Infinite ARMS -ALLICE- (X-ARMYのキャロルちゃん推し)
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転生(リーインカーネーション)

欠損の描写があります。ご注意ください。


 日本国、表向きは無人島とされているその地下のとある秘匿された研究室にて。

 

 

 

「A11番の様子は?」

「深く眠っています。肉体的な疲労は無いはずなので、精神的なものかもしれませんが」

「アレが? まさか。そんなタマならここまで生き延びてねぇよ。Aっつったらここの研究所が人体研究を始めて最初期の製造番号だぜ?」

 

 

 白衣を着た男が二人、ガラスの向こうで眠る少女と手元の機器を見比べながら会話している。

 

「正真正銘のイレギュラーだ。ガラスの子宮で育ったくせに、ほかの人造人間(ホムンクルス)に比べて驚異的な知性が()()()()()()()()()()()。まるで大人の精神をソックリ移し替えたみたいに、な」

「大人の知性、ですか。じゃあ抵抗とかあったんですかね?」

「ほんの最初だけだ。それが気持ち悪いところでな、こいつは自分が何をされるか、どうなるかもわかってて──その上で、抵抗しねぇんだ。諦めたみてぇに」

 

 

 やや言葉遣いの荒い方の男は、口元に厭らしい笑みを浮かべた。

 

 

「だからよ、俺は期待してるんだ。こいつに知性しか残らなくなったとき、どういう反応を示すのか。その為に目も潰したし、今日は四肢を切断した」

「あ、あの怒涛の実験申請は先輩だったんですか。道理で」

「明日は耳も潰すつもりだ。はは、楽しみだな……精々楽しませてくれよ?」

 

 

 後輩である男は『どうかしてる』と思ったが、それを自分が言うのは滑稽な話だった。ここの研究者はどこか頭のネジが外れた犯罪者ばかりだ。非合法の研究所とは得てしてそういうものである。

 

 

 

 

 

 

 

 やあやあ。初めまして。私は『A11番』、ここで実験用モルモットをやっているよ。因みに転生、或いは憑依というやつだ。前世もしっかりと覚えているとも。平和な日本でそれなりにオタク文化を楽しんでいた私は、気が付いたら幼女になっていた。

 

 混乱してあることないこと口走ったのが悪かったのか、一人の研究員に目をつけられて、そこからはもう地獄。その研究員は特に私の脳に興味があるらしくて、感覚器をそぎ落とすことで脳のリソースを思考につぎ込めるようにしたいらしい。ほら、目が見えなくなった代わりに耳がよくなった、みたいな話聞くでしょう?つまりはあれの延長線ってことだね。まあこうやって心の中で一人で延々としゃべってるわけだし、効果はあるんだろうと思う。

 

 因みに、今は自室で寝っ転がってるって状態。四肢が無いから寝返りも打てないし不便なことこの上ないけど、まあ諦めた。歯も抜かれちゃったから舌噛めないし、本当に考えることくらいしかやることがない。仕方ないから前世で観た作品でも思い出してみようか。

 

 うーん。よし、今日は『ARMS』にしよう。

 

 

 『ARMS』は漫画だ。私のお気に入りのね。主人公の高槻涼(たかつきりょう)は、不思議なことに右手の傷があっという間に治る体質だった。それもそのはず、彼の右手は『ARMS』というナノマシンが埋め込まれていたのだ。いつもは人間の姿に擬態しているが、コアチップが起動すれば戦闘へと適した形態に変化し、経験によって進化していくという。

 

 彼は友人であり左手にARMSを持つ新宮隼人(しんぐうはやと)や両足にARMSを持つ巴武士(ともえたけし)達と、ARMSとは何なのか、自分たちはなぜそれを移植されたのか、そして彼らを狙う秘密結社エグリゴリの打倒を目指し困難を乗り越えていく……といったストーリーだ。

 

 

