勇者リンクS’の人理修復配信RTA (はしばみ ざくろ)
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マテリアル
▼リンク・ステータス


この設定は話の展開により予告なく変更されることがあります!


登場作品

通称/ハンドルネーム

 

 

ゼルダの伝説 第一章 スカイウォードソード

大空の勇者/バードマスター

最近はどう森にはまっている。ハムスケは可愛いねぇ。

 

 

ゼルダの伝説 第二章 ふしぎのぼうし

創剣の勇者/小さきもの

事前情報なしで見た鉄血で天を仰いだ。エゼロとしばらく引きずった。

 

 

ゼルダの伝説 第三章 4つの剣

四星の勇者/守銭奴

ペットにワンワンがいる。ルピーは全てを解決します。オマエもルピー最高と叫びなさい!

 

 

ゼルダの伝説 第四章 時のオカリナ

時の勇者/奏者のお兄さん

成り代わり主人公。詳しくは前作「時の勇者に成り代わったがオチを知らねぇ」を夜露死苦ゥ!

FGOのオチは2部5章まで知ってるが・・・?

 

 

ゼルダの伝説 封印戦争後の第一章 神々のトライフォース

ゼルダの伝説 封印戦争後の第二章 夢をみる島

目覚めの勇者/Silver bow

モンハンでは弓使い。僕もアイルーみたいなオトモが欲しかったんだが??

 

 

ゼルダの伝説 封印戦争後の第三章 ふしぎの木の実

理の勇者/りっちゃん

次元と勝手に現代に遊びにいく。遊園地はUSJ派。好きなキャラはキティ先輩。

 

 

ゼルダの伝説 封印戦争後の第四章 神々のトライフォース2

ゼルダの伝説 封印戦争後の第五章 トライフォース3銃士

次元の勇者/うさぎちゃん(光)

かわいいものとかわいい服とうさぎが好き。ボクももちろん最高に可愛い!

 

 

ゼルダの伝説 封印戦争後の第六章 ゼルダの伝説

ゼルダの伝説 封印戦争後の第七章 リンクの冒険

回生の勇者/いーくん

理と次元の荷物持ち。とうらぶを気に入って刀の展覧会に行き始めた。時の愛刀をいつか借りたい。

 

 

ゼルダの伝説 時の勇者の次代の第一章 トワイライトプリンセス

光の勇者/ウルフ

時の勇者の剣の弟子。最近の趣味はガンシューティング。地味に握力が一番強い。

 

 

ゼルダの伝説 時の勇者の次代の第二章 4つの剣+

聖光の勇者/フォースを信じろ

シャドウリンクもいるよ!致命的なドジ属性。ダイスを狂わせる天才。

 

 

ゼルダの伝説 風が運ぶ新たな第一章 風のタクト

ゼルダの伝説 風が運ぶ新たな第二章 夢幻の砂時計

風の勇者/海の男

「時の勇者」の生まれ変わり。正確には敗北した時空の時の勇者。

最近はア◯プラとネト◯リを巡回するのに忙しい。

 

 

ゼルダの伝説 風が運ぶ新たな第三章 大地の汽笛

大地の勇者/銀河鉄道123

電車好きの乗り物オタク。息吹のバイクに本人より乗っている。ブゥン!

 

 

ゼルダの伝説 時空が交わる最終章 ムジュラの仮面

の中で語られる「ハイラルヒストリア」のリンク(大空の前世)

大翼の勇者/騎士

引き篭もりたい最年長。ポケモンが楽しい。Nを知って心の傷になった。どうして・・・。

 

 

ゼルダの伝説 時空が交わる最終巻 ブレスオブザワイルド

息吹の勇者/災厄ハンター

ゲーセン通いの最年少。先輩方の当たりが強い。格ゲーは最高ですわ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼共通ステータス

性別:男

属性:中立・中庸

専用クラス:勇者(ブレイヴ)

座にいないのは時だけ。大翼はいるが自分の座に引きこもって出てこない。

他の勇者のアイテムを勝手に借りてくるという無法がまかり通っているので、なんやかんや三大騎士クラスは全員適性がある。

 

 

ブレイヴ

クラスに縛られず全部持ってくる。マジで全部持ってくる。

ただリンクをこのクラスで召喚するには聖杯と同等の膨大な魔力が必要。つまり実質不可能。というかリンクを召喚すること自体が現状不可能。

聖杯を使って呼び出してもリンク側に拒否権がある。聖杯程度じゃリンクを縛れない。

なので本人にこのクラスで来てもらうしかない。

 

 

セイバー

マスターソード(ファイ)を使えるのはリンクのみ。他の剣は英雄王の蔵にあるが、リンク以外が使うのは解釈違いなので大事にしまってある。

 

 

アーチャー

お察しの通り銀の弓を気に入っている約一名の専用クラスになりつつある。

ぶっちゃけ弓矢だけなら他のクラスでも持ってこれるのでわざわざ選ぶ利点はない。

 

 

ランサー

槍=ゾーラ=水に関わる能力もここ。

ほぼ息吹専用。他の勇者は槍とか使ったことないけどあたかも適正在りますけど?みたいな顔して息吹の槍を勝手に借りて出てくるよ。

 

 

ライダー

乗り物、動物、ブーツ系。

エポナを呼べるのは時、光、理、聖光、息吹。もっともエポナは“リンク”に懐いているので、他の勇者が呼んでもちゃんと来てくれる。

つまりリンク以外には懐いてないしリンク以外は触らせるのも嫌。状況的に仕方ない場合は乗せてくれるけど機嫌はメッチャ悪くなる。

 

 

キャスター

無法魔法使い。とんでもねぇ。もう手が付けられなくなる。

ロッド、マジックアイテム、楽器なども。

 

 

アサシン

だいたい皆こっそり侵入してね?

ブーメラン、フック系もここ。

 

 

バーサーカー

爆弾、ハンマー、パワー系アイテムが一応メイン。

貰えるもんは貰っとく精神で狂化Bを付与。勇者なんてやってる奴は元々ネジが飛んでるんだよ理論で理性は保持。ただ多少ワガママになった。

好きな武器やアイテムを勝手に持ち込むので魔力を大量に消費する。

 

 

アヴェンジャー

シャドウリンク、ダークリンクが当てはまる。悪属性をもつ“リンク”は彼らだけ。

 

 

ルーラー

大空、時、息吹に適正あり。

もっとも、そういうのは趣味じゃない、らしいので必要に迫られないと出てこないだろう。

 

 

ムーンキャンサー

月に関わりのある時が持っている。

 

 

アルターエゴ

四星、聖光の専用になりつつある。ちなみに緑、赤、青、紫が二人ずついるぞ。

時の仮面の能力もここ。鬼神リンクがメイン。

 

 

フォーリナー

本来の世界から別世界に来訪した者。異邦からの降臨者。

理→ラブレンヌ、ホロドラム

次元→ロウラル

人類の脅威としてではなく「この宇宙」ならざる領域に座す高次生命(深淵の邪神)に対抗するために持っている。二人ともノリノリで来てくれるよ。

 

 

シールダー

盾は皆使うからね。でも盾で殴るくらいなら他のもので殴った方が早くない?

 

 

セイヴァー

俺らは勇者ではあるが救世主ではないんですよ。当てはまる奴はいる。

宗教的なあれそれは女神関連で散々困ったのでもう関わりたくない。

 

 



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特異点の勇者達

☆特異点の攻略状況によって内容が追加されていきます
☆予告なく修正されることがあります
☆そんな感じです







担当:特異点F

目覚めの勇者・リンク  一人称:僕

 

・パラメーター

筋力:B

耐久:B

敏捷:A

魔力:A

幸運:B

 

・主なスキル

ナイトの一族 A

生まれついての肉体の頑健さと、戦闘を続行する能力を示すスキル。

もの言えぬうさぎになったとしても足を動かすことをやめない不屈の心。剣を握ったから騎士ではなく、どんな劣勢でも高潔さを失わないから騎士なのである。

このスキルはカリスマも複合しているため、パーティに騎士・貴族・王族がいる場合ボーナス判定で+を付加。(実質的に倍加)

 

魔法使い A

エーテル、シェイク、ボンバー、魔法アイテム。複数楽器を所持していることから。ジャジャーン。

移動したいときにオカリナを吹くとどこからともなく鳥が飛んでくる。かわいい。リンク達以外には懐いていない。

 

物々交換 A

「わらしべ長者」の原典になった逸話のスキル。無用の長物でも大事にしていると、最終的には役に立つアイテムを手に入れられる。

このスキルが発動すると、取引・交渉・鑑定・売買などで不正を行うことは不可能。

戦闘中の敵の疑わしい挙動などもっての外、必ず露見する。

 

 

・概要

序列は風-目覚め-光が横並び。根はシリアス真面目系。

スレでもわりと丁寧なのだが、光(イマドキヤンキー)と風(食えない元国王)に遊ばれつづけた結果こんな感じになっちゃった。この二人に対しては煽り能力が5倍くらいになる。

不正を不可能にするスキルをもっているため、ゲームからカジノまで勝負事には必ず引っ張り出される。本人も見ているのが楽しいので問題はない。

リンクにしては珍しくコツコツやるタイプ。編みぐるみとか作る。座にはぬいぐるみがいっぱい。

 

 

 

 

 

 

 

担当:第一特異点

時の勇者・リンク  一人称:俺

 

・パラメーター

筋力:B

耐久:B

敏捷:A++

魔力:A+

幸運:EX(測定不能/あらゆる因果が絡み合っているため) 

 

・主なスキル

精霊の加護 A

精霊からの祝福によって、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる能力。

精霊・妖精達から警戒されず、交渉時の判定でマイナスを出すことがない。

リンクは功績と経歴から、妖精郷と呼ばれる場所にも行くことができる。

 

高速歌唱 A

一言で音楽魔法を発動する。使用言語は時オカ時代のハイラル語。

全てをヌルゲーにする反則技。外では空気を読んであんまり使わない。でも家ではバンバン使う。

 

鬼神の仮面 EX

銀髪赤目の鬼に変身する仮面。神性・魔属性・怪力・カリスマなどを得る。

パーティに鬼・魔・混沌属性が居る場合士気とステータスがアップ。

鬼種が持つ「ヒトとは根本的に相容れない生命」という異常性がどうしてか抑えられている。

 

 

・概要

共感力が非常に高く、(前世では)他人の強い感情に当てられて体調を崩すことも。

勇者だから真面目にやった、というよりは負の感情を向けられたくないので真面目にやったのが理想的な勇者ムーヴに見えてただけ。

素の態度が出るのはリンク達、トモダチ、ガノンドロフ(なんかされたら殴ればいいと思ってる)くらい。

カリスマというよりは魔性の男。そこに関する自覚はあまりないようだ。

なんかめんどくさい、という理由でハイラル王族関係者に会っていない。

 

 

 

 

 

 

 

担当:第二特異点

光の勇者・リンク  一人称:オレ

 

・パラメーター

筋力:A+

耐久:A

敏捷:A++

魔力:E

幸運:B

 

・主なスキル

影の世界(トワイライト)の神獣 A

黒い狼に変身する。でかい。

狼はトワイライトにおける神の使いのような存在であり、影の世界に危機が訪れると現れるらしい。

影の中に入ったり、センスを発揮したり、動物と会話したりと色々便利。

もふもふつやつやなので「お前じゃなくてわんちゃんを出せ」「うるせぇオレで我慢しろ」という会話がよく行われる。

 

剣術 A++

極められた武具の技量を示すスキル。「無窮の武練」でないのは剣のイメージが強いことと、素手でもアイテムでも狼でも強いことから。

マスターソードは勇者の半身。勇者が折れぬ限り、その刀身が曇ることはない。

・・・という逸話から精神弱体無効が含まれている。

 

野生の美 EX

金髪青目(黒目)の美しい青年(少年)、というのがリンクの容姿への共通認識であり、その中でもっとも男性的な美に寄っているのが光の勇者である。

やんちゃで不良な兄貴分。勝ち気で鋭い目。挑発するし舌打ちするし悪態をつく。一部の層からの人気が凄まじい。

 

 

・概要

無駄に怪力で頑丈で陽キャのわんこ。他のリンク達からの愛あるいじりが多い。

敵に回さなければ気のいい兄ちゃん。わりと普通の男の子なので美女も美少女も好き。でもスキルのおかげで魅了を弾くのである意味厄介なイケメンである。No!タッチですよ!でも許可が出たならまぁ・・・みたいな感じ。

狂犬 (ブチギレ)モードが出るのは現状トワプリ時代のガノンドロフだけ。なにもしてこないならいいけど何かしたら殺す。

 

 

 

 

 

 

 

担当:閻魔亭&カルデア潜入

理の勇者・リンク  一人称:僕

 

・パラメーター

筋力:B

耐久:B

敏捷:A

魔力:A+

幸運:A

 

・主なスキル

ヘンなふえ A+

笛を吹くと愉快なお供たちがやって来る。

リッキーはボクシング好きのカンガルー。お腹のポケットあったかい。

ムッシュは羽根の生えた青いクマ。ヒップアタックは鉄をも凹ます。

ウィウィは真っ赤な恐竜さん。オレサマ、オマエ、マルカジリ。

 

ふしぎなゆびわ A+

装備すると不思議な力を発揮する指輪。ふしぎの木の実で出来ている。

英霊になる時“一度に装備できる指輪は1つだけ”を“効果を発揮するのは1つずつ”に勝手に解釈し直した。コイツ・・・。

なので片手には常に2つ3つ指輪が嵌まっている。状況に応じて順番に使い、時に“たつじんのゆびわ”でパンチを繰り出してくる。コイツ・・・!

 

希望の旅路 EX

滅びの運命を悟り、嘆きの声を聞いて、異邦の旅人は立ち上がる。

初めは神器の導きでも、手にした聖剣が心根の証。あらゆる難航・難行を達成可能にする特殊スキル。

一握りの天才ではなく、どこにでもいる人間が持つ“勇気”を燃やす力。

「星の開拓者」の類似スキル。

 

 

・概要

のんびり口調の僕っ子。この可憐さでパンチが重いのは嘘でしょ。

すぐ、いけ!お供たち!してくる。シャレにならんのよ。当然みんなリンクの言うことしか聞かない。

元々一人(とエポナ)で旅をしていたのでキャンプは得意。現世にも7割キャンプしに行ってる。

四季のロッドを所持し、大地のことわりを知るせいか、存在が精霊種に近くなった。故に“人類の脅威”特攻状態が付与されるスキルを所持。

また異世界に飛んだ逸話から、外宇宙の異常識にすら干渉が可能。

 

 

 

 

 

 

担当:第三特異点

風の勇者・リンク  一人称:儂

 

・パラメーター

筋力:B

耐久:B

敏捷:A+

魔力:A++

幸運:A

 

・主なスキル

嵐の航海者 A+

「船」と認識されるものを駆る才能を示すスキル。集団のリーダーも表すため「軍略」「カリスマ」も兼ね備える特殊スキル。リンクは船長ではないが、国王としての経験が加算されているためランクが高い。

またこのスキルを発動すると「赤獅子の船」「ラインバック号」を呼び出すことが出来る。ラインバックは別に来ない・・・っていうか呼べるけどヤバそうなときに呼ぶと逆に怒られるので基本赤獅子の船しか使わない。

 

風のタクト EX

神の力を借りる事ができる指揮棒。その昔、賢者を指揮して神様を呼ぶ曲を演奏する時に使われていたらしい。

英霊として登録された際、逸話とか伝説とかでなんかやたら強化された。は?チートじゃん・・・。

タクト本来の力として、音楽系サーヴァントのステータスをアップさせる。歌手・演奏者がいつもよりノリノリになる。それを聴く人もすごく元気になる、などがある。

 

夢路を守るくじらの唄 A

海底で眠りについたハイラルとその王、そしてガノンドロフへの敬意と願いがカタチになったスキル。

どうか貴方達に安らぎがあらんことを。

呪いを解き、嘘を掬い、悪夢なんて食べてしまう。弱体解除・睡眠状態・無敵状態を付与する。

しかしリンクはこのスキルを自主的に封印している。祈りを喧伝するのは主義に反するので。

 

 

・概要

見た目は美少年、中身は老獪ジジイ。自分の顔の良さをメチャメチャ乱用してくるタイプ。

面倒見がよく、お兄ちゃんなので年下に甘いが、それはそれとしてイイ性格をしている。

好きなことは釣りと昼寝と将棋。趣味が爺くせえと光に言われて喧嘩になったことがある。やかましい座ってろワンちゃんは。

後任(大地)を可愛がりたい今日この頃。でもあんまり可愛がらせてくれない・・・さびしい・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

担当:監獄塔

リンク・オルタ 一人称:自分

 

・パラメーター

筋力:A+

耐久:A

敏捷:A

魔力:A

幸運:?

 

・主なスキル

無冠の武芸

本来のスキルとは少し異なっている。

世界中にその武具の技量を認められているリンク、の反転存在であるが故スキルを所持。

全てのランクを一段階低く見せる。真名が明かされても効果は消滅しない。

真明看破のスキルは幸運値の判定があるが、幸運値が存在しないので通用しない。

 

加虐体質 A+

戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう。

ガノンドロフと同スキル。狂化スキルに性質が近いため、あんまり使いたくない。

 

陶酔のささやき A

言論によって他者の思考を誘導し自在に操る技術と、魔術的な精神干渉が合わさったスキル。

誰の発言なのか、という思考を飛ばし、ただ言葉の意味だけを認識させる。

リンク達のもつスキルを組み合わせて作った特殊能力。

便利なので頻繁に使っている。

 

 

・概要

いわゆる英雄複合体。

勇者リンクの悪しき心から生まれたシャドウリンク、ガノンドロフの悪しき心の一部から作られたダークリンク、闇の世界のリンクの写し身。それら全てが一つの霊基に収まっている。

怠惰で残忍で無慈悲な暴君。人間嫌いで神嫌い。特に聖人は大嫌い。リンク達とは殴り合う仲。タイプ相性で負けてるので勝率は低い。

本人の自認はガノンドロフの部下。座に居ないため、そもそも英霊になっていることすら認知されていない。

状況がシリアスだったためアヴェンジャーもジャンヌ・オルタも冷静に対処したが、そうじゃなかったらだいぶ大騒ぎしていた復讐者界隈の大先輩である。

 

 

 

 

 

 

 

担当:第四特異点

大空の勇者・リンク  一人称:ぼく

 

・パラメーター

筋力:A

耐久:A+

敏捷:A+

魔力:A++

幸運:A

 

・主なスキル

麗しの君 A

スキル「麗しの風貌」の上位互換。性別看破を自動で弾く。

性別を特定し難い美しさを(姿形ではなく)雰囲気で有している。男性にも女性にも交渉時の判定にプラス修正。またこのスキル発動時は、特定の性別を対象としたあらゆる効果の恩恵を受ける。

他には時、次元、息吹が所持。

 

 

剣精霊の支援 A

マスターソードの精霊・ファイの能力がスキル化したもの。

ダウジング、情報分析、確率計算、無敵貫通、剣術パラメーターにボーナスが上乗せされる。

祝福ではないため、一時的に他者へ付与することも可能。

 

 

紅き神の守護鳥(ロフトバート)

本来は宝具。

リンクの相棒、「紅族」のロフトバード。夜は苦手な喋る鳥。

かつて空に移住した人々を導いた神の鳥であり、女神の鳥。スカイロフトの住民は、必ず自分だけの守護鳥ロフトバードを持っている。

前世から付き合いのある尊大な鳥。スカイロフトの住民は一目で自分の鳥が判別できるため個体名は付いていないが、ほかのリンクたちは各々好きなように呼んでいる。

 

 

・概要

おっとりぽわぽわな騎士の青年。他のリンク達のことはほぼ孫だと思っている。

剣を抜くスイッチがシームレス過ぎて、のんびりしたテンションのまま戦闘が終わることもある。カラテがクソ強いので特に問題は無い。

前世である大翼を除けば最年長。若い子の勢いには置いてかれがちだが、どんな状況でも慌てず動じず構えている様は、まさしく初代の名にふさわしい勇者である。

ちなみにリンク達は初代様=大空 始祖様=大翼 と呼び分けている。

 

 

 

 

 

 

 

担当:zero

大翼の勇者・リンク  一人称:私/俺

 

・パラメーター

筋力:A+

耐久:A+

敏捷:A+

魔力:A

幸運:C

 

・主なスキル

女神の加護 B

ハイラルの守護女神・ハイリアからの加護。魔力と幸運を除く全てのステータスがアップ。だが・・・。

特に誰にも言っていないが、あの時代の人間としては狂人扱いされるレベルで神のことを信じていなかった。そのためランクが下がっている。

守護女神に対する敬意はあるが、恋愛感情はない。というか神性持ちがなんとなく苦手。子ギルじゃなかったら殴ってたかもしれない、とは本人談。

 

 

 

我、大地に殉ず A

自身にターゲット集中状態を付与&自身がやられた時に味方全体の攻撃、防御、クリティカル威力をアップ&NPを獲得&毎ターンスター獲得状態を付与

我が身をハイラルと民に捧げ、国を存続させた守護騎士の矜持。

ステータスが上がる代わりに味方の士気がダダ下がりする諸刃のスキル。使うタイミングには要注意。

 

 

聖剣変成 A

神が作りし神が使うための剣・マスターソードを、人が使う人の剣に鍛え直した逸話に由来するスキル。

『終焉の者』に対する決戦兵器となったマスターソードは、しかし相応しい担い手がいなければ力を発揮しない。

七日七晩の戦いによって傷だらけになり、もはや気力だけで立っていたリンクは、己が一人で抗うよりも未来に賭けることを選択した。

「まさか生まれ変わるとはな・・・・・・」

 

 

・概要

引きこもり過重労働絶対反対勇者の始祖。zeroの時はかなり例外。

古代かつ国崩壊しかけ時代の出身なため、他のリンクと違って料理スキルが低く、動物の扱いも慣れてない。

ロフトバード?あいつの面倒は大空が見るから・・・。

騎士モードの時はシビアで冷徹。素の性格はそれこそ大空のようにおっとりしているが、時代がそれを許さなかった。

趣味は剣の手入れ、好きなものは静かな場所だが、最近は他のリンク達にゲームで遊んでもらってたりする。(下手)



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袖幕はひらめく

☆リンク以外のゼル伝キャラクター達です
☆予告なく修正されることがあります
☆最新話まで読んでから来ることをオススメします












解説席のみなさん

 

スカイウォードソード/ファイ

退魔の聖剣(マスターソード)の剣の精霊。リンク(大空)の相棒。

最近はWikipediaに対抗心を燃やしている。

剣を鍛えてくれた大翼はもちろん、マスタソードを所持していなかったリンクのことも「マイマスター」として認めている。それ以外?ファイはマスターが無事ならそれで。

 

 

トワイライトプリンセス/ミドナ

影姫

影の世界の黄昏姫。リンク(光)の相棒。

恋愛感情の存在しない男女バディ・・・だが、気ぶる奴らが後を絶たない。傍若無人で高飛車なツンデレなのも悪いよ・・・。

ウルフリンクを抱きしめて(枕)昼寝をするのが好き。

 

 

ふしぎのぼうし/エゼロ

小さき爺

ピッコルの賢者。リンク(創剣)の相棒でおじいちゃんで師匠。

無駄に元気な愚弟子(グフー)に頭を悩ませつつ、リンクと一緒に住んでいる。子人なので大丈夫です。

 

 

ゼルダの伝説 黒の魔女/無双リンク

Blue

小説本編では存在を匂わせるだけで登場していない。二次創作で人気。

ふにゃっとした笑顔が印象に残る騎士。無口というか口下手。黒の魔女にストーカーされている件を他のリンクに相談したら「抱いてやれよ」(光)「男見せろ」(風)「それは彼女のメンタルにも問題があるのでは?話聞いてこようか?」(大空)となって結局解決しなかった。がんばれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観客気分のみなさん

 

時のオカリナ/ガノンドロフ

一人称:オレ

 

・パラメーター

筋力:A++

耐久:A+

敏捷:A+

魔力:A+

幸運:B

 

・主なスキル

熱砂の玉座 EX

「ゼルダの伝説」が世界中に広まった影響で、ガノンドロフも様々な属性や概念を獲得した。

その1つが、砂漠に君臨する雷と太陽の化身。ゲルド、砂漠の民、エジプト系を総べる守護神としての在り方。

己の民と、好ましい相手に対しては王として戦士として誠実であったガノンドロフの善の部分、と言っていいだろう。

 

 

神格変成 A

かつて、終焉と呼ばれた黒き神からこぼれ落ちた魂のひとかけら。

それがヒトとして生まれた姿こそが、ガノンドロフである。

知・力のトライフォース+リンク(時)という巫の才を持つ人間がその場に居たため発現した、女神変生の亜種。マジで無意識なのでリンクは気づいてない。

このスキルは「天性の肉体」も含む。

 

 

魔法使い A+

得意な魔法は呪と雷。あと影。

時オカ時代の魔法使いは根源と繋がっているのが当たり前だった。ガノンドロフも当然通じている。

勤勉なので現代の魔術も一通り目を通しているが、興味を引かれたのは魔眼くらい。

両儀式はわりと面白い女だったので満足している。

 

 

・概要

(ビースト)の資格を持つ大魔王。最も若くて愉悦を理解している黒き砂漠の民。

リンク(時)に怨みはないしむしろ気に入っているが(美貌とか)、加虐趣味なので嫌がらせしかしない。半ギレで対処しているところを的確に煽り取っ組み合いになる。

冷酷無慈悲な盗賊王なので気に入った物は血が流れても奪うが、所有物は価値を理解しているため丁寧に扱う。

趣味はオルガンと遠乗り。自分が周りからどう見えているか、を自覚しているのでサバフェスはリンク(時)を使いに行かせた。

女神ハイリア信者とハイリアの王族は全員苦しんで死ねばいいと思っている。

 

 

 

 

 

 

 

トワイライトプリンセス/ガノンドロフ

 

――――――No Data――――――――

 

 

 

 

 

 

 

風のタクト/ガノンドロフ

一人称:ワシ

 

・パラメーター

筋力:A

耐久:A+

敏捷:A+

魔力:A+

幸運:B

 

・主なスキル

魔獣島の主 A+

大怪鳥・ジークロックを筆頭に魔獣魔物達を従えるカリスマ。このスキルは「陣地作成」も含む。

魔に住まうモノは彼の手足。闇を通して世界を見ている。クグツガノンやファントムガノンも状況に応じて繰り出してくるようだ。

玉座から一歩も動かず仕事をしたいタイプの王さま。

 

 

宿命の神敵 A

小説により様々な姿で語られるガノンドロフであるが、その立場は常に変わらない。

根本的に女神ハイリアと対立する存在であること、その不変の立場と存在意義を示すスキル。

テトラとリンク(風)のことは認めているが、それはそれ。これはこれ。魔王に堕ちた理由を忘れた訳ではない。

 

 

海原駆ける春一番 A

それは祈り。

ねじ曲がったけれど、取り戻した夢。

渇望して、渇望して、ようやく最後に手に入れた安らぎの風。

 

 

・概要

紋章を持つ者たちの因縁に振り回され、ある意味一番ハイラルに縛られていた老いた王。

ある種の挫折と諦めを知ったため、本来の穏やかさと落ち着きを取り戻している。もうハイラル関係には巻き込まれたくないので虚数空間に籠もっていたが、最近は閻魔亭に居るようだ。

リンク(風)とは酒を飲む仲。たまにリンク(時)もふらりと遊びにくる程度には懐いている。

よっっっぽどの事が無いかぎりもう武器は持たない。血のニオイには飽きたので。

カルデアに興味はあんまりない。

 

 

 

 

 

 

 

スカイウォードソード/ギラヒム

魔王の剣の精霊。魔族長。

終焉の者、ガノンドロフに使えることを至上とする忠剣。

女神と姫と勇者が関わらなければ優秀。他の悪役共を主人に代わって纏めている。

 

 

ふしぎのぼうし/グフー

ピッコロ族の魔人。紫髪赤目の美人。

終焉の者より過去だがガノンドロフより上の年代という微妙ポジ。賢者をやれる才能はあるので、ギラヒムにちょいちょい助言しつつ妥当リンクを掲げてがんばっているようだ。

本人はリンクオルタの面倒を見ていると思っているが、実際は盛大に世話を焼かれている。

 



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炎上汚染都市 冬木
プロローグ そして君は目を覚ました


あけましておめでとうございます。週一連載がんばるぞい。



空間が歪む。

 

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国神祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。多少は使えるかと思ったが――――。小間使いすらできぬとは興醒めだ」

 

 

膨大な存在が降り立つ。その空気を掌握する。

 

 

「下らない。実に下らない。やはり人間は、時代(トキ)を重ねるごとに劣化する」

 

 

“それ”は笑う。矮小さを指さして。

“それ”は嗤う。無様で、無惨で、無益だから。

 

 

「我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの」

 

 

“それ”は名乗る。星の自転を止め、世界を滅ぼすもの。

 

 

「名をソロモン。有象無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

 

 

ソロモンは見誤らない。カルデアという屑など取るに足らぬ。そしてそれは事実である。

驕っているわけではない。七つの特異点全てを消去するほどの存在と化したのなら、自ら手を下すことも辞さぬだろう。

 

ソロモンは――――“そう名乗るもの”は知らなかっただけだ。

世界の根源に触れてもなお、星の本質を理解していなかった。

故に観測された。見られてしまった。そこに居ることが確定してしまった。その気まぐれがどれほど致命的だったのか・・・。

 

ソロモンを名乗る魔術式(魔神王・ゲーディア)は分らない。ソロモンが何も感じなかった(・・・・・・)ことの理由を。だから彼には寄り添えない。

 

 

それら全てを、勇者だけが知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ベッドから飛び起きたのは美しい青年だった。

金色の髪は腰まで長く、青い瞳は眠気を纏っている。寝巻きに身を包む姿であってもその超絶とした雰囲気は隠せない。

ゆっくりと立ち上がりながらカーテンを広げ、室内に日光を差し込んでから男は口を開いた。

 

「ファイ、いる?」

「イエス、マスター。ファイはお側に」

「ちょっと聞きたいんだけどこの世界にカルデアってないよな?ないと言ってくれ」

「人理継続保障機関フィニス・カルデアのことですか?それならば南極大陸に存在していたと記録しています」

「夢じゃなかったわ・・・・・・。ちょっと初代様呼んできて・・・・・・」

 

さて、知らない方もいると思うので説明しよう。

 

たった今起床した青年の名はリンク。人々には時の勇者と呼ばれている。

彼には生涯誰にも伝えていない秘密があった。それは前世が21世紀に生きていた社会人だったことであり、かなり詳細に記憶を維持しているということである。しかし生まれ変わった「ゼルダの伝説」の世界では、記憶を使ってチート☆ということも特になかったためこの件はそこまで重要ではない。

では次に、ここは何処なのかというと――――。

 

「時~どうしたのかな?」

「初代様・・・・・・。ちょっと夢を見まして・・・」

 

マスターソードの精霊、ファイに呼ばれてきたのは「大空の勇者」リンクである。

彼らがいるこの場所は、時空の狭間に存在する時の神殿の聖地だ。

「ブレスオブザワイルド」の時代にトライフォースは再度封印された。人の手の届かぬ領域―――時の女神の聖地に。

 

そもそも時の勇者は代々、時の女神に使える一族の末裔であった。

しかしハイラル統一戦争によって一族は傷つき、聖地を開けるために必要な「時のオカリナ」と「時の歌」を王家に譲渡すると、殆どはハイラルを出て行ってしまった。

残った一族の1人であり元当主の者から産まれたのがリンクである。

世界を救い老いたリンクは時の女神に祈ると、己の持っていたトライフォースの封印を頼んだ。

 

「多分いつもの予知夢だと思うんですけど・・・。まずカルデアってところがありまして――――」

「ふむふむ」

 

女神はそれを聞いて涙した。「私の愛し子がこんなにも世界の平和を祈っている・・・!なんて尊いの・・・!私も手を貸さねば・・・!」という感情から。

「ブレスオブザワイルド」の時代、トライフォース保持者の姫は「勇者、魔王、姫の因果を終わらせる」ことを祈った。

そしてそれは叶えられた。もう「勇者リンク」が現れることはない。

故にトライフォースも世界に不要になった。行き場の無くなった神器を時の女神が預かり、そして「私の推しの勇姿が世界から消えるなんて耐えられない」という主張により、英傑達にそれ以前の過去や平行世界の勇者達の事も含めてこの事実を記録させたのだった。

 

「そういうことならみんな呼ぼうか。映像も繋ごうね」

「現地中継だ!」

「最近はもっぱらア◯プラに使われてる」

「動画見放題につかわれる神の遺産」

 

勇者やそれに匹敵する魂達は死後、人類存続を守るものとして英霊の座に招かれた。

そう、あくまで招かれた(・・・・)のだ。決定権は彼ら側にあり、呼ばれても来ない者がいた。

その一人が時の勇者であり、彼は時の女神の最後の御使いとして、トライフォースの守護者として聖地にいることを選んだ。

 

というもっともらしい理屈をつけて面倒ごとを回避したという。

だって英霊の座って・・・fateじゃん・・・。そこ繋がってんのかよ・・・。俺はニ○ニコ動画が開設されるまで外には出ないから・・・。トライフォースで現世の様子は見てるから・・・。

 

しかしそう思い通りにはいかない。英傑達の残した記録は読みやすいように書籍となり、ハイラルを飛び出して各国に広がり、そして滅びたあとも新しい文明の人々に発掘された。

勇者リンクの冒険譚とその結末はさらに広がり「勇者=リンク」という概念が成立した。同一に近い存在になったことで、抑止の座に居た他の勇者達が聖地に来れるようになったのだ。

だからといって毎日のように来なくていいんだよ??いや今回に限っては良かったけどさぁ・・・。

 

「カルデアカルデア・・・ここか」

「確か中にカルデアスっていうのがあるはず――」

 

衝撃、轟音、爆発。火花は大火に覆われる。

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。繰り返します。中央発電所、及び中央──』

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

・・・どうしていつも詰んだところから始まるんですか?



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Mela!

リスペクト:TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA(書き方の許可は頂いております)

配信難しい。難しいな?本編は予告なく訂正されることがあります。


藤丸立香は一般的な少女である。

もっと言うならば、気まぐれに献血に立ち寄る程度には善良で、南極でのアルバイト募集に応募する程度には好奇心旺盛で、揺れる館内を走り回れる程度には運動神経があって。

 

「――――せん・・・ぱい」

「うん」

「手を・・・握ってもらっていいですか――?」

 

差し出された手を握り返す程度には、勇気があった。

 

燃えさかる街は全ての希望を拒む。

幸運の残高があるならとっくに使い切っているだろう。生き残ってしまった。私は、生き残ってしまった(・・・・・・・・・)

悪い夢なら覚めて欲しいけど、この肌を刺す異常は何一つ目を逸らすことを許してくれないのだ。

どうしたらいい?私には何ができる?体が震えるのは寒さからじゃない。本能が生命の危機を察している。

サーヴァント、マスター、魔術師、血筋、特異点。目が回るほど未知の世界。

それでも。

 

「イエッサー!了解です!偉大なるマリー所長!」

「おだてようったってそうはいかないわよ。・・・ところでキミ。サーヴァントがどういったモノなのか、知識はあるんでしょうね?」

「・・・・・・・・・ないです!」

「開き直るんじゃないわよ!仕方ないわね、移動がてら教えてあげる」

 

所長曰く。

サーヴァントというものは魔術世界における最上位の使い魔である。

人類史に残った様々な英雄、偉業、概念。そういったものを霊体として召喚したもの。

英霊召喚とは、この星に蓄えられた情報を人類の利益となるカタチに変換すること。

人間以上の存在であり、人間に使える道具である。

そしてサーヴァントには七つのクラスがある――――。

 

「情報が・・・!情報が多い・・・!」

「多くても覚えなさい。こんなもの基本中の基本よ」

「うええ・・・。・・・それにしても、英霊かぁ。それって勇者リンクも呼べるのかな?」

 

空白のような沈黙だった。

突然おかしくなった空気に、立香だけが目を白黒させる。先に口を開いたのはマシュだった。

 

「先輩・・・。実は、カルデアは今までに何度も勇者リンクを英霊として召喚しようと試みています。前所長の時代から。・・・その全てが失敗に終わりましたが」

「・・・冒涜よ」

「え?」

 

吐き捨てるような言葉はオルガマリーの口からだった。

怒りと嫌悪に染まる瞳は、あられのように彼らを批判した。

 

「いくらお父様・・・前所長の方針だとしても、賛同した者がいたとしても、私はそれを勇者リンクに対する冒涜だとしか受け取れません。彼を英霊という小さな枠に収めることも、人間の道具として扱うことも、世界の危機を盾に呼び出そうとすることも。勇者リンクという偉大なる存在に対する不敬です。彼には静かに眠る権利があります。・・・召喚されなくて本当によかった」

「・・・所長は勇者リンクのこと、すごく好きなんだね」

「・・・一魔術師として敬意を払っているだけよ」

「そうだよ。所長は勇者リンクに憧れているんだ。もちろんボクもね!」

「ロマニ!」

 

緊張感が離散したことに安堵する。

勇者リンク。この世全ての勇者という概念の始まり。世界を何度も救ったその物語は、祈りと願いによって2015年まで届けられた。立香も当然読んだことがある。

 

 

人類最古のその書が発掘されたのは、シュメール王朝における伝説の王ギルガメッシュが君臨する時代である。ギルガメッシュはこの書を毎日のように読んでは、友であるエルキドゥと共に勇者について語り合ったという。

時に物語に涙し、時に物語に勇気をもらい、時に物語に知恵を授かり、時に物語の中の力を探し求めた。

ギルガメッシュはこの書を作るように神託を授けた時の女神に大いに共感し、当時持てる技術を最大限に使って市民や隣国にも広めていった。

今では立派な最古のリンクオタクである。

また様々な神話、史実問わず、後世に名を残す英雄たちの物語においても「ゼルダの伝説」という物語は大きな影響を与えている。

「ゼルダの伝説」を知らぬのは産まれたばかりの赤子だけ。なんて言ったのはどこの国の首相だったか。

古今東西、数えるのも馬鹿らしいほどの二次創作やファンアートが存在し、技術が追いつき「ゼルダの伝説」に登場した船や機関車が現代に完成したときは、この物語は預言書だったのではないかと言う者までいた。

 

これは希望である。と、とある英雄が言い。

これは私を救ったのだ。と、とある哲学者が言い。

これは愛を教えてくれた。と、とある神が言った。

それ程までに世界に愛されている物語の主人公――――それが勇者リンクである。

 

「所長はどの話が好きなんですかー?私はどれも好きなんですけど!」

「私だって全ての話が好きよ!というか、優劣を付けること自体が間違っているわ」

「おお・・・立派なファンの鑑・・・」

 

歩き続けると教会跡にたどり着いた。

小休止。レーションを囓りながらマシュに話しかける。もう骸骨兵ならなんなく捌けるようになった後輩に。

 

「ねぇマシュ、マシュは私がマスターでよかったの?私魔術なんて使えないよ」

「もちろんです。わたしに不満はありません。先輩はこの春NO.1のベストマスターではないかと」

「へへ・・・照れますなぁ」

「――――!ごめん、話はあと!すぐにそこから逃げるんだ三人とも!」

 

びり、と空気が震える。

考える前に視線がそちらを向いていた。

黒いドレスを纏う人影。武器を携え、不気味な笑みを崩さない

人を殺すカタチをしている。あれは、あれは――――。

 

「サーヴァント・・・!」

「っ、戦闘準備!」

 

女―――ランサーが視界から消える。瞬間、鈍い音が響き渡る。

間一髪盾で攻撃を防いだマシュは、ランサーが後方に飛び退いた隙に体制を戻した。

土煙と共に振るわれる鎌の攻撃を防ぐ、捌く、はじき返す!

 

「所長!私、私にできることは・・・!」

「落ち着きなさい!貴方の着ている服は魔術礼装と言って、限定的ですが魔術を使用することができます。それを使ってサポートするのよ!」

 

背後にかばわれた立香は、オルガマリーの説明を吹き飛びそうな思考に叩き込む。

視界の端で地面が抉れた。瓦礫が吹き飛び、轟音が耳を痛める。その戦闘の激しさをまざまざと思い知らせてくる。

それでも。

 

「緊急回避!」

「!」

 

鎌を受け止めた瞬間、マシュの姿が消える。

体重をかけていた相手が居なくなったことによりランサーがわずかに体制を崩す。背後に気配。

一秒、反応が遅れる。でもそれで十分。

 

「はああ!」

 

無防備な背に重い盾を叩き込む。断末魔を上げてランサーは消滅した。

それでも、死にたくないから生きるよ。私は貴方の手を握ったことを、絶対に後悔しないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルガマリー・アニムスフィアは未熟である。

カルデアの所長としても、魔術師としても、アニムスフィアの家長としても。

それなのにプライドは一人前で、皆に認めて欲しくて、認められたくて、泥の中でもがいていた。

ある日、とあるセラピストがカルデアに就職した。元々は別の場所に行く予定だったのだが、なぜか直前で変更されてここに来たのだ。決定されたのは前所長の時の事だったので、疑問を持つ暇もなかった。

彼女はこう言った。

 

「オルガマリーさん。貴方が感じている無力感も承認欲求も、なにもおかしなことではありません。人として当然のことです」

「・・・わたし、どうすればいいの?もう何もわからない・・・」

「まずは、自分の事を認めてあげましょう。焦らなくても大丈夫です。貴方が貴方自身のことを、まずは許してあげましょう」

 

出来ないことはできない。出来る人に任せよう。

出来ることは出来る。完璧に仕上げよう。

職員にねぎらいの言葉をかける。叱責だけでは人は動かない。ロマニやレフやダ・ヴィンチに頼る。

人によっては簡単なひとつひとつが、オルガマリーには酷く難しかった。

それでも。

セラピスト――殺生院キアラに励まされながら、オルガマリーはなんとか持ち直した。

あの爆発が起きるまでは。

 

「ボクが作戦指揮を任されているのは、ボクより上の階級の生存者がいないためです」

「――――状況は理解しました。コフィンにいたマスター適正者は?」

「47人、全員が危篤状態です。医療器具も足りません」

「すぐに冷凍保存に移行しなさい。蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先です」

 

冷や汗で寒い。

胃がキリキリと痛む。

重い重い責任を背負ってしまった。もう後戻りは出来ない。

それでも。

明らかに空元気な元一般人、現マスターの一人よりも取り乱すなどアニムスフィアの矜持が許さない。

こんな異常事態でも歩み寄ろうとしてくる少女の手を拒めない。

目に見えて強がっている少女――立香(と呼んでくれと言われた)が真っ直ぐ立っているのに、自分が膝をつくなどどうして出来ようか。

オルガマリー・アニムスフィアは未熟である。

人としても、魔術師としても。みっともなくて泣きたくて。悔しい悔しい叫びたい。

 

「・・・・・・そう。未熟でもいい・・・・・・仮のサーヴァントでもいい・・・・・・。そう思って宝具を開いたのね、マシュ」

 

真名を得て、自分が選ばれる者に――――英雄そのものになる欲が微塵もないこの少女が戦っているのに。

 

「あーあ、とんだ美談ね。御伽噺もいいところだわ」

 

オルガマリー・アニムスフィアは知っている。

世界を救うのはいつだって、小さな誰かの勇気なのだ。

美談でもいいと笑っている、御伽噺の勇者達が、皆それを教えてくれる。

だから――――歩みだけは止めないと決めた。無様でも生きていくことを決めた。キアラに、ロマニに、ダ・ヴィンチに、レフに。もうわたしは認められている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マシュ・キリエライトはデミ・サーヴァントになった。

運命がひっくり返って、人理が滅茶苦茶になって、マスターを手に入れて、宝具を展開した。

 

「構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」

「来ます――――マスター!」

 

他者の事に、己の事に。思考のリソースを割けるほど、マシュ・キリエライトは精神が熟していなかった。

だからそれを初めて知ったのは、黒きセイバーが剣を振りかぶった時である。

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め!約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!」

「宝具、展開します。――――うああああああーーーーー!」

 

盾が展開される。未熟な、それでいて堅牢な盾が。

光の濁流が全てを飲み込んでいく、圧倒的な質量が敵意を持って襲いかかる。今までのどの敵よりも強かった。

盾が揺れる。

 

「マシュ!」

「せん・・・ぱい・・・?」

 

立香の手が右手に重なる。緊張で冷たくなった手は嫌でも現実を思い知らされた。

 

「大丈夫!」

「――――」

「大丈夫。一緒にいる!絶対勝てる!」

 

己に言い聞かせるような言葉だったのに、なぜかマシュの頭をがあんと打った。

何を勘違いしていたのだろう。この人は、先輩は、本当に普通の人で――――。

 

「立香!」

 

オルガマリーが反対側の手を握った。震えていた。でも声はその場に凛と響いた。

 

「令呪を使いなさい!マシュをサポートするの!」

「はい!令呪をもって命ずる――――」

 

わたしは。

わたしは?

わたしは――――?

マシュ・キリエライトは考えはじめる。彼女の人生は、正しくここから始まったのだ。

 

「マシュ、セイバーに勝って!」

「ああああああああーーーーーー!」

 

マシュ・キリエライトは考えはじめた。人間の事を、自分の事を、世界のことを。

 

「これが聖杯・・・」

「――――!?下がってくださいお二人とも!何か来ます!」

 

マシュ・キリエライトは考えた。

既に聖杯戦争は終わり、聖杯は一人のマスターの手に渡った。

つまりは特異点は修復され、大空洞は空間と共に崩壊を始める。

 

「―――先輩。聖杯に願ってください。所長の蘇生を、私たちの帰還を」

「うん、聖杯よ――――」

 

マシュ・キリエライトは、レフ・ライノール・フラロウスとオルガマリーが話している最中に小声でマスターに指示を出した。

それはマシュに譲渡された英霊の本能だったのかも知れないし、マシュという試験管ベビーが今までに貯めてきた知識から出した答えだったのかもしれないし、毎日のように読み込んでいた物語の勇者達ならこうすると思ったからかもしれない。

歯車は動き出した。もう誰にも止める事はできない。

でも後悔はしない。生きていてほしいから。生きていたいから。わたしの人生に、貴方たちが必要なんだ。

 

天啓のように意志はうまれた。光が3人の少女を包み――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回までのあらすじ:爆破オチ

 

いやなんでもう本編始まってんのあんな夢見せられたらまだ猶予があるんだなって思うでしょ前がそうだったんだからていうかもう所長死んでるじゃんAチームだってぐっちゃん先輩とかどうすんのどうしようもねぇ主人公がレイシフトする時には動かないと時間!時間をくれ!まだ何も決まってねぇぞ!(ここまでの思考時間一秒)

 

という文句をぐっと飲み込み、時の勇者はまず隣を見た。初代の見解を聞くために。

 

「・・・抑止が何も言ってこない」

「え?俺達は動かなくていいってことですか?駄目でしょ」

 

本来は英霊の座から現世の様子を見るのは不可能だ。代わりに座にいる英霊達はわりかし交流している。お料理教室を開いたり、メールでやり取りしたり、召喚された時の記憶を酒の肴にしたり。

一方リンク達はトライフォースの力で現地を見れる。抑止の手も及ばぬこの場所(聖地)と、魔法と科学を詰め込んだ特製通信機器に限るが。

そうでなくとも今回は時の勇者が予知夢している。なればこれは相応の緊急事態。なのに呼ばれる様子も無いということは――――。

 

「俺たち以降の英霊で対処できると・・・。そう考えているようだけど」

「じゃあこっちも勝手に動きましょう。座を通らなければ抑止にもバレませんよね」

 

初手から裏コマンドである。

しかし誤解しないでほしい。これは必要な処置である。なぜならこのままだと所長が死ぬからだ!

ちなみにFGOのオチは2部5章まで知っています。地球国家元首とかね、よくないよ。うん。

 

 

 

『システム レイシフト最終段階に移行します。

 座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

 

 

画面の向こうで炎が暴れている。無事なのはカルデアスだけだ。

 

「冬木。誰を送ろうか。ファイ、どう思う?」

「目覚めの勇者はどうでしょうか。彼はマジックマントを持っています。情報収集に徹せられるかと」

 

 

 

『アンサモンプログラム セット。マスターは最終調整に入ってください』

 

 

 

俺が見た・・・、もとい話したのは「人理が崩壊すること」「カルデアの人達だけが生き残ること」「犯人はソロモンを名乗っている」ということだけだ。

ソロモンの目的や中身まではまだ分らないので(俺は知っているけど)この判断に異論は無い。

下手に動いて未来が変わりすぎたら困るし、主人公やマシュの成長にもならないだろう。

俺たちはもう過去の死者。勇者だからといって、出しゃばりすぎてはいけない。

 

 

 

『適応番号48番 藤丸立香 を マスターとして 再設定 します。

 アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します』

 

 

 

藤丸立香と呼ばれた少女と血に塗れた少女が手を取り合っている。

火の粉に煽られながらも、堅く堅く握りしめていた。

 

「俺は一度席に戻るよ。ファイ、他の勇者への通達は」

「既に」

「では後は目覚めの勇者に任せましょう」

 

 

 

『全行程完了(クリア) ファーストオーダー 実証を 開始 します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎に蹂躙された市街地に、一人の少年が降り立った。

少年はあたりが無人であることを確認し、赤いマントを背に羽織る。――瞬間、その姿は見えなくなる。透明化、というシンプル故に無敵の道具である。気配で察せる?トライフォースの隠蔽力をぶち抜ける存在なんて(現状は)いません。

 

 

脳内言語直接出力モード!オン!ここが冬木ですか?まず現地民を探しますか?

 

 

奏者のお兄さん まずカルデアの子達を探してください

海の男 多分だけど現地民いないよ

小さきもの ハ?勝手に世界滅ぼすの止めて欲しい

バードマスター それ

 

 

人理が燃えてても特製通信機器による配信は順調だ。まあ電波で動いている訳ではないので。

さて自己紹介を始めよう。

 

少年の名前はリンク。人々には目覚めの勇者と呼ばれている。

封印戦争後のお話「神々のトライフォース」と「夢をみる島」の主人公だ。今のブームはモンハン。新作楽しみだね。

しばらく瓦礫の山を越えながら崩壊した街を歩いていると、二人の少女を見つけた。早速スネイクを始める。

 

「――・・・いえ、戦闘訓練はいつも居残りでした。逆上がりもできない研究員。それがわたしです。わたしが今、あのように戦えたのは―――」

「ああ、やっと繋がった!もしもし、こちらカルデア管理室だ、聞こえるかい!?」

 

ピピッ、と軽快な音を立てて声が割り込んでくる。

青年の名はロマニ・アーキマン。カルデアの生き残りの一人だ。

 

「わたしはサーヴァントと融合したことで一命を取り留めたようです」

 

融合?

カルデアでは英霊と人間を融合させる実験も行われていたらしい。魔術師の考えることはわかりませんね。

 

 

騎士 人間は強欲なので・・・

災厄ハンター あれって盾?盾が有名な英霊って誰だろ

 

 

スケルトンを蹴散らしながら、少女達は霊脈地に向かうようだ。後を追いかける。

道中でまた白髪の少女と合流した。彼女の名はオルガマリー・アニムスフィア。カルデアの現所長である。

・・・なんだか気配がおかしいなぁと少年は首を捻った。具体的に言うと死霊の気配がするなぁ・・・と思って思いついてしまって天を仰いだ。

 

 

・・・あの、すみません。僕の気のせいかも知れないんですけど

 

 

ウルフ 気のせいじゃないです。俺のセンスも反応しています

りっちゃん 勇者特有のアイデアの高さが憎い。憎くない?

うさぎちゃん(光) 目を背けるな!!!!現実を見ろ!!!!!所長が死んでることから!!!!!!!

いーくん 見たくねえから背けてんだよ!!!!!魂だけで存在してるってこと?どぉして?

 

 

マスター適正ないっていってる!ロマニがなんか言ってます!

 

 

バードマスター 肉体がなくなったから転移できたのか・・・

奏者のお兄さん 個人的には助けてあげたいですね・・・。しかしどう介入したものか

 

 

三人の少女は港跡にたどり着いた。街の調査は順調なようだ。

 

「聖杯戦争・・・?聖杯というのは、その、伝説にいう聖杯ですか?所有者の願いを叶える万能の力。あのトライフォース、または“ねがいのぼうし”を参考にして作られたという魔法の釜?」

「ええ、その聖杯です」

 

 

聖杯

 

 

守銭奴 聖杯

フォースを信じろ 聖杯

銀河鉄道123 チキチキ聖杯を使って所長を助けようミッション~上手いことサポートしろリンク~

 

 

了解!ところでさっきとは違う気配を感じますよ。立香ちゃんたちは勝てるんでしょうか

 

 

ファイ シャドウサーヴァントですね。この地に召喚されたサーヴァント達が、聖杯の泥に侵されているようです。

バードマスター 勝たないと進めないので・・・。手を出しちゃ駄目だよ。経験を積ませないとね

災厄ハンター すいません今聖杯の泥って言いました?それ流していい奴ですか?

ファイ 恐らく聖杯を守っている者の影響でしょう。排除すれば泥も消えるかと。

海の男 泥に侵されると性格も悪くなるの?こんなんいじめですよ

 

 

・・・!新手だ!あのサーヴァントは、正気・・・?

 

 

死角から撃たれた魔術の光弾が泥を叩く。

青い髪のキャスターが場をひっくり返す。杖を振るい、神聖なるルーンを操る!

 

 

クーフーリンだ!!!!カッコイイ!!!

 

 

奏者のお兄さん 座での交流は無かったの?

ウルフ なんか俺ら遠巻きにされてるんですよ・・・恐れ多いとかなんとか

うさぎちゃん(光) でもクソオタは話しかけてきます。平伏で

奏者のお兄さん 何て?

 

 

何ても何も事実ですとしか・・・。基本崇め奉られていますね

 

 

奏者のお兄さん いつからリンクは宗教になったんですか?ますます座に行きたくなくなりました

騎士 俺が引きこもってる気持ち分るだろ。勝手に神聖視されるこっちの身にもなれ

いーくん それ引きこもりじゃなくて謙虚に思われて格が上がってますよ。

騎士 は?

小さきもの もう何しててもリンクageなんですよ世の中は。開き直った方がいいですよ

 

 

そうこうしている内にマシュの修行が終わり、天然と人工の鍾乳洞を進む。

話題はセイバーのサーヴァントに移ったようだ。後ろをついていきながら耳を傾ける。

 

「王を選定する岩の剣のふた振り目。おまえさんたちの時代においても有名な聖剣。その名は、」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)。騎士の王と誉れの高い、アーサー王の持つ剣だ」

「!?」

 

言葉の続きを並べたのは侵入者を睥睨するアーチャーであった。

広まった場所で待ち構える、その目は殺意に満ちている。

 

全投影(ソードバレル) 連続層写(フルオープン)

 

瞬間、ありとあらゆる剣の雨が落ちる!

キャスターが防壁のル-ンを張り、マシュが盾を構えた。地響きは洞窟を揺らし、しかし二人の少女には届かない。

 

 

あれ僕たちの盾でも防げます?

 

 

災厄ハンター まず出会った瞬間に斬り込むので撃たせないです

ウルフ 本体を叩いた方が速くない?無視して突っ込みます

海の男 遠距離からアイテムで殺ります

守銭奴 盾を使え(懇願)

 

 

「考えたな花の魔術師・・・!まさかその宝具に、そんな使い(みち)があったとは・・・・・・!」

 

 

ファイ 特定できました。マシュ・キリエライトと融合した英霊はギャラハッド卿と推定します。

 

 

洞窟を抜けると、そこには大聖杯があった。

大空洞に鎮座する、アインツベルンが製作した超抜級の魔術炉心。・・・もっとも、トライフォースという神器の足下にも及ばないが。

その正面に立ちふさがる存在がある。

アーサー・ペンドラゴン。変質してもなお、王としての格を失わない。

 

「―――――面白い。その宝具は面白い。構えるがいい、名も知れぬ娘」

「来ます――――マスター!」

 

最後の戦いが始まる。

それを横目にリンクは大聖杯へ接近する。セイバーが消失した瞬間に動けるように。

 

 

災厄ハンター みんながんばぇ~

 

 

「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました」

 

 

ここで聖杯をさりげなく投げます。イクゾー! デッデッデデデデ!

 

 

バードマスター (カーン)

守銭奴 ナイシュー

 

 

「聖杯も回収しました――――!?下がってくださいお二人とも!何か来ます!」

 

 

まだ何かあるみたいですよ

 

 

騎士 もうお腹いっぱいなんだが

バードマスター ラスボスの部下的なアレですか?戦闘はいる?

 

 

戦闘は入らないようですね。入っても流石に僕がキャンセルします

 

 

「わかるかな。君は死んだ事ではじめて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ」

「・・・・・・・・・知っているわ(・・・・・・)

「何?」

「そんなこととっくに気づいている。そして―――レフ。貴方は敵なのね」

 

オルガマリーが震える体で、なお真っ直ぐに立つ。

それを見てレフ・ライノール・フラロウスは不愉快そうに顔を顰めた。

やはりあのセラピストは排除するべきだったか―――。昔に比べて、精神が随分安定している。

光が少女を包んだ。

 

「!?」

「何―――――!?・・・やってくれたな屑どもが・・・!」

 

特異点が崩壊する前に少女達は帰還した。後に残されたのは油断を突かれた男だけ。

舌打ち。

瞬きの合間に男も去って行った。

 

 

災厄ハンター これは恥ずかしい

海の男 無能乙

ウルフ ねぇどんな気持ち?今どんな気持ち?

奏者のお兄さん ナイスだマシュ。お兄さんが褒めてあげようね

 

僕も帰ります!お疲れ様です!

 

 

 

 

 

特異点F 炎上汚染都市 冬木 定礎復元

 

 

 

 

 



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なあ 元気? 調子はどうだい?

タイトルを決めるのが毎回一番苦労します。


ふんわりと意識は浮上する。

量産型の安いリネンでも長時間くるまれていれば暖かくなるものだ。顔だけが少し冷たくて、立香はしぶしぶ目を覚ました。

 

「よしよし・・・。フォウさんも立香さんが心配なんですね」

「フォーウ・・・」

 

瞬く隙間から照明が差し込みまぶしさに目を擦る。その下から、しとやかな声が聞こえた。

「理想的な女性」を形にしたらこうなるのだろう。

肉付きのよく、しかし品を纏う体をカルデアスタッフの制服と白衣で包み、温かな微笑みと穏やかな佇まいがその美貌をより際立たせている。

まさしく聖母の再来。どんな残虐な悪人だろうと足を止めてしまいそうな、慈愛の化身がそこに居た。

 

「・・・貴女は・・・?」

「私は殺生院キアラ。カルデア専属のセラピストです」

 

マイルームのベッドから起き上がる立香にペットボトルの水を差しだし、膝に乗ったフォウくんをあやしながら彼女はそう名乗った。

こんな絶世の美女がいるとかカルデアスゲー。立香の視線は顔と豊満な胸を行ったり来たりした。まごうことなきセクハラである。寝起きだからってやっていいことと悪いことがあるぞ。

しかしキアラは寛大だった。

 

「立香さん。あなたの目が覚めたら管理室に案内するように言われています。歩けそうですか?」

「大丈夫です。ところで何を食べたらそんなに豊かな体型になるんですか?詳しく聞いていいですか?」

「まぁ・・・」

 

真顔で繰り出されたギリギリ発言にも目元を赤らめるだけで済ました、キアラは大変に器の大きい女性である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます先輩。無事で何よりです」

「マシュ!マシュも無事でよかった」

 

再会を喜ぶ2人にスタッフ達の温かい視線が向けられる。

この極限の状態でも、否。だからこそ喜ぶときは喜ばねばならない。それが人の心を捨てないということだ。

カルデアの幹部メンバー達もそれを噛みしめた。この光景だけは失ってはならない。

 

「コホン。再会を喜ぶのは結構ですが、まずは会議を進めましょう」

 

オルガマリーの声に視線が集まる。

 

「まずはマスター藤丸立香。ミッション達成、ご苦労様でした。そして――――ありがとう。貴女が聖杯に願ったおかげで、私は今こうして生きています」

「マシュが聖杯の使い方を教えてくれたおかげです。マシュにも言ってあげてください」

「・・・そうね。マシュ、あなたもありがとう。そして、よく頑張りました」

「・・・! はいっ」

 

オルガマリーの透明な笑みがとても美しかったことを、マシュはきっと忘れない。

また感情が一つ生まれた。心の棚に並べていく。

 

「カルデアスの状況から見るに、レフが敵の手先であることは確定でしょう。外部との連絡も取れない」

「・・・人類は滅んでいる。そう断言するしかないだろうね」

 

人類を滅ぼす。

そう宣言する悪役は物語に数多く登場する。そして実際に滅ぼしかけたものも多く居るだろう。

だが「既に人類は滅んだ」という状況はそうそう無いだろう。

それでも直視するしかない。特異点Fでの戦いは、まだ生々しく記憶に残っている。

 

「よく過去を変えれば未来が変わる、というけれど、ちょっとやそっとの過去改変じゃ未来は変革できない」

「そうなんだ・・・」

「歴史には修正力というものがあってね。たしかに人間のひとりやふたりを救うことは出来ても、その時代が迎える結末――――決定的な結果だけは変わらないようになっている」

 

しかし、人理にはターニングポイントが存在する。

“この戦争が終わらなかったら”“この航海が成功しなかったら”“この発明が間違っていたら”“この国が独立できなかったら”

そういった現在の人類を決定づけた究極の選択点が。

 

「それが崩されるという事は、人類史の土台が崩れることに等しい。この七つの特異点がまさにそれだ」

 

ロマニが努めて淡々と話す。

目眩がするほどの事実に、それでも立ち向かわなければならないから。

 

「マスター適正者48番、藤丸立香。貴女はレイシフト可能なたったひとりのマスターとして、この七つの人類史に挑まなければなりません」

「・・・っ」

「もちろん私たち司令部、そして残ったスタッフ達の全力のサポートを約束しましょう。――――共に、戦ってくれますか?」

「・・・もちろん。私にできることなら」

 

その一言で緊張感が溶けていく。

彼女がこれから背負うだろう運命を、覚悟を、皆で支えていこう。

 

「――――ありがとう」

 

一人で戦わせたりなどするものか。

無力な人間は無力なりに、あがき方を知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより英霊召喚を行う!」

「誰!?」

 

話が一段落した後飛び込んできたのは、かの有名な絵画モナ・リザに酷似した長い黒髪の美女。

だがそれは彼の生来の姿ではなく、生前の作品の女性を再現したものである。

モナ・リザが好きすぎてモナ・リザの姿で顕現した。だいぶ筋金入りの変人。

 

「私のことは気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼ぶように」

「ひえ・・・変態だぁ・・・」

 

英霊召喚例第三号、ルネサンス期に誉れ高い万能の発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。その人である。

 

「英霊召喚・・・カルデアの戦力の増強をはかるのですね」

「そうそう。サーヴァント達は基本的にはカルデアで待機してもらい、戦闘時に必要に応じて呼びだす感じかな。レイシフト以外でも人手はいくらあっても足りないし」

 

英霊を呼び出すための触媒であり、召喚サークルの燃料となる霊子の結晶。聖晶石を3つサークルに置く。

冬木で落ちていたのを集めて9つ。三回の召喚が今回は行われる。

 

「物欲センサーは敵。みんなもう知ってるね」

「早めにお願いしま~す」

 

ガチャに関しては立香は歴戦の猛者だった。

無欲!無心!回すぞオラーッ!

紫電が縦横無尽に走り、魔力が空間に満たされていく。現れたのは――――。

 

「おっと、今回はキャスターでの現界ときたか。・・・ああ、あんたらか。前に会ったな。クーフーリンだ。また頼むぜ」

「ヤッター!!!」

 

冬木でも大層世話になった青髪のキャスターだ。これはなかなかの好スタートダッシュ。

 

「説明は後で。先に召喚を終わらせてしまおうか」

「うん。ちょっと待っててねキャスター」

「おう」

 

再び光が膨れていく。二体目の召喚は――――。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した」

「!」

 

真っ赤な衣装を翻したアーチャーのサーヴァント。

冬木では敵として対峙し、そして今は味方として現れた。

名をエミヤ。顔の無い正義の代表者であり、集合無意識が生み出した防衛装置である。

 

「おや・・・。また会ったな。今度こそは世界のために、正しく戦うことを誓おう」

「うん。よろしくね」

 

泥の呪縛から放たれた、彼は柔らかく微笑んだ。

後ろに控えていたキャスターを見て一瞬微妙な顔を浮かべたものの、大人しく部屋の端に寄る。

最後の召喚。

バチバチと魔力が活性化し、召喚サークルの円に沿うように光輪が紡がれる。

魔力反応による煙が視界を覆い、しばしの間を置いて晴れていく。現れたのは――――。

 

「ふはははは!この(オレ)を呼ぶとは、運を使い果たしたな雑種!感謝に泣き濡れ、そして頭を垂れよ!アーチャー・ギルガメッシュ、勇者の代わりに見参である!」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「ほえー・・・」

 

なんかすごい金ぴかな人来たぁ・・・と立香は思い。

お前来んの早すぎねぇ?とクーフーリンは思い。

アーチャー二体とかバランス悪くないか?帰ってほしい。とエミヤは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配信中です。
 
上位チャット▼


バードマスター え?何で?英雄王なんで?

小さきもの 勇者の代わりって言った?頼んでないです・・・頼んでないよね?

ファイ どうやら自ら降りてきたようですね。やる気があるようで何よりです。

奏者のお兄さん ところでいつ合流するかそろそろ決めないと。・・・英雄王がいるならしばらくは大丈夫そうだけどさ

災厄ハンター 限界ファン筆頭のギルガメッシュさん!限界ファン筆頭のギルガメッシュさんじゃないか!

Silver bow 勝手に勇者の代わりとか言っちゃう辺りが嫌ですね・・・。合流は当分先でもいいんじゃないでしょうか

ウルフ 蔵を開けさせろ

うさぎちゃん(光) 次の特異点の様子を見てからでいいんじゃない?行きたい人~

騎士 次の特異点の情報はまだ出てないんだったか?出たら教えてくれ。俺はスプラトゥーンで忙しい

海の男 @騎士 対戦しよ。そっちの座遊びに行くね

いーくん イカより優先順位低いのかわいそう

カルデア中継なう

15人が視聴中

 

 

 

もう勘弁してほしいなぁ・・・。と時の勇者は虚空を見つめた。予想外のことが起こりすぎている。

 

勇者達は相変わらずカルデアの様子をリアルタイムで視聴していた。頭を抱えているのは時の勇者だけである。

キアラさん何でいるん?もうわからん・・・知らん・・・なるようになれ・・・。

それにいつぐっちゃん先輩を違和感のないタイミングで起こそうかなぁ・・・。精霊には優しくしろってデクの樹さまも言ってたし。

第四特異点までに出るのは不味いか?でも英霊として降りるのとカルデア召喚式を通るのではかなり能力に差が出るんだよね。召喚されなければいいか・・・?

 

なんて呑気に――――そう、この時までは確かにまだ余裕があったのだ。ミルクティーを啜りながらキーボードを叩くくらいには。

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

本能が飛び起きる。警鐘、警戒、警告!

指先の力が抜けてマグカップが落ちた。鈍い音。ぶちまけられた液体の甘い香りがただよった。

 

「・・・・・・・・・なんでお前まで起きてくるんだ・・・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇と混沌を従えて、黒き王は鎮座する。

虚空の狭間で赤髪が揺れた。ここは世界の底であり、裏である。

 

「マスター、いかがされました」

 

主君が目を覚ましたのを察知して、白銀の精霊が膝をついた。

ここ数年は静かに眠っていらしたが、何か気を引くことでもあっただろうか。

 

「・・・クハッ」

「・・・?」

 

思わず、といった風に漏れた笑い声が玉座に響く。絢爛な一室は彼の趣味ではなく、彼の事を思った精霊を筆頭に部下達が設えたものだ。

 

「面白いことになっているじゃないか。小僧ども。どれ、手を出してやろう(・・・・・・・・)

 

その微笑みに反応できたのは、表にいる運命の片割れたちだけ。

かつて魔王と呼ばれた彼の対にして正反対。勇者たちだけが気づけてしまった。

 

「ギラヒム」

「はっ」

「出かける。貴様らは好きにしろ」

「マスターの御心のままに」

 

黒き砂漠の王、ガノンドロフは立ち上がる。余興にはちょうどいいとマントを翻し。

黒幕とカルデアに盛大にちょっかいをかけるために。

世界の命運など今さらどうでもいい。欲すものなどなく。渇望は癒やされた。

ならばなぜ目を覚ますのか?そんなことは決まっている。

何人もいる“ガノンドロフ”もしくは“ガノン”という存在の、現在の主人格は歌うように言った。

 

楽しそうだな(・・・・・・)。混ぜてくれよ、リンク」

 

その気配が自分の時代のガノンドロフであることに気づいた時の勇者は、無言でベッドに突っ伏した。

来んなし・・・・・・・・・・・・。



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第一特異点
稲妻のように


感想読んでます。いつもありがとうございます!
返信はもう少しお待ち下さい。うっかりネタバレしそうなので…


確かにちょっと舐めてたんですよ。

ソロモンいうてもあの魔王よりは下やろ~?たいしたことないわ~って皆思ってたんですよ。

だから他の勇者達もあんなゆるゆるしてたし、片手間にゲームしてたんですわ。

フラグ回収早すぎない?俺たちの安寧を返してほしい。

 

――――時の神殿在中 Lさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1431年 フランス・オルレアン

 

生者の居なくなった教会で少女は歌う。破滅の願いを、蹂躙の炎を。

狂戦士(バーサーク)としての特性を付与されたサーヴァント達は例外なく血を啜る。老若男女の区別なく。異教信徒の区別なく。あらゆる者を平等に殺すだろう。

祈りも救いも品切れだ。奇跡はもう食べ尽くされてしまった。

 

「アーチャーか」

「―――――――――ぇ」

 

得意の俊足で森を駆けていたアタランテは、自身が地に伏せていることを自覚するのにしばしの時間を要した。

ジャンヌ・ダルクを名乗る者に呼び出され、殺戮の命を受けた。遂行するために動いていたはずの体は、今は息が詰まるような重圧に押しつぶされている。

 

「・・・・・・・・・」

 

息、息・・・!息を・・・していいんだよな・・・!?

肺が押しつぶされてひゅうひゅうとなった。顔を動かして犯人を認識するべきなのに、視線が微塵も動かせない。うつぶせのまま何らかの魔術に縛られている。

これは何だ(・・・・・)。理解が出来ない。存在の格が違う。有している次元が違う。

 

「ふむ・・・。では貴様を触媒にするか」

「・・・・・・?」

「――――告げる」

 

アタランテの下に術式が展開する。それが英霊召喚の魔法陣であることに気づけても、身じろぎすら出来やしなかった。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

男の言葉通り触媒となった霊基の格が、体が、エーテルに戻っていく。

膨大な魔力が空間に広がり、しかし防壁の結界が異常を外には知らせない。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――」

 

魔力の雷鳴が踊り狂った。光と共に英霊は現れる。

 

「ははははは! 私を召喚するとは、また奇特なマスターもいたものだネ・・・・・・」

 

青地のマントを翻して蜘蛛の男は笑い、目の前の存在を認識した瞬間思考を飛ばし、一秒もしない内に跪いた。

 

「お会いできて光栄です。砂漠の王よ」

「許す。名乗れ」

「アーチャー。ジェームズ・モリアーティと申します」

「犯罪世界のナポレオンか。喜べ、貴様に仕事をくれてやる。働き次第では褒美をくれてやることもやぶさかではない。今のオレは機嫌がいい」

「何なりとお申し付けくださいませ」

 

震える膝を地面に押さえつける。モリアーティは幸いにも賢かった。

必要以上に喋らず、許されるまで頭を下げ続ける。空間がねじ曲がるほどの濃い魔力に目が回りそうだ。

 

「カルデアに召喚され信頼されろ。あの所長の小娘にはよくよく懐かれておくように――――」

「ちょーーーっと待ったぁ!!!!」

 

声と共に力尽くで結界がぶち壊される。

闇の濃密な気配を吹き飛ばす聖なる魔力に、思わずモリアーティも顔を上げてそちらを見た。

長い金髪が風に揺れる。剣を構える美しい青年は――――。

 

「抑止が動かないギリギリを責めるんじゃねぇ!!!お前は本当に性格が悪いな!!!」

「なんだ来たのか。暇なのか?」

「はーーーー!?」

 

速攻で煽りにぶち切れていた。

えっあれ勇者リンク?やば・・・本物じゃん・・・。モリアーティは一周回って素直に感動していた。魔王と勇者がそろい踏みだ・・・。

 

「暇なのはお前の方では?百歩譲って英霊達はともかくカルデアには手を出すな!言質は取らせてもらうぞ!」

「何故?この程度の試練すらも越えられぬくせに世界を救うなど・・・片腹痛いわ。お守りしすぎて勘が鈍ったか?恥をさらす前に殺してやるべきだろう」

「お前が出てくるのは試練じゃなくて罰ゲームの扱いなんだよ。イベント挟まないとデバフすら掛からないクソボスが第1章から出てくるんじゃねぇ。まだOP流れたばっかだぞ!」

「もっとちゃんと勇者の猫被れ」

「虚数空間にあるご自宅に早急にご帰還くださいませ~!」

「こいつ本当に面白いな・・・」

 

リンクのことを叩けばよく鳴る玩具&おもしれー男と思っている盗賊王ガノンドロフはしみじみと呟いた。

これが処刑を経験した黄昏時代の魔王だったり、老いた海の魔王だったりしたらもう少し反応が違ったのだが、若くて愉悦を理解している時代のガノンドロフは軽口にも乗ってくれるのだった。

 

「モリアーティ」

「! はっ」

「貴様はカルデアに送ってやる。定期的に報告をするように」

「御意に」

 

指パッチンで悪のカリスマはカルデアに送られた。

後に残ったのはタルミナに至った世界の時の勇者である。マスターソードを担いでいるというおまけ付きで。

 

「聖剣まで持ってくるとは・・・。そんなにオレが怖いのか?」

「買うぞその喧嘩。お前相手に舐めプしないという健気な決意の表れだよ。・・・本気で世界を滅ぼす気はないんだよな?そうだったらとっくに首謀者を傀儡にしてるもんな?砂漠の守護神の側面でてるよな?」

「健気?・・・・・・健気?」

「健気で可愛いだろうが!!」

 

だからといって斬りかかることは出来ない。まだガノンドロフは何もしていないからだ。

たかがサーヴァント一騎を召喚しただけ、特異点に現れただけ。この程度で勇者リンクは動けない。

両者の均衡は紙一重で保たれている。勇者が勇者のままでいるためにも、過剰な攻撃は避けるべきだ。・・・今までの発言は暴言ではなくあっちのナチュラル上から目線に合わせているだけです。これだから王って奴はよ・・・!

 

「あまり出しゃばっても面白くはない。ほどほどに傍観するさ」

「・・・・・・まぁ、いいだろう。なんかやったらすぐ来るからな」

 

リンクとて忙しいのだ。

ガノンドロフはお守りと言ったが、あながち間違ってもいない。ぴよぴよなマスターとその一行の健やかな成長を見守っている。そして心にかかるストレスを考えて、なるべく早く戦いを終わらせようともしていた。

相手が魔王といえど常に見張っていられる訳ではない。というか普通に魔法で遮断されて無理だ。

かろうじて遠くの気配を感じられるだけで、こうして直接こないと会話も出来やしない。先ほどのように結界が張られていたら全力で壊さないといけないし・・・。(ちなみにガノンドロフの結界を壊せるのはリンクと一部のゼルダだけである)

 

「じゃあ俺帰るからな。大人しくしてろよ」

「ああ」

「返事はいいんだよな・・・」

 

時空の狭間にリンクが消えた瞬間、空間を裂いて腹心が現れる。

剣の魔精霊は半殺しにされたセイバーを連れて頭を垂れた。態度は殊勝に、瞳は主人に褒めてもらいたい子犬のように。

 

「マスター、お役に立ちそうなサーヴァントを見つけました。どうぞなんなりとご下命ください」

「セイバーか」

 

バーサーク・セイバー、シュヴァリエ・デオンは血を咳き込みながら震えるしかなかった。

抵抗も疑問もなく、通りすがりの精霊に文字通り八つ裂きにされたのだ。相手が何者なのかを理解したときには既に四肢は絶たれ、純粋な恐怖が身を覆い尽くしていた。

な ぜ、魔王が こんなところに ?なぜ?ど うして・・・。

怖い。怖い・・・。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてどうして私がこんな目 に、――――――――。

 

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

魔法陣がデオンの下に展開される。

主の為に餌を狩ってきた精霊は、もう見向きもしない。

念のために言っておくが、リンクはギラヒムに気づかなかった訳ではない。気づいていた上でこの程度じゃ動けなかったのだ。サーヴァントなどどいう替えの効く存在は、どうしても生きている人間より優勢順位が低くなってしまう。

デオンの不幸はただ1つ、黒いジャンヌに呼ばれたことだ。

 

「セイバーのサーヴァント、両儀式。召喚に応じ参上いたしました。・・・・・・・・・まぁ」

 

深雪のように静かに名残の花が現れる。「 」から生じ、「 」を辿るもの。

 

「根源の末端か」

「ええ。初めまして、虚空の獣。魔を統べる王。砂漠の神。私になにをお望みかしら」

 

人類悪としての顔、この世全ての魔王という概念の始まり、砂漠の民に信仰される守護神。ガノンドロフは様々な属性をもっている。

リンクの指摘したとおり、砂漠の神王としての側面がでているなら縄張り(テリトリー)を今まさに荒らしている主犯の存在を許すわけがない。

・・・が、それは己しか動く人間が居ないときにかぎるのだ。ガノンドロフはどこまで行っても王であり、上に立つ者である。

現代の人間達たちがちまちまと働きながらも何とかしようとしている上に勇者まで動いているのだ。自分が何かしてやる必要もないだろう。

しかし見ているだけなのも退屈なので――――ちょっかいはかける。

 

「全てだ。貴様を先ほどのセイバーと誤認する魔術をかけてやる。死なない程度に遊んでやれ」

「楽しそうなことをさせてくれるのね。仰せのままに、マスター」

 

涼やかに笑みを零し、両儀式は姿を消した。ガノンドロフとギラヒムも狭間に消える。

後に残ったのは、暗い森だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、先輩。今日はブリーフィングの日―――きゃっ!?」

「キュウゥゥゥ・・・・・・」

「ふぁぁ・・・おはようマシュ・・・」

 

フォウくんもおはよう、とまだ眠気に負けている声のまま藤丸立香は起き上がる。

寝癖のついた彼女の髪を見て、マシュは櫛を手に取った。

 

「先輩、昨夜はよく眠れましたか?」

「ギルさまの勇者談義を遅くまで聞いていたので眠い・・・」

「昨日は所長がお忙しかったので、代わりに先輩が聞いていたのでしたね。私はクーフーリンさんと訓練をしていたので、参加できなくて残念でした」

「お腹空いた・・・。エミヤの朝ご飯食べに行こっか」

「はいっ」

 

マシュによってさらさらの櫛通りになった髪を、お気に入りのシュシュで結ぶ。

カルデアに召喚されたサーヴァント達と交流を図りながら、立香達は次のレイシフトの準備を続けていた。

蔵の財宝を惜しげもなく使用するギルガメッシュと、召還後数時間で食堂の守護神と化したエミヤのおかげで生活もおおむね満たされている。職員達の顔色も日に日によくなり、カルデアには活気が戻りつつある。

 

「おはよう立香ちゃん。よく眠れたかな?」

「おはよう二人とも。早速ブリーフィングを開始するわよ」

 

特異点は七つ観測されたが、今回はその中でもっとも揺らぎの小さな時代に行くらしい。

いよいよコフィンに入るときが来た。立香はゆっくり深呼吸をする。

 

「むこうについたらこちらからは連絡しか出来ない。いいかい?繰り返すけど、まずはベースキャンプになる霊脈を探すんだ」

「ちゃんとその都度指示をだすから、しっかり聞いているのよ。間違っても無視して突っ走らないこと」

「ぜんしょします」

「先輩・・・!」

 

やる気はあるよ!という顔でサムズアップした立香をクーフーリンが小突く。

緊張がわずかに弛緩して、笑みがこぼれた。さぁ、世界を救いにいこうか。

 

 

『アンサモンプログラム スタート。霊視変換を開始 します

 レイシフト開始まで あと3、2、1・・・・・・

 全行程 完了(クリア)

 グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 

 

 

第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン

 

 

 

 



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白日を駆ける

午前の日が差す森の中で、一人の青年が髪を梳いていた。

 

「そうだ、嬉しいんだ~いーきる喜び~。たっとっえ、胸の傷がいーたんでも~」

 

生命力を詰め込んだ小麦色の髪が、櫛の通った先からスノーホワイトに変わっていく。

腰まで綺麗に変えた後は櫛をしまい、瞳を閉じて、開ける。

瑞々しい青眼は焔の瞳に。この姿を勇者リンクと見抜ける人間はいないだろう。

 

 

バードマスター アンパンマンしか勝たん

海の男 いつ見ても変身バンクが素晴らしいですな

 

 

もっと褒めたまえ。ヨイショして!

