彼が出来ない事、自分達が出来る事を口に出した。

 

「俺達は、一夏に力を与えてやれる、この機体を、新たに生まれ変わらせてやるんだ。」

 

「何・・・?」

 

一体何をどうするつもりなのだ。

ストライクタイプを新造する余裕はないが、改修にしても今手元にあるデータだけではそれも十全とは言い難いものが有った。

 

だから、そこからどうするべきなのか、今の俺には判別できなかった。

 

「簡単な事だ、俺のデルタからデータを提供する、そこから新しく機体を創ればいい。」

 

「なんだと・・・!?」

 

まさかの申し出に、俺は理解が追い付かなかった。

 

機体と言う事は、以前彼が乗っていたと言うデルタアストレイと、現在の機体、ターンデルタという事になるだろうが、それは、最重要機密と言っても過言ではないだろう。

 

それをこうも簡単に差し出すと言う事に、驚きを禁じ得ない。

 

何故、マーシャンの彼が一夏の為にこうまでしてくれるのか、その理由が分からなかった。

 

「俺は一夏に教わった、可能性と言うモノを、運命に縛られるだけでは無い、抗う事、手を携える事も教えてくれた。」

 

俺の驚愕に説明するように、彼はぽつぽつと語り始めた。

 

「だから、俺は負けても立ち直れた、彼の言葉と姿勢、そして、俺を支えてくれる仲間がいてくれたから、俺は前に進める、それは、一夏のお陰でもあるんだ。」

 

その瞳には、決して退かぬ強い意志と、願いだけが有った。

 

何を見据えているのか、何を想っているのか、まだ俺には窺う事は出来なかった。

 

「だから、俺は一夏に借りを返すだけだ、アイツを信じているからな。」

 

その言葉と同時に、彼は俺にメモリーディスクを差し出してくる。

 

そこに記されたデータとは、恐らく一夏が望み、実現させようとしたもの、其のモノだろう。

 

俺達がするべき事は、彼が帰って来た時に再び負けない様にしてやる事。

ならば、選択肢は自ずと決まってくる。

 

だから、俺は・・・。

 

「申し出、ありがたく受け取らせてもらう、一夏の為に。」

 

メモリーディスクをしっかりと受け取った。

 

立ち止まっていられないから。

必ず戻ってくると信じたアイツを、最高の状態で迎えるためにも。

 

「頼んだ、一夏によろしくな。」

 

それを見届け、アグニスは踵を返して、自身の仲間の下へ戻って行く。

 

彼の道を歩くために、その先で、一夏を待つために。

 

「ジャックさん。」

 

俺も負けてはいられない。

俺がやるべき事を思い出せ、この城と、一夏の為になる事を成せ。

 

それが、俺を突き動かしていた。

 

「ったく・・・!勝手に話を進めやがって・・・!やってやろうじゃねぇか、手伝ってもらうぜ中将殿!」

 

「承知しました、設計と開発を同時進行させます、部材の確保も進めておきます。」

 

「おうよ、それぐらいやってくれなきゃ、名折れだぜ!」

 

ジャックさんの意気に負けじと、俺も今まで以上に力を入れて事に臨む。

 

これが、俺の一世一代の大勝負だ。

 

一夏の影を超えてみせる。

俺が、俺として生まれ変わった意味を、今、見付けてみせると。

 

sideout

 

noside

 

『神谷卿、スタンバイ完了しました、いつでも始められます。』

 

それから二週間後、アメノミハシラにほど近い宙域に、その機体の姿はあった。

 

青く輝く地球を背に、白銀に輝くその機体に乗り込むのは、アメノミハシラ軍部中将、神谷宗吾だった。

 

「了解、システムの最終チェックに移る。」

 

アメノミハシラ管制室からの通信を聞きながらも、宗吾は自分の機体では無い、最強の機体のパラメーターを再び確認する。

 

その機体は、彼の友であり、この城の最強のMSパイロット、織斑一夏の為に用意された、新しいストライクだった。

 

「ストライクSを超えるストライク、か・・・。」

 

型式番号AS-GAT-X105S ストライクSⅡ

ストライクSで得たデータと、マーシャンより齎されたデルタ系列機のデータを基に作成されたMSだった。

 

先日の戦闘で中破したストライクSを修復、改修した機体であり、本体にもマイナーチェンジが施されている。

 

また、デルタアストレイから得た光推進システム≪ヴォワチュール・リュミエール≫を使用するために、ストライカーを新造、装備する事で最速のMSと化す。

 

更に、その性能を120%発揮する為、新型ストライカーにはNジャマーキャンセラー及び核エンジンを搭載し、推進剤さえ使わなければ実質無限に稼働させる事が出来る様になっていた。

 

今回は試験運転のため、武装類は全て取り払われているが、ストライクSからの変更点をあげるならば、レールガンとビームキャノンを取り払ったため、中距離射撃手段が無くなっている。

 

尤も、コンセプト的には撃たれる前に近付き、斬り伏せると言う事を定めている為、一夏の技量と戦闘スタイルを加味すれば、マイナスと取れる程でもなかったが・・・。

 

それはさて置き・・・。

 

「フェニックスストライカー・・・、不死鳥、か・・・。」

 

そのストライカーが冠する名を呟き、彼は自分達のやっている事に自嘲せざるを得なかった。

 

一夏が蘇ると信じていても、それがいつになるかは分からない。

そして、蘇った彼に再び命を懸けさせると言う、何とも非道な行為を強いているのだから。

 

一夏に不死鳥と言う、死ぬに死ねない存在にしてしまいそうな自分達に、彼は昏い想いを抱いていた。

 

このまま、彼は目覚めない方が幸せなのかもしれない。

過去の苦しいトラウマからも、今の厳しい現実からも切り離された場所で、眠り続ける方が良いのかもしれない。

 

だが、そうだとしても、彼等には、宗吾にとっては一夏が必要だった。

 

世界の為でも、アメノミハシラの為でもない。

ただ、宗吾自身が、一夏と共に生きて行きたいと願ったからだ。

 

だから、彼は一夏に戻って来て欲しかった。

それが自己満足でしかなかったとしても、一夏に帰って来て欲しかったのだ。

 

「本当に戻って来てくれるなら、俺はこの機体を完全に仕上げてみせる・・・、俺なりの、一夏への想いだ・・・!」

 

だから立ち止まらない、その想いと共に、彼はストライクSⅡの操縦桿を握り締める。

 

「神谷宗吾、ストライクSⅡ、ミッションスタートだ!!」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!』

 

専用のポッドに収まったハロが駆れの指示に呼応し、機体のリミッターを解除していく。

 

その瞬間、機体の各所に設けられていた推進器が展開してゆき、ヴォワチュール・リュミエールの光が迸る。

 

動きを確かめるように機体を滑らせるが、その一瞬の加速は、これまでのMSを遥かに凌いでいた。

 

「ぐっ・・・!?な、なんて加速だ・・・!これはっ・・・!?」

 

自分の機体やヤタガラスのMA形態など比べ物にならない、自分自身が光になったような感覚だった。

 

だが、それとは対照的に、その身体に掛かる負担は凄まじく、宇宙空間での操縦にも拘らず、宗吾の意識を揺さぶってくる。

 

「くっ・・・!これはっ、うぉぉぉっ・・・!?」

 

ただ加速しつつ真っ直ぐ飛んでいるだけなのに、暴れ馬の様に跳ね回る感覚を抑える事が出来ず、宗吾の身体が大きく揺さぶられる。

 

呼吸が止まったと、彼が感じた瞬間、機体は弾かれた様に大きく軌道を外れ、コントロールを失う。

 

『緊急停止!緊急停止!!』

 

宗吾の意識が飛んだと判断したか、ハロがヴォワチュール・リュミエールによる加速を中止、何とか制動を掛けようとするが、その速度が緩まる事は無かった。

 

『神谷卿!応答してください!限界高度に近付いています!離脱してください!!』

 

管制室からの警告が飛び、このままでは危険だと伝えたが、宗吾からの返答は無かった。

 

意識がブラックアウトしたのだろう、機体は徐々に高度を下げて行き、大気圏への突入コースを突き進む。

 

如何にフルフェイズシフトしている機体とは言え、大気圏に墜ちて無事に済む程甘くは無い。

 

機体が重力に引かれ始め、落下の速度が上がって行く、一刻の猶予も無い、そう思われた時だった。

 

「う、おぉぉぉぉぉ・・・ッ!!」

 

一瞬の気絶から目覚めた宗吾は、唸り声をあげながらも、閉ざされていたヴォワチュール・リュミエール発生基を抉じ開け、一気に加速する。

 

制動を掛ける事もせず、只強引に上に昇ろうとする様な加速だったが、それでも本格的に掛かる前だった重力を振り切るには十分すぎる程だった。

 

徐々に高度が上がり、遂には安定軌道まで上り詰めた。

 

「ハァっ・・・!はぁ・・・!!」

 

機体が安定した事を確認し、宗吾は今度こそ制動を掛けて制止、試験終了の報告を入れて息を吐く。

 

彼の額には、酸欠によって血管が浮き出ており、尋常ではない程の汗がにじみ出ていた。

 

「なんて・・・、なんて機体だ・・・、俺には、俺には扱い切れるもんじゃないぞ・・・!?」

 

幾らG緩和剤を積んでいない状態だとしても、この加速に耐えきれる人間がどれほどいようか。

 

ナチュラルとは言え、転生して並のコーディネィター以上の身体能力を持つ彼でさえ、耐え切れずに一度は気を失い、大惨事の寸前までいってしまったのだ。

 

なんとか持ち直せたのは、一重に彼の常人離れした気力による物だろう。

 

だがそれでも、とてもではないが、人の手に余る機体と言っても過言ではないだろう。

 

「けど、これなら一夏は負けない・・・!きっと、コートニーも救えるはずだ・・・!」

 

だが、この暴れ馬を扱い切れるのは、一夏しかいないと理解していた。

 

彼ならば、この機体を十全に使いこなし、全てを救えると。

 

「だから、絶対に帰って来いよ、一夏・・・!もう一度、俺に光を見せてくれよ・・・!」

 

あの時、一夏に救われた時に見えた光、それを再び彼が見せてくれる事を信じ、宗吾は機体をアメノミハシラに戻した。

 

きっと、彼が帰ってくると信じて・・・。

 

sideout

 




次回予告

罪と罰、慰めと安らぎ。
その狭間で惑う魂は、何処へ向かうのだろうか。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

闇と光

お楽しみに


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闇と光

noside

 

「まだ、一夏の意識は戻らない、か・・・。」

 

アメノミハシラ内の病室の一角、その内の取り分け広めに誂えられた個室を訪れた宗吾は、そこで眠り続ける友へ憂いの視線を向け、歯がみしながらも呟いていた。

 

プラントとの裏取引で入手したであろう再生治療技術と、オーブが元々持っていた義肢技術を用いたため、身体の傷は深すぎたモノを除けばほとんどが塞がり、再生治療で戻せなかった右腕はロボットアームを用いた義手が新たに設けられていた。

 

だが、それでも人工呼吸器を外す事は叶わず、今でも生きているのか死んでいるのかも分からぬ状態が続いていた。

 

既に一夏が倒れて2ヶ月近くが経とうとしていたが、彼が目覚める気配は一向に無く、寧ろ、その魂さえ感じる事が出来ない程に、眠りは深かった。

 

彼の妻であるセシリアとシャルロットは、表面上は大幹部としての立ち振る舞いをしていながらも、目に見えて気落ちしている事が窺えるほどだった。

 

彼女達もまた、一夏に依存していたのだろう、その憔悴っぷりは、宗吾自身見ていてつらいものが有った。

 

「何処にいる・・・、一夏・・・、俺の声、聞こえてるだろ・・・?」

 

ベッドサイドに備え付けられた椅子に腰掛け、宗吾は目の前に横たわる彼に声を投げた。

 

お前は今、何処で何をしているのだと。

自分の声が聞こえているのならば、答えて欲しいと。

 

彼が倒れてから、宗吾は彼に代わってアメノミハシラの運営を行っていた。

ロンド・ミナは彼が倒れて間も無く、再び地球へと降り、幹部を除いたMS隊の数名を連れて天空の宣言の名の下に活動を行っていた。

 

そのため、実質今のアメノミハシラを管理し、護っているのは宗吾に他ならなかった。

 

だが、所詮宗吾はスーパーエースとは言え一介のパイロットでしかなかった。

一夏の様にパイロットでありながらも、指導者の如く政治策略を熟し、尚且つ関わる者全てに影響を与えるカリスマ性を、彼は持ちえていなかった。

 

それを承知の上で、彼はこの一か月半以上の時間を、アメノミハシラの幹部としての務めを行ってきた。

 

しかし、それも限界に近付いて来ていた。

 

この城に使える者達が望む指導者の姿はロンド・ミナか、一夏を捉えており、その能力を求めていた。

故に、彼は次第にプレッシャーに押し潰されそうになって行った。

 

自分は一夏の様にはなれない、結局自分が出来る事は命令を受けて戦う事だけだった。

 

命令を出す立場になって初めてその責任の重さと難しさを痛感し、自身にその適性が無い事も理解した。

 

「一夏、お前はすげぇヤツだよ、だから、もう一度俺にその凄さを見せてくれ。」

 

そして、それと同時に一夏の偉大さも理解出来たのだ。

 

どれだけ苦しんでいても、どれだけ傷付いていても、誰かの為に戦おうとしていたその偉大さに、彼は何時の間にか惚れ込んでいた。

 

故に、彼は望む、その偉大な男の下で働く事を。

 

喩え、誰に何と言われようとも、この生涯を彼に仕える事で捧げる事も厭わない、その覚悟が出来ていた。

 

その覚悟を胸に、仕事に戻るべく席を立とうとした。

 

正にその時だった。

城内に敵の接近を告げる警報が鳴り響き、メディカルフロア周辺も慌ただしい気配が包んで行く。

 

「こちら神谷、管制室、何が有った?」

 

何時もの様に海賊が攻め込んで来たのだと感じた宗吾は、内線を掴んで管制室を呼び出す。

 

何も慌てる事は無い。

ただ、何時もの様に対処するだけ。

 

そう思いながらも、彼は管制室からの返答を待った。

 

『連合軍らしき艦艇を確認!あと十分で会敵します!』

 

「了解、すぐに行く!」

 

受話器を置いた彼はすぐさまマントをその場に脱ぎ捨て、何時でも出撃できるようにしていたのだろうか、パイロットスーツ姿となって部屋を飛び出そうとした。

 

だが、何か思う処でもあったのか、出口の所でいったん立ち止まり、背後を見た。

 

その視線の先には、先程と変わらずベッドに横たわる一夏の姿があるだけだったが、彼はその姿を一瞬見詰め、改めて病室を出た。

 

彼を護る、それが宗吾の固めた決意そのモノだったに違いない。

 

だからだろうか。

彼は気付けなかった。

 

一夏の腕が微かに震えた事に、端正なその顔が、僅かに顰められた事に・・・。

 

sideout

 

noside

 

「各機、合戦用意!一機たりとも欠けてはなりません!!」

 

『了解!!』

 

一夏の眠る病室から走って格納庫に辿り着いた宗吾の耳に飛び込んで来たのは、部下に戦闘準備の号令を繰り出すセシリアの気丈な声だった。

 

そこに動揺や、夫の事を案じ不安がる様な気色はなく、ただただ純粋に、対象として自分のやるべき事を見据えていた。

 

そんな彼女の号令に、MS隊のパイロット達も表情を引き締め、自身の役目を全うすべく声をあげ、自分達の機体の下へと走って行く。

 

「セシリア。」

 

「宗吾さん・・・。」

 

宗吾は、グレイシアの下へ動こうとしていた彼女を呼び止めた。

 

もう大丈夫なのか、その言葉を呑み込み、彼は口を開く。

 

「勢いは大事だが気負いすぎるな、・・・って言っても、経験浅い俺がいう立場じゃないよな。」

 

少しでも気を紛らわそうとしたのだろうか、彼は苦笑しながらも言葉を紡いだ。

 

「御心配、お掛けします・・・、ですが、戦うべき時には戦わなければなりません・・・。」

 

「そうだな・・・。」

 

見透かされたと思ったか、彼女の表情は翳り、声のトーンも僅かに墜ちていた。

やはり、夫の事を案じているのだろう、その心中は察する事が出来た。

 

それを察し、彼は頷きながらも周囲の、幹部クラスの者達の乗機が置かれている区画へ目をやる。

 

既に先発隊としてバスターイグニートが出撃しており、その後に出撃を予定しているイージスシエロとプロトセイバーが今まさにカタパルトへと足を進めようとしていた。

 

皆、精神的支柱である一夏を欠いた状態で戦いに赴こうとしているのだ、それなりに気負っている者も中には居るだろう。

 

だが、今のアメノミハシラのトップの代理である幹部達の肩に掛かるモノはそれ以上だった。

 

部下の命もアメノミハシラそのものも護らなければならない。

それを、最大戦力2名が欠けた今の状態でどこまでやれるか、そんな不安要素が更にその重圧を重く感じさせていた。

 

「それでも、俺達は立とう、アイツが帰って来た時、笑って出迎えられる様に。」

 

しかし、宗吾はそれでも前を向いていた。

 

今がどれだけ苦しくても、それは何時か終わる時が来る。

その終わりは、一夏が帰ってくる時にこそ訪れると。

 

ならば自分達はそれまで歯を食いしばり、この城を護り抜くのだと。

宗吾は、その覚悟をセシリアにぶつけていた。

 

自分より一夏との関係が深く長い彼女に宣言しても、鼻で笑われるだけと想ってはいたのだろうが、その目は真剣そのものだった。

 

「本当に・・・、頼もしい御方ですこと・・・。」

 

彼のその強さに、セシリアは柔らかく微笑みながらも呟いた。

 

自分達を追い掛けていた者が、何時の間にか自分を追い越していた。

それを今、彼の目を見て悟ったのだろう。

 

「参りましょう、私達の家を護るために。」

 

「あぁ!」

 

その言葉で決心がついたか、セシリアは強い意志をそのサファイアを思わせる瞳に浮かべ、宗吾に促す。

 

それを受け、彼もまた愛機の下へと走る。

 

コックピットに滑り込みながらも、瞬く間に機体を立ち上げていく。

 

「システムオールグリーン!!管制室、出るぞ!!」

 

『了解しました!スキアー、カタパルトへ!』

 

管制室からの指示を受け、彼は愛機、ブリッツスキアーを動かす。

 

最早迷いは無い。

あの日、一夏に誓ったその日から、自分がこの城を護り切ると。

 

誰も死なせない。

彼の唯一無二たる、絶対の信念だった。

 

『進路クリアー!発進どうぞ!!』

 

『了解!神谷宗吾、ブリッツスキアー、行くぜっ!!』

 

決然たる意志を籠め、仲間を護る影たる機体は漆黒のボディを煌めかせて宙へと駆った。

 

彼が戦場に出て時には、既に戦端は開かれている様だった。

 

ズーム機能で追った先を駆けるイージスシエロとプロトセイバーが敵の中枢へと斬り込み、敵の連携を掻き乱している様子が窺う事が出来た。

 

流石は攪乱戦法を得意とするだけはある。

機動力を売りとする可変機の面目躍如と言った様子だった。

 

自機のすぐ脇を見れば、バスターイグニートも最終防衛ラインで待ち構えるように陣取り、長距離攻撃による支援射撃を行っていた。

 

その射撃や砲撃のすべてが正確無比で、突っ込んでいった斬り込み隊には掠めることなく、敵のMS隊を次々に撃ち落としていた。

 

いくら精神的に参っていても、その腕はスーパーエース級、並の腕前ではその懐に入る事さえできないと思わせるほどの圧があった。

 

『負けてられんな!俺も行くぜ!!』

 

仲間にばかり戦わせているわけにもいかない、自分も戦う。

宗吾の掛け声とともに、ブリッツスキアーのスラスターが唸りをあげ、一気に敵MS隊へと機体を奔らせる。

 

彼は仲間達が張る厚い防衛網を必至の思いで抜けてきた敵を一機ずつ、的確に処理していく。

 

数は前衛が減らしてくれている。

ならば自分は焦らず、堅実に敵を討てばいい。

 

その思考の下、彼は仲間達に気を配りながらも戦い続けた。

 

少し遅れて、ヤタガラス5機を従えたデュエルグレイシアも戦闘に参加、押し寄せる連合軍MS隊と交戦、圧倒的とも取れる勢いでダガーLやウィンダムを主体とする敵を、的確に撃退していく。

 

ソードドラグーンを巧みに操るセシリアの腕に掛かれば、一般的なパイロットなど最早相手にもならないと言わんばかりの、まさに無双状態とも言える活躍だった。

 

如何に物量で勝っていようとも、MS隊の練度や質で勝るアメノミハシラは簡単には落ちぬ。

 

その戦ぶりが、何よりも雄弁に物語っているのだった。

 

彼等の気迫に押されたからか、敵MS隊は徐々に散り散りとなり、撤退して行くかのように見えた。

 

それを見たアメノミハシラMS隊は気を緩める事は無くとも、勝利を確信していた。

 

何時もの様に、このまま押し勝つ、彼等がそう思った時、それは現れた。

 

ブリッツスキアーのコックピットに、突如としてアラートが鳴り響く。

 

「ロックオンされた・・・!?まさかっ・・・!?皆避けろォォォ!!」

 

長距離砲撃に狙われていると瞬時に悟った宗吾は、自軍の全MS隊に回避を促しつつ、ブリッツスキアーのスラスターを強引に吹かす事で射線から逃れようと動く。

 

その刹那、漆黒の闇を切り裂き進む、大出力ビームが迸り、彼等が居た空間を焼いて行く。

 

「なんて火力・・・!?」

 

「ローエングリン・・・!?いや、違う・・・!!」

 

敵MS隊の編隊からではの攻撃では無い事は、その直中で戦っている玲奈とリーカが一番解っていた。

 

同時にそれは、MS単体が携行できる火力では無い事も理解し、ローエングリンやそれに準ずる艦砲だと当たりを着けていた。

 

だが、テストパイロットとして様々な機体や武装、艦船を見て来たリーカはそうではないと愕然とした。

 

艦砲であるならば、そこには必ず何隻もの艦船で構成された艦隊がいる筈であり、そこから放たれたものであるならば、それは発射地点が幾つも存在するはずだった。

 

だが、今の攻撃は見間違えでもなんでもなく、一点から放たれていた。

 

それが意味するところは、今の攻撃が単機によってなされた事だと言う事・・・。

 

「連合の新型・・・!?」

 

それに辺りを着けたセシリア達もまた警戒態勢に入る。

何が出て来ても、誰一人死なせない為に・・・。

 

そんな彼等をあざ笑うかのように、それはその姿を現した。

 

「な、なに・・・!?」

 

突如として太陽光を遮るかのように差し込んだ影に、シャルロットは驚愕の声をあげ、それを凝視する。

 

並のMSの何倍もの巨体と、相手を威圧する禍々しいまでの黒、それはまるで、要塞とも、死神とも取れる風体だった。

 

「こいつは・・・!MA・・!?」

 

戦慄する彼等の前で、その巨体は全身から強烈なビーム砲撃を開始する。

 

「ッ・・・!全軍回避!!」

 

宗吾の指示よりも早く動いていたエース級は何とか被害を免れたが、避けきれなかった機体がそれに巻き込まれ、爆発光を散らした。

 

「あぁ・・・!?」

 

仲間が討たれた事に、宗吾はショックを隠し切れずに叫ぶ。

 

誰一人死なせない、そう誓ったはず菜なのに護れなかった・・・。

無力さと怒りが、彼の中で渦巻いていた。

 

「ッ・・・!幹部全機!!あのデカ物を俺達で抑え込むぞ!!」

 

『り、了解・・・!!』

 

宗吾の指示に、セシリア達幹部勢が受け持っていた敵部隊から離れ、黒い死神に向かって攻撃を開始する。

 

自分達でコイツを惹きつけなければ、アメノミハシラ自体が墜とされてしまう。

肌でそう感じ取ったからこそ、行かねばならないと悟ったのだ。

 

「か、神谷卿・・・!」

 

「我々も・・・!!」

 

ガルドとファンファルトが援護に来ようとするのを、宗吾は制止する。

 

「来るな!コイツは俺達に任せて、お前達は他の者を援護してくれ!!もう誰一人しなせない・・・!」

 

誰一人死なせない為に、このデカブツは自分達が抑える。

自分達に次いで力のある者には、他の誰かを護れる様にしてほしい、彼の心からの願いが、その言葉には滲み出ていた。

 

「りょ、了解・・・ッ!!」

 

「御武運を・・・!」

 

自分達では及ばないと解っているからこそ、彼等は唇を噛んで、それでも自分達がすべき事の為に戦線へと戻って行く。

 

護るために。

この場に居ない者達の為に、この城を墜とさせはしないと・・・。

 

「行くぜ・・・!」

 

愛機のスロットルを全開にし、彼もまた仲間達と共に悪魔へと挑んで行く。

 

護るため、もう誰も、失わない為に・・・。

 

sideout




次回予告

薄れゆく意識の中、彼は嘗ての自分を見詰めていた。
それは、彼に何を齎すと言うのだろうか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

想い

お楽しみに


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想い

noside

 

「全機散開!!」

 

宗吾の掛け声と共に、5機のアメノミハシラガンダムたちは黒い巨体を取り囲むように散開、それぞれの武器で攻撃を開始した。

 

「バスターイグニート!砲撃開始するよ!!」

 

シャルロットが駆るバスターイグニートが攻撃を開始する。

 

動きの鈍いMAは、広範囲大火力の武装を持つバスターイグニートにとっては良い的でしかない。

 

幾らご自慢の超火力を振りかざそうとも、それを制御できる自分の愛機こそ最強だと、彼女は信じていた。

 

「いっけぇぇぇ!!」

 

バスターイグニートに搭載されるすべての砲門を開き、黒き巨兵を攻撃する。

 

その圧力はまさに壁とも呼べるほどの物で、並のMSはおろか、エース級ですら回避が困難とさえ錯覚させる程だった。

 

だが、それらは全て、巨兵に届くよりも先に見えない壁の様なものにぶち当たり、無情にも霧散していった。

 

「な、に・・・!?」

 

「あれは陽電子リフレクター・・・!」

 

一切のダメージを与えることさえ出来ずに霧散した攻撃に、シャルロットは呆然と、宗吾はそれを防いだ光の壁の正体を探った。

 

その光の壁の正体は陽電子リフレクター。

連合軍が開発した拠点防衛用光波防御帯だった。

 

主に連合軍の新型MAに搭載され、過去にはミネルバが放ったタンホイザーを無力化したという実績を持つ、極めて強力な防御力を誇っていた。

 

「バカみてぇな火力にとんでもねぇ防御力・・・!まるで要塞だ・・・!」

 

その硬さに、そして掠めただけでMSを撃破せしめる火力。

それはまるで、移動要塞とでも呼ぶべき存在だった。

 

その黒い死神は、GFAS-X1 デストロイ

連合軍が開発した、巨大MAだった。

 

全身に多数の砲門を備え、主砲は艦隊すら一撃で沈める程の威力を持っている。

また、全身の装甲もVPS装甲に覆われ、その上から陽電子リフレクターやビームシールドを発生させる事で破格の防御力を有している。

 

並のMSの火力では装甲や陽電子リフレクターを突破する事は叶わず、また、並のパイロットでは回避しきれない程の面制圧を可能とする火力。

それは正に、怪物と言わざるを得ない程だった。

 

だが、その反面、火器管制は複雑化したため、特殊な調整を受けたパイロット、俗にいうブーステッドマンと呼ばれる強化人間にしか操れぬ機体となってしまった。

 

その巨体を四基の超大型スラスターで強引に浮遊させる様に動かしている為に、そこまで機敏に動いているという訳では無かった。

 

だが、今、彼等がいる戦場ではそんなハンデなどあって無い様なモノだった。

 

此処は宇宙空間、上下の感覚が失われる場所であり、それを縛る重力も無い。

 

故に、その巨体を縛る物は、地上程多くは無かった。

 

デストロイは機体を縦横無尽にロールさせつつ、全方位にビームやミサイルをばら撒く。

 

「皆避けろ!!」

 

その面制圧能力は凄まじく、回避すべく動いていた幹部達ですら全てを躱す事は困難だった。

 

「うわぁっ・・・!?」

 

「シャルロットッ・・・!!」

 

機動力が最も低いバスターイグニートが、ビームを躱し切れずに左脚部を焼かれ、大きく体勢を崩す。

 

なんとかフォローに入った宗吾は、向かってくるミサイルを撃ち落としつつ、ハービヒトネーゲルに搭載されるマガノイクタチを利用して大火力ビームのエネルギーを吸収、その効力を弱めつつトリケロスⅡで防いだ。

 

咄嗟の事とは言え、それを即座に実施できるのは彼が如何に優れたパイロットかと言う事を表していたが、それも今の状況の前では霞むモノだった。

 

「このっ・・・!」

 

「私達で・・・!!」

 

この状況を何とかしなければならない。

 

危機感に駆り立てられた玲奈とリーカの機体が、その巨体に突っ込んで行く。

 

航空機型可変機の強みを活かした高速機動で揺さぶりをかけ、相手が崩れた所を狙う心積もりだった。

 

それを実践すべく、イージスシエロとプロトセイバーの2機は乱れ飛ぶ燕の様にデストロイの周囲を駆け、的を絞らせない。

 

だが・・・。

 

それに抗すべく、デストロイは無差別に攻撃を開始、行く手を阻むかの如く嵐のようなビームが迫る。

 

「くっ・・・!」

 

「だめっ・・・!」

 

機動性はあっても、直線でしか動けないMA形態では回避しきれないと、2人は高速機動を中断、MS形態となってビームを回避し続ける。

 

取りつく島も無い。

正にそう形容すべき激しさを持った攻撃だった。

 

「ならば・・・!行きなさい、クリスタロス!!」

 

ならばと、セシリアはソードドラグーンを四基射出、ビームの間隙をすり抜けての攻撃を試みる。

 

如何に面制圧能力が高くとも、防御力が高くとも、それをすり抜ける兵装さえあればどうという事は無い。

 

セシリアの空間認識能力を駆使した、ソードドラグーンならばそれが為せる。

相手が何者であろうと、彼女は自身の愛機に絶対の自信を持っていた。

 

それを示すかのごとく、彼女の意思を受けたソードドラグーンは、その牙を突き立てるべく黒き巨躯へと迫った。

 

ビームの間隙をすり抜け、今にも討ち果たさんと肉薄する。

 

だが・・・。

デストロイもそうさせるほど甘くは無い。

 

機体の頭頂に装備される主砲を放ち、薙ぎ払う様にしてソードドラグーンを狙う。

 

「っ・・・!!」

 

途轍もなく太い光条に、セシリアは咄嗟にソードドラグーンを回避させる。

 

だが、間に合わなかった二基がその奔流に呑まれ、爆炎さえあげる事無く灰燼に帰した。

 

「取りつく島も無いっ・・・!!」

 

「こんなのどうやって相手しろてのよ・・・!!」

 

本体にも襲い掛かるビームの奔流を躱しながらも、セシリアとリーカは歯がみする。

 

MSの火力では装甲を貫く事は出来ず、その大火力の前に取りつく島も無い。

 

如何にエース級を揃えたとしても、圧倒されかねない程の圧力を持って存在している様だった。

 

勝てないかもしれない。

そんな絶望的な考えが、彼女達の頭に過ぎりかけていた。

 

「諦めるなっ!!」

 

その言葉と共に、宗吾は自分に注意を惹きつけるつもりか、ビームライフルを乱射し、デストロイを攻撃する、

 

その悉くは、陽電子リフレクターによって防がれるが、注意を惹きつける事だけは成功した様だ。

デストロイはブリッツスキアーに向けて、腕をドラグーンの様に飛ばし、攻撃を開始する。

 

それは手の甲にビームシールドの様なものを発生させながらも、ブリッツスキアーを狙う。

 

宗吾も墜とされる気など更々無いのか、巧みな機体制御で撃ち掛けられるビームの雨を躱しつつ、反撃を試みていた。

 

「俺達は必ず勝つんだ・・・!!必ず、生きて・・・!!」

 

その言葉には、その姿には、彼が追い駆けていた男の姿が重なっていた。

 

仲間の為に、友の為に、使命感に駆り立てられながらも、必死に戦い続けた彼の姿が、今の宗吾には重なって見えた。

 

「もう一度みんなで笑うんだっ・・・!!」

 

その言葉には、何よりも強い願いが込められていた。

 

「そうよ・・・!アタシも、諦めない・・・!」

 

その言葉に感化されたかのように、玲奈を始めとした幹部達も勇んで応じ、デストロイへと向かって行く。

 

大切なモノを護るために。

必ず生き残る為に。

 

歩みたい未来へと、その希望をつなげる為に・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

俺は・・・、何がしたかったんだろう・・・?