 ……え?知らない? でもさ、アレは知ってるんじゃない?家に入ってきたテロリストに人質に取られた主人公のお母さんが、「しょうがない子ね」とか言いながらいつの間にかハンドガンを持ってて、テロリストの頭を吹っ飛ばすシーン。そのあと銃撃戦に発展して、敵も思わず「馬鹿な! 普通の主婦がなんであんな武器を……? M60だぞ!?」とか言っちゃうの。

 

 もしくはARMSが覚醒するときのセリフ「力が欲しいか? ──力が欲しければ……くれてやる!」ってやつ。

 

 

 あ、駄目?そっか。ところでさ、さっきからしきりに鳴り続けてるこのサイレン何事?

 

 

 しかもサイレンとは別にすごい音もするんだけど。うわ、なんかだんだん大きくなって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その()()は、情緒という点においてまだ赤子だった。長い間自分以外の存在を知らないまま宇宙を旅してきたがゆえに、孤独すらも知らなかった。

 

 

 その鉱物は、旅の途中でとある惑星の引力に惹かれた。大気圏の摩擦に耐えるために組織組成を硬質にし、宇宙にありがちな隕石の形となって地上に落下した。墜落地点はとある島だったが、奇妙なことに、その島に近づくにつれわずかに速度が減衰していった。どうやら島を覆うように斥力の層が展開されているようだ。

 

 好都合だと鉱物は考えた。以前別の星に墜落した時には、落下の衝撃で一部が破損してしまったのだ。しかも地面に埋まり、脱出するのに労力を要した覚えがあった。それを少しでも避けられるならと、鉱物は抵抗を受けやすい傘のような形に変形した。

 

 やがて斥力層を押し通り、島の地表へと着地した──のもつかの間、さらに地表をもぶち抜いて鉱物は地下へと進むことになった。幾つもの()()()()()()()()()()()を突き破り、勢いが止まる頃には鉱物は地下数十メートルのところまで来てしまっていた。

 

 

 地上に出る方法を模索する鉱物の元に、何か音が響いてきた。

 

「一体どうなってる!」

「いてぇ、いてぇ」

「観測されていた隕石です!」

「数値が安定しません!基準質量をはるかにオーバーしています!」

 

 

 初めて感じ取る音だった。それに惹かれるように鉱物は体の一部を変性し、硬質な触手にして音源に伸ばす。

 

 

「クソ、施設の復旧を急げ!惠良技術のあるものは負傷者の確認と手当を──」

「局長っ!後ろに!」

「あ? ……おい、なんだよこれ。まてやめろ、やめろ!

 

 

 

 音源と接触。同時に鉱物に音源の「記憶」という電気信号が流れ込んできた。音源はどうやら群れで生活する存在のようだった。

 

 

 故に鉱物はその日、生まれて初めて感情を知った。自分を知るものが誰もいないという孤独を。その激情に突き動かされるように、鉱物は音源──いや、人間との接続を繰り返した。施設の隅まで触手を伸ばし、記憶と知識を覗き見ては悲しんだ。

 

 

 ああ、どうして誰も私を知らないのだろう。私は一体何なのだ?

 

 

 どうして一人なんだ?

 

 

 

 ふと、鉱物の耳にわずかに声が聞こえた。きっとこの施設にいる最後の人間だろう。壁を貫き、通路を拓き、その人間の元へと向かう。

 

 

「すいませーん。誰かいらっしゃいますか?」

 

 

 その人間は腕や足と呼ばれる器官が無かった。先ほど見た記憶からこの人間は実験体なのだということが分かる。鉱物はその頭に触手を触れさせ、融合して知識を覗き見て、

 

 

 そして、泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ。私の名前は……アザゼル(ARMSの始祖)っていうんだね。

 

 

 

 



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融合(フュージョン)

『』内はアザゼルのテレパスです。


 サイレンと轟音がやんだ後、辺りには叫び声が充満していた。耳を澄ませば何か助けを呼ぶような声も聞こえる。

 

