魔改造提督の鎮守府ライフ (Jeep53)
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第一章(本編)
プロローグ


世界線の説明です


…時は1945年まで遡る。

日本がアメリカのポツダム宣言を受諾し、調印式が戦艦ミズーリの上で行われている最中の事だったらしい。

アメリカの水兵が港湾の沖合付近に黒い点の集まりを見つけた。その点は次第に大きくなっていき、点どうしが融合し始めたんだ。

これはただ事ではない、ということで水兵がすぐさま上官に報告、そこから日本の大使などにも情報が伝わり、調印式はいったんストップ、港湾にいた軍在籍の艦艇全隻で警戒することになった。

突如、黒いものが渦巻き始め、次第に赤化し、発光した。

その光が収まった時海上にいたものは、そう、深海棲艦だった。現在の分類で言うヲ級のflagshipやレ級のeliteの集まりだったらしい。

当時の連中はこんな異形を見慣れていなかったため、すぐさま発砲。だが、その直後にもっと驚くこととなった。

群れの中の一隻が放った砲弾で、ミズーリが沈んだのだ。ものの一発で!

弾薬庫誘爆だったらしい。その攻撃を皮切りに、深海棲艦が次々と発砲、アメリカ海軍も応戦しようとするが全然歯が立たず、全隻撃沈されることとなった。

現地では調印式どころの話ではなくなり、全員蜘蛛の子を散らすように避難を開始した。

が、それを深海棲艦が逃がすはずもなく、沿岸施設を空爆によりすべて破壊、その勢いを保って日本の都市部への爆撃を開始したんだ。

同日、同じようなことが世界中の各所で起こった。

大西洋、ハワイ諸島周辺、地中海、北海、スエズ運河、インド洋、東シナ海、日本海、挙句の果てには北極海にまで黒いゲートが出現した。

人類はこの事態に対応できず、沿岸部分を占拠され、内陸へと逃げざるをえなかった。

海路は遮断され、貿易はまともにできなくなり、各国は自給自足を強いられることとなった。

さらに、石油産出国などが攻撃され、焦土化した。極めつけに世界中の主な鉄鉱山や銅鉱山もことごとく攻撃され、工業に必要な資源の枯渇へと直結した。

このことから、各国ではガソリンエンジンが衰退、それに伴い電気の使用量も低下しだした。

陸路での運搬を担う電車は走らせることが出来ず、軽油もないためディーゼル機関車も走らせられない、との事で、蒸気機関車が復活した。

炭鉱だけは無傷で残っている場所が多かったため、辛うじて蒸気機関車は走らせることが出来た。それが今日の人類の存続につながっているといっても過言ではない。

文明は明治後期レベルまで衰退し、人々の暮らしもそれに合わせて変化した。

そのころ、日本軍は技術が失われないように生産した兵器をシェルターに運び込もうというと画策していた。

が、運搬途中に爆撃されて失敗に終わった、と聞いている。だが”この噂の信憑性は低い”と世間では言われている。

それから数十年後、形ばかり残っていると思われていた日本海軍が突如”艦娘(かんむす)”なるものを開発、深海棲艦に対抗できる唯一の手段を創り出した。

それにより日本近海の情勢は一気に変動し、不安定ではあるが、沿岸部まで町が進出できるようにまでなったのだ。

どこからかこのうわさを聞き付けたのか、わずかに残っていた複葉重飛行艇でドイツとアメリカの技師が来日した。

日本は技術支援を惜しまず、結果、ドイツとアメリカも深海棲艦に対抗可能な勢力を手に入れた。

大陸へ技術が行けばあっという間にそれは広まる。フランス、イタリア、ロシアなどに技術は広がり、人類は徐々に制海権を奪取しつつあった。

だが、深海棲艦も負けてはおらず、新型艦の出現などもあり、現在まで拮抗状態が続くこととなっている。



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プロローグⅡ

~陸軍地下実験室~

じめじめとした地下空間。コンクリートで固められた壁。天井には裸電球がぶら下がっており、消えかかっては点いてを繰り返している。

その部屋の中では今、医者が一人、多数の資料を見ながら手術を行っている。

 

ふいに、軋んだ音を立ててドアが開き、軍服に身を包んだ男が入ってきた。

 

「首尾はどうかね?ドクター」

ドクターと呼ばれた男は目もくれずに返事をした。

「正直、うまくいくかどうかは五分五分だ…海軍の資料は難しい。失敗しても文句を言わないでくれよ?」

男は半笑いでこう返した。

「なぁに、失敗しても廃棄してまた次の被験体で試せばいいだけさ。資料も本物か怪しいしな。それにそいつはNo.01だ。失敗しても誰も文句は言わんよ」

「…そうか」

ドクターはそれっきり返答せず、黙々と作業を続けている。

「よいしょっ…」

男は部屋の隅に置かれた粗末な椅子に腰かけ、タバコをふかし始めた。

「手術はいつごろ終るかね?」

「今最後の縫合に入っているところだ。待ってくれ」

タバコの紫煙が薄暗い地下室を覆い、視界に靄をかける。

 

ガチャン!

荒々しく金属トレーに縫合針とピンセットを放り投げ、ドクターは男に向き直った。

「終わりだ。間もなく目を覚ますだろう」

その知らせに男は喜色を現しながら言った。

「おぉ、終わったか…血が大量にしみついてるぞ。まるで人を殺した後みたいだな」

「…実質殺したようなものだ…ほら、動くぞ」

 

手術台に乗っていた”被験体”がごく自然な動作で起き上がる。

 

「…普通の人間を見ているように見えるな…」

「外見だけでは普通の人間と大差なく見えるようにしたんだ。目と耳にはカメラとマイクを仕込んである。それに、望み通りの機能もつけてやったぞ。…まぁ、脳に埋め込んだマイクロコンピュータによってこちらの指示なしでは動かせないがな」

 

ドクターが得意げに説明している時、異変は起きた。

 

「ッ…!?グ…ガァ…」

 

突如”被験体“が頭を押さえて苦しみだし、動かなくなった。

「な、なんだ!?ドクター、どういうことだ?」

「チッ!…失敗だ。どうもマイクロコンピュータが合わなかったようだな。…こいつはもう使えない」

「廃棄か」

「そうだな…カメラと指示部を外してから廃棄だな」

そう言ってドクターはカメラと小型のユニットを外した。

「どうして外すのかね?そのまま廃棄すればいいものを…」

「予算の関係だ。察してくれ」

男は納得といった感じで頷いた。

「…眼球が片方ないと怖いな…取り外せたかね?」

「あぁ、早く廃棄してきてくれ。次のやつに取り掛かる」

「わかった」

男は被験体を袋に入れ、部屋を出て行った。

部屋に一人残ったドクターは資料を見ながら計算を始めた。

「…なぜ失敗したんだ……ん?あぁ…ここの構成と数値が違ってたのか……もしあのまま動いていたらバケモノだったな。よし、じゃあ次はここを…」ブツブツ

独り言をつぶやきながら計算し続けるドクターの顔は、無表情のように見えたが、些か悲しそうだった。




誤字等ございましたら報告をお願いします。


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三方を小高い山に囲まれ、正面には広大な海へとつながる入り江がある小さな町、空は快晴、夏の涼しい風が気持ちよく吹いている。

そんな八月のある日、そこにある真新しい鎮守府にとある人物が着任した。

 

 

「着きましたよ」

運転手の一言で俺は目を覚ました。

「あぁ、ありがとう」

そう言って俺は外に出る。エアコンの効いた冷涼な車内から打って変わって照り付けるような日差しが俺を貫いた。

「うわっ…暑いな…」

日差しを手で遮りながら呟く。今、俺の目の前には赤レンガのどっしりとした建物がそびえたっている。

「ここが俺の鎮守府か…」

そういいつつ、出発前に言われたことを思い出した。

”新しい鎮守府のシステムは最初に着任した者に左右される。その者の運が悪ければ建造での排出率が悪くなったり、修復時間が長くなったりするのだ”

「まぁ…俺自身あんまり運が悪いわけではない…はずだ。運転手さん、ありがとうございました」

俺は運転手に向き直り、礼を言う。

「いえいえ、私は業務をこなしただけです。ご武運を!」

運転手は私に敬礼し、車を発車させる。俺は車の影が陽炎で見えにくくなるまで見送った。

「さて、行くか」

鉄の門扉をきしませながら押し開け、俺は中に入っていった。

「えぇと…執務室は…こっちか」

鎮守府内の案内板を頼りに執務室へと歩みを進めた。

 

「お?」

執務室の扉を開けると、そこにはセーラー服に身を包んだ、一人の少女がいた。

「始めまして!司令官!吹雪型一番艦、吹雪です。よろしくお願いしますね」

食い気味にあいさつされた。勢いがすごい…

「お、おう…よろしく」

挨拶に気圧されて気づかなかったが、部屋にはエアコンがかかっており、きれいに整理整頓もされている。きっとやっておいてくれたのだろう。

「部屋の整理とエアコン、ありがとうな」

良好な関係を築くためにもお礼はきちんと言っておこう。

「え!?あ、はい!え、えっと…どういたしまして…?」

何やら困惑した様子だ。

「どうした?」

「い、いえ…普通上官が部下にお礼をいう事はあまりないので…」

「あぁ、そんなことか、気にするな。それで、俺は何をすればいい?」

確か着任直後にやる事があったはずだ。

「えっと、まずこの書類に名前を書いて、その後ここのスイッチを押していただければ鎮守府の最適化が完了します!」

これか。”最適化”のスイッチ。出発前に言われたあのシステムだな…

まず名前を書いて…

「栗田(まもる)…いい名前ですね!ご家族とかは…?」

「‥‥‥」

「し、司令官?」

「いない。親族は誰一人としていない。小さいころ誰かに拾われて育てられた記憶はあるが、今ではその人の顔も思い出せない。ただ一つ覚えているのは、俺の名前がその人から取ってつけられたって事だけだ」

「ぁ…す、すみません」

吹雪は”やってしまった”といった顔をしていた。まぁ、無理もないだろう。着任直後の提督の地雷を綺麗に踏み抜いたのだから。

俺は無理に笑顔を作って言った。

「気にするな。いずれ分かる事だっただろうし…それで、あとはこのスイッチを押せばいいんだな?」

「あ、はい、そうです!」

本来の吹雪に戻った。…単純な子だなぁ…

俺はそんなことを考えながらスイッチを押した。

その瞬間、目の前にホログラムか何かでできているような画面が出てきた。

そこには””最適化完了””の文字が示されていた。

「完了ですね!ではその画面をタップして次へ進んでください。次の画面にはこの鎮守府の運ステータスが表示されます。私たちの運ステータスとは基準が違いますので、驚かないようにしてください。あ、普通の人の数値は100です!」

「へぇ…そうなのか…」

吹雪の説明を聞きながら、画面をタップした。すると…

 

{運”””9999+”””}

 

「へぁっ!?」

吹雪が変な声を出した。

「あっやべ…リミッターつけるの忘れてた…」

「し、司令官!リミッターとは…」

どうする…説明すべきか…しかしこれだと大本営の目に留まってしまうかもしれん…俺は落ち着いた鎮守府ライフを送りたいのだが…まぁ、いずれ説明することになりそうだし…

「あぁー、吹雪?今から聞くことは大本営にはオフで頼む」

「え?あ、わかりました!」

「艤装展開!「Grille15」」

次の瞬間、俺の右肘には長砲身、左腕には装甲板が出現した。

「え!?司令官って…え?」

「俺はどうやら試作兵器を自分の艤装として装備できるらしくてな。この能力は小さいころからあったんだよ。ちなみにこの艤装はドイツ陸軍の自走砲だな…まぁ、人だけれども人じゃないんだ。船の艤装だって出せる。飛行機だけはそのものを出すことしかできないんだがな。まぁ、このほかにもいろいろあるわけだ。普段はこの能力に制限を欠けることによって普通の人として生活してきた。その制限がリミッターだ」

俺は手短に俺について話す。

吹雪は声も出せないくらい驚いているようで、室内はエアコンの音が大きく聞こえるほど静かになった。

「艤装収納」

「えっと…あの…」

「大丈夫だ、危害を加えたりはしない。それよりも、吹雪のステータスにそろそろ変化が出てくると思うんだが…?」

俺はニヤリと笑っていった。

「え?司令官、それはどういう…」

吹雪が質問を終える前にそれは起こった。吹雪の体が光に包まれたのだ。

「えっ!?」

「ステータスを見てみろ」

「り、了解です…ってえぇぇぇぇ!?」

吹雪は今日で何度目かわからない驚きの声を上げた。

「何ですかこれ!?私はまだ改二じゃないですよ!?」

これには俺も危うく飲んでいたお茶を吹き出しかけるほど驚いた。

「そんなに上がったのか!?」

これまでの仕事などで同僚にバフをかけてみてもせいぜい仕事の能率が少し上がる程度だったが…

「性能が数値化されている人には効きやすいのかもな…」

「そんなことってあるんですかねぇ…」

余りの情報量の多さに吹雪の動作が緩慢になってきている。まぁ、無理もないだろう。もし俺だったら知恵熱を出すほどの情報量だからな。

「今日はもうやる事ないんだよな?」

「あ…ハイ、そうです」

あ、ダメだこれ完全に思考回路がお休みになってるわ

俺は背もたれに体を預け、明日からの身の振り方について考えることにした。

涼しい室内に、風鈴の音が響いた。



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吹雪が放心状態になってから数分後、その事態は起きた。

突如警告音が鳴り、目の前に例のウインドウが現れた。

[正面海域に深海棲艦の出現を確認。10分後に接触します]

「!?」

なんだと…?まだ駆逐艦一隻しかいないというのに…

「司令官、ご命令を!」

「いや…吹雪一隻で対処できるのか?」

「吹雪は大丈夫です!」

「いやそれ他の人の…」

正直言って駆逐艦一隻でなんとかなるとは思えない。

[報告:敵編隊は駆逐艦2隻の哨戒部隊の模様]

ん…?それなら行けるか?

「駆逐艦2隻なら行けるか?」

「行けます!出撃命令を!」

「よし、出撃だ!」

 

〜鎮守府正面海域〜

時刻は午後5時を回ったころ。だんだんと空に赤みがかかって水面の反射がまぶしくなる時刻だ。

逆光で島影が黒く染まり、洋上の敵影を見つけやすくなっていた。

ガガッ「吹雪!聞こえるか?」

俺は無線で呼びかける。

「聞こえます!…左舷前方に敵艦!これより戦闘に入ります!」

吹雪の声からは緊張の色が感じ取れる。それもそのはず、吹雪はこれが初の実戦なのだ。

…うまくいくといいが…

 

~吹雪side~

「‥‥これより戦闘に入ります!」ブツッ

私は無線を切った後、12.7㎝連装砲を構える。

私はこれが初の実戦。しかも1対2という不利な状況だ。

司令官にはああいったけど…不安だな…

「…私、震えてる?」

足や、主砲を構える手がかすかに震えている。

「大丈夫、私ならきっと!」

敵駆逐艦がこちらに気づく。魚のバケモノのような船体をこちらに向け、口を開いて砲口を向けてくる。

「先手必勝です!」

相手の発砲前に私は発砲する。

だが、僅かに狙いがそれたせいか敵の後方に着弾する。

「ガァ!」

敵も負けじと発砲する。

「当たりませんよ!仰角調整+5度!旋回+2度!撃てぇッ!…よっし、命中!」

私が放った砲弾は寸分違わず敵駆逐艦に命中、轟沈させた。

「ギャァァァァァ!」

残存する一隻は仲間を殺られた怨念からか、叫びをあげる。

敵艦が発砲するが、直撃弾とはならず私の周りに水柱を上げるばかりだ。

「これで…!終わりです!」

今度の砲弾も敵艦に命中、轟沈させた。ここで、私は司令官に無線を入れる。

 

~防(提督)side~

ガガッ「司令官!敵駆逐艦二隻、撃破完了です!これより帰投します!」

   「おお!無事だったか!待ってるぞ!」

   「了解でs…え!?」

   「吹雪!?どうした!応答せよ!応答せよ!何があったっ!!」

   「そんな…どうして…敵は二隻だけのはずじゃ…?」

   「増援か!?敵の戦力は?」

   「せ、戦艦2…空母1…重巡2…軽巡1…しゅ、主力艦隊です!」

   「すぐに撤退しろ!今すぐだ!」

   「了k…て、敵機直上!」ブツッ

 

「吹雪!吹雪!‥‥‥なんてことだ…」

 

~吹雪side~

「了k…て、敵機直上!」

撤退しようとしたその時、対空警戒を疎かにしていたせいで敵爆撃機の侵入を許してしまった。

「た、対空気銃、掃討開始!」

急いで敵機を落とそうとするが間に合わない。三機が爆弾を投下して離脱していく。

「よ、避けられない!」

次の瞬間、一発が機関部へ直撃、残り二発は海中で爆発して私の身長よりも遥かに高い水柱を上げる。

「機関部大破!…航行不能!…ぅぅぅ…」

水柱が収まると、主力艦隊はもう私への攻撃準備を終えていた。

「う、嘘…」

敵はもう目前へと迫っており、私に逃亡の余地がないのは火を見るよりも明らかだった。

「初陣がこんな事になるなんて…」

刻一刻と時間は流れ、浸水はひどくなっていくばかりだ。

あたりはもう暗くなり、星がだんだんと確認できるようになる時刻。

敵の輪郭は辛うじて確認できているが、その輪郭は今にも闇に溶け込みそうだ。敵の(あか)い眼光だけがくっきりと確認出来る。

敵戦艦がこちらへ接近し、口を開いた。

「サァ…言イ残ス事ハ、アルカシラ?」

敵が笑った気がした。

「ぐっ‥‥」

私は今大破状態のため動けない。浸水もひどくなってきており、沈むのは時間の問題だろう。

 

ガチャッ…

 

戦艦の三連装砲がこちらを向く。その砲身は冷たい輝きを放っており、今にも吸い込まれそうだった。

 

「駆逐艦一隻デ哨戒部隊ヲ沈メタコトハ評価シテアゲル」

 

戦艦が発砲の合図を出そうとしたその時、不意に闇の中に昼間の太陽を投下したような閃光が奔り、敵影がはっきりと確認できるようになった。

「照明弾ダト!?」

敵が動揺していることから、この照明弾は敵の物ではないのだろう。…じゃあ、いったい誰が…?

 

先ほどまで目の前で不敵に笑っていた敵戦艦が突如被弾、前部砲塔の弾薬庫誘爆を引き起こした。

砲塔装甲や折れた砲身が宙を舞い、甲板の板材を容赦なくはぎ取っていく。敵戦艦は”何が起こったのかわからない”という疑問と苦痛を混ぜたような複雑な表情をしており、私の死角の方を睨んでいる。

次の瞬間、今度は上空から不気味なサイレンの音が聞こえ始めた。私の朦朧とした意識の中でもはっきりとわかるほど不気味な音だった。そのサイレンに混じり、何かが空気を切り裂いて落下してくる音が聞こえる。

敵戦艦が閃光によって照らし出された闇夜の空を睨む。次の瞬間、後部甲板に爆炎が上がり、艦橋からも火の手が上がる。

敵戦艦はなすすべもなく、沈んでいった。

動揺する敵艦隊。無理もないだろう、主力の一角がほんの一分少々で轟沈したのだから。

次々と被弾、炎上または誘爆を引き起こす敵艦隊。応戦しているように見えるが、謎の攻撃の手が緩まないところを見るとさほど効いてはいないのだろう。また一隻、一隻と爆炎を上げながら沈んでいく。

数十分ほど攻撃が続き、突如としてその攻撃は止まった。霞む私の視界の中に、先ほどまでの敵の影は見当たらなかった。

朦朧としていく意識の中で最後に見たものは、心配そうにする司令官の顔、そして司令官の背後から私を覗き込む知らない誰かの顔だった。

 

””もう大丈夫だ””

 

司令官の力強い言葉を聞いて、私は、意識を手放した。




誤字、脱字等は報告をお願いします。


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「ここは…どこ?」

私が目を覚ますと知らない場所に座っていた。

そこは、広いのかも狭いのかも分からず、ただただ白い空間が広がっている場所だった。

ふと耳に懐かしい声が聞こえてきた。

「お…い、吹雪ぃ〜!」

「…艦長?」

振り返ってみると鋼鉄の船時代の艦長と思しき人物が向こうで手を振っていた。

「行ってみよう」

私はゆっくりと立ち上がり、艦長の元へ歩き始めた。

だが、同時に私の心に疑念が生まれた。

“私はいつからここにいるんだろう…私は戦っていたはずなのに…”

その疑念は艦長の一言で止まることになった。

「止まれ!!」

私は驚いて立ち止まる。十数メートル先で艦長は「下を見ろ」というジェスチャーをしていた。

「…え?」

艦長の指示のままに下を見ると、そこには渓谷が広がっていた。

白く、切り立った無表情な渓谷。底の方は視認できず、水の音も聞こえない。

全てが白い空間の中でそこだけ、黒く染まっていた。

渓谷の向こう岸にいる艦長の方へ視線を戻すと、彼はゆっくりと口を開いた。

「吹雪、お前はまだこちらへ来てはいけない。お前にはまだやることがあるはずだ」

はっ、となった。心の中でもやもやしていた霧が一気に晴れたようだった。

私はゆっくりと口を開く。

「私には、守るべき人がいる」

突如、風が吹き始めた。強く、だがどこか優しい風が私の周りを吹き抜けた。

艦長は、笑っていた。その後ろにはいつの間にか副艦長や、その他懐かしい人たちが勢揃いしていた。

艦長が口を開いた。

「その目標を成し遂げたなら、こちらへ来なさい…ほら、後ろで君を呼んでいる人がいるぞ」

艦長に言われ、後ろを振り返る。

「おーい、吹雪〜」

限りなく白い空間の中でその人影だけがはっきりとしている。

「行きなさい」

背後から艦長が言った。

私は振り返らずに頷き、走り出した。

その人影が少し大きくなってきたところで、私の体は柔らかな光に包まれる。

その光はだんだんと強くなり、視界をぼやけさせ始めた。

不思議と驚きの感情は感じられず、私はその光に身を任せ、目を閉じた。

 

 

 

 

私は目を開けた。目の前には無機質な暗い天井があった。

どうやら私は横になっているようで、おそらくここは医務室らしい。

部屋の中は暗く、窓から差し込む月明かりだけが部屋の中をうすらぼんやりと照らし出していた。

窓から見える夜空を眺めていると、ふと、視界の端に何か動くものが映った。

「司令官?」

司令官が医務室の机に突っ伏して寝ていた。机上には書類が山積みにされており、どうやらここで執務をしていたようだ。

司令官はゆっくりと起き上がり口を開いた。

「…あ、吹雪か………ん!?吹雪!?」

呆けていた司令官の表情が一気に真面目な表情になる。

「どこか痛いところはないか?気分は!?」

「いや、無いですけれども」

「即答!?」

「そんなことより「そんな事って…」…あれからどのくらい経ちました?」

あの戦いは日が暮れ始めた時に始まった。あれほどの怪我なら数日は経ってるはず…

「あれからどのくらい経ちましたか?」

「一週間だ」

「そんなに長い間…すみません」

「気にするな、吹雪が戻ってきて来れたことの方が嬉しい」

司令官の言葉に嘘はないようだった。

安堵とともに、疑問が湧いてくる。

「そういえば…どうやって助けに来てくれたんですか?どうやって敵主力艦隊を沈めたんですか?それと戦場で気を失う前に司令官の後ろに誰かいたような気がしたんですけれど、あれは誰ですか!?」

「え、えっとな…」

「教えていただけないと、気になって夜しか寝れません!!」

「落ち着け!」

そのあと司令官は一通りのことを話してくださった。

 

〜7日ほど前(吹雪との無線断絶直後)〜防(提督)side〜

「吹雪!吹雪!……なんてことだ…」

無線の切れ方からして、戦闘に巻き込まれたのは言うまでもないだろう。報告の通りならば中規模の主力艦隊と見て間違いはないだろう。そんな艦隊相手に駆逐艦一隻で勝てるわけがない。

普通の鎮守府ならここで増援を送るのだろうが、あいにくうちの鎮守府には吹雪以外の戦力がいない。どうしたものか…

そう考えていた時に、工廠から電話が入った。

「出撃できるよー」

「………誰?」

まだ他に艦娘は着任してないはず…?

「工廠の整備妖精ですー」

「…はい?妖精に出撃はできないはずだ。今は非常事態なんだ、ふざけるのはよしてくれ」

「違うよー建造したんだよー」

「なんだって!?」

勝手に建造しやがったのか…まあいい。今は助かったからな。

「それで、誰を建造したんだ?」

ここで駆逐艦や軽巡だったら焼け石に水だ。

「電話変わるねー……お電話変わりました、航空母艦、赤城です」

「おお!赤城か。すまないが一緒に出撃してくれ。哨戒部隊を殲滅に行った吹雪が敵主力とエンカウントして通信が切れたんだ」

「…分かりました。埠頭にて待機しておきます」

赤城の声が少し強張ったように聞こえた。無理もないだろう、これが初めての出撃……あれ、これ吹雪の時も言った気がする。

 

 

埠頭に着いた。時刻は午後6時過ぎ、辺りは日が落ちて暗くなっており、空は紫と青のグラデーションとなっていた。

そこには1人の白を基調に赤をモチーフとした袴姿の女性が艤装を展開して待機していた。

彼女はこちらに気づくとお辞儀をしてからゆっくりと口を開いた。

「お待ちしていました」

透き通るような声、風に吹かれてたなびく黒髪も綺麗だ。これが大和撫子というやつなのだろう。

「提督はどうされるんですか?」

「俺も行く」

そう言って俺は停泊させてあった小型ボートを指さす。赤城は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに元に表情に戻った。

俺が船の艤装を利用しない理由は簡単で、俺が慣れていないからだ。

慣れていない艤装で出撃して死のうものならそれこそ愚の骨頂だ。

小型ボートへ足をかける。地上とは全く違う感覚が足を通じて伝わってくる。そのまま乗り込み、エンジンをかけた。

「一航戦赤城、出撃します!」

隣では赤城が滑るように大海原へ漕ぎ出していた。沈みかけの夕日にかすかに照らされた彼女の横顔は、どこか儚さを感じさせた。

この時俺は、“こんな大人しい性格の女性(ひと)に戦闘ができるのか”と思っていた。

 

だが、それは杞憂に終わることになった。

 

 

 

 

数分後、俺たちは戦闘海域へと差し掛かっていた。

そこでは、吹雪が今にも沈められそうになっていた。

「赤城、いけるか?」

「はい!戦闘(コンバット)モード、起動!」

「へっ!?」

赤城の口から出た言葉に困惑していると、目の前で信じ難いことが起こった。

白かった服は黒を基調としたものに変わり、服装の赤い部分は淡く、黒く透き通っていた瞳は強く、そして(あか)く発光している。

変化を終えた赤城は敵に向き直る。

先程の可憐な雰囲気は何処へやら、一変して鋭い眼光を持つ戦闘狂(バーサーカー)へと化していた。

「えっ、ちょっ、赤城さん?」

俺に背を向けていた赤城(黒)がこちらを見ずに言った。

「提督、危ないので下がっていてください。二度は言いません」

その言葉は冷たく、重かった。

俺は何も言えず、ただ後方から照明弾をあげることしかできなかった。

 

「照明弾ダト!?」

 

戦闘が、始まった。

 

 

 

「第一次攻撃隊、派手に暴れてきなさい!」

赤城は“陸上機”である“ドイツの”Ju87を発艦させた。急降下時の“悪魔のサイレン”が敵の注意を引くのに効果的だと考えたからだろう。

彼女の予想は的中し、敵は上空を見上げ、突如として出現したJu87の対処に追われていた。

 

「敵機上空!」「対空掃討急ゲ!」

 

ここに、隙が生まれた。上空を見ている間は、水平面ギリギリのところの注意はおろそかになるものだ。

「第二次攻撃隊、出番よ」

彼女は見たことのない形状をした雷撃機を発艦させた。

その雷撃機は小振りながらも双発ターボファンでノーズがやたら尖っており、腹の下には大型の魚雷を抱えていた。

そいつらは従来の雷撃機とは比べ物にならない速度で敵へと向かっていった。見ているこっちが恐怖を覚えたるくらい速かったのを覚えている。

あとから聞いたが、どうやら景山(けいざん)という新型雷撃機だったらしい。

雷撃部隊は水面を這うように進み、目標近辺で魚雷を投下した。

迫り来る魚雷を視認したのか、敵がようやくこちらを発見したようだった。

 

「回避急ゲ!」「無理ダ!間ニ合ワナイ!」「敵艦一時ノ方向!」

 

ここはまさにこの世の地獄ともいえる場所と化していた。

被弾する敵艦。こだまする絶叫。吹き上がる爆炎。吹き飛ぶ艤装。

「先ほどまであれほどの余裕があったというのに…フフッ」

そして不敵にほほ笑む赤城。

もはやどちらが敵かわからないほどだった。

 

「反撃開始ッ!」「撃テェ!」

 

敵艦が反撃を開始する。

敵戦艦の第一射。最初から斉射で応戦してきた。

一発目の斉射にもかかわらず、砲弾は赤城の船体ぎりぎりの海中へ着弾する。

敵の練度も見せかけではないようで、確実に赤城を追い詰めてきていた。

ここで巡洋艦が放った砲弾の一発が甲板に着弾した。

「飛行甲板に被弾!…敵もなかなかやるわね…」

だが、被害を受け、砲弾の雨にさらされながらも、彼女はその笑みを口元から絶やすことなく、大胆不敵に振舞っていた。

だが、そこで問題が起きた。

敵戦艦の放った砲弾が赤城の機関部に命中、大破させた。

赤城の笑みが絶えた。

「!?機関大破!航行不能…!フッ…」

だが、彼女はまたすぐに笑った。

「こんなことで、一航戦は、沈まないっ!」

現実では慢心で沈んだけどな!?と、俺は心の中でツッコミを入れておく。俺が馬鹿げたツッコミにうつつを抜かしている間にその変化は起こった。

 

艤装交換(コンバート)!!!」

 

照明弾だけが頼りの暗い戦場に、凛とした声が響いた。

その声が響いた瞬間、あたりは時間が止まったように感じられた。

 

それはほんの十秒ほどの時間だった。

赤城の飛行甲板が短縮され、回転しつつ背後へ格納される。

背後にあったはずの矢筒はいつの間にか武骨な艦橋へとなっており、両脇には連装砲塔がそれぞれ、左に2基、右に3基と付いている”戦艦の艤装”へと変化していた。

「天城型巡戦「赤城」、艤装交換(コンバート)完了。これより敵の殲滅を開始します」

そこの場に居合わせた誰もが自身の目を疑った。空母が戦艦に艤装交換(コンバート)するなんて聞いたことがない。そもそも艤装交換(コンバート)は戦闘中はできないはずだ。

それを戦闘中にやってのけた赤城。…こいつは一体何者なのだろうか…

 

「ヒ、ヒルムナ!撃テェ!」

 

深海棲艦は我に返ったのか砲撃を開始する。が、

「効きませんよ」

赤城はそう言って迫り来る砲弾を手で薙ぎ払い軌道をそらした。

背後に水柱が高くあがる。

 

「ナッ!?」

 

「フフフ…」

赤城は笑い、こう告げる。

「死ぬ準備はできましたか…?」

ゆっくりと前進する。

「撃ち方、始め!」

 

 

 

 

~現在~

「…ってことがあったんだ」

「」

吹雪は石像のように固まっている。

「はっ!」

「戻ってきたか。…今日はもう遅い。明日から通常業務も始まるし、寝ておくことを勧めるぞ」

「…はい、司令官…あの…司令官のお話だと赤城さんはいったん被弾して攻撃を中断したんですよね?私の記憶が正しければずっと攻撃は続いていた気がするんですけれども…」

「俺も少しばかり加勢してたんだ。…もう寝ろ」

吹雪はベッドに横になり、こう言った。

「司令官、ありがとうございました」

「…あぁ、おやすみ」

俺はあの時照明弾しか放っていないんだがな…おそらく吹雪の記憶違いだろう。




Ju87 シュトゥーカ
ドイツの陸上爆撃機。ルーデルさんが乗ってたことで有名。なぜか艦載機運用している。
景山(けいざん)
本作オリジナル雷撃機。推進機関はターボファン2基で、最高時速は550km/hほど。航続距離は500㎞ほどしかない。武装は機首に20mm機関砲4門、コックピット後部に12.7mm機関砲2門、吊り下げ型の95式酸素魚雷一発。増槽は魚雷よりやや後部に装着可能。後退翼を採用しており、高速性が増している。魚雷投下後は戦闘機としても運用可能。なぜか艦載機運用している。
天城型巡洋戦艦 赤城
主砲 41cm連装砲5基、14cm副砲16門、12cm高角砲4門、61cm水上魚雷発射管2基8門、3年式機砲という高火力に加え、舷側254mmVC鋼(傾斜12度)、甲板95mmNVNC鋼、主砲塔前面305mm、同側面152-190mm、同上面127mm、司令塔側面254-330mmVC鋼という長門型を凌駕する装甲も持つ戦艦。ワシントン海軍軍縮条約によって破棄された八八艦隊の計画案の一つである天城型巡洋戦艦の一隻である。なぜかコンバートできる。


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~陸軍地下実験室~

じめじめとした地下空間。コンクリートで固められた壁。天井にはLED蛍光灯が設置されており、煌々と、そして寒々とした色の光を放っている。

その部屋では今、医者と一人の男が一人の人物を前に話し込んでいる。

 

「…それで、実験の結果はどうだったんだ?ドクター」

ドクターは顔色一つ変えずに返答する。

「成功だ。被験体No.1991が深海棲艦に打撃を与えることに成功した」

男は顔色を変えずにまた尋ねた。

「どこで実験したんだ?」

ドクターはぶっきらぼうに言った。

「海軍のやつが苦戦しているところにバレないように支援砲撃を行った。成果は上々、敵艦撃沈だ」

その結果を聞いた男は、肩の荷が下りたように大きく息をついた。

「…ようやくか。長かったなぁ…何年だ?”被験体No.1”の失敗からは」

ドクターは少し虚空を見上げる動作をした後、悲しそうに答えた。

「…およそ18年だ。…俺もすっかり虐殺者になってしまった…」

「あんたは上層部からの命令をこなしただけだ。気に病む必要はない」

「…そうか…”被験体の量産体制”はできているんだな?」

男は少し俯き、頭を振った。そして、目の前のNo.1991を指さして言った。

「まだだ。まだ整ってはいない。近々海軍の奴らにそいつをお披露目してから整えるらしい。上層部には何も言えないからな。私は」

ドクターはそれを聞いて驚いたように言った。

「このタイプの奴らは”X-1計画”に使うんだろ?海軍なんかに見せて大丈夫なのか!?」

「まあまあ落ち着け…海軍に見せるのは”俺らは海軍の援助なしでも海でやっていけるぞ”っていう事を表明して海軍を牽制するためらしい」

ドクターは不安と安堵が混じったような表情をしていた。が、諦めたように言った。

「…分かった。くれぐれも此処がバレることの無い様にしてくれ」

ドクターは男に書類を渡した。

「あぁ、善処する」

男は片手でそれを受け取り、回れ右をした。

「じゃあな。また仕事を持ってくるよ(また人体改造させるからな)

軋む鉄製のドアを開け、男はドアの向こうの階段に姿を消した。

男の姿が完全に消えてから、ドクターがぽつりと言った。

「…もう…来ないでくれ…!」

 

 

 

 

 

 

 

~防の鎮守府(名前未定)~

時刻は午前10時ごろ。日が高くなり始め、厚さがピークへと向かってぐんぐんと上昇し始める時刻だ。そんな中、俺は…

「あぢぃぃ~…何だよこの気温…」

「ですねぇ~…暑いです…」

執務室で吹雪と一緒にのびていた。

「提督…冷房はお付けになられないのですか…?」

赤城がそう言いながら執務室へ入ってきた。

「エアコンが壊れたんだ。今朝方大本営に新しいクーラー配給を頼む書類は送ったよ」

俺は机の上に突っ伏したまま言った。

「それはそうと…提督、大本営から書類です」

俺は飛びあがるように起きて言った。

「クーラーか!?」

「違います」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁ…」

そしてまた突っ伏した。

吹雪がけだるげに赤城から書類を受け取り、そして

「提督!超重要書類ですよ!?」

素っ頓狂な声を上げた。

「内容は?」

さすがに超重要書類となっては突っ伏したままで処理するわけにはいかない。俺はバネ仕掛けの人形のように飛び起きた。

「えっと…この間近くの鎮守府…と言っても100㎞ほど離れてますが‥そこがどうやらいわゆる”ブラック鎮守府”というものだったらしく、憲兵隊の監査が入って鎮守府が解体したそうです‥‥‥それで、そこに在籍していた艦娘ほぼ全隻をこちらに配備したいと…」

吹雪が読み上げた後、蒸し暑い執務室の中にしばしの静寂が訪れた。窓際に吊るしてある風鈴が透き通った音を立て、弱い風が部屋の中へ吹き込んだ。

八月の晴れ渡った空、真っ白い雲が悠々と流れている。

セミの鳴き声がやけに大きく聞こえた。

「冗談でしょ?」

「本当ですよ!」

「いや…でも…まあ人員が増えるならいいか…それで、いつ来るんだ?」

まあ、そんなすぐには来ないだろう…うん。

「今日の正午ですね」

赤城がすかさず言った。

「書類来るの遅すぎだろ!?!?」

俺は思わず立ち上がって叫んだ。

「…提督、どうします?」

「んなもん、今から準備するしかないだろう…よし、部屋の準備に行くか」

俺が部屋から出て行こうとすると、二人は驚いたような顔をした。

「司令官が行くんですか?」

「私たちでやっておきますよ?」

「いや…人手が足りないだろう…二人で約百人分の部屋を用意するのか?」

さすがに無理だろう。だってあっちの方全く手つけてないし…

「私が先週暇を持て余していたので全部屋の掃除、片付けやっておきました。あと準備と言えば誰がどこに入るのかを決めることですね」

執務室に本日二度目の静寂が訪れた。吹雪が驚愕の目で赤城を見つめ、俺はフリーズしている。風鈴が鳴った。

「冗談だよな?」

「本当です」

あれこのやり取りさっきもやった気が…

 

 

 

~一時間半後~

「…よし、これで全員の部屋割りも終わったな」

俺たちは相変わらずうだるような暑さで蒸し焼きにしてくる執務室と格闘しつつ、部屋割りを終わらせた。

「お疲れ様です。麦茶飲みますか~?」

吹雪が氷のカラコロという音を響かせながら麦茶とコップをお盆に乗せて運んできた。

「ありがとうございます」

「ありがとうな」

お礼を言って麦茶を受け取り、飲んだ。

冷たいお茶が喉を伝わって腹の中に入っていき、体が冷やされるような感覚に陥る。

「ぷはぁ、うめぇぇぇ」

「ごちそうさまでした」

コップをお盆の上に置く。当の吹雪は未だお茶を抱えてだらけていた。

赤城がふと言った。

「そういえば…あと少しで異動の皆さんが到着する時刻ですね」

「そうだな。そろそろ正門前に移動しようか」

「了解です!ちょっと待ってください。麦茶飲んじゃうので!」

そう言って吹雪は急いで麦茶を飲もうとした。が、

「ングッ!?ゲッホゲホゲホ…」

むせた。

「大丈夫か!?」

「あらあら…急いで飲もうとするから…」

「だ、大丈夫です!ゲッホ…」

「…落ち着いたら行こうか…」

 

 

~正門前~

 

太陽がじりじりと照り付け、影法師が最も短くなる時間帯、正午。

空は青く澄み渡り、海風が吹き付けているという、字面だけなら涼しそうに見える状況だが、風が吹いても熱気を運んでくるだけなので、とても涼しいなんてものではない。

そんな中、俺たちは正門の前で異動してきた艦娘らと対面していた。

一人の艦娘が手を差し出しながら前へ出てきた言った。

 

「私は長門型一番艦長門。提督代理だ。よろしく頼む」

「俺はここの提督の栗田(まもる)だ。こちらこそよろしく頼む。見ての通り、これしか戦力がいないのでな。歓迎する」

俺も手を差し出し、微笑みながら言った。

 

「これから食堂で歓迎会を兼ねて昼食会を行おうと思う。全員食堂に移動してくれ‥‥‥まぁ、クーラーが今壊れていてな。そこは少し我慢してくれ」

 

俺が言った瞬間、艦娘らがざわつき始めた。

「ど、どうした…俺何か悪いこと言ったか…?」

「えっと…私らなんかが提督と一緒に食事なんかしてもいいものなのか?」

「…はい?」

俺らの苦労はまだ始まったばかりである。




ブラック鎮守府
・ブラック鎮守府とは、艦娘に人権を与えず、ただただ兵器として運用し、補給や入渠などもろくに行わずに過酷な労働を長時間強いる鎮守府である。大体の場合そこの提督の性格は腐っている。
・ブラック鎮守府の艦娘らは病んでいること、または曲がった思考を持っている艦が多い。
(個人の独断と偏見による考察です)


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~食堂~

クーラー故障中の食堂に百名以上の生命体。これほどまでに熱気が押し寄せてくる空間はあるだろうか。外の風が運んでくる熱気より湿気を含んでいるためとても蒸し暑い。死にそうだ。

俺たちは正門を後にして食堂に来ている。もちろん、歓迎会兼昼食会を開くためだ。

俺は長門達一行に言った。

「お前たちは座って待っていてくれ。俺が作ってくるから」

それを聞いて長門が食い気味に返した。

「いやいやいや、そんな上官に私らごときの飯を作らせるなんてとんでもない。私たちは補給さえ受けていれば大丈夫だ」

補給を受けさえすれば…?ということは…

「なぁ、新しくやってきた者でまともなご飯を食べたことのある者は手を挙げてくれ」

静寂。気温が一度くらい上がった気がした。

「うっそだろおい…マジっすか…」

「さすがにこれは…」

「予想外ですねぇ…」

吹雪と赤城も目を丸くしている。

「よし!こうなったらごはんがどれだけ素晴らしい物か体験させてやろうじゃないか!吹雪、赤城、手伝ってくれ!」

「了解です!」

「かしこまりました」

俺が厨房の方へ歩き出したとき、ふと視界の端に妙な物が映った。

「…ん?どうした?え~と、君は響か?で、なんで床に座ろうとしているんだ?全員分のイスとテーブルはあるはずだろう?」

まさかとは思うが…

「私たちが椅子に座るなんてことはない。兵器だからね」

俺は唐突に怒りを覚えた。彼女らをこんな風にした前任者は一体どんな性格をしていたのだ!?と。

それと同時に悲しくなった。なぜ彼女らがこんな目に合わなければいけなかったのだろうか、と。

俺は静かに言った。

「細かいことは後で話す。とりあえず今は”全員”椅子に座って、待機していてくれ。艦娘同士でしゃべっても大丈夫だ。楽にしていてくれ…いいな?」

「司令官…」

吹雪が心配そうに声をかけてくる。赤城もどこか心配そうな表情をしていた。そんな彼女らに俺は笑顔を作って言った。

「みんなが”ここに来てよかった”って思えるような鎮守府にしよう、な?」

「…はい!」

「そうですね…!」

俺らは厨房へ向かい、料理を始めた。

 

~厨房~

 

今回作るのはド定番のカレーライスだ。誰でもおいしく作れて、万人受けするからな。

まずは野菜の皮むきからだ。幸いなことにここの厨房には調理器具一式が揃っていたため、楽に作業を進めることが出来た。

「吹雪、ニンジンとジャガイモを一口大に切ってもらえるか?」

「任せてください!」

と、満面の笑みで吹雪は言う。よほど包丁さばきに自信があるのだろう。

「赤城、フライパンにサラダ油をひいて中火で肉を炒めてくれるか?」

「提督、サラダ油はどこでしょう…?」

「あー…多分その辺じゃないか?」

 

俺は適当に指さした。

 

「あ、ありました。では、やっておきますね」

 

あ、あったんだ…

 

赤城が慣れた手つきで肉を切っていく。数分後、はじけるような音とともに焦げたサラダ油のいい匂いが漂ってきた。俺はその間に玉ねぎの皮をむき、くし形に切っておく。

「提督、そろそろ野菜を足してもいいのではないでしょうか」

そういわれて赤城のフライパンの方へ目を向けると、肉がいい感じに炒められていた。

「そうだな…吹雪!切り終わったか?」

そう言って吹雪の方へ目を向けると、そこには機械が切り分けたのか?と言いたくなるほど綺麗に、そして均等に切り分けられた野菜たちが並べられていた。

「終わりました!どうです?結構頑張ったんですよ?」

吹雪が無い胸を張っていった。

「すごいな!麦茶でむせたときはドジっ子かと思っていたが…料理が得意なんだな!」

「な!?私はドジっ子じゃないですよ!?」

心外だ、とばかりに吹雪は私に詰め寄ってくる。

「イチャイチャしてないで早く野菜を入れてください。料理は時間が命ですよ?」

突如、背後から冷たい氷の槍のような言葉が飛んできた。

「サーセン」「スミマセンでした」

「分かればいいんです」

その後、野菜を投下して玉ねぎの色が透き通るまで炒め、水を加えて15~20分ほど煮込んだ。その後カレールウを加えて溶かしながら煮込めば完成、というわけだ。

「さぁ、あとは煮込むだけだな」

「完成が楽しみです!」

「…早く食べたい」

あれ赤城さんがなんかおかしい…

 

 

~十数分前、食堂(提督たちが厨房へ向かった直後)~

「長門、今回の提督はどう?」

長門の隣に座っていた戦艦と思しき人物が話しかけた。

「…前のやつのように性根が腐っているわけではなさそうだ。だが、完全に信用することはできない。人はいつ変わるか分からんからな…お前はどう思うんだ?陸奥よ」

「私は~、あの人なら大丈夫かなぁって、思ってるわ」

それを聞いた長門は表情をきつくした。

「どうしてそう思う?」

「…あの提督が前の人のような性格ならば、響が”兵器だから”と答えたときにあんな悲しい目はしないはずだから、よ。長門はもう少し人を信じた方がいいと思うわ」

陸奥は穏やかな口調で諭すように言った。

「うぅむ…確かに…」

「だけど猫をかぶっているっていう可能性もあるんじゃないか?」

長門がうなっているところに、横から誰かが口を出してきた。

「…伊勢か。まぁそう思うのも仕方ないよな…」

「私も日向もあいつ(前任者)にはひどい仕打ちを受けてきた。今回もそういうやつかもしれない」

「待ちなさい」

議論が白熱しかかっているところに、待ったをかける人物がいた。

「大和…?どうした?まさかあいつのことを信じろなんて言うんじゃないだろうな!?」

伊勢が睨みを利かせる。

大和はそれに臆せずに、伊勢の目を見て言った。

「まだ私たちの指揮もしていない提督の性格についてあれこれ言ったところでそれは憶測でしかないわ。ひとまず落ち着きましょう。提督がどういう人なのかは、これから過ごしていくうちの中で分かるはずだから。もう少し肩の力を抜きましょう?ね?」

「…確かに、大和の言うとおりだな」

長門が賛成の意を示した。

「それに見てみろ。こんなに緊張していたのは我々戦艦、しかもごく一部だけのようだ」

長門のその言葉に触発され、戦艦勢が周りを見始める。

「…確かに。ほかの皆は久しぶりの自由時間を楽しんでいるみたいね」

「…あの提督なら大丈夫、みたいなものを感じ取ったのかしらね。駆逐艦の子らがあんなにリラックスしているのを見たのは久しぶりだわ…」

 

その時、食堂に突如としておいしそうな香りが漂ってきた。

「あら?この匂いは何かしら…?」

一人の戦艦が俯いていた顔を上げて言った。

「扶桑姉さま、きっとこれは提督がご用意してくださっている”ご飯”というものでしょう」

”扶桑姉さま”と呼ばれた人と服装がほぼ同じ人が答える。こちらはまだ俯いたままだ。

「山城…元気出しなさいな。ここならきっと大丈夫よ」

「…私たちは不幸姉妹。どこでも厄介者として扱われるだけですよ…前例があるじゃないですか」

「…そうね…」

 

「扶桑型の二人は闇が深そうデース…」

少し離れた位置に座っていた女性が扶桑型のやり取りを聞いて呟いた。

「そうですね…まあ、あの扱いでしたし…」

「比叡もそう思いますカ…ここでメンタルが回復するといいんですけどネー…」

「金剛姉さま…あの人たちよりも…メンタル回復必須なのは…」

比叡が自分の隣の席の女性を見て言った。

「榛名は大丈夫です!」

「そのセリフはその目にハイライトが戻ってから言おうか!?」

榛名のカミングアウトに比叡が突っ込む。

「ふむ…私の分析によればこの匂いはカレーライスの下準備ですね。非常に期待できそうです」

「食べたことあるの!?」

「ないですね。知識で知っているだけです」

「霧島…相変わらず分析が好きネー…」

金剛があきれ顔で言った。

 

~厨房~

「…よし!10分経った!完成だ!」

「やったー!」

「上々ね」

出来上がったカレーはいい匂いを厨房中に充満させている。これなら彼女たちもいくらか心を許してくれるだろう…多分。

「赤城、あっちの皆にカレーを取りに来てくれるように伝えてきてもらえるか?」

「了解です」

俺は吹雪に向き直って言い放った。

「さあ、配膳だ!」

「了解です!」

 

 

数分後、俺たちは配膳に追われていた。何せ、百十数人も一気に来るわけだから当然のことである。

配膳していると顔がまだ沈んでいる者、”これは何だろう?”と言った好奇心の目でカレーを見ている者、俺を睨む者、もうすっかり警戒を解いている者など、いろいろな人の状況が把握できる。全体としてはかなり警戒は解けてきた方だろう。

その後俺たちは配膳を終え、皆が待つ食堂へと移動した。

 

食堂では全員がきちんと座っており、少しの乱れもない。多分そういう風に訓練させられたのだろう。だが、俺は多少は許容できるものの、このような堅苦しいのは嫌いだ。

そんなことを考えつつ俺は食堂の最前列にある式台(のようなもの)に上がった。

全員の視線が集まる。俺はゆっくりと口を開いた。

「まず始めに、今後の予定を伝える」

艦娘の間にどよめきが起こる。”また出撃か”と。

俺は構わず続けた。

「今日から一週間、予定を空けてある。各自一度執務室によった後は自由時間とするように。そしてこの昼食会はささやかではあるが君たちの着任祝いとして受け取ってくれ。それじゃ…いただきます!」

「い、いただきます!」×多数

艦娘たちは自由時間を与えられたうえ、いきなりいただきますを言われたので面食らっていたが、一人、また一人とカレーを口にし始めた。

「…!これはおいしいな…これがご飯か…」

というような反応が各所から聞こえる。特に駆逐艦や海防艦などの小さい娘たちはがっつくようにして食べている。そんな風に食べてもらえるとは、作った甲斐があったというものだ。中にはおいしかったのか、涙を流す者もいた。どれだけひどい食生活だったのか…想像したくもない。吹雪は吹雪型の皆が集まっている机で、赤城は航空母艦が集まっている席で食べているようだ。次第にどこの机にも笑顔の花が咲き始め、会話にも花が咲き始めた。俺が自分は花畑にいると錯覚しそうになるくらい、食堂には幸せな空気が溢れていた。

俺が食堂を後にしようとして歩いていたところ、

「提督、ちょっといいでしょうか?」

と声をかけられた。振り会えると、赤城がいた。

「どうした?」

「おかわりをいただいても?」

何だそんなことか…

「大丈夫だ。あるだけ食べなさい。みんなにも言ってきてくれ。おかわりは自由だ、そして食べ終わったら一人ずつでも、数人一緒でもいいから一度執務室に来るように、と。俺は先に執務室に戻ってるよ」

おかわりは自由、と聞いた瞬間の赤城の顔は清々しいものだった。食べることが好きなんだろうな…

そう思いつつ俺は歩き出した。食堂から出ようとしたとき、声をかけられた。

「提督はお食べにならないのですか?」

吹雪だ。

「君らが楽しそうにしているのを見ているだけでお腹いっぱいだ。あぁ、それと厨房の冷蔵庫に全員分の羊羹があるから、デザートとしてみんなに配ってくれ。頼んだぞ」

「はいっ!了解です!」

吹雪は満面の笑みを浮かべながらみんなの元へ戻っていった。

俺はそれを見届け、食堂を後にした。




ほぼ戦艦しか出てきていないのは許してください<m(__)m>


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俺は今、執務室で書類の山を前にして放心している。

その書類は、異動してきた艦娘らの物で、個人の経歴や性格などが記されている。艦隊指揮を円滑に行うためにはまずは全員の名前と性格を把握しようと意気込んで書類を読み始めたのだが…

「…なんでこんなに個性的な奴しかいないの…」

平凡な奴を数えると両手で事足りてしまう。

でもまぁ、今までそういった個性を押さえて生きてきたんだろうから、ここで十分に個性を爆発させてやろうじゃないか!

…こう考えて規制を緩めにしたせいで色々大変になるのはまた別のお話だ。

「…よし、一通り名前は覚えたぞ…ハァ…しんど‥」

俺は机の脇に積み上げられた書類を放り投げ、机に突っ伏した。

小学校の給食センターが使うような大鍋を二つ分満たすレベルの量のカレーを作ったのだ。疲れない方がおかしいというものだろう。吹雪や赤城は艦娘だからあまり疲れは感じないのかもしれないが、俺はただの人間…ではないか。うん。だが疲れたのは事実だ。

「少し寝よう…」

俺は背もたれに寄りかかり、帽子を目深にかぶって寝始めた。

 

~数分後~

 

ノックの音がした。

 

「!?」

俺は驚いて跳ね起きた。

「誰だ?」

あくまで冷静を装って問う。ここでナメられたら指揮官としてのメンツが立たなくなってしまうからだ。

「司令官!吹雪です。吹雪型の皆を連れてきました!」

あ、執務室に来るように言っていたんだった…

俺は椅子に座りなおしてから言った。

「入れ」

「失礼します!」

やや食い気味に、吹雪型の皆が入ってきた。

吹雪以外は緊張しているようだ。

「それで、何の御用でしょうか?」

吹雪が尋ねた。ほかの子たちも何を言われるのかとビクビクしているようだ。

「いや、この鎮守府に適応してもらおうと思ってな、吹雪はもうやっただろう?」

「あ、あれですね!」

そう。例の戦力爆上がりボタン(仮名)だ。

吹雪が納得した様子から察したのか、他の皆も緊張が解けたようだ。

俺は吹雪型の全員を見回してから言う。

「今から一名ずつ、このボタンを一回押してくれ。それだけだ」

「‥了解です‥」

一人の子が前に出てきた。この子は…二番艦の白雪か。たしか真面目ではあるが…戦闘狂だったはずだ。

「…行きます!」

軽快な音とともにボタンが押される。そんなに警戒する必要はないんだがなぁ…

「なっ!?」

吹雪の時同様、体が光に包まれる。光が消えた時白雪は何が起こったのかわからないといった表情をしていた。

「えっと…これでいいんですか?」

白雪が疑問の表情を浮かべてこちらを見てくる。

「白雪ちゃん、ステータスを見てみて?」

吹雪が後ろから言った。流されるようにステータス画面を見て…そして…

「へあっ!?」

吹雪と似たような反応をした。

「お、おい!白雪、どうしたんだよ!?」

あの子は…深雪か。たしか男勝りな口調、性格のはずだ。心配しているのだろう。

「大丈夫だ。ここの鎮守府に適応するとステータスが改二レベルまで引き上げられる。それを見て驚いただけだろう」

俺は落ち着かせるように優しくいった。

「は、はぁ!?ボタン一つ押すだけで戦力が上がるわけないでしょ!?馬鹿じゃないの!?…あ…」

五番艦、叢雲だな。ツン8割、デレ2割のツンデレっ子だ。大本営の資料にはそう書かれている。

衝動ででかい口を叩くのはいいが、相手を考えないで発言することがしばしばあるらしい。今もそのせいで固まっている。

「大丈夫だ。口調の事なら心配するな。堅苦しい方が俺は嫌いだ。それと、嘘かどうかは押して見れば分かる。ほれ、やってみろ」

俺は叢雲の方へボタンを差し出した。

「本当になるわけ…」カチッ「…なったぁぁぁぁぁ!?」

「だろ?他の人も押してくれ。見ての通り害はないから」

その言葉に促され、残りの吹雪型の子たちがボタンを押した。

みんな強くなったことを喜んでおり、俺はなんだか娘を持った父親になった気分だった。

吹雪型の皆が執務室を後にした。

どうやら食堂ではまだこちらを警戒している者が多く、吹雪型はその偵察みたいな役割を担っていたという。なので、執務室でやる事を伝えに行ってくれるらしい。

すると数分後、廊下を全力疾走する音が聞こえだした。

まぁ、十中八九目的地は…

ドアバァン!「司令官!失礼します!」

「まずノックをしようか!?!?」

ここですよねー…

「これは失礼しました。私は重巡洋艦の青葉。そして…」

青葉は後ろを振り返った。そこには息切れしているもう一人の艦娘がいた。

「はぁ…はぁ…青葉…速すぎ…」

壁に手をついて恨めしそうに青葉を見上げている。

「こちらが衣笠です。よろしくお願いしますね」

「よろしく…お願いしま…す」

「大丈夫か?」

「大丈夫…じゃないです」

衣笠が死にそうになっている。青葉はどれだけ高速で走ってきたんだろうか…

「それで司令官、青葉は前の鎮守府に配属前までは新聞記者をやっていたんですよ…と言っても鎮守府内の新聞ですが。それでですね、是非この度司令官を取材させてもらいたくて…」

前の鎮守府に配属前…?ということは…

「前の鎮守府ではどうだったんだ?」

「それは…」

どうやら地雷を踏んだようだ。青葉が俯く。

「すまない、余計なことを聞いたな。それで…インタビューか?全然かまわないぞ。新聞の発行も許可する」

途端に青葉が復活した。

「ありがとうございます!…で、ボタンでしたっけ?吹雪ちゃんが言ってたんですが」

「そうだ。衣笠も一緒に押して見てくれ」

二人は言われたとおりにボタンを押した。そして…

「「!?!?」」

もはやテンプレと化した反応をした。

「火力が…上がっている!?」

「これで私たちも活躍できるわね!」

そして意気揚々と帰っていった。

「インタビューはいつになるんだろうか…」

 

 

ノックの音がした。

 

「誰だ?」

「赤城です。加賀さんも一緒ですよ」

おぉ、一航戦コンビか。

「入れ」

「失礼します」

赤城は手にカレーの入ったタッパーを持っており、加賀は凛とすまして立っていた。

赤城が赤を基調ととした服装なのに対して、加賀は青を基調としている。性格もどこか落ち着いているように感じられる。だが、それよりも赤城のタッパーが気になる。

「えぇと、赤城、それは何だ?」

「赤城さんは食べることが好きなんです。お持ち帰り用として鳳翔さんにタッパーに入れてもらったそうです」

加賀が代弁する。

「そうか…食べすぎには気をつけろよ?…そして加賀、ボタンを押してくれ」

「了解です」

例にもれず、加賀が発光し、ステータスが上がる。そのことに動じない加賀にも驚いたが、その直後に加賀が発した言葉でもっと驚くこととなった。

「…提督、艤装交換(コンバート)とは…何ですか?」

「…戦艦になれるぞ」

「えっ?」

「戦艦になれるぞ」

「‥‥‥えっ!?」

加賀のクールさが消えた。なるほど、つつくとぼろが出るタイプの人か、加賀は。

「赤城、詳しく説明してやってくれ」

「了解しました。えーっとですね、加賀さんそれはですね…かくかくしかじか」

「なるほど…かくかくしかじかなんですね」

「それで通じるのか…とりあえずそのことは秘密にしておいてくれ。味方がそれをあてにして慢心するかもしれない」

”慢心”という言葉に赤城がぴくっと反応する。

「慢心…ダメ、絶対」

あぁ…赤城は慢心で沈んだんだっけか…

「了解しました。有事の時のみ、使用することにいたします」

「そうしてくれ」

二人が退出した。艤装交換(コンバート)できる者がまた現れるとは思わなかった。

他の艦でもそういった子は現れるのだろうか…楽しみだ。



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時刻は4時半過ぎ、廊下の蛍光灯が点き、外が暗くなり始める時刻だ。

俺は今、厨房へ向かっている。もちろん晩御飯を作るためだ。

食堂の扉を開ける。すると、何やら厨房の方から料理の音が聞こえてきた。

「…誰だ…?」

不思議に思いつつ、厨房へ入ると、そこには二人の女性がいた。

一人は割烹着、もう一人はエプロン姿で料理を作っているようだ。

「え~と、お前たちは何をしているんだ?確か…間宮と伊良湖で合ってるか…?」

声をかける。すると二人はこちらに気づいていなかったようで、慌ててこちらに向き直った。

「し、失礼しました!私が給糧艦の間宮で…」

「私が同じく給糧艦の伊良湖です!」

「お、おぉ、わざわざ自己紹介ありがとな…で、何してたんだ?」

いやまぁ、何をしていたかは見れば分かるんだが…

「晩御飯作ってるんです!」

「そうか…俺も手伝おう」

「え!?いや、いいですよ!?提督はお仕事があるのでは…

「仕事疲れた」

…あっはい」

俺は手を洗い、エプロンと三角巾をつけた。気分はさながら調理実習だ。

「今日は何を作るんだ?」

「昼間に駆逐艦の子からリクエストがあった海鮮丼です。あ、そのマグロ、刺身にしていただけます?」

間宮はまな板の上のマグロを指さした。マグロはすでに解体された状態ではあったが、”食べられるところはすべて取りました”と言わんばかりの大きさに驚いてしまった。

「多いな…まぁ、百十数人いれば当然か」

そういいつつ俺はマグロを捌いていく。魚を調理するのはいつぶりだろうか…

「提督お上手ですね~」

「研修生時代は料理担当だったからな。このくらいはできる」

そう。俺は軍の研修生時代は料理担当だったのだ。なぜか今提督をやっているが。

俺の料理はうまいと評判で、俺が当番の日にはおかわりで争奪戦が発生したこともあった。懐かしい。

「出来たぞ。次は何だ?」

「あ、ではご飯をどんぶりに盛り付けるのをお願いします」

「分かった…‥‥‥掘り返すようですまないが、前のところではどうだったのだ?このように皆のご飯を作っていなかったことだけはわかるのだが…もし話せるようなら話してほしい。力になりたいんだ」

俺は思い切って聞いてみた。前のところではまともな飯を食べたことがあるものが居ないようだった。給糧艦の二人はどういった扱いを受けていたのだろうか…?

間宮も伊良湖も俯く。間宮が料理の手は止めずにしゃべりだした。

「私たち給糧艦は、出撃前に艦隊の疲労度回復や士気上昇などが行えるんです。毎度それに使われて…ろくに補給も受けられずにまた前線に送られていく仲間たちを見ているのが…とても辛かったです。料理はさせてもらえず、ただただ回復要員として扱われていました。…一度だけ、提督(前任者)に無断で補給を行い、艦隊を出撃させたことがあるんです。…その後、バレて一週間の謹慎処分になりました。独房で過ごした一週間は今でも忘れられません」

トントンと、包丁の音だけが厨房に響く。伊良湖は俯いたままだ。

「…すまない…大変だったんだな…ここでは自己判断で動いてくれて構わない。それと…毎日のご飯、頼めるか?」

「…!もちろんです…!」

「任せてください!」

嬉しそうだ。やはり女性には笑顔が一番似合う。

「それと、たまに俺も厨房(ここ)に来ていいか?」

二人は微笑みながら頷いた。

その後は、穏やかな雰囲気で料理を進めた。間宮と伊良湖のどこか緊張して張りつめていた表情も今は柔らかな物となっている。表面上は平静を装っているが心はまだ傷ついている状態の子はほかにもいるだろう。当面の俺の仕事は全員のメンタル回復になりそうだ。

 

~食堂~

時刻は午後六時。日はもうすっかり沈み、窓の外は暗闇に満ちている。

全員が食堂に集まり、夕ご飯を目の前にして座っている。

堅苦しいのはやめてくれ、と言ったおかげか、適度にだらけている。うん、このくらいでいいんだよこのくらいで。

俺は昼間にも使った式台らしきものに上る。全員の視線が集まった。

「今日のメニューは、海鮮丼だ。間宮と伊良湖が一生懸命作ってくれた。感謝しながら食べるように。それから…俺についていろいろうわさが飛び交っているようなので、この際はっきりさせておきたい。質問のある奴は手を挙げろ!」

数人の手が挙がる。

「青葉、なんだ」

いっちばん面倒くさそうなやつがいた。

「提督、艤装展開できるって本当ですか?」

笑いながら聞いてきた…こいつ分かってるだろうに。

「あぁ、可能だ。だが、このことを世間に公表する気はない。もし誰かが外部へリークした場合、徹底的に犯人を探し出して罰するからリークしないように。俺はのんびり生きたいんだ」

全員がざわつく。一人の手が挙がった。

「伊勢、なんだ」

「もう名前と顔を覚えているのか…まぁいい。それで、罰とは何だ」

「ちょっ…伊勢!その口の利き方は…」

隣にいた日向がたしなめる。

「自室謹慎処分だ」

「へ?」

「え?俺なんか変なこと言ったか?」

伊勢はとても面食らった顔をしていた。

「…軽すぎやしないか?」

「部下は大切にしたいんでね」

一層ざわめきが大きくなる。俺は手を叩いてそれを鎮めた。

「すまんな、こんなに長引くとは思わなかった。ほかに質問があるやつは執務室まで来てくれ。それじゃ…手を合わせて」

乾いた音が何重にも重なって食堂に響く。

「いただきます!」

「いただきます!」×多数

俺は式台らしきものを降り、間宮から海鮮丼を受け取って執務室へ行く。

なぜ食堂で食べないのかというと、まだ彼女らも完全に警戒が解けているわけではないうえ、上司と一緒の空間での食事は楽しめないだろうと思ったからだ。それに…

「書類が終わらぬ」

仕事があるのだ。大量に。

 

~執務室~

食堂を出てから約四十分後、俺は飯を食べ、書類整理も何とか終え、一息ついているところだ。

不意にドアがノックされる。

「誰だ」

「ども、青葉ですぅ」

「おぉ、入れ入れ」

青葉は慣れた手つきで部屋に入ってくる。

「何の用だ?」

そういうと青葉はもってきたカバンの中から新聞の原稿を取り出した。

「明日の朝刊の下刷りです。どうでしょうか?」

そこには、ここの鎮守府の見取り図、これからの予定など、かなりの情報がぎっしりと載せられていた。が、一か所大きな空欄があった。

「青葉、ここは何だ?」

空欄を指して俺は言った。

「司令官の記事を今からまとめるんですよ。ほら、食堂で質問したいなら来いって言ってましたよね?あれ質問ある人から聞いてきたので明日の新聞に載せようかなぁと思いましてですね。というわけで今からインタビューいいですか?」

「新聞の構成までしておいてから頼むとか…断れないじゃないか。ま、いいだろう。答えよう」

「ありがとうございます!では、最初の質問、何歳ですか?」

めっちゃベタな質問が来たな。

「今年で多分18か9だ」

「え、結構若いですね。てっきり二十代かと思ったんですが…次の質問です。彼女いますか?」

おいおい、結構心に刺さる質問してくるじゃないのよ…

「…居ない。居たこともないぞ」

「なるほど…では次、本当に艤装展開できるんですか?」

「Grille15」

論より証拠。百聞は一見に如かず。見せた方が早いだろう。

「…なるほど。ドイツの試作自走砲ですか…では次、おやつとかってどうしたらいいんですか?これは第6駆逐隊の皆さんからの質問ですね」

「そういう娯楽については自由時間に自己判断でやってくれ。よほどのことがない限りこちらからは何も言わない。だが、ごはん前の間食は控えること」

「優しいですねぇ~、父親みたいですよ?」

青葉がニヤニヤ笑いながら煽ってきた。

「茶化すな。それで、次は?」

「えぇと、工廠の使用許可をください、だそうです。これは明石さんと夕張さんからの要望ですね」

明石と夕張は着任後少し喋ったことがあるため、面識がある。初対面の印象だが、夕張はさほど闇を抱えておらず、軽症のようだった。が、明石は酷使されていたようで、かなり深い闇を持ち合わせているように見えた。

「直接言いに来いよ…それについてはあとで俺が何とかする。今は何とも言えないな」

「了解です。次、潜水艦の子たちからです。オリョクルはいつからですか?だそうです」

聞きなれない単語が出てきた。何だオリョクルって。

「何それ?」

「潜水艦を資材集めに行かせる事ですよ。まぁ、要するに雑用ですね」

「わざわざそんなことしてたの?」

「えぇ、大体の鎮守府でやってますよ。ブラックの規定には引っかからないので」

「じゃぁ、それはないと伝えろ。なくなったら上層部に物申せば何とかなる」

「…初めてですよ司令官みたいな人は。優しいんですね」

俺が優しい…か。ここに来るまでには言われたことの無かった言葉だ…

「そんなことはない。それで、終わりか?」

「はい、終わりです」

「そうか。じゃあ付け足しておいてくれ。明日より、希望者の訓練を開始する。希望者は午前10時に埠頭に集まるように。とな」

「了解です!ありがとうございました!」

青葉はお礼を言って帰っていった。

 

「さぁて…」

俺は机の上の一枚の書類に目を向ける。

そこには”新兵器開発委託書”と書かれた書類が。

海軍のお偉いさんが、「陸軍と張り合いたいからなんか新しい強い艦娘に装備させる兵器の案作って提出して」と言っているということだ。

もちろん無茶苦茶な案を提出してやるつもりだが、そういうのは一人で考えても面白くない。なので…

明石(マッドサイエンティスト)夕張(その助手)のところに行こう」

俺は、明石と夕張の部屋を訪ねることにした。



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今回は半分くらい説明となります。苦手な方はご注意ください。


現在は午後八時半、外はもう暗闇に包まれている。

俺は今、艦娘寮の廊下を歩いている。

皆、食事を終えて自室に戻ったらしく、時折楽しげな声が聞こえる。

「ここか」

とある部屋の前に来た。ドアの上の方には金属のネームプレートが掲げられており、[明石:夕張]と書かれている。

俺はノックをした。

「誰ですか〜?」

明石の気怠げな声が聞こえる。

「俺だ。今時間空いてるか?話したいことがあるんだが」

「うえっ!?提督!?ち、ちょっとまって!ほら夕張!起きて!」

途端に部屋の中が騒がしくなる。何かを転がす音、明石がコケる音、爆発音。

ん?ちょっと待て、爆発音?

「おい、どうした!?」

俺は思わずドアを開けて聞いた。そこには…

「なんだここは…実験室か?」

部屋の中心には何かの融合炉のようなものが置かれており、そこから部屋に所狭しと置かれた機器類へケーブルやパイプがつながっていた。

「ここ…ただの部屋だったよな…?」

未だに目の前の光景が信じられない。昨日までこんなの無かったはず…

「あ、提督!まだ入らないでくださいよ…」

明石が俺を見つけて不平を言う。

「…って、うわぁ!?」

そしてまた転び、持っていた箱を落とした。

刹那、箱が爆発し、俺の顔に何かしらの破片などが飛んできた。

「ゲホッ…ゲホッ…あちゃー、やっちゃったなぁ…」

明石は何とも思ってないようだった。

「おい明石、夕張」

二人が振り向いた。

「ちょっとそこに正座しろ」

あとから聞いた話だが、この時の俺の表情は爆発で飛んできた破片による流血などのせいで過去一の怖さだったらしい。

「「ハイ」」

二人はおとなしく従った。

爆発音を聞きつけて長門などが駆けつけてきたが、俺に怒られている二人を見ると”なるほど納得”といった表情で帰っていった。

長門が納得して帰っていくとか前科何犯だよこいつら…

 

~一時間後~

 

「‥‥ということだ。今後一切このような事はしないように」

「ハイ」

「スミマセンデシタ」

長時間の説教に疲れ果てたのか、二人とも死んだ魚のような目をしている。少しやりすぎた感があるが、こいつらにはちょうど良いスパイスになっただろう。

だが、部下に対してきつく当たってばかりでは上司失格である。ここはアメとムチを使い分けるべきところなのだ。

「…反省したようだな。正座を崩していいぞ。今日ここに来た本当の目的を説明しよう」

「あぁ~、やっと終わったぁ~…」

「あ”あ”~…」

二人が崩れ落ちる。相当時間が経っていたようで、ちょっと罪悪感があった。

「お前ら二人に工廠の管理を任せる」

俺はそんな二人を気にも留めないように振る舞い、本題に入った。

「「!?」」

途端に二人の目の色が激変し、崩れていた姿勢を即座に復旧させやがった。

そんな二人に半ば呆れつつも俺は続けた。

「工廠の事務室は好きなように使ってくれ。ドックなどの改造はほどほどにな」

「ありがとうございます!」

「助かります!」

「資材の無断使用は発覚次第懲罰房行きだからな。事前に申請するように」

一応釘を刺しておく。こいつらなら鎮守府の所持資材が底をつくまで開発しかねんからな。

「そこんところは大丈夫です!多分!」

夕張が自信満々に言い、

「これほど信用できない言葉はないな」

そして俺がばっさり切り捨てた。

「ちょっ、ひどくない!?ねぇ明石、ひどいと思わ

「ない」

…うそーん…」

「今のやり取りからするに、資材乱用の前科は夕張の方が多いのか?」

「ほぼ夕張ですよ」

明石が間髪入れずに言った。

「でも私が持ってきた資材を使っていろいろやべぇ物作ってるのは明石さんですよね!?」

夕張が反撃する。

「チッバレたか」

「やっぱりお前ら共犯じゃねぇか」

 

これは定期的な見回りと監視が必要だな…

 

「それと、用事はもう一つあるんだ。工廠に行こう」

俺は寮を出て工廠に向かう。外の気温はだんだん下がってきており、少し肌寒い風が吹いている。月明かりが地面を冷たく、青白く照らし出しているため照明はさほど必要ない。明石と夕張は俺の後をついて来ている。

寮から工廠までは大体100メートルもないくらいだ。すぐ着くだろう。

「よし、ここだ」

工廠へ到着した。俺は分電盤のふたを開け、右上にある大きなレバースイッチを上に跳ね上げた。

ガチャン!という音と共に工廠全体に灯が入る。照明が水銀灯であるため、付くまでに時間がかかるのが難点ではあるが。

少し時間が経って天井の水銀灯が一つ、また一つと点いていく。

「うわぁ…!」

明石が感嘆の声を上げた。

「すごい…!」

夕張が目を輝かせて周りを見渡している。

「着任してから一回しか来たことがなかったが…改めてみるととてつもない広さだな…」

工廠全体は大型機用の格納庫よりも広く、恐らく先の大戦で計画されたとされている富嶽(六発重爆撃機)ですら二機ほど格納できるであろう広さだ。倉庫としての役割も兼ねているため、この広さなのだろう。

水銀灯の白い光に照らし出された無骨な鉄骨の骨格に覆われた工廠は、どことなく寒々しかった。

「て、提督!大戦時の装備が残されていますよ!」

夕張が驚きの声を上げた。

「なんだって!?そんなはずは…!」

俺は夕張がさす方を見た。

着任時は入り口からちらっと見ただけで終わったので気づかなかったが、入り口から死角となっている工廠の半分ほどには先の大戦時の装備がそっくりそのまま残されていた。

…ここの鎮守府は新造のはず…!?