 

 

災厄ハンター ヨッ天才!

ウルフ 才能人!

小さきもの 美人!

 

 

勇者のくせに語彙が少なくて恥ずかしくないんですか・・・?

でもまあ今日はこの程度で勘弁してやろう。先を急ぐので。

 

 

歓声ありがとうありがとう。では出発しますよ

 

 

服はそのままでいいか。

マスソは片して、腰の刀だけにする。オカリナを取り出せば準備は完了だ。

息を吸って、吹き込む。

流るるは彼女を呼ぶ歌。幾つもの時代を超えても、世界を超えても、必ず蹄の音は響いてくる。

大地を駆けるリンクの足。人生を共にした相棒の馬。

 

「エポナ」

「ぶるる!」

 

ずいっと差し出された頭を抱えるように撫でてやる。最近はめっきり走る機会が減っていたし、ついでに思いっきり駆けさせてやろう。

行く先はリヨン。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ジークフリートが呼ばれた町だ。

このままほっとくと呪いを受けて倒れてしまうので、あたかも通りがかりですよ感を出しつつ手助けしカルデアに合流する。

皆にはバレないように姿を偽りつつカルデアと合流するとしか言っていないので、たまたま感が大事だ。見つけちゃったら助けないわけにはいかないもんね!さぁ、行こう。

 

「エポナ、GO!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

圧倒的な力、圧倒的な憎悪は、どれほど高潔な人間でも容易く壊してしまうだろう。

人の心は脆く、弱く。ビードロのようにあっけない。

けれど、とんぼ玉のように可憐に輝くこともあるのだ。

 

「―――む、ちょっとまってくれ。君たちの行く先にサーヴァントが探知された。場所はラ・シャリテ。君たちの目的地だ」

「!」

「皆さん、空を・・・!」

 

ジャンヌの声に反応して、立香とマシュは天を仰ぎ見た。――――絶句。

街の上空を覆い尽くすドラゴン達は、邪悪な魔力を纏って矮小な命達を睥睨する。

 

「口腔部に魔力反応・・・!?」

「やめ・・・やめなさい!」

「だめ・・・!間に合わない・・・!」

 

ごお、と黒い炎が渦巻いた。翼も持たぬ人間はただそれを眺めるだけ。

腹を抱えて嗤う、黒い聖女がいるだけ。

 

「趣味が悪いな」

 

地獄に間に合った、誰かが居るだけ。

 

「!?」

「なに・・・!?」

「ドラゴンの首が・・・落ちた・・・!?」

 

涼やかな音だけを響かせて、ワイバーンは両断された。

全ての視線がそこに集まる。太陽の光を反射して、白髪はオパールのように輝いた。

軽やかに着地した人影に思わず駆けていく。晴天を背に現れた、美しいひとに。

 

「あ、あなたは・・・?」

「ん?俺は・・・。まあ待て、先にあっちの相手をしないとな」

 

腰までの長髪に紅い瞳。刀を腰に下げた男が、ドラゴン達を視線で指す。

マシュとジャンヌが前に立ち、立香も構えた。複数の気配が現れる。

 

「貴様――――」

「おや、気の短そうな総大将だな。そっちの彼女とは知り合いか?」

「・・・貴女。貴女は、誰ですか?」

 

ルーラーのサーヴァント、ジャンヌ・ダルクの存在を反転したらこうなるのだろう。

狂気に染まった瞳をつり上げ、剣を携えた黒き少女。旗にはドラゴンを掲げ、そして従える邪悪な魔力を持っていた。

周りに侍るは四騎のサーヴァント。高貴な者特有の気配と、もはや落とせぬ血の臭いを纏う男女に、杖を携える女。そして性別の分かりづらい騎士。

 

「それはこちらの質問ですが・・・そうですね。上に立つ者として答えてあげましょう」

 

ややあって怒りと嘲笑を詰め込んだ言葉がはき出される。

こんな小娘に縋るしかなかった国に嫌悪を送りながら、黒いジャンヌは白いジャンヌを見下す。

 

「私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ。もう一人の“私”」

「・・・馬鹿げたことを。貴女は聖女ではない。私がそうでないように」

 

 

銀河鉄道123 本物の天然は天然の自覚がないっていうよね

いーくん 言わんとしていることはわかるけども

 

 

「いえ、それは今は置いていきましょう。・・・私が聞きたいのは、なぜ貴女がこんなことをしているのかです。なぜ、フランスを滅ぼそうとするのですか!」

「・・・呆れた、こんなに鈍いなんて思いませんでした。この国は私を裏切り、唾を吐いた。だからです(・・・・・)。だからもう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、主の声も聞こえない。つまり主はこの国に、愛想を尽かしたと言うことです」

 

朗々と語られる内容は、ジャンヌ・ダルクを知っていれば納得してしまいそうな内容だった。

けれど頷くわけにはいかない。立香も、マシュも、職員たちも。

清廉の白を纏う、もう一人のジャンヌを知っているから。

 

「だから滅ぼします。人類種という悪しき存在を根本から刈り取り、フランスを沈黙する死者の国に作り替える。それが私、新しきジャンヌ・ダルクの救国方法です」

「死が救いとはありきたりだな。宗教の押しつけはよくないぞ?」

 

耳障りのいい声が黒い少女に相対する。ジャンヌの隣に並び立ち、抜刀の姿勢を取る。

 

「状況はだいたい理解した。フランスを滅ぼされたくなかったらこっちに味方すればいいんだな」

 

ぴり、と空気が軋む。戦の気配。

 

「貴女はその残り滓に味方するのですか?この憤怒を理解しない、しようとしない亡霊に」

「君が憤ることを俺は否定しない。そのかわり教えてあげよう。たとえ自分自身であっても、理解できないことはあるよ」

 

男が白いジャンヌを見て、黒いジャンヌにも優しい目を向けた。

この殺気と怒気に囲まれた空間には到底似つかわしくない、柔らかな声だった。

 

「同じ人間から分かたれたのに、違う意見を持つことはある(・・)。君たちの感情が食い違うのはなにもおかしいことじゃない。だから――――そう。わかりあえないのなら殴り合え。どちらも曲げれぬのなら、どちらかが倒れるまで押し通せ」

 

 

守銭奴 うん

フォースを信じろ はい

Silver bow そういや今誰が出てるんですか?

守銭奴 青だよ

フォースを信じろ 紫くんです

 

 

「構えろ、白いジャンヌ。違うなら違うと言え」

「・・・っ。私・・・私は・・・」

「・・・知ったような口を!!バーサーク・ランサー、バーサーク・アサシン、バーサーク・セイバー!田舎娘共々あいつらを殺せ!」

 

貴族然とした男が槍を構え、仮面の女が舌なめずりをし、騎士はただ微笑んだ。

 

「あのセイバーは俺がやろう。アサシンとランサーを頼めるか?」

「、うん・・・はい!来て、キャスター!マシュ、ジャンヌ、やるよ!」

「はい先輩!」

「わ、わかりました!」

 

ふわり、と空気が動き、騎士が突貫してくる。

甲高い音を立ててセイバーの男はそれを受け止めた。立香の視力では視認できぬ速度で剣戟が交わされる。

 

 

Silver bow なんかそのセイバー隠蔽魔術掛かってません?

 

 

掛かってるな…?まことのメガネがあればわかるんだけど

 

 

「マスター!こっちに集中しな!」

「う、うん」

 

振りかぶられた槍をジャンヌが旗で防いだ。間髪入れず地面から生えてきた杭を、後ろに跳ぶことで避ける。避ける。避ける!

 

「くっ・・・」

「どうした。そんなことでは余に届かぬぞ」

 

旗を振ることで杭をたたき折り、ジャンヌがランサーに飛びかかる。余裕を崩さない態度のまま繰り出される攻撃を槍で捌いた。

鋭い穂先が少女を嬲るために動く。力任せに振るわれる旗は聖なる威光を持ってそれを弾く。攻防。

 

 

騎士 力が入りすぎてますよ

バードマスター 明日もう一度来て下さい。本当の聖女をお見せしますよ

騎士 美味しんぼ読んだ?

 

 

赤黒い魔力が波のように襲いかかる。マシュが盾で防ぎ、キャスターが炎を返した。

アサシンが杖で弾こうとするものの、避けきれず声を漏らす。間髪入れず光の魔弾が追撃した。

荒い金属音。

どこからともなく現れた鎖がアサシンを守る。絡みつく魔力は血のように。放たれてきた鎖は蛇のように。盾に絡まりマシュの体制を崩す。

瞬間に振るわれた杖が鈍い音をたてて鎖を砕く。炎が鳥のように舞った。アサシンが後ずさる。

 

「なにをモタモタしているのです。貴方たちはそんなに無能でしたか?早くそいつらを殺しなさい!」

 

金切り声が耳を劈く。

黒いジャンヌは旗の柄を握る手をへし折りかねない勢いで握った。噛みしめた歯は折れそうな音を立てている。

 

「流石、強いのね。私負けてしまうかも」

「そちらこそ」

 

子供の癇癪だな・・・。

それを横目で見ながら騎士のセイバー――両儀式と白髪のセイバー――リンクは小声で会話を交わす。

端からみたら凄まじい打ち合いなのに、当人達にとっては手遊びの範疇だ。そもそも殺る気がない。

リンクはこの場を上手く切り抜ければそれでいいし、両儀は気が済むまで遊べればそれでいい。

第三者の気配に気づいたのは同時だった。鋼の輝線を描きながらさりげなく距離を取る。

 

フランス万歳!!(ヴィヴラ・フラーーンス)

 

万華鏡のように多面の煌めきを纏って、現れたのはガラスの馬車だった。

 

「なんだ!?新手か!?」

「ガラスの馬車・・・?」

 

優雅ではないわ。彼女は呟く。

血と憎悪で縛られた体は重くって、ターンの一つも出来やしない。

善であれ悪であれ、人間はもっと軽やかであるべきだ。折角素敵な衣装を着ているのだから、貴方だけのステップを見せてちょうだい。

女性の声が場を掌握する。歌声とヴァイオリン、空気を貫通するハイパーボイス。

 

「さぁ行きますわよ。皆さん」

 

 

うさぎちゃん(光) うおおおお!!エリザベート・バートリー!!

りっちゃん 嘘でしょあれにペンラ振るの?音痴じゃん

うさぎちゃん(光) そこがたまんねぇんだよな

ウルフ 趣味が鋭角すぎる

 

 

衝撃波による物理的重圧と、歌声が発する魔術的強制力が黒いジャンヌ達を攻撃する。

ガラスの馬に跨がったサーヴァントに促され、立香達が退避の動きを取った。目ざとく気づいた黒いジャンヌが、怒りのままに炎を振りまく。

 

「調子に・・・乗るなぁ!」

 

黒炎は白いジャンヌを捕らえ、リンクの刀に捌かれた。紅い瞳と視線が合う。

 

「・・・ひっ」

 

一瞬、気圧された。逃げるにはそれで十分。

後に残されたサーヴァント達に声をかけられるまで、黒いジャンヌはしばし呆然としていた。

それは正しく恐怖だったけれど、リンクには軽い威嚇のつもりしかなかった。その時点でもう格の違いが出ている。

けれど黒いジャンヌは認めなかった。その怯えを握りつぶした。

己の弱さと向き合えない時点で、もう白いジャンヌにすら劣っているのに――――。



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素晴らしき世界に今日も乾杯

スカイウォードソードswitch版、発売決定おめでとうございます。
カタログチケットでお得に買いましょうかね。


ラ・シャリテより南東、ジュラ。

このあたりの森は喧騒から離れて爽やかだ。青々しく茂り、生命の強さを思い知らせる。

霊脈を確保し終わった後、改めて両者は向き合った。

 

「落ち着いたところで自己紹介をさせていただきますわね」

 

洗練された立ち振る舞いと、魅力的な笑みを振りまくのはマリー・アントワネット。クラスはライダー。

フランス革命という時代の流れに圧し潰された悲劇の女性だ。

 

「マジか。真名とクラスも明かすのかい?ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。クラスはキャスター」

 

舞台に立つ演者のような服装をして陽気に笑っているのは、オーストリアの偉大な音楽家。

その卓越した芸術性から、勇者リンクの生まれ変わりなんて呼ばれていたこともあったようだ。

 

「エリザベート・バートリー。クラスはアイド・・・ランサーよ」

 

『血の伯爵夫人』と呼ばれたハンガリーの連続殺人者は、吸血鬼伝説のモデルにもなっている。

・・・し、今は永遠のアイドルとして活動もしているらしい。アイドル・・・?

 

「清姫と申します。クラスはバーサーカー」

 

安珍・清姫伝説の少女は扇子を揺らして可憐に微笑んだ。

怒りのあまり竜に変化したという逸話を持つためか、嘘には大変に敏感だ。

 

「見ての通りセイバー(の能力も含むクラス・ブレイヴ)だ。真名は・・・・・・ちょっと言えないかな!」

 

 

しかしこれは嘘ではないのでセーフ!

 

 

銀河鉄道123 特殊詐欺の手法

 

 

うるせぇエビフライぶつけんぞ

 

 

驚いた顔でこちらを見てくる面々を手で制しながら、リンクは言葉を続ける。

 

「まあ聞きたまえ。この世には二種類のサーヴァントがいる。真名を知られても困らないタイプと、知られたら困るタイプだ。俺は後者。なのでその辺には触れないでくれると嬉しい」

 

いいかな?と麗しい青年は無邪気に首をかしげた。

計算されたようにみえてその実天然でこういうことをしている。大変にタチの悪い男である。

 

「ええと、私達を助けてくれたのは事実だし、そういうことなら聞かないようにするよ。私は藤丸立香、カルデアのマスターです」

「はい。まだ出会ったばかりですが、セイバーさんの事は信用できると思います。わたしはマシュ・キリエライトです」

「ん?僕たちのことは信用できないって?」

「え!?いえっ、そういう訳では・・・」

 

茶化すように投げられた言葉にうろたえる少女を見て、マリーがアマデウスを叱る。

リンクはこの隙にちゃっちゃと着席していた。目立ちたくないでござる。

 

「こほん、それからこちらが――」

「ジャンヌ。ジャンヌ・ダルクね。フランスを救うべく立ち上がった救国の少女。生前から、お会いしたかった方のひとりです」

「・・・・・・私は、聖女などではありません」

 

胸のつかえはまだ取れぬようだ。少女は零れ落としたような苦笑を浮かべた。

 

「ええ。貴方自身がそう思っている事は、みなわかっていたと思いますよ。でも、少なくとも貴女の生き方は真実でした。その結果を私たちは知っています」

「そうですね。己の気持ちに嘘をつくことも、他人に嘘をつくこともなかったのでしょう?それだけでも(わたくし)には好ましいですわ。異国の聖女さん」

「そうね。国を救うとか、アタシには縁のない話だけど・・・。あの黒いジャンヌよりはよっぽど好感がもてるわ。ぶん殴るのなら手伝ってやるわよ!」

 

三者三様の少女の声が、感情がジャンヌを包む。

 

「ま、その結果が火刑であり、あの竜の魔女なワケだが。良いところしか見ないのはマリアの悪い癖だ。そうだろう、ジャンヌ・ダルク?君の人生にはいささか変調がある」

「・・・・・・・・・・・・」

 

ひかたが袖を揺らした。そろそろ真昼の日は落ちていくだろう。

せわしない者は夕餉の準備を始め、月光の差さぬ夜に備えている。

 

「生前の私はただ、自分が信じたことの為に旗を振って、その結果己の手を血で汚しました。・・・・・・もちろんそこに後悔はありません。私の死も。―――ですが流した血が多すぎた。その夢の行き着く先がどれほどの犠牲を生むものか、その時まで想像すらしなかった」

 

ジャンヌの心の枷は、ジャンヌにしか外せない。

その殻は内側からしか壊せない。

 

「後悔はなかったけれど、畏れを抱く事もしなかった。・・・・・・それが私のもっとも深い罪です。私が聖女と呼ばれたのは、あくまで結果論でしかない」

「・・・ねぇ、ジャンヌ。私はまだあの竜の魔女のことはよくわからないけど、貴女のことは少し分かってきたと思うの」

「・・・立香?」

 

けれど、ノックをするくらいなら許されるだろう。

大丈夫、鍵は開けずとも。ここから貴女に届くでしょう?

 

「なんていうか、これは私もそうなんだけど。その瞬間は怖くないんだよ。必死にあれこれ考えて何かしている間はさ。後悔も反省もしている暇がないの。ジャンヌもきっとそうだったんじゃないかなって」

「・・・・・・」

「だから今ジャンヌがそうやって昔のことを振り返られるのは、心に余裕ができた証拠でもあって。・・・そんなに悪い事ではないと思うの。聖女じゃないと思うのも」

「先輩・・・」

「けど、私はジャンヌのこと凄い人だって思ってるよ。私が信じてるジャンヌの強さを、貴女も信じてほしい。黒いジャンヌにだってきっと向き合える・・・と、思う・・・」

 

話している内に恥ずかしくなってきたのか、語尾はどんどんとしぼんでいく。

七人分の視線を一斉に受けて「以上です・・・」と少女は呟いた。

 

「素敵よ、立香。貴女もとっても輝かしいわ」

「はい!先輩のお言葉、大変心に響きました!」

「やめて!そんな大げさにしないで!恥ずかしい!」

 

うわーっと顔を覆った立香を慌ててマシュが宥める。

リンクがこっそり盗み見た顔を見る限り、今の言葉はちゃんとジャンヌに届いたようだ。

 

「ねぇ、聖女ではないのよね。それならわたしたちもジャンヌと呼んでもいい?」

「・・・え、ええ。勿論です。では私もマリーと」

「私も気軽に清姫と」

「特別にエリーと呼んでも良いわよ!」

「女性の友情は素敵だねぇ。スイーツな雰囲気が大変に甘ったるい」

「おや、ではアマデウスは俺と友情を刻もうか?いつでも歓迎だぞ」

「うーん。君個人に興味があるのは否定しないけど、うっかり噛まれたら怖いからなぁ!」

 

一日は優しく過ぎていく。

パラベラム、狂った聖女は歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うーん。ようやく寝たわね」

 

オルガマリーがぐんと背筋を伸ばす。

画面の向こうのキャンプ地が寝静まったことを確認して、幹部達はカップを手に取る。

南極にも夜が来た。仮眠を取る職員達のねぎらいの声は、さざ波のように遠くなっていく。

 

「しかしあのセイバーはどこのサーヴァントなのかなぁ。刀を持っているって事は日本人・・・?」

 

暖かいココアを一口。ロマニが首を傾げる。

 

「見た目じゃ判別できないからね~。味方になってくれるってことは秩序側の存在だろうし、そんなに心配することないんじゃないかな?」

 

コーヒーはブラック。ダ・ヴィンチが優雅に足を組んだ。

 

「見た目云々の話をアナタがするの?・・・戦闘系のサーヴァントが合流してくれたのは幸いでした。立香達もまだ戦闘には慣れていないし、なによりあのドラゴン・・・。竜殺しの逸話をもつサーヴァントでもいれば良いのだけれど」

 

カフェオレは柔らかい湯気をたてている。胃をほかほかと温めてオルガマリーの緊張をほぐした。

 

「マスターのいないサーヴァントが聖杯に呼ばれたという仮説が成立するのなら、ドラゴンに対抗できる逸話持ちが呼ばれててもおかしくはない」

「ああ、とにかく明日からの散策が重要だね。探知機能は今のところ正常だし、問題があるとすれば・・・」

「夜襲の可能性・・・ね」

 

スプーンはぐるぐるとカップを回る。赤い靴にとらわれた少女のように。

 

「向こうが積極的に殺しに来た場合、対応しきれるか・・・」

「たらればを考えたってしょうがないさ、ロマニ。信じることだけは諦めてはいけないよ」

「・・・そうね」

 

ミルクのドレスはドレープを揺らす。可憐にコーヒーのステージを舞う。

 

「すこし顔を洗ってくるわ。二人も、交代で横になるのよ」

「私はサーヴァントだから大丈夫なんだけどねぇ」

「所長命令です。トップが休まないと下が休みにくいのよ」

 

大げさに腰に手を当てて言い放った少女に、二人は顔を見合わせて笑った。

 

「・・・元気だね。もっと沈んでると思ったけど」

「レフの事かい?元々そんなに仲は良くなかっただろう。勇者リンクの件でさ」

「あー・・・。そういやレフは、勇者に対して敬意を欠いてるとか言っていたな・・・」

 

勇者リンクを英霊として呼び出すこと。その生涯に同情の念を向けていたこと。

その二点をきっかけに、レフとオルガマリーの仲は徐々に開いていったという。

 

「気づいてなかったのは君とレフ本人だけじゃない?というかレフは他の職員にもそんなに好かれてなかったように見えたけどね」

「え!?・・・全然知らなかった。勇者の件で?」

「そうそう。勇者に対して哀れみを持っていたからね。彼は」

「・・・哀れみ?」

 

空になったカップを机の上に置いて、万能の天才はくるりと椅子を回した。

 

「神に人生を定められた哀れな人の子――ってね」

「・・・・・・・・・・・・」

「ま、解釈は人それぞれさ」

 

ロマニの顔が明確に曇ったのを確認して、ダ・ヴィンチは机に肘をついた。

もしも勇者が来てくれるのなら、この友人を見て何と言うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照明の絞られた廊下は薄暗い。

質の良いハンカチで手を拭いながら、オルガマリーは歩みを進める。

キアラはきちんと休めているだろうか。最近は職員のメンタルケアで働きっぱなしのようだし、今のうちに休みをあげた方がいいかもしれない。

等間隔の足音は召喚ルームの前を通り、異常に気づく。・・・あの光はなに?

 

「召喚サークルが・・・動いてる・・・?」

 

慌てて扉を開け中に飛び込む。

魔力はあっという間に室内を満たした。煙が体に当たって砕ける。咄嗟に両手で顔を覆った。

縦横無尽に轟く紫電は、まるで雷王の振るう権能のようだ。

輝きの向こうから現れたのは――――。

 

「我が名はプロフェッサーM!職業教授兼悪の組織の親玉!そして君の為のためのサーヴァントだ!ふはははは!末永くよろしく!」

「・・・・・・は・・・・・・?」

「おや、想像していたよりも素敵なレディ。名前を聞いても?」

「・・・オルガマリー・アニムスフィア・・・。じゃなくて!アナタっサーヴァント!?なんで、どうやって(・・・・・)・・・!?」

「おや、それに関してはちゃんと伝えただろう?私は君を導き、助けになるために来たのさ」

 

青い蝶々を伴い、老紳士は優雅に礼をする。

 

「安易に信用できない気持ちは分かるとも。その上で言わせてもらおう。私は人類とカルデアの未来のために、君を立派な所長にするために来たのさ。・・・こっそりね!なので私の存在は秘匿してくれると助かる!」

「・・・私の」

「ん?」

「・・・・・・私の為に来たの」

 

プロフェッサーM――もといジェームズ・モリアーティは自称するとおり悪の組織のボスである。

蜘蛛であり、蝶であり、しがない数学教授でもある。しかも召喚主は希代の魔王だ。悪が飽和して胸が焼けそうである。

しかしモリアーティはきちんとプランニングが出来る男である。

ここできちんとカルデアとガノンドロフに貢献し、双方からの好感度を稼ぐ方が探偵に対する勝率は上がる。

魔王に勝てるのは勇者だけ。探偵に解けるのは謎だけだ。モリアーティという計算式をほどけても、あの男(・・・)という災害はどうしようもない。

ほんのわずか接した勇者の性格を分析する限り、モリアーティの出方によっては無干渉もあり得る。そのわずかに賭ける――――!

 

「――――そうだよマスター。君のサーヴァントだ。大いに活用し、成長してくれ」

 

優雅に舞い、冷酷に絡め取る。

差し出された手をしっかりと握って、紳士は素敵に微笑んだ。



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シンデレラじゃない

ようやく春らしくなって嬉し~~ですね。
戦闘シーンは難し~~です。ひーひーいいながら書いてます。


お転婆でごめん遊ばせ。小夜啼鳥もため息をつく。

敵襲を受けた森は荒らされていく。複数の足音が走り回る。

 

「サーヴァントを探知!更に、複数の竜種反応だ!」

「マスター!」

「戦闘準備!」

 

やべえ普通に構えそうになったわ。

ほどほどにしないとな。俺はほどほどサーヴァントです。

 

「甲高いトランペット以上に不愉快だな。敵意のある靴音ってヤツは」

「この距離でわかるのですか?」

「勿論。音楽家ってだけでサーヴァントになったんだぜ?大気を振るわす波なら正確に聴き分けられる」

 

 

俺だってわかるし!

 

 

バードマスター 張り合うじゃん

守銭奴 ちょいちょい音楽家要素だしてくるのかわいいね

ウルフ ここで口出したらセイバー・・・?って思われるので抑えましょうね

 

 

「さて、我が耳に届くは複数の足音と風切り音。まことに無粋かつ大雑把。僕の音楽は馬鹿共に届けるためのものではないが・・・。折角ここまでやってくるんだ。即興の安物だが、死神の歌を聴いていけ!」

 

どっと現れたワイバーンと生ける屍たち。

顔を顰めたサーヴァント達は、それでも果敢に挑んで行く。

 

「さあ、ライトを当てなさい!行くわよアマデウス!」

「なんでキミがボーカルなのかな!?ああもう!」

「マスター、見ていてくださいましね。清姫、参りまぁーす!」

 

ごお、と魔力を纏った歌声が竜を貫く。

扇子から火の精霊(サラマンダー)のように炎が現れる。視界を塞ぐ竜に巻き付いては、灼熱の業火で焼き尽くす。

暗夜に響く葬送曲が屍達を包む。既に魂もなく、意志もなく。

ただただ未練と無念で這いずる抜け殻を、奇しきラッパの響きが許す。

その最中、リンクの耳が悲鳴を聞き取った。

 

(近くに誰か居る・・・?フランス兵か?)

 

騒然とする現場は音が入り乱れている。聴力のいいものであれば、絞らないと(・・・・・)ダメージになってしまうだろう。

故に気づいたのはリンクだけだった。そんなに柔な耳してませんよ。

 

「マスター!近くに襲われている人間がいる!俺はそちらの援護に回る!」

「えっ!?」

「わっわかった!気を付けてね!」

 

走り出そうと膝に力を入れたリンクの視界に、硝子の馬が映る。

跳び乗った王妃はぱちりとウインク。後ろの少女達に告げる。

 

「マスター、わたしもセイバーさんのお手伝いを!ジャンヌ達、こちらはよろしくね」

「はいっ!」

「勿論です!」

 

二人は音だけを置きざりにして消えた。――――殺気!

槍を握る手に力がこもる。にらみ付けた先にはあの女。

 

「カーミラ・・・!」

 

竜が感情に反応したかのように吼える。

ぎゃあぎゃあ喧しいわ!歓声にしては下の下もいいところ。

 

『サーヴァントが二体!立香、目の前に居る方に集中しなさい!』

 

通信機越しの声に右手を掲げることで答えた。

 

「アーチャー。露払いを・・・!」

「いいだろう。魔力を回せ、マスター!」

 

固有結界、というらしい。

果てなき荒野は彼の全て。大地を覆い獲物に切っ先を向けるその剣は、悪性を貫く正義の贋作(フェイク)

カッコイイじゃん。と立香は思うけれど、そう簡単な話でもないようだ。

けれど、そうやって魔力を回して呼び出すたびに、誇らしそうな顔をするから。

 

I am the bone of my sword.(―――体は剣で出来ている)

 Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)

 Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)

 So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.(その体は、きっと剣で出来ていた)

 

月を隠す無粋な竜を無限の剣製は砕き散る。

木々の向こうから現れた敵の姿が、恐ろしくないと言えば嘘になるけど。

振り返った赤い背中とグータッチをした。ずっとそうやって、仕方がなさそうに笑っていてよ。

 

「・・・・・・こんばんは皆様。寂しい夜ね」

「何者ですか、貴女は」

「私は・・・。私はマルタ。ただの(・・・)マルタよ。貴方たちに立ちふさがる、ただの障害です」

『マルタ・・・!聖女マルタか!』

「私を倒し、この胸に刃を突き立てなさい。それ以外に、貴方たちが生き残る術はない――!」

 

血に濡れた聖職者は天に吠える。答えるように暗い森からそれは現れた。

 

『気を付けろ、みんな!彼女はかつて竜種を祈りだけで屈服させた。つまり彼女はライダーとして最上位の――――』

「ドラゴン・ライダーだ。気圧されるなよ」

 

咆哮。

咆哮。

ワイバーンなどは比べものにならない。魔力の伴った衝撃波をマシュの盾が防ぐ。

マルタの杖から放たれる光弾をすり抜け、エミヤの投剣が空間を飛ぶ。

タラスクと真正面からかち合ったジャンヌが、その巨躯を力尽くで受け流した。

 

「ジャンヌ、応急手当を」

「ありがとう・・・立香・・・」

「エミヤ、マシュ。スキル発動!」

「させるとでも!」

 

タラスクのかぎ爪が少女を抉らんと襲う。

雪花の壁はダメージを軽減し、なるべくマルタから引き離すために動き回る。

杖を振りかぶった聖女の、バーサークの怪力がジャンヌを吹き飛ばす。四方から降りしきる剣を撃ち落とし、過程のない祈りの魔力はアーチャーを後退させる。

 

『強い・・・!』

 

こういう時に頼りになりそうなセイバーは一時離脱している。アマデウス達とも分断されている今、自分たちで切り抜けるしかないだろう。

 

「・・・・・・なぜ立ち上がるの?」

「え?」

 

土に汚れながらも体制を直したジャンヌに、女は言葉を落とした。

 

「あの壊れた聖女を見たでしょう。彼女のせいで、この国はますます血に濡れている。フランス兵にとっては貴女も彼女も同じジャンヌよ。――貴女が、どんなに違うと叫んでもね」

「・・・・・・」

「例え貴女たちが彼女を倒したって、この国の貴女に対する嫌悪と恐怖が消えるとは限らない。・・・助けてやる義理なんてないでしょう」

「・・・・・・」

 

甘言でないことは瞳を見ればわかった。女は本気で問いかけている。

 

「――――そんなの決まっているだろう」

「エミヤ?」

「・・・エミヤさん?」

 

返答は男の声だった。ニヒルに笑いながら、それでもきちんと前を見つめている。

 

「ジャンヌ・ダルク。君の心の蟠りは、何も成せなかったという絶望だろう」

「―――――」

「何も変えられなかった。救えなかった。ただ死んだ。――――彼のようには成れなかった」

「わ・・・私は・・・」

 

そうだ私は何も出来なかった。ただ罪だけを重ねて。主の嘆きが聞こえたのに。

 

「俺たちは勇者になれなかった。彼のように世界を救えなどしなかった」

 

そうだ私はリンク()になりたかった。当然のように絶望を切り開き、輝かしい未来を手に入れたかった。

 

「だけど――。ただ無為に死んだと断ずるには、少々救いがありすぎる」

「・・・?」

「俺たちは第二の生を手に入れた。そうして聖杯の知識で知ることになる。俺たちの死の先を。かの魔王すらこう言った。未来は屍の先にしかない」

 

揺らいでいた霊基が定まっていく。ジャンヌ・ダルクをジャンヌ・ダルクたらしめる全てが満たされる。

 

「俺たちが死んでも国も世界も終わらない。意志()は続いた。マスター達の時代まで・・・!」

 

こんな結末はわかりきっていた。それでも目を逸らさぬと決めた。あの日の私はまだ生きている。

 

「私は――――」

 

旗が翻る。

 

「私は勇者になれなかった!けれど、あの勇者達のように救えた命があると信じている!私の名前を呼んで、勇気を得る誰かが居る限り!マスター達が、信じてくれる限り!」

 

白い旗が。

 

「私は救いを諦めない!愛したこの国を!生きる人々を!苛む悪竜を許さない!――私自身であっても!」

 

巻き上がる魔力は星の煌めき。天駆ける彗星のごとく。

 

「――良い答えね」

 

ただのマルタ(・・・・・・)は微笑んだ。狂気に浸されているとは思えないほど、優しい笑みだった。

 

「では、これで終わりにしましょう――――。愛を知らない哀しき竜・・・・・・試練の一撃をここに」

「真名、偽装登録――」

「星のように!愛知らぬ哀しき竜よ(タラスク)!」

疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)――!」

 

太陽のように滾る熱を纏ってタラスクが突っ込んでくる。

その猛攻をマシュの宝具が防ぐ。威力に後ずさり、衝撃波が周りを吹き飛ばしながらも。

 

『マシュ!』

「所長・・・!皆さん・・・!わたしも・・・諦めない・・・!」

 

覆らない性能性が合ったとしても、この盾の真髄はその心。

守り通すというただ1つの意地が、鉄壁の守りを譲らない。

 

「無駄よ!」

 

白熱をすり抜けたエミヤの剣戟を杖は防ぐ。力と技の両者が獲物を奮って打ち合う。

甲高い金属音の最中に心眼(真)は見抜く。自ら隙を作り攻撃を絞っていく。

一人で戦っているわけではない。だから何のためらいもなく、後ろを信じて任せられる。

 

「終わりよ――」

「ああ」

 

祈りは敵対者を砕き、その背後から飛び出した突きはマルタの脇腹を貫いた。

 

「ぐっ・・・!」

「瞬間強化」

 

反撃に転じる隙はもう無く、振るわれた旗が霊核を砕く。

 

「――――・・・ごめんなさい、ジャンヌ・ダルク。血で汚しちゃったわね・・・。代わりに・・・少しだけ・・・教えてあげるから・・・」

「・・・!」

 

ようやく肩の荷が下りたように消えていくマルタを、月光が照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葬送を済ました錚々たる騎士。世界は待ってもくれないんだ。

 

「怯むな!知性がある!背中を見せた者を襲ってくるぞ!」

「しかしこのワイバーンの数は・・・!」

「うぉおおおお!」

 

それでも必死に抵抗する。その姿は確かに見えている。

 

「ごめんあそばせ、騎士の皆様。ちょっぴり歌うわ」

 

その声は王権の象徴。かつて王という存在が神の代行であった名残。王が持つ、人を統べる力の具現。

 

「つまり私の歌声そのものが武器ということなのだけど。よかったわ・・・竜さんにも届くみたい」

「流石です。王妃」

 

 

俺゙だ゙っ゙でで゙ぎる゙じ

 

 

バードマスター どうしたどうした

守銭奴 ずっと手加減してるから溜まってるんだね・・・

ウルフ どうどう・・・よしよし・・・

 

 

「ご無事ですか?騎士の皆様」

「あ、貴方たちは一体・・・」

「私達は・・・」

「我々は通りすがりの旅人です。どうも今この国は荒れているようですが、何があったのかお聞きしても?」

 

すっと人差し指を立てることでマリーを止め、代わりにリンクが言葉を繋げる。

代表の男――元帥ジル・ド・レェが話す内容は、概ねカルデア側が把握しているとおりであった。

しかし――――。

 

「・・・フランス兵、フランスの民たちは、本当にジャンヌ・ダルクが蘇ったと?」

「・・・・・・・・・・・・」

「彼女が憎しみを持っていると、思っているのですか」

 

言葉が出ないのは、肯定ではなく。

本当は。本当は信じているからだ。信じていたいからだ。

 

「我々は・・・覚えています。彼女の姿を・・・。聖女の勇姿を・・・」

「魔女はジャンヌ・ダルクを名乗っている・・・。でも・・・」

「・・・彼女が・・・フランスを・・・憎むはずがない・・・!」

 

瞳にはまだ光が残っている。この国はずっと戦っている。ずっと、その意志を受け継いでいる。

 

「ジャンヌは・・・勇者リンクに憧れていました」

「え?」

「まぁ」

 

ゼルダの伝説は吟遊詩人に人気の題材だ。

識字率の低い場所ですら、その物語は届いている。

 

「その気高い志を継いだ彼女が、憎しみに身を浸すはずがない・・・!」

「あれは聖女の名を語る偽物だ!」

 

 

海の男 照れる

フォースを信じろ ヒューッ!

 

 

「ええ、私たちもそう思います」

「そう聞いて安心しました。フランスはまだ大丈夫ですね」

「国王亡き今、この国を守れるのは我らフランス軍だけです。必ずや、あの魔女を打ち倒してみせる」

 

リンク達に礼をして、兵士達は去っていった。

森林をくぐり抜けた疾風が血の臭いを届けてくる。戦いはまだ終わっていない。

 

「! セイバーさん。鎖の音がするわ」

「おそらくあのアサシンでしょう。俺が先行します」

 

軽やかに飛ぶように駆けていく男を、マリーは不思議な心地で追いかけた。

彼は明らかにこちら側の人間(・・・・・・・)だ。発する言葉1つ1つに、マリーの持つスキル『魅惑の美声』と近いものを感じる。

 

それなりに高貴な地位の人なのだろうか?だとしたらなぜ姿を隠しているのだろう。

人のプライベートに首を突っ込むほど世間知らずではないが、隠しきれないカリスマと魅力が好奇心を刺激する。

どんなに姿を偽っても身に染みついた振る舞いと格が消えることはない。老熟した精神に、見え隠れする戦士の顔。余りにも上手く笑みで覆い隠している。

大きなリボンで包まれたプレゼントの梱包を、しかしほどくことは許されないだろう。

余りにもわかりやすいが故に、なぜか誰にも気づけない。これはそういう秘密だ。

 

「加勢します。王妃はドラゴン達を」

「ええ、任せて」

 

マリーの視界には、空を覆う竜達しかまだ見えない。

しかし彼には分かるのだろう。カバンから弓矢を取り出し、構える。その隣を硝子の馬が走り抜けた。

ようやくサーヴァントの姿を見つけた時にはもう既に、アサシンの両肩は矢で貫かれていた。

撃ったのは一本ずつだが、余りにも早すぎるが故にほぼ同時に刺さった矢。その場に居た者全ての意識の外から放たれた矢を、彼女が避けられるほずもなく。

突進してきていたエリザベートの槍が勢いのまま霊核を貫いた。飛び散った血が髪を濡らす。

 

「・・・どうして、殺すのかしら・・・。私達は真実同じ英霊(モノ)だというのに・・・」

「・・・そうね。ただ吸血鬼に成り果てた未来(アンタ)と、その途中にいるだけの過去(アタシ)。違いなんてほとんどない」

 

反英雄に救いなどない。血に酔って狂っている。

 

「・・・犯した罪は消えない。どれだけ正しく在ろうと、アタシが許されることは絶対にない」

 

・・・ああ、この娘は。

 

「それでも今はわかるから。それが悪いコトなんだって」

 

幼稚で、未熟で、どうしようもなく出鱈目で。

 

「だからアタシはアンタの不始末(ぎゃくさつ)を放っておくことなんてできない。アタシの結末が変わらない以上、それはただの醜い自己欺瞞かも知れない」

 

なのにどうして、うっとうしいぐらい眩しくて。

 

「それでもアタシは叫び続けるわ!カーミラ(アンタ)みたいにはなりたくないって!」

 

ああ、暗がりの中に戻るよう――――。・・・やっぱり私は・・・生きても死んでもひとりきり――――。

 

「エリー」

「セイバー!あの矢ってアンタだったのね!やるじゃない!」

「ありがとう。・・・カーミラ。還るんだね」

 

目があった。

青い瞳と。

消えゆく意識の中で確かに、その赦しを見たのだ。

 

(―――――ああ。私は―――――)

 

金色の光が見える。

いいのだろうか。

私だって。

救われてもいいのだろうか。

私だって――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀河鉄道123 なんかカーミラに最後なんかした?僕魔法はわかん

騎士 視界ジャックして隠蔽魔法が破れるようにしたな。彼女にはあの一瞬だけリンクがちゃんと見えてた

いーくん 勇者に許されたならまぁ・・・みたいな感じで安らかに還ったのでおけ

 

 

女性には優しくしろってナビィが言ってた。あとあんなに真面目な反英霊もいるんだなって・・・

 

 

ファイ 何年経っても反省の欠片もない反英霊代表の魔王と近年の殺人者を同列に見てはいけません

 

 

空が白んで朝日が昇る。

透明な空気は体を冷やし、思い出したようにお腹が鳴った。

 

『みんな!無事で良かった・・・』

「お疲れ様です。皆さん」

 

喜びを分かち合う声が通信機の向こうからも聞こえてくる。

夜もすがらの戦いが終わる。



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Reboot

韻を踏むフレーズを最近探しています。僕もマイクで人を吹き飛ばしたいぜ。


散々な夢を見る酸性の檻。はき出されるのは猛毒だけ。

 

「・・・・・・ライダーが自決しましたか。聖女を狂化していても、理性が残っていたとは困りものです」

 

オルレアンの空は暗く、もうずっと黄昏だ。

 

「次は私と彼が出ます。今回召喚したサーヴァント達も連れて行きましょう。バーサーク・アサシンにも連絡を」

「かしこまりました。かつての私であればお引き留めしたでしょう。しかし、今の貴方は完璧な存在です。ジャンヌ、貴女には武運すら不要!」

 

聖杯によって作られた魔女は笑う。作った男は笑う。グロテスクな空間。

 

「ジル。貴方はどちらが本物だと思います?私と、彼女」

「もちろん貴方です。よろしいかジャンヌ。貴女は火刑に処された。あまつさえ誰も彼もに裏切られた!勇敢にも貴女を救うために立ち上がろうとする者は、誰一人として現れなかった!」

 

轟々と声が響く。

怒りで、悲しみで、歪んでしまった男の声だ。壊れてしまった心の音だ。

 

「勇者などいなかったのです!貴女を救ってくれる勇者は!」

 

ジル・ド・レェは絶望している。そして諦めてしまった。決定的に間違えてしまった。

 

「理不尽なこの所業の原因は何か?即ち、神だ!これは我らが神の嘲りに他ならない!そしてそれ故に我らは神を否定する。そうでしょう、ジャンヌ?」

「・・・・・・そう。そうよね、ジル。もう私には何もない。私が信じたものが、ではなく。私というものを許容したこの国そのものが間違えていた」

 

神に無様を嗤われようが、ジャンヌ・ダルクは救いを諦めない。

それをサーヴァント・ジルは忘れてしまった。深い愛が故に、深い憎悪に覆われて。

 

「であれば、その間違いは正さなければ。ジャンヌ・ダルクは間違いだった。私が救国するという行為そのものが決定的に間違っていたのだから」

「・・・・・・ジャンヌ。どうかそこまで思い詰めないでいただきたい。これはただの天罰です。貴女が救った国であれば、貴女が滅ぼす権利がある。これはそれだけの話ではないのですか?」

「・・・・・・そうね。ジル。貴方の言葉はいつも極端だけど、今回は頼もしい」

 

幼子のように朗らかに、女は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前の話をしよう。

ここはリヨン。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ジークフリートが流れ着いた町であり、今まさに滅びようとしている所だった。

突如として襲ってきた竜の魔女の配下は、狂った笑みでジークフリートを追い詰めていく。

いくら男が百戦錬磨の戦士だとしても、今は魔力供給を必要とするサーヴァントの身。嬲られて吹き飛ばされ、血だまりが石畳に染みる。

 

(くそっ・・・!これまでか・・・!?)

 

敵の影は4つ。

杖を携えた女、仮面を被った男、貴族然とした男、剣を構えた騎士。

特にあの騎士――――。恐ろしく強い。微笑みと共に佇んでいる時は敵意の1つも感じなかったのに。剣を振るった途端ちぐはぐなほどの殺気が迫った。一体何者なんだろう。

 

(住民は・・・逃げ切れただろうか・・・。せめて人々だけは・・・・・・)

 

ぜいぜいと呼吸が耳をつく。ふらつく膝を叱咤して剣を構え直した。

どんなに絶望的な状況でも、諦めるのは嫌だ。だって勇者はそんなことをしない。

ジークフリートの憧れたリンク()は、胸を高鳴らせてページを捲った日からずっと、この弱い心を守ってくれた。

ならばこんどはジークフリートが、暴力に蹂躙される人を、心を、守るのだ。

 

(せめて一人だけでも・・・差し違えてでも・・・!)

 

魂すら神に握られても、この心だけは己のものだと言った。あのヒーローを信じている。

お人好しと笑われても、利用されても、それで悲しみが減るのなら本望だと思った。サーヴァントの身になってもそれは変わらない。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る―――――」

 

真エーテルが膨れあがる。青き輝きを目にしたサーヴァント達が退避行動を取る。逃がすものか――――!

剣が掲げられてから振るわれるまでの合間に運命が変わるなんて、一体誰が予想しただろう。

 

ジークフリートの宝具が放たれることはなかった。聴覚をくすぐった旋律が思考を吹き飛ばし、体の動きを止めたからだ。

剣から真エーテルがかき消えて、三騎のサーヴァントが崩れ落ちた。騎士のサーヴァントだけが離脱に成功していたが、ジークフリートには気にする余裕がなかった。

敬愛する姫に捧げる子守歌。夜更かしを包むオカリナの音色。優しくて、柔らかくて、暖かくて・・・。

知らないはずなのに知っている。皆この音を知っている。振り向くのが怖い。近づく足音にぶるぶると震えた。

反響を残して歌は終わる。

 

「ジークフリート」

 

どんな喧騒でも耳に届くと確信できるほど、美しく張りのある声だった。

自分の呼吸が五月蠅い。静かにしてくれ・・・!心臓もずっと暴れている。どうしよう・・・・・・。

 

「・・・怪我をしているじゃないか。見せてごらん」

「ヒッ」

 

誤解を招かないように言っておくが、このヒッは恐怖からくるものではない。

感情が許容量を超えて押し出された時の声である。

 

「・・・大丈夫か?というかそろそろこっちを見てくれないか。なぜ頑なに地面を睨み続けているんだ」

「・・・・・・・・・ちょっと」

「む?」

「待って・・・・・・ちょっと・・・・・・無理です・・・・・・・・・」

 

 

もしもしサポートセンター?

 

 

災厄ハンター 推しを目の前にしたときの模範解答

小さきもの ファンサしてあげなよ

 

 

ふむ。

すこし足に入れて、瞬きよりも早くジークフリートの目の前に立つ。身長差が故に下からのぞき込む形になるため、必然的に上目使いになった。

 

「無理とはどういうことだ。助っ人が俺じゃ不満か?」

 

金色の髪を腰まで流し、サファイアよりも煌めく瞳をもつ美青年(時の勇者)をドアップで脳に叩き込まれた竜殺しは―――――そのまま後ろにひっくり返った。

 

「どうした!?」

「アワワ」

「生きてるならいいか・・・」

 

 

話が進まねぇ

 

 

騎士 先にあっちのサーヴァントをどうにかしろ

バードマスター ウケる

 

 

ウケるな。

しょうがないので先に魔女の配下に話しかけることにします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面の男――――ファントム・オブ・ジ・オペラをぺちぺちと叩いて起こす。

彼の残忍性を知っているものがみたら目を見開く光景だが、リンクは気にしない。

やがてファントムが目を覚ます。リンクを視認し、体を起こした。

 

「クリスティーヌ・・・?」

「おっとそうきたか」

 

魔法で一時的に狂化を弾かれているのもあるが、リンクの音楽的才を即座に見抜くのは流石といったところか。

ふらふらと寄る様は花に恋した蝶のよう。リンクも特に拒絶することもなく頭を撫でてやる。

 

「ああ・・・クリスティーヌ!きみはクリスティーヌ・・・!その姿は・・・・・・あぁ・・・・・・」

 

怪物の瞳が滲む。こぼれ落ちた涙を胸に抱き込むことで拭った。背中をさすってやる。

 

「なんて美しい・・・・・・。あぁ・・・・・・何故・・・私はこんなに醜い・・・」

 

仮面から嗚咽が落ちていく。誰にも拭われなかった悲哀が痛み出す。

“エリック”は救われたかも知れないが、ここにいるのは無辜の怪物として形作られた幻影(ファントム)だ。こんな異形の腕で、どうやって人を抱きしめられるのか。

 

「我が狂気は、他人との意思疎通すら困難にしてしまう・・・。クリスティーヌ・・・歌ってくれ。それだけでもういいのだ・・・」

「ファントム、お前の歌は聴かせてくれないのかな。お前の歌は、クリスティーヌを導くものだろう」

 

アサシンが顔を上げる。濡れた頬を拭ってやりながらリンクが続けた。

 

「クリスティーヌを助けてあげなさい。この町の前で待っていて。その精神汚染を抑える歌をあげよう」

「私に・・・出来るのだろうか」

「もちろん。仮面を被ったままでいいよ。俺だってよく被るからね」

 

麗しい唇から流れる歌を、ファントムは心に刻みつけた。

後ろのジークフリートも滅茶苦茶集中して聞き耳を立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルタ。起きなさい。朝だぞ~」

「ううん・・・」

 

祭事服に身を包んだ女に声をかける。

青い髪を揺らしてマルタはゆっくり体を起こした。まだ状況が理解できていないのか、少しぼんやりとしている。

驚かせないようにそっとリンクは声をかけた。気分はモルモットに話しかける人間である。

 

「聖女マルタ。お加減はいかがですか」

「・・・・・・・・・・・・」

「!?!?」

 

どばっと涙が溢れた。先ほどのファントムの比ではない。呆然とした表情のまま、彼女は泣き続けている。

流石に突然女性に泣かれるのはリンクも動揺する。慌ててカバンからタオルを取り出して差し出した。

 

「ど、どうした?そんなに泣いたら目が溶けるぞ。ほら、使え」

「・・・・・・ひっ・・・く・・・・・・。う、うぅ・・・・・・ぐす・・・」

 

震える指先がタオルを受け取り顔を覆った。肩が小刻みに揺れては嗚咽が漏れる。

ガチの方の泣き方であった。

 

 

サポートセンターーーー!!!!

 

 

海の男 まだあわわわわわ

銀河鉄道123 泣かせたーーーー!!!先生に言ってやろーーーー!!!

いーくん 落ち着くまで待ってやれ

 

 

頼れるのはいーくんだけ

 

 

しばらくしゃくりあげていたが、徐々にマルタは落ち着いてきた。

恐る恐る声をかける。

 

「・・・聖女マルタ。落ち着いたか?」

「聖女じゃない!!」

「えっ」

「わたっ、私に・・・!狂気に冒されて虐殺をした私に・・・!聖女と呼ばれる資格など!」

 

叫ぶように懺悔する。

彼は神ではないけれど、己を裁くのなら彼しかいないと思った。

ただでさえ削られていた心がひび割れていく。こんな姿を、よりにもよって、勇者様に――――。

恥ずかしい。消えてしまいたい。こんな形で出会いたくなかった。涙はもう止まらない。

 

「――では、マルタ。ただのマルタ。俺の話を聞いてくれる?」

 

怒号で包まれた戦場でだって、彼の声は届くだろう。そんな甘い響きだった。

 

「竜の魔女を倒さんと戦っているものがいる。お前もすぐに出会うだろう。その子達を導いてほしい」

「・・・・・・」

「狂気に冒されていようが、許されざる行いをしてしまおうが、君は一人で立てる(・・・・・・)。そうだろう?」

「―――――」

「俺は君を裁かない。怒ってもいない。ただ、信じているよ。君のもつ強さを」

 

濡れた青い瞳が煌めいて、雨上がりの空のよう。

いとけなく頷いた彼女に微笑んだ。マルタはゆっくり立ち上がる。

 

「この町全体に・・・魔力が張り巡らされていますね」

「うん、俺の歌で狂気を弾いている。だから町を出たら元に戻ってしまうのだけれど・・・」

「構いません。この杖とタラスクに狂気がいくのは抑えてみせる。・・・タオル、汚してしまったわ」

「そのうち返してくれればいいよ。きっとまた会うだろうし」

 

ただのマルタは目を見開いて、そして、ただただ嬉しそうに笑った。

 

「勇者リンク。今度会う時は必ずお礼をします。私、料理が得意なんです」

「うん。楽しみにしてるよ」

 

髪を揺らして彼女は去って行った。

後ろのジークフリートはもらい泣きしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ・・・・・・」

 

 

もう慣れた

 

 

うさぎちゃん(光) みんな泣くじゃん・・・

ウルフ 確かに先代は素晴らしい方ですけれども・・・

 

 

ヴラド三世ははらはらと涙を零した。

己が英雄と認めた男と、こんな形で出会うだなんて思わなかったので。

吸血鬼としての側面を受け入れ召喚された己と。狂化をかけられ血を啜るだけの悪魔(ドラクル)を!・・・なぜ勇者が見逃してくれようか・・・。

でもこれで良かったのかもしれない。これ以上罪を重ねる前に裁きに来てくれたのだとしたら、むしろ本望だ。勇者リンクになら殺されてもいい・・・。

 

「ヴラド三世。ルーマニアの英雄よ。・・・こちらを見なさい。俺の目を」

 

冷え切って暗い牢獄であろうとも、照らしてしまうような声だった。

 

「吸血鬼でありながら吸血鬼を否定する王よ。誰が何度悪魔(ドラクル)と呼んでも、貴方は否定し続けねばならない」

「・・・・・・余は」

「否定することが貴方の矜持だろう。魔女の手先だろうが、フランスを血で汚そうが、己の姿くらい覚えていろ」

 

太陽の光を束ねて梳いたら、こんな色の髪になるのだろうか。

目が焼けてしまいそうだ。・・・吸血鬼じゃなくても。

 

「俺をそんなに輝く目で見てくれるんだね。ありがとう」

 

青年は手を引いた。促されるままに立ち上がる。

 

「このリンクは、お前が英雄であることを知っているよ。それでは足りないだろうか」

「・・・いいや、勇者よ。どうか余の姿を見ていてくれ」

「もちろんだ。気高き王よ」

 

あの日夢中になって本にかじり付いた、幼い子供はまだ生きている。

子供心に夢に見た英雄(ヒーロー)は、やはり勇者(ヒーロー)なのだ。・・・思い出した。まだ己は戦える(・・・)

しゃんと背筋を伸ばして行くウラド三世を、リンクと後ろのジークフリートは見送った。

 

「・・・ジークフリート。そろそろいいか?」

「待ってほしい変な汗をかいています」

「おう」

 

おう・・・・・・。



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ハッピーエンドのイントロが聴こえる

太陽はきらきらと人々を照らす。快晴の午前。

 

「みんな~!情報をもらってきました~!」

 

情報収集のために町に行っていたマリーが帰ってきた。

竜の魔女が従えるあの巨竜の名はファヴニール。数多の神話・物語に名を残す最上級の竜種である。

しかしマルタは教えてくれた。聖杯は因縁のあるものを呼ぶと。

リヨンという都市に竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ジークフリートがいると。

 

「結論から言うと、リヨンにはジークフリートと思わしき騎士がいたそうよ。でも今は町に行くことが出来ないみたい」

「? どういうことですか?」

「少し前に恐ろしい人たちがやってきて、住人は一人残らず避難した・・・。その後様子を見に行こうとしたら、謎の歌声に阻まれて町までたどり着けないみたいなの」

「歌声・・・?」

 

リヨンへ近づくたびに強い目眩、混乱を起こし調査は断念されたという。

騎士の行方も知れず、難民達は心配しているようだった。

 

「恐らくサーヴァントの仕業だろう。僕の音楽で相殺できると思うよ」

「流石アマデウスさん。ではお願いしますね」

「・・・そうそう、シャルル七世が討たれたのを切っ掛けに、混乱していた兵をジル・ド・レェ元帥が締め上げたそうよ」

「ジルが・・・!?」

「魔女と戦うため、準備をしているのでしょう」

 

森で彼らに会ったことは、リンクの進言によりジャンヌには伏せられている。

合流するかどうかはジャンヌの様子に合わせた方がいいと。

 

「ジル・ド・レェはジャンヌの信奉者でしょう?ジャンヌがお願いすれば、きっと力になってくれるのではなくて?」

「・・・だからこそ、です。“竜の魔女”となった私のことは知っているでしょう。彼がそんな自分を受け入れるとは思えません」

「・・・」

「・・・そう。なんとなく。違う気もするのだけど。でも、会いたくない気持ちも分かるわ!だって女の子だもの!」

「うん、無理して会わなくていいと思うよ」

 

この件はジャンヌの意志を尊重するべきだ。立香達は目配せをすると、一路リヨンを目指す。

小高い丘を越えると歌声が響いてくる。アマデウスが使い魔を呼び寄せ、守りのメロディを纏わせた。

 

「・・・先輩!町の入り口に誰か居ます!」

「アレが声の主か。さて、顔を拝見しようかね」

 

平地に朗々と広がる独唱は、来訪者を真っ向から阻む。

サーヴァント、ファントム・オブ・ジ・オペラ。竜の魔女の配下であり―――――。

 

「おまえ達はクリスティーヌか?」

 

歌姫を導く音楽の天使である。

 

「は?」

「邪悪が来る。全てを燃やし尽くすために。竜が来る。悪魔が来る!私はそれを待っている」

「悪魔・・・」

「竜殺しはモンリュソンへ行った。追いかけるのなら早くしろ。私はクリスティーヌの邪魔をしない」

「!」

「えっ」

 

ファントムの言葉にカルデア側は動揺する。

彼は竜の魔女が召喚したサーヴァントではないのか?なぜこちらの味方をするような言動を?

 

『! 所長!立香ちゃん!退避を推奨します!』

『どうしたの、ロマニ』

『サーヴァントを上回る、超極大の生命反応だ!ファヴニールに間違いない!』

「そんな・・・!」

「邪悪って・・・そういうことか!」

 

マリーの馬に乗りこみ逃げる準備をする。立香はファントムを振り返った。

 

「あの・・・!キミは・・・!」

「行きなさい。クリスティーヌ」

『ごめん!サーヴァントも三騎追随!』

「・・・成る程。なら俺も付き合おうかな」

「セイバー・・・!」

 

セイバー――リンクがひらりとファントムの側に立つ。振り返って笑う。

 

「大丈夫だよ。俺は強いからね。ちゃんと追いつこう」

「・・・ならば(わたくし)も。お手伝いしますわ。よろしくて?」

「清姫!?」

 

着物を揺らして少女も立つ。立香達を見上げて言う。

 

「モンリュソンで合流しましょう、マスター」

「・・・うん。待ってるから。気を付けてね」

「セイバーさん。清姫をよろしくね」

「もちろん」

 

走り去った馬は硝子の煌めきを残していく。

瞬間、空を覆う黒い影。鼓膜を揺らす咆哮。

 

「清姫、残って良かったのか?」

「貴方が(わたくし)達の中で一番強いこと。分かっているから大丈夫ですわ」

「なるほど、期待には応えないとな」

 

黒いコートの処刑人、シャルル=アンリ・サンソン。

全身を鎧で覆い、黒い霧に包まれている男――ランスロット。そして竜の魔女。端から見たら分の悪い対決だが――――。

 

「下がれ、ファヴニール。貴様の出る幕はない」

「・・・?」

『――――――』

 

それ(・・)は殺気であったし、威圧であったし、威嚇であったし、睥睨であった。

 

魔力と交わって巨竜に突き刺さり、その心臓を握る。

巨竜は自身の死を明確に知覚した。恐れて止まった。恐れてしまった。

竜を殺した逸話だけじゃこうはならない。もっと大いなる功績からくるプレッシャー。

絶対に勝てないと思った。もう動けない。

 

「!? 何をしているのですファヴニール!動きなさい!」

「ファントム、上まで連れて行ってやる。魔女と話してきなさい。清姫、あのアサシンの相手を。俺はあの鎧の騎士をやる」

「は、はい」

 

清姫達には、セイバーが言葉を発したことしか分からない。

ピアノの鍵盤を叩いたときのような音と共に、ファントムが巨竜の上、魔女に前に立つ。準備は整った。

 

「お待たせ・・・おっと」

 

土煙と共に突進してきたバーサーカーを刀で受け流す。

地面を抉りながら体制を直し大剣を振るう。魔力を纏った一撃は、しかしそれより早い突きが頭、胴、剣の腹を叩いたことで崩される。

重心を壊され弾かれるように反った体を右足が蹴り飛ばした。重い打撃音。

 

「・・・Arrrrrrr!」

「狂気に堕ちた騎士か。ここまで狂ってると救いようもないな」

 

 

なんだっけコイツ。浮気したんだっけ

 

 

騎士 不倫じゃないか?

銀河鉄道123 でも狂化入ってる時点でカモ

Silver bow 入ってなくても多分時なら勝つんだよな・・・・・・

 

 

更に速度の増した右薙ぎは魔力壁にぶち当たって止まる。予兆もなく脈絡もなく、魔法は間髪入れずに発動した。

 

「ディンの炎よ」

 

大炎がランスロットを覆う。巻き起こった熱風が大地を舐め、霊核を燃やし砕く。

 

「A・・・アーサー・・・王・・・・・・」

「ランスロット!?くっ・・・!」

 

清姫と打ち合っていたサンソンが距離を取る。

炎を壁のように出すことによって近距離の攻撃を防ぎ、火の玉を纏って剣の直撃を避ける。清姫は実に上手く対応していた。

焦ることはない。自分の役目は敵を倒すことではなく、彼が来るまでこの場を凌ぎきることだ。

 

「清姫、無事だね」

「はい。(わたくし)だってこのくらいは出来ますわ。・・・ところで」

「?」

セイバー(・・・・)・・・?」

「・・・その件は後でね」

 

にっこり笑った少女から目を逸らしつつ、アサシンに向き直る。

ここで倒しておかないとね。

 

「逃げるなよ?――フロルの風よ」

「うっ・・・!?」

 

強風がサンソンを包む。風神に握られているかのように体はぎちぎちと締められている。

指一本動かせぬまま男の刃に貫かれた。刀は心臓を砕き、赤い瞳と目が合う。

 

「殺人者に堕ちた処刑人なんて笑えないぞ。ムッシュ・ド・パリ」

「・・・え・・・ぁ・・・・・・。え?」

「次はもう少しマシな召喚をされるといい」

 

バチン!と頭の中で音が響く。朝の清涼な空気を吸った時のように、思考が明瞭になっていく。

消滅の間近で狂化を外された男は、自身を解放した剣士を見た。

 

「貴方は、」

「王妃に会う前で良かったな」

「・・・・・・必ず、お礼を」

 

そう言い残してサンソンは消える。残った風が服をはためかせ、空を泳ぐ。

 

「アサシン!バーサーカー!?・・・なんなの。何なのよあの男!?」

「おまえにはけして、届かぬ人だ」

「貴方、裏切ったの!?」

「いいや、私は歌うだけ。クリスティーヌを導くだけ。エリックの望みを守る(・・・・・・・・・・)だけ」

「は?」

 

ファントム・オブ・ジ・オペラは怪物として扱われた。怪人は愛されない。人を傷つけて踏みにじる。

けれどエリックは愛を知った。歌姫の栄誉を願った。幻影(ファントム)はその意志を守る。守れなくても守るのだ。

 

「私は幻影(ファントム)。怪物として聖杯に作られた。だけど、クリスティーヌの幸福を願う」

「何の話・・・」

「魔女、おまえはどうする?憎悪の具現として作られて、そのまま生きるのか?」

「は・・・」

 

作られたもの同士わかる。魔女もまた、聖杯に作られた存在なのだと。

彼女は知らなければいけない。そのためにファントムは導こう。歌をもって教えよう。

 

「だが絶望することはない。なぜならおまえは何にでも成れる。希望は全てに振りそそぐ」

「なに。何を・・・」

「在り続けろ、もう一人のジャンヌ。きっと星は見ていてくれる」

「・・・うるさい!!」

 

灼熱の炎が身を焼いても、ファントムは苦しむ様子さえ見せなかった。

怒りと屈辱、未知に対する恐怖は、魔女の体を震えさせる。

こいつは何を言っている。作られた?私が?何を訳の分からない――――。

思考はごちゃごちゃでまとまらない。ようやく巨竜が動けるようになった時には、荒い息だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、つまりだね」

「はい」

「俺はセイバー・・・の力も持つクラスなので・・・嘘ではなくて・・・」

「嘘でないのはわかります。クラス名は?」

「・・・エクストラクラス・ブレイヴ」

 

魔女はほっといて大丈夫。という彼の言葉に従いさっさと離脱したのはいいが。

・・・ブレイヴ・・・?

 

「・・・それは日本語に訳すとどういう意味になるんですか?」

「勇者」

「・・・貴方は勇者なんですか?」

「そうだよ」

 

彼は勇者らしい。勇者・・・?

視線をちらりと落とす。腰に下げられたのは刀だ。日本人の清姫にはなじみ深い。

 

「日本人なのですか?」

「日本人じゃないよ」

「・・・真名は?」

 

白銀の髪がざぁと揺れた。

綺麗な人だ。女性の清姫でも見惚れるくらい。

 

「皆には内緒にしてくれる?」

「誰にも言いません」

「ありがとう。――隠蔽魔法・解除」

 

ぱちん、とシャボン玉が割れるような音が聞こえた。

輝く金色が飛び込んできて、反射する光の隙間から青い瞳が見える。

 

「真名は――リンクと言うのだけれど」

 

知ってる?という声が耳に届いた後、清姫は腰を抜かした。

 

「だっ、どうした!?」

「・・・・・・・・・・・・」

「息してる!?息して!?呼吸大事!」

「・・・・・・うそ」

「嘘じゃないぞ!現実だぞ!」

「まっ・・・て・・・ください・・・・・・。受け止めるのに時間が掛かる・・・」

「オッケーゆっくり飲み込んでいこうか!」

 

清姫が立てるようになったのは1時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして。ライダー、真名をゲオルギウスと言います」

「俺はセイバー。ジークフリートだ」

 

ティエールの町を越え、モンリュソンにいたのは二騎のサーヴァントだった。

ジークフリート曰く、魔女の手先を避けた後、鎮魂に赴いたゲオルギオスと合流したらしい。

 

「あの・・・町の入り口にサーヴァントが」

「あのアサシンだろう?彼はマルタ殿と同じく俺を助けてくれた。味方と判断していいだろう」

「私はリヨンの難民がこの町にも避難してきたため、様子を見に伺ったのです。・・・しかし、竜の魔女がもうそこまで迫っているとは。この町の市民も、避難し始めた方がいいかもしれません」

 

市長に進言してくるというゲオルギウスといったん別れ、立香はジークフリートと共に今晩の宿を取ることにした。

 

「そのセイバーの男はそんなに強いのか?」

「うん、凄く。だから清姫も大丈夫だと思うよ」

「私もまだそこまで戦闘のことに詳しくはありませんが、彼が別格なのはわかります」

「剣だけじゃなくて弓も使えるのよ!カーミラを射貫いたの!」

「でも真名を隠してるんだよねぇ。教えてくれてもいいのに」

「駄目よアマデウス。秘密があるのは女の子だけじゃないの」

『こっちでも特定できてないんだよね。流石に情報が少なくて』

「なるほど」

 

会話が弾み始めた立香達を余所に、ジークフリートは痛み始めた胃をそっと抑えた。

 

(絶対勇者リンクのことだ・・・・・・・・・。緊張しすぎて胃が痛い・・・・・・。前回は咄嗟のことで握手しかして貰えなかったが、サインってして貰えるのだろうか・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「清姫、そろそろ立てそうか?」

「はい・・・」

「深呼吸だ。・・・そう、上手だな」

 

 

ウルフ 要介護者?

災厄ハンター 足メッチャ震えてる

 

 

「モンリュソンは結構遠い。なので馬に乗って行こうと思うんだけど」

「馬」

「馬。エポナって言うんだけど・・・それはどういう感情の顔?あっ馬乗ったことない?」

「乗りたいです!!」

「うん!」

 

微妙に噛み合ってなかったけど気にしたら負け。

エポナをオカリナで呼び出し、二人乗りして町に向かった。日が暮れる前にはたどり着くだろう。

清姫が前、リンクが後ろだ。落ちないように手綱を持つ手で挟んでいる。

馬を持ってるセイバーもいるので、エポナを連れてるのはおかしなことではないが、名前とか聞かれたら困る。嘘をつくわけにもいかないので。

 

 

なので町が見える辺りで降りようと思います

 

 

ウルフ いいと思います

りっちゃん エポナ凄い顔してるけどそこには触れていいの?

災厄ハンター 後で機嫌取るの俺らなんですけど

フォースを信じろ 苛つきが爆走に変換されてめっちゃ速え

 

 

ごめんエポナ・・・。あとでニンジンいっぱいあげるから・・・。



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It's a small world

雨の日は眠くて困りますね。最近は春気候で嬉しいです。


今宵は素敵なスターナイト。皆寝てしまったね。

ここからは僕たちの時間だ。

 

「恋バナをしましょう!」

 

きらきらと輝く笑みのアントワネット。夜空の星にも負けていない。

 

「せっかく女の子ばかりだもの、恋バナしたいわ!女子会トーク!」

「いいわねマリー!楽しそうだわ!」

「恋のことなら(わたくし)、深い造詣がありまぁす!!」

 

庶民宿のベッドで少女達は笑う。隣の部屋から残りの三人も呼んできて、さあお茶を淹れましょう。

 

「その・・・私、女子会というものは初めてで・・・」

「ノン!大丈夫よ楽しくお話するだけだから!ねぇエリー、話してくださらない?生前の恋の話とか」

 

マシュがカップを抱えて呟き、マリーが言葉を続ける。

エリザベートは少し照れた風に視線を上に向けた。これはいつかの思い出。

 

「生前・・・は結婚してたけど、今のアタシはその前の姿だし・・・。でも一度だけあったかな・・・ここじゃない何処かで・・・」

「私も力を取り戻したついでに記憶も戻って・・・。その・・・はい・・・。とても恋しい人がいます・・・」

「えージャンヌが!?気になる・・・!ちょっと詳しく聞かせてよ」

「マスター・・・!恥ずかしいです・・・!」

 

今まで見たことのない顔を見せる二人に空気が甘酸っぱくなっていく。

これが恋バナの魔力なのか・・・!?

 

「では私もお話しましょう。生前まさに燃えるような恋をしました」

「ほほう・・・」

 

清姫がおもむろに語り出す。

マシュは身を乗り出し、立香はあれ?という顔をした。

 

「お相手は安珍様という旅の僧侶の方。(わたくし)、一目で好きになって思いを伝えました。断られてしまいましたが、安珍様は再会を約束してくれしました」

「ふむふむ」

「ですが安珍様は会いに来て下さらなかった。私を恐れ逃げたのです。嘘をつき裏切ったのです」

 

おや・・・雲行きが・・・?

 

「だから私追いかけました。追いかけて追いかけて、悲しみで怒りで憎しみで、いつの間にか(わたくし)竜になっていました」

 

立香は天を仰ぎ、ジャンヌとマシュは顔を覆った。

 

「そして追いついた先の御寺の鐘に隠れた安珍様を、竜の火炎で鐘ごと焼き尽くしたのです」

(これじゃない・・・っ!!)

(こういうやつじゃない・・・っ!!)

「そういうんじゃないわよ!もっとポップでキュートなのにしなさいよ!」

「失礼な!逃げ惑う安珍様は窮徒(キュート)でしたわ!」

 

なかなかハードな経歴である。いやそれは大概の英霊がそうなのだが。

 

「マ、マリー。何か無い?」

「え、ええ・・・」

 

立香が話題を投げると、受け取ったマリーが咳払いをして話し出す。

それは初恋の話。マリーが6歳、相手が7歳だった頃。

 

「緊張していたのかしら。彼は床に滑って転んでね。わたしが手を差し出すと、キラキラした目で見つめてこう言ったの」

 

シェーンブルンでの演奏会で二人は出会う。幾つもの始まりの、それは一つだった。

 

「“ありがとう素敵な人。もし貴女のような美しい人に結婚の約束がないのなら、僕が最初でよろしいですか?” そう言ってくれたの!あんなにときめいたのは生まれて初めてだったわ!」

「キャーッ!なにそれなにそれ!」

「すごーい!御伽噺みたい!」

「それでそれで!?彼とはその後どうなったの!?」

 

寝静まった町に歓声が響いた。隣人もいないから気楽なものだ。

 

「それっきり何も。7年後にはわたしは結婚してしまったし、でもね(・・・)。その彼とは皆もう会ってるわ」

「・・・え?」

「・・・それってまさか・・・」

「うふふ♪」

 

今度は絶叫が響いた。・・・流石に住人が起きてしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガァン!と蹴飛ばされた椅子が跳ぶ。

魔女の感情を受け止められる者はここにはおらず。ただ虚しいだけの沈黙があった。

 

「何よ・・・!」

 

脳裏に浮かぶのは田舎娘。忌々しい敵のサーヴァント。このフランスを救うだとかいう人間共。そして――――。

 

「あの男・・・!何なの・・・!?」

 

“おまえにはけして、届かぬ人だ。”

 

「・・・っ」

 

体重をかけて踏みつぶされた椅子が壊れる。

怒りは殺意となり、屈辱は殺意となり、恐怖は殺意となり、びりびりと空間を振るわせた。

どんな感情も憎しみに変わる。復讐者(アヴェンジャー)だからではない。彼女はそう作られて、そうとしか生きられない。

 

“魔女、おまえはどうする?”

 

(うるさい)

 

“憎悪の具現として作られて、そのまま生きるのか?”

 

(うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!)

 

私が、私は!ジャンヌ・ダルクだ!

 

苛烈な感情が燃える。魔女を魔女たらしめる矜持がかえってくる。

それは愚かで、愚直で、でも真っ直ぐだった。

どんな偽善であっても、死ぬまで貫き通したのならそれが真実善であるように。

玉座に腰掛ける彼女は確かに、竜の魔女であったのだ。

 

(・・・残るサーヴァントは二騎・・・。足りませんね、追加で召喚しないと・・・)

 

いつの間にかアーチャーも消えている。しかしこちらには聖杯があるのだ。焦ることはない。

必ず彼女(わたし)を叩き堕とし証明する。私こそが本物だと――――。

 

「駄目よ」

「・・・・・・・・・?」

 

ふわり、と声が落ちる。女の声だ。

布の擦れる音。

前から誰かが見つめている。・・・誰だっけ?

 

「それ以上は王様の機嫌を損ねるかも。貴女だって嫌でしょう――――?」

「・・・・・・・・・・・・」

「サーヴァントの召喚はしないわ。貴女はこのまま彼らを迎え撃つの」

 

顔を両手で包まれて目線を合わせ・・・。

目が・・・?目・・・?

 

視界がぼやけていく。目の前にいるのは誰?顔が見えない。

このサーヴァントは誰・・・?

 

 

「貴女は自信満々でいればいい。必ず勝つと思っている。考えればいいのはそれだけよ」

 

「・・・・・・」

「ね?」

 

 

 

ぐにゃぐにゃと視界が回って。

見えない。見えない。

 

あなただれ・・・?

 

 

 

 

「――――――ジャンヌ。ここにいましたか」

「・・・ジル?」

 

・・・すこしぼんやりしていたみたいだ。声をかけられるまで気づかないなんて。

 

「かの者達が近づいてきています。数時間後にはオルレアンにはたどり着くでしょう。ご采配を」

「竜たちを集めて。迎え撃ちます。恐れることなどありません、私が勝ちます」

「おお・・・!それでこそ我が聖女・・・!」

 

二人分の靴音が響いて、やがて遠くなった。

それだけのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦は間近。オルレアン郊外に駒を進める。

避難民を安全な街まで護衛するゲオルギウスといったん別れ、立香達は竜の魔女を目指していた。

 

「おいおいマリアの奴、シェーンブルンでのこと話したのか!?どうりで視線が生暖かったわけだ・・・」

「先輩ですらにまにましてましたからね・・・。お疲れ様です・・・」

 

夜の見張りはマシュとアマデウス。

ぱちんと火花の飛ぶたき火を囲んで、二人は声を潜めて話す。

 

「でも、まぁそうか。楽しそうで何よりだよ」

「・・・アマデウスさんは楽しくないのですか?」

「そういう訳じゃないさ。ただ少し、感慨深くなっているだけだよ」

 

地上から眺める星は遠く、小さく。

 

「マリアが現界して最初に合流したのが僕だった。彼女は少しだけ、この聖杯戦争が歪んでいることを喜んでいた。自分が・・・殺し合い願いを叶える為ではなく、人々を守る命として呼ばれたことに・・・」

「・・・・・・」

「今度こそ間違えず大切な人々と大切な国を守る為に、正しいことを正しく行うのだと。そうマリアは誓ったんだ・・・」

 

けれど輝く。地上の喧騒など知らぬように。

光だけを与えている。

 

「正しいこと・・・ですか?」

「そうだよマシュ。君にとって正しいと思うものはなに?」

「それは・・・多くの生命を救い、多くの生命を認めること、でしょうか」

「大雑把だね。じゃあ仮に、立香君がそういう人でなかったら?」

「それは・・・・・・」

 

夜風は冷たくて、手をかざす炎は暖かい。

カルデアのシュミレーターとは違う。世界の温度だ。

 

「すまない、意地の悪い仮定だった。でもその迷い、不安を忘れないことだ。マシュ、君はたぶん自由を得たばかりの人間だろう?」

「・・・はい」

「だから選択することの恐ろしさに足が竦むことが多くある。これから形成されていく自分の在り方に迷うこともあるだろう」

「・・・そう、なのかも知れません。わたしは、その・・・あまり外を知らなかったので」

 

あの一面の雪景色を見ない日があるなんて。

人生はなんて数奇なんだろう。

 

「君は真っ白だな。なにも書かれていない楽譜のようだ。・・・いいかい、人間は多種多様だ。同じ価値観は1つもない。僕たちはそうやって多くのものを知り、多くの景色を見る。そうやって君の人生は充実していく」

「・・・」

「君が世界を作るんじゃない。世界が君を作るんだ。そして成長した君はいつか、この世界を越えなくてはいけない」

「世界を・・・?」

「ああ、どのようなカタチであれ、自分がいた証を残すんだ」

「だからアマデウスさんも、多くの曲を残したのですね」

 

アマデウスは笑おうとして、苦笑に留めた。

そんなに真っ直ぐ見ないでくれよ。僕はそんなに立派じゃない。

 

「それも、大した事ではなかったけどね・・・」

「?」

「だって、たったひとりの、初恋の女の子の死に際にさえ立ち会えなかった男だよ?僕の人生なんてどうでも――――」

「・・・どうでもいいなんて、本当は、思ってないでしょう?」

 

マシュが息を吸う音は、静かな夜に響いた。

風はいつの間にか止まっている。

 

「貴方の音楽は幾人もの人の心を動かしました。勇者リンクの生まれ変わりと、当時の人々が噂したのも頷けます」

「噂だよ」

「はい。でも――――。後悔はないのでしょう?貴方が選んだ、貴方の人生です。どうして否定するようなことを言うのですか?」

 

明日の事なんて分からないけど、分からないなりに生きたいと思ったのだ。

なのに、どうしてそんなに悲しいことを言うのだろう。

どうしてそんなに、悲しい顔をするのだろう。

 

「・・・・・・ははははは!」

「!?」

「いやはや、慣れない事なんてするもんじゃないな。サリエリみたいな教師にはなれないかぁ・・・」

「サリエリ・・・、アントニオ・サリエリ?」

 

まさかこんな反撃をくらうとは。

先輩面しようとしたバチが当たったかな?

 

「そうだね、マシュ。後悔なんてしてないよ。どんな場所であっても、誇りをもって聴衆(きみたち)に奏でよう」

「はい!」

「戦闘能力ゼロの僕がそれでも英霊になったのは、マリアに会いたいだけじゃない・・・。勇者リンクに、会えるかも知れないと思ったのさ」

「勇者に・・・」

「万が一、億が一会えたのなら――――。彼の生演奏を聴きたくて、僕の曲を聴いてほしいと思った。ろくでもなくて、多くの人を狂わせた悪魔の、唯一誇れる音楽を―――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バードマスター いい話じゃん・・・

騎士 年をとると涙腺が緩いんだよな・・・

 

 

野営地から少し離れた場所にリンクは居た。

マシュとアマデウスの会話をこっそり聞きつつ、手持ち無沙汰に髪をいじる。

岩に足を組んで座りながら視線を下に向ければ、やたら低い体勢で悶えている男が居た。

 

「・・・・・・ジークフリート。そろそろいいか?」

「待ってくれ!・・・待って・・・。ちょっと待って・・・。待ってほしい・・・。待って・・・」

「一単語しか話せなくなったのか?」

 

タルミナの刀鍛冶に打たれた、時の勇者の愛刀である“金剛”。

そして言わずもがなマスターソード。

この二振りを見せてほしいとジークフリートに頼まれ、まあ見せるだけなら・・・と了承したのはいいが。

 

 

ほんとに見るだけで触りもしねぇな・・・。いやマスソは俺ら以外に抜けないんだが

 

 

ウルフ 先代の顔と武器を交互に見て永遠に感動し続けるのやめろ

うさぎちゃん(光) 顔を赤くして口元を両手で覆うのは片思い中の少女の仕草なんよ

海の男 そろそろ寝たら?

 

 

そうだな。眠いわ

 

 

「ジークフリート、そろそろ俺は眠いから休むぞ」

「えっああそうだなすまない・・・」

「まだ何かあったか?」

「えっいやそのないですないです」

「そうか?おやすみ」

「(ヒェッ)はい」

 

不思議そうな顔をしながらも、武器をしまって青年は戻っていった。

あとに残ったのは顔を覆ってうずくまる男だけ。

 

(あああああ~~~~!!変装しててもかっこいい!!)

