元ブラッド隊隊長・今ロドスアイランド所属ドクター (爆焔特攻ドワーフ)
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目覚め
仕事の忙しさが相変わらずですが、ちまちまと書いていこうと思います。
目覚めたら目の前でうさ耳を生やした少女が自分の名前をしきりに確認していた。
と書き始めればよくあるファンタジー色強めな小説なのだろうが、困ったことに現実だった。これまでも色んな摩訶不思議な現象に立ち会ってきたが、十年前の終末捕食の相殺なんて目が飛び出るほどの衝撃を俺にもたらした。
流石に起きたら目の前にうさ耳を生やした少女がいるほうが驚いたが。
アクセサリーのようなものではないのは時折動く耳から確認できる。
流れ込む記憶を脳内で振り分けながら、これまでの経緯の確認と何が起こったかという確認を行う。
極致化技術開発局所属の特殊部隊、通称ブラッドに所属するまでは極東支部のスラムで暮らしていて俺にとっては適合試験を受けることさえも夢心地のような感覚だったのは覚えている。
適合試験の折に記憶障害を患ったことが難点ではあったのだが。
今でもノルンなどの昔のアーカイブを見れば数百万、数千万は見つかるであろうインターネットの書物のなかにあった「転生」なる経験を自分はしていたようである。
とは言ったものの、適合試験のあのドリルを突き刺されてから「前世」というものは曖昧になり適合試験以前の異常な身体能力や虚空から物体を引き出すそれこそ魔法使いのような能力はなくなってしまったが、今思い返せばなくなってよかったものではあったと思う。
下手をすればアラガミを素手で殺せてしまうような能力が残っていれば、あの適合試験前の万能感が残っていればラケル博士や榊博士による解剖コース一直線だっただろう。
流石に身体能力が素でゴッドイーターを超えてしまうような「異常」をあの二人は逃しはしないだろう。オラクル細胞には感謝しておこうとは常々思っていた。それはそれとしてアラガミは死ぬべきではあるが。
だが、中途半端に残った知識というものはこの世界の行き詰まりも同時に自分に押し付けていた。
もし、アラガミが全ていなくなったとしてもゴッドイーターという人型のアラガミが負の遺産として残る。いくら偏食因子の抑制作用のある薬があるとはいえどこかで野垂れ死ねば新たな負のスパイラルの始まりであるし、良くも悪くも世界の文化はアラガミによって破壊されアラガミによる恩恵で成り立っているともいえる。
オラクル細胞が消えたとしたら、甘い汁を吸い続けてきた人間たちは自ら労働し一からオラクル細胞に頼らない生活ができるだろうか。終末捕食が完遂されたとしてそのあとの世界にオラクル細胞がない世界であるといえるのか。
これまで幾たびの終末捕食を行ってきた人物は皆「博士」という肩書を持っていた。 だからこそ、「不確定要素」は取り除きたかったから、「終末捕食が起こった後の世界」に対しては目を向けようとしなかったのだろうか。
かの、ヨハネス・フォン・シックザール元支部長は人類を大気圏外に避難させ、その間に終末捕食を行うことで選ばれた人のみが平和な世界に降り立つという「アーク計画」を推進していたがあれも客観的に見ればずいぶんと穴が多い計画であったのは否めないだろう。
いつ終末捕食が終わるのか、計算に合ったのかは今となっては不明であるが……。
「ドクター? ドクター・レン! 聞こえますか? 私が分かりますか?」
少女が自分に必死に呼びかけている。
目の前の少女が自分の名前を呼ぶのと同時に頭痛が広がる。感覚がおぼつかない手でゆっくりと目頭を押さえる。
自分の行動に周囲がざわつく。
「ドクターの意識が戻りました!」「アーミヤさん!」「よかった……」
石のように固い首を動かして見渡せば安堵の表情を浮かべた集団が見えた。見覚えのない服に身を包んでいる。が、襟の部分に同じ文字が入っているのが見て取れた。
「ロドス……アイ、ランド?」
自分の口から出た声は信じられないほど掠れていた。
おかしい、たとえ戦闘後に倒れていて医療班に回収されたとしてもここまで声がかすれるほどの期間眠ることなどないはず。
更に言えば、手元の違和感。適合試験を受けたから一度を除けば外れたことがない腕輪がなくなっている。
だが、自分の中にはゴッドイーターとしての力は残っているように感じる。未だ手足の感覚は戻り切っていないが、思考能力の速さを考える限り人間に戻ったとは考えにくい。
「ドクター……? 良かった……本当に良かった……ドクター……」
肘に力がこもる。感覚が遠い四肢に力を込めて体を起こす。
鈍い痛みが走るが、戦闘時の重傷ほどでもない。が、ずいぶんと久しぶりに感じる痛みに思わず顔が引きつる。
「あっ……まだ、安静にしてください! 身体が完全に安定したわけではありませ……」
近くで見ていた猫耳? の少女の言葉を手で制する。
一度力を籠めれば感覚はだいぶん戻ってきた。流石にこの状態で全力疾走などは難しいだろうが、ある程度は動けるだろう。
「き、みたちは……一体……?」
アーミヤと呼ばれた少女の目が僅かに見開かれる。それは驚愕と困惑を表していた。
「私は――――――?」
ゴッドイーターだった自分もわかる、前世の僅かな記憶も思い出せる。だが、彼女たちがいうドクターとは自分なのか?