 

何もわからない。

ただ、意識がどんどん薄れゆく中で、俺は自問自答する・・・。

 

ぼんやりと、霞がかった様ながらも、鮮明に、俺の嘗ての姿が脳裏を過ぎる。

 

与えられた使命と誤解し、与えられた力を殺戮の限りに使った、何処までも愚かな男の姿・・・。

 

そうだ・・・、それは紛れもない、俺自身の姿だった

 

鮮血を浴び、切り裂いた者の首を掲げ嗤うその顔は、狂っているとしか思えなかった。

 

いや、事実狂っていた、狂っていたんだ・・・。

 

血だまりを作って尚、死体の山を気付いて尚、それでも敵を求め、殺し続けてきた、何処までも愚かな男・・・。

 

その姿は、嘗ての俺自身・・・。

今へ続く、消し去る事の出来ない、罪の全て・・・。

 

―――もう諦めてしまえ―――

 

また、ヤツの声が聞こえる・・・。

 

嘗ての俺・・・、使命に踊らされ、それを受け入れた憐れな男の声・・・。

 

ヤツは受け入れているが故に、迷わない・・・。

迷う事が無いから強い・・・。

 

今の、迷いに囚われ、鈍っている俺とは違う、純粋悪とでもいうべきどす黒さと、そこにある強さがあった・・・。

 

ヤツは、確かに多くを失った。

だが、誰も護れず死なせたわけでは無い・・・。

 

俺の様に、護れないまま、救えないまま、彼女を死なせてしまう事など無い程の強さは、確かにそこにはあった・・・。

 

―――お前は何も護れない、このまま目覚めたとて、誰も救えない―――

 

そうだ・・・、俺は、救えなかったんだ・・・。

俺を慕い、突き従ってくれた彼女を、護れなかった・・・。

 

血にまみれたシート、彼女の身体に突き刺さる大量の破片、届かなかった手・・・。

 

それら全てが、フラッシュバックしては、掻き消えていく。

取り戻せないと、取り返せないと・・・。

 

―――眠れ・・・、何も失う事の無い、微睡の中へ―――

 

もう、何も失わない・・・。

 

誰も死なない・・・、俺の、望み・・・。

それが叶うのなら・・・、受け入れてしまった方がいっそ楽なんだろうな・・・。

 

このまま・・・、何も感じる事なく・・・。

 

死を、受け入れて・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諦めるな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僅かに残った意識の残滓さえ、手放そうとしたその時だった。

 

何時か聞いた声が、俺の意識を呼び戻した。

 

誰だ・・・?

 

言葉を発する事はまだできない。

だけど、その声の主に、俺は問うた。

 

『お前は、誰よりも前に立って戦ってくれた男だった。』

 

力強い男の声が聞こえる・・・。

この声は・・・

 

雅人・・・。

 

『貴方は強かった、誰よりも、何よりも。』

 

柔らかく、優しい声が聞こえる・・・。

これは・・・、簪・・・。

 

『敵になっちゃったけど、やり方は違ったけど、貴方は何時だって前を向いてた。』

 

何処か悪戯っ子の様な、聞いてて若干腹立つ声・・・。

これは、楯無の奴・・・。

 

『だから、私達は着いて行けた。』

 

『貴方を信じる事が出来た。』

 

箒・・・、ダリル・・・、皆・・・。

 

俺を呼ぶ声に、固く閉ざされていた瞼が漸く開く。

 

その目に飛び込んで来たのは、俺が置き去りにしてしまった嘗ての友の、柔らかい笑み・・・。

 

誰も、俺に敵意など向けてはいなかった。

ただ、純粋に俺を、織斑一夏と言う一人の男を、真っ直ぐに見詰めていた。

 

そこには責めも赦しも、憐憫も称賛も無く、ただ俺のあるがままを晒せと、そう言っている様に思えてならなかった。

 

『アンタは、俺達を置いて行った事を、ずっと悔やんでいた、だから、失う事を恐れた、手に入れる事を怯えていた。』

 

怯え・・・、恐怖・・・。

 

置いて行った後悔が失う恐れを呼び、その恐れが手に入れる事と進む事への怯えを生ませていた。

 

だから・・・、俺は何時まで経っても引き摺っているんだ。

彼女の事も、奴等の事も、そして、秋良達の事も・・・。

 

『忘れろ、なんて無責任な事は言わない、だけど、もう良いじゃないか。』

 

どういう意味だ・・・、秋良・・・?

 

如何しろと言うんだ・・・?

俺はまだ何も出来ていない・・・。

 

お前も、アイツの様に諦めろと、そう言うのか・・・?

 

『過去は取り戻せない、どれ程悔やんでも、罪は拭えない。』

 

そんな事ぐらい、分かってる・・・、だから、俺は・・・。

 

『アンタは何時だってそうだ、自分の命よりも、誰かの命を重く見てる、だから、生きる意味を見失ってる。』

 

生きる意味・・・。

俺に、そんな意味があるというのか・・・?

 

裏切って、殺して、置き去りにして、何も護れなかった俺に・・・?

 

『生きる意味なんて、いくらでも思いつくんじゃないか?だってアンタには、護りたい人がいるんだろ?』

 

その言葉は、これまでの事実を突きつけるような冷淡なものではなく、優しく諭すような声色だった。

 

護りたい者・・・、俺にはまだ、護れるものがある、のか・・・?

 

『アンタは生きなくちゃいけない、置いていった俺たちのためなんかじゃない、死んだ人たちのためでもない、今、アンタと共に生きたいと願う人たちのために。』

 

俺と共に、生きたいと願う・・・。

彼らのために、生きろと・・・。

 

『そして、アンタ自身のために生きるんだ、誰かのためなんて、結局は言い訳でしかないじゃないか。』

 

言い訳・・・。

あいつも言っていた、俺が死にたくないための言い訳・・・。

 

誰かのためなんて、結局は自分を縛る鎖でしかないと言いたいのか・・・?

 

生きるための理由を、他人に求めている事は、いけないのか・・・?

 

『この声が聞こえるか?アンタを呼ぶ声だ。』

 

その言葉に、俺は顔を上げた。

 

その途端に、外の世界、現実の世界からの言葉が木霊した。

 

『信じるんだ、一夏は強い、必ず、もう一度笑ってくれる。』

 

宗吾・・・。

いや、宗吾だけじゃない。

 

玲奈、リーカ、ミナやジャック・・・、皆の声が俺を揺さぶる。

 

戻って来いと、俺を呼んでくれた。

 

皆大切な、俺の友・・・。

 

―――一夏様―――

 

―――一夏―――

 

セシリア・・・、シャル・・・。

愛しい二人の妻の声・・・。

 

優しく、だけど、祈るような声で、俺の名を呼んでくれていた。

 

そうだ・・・、俺にはまだ、大切な人達がいる。

愛すべき人が、仲間がいる・・・!!

 

『生きるんだ、アンタは、人間に戻るんだ。』

 

その言葉に、俺の意識は目覚めへと向かっていく。

闇に包まれていた景色は色を取り戻していく。

 

まるで、俺を導くように、それでいて、送り出すように。

 

『立ち上がれ。』

 

『進め。』

 

『織斑一夏!!』

 

彼らの、過去の残滓が遠退いていく。

立てと、進めと背を押して。

 

彼らはもう、俺との事なんて過去にしている。

今を、必死に生きている。

 

俺は、過去にばっかり目を向けて、それを言い訳にして今を、受け入れがたい現実から目を背けていた。

 

そうだ・・・。

俺にはまだ、やらなくちゃいけないことがある。

 

今こそ、本当に人間として生きる時だ。

 

秋良・・・、俺は進むよ。

 

我武者羅に進んで、今度こそ抗ってやる。

 

あの時の、運命を甘んじて受け入れた、弱い俺とは、本当の意味でサヨナラするためにも!!

 

「俺にはまだ、護りたい者がいる・・・!!こんなところで、終わって堪るか・・・!!」

 

握りしめた拳を、俺は空間に向けて叩き付けた。

 

その瞬間、ステンドグラスが割れるように俺を覆っていた空間がひび割れ、四散していった・・・。

 

sideout

 

noside

 

「うぉぉぉ・・・!!」

 

雨あられと撃ち掛けられる致死の光条を躱し、宗吾はブリッツスキアーをデストロイに肉薄させんと迫る。

 

アメノミハシラ幹部5人を持ってしても、デストロイの猛烈な攻撃と堅牢な防壁の前には決定打を与えることはできず、徐々に戦線を押されつつあった。

 

「なんて厄介な・・・!」

 

「近付けない・・・!このままじゃ・・・!!」

 

戦線が押し戻されているという事は、アメノミハシラに被害が及ぶ可能性が上がる事に等しい。

 

故に、彼らは焦りの表情を隠すことが出来ずに、それでも必死に抑え込もうと愛機を駆った。

 

だが、それを嘲笑うかの如く、デストロイの火線はより一層の激しさを増し、彼らを墜とさんとしていた。

 

「諦めるな・・・!俺達が弱音吐いてどうすんだ・・・!!」

 

「そうよ・・・!!諦めない・・・!諦めたくないッ!!」

 

戦況が悪化するにつれて弱気になって行く味方を鼓舞するように、宗吾と玲奈は諦めるなと叫び、黒き巨兵へと向かって行く。

 

自分達の家を護るためにも、此処で自分達が退く訳にはいかないのだ。

 

彼等の後ろに聳える城の中で眠る、彼を護るためにも。

 

だが、その意思とは裏腹に、城とその巨体との距離はどんどん縮まって行く一方だった。

 

別方面の部隊もまた、彼等の援護に回りたい所だったが、只でさえ数が多い連合軍MS部隊を相手に、一進一退の攻防を展開していた。

 

故に、少しでも気を他にやってしまえば、自分が墜とされかねない状況に繋がるために、全ての者が自分の持ち場を離れる事が出来なかった。

 

それを知ってか知らずか、デストロイはアメノミハシラへの進撃の勢いを緩める事は無かった。

 

「これ以上は・・・!やらせるかっ・・・!!」

 

決死の覚悟で火線を掻い潜った宗吾は、懐にコガラスの刃を突き立てんと迫った。

 

間合いに入ればこちらのもの。

勝機を見出した彼は、機体を奔らせる。

 

だが・・・。

 

「なっ・・・!?」

 

迫る彼の目の前で、黒い巨兵が動きを見せた。

 

下半身が突如として捻る様に反転、同時に甲羅の様な頭部が起き上がる様にして動く。

 

それは正に、変身、そう呼ぶべき動きだった。

 

そう、可変機と呼ばれる機体が持つ、MAからMSへのトランスフォーム、まさにそれだった。

 

「モビル・・・スーツ・・・!?」

 

目の前でそれが起きてしまえば、いや、圧倒的な火力と防御力を持ったMAが、更に奥の手を出して来たとあれば、如何に彼であっても愕然と竦んでしまうのも無理は無かった。

 

だが、彼が今、身を置く場所は戦場。

一秒、いや、コンマ一秒の硬直も赦されない、命のやり取りを行う場所だった。

 

MS形態となったデストロイの右腕の払いが、ブリッツスキアーに襲い掛かった。

 

「しまっ・・・!?」

 

なんとか反応し、トリケロスⅡを翳して防御態勢を取るが、相手のパワーはそのガードの上からでもブリッツを吹っ飛ばすには十分すぎた。

 

「うぉぉぁぁぁぁ・・・!!」

 

あまりの衝撃にトリケロスⅡは粉々に砕け、それでも殺せなかった勢いそのままに、ブリッツは錐揉み状態で吹っ飛んでいく。

 

「「「宗吾・・・!!」」」

 

「宗吾さんッ・・・!!」

 

幹部達がカバーに移ろうとするよりも早く、デストロイは胸部に装備されている砲門を開き、ブリッツスキアーへと向けた。

 

それはチャージを開始し、今にも迸らんとその輝きを増していく。

 

「(くそっ・・・!結局俺は・・・!誰も、自分自身さえ守れないって言うのか・・・!!)」

 

体勢を立て直そうともがきながらも、宗吾は自身に降り掛かる運命の業火を、食い入る様に睨みつける以外なかった。

 

間も無く放たれる光が自身を焼き尽くすと解っていながらも、彼が抱くのは只一つ、悔しさ、ただそれだけだった。

 

一夏の代わりを務めあげると息巻いても、結局自分は何も出来なかった。

 

仲間を護る事も、生き残る事も・・・。

 

その悔しさを胸に、彼は唇を噛み締める。

自身の命が祟れる事よりも、果たせなかった想いを・・・。

 

臨界に達した光が放たれ、彼の視界を白く染めあげた。

 

自分を呼ぶ仲間達の声が一際ハッキリと聞こえてくる。

セシリア、シャルロット、玲奈、リーカ・・・、そして・・・。

 

「諦めるな!!」

 

彼が背を追いかけていた、一夏の・・・。

 

「えっ・・・?」

 

その声に、彼は目を開け、前を向く。

 

自分を焼き尽くさんとしていた光はその進みを、何かに遮られる様にして止まっていた。

 

「ッ・・・!!」

 

その光景に、いや、その中心に見えた影に、彼は息を呑んだ。

 

「あれは・・・!!」

 

大出力ビームの奔流に抗い燃え盛る光の揺らめきを背負うシルエット。

その姿は、彼が良く知った機体のモノだった。

 

「宗吾、諦めるな。」

 

打って変わった穏やかな声に、宗吾の背筋に電流が奔った。

 

耳に馴染んだ、何処か影のある声では無い。

今は自信と使命に燃える情熱に満ち満ちた力強い声で、彼の名を呼ぶ。

 

「まだ、終わりじゃないだろ。」

 

「ッ・・・!!」

 

その光はデストロイの放った主砲を完全に掻き消し、光を背に彼と向き合った。

 

見慣れた機体、眠り続ける主を待っていたその機体は、今や白銀に煌めき、大いなる意志の下にその翼を宙に瞬かせた。

 

「俺の仲間は・・・、俺達で護るぞ。」

 

「戻って・・・、来たんだな・・・!」

 

その力強い声に、宗吾は感極まったかの様に震え、涙を零していた。

 

待ちに待った男の復活、それがこうも嬉しいのか。

彼は、歓喜に打ち震えていた。

 

「織斑一夏、ここに復活だッ!!」

 

最強の男の復活と共に、その宣言が響き渡る。

 

それは、彼の苦悩を一瞬にして打ち払う、福音の如し力強さを持って・・・。

 

sideout

 

 




次回予告

運命に抗い、挑み続ける先に待つは破滅か、それとも福音か。
目覚めた彼の目に映るは、友の姿・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

シクザール

お楽しみに


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シクザール

noside

 

「戻って・・・、来た・・・!!」

 

誰が発しただろうか、その歓喜に染まった声は、今この場にいるすべてのアメノミハシラを護る者達の心情そのものだった。

 

今も、あわや撃墜となる所だったブリッツスキアー、宗吾の窮地を救い、眩いばかりの光を纏って降臨した機体に、彼等の目は釘付けとなっていた。

 

「皆、待たせたな。」

 

その機体に乗る男、織斑一夏は以前にも増して凄味のある、どこか優しい声で宣言する。

 

待たせてしまったなと。

彼なりの言葉で、自身の帰還を仲間達に告げた。

 

「一夏・・・!お前っ・・・!」

 

一番近くにいて、護られた宗吾は歓喜のあまり嗚咽混じりに彼を呼んだ。

 

今迄床に臥せっていた彼が、今まさに目の前に立っているのだ。

彼にとっては、願ってやまぬ事だったのだ。

 

「心配かけたな宗吾、もう大丈夫だ。」

 

泣きそうな宗吾に、一夏は優しい声色で告げた。

 

案ずるなと、俺は此処に居ると。

 

「ッ・・・!!」

 

彼の言葉に、緊張の糸が解けたか、宗吾の頬を涙が伝った。

 

負って来た荷が下りた事に対する安堵では無い。

彼が帰って来た、ただそれが心の底から嬉しかったのだ。

 

「一夏様・・・!」

 

「一夏・・・!!」

 

「アンタ・・・!遅いじゃないのよっ・・・!!」

 

宗吾の無事と一夏の帰還を知ったセシリア達が、泣いている事がハッキリと判る声色で呼びかけながらも彼等に寄って来る。

 

帰って来てくれたのか、その想いが、三人からは滲み出ていた。

 

「一夏っ・・・!」

 

その輪に、リーカは入る事を躊躇ったか、少しだけ離れた場所から声を掛けた。

 

無理も無い。

自分を庇ったせいで、一夏は一時生死を彷徨うまでに陥ってしまったのだ。

 

どんな顔をして、どんな風に接すればいいのか分かった物では無かった。

 

「リーカ、君が無事で良かった。」

 

「ッ・・・!!」

 

どんな言葉が彼の口から飛び出すか、恐怖で身構えていた彼女に掛けられた言葉は、罵倒でも叱責でも無かった。

 

ただ純粋に、リーカの無事を喜ぶ、何処までも穏やかで優しい声だった。

 

責める事も無く、彼は只只管に、仲間を、友の身を案じていたのだ。

 

その優しさと想いの強さに打たれ、リーカは声にならない叫びをあげ、さめざめと泣いた。

 

今が戦闘中である事も忘れ、彼女達は一夏の帰還を心の底から喜んでいた。

 

だが、感動の再会に水を刺す、と言ったところだろうか、デストロイが再び動き出した。

 

各部砲門を開き、図らずも密集していた彼等を狙う。

 

致死の光条が降り注ぎ、彼等を焼き尽くさんと迫る。

 

だが、その全ては、矢面に立つストライクが纏う光に阻まれて霧散するばかりだった。

 

「フェニックスストライカーを完全にモノにしてやがる・・・!俺なんて動かすだけで精一杯だったのによ・・・!」

 

その光景に、宗吾はまたしても驚愕の声をあげる。

 

ノーモーションで、更に言えばぶっつけ本番で操縦しているにもかかわらず、一夏はそれを何の苦も無く扱って見せた。

 

テストパイロットを肩代わりした宗吾でさえ、50%ほどの稼働率しか出せなかった装備を、彼は完全にモノにしていたのだ。

 

「なるほど・・・、このストライカーは良い性能だ、ぶっつけ本番で上手くいくとは思わなかったが、上出来だ。」

 

自分でも予想以上に上手くやれたと言った風な一夏だが、その声に揺らぎは一切なかった。

 

やってやる、そう言わんばかりの強い意志が光っていた。

 

「だが・・・。」

 

「ど、どうした・・・?」

 

だが、何処か不満げ、とまでは言わないが、困った様な声色で言葉を発する彼に、宗吾は戸惑いの声を掛けた。

 

今のストライクに何か文句があるのか、若しくはそのほかの不満か・・・。

それに皆目見当も着かなかったのだ。

 

「フェニックス、という名は俺には少々大袈裟過ぎないか?肩が凝りそうだ。」

 

「そこかよ・・・!そんなもん後でジャックさんにでも言えよ・・・!」

 

こんな時に何を言ってるんだと、宗吾は一夏の発言に突っ込んでいた。

名前が仰々しいなど知った事じゃないし、後で幾らでも文句言えと、そう言ってやりたいほどだった。

 

「ふむ・・・、ハロ、ストライカーのネーミングチェンジだ。」

 

暫しの逡巡の後、何かを考え付いたのか、彼はハロに命ずる。

 

「フェニックスの名を削除、このストライカーの名は、シクザール、運命だ!!」

 

『リョウカイ!リョウカイ!!ウンメイヲキリヒラケ!!』

 

独語で運命を意味する言葉、シクザールの名を冠した翼は雄々しく輝きを放ち、宙を包んで行く錯覚さえ覚えさせる程に広がって行く。

 

「これは・・・、ヴォワチュール・リュミエールの光・・・!」

 

「何と美しい・・・。」

 

その光景は戦闘中という事を忘れさせる程に美しく、まるでオーロラと見紛う程の勇壮さを持っていた。

 

「行くぞ、各機俺に続け!!」

 

その言葉と共に、一夏はストライクSの背よりアスカロンの改修型を抜き放ち、それを天高く掲げた。

 

それを旗とし、戦いに赴く騎士の如し勇ましさを持って。

 

「織斑一夏、ストライクシクザール!行くぜ!!」

 

迷いの無い、真っ直ぐな宣誓と共に、一夏は愛機を奔らせた。

 

光を纏う白銀の機体は、撃ち掛けらっる光の矢を全て無効化しながらも突き進んで行く。

 

接近させんと言わんばかりに、デストロイは全身の火器砲門を開き、ストライクシクザールに撃ち掛けた。

 

どれもが艦砲かそれ以上の威力を持っており、その数は避ける隙間を与えんと言わんばかりに密集し、まさに壁と呼ぶべき密度を持って迫った。

 

だが、その悉くを、ストライクシクザールは僅かな動きで回避し、掠めただけで蒸発してしまいそうな火力も、纏った光のオーラで威力を無効化していた。

 

その光景は、あたかも存在しない存在、ファントムを連想させる動きだった。

 

「デストロイだったか・・・、直撃だけは避けたいが・・・、杞憂だな。」

 

コックピットに座る一夏は、野獣の如き眼差しを湛えた戦士の顔になっており、一切の油断もよどみもなく、その攻撃を完全に見切った上で、最大加速のままデストロイに肉薄していく。

 

今迄の彼ならば、避ける事は出来たとしても、今ほど余裕の表情を浮かべてはいないだろう。

 

だが、今の彼には、目覚める前には失われていた力が戻っていた。

 

本当の意味で歩みを進める勇気と、生きると言う強い意志、その二つが彼を、彼の想いから呼び起こされる力を後押ししていた。

 

「ハロ!リュミエールユニット解放!!隙を作るぞ!!」

 

『タメシテガッテン!!』

 

機体を完全に我が物とするために、一夏はハロに機体に搭載されている機能の開放を指示する。

 

その指示に従ったハロの操作で、機体各部の装甲が展開、眩いばかりの光が溢れ出していく。

 

「ヴォワチュール・リュミエール!」

 

それは、宗吾が機動試験時に発動した加速用ヴォワチュール・リュミエールの発現であり、その超加速を使用するという事だった。

 

転生者であり、尚且つ高い身体能力を持つ宗吾でさえ一度はブラックアウトし、あわや大惨事に陥りかける程、掛かる負担が凄まじいそれを、彼は傷の癒えぬその身体で扱うつもりだった。

 

自殺行為としか思えないそれでも、彼は止まる事をしなかった。

 

「行くぞ!!』

 

一夏の掛け声と共に、ストライクSⅡが光に包まれ、その輝きを保ったまま一気にデストロイへと迫っていく。

 

その勢いは凄まじく、コーディネィターでさえ捉えきれないほどだった。

 

いや、見えていないわけではない。

むしろその逆だった。

 

「な、なんだ・・・!?」

 

その光景に、動けないブリッツスキアーのコックピットに座する宗吾は、驚愕の呟きを漏らす以外なかった。

 

何せ、ストライクSⅡの姿が、まるで分身したかのように無数に見えていたのだから。

 

「これは・・・!?」

 

セシリアやシャルロット達もまた、目の前で起きている現象が理解できなかったのだろうか、ただただ、呆然と、その光景に見入ることしかできなかった。

 

「もしや、残像が・・・!?」

 

だが、よくよく考えてみれば、それは分身ではなく残像を生み出しているということに気付くことができるのも、彼女達が歴戦を乗り越えた猛者である証明であった。

 

理屈としては簡単なことだった。

残像を生み出せるほど早く動き回る、これを何度も繰り返している事にほかならなかった。

 

残像とは、人間の目が捉えた光景が脳に伝達される際に、光が投影される網膜に映し出された光景が残ったように見える事を指す。

 

だが、その光景が残るのもほんの一瞬、眼球を動かしただけで次の光景と入れ替わるほどの短い間だけだ。

 

それを継続して見せ続けるなど不可能であるはずだった。

 

しかし、今、彼らの目の前に展開するストライクSⅡの残像は消えることなく、更にその数を増やしていくようにさえ見えていたのだ。

 

それには、一つのトリックがあったのだ。

 

フェニックスストライカー改め、シクザールストライカーにはミラージュ・コロイドを散布する機能が備わっており、主に高稼働時に機影をダブらせて敵に視認させる効果を発揮する。

 

だが、それも並のパイロットが扱えばただの残像にしかならない程度の効果であり、機体の姿そのものをその場に残す様な効果は無い。

 

つまり、今の一夏が行っている現象は、尋常ではない程の超高速で動き回りつつミラージュ・コロイドを散布、そこに機影を映し出す事で無数に分身を造りだしていると言う事だった。

 

「コイツは、キクなぁ・・・!!」

 

だが、それは同時にパイロットである一夏自身の身体も、急加速に伴うGによるショックを受け続けているも同然だった。

 

完全に塞がり切っていない傷が開き、白いパイロットスーツを血で染めていく。

その量は尋常では無く、普通ならば既に戦闘を継続できるレベルでは無かった。

 

相当な痛みと圧迫感が今の彼を襲っている筈だった。

 

それでも、彼の瞳から光が消える事は無かった。

必ず勝つ、そして護る、ただそれだけの想いが、彼の身体を、闘志を駆り立て続けていた。

 

その気迫に呑まれたのか、デストロイは先程までの勢いは何処へやら、手当たり次第に攻撃を繰り返すが、そのどれもが作り出された残像を貫くばかりで、本物に掠める気配は無かった。

 

「今だぁ!!」

 

しかし、それは一夏が作り出した隙に過ぎないのだ。

 

「クリスタロス!!」

 

セシリアの駆るデュエルグレイシアが操るソードドラグーンが、デストロイの腕の先端、ドラグーンと成り得る箇所を切断、その攻撃を封じ込める。

 

「二の矢!!」

 

「三の矢っ!!」

 