「嘘だろ…!?失われた技術(ロストテクノロジー)が…なぜこんな新造鎮守府に…!?」

「私も初めて見ます…私たちは艦娘用の装備の設計はできますが、実際の製造は妖精さんですものね…」

明石がつぶやく。

「大本営にはこのことを報告しますか?」

「しないぞ」

「ナンデ!?」

「俺はのんびり生きたいんだ。大本営の監査を入れるなんてめんどくさい真似はしたくない。それに深海棲艦には通常の兵器が効かないことは知っているだろう。黙っているのが得策だ」

「まぁ、確かにそうですね」

「なるほど…じゃああっちにある装備を調べますか?」

明石が放置されている装備を指さす。

「いや、仕事がある。すっかり話がそれてしまっていたが…これだ」

そういって俺は”新兵装開発委託書”を取り出した。

「期限が明日までなんだ」

「うっそでしょ」

夕張が反射的に驚きの声を上げた。

「俺も手伝うから、許してくれ」

明石はやれやれといった顔で言った。

「それで、何を設計するんです?」

「雷撃機だ」

書類によればうちの担当は雷撃機となっている。要求性能は”既存の雷撃機よりも優れていること”だ。むちゃくちゃだな。

「雷撃機の設計なら何個か案を提出した方がいいんじゃないですかね?」

夕張が言った。確かにそれも一理あるな。

「そうだな…じゃあ、各自一機分の案を出そう。一個でも出せれば仕事としては合格だから…」

「そうと決まればさっそく設計ですね!あっちに製図台があるので行きましょう」

明石が工廠の隅の方を指さした。そこには製図台が数台置かれており、紙などはそのわきのテーブルに積まれているようだ。

「よし、じゃあ製図台を使おう」

俺は歩き出した。が、近づくにつれてある違和感が感じられるようになった。

「…なぁ、二人とも」

「「なんです?」」

俺は立ち止まって感じていた違和感を打ち明けた。

「なんだかここ、人の生活感を感じないか?」

「えっ…?何怖いこと言ってんですか…」

夕張が語尾を小さくしながら言った。

夕張のその発言後、静寂が訪れた。

工廠内はシーンと静まり返っており、物音ひとつ聞こえない。

突如、風が屋根を揺らした。

「!?…何だ…風か…」

「び、びっくりしましたぁ…」

「でも、提督…何を根拠に生活感なんて…」

明石が恐る恐る訪ねた。

「あの製図台を見てみろ。脇のテーブルに紙が積まれているのは納得できる。だが…”何で製図台の上に紙が乗っているんだ?”しかもただ乗っているだけでなくて”セットされている”」

「い、いや…大本営の方がそうしていったのかも…」

夕張が引きつり気味に返答した。

「じゃぁ…”何で筆記用具が出てるんだ?”」

製図台の上には鉛筆や消しゴム、消しカスなどが散らばっていた。

「やめてください提督、私ホラー苦手なんですよ!?」

明石が早口でまくし立てる。正直言って俺も逃げ出したいレベルで怖い。不気味すぎる。

「提督、製図台の紙になんか書いてありますよ?」

夕張がスタスタと製図台へ歩み寄り、紙を覗き込みながら言った。

「な、なんて書いてある…?」

夕張はこういった状況が怖くないのだろうか…いや、足が震えている。無理をしてくれているんだろうな…

「よ、読みますね…えーと、

 

 

 

1946,2,19

この手紙が未来へ届いていることを願ってここに記す。

我々は日本軍だ。

世界は深海棲艦によって侵略されている。このままでは技術が失われるのも時間の問題だ。

そこで我々は既存の兵器、並びに開発予定であった兵器の図面を時空転送装置と共に保存することにした。

時空転送装置とは、我々軍部がひそかに開発し、試作までにこぎつけたものだ。動くかどうかはわからない。この手紙がもし未来の人類の手に渡っているのであれば、正常に作動した証拠だ。

この装置はのちの時代の沿岸部に現在我々が兵器を運び込んでいる倉庫と同等、またはそれ以上の大きさの倉庫が建設された場合、そこにこの兵器たちを転送することが可能だ。

図面については”三式戦闘機飛燕”のコックピットにトランクケースに入れて保管してある。トランクケースのカギは”烈風”の座席の上に置いてある。

その他の保管する兵器は見ての通りだ。有効活用されることを祈る。

 

…って書いてありますね。あ、下の方に殴り書きが…

 

1946,3,20

深海棲艦にここがバレた。

我々は直ちに時空転送装置を作動させる。

未来の人類よ、あとは任せた。

         杉野修一

 

‥‥‥だそうです」

読み終わった夕張は信じられない、と言った顔をしていた。

無論、俺も明石もであるが。

結局、この事態を解釈するのに数分を要した。

このことは大本営には報告しないことにし、兵器のメンテナンスや設計図による構造把握、試作機製作などを今後の予定とすることを三人で決めた。

「と、とりあえず今は艦娘用の雷撃機を考えよう。時間がないからな」

「そうですね。とりあえずこの仕事を終わらせてから大戦時の装備を調べましょう。時空転送装置とやらも気になりますし」

「久しぶりの設計だぁ!」

俺は内心戸惑いつつも、雷撃機の設計を開始した。

明石はもう設計に夢中のようで、先ほどまでのおびえた感じはなくなっていた。

夕張もさっきの神妙な趣きで手紙を読んでいた時とは打って変わって、獲物を見つけた鷹のような目になっていた。

そんな彼女らに内心呆れながら、俺は設計の手を進めた。

時刻は午後十時、夜は始まったばかりである。




次回、新型雷撃機お披露目(かもしれない)


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今回も説明回になります。苦手な方はご注意ください。


時刻は午前零時。外の気温も2度ほど下がって少し肌寒くなった。

月は先ほどと比べて高く上がり、建物の影を短くしている。

艦娘寮の明かりはほとんど消えており、静寂に包まれている。

そんな中、国内最大級の大きさを誇る(多分)工廠は水銀灯によって煌々と照らし出されており、近寄ってくる暗闇を片っ端から跳ね返している。

「よっしゃできたぁぁぁ!」

静寂を切り裂くように明石の叫び声がこだました。

「明石、うるさい」

夕張がそれをバッサリと切り捨てる。

「夕張はまだできないのか?あくまで試作案だからそこまで凝る必要はないぞ」

俺はというと、二人よりも早い段階に設計を終え、二人にお茶を出していたところだ。

「…よし、出来ました」

「お?できたか。それじゃぁ一人ずつ見せて行こうか」

「あ、じゃあ私は最後で」

明石が手を挙げて言った。

「なぜだ?」

「最後の楽しみに取っておいてください、ってことですよ」

そこまで言うのなら相当自信があるのだろう。楽しみだ。

「それじゃぁ俺から…俺が考えたのは…

 

雷撃機 景山-改

武装:12.7mm機銃2門

   魚雷1本もしくは水跳爆弾2個

巡航速度:400㎞/h

最高速度:750㎞/h

航続距離:5000㎞(増槽あり6000㎞)

特徴:・逆ガル翼採用によるランディングギアの短縮

 

…こんな奴だ。武装を最低限に抑えて最高速度と航続距離に振ってみた。理論上製造可能なはずだ」

二人は”何で武装削ったのこの人”みたいな顔をしていた…速度は大事だぞ?

すると夕張が質問してきた。

「提督、たしか景山ってあの赤城さんが積んでるバケモノみたいな奴の名前じゃありませんでしたっけ?改という割にはいろいろスペックダウンしてる気がするんですけど…」

「いや、何も武装だけが飛行機の本質じゃない。現在配備中の景山は信頼性とか整備性に欠けているんだ。中翼式によるランディングギアの肥大化、これは耐久性と信頼性に欠ける。次にターボファンによる燃費の悪化、これは大問題だ。資材が溶けていくからな。しかもターボファンは整備性が悪いという面もある。そういう点を改善したのが今回の景山-改っていうわけだ。まぁ、火力不足は否めないが…」

一通り説明し終えた。二人は納得してくれたようで、「信頼性と整備性か…」とか「火力だけじゃダメか…」と言っている。おいお前ら一体どんなものを作りやがったんだ…

「次は夕張、頼めるか?」

「了解です!私のは…

 

雷撃機 月山

武装:20mm機関砲5門(機首二門、翼端二門、コックピット後部1門)

   魚雷一本もしくは250㎏爆弾2個

巡航速度:250㎞/h

最高速度:600㎞/h

航続距離:2000㎞(増槽あり2800㎞)

特徴:・逆ガル翼によるランディングギアの短縮

   ・コックピット後部機銃座の設置

 

…こんな感じですね。航続距離を少し犠牲にして武装を強化しました。コックピット後部の銃座は結構役に立つと思います」

「航続距離の犠牲がちょっとどころじゃないんだが…零戦ですら3350㎞飛べるのに…」

まぁ、不自由はないとは思うがな。

「特筆すべきはやっぱりこの重武装!20mm5門ですよ!?」

「じゃあ夕張、弾薬の持ちはどうなのさ、それ」

明石が突っ込む。途端に夕張は言葉に詰まった。

「継続戦闘能力が低いと大変だよ~…それに、そんなに重武装にすると機体の上昇性能や旋回性能はどうなるのさ。提督のやつはその辺も従来の物より優れたものになるように計算して作られている。夕張のは、どうなの?」

夕張は目をそらしながら言った。

「そ、それはぁ…」

「ま、まあまあ、これは試作案だし、局地迎撃機兼雷撃機としてなら使えるかもしれないぞ!」

慌ててフォローに入った。明石の質問は始まったらとどまるところを知らない。強制終了する必要があるのだ。

「そ、そんなことより!」

あ、逃げたな夕張…

「明石!あなたのはどうなのよ!」

その質問を待ってましたとばかりに明石はニヤリと笑い、不敵に言い放った。

「まず私は、雷撃を前提とした機体を作っていません」

‥‥‥は?

「え?」

俺らの動揺を気にせず、明石は続けた。

「雷撃機に随伴する戦闘機って感じの物ですかね。最初は雷撃機作ろうとしていたんですが…どこをどう間違えたのか、全く別物が出来てしまいました」

明石は悪びれるそぶりもなく、からからと笑っていた。

「まぁ、提出するのは景山-改もしくは月山にするとして…どんなのを作ったんだ?」

「あ、それ聞いちゃいます?それ聞いちゃいます?」

むちゃくちゃウザい。赤の他人だったら殴り飛ばしていただろうな。

「早く見せてよ、明石」

夕張がぶっきらぼうに催促した。

「ちぇ…つれないの…私のは…これです!

 

局地戦闘機 焔雷

武装:40mm機関砲2門

   30mm8連装ロケットガンポッド二基

   60mm試製誘導弾4発

 

もしくは

   40mm機関砲2門

   魚雷2本or250㎏爆弾2個

 

巡航速度:600㎞/h

最高速度:1200km/h

航続距離:1500㎞

 

特徴:・動力にターボファンではなくジェットエンジンを採用。それにより従来の戦闘機よりかなり高速化している。

   ・全翼機となっており、高速時の負荷に耐えられるようになっている。

   

…というやつです!」

明石は自慢げに説明を終えた。

「いやもうこれ飛ばす気ないよね!?」

夕張が叫んだ。

「いくら何でもジェット機をあの短い甲板から飛ばすのには無理が…」

俺がそういった瞬間、明石の目が光った。

「ジェットエンジンは胴体の後部についており、翼下装備ではないので短い距離での発艦が可能ですよ!まぁ、ギリギリですが…さらに、甲板を改装すれば安定して飛ばせることも可能ですよ!」

明石が興奮して言う。

「ねぇ、提督…私とてつもなく嫌な予感がするんですけれど…」

「奇遇だな、俺もだ」

そしてその予感は的中する。

「飛行甲板を超電磁砲(レールガン)化するんですよ。機体下部にフックを掛けるところを作り、フックを高速射出すれば…」

「分かった分かった!ちょっと黙れ!」

俺は明石の話を中断させる。とんでもないことを言い出しやがった…

「何で止めるんですかぁ…」

明石は不満げに言った。

「まず、お前の案は提出はできない。それはわかるな?」

「…まぁ、それは分かります」

しぶしぶといった感じで明石が頷く。

「そしてこれは生産できない。なぜなら、コストが馬鹿みたいに高いからだ。それに整備性にも難があるように見受けられる。そして空母の甲板に特殊改装を施さないと安定して運用できないっていう点も問題点だ」

「うっ…おっしゃる通りです…」

明石はうなだれた。

「とりあえず大本営には景山-改と月山を提出する…だが、試作機くらいなら焔雷も作っていいぞ。だがほかの鎮守府には見せるな」

「えぇ!?提督、製造を許可するんですか!?なんで!?」

夕張が驚きの声を上げた。

「だって…強そうじゃん?」

「…は?」

夕張が睨んでくる。

「やっぱり提督もこっち側の人でしたか!」

明石がニコニコ笑って言った。

俺はそれに笑い返し、そして急に姿勢を正した。明石と夕張もそれにつられる。

俺はまじめな口調でこう告げた。

「提督として、工作艦明石及び軽巡洋艦夕張に任務を与える!」

「「はっ!」」

「夕張は大本営からの許可が下り次第、新型機の製造を始めるように」

「了解です!」

「明石は大戦時の装備(ロストテクノロジー)の解析を急げ!…そしてその合間に装備用の焔雷及び実用機(ホンモノ)の焔雷を製造しろ!どちらも一機ずつだ!」

「了解でs…って、え?提督本気で言ってます?」

さすがに実用機(ホンモノ)を作れと言われた事には驚いたようだ。

「本気だ。鎮守府外の幹線道路から飛び立てるように超電磁砲(レールガン)を道路に埋め込め。さらに大人数が搭乗可能な輸送機も作れ…そして暇があったら艦娘用の超電磁砲(レールガン)甲板も作ってくれ」

「提督、それは何のために?」

夕張が聞いてきた。

「最後の要望以外は緊急脱出用だ。もしここだけでは抑えきれない戦力が襲来した場合、街の人たちを逃がすためだ。一般人を巻き込むわけにはいかない」

「なるほど…!了解です!」

ここの鎮守府の近くにはそこそこ大きめの街が一つある。街を壊滅させるわけにはいかないのだ。

 

現在は午前一時。業務が終了した。

工廠の灯を落とした。闇が一気に内部へと進出してくる。

「それじゃ、ゆっくり休めよ」

「提督も、おやすみなさい」

「おやすみなさ~い」

明石があくびをしながら言った。

「おう、おやすみ」

こうして俺の永い一日は終わった。




次話から、ストーリーを進める予定です。


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10

現在は午前五時、山の尾根付近が明るく染まり始め、鳥のさえずりが聞こえるようになる時刻である。

鎮守府の朝は早い。起床時刻は午前六時となっているのにもかかわらず多くの艦娘は五時過ぎごろに起床する。まぁ、例外も少なからず居はするが。

俺はというと、昨日の疲れをまだ引きずりつつも、鎮守府の外周をランニングしているところだ。

早朝の空気はおいしい。昼間のうだるような熱気が嘘のように澄み渡っている。

「…ん?」

ふと、工廠の扉が開いているのが目に留まった。俺は工廠の方へ行き、中を覗き込んだ。

「誰かいるのか…って明石…何やってんだ?寝たのか?」

そこでは明石が必死に大戦時の装備をバラして研究しているようだった。明石は俺に気づくと疲れた声で精いっぱい元気に返事をした。

「いやぁ…寝ようかとは思ったんですけど…どうも気になっちゃって。あのあともう一度ここに戻ってきて、装備の作成を終えて、今に至ります」

やっぱりこいつは筋金入りのメカ好きだな…だが…

「あのな?艦隊の装備の管理の責任者であるお前が体調崩したりしたらどうするつもりだ?」

「うっ…それは…その…」

明石は言葉に詰まる。やはり何か後ろめたい感覚はあったのだろう。

「お前が体調を崩すと、みんなが心配して艦隊運営がままならなくなるだろう?第一俺が仕事に集中できなくなる」

「へ?」

明石は面食らった顔をしていた。俺なんか変なこと言ったか?

「部下が体調崩しているのにのんびりと仕事なんかできるかってんだ‥‥というわけで、無理はしないようにしてくれな。それじゃ」

俺はそう言い残して工廠を後にした。

「提督は優しいんですね…それじゃあ…寝ますか!」

明石はそう言って片づけを始めた。その後、明石が就寝したことにより工廠が回らなくなり、夕張が地獄を見ることになったのはまた別の話だ。

 

 

日がすっかり昇り、だんだんと暑さが増してくる時間帯、現在は午前十時である。

そして、演習の約束をしていた時間でもある。だが、ここで想定外の事態が起きていた。

「なぁ、赤城」

「何でしょうか?」

「多くない?ほぼ全員じゃないか」

そう。練習艦や工作艦などの特殊艦を除くほぼ全員が埠頭に集合していたのだ。

「全員何かしら体を動かしたいのでしょう。あと、休みというものに慣れていないのかもしれません」

赤城が少し悲しそうな顔で言った。

「あぁ…そうか…よいしょっと」

俺は納得し、埠頭の縁の一段高くなっているところに上った。全員の視線がこちらを捉える。俺は全員に聞こえる声で話し始めた。

「これより、演習を開始する!4~6人でグループを作れ!そのグループの間で演習をしてもらう!作成、開始!」

全員が動き始めた。戦力のバランスを考慮してグループを組もうとする者、姉妹艦や、仲良しとグループを組もうとする者など、様々な動きが見て取れた。

「提督さんは誰かと組まないの?」

後から声を掛けられ、振り返った。そこには髪をツインテールにしたまだ顔に幼さを残す女性が笑いかけてきていた。五航戦の妹の方、瑞鶴だ。

「ん?あぁ、瑞鶴か。いやまぁ、よく考えてみろ?上官と組みたがる奴なんているか?」

俺はもともと一人で演習をしようとしていたから組む必要はないんだがな。

「あ、じゃあフリーじゃない、私たちと組みません?」

こいつ…敬語使い慣れてねぇな…まぁ、お言葉に甘えるとしよう。

「いいのか?メンバーは誰だ?」

「まだ伊勢さんと翔鶴姉しか決まってないよー」

伊勢か…伊勢かぁ…嫌われてるんだよなぁ…

「俺を混ぜることを伊勢がいいって言ったのか?」

「そうよ?メンバーが足りないって言ったら提督を誘って来いって言われたの」

「へぇ…」

意外過ぎた。ものすごく敵対視されている気がしたんだが…

「提督ぅー!まだそっち、空きある?」

このしゃべり方は…鈴谷か。

「こら鈴谷!提督に対してそういう喋り方はいけないとあれほど…」

「いいじゃんいいじゃん、提督怒んないんだし♪」

熊野も来たのか…

「瑞鶴、あいつらも混ぜていいか?」

「いいんじゃない?それでちょうど6人だし」

「そうか、じゃあ行こう」

こうして俺らはグループ作成することが出来た。

メンバーは、伊勢、瑞鶴、翔鶴、鈴谷、熊野、俺である。

‥‥‥駆逐艦とか軽巡の雷撃要員が居ねぇ…鈴谷と熊野には頑張ってもらわなきゃな。

 

 

全員、グループ分けが終わったようで、各所で作戦を練り始めていた。

俺はまた一段高いところに上り、話し始めた。

「今から五分後に、演習を開始する!グループの番号あっちのテーブルの上のくじを引いて決めろ!対戦相手はトーナメント表を見てくれ!以上!」

全員が行動を開始した。表を確認しに行く者、艤装の最終チェックを行う者、様々である。

「瑞鶴、ちょっといいか?」

「ん?なーにー?」

俺は最終チェック中だった瑞鶴に声をかけた。

「明石がさっきまで開発していた新兵装があるんだ。試してほしいんだが…」

「任せて!この私にできないことなんてないわ!」

自信満々だな…これなら大丈夫かな…

俺はその後、工廠へ行って例の飛行甲板(レールガン)艦載機(焔雷)を持ってきた。早朝に明石に注意はしたが、こうしてすぐ使えるようにしてくれたことには後で礼を言っておかねばな。てかあいつ…焔雷と甲板量産しやがった……

「提督さん、これは何?」

「その前に翔鶴も呼んできてくれ。二人に装備してもらう」

「お呼びですか?」

「うわっ!?いつの間に後ろに…?」

いきなり後ろに翔鶴が出現した。銀髪のロングヘアが特徴的な五航戦の姉の方である。

「え~とな、二人にはこれを装備してもらう。これは明石が作ったものだ。多分装備すれば使い方はわかるだろう」

艦娘の装備は不思議なことに装備すると使用方法が分かる。なぜだかは知らない。

二人が例の甲板(レールガン)を装備、焔雷もスロットに装備した。

「提督さん…これ…かなりヤバいものじゃ…?」

「こんなの使えるかしら…?」

「まぁ、頑張ってくれ。ほら、行くぞ」

そろそろ演習がスタートする。俺らは伊勢や鈴谷たちが待つ海の上へと移動した。

「提督、私はこの演習での立ち回りをもって貴様の素質を見極めさせてもらう。失望させないでくれよ?」

あぁ…そういう事ですかい…

「そういうお前も、上官の前で失敗しないようにな…?」

さすがにイラついたので言い返した。このくらいは悪くないだろう。

二人の間で見えない火花が散った。

「んもぅ、喧嘩してないで!始まるよ!」

鈴谷があきれたように声を上げた。

「提督は何の艤装を使うんですか?」

翔鶴が聞いてきた。

「改鈴谷型一番艦、伊吹だ」

「お?じゃあ私らの妹ってこと?」

鈴谷が笑いながら言った。

「どっちかというと弟だな」

俺も笑い返した。

 

その時、軽い炸裂音と共に狼煙が上がった。開始の合図だ。

「艤装展開!…改鈴谷型重巡洋艦一番艦!伊吹、抜錨する!」

艤装展開の宣言後、俺の服が戦闘服に変わり、鈴谷型の艤装に酷似した艤装が展開された。

「提督が変身って…艤装展開!」

みんな驚きつつも続いて艤装を展開させる。全員建造時よりは格上の装備を積んでいるため、艦名だけで戦力を判断することはできない。が、俺は提督である。全員の装備は把握済みだ。その点、ほかのグループより有利に事を進められるだろう。

俺たちはどこまでも青く続いているかのように錯覚させる海原を滑るように進んでいく。風がかなり強めではあるが、これから戦闘(演習だが)が始まるとは思えない雰囲気だ。

「瑞鶴、翔鶴、彩雲を発艦させろ!伊勢、瑞雲発艦行けるか!?」

「「了解!!」」

「任せろ!瑞雲、発艦!」

戦いの初めは偵察だ。敵艦隊を発見できるかどうかによって勝敗が決まってくる。

一分後、伊勢が声を上げた。

「敵艦隊発見だ!…提督、しくじるなよ?」

「今は伊吹だ。まぁ提督だが。それと、お前も失敗するんじゃないぞ?」

砲弾が飛来し、周囲に水柱をあげる。

「反撃だ!撃て!」

俺と鈴谷型の203mm連装砲五基が火を噴き、伊勢の41㎝連装砲が雷鳴のような轟音をとどろかせた。

「弾着…今!仰角五度上げ、砲塔左旋回十度お願いします!」

翔鶴が弾着観測を行ってくれていたようだ。

「了解だ。そちらも攻撃フェーズへ移ってくれ」

五航戦の二人に指示を出した。

「翔鶴姉、いくよ!」

「えぇ!」

「「第一次攻撃隊、発艦はじめっ!」」

軽い爆発音の直後、金属と金属が高速でこすれ合う音と共に焔雷が高速で飛び出した。

「ッ!反動がすごい…」

「ほんっとに変な形してるわね…この艦載機…」

「しゃべっている暇はないぞ!敵艦種確認!…は?」

俺は観測結果を見て固まった。

「提督、どうしたんですの?」

熊野が聞いてきた。

「て、敵旗艦、二番艦に攻撃を集中しろ!大和と武蔵だ!」

「なんだと!?」

伊勢が驚愕の声を上げた。

敵は大和型二隻、青葉型二隻、白露型二隻だ。大和型が厄介すぎる…

「う、撃てぇッ!当てれば少しはダメージが稼げるはずだ!」

制空権こそこちらの物ではあるが、それ以外の面ではあちらに押されているのが現状だ。

「きゃっ!?痛ったぁ…!」

鈴谷が大破した。大和型の主砲弾が直撃したようだ。現在大和型は試製51㎝連装砲を搭載しているため、かなりの火力となっているはずだ。

「大丈夫か!?…あ…」

「み、見ないでってばぁ!…撤退するね!」

「き、気をつけてな!」

この世界の戦闘は、ダメージを追うごとに艤装と体にダメージが入る。その過程で服も多少破れるわけで…つまりそういう事だ。普通は俺が居ていい場所じゃないんだよなぁここは…

それと、演習は大破したら撤退するのがルールだ。沈んだら意味がないからな。

そして俺はこの時とあることに気づいた。

「天気が…曇ってきたな…」

心なしか強かった風がさらに強くなり、肌寒くなってきた。

「提督、上を見ている場合じゃないぞ!」

伊勢が41㎝砲を斉射しながら叫んだ。

「あ、あぁ、すまない!撃てッ!」

伊勢が放った砲弾が衣笠に、俺が放った砲弾が白露に直撃した。どちらも大破させるのに成功したようで、撤退していくのが見えた。

その後、俺たちは大和型二隻と熾烈な撃ち合いを繰り広げながら少し沖合へと進出してきていた。その間にうちのチームは翔鶴、熊野が大破、撤退した。相手チームは残り大和型と青葉となっている。

その時、空が一層暗くなり、くぐもったゴロゴロという音が鳴り始めた。

「まずい…!嵐が来るのか!?」

この世界に天気予報なんてものはない。その場で臨機応変に対応するしかないのだ。

俺は全体への連絡無線を取り、こう告げた。

「現在、これから嵐へ発展するであろう低気圧を確認!落雷や暴風の恐れがあるため、即時停戦、撤退せよ!」

俺は無線を置き、瑞鶴と伊勢に言った。

「というわけだ。戻ろう」

「…仕方ないな。戻r…!?」

その時雷の前兆のゴロゴロという音と共に、それとは違う、科学的な低音が聞こえた。

空を見上げると、はるか彼方に黒点の集まりが見えた。敵機だ。

「て、敵機来襲!お前ら、残弾は!?」

「もうないぞ!?どうするんだ…?」

「俺はまだ残弾に余裕がある。お前たちは先に撤退して鎮守府の守りを固めろ!」

「…了解した。無事に帰ってきたときには、貴様を提督として認めよう」

「提督さん…頑張って!」

雨もぽつりぽつりと降り始め、コンディションは最悪だった。俺はこうして独りになった、はずだった…

「いやぁ~、司令官、演習中止に敵機来襲とはネタに事欠きませんねぇ!」

呑気に声を張り上げ、青葉が俺の隣へ来た。

「青葉!?俺は撤退を命じたはずだが?」

「あれ?私の無線だけ壊れてたんですかねぇ?」

青葉は笑って言った。

「そうか…ありがとう。対空掃討開始!」

 

 

 

あれから二十分、雨はさらに激しさを増し、落雷もひどくなった。

波が高く上がり、下手すると転倒(転覆)しそうなほどだ。

そんな中、俺らは対空射撃に追われていた。

「敵機左舷前方、雷撃機です!」

「チッ!キリがねぇ!」

青葉は中破、俺は小破、このまま続けばそのうち二人とも沈む…

「司令官!…敵艦隊が…」

ただでさえ敵機の始末に追われてんのに今度は敵艦隊だと!?

「…鎮守府へは…行かせん!」

そういって敵艦隊へ向き直った時、後ろから声が聞こえた。

「アラ、大丈夫ヨ、私タチノ目的ハ貴方達ノ収容ダカラ…」

「何ッ!?」

振り返ろうとしたその時、首に手刀が叩き込まれ、俺の視界はブラックアウトした。




提督の記念すべき海の艤装第一号は伊吹でした。何かほかによさげな候補がありましたら、教えてください。

瑞鶴の口調がなんかおかしいのは大目に見てください。


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11

「う…うぅ…」

痛い。首が折れそうだ。

俺は目を開けた。薄暗い部屋で、天井には多数のシミがあった。

蛍光灯が一本天井に直付けされており、小刻みに明滅を繰り返していた。

(ここは…?俺は…何をして…)

「気ガ付イタカ」

そう言って誰かは壁についている無骨なボタンを押しながら喋った。

「ボス、目ヲ覚マシマシタ」

「!?」

深海棲艦特有のカタコトが聞こえた。どこかへ連絡したようだ。

「了解、すぐ行くわ」

スピーカーの向こうからは深海棲艦のそれとは違う、流暢な声が聞こえた。

(人間もいるのか…?)

そう考えつつ俺は警戒体制を取る。

「ソンナニ警戒スルナ、私ラハ、オ前ラニ危害ヲ加エルツモリハナイ」

信じられるはずがない。コイツらは敵だ。それに…

「青葉はどこだ?」

一緒に戦っていたはずの青葉がいない。

「アァ、アイツナラ…サッキ起キテボスノ所ニ質問ニ行ッテルゾ」

「へ?」

青葉…あいつ死ぬつもりか?

「ダカラ…警戒スルナッテ…我々ハ交渉スルタメニココへ連行シタンダ」

「…それは誰の命令だ…?」

深海棲艦はめんどくさそうに答えた。

「防空棲姫ダ。モウスグ来ルゾ」

「エッ来ンノ!?」

同じ部屋にいた別の深海棲艦が声を上げた。

その反応を見て俺は察した。

(あぁ…会社のめんどくさい上司と同じ扱いか…)

と。

 

数分後、“ボス”と呼ばれた深海棲艦であろう人物(?)が鉄製のドアを軋ませて部屋に入ってきた。

「久しぶりね、覚えているかしら?」

そいつは深海棲艦と特有のカタコトではなく、俺たち人間と同じように流暢に話していた。

(深海棲艦にも流暢に喋ることの出来る個体がいたのか…!? それに久しぶりって何の事だ…?)

俺は警戒をやめない。だが、次の瞬間に俺の脳内にある記憶が流れ込んできた。

 

 

~~~

時は約10年前、突如出現した深海棲艦に唯一対抗できる手段として艦娘が出てき始めたばかりの頃。

徐々にではあるがシーレーンが確保され始め、内陸へと追いやられていた人類は再び沿岸地域へと進出することが出来ていた。

そこは沿岸の小さな漁村。三方を山に囲まれ、正面は海という閉鎖的な村だった。

その時はちょうど午後5時を回った頃だった。

その村の一角の家に、俺たちは住んでいた。

「防、そろそろご飯よ〜?」

「OK、姉さん、すぐ行くよ」

自分と姉さんとは血が繋がっていない。お互い親もいなく、俺は物心ついた頃から姉さんに育てられてきた。

いつも姉さんに作ってもらっていた料理がとても美味しかったことは記憶に残っている。

姉さんは美人だった。白く真珠のような肌、紅い(あかい)目、綺麗な白髪で黒髪黒目の俺とは全然違っていた。いやまぁ、家族じゃなかったから違っていたのは当たり前だったのだが。

そんな穏やかな日がそのまま続けばいいと思っていた。しかし、ある日突然姉さんはいなくなった。前触れも書き置きもなく忽然とその姿を消したのだ。

俺は何日も姉さんを捜し回った。その村の中はもちろん、最寄りの町や過去に出かけたことのあった場所、思い当たる場所は全て探したが姉さんは見つからなかった。

俺は捜索を諦め、一人で放浪の旅をすることになった。

~~~

 

 

俺は恐る恐る口を開き、かすれそうな声で問いを投げかけた。

「姉さん…姉さんなのか…?」

(嘘だと言ってくれ。姉さんが深海棲艦だったなんて信じたくない!)

だが、そんな俺の期待を裏切り、目の前の深海棲艦はゆっくりと頷いた。

俺の頭の中が真っ白になっていくのが感じられた。

そして、ゆっくりと口を開き、話し始めた。

「私は防空棲姫。あなたと過ごしていた日々も、私はずっと深海棲艦だった。私は人間の言葉を正確にしゃべれる数少ない個体として本部から地上での諜報員として内地へ派遣されていたの」

ゆっくりとした口調とは裏腹に言葉には重みがあり、その場にいる全員が沈黙して姉さんの話に耳を傾けた。

「それで…どうして俺と過ごすことになったんだ?」

俺はその威圧に抗い、話を促した。

姉さんは頷き、再度、話し始めた。

「ある時、陸軍の秘密実験場であろう施設を私は発見したの。その施設について何とか調べようとしたんだけれども、ガードが堅くて手を出せずにいたわ。どうやって調べようか思案していた所、施設の側面のダストシュートから何かが転がり落ちてきたのよ」

どうやらこの話は他の深海棲艦にも話してなかったようだ。奴らの顔にも動揺の色が見える。

「それで…それは何だったんだ?」

俺はその時、何か不要になった機材などを捨てたのかと思った。だが、現実はそれの斜め上を行く物だった。

「貴方よ。防。幼い貴方がダストシュートから出てきたの。さすがの私もこれには驚いたわ。人間の子どもがゴミのように出てくるなんてね」

俺の思考は停止した。震える声で俺は姉さんに質問を投げかける。

「じゃあ…俺は誰なんだ?俺は何なんだ!?俺は…俺は…人間なのか!?」

俺の剣幕に周りの深海棲艦達がざわつく。

姉さんは俺をたしなめるような動作をした後、話を再開した。

「私は貴方を保護して、その施設で何が行われていたのかを探ろうとして、貴方の体を調べさせてもらったわ。そしたら驚くべき事が分かったの」

その場にいる全員、途中からちゃっかり混ざって話を聞いていた青葉も息をのんだ。

「その施設は人間を艦娘のように対深海棲艦兵器として改造するための施設だったの。貴方の体には当初カメラやマイクが埋め込まれていたであろう痕跡が多数確認できたわ。さらに、脳にはマイクロコンピュータが仕込まれていた痕跡もあった。それと、貴方は知らないかもしれないけれど、貴方の左肩の後ろには”01”の文字が印字されていたわ」

俺は思わず左肩に手を置いた。

「その…マイクやコンピュータは今も俺の中にあるのか?」

俺は震えながら質問した。

「いいえ、そういった機器類は最初から取り外されていたわ。貴方に残されていたのは艤装展開能力だけ。ただ…艤装展開用の回路は残されているはずだからハッキングされないように気をつける必要があるわ。まぁ、それが成功する確率は極めて低いだろうけどね。私がハッキングできなかったんだもの」

おそらく、諜報員ならばかなり高水準の技術は持ち合わせていたのだろう。それを持ってしてもハッキングできない、とのことを聞いて俺はほっと胸をなで下ろした。

姉さんは話を続けた。

「その後、私は貴方を放置するわけにも行かず、諜報活動を続けつつも貴方のことを育ててきた。お互い身寄りのない子どもとして、ね……貴方の名前は私の名前である防空棲姫からとって付けさせてもらったわ。本当はある程度育てたら私はもう消えるつもりだった。深海棲艦である私が、人間と深く関わることは許されてはいなかったから…だけど、貴方と過ごしている内に情が湧いてしまって…引き際を逃してしまったの。ずっと騙しながら貴方と過ごしている時間は、楽しかったけれど、苦しかった……本当に、ごめんなさい」

しばしの沈黙が訪れた。俺は口をゆっくりと開いた。

「いや…いいんだ。姉さんが悪いわけじゃない…ただ…どうして急にいなくなったのか、それと、今後俺たちをどうする気なのかを教えてくれ」

姉さんは数秒間考え、しゃべり出した。

「私が急にいなくなったのは、本部からの帰還命令が出たからよ。陸軍の施設についての報告が認められて諜報員から一艦隊の司令官として任命されたの。急にいなくなるような形になっちゃって、ごめんなさいね。それと…今後あなたたちとは同盟を結びたいと考えているわ」

「えっ?」

俺は思わず聞き返した。姉さんが急にいなくなった理由は分かったが、同盟だと!?どういうつもりなんだ…?

部屋の隅の方で黙々とメモを取っていた青葉も目を丸くしている。

「私の率いる部隊は、人間と戦うことを望まない穏健派の集まりなの。だけど…最近貴方の鎮守府付近では深海棲艦の攻撃がすごいでしょ?攻撃派が最近勢力を拡大してきて…私らの部隊もそろそろ取り潰されそうなの。だから…そうなる前に私の部隊だけでもそちらと同盟を組んでおきたいと思ったのよ」

なるほど…深海棲艦の中にも派閥があるんだな…

「俺はその意見には前向きだが…果たして今鎮守府に残してきた奴らが受け入れるかどうか…それと、たとえこちら側に来たとして、同じ深海棲艦に対して攻撃をすることはできるのか?」

俺の問いかけに対し、姉さんは静かに答えた。

「この前、私直属の部下が暗殺された。犯人は本部の掃討部隊。さらに、最近上層部が我々の生体実験に手を出した。何の罪もない部下や知り合いが何人も連れ去られ、帰ってきたものはいない。…もう奴らにかける慈悲はない」

姉さんの口調が変わった。眼光が鋭くなり、紅い目がぼんやりと発光した。

「攻撃派は、私たちが始末する。ここに残っているも者はその覚悟ができている者だけだ」

姉さんや周りの深海棲艦達から俺らに向けてではない明確な殺意が感じ取れた。

姉さんの覚悟を受けて、俺は表情を変えずに答えた。

「分かった。とりあえず鎮守府に帰還しよう。それで……ここはどこら辺なんだ?」

その問いに姉さんは軽く答えた。

「貴方の鎮守府から少し離れた所に無人島があるでしょう?あそこの地下よ、ここは」

「予想以上に近いな…じゃあ、行くか」

かなりの近場に敵(?)の基地があったことに驚きつつも、俺らは出航の準備を進めることにした。

 

 

カツ…カツ…

コンクリートで固められた無機質な階段に靴に音が響く。

地上へのドアは開け放たれており、光が差し込んできている。

地上に近づくにつれて光がどんどん強くなる。最後の一段を登り終えた時、暗闇に慣れていた目の前が真っ白になり、数秒後に外の景色が明確に見えてきた。

人工物と認められるのは小高い丘の頂上にある施設への小さな入り口一つであり、それ以外は自然そのものだった。明るい緑の草類が島の地表を覆い、木々は少ない。白っぽい土の細い道が海岸へと曲がりくねりながら続いている。青く澄み渡った空と、草木をざわめかせる心地の良い海風に清々しい雰囲気を感じながら、俺は今日判明した情報を振り返っていた。

 

俺は、陸軍の実験によって生まれた改造人間であり、育ての親とも呼べる姉さんは深海棲艦だったこと。

そして何よりも、陸軍が約20年前から人体実験を行っていたことだ。これはかなり大きな情報であるが、何の根拠もなしに上層部へ具申を申し入れても軽くあしらわれるだけだろう。この情報についてはもう少し調査が必要だ。

 

「司令官ー!出航の準備が整いましたよー!」

遠くから青葉の元気のいい声が響いてきた。浜辺の方をみると、青葉がこちらに向かって手を振っていた。深海棲艦も出航の準備は整ったようで、こちらをみている物が多数だ。

「防、行こう」

姉さんが後から声をかけてきた。

「あぁ、行こうか」

爽やかな風に背中を押され、俺たち一行は鎮守府へと航行を開始した。



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12

蒼天の下、俺たちは一路鎮守府へと向かっていた。

夏の海風が艦隊の間を吹き抜ける。

深海棲艦たちも時折喋りながら、笑い合いながら航行していた。

彼らの人間的な一面に驚きつつ、俺は鎮守府と連絡を取ろうとしていた。

「…ダメだ、応答がない。まだここからでは繋がらないみたいだ」

「大丈夫ですよ、すぐに無線の圏内に入るでしょう」

青葉が軽いノリでそう言ってきた。

「そうだといいな」

物事は順調に進んでいた…かのように思われた。

…ゥゥン…

「!」

不穏な爆音が後方より聞こえだした。

「僚機…イヤ、敵機襲来!数ハ凡ソ五十!艦攻艦爆隊ダ!」

後方の深海棲艦が報告する。おそらく俺らの動向を察知したのであろう。偵察機ではなく攻撃機を送ってきやがった。

姉さんの方を見ると、”指揮を執ってくれ”と言わんばかりに頷いた。

俺は敵に向き直った。

「対空戦闘用意!重巡以上は三式弾、軽巡以下は高角砲用意!VT弾を使え!空母は発艦を始めろ!」

俺は指示を飛ばす。ここで全滅なんてことは許されない。姉さんのこともあるが、何よりも情報だ。俺らが帰還しなければ陸軍の所業が闇に葬り去られてしまう。

だが、姉さんの基地も資源が枯渇していたため、先日の演習から補給を受けていない。

実力を十分に発揮することが不可能な状態だ。

「青葉、無線機を持って当海域から離脱しろ!」

「えっ!?」

青葉が困惑した声を上げた。”どうして?”と目が問いかけてきている。

「鎮守府に連絡を取って応援を要請してくれ。頼む!」

青葉はしばし困惑していたが、やがて覚悟を決めたのか、無線機を俺から受け取った。

「重巡青葉、離脱します!」

青葉が離脱するのを確認して敵機に向き直った。

艦攻は低空飛行、艦爆は急降下の体勢に入っている。時間がない。

「掃討射撃開始ッ!」

蒼天へ、乱反射する海面へと幾重もの火箭が伸びる。

敵爆撃機の一機が火箭の一つに絡めとられ、翼端から黒煙を噴きながら錐揉み上に墜落していく。

その過程で僚機に衝突し、計二機が爆弾を投下することなく消えた。

「敵機左舷前方!」

艦爆にばっかり気を取られてはいられない。双発の大型雷撃機が獰猛な唸りを上げて迫り来る。

敵の目標は味方の空母。対空戦闘能力を奪う(艦戦を使用不可能にする)つもりのようだ。

「やらせるかッ!」

俺は空母と敵機の間に割り込んだ。実際の海戦のように回頭に時間がかかるというような概念はないため、行動しやすい。

俺が割り込んでもなお、敵機は速度を緩めるそぶりすら見せない。それどころか加速したようにも見えた。

伊吹の舷側に設けられた13mm連装機銃と25mm連装機銃が火を噴く。

一機の艦攻が被弾の衝撃でせり上がった海面に衝突し、飛沫をあげて消えた。

続けて舷側から伸びる火箭がもう一機を捉えた。

コックピットを打ち抜いたのか、エンジンが快調に回っているにも拘らず海中に消える。

敵艦攻艦爆の残数は二十数機。とてもこの距離で墜としきれるものではない。

「ここまでか…ッ!」

俺は歯ぎしりをした。

「敵機爆弾投下!」「敵機魚雷投下!」

僚艦から悲鳴に近い報告がなされた。

「全艦回避行動、急げ!」

回避行動をとりつつも俺は対空射撃をやめない。

「勝ち逃げは…させん!」

深海棲艦の艦載機は密集する傾向があるため、一機でも被弾してバランスを崩すと、僚機を巻き込む可能性が非常に高い。

俺は機銃弾を反転離脱途中の艦爆に放つ。

一機が被弾した。左翼を全損して左へと回転しながら僚機へ激突する。

不意に今まで響いていた軽快な射撃音が途切れ、手に射撃音より一回り大きな金属音が響いた。

「チッ!」

機銃弾が底をついた。味方の機銃弾も残り少ないようで、射撃開始時と比べて火箭の量が激減している。

突如、自分の周り、味方艦の周りで水柱が聳え立った。

「機関部二被弾!火災発生!」

僚艦からの悲痛な叫びが聞こえる。

艦爆隊も空母を狙っていたようで、空母の周辺にいたやつらへのダメージが多い。

「我左舷二魚雷命中多数!航行不能!」

「何ッ!?」

雷撃が到達した。味方軽巡が一瞬で無力化されてしまった。

刹那、被弾音より遥かに壮大な爆発音があたりに響く。

先ほどの軽巡が誘爆したのだ。

甲板の板材が剥ぎ飛び、砲身や機銃座がねじ切られて吹き飛ばされた。

「ガ、ガァァァッ!!」

悲痛な叫び声とともに、軽巡ホ級は海の底へと消えた。

「ホ級ッ!クソッ…本部ノ奴ラメ…!」

味方の残数は俺含め八名。うち一隻は炎上、二隻は小破となっている。

かく言う俺も右肩付近に直撃弾を受けた。航行に支障はないが、戦闘能力が低下してしまった。

「各艦応急修理を開始しろ。すぐに敵艦隊が到着するはずだ!」

通常艦船と艦娘(俺は男だが)はここがかなり異なる。俺らは人型なので包帯での止血や艤装の簡易修理で処置が完了するのだ。おかげで物の五分程度で応急修理を終えた。

「応急修理ヲ終エマシタ!」

僚艦からの報告が飛び込むと同時に、不気味な飛翔音が聞こえ始めた。

敵弾飛来!回避行動!(避けろ!)

水柱が聳え立つ。敵艦は戦艦クラスのようだ。

「後退しつつ反撃開始ッ!」

俺らは発砲を開始した。発射の反動が右肩に伝わり激痛が走った。

「…ッ!」

もう撃てない。次撃った場合、俺は沈むだろう。

ガガッ…ガッ…

簡易無線機にノイズが走った。

「…ら…ば、…せよ!」

「!?どうした!?」

俺はひったくるように無線機を取って呼びかけた。

ガッ…「こちら青葉、応答せよ!」

ノイズが途切れて鮮明な声が聞こえた。

「こちら提督、敵艦隊が出現、応援を求む!」

「もう向かわせてあります!」

青葉の声が途切れると同時に頭上を僚機が駆け抜けていった。

「あれは…紫電改二と彗星!?助かった…!」

紫電改二が残存する敵機を打ち落とし、彗星が敵艦への爆撃を敢行する。

味方の砲弾が着弾した。多くは空振りだが、中には夾叉弾や直撃弾があったようだ。

何隻かの敵が一気に海の藻屑と化した。

「提督~!大丈夫~!?」

鈴谷の声が聞こえた。戦場でも相変わらずのしゃべり方だ。

「大丈夫だ。それより味方の手当てを…」

「もう始めてるよ~」

鈴谷に言われて振り返ると、駆逐艦たちが傷ついた僚艦の救助にあたっていた。

「…こんなこと言うのもなんだが…見た目で嫌悪感を抱いたりはしないのか?」

いくら敵意がないとはいえ姿はいつも見ているはずの敵だ。嫌悪感を出さない方がおかしいというものだ。

「ん~、私たちは深海棲艦の殺気に反応して戦うって感じだから、殺気の無い深海棲艦には嫌悪感は一切持たないんだよね~でしょ?」

鈴谷が軽く答え、救助中の第六駆逐隊に声をかけた。

「そうなのです!」

「この人たちからは殺気が感じられない。だから大丈夫だ」

「はわわ…こんな近くで見たのは初めてです…」

「暁に任せなさい!」

(おい、後半二人、質問への回答になってないぞ…)

味方が来たから大丈夫、俺はそう慢心していた。

不意に視界の端に黒い影が映りこんだ。

「コノママ帰スト思ッタノカ?」

「なっ!?」

敵戦艦が猛スピードでこちらへ突っ込んできた。”戦艦は遅い”という常識は通用しない。人型での速度は艤装の重さにのみ左右されるため、ステータスを強化すれば戦艦でも機敏な動きが可能なのだ。

もちろん、ステータスが及ぼす効果は速力に限定した話ではない。

「とぉ↑ぉぉう↓!」

視界の右から黒い影が迫り、敵戦艦が左側に吹き飛んだ。

爆風に思わず目を塞ぐ。

「提督、お助けに参りましたわ!」

コンマ数秒前まで敵戦艦がいた場所には、熊野が自慢げな表情で立っていた。

そう、重巡でも、鍛えれば戦艦以上の火力を出すことが可能なのだ。

振り返ると鈴谷が”あちゃー”というような表情をしていた。…まさか戦闘ではいつもこうなの…?

敵戦艦が一撃で吹き飛ばされたのを見て敵艦隊が後退を始めた。

「提督、もう大丈夫ですよ。帰りましょう」

追いついてきた赤城が笑いかけてきた。

「あぁ…そうだ、青葉から深海棲艦については何と報告されいる?」

俺はふと気になったことを口にした。あの青葉の事だ。盛って通達しているかもしれない。

「それなら、ちゃんと伝えられていますよ。手を出したら提督に殺される、と」

「俺そんなことしないよ!?」

予想的中、俺は頭を抱えた。あいつの口は何とかならないのか…

「…とりあえず帰ろう、話はそれからだ」

俺は鈴谷と熊野に支えられながら帰路に就いた。




多分次回は半分ネタ回かと思われます(予定)


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13

水平線が夕日で橙色に染まるころ、俺たちはようやく鎮守府に帰投した。

鎮守府の埠頭では吹雪を筆頭に鎮守府で待機していたメンバーが並び、こちらに敬礼していた。

中には曳航されてきた深海棲艦たちにぎょっとする子たちもいたが、殺気を感じられなかったのか、すぐにいつもの表情に戻っていた。

俺は何とか陸上へ上がり、命令を飛ばす。

「大破艦を優先してドックを使え!高速修復材の無限使用を許可する。艤装は明石と夕張に預けろ!」

皆があわただしく移動し始めるのを確認したところに、吹雪と伊勢がやってきた。

「司令官…お疲れ様です」

吹雪が微笑みながら言った。

よく見ると吹雪の目の下にはクマが出来ていた。

「吹雪…そのクマはどうした…?」

そう聞くと、吹雪は目をそらしながら言った。

「アハハ…な、何でもないです…」

「そ、そうか…?」

「提督、私からも少しいいか?」

そう話しているところに伊勢が入ってきた。え、なに?またなんか俺やらかした?

「…俺はお前の思っているような上官になれたか?」

俺は半分笑いながら言った。が、伊勢の答えはそれとはまったくもって異なるものだった。

「すまなかった!」

何と謝罪をしてきたのだ。

「えっ?ど、どうしたんだ…?」

伊勢は静かに口を開いた。

「実は…提督がいない間吹雪と二人で執務をやっていてだな、全然進まなかったんだ。そこで気づいたよ。私たちが戦いに専念できるのはこういった事務仕事をこなしてくれる提督のおかげだ、とな。それなのに私は提督に対して思い込みできつく当たってしまった…どうか許してほしい」

なるほど…吹雪の目の下のクマはそれのせいか…

「大丈夫だ。こっちもそちらを気遣ってやれなくてすまなかったな。これからもよろしく頼むぞ」

その言葉に伊勢は微笑んで、手を差し出してきた。

俺も笑ってその手を握り返した。

こうして、鎮守府の中の現時点で最大(?)の問題が解決した。

「…それで、だ。提督」

「ん?どうした?」

提督が俺の体を指さして言った。

「私が見る限り限りなく轟沈寄りの大破状態に見えるんだが…」

「えっ?あっ…」

忘れていた。俺自身自力航行が困難だったことを。

不意に激痛が来襲した。

「ぐっ‥カハッ…」ドッ

俺は口元を押さえて膝をついた。抑えていた手を放して見てみると、血が付いていた。

(やっべぇ…息できねぇ…)

吹雪が恐怖の表情でこちらを見ている。

伊勢が叫んだ。

「衛ぇ生ぇ兵ぇぇぇッ!至急提督をドックへ運べ!沈むぞ!」

その声を遠くに聞きながら俺の意識は途切れた。

~~~

 

 

 

~~~

結局あの後俺はドックに搬送され、入渠することとなった。

俺は修理が完了するまで目を覚まさなかったようで、吹雪などはたいそう心配していたそうだ。

「これからは無理しないでくださいね!」

「あ、あぁ。善処するよ…」

その吹雪は今私の横で執務の補助をしてくれている。

休んでていい、と言ったのだが、どうしても手伝いたいとの事だったので、手伝ってもらっているのだ。あとで間宮で何かおごってあげよう、そうしよう。

現在は俺たちが埠頭についてから二時間ほどたったころ。外はだんだんと暗くなり始め、晩夏の涼風が部屋の中を駆け抜けている。

「…よしっ、今日の分は終わりましたよ!それにしても涼しくなりましたねぇ~もうすっかり秋ですよ」

「昼間は真夏なんだがな」

俺が苦笑しながら相槌を打った。

吹雪の分の仕事が終わったようで、伸びをしながらあくびをしている。

だが、俺の分が終わっていない。

「吹雪、今夜は姉さんたちの歓迎会(という名の宴会)を開くって鳳翔さんたちが言ってたから、早めに行ったらどうだ?俺は後から行くからさ」

吹雪に先に食堂に行くように促した。が、

「あの方々は司令官からの紹介が必須です。いくら敵意がないとはいえ姿は敵そのものなんですから。トラウマがある子だっているんです。な の で、司令官は早く執務を終わらせてください。私も手伝いますから」

吹雪にも手伝ってもらうことになってしまった。これは間宮の高級スイーツでも奢るしかあるまい。うん。

「それで、あとどのくらいなんですか?」

吹雪が手元を覗き込みながら聞いてきた。

「ん?この書類にサインすれば終わりだg

「早くしてください」(ニッコリ)

‥‥ハイ」

俺はさっさとサインをして書類を片付けた。

吹雪の顔が過去一怖かったです。ただ名前を書いていただけなのに冷や汗が出ました。怖かったです(大事なことなので二回言いました)

 

「それじゃ、行きましょう!」

先ほどの目が笑っていない笑いはどこへやら、打って変わって無垢な笑顔の吹雪が執務室のドアのところで手招きしている。

するとそこへ、

「提督さ~ん!」

ドアを蹴破るようにして夕立が元気よく入ってきた。

「あべしっ!?」

もちろん、ドアのすぐそばにいた吹雪は吹き飛ばされた。

「ノックくらいしような!?」

「はーい、次から気をつけまーす!」

俺は一応注意するも、効果はない。

「何すんのよ夕立ぃ!」

吹雪が頭を押さえながら起き上がって吠える。

「ごめんっぽい!」てへっ

夕立は悪びれもせずに謝った。

「こんのっ…今日という今日は許さないんだからぁ!」ダッ

吹雪が夕立をめがけて走り出す。

「わぁ~!吹雪ちゃんが怒った~!」ダッ

夕立も走り出した。

「結局夕立は何しに来たんだろうか…」

そして俺は一人取り残された。

 

 

~廊下~

仕方がないので、俺は一人で食堂へと向かっていた。

(今日はやけに廊下が長く感じられるな…)

そう考えながらとぼとぼと歩いていた時、

「防ちゃん、一人なの?」

姉さんに後ろから話しかけられた。

「あぁ、見ての通り一人だよ。それより、いつの間に後ろに…?」

殺気どころか気配すら感じ取れなかった。自称忍者の川内の気配には楽々気づくことが出来たのだが…

「フフフ、今来た所よ。それじゃ、食堂まで行きましょうか。さっき赤城さんが歓迎会があるからって呼びに来てくれたのよ。まぁ、当の本人は伝えるだけ伝えてどっか行っちゃったんだけどね」

姉さんは不敵に笑い、それから少し落ち込んだような表情を見せた。

(あぁ…これ多分赤城に警戒されてるって思って落ち込んでるんだろうなぁ…多分あいつは食堂の料理が食べた過ぎて案内せずに帰ったんだろうけど…)

そんなことを考えていると、腕がグイっと引っ張られた。

「考え込んでないで、行くわよ?」

「あ、あぁ…だが、腕を組むのはやめてもらえないだろうか…」

「ダーメ」

「あぁぁぁ…」

俺は姉さんに半ば引きずられるような形で食堂へ行くこととなった。

 

~食堂~

食堂は熱気に満ちていた。(あつい)窓を全開に開け放ち、外の冷涼な空気をもってしても鎮圧できない熱気が立ち込めていた。

それもそのはず、そこそこ広めではあるが百数十人が入っても余裕が残るような広さはないのだから。

そんな中、俺は歓迎会を始めるべく、式台の上に立った。

全員の視線が俺に集まる。初日こそこの光景に驚いたものの、もう慣れた。

俺は咳払いをして、話し始めた。

「あー、今日集まってもらったのはほかでもない。新戦力の歓迎会だ。見た目は深海棲艦だが、心は俺たちと同じだ。では、自己紹介を…ってできるか?姉さん…あ」

やっちまった。艦娘たちの間にどよめきが走る。

姉さんの方を見ると、姉さんは腹を抱えて笑っていた。笑い事じゃ無かろうに…

「あー、いいか?今のことについてはおいおい話すから。まずは自己紹介の方を聞いてやってくれ」

とりあえず場を治め、姉さんに壇上を譲る。

壇上に姉さんが上がった。

ガチャン!

どこかで艤装展開の音が聞こえた……まぁ、無理もない。

「只今ご紹介にあずかりました、姉さんこと、防空棲姫よ。皆さんの警戒を解くために、少し話させてもらうわよ」

そうして、姉さんは俺と青葉が地下基地で聞いた話をそっくりそのまま話した。

話も終盤に差し掛かるころには、泣き始めている艦娘もいた。

吹雪に、”あいつらめっちゃ簡単に元敵の言葉信じちゃってるけど大丈夫?”と聞いたところ、”司令官と青葉さんのお墨付きだからだと思いますよ”との事。青葉の号外の力は素晴らしい。うん。

「……以上よ。何か質問はあるかしら?」

姉さんが話し終えると、数人の手が挙がった。

「んー、それじゃ貴女」

指された艦娘が立ち上がってしゃべり始める。

「俺は天龍だ。一つ言うがな、口ではなんとでも言えるんだ。本当にあんたは元味方である深海棲艦を沈められんのか?俺がこの目で見るまでは納得できn…

「青葉、あれ流せ」

「御意」

…人の話遮るなよ!?」

俺は先ほどの撤退戦での俺の目線カメラの映像を流した。

そこには、敵旗艦に向けて懸命に応戦する八名の深海棲艦の姿がばっちり映っていた。そして敵方の深海棲艦もこちらに向けて容赦なく攻撃の刃を向けてきている。

「‥‥‥やらせじゃないみたいだな。疑ってすまなかった」

天龍が座った。

「ほら~、だから大丈夫だって言ったじゃないの~」

着席した天龍のほっぺをツンツンしながら龍田が言った。

「‥‥‥うるせぇ」

「あぁら、照れちゃってかわいい~」ツンツンツンツン

「やめろぉ!」

あいつら…何やってんだ…

「つ、次行くわよ…それじゃ、そこの貴女…たしか青葉とか言ったかしら?」

姉さんも困惑しているようだ。

「ども、恐縮です!青葉です。それでは、防空棲姫さんのステータス、それと艦種を教えていただけますか?あ、出来ればほかの皆さんのステータスもお願いしても?」

艦娘らがざわつき始めた。確かにこれは俺も気になる。

「構わないわ。だけど、その質問は私の部下の紹介が終わってからでいいかしら?」

忘れていた。こちら側に来たのは姉さんを含めて八名もいたのだった。

「分かりました。あとで教えてくださいね!」

そういって青葉は引き下がった。

「それじゃ、部下たちを紹介していくわね。ほかの皆はカタコトだから、私の口から紹介させてもらうわ」

カタコトでは伝わりにくいと判断したのだろう。姉さんは部下たちを壇上に上がらせた。

 

目の前に広がる光景が、少し前の洋上であったのならば、皆震えあがっていただろう。なぜなら、海域のボス級の個体が複数いたからである。

震えあがる艦娘たちを尻目に、姉さんは紹介を始めた。

「この子は駆逐棲姫。私の一番弟子と言ったところかしら」

「ヨロシクオネガイシマス」

透き通るような長い白髪をもつ駆逐棲鬼はそう言ってお辞儀をした。ちょこんとしていてかわいい。

「次に、この子は戦艦棲姫。私の二番弟子ね。高い耐久が特徴よ」

「ヨロシク頼ム」

発言と同時に紅い目がにわかに発光した。長身で見降ろされているような感じがするのでとても怖い。

「こら戦艦ちゃん、睨んでいると勘違いされるわよ」

姉さんが注意した。

「ム…スマナイ」シュン…

すると、戦艦棲姫は俯いてしまった。

あ、これ見た目に反して性格がかわいいやつだ。

「次に行くわね。この子は空母棲姫。夜間発艦が可能な優秀な子よ」

「不束者ダガ、ヨロシク頼ム」

「嫁入りかよ」

俺が思わず突っ込むが、当の本人はきょとんとしている。多分言葉の意味を間違って解釈しているのだろう。うん。

夜間発艦と聞いて空母勢がざわつき始め、手が挙がった。

「質問いいでしょうか」

凛とした声が響いた。

「えぇ、いいわよ」

「ありがとうございます」

そう言って声の主が立ち上がった。

一航戦の蒼い方、加賀だ。

「夜間発艦が可能、とおっしゃいましたが、それは特殊艦載機を積んだ時の事でしょうか、それとも、常時搭載している艦載機が夜間発艦可能という事でしょうか」

毅然とした態度ではあるが、焦りの色がみられる。加賀の望む答えは前者だろう。だが…

「この子はいつもの艦載機で夜間発艦が可能よ。これでいいかしら?」

「……はい、ありがとうございました」

加賀が着席した。その目には悔しさが宿っている。まぁ、当然のことだろう。ポッと出てきた新参者、しかも元敵である空母に性能面で負けたのだから。

姉さんが次の紹介に移ろうとしたとき、空母棲姫が口を開いた。

「私ハ、空母トシテハ建造サレタバッカリノ新参者ナノデ、戦闘デノウマイ立チ回リガ分カリマセン。ナノデ、私ノコトヲ嫌ワナイデ指導シテイタダケルト幸イデス」

そして、深々とお辞儀をした。

加賀をはじめ、空母勢に驚きの色がみられる。

しばらく固まっていたが、やがて加賀が微笑みながら言った。

「いい心構えね。ビシバシ指導してあげるから、覚悟なさい」ニコッ

「ア、アリガトウゴザイマス!」

その言葉に空母棲姫が顔を輝かせた。

「か、加賀さん…目、目が笑ってないよ!」

瑞鶴が小声で言う。が、

「あなたは黙ってなさい五航戦」ギロッ

「ヒッ」

静かに一喝されて終わった。

「ここの鎮守府は仲良しでいいわねぇ~…さぁ、次の子よ。次の子はボス級ではないけど、強さはボスに引けを取らないわよ~」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら発した姉さんの言葉に食堂がまたざわついた。これ絶対姉さんはこの反応を楽しんで喋ってるに違いない。

「この子は空母ヲ級改flagship(以下ヲ級改)。通称ブルーアイズ、よ。この子も新造だから、空母の皆さんは指導、お願いね~」

「オネガイシマス!」

金と蒼のオッドアイであるヲ級改は元気よく敬礼した。その目は座っており、これから起こるであろう出来事を見通しているかのようだった。

「さて、次の子よ。この子は…

「オレハ戦艦レ級flagshipダ!ヨロシクナ!」(以下レ級F)

‥‥だそうよ。この子は世界にたった一人の個体よ。レ級のflagshipはこの子以外存在しないわ」

小柄で華奢な見た目に反して、高い攻撃能力を持つことで恐れられる戦艦レ級。巷ではeliteまでしか個体が確認されておらず、flagshipはいないものとされていた。目の前のレ級はflagship特有の黄色いオーラを纏いながら自信満々で突っ立っていた。これが本当に、敵に回らなくてよかったと俺は思っている。

このレ級の紹介で、ただでさえざわついていた食堂内は騒然となった。

「レ級ってあの砲撃、雷撃、爆撃全部してくる奴だよな!?それのflagship!?」

「あの子が敵に回らなくてよかったわ…」

「そうねぇ…」

といった内容の会話があちこちで聞こえてきた。

先ほどまでのボス級よりもざわめきが大きいのは、エンカウント率によるものだろう。ボス級はまずめったに遭遇しない。というか、ここの鎮守府に在籍している者でボス級と一戦交えたことがある者はいなかったはず。だが、レ級と交戦したことがある者は結構な数いるはずだ。だからだろう、ここまで騒ぎが大きくなったのは。

「静粛に。着席しろ」

俺はマイクを取って呼びかけた。その言葉に従って、騒ぎは収まった。

「それじゃ、次はこの子ね。この子は戦艦ル級改flagship(以下ル級改)。ヲ級改と一緒のオッドアイね」

「アノ…防空…コノ子ッテイウノハヤメテ…ア、ヨロシクオネガイシマス」

威圧感たっぷりな見た目に反して、ずいぶんと大人しい性格のようだ。

「やーよ、私にとっては全員家族みたいなものだし。ね?ル級ちゃん?」

「ウ…分カッタワヨ…」

(かわいい)

俺は心の中でそう思っていた。

「それじゃ、次の子、この子が最後ね。この子は北方棲姫。ほら、自己紹介をして?」

(あれ…?自分が紹介するんじゃないのか…?)

(この子においては、自分が紹介するより、本人が言った方が分かりやすいと思うわ)

(こいつ…直接脳内に…!?)

北方棲姫が一歩前に出て高らかに発言した。

「私ハ北方棲姫!陸上施設型ノ深海棲艦ヨ!ホッポチャンッテ呼ンデネ!!」フンスッ

北方棲姫は深海棲艦の幼体といった感じの容姿をしており、どこか言葉遣いも幼げである。が、戦闘能力はピカイチだ。

「何あの生き物、かわいいわね」

「駆逐艦の子たちと仲良くなれそうだな」

皆の反応からするに、ほっぽちゃんの第一印象はいいようだ。

「これで全員よ。まだ抵抗がある子もいるかもしれないけど、よろしく頼むわね」(防空棲姫)

「ヨロシク」(駆逐棲姫)

「ヨ、ヨロシク…」(戦艦棲姫)

「ヨロシク頼ム」(空母棲姫)

「ヨロシクオネガイシマス!」(ヲ級改)

「ヨロシクナ!」(レ級F)

「コ、コレカラ…ヨロシク…」(ル級改)

「ヨッロシク―!!」(ほっぽちゃん)

食堂のあちこちで拍手が起こる。それに伴い”よろしくねー!”といった声も聞こえてきた。これなら大丈夫だ、やっていけそうだ。

姉さんが降壇した。表情が”あー疲れた”と語っている。

姉さんらが食堂で席に着くのを見計らって俺は登壇し、そして手を挙げた。

すると、普段は工廠で働いてくれている妖精さんが料理を運んできた。

間宮、伊良湖、鳳翔さんの豪勢な料理に艦娘らから感激の声、感嘆の声が漏れる。

俺はビールが入ったグラスを掲げて言った。

「歓迎会、開始ッ!カンパーイ!!!」

「カンパ――イ!!」×多数

こうして、宴会(歓迎会)が始まった。




本当は宴会の内容まで書きたかった。だけど疲れてしまった。
次回に持ち越し。そうしよう。

~~~~一応説明~~~~
・深海棲艦の性能については、次、またはその次の話で言及するつもり
・eliteは通常個体の上位互換、flagshipはさらにその上。改flagshipはまたさらにその上。
・ほっぽちゃんは陸上施設。そのため海での自立戦闘は不可能(だが浮き砲台としては活動可能)


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14

宴会が始まり、晩夏の静かな夜に笑い声が響き渡る。

「…それでね、司令官がね!」

「暁は司令官のことが好きなのかい?」

「そっ、そんなわけ…あうぅ…」

「響、やめてあげて…」

ある者は恋バナで盛り上がり、

「おい、ポーラ!飲み比べしようじゃないか!」ヒャッハー!

「あ~ら、隼鷹じゃなぁい。この前のリベンジかしらぁ?」

「今度は負けねぇからなぁ!?今日は…これ、熱燗だ!」タァン!

「あらあら、これは楽しみねぇ~」

ある者は飲み比べをはじめ、

「大体いっつも指導とか厳しすぎんのよ!加賀さんは手加減ってものを知らないわけ!?」

「へぇ…瑞鶴もそんな口をきけるようになったのねぇ?それじゃあ、その自慢の腕前で私に勝ってみたらどうなのかしら?ねぇ、瑞鶴?」クイックイッ

「…やってやろうじゃねぇかよこの野郎!!」

ある者は喧嘩まで始め、

「いつもの光景ですねぇ、赤城さん?」

「喧嘩するほど仲がいいってやつですよ。酒の肴にはもってこいです。あ、翔鶴さんもこれ食べます?」

「あ、じゃあいただこうかしら」

その喧嘩を酒の肴にして飲んでいる者もいる。

「カオスだ…この世の終わりだ…」

そんな中俺は、隅っこの方でこの惨状を眺めながらちびちびと飲んでいた。

「元気があっていいじゃない。深海棲艦(私たち)の所ではこんな楽しいことはなかったわよ?」

「姉さん…気配を消して後ろに回るのはやめてくれ…」

「フフフ、私の気配に気づけるようになったら、一人前よ。まぁ、それは置いておいて、ここの鎮守府のみんなはやさしいのね。ほら、ほっぽちゃんと駆逐棲姫なんかはもう駆逐艦の皆とおしゃべりしているわ」

姉さんの指さす方向に目を向けると、吹雪型の皆や第七駆逐隊の皆と和気藹々としながらしゃべっている様子が見て取れた。

その奥では瑞鶴と加賀の喧嘩(という名のじゃれ合い)を前におろおろする空母棲姫とヲ級改が二航戦の二人に肩ポンされていた。恐らく”いつものことだから気にするな”とでも言われているのであろう。

レ級Fとル級改、それに戦艦棲姫は戦艦組の飲み比べに巻き込まれて潰されたみたいだ。金剛や伊勢などと一緒にぶっ倒れている。その傍らでは武蔵と長門が勝ち誇ったような顔をしながらぐびぐびと度数が高い日本酒をあおっていた。

「あいつら…とんだ酒豪だな…まぁ、みんなが元気そうで何よりだよ」

俺は少し前の事を思い出してそう口にした。

「それは、どういう事?」

姉さんが不思議そうな顔で聞いてきたので、俺は吹雪、赤城を除くほかの艦娘たちの経歴についてザックリと説明をした。

「…そう、艦娘側にもそういう腐った奴はいるのね…」

「姉さん、目、目!光がないよ!?」

「防ちゃん?早くこの戦いを終結させてその腐った奴らと腐っている上部を叩きに行きましょう?ね?」

(こ、こえぇ…)

「あ、そういえば…」

その時、俺の頭にふとある疑問が浮かんできた。

「姉さんたちは深海棲艦の主力と言っても差し支えないレベルの戦力を保持する部隊だったんだよな?」

確かそうだったはずだ。島を出る前にそう聞いたのを思い出したのだ。

「えぇ、そうよ。それがどうかしたの?」

俺はまじめな表情を作って姉さんに問いかける。

「主力が敵方に寝返るとなれば本部は黙っちゃいないはずだ。”敵方には行ってほしくない”と引き止められなかったのか?」

今回の出来事は深海棲艦からすれば合戦で味方の参謀や将校が敵に回ったという事と同義だ。引き止められないはずがない。

姉さんは少し考えてから話し出した。

「んー、最初の方は待遇を良くするから戦争から手を引くことをとどまってくれないか、みたいな連絡もあったんだけど、ある時を境にそれまでの姿勢の低い対応じゃなくなったのよねぇ…」

「それは…いつだ?」

「えーと、十日…より少し前だったかしら?そのくらいね。急に態度がでかくなったのよ」

(十日前…?結構最近だな‥)

姉さんは話を続けた。

「そこから資源の輸送が途絶えてね。最後に来た使者は去り際に”もうお前らに頼らなくて済む”って言ってたわ」

「ってぇことは、何か新しいタイプの深海棲艦でも開発したのか?」

俺の発言に姉さんは頷いた。

「恐らくはそうでしょうね。だから、注意して海域攻略にあたるのよ」

「わかった…肝に銘じておくよ」

「さぁ、辛気臭い話はここまでよ!防ちゃんも飲みに行きましょう?」

姉さんが今までの重苦しい雰囲気をかき消すように明るくふるまった。

「えっ…いや俺はいいよ。上官が部下の宴会に顔出すことほど嫌なことはないだろう」

俺のその発言に対し、姉さんは”呆れた”と言わんばかりの顔をして

「いいから来なさい」(ニッコリ)

と言い、俺の首根っこをつかんで持ち上げた。

「ハイ」

俺に、反論の余地は残されていなかった。

 

 

姉さんに連れられてやってきたのは重巡組が集まって飲んでいる場所。

「私たちも混ぜてもらっていいかしら?防ちゃんもセットだけれど」

姉さんが声をかけると、

「おう、いいぞ!」

「いらっしゃ~い」

「おぉ、待ってましたよ!」

那智や愛宕、青葉などが明るく受け入れてくれた。

「俺はあまり酒は飲めないんだが…」

「い い か ら 飲 み な さ い」

「ハイ」

早く切り上げて明日の分の書類を進めておこうと思ったんだが…今夜は帰れそうにないな…

「それで…早速で悪いんですが、防空棲姫さん、インタビューいいでしょうか?」

俺が終わらない書類のことを心の中で嘆いていると、青葉がずいっと身を乗り出して聞いてきた。目が輝いてやがるぜ…

「構わないわよ。何でも質問してちょうだい」

「ありがとうございます。それじゃぁまずは、司令官とはどういった関係で?」

青葉は悪戯っぽく笑った。

「あれ…貴女は知っているんじゃ…?あぁ、ここに居る皆に聞かせたいのね。分かったわ」

「ありゃ、見抜かれましたか。それじゃぁお願いします」ニヤッ

今の会話を聞いていたのか、周りの艦娘らの注目が一斉にこちらへ集まった。じゃれ合っていた瑞鶴と加賀もそれをやめてこちらの会話に耳を傾けている。

静寂。外から聞こえる透き通った虫の音がやたら大きく聞こえた。

「私は以前地上で諜報活動をしていてね、その時に育てていたのが防ちゃんってわけ。あ、防ちゃんは拾い子よ。詳しい話はそこの青葉さんが知っているはずだから、後日の新聞を楽しみにするといいわ」

姉さんが”育てていた”というワードを発した辺りから艦娘らがざわつき始めた。

「それでは次に、深海棲艦の皆さん、ステータス開示をお願いします」

この後俺は、ここで青葉を止めておけばよかった、と後悔することになる。

「それじゃぁまずは私ね…ステータスオープン…はい、どうぞ」

 

防空棲姫

耐久:255

火力:190

雷装:95

対空:390

装甲:333

射程:中

装備:4inch連装両用砲+CIC ×2 

   電探

 

 

「………は?」

どこかで誰かが驚きの声を上げた。

それを皮切りに、食堂のあちこちで色んな声が上がった。

「うっそだろ!?何だこの数値!?」

「改大和型ですら装甲は139よ!?」

「何あの対空値!?えっ?えっ?」

「あ、頭が…」フラッ

「赤城さん!?しっかりして!?」

もう食堂は宴会どころではなくなっていた。

「ち、ちなみに艦種はなんですか?」

青葉が引きつった笑いで姉さんに問いかけた。

そして姉さんはさわやかな笑顔で5t爆弾以上の爆弾発言を投下した。

「駆逐艦よ」

「・・・はい?」

「駆逐艦よ」

「「「「「お前(姉さん)みたいな駆逐艦がいるか!!!!」」」」」

瞬時に俺と複数人が叫んだ。

「」

あ、青葉のやつ絶句して魂抜けてやがる…

 

「…ハッ!意識が飛んでいました…そ、それじゃぁ次の方…いや、やめておきましょう。ほかの皆さんには後日青葉が取材に参ります。その後新聞にて公表という形でどうでしょうか?」

「構わないわよ」

青葉の提案にその場にいた全員が頷いた。これ以上爆弾を投下されたら宴会どころではなくなってしまう。

「それじゃぁ…」

「よぉ~、防空さんよぉ~、そぉんだけ強いならさぁ、もぉちろん酒も飲めるよねぇ?」

姉さんが何かを言いかけたとき、後ろから隼鷹が絡んできた。泥酔しているようだ(いつもではあるが)。

酒、というワードを聞いた瞬間に姉さんの顔が少しひきつった。

「い、いや…私はちょっと…」

「あれ?でもさっき俺に酒飲めって…」

これがいけなかった。俺のこの発言がいけなかった。

「お?じゃあいけるな?よぉし、こっちにこいぃ」

「えっ、ちょっ、防ちゃん助けて!?」ズルズル

姉さんは隼鷹に引きずられてポーラやその他の酒飲みたちの方へ連れていかれた。

その光景で食堂に笑いが戻り、宴会はそのまま継続されたのだった。

 

その後、姉さんが隼鷹らに潰されていろいろ(自主規制)あったのはまた別の話だ。




~~~~~~~

{号外}青葉新聞
《強すぎ!?深海棲艦の皆さんの実態》
この号外ではこの度本鎮守府に着任された深海棲艦の皆さんの能力をまとめたものです。

防空棲姫:駆逐艦
耐久:255
火力:190
雷装:95
対空:390
装甲:333
射程:中
装備:4inch連装両用砲+CIC ×2 
   電探


駆逐棲姫:駆逐艦
耐久:190
火力:60
雷装:90
対空:60
装甲:115
射程:短
装備:5inch連装砲×2
   22inch魚雷後期型

戦艦棲姫:戦艦
耐久:400
火力:180
雷装:0
対空:80
装甲:160
射程:長
装備:16inch三連装砲×2
   12.5inch連装副砲
   電探

空母棲姫:空母
耐久:350
火力:180
雷装:0
対空:130
装甲:150
射程:長
装備:新型艦戦
   新型艦爆
   新型艦攻

北方棲姫:陸上施設
耐久:300
火力:208
装甲:125
雷装:6
対空:131
射程:中
装備:5inch単装高射砲
   深海棲艦戦 Mark.III
   深海地獄艦爆
   深海棲艦攻 Mark.II

空母ヲ級改flagship:正規空母
耐久:160
火力:158
装甲:120
雷装:22
対空:107
射程:なし
装備:深海棲艦戦 Mark.III
   深海棲艦爆 Mark.II
   深海棲艦攻 Mark.III
   深海棲艦攻 Mark.III

戦艦ル級改flagship:戦艦
耐久:130
火力:150
装甲110
雷装:0
対空:100
射程:長
装備:16inch三連装砲
   16inch三連装砲
   水上レーダ― Mark.II
   飛び魚偵察機

レ級flagship:重雷装航空戦艦
耐久:370
火力:200
雷装:180
装甲:200
対空:120
射程:超長
装備:16inch四連装砲×2
   深海烏賊魚雷-改
   飛び魚艦爆‐改


いやぁ、こうしてみるとバケモノじみた数値ですねぇ!深海棲艦の皆さんの今後の活躍に期待です!