 ところが不思議なことに、しばらくすると悲鳴が止んだ。この時私は、轟音の正体は軍隊とかの襲撃ではないかと想像したのだが、にしては発砲音が聞こえない。まあ人造人間なんてトンデモ技術のある世界で、まともな発砲音のする銃が使われているかと言われれば怪しいところではあるが。

 

 ともかく、自分も声を上げてみることにした。ここで一人でいるよりはマシだろう。

 

 

 

「すみませーん。誰かいらっしゃいますか?」

 

 

 返答は何か金属を叩くような、貫くような音だった。もしかしたら襲撃者は人じゃない? この施設は対エイリアン用の兵器開発のためだったりして。怖いなぁ、戸締まり……できないんだったわ。手が無いからね!

 

 頭の中で茶番を繰り広げているうち、音を立てていた何かはすぐそばまで来ていた。ふとおでこに冷たい感触を感じる。

 

 

「──ぐぅっ!?」

 

 

 そして、私と()()の意識が混ざった。私は()()の数百万年の孤独な旅のごくわずかを覗き見て、()()は私の──おそらくは前世含む──記憶を見たのだろう。テレパスのようなものが直接脳内に送られてきた。少しつたない日本語だった。

 

 

『あなたはわたしをしっているの?』

「……見えないからわからないなぁ」

『じゃあ、みえるようにしてあげる』

 

 

 その言葉の意味をかみしめる前に、私の目を何か金属のようなものが覆った。不思議な密着感を感じる。それと、少しむず痒い。

 

「ねぇ、見えるようにするってどうやって?」

『ろんよりしょうこ、っていうんだっけ?まあみててよ』

 

 やがてぴったりくっついていた金属製アイマスクが取れた。私は閉じた瞼ごしに、数か月ぶりの光を感じた。

 

「……そんな……本当に……?」

 

 恐る恐る瞼を開く。見覚えのある部屋、破壊されたドア、視界の端にちらちら映る金色の髪、それと……私の額に触手を触れさせている岩塊のようなものが見えた。それがただの岩塊でないことは、表面に人間の、ここの研究者の苦しむような顔の模様が浮かんでいることからわかる。

 

 私はこれとよく似たものを知っている。アザゼルだ。

 

 

 

 アザゼルとは、『ARMS』において物語の根幹を成す存在である。その正体は地球外から飛来してきた鉱物生命体だ。軍事結社『エグリゴリ』は実験によってアザゼルがヒトとの融合を求めていることを突き止め、適性のある人間を選び出しアザゼルの一部を移植した。例えば右腕とか。それがARMSと呼ばれるものだ。

 

 

「いや、ありがとう。まさか再び見えるようになるなんて思ってもなかったよ。改めて自己紹介しよう、私はA11番だ。君は宇宙から来た鉱物生命体で間違いないかい?」

『たぶん、あってる。あなたのきおくのなかに、わたしとにてるすがたがみえたの。それはたぶんわたし」

 

 

 不思議な話だった。つまり漫画の登場鉱物が現実世界に現れて、たまたまその存在を知っていた私と出会ったというわけだ。

 

『私のことを知っててくれて、うれしい』

「なんとなくわかってきたぞ。君も人間と融合したいって感じ?」

『それは正確じゃないわ、私を知っててくれた人。私はもう、一人で宇宙をさまようのは嫌なの。だから、私が融合したいのはあなただけ』

 

 

 そう伝えてくるやいなや、アザゼルは私の体に触手を伸ばし、包み込んだ。腕も足もないので私は為すすべなく飲み込まれていき、ついに首から下がアザゼルに飲み込まれた。

 

「ちょ、ちょっと待って?なんか体の感覚がないんだけど!」

『いったん分解して作り直すの。理解、分解、再構築ってやつね』

「それ違うやつじゃない!?」

 

 そっかー、記憶覗き見たんだったらほかの作品だって見たよね。アザゼルがどんどんオタク文化に染まっていく……。

 

 