武装が破壊された事に怯んだその一瞬の隙を狙い、イージスシエロとプロトセイバーが上空より急降下、それぞれのビームキャノンを撃ち掛け、間合いに入った瞬間にMS形態に変形、ビームサーベルを抜き放ってその両腕をそれぞれ両断した。

 

如何な重装甲でもあろうとも、少しでも綻びがあれば容易く両断出来る。

彼等ならば、意志を一つとした今の彼等ならばそれを成せたのだ。

 

「最大出力・・・!!いっけぇぇぇ!!」

 

後方に控えていたバスターイグニートもまた、連結させた大火力ビームライフルを構え、デストロイの主砲にも劣らぬエネルギーをチャージ、一気に放出する。

 

その奔流は留まる事を知らずに宙を駆け、デストロイの頭部を跡形も無く消し飛ばした。

 

攻撃手段の大半を無効化し、デストロイは完全に狼狽えたか、それとも最後の足掻きか、胸部砲門にエネルギーを収束させていく。

 

避ければアメノミハシラに当たり、被害を齎すそれを、何としてでも防がねばならない。

それが、今この場で戦う者の総意だった。

 

「いけっ・・・!一夏ぁ!!」

 

だから、宗吾は一夏に向けて叫んだ。

お前がトドメを刺せと、その手に勝利を掴んでくれと。

 

「オォォォォォッ!!」

 

唸り声のような叫びと共に、ストライクシクザールは保持する対艦刀を突き立てんと、猛然とデストロイに迫って行く。

 

最早、分身の様な小技は必要なかった。

彼は、彼の想いを受けて羽ばたく翼と、その手に握った剣で、この戦を終わらせる腹積もりだった。

 

『――――――ッ!!』

 

だが、デストロイもむざむざ撃墜されてやる訳にはいかないと、最後の足掻きと言わんばかりの不気味な駆動音をあげ、胸部砲門より致死の奔流を放ったのだ。

 

その奔流は猛然と突き進んでくるストライクシクザールが展開する光の壁、リュミエールユニットより展開されるアルミューレ・リュミエールの輝きにぶち当たり、拮抗する。

 

その威力は凄まじく、如何に光のオーラを纏うストライクシクザールでさえ、その足を止められている程だった。

 

「俺は・・・!負けない・・・!!今度こそ、生き抜いてみせる・・・!!」

 

だが、そんな状況でも一夏は勝利を、生きる事への渇望を滾らせ、更に操縦桿を押し込んだ。

 

その強い意志を汲み、ストライクもまた主と共に在る為に咆える。

 

光の翼が雄々しく開くと同時に、ストライクSⅡ本体に設けられていたリュミエールユニットが展開し、その光を更に強いものへと発展させていく。

 

それはまるで、ストライクシクザールやデストロイだけでなく、この宙域にいるすべてを呑みこまんとどんどん広がっていく。

 

その光は、拮抗していたはずの大出力ビームの奔流を徐々に押し返し、一歩、また一歩とストライクSⅡとデストロイの距離を縮めていく。

 

その速度も、最初は微々たるものだったが、それも少しずつ、大きく前進していた。

 

立ち止まらない、それが、今の一夏が抱く覚悟を表していたのだ。

 

完全に大出力ビームがかき消され、間合いがゼロになったその瞬間、ストライクシクザールの両腕に握られたアスカロン改の剣戟が閃いた。

 

その剣戟はデストロイの分厚い装甲を、まるで豆腐でも切るかの如く、容易く両断せしめた。

 

純粋な対艦刀の威力ももちろんあったが、それ以上にそれを操る一夏の、達人級の腕前がなければ成せぬ技だった。

 

だが、それでも、所詮その技は相手の生殺与奪を握るものでしかない。

そんなことは百も承知、それでも彼は・・・。

 

「お前の命、この場で刈り取らせてもらう・・・、だが、決して忘れはしない。」

 

閃光を散らし、成層圏に落ちながらも爆散していく黒の巨兵に、正確にはそのパイロットである者へ、一夏は敬礼を送る。

 

自分が生きるために、仲間を護るために、自分は敵となったその者を討った。

 

それは、何事にも換えられぬ事実であり、罪を重ねたことに等しかった。

 

「生きるために命を奪うことが、戦うことが罪であるというならば・・・、俺が背負ってやる。」

 

だが、それでも、彼は敵である者への敬意と罪を忘れぬと誓った。

そして、それを背負い、生きるために進んでいくと。

 

デストロイが完全に沈み、戦闘不能となった所で、連合軍は自軍の敗北を悟ったのだろう、幹部を除くアメノミハシラ防衛隊と交戦していたMSが戦意を失ったかのごとく、一斉に撤退して行く。

 

その様はまるで流星群の様な美しさを以て、アメノミハシラの防衛が為された事と、そして、最強のMS乗りの帰還を歓迎していた。

 

「皆、勝鬨を挙げろ!!俺達の勝利だ!!」

 

自分達の勝利を宣言し、彼はアスカロン改を高々と掲げた。

 

彼のそれに倣い、アメノミハシラのパイロット達は皆、ライフルやサーベルを掲げ、通信機越しに勝鬨を叫んだ。

 

自分達の勝利を、生を、心の底から歓喜していると言わんばかりに。

 

「全機撤退、整備班に仕事させるぞ!」

 

『了解!!』

 

一夏の命令に、部下達は一瞬の遅れも無く返し、一機、また一機とアメノミハシラへと戻って行く。

 

幹部達もまた、それを見届けてから一人ずつ、自分達の家へと戻って行った。

 

「宗吾、俺達も戻るぞ。」

 

「あぁっ・・・!」

 

ダメージで動けないブリッツスキアーを牽引し、一夏もまた、宗吾と共に家へと戻って行く。

 

これまでとは違う、新たな一歩を、誰かと共に踏み出すために。

失ったものを、もう一度掴むためにも・・・。

 

sideout




次回予告

一夏の帰還に湧くアメノミハシラだったが、まだ、一夏自身の戦いは終わってはいなかった。
共に歩む者達の為に、彼は自身の過去と、今一度向き合った。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

嘗ての友へ

お楽しみに


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嘗ての友へ

side宗吾

 

「一夏・・・!!」

 

アメノミハシラに帰還した俺は、中破した愛機の電源を落とす事さえ忘れて、俺を牽引してくれたストライクSⅡの下へ走った。

 

今、目の前にある光景が嘘では無い事、それを確かめる為に・・・。

 

見れば、セシリアやシャルロット達、城に仕える皆も、俺と同じ様に白銀の機体に駆け寄って来ていた。

 

皆、信じる彼の帰還を歓び、そして迎えたかったんだ。

 

そんな俺達の目の前で、ストライクSⅡのコックピットハッチが開き、中から白いパイロットスーツを纏った男が姿を現した。

 

足取りがおぼつかないのか、彼はよろめきながらも腹部を抑え、何とか右手で降下用のラダーを掴んでいた。

 

見守る俺達の目の前で、彼はゆっくりと降りてくる。

 

以前着ていた、何処か黒が混じった様なパイロットスーツでは無い。

傷から溢れ出す血で、紅に染まった純白のパイロットスーツを纏った彼は、俺達の前に降り立った。

 

『ッ・・・!!』

 

歓喜と感涙に混じった興奮に息を呑む俺達の前で、彼はヘルメットを脱ぎ捨てた。

 

癖のある黒髪、切れ長の瞳から覗く黒曜石の様に輝く瞳、見る者を惹きつけてやまない野性味溢れるその顔立ちは、病み上がりな事もあってか青ざめてはいたが、そこから感じられる力強さは倒れる以前よりも遥かに増していた。

 

「ただいま、皆。」

 

泣きたいのか笑いたいのか分からない様な顔を、俺達は彼に見せていたのだろうか、一夏は少しだけ困ったようにはにかみながらも、自分の帰還を俺達に告げた。

 

「ッ・・・!一夏、さまぁ・・・!!」

 

「一夏ぁぁ・・・!!」

 

誰かが口を開くより早く、彼の妻であるセシリアとシャルロットが彼に跳び付くように抱擁を交わしていた。

 

「セシリア・・・、シャル・・・、心配かけてごめんな、もう、大丈夫だよ。」

 

まだ完全に体力が戻っていないのか、二人を抱き留めた際に少しよろめいていたが、彼は優しい声色で囁いた。

 

もう大丈夫、もうどこにもいかない。

そんな強い想いが、ひしひしと伝わってくる様だった。

 

「ホントよ・・・!心配、したんだからっ・・・!」

 

玲奈も、涙をうっすらと浮かべており、リーカは声を押し殺して泣くばかりだった。

 

かくいう俺も、今なんて声を掛ければいいのか、自分がどんな顔をしているのかさえ分からなかった。

 

笑って出迎えたいはずなのに、どういう訳か、涙が零れそうになっていた。

 

「宗吾。」

 

そんな俺に、抱擁を解いた一夏が歩み寄ってくる。

 

湛える笑みは柔らかく、今まで何処かに感じた影を感じ取る事は無かった。

 

「一夏っ・・・!」

 

そんな彼に、俺は賭ける言葉が見付からなかった。

 

たった一言、御帰りと言ってやれればいい。

それ以上の言葉なんて無い筈なのに・・・。

 

「気苦労をかけたな、ありがとう。」

 

まだ言葉を出せない俺を、一夏は左腕で抱き寄せ、ありがとうと口にする。

 

その瞬間、俺の中で何かが切れたのか、涙が止め処なく溢れ出してきた。

 

彼の代わりを務めなければと、俺が皆を引っ張らないといけないと気負っていた物が、今の一言で報われた様なきがしたから・・・。

 

「信じてたぜ・・・!お前が帰って来てくれるって・・・!!」

 

彼の身体を抱き返す。

もうどこにも行くなと、戻って来てくれて嬉しいと、言葉よりも何よりも、ずっと強く訴える為に。

 

「あぁ、もう大丈夫だ。」

 

そんな俺に、彼は何よりも強い言葉で返した。

もう大丈夫、その言葉は何よりも、信ずるに値する強さがあった。

 

だが・・・。

 

「うっ・・・。」

 

それでも彼の身体は限界に近かったのだろう。

彼の膝が折れ、その身体が倒れそうになった。

 

「一夏っ・・・!!」

 

慌ててその身体を抱き留めるが、彼の身体は力なく倒れ込んでいく。

 

見れば、彼の腹部や右肩からの出血が一層酷くなっており、意識を保っていられなかったのだろう。

 

「おい・・・!しっかりしろ・・・!」

 

「ジャックさん!!医療班を早く・・・!!」

 

「お、おうよ・・・!!」

 

悲鳴のような叫びと共に医療班を呼ぶ。

 

「まだ・・・、死んでねぇよ・・・。」

 

「あぁ喋んな・・・!!早くストレッチャー!!」

 

なんとか動こうとする一夏を抑え、飛んでくるようにしてやって来たストレッチャーに寝かせた。

 

そのまま、彼が何か言おうとするよりも早く医務室へと運ばれて行った。

 

まるで嵐のような怒涛の勢いに、俺達は何故かジェットコースターに乗せられている様な心地だった。

 

でも、それでも心は今までにないほどに穏やかだった。

 

だって、俺達のリーダーは、帰って来てくれたんだから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「ん・・・。」

 

微睡から目覚め、一夏の意識は覚醒した。

 

「俺は・・・。」

 

自分は一体どうした、そんな困惑が感じ取れた。

 

「一夏様・・・?」

 

自分が何をしていたかを思い出そうとしていた彼に、どこか案ずるような声が掛けられた。

 

その声は、彼の耳に馴染む、優しく穏やかな色を孕んでいた。

 

「セシリア・・・?」

 

その声が自身の妻、セシリアのものであると気付いた彼は、その声がした方へと顔をむけた。

 

「一夏様っ・・・!御目覚めになられたのですね・・・!」

 

一夏の目が覚めたとハッキリ認識したか、セシリアは安堵の表情を浮かべながらも、泣き笑いのような表情を見せて彼の身体を抱きすくめた。

 

彼をもう二度と何処にも行かせない、失わないと、言外にそう語っているかのように・・・。

 

あぁ、そういえば出撃した後にまた倒れたなぁと、彼は何処かぼうっとした心地で思っていた。

 

実感がないのだろうか、あまりどうこうした様子は見られなかった。

 

見れば、自身の左側にはシャルロットもおり、今は眠ってしまっているのか、彼の腕に頭を置く形で寝息を立てていた。

 

「心配、掛けたな・・・。」

 

心の底から愛する二人の姿に、彼は漸く現実を取り戻したか、心配かけたとセシリアの頭を右手で撫でた。

 

その手付きは優しく、愛しい者を慈しむ彼の想いが見て取れた。

 

だが、そこで彼は気付いた。

自分の右腕の、そこにある違和感に・・・。

 

「う・・・?これは・・・。」

 

セシリアの頭を撫でていた自身の右腕は、人間のそれでは無かった。

 

冷たく無機質な金属が肉や骨の代わりとなり、それらを繋ぐチューブや細い配線が血管や神経の代わりとなって、腕と言う部位を形成していた。

 

本来なら人間の身体には有る筈も無いもの、それが今の一夏の腕を構成していれば、彼でなくとも驚くだろう。

 

だが・・・。

 

「そうか、あの時・・・。」

 

彼は、その事実をあっさりと受け入れていた。

 

そう、彼は分かっていたのだ。

自分が一度負けた事、その相手を救おうとして、右腕を持って行かれた事も・・・。

 

「すまない、セシリア・・・、君を抱く腕が、こんな事になってしまった・・・。」

 

自分の腕が無くなったショックよりも、愛する女を抱く腕がこんな事になった事にショックを受けている様だった。

 

触れた、という感覚は有っても、その腕で触れても体温を感じられない。

それは、とても辛いモノではないだろうか。

 

「良いのです・・・!貴方様が生きていて下されば、セシリアはそれだけで・・・!」

 

彼の右手を握り、セシリアは大粒の涙を零して答えた。

 

一夏が生きていてくれるならば、自分の傍にいてくれるならば、それだけでいいのだと。

 

「一夏・・・?起きたんだ・・・!」

 

彼が覚醒したと漸く気付いたか、シャルロットも起き上がり、アメジストの様な瞳を涙で潤わせていた。

 

彼女も、最愛の男の帰還を、何よりも喜んでいたのだ。

 

「シャルも、心配かけたな・・・、やっと帰って来れた。」

 

「一夏・・・!良かった・・・!良かったっ・・・!」

 

セシリアと同じく、彼は優しい笑みを浮かべてシャルロットを抱き締めた。

 

もう自分は何処にもいかない。

ずっと君達と一緒だと、強くそう語っている様にも思えた。

 

そんな三人の様子は、家族と形容できるものであり、最早何者にも立ち入る事の出来ない、不可侵の雰囲気さえあった。

 

「宗吾、玲奈、リーカ、いるんだろ、入って来いよ。」

 

だが、何時までもこうしていたいとは思えど、今は他にやるべき事がある。

それを察してか、彼は自分がいた病室の外へ声を掛けた。

 

「まったく・・・、気を利かせて三人だけにしてあげたのに・・・。」

 

扉が開き、部屋の中に苦笑した玲奈たちが脚を踏み入れた。

 

一夏が目覚めた時に、セシリア達だけ傍に居させてやろうと言う気遣いだったが、それも無用と言われれば苦笑したくもなるモノだった。

 

「気遣いありがとな、あぁそうだ、俺を心配してくれてありがとう、皆の声は、闇の中でもずっと聞こえてた。」

 

そんな彼等に対し、彼は優しく笑みながらも頭を垂れ、謝辞を伝えた。

 

「皆の声が、俺を呼び戻してくれたんだ、皆が俺を信じてくれてなかったら、俺はもうここには帰って来れなかった筈だ。」

 

「そんなの、当たり前だろ?俺達は仲間だ、戻って来て欲しいに決まってんだろ。」

 

その感謝の言葉がむず痒かったか、宗吾は何言ってんだと言わんばかりに笑った。

 

自分にとって恩人であり、友人である一夏に帰って来て欲しかったは、紛れもない本心だった。

仲間を、同じ場所で暮らす家族同然の相手を、失いたくなどなかったから。

 

「そうよ・・・、私だって心配、してたから・・・。」

 

そんな一夏の言葉と笑顔に、リーカはまたしても堪え切れないと言わんばかりに涙を零す。

 

自分を庇って死にかけた男が、一夏自身の事よりも先にリーカの心配をしたのだ。

本来なら罵倒されてもおかしくないと感じている彼女にとって、一夏の帰還と、自分を仲間だと言ってくれた事は、何よりも喜ばしく、何よりも誇らしい事だった。

 

彼女の言葉に、宗吾も玲奈も、そして、セシリアとシャルロットも頷いた。

 

一夏は大切な人だと。

だから失いたくない、たとえそれが自分達のエゴでも、一夏に帰って来て欲しかった。

 

「ありがとう・・・、俺を信じてくれた皆に、話しておきたい事がある、少しだけ、時間を貰えないか?」

 

家族も同然の者達からの言葉と信頼に、一夏は柔らかく笑みながらも、それでも何処か真剣な表情を作る。

 

その雰囲気に、室内にいた者達の表情が強張った。

一夏が何かを話そうとしていると言う事は、彼なりに重要な事か、それとも・・・。

 

「今まで隠してた事だ、俺とセシリアとシャルの過去に関する事だ。」

 

「「ッ・・・。」」

 

「「ッ・・・!」」

 

一夏の言葉に、セシリアとシャルロットは遂にこの時が来たかと押し黙り、宗吾と玲奈は以前から感じていた違和感の正体が目の前に現れた事に絶句、リーカはそれが何の意味を持つか理解できていないのだろう。

 

一夏達三人の過去、それはこの二年、ずっと押し黙って来た事だった。

 

それを今、このタイミングで話す気になったのは、一重に宗吾達が一夏を、一夏達三人を信じ、愛してくれていると実感したからである。

 

虫の良い話であるが、一夏もまた、覚悟を決めたのだ。

 

過去を背負い、今を生きる。

一人では無く、自分を受け入れてくれる者達と、何も隠す事の無い関係でいたかったのだ。

 

「皆には結構きつい話にはなるが、全部事実だ、受け入れろとは言わん、ただ、聞いてほしい。」

 

「分かった、教えてくれ、一夏達の過去を。」

 

聞きたくなければ、此処から去っても良い、そう言わんばかりの様子だったが、宗吾はもう覚悟を決めていた。

 

一夏の過去が何であろうと、自分はそこから目を逸らさないと。

たとえ関わりが無かったとはいえ、今の彼に関わりがある以上、その苦しみの根源に共に向き合うと決めたのだ。

 

「何処から話そうか、そうだな・・・、リーカに分かってもらうには、俺達が一度死んでいると言う処から説明すべきか。」

 

「えっ・・・?」

 

その発言に、リーカは一体何の事か理解出来なかったのだろう、ただ間の抜けた声を漏らす事しか出来なかった。

 

一度死んでいる、その正確な意味を計れずにいたのだ。

 

「リーカ、信じなくても良いが解って欲しい、俺達5人は、この世界とは別の世界の住人で、そこで一度命を落として此処に居る、いわば転生した者、だ。」

 

「えっ・・・?皆は・・・、生きてるじゃない・・・?」

 

その意味を問うように、リーカは震える声で言葉を絞り出す。

皆は生きて、自分の目の前に存在しているではないか、死んでいるとは一体どういう事だと。

 

「信じられないのも無理はない、この世界以外の世界が存在するなんて、荒唐無稽な話に他ならない。」

 

「だけど、受け入れてくれ、そうじゃないと続けられない話なんだ。」

 

一夏と宗吾は一瞬だけ互いに目を合わせ、話を続ける為にも理解してほしいとだけ伝えた。

 

まぁ無理も無い、転生や蘇りなど、普通の人間が人智を超えた範疇の話を、只の人間が理解出来る筈も無い。

 

だが、この部屋にいる大半は、只の人間では無い。

そう、俗に言う、転生者と呼ばれる者達だったのだ。

 

「俺達は、神と自称する奴に二度目以降の命と力を与えられてこの世界にいる、という訳だが、俺にとっちゃ、そこはさして重要では無い・・・。」

 

かみ砕く様に、自分自身に言い聞かせる様に、彼は一旦言葉を止めた。

 

そうなのだ、転生者であると言う事は、一夏にとっては重要では無い。

 

彼にとって重要なのは、嘗ての世界で何を成していたか、ただそれだけだった。

 

何かを言おうとして、それでも躊躇ってか、一夏は口を開こうとして、やはりできないと言わんばかりに小さく息を吸う。

 

彼等に受け入れてもらえるだろうか、そんな怯えの一端が現れている様にも見えた。

 

「俺は、嘗ての世界での俺は、只の虐殺者だった。」

 

「え・・・?」

 

意を決して放たれたその言葉に、宗吾の口からは何とも気の抜けた、只々呆然としたと言わんばかりの、吐息混じりの声だった。

 

一体一夏は何と言った?

虐殺者?

何をバカな事を?

 

そんな感情が混乱となり、宗吾の頭の中は軽いパニックになりつつあった。

 

今の彼を見ていれば、何よりも命を慈しみ、虐殺の様な行為を憎む姿しか見えないのだ。

 

それは、玲奈とリーカも同じく抱いた感想だろう。

今の一夏に、虐殺者などと言う印象は全くないのだから。

 

「ッ・・・!」

 

だが、そこで宗吾はある可能性に行きつく。

 

もしもだ、今の一夏の行動の全てが悔恨に基くモノだったとしたら?

人が死ぬ事も、虐殺を良しとしないのも、嘗ての経験が基となっているとしたら・・・?

 

「宗吾と玲奈は、IS世界がどんな世界だったかを知っているだろう?」

 

「え、えぇ・・・、確か・・・。」

 

「確か、女にしか扱えないISのせいで、女尊男卑が蔓延った世界、だったか・・・。」

 

一夏の言葉に、宗吾と玲奈は嘗ての世界での、小説としてのISの設定である事を思い返し、確認するように言葉にする。

 

ISの登場により、世界は急速に歪んだ。

宗吾と玲奈は、その記憶だけは残っていた様だった。

 

それを解っていると悟った一夏は、一度目を閉じ、小さく嘆息してから目を開き、言葉を紡ぐ。

 

「俺は世界を変えろと言う、神の使命を受けたと錯覚して、自分が生殺与奪の権利を握ったと思い上がって、大勢の人間を、この手で殺した・・・。」

 

後悔、そして恐怖、その二つの感情を滲ませながらも、彼は語る。

自分が犯した罪、取り返しのつかない過去、それらを隠す事無く、失いたくないと誓った仲間へとぶつけた。

 

「でも、その時の俺は、ヒトを殺す事に罪悪感も恐怖も抱かない、喜んですらいない、何の感情も無いまま動いていた、まさに操り人形だった・・・。」

 

自分が知らぬ間に誰かに操られ、罪を重ねていた。

それは、覚悟を決めて手を汚すよりも、遥かに重く圧し掛かって来た。

 

何度潰されそうになったか、何度放り投げたくなったか。

過去を思い出すだけで、今でも一夏の胸の内は、到底穏やかとは言い難かった。

 

「セシリアとシャルは、俺への想いに付け込んで、身勝手な妄想に付き合わせてしまった・・・、俺のせいで、二人には拭い去れない罪を、負わせてしまった・・・。」

 

それに加え、自分の身勝手で二人を巻き込んだ。

二人が何よりの支えであり愛する者であるからこそ、彼は自分を赦せなかったのだ。

 

セシリアとシャルロットがどう想っていようと、一夏はそれを曲げるつもりは無かった。

 

「こんな所、か・・・、分かってくれたか・・・?俺が、人の上に立つ事も烏滸がましい男だと、いう事を・・・。」

 

話し終えて、一夏は少しだけ自嘲するように笑った。

 

自分で話していて、どれだけ自分の業が深いか、嫌になってしまうほど改めて理解したのだから。

 

だが、彼はもう逃げるつもりなど無かった。

取り戻せないなら、罪が消せないのならば、代わりの何かで戦い続けるしかない。

 

罪滅ぼしだと罵られても、自分が背負った業から逃れるつもりなど、今の彼には無かったのだ、

 

重苦しい沈黙が続き、誰もが何も言えずにいた。

 

一夏は語る事を、セシリアとシャルロットは弁護する事も出来なかった。

 

それがどれだけ続いた時だったか、不意に、リーカが口を開いた。

 

「一夏は、今の一夏は、私達の事、どう思ってる・・・?」

 

その言葉は一夏にとっても予想外だったか、彼はただ、目を丸くして彼女の顔を見た。

 

質問の意図を読み取れなかったのもあるが、それ以上に罵倒や蔑む言葉を予想していたが故に、直ぐに答える事が出来なかったのだ。

 

だが、それでも、一夏の心は答えを持っていた。

何よりも、心の底から渇望するモノを、見付けたから。

 

「決まってる、リーカも、宗吾も、玲奈も、この城にいる皆も、そしてコートニーも、大切な仲間で友達で、家族なんだ・・・!失いたくない、今度こそ、失いたくないんだ・・・!!」

 

叫ぶ一夏の声には、これまでにない熱と、想いがこれでもかと言わんばかりに籠められていた。

 

大切なモノを失いたくない。

失い続けたからこそ、失う恐怖に駆られ、生きる意味を見失った彼が見付けたその答え。

 

それは結局、大切だから失わない、その為に戦っていくと言う事だった。

 

自分を必要としてくれる人がいる限り、自分は戦い続けると。

 

「そっか、なら、私はそれだけで十分。」

 

「え・・・?」

 

リーカが発した言葉に、一夏はまたしても驚いて顔を上げた。

 

彼が見た彼女の表情は、穏やかであり、そして、何処か満足したような、そんな笑みだった。

 

「私、一夏達の事よく知らないし、そう言う過去があったって事ぐらいは分かったってだけ、でもね、これだけは言えるよ。」

 

ゆっくりと、リーカは一夏へと歩み寄り、その左手を取った。

 

「私を助けてくれたのはこの腕だったじゃない、一夏が私達を大切に想ってくれてるなら、私はこの手を離す気はないよ。」

 

親愛と友情、その二つを籠めて、リーカは彼の手を握った。

 

 

お前が自分の事を仲間と、家族と見ていてくれるのならば、自分はお前に付いて行く。

その心が、その言葉と姿勢からはひしひしと伝わってくる様だった。

 

「リーカ、俺達のセリフまで盗るなよ、言う事なくなっちまうだろ。」

 

そんなリーカに、宗吾は声を掛けた。

自分の言う事を言われてしまった、そんな表情さえ見受けられる、柔らかい表情だった。

 

「一夏、俺はお前を信じるって決めた、過去に何が有ろうと関係ない。」

 

彼もまた、一夏のいるベッドに近付き、腰を屈めて彼と目を合わす。

 

「お前はこの世界でやり直すチャンスを貰ったんだよ、人間として、俺達の仲間として、だから・・・。」

 

一旦言葉を切り、彼は一夏の肩に手を置き、しっかりとその目を見詰めて微笑んだ。

 

「これから生きていこうぜ、この世界で、俺達全員で。」

 

「ッ・・・!!」

 

宗吾の真っ直ぐな言葉に、一夏は声にならない声をあげ、目をきつく閉じた。

 

その身体は、感激に打ち震えているのだろうか、小さく、それでもこれまでになく震えてた。

 

それは、彼がこれまで誰にも見せる事の無かった、涙と言うモノでもあったのだ。

 

喪った物は取り戻せない。

だがそれでも、何かで補い、癒す事は出来る。

 

その方法を見付けられなかった彼が見つけた、一つのキセキだった。

 

「あぁ・・・、そうだな・・・。」

 

だから、彼は泣き顔のまま笑った。

 

この愛しい者達とこれから進んで行くために。

最後の愛しい者を救うために。

 

彼は行くのだから。

 

sideout

 




次回予告

彼が眠っていた間にも、世界は大きく動き、その様を変えていた。
その一方で、彼の者はまた、己が罪の恐怖から逃れんと、その渦中に身を投じるばかりだった。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTARY X INFINITY

鎮魂歌

お楽しみに


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鎮魂歌

noside

 

「っし・・・、こんなもんかな?」

 

アメノミハシラのメディカルルームの一角、主に傷病患者が横になるためのベッドがある区画に、キーボードを叩く乾いた音と、一人の男性のあくびの様な声が木霊する。

 

その人物は、白い病人服を身に纏い、ベッドに身体を起こしながらも何か作業を続けていたのだろう、備え付けられたテーブルには、これでもかというほど山積みになった資料の数々があった。

 

その仕事を全て熟す彼の名は、織斑一夏。

アメノミハシラの№2にして、最強のMSパイロットである。

 

今は先の戦闘で再び開いた傷を癒す為、メディカルルームに籠っているが、暇つぶしにデスクワークに勤しんでいる所だったのだ。

 

「こんなもんか、じゃねーよ、病人なんだから寝てろ。」

 

そんな彼に、彼の腹心である宗吾は何処か呆れた様に声を掛けた。

 

何に呆れているかと言われれば、一夏の仕事量とその時間だったのだ。

 

寝てても退屈だから仕事持って来いと命じられたのが既に半日前の事であり、病み上がりの一夏だけにそんな事はさせられぬと手伝いを申し出たのは良いが、休みなど殆ど取らないまま、溜まっていた仕事の全てをほぼ独力で終わらせてしまっていたのだから笑えない。

 

しかもこれが、つい半月ほど前まで生死の境を彷徨っていた人間が熟す事なのだから、一体何の冗談だと苦笑したくなるモノだった。

 

「病人扱いするな、もうほとんど傷は塞がって来ているんだ、リハビリが出来ん今の内にこういうのを片しておかないとな。」

 

「にしたって、こんな量を一人でって、有り得ねぇだろ・・・。」

 

苦手な仕事は終わらせておきたいと語る一夏の言葉に、宗吾は呆れを通り越して、感嘆の声を漏らすばかりだった・・・。

 

自分にはこんな事は到底マネ出来たものでは無いな、そんな想いが見て取れるようだった。

 

「ま、そろそろ一休みするとしよう、紅茶淹れてくれ。」

 

「おっ、この野郎、俺はそんな事の為に此処に居るんじゃねーぞ。」

 

一夏の言い草に少々憎まれ口を叩きながらも、宗吾は慣れた手付きで備え付けてあったポットにティーバックを入れ、湯を注いだ。

 

別段、彼の頼みを聞き流しても良かったのだが、今日は一夏と話をしておきたい、そう考えていたのだろう。

 

「ほい、セシリア程美味く淹れれたとは思えないけど。」

 

「サンキュ、良い香りだ。」

 

カップを手渡し、短く言葉を交わして二人は紅茶に口を付ける。

 

そこから暫くは、互いに何も言わぬままに時間が流れていた。

 

何も言わずとも良い。

そんな雰囲気が彼等の間には横たわっていた。

 

いや、それだけでは無い。

僅かだが、緊張の色も窺う事が出来る。

 

その原因は何か?