著者:青葉



~~~~~~~
※レ級 F以外の数値は艦これ公式の数値です。(白目)


次からまたストーリー進められたらなぁ、と思っております。


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15

チュン‥チュン‥チチチ…

「…ッ……ふわぁ…」

小気味よい小鳥の鳴き声とともに俺は目覚めた。

そこまではよかったのだが…

「…ッ!?ぐぁ…あ、頭がいてぇ…」

頭の中がグワングワンとしていた。

完っ全なる二日酔いである。

そして……

「ここ…食堂じゃねぇか…」

そう、食堂で目を覚ましたのである。

周りには同じように艦娘らが倒れて熟睡しており、誰かが起き上がる様子はない。

大騒ぎした後疲れて眠ってしまったのだろう。食堂がほんっとにひどい状態である。

缶チューハイの空き缶、からになった日本酒の瓶、空の熱燗の山。そして料理が入っていたであろう皿たちが散乱しているのだ。

「片付けが大変だなこりゃ…」

この空間に俺一人だったならばすぐにでも片づけを始めていたことであろう。だがここに居るのは俺一人ではない。と言うかほとんどの奴らが酔いつぶれて寝ているのだ。机に突っ伏して寝ているやつ、床にひいた茣蓙の上で大の字に寝てるやつ、茣蓙から転がり落ちで床で寝ているやつ、様々だ。

問題なのは彼女らの服装で、大騒ぎした後だからだろうが、多少はだけている者が多数なのだ。目のやり場に困るとはこのこと。

こんな状況を誰かが見たら絶対変な方向に勘違いされそうなので…

「よし、俺は何も見ていない」キリッ

二日酔いでくらくらする体を引き擦りながら、俺は逃げることにした。

 

 

 

俺の逃亡s…ゲフンゲフン、移動先は工廠。

昨日は夕張や明石も飲んでいたので、艤装の修理、メンテを俺がやっておこうと思ったのだ……のだが…

「あ、提督。おはようございます」

黒ずんだ油汚れが目立つ作業着を着た明石がこちらに気づいて挨拶をしてきた。

「明石…?こんな朝っぱらから何を…?二日酔いは大丈夫なのか?」

俺の問いに明石は笑って答えた。

「そこまで飲んでませんよ。自分がお酒に弱いの分かっているんで、昨日は早めに切り上げたんです」

「明石ってこんなに物事を考えて行動できる娘だっけ?」

「その評価ひどくありません!?」

俺が真顔で発した疑問に明石は驚愕と呆れが混じった表情でツッコんできた。

「うっ…あまり大きな声を出さないでくれ…頭が死ぬ…」ボー…

明石のツッコミは俺にはデカすぎたようで、数秒間目の前の景色がゆがんだ。

「アハハ…すいません。それはそうと、艤装の点検、整備は終わらせておきましたよ」

「おぉ、そうか、ありがとうな」ナデナデ

俺はごく自然な動作でいつも駆逐艦の子たちにやっているように明石の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ふぇっ…/// 提督…何を…?」

明石がびっくりして反応してきたことで、俺はようやく我に返った。

「あっ、すまない。まだ寝ぼけているようだ…」

俺はすぐに手を引っ込めた。

「あ…ハイ…」

明石がなぜか残念そうな表情だったのは気のせいだろう。うん。

 

ふと俺の頭の中にある疑問が浮かび上がった。

「そういえば明石、援軍が到着したときに紫電改二や彗星、流星とかのまだウチでは開発していないような艦載機が多数見られたんだが、それはどうしてだ?」

「え”ッ…とぉ…それはですねぇ…」

とたんに明石が口ごもった。まさか…

「なぁ明石、現在の鎮守府の資材の備蓄量はどのくらいだ?」

「サ、サァ?ワタシハナニモシリマセンヨ」

「深海棲艦になるなオイ」

目が泳いでいる。川登りしている鮭みたいに泳いでいる。

「開発資材はどのくらい余っている?改修資材は?」

「な、何のことやら…」

ちょうどそんな結末が見えている質問攻めの現場に、夕張が到着した。

「あ、提督、おはようございまーす…って明石さん、なんでそんなにおびえた目でこっち見てるんですか…あっやべ(察し)」

明石の視線に夕張は何かを察したみたいだったが、時すでに遅し。

俺は夕張の方へ、精いっぱいの笑顔を保ったままゆっくりと、一定速度で首を旋回させ、表情を変えずに言った。

「おう、おはよう…ちょっとこっち来ようか?ん?」

「ヒェッ…ハイ」

夕張はおとなしく明石の隣に来た。

俺はゆっくりと口を開いた。

「さぁ、資材の現状を言ってみろ」

明石と夕張(メカマニア)は観念したように話し始めた。

「燃料3000…弾薬4590…鋼材2870…ボ、ボーキサイト…980…(アカン…殺されてまう…)」

「開発資材12…か、改修資材…2…です(ここが墓場か…)」

言い終わった彼女らの顔面は血の気が引いていた。

まぁ、彼女らがここまでおびえるのも無理はない。が…

「よくやってくれた。感謝する」

俺の怒る気はないし、怒る資格もない。

「…へぁ?」

「…ほへ?」

予想外の言葉に二人とも間の抜けた声をだしている。

俺は続ける。

「明石や夕張が開発してくれた装備が無かったらあの戦いは負けていたかもしれない。まぁ、ちょっと資材を使いすぎたのはあるけれど、おかげで助かった。沈まずに済んだよ。ありがとうな」

俺が言い終わると、二人は満面の笑みを浮かべていた。

「お役に立てた様で何よりです!」

「良かったぁ…ここで死ぬ(解体)のかと…」

「いや殺しはしないよ!?」

早朝の静かな工廠に3人と、周りにいた妖精さんたちの笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

~陸軍地下実験室~

「…完成だ…」

薄暗い実験室で男が一人呟いた。

男がうつろな目で見つめる先には、軍服に身を包み、滑らかな黒髪をショートカットにした女…いや、兵器があった。

かつてこの実験室の壁には、そこそこ大きめのコルクボードがあり、そこには所狭しと書類や図面が張られ、デスクの上には資料が山積みにされていたが、今はそれらは忽然と姿を消している。

今、この部屋の中にある物は、簡素な机、椅子、手術台のみである。

男は大きなクマがある目を無表情な兵器に向け、語りだした。

 

「コマンド…{RECORD}…最初っから分かってはいた…」

 

兵器は無表情のまま男の方へ顔を向けた。

 

「実験が成功すれば…私はもう……」

 

男は悔しそうに俯き、そのまま話をつづけた。

 

「数日前に書類が軍部に回収された。この実験についての書類、およびデータは陸軍元帥の部屋の金庫だ。回収されるときに小型カメラで追わせたから間違いはない」

 

男はそこまで喋った後、ゆっくりと大きなため息をついた。

 

「これから起こるであろう大きな衝突の原因は、この私だ。だがもうじき私はこの世から消えるだろう。…この情報を伝えることは私が出来る一番の罪滅ぼしだ」

 

男は傍らに置いてあった水入りのコップをつかむと、グイっと飲み干した。

 

「近々、陸軍主催で開かれるであろう集まりでの新兵器紹介、それに気を取られるな。そして…敵襲に、気をつけろ。決して沖合の戦力に主戦力を割くんじゃない」

 

男はそこで一息つき、何度目かわからないため息をつき、話を再開した。

 

「そして海軍、貴様の敵は深海棲艦だけではない……直に深海棲艦など脅威にならなくなるだろう」

 

「陸軍は、ずっと(おか)にいるわけじゃない」

 

「私が開発した……私が…開発してしまったものは…

 

 

 

 

 

 

 

 

神の盾(イージス)

 

 

 

 

 

 

 

 

……だ…」

 

男は、絞り出すように言い切った。

 

「それに…」

 

男はこれまでため込んでいた何かを吐き出すかのように沢山、色々な事、自分の知っている事全てを喋った。

 

「コマンド…{OVER}…お前はこれからここのダストシュートから海へ出ろ。どこでもいい、海軍の鎮守府に行け。そうすれば、お前の中のプログラムが働くはずだ」

 

兵器は表情一つ変えずに歩きだし、ダストシュートの中に消えた。

 

 

 

カッ…カッ…

 

コンクリートの階段を革靴が叩く音が聞こえた。それも一つではない。最低でも3人はいる。

さび付いたドアを軋ませながら開け、半笑いのいつもの将校が入ってきた。

「ドクター、ご同行を」

それと同時に、後ろの兵士が銃を構えた。

「あぁ、分かった」

男は腰に手をやりつつ立ち上がった。

「連れていけ」

将校がぶっきらぼうに命令すると、兵士は私の両脇を抱えて階段を昇って行った。

将校は男が連れ去られたのを見て呟いた。

 

「お前は知りすぎた…我々の事も、世界の事も…」

 

刹那、乾いた銃声が二発、晩夏の空に響き渡った。

それと同時に、将校が無線を入れた。

 

神の盾計画(イージス・プラン)、始動せよ」

 

 




前半と後半の温度差、火傷するねこりゃ


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16

波の音が聞こえる。

日差しはそれほど強くなく、気温もちょうどいい。

現在は午前11時頃。この前まではこの世の終わりかと錯覚するレベルで暑かったのだが、ここ最近は過ごしやすい。

「もう秋だねぇ~」

本日の秘書艦である鈴谷が机にぐでーっと突っ伏しながらのんびりした口調で言った。

「鈴谷、サボる暇があるんなら書類を進めてはくれないだろうか?」

俺は鈴谷の方に目もくれずに言った。

「てぇとく~?人にお願いをするときはその人の目を見て言わないとダメなんだぞ~?」

鈴谷が痛いところをついてくる。

「俺…人と目を合わせるのそこまで得意じゃないんだけどな…」

と言いつつ、鈴谷の方に目を向けると、

「…あれ?書類は?」

書類がなかった。

「へっへーん、終わらせたよー」

鈴谷がニヤニヤしながら答える。

「意外と優秀なんだな…驚いたぞ」

「意外とは余計だぞ~」

鈴谷が俺の脇腹をうりうりしてきた。

「やめろ…字がずれる…よし、これで今日の分は終わり!」

俺がペンをタァン!と置いたところで、執務室のドアをノックする音が聞こえた。

「?どうぞー」

「失礼します!司令官、大本営から直で書類です!」

「直で!?」

吹雪が書類片手に息を切らして入ってきた。

「吹雪ちゃんどしたの?そんなに慌ててさぁ~」

鈴谷が軽く質問すると、吹雪は説明し始めた。

「一枚目は、司令官が着任直後に請求したクーラーについて、これに関しては来年の夏に導入予定だそうで、それまで待機せよ、との事でした」

「うぇ…それマジぃ?」

鈴谷がダルそうな顔をした。

その後、吹雪は3枚ある書類のうちの二枚目と三枚目を差し出してきた。

「私が説明するより見た方が早いかと思われます。では、私はこれで!」

吹雪は一枚目の書類も執務机に置くと、敬礼をして部屋を出て言った。

「いったい何が書いてあるっていうんだ…どれどれ…{この度の深海棲艦の基地無力化の功績を称え、各資材1,000,000ずつを給与する}……はい?」

「うっそでしょこれ!?マジヤバいんですけど」

鈴谷が爆笑している。無理もない。ふつうこんなに大量の給与なんてありえないのだからな。てかそもそも給与があるっていう時点でおかしいことなんだがな…

「それじゃぁ…三枚目には何が書いてあるんだ…?」

俺は三枚目を見て、固まった。

「え~と、なになに?…要するに新艦娘着任って事?いいじゃんいいじゃん、どんどん増えるねぇ♪」

そして鈴谷は喜んだ。

書類の内容を要約すると、”ドイツとの親交で交換留学を実施。艦娘が来ることになったけどどこに配属するとか考えんのめんどくさいからとりあえず一番新しい鎮守府に放り込んでおくね”という内容のものと、”陸軍からの艦娘提供。なんか来たからこれも新しいとこに入れとくね”というものだった。ふざけんな。

「着任日は‥‥えぇ、えぇ、知ってましたとも!今日ということぐらいはね!チクショウ!」

半ばヤケを起こしながら俺は鎮守府内放送のスイッチを入れた。

【大本営からの急な通達により本日より新たに8名の艦娘がこの鎮守府に在籍することとなった。二日酔いじゃないやつらは正門前集合だ!急げ!】

なお、俺は二日酔いでも行かなければならないようだ。(当たり前)

 

 

 

正門前には約半数の艦娘が集まった。

揃える奴が全員揃ったところへ、大本営の車が到着した。

「総員ッ、敬礼!」

俺たちが敬礼をすると、降車してきた艦娘らも敬礼で返してきた。

俺が一歩前へ進み出ると、あちらからは長いブロンドヘアーと碧眼が特徴的な女性が前へ出てきた。

「始めまして。私はここの提督をやっている栗田 防と申すものだ」

「私はビスマルクだ。以後よろしく頼む」

ビスマルクの顔には明らかな警戒の色が見て取れた。異国の地だからだろうか…?

「まずは謝罪をさせてほしい。とある理由で全員での出迎えをすることが出来なかった。どうか許してほしい」

俺はまず一番気がかりになっていたことを話した。

「…構わん。それでは、私の同志にも紹介に入ってもらおう」

ビスマルクはそう言って、一歩下がった。

代わりに出てきたのはビスマルクと同じ服を身に纏ってはいるが、ブロンドでははなく、シルバーの長髪に、赤眼が特徴的な女性だった。

「私はビスマルク級戦艦二番艦、ティルピッツだ。以後よろしく頼む」

それだけ言うと、ティルピッツは下がった。

もうちょっと…なんか、こう、日本艦みたいに個性豊かだと嬉しいんだけどな…さすがドイツ、キッチリしてるぜ…

今度はビスマルク達より一回り小さく、ブロンドのツインテールで碧眼の子が前へ出てきた。

「私はアドミラル・ヒッパー級の二番艦、プリンツ・オイゲンです。…ビスマルク姉さまに手を出そうものなら、誰だろうと許しませんので、ご理解のほどをお願いします」

怖い。眼光が怖いぞプリンツよ。まぁ、これでドイツにも個性があるやつがいるってことは分かった。

プリンツが下がると、今度はプリンツと同じくらいの、黒髪短髪で赤いメッシュが一本入っている赤眼の子が前へ出てきた。

「私は戦艦、ドイッチュラントだ。この体格を見て重巡だの軽巡だの言うやつらもいるが、私は戦艦だ!そこのところを覚えていてほしい。以上だッ!」

そう高らかに宣言すると、そのポケット戦艦は満足そうに下がっていった。

次に、ツインテール風のブロンドヘアーで、灰色の眼をした女性が前へ出てきた。

「私は航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ。…気軽にグラーフとでも呼んでもらえると助かる。以上だ」

若干顔を赤らめながらグラーフ・ツェッペリン改めグラーフは下がっていった。

次は、服装から察するに潜水艦の子。グラーフと同じ灰色の眼にブロンドだが、こちらはロングヘア―となっている。

「私はU-511。以後よろしくね!」

Uボートだ。これは潜水組のいい友達になりそうだな。

ドイツ組は次で最後だ。最後は、ビスマルクたちと似たような服装をしているところから察するに戦艦だろう。こちらはティルピッツと同じようにシルバーヘアーに赤眼である。

「私は、正式名称がない。なので、コードネームで呼んでほしい。私の名はCN:フューラー。戦艦だ。以後よろしく頼むぞ!」

そう宣言し、下がった。

次に前に出てきたのは陸軍の軍服に身を包み、滑らかな黒髪をショートカットにした子だ。

「自分は陸軍所属の特殊船、あきつ丸であります!お世話になります!」

あきつ丸はさわやかな笑顔で言い切り、下がっていった。

俺は全員の紹介が終わるのを待って、一歩前に出てこう言った。

「自己紹介、ありがとう。正式な紹介は追って歓迎会を開くときに行わせてもらう。それまでは鎮守府内で自由に過ごしていてくれ。部屋については明石に説明を頼んである。明石、頼んだぞ」

俺は明石の方向へ振り返った。

「了解です!ドイツ艦の皆さん、あきつ丸さん、ついて来てくださいね」

明石が先導して歩き始めた。

「総員、敬礼っ!」

俺たちは再度敬礼をし、彼女らを見送った。その時、ビスマルクがすれ違いざまに呟いた。

「あとで執務室へ向かわせてもらう」

と。

~~~~

 

 

~~~~

数時間後、ビスマルクが執務室でボケーっとしていた俺の所へ来た。

「んで、何の用かな?」

俺が姿勢を正して聞いた。

「なぜ鎮守府内に深海棲艦がいるのだ?それもボス級の個体がゴロゴロと。どういう事か説明してもらおう」

「あっ……説明忘れてたっ…!?」

その後、事の経緯をビスマルクに説明した。

~~~~~

「なるほど…そういう事ならわかったわ。頼もしい味方って事ね。このことはあきつ丸さんにも伝えておけばいいかしら?」

「あぁ、頼む」

どうやらビスマルクが警戒していたのは出迎えの時に深海棲艦の姿が見えたせいだったようで、謎が解けてからは笑顔まで見せるようになっていた。

「それと…一ついいかしら」

「…?なにかね?」

ビスマルクが多少顔を赤くしながら小声で言った。

「あの…私ってドイツ艦のまとめ役的なポジションにいるでしょう?みんなの模範となるように行動しなきゃいけないの。それでいろいろとストレスがたまっちゃうわけ。…だから…」

「だから、どうした?」

俺は促した。

「たまにでいいから、私の愚痴を聞いてくれないかしら」

と、ビスマルクは恥ずかしがりながら言った。

それに対し、俺は微笑んで答えた。

「何だ、そんなことか。俺でよければいつでも相談相手になる。それと、さっきの挨拶の時の性格は本当の君じゃないだろう?ここでは本当の君を出すことをお勧めするよ」

「なっ…なんで私の本当の性格を知って…あっ」

これで分かった。ビスマルクは結構子供だ。俺はニコニコ笑いながら付け足した。

「それに、この鎮守府には青葉(パパラッチ)がいるから、その仮面が外されるのも時間の問題だろう。自分を偽らない方がいいぞ」

俺の言葉にビスマルクは笑った。

「そうね、そうするわ!じゃあね、Admiral!」

そう言うとビスマルクは上機嫌で執務室を出て行った。

 

後日、邂逅時から180度近く変わったビスマルクの性格に目を白黒させるものが続出したのはまた別の話だ。

なお、ティルピッツはそんなビスマルクの世話を焼く苦労人であったことをここに記しておく。

 

 

~外伝(笑)~

現在は午後七時、晩御飯を終え、俺は工廠に来ていた。

明石と夕張には事前に集合するように呼び掛けてあったので、現在工廠には三人(開発バカ)が勢ぞろいしている。

「さて…」

俺が口を開いた。

「大本営より資材が山のように給与された。その数なんと各1,000,000だ。…あとはわかるな?」

俺がそういうと、明石と夕張が待ってましたとばかりに口を開いた。

「開発と!」ヒャッハー!

「改修だ!」ヒャッハー!

この後、工廠に籠りすぎたせいで大淀や吹雪に三人そろって怒られたのはいい思い出である。




さぁて、フューラーは何なんでしょうねぇ?


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17

ドイツ艦着任の翌日の朝、鎮守府の執務室にとある人物が(ドアを蹴破って)やってきた。

「admiral!出撃はいつなの!?」ドアバァン!

「ノックをしろ!この脳筋が!」

ビスマルクである。俺がアドバイス(?)をしてからというもの、ビスマルクは仕事モードで過ごすことをやめ、本来の性格で生活することにしたらしい…が…

「で、まだなの?」

普段の性格と仕事モードの性格が違いすぎて二重人格という二つ名を与えられたらしい。まぁ、そうなるな。

「はぁ…この後十時から大規模演習をやるから、それで満足してはくれないか?」

演習、と聞いてビスマルクの表情が引き締まった。

「了解した。ドイツ艦の皆にも演習の旨を伝えておく。では、失礼する」ビシッ

ビスマルクはきっちりとした敬礼をし、機械のような動作で執務室を出て行った。

「ほんっとに…二重人格だよなぁ…」

残された俺は椅子に背を預け、天井を仰ぎ見ながらそうつぶやいた。

「…誰もドイツ艦の演習をやるとは言ってないんだけど…まぁいい、特殊編成でやってやるか…」

俺は机上に視線を戻し、対ドイツ艦用の編成を考え始めた。

 

 

 

~ドイツ艦寮~

ビスマルクが帰還した。

「皆聞け!本日午前十時より鎮守府内での大規模演習を行う!各自入念に準備をしろ!第三帝国の底力を見せる時だ!かかれ!」

「了解!(姉さん…仕事モードだと私は苦労しないんだけどな…)」

「Verstanden!(仕事モードのビスマルク姉さま…かっこいい!普段どのギャップがたまらないわぁ~)(恍惚)」

「了解!”戦艦として”頑張るぞ!(ビスマルク…こういう時はかっけえんだけどなぁ…)」

「腕が鳴るな…(ビスマルク…普段はどうしてああなのだ…)」

「…了解した(仕事モードON)」

「初の実戦が演習か…あまり暴れられなさそうだな…(まぁ、手は抜かないが)」

各自の思いを心の内に秘めながら、ドイツ艦は準備を開始した。

 

~~~~

 

 

 

~~~~

時刻は午前九時五十分、爽籟の中で演習に参加する全艦が勢ぞろいした。

俺は一歩前に出て、始めの挨拶を開始した。

「本日は、ドイツ艦VS日本艦の大規模演習を行う!ドイツ7艦、日本12艦の戦いだ。ドイツは数的不利ではあるが、最善を尽くしてほしい、以上!準備にかかれ!」

全員がこちらに敬礼してから待機場所へと移動を開始した。

そして十分後、鎮守府前海域に全員が揃った。

ビスマルクが一歩前へ出てきて宣言した。

「ドイツ側、ビスマルク、ティルピッツ、プリンツ・オイゲン、ドイッチュラント、グラーフ・ツェッペリン、U-511、フューラー、以上七隻だ」

「日本側、大和、武蔵、長門、赤城、加賀、利根、神通、北上、綾波、吹雪、伊168、俺、以上十二隻だ」

俺がそう宣言すると、ビスマルクは一瞬不思議そうな顔をしたが、やがて思い出したのか、下がっていった。

昨日のうちに、姉さんのこと、俺のことをほとんど話しておいたのだ。

「今から五分後に開始する。それまでに配置についてくれ」

「了解した。では」

ビスマルクはそう言って、艦隊の方へ戻っていった。

「陣形と作戦を伝えてくれ」

俺が艦隊の方へ戻ると、武蔵が尋ねてきた。

「あぁ、陣形は複縦陣モドキ、先頭に大和、武蔵を置くようにして、二人の後方に長門、その後ろに利根と俺、神通と北上、綾波と吹雪、赤城と加賀、伊168の順に並んでくれ。」

 

~図解~~~

 

   大和  武蔵

 

     長門

 

   利根  伊吹(提督)

 

   神通  北上

 

   綾波  吹雪

 

   赤城  加賀

 

     伊168

 

 

~~~~~~

 

「作戦は簡単だ。空母による偵察兼攻撃の後、戦艦組と重巡で砲撃を加える。そこらへんで機関に支障をきたす艦を出させる予定だ。速力が遅くなったところに魚雷を叩き込んで沈める。もし速力低下がみられない場合は、一か八かで撃ってくれ」

「了解した。U-511はどうやるつもりだ?」

「それについては問題ない。今回綾波と吹雪には爆雷を多めに積んできてあるから、U-511の対処は大丈夫だろう」

伊168(イムヤ)は何をすればいいの?」

「味方が仕留めきれなかった敵を、沈めろ(大破判定にしろ)」

「了解!」

 

~ドイツ側~

「陣形はグラーフを中心に輪形陣、U-511(ユーちゃん)はいつも通りグラーフの真下でお願いするわ」

「…了解した」

「(仕事モードのお二人…ギャップ萌えですね!)」

「詳しい配置はこうよ。私を旗艦に後ろにティルピッツ、その後ろにグラーフ、その右にドイッチュラント、左はプリンツ、最後尾はフューラーよ」

 

~図解~~~

 

      ビスマルク

 

     ティルピッツ

 

プリンツ  グラーフ  ドイッチュラント

 

      フューラー

 

(グラーフの真下)U-511

 

 

~~~~~~

 

「作戦はいつも通り、最初は私とティルピッツが長距離射撃、敵が詰めてきた場合はプリンツとドイッチュラントで敵の掃討をお願いする。グラーフを護る事を最優先にするように。敵が後退していったところをフューラー、よろしく頼んだぞ」

「あぁ、任せておけ」

「U-511はプリンツたちと同じ役割。敵艦をグラーフに近づけないように、いいな?」

「了解だ」

 

 

 

五分が経過し、乾いた音を立てて花火が上がった。

両陣営で、それぞれ声が上がった。

 

「「戦闘、開始ッ!!」」




今回は導入編です。本編は次回書きます。


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18

「敵機上空!左舷前方、距離六〇〇!」

大和からの報告が飛び込んだ。

「こちらも敵艦隊発見です。同じく左舷前方、距離一五〇〇」

赤城が偵察結果を報告してきた。

「空母を後方に配置、戦艦、重巡は前へ!取舵に転舵、始めッ!」

俺の飛ばした指示で艦隊が慌ただしく動き始めた。

「赤城、加賀、攻撃を開始しろ。その他は対空戦闘用意!」

景山ー改が唸りを上げて飛び立つ。

それと同時にJu87が飛来し、急降下体制へと移行した。

「各艦バラバラになれ!回避行動急げ!」

俺らは1~2艦単位になって散開した。

不気味なサイレンを奏でながらJu87が空母、戦艦などの大型艦めがけて突っ込んでくる。

 

 

真っ先に標的となったのは武蔵だった。

 

 

「ほぅ…私を狙うか…高角砲、対空機銃、掃討開始ッ!」

不敵な笑みを浮かべつつ射撃を開始する。

軽快な金属音とわずかな反動と共に幾重もの火箭が急降下中のJu87に殺到した。

ある機は爆炎に包まれ、ある機は僚機と衝突し、ある機は翼が根元から吹き飛んだ。

だが、圧倒的な火力をもってしても、すべてのJu87を葬り去ることは不可能であった。

十数機のJu87が爆弾を投下した。

「…ッ!」

武蔵の周囲に水柱が何本も聳え立った。

「何とか…耐えきったか…」

至近弾は数発受けたものの、目立った被害は特になく、戦列に復帰しようとした時だった。

………!

「‥‥ん?何の音だ…?」

僅かではあるが、敵艦隊が確認された方角から高周波が聞こえてきたのだ。

しかも、その音はだんだん大きくなっている。

「主砲、三式弾装填。いつでも発射できるようにしろ。全砲塔、左舷90度」

高周波は左舷遠方より聞こえてきている。そして、ついにその正体が明らかとなった。

「…!Me.262(ジェット機)…爆装か…!」

Me.262はレシプロ機であるJu87とは比べ物にならない速さで水面すれすれの低空を飛んでいる。

(水跳爆弾か…?まぁいい、撃ち落としてくれる!)

「目標、九時の方向敵機集団、()ッ!」

46㎝三連装砲塔三基が轟音と共に三式弾を射出する。それに伴い機銃や両用砲も射撃を開始した。

射撃から数秒後、海面近くで黒煙を伴う爆発が多数確認できた。三式弾や、VT信管を装備する砲弾の物だ。

「…やったか…?」

が、その期待も虚しく黒煙を切り裂いてMe.262が飛来する。

「…ッ!?次弾装填急げ!」

高周波と共に轟音が聞こえ始める。

「まずい…近いぞ…よし、撃ッ!」

斉射と、先頭のMe.262の爆弾投下はほぼ同時であった。

三式弾は先ほどよりかなり近い位置で炸裂した。

先頭のMe.262が三式弾の手を逃れ頭上を亜音速で飛びぬけた。

が、その後続機は三式弾やVT弾によって次々と墜とされていく。

「…ッ!大和型の舷側装甲、なめるなよ!」

水跳爆弾が一発左舷に命中したが、被害はほぼゼロ。掃討射撃は続行された。

Me.262の残存機体は数機ほど。

(勝てる!)

武蔵はそう確信した。

一機のMe.262が10㎝砲を正面から喰らい、爆発四散した。

その僚機を避けたもう一機がエンジンから火を噴き、墜落した。

(よし、残りは2機……!?)

残存機体を見て、武蔵は固まった。

今までの機体の下には少し大型の丸っこい爆弾が付いていたのだが、残存2機中1機はそれをつけていなかった。その代わりに翼下に細長い筒を8本、装備していたのだ。

ここまで接近されてはもう三式弾は使えない。舷側火器で何とかするしかないのだ。

思考時間、僅か数秒、だが、その間、掃討射撃が疎かになってしまった。

一機のMe.262が翼下の円筒を切り離した。

円筒は無音でこちらへ迫ってくる。

刹那、第二砲塔に火柱が聳え立った。

「…くッ…!」

しかし、円筒…もとい墳進誘導弾(ミサイル)は8発発射されたのだ。

続けざまに副砲基部、艦橋、煙突、第三砲塔から火の手が上がった。

そして、墳進砲弾特有の推進音と爆発音は被弾後にやってきた。

(音速を超えていたのか…!?)

衝撃の事実に驚愕しながらも、視線はしっかりと敵機を捉えている。

「勝ち逃げなぞ…させぬ!」

唯一無事だった第一砲塔を名いっぱい左舷側に旋回させ、三式弾を放つ。この距離だと自分にもダメージが入るが、今の状況ではそんなことは言っていられない。

墳進誘導弾搭載機が三式弾をもろに喰らって消えた。

そして、その三式弾の破片は後続の最後の一機も捉えた。

破片が左翼を直撃し、根元から吹き飛ばしたのだ。

機体が反動で回転しながら上空へ押し上げられた。

「よしっ!」

だが、その機体はちょうど爆弾を投下するところだったらしく、水跳爆弾は水面に落ちることなく、宙を舞った。

「まずい…この軌道は…!?」

錐揉み状に回転していた機体が艦橋に直撃した。

「うッ……」

思わず呻いた。

さらに悪いことに、被弾炎上中の第二砲塔基部へ宙を舞った水跳爆弾が飛び込んだ。

刹那、被弾時の爆発とは比べ物にならない爆発が起こった。

炎上中だった砲塔は吹き飛び、船体が第二砲塔を基軸として歪んだ。

(これは演習のため、船体の歪みで済まされたが…実戦だったら私は…)

薄れゆく意識の中で武蔵は身震いをした。

 

 

~鎮守府~

 

 

{戦艦武蔵、重巡利根、軽巡北上が大破により航行不能、救護班の曳航で鎮守府へ帰投する}

{戦艦ティルピッツ、重巡プリンツ・オイゲンが大破により航行不能、救護班の曳航で鎮守府へ帰投する}

 

 

演習開始からわずか1時間、日本艦隊にとってはこの上ない最悪の報告が飛び込んできた。

鎮守府で待機していた救護班の艦娘らがざわついた。

「あの武蔵さんが…?」

「あの人戦闘で中破以上になったことないじゃない…!何があったのよ…」

「そんなことより、救護に向かいますよ!」

「「はい!」」

(ドイツの皆さんの事も心配してあげようよ……)

 

 

 

 

~ドイツ艦隊~

「敵戦艦、武蔵の沈黙を確認した」

グラーフがビスマルクへ報告した。

「その他の戦果は?」

ビスマルクが振り向きもせず、そっけなく聞いた。

「重巡利根、軽巡北上も同様に沈黙。だが、私はこれ以上の攻撃はもうできない。艦載機がないんだ」

「グラーフ…少しは残しとこうぜ…」

ドイッチュラントがあきれたようにグラーフを見た。

「結果は残したから大丈夫よ。ただ問題は‥‥」

そこでビスマルクはようやく振り返ってため息をついた。

「あの景山-改(やたら速い雷撃機)にティルピッツとプリンツをもっていかれたのが痛手ね…」

その時、無線が入った。

「こちらU-511。敵艦隊を発見、攻撃許可を」

その知らせにビスマルクは少し表情を明るくし、答えた。

「無差別攻撃を許可する。私たちが着くまで、よろしく頼む」

そう言って無線を切った。

 

 

「さぁ…本当の戦いはここからよ…admiral!」

 

 

そう叫んでビスマルクは水平線の先を睨んだ。




やっべぇ、演習終わんねぇ


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19

前回描写がないままに退場となった利根さん、北上さん、プリンツさん、ティルピッツさん、ごめんなさい文章力が足りなかったんです許してください何でも島風


「各員被害状況を報告しろ!」

俺は無線に向かって怒鳴った。

先程、50機を優に越すJu87によって目の前で利根が大破するのを見た。被害が利根だけのはずがない。

散開してバラバラになった艦から複数の報告が飛び込む。

「こちら大和、長門共に被弾なし、というか敵機が来ませんでした」

(とりあえず主力は無事のようだな…)

俺が安堵しているとさらに報告が飛び込んできた。

「こちら一航戦、両方とも被害なし」

「よし」

「こちら吹雪、綾波ちゃんとイムヤちゃん共に被害なし、です!」

(よし…被害は利根だけで終わらせられたか…?)

俺のそんな淡い期待は次の瞬間に飛び込んできた報告によって見事に消しとばされた。

「北上さんが大破!撤退しました!」

「ダニィ!?」

(重雷装巡洋艦が居なくなった…これはかなりの痛手だな…あとは武蔵だな…)

そう考えながら、武蔵からの報告を待つも、一向に報告がない。

(っかしぃなぁ…無線機がやられたか?)

1分、2分、いくら待てども武蔵からの打電はない。

「全艦集合、隊列を組みなおせ!」

俺は一旦艦隊を集合させることにした。

その言葉で全員が元の場所へと戻ってくる。

「提督、武蔵はどうしたんだ?」

戻ってきた長門が怪訝そうな顔で尋ねてきた。

「分からないんだ。無線での報告がないんだ…」

そう返した時、無線にノイズが走った。

「…ら…ん。…を……た!」

俺は無線機を引ったくるように取り、怒鳴った。

「武蔵か!?応答しろ!」

だが、俺に突きつけられた回答は無慈悲なものだった。

「こちらは救護班!大破した武蔵さんを保護しました。以上!健闘を祈ります」

空気が凍ったようだった。誰も喋らず、微動だにしない。聞こえてくるのは波の音と風切り音だけだった。

「武蔵が…大…破…?」

大和が絞り出すようにか細い声で呟いた。

「なん…だと…」

長門が呆然としている。

武蔵が大破して戦列を離れた事は痛手ではあるが、数ではまだ勝っており、勝機もある。問題は…

「あの武蔵さんが…?嘘でしょう?」

「吹雪ちゃん落ち着いて…」

「……」

「か、加賀さん、まだ負けたわけじゃ…」

士気低下である。尋常じゃないまでの士気低下だ。

失礼ではあるが、駆逐艦や軽巡がやられるのならさほど士気低下には繋がらない。

だが、戦艦、それも大和型が大破に追い込まれたのだ。まぁ…

「奴らは…沈める」

武蔵の姉妹艦である大和は復讐心に駆られているが。

「大和、一応味方だからね!?沈めちゃダメだぞ!?」

本気で味方を殺しかねない眼光をしている大和に声をかけるが、聞こえていないようだ。

そんな俺の苦悩とは裏腹に海上は涼しい風が吹き、とても気持ちいい天候だった。

(もう演習やめて帰りたい…空はこんなにも蒼いのに…)

俺がそう悩んでいた時、無線が入った。

「こちら伊168、敵艦隊を射程圏内に捕捉。敵艦にこちらを攻撃できる艦は認められず。攻撃許可を」

また凶報か、と一瞬身構えたが、そんなことではなかったので安心した。

「許可する。空母はもう残存機数がないはずだ。戦艦から狙え」

「了解したわ」

無線が途切れる。俺は気を取り直して皆に向き直り、話し始める。

「武蔵がやられたが、まだ負けたわけではない。それに、イムヤが敵艦隊を発見、位置情報をこちらへ送ると共に攻撃もしてくれるそうだ。我々も負けては居られない。皆が落ち込む気持ちはわかるが今はやる時だ。これより敵艦隊への突撃を敢行する…いいな?」

みんなは無言で頷いてくれた。大和以外は不安げな顔ではあるが、覚悟は決まったようだ。

「全艦、大和の速度に合わせろ。前進!」

「了解!」

士気がある程度回復したことに俺は満足して前進を開始した。

だが、俺たちは忘れていた。

深海の暗殺者(U-511)が確認できていないことを。

不意に吹雪が顔をこわばらせた。

「どうしたの?吹k…」

神通の声に被せるように吹雪は悲痛な声で叫んだ。

「う、右舷よりスクリュー推進音!魚雷…6本きます!」




なんだろう…なんか上手く書けない…


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20

過去の事とか出て来ますが、史実とは違ってこちらの世界線での出来事なのでお気になさらないようにお願いします


「う、右舷よりスクリュー推進音!魚雷…6本きます!」

吹雪の叫びに皆が凍りつく。

「回避行動急げ!」

急いで回避行動を取ろうとするも、舵が効き始めるにはまだかかる。

吹雪がまた叫んだ。

「全弾、赤城さんと加賀さんに向かっています!」

それを聞くや否や、赤城と加賀が何かを悟ったような顔をし、弓を構えた。

「な、何を…」

「「艦載機、全機発艦!」」

刹那、空気を押し除けながら艦載機達が飛び出していった。

全機発艦を見届けた2人は、俺の方を向いてこう言った。

「提督」

「後は、頼みました」

俺が声をかけるよりも早く赤城と加賀の舷側に至近弾のそれとは比べ物にならない大きさの水柱が上がった。

「…ッ!」

その衝撃波に思わず俺は目をつぶった。

水柱が消え、視界が確保出来た時、もうそこには救護班が到着しており、曳航を始めていた。

不意に後ろからくぐもった爆発音が聞こえてきた。

「!?…あぁ、爆雷か」

どうやら駆逐艦が爆雷の投射を始めたようだ。

(これでもう大丈夫だな)

俺はそう思った。なぜなら吹雪と綾波の対潜能力は対潜値(ステータス)が低いにもかかわらず命中精度が高い、との評判を耳にしていたからだ。

が、現実はそう甘くはなかった。というより、U-511はかなりのやり手であった。

「スクリュー音遠ざかります…逃げられました…」

「う~ん…当たった気がしたんだけどなぁ…」

二人は残念そうな顔をしていた。

どういったテクニックを使ったのかは知らないが、逃げられたのは事実だ。また急に襲ってくる可能性もあるが、それの警戒のためにここで立ち止まっていてはドイツ水上艦隊に接触できない。なので、

「対潜警戒しつつ前進!少しでも水中聴音機に異変があったら知らせろ!」

「了解!」

 

 

 

~ドイツ艦隊側~

「水中聴音機に感あり!U-511ではない、伊168だ!」

ドイッチュラントが報告した。

「…来たわね…敵はこちらに対潜攻撃能力がないと思っているはず。だから絶対至近距離から当てようとしてくるわ。そこが狙い目よ…見せてやろうじゃない、敵を良く調べずに侮ってかかるとどうなるのか…」

目深にかぶっていた軍帽を指で押し上げ、ビスマルクは不敵に笑った。

「ドイッチュラント、対潜迫撃砲(Lgel Mk.15)用意。目標に確実に当てられる距離になったら発射しなさい」

「了解!」

 

~海中~

「相手艦隊には戦艦や空母のみ。一方的に攻撃できるわ…」フフッ

伊168は完全に油断していた。それもそのはず、対潜攻撃が可能とされる艦が元より一隻も編成に入っていなかったからである。

「提督は油断はするなって言ってたけど、まぁ、大丈夫でしょ!どうせなら至近距離から魚雷を撃って驚かせちゃおっと」ニシシ

伊168は前進を開始した。その先に地獄が待っているとも知らずに。

 

 

~水上~

「伊168接近、至近距離から撃とうとしているな、これは」

ドイッチュラントが呆れを含んだ声でそう言った。

「容赦はするな。殺れ」

ビスマルクがノールックで言い放った。

「味方だっての…よし、Lgel発射ァ!」

ドイッチュラントがそう叫ぶと同時に、軽い金属音と射出音がコンマ数秒置きに断続的に続いた。

「さぁ、どう避ける…?」

「…伊168も可哀そうだな…」

グラーフが苦笑いでつぶやいた。が、その余裕はドイッチュラントの報告よって消えることになった。

「グラーフ!伊168が魚雷発射!航跡が見えない、酸素魚雷だ!」

「なっ…!回避…」

回避行動、と言い終わらないうちに魚雷は到達し、グラーフの舷側に艦橋より高い水柱を上げた。

伊168が至近距離で放った魚雷は装甲区画をいともたやすく食い破り、大穴を穿つ。やがて、浸水が始まった。

「機関室に浸水!まずい…私の機関に浸水は…」

グラーフが青ざめた。次の瞬間、機関室付近で青白い火花が二、三度散り、大爆発を起こした。

ドイツ本国で速力上昇のためにハイブリッド機関に換装したことが仇となったようだ。爆発に加え、燃料漏れによる大火災が始まった。判定は、大破だ。

「グラーフ!………ドイッチュラント、Lgelは着水したか?」

ビスマルクがまだ少しの余裕を残した表情でドイッチュラントの方を振り返った時、ドイツ艦隊にさらなる凶報が舞い込んだ。

「こちらU-511。補給のため深度潜航状態を解除し、そちらの付近に浮上する。以上(オーヴァー)

今度こそ、ドイツ艦隊から余裕が消えた。

「まずい!同士討ちになるぞ!」

「今から発射したLgelを撃ち落とせたりは…

「できない!今着水した!」

…そんな…」

「U-511!U-511!…無線封鎖してやがる…こんな時まで徹底するんじゃねぇよ!」

ドイッチュラントが無線で呼びかけるも反応はない。

爆雷と違い、Lgelは着水してからの展開が早い。

「まずいな…戦力差が…」

次の瞬間、数十発のくぐもった爆発音が海上に届いた。伊168に逃げられないよう、広範囲にばらまいたのでU-511も被弾は免れないはずだ。

爆発音がやんだ海上には重苦しい雰囲気が漂っており、そのせいかやたらと風が強く感じられた。

「ドイッチュラント…結果は…?」

数秒の沈黙の後、ドイッチュラントが口を開いた。

「敵、味方ともに潜水艦の反応が消滅…まぁ演習だから沈みはしないが…やっちまった…同士討ちするとは…」

「やはりだめだったか…この教訓を実戦に生かせ。U-511とはもう少し連携をとる必要がありそうね」

ビスマルクは蒼天を仰ぎ見た。

「快晴…U-511がいなくなった今でもやれるかもな…計画B(プランB)

「はぁ!?誰がU-511の役目をやるんだよ!もうこちらは三隻しか…」

ドイッチュラントがまくしたてる。

「私がやる。貴女は生き残ることに専念しなさい。一隻でも多く残っていた方が勝ちだ」

「‥‥私の誤射でこうなっちまったんだ。私が行こう」

「…許可できない。この役目を果たせるのは…」

「私だってできる!そうだ、いつもこうだ…」

ドイッチュラントは俯いた。ビスマルクは表情を変えずにそれを見守っている。

「いつもこうなんだ!作戦の要所は必ず他の奴らに任せる。本国にいたころからそうだった。私だって…私だってみんなの役に立ちたいんだよ!まして今回の作戦の要所を破壊したのは私だ。私を行かせるのが筋じゃないのか!?」

ドイッチュラントの心の叫びにビスマルクは多少眉を動かすも、肯定する気はないようだった。

「私はもう…私はもう役立たずなんて言われたくないんだよ!」

「あなたは役立たずなんかじゃ…」

咄嗟にフォローに入るが、ドイッチュラントは止まらない。

「黙れ!あんたに何が分かる!?先の大戦では大活躍だったじゃないか!あんたに…ろくに戦果も出せずに貶されながら放棄された私の何が分かる!」

海上に沈黙が訪れた。

やや強めの海風が二人の間を吹き抜けた。

ビスマルクがゆっくりと口を開いた。

「そうね…確かに私と違って貴女はすぐに沈んだ」

「…ッ!」

「でも、今こうして第二の生を与えられた。今の私たちの強さ、つまり能力値は艦艇時代の戦訓に左右されているわ。…つまり、まだ貴女には要所を任せられるほどの強さは…」

「またそれだ!まだ早い、まだ早いって…私はこの体で目覚めてから人一倍頑張ってきたつもりだ。能力値だって前と比べれば格段に上がっている。どうして…どうしてそこまでして俺を後方にとどめておきたいんだ!?」

「あなたが心配だからよ」

「!?」

ビスマルクの一言に、半泣きで捲し立てていたドイッチュラントが固まった。

「…え?」

「貴女は竣工直後イギリス軍の航空攻撃によって成すすべなく沈められた。作戦の要所は航空機が多く、敵艦も多い。あなたのトラウマが誘発するんじゃないかと思って、これまで前には出さなかったのよ。それに、本当に役に立たないと考えているんなら、遣日艦隊に貴女を編成したりはしないわ」

「え…あ…」

「それに、今回の作戦は本当に難易度が高い。私も大破判定を受けるかもしれない。演習の勝敗はどれだけ稼働可能な艦が残存しているか、よ。勝利ためにも、貴女は第二の作戦要所に合流して頂戴。それと、貴方が努力してきたのは私がよく知っている……ごめんなさいね、もう少しあなたの気持ちを考えてあげればよかった」

「…こっちこそ、自分の事ばかり言ってごめん…分かった。ビスマルクの案に従おう!」

そう言って二人は微笑みあった。

「さぁ、時間がないわ。私はもう行く、貴女も気をつけるのよ」

「あぁ、心配かけたな。”戦艦”ドイッチュラント、前進!」

 

 

~数分前、日本艦隊~

「酸素魚雷命中!グラーフさんが大破よ!」

「よし、よくやった!」

まだ敵艦隊が見えないため、今は艦隊全員で明石特製ライブカメラでの伊168視点を楽しんで(?)いるところだ。

「敵艦隊には対潜装備がないのか?」

長門が聞いてきた。

「そりゃおめぇ…相手は重巡…もとい戦艦二隻だぞ…持ってるわけが…」

ないだろう、と言い終わる前に伊168からの叫ぶような報告が飛び込んできた。

「敵重j…戦艦が対潜装備発射!それとU-511が接近!…爆雷じゃない!?これは…」

言い終わるよりも早く、俺らの目の前のディスプレイには-OFF LINE-の文字が表示された。

「…持っていたじゃないか」

「…そうだな…全艦!体勢を立て直せ!恐らくU-511はあの対潜攻撃に巻き込まれた。対潜警戒を解いて砲雷戦用意!残りはビスマルク、ドイッチュラント、フューラーだ!要注意はフューラー。あいつは何者だかがわからない。注意しろ」

「提督なのにわからないの!?」

「資料にも載ってなかったんだぞ、仕方ないだろ!?」

素早く陣形を整えることが出来た。日頃の演習の成果と言えよう。

「前方に敵戦艦!ビスマルク、単艦です!」

「…単艦?残りは…」

不意に無線にノイズが走った。

「admi‥l、聞こえ…か、こちらはビスマルク。そちらの座標データをフューラーに送った。刮目せよ!H45級戦艦の威力を!」

「H45ってなんだ…?」

「さぁ…私にはさっぱり…」

日本艦隊がきょとんとする中、俺だけが黙って俯いていた。

「提督…?どうしまs

「全艦、作戦海域より離脱しろ!特に駆逐艦、演習で死ぬことになるかもしれんぞ!」

…えぇぇぇ!?」

俺が言い終わった時、弾体の飛翔音が鈍く響き始め、さらに38㎝級の砲弾の音も交じりだした。

「全速前進、止まるな!進み続けろ!」

刹那、轟音が響き渡り、綾波、吹雪、長門が巻き込まれた。

「無事か!?」

水柱が収まるより早く、無線で呼びかけるが、返事がない。十中八九、というか確定で大破だろう。

{駆逐艦綾波、吹雪、戦艦長門、大破!}

アナウンスが響き渡る。

「たった一回の射撃で命中させて、全艦大破ですって!?H45級…何者なの…」

大和が驚愕の声を上げ、その後呻くように呟いた。

「H45級…80㎝連装砲四基8門…速力を除くすべてのステータスが大和型を超越している艦だ…勝ち目が…ない…!」

「80㎝…」

「連装砲…四基!?」

残存する日本艦隊側の艦娘が目を見開いた。

 

日本艦隊、伊吹(提督)、大和、神通

ドイツ艦隊、ビスマルク、ドイッチュラント、フューラー

 

日本艦隊は今、窮地に立たされていた。

なにしろ目視で確認できるのはビスマルク一隻のみ。だがフューラーの砲弾は飛んで来ており、ドイッチュラントの姿は見えない。演習は敵より大破が少ないことで勝利が決まる。今は絶望的に不利な状況だ。

「ハハハ…今回は…俺らの負けだな。降参しよう」

「!?提督、何をおっしゃるんですか!?」

「一矢報いないんですか!?」

神通と大和に猛反対される。まぁ当たり前か。

「よく考えろ。今見えるのはビスマルクのみ。対してこちらは全艦フューラーの砲撃にさらされている状況だ。演習は相手を大破判定にしないと勝利にならない…あとは分かるな…?」

「「……」」

二人は理解したようだった。

俺は無線を取り、ビスマルクに連絡する。

「ビスマルク、聞こえるか、こちらは提督。勝ち筋が薄いと判断し、降伏の申し入れを要請する」

数秒後、返事が返ってきた。

「貴様それでも大和男児か!?根性を見せろ!」

「根性論でどうにかなる状況じゃねぇだろ!?分からんのか!?」

「分からん!」

「分かれ!」

ビスマルクの落ち着いた雰囲気が一変、いつものビスマルクが見えてきた。

たがいに無線越しに言い合いをしていたところにアナウンスが入った。

 

{演習終了!時間切れ!ドイツ無傷艦3、日本無傷艦3、よって引き分け!}

 

「‥‥‥終わっちまったよ」

「‥‥‥どうせなら全艦大破に持っていきたかったわ‥」

 

 




微妙な終わり方だな?と思ったそこの方、一航戦の艦載機どこいった?と思った方。モチベが下がってきたのでいったんここまでにしただけです。次回に少しつながる予定です(予定)


最後まで見てくれてありがとうございました。

Lgel Mk.15
ドイツ版ヘッジホッグ
スタビライザーと旋回性能を持つ。

計画B(プランB)
単艦が敵艦隊の座標を送り、そこに向かって支援砲撃をするという作戦(大雑把)


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21

現在時刻は午後一時。日が高く、光線が最も眩しい時刻だ。

本来ならこの眩しい光線と襲い来る熱気のせいで(自分が)溶けている時刻なのだが、今は違う。なぜなら…

「クーラーって強いな」

「それには同感です」

赤城が頷いた。

そう、ついに待ちに待ったクーラーが配備されたのだ。演習中に。

そして今俺の目の前には鎮守府第四航空隊…最後に発艦したはいいものの味方の支援をせずに鎮守府へと帰投していた部隊の奴らだ。

俺はそいつらに向き直って、重い口調で話し始めた。

「今から言う質問にすべて正直に答えろ。嘘を言った瞬間そいつには消えてもらう」

「!?提督、それは…」

「赤城、黙れ。さて、一問目だ。なぜ支援をせずに帰投した?」

俺が質問した直後、航空隊の隊長と思しき人物…もとい妖精が一歩前に出て答えた。

「戦う理由がないと判断しました。こちらには新人も多かったため…」

「ふざけるな!」ダァン!

俺は思わず机を叩いて立ち上がって航空隊の面々を睨んだ。

「ヒッ…で、ですが、あれは演習でしたし、別に勝たなくてもよかったんじゃ…」

「お前ら…俺が何で怒ってるかまだ分からんのか?」

「…演習に勝てなかったからですk

「んなわけねぇだろ!?テメェらのその根性だよ!気に食わねぇのは!」

‥‥‥」

「新人が多いから帰投した?お前らの航空隊は半数以上実戦経験が豊富な奴らばかりのはずだ!もし新人だったとして、その技術を向上させるための場が演習じゃないのか!?おい、違うか!?」

「‥‥‥」

航空隊は黙ったまま何も言わない。俺は続ける。

「戦う理由がない?なぜだ?お前らは何のためにいる?実戦で怖くて逃げだしたのならまだ理解の余地がある。だが今回は演習だぞ!?死ぬことはない。もし演習相手に到達することがなかったとしても隊列飛行の練習などにはなったはずだ…さて、お前らの口から本当のことを話してもらおう。なぜ帰投した?」

俺は言いたいことを言いきり、航空隊に話を振った。

「……怖かったんです…俺らの部隊は実戦経験があると言っても前鎮守府で空を飛んだことはありませんでした。積まれていただけなんです…それで…初めての戦いで…怖くて…」

絞り出すように隊長は言った。

「……え、マジ?だとしたら俺の確認不足じゃん」

「提督今までの風格が台無しですよ!?!?」

赤城が俺の態度の変わりように音速レベルで早いツッコミを入れてくる。

「シリアスとは時に短命なのだよ、赤城」どやぁ

「ドヤ顔しないでください!」

俺は航空隊の方に向き直った。

「……すまんかった!俺の確認不足で怖い思いをさせてしまった…許してくれ…あ、消えてもらうってのはさすがに冗談だったからね?」

その言葉を聞いて胸をなでおろす者が結構いた。相手を脅す時に使えるなこのフレーズ。

こうして謎だった航空隊帰投問題はかなり意外な形で終結した。とりあえず前の鎮守府の責任者は見つけ次第〆ることにしよう。

「提督殿、我々はこれからどこで訓練すれば…」

航空隊が不安そうに発言してきた。

「あ、それについてなんだけど…明石がフライトシミュレーターを作ったらしいから、それで訓練できるそうだ。ゲーム形式にしてあるらしいから、やりやすいと思うぞ」

その質問に対し俺はやさしく返した。

「ご配慮、ありがとうございます。では私らはこれで」ペコ

航空隊の面々は安堵の表情を浮かべ、お辞儀をして出て行った。

「今度埋め合わせになんか奢るからな!」

俺はドアの向こうに言葉を投げかけ、椅子の背もたれに背を預けた。

「……もう少しちゃんと鎮守府の状況を把握するようにしよう」

俺は天井を見上げながら呟いた。

「そうですね。私も知りませんでしたよ…道理で発艦作業が通常より遅かったんですね…あ、それと提督」

赤城が思い出したようにこちらを向いた。振り向いた時にさらさら揺れた綺麗な髪に思わず見とれてしまった。

「な、なんだ?」

見とれていたことを隠すかのように早口で返事をした。

「そのフライトシミュレーターって艦娘でもできます?」

「できるらしいぞ。たしか…ACECOMBATとか言ったk

「それ以上はいけない」

……今のだれの声?」

聞き覚えの無い声に二人して部屋を見渡すが、誰もいなかった。

「まぁいいや、架空の国の戦闘をモデルにした空戦ゲームらしい。見たことない戦闘機たちがあってな、とても楽しそうだったぞ。明石はそれらの戦闘機を作るのが目標とか言っていたな」

「…楽しそうですね、私もやってきます…それと、女性は視線に敏感ですよ?提督」

「えっそれはどういう」

俺の言葉が終わるより早く、赤城は微笑みながら執務室を出て行ってしまった。

 

「えっちょっ…どういう意味…というか執務…俺だけでやるのつらい…」

 

キンキンに冷えた執務室に俺の消えそうな声が虚しく響いた。




今回短いですね、はい。どうも、謎の声の主です。
シリアスにしようとしたけれどしきれなかったんでふざけました。いい加減話を進めたいんで、頑張ります。


エスコンはいいぞ


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22

いろいろ書くのがめんどくさいので、演習があった日の翌日の朝まで、スキップ!
異論は認めない!


現在時刻は朝の五時前。この時期はかなり冷え込み、起きるのが億劫になってくる時刻である。だが、俺の朝は早い。特に今日は早かった。この時期は走り込んでも空気が涼しいせいであまり不快に感じない。その空気を感じたくて、早く起きてしまったのだ。

(さすがにまだ誰も起きてないな…)

そう思いつつ、いつものランニングを始める。空は少し白みがかっており、朝靄がそこら中に大量発生している。

走る俺の口から白い息が漏れ、靄と一緒になって消える。

(靄がかなり濃いな……あれ…ここはどの辺だ?)

今日はやけに靄が濃かった。濃霧に引けを取らないレベルの靄に視界を遮られ、自分が今どの辺を走っているのかがわからなくなってしまった。

(鎮守府の角はこの辺…あぁ、あったあった。一瞬迷ったかと思って焦ったよ)

見慣れた鎮守府の角を発見し、俺はそちらへと体の向きを変えて走り出す。

やたら濃い靄に悩まされながらもノルマ分の周数を走り終え、鎮守府の中へと入ろうとしたとき、視界の端の靄の中にある人物が映り込んだ。

海軍の軍服とは違う軍服に身を包み、艶やかな黒髪をショートカットにしている艦娘。

つい最近ドイツ艦と一緒に転属してきた揚陸艦”あきつ丸”だ。陸軍所属の艦娘という事で皆となじめるかどうかが心配の種だったが、持ち前のサバサバした性格と人懐っこい笑顔で皆の輪の中に溶け込んでいたのでそれは杞憂に終わったのだった。

そんな彼女がこんな朝早くに鎮守府の外で何をしているのだろうか。走ってはおらず、歩いているのでランニングではないだろう。

「おーい、そこにいるのはあきつ丸か?何をやっている?」

俺は不思議に思って声をかけた。が、

「…」クルッ…フイッ

「ッ!?」

彼女は一瞬だけこちらを振り向き、また向こうを向いて歩きだした。

下半身が靄にかき消され、上半身と顔だけが何とか視認することが出来た。

その一瞬だけ見えた顔が、いつものあきつ丸ではなかったことに俺は戦慄した。

(眼に光がなかった…あんな冷たい表情は初めて見たぞ…)

俺は何か背筋に冷たいものが走るのを感じた。

(行ってみよう…)

俺は不安な気持ちを抑え込み、あきつ丸が消えた靄の中へと歩き出した。

靄の濃さは先ほどの比ではない。数メートル先を視認するのが困難なレベルだ。

(おかしい…明らかに不自然だぞこの靄…)

不自然だとは思いながらも、なぜか俺は足を進める。戻ることはできるはずなのに。

靄…と言うより煙と言った方が正しい表現かもしれない。その中で俺はあきつ丸の背中と思しき動くものを見つけた。

「あきつ丸!」

俺が大声で呼ぶも、あきつ丸は振り返らない。

あきつ丸が鎮守府の角を曲がった。彼女の姿が建物の陰に消える。

俺は小走りになって追いかけ、角を曲がったところで立ち尽くした。

「……い、いない…?」

先ほどまで確実に見えていた彼女の背中が、見当たらない。

「靄は…?靄はどこへ…?」

それどころか、鬱陶しいほど自分にまとわりついて来ていた靄がきれいさっぱり消え去り、いつも通りの涼しい早朝の景色に戻っていた。だが、今はそれがひどく不気味に感じられた。

(俺は…何を見ていたのだ…?鳥肌がやばい…)

今はただこの場から離れたかった。先ほどから鳥肌が治まらない。

その時、後ろからカサッという草を踏みしめる音が聞こえ、俺の本能が”死ぬぞ”と警鐘を鳴らした。

「ッ!」

咄嗟に俺は反転して距離を取り、腰のホルスターに入れてあった九四式拳銃を抜き取って違和感を感じた方へと構えた。

てっきり俺は何者かが俺の命を狙いに来たとばかり思ったのだが、そこにいたのは…

「て、提督殿!?私が後ろから声をかけずに近づいたのは悪かったですけれど…拳銃を収めてください!」

いつも通りの眼をしておびえるあきつ丸だった。

「あきつ…丸…?お前さっき此処の角を曲がっていったんじゃ…?」

俺は湧き上がる恐怖心を無理やりに抑え込み、平静を装って尋ねた。

「…?いえ、私は朝早く起きたので外の空気を吸おうと思い、外に出てきたところ、提督殿が落としたであろう物が落ちていたので届けようと思って近づいた次第であります」

あきつ丸はビシッと敬礼をし、話した。

「俺が落としたもの?何だそれは」

何も落としてないはずだが…

「これであります。提督殿が歩いたであろう場所に落ちていたもので、提督殿の物かと」

そう言ってあきつ丸は一つの古びたカセットテープを俺に差し出してきた。

「いや…俺のじゃないな…まぁ、預かっておこう」

そう言ってあきつ丸の手からカセットテープを受け取った。先ほどの不気味な一件のせいか、やたらとあきつ丸を警戒してしまう。

「提督殿?手が震えておりますよ?」

あきつ丸に指摘されてしまった。

「あ、あぁ、何でもない、ありがとうな」

俺はぎこちなくお礼を言った。

「それでは私はこれで!」

あきつ丸は綺麗に敬礼をし、ここから見える埠頭の方へと走っていった。

俺は手元に残ったカセットテープをまじまじと見た。テープの表側には”最終記録”と書かれており、それ以外の記述は見当たらなかった。

(大方青葉のデータだろう。あとで彼女に届けるか)

俺は先ほどの事を忘れるように自分に強く言い聞かせ、逃げるようにその場を去った。

 

埠頭の方へ行ったはずのあきつ丸の姿が見えないことに気づかないまま。

 

 

俺は執務室に戻る前にシャワーを浴び、いつもの白い軍服に着替えた。

現在時刻は午前六時前。そろそろ皆が起きてくる時刻なので、鎮守府内が少し騒がしくなる。

姉妹艦を起こす者の怒鳴り声が大半だが。

(いつも通りの朝だな…)

そう考えつつ、長い廊下を急ぎ足で執務室へと向かった。

その後は何事もなく(それが普通なのだが)時は過ぎ、鎮守府の始業時間となった。

 

~執務室~

ドアバァン!「ごめーん、提督!待ったあ?」

「ノックをしろ、口調をなんとかしろ、そして結構待った。何とかならんのか?鈴谷」

今日の秘書官は鈴谷だ。まぁ、こうやって入ってくるのはいつもの事なのでもう慣れたが。

「まぁまぁ、いいじゃん、別にさ。それよりほら、大本営からなんか手紙来てたよ」

そう言っていい笑顔で手紙を差し出してくる鈴谷。

「あぁ、あとで読んでおく。ありがとな」

俺は書類の方に目を向けたまま鈴谷から手紙を受け取った。

「むー、提督ぅ?お礼を言う時は相手の目を見て言うもんだよ?」

鈴谷がむくれて指摘してきた。正論なので何も言い返せない。

「…悪かったな。手紙、ありがとうな」

俺は顔を上げ、鈴谷の方を見て微笑みながら再度お礼を言った。

「え…あ…うん、ありがと…」

すると鈴谷はそっぽを向いてしまった。なぜだ。俺の顔がダメなのか(泣)

「まぁ、午前はまずこの書類の山を片付けるのを手伝ってくれ。昼までに終わらせないと、午後の仕事が出来なくなる」

俺はそう言って文字通り山になっている書類を指さした。

「鈴谷には簡単な書類を割り振っておいたから、楽にできると思うぞ」

それを聞くや否や、鈴谷の目が輝いた。

「マジで!?提督、あざーっす!」

どんだけ仕事したくないんだよ、この航空巡洋艦…

「さぁ、始めるぞ!」

「最上型重巡、鈴谷、いっくよー!」

かくして、怒涛の書類整理が始まった。

 

朝飯?間宮さんの所で食べてきたんだよ。描写がない?気にしたら負けだ。

 

 

あれから数時間、鎮守府に正午を伝える港町の鐘の音が伝わった。

「終”わ”っ”た”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”…」

「し、死ぬかと思ったマジで…」

そんな中、俺たちは机にぶっ倒れていた。

なぜこんなに疲れたのかというと、駆逐艦の子に演習を見に来てくれ、とせがまれ、断れずに観戦に行ったからである。おかげで1.5倍のスピードで仕事をする羽目になったのだった。

「昼飯…行くか?」

「さんせーい、もちろん提督の奢りね」

鈴谷がにやっと笑って言った。

「うっ…仕方ねぇ、奢ってやるよ」

この激務は半分俺の責任なので、断れなかった。

「よぉし、じゃあ食堂いこっか!」

「ウィッス」

俺は鈴谷に急かされ重たい腰を上げ、食堂へと向かった。

 

~食堂~

お昼時という事もあり、食堂は艦娘でごった返していた。

「いやぁ~、混んでるね~!提督、何食べんの?」

鈴谷がメニューを見ながらこちらに話を振ってきた。

「んぁ?俺は日替わりランチセットだ。毎日違う味が楽しめるからな」

俺は券売機で券を買いながら答えた。”じゃあ私もそれで~”と鈴谷が言ったので、追加でもう一枚食券を買った。

 

~数分後~

 

「お待たせしました、日替わりランチセット二つです。あら、提督でしたのね」

間宮さんが料理をカウンターに出してくれた。

「どうも間宮さん。仕事、辛くないですか?」

俺はふと心配になったことを聞いた。この食堂は間宮さん、伊良湖、鳳翔さんの三人だけで切り盛りしているため、いささかオーバーワーク気味だと思ったのだ。

「そんなことありませんよ。毎日やりがいがあって楽しいです。提督も、体調にはお気をつけくださいね」

だが、杞憂だったようで、笑顔で返されてしまった。

「あぁ、気をつけるよ。では」

俺はそう言ってカウンターを後にし、鈴谷が待っているテーブルへと歩き出した。

 

~提督、鈴谷昼食中~

 

「はぁ~、美味しかった~!」

鈴谷が満足そうな顔をしてのびをしている。

俺は午後の大量の執務を思い出して呆然としているところだ。

ふと俺は、鈴谷のほっぺたに米粒が付いているのを発見した。

そして俺は無意識のうちに手を伸ばして米粒を取り、自分の口の中へと入れた。

「ちょっ、提督!?な、な、な、何やってんの!?」

赤面した鈴谷に大声で言われ、ようやく我に返った。

「あっ…すまん…無意識で…すまんかった」

「…まぁいいけどさ。…提督だし」(((ボソッ

「ん?なんか言ったか?鈴谷」

「い、いや、何でもない…///」

ヤバい、怒らせたぞこれは。そっぽを向いてしまった。そりゃそうだよなぁ…何やってんだよ俺…

不意に軽快なシャッター音が響き、見覚えしかねぇ重巡が顔を出した。

「…何しに来た、青葉」

青葉は二カッと笑って言った。

「面白いことがあるところに青葉あり、ですよ司令官!先ほどはかなり大胆な行動をとりましたねぇ!」ニヤニヤ

いつもならこのニヤニヤ顔にイラついて一言二言言い返すところだが、今はそれよりも気になる事を思い出した。

「あ、そういえば青葉、鎮守府の外周にカセットテープが落ちていたんだが、お前のか?”最終記録”と書かれていたが」

青葉のニヤニヤ顔が消えて真剣な表情になった。

「フーム、最終記録?私のではありませんねそれは。よろしければ私も後で聞いてみてもいいですか?そのテープ」

青葉のじゃないのか…意外だった。

「いや、まだ聞いていないんだ。よければ後で執務室で聞かないか?鈴谷も一緒に」

「いいですねぇ!そうしましょう」

「意義なーし」ムスッ

青葉は乗り気で、鈴谷は若干不満げに答えた。鈴谷よ、すまなかった。許してくれ…

 

 

 

~執務室~

 

結局道中で吹雪と赤城が「暇だから」という理由でついてきた。

お前ら…娯楽はないのか…と考えつつも執務室へ到着し、ステレオにテープをセットしたところだ。

「何の曲が流れるんですかね?」

「吹雪ちゃん…絶対曲じゃないと思うよ…」

「私もそう思うな~」

「何が流れるんですかね?楽しみです!」

各々楽しみにしているようだ。…俺は楽しみというより嫌な予感しかしないんだが…

「なぁ、聞いてくれ。実はこのテープな…」

俺は青葉らに今朝体験した出来事を事細かに説明した。最初こそ笑って聞いていたものの、後半になるにつれ、その笑みは消えていった。

「…とまぁ、そういう経緯で俺の下へ来たテープなんだよこれは。それでも聞くか?俺は正直言って怖い」

「き、聞くしかないじゃぁないですかぁ…こ、怖くなんか…」

震えてんぞ青葉。

「す、鈴谷ちょっち怖いかな~…なんて…」

めっちゃ怯えてんじゃねぇか。いつもの威勢はどうした。

「ちょっと不気味ですね、それは」

赤城は割と平気…でもねぇな、目が泳いでやがる。

「……」

吹雪だけが押し黙って震えている。

「吹雪、大丈夫か?」

俺が聞くと、小さい声で、吹雪が話し出した。

「提督…そのテープあきつ丸さんに渡してもらったって言いましたよね?」

不思議なことを聞くな、どうしたんだ?

「そうだが、どうした?」

「いえ…何でも…」

(あきつ丸さん…今朝は私が起こしに行ったはずなんだけどな…)

吹雪の不安げな表情が気になったが、結局、みんなで聞くことにした。

 

「行くぞ…」

俺は恐る恐るステレオの再生ボタンを押し込んだ。

 

カチッ…ジー…

 

〈…最初っから分かってはいた…〉

 

「男の人の声?」

「だな」

 

〈実験が成功すれば…私はもう…〉

 

カチッと俺はそこでいったん止めた。

「提督、どうしたんですか?」

青葉が不思議そうに尋ねた。

「すまんがみんな、これは軍の記録である可能性が高い。秘書艦を除いて全員、出て行ってくれないか」

俺がそういうと、青葉は渋々、赤城と吹雪はいそいそと出て行ってくれた。そして…

「なんで鈴谷は残すのさ!怖いんだけど!?」

鈴谷が半泣きで俺に突っかかってきた。

「うるせぇ!軍に関して漏らしちゃいけないのは分かってるけど俺だって怖いんだよ!お前は道連れじゃ!」

俺も負けじと言い返す。

「ひっど!?…まぁ、それだけ信頼されていると受け取っておくね…怖いけど…」

 

俺は、再びステレオのスイッチを押し込んだ。

 

カチッ…ジー…

 

〈…数日前に書類が軍部に回収された。この実験についての書類、およびデータは陸軍元帥の部屋の金庫だ。回収されるときに小型カメラで追わせたから間違いはない…これから起こるであろう大きな衝突の原因は、この私だ。だがもうじき私はこの世から消えるだろう。…この情報を伝えることは私が出来る一番の罪滅ぼしだ〉

 

「ちょっと待って、話のスケールでかくない?ヤバいんだけど…」

「…黙って聞いてろ。俺が一番怖い」

 

〈…近々、陸軍主催で開かれるであろう集まりでの新兵器紹介、それに気を取られるな。そして…敵襲に、気をつけろ。決して沖合の戦力に主戦力を割くんじゃない〉

 

「陸軍主催の…?まさか、さっきの手紙か?鈴谷、取ってくれ」

「ほーい、はいどうぞ」

俺はいったんステレオを止め、手紙を空けた。

手紙には、”陸海軍親睦会”と書かれていた。

「…ビンゴだな。それに…敵襲…?沖合に割くな?どういうことだこりゃ…」

「鈴谷、一応メモっておくね~」カキカキ

「頼んだ」

 

再度再生ボタンを押す。

 

〈…そして海軍、貴様の敵は深海棲艦だけではない……直に深海棲艦など脅威にならなくなるだろう…陸軍は、ずっと(おか)にいるわけじゃない…〉

 

話しぶりからして陸軍の関係者だろうか、それにしてはかなり事態が深刻そうだが…

 

〈私が開発した……私が…開発してしまったものは………神の盾(AEGIS)……だ…〉

 

「陸軍の技術者かな?この人」

「そうみたいだな」

 

〈…AEGISは革新的な防御システムだ。特殊シールドを地球の大気のように使用者の周りに球状に張る代物だ。後世にこれが残ることの無いよう、シールドの細かい構成要素については一切明かさない。陸軍の上層部も複製することは不可能だろう…ハハハ……さて、そのAEGISだが、こいつは迫り来る敵の攻撃をすべて消す能力、と言うよりは分解する能力が備わっている。人間などの生命体も分解されてしまう…実験済みだ。そして私は過去十数年にわたって人体実験を続けた。陸軍の命令で海軍の艦娘に対抗し得る兵器を作り上げるためだ。そして先日…2XXX年X月X日現在、完成した。近々陸軍は自慢するために親睦会を開くだろう。その時、海軍は近海からの襲撃に気をつけなければならない。襲撃者は深海棲艦だ。私から言えるのはそれまでだ〉

 

「陸軍…人体実験…うっ‥‥」

「て、提督、大丈夫?」

俺は急な偏頭痛に襲われた。

「だ、大丈夫だ…何でもない」

(まさか…この話してるやつが俺を作った張本人…?いや、まさか…)

ステレオは無表情に再生を続ける。

 

〈陸軍の要求を満たすためにAEGISはほぼ完ぺきな状態に仕上げた。だが絶対的な防御装備とは言えない。いや、言えないようにデチューンした。ヒントは…オゾン層、だ〉

 

「オゾン層…?何を言ってるんだこいつは…」

「一応メモっておいたよ」

「お、おう…」

まだこの時は驚いてはいたものの、どちらかと言うと困惑の方が強かった。しかし、次に述べられた内容で俺は驚き一色に染まることになった。

 

〈時間がない。最後にいくつか言わせてくれ…度重なる人体実験の試作No.1…あれは私のたった一人の息子だった…妻を人質に取られて泣く泣く行ったんだが…終わったころにもう妻は殺されていた。私はそれに気づいてわざと息子は失敗だ、として特殊機能を備え付けて…ダストシュートから捨てた…ようになってしまうが、逃がしたのだ。もしこの録音を誰かが拾い…多分海軍のだれかだろう。兵器No.251”あきつ丸”に持たせるからな。それで、もし私の息子に心当たりがあったりした場合は…”こんな父親ですまなかった”と伝えてほしい…これで許されるとは思っていない。それに私は陸軍の奴隷のようにこき使われ、膨大な数の人を実験という形で殺めた。到底許される人間ではないのだ……それに最初にも言ったが、私はもうすぐ始末されるだろう…私の説明で分からないことがあればあきつ丸に”コマンド{UNLOCK}”と言えば分かるはずだ。…コマンド…{OVER}〉ジ―――…

 

テープが終わった後、俺はしばらく放心状態だったが、やがて絞り出すように声を出した。

「嘘だろ…父…さん…?父さんなのか?俺にも親が、肉親がいたのか!?」

「‥‥」(放心状態)

「待ってくれ…頭ん中がグルグルしてやがる…どういう事なんだつまりは!?」

俺は頭を抱えて机に突っ伏した。驚き、困惑、悲しみ、嬉しさ、色んな感情が俺の中でごうごうと渦を巻いており、どうしてよいか分からない。

「呼ばれて飛び出て、どうも青葉です!天井裏で全部聞いてましたよ司令官!お困りのようですね!私の出番ですk」

「青葉!あんた提督の状況察してあげて!?」

いつもは軽い口調の鈴谷にガチトーンで怒鳴られた青葉はビクッ、となった後、話し始めた。

「すみませんでした。一応自分なりに聞こえた部分は整理したんですけど…言いますね」

「た…頼んだ…」

俺は今にも消え入りそうな声で答えた。

「はい、まずこの人の言っていたことが正しいのなら確定していることがいくつかあります。一つ目は親睦会中の深海棲艦の侵攻です。二つ目は陸軍が海上戦力を手にしたこと、三つめはヤバいレベルの防御システムを陸軍が手にしたことですね。それでこれのヒントがオゾン層。そして四つ目はあきつ丸さんが実験で生まれた生命体であること、そして…この人は司令官の実の父親で、十数年にわたって人体実験を繰り返し、海上戦力を作り上げた人、ってことですね」

「俺は…どうしたら…」

そう頭を抱えたとき、ステレオから小さく声が響いた。

その声は、薄い壁越しに響いて来ているような声だった。

〈…ドクター、ご同行を……〉

〈あぁ、分かった…〉チャキッ

〈……連れていけ…お前は知りすぎた…我々の事も、世界の事も……〉

その声が途切れると同時に、二発の乾いた銃声が聞こえてきた。

神の盾計画(イージス・プラン)、始動せよ〉

 

「父さん…殺されたのか…父さんが発言した後になんかやたらでかい金属音してたけど…何だったんだろうか…」

「…恐らく殺されましたね…金属音はやってきたやつらが銃を持ち上げた音では?」

「それにしては音がでかくなかったか?なんか録音機の近くでなっているように思えたが…」

「真相は神のみぞ知るってところですかね…」

「……鈴谷こういう空気苦手なんだケド…」

テープが完全に終了したとき、執務室にはこれまでにない重さの空気が漂っていた。

いつもなら静寂が到来したとき、何かしらの音が聞こえるようなものだが、今回ばかりは何も耳に入ってこなかった。脳で考えるだけで精いっぱいだったのだ。そしてさんざん悩んだ結果、俺が出した答えは、

「とりあえずその親睦会に向けての準備をしよう。警戒艦隊編成もしなければな」

「鈴谷、ちょっと休んでいい?」

「あ、青葉はこれで失礼します~」

「……いいよいいよ、休め休め。俺一人でやるから…」

疲れた表情をした二人を見送り、俺は一人で作業を始めた。




久しぶりに書いたら文章力が著しく低下していた件



何か変なところあったり文章が破綻してたりした場合は指摘をお願いします。


あきつ丸がどのような扱いなのかは後日説明するんで、暫くお待ちください


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23

鈴谷と青葉が執務室から出ていった後、俺は頭の中の整理&陸海軍親睦会の下準備に追われ、心身共に燃え尽きる寸前だった。

「あ、あかん…知恵熱出そう…」

そう呟くも応える者はいない。そんな状況が俺の思考をさらに複雑にしていった。

(そう言えば…父さんは分からないことはあきつ丸に聞けと言っていたな…せや!)