 

抑えきれなかった感情のままに地面を叩く。

深夜にしていい行動ではない。野営地に聞こえなくて良かったな・・・。

このあと数分悶えた後、サインをもらい損ねたことに気づき心底悔しがることになる。

明日が決戦の日とは思えないテンションだが、本番にはきっちりシリアス顔できるのがプロの英雄というものかもしれない。

多分。



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私が未来よ

「こんにちは、ジャンヌ(わたし)の残り滓」

「こんにちは。竜の魔女になった私」

 

 

ワイバーンが空を覆い尽くし、大地はとうに焼け野原。

 

「この竜を見よ!愚かな人間共!今や我らが故郷は竜の巣となった!」

 

ここはオルレアン。夢の残骸が眠る場所。

ファヴニールの上から声がする。

羽根も持たない生き物達は、ただ地面でそれを聞いた。

ありとあらゆるモノを喰らい、このフランスを不毛の地にする声を。

 

「それでこの世界は完結する。それでこの世界は破綻する。無限の戦争、無限の捕食。

 それこそが真の百年戦争――――邪竜百年戦争だ!」

 

それでも焔は灯っている。

 

「何・・・!?」

「フランス兵・・・!」

 

雄叫びがする。

無力を嘆き、それでも進んできた人間の声が。

 

「撃てーーっ!」

「ここがフランスを守れるかどうかの瀬戸際だ!全砲弾を撃って撃って撃ちまくれ!」

「恐れることは決してない!何故なら我らには――――」

 

砲声が空に響く。弓が天を目指す。

フランス軍はワイバーンを蹴散らしながら、たった1つの勝利を目指す。

 

 

「聖女がついている!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『立香ちゃん!マシュ!前に進め!』

「露払いは(わたくし)達が」

「マスター、背中は任せろ!」

「うん!」

 

清姫の炎が風穴を開け、エリザベートの歌が竜を吹き飛ばす。アマデウスの魔術が拘束した敵を、マリーの馬が打ち砕いた。

ジークフリートとジャンヌを先頭に立香達は駆ける。

 

「ファヴニールが降りてくるぞ!」

「私が!」

 

巨大な体躯が腕を振るうだけで、地面はあっという間に陥没する。

ジャンヌの宝具が背後の味方を守らんと発動した。

地震。地割れ。轟音。

 

『・・・すごい・・・!これがジャンヌ・ダルクの宝具か・・・!』

『見とれてる場合じゃないわよ!口腔部に魔力集束!』

 

黒い魔力が集まっていく。

自身の魔力(オド)だけではなく、大気中の魔力(マナ)を吸収して。

自分達だけでなく、オルレアン一帯すら吹き飛ばす攻撃を見ても、不思議とマシュの胸に恐怖はなかった。

“わたしが皆を守る。”

ただそれだけだった。

 

「真名、偽装登録。疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)――――!」

 

通信が雑音を立てて乱れる。

バリバリと不快な音を響かせる画面から、誰もが目を離さない。

永遠とも思える時間が暴風と共に過ぎた。

 

・・・光。

青い光が土煙を裂く。

 

『これは・・・真エーテル!?』

「―――隙を見せたな。邪竜」

 

ジークフリートの宝具が発動する。

相殺しようと開いた口にリンクのフォローが叩き込まれた。ほんのわずか、衝撃に体が硬直する。

それで十分だった。

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。

 撃ち落とす――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

 

光が全てを飲み込んでいく。

 

「馬鹿な・・・!ファヴニールが倒される・・・!?」

 

光が全てを飲み込んでいく。

 

「・・・終わりです。竜の魔女」

「ぐっ・・・!?」

 

死角から振るわれた旗が魔女を吹き飛ばす。

もんどり打って倒れた体は、しかし即座に起き上がる。

聖女をにらみつけながら魔女は吠えた。吠えた。

 

「田舎娘が!!調子に乗るなぁ!!」

 

旗がぶつかって鈍い音を立てる。炎を纏いながら豪腕で襲いかかる魔女を、手数の多さで捌いていく。

勢いに押されどんどんと後退していく聖女が、ふいにひび割れた地面に足を取られた。

鋭い穂先が心臓を貫かんと動く。嘲る笑み。

 

「フッ―」

「がっ・・・!?」

 

体勢を崩したかのように見えた聖女は、膝を曲げて懐に入ると旗に添うように拳を振るった。

向かう力同士がぶつかり、下半身をしっかり固定していた聖女はそのまま。魔女だけが背後に跳ねていく。

腹に響く重みを飲み込めない内に追撃。ジャンプからの両足踏みつけ。腹に追加ダメージ。

ためらいなしの容赦なしである。試合なら既にゴングが鳴っている。

 

「ぐっぇ・・・!」

「最後に勝敗を決めるのは戦術です。貴方は力に頼りすぎましたね」

 

かっこいいこと言っているがこの女、袈裟固めをキメているのである!

純粋な戦闘経験の差がここにきて出てしまった。もう魔女は動けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャンヌ・・・!おお・・・なんということだ・・・!」

 

オルレアンの中心に立つ城。かつての絢爛さはもうない。

レンガの頑丈さだけを伝えながらそこに立っている。

城にたった一人残ったサーヴァント。ジル・ド・レェは絶望した。

 

またしてもこの国は彼女を拒む。彼女の救済を拒む。彼女の存在を拒む!

許されない許されない。そんなことは許されない。許さない!

激情は思考を鈍化させ、視野を狭めていく。なんていいカモなんでしょう。

 

 

 

「―――――じゃあ、どうするの?」

 

 

 

するり。布の擦れる音。

さらり。注ぎ込まれる声。

 

「・・・・・・・・・・・・ぁ?」

「貴方のジャンヌは負けてしまったわ。この状況をひっくり返すには、もう聖杯の力じゃないと」

 

積み木はあっけなく壊された。遙かなる深淵で、手を叩いて悪意が笑う。

なんて喜劇(悲劇)!可哀想なジル・ド・レェ!助けて(・・・)あげなくちゃ!

女はただ笑って、引き金を引かせるだけ。

 

「ねぇ、そうでしょ?―――ジャンヌの為よ?」

「ジャンヌ・・・ジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌジャンヌア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

 

 

絶叫。

城が吹き飛んだ。

 

 

「何だアレは!?」

「・・・兵士の皆さんは避難を!戦いはもう終わりです!後は私達にお任せを!」

 

城の内側から生まれてきた化け物は、タコとイカが合わさったような見た目をしていた。

後方でフランス軍のカバーに回っていたゲオルギウスにも、その異形の姿が届く。

巨大で醜悪な姿に顔を顰めながらも、立香達のもとへ馬を走らせた。

 

「・・・・・・悪魔は、どちらかという話だな」

「!? 貴方は・・・敵ですね」

「左様。だが、戦う気はもう無い。・・・その姿、その威光。聖ゲオルギウスだな」

 

目の前に立ちふさがった男に歩みを止めるも、戦意がないことに気づき剣を降ろす。

 

「守護騎士に屠られる余は、悪魔(ドラクル)だろうか」

「・・・貴方の誇りは、悪魔と呼ばれることをよしとするのですか?」

「否!・・・彼のようなことを言う。ならばやはり、余はここで去ろう」

 

微笑みのままに男は両腕を広げた。

憑きものが落ちたような、穏やかな顔だった。

 

「頼む」

 

胸が貫かれ、霊核が崩壊する。

エーテルの光となって、男は去って行った。

 

「・・・彼、とは誰のことでしょうかね」

 

ベイヤードを走らせながら、ゲオルギウスは独りごちる。

狂化を受けているはずのサーヴァントがああも安定した精神で最後を迎えた。

もしかしたら、カルデア側も把握していないサーヴァントがまだ居るのだろうか?

 

「・・・いえ、後にしましょう。今はあの怪異です」

 

呆然と立ち尽くす味方達を見つけ、ベイヤードは加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャンヌ!」

「マスター!皆さん!」

『なんて魔力だ・・・!計測機が振り切れてる!』

 

後方から追いついた五騎のサーヴァントと、立香とマシュ。そして二騎のセイバー。

彼らが城に一番近い場所にいたジャンヌの元にたどり着くと、膨大な魔力の余波が体に叩きつけられた。

 

「ジル!ジル!ねえどうしちゃったの!?ジル!」

「竜の魔女!ここにいては巻き込まれます!もっと下がって!」

「離しなさいよ!・・・きゃっ!?」

「どうしたの!?」

 

ジル・・・怪物の元へ行こうとする魔女と、それを引き留めている聖女。・・・だったのだが突然、がくんと二人の体が揺れた。

 

「体が引っ張られる・・・!?ジル・・・!?」

「ダメ・・・!私だけじゃ引きずられる・・・!」

「魔女さん!」

 

マリー、清姫、エリザベートが慌ててジャンヌの体を掴む。

それでも引っ張られる勢いは止まらず、五人は徐々に怪異に近づいていく。

 

「おいおい何が起こってるんだ!?僕の拘束魔術でも止まらないぞ!」

「周囲の魔力を吸収している・・・?これが聖杯の力だとしたら・・・」

「ゲオルギウス!何か分かったの!?」

 

今にも飛び出して行きそうなマシュをジークフリートが、立香をゲオルギウスが抑え、状況を分析する。

明らかに聖杯の力によってサーヴァントは暴走している。だからと言って竜の魔女を取り込もうとするのか?

・・・いや、可能性はある。

 

「竜の魔女、貴女は――――。聖杯の魔力によって作られたのですね」

「・・・えっ」

「それなら辻褄があいます。本来は存在しないはずの聖女の反対(・・)であることも」

「聖杯が使った魔力を取り戻そうとしているのか・・・!」

「・・・そんな」

 

その声は前方の少女達にも届く。

もう怪異は目の前だ。蠢く触手に、このままでは絡め取られる。

手を離して逃げないと。

 

「アンタやっぱりジャンヌじゃないじゃない!」

「今その話しますかエリマキトカゲ!!」

「ジャンヌ!離さないで・・・」

「・・・離しません!」

 

何で離さないの?訳が分からない。

なんなのこいつら。意味わかんない。

 

「離して・・・」

「嫌です」

「離しなさいよ!哀れんでるんでしょ私のこと!?見下してるんでしょ!?どうせ私は作り物よ!!」

「貴女!!死にたいんですか!!」

 

怒鳴り声は空間を響かせる。

はっとして誰もが白いジャンヌを見た。黒いジャンヌも見た。

 

「貴女が誰であろうと!救うことを諦めない!それが私だ!

 貴女は!?ここで消えて無くなりたいんですか!?」

 

鼓膜を振るわせる声にぐちゃぐちゃの思考が弾けた。

残ったのはほんの一匙の恐怖。感情は言葉になって滑り落ちる。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・消えたく、ない・・・」

「――――――来て、アーチャー」

 

 

 

唇から零れた言葉が立香の耳に届いたとき。

立香の口からも言葉は飛び出ていた。考えるよりも前に、心が決まっている。

 

(オレ)を呼んだな?」

「あの怪異を倒します」

「・・・それは命令か?雑種」

 

幾多の魔力が浸食し、反発し、オルレアンは崩壊していく。

立香は息を吸って、背後に出現したギルガメッシュを振り返った。

 

「あの怪異を倒すために、黒いジャンヌを助けるために、貴方の力が必要だ。

 私達に力を貸して。アーチャー」

「なぜ魔女を助ける」

「声が聞こえたんだよ。―――聞こえないふりなんてしない!」

 

 

空間が歪んだ。

空が点滅し、莫大な魔力が渦となって巻き上がる。

宝物庫からその剣は来たる。赤い光を伴いながら、周囲の風を巻きこんでいく。

 

 

「・・・ふっ。雑種にしてはよくやったものよ。その必死さに免じ、人類最古の宝物を見せてやろう」

『とか言って本当は勇者っぽいことできて嬉しいくせいでででで』

『余計なことを言うなキャスターあっち行ってろ!』

 

ちょっとなんか聞こえたが皆スルーした。

令呪が輝きサーヴァントに力を託す。輝くは王の一振りよ。

 

「裁きの時だ。世界を裂くは我が乖離剣(かいりけん)

 ・・・・・・受けよ!天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!

 

真空波の渦が全てを、世界を切り裂いていく。

それは当たり前のように勝利をもたらし、このフランスの戦いを終わらせるだろう。

 

深淵の悪役達は、ご都合主義にため息をつき。

まぁ余興にはなったと、おざなりな拍手を送った。



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リメイク・少女

深海の魔を纏って、怪異は大地に現れる。

轟音と地響きが城を吹き飛ばしたのを、カルデアの面々は驚愕をもって受け止めた。

 

 

バードマスター えっ

騎士 ハ?

いーくん ん~?

 

 

リンク達もまあまあ驚いていた。何だアレ。

そして時の勇者は即座に音楽魔法を発動していた。高速歌唱、ぬけがらのエレジー。

動かぬ分身を生み出すと魔法で気配をぼやかし、立香が移動したら連動して動くように細工した。

飛び散る瓦礫に意識を奪われている周囲は気づかない。縮地で消えたリンクを追いかけるのは、画面越しの勇者達だけ。

 

 

何だ急に!?あのセイバーじゃね!?

 

 

厄災ハンター 多分そうじゃね

海の男 間違いないんじゃね

銀河鉄道123 やだな~~~第三勢力の出現やだな~~~

 

 

同意を得られた所で人影を見つける。怪異の後方で風に吹かれながら立つ姿は、シュヴァリエ・デオンにしか見えない。

カバンに手を突っ込みまことのメガネを取り出したリンクと、舞い散る金髪越しに視線が合う。

しばらくして先に声を発したのは勇者の方だった。疲れの滲んだ顔で問いかける。

 

「両儀式。ガノンドロフに呼ばれたのか?」

「ええ。ご機嫌よう勇者さま。私、今は悪い子なの」

「そうみたいだな・・・・・・」

 

隠蔽されていた姿が解けていく。

着物を纏った女性は無垢な童女のように微笑む。刀から手を離さないのに抜くそぶりを見せないリンクを見て、眩しそうに目を細めた。

 

「・・・本当に、優しいのね。勇者さま」

「お前を斬ってもなぁ・・・。大人しく巣に帰ってくれれば、もうそれでいいんだが」

「でも、それじゃあ王様が満足しないかも。サーヴァントの首くらいは取っていこうかしら」

「アイツの満足ラインってなんだよ・・・。どうせ今回は様子見だから、指示を仰いだ方がいいぞ」

 

 

なんで俺がアイツのフォローみたいなこと言ってんの?

 

 

ウルフ やっぱ魔王はクソですわ

 

 

きしむ音が耳に響く。膨大な力が干渉し合い、空間がわずかに歪みを作る。

渦のように吸収されていく魔力は赤い光を纏って一点に集まっていった。

 

「あれは・・・ギルガメッシュ・・・?」

「・・・あら、帰ってくるように言われたわ。またね、勇者さま」

「マイペースがすぎん?」

 

 

うさぎちゃん(光) ギルガメッシュなんでエア抜いてんの?めちゃめちゃにならん?

守銭奴 対界宝具すげ~

 

 

ちくしょう。現場は辛いぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脳裏に浮かぶ1つの光景がある。私はいつもそれに手を伸ばす。

だが届かない。当たり前だ、私はそこに居なかったのだから。

 

それでも何度も手を伸ばした。幾度も請い願った。

結末は変わらなかった。

 

ああ、何故私はあの場に居合わせなかった。

何故、誰も彼女を救ってくれなかった?

 

 

 

「ジル・・・って、サーヴァントのジルさんだよね」

「ええ。私達と同じように呼ばれ、竜の魔女に加担していたのでしょう」

 

暗雲が晴れる。

光は全てを切り裂き、粉砕し、結末を告げる。

わずかに残った霊基が落ちてくる。駆け寄る魔女を見て、顔を歪めた。

 

「ジル、」

「ジャンヌ・・・」

「ねぇ、アンタ私を復讐の道具にしたかったの?」

 

その場全ての視線が魔女に集まる。どんな顔をして言っているのかは、キャスターにしかわからない。

 

「聖女の代わりに世界を壊してほしかった?本物じゃないのに、本物だって言ったの?」

「違います!ジャンヌ!私っ、・・・私は!」

 

 

ああ、何故私はあの場に居合わせなかった。 

 

 

「私は!」

 

 

何故、私は。

 

 

「貴女に・・・」

 

 

彼女を、救ってあげられなかった?

 

 

「幸せになって・・・ほしくて・・・」

 

ジル・ド・レェは絶望している。誰よりも己に。自分自身を憎んで。

けれど月日は憎悪すら狂わせた。

神、王、国。

全てを恨み、呪い、いつしか何も見えなくなった。

 

「・・・馬鹿ね」

 

嗚咽を漏らすキャスターを見下ろして、呆れた声で少女は言う。

 

「しょうがないから許してあげる。どうあれ聖女サマは私の存在を認めているのだし、この世に存在する因果はもう手に入れました」

 

ゆっくりと振り返った顔はもう、魔女の顔に戻っていた。

 

「次はもっと上手くやるわ。たとえ泡沫(うたかた)だとしても、覚めない限り私はいる(・・)

「・・・まったく、そちらの私はやんちゃですね」

「ハァ!?!?」

「我が友、ジル・ド・レェ。そして魔女の私。貴方たちが地獄に落ちるというなら、その時は私も一緒ですよ」

 

唖然としたまま霊基が消えていく二人に、朗らかにジャンヌは続けた。

 

「貴方たちだけに罪を背負わせたりはしません。いつか夢が覚めたときは、共に眠りましょう」

 

光の粒子は空に消えていく。

地上をのぞき込むようにして現れた太陽が、優しく人々を照らした。

 

 

 

 

第一特異点 邪竜百年戦争オルレアン 定礎復元

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り!」

 

わっと歓声があがる。

立香は照れ笑いを浮かべ、マシュは安堵したように受け止めた。

フランスで召喚されたサーヴァント達と別れ、ギルガメッシュと共にカルデアに帰ってきたのは、時計の針が十二時を過ぎた頃である。

 

「マスター立香、そしてマシュ。よくぞ無事に帰ってきました」

 

震える声を押さえつけて、オルガマリーがねぎらいの言葉を贈る。

 

「ファーストオーダー、コンプリートです。・・・本当に、よく頑張ったわ。お疲れ様」

「ありがとうございます、所長」

「所長もお疲れ様!この聖杯はどうしよう?」

「それはとりあえず私が預かっておくよ。二人とも、今日はよく休むんだよ」

「ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん」

 

聖杯を渡すと、待ちかねたように立香のお腹が鳴った。

ますます照れたように笑う立香を、職員達も微笑ましく見つめている。

 

「マスター、マシュ。食事の準備ができているから、まずは着替えてくるといい」

「えへへ・・・」

「エミヤさんのご飯ですか?久しぶりですね」

「もちろんだ。さぁ行くぞ」

 

アーチャーに先導され二人が退室する。

 

「・・・さて、ギルガメッシュ王。先ほどの宝具についてなのですが」

「なんだ。我の采配に不満でも?」

「そういう訳ではなく・・・。ただ、あんなにもあっさり出すとは思わなかったので・・・」

 

ロマニの指摘に眉を顰めるものの、すぐに機嫌を取り戻す。

 

「当然だろう!出し惜しみなど勇者はせぬ!常に全力、全霊!なによりあのタイミング!まるで大空の勇者が放つスカイウォードが如く!我がことながら心が躍って」

「あっわかりましたもう大丈夫ですありがとうございます」

「まだ話は終わっておらんぞ!!」

「ギルガメッシュ王。特異点の記録作成の為にも、続きは私が聞きますので・・・」

「む、そうか?」

 

オルガマリーに促され着席したギルガメッシュからそそくさと離れ、ロマニは息をついた。

 

「なんだい、聞いてやればいいじゃないか」

「ダ・ヴィンチ、人ごとだと思って・・・」

 

けらけらと笑いながらダ・ヴィンチがキーボードを叩く。

冷めたコーヒーを啜るロマニの顔色はすぐれない。

 

「人ごとさ!結局あのセイバーは正体が分からなかったねぇ」

「また会うって言ってたし、そんなに心配することないんじゃ・・・」

「・・・やけに疲れてるね?なにか気になることでも?」

「・・・うーん」

 

がやがやと司令室は賑やかだ。

働く職員達を眺めながらぼんやりとした顔を浮かべるロマニを、ダ・ヴィンチだけが心配そうに窺っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新しい英霊を召喚し、維持するためにも、電力と魔力は保たないと・・・」

「しかし肝心のリソースがない。そうだろう、マスター」

「ええプロフェッサーM。無いものは動かせません。・・・どうしよう」

 

深夜のカルデアは密会に適している。

机を挟んでマスターとサーヴァントは会話を続ける。

 

「リソースならあるじゃないか。聖杯が2つ。これ以上ないエネルギーだと思うがネ」

「・・・私の独断で使えません。せめてロマニやダ・ヴィンチに相談しないと・・・」

「反対するような要素はないと思うけどネー。・・・それとも、コフィンの電気を落とすかい?」

「しないわ!・・・・・・プロフェッサーM、彼らの蘇生は人理が修復されてからです。それまで触る気はありません」

「ふむ」

 

カルデアの施設データに目を通しながら、プロフェッサーM(ジェームズ・モリアーティ)は机の上に手を組んだ。

付け焼き刃のカリスマはいつしか本物の刀になるだろう。教え子が成長するのは悪くない気分だ。教授は優雅に微笑む。

 

「Aチームのメンバーくらいは起こしてもいいんじゃないかね?彼らは優秀なんだろう?」

「・・・ええ」

「煮え切らないネェ」

「医術に特化したサーヴァントが来れば、あるいは・・・視野に入れるべきかもしれません。しかし、彼らは“藤丸立香”とあまりに違いすぎる」

「・・・」

「第一特異点の時点で気づきました。Aチームの彼らでは、人理を修復できるという確信がない」

 

マグカップからふわりと上がる、湯気だけが元気だった。

 

「所長の判断か。それなら従おう」

「・・・ありがとう」

「礼を言うことではないよ。胸を張っていなさい。キミはへりくだってはいけないからね」

「うん、・・・ええ」

 

夜の端まで雲は泳ぐ。

デジタル時計がぱっと光り、時間を進めた。



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第二特異点
銀色の毒杯


第二特異点、スタートです。


愛。

 

愛よ。

気高き狼よ。

 

どうか答えてくれ。この真紅と黄金の国を、どうか救ってくれ。

 

 

バチバチと魔力が弾ける。召喚サークルに沿うように光輪が走った。

金色の煌めきは空間を覆い、魔力反応による煙が視界をぼやかした。膨大な気配が膨れあがる。

―――――現れたのは十代の青年だった。

ざっくりと降ろされたキャラメル色の髪。今日日の空のような青。美しい顔をゆるりと向けられる。

深緑の服が、背中に背負った剣が、彼が何者であるかを示していた。

 

「光の勇者・リンク。よくオレを呼んだじゃねぇか。アンタがマスターか?」

 

にぃと笑みを浮かべた青年を見て、ロムルスはゆっくりと頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配信中です。
 
上位チャット▼


奏者のお兄さん なんで!?!?!?昼寝してたお兄さんにも分かるように説明して!?!?!?

海の男 ロムルス=クンが聖杯を使ってピンポイントでわんちゃんを呼んでたので

フォースを信じろ オッ訳ありか~?と思って行かせました

災厄ハンター まあまあまあなんとかなりますよウルフ先輩ですし

【オレ】人理修復RTA【参上!】

16人が視聴中

 

 

任せて下さい!世界、救います!ฅ•ω•ฅ

 

 

りっちゃん 字幕機能・・・だと・・・!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セプテムに行って、ブーディカ、レオニダス、諸葛孔明を消してこい」

「はい、王様。頑張るわね」

 

ローマが完全崩壊しないギリギリを攻める、ガノンドロフは性格の悪い男である。

王が座す部屋にはいつの間にか数多の影が集っていた。

戦の気配を、血の臭いを、人間の悲鳴を聞きつけて。

好意を持って悪意を持って好奇心を持って、役者は揃う。

 

「マスター。他の特異点も知れました。いかがいたしますか」

「適当に揺らしてやれ」

「仰せのままに」

 

ざわざわと集まる視線を払いながらギラヒムは退室する。

カルデアも人理を滅ぼした者もどうでもいい。ギラヒムの全ては主の御心。

あの日過去の世界で主に殉じたことをギラヒムは悔いていない。

 

ただ。

 

全てを呪い、破壊し、そして滅ぼされた終焉の者は、ねじ曲がった運命と共にヒトに成った。

それでも世界は主君の支配を拒む。あの忌々しい緑も、女神も、王女も、全てが主の邪魔をする。

なのに―――――。

もはや意識もなく、魂となり流れ。巡り、主の剣に引っ張られ、この場所に落ちてきた日。

こちらを認識した主君の放った言葉だけが、憎しみに浸ることを許さない。

 

「この我を守護神と呼ぶか。未来よ」

 

あの地はマスターのテリトリー(領地)だ!汚すことなど許さぬ・・・!

 

「ザント!・・・ついでにユガ!キャメロットに行ってこい!砂漠を荒らすサーヴァント共を殺せ!」

「「はっ」」

 

どうせカルデア側には勇者が着いているのだ。世界など、最終的にはどうにでもなる。



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だめだ・・・何度考えてもウマ娘エポナちゃんがリンク(とマロン)以外に懐いてくれねぇ・・・。
二つ名は多分「高嶺の花」か「デイム・エポナ」。


「チッ、なんだあの愚かなバーサーカーは」

 

足音荒く。

服の埃を大げさに払いながら宮廷魔術師が戻ってくる。

・・・同じ深緑の装いでも、こうも不快感を抱くものか。ロムルスは人ごとのように男に視線を向けた。

 

「聖杯は・・・無事だな?召喚者を敵と誤認するとは・・・。バーサーカーが愚かであるのは自明だったか」

「・・・カリギュラは」

「外で伸びているよ。まったく、余計な労力を使わせてくれる」

 

黄金の器はただ煌めき、宮廷魔術師(レフ・ライノール)の手の中に戻る。

 

「令呪がないのが口惜しいが、奴にはとっておきの術式を用意してある。悔やみながら己の姪を手にかけ、この時代の全てを破壊し尽くすだろう」

 

芝居がかった口調からは、根本的にこちらを――人類を見下しているのがありありと窺えた。

形だけ恭しく退室した男を見送って、ようやくロムルスは相好を崩す。

 

「勇者よ。――おお、麗しき狼」

「わふ」

 

浜に寄せられた波のごとく。ふわりと広がった影が目の前に浮きあがる。

ぴこん、と三角の耳がお行儀良く鎮座した。黒狼が現れる。

 

(ローマ)もあの男に呼ばれた。この時代の完全な破壊。皇帝ネロの死と、古代ローマ帝国の崩壊。人類史の死――――。・・・口惜しき、(ローマ)ですら今は使い魔の身か」

「・・・・・・」

「カリギュラは暴走したのではない、私の指示だ。愛しき弟が如きローマよ。無茶をさせた・・・」

「・・・で、その隙にオレを召喚したと?この使い魔に何をお求めで?」

 

するすると影は動く。パラティーノの丘がごとき瑞々しい緑を纏い。

狼から人の姿に戻ったリンクは、床にあぐらをかいてロムルスを見上げた。

瞳は好奇心にらんらんと輝き、微塵も深淵なぞに染まっていない。

 

「緑の勇者よ。黄昏を友と呼び、影を従えた牧童よ。聖杯よりも古き光であるその身が、使い魔であるはずがない」

「まあそうだな。呼ばれたから来てやっただけだ」

「我が声に応えていただいたこと、感謝する。故に私はこう言おう。――ローマを救ってほしい」

「あの魔術師は自分が引きつけておくから?」

「ローマこそ世界であり、世界こそローマである。故にローマは永遠であり、世界は永遠でなくてはならない」

「人理崩壊には加担しないってか。うん、嫌いじゃないぞ、そういうの」

 

ぐぐっと伸びをして青年は快活に笑う。

広い地中海をあまねく照らす、太陽のような明るさであった。

 

「任せておけ!なんとかしてやる」

 

 

オレ魔法とか使えないんすけど大丈夫ですかね

 

 

Silver bow 大丈夫じゃないだろ。0.5秒でモロバレだろ

うさぎちゃん(光) わんちゃんはわんちゃんにしかなれないのにどうして安請け合いしちゃうの?

いーくん なんとかって具体的にどうするんですか?そんな抽象的な指示で人が動きますか?

 

 

うるせ~~~~~!!!!!お前らには聞いてねぇ!!!!!!先代!!!!どうすか!!!!!

 

 

奏者のお兄さん 取りあえずこの建物から離れた方がいいと思うよ

 

 

ウッス!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連合首都を離れ、マッシリアを過ぎて駆ける。

狼の健脚は軽々と山を越えガリアへとたどり着いた。

人々の噂は存外役に立つ。

影を伝って情報収集したところ、ガリアが連合と帝国の戦いの最前線の1つのようだ。

ざわめきを木々の影から窺いながらリンクはくん、と鼻を動かした。

 

(・・・なんか変だな?)

 

野営地の賑わいだけでは収まらない、剣呑な雰囲気を感じる。

人の波を影越しにすり抜けて騒ぎの中心にたどり着く。空気がピリピリと震えていた。

 

「どうするんだ・・・」「ブーディカ将軍が・・・」

「・・・一体どこから・・・侵入して・・・」「・・・ネロ皇帝に連絡を・・・」

 

(へぇ?)

 

右往左往する兵士達は皆一様に頭を抱えている。

話を盗み聞きする限り、ブーディカという将軍が敵にやられてしまったようだ。

だが敵の正体は不明。侵入経路も不明。姿の見えぬ脅威に、みな心身を疲弊させている。

 

 

ヘイ、ファイ。ブーディカ・検索

 

 

ファイ 古代ブリタニアの若き戦闘女王。ローマ帝国に叛乱するも、最後には皇帝ネロの軍に敗れ去り落命。後年、ブリテンの「勝利の女神」の伝説となりました。

バードマスター 彼女が帝国側についていたってこと?サーヴァントだよね?

騎士 時期的にもそうだろう。でも倒されたみたいだな・・・

 

 

(う~~ん、不穏!しかしチャンスでもある)

 

ここに上手いこと滑り込もう。

ぱたぱたと尻尾を揺らして機会を窺う。とはいえ油断は禁物。

勇者の服は脱いでトアル村にいたときの服に着替えたし、マスターソードではなく連合軍から借りてきた剣を背負っている。

これでぱっと見て“リンク”だと分かるのは少数だと思うが・・・。どうやって味方だと判断してもらおうか。

 

「お待ちください!スパルタクス将軍!」

(おっ?)

「愛!叛逆の時だ。我が愛で!圧制者を滅ぼすべし!」

「将軍!将軍!ああっ、・・・ど、どうしよう」

 

のっしのっしと巨漢が移動していくのを遠目に見つける。

体を縛り付けているような形の鎧。古傷を持つ鋼の筋肉(マッスル)。芥子色の髪を揺らしながら、剣を携えて()く。

バーサーカー・スパルタクス。古代ローマの剣闘士であり、反逆の戦士である。

 

狂化を持っていても会話が可能であるが、彼は”常に最も困難な選択をする”という思考で固定されているため、正確な意思疎通は不可能である。

引き留めようとする兵士達を振り切って単身首都に向かおうとしているようだ。

リンクもすぐに後を追いかける。

影を伝いながら跳ぶように走れば、あっという間に前方に躍り出た。

 

「わんっ!わんっわふわふっ(ストップ!あっちょっと待て狼のままだった待って待って)」

「ローマの母なる獣よ。悪逆の気配に気づいたか」

「スパルタクス!ストップ!陣営に戻ろう!な!」

「戦場に招かれた闘士がまたひとり。叛逆の勇士よ、その名を我が前にしめすがいい。共に自由の青空の下悪逆の帝国に反旗を翻し、叫ぼう」

「リンクです。スパルタクス、叛逆ってのはタイミングが大事だ。知ってるだろ?さ、今は陣営に戻ろうな」

 

 

りっちゃん これ認識されてる・・・?

銀河鉄道123 まず狼から変身したことに対するツッコミもないんよ

 

 

でもなんか可愛げあるな。かわいいぞこいつ

 

 

 

スパルタクスの手をぐいぐい引っ張って野営地に戻ってきた青年の姿が発見されたのは、数分後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアの朝は早い。朝食はとても美味しい。

 

「うまっ・・・!?何これおいし・・・!?アンタたちこんなもの毎日食べてんの!?」

「エミヤさんおかわりです!」

「先輩、今朝のご飯も美味しかったですね」

「うん!ごちそうさまでした!」

 

第一特異点を復元し、新たに召喚されたサーヴァント達で食堂は賑わっていた。

ふわふわのスクランブルエッグを掻き込んでいるのは竜の魔女――ジャンヌ・オルタ。

野菜たっぷり、栄養たっぷりのスープをおかわりしているのは白き聖女――ジャンヌ・ダルク。

無言で焼きたてのパンにたっぷりジャムを塗っているのは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)――ジークフリート。

食後の一杯を飲むマシュと立香に近寄ってきたのは救国の槍――ヴラド三世である。すでに朝食は終えているようだ。

 

「マスター、マシュ。所長の娘が探していたぞ。管制室に来てほしいそうだ」

「所長が?」

「レイシフトの準備が出来たと言っていた。余は先に司令室に向かう」

「わかった。行こう、マシュ」

 

窓越しの白い日光をくぐり抜けて管理室に向かう。

 

「おはよう。二人とも」

「ふぁーあ・・・や、おはよう~。回収した聖杯は技術部で解析、のちカルデアの運営リソースに使うよ~」

「ロマニはシャルル=アンリ・サンソンと共に救急セットの準備中です。今回向かう先は一世紀ヨーロッパよ」

 

部屋にいたのはオルガマリーと眠たげなダ・ヴィンチである。

第二特異点の場所は古代ローマ。イタリア半島から始まり、地中海を制した大帝国だ。

転移地点は帝国首都であるローマを予定している。

 

「存在するはずの聖杯の正確な場所は不明。歴史に対して、どういった変化が起こったのかも。悪いわね、まだ観測精度が安定してないみたい」

「問題ありません。どちらも、私と先輩で突き止めます」

「頼もしいわ。・・・くれぐれも、無事に帰ってくるのよ。これは命令です」

「うん、頑張ります」

「――はい。必ず、カルデアに帰還します」

 

コフィンに入る。二度目。

この瞬間はいつも空気が緊張する。

深呼吸。

狭い箱のなかで、ゆっくりと呼吸を落ち着かせる。

 

 

『アンサモンプログラム スタート

 霊子変換を開始 します』

 

 

「・・・キアラ。立香のメンタルチェックは」

「問題ありません、所長。立香さんのメンタルは安定しています」

「ならいいの。・・・あら、オルタも来たの?」

「何よ?私がマスターの様子を見に来てはいけませんか?」

 

 

『レイシフト開始まで あと3、2、1・・・・・・

 全行程 完了(クリア)

 グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 

 

 

第二特異点 永続狂気帝国 セプテム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風薫る丘で二人は周りを見渡す。

柔らかい風の感触、土の匂い――――どこまでも広く青い空。

自然とマシュは深呼吸していた。服がひらひらとはためく。

 

「景色が綺麗だね、マシュ」

「はい、先輩。やはり映像で見るのと実際の大地は解像度が違います。――――すごく、まぶしいです」

「フゥー・・・・・・ンキュ、キュ?」

「・・・フォウさん!?」

 

マシュの盾からひょっこり現れたのは、カルデアもふもふ代表のフォウだ。

実は前回のレイシフトの時もこっそりついてきていたことが後々判明した。憎めない毛玉である。

 

「フォウさんは外の世界の方がいいんですね。その意見にはわたしも同意です。戦いは怖いですが、こうして新しい世界を知れるのは嬉しいので」

「・・・・・・! マシュ、みんな。空に・・・・・・」

 

立香に倣ってマシュも空を見上げる。

天に浮かぶ光の輪が二人を覆っていた。フランスの空に存在していたものと同一であるようだ。

 

『光の輪、か。相変わらず、こちらからはしっかりと観測できていないんだよ』

『けど気になるよねぇ。調査は引き続き進めていくよ』

『ところで、そこは首都ローマ・・・、ではないわよね?』

 

オルガマリーの言葉に再び周りを見渡しても、見渡しても丘陵地。

繁栄の都市など視界にも入らない。

 

「転送座標の調整ミス・・・・・・ですか?」

『うーん、おかしいな。どうして首都からズレたんだろう?』

「フゥー、フォーウ!」

「フォウくん?どうしたの?」

 

小さな耳をぴょこぴょこと動かし、フォウが何かに反応する。

耳をすませば戦闘音。多人数での戦いの気配だ。

この時代に首都ローマで本格的な戦争があったという歴史はない。つまり――――。

 

「あれが歴史の異常ですね」

「行こう、マシュ」

「フォウ!」

 

片方は大部隊。もう片方は極めて少数の部隊だ。

大部隊は〈真紅と黄金〉の意匠。少部隊もまた〈真紅と黄金〉だが、意匠が異なる。

少部隊を率いているのは年若い女性であった。真紅の舞踏服(ドレス)に身を包み、舞いの如く輝線が踊る。

遠目に見える首都方面になだれ込もうとする軍団を、たった一人で抑えていた。

 

「助太刀いたす!今こそあの謎のバーサーカーの力を見せるとき!いっけーっ!」

「oooooa!」

謎のバーサーカー(ランスロット)さん!遂にデビューなのですね!」

 

会話が通じない、素顔も見えない、たぶんなんとなく真名の予想はつくがそれにしたってよくわからん、の三拍子をもつ謎の全身鎧男。ランスロットの登場である。

 

「峰打ち宝具!」

「Arrrthurrrrrr!!」

 

彼の宝具は空より来たる。

近代を代表する鋼の鳥――戦闘機が。

本命は装備されている機関銃。「バルカン」の名称でお馴染のガトリングである。

大部隊の足下を狙って銃弾が吠えていく。爆音とバーサーカーの雄叫びが合わさって異様な光景と化した。

流れ弾が少部隊に飛ばぬようマシュが盾でフォローし、ついでに近くの兵士達を峰打ちで叩きのめした。腰の入った一撃である。

突然の状況にぎょっとした軍団が戸惑い、怯え、訳も分からず逃げていく。

・・・虫避けスプレーで家から追いやられている虫のようである。立香はちょっと哀れに思った。

 

「剣を納めよ、勝負あった!そして貴公たち。もしや首都からの援軍か?」

 

そしてこっちは動じていない。すでに貫禄を感じる佇まいである。

 

「たとえ元は敵方の者であっても構わぬ。余は寛大ゆえに、過去の過ちぐらい水に流す。そしてそれ以上に今の戦いぶり、評価するぞ。少女が身の丈ほどの獲物を振り回す・・・・・・」

「?」

「うむ、実に好みだ!なんとも言えぬ倒錯の美があったな!」

『わかる』

『それな』

『否定はしないわね』

『ダ・ヴィンチ、座りなさい。アマデウス、カーミラ、静かに』

 

なんか余計なモノも釣れてしまった。今日もカルデアは花丸です。



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透明よりも綺麗な、あの輝きが始まり

僕は冷凍食品のたこ焼きが好きです。おいしいよね


びりびり、空気が震える。

ごうごう、風が唸る。

 

「サーヴァントだ、マシュ、立香ちゃん!一体のサーヴァント反応を確認した!」

「はい。感じています。もう、すぐそこまで・・・・・・来た!」

 

〈真紅と黄金〉を掲げる少部隊を助けてまもなく、通信機がけたたましく警報を鳴らす。

マシュが盾を構え、立香は現地人であろう少女の手を引っ張ってその後ろに避難した。

 

「何・・・!?」

 

状況を把握するよりも早く、耳を突き抜けたのは地面がひび割れる音。

受け止めきれない衝撃に揺れる大地。ストームの如き魔力の圧。不愉快な轟音が兵士達を吹き飛ばし、まともに立っているのは盾の後ろの三人だけ。

 

 

「我が、愛しき、妹の子、よ」

 

 

土煙の中から声がする。

発される単語にしては随分冷たい色で。この晴天には似つかわしくない顔色で。

この青々しい丘でもよく目立つ、黄金の鎧と真紅のマントを翻し。

 

「余、の――――振る舞い、は、運命、で、ある」

「おじうえ」

 

喉で詰まって、ぽろりと落ちた言葉がカルデアに届いた。

即座に解析班が動き出し、立香は気押される心をふりほどくように叫ぶ。

 

「デオン!」

「もちろんだ。任せてくれ」

「捧げよ、その、命。捧げよ、その、体」

『バーサーカーよ!総員戦闘態勢!』

 

サーベルを構えて白百合の騎士が立つ。

 

 

「すべてを 捧げよ!」

 

 

弾丸の如く突進してきた肉体がネロを襲う、のを予想していたマシュに阻まれる。

シールダーでやっと捌ききれる重量が地面を抉った。連打される拳は武術というよりはプロレスのようだ。

視界の死角から鋭い剣閃が振るわれる。首を正確に狙った一撃は、気づいたバーサーカーが無理矢理腕を振り回したことで手首を切り裂く。

体勢を直したデオンの突きが右肩を貫き、マシュの盾が腰を叩き吹き飛ばす。

空中で体勢を直し着地した男のドロップキックが盾を弾き、振り向きざまのアッパーが腹めがけて放たれる。

しかしそれは首に横蹴りが入ったことで体勢を崩し当たらない。

ガチガチに詰められた筋肉の体が呼吸を妨害されたことで停止する。デオンが着地したのと、マシュが盾を振り抜くのはほぼ同時だった。

流石にダメージになったのか、立ち上がる体は震えている。

 

「あ、あ・・・・・・。我が、愛しき・・・妹の・・・子・・・・・・」

「・・・叔父上」

「なぜ、捧げぬ。なぜ、捧げられぬ。美しい、我が・・・・・・。我が・・・・・・。我が・・・・・・。我が・・・・・・。我が・・・・・・」

「消えた・・・?」

『霊体化して移動したようだ。敵の部隊も引き上げていくようだし、まずはお疲れ様』

 

すぅ、とバーサーカーは消えていったものの、遺恨とも執念ともとれる言葉はいつまでも耳にこびり付いている。

 

『バーサーカーのクラスが自ら撤退とは考えがたい。マスターが居るんじゃないかな?』

「ん?むむ?」

「な、何でしょうか」

「先ほどから声はすれど姿の見えぬ男と、女が二人・・・。雰囲気からして魔術師の類いか?」

 

仕切り直すように声のトーンを上げた少女に意識が向く。

褒美の言葉を豪勢に浴びせながら、胸を張って少女は言った。

 

氏素性(うじすじょう)を訪ねる前に、まずは余からだ。余こそ―――

 真のローマを守護する者。まさしく、ローマそのものである者。

 必ずや帝国を再建してみせる。そう、神々、神祖、自身、そして民に誓った者!」

 

同意するかのように日輪が照らした。燦々と煌めく黄金の髪は、まさにローマそのもの。

 

「ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスである――――!」

(なんとなくそんな感じはしてた。王様っぽいもん)

 

しかし立香は空気の読める女である。皇帝の名乗りに拍手を添えた。それを見たマシュとデオンも真似してちょっと賑やかになる。

皇帝は満足げだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エトナ山に行き霊脈を確保し終わった後、立香たちはネロと一緒にガリアへと向かっていた。

ガリアは連合との戦いに於ける最前線の一つである。

聖杯を有したサーヴァントが敵将として暴れている可能性や、レフがいるかもしれない危険性を考えて、共に行動している。

 

「マシュ、馬って高いねぇ・・・」

「確かに馬に乗ると視線が高くなりますね、先輩」

 

騎乗スキルのあるマシュに手綱を任せながら、立香はきょろきょろと周りに視線を動かす。

マシュほどではないが、立香とてこの時代の風景は見なれない。

時折襲ってくる連合軍を蹴散らしながら帝国軍はざくざくと歩みを進めた。

 

「長旅ご苦労だったな。見えたぞ、ガリア遠征軍の野営地だ」

「おお・・・、大規模な集団が・・・」

「お疲れ様です、先輩。久しぶりにゆっくりと寝床で休めますよ」

「ネロ皇帝!」

「・・・む?」

 

目と鼻の先にある野営地から兵士が飛び出してくる。

沸き上がる興奮を抑えきれなくて、にじみ出る言葉をなんとか選んで、ようやく荒い息の合間に話す。

 

「ブーディカ隊長が敵にやられました!」

「何だと!?」

「し、しかし・・・!代わりに・・・!新たな方が・・・!」

「新たな戦士?だと?」

「どーも、ネロ皇帝」

 

かろん、と軽快な声。

甘やかな髪はさっくりと焼いたパンプキンパイ。青い瞳は森のりんごジャム。

少年特有の麗しさと精悍さを合わせた相貌には、尖った大きな耳がついている。

薄い唇からちらりと覗く犬歯、青い輪っかのピアスが大人びた艶っぽさを漂わせた。

はるばる野営地へやってきた、帝国軍たちは言葉が出ない。

 

「ブーディカ隊長のかわりとは言わないが、それなりに役に立つぜ?」

「・・・・・・・・・・・・ぇっ」

「そ・・・・・・え?」

「うそ、」

 

緑の服ではない。あの剣も持っていない。野営地のテントを背にひょっこり現れた。

白昼夢でも見ているのだろうか。現実だと断じるにはあまりにも気配が違う。

兵士の私服を適当に借りたようなざっくりとした格好なのに、なぜかみんな“そう”だと思った。

 

「名前は・・・リンク!・・・なーんちゃって。クラスはセイバーな」

『・・・・・・そうだ、そんな訳』

『そん、そんな・・・。まさかぁ・・・・・・。そんな、』

『・・・・・・・・・・・・・・・貴様が勇者リンクだと?』

「あっ」

 

ずし、と質量をもった言葉が通信機越しに届く。

そのプレッシャーをもった言葉にようやく人々が正気に返ってきた。

だって、そうだろう。その名前はあまりにも意味がありすぎる。冗談や酔狂で名乗るものではない。

でも、でもだ。この世でたった一人だけ、朝食のメニューを読むくらいの気軽さで言える人間が居る。

 

「魔術的な通信機器・・・。顔の見えない誰かさん?」

『貴様、何者だ。その名を語って許されるのは、この世で勇者達本人だけだ』

「・・・・・・あーなるほど。これバラしたほうが円滑かな」

「どこから嘘・・・?」

「まあ落ち着け、キャロットカラーのきみ。・・・来い、マスターソード」

 

左手を前に伸ばす。光が生まれた。

掌の上に集まった輝きは、美しい青を灯す。

やがてそれは手首を伝い、顔を、体を、惑星が回るように包んでいく。

握りしめた手にはもう既にその剣があった。翼を広げたような形の鍔が、唯一無二を示している。

 

「安心しろ。本物だから」

 

深い緑の衣装は彼だけのもの。

遙かなる太古の時代で産まれた、勇なる魂。

生まれ変わって空を救い、意志を貫いて大地を救い、剣を引き継いで世界を救った。

夢の中に消えた島も、並行世界の月の町も、広すぎる大海原も冒険してみせた偉大なるその背中を、もうみんな知っている。

絶望の果てに希望があった。闇も光も黄昏も、同じように抱きしめてくれた。

知恵の姫、力の王。そして勇気の剣士。小説“ゼルダの伝説”の主人公であり、神の意志さえ動かした大英雄。

“勇者”という言葉の語原になったハイラル人である。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・ヒェ・・・ッ』

 

腰の抜けた人間が崩れる音があちこちで聞こえた。驚きすぎると人は呼吸も忘れる。

伝説が目の前にあって正気を保っていられるのは、伝説本人だけである。

ネロの背後で様子を伺っていた兵士達が、やっと絞り出した声がすべてだ。

 

「来てくれたんですか・・・・・・?勇者さま・・・・・・。このローマに・・・――――」

 

溢れた歓喜は涙となって瞳からこぼれ落ちた。

嗚咽が広がる。膝をついて泣きじゃくる。今日まで張り詰めて生きていた人々に、心のどこかで萎れていた気持ちに、それは刺激的すぎる希望だった。

そしてそれはカルデアの面々も同じである。

勇者リンクはいつだって、いつの間にか希望を持って来ている。何遍も何遍も、跡がつくまで読み返した小説に書いてある通りだった。

燃え尽きた人理の悲鳴は届いている。苦しみも無く消えた、人々の祈りは届いている。

我らは見捨てられてなかった。他の誰でも無い勇者が!勇者様が来てくれた・・・・・・!

 

 

どうしようこれ。どうすっかな。収拾つかねぇわ~アッハッハ

 

 

Silver bow このクソボケ

うさぎちゃん(光) SNS炎上しろ

いーくん 運営に通報した

 

 

おいなんだ運営って。どこだよ運営。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ずるい!!!!代われ!!!!!何でお前ばっか!!!!!』

『王様!あの!私も!後で!あの!!』

『ぐすっ、ずぴっ、うっ、ひっく。・・・うっ、うっ、勇者リンク・・・』

『何いつの間にかそっち行ってるんだ抜け駆けするなクソオタ!!!!!!』

『それはさすがにブーメランでは・・・?』

「サインください」

「外野が沸き立ちすぎだろ」

 

なんとかどうにか周囲を落ち着かせて、テントの中に座ったリンクの前にサイン色紙が差し出された。

相手はもちろん先ほど「貴様・・・?勇者の名を騙る偽物か・・・?証拠見せろ」とふっかけてきたギルガメッシュである。

あまりにもなめらかに頭を下げて謝罪され、そのまま滑るように色紙が差し出された。コワ・・・。

 

「あ、そうだネロ皇帝。スパルタクスは大人しくしてるぞ。圧政に備えて兵士を鍛えてくれるってさ」

「エッ!?アッ、そっそそそそうなのかうんいいことだ」

「ほいサイン」

「ありがとうございます!」

「そういえばそっちの子らは名前聞いてなかったな」

 

ギルガメッシュはほくほくとした顔で色紙を受け取ると、そのまま座った。居座る気マンマンである。

 

「藤丸立香でしゅ!アッ噛んだ。カルデアのマスターです!」

「マシュ・キリエライト、です。カルっ、カルデア所属、の、デミサーヴァント、です」

「光の勇者、リンク。なんか人理がやべーと聞いて代表で来ました。よろしく~」

「勇者。代表、とは?」

 

そわそわもぞもぞと落ち着かない様子で名乗った少女、立香と。

滅茶苦茶どもりながらも、顔を紅潮させきらきらとこちらを見てくる少女、マシュ。

そして勇者の言葉は一字一句逃したくないという態度のギルガメッシュの言葉に発言を返す。

 

「そのまんまの意味。知っての通り、リンクは一人じゃないから。話し合ってとりまオレがいきま~すってなったの」

「勇者達の会談!?み、み、見た過ぎる・・・!」

『あっ、あのっ。あの!ゆ、勇者リンク。質問してもいいですか?』

「どうぞ。カルデアの方?」

『所長のオルガマリーです!あの、勇者達は、人理が焼却されたことを召喚されずとも知っていた、ということでしょうか・・・?』

 

 

ヘイ文殊

 

 

りっちゃん ごめんもうベッド入っちゃった

海の男 ごめんニンテンドッグスで忙しい

銀河鉄道123 テトリス永遠にできる

 

 

はーーーーこれだから緊張感のないやつらは。言ってやってくださいよ先輩方!

 

 

小さきもの やっぱ粉もんはうめぇな

守銭奴 タコパしよ。たこ焼き器もってくわ

 

 

∪(´・ω・`)∪< クゥーン・・・

 

 

奏者のお兄さん 俺が予知夢したって言いなさい。隠すことでもないし

 

 

ฅU•ﻌ•Uฅ< ワン!

 

 

「俺の先代、時の勇者が予知夢を視たんだ。あの人は歴代でも特にそういう力が強い」

「と、と、時の勇者・・・!」

『うわうわうわやっぱそうなんだ知ってる知ってるすごい!すごい・・・!』

『そうだったんですね・・・!ありがとうございます・・・!』

「皇帝方、失礼します。申し上げます!敵斥候(せっこう)部隊を発見!」

「ん、追撃は?」

「ゆっ、・・・敵兵の速度に!追いつけていません!このままでは離脱されてしまう可能性が!」

『あっ本当だ。野営地から離れる一団あり!こちらの陣営の情報を持って行かれるぞ!』

 

ぱっと意識を切り替えた横顔を、幼い少年のような瞳でギルガメッシュが見ている。

それに気づいて内心苦笑しつつも、リンクは立香を振り返る。

 

「立香、マシュ。ガリア遠征部隊に力をアピールするチャンスだぞ。ちゃんと役に立つって教えてあげないとな」

「・・・! がんばります!行こうマシュ!」

「はい先輩!マシュ・キリエライト、出ます!」

 

勇んで飛び出して行った少女達を見送った後、背伸びをして立ちあがる。

 

「さて、長旅でお疲れの援軍と皇帝のために、食事の準備でもしようかな」

「なぬ!?」

「勇者の料理!?」

『勇者さまの料理ですってぇ!?!?』

『ギルガメッシュ代われ!!!!!』

「断る!!!!!」

 

ネロ皇帝はともかくお前は客将なんだから手伝えと、ギルガメッシュに包丁と野菜が手渡されるのは3分後の話である。



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ヴェニーズワルツで采配を振る

ウマ娘で時間が溶けていく。
タキオン、勝たせてぇ・・・・・・。


この国に立ちこめた救えない憂鬱を、おいしそうによく噛んであなたはのみ込んだ。

お玉で一緒にかき混ぜて、塩で少々味付けした。

 

 

海の男 野菜洗った?

 

 

洗った厨は帰れ

 

 

立香とマシュが野営地に帰ってくると、もう鼻腔をくすぐる香りが漂っている。

西日の下で鍋を見張るリンクを、眩しそうにみんなが見ていた。

 

「永遠に食える」

「ゔま゙い゙」

「コレタベテイインデスカ」

「これは夢・・・?覚めないでほしい・・・」

 

皿を前に感情を溢れさせている兵士とギルガメッシュを横目に見て、思わずリンクは苦笑してしまう。

通信機越しの声はまだ興奮に震えている。

 

『そ、そ、そっ、それ、それは』

『もしかしてトアル山羊のチーズ・・・・・・?』

『その魚は・・・まさか・・・ニオイマス・・・ヒェ』

「トアル山羊のチーズにかぼちゃにニオイマスで合ってるぞ~。あとウチの牛乳な」

『ミ゙ッ゙』

「死んだ!?」

 

数人の倒れる音が鼓膜に届いた立香は反射的に叫んでいた。今の断末魔何!?

 

「・・・勇者、これは、ドサンコフのスープか?」

「そ。作り方教えてもらったから」

「ヴヷァ゙!!」

「えっ死んだ?」

 

ギルガメッシュも倒れた。もう無事な奴の方が少ない。

 

 

フォースを信じろ キャンプの醍醐味は現地調達じゃないんですか?

 

 

オレはグランピング肯定派だから

 

 

バードマスター わ-!美味しそうに作ったね!僕も久しぶりに食べたくなっちゃった

 

 

聞いたかポンコツ共!!!!これが配信者の求める理想のコメントです

 

 

「リンク、バッグの中に色々入ってるね・・・?」

「なんかアイテム以外もいろいろ入ってるんだよな~。一番モノが入ってるのは息吹のシーカーストーンだけど」

「ハヒュ」

 

おそらく旅の途中で手に入れたモノは大概入っているし、無いものは座にいる友人達から貰うし、それでも無いものは他の勇者達から借りてくる。

という内容のことを話すと全方位からの熱烈な視線をいただいた。この先は有料で~す。

 

『ほかの勇者達の話も聞きたいし座にいるというハイラル関係者の話も聞きたい所長ボクはどうすれば』

『落ち着きなさいマグカップを置きなさい机びちゃびちゃだから』

「勇者よ・・・・・・。是非・・・我に・・・・・・座での・・・話を・・・・・・」

「後でな~」

 

 

○騎士 ・・・腹減ったな

○バードマスター 飯テロだよね~。前世様もかぼちゃのスープ食べます?

○騎士 えっもう作ってる?食いしん坊じゃん・・・

 

 

「勇者よ――――。それで、そなたは・・・本物の・・・勇者で・・・?」

「そうですオレはサーヴァント。英霊。知ってる?」

「サーヴァント・・・?」

「・・・説明したっけ?」

「恐らくまだです、先輩・・・!」

 

一通り食事の準備を終え腰を下ろすと、おそるおそるネロが話しかけてくる。

どうやらまだサーヴァントとマスターのことは知らなかったようだ。立香達が慌てて説明を始める。

サーヴァント。それは魔術世界における最上級の使い魔。死した人間がある種の存在へと昇華されたもの。

 

「つまり勇者は、魔術師に召喚されたのか?」

「いや、オレは徒歩で座から来ました。だからちょっと時間掛かっちゃって」

「徒歩」

「えっ徒歩で来れるの?」

「えっいやえっ?わたしも初めて聞きました・・・」

『徒歩・・・・・・・・・?』

 

カルデア側に動揺が広がる。

いやでも相手はあの勇者リンクだぞ。

動揺はすぐに収まった。オルガマリーが身を乗り出す。

 

『勇者リンク。貴方は聖杯に呼ばれずとも座から離れられるのですか?』

「そもそも聖杯自体がトライフォースの下位互換みたいなモノだろ?英霊の座程度じゃオレたちを縛れない。だからこっちが居てあげてる(・・・・・・)んだ」

『すごい・・・』

『さすが勇者・・・。なんて威風堂々とした姿・・・』

『へへっ、やっぱり格がちげえわ』

「あのスパルタクスは聖杯に呼ばれたみたいだけどな」

「あのご飯いっぱい食べてるサーヴァント?」

「そう、あのマッスル。腹が減っては叛逆ができねぇとよ」

 

視線を後ろに向ければ、劣勢部隊の野営地とは思えないほど和気藹々とした空気が広がっている。

同じように後ろを見ているリンクの、金髪が夕日に透けて輝いた。立香は思わず目を奪われる。

 

「・・・おかわり?」

「へっ」

「視線が熱烈だな~。心配しなくても沢山あるぞ」

「い、いただきます」

 

おそらく見惚れていたことには気づいているだろう、いたずらっぽい笑みが気恥ずかしい。

 

「勇者よ。我もおかわりを頂きたい」

「やけに静かだと思ったら何?何で皿ごと魔術で保存して宝物庫に仕舞おうとしてんの?食ってねぇのにおかわりをもらおうとすんな」

「王様、ご飯は食べないと失礼だよ」

「もっと言ってやれ立香。ほらマスターがこう言ってるじゃん」

「止めてくれるな勇者・・・!こればっかりは・・・!保存用と観賞用と実用で最低三つは・・・!」

「こいつヤベェな」

 

 

奏者のお兄さん ローマのお風呂見てたら温泉行きたくなったけど温泉ないじゃん

災厄ハンター ウチのダルケルに掘らせます?

奏者のお兄さん 何処を!?!?無茶ぶりはダメだよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「露払いはオレとスパルタクスだ!お前らは皇帝と一緒に本陣へ突っ切れ!兵達は援護!」

「ウオオオオオ!!!」

「ははははは。素晴らしい、此処にはすべてが在る。圧制者の魔手と化した敵兵は幾百、幾千、幾万か」

 

喧騒の最中で馬は嘶き、朗々とした声が歌うように告げる。

 

「まさしく勝利の凱旋の時だ。劣勢ではない。優勢なのだ。是より後の我が叫びはすべて、勝ち(どき)の先触れと同じく」

「そっちじゃなくてこっちな!暴れてもいいけどはぐれるなよ!」

「ははははは。叛逆の騎士は私に味方した。すなわち今こそ勝利は果たされる。強者の潰える時!」

「・・・・・・うむ。頼んだぞ、勇者よ。色々な意味で頼んだからな」

 

噛み合っているようでやっぱり噛み合っていない会話が段々と遠ざかるのを、立香は手綱を握りしめて見送った。

偽なる皇帝に支配されたガリアを取り戻すため、ネロ皇帝率いる小部隊は大地を駆ける。

 

魔術に依る怪物を吹き飛ばし、ゴーレムなど壁にもならぬ。都市の中枢を目指して城壁の守りをぶち破っていく。

退路など自ら切り捨てたと、言わんばかりの兵の気迫。咆哮と突進を止めようと、勇む敵兵を盾の守りが押し返す。

突撃!突撃!突撃!

 

「・・・・・・来たか」

 

赤と黄金を纏い、ふくよかな男はため息をついた。

 

「何という気迫よ。これが今代の皇帝のカリスマか?―――待たされた甲斐はあったようだな」

 

月桂樹の冠がいい差し色だ。赤に緑は映える。

 

「美しいな。美しい。実に美しい。その美しさは世界の至宝でありローマに相応しい」

 

相対したネロは面食らった。第一声が褒め言葉だったので。

 

「我らの愛しきローマを継ぐ者よ。名前は何と言ったかな」

「――――っ」

「沈黙するな。戦場であっても雄弁であれ。それとも、貴様は名乗りもせずに私と刃を交えるか。それが当代のローマ皇帝の在りようか?」

 

空気が張り詰めていく。男は笑みを崩さない。

 

「さあ、語れ。貴様は誰だ。この私に剣を握らせる、貴様の名は」

「――ネロ。余は、ローマ帝国五代皇帝。ネロ・クラウディウスこそが余の名である。僭称(せんしょう)皇帝、貴様を討つ者だ!」

 

己の名を覚えておけ。己が誰だか教えてやれ。

戦での名乗りこそ英雄の誉れ。声高々に刻み込め。

 

「良い名乗りだ。そうでなくては面白くもない。そこの客将よ。遠い異国からよく参った。貴様たちも名乗るがいい」

「マシュです」

「藤丸立香です。・・・あの、なんかふくよかですね?」

 

やっぱりスルーは出来なかったよ。

だって、どう考えてもセイバーには見えないぽっちゃり系サーヴァント。男自身も強めに自覚している。二重の意味で何故?

しかし、なってしまったものはしょうがない。世の中はしょうがないと仕方ないねで出来ている。

 

「当然だろう。ローマは美食の始まりにして頂点の国。力とは、すなわちふくよかさである」

 

そうかな・・・?

 

「その証拠に、そら、五代皇帝も実に豊かだ。我が情婦(おんな)、砂漠の女王には劣るが、よい、よい」

 

そうかも・・・。

身振りと弁舌が当たり前のように説得力を持つ。

権謀術数の渦中へ飛び込み、それを見事御してみせた男の能力が形になったスキルは、もはやある種の精神攻撃に近い。

 

「・・・むうう。さすがガリアを平らげた謎の男・・・・・・。呼吸をするかのような自然さで女の心を蕩かす・・・・・・。だが余は我が母のような女ではなく、皇帝であり、ひとりの騎士!」

「そうだそうだ!そんな言葉じゃ響かないぞ!」

『口説き慣れすぎてくどいよね~』

「貴方に褒められても嬉しくありません」

「なんと・・・・・・!?」

 

すでに光の勇者・リンクという良い男遭遇イベントを通過した立香達にはまったく響かなかったが。

 

『あの、そろそろいいかな』

『貴方には尋ねたいことがあります。連合について。そして、聖杯について』

「ほう。それならば構えよ。貴様らの求める聖杯とやら、よく戦えば教えてやってもいい」

「・・・・・・!」

「よく戦えば、な。――――さあ、此処へと進め、既に、賽は投げられているぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああっ!」

 

裂帛の気合。真紅の剣が男の首筋を目指す。

甲高い金属音がそれを受け止めて、体型からは予測できないほど俊敏な動きで振り払う。

勢いのまま背後の盾を弾き、だが質量に突き飛ばされて横に跳ぶ。盾の後ろから伸びてくる突きを下から腕を振るう事で捌いた。

上を向いた切っ先に逆らうことなく、回転することで勢いを受け止めたネロと男の間に盾の殴打が割り込む。追撃を防がれた男がバックステップで下がり、風で膨れあがる舞踏服(ドレス)を従えた逆袈裟を受け止めた。

剣閃は乱れる。鍔迫り合う剣は黄金と真紅。

 

「・・・ふうむ。強いな、貴様ら。いいや――」

 

踏み込んだ腕力でネロを弾いた男が呟く。

 

「そもそもだ。名将たる私に一兵卒の役割を任せるとは。最適な人材の運用とは呼べんな、これは」

「こんなに強烈な剣を振るっておいて、どの口で・・・」

『流石はセイバーのクラス・・・。相当な手練れのサーヴァントだな、彼は』

 

・・・でも隙がないわけじゃないよね。

立香は見ている。それが仕事だから。一手を加えるタイミングを。

 

「――だが、いいな。その美しさと勇気に応えて、我が名を言おう。私はカエサル。すなわち、ガイウス・ユリウス・カエサル。それが私だ」

「な・・・・・・それ、は・・・・・・。初代皇帝以前の支配者の名・・・・・・」

 

カリギュラと同じく、過去から呼ばれた人間。

共和政ローマの政治家であり軍人であり、紆余曲折を経て終身独裁官となり、後の帝政ローマの礎を築いた。皇帝(シーザー)の由来である男。

 

「肩の力を抜け。笑え。貴様は美しい。実に美しい。その美しさは、世界の至宝に他ならんのだぞ?」

「・・・・・・・・・ッ」

 

故に男は笑う。

がむしゃらな後輩の輝きに目を細めながら。

 

「そこのデミ・サーヴァントとマスターもだ。喉笛を食いちぎるタイミングを虎視眈々と狙うその目。美しい。ああ、実に良いな。体も良い」

「セクハラ!!」

「セクシャルハラスメントですよ!!」

「貴様らの勇気・強さ・美しさ。私は感嘆したぞ。故に、ひとつ教えてやろう」

「それは聞こう」

「そうですね、先輩」

 

カエサル曰く。

聖杯なるものは連合帝国首都の城に在る。

正確には、宮廷魔術師を努める男が所有しているらしい。

 

『魔術師――。その人物の名を教えていただけますか』

「できんな。貴様らへの褒美は終わりだ。これ以上くれてやる道理はない。・・・ネロよ、貴様の苦難は私の望みではないが」

 

男は語る。

それでも戦う理由が在るのだと。聖杯を望むほどの願いがあると。

 

「次は本気だ。黄金剣、起動準備――」

「! この気配――気を付けて下さい、マスター!」

『魔力が上昇している!?いや、自ら抑えていたものを解放しているのか!』

「私は来た。私は見た。ならば、次は勝つだけのこと!」

 

霊基再臨。

大理石の腕、足鎧を纏って瞬きの間に距離を詰めてきたカエサルに、ネロは反応できない。

所詮素人には、見てからじゃ反応できない。

だから予測を立てるのだ。

 

黄の死(クロケア・モース)!」

「緊急回避・・・!」

時に煙る白亜の壁(はい、マスター)・・・!」

 

宝具による超連続連撃を受け止めたのは、マシュの盾だった。

回避を利用した瞬間移動。魔力放出の余波が四方八方に飛び散っては衝撃となって吹き荒れる。まともに受けた建物は瓦礫になって崩れ跳んだ。

硬質な腕が光を伴って迫るのを、マシュは目を逸らさずに待ち構える。

 

「走って!ネロ!」

「―――ああ!」

 

拳と盾がぶつかる。響く殴打音が鳴り止まぬうちにネロが突進した。

 

「瞬間強化!」

 

マシュの盾がぱっと消えた。霊体化である。

驚愕に染まった顔のまま大理石の腕を振り抜く前に、ブーストされた真紅の剣が霊核を貫く。

視界の端から振るわれた剣を受け止めることは出来なかった。瞬時に戻ってきた盾がふくよかな体躯を吹き飛ばす。

 

「・・・やった、のか・・・?」

 

瓦礫に突っ込んだカエサルは動かない。

 

『ああ、反応が弱くなっているのが観測できている。君たちは勝利したんだ』

『よくやったわ、二人とも』

「勝った・・・」

「はい、私達の勝利です」

「・・・うむ、うむ」

 

やがてゆっくりと体を起こした男は、穏やかな目をして頷いた。

土埃を払って立ち上がる。

 

「美しい女たちに負けるのも悪くない。そも、俺が一兵卒の真似事をするのは無理がある。まったく、あの御方の奇矯には困ったものだ」

「あの御方――?」

「そうだ。当代の正しき皇帝よ。連合首都で、あの御方は貴様の訪れを待っているだろう」

 

おもむろに天を見上げるカエサルは、どこか疲れたような顔をして、そして笑った。

 

「だが――、・・・いや、私が語ることではないな。願わくば、俺も一度お目に掛かりたかったものだが」

「?」

「祈りは届いている。それでいい――――」

「・・・消えた・・・・・・」

 

なにやら意味深なことを言って、カエサルは座に帰っていった。

後に残ったのは、呆然とするネロだけ。

 

「これは・・・・・・。なんだ、魔術に依るものか・・・・・・それとも・・・・・・」

「この世界から消えたんだよ」

「何、と・・・・・・?」

「先輩の言葉通りのことです。あのサーヴァントは、この世界から消えました。死を迎えたことによるサーヴァントの消滅。仮初めの肉体が消え、座へと経験が送られるんです」

「そうか・・・」

 

わずかに言葉を切って、振り払うようにまた口を開いた。

 

「うむ!見事に皇帝の一人を倒したこと、褒めてつかわす!」

「ネロさん――」

「これでガリアは名実共に余の元へ戻った。強大な連合帝国に、一矢報いたのだ!」

 

そう言うネロが佇む姿は、やはり輝かしく。

 

「余の思いのままに、余の民の願いのままに、神祖と神々に祝福されしローマが、今、戻りつつある!」

「ネロ・・・」

「余はローマを我が手に取り戻す!――だから、うむ。立香とマシュも、どうか余に力を貸してほしい。ローマにはまだ、お前達の力が必要だ」

「・・・うん!」

「もちろんです!」

 

笑う姿は確かに、太陽のようだった。



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特上カルビ2人前

「スパルタクス、ガリアを頼むぞ」

「自由なる民を守ろう。圧制者などには一歩たりとも、この門を越えさせぬよ」

 

歓声と声援に見送られながら、帝国軍はローマへの帰路につく。

リンクは皇帝達が心配だと言い、同行を申し出た。当然こちらには断る理由がない。

 

「そういえば・・・、エポナさんは一緒じゃないんですか・・・?」

「あ~ちょっといま機嫌が悪くって・・・。今回は呼べないな」

「そ、そうなんですね・・・。残念です」

 

旅の途中ですれ違う人々は様々な情報を持っている。

あっちに連合軍が。むこうに怪物が。地中海に古き神が―――――。

もしも本物の神霊なら放置は出来ない。ネロの判断で一同は海を目指す。

 

「立香、マシュ。船は初めて?」

「はい。船旅は今回が初めてです」

「中学生の時に一回くらい?ボートに乗ったよ」

 

 

船酔いしたらヤなので影の中にいます

 

 

奏者のお兄さん なんで乗り物酔いは普通にするんだろうな・・・

騎士 多分お前に関してはあらゆる感覚が過敏すぎるのかと

奏者のお兄さん ええん・・・

 

 

「そんならオレが周りを警戒してるから、この隙にのんびりするといい」

「いいの?」

「運転は余がしよう!なに、遠慮するな!さあ行くぞ!」

「おっと、出発するみたいだな。ほら、座ってな」

「ありがとうございます。リンクさん」

 

そうして意気揚々と船は港を飛び出した。

雲が緩やかに流れる、午前の時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、良い風を掴まえたな!かつてない攻め攻めな旅路であった!」

「・・・三半規管も強化されていて助かりました」

「・・・・・・・・・・・・・・・おぇっ」

 

荒波よりもさらに激しく、船なのに盛大にドリフトし、時に波に乗って空を舞う。

予想していたよりも遙かにクレイジーな運転技術を披露したネロは、満足そうに頬を上気させて船から下りてくる。

対して動けないのは護衛の兵と立香だ。

転覆紙一重を回避した衝撃は、脳をしっかり揺らしてデバフになった。もう絶対吐く。喉元まで来てる。

 

 

影の中にいてよかった~~~~!!!!!

 

 

海の男 代われェ!!!!!!!!帰りは儂が運転する!!!!!!

銀河鉄道123 免許剥奪しろ!!!!!!!運転を舐めるな!!!!!!

フォースを信じろ プロの方が

 

 

『立香、大丈夫ですか?』

『ま、まぁ。ともかく無事に到着して――。ん?これはサーヴァント反応・・・?』

「ドクター?どうし・・・」

 

不可思議な気配を纏って、人影は現れる。

紫の髪をツインテールにし、白と黒のドレスに身を包んだ女性。

 

「ご機嫌よう。勇者のみなさま。当代に於ける私のささやかな仮住まい、形ある(・・・)島へ」

 

小さな唇が弧を描いた。ふわりと囁く声。

 

「ふふっ、あら。どんなに立派な勇者の到来かと思ったのだけれど。サーヴァントが混ざっているだなんて驚きました。残念だわ、人間の勇者を待っていましたのに」

 

神性と艶麗を携えて、女神ステンノは微笑んだ。

ゴルゴン三姉妹が一柱。か弱き偶像(アイドル)。優雅で上品な理想の女性。そう生まれた(・・・・)神。

 

『たとえ神霊だとしても“神そのまま”であるはずがない』

『そうだね。英霊にしてもそうだが、その力はダウンサイジングされていて然るべきだ』

「あら、詳しいのね。魔術師さんたち」

 

でも、少し無粋でしてよ?

笑み一つでプレッシャーを放つ。直接向けられた訳ではない立香とマシュにも震えが走った。

ネロはすこし身をすくめ、しかしすぐに胸を張って話し出す。

 

「余を放って話を進めるでない!だが大雑把には理解したぞ。つまり、そこの女神は敵ではないのだな?」

「はい、その認識であっています」

「ふむ。ならば話は簡単でないか。古き女神ステンノよ。我がローマへ来るがよい!」

 

女神はとろりと視線を向ける。

困惑も驚愕もなく、ただ涼やかな佇まいがあった。

 

「あら、とっても眩しいのね。貴方って。アポロンと良い勝負。でも、ごめんなさいね皇帝陛下。私には妹のように、雄々しく戦う力は持ち合わせていないのです」

『えー?本当かなぁ?』

「持ち合わせてはいないのです♡」

『あっはいスミマセン』

「でも、そうね。せっかくここまで来てくれた勇者さまだもの」

 

ご褒美をあげなくちゃいけないわ。女神は謳う。

海岸沿いを歩いて行くと洞窟がある。その一番奥に宝物があると。

この時代には存在しないとっておき。楽しい貴方たちにさしあげますわ。

 

「ほう、女神の祝福か・・・。それはまた・・・」

「お宝!行ってみようよ」

 

盛り上がっていく少女達を見つめる、女神の笑みは崩れない。

ただ胸の奥に、ちいさな落胆があるだけ。

人間などには悟らせぬ、サーヴァントなどもってのほか。

もしかしたら―――――、と思ってしまった。己の愚かさを嗤うだけ。

 

「わん」

 

・・・空耳かしら?

声の元を探して視線は動く。影がするりと動いて視界を遮った。・・・黒い狼がいる。

 

わふっ(こんにちは)

 

ぱたぱたと耳を揺らしたまま、魔力の光が狼を包んだ。

現れたのは端麗な青年。ぱっちりと開かれた、青い目が優麗に笑う。

 

「女神ステンノ。お会いできて光栄です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ」

 

たっぷりと余白を使って、女神は反応を返した。

 

「あ、リンク!」

「リンクさん!・・・今、狼の姿で・・・!?」

「いま影の中から出てこなかったか!?そんなこともできるのか!?」

「そんなこともできるんだぞ~。オレはちょっと女神様と話してるから、洞窟はお前らだけで行ってきな」

『えーー!?』

 

『なんでなんで一緒に行こうよ』「リンクのダンジョン攻略みたいな」「今のってトワイライトの狼ですか」『影の魔法・・・・・・詳しく・・・・・・』『まって見逃したまって』『今の録画してただろうな!?!?』『そうだ録画!!!あとでデータ下さい!!!』

 

 

すいませんねぇ人気者で

 

 

うさぎちゃん(光) ステンノさまかわいい

バードマスター 神霊も出てくるとは・・・

守銭奴 ちやほやされるために出ていくタイミングを計ってた・・・ってコト!?

 

 

ちくちく言葉だぞ!!出るタイミングはマジであそこしかなかった

 

 

わいわいがやがやちらちらと振り返りつつも、洞窟に向かう部隊を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波が浜に打ち付けられる、等間隔の音だけが響いている。

狼の体に寄りかかり、毛並みを撫でる女神は、それだけで絵画の一枚になりそうなほど美しかった。

女神の四肢を包む繊細なフリルが、しゃらりと寄り添い、揺れる。

 

「くうん(女神ステンノ、落ち着きましたか?)」

「・・・・・・あら。私、慌てているように見えたかしら」

「(どちらかというと、周りを警戒してぴりぴりしているように見えたな)」

「・・・・・・・・・勇者さまにはお見通しね」

 

地平線の向こうから流れる風は冷たく。しかし頬にふれる温もりが安らぎをもたらした。

 

「・・・サーヴァントとして呼ばれても、私に出来ることなんてないわ」

「(でも、カルデアに行けばご姉妹に会えるチャンスはあるかもですよ?それに――)」

「それに?」

「(どうせなら、楽しい方がいいじゃないですか。取りあえず一緒に、ローマに行きませんか?)」

 

ステンノは不変の女神である。

完成された美。可憐な少女。誰かに守られなければ生きられない。

男の理想の存在であり、男に奪われることを運命づけられた女神。

一人では何も出来ない、というのは謙遜ではないのだ。

 

「勇者さまが守ってくださるの?」

「(立香やマシュもいますよ)」

「・・・・・・」

 

柔らかくて、つやつやで、ふわふわな椅子は、ぴるぴると機嫌良く鼻を鳴らしている。

ステンノは黙って体を預けた。この獣が、己に牙を剥くことなどないと知っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じめじめと湿気た通路は、本能的な不快感をもたらす。

暗い場所は見通しが悪い。わかりきっているのにぼやいてしまう。

洞窟の隙間から、岩の影から湧き出る怪物を八つ当たりぎみに蹴散らして、カルデア一行は進む。

カタカタと蠢くのは骸骨の魔物。虚空の眼孔が剣を振り上げ、白亜の盾が砕き飛ばす。

 

「・・・・・・ふう。余はちょっと疲れてきた・・・。戻って休みたい・・・」

『おや、どうやら洞窟の奧に辿り着いたようだよ。そこに特殊な反応がある。これは――』

「どしたのドクター。お宝あった?」

 

咆哮。

四方八方の岩壁にびりびりと響く。

 

『幻想種だ!竜種ではないが、強力な幻獣の反応が一体!』

「で、でかいではないかー!むっ、しかしあの獅子の顔は可愛いぞっ!」

「そうかなぁ!?可愛いかなぁ!?」

 

古代ギリシャに伝わる怪物、キメラがどすどすと襲いかかってくる―――――。

 

 

 

 

 

奏者のお兄さん みんな遅いね

小さきもの まあ夕飯までには帰ってくるでしょ

 

 

「ステンノ様ー、お昼なんにします?」

 

 

いーくん 女神と二人っきりいちゃいちゃ食事イベントじゃん

海の男 ミドナ姫にチクろ

 

 

その台詞はライン越えてますよ。やめろください・・・マジで・・・

 

 

騎士 尻に敷かれてんな

 

 

オレンジのように瑞々しい夕日が、地中海の島を照らす。

へろへろの顔で帰ってきた立香達を、蕩けた笑みで女神が迎えた。

 

「むむっ!このかすかにキャットをくすぐる良い香り!さては噂の勇者クッキング!しかし残念だったな。これからご主人のランチタイムはこのアタシが担当するワン」

「サーヴァント?」

「宝箱の中にいたんだよ」

「にゃにゃんと!噂に聞く以上のイケメン!しかしアタシにはアタシの魅力がある。このワンだふるな毛並みとか」

 

耳はキツネ、語尾はワン、名前はキャット。服はメイドさん。

タマモナインのひとつ、タマモキャット。クラスはバーサーカーである。

 

「趣味は喫茶店経営。好きなものはニンジンときた」

 

だそうです。

 

「かわいいじゃん。野生?」

「先ほどご主人ができたのだ。つまり野生であって野生ではない。だワン」

「現界するときに引っ張ってきたの。私だけじゃ心許なかったものですから」

 

 

うさぎちゃん(光) キャットっていうの?可愛い~!

奏者のお兄さん カワイイは無敵だな・・・

 

 

『いやはや。もうすっかり日が暮れちゃったねぇ』

『まあ新しい仲間も増えたし、骨折り損でもなかったんじゃない?』

「そういえばステンノ様もローマ来るってさ」

『えっ』

「えっ」

「よろしくお願いしますね?帝国軍のみなさま」

 

リンクに優しく抱えられて、女神はにこりと微笑んだ。

たっぷりと熟した桃の果汁のような、甘い甘い笑みだった。

 

『オ゙ッ゙。い゙っ゙、ぎっ。・・・・・・ぐうう・・・・・・!』

「すいません今誰か死にました?」

『大好きな勇者が大嫌いな神を抱えているという画にギルガメッシュ王が床を殴っています』

「お、王様ーー!気を確かに!」

 

リンクは無言で船に向かった。対応が慣れてきている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・ん!?諸君、サーヴァント反応だ!海から来るぞ!』

「海・・・!?」

 

波が砕ける。

砂がぎゃぎゃりと鳴く。

ばしゃんと泡をふりほどき、その男は現れた。

 

「余、の・・・・・・!」

「叔父上・・・!?」

 

真っ赤に滴る瞳は、もう何も見えていない。

愛しいものを奪うために。貪るために。引き裂くために。

己の全身で無茶苦茶に蹂躙して。汚して穢して愛するために。

カリギュラは現れた。すべては欲望のままに。

 

「美しい、な・・・!おまえは美しい・・・・・・!」

 

にじり寄る男からネロを隠す。

あまりに異様な雰囲気が、少女達から言葉を奪った。

 

「みなぎる毛並み、沸き立つ獣性! しかしそれはアタシの十八番。ウェルダン?それともレア?キャットはこんがり丸焼き派だワン」

 

しかしキャットは動じない。なぜならハンドがド迫力。マッハでキュートな肉球をくらえ!