それは、放たれた宗吾の言葉から察する事は出来た。

 

「アイツの事、どうするつもりなんだ?」

 

アイツ。

 

彼等にとって、それは特定の人物を指す言葉であった。

 

彼等にとっては親友であり、今もなお闇に囚われている、一人の男の事だった。

 

彼はその苦しみにもがくあまりに、親友同士である一夏と争い、一夏に重傷を負わせてしまったのだ。

 

アメノミハシラ中将である宗吾からしてみれば、恩人でありアメノミハシラの屋台骨であり、親友である一夏を死なせかけた事については、腸が煮えくり返る程の怒りを感じるまである。

 

だが、神谷宗吾個人から言わせてみれば、彼もまた闇に、自身の願いに憑りつかれ、道を見失っているだけの、親友でしかなかったのだ。

 

出来る事ならば、自分が一発ぶん殴って目を覚まさせてやりたいと言うのが本音だった。

 

だが、地の戦闘能力、機体特性、それら二つを鑑みても、宗吾が今のコートニーに勝てる確率は3割にも満たないだろう。

 

だからこそ、彼は一夏にどうするか尋ねたのだ。

 

「決まってるさ、俺が一発ぶん殴って、俺達の輪の中に連れ戻すさ。」

 

宗吾の問いに、一夏は穏やかな声色で返していた。

 

迷いはもうない。

その瞳と表情はそれを物語っていた。

 

腕を落とされた事はもうこの際どうでも良い。

 

一番大事なのは、コートニーを絶望させない事。ただそれだけだった。

 

「友達は、俺が絶対に助ける、手伝ってくれよ宗吾。」

 

だが、もう一人では無い。

コートニーに手を伸ばすのは、何も一夏だけでは無いのだ。

 

リーカも、そして宗吾達も、皆が彼へ手を伸ばしたいと思っているのだから。

 

「ったく・・・、簡単に言ってくれるよ・・・、お前に付き合うのは相変わらず骨が折れそうだな。」

 

「何時もの事だろ、付き合えよ相棒。」

 

「違いねぇ。」

 

軽口を交わしながらも、二人は軽妙に笑って拳を軽く合わせた。

 

それ以上何も言葉はいらない。

互いを心の底から信頼しているからこその、確かな絆がそこにはあった。

 

その時だった。

穏やかな雰囲気に包まれる二人に水を指すかの様に、宗吾が首から下げていた通信機から呼び出しの電子コールが鳴り響いた。

 

「こちら神谷、何が有った?」

 

『こちらシャルロット!宗吾、早くブリーフィングルームに!!』

 

宗吾が通信に出るや否や、何処か切羽詰まった様なシャルロットの叫びが彼等を耳朶打った。

 

その叫びは、何か良く無い事が起こっていると、彼ら二人に悟らせるには十分すぎるモノだった。

 

「分かった!すぐ行く!!」

 

短く返すや否や病室から出ようとした宗吾の目に、何時の間にかもぬけの殻になったベッドが飛び込んで来た。

 

「って、一夏の奴もういねぇ!!」

 

ジッとしてなどいられないのは分かるが、自分が重傷患者である事を承知しといて欲しいと言わざるを得なかった。

 

だが、文句の言うのはこの際後回しだと、彼は一夏が向かったであろうブリーフィングルームへと急いだ。

 

予想通りと言うべきか、まだ全快とは言い難い一夏に追い付くのは難しい事では無く、二人は並んで目的の部屋まで辿り着く事が出来た。

 

「何が有った・・・!?」

 

部屋に飛び込んだ彼等は、自分達が目にした光景を信じる事が出来ずに呆然と立ち尽くした。

 

「な、なんだ・・・?」

 

「何だよこれ・・・!?」

 

その光景を、一夏も宗吾も受け入れる事が出来なかった。

 

何せそれは・・・。

 

「ぷ、プラントが・・・!!」

 

真空の宙に浮かぶ青い砂時計とも呼ばれる、プラントが、見るも無残に破壊された光景だったからだ。

 

まるで切り裂かれたかのようにバラバラになった金属片や、吸い出された水が凍ったと思しき氷塊、そして、人間だった物の姿が、何にも遮る事無く画面に映し出されていたのだ。

 

正にこの世の地獄、あってはならない光景が、残酷にも存在していたのだ。

 

「何が・・・!一体何が有った・・・!?」

 

怒声にも近い声にブリーフィングルームにいた幹部達と、MSパイロット達の視線が一夏に注がれる。

 

彼等の視線の先には、その端正な面を憤怒に染め上げる一夏がいた。

 

彼は分かっていたのだ。

今回狙われたプラントには、軍事施設に類する物が無い事を。

 

あるとするならば、本国や首都と呼ぶべき、被害を免れたプラント群の内の一基、アプリリウス市しかない事も。

 

つまり、この攻撃を成した者は、何の謂われも無い民間人を狙ったのだと。

何時ぞやの、血のバレンタインと同じ事をしたと同義だったのだ。

 

その言葉に、誰もが皆、何も答える事が出来なかったのだ。

 

「御大将!!」

 

その時だった、血相を変えたルキーニが飛びこんでくる。

信じられない事が起こった、まるでそう言わんばかりの様子が見て取れた。

 

「連合、いや、ロゴスの奴等・・・!とんでもねぇ物隠してやがった・・・!!」

 

「何・・・!?」

 

そのとんでもない物の正体が、この惨状を招いたのだと、この場にいた誰もが察した。

 

それと同時に悟ってもいた。

その正体が、紛れも無く良くない物だと言う事にも。

 

「これを見てくれ・・・!!」

 

「ッ・・・!?」

 

全員に見せるかのように、ルキーニはブリーフィングルームのモニターにデータを投影する。

 

そこには、月面に設置された巨大な砲塔と、宇宙空間に点在する数基のコロニー群が表示され、事細かなデータが示されていた。

 

「何だこれ・・・!?」

 

ワイドが発したその言葉は、この場にいる誰もの感情を代していた。

 

無理も無い。

それは、彼等が持っていた常識を覆す、あまりにも恐ろしい兵器だったのだから。

 

「レクイエム・・・、だと・・・!?」

 

レクイエム。

鎮魂歌の名を与えられたその恐るべき兵器は、これまでの大量破壊兵器の枠を超えていた。

 

地球から見た月の裏側に置かれていた連合軍の資源採掘用基地、ダイダロスにそれは存在する。

 

その出力は、地球を死滅させる事も可能と言われたジェネシスほどでは無いが、それでもコロニーを数基破壊して尚有り余る程の強力さを持っている。

 

だが、その威力はレクイエムの脅威をより一層強大なモノとしているのは、その性質だった。

 

ダイダロス基地はその立地上、直線でしか進まないビームを撃ったところで、地球やプラントのコロニーを直接撃てる位置には無い。

故に、ザフトはダイダロス基地を半ば放置し、月面の表側にあったもう一つの基地、アルザッヘル基地にのみ警戒を続けていた。

 

だが、連合、否、ロゴスはそれを逆手に取り、ある技術を応用する事で、レクイエムを空前絶後の超兵器へと昇華させたのだ。

 

ビームは直線でしか進まない。

だが、曲げる事が出来れば射角など有って無い物となる。

 

その無茶苦茶な理論を成り立たせる技術を、連合軍は前大戦時に確立させていたのだ。

 

それは、GAT-X252 フォビドゥンに装備されたゲシュマイディッヒ・パンツァーであった。

このシステムは、ミラージュ・コロイドを応用したエネルギー偏向を可能としており、平たく言えばビームを屈折させるものだった。

 

レクイエムはこの技術を用い、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを搭載した廃棄コロニーを複数製造、それを中継ステーションとして用いる事で、射角に囚われる事の無い驚異的な攻撃範囲を実現させたのだ。

 

それは正に死神の鎌の様に湾曲し、命を刈り取る極大の死そのものだった。

 

「こんな物・・・!中継ステーションの配置次第じゃ地球圏のどこに居ても狙えるじゃないか・・・!!」

 

そう、それはこの世界のどこに居ようとも、その鎌は容赦なく首を掻き斬って行く。

 

それを悟り、ブリーフィングルームの室温は更に氷点下となった。

 

「ッ・・・!こうしちゃいられん・・・!!」

 

いずれはここも狙われる。

そう直感した一夏が部屋を飛び出そうとするが、宗吾によってそれは阻まれる。

 

「待て・・・!ここからじゃ間に合わない・・・!」

 

「それにそんな身体で戦える訳ないでしょ・・・!」

 

今から打って出たとしても、月面に達するより先にザフトと連合の戦闘は終決しているに違いない。

 

それに加え、一夏は動けるとは言え本調子には程遠い。

今動けばまた倒れる可能性だってあるのだ、如何に大量破壊兵器の破壊へ動きたい玲奈でさえ、一夏の身体を案ずれば止める以外の選択は無かった。

 

「くそっ・・・!見てる事しか出来ないのかッ・・・!!」

 

激情に駆られた憤りを吐く一夏の熱に、誰もが皆何も言えずに固唾を呑む以外なかった。

 

自分達の手が及ばぬところで、世界が揺れ動いてゆく事への危機感と共に・・・。

 

sideout

 

sideコートニー

 

これは、なんだ・・・?

 

一体いつからこうなっているのか、俺は、引き金を引き続けていた・・・。

 

何故自分が此処に居るのか、何故戦い続けているのか、その理由さえも、分からなくなりつつあった。

 

そう言えば、プラントが撃たれて、これ以上の被害を出さない為に、今は中継ステーションと呼ばれているコロニーに攻め入っているんだったか・・・。

 

いや、今の俺にはそれさえも曖昧になりつつあった。

 

「出て来るな・・・!来るなっ・・・!!」

 

漠然と考えながらも、俺は叫んでいた。

 

向かってくる連合側のMS、ダガーやウィンダムに向けて、デスティニーインパルスのライフルを撃ち掛ける。

 

その都度、その度に、目の前の機体に別の機体の姿が重なる。

 

「ッ・・・!!あっ・・・!!」

 

その機体、ストライクSを閃光が貫き、爆散させる。

何度も、何度も・・・。

 

向かってくる敵の数だけ、ストライクSが撃たれ、彼の姿がフラッシュバックする。

 

―――コートニー―――

 

―――あぁ、俺達は親友だ―――

 

―――やめるんだコートニー―――

 

「やめろ・・・!やめてくれ・・・!!」

 

違う・・・!俺はお前を撃ちたかったわけじゃない・・・!!

 

俺は・・・!戦争を無くすために・・・!!

 

―――撃ちたくないと言うなら、何故お前は戦い続ける?―――

 

「・・・ッ!!」

 

嘲笑う様に、俺の中にある何かが問いかけてくる。

 

それと同じ様に、蠢く亡者、いや、何人もの彼が、まるで救いを求めるかのように手を伸ばしてくる。

 

―――何故―――

 

―――コートニー―――

 

―――何故撃った―――

 

やめてくれ・・・!!

 

―――受け入れろ、お前は、壊したがっているんだよ、何もかもを―――

 

違う・・・!俺は・・・!

俺はッ・・・!!

 

「うぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

現実から目を背けたいがために、俺は絶叫しながらもスロットルを開く。

 

デスティニーインパルスの光の翼を開き、敵の中を逃げるように駆けても、その手は、声は俺を捕えて離さなかった。

 

罪を受け入れろと。

お前が殺した男を見ろと。

 

俺が、只の破壊者だと理解させる様に・・・。

 

sideout




次回予告

レクイエムの攻防は、ザフトの勝利に終わる。
だがそれは、コズミック・イラの運命を決める、終章への序曲でしかなかったのだ。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

デスティニープラン

お楽しみに


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デスティニープラン

noside

 

「そうか・・・、ダイダロスは墜ちたのか。」

 

「あぁ、ミネルバの奇襲作戦があっさり成功した様だ、流石はデュランダルのお抱え部隊ってトコだな。」

 

プラントが撃たれてから数日の後、自室で資料を纏めていた一夏の下には、ルキーニによって詳細な情報が寄せられていた。

 

そこから齎された情報に、彼は嘆息する以外になかった。

 

その内容とはこうだ。

地球にて、オーブ侵攻の後に宇宙へと戻るべくカーペンタリアに寄港していたミネルバが出撃、中継ステーション防衛の為に兵力が手薄になったダイダロス基地に奇襲戦を仕掛け、残っていた部隊を撃滅、及びレクイエムの破壊に成功したとの事だった。

 

尚、逃亡を図ったロード・ジブリールも、戦闘に巻き込まれて死亡したとの事だった。

 

これを僅か一日と経たぬ間に、しかもミネルバ一隻とMS3機が為したのだから余計だろう。

 

彼は、今どうしているんだろうか・・・。

 

その内の一機に乗っているであろう少年に想いを馳せていた。

 

自分を兄の様に慕い、その腕を磨こうとした少年の事を・・・。

 

「だが、これで全てが終わった訳じゃないだろう、コートニーが言っていた事も気にかかる。」

 

しかしながら、一夏は済んだ事よりも、先の事を見据えていた。

彼が以前聞いた、コートニーが語った内容が気になっていたから。

 

「確か・・・、戦う事で争いを失くす方法がある、ってヤツだったか?一体どう意味なんだ?」

 

事前に話を聞いていたからだろう、疑問を滲ませながら問いかけていた。

 

戦いを嫌うコートニーでさえも、争いへと駆り立ててしまう。

 

彼が願うのは、戦争が起こる事の無い世界、そして、戦争を起こさない兵器を創る事だった。

 

そんな彼が乗せられてしまう何かがある、一夏はそう考えたのだ。

 

それは恐らく、コートニーが属する組織の長、デュランダルの持つ野望や情報によって踊らされているのだと。

 

「それは、俺にも分からない・・・、だが、何か有るって事だけは確かだな。」

 

尤も、それが何かは見当がつかなかったが、それでもよくない事なのは確かだと感じていた。

 

彼が眠っている間に起きたと言う、デュランダルが煽った民衆によるロゴス狩り、その結果起こった各国要人の死亡、それに伴った政治的混乱により、何処の国家も体制がボロボロになっていた。

 

それに乗じ、プラントは各国へ様々な支援を行い、地球圏の主導国的存在になっていた。

 

だが、それは言い方を変えてみれば、気付かないままの支配を受け入れさせている様なものだ。

それは、何処か薄ら寒い物を感じざるを得ない、というのが彼が感じていた感想だった。

 

「一応、第二戦闘配備のまま全員に待機させている、何か起きる気配があれば、即出る。」

 

「そうかい、なら、俺も備えておくとするぜ。」

 

一夏の言葉を聞き、ルキーニは深く頷いた後に部屋から出て行った。

自分のすべき事の為に、彼は動いていたのだ。

 

「俺も、為すべき事を、為す・・・。」

 

彼が出て行った後、一夏は腰掛けていた椅子に深く凭れ込んだ。

 

自分はやらねばならない事がある。

だから、死と言う名の眠りを振り切り、この世界に戻って来た。

 

だから、それが終わるまでは止まる訳にはいかない。

 

「俺の心のままに。」

 

机の脇に置かれていた写真楯を見詰め、その目を細めた。

そこには、嘗てオーブの砂浜で撮った写真が収められていた。

 

そこには、一夏、セシリア、シャルロット、宗吾、玲奈、リーカ。

そして、コートニー・・・。

 

「必ず、助けるから。」

 

闇に囚われ、戦いを強いられている彼を救うと。

それが、今の自分の使命だと。

 

もう彼の瞳に迷いは無い。

世界がどう揺れ動いても、為すべき事は一つだと・・・。

 

sideout

 

noside

 

『―――私は、人類存亡をかけた最後の防衛策として、≪デスティニープラン≫の導入実行を、今ここに宣言いたします!!』

 

アメノミハシラのブリーフィングルームにて、一夏達はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの演説を見ていた。

 

つい半刻ほど前に始まった緊急演説は、此度のプラント崩壊事件の犠牲者哀悼から始まり、ロゴスの崩壊と続けられた。

 

そこまでならば、一夏達も何も感じる事の無い、何処にでもありがちな国家代表の演説だっただろう。

 

だが、彼が続けたのは、人間が有史以来戦い続けてきた訳と、ナチュラルとコーディネィターの争いの根本、そしていずれ、人類が滅ぶと言う事・・・。

 

そこからキナ臭くなり、遂には人類存亡をかけた最後の防衛策と謳い、≪デスティニープラン≫の導入実行まで宣言して来たのだ。

 

一体何がしたいのか、その部屋にいたほとんどがそう思ったに違いない。

 

そんな彼等を置き去りに、デュランダルを映していた画面が切り替わり、デスティニープランの概要を説明する映像を映し出す。

 

軽快な音楽と2Dアニメチックな映像で語られる説明は、逆に彼等の心の中にある不安を掻き立ててならなかった。

 

「なるほど、そういう事か。」

 

そんな困惑した空気を、何処か納得した様に呟く一夏の声が破った。

 

漸く狙いが分かった、そんな気色が窺い知れた。

 

「どういう事ですか閣下?」

 

一同を代表して、ガルドが質問の声をあげた。

デュランダルは一体何を目的としているのか、それを知りたがっている様だった。

 

それは他の者も同様なのだろう、皆一様に一夏の事を見据えていた。

 

「デュランダルがやろうとしている事が何となくだが分かった、まるで人類を管理するやり口に思えてな。」

 

「管理・・・?」

 

確信めいた何かを以て、語り始めた一夏の言葉に疑問を持っているのか、誰もが首を傾げる以外なかった。

 

「さっき説明していただろう、人間にはそれぞれ生まれ持った性質、遺伝的に持っている物があると。」

 

「遺伝的・・・、遺伝子って事か?」

 

一夏の説明に合点が行ったか、宗吾は問いかける様に呟く。

 

一夏の言葉通り、人間は生まれ持った時から、親から受け継いだ遺伝的特徴を持っている。

それ等を司る物こそ、遺伝子と呼ばれるモノだ。

 

コーディネィターは元々、ナチュラルが元来持っている遺伝子を、人間としてより良い能力を得ようと調整した存在である。

 

つまり、遺伝子を解析、データ化して並び替える事で、その特性を持った人間を生み出せると言う事だ。

 

無論、全てが完璧にいくという訳では無い、その証左として調整がオーダー通りにならなかったコーディネィターの子供は親から捨てられ、サーカス等の戦闘兵育成機関に拾われ、兵士として育てられると言う悲惨な目にも合っている。

 

それがオーダー通り完璧に調整されたのが、スーパーコーディネィターと呼ばれる存在であり、この世界にはキラ・ヤマト以外にいないと言う事となっている。

 

尤も、一夏や宗吾、玲奈も転生者としてスーパーコーディネィター相当の能力を有しているには有しているが、此処では追及する必要は無いだろう。

 

それはさて置き・・・。

 

「さっきデュランダルが言っていた言葉を借りるならば、争いが起きるのは人間が自分自身を知らなさすぎるから、という事になるが、これは恐らく、適性の事を言っているんだろうさ。」

 

「適性・・・?それが何故争いを?」

 

一夏の言葉の真意を理解出来なかったファンファルトが、おずおずと尋ねていた。

 

上官の意図が汲めないと言うのは、彼にとっては気味が悪いモノに映っているのだろう。

 

「何、簡単な事さ、適性の無い者が不当に地位を手に入れたり、適性のある者が不当に低く見られたりする、だからそこに嫉妬が生まれ、争いを呼ぶ、実に回りくどいが、デュランダルが言いたいのは大雑把に言えばこういう事さ。」

 

「あ・・・。」

 

合点が行った者は何人もいただろう、室内には何処か張り詰めた様な空気が奔った。

 

そう、結局は能力や生まれによる不平等が争いを引き起こすのだと。

現に、今現在この世界で起こっているナチュラルとコーディネィターの国家ぐるみでの争いもまた、嫉妬、差別に起因するモノなのだ。

 

つまり、その原因となる不平等が是正されてしまえば、争いが起こる意味は無い。

 

そうであるなら、今の争いに満ち、破滅への道を走るコズミック・イラにおいては、デスティニープランは非常に有効な策とも取れるだろう。

 

「だから、ヤツは人類の存亡をかけた最後の防衛策と呼んだわけさ、能力の有利不利を生まれた瞬間から見分け、無駄な争いを起こさない為のな。」

 

確かに良く出来ていると言いながらも、彼は生理的な嫌悪を滲ませていた。

 

何故ならば、彼は知っているから。

この世に生まれ出で、命を育み生きていく事は、確かに無駄に争い、無駄に寄り道をする事だってある。

 

どれだけ努力しても報われない可能性だってある。

どれだけ欲しても手に入らない夢だってある。

 

だが、だからこそその過程で得た経験は、その先にある未来に繋がると。

今、自分がこうして仲間と共に在れるのは、人から見れば無駄とさえ思える寄り道や堂々巡りを繰り返したからとさえ言えるのだ。

 

「でも、ハッキリ言って俺は受け入れられないね、遺伝子で一生が決まるなんて考えたくも無い、遺伝子なんてモンは、結局は指標でしかないんだからさ。」

 

そう、遺伝子よりも人間には大切なモノがある。

それは諦めない心や、夢を実現するために努力する熱意や心情。

 

それら全てを取り払った物が、果たして人間と呼べるのかと、彼はそう思っていた。

 

自分の定められた遺伝子、運命に従っていれば苦しまずに過ごせた。

それは、一夏が定められた神の駒として動く事を重ねていたのかもしれない。

 

だが、苦しみながらも、失いながらも辿り着いた今を、彼は無駄とは一切思っていなかった。

織斑一夏と言う人間を作り上げた、確かな道程だったのだから。

 

「ま、色々言ったが、この世界の在り方に嫌気が指してる連中も居るだろうから、天空の宣言の手前、俺達は今のところ静観だな。」

 

しかし、今のアメノミハシラの立場は天空の宣言に賛同する者を護る事、そして、私利私欲の絡まない思想を護る事だった。

 

極端な話、デュランダルはデスティニープランを地球圏すべてに波及させようとしているが、今のところそれは遺伝子の統制に依って争いを止めようと言う思想の延長線上でしかない為に、武力を行使する事が出来ないのだ。

 

故に、彼は待つ以外なかったのだ。

デュランダルが勝負を詰める時に見せる、その本性を見るまでは・・・。

 

彼の目が細められたのを見て、宗吾は何かを感じ取ったのだろう、何かを決めた様に表情を引き締めていた。

 

「(ファンファルト。)」

 

「(な、なんでしょう神谷卿?)」

 

唐突に呼ばれた事に焦りながらも、彼は宗吾の傍により、言葉を待った。

 

「(何時でも出れる様に準備しておけ、一夏に勘繰られない様にな。)」

 

「(は・・・?はぁ、了解しました・・・?)」

 

イマイチ要領を得ていない様だったが、ファンファルトは頷きながらも一夏の目を掻い潜って動き出す。

 

宗吾もまた、密かに暗躍を始める。

一夏の望む事を成せる様に動きやすいようにと・・・。

 

sideout




次回予告

デュランダルの思惑通りに揺れ動く世界。
終局に向かいし表側の世界へ、彼はその身を晒す。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

出撃

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出撃

noside

 

「ウェイドマン整備士長!」

 

ブリーフィングルームでのやり取りの後、織斑一夏直属かつ、実質的には幹部全員の配下であるファンファルトは、宗吾の命令によってある人物の下に走っていた。

 

「あぁ?ファンファルトの坊主、何しに来やがった?」

 

その要件の相手である整備士長、或いは整備主任であるジャック・ウェイドマンは、少々煩わしそうな目で彼を見た。

 

休憩中だったからだろうか、手元にはコーヒーの入ったマグがあったが、今はそれを取り立てて言う事でもないだろう。

 

ファンファルトは、そんな彼の目に若干負い目の様なものを感じてしまう。

 

それもそうだろう。

彼は、如何にアメノミハシラの№2である織斑一夏の推薦を受けたからとはいえ、自分はまだこの城に参じて半年も経たぬ新参者。

 

それに加えて、佐官待遇ともなると、古参の者達からどう思われているかなど明白だった。

 

無論、幹部である一夏達もこの2年弱で加わった者であるが、それとこれとは違うと感じざるを得なかったのもまた本音と言うモノ。

 

それはさて置き・・・。

 

「か、神谷卿から頼まれた物をお持ちしました!」

 

「宗吾からか?一体全体、今度は何させる気だぁ?」

 

おっかなびっくりながらも、彼はブリーフィングルームから出る間際に宗吾から渡されたと思しきメモをジャックに手渡した。

 

それなりに長くなってきた付き合いから何かを察したか、ジャックは僅かながら渋い表情をしながらもそれを受け取り、内容に目を通す。

 

最初は細められていた目が、徐々に大きく見開かれ、最終的には我が意を得たりと言わんばかりに、その口元に笑みを作った。

 

それを見ていたファンファルトは、メモに書かれていた内容に目を通していなかった事もあって、一体何が書かれているのか分からないと言った様子だった。

 

まぁ仕方あるまい。

宗吾には一夏に見付からない様に動けと言われていた事もあり、なるべく素早く動いていたが故の見落としでもあったのだ。

 

「こうしちゃいられねぇ、ファンファルト、オメェも手伝え!」

 

「えぇぇ!?いや、はいぃ・・・!?」

 

休んでる場合じゃないと言わんばかりに立ち上がったジャックに驚きつつも、彼もまた後を追って動き始めた。

 

仲間の想いを遂げさせてやるために。

その果てに付いて行くために。

 

二人は其々の思惑を以て、密かに動き出していた・・・。

 

sideout

 

noside

 

「・・・、なるほど、デスティニープランに明確に拒否の声明を発表したのはオーブとスカンジナビア王国だけか・・・。」

 

自室に備え付けられていたコンピューターを用い、一夏はデスティニープランの発表で揺れ動く世界情勢を見ていた。

 

ルキーニを筆頭とする諜報部から送られてくる情報を把握、これからの自分達の出方を決めようとしていた。

 

発表されて間も無くな段階ではあるが、ロゴス狩りによって首脳陣が総入れ替えとなった国家もあり、国家としての体を成していない所も見受けられ、その国々はいち早く導入に傾いていた。

 

その上プラントからの支援を受け入れていた国家は、僅かばかりの戸惑いこそあれど、これまで正義のため、平和の為というスタンスを取って来たデュランダルへの信用を根拠に、デスティニープランを受け入れようとしていた。

 

「まぁ、支援を貰うついでとしてなら、アリな選択なんだろうけどな。」

 

地球圏の国家が採った対応に、彼はやはりなと言う感想しか浮かんでこなかった。

 

デュランダルの提唱するデスティニープランと、その先に待つ世界。

その是非はどうであれ、国家をいち早く安定させるならば、その政策を受け入れ、それが出来る様に支援してもらった方が賢明である。

 

それに、デュランダルはこれまでのスタンスからも、他のどの政治家よりも指示を得ている事に間違いはない。

 

だからこそ、裏の事情や本音を知る事の無い民衆には、彼の言う事が正しく思えるし、指示したいと思う事に何ら不思議はないのだ。

 

「ま、デュランダルもそのために下地作りは欠かさなかったんだろうが・・・、流石としか言えんよ・・・。」

 

民衆にそう思わせるだけの説得力を地道に着けていったデュランダルの、そのやり口は一夏でさえも感心せざるを得ない物だった。

 

だが、急激すぎる動きを嫌う者も当然ながら存在する。

 

密かにロゴス狩りから逃れた、大西洋連邦大統領ジョセフ・コープランドは連合軍月面基地にその身を寄せ、現在プラントと積極的にコンタクトを取ろうとしている様だった。

 

尤も、それは自分の既得権益の確保が優先的であると考えられる。

 

何せ、デスティニープランの表向きは、遺伝子によって人間の適性を見極め、各々に見合った職業を与えると言うモノだ。

 