 

 

 

「提督殿、お呼びでしょうか?」

数分後、執務室にはいつも通りの明るい表情を浮かべつつ直立しているあきつ丸の姿があった。

「うむ、このテープについていくつか聞きたいことがあってな?」

そう言って俺はテープを手に持ってフリフリした。

その途端、あきつ丸の表情が若干ではあるが曇り、俺はそれを見て確信した。

「コマンド{UNLOCK }…どうだ?」

それを聞いた途端あきつ丸の表情から生気が失われる。

「性格プログラムを秘書モードへ変更、何か御用でしょうか?」

淡々と定型文であろうセリフを喋るあきつ丸に少々心が痛んだ。が、今はテープについて、何個か聞かなければならない。

「なぜ俺にこのテープを渡した?」

俺が聞くと、すぐに答えは返ってきた。

「ドクターに海軍の関係者に渡すよう言われたからです。あなたへと渡ったのは偶然です」

ふとここで疑問が浮かび上がってきた。

「なぜドクターは逃げなかったんだ?あきつ丸が逃げられたのならドクターだって逃げられただろう?逃げなかった結果、殺されてしまったじゃないか」

そう俺が問いかけると、あきつ丸は一瞬“何言ってんだこいつ”みたいな顔をした後、答えた。

「ドクターにはやることがあったので、私のみ脱出したのです」

「いやだから…ほら…」

そう言って俺はテープをステレオにセットし、連行部隊が登場したところから最後までをあきつ丸に聴かせた。

「…な?」

“殺されただろ?”と言わんばかりにあきつ丸の方を見やったが、彼女は驚くべき事実を口にした。

「あの銃声はドクターの九四式拳銃の発砲音です。音から判断してドクターは両脇を抱えられて地上へ連行されました。その後、憲兵達は射殺のために間合いを取ったはずなので、その時を狙って発砲したのでしょう」

言葉が出なかった。

(ならば、ドクター(以下、提督目線では父さん)はまだ生きていると言うのか?)

そう言った希望を少し持ったところで、あきつ丸の説明の内容に疑問が生まれた。

「なぁ、なんで憲兵達は距離を取ったんだ?そのまま至近距離で殺せばよかったじゃないか…」

その通りである。なぜ銃を突き付けながらではなく両脇を抱えて地上へ行ったことも疑問だが、それよりも反撃の余地を与えた憲兵は何を考えていたのだろうか…

「…恐らくですが、憲兵隊の標準装備が三八式歩兵銃で、間合いを取らなければ安全に撃てなかったことと、ドクターが武装していると言う事象を想定していなかったからだと思われます」

あきつ丸は少し悩んだ後そう答えた。

俺は後から後から湧いてくる疑問を解消するため、さらに質問を続ける。

「陸軍は父さんの装備を把握していなかったのか?」

その問いに対して、あきつ丸は即答した。

「書類上ドクターは非武装状態で研究のみ行なっているとなっていました。あの九四式拳銃は、ドクターが密造し、改良を加えた…いわば九四式改とでも言いましょうか、そんな立ち位置の銃です。なので、陸軍は把握していなかったはずです」

なるほどな、と俺は納得したが、疑問は尽きない。

「…だが、憲兵を殺ったところで上官が1人いただろう、あれはどうしたんだ?」

「それに関しては…わからないです。上官をどうしたかは。あの後すぐ脱出してしまいましたから」

あきつ丸は困ったように答えた。

「父さんが残ってまでやらなければならなかった事ってなんだ?」

「それも…分からないです。教えて頂けませんでした」

「そうか…ありがとな、大体の疑問は解決したよ」

俺のその言葉にあきつ丸は少し笑って、“それならよかったです”と言った。

 

〜〜〜〜

 

その後、あきつ丸の今後について話し合い、これまで通りの生活を送ることで合意した。秘書モードの性格は徐々にいつもの性格に統合し、裏表を無くすつもりらしい。“このことはみんなに話すのか?”と尋ねたところ、“今はまだ黙っている”との事だった。

あきつ丸が部屋へと戻り、俺は来たる陸海軍親睦会中の鎮守府守備艦隊の編成を始めることにした。

(親睦会は明後日から始まる。それまでに編成と装備を整えよう…編成は…要らねえな、第一艦隊から第四艦隊まで全部を警戒にあたらせよう。残るは装備、これは………」

そこまで考えて俺は顔を上げ、立ち上がって伸びをした。

工廠(明石の秘密基地)に行くか!」

 

 




次回は久々装備回、やったね

何かわからないことがあれば感想まで


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24

時刻は午後4時、出撃がない者が一番暇を持て余す時間だ。大体の者は自室での読書や友達と娯楽室で遊ぶなどして暇をつぶしている。まぁ、明石と夕張(例外)はいるが。

俺は今鎮守府の本棟から出て少し行ったところにある工廠に来ている。そして…

「おい、この資材の残量は何だ」

「「……」」メソラシ

明石と夕張(お前ら)なんか言えよ」

答えの分かり切った質問中でもある。

 

~数分後~

「…で、何かいう事は?」

俺の目の前には正座して項垂れている常習犯が二名。俺が工廠に来ると毎回拝める光景だ。

「「さーせんした」」(棒)

見事なまでの棒読みで返される。

「ぶっ殺すぞてめぇら…何のために資材を備蓄してると思ってるんだよ。お前らが浪費するためじゃねぇんだぞ?資材を集めてくる俺と潜水艦の奴らの身にもなれよ!分からんのか?」

俺がいつもより語気を強めて言うと、明石が顔を上げて言った。

「…もしかして提督、いつもより怒ってます?」

「あぁ、怒ってるとも。人がせっかく開発しようとして工廠に来たら資材が底をつきかけてるんだもんなぁ…」

俺が遠い目をしながらそういうと、明石と夕張の顔からふざけ切った表情が消えた。

「「あ…それは…その、すみませんっしたぁ!」」

二人とも開発が出来ない苦しみを分かっているのだろう、今回は真面目に謝ってきた。

その態度を見届けた俺は表情を戻し、こういった。

「まぁ顔を上げて、そして立て」

その言葉に二人はきょとんとしつつも立ち上がり、黒い油汚れが染みついたつなぎについた埃を手でパンパンと払い、”なんのつもりだ”と言わんばかりに俺の方を見てきた。

その時、工廠の前に一台の大型トレーラーが止まった。

「ナイスタイミングだな」

俺は笑ってトレーラーの方へ歩いて行った。

トレーラーから一人の若い優男が下りてきて、敬礼して言った。

「海軍本部より参りました。花田優樹少尉です!各資材100万ずつ、お届けに参りました!」ビシィ!

それに対し、俺も敬礼で答える。

「ご苦労、確かに受け取った。こんな僻地までわざわざすまんな。今日は鎮守府(ここ)に泊まっていくといい。夕飯、朝飯付きだ」

俺の申し出に花田少尉は顔をほころばせて”ありがとうございます!”と言った。

(海軍がこういう純粋な人ばかりならいいんだけどなぁ…)

俺は無邪気な顔で夕飯を楽しみにする花田少尉を見てほっこりしていた。

その後、客人用の部屋に少尉を案内し、工廠に戻ってくると…

「「……」」( ゚д゚)ポカーン

明石と夕張は資材の山を目の前に放心していた。

まぁ無理もあるまい、大規模作戦での功績やその他諸々をフル活用して送ってもらった資材だからな。いつもの備蓄量よりも桁二つくらい違うんだ。

俺は二人の方へ歩いて行って、肩に手を置いて言った。

「おい、放心している場合じゃないぞ。夕飯までにこの資材の一部を使って開発する装備を考えるんだ。いいな?」

そういうと二人はバネ仕掛けの人形のように勢いよく振り向き敬礼し、”了解!”と言った。

その時、工廠の一角に設置されているゲームコーナー、もといACECOMBAT(フライトシミュレーター)の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「んぁ~、もう!このシールドイライラするのじゃ!筑摩、何とかしてくれ!」

「姉さん…突っ込むからいけないんですよ?誘導弾を使えばいいんです」

「じゃがシールドがあるのじゃ!近づかないとダメじゃろう!?」

利根と筑摩の声だ。

(シールドか…そういえばイージスもシールドだった気が…仮にイージスのシールドがACECOMBATみたいな敵の全周を球状に覆う物だったとして…父さん曰く弱点はオゾン層…どういう事だ…?)

俺は未だ見ぬ敵が装備しているとされるイージスについてあれこれと考えを巡らせてはいたが、対抗策となり得る案は出せずにいた。が、

「水平攻撃が効かないのなら急降下爆撃じゃ!それぇぇぇい!」

攻撃が一切通らないことに痺れを切らした利根が攻撃対象に向けて急降下を開始した。

「ちょっ、姉さん!?そいつは上空のシールドもあるから無理だって…」

「あ」ドガーーン mission failed......

「言わんこっちゃない…時間まで待たないと…」

その会話を聞いて俺の頭の中にある一つの案が浮かんだ。

(上空…オゾン層は確か北極と南極が薄かったはず…そうか!真上と真下が薄いのか!)

「利根、筑摩、ありがとな!」

まさに天啓を得たような感覚だった俺は、大声でお礼を言って明石と夕張のところへと小走りに向かった。

「提督…どうしたのじゃ…」

「さぁ…お疲れなのかしら…」

残された利根と筑摩はとても困惑していた。無理もないだろう。ゲームをして姉妹で話していたらいきなり提督から大声でお礼を言われたのだから。

ーーー

ーー

 

「明石!夕張!艦載機に搭乗可能なパイロット妖精さんを全員集めてくれ!」

俺は少し離れた所へと移動していた明石と夕張に大声で命令した。すると程なくしていつも艦載機に乗って戦闘してくれている妖精さんたちが集まってきた。また怒られるとでも思っているのか、怯えたような目でこっちを見てくる妖精さんもいる。…なんかその怯えた目に快感を感じている自分が怖い…閑話休題、

「この中で急降下爆撃が得意な者はどのくらいいるか?」

俺がそう問いかけると、極少数の手が挙がった。それを見て俺は思った。こいつら訓練が足りねぇ、と。

 

その後、俺は今度からの戦いに急降下爆撃が必須だという事を(強制的に)納得させ、フライトシミュレーターでの訓練、模擬弾での訓練など、様々な急降下爆撃の練習を妖精さんたちにさせることにした。

「ふぃ~、これでひとまずは何とかなりそうかな…」

俺が妖精さんたちへの指示を終え、一休みしているところに明石が来た。

「提督、今回は何を開発するんですか?私、早くやりたいんですけど」

「私もー」

明石の後ろからひょこっと頭だけ出した夕張も急かしてきた。

「まぁまぁ、そう急かすな。今回のメインは急降下爆撃機、もとい敵の真上、真下から攻撃可能な兵装だ」

俺がそういうと、明石と夕張はすかさず質問してくる。

「なぜ真上、真下なんですか?」

「水平雷撃じゃダメなんですかね?」

まぁ、二人の疑問、意見はもっともなことだ。現在のうちの航空攻撃は水平雷撃がメインだからな…爆撃クルーが少なすぎるんよ…(遠い目

「ダメだ。二人もフライトシミュレーターをやったのなら知っているだろう?敵が展開してくる全周シールド。それを装備した敵が来るが、性質上上部と下部は比較的薄いはずなんだ。だから、急降下爆撃だ。しかも敵のシールドは触ると物質の分解が始まるらしい。だから高速で突っ込んで分解され終わる前に爆撃して高速で離脱できる機体が望ましいな」

俺がそういうと、二人は信じられないというような顔をした。

「あ、あのシールドが来るとか…冗談ですよね?」

「わ、笑えねぇ冗談だ…」

明石の顔は引きつり、夕張に至っては口調が崩壊している。どんだけシールドに苦戦させられたんだか…

その時、夕張がふと我に返ったように俺に聞いてきた。

「提督、その情報はどこの出ですか?あまり信用できないんですけど…」

「開発者だ」

俺が端的にそう述べると、今度は明石が警戒しながら尋ねてきた。

「…深海棲艦ですか?」

「残念ながら、違う。陸軍だ。だがそれを装備して出てくるのは深海棲艦…あとは察しろ」

二人は何かを察したのか、押し黙ってしまった。

俺はその空気を換えるようにパン!と一回手を叩いて話し出した。

「それで、だ。陸海軍親睦会の時に襲撃があるはずだ。その時にはまだシールド持ちは出ないはずだけど、万全の対策で近海警備にあたる予定だ。それに向けて、俺らがやる事は……一つ目、すべてのステータスを高次元でまとめた爆撃機を作る事、二つ目、既存の兵装の能力底上げ、これは主砲に自動装填装置を取り付けたりすることだな、三つ目、深海棲艦に通用する通常の弾薬の開発、だ」

話し終えると、明石が即反応した。

「そんな弾薬どうやって作るんですか!?」

「気合いだ!」

「できるか!」

まるでコントのようなやり取りを繰り広げた後、明石は落ち着いて質問してきた。

「ちなみに、何に使うんですか?その弾薬は」

俺は答えた。

「防衛火器用だ。万が一洋上決戦で敗北を喫した場合、陸上に設置されている両用砲や機銃、機関砲で応戦するためだ」

「…でもそれって威力不足じゃないですか?」

「それはやってみないと分からん。だけど俺の考えでは大丈夫だと思ってるぞ」

「なぜです?」

夕張が不思議そうに尋ねてきた。

「考えても見ろ、大和の艤装の主砲、人型に対応するために縮小されているから8.8㎝砲と同等レベルの口径に見えるだろ?つまり8.8㎝砲で深海棲艦に通用する砲弾作っちまえばもうそれで行けるんじゃないかと思うんだよ。まぁもっとも防衛専用で動かせないけどな……あ、機関砲弾作って工廠に放置されている戦闘機で行けば…」

「なるほど…」

「その手があったか…」

その時三人は思った。

(((なんで人間は深海棲艦に通用するような砲弾を作ろうとしなかったのだろう)))と。

 

その時、利根が”夕飯の時間じゃ~”と呼びに来たので、一旦その話は置いておいて夕飯を食べることになったのだった。




多分読んでいると「あれ?なんか設定違くね?」とか思うところあるかもしれないですけれど、もしあったら多分時期に直していきますんで許してください。


Q、なぜ人類は深海棲艦に通用する砲弾を作らなかったのか?
A、人類には作れなかったから。その後艦娘が登場してそれの開発の必要はなくなった。誰も妖精さんがそういった砲弾を創れないとは言ってない。



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25

冷静になって過去の話見返してたら頭おかしいところばっかで頭痛くなった。まぁ直すつもりは毛頭ない。

今回は開発回。見たくない人はあとがきまで飛ばしてください。


 時刻は午後7時、あたりが薄暗くなり、やや冷たい風が優しく外で吹いている時刻だ。そんな中俺と明石と夕張(いつもの三人)は夕ご飯を無事食べ終わり、工廠に再度集合し、討論していた。

「私は、別に急降下爆撃でなくても行けると思うんですよ」

明石が語気を強めて言った。

「なぜだ?情報によればシールドが薄いのは上空だけで…」

俺が反論しようとするが、それは明石の発言によって遮られる。

「いや、考えてみてくださいよ。水平爆撃でよくないですか?こう、敵の直上まで大型機でスイーッといって投下、これでよくないですか?」

俺はしばし考えてから一言だけ言った。

「…確かに」

「いや納得するんかぁい!」

夕張がすかさずツッコミを入れてきた。いやまぁ、納得するしかないだろう。うん。

「…まさかほんとに納得するとは…でもどうするんです?妖精さんたちすっかり急降下爆撃やる気になってますよ?」

そう言って明石は工廠の隅の方を指さした。そこにはシミュレーターで急降下爆撃を練習する者や、自身の愛機(零戦)にダイヴブレーキをニコニコしながら取り付けている者などの姿が見て取れた。

「あいつ……零戦で急降下爆撃する気かよ、機体強度アカンやろ…」

「これは…急降下爆撃で行くしかなさそうですね…妖精さんって自分を絶対曲げませんし…」

「となると機体の開発ですかね…」

そう言って俺ら三人は顔を見合わせ悪戯っぽい笑みを浮かべた。

そこで俺は言った。

「よし、じゃあ今回の目標は新型急降下爆撃機と、人間が運用する兵器の砲弾で、深海棲艦に通用する物の開発だな!」

「後者は無理!」

明石が叫ぶ。

「うるせぇやれ!」

俺の無茶ぶりが飛ぶ。

「できるわけがないっ!」

明石がまた叫ぶ。

「ほ~ん…天下の明石様でも開発できない装備があったんですかぁ~?こぉれは興味深いですねぇ~!」ニヤニヤ

俺が煽る。

「…やってやろうじゃねぇかよ、この野郎!」

明石が乗る。

「…」アチャー

夕張が頭を抱える。

 リアル野球BANのノリで開発を請け負った明石が提督の口車に乗せられたことに気づくのは数分後の事である。

 

 

 

「…提督、これでどうですか…」グッタリ

それから数時間後、明石が数枚の企画書をもって俺と夕張の急降下爆撃機開発組のもとへとやってきた。今にも倒れてしまいそうなフラつき具合だ。

「えっ!?できたの?俺出来ない前提で押し付けたんだけど…」

「提督…アンタほんといい性格してるよ…」イラッ

「今回ばかりは明石さんがかわいそうかな…」アハハ…

俺はキツネにつままれたような顔で企画書を受け取り、夕張と一緒にのぞき込んだ。

 

ーー

ーーー

 

・対深海棲艦弾頭

 

組成:艦娘建造時に消費する鋼材、ボーキサイトを主原料とする合金が主な成分。口径が大きくなるにつれてタングステン等の貴重資源も配合される。

 

長所:深海棲艦にダメージを与えられる。口径次第では一撃必殺。

 

短所:普段艦娘が運用する弾薬に比べて消費資源が半端じゃない。打ち続けたら資源が枯渇する。

 

制約:口径は20mm~90mmに限定。20mm以下はサイズ的に製造が困難、または威力不足。90mm以上になると製造コストが倍増するため現実的ではない。製造は可能。

 

威力:20mm:海防艦や駆逐艦の主砲12㎝単装砲に相当

   30mm:軽巡洋艦の主砲14㎝単装砲に相当

   40mm:重巡洋艦の主砲20.3㎝連装砲に相当(サイズの関係でここより威力増加と共に消費資源が多くなる)

   50mm~:戦艦級の主砲に相当。(35.6、41、46、51、80等)またはそれ以上。

 

 

※重要※

  消費資源:最少口径の20mm→鋼材40、ボーキサイト35、その他鉄等

       最大口径の90mm→鋼材300、ボーキサイト150、その他タングステン等

 

 

ーーー

ーー

 

 

「これほんとに作れんの?」

それが企画書を読み終えた俺の第一声だった。

「妖精さんたちとはすでに話をつけてきました。やる気満々でしたよ!」エッヘン

「妖精さんパワーすげぇ……よし、ゴーサイン出してきてくれ」

俺はそう言って明石に企画書を返した。彼女は満面の笑みで”了解!”と言った後小走りに工廠の奥へと駆けて行った。多分すぐ戻ってきて急降下爆撃機の開発に加わるつもりなのだろう。さて今回はどんなゲテモノが出来ることやら…

 

数分後、明石が合流し本格的な開発会議を開始した。

 

「ここはジェットエンジンを採用すべきでは!?」

「おぉ!確かにそれいいな!」

「製造コストを考えてくださいよッ!」

 

「見てください提督!二重反転プロペラの設計図が倉庫内のキ64のコックピットから出て来ましたよ!」

「よし!でかしたぞ夕張!」

 

「て、提督!こんなところに全翼機の図面がっ!」

「ナ、ナンダッテ―!」

 

「提督!こんなところに盟邦ドイツの試作機一覧とその設計図がっ!」

「提督!こんなところに大日本帝国の試作機一覧とその設計図がっ!」

「ハモるな!てかなんでそんな物があるんだ!?」

 

…そうして夜は更けていき…

 

 

()()()()。現在の時刻である。外は闇で覆われ、付近で明かりが灯っているのはこの工廠内のみである。闇の中の完全なる孤立。

しかしそんな事実を気にも留めないような笑い声や歓声が時折響いていた。(近所迷惑)

そんな中、一際うるさ…大きい歓声が夜の静寂を切り裂いた。

「よっしゃできたぞぉぉぉ!」

「お、提督のもできましたか」

「明石さん、提督、私もできましたよ!」

三人は顔を見合わせ、ニヤニヤと笑っていた。もしこれを傍から眺める人がいたらドン引きしたことだろう。

 

「よし、じゃあ夕張!夕張行ってみよう!」

「私のはいたって真面目な奴ですよ。艦娘サイズと実際のサイズ、どちらの図面も作ってあります。これです!」

そういって夕張は自信満々に()()()()()()()企画書を差し出してきた。

 

ーー

ーーー

 

・Y-1急降下爆撃機(仮名)

 

性能:最高速度:550㎞/h

  発動機馬力:2000hp

     全長:11m

     全高:3.5m

     全幅:9m

    主翼形:内翼テーパー無し・外翼テーパーあり

   推進方式:前部4枚羽プロペラ一基

  上昇率(m/s):78m/s(最大)

   航続距離:800㎞(爆弾装備時)

        1000㎞(制空戦闘装備時)

 最大離陸重量:4200㎏

     武装:12.7mm機関銃×2(前方固定配置)

        12.7mm機関銃×1(後方旋回銃座)

        500㎏無誘導爆弾×2(縦列二個)

        翼下赤外線誘導弾×2

     乗員:2名

   防弾装備:コックピット:繊維性防弾ガラス

       エンジンカウル:ジュラルミン合金

         燃料タンク:均質圧延装甲板

     備考:火薬式ベイルアウト座席装備

 

ーーー

ーー

 

「…いたって…真面目な?」

俺は顔を引きつらせながら問う。その問いに対して

「形は普通ですよ!」

と満面の笑みの夕張。

「いやおめぇ…なんだよこの機動性…上昇率Fw190より20m低いだけとか…」

「それに誘導弾まで…」

俺と明石が呆れたように言うと夕張が言って来た。

「え?wまさかこの私よりも平凡な設計とか無いですよね?w」(煽り)

「「それはない」です」

「アッハイ」

即座の否定。まぁ、こうなるな。

「…そんなに自信があるなら明石さん、行ってもらいましょうか!?生半可な物じゃ満足しませんよ!?」

夕張が悔しそうに叫んだ。まぁ悔しさより好奇心が勝っているみたいだが。

明石はフフン、と笑って言った。

「私のを先に見ていいんですかぁ?w提督の霞んじゃいますよぉw」(煽り)

やや煽り気味に差し出してきた企画書にはこのようなバケモノが書かれていた。

 

ーー

ーーー

 

・焔雷-zwai

 

ーーー

ーー

 

「おい明石ぃ!!てめぇまたか!またなのか!?!?」

俺は企画書から即座に顔を上げ、明石に詰め寄った。

「て、提督、最後まで読んでから怒ってくださいぃぃ!ちゃんと()()()()やったんですから!」

「ほぅ…」

俺は企画書に目を戻した。

 

ーー

ーーー

 

性能:最高速度:2000㎞/h

   ()()()():180000hp(AB使用時:220000hp)

     全長:15m

     全高:4m

     全幅:8.5m

    主翼形:クロースカップルドデルタ翼

   推進方式:ターボファンエンジン一基

  上昇率(m/s):200m/s(常時)

   航続距離:3000㎞(爆装時)

        4000㎞(フルフラット)

 最大離陸重量:25000㎏

     武装:30mm固定機銃×2(前部)

        850㎏無誘導爆弾×2(横列二個)

        翼下赤外線誘導弾×8

        AAAGM×4(AntiAirAndGroundMissile)

     乗員:1名

   防弾装備:機体全域:ジュラルミンとアルミの合金

     備考:コスト高すぎて戦闘に出られなさそう

 

ーーー

ーー

 

「久しぶりにこういうの考えるの楽しかったもんな、分かるよ。こうなるのは……」

「あ、アハハ…」

俺は読み終わってから頭を押さえた。

「だがなぁ、コストが高すぎな?それにAAAGMはまだ未開発だ。まぁ、却下だな」

「デスヨネー!、というわけでもう一機用意しました」

「「は?」」

突然の明石のカミングアウトに二人そろって素っ頓狂な声を出してしまった。

「はい、これです」

 

ーー

ーーー

 

・キ64爆装計画

 

性能:最高速度:900㎞/h

  発動機馬力:3000hp

     全長:12.5m

     全高:4.25m

     全幅:15.4m

    主翼形:テーパー翼(ダイヴブレーキ装備)

   推進方式:二重反転プロペラ(ハ201改装備)

  上昇率(m/s):90m/s(最大)

   航続距離:1200㎞(爆装時)

        2000㎞(フルフラット)

 最大離陸重量:5000㎏

     武装:30mm固定機銃×2(前部)

        500㎏無誘導爆弾×1

        翼下無誘導墳進弾×2

     乗員:1名

   防弾装備:エンジンとコックピット:均質圧延装甲板

     備考:整備性に関しては妖精さんなので大丈夫。

 

ーーー

ーー

 

「……これ採用な」

「よっしゃっ!」ガッツポーズ

俺は計画書を見終わってからそうつぶやいた。明石はよほどうれしかったのか喜びの舞(?)を踊っている。

「正直明石がここまでまともな計画を出すとは思わなかった…見直したぞ」

俺がそう誉めると、明石は舞をやめてこちらを振り返って

「まぁ私普通に整備士ですし。やるときはやるんですよ」

と、なぞの整備士理論を出してドヤ顔をしていた。

「そ、そうなのか…じゃあ、俺のだ。行くぞ」

そう言って俺は企画書を二人に差し出した。

 

ーー

ーーー

 

・試作急降下爆撃機及び制空戦闘機 キーンホーク

 

性能:最高速度:1300㎞/h

  発動機馬力:4000hp

     全長:16.5m

     全高:4.05m

     全幅:14m

    主翼形:クロースカップルドデルタ翼(ダイヴブレーキ装備)

   推進方式:後部二重反転プロペラ(ハ201改装備)

  上昇率(m/s):100m/s(最大)

   航続距離:2000㎞(爆装時)

        2200㎞(フルフラット)

 最大離陸重量:5000㎏

     武装:40mm固定機銃×4(前部)

        500㎏無誘導爆弾×1

        翼下無誘導墳進弾×6

     乗員:1名

   防弾装備:エンジンとコックピット:均質圧延装甲板

     備考:癖がすごい震電みたいな感じ。

 

ーーー

ーー

 

「なんか…明石さんのクソ真面目案を見たせいかこれすらふざけているように見えてしまう不思議…」

「やめてくれ夕張、その攻撃(口撃)は俺に効く」

「まぁ…これも生産ですかねぇ…先ほどのY-1とキ64と共に妖精さんに企画書出してきます」

「頼んだ」

こうして…狂気の急降下爆撃機開発は意外とあっけなく幕を閉じたのであった。




すみません、オチが思いつきませんでした。
今回は開発回でした。
結果:対深海棲艦弾頭の開発
   夕張が無難な性能のY-1急降下爆撃機(仮名)開発
   明石がバカみたいな性能のジェット機を開発したが、そちらではなくキ64を改造したものを生産することに決定。
   提督が震電のバケモノみたいなのを作った。

生産する物
   対深海棲艦弾頭
   Y-1
   キ64爆装計画
   キーンホーク(和名:賢鷹)

未定
 焔雷-zwai


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26

少し時間は遡って、午後六時頃……

 

超短編〜未知との遭遇by花田少尉〜

 

花田少尉は夕飯を食べるために食堂へ向かっている最中であった。少尉のことは事前に全員に話しておいたのですれ違う艦娘も変な顔をしたりはしない。

(食堂まで後どれくらいだろうか…)

少尉がそう考えて歩いていると廊下の角から1人の艦娘(?)が出てきた。

「ア、ドウモ」

「どうも〜………うん?…深海棲艦!?」

「ア…ハイ、敵デハナイノデ。私ハ空母棲姫デス。以後オ見知リ置キヲ。デハマタ」

「えっ、あっはい…」

そう言って空母棲姫は呆然とする少尉の前を通りすぎ、その後をまた別の深海棲艦が追っていく。

「何がどうなってんだこの鎮守府…」

 

現在は(昨日の)午後六時半頃、食堂にほぼ全員が集まったところだ。

俺はいつも通り式台のようなものの上に立ち、「いただきます」をした。

途端に食堂が騒がしくなる。戦時中とは思えない雰囲気だ。

俺は花田少尉の所へと向かい、隣に座った。

「少尉、食事はどうだい?」

俺がそう言うが、花田少尉は深刻な顔をしている。

「提督殿…あなたは人類の味方ですか?」

その質問で察した。姉さんたちの誰かを見たんだろうな、うん。

「もちろん。まぁ疑うのも無理はないな…うん、紹介しよう。付いてきてくれ」

俺がそう言うと少尉は無言で付いてきた。

姉さんの所へ着くと、真っ先に姉さんが声をかけてきた。

「防!どうしたの?」

「あぁ、今日明日あたり泊まるお客に説明しておこうと思ってね。自己紹介して貰えるかな?…少尉、大丈夫だから、彼女達味方だから、ほら逃げない逃げない」ガシッ

「やめろォ!死にたくなァい!死にたくなァい!」ジタバタ

少尉は逃げようとするが、俺は掴んで離さない。無駄な抵抗である。

「んー、それじゃ私から。私は防空棲姫。防の育ての親で、訳あってこっち側についた感じよ」

「私ハ駆逐棲姫。防空二付イテキタ」

「私ノ名前ハ戦艦棲姫。敵の深海棲艦ハ全テ沈メルツモリダ」

「私ハ空母棲姫。先程ハドウモ」

「私ハヲ級改Flagship。短イ間デスケドヨロシクオネガイシマスネ」

「私ノ名前ハレ級Flagship!ヨロシクナ!」

「私ハル級改Flagship。ヨロシク頼ム」

「私ハ北方棲姫ッテ言ウノ!ヨロシク!」

一通り深海棲艦達の紹介が終わったのを確認して少尉の方を見ると…

「提督殿は、顔が広いんですね…」

「あれ、納得したの?」

納得された。もう少し動揺するかと思ったんだが…

「なんかもうどうでよくなってきたんです。この事は上層部には黙ってますのでご安心を!」

「そりゃ助かる」

 

こうして少尉の誤解(?)は解けたのだった。

〜超短編、[完]〜

 




次回はようやく陸海軍親睦会です。
期待せずに待っててください。


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27

書ける気がしねぇ…


現在は午前六時ジャスト、鎮守府全体が動き始めようとしている時刻だ。

俺はと言うと、いつも通りのランニングを済ませ、シャワーを浴びて親睦会に向けての準備をしているところだ。

「今日着ていくのは…こっちの制服…いやこっちかも…」

クローゼットの前で年頃の乙女のように、さほど見た目が変わらない制服を選びあぐねているのにはれっきとした理由がある。

きょう開催される親睦会(以下牽制会)において、海軍が陸軍とつまらない小競り合いをするためのメインカードとして俺を設定しているからである。そんな俺が適当な格好で行ったが最後、陸軍の連中が揚げ足を取りに駆けつけるので服選びですら慎重になるものなのだ。

コンコン、とドアがノックされた。

「おはようございます提督、入ってもよろしいでしょうか?」

赤城だ。今俺は下着姿なので入ってこられては困る。

「ちょっと待ってくれ。すぐに着替える」

「あっ…はい」

状況を察したのか、赤城は扉の前で押し黙った。

訪れる静寂。俺が着替える音と外の鳥のさえずりだけが響いている。

数十秒後、俺は着替えを終えて執務机についた。

「いいぞ、赤城。待たせてすまなかったな」

扉を開けて赤城が入ってくる。

「おはようございます…提督。え、えぇと、今日の件で話がありまして…」

なぜか若干顔を紅潮させながら赤城が話を切り出した。

「なんだ?言ってみろ」

赤城が一枚の紙を取り出した。

「はい。この予定表では本日午前十時より陸軍・海軍親睦会があることになっているのですが、なぜその三十分後より大規模近海演習の予定が入っているのですか…?」

赤城の疑問はもっともだ。いつもの規模の演習は艦娘のみでやる事もあるが、大規模演習となると提督も観戦もしくは随伴することになっているのだから。

「あぁ、それについては今日の朝礼で話す。それでいいか?」

「了解しました。では食堂の方へ先に行ってますね」

そう言って赤城は部屋を去っていった。朝食が楽しみなのか、若干スキップ気味だったのがなんともかわいらしかったのをここに明記しておく。

 

 

十分後、俺はいつも通り食堂の式台に立って挨拶を始めた。

「皆、おはよう。いつもならここでもう”いただきます”だが、今日は少し連絡がある」

そこで俺は少し間を置いた。食堂の各地で様々な反応が起こる。

静かになるのを待って話を再開する。

「俺は秘密裏にある情報を入手した。それは今日行われる陸海軍親睦会の最中に各鎮守府が襲撃される、というものだ。上層部に言っても妄言扱いされるだけなので、報告はしていない。そこで、だ。もし襲撃があってもいい様に大規模演習と銘打った迎撃作戦を実施する」

食堂がざわつき始める。久々の戦闘か?と目を輝かせる者、うっわめんど。と顔をしかめる者、様々である。

「ちなみに俺はその間居ないので、艦隊の指揮権は長門に移譲することにした。そして敵の情報だが、これまでの敵ではなく、数段クラスアップした強さを誇るらしい敵である。そして全く新しい防御システムも採用しているらしい、との噂がある。気を引き締めてかかるように。それと、各艦種の代表は食後執務室まで来るように。以上だ。…それでは、いただきます!」

「「「いただきます!」」」×多数

全員が食べ始めるのを見届けた後、俺は食堂を後にした。

 

 

「拳銃…よし、ハンカチよし、ティッシュよし、…荷物はこのくらいかな…」

俺が荷物の最終確認をしていると、執務室のドアがノックされた。おそらく各艦隊の旗艦メンバーだろう。

「入れ」

ガチャリ、とドアが開いて複数人の艦娘が入ってきた。

先頭は空母部隊より、「赤城」。

続いて戦艦部隊より、「長門」。

重巡部隊より、やや頼りなさげな「利根」。

軽巡部隊より、みんなの統括役「大淀」。

駆逐部隊より、苦労人「吹雪」。

潜水部隊より、狙撃手「伊168」。

ドイツ艦隊より、鉄血宰相「ビスマルク」

深海部隊より、姉さんこと「防空棲姫」

海防艦は駆逐艦の部隊下にあるのでこの場には参列していない。

 

「よし、みんな揃ったな。それじゃあ今回の作戦の説明をするぞ。まず敵は従来の個体ではなく新しい個体もしくは既存のeliteやflagshipが出てくると思われる。そこで、だ。戦艦や重巡と言った装甲があるものが前衛として攻撃を受止め、敵が進んできたところを水雷戦隊や群狼艦隊で叩くと言った寸法だ。出来そうか?」

俺の半ば無茶とも言える要求に代表達は臆せずに頷いた。

「そうか、そう言って貰えると助かる。だがまだ心配の種があってな…どうやら敵は全く新しい防御シールドを採り入れているらしい。これは砲弾等を無効化するだけでなく触ると酸化して消えるとかいう恐ろしい代物らしい。多分オゾン系の何かで構成されているのだろう…まあそれはそれとして、このシールドの弱点が真上らしい。なので、急降下爆撃もしくは迫撃で対応することになると思う。空母部隊はこの後工廠にて明石から新型機を受け取ってくれ。戦艦部隊は…頑張ってもらうしかない。艦隊全員分の艤装には夕張が改良を加えていてくれているはずだから、いつもより使いやすいはずだ。…それと、今回の作戦の目標は敵の完全撃滅だ。一体でも残すと厄介な事になると思われる。だが、1人も沈まないことを大前提に行動してくれ。…おい、利根」

俺は半分居眠りをしていた利根を呼び止めた。

「ひゃい!?な、なんじゃ…?」

利根は慌てて姿勢を正した。

「今回の作戦中は、青葉には写真撮影班として参加してもらうように伝えてくれ。新型の写真が撮れ次第、俺のところへ送るように言ってくれ。いいな?」

「了解なのじゃ!」

「戦艦重巡部隊は鎮守府の正面に展開、水雷戦隊、群狼艦隊は敵の側面に回り込むように行動してくれ。健闘を祈る」

俺がそう言うと、代表らは敬礼をして執務室を出ていった。

(本部の車が着くまであと十数分か…それまでに準備を整えて…あ…)

そこで俺はひとつ大事なことを思い出した。

随伴艦の事である。

随伴艦とは、艦隊の中でも主力級に相当する艦娘を牽制会などの集まりへ連れていく習慣である。まぁ自慢のためだな…嫌な習慣だ。

今回の牽制会は主力カードが俺なだけに俺の随伴艦も特に注目される。上層部からは

『練度が高く、自慢のカードとなるような艦娘を連れてくるように』と厳命されている。

「参ったな…みんな上官と出かけるのなんて嫌だろうし…渋々行ってくれそうな奴は…毎日執務室に遊びに来ている……」

ーーー

ーー

 

「えっ?鈴谷が随伴!?」

「すまない、上層部からの要求を満たすのが鈴谷くらいしか思いつかなくて…」

俺は絶賛出撃準備中だった鈴谷に頭を下げて頼み込んでいるところだ。

「いや…高練度の娘たちなら他にもいろいろいるじゃん…」

「みんな上官と出かけるなんて嫌だろう?その点毎日執務室に遊びにきている鈴谷なら渋々行ってくれるかなぁと思ってね」

俺がそう言うと、鈴谷は頭を片手で押さえてため息をついた。

…やはりダメだったのだろうか…

“この鈍感…”と聞こえたのは気のせいのはずだ。

「すまない、嫌ならいいんだ。他を当たってみる」

「いや、別に提督とならイヤじゃないケド…」

鈴谷が若干食い気味に返してきた。

「良かった、引き受けてくれるんだな…すまないが10分後くらいまでに正門前に集合できるか?」

「はいは〜い、急いで準備するね」

そう言って鈴谷はスキップ気味の小走りで自室へと戻っていった。…そんなに喜びながら行く所ではないのだが…

何はともあれ、1人目で随伴艦が決まったのでとても安心した。自分自身、そこまでコミュニケーションが得意な分類ではないため、あまり多くの人と話すのは苦手なのだ…

 

 

 5分後、俺は少し早めに準備を終え、鎮守府正門前に来た。

鈴谷はまだ来ておらず、通行人もいなかったため、そこには俺1人しか居なかった。

「上層部からの迎えはまだか…うん?」

何気なくあたりを見渡したその時、ポストに投函されている何かが目に入った。

それは少し大きめの茶封筒で、その膨らみから察するに何かの書類のようだ。

上からの資料かな、と思いその封筒を手に取ると、予想していたよりかなり重く驚いたが、それよりも封筒に書かれていたやや乱雑な文字に気がひかれた。

「“役立てろ”…?中身は何だ?」

ベリベリと封を切っている所に鈴谷がきた。

「ごめ〜ん、提督、待ったぁ?」

「あぁ、鈴谷か。なんかこれがポストに投函されていてな。中身を見ようとしていた所だ」

そう言って俺は中の資料を封筒より半分ほど引き出し、固まった。

「…“陸軍の生体実験の過程とデータ”…嘘だろ…?写真まである…」

「うぇ、またその重い話ぃ?…てかさ、この資料届けたのって提督のお父さんじゃない?」

鈴谷が“天啓を得た”と言うような顔で言ってきた。

「なぜそう思う?」

俺が問うと、鈴谷は自信満々に答え始めた。

「だって、今日の襲撃の可能性を提示したのも提督のお父さんでしょ?それで襲撃があると分かったら鎮守府は迎撃と共に情報収集も行うでしょ?そこでの写真とこのデータを今日の集まりの陸軍の奴らに突きつければ犯行が明らかになるじゃない。それをやって欲しいのかも」

「たしかに…その可能性もあるな。なんで父さんが行かないんだ?」

俺が言うと鈴谷は呆れ顔で返した。

「だって提督にお父さん、陸軍にマークされてるんでしょ?会場に入れるわけないじゃん」

「あっそっかぁ…まあこれが父さんからの物とは決まって…いやまぁ、ほぼ確定だが…とりあえずこれは有事の際まで俺が持っておこう」

俺が書類を封筒ごとカバンに入れるのとほぼ同時に、上層部からの迎えの車が来た。

「ほら鈴谷、乗るぞ」

「う…うん…」

俺らは車の後部座席に2人並んで座った。乗車から降車まで、終始鈴谷の顔が若干赤かったのは暑かったからだろう。うん。

 

 

 

 親睦会の会場前へ到着した。

公民館を一回り大きくして豪華にした感じの会場である。

車から降りると、一般兵が近づいてきた。

「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」

兵士に案内されるままに建物内へと入る。鈴谷は俺の後ろであたりを物珍しそうに眺めている。

やや高めの天井にはシャンデリアチックな電灯が掛けられており、あたりにはどちらかの軍の楽団が奏でているであろうクラシックが小音量で流れている。床にはレッドカーペットが敷かれていたりと、さながら中世の舞踏会だ。

「栗田提督のお座席はこちらになります。ごゆっくりどうぞ」

そう言うと兵士は足早に去っていってしまった。

俺はまだ座らない。と言うか今座ったら何やってんだコイツと言う目で見られる。今はまだ開始前、席に座っていいと言われるまでは立っていなければならないのだ。

「おぉ、栗田君、久しぶりだなぁ」

不意に後ろから声をかけられた。

「これはこれは、大将殿ではありませんか。ご無沙汰しています」

俺に声をかけてきたのは海軍の大将で、訓練兵だった俺を提督に推薦してくれた人の1人だ。

「君に活躍は聞いているよ。深海棲艦の大型前線基地を一つ丸ごと潰したんだって?すごいじゃないか!」

大将は周囲にいる陸軍将校にまで聞こえるような大声で俺の功績を褒めた。

「お褒めに預かり光栄です。今後も艦娘の皆と精進して参ります」

(言えねぇ!姉さん達が味方になることになったからお遊び感覚で姉さん達の合意の下、基地を吹き飛ばしただけなんて言えねぇ!!)

俺は引き攣りそうになる顔の筋肉を抑え、精一杯笑って返した。

このやりとりの後、周囲の陸軍将校の視線が一気に俺に向く。…やめてくれ…分かってはいたけどさぁ…これだから牽制会は来たくなかったんだ…

大将の話は続く。

「艦娘と言えば、今日は誰を連れてきたんだい?」

大将がアイコンタクトで“できるだけ大声で陸軍を牽制しろ”と言ってきているのがよく分かる。

「今日の親睦会にはうちの主力の一角を担っている重巡洋艦の「鈴谷」に随伴してもらいました。現在は改二で、練度は89ですね。うちの工廠メンバーのおかげで火力値と雷装値が100を超えています」

俺はできるだけ大きな声で鈴谷を紹介した。

「おぉ!それは頼もしいな!これからも頼むぞ」

そう言って大将はハッハッハと笑いながら俺の元を去った。

ちょうどその時、初老の陸軍のトップが式台の上に立ち、咳払いをして話し始めた。

『静粛に。皆着席してくれ。私は陸軍のトップ、花田純一郎だ。………今日はこの重要な集まりに忙しい中集まっていただいたこと、誠に感謝する。この会は陸軍海軍間の親睦を深めると共に技術共有をする場でもある。打倒深海棲艦を目標に、この会を有用なものにしてくれたまえ。以上だ』

パチパチと拍手が起こり、皆机の上に用意された軽い食事を摂りながら自身の近況を話し始める。

この食事の前までは静かに牽制しあっていたが、この後からは新型兵器の紹介などで大っぴらに牽制し始める。だがその兵器を紹介するだけで提供はしないので、現状この世界で最も無意味な時間だと言えるだろう。

 

 海軍のトップ(以下元帥)が式台の上に立って兵器の紹介を始めた。

「今日のこの会に私たち誇り高き海軍が持参しました新兵器は、新しい艦載機でございます!」

そう言って後ろの方に待機していた部下が艦載機に被せられていた厚手の布を一気に取り去った。

布の下から現れたのは、俺にとって実に懐かしい物だった。

「景山-改です!こちらがスペックとなります」

雷撃機 景山-改

武装:12.7mm機銃2門

   魚雷1本もしくは水跳爆弾2個

巡航速度:400㎞/h

最高速度:750㎞/h

航続距離:5000㎞(増槽あり6000㎞)

特徴:・逆ガル翼採用によるランディングギアの短縮

 

なんと、兵器紹介のトップバッターはうち考案の景山-改であった。…提出したの忘れていたぜ…

元帥はそのままペラペラとしゃべり続けた。

「スペックを見てもらうと分かるようにこの攻撃機は航続距離がとてつもなく長いところが特徴です。武装に関しては機銃こそややひ弱なものの、元々格闘戦をする機体ではないので十分でしょう。逆ガル翼によるランディングギアの短縮は意外と有効で、整備性が大幅に向上しました。景山-改については以上です!」

元帥は”どうだ参ったか”とでも言いたげな表情を陸軍側のテーブルに向けた。

陸軍側からは社交辞令の拍手とやや殺気がこもった視線が向けられている。…ここから逃げ出したい…

「次に紹介するのは…」

張り詰めた空気感の中、元帥がただ喋って自慢するだけの海軍の兵器紹介はこのあと30分ほど続いた。航空機をはじめ主砲、雷装、機関などの画期的なアイディアがいくつもあった。だが俺は話の五割くらいはウトウトしながら聞いていたので細かいスペックは覚えていないものが多い。

 不意にいつもより大きな拍手によって俺のフラフラしていた意識は突如として現実に戻された、元帥が式台を降りたのだ。それはつまり、陸軍の自慢パートになるという事を指す。

(注意して聞かねば…)

俺は耳をそばだてて陸軍のトップ(以下花田元帥)の話を聞くことにした。

陸軍のトップはとても自信満々な顔つきで式台へと上り、咳ばらいを一つしてから話し始めた。

「我々誇り高き陸軍がこの度海軍の皆様にご紹介しようとしている物は通常の兵器ではありません!我々もついに洋上戦力に対抗しうる()()を手に入れたのです!」

海軍側でどよめきが起こる。花田元帥はそれを満足そうに見ると話を続けた。

「それがこちらです。高機動型海上火力支援兵器、ミットシュルディガー(Mitschuldiger)!」

 そいつは艦娘よりひと回り大きく、容姿はだいぶ違っていた。まず人とは認識できない。さながらロボットであり、表面の合金であろう装甲板は白色で、首はなく、蛇のように三角形の頭部が胸部前面と一体化しており、単眼だった。胸部のすぐ下には足の付け根からは足がすらっと伸びており、がっしりと地面を捉えている。艦娘の靴のように船底を模した物ではなく、いかにも戦闘ロボットというような足だった。そして奇怪な頭部のほかにも目を引くところがもう一つ。腕である。腕は普通に二本だが、足同様金属質のロボットアームで、右手は重巡クラスの大口径砲が腕を挟んで連装装備されており、右手の甲には一門の小口径砲が設けられていた。左手に手のひらはなく、代わりにグラップルと思われる燻銀の銛とも鏃ともいえないものが不気味に光っていた。そして、左腕にはでかでかと黒文字で”大日本帝国陸軍・01”と書かれていた。

 海軍は目の前に現れた奇怪なものに困惑し、驚愕していた。”こんなものを陸軍が?”とでも言いたげな表情があちこちで見られる。

「この()()は海軍さんの艦娘とは似て非なる物と言っていいでしょう。仕組みは酷似していますがこちらは戦闘するうえで()()()()()感情を一切持ちません。命令を遂行するのみの個体となります。この個体が海戦に登場する暁には海軍さんのお手を煩わすようなこともなくなるでしょう!」

花田元帥は声高にそう言い切り、式台を降りた。

「それでは、各軍に対しての質疑応答を開始します。質問や意見がある者は手を挙げて発表してください」

司会が淡々と決まったセリフを言い、まばらに手が挙がり始める。

陸軍は海軍に対して”そんな装備で大丈夫か?”と遠回しに言って煽り、

海軍は陸軍に対してミットシュルディガーの事を聞きまくっていた。

 そんな中、突如俺の携帯に電話がかかってきた。

室内の視線全てが俺の方を向いた。俺は気にせず電話をスピーカーモードにして机に置き、電話に出た。

「どうした?」

「提督ですか!?青葉です。深海棲艦と思われる勢力からの大規模侵攻がありました!新型と思われる個体の写真は今そちらに送りましたので確認をお願いします!」

()()()()()。この言葉でその場にいた海軍の提督たちは一気に青ざめ、各々の鎮守府へと連絡を取り始めた。陸軍の連中も焦っているようだ。恐らく”写真を送った”というところに焦っているのだろう。

俺は青葉から送られてきた写真をチェックした。

「予想通り…いや、予想以上だな…」

会場のざわつきが大きくなった。どうやらほかの鎮守府にも攻撃が行っているらしい。

「質問があるのだが、よろしいだろうか?」

俺は手を挙げ、大きな声でそう言った。司会が”どうぞ”と短く言った。

俺はその場で立ち上がり、話し始めた。

「これまで、深海棲艦の侵攻は今回のように複数の目標に対して一斉にまとまった行動をとるという事例は見られなかった」

会場のどよめきがだんだんと小さくなる。

「しかし今回に限って、この陸海軍の指揮官ほぼ全てが集まるこの会の日に限ってそれは起きた。これは敵にも明確な指揮系統が出来た事を指します」

会場は静まり返っていた。

「何が言いたいのだ!?」

突如、花田元帥が立ち上がり、俺に向かって怒鳴りつけてきた。

「意見は私の話を最後まで聞いてからにしてください」

俺がそういうと、渋々そいつは席に着いた。

「先ほどうちの鎮守府の広報担当が”新型と思われる個体”と言っていた。俺はその個体が登場したことと今回の大規模侵攻が関係していると考えた。そして…その新型個体の写真が、これです」

そう言って俺は会場のスクリーンに青葉から送られてきた写真を複数枚映し出した。

刹那、会場は再びどよめきに包まれた。

海軍のお偉いさんの一人がスクリーンをふるえる指で指しながら叫んだ。

「こっ…これは…っ!陸軍のミットシュルディガーじゃないか!?」

そう、その画像に写っていたのは先刻陸軍が偉そうに自慢していた高機動型海上火力支援兵器、ミットシュルディガーがル級はじめ、見覚えのあるメンツを引き連れて戦闘しているものだった。相手はもちろん艦娘で、どうやら苦戦している様子が見て取れた。

周りの景色がぼけていることから、相当なスピードで動いているのだろう。ひざ下の裏からはジェット推進を思わせる炎が出ていた。

俺は陸軍の方へと向き直り、睨みつけながら言った。

「これは一体……どういう事なのか、説明してもらいましょうか?」

俺は精いっぱいの怒気を込めて言ったつもりだったのだが、陸軍はひるむ様子もなく、食い気味に答えた。

「これは偶々、深海棲艦も同じような物を開発しただけでしょう。我々が完成させたのはこの一機のみ。我々の仕業ではありません!」

花田元帥は”反論できないだろう?”とでも言いたげな顔でこっちを見て笑っていた。

「そう来ると思ってましたよ」

俺は半笑いで言った。

「じゃぁこれは…なんです?」

俺は青葉から送られてきた画像で、まだスクリーンに映していなかった一枚を映し出した。

「なっ!?」

「これは…」

会場は喧騒に包まれた。俺が今映した写真、そこには…

艦娘に向けグラップルを発射しようとしている個体。伸ばされた左腕には”大日本帝国陸軍・02”の文字がくっきりと、写っていた。青葉の撮影技術には感謝しかない。

「陸軍ッ!貴様いったいこれはどういう事だッ!?」

元帥をはじめ、海軍のほとんどが陸軍側へと詰め寄った。

「元帥殿、参謀殿、追加でこれをご覧になっては?」

そう言って俺はあの封筒を元帥に渡した。

元帥はひったくるようにして俺から封筒を取り、中身を確認し始めた。

しばらくすると元帥は固まった。

「なんだこれは…“陸軍の生体実験の過程とデータ”…写真まで…」

その言葉を聞いた花田元帥が俺に怒鳴った。

「貴様っ!ドクターとグルなのか!?…いや、あいつは死んだはず…」

俺はどこ吹く風という顔で答えた。

「はて?私は鎮守府に投函されていた資料を渡しただけですが?誰ですかね?ドクターとは」

陸軍の奴らは顔を顰めた。

元帥がさらに詰め寄る。

「どういうことなのだこれはッ!?お前らは敵だったのか!?」

元帥に詰め寄られた花田元帥は押し黙った。

「おいっ!答えr…」

刹那、乾いた破裂音が会場に響き渡り、元帥が崩れ落ちた。

「うるせぇ奴だ…知らなければよかったものを」

花田元帥の右手には青白い煙を立てる九二式が握られていた。

「全員武装だ!こうなったからにはここで海軍を潰す!ミットシュルディガーを起動しろ!」

花田元帥がそういうや否や、陸軍将校全員が拳銃を取り出して武装し、ミットシュルディガーのモノアイが紅く光った。

「逃げろ!」

海軍の誰かが叫び、次々と海軍関係者が会場から逃げようとした。

随伴艦として連れてきた艦娘たちは簡易艤装展開(装甲のみを展開状態)で拳銃弾を防ぎ諸鎮守府の提督たちを守りながら撤退していく。

会場は混乱していた。銃声、断末魔、ミットシュルディガーの金属的な歩行音。先ほどまでの静かな様子とは打って変わって戦場のようだった。

「鈴谷!新型機を頼む。モノアイに砲弾を命中させれば視界不良で行動不能になるはずだ!」

「り、了解!提督はどうするの!?」

俺は逃げながら鈴谷に向かってミットシュルディガーの無効化を頼んだ。鈴谷は若干戸惑っているみたいだが彼女ならきっとやってくれるだろう。

「俺は、深海側の指揮系統を断つ!」

深海棲艦がまとまって行動し始めたのは恐らく陸軍が深海側の指揮を執っているからだ。つまり、陸軍の上層部を潰せばその指揮能力は大幅に下がるだろう。今を逃したら圧倒的な物量でやられてしまう。ミットシュルディガーがどこまで量産されているかも気がかりだが、まずは目の前のことに集中することにした。

 

「艤装展開!VK16.02 leopard!」

俺はドイツの試作軽装甲偵察戦車であるレオパルドを艤装として纏った。30mm機関砲は大勢を相手するのに役立ってくれることだろう。

 

 俺は親睦会が行われていた会場の前まで引き返してきた。

陸軍が逃げた後だったらどうしようかとも思ったが、それは杞憂だったようで陸軍の連中の話し声が聞こえた。

俺はそれをチャンスとばかりに会場へ乗り込んだ。陸軍しかいないだろう、とタカをくくって。

陸軍(裏切り者)めっ!覚悟…ッ!?」

機関砲を構え、意気揚々と乗り込んだ俺を目の前で待ち構えていたのは、白色の金属機体だった。

「なっ!?」

とっさの判断で俺は右方向へと飛んだ。

そして、コンマ数秒前まで俺がいた所は跡形もなく消し飛び、大きなクレーターが出来ていた。

「三号機、止まれ」

不意に聞き覚えのある声が響き、目の前の機体は俺に砲口を向けたまま静止した。

「花田…元帥…ッ!」

俺はその場で絞り出すような声でその人物の名を呼んだ。

花田元帥…花田はうすら笑いでこちらへ話しかけてきた。

「最初の一撃で()るつもりだったんだけどねぇ、よく避けた。それの報酬と言っては何だが、少し話そうじゃないか」

俺は身動きが取れず、ただ黙って花田を睨みつけた。

「いいねぇ、その悔しそうな顔。それはそうと…その艤装は何だ?」

「貴様らに…答えるつもりはない…」

俺は辛うじて口だけを動かして答えた。今下手に動けば目の前の三号機に殺される。いくら艤装展開中だとはいえ、軽戦車が戦艦クラスの砲弾をくらって無事なはずがない。

「そうか…それは残念だ。栗田提督、息子は元気かね?」

突拍子もない質問に俺は眉をしかめた。

「俺に息子はいないが…」

「君の息子ではない。私のだ。花田優樹少尉の事だよ」

俺は目を見開いた。少尉に初めてあった時、苗字が同じだな、とは思っていたが、まさか陸軍の元帥の息子だったとは…なぜ海軍に…?

「元気ですよ…素直ないい子です」

「そうか…」

そう言って花田はニヤリと笑った。

その時、俺の携帯電話に電話がかかってきた。どうやら青葉からのようだ。

花田は顎でクイっと指して俺に電話に出るように促した。

「もしもし、俺だ」

「提督、大変です!近海で戦闘中に手薄になった鎮守府が襲撃されて花田優樹少尉が誘拐されました!」

「なんだと!?鎮守府の被害状況は!?」

「こちらも忙しいのですみませんが切ります!では!」

青葉からの電話は一方的に終わった。電話の背後で砲撃音らしき音が聞こえていたことからまだ戦闘中なのだろう。

俺は薄ら笑いを浮かべている花田に向き直り、言った。

「何をする気だ…?」

すると、花田は得意げに話し始めた。

「先程の機体や、今目の前で君に砲口を向けている機体は中身が機械だ。だが、この中身を人間からとって組み込むとより高度な命令をこなせたり、より高度な戦闘スタイルで戦えたりするのだよ。栗田提督よ」

そこまで言って花田はニヤリと笑った。目に光はなかった。

「テメェ…まさか…実の息子に手ェ出す気なのか!?」

俺が怒鳴りつけると花田は笑って言った。

「その通りだ。あいつ…優樹は昔から兄弟の中で唯一私に対して反抗的だった。恐らく私のやり方が気に食わなかったのだろう。何度罰を与えてもめげずに反抗してくる。まるで自分が正義の味方だと言わんばかりにな。軍に入れる年齢になった途端、優樹は海軍になると言ってきた。花田家は代々陸軍の家系だったから、そんなことは認められないと言ったのだが、あいつは家を飛び出してまで海軍に入ったんだ。実に気に入らない。そこで、だ。少しばかりお灸を据えてやろうとしているって事だ」

俺は唖然とした。自分に従わないからと言って実子を殺し兵器に改造するだと…?気でも狂っているのではないだろうか。

花田はさらに続けた。

「もちろん、意識を奪って改造したのではただ殺しただけになってしまう。意識は残しておき、命令は絶対にこなす機体に改造するのだよ」

俺は目の前に砲口を突きつけられていることを忘れるくらい、憤りを感じた。

改造されたが最後、花田少尉は自分の意思を保ったまま目の前で繰り返される殺戮を見続けなければならないのだ。

「それが人間のすることか!?」

怒鳴りつけるが、相手は動じない。

なんとかしてここの陸軍連中を殺してやりたいと思ったが、現状手段がない。少しでも動けば俺が殺されてしまう。

「栗田提督よ。君と話せて楽しかった。だが楽しい時間はいつかは終わらなければならない。終わりがあるからこそ楽しいのだ。…じゃあな」

そう言って花田は三号機にGOサインを出し、三号機が艤装を構え直した。

(万事休すか…)

そう思い目を瞑った。

刹那、轟音が響き渡り俺は跡形もなく消し飛……ばなかった。

「なっ!?」

花田の驚いた声に恐る恐る目を開けるとそこに三号機は居らず、数メートル離れたところへ吹っ飛んでいた。

俺が何が起こったか分からず目を白黒させていると聞き慣れた声が会場の入り口の方から聞こえてきた。

「提督がピンチだなんて、らしくないじゃん?」

その声の方を見ると、外の光を後光のように纏い、ご自慢の203mm砲から白い煙を靡かせた鈴谷が立っていた。

「鈴谷…!助かった!」

他にもいろいろ言いたいことはあったが、まずやるべき事は目の前の連中の掃討だ。

「ここからは俺のターンだ。行くぞ!」

ミットシュルディガーが吹き飛ばされてから数秒後、俺らは行動を開始した。

俺は30mm機関砲で陸軍…もとい、敵に向かって発砲し、鈴谷はミットシュルディガーの足の付け根やモノアイなどの弱点への砲撃で無力化を図った。

敵の断末魔や鉄と鉄のぶつかり合う音が暫く響き、やがて静寂が戻った。

その結果、会場は赤く染まり、ミットシュルディガーは火花を散らしながら崩れ落ちた。

「…艤装収納」

それを見届けた俺は、鈴谷の方に歩み寄って頭を下げた。

「鈴谷、本当に助かった。ありがとう」

「ふふーん、褒めてくれてもいいんだよ?」

鈴谷は得意そうにして言った。

「あぁ、鈴谷は本当にすごいな。命の恩人だ」ナデナデ

「ふぇっ…そういうのはもっと大事な時にやってよ…」

鈴谷は顔を赤らめて俯いた。

その時、後ろで音がした。

「ッ!?」

咄嗟に俺は後ろを向いて、固まった。

「花田…テメェ生きてたのか…」

花田は満身創痍になりながらも俺に向けて九二式拳銃を向けて立っていた。艤装収納している今、俺はただの人間だ。拳銃弾一発で死ねる。鈴谷も収納状態のため人となんら変わらない。

花田は笑いながら譫言のように繰り返し言った。

「俺の野望はまだ終わらない…こんなところでは終われねぇ…あと少し…やることが…」

花田の手に握られた九二式に力が入る。

だが、その後の発砲音で崩れ落ちたのは、花田の方だった。

驚き、発砲音の方を見ると、初老の、薄汚れた白衣に身を包んだ男性がややバレルが長く、拡張マガジンなどが付属している九二式を構えていた。

「ドクター…死んだはずじゃ…?」

花田が床に倒れながら絞り出すように言った。

それに対してドクターは嘲笑うように言い放った。

「残念だったなぁ、トリックだよ」

それと同時にさらに2発撃ち込み、花田はこときれた。

俺はあまりの急展開に驚きつつもなんとか言葉を発した。

「父さん…?」

それに対しドクター…もとい、父さんは慈愛のような表情を浮かべ、言った。

「ただいま…我が息子よ。そして…すまなかったな」

父さんが手を広げる。

俺はその中に飛び込んだ。

すると、自然に涙が溢れてきた。まるでダムの堰を切ったように、とめどなく。

俺ら親子は暫くそのまま、再会を分かち合ったのだった。

 

 

 

ひとしきり終わった後、父さんからの謝罪ラッシュがあったのはまた別の話だ。




どーでしたでしょーか。数週間暇な時間を見つけては書き、見つけては書きを繰り返していたので文法等が破綻しておらずちゃんとした文章になっているといいのですが。
誤字脱字、ここの表現がおかしいな、などありましたら誤字報告またはコメントにてお知らせください。

次回は今回の時間軸の鎮守府視点になるかな〜と思っております。海戦かけるかなぁ…

こちらはミットシュルディガーのイメージです。下手なのは許してください。

【挿絵表示】


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28

海戦書けねぇよちくしょぉぉぉぉぉ…

語彙力ってどこで育つんだろうね


「戦艦部隊隊列を整えろ!」

長門が命令を飛ばす。

現在は午前十時半ごろ。

「敵が多いですね…久しぶりに本気が出せそうです」

「白兵戦に持ち込んでやる…大和、行けるか?」

「武蔵…貴女今回は艤装使いなさいよ…?」

天気は快晴。程よい潮風が海上を吹き抜けている。

「ich freue mich…この装甲を存分に生かせそうだ」

「フューラー、頼んだぞ」

「あぁ、分かってるよ。”仕事モード”の鉄血宰相さん」

そして水平線の彼方に蟻のような黒点が無数にいる。

「うぇ、あれを全部相手にするの…?私はちょっと…日向~、やっといてぇ~」

「おい伊勢。泣き言を言うな。敵が来るぞ」

もう少しで戦闘が始まる。人類と深海棲艦の存亡をかけた前哨戦が。

先ほど偵察機が敵艦隊に向け飛び立った。間もなく報告が来るだろう。

{敵艦隊補足!かなりの数です!}

空母部隊より報告が入る。

{敵の編成は?}

長門が無線の先、一航戦の赤城に対して尋ねた。

{敵は…ッ!…}

赤城が短く息をのんだ。

{どうした!?}

{墜とされました!…そんな…結構な高度で飛んでいたのに…}

(どうやら今回の敵は対空値がかなり高いようだ…)

長門は心の中でそうつぶやき、無線機を取った。

{全艦隊に告ぐ!今回の敵はかなり対空が高い!空母部隊は特に注意して行動してくれ。新たな情報が入り次第また伝える。合図があるまで発砲はしないように。以上だ}

”了解!”と威勢のいい声があちこちから返ってくる。

皆の指揮はこれ以上ないほど高いようだ。その証拠に、あの怠け癖のすごさで有名な加古が自ら進んで前に出ようとしている。これまでになかったことだ。

 

ちょうどその時空母部隊から威力偵察機部隊第一陣が飛び立とうとしていた。

 

ーー

ーーー

ここは二航戦・蒼龍の飛行甲板の上。現在威力偵察のための艦載機が発艦しようとしているところだ。

「エンジン点火ァ!発艦準備始め!」

一人の快闊そうな整備兵妖精が声を張り上げる。

甲板は一気にあわただしくなり、次々と賢鷹(キーンホーク)やキ64爆装が射出用フック(レールガン)にかけられる。

その時、甲板の端の方にいたどうも気弱そうな整備兵妖精が待機列の先頭の賢鷹に駆け寄った。

江草 隆繁(えぐさ たかしげ)大佐。どうか…ご無事で」

そういってお守りを差し出した。

大佐(妖精)はコックピットから少し身を乗り出してそれを受け取ってから言った。

「そんな心配そうな顔をしないでくれ。私は蒼龍の艦爆隊長だぞ?それに、あの時(あ号作戦)に乗っていた鈍重な双発機(銀河)とは違って今回はほとんど戦闘機と言っていいスペックに爆弾をつけた高性能機だ。そうそうやられはせんよ」

笑いながら大佐は言ったが、整備兵妖精は不安そうな顔で言った。

「そうですか…しかし、もしも”ヤバい”と思った場合、コックピット内部計器の一番右についているレバー…そうです、それです。それをひねって押し込んでください。きっと役に立つと思います」

大佐は不思議そうな顔をしてから聞いた。

「そうすると、どうなるのだ?」

「そうすると…」

 

 

 

一言、二言交わした後、整備兵妖精は足早に賢鷹のもとを去った。

「艦爆隊の皆さん、用意はいいですか?」

蒼龍が飛行甲板の上の機体たちに話しかけた。

本来艦娘の空母は弓矢や式神によって艦載機を飛ばす方式だが、ここの鎮守府の空母は軽空母や正規空母と言った差に関わらず全員が飛行甲板を構えて発艦する方式に改装されている。もちろん、電磁誘導発艦(レールガン)だ。

「おうよ!蒼龍の嬢ちゃん、やってくれ!」

江草大佐は蒼龍に向けて精いっぱいの大声で叫び、コックピットを閉める。

カチャリ、とコックピットが閉まり、甲板上の喧騒が遮断される。聞こえるのは自身の真後ろから聞こえるハ201改の綺麗な回転音だけだ。

江草大佐は深呼吸をして水平線の彼方を睨んだ。

「もう誰も、無駄死にさせたりはしない」

そうつぶやき、操縦桿を握った。

「第一次威力偵察部隊、発艦はじめっ!」

蒼龍の透き通った声が響き、甲板に青白いスパークが迸った。

「ッ!」

刹那、機体が急激に前へ前へと加速し始め、体がシートにへばりつく。

シャァァァァァァ!と、金属と金属がこすれ合う音が数秒の間響き、突然にその音が途切れ、浮遊感に襲われる。

「っし、無事発艦だ!」

大佐は操縦桿を引き込み、機体を上昇させる。入念に整備された賢鷹の心臓部は獰猛な唸りを上げ上昇時にも拘らず機体をグングン押し上げていく。

「全機、私に続け!」

後続の賢鷹やキ64、合計八機も負けじと加速して追いすがる。

 

間もなく一行は雲の中へと突入、その勢いで雲の上へと躍り出た。

 

雲上で隊列を整え、全機が巡航状態に入ったのを見て大佐は無線機を取った。

{みんな、よく聞いてくれ!今回の目的はあくまで威力偵察、攻撃がメインではない。生きて帰ることが最優先事項だ!少しでもヤバいと思ったら離脱するように。敵の情報を持って帰る事こそが我々の任務なのだからな}

無線を切ると、後続の一機から無線が入った。

{大佐、もし投弾の機会があればやってもよろしいでしょうか?}

大佐は答える。

{大丈夫だ。だが、事前に明石殿から言われていることがあってな、目視で見える敵艦を覆う球体上のモノ、もしくは空間の歪みなどを見つけたら絶対に突っ込まないようにしてほしい、との事だった}

{それは何なのですか?}

部下が質問をする。

{いーじす、と言う深海側の新たな防御機構らしい。横文字は分からんが、どうやら神の盾という意味らしく、触れたら分解されちまうらしい。気をつけるんだぞ}

{末恐ろしい…気をつけます}

その無線を最後に、部隊にはしばらくの静寂が訪れた。八発のハ201改が快調に回り続け、600km/hほどで飛行している。

 

{左下海上、無数の敵艦を視認!降下しますか?}

部隊の一番左端を飛んでいたキ64から無線が入った。

大佐は無線を取った。

{降下はするな!気づかれていないうちに敵の編成、数、新型はいるかどうか、それを調べろ!全機、高度そのままで左旋回、敵艦隊の上空を高高度で通過するぞ!}

無線の直後、大佐の賢鷹を先頭に部隊全機が一糸乱れぬ旋回を始める。

そして、敵艦隊の真上まで来た時、先ほどのキ64から報告が入る。

{敵艦隊に新型機と思われる個体を多数確認!白色大型、右手…が武器腕のようです、左腕には何やら光るものが見えます!それと、既存個体のelite、flagship共に多数!通常個体がボス級個体に4隻ずつの規模でついています!写真も撮りました!}

さらに部隊右端の賢鷹から報告が入った。

{遠方に鬼級個体を複数確認!それと、先ほどのイージスらしきシールド持ちの…あれは…なんだ?よくわかりませんが、シールドは確認できました!同じく写真に収めました}

大佐はその結果に微笑み、指令を飛ばした。

{よし!これより帰投する。全機左旋回、最大速力で帰るぞ!}

全機が旋回を終え、一路艦隊へと向かおうとしたとき、殿のキ64から切羽詰まった声で無線が入った。

{後方距離約600、敵機の大編隊!気づかれたようです!}

{!?敵機のおおよその速度は?}

{速度約‥‥700km/h!}

大佐はそれを聞くと操縦桿を握りなおして前を見据えた。

{全機速度900km/h、キ64には少し辛いかもしれんが、逃げるぞ!}

それと同時に大佐は蒼龍へと無線を入れる。

{こちら江草!偵察には成功したが気づかれて敵機の大編隊から現在逃走中!対空戦闘の準備を頼む!}

無線の向こうの蒼龍はひどく困惑したようだった。

{大編隊!?た、大変…分かった、無事に帰ってきてね}

そう言って無線は切れた。

「頼むから…予期せぬ事態は起きないでくれよ…」

大佐は独り言を言った。

ーーー

ーー

 

「赤城さん!偵察部隊より報告がありました。偵察には成功したが敵の大編隊がこちらへ向かっているとのこと。長門さんへの通達をお願いします!」

呑気におにぎりをほお張っていた赤城は急いで無線機を取った。

{ながとひゃん!てきがきまふ!}

{まずは食い終わってから喋れ!それでなんだって!?}

長門が突っ込み、赤城がおにぎりを飲み込んでからもう一回喋った。

{偵察部隊の後方より敵機の大編隊が来るそうです。対空戦闘を通達してください!}

{…分かった!}

長門は無線を全体に切り替え、言った。

{全艦対空戦闘用意!敵機の大編隊が来るぞ。防空駆逐艦や巡洋艦は空母を護れ!一隻も沈ませるなよ!}

”了解!”との声が返ってくる。

駆逐艦の長10㎝砲が機械音と共に最大仰角を取り、空母や戦艦の甲板上の対空機銃や対空砲にわらわらと妖精さんたちが集まり、仰角がかけられる。

初秋の蒼空に幾百の砲口、銃口が向けられ、静止する。

先ほどまでは雑談をする余裕があった艦隊だが、今はその余裕もなくなり、緊張が艦隊中を駆け巡っている。群狼艦隊を除く全艦隊はやがて聞こえてくれるであろう鉄鳥の咆哮に耳をそばだたせていた。

 

ーー

ーーー

 

{…!味方艦隊前方に発見。全機速度を緩めるんだ。600km/h!}

大佐がいい、部隊の速度が下がる。敵編隊は遥か後方へと置き去りにしていたが、視界から消えはしなかった。

{全機降下、速度を緩めつつランディングギアを出せ!}

大佐が指示したとき、部隊中央にいた賢鷹から悲鳴じみた無線が入る。

{未確認機直上!急降下ァァァ!}

「なに!?」

大佐は上を見上げ、太陽の眩しさに思わず目を顰めた。

すると、太陽の影から一機の細長く黒い機体がありえないスピードで降下してきた。

何とか視認できた真っ黒いカラスのような機体の先端に紅い光が灯ったのが見えた。

刹那、部隊中央の賢鷹の主翼が吹き飛び、爆発とともに炎に包まれながら錐揉み状に海面へと落下していった。

{五番機がやられた!何モンだあいつは!?}

{死神か!?}

一機墜とされたことで部隊の間に動揺が広まる。

{狼狽えるな!}

大佐の一喝で静寂が訪れる。

{あの速度の急降下だ、復帰まではまだ時間がある。それまでに味方艦隊にたどり着くぞ!}

{それが…大佐…}

{どうした!?}

大佐は少々苛立ちを覚えながらぶっきらぼうに聞いた。

{未確認機、約1100km/hで味方艦隊…駆逐艦隊の方向へと向かっています!}

{なんだと!?}

ーーー

ーー

 

 

時は遡る事十数秒前、駆逐艦隊にて。

「あ、吹雪ちゃん、偵察部隊見えたよ!」

「ほんとだね。どうやら全機無事みたい…」

 

ドォォン…

 

「…えっ?なに、あれ」

突如落とされた味方機と迫り来る敵機に吹雪型は対応が遅れた。

「全艦臨戦態勢!敵よ!」

ほぼ全員がポカンとしているところに叢雲が指示を飛ばす。

「敵は黒色の飛行機、かなり速いスピードで飛んでいるわ、注意して…」

叢雲が言い終わる前に、それは訪れた。

先ほど、賢鷹を一発で葬ったのと同じ、紅い光が叢雲に直撃した。

瞬間、周辺が爆発し、水壁がそそり立った。敵機はその上を爆速ですり抜け、上空へと向かった。

「叢雲ちゃん!」

綾波が叫ぶ。

「ッ!何この衝撃波…」

水壁がなくなり、現れたのは…

「クッソ…あんの野郎…」

轟沈寸前、ゲームで言うHP1の状態の叢雲がそこにいた。

「叢雲ちゃん、沈む寸前じゃない!?早く帰らないと…」

「もう無理よ」

叢雲が吹雪の話を遮った。

「それはどういう…」

「応急修理要員が発動したから、この状態なのよ…私はもう、一回死んでいるわ」

応急修理要員。それは艦娘にのみ装備できる一回だけ轟沈を回避して大破状態に修復するもの。装備スロットを一つ使ってしまうため、よほど大事な船にしかつけないものだ。

「あのバカ提督が、ほぼ全駆逐艦と一部艦艇に装備スロットを潰してまで装備させていたのが役に立ったのよ…だけど、あの飛行機はもう一回私をやるみたい。ほら」

叢雲が指示した先には、空中で急旋回し、急降下してきている先ほどの黒色の機体がいた。

「たっ、対空砲火用意!」

「今までありがとう…」

「叢雲ちゃん、そんなこと言わないでよ!」

敵機の先に、紅い光が集まり始める。対空砲火は続けているが、当たる気配は一向にない。

(これまでか…)

叢雲は目をつぶった。

だが、死んだのは叢雲ではなかった。

突如、急降下中の敵機が爆散し、残骸が海に落下したのだ。

「何が…起こったの…?」

吹雪型の皆は目の前の脅威がなぜか去ったことが信じられず、ポカンとしていた。だが、敵機が急に墜ちた訳は、すぐに分かることになる。

数秒後、吹雪型の上空に一機の艦載機が飛来し、旋回を始めた。

{よう、嬢ちゃん、大丈夫だったかい?}

無線が入った。

{あなたがやってくれたのね…?感謝するわ}

叢雲は無線を取ってお礼を言った。

{お礼は明石殿に言ってくれ。この機体が無けりゃ救えなかったよ}

そう言って上空の機体はバンクを振って、飛び去った。

「あの機体は…何だろう、見たことないけれど」

初雪がボソッと言うと、叢雲が答えた。

「あれは賢鷹(キーンホーク)と言って、提督と明石さん、夕張さんが考えた戦闘機兼爆撃機だそうよ。…このくらい知っときなさいよね」

叢雲は呆れたようにそう言い、

「それともう…私は限界だわ…」

倒れた。

それもそうだ。艦娘のHP1状態とは、沈みかけなのだ。ずっと立っていられるわけがない。

「たっ大変!急いで運ばなきゃ!私が運ぶから、みんなは長門さんあたりに連絡をお願い!」

吹雪が叢雲を担いで鎮守府へと急いで航行を始める。

残った吹雪型は無線を入れ、隊列を立て直し始める。

 

ーー

ーーー

数分前、上空。

「まずい!本格的な戦闘の開始前に艦艇の損害を出すわけには…」

部隊の誰かが言った

駆逐艦隊に向かっていった黒い戦闘機はもう第一射を浴びせようとしていた。

「俺が行く!他の機体はそのまま帰還しろ!」

「ですが…!」

隊員の言うことを尻目に、江草大佐は操縦桿を押し込んで機体を急降下させる。

大佐の賢鷹は翼端から雲を引きながらグングンと黒い敵機に近づいていくが、差はなかなか縮まらない。

(クソッ…!こっちだってかなり無理をしているのに差が縮まらねぇ…!無誘導弾を使うしか…!)