『……おっけー!あとは圧縮して終わりよ』

 

 見ると体を包んでいたアザゼル自体が徐々にしぼんでいき、やがてそこには()()()()な私の体だけが残った。

 

「おお、すっごい」

『動かしてみて。こっちで筋肉の電気信号とのすり合わせをやるわ』

「よくわからないけど了解」

 

 

 試しに右腕を上げようとすると、少し遅れて体が反応した。もう一度やると、今度は思った通りに動いた。なんとなく言いたいことが分かったので、その辺を歩いたり跳ねたり踊ったりしてみる。

 

『うん、こんなものかしら』

「大丈夫そう?じゃあさっさと逃げよう、エグリゴリに見つかったら面倒だし」

『エグリゴリ?この研究所は関係なかった気がするけど……まあ、いいかしら。では、強く願って。願う心がARMSの力になる。でしょ?』

 

 

 

 その通りだ。私は記憶の中の姿を強くイメージする。

 

『──そうだ。A11なんて名前つまらないわ。私がアザゼルなんだから、貴女はアリスと名乗るべきよ。見た目も寄せたんだし』

「そりゃ名案だ」

 

 アリス、それは原作でアザゼルと適合した最初の人物だ。金髪の少女。

 

『さあアリス、願って。願うことがARMSの力になる、そうでしょ?』

「そうだね」

 

 

 記憶の中のとあるARMSを強くイメージする。それは両足のARMS、白兎(ホワイトラビット)。第一形態では、脹脛のスラスターから空気を噴射することで高速移動や超跳躍、短時間の飛行を可能にする。

 

 

『ねえ。──力が欲しい?

「ああ、欲しい。ここから逃げ出して、自由になるための力が」

力が欲しいのなら、くれてやる。()白兎(ホワイトラビット)、所有者の足となり翼となりて導くもの、勇気を司りしもの

 

 

 全身に回路のような模様が走り、体が作り変えられていく。足はウサギのように曲がり、全身は滑らかな曲線をもつ甲冑のように覆われていく。その姿は機械のようでもあり、生物のようでもあった。全長はおよそ2メートルほど。頭部にはこれもウサギのような角が生えている。そして何よりも特徴的なのは、背部の蝙蝠のような巨大な羽。骨格に当たる部分には噴出孔が備わっている。

 

 これが白兎(ホワイトラビット)、第二形態。

 

 

 

「さあ、行くよアザゼル。一緒に世界を見に行こう」

『……ええ!とっても楽しみだわ!』

 

 

 圧出空気、噴出開始。羽から勢いよく空気が噴き出し、体が宙に浮く。

 

『もっと、もっと願うのよ。そうすれば私たちは音速だって超えられる。誰も止められない』

「空の遥か彼方まで……どんな風よりも、音よりも光よりも早く飛び越えろ!白兎(ホワイトラビット)!」

 

 

 

 

 

 

 

 その日、とある無人島から、亜音速の人型物体が飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正直な話、見た目に関しては私の表現より実物を見た方が分かりやすいしかっこいいと思います。実は一番描写が難しいのは何かに例えにくい白兎なんですよね……。


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天災(カタストロフィー)

勢いで書いているので文体がおかしかったりするかもしれませんが、隙を見て直すことにします。未来の私に丸投げともいう。


「視界良好。さあ、どこに向かおうか?」

 

 

 上空およそ数百メートルを飛びながら、アザゼルに尋ねてみる。

 

『そうねー。やっぱり、人が多いところがいいわ。貴女から離れるつもりはないけれど、ほかの一般の人間も見てみたいの』

「うーん、そうすると大都市か……ああでも私、多分戸籍なんてないんだよなぁ」

 

 

 私が外国語を話せないので、日本から離れるのはとりあえず無し。田舎であれば身元不明の少女でも面倒見てくれる人が現れたり……するのかな? いやでも田舎って排他的とも聞くよなぁ。

 