それは、生まれやコネクション、献金で成り上がった者には不利益にしかならないため、賛同出来ない者もこの世界には多くいる事だろう。

 

コープランドも所詮そうなのだろうと当たりを着けてはいるが、そんな事など一夏達にとってはどうでも良い話でしかない。

 

それに、大統領とは言っても所詮はロゴスのロード・ジブリールに操られていただけの傀儡に過ぎない。

 

軍部の過激派も、ロゴスがある程度コントロールする事で統制が取れていた様な物なのだ。

その主たるジブリールやロゴスが消滅すればどうなるかなど、最早明白だった。

 

現に、アルザッヘルには元から駐留していた連合宇宙軍の他にも、ダイダロスからの敗走兵などが集結し、デスティニープランに反対する勢力として動こうとしているとの情報も入って来ている。

 

とは言え、アメノミハシラが表だって動く事は無いだろう。

何せ、思想の問題があるとは言っても、受け入れるか、それとも拒むかを選ぶのはこの世界に生きるすべての者だ。

 

選ぶなら止めはしない。

選ばないなら別の道で生きればいい。

 

実にシンプルな考えである事は間違いなかった。

 

「ま・・・、デュランダルが本気で何かしようとしない限りは、な・・・。」

 

とは言え、何か有れば自分達はすぐに動く。

それは何者にも変えられない、アメノミハシラの理念だ。

 

だが、それとは別に、アメノミハシラの思想と異なっていても、彼は自分が動くべき時を待っていた。

 

彼には、自分の命を賭けてでも救いたい者がいるのだ。

自分に無い夢を持ち、それに潰されようとしている友を、救いたいと。

 

その為には、彼と再び向かい合う事が絶対の条件だった。

話を聞いて貰う事は出来ないかもしれないし、それ以前に、彼が自分を殺した事を想い詰めている可能性もある。

 

ならば、その時は・・・。

 

「止めてやるさ・・・、俺が、戦ってでも・・・。」

 

争いを嫌う彼にとって、何とも嫌味なやり方である事は、一夏自身が重々承知している事ではある。

 

だが、それでも止めたかったのだ。

必ず自分達の下に、彼の愛する女の下へ連れて帰ってやる、そんな使命感を抱いていた。

 

もう、自分の手の届く範囲にいる誰をも不幸にしたくなど無かった。

それが、今の彼を成り立たせている、唯一無二の信念だった。

 

無論、それはアメノミハシラの大義では無く、一夏個人の感情によって行われる私闘を意味している。

 

それは一夏もハッキリと認識している事であり、アメノミハシラの兵を使う事は出来る筈も無い。

 

いざとなれば、自分のストライクならば推進剤をほとんど使う事なく戦場に駆けつける事も出来る。

その為に作られた機体と自分の身体だと思っているから、どんな無茶でも押し通して見せると。

 

そして、その機会は近いと、一夏自身の直感が告げていた。

その時に、この世界に転生してきた意味を全て賭ける、と・・・。

 

「待っていろ・・・、俺が、必ず・・・。」

 

声も届かぬ相手に向けて、一夏は小さく呟いた。

 

自分が為すべき事為す、ただそれだけだ・・・。

 

椅子に沈み込むようにもたれながら、彼は小さく息を吐いて目を閉じた。

その時が来るまで、自分は待つだけだと・・・。

 

その時だった。

彼のコンピューターに何か通知が届いたか、少し大きめの通知音が彼を耳朶打った。

 

「なんだ・・・?」

 

少し眠ろうかと思っていた矢先だったからか、彼は少々ウンザリしながらもそれを開き、目を通していく。

 

「ッ・・・!!」

 

だが、内容が簡潔かつ衝撃的なモノだったからか、彼の目は驚愕に見開かれる。

 

「アルザッヘルが、撃たれたか・・・。」

 

呆然と、だが、やっぱりかと言う感想と共に、その言葉は紡ぎだされた。

 

アルザッヘルから出撃した連合軍の反乱部隊は、ザフト軍によって修復されたレクイエムによってアルザッヘル基地ごと壊滅、コープランド大統領も巻き添えを喰らって生死不明、生存は絶望視されていた。

 

撃ったのは間違いなくダイダロスを掌握したザフト軍であり、その目的はデスティニープランに異を唱えた者の粛清とみて間違いないだろう。

 

逆らえばこうなる、自由意志など与えないという意思を示した事に他ならない行為だった。

 

「だがこれは・・・、好機かもしれん・・・!」

 

だが、それはデュランダルが最後の賭けに出たと言う事を意味していた。

 

彼の今現在の最大の敵はクライン派、もとい、ラクス・クラインとその一派だった。

今、デスティニープランの足場を固めるためにも、不安定要素を排するには、丁度良い撒き餌となった事だろう。

 

月のコペルニクスには、例の一団が寄港しているという情報もある。

最早、開戦は秒読みと言っても良いだろう。

 

そこで、彼との決着を着ける。

連れ戻すためにも、目を覚まさせてやるためにも、これが最後のチャンスになると・・・。

 

「待っていろ・・・、今、行く・・・!」

 

故に、彼は自室を飛び出して行った。

友としての、最初の務めを果たすために。

 

自分の命の賭け処を見出した目のままに。

 

sideout

 

noside

 

新調した純白のパイロットスーツに着替え、一夏は一人、格納庫への通路を歩いて行く。

 

急ぎ足ながらも、誰にも悟られる事の無いように、その気配は完全に隠されていた。

 

それもそうだ。

何せ、これから彼が向かう戦場は、彼の私闘の場となる。

 

そこに、愛する者や大切な部下を巻き込むわけにはいかない。

 

死ぬつもりなどハナからありはしないが、それでも、自分と同格以上のパイロットを相手に、自分以外の誰かを護りながら戦う事など出来やしない。

 

だからこそ、彼は独りで戦うと決めたのだ。

 

故に、誰かに見付かる訳にもいかない。

そう決め込んで・・・。

 

「皆・・・、すまない・・・。」

 

信じてくれた者達に声も掛けずに出て行くとなると、彼の心はちくりと痛みを覚える。

 

その痛みが、彼が今人間として生きている証だと考えると、少し歓びを感じる所ではあるが、今は感傷など切り捨てるだけだ。

 

一つの目的を見据え、彼はその足を進めた。

 

暫く進み、彼は遂に格納庫に脚を踏み入れた。

 

「ッ・・・!」

 

その瞬間、彼の目に飛び込んで来た光景に、一夏は息を呑んだ。

 

「お待ちしておりました、織斑卿!!」

 

そこには、宗吾を中心とした幹部全員と、ソキウスやガルド達を中心とするアメノミハシラのパイロット達、整備士達が彼に向けて一斉に敬礼し、待ち構えている様子だった。

 

皆、表情を引き締め、何時でも出撃できると言わんばかりだった。

 

「な・・・!?お前等・・・!?」

 

漸く状況を理解したか、一夏は驚愕に震える声で問う。

 

一体これは何のマネだと問う事も出来ず、ただただ、自分の行動が読まれていた事に対する混乱がアリアリと浮かび上がっていた。

 

「悪いが一夏、俺が皆に集まって貰った、命令じゃ無く、有志志願って形でな。」

 

「宗吾っ・・・!」

 

「ロンド・ミナの許可は得ている、後はアンタの号令で出撃だ。」

 

その困惑に答える様に話す宗吾の言葉に、一夏は歯がみしながらも彼を見た。

 

一夏の射抜く様な目を受けても、宗吾は一切動じる事無く、彼に覚悟を籠めた目を向けた。

 

「これは、俺の私闘だ・・・!そんな事に皆を巻き込む訳にはいかない・・・!」

 

「だから何だ、それでも俺達は着いて行くぜ、ストライクSⅡもイズモに搬入している。」

 

「ッ・・・!!」

 

私闘である事を強調し、独りで行こうとする一夏の先手を、宗吾は悉く打っていた。

 

数日前の、ファンファルトとジャックに行わせていた準備とは、一夏の自殺紛いの出奔を諌める為の物だった。

 

とは言え、アメノミハシラとしてもデスティニープランに抗する道も選択肢の一つとしてあったからこそ、こうして戦闘準備を進めていたともいえるが・・・。

 

「一夏、水臭いぜ・・・、折角アンタは俺達に本音を打ち明けてくれたってのに、皆置いてけぼりにするつもりかよ。」

 

逡巡する彼に、宗吾は少しだけ残念そうに、それでいて寂しそうに言葉を紡いだ。

 

一夏の想いを、その本音を聞いた時から、自分は一夏に一生かけて付いて行くと決めた。

 

どれ程過酷な死地だろうと、喜び勇んで向かう心積りだった。

 

だと言うのに、一夏は独りで行こうとしている。

それは、自分達が足手まといになるからと解釈したとしても不思議では無い。

 

だが・・・。

 

「お前はもう一人じゃない、俺達全員、織斑一夏って男に付いて行くぜ。」

 

それでも、宗吾達は置いて行かれる気など更々無かった。

一夏が連れていかねばならない状況を作り出してしまえばいい、それが彼の出した、彼なりの答えだった。

 

「ッ・・・。」

 

その言葉に、彼は何も言えなくなった。

 

彼等の想いは本物だと。

それを無碍にする事など、今の一夏には出来なかった。

 

「さぁ閣下、俺達に道をお示しください。」

 

待っているぞと頭を垂れる宗吾の肩に手を置き、目の前に控える兵達に向き直った。

 

「アメノミハシラ元帥としてでは無く、皆の友人として言わせてもらう。」

 

真剣そのものとなった一夏の表情に、皆が表情を引き締めて彼を注視する。

 

どんな言葉も聞き逃さないと。

その決意を受け止めると。

 

「皆の力を、俺に貸してくれ!」

 

『了解!!』

 

短いながらも、付いて来いと言う意思を籠めて放たれた言葉に、幹部を含めた兵は皆、一斉に敬礼を返した。

 

逃げるつもりなど無い。

その気概を籠めて、彼に応じたのだ。

 

「月へ行くぞ、付いて来い!!」

 

皆を率いるかの如く、彼は先頭に立ってイズモへと乗り込んで行った。

 

最後の戦いの地へ乗り込むために。

そこで待つ、もう一人の友と向き合う為に・・・。

 

sideout

 




次回予告

最後の戦場へと赴くイズモの艦内で、一夏は友に言葉を残した。
それが、最後の言葉になってしまうのだろうか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTARY X INFINITY

告白

お楽しみに


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告白

side宗吾

 

「報告します!月面及び周辺宙域にてザフト軍とクライン一派の戦闘が開始されたとの事です!」

 

アメノミハシラを発ったイズモの艦橋に、ザフトとクライン派の戦闘が始まったという報告が入った。

 

その報告を、俺達幹部は皆、表情を引き締めて目の前に迫る月面を睨む。

 

一夏を中心に、月面、ダイダロス基地を目指して進軍するは、アメノミハシラの旗艦、イズモ。

 

そこにある艦載機はガンダム級が6機、ヤタガラスが8機、M1Aが10機という編成になっている。

 

イズモ級一隻の戦艦に積めるMSの上限いっぱいの戦力を持ってこれたのも純粋に凄いが、それを可能としてしまうほどの信頼を得ている一夏を想うと、少しだが羨ましく思えてならない。

 

俺には彼ほどの求心力を持つ事なんて出来ないと、何処かで感じているからこその小さな嫉妬、なんだろうな・・・。

 

「遂に来たか・・・。」

 

いや、今はそんな事を考えている場合じゃないか。

 

気を取り直して、俺は改めてアメノミハシラに残った諜報部から送られてくる情報に目を通す。

 

現在、月のレクイエムから一番近い中継ステーションに、アークエンジェルとエターナルが攻撃を仕掛けており、ザフト軍の守備隊がそれを迎え撃っているという状況らしい。

 

奴さんの考えは、脚の速い二隻が中継ステーションを破壊、レクイエムを発射不能にしたのちに、オーブ宇宙軍を中心とする部隊がレクイエムを破壊する腹積もりなのだろう。

 

効率がいいと言えばそうだろうが、それはザフト側も読んでいる事だろう。

 

ルキーニの情報では、ダイダロスからアルザッヘルに向かっていた、ゴンドワナを中心とするザフト軍主力艦隊が中継ステーションに向けて進撃、アークエンジェルとエターナルから先に墜とす腹積もりを見せている様だ。

 

つまりこれは、どちらが早く目的を達成できるかにこの戦の勝敗は掛かっていると言う事になる。

物量や兵器の質などでは無く、時間がモノを言わせるだろう事が容易に想像できると言う事だ。

 

尤も、俺達が辿り着ける頃には、中継ステーションが墜ちるかどうかというあたりだろうか。

 

何事もなく進めば、という前提付きだけどな。

 

「目標宙域まではあとどれくらいだ?」

 

「現在ダイダロスまで残り30と言ったところです、御準備願えますか?」

 

そんな事を考えている内に、もう間もなく作戦行動を開始できる距離まで来ているようだ。

 

30と言う事は、大凡で30分以内には到達できると言う事。

つまり、発艦や攻撃はそれより早く行われる事を意味している。

 

要するに、ゆっくりしている暇は無いって事だな。

 

「了解しました、第二戦闘配備、お願いします。」

 

「ハッ!お気を付けて。」

 

艦長に敬礼を返して、俺達は艦橋を後に、格納庫への道を進んで行く。。

 

もうすぐ、俺達もその戦禍の中へと足を踏み入れる。

大義の為とか、思想の為なんて方便でしかない。

 

一夏の為に、コートニーを助ける為に俺達は戦うのだ。

無論、皆もそれに薄々は勘付いてはいるだろうけど、口には出さない。

 

何せ、一応の大義名分が、思想を強制し支配するデュランダルを挫く、という事になっている。

 

ま、口に出す事は野暮ってなもんだけどな。

 

「皆、すまないが、少しだけ聞いてほしい事がある・・・。」

 

そんな事を考えていた時だった、一夏が唐突に口を開いた。

 

「どう、されましたか・・・?」

 

そこから何かを感じ取ったのだろうか、セシリアが表情を硬くしながらも尋ねていた。

 

セシリアだけでは無い、シャルロットも、玲奈も、リーカも、そして俺も・・・。

彼が何かを、俺達にとっても重要な何かを話そうとしていると、察してしまったんだ。

 

「俺はこれからコートニーを救うために戦いに行く・・・、だが、今のコートニーのインパルスは強い、果たして今の俺とストライクで勝てるかどうか、分かったもんじゃない。」

 

「何が言いたい・・・?」

 

何となく、謂わんとしている事は解ってしまう、

 

一夏が眠っている間に、俺は一夏とコートニーの戦闘ログの解析を行っていた。

 

その中で見た、コートニーの駆るデスティニーインパルスの性能とその挙動を見たが、どれをとっても当時の一夏とストライクSを大きく上回っていた。

 

ストライクSⅡが完成した直後に、量子コンピュータでのシュミレーションしてみた結果、一夏の状態を考慮しなければ上回るとなってはいた。

 

だが、それでも何よりも怖いのはマシンでは無い、それを操る人間だった。

 

今のコートニーは恐らく、元の戦闘能力に錯乱状態によるブーストが上乗せされた状態、その力は計り知れないものが有るだろう。

 

「無論、俺も負ける気は無い・・・、だが、俺とアイツが生死関係なくやり合えば、その結果は、4つだ。」

 

「4つ・・・。」

 

確かに、一夏ならどんな敵にも負ける事は無いだろう。

 

だがそれでも、最善から最悪まで事態は何通りにも予想して然るべきものだ。

 

今回の戦における最善と最悪とは・・・。

 

「1つ目は、俺がコートニーを無事に連れ帰る事、2つ目は俺もコートニーも帰って来れない相打ちになる事、まぁこの辺は考えるまでも無いわな。」

 

最善は一夏もコートニーも無傷で帰還する事、最悪は一夏もコートニーも帰って来れないと言う事。

 

最悪は考えたくも無いが、それを覚悟しておかねばならないのが、今の俺達のいる状況だと言う事を、忘れてはならない。

 

だが、二人とも帰って来れないと言うのは、まだマシかも知れない。

何せ、残りの二つは・・・。

 

「三つ目は、俺がコートニーを殺してしまう事・・・、そして4つ目はコートニーが生き残って俺が帰って来れない事、だな・・・。」

 

『ッ・・・!!』

 

その言葉に、俺達は何もいう事が出来なかった。

 

どちらかだけが生き残り、どちらかが死ぬ。

親友同士にはあまりにも酷な現実ではないか。

 

それに、一夏が生き残ったとしても、俺達は果たして前の様に彼を見ていられるのだろうか?

リーカは間違いなく彼を恨むだろうし、一夏も自分の罪の意識に耐えられるかどうか・・・。

 

無論、その逆ならば最悪だ。

一夏を失ったアメノミハシラは、いや、俺達は再び立ち上がることさえ出来なくなるだろう。

 

セシリアもシャルロットは言わずもがな、俺や玲奈も本当に絶望してしまうだろう。

コートニー自身も、自らの手で親友を殺した事に押し潰される事は想像に容易い、リーカもまた、受け入れられる事じゃない。

 

それに直面してしまった時、俺達はどうするべきなのか、何も考えが浮かばなかった。

 

「出撃前にいう事じゃないのは分かっている、だが、これだけは憶えていてほしい。」

 

そんな俺達に、一夏は元から決めていた事があると言わんばかりに、ジッと俺達を見据えた。

 

その目には、濁りの無い光と強い意志が宿ていて、俺達は何も言う事が出来なかった。

 

「もし、俺がコートニーに負けて帰って来れなくても、コートニーを恨まないでやって欲しい。」

 

「そ、そん、な・・・。」

 

一夏の言葉に、シャルロットは何を言うんだと言わんばかりに、弱弱しく首を振った。

 

セシリアも、分かってはいたが面と向かって言われるのは辛いのだろう、僅かに俯いて唇を噛んでいた。

 

仕方あるまい。

最愛の夫を殺した人物が夫の親友で、その相手を恨むなと釘を刺されたのだから。

 

出来る訳がない。

いや、出来た所で受け入れたくはあるまい。

そんな未来が訪れてしまった時、果たして彼女達が一夏の後を追わない保証があるだろうか。

 

嘗て、死の果てまで添い遂げると誓い合った者の死ならば、尚更だ・・・。

 

「だがもし、俺だけが帰って来てしまった場合は、リーカ、俺は君に謝り続ける、無論、憎んでくれても、殺してくれても構わない。」

 

だが、一夏の考えは、俺達の考えよりもよっぽど酷かった。

何せ、自分が死なずに帰って来て、親友が死んだら、その親友の恋人であるリーカに恨まれ殺される事さえ受け入れると言ってのけたのだから・・・。

 

「恨むって、そんな・・・!」

 

そんな事出来る筈も無い。

優しいリーカには出来る筈も無い事だ。

 

だというのに、それを押し付けてしまいたくなる程に、彼にとっても辛い事なのは間違いない。

 

「自分でも都合の良い事を言っている自覚はある、だけど、やっぱ保険は掛けとかないとな。」

 

「保険にしちゃ、何とも嫌な感じね・・・、アンタまさか・・・、コートニー連れ戻せなかったら生きる意味無いって思ってんじゃないわよね?」

 

無いに越した事は無いと笑う一夏を窘めるように呆れる玲奈だったが、何かに気付いたか、その表情は硬かった。

 

俺もそれは察している所だ。

一夏は、親友を殺してしまった場合、その先に生きる気など無いのではないかと。

 

保険と言ったのも、そう言う意味なのだろうか・・・。

 

「ちょっと前までなら、Yesと答えてただろうな・・・、だが、今はそうじゃない。」

 

その問いに、一夏は頼もしい笑みを俺達に向ける。

迷いは無い、そして、惑わせるつもりも無い、そんな笑み。

 

「俺は生きる為に戦う、死ねない理由になる夢も出来た事だしな。」

 

「夢・・・、まさかあの時の・・・?」

 

あの日、オーブの浜辺で語ってくれた夢、それを本当にもう一度実現しようとしているのか・・・。

 

だとすれば・・・。

 

「ならば、私達も撃たれる訳には参りませんわね、貴方様の夢の中に私達がいると言うのならば、意地でも生き残らねばなりませんわね。」

 

「うん、一夏が信じてくれるなら、私も生きる、だから、死ぬなんて謂わないで。」

 

セシリアもリーカも、彼の想いを酌んだ様だ。

最悪の状況を考慮しない訳じゃ無い。

 

だがそれでも、誰も死なせない、その中に自分もいる。

 

今迄の一夏の言葉に無かった熱に、俺達はついつい絆されてしまうようだ。

それを心地良く思う自分がいる。

 

ホント、ズルい男だ。

 

「あぁ、ありがとう。」

 

俺達にそう言い、彼は格納庫へ向けて歩みを再開した。

 

その背には、俺に付いて来いと言わんばかりの風格が自然と漂い、思わず見惚れてしまうものが有った。

 

そう思わせる男に、仲間と、家族同然と信をもらえる事は、これほどに無い誉ではないだろうか。

 

なら、俺も命張らせてもらうとしようじゃないか。

俺が一生ついて行くと誓った男の背を、何者も傷付けられぬように。

 

sideout

 

noside

 

「各員最終チェックに移れ、間も無く戦闘宙域に入るぞ。」

 

格納庫に辿り着くや否や、一夏から全員に号令が飛ぶ。

 

それまでも戦闘に向けて喧騒に包まれていた格納庫内が、更なる緊張感を帯びていく。

 

「よっしゃ!オメェ等準備できてんだろうなぁ!?」

 

ジャックの張り上げた声に、整備士達は皆、オールクリアと声を張り上げて返した。

 

やるべき事はすべてやった、後は戦士である一夏達に託す。

彼等の言葉以上の姿勢がそこにはあった。

 

「お待ちしておりました、閣下!!」

 

彼等を出迎えたのは、今回一夏達に付き従ったガルド達だった。

 

皆、綺麗に整列し、何時でも指示を出してくれと言わんばかりだった。

 

その前に、一夏達幹部6人も綺麗に整列し、彼等と面と向き合った。

 

「皆、これより俺達はレクイエム攻略を開始する、その前に、一つだけ言っておきたい事がある。」

 

出撃を目前に、一夏は部下達に向けて言葉を託す。

 

自分が唯一望む願い。

失いたくないと言う願いを籠めて・・・。

 

一夏の言葉から強い想いを感じ取ったか、彼等は背筋を正し、その言葉を待った。

 

「誰一人、欠ける事なく俺達の家へ帰ろう、俺からのこの戦闘での唯一の命令だ。」

 

誰一人死ぬな。

それが、一夏が下す最後の命令。

 

『了解!!』

 

それを受け、ガルド達新兵、ソキウス達も一斉に一夏に向けて敬礼を返した。

 

死ぬつもりなど毛頭ない。

その命令を死んでも守る。

 

皆、想いは一つだった。

 

『第一戦闘配備!総員合戦用意!!』

 

その時、格納庫、いや、艦内全てに戦闘準備を告げるアナウンスが響き渡る。

 

それを受け、皆自分の機体へと走り、コックピットへと滑り込んだ。

 

「各機順次発進!M1A隊はイズモを護れ、ソキウス達はその近接援護を、ヤタガラス隊はオーブ軍を援護しろ、その指揮は近くにいる幹部に仰げ!幹部勢は分かってるよな?」

 

『了解しました!!』

 

各機に指示を出しつつ、自身の機体を立ち上げていく。

 

指示に穴は無く、拠点防衛とオーブ軍の援護、そして戦場の攪乱を命じた。

 

兵達全員の戦闘能力を考慮し、振り分ける手腕も見事なモノだった。

 

戦闘能力が高くなる幹部は、敵の目を惹きつける役目を担わせる事で味方全体の負担を減らす役目も担っていたのだ。

 

それは彼等も承知するところであり、誰も皆、そこに異を唱える事は無かった。

 

「待っていろ・・・、コートニー・・・、今行くからな・・・。」

 

小さく、だが決然たる意志を以て、胸元で拳を握った。

 

大切な誰かを失わない。

今の彼を突き動かす原動力、それを燃やして・・・。

 

「行くぞ!」

 

強い意志と共に、彼は機体をカタパルトへと進ませる。

 

壊すための戦いでは無く、救うための戦いへと、その身を投じる為に・・・。

 

『進路クリアー、ストライクSⅡ、発進どうぞ!!』

 

「了解!織斑一夏、ストライクシクザール、行くぜ!!」

 

sideout




次回予告

混沌を極める戦場に舞い降りる光。
それは彼に何を齎すと言うのだろうか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

交錯する光

お楽しみに


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交錯する光 前編

noside

 

「状況を確認できるか!?」

 

月面裏側、ダイダロス基地レクイエム発射口の宙域にて、オーブ宇宙軍旗艦、イズモ級2番艦≪クサナギ≫のブリッジで、艦長であるソガ一佐の怒号が飛ぶ。

 

クルーは一様に緊張や恐怖に強張った表情を浮かべており、余裕などどこにもない。

 

副長であり、CIC席に座るアマギ一尉はあまりの衝撃に青ざめてしまっていた。

 

無理も無い、幾ら軍人であり、嘗てはタケミカヅチ、アークエンジェルと名のある船に乗り、前線を見て来た彼にも、それは到底信じがたく、ショッキングな物に映ったに違いない。

 

それは、ソガも例外など無かった。

 

「えぇい・・・!ザフトめ・・・!よもやあのような物を隠していようとは・・・!!」

 

怒りを籠め、彼は艦長席のアームレストを力いっぱい握り締める。

 

こんな事があってたまるか、そう言わんばかりの憤怒が見て取れた。

 

彼の視線の先には、ダイダロスクレーターを見下ろすように浮かぶ宇宙要塞の影が在った。

 

その要塞から放たれた光に、時を同じくして侵攻していた連合軍残党艦隊の大半は呑まれて消滅してしまった。

 

唐突過ぎる攻撃と味方艦隊の消滅の余波は兵達を一気に混乱の最中へと突き落とし、オーブ軍の指揮系統はほぼ崩壊の様相を呈していたのだ。

 

その要塞はメサイア。

第二次ヤキン・ドゥーエ戦後に、資源採掘用アステロイドの残骸を集めて建造された機動要塞であり、デュランダルが標榜するデスティニープランの計画の根幹である遺伝子データを集積する場所でもあった。

 

先の大戦で失われたボアズ、ヤキン・ドゥーエに代わるザフト軍の要塞だと思われたが、それは大きな間違いであった。

 

メサイアの脅威たる所以は、先の大戦で猛威を振るったジェネシスの小型版、ネオジェネシスを内蔵している事が挙げられる。

 

ミラーの換装と言う弱点は残っているが、メサイア自体が移動要塞である事も相俟って、射程の問題は最早あって無い様な物。

それに加え、要塞自体を取り巻くリングは陽電子リフレクター発生装置を内蔵しており、一切合切の攻撃を寄せ付けぬ鉄壁の防御力を誇っていた。

 

無論、ソガはメサイアの全てを知る訳では無かったが、それでも自軍が大ダメージを受けているこの状況を良しとする事は出来ない。

 

いや、状況はそれよりも悪い。

 

何せ、中継ステーションを落とし、レクイエム本体へと向かっているアークエンジェルとエターナルを追撃していた、巨大宇宙空母≪ゴンドワナ≫を中心とするザフト軍宇宙艦隊が、ネオジェネシスの脅威から体勢を立て直せずにいるオーブ宇宙軍に標的を移し、肉迫せんばかりの勢いだった。

 

アークエンジェルやエターナルへ救援を請おうにも、その二隻もまた、猛追するミネルバやメサイアより出撃したMS部隊の猛攻に晒されており、とてもではないが援護など受けられる筈も無かった。

 

だが、このままではこの窮地を脱することさえ出来ず、討ち取られてしまう事も明白だった。

 

敵の術中に嵌ってしまったチェスのプレイヤーの様に、打開策を探していた。

 

その時だった。

 

「ッ・・・!艦長・・・!!」

 

オペレーターを務める兵の、何処か困惑と驚愕が入り混じった言葉が彼を耳朶打った。

 

「どうした・・・!?」

 

「この宙域に急速接近してくる艦影を確認・・・!!」

 

まさか敵の増援か・・・!?