この状況で敵機を撃墜可能なのは翼下の無誘導墳進弾しかない。だがもし外せばその先にいる駆逐艦に被害を出すかもしれん…まぁ、大丈夫だろう。多分。

「墳進弾発射準備!」

翼下の墳進弾懸架装置が音を立てて降下し、墳進弾の安定翼が展開される。

「クソッ…フラフラしやがって!」

敵機は微細な動きで右へ左へと動き、狙いが定まらない。

だが、その動きにも終わりが来る。敵が射撃モードへと移行し、動きが安定したのだ。

敵機が自機HUDのレティクル中央へ吸い寄せられるように移動した。

「今だ!発射ァ!」

軽い金属音とロケット燃料の燃焼音が重なり、蒼空に切れ目を入れるような一筋の白く、細い雲が敵機めがけてまっすぐに伸びていく。

 

紅い光が放たれようとしたその瞬間、墳進弾が命中した。

 

「よッし!」

大佐は命中を確認するとダイヴブレーキを全開にし、亜音速飛行中の機体に急激な減速をかけた。機種が上を向き巡航速度へと戻る。

敵機は橙色の炎を煌めかせて瑠璃色の海へと消えて行った。

大佐は機体を旋回させ、眼下の駆逐艦隊へ無線をつなげた。

{よう、嬢ちゃん、大丈夫だったかい?}

攻撃対象となっていた艦娘は機関部などから黒煙を吐いていたが、何とか無事なようだった。

{あなたがやってくれたのね…?感謝するわ}

だが満身創痍な見た目と反して声はかなり元気で、高圧的ながらも感謝の気持ちが伝わってくる言い方だった。

{お礼は明石殿に言ってくれ。この機体が無けりゃ救えなかったよ}

大佐はそう言い残し、バンクを振って母艦「蒼龍」への帰投を開始した。

 

ーーー

ーー

 

 

 

叢雲の一件の後、敵機の大編隊が襲来し、対空戦闘になった。

その過程で戦艦扶桑、重巡那智、愛宕、駆逐艦潮、朧、山風、初春が戦闘不能に陥り、駆逐艦は複数の姉妹艦と供に帰投したため、駆逐艦隊の戦力は削がれた。が、駆逐艦隊の中枢を担う暁型、白露型などの大多数が健在な為総合戦力値としてはさほど変わらないだろう。

敵側の損失としては、編隊の約6割が撃墜、2割損傷ながらも帰還、残り2割は無傷で帰還したようだった。

対空戦闘を終えてほっとしたのもつかの間、やがて敵の本体とかち合うことになる。

敵が小隊規模で展開していることを受けて鎮守府側も長門の指示で編成を組みなおすこととなった。

敵が迫り来る中、鎮守府正面は戦艦1、重巡1以上、軽巡2、駆逐3以上とし、側背面の包囲担当は重巡1、軽巡1、駆逐2以上とした編成が急遽組まれ、接敵寸前に編成が完了した。

 

 

 

接敵(engage)!!」

誰かが叫んだのを皮切りに、各箇所で小隊規模の激しい戦闘が始まった。

 

 

 




すんません、一旦ここまでで。

engageが接敵じゃねぇとかこういう場合は日本語の方が正しいだろとかそういうのは一切なしの方向で。
対空戦闘をカットしたのも突っ込まないで。頼むから


今回登場した大佐には後々活躍してもらう予定です(今回も活躍したけど)
整備士妖精がほのめかしていたキーンホーク(大佐仕様)のギミックについても後々あるので今は言及しないでもらいたい。
最近モチベーションが上がらないので次はいつになるか分かりません。

誤字脱字等ありましたら報告をお願いします。
次回もよろしくお願いします。


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29

 海上は騒がしかった。そこら中に硝煙の匂いがたちこめ、被弾炎上した敵が吐く黒煙やちらつく炎が視界を妨げていた。

現在艦隊は既存個体のeliteやflagshipからなる部隊と交戦中で、戦局は優勢だ。

各小隊に分かれたことが功を奏し、戦艦、重巡が攻撃を引き付け、その間に軽巡や駆逐の魚雷攻撃で沈めるという戦法で着実に敵を減らしていったのだ。

「弾着……今ッ!命中、敵レ級elite撃沈確認よ!」

陸奥が鎮守府正面に現れた既存個体小隊では最後と思われるレ級eliteを今沈めた。

{陸奥、よくやった。だが気を緩めるなよ}

{長門姉、大丈夫だって…}

”心配しないで”と言おうとしたとき、青葉から報告が入る。

「敵の新手を確認!新型個体と思われます!例の白色個体です」

「来たわね…お手並み拝見!」

陸奥がミットシュルディガーに向けて発砲した。

直後、爆炎で敵の姿が掻き消された。

「やったかしら…?」

「ちょっ、陸奥さんそれフラグ!!」

味方からのツッコミが終わるや否や、煙の中から金属の爪が飛び出し、陸奥の艤装に深々と刺さった。

「なっ!?」

陸奥は急激に引っ張られる感覚に襲われ、バランスを崩した。

「陸奥さん危ない!」

「え?」

 ふと前を見ると、そこには撃ち込まれた爪から伸びているワイヤーを巻き戻しながら迫り来る敵の姿があった。

敵の右手の連装砲がこちらを向いた。

刹那、轟音とともに爆炎で陸奥の姿は掻き消された。

悲鳴すら掻き消す、大気を揺るがすほどの轟音だった。

爆炎が晴れると、そこには満身創痍の陸奥と火花を散らしているミットシュルディガーがいた。

「ッ!陸奥さん大丈夫ですか!?」

青葉を除いたその小隊の数名が駆け寄る。青葉は写真を転送しているようだ。

陸奥は死にかけながらも口を開いた。

「提督に…感謝しなきゃね…長門姉に無線をつないでくれる?」

そばにいた朝潮が無線をつないだ。

{長門姉…私は撤退するわ。敵の攻撃は強力だけど、どうやら頭は悪いみたいだから、接近戦にだけ気をつけてね…}

{撤退!?どういうことだ…?陸奥…まさかお前!}

{応急修理要員に助けられたわ。敵は私の誘爆に巻き込まれていまショートしていて行動不能だから安心して。多分そっちにも現れるころよ。気をつけ…}

陸奥が言い終わろうとしたとき、写真を確認していた青葉が大声を出した。

「陸奥さん、長門さん!この敵陸軍製ですよ!?」

{なんだって!?}

朝潮から無線機を受け取って青葉は喋った。

{左腕に大日本帝国陸軍・02って書いてあります!こいつら陸軍です!}

{ほう…陸軍の連中…とうとう人の道を踏み外したか…情報ありがとう、そちらは陸奥の曳航を最優先にして他の小隊に任務を替わってもらってくれ}

{了解です。では}

そう言って無線を切り、青葉は陸奥に肩を貸して鎮守府へと移動し始めた。

小隊メンバーで無事なのはそこにとどまり、あとから来る代わりの小隊の追加戦力として戦う予定だ。

長門の全体無線が入った。

{皆、よく聞いてくれ。青葉からの情報提供により敵の新型個体は陸軍製のロボット兵器という事が判明した!人の道を踏み外した奴らにはどうなるかを教えてやれ。近接戦闘に持ち込まれると一部の奴らを除いてこちらが不利だろう。なるべく近接戦闘は避けるように。それと1対1ではなく1対多で応戦するように!以上だ}

各方面から威勢のいい”了解!”の返事が返ってくる。

そろそろ各小隊が接敵する頃合いだ。

長門は無線に向かって叫んだ。

 

「戦闘ッ、開始ッ!」

 

蒼空を駆け抜ける爽籟の下、決戦の序章が始まった。

 

 

ーー

ーーー

 

 ここは鎮守府正面から少し外れた場所。深度が比較的浅く、実際の船なら航行不可能な場所だ。潜水艦が来ようものなら目視で発見されてしまう浅さだ。ここの海域担当の小隊は…

 

旗艦  熊野改二(30.5㎝三連装砲5基・61㎝四連装魚雷発射管4基・零式水上偵察機1機・その他対空兵装)

随伴艦 大井改二(61㎝五連装酸素魚雷発射管10基・50口径14㎝単装砲4門・対空兵装(史実より増加))

    霞改(65口径12.7㎝連装速射砲3基・61㎝四連装魚雷発射管2基・25mm機銃4門)

    霰改(65口径12.7㎝連装速射砲3基・61㎝四連装魚雷発射管2基・25mm機銃4門)

    陽炎改(65口径12.7㎝連装速射砲3基・61㎝四連装魚雷発射管2基・25mm連装機銃4基)

    不知火改(65口径12.7㎝連装速射砲3基・61㎝四連装魚雷発射管2基・25mm連装機銃4門)

 

となっている。これらの装備一式は明石と夕張が独断と偏見で作成した物を流用しているものが多い。

 熊野が装備している30.5㎝砲は提督が”積みたいから”とクロンシュタット級やアラスカ級の図面などを参考に作り上げ、さらに自動装填装置やレーダー射撃用のリンク機能などをこれでもかと言うほど詰め込んだ物だ。そのため熊野の艤装にはレーダーがつけられている。そして熊野は史実から比べて雷装も三連装から四連装に強化されている。そのため非常に重武装だ。が、その反面搭載機数が激減している。

 大井は雷装が四連装から五連装に強化され、対空兵装も若干強化されている。だが、装甲はほとんど史実のままだ。

 第18駆逐隊の面々は主に主砲が強化された。この主砲は明石が作成したもので口径を大きくし、自動装填装置によって連射速度を高めたものである。大体3秒に1発程度撃つことが出来るが、撃ちすぎると砲身が赤熱して戦闘使用不可になる。さらに、それぞれの砲塔に旗艦(レーダー持ちの重巡や戦艦)から敵の座標データを受け取り、各基ごとに敵の位置を割り出す演算装置も組み込まれている。

今回は浅い海域という事もあって爆雷はお守り程度にしか持ってきていない。

 

 

「……おっもいですわ…この艤装…」

「…奇遇ね、私もよ」

熊野と大井は艤装の重さに嘆いていた。

 とりわけ戦闘に支障が出るような重さの変更ではないのだが(艦娘基準)、この艤装は今朝方渡されたばっかりの艤装なので重く感じているようだった。

「だらしないわねぇ…シャキッとしなさいな!」

 霞がダルそうな顔をしている旗艦と副旗艦に喝を入れる。性格や言動はちょっとキツめの霞だが、世話焼きでみんなの面倒を見ることが得意なので一部は親愛をこめて”霞ママ”と呼んでいるほどだ。まぁ、ママと呼ぶには容姿が幼すぎるが。

「新しい艤装だから…しょうがない…」

 ちょっと落ち着いた物言いで霞をたしなめるのは朝潮型駆逐艦の末っ子、霰だ。見た目だけだとクールキャラに見られがちだが、実はそんなこともないしっかりした末っ子である。

「周りの警戒はしっかりしてよね!奇襲なんてくらったらたまったもんじゃないわ…」

 陽炎型駆逐艦のネームシップ、陽炎。陽気な性格でみんなのまとめ役を良く買って出るお姉さんだが、ちょっと抜けているところがある。そんなところを含めてみんなに愛されているのが陽炎だ。

「…前方距離約2000m、例の新型含む敵小隊を視認。指示を」

 ネームシップとは対極に位置する性格…のように見える二番艦、不知火。その眼光は戦艦クラスですら殺すほどの眼光として(味方にも)恐れられている。だがそんなThe・クールキャラのような見た目とは反してかわいいものが好きだったり、陽炎ほどではないがたまに抜けてたりすることがあるので、実戦モード以外の不知火は結構愛されているのだ。

 

「敵ですの…?さっさと片づけますわよ。各員戦闘配置につけっ!」

熊野が指示を出すと小隊員が次々と艤装を構えた。

「撃てッ!」

敵が普通に視認できる範囲ぎりぎりまで接近してきたところで熊野が発砲した。

それを皮切りに大井や駆逐艦たちが発砲を開始する。

「弾着……今ですわッ!」

「…命中を確認。新型は健在、随伴4隻中2隻の撃沈を確認」

不知火が双眼鏡を覗いて淡々と報告をする。

「ふぅん…レーダー射撃ってすごいのね…」

大井が感嘆の声を漏らした。

「今までは…この距離で撃っても…当たりませんでしたもんね…」

霰も驚いているようだった。

「まぁ、私が撃ったんだもの、当然よね!」

陽炎は陽炎だった。

「あんた等、本当に戦闘中だって分かってんの!?もっと危機感を持ちなさいよッ!やられるわよ!?」

霞はキレた。

 

 

後にこの時の霞の予想が的中することになるが、今はまだ、誰もそのことを知らない。

 

 

 「敵、こちらを視認した模様です。近づいてきます」

不知火が淡々と喋る。

「次弾の装填が終わり次第各自自由射撃を開始してくださいまし!」

駆逐艦の主砲が次々と砲弾を打ち出し、熊野の砲撃がまた大気を揺るがした。

そこには、駆逐艦が明石特製の速射砲の弾幕で敵の動きを制限し、そこに熊野が砲弾を叩き込むというメカニズムが出来上がり、その一連の行動が複数回繰り返された後、残っていたのはミットシュルディガー一体であった。

霞が先頭に立ち、ミットシュルディガーを囲むために突撃を敢行する。

「気を引き締めていくわよ!ほら、シャキッとしな…」

霞が喝を飛ばすために味方艦隊の方を振り返った瞬間、それは起きた。

 軽い空気の炸裂音と共に金属の擦れる音が数秒響き、金属の爪が霞の艤装に深々と刺さった。

「なっ…ッ!?なにこれは…」

霞が動揺した次の瞬間、霞が若干引っ張られるようによろめき、白く鈍く光る機体が急速に接近した。

「まずいっ…」

霞が短くそう発した直後、ミットシュルディガーが右手についた連装砲をゼロ距離で霞の腹部へと躊躇することなく放った。

その場は爆炎に包まれ、衝撃波で後続の艦娘たちは思わず足を止めてしまった。

「霞さん!?」

熊野が叫んで近づこうとするも、敵は特殊な砲弾を使ったようで、爆心地から発せられる熱気のせいで思うように近づけない。

「…ッ!熱気が収まります!霞さんは‥‥!」

煙と熱気が収まってようやく現場を直視できるようになった一同を待ち受けていたのは、とても直視しがたい現実だった。

ミットシュルディガーの連装砲から放たれた一つの砲弾は霞のその小さな腹部を容赦なく抉り取り、もう一つの砲弾は霞が咄嗟に顔の前に構えてガードした主砲塔に巨大な破孔をあけ、持っていた手をあらぬ方向に捻じ曲げていた。

「……!」

辛うじて意識がある霞は喋ることはできないようで、こっちを見てパクパクと口を動かしていた。

「か…すみ…?」

霰が絞り出すように言葉を発し、その場に崩れ落ちた。

この間、爆炎収束からわずか数秒。こちらが正常な判断を下すより早く、敵は迅速に事を進めた。

こちらを無感情な目で見据えながら動けない霞に向かって主砲を構えたのだ。

「霞っ!!」

陽炎が駆け寄ろうとすると、敵はガチャッ、と音を立てて主砲を誇張した。

まるで”動くな”とでも言うように。

霞の方を見ていた霰が頭を抱えた。

「いや…霞…そんなこと言わないで…!」

霰が普段の様子からは考えられないほど大きな声で、悲しく叫んだ。

霰の様子を見届けたのだろうか、ミットシュルディガーは霞に向き直った。

「今ですわッ!!」

熊野がそう叫び、敵が発砲するより前に30.5㎝砲を数十メートル先に直射した。

刹那、轟音が大気を揺るがし、15発の砲弾がミットシュルディガーを吹き飛ばした。

「駆逐艦の皆さんは霞さんの救出を!私はあいつにとどめを刺します!大井さん、援護を!」

「言われなくてもそうするわ!」

そう言って熊野と大井は吹き飛ばされたミットシュルディガーの下へとダッシュした。

ミットシュルディガーは辛うじて動いているようで、あちこちの関節から煙と火花を散らしている。

「トドメですわ!」

熊野はよろよろと立ち上がろうとしている敵に向けて再度砲弾を叩き込んだ。

砲撃後熊野はすっと引き、大いに手で合図をした。

「これで、終わりよ」

大井は魚雷を数本投雷した。

魚雷は寸分たがわずミットシュルディガーに命中し、砲撃の物とは質が違う爆炎を上げた。

熊野はそれを見届けて霞の下へ駆け寄りつつ無線を入れた。

{敵新型個体処理完了。霞さんが大破状態なので曳航を開始、一旦撤退します}

{どの程度の大破だ!?}

長門が叫んだ。

{大破と言うよりはもう死にかけです。ゼロ距離で新型の砲撃を受けました}

{ッ!…そうか…気をつけてな}

無線を切ったところで、霞の下へ大井と熊野はたどり着いた。

「熊野さん…霞が…霞がぁ…」

霰が泣きながら熊野に語り掛けた。

「まさか…」

熊野と大井が雰囲気を感じ取って黙った。

「そのまさかです。……霞さんは、死亡しました」

”死亡”。轟沈ではなく”死亡”。

轟沈とは、艤装が戦闘不可能になるまで破壊された状態の事を指し、この状態でも放置すれば海の中に沈んでしまい死亡するが、他の艦娘が曳航するなどして連れて帰れば死亡はしない。

だが艦娘は兵器であるとともに肉体は人間。耐久は艦娘の方が上だが体は人間と同じ構造であり、艤装ではなく体に直撃弾などを受ければ人間同様死亡する。今回の霞の場合はそれだ。

「今から曳航すればまだ…!皆さんは海域の警備をお願いします!」

熊野は淡い期待を抱いて動かなくなった霞の肩を抱いて立ち上がり、前進し始めた。

その時、熊野の耳に聞きなれない高周波の音が飛び込んできた。

”ピー…ピー…ピピピピピ”

「霞さんの主砲から…?一体何が…ッ!?」

その時、熊野は霞の主砲に開いた破孔の奥に敵の主砲弾が埋まっており、その尾部に小さな赤い光が点滅を繰り返しているのを見た。

直後、先ほどよりも大きい爆発が起こり、半身の右側、そこにあるはずのものがない異質な空虚感を感じ、体は比重の重くなった左側に倒れる。倒れる瞬間の無い腕の痛みは、酷いものだった。そうして熊野は、意識を手放した。

ーーー

ーー

ーー

ーーー

 

 

海域警備に戻ろうとした矢先、背後で轟音が響いた。

「熊野さん!?」

咄嗟に振り向くと、霞は吹き飛び、熊野は少し離れた海面に倒れて浮いているのが見えた。

「て、撤退!熊野さんと霞さんを回収後全速力で鎮守府へ!」

大井は半ばパニックで指示を出した。

 

ーーー

ーー

 

 

ーー

ーーー

それから十数分後、鎮守府内は騒然としていた。

敵の襲来はあれ以降止み、これ以上の侵攻が確認できないとして全軍が鎮守府へ撤退したのだ。

被害状況は全体的に見れば軽微だが、個人にフォーカスするとかなり甚大な被害だった。

 

・戦艦陸奥、大破。入渠ドックにて療養中。

・重巡熊野、遅延信管装備破甲榴弾の爆発をほぼゼロ距離で喰らった。右腕損傷、右目失明。意識不明の重体。

・駆逐艦霞、陸軍新型兵器により、死亡。

 

鎮守府内の空気は重苦しかった。

特に朝潮型への精神的ダメージはひどく、霰に至っては自室でふさぎ込み、うわごとのように何かをつぶやいているらしい。

熊野は医務室にて集中治療中。右腕はもう使い物にならないらしく、切断するしかないようだった。

士気は目に見えて下がっており、朝潮型は大半が戦意喪失している。

この状況を危惧した長門は提督に無線を入れ、事の顛末を伝えた。提督はすぐに帰る、とだけ言って無線を切ったそうだ。

 

 

戦いはまだ、始まったばかりである。




霞は一回目の被弾で応急修理要員使ってます。

熊野小隊の前に現れたミットシュルディガーは中身が元陸軍兵士の高知能型という設定にしてあります。

霞ママ好きの皆さん、ごめんなさい


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30

書き出しが思いつかないンゴ…せや、何も提督視点で書かなくてええやんけ!


 (暗い…ここはどこですの…?)

真っ暗な空間の中で私は目を開けた。

(あら…右の方が見えませんわね…どうしたのかしら…ッ!)

私は右目に右手を当てようとしてある違和感に気づいた。

(右手が…ない!?)

私は驚き焦り、左手で右手があった場所を触った。

グチャッ…と言う音がして、左手の先に自分の血肉が付着した。

(そんな…!?そうだ、右目は…)

微かな希望と共になんとか動く左手を右目に持っていった。

だが、その希望は左手にさらに付着する血を視認することであっけなく断たれた。

(これから…私はどうなるんですの…?それに…ここはどこ…?)

私は残った左目の視力を頼りに周りを見渡すが、そこは自分の体がはっきりと見えるだけでその他のものは何も見えない、真っ暗な世界だった。

「気がついたようだな、熊野」

ふと背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。が、その声色からはいつものような温かみは感じられなかった。

(提督…あれ、声が…!?)

声は出せず、体はあちこち軋んでいるが、何とかして声の方向に顔を向けた。そこには、いつもの提督からは考えられないくらいに冷たく、ハイライトが消えた目をしている提督がいた。

「貴様はもう役には立たない。なまじっか生き残りやがって…死んでくれれば消費資材も、俺が書かなきゃいけない書類も減ったのだがな」

(!?)

「貴様は後日艤装解体後、本部へ移送される手筈になっている。精々その体で上官を世話するんだな」

提督は冷たく言い放った。その後、背を向けて黒い空間の向こうへ溶けていった。

(違う…提督じゃない…!あなたは…)

私は提督に声をかけようとしたが、声は出ない。

「あれ、熊野じゃん。生きてたんだ」

またしても背後から、聞き慣れた声、だが冷たい声が聞こえてきた。

(鈴谷…?)

顔を後ろに向けると、胸部に鈍い衝撃が走った。蹴られたようだった。

(!?…鈴谷…)

「死ねばよかったのに」

(どうして…どうしてそんなことを…!)

声が出ない。何故だろうか…

「艦隊に役立たずはいらないんだよね〜…早く消えて?…あ、標的艦くらいにはなるかな〜?」

鈴谷は笑いながら言った。

私の心の中で何かが音を立てて崩れた気がした。涙が頬を伝うが、もはや何も感じられない。

鈴谷が空間に溶けていった後も、入れ替わり立ち替わり誰かが来て何かを言っていたようだったが、よく分からなかった。

それからどのくらい経ったのだろうか、一つの機械的な声が私の脳内に響いてきた。

『対象ノ自我ノ損傷ヲ確認。自我損傷率50%、強制上書キニヨルアップデートガ可能。実行スルカ』

(アップデート…?もうどうだっていい…)

私はもう何も考えられず、思考には靄がかかっているようだった。

『対象ノ選択放棄ヲ確認。アップデート中…10%…15%…』

アップデート開始と共に、私を猛烈な頭痛が襲った。

「…ぁッ!」

声が出た。それと同時に思考の靄が晴れ、本来の思考力が戻ってきた。

「違いますわ、あんなの本当の提督や鈴谷やみんなじゃないですわ!」

私は今まで動かせなかった体を無理やりに動かして立った。

『対象ノ自我ガ復旧シツツアリ…!強制力強化ヲ実行スル』

これまで淡々と響いて来ていた声は若干の焦りを含んでいた。熊野にさらにひどい頭痛が襲い掛かる。

「ぐっ…私は軍艦、戦場以外で自分を失うわけにはいかないんですわ!!」

それすらも堪え、一歩一歩どことも分からない空間を進んで行った。

突如、謎の声に終わりが訪れる。

『プログラム二障害発生…!コレ以上ノ…』

プツン、と言う音を立てて声は聞こえなくなり、同時に熊野の頭痛もきれいさっぱり無くなった。

「ッぁ…いったい何だったんですの…って…あら?」

その時初めて、熊野は自分の体の異変に気が付いた。

「手が…治っている?…あと目も…なんか変なものが映り込んでますけど…」

手が再生し、目も戦闘機のHUDのような物が浮かび上がってはいたが再生していたのだ。

「まあ、あとで調べればわかりますわね………なんだか…眠い…」

熊野は今までの死闘の疲れからか今度は眠気に襲われた。

「…帰りたい…」

そういうと熊野は深い眠りに落ちて行った。

ーーー

ーー

 

ーー

ーーー

 私は白い部屋で目を覚ました。

「知らない天井でs」ガッシャーン!

お決まりのセリフを言おうとしたが、ガラスが割れる音によって掻き消された。

「なんなんですの!?」

ガバッと起きて大声を張り上げると、薬瓶を床に落として粉々にしながら目を皿のようにしてこっちを見ている初老で彫りの深い軍医がいた。

二人の間にしばらくの沈黙が続き、私はなんだかばつが悪くなって小声でどうも、と頭を下げた。次の瞬間…

「てっ、提督殿ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!熊野殿が目を覚ましましたぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

と軍医は叫び、医務室のドアをアニメのようにぶち抜きながら廊下へと躍り出て走り去っていった。

「えっ…?なんなんですの…?」

 

 数十秒後、廊下を走る音が聞こえてきた。

「熊野!大丈夫か!?」

「熊野!無事!?」

提督と鈴谷が真っ先に駆けつけてきたのだ。

「大丈夫ですから…離れてくださいまし…」

少し遅れて最上や三隈、そのほかの鎮守府メンバーが顔を出しに来た。

皆熊野を心配していたようで、提督に至っては泣いていた。

 

 その後提督から聞いたことだが、やはり霞さんは助からなかったとのこと。もう少し自分がしっかりしていれば、と思うと心が痛い。そしてあの戦いからはもう三日が経過していたこと。その間私は手術をして腕のあたりに刺さっていた砲弾の破片を取り除いたらしい。その破片からは微弱な電磁波が出ていたらしい。手と目の再生に関してはよくわからず、治療担当の軍医曰くいきなり患部が光り始めて再生を始めたとのこと。入渠ドックも使っていないのにこんなことが起こるのは初めてだったようで、相当慌てたようだった。腕は損傷前と変わらず自分の腕だったが、目は違った。自分から見た視界には水平、高度、風向きと風速、方位、対象物までの距離、その他色々が判別可能なレティクルが表示されるようになっていた。私からではなく、外部からの見た目も変わっていた。鏡で見せてもらったが、右目だけ紅と言うにふさわしい色に変化していたのだ。前の自分の眼の色が気に入っていただけに変わったのはかなりショックだった。軍医曰く砲弾の破片を取り除いた後はそのような変化は何も起こらなかったからもしかしたらそれが関係あるんじゃないか、と言っていた。まあその破片は提督が捨ててしまったらしいが…。何はともあれ私は生き残った。また戦いの場へ赴くことが出来るのだ。それを思うと少しうれしかった。提督にあの後敵はどうしたのか、と聞いたら、”なぜか全員が引き上げた”と言うのだ。確認されたシールド持ちも海域に現れる前に引き返したそうだ。その事実に多大なる違和感を覚えながらも、私はもう休むことにした。

         

 目覚めてから一日後、私はリハビリを開始しようとしたが、なぜか体は以前のように、と言うか以前よりも機敏に動くようになっており、鈴谷たちに不思議がられた。訓練中標的を撃つときに若干頭の中がモヤっとしたが、それもじきに治るだろう。

 

 

~???~

静かな室内。そこには蠢く複数の影があった。

「例ノ新型兵器ハドウナッテイル?順調カ?」

一人が聞き、一人が答える。

「メインレセプターガ撤去サレチマッタ…時間ハカカルガ出来ナクハナイハズダ」

また別な一人がやってきた。

「今…何%ダ?」

一人が少し間をおいてから言った。

「……45%ダ」

 

 




これでよかった…のか?
次からは戦闘パートにはいれることを願う


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31

戦闘前に、戦力を強化しないとね。
提督「これ以上どうする気だよ」
チートっていいよね
提督「あっ(察し)」

お得意の開発回、始めます(強制).
なかなか出てきてない奴らも出て来ます。


 熊野が起きてから数日後、俺は執務室で長門とこの前の戦いについて話し合いをしていた。

「…なるほど。あの新兵器の中身が人間から改造されたものだと厄介なことになる、という事か…それなら早急に艦隊の強化と艦娘の訓練メニューの強化が必須だと私は思う」

「確かにな……装備の方は何とかするから、みんなの訓練に関しては一任していいか?」

正直言って俺はあまり戦闘が得意な部類ではない…はずだ。訓練メニューなんか考えたくない、と言うのが本音で、めんどくさい事はすべて部下に投げるようにしている。なぜかそれが人気だが。

「任せてくれるのか!感謝する」

ほら、またなんかありがたがられた。まぁ楽できるからいいんですけどね。

「さて…工廠はどうなっているかな」

俺は椅子から立ち上がって伸びをし、久しぶりに工廠へと足を運ぶことにした。

 

 

 

 

 「…なんだこれは…」

工廠で俺を待ち構えていたのは輸送機だった。それも装備ではなく実際に乗る方の。

「あ、提督!見てくださいよこれ、完成したんですよ」

明石が俺を見つけて得意げに話しかけてきた。

「なんだ…これは?」

俺は不思議そうに尋ねるが、明石は一瞬きょとんとしてから笑って言った。

「やだなぁ、提督。だいぶ前に民間人脱出用の輸送機作っとけって言ったじゃないですか。それですよ。完全新規設計ですよ!」

やっべ、忘れてた。そういやそんなことも言ったっけな…

「まさか提督…

「忘れてなんかいないぞ!そうだ、そうだったな!お、思い出したよ!」

…まだ何も言ってませんし、思い出したって自分で言っちゃってるじゃないですか」

「あっ…」

明石がジト目でこちらを見つめ、二人の間に気まずい空気が流れた。

「すいませんでした」

「よろしい」

俺は明石に素直に頭を下げた。こうするのが一番手っ取り早いからな(?)

「それで…工廠へは何用で?」

俺は待ってましたとばかりに明石に告げる。

「艦☆隊☆強☆化☆!」

「「や っ た ぜ」」

いつの間にか明石の後ろに来ていた夕張も喜んでいる。いやぁ、楽しみだ。

(でもこの輸送機どうしよう…)

何を隠そう、近隣住民は深海棲艦の戦力拡大や陸軍の案件を受けて遠地へ避難してしまったのだ。案件公表しなきゃよかったかな…

ま、何とかなるやろ。この輸送機もきっと役に立ってくれるさ…多分。

「それよりまず提督、この輸送機見てくださいよ!結構力作なんですよ!」

うう、胸が痛い…多分役に立つ…多分…

 

 

 

 「で、本日は何を作るんですか?」

工廠に入ると夕張が聞いてきた。

「今回は装備開発はあまりしないんだ。既存艦艇の船体改修がメインだ。速力アップとか砲の換装、あとはもう船体を大改造したりとかだな」

「やった、ようやく大和に51㎝連装砲が積める!」

「超大和にすんじゃねえ」

「やった、ようやく空母をアングルドデッキにできる!」

「何を積む気だよ」

「焔雷zwaiですが?」

「マジか」

どうやらこの作業は長くなりそうだ…

 

改装計画についてあれでもない、これでもないと議論していたところ、夕張がちょっと躊躇いながら口を開いた。

「朝潮型の皆さんは…どうするつもりなんですか?」

「ん?あぁ、新しい霞を建造して記憶を引き継がせれば…」

俺がそう言うと、明石は首を振った。

「一時期それも計画されてましたけど、結局それはできなくなったんですよ…だから無理です」

「…マジかぁ…」

俺は工廠の天井を仰いだ。やっべ、どうすっかな。

「まぁそれは追い追い話すとしよう…今は改装計画だ…」

俺は対応困難な現実から逃れるように改装計画案の書類を片っ端から読み始めた。

ーーー

ーー

 

 

 

ーー

ーーー

 私はドクター…と呼ばれている者だ。名前はまだない。

私はあの日、息子…あれ、あいつの名前知らねえな…まあいい(よくない)、提督の申し出で鎮守府でお世話になることになったんだ。どんな窮屈なところかと思って来てみればめっちゃホワイトな職場だし、綺麗な人たちいっぱいいるし、あきつ丸と同室になるし、いやぁいい所だ。

私はさっき大淀さんに聞いて提督は工廠にいるらしい、という事を聞いた。改装計画を立てているようだ。そんな面白そうなことに私を混ぜないなんてどうかしている。というわけで工廠に行くことにしよう。

廊下で数人の顔見知りとすれ違う。確かあれは利根型だったかな?俺は挨拶をしてすれ違う。来た当初は全員にかなり警戒されていたが、今はもうそんなことはなくなっていて、気軽に話しかけてくれる子も増えた。特に駆逐艦。仲良くしてくれるのはうれしいがお父さん呼びはやめてほしい。自分の年を思い返して悲しくなってしまう。

 さて、もうすぐ工廠だ…

ーーー

ーー

 

ーー

ーーー

 ひっっっっっっっさしぶりの登場、どうも、防空棲姫こと姉さんよ。最近ホント出番がなさ過ぎてもうほんとやんなっちゃう。という事で無理やり登場してみたわ。大淀曰く防は工廠にいるらしいの。なんか半分笑ってたけど……さあて久しぶりに絡んでやりましょかねえ…

「あら、駆逐ちゃん、戦艦ちゃん、貴方達も来る?」

私は廊下で話してた駆逐棲姫と戦艦棲姫がこちらに気づいて寄ってきたのを見て話しかけた。

「私モ行ク」

「私モ」

「それじゃあ行きましょうか。工廠へ!」

「「オー!!」」

ーーー

ーー

 

 

 

「提督、重巡の改装はどうするんですか?」

「あぁ、それはだな…」

「よう、息子よ。元気してるか?」

俺らが引き続き改装計画について話しているところに工廠の扉を勢いよく開け放って父さんが入ってきた。

「父さん!?なぜここに…」

「おいおい、そんな面白そうなことに私を混ぜないなんてどうかしてるぞ?私にもやらせてくれ」

何の用かと思ってみたら、ただ開発仲間が増えただけだった。

「それなら大歓迎だよ父さん。手伝ってくれ」

「おう、今行く…」

父さんが扉の所からこちらへ来ようと二歩ほど踏み出したとき、父さんの背後から声が聞こえてきた。

「防ー!私にもなんか役割を頂戴いいいい!」

閉められかけたドアを壊さんばかりの勢いで開け放った姉さんが工廠に入ってきた。

「えっ?」

父さんが背後を振り返って固まる。

「あら?見ない顔ね」

姉さんも父さんを見て固まる。

「ドウシタ?」

「何カアッタ?」

姉さんの後ろからひょこっと駆逐棲姫と戦艦棲姫が顔を出した。

 

「…????うん?」

父さんが目をこする。

「…」

再度姉さんたちを見る。

「???????????」

顔が擦り切れるんじゃないかってくらい目をこする。

「深海棲艦だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

そして叫んだ。

「あっやべ対面させてなかった」

「何やってんですか提督ぅぅぅぅ!?」

父さんの叫び声と、明石の声が鎮守府中に響いた。

 

 

数分後、ようやく落ち着いた父さんと話していた。

「…で、この方はお前を育ててくれて、現在は味方だというんだな?」

「そうそう。うちの鎮守府の切り札と言っても差し支えない戦力だよ」

「はぇ~すっごい。…さっきは取り乱してすまなかった。この通りだ」

父さんは姉さんに向き直って頭を下げた。

「いや大丈夫よ。そういう事もあるわ。それより…私にも改装計画手伝わせて?」

「あぁ、よろしく頼むよ」

こうして、開発チーム(マッドサイエンティストチーム)に新たに二人+αが加わったのだった。

 

 

~またまた数分後~

「息子よ、駆逐艦の重雷装化は考えてないのか?」

「防ちゃん?墳進弾とか対空兵装とかの開発は?」

「提督!重巡の高速化、重武装化については!」

「提督!51㎝連装砲は!?」

「息子よ、なぜイージスを作らないのだ」

「防ちゃん?対深海棲艦弾頭は配備しないのかしら?」

「提督!高速特殊機雷敷設装備作ってもいいですか!?」

「提督!アスロックモドキ製造の許可を!」

「息子よ、B65型超甲型巡洋艦へ重巡の一部を改装する計画はどうだ?」

「防ちゃん、空母の装甲化は?」

「提督、新型機について…」

「提督、新型機関についてなんですが…」

「息子よ、超大和に興味はないかね」

「防ちゃん、パ…

 

 

「うるせええええええええ!勝手にやれぇぇぇぇぇ!責任は俺が持つ!」

 

 

なんで私の話だけ遮るのよ!?!?」

 

こうして改装計画(資材消費合戦)が始まった。

 

 

 

 




結果は次回、もしくはその次に書きます。出したいのあったらコメントください。最終戦で役に立つはずです。

さて深海側も強化しなきゃ


朝潮型の件、花田少尉の件、熊野の件については追い追い書くのでご了承を。


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32

一応補足しておきますが、今の時代は1945周辺ではなく、そこから時間が経って大体冷戦中期から末期くらいを想定して書いてます。だからミサイルがなんだかんだ言わんといてください。深く考えたら負けです。


その後、昼飯を食べるために食堂に来ていたところ、ここ最近見かけていなかった人影たちを見つけた。

「朝潮…?もう大丈夫なのか?」

俺は恐る恐る声をかけた。

工廠からワイワイとみんなで他愛もない話をしながらここまで来たが、引きこもっていた朝潮をはじめとした朝潮型が食堂で昼飯を食べているのを見て、皆押し黙ってしまった。

不意に満潮が席から立ち上がり、こちらへツカツカと歩いてきた。俯いているため表情は確認できない。

元来気が強く、霞としょっちゅう言い合いになりつつも仲がかなり良かった子だ。いったい何を言われるのか…

「ねぇ、アンタ、大淀さんに聞いたんだけど、艦隊の改修やってるんですって?」

満潮は顔を上げた。そこには俺らが想像していたような暗い顔はなく、むしろその逆で決意に満ちた、落ち着いた目だった。

俺がその予想外の表情に驚いて固まっていると、満潮が口を開いた。

「私たち朝潮型で新装備を考えたの。作ってくれるかしら?」

「それは…霞の敵討ちか?」

「えぇ、そうよ。私たちの、この手で深海棲艦共を叩き潰してやんのよ!」

満潮が語気を強めて詰め寄った。俺は多少驚いたが、話を続けた。

「そうか…復讐は虚しくなるだけと聞くが、大丈夫か?」

「そんなの元より百も承知よ!いいから、作って!」

「司令官、私からも…私たちからも、お願いします」

朝潮が満潮の隣へやってきて言った。どうやら決意は固いようだ。

「分かった…待っていろ。ただ…」

「「ただ…?」」

俺は一息吸ってから言った。

「まず飯食っていい?」

「バッカじゃないのアンタ!?もうちょっとそこはカッコよくしめなさいよ!!」

これまで張り詰めた空気で、誰も一言も発しなかった食堂に笑いが訪れた。他の朝潮型についてもその後いろいろ聞いたが、闇堕ちとか言う最悪のシナリオは避けられたように見受けられた。

 

 

 

「ねぇ、提督。ちょっといい?」

食事を終え、工廠に向かおうとした時ふと背後から声をかけられた。

「その声は、鈴谷か。どうした?」

「熊野のことなんだけど…」

その後、話を聞いたところ、どうやら熊野の様子が最近おかしいらしい。訓練中やたら命中精度が上がったが、訓練後に偏頭痛や立ちくらみをよく起こすようになったらしい。昨日に至っては射撃中に立ちくらみが生じたとのことだ。

「それに、最近夜おかしいんだよ熊野…最初は寝言かな、って思ってたんだけど、どうやら起きてるみたいだし…」

「どんなことを言ってるんだ?」

「やめて、もうやめてって言ってるの。死にかけで帰ってきた日からなんかおかしいんだよね…」

「そうか…熊野には休むように言っておいてくれ。多分一時的な症状だろう」

「だといいんだけど…あ、そうそう、鈴谷のことももちろん強化してくれるよね?熊野をボコったやつはボコり返さないと!」

「OK、大丈夫だ任せとけ」

俺は鈴谷に笑いかけ、その場を後にした。

朝潮型の件は…多分解決した。今考えるべきは…熊野のことと、攫われた花田少尉のことだな。

熊野については多分ここ最近の色々な事が重なった結果引き起こされた事だろう。多分。花田少尉は…早いとこ深海棲艦を潰して救出するしか…いや、それよりも今、生きてるのか?もしかしてもう殺された後じゃ…

 

 俺は色んな事を考えながら、工廠へたどり着いた。

他の奴らはまだ来ていない。

「さて、と、朝潮型からの改装計画書に目を通して、鈴谷のやつも考えますか…どれどれ…」

そう言って俺はペラッと白紙の表紙をめくった。

そしてすぐまたペラッと閉じた。

「??????????」

俺は眉間をつまんで天井を仰ぎ、もう一度表紙をめくった。

「見間違いじゃねぇよなぁ…」

そこには、”朝潮型重雷装巡洋艦化計画”の文字があった。

「えーと、何々…?」

俺は深く考えないようにして書類をさらにめくった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 朝潮型重雷装巡洋艦化計画

 

北上さんと大井さんみたいにしてください

 

              朝潮型

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「えっ、終わり?」

その書類にはその文のみ記載されており、具体的な装備数や図面などは一切なかった。

まあ駆逐艦の子たちにそんなことはなから求めていたわけではないが、面食らった。

「うーん…よし、やるか」

俺は考えるのをやめた。

 

 

 「よっしゃできた!」

「何が出来たんです?」

あれから十数分ほど後、工廠には元のメンバーが勢ぞろいしており、各々自分の作りたい装備を作るべく製図台に向かって延々と線を引いているところだ。

「朝潮型の皆に頼まれてたやつと、鈴谷にさっき個別で頼まれた改造計画案が出来上がったんだ。見るか?」

「我が息子の技量、見せてもらおうじゃないか」

「どんなのどんなの?」

いつの間にか工廠内全員が俺のところにやってきていた。

「今回のやつは妖精さんと相談の上技術的に可能と言われたやつだから野暮なツッコミはしない方向で」

俺はそう前置きをしてから計画案をみんなに見せた。

 

ーー

ーーー

 朝潮型重雷装巡洋艦化計画

 

・船体の全長を118mから160mへ変更

・船体の全幅を10mから13mへ変更。舷側装甲の重装甲化

・主機を艦本式タービン2基2軸からLM2500IECガスタービン2基2軸へ変更。これにより最大速力が50ノットへ

・主砲を15㎝単装砲1基へ減少

・魚雷発射管を61㎝4連装10基へと増加

・艦尾にlegelMk.15を装備

・25mm連装対空機銃を4基追加

 

 鈴谷大規模改装計画

 

・船体の全長を200mから210mへ変更

・船体の全幅を20mから30mへ変更。装甲強化と装備のための幅確保

・主機を艦本式タービン4基4軸からLM2500IEC-改ガスタービン5基5軸へ変更。最大速力36ノット。タービン始動から前進開始までの期間を30秒までに短縮。

・主砲を30.5㎝3連装砲2基(前2基)へ変更。砲塔上部装甲を100mmへ変更。

・魚雷発射管を61㎝3連装4基から61㎝5連装2基に変更

・対空装備をすべて取り払ってCIWS(シウス)2基追加

・カタパルト2基から超電磁砲(レールガン)カタパルト1基へ減少。搭載機は後で作る。

・後部砲塔があった場所に弾倉回転式VLSを2基装備。誘爆を防ぐためそこの弾薬庫は特に装甲が厚くなっている。

・艦橋を一新。前後にCIWS、大型対空レーダー、小型レーダー、対水上レーダー等を装備。

ーーー

ーー

 

「バカなのでは?」

第一声は明石の一言だった。

「それ妖精さんの技術力侮辱することになるかんな。それにどうせお前もっとヤバいの作ってただろ。見せろ」

「息子よ…よくやった」

「防ちゃん…」(遠い目)

「私はいいと思いますよ!」

「夕張…ありがとう。さて次は父さん、行ってみようか」

「うむ。私のは装備ではないが…」

 

ーー

ーーー

 

 艦娘空挺計画

 

・工廠内に放置されている輸送機と戦闘機を用いて行う。

・戦闘機の銃弾には対深海棲艦弾頭を用いた機関砲弾を使う。

 

・大まかな動き:輸送機に艦娘を艤装展開状態で乗せ(展開状態で乗るため搭乗員数は多くて10人ほど)、道中の矮小な敵は護衛機の機関砲弾によって処理、ボスの目の前で艦娘らを水平雷撃の要領で投下。その後離脱する。

 

ーーー

ーー

 

「これだ!あの輸送機の使い道これだ!!!!!!」

俺は突如現れた格好の計画に対して思わず大声を挙げた。渡りに船とはこのことだ。

「うわっ、どうしたんですかいきなり大声を挙げて…」

夕張が耳を押さえてこっちを見た。

「いやな、民間人輸送用の輸送機が民間人が避難しちまったことで必要なくなってたんよ。この計画は採用だ!父さん!」

「えぇ…輸送機必要なくなってたのね…」

明石が目に見えて落ち込んだ。

「でも、これはいい案ですね!ついでに魚雷くっつけましょう!」

そしてすぐに回復しやがった。

俺はくるっと姉さんの方に向き直っていった。

「姉さん達は何か無い?」

「えぇと、私達のは…」

 

ーー

ーーー

 深海棲艦ステージアップ計画

 

・深海棲艦は資材を消費することで強化することが出来る。深海にその資源は乏しくステージアップできる深海棲艦は少なかったが、地上ではそうではないため、これを期にステージアップを行うというもの。

 

・ステージアップ効果:全ステータス向上

 

ーーー

ーー

 

「作者飽きてね?」

「奇遇だな息子よ。私もそう思う」

「いったい誰に何を言ってるんですか…次は私ですよ!」

夕張が自信満々に計画書を差し出してきた。

 

ーー

ーーー

 

 高速大艦巨砲主義計画

 

ーーー

ーー

 

「やな予感しかしないが?」

「なんでです!?」

 

ーー

ーーー

 

・大和型を筆頭に戦艦の皆さんの装甲、火力を中心に改良する。

・扶桑型、金剛型、伊勢型の主砲を41㎝連装砲に換装。

・長門型を46㎝三連装砲に換装

・大和型を51㎝連装砲に換装

・ドイツ艦は据え置き(事前に聞いた所、今の口径がいいとの事)

 

・前線艦種のタービンをLM2500IEC-改ガスタービンに換装。

・機関始動から前進開始まで2分に短縮

・最大速度をそれぞれ10ノットずつ程度増加

 

・それぞれにレーダーリンク機能を装備

 

ーーー

ーー

 

「とまぁ、こんなもんですよ」

「うん、こんなもので済ましていいレベルの物ではないね」

「提督、考えるのやめないでくださいよ。次私ですよ?」

「あっそっかぁ…」

「提督、目をそらさないで!見てくださいよ、ね、ねえってば!!!!」

 

ーー

ーーー

 

 空母改装計画

 

ーーー

ーー

 

(あれ…?名前普通だな)

 

ーー

ーーー

 

・正規空母の船体の全長、全幅を増大し、装甲化、搭載数も増大させる。

・正規空母はすべてアングルドデッキに改装し、甲板は硬質コンクリートを主な素材とする。(破孔修理の簡易化のため)

・アングルドデッキ上には埋め込み式レールガンが装備されており、現在鎮守府で運用している艦上機全ての発艦が可能。

・タービン強化。LMシリーズを使用する。

・エレベーターは前後二基とし、発艦準備用と収納用に分ける。

・全空母にCIWSを一基ずつ配備。

・軽空母は多少の装甲化とタービンの改装のみ。それでも元の正規空母くらいの装甲にはなる。

 

ーーー

ーー

 

「バケモノだけど…甲板のアイディアは素晴らしい。これで被弾しても即修復、さらに発艦が出来るな」

「でしょう?私もこれ思いついた時自分が信じられませんでしたよ」

「すごいわね明石…」

「明石君…いや明石師匠とお呼びしようか」

「さすが鎮守府随一の工作艦ね」

「スゴイ」「サスガ」

(あ…居たんだ姉さん以外の人…)

 

 

こうして開発はこの後も続けられ、やばいのが多数誕生したらしいが、それはまた別の話。

 

 

 

 「ていうか提督、鈴谷さんのあれ、VLSの中身は何なんです?」

「アスロックとトマホークとかいろいろだ」

「ぶっ壊れじゃないですかヤダー…」(青ざめ)




次回からは最終戦に行きたい。まだイージスも出せてねえしな

今回は提督が一番ぶっ壊れてた気がする

追記(9/18)鈴谷の装備を変更。


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33

書けない(直球)


 新装備開発から約一週間がすぎた。新しい装備に戸惑っていた艦娘達もこの一週間で何とか使える段階までに成長していた。かなりやりすぎた感があった鈴谷であったが、やはりやりすぎだったようで演習にて味方空母機動部隊の先発偵察隊から全機撃墜判定を取るなど、未曾有のスコアを叩き出していた。熊野はあれから休息等をきちんと取るようにしているようだが、日に日にだんだん生気が失われていっているのがわかる。医者に行くように勧め健康診断を受けてもらったのだが結果は異常なし。もう何が原因だかがよくわからない状態にあるのだ。朝潮型の皆は、重雷装化で船体を延長したため、若干身長が伸びたようで、同じ駆逐艦の仲間に羨ましがられていた。艤装の方にも慣れたようで、今ではバンバン使いこなしている。受け渡し当日からは考えられなかった姿だ。明石はと言うと、工廠に篭って何かをやっているようだった。何をしていたのかは俺にもわからなかった。

 ここまでの話だけを聞くと何も争い事はなく、来たる決戦に向けて着々と準備を進めているように聞こえるが、そうではない。実際のところ、1日おきくらい頻度で敵の偵察機やら爆撃機やらが襲来し、鎮守府を襲撃しており、被害も軽微では済まされないレベルだ。まぁ、最近は鈴谷や防空駆逐艦達のおかげで事なきを得ているが…。こちらも姉さんの話を元に本部があったとされる場所まで偵察機を飛ばしたり爆撃隊を向かわせたりしたのだが、どうやら本部は移設されたようで、指定された座標には何もなかったのだ。なので、こちらが一方的に攻撃を喰らっている状態が続いているのだ…。毎日のように偵察部隊を色々な方面に飛ばして敵の情報を得ようとしているのだが、いつも何もめぼしい報告は上がってこない。

 …そろそろいつもの偵察部隊の報告の時間だが…今日は何かが発見できるといいのだが。

俺はぼんやりと執務室の椅子に座りながら窓の外を眺めていた。中秋の過ごしやすい気候で、窓を開けると涼しい風が部屋一杯に吹き込んできてとても心地いい。今が戦争中じゃなければ心の底からこの季節を満喫できたのにな、と考えていると、廊下から足音が聞こえた。

「提督!失礼します!」

大淀だ。何やら焦っているようだが…

「ノックくらい…

 

「敵大部隊確認しました!鎮守府からの距離約100キロ、北方海域よりこちらへ進軍中です!」

 

…なんだと!?敵の部隊構成は!?偵察部隊の被害は!?」

 

敵の大部隊…来やがったか…

 

「偵察部隊の損失はゼロ!発見されずに偵察を終え帰投しました。敵部隊はおよそ四部隊と見られます。既存普通個体と上位個体の部隊、鬼級、姫級の部隊、おそらくイージスと思われるものを展開したシールド部隊、ミットシュルディガー(以下ディグ、もしくはディガー)部隊です!各部隊ともに結構な数がいます」

俺は大淀から偵察結果の航空写真を手に取った。

「見事なまでに全勢力じゃねぇか…到着までは?」

俺は写真を机に戻して大淀に向き直った。

「残り約2時間と推測!」

「了解、下がれ」

大淀が部屋から出ていった後、俺は椅子に座り、先日海軍本部から送られてきた一枚の書類を手に取り、再度確認した。

「”欧州、米国共に深海棲艦からの攻撃回数が激減。極東への部隊移動を確認、注意されたし”…か…最近他の鎮守府に攻撃が集中してほとんど無力化されたって聞くし…残ったのは内陸の基地と本部とここだけ…んで敵はここを目指している、と…はぁ…」

「ま、米国と欧州は元々深海棲艦の攻撃そこまで強くなかったですし(日本比)、合流した部隊もそこまでじゃないでしょう。おそらく既存普通個体が少し増えただけですよ。そう心配することはないのでは?」

「そうだよなぁ………って青葉ァ!?いつ入ってきやがった!?」

「大淀が部屋を出たときにスイーっとね」

青葉は不敵に笑った。

「はは…準備しておけよ」

「了解です。あ、写真なら青葉にお任せを」

「…頼むよ」

そのあと青葉は笑って部屋を出ていった。だが俺は見えてしまった。青葉の手が若干震えていることに。

「怖いのはみんな同じだ…トップが頭を悩ませてどうする、部下が混乱するだけじゃないか…現に部下にも心配されてしまった。シャキッとしなければ!」

俺は執務室常設の全館放送のスイッチを入れ、マイクを手に取った。

『各員、食堂へ集合。大至急!』

 

 一分後、我が鎮守府の講堂も兼ねている食堂に百を軽く超える所属全艦娘が一堂に会した。

俺はいつもの台に上がって話し始める。

「鎮守府の北100キロに敵の全勢力と思われる大部隊を確認した」

皆が騒ぎ始める。目を輝かせる者、怯える者など様々だ。

「静粛に。偵察部隊の報告だと敵は4部隊に分かれている。既存普通・上位個体の部隊、鬼級・姫級の部隊、イージスシールド持ちの個体の部隊、ミットシュルディガー(陸軍野郎)の部隊だ。それぞれの艦隊が互いに距離を取って航行しているようだ。混在していたらもっと大変になっていただろうが、敵にそんな頭はなかったらしい。そこで、我々も部隊を分けようと思う」

俺はそこで一拍おいた。皆はじっと聞いている。

「既存普通・上位個体部隊は通常編成の第2艦隊以降の者に担当してもらう。これを邀撃部隊とよぶことにする。ただし細かな人員変更があるから、さっき超スピードで作った早見表を張っておく、それを確認するように」

大淀が食堂後方の壁に早見表を張り出し、第2艦隊以降の艦娘たちが集まって騒ぎ始める。

「そこに名前のある者は即出撃の準備に取り掛かれ!明石と夕張、そして父さんは至急工廠に向かって準備を手伝ってほしい」

移動が始まり、食堂内の人数は大幅に減った。数だけ以上に多い通常部隊にはこのくらいの数があれば対抗できるだろう。数で困ったらそれを上回る数で押し返せばいいのだ。

「鬼級・姫級は改朝潮型、大和型、長門型、それとドイツ組に担当してもらう。これを空挺部隊と呼ぶことにする。ただここも人員等に変更がある。後ろを確認したのち、準備に取り掛かるように…それと、工廠で父さんから空挺の説明がある。心して聞くように」

名前の書かれていた者達がいなくなる。食堂はより一層閑散とし、緊張感が高まっていた。

「イージスシールド部隊は空母機動部隊に担当してもらう。これを対シールド部隊と呼ぶことにする。これもまた後ろの表を見るように…その表に名前のない者はここに残れ」

今までなぜ呼ばれなかったのか不思議そうにしていた空母たちが出て行ったあと、そこに残っていたのは…

「まさか、これだけの人数であのバケモノを相手にしようなんて言わないよね!?」

「そのまさかだ。大丈夫だ。ほかが早く片付けば援軍としてみんなも来てくれる」

俺、鈴谷、熊野、深海棲艦組、吹雪、赤城だった。

「あの…司令官…鈴谷さんや熊野さんは分かるんですけど…なんで私…?」

「私もですよ提督。なんで私だけ対シールド部隊じゃないんですか?」

吹雪と赤城は何やら不満気だ。まぁ…そうなるよな。

「吹雪の艤装に関しては夕張が何とかする(ヤバくする)って言ってたから大丈夫だ。赤城は練度も高い。ヲ級改Fとかを引っ張っていってくれると思って編成させてもらった。ダメだったか?」

「信頼されていると思うと悪くないですね。さすがに気分が高揚します」

「それは加賀のセリフな?相方のやつをパクるんじゃないよ」

小さな笑いが起こった。だがその笑いも強風に煽られて消える蝋燭の火のように、決戦のプレッシャーによって消え去り、食堂には闇夜のように重苦しい空気が充満した。

俺はその重苦しい雰囲気を打開するかのように口を開いた。

「俺らの部隊は対ディグ部隊と呼ぶことにする。さて、俺らも工廠に行くぞ」

 

 

 工廠はいつもの数十倍は混んでいると言っていいだろう。ある部隊は艤装の最終調整を行い、ある部隊は空挺の説明を聞き、ある部隊は妖精搭乗員と最終打ち合わせをしており、無類の広さを誇る我が鎮守府の工廠が艦娘でごった返していたのだ。

俺らは工廠の端の方へ移動して、作戦の最終確認をすることにした。

「まず俺らはディグを潰すのを作戦の主目標として動くことにする。他部隊が危機に陥った場合のみその海域を離脱することにする。ここまで大丈夫か?」

俺が部隊を見渡すと1人が手を挙げた。

「司令官…質問なんですけど、他の部隊と一緒に敵を殲滅してからディグに集中するってのはダメなんですか?」

吹雪が訝しげな顔で尋ねてきた。

「確かにそれだと早く敵を殲滅できて戦力をディグに集中できるように見える。だが、正直言って他部隊の連中でディグを相手にするには実力にちょっと怪しいところがある。下手に大勢でかかって霞のような犠牲者が出てしまったら元も子もない。…まぁ、本気で勝利を狙いに行くなら吹雪が言ったようにするべきなんだが、もう誰かが死ぬのは聞きたくなくてな…俺は甘ちゃんだな全く」

「…理解しました。私たちで頑張りましょう」

吹雪は引き下がった。そして次の手が上がった。

「提督、私たちは海域まで普通に航行するのですか?」

赤城が質問してきた。

「いや、邀撃部隊以外は全て空挺だ。空挺部隊は2機、対シールド部隊も2機、そして俺らは1機の輸送機で海域上空まで向かう。それでほぼ同時に開戦する予定だ。同時に始めれば敵も各部隊の応援に別部隊を割けなくなるだろう」

「なるほど…それは分かりました。では、空挺とは具体的にはどのように行うのでしょうか?」

「それはこの妖精()が説明してくれる手筈になっている」

俺は背後を指さし、軽く振り返った。

そこには普通の工廠勤務の妖精がいた。

「説明頼みますよ」

俺がそう言うと、妖精は頷き、後方からミニサイズのホワイトボードを持ってきた。

「んじゃ、まず自己紹介を。私はいつもは明石の搭乗員をやっている妖精だ。名前はまだない。食うこと寝ること、開発が趣味だ。さて、今回の空挺の概要を説明しよう」

そう言って名無しの妖精さんはホワイトボードをひっくり返した。そこにはあらかじめ書いてあったらしい絵が描かれていた。

「まず、艤装展開状態で輸送機に乗り込む。それで目的地上空まで行くんだ。現着したら輸送機は水平雷撃の姿勢に入る。それが完了すると後方ハッチが開き始めるから、足をレールの上の台車に固定して滑り、ハッチ端まで滑走して降りればいい。そっからはいつも通りだ」

妖精さんはふと何かを考える仕草をした後こう付け足した。

「そうだな、ハッチから出るときに『〇〇(艦名)、いっきまーーす!』と言うとなおいいかもな」

「ガ○ダムじゃねーか、おかげで足元の台車のデザインがよく分かったわ」

その場に少しの笑いが訪れる。

まぁ、俺のツッコミには妖精さんと俺しか笑っていなかったがな。悲しい。

 

 

 

 その後、空挺訓練を軽く行った後、装備の最終確認を行うことにした。

真っ先に装備を確認し始めたのは深海棲艦組だった。彼女らはいつもと同じ姿だったが、彼女ら曰く見た目は同じでも戦闘力は向上しているとのこと。実戦での活躍を期待したい。

 次に確認し始めたのは熊野と鈴谷。熊野はこの前の襲撃時の艤装と同じもので、”相変わらず重いですわね”と嘆いていた。鈴谷は俺と同じ艤装で…

「なにこれ…おっもいんですけど…」

ですよね。そうなりますよね。

「まぁ頑張って慣れてくれ。主砲はそこまで重くはないだろう?」

「そうだけどさぁ…この肩のVLS…?だっけ?これ死ぬほど重いんだよねー…そのほかが減ってもこれが重くちゃ意味ないよ…」

そう言って鈴谷がぶーたれた。

「その分の火力だから。思う存分敵に当てちゃってくれ」

「はいはーい。鈴谷にお任せ!」

 次は吹雪の装備確認だ。

「吹雪、どうだ?明石はどんなのにしてくれたんだ?」

俺は背中を向けて何やらやっている吹雪に声をかけた。

「あ、司令官ちょうどいい所に…VLSが重くて…」

「夕張ィィィィィィ!!テメェ駆逐艦にまで積もうとするんじゃねぇよ!!!」

そそくさと逃げようとしていた夕張を捕まえてVLSを下ろさせた。駆逐艦に積んだら反動で沈んでしまうわ…

結局吹雪は発射レートを上げた15㎝連装砲と、ホーミング性能を持たせた魚雷と言うところに落ち着いた。うん、普通だとこれでも強いはずなんだけどなぜか霞んで見える。なぜだろう(すっとぼけ)

 残すは赤城だ。彼女は搭乗員(妖精)と最終確認をしているようだった。

「首尾はどうだ、赤城」

「上々ね。ただ…」

「ただ?」

赤城は困ったような顔をしていった。

「艦載機が…よくわからなくて…烈風でもよくわからなかったのにえーと…焔雷なんちゃらとかきーんほーくとか…私みたいな旧式艦にはちょっとわからなくて…」

「えっ、焔雷zwai積むの?」

「はい、明石さんがどうぞって」

「対シールド部隊のほかのメンバーは?邀撃部隊の軽空母の人たちは?」

「軽空母はどうか知りませんが、対シールド部隊の皆さんも渡されたようですよ。工廠にあったACECOMBAT(フライトシミュレーター)で乗っていたのと似ているとか何とかで妖精さんには好評のようです」

「マジで…?あいつこんな高コスト機体量産しやがったの…?嘘でしょ…」

資材枯渇とか言うシャレにならない事態が思い浮かんだが、赤城の次の言葉でそれは消えた。

「あ、安心してください。積むのは各艦10機ほどですよ。さすがに全部は無理です」

「ならよかった…」

俺は安堵のため息を吐いた。

 

 俺は対ディグ部隊の装備確認を終えた足でそのまま他部隊の方も確認することにした。

次は邀撃部隊の方を見てみよう。俺は工廠の対角線上にいる邀撃部隊の方へと歩みを進めた。

俺が来たことを確認したのか、軽空母の龍驤がこちらへトテトテときた。初見だと駆逐艦に間違えそうなほど小さいが、間違えるとキレられるので要注意だ。

「なあ提督はん、このずんぐりむっくりの機体を明石から渡されたんやが、どう使うつもりなん?」

そう言って龍驤は二式大艇を明石が改良した管制機を見せてきた。

「あぁ、そいつは管制機って言ってな、上空に挙げておくと敵の航空部隊の位置や艦隊の位置をリアルタイムで教えてくれて、かつ簡易的な作戦も立ててくれるいわば空の司令塔だよ。俺が明石に開発をお願いしておいたんだ。そいつが一機いるだけで戦場で結構有利に立ち回れるはずだ。墜とされないように護衛機をつけておくことをお勧めするよ」

「分かったで!ありがとな!」

龍驤は清々しい笑顔で部隊の方へと戻っていった。どうやら心配することはなさそうだ。

 俺はそのままくるりと向きを変えて空挺部隊の方へと向かった。

すると、グラーフがこちらへ歩いて来ていった。

「admiral、なんだこの飛行艇を改造した飛行機は」

そして、龍驤と同じ質問をしてきた。

「えーとね、かくかくしかじかって言う代物なんだよ」

「なるほどこれこれうまうまという物か。感謝する」

うん、ご都合主義って便利だね!

ついでに朝潮型の眼が座りすぎていて話しかけられなかったことをここに記しておく。めちゃ怖かった。

 残すは対シールド部隊だ。加賀からも龍驤とグラーフと同様の質問をされたが、これは省略しておく。

今は空母の皆と焔雷zwaiについての話をしているところだ。

「で、この焔雷zwaiだと急降下角度90度での誘導弾発射が可能というわけね」

「そういう事だ。妖精さんたち、フライトシミュレーターでもそうだっただろう?」

俺がそう聞くと江草大佐が答えてくれた。

「おう。最初はほんとにビビったよ。普通急降下爆撃ってのは60度くらいが限度なんだがな…これで確実に敵を沈められる!」

「江草大佐さんが言うなら本当なんでしょうね。いやー、開発組の皆さんはほんとに考え付かないことを実現しますよねー」

蒼龍が半ば呆れ気味に笑って言った。

「ははは…誉め言葉として受け取っておくよ。それと妖精さんたち、焔雷zwai以外での垂直降下はやめてね?墜ちるからね?」

あちこちで了解の声が聞こえた。これで事故は多分心配ないはずだ。

雲龍型の3艦は実戦経験が少ないためやたら緊張していたが、先輩方が何とかしてくれるだろう。…逆に瑞鶴あたりが羽目を外さないかが心配だが…

その後、自分の部隊の場所へ戻り、自分の装備を背負って、ようやく準備が完了した。

今回はすべての部隊に一機ずつ管制機を配備している。これが功を奏することを願うばかりだ…

 

 

何はともあれ、これで全員の出撃準備が整った。敵との交戦開始予定時刻まで残りは約一時間と言ったところだ。

「この戦いですべてが決まる…負けられない…!」

俺はこぶしを握り締めて工廠から見える水平線の彼方を睨んだ。




次から決戦に入ると言ったな…あれは嘘だ。
次の話は邀撃部隊視点で書くつもりです。
その次は空挺、その次は対シールドと言うように進めて行こうかな、と考えてます。

念のため装備のスペック置いておきますね

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輸送機の護衛戦闘機の機関砲弾
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・対深海棲艦弾頭
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組成:艦娘建造時に消費する鋼材、ボーキサイトを主原料とする合金が主な成分。口径が大きくなるにつれてタングステン等の貴重資源も配合される。
長所:深海棲艦にダメージを与えられる。口径次第では一撃必殺。
短所:普段艦娘が運用する弾薬に比べて消費資源が半端じゃない。打ち続けたら資源が枯渇する。
制約:口径は20mm~90mmに限定。20mm以下はサイズ的に製造が困難、または威力不足。90mm以上になると製造コストが倍増するため現実的ではない。製造は可能。
威力:20mm:海防艦や駆逐艦の主砲12㎝単装砲に相当
   30mm:軽巡洋艦の主砲14㎝単装砲に相当
   40mm:重巡洋艦の主砲20.3㎝連装砲に相当(サイズの関係でここより威力増加と共に消費資源が多くなる)
   50mm~:戦艦級の主砲に相当。(35.6、41、46、51、80等)またはそれ以上。
※重要※
  消費資源:最少口径の20mm→鋼材40、ボーキサイト35、その他鉄等
       最大口径の90mm→鋼材300、ボーキサイト150、その他タングステン等

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各艦に十機ずつ程配備の焔雷zwai
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
焔雷-zwai

性能:最高速度:2000㎞/h
   推進馬力:180000hp(AB使用時:220000hp)
     全長:15m
     全高:4m
     全幅:8.5m
    主翼形:クロースカップルドデルタ翼
   推進方式:ターボファンエンジン一基
  上昇率(m/s):200m/s(常時)
   航続距離:3000㎞(爆装時)
        4000㎞(フルフラット)
 最大離陸重量:25000㎏
     武装:30mm固定機銃×2(前部)
        850㎏無誘導爆弾×2(横列二個)
        翼下赤外線誘導弾×8
        AAAGM×4(AntiAirAndGroundMissile)
     乗員:1名
   防弾装備:機体全域:ジュラルミンとアルミの合金
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各艦三十機ほど配備のキ64爆装
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・キ64爆装計画
性能:最高速度:900㎞/h
  発動機馬力:3000hp
     全長:12.5m
     全高:4.25m
     全幅:15.4m
    主翼形:テーパー翼(ダイヴブレーキ装備)
   推進方式:二重反転プロペラ(ハ201改装備)
  上昇率(m/s):90m/s(最大)
   航続距離:1200㎞(爆装時)
        2000㎞(フルフラット)
 最大離陸重量:5000㎏
     武装:30mm固定機銃×2(前部)
        500㎏無誘導爆弾×1
        翼下無誘導墳進弾×2
     乗員:1名
   防弾装備:エンジンとコックピット:均質圧延装甲板
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
各艦焔雷とキ64以外を占める主力機、賢鷹(キーンホーク)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
性能:最高速度:1300㎞/h
  発動機馬力:4000hp
     全長:16.5m
     全高:4.05m
     全幅:14m
    主翼形:クロースカップルドデルタ翼(ダイヴブレーキ装備)
   推進方式:後部二重反転プロペラ(ハ201改装備)
  上昇率(m/s):100m/s(最大)
   航続距離:2000㎞(爆装時)
        2200㎞(フルフラット)
 最大離陸重量:5000㎏
     武装:40mm固定機銃×4(前部)
        500㎏無誘導爆弾×1
        翼下無誘導墳進弾×6
     乗員:1名
   防弾装備:エンジンとコックピット:均質圧延装甲板
     備考:癖がすごい震電みたいな感じ。
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鈴谷と提督の装備
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鈴谷大規模改装計画

・船体の全長を200mから210mへ変更
・船体の全幅を20mから30mへ変更。装甲強化と装備のための幅確保
・主機を艦本式タービン4基4軸からLM2500IEC-改ガスタービン5基5軸へ変更。最大速力36ノット。タービン始動から前進開始までの期間を30秒までに短縮。
・主砲を30.5㎝3連装砲2基(前2基)へ変更。砲塔上部装甲を100mmへ変更。
・魚雷発射管を61㎝3連装4基から61㎝5連装2基に変更
・対空装備をすべて取り払ってCIWS(シウス)2基追加
・カタパルト2基から超電磁砲(レールガン)カタパルト1基へ減少。搭載機は後で作る。
・後部砲塔があった場所に弾倉回転式VLSを2基装備。誘爆を防ぐためそこの弾薬庫は特に装甲が厚くなっている。
・艦橋を一新。前後にCIWS、大型対空レーダー、小型レーダー、対水上レーダー等を装備。

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改朝潮型
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朝潮型重雷装巡洋艦化計画

・船体の全長を118mから160mへ変更
・船体の全幅を10mから13mへ変更。舷側装甲の重装甲化
・主機を艦本式タービン2基2軸からLM2500IECガスタービン2基2軸へ変更。これにより最大速力が50ノットへ
・主砲を15㎝単装砲1基へ減少
・魚雷発射管を61㎝4連装10基へと増加
・艦尾にlegelMk.15を装備
・25mm連装対空機銃を4基追加
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高速大艦巨砲主義計画
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・大和型を筆頭に戦艦の皆さんの装甲、火力を中心に改良する。
・扶桑型、金剛型、伊勢型の主砲を41㎝連装砲に換装。
・長門型を46㎝三連装砲に換装
・大和型を51㎝連装砲に換装
・ドイツ艦は据え置き(事前に聞いた所、今の口径がいいとの事)
・前線艦種のタービンをLM2500IEC-改ガスタービンに換装。
・機関始動から前進開始まで2分に短縮
・最大速度をそれぞれ10ノットずつ程度増加
・それぞれにレーダーリンク機能を装備
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空母改装計画
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・正規空母の船体の全長、全幅を増大し、装甲化、搭載数も増大させる。
・正規空母はすべてアングルドデッキに改装し、甲板は硬質コンクリートを主な素材とする。(破孔修理の簡易化のため)
・アングルドデッキ上には埋め込み式レールガンが装備されており、現在鎮守府で運用している艦上機全ての発艦が可能。
・タービン強化。LMシリーズを使用する。
・エレベーターは前後二基とし、発艦準備用と収納用に分ける。
・全空母にCIWSを一基ずつ配備。
・軽空母は多少の装甲化とタービンの改装のみ。それでも元の正規空母くらいの装甲にはなる。
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熊野の装備
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熊野改二(30.5㎝三連装砲5基・61㎝四連装魚雷発射管4基・零式水上偵察機1機・その他対空兵装)
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大井の装備(北上も同様)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大井改二(61㎝五連装酸素魚雷発射管10基・50口径14㎝単装砲4門・対空兵装(史実より増加))
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その他備考
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・この鎮守府の艦娘のステータスは何も改修を受けていない、話にも登場してきていない艦娘でも通常の艦娘と比較すると改四か五くらいのステータスをしています。


・ここの鎮守府の全員はレーダーデータリンク機能を標準装備しており、命中精度と戦況把握性能はバケモノじみてます。

・今回の部隊分けで第一艦隊の表記がなかったのは、赤城、加賀、吹雪、鈴谷、熊野、提督が第一艦隊のメンバーだったからです。提督がここに入るっておかしいよねw

・その他忘れてるだろお前、っていう設定あったら指摘してください<m(__)m>




あとがきが下手な本文より長くなったw

ではまた次回でお会いしましょう


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34 決戦~1~

突如日本以外での深海の攻撃が止み、日本への攻撃が激増。国内の鎮守府のほとんどが沈黙を余儀なくされる事態となった。栗田提督率いる鎮守府(オーバースペック鎮守府)は敵の全洋上兵力を相手に日本を、世界を窮地より救い出すことはできるのか。


未曾有の艦隊決戦が、今、始まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部隊構成
・邀撃部隊

戦艦:伊勢 日向 扶桑 山城 金剛 比叡 榛名 霧島 

重巡:古鷹 加古 青葉 衣笠 妙高 那智 足柄 羽黒 高雄 愛宕 摩耶 鳥海 利根 筑摩 最上 三隈

軽巡:天龍 龍田 球磨 多摩 北上 大井 木曾 長良 五十鈴 名取 由良 鬼怒 阿武隈 川内 神通 那珂 夕張 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 大淀

駆逐艦:吹雪、朝潮、大潮、満潮 荒潮 霰以外の全艦艇

軽空母:鳳翔 龍驤 飛鷹 隼鷹 祥鳳 瑞鳳 千歳 千代田 龍鳳

潜水艦:U-511 以外の全艦艇

・空挺部隊

朝潮 大潮 満潮 荒潮 霰 大和 武蔵 長門 陸奥 ビスマルク ティルピッツ プリンツ ドイッチュラント グラーフ フューラー U511

・対シールド部隊

加賀 蒼龍 飛龍 瑞鶴 翔鶴 雲龍 天城 葛城 大鳳

・対ディグ部隊

提督 鈴谷 熊野 吹雪 赤城 防空棲姫 駆逐棲姫 戦艦棲姫 空母棲姫 ヲ級改F レ級F ル級改F 北方棲姫


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章の特性上、時系列が把握しにくい箇所が多発します。頑張って理解してください。


 時刻はもうすぐ正午と言ったところだ。秋の高い空の下、第一部隊である邀撃部隊が最終ミーティングを行っている。予想接敵時刻まで残り30分弱で、ほとんどのメンバーはもう着水しており、あと少しで出撃できるようだ。

伊勢が埠頭より邀撃部隊を見降ろして立った。

「私は邀撃部隊旗艦、伊勢だ!諸君らには国家、いや、地球の存亡をかけた戦いの第一戦を戦い抜いてもらう。敵は鬼、姫などではない個体の寄せ集めだ。無力化されたほか鎮守府の艦娘とは違い、私たちは類稀なる高ステータスだ。怖気づくな!勝利への道は見えている!」

伊勢が高らかに言い終わった後、水上の邀撃部隊から歓声が上がった。皆の士気は十分すぎるほどに高いようだ。

伊勢が艤装を展開し、水面へと降りた。

「邀撃部隊、抜錨ォォォ!」

湧き上がる歓声とともに邀撃部隊は暁(正午だが)の水平線へと出航した。

 

~朝潮side~

 

 一方、空の上では狭苦しい輸送機の中で各隊ごとの最終確認が行われたいた。

「我々空挺部隊は鬼級、姫級を相手にするわけですが……どう考えても戦力不足じゃありません?いくらステータスが上がていてもこの人数じゃ無理ですよ」

大和さんがボソッと言った。

「大和さん、そんな弱気でどうするんですか。やれるって思えば何だって…!」

私は緊張を押さえつけるように掛かり気味にまくしたてる。

「朝潮、勇気と蛮勇は違う。提督にも何か考えがあるのかもしれないが、いくらなんでもこれでは少なすぎる。そうは思わないか?ビスマルク」

武蔵さんが私をたしなめ、もう一機の輸送機に乗っているドイツ艦隊旗艦、仕事モードのビスマルクへさんへと話を振った。

「そうね、たしかにそうだわ。admiralは何を考えているのかしら?」

無線のノイズの向こうでも、同じ疑問を抱いているようだった。

(確かに…かつての大規模作戦で散々苦労させられた鬼、姫級の実力は提督が一番知っているはずなのに、どうして…)

私が悩んでいるところへドイツ機でない輸送機からの無線が入った。

「こちら提督。朝潮はいるか?」

提督からの無線だった。

「はい、私です。どうかしましたか?」

「すまない、どう考えてもそっちの部隊は戦力不足だ。急いで編成したもんだからどこか抜けていたようだ。俺と姉さんの部隊の一部がそっちの攻略に加わる。大丈夫か?」

どうやら提督も(頭は)人間だったようだ。慌ててミスをすることもあるんだ…

「ありがとうございます。正直戦力不足に頭を悩ませていたのでありがたいです。しかし、そちらのミットシュルディガー(陸軍野郎)への対応は大丈夫ですか?戦力不足になったりは…」

無線がしばし沈黙する。やっぱりうちの鎮守府の戦力では数の面できつかったのかな…?