「そういえばさ、三月兎(マーチ・ヘア)みたいに光の屈折を操って、風景に溶け込むなんてことは出来ないの?」

 

 そう尋ねるとアザゼルは少し残念そうな口調で答えた。

 

『知識が足りないの。あの研究所の人間って人体知識ばかりで、高度で専門的な物理演算をする人間がいなかったみたいなのよ』

「残念。じゃあ学習も今後の目標だね」

 

 そうこう言っているうちに陸地が近づいてきた。私は目に力を込め、ARMSを起動させる。

 

ハートの女王(クイーン・オブ・ハート)

 

 

 それは両目のARMS。第一形態では大気の動きから筋肉の収縮まで視界のあらゆる情報をつかみ取ることが出来る。変形は特になし。その眼で地上を確認し、人がいないことを確認してからゆっくりと何処かの砂浜に着地した。ARMSを解除すると、肉体が普通の少女のものに戻った。ただし、服はダメになった。白兎(ホワイトラビット)のサイズには小さすぎて、破れてしまったのだ。

 

「とりあえず脱出成功!」

『おめでとう』

 

 

 一先ず自由になった喜びを噛み締める。裸の解放感とか、抜けるような青空とか、波際の貝殻とか、ジェットにんじんとか、全てが輝いて見え──

 

『あれ、何かしら?』

 

 ハートの女王(クイーン・オブ・ハート)により強化された視力が、遥か遠くに空飛ぶ人参を見つけた。

 

 そう、ジェットにんじんである。ジェットにんぢん空飛ぶにんぢん、とは誰の歌だったっけか。

 

「なんぞ?あれ」

『こっちに近づいてきてるみたいだわ』

「追手?あのふざけたフォルムで?誓って言うけど、エグリゴリはそんなお茶目な組織じゃないよ」

『知ってるわよ、記憶見たんだから。ねぇ、そんな事より、もうすぐこの砂浜に来てしまうわ』

 

 やばいな。白兎(ホワイトラビット)ほどじゃないが、結構な速度で近づいてきてるぞ。

 

「逃げた方がいいかな?」

『仮に私たちのことを追いかけてきたのなら、ARMSの形態移行も見られているかもしれないわ。もしそうなら、今後のためにも目撃者を放っておくのは悪手ね。最悪も覚悟した方がいいわ』

「……そう、だね」

 

 ARMSは『腕』という意味ではなく『兵器』という意味である。作中で戦闘生命と語られていたように、戦いに関して人間の追随を許さないものだ。私は左手に僅かに力を込め、騎士(ナイト)をいつでも発動できるように構えた。

 

 

『着陸まで5……4……3……2……1』

 

 

ドォン!

 

 

 共にニンジンの先端が地面に突き刺さり、そのあと縦に二つに割れた。その中から人影が飛び出してくる。

 

「捕まえたぁ!」

「なにごとっ!?」

 

 

 砂埃が巻き上がる中砂浜に押し倒されて、ぐぇっと声が漏れた。やはり敵襲か、と体に力が入るが、それを押しとどめるように相手の手が重ねられた。

 

「ふ、ふふ、最高だよ。後にも先にもこんなに興奮したのは初めてかも」

「ロリコンの方ですか?」

「失礼だね君!」

 

 因みに脳内ではアザゼルが『なるほど、これが百合なのね』などとほざいている。余計な文化を吸収するんじゃない! そう注意しつつ私はハートの女王(クイーン・オブ・ハート)で相手の顔を観察した。ピンクの髪になんか機械的なウサミミを付けた女性である。

 

「どちら様ですか?」

「あー、私のことを知らなくても無理はないよね。私は天才科学者の束さんだよ。君に名前はあるのかな、宇宙の旅人君」

「束さん、ですか。私はアリスです。それで、天才科学者さんが私に何の用ですか?」

「そうだねぇ、それを説明するためにも……一緒に来てくれないかい?」

 