最悪の状況を予想しながらも、彼は何事か問い質す。

 

「識別コードは確認できるか・・・!?」

 

「識別確認・・・!これは・・・、イズモ級一番艦、イズモです・・・!!」

 

「なんだと・・・!?」

 

その報告は、それを聞いたすべての者を困惑させるには十分すぎるモノだった。

 

なにせ、これまでオーブが何度も危機に晒されても動く事の無かった、アメノミハシラに配備される船が現れたのだから。

 

「一体・・・、何が目的で・・・!?」

 

その船に乗る者達の思惑を計り知れず、ソガは困惑のあまり叫ぶ以外なかった。

 

その漆黒の船は、誰の意も介させぬと言わんばかりに向かってくるばかりだった。

 

その思惑が、一人の男のエゴが始まりだったとしても・・・。

 

sideout

 

noside

 

「アメノミハシラの尖兵か・・・。」

 

イズモが宙域に接近してきた事は、既にメサイアの指令室にも届いていた。

 

その報を受けたデュランダルは、その端正な面を僅かに歪める。

 

ネオジェネシスの発射により、大打撃を受けたオーブ宇宙軍を殲滅し、最後の障壁であるラクス・クライン、キラ・ヤマトの両名を討ち果たせば勝利出来ると言うところまで来ていた。

 

他の国の部隊は最早動かせる訳も無く、これで詰めという状況にまで場を整えていたのだ。

 

だが、どういう訳かこれまで一度たりとも表舞台に姿を現さなかったアメノミハシラが兵を挙げ、この大詰めとなった戦場に現れた。

 

その意味を、彼もまた測れずにいた。

 

「まったく・・・、困ったモノだ・・・。」

 

深いため息と共に、彼は不快感を隠す事無く吐き出した。

 

仕方あるまい、計画に無いイレギュラーの出現は、彼を苛立たせるには十分すぎる材料だったのだから。

 

アメノミハシラは、天空の宣言と称する計画を実行してきた事は、逐次仕入れる情報で把握はしていた。

故に、デスティニープランもまた、思想の一つと見做す物と彼は考えていたのだ。

 

だが、そうはさせないと言わんばかりにイズモは現れ、カタパルトからは次々にMSが発艦していく様を確認する事は出来た。

 

「だが、まぁいい・・・、こちらにも戦力はある。」

 

しかし、それが如何したのだと言うのだ。

 

幾らアメノミハシラだろうとも、たかだか一隻しか現れていない。

此方に向かってきている一隻だけならば、どうとでもなる。

 

それに、今倒すべきはアメノミハシラでは無い。

もっと性質の悪い、キラ・ヤマトとラクス・クラインのみ。

 

この二人を始末できれば、デスティニープランの障害は最早あって無い様なものなのだから。

 

とは言え、無視する事が出来ない戦力である事も事実ではある。

 

ならばどうするか?

 

答えは単純明快だった。

 

「ヒエロニムス隊長、新たに敵軍が現れた、部隊を率いて討滅に当たって欲しい。」

 

通信を格納庫へとつなぎ、そこで待機している特務MS隊の隊長、コートニー・ヒエロニムスに命令を下す。

 

彼は一度、アメノミハシラ攻略戦の指揮を執り、幹部を一人討った経験を持っている。

対アメノミハシラの戦力としては、これ以上ない存在であると言えるだろう。

 

尤も、アメノミハシラには彼が友人と呼ぶ者達がいる事も、デュランダルは知っていたのだ。

 

故に彼は、何処の軍が現れたかを明確にはしなかった。

コートニーを躊躇わせない為に、想いのまま使う為にも。

 

『了解しました・・・。』

 

短く、只諾々と、コートニーは了解と返して通信を切る。

 

これで良い。

デュランダルはほくそ笑んだ。

 

彼等がどうなるかは能力を司る遺伝子が、彼等が持つ運命が決めるだろう。

 

デスティニープランを敷くため、彼は目まぐるしく移り変わる戦場を眺めた。

 

この戦いの先に待つ未来に、想いを馳せて・・・。

 

sideout

 

noside

 

「現宙域に展開するザフト、オーブ全軍に通達する、こちらアメノミハシラ、ロンド・サハク。」

 

イズモの出現に困惑する宙域に、一夏の力強い声が響く。

 

そのあまりにも唐突な出現と声に、ダイダロス基地周辺の宙域に展開していた者達全てに、驚愕と困惑、そして、得体の知れない恐怖を抱かせる。

 

彼が自身の名を名乗らなかったのには、一重にロンド・ミナの名の影響力を計算に入れての事だった。

 

ミナの様に表舞台に立つ事なく、裏方としてアンダーグランドに潜んだ一夏では、その名の持つ影響力はそれこそ雲泥の差である。

 

仕方のない事とは言え、一夏個人としては個人攻撃されなくて良いと思う反面、もう少し自分の名前が通る様になればなぁ、とも思わなくは無かったが、それは今語る事では無い。

 

「我々は天空の宣言を掲げる者として、デュランダル議長が推し進めるデスティニープランへの、その武力及び思想面の強制は見過ごす事は出来ない。」

 

建前を語りつつも、それは一夏の本音でもあった。

確かに平和は欲しいし、争いが無くなるならばそれは望ましい事ではある。

 

だが、それは人間が人間らしく生きる事で、夢を追いかけ傷付きながらでも生きようとする事に意味がある。

 

だから、最初から夢や未来と言う選択肢を与えないデスティニープランを、受け入れる事など出来なかったのだ。

 

運命に抗うと決めた者としても、乗り越えたいモノだった。

 

「故にその不要な大量破壊兵器を護るザフト軍諸君を攻撃させて頂く、悪く思うな。」

 

その宣言と共に、彼はストライクSⅡの背からアスカロンⅡを抜刀、その切っ先をメサイアに向けた。

 

その行為は、デュランダルに対して、デスティニープランに対しての宣戦布告と同義だった。

 

「各機作戦行動に移れ!イズモはゴンドワナを牽制してオーブの艦隊を援護しろ!」

 

一夏の戟とも取れる号令が響く。

 

その通信はわざとオープンチャンネルにて発せられており、ザフト軍MS部隊に動揺と緊張を与える意図があった。

 

その命令に、アメノミハシラの兵達は雄叫びをあげながらも戦線へと加わって行く。

その勢いは正に怒涛であり、あまりの勢いに呑まれる者もチラホラと見受けられた。

 

ザフトが優勢である現在の戦場に、一種の楔を打ち込む心積もりで放たれたそれは、見事に望む効果を出していた。

 

『了解!!』

 

一夏の命令に、アメノミハシラMS隊の全員が勇んで応じ、各々が敵へと向かって行った。

今回の討ち入りに際し、一夏の腹の内など参加している全員が察している物だった。

 

基本的に大規模抗争には参加しない立場のアメノミハシラの事情を無視してでも、一夏の想いを遂げさせてやりたい。

それが、一夏に拾われ、救われ、導かれた者達の想いだった。

 

「一番槍はアタシが貰うわね!!」

 

その想いを一番強く持ち、真っ先に飛び出して行ったのは、イージスシエロだった。

 

ムラサメを凌駕するその機動力は、ザフト軍主力MSのザクウォーリアをあっさりと置き去りにする程であり、幹部機であるイージスシエロはすれ違い様に、トルメント・フロストに展開したビームソードで斬りつける。

 

その刹那に、漆黒の宇宙空間には大輪の華かと錯覚する閃光が煌めき、消滅していく。

 

その速さは正に神速であり、斬られたザクのパイロットも、斬られた事に気付かぬままだった事だろう。

 

呆気にとられていたザフト軍MS部隊も、攻撃されていると気付き、すぐさま彼女に向けて攻撃を開始しようと動き出す。

 

その数は実に10を超え、その中でも先じていた一機のグフイグナイテッドが猛然と迫って行く。

 

だが、そうはさせないと言わんばかりに、次なる矢は飛来する。

 

幾重もの光条がザクやグフの行く手を遮るかのように撃ち掛けられる。

 

その圧は正に壁と呼ぶにふさわしく、その攻撃に巻き込まれた数機のザクが被弾、離脱していった。

 

まさか増援部隊か?

なんとか回避したグフのパイロットが、向かって来た方向へと目を向けると、そこには全身に火器を備えた一機のMSの姿があった、

 

一機であれほどの量の火器を操れると言うのか!?

 

それを見たパイロットは、愕然とした心持だったに違いあるまい。

 

「可愛い後輩をヤラせはしないよ、僕にだって意地はある!」

 

その機体、バスターイグニートを駆るシャルロットは、迫り来るMS部隊に向かって咆えた。

 

仲間を討たせはしない。

そして、未来を掴む。

 

その想いを籠め、彼女は愛機に搭載される火器を全て開き、有効射程距離にいるすべての敵をロック、躊躇う事なく銃撃の雨霰を撃ち掛ける。

 

活動時間を一切考慮しないその攻撃力は凄まじく、辺りを漂うデブリもろとも焼き尽くしていく。

 

そのあまりの火力を恐れたか、ザフトMS部隊の多数がバスターイグニートを狙い動く。

 

厄介な火力持ちを潰しておこうと言う魂胆だろうが、戦法的には実に理に適っている。

 

だが・・・。

 

「行きなさい、クリスタロスッ!!」

 

何処からともなく四刃の煌めく牙が飛翔、近付くザクやグフの手足武装を一瞬の内に斬り飛ばして沈黙させる。

 

パイロット達は何が起こったと言わんばかりに瞠目するが、それの正体に気付いたとて何も出来る筈も無かった。

 

そんな彼等を見下ろす様に、四基のソードドラグーンを従えた蒼いMS、デュエルグレイシアが舞い降りる。

 

それを操るセシリアは、女王の如き威厳と、騎士の如き勇壮さを以て、敵を睥睨していた。

 

またしても厄介な敵が現れたと、ザフトのMS隊は火線を逃れながらも撃滅に動く。

 

しかし、その内の一機が、まるで何かに絡め取られたかの様に動けなくなる。

 

一体何事か!?

そのパイロットが振り向くと、右腕と左足が見事にワイヤーアンカーが巻き付いていた。

 

一体何処から?

アンカーの先に視線を移せど、そこには宇宙の漆黒が広がるのみであり、それを撃っている機体は見受けられなかった。

 

だが、不意に空間が揺らぎ、蜃気楼の如く黒いMSがその姿を現す。

 

パイロットが驚く間も無く、黒いMS、ブリッツスキアーは腰刀を抜刀、最低限の動きであっさりとバックパックと右腕を斬り飛ばし、行動不能に追い込んだ。

 

その腕、まさに仕事人と呼ぶべき技であり、無駄の無い洗練された動きがあった。

 

「ウチのお嬢をやらせる訳にはいかないからな、我が主に面目立てる為にも頑張らせてもらうぜ。」

 

ザクをザフト軍艦隊が展開する方向へと蹴りとばしつつも、宗吾は次なる獲物を求めて姿を潜める。

 

正に闇夜に紛れて敵を狩る忍者の如く、そして、主に忠を立てる義士の如く。

 

ガンダムタイプが数機いる。

それはザフトのパイロット達にとっては最早戦慄するものではないだろうか。

 

ガンダムタイプのMSは、言ってしまえばワンオフの高性能機である事が多く、それを与えられるのもかなりの腕を持つスーパーエースであると同義である。

 

現に、フリーダム然り、ジャスティス然り、ガンダムタイプは先の大戦から多大な戦果を挙げ、伝説となるほどなのだ。

今の大戦の中でも、ガンダムタイプは連合ザフト問わず、それぞれの陣営に対しての驚異の一つともなっている程なのだから。

 

それが一機だけならまだしも、数機連携して攻めてくるのだ。

恐怖以外の何物でもない。

 

「閣下たちに後れを取るな!イズモにはミサイルの一発たりとも近付けるなよ!!」

 

『おう!!』

 

幹部達の勢いに負けじと、ガルド達も己が愛機を駆り、群がりはじめたザフト軍MS部隊を蹴散らしていく。

 

オーブ軍のムラサメをベースにしながらも、プロトセイバーのデータも取り入れられた宙の黒鳥は、最早誰にも止められぬ程の速さと動きを見せ付けていた。

 

困惑に対処が遅れたザフト軍MS部隊だったが、反撃とばかりにイズモに狙いを定めた。

 

目論見が上手くハマった、一夏は自身の一手が成功した事を満足しつつ、ダイダロス上空より逃れたクサナギへと通信を入れた。

 

「クサナギ、応答せよ、こちらロンド・サハク。」

 

『クサナギ艦長のソガであります・・・!ロンド・サハク様・・・!これは一体・・・!?』

 

通信が繋がるや否や、血相を変えたソガの顔がモニターに映し出された。

 

一体どういう事か、その説明を求めているのだろうが、悠長に話している暇は何処にも無い。

 

「ソガ艦長、イズモを起点に体制を立て直せ、ゴンドワナを牽制出来ている今がチャンスだ、急げよ。」

 

手短に返しつつ、彼はストライクSⅡをメサイアへ向けて奔らせる。

 

何時もの、好敵手であり親友と呼び合う感覚がそちらからしている事に気付いていたから。

 

『お待ちを・・・!何故今になって・・・!?』

 

とは言え、何も知らぬソガには、彼の行動全てが不気味にしか思えぬものに違いない。

 

少しは説明してほしいと言うのが本音だっただろう。

 

「上からの命令は絶対、だろ?オーブの軍人ならやり遂げてみせよ!」

 

だが、それを説明している暇は無い。

故に、彼は命令するだけに留めた。

 

オーブの兵ならば、生き残れと命令するだけでやり切ろうとする気概を信じてみる方が幾らか楽だと。

 

故に、彼は只只管に走った。

 

友の為に。

その夢の為に・・・。

 

sideout




次回予告

運命が錯綜する戦場で、二人は再び相見える。
夢と想いが交わる時、彼等の瞳には何が映るだろうか。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

交錯する光 後編

お楽しみに


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交錯する光 後編

sideコートニー

 

これで本当に、叶うのだろうか・・・?

 

数多の光芒が瞬く宇宙空間を映し出すモニターを眺めながらも、俺は機体のコックピットで、何処か人ごとの様な心地でいた。

 

漆黒の闇に瞬く光は、まるで花火の様な浮世離れした美しさを醸し出している。

だがそれは、幾つもの命が散っている事に他ならない。

 

解っていても、俺は、それを現実と受け入れる事も、偽りだと目を逸らす事もせず、ただ茫然と見ているだけだった。

 

命が散っていると言う事にも、俺自身がこれからその中心に身を投じようとしている事にも、まるで自分の事であるという実感が湧かないでいた。

 

『ヒエロニムス隊長。』

 

そんな俺を現世に呼び戻す様に通信が入る。

 

相手は、プラント最高評議会議長にして、特務隊FAITHの直属の指揮官とも呼べる人物、ギルバート・デュランダルだった。

 

『新たに敵軍が現れた、部隊を率いて討滅に当たって欲しい。』

 

やはりと言うべきか、それは俺達に出撃せよという命令に他ならなかった。

 

それに逆らう事など出来やしない。

逆らえばどうなるかなど、もう分かり切っていたから・・・。

 

だけど、それ以上に俺は・・・。

 

議長がやろうとしている事、それは争いを失くす事である。

 

それは、俺が叶えたいと願う兵器の在り様も示していた・・・。

 

恐怖以上に、俺はそれに惹かれてしまった。

だから、逃げる事など出来る筈が無かった。

 

幻想だと切り捨てる事も出来なかった。

 

親友を撃ってしまった事も、間違いだと解っていても・・・。

俺はもう進むしか、無かった・・・。

 

「了解しました・・・。」

 

ただ諾々と従い、俺はそれだけ返して通信を切った。

 

これで良い・・・、これで良いんだ・・・。

 

「ヒエロニムスより各機、これよりミスティルティンは出撃する。」

 

『了解!』

 

部下として与えられた特務隊のメンバーの声を聞きながらも、俺は一人で準備を始める。

 

隊長とは言え、特務隊FAITHの中では所詮飾りでしかない立場だ。

戦場に出れば議長以外の指揮系統を無視して戦う事も出来る部隊であるが故に、隊員同士個人的な付き合いはあったとしても、部隊としてつるむ事は無い。

 

だから、俺は独りで居易かった・・・。

こんな俺を、影に怯える弱い俺を、誰からも見られたくなかったから・・・。

 

『X56S/θ、出撃位置へ!』

 

そんな俺の思考を断ち切るように、オペレーターからの通信が入る。

 

すでに他の機体は出撃しており、部隊は俺を残すだけとなっていた。

 

―――コートニー…―――

 

操縦捍を握り、機体を動かそうとする俺に、またしても声が響いた。

 

やめろ・・・、もう、出てくるな・・・。

 

これ以上、俺にその顔を見せないでくれ・・・!

 

逃げるように頭を振って、俺は目の前にある、開きつつあったハッチだけをにらんだ。

 

行かなければならない。

俺は、行かなければならなかった…。

 

俺の夢を、俺の理想である、戦争をさせない兵器の姿をこの目で見るためにも・・・。

 

『進路クリアー!インパルス、発進どうぞ!』

 

「了解、コートニー・ヒエロニムス、デスティニーインパルス、発進する!」

 

ハッチが完全に開放され、真空の宙が見えた瞬間に、俺は何時もの様に、スロットルを踏み込み、メサイアの外へと飛び出していく。

 

他の部隊員たちの機体であるザクやグフはもう既に月面へと向かっており、今にも残されたオーブ軍に食らいつこうとしている最中だった。

 

彼らも、ザフトの軍人として為すべきことを為すためだけに戦いに赴くのだ。

 

だから、俺も、今はただ何も考えずに、目の前に迫る敵を倒すだけなのだと・・・。

 

俺も、彼らに倣う様に動き、月面を目指す。

大小様々な起伏が覗える無色の大地が視界を埋め尽くすように迫ってくる。

 

そこで乱れ飛ぶオーブ軍MS、ムラサメがこちらに気付き、振り向こうとする。

 

だが、遅い。

気づけば俺は、意識することなくトリガーを引いていた。

 

ライフルから放たれたビームの光条がムラサメを貫き、反撃の暇さえ与えることなく爆散させた。

 

またしてもその機体に、俺が撃ってしまった機体の影がダブる。

 

「ッ・・・!!」

 

声にならぬ声を上げたところで、現実は何も変わりはしない。

 

そう、これが現実・・・。

戦場では有り触れた、生と死のやり取り・・・。

 

俺がやっていることは紛れもない、戦争に加担するということ・・・。

 

わかっていた・・・、解っていたじゃないか・・・。

今までも同じようにやってきたはずなのに、なんでこうも苦しくなるんだ・・・?

 

解っている。

ただ受け入れることを拒んでいるだけだと・・・。

 

アイツを撃った罪を、受け入れたくないと・・・。

 

「仕方ないんだ・・・、これも、戦争をさせないための・・・!」

 

無理やり自分を正当化させても、こみ上げてくるような苦さと、窒息してしまいそうになるほどの息苦しさは消えてはくれない。

 

だが、今は戦うしかない。

敵は目の前にいる、それを討たなければ、この争いは終わらない。

 

この戦争を終わらせて、議長の目指す世で、争いを生み出さない兵器を創るためにも・・・!!

 

それが、俺が幼い頃から夢見て、今まさに叶おうとしている、願い・・・。

 

そのためにも止まるわけにはいかない。

何のために戦い続けてきたんだ?

その望みのためなんだろう・・・!?

 

だから、今はこれでいい・・・、これでいいんだ・・・!!

 

戦うことで、とにかく動き続ける事で、この苦しみを一時でも忘れようと、デスティニーインパルスを動かそうとした、まさにその時だった・・・。

 

「これは・・・、この、感じは・・・!?」

 

突如として走る、稲妻のような感覚。

焼けるように熱い、だというのに不快感はなく、ただただ高揚感を感じさせるような、あの感覚・・・。

 

これは、アイツと相対した時の・・・。

 

「違う・・・そんな筈はない・・・!アイツは、アイツは・・・!!」

 

認めたくなどなかった。

彼は、俺が・・・、俺が手にかけた・・・!!

 

この感覚も、錯覚なんだ・・・!!

 

そう思い込もうとしても、感覚はより一層に強さを増し、俺を呼ぶかのように鳴動する。

 

まさか・・・。

 

その感情に突き動かされるかのように、俺はいつの間にかその感覚が強くなる方向へと機体を動かしていた。

 

俺の気のせいであってくれと思うと同時に、間違いじゃないと思う心があった。

 

期待を抱いたところで、俺がやったことには変わりはない。

だというのに・・・。

 

だというのに、俺は引き返す事が出来なかった。

彼がそこまで来ているという、幻想にしがみ付きたかったから・・・。

 

どれぐらい進んだ頃だろうか、その感覚がひと際強くなったところで、その機体を目視する。

 

漆黒の宙を染め上げる程に輝く翼を広げ、こちらに向かってくる一揆のガンダムタイプを視認する。

 

プラチナと見紛うほどに輝く白を基調としたMSを、俺は知っている。

 

背負うストライカーと、細部に追加された装備などは違っても、シルエットとそこから発せられるプレッシャーは何一つ変わらない。

 

あれはストライクSの改修型・・・、そのパイロットは・・・。

 

『こちら、アメノミハシラの織斑一夏・・・、応答してくれ、コートニー。』

 

通信機より発せられた声は、どこまでも穏やかで、どこまでも優しい響きを持って俺を揺さぶった。

 

そうだ・・・俺はこの声を知っている。

何度も戦い、何度も酒を酌み交わした親友で、俺が手にかけてしまった、彼は・・・。

 

「い、一夏・・・?一夏なのか・・・!?」

 

そんな筈はない・・・。

彼は俺が撃ってしまった・・・!!

 

止めようとしたリーカごと、俺が・・・!

 

『あぁ、俺だよ、コートニー。』

 

「っ・・・!!」

 

怒りも憎しみも感じない、いつも話すような調子の声は、俺を落ち着かせるために放たれたものだっただろう。

 

だが、俺にはそれがいつも聞こえてくるあの声と重なるように聞こえてくる。

 

―――コートニー―――

 

眠る時も、出撃する時も・・・!

何時も俺を責めるかのように耳朶打つ声・・・!

 

「やめろ・・・!そんなわけがない・・・!お前は・・・!!」

 

受け入れられなかった。

一夏が生きていることではない。

 

俺が一夏を殺したという事実を、受け入れられない。

 

『落ち着け、コートニー!俺はここにいる、ここにいるぞ!!』

 

俺を抑えようとしてくるのか、ストライクSが手を伸ばしてくる。

 

しかし、俺に見えたのは鋼鉄の巨人ではない。

全身から血を流し、まるで救いを求めるかのように手を伸ばす、彼の苦悶に満ちた姿・・・。

 

「よせ・・・!来るな・・・!来るなぁッ・・・!!」

 

もう無我夢中だった。

俺は気づいた時には、すでにライフルのトリガーを引き絞っていた。

 

「ッ・・・!!」

 

止めようとしても、逸らそうとしてももう遅い。

放たれた光条は漆黒の宙を突き進み、ストライクSへと向かっていく。

 

やめろ・・・!

逃げてくれ、一夏・・・!!

 

声に出すこともできず、その光景を瞬きさえ出来ずに直視する他なかった。

 

だが、ストライクSは微動だにすることなく、全身を光の翼で包み込む事でビームを防ぎ、霧散させていた。

 

どうやらビームシールドを展開している状態なのだろうと、頭のどこか冷静な部分でぼんやりとアタリを付けていた。

 

『コートニー!!俺の声を聴け!!』

 

彼が無事なことに安堵するよりも先に、一夏の声が俺に突き刺さる。

 

俺に対する怒り、というよりも憤りが強い声を上げながらも、機体をこちらに寄せてくる。

 

「やめろ・・・!!やめてくれ・・・!!」

 

それを近寄らせまいと、俺は機体を後退させながらも、背中のビーム砲を展開、最早狙いなど直感で定めて引き金を引き絞る。

 

無我夢中だった。

目の前にある現実とも,夢現かも分からないものを消してしまいたいと。

 

放たれたビームは、その出力に見合う成果を上げることなく、ストライクSの手前で霧散、一切の傷さえ付けることはなかった・・・。

 

『コートニーッ!!お前!自分が何をしているのか、解っているのかっ!?』

 

「黙れっ・・・!!俺はッ・・・!戦争を・・・!兵器を、争いから解放するために・・・!」

 

その叫びに、俺は意味をなさない声で叫び返す事しかできていなかった。

 

兵器を争いから解放する、自分でも口にしたことのない、俺自身の望みと似て非なる解釈の言葉を叫んでいた。

 

『そうかよ・・・!お前も囚われているんだな・・・!ならば俺が、その闇を祓う!!』

 

奴の宣言と共に、ストライクSは対艦刀を二本とも抜き放ち、背中の翼をより一層雄々しく輝かせながらも、こちらに向けて突っ込んでくる。

 

「黙れっ・・・!黙れぇぇっ!!」

 

俺もまた、エクスカリバーを二本とも抜刀、その白い機体に向けて突っ込んでいく。

 

もうなりふり構ってなどいられなかった。

ただ、目の前にある悪夢と形容したくなるような現実を、かき消したい一心だった・・・。

 

その行為が、以前自分が犯した罪と同じであると、気付かぬままに・・・。

 

sideout




次回予告

ぶつかり合う想いと願い。
そこに籠められし執念の強さは、運命をどのように手繰り寄せるだろうか?
そして、それを見守る彼らもまた、主がために戦い続けるのだ。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

最後の力

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最後の力

noside

 

「「うぉぉぉ!!」」

 

月面、ダイダロスから少し移動した宙域にて、二機のMSが乱舞する。

はた目には、何か光り輝くものが駆け抜けていったようにしか見えぬほど、その速度は凄まじいものだった。

 

白と青、二機は目まぐるしい速さで交錯し、それぞれが両手に保持する対艦刀を振るう。

そこに一切合切の加減はなく、ただ相手を仕留めんと言わんばかりの気迫が籠められていた。

 

白金の機体、織斑一夏の駆るストライクシクザールは、射撃能力をほぼゼロとする代わりに、最高峰の加速力と絶対的とも呼べる防御力を得るに至った機体だ。

 

緊急推進システム≪ヴォワチュール・リュミエール≫を背面に装備されるシクザールストライカー及び、機体各所に新造したVLユニットに搭載している。

その加速力は凄まじく、同時に散布されるミラージュ・コロイドによる残像も相まって、燃える翼を広げ戦場を飛び回る不死鳥の如き勇壮さを持っていた。

 

それに対する青い機体、コートニー・ヒエロニムスが駆るデスティニーインパルスは、換装型汎用機であるインパルスに、全領域対応型シルエット≪デスティニーシルエット≫を装備させた機体である。

 

機体の安定性や、バッテリー機であるという点を除けば、最新鋭機かつ上位互換機であるデスティニーにも引けを取らない性能を有している。

 

また、試験的ではあるが、デスティニーインパルスにはヴォワチュール・リュミエールが搭載され、機動力の面で言えば、一般的に高機動と言われるMSを遥かに凌ぐモノを持っている。

 

不安定ながらも光り輝く翼を羽ばたかせ、戦場を舞う様に飛び回る姿は、不死鳥を駆る青龍のごとし。

 

両者とも、一部武装に違いはあれど、超高速で相手に接近し、叩き切るという戦法を取っており、パイロットである一夏とコートニーの力量はほぼ同じ、性能及び武装面における差はほぼ皆無という様相だった。

 

さらに言えば、この二人は二年前の南米から幾度となく刃を交えてきた間柄、互いの手の内など最早知り尽くしたも同然だった。

 

だが、それがどうしたと言わんばかりに、二機の纏う光は一層輝きを増し、相手を打倒せんとスロットルを更に上げ切、必中の意志を込めた斬撃を打ち込み、回避していく。

 

対艦刀の斬撃が両機を掠め、時にはバイタルエリアを掠める。

だが、それでも二機が怯む事は一切なく、更に加速していく。

 

それは正に、二つの斬撃の嵐がぶつかり合っているような錯覚さえ感じる程であり、巻き込まれれば最後、二つの嵐に切り刻まれるのがオチだった。

 

その証拠に、二機が争う近辺に展開していたMS隊は、ザフト、オーブの隔てなく後退、巻き込まれるのを徹底して避けていた。

 

それも致し方あるまい。

それほどまでに、其の二機の戦闘は苛烈であり、最早エネルギー節約など全く考えない動きだったのだから。

 

それもその筈だ、ストライクシクザールはシクザールストライカーに核エンジンを搭載しているために、実質的にエネルギー切れはないと言える。

つまりは、一夏はバッテリー切れによるガス欠を気にする事無く、戦闘を続行できるのだ。

 

だが、通常バッテリー機であるデスティニーインパルスまでもが、バッテリーを気にしない戦闘を続けているのか?