「…大丈夫だ。あてはある」

「あて…?まぁ、大丈夫だというなら大丈夫なのでしょう。ありがとうございます」

「あぁ、あとで会おう」

そう言って無線は切れた。私は無線をドイツ機へと繋ぎなおした。

「こちら朝潮。ビスマルクさん、提督と深海の方々の一部がこっちの支援に回ってくれるそうです。これで大丈夫ではないでしょうか?」

「そうなのね!ようやくadmiralに私の活躍する姿を見せられるわね!」

どうやら一瞬仕事モードが切れるほどに支援の知らせはうれしかったらしい。…というか、ビスマルクさん提督の事…いや、今はいい。今は目の前のことに集中しよう。

不意に機体がガクン、と揺れて降下体勢に入った。

(決戦は近い…本当はミットシュルディガー(陸軍野郎)の方を相手したかったけど…姫は早く殲滅して一発でいいからあいつらに叩き込んでやる…!)

ガタガタと軋む輸送機の中で私は覚悟を決めた。

 

~加賀side~

 

(…そろそろ伊勢さん率いる邀撃部隊が出発したころね。私たちは後どのくらいで着くのかしら)

私は輸送機内で左手首の腕時計を見て時刻を確認した。

「あれ、加賀さん腕時計なんてしてたっけ?誰にもらったのさ~?」

瑞鶴がからかうようにこっちを見てきた。まったくこの子は…これから死ぬかもしれない戦闘へ行くというのに、呑気なものだわ…

「提督よ。装備の制作過程でできた副産物だって言うからもらったの」

「え”…いいなぁ…」

以外ね…茶化してくるかと思ったのに…って…

「皆さん…何ですかその目は」

輸送機内の皆さんが慈愛に満ちた目でこっちを見てきた。なんなの…

「別に、何でもないですよ」

翔鶴が表情を崩さずに言った。

「全く…調子狂うわね。ゴホン、いい?作戦を確認するわ」

途端に皆の表情が真剣なものへと変わった。

「空挺後複縦陣をとり、私が管制機を発艦、その後艦戦隊と艦爆隊を発艦させてシールド持ちを真上から叩くわ。相手からの攻撃にも十分注意してちょうだい」

私が確認するように見渡すと全員が頷いた。

「早いとこ片付けて、赤城さんに合流するわ。…五航戦、期待してるわよ」

「え”っ、加賀さんが激励を…?」

「何よ、悪いかしら?」

小さな笑いが起こり、しばし和やかな雰囲気が機内に流れたが、突如としてそれは途絶えることになった。

けたたましいブザーの音が機内に鳴り響き、パイロットの妖精さんが振り返って焦った声を上げた。

「嬢ちゃんたち、敵に捕捉されちまった!このままだと墜とされっちまうから済まねぇが予定より遠い場所で降ろさせてもらうぜ!準備を頼む!」

そう言い終わるや否や、機体はかなりの高角度で降下を始めた。

(そんなに急を要することなの…?まだ捕捉されただけじゃ…)

だがその考えはVT信管の炸裂音によって掻き消される。

「パイロット!ハッチを開けて。管制機だけ飛ばすわ!」

「なんだって!?そりゃ無茶だ。この角度で開けたら…」

「いいから早く。やりなさい」

(着水してから発艦したらすぐ落とされてしまうでしょう…なら先に発艦させてしまうまで!)

パイロットはしばし苦悶の表情を浮かべたが思い切ったように手を伸ばした。

「どうなっても知らねぇぞ!?ほらよ!」

鈍い金属音とワイヤーの擦れる音と共に後部大型ハッチが開き始めた。

途端に強風が機内に吹き込んできて、思わず目をつぶった。

「嬢ちゃん、やるなら早くしてくれ!ハッチが吹き飛んじまう!」

その声に私は答えるように甲板を構えた。

「管制機、発艦!」

電磁火薬式カタパルトが軽い炸裂音と放電音を響かせ、機体を対空砲火の最中へと高初速で送り出した。

「管制機、そのまま上昇!高度12000mまで上昇して!弾幕を振り切るのよ!」

その声にこたえるかのように管制機は機首を上げ、秋晴れの空へと上昇を開始した。

それを見届けた次の瞬間、ハッチが大きな音を立てて閉まった。

「ギリギリだったな。あと十数秒で降下可能高度だ。準備を!」

パイロットの声に促され、私たちは配置についた。

(私達の海を…護ってみせる!)

 

 

~提督side~

「いやいや司令官!無理ですって!提督とお姉さん方抜きには無理ですって!」

現在輸送機は空挺部隊の輸送機と共に降下中だ。そして傍らでは吹雪が駄々をこねている。

「大丈夫だ。別に姉さんたち全員が抜けるわけじゃないんだ。すぐに終わらせて向かうさ」

「司令官それフラグぅ!!!!」

吹雪は半泣きだ。どうしたもんか…

「鈴谷、熊野、なんとかしてくれ」

「そんなこと言われましても…吹雪さん、大丈夫ですよ。あいつらなんてグラップルで来たところを殴り返せばいいだけですわ」

「そうそう。後VLSを叩き込めば終わりっしょ!」

「ダメだこの艦隊脳筋だ…赤城さぁ~ん…」

「誘導弾でfinish、ですよ!吹雪ちゃん!」

「ブルーアイズさん…」

「FOX2!FOX2!」

「ル級さ…」

「殴レ!サスレバ道ハ開カレル!!!」

「レ級…」

「ナンカ問題ガアルノカ?殴レ」

「もうだめだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

吹雪が崩れた。が、すぐ起き上がった。

「こうなりゃヤケです!敵の弾薬庫に15㎝連射してやりますよ!!」

こうして他部隊よりも何も考えてなさそうな脳筋部隊が結成された。

パイロット…もとい父さんが振り返って言った。

この機体は明石が最初に作った機体のため、人間が操作するタイプなのだ。

「そろそろ敵に捕捉されるぞ!降下用意!」

「了解!…さて、と」

「どうしたの?防ちゃん?」

「いやちょっとね」

俺はそう言って鎮守府へ無線をつないだ。

「こちら提督。明石、頼んだぞ」

「了解です提督。計画は無事進行中、そろそろ第二段階です」

そう言って無線は切れた。これからが楽しみだ。

ブザーが鳴った。

「敵がこちらを捕捉、海面すれすれでレーダー射撃を回避するぞ!…大丈夫かな出来るかな…

「やってもらわなきゃ困る!!」

…だよな、行ってこい息子よ!正面に敵大部隊だ!」

そう言って父さんは操縦桿についているレバーの一つを押した。

重い音と共に後部ハッチが空き始める。VT信管が炸裂する音を聞きながら降下準備を完了した。

「重巡伊吹(決戦仕様)、いっきまーーーすっ!」

 

 

~数分前、敵第一部隊~

「ナァ、レ級Eヨ。今度ノ敵ハドノクライナンダ?」

部隊の旗艦であるレ級eliteは不敵に笑って言った。

「コレマデト何モ変ワランダロウ。同ジ戦力ノ奴ラをマタ潰スダケダ」

その時、前衛のイ級後期型より通信が入った。

「…イ級二ヨルト敵ハ前回ノ鎮守府ヨリ少ナイヨウダ。ナメラレタモノダナ…全艦戦闘準備!」

 

~同時刻、邀撃部隊~

「伊勢さん、敵艦隊補足です。前方に広く布陣しています!」

夕張の報告により艦隊の皆の表情がより一層引き締まった。

「聞いたか!戦艦部隊、レーダーリンク機能起動!先手を仕掛けるぞ!」

キィィン…と言う電子音と共にレーダーが起動し、同期を開始した。

「龍驤!」

「はいよ!管制機はん、レッツゴーや!」

龍驤から管制機が飛び立ち、はるか上空へと舞い上がった。

「管制機との同期完了!いつでも撃てます!」

扶桑が戦艦組を代表して言った。

「軽空母でもやればできるってところを見せてあげる!」

瑞鳳を筆頭に軽空母が発艦を開始する。小規模なれど積んでいる艦載機は正規空母のそれと同じ。十分な戦果が期待できそうだ。

「最初の一射で終わらせる気持ちで行け!前衛戦艦隊、放てぇぇぇッ!」

伊勢の張った声をかき消すように41cm連装砲4基8門の砲声が大気を揺るがした。

それに続くように後続の七隻が斉射した。本来なら交互撃ち方で夾叉を得てから全門斉射に移行するものだが、管制機とレーダーの最強タッグによって命中率が初弾命中を期待できるレベルまでになっていたのだ。

 

〜敵第一部隊side〜

「敵戦艦斉射!発射炎カラシテ41cm、ビッグ7ト思ワレル!」

観測員を兼ねていたチ級より報告が入る。

レ級Eはほくそ笑んだ。敵を捕捉したらすぐ斉射とは、余程の新人(ルーキー)と見える。この距離で当たるわけがない。

「敵戦艦ノ数ハ?全隻41cmカ?」

「ビッグ7ガ8隻!」

「8隻トカソレビッグ7ジャネーダロ」

なんで8隻?ナガトタイプのみがビッグ7に該当するのではないのか?

「敵弾飛来!」

「ヘァッ!?」

もう一隻のレ級の報告に思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

嘘だろ?まだお互いに姿をはっきりと見えていない状況だぞ?発射炎がかろうじて見えるほどだと言うのに!?

レ級の思考は仲間の報告によって中断させられた。

「前衛戦艦隊全滅!?レ級E、ドウシタライイ!?」

「初弾命中ダト!?ビギナーズラックカ!?」

「アワワワワ」

「ソモソモビッグ7ガ8隻ッテ時点デオカシイヤロ!?トイウカ日本ノビッグ7ハ2隻ノハズダロ!?」

「敵第二射来マァァァス!!!」

「回避、回避ィィィィ!」

 

ーーーーーーー

 

「嘘でしょ…なんで当たるの…?」

「扶桑姉さま、そこは素直に喜びましょうよ」

いつもは練度不足と装備の関係で命中精度が他と比べてかなり低かった扶桑型の砲撃が2回連続で命中した。命中だけでも奇跡的と言えるのに…

「敵戦艦爆沈。扶桑、すごいな」

いつもは落ち着いている日向までもが目を丸くするほどの戦果なのだ。つまり、何が言いたいかと言うと…

「レーダーって言うのはすごいな…なぜ当たるんだ」

「さあね、私も細かい原理は分からないわ。さて、第三射行くわよ!今度は距離が近くなったから重巡でも行けるはず。重巡の皆も準備して!」

その後すぐに重たい音を上げて重巡の砲塔群が旋回、仰角をかけ始める。

「なんとかかんとか装置の威力、見せてやるのじゃ!」

「半自動装填装置よ、利根姉さん」

「そうそう、それじゃ。筑摩は賢いのぉ」

半自動装填装置の装備と共に砲塔旋回用のモーターが新しくなったため、従来の砲塔旋回速度よりもかなり速くなっており、戦況にいち早く対応することが可能となっているのが我が鎮守府の重巡の特徴だ。

「この距離じゃ写真取れないですねー…うーん、苦悶の表情を浮かべながら沈んでいく敵の姿を撮りたかったのですが」

「青葉って時折怖いこと言うのよね…我が姉ながら恐ろしいわ…」

「こら、そこ喋ってばかりいるんじゃない、準備はいいか?」

伊勢に注意されて重巡たちが前を見据えた。

「行くぞ、第三射、放てぇぇぇぇぇッ!!」

直後轟音が空気を揺るがし、幾重もの弾道が大気を切り裂いた。

戦艦に加えて重巡の砲声も含まれているため空気の揺れがしばしその場にとどまるほどだった。

「敵中枢に命中を確認!敵、遁走します!」

夕張が焦り気味に言った。

「よし、第二段階だ!水雷戦隊、追撃戦だ!」

伊勢が指示をすると軽巡一隻に対して駆逐艦が数隻、場合によっては潜水艦の部隊が複数、戦艦、重巡部隊の前に躍り出た。

「ようやく出番だね、このまま終わるんじゃないかと冷や冷やしていたよ」

不敵に笑って言ったのは川内型一番艦、川内。鎮守府内では夜戦バカで通っている根っからの武闘派だ。

「後は頼んだぞ。川内。我々はこれより此処を離脱して空挺部隊の支援に向かう。いいな?」

「了解了解、どう見ても数で負けてる空挺部隊の所へ早く行ってあげて!…それじゃみんな、行くよ!」

そう言って川内は駆逐艦たちを引き連れて遁走した敵を追撃すべく改型タービンをフル稼働させて移動を開始した。

それを見届けた伊勢達は川内達とは別な進路へと移動を始めた。目指すはレーダー上に映っている空挺部隊の場所だ。

「うん…?数が多くないか?」

「急遽変更でもあったんでしょうかね?」

 

ーーーーーーー

 

〜空挺部隊、会敵時〜

 

輸送機から飛び降りた俺は妙な高揚感に包まれていた。

「着水ッ!行くぞテメェらぁぁぁ!」

後続が次々と着水し、陣形を整え始めた。もちろん火力特化の単縦陣だ。

「防ちゃん、テンションどうしちゃったの…」

「初めての大規模戦闘だから興奮しているんだろう。私にはよくわかるぞ…それに…」

別機から着水した武蔵がいつのまにかかなり近くまできており、自分の後方を指さした。

「コイツらを早く沈めてディガー(陸軍野郎)を殺してやる!」

「了解ィ!」

「早いとこ沈めちゃいましょうね〜」

「やってやろうじゃねえかよこの野郎!」

「突撃だぁぁぁ!」

そしてため息をついて言った。

もっとヤバいやつ(朝潮型)がいるからな…」

「ほんとね…キャラの面影がないじゃない…あら?ドイツの皆さんは?」

姉さんはふと周りを見渡して言った。ドイツ艦隊の姿が見えないのだ。

「背面に回るって言ってました。挟み撃ちにしたいそうです。ですよね?長門さん」

大和が長門に話を振った。

「そうだが…っ、お前ら!真面目に戦わんか!?」

長門は主砲を斉射しながらこちらに言った。

「あら?私はちゃんと戦ってますよ?次で第二射です」

大和が長門の砲声より一回りもふた回りも大きいそれを響かせながら言い、

「私もちゃんと戦ってはいると思うが」

武蔵が接近してきた巡洋艦を素手で殴って轟沈させながら言い、

「私も、私の仲間たちもちゃんと戦っていますよ?」

防空棲姫は敵機を次々に撃ち落としながら言った。

「私は、真面目に、と言っているんだ!お前らも提督を見習って…」

そう言って長門は提督の方を向いた。

「俺の進路を邪魔するのは誰だぁぁ!?」

「ワタシダァァァァ!」

「喰らえい!」

「ギャァァァァァ!」

「…朝潮型を見習って…」

長門は目を逸らし、朝潮型の方へ向いた。

「突撃!」

「了解!」

「コナイデ!」

長門は陸奥に助けを求めるような目を向けた。

「あらあら…緊張感のかけらもないわね…」

「正常なのは私達だけか…」

そう言いつつも確実に主砲の斉射で敵を減らしていく長門型の2人であった。

 

 

 

「よし、これで鬼級はあらかた片付いたな!主砲2基で十分だったぜ」

俺は額の汗を拭ってみんなに笑いかけた。

「この調子で姫級も…」

嬉々として敵を沈めていた朝潮がドヤ顔でそう言った。

「いや、流石にそれは無理だろう。鬼と姫の間には天と地ほどのステータス差がある。…朝潮、先ほど敵のボスを沈めた時どのくらいかかった?」

長門が調子づく朝潮を制し、聞いた。

「約十分ですね」

「なら一時間はかかかると思ったほうがいい。気を引き締めるようにな」

「その常識を、ぶっ壊す!」

「提督、戦場では味方の誤射による沈没もあり得るよな?」

「すみません許してください何でもしますから」

ドヤ顔で言った俺に対し長門が目が笑ってない笑顔で俺に主砲を突きつけてきた。戦艦のゼロ距離射撃とか洒落にならんぞオイ…

「あの…提督…お姉さんが…」

茶番を繰り広げていると大和がおずおずと前方を指さした。

「ん?、あぁ、まあ見てろって」

姉さんとその配下が敵艦隊に近づき、何か話しているようだった。

 

ーーーーーーーー

 

〜数分前、防空棲姫side〜

 私は防ちゃん達が集まって話し始めるのを見計らって駆逐棲姫、戦艦棲姫、空母棲姫と共にちょっと艦隊を抜け出した。

目的は敵部隊との和解。しっかり説明すれば分かってくれるかもしれない。もし成功したのならば大きな戦果となるだろう。

敵部隊正面でこちらを見据えている泊地棲姫に話しかけた。

「久しぶりね泊地さん、元気だった?」

「…生きていたのか」

私は少し笑い、直後に表情を変えて言った。

「単刀直入に言うわ。和解、もしくは撤退してもらえないかしら」

泊地棲姫はこちらに攻撃しようとする部下を手で制し、怪訝そうな表情をして聞いた。

「なぜだ…?」

「先程の戦いで私たちの戦力は分かったはず。…それに、自分に生きる術を教えてくれた人を手にかけたくはないのよ。ね?“教官”?」

「ッ!!…」

泊地棲姫の表情が揺らいだ。彼女はほぼ最初期から深海棲艦の軍に属している、初代指揮官で攻撃派でも穏健派でもない中立派、私に言語、戦闘術等を手取り足取り教えてくれた先生でもあるのだ。できれば戦いたくはない。

「私には、役目がある…私の目の前に立ちはだかる敵が例えかつての教え子で、どれだけ思い入れがあろうとも退くわけにはいかないのだ」

泊地棲姫の目に光が灯った。それはまるで確固たる意思が宿ったようだった。

「せめてもの情けだ。お前が艦隊に戻るまでの時間を与えよう。…そこからは敵だ。容赦はしない」

「そう…教官とは戦いたくなかったわ」

私は顔を伏せ、教官に背を向けて先ほどきた航路を逆にたどるようにみんなの元へと戻った。

 

 




一旦切ります。こんな感じで小出しにすることしかできなそうです。
…まともな戦闘シーンも書く予定です。


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35 決戦~2~上

邀撃部隊は敵の第一部隊を殲滅することに成功した。
だが、空挺部隊と邀撃部隊の前に防空棲姫のかつての教官、「泊地棲姫」が率いる姫級部隊が立ちはだかる。

勝負の行方は…?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部隊構成
・邀撃、空挺部隊

戦艦:伊勢 日向 扶桑 山城 金剛 比叡 榛名 霧島 大和 武蔵 長門 陸奥 ビスマルク ティルピッツ フューラー ドイッチュラント 戦艦棲姫

重巡:古鷹 加古 青葉 衣笠 妙高 那智 足柄 羽黒 高雄 愛宕 摩耶 鳥海 利根 筑摩 最上 三隈 プリンツ・オイゲン 提督

軽巡:天龍 龍田 球磨 多摩 北上 大井 木曾 長良 五十鈴 名取 由良 鬼怒 阿武隈 川内 神通 那珂 夕張 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 大淀

駆逐艦:吹雪以外の全艦艇 防空棲姫 駆逐棲姫

軽空母:鳳翔 龍驤 飛鷹 隼鷹 祥鳳 瑞鳳 千歳 千代田 龍鳳

正規空母:グラーフ・ツェッペリン 空母棲姫

潜水艦:全艦艇

・対シールド部隊

加賀 蒼龍 飛龍 瑞鶴 翔鶴 雲龍 天城 葛城 大鳳 

・対ディグ部隊

鈴谷 熊野 吹雪 赤城 ヲ級改F レ級F ル級改F 北方棲姫

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時間軸はおかしくなりますが、決戦は一部隊ごとに書いていくことにしました。つまり今回は姫級部隊が相手です。


~現在・空挺部隊、提督side~

俺は戻ってきた姉さんの表情ですべてを悟った。和解はできず、全面戦争による決着が必要だという事を。

それにしても表情が暗いな…

「姉さん、和解できなかったのは分かるけどそこまで落ち込むことじゃ…」

俺は言ってからハッとした。いくら今敵だとは言えもとは仲間。今の言動はあまりに軽はずみだったのではないか、と。

しかし、姉さんはそれを聞いても嫌な顔はせず、むしろ吹っ切れたような表情になった。

「そうね…やるしかないわ。待ってて教官、私の手で沈めてあげるわ!」

「教官!?」

その場にいるだれもが耳を疑った。姉さんは周りの反応を気にすることなく続けた。

「あの人たちはこれまでの戦力とはかけ離れた強さに進化しているはずよ。だけど私たちもそれと同等レベルで進化はしている…はず!行くわよ皆!」

「待って展開早いって!」

姉さんがみんなを先導して艦隊は前進を始め、俺は無線機をひったくって叫んだ(毎度恒例)

「管制機!敵艦隊の戦力、位置、敵航空部隊の有無、現在よりこれらすべてを定期的に報告しろ!」

俺の無線から数秒ほど遅れて返信が返ってくる。

『了解した。敵の大半は姫級、航空戦艦4、戦艦1、正規空母2、軽空母1、水上機母艦1、重巡洋艦1、軽巡洋艦2、駆逐艦2、潜水艦の有無は判別不可!敵機編隊現在続々と発艦中!発艦機は陸軍機の改造機と思われる!』

無線の調子は良好だ。高高度より無事に指示が出せている。

「全員聞こえたな?それと…」

俺が指示を出そうとしたとき、一本の無線が入った。

「こちら伊勢!敵第一部隊は遁走、水雷戦隊が追撃をかけている。我々邀撃部隊はそちらの支援に参加する!」

思わぬ増援の知らせだった。正直現在の戦力でのこの距離の撃ち合いには火力不足だったのだ。

「了解した。戦艦と重巡は管制機より敵艦隊の先頭艦の位置データを貰え。敵は文字通りの単縦陣だ。先頭艦を潰して進路をずらさせて各個撃破に持ち込むぞ!」

「了解!」

多数の返事が無線越しに響いた。直後、音を立てて各艦の艤装が動き始める。

その時管制機から報告が入った。

『敵攻撃隊間もなくそちらに到着する。対空戦闘用意を…!』

管制機の妖精さんはどこか慌てているようだったが、俺はいたって落ち着いて返した。

「座標データを送ってくれ。すぐに片づける」

『今送った!』

座標が艤装のECUに読み込まれた。

「一番ハッチ開放、改型シースパロー用意!」

VLS二基のうち一基のハッチが開く。装填弾薬は改型シースパロー、艦対空ミサイルの改良型だ。

『敵艦発砲!』

突如管制機より報告が入った。

「各艦回避機動を取りつつ発砲開始、撃てッ!」

俺は命令を下しつつ、シースパローを発射した。

砲撃の轟音と、それとは異なる音が響き、砲弾は敵艦隊先頭艦に向けて、シースパローは敵航空隊へと飛んで行った。

その時、味方の砲弾が敵へ届くよりも早く、敵の砲弾が俺の後方、伊勢達の戦艦重巡部隊付近に着弾した。

「被害状況報告!」

俺が無線に呼びかけると即座に無線が返ってきた。

「戦艦は無傷、古鷹と羽黒、高雄、筑摩に敵砲弾が直撃、大破判定です!」

「なんだと!?」

初弾命中、しかも大破判定…やるな…

「大破艦は鎮守府に撤退しろ!明石がすべてやってくれるはずだ」

此処にはいない明石が対応に追われる様子を想像して少し申し訳ないと思ったが、そんなことは言ってられないのだ。…無事終わったら明石に何か奢るか…

そんなことを考えていると、シースパローが起爆圏内に入ったことを示すブザーが鳴った。

「吹き飛べ!」

俺は主砲艤装のトリガー脇にあるスイッチを思いっきり押し込んだ。

 

~数秒前、敵航空隊~

「敵艦隊ヲ視認!…ン?一発ノ飛翔体ガ接近中!」

「対空砲火デハナサソウ…航空隊内部ヲスリ抜ケソウダナ」

深海機が不思議そうな顔をしたとき、それは起こった。

乾いた炸裂音と共にシースパローが散り、無数の子爆弾を撒き散らしたのだ。

「クラスター弾頭ダト!?」

子爆弾が発動機に命中し黒煙を吐きながら高度を下げる機、コックピットに直撃し徐々に編隊から落伍して行く機、主翼を吹き飛ばされて錐揉み状に墜落して行く機など、様々な墜ち方で深海機は次々と海の藻屑と化していった。

「クッ、味方機ガホトンドヤラレタ…引キ返…」

機体を反転させ、母艦に戻ろうとしていた数少ない生き残りの耳に、はっきりと、墳進弾特有の音が聞こえた。

ある機のパイロットが振り返った。

「ジーザス…」

シースパローは、まっすぐ彼のもとへと向かって来ていたのだ。

直後、航空隊は全滅した。

 

~海上敵艦隊~

「嘘ッ!?攻撃隊全滅…?」

敵艦隊の正規空母の一人、空母水鬼はひどく驚いていた。これまで艦娘どもを散々に虐めてきた自慢の航空隊が一瞬にして全滅したのだから。

「私ノ航空隊モヤラレタワ…一体何ガ起コッタト言ウノ?」

もう一人の正規空母、深海鶴棲姫も前代未聞の事態に戸惑っていた。

「嘘デショ…残リノ航空隊ハ?」

その話を聞いた護衛棲姫は正規空母二人に尋ねた。

「二艦共二マダ居ル。ダガ今出スノハ得策ジャナイト思ウ。イザトイウ時ノタメニトッテオイテモイイ?泊地」

それを聞いた泊地棲姫は一言分かった、とだけ発し、自分はまた砲撃へと戻った。

(制空権がないのは…辛いな…)

 

ーーーーー

 

~提督side~

(…たかが航空隊に二発も使っちまった…もっと練習が必要だな)

VLSの弾数は無限ではない。撃ち切ってしまえばそれはもうただの箱に過ぎないのだ。残弾管理をきちんとこなさないといざという時に役に立たなくなってしまうのだ。

俺がそう考えていると、姉さんから無線が入った。

「防ちゃん、敵航空隊のもう一部隊は私が排除しておいたわ。これで制空権は取れるはずよ」

「ありがとう、助かるよ」

俺がそう言って姉さんとの無線を切ると、別の報告が入った。

「提督、敵先頭艦が落伍し、敵全体の隊列が乱れました。各個撃破に持ち込めそうですが…ちょっと距離が遠いですね」

「大和、安心しとけ。この戦いはマジックと一緒だ」

「…?それはどう言う…」

「まぁ見とけって」

そう言って俺は無線を全体無線に切り替え、指示を出した。

「軽空母部隊、艦載機を発艦させろ。俺らは砲撃を中止して待機!」

「了解やで!艦載機のみんな、気張って行ってこいや!」

龍驤を筆頭とした軽空母部隊よりキーンホークやキ64爆装、少数生産にとどまった夕張のY–1や(ここの鎮守府では)旧式化してしまった景山–改や懐かしの景山などが発艦を始めた。軽空母が軽空母らしからぬ搭載量をしているので一斉に発艦して行く様は壮観であった。

「航空隊が敵と接触したら俺らも行動を開始するぞ」

「了解!」

飛来する敵弾を躱しながら俺たちは暫しの休息(?)に入った。

 

ーーーーーーーーーー

 

〜上空、航空隊隊長side〜

 

「いいか?墜とされても死なずに鎮守府に転送されるが、経験値は引き継がれないからまた最初から訓練をやらなきゃならなくなる。もう一回訓練をやりたいやつは墜ちてもいいぞ?」

隊長が茶化すように言うと部隊から“あの訓練はもう嫌だ”との声がまばらにあがった。

「実戦と違って死なねぇんだから、派手に行くぞ!」

「了解!」

「作戦はこうだ。さっき提督たちが敵をバラバラにしてくれたらしい。つまり孤立気味になっている船が多いわけだ。そいつらを全機で叩くんだ」

「それぞれ一機ずつ対応すれば効率良く済むのでは?」

無線の向こうから若い声が聞こえた。

「馬鹿おめぇ、姫級が爆弾一つで沈むかってぇの。投弾前に一瞬で墜とされて終わりだぞ。知らんのか?」

隊長は半ば呆れ気味に返答した。

「そうなんですか…知りませんでした。姫級相手は初めてなんですよ俺」

隊長は驚いた。

「マジか…気をつけるんだぞ。対空砲火も他の敵の比じゃないからな」

「…了解しました」

ゴクリと唾を飲んだ音が聞こえたような気がした。少し姫級の実力について過剰に言いすぎたかもしれないが…まぁ、慢心するよりマシだろう。

部隊のどの機からか、突如報告が入った。

「敵艦隊発見!味方艦隊へ砲撃中の模様。こちらは発見されてません!」

ついに来たか…!

「我々から一番近く、且つ孤立している敵は?」

数秒無線が沈黙し、先ほどとは別の機体から報告が飛んできた。

「防空巡棲姫と思われる個体の孤立を確認。手負いの模様!」

よりにもよって防空系の姫かよ…手負いとは言え…

「…こちらは発見されたか?」

俺は少ない頭をフル回転させて考えた。発見されてなければ先に沈められるかもしれない。

「発見はされてません。かなり高度をとっていますからね」

「…そうか…」

景山の最高速度はたったの550km/h…いや、確か小(?)改修で800km/hになっていたはず…多分だが。そして今景山は爆装中のはず。でなきゃこんな高高度にいるわけがない。キーンホークも同等レベルの速度は出るが、機体形状的に言って急降下時の速度は景山の方がでるだろう。つまり…

「景山に搭乗中のヤツは急降下爆撃によって防空巡棲姫を沈めろ!葬った後は速やかに空域を離脱するように。防空系の姫がいなくなるだけで大分やりやすくなるはずだ!」

「了解!」

無線越しのいい返事と共に複数の景山が機体を180度回転させ、その後急降下して視界から消えて行った。

「さて…吉と出るか凶と出るか…俺らは上空待機だ」

 

ーーーーーーーー

 

〜景山隊、隊長機side〜

「…防空系の姫がいなくなるだけで大分やりやすくなるはずだ!」

「了解!」

私は全体無線にて返事をし、即座に部隊無線に切り替えた。

「全機聞こえたな?私に続け!」

そう言って私は機体を反転させ、上昇の要領で下降を開始した。途端にかなりの逆Gがかかり、浮遊感を超えて上から押しつけられるように感じられた。

「ッ…敵艦正面、全機捉えているな?手痛いやつをお見舞いしてやれ!」

「了…解!」

よくまぁこんな逆Gの中で返事ができたもんだ。

そう考えていると、突如コックピットの外が白く霞み始め、音が消えた。

「!?」

初めての感覚だった。これまでかなりの時間航空機に親しんできた私だが、こんな静寂の中を飛ぶのは初めての出来事であったのだ。

やがてその霞は消え、明瞭な視界が戻ってきた。

「おもしろい…未知というものは本当におもしろい!」

私は昂る気持ちを抑えつつ、接近してもなお上空を見上げようとしない防空巡棲姫目掛けて発射ボタンをグイッと押し込み、無音で飛んでいくそれを見届けるとすぐに最大減速をかけ、操縦桿を名一杯引き起こした。

今度はとてつもないGがかかり、体がシートにへばりつく。

私がGの苦痛に耐えているとき、背後で爆発音が轟いた。

なんとか海面に衝突する寸前に機体が上昇を始め、急降下から一転して急上昇の姿勢になった。

私が先程の投弾場所を見やると、そこはただ黒い煙を上げながら燃え続ける海面となっていた。それを確認した私はすかさず無線を入れた。

「景山隊から本隊へ!防空巡棲姫と思われる個体の撃沈を確認!残弾なし。よって味方艦隊の下へ帰還する。あとは頼んだ!」

程なくして無線への返事が返ってきた。

「景山隊、ご苦労であった。あとは任せろ。防空系の姫がいない艦隊の対空砲火なぞ屁でもない…はずだ!」

私は航空隊隊長の隊長らしい返事を聞いたのち、部隊無線へとチャンネルを切り替えた。

「残存機、報告せよ」

私は1番機。15番機までいれば全員生還だ…いや、生きてはいるのか墜とされても。まぁ過去の大戦なら死んでいるところだが。

「2番機、左エンジンが不調ですが飛べてます!」

「5番機、無事生存!」

「6番機…なんとか生きてます」

「9番機、無事…じゃないです対空砲火に晒されてますぅぅぅ」

「11番機、こちらも対空砲火回避中!あっやべ被弾…」

「14番機、無事です」

…結構やられたな…

「9番機、11番、無事か?」

「「無理そうです。お先に鎮守府に行ってます」」

「別れの挨拶がこんなに軽くていいものか…いやまた会えるんだが…そう言えば、今いない機は墜とされちまったのか?」

私は不思議に思った。直前まで敵に気づかれていなかったのに墜とされるものなのか、と。だがその疑問はすぐに晴れることになる。

「あいつら速度超過で引き起こせずに敵に突っ込むか海面にダイレクトアタックしたんですよ。3番機と4番機が護衛棲姫に突っ込んだせいでそっちも沈みましたよ」

5番機に言われて振り返ってみるとたしかに噴き上がっている黒煙の筋が一本多い。これは…予想外の戦果(?)だな。

「とりあえず帰還しよう。あとは他の隊に任せるんだ」

「了解!」

こうして景山隊は当初の「敵の防空系の姫を排除する」という目的を大幅に達成して帰路についたのであった。

 




すみません、一旦ここまでで。
やる気が最近出んのです。許してくださいまし。
次は…航空隊本隊のやつを書かねば…


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36 決戦〜2〜下

部隊構成
・邀撃、空挺部隊

戦艦:伊勢 日向 扶桑 山城 金剛 比叡 榛名 霧島 大和 武蔵 長門 陸奥 ビスマルク ティルピッツ フューラー ドイッチュラント 戦艦棲姫

重巡:古鷹 加古 青葉 衣笠 妙高 那智 足柄 羽黒 高雄 愛宕 摩耶 鳥海 利根 筑摩 最上 三隈 プリンツ・オイゲン 提督

軽巡:天龍 龍田 球磨 多摩 北上 大井 木曾 長良 五十鈴 名取 由良 鬼怒 阿武隈 川内 神通 那珂 夕張 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 大淀

駆逐艦:吹雪以外の全艦艇 防空棲姫 駆逐棲姫

軽空母:鳳翔 龍驤 飛鷹 隼鷹 祥鳳 瑞鳳 千歳 千代田 龍鳳

正規空母:グラーフ・ツェッペリン 空母棲姫

潜水艦:全艦艇

・対シールド部隊

加賀 蒼龍 飛龍 瑞鶴 翔鶴 雲龍 天城 葛城 大鳳 

・対ディグ部隊

鈴谷 熊野 吹雪 赤城 ヲ級改F レ級F ル級改F 北方棲姫

ーーーーーーーーーーーーーーーー

もう俺ね、シリアスチックなやつ書くの疲れたの。もうネタに走るね…走れたら。


〜隊長side〜

 

「敵の防空能力は低いぞ!全機各分隊長の指示に従って攻撃開始!敵艦撃破ではなく生還を目標にしろ!」

俺はあらかじめ編成しておいた分隊によって攻撃する事にした。威力不足?それでいいんだよそれで。

「第一分隊、俺に続けぇ!」

「了解ィィィ!」

俺は荒っぽい動作で機体を急降下の体勢に持ち込んだ。

目標は…ありゃなんだ?見たことねぇ艤装だが、個体は泊地棲姫っぽいな。

「目標、正面の泊地棲姫!注意をこっちに向けるんだ!」

こちらのエンジン音を捉えたのか、泊地棲姫がこちらに視線を向けた。その瞳の色は今まで見たことのないほど深く、見つめていると吸い込まれそうな(あか)だった。

「いいぞいいぞ、こっちを向け!撃ってこい!」

泊地棲姫が対空砲火を開始した。幾重もの火箭がこっちに向けて伸びてきた。

「我被弾!アチチチ…クッソ!」

2番機が被弾し、炎上。もはやこれまでと思ったのか2番機は全誘導弾と爆弾をその場で投下した。それらが2番機より離れた瞬間、左翼が爆発を起こし2番機は錐揉み状に海面目掛けて墜落して行った。

従来なら悲しき別れの時なのだが…

「隊長ー、また訓練お願いしまーす」

最後の無線が緊張感のかけらもねぇ…

俺は頭を抱えた。まぁ両手は操縦桿にあるので心の中でだが。

泊地棲姫は2番機より投下された爆弾類を手で払って起爆させて排除し、対空掃討を継続した。

「手は何ともねぇってのか…?よしお前ら、ギリギリまで接近してぶち込め!敵は相当な手練だぞ」

俺は迫り来る対空砲火を右に左に回避しながらグングンと敵との距離を詰めて行った。

投弾距離まであと少しだ。なかなか俺らが墜ちないことに苛立ちを覚えているのか、泊地棲姫は苦虫を噛み潰したような顔でより一層弾幕の密度を濃くしてきた。

「被d…」

何番機かも分からず、被弾の報告も半ばにして一機が墜ちた。

背後で爆発音。次いで誰かが墜ちたようだが、無線を入れる暇もないようだ。

「…くっ、流石にやばいぞ…防空系の姫を消してもなおこのザマか…!」

俺は必死になって迫り来る火箭の束を躱しながら接近した。

「これでも喰らえッ!」

俺は死に物狂いで爆弾を投下し、その流れで噴進弾を全弾発射した。

爆弾は先程のように払われることなく泊地棲姫へ飛んでいき、命中して爆炎をあげた。続く噴進弾も全て命中したようで次々と火柱があがっている。

「やった、やってやったぞ!これは耐えられ…」

歓びに打ち震え、得意げに無線を入れようとした時、轟々と噴き上がる黒煙の中から一度止んでいた弾幕が再び飛び出してきた。

「なっ…!」

あまりに突然のことで俺はなす術なくその火箭に捉えられた。

キーンホークが誇る後部エンジンが被弾し、損壊音とともに爆発した。

 

ーーーーーーーーー

 

~泊地棲姫side~

「ようやく墜ちたか…」

私は最後の一機を始末して一息ついた。

それにしても最後の一機は手強かった。普通なら避けられないような濃密な弾幕の中をまるで魔法のように避けて接近し、私にダメージを負わせたのだ。これまで相手にしてきた航空機で一番のやつだっただろう。

私は無線を手に取った。被害報告を取ろうと思っての事だった。

「被害報k…

 

「あら教官、その必要はありませんよ?被害は今からさらに増えるんですもの」

 

…ッ!?」

後からの声に驚き、私は瞬時に距離を取ろうとして振り向いた。そこには真面目な表情で主砲を構えている防空棲姫の姿があった。

「動かないでください。教官」

どうやら航空攻撃に気を取られている間に距離を詰められたらしい。

失念していた。私ともあろうものが、こんな手に引っかかるとは…!

「航空攻撃は…囮だったか…」

ひきつった笑いを浮かべる私の前に、敵の指揮官と思われる人物が歩み出た。…え?人間?ここは海の上だぞ?

マジックのトリック(本命の行動)は、観客()の注意が逸れている時に起こすものなんだよ。…さて、最後のチャンスだ。本当ならここで沈めてやりたいんだが…姉さんの教官という事もあるし、投降の機会を与える。どうする?」

敵指揮官は余裕そうな口ぶりで言った。

私は周りを見渡した。先ほどまでは黒煙で周辺状況がよくわかっていなかったが、晴れてから見てみると正面は先ほど交戦していた艦娘たち、側背面は先ほどのメンバーの一部とドイツ艦にに囲まれている状況であり、生き残っている部下は艤装を突き付けられ動けない状況だ。それに私自身も先ほどの航空攻撃で中破程度の傷を負ってしまっている。到底戦える状況じゃない。それに私も最近コロコロと変わる上層部に嫌気が差しかけて来ていた頃なのだ。初期のころの純粋な闘志に燃えていたあの上層部はもうない。そんな所のために命まで投げ出すことはないだろう。ここらが潮時か…

 

「分かった…投降する。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

私は吐き捨てるように言い、俯いた。

恐らくこの後鎮守府に曳航されて尋問か拷問が待っているのだろう。もう疲れた。洗いざらい組織の事を喋ってやろうか…

私の発言を聞いた瞬間、敵指揮官の表情が和らいだ。

「良かった…邀撃部隊、鎮守府までこいつらを頼めるか?」

敵指揮官は振り向いて後ろにいた…あれは伊勢か?艤装がやたらデカいが…に頼んだ。

「承知した。手筈通りやっておく」

伊勢が笑った。手筈通りってやつが怖いな…

防空棲姫が近づいて来て言った。

「教官、被害が増えないような選択をしてくださりありがとうございます。ではまた鎮守府で…」

「まて、防空」

私は防空棲姫を呼び止めた。

「何でしょうか」

「これを渡しておこう。次の戦いで役に立つはずだ」

そう言って私はとある装置を防空棲姫に渡した。いけ好かない陸軍の連中が命の次に大事にしていたやつを日頃の態度の腹いせにちょろまかしてやったんだ。

「何ですか?これ」

「私にもわからん。陸軍の野郎どもが大切にしてたやつだ」

そのやりとりの後すぐ、私たち生き残りは邀撃部隊と呼ばれた者たちに護衛されて鎮守府へと送られることとなったのであった。

 

ーーーーーーーーー

 

~提督side~

姉さんが教官から何かもらっていたようだった。

「何貰ったの?」

俺は教官が去った後、姉さんに近づいて聞いた。

「さぁ、陸軍がなんか大切にしていた装置を奪ってきたとかなんとか。次の戦いで役に立つらしいからとりあえず防ちゃんに預けとくわね」

そう言って姉さんは装置を俺に渡してきた。見た目は箱状の物でかなり重く、色々なスイッチやなんやらがついていた。

「恐らく、教官も上層部にいやなイメージを抱いていたんだと思うわ。それで腹いせでとってきた物だと思うの」

姉さんが言った。

「どうしてそう思うんだ?」

「あの人はそういう人だから」

「…なるほど?まぁ分かった。それで…俺らの今残っている戦力は…」

俺は一旦装置から意識を話し、周りを確認した。航空攻撃成功前の敵の砲撃によってかなりの味方が大破判定に追い込まれ、先ほど鎮守府へと帰投した。残存戦力はそこまで多くはない。

「もともとの空挺部隊と最上型の二隻、あとは私達金剛型くらいしかいないネー。軽空母部隊は艦載機切れで撤退したし…」

金剛が若干沈んだ声で言った。まぁ、目の前で味方が次々大破させられていくの見てたらそうなるわな。

「大丈夫だ、沈んだ奴はいない。対シールド部隊の支援に行こうじゃないか」

そう言って俺は少し疲弊した体に鞭打ち、前進を開始した。

 

 

 

 

〜???side〜

冷たく暗い無機質なコンクリートの床に革靴の硬い足音が響いている。

必要最低限の蛍光灯に照らされた廊下を進む影は、とある部屋の前で足を止めた。

その影は部屋のドアを軋ませながら押し開けて入った。

「守備はどうかね、集積地棲姫よ」

集積地棲姫と呼ばれたメガネをかけた深海棲艦は入ってきた男には目もくれずに返事をした。

「一進一退と言ったところだ。敵が予想以上に強い。つい先程泊地棲姫の発信機の反応が消えた。…惜しい人を亡くしたな」

男は半笑いでこう返した。

「なぁに、所詮は貴様と同じ旧式姫級の一個体に過ぎない。代わりはいくらでもいる。それより、例の計画はどうなっている?」

集積地棲姫はしばし沈黙し、そして答えた。

「…そっちはほぼ完成しつつある。時が来れば実行可能だ」

それを聞いた男は笑った。

「実に愉快な計画だ。お前らも愉しいだろう?仲間が増えるんだからな」

「…話は終わりか?なら1人にして欲しいのだが」

それを聞いた男は若干表情を強張らせたが、すぐに元の表情に戻って言った。

「あぁ、では失礼するよ。精々頑張ることだな。集積地棲姫(ドクター)

男はそう言い残すと、軋むドアを引き、部屋を出て行った。

集積地棲姫はパソコンの画面から目を離し、虚空を見てつぶやいた。

「泊地棲姫…装置は渡してくれたか?それともそのまま沈んだか?…私ももう疲れ果てた。このまま消えてしまいたい。私はただ戦いたかっただけなのに」

集積地棲姫はパソコンの画面に向き直り、画面を切り替えてエンターキーを押した。

E•計画(エンド・プラン)始動。無能な上層部を、腐り切った上層部を消し去ってやる。…私と、敵の手で」

『Start the “ Weakening program”』

『Start the “Count down”』

集積地棲姫は画面に2行の文が映し出されたのを見届けると画面を元に戻し、また作業に戻った。




対姫級部隊、以上です。次回は対シールド部隊との決戦となります。
正直もっと書けた気がしますが、モチベの関係でこの短さとなりました。許してください。
今回貰った装置は多分次で役立つはず…それと、次は提督の艤装がひっさびさに変わる予定です。今までずっと伊吹だったもんな…

今回の話に名前すら登場しなかった姫級はどうしたのかって?いやいや、いくら敵がこっちを絶殺しに来たとしても基地の護衛に残すでしょ?…って言うのは建前で、多すぎて書けないから端折りました。無理ですってあんなに大勢は。

そして名簿上いるはずの潜水艦はどこに行ったって?
…どこかにいるよ
まぁ、深く考えずに楽しんで読んでいただければ幸いです。

▽今回の功労者:キーンホーク

【挿絵表示】


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37 決戦〜3〜

部隊構成
・邀撃、空挺部隊

戦艦:金剛 比叡 榛名 霧島 大和 武蔵 長門 陸奥 ビスマルク ティルピッツ フューラー ドイッチュラント 戦艦棲姫 (他戦艦は大破or泊地棲姫の護衛で離脱)

重巡:最上 三隈 プリンツ・オイゲン 提督 (他は大破撤退)

軽巡:天龍 龍田 球磨 多摩 北上 大井 木曾 長良 五十鈴 名取 由良 鬼怒 阿武隈 川内 神通 那珂 夕張 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 大淀 (遁走中の敵第一部隊追撃中)

駆逐艦:吹雪以外の全艦艇 防空棲姫 駆逐棲姫 (朝潮型、吹雪、駆逐棲姫以外は軽巡と同行中)

軽空母:艦載機切れで鎮守府帰投

正規空母:グラーフ・ツェッペリン 空母棲姫 (空母棲姫の艦載機は若干消失気味)

潜水艦:全艦艇 (多分どっかにいる)

・対シールド部隊

加賀 蒼龍 飛龍 瑞鶴 翔鶴 雲龍 天城 葛城 大鳳 

・対ディグ部隊

鈴谷 熊野 吹雪 赤城 ヲ級改F レ級F ル級改F 北方棲姫

ーーーーーーーーーーーーーーーー

多大な損傷を被りつつも、提督は姫級部隊との戦いを収束させた。
戦いの舞台は数十キロ先の海域、相対するは敵の切り札の一つ、神の盾(イージス)
対シールド部隊はその名に恥じぬ戦果を挙げられるのか。皇国の荒廃をかけた作戦の第3段階が今、始まる。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

若干時を遡ってのスタートです。

今度こそはネタに走りたい。


〜加賀side〜

 「全員準備はいい?」

私は全員に確認し、それぞれの面々はそれに対して力強く頷いた。

不意に機体が水平に直り、立ち上がれるようになった。パイロットがこっちを見ずに叫んだ。

「嬢ちゃん、ハッチを開くぞ!」

言い終わるや否や、鈍い金属音とともにハッチが開き始めた。

突如機体内にくぐもった爆発音が響き、機体がグラッと傾いた。どうやら被弾したようだ。

「急いで出るんだ!早く!」

パイロットの言動からは相当な焦りがみられる。その圧に負けるように私たちは急いで輸送機の外へと出た。

眼下に迫る水面との衝突に一瞬恐怖を覚えたが、それが本格化する前に水面との衝突はやってきた。

予想より小さかった衝撃と抵抗で減速しつつも、私たちは転倒することなく全員無事に着水し、陣形を組み直し体勢を整える。

ふと空を見上げると、私達を運んできた輸送機は黒い煙を吹きながら急上昇をかけている。無事に帰れることを祈ることにしよう。

「なにあれ…」

飛龍が呆然と言ったところで私は前方へと視線を戻し、言葉を失った。

他の仲間たちも驚き、呆然としている。

それもそのはず、その艦の艤装は大和のそれを凌ぐほどの大きさを持っており、その周りに見た感じ直径数十メートル程度で若干流動している球状で透明寄りの半透明のシールドが張られているのだ。

「敵から通信!」

敵からの発光信号を見て大鳳が叫んだ。

 

『我ハ洋上防衛泊地棲戦姫ナリ。貴様ラニハ消エテモラウ』

 

「新型ね…発艦、始めなさい」

私はいつもより神妙な口調で指示を出した。

 

 発艦の指示が出された蒼龍の甲板は過去一の忙しさを見せていた。

「3番機!準備はできたか!?」

「第一部隊発艦準備あと少し!」

「おい、誰だ!?今俺の足を踏んだやつは?」

「いいから早くしろ!」

「ちょっ、なにこのエンジン!?」

「知らん、やれ!」

その慌ただしさは異常で、いつも準備がなかなか終わらずにいた。

「どうしたの?みんな。珍しいじゃない」

蒼龍は不思議に思って尋ねた。

「それが…見てくださいこれ」

甲板にいた整備兵妖精の一人が少し小さめの紙を渡してきた。

「んー?どれどれ?」

蒼龍は手紙を受け取って開いた。

ーーー

ーー

 

蒼龍さんへ

 

この度、誠に勝手ではありますが対シールド部隊の皆さんの艦載機の搭載割合を変更させていただきました。

変更内容は下記の内容の通りとなります。

 

変更前

 キーンホーク 80%

 キ64爆装 15%

 焔雷–zwai 5%

変更後

 キーンホーク改 30%

 焔雷–zwai 70%

 

以上の通りです。提督の相談を受けて垂直降下攻撃が可能な機体のみで構成しました。

武装の変更点は、無誘導弾を赤外線誘導弾に変更、キーンホークの携帯爆弾に自己推進機能をつけたことが挙げられます。

キーンホーク改は、レシプロがジェットになってその他諸々変わっただけです。二重反転装置の分のスペースを推進機構に回せたのでかなりの速力アップが期待できます。

 

明石

 

ーー

ーーー

 

「あんのピンク頭…!前もって言ってよ!」

蒼龍は驚きと呆れで思わず叫んだ。

「と言うわけなんですよ」

「なるほどね…あはは…なるべく早く飛べるように頑張って頂戴」

「了解!」

整備兵妖精は綺麗な敬礼をして甲板の上をトコトコ去っていった。他の空母はどうなんだろうと思って周りを見渡してみると、皆例の手紙をもらったようで呆れているのが大半のようだ。

「発艦準備完了!」

その声に蒼龍の意識は戦闘へと戻された。

 

 

 

 (なぜこうも毎回飛ぶたびに機体が変わるのか…)

江草大佐は前回のフライト時から変わり果てた愛機のキーンホーク改を見た。前回までこの機体の大きな特徴の一つだった二重反転プロペラの姿はなく、代わりに焔雷–zwaiのそれと似たジェットエンジンが取り付けられていた。主翼下にはミサイルが増設され、携帯爆弾のデザインも変わっていた。

「行くか…」

大佐が機体に乗ろうとした時にいつぞやの気弱そうな整備兵がニコニコしながら近づいてきた。

「おや、君は確か…あの機能をつけてくれた整備兵君だね?すまないがまだあれは使ってないんだ」

会うのは前哨戦以来だろうか。あの頃と比べてだいぶ顔色も良くなったように見える。

「はい、分かってます。しかし、今回の戦いでは確実に使うことになると思います。なので、改造された機体に合わせてグレードアップしておきました。発動方法は前と同じレバーなので、頑張ってください」

「効果はどう変わったのかね?」

「それはですね…」

二言三言交わすと整備兵は持ち場へと戻ってしまい、大佐は一人ポツンと残された。

「技術の進歩は恐ろしいねぇ」

大佐は他の機体にはない計器類の右についているレバーを見ながら、コックピットを閉めた。

{エンジン始動ッ!}

無線に艦橋からの指示が入った。大佐は言われた通りにエンジンを始動させた。

重い音を響かせてエンジンに火が入る。プロペラの音とは違う音が大佐に妙な高揚感を覚えさせた。

機体がレールガン(射出用フック)にかけられた。飛び立つ時は近い。

「怖いな…、うまく空中点火できるだろうか…?」

ここの鎮守府の空母はジェット・ブラスト・ディフレクターが装備されていない。そのためレールガンで射出後、空中で本点火して飛び立たなければいけないのだ。なんと危険なことか。ちなみに、ジェット・ブラスト・ディフレクターが装備されていないのは予期せぬジェット機配備増加を想定していなかったからである。

{1番機発艦まで、10秒!出力上げ開始!}

指示に従い出力を上げる。先ほどまでの重低音から流れるように中音域まで音が変化した。

{3、2、1、発艦!}

途端に急加速した機体にGがかかり、シートに体がへばりつく。

金属と金属の擦れ合う音が途切れたら点火の時だ。1秒でも間違えれば海へ真っ逆さまだ。

大佐は耳を澄ませた。

 

音が途切れた。

 

「点火ァ!」

背後で音が高くなり、ついで爆発音が響き、それと同時に機体は加速した。

{1番機、発艦確認!}

「っし、成功!」

艦橋からの発艦成功のメッセージに大佐は心の中でガッツポーズをした。

(どうだ!初発艦で見事成功させてやったぞ!)

後続も次々と上がってきているようで、無線に続々と発艦確認の報告が入ってくる。皆熟練度が高い証拠だ。

大佐は無線で後続に呼びかけた。

{上空で隊列を組む。全機、私に続け!}

 

 

 

 

 

「…よし、全機発艦完了よ」

空を悠々と駆けていく艦載機の群れをみながら、私、加賀は視線を敵の方へと戻した。

「再び通信!」

大鳳の鋭い声に私は洋上防衛泊地棲戦姫…イージスの方をみた。

 

『私ハ一人デハナイ。艦載機ヲ発艦させた空母ホド戦闘能力ノナイ艦ハナイトイウ事ヲ教エテヤロウ』

 

イージスの影より複数の影が飛び出してきた。

「護衛…!?やだぁ、もう…」

蒼龍が弱音を吐いた。…提督はこの状況になることを予想できなかったのでしょうか?

「敵…護衛は戦艦1、空母1、巡洋艦2…結構いるわ…」

雲龍が落ち着いて敵戦力を確認した。どう考えても空母艦隊が艦載機なしに相手するものではない。

私は無線で上空の管制機に呼びかけた。

「発艦している航空隊に連絡して。護衛を叩くように言ってもらえる?」

『了解した。直ちに実行する』

そう言って無線は切れた。

「戦艦の一隻でもいれば少しは違うんでしょうけど…今は空母しかいませんし…」

翔鶴のその言葉に私はいつかの提督の言葉を思い出した。

 

“ 戦艦になれるぞ ”

 

…この力は、この時のためのものだったのね…

「みんな、私の後ろに下がって頂戴」

私は皆を自分の後ろに下げ、単縦陣を組むように指示した。

「加賀さん、急にどうし…」

「見てなさい、五航戦。私の本来の姿を見せてあげるわ…艤装交換(コンバート)!」

私は瑞鶴の言葉を遮って言った。途端に、いつも慣れ親しんできた飛行甲板が短縮され、回転しつつ背後へ格納される。

背後にあったはずの矢筒はいつの間にか武骨な艦橋へとなっており、両脇には連装砲塔がそれぞれ、右に2基、左に3基出現した。服も黒を基調としたものに変わっており、落ち着いた印象が感じられた。

「加賀型戦艦「加賀」、艤装交換(コンバート)完了よ。かかってきなさい!」

私は時間を稼ぐだけでいい。あとは航空隊がなんとかしてくれるはず。

「加賀…さん?」

瑞鶴は目を丸くしている。後輩にここまで驚かれるのもなかなか悪くない気分ね。

護衛は突然変わった私に驚き動きを止めた。警戒しているのかもしれない。

「その躊躇いが命取りよ。航空隊、やりなさい」

 

 

その頃上空では航空隊が準備を整えていた。

{大佐ァ、整列完了でさぁ}

二番中隊の隊長が呑気に言った。

「指示があるまで待機だ。下手に動くなよ?」

勝手に行動することで定評のある二番中隊長に釘を刺し、指示を待つ。その間に第三、四、五番中隊からも整列完了の報告が入った。

管制機からの指示に従って対護衛、対シールドの部隊に分かれ、指示を待つ。

{…。航空隊、やりなさい}

眼下の母艦より指示が出た。

「ヨシ!二から五番中隊は敵の護衛を叩け!」

{了解!}

中隊ごとに機体を翻し、眼下に消えてゆく。

「一番中隊はこのままイージスを叩くぞ!上空はシールドが薄いらしい。だが無いわけではないから突っ込んだら死ぬ。誘導弾だけを叩き込むように。…誘導弾通るのか…?」

{隊長、まずやってみては?}

二番機の鈴木が意見具申…というより提案に近い物言いをした。

「…そうだな。行くか」

いつの間にかほぼ真下のところまでイージスが来ていた。ちょうどいい頃合いだと言えるだろう。

「第一中隊全機、私に続け!」

機体を回転させて急降下の体勢に入る。

前回まではプロペラの空気抵抗で速度の伸びにムラがあったものだが、ジェット化された今、加速を妨げるものは自身の機体の空気抵抗のみとなっていた。加えて垂直降下が可能になっているため、速度はさらに上がっていった。

「墳進弾発射準備!」

翼下の墳進弾懸架装置が音を立てて降下し、墳進弾の安定翼が展開される。

今回は誘導弾だ。もし射撃コースを間違えても修正が効く。幾分気が楽というものだ。

大佐は急降下中とは思えないような余裕ぶりで現実を分析していた。

発射、と言おうとしたときそれは起こった。

ゆらゆらと陽炎のように揺れるイージスシールドの奥、洋上防衛泊地戦棲姫の箱型の艤装の上部がカメラの絞りを開くように動き、キラッと光を反射したのだ。

大佐は本能的に悟って後続機に呼びかけた。

「全機退避!」

そう言いつつフットバーを蹴飛ばし、操縦桿を左に倒して、攻撃コースより離脱する。

刹那、先ほどまで自機がいた場所を一筋の紅い光(レーザー光線)が貫き、背後で爆発音が連続した。

「何だあれは!?各小隊ごとに被害報告を!」

大佐は急旋回と急上昇の激しいGに抗いながら被害報告を促した。

{こちら九番小隊長、下村。後続の十番小隊以降が墜とされました!}

「なんだと!?半分以上を一撃で!?」

{こちら二十番小隊隊長、小林。自分小隊のみ急降下突入前に退避できたので辛うじて無事です!しかし、自分らより前の小隊は一瞬にして墜とされてしまいました…!それに…墜ちていった僚機の残骸がシールドに触れた途端溶けるようにして消えていったのを見ました。あれは危険です!}

(なんという事だ…一撃で十~十九小隊を失うとは…!敵の情報が圧倒的に不足している。まだ何を隠しているか分からないぞ…)

思わぬ損失に頭を抱えていると、今度は吉報が舞い込んできた。

{こちら第二中隊隊長、斎藤だ。大佐ァ、見える護衛は全て片付けやしたよ。残りはその陽炎みたいなシールド持ちと、いるとしたら潜水艦くらいですぜ}

「おぉ。よくやってくれた!…だが、こちらは半数が墜とされた。急降下攻撃を仕掛けようとすると光を撃ってくるんだ。どうしたらいいのか…」

{大佐ァ、幸いにも敵は守りに特化しているようだ。攻撃はしてこないからじっくり考えてみたらどうだい?焦ってちゃぁ出る案も出ねぇってもんだ}

「…そうだな、それもそうだ。斎藤、お前らしからぬ発言に感謝するぞ」

”おいおい、そりゃねぇぜ”と笑いながら言う斎藤を尻目に大佐は焦る心を落ち着かせて考え出した。その間にも生き残った機体と、護衛を掃討し終わった機体が整列し、空中に大編隊を作る。

(攻撃すれば光を撃ち、恐らく墳進弾ですらも消される、体当たりはもってのほかだ。あの艤装の形状からして旋回機能はもたないはず、つまり横からの攻撃を加えられれば一瞬で勝負はつくはずなのだが、それが不可能なのだ。どうしたものか…)

大佐が頭を悩ませているところにさらなる吉報が入った。

{こちら加賀、邀撃空挺連合部隊が到着したわ。臨時で提督と防空棲姫さんもいらっしゃるわ。提督から指示があるみたいだから代わるわね}

提督なら何かわかるのかもしれない。そう期待して大佐とその一行は指示を待つことにした。

{こちら提督だ。先ほどの戦闘でイージスシールドの対抗策を手に入れた。君たちは今から水平雷撃の体勢に入ってくれ}

「し、しかし提督殿、シールドにあたってしまえばすべて消されて…」

大佐は提督の言葉が信じられなかった。現に十小隊分も墜とされてシールドに消されているのだ、無理もないだろう。

{いいからやれ。態勢を整える間に説明する。この無線を傍受している隊長機以外の皆も心して聞いてくれ。あれは先ほどここに到着する直前でな…}

 

ーーー

ーー

 

「姉さん、これなんだい?」

俺は受け取った装置の背面部に見たことない形のソケットがあったのを見つけた。

「あら…これは深海棲艦の艤装追加用のソケットね。ちょっとやってみるから貸してくれないかしら?」

姉さんは装置を受け取って自分のCIC艤装の隣に取り付けた。

「だ、大丈夫なのか?爆発したりは…」

「大丈夫よ、あの人はそういう姑息な手を好まない人だもの…って、あらら…これは…」

「どうした?なんかまずいものだったか?」

姉さんは俺の方を見て笑って言った。

「その逆よ。私に触れてみて」

俺は言われるがままに姉さんの肩に手を置いた。その途端、目の前に青白い半透明のディスプレイが出現し、こう書かれていた。

 

【イージスシールド減衰装置】

 

「なん…だと…!?最強…でもないか。消せるわけじゃないもんな」

「最近はこんなものもできたのね~、空中にディスプレイが浮いてて操作できるなんて。もうすぐ到着よね?早速使ってみましょうか」

「着眼点空中ディスプレイなんだ…」

 

ーー

ーーー

 

{…と言うわけだ。と言ってもどの程度減衰できるのかは分からないからやっぱり水平雷撃はなしで若干降下気味で攻撃をしてくれ。頼んだぞ。運が良ければ突破できるかもしれない。無傷かどうかは分からないが}

「ふむ…それならいい案があります。無傷で一隻は無力化してみせましょう」

大佐は少し考えた後、そう言った。その言葉は運などに賭けている様子はなく、確固たる作戦が思い浮かんだようだった。

{しかし…どいういう作戦でやるつもりだ?}

大佐は少し笑って言った。

「そう心配せずに見ていてください。うちには優秀な整備兵妖精がいるんですよ」

{…そうか。では一隻は任せよう。突入準備はできているな?}

提督の言葉に”ちょっと待ってください”と言い、無線を部隊無線に切り替えた。

「全機、私の後ろに一列に整列せよ。キーンホークはOB(オーバーブースト)、焔雷-zwaiはAB(アフターバーナー)を発動用意。音速で突っ込むぞ!シールド突破時に私の軌道から少しでも出たら損傷すると思え。シールド内にはいったら自由射撃開始だ」

途端に全機が一列に重なり、三隻いるイージスのうち一番手前にいる個体に狙いを定めた。

大佐は無線を提督へと繋ぎなおした。

「完了です。いつでもいけます」

{よし、では行くぞ…3,2,1,GO!}

その声とともに無線は途切れた。それと同時に前方で揺らいでいた陽炎のようなシールドの揺らぎが少し収まり、中にいる個体が良く見通せるようになった。

「敵さん驚いているじゃないか…」

表情も読み取れるほど弱くなったシールドは未だに微弱ながらも陽炎のように消えまいと揺れていた。あれに突っ込めばバラバラとまではいかずとも、墜落するレベルの損傷は受けてしまうはずだ。それを知っているのか、敵の表情にはまだ余裕があった。

”愚かな” 敵の表情はそう言っているように見えた。

「その油断が命取りだ…さぁ、絶望の表情を見せてくれよ?」

大佐はそう言って計器類の右についているレバーをグイっとひねって押し込んだ。

ガチャンという金属と金属がグリスを挟んでぶつかる小気味いい音と共に主翼にさらに後退角が掛かり、ノーズコーン内部よりバチバチと言う放電音が聞こえだした。

「本来このレバーは翼の角度を変えて速度を上げるためだけのものだったんだ…だが、あの整備兵はそれのさらに上を行く代物を作ってくれた」

そう小さく独り言を言いながら大佐は先ほど押し込んだばかりのレバーを今度はねじらずに思い切り引き戻した。

防御膜形成(シールド展開)!」

敵の者と同じように見えるそれが円錐状となって大佐機の周りに生成された。

「目には目を、歯には歯を…」

大佐は敵を目前にしてさらに降下速度を上げた。

「シールドには、シールドを!」

そして、防御シールドに音速を保ったまま衝突した。

敵シールドには円錐状の大佐のシールドと、大佐機の速度の合わせ技をくらって大佐のシールドの最大直径よりもかなり大きめな穴がガラスの破砕音にも似た音をたてて開いた。

「今だ!シールドが修復される前に急げ!」

シールドは大穴の境界部からバチバチと火花を散らして修復が始まっている。急がなくてはならない。

どうやら敵は真上の防衛に特化していたようで、それ以外の向きへの対空兵器は持っていないように見えた。

「散開!そして撃て!」

コンマ数秒後、幾重もの煙の線がイージスに向けて伸びていった。

「コレハ…想定外…ダナ」

イージスが不敵に笑って言った次の瞬間、目を覆いたくなるような閃光と耳が吹き飛びそうなくらいの轟音そして衝撃波が周辺海域を蹂躙した。

「!?なんだこれは!」

接近していた航空隊はモロに衝撃波をくらい、墜ちる機が続出した。だが、運良く衝撃波に乗り、上昇できた機も少なくはなかった。

そもそもなぜここまで大きな爆発が起きたのか。

それはイージスは艦対地(艦)ミサイルで敵基地を破壊するのが目的の個体であり、迎撃用レーザー以外の箱型艤装の中身は全てミサイル、つまり弾薬だったからである。

{航空隊は離脱しろ!あとは任せて着艦作業に入れ!}

提督からの必死さが伝わる無線を受けて大佐含む生き残ることができた機体は疲れた機体(身体)を翻して空域を離脱し始めた。

「提督殿、あとは頼みましたよ」

大佐は眼下の提督を見下ろしてそう呟いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

上空を通り過ぎていく航空隊を見送って俺は目の前の生き残りに視線を移した。

航空隊が仕留めたイージスは一人。残りの二人がいるのだ。

まぁ、仲間の喪失に呆然としてこちらに視線さえくれないのが現状だ。おかげでゆっくり準備ができる。

「戦闘中に過度の余所見は厳禁ってことを教えてやらないとな」

「ですが、どのようになさるおつもりでしょうか。敵はシールドに囲まれておりますが」

加賀が怪訝そうな顔で質問してきた。

それに対して俺は得意そうな顔で人差し指を立てて説明する。

「敵の迎撃用レーザーは薄いながらも自分のシールドの効果を無視して上空の航空隊を掃討していた。つまり高出力兵器ならシールドがあっても通用するんじゃないかと思ってね」

「でもそんなものないじゃないですか」

飛龍が“なーに言ってんですか”とでも言いたげにため息をつき、肩をすくめながら言った。

「まぁ見てろって」

そう言って俺は右足を前に、左足を少し引いて倒れないように立ち方を変えた。

数秒間、その海域に静寂が訪れ、風と波の音がやけに大きく聞こえた。

「艤装複数展開、伊吹、ポリウス!」

次の瞬間今まであった伊吹の小飛行甲板の上面が消え、横幅が大幅に縮み、代わりに見慣れない白色のロケットのようなものが出現した。

「ポリウスって何!?」

「ソ連の軍事衛星だッ!」

瑞鶴が人外を見る目でこちらを見ている。やめてくれよ…心にくるものがある。いやまて、元をただせばお前らも人外だぞ?

部下に負わされた心の小さな傷を無理矢理かき消すように叫んだ。

「俺の攻撃を止めてみろイージス!やれるものならな!」

低周波音が一秒間ほど響き、やがて徐々に音が高くなっていく。まるでジェットエンジンのようだ。

「提督さん、大丈夫なのそれ変な音してるけど」

「ダメよ瑞鶴。提督の邪魔はしちゃいけないわ」

「黙ってみてろ瑞鶴!」

「…はぁい」

瑞鶴の質問に翔鶴と俺のツッコミが同時に入り、瑞鶴はすごすごと引き下がった。

「敵ミサイル飛来!」

大鳳が双眼鏡を覗きながら報告した。

この手が離せない時に!まぁ、一発や二発程度なら俺じゃなくても迎撃できるだろう。

「迎撃開始!」

俺を除く味方が対空掃討を開始した。数々の火箭が小気味好い連射音を立てて飛来する敵弾へと飛んでいった。

その時、準備が整った。

 

「照射ァッ!」

 

 照射時間はほんの僅かだった。

そのコンマ数秒の間に俺は残りの二隻のイージスを一閃する様に艤装を動かしたのだ。

照射終了とほぼ同時に先ほど航空隊が一隻葬り去った時の倍以上の爆発と閃光、衝撃波が放出され、飛来したミサイルすらも消し去ってあたりを地獄絵図にした。

「っ…!こんなに強いのか!?」

閃光から目を守り、爆風と衝撃波に耐えながら叫んだ。だが、その叫びも爆発音で全てかき消される。

 

しばらくして辺りが落ち着き、静寂が戻ってきた。

加賀が若干煤けた顔を拭いながら言った。

「提督、次はもっと距離をあけての使用をお願いしますね」

俺も同じく煤けた顔を拭っていった。

「…善処したいところだ。さぁ、残す敵部隊はあと一つだ。気を抜かないで行こう」

俺はポリウスをぽんぽんと軽くたたきながら先の海域を顎で示した。

「…と行きたいところなんですが」

加賀の言葉に俺はクルリと振り返った。

「どうしたんだ?」

「生還した艦載機は私にすべて収納しました。なのでほかの空母たちは一時撤退させていただきたく…」

おい、マジかよ衝撃波。そんなに墜としたのか。

「まあ、そういう状況ならば仕方ないだろう。撤退を許可する」

そう言うと加賀以外の空母は鎮守府へと航行を開始した。帰路に就いた彼女たちの背中にはどこか悲しそうで悔しそうな色が見て取れた。

 

「私たちが暴れられるのはいつかしら?」

ほとんど空気扱いされていた邀撃空挺部隊の先頭にいるビスマルクが頬を膨らませてぶーたれた。

「ものの数分後には暴れられるさ。次の相手はミットシュルディガー(陸軍野郎)…」

「殺す」

俺が発した単語に対して朝潮がほぼ脊髄反射でぼそりといった。

「殺気を抑えろよ…気持ちは分かるが…」

朝潮の周りからはどす黒いオーラが見えそうな雰囲気が醸し出されていた。

「ここまでなんっにも活躍できてないのよ!?こうもなるわ!」

満潮が怒鳴った。

「ごめんよ…急いで編成した俺のミスだ…ま、結果オーライってことで」

「あんた申し訳なくするか開き直るかどっちかにしなさいよ」

やめてくれ満潮、そのジト目は俺に効く。…いい意味で。

突如無線にノイズが入り、報告が飛んできた。

「こちら軽巡駆逐部隊。遁走した敵部隊の掃討が終わったよ!捕虜も数隻いるから鎮守府で色々やっておくね!あ、弾薬不足で帰投しまっす!」

それだけ告げると無線は一方的に切れてしまった。

「川内あの野郎…よっぽど楽しかったと見える…さて、俺らは先に進もう」

「了解!」

さわやかな秋の風に後押しされるように第一~三部隊を駆逐した鎮守府一行はミットシュルディガー部隊の待つ海域へと出発した。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「何だ今の爆発は!?」

ドアを壊さんばかりの勢いで入ってきた男は集積地棲姫に怒鳴った。しかしその怒鳴り声は叫び声に近いもので、だいぶ怯えているようだった。

「イージスが三隻とも逝ったんだ。敵は相当強いみたいだね」

集積地は淡々と表情を変えずに言った。だが、心の中では笑っていた。

(ありがとう泊地棲姫、防空棲姫。これで私の計画が一歩進んだよ)

そんな集積地のことを無視するかのように男は無線を腰のホルスターから抜き取って落ち着いた口調で話し始めた。

「いますぐ()()()()()ミットシュルディガーをあの海域に送れ。今は俺がここのトップなんだ!早くしろ!…そうだな、()()ミットシュルディガーも行かせろ。出来たんだろう?」

それを聞いていた集積地は心の中で手を合わせた。

(狂った父親のもとに生まれた可哀想な人の子よ。同情するぞ)

男の怒鳴り声が響く。

「さっさと敵を潰せ!」

それ以降も何か立て続けに無線に怒鳴っていたようだったが集積地の耳には入ってこなかった。

(さて、私も始めますかね…)

集積地は男にちょっと見回り、と告げてどこかへ歩いて行った。




長かった…(書く期間が)
誤字脱字等あれば報告をお願いします。

一応ポリウスの説明を置いときますね

ポリウス(ソ連)
ソ連が冷戦期に開発した軍事衛星。1MWの出力を誇る炭酸ガスレーザーを搭載している攻撃衛星。一機のみ作られ、打ち上げには失敗した。この失敗は故意ではないかと言う噂もある。

炭酸ガスレーザーだと伝導効率が、とか言わないお約束だ。これはロマンなんだ。
(伝導効率20%でこのくらいだからね、うん、100%のやつ書いてみたい。)


船にレーザーなんて、と言う人のためにちょっとした豆知識(?)を。
現在アメリカやイスラエル、ドイツでは主に迎撃用のフッ化重水素レーザー兵器が搭載され始めているぞ。つまりできないわけではないのだ。


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38 決戦〜4〜

部隊構成
・邀撃、空挺、対シールド部隊

戦艦:金剛 比叡 榛名 霧島 大和 武蔵 長門 陸奥 ビスマルク ティルピッツ フューラー ドイッチュラント 戦艦棲姫 (他戦艦は大破or泊地棲姫の護衛で離脱)

重巡:最上 三隈 プリンツ・オイゲン 提督 (他は大破撤退)

軽巡:天龍 龍田 球磨 多摩 北上 大井 木曾 長良 五十鈴 名取 由良 鬼怒 阿武隈 川内 神通 那珂 夕張 阿賀野 能代 矢矧 酒匂 大淀 (遁走中の敵第一部隊撃破後、鎮守府に撤退)

駆逐艦:吹雪以外の全艦艇 防空棲姫 駆逐棲姫 (朝潮型、吹雪、駆逐棲姫以外は軽巡と同行中)

軽空母:艦載機切れで鎮守府帰投

正規空母:グラーフ・ツェッペリン 空母棲姫 (空母棲姫の艦載機は若干消失気味) 加賀 (その他は艦載機切れで撤退)

潜水艦:伊168 伊19 伊58 伊8 伊401 伊400 U-511(潜水艦隊に合流)

・対ディグ部隊

鈴谷 熊野 吹雪 赤城 ヲ級改F レ級F ル級改F 北方棲姫

ーーーーーーーーーーーーーーーー
未知の兵器との戦いをなんとか終えた一行。疲れた体に“あと少し”と鞭打って前進する。
次なる敵は前哨戦で登場した白色鋼鉄の兵士、Mitschuldiger(共犯者)
艦娘と深海棲艦の戦いでもあり、人と人の戦いでもある。
さまざまな思いが交錯する中、戦いの火蓋は切られようとしていた。
人類は、深海棲艦(陸軍)の手からこの海を護ることができるのだろうか。
天下分け目の戦いが、今、始まる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

若干時を遡ってのスタートです。

ネタに走らなきゃ(使命感)


~???~

荒々しい音を立てて男が背後の扉から私の部屋へ入ってきた。

「いつ出来るんだ!?もう敵は来ているのだぞ!?」

その男は私に向かって大声で怒鳴り、後ろからパソコンデスクを壊れそうな勢いで叩いた。

「進行度は98%。あと二分で終わる。…今頃対象者は頭痛がひどいだろうな。まぁそれも100%になれば一時的に消えるが。それが終われば好きな時間に発動可能だ…これがそのスイッチだ。渡しておこう」

私はスイッチをその男の方に手渡した。

それを受け取った男は天井の白く輝く蛍光灯に透かすように眺め、満足そうに笑みを浮かべた。

「敵を…敵の手で殲滅してやる…!…ハハ、ハハハ…!」

男は私の部屋で乾いた笑いを響かせた。鬱陶しく感じたが、もうじきこの男の顔も見なくて済むようになると思うとそんな感情は心の奥底に引っ込んで行ってしまった。

「…よし、貴様に最後の命令を与える。出撃し、敵殲滅に尽力せよ!」

「はっ!」

私は形式だけの敬礼を行い、パソコンのディスプレイの電源のみを落として部屋から出て行った。

これで奴らにバレることはあるまい。精々基地司令部で椅子にふんぞり返っているといい。

最後に笑うのは…私だ。

 

 

~輸送機内~

輸送機のエンジン音のみが響き、静寂を保っている輸送機の中に声が響いた。

「さぁ、そろそろ目標地点だ。準備は大丈夫かな?」

ドクターはコックピットから貨物室に振り向いて言った。

まだ敵には見つかっていないようで、輸送機は至って穏やかな飛行を続けている。輸送機の窓から見える眼下の景色は海の碧と空の蒼のコントラストで綺麗に染まっており、これから決死の戦闘が始まるようには到底思えない。

「えぇ、いつでも…っ…」

“いつでもいける”、そう言おうとしたであろう熊野が突如頭を押さえて苦しみ出し、座席に蹲るような体勢になった。

「ちょっと、本当に大丈夫?今日で何回目?」

鈴谷が熊野の背中をさすりながら尋ねる。今日だけでもこのような事は4、5回目なのだ。

「え、えぇ、大丈夫ですわ。ちょっと頭が痛むだけ…この程度…どうとでもなるはずですわ」

熊野は笑顔を作って言うが、額には脂汗が滲んでおり、到底大丈夫とは言える状況にないのは誰の目から見ても明らかだった。

しかし、この度の戦いでは少しでも戦力が欲しいため、誰も休ませるわけにはいかなかった。ましてや熊野は第一線で活躍する我が鎮守府のエースであり、尚更休むわけにはいかないのである。

(なんなんですのこの頭痛は…どうにかなってしまいそうですわ)

熊野は痛む頭を押さえ、歯を食いしばった。

「…降下するぞ。出撃準備をしてくれ」

ドクターは心配そうな声音のまま準備を促した。

晴れ渡った空とは打って変わって輸送機内の空気は重苦しいまま、機体は降下体勢へと突入する。

ガタガタと風が輸送機の外壁を叩き、細かな振動が機内に伝わってくる。その振動ですら熊野の頭痛に拍車をかける。

「見えた!敵部隊だ」

ドクターが緊張した声でそう告げ、機体の高度がより一層下がり始めた。

深い碧色の水面がグングンと近づいてくる。決戦は近い。

「ハッチ開けるぞ!」

鈍い金属音とワイヤーの擦れる音と共に後部大型ハッチが開き始める。風が吹き込み、思わず目を瞑った。

「降下可能海域到達!いつでも行けるぞ」

ドクターの声にしたがって機内の部隊は立ち上がって位置についた。

「準備完了したよ!」

「ok!行ってこい!」

ドクターがインパネにあるロック解除装置をいじったのが見えた。

足元の台車のロックが外れ、一気に外に飛び出した。

碧々とした水面が視界いっぱいに広がり、やがて鈍い着水の衝撃がやってきた。陽の光を受けて煌めく白い飛沫がやけに幻想的で、吸い込まれそうだった。

鈴谷、熊野、吹雪、赤城、ヲ級改F、レ級F、ル級改F、北方棲姫(ヲ級に曳航中)の面々は無事に着水を果たし、陣形を整えて迎撃体制を取った。

風がやや強く、耳に響く風切り音が仲間との会話を阻害する。近距離でも無線でのやり取りは必要そうだ。

鈴谷はふと上空を見上げた。蒼空に敵機の姿はなく、ただ雲が穏やかに風に流されているのみであった。

「赤城さん、今なら管制機飛ばせるかも。敵機はいないみたいだし」

赤城の方に向き直ってそう言うと、赤城は頷き、管制機を甲板に出すよう妖精さんたちに指示した。

その間一行は敵が来るであろう方向に注意を向けていたが、敵はまだ見えず、穏やかな海面そこにあるだけだった。

(まだ見えないじゃん…上空からちょっと見えただけだったのかな?)