 

殴ッ血KILL(ぶっちぎる)!」

「キャット!」

 

文字通りの野生の動き。

しなやかな体が飛び回り、鋭い爪がカリギュラを切り裂いていく。

 

「ネロォォオ・・・・・・!」

「ママママママッッハ肉球ぅ!」

『つ、強い・・・!なんだあのバーサーカー!?』

「キャット、応急手当!ダメージに気を付けて!」

 

カリギュラの我武者羅な反撃を受けて、キャットのエプロンドレスが汚れていく。

だが立香のサポートを得て、すぐに純白を取り戻した。やはり良妻の勝負服(エプロン)はこうでなくてはな!

 

「むっふっふ~。ご主人に愛されて百ネコ力!その脂身を燃やす──Fat cat Busterrrrr!」

 

とっても大きなオムライス。・・・え、なんで?

ケチャップでネコが描かれている。・・・かわいいね?

赤い旗は肉球だ。・・・なんで?

とにかくオムライスが激突したのである。・・・カリギュラー!!

 

「カッ、カリギュラさーん!」

「叔父上ー!?」

「報酬に人参をいただこう!」

「よしよし」

 

立香は一周回って落ち着いていた。メイドさんなんだからオムライスくらい出るよね。

嫌な慣れである。

 

「勇者さま、参加しなくて良かったの?」

「オレが出たら一瞬で終わりますよ」

「あら」

 

ステンノを膝の上に乗せながら、リンクはのんびりと茶を啜った。




キャット難しすぎひん・・・?かわいく、たのしく、そうめい・・・?


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オレンジの片割れ

梅雨はじめじめして困りますね。
湿気が凄いんじゃ!(千鳥ノブ)


すとん、と首が落ちる。レオニダスは反応が出来なかった。

 

気配に疎いわけではない。警戒を怠っていたわけでもない。ただの純粋な実力差。

得意の槍は振るわれず、盾はただの置物と化す。

驚愕と衝撃に染まった顔を兜の下に隠したまま、地面に落ちる前に消滅した。

下手人はもう見向きもしない。

 

「佳境かしら」

 

しゃらんと着物を翻し、両義式は呟いた。

地面がかすかに大人数の移動で揺れている。遠目に見えるのは、首都ローマに帰還途中の帝国軍だ。

女神ステンノとタマモキャットをパーティに加え、軽やかな会話は途絶えることがない。

そよ風と共に消えた彼女を感知できたものはおらず。

下手人の行方は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皇帝陛下ー!」「帝国軍万歳!!」「うおおおお!」

「おかえりなさーい!」「皇帝さまー!」

 

どっと湧いた歓声を受け止めて、ネロは凛と佇む。

喜びに笑みを染め、興奮に胸を高鳴らし、市民達は万雷の拍手を惜しまない。

 

「聞くがいい!我が愛しの民たちよ!」

 

ざわめきが小さくなる。自慢の皇帝の言葉を聞こうと、皆が耳を澄ました。

 

「ここにおわすは古き女神、ステンノである!未曾有の危機を迎えている我が国に加護を与えんとお出ましになった。女神を称えよ!勝利を謳え!もはや我らが負ける道理はない!」

 

馬上に佇む女神は優雅に微笑んだ。後光の差すその姿を直視した人々は、輝きに目を奪われる。

兵士達の歩む道は自然と人並みが割れていく。隊に紛れている勇者は、物珍しげに辺りを見回した。

 

「ふう・・・。やっと落ち着いたな」

 

ふかふかのソファーに腰掛けて、ネロは深く息を吐く。

 

「凄まじい人の賑わいでした。まるでお祭りのようです」

「町中が元気だったよね。出発したときよりずっと」

 

長い凱旋を終えて、立香とマシュも安堵の表情を見せる。

旅の疲れよりも記憶の方が光っていた。初めての体験が沢山積み重なっていく。

こんな時なのに、楽しいと思ってしまうのだ。

 

『はは、まんざらでもなかっただろう?あれが勝利の美酒の味わいってヤツさ』

「ほほう。姿なき魔術師殿。まるで、味わったことがあるような口ぶりだな?」

『ははは、ボクは想像力豊かな方だからね。おかげで色んな目に遭ったけど』

 

タマモキャットが飲み物を入れている。

もふっとしたお手々で器用なものだ。

 

『しかし、流石ネロ皇帝。女神を上手いこと紹介したね』

「女神の加護を得たことは事実だ。皇帝たるもの、あれくらいは言えんとな」

「格好良かったよ、ネロ」

「うむ、そうだろうそうだろう!」

 

リンクの膝の上でステンノは小さく欠伸をした。そういう会話には興味がない。

 

「恐れながら皇帝陛下に申し上げます!特別遠征軍、首都ローマへ帰還の途にあるとのこと!」

「なに――、あの者達が帰ってきたか!」

「はっ。将軍、両名ともご健在!しかし現在、連合の大攻勢に遭って足止めをうけているとのことです!」

 

急ぎ足で部屋に張ってきた兵士は、早口気味に報告を告げた。

帝国の人員は存外潤沢のようだ。知らせを受けたネロは立香たちのほうに向き直る。

 

「立香、マシュ!帰ってきて早々すまぬが――」

「大丈夫だよ。行こう、マシュ」

「はい、先輩」

「キャットはランチの準備があるのだな」

「見ての通りですよろしく。気をつけてな」

「うんっ」

『・・・!・・・!』

 

部屋を飛び出して行った少女達を、リンクは見送った。

歯ぎしりするギルガメッシュはもうみんなスルーした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■」

「見事に囲まれたな。周囲は敵、敵、敵。雲霞(うんか)の如し。私達は取り立てて問題もないだろう。しかし・・・・・・」

 

片や、中華風の青い鎧に身を包んだ巨躯の男。

片や、白い装束を纏う東洋系の美女。

 

「■■■■■■」

「ああ。ネロ・クラウディウスから預かった兵達を失うことになる。なるべく、避けたいな」

 

男の言葉は咆哮にしか聞こえない。なのになぜか、二人の会話は成立しているようだった。

 

「死中に活あり――。私や貴殿はそれが叶うだろうが、彼らに対してそれを強いるのは酷、と言うもの」

「■■■■■■■■■」

「・・・ん?」

 

遠巻きに感じる敵の殺気よりも、さらに遠くから音がする。

 

「援軍、か。戦車の女王(ブーディカ)闘士(スパルタクス)はガリアと聞いたが」

 

馬を飛ばしながら駆けてきた少女は二人。一足先にローマに行かせた兵も一緒だ。

自軍の兵からは困惑が、敵兵からは警戒が伝わってくる。

それを背中に感じながら、女は応援を出迎えた。

 

「・・・荊軻さんですね。聞いていた特徴と一致します。わたしたちは合流できたようです、マスター」

「良かった。あの、ネロに言われて来ました」

「話は後だ。そちらの君も私達(サーヴァント)の同類だろう?となると、君はマスターかな」

「はい」

 

ならばひとまずは大丈夫だろう。前途洋々。反撃の時間だ。

 

「共に活路を開こう。できれば多くの兵を活かしてローマへ帰したい」

「はい。マスター、多人数戦闘です。指示を!」

「ヴラド三世、お願い!」

「よかろう」

 

闇に溶け込む黒い装束は、日向にぱちりと現れる。

優雅に裾を払って王は手を振るった。人が吹き飛ぶ音。

 

「帝国軍よ、余に続け!」

「いくぞお前達、必ず生きて帰れ」

「■■■■■■■■―――!!」

 

地面を突き破って数百の杭が現れる。この魔槍こそ王の手足よ。

それは兵士を守るように円上に広がり、不埒者の侵入を堅牢に拒む。

注射針よりも鋭く、兵士の腕よりも太い杭が敵を縫い止める。その体を王の槍が吹き飛ばした。

険阻(けんそ)なフィールドはヴラド三世の独壇場。

巨体で暴れ回る男をするりと避け、隊列を組む兵士を援護すれば。戦場を軽やかに駆ける女を横目に、気品を失わぬ足取りで闊歩する。

 

「さあ、串刺しの時間だよ」

 

立香と兵士を背に守り、飛び交う弓を受け止めるマシュ。それをさらに後ろに庇いながら、血の晩餐は行われる。

劣勢を実感したのか、一人、また一人と連合軍が下がっていく。

剣と剣が鍔迫り合う鈍い音が減っていく。わあわあと騒ぐのは捨て台詞か。

潮が引くように怒号が遠ざかった。

こちらの勝利である。

 

「敵軍、撃破しました。先輩、ヴラド三世さん、お疲れ様でした」

「味方の損害は・・・軽微だな。ふん、たわいもない」

「貴方たちは・・・?」

「ネロ皇帝の客将です。味方です!」

 

そっと声をかけてきた兵士に応えると、感謝の言葉が返ってくる。

それを聞いてヴラド三世は満足そうに戻っていった。護国の王はここにあり。それを感じ取った立香の表情もほころぶ。

 

「改めて、礼を言おう。預かり物の兵達を失わずに済んだようだ」

 

彼女こそはアサシン、荊軻。

ネロ・クラウディウスの客将であり、斥候と暗殺を得意とする中国の伝説の暗殺者だ。

 

「戦場を実際に駆け抜けるのは彼の役目だ。呂布奉先、今回は裏切るつもりはないそうだよ」

 

のっしのっしと戻ってくる様は、さながら雄の熊。

呂布奉先。クラスはバーサーカー。

三国志演義に名高い、反覆・裏切りの将である。

 

「マシュに立香。君たちは異なる時代からの来訪者か」

 

遠征軍は帰還を始める。

首都ローマはもう目と鼻の先だ。

 

「さりとて、こちらのやることは特に変わらない。群がる皇帝どもを屠るだけだ。私も、呂布も」

『さすが伝説の暗殺者・・・。皇帝暗殺にこだわりがあるのも頷ける』

「既に、サーヴァントの皇帝を三体は殺している。君たちとは競争だな」

「三体も?・・・こっちはまだ二体か・・・」

「せ、先輩?これは競争だったのですか?」

 

むむむ、と争う姿勢を見せた立香にマシュは戸惑う。

 

「そう落ち込むな。挽回の機会はまだある。首都ローマに帰還し次第、ネロによる連合への本格侵攻が始まるだろう」

「■■■■■■■■」

「ああ、どちらがより多くの首を手にするか――。楽しみだな!」

「■■■■■■■!」

 

今にもスキップしそうなほど機嫌の良い荊軻と、どうやら同じようにテンションは高いらしい呂布。

どうせやるなら勝ちたい・・・と言い始めた立香を宥めるマシュ。

各々鮮やかな感情の色を見せながら、ローマの町に辿り着く―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の空気は悪い。もうずっと初めから。

 

「――呂布の排除に失敗した、か」

「・・・如何する。レフ・ライノール」

 

かすかに気まずそうに言葉を落とした男を、一言一言に重みのある声が突き刺す。

 

「何、所詮どうということはないさ。私には聖杯がある。忘れるなよ、既に言っただろう?」

 

所有者の言葉に反応して、黄金の杯が輝き出す。

それをロムルスはつまらなさそうに見守った。事実、興は醒めている。

 

「私は、真にサーヴァントを召喚できるのだ。自在に。それが如何に強力無比な英霊であろうとも!」

 

現れたのは紅顔の美少年。全身から、堂々とした覇気を感じる。

 

「・・・サーヴァント・ライダーか。ふうん。それが僕のクラスという訳か」

 

周りをぐるりと見渡し、視線はレフに戻った。

 

「それで?僕は何をすればいい、マスター?」

「速やかにネロ・クラウディウスを抹殺するんだ。この時代を破壊し、これ以後の人類定礎を斬り崩せ」

「・・・軍勢を貸し与える。好きに、使え」

 

レフとロムルスの言外の温度差に気づいたのか、気づいていないのか。

少年は相槌代わりににっこりと笑った。

 

「わかったよ。要は、戦争をすればいいってことだね?」

「・・・・・・然り」

「戦争。戦争か。戦争、ね。僕はきっと、それ(・・)がとても得意なんだろうな」

 

ううんと伸びをして、少年は退出するために玉座に背を向けた。

 

「わかった。それじゃあ軍勢、借りるね――――?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・夢か?覚めなくては」

「現実だぞ」

「■■■■■■・・・?」

「何言ってるのかわからんけどわかる。本物です」

「いやそれは嘘だろ」

「■■■■■■■!」

「嘘じゃないでーす!人を指で差してはいけません!」

 

相変わらず膝の上にステンノを乗せたリンクを見て、返ってきたのがこれである。

 

「いやなんでリンクがここにいるんだ。えっ本物?本当に?証拠見せろ」

「■■■■■■■■■■■?」

「どんどん距離を縮めてくる。すごい近づいてくる。ちょっと待ってステンノ様降ろしますよ」

「しかたのない人ね」

「うわイケメンだなムカつくくらい。どのリンクだ。うわイケメン。えっマジ・・・?」

「■■■■■■■■■■■」

「近くね?」

 

髪が絡まりそうなほど近くでまじまじと顔を眺める荊軻に、見ているこっちがドキドキするし。

呂布は上からつむじを見下ろして、野生の肉食獣のようなしなやかな体を興味深そうに見ている。

 

 

今までにないタイプの反応

 

 

災厄ハンター 先輩!!!温泉ありましたよ!!!

奏者のお兄さん マ?

 

 

なんか静かだと思ったら温泉探してたのかお前!?!?こっちに興味持てよ!!!!

 

 

「ほーらマスターソードですよ」

「本物じゃないか!!」

「■■■■■■!!」

「光の勇者のリンクです。以後オナシャス」

「疾風のブーメランは?」

「あるよ」

「チェーンハンマーは?」

「これだな」

「ホークアイは?」

「はい」

「陶器の馬笛」

「こちらになります」

『まってまってまってまってまって』

「まってまってまって見せて見せて見せて」

 

バッグから出てきたアイテムを見て立香とマシュとネロがすっ飛んでくる。

机の上で存在感を放つ勇者のアイテムに、ごくりと生唾を飲んだ。

 

『ウワーーーーー!!!!!』

『ムニエル!!しっかりしろ!!ムニエル!!』

『ヒュ』

『医者ーーーーー!!!ジークフリートが息してない!!!』

『ジークフリート!!!傷は・・・深いかも知れないですけど!気を確かに!!』

「マジか・・・握手してくれ・・・なんらかの加護があるかもしれん・・・」

「いいぞ」

 

荊軻としっかり握手をすると、呂布も手を差し出してきたので握る。

握手した手をじっと見て、荊軻は今さらながらに実感してドキドキしてきた。

 

『ああああれが陶器の馬笛・・・・・・。イリアが勇者リンクのために作ったという・・・・・・あの・・・・・・』

「すごい・・・・・・・・・・・・」

「本物だ・・・・・・・・・・・・」

「ひえ・・・・・・・・・・・・」

 

そこらの金貨よりもきらきらと煌めく価値をもつ道具の数々に、目が離せない。

小説で読んだやつだ・・・。

勇者の冒険を助け、彩り、支えた、あの有名なアイテム達・・・・・・・・・!

 

『本当に・・・・・・・・・本物なんだぁ・・・・・・・・・・・・』

『うっぐすっ、うっ。ひっ、ひっ、うう・・・・・・』

『オルガ~また職員が泣いて・・・・・・泣いてる・・・・・・!』

 

またみんな泣き出してしまった。

感動よりも興奮が勝ってるため辛うじて持ちこたえたダ・ヴィンチちゃんは、わかるよ・・・とオルガマリーの背中を優しくさする。

 

 

小さきもの どこの温泉?

災厄ハンター 閻魔亭ってとこです。でもあんまり有名ではないみたいで・・・俺もあちこち探してようやく見つけたんですけど

 

 

温泉ならオレも行くからな!この特異点が終わった後な!

 

 

「進研ゼミでやったとこだ・・・」

『進研ゼミに書いてあるのか!?』

 

最近の進研ゼミにも勇者リンクのことは載っているらしい。エミヤは突然のジェネレーションギャップを感じる。

 

『おお黒きジャンヌ・・・。今からでも間に合いますよ・・・』

『ジル?どうしました?オルタの私も』

『あっ、アンタには関係ないわよ!』

『白きジャンヌ。こちらのジャンヌはゼルダの伝説を読んだことがないようで・・・』

『え!?!?』

「えっ!?!?」

「・・・あっ、そうか!聖杯で作られたから・・・」

 

聖杯によって作られた存在であるジャンヌ・ダルク・オルタは、ジャンヌであってジャンヌではない。

彼女にはジャンヌの記憶がない。過去がない。だから吟遊詩人を囲んで胸を高鳴らせた、あの日々のことも知らないのだ。

 

「オレは全然気にしないけど。なんならそっちの・・・ジャンヌ・オルタ?のほうが気になるんだけど」

「ええと、第一特異点はフランスで、ジャンヌが二人居て・・・」

「よしよし大丈夫だ。後でまた聞くから。立香、疲れてるだろ。タマモキャットがご飯作ってるから、食べようか」

「呼ばれて呼び出てキャットが登場。お待たせしたな、シェフのおすすめをくらうがいい!」

 

かちかちと歯車は噛み合っていく。

とある監獄塔で、復讐鬼が目覚めた。



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出囃子は鳴ってんだ

FGOの2部六章をクリアし、任天堂E3ダイレクトを楽しみ、小豆長光の極に天を仰ぐ。


そして――。

正統ローマ帝国が進軍を開始しました。連合帝国首都への侵攻です。

既に、刑軻さんが偵察を終えました。

 

ガリアから合流したスパルタクスさんと、呂布さん荊軻さん。

タマモキャットさんに女神ステンノさん。・・・勇者リンク。

わたしを含めて七体のサーヴァントを擁した軍勢。それが、皇帝ネロの率いるローマ帝国軍。

 

通常戦力では敵う筈がない軍勢です。

なのに連合は、敵将のサーヴァントを投入しません。

レフ・ライノールの姿も見当たらず。日々、進軍は続いていきます。

 

戦況は明らかにわたしたちが有利。

帝国軍は破竹の勢いで連合首都へと進撃しています。

そんな中でわたしは、こうして――――。

 

 

 

 

「マシュ、日記でも書いてるの?」

「フォーウ!」

「あ・・・先輩、フォウさん。そうなんです。実は―――」

 

さながら、物語に愛された作家の如く。

夢中になってペンを走らせていた少女は、ぱっと顔を上げて話し出す。

 

「ドクターから頼まれたんです。戦記物っぽく、日記を付けてくれないかと」

『そうとも、ボクが頼んだのさ!せっかく君がローマ総督の一人になったんだからね!』

『ロマニ・・・貴方いつの間に・・・』

『いやー、でもわかるよ。私でも書いちゃうかもだ』

 

どうやら所長も知らなかったらしい。

医務室の長は、ダ・ヴィンチの言葉に我が意を得たりと話し出す。

 

『新・ガリア戦記というのはどうだろう。かつてカエサルが書いた本をオマージュした題だよ』

『これは面白くなりそうだね。なんてったって、とびっきりのシーンが沢山あるからねぇ』

「そ、そう・・・」

 

段々と盛り上がってきた二人に、立香はちょっぴり戸惑った声を返す。

とびっきりのシーンというのはやはり、リンクのことだろうけど。

 

『まあそれはそうとして。真面目な話をするとだね』

「ふむ」

『君たちが世界を救うことができた、としてだ。それから先のことをボクは考えてみた』

 

もしも世界を救ったとしても、カルデアを襲った惨劇がくつがえることはないだろう。

何もかも元通り、なんて。流石にそこまで都合はよくない。

 

『つまり――。ボクらの給与については保証がない』

『出すわよ!?』

『それは勿論ですよ所長。むしろ所長が頼みの綱です』

 

社会人は世知辛いよ・・・。

人理を修復する。修復したあとのことも考える。両方やらなくっちゃあならないってのが、カルデア幹部の辛いところだな。

 

「なるほど。転ばぬ先の杖、というヤツですね」

『うん。あと勇者のことをじま・・・ゴホン!報告しなくちゃいけないし』

『そうだね。そこが一番重要だ』

「・・・リンクが助けに来てくれたって、みんな信じてくれるかな?」

 

勇者リンク、もといゼルダの伝説が魔術師達にとってどれだけの存在なのか。

かつて英雄と呼ばれた彼に、彼女らにとってどれだけ輝かしいのか。立香もよく分かってきた。

故に思うのだ。下手に情報を開示したら、大変なことになるのではないか――?

 

『しかしカルデア中の記録媒体に保存している以上。言わない、という選択肢はない』

『・・・そうね。もちろん本人の許可は取りますが、その後の混乱は確かに避けられないでしょう』

『うーん。でもリンク本人がわりと自由に動いてるみたいだし、うっかり召喚されるってのはゼロに近いと思うんだよ』

「それは・・・そうだね」

 

徒歩で来た。な勇者をピンポイントで呼ぶなど、聖杯があっても難しいだろう。

前所長の時でもさんざん試して現れなかったのだ。

リンク本人がその気になってくれなければ、召喚サークルは動かない。

なら大丈夫では?

 

 

バードマスター 僕らに近づこうとしてヤバイ術を開発するかもしれない方が可能性ある

騎士 闇を見せるのやめな?

うさぎちゃん(光) なんなら一番危険なの立香ちゃんだよね

 

 

「ではこの日記はしばらく書き続けますね。戦闘記録はダ・ヴィンチちゃんにも渡します」

「あとで私にも読ませてね」

「はい、先輩」

「フォウ」

「む、何だ?何の話をしているのだ」

 

長話に誘われて、ネロがちょこちょこと寄ってくる。

 

「立香たちはいつも楽しそうだな。余も混ぜるがよい!」

「残念だが遊んでいる暇はなさそうだぞ、皇帝。敵を発見した」

『あっ本当だ。多数の反応あり。サーヴァント反応はなし、通常兵力だ』

「むう。せっかくの談義だったのに・・・余はつまらぬ・・・」

 

しょも・・・と肩を落とすものの、気を取り直して声を張った。

 

「まあよい、まずは蹴散らしてくれる!連合の敵兵何するものぞ!降伏するものは受け入れよ!余のローマに恭順するならば命は助ける!」

「マスター、わたしたちも出ましょう。突出してきた部隊を叩けば、敵兵の士気を挫けます」

「うん、行こう!」

 

全軍前進。戦線異常なし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇を纏って生きている。

血を纏って生きている。

我ら暗殺者(アサシン)。世界の影。夜の中でしか息が出来ぬ。

 

誰かの影武者。名前もなく。

王家の闇を背負って。代わりに泥を滴らせる。

祖国に栄光あれ。そのためならこの身を削りましょう。

 

消費され消耗され薪にされ罪を被る。冷たいこの両手すら暗器。

いつでもそう。肝心なコトは非公開(あかされない)。それが証拠。我らの生きた跡。

 

 

 

 

「・・・以上。既に、連合軍は明確な指揮下にない。発生しているのは、我が軍と偶発的に遭遇した独立部隊との戦いばかり。戦況は明るい。そう言って良いだろう」

「うむ!余の軍は真の力を取り戻した、という訳だな!」

 

そんな我らでもページを捲った。

使えるものは何でも使い。手を変え品を変え踏破していく。

忍び込んで隠れ。壁を越えて侵入する。邪道で王道な彼を知る。

 

「いいや、マシュたちもいるのだ。最早、大逆者どもなど余の軍の敵ではないわ!」

「油断は命取りになる、ネロ・クラウディウス。いや、時には隙などなくとも命は消える」

 

やましいことなど1つもなく。恥じることなど欠片もなく。善でも悪でもない、勇者。

影の世界すら救って見せた、その姿は。闇の力すら受け入れて見せた、その姿は。

 

「連合首都の守りは未だ固い。それ故に、我が軍とぶつかる軍が脆弱とも言える」

「う、うむ。荊軻は用心深いのだな」

 

・・・希望だったのだ。確かに。

救いだったのだ。何よりも。我らにとって。

 

「貴殿は忘れたか?私は、そもそも暗殺を生業とするものだ。策は得意とするものであり、同時に最も警戒するものだ」

「も、もちろん覚えておるぞ!うむ、荊軻は頼もしいな」

 

このボロボロの誇りだってきっと勇者は、きっと認めてくれる。

私は一度、失敗したけれど――――。

今度こそは殺してみせる。必ず。必ず、この手で――――!

 

「恐れながら皇帝陛下に申し上げる!前方に敵軍の影あり!そして後方にも、敵軍!」

「後方・・・?」

『確か、後方には呂布将軍が控えていた筈だね。スパルタクスも。いけない、このまま放っておくと――』

「まずいな、これは」

 

雑然とし始めた後衛に、荊軻は眉をひそめる。

ひとたび戦いを始めれば、あの二人は敵を追って何処までも進軍しかねない。

 

「����������――ッ!!」

「な、何だ、この音は・・・!獣の咆哮か!」

 

さらにサーヴァントの気配が1つ。

強者か?敵将か?皇帝か?身を震わせる獣の遠吠え。

 

「いけない!兵を引かせてください!人間ではサーヴァントに勝てません――――」

 

 

空気を裂く、鋭い音。

少女の言葉を遮った。

 

 

「・・・えっ」

「・・・何?」

 

兵たちの向こう。軍の後衛で、弓を構える人が居る。

一矢はバーサーカー達を通り過ぎ、しかし気を引くには十分だった。

 

「・・・こら、二人とも。迷子になったら大変だろ」

 

敵軍が土煙と共に迫るのに、その声は立香たちまで届く。

地響きを涼しい顔で受け流して、リンクは剣を抜いた。

 

「さあ、戦闘だ。敵を阻み、拒み、ここで食い止めろ。帝国軍!」

「ウオオオオオオオ!!」

 

その凜々しい姿に魅了され、兵が雄叫びを上げる。

勇者と共に戦える事実よりも、輝かしい誉れはなく。その勢いは破竹の如し!

 

「リンクだ・・・!」

「さすが勇者だな!」

 

その大きな安心感に、みな胸を撫で下ろす。

挟み撃ちするかのように、前方からも連合軍が迫ってくる。彼が居るなら後ろは任せよう。

 

「ネロ、前からも来るよ!」

「わたしたちは前に出ます!」

「あいわかった!余の軍よ、ここが踏ん張りどころだ!」

 

漆黒の巨人が進軍する。

全身を禍々しい刺青と黄金で彩り、三白眼は睥睨し。

 

「おー、強そうだな」

 

 

銀河鉄道123 金ぴか 黒い 巨人 検索

いーくん グーグルを過信しすぎだろ

奏者のお兄さん siriもわかりませんって言うぞ

 

 

戦斧が連合の兵士を斬りつける。暴雨のごとく戦線を乱す。

もしやただの野良サーヴァントなのだろうか?

象が蟻を踏みつぶしているようだ。人が小石のように吹き飛ばされていく。

実に、狙いやすくていい。

 

「����������――ッ!!」

光纏う宝物の弓(トワイライト・アロウ)

 

喉を振るわせるのは断末魔か。

無防備な額に吸い込まれるように矢じりは刺さる。

全身に油断なく闘志を漲らせていても、所詮狂化に浸されたバーサーカー。

コンマの速度で弓を射る、リンクの敵ではない。

 

 

海の男 ヒューッ!

フォースを信じろ フーウッ!

災厄ハンター Yo! Yo!

 

 

チェケラッチョ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荊軻が発見した拠点を目指し、帝国軍は歩みを進める。

辿り着いた砦にサーヴァント反応は1つ。

扉はまるで歓迎するかのように開いている。今にも拍手喝采しそうな喜色を露わにして、その少年は現れた。

 

「こんにちは。ネロ皇帝」

「・・・この砦の将か?逃げも隠れもしないその態度に免じて、名乗ることを許す」

「名乗らせてくれるのかい?ううん、そうだな。どういう風に言おうかな。僕は名前が複数あるんだ。」

 

紅顔の美少年は、赤髪を揺らして考えるそぶりをした。

 

「僕はアレキサンダー。正確にはアレキサンダー三世という」

『アレキサンダー・・・。征服王イスカンダルか!マケドニア王国の若き王子!』

「連合国に呼び出された将さ」

 

敵対しているとは思えないほど、少年は快活に笑う。

その爽やかさに、なんとなく立香たちも出鼻をくじかれた。

 

「本当は君と色々話をしたかったんだけど――。彼が居るのに、それは失礼だね」

 

ばちりと目が合ったので、リンクは不敵に笑ってやった。

少年の頬が紅潮する。ぎゅっと服の裾を握って、そろりと離した。

 

「僕に与えられた兵は残りわずか。対して君の軍は損害も軽微。・・・ううん、劣勢だな」

「降伏するなら受け入れよう。余は寛大だ」

「ありがとう。でも、せっかくだから戦いたいな。彼が居るのに、みっともない姿は見せたくない」

「そうか。――――来い!」

「行くよ、連合軍!蹂躙を始めようじゃないか!」

 

鬨の声がぶつかり合い、ビリビリと大地を振るわせる。

一拍開いて金属音が響き渡った。鋼の咆哮。

 

「ゲオルギウス、お願い!マシュはネロの側に!」

「ええ、マスター。私が護りましょう」

「了解しました、マスター」

 

ゲオルギウスと共にベイヤードに跨がり、立香は戦場を駆ける。

 

「帝国軍のカバーを!」

守護騎士 A+(お任せを)。・・・マスター、指揮が様になってきましたね。私も誇らしいですよ」

「えっほんと?・・・えへへ」

 

守護騎士に褒められて、立香は相好をくずす。

ネロと、彼女を守るマシュを。兵士たちを庇うようにゲオルギウスは戦う。

他者を守ることこそ守護者の矜持。聖ゲオルギウスの剣はいつだって、人々守る希望である。

 

「(勇者リンクに気を引かれてしまうなんて、私もまだまだですね)」

 

それはそれとして視界の端にいるリンクのことは気になる。

女神ステンノを抱えて移動するようだ。一体何を見せてくれるのだろう。柄にもなくわくわくしてしまう。

写真撮影はOKだろうか?後で聞いてみよう。

 

 

ここで影に入り、アレキサンダーの側に移動します。混戦しているので楽勝ですね

 

 

小さきもの アレキサンダーの周りには兵士が居ないので余裕で近づけます

奏者のお兄さん そのために先ほど襲ってきた連合軍を、全て片づけておく必要があったんですね

 

 

「あっははははは!隙だらけだよ、君!」

 

雲を吹き飛ばすかのように、ブケファラスが(いなな)いた。

じりじりと距離を詰めてくる王子を止めるのは、女神の甘い囁き。

 

「ねえあなた。こっちを向いて?」

 

余りにも至近距離で聞こえたので、アレキサンダーは肩をびくっと振るわせた。

考えるよりも先に顔をそちらに向けてしまう。驚きに染まった思考を引き戻せない。

黒い狼に跨がったステンノが、1m先からこちらを見ている。

 

女神の微笑(スマイル・オブ・ザ・ステンノ)

「(! しまっ――)」

 

物憂げな視線を貴方に。蕩ける程の囁きを注いで。

 

不還匕首(ただ、あやめるのみ)

「―――――」

 

零れた隙を刃が裂く。霊核(心臓)を毒華が貫く。

 

「・・・・・・・・・参ったな・・・。悔しいな、思ってたより・・・・・・!」

「気にやむことはない。女神が気を引いてくれなければ、私の刃も届かなかった」

「・・・そっか。うん・・・。・・・ねぇ君、また会える?」

「オレか?それはお前次第だよ。お前の幸運次第だ」

「・・・ふふ」

 

アレキサンダーは幼い微笑みと共に消えていった。

ステンノを抱え直して、リンクは荊軻を労う。

 

「さすがアサシン荊軻。一殺、見事」

「・・・・・・そうだろうか」

「そうだよ」

「そうか・・・」

 

・・・それなら、まぁ。勇者リンクがそう言うのなら。

失敗した私でも、呼ばれた義理は果たせたのだろう。

―――――嗚呼、酒を飲みたい気分だ。浴びるほど!

荊軻はからりと笑って、勇者はいける口かなぁと呟いた。



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RAIN

雨の表現は難しいですね。擬音ばかり使ってしまいます。


災厄ハンター いやー!2も楽しみだねぇ!

奏者のお兄さん 何の話?

 

 

電波を受信するな

 

 

もう決戦は始まっている。

曇天に響くのは、研ぎ澄まされた鋼の歌。

 

「今こそ、余と、余の兵たる貴様たちの力を集めるとき。この戦いを以てローマは再び1つとなろう!」

 

赤薔薇の舞踏服(ドレス)は、どんよりした空の下でも目立つ。

鬨の声が兵士の背中を後押しした。

 

 

「忌々しくも“皇帝”を僭称せしものどもよ、今こそ、偽物のローマが潰えるときだ!」

 

「戦え、余の兵たちよ!我が剣となって僭主どもを悉く打ち倒せ!」

 

「聞き惚れよ。しかして称え、更に歓べ!余の剣たちよ!」

 

 

歓声がそれを受け止める。兵の士気は右肩上がりだ。

 

「先輩、わたしたちは王宮攻略作戦に参加します。件の宮廷魔術師、見つけられると良いですが・・・」

「レフ・ライノール・・・」

「確証はありません。ですが、その可能性は十分にあります」

 

人波に逆らわずに進む二人は、次第に緊張に顔を硬くしていく。

レフでなくとも、聖杯の所有者と遭遇した場合、何が起こるか分からない。

 

『前回は聖杯の力で竜種が大量に召喚されていた。今回も、英霊召喚のみに費やされているとは限らない。それに――』

『サーヴァント反応を感知!二人とも、警戒なさい!』

 

ごう、と耳許で風が唸る。

冷えてきた空気が体に当たった。

 

「・・・・・・勇ましきものよ」

 

王宮の入り口付近に、巨躯の人物が立っている。

 

「実に、勇ましい。それでこそ、当代のローマを統べる者である」

「む――」

「あの人は・・・?」

 

一挙手一投足が洗練され、全身から漲るのは王の気品か。

 

 

りっちゃん あっロムルス元気?

うさぎちゃん(光) いえーいロムルス見てるー?

 

 

オレに気づいたな。一応マスターだしそりゃわかるか

 

 

「そうか。お前がネロか。何と愛らしく、何と美しく、何と絢爛たることか。その細腕でローマを支えてみせたのも大いに頷ける」

 

うっすらと微笑みを形作る口が、深くハリのある声を届かせる。

 

「さあ、おいで。過去、現在、未来。全てのローマがお前を愛しているとも」

「な・・・・・・」

 

その姿を凝視して、ネロの体が小刻みに震え出す。

驚愕と動揺。

 

「何、と・・・・・・。あれは・・・。い、いや・・・・・・」

 

決して喜びなどではない。地を揺らすかのような衝撃。

 

「そんなこと、が・・・あって、良い、のか・・・・・・。いや、いや・・・しかし・・・・・・」

「ネロさん?顔色が優れませんが・・・」

「あの人知ってるの?」

「そ、それは・・・・・・」

 

二人に顔をのぞき込まれ、ネロはふらふらと視線を外した。

青くなった唇が、呟くように言葉を漏らす。

 

「ローマ・・・・・・。あれは・・・あの御方は・・・。一瞥しただけ、でも・・・わかってしまう・・・・・・。あの御方こそ・・・ローマ、だ・・・」

「そうだ。お前には分かるはずだ、ネロよ。(ローマ)だ。(ローマ)こそが、連合帝国なるものの首魁である」

 

男の声は距離をものともせず、少女たちに語りかける。

慈愛をこめて、慈悲をこめて、しかし突き放すかのように鋭く。

 

「お前の全てを、(ローマ)は許そう。お前の全てを、(ローマ)は見定めよう。さあ――――」

「ああ・・・・・・」

「ここまでおいで。愛し子よ。(ローマ)は待っている」

「あなただけは、有り得ぬと・・・。余は思っていたのだ、信じたかったのだ・・・」

 

ぱたり、と地面が濡れた。

泣き崩れた少女のように。雨がぱらぱらと落ちてくる。

 

「しかし、あなたは余の前に立ちはだかるのか!紛うことなき、ローマ建国王!神祖ロムルス・・・・・・!」

 

もう背を向けてしまった、男に声は届かない。

 

「先輩、敵の一団が接近中!ネロさんを狙っているものと思われます!」

「迎撃!(ネロ・・・)」

「はい、マスター!」

 

雨が体を冷やしていく。

しとしと。しとしと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「建国の王サマ、ね」

「あんまり興味はないか」

「あいにくただの牧童でして。王族には縁がなく」

 

 

Silver bow その枕詞使えないよ

 

 

「お前がただの牧童を名乗るのはもう無理があると思う」

 

 

Silver bow ほら

 

 

∪(´・ω・`)∪

 

 

「・・・でもまあほら。今肝心なのはオレじゃなくてネロ皇帝の方だから」

「そうだな。しかし、どうりで連合の士気が高かったはずだ」

 

ジト目で見てくる荊軻から顔を逸らしつつ、会話の軌道修正を図る。

目元まですっぽりフードに覆われているため、青い瞳はかなり近くに来ないと見えない。

 

「どいつもこいつも命を捨てる覚悟の兵ばかり。そればかりか民のひとりに至るまで、兵士気取りで襲い掛かってくる」

 

つい先ほどまで野菜を売っていた人も、花に水をやっていた人も。まるで親の仇のようにこちらを睨んでいる。

 

「まるで光に集まる蛾のようだ。これが神祖のカリスマか?」

「兵の士気ならこっちも高いけど、皇帝が少し沈んでるからなぁ」

「・・・そうなのか?私にはあまり、様子が違うようには見えないが」

「勘、だけど」

 

片頰笑むリンクに、荊軻はぱちぱちと瞬きをした。

 

「そんなにショックだったのか?ロムルスが敵だったことが」

「オレが敵として出てきたら困るだろ?」

「困る・・・・・・。ああ、そういうことか。うん、それはショックだな。膝をつくかもしれん」

 

 

アッあの冗談のつもりだったのにガチ目になんか

 

 

海の男 こういうところで儂らとみんなの認識の差が出るんですね

銀河鉄道123 べつに自己評価が低いわけではないのにむしろ高い方なのに

騎士 まあ夢を見られているんだろう。英雄の性だ

 

 

雨はまだ止まない。

泣き濡れた空の下でも、リンクの金髪は淡く輝いた。

 

「・・・そろそろ動かねば。王宮への侵入経路を探ってくる」

「兵とバーサーカー達の指揮は任せろ」

「ネロ皇帝は?」

「立香とマシュがいるよ」

 

荊軻は幼い顔で微笑むと、霧雨の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・む、そなたか。マシュはどうした?向こう?」

「いつも一緒に居るわけじゃないよ」

「そうなのか・・・」

 

敵の本拠地はもう目の前だ。

でもまだ進めない。立香はネロの隣に立つ。

 

「・・・情けない姿を、見せてしまったな。まさか、ああまで取り乱すとは」

「ううん。気にしてないよ」

「流石に、今回は、少し、こたえてしまった・・・。ほんの少しだが・・・」

「うん」

 

頬を滑るのは雨だけど、だけど・・・。

 

「余は・・・。もしや、とな。もしや、余の歩みが誤りだったのでは、と」

「うん・・・」

「無論、そんなはずはない。余こそがローマであり、第五代皇帝である」

「うん、知ってるよ」

 

まつげの水滴を、拭ってあげたいと思った。

立香はポケットの中で、ハンカチを握りしめる。

 

「だが、建国王の声を聞いた瞬間、ほんの僅かではあっても思い浮かべてしまったのだ」

「・・・」

「もしや、と・・・」

「・・・でも、あの人は、ネロのことを見定めるって言ったよ」

「っそうだ!あの方は、余を待っていると言った・・・!」

 

真紅の舞踏服(ドレス)を泥に汚し、それでも皇帝は顔を上げた。

 

「神祖はきっと間違えている。連合の下にいる民を見よ。兵を見よ。皆、誰ひとり笑っていない!」

「うん。すごくピリピリして、怖いな・・・」

「いかに完璧な統治であろうと、笑い声のない国があってたまるものか!ならば、余は、進まねば!」

 

何が相手であっても、迷うことなどない。

成すべきことを成すのだ。たとえ、どんな結末を迎えても。

 

「感謝する、立香。目の覚めた気分だ」

「私はなにもしてないよ。・・・あ」

 

ぽつり、ぽつり。

ぱたり。

雨が止んだ。

雲の切れ目から日光が差す。

 

「ネロ、雨が止んだよ」

「ああ、吉事だ」

「ただいま戻りました、先輩。・・・あれ、ネロさん?」

「うむ、マシュか!戻ったならば、そろそろ最後の仕上げと行くかな!」

 

先ほどとは打って変わって明るいネロを見て、マシュが驚いた顔をした。

 

「先輩、ネロさん明るくなってますよね」

「ちょっと励ました・・・というか。話を聞いたというか」

「それだけで・・・あんな風に?」

 

こんどはマシュが沈んだ顔をする。

立香は慌ててハンカチで頬を拭ってあげた。髪からぽたりと水が落ちる。

 

「ああ・・・。そうすれば良かったんですね。わたし、彼女に何もできませんでした。先輩は凄いですね」

「そんなに気にすることないよ。マシュはこれからだよ」

「む、何を話している?遠慮せず余も混ぜよ。と、言いたいところだが今は我慢だ。これより王宮を攻め落とす!」

 

威厳のある声が、雨上がりの町に響いた。

 

「荊軻が既に侵入の経路を見出した。少数精鋭でこれを進み、城内のロムルスを倒す」

「うん」

「はい」

「最後の戦いになる。余と共に来てくれるか。マシュ、立香」

「もちろん!」

「はい、行きましょう!」

 

空に虹が架かったのを、リンクが見つけて指を差す。

つられて見上げた民たちが、その美しさに、思わず言葉を無くした。



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虹の彼方に

日光一文字、愛。
長髪男士はダメです。気が狂います。


水たまりを跳ね飛ばして、辿り着いたのは絢爛の城。

 

「この道で間違いないのだな、荊軻?」

「皇帝への道を行くのはこれで二度目だ。案ずるな、間違いなく貴殿たちを玉座へ案内しよう」

 

牙を剥く敵性生物なんのその。怪物を叩きのめし少女たちは進む。

その背中に迷いは見えず、瞳には希望の炎が宿る。

滴るレモンの雫も溶けてしまうような、真紅の炎が。

 

「・・・・・・来たか、愛し子」

「うむ、余は来たぞ!誉れ高くも建国成し遂げた王、神祖ロムルスよ!」

「・・・・・・良い輝きだ」

 

眩しそうに目を細めた男から、鋭い敵意を感じるか?

立香はずっと妙な違和感を抱いていた。この人はどうして優しい目をしているんだろう。どうしてそんなにプレゼントを待ちわびた子供のような顔をするんだろう。どうして――――。

 

「過去も、現在も、未来であっても。余こそが、ローマ帝国第五代皇帝に他ならぬ!故にこそ、神祖ロムルスよ!余は、余の剣たる強者たちでそなたに相対する!」

「許すぞ、ネロ・クラウディウス。(ローマ)の愛、おまえの愛で見事蹂躙してみせよ」

 

ゆっくりと構えた男から、強大なプレッシャーが届く。

それを遙かに超える、大きな慈愛を見た。

 

「見るがいい。我が槍、すなわち――(ローマ)が此処に在ることを!」

 

上段からの唐竹割りは、大木のような槍に阻まれる。

打ち合いは輝線となり絡み合った。槍の突きを右下から弾き、踊るように薙ぎはらう。舞うように斬撃が飛ぶ。

 

「はああっ!」

 

裂帛の気合いと共に放たれた裟斬りを、槍は真正面から受けとめ、重い振りで吹き飛ばす。

体勢を崩して転げるネロの前に、マシュが滑り込むように割り込んだ。

鈍い音を立てて盾が皇帝を守る。攻撃ではなく、防御に徹した盾裁きはロムルスを後退させた。

 

「ネロ、応急手当!」

「すまぬ!」

奮い断つ決意の盾(させません)!」

 

星の欠片が砕けたような輝きを纏って、すぐさま立ち上がったネロの剣が襲いかかる。

対応しようと動いたロムルスはしかし、マシュのスキルに引っ張られた。盾と槍がぶつかり合う衝撃。真紅の剣の三連撃!

 

「むうっ・・・!」

 

追撃。

流星のような右薙ぎは建国王の胴を捉える。

しかしすぐさま盾ごと刺突で振り払われた。二人の少女が重ねて倒れる。

 

「ぐ・・・流石だな・・・。しかし、まだまだ!」

「マスター、問題ありません。まだ行けます!」

「うん・・・!」

 

まるで大きな岩に斬りかかっているかのようだ。

揺らがず、ひび割れず、朽ちることもなく。ただそこに在り続けるものを、どうやって動かそうか。

 

「――――そうだ。全てを見せよ。全てを委ねよ。(ローマ)はお前たちを愛してるよ」

『魔力上昇!宝具警戒!』

『立香、マシュ!来るわよ!』

「はい!」

 

まるでローマを焼きつくした大火のよう。広がる魔力は神祖の覇気。

槍が地に突き立てられる。呼応するように大地は揺れる。大樹に変ず。

 

「すべて、すべて、我が槍にこそ通ず」

「マシュ、宝具を!」

「はい!真名、偽装登録――」

 

枝を伸ばし葉を生やし、大樹は奔流となり。怒濤のごとく押し流す!

 

仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)――――!」

すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)

 

際限なく成長する大樹を白亜の壁が受け止める。鼓膜を通り過ぎる轟音。

しかし余りの質量にじりじりと足が下がっていく。壁ごと後ろに押されていく。

ちかり。

遠くで原初の火が灯った。

 

「緊急回避、瞬間強化・・・!」

 

回避を利用した瞬間移動。大木をすり抜け、目の間にネロは現れる。

 

星馳せる終幕の薔薇(ファクス・カエレスティス)

 

弧を描いた剣は炎を纏って斬撃となる。ロムルスは避けなかった。

赤い突きは心臓を貫くために放たれた。ロムルスは防御すらしない。

それどころか両手を広げて、懐に飛び込んだネロを受け止めた。

 

「・・・・・・!?」

 

火花が弾けたかのように大樹は消える。

たくましい神祖の腕に抱かれたことを理解して、ネロはそろりと顔を上げた。

 

「眩い、愛だ。ネロ」

「ぁ・・・・・・」

「・・・ロムルス、貴方は・・・」

 

ゆっくりとネロの頭を撫でて、神祖はただただ微笑んだ。

 

「永遠なりし真紅と黄金の帝国。そのすべて、お前と、後に続く者たちへと託す」

「っ! ・・・もちろんだ。・・・神祖よ」

「星見の子らよ。お前たちもまた、ローマである。進め、歩め。ありのままに、世界(ローマ)に挑め」

「・・・はい」

「忘れるな、ローマは永遠だ。故に、世界も、永遠でなくてはならない。心せよ・・・・・・」

 

穏やかに、堂々と、建国の王は座へと還っていく。

目元を拭うネロに、二人の少女はそっと駆け寄った。

 

『敵性サーヴァント、ランサー・ロムルスを撃破。・・・ふぅ、よかった』

「はい、わたしたちの勝利です」

「・・・ああ。これで、ローマは元あるべき姿へと戻るだろう」

 

晴れやかに笑うネロは、青い鳥を見つけた子供のよう。

しかしまだ聖杯が見つかっていない。宮廷魔術師もだ。

 

「・・・! 誰か居ます」

 

ふいに響いた足音は、どうしようもない嘲笑を含んでいた。

見下した喝采。間延びしたエンドロール。

 

「いや、いや。ロムルスを倒しきるとは。デミ・サーヴァント風情がよくやるものだ。冬木で目にした時よりも、多少は力を付けたのか?」

「・・・!」

「だが所詮はサーヴァント。悲しいかな、聖杯の力に勝ることなど有り得ない」

 

黄金の杯を携えて、レフ・ライノールは現れた。

 

『宮廷魔術師が王の危急をあえて見逃すとはね。すっかり裏切りが板についたんじゃないか、レフ教授?』

『というより、それが素なんじゃないかい?カルデアにいた頃より活き活きとしてるよ?』

『・・・レフ・ライノール。聖杯を渡しなさい』

「ほう。言うようになったじゃないか。オルガマリー」

 

こちらを睨む視線など、羽虫を払うように落とされる。

その羽虫に邪魔をされておいて、随分呑気なことだ。

 

「そこのお嬢さんも、フランスでは大活躍だったとか。おかげで私は大目玉だがな」

「・・・いい気味」

「ほざけ!聖杯を相応しい愚者に与え、その顛末を見物する楽しみも台無しだ!」

「神祖は人類の滅びなど望んでいなかった。節穴だな。器の底が知れる」

「カス共が・・・!」

 

ぎりぎりと聖杯を握りしめて、醜悪な顔が露わになっていく。なんと異様で、・・・無様。

 

「あなたの目的は何?なぜ人類を滅ぼすの?」

「目的ならとうに済んでいる。最も、問われたところで答える道理も権利もない。そして何より、おまえたちは思い違いをしている」

 

掲げる器に注がれるのは、性悪で邪悪な泥の意志。

 

「人類を――人理を守る?バカめ。貴様たちでは既にどうにもならない(・・・・・・・・)

『・・・どういう意味だ?』

「抵抗しても何の意味もない。結末は確定している。貴様たちは無意味、無能!哀れにも消えゆく貴様たちに!今!私が!我らが王の寵愛を見せてやろう!」

 

変ずる。

生々しい肉の柱。品のない。潰れたドラゴンフルーツのような無数の眼球。

悪意を固めた黒が思考を焼いて、怖気を呼ぶ。

汗が冷たい。

無遠慮に玉座をぶち壊し、我が物顔で世界に現れる。怪物よりも醜い悪魔。

 

『・・・この反応。この魔力・・・!』

『サーヴァントでもない、幻想種でもない!おいおい、まさか本当に悪魔かい・・・!?』

「改めて、自己紹介しよう。私は、レフ・ライノール・フラウロス(・・・・・)

 

七十二柱の魔神が一柱。

魔神フラウロス――王の寵愛そのもの!

 

「おぞましい・・・。悪逆そのものではないか、これは!」

「この大量の魔力は・・・ドクター・・・!」

「き、気持ち悪い・・・」

「フォウ、フォーウ!」

 

地響きが不快な浮遊感をうんで、少女たちの体を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・フラウロス。七十二柱の魔神と、確かに彼は言った。なら、彼の言う王とは――』

『・・・まだ情報が足りないね。そもそも魔神なんて実在するのかい?』

「・・・フォウ!キュキュキャー!」

 

威嚇するように鳴くフォウくんを抱きしめて、立香は魔神を見上げた。

城は砂のように崩れていく。天井を突き破って、肉の柱はぎょろぎょろと目を回す。

 

「邪魔者は地獄へ!ネコには小判を!ご主人、お待たせしたナ!」

「キャット!?」

「なんだこれは・・・!?気味の悪い・・・!」

 

ぴょんぴょんしゅたっ!

キャットが華麗にキュートに参上!

スパルタクスと呂布を呼びに行った荊軻も戻ってきた。バーサーカーたちは明るく笑う。

 

「ご主人、今こそアタシの真の力を見せるとき。さあ、魔力を回すのだ!」

「未だ圧制者ならざる者よ。今こそ、その権能をスパルタクスに示す時が来た。命じるのだ。民を守れと」

「■■■■■■■■■■■■」

「みんな・・・」

 

かわいらしいエプロンドレスを揺らして、肉球はもふりと頬を撫でた。

筋肉の詰まった手が肩を叩き、白い歯がきらりと輝く。

サムズアップ、呂布が頷いた。信じてくれと言うように。

 

「・・・うん。信じるよ。キャット、スパルタクス、呂布!」

 

令呪が輝いた。一画、二画、三画。

 

「あの魔神を倒して!」

 

この痛みを刻み込め!この叛逆を叩き込め!

 

「うむ。というワケで皆殺しだワン!燦々日光午睡宮酒池肉林(さんさんにっこうひるやすみしゅちにくりん)!」

「ふあぁぁあはははははは!行くぞっ!我が愛は、爆発するぅ!」

「■■■■――!!」

 

獣の爪が襲いかかる。膨れあがる体が爆発する。雷のような魔力を纏い、巨大な矢が放たれる!

三方からぶつかった宝具は、肉の柱を削り抉り吹き飛ばした。

耳障りな断末魔を上げて魔神は身をよじる。下卑た視線を含む眼球が、なすすべもなく貫かれた。

分厚い肉片が飛び散る。轟音が響く。

 

「・・・不明の敵性生物、撃破です!」

「やったぞ!さすが余の剣たちだな」

「スパルタクス、なんか爆発してたけど大丈夫!?」

「うむ、案ずるな。この程度で、スパルタクスは滅びはせぬ」

 

飛びついてきたキャットを受け止めながら、立香は思わず叫んでいた。なんか膨れてたよね!?

でも本人はピンピンしている。元気そうでなによりである。

 

「・・・馬鹿な・・・。たかが英霊ごときに・・・我らの御柱が退けられるというのか・・・?」

 

呆然とした声が聞こえて、ネロは冷たい目を向けた。

荊軻は油断せず武器を構えている。

 

「いや、計算違いだ。そうだ、そうだろうとも。なにしろ神殿から離れて久しいのだ。少しばかり壊死が始まっていたのさ」

「・・・見苦しいな」

「同意する」

「しかし、私も未来焼却の一端を任された男だ。万が一の事態を想定しなかった訳でもない」

「まだ、何か・・・?」

 

ぶつぶつと呟きながら立ち上がるレフを、呆れた目でオルガマリーは見る。

こんな惨めな姿を見せられるなんて、本当に分からないものだ。

 

『気を付けて!聖杯の活性化を感知した!また何かが起きるぞ、マシュ、立香君!』

「・・・古代ローマそのものを生け贄として、私は、最強の大英雄の召喚に成功している。喜ぶがいい、皇帝ネロ・クラウディウス。これこそ、真にローマの終焉に相応しい存在だ」

「ローマは世界だ。そして決して世界は終焉などせぬ!」

 

そうだ、人類(せかい)の底は抜けない。

王の言葉がどれだけ尊かろうと、この定礎は壊せない。

なぜなら―――――。

 

「いいや、終わりだよ。レフ」

 

すとん。

首が斬られる。誰も反応できない。

ごとり。

聖杯が落ちる、鈍い音。

 

「―――――――?」

「その大好きな王に伝えておくといい。オレらに喧嘩を売っておいて、ただで負けられるとおもうなよ」

 

マスターソードは煌めく。正しく勇者の手の中で。

青年は勝ち気に宣言した。滑り落ちた顔が、驚愕に歪んで消えていく。

その姿を見つけた誰もが、安堵に肩の力を抜いた。

 

「リンク!」

「リンクさん!」

「フォウ!」

 

 

Silver bow レフこれまだ生きてるよね?

 

 

多分。しぶとくって笑っちゃうな。誰もお前の再登場を求めてねぇのに

 

 

バードマスター うーん・・・。マスターソードの退魔判定は入らないか

騎士 あれは元々魔王(と書いてガノンドロフと読む)専用だろ

 

 

わあっと盛り上がる声が勇者を迎えた。

ひらりと手を振って合流した後ろで、女神ものんびりとくつろいでいる。

 

「ほい聖杯。ちゃんと持ってるんだぞ」

「うん」

「あとマシュの後ろから出るな」

「え?」

 

耳を劈く、甲高い金属音。

その刃を視認できたのはリンクだけ。浅く受け止めてはじき飛ばした。

 

「ここで来るとはな。アレの命令?」

「いいえ、私の意志よ」

『・・・・・・!?』

『だっ、誰!?何!?』

「えっ、えっ?」

 

一拍遅れて動揺が広がる。

ほとんど反射で構えたサーヴァントたちには見向きもしない。

純白の着物を纏う、蠱惑的な姿態。上品で幼げな笑み。

無垢な女性を人型にしたらこうなるであろう、艶やかな玉体。

 

「こんにちは、カルデアのマスターさん」

「・・・は、い」

「私は両儀式。突然で悪いけど――――殺しにきたわ」

「させるわけないだろ?」

 

両儀式、と名乗る女性の言葉が受け止めきれなくて、カルデアの面々は途方に暮れた。

 

 

小さきもの オイオイオイオイ

守銭奴 ヘイヘイヘイヘイ

奏者のお兄さん あっこの子リンクと戦えてはしゃいでるな!?

 

 

あっっっぶねーーーー・・・。マジでビビったわ・・・・・・

 

 

リンク達も騒然としていた。



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獅子と狛犬

今回は、いろはエディターを使って書いてみました。なかなかいいですね。
最近は暑くなったり雨が降ったりで体調管理が大変です。


『貴女は何者ですか?』

「私?私は殺人鬼よ。通りすがりのね」

 

ぴりりと胡椒のきいた空気に、ため息をつけるのは一人だけ。

 

「お前ら、手を出すなよ。オレの獲物だ」

「リンク・・・」

「大丈夫だ。すぐ戻る」

 

空気の弾ける音。

踏み込みは深く。刃鳴と共に火花が散る。

そのまま力任せに両儀を吹き飛ばして、リンクはその場から離脱した。

天使が通る間もなく、計器がけたたましく異様を訴える。いつの間にか空が暗い。

 

『警戒!これは・・・。待て、何だ・・・これは・・・』

『ロマニ、どうしたの?』

『異常な速度で魔力濃度が上がっていきます!立香ちゃんの礼装が耐えられるかどうか・・・!』

『!? ・・・立香!戻ってきなさい!今すぐに!』

「・・・・・・・・・・・・」

 

その言葉は、呆然とする立香の耳を素通りした。

彼女だけではない。マシュもネロも荊軻もステンノも、バーサーカーたちも天を見上げている。

暗雲が空を覆い、太陽の光を遮っていく。かすかに光るのは落雷の兆しか?

まるで悪夢が流れ込んだかのように、空間は魔の気配に染まっていく!

 

「・・・っ!」

「マスター!?」

「ご主人!」

「フォウ!?」

『真エーテルがどんどん満ちていく・・・!強制退去(レイシフト)!』

『・・・ダメだ!弾かれる(・・・・)!』

『立香!しっかりしなさい!立香!』

 

苦しい・・・!

肺が握りつぶされる。圧迫されて呼吸が阻害された。ひゅうひゅうと鳴る呼気すら不快。

崩れ落ちた少女をタマモキャットが受け止める。背中を撫でても治まらない痙攣を見て、女神はおもむろに立ち上がった。

 

「・・・仕方のない子ね」

「・・・は、っ! ・・・はぁー、はぁー」

「・・・ネロ皇帝、平気なのか?」

「う、うむ。余はなんとか・・・少し息苦しい気もするが・・・」

 

口づけ1つ。女神の加護。

柔らかな慈悲を得て立香の視界がぱっと晴れる。何度も瞬きを繰り返して息を整えた。

 

「■■■ー!」

 

初めに気づいたのは呂布。

 

「・・・むう」

 

次に声を上げたのはスパルタクス。

 

「・・・影の魔物?」

 

信じられない、という気持ちを詰め込んで荊軻が言う。

 

『・・・トワイライト?』

『うそ・・・』

『待て、どういうことだ。なぜ奴らが現れる・・・?』

 

ギルガメッシュの問いに答えられる者など誰も居ない。

分かるのは四方八方を魔物に囲まれているということだけ。

影の世界に、閉じ込められたということだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振るわれるのは無垢の刃。迎え撃つのは翼を広げる鳥の剣。

攻める刀は容易く人の速度を超える。切り裂かれた空気が哀れに叫び、空間を衝撃波で揺らした。

 

しかし青き剣は全てを受け止める。

身体に刻み込まれた戦いの記憶が、音速の刃を押さえ、受け流していく。切っ先が描く輝線は羽根が舞っているかのよう。

ほんの数秒で目まぐるしく技が交わされた。

有り得ない精度で振るわれる刀を、有り得ない経験値で捌いていく。

先ほど押し出されたことからも分かるように、純粋な腕力では負けている。体力もあちらの方があるだろう。

だから攻めるのなら此処。

 

「・・・!」

 

踏み込んで横薙ぎ。素直に後退した青年を突進して追いかけた。鋭鋒(えいほう)の刺突。

左下から跳ね上げて返す刃で叩き落とされる。逆らわずに膝を曲げ逆袈裟。受け止めた剣を起点に跳び上がった。

着物がはためく。くるりと白猫は背後に降り立つ。リンクが振り返って構えるのと、宝具を展開したのはほぼ同時。

 

「全ては夢と───これが、名残の花よ」

 

無垢識(むくしき)空の境界(からのきょうかい)

名残の花が舞う。眩むような朝焼けの世界で。

これは夜が明けて、朝がくるまでの僅かな夢。彼岸より来る安寧の刃。

直死の魔眼と共に放たれるこの一太刀から、逃げられる者など―――――。

 

「えっ、」

 

両儀が声を上げたのは、腕をリンクの手に掴まれたからだ。

瞬きなどしていないのに懐に飛び込まれた。まだこんな速度がでるの?

マスターソードが刀を絡め捕り、重心が滑って体がぶつかった。しっかりと筋肉のついた青年の肉体に受け止められて、そのまま地面にひっくり返される。

頭はぶつけなかった。大きな掌に庇われたので。

 

「はい終わり」

「・・・・・・」

 

するっと外された掌は、乱れた金髪をかきあげた。

起き上がれないように体を跨がれる。

 

 

仕方ないとはいえちょっと絵面がよくねぇな

 

 

Silver bow 写メった

海の男 送った

 

 

は?

 

 

災厄ハンター 秒で殺すじゃん

 

 

「・・・どうして躱されたのかしら」

「オレは影の世界の加護を得てるから、幽世の力に耐性があるんだよ。あとは気配の隙を縫って飛び込んだだけ」

「・・・すごいわ。私の負けね」

 

 

すみません送ったって誰にですか。誰にですか?

 

 

小さきもの お呼びしました

影姫 しばらくワタシに近づかないで

 

 

マ゜ッ゜

 

 

無言で両儀の上から退くと、蕩ける様な笑みを携えて起き上がる。どうやら満足したらしい。

こっちのメンタルは今死にましたが。色んな意味で直視できねぇ。

だから反応するのが僅かに遅れた。

 

「・・・おっと」

 

首を掴むために伸ばされた手を紙一重ではたき落とす。

野生の獣を思わせる俊敏さで飛び退いたリンクを、立ち上がった女が見つめている。

否。

両儀式がこんな冷笑を浮かべるものか。

揶揄っているのは憑依した男。希望(ヒカリ)をねじ伏せる黄昏の魔王。

 

「ガノンドロフ・・・!」

「女に跨がって楽しそうだな」

「誤解しか招かない言い方を止めろ!?!?」

 

 

フォースを信じろ あんまりそいつに味方したくないんだけど跨がってはいたよ

影姫 最低

 

 

不可抗力だ!!あれ以上反撃されたら困るから!!

 

 

「何しに来やがった。お前の出番はねぇぞ」

「遊んでやっているんだ。むしろ感謝して欲しいくらいだな」

「なに・・・。・・・・・・! トワイライト・・・?」

 

城の跡地を覆うのは黒い壁。金色の雲。

かつて僣王ザントが、影の結晶により光を奪った領域と似通っている。

あの空間では、影の存在以外の生物は魂だけの存在となってしまう。つまり立香たちではどうしようも出来ない。

 

「・・・嫌がらせしにきたってこと?」

「鍛えてやっているんだ。世界を救うんだろう?」

「・・・・・・バァ゙!゙?゙ 誰も頼んでませんけど!?虚数に引きこもりすぎてコミュニケーションが出来なくなりましたかぁ!?っていうかカルデアには手を出すなって言ったよな!!」

「ああ、言ったな。処刑される前の時代の俺が」

「クソが!!」

 

 

銀河鉄道123 クソじゃん

奏者のお兄さん 逆に聞きたいんだけどクソじゃないときあった?

バードマスター きみがそれを言ったら終わりなのよ

 

 

「おまっ、後で覚えとけよボコりに行くからな吠え面かかせてやるあっもう1回、いや4回オレに負けたっけ!?ざまぁねえな!!」

 

黒狼がすっ飛んでいくのをガノンドロフは鼻で笑って見送った。

ぎりり、びりり。不協和音。

空間が歪む。

しかしそれは男の手によってではない。

壇上に割り込むヒトの形をした悪魔。存在するだけで領域を圧し潰すかもしれない支配力は、魔王に鬱陶しげに払われた。

 

「貴様がガノンドロフか。第六特異点を荒らす侵入者共の長」

「・・・」

「あのリンクとかいう男はカルデアと共に潰せばいい。だが貴様は別だ。私の事業を邪魔するのならば、滅びの運命に逆らうのならば、此処で無様に殺してやろう。玉座に王は二人も要らぬ」

「・・・・・・」

 

裂けた傷口のように痛々しく、駄々を捏ねる人の子よりも幼稚。

不死であるが故に人間を理解できず。愛を知らぬが故に憎しみも知らぬ。

かつて“終焉”と呼ばれた魂とは似て非なる獣。魔神王ゲーティア。

野心、邪悪、怨念、憎悪、厄災。ガノンドロフを動かす漆黒の感情を、ゲーティアは嫌悪する。

無価値、無価値、無価値!ボロ雑巾よりも哀れ!

 

「・・・アレらが俺の意志で動いていると?見当違いの当て擦りだな。気に喰わぬのなら直接罰したらどうだ」

「フン。言われずとも、直に全ては芥のように焼却される。だがその前に貴様だ。何度滅んでも惨めに蘇る負け犬の王。次は私が殺してやる」

 

女の体に宿った男の、内心などゲーティアは知らぬ。

ただこの男が存在するということは、勇者も存在するということ。その可能性を潰すだけ。面倒な事柄を1つ片付けるだけ。

 

「では死に給え」

 

あらゆる魔術が惨殺し、あらゆる呪いが呪殺し、あらゆる暴虐が蹂躙する。

サーヴァントの霊基などあっさり壊れた。もう誰もいない。

踵を返すゲーティアは気づかない。既に楔は打たれたこと。

虚数空間に隠れる時間神殿の中に、魔王の思念エネルギーは入り込む。わざわざ空間を開いて来たせいで。

高濃度の魔力と獣の霊基に誤魔化されて、誰も侵入者には気づかない。

ゲーティアの運命はガノンドロフではなく、また逆も然り。

だから救いなど与えられない。答えなど教えてもらえない。彼の心境に触れるなど、星が死んでも有り得ない。

ただこの一手が破滅の一歩。

 

魔王の気配が宿ったということは、聖剣・マスターソードの力が発揮されるということであり――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エーテルの肉体が解けていく。

巨躯の男も、暗殺者の女も例外なく。

大地に崩れ落ちるころには霊子の粒となりて。

あっけなく。

 

「フォウ!フォーウ!」

「呂布!スパルタクス!荊軻!・・・タマモキャット、貴女も・・・!?」

「・・・体がパスタマシンに入れられたみたいだワン・・・。ご主人、すまぬ・・・」

「ネロさん!わたしの後ろへ・・・!女神ステンノ、貴女は・・・!」

「古い土着の神を侮らないでちょうだい。まだ私は耐性があるわ」

 

ステンノが微笑めば、光と共に魔物は吹っ飛ぶ。

腕を振るえば、どこからともなく戦士が現れて剣を振るう。

演舞のごとく純白のドレスを揺らせば、その麗しさに魔物は後退する。

 

「ほら見て・・・きらきら、受け止めてくださいましね?」

 

ハートのビームは影の侵攻を阻む。

ワンステップ、トーダンス。誰も女神に触れられぬ!

 

『バイタル安定しません!術式で治癒するにも限度が・・・!』

『女神はよくやってくれてるけど・・・決定打にはならない・・・!』

『これが本当にトワイライトだとしたら・・・勇者リンク以外には・・・』

 

マシュの肩が揺れる。足下が覚束なくて、膝に力が入らない。

鎧を外せと霧が迫る。

盾を降ろせと、無力な人に戻れと囁く。

 

「ぅ・・・」

「マシュ?」

「立香、前に出るな。余とマシュの間にいるのだ。後ろからも来ているぞ」

「で、でも・・・」

『・・・立香。令呪も魔術礼装も使ってしまった以上、今の貴女に出来ることはありません。自分の身の安全を最優先しなさい』

「・・・ぅ、ぐ・・・・・・」

 

力が奪われる・・・。戦う力が・・・。

マシュの脳裏で、憑依した英霊が遠ざかっていく。顔すら見えないのにいなくなる(・・・・・)のがわかる。

待って・・・行かないで・・・。

貴方がいなくなったら・・・わたしは・・・。

 

 

【わたしは? どうなるの?】

 

 

戦えなくなってしまう・・・。

 

 

【別に良いじゃないか。キミが戦えなくなったって、マスターは怒らないよ】

 

 

でも・・・。

 

 

【・・・・・・】

 

 

でも・・・。それは・・・。それじゃ・・・。

 

 

【戦うのが嫌いなんだろう?本当は怖いんだろう?】

 

 

・・・・・・! それは!先輩だって同じです!

 

 

震える足で大地を踏みしめる。霞む視界を、重い頭を無理矢理上げる。

先輩だって!所長だって!恐ろしいはずなのに・・・!でも逃げなかった!わたしの手を握ってくれた!

・・・・・・守りたい・・・。強くなりたい・・・!

勇者リンクのように・・・!

大切な人を、カルデアの皆を・・・。

守るための力を、貸してください――――!

 

 

【・・・うん。いいよ】

 

 

輝きは唐突に。

立香は眩しさに思わず目をつぶって、そろりと開いた。

マシュの腕を覆うアーマー。足を守る鋼のブーツ。体に纏う黒き誇り。

 

『マシュと英霊の、融合係数が上がっている・・・』

『霊基の・・・再臨・・・?』

「やあああ!」

 

固き盾に魔物は阻まれる。

 

わたしは・・・、わたしは、負けたくない・・・!わたしだって、大切な人の、力になりたい・・・!

 

甲高い音を立てて霧が晴れるのは一瞬だった。この領域を展開していた男が消滅したのだ。

突如明るくなった視界に皆が動きを止める。照らす光は祝福のよう。

 

「マシュ」

「・・・ぁ、リンクさん・・・」

「強くなったんだな。格好良い鎧じゃないか」

「・・・はい!わたしの中に眠る英霊が、力を貸してくれました・・・!」

 

 

いーくん いい話っぽくまとめようとしてるけどコイツ何もしてなくね

うさぎちゃん(光) マシュの根性に感謝しなよ

 

 

すいません・・・

 

 

りっちゃん 急にしおらしくなってる

小さきもの どう思いますか

影姫 帰ってきたらどう折檻してやろうか考えてる

 

 

(ᐡ ; ﻌ ;ᐡ )

 

 

「マシュ!」

「マスター、ご無事ですか?」

「うん!マシュが守ってくれたから・・・。ステンノさまもネロもありがとう」

「全く、女神を働かせるなんて・・・。高くつくわよ、貴方たち」

「・・・む!おまえたち、なんだか足の先から薄くなっているぞ!?」

 

ようやく特異点は修正される。

聖杯とかけがえのない旅の思い出を手に入れて、立香たちはカルデアに帰るだろう。

 

「正直に言って残念だ。無念だ。まだ、余は何の報奨も与えていないというのに」

「・・・うん」

「おまえたちであれば、きっと。余にとって、臣下ではなく、もっと別の――。・・・いや、やめておこう」

 

この旅路の先にもローマはあり、ローマとは世界に他ならぬ。

 

「だから、別れは言わぬぞ。礼だけを言おう。――ありがとう」

「うん。ありがとう、ネロ。ステンノさま」

「ありがとうございます。皆さん」

「・・・さて、じゃあオレも帰るかな」

 

全員が勢いよくこっちを見た。

 

「とっ、ころで!リンクは・・・カルデアとか・・・」

「ああああのリンクさんはカルデアにご興味とかいや別に無理にとは言わないんですけど」

「・・・待て!もしかして勇者と会った記憶も消えてしまうのか!?えっ!?なんとか・・・なんとかならんのか!?」

『勇者貴様には先ほどの現象について説明する義務があるなのでいますぐ雑種と共にカルデアに来るがよいここまで来て帰るなど許さぬ許さぬからな!!』

『必死すぎる』

『王様!息継ぎを!息継ぎをしてください!』

 

 

バードマスター カルデア行くの?

 

 

行けません

 

 

バードマスター そうだねきみは怒られるね。ミドナ姫と温泉行ったら?

影姫 温泉は行きたいな。連れてけ

 

 

はい!エスコートさせていただきます!

 

 

騎士 マジで尻に敷かれてんな

 

 

「カルデアには行くけどもうちょい後かな~。今の現象十中八九ガノンドロフの野郎なので先にしばいてくる」

『ガッ』

「ガッ」

「人理焼却はアイツも見過ごせないと思うんだよ。支配する世界がなくなるし。だからといって余計な茶々入れるなって言ってくるからまた会おうな」

『ガッガガガガガノンドロッ、フ』

『ハイ・・・』

「ふぇ・・・」

「勇者、余ともまた会ってくれるか?」

「もちろん。またご飯作りますよ。なのでステンノ様、カルデアに居た方がオレに会える確率は高いです」

「・・・もう」

 

全霊の感謝と薔薇を捧げよう。

その旅路に、さらなる幸運があらんことを。

――――あの大地と空を、ずっと忘れない。

 

 

 

 

第二特異点 永続狂気帝国セプテム 定礎復元

 

 

 

 



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▼カルデア・データベース

☆第二特異点までの情報を含みます
☆サーヴァントは第二特異点後~第三特異点前に召喚されたメンバーです


藤丸立香

いろいろあって人類最後のマスターになった少女。運動部。モデルは英霊剣豪のあの子。

周りを励ますために明るく振る舞える子。魔術の才はぶっちゃけないので、代わりに体を鍛えようかと思っている。

第一特異点から帰ったあとはいろいろ疲れてなかなか眠れなかった。キアラの添い寝で即落ちした。今でもたまに一緒に寝ている。マシュマロでヤバイ。

ゼルダの伝説は小学生の時に一通り読んだ。

悲しみから目を逸らさず、救うことを諦めない姿勢が幼心に焼き付いており、無意識にその姿を模倣している。

 

 

マシュ・キリエライト

デミ・サーヴァントの少女。

人理が燃えて初めて「生きている」ことを自覚しはじめた。まったく皮肉な話である。

立香のことを先輩と呼ぶのは、光の勇者が時の勇者のことをそう呼んでいたので。ファン特有の真似。

リンクの真似をして体を動かしていたため、戦闘は全くの素人というわけでもない。

勇者の高潔な(に見える)精神に少々影響されすぎているきらいがある。

 

 

ロマニ・アーキマン

カルデア医療部門のトップ。甘党。

嘘はつかないが、言っていないことは沢山ある。

 

 

レオナルド・ダ・ヴィンチ

英霊召喚例第三号であり、技術局特別名誉顧問。

第二の人生エンジョイ勢。ロマニは友達。オルガはかわいげのある上司。

困ったときのダ・ヴィンチちゃん!工房で色々作っているようだが・・・?

 

 

オルガマリー・アニムスフィア

カルデアの所長にしてアニムスフィアの後継者。

キアラのセラピーのおかげで持ち直し、原作より安定している。死亡フラグは取りあえず折れたが、まだまだ油断は出来ない境界線上の少女。

レフに対する未練はない。あの日孤独の少女を慰めたのは「ゼルダの伝説」という希望の物語。

 

 

殺生院キアラ

カルデア専属のセラピスト。優しくてあったかいお姉さん。

立香に懐かれている。妹が出来たみたいで嬉しい。

 

どこかの未来で獣から逃がされた。捲られぬ(語られぬ)ページは海の底。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■セイバー

ジークフリート

シュヴァリエ・デオン

ジル・ド・レェ(セイバー)

ネロ・クラウディウス

ガイウス・ユリウス・カエサル

 

 

 

■アーチャー

エミヤ

ギルガメッシュ

プロフェッサーM(ジェームズ・モリアーティ)

 オルガマリー、ギルガメッシュ(千里眼)以外認知していない。

 

 

 

■ランサー

エリザベート・バートリー

ロムルス

パーシヴァル

 

 

 

■ライダー

ゲオルギウス

マリー・アントワネット

ブーディカ

アレキサンダー

マルタ

 フラグ未回収の聖女

 

 

 

■キャスター

ジル・ド・レェ

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

クー・フーリン

 

 

 

■アサシン

シャルル=アンリ・サンソン

ファントム・オブ・ジ・オペラ

カーミラ

ステンノ

荊軻

 

 

 

■バーサーカー

ランスロット

ヴラド三世

清姫

カリギュラ

スパルタクス

タマモキャット

呂布奉先

ダレイオス三世

 

 

 

■ルーラー

ジャンヌ・ダルク

 

 

 

■アヴェンジャー

ジャンヌ・ダルク(オルタ)

 



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雀のお宿の活動日誌~閻魔亭繁盛記~
閻魔亭復興RTA


大丈夫、すぐ終わるよ。体感3日で解決します。(シャドーボクシング)


「チュンチュン、ようこそお客様!ここが地獄の番外地、どんな御霊も安らぐ秘湯!」

「ほう」

「人の世に言う神隠し、数ある迷い()のお家元!紅閻魔女将の預かる、大割烹『閻魔亭』でチュン!」

 

どどーん!と眼前に広がる立派な温泉宿を見て、ミドナは感心したように頷いた。

 

「ようこそ閻魔亭へ。歓迎するでち――――」

「こんちは~。女将さん?」

「・・・・・・ハッ!も、申し訳ありまちぇん。女将の紅閻魔と申しまちゅ。どうぞ中へ!」

 

着物の袖を翻し、ぱたぱたと先導する少女をリンク達は追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「温泉が閉まってる?ここは温泉宿って聞いたぞ」

「申し訳ありまちぇん・・・」

「なんか訳ありっぽいな?女将、良かったら話してくれる?」

 

白米をぽふぽふと盛りながら、紅閻魔はため息をついた。

お座敷で振る舞われる料理はどれもこれも逸品だ。ちまい雀たちを侍らせながら、ミドナは機嫌良く箸を進めている。

 

「以前、武蔵という羅刹が酔っ払って暴れ回り」

「もう見えてきたな」

「残留思念となって残り“自分より強いもの”と戦わないと満足して消えないのでちゅ」

「あっ真面目な話か」

「“相性の問題で負けただけだからぜーんぜん悔しくありません!私は私が納得するまで温泉(ここ)で美男美女を待ち続けるのです!何度でも仕切り直すのです!やだーーー!ずっとここにいるーー!”」

「ちょっとしばいてくるわ」

「おう」

 

緑の勇者服に着替えて出ていった青年を見て、女将はもじもじとした。

しかし自分もプロ。プライベートに不用意に踏み込まないのが一流というもの。聞きたいこともお願いしたいもあるが、ここはぐっと我慢・・・。

 

「女将、アイツが気になるのか?」

 

けれどそんな遠慮もミドナには関係ない。

美味しい料理とお酒で気分も上向いたし、ちらりと見た部屋も趣があった。ぜひ長居したい。

そのためにも懸念は払っておかねば。

 

「き、気になる・・・ことはありまチュが、慰安中のお客様にご迷惑は」

「アイツがそんな小さいことを気にするタマか?・・・この旅館全体に、良くない気配が漂っているな。借金でもしているのか?」

「!」

「聖遺物が1つ。この建物の心臓部だな。しかし妙に陰りがある」

「・・・そこまで見抜かれているのなら、隠すのも無意味でちゅね。実は・・・」

 

500年前に起こった盗難事件。それが全ての原因だろう。

当時の宿泊客、竹取の翁が物取りに遭ったと言う。

“仏の御石の鉢” “蓬莱の玉の枝” “火鼠の裘” “龍の首の珠” “燕の子安貝”

しかし犯人は見つからず、翁は宿側に賠償を要求した。

とても払えない金額だった。閻魔亭は借金を背負わされた。

物盗りの悪評が立った宿からは客足が途絶え、もう利息分を払うだけでせいいっぱい。

 

「・・・勇者様のお知恵をお借りしたいでち・・・。あちきと雀たちではもうどうすることも・・・」

「フン。いつの時代も意地汚いヤツはいるもんだな。任せておけ。ワタシから話しておこう」

 

マジックアワーも恥じて隠れる、見事な髪を揺らして、黄昏の姫は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「500年前の物盗りかぁ」

「どうにかしろ」

「ひゅー無茶ぶり」

 

窓から見える美しい山の景色は、姫の心を癒やす。吹き込む風が気持ちいい。

備え付けの急須でお茶を入れながら、リンクはむむむと考える。

 

「まず本当に宝は盗まれたのか。竹取の翁が嘘をついているかもしれない」

「そうなると罪が重くなるな。ふふ、裁くときは手伝ってやる」

「まあ一番無難なのは、宿の復興をしつつ同じ宝を集めることかな。・・・いや、集める必要もないか?ほかのリンクがどうにかできるかも」

 

ほこりと湯気を出すお茶は温かい。

ミドナの体がぽかぽかとしてくる。・・・ちょっと眠くなってきた。

 

「んじゃ女将を手伝ってやれ。ワタシは昼寝したあと温泉に入る。あ、夕食は魚が食べたい」

「はいはい。おやすみ相棒。なんかあったら呼べよ」

 

可憐な微笑みは月下美人のごとく。

愛しい姫の安眠を守るため、ううんと伸びをして立ち上がった。

 

 

フォロワーーー!!!集合!!!!