 

それには二つの理由が存在していた。

 

一つには、ヴォワチュール・リュミエールが大きな要因となっていた。

 

ヴォワチュール・リュミエール―――以降VL―――は元々深宇宙開発機構≪D.S.S.D.≫が開発した推進システムであり、大雑把に説明するならば、太陽風を光の帆で受け止めて進むシステムである。

 

理屈としては太陽風を光圧へと変換、推進力とすることで加速するシステムである。

尤も、その推力への変換効率はそこまで良いとは言い難く、一瞬で急激な加速力を得るのではなく、徐々に加速していくものだったが・・・。

 

これは純粋な外宇宙進出の足掛かりとなるべく生み出されたジェネシスによく似ているが、関連性はいまだ不明であるとしている。

 

だが、とある事件を機にデータが流出、様々な陣営にそのデータが渡った。

尤も、それ以前にも同名の推進システムは存在していたため、一概にそれが原因とは言えないが、今はそれは関係のないことだ。

 

VLのデータを各陣営は軍事転用し、本来は緩慢な加速しか行えなかった本システムにレーザー推進の技術を盛り込み、MSの加速装置として搭載することに成功、劇的な加速を付与することに寄与していた。

 

しかし、その結果、消費する電力はそれこそ膨大なものとなり、バッテリー機ではとてもではないが戦闘など出来たものではなく、モノの数分でバッテリーが枯渇してしまうという欠陥を抱える事となった。

 

現に、本来ならばデスティニーインパルスも、一度の出撃の度に数度のデュートリオン送電を受ける必要があったほどだ。

それを解決するためには核エンジンから与えられる無限のパワー以外ない、筈だった。

 

だが、これを解決するのもまた、VLだった。

 

二つ目の理由に、ストライクシクザールに搭載されているVLのシステムがあった。

 

以前のデスティニーインパルスとの戦闘で中破したストライクSを、ストライクシクザールへと改修した際、VLを登載することになった。

この時に用いられたデータは、デルタアストレイとターンデルタに搭載されていた物であった。

 

ターンデルタはデスティニーインパルス同様、核エンジンを持たないバッテリー機であった。

さらに言えば、アルミューレ・リュミエールと併用し、防御帯として使用する事も想定されているため、稼働時間は大幅に削られることは自明の理であった。

 

だが、ターンデルタにはほかの機体とは一線を画するシステムが、ジャンク屋のロウ・ギュールの手によって組み込まれていたのだ。

 

そのシステムとは、VL同士の相互干渉を利用した無線エネルギー供給だった。

 

諸般の事情で、大破したデルタアストレイから核エンジンを取り出せなかったため、ターンデルタを安定稼働させるために取り入れられたシステムであり、接触するほどのゼロ距離から、それこそ目視できる距離程度ならばエネルギー供給を可能としたものである。

 

これがストライクシクザールにも、改良すべき点がそこまで見当たらなかったという理由で、ほぼそのまま搭載されることとなった。

結果としてはうまくシステムが機能しているおかげで、ストライクシクザールは一夏の手足となり宙をかけているのだが、それが思わぬ副次効果を呼び込んでいた。

 

以上の事から解る様に、両者ともVLを搭載しており、尚且つストライクシクザールは核エンジンを搭載、そして発生するVL同士の相互干渉。

早い話が、ストライクシクザールが生み出したエネルギーの一部が、デスティニーインパルスに供給されている十いう事だった。

 

その結果が、二機とも自機のエネルギー消費を一切考えない、ほぼ捨て身と言わんばかりの戦いを続ける事となったのだ。

 

だが、そんな長々とした理屈など、今の二人には何も関係のないことだった。

 

今の彼らには、目の前にいる相手がすべてだったのだから。

 

「コートニー・・・!こんなやり方が正義だとでもいうのか・・・!?」

 

斬撃を躱し、時にはシールドで受け流しながらも、一夏は親友の意を問うために叫んだ。

 

コートニーの願いは聞き及んでいるし、それが現在の世界では難しい事であることも承知している。

 

だがしかし、だからと言って、デスティニープラン下で実現するかと言われれば首をかしげるところだ。

 

人が役割を与えられる。

それを逸脱させないための抑止力として、兵器は存在することとなる。

 

戦争をさせない兵器の姿であることは確かだ。

だがそれが、果たして彼が望む世界での兵器の在り方だと言えるのか?

 

一夏個人は否と言いたいところだ。

譬え、本当にそうであったとしても、今のコートニーは罪の意識に囚われ、錯乱している事に変わりはない。

 

故に、正しい判断を下せているとは、到底思えなかったのだ。

 

「黙れっ・・・!必ず辿り着かねばならないんだ・・・!」

 

血を吐くような叫びと共に、対艦刀が振り下ろされる。

 

その一撃を逸らし、懐に入ろうと試みるが、接近を妨げるようにもう一閃、対艦刀の剣戟が迫る。

 

「ちっ・・・!」

 

舌打ちしつつ後退し、対艦刀を一本格納しながらも、左手にビームピストルを保持、牽制として撃ちかける。

 

そのこと如くは避けられるか切り払われるかしてダメージを与えることは叶わなかったが、それでも距離を開くことには成功したようだ。

 

「デスティニープランには・・・!俺の夢を叶えられる可能性がある・・・!ならば悔いなどない・・・!!」

 

血を吐くような叫びながらも言い切った言葉。

 

だが、そこにはただ張り上げただけの、感情が乗せられていないようにも感じられた。

 

「ふざけるな・・・!この暴力が、理由のない悪意をまき散らすものが!本当に争いを失くす兵器だとでもいうのか!?」

 

「お前に何がわかるっ・・・!?」

 

一夏の憤慨に満ちた問いに、コートニーは黙っていろと言わんばかりに叫び返した。

 

夢を、それを追いかける事の何が悪いと、お前に俺の何がわかると。

 

「解るに決まっている・・・!今のお前は逃げているだけだッ!」

 

逃げているだけ。

一夏は嘗ての自分自身の姿を、もう一度今のコートニーと重ね合わせ、向き合っていた。

 

神の言いなりとなって罪を犯し、人間として果たすべき責任から目を背けた愚かな男。

 

それが彼が抱えていた闇であり、夢へと一歩踏み出せなかった根源だったのだ。

 

だが、今の彼はそれを真正面から受け止め、立ち向かう覚悟で今ここにいる。

 

罪から目を背けて、ただ言われるがまま踊らされるばかりのコートニーを、見捨てるわけにはいかなかったのだ。

 

ビームピストルを撃ちかけながらも、彼は叫ぶことをやめなかった。

 

帰ってきてほしいから。

あの時の、夢を語る時の熱と輝きを持ったコートニーに、自分のそばに戻ってきてほしいから。

 

「それでもっ・・・!それでも俺は・・・!!俺は進むしか、ないんだぁぁぁ!!」

 

もう後戻りなど出来るはずがない。

悲痛にゆがむ叫びと共に、彼は両の腕にビームシールドを展開、ビームピストルの光条を防御、そのままの勢いで一気にストライクシクザールへと突っ込み、体当たりを仕掛けた。

 

しかし、光の障壁を展開するストライクシクザールのアルミューレ・リュミエールとぶつかり、再び拮抗状態へともつれ込んだ。

 

「ッ・・・!そうかよ・・・!なら、俺も進ませてもらうぞ・・・!俺の望む、本当の明日へッ!!」

 

その意思を汲んだ一夏もまた咆える。

 

自分も、自分自身の願いの元で戦うと。

そのためにも、今のお前を一発ぶん殴ってやる。

 

その想いを込め、彼は再び対艦刀を振るう。

 

友を想い、自分自身の未来を、その刃に賭けて・・・。

 

sideout

 

noside

 

「各機!損害状況報せ!!」」

 

向かってくるザクウォーリアの頭部と右腕を切り飛ばしながら、ブリッツスキアーを駆る宗吾は味方全機に報告を求める。

 

一夏より現場の指揮権を預けられた身として、彼は戦場すべての気配に気を配っていた。

 

既に戦闘を開始してからかなりの時間が経過しており、オーブ軍を庇いながらも最前線で戦う彼の機体には、今だ目立った損傷は見て取れなかった。

 

艦隊の直援に回っているリーカのプロトセイバーはともかくとして、他の幹部機は最前線の中でも最も苛烈な攻めを仕掛けてくる、ゴンドワナやメサイアからの部隊を相手取っている。

 

今回の戦い、リーカは祖国であるプラントに弓を引くことになる。

 

如何に裏切りを受けたとはいえ、その痛みは、故郷を持たぬ一夏達にも容易に想像に易いものだった。

 

故に、その痛みを少しでも和らげるために、宗吾は一夏の出撃後、リーカにはイズモの直援を任せていた。

 

向かい来る敵の数はそれこそ多くはなる。

だが、どちらかといえば防御の側面が強い役回りに加え、プロトセイバーの加速力なら離れた距離にいる敵にも対応ができると踏んだフォーメーションだったのだ。

 

リーカもそれを受け、せめて自分ができることをと、迫りくる敵MSと交戦を続けていたのだ。

 

自分のために、そして、帰ってくるはずの彼のためにも・・・。

 

そんな彼女の思いとは裏腹に、遠近、そして奇襲型のMSがバランスよく揃っており、尚且つガンダムタイプを筆頭とする高性能MSを有するアメノミハシラのMS隊ではあるが、それでも数の上での不利は当然ながら存在する。

 

それを補っているのは、一重にアメノミハシラMS隊の練度の高さに他ならないが、それで凌げるほどザフトも甘くは無い。

 

故に、誰かが傷ついていればフォローに回る。

一夏から全員で生きて帰ると決められているならば、自分達はそれぐらいの無茶はやってのけて当然だと。

 

「こちらイージス!機体に損傷なし!!」

 

宗吾のすぐ近くで戦っていた玲奈が真っ先に反応し、彼の機体と背中合わせになりながらも、両手に保持するビームライフルを撃ち掛け、敵を牽制する。

 

互いの背を護る。

乱戦状態にある戦場では、背を任せられる仲間との連携が何よりも重要となる。

 

それは、如何な彼らでも当て嵌まる事だったのだ。

 

「ただし、ワイドとファンファルトの機体がライフルをロスト!サースの機体は右足を被弾!長くは持たないわよ!」

 

自分たち幹部がどうもなくとも、技量的に劣る部下たちが押され始めた事を知り、彼は歯噛みする以外なかった。

 

徐々に、そう徐々にではあるが、ザフトが戦線を押し上げてきていたのだ。

奇襲が成功し、不意を突くことは出来たものの、相手もゲリラや傭兵ではなく、正規の訓練を経て実戦に立つ軍人だったのだ。

 

動揺を突いたとて、優勢だったのはザフト側だったのだ。

元から持っていた勢いのままに、彼らを討ち取らんと唸りを上げていたのだ。

 

現に、最前線に近い場所で戦っていたヤタガラス隊は、撃墜者こそ出てはいないものの、武装を破壊された者もいれば、機体の一部が欠けた者も出始めていた。

 

自分たちの様に類まれな戦闘能力を持っているならば、これぐらいの窮地など幾らでも乗り越えて見せる。

だが、部下たちはそうはいくまい、機体の性能、パイロットの技量、そのすべてで劣る彼らが、このまま耐え凌げるとは思えなかった。

 

そしていつか、その綻びが決定的となってしまった時にこそ、戦死者が出てしまうのは火を見るより明らかだったのだ。

 

それは、宗吾も玲奈も、そしてなにより一夏が望まない。

絶対に、この戦に参加した全員で、自分たちの家に帰るのだと。

 

「ちっ・・・!ガルドとフォーソキウスを向かわせろ!!ここは俺たちで抑え込む!!」

 

故に、彼は自分自身が無茶をする以外にないという、ある種で一夏が実践してきた事を、そっくりそのまま行うという荒業に打って出た。

 

それも致し方あるまい、誰も死なせないのならば、この場で力を持つ者が何倍も力を振るわねばならないのだから。

 

「あいよっ・・・!無茶させてもらうわよ・・・!!」

 

最愛の恋人の意思をくみ取り、玲奈もまた、愛機をMA形態へと変形させ、雪崩の様に迫ってくるザフト軍艦隊、およびMS隊へと突っ込んでいく。

 

アメノミハシラ随一の加速を誇るイージスシエロだが、それでも雨あられと撃ちかけられる攻撃を完全に回避するのは難しいのか、時折機体を掠める攻撃も見受けられた。

 

PSとはいえ無限ではないし、そもそもビーム兵器への脆弱性はある。

攻撃を受け続ければ、何れ墜とされてしまうことだって有り得るのだ。

 

だが、それでも彼女は止まることはなかった。

大切な家族とも呼べる者達との未来を守るためにも、止まることなどハナから無かった。

 

「各機!一夏が戻るまで死ぬんじゃないぞ・・・!!今度もまた、俺たちが勝つんだ!!」

 

宗吾もまた、手近にいたザクのライフルを奪い、すぐさま使用出来るように設定を変更、仲間の援護と近づいてきたグフの頭部を撃ちぬいて退かせた。

 

そこに一切の迷いや澱みはない。

やるべきことをやる、ただそれだけを遂行する意思の強さが光っていた。

 

「その通り、だね・・・!!」

 

「最後の最後まで、戦い抜きましょう・・・!!」

 

シャルロットとセシリアもまた、己が愛機に搭載されている武装の全てをフルに使い、展開するMS隊に攻撃を仕掛ける。

 

ビームを、レールガンを、ガトリングを、ドラグーンを、其のすべてを今この瞬間に使い果たしても構わなとばかりに、少しでも時間を稼ぐために攻撃を仕掛ける。

 

その攻撃はまさに壁と言わんばかりの圧となってザフト軍へと迫り、次々に艦隊の中で大輪の華を咲かせた。

 

正に圧倒的、そう言い表すことが正しい様子に、ザフトのMS隊は再び怯んだ様子を見せ始めた。

 

「そうだ・・・!俺たちは、必ず生き残るんだ・・・!!」

 

雄たけびを上げながらも、宗吾もまた敵陣へと突っ込んでいく。

 

生きるために戦うために、友の本願を遂げさせてやるためにも・・・。

 

sideout

 




次回予告

果てなき剣戟の応酬、想いと想いのぶつかり合い。
その果てに待つ結末とは・・・?

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

終曲

お楽しみに


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終曲

noside

 

「コートニーィィィィィ!!」

 

唸るような叫びと共に、ストライクシクザールを駆る一夏は相手へと突っ込んでいく。

 

白銀の機体が纏う光は、燃え盛る炎のような激しさをもって輝きを増し、天を駆ける不死鳥を髣髴とさせた。

 

対艦刀≪アスカロンⅡ≫を振るい、目の前の相手を打倒せんとした。

 

「一夏ァァァァ!!」

 

その相手であるコートニーもまた、自らが夢見る理想を求め、そして、自身の咎から逃げるように、我武者羅と形容できる激しさをもって、ストライクシクザールへと攻撃を仕掛ける。

 

苛烈極まりない斬撃が、ヴォワチュール・リュミエールの光を切り裂き、本体を掠める。

 

だが、お互いがお互いの手の内を読んでいる為に、直撃することはなく、ただただ美しい演舞の様にも思われた。

 

「お前はあの日・・・!心の底から夢を実現したいと言った・・・!だが、それは今の世界での話だ・・・!!」

 

発生させたビームシールドでデスティニーインパルスが振るうエクスカリバーを受け止め、彼はコートニーにその真意を問い詰める。

 

何度でも、届くまで何度でも。

自分の思いをぶつけ、コートニーからの思いを受け止め、そしてぶつけ返す。

 

それが、今の彼と分かり合う唯一の手段だと。

言葉と刃と魂を、今の彼が持てる全てで訴えかけるのだと。

 

「お前がやろうとしていることは・・・!兵器の恐怖を極大化させた下に生まれる、圧政だ・・・!今と、いや今以上に兵器は人を殺める!!」

 

「なにをっ・・・!!」

 

一夏の言葉に、コートニーの語気がわずかに弱まる。

 

図星を突かれたが故の動揺か、それとも、亡霊の言葉を聞いたが故の恐れか。

 

「お前は本当にそれでいいのか・・・!?利用されるだけされて・・・!!結局手に入るのは前以上の虚しさなんだぞ・・・!!」

 

虚しさしか残らない。

友も、最愛の者も全て失う今の選択で得るものは、飾り立てられただけの偽りの夢と、それに伴う虚しさだけ。

 

「黙れっ・・・!お前が言えたことか・・・!!何も知らないくせに・・・!夢を持てないお前が・・・!!」

 

その言葉に激昂し、シールドを破らんばかりに推力を強め、一気に押し込もうとする。

 

お前に何がわかるのだと。

夢を見ることを諦めたお前が、それを否定できるものかと。

 

「あぁそうだ・・・!俺には夢がない・・・!だけどな・・・!夢を叶えようとすることと、縛られることはまるで違うんだよ!!」

 

叫び返しながらも、彼もまた対艦刀を振りかぶる。

仕切りなおす心づもりもあっただろうが、其れだけではなかった

 

「嘗ての俺は、使命に押しつぶされた・・・!だから分かる・・・!夢ってのは、呪いでもあると!!」

 

彼は、それを身を以て知っていたのだ。

 

誰かから与えられた使命を妄信した結果、罪の意識だけを背負い、得られたものなど何も無かった。

 

使命とは、正にコートニーが抱く夢とも変わりはない。

夢もまた、その性質故に人を縛る。

 

縛られていた者と、縛られている者。

形は違えど、両者は、よく似ていたのだ。

 

「夢に囚われるな・・・!お前だってそれは分かっているだろ!!」

 

「ッ・・・!!」

 

その声に何も反論できなかったか、コートニーは一瞬だけ息をのみ、硬直する。

 

一瞬、その僅かな硬直を逃さず、振り下ろされたアスカロンⅡの一閃がデスティニーインパルスの左腕を切り飛ばした。

 

レーザーが推進剤を掠めたからか、誘爆が発生、その衝撃で、両機は磁石が反発しあう様に離れ、再び宙域を縦横無尽に駆け巡りながらも交錯する。

 

「それでも・・・!夢見た何時かに届く、希望だ・・・!」

 

振り切るように、血を吐くように、コートニーは叫びをあげ、

 

譬え、未来がないと、望んだものが手に入らないと分かっていても、あと一歩で夢が叶うと言うところで退くことが出来る者など、そうはいないのだ。

 

「だから、俺はッ・・・!進むしかない・・・!邪魔を、するなぁぁっ!!」

 

素早くエクスカリバーを手放し、パージしたビームブーメラン≪フラッシュエッジ≫に持ち替え、すぐさま投擲する。

 

それは弧を描いて飛び、ストライクシクザールへと向かっていく。

 

「そんなものッ・・・!?」

 

とっさに反応し、彼は脚部のラックよりビームナイフを抜刀、フラッシュエッジめがけて投擲し、相殺した。

 

だが、それに気を削がれたが故に、最早制動を無視した加速で突っ込んできたデスティニーインパルスへの対応が僅かに遅れる。

 

素早くエクスカリバーを握り直したデスティニーインパルスの一閃がストライクシクザールの右腕を切り飛ばす。

同時に超加速の勢いも載せたままだったため、両機は激突、ぶつけられたストライクシクザールは錐揉み状態となって吹っ飛ばされた。

 

「ぐぅぅぅっ・・・!!」

 

あまりの勢いと衝撃に呻きながらも、彼は機体を立て直そうと動く。

 

だが、其れよりも早く、彼は視界に相手の次なる動きの一端を捉える。

 

「墜ちろぉぉぉ・・・!!」

 

隙を見せたストライクシクザール目掛け、デスティニーインパルスの背面に装備されるビーム砲を展開、照準を定める。

 

何時かの様に、体勢を崩したストライクを撃つ。

なんとも因果なものだろうか。

 

またしても彼は、過ちを犯そうとしていた。

 

それを知ってか知らずか、彼は指掛けたトリガーを引き絞る。

 

それがどういう意味を持つかも、考える間もなく・・・。

 

「こなくそぉぉぉ・・・!」

 

だがしかし、そうは問屋が卸さねぇと言わんばかりに一夏が吼え、スロットルを全開にしつつ、一気に操縦桿を押し込んだ。

 

ビームが飛んでくる方向にアルミューレ・リュミエールを集中して展開、防御しようと試みた。

 

それとほぼ同時に、大出力ビームが撃ち出され、ストライクシクザールの展開した光の障壁にぶち当たる。

 

「ぐ、くぅぅぅ・・・!!」

 

スラスターを全開にしても、なお押されるような圧力を感じ、一夏は苦悶の声を上げる。

彼の呻きとシンクロするかのように、機体はギシギシと軋む様な音を響かせていた。

 

デストロイの超大出力ビームを防ぎ切ったその光の障壁も、今は発生基の一部が欠け、100%とは言い難い出力だった。

 

心許無い機体状況ではある、だがそれ以上に、伝わってくるプレッシャーに押されている。

一夏はそう感じてならなかった。

 

目の前からいなくなってほしい、消えてほしい。

恐怖にかられた破壊衝動と、強い現実逃避、それがヒシヒシと伝わってきたのだ。

 

だがしかし、それが判っていたとしても、ここで消えてやるわけにはいかない。

 

ここで彼が敗れ、命を落とすような事があれば、それこそすべての終わりだ。

 

コートニーも含め、自分に連なる者たちは二度と立ち上がれぬほどの、その先の未来を物理的に閉ざす結末を齎しかねないと分かっていたのだ。

 

だからこそ倒れるわけにはいかないのだ。

精一杯、足掻くと決めたのだから。

 

「う、おぉぉぉ・・・!!」

 

これ以上抗ってもまずいと判断したか、彼はスラスターを別方向へと噴射、ビームとビームシールドの反発を利用して射線上から逃れ、なんとか体勢を整える。

 

「逃がすかっ!!」

 

だが、それを易々と逃すほどコートニーも愚鈍ではない。

 

すぐさまヴォワチュール・リュミエールを展開、ストライクシクザールに追い縋る。

 

それに対し、一夏もまたヴォワチュール・リュミエールを展開し、対艦刀を振り、再度交錯する。

 

「戦いからは何も生み出せない・・・!だからこそ・・・!俺は賭けたいんだ・・・!!デスティニープランに・・・!議長が描く明日へ・・・!!」

 

追い詰められたように、切羽詰まったように叫び、コートニーは圧を強めていく。

自分の夢を実現するための方法はもうこれしかない、後戻りできない苦痛と、議長に対する疑念に板挟みとなった、混乱した感情の吐露だったのかもしれない。

 

友で有る者を傷つけてしまった罪の意識に潰されながらも、それでも信じた夢を妄信し続ける。

そうすることでしか心を保てない、そう見えてしょうがない程だった。

 

「俺もかつてはそう思っていた・・・、戦いから何かを生み出すなど傲慢だと・・・!だが、戦ってでも得たいモノがあると気付けた・・・!!」

 

コートニーの叫びに、自身の過去の記憶をリフレインしながらも、一夏はそれでもと叫び返した。

 

戦うことは壊すこと、奪うこと。

嘗ての自分が行ったことは、結局は破壊でしかなかった。

 

戦って戦って、その果てに得たものは何もなく、友さえも一度はすべて失った。

 

それでも、戦い続ける事で、戦いの中に身を置き続けたことで、漸く彼は守りたいものを、生きる意味を見つけたのだ。

 

だから、彼は夢を叶えるために戦うことを否定するつもりは更々ない。

戦いの果てに争うことがなくなるのならば、それはそれで良いと納得もするだろう。

 

しかし、だとしても、生まれながらにして決められた道だけを歩むことを強制される世界が正しいとは思わない。

 

夢とは、未来とは、そして人間の生き方とは、誰かから押し付けられるものでも、ましてや生まれ持ったものだけで決められていいものではない。

 

神の駒として、一個人としての生き方を放棄してしまった一夏だからこそ、そう叫びたいのだ。

 

「だから諦めるな・・・!!今までの世界でもやり方は必ずある!!一人でダメなら俺たちがいる・・・!!だからよぉぉ・・・!!」

 

スロットルを全開にし、残像さえ認識させないほどの速さで機体を動かす。

 

機体の全身に装備されているヴォワチュール・リュミエールユニットは既に完全開放されている。

これ以上を求めるのは酷というものだ。

ならばどうするか?

答えは至極単純、力を得るならば、オーバーロードさせて爆発的な推力を得る、シンプルかつ、滅茶苦茶な方法だった。

 

機体の限界など考えない。

ただ一度きりでも上回って倒して止める、その覚悟を以て、彼は機体を奔らせた。

 

今までの戦いで罅が入っていた装甲が軋みを上げ、破片を散らしながらも光の羽をまき散らす。

 

美しくも破滅を連想させる輝きだった。

 

「う・・・!?」

 

急に跳ね上がったストライクのスピードに惑わされたか、コートニーは周囲を警戒しながらも動揺を隠しきれないでいた。

 

残像さえ捉えきれない。たった一機のMSに全方位を囲まれている錯覚を思い起こさせるほどの圧が、ヒシヒシと伝わってきたのだ。

 

「ッ・・・!?」

 

不意に悪寒を感じ、自身から見て七時の方向へ機体を向けようとするが、それと同時に鈍い衝撃がデスティニーインパルスを襲った。

 

気が付けば、バックパックのビーム砲が二機とも切り落とされ、推進剤の引火による爆発を引き起こしていた。

 

「こ、このっ・・・!?」

 

攻撃を仕掛けようと動くも、既にストライクシクザールの姿は掻き消えており、対艦刀の斬撃は空を斬るだけだった。

 

だが、その瞬間にまた、コートニーの背筋に最大級の悪寒が走った。

それに咄嗟に反応するが、既に遅かった。

 

「ッ・・・!!」

 

眼前に対艦刀を振りかぶる白銀の機体が迫っていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

獣のような叫びと共に、一夏は対艦等の一撃を振り下ろし、デスティニーインパルスの残った左腕を斬り飛ばす。

 

「うっ・・・!?」

 

攻撃手段があっという間に断たれた事に、コートニーはただただ呆然と自機の状態を見やる事しかできなかった。

 

覚悟を決め、そして本気となった一夏の、摸擬戦とは違う桁違いの実力に、ただただ圧倒されるばかりだった。

 

「く、くそぉぉぉ・・・!」

 

最早破れかぶれと言わんばかりに、せめて一撃と残った脚部で蹴りつけようと動いた。

 

だが、それよりも早くストライクシクザールの斬撃がそれさえをも切り飛ばし、一切の攻撃手段を奪い去った。

 

「このっ・・・!大バカ野郎がぁぁっ・・・!!」

 

愛と怒りを交えた叫びと共に対艦刀を投げ捨て、光を纏った拳を振りかぶる。

 

戻ってこい、その意思を込めて、彼はその拳をまっすぐデスティニーインパルスのコックピット目掛けて叩き込んだ。

 

「ぐぁぁぁぁぁ・・・!?」

 

強烈な衝撃に全身を揺さぶられ、コートニーの意識は一気に落ちていく。

 

彼を包み込むように指す、光と共に・・・。

 

sideout




次回予告

いつの日か、笑って手を繋げれば…
彼等は見上げる。
ずっと前へ…

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

明日へ

お楽しみに


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明日へ

noside

 

「うっ・・・、くっ・・・。」

 

警報音が鳴り響き、中破した機体の中で、アメノミハシラ中将の神谷宗吾は、呻きながらも身体を捩った。

 

割れたヘルメットバイザーの破片に眉間を傷つけられたか、左目を塞ぐように血が止め処なく流れ落ちているようだった。

 

無理もない。

最前線の中でも特に戦闘が激しい場所で、隠密使用とはいえほぼ近接格闘メインの機体で戦い続ければ、それなり以上の損傷を受けるのもまた必然だったのだ。

 

その証左に、ブリッツスキアーは左腕が半ばより欠落し、右脚はほぼ根元から消失、背面スラスターに至っては完全に使い物にならないと一見して分かるほどに破損していたのだから。

 

「やっと・・・、戦闘が止まった、のか・・・?」

 

痛みを堪えつつ、辛うじて開くことのできる右目を開き、状況を確認する。

 

ジャスティスとアカツキに攻撃されたレクイエムが炎を噴き上げ、フリーダムとエターナルによる一斉射撃によってメサイアは今にも墜ちると言わんばかりに爆発光で彩られていた。

 

周辺宙域にいるザフトもオーブも、その光景を注視するかの如く動きを止め、事の成り行きをただ見守っているばかりだった。

 

勝負は決した、それは誰の目にもすでに明らかなものだった。

 

『宗吾・・・!応答しなさい・・・!生きてるんでしょうね・・・!?』

 

ボロボロのブリッツに、これまた頭部や右腕を欠いたイージスシエロが近寄り、玲奈が彼を案ずるように声を掛けた。

 

「こっちは大丈夫だ・・・!玲奈こそ大丈夫か・・・!?」

 

『アタシの心配より、自分の心配しなさいよ・・・!馬鹿ッ・・・!』

 

モニターに映る宗吾の顔を見たからか、彼女は悪態をつきながらも、どこか泣き笑いのような表情を見せた。

 

そんな彼女に、何を泣いてるんだと苦笑したくなったが、自分も似たような顔しているんだろうなぁと、彼はどこかボーっと考えていた。

 

仕方あるまい、戦闘でヒートアップした熱に、まだ頭が冷めていないのだから。

 

『皆さん・・・!ご無事ですか・・・!?』

 

その空気を切り裂く様に、痛みを堪える声色でセシリアが、仲間の安否確認を叫ぶ。

 

彼女の叫びに、宗吾の意識は現実に揺り戻される。

そうだ、自分たちのこの戦いでの勝利条件は、一機も欠けない事だと。

 

それを認識し直し、宗吾は痛みに軋む身体に鞭打って周囲を見渡した。

 

『こちらガルド・デル・ホクハ・・・!ヤタガラス隊、全機確認・・・!皆生きております・・・!』

 

『こちらリーカ・シェダー!セイバー及びM1A隊、全員無事よ・・・!イズモにも致命傷なし・・・!』

 

それから間もなく、それぞれの隊を仕切っていた者達からの、生存確認報告が返ってくる。

 

その答えはどれも全機無事、傷を負った者もいるが、死んだ者はいないという報告だったのだ。

 

『良かった・・・!良かったっ・・・!!』

 

その報告に、シャルロットは安堵の声と共に泣きじゃくった。

誰も死ななかった、失い続けた彼女達にとっては何よりの慰めだったのだ。

 

自分たちは生き残った。

ただそれだけの事実が、彼等にとっては何よりの戦果だった。

 

「あぁ・・・、だけど、まだ二人足りてない・・・!」

 

だが、それだけで終わりではない。

 

まだ二人、ここに帰って来ていない者達がいる。

 

一夏とコートニー。

限界を超えた戦いを繰り広げているであろう二人を、どちらも死なせること無く帰って来させねば、真の意味でのミッションコンプリートはない。

 

「セシリア、シャルロット、玲奈、リーカ・・・!俺達で迎えに行こう・・・!」

 