風がざあっと吹き抜け、鈴谷たちの髪を揺らす。

背後でレールガンの軽い音と共に管制機が上空に飛び立った。

(まあ、嫌でも管制機が上がれば敵の位置は分かるっしょ!)

内心明るく振る舞っているものの、手足は微妙に震え、これからの戦闘を拒もうとしていた。

(怖い…提督がいてくれたらちょっとは…ううん、かなり気持ちが楽なんだけどなぁ…提督…)

今はいない提督を想ってぼーっとしている時だった。

『レーダー感あり!敵部隊を捕捉!』

管制機から大声で報告が入った。

(集中しないと。死にたくはないもん)

そう言って鈴谷は艤装を構え直した。

『敵はかなりの数がいる模様。しかし直撃弾を得ることができれば駆逐艦の主砲だろうと傷を負わせる事はできるので落ち着いて攻撃を当てることを念頭において戦闘をお願いします。では、また変化があれば即連絡を入れるので』

そう言って管制機からの無線は切れた。

じっと水平線を見つめていると白い機体がちらほら見え始める。

 

ーー来た。奴らだ。

 

右手に連装砲、左に鉤爪、頭部には紅く不気味に光るモノアイ。細い足で波をかき分けてまっすぐこちらに向かってきている。

機械式か、はたまた生体式か。それはまだわからない。だがどちらにせよ脅威であることには変わりない。ここで食い止めなければ人類の文明は陸軍の野望によって滅んでしまう。

(ちょ、ちょっとこれは…数が多すぎるんじゃない!?…真面目にやんないと…)

予想していた数より遥かに多く、白い機体が重なり合って黒く見えるほどのディガーに鈴谷はテンションのスイッチを切り替えた。深く息を吸って、いつもの提督をイメージして指示を出す。

「戦闘準備!赤城さんは発艦を始めてください。ブッキーとくまのんは前衛で防衛、ル級さんとレ級さんはそれの支援、ヲ級さんとほっぽちゃんは赤城さんの周りで支援を!」

「くまのんって呼ばないでくださる!?」

熊野と吹雪、ル、レ級は鈴谷と共に前線を張り、赤城、ヲ級、北方棲姫はその影に隠れて火力支援をする典型的な布陣だ。皆慣れている分、長く戦えるだろう。

高速でこちらに向かってくるディガー部隊の先頭個体がこちらへ左手を伸ばした。

グラップルを撃つ気なのだろう。ならそれを利用して倒すまでだ。

炸裂音と共に鉤爪がこちら目掛けて一直線に飛んできた。

鈴谷は艤装目掛けて飛んできたそれを右手で掴んで右回転しながらグッと引っ張る。

ディガーは右手で射撃準備をしていたが、それによってバランスを崩して倒れかけた。

倒れてきたディガーの頭部に鈴谷は右回転の慣性をそのまま使って左斜め上より踵落としを叩き込み、物理的に水面下に沈めることで敵を無力化した。

「まず一体、次!」

「貴女武装は使わないんですの!?」

熊野はグラップルを撃たれる前に正確無比な射撃を叩き込むことで無効化していた。三連装砲の弾をそれぞれ一体に命中させていたため、一斉射で十五体を屠ったことになる。ディガーは速度で敵を翻弄し、重巡相当の火力で敵を殺すのがコンセプトの兵器だ。速度にステ振りしてしまったため防御力が駆逐艦以下なのである。まぁ、例外も居はするが。そんな性能をしているから、速度で翻弄できなければただの的と同じ、重巡クラスの踵落としや砲撃をくらえば瞬殺なのだ。

「す、鈴谷さん武装展開せずに戦ってる…」ドンビキ

吹雪は15cm連装砲を連射して敵を沈めながら主砲等の武装のみ収納して格闘戦をしている鈴谷の方を眺めていた。そのせいで死角から突撃してくるディガーの存在に気づくのが遅れてしまった。

「しまっ…」

次の瞬間、グラップルが吹雪目掛けて一直線に飛んできて艤装に深々と突き刺さった。

ワイヤーが火花を散らしながら巻き取られていき、ディガーの体がグングンと近づいてくる。…が、

「来ないで!」

直線的に移動してくる軽装甲の敵など、的に過ぎないにである。吹雪の放った砲弾は頭部を抉り、ワイヤーを引きちぎって敵を黙らせた。

「ブッキーだいじょぶ?損害はどんくらい?」

「機関に少し損害が…ですが支障はないかと思われます」

吹雪は少し息をついて答えた。

「よかったじゃん、身体に命中しなくて」

鈴谷にそう言われて吹雪ははっとした。もし今艤装に突き刺さっているこの鉤爪が自分の体に命中していたら。いくら常人より強度は高いとはいえ一瞬で戦闘不能に陥っていたであろう。そう考えて吹雪は身震いした。

「次波ガ来ルゾ!次ハ私二ヤラセテクレ」

レ級が目を輝かせて言う。フラグシップ特有の黄色いオーラがより一層輝いて見えて、どこか怖いものを感じさせた。

「いいけど、ちょっと心配だからル級さんと一緒にね?」

鈴谷がそう言うとレ級は子供のように頷いてル級をぐいぐい引っ張ってディガーの群れに突っ込んでいった。

ル級の元ネタはアメリカの標準型戦艦と言われるが、それを楽々引っ張っていくレ級の潜在能力は計り知れない。

程なくして人柱…ならぬディガー柱が何本も上がり、空中に舞ったディガーは無惨にもレ級の対空砲火で撃ち抜かれ、バラバラになって落下し沈んでいく。時折聞こえる笑い声はレ級のものだろうか。つくづく彼女が敵にいなくて良かったと鈴谷は思った。

レ級たちが暴れているせいで艦隊にしばしの休憩時間が訪れた。いくら相手が弱いとはいえ多数を相手にしていれば疲れが来てミスをしてしまうかもしれない。それを誘発しないためにも今のような休憩は必要なのである。

水を飲んだり携行食を食べたりしている時だった。無線からあまり聞き慣れない音が鳴った。

「な、なにこの音?」

鈴谷が無線機を奇怪なものを見るような目で見て言った。

無線機は初めノイズばかりを発していたのだが、やがて音声は明瞭になり、聞き取れるようになった。が、その内容は声ではなかった。

「モールス信号…?か、解読すんのめんど…」

「私がやりましょう。しばらくお待ちを」

赤城が鈴谷より無線機を受け取って飛行甲板の上にメモ用紙を広げて高速で解読を始めた。

静寂が訪れ、風の音と波の音、無線機の音と向こうで暴れているレ級ル級の音がやけに大きく聞こえるようになった。

鈴谷がふと思い出したように熊野に向かって言った。

「そういやくまのん、頭痛は?」

「それがさっぱり。先ほどまでが嘘のように消えてしまいましたわ」

熊野は清々しい顔でそう言った。鈴谷は熊野の元気そうな顔を見て満足したのか、それ以上詮索するのをやめた。

 

「解読終わりました」

赤城の言葉にそこにいた全員が赤城の周りに集まった。

ーーー

ーー

 

水上部隊へ

 

こちらは潜水艦隊。

一向に出番がなかったので敵泊地周辺を偵察してきた。

更に多くのミットシュルディガーの出陣を確認。特別個体も多数確認。注意されたし。

 

潜水艦隊より

 

ーー

ーーー

 

「潜水艦隊!?出撃してたの!?」

「鈴谷さん…そこからですか」

ジト目で見つめてくる吹雪に”冗談だって”と付け足しながら鈴谷は笑った。

「赤城さん、潜水艦隊に打電お願いできる?」

赤城は頷き、発信準備を始めた。数秒後、”終わりました”の一言を確認して鈴谷は潜水艦隊に向けた簡潔なメッセージを伝えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

風の音など一切届かず、光すらも届かない場所、深海…と言えたらかっこいいのだが、ここではそうではない。光もしっかり届く実際の船スケールで言えばかなりの浅瀬である。

水深十数メートル地点で我が鎮守府の潜水艦隊は水上に確認できた部隊に打電を終え、返信を待っているところだ。

超長波通信(VLF通信)を使わずに済む時代になってとても快適だ、と潜水艦隊の旗艦である伊168は水中を漂いながらそう考えていた。

「イムヤ、海上から返信がきたでち」

ゴーヤこと伊58が暇そうな顔でそう伝える。

潜水艦隊は、邀撃部隊と共に出撃したはいいものの、第一戦では水上艦が敵を撃退してしまい、遁走した敵を追撃しようにも速力が足りていなかった。そのまま流れで第二戦に行こうとしたが、第二戦からは提督とそのお姉さんが参加するという事を聞き、自分たちはやる事ないだろうと判断、攻撃の姿勢から一転して敵泊地の捜索と敵の動向偵察に徹していたのだ。

この事からしてイムヤは”どうせ自分らの出番はない”と半ば不貞腐れていたのだ。

(どうせその返信も偵察への感謝と引き続き偵察のお願いなんでしょ…)

そう思いつつゴーヤに返信を読むように促して自分は目を閉じた。そんなイムヤに告げられた言葉は予想外なものだった。

「えーと、鈴谷さんからでちね。…敵見つけたんなら殲滅シクヨロ!期待してるよ!…だってさ」

その言葉を聞いたイムヤのぼやけていた思考が急激に覚醒し、仰向けに漂っていた姿勢を勢いよくただした。

「それほんと?」

食い気味に迫るイムヤを手で制しながらゴーヤは呆れて言った。

「嘘を言って何になるのでちか。ほら、さっさと指示を出すでち」

イムヤは目を輝かせて、先ほど偵察した海域の方を指さした。

「潜水艦隊、敵殲滅に出発!」

「Jawohl、伊168。U-511、最大戦速で目標海域まで航行する」

食い気味に返事をした後全速力で発進するU-511を先頭に潜水艦隊は目標海域へと前進を始めた。

「イムヤちゃん、ディガーは速いんでしょ?魚雷なんて当たるのかな?」

心配そうに伊401がイムヤに尋ねるが、イムヤはどこ吹く風といったふうに答えた。

「まぁまぁ、そう心配しないでよしおいちゃん、私にはちゃんとした作戦があるんだから。えっとね…」

得意げに説明を始めようとしたその時、無線にノイズが走った。潜水艦隊の無線にノイズが走るという事はVLF通信で遠くから通信してきている証拠だ。いったい誰だろうか。

話の腰を折られてちょっとご機嫌斜めのイムヤは無線で送られてきた物を見て首をかしげた。

「欧州の深海棲艦の脅威が薄れたからフランスより支援艦隊が到着…?潜水艦隊にはスルクフが参加…?誰よ?」

その名を聞いた途端、先頭にいたU-511が反応した。

「銀の長髪に(あお)い目、艤装には赤の差し色が入っている長身の潜水艦です。航空偵察、砲撃、雷撃それぞれ可能で、20.3㎝連装砲一基と魚雷発射管を艦首に固定四門、後部旋回四連装発射管一基、それのひと回り口径が小さい四連装発射管を一基積んだバケモノでs…

 

「誰がバケモノですって?」

 

…到着早くないですか…?」

突如響いた凛とした声に潜水艦隊が後ろを振り返るとそこにはつい先ほどU-511が話した通り、銀の長髪を水に靡かせながら海の色に溶け込んでしまいそうな碧色の眼でこちらを見ている潜水艦がいた。

「鎮守府で簡易改装を受けた後空挺してもらったのよ。今頃水上でも仲間たちが邂逅しているはずだわ」

 

 

ーー

水中

ーーーーーーーーー

水上

ーー

 

 

「…それで、欧州の方で暴れていた姫級部隊が突如確認できなくなったからある程度の戦力を祖国に残してこっちに来た…ってコト?」

ほんの数分前に突如空挺されてきた艦隊と邂逅した海上部隊は簡単な事情説明を受け、それを確認しているところである。

「おそらくだけど最近になって深海の活動が激化してきているこの近辺にいると本国は睨んだらしいの。よろしく頼むわよ」

ふわっとした長い金髪と白人特有の白い肌、そして白、黒、赤でまとめられた艤装が目立つ艦娘が一歩踏み出して鈴谷に握手を求めた。

「えーっと、ごめん、何さんだっけ?リ、リス…」

ぎこちない鈴谷を見てその艦娘は微笑み、差し出していた手を自分の胸に当てて言った。

「私の名前はRichelieu(リシュリュー)。リシュリュー級戦艦一番艦よ…貴女は?」

鈴谷はそれに対して改めて差し出された手を取りながら言った。

「私は最上型重巡洋艦の三番艦、鈴谷だよ。よろしくね!…で、後ろの貴女は…」

リシュリューの後ろで待機していた艦娘が前に出てきて、それぞれ自己紹介を始めた。

最初に出てきたのはメッシーバンで纏めた綺麗な銀髪を持ち、太陽のような若干オレンジがかった赤の瞳をした艦娘だった。

「私はDunkerque(ダンケルク)だ。リシュリューの前級だが、まだ実力で負ける自信はない!よろしく頼む」

ハキハキと快活に喋るダンケルクはどうやら勝ち気な性格のようで、切れ長の瞳の奥には深海棲艦を撲滅するというゆるぎない信念が宿っているかのように思われた。服はリシュリューのそれとは違い、キャリアウーマンのようにパリッとしたスーツを着込んでいた。艤装は全体に黒のつや消し塗装が施されており、これまでにない威圧感と重厚感が感じられた。

次に出てきたのは茶髪の…ゆるふわウェーブとでも言うのだろうか、リシュリューと同様ふわっとした髪と初夏の木々の青々と生い茂った葉を彷彿とさせる緑目が特徴で、常に捉え方によっては妖艶、可愛らしい、などと意見が分かれそうな表情を浮かべている艦娘だった。

「私は戦艦、Alsace(アルザス)。よろしくお願いしますわ」

ゆったりと、しかしはっきりと喋るアルザスの声はどこか神秘的なものを感じさせ、注意していないと引き込まれそうにさえ感じられた。フランス人形のような服装も相まってどこか童話の中に紛れ込んでしまったのではないかと錯覚しかけるが、彼女の後ろより伸びる武骨な鋼鉄の艤装がそれを否定する。

最後にアルザスの後ろから音もなく出てきたのは欧州艦にしては珍しい黒髪をエアリーウルフボブに纏め、そこに入る一本の銀のメッシュ、ラベンダー色の切れ長の瞳が特徴的で、ダンケルクと同様にスーツを着込み、艶消し黒で染められた艤装を装備している艦娘だった。

「私はアルザス級二番艦、Normandie(ノルマンディー)だ」

そう言って軽く頭を下げ、ノルマンディーはすぐに下がってしまった。

「姉妹でも随分と服装などが違うのですね…なぜなのですか?」

個性の塊とも言えそうなフランス支援艦隊のなりを不思議に思ったのだろう。赤城が小首をかしげてリシュリューに尋ねた。

「フランスは自由の国なの。艦隊行動さえキッチリとして居れば服装や艤装は好きにしていいのよ」

リシュリューは得意げにそう答え、面白いでしょ?と言った。

「じ、じゃあ、私もフランスに行けば好きにイメチェンできるってコト?」

鈴谷が食い気味に尋ねた。

「鈴谷さん、多分うちの提督ならほとんどなんでも許可しますよ。特に貴女のいう事ならね」

赤城が微笑しながら言った。

「?…どういう事?」

「…この鈍感…」

熊野がボソッと言ったが、鈴谷には聞こえていないようだった。

「あ、そうだフランスさん、今ディガー…敵の対処を潜水艦隊にに任せているんだけど、その間は待機だからそこんとこよろしくね」

鈴谷のその言葉にフランス艦隊は頷き、めいめいのんびりし始めた。

「さ、さすがフランス…」

吹雪はそのくつろぎっぷりに苦笑いしつつ潜水艦隊の無事を案じて今潜水艦隊がいるであろう方向の水平線を眺めた。

 

ーー

水上

ーーーーーーーーーー

水中

ーー

 

 

「それで、作戦は結局どうなるの?」

心配そうな顔をしたしおいにイムヤは得意げに言う。

「簡単!まずしおいちゃんと400ちゃん、スルクフさんで浮上して艦載機やらなんやらで注意を引いて、あとはホーミング魚雷におまかせ!って感じよ」

説明し終えたイムヤにしおいと400が詰め寄った。

「「私たちに死ねと!?」」

そんな二人を手で諫めながらイムヤは話をつづけた。

「艦載機を発艦させた後すぐ潜ればよし。スルクフさんはそういう訳にはいかないけれど…いけそう?」

イムヤの問いにスルクフは満面の笑みで応えた。

「任せて。普段なら断るけど鎮守府で改装を受けてきたから、やれるわ…多分」

「多分!?」

 

 

ーーーーー

 

 

10数分後、目標海域にて潜水艦隊はソナーに映る敵を見つけた。

「敵発見、頼んだよ!」

イムヤの指示を受けて伊401、伊400、スルクフが急浮上をかける。途端に今まで並走していた姿が視界の端から消え去り、バラストタンクより排水される海水の音が響いた。

「ん…?これ、ディガーじゃなくない?」

「えっ?」

伊8がふとソナーを見ながら呟いた。

「だっておかしいのよ。明らかに大きい個体と小さい個体がいるのよ。ディガーの大きさにどれも当てはまらないわ」

イムヤは慌てて改めてソナー画面を確認した。言われてみると確かにそうだ。大小様々な反応がある上に数も少ない。最初ソナーを見た時は数が減っていて得をした、と思ったが今は不気味さが募るばかりだ。なぜ数が減った?そしてこの反応の差はなんだ?

薄々その疑問の答えを察しつつも、浮上したスルクフからの報告でその正体がはっきりとなる。

欧州姫級部隊(別部隊)よ!急速潜k…』

無線が切れる前に、発砲音と思われる轟音が響き、無線はノイズで満たされた。

「スルクフさん!?」

それにとって代わるように無線が入る。この無線は全体無線、水上艦隊にも届くものであった。

『こちら400、欧州姫級部隊を新たに確認!至急援護を…』

こちらも同様、弾着音と共に無線はノイズを発するスピーカーへと変わった。

『こちら水上艦隊、直ちに急行する!』

即座に水上艦隊から無線が返ってきた。これで敵の掃討に関しては心配することはなさそうだ。

「潜水艦隊、全艦負傷者を抱えてこの海域を離脱するのよ!私の予測が正しければソナーの小さい点は…」

言い終わるより早く、聞きたくもない音が耳に響いた。

ある程度質量を持った物体が水面に連続的に着水し、泡沫と共にゆっくりと沈んでくる音。潜水艦であるならば聞かずに戦闘を終えたい音。

イムヤは心の中で悔しそうに言った。

(やっぱり小さい点は駆逐艦か…!)

艦娘は謎補正()で一撃で死ぬことはなく、致命的な攻撃を喰らっても限りなく轟沈に近い大破にとどまる。しかし、現在気を失って沈降してくるスルクフと400はもう一度被弾すれば確実に沈む。気絶中の2人を抱え、なんとか潜航が間に合ったしおいと合流したイムヤは鋭く指示を飛ばした。

次の瞬間U-511がこれまでにない大声で叫んだ。

「全速前進!爆雷が投射された!死にたくなければ急げ!私は死にたくない!」

捕捉されているのだから静音性を気にすることはない。めいめいが明石印のディーゼルタービンをフル回転させて逃げに入る。

水中ではそ速度が10ktに満たない潜水艦は駆逐艦に捕捉されたらほぼ終わりと言ってよい。だがこの潜水艦隊は一味違う。

「機関全速。さあ、実戦初の60ktを見てみようじゃない」

全艦がありえない速度で海域を離脱を開始する。遥か後方で爆雷がくぐもった音を立てて繰り返し爆発した。

ようやく安全な海域に来た、と安堵した潜水艦隊はしばし水中にとどまり負傷者の介抱にあたった。

「起きろーーー、窮地は脱したよーーーー」

スルクフと400の頬をペチペチ叩きながらゴーヤが呼びかけた。

「Où sommes-nous… Qui suis je?」(ここは何処…私は誰?)

「スーちゃん壊れたでち!?」

「スーちゃんって言わないで!?」ガバッ

「あ、起きた」

ボッロボロのスルクフが元気よく目を覚ました。

「っ!敵はっ!?」ガバッ

「こっちも起きたでち」

スルクフに続いて伊400も目を覚ました。

「それで、この後どうするの?」

イムヤは全員に聞いた。

「提督に指示を仰ぐのね」

伊19…通称イクが提案をした。それを受けてイムヤは無線を取って提督に連絡を入れる。

「こちら潜水艦隊、提督、この後私たちはどうすればよろしいでしょうか」

無線の向こうで提督は数秒考えた後、発言した。

『撤退だ。負傷者もいるし燃料の問題もある。それにわざわざまた駆逐艦(天敵)もいるんだ。別命があるまでは鎮守府で待機せよ』

「…了解しました」

イムヤは無線を置いて言った。

「今聞いた通り、これから鎮守府へと帰投するわ」

イムヤは自分の心の中で揺れている“活躍したい、まだ戦える“という気持ちを押し込んで帰路についた。

潜水艦隊の面々はそんなイムヤの心内環境を案じつつも黙ってイムヤに後について鎮守府へと舵を切った。

 

 

ーーーーー

 

 

「ありゃ相当堪えてるな…まあ無理もないか」

提督は無線を置いて言った。

「もう活躍の場は与えないつもりなの?」

姉さんが少し潜水艦隊を案じるように言った。

「それは時期がくればわかる…というか明石次第だ。今は鈴谷達に合流することを第一にしよう。確か今欧州姫級部隊掃討に向かっているんだよな?どの辺にいるんだ?」

「提督、たった今通信が。掃討終了、すぐに合流するとのことです」

加賀が淡々と告げた。

「…早いな。まあ、何はともあれ残す戦力はディガー部隊と敵の本陣だけだな」

提督は静かに波を立てる海と青い空との境界を見つめ、呟いた。

「ディガー…殺ってやる…」

そろそろ朝潮型の我慢も限界のようだ。ディガーと対面した時のことを考えるとゾッとする。

不意に無線からノイズが走り、聞き慣れた声が聞こえてきた。

『てーとくー、おーーーーい!』

鈴谷だ。提督はあたりを見回して、少し遠くから手を振りつつ近づいてくる鈴谷の部隊を視認した。

「おぉ、無事だったか。怪我はない?負傷者は?」

提督は鈴谷の部隊に次々と質問を投げかけた。

「ちょ、提督。そんなにいっぺんに聞かないでよ…時間はあるんだから」

鈴谷が両手で提督を制している傍で、皆が合流できたことを喜び合った。深海棲艦の皆は防空棲姫の帰還に喜び、加賀は赤城と、吹雪は朝潮型と笑って話していた。しかしそこで、久々に対面していたドイツ艦隊とフランス艦隊が…(仕事モードの)ビスマルクとダンケルクが口を揃えていった。

「どうやら、再開を喜び合うのは後回しになりそうだ」

「あぁ、あれがディガーか?随分と沢山いるもんだ」

その言葉に釣られてビスマルク達の視線の先を見ると、これまでで1番多い数と思われる数の白色装甲が際立つ Mitschuldiger(ミットシュルディガー)が紅いモノアイを爛々と光らせてこちらを睨みつけていた。

不意に赤城が提督の肩をちょんちょんと叩き、敵部隊の方を指さした。

「提督、敵軍の最後方…新型でしょうか」

赤城の指さした先、敵の後ろには装甲板が真っ白なディガーと違って表面は全体的に黒く、関節や頭部の所々に紅の差し色が入った、ディガーとは形状からして違うロボットのようなものが佇んでいた。

「いかにもボス、って感じだな。なに、言うてそこまで強くないだろ…多分。全員、戦闘準備」

提督の指示で全員が艤装を構えた途端、ディガーの最前列が高速移動を始めた。

「油断はするなよ。仲間を殺した相手だ」

途端に味方の雰囲気が尖った物へと変わった。特に…

「ようやく…殺れる…提督、指示を!」

朝潮型の面々である。殺気だけで敵を殺しそうな勢いだ。お預けしたら提督が殺されかねない。

「少しでも危ないと思ったら引け。命が大事だ。全艦突撃!」

合戦時の戦国武将のような気迫で味方艦隊全員が突撃を開始した。

さて、ここで一つ問題が発生する。

「タービン全速!霞の仇だ!」

高速で敵に向かっている艦隊どうしが接敵するのに要する秒数は何秒だろうか。

「…!」

まして敵は高速性のために装甲を削り、三次元機動を可能にするためのグラップルまで取り付けた高機動型だ。

答えは簡単、

「はぁっ!」

一瞬だ。

突っ込んでくるディガーにグラップルを射出する機会を与えずに朝潮は懐に潜り込み、掌底で敵をノックバックさせる。

よろけたディガーはせっせと姿勢を立て直そうとするが、それよりも早く朝潮の連装砲が立て続けに火を噴き、その姿を海中へと消した。

「まず一体、次!…!?」

しかし、朝潮は失念していた。味方艦隊の人員数よりはるかに敵部隊の人員が多いことを。

倒したディガーの後ろから新たな個体が接近し、グラップルを射出したのだ。

それを避ける余裕はなく、顔の前で交差した腕の上にある艤装、主砲塔の天板に火花を散らして突き刺さった。

その衝撃に思わず目を瞑ってしまった。再び目を開けたときディガーの姿は視認できなくなっていた。

「どこに行った!?」

主砲塔にグラップルは刺さったままである。ワイヤーは切れていない。

「ッ!直上!」

ディガーが重力とワイヤーの巻取りを利用して加速し、連装砲を回転収納した右手でこちらを粉砕しようと向かって来ていた。

朝潮は咄嗟に主砲艤装を捨ててバックステップで回避しようとする。

「これで…」

支点を失ったディガーは水面に着水して一時的に行動不能になるか沈むかするだろうと朝潮は考えたのだ。だが、敵はそんなことはお見通しのようだった。

ディガーの背面で小さな爆発音が連続し、水面に激突するギリギリで進路を変更し朝潮の方へ突進してきたのだ。

「ブースター!?」

体をひねって回避しようとした朝潮の鼻先をディガーの右手の甲に設置された小口径砲の弾が掠めて行った。

そのまま後ろに倒れ込むような形で朝潮は一時的にそこを離脱しようと試みる。

だがディガーは離脱しようとする朝潮にいつの間にか戻していた右手の連装砲を連射した。

朝潮はそれを右に左に避けながら魚雷をディガーの予測進路に向けて投射し、体勢を立て直す。

魚雷は高速移動中のディガーの足元に寸分違わず命中し、大きな水柱をあげた。

さすがのディガーも魚雷の爆発には耐えられなかったようで、黒煙を濛々とあげながら海中に沈んでいった。

「はぁ、はぁ、はぁ…強すぎる…!」

第一主砲塔艤装を失い、疲弊した朝潮にも敵は等しく襲い掛かる。朝潮は次なる敵の対応に追われるようにその場を離脱した。

数秒後、先ほど朝潮がディガーを沈めた海域に赤城と加賀が追いやられるように後退してきていた。

「…ッ!」

赤城と加賀は管制機、艦載機をほぼ全機射出し、副砲と対空機銃しかない丸腰で迫り来るディガーをいなし続けていた。

二人に対し、ディガーは三体。圧倒的不利である。

加賀は後退しながら矢筒にもしもの時のために、と入れておいた普通の矢(とはいっても鋼鉄製だが)をたがえて一番近いディガーに向けて放つが、一方のディガーはそんなものは効かないというように矢を軽々とはねのけ、さらに距離を詰めようとしてきた。

ついに先頭のディガーが加賀を射程距離に捉え、左手からグラップルを射出してきた。加賀は咄嗟に飛行甲板でガードし、グラップルは甲板に深々と突き刺さった。

「ッ!」

金属ワイヤーが音を立てて巻き取られていき、ディガーの無機質な顔面が迫ってくる。

「加賀さん!避けて!」

赤城の普段聞かないような声に驚き、飛行甲板はそのままの位置に固定しつつも加賀は体だけをわずかに移動させた。

次の瞬間、艦娘として生を受けてから毎日見続けていたもの、赤城の飛行甲板艤装が目の前を高速で槍のように通り過ぎ、迫ってきていたディガーの顔面に突き刺さった。その勢いでディガーの頭部は大きくゆがみ、火花を散らしながらのけぞるようにして海面に倒れ、爆発した。残り二体は倒れた一体の残骸を避け、なおも必死に追いすがる。なかなか追いつけないことにしびれを切らしたのか、右手の連装砲を赤城に向けて構え、連射した。

自分の方へまっすぐ飛んでくる砲弾は速く、避ける暇はなさそうだ。被弾を覚悟して目をつぶるが、予測していた衝撃波はこなかった。

驚いて目を開けると、赤城の前に加賀が立っていた。

「飛行甲板は、盾ではないのだけれど…赤城さん、行けるかしら?」

加賀は微笑んでいった。

その言葉で赤城は何をする気なのか悟った。そうだ、自分たちには他の自分たちにはない能力があるではないか、と。

赤城と加賀は逃げから反転してディガーに正面から向かうような形をとり、叫んだ。

「「艤装交換(コンバート)!!」」

そこから決着までは早かった。一瞬で航空艤装が収納され、代わりに戦艦艤装が出現し、制服は黒を基調としたものに変わったのだ。

展開するや否や、加賀は左側の連装砲三基を、赤城は右側の連装砲三基を、同時に斉射してこちらに相対するディガーを射出中だったグラップルごとゼロ距離で吹き飛ばしたのだ。

ディガーは装甲を削り機動性に特化した戦闘個体だ。41㎝砲弾6発をくらって立っていられるはずがない。

文字通り吹き飛び、弾薬庫が誘爆してその体は爆ぜた。

「このまま味方部隊まで行きましょう、加賀さん」

「えぇ、長門型を超えるこの力、とくと味合わせてやりましょう」

そう意気込む二人の前に、新たなディガーが立ちはだかる。あっという間にグラップルを加賀の艦首に突き立て、そこを支点にブースターで加速しながら半円状の軌道を描いて突っ込んできたのだ。

だが、ディガーの奮闘虚しく、主砲弾一発が直撃し、ワイヤーを引きちぎってその体を後方に倒す。

ディガーは起き上がることもできずに、海中へと引きずり込まれていった。

あっという間に新手を片付けた二人の前を、一筋の光が横切り、着弾点で大きな爆発が起こった。

「これは何!?」

加賀が驚いて言うが、赤城が落ち着いて説明した。

「これは提督の艤装よ。触れさえしなければ安全なはずだから。私たちは私たちにできることをしましょう」

そう言って赤城と加賀は味方の支援に別な場所へと向かった。

二人が去ってコンマ数秒後、提督と鈴谷、そして熊野がその場所に来た。

「ポリウスチャージまであと30秒、十時の方向敵ディガー二体、鈴谷主砲用意、三時の方向ディガー一体、熊野、頼んだ。六時方向は俺がやる」

「「了解(ですわ)!」」

次の瞬間閃光が立て続けに瞬き、砲弾がディガー向けて飛んで行った。

ディガーはよけようとするが、ブースターでよけた先に別の砲弾が飛んで来ており、あえなく被弾、行動不能となった。

「よし、次!」

そう言って次の目標を探そうとしたとき、提督の視界の端に黒い高速で動く影が映った。

本能が警鐘を鳴らし、反射的に体をよじって回避姿勢を取ると、コンマ一秒も経たないうちに目の前を先ほどボス機体のようにたたずんでいた機体が音速と見紛うレベルの速さで駆け抜けていった。

「ボスのお出ましってか!」

提督は意気揚々とボスに向かって駆け出そうとしたが、その時問題が発生した。

「…ッ!頭が…痛い…」

熊野の頭痛が再発したのだ。それもこれまでにないほど痛がっている。

「………一時撤退!」

それを見た提督はどうするかを五秒ほど悩み、突進をやめ、いったん引くように鈴谷に指示した。

頭痛で移動速度が落ちている熊野を肩で支えるようにして提督とその一行は一時的にディガーと距離を取った。

これをいいことにボスが突っ込んでくる…なんていう事はなく、相手も同じく距離を取った。その行動の意図は分からないが、何はともあれ助かった。

「熊野、熊野、大丈夫か!?」

頭痛で苦しむ熊野に呼びかけるが、熊野はうめき声をあげるだけで答えることはしなかった。

「鈴谷、これか?」

鈴谷に向かって問いかける。

「そうこれ。毎晩こうなってたの…でもいつもよりひどい…」

そう会話していた時、熊野が辛うじて絞り出したような声で言った。

「…督…提督…離れて…」

提督にはその言葉の意味が理解できなかった。

「熊野、それはどういう…」

「離れてくださいまし!…私が…私デあるウちに!」

熊野は提督の手を振り払い、一歩下がったところでまた頭を押さえた。

見ると、その押さえる手は普段の肌色ではなく、これまで嫌と言うほど敵として見てきた白色へだんだんと変わっているのが見て取れた。

手だけではない。髪も白くなり、目は紅く染まりだした。

ーー深海化。そう言えばいいのだろうか。目の前で新たな深海棲艦が生まれていくようだった。

「防ちゃん…どうしたの…ってそれ!?」

俺が一時的に退いたことを不思議に思ったのか、姉さんが宣戦を一時離脱してこちらへ来た。

「何か知っているのか?」

「昔、艦娘を深海棲艦に変化させて戦力に加えようって言う計画があって…これはきっとそれの技術よ」

「治す方法は…」

「しらないわ…ごめんなさい」

提督は視界が真っ暗になったように感じた。治療法がないなんて…もっとも、適切な治療法があったとしてもこの何もない洋上でできるとは思えないが。

「提督…早ク…沈めてくダさいまし…私ハ皆と戦イたくナイ…!」

熊野が息も絶え絶えにそう言った。

「まだ…まだ何か方法があるはず…」

提督は何とか解決策を見つけようと少ない頭をフル回転させたが、それと言って有効な策は何も思い浮かばなかった。

『防空棲姫さん、提督、援護を…!』

突如無線が入り、その後ノイズと共に途切れた。

「今のは霰!?何が…」

戦闘海域の方に目を向けると、先ほどの黒い機体がディガーと共に暴れまわっているようだ。なぜ序盤は傍観を決めていたのかは知らないが、そいつが動き出した今、艦隊は劣勢に立たされていた。

『全員一時撤退せよ!』

提督はそう指示を飛ばし、目の前の問題にまた集中しようとした。

「提督…早ク…早ク…!」

熊野は提督に艤装を向けようとする自分の手を抑え込みながら必死に懇願した。

「待って!まだ何か…」

鈴谷も半泣きで熊野に近寄ろうとした。その手に触れた瞬間、熊野の手がバネ仕掛けのように上がり、主砲を鈴谷の顔面に向けて静止した。

「ひっ…!」

鈴谷は動揺と恐怖、その他色んな不安定な感情が入り混じった顔で熊野を見つめた。

対する熊野はもうほとんど面影はなく、全く新しい人格が出来ようとしていた。その顔は必死に引き金を引くまいとする顔と、目の前の敵を殺そうとする顔が入り混じり、歪んでいた。

「…熊野、すまない」

提督はこれ以上の思案は無意味と悟ったのか、主砲を熊野に向けた。

「提督、待っt…」

鈴谷が止めようとしたが、それよりも早く提督の主砲が火を噴いた。

煩かったはずの戦場でその砲声はやけによく響き、耳に残った。

ほぼゼロ距離で放たれた砲弾は外れる由もなく、熊野に命中した。

「…アリガトウ」

熊野はゆっくりと倒れ、微笑みを湛え、涙を流しながら動かなくなった。

「あ…あ…」

鈴谷が変わり果てた姿の熊野を抱えて短く声を発する。その頬には涙がつたっていた。

本来ならここでケアに入りたいところだが、敵は待ってはくれない。

撤退してきた味方を追ってきたディガーが背後からグラップルを射出した。

提督は無言でそのグラップルをつかみ、力任せに引っ張って近づいてきたディガーの脳天部に正拳をお見舞いした。ディガーはその場に崩れ落ち、動かなくなった。

その場を赤城と加賀、その他戦艦部隊に一度預け、提督は動かなくなった熊野を抱えて泣いている鈴谷の方に向き直った。

「最上、三隈…熊野を鎮守府に連れて行け。明石に診させるんだ」

撤退してきた最上と三隈に提督は指示を出した。二人とも現場は見ていたため、無言で頷き、鈴谷の手から熊野を引き取って肩で支え、鎮守府に向けて移動を開始した。深海化しているからなのか、提督の撃った砲弾による破孔はみられず、ただ気絶しているようにも見えた。

「待って、私も行く!」

「ダメだ!」

鈴谷が姉妹についていこうとするが、提督がその肩をつかんで引き留めた。

「なんで!?何で行かせてくれないの!?」

鈴谷は半狂乱で叫んだ。

「お前がいなくなったら誰がこの海域を護るって言うんだ?主戦力が抜けたら大変なことになる。それに…」

提督が鈴谷を説得しようと必死になっているところに、防空棲姫が割って入った。

「防ちゃん、行かせてあげなさい。私達だってそこまで弱くはないのよ?間を埋めることくらいできるわ」

それを聞いた鈴谷は提督の手を振り払い、姉妹のもとへと駆けだしていった。

残された提督はしばし呆然としていたが、背後の爆発音で我に返った。

「戦艦部隊、金剛、榛名、陸奥が大破!撤退します!」

「…どうやら、ゆっくり考える時間もないようだ。今回の件は目の前の敵を片付けてから、考えるとしよう」

だんだんと減っていく味方戦力。提督は非道な作戦を行おうとした深海に対して静かに怒りを燃やし、敵へと砲口を向けた。

 




オ ー バ ー ワ ー ク 明 石

潜水艦診て大破撤退した船診て熊野診てあと色々やって…明石スゲー(((

不明な点、矛盾している点等ございましたら指摘をお願いいたします。
次で終わるかなぁ…


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39 決戦〜5〜

残存洋上戦力

戦艦:比叡 霧島 大和 武蔵 長門  ビスマルク ティルピッツ フューラー ドイッチュラント 戦艦棲姫 レ級F ル級改F  リシュリュ― ダンケルク アルザス ノルマンディー 加賀 赤城

重巡:プリンツ・オイゲン 提督 

駆逐艦:吹雪 朝潮 大潮 荒潮 満潮 霰 防空棲姫

正規空母:グラーフ・ツェッペリン 空母棲姫 ヲ級改F

陸上施設(曳航中) 北方棲姫

ーーーーーーーーーーーーー
深海側の企みにより主戦力の一部が抜けることとなった一行。
その前に立ちはだかるのは謎の黒い機体。
残り戦力も少ない中でどう切り抜けるのか。
戦いが、始まる(始まってる)。
ーーーーーーーーーーーーー
こんなに長引くとは思っていなかったんだ…何だよ決戦の5って。決戦の意味わかってんのかよ自分。こんなところまで読んでくださっている皆さん、ありがとうございます。不肖JEEP、頑張ります。

今回は提督視点でっす。前回は何の予告もなしに第三者視点になってたけどついて来れてたかな?


「それで、(まもる)ちゃん、私たちはどうすればいいのかしら?」

 

 鈴谷が去ってから十数秒、姉さんは(Mitschuldiger)の方から目線を外さずに俺に近づいてきて言った。

敵の数は俺らよりも多い。中には中破レベルの損傷を負っているとみられる個体も見受けられたが、それはこちらも同じだ。大潮、荒潮がかなりの傷を負っている。俺も無傷と言うわけではない。大潮達の事は朝潮が撤退させようと試みたらしいが聞く耳を持たなかったらしい。いや、沈まれたら困るんだが。

現在敵戦力とは数十メートル離れたところでお互い様子をうかがっている感じである。熊野が豹変した際、敵は突っ込んでくることなく、むしろ引いて行ったように見えた。なぜだ?間違いなく熊野のあれは敵方の作戦のはず。もし俺が敵の司令官だったらあの隙を攻めさせない手はないだろう。その点を含めて今回の敵は前まで戦ってきた敵とは何かが違う気がする。特にあの黒い機体だ。ただひたすらにこちらを殲滅しようとしてくるのではなく、こちらを窺っているようにも見える。…何かあるな。

 

「いったんは全員待機。各自艤装点検を済ませろ。自身の最大のパフォーマンスを引き出せるようにな。全員、俺から突撃指令があるまで発砲をしないこと。いいな?…赤城、加賀、管制機と連絡は取れるか?」

 

緊張しているのか、いつもよりも尖った言い方になってしまう。

目を少しでも逸らせば殺される、そんな雰囲気が敵にはあった。こんなに距離があるのにそれを感じてしまうのだ。

自分のからだ中に変な汗が浮き出るのが実感できる。いやな気分だ。

 

「通信は良好、ただ雲のせいで視界不良との事です」

 

赤城の返答に俺は恐る恐る空を見上げた。幸い、目線を外しても敵が襲ってくるという事はなかった。

先ほどまで清々しいほどに晴れていた空には薄暗い雲がかかり始めていた。雲量5と言ったところだろうか。あの雲は低空に発生するタイプで、今のような初秋には発生しにくいのだが…まああるものは仕方ない。上空からの眼が不完全なら地上にも見張りを増やせばいいだけだ。

 

「北方棲姫、戦闘行為を最小限にし、敵の動向を報告してもらえるか?俺じゃなくて、鎮守府にな」

 

俺は少し意地悪そうに笑って言った。とある作戦があるのだ。ディガー相手に効くか…と言うか当たるかは分からないが。

当の北方棲姫は戦えずにぶすくれているようだ。君の役目が今後の戦局を左右することになるかもしれない重要な役割という事を教えたら逆に目を輝かせ始めた。かなり単純である。

即座に敵戦力の位置、集まり具合などを空からの情報と洋上からの情報、目視とレーダーのデータを照合して、限りなく正確だと言える座標データが完成し、鎮守府に送られた。

 

「提督、データなど送って何をする気だ?」

 

ダンケルクがこちらに寄って来て言った。

その目には疑いの色が含まれていたように見える。ほー、俺を疑うか。ならその疑惑、さっさと払拭しようじゃないの。

 

「今回は戦闘に二段階の作戦があった。一つ目は君たちフランス艦隊の空挺投下による戦力増強、二つ目は…」

 

俺はそこで間を置いた。

指先をペロッと舐めて湿らせ、上空にかざした。

 

「二つ目は、なんだ?」

 

ダンケルクが苛立って答えを催促した。

当の俺は何食わぬ顔で手を戻し、鎮守府に無線をつないだ。

 

『明石、第2段階作戦施行、左に5度旋回』

『了解、左5度』

 

ダンケルクをはじめ、ビスマルクや姉さんまでもが不思議な顔をした。いや、なかなかこの雰囲気好きだぞ、俺。

俺は一旦無線を切って艦隊の皆にもう一度確認した。

 

「俺が突撃って言ったら突撃だからな?」

 

皆は何が何だか分からないというようなあいまいな表情を浮かべつつ頷いた。

それを確認すると俺はまた無線をつなぎ、叫んだ。

 

『明石、やれ!』

『了解!ついにこの時が…っしゃぁ!』

 

次の瞬間、無線越しに大きいとまではいかずとも、質量感を感じさせる砲撃音が響いた。

 

「提督、今のは…!?」

 

加賀が無線の爆発音を聞いて俺に尋ねた。

俺は心配そうな加賀に向かって笑って言った。

 

「戦いにはきっかけが必要だろう?明石に沿岸砲製作を頼んでおいたのさ」

 

敵は依然として白い通常個体を前列に、例の黒い奴は最後尾に陣取ってこちらを睨んでいた。こちらが姿勢を変えたのを見て相手方もまた、グラップルを構えた。

俺はニヤッと笑って言った。

 

「うち自慢の明石(エンジニア)が頑張って作ってくれたんだ。たんと味わいな」

 

程なくして砲弾(対深海棲艦弾頭)が山なりの軌道を描いて飛来する。えーと、1,2,3,4,…何発あるんだ?え?

瞬時に数えることが難しい数の砲弾は我々艦隊を通り越し、敵艦隊に着弾した。

 

「!?」

 

敵は突然降ってきた砲弾に戸惑い、逃げ遅れた。

対深海棲艦弾頭は普通の沿岸砲のサイズであれば艦娘比での80㎝級の砲弾の威力を余裕で出すことが可能だ。つまり…

 

「て、提督…これはあまりに火力オーバーでは…敵が減ることに越したことはないのだが…」

 

 長門が顔を引きつらせてそう言った。まぁ無理もない。着弾と同時に弾頭は爆ぜ、周囲を揺るがすほどの衝撃波と熱波を放ったのだ。直撃したディガーは跡形もなく融解し、周囲にいた個体もまた大なり小なり、傷を負った。まともに逃げおおせたのは例のボスと数十機と言ったところか。手負いを無視できる存在とすれば、数の差はかなり縮まった、勝利への道は開かれたのだ。

 

「全軍突撃!敵の手負いは無視して動ける奴から始末しろ。油断はするな!」

 

俺は高らかに宣言し、我先にと混乱している敵へと突撃を開始した。

俺が目指すのは黒いボス。あいつの正体を確かめたい。もしかしたらコミュニケーションが取れるかもしれない。

そんな期待を胸に抱きながら俺は機関を酷使し、出せる全速力をもって奴に肉薄した。

奴が不意に無感情な目でこちらを見た。そして、こちらへと高速で向かってきた。

(まずい…接近戦用の武器はないぞ…?)

 瞬時にそんな考えが浮かんだが、自分の速度はそう簡単に止められる次元の速度ではなくなっていた。

ブースターを焚き、赤色の炎を勢いよく噴出しながら、奴は俺に砲ではなく拳を向けた。

(接近戦をお望みか…?ならば!)

俺は艤装を手から離し、素手で構えた。

次の瞬間、拳と掌底…もう少し簡単に言えばグーとパーが相対速度100㎞/h超の速度でぶつかり合った。

金属と金属が、戦闘機と戦闘機がヘッドオンの姿勢のままぶつかったような音と衝撃波が辺り一帯を襲った。

 

「…いってぇ…」

 

 俺は受け止めた拳を離さずにそう呟いた。並の人間なら…いや、多分普通の艦娘でもこれを受けていたらお陀仏だっただろう。これを耐えられるのはウチの艦娘たちだけだな。

 まるでアニメのワンカットのように手を突き出した格好のまま暫し静止していた黒いディガーは静かに顔を上げた。ほかのディガーと違って顔が独立稼働するようだ。手の痛みにとらわれて今まで敵の姿を注視していなかったが、改めてみると普通のディガーとはかなり異なっていた。前述にもあるとおり、ヘッドパーツは独立して動いているが、しかし紅い単眼は変わらず、キョロキョロと動いている。外装はゴツく、ブースターの補助が無ければ到底機敏に動けそうもないような見た目だった。今突き出している右手には主武装と思われるコの字型の細長いものが二本ついていたが、拳を突出させるために手首辺りを軸にして180度回転し、先端を肘の方に向けて収納されていた。俺は視線を後ろに引かれている奴の左手に向けた。

(やはり、上位互換でもそこは変わらないのだな)

左手には…左手の甲には形状こそ違えど、グラップルと推測できる鉤爪が光っていた。だが通常個体とは違い、そのグラップルの下にしっかりと左手があった。現在何も持っておらず、握りしめられて、腰の後ろに引かれている手だ。そして、胸部装甲には機体名が書かれていた。

足は通常ディガーと比べると太く、姿勢制御用のブースターが搭載されているようだった。全体的に重々しい印象を与える黒時々赤の個体は俺の顔を見た後、呟いた。

 

「お久しぶりです、提督殿」

 

俺は目を見開いた。その声は直前まで散々目の前の敵の情報を得ようといろいろ探っていた俺の戦闘意欲を削るのに十分すぎる物であった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「沈めッ!雑兵めが!!」

 

ダンケルクがバックステップで距離を取り、そこに生まれたわずかな距離で自慢の四連装砲を斉射。

しかしその弾丸は僅かにディガーの側面を掠り、背後の水面にたたきつけられ、豪快に水飛沫を上げる。

ダンケルクは軽く舌打ちをし、二番砲塔を一番砲塔とスイッチして切り替え、照準を開始した。しかしディガーはそれを逃さず、背中に背負った一基のブースターを爆発的に起動させて距離を詰める。ほぼゼロ距離まで一瞬にして移動したディガーは、自慢の連装砲をダンケルクに叩き込んだ。

ディガーは勝利を確信していた。ゼロ距離で砲弾を叩き込んだのだから。だが、その確信は数秒後に絶望へと変容する。

 

「この程度か?」

「!?」

 

気が付くとディガーはダンケルクの右手によって空中に持ち上げられていた。いったい何が?ディガーにはそれが理解できなかった。

 

「本来なら首を持ちたいが、生憎そちらさんには首と呼べるものがないようだから、適当につかませてもらっているよ、勘弁してくれ」

 

ダンケルクはディガーの正面装甲を握力のみで歪ませ、取っ手を作っていたのだ。まぁ、ディガーの軽装甲と戦艦の握力を考慮すると無理なことではない。

 

「確かに機動性はとても高い次元のものだった。だが、火力が足りなかったな。私の装甲は並大抵の砲じゃ貫けないんだ」

 

第二砲塔が静かにディガーの方へと向けられる。必死に逃げようもがくが、戦艦の握力と、威圧するような眼差しがそれを許さない。

 

「君は幸運だな。高火力を体験して死ねるのだから。辞世の句は…読めないか」

 

ダンケルクは薄く笑い、さらにもう少し高くディガーを持ち上げた。

 

「Adieu、ディガー」

 

そのまま主砲を斉射し、身動きが取れないディガーに33cm砲弾を四発ゼロ距離で叩き込む。ディガーは四散し、燃え盛る残骸は着水の後ゆっくりと沈んでいった。

ダンケルクは手元に残る変形した正面装甲を一瞥し、燃える海面に投げ捨てた。

 

「さぁ、次に行こうか」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「なぁ、ティルピッツ」

 

洋上でビスマルクは傍にいる妹に声をかけた。

 

「なんだ?姉さん。珍しいじゃないか戦闘中に話しかけてくるなんて」

 

ティルピッツは若干不思議に感じつつ聞き返した。

 

「さっきちらっと赤城から聞いたんだがな、第一波のディガーはこれと比べ物にならないほど弱かったらしい。今になってこそ私たちと戦えているが…さっきまでは素手で抑えることができたらしい。これを聞いてどう思う?」

 

思ったよりも真面目な話題が返ってきてティルピッツは少し驚き、主砲で敵を牽制しつつ答えた。

 

「多分中身が違うんだと思う。どう違うかと聞かれたらわからないが…、なんか、そんな気がする」

 

ビスマルクは少し笑い、正面を見据えながら言った。

 

「お前らしからぬ曖昧な答えだな…

「だって私たち戦ってないじゃない」

………そうだな…まぁ」

 

ビスマルクは飛んできたグラップルを艤装で弾き飛ばし、向かってきたディガーを正面から粉砕し、笑顔で言った。

 

「私達が今やるべきことは敵の殲滅だ。強かろうが弱かろうが真摯に相手してやろうじゃないか」

「…やっていることは一方的な殺戮だがな…」

 

苦笑いでティルピッツは向かってきたディガーを相手に取る。

ブースターで加速しながら馬鹿正直に突っ込んで来るように見えるそれは、ティルピッツの主砲斉射をブースターとステップで躱し、さらに距離を詰めてくる。グラップルを放ち、ティルピッツの艤装に突き刺そうとするが、体を捻ってそれを回避する。すかさず装填を終えた主砲を叩き込み、今度こそディガーを黙らせた。

 

「…ふぅ。意外と危なかったな」

「さすがは我が妹。ここら辺はもう掃討できたな」

 

ビスマルクに言われて辺りを見回すと、周囲には燃える残骸複数ある程度で、元気に動いているディガーの姿は近くにはなかった。

 

「姉さん、この後は…」

 

ティルピッツがビスマルクに今後の動向を尋ねようとすると、ビスマルクは食い気味に答えてきた。

 

「さぁ、新たな敵を探しに行くぞ!ようやく出番なのだからな!」

 

ティルピッツはこの時思った。ビスマルク(姉さん)はやっぱりビスマルク(姉さん)だ、と。

 

ーーーーーーーーー

 

「ハッハッハ!効かぬ!たかが重巡級の砲身で何ができる!!」

 

高らかに笑いながらフューラーがディガーを3体相手取っていた。ディガーは主砲を懸命に撃ち込むが、ことごとくその装甲に弾き返されていた。その勢いに任せてフューラーが自慢の80cm連装砲をディガーに向けて斉射するが、ディガーの機敏な動きによって躱される。先ほどからディガーが撃ち、フューラーが弾く。フューラーが撃ち、ディガーが避ける。これをずっと繰り返していたのだ。なんと不毛なことか。

だがその無意味すぎるループにも終止符が打たれることになる。

 

「沈めッ!!」

 

不意にディガーの背後で発射炎が3閃煌き、一体のディガーを海の藻屑へと変えた。

 

「戦艦!ドイッチュラント、見参!」

 

そこには小さな装甲k… 「おい」 …戦艦がドヤ顔で立っていた。たった今ジト目になったが。

ディガーは突如として現れた新たな敵に注視し、“コイツならやれそうだ”と言わんばかりに襲ってきた。まぁ、今まで相手にしてきた戦艦からしたらものすごく小さいから当然だろう。

 

「ひぅっ…」

 

突然こちらへ向かってきたディガー2体の圧力に押され、ドイッチュラントは萎縮してしまった。が、その体が傷つくことはなかった。

ディガーは忘れていたのだ。今自分が向けた背の先には世界最大級の戦艦がいたことを。

本日何度目かわからない大気を揺るがす轟音は、初めて戦果を挙げた。連装砲から放たれた2発の砲弾はきっちり一発一体ずつを捉えた。

ドイッチュラントに対してルパンダイブのように突撃していったディガーはその体を粉砕され、ドイッチュラントの背後に落ちた。

 

「大丈夫だったか?…助かったよ、ありがとう」

 

フューラーは尻もちをついたドイッチュラントに手を差し伸べ、お礼を言った。

 

「か…」

「うん?」

 

ドイッチュラントはフューラーに起こされながら言った。

 

「かっこいい!」

「お、おう…ドイッチュラントもカッコ良かったぞ」

「ほんと!?」

「あ、あぁ、本当だ」

 

フューラーは思った。娘ができたらこんな感じなのだろうな、と。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「アルザス姉様、後方の掃討は完了しました」

 

ノルマンディーがアルザスに近づいてそう言った。彼女らは2人1組で戦っており、それぞれお互いに背中を預けると言うまぁバトルで言ったらテンプレのような戦い方をしていたのだ。

 

「こっちも完了よ。…暇ねぇ、リシュリュー、そっちは?」

「もういないわ。どんな敵かと思えば意外とあっけなかったわね」

 

ディガーがいない。周辺にいる奴らは狩り尽くしてしまったようだった。

ノルマンディーはアルザスとリシュリューに提案する。

 

「他の人たちに合流しましょう。そうすればまだ仕事はあるかも…」

「それもそうね、そうしましょう」

「異論はないわ」

 

こうしてフランスの最新鋭二人組はその活躍を描写されることなく(作者の怠慢)、半分沈んでいる残骸が多数燃え盛る海域を後にした。

3人が去った後、残骸の中で、火花を散らしながら動き出すものがあった。

 

「…本部二…打電ヲ…“我々部隊はホボ壊滅、防衛体制ヲ…”…」

 

最後の力を振り絞って無線で報告したそのディガーは、直後崩れ落ち、それっきり動くことはなかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「赤城さん、そっちに敵が行ったわ。気をつけて」

 

加賀が41cm連装砲の砲撃で敵を砕きながら赤城に注意を促した。

赤城と加賀は先程の突撃指示より2人で行動してはいたが、2人の距離は遠くもなく近くもないと言った距離を保っていた。お互いの戦いに過度に干渉せずに、しかし連携は取れている戦い方をしていたのだ。過度な干渉は相方には不要、絶対にやってくれるという信頼があるからこそできる戦い方であろう。

 

「大丈夫、もう捕捉してるわ」

 

そう言って赤城は猛スピードで突っ込んできたディガーを避け、すれ違った直後の無防備な背中に砲撃。敵を黙らせた。

 

「流石ね。他の個体はいるかしら?」

 

加賀が赤城と合流し、辺りを見回す。

すぐに攻撃できそうな範囲にはディガーはおらず、少し遠方の方にちらほら居るだけだった。

 

「あちらへ行きましょう。…ってあら、もう見方が交戦を開始しちゃいましたね」

「そのようね。あれは…朝潮達かしら?」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「吹雪ッ!そっちよろしく!」

 

満潮がディガーの一体を指し示して言った。

先程から味方が押しているせいか、ディガーたちの動きが若干引き気味になってきているのが感じられる。この戦い、意外と楽に勝てるかもしれない。

 

「了解!それっ!」

 

吹雪は言われたディガーの頭部を狙って射撃。しかしその砲撃は敵には当たらず、背後の水面を切り裂くのみであった。

 

「しまっ…」

 

途端にディガーに距離を詰められる。いくら連射力の高い駆逐の砲であったとしても、コンマ数秒で詰めてくる敵に対応はできない。したがって吹雪は逃げの一手にかける事になる。

ディガーのグラップルが音を立てて射出され、吹雪に向かう。が、それを体をひねることで間一髪で躱し、即座に距離を取ろうとする。しかし、ディガーはブースターでその速度を殺すことなく進路を変更する。

 

「くっ…このっ!」

 

装填が終わった主砲を構える。ディガーも右腕を構える。

 

ディガーと目が合った気がした。

 

「…ッ」

 

刹那、ディガーの主砲が火を噴き、吹雪の構えていた主砲艤装に直撃する。

これまでに無い鈍い振動を腕に受け、吹雪はよろめき、倒れた。

 

(なぜ…なぜ撃てなかった?)

 

分からない。何故かは知らないが、ディガーを撃つことを一瞬躊躇ってしまった。

不意に目の前のディガーが横に吹き飛ばされた。

 

「しっかりして!大丈夫?」

 

大潮が手を差し伸べてきた。

 

「う、うん、大丈夫…」

「どうしちゃったのよ…」

「さっきまで戦っていたディガーと何か違う気がして…」

「何言ってるの。敵は敵よ。シャキッとして!」

 

大潮に背中を叩かれまた艤装を構え直す。先程の被弾で片方の砲身が使い物にならなくなったが、まだ一門ある。十分にやれるはずだ。

 

「増援を確認!」

 

防空棲姫からの報告。艦隊のほぼ全員がそれを聞き、臨戦態勢へと移った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

時は遡る事十数分前。敵のボスの意外な発言に提督は大いに混乱していた。

 

「お久しぶりです。提督殿」

 

機械音が入ってはいるが、若々しく、少し頼りなさげな声。俺はこの声をよく知っている。俺は突き合わせていた手を離し、お互いに向き合った。

 

「花田…少尉…?」

 

遅かったか。もう少尉は狂った父親…はもういないから陸軍の手によって改造されてしまったか…

しかしここで死ぬ前に花田(父)が言っていたことを思い出し、問いかけた。

 

「なぜ喋れるのだ?君の…父親の話だと意識はあれど喋れないはずでは…」

「先ほどの衝撃波で少し異常が起きたみたいです。それに通常でも少し行動に干渉するくらいなら出来ます…微々たるものですが。この状態も長くは続かないとは思います。今は辛うじて自分の動きを抑えて喋っているだけなので、またすぐに殺戮機に戻ってしまうでしょう…それに」

 

少尉は周りを見るように促し、俺はそれに従った。

 

「今周りで戦っているミットシュルディガーも中身は陸軍兵士なんです。階級が低い人たちを無理くり改造してあるんです」

「なんだって!?…少尉や、兵士たちを救うことはできないのか?」

 

少尉は黙って頭を振った。表情は読み取れない。

 

「不可能です…一つ言うなら、死は救済と言ったところでしょうか…それと、そろそろ時間のようです」

「…そうか」

 

周囲に響く砲撃音や破砕音。それと比べてここは静かで、まるで別世界だった。世界に自分たちだけが取り残されたような感覚が俺を襲う。

 

「はぁ…」

 

俺は大きなため息をついた。今俺が感じているこの感情は何だろうか。

無力感だ。救いの手を差し出したいのに、それは相手を殺すことでしか成り立たないというこの事実に無力感を覚えているのだ。

だがここで呆けていても終わらない。

終わらせるためには、やるしかないのだ。

俺は少尉…じきに少尉であって少尉でない者に戻る機体に主砲を向けた。

 

「提督殿、どうか私を…殺して(助けて)ください」

 

少尉がそう言い終わると、モノアイが一度消え、すぐにその紅い煌めきを取り戻した。

その機体はもう、喋ることはなかった。俺は少尉を本当の意味で救えなかった悔しさで一度歯を食いしばったが、すぐに表情を消して言った。

 

「今からお前を殺す(助ける)。覚悟しろ、復讐者(Rächer)

 

黒い胸部装甲に唯一の白色で書かれた機体名「Rächer(レイシャー)」。その名前の意味するところは一体何なのだろうか。それを考える間もなく、俺たちは戦闘に突入した。




終わると思った?終わると思った?
ごめんなさい終わりません。
次で終わらせられるように頑張ります。

Rächerは、レイシャーだかレイヒャーだかレッヒャーだか、カタカナに直そうとするとまぁ色々あるんですけど、この小説ではレイシャーで行こうと思います。

深海棲艦も活躍させたかったけどごめん。キャパオーバーなんだ。


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40 ~決戦~終

蒼かった空が水平線のあたりから綺麗な橙色に染まってくる頃、俺たちは戦闘を開始した。

秋の風を切って突進してくるレイシャー。俺はその突進を横に逃げることで回避しようとしたが、脚部ブースター(スラスター)での進路変更により真正面から突撃を受け止めてしまった。

 

「ッ!…やるじゃないか」

 

そのままトドメを刺そうとしてくるレイシャーをヤクザキックで押しのけ、よろめいたところに主砲で追撃をかける。

が、その砲弾はほぼゼロ距離で撃ったにも拘らず重い音を立てて装甲にめり込むだけにとどまった。

弾かれたのではない。しかし、貫通してもいない。正面装甲に砲弾の尾部がくっついているように見えるのだ。

 

「ずいぶん特殊な装甲をもってるんだな…うおっあぶね」

 

感心しているとレイシャーの拳が俺の頬をかすめた。思わずバックステップで距離を取ると、レイシャーは右腕に収納されていたコの字型の細長いものを回転させ、前に伸ばした。

 

「オイオイ…マジか…」

 

そのコの字型のものは突如紅色の火花を出してスパークし始める。俺は危険を察知して横に飛びのいた。

レイシャーはその腕を俺に向け、引き金を引いた。

次の瞬間、先ほどまで俺がいた場所に大きな水柱が聳え立った。

 

超電磁砲(レールガン)は聞いてねぇよ…!」

 

レイシャーはその場を動くことなく、逃げ回る俺をあざ笑うかの如くレールガンを連射してくる。二本のレールから交互に弾が発射されるため、ボフォース40㎜機関砲のようなレートで大和の主砲弾よりも威力がありそうな砲撃を放ってくるのだ。たまったものではない。

迫り来る弾を右に左に必死に避けつつ俺は反撃方法を考え始めた。

レイシャーが不意に連射をやめ、突撃をかけてきた。

 

「!?」

 

咄嗟のことで判断が遅れた俺は再度その重い体による突撃で大きく吹き飛ばされ、水面にたたきつけられる。

一応分類としては船なので転倒してもすぐに沈むことはないが、艤装内部に水が少し入ってきたようで、先ほどまでと比べると体が重い。

転倒から一秒と立たないうちにレイシャーは追撃に移り、起きかけの俺の体にブースターで加速させたその鈍重な足をクリーンヒットさせてきた。

 

「かはっ…」

 

肺の中の空気が強制的に排出され、苦しみながら俺はさらに後方へと吹き飛ぶ。艦隊の皆からはずいぶん離れたところまで来てしまった。

レイシャーはそのままトドメだと言わんばかりに上空に飛び上がり、俺に向かって急降下してくる。

だが俺だってやられっぱなしというわけではない。だてに人間辞めてないんだ。このくらいでやられるような俺じゃない!

上空のレイシャーをキッと睨み、背中に背負っているVLSを二基とも起動。即座に発射し、艤装の手のところについているレバーでトマホークを誘導する。レイシャーは回避しようとスラスターを焚き、空中で軌道を変えようとしている。ーーが、無駄だ。

トマホーク1発目がレイシャーに命中、爆炎に包まれ海上に落下する。それに追い討ちをかけるように2発目。立ち上がろうとしていたレイシャーの胸部装甲にクリーンヒットし、またもやその姿は爆炎に包まれた。

 

「やったか…?」

 

人々はこのセリフをなんと呼ぶか。

 

ーーー答えはフラグである。

 

 

まだ晴れない黒煙の中からレイシャーが飛ぶ鳥を落とす勢いで飛び出してきた。

俺は軽く舌打ちをして突撃を回避する。するとレイシャー黒煙をたなびかせながらはそのまま後ろへ流れていき、反転してまた向かってくると思いきや、盛大にコケた。

呆気に取られて様子を観察してみると、明らかにヤツの調子がおかしい。

トマホークを二発もくらって動いているという事実はさておき、レールガン以外の場所からも火花を散らし、フラフラしているのだ。…ほぉう?(鈴谷リスペクト)

 

「さては姿勢制御中枢(ジャイロセンサー)がイカれたな?」

 

だが相手はジャイロがいかれた程度で勝利を譲ってくれるほど単純な奴ではなかった。

奴は燃費効率を無視したフルブーストで速度を稼ぎ、倒れそうになったらスラスターで無理やり姿勢を直すという荒業で俺に接近、左手を突き出した。

グラップルを俺に刺してそこを支点に戦おうとでもいうつもりだろうか。まあ俺がそれに応じるつもりはないがな。

空を切るグラップル。上半身をそらせて避けた俺はその勢いを生かして棒立ちしているレイシャーに後ろ回し蹴りを入れる。

重装甲の半機械相手に生身の攻撃が通じるのかって?おいおい、艦娘を見てみろよ。素手で砲弾払って蹴りで敵沈めてんだろうが。俺はそれよりも性能が上。つまりどういうことかというと…

 

こうかはばつぐんだ!

 

ということだ。見事にレイシャーは先ほどまでの海域の方向へと飛んで行ってくれた。

俺は追撃をかけるべくダッシュでその海域へと向かう。風を切る感覚が心地よい。ここが戦場でなければもっといいのだがなぁ。

ふと頭によぎった思考を雑念として振り払い、俺は戦闘に意識を戻す。倒れているレイシャーは今まさに起き上がろうとしている。さっさととどめを刺さないとな。そして本拠地をつぶしに行かなくては。

レイシャーに向かって砲弾を数発撃ちこみ、ノックバックで起き上がるのを抑制。ド近距離でトマホークを叩き込むわけにもいかないので無難にかかと落としで胴体を半分水中に沈める。

突如として奴がブースターを起動した。あまりに急なことで対応が遅れた俺はレイシャーに足をつかまれ、そのまま上空へと連れ去られる。

何とかして抜け出そうともがいていると、パッと放され、空中で一瞬止まる。空中でも安定した動きが確保できるやつとは違い、俺は航空装備を持たない。俺の試作兵器展開能力で飛行機を出すと実機が出てきてしまうのだ。飛行機だけは艤装化できないのだ。つまり俺は、飛べない。

自由落下し始めた俺の雷装目掛けてレイシャーがグラップルを放つ。体をひねってよけようとするが間に合わず、深々と刃は突き刺さり、俺は嫌な予感を覚えた。

レイシャーの左手が一瞬光った(スパークした)ように見えた。

 

「まさか…!?」

 

予感は的中した。奴はグラップルに電気を流し、切っ先で放電させたのだ。これで起こることは一つ。

 

魚雷管の誘爆だ。

 

目がくらむような閃光に俺は思わず両手を顔面の前で交差させる。刹那、轟音とともに俺は海面にたたきつけられ、視覚と聴覚が一時的に失われた。まずい。この状態で次に来るのは砲撃だ。

予想通り、レイシャーがこの機を逃すはずもなく、間もなくして俺の全身に衝撃が走る。

だが予想に反してそこまで痛くはない。奴も弱っているのだろう。

俺は攻撃が飛んでくる方向へ適当に砲撃をばらまき、何とかして体を起こした。

 

「ッ…あぁ…やってくれるじゃねぇか…」

 

 ようやく戻ってきた視界を頼りに辺りを見回すと、そこは最初に戦闘を始めたところだった。艦娘たちがあたりで戦っている。あまり苦戦はしていないようだ。

奴はノックバックから回復し、無茶苦茶なブースター噴射で再接近を試みている。

俺はそれをふらつく足取りで何とか回避し、主砲を撃つ。

レイシャーはそれを物ともしていない様子であった。火力だ…火力が足りねぇ…!

 

「主砲じゃ無理か」

 

俺はそう呟き、瞬時に肩越しにVLSを横向きに、つまり前に向けて展開した。垂直(Vertical)から水平(horizontal)になったからさしずめHLSといったところだろうか。これを直接近距離で打ち込めばレイシャーとて無事では済まないはず。

 ただ問題はトマホークの弾速にある。いくら相手が手負いだとは言え射出直後の対艦ミサイルなどブースターによる軌道変更で避けられてしまうだろう。この作戦を確実なものにするためには相手の軌道を固定、あわよくば相手を固定する必要がある。どうしたものか。

 

「当ったんねぇ!クソッ!」

 

 俺の艤装は一瞬でも収納して展開すれば耐久は回復し、弾薬も補充されるため残弾を気にする必要はない。ただ、今ここで一瞬でも武器をしまう構えを見せようものならレイシャーに殺されるだろう。艤装をしまっている間の一瞬は少し丈夫なだけの人間(?)になるのだから。

 ただこの時の俺は残弾はすぐに回復するもの、と考えてやまず、とにかく撃ちまくっていた。上記の冷静な思考力が取り戻されたのは艤装CIC内部からの『対艦ミサイル残弾4発』の報告を受けてからだった。

 その報告を聞いた時、俺は全身から血の気が引いていく感覚というものを知った。新たに艤装展開しようものならそのタイムラグを衝かれる。つまり、レイシャーとの戦いはこの艤装だけで終わらせる必要がある。

 

頭の中が真っ白になる。

 

”どうする、どうしたらいい?どうすれば攻撃が当たる?”

 

世界のすべてがスロー再生のようになる。自分に当たらず背後へとすり抜けて行く敵の攻撃、自分が虚空へと放ったミサイル、着弾点の水飛沫。

 

”落ち着くんだ自分、攻撃が当たっていないのは敵も同じ。つまり先にボロを出した方が…負ける(死ぬ)。”

 

視界が通常時のそれへと戻り、周囲が一気に加速する。

 

”勝機はまだある!”