流れ込んだ記憶にドクターと呼ばれる自分の情報は見つからなかった。
が、少女を見た時懐かしさと僅かばかりの既視感を覚えた。
ドクターと呼ばれた自分の記憶なのか?
少女―アーミヤ―が問いかけに僅かな動揺を示しながら答える。
「あなたはDr.レン。私たちロドスの一員であり―――私たちの仲間、私にとって一番大切な仲間なんです。」
「思い……だせませんか?」
少女の呼びかけに―――。
お読みいただきありがとうございました。
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邂逅
「色々忘れてしまった俺は君たちが求めるドクターではないのかもしれない。」
その言葉にアーミヤの顔が曇る。
口の中を湿らす。
「だが、例え君たちの記憶の中のドクターじゃなくても少しでも記憶の自分に追いつけるように最善を尽くそう。それが自分を起こしに来てくれた君たちに自分ができることなんだ。」
真っ直ぐにアーミヤを見据えて意思を発した。
アーミヤは、俺の言葉に少しだけ気が楽になったようだ。
場の空気が緩む。
肌が焼け付くような静けさから安心感を与える和やかな雰囲気に。
アーミヤの背を猫耳の少女が撫でる。
息を何度か繰り返しアーミヤがなにかを伝えようとした瞬間。
切り裂くようなサイレンが鳴り響いた。
同時にアーミヤのコートから電子音が鳴る。
「すみませんドクター。 はい、こちらアーミヤ。何が………『レユニオンです!レユニオンの集団が施設に雪崩れ込んでいます!早く逃げてください!』 ドクター!ごめんなさい緊急事態のようです。」
「大丈夫だ。聞こえていた。緊急事態なのだろう?ならば一刻も早くここから立ち去るべきだな。誰か脱出経路の確認ができる人物はいるか?」
俺が周りの人員を確認していると、アーミヤがポケットからタブレットを取り出す。
「ドクター、こちらの端末を確認してください。時間があまりないので詳しい説明は省きますがドクター専用の情報端末です。」
端末の画面に触れる。波紋が画面に広がり起動音が短く鳴る正常に起動したのか幾つかの電子音の確認の後に病院と思われる立体マップと自分達が居る部屋にある複数の光点と病院を起点に広がる無数の光点、おそらく先程の通信から類推するにレユニオンと呼ばれる団体もしくは集団の存在が表示された。
その無数の光点のうちの幾つかが病院に侵入し始めた。
何かを探すかのようにうろうろするのではなく目的地がわかっているかのように一直線に自分達のいる場所に向かってきている。
ここから近くの非常口及び非常階段に出るにはどこかでレユニオンとかち合うだろう。
「この中で戦闘訓練を受けているものはいるか?」
俺は素早くオペレーターたちに確認すると数人が手を挙げた。
「では、実戦を経験しているものは?」
誰も手を上げなかった。おそらく武装もそこまで重視していないのだろう、戦闘訓練を受けていると手を挙げたものたちも装備は軽装、先鋒もしくは牽制のための装備なのだろう。
なら、できることは一つ。
「ここは俺が前線を受け持とう。」
それを聞いた途端にアーミヤだけでなく他のオペレーターからも焦った、不安になった気配がした。
「ドクター!その必要はないです!まだ貴方は目覚めたばかりで体りょ…」
「大丈夫だ、問題ない」
目の前にあった壁を素手で抉る。多少取っ掛かる感触はあったがオラクル細胞で強化されていないコンクリート壁などゴッドイーターからすれば豆腐も同然。
抉り取った壁の一部を砕いて砂にする。
アーミヤの目は信じられないものを見るかのように見開いていた。
俺はそのまま関節をゴキゴキと鳴らして体を解す。そのまま手に相棒を招び出す。
本来ならどこかに消えたはずの相棒たる武器が勝手に収まる感触がする。
手首に腕輪が嵌り愛機とつながる感覚が全身に行き渡る。
呆然とするオペレーターたちを他所にレユニオンたちの先鋒と思わしき白い仮面に白を基調とした部隊が自分達がいた少し広い廊下にエレベーターで上がって現れる。
此方、自分を指差して何かを発すると猛然と走ってくる。
武器を交換する。一瞬で先が細いアサルト銃身が黒と紅色が美しい色を織りなすブラスト銃身に代わり躊躇いなく引き金を引く。
銃口から吹き出したのは鉛玉ーーーではなく全てを焼き尽くすかのような業火。
スプリンクラーが一斉に稼働させたそれは勢いを衰えさせずレユニオンを全て飲み込みエレベーターごと融解させて停止した。
人の焦げる匂いが充満するが、すぐにスプリンクラーによる水によって流されてゆく。
愛機を肩に担い未だ固まったままのオペレーターたちに振り向く。
「さて、これで一時は凌いだ。早くこの病院を脱出しようか?」
オペレーターたちは現実がうまく入ってこないながらもただ頷いて先頭をあゆむドクターについて行くことしかできなかった。
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