痛みを堪えつつ、彼は壊れたヘルメットを脱ぎ、機体に備え付けてある予備のヘルメットを被りながらも声を上げた。

 

待っている。

友が、誰よりも大切な者たちが。

 

彼等を迎えに行くのは、自分たちの役目だと。

 

ハッチを開け、イージスシエロの掌に器用に滑り込みつつ、彼は友を、大切な家族を見渡した。

 

「俺達の、家族を・・・!」

 

sideout

 

noside

 

光芒煌めく戦場から僅かに外れた宙域に、その二機の姿はあった。

 

先程まで、誰も手が出せない領域で戦闘を行っていたその機体たちは、今は満身創痍となりて、宇宙を漂っていた。

 

いいや、ただ漂っているだけではない事は、誰の目にも明らかだった。

 

その証左に、そのうちの一機、PSが落ちていないほうの機体のコックピットが開き、パイロットである青年が姿を現した。

 

「コートニー・・・!」

 

大破したデスティニーインパルスの行動が停止したことを確認し、愛機の出力を平常に戻したのちに、彼はインパルスのコックピットに近付いた。

 

エネルギーが枯渇したわけではないだろうが、インパルスはPSが落ち、機能をほぼ完全に停止しているようだった。

 

自分でこの有り様を作っておいてなんだとは思っているが、一夏は逸る気持ちを抑え、コックピットハッチを開閉するコードを入力していく。

 

ゆっくりと音を立てて、インパルスのコックピットが彼を迎えるように開いていく。

 

まるで、閉ざされていたモノが開く様にも見えたが、今の一夏にそれを感じ取れるほどの余裕はなかった。

 

内部からの反撃がないことを確認し、彼はコックピット内をのぞき込み、パイロットである親友を見やる。

 

気絶しているのだろうか、ぐたりとシートに凭れ込むような姿勢ではあったが、パイロットスーツやヘルメットに重大な損傷は見受けられない事を確認し、彼はひとまず安堵の息を漏らす。

 

「コートニー・・・!しっかりしろ・・・!おい・・・!!」

 

彼を目覚めさせるために、一夏はコートニーの肩を掴んで揺さぶった。

 

戻ってこい、その想いを籠めて・・・。

 

「う・・・、ぐっ・・・!!」

 

うめき声をあげながらも、コートニーは身体を捩る。

 

そして、ゆっくりと瞼が開かれ、その瞳が一夏の姿を捉える。

 

「ッ・・・!!」

 

その瞬間、彼の表情は恐怖に引きつり、何とか逃れようと身体をばたつかせていた。

 

まだ、彼は幻から逃れられていないのだ。

 

「落ち着けコートニー・・・!!俺を見ろ・・・!!」

 

我武者羅に暴れ、ついには拳銃まで抜こうとしたことを知覚し、一夏は素早くコートニーの身体を抑え込み、彼の瞳を覗き込むように見やる。

 

落ち着かせるつもりか、それとも現実を直視させるためなのか・・・。

 

「コートニー・・・!お前は俺を殺そうとした・・・!だが、俺はそれをなんとも思っちゃいない・・・!」

 

撃たれそうになったこと、右腕を奪われた事。

そこにもう恨みつらみを言い募るつもりは毛頭ない。

 

「だが・・・!今一度話をさせろ・・・!お前が求めるモノを・・・!夢の話を・・・!!」

 

だが、其れとこれとは話は別。

悪夢に、幻に追われて現実を見れていないコートニーを連れ戻すために、彼らは腹を割って話さねばならないのだ。

 

想いを呼び起こす、それが、今一夏がやろうとしている事だった・・・。

 

「い・・・、一夏・・・!おれは、お前を・・・!!」

 

まだ恐慌状態にあるのだろうか、コートニーは事実を反芻させようとして、それでも心がそれを拒むという事を繰り返していた。

 

逃れるように、引き離すように、彼は一夏の腕を掴み、力を込めた。

 

凄まじい握力で握られているからか、一夏の両腕は軋みを上げ、彼の苦悶の表情を浮かべていた。

 

だが、それでも彼は腕を放そうとはせずに向き合おうとしていた。

 

信じていたから。

コートニーが現実と、自分を呼ぶ友の本当の想いが籠められた声と、必死に向き合おうとしているという事に賭けたのだ。

 

「お前を・・・!撃った・・・!なのに・・・!お前は・・・!!」

 

なぜ生きているんだ、なぜ自分の前に立つんだ。

そんな戸惑いと喜びが、恐怖から顔を出そうとしていたのだ。

 

「みんなが俺を奮い立たせてくれたんだ・・・!その皆の中に、お前もいた・・・!!」

 

ここに戻ってこれたのは、仲間たちの声と、コートニーの本当の想いだと一夏は叫ぶ。

 

表面だけ取り繕った、絶望した気になっているコートニーの声ではない。

仲間と共に在りたいと語った、あの日の声が聞こえていたのだ・・・。

 

「だから聞かせろ・・・!なぜそうまでしてデスティニープランに拘る・・・!?叶ったとして、それはお前の望む姿なのか・・・!?」

 

その問いに、一夏の腕を掴むコートニーの手の力が、僅かに弱められた。

 

彼も、本当は分かっているのだ。

このまま突き進む先に、自分の望む未来は、友はないと・・・。

 

「やりとげたかった・・・!叶えたかった・・・!だけど・・・!そこにお前は・・・、リーカもいない・・・!分かってたさ・・・!!」

 

分かっていた。

運命を受け入れて、乗せられたまま夢を目指せば、その先に何が待っているのかなど、解り切っていた。

 

友を、愛する者たちを切り捨てて得るのは、結局は鉄の塊だけ。

夢だったとしても、愛する者には代えられぬもののはずだった。

 

なのに、彼はリーカを失ったと思い込み、乗せられるがままに戦い、果てには一夏達まで失うところだった。

 

「だけど・・・!リーカが死んだかもしれないと聞かされて・・・!俺は、何もかも失った気になっていた・・・!」

 

気付いていた。

だが、最早失ったと思っていた彼には、進むという選択肢しか見えなくなっていた。

 

それが、最後まで誤った道を歩ませた、大きな要因だったのだ。

 

その言葉は、一夏にも痛いほど突き刺さった。

 

護りたいと、共に在りたいと願った者たちの死、それは、未来さえ見えなくさせてしまう絶望の只中に墜とされる事に等しいから。

 

それを、一夏はずっと経験してきた。

振り切ることも、受け入れる事さえ出来ず、ズルズルと引き摺ってきた。

 

実のところ、一夏は今でさえ、過去を吹っ切ったとしても、人の死を吹っ切ることなど出来ないでいる。

 

それほどまでに、死別は重い枷となり、彼らを苛むのだ。

 

「俺も、苦しんだ・・・、お前の気持ちは痛いほどわかる・・・、だから・・・。」

 

だから、彼はコートニーの気持ちを理解することが出来た。

 

愛する者を亡くした悲しみ、夢に、使命に駆り立てられ追い詰められる苦しみが、痛いほど理解できたのだ。

 

「だから、俺はお前を責めやしない、俺はお前を許す。」

 

だから、彼はコートニーのしたことを責めるつもりはなかった。

自分がいくら傷ついても、どれ程の苦痛に苛まれようとも、大切な誰かを失うという痛みに比べれば、どうという事などないのだから。

 

故に、彼は望むのだ。

友と、仲間と、家族と生きる、明日という名の未来を。

 

「裏切られたなんて思わない、俺がやってきたことに比べりゃ、こんなもん軽いもんだぜ。」

 

顔をくっつける様に寄せ、力強くも慈愛に満ちた声で語りかけた。

 

帰って来い。

そんな想いが乗せられているようだった。

 

「どうしてだ・・・、一夏・・・。」

 

錯乱から落ち着き、何とか絞り出された声は、疑問に満ちていた。

 

「コートニー・・・?」

 

「なぜお前は・・・、そう強く在れる・・・?何故、そう笑えるんだ・・・?」

 

コートニーは問うた。

何故一夏は強く在れるのか、なぜ、自分を裏切り傷付けた相手を許し、共に笑おうとしようと出来るのか。

 

コートニーの言葉は、赦しを求めるモノでも、拒絶する意志でもなかった。

 

ただ分からないと。

何故そう強く在れるのか・・・、その答えを知りたかったのだ。

 

「俺は、ちっとも強くなんかないさ、コートニー・・・。」

 

自分を強いというコートニーの言葉を否定し、一夏は自分が弱いと自嘲する。

 

その表情には憂いと苦しみ、今だに振り切れない、死した愛しき者への想いが滲んでいた。

 

「誰かの助けがなかったら、俺は立ち上がることも、目覚めることも出来なかった・・・、取り返せないものを求めて、今を見ていなかった事さえあった・・・。」

 

自分は一人で立っていられるほど強くなどないと。

 

何百、何千と人の命を奪っておいて、たった一人の部下の死さえ受け止めきれずにいた男で、その事に絡めとられて未来を望めないでいた。

 

そんな男が強いなど、彼は露ほどにも思っていなかった。

 

「でも・・・、そんな弱い俺を求めてくれた、共に在りたいと言ってくれた仲間がいてくれた・・・、俺が求めていたものが、手を伸ばせば届くところに在ったって気付けたんだ。」

 

自分は誰かに生かされ立たせてもらっている、ともすれば折れてしまいそうになる心を、隣に寄り添い共に歩もうとしてくれる者達が繋げてくれている。

 

そんな簡単で、それでもこれ以上ないほどに大切な物だと気付かせてくれた事に、彼は心からの感謝と、自分が生きる意味を抱くことが出来たのだ。

 

セシリア、シャルロット、宗吾、玲奈にリーカ・・・。

 

そして・・・。

 

「コートニー、お前だってその一人だ、俺たちは、ずっと友達だっただろ?」

 

「っ・・・!!」

 

なんの打算も裏もない、ただひたすらに真っすぐなその言葉に、コートニーの頬を涙が伝い、零れ落ちた。

 

暖かくも強い想い、それに包まれている事が、一夏という男の友で在れた事の誇らしさが、彼の心を震わせていたのだ。

 

「さぁ、帰ろう・・・、俺達の仲間の・・・、家族のところへ。」

 

躊躇うことなく、一夏はコートニーに手を差し伸べた。

 

二度と間違えないために、二度と失わないために。

もう二度と、その手を離さないと誓って。

 

「あぁ・・・、あぁっ・・・!!」

 

その想いを受け、コートニーは大粒の涙を零しながらも頷き、差し伸べられた手を取った。

 

しっかりと、もう離さないと・・・。

 

ダメージが残るコートニーに肩を貸し、外に出た二人の目に、光が飛び込んできた。

 

「これは・・・。」

 

その光は、帰還命令を意味する信号弾であり、この宙域における全ての戦闘が終結したことを表していたのだ。

 

「なんて美しい・・・。」

 

その光はまるで、彼らを導く様に輝き、まるで満天の星空の様に煌めき照らしているようだった。

 

「あぁ、あの時、みんなで見た星空だ・・・。」

 

その光景に目を奪われている彼らの視界に、ひと際輝き、彼らに向かってくる光が写り込んできた。

 

その光は、彼らの友であり、家族とも呼べる者達、セシリア、シャルロット、玲奈、リーカ、そして宗吾の者だった。

 

宗吾はイージスシエロの掌から身を乗り出し、彼らに向けて大きく手を振っていた。

無事でよかった、遠くに見える彼の様子からは、安堵がにじみ出ているようだった。

 

「一夏・・・、俺は・・・、歩けるかな・・・?」

 

それを見たコートニーもまた笑みをこぼし、一夏に問いかけた。

 

共に歩めるかと、生きていけるかと。

不安を吐露するような声色だったのは、彼の本音であると言えるだろう。

 

「きっと歩いて行けるさ・・・、みんなで一緒になら、な・・・。」

 

肩を組み、一夏は力強く答えた。

 

自分達ならばきっと歩いて行ける。

 

共に夢を語ったあの時と同じように、同じ方向を向いて行けると・・・。

 

sideout




次回予告

過去を抱き、今を愛し、未来を願う
彼等の旅路はまだ、始まったばかりなのだ

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

最終回 そして未来へ

お楽しみに


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そして未来へ

noside

 

C.E.74年

ユニウス・セブンの地球落下事件より始まったとされるユニウス戦役は、月面で行われたザフトとオーブ連合軍との決戦の末、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルの戦死を以て事実上終結した。

 

指導者を失ったプラント評議会は、国内の混乱を抑えるべく、ラクス・クラインに本国への帰還を要請、臨時の最高評議会議長に据えることで地盤を固めた。

 

その一方で、オーブ首長国連合の首長となったカガリ・ユラ・アスハは、事実上瓦解した地球連合をオーブが取り仕切る形とすることで纏め上げていた。

 

その後、国内の混乱をある程度鎮静化させた両国はコペルニクスにて、ユニウス戦役の終結を取り決めた条約を制定した。

 

ここに、長きにわたる戦乱が、一応の終わりを迎えたのだ。

 

だがその裏では、今だに終わることのない争いが続いていた。

 

元々、ナチュラルとコーディネィターとの確執が原因の一つだったのだ。

幾ら条約が締結されたとはいえ、紛争の全てが終わったわけではないのだ。

 

しかし、それを止めようと、変えようとする者は、裏の世界にも確かに存在していた。

 

彼等の戦いはまだ、続いていたのだ。

 

sideout

 

noside

 

C.E.74年も終わりに近付こうとしていたある日。

 

地球衛星軌道上に存在する城、アメノミハシラの大広間にて、それは執り行われようとしていた。

 

大広間には、アメノミハシラの兵たる者達、セシリアを始めとする大幹部たち、そして、その上座に座すロンド・ミナ・サハクの姿があった。

 

「よくぞ我が呼びかけに応じ、この場に集ってくれた。」

 

一同を代表するかのように、ミナは目の前に控える二人の少女に声を掛けた。

 

その二人のうちの片方は、サーペント・テールの準隊員である風花・アジャー。

もう一人は、薄オレンジ色の長髪を持つ少女だった。

 

彼女の名は、ラス・ウィンスレット。

年齢は16歳、コーディネィターである。

 

彼女の父は、ウィンスレット・ワールド・コンツェルン社と呼ばれる、連合、プラント双方に対してMSや兵装のパーツを提供していた会社の代表で会った。

 

しかし、C.E.71年にオーブに滞在していた際に連合のオーブ侵攻に巻き込まれる。

そのドサクサに紛れるかのように、彼女の父親は彼女の目の前で襲撃に遭い死亡、会社の経営権を連合に奪われ、彼女も保護という名目で収容施設へと収監されてしまった。

 

その後、数年間を収容所で過ごすが、かつて交流のあったロンド・ミナ・サハクの手により救出され、今はアメノミハシラに身を寄せる事となった。

 

彼女がどれほど過酷な仕打ちを受けたかは想像に難くはない。

だが、今はそれを語る所ではないだろう。

 

何せ、今執り行われているのは、ラスがアメノミハシラの一因になることを知らしめるための集いではないのだ。

 

「先に話していたように、我々アメノミハシラは天空の宣言を実行する者として、永く先まで世界を見つめていかねばならぬ。」

 

彼女たちを前に、ミナは教えを授けるように話を始めた。

 

それは、天空の宣言のこれからの事。

世界が再び、争いによって悲劇に呑み込まれないための、アメノミハシラが負った使命の事だった。

 

「人類が、ナチュラルとコーディネィターの隔てなく生きていけるまで、争いをやめるその時まで、この天空の宣言は続けていかねばならない。」

 

人類が自発的に争いを起こさないようになるその時まで、アメノミハシラは天空の宣言と共に世界を見つめ続けなければならない。

 

それは、今この場にいる全ての者が理解し、共有している事で有った。

 

だが・・・。

 

「しかし、我々人間の寿命はせいぜい100年、現役として戦っていられるのは、その内の三割あれば良いほうだろう。」

 

人類が自発的に争いをやめ、手を取り合えるまでにどれ程の時間がかかるだろうか?

特に、怨恨から始まってしまっているコズミック・イラの世界でそれを為すには、とても人間が一生を終える程度の時間では足りないことなど明白であった。

 

「だが、我々人間は一人ではない、次の世代へバトンを渡すことも、想いを託すことも出来る、我が子であっても、弟子であっても、役目を繋いで行けるのが我々人類だ。」

 

だが、人間は一人ではない、誰かと共に在り、家族を作り子をなす。

その想いを、役目を後進に伝えていくことで、伝統を、その役目を歴史に、未来に残してきた。

 

天空の宣言もまた、未来へと希望を託すために、次の代へと繋いでいく必要がある。

 

「風花・アジャー、ラス・ウィンスレットの両名を、我が後継者、天空の皇女≪プリンセス≫の候補として、これより世界を巡り、様々な者達からその生きざまを、信念を学んでもらい、相応しい者を選ぶ。」

 

そのために、その資質を持つ者を、ナチュラルとコーディネィターから一名ずつ選び、どちらが選ばれようとも、天空の宣言を正しい方向に導けるように、と・・・。

 

「補佐には幹部の者達を付ける、彼らと共に世界を見て回れ。」

 

「「は、はい・・・!!」」

 

ミナの言葉に、二人は背筋を正し、緊張の色を隠せない上ずった声で返した。

 

そんな二人を、ミナを含め幹部の者達は、何を緊張しているのやらと少しおかしく思いながらも苦笑していた。

 

ラスはともかく、風花とはそれなりに付き合いもある。

何を緊張する必要があるのかと。

 

まぁ、いつもと違う状況に置かれれば、如何に知り合いの前とて身構えてしまうのも無理はあるまい。

 

しかし、今はそれをどうこう言っている訳にも行くまい。

 

幹部たちは互いに目配せし、二人の前に歩み出た。

 

「プリンセス候補たち、我ら幹部7人一同、あなた方の道程を見届けさせていただこう。」

 

一同を代表するように、宗吾が跪いて忠を誓った。

それに倣い、ほかの幹部たちもまた跪き、頭を垂れた。

 

お前たちの生きざまを見届け、その先にあるロンド・ミナの後継者となるその時を待つと。

 

「よ、よろしくねセシリア、シャルロット・・・!!それから皆も・・・!!」

 

宗吾の言葉に、風花は姉とも呼べるセシリアとシャルロットを見つめながらも、他の幹部たちに目をやる。

 

彼女の視線に気づき、リーカと玲奈は笑み返し、宗吾は深く頷いていた。

 

分かっている、そんな暖かい想いが、彼らから伝わってくるようだった。

 

「えっと・・・、7人・・・?」

 

だが、彼らとそこまで交流のないラスは、何処か腑に落ちない顔でセシリア達を見渡しながらも首を傾げていた。

 

「あ、そういえば・・・。」

 

風花も知らないうちに幹部に新顔が一人加わっている事もあるにはあるが、今ここにいるメンバーに欠けている者がいる事を察していた。

 

そう、目の前にいるのは先にアクションを見せた5人に加え、ただ押し黙って二人を見やる金髪の青年しかいなかったのだから。

 

「あぁ、アイツなら地球に降りたよ、どうしてもやりたいことがあるってな。」

 

その疑問に答えるように、宗吾は苦笑しながらも答えていた。

 

式典が始まる一時間ほど前、何かを思い出したその男は、幹部だけにそれを告げてアメノミハシラから出立していたのだ。

 

無論、ミナもそれが何を意味しているか気付いているからこそ、あえて何も言わずに式典を優先させたのだ。

 

「アタシ達も、ちょいとだけ出てくるわ、アイツを追いかけないと。」

 

「どこに行ったか、まだ私にはわからないけど、あの人がいないと締まらないから。」

 

何時も通り、自分が思い立ったら即行動なその男に呆れながらも、玲奈とリーカはしみじみと語った。

 

それは、セシリアもシャルロットも、そして宗吾とその隣に立つ、コートニーも同じ思いだった。

 

彼はメサイア攻防戦後、アメノミハシラの捕虜という扱いでリーカのもとへ戻り、その後はある男と幹部全員の嘆願により、しばしの謹慎と懲罰期間を経て、改めて准将という立場で戦うこととなっていた。

 

とはいえ、謹慎の理由が理由であるため、まだまだ周囲からの冷ややかなものは拭えていないのが実情ではあるが、そんなことなど今のコートニー自身にはどうでもいい事だった。

 

彼は、彼を救ってくれた男と、その周りにいる者たちのために尽くすと決めた。

ならば自分がどう思われようとも、その為に命を使うと。

 

「行先なら俺とセシリア、それにシャルロットなら知っている、アイツにとっても、最後のケジメの場所でもあるはずだ。」

 

風花の疑問の表情を受け、彼は少し感慨深げに答えていた。

 

彼が言う最後のケジメ、それは、それを見た者達にしか分からぬ、その男が抱える問題だったのだ。

 

「少しだけお暇させてもらうね、風花。」

 

「地球に降りてこられた時に、私たちも合流します。」

 

今は彼を追う、その想いを胸に、幹部たちは地球へと向かうつもりだった。

 

自分たちが仲間として、友として、そして家族としてあるために。

 

「うん、分かった、待ってるからね!」

 

今だ腑に落ちぬと言わんばかりのラスを置き去りにしつつ、風花は笑顔で6人を送り出す。

 

彼らが迎えに行く男の姿を、そして、彼らが笑って過ごす未来に想いを馳せながら・・・。

 

sideout

 

noside

 

「・・・。」

 

南米大陸の某国。

海が一望できる丘の上に、その男の姿はあった。

 

190cmはあろうかという長身に、癖のある黒髪を潮風に靡かせながらも、その切れ長の瞳は細められ、形の良い唇は固く一文字に結ばれていた。

 

「やっと、ここに来ることが出来たよ。」

 

痛みを堪えるように、そして、念願がかなったと言わんばかりに、その男はしみじみと呟いた。

 

彼の右手には白いバラの花束が、そして、左手にはワインのボトルとグラスが納められたバスケットが握られていた。

 

まるで、誰かに会いに来た、そんな様子が窺えるようだった。

 

彼の名は、織斑一夏。

アメノミハシラの元帥にして、最強のMSパイロットである男だ。

 

本来ならば、彼もまた主であるロンド・ミナが執り行っている後継者選定の場に居なければならなかったのだが、彼はそれよりもやらねばならないことがあった。

 

「随分と長い事、待たせてしまったな。」

 

穏やかな口調で、彼は目線の先にあるモノへ言葉を掛けた。

 

その視線の先には、こじんまりとした白い墓石があった。

 

そう、ここは南米戦争にて命を落とした軍人の集合墓地であり、彼の目の前にあるのは、彼の部隊で戦った女性のものだった。

 

彼は寂しそうに笑みを浮かべた後、花束をまず備え、自分も腰を下ろす。

 

「君とはこうして飲む事さえ出来なかったっけ・・・?だから、こうやって形だけでも付き合ってくれないか?」

 

苦笑するように、彼はグラスを2つ地面に置き、持ってきたワインをそれぞれに注ぐ。

 

自分の分を手に持ち、相手のグラスに軽く乾杯すると、彼はワインを少しだけ口に含み、味わう様に呑み込む。

 

「こうやって向き合うことに、三年近くも掛かってしまった・・・、けどね、まだ胸の奥が痛いんだ、これは、一生消えないかな・・・?」

 

ふぅ・・・、と一息吐きながらも、彼は何か言ってくれよと言わんばかりに話を続ける。

 

答える者はいない。

あるとすれば、潮の香を乗せて薫る風の音ぐらいなものだった。

 

「君を護れなかったことは、今もまだ悔やんでも悔やみきれない・・・、正直、独りじゃ何も出来ないって、思い知らされるよ。」

 

墓石の前に置かれた、減らないワイングラスを眺めながらも、彼は自嘲するように呟く。

 

護れなかった者への後悔、失われた命への嘆き、そのすべてを曝け出す様に・・・。

 

目の前で失われた命を、取り戻せない過去を、彼は嘆いていたのだ。

 

「だけどね、こんな弱い俺を受け入れてくれた人たちがいたんだ、ずっと、俺が乗り越えるのを待ってくれた人がいたんだ。」

 

彼の表情に、明るい色と笑みが浮かんだ。

 

そこにあるのは、希望、夢・・・。

後悔や懺悔ではない、未来へ続いていくものだった。

 

「俺は皆に生かされ、立たされている・・・、それがどれだけ幸せで、どれだけ暖かいか・・・、やっと分かったんだ・・・。」

 

彼の柔らかい笑みには、最早恐怖などはなかった。

 

ただ、自分を待っていてくれた、必要と叫んでくれた、愛を伝えてくれた。

 

彼等の想いに応えるためにも、そして、今度こそ、人間としての未来を、誰かと共に掴むために。

 

「一夏。」

 

「ここにいたんだな。」

 

彼の背後から、優しく温かい声が掛けられる。

 

気配は六つ、どれもが、一夏の事を想う者だ。

 

「あぁ、やっとここに降りようって気になれたからな、プリンセスの事も気になるが、やはり、な・・・。」

 

咎める気配がないことを悟りつつも、彼はどこか苦笑しながら答え、その気配に振り向いた。

 

そこには、彼に歩み寄ってくるセシリア、シャルロット、宗吾、玲奈、リーカ、そして、コートニーの姿があった。

 

皆、一様に穏やかな笑みを浮かべ、立ち上がった彼の隣に並び立った。

 

「フィーネルシアの墓参り、してやれなかったからな・・・、迷ったままで来ていいのかも分からなかったから。」

 

気心知れた、弱さを見せられる者達の前だからだろうか、彼は先程よりもより素直に語り始めた。

 

迷い、それは自分の在り方と過去への恐怖、そこから生まれるジレンマが元となったもの。

 

独りでは生きていけないと分かりつつも、誰かに頼ろうとすることが出来ない弱さ。

矛盾に苦しみ、余裕のない状態では、とてもではないが構うことなど出来ないというのが本音だった。

 

だが・・・。

 

「でも、今は違う・・・、俺にはセシリアも、シャルも、宗吾も玲奈も、コートニーもリーカもいてくれる・・・、それだけで、立ち直れる勇気を貰えた。」

 

全員に視線を向け、そして、彼女の眠る墓石に皆が目を向けた。

 

自分を支えてくれる者が居た、護りたいという想いを奮い立たせてくれる者が居た。

 

ただそれだけで、彼は立ち上がることが出来た、生きて行こうと思うことが出来た。

 

「散々遠回りして、散々苦しんだけど・・・、漸く答えを・・・、生きていける意味を見つけたんだ、今日はただ、それだけを言いたくてね。」

 

仲間を、友を、最高の家族とも呼べる者達を見つめ、彼は笑む。

 

共に歩むと決めた者達、それが今、彼の目の前に居てくれる。

それが、彼にとってどれほどの幸福か、どれほどの希望か。

 

たったそれだけでも、生きる意味には十分すぎるモノだった。

 

「もう行くよ、お姫様見習い達をほったらかしにしておくわけにもいかなくてね。」

 

墓に暫く手を合わせ、彼はまた寂しそうに笑んだ後、踵を返して歩き始めた。

 

彼の友たちもまた、彼を追って歩き始める。

 

―――隊長・・・、どうか・・・―――

 

その時だった。

一夏にだけ、何処か願うような声が耳朶打った。

 

その声に、一夏は歩みを止め、今一度その方向へと振り返る。

 

それは嘗て、彼が聞いた最後の言葉・・・。

だが、その声が持つ色は異なり、ただただ、一夏のこれからを願う、優しく温かいものだった。

 

振り返れども、そこにあるのは白い墓石と、その背後に広がる蒼穹のみ。

 

だけど、彼には見えた気がした。

自分に向けて優しく微笑む、女性の姿が・・・。

 

幻だろうが、彼には関係なかった。

自分の新たな一歩を、彼女は応援してくれている。

 

それが彼には嬉しく、誇らしいものだった。

 

「どうかしたか、一夏?」

 

いきなり歩みを止めた彼を訝しんだコートニーが声を掛けてくる。

 

彼には見えていない、だが、一夏が何かを感じ、それを受けて安らかな心地でいる事だけははっきりと分かった。

 

「何でもない、行こうか。」

 

自分を見つめる家族に笑みを返し、彼は一度だけその方向へと頷き返した後に、今度こそ本当にそこから離れていく。

 

過去は消せない。

 

だが、それでも未来を創ることは出来る。

 

「俺たちの未来へ、この絆を繋げに・・・。」

 

彼は、彼らは行くだろう。

どれ程の困難が待っていようとも、仲間を、友を、家族を信じて。

 

本当に欲しかった未来を、その手に掴むために・・・。

 

 

 

ここに、天の傀儡から解放された男の物語が終わり、新たな一歩を記していくことになる。

 

彼は求め、歩み続けて行くだろう。

新たな明日を、己が進むべきASTRAYを、その胸に抱いて・・・。

 

sideout

 




推奨エンディングBGM
聖飢魔II<世界一のくちづけを>

はいどーもです!
これにて、長きに渡る本小説、アストレイからの一夏達の話は完結致しました。
先にifの続編書いたり、色々やらかしたりして時間がかかりましたが、なんとか完結させる事が出来て感無量です。

作品の評価自体は色々とあるかも知れませんが、個人的には一夏の話に一区切りを付けられて満足しています。

最後に、この作品を最後まで読んでくださった皆様、五年間にも及ぶ応援ありがとうございました。
これからは他の二作品をどうぞよろしくお願い致します。

それでは、また~


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