 

 俺はミサイルポッドを展開したまま、主砲を構えなおし射撃を開始した。効力射など求めてはいない。時間が稼げればいい。敵はいまだ未熟なAI。いずれミスを誘発するだろう。

 

俺の攻撃は当たらない。敵の攻撃も当たらない。

 

敵が接近しようとすれば俺は離れる。俺は一定の距離を保つよう心掛けて戦っていた。

主砲艤装は赤熱し始め、撃てなくなるのも時間の問題と思われたその時だった。レイシャーが自分の攻撃が当たらないことにしびれを切らし、俺の軌道を固定させるため、グラップルを俺に向けて射出した。それを俺はよけることなく、主砲艤装で受け止める。

 

俺の口元に自然と笑みが浮かび上がる。

 

 

「待ってたぜ…この時をよぉ!」

 

 

レイシャーは右手の連装レールガンをこれまでにないほどスパークさせ、ブースターとグラップルの推力を使い、突撃を敢行。

 

俺はその場に立ち止まり、グラップルが深々と刺さっている艤装を思いっきり後方へ引っ張り、投棄。

 

レイシャーは予想外の推力を得て、レールガンの狙いが狂う。本来俺の脳天を貫くはずだったその紅い一撃は僅かに右に逸れ、俺の頬を掠り海面を抉った。

 

俺は奴のヘッドパーツを左手で鷲掴みにし、動きを封じる。ねじ切ろうとしても首が取れないあたりはさすがの強度といったところか。

 

「じゃあな」

 

俺は一言そう言い、トマホークをゼロ距離でその大きな体躯に四発、発射した。

ミサイルポッドから閃光がほとばしり、俺の視界を埋め尽くしていく。シールドを張る余裕は、ない。

 

コンマ数秒の後、海域に轟音が響き渡り、海面を爆風がざわつかせる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「終わったの?」

 

姉さんのその一言で俺は目を覚ました。周りで戦闘の音が聞こえないということは機械式でない通常個体との戦闘も終わったのだろう。どうやら俺は爆風で飛ばされた後気絶して水面にぷかぷか浮いていたらしい。自分のからだの丈夫さに感謝だな。レイシャーはどこか、と思い周りを見渡すと、少し離れたところに半分沈んだその残骸があった。

 

ーー残骸と呼ぶにはあまりにもきれいだったが。

 

レイシャーが動かないのを遠目に確認し、姉さんの質問に答える。

 

「あぁ、終わった。リミッターを解除する必要はなかったみたいだ」

 

嘘だ。ちょっとだけ、思考の整理に使わせてもらったが、まぁそこは誤差だろう。

俺は自分の目の当たりをトントンと指で叩きながらスカして言った。

 

「リミッター…あ、司令官が着任した時に言ってたやつですね。…ほんとにあったんだ…」

「吹雪!?信じてなかったの!?」

「はい、全く」

「うっそぉ…まあまだ外したところ見たことある人姉さんくらいしかいないし、仕方ないか」

 

その場にちょっとした笑いが起きる。そして霧島が口を開いた。

 

「それで…提督。あのボスはいったい…?」

 

やはりそう来るか…いやまあ普通そうなるよね。めっちゃ強い(自画自賛)自分たちの司令官がボロボロになってようやく倒した相手なのだから。

 

「最初少し話してたみたいですし。なんだったんです?」

 

比叡も便乗した。俺は少し気乗りしなかったが、口を開いた。

 

「元・花田優樹少尉だ。陸軍に改造された後の機体名は復讐者(Rächer)。とてつもない重装型だった」

「優樹…!?」

「…助けることはできなかったんですか?」

 

空母棲姫が驚き、口元を手で覆った。大和は暗い表情で俺に尋ねる。

大和の問いかけに俺は首を振った。

 

「意識はあるが自分で体を操作できないようにしていたみたいだ。陸軍(父親)も酷いことをしたもんだ」

「…マダ残骸ハ沈ンデイナイ。私ハ優樹ヲ回収スル」

 

空母棲姫は動きはしないが沈みもしていない意外と原型を保っているレイシャーの残骸の方へと歩を進めた。その時、俺はなんとも言えない悪寒を感じ取り、空母棲姫の方へ手を伸ばして叫んだ。

 

「待て空母棲姫!まだ安全が確認されたわけじゃな…」

 

その時だった。

 

レイシャーの眼がにわかに輝きを取り戻し、その体をわずかに動かした。

 

「優樹…!」

 

空母棲姫はレイシャーに駆け寄った。

 

…花田は以前、まだ鎮守府で普通に生活していた時、空母棲姫とよく一緒にいたのを俺は覚えている。花田曰く深海棲艦達の中で最初に話しかけてくれたのは空母棲姫だと言っていた。彼らの間には何か、特別なものがあったのかもしれない。

 

だが、それは花田優樹と空母棲姫の話であり、花田優樹(レイシャー)と空母棲姫の話ではない。

 

レイシャーのスピーカーからわずかに声が漏れる。

 

「逃げ…て…」

 

花田の声だ。きっとショックでまた一時的に戻れているのだろう。

だが次の瞬間、花田は再度レイシャーの中に埋もれることとなる。

 

軽快な炸裂音が断続的に響き、被弾や衝突でゆがんだ重装甲板をアサルトパージしたのだ。

 

アサルトパージにより吹き飛んだ重装甲板は爆風で舞い上がった煤とともに容赦なく空母棲姫を巻き込む。

 

「空母棲姫!大丈夫か!?」

 

 俺は反射的にそう叫ぶが、心の中では分かっていた。

 

アサルトパージは普通のパージとは違い、火薬などを用いて装甲板を弾き飛ばすか装甲自体を炸裂させて外すパージ方式だ。見たところレイシャーのアサルトパージはかなり強力な爆発により行われていた。至近距離にいた空母棲姫が無事でいられる確率は皆無に等しい。

 

「…ッ!…優樹…ドウシテ…」

 

空母棲姫は装甲片が刺さり、流血している部位を押さえながらよろよろとこちらへ後退してきた。目には涙がある。ヲ級改Fがそれを支える。艤装との接合部分が破損している。これ以上の戦闘は困難だろう。

 

「空母棲姫を鎮守府へ。他全員は帰投せよ。俺はコイツ…レイシャーの相手をする」

「提督、私たちはまだ戦える。なぜ帰らねばならない?」

 

長門をはじめとする鎮守府メンバーは不服そうに言った。それはそうだろう。実際まだまだ戦えるからな。

だが俺はこいつらを帰さなければならない。目の前で起き上がりつつあるレイシャーからとてつもなく嫌な予感がするのだ。

 

 

 

本能が告げる。ここで戦えば誰かが絶対に巻き込まれると。大切な部下をまた失うことになりかねないと。

 

 

 

何が何でもこのまま戦闘を開始してはいけない。俺は焦りを抑えつつ早口でまくし立てる。

「補給に行け。そろそろ弾薬や燃料が持たなくなるころのはずだ。俺は何度も展開し直せば治るからいいが、お前たちはそうはいかないだろう。分かったか?」

無理のある言い訳だ。明石(改造バカ)のおかげで弾薬燃料携行量は増えている。このくらいでの帰投は不要だからだ。

「司令官!まだ補給に行かなければならない時ではありません。なぜ…!」

朝潮が食って掛かる。

「ん-…じゃあ、補給終わったらまた来るってのはどうだ?それまで俺が押さえておくからさ」

俺は精一杯明るい顔を朝潮に向ける。

「分かりました。そういうことなら」

朝潮は憂いの消えた表情だ。納得したようだな。

 

 

だがこのやり取りで俺の言わんとしていることを察したのか、長門は唇を軽くかみしめてほかのメンバーの方へと顔を向けた。

 

「これより補給のために鎮守府へ帰投する。…異論は、認めない」

 

朝潮を除く全員が小さく返事をして進路を180度変更する。

レイシャーはまだ沈黙している。アサルトパージした装甲はもう海の藻屑となったのだろうか。見当たらない。

 

「司令官…」

 

殿を務めることになった吹雪がこちらに話しかけてきた。

 

「吹雪、早く行け。さもないと…

 

「私達、待ってますから」

 

…行け」

 

吹雪が向きを変えて皆に追随し始めたとき、艤装を再展開しつつ俺は口を開いた。

 

 

 

「皆を、よろしく頼む」

 

 

 

届いたかどうかも分からないような小さな声。吹雪は、何も言わずにスピードを上げた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「同じ駆逐艦でも、推察力には差があるようだな。そう思わないか?レイシャー」

 

俺は吹雪たちが遠くに行ってから、目の前で黙っている機械に話しかけた。

黒ベースの重装甲に赤の差し色というパージ前と変わり映えしない機体はその外装だけを大きく変えていた。

装甲がほとんど消えたのだ。つまり攻撃を当てさえすれば勝てるだろう。だが装甲が無くなったということは速度に極限まで特化しているということだ。グラップルは消え、レールガンも消えていた。

 

「なんだよ、気づいていたのかよ…近づいてきたら一撃で沈めてやろうと思ったのによぉ」

 

目に深紅の光がボウッっと灯り、機械音交じりの日本語で軽口をたたくこの機械は素早く立ち上がった。

 

「まずは部下たちを撤退させる時間をくれたことについて、礼を言おう」

 

俺は新たに展開した「伊吹」の主砲を向けた。

 

「お前を沈めてから鎮守府を壊滅させた方が面白いからな。鎮守府に行ったらさぞかし良質な絶望の感情を拝めそうだ」

 

これがレイシャーの本性なのだろうか。ずいぶんと悪趣味に感じる。

 

「一つ聞くが、花田優樹少尉はどうなっている?」

 

先ほどまでのレイシャーに表情はなかった。だが今、奴は目の形を変えて表情を表している。

俺の問いかけに対しレイシャーは、不機嫌そうな目になった。

 

「中にいるよ。俺が問いかけても”お前の負けだ”としか言わない。つまらん奴だ」

 

吐き捨てるように言い、レイシャーはカッターナイフの刃を大きくしたようなブレードを腰のあたりから取り出した。

俺が身構えるとレイシャーは嬉しそうに言った。

 

「このブレード、イカしてるだろう?さっきパージした装甲から生成したんだぜ。ん-、俺って天才!」

 

レイシャーの中のAIはいい性格をしているようだ。この状況を楽しんでいやがる。

…それと、ブレードを取り出したということは超近距離での戦闘になるだろう。こちらも近距離兵装を出すか、できるだけ距離を取って攻撃を当てるしかない。

 

「おー、おー、考えてるねぇ…まっ、どうあがいたってこの状況の俺には勝てねぇよ。速度のレンジが違うからこれまでの軽装甲連中のようにやられる気はない。当てられるものなら当ててみるといい。さて…と…」

 

レイシャーがブレードを構える。ブレードが赤熱を経て白熱し、周りの空気をゆがませる。

ヒートソードか。これは突進だな。

 

「一瞬で終わらせてやるよ」

「人間兵器の生命力、なめてかかると後悔するぞ…!」

 

俺が言い返したのと時を同じくしてレイシャーの背中から推進用ブースターが火を噴き、予想通りの軌道でこちらへ突進を仕掛けてきた。

俺はあらかじめ用意していた軌道でそれをギリギリ躱す。

瞬間速度は速度は大体450km/hといったところだろうか。

速い。確かに速いが、それは今の俺からしての話だ。

 

 

俺にはまだ上がある。教えてやろう。

 

 

俺の改造当初の予定スペックからしたら余裕で相手できそうだ。正直吹雪たちと意味深な別れをした自分がちょっと恥ずかしくなってきた。このくらいなら一瞬だ。

初撃を外したレイシャーはスラスターを用いて旋回し、再度こちらへと向かってくる。

その突撃が俺に届くよりも早く、口を開いた。

 

 

Release limiter(制限解除)

 

 

右眼に変な感触が走り、周りの時間が遅くなる。

 

 

「推進部艤装展開『Sprit of Australia』、武装艤装複数展開『AGS 155mm RailGun』、装甲部艤装展開『大和』」

 

周囲全てが遅いこの世界で自分の艤装だけが素早く組み立てられる。

今の俺は簡単に言うと「速い、強い、硬い」というなんとも頭の悪そうな構成をしているのだ。

スピリットオブオーストラリア。水上速度記録を保持している船で、km/h換算で約510km/h出すことができる。武装はアメリカ海軍が開発中の艦砲のレールガンバージョンである。装甲は言わなくてもわかるだろう。

さらにリミッターを外したことによってカタログスペックの3倍は出すことができるだろう。シャア専とか言うんじゃないぞ。

 

視界を元に戻す。流石にずっとあの状態だと疲れるのだ。

ワンパターンの突撃しかしてこない(所詮はAIの)レイシャーを今度は軽く躱し、レールガンを向ける。

自分としてはほぼ対等、もしくはちょっとばかしこちらが不利な状況下で敵を倒すのが好きなのだが、それはレイシャーの第一形態で満足いくほど体験できた。奴の中で俺を信じてくれている後輩のためにもここは一瞬で終わらせるつもりだ。

 

レールガンを二発、発射する。

 

その圧倒的な弾速はレイシャーに避ける暇を与えることなく命中し、その機体を水面に転倒させる。

メインブースターに命中したようで、背面から黒煙が上がっていた。

 

「なっ、なぜ当たる!?」

 

驚きを隠せないレイシャーを足蹴にし、レールガンを目の前に突きつける。

 

「俺を侮ったな。試作機と量産機のオーダーメイド機体、大体強いのは後者だが俺は例外だ。覚えておくといい」

「チッ…部下どもを下がらせたのは…」

「もちろん作戦だ。お前を油断させるのが一つの目的。もう一つは俺の限界の秘匿のためだ。皆が俺をあてにして訓練を怠けるようになったら困るからな。いやー、見事に引っかかってくれたね。AI君?」

 

ここぞとばかりに俺はレイシャーを煽る。だがレイシャーは諦めてはいないようだ。

 

「まだ終わりじゃねぇぞ。ここは本拠地のすぐ近くだ。今基地で量産中の俺の同型機がすぐ来るはずだ。倒すごとにデータが転送、蓄積され、学習してより強くなっていく悪魔のメカニズムにお前は勝てるか?今の俺を倒せば花田は消えてしまう、だが俺は半永久的に蘇るのだ!」

 

それを聞いた俺は一瞬固まったが、すぐに笑い出した。

 

「何が可笑しい…?花田が消えるんだぞ?」

「それが目的さ。あいつはもう元の身体に戻れないことは理解していた。だから頼まれたのさ。殺してくれ、とな」

「なん…だと…」

 

ふと不思議に思い、俺はレイシャーに尋ねる。

 

「お前、聞こえてなかったのか?第一形態の時の戦闘前にその旨のやり取りをしていたはずだが…」

「俺が明確な自我を持ったのはパージしてからだ。それ以前は分からない」

「そうか、ならば死ね」

「脈絡もねぇな…データ転送完了してやったぜ。これでお前も…」

 

砲声が3回鳴り響き、その後、機械音声混じりのその声を聴くことはなかった。

 

「急がねば。喋りすぎた」

 

データ転送が終わってしまったようだ。急いで基地に向かわねば…

 

「その必要はない。動かないで」

 

後頭部に何かが突き付けられる。

 

いくら速くてもゼロ距離の弾はよけられない。おとなしく動きを止める。

 

「貴様らは何だ。顔も見えないが」

 

背後から突き付けられているため顔を拝むことはできない。だが知っている声ではない。

 

「ならばこっちを向くといい」

 

言われたとおりに振り向くと、そこには一個大隊レベルの深海棲艦の艦隊、それも既存の姫級、鬼級のみで構成された艦隊だった。

驚いている俺に対して艤装を突きつけていた姫級が口を開く。

 

「私は旗艦、集積地棲姫だ。我々は陸軍参謀より出撃命令、もとい突撃命令を下された言うなれば不要部隊。だが我々がおとなしくその命令に従うわけもない」

 

じゃあ味方なのか、という言葉を俺が発する前に姫級が被せる。

 

「だが貴様らの味方ではない。我々は後から入ってきた陸軍一派をよく思わないグループ、原理主義者の集まりだ。これを見るといい」

 

そう言って集積地棲姫は薄型端末をこちらへ放り投げた。そこにはタイマーがセットされており、残り五分を切っていた。

 

「これは?」

「そいつは時限爆弾のタイマーだ。基地でふんぞり返っている陸軍の上層部を基地ごと吹き飛ばすためのな」

 

集積地棲姫は愉快そうに笑った。

 

ーーーーーーーー

 

陸軍の本拠地、その司令室にてその男は椅子に座って報告を聞いていた。

「先程、花田少尉を元に作られた個体の反応が消失しました。データは転送され、目下同型機を量産中です。そして不発に終わった洗脳計画は現在精度を高めるために研究中、あと少しだそうです。」

 

その報告を聞いた男は一瞬渋い顔をしたものの、後半の報告を聞いて機嫌を直した。

 

「役立たずな旧型深海棲艦も消えた。あとは我々が世界の覇権を握るだけだな」

 

男がより深く椅子に背を預け、葉巻を吸おうとしたその時、部屋に一人の将校が駆け込んできた。

 

「司令!お逃げください!地下に爆弾が…!」

「なんだと!?」

 

ーーーーーーーー

 

 

「終わりだ!地獄に落ちろ!」

 

集積地棲姫が目を見開いて叫んだ次の瞬間、島の地下から火山の噴火を思わせる地響きが立て続けに響き、次いで島のあちこちから巨大な火柱が上がり始めた。

島の中央、小高い丘の上に沿いえ立っているコンクリート製の陸軍総司令部が一際大きな爆発によってその姿を黒煙の中に消した。その爆発の後も小爆発が多数続き、いつも通りの静けさを取り戻すのに数分もかかった。

 

中央の丘が喪失、それに伴い緑が消えた。今俺の目の前には爆破によって変わり果てた島があった。

俺はその光景にしばらく呆然とし、あっぱ口を開いて島の方を見つめていた。

 

「どうだ?お気に召したかな?」

 

ケタケタと笑い声をあげる集積地棲姫は両肩を軽くすくめてこっちを見た。

いつの間にか突きつけられていた艤装は下ろされ、自由に動くことができるようになっていた。

 

「あぁ。協力感謝する。…だが、こちらの目的は反乱陸軍及び深海棲艦の根絶なのでな。もし貴様らが敵だというのならここで始末しなければならない」

 

俺はいつも通りの艤装、伊吹を取り出して構える。

集積地棲姫は表情を崩すことなく応対する。

 

「そう急ぐな。取引をしようじゃないか」

「取引だと?」

 

集積地棲姫は興味を示した俺を見てニヤリと笑い、話し始めた。

 

「まずはその艤装を下ろして…そうそう、助かるよ。それで、だ。お前の鎮守府には霞という子がいるだろう?」

「…死んだが」

 

俺は急に霞のことを持ち出してきたやつを警戒しつつ返答する。

 

「おや?コールドスリープ状態ではないのかな?」

「…はぁ、どこまで知っている?」

 

コイツはなぜ霞の状態を知っている?死亡確認当時、もしかしたら…という気持ちから彼女をコールドスリープ状態にしていることは俺と明石、軍医以外は知らないはずだが…

 

「なぜ知っているのかは割愛しよう。そして単刀直入に言う。私なら彼女を蘇らせることができる。記憶もそのまま、ほぼ元の姿に近い形で」

 

俺の思考に電流が走った。

 

「なんだって!?医者もあきらめたんだぞ!?でたらめなことを…!」

 

集積地棲姫に詰め寄るが、集積地棲姫は軽く手で俺を制し、話をつづけた。

 

「艦娘は人とは違う。どちらかと言えば深海棲艦(こちら)側の存在だ。その生態には人間の常識が通じないことが多い。バケツ(高速修復剤)バーナー(高速建造剤)、入渠の仕組みなどだな。それらをはじめとする艦娘の生態においては我ら深海棲艦の方が人間より詳しいといえる。お前もその謎めいた生態に一縷の望みをかけてコールドスリープ状態にしたのだろう?そこで、だ」

 

集積地棲姫は話を一旦切り、深呼吸をした。

俺は先ほどから動けないでいる。もしかして、という感情が頭の中を支配していた。

 

「こちらからの提案だ。私が今、彼女を復活させる事ができる物を渡す。そちら自慢の工作艦の知識と軍医がいれば復活は容易いはずだ。その代わり、今ここでの私達への追撃を中止しろ」

 

俺は今激しい葛藤の中にいた。今の俺の戦力でここ全員を始末することは可能だ。だがそれをすれば霞が生き返る可能性はゼロになる。

 

ーー本来の目的である深海棲艦の根絶か

 

ーー仲間である霞の復活か

 

効率を重視し、戦果を重んじる指揮官ならば、迷いなく前者を選んでいるだろう。

だが俺はどうだ。こんなにも迷っている。弱いものだ。

 ここで前者を選べば英雄として称えられるだろう。国を守った英雄として。だがその時の俺の心境はどうだろうか。もし復活が可能という案を聞かかった状態でのその場面なら多少は気分も晴れていただろう。だが今こうして復活の方法があると知ってしまった。その状態で英雄に祭り上げられても心の底から喜べはしないだろう。

 では後者を選べばどうなるか。その先にあるのは戦争の継続である。原理主義派閥がどのくらいの勢力なのか正確には分からないが、全力出撃一回で消し飛ばせるほど柔な構成はしていないであろう。つまり安全に海を使うことができない今の窮屈な状況をつづけることになる。それに今ここで取引をしたことが明るみに出れば…まぁ出ることはないと思うが、民衆から絶大な非難を受けることになるのは明らかだ。それを引き金として鎮守府の存続が怪しくなるかもしれない。

 

「私は知っている。お前は仲間を一番に考えて行動する奴だと。さぁ…どうする。答えてくれ」

 

集積地棲姫が追い打ちをかける。

息が詰まりそうだ。

 

周りには深海棲艦しかいない。誰かがここで会ったことを知る由もない。

俺が悩みに悩んで出した答えは…

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

蒼い空、白い雲。驚くほど穏やかな海面。心地よい風が俺をなでている。普通ならこれ以上ないほどに気持ちいい気候のはずなのだが、なぜか心には空虚な物が溜まっているように感じられた。

ボーッと前を見つめる俺の視界には誰もおらず、ところどころ煙を上げる島があるだけだった。

無線を手に取り、鎮守府へと連絡を入れた。

 

「こちら提督。これより鎮守府へ帰投する。入渠はいらない。……そうだな、明石と、軍医さんを呼んでおいてくれ」

 

了解しました、と嬉しそうに無線を切る誰かの声を聞き流しながら、俺は針路を180度変更、鎮守府への道をたどり始めた。

これで本当に良かったのだろうか、という心を抑えながら俺は帰路を辿る。

だが人間の心というのは不思議なもので、進むにつれてその空虚な気持ちはだんだんと薄れてきた。

ようやく陸軍との戦いは終わり、花田との約束も果たせたという実感が湧いてきたのだ。

 

 

手に謎の装置(もの)を抱え、俺は上機嫌で鎮守府に到着した。

 

 




これにて完結!
エピローグは書くけどね。

いっやぁ…長かった。最後まで読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字、不適切な表現等ありましたら報告のほどお願いします。

レイシャーのイメージ図的なものは後日この辺に載せるつもりです。
 レイシャーの第二形態、本当はあの戦いも長引かせる予定だったんです。自分はギリギリで勝つ戦いが好きな人だったりするので。でもね、そこで思ったんですよ。「あれ?提督全然無双してなくね?」って。これじゃあタイトル詐欺だなと思って第二形態さんにはほぼ出オチみたいな感じのキャラになってもらいました(笑)。ちょっとしっくりこない人もいるかもしれませんがまあ自分的にはこれで満足してます。
 それと、前半と後半で書いた時期がかなり違うのでもしかしたら文脈が変になっているかもしれませんが長い目で見ていただけると幸いです。



爆発オチなんてサイテー!


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エピローグ

長かった…
小説書き始めが2021/01/24 …今日は2022/3/17…なっげぇ

こんな小説を読んでいただきありがとうございました。


西の空がやや橙色に染まり始める頃に鎮守府に帰投した俺を待っていたのは鎮守府所属の全員だった。

笑ったり泣いたりしている全員に手を軽く振りながら埠頭へと上がると、吹雪が飛びついてきた。

 

「よかった…!司令官が無事で…」

 

どうやらほんとに心配してくれていたらしい。やっぱり吹雪はいい子だなぁ。

吹雪の頭の上に手を置いてポンポンとしていると長門が尋ねてきた。

 

「提督、傍から見るとほとんど傷が無いように見えるが、花田との戦いはどうだったんだ?」

「瞬殺だったが?」

「じゃあなんで最後あんな意味深なこと言ったんですか!?ねぇ!司令官!?」

 

ケロッとして言う俺に引っ付いていた吹雪が俺の身体を揺さぶってきた。

 

「いやぁ、もしかしたら勝てないかもなぁってちょっと本気出したら、ね?」

「心配したんですからね?無線が来るまで生きた心地しなかったんですからね!?」

「いやあ、悪い悪い」

 

吹雪がポカポカと殴ってくる。俺は殴られつつ皆の方に向き直って話し始める。

 

「というわけでだ。戦争はほぼ終わった。これから個々の処遇について上から指示が…やめて吹雪。そろそろ痛い。…はい、ってことでしばらくはフリーだ。手始めに祝賀会でもやらないか?」

 

艦娘たちが沸き上がる。戦うために存在している彼女らでも娯楽には目がない。早速何人かが食堂へと駆けて行った。

 

「これから俺はちょっと事務作業に入る。明石と鈴谷、朝潮型各員、あと軍医さんはちょっと俺について来てくれ。では、解散!」

 

めいめいが仲の良い仲間たちと他愛もない話をしながら埠頭を去っていく。夕焼けによって朱く染められた埠頭に残った俺らにしばしの沈黙が訪れる。

 

不意に鈴谷が口を開いた。

 

「提督…ごめん、あの時私ちょっと取り乱してて…」

 

うつむいてしゃべる彼女を手で制して俺は話す。

 

「こちらこそ済まない。あの状況で冷静さを保つこと自体無理な話だ。あの計画は基地もろとも吹き飛ばしてきたから今後再発することはない…と思う。それで、今はどんな容体だ?」

「それについては私からお話しします」

 

軍医さんが一歩前に出て話し始めた。

 

「熊野殿は帰投後明石殿から艦娘としての治療、私から人間としての治療を受けまして、当分は目も覚まさず寝たきりになるかと…」

「なんだって…」

「思われたのですが」

「へ?」

 

思わぬ軍医さんの切り替えしに俺は間抜けな声を出してしまい、明石がそれを見て吹き出した。

あの野郎後で覚えておけよ。

 

「私達では説明しようがない驚異的な回復力で回復され、今はまだ全力で動くことはできませんが、医務室内で薬品整理などを手伝っていただけるほどには回復なさられました。ほんとに驚きですよ」

 

軍医さんの説明を聞いた俺は足の力が急激に抜け、倒れかけてしまった。

 

「よかった…ホントによかった…じゃあ鈴谷、もう大丈夫だな?」

「うん、大丈夫大丈夫。それじゃ、私は宴会の準備に行ってきてもいいかな?熊野のために食べやすいもの作ってこなきゃ」

「おう、行って来い行って来い」

 

鈴谷が去った。黒く染まり始めた空に金星が輝きだす頃、今度は明石が話を切り出す。

 

「提督、私がここに呼ばれたのは何でですか?まさか仕事とか…」

 

軽口をたたく明石に俺はふっと笑って言った。

 

「そのまさかだ。工廠に行くぞ。朝潮たちもついてきてな」

「分かりました!」

「えぇ…ようやく落ち着いたと思ったらまた仕事ですか…」

「明石殿、文句を言いすぎるともっと仕事を任されますよ?」

「うえっ、それは勘弁…」

 

文句をたれる明石を引き連れて俺らは工廠に向かった。

 

 

 

工廠へと到着した俺はその最深部へと迷わず歩みを進めていく。普段はほとんど訪れることのない場所だ。

奥のドアを開け、金属の螺旋階段を降り、とあるドアの前で俺は振り返った。

 

「朝潮達についてきてもらったのは他でもない、霞を復活させるためだ」

 

唐突すぎる俺の申し出に朝潮達は戸惑い始める。明石と軍医さんは当事者でもあるため驚いてはいなかったが。

 

「アンタねぇ、嘘つくにしてももう少しマシな嘘をつきなさいよ。今更私たちの心をもう一回荒ませる気!?」

 

満潮が食って掛かる。俺に向けているその顔は強い語気とは裏腹に悲しそうだった。

 

「嘘はつかない。とりあえず入ろうか」

 

俺はそう言って軽い金属のドアを押し開ける。ドアは少しきしみながら開き、その先にある部屋をあらわにした。

真ん中にはカプセルのようなものがあり、それ以外にはほとんど何もない部屋だ。

朝潮達はその真ん中にあるカプセルに駆け寄る。その中には応急処置を施してある何時ぞやの霞がそこにいた。

 

「霞!聞こえる?提督さん、これ生きているのよね?」

 

戸惑う朝潮達に明石が説明する。

 

「霞さんは今所謂コールドスリープ状態にあります。温度を下げ、かつ特殊な方法で生命を維持しています。方法に関しては軍機なので言及しないでくださいね?…それで提督、どうやって復活させるんです?」

「これだ」

 

そういって俺はもらったものを取り出した。その装置はこの前泊地棲姫からもらったものとかなり似ていた。

 

「あぁ…艤装に接続するものですね。…何ですか?これ」

「俺にも分からん。ただ治せるとだけは言える」

「はぁ…、ま、やってみますよ」

「もしもの時は軍医さん、お願いしますね」

「了解しました」

 

朝潮達がカプセルから離れ、明石が装置をもって近づく。明石はそれをカプセルの側面にはめ込んだ。どうやらソケットがそこにあるらしい。

 

「ソケットがそこにあるってことはこのカプセルは艤装代わりなのか?」

 

俺が質問すると、明石がこちらを見ずに機械をいじりながら答える。

 

「そうです。これを艤装としてつないで生命維持につなげてるんです。それはそれとして、ほんとにこの装置で治…」

 

明石が疑いの声を発しようとしたその時、変化が起こった。

カプセルの中の霞の身体が徐々に修復され、血色がよくなってきたのだ。それも尋常じゃない速さで。

まるで某ター〇ネーターのT-1000を見ているようであった。

そこから数秒の後、カプセルの蓋がプシューと言いう圧搾空気を吹き出す音と共に開いた。

 

「あぁクソ、痛いじゃない…ってあれ?私…生きてる?」

 

そこには困惑しながらこっちを見つめる霞がいた。

即座に朝潮が駆け寄り、抱きしめた。

 

「えっちょ、朝潮姉さん?苦しいんだけど…」

「よかった!本当によかった…!」

「えっと…満潮姉さんこれはどういう…」

「うるさいバカ!今は黙って抱きしめられてなさい!」

「えぇ…?」

 

さらなる困惑の中にいる霞を姉妹たちが取り囲み、みんなで泣いていた。

空気を読めない俺は声をかけようとしたが、明石に口をふさがれ連れ戻されてしまった。

 

「朝潮型の皆さん、この後食堂で祝賀会がありますので霞さんに状況説明の後、いらしてくださいね~」

 

明石が俺を引きずり、軍医さんがにこやかに微笑んでその部屋を退室するという何ともシュールな状態で俺はその部屋を後にした。階段になっても明石が俺を放してくれなかったのでものすごく痛かった。

 

「提督正気ですか?あの状態で声かけようとするとか…姉妹水入らずの時間を楽しませてあげてくださいよ。ほんとにデリカシーがないですね」

「正直すまんかった」

「提督殿にはマナー講座でも受けてもらいましょうかね」

「すみませんでした」

 

 

 

その後少し怒られたのち、俺らは食堂での祝賀会の準備に加わることとなった。食堂はさながらクリスマスパーティーのように飾り付けられ、皆が笑顔でせっせと準備をしていた。

明石は機械系の準備、軍医さんは暴れだした奴らがけがをしたとき用の救急キットの用意、俺は料理をすることになり、それぞれ分かれた。

 

手を洗い、エプロン三角巾をつけて俺は厨房へと入る。

鳳翔、間宮、赤城に加賀など、料理は主に空母が担当しているようだった。

 

「あっ提督、ちょうどいいところに!そこの野菜全部切ってもらえます?」

「わっかりましたぁ」

 

忙しそうにしていた鳳翔さんが俺を見つけてすかさず指示を飛ばす。今の鳳翔さんは自分も料理しつつ全員に指示出しを行うという鬼神のごとき働きっぷりを見せている。この人正直戦いより料理の方が向いてるんじゃなかろうか。

野菜を切り終わった後も肉や魚やいろいろな調理に参加し、全品ができるころには鳳翔さん以外の厨房要員は死にかけであった。

 

「ほら!まだ終わりじゃないですよ!立って、ほら加賀ちゃんつまみ食いしないの。運ばなきゃですよー!」

 

鳳翔さんに促され、へとへとになりながらも俺らは料理を食堂の机へと運んだ。

ようやくすべてを運び終え、残すは俺のあいさつのみになった。

俺はエプロン三角巾を外し、しっかりした服装に着替えてからプチ式台の上に立ってマイクのスイッチを入れた。

 

 

 

「この度、深海過激派と手を組んでいた陸軍総司令部を吹き飛ばした。もう陸軍連中(やつら)とかち合うことはないだろう。我々は勝利したのだ!様々な心配はそれぞれあるだろうが、今はすべてを忘れて楽しんでほしい。そしてここからはお知らせだ。まず一つ目。もう見たから知っている人はいるだろうが、霞が復活した。みんなが知っている霞だ。これまで通り接してやってほしい。次に二つ目。明日の始業は昼からとする。つまり…」

 

俺が言葉をためるとちょっとざわついていた艦娘たちが静かになった。それを見計らって俺は高らかに宣言した。

 

「朝まで騒いでもいいってことだ!準備はできたか!?それじゃ、カンパーーーイ!!!」

『カンパーーーーーイ!!』

 

食堂中から乾杯の声が上がり、耳が壊れそうになった。

食堂には歓喜の渦が巻き起こっている。俺の宣言後、食堂内はさながらライブステージのようににぎやかになった。

壇から降りた俺はその中に紛れていくのだった。

これについては、後日また綴るとしよう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜の闇のなかでただ一つの星のように煌々と窓から光を放つ食堂。宴会開始からしばらくして、風に当たるために一人で外に出てきていた俺はそれを見て実感した。

 

戦争は終わった、と。

 

 




祝!完結!
本当に長かったです。ありがとうございました。
番外編にて今回の祝賀会の様子を描こうかなとは思っております。(予定)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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番外編
番外編「クリスマス」


ごめんなさい遅刻ですごめんなさいネタがありません

この話…と言うか番外編は元の世界線の設定を引用してはいるものの、本編には一切かかわってこないはずなのでまぁ適当に読んでいてください。

あと全員、生きて、楽しくやってます。はい。



肌を貫くような寒い風が吹く。

ここ(鎮守府)は今、冬の真っただ中にいる。

日常業務(デイリーミッション)もほとんどやり終わった午前八時。俺はと言うと…

 

「あ^~あったけぇんじゃぁ^~」

 

執務室に炬燵を持ち込み、どてらを着てぬくぬくと暖をとりながら残った執務をこなしていた。いやぁ、本当に暖かい。

 

「あれ、またか。万年筆の調子がおかしいな…」

 

俺は最近執務の途中に不具合を起こす万年筆を恨めしそうに見た。こちとら早く執務終わらせて手も温まりたいんだから勘弁してくれよ。あ、直った。

そして執務室には俺とあと一人、秘書艦の鈴谷…おいそこの君、こいついっつも鈴谷秘書艦にしてんなとか言うんじゃない。いいな?…で、だ。鈴谷がいるわけだが…

 

「……」

 

何故か知らんがむくれている。俺は何か怒らせるようなことをしたのだろうか?朝早く起きて執務をほとんど終わらせただけじゃないか。むしろ仕事が無くなったのだから喜んでほしいくらいだが。

”今日はもう終わったからみんなと遊んで来ててもいいよ”って言っても頑なに帰ろうとしないし。

俺なんかしたかなぁ…

 

しばらくして、鈴谷が口を開いた。

 

「ねぇ提督。今日は何の日だか知ってる?」

 

お?何かの記念日か?それに気づかなかったから怒ってるんだな。どれどれ、今日の日付は…

 

 

ーーーーーーーー

カレンダー   |

 

12/24(金)    |

 

クリスマスイブ |

ーーーーーーーー

 

 

あー…やらかしたよ俺。めっちゃやらかしたよ俺。今日もう24日じゃん。忘れてたよ。あれの日じゃん!

「…ごめん、休暇あげるの忘れてた。今日24日だったね。うん。早く言ってくれればよかったのに…待ってろ、今全館放送で休暇の旨を伝えるから」

「えっ、あ…」

 

俺は思い立ったが吉日、と行動を開始し、多分全員自室待機しているであろう子たちにも聞こえるよう、全館放送を入れた。

 

『こちら提督だ。今日はクリスマスイブだという事を失念していた。それでだ、少し遅い気もするが今から全員休暇という事にする。町に繰り出すもよし、外で雪で遊ぶもよし、何でも好きに過ごしてくれ。以上だ。メリークリスマス!』

 

 

 

放送を終え、炬燵に戻ると、先ほどよりは表情が和らいだ鈴谷がいた。えっ、まだ怒ってんの?

俺は意を決して理由を聞いてみることにした。

 

「なぁ、鈴谷」

「ひゃいっ!?…あー、えーと、何?」

 

そんなに驚くことないじゃないか。傷つくぞ…

 

「俺なんかやらかしたか?さっきから怒っているようにしか見えなくてな…」

「別に…クリスマスなのになぁって思ってただけ…」

「ん?別に今から休暇だから、姉妹たちと町に行ってきてもいいんだぞ?お小遣い渡そうか?」

「そうじゃなくて…ッ!…はぁ…提督と出かけたいのに(小声)…」

「ん?なんて?」

「…何でもない」

 

めっちゃため息つかれた。めっちゃため息つかれたよ今。

さらに詳しく尋ねようとした時、廊下からドタバタと走る足音が聞こえてきた。

 

ドアバァン!「しれぇーかん!」

 

暁だ。この声は絶対暁だ間違いない。

声の主はずかずかと部屋に入ってきてこう言った。

 

「今日はクリスマスイブなのよね?…今年私はいい子だったかしら?」

「あ、あぁ、いい子だったんじゃないか?」

 

目をキラキラさせながら尋ねてくる暁の意図が読めずに適当に返したが、次の瞬間その意図を読み取ることとなった。

 

「じゃあサンタさんもきっとプレゼントくれるわよね?」

「あっ…そ、そうだな!きっとくれるさ。…それで、何をお願いしたんだい?」

「えーとね…」

「これだね」

 

不意に暁の後ろから響が顔を出して紙を差し出した。

その紙にはここの鎮守府全員の名前と、それに対応する欲しいものが書かれていた。

 

「これは…一体…」

「鎮守府の正門にこれを張っておけばきっとサンタさんがみんなに届けてくれると思ってね。駆逐艦の皆で色んな人に聞いて回ってリストにまとめたものさ。それで、最後に提督に掲示許可を貰おうと思ってね。こうしてきたわけだよ」

「ちょっと響、私のセリフをとらないでよ!」

 

いつもクールな響が目を輝かせて掲示許可を求めている。あかん、これ届かなかったら泣くやつや。

 

「ちょっと見せてくれるかな?」

「はい」

 

響から紙を貰い、ざっと目を通す。

暁は”ティーポットセット”、響は…”ウォッカ”…、待て、不知火の名前もあるぞ。あの普段は睨んだら人を殺しそうな眼をしている不知火の名前が…えっと欲しいものは…”テディベア”………霞は…満潮は…長門は…え?長門!?…えぇっと…赤城ィ……

 

「しれーかん?貼っていいの?ダメ?」

「!」

 

ちょっとメンツと欲しいものギャップがすごすぎてつい熟読してしまった。あかん、この鎮守府ピュアッピュアやぞ!?…これなんもなかったらマジで落ち込むやつや。戦艦とか空母まで書いてあるし…

 

「あ、あぁ、いいぞ。貼ってきなさい」

「司令官、ありがとう!」

「暁、待っておくれよ」

 

許可すると、途端に元気な駆逐艦二人は執務室から飛び出し、あっという間にいなくなってしまった。

また鈴谷と二人になった執務室の中には妙な空気が流れていた。

俺は話を切り出す。

 

「鈴谷、休みで姉妹と出かけたいのかもしれないが、俺と町に行ってはくれないか?」

「えっ!?…それって…」

「あぁ、プレゼントを買いに行かねば…これは由々しき事態だぞ…」

「あっ…まぁそうだよね…はは…うん、いいよ、行こ」

「マジ?ありがとう鈴谷!じゃ…あと三十分後に正門前でいいか?」

「おっけ~、んじゃ、あとでね」

 

そう言って鈴谷は執務室を出て行った。

 

さて、俺もいろいろと、用意しなければ。

 

ーーーーーーーーーー

 

提督ってば…ちょっとは察してくれてもいいんじゃない?まぁ、鈴谷だって…この気持ちに気づいたのは最近になってからだけどさ…ほんっとに鈍感なんだから!

 

「ま、提督と出かけられるので良しとするかあ~」

「あら、出かけるんですの?提督と?」

 

聞きなれた四番艦の声が後ろで響いた。

 

「!?い、いつからそこに…」

「今ですわ」

「そ、そう…」

「さしずめその感じだと…提督になかなか誘ってもらえなくて」

 

うっ

 

「自分から言いだそうにもなんか気恥ずかしくて言い出せずに」

 

う…

 

「悶々としていたところに何か別な理由でお出かけ…多分買い出しでしょうけど…それに誘われて結果オーライ、と自分に言い聞かせていた感じかしら?」

「…もしかして熊野ってエスパー?」

「あら、私は当てずっぽうで言っただけよ?」

 

私ってそんなに分かりやすいのかなぁ…

 

「そっ、それはそうと熊野、こんな廊下で何してるのさ。休暇なんだからだれかと出かければ…」

私は必死にごまかそうとする。恥ずかしいから早くこの場を去りたいぃ…

「貴女を誘おうと思って探していたんですの。先約があったようなので私は引き下がりますわ」

そう言って熊野はにっこり笑った。自分で自分にとどめさした気がするよ…

不意に、熊野が思いついたように口を開いた。

 

「そういえば鈴谷、貴女サンタさんには何をお願いしたんですの?」

「…はい?」

 

くまのんマジで言ってんのこれ?それとも冗談…

「私は、高級茶葉セットを頼みましたわ。ん~、もう、明日の朝が待ちきれませんわぁ~」

マジのやつだ。相棒がめっちゃピュアだった件について。これどう反応したらいいの…?

「へ、へぇ~、届くといいね!鈴谷は特にお願いはしてないから何が来るかは分からないかなぁ…」

乗り切れた?私乗り切れた?

「あら、何かが届くといいですわね、それじゃ、私は今日の夜に備えなければならないのでこれで」

乗り切れたぁぁぁ!いや…身近にいるとは思わなかったよ…うん。

 

さ、気を取り直して準備しなきゃ。服は何着て行こうかなぁ~

 

 

 

 

三十分後、私が正門に行こうと部屋を出ると、ばったりと提督に出くわした。

 

「お、鈴谷。ちょうどよかった…行こうか」

「う、うん」

 

もうちょっとなんか言ってくれてもいいんじゃない?出会い頭に目をそらさなくてもいいじゃない?がんばってお洒落したのに!鈴谷不貞腐れるぞ―――!…ほんとにもう…あ、提督が私服‥‥‥かっこいいじゃん?

でも言ったら何言ってんのコイツみたいなこと言われるかもしれない…それは嫌だ。うーん、どうしたら…

 

ーーーーーーーーーーーー

 

ちょっとまって?可愛すぎん?直視できないんだが。えっ何これ。俺との買い出しのためにこんなにお洒落してくれたの?いや待て、それは自意識過剰だぞ自分よ。これで間違った接し方をしたら提督失格だ。かわいいねとか言ったらセクハラ扱いされて憲兵沙汰かもしれん。落ち着け俺、落ち着くんだ…!あ、似合ってるよ、なら別にいいんじゃないか?よしこれだ!

 

「あー、鈴谷…」

「ん?なぁに?」

 

落ち着け俺の心臓。落ち着けもちつけ…言うぞ、言うんだ。

 

「その…服、似合ってるな」

「ッ…」

 

待って恥ずかしい、恥ずかしいって!

 

「ありがと…提督も、私服にあってるじゃん?いいと思うよ」

「そうか…ありがとな」

 

このままじゃ俺どうにかなっちまいそうだ。

俺の理性はいつまで持つのかな…

ーーーーーーーーーーー

 

言えた!提督に言えた…!しかもありがとって言ってもらえた。あ…そろそろ正門につくじゃん。めっちゃ長く感じたんだけど…あ、正門から暁ちゃんと響ちゃんが入ってきた…

 

「あら、しれーかん?鈴谷さんとデートに行くのね!行ってらっしゃい!」

「いや、暁、デートと言うわけでは…」

「ふふ、暁、邪魔しちゃだめだよ。…行ってらっしゃい、楽しんできてね」

「お、おう…」

 

ちょ、ちょっとあの子たちなんてことを言ってくれるの!?提督押されてるし…!こっちはせっかく意識しないようにしてたのに…待ってなんか顔が熱く…あぁもう!こうなったらやれるところまでやってやる!

 

暁たちが去った後、提督の顔を覗き込むようにして私は言った。

 

「提督、デートだってさ。手でも繋ぐ?」

 

ーーーーーーーーーーー

 

俺の思考は今停止している。いや、脳内緊急会議が行われているといった方がいいかもしれない。

手をつなぐという事象に関して、脳内の俺、どう思う?

ポンっと脳内に悪魔の角をつけたデフォルメ俺が出てきた。きっしょ。

 

{やっちゃいなよ。相手から言ってるんだぜ?ここでやらなきゃ男じゃないし、満更でもないんだろう?}

 

今度は天使のわっかが付いたデフォルメ俺が(以下略

 

{つなぎなさい。お前、女子の気持ちを無下にする気か?というか嬉しいんだろう?}

 

この間僅か0.3秒。脳内の意見は即決まった。

 

「そうだな、繋ぐか」

「ッ!…はぃ」

 

恐る恐る鈴谷の手を取る。もちろん両者手袋をつけているため素手同士ではないが、恋愛なぞしたことない俺にとって、鈴谷の小さくて細い手はだいぶ刺激の強いものであった。理性消し飛ぶぞ、これ。

 

あ、そうだ。正門の紙回収して行かないとな。

 

ーーーーーーーーーーー

 

提督が欲しいものリストを私と繋いでいる方ではない手で取った。…そう、手をつないでいるのだ。ふざけ半分で言ったことが現実になっているという事実に私は今戸惑っている。うれしいのだが、提督が繋ぐと言った時の反応があまりにも無感情に思えたのでちょっと不安だ。提督…今何を考えているの?

 

ーー

ーーー

ーー

 

提督と手をつないだまま、道中両者とも一言もしゃべらずに町にたどり着く。町は雪がうっすら降り積もってはいるものの晴れており、寒い風が吹き抜けていた。

不意に提督が口を開いた。

 

「なぁ鈴谷。町で提督、と呼ぶと軍関係者だとして変に警戒されるかもしれないから名前呼びしてくれないか?」

「えっ!?」

 

待って待って待って?いきなり名前呼び要求はハードル高すぎない!?

 

「…すまない。嫌だったか」

「いっ、嫌なんてことはなくてむしろ嬉しい…あいや、なんでも…あぅ…」

「?…いやでないなら、お願いするぞ」

「分かったよ提t…防…さん?」

 

勇気を振り絞って私は提督の名前を口にした。心臓が破裂しそうなくらいに早鐘を打っているのがよく分かる。

 

「”さん”はつけなくてもいいぞ。鈴谷」

「ッ…防…これでいい?」

「あぁ。それでいい、大丈夫だ」

 

もうこれ完全デートじゃん。ただの買い出しのはずだったのに、傍から見たらこれもう完全にデートだよ!嬉しいけど!

 

 

 

町中は賑やかで、店という店にツリーが綺麗に飾られていた。商店街のイルミネーションは昼間から点灯しており、地面から屋根に至るまで、たまに来る商店街の雰囲気とはかけ離れていた。

 

「うわぁ、めっちゃ賑やかじゃん!それで提t…じゃなかった防、何を買うの?」

「…ここに書かれているもの全てだな。量が量だから二手に分かれたいのだが、いいか?」

「うん…わかった」

 

まぁそうなるよねー、デートじゃないもん。そう、これは買い出し買い出し。

そう自分に言い聞かせ、提督からメモの半分を渡された。結構あるなぁ…ダンケルクさんの名前がある…えぇ…

 

「それじゃあ、買い出しが終わったら…そうだな、あそこに集合にしよう。買ったものはコインロッカーに預けてから来るようにしようか」

 

提督は商店街の中心部にある、屋根に届きそうなくらい大きな、クリスマスツリーを指さした。

 

「了解了解~、買いものも、鈴谷にお任せっ!じゃ、また後でね!」

 

提督に手を振って、私は別行動を開始した。

 

ーーーーーーーーーーー

 

っはぁー、あー、恋人感半端ねえ…さーて、俺も行動を開始するとするか。買い出しと…今は買い出しだけか。

まずは、吹雪たちだな…えーと、小説、ペンケース、スケッチブックと色鉛筆…みんな比較的小さいものだなぁ、楽で助かるよ。

あとは……

 

ーー

ーーー

ーー

 

かれこれ一時間半くらいたっただろうか。俺はようやくメモに書かれたもの全てを集め、コインロッカーへの預け入れを完了した。今日だけで金をいくら使ったのだろうか…全部経費で落としてやる。

さて、あとは集合するだけだな。鈴谷はもう来てるかな‥‥‥お?

 

ーーーーーーーーーーー

 

「ねぇ、今君一人?俺らこの後喫茶店に行くんだけど良かったらお茶しない?」

「え、えっと…その…」

「いいじゃんいいじゃん、行こうよ」

 

私は今、絶賛ナンパされ中だ。用事を早く済ませて一人で待っていたらチャラ男数人に絡まれて今に至る。

はぁ~、ほんとにやめてほしいんだけど。いい断り文句思いつかないし…それにつき飛ばしたりしちゃうと力の差の関係で相手が重症になっちゃうし…あぁもう、どうしたらいいの?

 

その時だった。私の前に見慣れた人影が割り込んできたのは。

 

「すまないが、こいつは俺の連れなんだ。下がってくれないか?」

「チッ…連れがいたのか」

 

提督だ。提督が私の肩を抱いて目の前のチャラ男を追い払ってくれた。

 

「助かったよ。ありがとね」

 

私がそういうと、提督は目をそらして”当然のことをしたまでだ”といった。目を見て言ってくれてもいいのに。

 

ーーーーーーーーー

 

間に合って良かった。ほんとに良かった。あのバカ者たちが鈴谷に手を出して居ようものならバカ者が病院送りになっていたかもしれないからな。いやぁ、いい人助けをした。

それはそうと鈴谷、ほんとにうれしそうな顔だな。俺の理性を消し飛ばす気か?

 

鈴谷から目をそらすようにして時計を見ると、もうすでにお昼を回っていた。

 

「鈴谷、買い出しに付き合ってくれたお礼と言っては何だが、一緒にお昼でもどうだ?」

「おっ、いいじゃん、t…防、さーんきゅ!」

 

鈴谷が笑った。名前呼びの破壊力が高すぎたせいで俺はもう死にそうだ。

 

ーーーーーーーーー

 

提督からお昼の提案があって、そこから数分、私たちはとある喫茶店に来ていた。

まぁ、普通にお昼を食べるだけだったから特に何もなかったんだけどね。強いて言うなら食事中提督がずっと上の空だったってことかな。もうちょっと会話してくれればいいのに。

食事が終わり、会計の時になった。

 

「合計は3500円ですが、カップル割引適用で3000円です」

 

レジの人がニコニコしながらそう告げた。あ、提督が真っ赤になってる。かわいい~

 

店を出たところで提督が振り返っていった。

 

「なぁ鈴谷。今から帰っても何を持っているの?と聞かれてバレて計画がおじゃんになるかもしれない。だから…その、もう少し二人で店とか見て回らないか?」

「おっけ~、デート延長ね!」

 

提督からアクションを起こしてくれるなんてとてもうれしい。正直このまま終わりかな、と思ってたからさらに嬉しかった。

 

ーー

ーーー

ーー

 

あれからいろいろなところを見て回り、辺りはすっかり暗くなってしまった。イルミネーションが本格的に点灯をはじめ、町中を煌々と照らしている。途中外出していた艦娘たちに遭遇したりしてからかわれた事もあったが、それは傍から見たら私たちはそういう関係に見えているということで、恥ずかしかったけれども嬉しかった。今まで生きてきてこれほどうれしい日はなかったかもしれない。提督と一緒に町を回り、一緒にスイーツを食べ、おそろいのマフラーを買って。今が戦時中ということを忘れそうになる日で、それと同時にこの町の人たちがここまで平和に過ごせるレベルで敵を食い止めている自分たちの仕事が誇らしくなった日だった。

買い出しの後集合したクリスマスツリーの前まで来た。もちろん手はつないでいる。

昼間のあの時とは違ってツリーは輝いており、周りにいる人の数も倍以上に増えていた。

 

「防、離れないようにしっかり繋いでいてね」

 

私は人ごみに巻き込まれないようにしようと提督の手を強く握った。

 

「…あぁ、しっかり繋いでおくよ。もう少しこっちにおいで」

 

提督が私の手を引き寄せ、お互いの肩と肩がくっついた。私は提督の肩に頭を預けた。

自分の体温と心拍数がどんどん上昇していくのが感じられる。周りは人ごみで、うるさいはずなのに、私の耳には提督の心音だけが響いていた。

今日一日で、私と提督はずいぶん距離が近くなったように感じる。体の距離は日ごろから私のスキンシップでほかの人よりかは近かったが、心の距離も近くなった気がする。

二人そろってツリーの近くのベンチに腰を下ろした。そこで私たちはしばらく無言で、ツリーを眺めていた。

 

「あ、雪じゃん」

 

道理で寒いと思った。雪は強すぎず弱すぎない、ちょうどいい密度で降ってきた。

横の提督は、白い息を吐きながら言った。

 

「ホワイトクリスマスだな。いいじゃないか」

 

雪は私たちを包み込むようにしんしんと積もり始める。

提督が腕時計を確認していった。

 

「そろそろディナーの時間だ。さぁ、行こうか」

「えっ、あぁ、うん!」

 

ごく自然な流れでディナーに誘われ困惑したが、そりゃそうだ。今この時間に変えたらみんな食堂にいて鉢合わせになるじゃないか。帰るとしたら九時くらいだろうか…あと三時間も何する気なの?

 

レストランに着いた。落ち着いた雰囲気が漂うその店で私たちは普段拝めないようなステーキやワインなどで食事を満喫した。提督は終始緊張した顔をしている。恐らく今夜のことがうまくいくかどうか心配なのだろう。

 

「防、きっと大丈夫だって!うまくいくよ」

「あ、あぁ。そうだな」

 

励まそうとしたが、提督の緊張はまだ解けないようだった。本当にどうしたのかな…

 

そのまま時は流れ、食事も終わり、もう一度商店街や町中を見て回り、いよいよ鎮守府に帰る時間になった。外の雪はあれから数センチ降り積もり、道は真っ白にコーティングされていた。

 

「ほら、手、繋ご?」

「あぁ」

 

私たちは慣れた手つきで手をつなぎ、鎮守府への帰路に就いた。

 

ーーーーーーーーー

 

俺たちは九時くらいに鎮守府にたどり着いた。朝早くから出てきたのにもうこんな時間か。今日はなぜか時間がたつのが早く感じられた。

鎮守府の電気はもう大体消えており、駆逐艦寮は完全に真っ暗だった。

俺たちはこっそり玄関から入り、執務室まで誰にも会うことなく到着した。

執務室の電気をつけ、ストーブを焚き、部屋の寒さを払拭してからプレゼントの分配に入る。

俺が駆逐軽巡重巡、鈴谷が戦艦空母潜水艦を担当することになった。

 

「それじゃ、防サンタさん、頑張ってね!」

 

サンタ帽をかぶった鈴谷が小声でそう言った。

 

「おい、もう鎮守府内なんだから呼び方戻してもいいんだぞ」

「いいじゃん、これからも二人きりの時はいいでしょ?」

「まぁ、構わないが」

 

その返答に鈴谷は微笑み、執務室から出て行った。

 

「はぁ…俺も覚悟決めねえとなぁ」

 

そう呟いてサンタ帽をかぶった俺は袋を担いで担当の場所に向かった。

 

ーー

ーーー

ーー

 

いやはや、大変だった。寝ぼけた不知火に殺されかけるし、野戦バカ(川内)が起きそうになるし、なんか青葉いねぇし、あいつ外泊許可取ったんかな…

いろいろなことはあれどとりえず無事にプレゼントを配り終えた。俺が執務室に戻ってきたのは大体11時くらいだ。

 

「鈴谷は…まだいないか」

 

鈴谷とはプレゼントを無事渡せたかどうかを確認するために一度執務室に集まるように言ってある。つまりもう一度来るのだ。

俺は手の中の小箱を見た。握れば手の中に隠れそうなほどの小箱は今日買ったものではない。前々から今日のために準備していたものだ。‥‥緊張で手が震えている。大丈夫だ、何も問題はないはずだ。

 

ドアが静かに開かれ、鈴谷が入ってきた。

 

「ただいま、防。無事にプレゼント配り終わったよ…それで…」

 

鈴谷は持っていた袋の中から小さな包みを取り出した。

 

「はい!今日一日鈴谷を楽しませてくれた防にプレゼント!開けてみて?」

 

鈴谷に言われるがままに開けてみると、そこには小さな革のケースに、真新しい万年筆が入っていた。

万年筆を取り出してみると、軸には俺の名前が彫られており、グリップも手にもぴったりとなじむデザインのものだった。

 

「最近よく万年筆の調子がおかしいって言ってたから、今日別行動の時に注文しておいたの。どう?気に入った?」

 

鈴谷はやさしく笑って言った。サプライズが成功して嬉しいのだろう。俺はもっと嬉しいが。

 

「あぁ、ありがとう。とっても気に入ったよ。それで…俺からもプレゼントがあってな…」

「ん~?なに?」

 

俺は意を決したように小箱を体の前に持ってきて開けて言った。

 

「俺と付き合ってくれないか?鈴谷。今まで上司と部下の関係として頑なに自分の気持ちを否定してきたのだが、今日過ごしてみてわかった。やっぱり俺は鈴谷が好きだ。この気持ちは本物だ。これはケッコンカッコカリの指輪だが…受け取ってくれるkぐっふ…」

 

鈴谷が俺に抱き着いた。表情は見えないが、おそらく泣いているように感じられる。

 

「やっと…やっと言ってくれた…!ようやく言ってくれた!…ずっと、ずっと待ってたんだからね!」

 

鈴谷が声を絞り出すように言う。俺もつられて泣きそうになってしまった。

 

「それじゃあ、受け取ってくれるんだな?」

 

ようやく俺から離れた鈴谷は、涙目で頷いた。

俺は鈴谷が差し出した左手の薬指に、そっとカッコカリの指輪を嵌めた。

鈴谷のからだが一瞬淡い光に包まれ、すぐまた戻った。これでケッコンカッコカリは完了、強さが飛躍的に上がることとなった。が、今の俺たちにとっては戦闘力の上昇など些細なことであった。

 

お互いに抱き合い、思いが通じ合ったことを喜び合った。

 

 

ーー

 

「それじゃ防、また明日ね」

「あぁ」

 

それからしばらくして、今日はもう遅いから、という理由で解散することになった。鈴谷と俺は執務室を出てそれぞれの自室に向かうことにした。

 

自室に戻り、電気とストーブをつけてベッドに腰かけ、ひとりでガッツポーズをしていると、部屋の扉がノックされた。

 

「誰だ?消灯時間はとっくに…鈴谷?」

 

俺は体裁を整えてから扉を開いて言うと、そこには先ほど解散したはずの鈴谷がいた。

 

「熊野が…部屋のカギ閉めてて…それで私鍵持ってきてなくて…泊めてもらってもいい?」

 

鈴谷が先ほどの泣き顔とは打って変わって、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。

 

「…それはしょうがないな。泊まっていけ」

 

どうやら今夜は長くなりそうだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、プレゼントに沸き立つ艦娘と、鈴谷の朝帰りが青葉の新聞で発覚して鎮守府がちょっとしたお祭り騒ぎになったのはまた別の話である。

 

 

Fin




あ^~書いててほんわかするんじゃあ
というわけで、今回はクリスマス短編という名の筆者の自己満足回でした。いやはや楽しかった。

誤字報告等、ありましたらお願いします。


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番外編「七夕」

久しぶりの番外編ですどうも。
クリスマス編に引き続き番外編の時空は本編のどことも関係がありませんのでご注意を。誰も死んでないし誰もケガしてません。

今回のこの話は起承転結とか何も気にせずに多分こんな感じの日常ってのを書いただけです。多分飽きます。


 ある平和な夏の日の昼下がり、俺はクーラーから提供される涼しい風に当たりながら執務をしていた。

ここ最近は深海棲艦の活動があまりなく、艦娘たちの間では「夏バテでは?」などと囁かれている。当鎮守府はほぼすべての場所にクーラーが支給されているので夏バテはあまり起こらない。皆思い思いの事をしながら休暇(のようになってしまっている通常勤務日)を過ごしている。

 だが、そんな暇な時間をうまく使えずに持て余す子もいる訳で……

 

「司令官!」ドアバァン!

「青葉、ノックをしろ。ドアはやさしく開けろ。やり直しだ」

 

「司令官!」アオバァン!

「結局ドア開ける力は変わら…まて、音がおかしくないか?」

「気にしたら負けです!つまり提督の負けです!」

「えっ待って、めっちゃ納得いかない」

 

とまぁ、このように執務中にもかかわらず突撃隣の執務室してくる輩がいる訳だ。賑やかなのはいいことだ。仕事は進まないが。

 

「それで?新聞記者(青葉)が一体何の用だ?」

「よくぞ聞いてくれました!司令官、今日は何の日ですか?」

 

何の日…だと?今日は何月何日だったかな…?

 

 

カレンダー「7月7日ダヨ」

 

 

「七夕だな」

「えっ!?よく分かりましたね?」

「おういい度胸してんじゃねぇか表出ろ」

「まぁという訳でして、七夕パーティーをやろうと思うんですよ」

「おい…はぁ、それで?」

ちっちゃい子ら(駆逐艦たち)にはサプライズにしたくてですね、材料を…」

「私が責任をもって買って来よう」

「えっ仕事は」

「今終わらせた」

 

そういう話なら大歓迎だ。みんながハッピーになることなら何でもやって見せよう。

 

「じゃあ鈴谷さん呼んでおきますね」

「…なぜ呼ぶ」

「えっ?一緒に買い出し行くんじゃないんですか?クリスマス以降いつも買い出しは一緒じゃないですか」

「あー…いや、今回は鈴谷にもサプライズという事にしておこう。というか俺とお前とあと誰かとで行って他全員にサプライズにしてやるってのはどうだ」

「あっ、それいいですね!誰にしましょうか」

 

ふふん、提督たるもの妙案がポンポン出てくるものなのだよ青葉君。さて誰を連れて行こうか…

 

 その時俺は見た。まるで「家政婦は見た!」ばりの覗き方でこちらを見つめる奴らを。無言の圧力で混ぜろと言ってる奴らを…

俺は青葉の後ろを指さして言った。

 

「役者は揃ったみたいだぞ」

 

ーーー

 

 執務室にそろったのは、青葉、明石、夕張、そして意外にも鳳翔さんだ。なんでもおいしい七夕料理を皆に振る舞ってあげたいんだそうだ。材料買い出しのための外出届を出しに来たら面白そうなことが始まりそうだったから交ぜてほしいという事らしい。鳳翔さんがこういう催しに加担するのが意外だったのか、青葉は目を丸くしていた。明石と夕張は知らん。神出鬼没だからな。

 俺は改めて計画を確認する。

 

「まずここ(鎮守府)から抜けるための作戦だ。この人数でテクテク歩いて行こうものなら怪しまれるし、最悪付いてきちまう子もいるかもしてない。そこで町へは俺の自家用車で行くことにする。四人なら乗れる…はずだ。これで怪しまれることはないだろう。町に着いたら手分けして買い物だな。青葉、リストはもうあるんだろう?」

「ここに」

 

青葉は数枚の紙をひらひらさせながら笑った。目が輝いてがる。めっちゃ楽しみなんだろうな。

 

「そして、ここからは帰ってきてからだ。工廠で飾りの概形を作って、すぐさま食堂へ突撃、鳳翔さんはその間食事の準備を頼みます。そして突撃後二分以内に飾りつけを終え、全員を呼び出す。完璧だ」

「このような催し物をやるのは初めてなので、楽しみです」

 

おおう、うきうきしてる鳳翔さんの破壊力高すぎんか。この場にいる全員が尊みで死ぬぞ。

 

「それじゃあ、三十分後に工廠併設の車庫集合な」

 

ーー

ーーー

ーー

 

 その後特に何もなく町についた俺らはばらけて買い物を済ませることにした。俺と青葉で小物類、明石と夕張は笹とかその辺、鳳翔さんは食糧全般の買い出しだ。

 

「折り紙が10セット…短冊用の厚紙5セット…なぁ、青葉」

「なんでしょう?」

「これお前らでも買えたよな。笹とか含めて」

「いやー、せっかく平和且つ七夕なんですし、買い出しも司令官と一緒に行きたいじゃないですか」

「なんだお前、今日はやけに素直というかなんというか…」

「まぁそんなことはどうでもいいんでちゃちゃっと買って帰りましょう」

「やっぱりいつも通りだった…そうだ青葉、先に戻っていろ。すぐに追いつく」

「…?分かりました」

 

追加の用事を済ませ、駐車場に戻ってくると俺の車から笹が生えていた。どうやら絶賛笹を積み込み途中だったようだ。

 

「おい明石!これどこで取ってきた!?」

「その辺の山です!」

 

これ町に出てくる必要本当になかったんじゃ…?

そう思いながらトランクを覗くと食材の袋はもうそこにあり、鳳翔さんの買い物が終わったことを示していた。

 

「恐ろしく早い買い出し…俺は見逃したね…」

「司令官、ボケてる暇はないですよ。帰りましょう」

「辛辣ゥ…」

 

ーー

ーーー

ーー

 

 鳳翔さんは重たい袋を抱えて厨房へ、俺たちは材料を小脇に抱えて工廠に向かった。

 

「明石、クーラーだ!」

「はいっ!」

「夕張!机の上を整理しろ!」

「誰が夕張メロンだってぇ!?」

「言ってねぇよ!?」

「青葉、ステイ」

「私何もしようとしてませんよ!?」

 

広めの机の上に積まれていた書類を手で払いのけ、買ってきたものたちを荒々しく置く。

何かの缶に入れてあるハサミと糊を人数分取り出し、配った。

 

「目標は二時間だ。五時には終わらせていつもの六時からの飯に合わせるんだ。作るのは厚紙で短冊、折り紙で会場に張り巡らせる用の鎖、あとは笹につける吹き流しとかだ。どんな飾りがあってもいいぞ。とりあえず作るんだ」

「「「了解!」」」

 

「俺と青葉で鎖、メロンは短冊、明石は飾り全般だ。もし買って来た材料がなくなったら他の人のところを手伝うように」

「今メロンって!メロンって言った!」

 

夕張が何か叫んでいるが気にしない。紛らわしい名前をしているのが悪いのだ。

 

ーー

ーーー

ーー

 

「で…できた…」

 

 約二時間後、俺らは飾りを完成させていた。誰だサプライズにしようとか言ったやつ。手が足りな過ぎたぞ。

いや、サプライズにするにしてももう少し人数は欲しかった。切実に。

 

「司令官、死んでる暇はありませんよ。食堂に人が集まる前に飾りつけしないと」

「…そうだな。とりあえず青葉、飾りを持て。俺は脚立を持つ」

「あいあいさー」

 

 青葉が飾りをビニール袋に入れて担ぎ、明石と夕張が笹を持ち、俺は脚立を小脇に抱える。

 

「食堂の裏口まで競争だ!行くぞ!」

 

食堂の裏口は工廠から直で行くことができる。走ってもだれかに衝突したりするリスクはないのだ。走るしか選択肢はないだろう。

 食堂についた俺たちはすぐさま飾りつけを始める。窓際には笹を立て、飾りをポンポンとつける。そして食堂全周に鎖飾りをよくある形で取り付けた。*1

 

「飾りつけ終わり!鳳翔さんを手伝え!」

「「「了解!」」」

 


 

 今日は一日提督が居なかった。執務室に行ってもいないし、そのあとすぐ工廠に行ってもいなかったし。守衛さんに聞いたら買い出しに行ったみたいじゃん?…なんで鈴谷も連れてかないのさ!いつも連れて行ってくれてたのに。私何かしちゃったかなぁ…?

 今日七夕だったから一緒にお出かけしたいとかも考えてたのに…もう一回工廠の方に戻ってみようかな…

 

「食堂の裏口まで競争だ!行くぞ!」

 

ふと聞きなれた声がして振り返ってみると、脚立を抱えた提督が青葉達と走っていくのが見えた。あっ…青葉が持っているのは…ふふ、なるほどね。提督なりに考えてくれてたんじゃん。

 確かに、提督は私に構ってくれるけど私が独り占めするのも良くないしね。たまにはみんなでワイワイパーティーするのも楽しそう!そうと決まればちょっとだけおめかししてこようかな~

 

「あら鈴谷。随分とご機嫌ですわね。提督は見つかったの?」

「おっ、くまのん。居たよ~。どうやらサプライズパーティーを計画してたみたい。私を誘ってくれてもいいのにね」

「いっつも二人で買い出し行ってる新婚夫婦がなんか言ってやがりますわ」

「新婚夫婦じゃないし!?半年くらい経ってるし!」

「論点はそこじゃねーですわーーー!」

 

えぇ…?じゃあどこだって言うのさ…

 


 

 「よし、準備終わり!俺は館内放送してくるからお前らは会場整理を頼む!」

 

飾りつけはもちろん、料理も並べ終え、あとは鎮守府全員を呼ぶだけになっていた。

青葉をはじめとする面々(鳳翔さん除く)は憔悴しきっており、椅子に座って虚空を見つめている。

 執務室についた俺は壁のマイクを取って放送を入れる。

 

『こちら提督だ。今日は七夕、という訳で七夕パーティーを用意した!ご馳走が食べたいものは食堂へ急ぐんだな!』

 

途端に鎮守府が慌ただしくなる。恐らく駆逐艦のちっちゃい子たちがダッシュで食堂へ向かっている音だろう。

そういった駆逐艦とは対照的に途中から参加しようとか思っている呑兵衛もいるだろうから追加で爆弾を投下しておく。

 

『ちなみにだが、今日のために俺が秘蔵していたワイン、日本酒、あとは本場ドイツのビールもあるぞ』

 

鎮守府の大型艦寮の何部屋かで慌ただしく準備を始める音が聞こえた気がした。

 

ーー

ーーー

ーー

 

 「みんな集まったか?」

 

数分後、食堂に全員が終結した。皆ここ最近の日常に何かスパイスとなるものが欲しかったようで、その目は輝きに満ちている。

 

「いまみんなの目の前にある料理は鳳翔さんをはじめとする厨房組が腕によりをかけた超絶豪勢な七夕料理だ。味わって食べるよーに!さて、飲み物は持ったかぁ!?」

 

俺が手に持ったジョッキを掲げると、全員が反応してジュースや酒やらのコップが掲げられる。

 

「七夕パーティーを楽しむぞ!乾杯!」

『乾杯!!!』

 

 全員の元気な声が響き、楽しい七夕パーティーもとい宴会が始まった。

憔悴しきっていた面子(青葉 明石 夕張)も笑顔で料理に舌鼓を打っている。

どれ…俺も頂こうかな……

 

旨い!!

 

こんなおいしい料理があっていいのか?ちらし寿司にそうめん、鶏むね肉巻きに春巻き、さっぱりした料理が俺たちの胃を満たす。いやぁ…準備頑張ってよかった…!うまい!うまい!

 

ーーー

 

 食事もひと段落してきたところで俺はまた壇上に登り、マイクを取った。

 

「さぁみんな、今日は食事だけじゃないぞ?只今より、ビンゴ大会を開催する!」

 

食堂が歓声に包まれる。酔いも回り始めている戦艦や空母の面々のノリ具合が特に異常だ。

 

「ちなみに景品は間宮券。サブでほとんどのお願いが通る魔法の書類がついてくるお得仕様だ」

 

より一層熱気が濃くなった気がする。メインよりサブで会場が沸き上がったのは気のせいだろう。

 

「予めビンゴシートは各員に配っておいた!完全ランダム配置だから公平だぞ!…それでは行くぞ。最初は…25!」

 

一部で歓喜の声が聞こえる。いろんなところから聞こえることからちゃんとビンゴシートは分散しているようだ。

 

ーー

ーーー

ーー

 

 「さぁ、玉も残り少なくなってきたぞ!残りの商品数は2つ!」

 

順当にゲームは進み、5つ用意していた景品のうち3つは吹雪、明石(ヤベー奴)防空棲姫(もっとヤベー奴)に渡っていた。残り2つの間宮券を狙って会場は白熱していた。

 

「次は…67!」

「ぐっ…66ならあるのに…!」

「ま、またリーチができた…!」

「ない…不幸だわ…」

 

前言撤回、阿鼻叫喚である。そんなに皆間宮券欲しいの…?いやまぁ気持ちはわからないでもないんだけど…

 

「次行くぞー。えっと、12!」

「くっ…」

「確率とはこうも残酷なものか…」

「不幸だわ…」

 

そんな時、段々とカオスになっていく雰囲気を切り裂くような声が上がる。

 

「やった!ビンゴ!」

「こちらも…五航戦と同時なのは不本意ですが当たりました」

 

なんと、ビンゴが同時に二人出たのだ。

 

「おー、すごいな二人同時だなんて。それじゃぁ、瑞鶴と加賀の二人に残りの景品を渡して、今回のビンゴ大会は終了になる。ちなみにだけど当たらなかった人にも鳳翔さんと間宮さんが作ってくれたお菓子があるから、受け取ってから帰るように。以上、解散!」

 

 ビンゴが当たらなくて気を落としていた子たちもお菓子の事を聞いて喜んだみたいだった。よかった…鳳翔さんにお願いして作ってもらって本当によかった…!

 

 もう夜も遅いためパーティーはこれで終わりになる。秘書艦(鈴谷)に声をかけてから俺は食堂から執務室に向かうことにした。明日の分の仕事を進めておこうかと思ったのだ。

 

「鈴谷。パーティー後で悪いんだが仕事があってな。もしこの後暇だったら執務室に来てくれ。来なくても大丈夫だ」

「あ、おっけ~」

 

ーーー

 

 結局それから数時間がたった頃、鈴谷はやってきた。

 

「提督、仕事まだある?」

「あるぞ~。ほれ」

 

そう言って書類を隣の机に置く。鈴谷がテーブルに着いたのを見計らって俺は話を切り出した。

 

「鈴谷」

「なに?プレゼント?」

「えっよく分かったな」

「えっマジ!?」

 

二人して驚いてしまった。

 

「いやな、クリスマスの時に鈴谷は俺に万年筆プレゼントしてくれたじゃないか」

「あー、提督がくれたものが大きすぎて忘れてた」

 

指輪をこちらに見せながら冗談めかして鈴谷が言った。

 

「ハハハ、それで、あの後鈴谷用の万年筆も注文しておいたんだ。気に入ってくれるといいんだが」

 

そう言って俺は今日文具屋に受け取りに行った小さな革ケースに入った万年筆を鈴谷に差し出した。

木目調のグリップに控えめな装飾が施されており、”鈴谷に似合うだろうなぁ”の一心で価格を気にせず買ったものだ。結果として俺が使っているモデルと同じものになったのは偶然だろう。はたして受け取ってくれるだろうか。

 

「めっちゃ嬉しい!しかもこれ提督とお揃いじゃん!マジ嬉しいんだけど!」

 

鈴谷ははしゃぎながらそれを受け取った。やはり鈴谷には笑顔が似合う。万年筆はとても気に入ってくれたようだ。

 

「早速明日から使うから!ありがとう提督!…あ、私何も用意してないや…」

「いやいやいや、普通七夕って贈り物する日じゃないから。大丈夫、気にしないで」

「えー、でもなんかなぁ…あっそうだ」

 

鈴谷が何かを思いついたように俺に近づいてきた。

瞬間、頬に何か柔らかいものが触れた。

 

「えっ、ちょ、鈴谷…」

「お、織姫からのプレゼントだよ!また明日っ!」

 

 鈴谷は顔を真っ赤にして執務室を出て行った。小さな革ケースを大事そうに抱えながら。

俺はというと鈴谷の感触が残る頬を片手で押さえて放心していた。

 鈴谷とのスキンシップはお互いに奥手なところが災いしほとんどなかった*2ため、今俺は非常に驚いている。もちろんいい意味で。

 

「あっ、鈴谷帰っちゃったじゃん!?」

 

仕事が二倍に増えた(元に戻った)ことに気づきげんなりしつつも、俺は手を動かし始めた。今日はなんだか頑張れそうな気がする。ふむ、これを鈴谷パワーと名付けようか。

 

ーーー

ーー

 

後日、執務室での一件がまた青葉新聞にすっぱ抜かれ、鈴谷が赤面し、提督が青葉を追いかけまわすという事が起こるのだが、それはまた別の話である。

 

Fin

*1
UUUUUUみたいな感じ(伝われ)

*2
本人の感覚。正直鈴谷が秘書艦の時の執務室は他の子たちが居続けられない雰囲気だった。




読者「こいついっつも鈴谷に何かあげてんな」
ワイ「鈴谷しか勝たん」

ここまで読んでくださりありがとうございました。久しぶりなので些か変な個所はあると思いますが多少のミスには目を瞑っていただけると幸いです(笑)
文字数も少ないですがご容赦を。今の自分にはこれが限界でした。

誤字脱字、または不適切な表現等ありましたらご指摘いただけると幸いです。それではまた。


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