 

 

Silver bow 誰がフォロワーだ

うさぎちゃん(光) やだ・・・ブロックしなきゃ・・・

災厄ハンター 何すか。温泉行ったんじゃないんすか

 

 

かくかくしかじか

 

 

Silver bow 説明をサボるな

いーくん 分かるのが嫌

海の男 ・・・で?

 

 

どうにもこうにも人手が足りないんですよ。由々しき事態だと思いません?

 

 

Silver bow 思いません

海の男 解散

奏者のお兄さん 英霊の座に従業員募集のチラシ配った方が早いよ

 

 

確かに!あざす!

 

 

バードマスター 解決した

騎士 無事返済したら教えてくれ。温泉は俺も入りたい

 

 

「という訳でチラシを作りました!雀たち、後はよろしく」

「任せるチュン!」「チュンチュン!」「がんばるチュン!」

「どれどれ・・・。宿の警備員、厨の料理人、お部屋係、清掃員・・・。ずいぶん細かくわけてありまチュね?」

「まず、これなら自分でも出来そう、って思ってもらわないとな。とっつきやすさは大事だ」

「なるほど・・・!さすが勇者様でち!頼もしいでち!」

 

ようやく表情が明るくなった、紅閻魔に安堵する。

この小さな体でよく500年も堪えたものだ。――――その背中を蹴飛ばそうとする、魔性を斬るのはこちらの役目。

円卓が英霊を集めるように、勇者のもとには勇あるものが集まる。すぐに人手も潤うだろう。

 

「(・・・さて、)」

 

まずはこの場に張られている、武者よけの結界を斬っておこう。

猿長者、蛇庄屋、虎名主にも話を聞かねば。

あそこまで力の落ちた存在なら、リンクが聖剣の勇者だと分かってもどうしようもできないだろう。

 

「チューーン!女将!女将!さっそく面接希望者が来たチュン!」

「なんでチュと!一体どなたでちか?」

「“斎藤一”って名乗ってるチュン!」

「人材ガチャ神引き過ぎる。さすがオレ」

 

 

 

 

幕間特異点 雀のお宿の活動日誌~閻魔亭繁盛記~

 

 

 

 

 



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紫の夜を越えて

これはWRですね。間違いない。


嗚呼――――――。

生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて。

時代を眺め、人を守り、妻と並んで歩いた。いつの空も、ハレの日は美しくて困る。

英霊など身に余る話。あの頃は若くて、我武者羅で、無力だった。

だからといってただ座にいるのも、これはこれで据わりが悪い。我ながら面倒な性格である。

ならばいっちょバイトでもしますかと、はじめちゃんは腰を上げたのです。

 

「女将の紅閻魔でち」

「アドバイザー兼バイト長のリンクです」

「は?」

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、閻魔亭で人手の足りない仕事は3つ。

1、山の幸・川の幸を取ってくる

2、旅館補修のため木材資源を取ってくる

3、魔猿を追い返す

 

「一様には、2番と3番の仕事を担当してほしいでち」

「うん、オレもそれが良いと思う。どうだ?出来そうか?」

「はい」

「お茶が零れてるでち!」

「女将、あとで本人に拭かせるから大丈夫だ」

 

席に着いてから永遠に震え続ける手のせいで湯飲みも机もビッチャビチャだが、ここは話を進めていく。

 

「バイトは旅館に住み込み。食事付き、温泉付き。その代わり、お給料はしばらく待ってほしいでちゅ・・・」

「事情は後で説明する。じゃあさっそく見回りに行こうか。女将、後はオレが。雀たち、また誰か来たら教えてくれ」

「了解チュン!」「我々も働くチュン!」

 

ぺこりとお辞儀をして退出していく一同を見送り、ふきんを対面に差し出した。

 

「全然飲めてないけどおかわり淹れる?」

「アッすいません大丈夫です拭きます」

「舌がもつれてんなぁ」

「・・・すいません・・・・・・」

 

むずむずと唇を動かしながら、斎藤は濡れた机を拭く。手がお茶まみれである。

ていうかなんでこの人は冷静なんだ。この人だからか。ウワッ顔がいい。

鼻歌交じりに裏山に向かう背中は自分より小柄で、貫禄に満ちている。

・・・勝てないな。いや、戦う気もないけれど。どうシュミレーションしても負けるという確信がある。自然体なのに隙がない。剣士の体と気配。

しかし決して血生臭くはない。大きな山を目にしているようだ。青々とした森の香り。

 

こんなに偉大な存在が、なぜ当たり前のように前にいる?

生前積んだ徳か???警官とかやってたから???よくやった生前の俺マジで頑張ったおめでとう。

 

「はーじーめーちゃん」

「ナンッ、すか」

「質問があるなら聞いてやろう。オレはこう見えて寛大だぞ」

「うわそのちょっと上からな感じマジで光の勇者だヤバ」

「解釈が合ってるようで何よりだ」

 

急に早口になるじゃん。

 

「なんでバイトしてんすか」

「女将が詐欺に遭っててね。本人はまだ気づいていないが、犯人を捕まえるのにこれが1番手っ取り早い」

「あっえーと、この温泉によく来るんすか」

「来たのは今日が初めてだ。はじめちゃん、あれが魔猿。噂に名高い剣の腕、見せてよ」

「・・・やっっべ~。手が震える~・・・。時尾俺を助けてくれ」

 

猿たちは林の隙間からこちらを窺う。

妙に強く数が多いが、無敵の剣にかかればこれこの通り。

あっという間に方々(ほうぼう)へ逃げていく。

 

「お見事。二刀流はかっけーな」

「ッフウ~~~。時尾~~見てるか~~」

 

思わずここにいない妻に声をかけてしまう。感情が抑えきれねぇ。

徳、積んどいてよかった~~。勇者リンクに褒められたぞ~~。

木漏れ日が金髪を照らし、幻想的な光を纏う。うつくしいあお。

 

「死後か・・・? 死後だった・・・」

「死後だよ。オレもお前もね」

「・・・・・・」

 

木材集めは木を切るところからだ。現世と違って、はげ山になることを気にしなくていいのは楽だが。

 

「・・・あの」

「んー?」

 

薪の作り方を教えるさなか、斎藤がぽつりと言葉を発した。

 

「俺・・・僕は、結構長生きしたんですよ。新撰組の中でも」

「うん」

「みんな死んでいったのに、生き残って。いや、後悔してるわけじゃないんですよ。ただ、」

「ただ?」

「ただ。・・・・・・うーん。うまく言えないな・・・」

 

斧が薪を割る、軽快な音が響いている。

リンクの愛する、木の香りが広がった。

 

「・・・まぁなんだ。生き残って、生き延びて、ゆっくり死ねるのも立派だろ。俺の先輩もそう言ってる」

「・・・時の勇者」

「お前は立派だよ。斎藤一。営みを守り、生きて、人を愛した。だから英霊になれたんだろう」

 

ざあ、と相槌をうつ風。

 

「それだけでいいんですか?そんなんで英霊になって」

「長生きの秘訣を語れるやつが、どうして劣ってるなんて思う」

「・・・なるほど」

 

第二の人生を満喫することを、ようやく斎藤は考えはじめた。

手始めに生前にはなかった、グルメでも堪能しますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渡辺さん刺身ありますよ」

「綱、この煮物美味いぞ」

「・・・ありがとう???」

 

昼休憩の時間だ。

そしてこちらが新入りバイトの渡辺綱。まだ混乱している。

 

「綱は午後から参加な。はじめちゃん案内よろしく」

「了解です」

「ああ・・・よろしく頼む・・・」

 

リンクをガン見しつつ膳を頬張る渡辺に、斎藤は内心で同情した。分かるよ・・・。

平然と居ないでほしいよね・・・。

 

「あの・・・・・・」

「ん?」

「えっと・・・・・・・・・・・・ファンです・・・・・・・・・」

「サンキュー。サインとかいる?」

「いります」「いる」

 

いるんだ。

 

「しかしあの頼光四天王まで来てくれるとは、頼もしいな!」

「・・・そう、ですか?」

「そうだよ」

「・・・そうですか」

 

何かを考え込むように視線を落としてしまった、渡辺の表情は読めない。

山にせき止められていた日光が、煌々と廊下を照らしはじめた。リンクと別れて二人は歩く。

 

「はじめちゃん殿」

「すいませんもしかして天然ですか?どっちかの敬称を外してください」

「一殿。見苦しい所を見せたな。あんなに驚いたのは久しぶりだ」

「僕もです。大丈夫です。気にしてないです」

「そうか・・・」

 

力強く頷く同僚に、渡辺も頷き返す。

なるよな。なります。

 

「剣を振るうのは仕事である。鬼を殺すのは義務である。けれど・・・」

「・・・・・・」

「嗚呼――――、心の片隅で憧れていた。あのように剣を振るえればと。あのように強くなれればと」

 

幼き日のはぐれ者を慰めたのは、異国から来た御伽噺。

己はきっと、この太刀で人を救うために生まれてきたのだ。

“そうしなければならない”から“そうする”のではなく。

“そうしたい”から“そうする”のだ。

営みを守ろう。魔を討とう。

そしていつかは、彼の到達した武の極致へ。

 

「なのに――――たくさん取りこぼした」

「・・・僕もです」

「悔しくて情けない。でも逃げることだけは許せない。それだけは自分を許せない」

「・・・僕は、」

 

呟いた斎藤の顔がとても穏やかなので、渡辺は沈黙を相槌にした。

 

「新撰組の戦いから外れました。でもそれは“逃げ”じゃなくて――――。違う戦いの道を選んだのだと。僕は、僕の誠を掲げて生きたのだと、さっきようやく気づきました」

「さっきか」

「さっきです」

「・・・ふふ」

 

どこからともなく魔猿が現れる。

しゃらりと抜かれた鬼切安綱。渡辺綱の誇り。

 

「俺も、俺なりに生きた。その果てに、――――嗚呼。かの勇者リンクに誉れをいただく。こんな喜びがあるか」

 

思いを抱えて生きよう。人らしく。

死してなお、矜持は捨てぬ。

もうずっと前に、はぐれ者じゃなくなってることに。

渡辺綱はようやく気づいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お客はどんどんやってくる。

お宿はどんどん賑わってくる。

 

「バイト長は表に出ないんですか?」

「客が混乱するだろ」

「そうですね」

 

懸命な判断である。さすが勇者。

くつろぐ男たちの前に、ことりと湯飲みが置かれた。

するりと居住まいを正す美しい乙女。

 

「ありがとう、ブリュンヒルデ」

「はい。お茶菓子もどうぞ」

 

穏やかな微笑みを浮かべるのは、ワルキューレの長姉。3人目のアルバイターである。

閻魔亭、という特殊な場所。そして邂逅した憧れの勇者。彼女の身を焦がす炎も、此処ではほとんど押さえられている。

 

「勇者様、あの、本日は、退魔の剣を見せていただいても・・・?」

「いいぞ。ほら」

「待って待って待って僕も見る」

「俺も是非良いだろうかよろしく頼む」

 

頬を高揚させて、少女のようにきらきらと目を輝かせている。ブリュンヒルデは毎日が充実していた。

お給料はいいので、勇者様の魔法やアイテムを見せてください!

それがリンクを見た彼女の第一声である。興奮と羞恥と感動で体を震わせ、目を潤ませる相手を慰めるのには随分と時間を要した。

 

「落ち着いたら他の勇者を呼んでくるからな。魔法はその人に見せてもらえ」

「はいっ」

「他の勇者」「完全におこぼれに預かっているな」

「あと給料は義務なので貰うんだぞ」

「勇者様がおっしゃるのなら・・・」

 

聖なる剣の輝きは、乙女の心を癒やす。

悲劇の運命の果てに、彼女は“シグルドを殺すモノ”として形作られた。

それでも、座で彼女は顔を上げた。チラシを握り、はるばる宿の門を叩いた。

私にまだ、出来ることはあるだろうか。私はまた、シグルドに会えるだろうか。

たとえ再び槍を向けることになろうとも、シグルドは許してくれる(・・・・・・)

今度こそ生存し、愛を証明するだろう。そういう男だと知っている。そういう男を愛している。

 

「(勇者様の魔法を学べば、彼への殺意も、少しは押さえられるでしょうか)」

 

愛に呪われ、愛で死んだ彼女の心を守ったのは、シグルドの愛と希望の物語。

夫と一緒に追いかけたあの勇者は、今は隣でお饅頭をかじっている。

悲しい気持ちなど初雪のように消えてしまった。雪崩のように勇気が満ちる。

ブリュンヒルデは諦めない。この身を灼く愛を、決して諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閻魔亭の復興は順調だ。直に天守閣も復元するだろう。

 

「竹取の翁と猿長者、蛇庄屋、虎名主は同じモノ(・・・・)だ。つまり猿長者の証言は自作自演。ぶっちゃけ斬れば解決する。悪意を持った魔性だからな」

「それは俺が、刃を振るいましょう」

「なんで同じモノってわかるんですか?」

「えーと、オレのセンスが反応してるって言ったら信じる?」

「はい」「勿論です」「確固たる証拠きたな」「さすが勇者様ね」

「ありがとうありがとう。しかしさすがに自白は必要だ」

 

せっかく良い噂が増えてきたのだ。外聞をはばかるようなことは避けたい。

 

「なのでりっ、・・・理の勇者を呼ぶ。ときのしらべで過去に戻り、巾着を開けさせる。その後の詰めはマタ・ハリに頼む。ガンガン追い詰めてやれ」

「はい、勇者様。お役に立てるよう、頑張るわ(理の勇者・・・)」

「(理の勇者・・・)」

「(理の勇者に会えるのか・・・)」

「(そんなさらっと呼べるんだ・・・)」

 

扇情的な衣装に身を包んだ踊り子は、可憐な花のように笑う。

四人目のアルバイター、マタ・ハリ。本名はマルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ。

女スパイの代名詞的存在となった女性であり、運命に翻弄された哀しき女である。

 

「決行日は、次に翁が来る一週間後。朝礼は以上だ。解散!」

 

今日もいい天気だ。

こんなに清々しい日に、こんなにも立派な場所で働けるなんて、あの時思い立った甲斐がある。

 

「マルガレータ、今日はまず川の幸を取りに行きましょう」

「ええ、ブリュンヒルデ。いつも加護のルーンをありがとう」

「どういたしまして。適材適所、ですよ」

 

この場所は彼女を害さない。貶めない。否定しない。

身勝手な欲望も向けないし、暴力を向けることもない。無意識の魅了だって弾かれる。

英霊になんかなっても、戦う力はほとんどない。世界も未来も救えない。チラシを見つけたのはたまたまだ。ある意味逃げるようにここに来た。

それでもマタ・ハリは許された。他でもない勇者に、よく来てくれたと微笑まれて。

マルガレータは泣いた。生前の分まで、少女のように声をあげて。

 

「紅先生のお料理教室、今度こそ合格できるかしら・・・」

「先生のお料理教室は、本当にスパルタですものね・・・」

 

友人と会話をしながら、汗水垂らして労働をする。

あの日のマタ・ハリが手に入れられなかったものを、また1つ拾い上げて抱きしめた。

 

「チュンチュン!今日もありがとチュン!」

「二人とも、ご苦労さまでちゅ。いつも本当に助かっているでチュよ」

「いいえ、こちらこそ。女将さんに雇ってもらえて嬉しいわ」

 

私の目は太陽――――の、ふりをしている。

役割を演じることで生きてきた私。“陽の眼を持つ女”という役者の私。

きっと彼は気づいている。あの美しい海のような、深い青の瞳で見抜いている。

けれど彼は、太陽に潜む影ごと私を受け入れたのだ。

・・・ああ、そうだ。

彼は光の勇者だった。

黄昏も影も救って見せた、伝説の勇者だった。

・・・すごいわ、本当に。

 

「さあ、次の仕事次の仕事!」

 

“愛する人と幸せな家庭を築くこと”それが聖杯に願うこと。

けれどここでなら、もしかしたら。

諦めずに済むかもしれない。自分で自分を、笑うこともないかもしれない。

そうしてマタ・ハリは、第二の人生を歩み出す。

希望と誇りに満ちたその横顔を祝福するように、透明な陽射しが照らしていた。



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flos

そういう感じです。対戦よろしくお願いします。


――――いよいよ、返済日がやってきた。

 

「あーら、剣呑な雰囲気じゃなぁい?朝からみんな集まっちゃって、どうしたのぅ?」

「宴会をするという顔ではありませんねぇ?ほほ。これはいよいよ閻魔亭の幕引きですかな?」

「・・・・・・」

 

蛇庄屋・猿長者・虎名主は高みの見物だ。別に構わない。

理の勇者・リンクが一瞥すらしないのを見て、他の四人も気にするのを止めたようだ。

ちなみに光の勇者はミドナに付き合って出かけている。

 

「来たチュン!来たチュン!竹取の翁がやって来たチュン!」

「従業員総出で出迎えとは関心ですね。まぁ、こちらは何百年も返済を待たされている身。それくらいの礼は尽くして当然ですな」

 

悠々とした足取りで翁がやって来る。

勝利を確信した目で。人の善性を笑いながら。

 

「(どうして俺らが従業員だって知ってるのかな~?ボロが出るのが早いな~)」

「とはいえ気持ちで懐は潤いません。まずは去年の利息分――」

「ええ、ええ。その心配はもっともですわ。翁さま。ですがご安心を。貴方さまの懐は、今からもっと素晴らしいもので満たされます!」

「・・・なんですって?」

 

ふわりと耳もとで囁いた。マタ・ハリの声に顔を向ける。

 

「お喜びください・・・竹取の翁さま。貴方さまが無くされた大切な宝は、私たちの頭」

「頭・・・?」

「叡智を携えた竪琴の使者。時空のことわりを知る聖剣使い。理の勇者・リンクがあっさりと取り戻したのですから」

「!?」

「――――ほほう。それはそれは、優秀ですね」

 

翁は余裕を崩さずに言う。

態とらしいくらいに。

 

「ですが、それは誰彼から手に入れた代用品でしょう?」

「まさか。この僕がそんな生半可な仕事をすると?正真正銘、アナタが500年前に失った宝ですよー」

 

澄んだ声が突き刺さる。

翁はそこでようやく、女将の後ろに控えていた少年に気づいた。

・・・蒼い()

蒼い()が見ている。

 

「・・・聞き間違えですかな?」

「では早速場所を移しましょう!500年前に事件のあった客室、明烏の間にね」

 

少年特有のすこし高めな声が、スキップでもするかのように響いていく。

扉を開けて中に入れば、もうそこはリンクの独壇場。

 

「ご静聴ください。“ときのしらべ”」

 

時のたてごとは歌い出す。まやかしを破り、真実を見極めるために。

麗しの旋律は時をこえる。過去へ過去へ。戻れ戻れ。

 

「着きましたー。500年前の閻魔亭。あれがアナタの巾着?」

「・・・・・・・・・ばかな。そんな、」

「あら、でもそれだと巾着の中は空になってしまうわ。500年前の翁さまが困るかも」

「こんな筈は――こんな筈は――」

「でも辻褄は合うわね?ねぇ翁さま」

 

震える体にそっと寄り添い、じわじわと追い詰める女の声。

 

「・・・お開けにならないの(・・・・・・・・・)?」

「ぐ・・・く・・・!ぐぐぐぐぐぐぐ!」

 

じり、じり。巾着に近づいていく男の背中を、白けた目でリンクは見る。

 

 

いーくん やはり悪事はよくないのでは

奏者のお兄さん 万能下の句じゃん

 

 

「ぐぐ、ぐぅぅううう!くそう!そぉーーーれ!」

 

竹取の翁が巾着を開ける。

中は勿論空である。

 

「どうして空なのかしら?もしかして、はじめから宝なんてなかった・・・とか?」

「い、いや――あった。あったに決まっているんだろう!私は竹取の翁だぞ!?“五つの宝”をもっていて当然だろう!」

「“竹取の翁”が宝をもっているわけ無いでしょう?百歩譲ってもかぐや姫のものですよー」

 

対して声を張っていないのに、呆れた声が部屋に響く。

のびやかで甘い、琴の調べ。時逆の歌は終わる。

 

「嘘、ついたのね」

 

翁の仮面が斬り飛ばされる!

地獄の裁判官が刀を抜いた。目にもとまらぬ居合い術!

 

「謀られた事はあちきの落ち度、責めはしまちぇん。でちが、その二枚舌は許しまちぇん」

「・・・ぐ、う・・・。雀の分際で・・・・・・よくも、オレの顔、を・・・・・・」

 

霊基が急速に変化していく。

泥にまみれた中身が溢れた。

 

「許さねぇ・・・許さねぇ・・・!むかつくガキどもがぁ!!せっかく純朴なガキを騙して遊んでいたのによぉ!」

「今のは自白だな?斬る」

「――――ァ?」

 

渡辺が踏み込む、一閃。

 

「ぐ、・・・キヒャヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!効かねぇよ!蛇、虎、戻ってこい!」

「・・・・・・まぁ、そうなるわよねぇ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

分裂していた体が戻る。性根爛れた夜の鳥。

視界に飛び散るのは火花。不思議なふしぎな木の実。

 

「ア゙ッヅ!?」

「綱、宝具。ブリュンヒルデ、ルーンで足止め。はじめちゃんとマタ・ハリは入り口を塞いでくださいー。女将、行けますかー?」

「了解」「はい」「ええ」「はいはい」

 

紅閻魔は一度目を閉じて、開いたときには姿が変わっていた。

 

「猿面の怪異様。閻魔の法廷に出るつもりはないのでちね?」

「あぁ!?なんでオレが地獄に出向かなくちゃいけねぇんだ!離せクソ女!」

「では代理官として理由を問うでち。なぜこんな事をしたのでち」

「この後に及んで情状酌量かぁ!?どこまで救いようがねぇんだ、テメェは!楽しいからに決まってるだろ!」

 

拘束されている立場とは思えない醜悪さで、怪異は嗤う。

500年近く閻魔亭の神気を集めてきただけあって、魔力は膨大だ。

だけど誰も怯えない。

 

「幸せそうなヤツラを騙すのが!よわっちいガキが必死に踏ん張っているのを台無しにするのは!最っ高に面白えからだよぉ!」

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前──我が剣、魔性を斬る物。大江山(おおえやま)菩提鬼殺(ぼだいきさつ)

「ガ・・・ッ」

「燃えろ、罪障が消滅する」

 

聞くに耐えぬ魔鳥の(こえ)

 

「その所業、閻魔に代わってあちきが裁く!鬼の強面も震え出す、刹那無影の雀の一刺し――」

「効かねぇ・・・!」

「閻雀裁縫抜刀術、奥義の三。罪科あればこれ必滅の裁きなり。十王判決(じゅうおうはんけつ)葛籠の道行(つづらのみちゆき)!」

 

正気を引き裂く鵺の(こえ)

炎に包まれ葛籠に封じられ、最後は聖剣で真っ二つ。

 

「ぐえぇぇぇぇぇ!なんっ、なんだ!?なんなんだお前らはぁ!?」

「それがおまえ様の末路でち。己の利益、悦びのために嘘をつき、人様の幸福を嫉んだ罪!地獄の底からやり直すでち!」

「テメェ、テメェらもだ!オレの足を引っ張るんじゃねぇ!なにしてやがる!」

 

霊基が分裂してぽろりと落ちた。

蛇面と虎面がいなくなって、ああもう頭しかない。

 

「マスターソードは悪しきものしか斬りませんよー。つまり魔物はキミだけ(・・・・)です」

「・・・ふ、ふざけんな・・・!」

「力と立場にものを言わせて、他人の自由を奪った罪。ちゃんと償いましょうね」

 

霞のように消えていく、猿面の(こえ)

閻魔のお裁き、これにて閉廷。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、解決したのか?」

「そうだね、お前の出る幕は無かったよ」

 

お茶菓子をかじりながら、リンクは横になった。今日は絶好の昼寝日和だ。

蛇庄屋・虎名主は猿長者に脅されていただけ(と、理の勇者が庇った)であると、情状酌量して減刑になった。

償いとして、今は閻魔亭で働いている。

 

「失礼するでチュン。リンク様、女将が呼んでるチュン」

「ん?」

「ワタシはエステールームに行ってくる」

「はいよ~」

 

待っていたのは女将と、巨躯の男。・・・いや巨躯っていうか。

 

「お会いできて光栄だ。光の勇者よ。姓は項。名は籍。あざなを羽。この躯体は・・・どうにも色々な縁があったようだ。驚きを理解する」

 

ケンタウロスのような下半身、何本も生えた腕、知的な風貌。

属性盛りだくさんの男は、リンクを見て丁寧に礼をした。

 

「初めまして、項羽。オレに用事かな」

「ああ、実は・・・・・・。妻を探している」

 

史記、漢書にて断片的に語られる、謎に包まれた項羽の寵姫、虞美人。

その正体は、地球の内海から発生した表層管理のための端末。――精霊である。

 

「マジで?」

「うむ」

「閻魔亭にも時々来てくれたでちゅ。でも、ここ500年はすっかり姿が見えなくて・・・」

「我が妻のことだ。未だ、寄る辺なきままに彷徨う身であってもおかしくはない」

 

 

聞いてました?どう思います?

 

 

奏者のお兄さん それ芥さんじゃないの

フォースを信じろ 誰だっけ

奏者のお兄さん コフィンにいるAチームの芥ヒナコさん。虞美人草=雛芥子=芥雛子でしょ

災厄ハンター シンプルぅ

 

 

「・・・もしかしたらカルデアにいるかも。見てこよっか?」

「カルデア?」

「あっまだ知らないのか。えーとちょっと待ってな。説明は後でいいか?」

「構わぬ」

「項羽様、お茶をいれるでち。こちらへどうぞ」

 

 

りっちゃんどこ?

 

 

りっちゃん 綱とはじめちゃんと温泉なう

 

 

りょ

 

 

というわけでコフィンを開けに行きます。

次週、約束されたトンチキ先輩。

お楽しみに!



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今年の夏はどこにいこうか?

次からは第三特異点です。
ちなみにRTA in Japan2021を見ながらこれを書いています。時間が溶ける~。


霊子筐体(りょうしきょうたい)、クライン・コフィン。通称コフィン。

レイシフトを安全に行うために用いる機械だ。

まず、コフィンに入った人物の数値を測定し“どのような数値で成り立っているか”の定義づけをする。

その後魔術を発動。そうすると内部の生命反応が観測できなくなる。

“生きているか死んでいるかわからない箱”の完成――というわけだ。

 

 

ファイ トライフォースの発動を確認。カルデアに到着したと推定します。

 

 

ここがカルデアですか~。おっきいですねー

 

 

リノリウムによく似た材質の床は、ブーツの足音を隠さない。

まるで病院のような白さと清潔さ。手術室のように抑揚を押さえて、カルデアはリンクを出迎えた。

芥ヒナコを含むAチームのマスターたちは、今もコフィンの中で冷凍されている。

まあ開ければ起きるだろう。彼女は不老不死タイプの精霊のようだし。

人気のない廊下を進んでいけば、あっという間に本命の部屋。――――の前で待ち構える、老紳士が一人。

 

「お待ちしておりました。偉大なる緑の君」

「・・・う~ん。どうして来るのがわかったんですー?」

「なに、簡単な話さ。私の召喚者はトライフォースの力を感知できるらしい。そのおこぼれにあずかっただけだ」

「なるほど~。・・・どいてくれます?」

「タダで?それはいけない、キミ。コフィンを開けないのは所長の意志だ。私はそれを守っているだけだよ」

 

ジェームズ・モリアーティは優雅に微笑んだ。

こちらはこう出た。そちらはどうする?お手並み拝見といこうか。

 

「そうですかー。それならしょうがないですねー」

「なぜファイティングポーズをとるのかな?」

「考えるのめんどくさいです~。腹を殴ったら大概の生き物は気絶する」

「それが勇者の台詞かネ!?!?」

 

 

バードマスター ひどい

騎士 どうしてこいつを行かせた

ウルフ 行きたいってゆったから・・・

 

 

「ふむ・・・。クレームが来ました」

「するよ!?クレームしかないよ!?理の勇者ってこんな感じなんだァ!?」

「じゃあこっちでー」

 

のんびりとした口調で、リンクは赤い笛を取り出した。

“ヘンなふえ”と呼ばれる楽器は、仲間の動物を召喚するアイテムだ。

 

「いけ、ウィウィー。エサだよ」

「違いますけ怖!!あぶっ・・・まってまってまって話し合おう!?ネェ!!」

 

真っ赤な恐竜の名はウィウィ。水陸両用の頼もしい仲間。滝だってぐんぐん登れるぞ!

目の前の敵を食べ尽くすその姿から、ついたあだ名は暴食レッド。

なぜ絶滅したはずの恐竜がいるのか?という問いには、異世界なのでセーフ理論が適用されます。

 

「イヤーッ!!助けて!助けて!」

「降参して下さいー。僕もそこまで鬼じゃないですー」

 

モリアーティの体を自慢の顎で挟もうとするウィウィ!抵抗する老紳士!絵面がやばい。

 

 

銀河鉄道123 りっちゃんこんなに血も涙も無い感じだった?

フォースを信じろ 多分、人の目がないからブレーキが無くなってる。ウィウィが魔物しか食えないなんて一言も言ってないし・・・

いーくん 勇者の姿か?これが・・・

 

 

僕がルールです~。今までも、これからも

 

 

ウルフ ヒューッ!

うさぎちゃん(光) さすが異世界を2つ救った人は言うことが違う

海の男 誉は死んでるけどな

 

 

「わかっ、わかった・・・!どくから・・・!この恐竜を・・・止めて・・・!」

「賢明な判断、何よりです」

 

 

小さきもの どっちが悪役かわかんねぇな

 

 

リンクがウィウィを帰すと、モリアーティは腰を庇いながらよろよろと立ち上がった。かわいそう。

老紳士をさっくり通り過ぎ、入った部屋の中にそれはあった。Aチームメンバーの眠るコフィン。

棺のようだ、と例えたのは誰だったか。彼らは未だ、安楽の眠りの中。

 

「モリアーティ、開けれる?」

「・・・まあ私は天才だからね。お代は後払いでいいヨ!」

 

 

Silver bow ネバギブ精神がすごい

 

 

カルデアスタッフでさえ手間取る蘇生手術も、中にいるのは精霊種、という事前情報と希代の数学教授にかかれば造作もない。

そうでなくとも、モリアーティは元々コフィンの解析を秘密裏に進めていた。後は実践でそれを詰めるだけ。

連動しているアナウンスを切ったら、解凍はもうすぐだ。

 

「――――――」

 

コフィンが開く。

どろり、肉片が溶けた。

横たわっている。動いている。伸びる影。

鼓動の音。血管が、心臓が動き出す。自然界からエネルギーを補給して。――ある意味では無尽蔵の魔力をもつリンクから、エナジードレインで大量の糧を得て。

肉体を再構成。瞼を開ける。

限りなく己と近い存在が目の前にいることを認識して、虞美人は飛び起きた。

 

「・・・・・・・・・・・・精霊?」

「初めまして。死後、それに近い存在になりましたー。リンクと申します」

「リンク・・・・・・?」

 

栗色の長いツインテール。ずり落ちた眼鏡を直す。

魔術礼装に実を包んだ女性は、せわしなく周りを見渡し、再びリンクに視線を戻す。

 

「僕は四季のロッドを所持し、大地のことわりを知るため“星の触覚に近い”とガイアは判断しました。そういう属性がついているだけで、中身は生前のまま人間です~」

「・・・勇者リンク・・・」

「はい」

「項羽さまが仰っていた・・・星の意志に選ばれた者・・・」

「それはちょっとわかりませんが、そういうことでもオッケーでーす」

 

 

災厄ハンター パパ星の意志ってなに

バードマスター わかんない。ファイー!

ファイ ガイアに選ばれた抑止力、かと。実際そうであるかはファイにもわかりません。

 

 

警戒はされていないようだ。差し出した手を握り返して、彼女はコフィンから起き上がる。

驚きのほうが勝っているのだろう。目をまん丸くして、リンクのことを()めつ(すが)めつ眺めている。

 

「虞美人さまですね?古代中国で語られる仙女。精霊・妖精と縁深い我らからしてみれば、敬愛すべき隣人。どうぞよろしくお願いします~」

「え、ええ。礼儀を理解しているのね。さすが、項羽様がお認めになっただけのことはあるわ」

「ありがとうございますー。立ち話も何ですから座りましょう。着替えもなさいますか?」

「気が利くじゃない。そうね、この礼装も固っ苦しいし・・・」

 

デキる男・モリアーティの手により、以前着ていた服と談話の準備がされている。すごい。

オシャレなティーカップを傾けながら、二人は現状を話し合った。

 

「――――人理なんて、どうでもいいわ。・・・でも、ここでなら、項羽様に会えるかも・・・と」

「まだチャンスはありますよー。英霊の座に時間の概念はありません。アナタが項羽さんの情報を英霊の座に持ち込めば、今、呼び出すことも可能でしょう」

 

というか実際に項羽はもういる。

虞美人が持ち込んだ真実と、とあるIFから引っ張られた躯体をもって。虞美人の愛した心のままに。

あの時と変わらず、最愛の妻を案じている。

 

「そして項羽さんと再会するためには、生き残ったマスターとスタッフに協力するのが最適かと」

「そうみたいね。・・・仕方ない人間共。手を貸してあげましょう」

「それでこそ虞美人さま。では登場のタイミングは――――」

 

吹雪の夜。

星の内海を越えて、英霊の座に向かう。

見送ってくれた不思議な気配の少年を、虞美人はこれからも時々思い出すだろう。

そして存外すぐに再会して、同じ“リンク”なのに余りにも性格が違うことに叫ぶだろう。

後ろ髪を引かれる思いもなく、虞美人はもう一度、未来へと歩き出した。

 

「スミマセーン、請求書です」

 

こちらは懲りない悪の組織の親玉。

今度は圧倒的暴力に屈しないよう、杖をしっかり握って構えている。

 

「そんなに警戒しなくても、僕は冷静な勇者ですよ~」

「冷・・・静・・・?」

「請求書確認しますねー。“モリアーティの指定する特異点に関わらない”。・・・なるほど」

「私は一度だけ、キミの介入を拒む。もちろんこのグランドオーダーが終わった後、世界の行く末には関係のない場所サ」

「いいでしょう。飲みますよー」

「エッ」

 

余りにもすんなり頷くので、虚をつかれたような顔をしたモリアーティに、リンクは可憐に笑いかけた。

 

「僕はこういうの嫌いじゃないです。お手並みを拝見しましょう」

「・・・いいとも、見せてやろう!悪役の意地をね!」

 

青い蝶々が羽ばたいて、視界を埋め尽くして、もう誰も居ない。

リンクは請求書を懐にしまうと、静かにカルデアを去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――今日も、同じ時間に目が覚めた。

体温を確認する。五感を確認する。客観的にもわかるように、わたしの名前を口にする。

深呼吸をして――眠るたびに消える可能性があるといわれた、自意識を確認する。

わたしはわたしだ。わたしは今日も、存在を許された。

 

「やあ、おはよう第二号。寒くないかい?外の気温はマイナス70℃だ。今朝は特に冷え込んでいてね。まあ、この部屋にいるかぎり関係のない話だけど」

「それはたいへんですね」

 

思ったことを口にした。綺麗で快適な部屋にわたしはいる。

 

「・・・・・・何か不都合はないかな?気に入らないコトがあったら何でも言っていいんだよ」

 

彼は表情を崩してそう言った。とても辛そうな顔で私を見ている。

おそらく彼の体の一部が痛んでいるのだろう。

 

「だいじょうぶですか」

「・・・・・・ああ、ボクは大丈夫。余計な気遣いだったね。おはよう、■■■。5110回目の覚醒、おめでとう」

「ありがとうございます」

 

心からの気持ちだった。

わたしはとても幸せだ。今日も一日、このきれいな世界を見ていられるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォーウ。フォウ、フォーウ!」

 

てしてしてしと小さな肉球の猛攻。なんだか夢を見ていたような。

立香の意識が浮上する。

 

「い、いけませんフォウさん!噛むのはダメです。もっと丁寧に接触すべきです」

 

いたたたたた。

とうとう噛んできたぞこの獣。

 

「たとえ相手が石のように鈍感でも。こう、人参の皮を剥ぐ刃物のように」

「フォウ!」

「・・・・・・おはよう、マシュ。フォウくんも・・・」

 

ぐしぐしと目を擦ってベッドから起き上がる。

椅子に座ったマシュが、櫛を手にして意気込んでいた。おきまりになったルーティーン。

 

「では早速、髪を梳かさせていただきます!ブーディカさんに習った櫛さばき、とくとご覧下さい!」

「うん、いつもありがとうね・・・」

 

欠伸を一つ。片手でフォウくんをあやしながら、立香はゆっくりと出かける準備をした。

管制室には人が沢山だ。サーヴァント達も揃っている。今朝から賑やかで・・・・・・・・・。

賑やかだな?

 

「ほ、ほんとに芥くんなのかい・・・・・・」

「だからさっきからそう言ってるんじゃない!しつこいわね!」

「人物照合一致。内部データは丸っと変わっているけど、うん、Aチームの彼女で間違いないね」

「・・・・・・ど、どうやって・・・?」

 

騒然とする人々の中心で、虞美人は腕を組んでふんぞり返った。

朝一番に召喚ゲートから堂々とやってきて「オルガマリーはどこ?芥が来たって伝えなさい」と言い放った彼女に、職員達は翻弄され続けている。

暗い紺色のセーターに身を包み、チョコレート色の長髪は三つ編みに。

文学少女など仮の姿。(あで)やかな美女は、すっ飛んできた幹部達に言い放つ。

 

「私は虞美人。項羽様の妻。仙女よ。本来ならガイアの存在なんだけど・・・、人類の守護を誇りとした項羽様のご意志を継ぐべく、英霊になったの」

「まって」

「コフィンの中に居るのも私。ここにいるのも私。以上」

「情報が・・・情報が多い・・・!」

「まだ咀嚼しきってない・・・!終わらないで・・・!」

 

聞き逃せないキーワードに、野次馬のサーヴァント達もざわめき出す。

立香はマシュから、虞美人って誰?仙女って仙人?という疑問を解決してもらっている。

 

「と、とりあえず、ここに来てくれたということは、人理修復に手を貸してくれる、ということですか?」

「不本意よ。でもこの現状を見たら、項羽様は悲しむでしょう。なにより私の当初の目的、英霊の項羽様にお会いすることも敵わない」

 

ため息をつく佳人に気圧されつつも、立香はそそそっと前に出た。

 

「あのっ」

「ん?」

「初めまして、虞美人先輩。藤丸立香です。あの、一応、マスターを、やらせていただいております・・・」

「・・・・・・ほう」

 

実のたっぷり詰まったオレンジのようにみずみずしく。

土から掘り出されたニンジンのように垢抜けない。

相反する要素を意志の灯る瞳で纏めた、たったひとりの少女。

 

「ふん。悪くない態度ね、後輩。お前には私と契約する権利をあげるわ。その代わり、項羽様をぜっっっったいに呼びなさいよ!」

「はっ、はい!」

「あの、あく・・・虞美人さん。お久しぶりです」

「・・・あんたマシュ?随分印象が変わったわね。今の方がよっぽど好感が持てるわ」

「え・・・」

 

先輩、まずは種火を!

当然よ、あるだけ貢ぎなさい。

鈴を転がすような声が混じって遠ざかっていくのを、マシュは動かない足で見送ってしまった。

 

わたしはわたしだ。わたしは今日も、存在を許された。

わたしは・・・わたし。

5110回目の覚醒とは違う。目覚めたいと思って目覚めた。朝がくるのが待ち遠しかった。

許されなくても、生きたいと思っている。

胸の辺りが痛むのを、服をぎゅっと握りしめることで誤魔化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう訳なのでー項羽は第三特異点で合流して下さいー」

「承知。心遣いに感謝する」

「風の勇者がそのうち来るのでー指示を仰いで下さいねー」

 

休憩室は時間の流れが穏やかだ。

どこからともなく聞こえる水の音に耳を澄ませながら、リンクは閻魔亭名物・すずめまんじゅう(こしあん)を囓った。

 

「あの」

「ん~?」

「人理修復の手伝いとか・・・した方が・・・?」

「はじめちゃんたちの出番はまだですよー。腕を磨いて待ってて下さいー」

「いつでもお声かけ下さい。この剣は泰平の世のためにあり」

「綱は真面目で偉いですねー。頼もしいです」

 

にこにこと機嫌のいい少年につられて、綱も小さく笑みを零した。

 

「これが四季のロッド・・・。なんて柔らかく、花のように馴染むのでしょう」

「まるで初めからここにあったみたい。大地の香りがするわ」

 

四季のロッド。

ホロドラムの四季を変化させることができる杖・・・なのだが英霊に登録された際、リンクの魔力が及ぶ範囲までの四季を変えられるようになった。無法か?

 

「閻魔亭の季節も変えられますよー。女将の許可が下りればですけどー」

「すげぇ!?」「凄いですね!?」「み、見たいです・・・!」「女将さんに聞いてくる!」

 

閻魔亭が桜まみれになるまで、あと少し。



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第三特異点
水天一碧


暑かったり雨降ったり湿気てたり蒸し暑かったりするのなんなん!?


抜けるような青空――――を突き抜けていく三つの影。

顔面にぶち当たっていく空気。海面から反射した光の眩しさに、ごうごうと喧しい音が鼓膜を振るわせる。

通信機越しの、近くにいる2人の、声が無茶苦茶に混ざって、滅茶苦茶になって。ああ!もう!

 

「海ーーーーーーーーッ!?」

「ドクターーーーーッッッ!!!!」

 

潮風に弄ばれる髪が、鳥の尾羽のように余韻を残した。

 

 

 

 

 

第三特異点 封鎖終局四海 オケアノス

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「クソ医者・・・!帰ったら覚えてなさい・・・!」

『はい・・・』

 

項羽様が居るかもしれないから私も行くわ!とさっさとコフィンに入った虞美人と、立香とマシュは船の上でぐったりとしていた。

雲の上にレイシフトして、余所様の船の上に着地したのはいいが、すでにメンタルに疲労が来ている。

唖然としながら周りを囲む海賊たちも、今日は何て日だと呟いた。

棚からぼた餅ならぬ空から美女。おお天よ。これはいかなるお導きですか?

 

「取りあえず掴まえろー!」

「カワイコちゃーん!」

「うるっさいわよ死ね!!」

 

海賊達は3秒で全滅した。

 

「先輩!頭を蹴らないで!」

「美女が顔を歪ませて蔑んでるのたまんねぇな・・・」

「誰だ今の!?」

 

なんか恍惚とした顔の変態もいたが、取りあえず虞美人を落ち着かせ話を聞くことにした。

ここは海賊の住む海賊島。島を仕切っているのは大海賊フランシス・ドレイク。

一見平和に見えるこの海は、しばらく前からおかしくなってしまった。

海流も風も異常で、ジャングルがあったり温暖な海域があったり、なによりどこまで行こうと“大陸”らしきものが見つからない。

 

『聖杯の所有者が引き起こしている、と見ていいだろう。つまりこの世界でもやることは変わらない』

『まずは・・・フランシス・ドレイクに接触するべきでしょう。立香、いける?』

「はいっ」

「・・・だ、そうよ。さっさと案内しなさい」

「アイアイ・マム!」

 

すでに手懐けている・・・だと。さすが先輩・・・。

森を抜けた先、浜の小屋に居るという大海賊に会いに、3人は歩を進めるのだった。

 

「姉御!姉御ー!客人です!」

「ああん?ったく、人が気分良くラム酒を呑んでいるときに・・・。海賊かい?」

「えーと、多分違いやす!なんか俺らとは雰囲気の違う女達です!」

「女?入りな!」

「失礼します」

 

小屋の中は無法。野蛮を敷き詰めて海賊が笑う。

どいつもこいつも浴びるように酒を飲み、喧嘩も賭博もお手の物。

そんな空間とはまるで真逆の雰囲気をもつ少女たちを、値踏みするように女が見た。

 

「・・・・・・こりゃまた、ずいぶんキテレツなのを連れてきたね」

「へえ。でも見所はあるっすよ」

「(・・・この人がフランシス・ドレイク?)」

「(・・・はい、先輩。たしか男性として伝わっていたと思うのですが・・・)」

『(偉人の性別があやふやなのはよくあることだよ。それより2人とも、油断しないで)』

 

ジョッキの酒をぐびりと一口。

ワインレッドの髪を揺らしながら、興味深そうにこちらを見る。

 

「それで、アンタら何者だい?ウチのアホウどもが世話になったようだけど」

「わたしはカルデアという機関に所属する、マシュ・キリエライトと申します」

「マスターの立香です。こちらは虞美人さん」

「カルデアぁ?星見屋がなんの用だい」

 

あっという間に空になったジョッキに、酒を注ぎながらドレイクが返す。

ぶわりと広がるアルコールが、立香の鼻をつんと突いた。

 

「ドレイク船長。既にお気づきかとはおもいますが、この時代、この世界はおかしくなっています」

「・・・ああ、そうだね」

「わたしたちはそれを解決するために来ました。協力をお願いできないでしょうか」

「ヤだね」

「!?」

「こんなに面白おかしい(・・・・・・)世界は他にない!この海はおかしい!そしてだれもこんな海は見たことがない!」

 

自由のためならあらゆる悪徳を許容する、海賊達は高らかに宣誓した。

イイコトなんてしたくない。やりたいことだけをやるのさ!賛同するように、ジョッキがぶつかる甲高い音。

 

「だったらアタシ達が最初にこの海全てを奪い尽くす!それが海賊ってもんさ!そうだな、野郎共!」

「ヒャッハーーーー!姐さん最高ーーー!」

「なっ、なっ・・・」

「どうしてもアタシと話がしたいんなら、まずは力試しと行こうじゃないか!このフランシス・ドレイクを倒してみな。話はそれからだ!」

 

虞美人の大げさなため息も、立香の深呼吸も、盛り上がっていく周りにかき消される。

1人困惑するマシュの腕をひいて、立香は一歩前に出た。

 

「どうやらそれしかないみたい。先輩、お願いします」

「・・・面倒ね。さっさと終わらせるわよ」

 

わざとらしく髪を払って、両手に剣を構える。

軽い跳躍。一瞬で目の前に現れた虞美人に、同じく両手に拳銃を持ったドレイクが受け止める。

一撃目はそれでよし。二撃目が来る前にすばやく引き金を引く。同時に放たれた虞美人の剣は蜂の如く海賊の体を裂いた。

 

「(当たっ・・・効いてない!?)」

 

咄嗟に後退したドレイクを虞美人は逃がさない。

ココア色のドレスを甘やかにさばき、手元に戻った剣を再び投げる。剣は勢いよく銃を弾き落とした。がちゃん、と静寂に響く音。

 

「そこまで!」

 

歓声と驚愕が膨れあがる。

驚いて虞美人を見るドレイクと、腹のあたりをもぞもぞしているアサシンに立香たちが駆け寄っていく。

 

「先輩!」

「口ほどにもないわね。まぁ、武人でもない海賊だからしょうがないか」

「先輩、銃弾よけなかったでしょ!?」

「だって治るもの。ほら」

「いらないよ!?血がついてるよ!?」

「・・・アッハッハ!とんでもない奴らが来たねぇ!」

 

腹を探って銃弾を取り出した女に、思わずドレイクは笑ってしまう。

そうだ手当を・・・とマシュが治癒魔術の巻子本(スクロール)を取り出してドレイクを見ると、既に彼女の怪我は治っていた。

・・・・・・ん?

 

『フランシス・ドレイクから魔力反応を確認。スケール・・・・・・聖杯!?』

「アタシの敗北(まけ)さね。煮るなり焼くなり抱くなり、好きにしな!」

「そういうのはいいです!」

「あの・・・聖杯、持ってるの・・・?」

「聖杯?このお宝のことかい?」

 

そう言って胸元から取り出した黄金の器に、少女達は絶句するのだった。

虞美人は欠伸をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ野郎ども!新たに仲間になった3人、立香とマシュとぐっちゃんに・・・。あれ?逆だ。新たに仲間になったアタシたちに――乾杯だ!!」

「かんぱーい!」

 

夕暮れの浜は少し寂しくて、されど賑やかだ。宴会が始まる。

 

「こ、こんなにゆっくりしていていいのでしょうか・・・」

「この魚おいしい~」

「立香ちゃん、おかわりもあるからな!」

「ちょっと、酒が足りないわよ。さっさと注ぎなさい」

「イエス・ぐっちゃん!」

「順応が早すぎる・・・!」

 

美少女と尊大な美女を前にして、海賊共は無力だった。

もうここには立香にでれでれしている男と、虞美人に傅いている男しかいない。

フォークを握りながら固まっているマシュの隣に、腰掛ける影が一つ。

 

「なあに湿気たツラしてんだい。そんなんじゃ財宝が逃げちまうよ」

「ええと・・・」

「ほら呑みな!出航は明日さね。今夜は無礼講だ!」

「当然のように胸元から聖杯を取り出してお酒を注がないでください・・・!」

 

いつまでも明けない七つの夜、海という海に現れた破滅の大渦。

そしてメイルシュトルムの中から現れた、幻の古代都市アトランティスで。

海神(ポセイドン)を名乗る不審なデカブツを沈めて手に入れた、ご機嫌なお宝。

砲弾の直撃を受けてもピンピンしている奴らに傷を負わせられる、素敵な金ジョッキ!

 

しかし立香たちの探している聖杯ではなかった。

この時代に元々あった聖杯だ。つまりドレイクは既に一度、この特異点を救っている。

・・・・・・海賊スゲー!

 

「エモノをかっさらえ~♪エールをかっくらえ~♪」

「しかし、やっぱりこの世界はおかしいのか。となると、財宝も何もあったもんじゃないのかねぇ」

「一応その聖杯も財宝なんですが・・・」

「アタシが欲しいのはトライフォースじゃない。力と知恵と勇気で手に入れたお宝さ」

「・・・・・・」

「しかしサーヴァント・・・。・・・サーヴァントねぇ・・・」

 

ぼんやりと呟きながら、ドレイクは頬杖をついた。

脳裏に浮かぶのは、神の創りし黄金を求め、海を越えた勇者の姿。

マシュはなんとなくそれを察して、徐々に藍に染まる広い空を仰ぎ見る。

 

「財宝は――あると思います」

「ん?」

「えっと、ただの勘なのですが」

『私もあると思うなぁ』

「アンタは初めて聞く声だね」

『レオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデアの技術顧問さ』

 

ダ・ヴィンチの声に反応して、立香達も近寄ってきた。

波の音が聞こえる。

 

『この世界、この時代は“海賊”が居て当たり前の状況だ。善きにつけ、悪しきにつけ、大航海時代とは世界を一回り大きく広げた不可避の出来事。未知の海、見果てぬ水平線の向こう側に、星の開拓者たちは夢を託したんだ』

「そうだね。アタシたちはずっと海に憧れていた。海の向こうの新天地を」

『“そういった思念”が集結しているのなら、財宝があったとしても驚かないね』

「・・・たまらない。燃えてきた、燃えてきたよ!よーしアホウども、まずはしこたま呑むよ!」

 

風の唄が聞こえる。

気づいているのは空の月だけ。

 

「明日からの航海はこれまでにない無理難題だ!生きて帰れる保証はないから、一生分呑んでおきな!未知への冒険がアタシたちを待っているよ!」

「カンパーイ!」

「ましゅ~ぐっちゃんねちゃった~」

「そうですか、虞美人さんが・・・先輩まさか酔ってます!?」

「よっれないよ」

「酔ってる人の声です!」

『立香ちゃんて未成年だよね?』

『まあ今夜くらいは大目に見ようじゃないか』

 

風の唄が聞こえる。

赤獅子の船が、嬉しそうに星を見ていた。



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YOSORO

書きたい部分と書きたい部分の間を書くのが1番苦労する。
これってトリビアになりませんか?


一人乗りの赤い船。潮風を連れて海を行く。

赤獅子の王が運ぶのは、なによりも大事なたからもの。

のほほんと背中で昼寝をする、いとしい愛しいハイラルの子。

 

「リンク、起きるのだ。島に着いたぞ」

 

トライフォースの力で特異点に来たはいいものの、地場が狂っているらしく出たのは上空。

おっとこりゃあまいったな。とまったく困ってなさそうにデクの葉を取り出して、落下の勢いを殺したのは風の勇者だ。

新生ハイラル王国の初代国王。趣味は釣りとフィギュア集め。見た目は少年だが、中身は老獪な人物である。

海上付近で赤獅子を召喚すると「あの辺に見えてる島にゴー」という指示を出して横になってしまった。相変わらず緊張感のない子である。

赤獅子は苦笑を漏らしながらも、風に押されて進むのだった。

 

 

バードマスター 海かぁ 移動に大変そうだね

 

 

空を移動する先達には敵わないよ

 

 

銀河鉄道123 先輩、赤獅子の寝心地は?

 

 

ちょうど体がすっぽり収まるサイズなので、寝返りが打ちにくいのが難点ですね。 評価★★★★

 

 

騎士 知られたら怒られそうな会話をするな

 

 

「・・・おはよう、赤獅子」

 

意識は半分ネットワークに、もう半分はまどろみのなかに。

寝起き特有の低い声で、乱れた髪を撫でつけて。

大きな欠伸をかみ殺しながら少年は船から降りた。

風にはためく金髪が、息をしているかのように揺れている。

青いエビシャツがよく似合っている背中を、赤獅子は優しく見つめた。

 

「なーんか居そうな感じ。ちょっと島を見てくるから」

「では私は待っていよう」

「んー・・・やっぱり、その必要はなさそうだよ。お出迎えありがとうだ」

 

リンクと言う強大な気配に気づいて、何かが島の奧から猛烈な勢いで近づいてくる。

障害物を力任せになぎ倒し、地鳴りを響かせて、唸り声が耳をつんざいた。

 

「ガガガガガガガガガガ!!ギギギギ――――ギィィィィィィッッ!!」

 

 

災厄ハンター うるさ

いーくん 木を折るな(シンプルな怒り)

 

 

理性を失い狂気に呑まれ、サーヴァント自身の思考は無く。

ただただ機械的に、盲目的に、目の前のナニカを。敵を排除するために斧を構える。

 

「ワガッ!ワガナ!エイリーク! イダイナル、エイリーク!」

「儂はリンクじゃよ」

「ガゴ!コロス!ジャマヲスルナラコロス! ブチ、コロス!ギギギギィィィ――!」

「えい」

 

突っ込んできたエイリークに向けてバクダンが投げられる。

軽快な声とは裏腹にとんでもない速度だった。どこぞの甲子園のピッチャーか。弾は正確にぶち当たる。

 

「ゴァ・・・ゴオオオ・・・・・・」

「そんじゃあの」

 

消滅は免れたものの衝撃でふらつくエイリークに、勇者の剣は振るわれる。

すとん。

あっけなく首は落ちた。日に照りつけられて、ほてった砂浜に静寂が戻る。

 

「リンク、あそこに船があるぞ。先ほどの男が乗ってきたものかもしれん」

「サーヴァントの備品なら、じき消滅するんじゃないか?」

 

 

ファイ いえ、どうやらこの海域にいるのは“海賊”という概念のようです

 

 

「ふうん?」

 

 

ファイ 特異点に生まれた障害(バグ)。役目を果たすだけの無限コピーの霊体です。

 

 

「なるほど。あれはヴァイキングの船、というコピーか」

「例の通信か?便利になったものだな」

「そうそう。みんなが助言してくれるからね」

 

軽く跳躍して船にお邪魔した。

こちらの会話を聞いてやいやい騒ぐ勇者(どうぞく)たちの声に、思わず口元に柔らかな笑みを浮かべる。

その大人びた笑みを正面から見てしまった海賊たちは、ただぽかんと成り行きに身を任せることしかできない。

大きな金塊よりも、輝く宝石よりも、手を伸ばしてしまいたくなる黒翡翠の瞳が。いたずらを画策する子供のように、にんまりと歪んだ。

ふわりと手元にタクトを出す。

 

「風のタクト、神の力をまとえ。――操りの唄」

 

← ・ → ・

四拍子。白い輝線をえがく。

生前は神の僕とメドリとマコレしか操れなかったが、英霊になった時逸話とか伝説とかで強化された唄。

自身よりも対魔力の低いものを操れる。霊体ならば問答無用。すべてすべてリンクの(しもべ)

 

 

ウルフ 出、出~~~wwwチート技使う奴~~~www

Silver bow この技なんでこんなに強化されてんの

りっちゃん 台パン不可避

 

 

「さて、お前たちはどこから来たのかな」

「黒髭の船長の命令で、エウリュアレを探していました」

「黒髭の目的は?」

「わかりません」

「下っ端はそこまで知らないか。じゃあ儂を船長の所まで運ぶように」

「アイアイ・サー!」

 

赤獅子の王を引き上げて、錨をあげて大船は行く。

ようそろう。ようそろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)。出航から数日。

見渡すかぎりの青い青い地平線は、どうしたって気持ちを緩ませる。

潮風に吹かれ、波に揺られ、今までとは違う船での生活に四苦八苦しながらも。

立香たちは島を探して進む。

 

「んー・・・・・・?」

「どうしました?」

「ああ、空気の味が変わったみたいでね」

「空気の味・・・ですか?」

 

違う国、違う陸地へ行くと風の色が違ってくる。

寒暖の差や海流の変化で揮発する物質も変わり、空気の成分も変わってくるからだ。

 

『マシュ、立香ちゃん。ドレイクの言葉は正しいようだ』

「違う大陸の島に着きそう・・・ってこと?」

『ああ。出発した島とは明らかに気温や海流が異なっている。もうしばらくすれば、具体的な場所も判明するはずだ』

「姉御!北西に船一隻でさぁ!見覚えのねえ海賊旗です!」

「敵か!マシュ、立香、準備しな!仕事の時間だ!」

「わかりました、キャプテン・ドレイク」

「いきまーす!」

 

陸と海では生活が大きく違う。礼装のおかげで日焼けしないのは嬉しいが。

なぜかずっと乗っていたかのように馴染んでいる虞美人はともかく、立香はようやく慣れてきたところだ。そろそろ地面を歩きたい。

謎の海賊旗を掲げる敵をあっさり伸す頃には、島が眼前に迫っていた。

 

「ぐっちゃん、船の守りを頼むよ」

「あまり待たせるんじゃないわよ。せいぜい気を付けなさい」

 

いつ敵が海上から襲ってきてもおかしくないので、散策は取りあえず三人で行くことにした。

ひらりと手を振るのは、暑くなったからとかいう理由で露出度が爆上がりした虞美人である。

なんだろうあの布だけで構成された服。いや服は布で作られているんだけど。

あまりに堂々としすぎて逆に野郎共が目をそらす始末である。さすがぐっちゃん・・・。

 

『霊脈のポイントを発見。座標を送るから、ひとまずそこを目標にしてほしい』

「了解しました。では皆さん・・・」

「んー、そのあたりかあ?」

「フォウ!?」

「ひゃ・・・!?」

「!?」

 

断りもなく放たれた、銃声の残響が続く。

思わず声を漏らしたマシュと驚いて声も出なかった立香が、勢いよく振り返る。

フォウくんは混乱してぐるぐる走り回っていた。

 

「ドレイクさん、敵ですか!?」

「いや、なんとなく気配がしたから撃ってみた」

「“なんとなく”“撃ってみた”・・・!?」

「悪い予感がしたら銃声で打ち払う。それが生き残るためのコツだよ?」

 

悪びれもせず笑うドレイクに、マシュは口をぱくぱくとさせた。

 

「なんて乱暴な・・・。それは無法者の精神構造です・・・!」

「マシュ、マシュ。海賊って無法者だと思うの。で、当たった?なんかいた?」

「あはは、そんなの見るまでわかるもんか!死んだか殺したか、ちょっと見てくるよ」

 

さくさくと砂浜を進んで様子を見ているドレイクの姿は、ジャンヌやネロとも違う。

マシュにとっては初めて接するタイプだ。まだなかなか掴めない。

 

「おーい!マシュ、立香!こっち来てみな-!」

「呼んでるね。行こうか」

「は、はい」

 

風に乗ってくる声を辿れば、小高い丘が目に入る。

海の青になれた瞳に、緑は鮮烈に焼き付いた。

 

「広いねぇ。島とは思えないわこりゃ。それに良い風だ」

「・・・・・・そうですね。マスター、この感覚は少し前の――」

「ローマに似てるね。なんだか懐かしいな」

「・・・ええ」

 

三人の足取りは自然と穏やかになった。

しばらく心地良い沈黙が続く。地面をしっかり踏みしめて、指定座標に到着する。

召喚サークルを設置。ポイント生成を完了。

 

「あ、そうそう。先ほどの謎の海賊旗を調べてみたんだけど、あの■は」

「・・・ドクター?」

「伝説の大■賊“■■”の■■。つまり、あの海賊■ちは■■■■■という■■■」

「ドクター?ドクター、通信の調子が――」

「■■――――■――」

「ドクター!?先輩、通信が切れて・・・!?」

 

不快なノイズが声を遮り、そのままぶちりと切れた。

間髪入れずに大地が揺れる。

 

「きゃっ!?」

「地震!?・・・先輩!」

「伏せな、かなり大きいよ!」

 

地の底から突き上げるような揺れ。まるで島が泣いているかのような轟音。

とっさにマシュの懐に抱えられて、立香は数秒の地鳴りを過ごした。

 

「・・・収まった、ようです。マスター、大丈夫ですか?」

「うん。マシュのおかげで怖くなかったよ。ドレイクは?」

「荒れた海に比べりゃそよ風さ。・・・・・・ん?ありゃ何だい」

 

ドレイクの視線を追いかけると、上陸した浜とは反対側に人工的な建物が出来ていた。

あんなに大きな建築物なら来てすぐに気づくはずだ。つまりこの地震の後に現れたもの。

 

「・・・見るからに怪しいのがあるじゃないか。よし、行こう!」

「ま、待って下さい。一度船に戻ったほうが良いのでは?」

「船にはぐっちゃんがいるから大丈夫だよ!」

「・・・マシュ、通信は回復しそう?」

「・・・いえ、変わらず途絶しています。誰かに妨害されているのかもしれません」

 

あんなにも朗らかだった空が、今は妙に暗く見える。

まるで嘲るかのように、風がびゅうと鳴った。

 

「・・・二人とも、原因を探しにいこう。もしかしたら敵の罠かもしれないけど」

「おや、立香。やる気だね」

「・・・正直不安だけど、でも、マシュと船長が一緒なら大丈夫」

「・・・!」

「言うじゃないか!キャプテンってのはそうじゃなくちゃね!」

 

不安に胸元の服を握りながら、けれど強がりなマスターの顔をして立香は言った。

ならば応えなくてはいけない。応えてあげたい。マシュは、立香のサーヴァントだから。

 

「――はい、先輩。行きましょう。必ずわたしがお守りします」

 

いざ行かん。未知なる島の冒険。

果たして出るのは鬼か、怪物か――――。



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比翼の連理

ONE PIECEを履修して書きました。百巻おめでとう。僕はローとサンジくんが好きです。
あと前作に少し加筆してます。


海は誰も拒まない。

大海(オケアノス)は何も区別しない。

全てを呑み込み、全てを許し、時に全てを映し出す。

その黒い瞳もまた、同じように。

 

「邪魔するよ。キャプテン・エドワード」

 

見回りに行かせた船が乗せてきたのは、女神エウリュアレでも財宝でもなく。

ある意味この世でもっとも貴重な、一人の少年だった。

 

「へえ・・・。良い船じゃないか。うん、大きさも申し分ない」

 

迷い無く船室を進み、向けられる4つの視線に笑みを返す。

目を見開いてその一挙一動を焼き付ける大男に、腰に手を当て、にやりとしながら話しかけた。

徐々に、徐々に――エドワード・ティーチの体が震えを見せる。掴もうとしたジョッキは指先が蹴飛ばした。

酒が飛び散って、アルコールのニオイがぶわりと広がる。

 

「オイオイ・・・」

「ん?」

「ここは海賊船だぜ・・・。ガキが来る所じゃねぇ・・・」

「膝震えてるけど。ガキが怖いのか?」

「ハハッ!」

 

普通に会話しているようだが、黒髭の顔は汗まみれだ。

立ち上がろうとして椅子の肘おきに手を置いているが、一向に中腰から動けない。

あ、転んだ。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・やってくれるじゃねぇか」

「何にもしとらんが。いい加減突っ込むけど緊張してる?まあお前儂のファンだもんな」

「はあ!?してませんけど!?大体まだ本物だとは決まってないし!拙者をダマそうとは良い度胸・・・」

「おいで、マスターソード」

「ヒッ」

 

手の中に愛剣を呼び出す。

眩いばかりの光を纏い、退魔の剣は現れる。

思わず漏れた悲鳴は四方から聞こえてきた。なんだ皆疑ってたのか?失礼な奴らだな。

 

「これで証拠になるな?儂は風の勇者・リンク。この海に呼ばれて来た(・・・・・・・・・・)。状況を把握したい。質問には素直に答えるのが吉だぞ」

「あ、あぁ・・・!メアリー・・・メアリー!」

「おっ、おちっ、おちついてアン僕を前に出そうとしない見てる!」

 

いや見るだろ。そんなにテンパってたら。

お互いにしがみつきながら段々と声量を上げているのは、金髪のアン・ボニーと銀髪のメアリー・リード。

槍から手を離さず、しかし震える手を隠せていないのはヘクトール。他の三人とは違い警戒を解いていない。・・・ふうん。

 

「お前は聖杯の所有者だな。女神エウリュアレを探しているらしいけど、目的は」

「・・・目的ぃ?」

 

問われてゆるりと顔を上げた海賊の顔は、不敵に剛腹に染まっていた。

 

欲しいから(・・・・・)に決まってるだろ!欲しいもんは奪う!邪魔者は潰す!それが海賊のルールだ!」

「・・・違いない。確かに海賊はそう(・・)だな。念のため確認しておくけど、特異点を修復する気は?」

「ないね!どうしてもってんなら、拙者達を倒してみせ・・・」

「ああ、そういうのはいい」

 

しかし美しい笑みに躱される。こつ、こつ、とリンクが黒髭に近づく。

未だ膝をついたままの海賊は、気圧されて動けない。す、と美貌が近づいた。

 

「海賊に善悪の押しつけなんてしないさ。好きにしろ、エドワード」

「―――――」

 

至近距離で囁かれた声は、匂い立つような色気を放つ。

どう考えても十代の少年が持ち得るものではなく、しかし相手が“勇者リンク”であるならば納得してしまうような、溺れてしまう瞳だった。

放心した黒髭から離れ、次は女海賊達のもとへ。

 

「あっアッあっこっちくる」

「なななななに僕たちなにも知らないよ」

 

完全に腰の抜けた二人の近くでしゃがみ込み、視線を合わせる。

 

「アン・ボニーとメアリー・リードだな」

「!? しっ、て・・・」

「同業者だろう?当然だ」

「・・・・・・ひっ、ひっ。うっ・・・・・・ぐすっ」

 

 

泣いてしまったんだが・・・・・・?

 

 

奏者のお兄さん 風も俺の気持ちを味わって

ウルフ やーい泣かした~

銀河鉄道123 先輩イケメンに慰めてほら

 

 

やってやんよウオオ

 

 

「なにがそんなに悲しいんだ?それとも・・・嬉しいのか?」

 

こくこくと頷く二人。

暗い夜道からようやく抜け出せた、迷子のような泣き顔だった。

 

「わっ、わたしたち、みたいな、海賊まで・・・。勇者リンクの・・・耳に・・・」

「憧れてたんだ・・・本当だよ・・・。あなたと、キャプテン・テトラに・・・」

「テトラの名前を出すとは、見る目があるじゃないか。しばらく世話になるから、よろしく」

「ばい゙」

「ゔん゙」

 

震える手で握手をすると「もう洗わない・・・」とえぐえぐと泣くアンが言いだした。メアリーは縋るように握った手を抱きしめている。落ち着いてほしい。

 

「ほらハンカチ」

「私物!?!?!?」

「無理い゙!!!!!」

「・・・そう言わずに」

「イヤアアアア!!良い匂いする!!!!」

 

 

言いたいことはわかるけど単語のチョイスには気を付けろ。泣くぞ、儂が

 

 

Silver bow 無理って意味じゃない無理・・・?(thinking face)

いーくん おじいちゃん頑張って

 

 

なんとか二人にハンカチを押しつけ(なんかこっちも意固地になった)、ただひとり緊張を解かない男に向き直る。

 

「外で話そうか」

「・・・ええ」

 

男の表情は固い。

ほんの僅かな時間でこの船を掌握してみせた少年は、大人びた笑みを崩さない。

真昼の太陽が甲板をじりじりと照らし、サーヴァントたちを熱気で包む。

 

「・・・・・・」

 

タクトを構える。身長差ゆえ首筋を差すだけだが、抑止力としてこれ以上のものはない。

 

「誰の手先?」

「・・・お見通しですか」

「兜輝くヘクトール。今までの特異点の傾向からして、黒幕の指示を受けてるサーヴァントがいるな?・・・教えてくれるか?」

「すいません、勇者リンク。雇い主を選べない戦争屋でも、義理くらいは通します」

 

内心の感情を消し、脳天気にへらりと笑う。

なるべく軽薄に見えるように、不真面目に感じるように。それが自分の仕事なので。

リンクはぴくりと眉を動かして、やがてゆっくりとタクトを降ろした。ふう、と息を漏らす。

 

「仕方のない子」

「おや、見逃してくれるんですか?」

「海の上くらい、お前の自由(すき)にすればいい。自由と信念のある奴が、海では1番強いんだ」

「・・・・・・」

 

ひらりと手を振って、手遊びにタクトを揺らしながらリンクは船内に戻っていった。

一気に汗が噴き出して、ずるずると手すりにもたれかかりながら尻餅をつく。

思い出したように心臓が騒ぎ出した。痛い。・・・破裂しそうだ。

 

「(なんだあのプレッシャー・・・!? ・・・・・・あれが、風の勇者・・・)」

 

ヘクトールが無理矢理従っているわけではないから、リンクも引いたのだろう。

あんな少年の体からこんな凄まじい圧が出るのか。決して舐めていたわけじゃないのに、しばらく足腰に力が入らなそうだった。

 

「(世界を救った勇者。海を制した海賊。新生ハイラル王国の初代国王・・・。なんて、偉大な)」

 

涙が出そうだった。押さえていた感情が溢れだし、混じり、ぐちゃぐちゃになっていく。

顔をとっさに手で覆う。漏れる嗚咽を堪えられない。

人生の手本だった。子供の頃からの慰めだった。夢と希望と、勇気の詰まった物語。

こんな形で会いたくなかった。・・・なんて。

贅沢すぎるだろう。こんな悩み。

 

 

うさぎちゃん(光) せんせーー!!!!!ヘクトールくんが泣いてる!!!!!

災厄ハンター 許せねぇよ・・・風の勇者・・・!

 

 

儂のせいか???ちゃんと空気読んで一人にしてあげただろ

 

 

潮風が慰めるように、肩を抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、な、な、な」

「えっえっえっえっ」

「なっ・・・・・・なんで」

 

駆ける、駆ける、駆ける、駆ける。

迷宮の中を走り回る。後ろを時々振り返って、叫ぶ。

 

「なんでリザルフォスがいるのーーー!?」

 

緑色の肌をした、爬虫類のような姿の魔物が追いかけてくる。

パニックになった思考のまま立香たちは逃げる。

キィキィと嘲るような声。バッと勢いよく顔を向けると、一つ目の翼をもつ魔物、キースが大量に横から来ていた。

剣と盾を構えた石像の横を通り過ぎる。すぐに聞こえたのは石を引きずるような重い音。しかも二つ。

 

『アモスだ・・・・・・』

 

呆然としたロマニの声が、静まりかえった管制室に響いた。

幾多もある曲がり角を越え、階段を駆け下り進む。子供が遊びで作ったような、滅茶苦茶な配置の地下迷宮(ダンジュン)は、ただ侵入者をのみこんでいく。

ようやく振り切ったところで立ち止まった。ぜいぜいと息がきれる。

 

『どうしてゼル伝の魔物たちが、このダンジョンに・・・?』

『壁の意匠を見る限り、ギリシャの建造物であると思う。ギリシャで迷宮っていうと・・・』

「ラビリンス・・・だね」

 

クレタ島にはかつて迷宮が建てられており、その奧には人の体に牛の頭を持った怪物がいたという。

決して、魔物ではなかったはずだ。

 

「・・・思わず逃げてしまいましたけど、倒せるんですか・・・?」

『・・・わからない。なぜ魔物が生息しているのかも判明していない以上、無用な攻撃は避けるべきだと思う』

「でも、また追われたら逃げれないよ・・・、!」

 

複数のリザルフォスが動き回っている。ブーメランや槍、盾を構えながらうろつく姿は、まさしく迷宮の番人だった。

咄嗟に身を隠すものの、あそこに居られては奧に進めない。

迷宮を照らす燭台の火が妖しく揺れ動くのを、マシュは視界の端で捉えた。

影。

 

「・・・っっ!! キャプテン!!」

「うおっ!?」

「なに!?どうし・・・・・・!」

 

巨大な手首の形をした魔物、フォールマスター。

天井から落下して獲物を捕らえ、ダンジョンの入り口に戻してしまうというモンスターである。

ドレイクがマシュに引っ張られて避けたことにより、本体だけがボトッと落ちる。ガサガサと巨大な虫のように蠢きながら闇の中に消えていった。しばし荒い息だけが響く。

 

「ありがとう、マシュ。助かったよ・・・」

「いえ、ご無事でなによりです・・・」

「ここも危ないのか・・・」

『・・・先に進みましょう。フォールマスターの縄張りから出ないと・・・』

 

ずん、と地響き。

 

一度だけではなく、連続的に。

不審がったリザルフォスたちが音の元に駆けていく。

ファイアキースが火の粉を撒き散らしながら飛んでいった。

耳を劈く雄叫び。思わず立香は膝をつく。

衝撃的な出来事の連続で、精神を摩耗していた。

 

 

「オオオオオオオオオオ!!」

 

 

ダンジョンが揺れる。石畳を伝って、びりびりと衝撃が体に響く。

 

「・・・行くよ。マシュ、立香。怪物が出るか魔物が出るかだ」

「キャプテン・・・?」

「ダンジョンのボスを倒さなきゃ、外に出ても意味が無い。ゼル伝で習っただろ?」

「・・・・・・!」

「・・・倒せるかな」

「弾が当たるなら倒せるさ」

 

先の見えない道の真ん中で、それでもドレイクは勝ち気に笑った。

立香はマシュに支えられて立ち上がる。汗を拭って、水分補給をして。

 

「・・・先輩、手を繋ぎませんか。少しのあいだだけでも」

「! ・・・うん」

 

咆哮はまだ聞こえている。

三人は周りを警戒しながらゆっくりと、しかし確実に進んでいった。

 

「オオ・・・!オオオオオオオオ!!」

 

やがて開けた場所に出る。

飛び散る瓦礫に当たらないよう様子を伺うと、暴れ回っている巨体が見えた。

顔には仮面を着け、全身は傷だらけ。牛頭人身の怪物――――。

 

「ミノタウロス・・・!」

『すごい・・・!魔物達を圧倒してる・・・!』

 

テリトリーに踏み込まれた怒りか、はたまた別の感情か。

片刃の斧が振り回される。ボコブリンを吹き飛ばし、リザルフォスを壁に叩きつけた。

 

「こ・・・ろ・・・す」

「こちらに気づきました!」

「戦闘態勢!」

「こ、ろ、す・・・!」

 

仮面の向こうでらんらんと目が光る。間髪入れず斧が振りかぶられる。

殺意と殺戮を召し上がれ。ようこそ我がラビリンスへ。

 

「ぐぅぅっ!?」

「・・・えっ?」

 

けれど背後から、巨体を襲う一撃。

なすすべもなく崩れ落ちた怪物の後ろに、あらゆる計測機をぶっちぎる存在がいる。

その場の全ての意識の外。カルデアの観測さえも欺いて、その魔人は現れた。

 

「迷宮を作れるとは、便利な能力ですね」

「・・・・・・・・・・・・なんで」

 

艶やかな髪を揺らし、紫のマントを揺らしながら。

ドレイクの掠れた声の問いかけに、魔人グフーはにこりと笑って答えた。

 

「この特異点には聖杯が二つあるのでしょう?一つくらい、ワタシが貰ってあげますよ」

『なっ・・・なっ・・・』

「ああ、なかなかですね。それではさようなら」

 

いつのまにか石化したミノタウロスは、当然ぴくりとも動かない。

その影響で迷宮は元に戻る。間にドレイクの体に腕が突っ込まれる。何も反応できなかった。

ねがいのぼうしが無くとも、元々グフーは武術と魔術の天才。ただの(・・・)人間のドレイクでは、なすすべもなく。

きらりと輝く聖杯を眺めながら、魔人は姿を消した。

 

「・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・』

 

沈黙が支配する。何を言えば良いのか、しばらく誰にもわからなかった。



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パープル・ヘイズ

季節の変わり目は眠いですな。


「アステリオス!アステリオス・・・!」

 

洞窟の隙間から飛び出してきたのは、紫の長髪をツインテールにした少女。

白いドレスに黒いワンポイントを揺らしながら、石化したアステリオスにすがりつく。

 

「貴女は・・・?」

 

立香がおそるおそる声をかけると、少女は潤んだ瞳でこちらを見た。

 

「・・・エウリュアレ。アーチャーよ。貴方たち何者?」

 

エウリュアレは元々別の海賊に追われていたらしく、この島でアステリオスと会い、守ってもらっていたという。

しかし立香達が来たことに気づき結界を張ると、なぜかどこからともなく迷宮に魔物が湧いてきたらしい。

 

「あんなもの初めて見たって、アステリオスも言ってたわ。・・・てっきり貴方たちが連れてきたのかと」

「いいえ、わたしたちも驚いています。魔物が発生したのは、おそらく・・・」

『・・・この特異点に現れた、魔人グフーに引っ張られてきたんだろう』

 

空気が改めて重くなる。

勇者リンクが来たのだ。ガノンドロフの存在も仄めかされている。そりゃ魔人も来るだろう。

理屈はわかる。・・・わかるのだが。

 

『誰か、アステリオスの石化を解く案はありませんか?』

『石化を防ぐ宝具はあるが、解くとなると・・・』

『ルーン魔術は?』

『石化に干渉できそうなルーンはある。・・・が、一つ懸念がある』

 

クーフーリンがため息交じりに話し出す。

それを通信機越しに、膝を抱えて立香は聞いた。

 

『いくら時代が変わってスケールダウンしているとはいえ、ハイラルの魔術だ。効くかわからねぇ』

「・・・そうね」

『一先ず船に戻らないかい?いつまでも洞窟の中では寒いだろう』

「そうさね。・・・よし!日が暮れる前に戻るよ!」

 

仕切り直すかのようにすっくと立ち上がったドレイクに、つられてみんなも立ち上がる。

アステリオスはマシュが背負い、森の中を進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――まあ、盗られたものはしょうがないんじゃない?」

「軽いねぐっちゃん・・・」

「むしろ攻撃されなかったのが幸運よ。無事で良かったわね」

「・・・うん」

 

へにゃりと眉尻を下げた少女に、眉をつり上げたアサシン。

少し苛立った表情で、マスターの肩を引き寄せた。

 

「あーもう!そんなに落ち込むんじゃないわよ!アンタのせいじゃないでしょ!」

「うん・・・」

「生きてりゃこんなこと何度でもあるわよ。アンタが無事ならそれでいいの。私の言うことが信じられない?」

「・・・ううん」

 

ぎゅう、と縋るように背中に手を回してきた立香に、虞美人は頭を撫でながら抱きしめ返してやる。

まったくかわいくない後輩である。弱音すら素直に吐けないなんて。

 

「マシュ、アンタは大丈夫かい?」

「はい、船長。・・・確かに酷く動揺しましたが、虞美人さんの言うとおり、攻撃されなかっただけ幸いです」

「・・・そうだね。聖杯は奪われちまったが、アタシたちはまだ負けていないよ」

 

今夜はここで一泊することにして、たき火と食事の準備が始まる。

体が動いていたほうが気が紛れるマシュは、手伝いのために浜に降りていった。

立香にはぐっちゃんが付いているし、あとは――――。

 

「どうだい。そっちは」

「・・・・・・駄目だな。どの宝具も弾かれる。さすが賢者の弟子、グフー。天才の所業よ」

「手が震えてるけど大丈夫かい?」

『発作みたいなものなので気にしないで下さい』

 

ルビーの瞳にとがった耳。ピッコル族の美青年、グフー。

彼のかけた石化の呪いは、ギルガメッシュの持つ宝具でさえ解くことはできなかった。

興奮すればいいのか感動すればいいのか悔しがればいいのか、もうよくわからなくなってるギルガメッシュの手は震えまくっている。

しかしそれは、他のサーヴァントや職員たちも同じ気持ちだった。

こんな状況でなければ、ハイラル時代の魔術にひたすら感嘆していただろう。

 

『そういえば、英雄王。キミは勇者リンクの武器も持っていたはずでは?』

「…フォーソードや夢幻の剣なら使えない。どうやらあれは勇者にしか使えないようにセーフティがかかっているようだ」

『えっそうなんだ』

 

唯一効きそうなマスターソードはそもそも蔵に存在しない。八方塞がりである。

 

「大丈夫よ、(エウリュアレ)。きっと勇者様が助けてくれるわ」

「・・・勇者様なんて、来るのかしら。こんなところまで・・・」

「ええ、きっと。ひょっこり現れて、あなたの困りごとも解決してくれるでしょう」

(ステンノ)・・・」

 

その隣では、女神達が額を合わせている。

ステンノが優しく頬を撫でれば、エウリュアレはバイオレットの瞳に涙を浮かべた。

エウリュアレもステンノと同じく、永遠に美しい代わりに、か弱く無力な少女である。

あの魔人――――。

一目見て背筋が寒くなった。崩れ落ちることもできず、ただ呆然としていた。

古い土着の神ですら、格が違うとわかる。

あんな恐ろしいものは生前ですら見たことがない。

怖くて怖くて、アステリオスが石化されても、声すら上げられなかった。

もしまた出会ってしまったら、どうしたらいいんだろう。

 

「(勇者様・・・)」

 

(ステンノ)は会ったことがあると言う。

影の中からワンと現れた。ふわふわの勇者。

エウリュアレの所にも、来てくれるのだろうか。

当たり前のように、助けてくれるのだろうか。

優しく背中をさすってくれるステンノに寄りかかりながら、女神はぽろりと涙を落とした。

 

「マスター!ぐっちゃんも!夕飯が出来たよ」

「うん。いただきます」

「良い香りね。いただきます」

 

努めて明るい声を出しながら、ブーディカが島から声をかける。

船から降りてきたマスターは、少し目元が腫れているけど、自然に笑えているようだった。

こんなに若くて、可愛らしいマスター。どうしても娘の姿を重ねてしまう。

どうか健やかでありますように。どうか笑顔でありますように。

 

「おいしい?おかわりもあるからね。はい、飲み物」

「うん、おいしいよ」

「・・・この肉、美味しいわね。なんの肉?」

「ワイバーン」

「えっ」

「そこで狩ったワイバーン」

 

狩りたてほやほやである。

 

「マスター、デザートもあるからね。キャットと作ったんだよ」

「うん。・・・ブーディカ」

「なあに?」

「ありがとう。明日も頑張るね」

 

たまらなくなって抱きしめた。

苦しいよ、と笑い混じりに少女は言う。

 

「マスター、あたしの力が必要だったらすぐに呼んでね。勝利の女王の力を見せてあげる」

「頼もしいな」

「キミのサーヴァントだからね」

 

空が橙色に染まる。朱色の太陽が眠りに落ちる。

星が目を覚ますまで、たき火の炎は消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な影が海底から現れる。黄色く光る目玉は8つ。

ぎょろぎょろと獲物を吟味して、紫の触手をくねらせる。

 

「ダッ・・・」

「ダッ・・・」

「ダイオクタじゃん・・・」

 

巨大な渦が発生した。船はあっという間に巻き込まれる。

 

「ナンデ!?ダイオクタナンデ!?」

「わからん。なんでじゃろ」

 

 

ファイ!