 束さんはそういって私を起こした。私はざっと脳内でメリットを並べ立て、アザゼルと相談した。アザゼルの望みは人と触れ合うことだった。 

 

 

「ねぇ束さん。この世界には、様々な人と触れ合えて、専門的な技術が学べて、戸籍とか身寄りのない少女でも暮らすことが出来る都合のいい施設とか、あったりする?」

「──あるよ。一つだけ、とびっきりのが。じゃあこうしよう。君をそこに通わさせてあげるから、私の物になってよ」

「やっぱりロリコンじゃないですか」

「違うよ!君のことを隅から隅まで調べたいだけだよ!」

 

 

 ハートの女王(クイーン・オブ・ハート)を介して見ても、不自然な心拍上昇は見られなかったし、きっと束さんの言う興奮は科学者的な意味なんだろう。

 

『付いて行ってもいいんじゃないかしら。最悪魔獣(ジャバウォック)に任せて全部壊して逃げればいいだけよ』

 

 

 それは最終手段である。まぁアザゼルもこう言っていることだし。

 

「まあ、いいですよ。答えられないこともありますが、それでも良ければ」

「ふふ、私を誰だと思ってるんだい?文字通りの()()だぜ?訊くまでもなく、すべて解き明かしてみせるよ!」

 

 

 私は差し出された手を握った。これが、私とこの世界のファーストコンタクトだった。君だって知っているはずだ、不思議の国へとアリスを誘う案内人は──いつだって兎なのさ。たとえそれが機械製だったとしても、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




束さんの口調とダヴィンチちゃんの口調が脳内で混ざり気味。まじめな対応のガチ天才ってなかなか創作物で見ない気がする。どっちかと言えば飄々としてたり、人の心が分からなかったり、底抜けに明るかったり。


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学園(スクールライフ)

これも推敲してない。後で直すつもり。


 IS。正式名称をインフィニット・ストラトス。束さんが開発した「大気圏外活動用強化服」であるが、現在はその高性能故に兵器転用されているものもあるとか。

 

 IS。それは私の前世に存在したラノベやアニメの作品群。だが、前世の私は『鈍感系主人公×ハーレムもの……この手のはだいぶ見たしこれは後回しでも良いかな」と見るのを先送りにしていた。で、結局見る前に死んだ。

 

 だから、ISの世界に転生したことはわかっても、原作の流れなど一切知らなかった。ああ無念。死後こうなるとわかっていればもっと見といたのに……と嘆いても後の祭りである。というかARMSじゃなかったの?エグリゴリも居ないの?

 

 束さんに「エグリゴリ」ってご存知ですか、と尋ねたら「ああ!それって天使?」と返された。正解です。

 

 それはそれとして。私、ひいてはアザゼルの願いを叶えるために束さんが提示したのは「IS学園」であった。そこであれば、(束さんには劣るものの)各国から優秀な人材が集まるし、海外の人間も日本語を使うし、専門的な知識も学べるし、沢山の人と触れ合えるとのこと。そりゃ良いや、と私はそこに行くことを決めた。

 

 季節が春だったのも幸いした。流石に新入生として入学することは叶わなかったが、編入生として束さんが入学できるようにするらしい。 束さんからIS講座を受けたので学業では遅れないと思う。

 

 また編入にあたって、束さんから黒いカチューシャを支給された。

 

「……なんですか、これ?反応はISっぽいけどなんか違うような」

「ご名答!これはねー、()()()()()専用のIS擬きだよ。その名も『不思議の国(ワンダーランド)』!」

「擬き?」

「そうそう。あーちゃんのそのARMSはISとは異なるテクノロジーだからね、IS学園用に別にISを用意しないといけないでしょ?でもARMSって機械親和性が異常に高くてさ、コアが飲み込まれかねないんだよね」

 

 何やら難しいことを言っている。私は束さんの言葉の理解をアザゼルに丸投げすることにした。

 

『私に装着される時点で、それはISじゃ無くなっちゃうってことよ。ARMSの発動時に同化してしまうのね』

 