 

 

ファイ 魔物が発生するということは、魔を司る何者かがこの特異点に居るということです。

バードマスター 誰?魔王?

 

 

・・・いや、ガノンドロフではないと思う。勘だけど

 

 

奏者のお兄さん 魔王か魔王じゃないかの勘だけは百発百中なんだよな

銀河鉄道123 じゃあ誰だろ。うちのマラドーファミリーでもないと思いますが・・・

りっちゃん ディーゴくんは改心したでしょ。ファミリーとか言うてやるな

 

 

「メアリー!大砲準備!」

「! 了解!」

「えっ効きます?拙者の船の大砲でも効きます?」

「儂が撃つから効く」

「ヒューウ!」

 

既に船は渦に流され、身動きが取れなくなっている。

大砲を旋回させて角度調整、無駄撃ちなどしない。

 

「・・・()ぇーーー!!」

 

側面の目玉に1発。間髪いれずに3発。目玉を潰す。

攻撃を受けたダイオクタが我武者羅に触手を動かす。渦の流れが強くなり、船がぐんと引っ張られる。

なんの問題も無い。残り4発も正確に撃ち込まれた。魔物は海に消えていく。

まるで白昼夢のように、海は静寂を取り戻した。

 

「・・・さすが風の勇者」

 

ヘクトールがぽつりと呟いた。

 

 

小さきもの ・・・・・・ウチだ。

 

 

はい?

 

 

小さきもの グフーの気配がする。エゼロもそう言ってる。

守銭奴 あ~・・・。しますね。はい。

フォースを信じろ えっでも座では大人しくしてた・・・・・・けどあいつ人の悪い心に興味あったな・・・。

小さきもの だからわりと人間にちょっかいかけるし自分も悪いことするんだよ。

 

 

来る?しばく?

 

 

小さきもの 風だけでも大丈夫だろ。代わりにしばいといて

 

 

りょ

 

 

「今はとっさだったから儂が出たけど、サーヴァントでも魔物は倒せると思う」

「わたしの銃でも・・・?」

「大丈夫だ。次は任せたよ」

「はい!」

 

きらきらと目を輝かせたアンが返事をする。

それにリンクがくすりと笑う。元気なのはいいことだ。

船は改めて、聖杯を所持しているという海賊の元へ向かう。

 

「そうだ、ティーチ。儂、戦闘には参加しないから」

「え~」

「お前達だけで十分だろう?魅せてくれよ」

「んも~。仕方ないですな」

 

 

そういえばカルデアの子達もそこに居るかな?

 

 

騎士 もっと早めに気にしてくれ

Silver bow マイペースだなぁ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絡め取られて蜘蛛の巣に。

蝶は誰にも捕らえられず。

飛んで火に入る夏の虫。

 

「こんにちは。キャプテン・イアソン」

 

豊かな藤紫の髪を風に揺らし、麗しい青年は現れた。

太陽を背にして、蕩けるような笑みを浮かべる様は、まるで天からの遣いのよう。

誰も彼もが目を奪われて、現実かどうか疑い出す。

 

「お前、は・・・・・・」

 

こちらを凝視する男に、グフーはゆっくりと目を合わせる。

 

「魔人グフー・・・・・・?」

「聖杯が――――欲しくありませんか?世界を救うために、王になるために」

 

グフーは人間の悪い心に興味がある。

それと同じくらい今は、それ以外の(・・・・・)感情に興味がある。

 

「なんの、なんのつもりだ」

「そのままの意味ですよ。ワタシ、アナタに興味があるんです」

 

聖杯を投げると、イアソンは反射的に受け取る。

震える手で杖を握りしめている魔女と、斧剣を構えこちらを睥睨する男は、どうするべきなのか迷っているようだった。

 

「それがあれば、もっともっと戦力を呼べるでしょう。ああ、なんならワタシも手伝ってあげますよ」

「は・・・・・・」

「ワタシ、勇者に倒されて反省したんです。ええ、今度こそは師の願い通り、賢者として人々を導きましょう」

 

嘘では無い。反省はした。だが後悔はしていない。

導くとは言ったが、世界を救うとは言っていない。

グフーは人間の心が知りたい。善でも悪でも、沢山の感情が見たいだけ。

人々の夢と思惑が重なり、2つの聖杯によって特異点が歪み、その結果生み出されるものはなんだろう。

気ままで気まぐれ。無邪気で残酷。強大で苛烈なピッコル族。

座で他の悪属性達と接したことにより、その手に負えなさには拍車がかかっていた。

唯一止められそうな老いたガノンドロフは雀のお宿に慰安に行っている。ギラヒムも付いていってしまった。

 

「・・・は、ははは。はははははは!」

 

でもそんなこと、夢に目が眩んだイアソンにはわからない。

黒幕に逆らえないメディアには、魔人なんてもっとどうにもできない。

ヘラクレスは、友の滅びの未来を悟った。

かつて己も勇者と呼ばれた、その勘でわかる。これは駄目だ(・・・・・・)

だが自分にもできることはない。唯一希望があるとしたら、連鎖されて召喚されているかもしれない、緑の服の勇者――――――。

 

「いいだろう!私の魔術師として、仕えることを許す!」

「ありがたき幸せ。どうかアナタの手足として、ご自由にお使い下さい」

 

楽しいなぁ。楽しみだなぁ。

盲目の人間は面白い!

海は混沌としていく。誰にも予想できぬ未来に。



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海賊 vs. 海賊

オベロンが来なかったことを引きずっていますが、夏イベに入りました。
カルデア・データベースと特異点の勇者達を更新しています。


「・・・さて、地図によれば次の島はもう少し先か・・・。ん?」

「どうしました?」

「あー、ちょっと風向きが変わったな。こりゃ、陽が沈む前に嵐になるかもしれないねぇ」

 

襲ってくる海賊共をぶちのめし、ぶんどった地図に従って船は進む。

ざあざあと流れる風を敏感に感じ取ったドレイクが、クルーに指示を出していく。

 

「お前たち、貨物や食料を整理しておきな!」

「あいよ!」

「~♪」

「・・・歌?」

「あら、聞こえてた?」

 

そっと流れてきた歌声に立香は発生源を探す。

正体はすぐに見つかった。石化したアステリオスに寄り添って、エウリュアレが囁いている。

 

「ま、いいわよ。あなたにも特別に聞かせてあげる」

「うん。ありがとう」

「ラ、ラ、ラ・・・・・・」

 

つかの間、甲板には穏やかな空気が流れた。

雲の影が通り過ぎる。

 

「いいねぇ。癒やされるわー」

「なかなかいいじゃない」

「・・・綺麗な歌ですね」

「フォウ・・・」

「・・・はい、おしまい」

 

入道雲がのぞき込むように体を大きくした。

潮風が立ち止まっていく。

 

「・・・そういえば、エウリュアレさん。1つ質問が。あなたはどうして追われていたのです?」

「厭なこと思い出させるわね、あなたは」

「ごめんなさい。それでも、聞いておくべきだと思ったのです」

「・・・・・・ふうん。ま、悪気はないようだから許してあげる」

 

樽の上に腰掛けて、女神はゆるりと視線を向けた。

すこし不機嫌そうに口を尖らせたものの、隠す気はないようだ。

 

「・・・・・・ほら。私、可愛いじゃない」

「・・・・・・はい?」

「だから、私可愛いでしょ?」

「ええとその・・・はい」

「あなたもそう思うわよね?」

 

くるりと近くに腰を下ろしていた立香に向き合う。

立香はぱちりと瞬きをして、頷きながら答える。

 

「うん。エウリュアレは可愛いよ」

「そう。私可愛いし、可憐なの。だからいつも男共に狙われるんだけど・・・・・・」

 

ふう、と頬に手をつき、憂う姿はまさしく優美な乙女。

 

「今回は特別たちの悪いヘンタイに狙われたみたい。ドレイクと同じ、妙な海賊にね」

「海賊に・・・?」

「ただの海賊じゃないわ。海賊のサーヴァント(・・・・・・・・・)に狙われたの」

「・・・・・・!」

 

真名はわからない。

ただ、世界最強の気持ち悪さなのは確かである、と。

 

「アイツの前じゃスキュラも自分の体を見直すくらいに」

 

犬の頭をもつ怪物と比べられるとは。

一体どんな海賊なのだろうか・・・・・・。

 

「姉御、前方に船一隻!」

「海賊かい!?」

「そうです!・・・・・・ああ、アレだ。あの旗だ!姉御!あの船、例の旗と同じ海賊旗を掲げてます!」

 

そうこうしているうちに地平線の向こうから、近づいてくる船が見えた。

勢いを落とさぬまま突っ込んでくる。牽制の砲撃も効かぬ。

 

「急速旋回!」

「間に合いません!」

「チッ・・・衝撃に備えろ!ぶつかるぞ!」

 

船と船がぶつかり合う、轟音が海に響いた。

衝撃に身を伏せる。

しばらくして周りを見渡すと、こちらをねめつける巨船。

 

「あの旗・・・そうだ!ドクター!」

『そういえば通信断絶で聞こえてなかったね!いいかい、あの旗は――伝説の海賊だ。ハイラル史以降、史上最高の知名度を誇る海賊だ!』

「ハイラル史以降の史上最高の知名度・・・・・・。まさか!」

『そう。黒髭だ!真名エドワード・ティーチ!みんな、気を付けて!』

「アイツ・・・!覚えてるよ、あの髭野郎だ!」

 

船首からこちらを見ている、黒い髭の男がいる。

鉤爪が光を反射してきらりと光った。ぴりりと引き締まる空気。

 

 

「エウリュアレちゃぁぁぁぁん♡♡♡」

 

 

くう、き・・・・・・・・・。

 

「ああやっぱり可愛い!かわいい!kawaii!ペロペロしたい!されたい!主に腋と鼠径部を!あ、踏まれるのもいいよ!素足で!素足で踏んで、ゴキブリを見るように蔑んでいただきたい!そう思いませんか、皆さん!」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ん?」

 

目ざとくマシュと立香を見つけた男が、でれっとさらに相好を崩した。

 

「んー・・・・・・んー、んーんー・・・・・・・・・・・・(まる)!ごーかーく!てれれれってれ-!」

「!?」

「ンー、片目メカクレ系は誰が好きだったんだっけ?バーソロミューの奴だったカナ?いやアイツは両目メカクレ属性だっただっけ・・・・・・。まあどうでもイイことですな。ともかくそこの(サバ)、ついでに活発金目美少女ちゃん!名前を聞かせるでござる!さもないと――」

「さ、さもないと何ですか」

「今日は拙者、眠るときにキミたちの夢を見ちゃうゾ♪」

 

 

ウルフ こいつキモイな

騎士 何の法なら裁ける?はやく合法的に殺してくれ

バードマスター 犯罪者じゃん 犯罪者だった

 

 

「マシュ・キリエライトと言います!デミ・サーヴァントです!」

「藤丸立香です・・・・・・」

『いいのよ素直に答えなくて!?』

(ローマ)の愛し子たちに邪な目を向けるとは・・・・・・』

『神祖の殺意が鰻上りだーーっ!?』

 

 

ティーチ君の良くないところが全部詰まってる

 

 

奏者のお兄さん じんましんがでそう

うさぎちゃん(光) この人生前からこうなの?流石に違うよね?

 

 

「テメェ・・・。何無視してやがる・・・!」

「ワー・()!」

「散々、アタシにちょっかいかけやがって!!聞いてんのかこの髭野郎!!」

 

まるで居ないかのように振る舞う黒髭に、業を煮やしたドレイクが発砲する。

ぎらりと睨むその姿は、まさしく偉大なる船長の迫力。

 

「はぁ?BBAの声など一向に聞こえませぬが?」

 

でも相手はこんな感じなんですよ。

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

「BBAはお呼びじゃないんですぅ。何その無駄乳、ふざけてるの?まあ傷はいいよ?イイよね刀傷。そういう属性はアリ。でもね、ちょっと年齢がね。困るよね。せめて半分くらいなら、拙者許容範囲でござるけどねえ。ドゥルフフフ!」

「・・・・・・」

「船長、だいじょう・・・。死んでる(精神的に)」

「ど、どうしましょう。こんな変な人初めてです・・・」

「・・・・・・んー?」

 

空気が廃墟のプールより死んでしまった。

こっちはこんなに淀んでいるのに、まったく気にせず黒髭が首を傾げた。

 

「あれ?BBAの聖杯無くない?」

「・・・!」

「あっれー?もしかしてBBAちゃん・・・盗られちゃったんですかー?ええー!ウッソー!ぷぷ、ウケるー!」

「殺せ・・・」

「え?」

「大砲、撃て。あんのボケ髭を地獄の底に叩き落としてやれェェッ!!」

「ア、アイアイマム!」

 

振り切れた怒りで正気に戻ったドレイクが、殺気と共に指示を出す。

走り出す船員。変態に目をつけられないよう、隠れていた虞美人も出てくる。

敵のサーヴァントたちも勢揃いだ。磨き上げた武器を構える。

 

「ドゥフフフ!盛り上がってきた!では海賊同士いざ尋常に――ブッ殺!」

 

即座に乗り移ってくるのは二人組のサーヴァント。

マスケット銃を携えたアンと、カトラスを持ったメアリーだ。

 

「パーシヴァル、船長をお願い!」

「お任せを!」

「ランサーが来るわよ!」

「はいっ!」

 

カトラスを聖槍が受け止めた。

小柄な体躯は小回りがきく。襟の高いコートは死角をつくる。捉えづらい連続切りが騎士を縫い止める。

だが甲板という慣れない場所でも、騎士の強さは揺るがない。

正確に受け止め、打ち返す。――殺気!

 

「くっ・・・!」

 

銃が横から振りかぶられる。

紙一重で避ければ、ドレイクの銃弾が撃ち込まれた。飛び退く二人。

 

「悪い!突破された!」

「いえ。・・・凄まじいコンビネーションですね」

 

アンとメアリーは笑っている。

楽しくて楽しくて。

 

「流石、フランシス・ドレイク。まだ人間なのにその身のこなし」

「アタシを知ってるのかい?もしかして同業?」

「百年以上後の海賊さ。だから敬意を表して告げさせて」

 

パーシヴァルは前に出て、油断なく構えた。

マスターに任されたからには、相手が誰だろうと負けるわけにはいかない。

 

「我らが真名“アン・ボニー”と“メアリー・リード”。此度の現界、敵として立ったからには――この名を抱いて死ね。偉大なるフランシス・ドレイク」

「いいね同業・・・!殺し合えて光栄さ!」

 

同時に飛び出した二人に、聖槍の突きが出迎える。

槍の連突きを、僅かに勝る敏捷で避けて躱して突破したのはメアリー。すぐさま撃ち込まれた弾丸など当たらない。

 

「――!」

「ハハッ」

 

突っ込んできたのはドレイクも同じだった。右手の正拳突きを受け止めて、衝撃に勢いが殺される。

咄嗟に出た蹴りでドレイクを引き離し、カトラスと銃がぶつかり合う。

それを横目で見ながら、アンは歯がみした。

このしろがね色のサーヴァント。地力が違う。

海上では海賊のサーヴァントであるアンの方が有利なはず。

なのに完全に拮抗している。ぴったりとくっつかれ、メアリーの援護には行けなさそうだ。

そもそもアンは狙撃手である。近接戦闘は分が悪い。

 

「くっ・・・!」

「はぁっ!」

 

 

災厄ハンター パーシヴァルくんさらっとカルデアに居るけど何の縁?

りっちゃん たぶん僕~。僕がカルデアに居るときに召喚されてたっぽい

Silver bow モリアーティが泣かされてる裏でそんなことが・・・

 

 

同じランサーでも随分違う。

ヘクトールの槍はマシュの盾を弾き、虞美人の短剣を叩き落とす。

 

「(なんて技量・・・!)」

「ええい、鬱陶しいわね!」

「怖いねぇ。オジサン肝が冷えちまう」

 

長い槍が懐への侵入を阻む。

石突の殴打が虞美人を吹き飛ばし、速さで劣るマシュは盾で攻撃を防ぐのが精一杯。

 

「ぐっちゃん・・・!応急手当!」

「先輩をつけなさい・・・!」

「遅い遅い。そんなんじゃ一撃も入らないぜ?」

 

とん、とんと槍で肩を叩く。ヘクトールは余裕そうだ。

後ろでそれを静観する、黒髭は残酷に笑った。

 

「宝具解放準備――完了☆」

「! マシュ、宝具・・・!」

「おっと、危ない」

 

ヘクトールにマークされたマシュは動けない。

虞美人が援護に回るが、鞭のようにしなる槍が短剣を砕いていく。

敵の船の砲塔に魔力が集まっていく。一斉射(いっせいしゃ)が来る!

 

「マスター!魔力を!」

「パーシヴァル・・・!?」

「大丈夫!いけます!」

 

砲撃に巻き込まれる前に、アンとメアリーが船に戻る。

ドレイクとパーシヴァルがフリーになった。宝具まであと数秒。

 

「全員聞けぇ!生きたい奴は今から、アタシの言うとおりに動けぇっ!!」

「お願い、パーシヴァル!!」

「聖槍、二重拘束解除。カウントダウン──」

 

ヘクトールが撤退した。あと3秒。

 

「ああ、やっぱりテメェはそういう女か」

 

どこか嬉しそうに、黒髭が呟いた。

 

「だが、遅ぇ。刻め、星の開拓者(フランシス・ドレイク)

 

走り回る船員。槍を構える男。真っ直ぐにこちらを見ている少女。

全て沈めてみせよう。全て砕いてみせよう。

 

「これが黒髭の“アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)”だ!!」

光さす運命の槍(ロンギヌス・カウントゼロ)!!」

 

爆発音が海を、空を、潮風を散らす。

砕けた波が飛び散るのを、風の勇者は一人眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、逃げられちゃいましたね」

「あいつら、船長の宝具を受けてよく平気だったね」

「それはね、メアリー」

 

海が静けさを取り戻すのに、しばし時間を必要とした。

 

「とっさに船を傾けたのよ。それで威力を分散させたの」

「その前に真正面からぶつかった宝具のせいで、相当威力が落ちてたしな」

「リンク殿~!」

 

船室からのんびりと出てきたリンクの前に、ずさーっと黒髭が滑り込んでくる。

 

「お疲れ、お前達。みんな強いじゃないか」

「当然です!」

「ま、まあこれくらいはね」

「お褒めいただき光栄です」

 

胸を張る三人をにこやかに眺めてから、不審者を見る目つきで黒髭の方を見た。

 

「聖杯の所在なら知らないぞ」

「えーっ!」

「凄い・・・勇者にあんな目を向けられても通常運転なの凄い・・・」

「もうちょっと気にするべきだと思う。人として」

「海賊スゲーなぁ」

「でも1つわかることがある。この時代に魔物が発生してるあたり、どうも儂らの時代の誰かが来ているようだ」

「・・・ほほう」

 

 

小さきもの ねぇあの船からグフーの気配しなかった?

守銭奴 した。魔力を感じた

フォースを信じろ 聖杯、あいつが、持ってったのでは・・・・・・?

 

 

傍迷惑すぎる

 

 

「というわけでそろそろ儂はお暇する。どうも状況が変わってきた」

「えっ」「えっ」

「アン、メアリー。これからも仲良くやるんだよ。ヘクトール、くれぐれも無理はしないように(・・・・・・・・・)

「はいっ」

「うん」

「・・・へいへい」

「ティーチ」

「デュフ」

「・・・悔いの無いように生きなさい」

 

 

悪い奴ではあるし変態なのは事実なんだけど・・・・・・こいつ儂のサイン座に飾ってるんだよな

 

 

銀河鉄道123 わかりますよ。その微妙な心境

 

 

手を振れば赤獅子が水面に現れる、と全員が柵にしがみついた。

幼子のように目を輝かせて、唯一無二の愛艇(あいてい)を目に焼き付けている。

 

「あ、ああああああ赤獅子の船」

「・・・ほっ、ほんっ。ほんっ・・・」

「やべぇ・・・・・・・・・・・・」

「リンク、行くのか?」

「うん」

「マジで喋ってる!!!」

 

 

じゃあドレイクさんち行くか~~

 

 

「じゃあな。お前達、元気でやれよ~」

 

ひらひらと手を振ってやれば、4人全員が振り返してきた。

まるで港から出港する船に手を振る子供のよう。

リンクと対面すると、自然と精神があの頃に戻ってしまうのだろう。

そういうところは微笑ましくてかわいいな。

匂やかな笑みを向ければ、顔を赤くして沈黙する。

 

赤獅子がざぷりと波に乗り、姿が見えなくなるまで、4人はリンクを見送った。



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愛も変わらず、ハイに気ままに

「あら?」

 

地平線の向こうから災いはやって来る。

暴風は全てを呑み込むか?まだ誰にもわからない。まだ誰にも、わからない。

 

「船長!前方に船が一隻――・・・?」

「・・・何かしら。すごく、嫌な感じ・・・」

 

風の勇者を見送ってすぐその船は現れた。

砂を噛むような雰囲気の、されど粘着質な傲慢さを感じる。

ギリシャ神話にて金羊の毛皮を求め、旅だった。冒険者達の伝説の船。

 

「初めまして、薄汚い海賊達」

 

ぴったりと横付けされた船の奧から、芝居がかった口調で男がやって来る。

高貴ぶった仕草。こちらを見下す緑の目(グリーン・アイ)。リンクとは似ているようで全く違う、クロムイエローの髪。

黒髭は一瞬訝しげな顔をして、すぐに顔を顰めた。

 

「・・・まさか、アルゴノーツ?」

「アルゴノーツ!?あのギリシャの海賊団・・・!」

 

アンが弾かれたように反応する。メアリーは最大限に警戒してカトラスを握り直した。ヘクトールは紙一重で驚愕を隠す。

何故?どうしてここに?・・・いや、それよりも。召喚された時とは全く違う、この膨大な魔力は一体――――。

そんな海賊達の振る舞いを、蟻を眺める子供の目でイアソンは見ている。

 

「いかにも。我々はアルゴノーツ。世界を正しくあろうとさせる、正義の英雄達だ」

「ハッ。歯の浮くような台詞をどうも。英雄様が何の用だ?」

「もちろん、君の持っている聖杯さ。私という王にこそ天の杯は相応しい。お前のような、三流の海賊ではなくてね」

「断る。死ね」

 

女王の船(クイーン)が撃ち込んだ砲撃は、堅牢な魔力障壁に阻まれる。

爆炎は届かず、爆煙が視界を遮った。

舌打ちをする間もなく巨躯が飛び移ってくる。

その男こそ――――ギリシャ神話最大の。否、人類史においても最大の英雄。

十二の試練をくぐり抜けた超人。その功績から死後、星座として神々の座に加えられた破格の勇者。

此度はバーサーカーとして現界した英霊、ヘラクレス。

揺れる船。ふらつきながら構える海賊。勝ち誇った顔のイアソン。

 

「ヘラクレス、まずはあの女海賊達を殺せ」

「■■■■■■――!」

 

抵抗なんてできやしない。気づいたらもう目の前に居て。

振るわれる斧剣にあっさり頭が潰された。

衝撃に体が崩れる。甲板に叩きつけられる。

ぐちゃり。

血がたくさん飛び散って、黒髭の頬を汚す。

 

「・・・・・・・・・てめえ」

「ははは。怖い怖い」

 

あらゆる場所であらゆる怪物と戦った。

敗北などなく、最後には神にまで至った男。

それは確かに偉大なる英雄。最強と呼ばれるに相応しい勇者。

最も黒髭にとっては、量産型の記念コインよりも興味がないけれど。

 

「とはいえ私にも慈悲がある。君が大人しく聖杯を渡すならば、見逃してやってもいい。――――ああ、ヘクトールは返して貰うが」

「なんだ先生。敵だったのでちか?」

「・・・そうなんだよ。悪いね、船長」

 

合わなくなった目に、怒りを覚えることはない。

だって黒髭は知っている。ヘクトールがあの時、一緒に目を輝かせていたことを。

 

「・・・そんなに聖杯が欲しいならくれてやるよ。俺も死にたくはないんでね」

「おや、存外物わかりがいいんだね。まあ気持ちはわかるよ。ヘラクレスは怖いだろう?」

 

怪物が怖くて海賊が出来るかよ。こいつ何もわかってねぇな。

ヘラクレスなんてどうでもいい。イアソンはもっと興味ない。

黒髭が今気にしているのは、背後に立っているヘクトールだけ。

 

「そういう訳だから先生、そろそろ睨むのは止めてくれよ。俺の性格はよく知ってんだろ?」

「ええ、よく知ってますよ。――じゃあオジサンは船に戻りますね」

 

ああ、わかるとも。

アンタが最後のあがきに何かしようとしている事くらい。

ヘクトールは政治家で、戦争屋で、仕事人だ。

本当の感情など面に出さない。仕事に私情など挟まない。

後ろから黒髭を槍で貫いて、聖杯を奪う。それで終わりだ。

 

「(・・・・・・・・・・・・)」

 

けれどヘクトールはアルゴー号に戻った。

もし黒髭が何かしても、とっさに動けないよう(・・・・・・・・・・)に。

今までの自分ならば、こんな半端な仕事はしなかった。見て見ぬふりなど。雇い主を裏切るなど!

 

 

“ヘクトール”

 

 

・・・でも、声が消えないのだ。

 

 

“無理はしないように”

 

 

優しい声が消えないのだ。

あの人はどこまで見えていたんだろう。

ヘクトールの勇者はヘラクレスじゃない。海の王はイアソンじゃない。

レモンよりも瑞々しい金色が、目に焼き付いてしまったから。

黒髭が胸に手を突っ込んで、聖杯を取り出す。その僅かな間。

 

「(――聖杯よ、風の勇者の元へ行け!)」

 

コンマ数秒でも、思考する時間があるならば。

光が弾ける。ほぼ同時にヘラクレスが動く。

ヘクトールが辛うじて視認できる速度で、斧剣が黒髭を砕いた。

だが遅い。

聖杯はすでに流星のごとく、空の向こうへ飛んでいく。

 

「塵屑が!!」

 

ヘクトールは地団駄を踏むイアソンから目を逸らした。

なんなら船の中から感じる禍々しい気配からも、明らかに増えているサーヴァントの姿からも目を逸らしたかったけれど。(おそらく機械で出来ている?人なのか馬なのかよくわからない奴とか。白い髪の、神父っぽい青年とか!)

それは叶いそうにもなかったので、そっと晴天を仰ぎ見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金色の輝線を描いて聖杯が飛んでくる。

逃げるように、追いかけるように、挨拶もなく。

赤獅子の上でそれを受け取ったリンクは、額にこつりと杯を当てた。

ひんやりとした、声なき声。

 

「・・・ティーチがやられた」

 

 

奏者のお兄さん 第三者?グフー?

守銭奴 第三者&グフーかもしれん

小さきもの 卑しか男ばい!見んねエゼロ!

小さき爺 弟子が本当にすまん

 

 

「まあバラバラでいるよりは、一塊になってくれたほうがいい」

 

聖杯を懐にしまう。

じんわりとした魔力を感じながら遠くを見つめていると、波と共に流れてくる気配に気づく。

 

「・・・んん?」

「これは・・・聖なる気配か?」

 

 

小さきもの なんかあるね エゼロわかる?

小さき爺 専門外じゃ

小さきもの 専門外かぁ

 

 

「ちょっと寄り道しようか。赤獅子、向かってくれる?」

「うむ。任せておけ」

 

ゆったりと舵が切られる。

船から広がる細波は、ヴェールのように繊細だ。

雲影(うんえい)の中から島が出てくる。

降り注ぐ日光に目を細めながら、赤獅子は浜に到達した。

 

「・・・ああ」

 

島の森の中。

サーヴァントの気配に気づいた男女が顔を上げる。

新緑を詰め込んだ髪を持つ男は、ため息とも感嘆ともつかない声を零した。

その煮え切らない態度に、猫耳をぴるぴる動かして女が言う。

 

「鬱陶しいぞ。ため息ばかり。私が見てくるからお前はここにいろ」

「待ってくれ、麗しい君よ。この状況で一人残される方が辛い。僕も行こう」

「邪魔はするなよ。まだ敵か味方かもわからん」

 

足音を立てずに走り出した女を、慌てて男が追いかける。

あっという間に木々をすり抜け、白い砂浜とそこに立つ少年が目に入った。

――――――どくん、と。

心臓が脈を打つ。

 

「――――――ぇ」

 

警戒の思考も態度もすっぽ抜けて、翠緑の女――アタランテは立ち尽くす。

数歩後ろを追いかけてきた男――ダビデは、その少年を見て急な喉の渇きを感じた。

突然高鳴る心臓の音が、思わず荒くなる呼吸音が、聞こえていないか気になってしまう。

少年がこちらを振り返っても、言うべき言葉がわからなくて。

 

「こんにちは。名前を聞いても?」

 

気を遣わせてしまった!

思考が剛速球で通り過ぎ、動揺を全く隠せてない声が滑り落ちた。

 

「・・・僕はダビデ。生前は古代イスラエルの王です」

「アーチャー、アタランテ。・・・えっと、お目にかかれて光栄だ。勇者リンク」

 

声が震えて居ないだろうか。ダビデの頭の片隅の、冷静な部分が考える。

 

「風の勇者・リンク。こっちは相棒の赤獅子だ。よろしく」

「あ、ああ」

「・・・これが、あの赤獅子の船」

「ところでさっそくだけど、この島の奥から感じる不思議な気配について説明して貰っても?」

「・・・お気づきでしたか。では僭越ながら、僕が」

 

イアソン率いるアルゴノーツ。

敵対することを選んだアタランテ。

イアソンが探している契約の箱(アーク)。そして女神エウリュアレ。

この海域において最初に召喚されたサーヴァント、ダビデ。

そして契約の箱(アーク)は彼の宝具であること。

 

 

守銭奴 そういうことか・・・。どう思うエゼロ

小さき爺 契約の箱(アーク)はたしか神に捧げられた聖遺物だろう?そこに女神を捧げるのはおかしくないか?

 

 

確かに。いいとこ突くねエゼロ

 

 

そもそも契約の箱(アーク)とは?

旧約聖書に記された聖遺物の1つ。

神の指示を受けたモーセが作らせた“十戒”を封じた箱。

開いたものに罰をもたらすという、“開けてはならない”逸話の箱だ。

 

「アークにエウリュアレを捧げれば世界は救える・・・と。奴は頑なに信じているようだった」

「だけどこの箱に神を捧げても、世界なんて救えない。どころか機能不全を起こし暴走するだろう」

「騙されてるってことか・・・」

 

 

フォースを信じろ エゼロご名答

小さき爺 当然じゃな!(Partying Face)

ウルフ そしてイアソンくんはさぁ

災厄ハンター あぁ~!イアソンくんの好感度が下がる音ォ~!

 

 

「事情はわかった。特異点が崩壊するのは見過ごせない。儂も手伝おう」

「! あ、ありがとう、ございます」

「感謝します。勇者リンク。直に女神アルテミスとオリオンが、正しきマスターを連れてくるでしょう。それまでお待ちいただければ」

 

アタランテは旅だってすぐ、一騎のサーヴァントとして召喚されたアルテミスとオリオンに出会っていたようだ。

この特異点を修正するため、示し合わせて別行動を取っていたらしい。

 

「そうだな。儂には少し考えなきゃいけないこともあるし」

「考えないといけないこと・・・ですか?」

「おそらくイアソンの後ろに付いている、魔人グフーのことだ」

「!?!?」

「グフーが・・・何故・・・?」

「そりゃ悪属性だからなぁ。人の足を引っ張るのが趣味さ」

 

イアソンをけしかけて黒髭を潰したのは、グフーで間違いないだろう。

奴の性格から考えて、直接手を出すのは最低限だとして。

最も警戒すべきなのは――――。

 

「聖杯で召喚されているかもしれない、新たなサーヴァント。そして強化されているだろうヘラクレスだ」

「な、何てことだ・・・・・・」

「メディア、ヘクトールはお前たちでもどうにかなるだろう。ただヘラクレスは――――」

「・・・貴方が、自ら?」

 

 

騎士 ヘラクレスってそんなに強いのか?

ファイ 最も恐るべき点は十二の試練を踏破した事により、十一回の蘇生のストックを持つということでしょう。

バードマスター ひえ・・・。嫌すぎる・・・

 

 

「そうだな、儂が出よう。新しく召喚されてるかもしれないサーヴァントは、それこそアークにでも触れさせればいい」

「・・・簡単に言いますね」

 

苦笑が漏れるけど、ちっとも嫌な気分じゃなかった。

頼られている。期待されている。あの勇者が!僕たちを・・・!

 

「それくらいの労働はするべきだ、ダビデ王。アタランテ、女神達は結構遠くに行ったのか?」

「えっ。ええと、そんなに離れた場所には居ないと思うが」

「なら明日にでも、マスターを連れて合流するか。儂の勘は当たるんだ」

 

この場でもっとも幼い姿をしているのに、もっとも貫禄がある。

地面に無造作に腰を下ろしていても、品位が少しも欠けやしない。

 

「今日は3人で一泊だ。食事の準備でもしようか」

 

そんなリンクの微笑みに促されて2人も立ち上がった。

ひんやりとした海でまどろんでいた赤獅子が、話が一段落した気配を察して目を開ける。

 

「折角赤獅子もいるんだし、寝物語に生前の話でもしてあげよう」

「本当か!?!?是非!!!!」

「こんな日が来るなんて、流石の僕でも予想してなかったなぁ・・・」

 

特異点の状況も忘れて、思わず無邪気に喜ぶアタランテ。

辛うじて大人の仮面を被っているだけで、心はずっと高鳴っているダビデ。

二人とも血に塗れた人生を送った。

親に愛されなかった子供と。親にもなれなかった王。

 

「その昔、神々の力が眠るという、緑豊かな王国がありました――――」

 

食事が終わっても、夕日が顔を出しても、星が目を覚ましても。

今夜だけはただの羊飼いと、ただの狩人は、夢中になって勇者の冒険譚を聞いている。

羊飼いの竪琴に合わせて歌ってやれば、一生の思い出が出来たと微笑み。

狩人に弓の技を見せてやれば、幼子のように飛び跳ねて喜んだ。

生前に忘れていた、しがらみも使命も宿命もない、静かな夜だった。

心を慰撫する、温かな夜だった。



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connecting

今日はお休みなのでセーフです。
いつも感想ありがとうございます。今から返信します(報告)


「ドレイクさん、船の方はどうですか?」

「駄目だね。とてもじゃないけど動けやしない」

 

時は少し遡り。

黒髭を撒いた立香達は1つの島に辿り着いていた。

沈没こそしていないが、所々から浸水が始まっている。修繕しないことには先に進めないだろう。

 

『幸いこの島には森があるし、ワイバーンもいる。鱗を加工すれば材料には困らないだろう』

「そうですね。まずは体勢を立て直さないと」

「海で何かあったの?」

「何かあったというか――――。え?」

 

聞き慣れぬ鈴を転がすような声。

一拍おいて、聞こえた方に視線が集まる。崖の上からこちらを見つめているのは、熊のぬいぐるみを抱えた女性。

豊満な胸をきわどい衣装で隠し、艶やかな美しさを振りまいている。

 

「あ、貴女は・・・?」

「んーと・・・」

 

白銀の髪が揺れる。よく見れば弓を携えているようだ。

 

「なんて話すんだっけダーリン?」

「俺は喋らないって段取りだっただろ!?」

「あ」

 

・・・訂正。

ぬいぐるみではなさそうだ。

 

「なにかしらこのお花畑そうな2人」

「ぐっちゃんが言うのかい」

「どういう意味よ!?」

「いやなんか・・・ぐっちゃんはあんまりそういうこと言わない方が良いと思う」

 

ドレイクが何かを受信している間に、謎の2人はわちゃちゃと話し合い始めた。

ぬいぐるみ(仮名)がぺちぺちと女性の頬を叩き始めたところで、立香がひとまず声をかける。

 

「あう、DVだっ!DV事案って言うんだよね、これ!」

「あの、えーと・・・。貴方達の名前は・・・?」

「え?アルテミスだけど」

「・・・はぁ!?」

「フォウ!?」

『何ぃ!?』

 

一見ただの恋愛脳(スイーツ)にしか見えない女――――。

彼女こそ月光を表す神性、狩猟と永遠を守る玲瓏貴影。

処女神アルテミスである。

 

「で、ではそちらのぬいぐるみさんは・・・?」

「こっちは私の恋人、オリオンよ。召喚されるって聞いて不安になったから、私が代わってあげることにしたの!」

 

一方こちらは、ギリシャ最高の狩人を自称する超人・・・・・・現ぬいぐるみのオリオンである。

 

『な、なるほど。神霊のランクダウンによる代理英霊召喚か・・・。そういう例はないでもないらしいが・・・』

「オリオンです。召喚されたと思ったら、ヘンな生き物になってました」

 

アルテミスの腕の中で、オリオンはぺそっと小さくなった。

 

「ヘンな生き物に・・・・・・。ヘンな・・・・・・」

「泣けるわね」

「強く生きて」

 

ちなみに見てわかるとおり、当然この状態のオリオンは限りなく役立たずだ。

アルテミスに超依存しないと生きていけない、今世紀最大のヒモである。

 

「うふふ。もっと依存してくれてもいいのよ、ダーリン」

「自立したいなぁ・・・」

 

悲哀が強い・・・。

 

「まぁサーヴァントであることには違いない。そこのカワイコちゃん、マスターだろ?契約してくれねぇか?」

 

もふっとした手を振りながらオリオンが言う。

なかなか魅力的な毛皮のボディである。

 

「藤丸立香だよ。もちろん、よろしくね。2人とも」

「わたしはマシュ・キリエライト。こちらが船長のドレイク。アサシンの虞美人さん、アーチャーのエウリュアレさんです」

「よろしくね~♪」

『それじゃあ早速、船の修繕を始めようか。竜巣へのナビゲートは任せて』

「ようし、野郎共。しばらくこの島で狩猟生活(ハンターライフ)だ。やるよ!」

「「ハイホー!」」

 

キャプテンの指示によってクルー達も動き出す。

どんなに手痛い敗北をしても、惨めに逃げ帰っても、生きてさえいれば勝ちなのだ。

生きてさえいれば何度でも挑める。魔王にだって魔神にだって、勝つまで立ち向かっていけるだろう。

それは勇者リンクが教えてくれたこと。ある意味1番大事なこと。

恐るるべきは敗北ではなく、誇りを失うことなのだ。

 

「仲間ぁ?」

「2人で行動してたんじゃないの?」

 

すっかり夜も更けたころ、立香達はたき火を囲んでいた。

天高く星駆ける晩。話を切り出したのはオリオンだった。

 

「実は召喚されてすぐ、縁あるサーヴァントに出会ってな。別行動を取ってたんだ」

『縁あるサーヴァント?』

「俺達はマスター含む戦力探し」

「その子はある(・・)物を探してたの!」

 

ぱちんと火花が鳴る。

暖色の炎に照らされて、アルテミスの髪が夕映えのように染まった。

 

「ある物?」

「合流すればわかるよ。そう遠くない場所にいるだろうし、明日には会えるだろ」

『ふむ、なにか現状の打開策があるんだね?』

「まあそんなこった」

「んじゃ、明日1番に出発するかね」

 

そのまま自然とお開きムードになり、各々が寝床に戻っていく。

エウリュアレは与えられた船の一室に戻ると、静かに佇むアステリオスの石像に触れた。

 

「(・・・・・・・・・・・・)」

 

つめたくてかなしい。憐れな怪物。

それでもエウリュアレにとっては“たいせつな”存在なのだ。

 

「(勇者様・・・・・・)」

 

まだ蜘蛛の糸は垂らされず。

賢者の導きもなく。

ただ月だけが美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さく、さくと葉っぱが擦れる音。

エビの青シャツが膨れあがり、体を風が通っていく。今日もいい天気だ。

 

「――――来たぞ!」

「勇者よ。貴方は・・・」

「ここに居るさ。隠れる必要もないし」

 

陽光に導かれるように、黄金の鹿号(ゴールデンハインド)は島に辿り着いた。

マスターとサーヴァント達を連れてくると行って、アタランテはひょいひょいと森を抜けていく。

木々が作る影のおかげでこの場所は涼しい。

時折聞こえる鳥の鳴き声を聞きながら、リンクとダビデは待ち人を待つ。

 

「―――――と、だ」

「他に―――居る―――」

 

 

災厄ハンター キマシタワー

Silver bow やっと合流デスワー

 

 

「汝達も知っている相手だ。紹介しよう」

「やあ。イスラエルの王、ダビデさんだよ」

「やあ。風の勇者のリンクじゃぞ」

「以上だ」

「・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・』

 

立香とマシュが、キュウリを見た猫みたいになった。

通信機の向こう側では、物が盛大に落ちる音と割れる音が聞こえる。

ドレイクが一歩後ずさり、真後ろにあった木に衝突した。

虞美人が「あ」という顔をして、辺りをせわしなく見渡し出す。

エウリュアレがへたり込んだ。瞳を潤ませるその姿は、朝露に濡れたスミレのよう。

アルテミスが瞳をぱちくりと瞬かせた。珍しい宝石を見るかのように、間近に近づいてじーっと眺める。

その腕の中でオリオンは絶句していた。生前もこんなに驚くことは無かった。嘘だろ本物?

 

「嘘だろ本物?」

 

あっ声出ちまった。

 

「本物だよ。証拠にホラ、マスターソード」

「ウワーーーーー!!!!!」

「わぁ~。貴方が勇者リンクなのね」

 

まつげが触れあいそうな距離で話し出すアルテミスに、特に動揺するそぶりも見せず。

女神に負けず劣らず(ナンデ??)の美しい少年。大人と子供の狭間、成長途中の未成熟な肉体が、危うい色気を放っている。

老齢の男がもつ深い色の瞳と、いとけない笑みが溶け合い、くらくらするほど艶っぽい。

 

「ねえねえ、私貴方のことちょっぴり好きよ!女神を愛したのよね?」

「それは多分、大空とか大翼とかの話だと思うけどありがとう。女神アルテミスにも知られているとは光栄だ」

「あ、それは俺がこいつに教えたから・・・。・・・覚えてるとは思わなかったけど・・・(よっぽど女神と人間の話が気に入ったんだな・・・)」

 

 

騎士 俺は違いますよ。守護女神には敬意しか抱いてません。恋愛的にどうこうはないです

いーくん 超早口

バードマスター そういえば最近ゼルダに会ってないなぁ。ちょっと顔見てきていい?

銀河鉄道123 うちのお転婆姫も心配になってきた。見てくるね

 

 

自由か???

 

 

「さて、と・・・!?」

「ちょっと来なさいアンタ!!」

 

そろそろ本題に入るか~と仕切り直そうとすると、虞美人がすっ飛んできて端に引っ張られる。

その鬼気迫る姿に、思わず全員見送ってしまった。

 

「項羽様は!?この特異点にいる??いつカルデアに呼べるのよ!?」

 

 

忘れてたなぁ

 

 

りっちゃん 忘れないでくださいー。英霊の座で良い子に待ってますよー?

 

 

すまんて。なんか良い感じになったら呼ぶわ

 

 

「項羽ならすぐに会えるだろう。大丈夫、儂の勘は当たるんだ」

「・・・本当でしょうね」

「信じて待つのも大事だぞ。貴き姫」

「・・・・・・アンタ、嘘ついたら承知しないからね!」

 

 

うさぎちゃん(光) 困ったら勘で押し通すのどうかと思うよ。ねえエゼロ

小さき爺 まあ相手は納得したみたいじゃぞ。怪しまれないうちに次の話題に移っておけ

 

 

さすエゼ。この話はここでおしまいにしようね

 

 

不思議そうな顔でこちらを見てくる立香たちに誤魔化しながら、ダビデに契約の箱(アーク)の説明をするよう促すのだった。

そしてドレイクの口から語られる、魔人グフーに聖杯を奪われたこと。アステリオスが石化してしまったこと。

そしてちょいちょいぼかしつつリンクが黒髭の顛末を伝えると、みな神妙な顔をして状況を呑み込んでいた。

 

「ドレイク、この聖杯はお前に渡しておくよ」

「えっ、えっ。な、なんでだい?」

「そりゃ儂が持ってても使わないからなぁ。船の強化に必要だろう。持っていなさい」

「わ、かった・・・。アンタがそう言うのなら」

 

黒髭も、ドレイクが持っているのなら文句はないだろう。

海賊である以上碌な死に方はしない。覚悟はしていたはずだ。弔い合戦なんてするつもりもない。

ただ、イアソンとやら?テメーは儂を怒らせたぞ。

 

「勇者様」

 

澄んだ声がリンクを呼んだ。

エウリュアレが落ち着きなく座っている。服の裾を握りしめ、視線は少し下を向いている。

 

「アステリオスのこと?」

「・・・ええ」

「呪いを解いてやらないとな。案内してくれるか?」

「! ええ・・・!」

「立香、マスターとしてお前さんもおいで。他は好きにするように」

「うんっ」

「えっじゃあ着いていこうかな」「アタシも・・・」

 

ぞろぞろと一同は船まで戻る。

青い水面を走る潮風が、リンクにじゃれつくように触れた。

 

 

で、実際どれで解呪出来るんです?解説のエゼロさん?

 

 

小さき爺 素直にフォーソードを出すのじゃ

小さきもの 使っていいんじゃぞ

 

 

_,_,_ミミミ゚+.(っ´∀`)っ゚+.゚_,_,_

 

 

フォースを信じろ 字幕機能を使いこなしてる・・・だと

 

 

「フォーソード。おいで」

 

これこそが、全てのエレメントの力を宿した究極の剣。

一つ目の形をした鍔を持ち、掌に収まるのは金色の光。

聖剣というよりは魔剣のようだ。その妖しい魅力が、リンクの手の中でより一層輝きを増す。

 

 

フォースビーム!!

 

 

守銭奴 そんな名前だっけ

フォースを信じろ わかんない。感覚でやってる

小さき爺 コイツらふわふわしすぎでは???

 

 

アステリオスの目覚めは、青い空の下でだった。

くすん、くすんと涙を落としながら抱きついてくるエウリュアレを受け止めながら、ぼんやりと首を傾げる。

 

「・・・・・・だ、れ?」

「初めまして、アステリオス」

 

その瞳の色を、アステリオスは一生忘れない。

アステリオスに“ゆうき”を教えてくれた、その人の事を忘れない。

マスターともエウリュアレとも他のサーヴァントたちとも違う。深くて濃い猫の眼。

怪物がただの少年であることに気づいてくれた、その勇者のことを――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザイ゙ン゙下゙ざい゙!!!!」

「王様勝手にこっちに来ないで!?!?」

「はぁ!?サインならアタシも欲しいんだが!?!?」

「船長も!?!?」

 

スライディングお願いしますでギルガメッシュが勝手に来て滑り込んできた。

リンクはけらけら笑っている。

 

「お前が噂の金ぴかの王サマ?あはははっ、実物は5割増しで面白いな」

『・・・噂の・・・・・・?』

「光から聞いたよ。カルデアの愉快な奴ら」

「モ゜ッ゜ッ゜」

『認知・・・・・・だと・・・・・・』

 

ギルガメッシュが崩れ落ちるのを、立香はハラハラしながら見ている。

 

「サイン・・・いや握手してくれ風の勇者。たとえこの記憶が消えても、アンタへの憧れは忘れない」

「へえ。儂のファン?光栄だな、キャプテン・ドレイク」

「船乗りでアンタらのことを知らない奴なんていない・・・。海を渡り新天地を見つけた、世界最古最強の海賊団・・・・・・!」

 

震える手で握る。タコが出来て固い。とても少年の手とは思えない。

船の上で生き、剣を握った戦士の手だ。

 

「そう言ってもらえるのなら、テトラたちも喜ぶだろう。・・・ああ、もしかしてそこ(・・)もあるのかな」

「・・・そうだね」

 

運命に翻弄され、運命に立ち向かった。

気高き女海賊。勇ましきキャプテン。滅びた伝説の王国の姫。本人すら知らぬ宿命を、されどリンクと共に乗り越えた少女。

――――尊敬、している。

 

「海は平等だ。平等に残酷で、慈悲深い。それをアンタたちが教えてくれた。だからアタシは世界を一周できた。どんな栄華を誇った王国さえ滅びるのだから、太陽だって沈められるのだと気づかせてくれた」

「そうだな。ハイラル王国でさえ滅びた。永遠のものなど存在しない」

 

 

奏者のお兄さん 永遠じゃねぇ。無限だよ。

ウルフ レインボーは空だけじゃない。胸にも架かるぜ

災厄ハンター そういうの好きそう(納得)

 

 

「ゆう しゃ」

「うん?リンクは勇者だよ」

「・・・・・・?」

「・・・そうね、貴方は知らないのね。アステリオス」

「うん。しらない」

「なんと勿体ない!!!!」

 

死んでいたギルガメッシュが復活した。

思いの外声が大きかったので、みんなびっくりしている。

 

「勇者リンクのことを知らずに生きるなど人生の大いなる損失!我が教えてやろう今夜は寝れると思うな!!!!」

「所長、お願いします」

『こうなった英雄王はもう梃子でも動かないから好きにさせましょう・・・』

「本人の目の前で凄いこと始めるじゃん」

 

突然講義が始まってしまった。あっドレイクが最前列に座っている。

それを横目に、顔をぐしゃぐしゃにして泣き崩れるドレイクのクルー達をあやしていると、近づいてくる聖なる気配があった。

 

「・・・これは、聖槍か」

「はい。初めまして、勇者リンク。円卓第二席、騎士パーシヴァルと申します」

 

背え高っか。

 

「円卓の騎士にお目にかかれるとは。守護の騎士、聖杯の加護を持つ者。他人の気がしないな」

「!! じ、実は・・・・・・私も、そう思っていました」

「ほほう?」

「貴方のことは、貴方の存在があったから、私は、」

「取りあえず座りなさい。儂はどこにも逃げないから」

 

パーシヴァルがカルデアに呼ばれたのは、いや、あれは呼ばれたというよりは。

そこにとんでもない触媒(・・・・・・・・)があって、思いっきり引っ張られたと言うべきだろう。

だが実際にカルデアに辿り着いても、そのとんでもない縁は見つからず。

マシュの中に居る同胞には気づいたものの、パーシヴァルを呼べるほどではなかった。

・・・これは、ただの仮定なのだが。

 

「あの、カルデアに、来ていましたよね・・・?」

「・・・内緒だぞ?」

「誰にも言いません」

「聖槍の担い手よ。どうか立香とマシュを導いておやり。特にマシュは、お前が側に居れば安定するだろう。・・・英霊もね」

「――――はい。このパーシヴァル、偉大なる先達のご期待に応えられるよう、全力を尽くします」

 

何度も何度も考えた。

もしも自分が勇者であったらば。

もしも“リンク”であったならば。

何度も何度も悔いている。

円卓は、ブリテンは、王は、後輩達は――――――。

 

「パーシヴァル」

「・・・っ」

「ブリテンの事情に、儂が言うことはないよ。ただ」

 

掌が頬に触れる。そっと引き寄せられて、額と額が合わさった。

 

「思うことがあるならば、今度こそ騎士として、大切な人を守りなさい」

「――――――」

「聖槍を持っていても、お前は人として生きたのだろう?儂と同じだ。無辜の人々を守り、罪を許さず、されど人は憎むな」

「ぁ、あぁ・・・・・・」

 

視界が滲む。

慌てて袖で拭っても、拭っても、零れた涙は止まらない。

胸の中が燃えるように熱い。涙の温度に肩が震えた。

 

「悔しい・・・・・・!」

「うん」

「私は、弱くて・・・!」

「だけど、誠実であったのだろう。それは本当に難しいことだ。お前は偉いよ、パーシヴァル」

 

脳裏に次々と浮かぶ同胞達。王の背中。在りしブリテン。

今度こそ、今度こそは。

だけど、今だけは。

私の髪を梳く手に浸っていたい。

慰めるように、鼓舞するように背中を叩いてくれる。少年の胸で泣くことを許してほしい――――。



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ニュートンダンス

1、2!
我が本丸の猫殺し君もついに極めました。


ざあ、ざあ、ざあ。

ざわ、ざわ、ざわ。

くす、くす、くす。

 

 

「失礼します。お邪魔しますね、マスター」

「おお、どうしたのかな!愛しい君よ!」

 

からりと晴れた空の下、じとりと湿った心の中。

 

「賢者様のお力により、カルデアの者を発見いたしました。エウリュアレやもう一つの聖杯も、そちらに」

「そうか、そうかあ!ようやくこの私が、誰よりも強く無敵の存在になる。素晴らしいことだと思わないかい!」

「はい、とても。素晴らしいことだと思います、マスター」

 

そう陽だまりのように笑う顔の下で、“賢者様”に怯えきっていることなど気づかない。

 

「ああ、でも少し疲れているようだね?大丈夫かい?この船の動力源は聖杯に変換したのだから、君が辛くなることなどないと思うが・・・」

「だ、大丈夫です!賢者様のお手伝いをしていたので、少し魔力を消費したのかもしれません。お気遣いありがとうございます・・・!」

「うん、それならいいんだ。素直で可愛い私の妻になる人よ」

 

まるで幼児のお人形劇だ。ヘクトールはため息を呑み込む。

まさか魔人が船に居るとは思わなかった。イアソンはすっかりグフーを信頼している。もう誰の言葉も耳に入らないだろう。

 

「そういえば、“あれ”の神託は下らないのかい?」

「はい、恐らくエウリュアレを確保したときに、向かうべき先を示した神託が下るのだと思います」

「なんだそりゃあ、回りくどい・・・・・・。オレの足ばかり引っ張りやがって・・・・・・」

 

ヘラクレスは何も言わず、機械のバーサーカーは語る口を持たず。

白髪の青年だけが、歌うように隣で呟く。

 

「彼の志は立派ですが、人を見る目はあまりないご様子」

「アンタ聖人なんだろ?なんとかしてくれよ」

「生憎、今はただのサーヴァントですよ。そうでなくとも、私に魔人をどうにかする力はありません」

 

ずいぶん大人びた顔だった。

リンクとはまた違う、どこか諦めの溶けた笑み。

 

「――――あ、いや、すまないね。彼らを悪く言うつもりはないんだ。だが私にだって神託を受ける権利はある。なのに、どうして君だけが・・・・・・」

「・・・・・・?なんですか、マスター?」

「・・・・・・いや、なんでもない。急いては事をし損じる、というヤツさ。今は君の神託を信じて、船長として最善を尽くすよ」

 

でもこの船、泥船ですよ?

呟いた青年の頭を思わず引っぱたく。おい静かにしなさいバカ聞こえたらどうする。

 

「ええ、それでこそ。さあ、エウリュアレを捕まえに行きましょう。我らアルゴナイタイのメンバーは、絶対不敗の英雄たち。寄せ集めの彼らに勝てる道理はありませんもの」

「そうだね、その通りだ!我々は最強だ!間違いなく、文句なしに最強だ!何しろ、世界最大最強の英雄と魔女、そして偉大なる賢者がついている!」

 

高々と出立が宣誓される。

船は旋回。行き先に向けて動き出した。

ヘクトールの咥えるタバコの煙が、風と共に流れていく。

一匙の哀愁すら感じる、細い煙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝焼けが天に帰っていく。立香は眠気をあくびで誤魔化した。

策略と悪巧みを詰め込んで、黄金の鹿号(ゴールデンハインド)は待っている。

 

「―――よし、見つけたぞ。それじゃヘラクレス。あそこに集っている有象無象のガラクタ共に、1つ挨拶をしてあげようじゃないか」

 

びりびりと雄叫びが響く。

投げられた岩をアステリオスが受け止めた。重みに揺れる船。

 

「あっはっは!ギリギリで受け止めたか!あそこにいる蛮人は・・・・・・。何だ、アレ。獣人か?」

「まあ。あの方、恐らくアステリオスさまですわ。またの名をミノタウロスと申します。神牛と人の、狭間に生まれた悲劇の子です」

 

笑い声はますます大きさを増した。

不快感に眉をひそめる、こちらのことなど眼中にない。

 

「何だ、人間の出来損ないか!英雄に倒される宿命を背負った、滑稽な生物!向こうの人材不足も深刻だなぁ!あっはっはっはっはっは!」

「・・・・・・・・・・・ねぇ、早く黙らせてくれる?」

「そうね、殺しましょ」

「嫌な人・・・・・・」

 

女性陣の殺意が高まっていく。

オリオンはそれを敏感に感じ取り、ぶるると肩を振るわせた。

 

「恥ずかしい・・・・・・。私が恥ずかしい・・・。もう黙れイアソン・・・!」

「なんだいあの“全部最低”みたいな男は。あれがアルゴーの船長か・・・」

「ははは。世界を修正しようとする邪悪な軍団が、私の素晴らしさを理解できないのも仕方がない。・・・だが、少し不敬だな。私の名前は、畏怖と崇拝と共に呼称されるべきだ」

 

 

奏者のお兄さん いやそれは無理でしょ

ウルフ いやそれは無理だろ

災厄ハンター いやそれは無理だよ

 

 

無茶を言うなよ

 

 

「ヘラクレス、メディア、ヘクトール。・・・あの二騎のサーヴァントは?ドクター!」

『カルデアにも記録(ログ)が無い。初めて接触するサーヴァントだ。皆、気を付けて!』

 

この緊張感のある空間でも、青年はいたって脳天気に見える。

意識を向けられたのに気づいたのか、一歩、こちらへ近づく。

 

「初めまして、カルデアの皆さん。私はただのしがないルーラー。天草四郎時貞と申します」

「えっ」

『なんだって?』

「そしてこちらが――――項羽、という方らしいです。召喚が不完全だったのか、会話も困難なバーサーカーですが」

「は?」

 

空気が凍った。文字通り。

 

「は?何を言っているのかしらそこの人間はそんな見た目すら項羽様の偉大なるお姿に掠りもしてないツギハギのガラクタが項羽様?大衆が勝手に思い描いた下らない贋作をその名で呼ばないでくれる?そもそもあの方の偽物がこの世に存在することなんて誰が許容したのかしらよくも紛い物の分際で私の前に顔を出せたわね殺す死ねあの世であの方に百万回詫びなさいこのゴミ共が!!!!」

「先輩!!!!落ち着いて!!!!先輩!!!!」

「・・・・・・まさかの地雷でしたね。もしかして関係者の方ですか?」

「あちらの女性は虞美人さんです」

「おっ・・・とぉ・・・」

 

そもそも項羽とは?

かの始皇帝が仙界探索の途上で回収した、哪吒太子の残骸を元に設計した自立型人造躯体。

『天下泰平』の早期実現のために駆動し続けた機械知性。故に、英霊の座に至るための魂は存在しない。

だからこそ虞美人は、項羽の真実を座に持って行くために英霊になった。

決して――――大衆の創作物によって作られた偶像ではない。

 

 

あーわかった。なんで項羽があんな見た目してるのかと思ったら、この遠目で見たらケンタウロスみたいなイメージに引っ張られたからか

 

 

ファイ “人馬型の項羽”も確かに存在する世界があるため、召喚されたときにマスター藤丸のイメージに引っ張られてあの姿になったのでしょう。

Silver bow 人馬型の項羽が存在する世界って何・・・?

バードマスター そうか僕らがいるから・・・、余計に並行世界に干渉しやすいのか。いや人馬型の項羽がいる並行世界って何???

 

 

「離しなさい後輩!!あの船ごと沈めてやるわ!!!!」

「先輩作戦通り!!お気持ちは察しますが作戦通りお願いします!!」

「・・・ふ、ふん。品のない女どもだ」

 

 

ちょっとびびっとるやんけ

 

 

「アステリオス、頼むよ!」

「うん」

 

暴れる虞美人を立香とマシュが押さえこんでいる間に、アステリオスがヘラクレスを睨み付ける。

エウリュアレはダビデとオリオン&アルテミスの後ろへ。

ドレイクの側にはアタランテが控えている。

 

「・・・・・・まさか、ヘラクレスと戦うつもりか?」

「ぼくが あいて だ」

「わたしたちもいます!」

「アステリオス、サポートは任せて」

 

ようやく虞美人が落ち着いたので(ブチ切れてはいる)、立香がアステリオスの近くに寄る。

ヘラクレスの視界に入りやすい位置に、狙いを定めやすいように。

 

「ハッハー!そうかそうか!君は勇気があるな!とても、とても、とても気に入ったよ!」

 

イアソンは満面の笑みで、だけど見下しきった声で言う。

 

「おまけにそんな可愛いサーヴァントもついている!いいよ、いい!英雄みたいだ(・・・・・・)!ヒューッ!カッコイー!」

 

すぐに顔が歪む。吐き捨てる泥の言葉。

 

「――ったく、塵屑風情が生意気な。サーヴァント諸共、今すぐ消えてくれる?」

 

一瞬で。

ヘラクレスは目の前に現れる。

だから見てからじゃ遅い。あらかじめ展開しておかないと。

 

「まよえ・・・・・・さまよえ・・・・・・」

 

宝箱から飛び出したかのように、迷宮は現れる。

 

「!?」

「これは・・・宝具!?空間を・・・、違う。空間が迷宮に堕ちていく!」

「・・・テメェ、ミノタウロウス。ヘラクレスを閉じ込める気か?・・・あははははは!お前ごときがヘラクレスに勝てるとでも?」

 

万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)

アステリオスが封じ込められていた迷宮の具現化。ヘラクレスを呑み込み、世界の下に堕ちていく。

 

「メディア!私の愛しいメディア!」

「はい。お呼びですか、マスター?」

「私の願いはわかるよね?ヘラクレスが出てくるまでに、あいつらをできる限り粉微塵に殺して欲しいんだ!」

「自分の妻を前面に出して、自分は戦わない。・・・あの、マスター。この人ってもしかして・・・・・・」

「小物だね・・・」

 

だが、彼女が脅威なのは事実だ。

王女メディア。魔術が日常の神代ですら、“魔女”と恐れられた魔術師(キャスター)

それでもそこまで恐怖を感じないのは、すでにそれ以上(・・・・)の魔法使いと出会っているからだろうか。

 

「野郎共、行くよ!」

「「イエッサー!」」

 

リンクに託された聖杯から、無限の弾丸が発射される。

アタランテの弓が、間断なく撃ち込まれる。

メディアの竜牙兵を打ち砕き、船への侵略を許さない。

 

「君の相手は僕だよ。兜輝くヘクトール」

「その名を放って相手するとか、煽りが上手いねぇ。もしかして政治家?」

 

ダビデがヘクトールの前に立ち塞がる。

その隙に立香が、エウリュアレを抱えて船を飛びおりた。

 

『各種礼装、最大励起(れいき)!身体強化と生命維持を最優先よ!』

『イエッサー、所長!』

「どこへ行く気だ?項羽!奴らを挽き潰してこい!」

 

エウリュアレを抱えて、厄介なサーヴァントを契約の箱(アーク)に誘導する。

ここ1番の大仕事。後ろを守るのはマシュとオリオン&アルテミス。そしてカルデアのサーヴァント。

 

「ジル・ド・レェ(キャスター)!」

「お任せを・・・・・・」

 

世界の切れ目から、悪魔の触手がこぼれ落ちた。

ヒトデに似た海魔による物理的な盾。贋作(項羽)を絡め取り、巻き込み、動きを阻害する。

 

「後輩!!」

「はい!」

「ぜっっっったいに潰すのよ!!」

「・・・頑張ります!!」

 

プレッシャーが凄い。

先輩に怒られない為にも立香は走る。走る。

 

「おっと、加勢は無理そうですね」

「あまくさなんちゃら。アンタもここで死んでおきなさい」

「うーん。一応呼ばれたからには、私も頑張りますかね」

 

戦線は混戦していく。

海は黙して語らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かいぶつは えいゆうに たおされるもの だから

ぼくは かいぶつ だから

ぼくは やっぱり かいぶつで

えうりゅあれの ことを まもりたかった けど

けっきょく いしにされて まもれなくて

 

 

 

 

 

「アステリオス、儂に力を貸してくれ」

 

きんいろのひとは そういった。

 

「ヘラクレスを倒すためには、まず周りにサポートされないように距離を取らなくちゃいけない。けれど、お前の宝具があればそれが叶う」

「・・・ぼくが」

「そう、ヘラクレスを閉じ込めてほしい。でも相手の力量を推測するに、動いてからじゃ間に合わないだろう。あらかじめ仕掛けておくんだ。・・・できるか?」

 

アステリオスよりも随分小柄なその少年は、世界を何度も救った勇者らしい。

あのテセウスのような、英雄らしい。

 

「・・・ぼくに できるかな」

「できるとも」

「どう して?」

「だってお前、悔しいんだろう」

 

夜空を星ごと丸めたら、こんな色の瞳になるのだろうか。

アステリオスの目をしっかり見て、少年は言った。

 

「エウリュアレを守れなくて悔しかったんだろう。悔しさを糧に出来るのが人の良いところだ。悲しい気持ちを繰り返さないために、立ち上がれるのが人間だよ」

「ぼく は」

「うん」

「・・・・・・ぼく」

 

かいぶつ だ。というその一言が言えなかった。

わるい やつ だから。なんだか言い訳みたいだった。

 

「恐ろしいな。理解の及ばない存在は」

「・・・?」

「グフーは災害みたいなものだ。津波から逃げるのは何も悪いことじゃない。そこはそんなに気にしなくていい」

「ぅ・・・ぅ」

「けれどヘラクレスは違う。お前でも届く相手だ。――――いいか、アステリオス。英雄はどうして英雄なんだと思う」

 

大英雄(ヘラクレス)ミノス王の牛(ミノタウロス)が同列であるものか。

だけど彼がそう言うのならば、それが真実のように思えた。

 

「それは心に信念があるからだ。けっして譲れぬ誇りがあるからだ」

「ほこ り・・・?」

「負けてもいい。泣いてもいい。けれど、勇気を忘れてはいけない。お前が真に恐れるべきは、心まで怪物になってしまうことだ」

「―――――」

「アステリオス。空を守る雷光の子。共に戦おう。お互いの大切な物を守るために」

 

決して出られぬ迷宮(ラビリンス)

否、今日からここは試練の祠。勇者を試す力の試練。

 

「さて」

 

凛、とした声。ヘラクレスが顔を向ける。

己を閉じ込めたサーヴァントと、緑の衣に身を包み、背中に剣を携えた少年。

 

「お手並みを拝見しようか。――――勇者(・・)ヘラクレス?」

 

全身を走り抜けた震えは、果たして恐怖か、興奮か。



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そして坊やは眠りについた

特異点の勇者達、更新してます。
女体化リンクは僕も考えてたんですけど、女装のほうが"""""イイ"""""な・・・。ってなったので没になりました。


「初めまして、勇者ヘラクレス。我が名はリンク。風の勇者だ」

「ぼくは あすてりおす」

「狂気に浸されていても、話を聞く思考はあるか。なら一応聞いておくけど、降参する気は?」

 

まず聞こえたのは、踏み込みの衝撃で割れる床の音。

次に金属音。剣と斧剣がぶつかり合い、甲高い声を響かせる。

アステリオスはそこまで来てようやく、二人が鍔迫り合っていることを視認した。

 

「ぅ、わ」

 

衝撃が突き抜ける。大人と子供の体格差なのに、リンクは平然と斧剣をはじき返す。

体重と筋力の乗った乱撃が襲い来る。それを正確に受け流しながら、剣に魔力を集めていく。

剣の光に反応して距離をとったヘラクレスを、ソードビームが追いかけた。

避ける、けど。

輝きに目が眩む。想像よりも膨大な魔力を込めて放たれるビームに、全身が反応する。

その無防備な身体に、剣の一撃が叩き込まれた。

 

「アステリオス」

「・・・?」

「こっちにおいで。そこにいると危ないぞ」

 

聞き慣れない第三者の声が、アステリオスを呼んだ。

スタジアムのように広い迷宮の、壁の装飾に腰掛けている男。何か飲んでいる。

知っているような、知らないような・・・?既視感を覚える青年は、アステリオスを手招きをした。

 

「おまえ どうやってここに・・・?」

「姿消しの魔法。アステリオス、俺が誰だかわかるかな」

 

金髪、青目、長髪。リンクにどことなく似ている男。手に持っているのはよくわからないけど。

 

「ときのゆうしゃ?」

「ぴんぽーん。花丸をあげよう」

 

 

ウルフ 先代何してんすか!?!?!?

災厄ハンター なんか飲んでる!なんかおいしそうなの飲んでる!

奏者のお兄さん スタバ奢ってもらった

ウルフ スタバで買収されたの!?!?!?!?

 

 

「さて、説明する前にまずこれが先」

 

青いオカリナを取り出す。響き渡るは時の逆さ歌。

時の勇者が知覚する、空間の時の流れを遅くする。

その音色に紛れてヘラクレスが蘇生した。再び繋がった首をぐるりと動かして、驚愕を詰め込んだ目で見ている。

 

「時、すまんの。あとでフィレオフィッシュを奢ってやるから」

「てりやきバーガーがいい~」

 

 

騎士 マックに行こうとすんな

 

 

すっ、とヘラクレスを指さす。指先まで美しい青年に見つめられ、ヘラクレスが居心地悪そうに身じろぎした。

 

「狂乱の檻よ、壊れろ。勇者ヘラクレス、その真の姿を思い出せ」

 

爆発――――したようにアステリオスは感じた。

実際は膨大な、聖杯数個分に匹敵する莫大な魔力が発生しただけなのだが。

迷宮を照らす輝きは、されど目を刺すような光ではなく。

隣に座る青年のように柔らかく、暖かく、そして美しい光だった。

魔力の渦から現れたヘラクレスの、岩石のようだった肌は人間味を帯び、腕の部分の突起は無くなっている。

覇気、闘志、威圧。理性、礼節、高潔。全てが揃う。

 

「――――――こ、れは」

 

 

うさぎちゃん(光) ほほう。これはこれで中々・・・

Silver bow ・・・一応言っておくけど、これでもう言い訳は出来なくなりましたよ

 

 

儂が負けるわけなくない?

 

 

騎士 無敵か?

バードマスター 頼もしっ

守銭奴 頼むぞお前に賭けてんだ

 

 

安心しろ四星。今夜のお前は大富豪だ

 

 

守銭奴 Fuooooooooooooo!!!!!!

 

 

「おはようヘラクレス。さあ殺し合おうか」

 

蕩けるような声で、綻ぶような笑みで、少年は言う。

そして間髪入れずに弓矢を構えた。突進、間に合わない。回避、不確定!

 

「う、おおおおおおおおおオッ!!!」

 

視界を埋め尽くす数十発の矢、追撃するさらに多くの矢を斧剣を振り回して凌ぐ。

篠突く雨のごとく。降り注ぐ矢、矢、矢!僅か数秒の間が、永遠のように感じられた。

 

「・・・っ!」

 

光。

・・・いや、光の矢!速い!

気づいたときには既に遅い。吸い込まれるように両腕を貫く。

こんなにも速かったのか・・・!

この矢だけは防御不能。あらゆる厄災を討つ聖なる力。

心臓の痛みは一瞬だった。

 

「アステリオス、風は決して君を軽視したわけではなくてね」

「うん」

「本当は君の経験のためにも出しゃばらないつもりだったけど。今後のことを考えるとここでヘラクレスをちょっ、・・・説得しておいた方が良さそう、だそうだ」

「せっとく?」

「カルデアにはスーパーヘラクレスが必要だから、味方するように言質を取るとかなんとか」

 

 

Silver bow 調教(ノリノリ)

ウルフ 調教(ストレス発散)

フォースを信じろ なにカルデア戦争でもすんの?

 

 

ここいらで戦力のテコ入れするだけだ。あと立香の教師役。メディアリリィは呼べるとして、アスクレピオスかケイローンが欲しいな。あと防御に特化してるのがもう一騎くらいいれば良いんだが・・・

 

 

フォースを信じろ ああギリシャの触媒か

 

 

肉体が蘇生する。無意識に手の中に弓矢を呼び出した。

現れた弓に矢をつがえて離す、その僅かな間に自身のクラスがアーチャーになっていることを自覚する。

音速を超える速度で矢は放たれた。

 

「(素晴らしい・・・)」

 

場違いな感嘆。

矢を凌ぐ剣捌き。剣舞のごとき優雅さ。あれが勇者リンク――――。

矢を討つ合間に迷宮の柱を掴み、砕き、投げる。宝具なのだから天井が崩れることもないだろう。

かすかに目を見開いて、リンクが回避行動をとる。

柱、矢、柱、矢。――――盾!あれは、勇者の盾か・・・!?

ソードビームが周囲の矢を焼き、すり抜けてきた矢をリンクの持つ盾が受け止め、追撃してきたヘラクレスの拳を防ぐ。吹き飛ばされる体。

 

「はああああ!」

 

効いてない。盾とジャンプで衝撃を殺された。

即座に徒手空拳を振るう。腕力ならこちらの方が上のはず―――――!

 

「な、っに・・・!?」

 

投げられた盾を避け正拳突き。鳩尾に入った・・・・・・!?

倒れるリンクの体を包む紫のゆらぐ光。それが何なのか(・・・・)を理解した瞬間距離を取る。

・・・!

何か来た。紙一重で避ける。

首筋を掠るブーメランにぞっとしたのは一瞬。突風が体にぶち当たり、ヘラクレスのそれ以上の追撃を阻む。

 

「あのはっぱは なに?」

「あれはデクの葉。風を起こしたり、両手で持ったら空を飛べる」

 

 

厄災ハンター マジックシールドとかいうクソ盾の存在を許していいんですか?

いーくん どうした。親でも殺されたか

うさぎちゃん(光) 練習試合でウルボザの雷を無効化されてからずっとキレてる

 

 

なんすかその命中率(笑)ぜったいれいどの方が当たるだろ(笑)

 

 

厄災ハンター 負けろ!!!!!!!!!!!!!

 

 

「ほらもう一度!」

 

投げられたブーメランを避ける。背後から聞こえる風音を振り切るように動。

 

 

「 」

 

 

なに。

何?

何が起こった?

首が落ちたことしかわからない。

 

「いま うごきがとまった?」

「あれは相手の時を止めてるんだよ。夢幻の剣と夢幻のスフィアの合わせ技」

 

青い柄に、砂時計の装飾。まぶしい光を纏う聖剣が一振り。時と勇気の精霊の加護を受けて力を発揮する。

まじまじと見る間も無く投げ込まれたバクダンとブーメランが、もう一度ヘラクレスを殺した。

 

「またとまった?」

「また止められたな。ああなると永久コンボだ」

 

ハンマーが頭蓋を砕く。これで5回、ヘラクレスは死んだ。

 

 

厄災ハンター ケッ!!!

うさぎちゃん(光) これは罵倒したいけど自分もビタロックを乱用してるので強く出れないの時の顔

騎士 解説ありがとう。シーカーストーンの便利さが浮き彫りになっただけだな

 

 

「アステリオス」

「な、に?」

「折角だ。儂の宝具を見せてやろう」

「うん!」

 

蘇るヘラクレスは戦意を失っていない。斧剣を握り直した。

 

「そうこなくては。――いくぞ。フォースを貪る魔神よ。大海の藻屑と化せ。夢幻の境に巣くうその身、我らの一撃に沈め!偉大なる船は伝説を征く(レジェンダリー・ラインバック)!」

 

リンクの声に呼応して海が現れた。

ぴちゃん、と水しぶき。

迷宮だったはずの場所には、青い青い水が踊っている。

 

「えっ」

 

一瞬自分が溺れる幻覚を見て、アステリオスは声を上げた。

 

「アステリオス、大丈夫だ」

「あ れ?」

「ここは固有結界の外だから」

「こゆうけっかい・・・」

 

固有結界(リアリティ・マーブル)。術者の心象風景を現実に具現化する結界のことだ。

ここはリンクが旅をした海。晴れ渡る蒼穹と暖かい日光。どこまでもどこまでも続く大海原。

未知なる世界への冒険心を擽る、誰もが夢見た伝説の海。

 

「―――――ぁ」

 

心を揺さぶる青い世界。

 

 

「あ、あああああああああああああ!!」

 

 

記憶を振り切って咆哮する。感情のままに宝具を解放した。

射殺す百頭(ナインライブズ)。砲撃に真正面から対峙する。

リンクが召喚したのは小さな白い船。赤と青で彩られた、お世辞にも立派とは言えない船だけど。

リンクにとっては赤獅子の船と同じくらい、大事な大事な船なのだ。

莫大な魔力と砲撃音がアステリオスの目を眩ます。決着はもうつく。

・・・前にばたーん!と大げさな音を立てて、甲板に男が飛び出てきた。

 

「何!?」

「あっお疲れ~」

「何!?!?!?」

「あのひとだれ?」

「ラインバック。風の相棒の一人」

 

 

りっちゃん 居るんだ

いーくん お疲れちゃうねん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘラクレスは風の勇者が好きですね」

 

微笑む恩師。半人半馬のケンタウロス族、ケイローン。

苦難と狂気と戦いに明け暮れた生前の、数少ない穏やかな時。

 

「・・・このギリシャで、風の勇者を気にしない者は居ないと思います」

「そうですね。風と共に大海原を駆け巡り、魔王を倒し、姫を救い、新天地に辿り着いた。偉大なる先人です」

 

生まれが偉大でなくとも、勇者になれるのだ。英雄になれるのだ。

旅の少年、一族の末裔、ゼルダの幼馴染み、鍛冶屋の孫、牧童、見習い機関士、鍛冶屋見習い、騎士の家系。

そして誰かの生まれ変わり。

・・・・・・じゃあ、自分は?

不貞によって生まれた、生まれてきたことを憎悪される自分は?

 

「・・・師は、どのリンクが好きですか」

「私ですか?・・・そうですね、皆尊敬すべき方ですが・・・」

 

なぜそんな質問をしたのか、はっきりとした理由を思い出せない。

ただなんとなく、会話をしたかったのだろう。

 

「・・・・・・・・・」

「師?」

「・・・時の勇者は、立派ですね」

 

厚い本の表紙をなぞる指先。透明な言葉。

きっと師も、言うつもりではなかったのだろう。

 

「彼と両親の繋がりは、時の一族であるという事実だけ。だけど彼がそれを知ったのは、ハイラルを出たずっと後です。わざわざ父母との繋がりなど求めずとも、彼は自分が愛されているとわかっていた・・・」

「・・・・・・」

「記憶が無くとも、記録が無くとも。初めから何も無かったことになっても、彼は繋がりに固執しない。この別れが永遠でないと信じているから・・・」

 

師の顔を見れなかったのは、ヘラクレスの弱さだ。

かける言葉を1つも持っていなかった。・・・己というものは、本当に。

 

「私も彼のように、強くなれればよかった」

 

それは私も同じだ、師よ。

狂気に負けぬ理性が、血に抗う心が、運命を打ち砕く力が。怒りに身を染めぬ意志が、あればよかった。

けれど全ては過去の話。もう覆せぬ罪の証。

青い青い地平線を目指して、船で未来に向かった。友が出来た。砂のようにこぼれ落ちていったけど。

ヘラクレスはリンクになれなかった。風の勇者にはなれなかったのだ。

 

「勇者ヘラクレス」

 

止めてくれ!

そんな声で呼ばないでくれ。そんな名前で呼ばないでくれ。

そんな、美しい眼で見ないでくれ・・・・・・。

 

「狂乱の檻よ、壊れろ」

 

耳障りのいい低音の声。甘さの乗った青年の声。

脳裏で光が弾けた。全身を拘束していた、見えない鎖が壊れていく。

靄のような思考が鮮明になっていく。

 

「真の姿を思い出せ」

 

真の姿――――――?

己は。私は。・・・私は。

私はただ。

妻と子と共に、穏やかに暮らせればよかったのに。

海を眺めて過ごした幼少期。

ヘラから憎まれ、同年代には腫れ物にされ。それでも捨てきれなかった憧れ。

いつか彼のように――――この海を――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンクの宝具はヘラクレスの命を六つ殺す。

魔神を討つ砲弾。半神などなすすべもなく。

これで十一回、ヘラクレスは死んだ。

この状況からでも勝つ方法は、ゼロではないけれど。

もうヘラクレスの心は折れてしまった。地に膝をついて項垂れている。

 

「・・・へらくれす どうしたの?」

「・・・ここで風に勝っても、どうしようもないことに気づいたかな」

 

ヘラクレスが居なくなっても、イアソンは止まらない。止まれない。

今のヘラクレスには、友を救うこともできないのだ。

――――――そんなくだらない諦めなど、風の勇者には関係ないけれど。

 

「立て、ヘラクレス」

「・・・・・・」

「お前が今するべき事は、ここで膝を抱えていることか?違うだろう」

 

 

騎士 意外とメンタル弱いのか?

小さきもの そりゃあそこまでボコられればこうなるよ

守銭奴 ッシャア!!!!!!!!フゥ!!!!!!

Silver bow もっとヘラクレスくんのこと心配してさしあげろ

 

 

ゆらり、と顔を上げる。

優しい眼をした風の勇者がいた。

 

「イアソンを助けたいんだろう?」

 

頷く。

 

「なら立つべきだ。戦いはまだ終わっていない」

 

差し出された掌は、自分よりもずっと小さくて。

自分よりもずっと、多くのものを救ってきている。

泣きそうなくらい、力強い手だった。



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空っぽでいよう それでいつか

英霊ちゃんねるネタが入ってます。



涙を堪え立ち上がるヘラクレス。優しい笑みで手を引く風の勇者。

雰囲気に飲まれ感動しているアステリオス。スタバを飲み終わった時の勇者。

戦いの終わりとしては、かなり理想的な展開と言えよう。

 

 

ウルフ 風、今いい?

 

 

内容による

 

 

ウルフ お宅の魔王、閻魔亭に来てるってよ

 

 

ただしそれもここまでだった。

 

 

  

 

 

厄災ハンター ワ・・・!バグっちゃった・・・!

 

 

ビシリ、と風の体が固まった。

時も思わず風を見る。

幸いにもサーヴァントの二人が気づく前に取り繕ったが、内心は大混乱である。

 

 

あの出無精が!?!?誰に言われるでもなく自ら!?!?なっ、なんで儂も誘ってくれなかったの!?!?!?

 

 

フォースを信じろ 友達なの?

 

 

いや別に・・・。たまに一緒に将棋さしたり酒飲んで月見したりするだけ

 

 

うさぎちゃん(光) 仲良しじゃん

 

 

魔獣島の主。渇望の王。

体も心も魂もハイラルに縛られ、紋章を持つ者たちの因縁に振り回されてきたガノンドロフは、もう疲れている。

若い頃は残酷冷徹な野心家だったが、長い時の間になりを潜め落ち着きを得た。

ある種の挫折と諦めを知った王は、もう勝手にやってくれワシは知らん。というスタンスに入っている。

なのでまさか表に出てくるなんて、外出してるなんて。

 

 

儂も行く!!!一緒に温泉入る!!!

 

 

いーくん 特異点は?

 

 

ちょっぱやで終わらせる

 

 

脳内会議終了。

勇者っぽい美しい佇まいを崩さないまま、サーヴァント達に話しかけた。

 

「これまでの特異点の傾向を見るに、魔神は必ず現れるだろう。その前に儂はグフーを片付けておきたい」

「まじん・・・?」

「黒幕の部下さ。アステリオス、外に出たらお前はまずぐっちゃんの加勢に」

「わかった」

 

 

小さきもの こんなキリッとした顔の裏がアレですよ

小さき爺 ・・・なんというか、取り繕うのが上手いんだな・・・

小さきもの 勇者ですので

 

 

「ヘラクレス、お前が出るタイミングは自分で考えなさい」

「隠蔽魔法をかけておくから。あと1つの命、無駄にするなよ?」

「時の勇者、風の勇者よ。寛大な恩赦、感謝の至り」

 

そして迷宮は閉じていく。

各々の思惑をもって、オケアノスの海に帰還する。

 

「ようしやる気が出てきた!!出てこいグフー!!!」

「クックックッ・・・よく吠えますねゆうしアレーーーーーーッ!!!!二人も居る!?!?!?」

「三秒前の登場台無し」

 

霧のようにゆらりと現れる。不遜な態度の魔人。

――――は、風の後に時を見つけて一瞬で余裕を脱ぎ捨てた。

 

「勇者のくせに一対多(いちたいた)なんて恥ずかしくないんですか!?正々堂々来たらどうです!!」

「どの面下げて恥を語るんだ」

「恥ずかしくない!!!!」

「こっちは胸を張りすぎだし」

 

完全に素が出てるグフーは時を指さして騒いでいる。恥ずかしいのはお前だよ。

 

「俺は見ているだけだから気にしないでくれ。というかそんなに言うならもう帰れ」

「嫌です!!貴方たちを殺すために生み出した新技・・・!今出さなきゃいつ出すんですか!?」

「今でしょ!!来い!!」

「早く終わらせたい感が出すぎ」

 

グフーを黒い魔力が包む。膨れあがって燃え上がる。

影が伸びてほどけた中から、魔神が姿を現した。

 

「鳴れ、鳴れ、鳴れ、暗黒の鐘よ!全てのフォースは私の物、誰にも負けない魔神の力。魔神天罰(ジーニーパニシメント)颶風(ヴァーティ)!」

 

ピッコル族には有り得ざる姿。成長した大人の姿。

周囲を浮遊する目玉の僕は4つ。赤い光線を放って襲い来る。

グフーは長い袖を靡かせながら、巨大な炎弾を生み出した。

 

「死になさい!」

 

相対する風の勇者は、聖剣を構える。

 

「解き放て、退魔の剣(マスターソード)。――――――この悲しみを、断ち切るために!」

 

刀身が輝く。

勇者の心に、声に呼応して、魔を打ち払う為に!

極大の魔力が光となり、グフーの宝具とぶつかる。膨大な余波。

 

 

Silver bow バーーーーーーーカ!!!!!

バードマスター 特異点ごと吹き飛ばす気!?

騎士 時!

奏者のお兄さん エーン

 

 

こんなこともあろうかと既に展開している。

こんな状況になるかも、って言われて呼ばれたので。俺は本当に働き者だなぁ!

 

「根源接続、聖地疑似顕現、全防衛機能発動。何人も――穢すに能わず。黄金の聖三角は眠る(サンクチュアリ・オブ・タイム)!」

 

対粛正防御展開。

根源に接続して魔力を取り出し、時の神殿の聖地と同じ空間を作り出す。

防衛機能――時の扉を呼び出すことによって、絶対的な防御壁を展開した。

二人の宝具はほぼ同等の威力を持っているが、グフーでは退魔の剣を凌げない。

拮抗は長く続かず、衝撃と共に雲が散った。

 

「ぐ・・・!」

 

髪を乱す暴風に顔を顰め、眼前に迫る剣に気づく。

 

「あ―――――」

「・・・とどめ」

 

額を貫く聖剣。逃れる術はなく。

 

「う、ううううう!この、このっ、覚えてなさーーーーーーい!!」

「ロケット団かあいつは」

「勝った!完!」

「展開が高速」

 

 

ウルフ 俺のマスソ、ビームのご用意されてないんだが

厄災ハンター あれ詠唱違うんだ

りっちゃん 【全英霊】閻魔亭のサインについて【緊急集合】

銀河鉄道123 なになになにそれなに

 

 

なんか出てきたぞ。

ガッツポーズしている風の元に向かいながら、時は宝具をしまう。

 

 

りっちゃん 閻魔亭が有名になった原因

奏者のお兄さん どんな感じのスレ?

りっちゃん 黒髭の座に火がつけられそうになってる

 

 

海は凪に戻る。

インターネットは物騒だなぁ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の下からアステリオスは現れる。

予兆もなく、予想もできず。イアソンは言葉を失う。

 

「来たわね!」

「な・・・っ」

「うおおおっ!」

 

船を軋ませる踏み込み。跳躍。虞美人と天草の間に割って入り、斧を振るった。

刀で防いで、受け止めきれずに吹き飛ばされる天草を、逃がさぬように追撃する。

 

「おまえを たおす・・・!」

 

ヘラクレスのように力強く、リンクのように速く。その勇ましさは雷光のごとく!

今までは、技量や戦術のド素人である虞美人だからこそ、暴れまくってもなんとか押さえきれていたのだが。

怪力と天性の魔を持つアステリオスは、天草一人では難しい。

揺れる船。白い波。水しぶきが服を濡らす。

飛び起きて攻撃を捌く。乱撃に黒鍵を取り出す間もなく。

その乱闘の間を縫って、短剣が体に突き刺さった。

 

「しまっ・・・・・・!」

「行くわよアステリオス!」

「うん!」

 

思わず力の抜けた体に、二人の攻撃が叩き込まれた。

 

「八つ裂きよ!死になさい!」

「むうううっ!」

 

霊基の核が砕かれる。甲板に叩きつけられた体はぐったりと弛緩し、やがて霧散していく。

天草は残念そうな顔をして、されど悔しさの感じられない穏やかな声で言った。

 

「残念です。次はもう少し、まともな召喚をされたいものですね」

「あまり残念そうに見えないけど」

「うん」

「まあ、色々あるのですよ。私にも」

 

太陽の眩しさに目を細めながら、サーヴァントは消滅した。

この場に敵はあと三騎。

 

「天草!・・・竜牙兵!行きなさい!」

「まだ出るのかい!キリが無いね!」

「だが足止めは出来ている。踏ん張りどころだ、船長!」

 

メディアの焦りを感じ取って、ヘクトールは内心で舌打ちを零す。

ドレイクの弾丸は聖杯だろう。なら弾切れは狙えない。

アステリオスが無事ということは、・・・・・・ヘラクレスはやられたか。

まだほんの数分しか経っていないのに・・・!

あまりにも早い決着。流石にヘクトールも驚きが漏れる。

 

恐らく彼が――――リンクが出たのだろう。まだ姿が見えないあたり、もしかしたらグフーを相手しに行ったのかもしれない。

そしてダビデは相打ち覚悟。振り切るためには、宝具でも出さねば。

 

「おい」

 

どろりと落ちる、イアソンの声。

 

「・・・・・・・・・・・・どういうことだ」

 

感情を煮詰めて詰め込んだ、暗い声。

 

「ヘラクレスはどうした!!」

「めいきゅうには いないよ」

「ヘラクレスが生きてたら、アステリオスが無事なわけないだろ?ならアイツは死んだ。わかりやすい理屈じゃないか」

 

ドレイクの挑発にイアソンは怒号を返す。

 

「死ぬはずがないだろう!?アイツはヘラクレスだぞ!不死身の大英雄だ!」

「・・・・・・」

英雄(オレ)たちの誰もが憧れ、挑み、一撃で返り討ちにされ続けた頂点なんだぞ!?」

 

幼子の癇癪のようだ。

怒りと焦りで震える姿は、いっそ哀れみすら覚える。

アタランテは静かに視線を外した。戦闘に集中する。

 

「お前のような雑魚に!!醜い怪物に!!倒せるものかァ!!」

「・・・あんなヤツにも一角の友情はあるんだね」

「・・・歪んでいるけどな」

「・・・・・・」

 

何も言わなくていい。とリンクに言われたアステリオスは沈黙を返す。

それが余計にイアソンの怒りに油を注いだ。

 

「獣人風情が図に乗るな!!!・・・そうだ。賢者!賢者よ!ヘラクレスを連れ戻してくれ!」

「? ・・・・・・! イアソン様・・・!」

 

グフーがいない。

気づいたメディアの足下がふらつく。見捨てられた?放り投げられた?それとも気配を消して見ているだけ?

わからない・・・。何も・・・・・・!

正解は勇者に倒された、だが。今のメディアにその考えに至るのは難しい。

 

「賢者様が居ません!」

「は・・・・・・」

「賢者・・・。グフーのことかな?」

「なんだ、見捨てられたのかい?」

 

笑うドレイクの顔も目に入らない。

何故?何故?

イアソンの思考がぐるぐる回る。

私は選ばれたんだろう?正義の味方に。賢者に導かれる勇者に。

どうして?裏切ったのか?どういうことだ。なんのつもりだ――――――。

 

「イアソン様!お気を確かに!まだ私達が居ますから・・・!」

「あーあ、こりゃ不味いな・・・」

「それなら早く倒されてくれないかい?・・・っと!」

 

槍と杖のぶつかる鈍い音。

ヘクトールの槍に弾かれて、ダビデは後ろに飛び退いた。

 

「仕事はキッチリやりますよ。アンタを足止めするくらいはね」

「・・・やれやれ、これだからヘクトール(大英雄)は」

 

けど今日の僕もかなりやるよ。勇者リンクに託されたからね。

ダビデは息を整えて、杖を構えた。闘志は強く、心を燃やしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘラクレスは儂とアステリオスがやる。ただそれには問題が1つ、グフーがフリーになってしまうことだ」

 

たき火を囲んだ作戦会議。口火を切ったのはリンクだった。

とろりとした金髪が、まるでハチミツのように煌めいている。

立香は抱えた膝の隙間から、その顔を眺めた。

 

「恐らく奴の性格からして、直接手をくだすのは最終手段になるだろう。それでも立香を船に置いておくのは、少し心配だ」

『・・・彼の攻撃を防ぐ手段が、カルデア側にないからですか・・・?』

「マシュとジャンヌの宝具なら効くと思う。反応できれば、だが」

『それでも契約の箱(アーク)とエウリュアレがこちらに居ることは、大きなアドバンテージだ。それを上手く利用できれば・・・』

 

目が合った。

リンクは立香を見ている。

立香がこっそり見ていることに気づいて、穏やかな視線を返してくれた。

勇気が出せない事を見抜いていて、ずっと待ってくれていた。

 

「あの、私」

 

視線が集まる。

 

「私、走るよ。エウリュアレを抱えて、契約の箱(アーク)のところまで」

「・・・・・・なんだって?」

「そうしたら船から離れられるし、敵を引きつけられると思うの」

「いい案をだすな。立香」

 

立香の言葉に驚いていた面々も、リンクの声でようやく動き出す。

 

『それは・・・確かに、そうかもしれないけど』

「ああ、いいね、いいじゃないか!さっすがアタシが見込んだ女だ!」

「うん、妥当な作戦じゃないか。サーヴァントだけじゃなく、マスターも命を賭けることになるけど」

「人生なんて大概博打さ。カルデアのバックアップもあるんだ。きっと上手くいく」

『! え、ええ!当然です!サポートは任せなさい、立香!』

「はい、所長」

 

ドレイクが、ダビデが、オルガマリーが肯定したことで作戦は決定する。

それでもかすかに不安そうにしているマシュの手を、立香は強く握った。

 

「マシュ、私のこと守ってね」

「――――はい!」

 

 

騎士 立香・・・こんな・・・なんて・・・良い子で・・・

バードマスター 立香ちゃん・・・!立派になって・・・!

守銭奴 後方保護者面落ち着いて



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カランコエ

山道を力強く踏みしめる足。ざくざくと落ち葉が鳴って騒ぐ。

 

「(動きが速い・・・けど!このくらいなら!)」

 

技量も何も無く力任せに振るわれる槍を、マシュが盾ではじき返す。

巨大馬に跨がり全身に鎧を身につけた男――――項羽は、光のない瞳でこちらを睥睨した。

地面を陥没させるほどの重い踏み込み、突進。ジル・ド・レェの海魔が肉壁となり受け止める。

体に巻き付いてくる海魔の触手を力任せに引きちぎった。

もはや言葉と認識するのも難しい、男の雄叫び。

 

「止まらないわね・・・。追いかけてくるわよ!」

「わかってる!じっとしてて!」

 

足下から伝わってくる振動を、振り切るように走り続ける。

呼吸が荒くなり、肺が活発に動き出す。

 

「・・・っ!」

「マスター!」

 

攻撃の衝撃が後ろから突き抜ける。つんのめって転びそうになるのを、たたらを踏むことでなんとか堪えた。

思わず振り返る。

 

『立香!進みなさい!止まってはダメ!』

「はい!」

 

オルガマリーの声に突き動かされて走り出す。

一瞬見えた光景は、項羽の槍を受け止めるマシュの背中。

 

「よっしゃアルテミス!俺らもやるぞ!」

「うん!遠慮無くぶちかましちゃうんだから!」

 

白銀の女神から放たれる、裁定の一矢。

 

汝、速射の白銀(ラビッドファイア・オルテュギアー)

 

地面を覆う海魔が巨大馬の動きを阻害する。腕に巻き付き攻撃の手段を奪う。

むき出しになった胸元、吸い込まれるように突き刺さる。

山を揺らす断末魔の叫び。

礼装がなければ、立香の鼓膜を破っていたのではないかと思うほどだ。

巨大馬が消滅し、身軽になったバーサーカーは前進を再開した。

 

「効いてなーい!どうしようダーリン!」

「落ち行け!馬は消えたからダメージはあるはずだ!」

『恐らく馬の霊基を吸収して回復したんだろう。マシュ!』

「はい!足止めします!」

 

遮蔽物の多い方へ。多い方へ。

木々をかき分け、岩肌を駆け抜ける。

 

『・・・よし、半分を越えた。各所に敷設した魔法陣には治癒効果がある。今のうちに出来るだけ休んでくれ』

「・・・はーっ、はーっ」

「・・・根性あるじゃない。見直したわよマスター」

 

流石にスポーツ経験があるといっても、走りっぱなしは普通にキツイ。

それでもカルデアに来てからは、日々のトレーニングメニューとして筋トレを始めた。おそらく今が私の全盛期。

エミヤ!マルタ!クー・フーリン!パーシヴァル!いつもありがとう!帰ってからメニューを追加されそうな視線を感じるけどありがとう!

 

「ねぇ貴女」

「アルテミス?」

 

ふわりと眼前に降り立ったのはアルテミスとオリオン。後ろは大丈夫なのだろうか。

 

『ダメージは確実に蓄積してる。マシュとジル・ド・レェが踏ん張ってるよ』

「ねぇ、どうしてそんなに頑張るの?貴女は勇者じゃないでしょう」

「アルテミスさーん!?」

 

純粋に疑問に思った顔で、悪意もなく女神は言った。

あわあわと小さな手を振り回して、慌てているのはオリオンだけだ。立香は虚を衝かれた顔で見返している。

 

「神に選ばれたわけじゃないのに」

「・・・そうだね」

 

汗をかいた前髪を払う。少女の瞳は美しい朝焼け。

 

「でもここに居るのは私だよ」

『・・・・・・』

「選ばれたわけじゃないし、勇者になりたいわけじゃないけど。やっぱりああしてればよかったって、引きずりたくもないの」

「後悔をしたくないだけ?」

「そうだよ。・・・私が選んでマスターになったの。だったらせめて、かっこよく戦いたいじゃない?」

 

悲しい気持ちは苦手だ。辛い空気は苦手だ。だから明るく振る舞ってしまう。

元気づけようと笑ってしまう。

でも。

他人の気持ちに寄り添い、ぐちゃぐちゃに絡まった気持ちをほどく、リンクの姿を見た。

自信と誇りからくる余裕の笑みは、ドキドキするくらい格好良かった。

私もあんな風に、強くてかっこいい大人の女になりたい。

少女は1つ、殻を脱ぎ捨てた。美しく羽化する。

 

「・・・うん!いいじゃない!気に入ったわ!」

「うわぁ!?」

「人間は嫌いだし、弱い人間はもっと嫌いだけど。誇りある戦士は好きよ。このアルテミスの加護をあげる」

「すげーなマスター・・・。こいつが俺以外に懐くとは・・・」

 

ぎゅむうと抱きしめられる。柔らかいもちもちの胸に包まれて、立香の思考が一瞬宇宙に飛んだ。

デッッッッッッカ・・・・・・。・・・良い香りする・・・・・・。

蹂躙される山の悲鳴が、その意識を現世に戻した。

すぐ近くから轟音がする。項羽が迫ってきたのだ。

 

「マスター!行くわよ!」

「イエッサー!」

 

地下墓地の入り口を越える。突風が体に当たった。

 

『項羽との距離、1㎞!』

「走って!走って!もうすぐ・・・!」

 

契約の箱(アーク)を遠目に確認する。小さな箱はどんどん大きくなっていく。

 

「もう逃げ道はないわね。怖い?」

「全然!マシュ達がいる!」

「言うと思った。止まったら追いつかれるわね。跳び越えなさい」

「まっ、じかーーーー!がんばれ私ぃーーー!」

 

狭い通路を抜けて、エウリュアレを強く抱え直す。

 

「さあ―――」

『距離500!』

『身体強化最大行使!』

「1、2の、3!」

 

ふわっと体が浮いた、ように感じた。

勢い余った体は壁に激突して床に落ちる。礼装があってよかった。本当によかった。

 

「や、やった・・・・・・!やればできるじゃない、マスター!」

 

ぜいぜいと息をきらす立香は、酷使した体を引きずりながら起こす。

びりびりと揺れる墓地。箱の異様な雰囲気を察したのか、項羽が足を止めた。

その後ろに激突する、白亜の盾。

 

「押せぇぇぇ!」

「えーい!」

「はあああ!」

「お任せを。我が涜神の宴をご照覧あれ!」

 

マシュ、アルテミス、オリオン、そしてイキイキしているジル・ド・レェ。

立香とエウリュアレの視界に海魔が溢れかえり、思わず反射で肩を跳ねさせた。ちょっと画が良くないかな・・・。

狂ったように――いや、実際もう狂っているのだろう。

無辜の怪物として顕現した、嵐の覇王。立香が虞美人から聞いた、聡明さなど欠片も無く。

箱に触れた項羽は消えた。悲鳴はなく、ただ光だけを残して。

 

『・・・・・・やったわ』

「マスター、ご無事ですか!」

「うん。・・・やったね、マシュ」

「はい!」

 

オルガマリーは気が抜けてへたり込みそうになるのを、椅子に座ることで回避した。

ずっと激しく脈打っていた心臓が、ようやく落ち着いてくる。長い呼吸を繰り返した。

 

「やったわダーリン!」

「いや~肝が冷えたわ」

「ジル・ド・レェもありがとう」

「恐悦至極・・・。では私は戻りましょう」

 

マシュに手を引かれて立ち上がる。

墓地に吹き込む風が、冷たくて気持ちよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!! マスター!」

 

乱戦の中、メディアが声を上げる。それに反応して全員が彼女を見た。

 

「項羽が倒されました!」

「項羽様じゃないって言ってんでしょ!!!」

「どうどうどう」

「やった ますたー・・・!」

 

ドレイクとアタランテが笑みを零す。

瞬間沸騰した虞美人をダビデが宥め、アステリオスが安堵の息を漏らす。

ヘクトールは船に退避して、ちらりとイアソンを見た。

俯いた顔。表情は見えないけれど。

 

「・・・どうするんだい。姫様」

「どうもしません。私のすることは変わらないので。・・・ああ、あちらのマスターが戻ってきましたね」

 

着地に船が揺れる。

喜色を浮かべて出迎える姿も、イアソンは見ていない。

ヘクトールが飛び出した姿も、誰も見ていない。

突風。のち、凪。

 

「――――そう来ると思ったぜ。ヘクトール」

「・・・・・・!!」

 

サーヴァントの心理を抜けて。カルデアの予測を超えて。

立香の心臓を狙った一撃は、オリオンの棍棒に受け止められた。

針の糸を通す策略。大胆不敵な槍さばき。

あの大英雄ヘクトールならば。

1番イヤなタイミングで、1番イヤなことをするだろう。

 

「読ませてもらったぜ・・・!三つ星の狩人(トライ・スター)の心眼、舐めんなよ!」

「射止めてみせるわ。女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)!・・・さようなら、悪役のオジサン」

「・・・・・・あーあ。慣れないことはするもんじゃねぇな。良いマスターぶりだ、カルデアの藤丸」

 

ようやく肩の荷を降ろして、ヘクトールは消えていった。

残るはイアソンと、メディア・リリィ。

 

「・・・ヘクトールも逝きましたか。イアソンさま、どうなさいますか?」

「・・・うるさい」

「降伏は不可能、撤退も不可能。私は治癒と防衛しか能の無い魔術師。さあ、いかがいたしましょう?」

「うるさいうるさいうるさい!黙れッ!妻なら妻らしく、夫の身を守ることを考えろ!!」

「ええ。もちろん考えています、マスター。だってそれがサーヴァントですものね」

 

メディアは笑っている。ずっと笑っている。

まるで状況を理解していないかのような微笑みに、イアソンはようやく困惑を覚えた。

 

「待った!その前に、イアソン君に1つ質問がある。エウリュアレを契約の箱(アーク)に捧げるなんてバカな考え、誰に吹き込まれたんだい?」

「貴様たちの知ったことか!」

「いや、知りたいなぁ。だってほら、彼女を捧げていたら世界が滅んでいたんだよ?」

「――――なんだと?」

 

ダビデの言葉に、イアソンは驚愕した顔をする。

まったく考えになかったことを指摘された時の、呆けた声だった。

 

「当たり前じゃないか。あの箱は死を定め、死をもたらすものだ。それに神霊を捧げるなんて正気の沙汰じゃない」

 

追撃するダビデに、イアソンは反論を返せない。

 

「ただでさえ安定していない。この時代そのものが殺されていただろう」

「――――バカな。嘘だろう、そんなはずは――――」

「だから聞きたいんだ。きみ、誰に唆されたんだい。ヘクトール?それともメディア?」

「・・・・・・メディア?今の話は・・・嘘だよな?」

 

いつの間にか海は静まりかえっている。

ゆっくりと振り返るイアソンの先に、淡く微笑むメディアがいる。

 

「神霊を契約の箱(アーク)に捧げれば、無敵の力が手に入るのだろう?だって、あの御方はそう言って・・・・・・」

「はい、嘘ではありません。だって、時代が死ねば世界が滅ぶ。世界が滅ぶということは、敵が存在しなくなる」

 

淡く微笑む、メディアがいる。

 

「ほら――無敵でしょう?」

「お、おまえ。おまえたち、俺に、嘘をついたのか?」

 

船は緊迫した空気に包まれる。

マシュは無意識に、立香を庇うように立つ。

 

「それじゃあなんの意味もない!オレは今度こそ、理想の国を作るんだ!誰もがオレを敬い!誰もが満ち足りて、争いのない、本当の理想郷を!」

「・・・自分の国?」

「・・・そうだマスター、アイツはな。王になりたかったんだ」

 

アタランテの声に振り返る。

彼女は痛ましそうに、イアソンを見ていた。

 

「・・・・・・それは叶わない夢なのです、イアソンさま。だってアナタには為し得ない。アナタは理想の王にはなれない。人々の平和を願う心が本物でも、それを動かす魂が絶望的にねじれている。アナタは、アナタが望む形で夢を叶えてはいけないのです」

 

純粋で綺麗な夢だけど。だけど。なのに。

 

「本当に欲しかったものを手にした途端、自分の手で壊してしまう運命を思い知るだけだから」

「なに・・・なにを言う、魔女め!(ひな)びた神殿にこもっていただけの女に何がわかる!」

 

溜まりに溜まった鬱屈が大爆発したような激高だった。

 

「王の子として生まれながら叔父にその座を奪われ、ケンタウロスの馬蔵なんぞに押し込まれた!その屈辱に甘んじながら才気を養い、アルゴー船を組み上げ、英雄たちをまとめ上げた!このオレのどこが!どこに!王の資格がないというのだ!?」

 

その“思い通りにならないと周囲を呪う”魂のねじれこそが。

悪に落ち、礼節を忘れ、周りを気遣うことも出来なくなった姿こそが。

王にも勇者にもなれない、これ以上の答えである。

 

「オレは自分の国を取り戻したかっただけだ!自分だけの国が欲しかっただけだ!それの何が悪いというのだ、この裏切り者が――!」

「・・・・・・残念です。私は召喚されて以来、ずっと本当のことしか言っていませんでした。私は裏切られる前の王女メディア。外に連れ出してくれた人を盲目的に信じる魔女。だから()の王に選ばれてしまったアナタを、こうしてお守りしてきました」

 

静かで淡々としたメディアの姿に、寒気を感じる。

なにかおぞましいものが現れるのではないか。そんな予感がある。

 

「全て本当です。全て真実です。・・・・・・多少の誤解はあったかもしれませんけど。例えば今しがた守るといったでしょう?どうやって守るのかというと――こうやって、」

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

そう言ったのは誰であったか。

イアソンだったかもしれないし、立香であったかもしれないし、マシュであったかもしれないし、メディアであったかもしれない。

 

 

「――――――ヘラクレス?」

 

 

メディアがイアソンに突き刺そうとした短剣を、受け止めたのはヘラクレスだった。

ぱしゃん。

ヘラクレスの体が溶ける。

 

「イアソン」

 

溶けて、膨れて、霊基を食い破って、それは顕れる。

 

「すまない。私がお前を殺してやればよかったのだ。呼ばれてすぐに。そうすれば――」

 

頭が真っ白になった、メディアがへたり込んだ。

襟首を引っ張られて助けられたイアソンの目の前で、ヘラクレスの霊基が醜い魔神に変貌していく。

 

「メディアも、こんなことをするひつよ」

「フォーウ!フォーーウッ!!」

 

顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神なり。

序列三十。海魔フォルネウス。

 

『・・・・・・な、なんてことだ』

「嘘・・・・・・」

「(・・・へらくれす)」

 

その力を以て、旅を終わらせるもの。

あやゆる希望を食い散らかす、王の寵愛である。



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からっぽのまにまに

一方こちらはグフーを撃破したリンクサイド。

周りに影響が出てないことを確認し、時の勇者は神殿に帰っていった。

あとでミスドを差し入れてあげよう。その背を見送りながら、風の勇者は思案する。

 

「(さて、立香達のほうはどうなったか)」

 

加勢するなら船の方がいいだろうか、と伸びをしながら考える。

等間隔で聞こえていた波の音が不意に乱れた。反射的に剣の柄に手を添える。

 

 

騎士 次はなんだ

フォースを信じろ あれ?この気配・・・

 

 

振り返った先の水面がきらきらと光った。まるで鏡のように、空の青さを反射している。

石が投げ入れられたかのように波紋が広がった。それはやがて天に向かって立ち上がり、人型を作る。

ざく、ざく、と砂浜を踏みしめる鈍い音。

けだるそうにこちらへ近寄る青年は、光の無い目をしていた。

銀というよりは白い髪。金色の瞳。一回りサイズの大きい黒いコートを羽織っている。

必然的に袖余りになった手をゆらゆらと振って、一応の挨拶とした。

 

「シャドウ?ダーク?」

「オルタでいい。自分らは全員で1つの霊基だし」

 

 

フォースを信じろ やっぱりうちのシャドウだ

いーくん 久しぶりに見たな

 

 

「どうしたんだ。わざわざ特異点まで来るなんて」

「“また勇者共にやられた!えーん悔しい!そうだオルタちょっと仕返ししてきてください!いいでしょうアナタは私の部下みたいなものですし!”」

「・・・・・・」

「ただでさえポンチなのにガノンドロフ(ストッパー)も留守だから手がつけられねぇ。逆らった方が面倒になると判断してこっちに来た」

「お前も大変なんだな・・・」

 

 

小さき爺 弟子が 本当に すまない

小さきもの グフーのお守りとか現状1番イヤな職業では?

守銭奴 駄々捏ねが目に浮かぶ

 

 

はぁー・・・とため息をつくこのシャドウは、一応ガノンの悪しき心から生み出されたアヴェンジャーのはずだ。復讐心とか無いのだろうか。

 

「もちろんあるに決まっているだろう。この霊基の根幹はお前らを反転したものだ。無慈悲、無関心、怠惰、残忍、苛烈、暴君、憎悪。・・・はぁ。面倒だが折角来たんだ。嫌がらせの1つでもしてやろう」

「む、何をする気だ。いくらオルタでもやっていいことと悪いことが、」

「知らね」

「あ!コラ!」

 

ぼちゃんと水の中に飛び込む、オルタを追おうとして踏みとどまる。

水を介して出入りするのは、確か時オカでの能力だったはずだ。

 

 

なあもしかしてモーファいる?なら飛び込むのは不味いよな?

 

 

奏者のお兄さん 居ますね確実に。あいつらセットなので・・・

ウルフ 潜ったってことは船の方か?でもヘラクレスがスタンバってるよな

 

 

水の神殿のボス、水棲核細胞モーファと中ボスをやっていたダークリンクは仲が良い。

どっちかが出てくるのならどっちかもついてきている。そして水中はモーファの独壇場だ。いくらリンクでも分が悪い。

それを考えると泳いで追うのは悪手だ。向かうとしたら恐らく船。

いつの間にか山を揺らしていた地響きが収まっている。立香たちも戻ってきそうだ。

 

 

「(! ヘクトール)」」

 

 

Silver bow おっ

りっちゃん へぇ

 

 

念のため気配を消して船に乗り込むと、ヘクトールの攻撃が防がれたところだった。

誇らしげなオリオンとエウリュアレの宝具が突き刺さる。光の粒となって消滅していくヘクトールは、安堵したような笑みを浮かべていた。

 

 

逝ったか。あいつもお疲れ様だね

 

 

銀河鉄道123 ゆっくり休んで欲しいですな

 

 

残るはイアソンと、メディア・リリィ。

オルタはどこへいった?リンクは油断なく周りを警戒した。

ダビデの問いかけが投げられる。イアソンは答えられず、メディアは笑っていた。

気味の悪いほどの静寂が、リンクの眉を(ひそ )めさせた。嵐の前の静けさほど恐ろしいものはない。

 

 

バードマスター イアソンは王になりたかったんだね

騎士 それにしてはカラテが足りないな。志は悪くないが

うさぎちゃん(光) あと言葉も足りてないよね。コミニュケーションを取れ

 

 

まず反省しているのなら尊大な態度をとるな。他人を見下すんじゃない

 

 

災厄ハンター ボロクソ

 

 

空気が揺らぐ。小さな違和感を感じて、リンクはきょろきょろと周りを見渡した。

言葉が、感情が、間欠泉のように吹き出した。イアソンに近づく男がいる。

 

 

奏者のお兄さん ん、ヘラクレス

 

 

ああヘラクレスの気配か。・・・割って入る気か?

 

 

メディアが短剣を取り出すのを、リンク達は視認していた。

ヘラクレスが動いた為に傍観の姿勢を取る。

――――動揺、驚愕、悲鳴、呆然。

ヘラクレスの胸に短刀が突き刺さった。

それだけなら、大したダメージにはならなかった。そこで話は終わっていた。

 

「聖杯よ」

「! オルタ・・・!」

 

どこからともなく聞こえてくる声を、リンク達以外も当然のように(・・・・・・)受け入れた。

誰の発言なのか、という思考を飛ばし、ただ言葉の意味だけを認識する。

言論によって他者の思考を誘導し自在に操る技術と、魔術的な精神干渉が合わさったスキルだ。

高い対魔力とオルタ本人を認識しているリンクは弾けるが、他はそうもいかないだろう。

ヘラクレスを包む闇の魔力。聖杯を起動させ、彼はそれを呼びだした。

ぱしゃん。

ヘラクレスの体が溶ける。

 

「戦う力を与えよう。抗う力を与えよう。滅びるまで戦うがよい。この贄を食い尽くし、海を穢し、世界を侵食せよ。序列三十、海魔フォルネウス!」

 

ヘラクレスの霊基が醜い魔神に変貌していく。

ああ、成る程。確かにこれは嫌がらせだ。目覚めずにすんだはずの海魔を、わざわざ呼び出したのだから。

縦に避けた瞳孔の、赤い瞳。天を衝く黒い肉体は余りにも醜悪で。

 

『魔神・・・!これで二体、いや二柱目か・・・!本当にいるのか、そんなものが・・・!』

「っ・・・!」

「こりゃまた驚いた・・・。しかも何だい、フォルネウスだって・・・!?それはソロモンの魔神のことじゃないか!」

 

叫び声に気圧される。物理的にも押されていく。声にも魔力が籠もっているのだ。

オルタが既に逃げているのを確認して、風の勇者はため息をついた。

 

 

バードマスター 介入する?

 

 

・・・・・・いや、手は出さない。折角ヘラクレスが発破をかけたんだ

 

 

災厄ハンター 打ちひしがれてるけど

ウルフ イアソン様はこれからだから。知らんけど

 

 

銃声が肉の柱にぶち当たった。

船首に立つ船長は、高らかに吠える。

 

「当たった!ようし、当たるんだったら倒せるさ!」

「キャプテン・・・!」

「マシュ、これが正真正銘最後の戦いだ。ほらほら、しっかりしな!コイツをぶっ倒すためにやってきたんだろう?」

 

「コイツはアンタたちのための大一番だ!不敵に笑ってこう返してやんな!」

 

太陽をも堕とした女は、逆光に照らされて笑う。

テメロッソ・エル・ドラゴ。この名を覚えて逝くがいい!

 

「“化け物なんかに用はないの。いいから素敵な王冠を渡してちょうだい!”ってな!」

 

令呪のある右手を握りしめて、立香は頷いた。

マシュの胸に広がる、この気持ちはなんだ。

心を揺さぶる、勇気と希望の輝き――――。

 

「アイ、キャプテン!マスター、この時代最後の敵を確認。修正を開始します!」

『カルデアより、ゴールデン・ハインド!解析結果が出た!聖杯はあの巨大敵性生物の中にある!』

『総員戦闘体勢!サポートに集中!』

 

敵に魔力が集まっていく。

瞳から放たれる無数の攻撃を、飛び出したマシュが宝具で防いた。

 

「よっしゃ、気合い入れろアルテミス!アステリオス、虞美人、行くぞ!」

「いいけどダーリンは?」

「見てるだけ!応援はします!」

「がん ばる」

「ああ、見苦しいったらありゃしない。さっさと片付けて帰るわよ」

 

アルテミス、アステリオス、虞美人が攻撃を叩き込んでいく。

抉られて消滅した肉柱は、しかし即座に再生した。ヘラクレスの能力の影響を受けているのだろう。

 

「マスター、魔力を回せるかい?再生するよりも早く攻撃しないと、アレは無理そうだ」

「私も宝具を解放しよう。同時にいくぞ」

「うん、お願い二人とも」

 

溜まった疲労でかすかに息を乱す立香の頬に、エウリュアレの冷たい唇が触れた。

 

「マスター、女神の加護をあげる。踏ん張りなさい」

「・・・うん!ありがとう女神様」

 

メディアが震えながら、杖を支えに立ち上がった。

イアソンはまだ俯いて、座り込んでいる。

 

「君には改心する権利がある。──では、仕方ないな。五つの石(ハメシュ・アヴァニム) !」

「二大神に奉る・・・・・・。訴状の矢文 (ポイボス・カタストロフェ)!」

 

投石器によって放たれる、必ず命中する五度目の攻撃。

青と橙の光を纏い、天から降り注ぐ無数の矢。

肉柱を上から、横から、引き裂き打ち抜き削り取る。

 

『よし、効いて・・・!』

〈漂流の時 来たれり〉

「「「!?」」」

 

ぐらり、と近くにいた三騎が体勢を崩す。

視界が点滅して、目眩を起こしたかのように頭が揺れた。

慌てて距離をとる。

 

「魔力を吸われた!?おいしっかりしろ!」

「うう~・・・」

「ぐぅ・・・」

「う・・・気持ち悪い・・・」

 

 

うさぎちゃん(光) (アイツ喋るんだ)

フォースを信じろ (思った)

 

 

〈魔力充填完了 その痕跡を消す〉

「令呪を以て命ずる。マシュ!ドレイク!私達に勝利を!」

「はい!仮想宝具、展開!」

「カルバリン砲、限界まで撃てぇー!!」

〈焼却式・フォルネウス〉

 

超高出力の魔力が閃光となって襲いくる。

相対するは、聖杯が生み出す無限の砲弾。数えるのも億劫なほど展開されたそれは、太い光の輝線を描く。

その後ろからドレイクを守るため、皆を守るため、マシュが宝具を発動する。

衝撃が海を伝い、船を揺らし、黒煙が視界を覆う。

 

爆音。火花は弾けて、焼けるニオイ。

 

『船は!?』

『信号は健在!・・・映像来ます!』

 

乱れた映像が復帰する。

オルガマリー達が見たのは、消滅間際の魔神。息を切らしながらも立っているマシュ。

 

『良かった・・・』

「もう少し、もう一撃!みんな動けるかい!?」

「言われずとも・・・!」

 

しかしダビデ達が動くまでもなかった。アタランテよりも早く、剣は霊核に突き立てられた。

 

「・・・・・・・・・イアソン?」

 

吹き飛ばされて露出した霊核――――ヘラクレスを貫く。イアソンの後ろ姿。

 

「もういい・・・・・・」

「・・・いいのか」

「・・・メディアを裏切りの魔女にしたのはオレだ。だから次は、次こそは!もっと!ちゃんと!うまく、うまく・・・・・・!」

「・・・・・・」

「お前がオレなんかのために、犠牲になる必要はないんだ・・・。・・・はは」

 

ヘラクレスと魔神が消滅した。ころりとおちた聖杯には、もう見向きもしない。

 

 

本当はイアソン様もわかってたんだなぁ

 

 

災厄ハンター でもワンチャンあるかもって思ってしまったんだなぁ

小さきもの グフーが悪いよ

守銭奴 これだから混沌・悪は・・・

 

 

メディアはふらりと、イアソンに暗い視線を向けた。

それに気づいたダビデが、鋭い声で牽制する。

 

「イアソン、メディア。まだ戦うかい?」

「大人しく聖杯を渡してください」

「・・・・・・ああ」

 

イアソンの心は折れた。

もう、怨嗟の声も出ない。

 

「・・・・・・ごめんなさい、イアソンさま」

「・・・・・・」

「彼からアナタを守りたかったけど、私には手段がなかった」

「彼?」

『王女メディア!黒幕は誰なのですか!?』

 

オルガマリーの問いかけに、メディアは静かに答えた。

 

「それを口にする自由を私は剥奪されています。魔術師として私は彼に敗北していますから」

『サーヴァントとしてではなく、魔術師として王女メディアが敗北した・・・!?』

「ええ、どうか覚悟を決めておきなさい。遠い時代の、最新にして最後の魔術師たち。アナタたちでは彼には敵わない。魔術師では、あの方には遠く及ばないのです」

 

メディアの心は粉々になった。

イアソンはヘラクレスが救ったけれど、彼女は誰が救うのだろう。

 

「だから――――星を集めなさい。いくつもの輝く星を。どんな人間の欲望にも、どんな人々の獣性にも負けない、嵐の中でさえ消えない、(そら)を照らす輝く星を――――」

 

このメディアには関係のない事だけど、確かに彼女(メディア)はイアソンが大好きだった。

初恋だった。その心を守りたかった。

余人と異なる耳を生まれ持った彼女は、しかしそれを誇りに思っていた。女神の声を聞くために大きく長い耳になったという、ハイラル人と同じだったからだ。

溢れんばかりの魔術の才も相まって、きっと先祖は彼の民なのでしょうと皆が口をそろえて言った。

嬉しかった。夢だった。毎日のように小説を読んで、海の向こうを目指す冒険に憧れていた。

 

だけど結果はご覧の通り!

己は魔女に堕ち、イアソンは舳先に押し潰され死に絶えた。

どこで間違えたのだろう。女神によって植え付けられた、偽りの恋心から?

悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。虚しい。・・・誰か。

心が悲鳴を上げている。血を流して項垂れている。

だけどここには誰も居ない。

裏切りの魔女を慰めようとする、“誰か”など――――――。

 

「悲しいな。王女メディア」

 

聞き慣れぬ声に顔を上げる。

恐ろしい嵐の中でも届くような、怒号飛び交う戦場でも届くような、綺麗な声だった。

そしてその姿を認識した瞬間、もともと真っ白だった顔色をさらに白くしてふらーっと尻餅をついた。

 

「だけどお前はお前なりに、理不尽に抗ったのだろう。そんなお前の心が無下にされるのは見ていられない。ならばせめて、この歌を送ろう」

「ひぅっ、ひっ、ひっ、」

「うんよし呼吸はちゃんとしようか。過呼吸になりそうな音してるから」

 

 

うさぎちゃん(光) せんせーイアソン君が気絶しました

いーくん こういう肝心なところを逃すのがイアソン様のイアソン様たる由縁

 

 

どたーん!と大きな音がしたので思わず顔を向けると、イアソンが泡を吹いて倒れていた。重傷や・・・。

 

 

スルーで行こう

 

 

風のタクトを取り出す。真名解放。

 

「来たれ賢者、我が友よ。天に届くこの音色は、祈りを紡ぎ傷を癒やさん。我が指揮に唄え!四重奏曲神唄 (クゥォテットソング)!」

 

リト族の賢者、メドリ。先代のゾーラ族賢者、ラルト

コログ族の賢者、マコレ。先代のコキリ族賢者、フォド。

2つのハープと2つのバイオリン、美しい音色が海に響いた。

溢れんばかりの誇りと喜びをもって、4人の奏者は楽しそうに唄を奏でる。

メディアの瞳からぽろりと涙が落ちた。それを切っ掛けに、ダムが決壊したかのように涙が溢れだす。

あんなに冷え切っていた心を、暖かいものが満たしていく。

暗く沈んでいた心を、輝く星が照らしてくれる。

 

 

銀河鉄道123 イイネ!しました

Silver bow ふぁぼった

りっちゃん いいエンドロールだ

 

 

ドレイクが、アステリオスが、アタランテが、ダビデが、オリオンが、夢中で聴いている。

エウリュアレ、アルテミス、虞美人が、うっとりしながら聴き惚れている。

立香とマシュは、胸に温もりが灯るのを確かに感じた。少し泣きそうになって、慌てて袖で拭った。

なんて綺麗で、透明で、慈愛に満ちた、素敵な唄なんだろう。

カルデアは静まりかえっている。呼吸すら演奏の邪魔になると言わんばかりの空気だ。4分の3が無言で泣いている。残りの1も若干危うい。

風の勇者の祝福をうけて、特異点は修正されていく――――――。

 

 

 

 

第三特異点 封鎖終局四海オケアノス 定礎復元

 

 

 

 

 



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愛なんて歌っている獣が

「お帰り。お疲れさま、立香君、マシュ」

 

ぱっと意識が浮上する。

コフィンの扉が開く間に、立香は瞬きで眠気を散らした。

いつのまにかカルデアに帰ってきたらしい。・・・リンクはまた、どこかに行ってしまったのだろうか。

 

「これで三つ目の特異点も消去完了だ。人類史を守る・・・その任務も絵空事ではなくなってきた」

「ええ。・・・あの魔神に関してはこちらで調査を開始します。さしあたってはソロモン王の時代ね。カルデアスとシバを使って、紀元前1000年前の地球を観測してみます」

 

ロマニとオルガマリーが深刻そうな顔で話している。

ここでようやく立香は、自分が聖杯を抱えていることに気づいた。

 

「・・・・・・いいのですか?シバで観測できる範囲は西暦までで、紀元前以上に遡ると精度が落ちるはずです。必要な魔力も電力も膨大なモノになります。今のカルデアにそこまでの備蓄は――――」

「そこはそれ、裏方の意地でなんとかするよ。魔力に関しては協力者のアテもあるしね」

「協力者・・・?」

「協力者?・・・ロマニ、それは私の知らない話かしら」

「フォーウ!」

 

さっきまでの緊張感ある空気が離散し、怪訝な顔をしたオルガマリーがロマニに詰め寄る。

焦った顔をしたロマニが大げさに手を振って誤魔化すのを、ダ・ヴィンチはにやにやしながら眺めた。

 

「え?あ、うん、ごめん、ボクの勘違いだ!ダ・ヴィンチちゃんの隠し財産のことだ!とにかく、キミたちは疲れを癒やしてくれ!」

「そうだね。さ、その聖杯は私が預かろう。マシュ、立香ちゃんを部屋まで送ってあげなさい」

 

ダ・ヴィンチにぐいぐいと背中を押されて、戸惑うマシュと立香が退出した。

ちなみに虞美人はとっくに解散している。自由なヒトである。

あとに残ったのはロマニの前で仁王立ちする所長と、必死にそれから目を逸らしている医療部門のトップ。そしてそれを面白そうに眺めているダ・ヴィンチちゃんだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、お疲れ様でした。フォウさんも頑張りましたね」

「キュ、キューウ!」

「ところで先輩。ドレイクさんが、これが終わったら世界一周旅行に行こう、と言っていましたよね。・・・行きたかったですか?」

「・・・全部終わったら、行ってもいいかなぁ」

 

ふぁ、と欠伸をこぼす。

なんだか凄く眠い。

 

「戦いが終わってから・・・ですか?・・・そうですね。レイシフトによる旅ではなく、この時代の旅を」

「マシュも一緒に行くでしょ?」

「・・・はい。まだ未来の決まっていない世界を、ドレイク船長のように楽しみたいです」

 

部屋に辿り着く。

髪を解いて、礼装を脱いで、寝る準備を整える。

マシュが髪を梳かしてくれた。気持ちいい。・・・余計に眠くなった。

 

「・・・先輩。今回の聖杯探索は、これまでの中で1番特殊なケースだったと思います。ひたすら何処かを目指す工程。果ての見えない海原を征く戦いでした」

「うん・・・」

 

ベッドに転がった立香に、マシュは掛け布団を掛けてあげる。

 

「わたしはその中で得がたいものを学んだ気がします。人類史において、善人も悪人も等しく貢献している。人間の多様性と矛盾。そして期待値」

「うん」

「・・・・・・人間は凶悪な生き物です。自分の欲望、目的のために知恵を絞り、力をつける。本当に凶悪な特性です。この惑星でもっとも強く、野蛮な生命体と言えるでしょう」

 

思わずマシュを見上げる。

言葉の強さとは裏腹に、彼女は穏やかな顔をしていた。

 

「でもその凶悪さには希望があった。叶わないものを叶える、という希望。不可能を不可能のままにしておかない力。それが希望であり人間の業だと、彼女と勇者は教えてくれました」

「・・・・・・」

「わたしにその力があるかはわかりません。でも、できるかぎり近づこうと思います。先輩と一緒に戦っていくために。いつかきっと、先輩が誇れるサーヴァントになるために」

「マシュ」

「はい」

 

ねむい。すごくねむい。

でもいわなくちゃ。

落ちそうになる瞼を無理矢理上げる。

 

「もうとっくに、誇りに思ってるよ」

「!」

 

頬にふわりと赤みが差して、瞳が潤んできらきら光る。

両手を膝の上でぎゅっと握って。

特別な宝物を手にいれた人のように、彼女は満面の笑みで微笑んだ。

 

「―――――はい、先輩。どうか良い夢を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雀のお宿は満員御礼。ぴいちくぱあちく働いている。

本日の議題は、誰がガノンドロフの部屋に食事を持って行くか、です。

 

「無゙理゙で゙ず」

「一殿、俺の服の裾を握るのは止めてくれ」

「・・・う、ううん。頑張れば・・・頑張れば・・・」

「お客様として来ているだけですし、すぐに持って行ってぱっと帰れば・・・」

 

なぜこんな状況になっているのかというと、今まで担当していた紅閻魔が多忙が極まり行けなくなってしまったからである

雀たちの話を聞くかぎり、来客しているのは老いた王。1番穏やかで理性的と予想されるガノンドロフだ。

貴賓室に籠もって出てこない様子を見る限り、あちらも騒ぎを起こす気はないのだろう。

ならば、ならば大丈夫――――――。

 

「ぶっちゃけ本人よりギラヒムが怖い」

「はい」

「そうだな」

「・・・ええ」

 

雀曰く、従業員に対応しているのは侍っているギラヒムらしい。

そしてギラヒムには人間に対して特に優しくしてやろうという気持ちはない。

怖いよー・・・。

 

「じゃあ儂が持って行ってやろうか」

 

項垂れた斎藤の後ろからひょこっと顔を出した風の勇者に、全員もの凄い勢いで飛び退いた。

 

「そんなに驚くか?儂だって傷つくぞ?」

「いいいいいやすみませんすみませんすみません」

「い、らしていたんですね」

「風の勇者様・・・!」

「こ、ここここっにちは」

 

なめらかに腰を抜かした斎藤、声の裏返っている渡辺。

思わず槍を呼び出してしまったブリュンヒルデにしがみついているマタ・ハリ。

 

「いい加減慣れたかと思ったが、そういや儂と会うのは初めてか。初めまして!食事は儂が持って行ってやるぞ」

「えっいやいやいやお客様にそんな、・・・お客様?お客様ですか?」

「いんやバイトだぞはじめちゃん。存分に使ってくれ」

「! そういえば来ているのは・・・」

「うん、そういうことだな綱くん。お前達は他の仕事に戻りなさい」

 

こてりと首を傾げれば、金髪がさらりと揺れる。

一語一句が余りにも心地よい。人を惹き付ける天性の美声。

 

「よ、ろしいのでしょうか・・・。紅先生に任されたのは私達なのに」

「女将には儂から行っておこう。なに、この程度で怒る人じゃないさ」

「ではあの・・・よろしくお願いします。えっと、お食事はここに」

「ありがとう、マタ・ハリ。そう緊張しなくても大丈夫だよ。光からお前達のことは聞いているからね」

 

ちらちらと振り返りながらも、残った業務を片付けるために四人は持ち場に戻っていった。

ひらひらと手を振れば振り返してくる。

さて。

 

「いらっしゃいませお食事の時間です!!!」

「帰って死ね!!!!」

 

襖を開ける動作はなめらかで優雅だったのに、声がアホほどうるさかった。

振り返らずとも相手を認識したギラヒムが反射で罵声を返す。

 

「お客様、従業員への罵声はおやめください」

「罵倒されるようなことをしているのは貴様だろうが食事置いて消えろ!!」

「ガノンドロフ元気?儂、旅行行くって聞いてないんだけど」

「なぜ貴様にいちいち報告しなきゃならねえ!!マスターは慰安中だ失せろ!!」

「ギラヒム」

 

重厚感のあるバリトンボイス。

リンクとはまた違う、人を魅了する天性の美声。色気を感じるゆったりとした声。

ギラヒムが肩を揺らしたのは一瞬。すぐさまその場で膝をつく。

 

「はい、マスター」

「本人が従業員だと言っているんだ。食事の準備をさせろ。貴様はしばらく席を外せ」

「・・・仰せのままに」

 

リンクにものすごい睨みを入れてから、ギラヒムは剣の中に戻る。

鼻歌交じりに料理を並べ終わると、ようやく男はこちらを向いた。

 

「特異点はどうだ。お前のオルタナティブも動いたようだが」

「あ、やっぱりわかるんだ。特異点はまあまあだね。今のところ特別な問題はない」

「わかるとも。アレらはワシらの手駒でもある」

 

酒をあおる男は、それだけで絵になるほど。

あぐらに肘をついたリンクの行儀の悪さを指摘するものはいない。

 

「次の特異点はロンドンか。どうするつもりだ?」

「どう、って?ロンドンは何か不味いのか?ていうかなんで知ってるんだ」

「ワシが敵ならここで仕掛ける。あそこには時計塔もあるしな。魔術の仕掛けがしやすい」

「スルーか。いいけど。んーまあ皆と相談するよ」

 

会話は一旦そこで終わった。

さわさわと、川のせせらぎが聞こえる。鳥が元気に鳴いている。

暴力も略奪もない。血のニオイも染みついていない。

生前、死の間際にようやく手に入れたような、優しい風が吹いている。

 

「一局付き合え。暇だろう」

「いいよ。今日こそは勝つからな」

 

窓から差す西日に照らされるまで、二人は将棋を指し続けた。

横なぐりの雨の中、落雷を挟んで名乗り合った時とは違う、静かな時間。

死してようやく手に入れた。勇者と魔王の、殺意のない対話であった。




お家のルーターが壊れてました。
次は幕間特異点→第四特異点です。


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監獄塔に復讐鬼は哭く
L'amour est un poison.


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――人を羨んだコトはあるか?」

 

「己が持たざる才能、機運、財産を前にして、これは叶わぬと膝を屈した経験は?」

 

「世界には不平等が満ち、ゆえに平等は尊いのだと噛み締めて涙に暮れた経験は?」

 

 

誰かが脳の底から語りかけてくる。体の内側で嗤っている。

 

 

「答えるな。その必要はない」

 

「心を覗け。目を逸らすな。それは誰しもが抱くがゆえに、誰ひとり逃れられない」

 

 

暗闇から手は伸びて。立香の魂を絡め取っていく。

ここでは(カルデア)ない何処かへ。何処かへ。何処かへ・・・・・・。

 

 

「他者を羨み、妬み、無念の涙を導くもの」

 

「嫉妬の罪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

監獄塔に復讐鬼は哭く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある朝、藤丸立香が妙に気掛かりな夢から眼を醒ますと、自分が全く知らない牢獄の中で寝ているのに気づいたのです。

夢と言ったものの、覚えているのは己に語りかける男の声だけで。

何を話していたのかも忘却した頭では、この状況を切り抜ける最善の方法など浮かぶはずも無く。

 

「絶望の島、監獄の塔へようこそ先輩(・・)!」

 

眠気を吹き飛ばす朗々とした声に、肩を揺らしてしまうのも仕方がないのです。

 

「罪深き者、汝の名は藤丸立香!ここは恩讐の彼方なれば、如何な魂であれ囚われる!・・・おまえとて、例外ではないさ」

 

ポークパイハットを被った、色白の肌をした男が牢の向こうに居た。

話しかけられるまで、そこに居ることに気がつかなかった。こちらを見下ろす金の瞳。

そういえば服も寝間着じゃない。カルデアの白い戦闘服だ。

 

「・・・・・・きみ、だれ?」

「この世にいてはいけない英霊だ。お前の可愛い可愛い後輩とやらの口を借りればな」

 

がちゃん。扉の鍵が外される。

デビュタントを祝う大人のように、淑女に使える執事のように、男は恭しく扉を開いた。

 

「思い当たるフシがあるだろう。それとも既に忘却したか」

「・・・初対面だよね」

「―――――ああ、成る程。時系列の因果が乱れているな。いいとも、存分に忘れ去るがいい。あらゆるすべてを魂に刻み続けるのは復讐鬼(・・・)だけだ」

 

男はさっさと歩き出し、少し遅れて立香の足音が続く。

何もかもわからない状況で、頼れるのは――――。・・・頼れるのか、この人・・・?

思考を止めたのは獣と見紛う唸り声。恨みと妬み。行き先を阻む黒い影。

 

「そうら、さっそくお出ましだ。暖かく脈動するおまえの魂が気にくわないらしい」

「意味がわからない・・・・・・」

「此処にもあの手の死霊はよくよく集う。しかし、随分と苛立っているようだぞ?」

 

直視するだけで(はらわた)が焼け付くような、嫉妬の感情。

藤丸立香が、命を持ちながらこの部屋に居る事に。

生きる活力と気力に満ちあふれていることを。

心底―――呪っている!

 

「そんな・・・理不尽な、」

 

後ずさることも出来ず、服の裾を握りしめた立香の前から、しかし男は離れなかった。

振り返ることもないまま、穏やかな声で語りかけてくる。

 

「はは。落ち着けマスター(・・・・)。おまえは知らねばならない。多くの事柄を」

マスター(・・・・)・・・?」

「たとえば此処は何処なのか。たとえばオレが何者なのか。得られる知識の多くは些末に過ぎんが、そうだな。ひとつくらいは学んで行くがいい!」

 

魔力が爆発した。

立香の視界を奪う、青黒い炎。

死霊、悪鬼、怪物。全て、全てを燃やし尽くすために、炎はうねる。

あっという間に道は拓けた。緑がかったコートをふわりと翻し、男はようやくこちらに振り向く。

 

「たとえば・・・・・・。そう、人間(オマエタチ)の醜さを」

 

その顔が余りにも冷たくて、寂しくて、美しくて、優しかったから。

立香の心の底にあった恐怖や絶望は、すっかり雲散霧消してしまったのだ。

 

「ここは何処?キミの名前は?」

「ここは地獄。恩讐の彼方たるシャトー・ディフの名を有する監獄島。そしてオレは・・・」

 

くるりと背を向けて、再び男は歩き出した。

先ほどと違うのは、影が横並びなこと。隣に並んだ立香は、男の顔を見上げて続きを聞く。

 

「英霊だ。おまえがよく知っている筈のモノの一端だ。この世に影を落とす呪いのひとつだ」

「呪い・・・」

「哀しみより生まれ落ち、恨み、怒り、憎しみ続けるがゆえにエクストラクラスを以て現界せし者」

「・・・ジャンヌ・オルタみたいな感じ?」

「オレの事はアヴェンジャーと呼ぶがいい」

 

歩幅の違いからくるずれた足音が、監獄塔に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死なぬかぎり――――。生き残れば、おまえは多くを知るだろう。多少歪んではいても、此処はそういう場所だからな」

「もっと具体的に話して欲しい」

「だか、このオレがわざわざ懇切丁寧に伝えてやる義理はない。オレはお前のファリア神父になるつもりはない。気の向くまま、おまえの魂を翻弄するまでだ」

「確かに翻弄されてる!これが・・・!キアラさんの言ってた大人の男のズルさ・・・!?」

 

階段を上り、通路を抜け、男の足は止まらず。

何処かへ、何処かへ。

 

「・・・フン」

 

足下をうろつく(いとけな)い少女を諫めるような、呆れの混じった声だった。

 

「最低限の事柄は教えておいてやろう。手短にな」

「うん」

「まず、おまえの魂は囚われた。脱出の為には、七つの『裁きの間』を超えねばならん」

「誰に囚われたの?」

「魔術王を名乗る男。おまえは奴に見られた(・・・・)。邪視による呪殺」

「・・・私、死んだ?」

 

ひゅっと肝が冷える。

というかそもそも、魔術王とやらに会った覚えがない。いつの間に呪われていたのだろう。

 

「まだ死んでいない。因果が乱れている、と言っただろう。どうやらおまえは、オレが知るよりも過去のおまえのようだ」

「なる、ほど?」

 

つまり遠くない未来、自分は魔術王に呪殺されかけ、監獄島へ魂を落とされる、ということだろうか。

・・・将来がとてつもなく不安になってきた。大丈夫かな・・・。

 

「カルデアなぞに声は届けられないし、同じくしてあちらからの声が届くことも有り得ん」

「うん・・・」

「裁きの間で敗北し殺されれば、おまえは死ぬ。何もせずに七日目を迎えても、おまえは死ぬ。以上だ」

「簡潔だ。ありがとう」

 

ぢぢ、と照明が揺れる。

光に照らされていないあの暗闇から、今にも化け物が飛び出して、自分を襲うのではないか・・・・・・。

そんな考えが浮かぶほど、嫌な闇だった。

 

「現在のイフ城(シャトー・ディフ)は、歴史上に存在したそれとは大きく異なっている。おまえが見てきた特異点に似ているだろうが、まあ、それとも違う」

「まず本物のイフ城(シャトー・ディフ)を知らないんだけど・・・」

「さあ、第一の『裁きの間』だ。おまえが七つの夜を生き抜くための第一の劇場だ」

 

いつの間にか辿り着いていたらしい。

広々とした部屋の中央に、待ち構えている男がいる。

 

「七騎の支配者が待っている。誰も彼もがおまえを殺そうと手ぐすね引いているぞ?」

「あれは・・・ファントム・・・?」

「如何にも。第一の支配者はファントム・オブ・ジ・オペラ!」

 

美しき声を求め、醜きもののすべてを憎み、嫉妬の罪を以て立香を殺す化け物である。

 

「クリスティーヌ・・・・・・。クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ!」

 

男は(こいねが)うように、呪うように、名前を呼ぶ。

 

 

「微睡むきみへ私は唄う。愛しさを込めて

 嗚呼 今宵も新たな歌姫が舞台に立つ!

 嗚呼 おまえは誰だ きみではない クリスティーヌ!

 我が魂と声は ここに ひとつに束ねられる! すなわち・・・!」

 

 

巨大な鉤爪が高速で襲い来る!

アヴェンジャーは伸ばされる腕を弾き、爪を躱し、怨念の炎を纏った拳で腹を捉えた。

アサシンに勝る超高速移動。防御も出来ずにファントムは吹き飛ばされる。

 

「ようく見ておけよ、マスター。コレが人だ。おまえの世界に満ち溢れる人間どものカリカチェアだ!」

 

轟音がするほどの勢いで壁に叩きつけられても、顔色一つ変えやしない。

幽鬼のように浮遊する体から、ぼそぼそと言葉が漏れている。

 

 

「きみにも等しい声に 爪を立てさせておくれ

 きみにも等しい喉を 引き裂いて赤い血を見せておくれ

 私は欲しい 欲しい 欲しい 今宵の私はどうしようもなく

 ・・・・・・あまねく ひとびとが 妬ましい(・・・・)!」

 

 

段々と大きくなる声、鬼気迫る表情。

カルデアに召喚された彼とは、似ても似つかない。

リンクに導かれたファントムと、この監獄島にいるファントムは、もうまったく違う存在なのだ。

 

「ははは見ろ!見ろ!アレはどうやらおまえの喉をコレクションしたくてたまらんらしい!」

「唄え 唄え 我が天使!今宵ばかりは 最後の叫びこそ 歌声には相応しい!」

「おまえはどうする、マスター!」

 

追い詰められたときに本性が出るとか、命の危機にこそ本質が見えるとか。

そんなありきたりなことを言う気は無い。ただ、アヴェンジャーは見定めるだけ。

彼女のことを。魔術王に敗北し(・・・・・・・)、カルデアのマスターを殺せるだけの霊基しか残っていない己のことも。

まだ、まだ何か。出来ることがあるはずだと。

 

「戦うよ」

 

魔法も奇跡も持たぬ人間が唯一持っている、希望という名の炎。

 

「死にたくない。苦しいのはイヤ。・・・けどそれ以上に」

 

輝く瞳はマジックアワー 。闇をも照らし、絶望を覆す、勇気の光!

 

「マシュと所長と一緒に、東京に行くって約束したの!私、帰らなきゃ・・・!!」

 

ありふれた日々を愛している、その心に。アヴェンジャーは笑った。

 

「ならばオレの手を取れ!――仮面の黒髪鬼に、真なる死の舞踏を見せてやる!」

「うん。お願い、アヴェンジャー!」

 

雷撃にも似た無数の閃光が、ファントムを襲う。

追撃する魔力を纏った高速の格闘術。醜き殺人者にはなすすべもなく。脆い体を砕かれていく。

 

「シャトー・ディフはおまえの魂には相応しくない!おまえは殺人者としてはあまりに哀しすぎる!」

 

怨念の魔力を凝縮した投射攻撃が、霊核を捉えた。

 

「時の果つる先より、光が 見える・・・・・・ この胸に想いならざる大穴を開けるのか・・・・・・」

 

ひび割れて砕けた体はよろけて、ぼたぼたと口から血が流れる。

 

 

「おお わが心臓よ いずこ

 おお わがこころ いずこ

 クリスティーヌ この心臓はきみに捧げよう

 クリスティーヌ この愛を きみへ」

 

「愛のうた・・・なのかな」

「果たしてそうか?よく聞け。あれは黒髪の殺人鬼が叫ぶもう一つの歌だ」

 

帽子の位置を直しながらアヴェンジャーは言う。

ファントムに近寄ろうとした体は、手で阻まれた。思わず男の横顔を見上げる。

 

 

「クリスティーヌ 我が愛 私はきみを愛するが

 クリスティーヌ 私は耐えられぬ

 尊きはクリスティーヌ きみと共に生きる人々を

 愛しきクリスティーヌ きみと同じ世界に在るすべてを」

 

 

消滅していく男からこぼれ落ちる、嫉妬の歌。

 

 

「きみと過ごす人々を 朝陽のあたる世界を 私は 私は

 ――――時に、妬ましく思うのだ 狂おしいほどに――――」

 

「はは、ははははははははははは!はははははははははははァ!!」

 

笑う。嗤う。呵々大笑。アヴェンジャーは高笑い。

 

「オペラ座の怪人、おまえの嫉妬を見届けた。おまえを殺し、その醜さだけを胸に秘めてオレは征く!」

 

馬鹿にしているわけではないのは、立香にも分かった。

 

「地獄で誇れ。おまえこそが人間だ」

 

幕引きのように静寂が訪れる。

無意識に緊張していた体が緩んでいく。ほぅ、と立香は息を漏らした。

 

「さあ、第二の『裁きの間』へと向かうぞ!残る六騎の支配者が待っている!」

「もう!?ちょ、ちょっと休憩しない!?さすがに疲れた・・・!」

「・・・仕方あるまい。先ほどの牢に戻るか」

 

行きは随分歩いたはずなのに、帰りはあっという間だった。

なんとなく服を着たまま寝る気にもなれなくて、上着を脱ぐ。

 

「・・・アッ!見ないでよ!」

「誰が見るか。寝るならさっさと寝てしまえ」

 

冷たいシーツに身を横たえる。

すぐにどろりとした眠気が襲ってきた。抗わずに目を閉じる。

アヴェンジャーはそれを背中越しに感じ取り、一息つく――――――間もなく。

異常を察知して即座に周囲を警戒する。何だ。何だ?何かが来る!

影が蠢く。闇の向こう側から現れたのは、一人の青年。

 

「何だ、貴様は」

「・・・・・・はぁ」

 

その問いかけには答えず。一回り大きいコートを揺らしながら、青年はけだるそうにため息をついた。

 

「やーっと見つけた。めんどくさいとこに堕ちてんなぁ・・・」

 

 

フォースを信じろ 立香ちゃん居た!!!!!!!!

バードマスター よかったー!!!!!!

騎士 ・・・・・・で、どこだここは

 

 

彼こそが勇者リンクの反転存在。リンク・オルタナティブである。



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La bête noire de l'amour

ピ・ピ・ピ・ピ・ピ。

等間隔で鳴る心電図。魔術の膜で覆われた少女。入れ替わり立ち替わり、部屋に訪れる職員。

 

「血圧・脈拍、共に正常。バイタル他・・・どこも異常は見られません」

「可能性のあるものはどんどん試してみよう!これは・・・なかなかの一大事だよ」

 

昼になっても起きてこない少女を、呼びに行ったのはマシュだった。

本当は朝、行こうとしたのだけれど。

 

つい昨日、第三特異点から帰ってきたばかりだ。きっと疲れているのだろう。もう少し寝かせてやれと、エミヤに止められたのだ。

それならばと、どこからともなく現れたフォウと一緒に時間を過ごして。そうして、十二時になったので、部屋の扉をノックしたのだ。

声をかけても揺さぶってもフォウが乗っても、身じろぎもせず眠り続ける立香に、血の気が引いて指先が冷たくなった。

フォウが鳴いて意識を引かなければ、そのまま崩れ落ちていたかもしれない。

 

「異常が無いのが異常だ(・・・)

「肉体的には健康そのもの。だからこちらも気がつかなかった・・・というのは言い訳だね」

 

ベッド脇の椅子に座ったクー・フーリンが、がしがしと頭をかく。

腕を組んでふー・・・と息を吐いたロマニが部屋の入り口に視線を向けた。

 

「残りのキャスター達は役に立ちそうにもないし、あとはダ・ヴィンチちゃんが戻ってくるのを待つしかないか」

「役に立たなくてごめんね~」

「我々に出来ることがありましたらなんなりと」

「今は特に無いかなぁ」

 

ひょっこり顔を出したアマデウスとジル・ド・レェを解散させる。この二人にそっち方面は期待してません。

 

「夢のなかにいるみたいだね」

「ダ・ヴィンチちゃん」

「レム睡眠状態だ。脳は起きている・・・けど、観測は不能。原因も断定できるものはない」

「八方塞がりだな。王サマはどうした」

「すぐに戻ってくる、だとさ」

「うーん」

 

千里眼を持つギルガメッシュがそう言うのならば、すぐに戻ってくるのだろう。

しかし、それならばよいか、とはロマニもダ・ヴィンチも立場的に言えない。しばらく調査は続くだろう。

 

「マシュは大丈夫かい?」

「サーヴァント達が着いてるよ。むしろ私が心配なのは・・・」

「・・・所長?」

「そう、だいぶ参ってるみたいでね。キアラがうまく慰めてくれればいいけど・・・」

 

オルガマリーの自室に立ち入れる者は少ない。

カルデアの所長である、というのも大きいが、彼女が己のプライベートな空間に他者が侵入することを許せなかったからだ。

他人に対する恐怖と拒絶は、一種の潔癖さとなって現れた。

レフ・ライノールでさえ部屋の中には入れない。入れなかった。しかしそれももう、ずいぶんと昔の話。

 

「オルガマリーさん。ハーブティーが入りましたよ」

「・・・ありがとう、キアラ」

 

顔色の悪い少女は、先ほどからずっと項垂れたままだ。

マシュが管理室に飛び込んできたときは、まだそこまで大事には捉えていなかった。

こちらで計測しているマスターのデータには、何一つ異常が出ていなかったからだ。それにマシュは出生と育ちから来るずれ(・・)がある。きっと大げさに言っているだけだと、ロマニが引っ張られていった時も思っていた。

・・・思っていた、の。

 

「どうしよう」

 

ハーブティーに映る少女は、怯えた目をしている。

 

「立香が」

 

恐ろしさに心が蝕まれる。負の感情に引きずられる。

 

「立香が、おき、起きなかったら」

 

なにか予兆があった?気づけていれば防げていた?

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。

どうしたらいい?

 

「わた、わたし。どうしたら、」

「オルガマリーさん」

 

隣に座って肩を支える、キアラの手は温かい。

 

「大丈夫ですよ。ご存じでしょう。立香さんは、とっても引き(・・)が強いんです」

 

柔らかい声が、小さくなって震える少女を包む。

じわりと目元が濡れた。嗚咽が漏れていくのに気づいて、キアラがカップをそっと預かる。

零さないように机に置いた反対の手で、オルガマリー抱きしめた。

 

「待っていてあげましょう。立香さんがいつ戻ってきても、万全の状態で出迎えられるように」

「う、うっ、ぁ」

「オルガマリーさん一人の責ではありません。きっと大丈夫。信じてあげられることも、強さというものですよ」

 

白衣がどんどん濡れていっても、キアラは抱きしめる手を緩めなかった。

 

「(立香さん・・・)」

 

オルガマリーともマシュとも違う。元気印の少女。

あの太陽のような笑顔が、どうか曇っていませんように。

キアラに出来るのは、そう祈ることだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルフ どうっすか

バードマスター 気配は辿れるけど見えないな・・・

Silver bow 何かプロテクトされてますね。条件見える人

奏者のお兄さん 悪属性以外は入れないぽい

災厄ハンター WAO

 

 

なぜ第四特異点前に監獄島へ堕ちているのか。時の勇者は天を仰いだ。

わからない・・・何も・・・。マジでわからん・・・どうして・・・。

知らん間に知らんフラグを建てて突き進むな。俺らがGABAったみたいじゃん・・・。

 

 

いーくん 悪属性ならオルタがいるだろ。聖光、呼んでこい

フォースを信じろ 呼んでも来なかったら?

いーくん (拳を勢いよく振り下ろす)

 

 

監獄島にはアヴェンジャー・巌窟王とナイチンゲールがいる。そのうち戻ってくるだろうが・・・。

すでに予測可能回避不可能な現状だ。念には念を入れて、もう一騎行かせた方がいいだろう。

 

奏者のお兄さん ジャンヌ・オルタも行かせよう

銀河鉄道123 ドウ=ヤッテ

奏者のお兄さん カルデアも一回くらいレイシフトを試すだろ。魔法で補助する

銀河鉄道123 魔法・・・何でも・・・出来るのか・・・?

騎士 俺たちが使う魔法も根源に直通してるのでぇ・・・

 

カフェオレをぐいっとあおって、眠気を払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター!マスター!起きなさい!」

「・・・・・・んん」

 

目覚めを促す声が聞こえて、立香はもぞもぞとかけ布団から抜け出した。

眠い目を擦って起き上がると、そこにいたのは竜の魔女。ジャンヌ・ダルク・オルタである。

 

「ああ良かった・・・。私が来たからにはもう大丈夫。安心なさい」

「オルタ?なんでここに・・・」

 

ぎゅう、とジャンヌ・オルタに抱きしめられた。

再臨によって長く伸びたシルバーホワイトの髪が、牢獄の中で光っている。

柔らかな胸元に抱え込まれて、立香はぱちぱちと瞬きをした。

 

「貴女、ずっと眠っていたんですよ」

「・・・やっぱり?」

「やっぱりじゃありません!全く・・・。・・・通信は繋がりませんし、レイシフトに成功したのも私だけです。さっさとこんな湿っぽいところから帰りますよ」

「あ、待って。アヴェンジャーが・・・」

 

手を引かれるまま牢から出ると、影がぞろりと伸びて立ちふさがる。

アヴェンジャーは相も変わらず、愉悦混じりの笑みを浮かべていた。

 

「く、はは――――。願望器から産まれしアヴェンジャーか。面白いものを引き入れてくれる」

「なんです、あなた?邪魔をするなら燃やしますよ」

「オルタ、アヴェンジャーは味方だよ。というか多分、出口はまだないよ」

「・・・ハァ?」

 

第二の裁きの間に辿り着くまでの間、ジャンヌ・オルタに状況の説明をした。

 

 

りっちゃん 未来の出来事を過去の存在が体験している?つまり?

海の男 英霊の座と同じように、ここにも時間の概念がない。多分

奏者のお兄さん 未来の俺らがなんかしたのかもしれんな。多分

小さきもの まあ無事だったからいいんじゃない

 

 

「――――劣情を抱いたコトはあるか?」

 

広い空間に声が響く。一歩前に居たアヴェンジャーが、ゆっくりと振り向く。

 

「第二の『裁きの間』にてオレはおまえに尋ねよう。

 一箇の人格として成立する他者に対して、その肉体に触れたいと願った経験は?

 理性と知性を敢えて己の外に置いて、獣の如き衝動に身を委ねて猛り狂った経験は?」

「無論あるとも!」

 

見知らぬサーヴァントの大声に肩を揺らした立香を、オルタは背中に庇った。

 

「見るからに女癖の悪そうな男」

「サーヴァント・・・セイバーかな」

「天地天空大回転!それこそ世の常、無論ありまくるに決まっていようが!」

 

ケルト・アルスター時代(サイクル)の勇士。

精力絶倫にして大食漢、気前よく、嫉妬せず、恐れを知らない――堂々たる男。

 

「獣欲のひとつ抱かずして如何な勇士か英雄か!俺の在り方が罪だというならば、ふははは良いともさ!

 俺は大罪人として此処に立つまで!俺は!赤枝騎士団筆頭にして元アルスター王たる俺は!

 主に女が大好きだ!

 

きっぱり開き直った台詞と共に、三人の前に現れた、フェルグス・マック・ロイ。

少なくとも外見は、そう(・・)である。

 

「心を覗け。目を逸らすな。それは誰しもが抱くがゆえに、誰ひとり逃れられない。他者を求め、震え、浅ましき涙を導くもの。色欲の罪」

「なァにが、浅ましきだッ!!!!抱きたいときに抱き、食いたい時に食う!それこそが人の真理!それこそが生の醍醐味だろう!」

 

 

守銭奴 そうなん?