 なんとなく理解した。

 

「だから、これはISのISコア抜き。勿論IS識別信号は出してるし、変身後もISとして扱われるよ。あとARMS第二形態への移行時にナゾの光を出して変身シーンが見えないようにもなってるよ!」

「無駄に高性能だ……」

「他にも色々機能付きだよー。束さんだって本当ならあーちゃんの事もっと調べたいんだよ?でも早くIS学園に行きたいって気持ちは変わらないみたいだし、それにこれも実験の一環だし。だからせめて在学中はARMSのことがバレないようにしないとね」

 

 至れり尽くせりである。まぁ対価に払ったのは卒業後の私の人生であることを考えると手放しでは喜べないのだが、それはそれ。

 

 その後何回か『不思議の国(ワンダーランド)』の展開練習をして、いよいよ私はIS学園へ赴くことになった。束さんと出会ってから僅か1ヶ月程度の間に、状況はここまで転換したのだ。うーん、すぺくたくるってやつ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは誰にでも共通することだと思うのだが、自己紹介は緊張するものだ。特に転校生とか編入生にとっては、自分以外全員他人に見えて尚のことだろうと思う。因みに私は手っ取り早く済ませてダメージを減らしたいタイプなのだが、アザゼルがいるのでここは丁寧にやることにする。私はクラスを見渡して、笑顔を浮かべつつ言った。

 

「初めまして。アリス・ティリングハーストです。いろいろあって入学時期が遅れちゃったけど、よければ友達になってくれると嬉しいです」

「見ての通りティリングハーストはIS学園の入学年齢に届いていないが、これは特例中の特例だ」

 

 私の言葉にクラス担任の織斑先生が続く。ちなみにティリングハーストって言うのは、原作でのアリスの生みの親であるティリングハースト博士から頂いている。

 

「専用ISも所持が認められている。()()()()で本人の技量が確認されたため、実技訓練にも参加してもらう。年齢は違えど、扱いは諸君と同じだ。何か質問は?」

 

 無さそうである。と言うか織斑先生に有無を言わせぬ迫力のようなものがあった。そのまま私は先生に案内され、クラスの一番端っこの余った席に座ることになった。

 

 ホームルームが終わると同時に、生徒が次々に私の席の周りに押しかけてきた。壮観である。アザゼルなんか『#すごい迫力』と脳内で呟いている。最近T○itterを知ったアザゼルは度々私の脳内でタイムラインを作る。やめてほしい。

 

「年は幾つ?」

「14です!」

 

 嘘である。肉体年齢なら生後2ヶ月、精神年齢なら20と少し。

 

「どこ出身なのかしら?」

「ふふ、多分知らない国ですよ。とってもちっさい島国なんです」

 

 小さいどころか表向きは無人島だった。束さんの手によって施設は島ごと消滅したが。

 

「飴ちゃんたべる?」

「たべます!」

 

 覚えておくと良い。束さんは研究に没頭すると平気で飯を抜く。そして最近の研究には私が必要不可欠であった。ゆえに私は割とハングリーなのだ。アザゼルも糖分は重要と言っているし。

 

「アリスさん!」

「はい?」

 

 人混みをかき分けるように私の前に出てきたのは、私と同じ金髪の生徒だった。

 

「私、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットと申します。セシリアと呼んで頂いて構いませんわ。それと、敬語も外しても構いません」

「そうですか?じゃあ……セシリア、よろしくね!」

「うっ……可愛いですわ」

 

 

 何か呟いているが聞き取れなかった。アザゼルは聞こえた?

 

『セシリアとは良い友達になれそうね』

「何が?」

『共通認識は仲を深めるのに役立つ、ということよ』

 

 アザゼルまで難しいことを言い始めると、私の脳細胞は限界を迎えるのである。私はもらった飴を舐めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もはやエセお嬢様になってしまっている。多少緩いくらいが書きやすいんです、許してください……


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