騎士 人による

 

 

「はははははは!そして言うまでもなくッ!今こそがその時、その味わい!そこな女よ、俺には分かる!お前は中々いい女だ。胸は少々物足りぬが、太ももはなかなかだな!」

「ハ?殺す」

 

不愉快な言動を続ける男を焼き殺すために、黒い炎が襲いかかった。

フェルグスはそれを平然と避ける。大口をあけて笑う。呵々。

 

「そして見知らぬ男!おまえはアレだ。いらん。殺す」

 

そう言ったフェルグスの口が裂ける。悪魔のように。

下卑た息を吐いて、戦闘態勢に入る。そのさまはとても、勇士などではない。

 

「なにあれ・・・」

「見た目も気持ち悪いとか、いよいよ良いとこナシですね」

「トゥヌクダルスの幻視。かつての中世、この世ならざる異界へと堕ちて恐怖を識った騎士トゥヌクダルスが見たモノだ」

 

主の威光により形作られた煉獄の第四拷問場、燃える丘が如き巨獣の顎を持ち上げし煉獄。

すなわち、煉獄の悪魔である。

 

「無論、歴史の推移に対して発生した解釈であろうが、此処はシャトー・ディフ!絶望の監獄!主が誰しもを救いはせぬ、という証明が一度は果たされた地なれば!――――救われぬモノのすべてが集うとも!」

「ええ、そうですよ。主は誰しもを救いません。もしも神がおわすのならば、私には必ず天罰が下るでしょう」

 

竜の旗を掲げる。誰のために?決まっている。

 

「行きますよ、マスター。あんな下衆にくれてやるものなどありません」

「オルタ・・・」

「あなたの前に立ちふさがるすべてを、私は燃やしましょう。あなたが望むのならば、私はすべてを燃やしましょう」

「オルタ、ゼル伝完読おめでとう」

「なんでそれを!?!?!?」

「完全にハマってるって報告が方々から」

「ししし仕方ないでしょ!!!!悪いですか!?!?!?」

 

 

ウルフ ハマったんだ

バードマスター 推し誰かな

 

 

「と、とにかく!やりますよ!」

「うん。お願い!」

 

天地天空大回転。虹霓剣(カラドボルグ)が唸る。

アヴェンジャーの肉体を砕かんと振るわれた剣を、オルタが旗で受け止めた。

弾き、振り払い、纏う炎が追撃を阻む。

 

「アンタの出番はないわ!そこでマスターを守ってなさい!」

「クハハハ!お前の復讐鬼(エデ)は勇敢だな!」

 

ドレスを象った鎧を翻し、美しい髪は羽衣のように輝く。

鋭い刺突が男の体を抉り、広がる旗が視界を遮った。欲に目が眩んだ獣風情が、この竜の魔女に触れられるものか!

 

「オルタ!瞬間強化!」

「いいでしょう。全ての邪悪をここに!」

 

旗の石突(いしづき)が顎を打つ。ぐらりと揺れた体を遠慮無く蹴飛ばした。

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮――吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!」

 

怨念は魔力に、憎悪の炎に。骨の髄まで燃えてしまえ!

爆発のように魔力が弾けた。四方八方に飛び散る火花を鬱陶しそうに見る、影に潜む青年。

 

 

オルタ 帰っていいか

ウルフ ダメ

災厄ハンター オルタが居ないと俺らも観測できないんで

いーくん 結局アレ?

フォースを信じろ (拳を勢いよく振り下ろす)

オルタ 勇者の癖に初手暴力で来るんじゃねぇよ

 

 

なにやら色々あったようだが、第二の試練もクリアである。



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L'amour est aveugle

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


あれ?ナイチンゲールは?

時の勇者は画面を見つめながらしばし動きを止めた。思考をぐりぐりと動かし、考えても答えが出ないという答えに辿り着き、ゆっくり椅子にしていたクッションに沈んだ。

 

「(俺らが居ることで多少の違いがあるとはいえ、こうも明確に出てくるか・・・)」

 

三つ編みにされた髪をいじりながら、ごろりと寝返りをうつ。

まぁいざとなったらオルタがいるし・・・。生前と違って他のリンクもいるし・・・。まぁ・・・いけるだろ・・・。

ぽこん、ぽこん、と軽快な通知音が重なって、画面越しの会話が続く。

手を伸ばした先のマグカップが空になっているのに気づき、渋々と起き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サーヴァントは睡眠を取る必要が無い。

しかしカルデアでは無駄な魔力や電力を消費しないために、夜は自室で休むことが推奨されている。

 

「私は見張りをしています」

「え~。オルタも一緒に寝ようよ」

「こんな狭いベッドで?二人で?子供じゃないんですから・・・」

 

そこまで言って、オルタは目の前に居る少女がまだ十代の高校生であることを思い出した。

少しの間を空けて、わざとらしいため息をつく。鎧を霊体化してはずしながら、寝台に身を乗り出した。

 

「もう少し詰めなさい」

「! うん」

 

腕を回して胸に抱き込む。

本で見た慰め方だ。こんなものは、ただの真似事。親に不安や寂しさを宥められた幼少期など、自分には存在しない。

それでも立香は安心したように力を抜き、やがて穏やかな眠りにつく。

それを見守ってオルタも目を閉じた。柔らかな沈黙。

二人分の寝息が、静かな牢にたゆたっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのはどうだ。悪い気分ではないだろう」

 

窓の無い牢屋では、昼夜の概念も無く。

 

「シャトー・ディフで女にメイドの真似などさせた豪傑はおまえが初めてだろうよ、マスター」

従者(サーヴァント)ですもの。マスターのお世話をするのは当然です」

「おはよう、アヴェンジャー」

 

絵の具が紙に滲むように、影が溶けて男が現れる。

寝起きに見る金色の瞳が、この牢獄では太陽の代わり。

 

「しかし見事に寝呆けたものだ。丸一日近く眠っていたのだぞ、おまえは」

「えっ」

「待って、そんなに寝てたの?」

「こと魂はひとりでに安寧を求めるものだ。おまえがそうとは限らんが、今日は少なくともな」

 

釣られて寝呆けていたオルタが、気まずさと恥ずかしさで頬をちょっと赤く染めた。

さっさと歩き出すアヴェンジャーを追って牢の扉を潜る。石畳の廊下は、相も変わらず明暗差が激しい。

 

「目覚めはどうだ、我が仮初めのあるじよ。その呆けた頭にひとつ尋ねるぞ。――――怠惰を貪ったコトはあるか?」

「怠惰?」

 

アヴェンジャーはいつものように、道すがら語り出す。

七つの大罪。人間が容易に転がり落ちる、悪徳。悪逆。そのうちの一つを。

 

「成し遂げるべき事の数々を知りながら、立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れた経験は?

 社会を構成する歯車の個ではなく、ただ己が快楽を求める個として振る舞った経験は?」

 

 

騎士 (社会を構成する歯車すらガタガタだったので)ないです

Silver bow 立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れたら死ぬんよ

海の男 かわいそう

銀河鉄道123 やっぱ勇者って貧乏くじやんなぁ!?

 

 

「うーん。ゆっくりするのも、のんびりするのも好きだけど」

「怠惰、とは随分強い言葉ですね。ですが確かに、世の中勤勉な人間ばかりではありません。愚かで無知な群衆が殆ど。人間は基本、か弱い生き物です」

 

歌うように紡がれる言葉に、立香は否定も肯定も返さない。

神に、人間に、世界に対する憎悪から彼女は生まれた。ジャンヌ・オルタは基本的に、人間を不信している。

 

「・・・・・・そろそろ分かっていると思うが。第三の裁き。今回は、怠惰を具現した輩が相手となろう」

 

そして扉は重々しく開かれる。

 

「――――主よ!!

 此なる舞台に我を降ろしたもうたは貴方か!ならば宜しい、私は悲劇にも喜劇にも応えられようぞ!」

 

ジャンヌ・オルタは一瞬で死んだ目をした。

かつては高潔だった男が、高らかに演説する。

 

「しかしどうか勘違いめされるな。我が演目のすべては涜神(とくしん)のそれと定められているが故!」

 

その手に抱えるは異界の魔道書。人皮で装丁された、おぞましき異本。

 

「輝かしきモノよ、我が冒涜を前に震え上がるがいい!

 聖なるモノ、我が嘲りを以て地に落ち穢されよ!

 おお、おお、祝福を此処に!我が胸の高まりはここに極まれり!」

 

神への信仰心が深すぎたが故に、神を呪い貶めることに取り憑かれた男。

唯一無二の救いを失い、神を見失い、それでも求め続けた聖なる怪物。

 

「神の御前に最高のCOOLを供えてみせましょう!たとえばそう、希望に満ちて歩む勇者の魂を供物として!」

「怠惰・・・?」

「怠惰です。ええ、間違いなくあれは怠惰の極みです」

 

ぎょろり、と動く二つの目玉がこちらを向く。

男の名はジル・ド・レェ。運命に狂い、狂わされた男だ。

 

「騎士でありながら礼節も誇りも高潔も忘れ果て、悪魔の召喚なんてものに傾倒して魂を腐らせた。己の役目から目を逸らし、堕落と凌辱に耽った怠惰の果て。それがあの男です」

 

哀れみと呆れの混じった声で、オルタは断言した。

 

「小娘一人に総てを預けるから、そんなことになるんですよ」

「お褒めにあずかり恐悦!!」

「別に褒めてはいませんが」

 

 

災厄ハンター 騎士に求められるハードル高すぎんか?

Silver bow 騎士だから

バードマスター なんて感情の籠もったセリフなんだ・・・

 

 

「おおジャンヌ!黒き竜の魔女よ!ようこそ永劫の監獄へ!」

「ごきげんよう、ジル。一応聞いておくけど、貴方はマスターを阻むのね?」

 

オルタは一歩、前に出る。

剣の柄に手を置いた。

 

「ええ!ええ!無論ですとも!どれだけの希望を持っていようと、その人間はここで終わるのです!魂の指を折り、魂の手足を断って、魂の腹を裂き、魂の臓腑を攪拌しながら魂の眼球を抉れば――――」

 

大仰な身振り手振りが空を切る。

愉悦に歪んだ顔が、立香の魂を値踏みした。

 

「いかな勇者であろうとも、たちまち絶望へ滑落する!そのとき生まれる絶念の甘美さ!まさしく喜劇!神の御前に捧げる演目として、これ以上のものはありません!」

「そう」

 

静かに、爆発的に、殺意は膨れあがる。

 

「ならば死ね!!ジルだろうと悪魔だろうと神だろうと!私のマスターに手を出す輩はすべからく焼き死ね!!」

「・・・オルタ、」

「それは従者(サーヴァント)としての義務か?エデなりし復讐鬼。お前はどうしてこの人間を信じる。それこそ、勇者の真似事でもしているのか?」

 

見定めるようなアヴェンジャーの言葉。

立香は思わず男の顔を見上げた。金色の目は、ただ真っ直ぐに前を向いている。

 

ジル・ド・レェの持つ魔道書が、風に捲られたかのようにページを開いた。

宝具、起動。

瞬間、ジル・ド・レェの体が肥大化した。

海魔の醜い肉体を敷き詰め、重ね、膨張させ、ぬめった触手を数十と生やす。ジル・ド・レェと融合した、天を衝くほどの超巨大な異界の神の模造品。

かつてフランスにも現れた、総てを破壊する地獄の怪物!

 

「なぜ・・・。なんて」

 

しゃんと伸びた背筋が、声が、立香の意識をオルタに戻す。

 

「決まっているでしょう。マスターが・・・、私にずっと構うから」

 

淀んだ空気を吹き飛ばすかのように、黒い炎が巻き上がる。

 

「呪わしい魔女なぞに付き合ったら、共に炎で焼かれるかもしれないのに。私の手を、ずっと握っているから」

 

物語の中にしかないと思っていた、ありふれた優しさに、人間の善性に、照らされていることに気づいたから。

 

「貴女が私を信じると言った。ならば私はその信頼に応えましょう。それが誠意というものです」

 

振り返った魔女の笑みは、本当に美しかった。

 

「違いますか?黒き哄笑者。私とは似て非なる復讐鬼」

「クハハハハハハハ!違わんな!良い答えだ。それでこそ、希望を探すマスターの復讐鬼(エデ)だ!」

 

バサリとマントを翻し、アヴェンジャーがオルタの隣に立った。

 

「さあ命じろ!殺せと!アレはおまえの魂の咀嚼方法(たべかた)を知っているぞ!」

「オルタ、アヴェンジャー・・・。・・・うん。二人とも、私に裁きをこえる力を貸して!」

 

瞬間、海魔の肉体に穴が空く。

雷撃にも似た閃光が海魔を抉っていく。

黒炎が踊るように触手を焼き尽くしていく。

 

「チィ!流石に再生が速いわね!」

「マスター!魔力をよこせ!触れる者を死へと至らせる、毒の炎を見せてやろう!」

「わかった!――――令呪を以て命じる!」

 

怠惰は確かに罪かもしれない。

けれど休むことは、穏やかな時間を感じることは罪じゃ無いはずだ。

毎日頑張っているオルガマリー、ロマニ。

いつも万全のサポートをしてくれるダ・ヴィンチちゃん。

優しくて暖かい、姉のような母のようなキアラさん。

そして何より自慢の後輩、マシュ。

無理をしないでほしい、といつもみんな私に言うけれど。

私だって、無理をしないでと思ってる。

その気持ちが、罪であるものか。罰せられるものであるものか。

 

安らぎのない日々は地獄だ。勇者リンクだって、休息をしながら旅をしたのに!

 

「アヴェンジャー、私達に勝利を!」

「クハハハハハハハ!もはや慈悲などいらぬ!」

 

虎のように吼えよ!闇の底でなお、希望を謳え!

 

「我が征くは恩讐の彼方――――虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

超高速思考が肉体に反映された、超高速行動。それは複数の分身をつくる。

魔力によって形成された怨念の黒炎が、分身から放たれた。その余りの多さに、流石の海魔もされるがまま。

 

「トドメです!」

 

アヴェンジャーの攻撃によって抉られた肉塊。露出したジル・ド・レェに突き刺さる魔女の剣。

断末魔は短く、消滅は一瞬。

第三の裁きが終わる。

 

「ふん。まあまあですね。次もマスターの為に励みなさい」

「ありがとう、アヴェンジャー。いまの凄かったね!」

「フン」

 

三人の声が戯れるように響くのを、影に潜む青年は退屈そうに聞いた。

 

 

奏者のお兄さん オルタ参加しないの?

オルタ は?ダル・・・

奏者のお兄さん このままだとただの後方彼氏面になりますが

オルタ ・・・・・・・・・・・・

うさぎちゃん(光) ちょっと葛藤してるのオモロ



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Pas de place pour Dieu

覚醒を促す、目覚まし時計のアラームは無く。

ただふわりと意識は浮上する。監獄生活、四日目。

 

「よぉ、マスター・リツカ。願望器の復讐鬼(アヴェンジャー)

 

男の声が聞こえた。

朝の挨拶を返そうとして、それが全く知らない声であることに気づく。

 

「だっ、誰よアンタ・・・!」

 

立ち上がってそう言うオルタの背中から、男の姿をのぞき見た。

牢の外で気怠げに壁に寄りかかり、あぐらをかいて座っている青年がいる。

初雪のように白い髪、白い肌、黄金色の瞳。まるで人形のように整ったその顔は、立香もよく知る、とある青年にそっくりだった。

 

「・・・リンク?」

「の、オルタナティブだ。自分ら(・・・)は」

「は!?そんなのアリ!?・・・ど、どこのシャドウ?ダーク?ガノンドロフの部下の方?鏡から生まれたやつ?」

「オルタ詳しいね」

「まあそこの女とは同族みたいなもんだしな。それら全部をひっくるめて、一つの霊基で顕現してるのが自分だ」

 

ポケットに手を突っ込んだまま立ち上がる。柄が悪い。

不良のような態度なのに、どこか危ない魅力を感じてしまうのは、彼もリンクであるからだろうか。

 

「それで・・・なんでリンクのオルタがここに?」

「不本意だ。来たくて来たわけじゃない」

「召喚されたってこと?」

「・・・その理解でいい」

 

不意にぴりぴりと空気が震えた。

暗闇の向こうから現れたのは、監獄島のアヴェンジャー。

 

「・・・・・・・・・・・・目覚めたか」

 

ちら、とリンク・オルタに視線を向けたものの、特に触れずに踵を返した。

 

「第四の裁きへと赴くぞ。遅れるな」

「・・・・・・なんかアイツ機嫌悪くない?」

「確かに、テンションが低いような」

「(めんどくせー・・・)」

 

 

うさぎちゃん(光) このまま彼氏面でいるかどうか一晩悩んでたのオモロ

奏者のお兄さん もうちょっとダルい感じ隠して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・先に、言っておく。お前が殺す相手。第四の『裁きの間』にいるのは、憤怒の具現だ」

「憤怒?」

 

立香とジャンヌ・オルタが並んで歩き、その一歩後ろをリンク・オルタが着いてくる。

 

「憤怒。怒り、憤り。それは最も強き感情であるとオレが定義するモノ。

 自らに帰因する怒りたる私憤でも、世界に対しての怒りたる公憤でも構わん」

「ほう」

 

アヴェンジャーの話に興味が湧いたのか、リンク・オルタが相槌を打った。

 

「等しく、正当な憤怒こそが最もヒトを惹き付ける。

 時に、怒りが導く悲劇さえもヒトは讃えるだろう。見事な仇討ちだ(・・・・)、とな」

 

怒り、それはヒトを突き動かすモノ。

理屈も理性も吹っ飛ばす、強い、強い感情。

 

「古今東西、老若男女の別なく。復讐譚を人間(オマエタチ)は好み、愛おしむのだ」

「違いない。他人の悲劇こそ、我らにとっては最高のエンターテイメントだ」

「悪属性だ・・・」

「悪だとも」

 

鼻で笑うように返された言葉に、やはり彼はリンクであってリンクではないのだと思い知る。

 

「それを・・・・・・!ヤツは認めようとはしない!怒りを、最も純粋なる想いを否定する!」

 

爆発するようなアヴェンジャーの憤怒。激高が廊下に響く。

黒い炎が猛っている。ちりちり、びりびり。

 

「第四の支配者に配置されておきながら、さも当然とばかりに救いと赦しを口にし続ける!」

 

眉をひそめたジャンヌ・オルタが「まさか、」と小さく呟いた。

 

「許されぬ。許されぬ。おお、偽りの救いの手なぞ反吐が出ようというものだ」

「ああ、成る程・・・。それはさぞ焼き尽くし甲斐があることでしょう!ふふっ、腕が鳴るわ!」

「四肢を引き裂いて断末魔を瓶に詰めてやろう。ふは、俄然やる気が出てきたな」

「このパーティ血の気が多すぎる・・・」

 

 

バードマスター 聖職者アレルギー?

騎士 教育に悪すぎる

 

 

重々しい音を立てて、扉は開かれた。

 

「・・・・・・来ましたね。迷える魂を更なる淀みに引き込む者、正義の敵よ」

「あ?」

「もう一人の私は狂気と共に在ったようですが、この私はジル・ド・レェ、聖なる旗に集いし騎士!正義の刃のもと、あなたたちを断罪しよう!」

「セイバーのジル・ド・レェ?」

「前回とは些か気配が異なるな。ほう、ヤツに引きずられて現界したと見える」

 

行く手を阻むは、白銀の鎧に身を包みし騎士。

まだ狂気に堕ちていない、痩せぎすの男。

 

「見ろ!見ろ!あれが!聖なる旗を掲げるモノ!愚かしくも主の加護なぞを口にして調停者を気取る!」

「ああやっぱり――――。全てに裏切られてもなお、恨み言の一つも落とさない気狂い女。愚かなんて言葉じゃ表しきれない脳筋女」

「忌まわしきはジャンヌ・ダルク!我が道を阻まんとして自ら望み監獄塔へ入りし女!」

「望んでここ来るとかガチで引く。あのアホ共でもしねぇのに」

 

三者三様の復讐鬼。

しかし語る内容は皆同じだ。ジャンヌ・ダルクを嘲っている。

 

「・・・・・・アヴェンジャー。はい。あなたの言葉通りです。私はあなたを止めるために此処へと至った。かつての昔、導く者として立った私があなたを阻む」

「ジャンヌが、憤怒の具現・・・?」

 

第一特異点の彼女を思い出す。

あんまり、そんな感じはしなかった。

彼女の胸に燃えていたのは、炎というよりはきらめく光。

 

「そうだ、ジャンヌ・ダルクこそ憤怒の具現よ!今更言うまでもなかろうよ!

 人間(オマエタチ)を信じ、主を信じ、それらのすべてに裏切られ炎に消えた無念の女!」

 

ギラギラと光る金色の目。アヴェンジャーは吼える。

 

「ならばその魂には消えぬ炎が灯る。いいや、炎こそが核として燃え盛るが道理!哀しみをおまえは知るだろう!怒り、哀しみ、噴きあがる黒き炎こそおまえだ!おまえこそ!第四の裁きに相応しい!」

「そんな思考回路の女だったら、どれほどよかったか・・・。私もすんなり、世界に生まれてこれたのに」

 

ため息と共にこっそり吐かれた、ジャンヌ・オルタの言葉。

彼女は所詮うたかたの夢でしかない。だってジャンヌ・ダルクというコインに、裏面なんて存在しないのだ。

 

「いいえ。アヴェンジャー。私には、元から憤怒など存在しないのです。

 私は決して藤丸立香を裁きません。その資格も、その意志もない」

 

とつとつと吐かれる気高い台詞に、リンク・オルタは白けた顔をした。

 

「この場にいる私が・・・正しく現界した私ではないのだとしても、構わない」

「へぇー」

「・・・・・・何ィ・・・・・・?」

「あなたです、復讐者。世界とヒトを憎悪し続けるようにと定められた、哀しくも荒ぶる魂、アヴェンジャーよ」

 

アヴェンジャーの顔が歪む。

 

「私は、あなたを救いましょう。聖旗が、シャトー・ディフに在ってもこうして輝くように」

「黙れ。黙れ。黙れ!!」

 

「黙れェ!!」

「ふっ、あはははははははははははは!!聞いたかお前ら!救うだと!」

 

とうとう耐えきれなくなったのか、リンク・オルタが弾けたように笑い出す。

ジャンヌ・オルタは呆れたように首を振り、アヴェンジャー三人の間でおろおろと視線を迷わせていた立香の手を引いて後ろに下がった。

 

「マスター、私達の出る幕はなさそうです」

「ええと・・・」

「なにやら男二人に火が点いたようなので」

 

心底愉快だと白い青年は笑う。

心底不快だと黒い男は燃える。

 

「ジャンヌよ、お下がりください!神と貴女に捧げた剣、今こそ振るう時であると心得た!」

「ジル!いけません、彼は私が――――」

 

聖女を庇う騎士、おおなんと美しいのか!

 

「彼の黒き気配、邪悪の怨念!監獄塔に在っては、主の救いさえあの魂には及ばず!聖女よ、アレは貴女の思う魂とは違う!狂い果てた魂は断罪の刃を以てあたる他にない!それに――――」

 

ジル・ド・レェは難しい顔をしてリンク・オルタを見た。

へらへらと薄い笑みを浮かべる、彼の勇者の有り得ざる―――――。

 

「生憎自分らは、正真正銘リンクの裏側。悪しき心の具現だ。我は世界に憤る黒き炎」

「・・・・・・!」

聖人じゃない(・・・・・・)んでね。勇者は。表に出てないだけで、怒りも恨みも山ほどある。そんなキレイな奴らじゃないぜ?だからお前のように、上から目線で断罪するなんて言わねぇ」

「なっ・・・」

「なあアヴェンジャー?どこぞの王のように、世界に復讐せよと願われたモノよ」

 

 

海の男 ガノンドロフのことか────っ!!!!!

銀河鉄道123 その言い方だとクリリンポジみたいに思われちゃうから

Silver bow オルタはジルとジャンヌがウエメセっぽいからムカっとしてるでOK?

いーくん あとそもそも人間が好きじゃないし、魔王の部下なので聖人が特に嫌い

 

 

「はははははははは!そうだ、このオレは恩讐の彼方より来たる復讐者!そう在れかしと誰もが言うのだ。憎め、殺せ、敵の悉くを屠り尽くせと期待し続ける!ならばオレはそう在ろう!人間(オマエタチ)が請い願うままに、世界に復讐する!」

 

猛る黒炎が噴きあがり、火の粉を撒き散らす。

 

「ここに愛しきエデはなく、尊きファリア神父はなく、ならば主さえも我が魂を救えはしない!」

「もっとわかりやすく言って!」

「ああ、そうだな!おまえのために第四の支配者を殺すというコトだ!希望の旗を鮮やかに引き裂こう!輝きも、聖なるモノも、オレには何の意味もない!尊く、聖なるモノ!すべて等しく無価値に過ぎぬわ!」

「わかりやすく言ってくれた」

「貴女には甘いですね」

「・・・・・・仕方ありません。対話では、あなたを止められないのなら」

 

ジャンヌ・ダルクが旗を広げ、翻す。その姿よ。なんと勇ましき。

 

「私は戦いましょう。ジル、どうか力を貸して下さい!」

「はっ聖女よ。貴女と主の輝きの旗に勝利あれ!」

 

ジル・ド・レェの刃がアヴェンジャーに迫る、ことは叶わなかった。

リンク・オルタが一瞬でその首を掴み、喉を圧迫したからだ。

男の体が宙に浮く。呼吸を阻害され、苦しげな顔で手を振りほどこうとしがみつく男に、冷たい双眼が刺すような視線を放つ。

 

「殺人鬼は貴様もだろう。これ(・・)が償いになるとでも?」

「ガッ・・・ぐ・・・」

「ジル!」

「よそ見とはな!」

 

魔力を纏った高速の格闘術が、ジャンヌを襲う。

重い拳を旗で受け止め、叩き込まれる蹴りを紙一重で避ける。

白き旗を燃やさんとする、黒炎の熱さよ。

 

「マスター・リツカ、何を他人事のように見ている」

 

星見のマスターを誘う、これは悪の囁き。

 

「え?」

「お前は何も奪われていないのか?怒りを感じていないのか?死にたくないと叫ぶ心の底に!燃え上がる炎はないのか!」

 

奪われた、もの・・・?

 

「人理は焼かれた!未来は奪われた!お前の夢は踏みにじられた!それに何も思わないのか!」

「―――――」

「理不尽に憤れ!他人の為に!自分の為に!その怒りで心を燃やせ!」

 

 

 

 

 

 

 

【ねー立香。将来の夢とか決まったー?】

 

友達の声がする

 

【とりあえず大学行っとけばいんじゃね】

【アンタ人生舐めすぎでしょ!】

【ウチはねー、空港で働きたい。CAになりたいの】

【いいじゃんそれ!応援するわ!】

 

楽しくて賑やかな、高校時代の一幕。

 

【うぃーす藤丸。相変わらず鍛えてんな】

【そりゃ今度こそ優勝したいからね!】

【やべぇ俺藤丸より筋肉ないかも。腕相撲負けそう】

【おっやるか?やるか?負かしてやんよ】

 

部活、委員会、満たされていた日々。

 

【ただいまー!お母さんご飯なに?】

【今日はシチュー。寒くなってきたしね】

【やった!】

【お父さんが帰ってくる前に、お風呂入っちゃいなさいよ】

【はーい】

 

お父さん、お母さん・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ」

「マスター?」

 

気遣わしげなジャンヌ・オルタの声は、立香の耳をすり抜けた。

 

「・・・う、う」

 

心の奥底で、ぐちゃぐちゃに絡まった感情が暴れている。

みんなみんな、人理と共に燃えて(いなくなって)しまった―――――。

 

「苦しんで死ね。青髭。それが貴様に相応しい末路だ」

 

首の骨が砕ける。喉が圧しつぶされる。

それなりの体躯を持つ筈の男は、軽々と地面に叩き落とされた。

そのあまりの衝撃に、ジル・ド・レェを中心に地面がひび割れる。霧散する体。

 

「くっ・・・!」

「見ろ!敗れ消え失せたのはおまえの騎士だ!」

 

ジャンヌの体も消えていく。悔しさを滲ませ、しかし瞳の強さは消えることはない。

 

「しかし、私は諦めません。必ずあなたを止める――――」

「はは!ははは!はははははははははははははは!」

「マスター。マスター、しっかりしなさい。男共は放っといて、部屋に戻りましょう」

「・・・・・・・・・・・・うん」

 

 

騎士 おい立香真っ青だぞ

災厄ハンター オルタくん・・・?その煽り必要だった・・・?

ウルフ オルタくん・・・?強めにどつくぞ・・・?

オルタ お前らだってしょっちゅうキレてただろ

いーくん しょっ・・・ちゅうはないし・・・・・・



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Don't get in my way!

「――すべてを喰らわんとしたコトはあるか」

 

「喰らい続けても満ち足りず、飢えが如き貪欲さによって味わい続けた経験は」

 

「消費し、浪費し、後には何も残さずにひたすらに貪り喰らい、魂の渇きに身を委ねた経験は?」

 

 

藤丸立香の内側から、その声は歌っている。

 

 

「喰らい、費やし、愛なき身に欲望を詰め込むもの」

 

「暴食の罪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、私」

 

何から話せばいいんだろう。

 

「怒るの、得意じゃなくて」

 

絡まっている糸をほどくために、過去の記憶をたぐり寄せる。

 

「私はいじめられてたとか、ないんだけど」

 

ぼんやりと壁を眺める、少女の体の薄さよ。

 

「でも小学校のころの友達が・・・。気に入らない子をハブったり、無視したり、陰口を言ったり・・・。そういう・・・、そういう空気になりやすかったの。感情的になりやすいっていうか」

 

いわゆるスクールカーストが、すでにあそこには形成されていた。

すこし田舎寄りの地元だったのも、良くなかったのかもしれない。

 

「中学校は、複数の小学校の生徒が混ざっていたから、そこまでじゃなかったんだけど。でもやっぱり気が強くて、部活でも活躍してる子の方が目立つし、ズバズバ言うんだよね。男子も女子も。その子達に嫌われると大変だった」

 

悪い子達ではなかったし、仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。

体も心も成長期で、思春期真っ只中の中学生なんて、そんなものだろう。

“明るくて元気なクラスの人気者立香ちゃん”は、誰にでも優しいからそんなことしない、と巻き込まれなかったのは幸いだろうか。

 

「今思うと・・・嫌われないようにしてたのかもしれない。怒らないようにしてた。なにかに巻き込まれても、いいよって笑って許してた」

 

それは一種の処世術。

少女が身につけた笑顔の鎧。

 

「高校は遠い所にした。バレー部の私を知らないところ。・・・楽しかった。だから・・・」

 

だから?

すべて燃やされたことも許せるって?

怒るって、どうやるんだっけ。

 

「・・・っ」

 

膝の上で拳を握り締める。爪が食い込んで痛む。

腹の中から沸き上がる、この感情は何だ。

 

「わ、たし。私・・・・・・」

 

罪なきヒトなど在るのだろうか。

怒りも、嫉みも、程度の差はあれ、どれも正常な精神活動のひとつにすぎない。

それらを罪と呼ぶのなら、いったい誰が裁くのか。

 

こんなことをするために(・・・・・・・・・・・)、南極に来たんじゃない・・・!」

 

藤丸立香は一般的な少女である。

もっと言うならば、気まぐれに献血に立ち寄る程度には善良で、南極でのアルバイト募集に応募する程度には好奇心旺盛なだけの、ただの少女である。

 

「どうして私なの・・・!」

 

こぼれ落ちたのは、絶対に誰にも言えない絶望。心の鎧を貫いた悲鳴。

オルガマリーにもマシュにも言うわけにはいかない。それくらいのことはわかる。わかるから嫌なんだ。

掠れた声が闇に溶けて。もう、消えてしまいたい・・・。

 

「なんで・・・!嫌だよ・・・!帰りたくない、帰りたい・・・」

 

ここで死んでしまえれば。永遠に眠っていられれば。どんなに楽だろうか。

どこか遠くへ逃げてしまいたい。人理なんて背負いたくない。だってミスしたら死んじゃうんだよ?

私というマスターの采配で、星の行く先が決まるなんて。そんなのぜったい嫌・・・・・・。

こわいよ。こわい。死ぬのも、生き続ける(・・・・・)のも。

ずっと、断頭台の上にいる。

 

「じゃあ、私とここに居ますか?」

 

透明な言葉。

肩を支える、ジャンヌ・オルタの声。

 

「私と一緒に地獄へ堕ちましょう。大丈夫。私はずっと、貴女の手を握っていますよ」

 

それは・・・・・・。

 

「――――目覚めたか、我が仮初めのマスター。ならば立つがいい」

「・・・・・・アヴェンジャー」

「行くぞ。既に、第五の裁きがおまえをお待ちかねだ」

 

ベッドから立ち上がって、ふらつく。顔を上げられない。

ジャンヌ・オルタに手を引かれ、牢の外に出た。

暗い廊下が心地よかった。照明にすら照らされたくない。

 

「今回の支配者の正体を伝えておくぞ。奴は、暴食の具現だ」

 

喰らうことが手段ではなく、目的にすり替わったとき。

それは破滅の因子と化す。

 

「この世のあらゆる快楽を貪り、溢れども飽き足らず喰らい続けた悪逆の具現だ。実に、単純明快きわまる相手の筈だ。前回のようにあれこれと理屈をこねてくる事もない」

「へぇ」

 

増える足音、紛れる声。

リンク・オルタが現れた。

 

「なに、考える必要はない。おまえの在るがままに在れば勝ち抜けよう」

「(私の、在るがまま・・・?)」

「・・・・・・殺せ。殺すだけでいい」

 

そうしていつものように、にやりと笑ったのだろう。

私ってなんだっけ。

 

「(ちょっとアナタ!!)」

「(ん?)」

「(ん?じゃありません!アナタのせいでマスターがずっと沈んでいるんですよ!どうにかしなさいよ!)」

「(無垢で無知な少女に、考える事を教えてやっただけだぞ?むしろ感謝してほしいくらいだな)」

「(なんっで偉そうなのよ!いくら勇者の一部だからって!アンタの事も燃やすわよ!!)」

「(折角マスターの弱いところを見せてもらったのに、嬉しくないのか?)」

「(え?)」

 

リンク・オルタの瞳に、きょとんとした自分が映っている。

青年は見惚れるほど綺麗に微笑んだ。まるで少女を誑かす悪魔のよう!

 

「(つまりお前はマスターのなかでも特別な位置に居るって事だ。藤丸立香の、特別)」

「(・・・・・・・・・・・・なるほど)」

 

 

災厄ハンター なるほどなんだ

ウルフ 納得しちゃったよ

うさぎちゃん(光) これ大丈夫?丸く収まる?

 

 

獣の雄叫びがする。

 

「・・・・・・グゥ、アア、アアアアアアアアアアアアアア・・・・・・」

 

地獄の底から、世界を睨む獣がいる。

 

「オオォオオオオオオオオ・・・・・・オオオ・・・オオオオオオオオオォ!!

 

名をカリギュラ。

月に愛され、狂気に落ち果てた男。

 

「余は・・・・・・殺す・・・・・・殺す・・・・・・!おお、あああ、女神よ・・・・・・余の、振る舞いを許せ!」

「カリギュラ・・・」

「余の、振る舞い、は、運命、で、ある!余は・・・すべてを・・・・・・!貪り!喰らうのみ!!

 

濁った瞳は何も映さない。

暴虐と悪行を振りかざし、いずれ全てを喰らうだろう。

 

「ネロ、は、何処だ・・・・・・。おお、どうか、どうか、おまえだけは・・・・・・!!オオオアアアアアア!!

「ははは!どうやら沈静には失敗したようだな!アレはおまえの魂を喰らうまで止まらん!」

 

一番近くに居たリンク・オルタに振りかぶった拳は、彼の足に止められた。

そのまま力尽くで押し返す。吹き飛ばされたカリギュラはよろめきながら後退し、しかし即座に反撃に移る。

足と拳の攻防。裁きの間に重い打撃音が響くが、ポケットに両腕を突っ込んだままいなしている様子を見る限り、リンク・オルタは全く本気ではなさそうだ。

 

「対話を続けても構わんぞ。此処で死ぬというならば勝手にするがいい」

「・・・・・・」

「途中で歩みを止めても構わん。おまえは、いつだろうと諦めることができる」

 

握られていた手が持ち上がる。

ジャンヌ・オルタの胸に抱え込まれた手と彼女の顔を、立香は交互に見た。

 

「マスター。私、嬉しいです」

「・・・嬉しい?」

「貴女の心の一部を見せてもらえたことが。貴女に・・・甘えてもらったことが」

「――――――」

「貴女はきっと一人でも立てるけど。一人で立つのは辛いことに、もしかしたらようやく気づけたのでしょう。その時寄りかかることが出来る場所が、私であって嬉しいです」

 

ふと、思い出した。

 

“なんていうか、これは私もそうなんだけど。その瞬間は怖くないんだよ。必死にあれこれ考えて何かしている間はさ。後悔も反省もしている暇がないの。ジャンヌもきっとそうだったんじゃないかなって”

 

真昼の森での一幕。ひかたに包まれた日。

 

“だから今ジャンヌがそうやって昔のことを振り返られるのは、心に余裕ができた証拠でもあって。・・・そんなに悪い事ではないと思うの。聖女じゃないと思うのも”

 

あの日の言葉が返ってくる。

心を燃やす勇気を、世界を照らす光を、思い出す。

 

「――――問おう、我が仮初めのマスターよ。渇きを癒やすもの。飢えを満たすもの。暴君カリギュラが、反英雄ではなく英霊として現界した理由は何だ!おまえはもう気づいている筈だ!」

「他人の存在。友達、家族、相棒。――――愛」

「己の魂の声を聞け!ここで歩みを止めると言っているか!」

「言ってない!!」

 

迷い、惑う事は人の定めである。

弱虫を抱えても笑えること。恐怖を知ってなお歩み続けられること。

それこそがヒトの輝き。

挫けるたびに立ち上がり、落ち込むたびに涙を拭え。

君を信じる背中合わせの誰かに。隣にいる誰かに。帰りを待っている誰かに。もう君は気づいたはずだ。

 

愛を知るヒトが堕ちるものか。愛をうたう獣であれ。

 

「悔しい!負けたくない!負けたくない!!人理を燃やした奴ごとき(・・・)に!!」

 

怒りではなく、負けず嫌いが吼えた。

憤怒ではなく、矜持を掲げた。

 

「やっちゃえオルタ!アヴェリン!」

「なんて?」

「いいでしょう!そんなに腹が減っているのなら、私の業火を喰らいなさい!」

 

 

奏者のお兄さん なんて?

Silver bow なんて?

災厄ハンター なんて?

うさぎちゃん(光) カワイイあだ名貰ったじゃん

 

 

臓腑すら焼き尽くす炎が襲いかかる。

横に飛び退いて避けようとしたカリギュラは、しかし後ろから叩き込まれた一撃に意識を刈り取られた。

カリギュラ如きでは反応できぬ、ちょっと本気になったリンク・オルタもといアヴェリンの攻撃である。

バーサーカーを燃やす黒炎を裂くように、オルタの剣が振るわれた。霊基が消滅する。

 

「お疲れ様。オルタ、アヴェリン。それと、アヴェンジャーもありがとう」

「フン」

「当然です。私は貴女の、特別なサーヴァントですから」

「吹っ切れた女は怖えな・・・」

 

 

海の男 切っ掛けはお前だぞ

銀河鉄道123 今週の自業自得

 

 

そして少しだけ恥ずかしそうに、立香は言った。

 

「ねえオルタ。その・・・また何かあったら、オルタに甘えてもいいかな」

「――えぇ!えぇ!」

 

勢い余って抱きついて、少女たちの笑顔が重なった。

 

 

守銭奴 丸く収まったな

フォースを信じろ めでたし!



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Né comme un démon

「第六の裁き、第六の支配者――。おまえは見るだろう。およそ人間の欲するところに限りなどない、と」

 

ばらばらの足音は、同じ目的地に向かっている。

 

「彼以上に強欲な生き物をオレは見た事がない。事実、驚嘆に値する。富を、金を、私財を腹へ溜め込むためならば、実の娘を捧げようとした男さえ、彼には遠く及ぶまい」

 

長く薄暗い廊下は、獲物を呑み込んだ蛇の腹のよう。

等間隔の照明が眩しくて、立香はぱちぱちと瞬きをした。

 

「彼の欲は、文字通り世界へも及ぶのだ」

「なんだかご機嫌だね。その彼のこと気に入ってるの?」

「フン。そうだな。考えた事もないが、或いはそうかもしれん」

 

アヴェンジャーは歌うように言う。オトダマのように言葉が跳ねた。

 

「彼は回答を求めた。正しきものが真にこの世にはないのなら、と。尊きものを、ヒトの善と幸福を信じたが故に、悪の蔓延る世界を否定したともいえるか?おまえ達には分かるまい。いいや、それともおまえ達であれば真に理解が及ぶか」

 

金色の瞳が、立香とアヴェリンを映した。

不思議そうに首を傾げる少女と、感情の読めぬ目で見返してくる青年。

 

「そう、彼は、この世全てに善を成さんとした男だ」

「強欲だな」

「クハハ!そうとも、強欲だ。彼は世界を救おうとした(・・・・・・・・・)のだから」

「・・・・・・!」

 

 

バードマスター 誰だろ

いーくん 誰だろうと、この世全てに善を成さんとかいうワードで出てくる奴はヤベェよ

バードマスター それは・・・そうなんですが・・・

 

 

「何であれ――。ある種の敬意さえ抱いているのだ、オレは。その無謀、高潔、強欲!喝采には相応しかろう!故に。故に。この上ない敬意と共に」

 

舞台役者のように手を広げ、上機嫌で男は言う。

 

「我が黒炎は悉く破壊しよう。正しき想い、尊き願いにこそ、オレの炎は燃え上がる。覚悟せよ、マスター。おまえは・・・・・・。世界を呑まんとする強欲をも、砕かなければならない」

 

石造りの重厚な扉を開けば、第六の試練の間。

 

「・・・・・・来ましたね。アヴェンジャー。前回は後れを取りましたが、私も決断しました。貴方を倒し、貴方を止める」

 

聖なる旗を翻し、そこに立つのは白き聖女。

 

「それこそが貴方への導きになるのだと信じています、今は」

「違う、違う違う!!」

 

怒号と黒炎が爆発した。

裁きの間を揺らし、空間がびりびりと震える。

 

「確かにおまえは逃がさぬ、おまえはいずれ殺す!だが今ではない。なんという間の悪さだ、旗の聖女よ!その間の悪さ!カドルッスにも匹敵しようか!」

「ジャンヌのこと嫌いなの?」

「オレが!オレであるからだ!」

「ああ、その気持ちは分かります。私も私であるが故に、あの女が嫌いです」

 

ジャンヌ・オルタが艶然と笑う。

どこか妖しさを感じる笑みに、ジャンヌは少し眉をひそめた。

 

「憤怒の存在を認めぬのであれば、それはこのオレを否定するにも等しきこと!」

「猛り続ける者。アヴェンジャー、竜の魔女。憤怒はそう、時には貴方たちの言う通り――――容易く消えはしないのでしょうね。私にも理解できます。幾度も目にしました。怒りは、藁に灯った火が如くして、きっと煌々と燃え盛ってしまう」

 

アヴェンジャーとジャンヌ・オルタが、視線に晒されて顔を顰めた。

アヴェリンはジャンヌの後ろを見ている。

後ろに佇む、強欲を見ている。

 

「怒れる者と、その周囲にある多くのモノが燃え尽きてしまうまで。けれど・・・・・・憤怒を胸に秘めたとしても・・・・・・同時に、赦しと救いを想う事だって叶うはずです」

「小癪!オレに、赦しと救いを説くか!」

「・・・・・・一応聞いてあげましょう。どうぞ戯言(たわごと)をぬかしなさい」

「かけがえのないマスターを得た貴女は、もう救いを知っているはずです。アヴェンジャー。あなたも、一度はそれを経験したはずでしょう?」

 

空気が凍った。

 

「はは・・・・・・は・・・・・・!ははははははははは!ククッ、ハッ、ははははははははははははははは!!」

「ふふ・・・・・・ふっ・・・・・・!あっはははははははははは!あはは、はははははははははははは!!」

 

尾を踏まれた虎がいる。

逆鱗に触れられた竜がいる。

 

「我が恩讐を語るな、女!」

「私のマスターを、救いなどに貶めるな!」

 

瞬間、アヴェンジャーは黒き炎のヒトガタに変わり。

ジャンヌ・オルタの全身から憤怒の業火が溢れだす。

 

「マスターは私の救いなどではない!そんなモノを求めてはいない!ただ側に居たいだけだ。ただ彼女の炎でありたいだけだ。この身が朽ちるまで、地獄まで供をするだけだ!!知った風な口を利くな!!怒りの一つも抱けない、欠陥人間が!!」

 

「我が黒炎は、請われようとも救いを求めず!我が怨念は、地上の誰にも赦しを与えず!」

 

 

「オレは巌窟王(モンテ・クリスト)!人類史に刻まれた悪鬼の陰影、永久の復讐者である!」

 

「我が名はジャンヌ・ダルク・オルタナティブ!明日に進まんとするマスタ―の魂を、我が全霊をもって守り抜く者だ!!」

 

 

「理解した。理解した。旗の聖女!おまえの性質は、どうあってもオレとは相容れぬ!」

「殺してあげるわ。そして教えてあげる。我が復讐の何たるか!」

「・・・・・・!」

 

怨念を叩きつけられた、聖女が息を詰まらせる。

ふいに影が伸びてきた。ゆっくりと暗がりから歩み出る、褐色の少年。

 

「言葉だけでは届かぬ思いもある。聖女よ。あなたも、よく知っている筈ですが」

「・・・・・・分かっています。分かっているのです。けれど、私はどうしても諦めきれない」

「――――だからこそ、主は今もあなたを愛し続けるのでしょうね」

「――――おお。待ちかねたぞ。もう一人の裁定者(ルーラー)。強欲の具現たるモノ」

 

その姿は立香も見覚えがある。

青きオケアノスで出会った、柔和な笑みの男。

 

「天草四郎・・・?」

「如何にも。はじめまして、アヴェンジャー。斯様(かよう)な場所でなければ、違うカタチで出会う可能性もあったのでしょうが。復讐のクリストを名乗る貴方には、最早、祈りも届かないのでしょう」

「・・・・・・」

「だが、一方で私は貴方を信じてもいます。これ以上ないほどに」

「ンン・・・・・・?」

 

白い髪を揺らして、ゆったりと天草は続ける。

 

「この世の地獄を知る者ならば、真に尊きモノが何であるかも同時に知った筈。魔術王の策謀にも貴方は乗らなかった。ならば・・・・・・」

「――黙れ。アレは怨念を持たぬ者だ。恩讐の外に在る存在と馴れ合う道理はない」

 

言葉を遮った。アヴェンジャーから漏れ出る殺意。

 

「勘違いされては困るな、天草四郎。オレは世界を救う(・・・・・)手伝いなぞをした覚えはないぞ?」

「・・・・・・確かに、そうでしょう。ジャンヌ・ダルク。力をお借りします。イフ城に配置された者ではなく、同じルーラーとして」

「――――ええ、天草四郎時貞」

 

そして激突。

黒炎が、光が、旗が、拳が、黒鍵が。ぶつかり合う高速戦闘。

それに欠伸をひとつ。アヴェリンは立香の方に向く。

 

「なあ、これ長くなる?自分が殺れば一秒で終わるんだが」

「でしょうね」

「つーかあいつら自分のことはスルーしたよな。無視は良くないぜ」

「私じゃなくて二人に聞いたほうがいいよ」

「そうだな」

 

黒い炎が弾けた。

ジャンヌ・オルタやアヴェンジャーとも違う魔の炎は、聖人と復讐鬼を分断する。

 

「なぁお二人さん。自分には説教とかないの?一応自分も復讐鬼なんだけど」

「・・・・・・・・・リンク・オルタナティブ」

「魔王の悪しき心と、勇者の悪しき心がカタチを成した、漆黒の意志・・・・・・」

「そうそう。救ってくれねぇの(・・・・・・・・)?自分のことは」

 

くすくすと笑う、口元を袖で隠す。

普段は快活な性格で分かりづらくなっているが、リンクが本来持っている、匂うような色気がする。

 

「勇者リンクは、貴方の存在を受け入れた。・・・・・・ならば、私たちには祈ることしかできません」

「復讐はヒトの手に在るが、貴方はヒトであってヒトではない。だから貴方を滅ぼせるのは、コインの表側である勇者だけです。私達では絶対に勝てない」

 

黒鍵を固く握りしめる。

囁き一つ。手の一振りで、彼は自分たちを殺すだろう。

 

「・・・・・・貴方を救えるのは、理解できるのは、貴方そのものであるガノンドロフだけ。勇者リンクだけ」

「・・・・・・ええ、ご指摘の通り。貴方に出てこられたら、私達は何も言えません。お手上げです」

「――――甘い。甘すぎるな。嘲笑さえ浮かばぬぞ。此処に在ってさえ気高さを失わぬ者どもよ」

 

魔王の片鱗が見える。

主なるものを嗤い、しかしてヒトの可能性を知った男の姿が。

 

「感情のままに燃え尽きていく者を救おうなどとするから、お前たちは聖人なのだろう。――だが。自分ら(・・・)に同情したな・・・・・・?」

 

凄絶な凄み。金の瞳に囚われる。

 

「勇者が捨てられなかった負の感情に。王が抱える底なしの怨念に、同情したな?調停者のくせに肩入れするな。愚か者共」

 

本当につまらなそうに吐き捨てて、アヴェリンは後ろを振り返った。

 

「殺すぞ」

「どうぞ」

「フン」

 

首が飛んだ。

ひゅん、と振られたのは大きな双剣。魔王の振るう、無慈悲な刃。

 

 

奏者のお兄さん うわあの双剣

海の男 あいつら二刀流好きだな

災厄ハンター (正直二刀流はちょっとかっこいいと思っている)

騎士 (わかる)

 

 

第六の試練はこれで終い。

己の未熟さを恥じ入りながら、聖人達は消えた。



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この世界は私の提供でお送りしました

「ひとつ、昔話をしてやろう。・・・・・・煙草が欲しいところだが、贅沢は言うまい」

 

男はそう言って、役者達に向き直った。

 

「他愛のない昔話だ。だが、世界で最高の復讐劇であると宣う者もいる」

 

すきま風も聞こえない。監獄塔は静まりかえる。

 

「ある海の傍らに愚かな男がいた。誠実な男だった。この世が邪悪に充ちているとは知らぬ男だった。故に、男は罠へと落とされた。無実の罪によって」

 

シャトー・ディフで十四年。男は時間を過ごした。

拷問の雨あられ。止まぬ無数の呻き。死にかけ共の大合唱。死臭の中で育まれる殺意。

 

「監獄塔から生還した男は――――復讐鬼となった。人間の持つ善性のすべてを捨てて、男は、悪魔が如き狡猾さと力を手に入れていたのだ」

 

そして男は、憤怒のままに復讐へと耽った。

自らを地獄へ送った者どもを、一人ずつ、たっぷりと恐怖を与えながら手にかけて!

 

「クク・・・・・・。ああ、今でも思い出せる。連中の顔、顔、顔!我が名を告げたときの驚愕!己が忘れ去っていた悪行の帰還を前にした絶望!クク――ははは、はははははははは!あれこそが復讐の本懐!正当なる報復の極みなる!」

「それは・・・。きみの経験なの、アヴェンジャー」

「フッ。逸るな。年長者の話は、最後まで聞くものだ」

 

とはいえ概ねここで終わり。男の復讐はここで終わり。

 

「男は、最後の一人を見逃した。・・・・・・自らの悪を捨てたのだ、という者もいる。最後の最後に善性を取り戻したのだと。――――愛を、得たのだと」

「愛・・・かぁ」

「男は確かに復讐を止めた。そう、失われた筈の愛を取り戻したのだろう。男は、復讐鬼たる自身を愛し続けた寵姫と共に何処へなりとも消え失せた」

「ハッピーエンドに聞こえますね。何をそんなに怒っているのですか?」

 

その通り。ハッピーエンドの物語。

男の人生は物語になった。或いは、物語こそが男の人生であったのか。

 

「いずれにせよ――――物語は至上の喝采を浴び、無数の想いを受け、復讐の神話となった。かつて男は復讐の神を叫んだが、哀れ、男自身がソレに成り果てたのだ」

 

男は人類史へと刻まれた。

世界最古の神話のように。あの魔王のように。悪役共のように。

人々が夢想する荒ぶるカタチのままに。

 

「そして英霊と化した男の魂は、魔術の王が時を焼却せんとする頃になって、ひどく特異なサーヴァントとして現界した」

「エクストラクラス・アヴェンジャー」

「如何にも。混ざり合う魂の復讐鬼よ。貴様がここに降り立ったのも、ある意味では必然だろう」

「・・・・・・真名は?」

 

一歩、踏み込む。

立香の問いかけにも男は動じない。ただ、不敵な笑みをもらすだけ。

 

「我が身はアヴェンジャー。永遠の復讐鬼なれば!」

「それはもう聞き飽きました。そろそろ本性をお出しになったら?」

「・・・エドモン(・・・・)ダンテス(・・・・)

 

さあ、その名を呼べ。

第七の裁き。傲慢の名を冠する―――――。

 

「なんですって?」

「アヴェリン、知ってるの?」

「・・・・・・はは、ははははははははははは!」

 

アヴェリンが正鵠を射る。

男は腹の底から笑う。

やはり、気づくとしたら貴様か。

 

「否!否!それは無辜の罪で投獄された哀れな男の名!そして恩讐の彼方にて、奇跡とも呼ぶべき愛によって救われた男の名!決してこのオレではない。ヒトとして生きて死んだ人間(エドモン)の名なぞ!相応しいわけがあるまいよ!」

「きみはエドモンから分かたれた、復讐という概念?」

「最近そういうの多いですね。貴方はまだ、まともそうですが」

 

男の返答はない。

何かを断ち切るように瞳を閉じ、再び開く。

この望郷さえ、直に不要になるだろう。

 

「話は終わりだ。最早、このシャトー・ディフも役目を終える。七つの裁きは破壊されるのだから」

「七人目の支配者は?」

「どう考えてもコイツですよね」

「後は、光差す外界へと歩むのみ。だが・・・・・・」

 

シャトー・ディフを脱獄した人間はいない。

そう、ただ一人を除いては。

 

「幾億の怨念を伴って再構成された此処も同じく、やはり、出られるのは一人のみ」

「4人いるね」

「自分はカウントしなくていい」

「私は再召喚でカルデアに戻れます」

「じゃあ2人だな・・・・・・」

「残される1人は、当代のファリア神父となる」

 

絶望をくじき、希望を導くモノとして命を終える。

それはそれで、意義深き事ではあるのだろう。

 

「おまえか、オレか。どちらが生き残り、どちらが死ぬか。――――さあ、仮初めのマスター。覚悟するがいい」

 

コートを翻して佇む男の前に、ジャンヌ・オルタが立ちふさがる。

アヴェリンは立香の後ろに下がった。手を出す気はないようだ。

 

「当然ながらオレは朽ちるつもりはない。折角、再びこの世に舞い戻ったのだ。オレはオレの好きにするさ。おまえを第二のファリア神父として、オレは生きる」

 

よくもまあべらべらと、思ってもいないことが言えるものだ。

もうそんなつもりちっともないくせに。ジャンヌ・オルタは内心で毒づく。

 

「そして、お前の物語は終わる。実に簡単だ。――幕としよう。最後の最後で、おまえの魂は真に堕ち果てるのだ」

 

男のきんいろの目と、立香のあかい目が重なった。

 

「だが、もしも・・・・・・!おまえが歩み続けると叫ぶのならば!おまえが!未だ希望を失っていないのならば!――(オレ)を!殺せ!

 

襲いかかる青黒い炎を、ジャンヌ・オルタが旗で叩き落とす。

怨念の炎を纏った拳が繰り出す格闘術を、憤怒の業火を纏ってはじき返す。

 

「神の領分たる復讐を司るこのオレを!傲慢の具現――第七の『裁きの間』の支配者を!世界を救うために――殺せ!」

 

アサシンに勝る超高速移動。ジャンヌ・オルタの機動では追いつけない。

だから――立香がいるのだ。

 

「オルタ!合わせて!」

「ええマスター!竜の魔女(行きます)自己改造(スターを集めて)うたかたの夢(バスターで殴る)!」

「緊急回避!」

 

踏み込んで振るわれる拳を、紙一重で避ける。

くるりと一回転。勢いのまま、旗が男に叩きつけられた。

軸足そのままに横蹴り。男は思わず、防御に意識を取られた。その一瞬が命取り。

 

「全ての邪悪をここに」

「ぐ、う・・・!はああああああああ!」

 

雷撃のような魔力が、抗うように膨れあがる。

閃光が放たれるかと思った両手は、右肩に剣が突き刺さったことで止まった。

 

「瞬間強化!」

 

攻撃に転じる一瞬の間。力の限り投擲された剣が、男の肩を貫いたのだ。

負けを確信した男が浮かべた小さな笑みを、アヴェリンだけが見ていた。

 

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮――吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!」

 

怨念の魔力が燃え上がる。怨嗟の炎が焼き尽くす。

骨の髄まで、霊基の核まで。

 

「――見事。成る程、オレの戦い方を把握していたか・・・。流石は仮初めのマスターだ」

 

煌々と燃えさかる炎の中で、男は満足したように息を吐いた。

 

「満足ですか?永劫の復讐鬼」

「はははは!そうだな、気分は悪くない。そうとも、オレは一度でも味わってみたかった・・・!かつてのオレを導いたただひとり、敬虔(けいけん)なるファリア神父・・・・・・あなたのように!」

 

絶望に負けぬ誰かを。

おぞましい罠に落ちた、無辜の者を。

我が、せめてもの希望として――――。

 

「――アヴェンジャー」

「はは!そうだ!分かっているじゃないかマスター(・・・・)!認めよう!おまえはオレを殺してくれた!おまえはオレに勝利を導いた!」

 

泣いているの?

その言葉は立香の心の中に収まった。

そう指摘することすら、なんだか無粋に思えたからだ。

 

「オレは勝利を知らずにいたのだ。復讐者として人理に刻まれながらも、オレは・・・。最後には救われたエドモン(オレ)だったが故に・・・。復讐を成し遂げられず、勝利の味を遂に知らぬままの巌窟王(オレ)を持て余し続けた」

 

そして遂には魔術王にも敗北した。

霊基も誇りもズタズタに裂かれ、この監獄塔に設置された。

 

「だが・・・お前だ。藤丸立香。おまえはオレに導かれ、障害を砕き、塔を脱出する。それは何と・・・希望に満ちた結末であろうか」

 

監獄塔が崩れていく。空間がほどけていく。足下が消えていく。

とっさに抱え込まれたジャンヌ・オルタの腕の中で、立香は男に手を伸ばした。

 

「アヴェンジャー!」

「歩むがいい!足掻き続けろ!魂の牢獄より解き放たれて――――おまえは!」

 

ありったけの祝福を、受け取るがいい!

 

「いつの日にか、世界を救うだろう!」

「また――また会おう!アヴェンジャー!私!」

 

ありったけの希望を、どうか貴方も受け取って!

 

「まだ貴方と話したい!何も知らないの!私が私で在るために――きっと貴方も必要だ!」

 

暗黒の底に全ては堕ちていく。

全ては永遠に消えるだろう。

 

「・・・・・・再会を望むか、アヴェンジャーたるオレに?はは、はははははははははは!ならばオレはこう言うしかあるまいな!」

 

立香とジャンヌ・オルタが、光の差す方へ引っ張られていく。

きっともう間もなく、カルデアで目覚めるだろう。

 

「“――――待て、しかして希望せよ”と!」

 

長くて短い、悪夢が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっこよく消えようとしているところ悪いけど、まだ働いて欲しいんだわ」

 

逆さまの視界。掴まれた右足。

落ちそうになった帽子を咄嗟に押さえた後、アヴェンジャーは顔を上に向けた。

 

「・・・漆黒の復讐鬼」

「第四特異点で魔術王に会ってマスター・リツカが邪視で殺される。・・・・・・お前がいれば解決じゃね?」

 

 

銀河鉄道123 どうなん?

災厄ハンター 詳しい人

奏者のお兄さん 要は視線が合わなきゃいい訳だから、そこの隠蔽が出来れば

騎士 まぁ居ないより居る方がいいな

 

 

「足りない霊基は自分がくれてやる。世界の為に、マスター・リツカの為に働きたまえ」

「・・・・・・何故、貴様がそんなことをする?世界の命運には興味がないと思ったが」

「自分らはねーけどリンク共はある。だけど悪属性のリンクは自分らだけだ。こういうとき(・・・・・・)困るよな」

 

 

Silver bow あっこいつアヴェンジャーのこと手下にしようとしてる!!!!!

りっちゃん 今後こういうことがあった時代わりに行かせようとしてる!!!!!

いーくん 面倒くさいことを回避するための労力を惜しまない。勇者に必須のスキルですね

 

 

「ほら受け取れ!食え!オラッ!!!」

「ぐっふ!?」

 

 

うさぎちゃん(光) 口に無理矢理詰め込むな

ウルフ バリ噎せてる

 

 

「よし行け!!!ゴーカルデア!!!」

「あああああああぁぁぁぁ――――!?!?」

 

 

小さきもの 投げるな

バードマスター 人間パワフルピッチャーマシーン・・・・・・

守銭奴 すぐギャグオチになるんだよな・・・・・・



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第四特異点
アバンタイトル


第四特異点、スタートです。
特異点の勇者達、更新してます。


「ハアッ、ハッ・・・・・・ハッ・・・・・・!!」

 

1人の女が無我夢中で駆けていく。

視界は不良。濃い霧に囲まれた都は、もうずっと冷ややかだ。

 

「何なの、この霧・・・!からだの・・・力が、どんどん・・・抜けて、いく・・・・・・」

 

とうとう膝から崩れ落ちて、固い地面に体が叩きつけられる。

荒い呼吸を繰り返す体では、起き上がることすら出来なくて。

 

「――――ごめんね」

 

声がする。

ぶわりと倍増した恐怖と、震えを増した四肢。

 

「えっ・・・い、いつの間に・・・・・・?あ、ああ・・・・・・。・・・・・・いや、いや、来ないで・・・・・・」

 

ずっと自分を追ってきていた、誰か。

ずっと自分を見ている、何か。

 

「あああ、いや、来ないでよぉ・・・・・・!何なの・・・・・・何なのよ!」

「ごめんね、おかあさん。ごめんね」

 

振りかぶられた影の形に、声にならない悲鳴が飛び出る。

 

「でも帰りたい・・・・・・。帰りたい、帰りたい、帰りたい、帰りたい、から・・・・・・」

「いや――――やめて、やめてやめてやめてやめて!」

「わたしたち・・・・・・とっても、とっても・・・・・・帰りたいから、ね・・・・・・?」

 

地面を汚す、赤い液体。

腹を裂かれた、女の亡骸。

 

「ごめんね」

 

ぱちん、とシャボン玉が弾けるように。

立香の意識は浮上した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――おはようございます、先輩」

「・・・・・・ましゅ?おはよう・・・」

 

顔をのぞき込んでくる後輩に、立香はとろりとした返答を返す。

もぞもぞと起き上がる様子を確認してから、マシュは再び口を開いた。

 

「・・・よかった。なんだか、うなされていたようですので・・・。またお目覚めにならなかったら、どうしようかと・・・・・・」

「そう?・・・心配かけてごめんね。フォウくんも居るから、もう大丈夫だよ」

「それなら、良かったです。今朝はミーティングの予定が入っていますので、朝食はお早めに」

 

監獄塔から帰ってきて、早数日。

ベッドに潜り込んで一緒に寝ていたフォウが、眠たそうに鳴く。

先に食堂へ向かったフォウとマシュを見送って、立香もゆっくりとベッドから立ち上がった。

 

「ねえ、アヴェンジャー。怖い夢を見たよ。ホラー映画の導入みたいな・・・」

「意識だけが飛んだか?どちらにせよ、今のお前に干渉できることではない。忘れておけ」

 

ずるり、と影から男が現れる。

監獄塔から帰ってきた夜、夢の中で再会したアヴェンジャーだ。

 

「ずっとおまえの側に居る。何かあればオレを呼べ」

 

そう言って、英国紳士のようなキスを手の甲へ送られた。

驚きと恥ずかしさで勢いよく目を覚ました立香は、しばらくベッドから起き上がれなかったものだ。

それにどうやら、カルデアのサーヴァントとして現界している訳ではないらしい。

カルデアのデーターベースには、立香が話した情報しか記録されていなかったからだ。

言った方がいいのかな?とも思ったが、千里眼持ちの英雄王が何も言ってこないのだ。ジャンヌ・オルタと所長にだけ話し、あとは秘密。女の子の秘密にした。

・・・そういえば、なんで監獄塔に行ったんだっけ?アヴェンジャーは時系列の因果が乱れているから、忘れるのは道理って言ってたけど。

 

「おはよう、諸君。まずは前回得た情報の解析結果からいこうか」

「七十二柱の魔神・・・・・・そう呼ばれる召喚術を使ったという、ソロモン時代の観測、ですね?」

「そうだ。結論から言うと、ソロモン王時代に異変はなかった。紀元前10世紀頃に特異点は発生していない。これがどういう事かというと・・・・・・」

 

早朝の管制室には、サーヴァント達も集まっていた。

新たに召喚されたケイローン、アスクレピオス、項羽、についてきた虞美人。

 

「まことに遺憾だけど、ロマニの言うとおり、七十二柱の魔神を名乗るモノたちとソロモン王は無関係という事さ」

「もしソロモンが七十二柱の魔神を使役しているのなら、必ずその痕跡が観測される。紀元前10世紀から未来に向けて使い魔を放っている、という流れがね」

 

しかしソロモン王の時代には何の異常も見られない。

つまり彼の時代は“正しい人類史”のままだ。

 

「だから――レフ・ライノールや魔神を名乗る連中は、まったく違う“何処かの時代”から現れている。なのでソロモン王と彼らは無関係だ。まあもっとも――――」

「・・・・・・ソロモン王がサーヴァントとして誰かに使役されていた場合は別、ですね?」

 

マシュがすっと挙手をして発言する。

ダ・ヴィンチちゃんが頷いて、言葉を続けた。

 

「そうそう。立香ちゃんのように、自分の時代でソロモン王を使い魔にすればいい。そうすれば“七十二柱の魔神”も配下に出来る」

「でもそれは・・・、七十二柱の魔神なんて使い魔が、本当に実在するのなら、の話でしょう?」

「だいたいソロモン王がそんな悪事に負担するとはボクは思えない」

「やけにソロモン王を庇うわね。サーヴァントは基本、マスターには従うものだと思うけど」

 

オルガマリーの指摘に、ロマニはどことなくもどかしそうに唇をとがらせた。

 

「カルデアの召喚システムはマスターと英霊、双方の同意があってはじめて成立するものだ。そんな悪人にソロモン王は呼べないよ」

「ああ、それはそうか。私も同意したからカルデアに来たのだし」

「ダ・ヴィンチちゃんは第三号だっけ?」

「そうそう」

 

うろ覚えの記憶だが、なんかそんなこと言ってたような気がする。

 

「第二号は君の目の前に居る。マシュちゃんだ。第一号は・・・・・・現時点では不明だね」

「? 所長も知らないの?」

「・・・・・・第一号と第二号は機密事項として扱われています。詳細は先代所長しか知りません」

 

探しても探してもその資料は出てこなかった。

おそらく先代の死と共に、闇に葬り去られたのだろう。

なんとなくこわばった空気になってしまった。払拭するようにロマニが声を張る。

 

「さて!どうあれ残り四つの特異点、このいずれかに黒幕が潜んでいる可能性は高い。では今回のオーダーの詳細を説明しよう。第四の特異点は十九世紀だ」

 

文明の発展と隆盛(りゅうせい)

産業革命という、決定的なターニングポイント。

絢爛にして華やかなる大英帝国。首都ロンドン。

 

「いいなぁロンドン。霧の都。可能なら、ボクも行ってみたかったなあ。シャーロック・ホームズに会ったらサインとか」

「ロマニ。旅行ではありません」

「う、うん。分かってますよ所長」

「それと、もう一つ。シャーロック・ホームズは架空の人物です」

「マシュだってファンじゃないか!」

「・・・ファンではありません。その頭脳を尊敬しているだけです」

 

それは・・・ファンなのでは?

ケイローンにひっそり耳打ちすると、そうですねと微笑まれた。

 

 

 

『アンサモンプログラム スタート。霊視変換を開始 します

 レイシフト開始まで あと3、2、1・・・・・・

 全行程 完了(クリア)

 グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 

 

 

第四特異点 死界魔霧都市 ロンドン

 

 

 

 

 



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ロウワー

あわれで可愛いトミーサム、いろいろここまでご苦労さま。

夜のとばりは落ちきった。アナタの首も、ポトンと落ちる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配信中です。
 
上位チャット▼


バードマスター 次の特異点は僕が行くよ

奏者のお兄さん その心は?

バードマスター 呪殺、ムテキンVで弾けんか?

海の男 現代の人間がムテキンVキメて大丈夫?

バードマスター わかんない。ファイー!

ファイ 宝具の1つとして処理される確率70% その場合人体に影響を及ぼさない確率98%です

騎士 ポケモンなら外れる

いーくん きあいだまに苦しめられてきた者だ。面構えが違う

【新人の】人理修復RTA【アヴェンジャーくんをよろしく】

20人が視聴中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはロンドン。死界都市。

空を覆い尽くすほどの霧が、異常な魔力反応を検出した。

まるで大気に魔力そのものが充満しているようだ。生命には有害な、死にいざなう魔霧。

 

『マシュ、立香ちゃん、体の調子は?』

「わたしは問題ありません。デミ・サーヴァントであるからでしょうか」

「私も。ダ・ヴィンチちゃんと先生たちが作ってくれた礼装のおかげかな」

 

カルデアに続々と集結する叡智を動員して作られた、新たな礼装。アトラス院制服。

無事眼鏡っ娘デビューを果たした立香は、ドクターの質問に、ネクタイの結ばれた胸を張って応えた。

 

『確かにバイタルにも変動がないな。周囲の様子はどうだい?犠牲者は、見掛けられる?』

「いいえ、ドクター。往来は全くの無人です」

 

現在時刻は午前二時。

しかし、馬車はおろか歩行者さえも居ない。

まるで廃墟になってしまったかのようだ。建物のすべての戸や窓は閉められ、外界を懸命に遮断している。

 

「早く聖杯を見つけなくちゃ。行こう、マシュ」

「はい、先輩」

『待った、生体反応だ』

 

踏み出そうとした2人の足がロマニの言葉で止まる。

即座に立香の前に出てきたマシュが、一番にその姿を捉えた。

 

「・・・・・・なんだ、おまえら?」

「え・・・・・・と。はい、わ、わたしたちは――」

『モードレッド卿!』

「え?」

「げ」

 

通信機越しのパーシヴァルの声に、三者三様の反応を返す。

声を上げたのはマシュと鎧の騎士――モードレッドだ。

歴史では男として伝わっている彼女は、魔女モルガンの奸計によって生み出された人工生命、ホムンクルスの一種である。

 

「なんだよ知り合いがいんのかよ・・・」

『モードレッドか!パーシヴァルと同じく円卓の騎士であり、叛逆の騎士・・・!』

「モードレッド卿、貴方はこの都市について詳しいのですか?それでしたら是非、お話を聞かせていただきたいのですが」

「あーへいへい。しょーがねーな」

 

面倒そうな顔を取り繕いもせず、モードレッドはがりがりと頭をかいた。

これで相手が兄貴風を吹かせるあいつや、不倫紫だったら帰っていたが・・・。パーシヴァルは円卓の中でもかなりまともな部類の騎士だ。ならまぁ・・・いいだろう。

 

「その前に、ハッキリさせとこう。おまえ、デミサーヴァントってやつだろう?」

「はい。わたしは、マシュ・キリエライト。デミ・サーヴァントです」

「で、お前は?」

「藤丸立香。カルデアのマスターです」

「取りあえず、オレの当座の拠点に行くか。話はそこからだ」

 

少女の姿をした騎士に促され、立香達は静まった都市を歩き出した。

遠くから聞こえる謎の音が、世界の異質さを表している。

夜霧はまだ、何も語らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふふふふふふ」

 

どこもかしこも、濃くて妖しい霧が覆う。まったく視界が悪くてしょうがない。

 

「フハハハハ!!まったくふざけているな。碌な脚本も書けない三流作家が!よりにもよって俺を呼ぶとはどういう了見だ!」

 

そんな都市の一角で、叫ぶ少年が居る。

春の海のように青い髪、青い瞳。なんだかとっても美声の少年は、地団駄の代わりに天に向かって叫ぶ。

作家を聖杯戦争に呼んでどうする。そういうのは月だけで十分だ。しかもなんだこの霧もう詰んでるぞ。

魔力は多いがただそれだけ。三流サーヴァント1人では雨風凌ぐのが精一杯だろう。

 

「(とりあえず、何処か安全な場所に居座るか・・・)」

 

そういって歩き出した小さな背中は、なかなかの哀愁に充ちていた。

そんな彼の名はハンス・クリスチャン・アンデルセン。世界三大童話作家の一人だ。

自分の人生を嫌っていたからか、召喚された姿は見ての通り幼年期のもの。

眼鏡越しに世間を見澄ます、人間観察の達人である。

そんな少年に忍び寄る、無慈悲で素敵な絵本が一冊。近づくものみな眠らせる、無音の子守歌をどうぞ。

 

「厄日だ。それ以外に形容できん。肉体労働など死んでもするか。追われるのは締め切りだけで十分だ!」

 

走るアンデルセン。追う謎本。サーヴァントでよかった。生身だったらもう倒れていた。

影は二つ。足音は一つ。追いかけっこ追いかけっこ!

そんな二つに引き寄せられて、三人目が落ちてくる。

 

「ん?んんんー?」

 

器用に首を傾げながら、影は2人の間に着地した。

 

「こんにちは、ミスター・アンデルセン。困っているようだから、割って入らせてもらうよ」

「は?」

 

声が耳を通過し、振り返った視界に姿が映る。

金色。

まず目に入ったのはその髪。どこもかしこも灰色の風景を切り裂くように、美しい男が立っている。

 

「あの本、なんだかご存じ?見た感じ、固有結界かなーって思うんだけど」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・その考察であっている、というか俺が貴方に指導するようなことがこの世に存在するのか」

「そりゃあるでしょう。だってぼくは作家じゃないもの。本のことは本のプロに聞かなくちゃ」

「・・・・・・・・・・・・ああ、そうか。確かに貴方は執筆者じゃないな。失礼した」

 

よく回る口先がこの時ばかりはありがたかった。

人間は脳みそが回っていなくても、わりと他人と会話が出来る。助かる。

 

「自己紹介を忘れていた。ぼくはリンク。大空の勇者と呼ばれています」

 

雲1つない空の青を詰め込んだ瞳は、魔霧であっても遮れない。

どんなに人生を嫌っても、彼方から差し込む光がある。拭うことの出来ない希望がある。

あの日の童話。絵本。小説。ページのさざ波。

所詮自分は、物語を紡ぐ事だけしか出来ないけれど。だからこそ、誰よりも真摯でありたいと思った。

なによりも誠実に、あの小説を残した執筆者たちのように。

 

「俺の類推するところでは、こいつは本来、マスターの精神を映し出すサーヴァントだろう」

「なるほど。でも見るかぎりでははぐれ(・・・)だね」

「だからこそ、こいつは人々を襲っているのだろう。眠りに落として夢を見させ、夢の顕現として実体を得ようとしている」

 

サーヴァントですらない、サーヴァントになりたがっている魔力の塊は、会話の合間も蝶のように浮遊している。

実体の無いものは倒せない。・・・・・・こともないけれど、そこまでするほどではないだろう。

もっと平和的に、勇者的に解決したいものだ。

 

「名前のない本は探せない。付けてほしいな、大作家さん」

「やめろ!照れるだろう!足が震えてるのがわからんのか!もっとファンには優しくしろ!」

「うん、気を付けるね」

「聞こえるか!おまえに名前を付けてやるぞ。――――誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)!」

 

福音のように言葉は紡がれた。

魔本は童歌に。誰かの為の物語に。黒いドレスを身に纏い、少女が世界に現れた。

 

「・・・・・・ナーサリー・・・・・・ライム・・・・・・」

 

瞳の色はローズピンク。今は困惑したように揺れている。

 

「いいえ、ちがうわ。それは名前じゃない。名前は、アリス(わたし)

「ん? おや?」

「ありす、どこ?ここには・・・・・・ありすがいない・・・・・・」

 

変身するわ、変身するの。

私は貴方、貴方は私。

 

「ねえ、お兄ちゃんたち。ひとりぼっちのありす(あたし)はどこにいるの?」

「ふーむ、これは・・・」

「・・・・・・お前にマスターはいない。いや、正しくは、この時代にはいないのだろうな。・・・・・・まさか、名前のない本をここまで愛した誰か(マスター)がいたとはな」

「幸福だね。・・・こんにちは、迷い子の君。1つ提案があるのだけど、聞いてくれる?」

「なにかしら、お空の騎士様。誰よりも勇敢なあなた」

 

膝を曲げて、視線を合わせる。少女の瞳を覗き込んだ。

 

「ありすはきっと空にいるよ。ぼくで良ければ案内しよう」

「・・・・・・本当に?」

「うん、約束しよう。でもロフトバードが空に飛び上がるには、まずこの霧を晴らさなくちゃ。君が手伝ってくれれば、きっとすぐに終わると思うんだ」

「・・・わかったわ。約束よ、大空の勇者様。幸福の紅い鳥で、私をありすのところに連れて行ってね」

 

小さな淑女、お手をどうぞ。少女はようやく笑みを零した。

 

「・・・・・・見事だな」

「光栄です。先生も一緒に行きませんか?」

「一も二もなくそうさせてもらおう。あとサインも貰えるか?それといくつか質問があるのだが貴方もこの特異点に呼ばれて来たのか?他の勇者達も英霊化しているのか?ハイリア関係者は?宝具は何だ?マスターソードは持っているのか?剣の精霊は?」

「絵に描いたようなマシンガントーク」

 

ぴいちくぱあちく囀って。影が3つ、魔霧の中に消えていった。

ページを開いて、こんにちは!

嘘みたいな真実のスープ。パンプキン味の優しいスープ。貴方のために作りましょう!




アンデルセンもナーサリーも難しすぎて泣いてる。


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踊るシネマ

魔術協会――時計塔。

西暦以後の魔術師達にとって、中心とも言える巨大学院だ。

大英帝国の象徴のひとつたる大英博物館に、その入り口はある。・・・あったのだ。

 

「哀しいわ。酷い人がいるものね」

「・・・徹底的に壊されているね。恨みすらも感じる」

 

リンク、アンデルセン、ナーサリーが辿り着いた時、そこにあったのは瓦礫だけ。

廃墟と化した博物館。詰め込まれた歴史も、記録も、至高の数々も、すべて踏みにじられて泥だらけ。

 

 

騎士 ・・・気分が悪いな

奏者のお兄さん 確か、地下にも広がってるんじゃなかったっけ

 

 

魔霧が支配するこのロンドンでは、リンクの索敵能力もいまいち働かない。

敵の尻尾を掴めなければダウジングも使えないため、まずは手がかりを探す必要がある。

カルデアと合流する前に、訪れる可能性が高い場所に寄っていこう――――。

などと言いつつただ来たかっただけ感も否めない、時計塔に到着したはいいが・・・ご覧の有様だ。

 

「取りあえず掘り返そう。時計塔は地下もあったはず」

「そっ・・・!それはまほうのツボか!?」

「まあ!嵐の子供が産まれたみたい!すごいわ!勇者様!」

 

まほうのツボが瓦礫を吹き飛ばす。

巨人が息を吹いたかのように円状に露出した地面から、魔力の気配が漂った。

 

「地下階層発見~。さあ2人とも、足下には気を付けてね」

「楽しみだな。どんな稀覯本が眠っているのやら」

 

見るからにわくわくとしたアンデルセンを伴いながら、ナーサリーと手を繋ぎ、暗い世界に降りていく。

じめじめとした空気がぶつかっては消えた。人の気配は無く、敵性反応が出迎える。

 

「魔本?魔術本が変質したのかな。えい」

 

本を燃やすのはちょっと・・・。まほうのツボがあってよかった。

吹っ飛ばして道を開ける。武器を構えた重そうな機械兵は、遠慮無く魔力の弾丸でぶち壊した。

スカウォの時代にはなかった、拳銃。そこから発想を借りた魔法による早撃ち(クイックドロウ)だ。

ガンド、と呼ぶ者もいるだろう、一工程(シングルアクション)の攻撃である。

 

「・・・本が群れを成して襲ってくるとは、な」

「みんな、静かには眠ってはいられなかったのね」

 

迷宮のような地下通路を進み、やがて1つの扉に辿り着く。

魔術に守られた書庫への入り口だ。指先1つでロックを外し、部屋の中にお邪魔する。

 

「これは・・・・・・」

「む・・・?」

「あら?」

 

 

小さきもの ガッチガチですわ

守銭奴 カッチカチやぞ

うさぎちゃん(光) パワー!

いーくん ちゃうねん。違う人のネタやねん

 

 

中の蔵書には特殊な、しかも厳重な魔術が仕掛けられていた。

この部屋の外には持ち出せぬようにと、きっちり魔術書を守っている。

 

「しかも外にも敵が集まってきたぞ。どうする?勇者」

「んー・・・。ファイ」

「イエス、マスター。書庫の魔術を解析します」

「剣の精霊!?!?!?」

「外の敵はぼくが片づけるよ。ナーサリー、先生も、中にいてね」

 

びょっ!と飛び上がって驚いているアンデルセンと、ファイを見て好奇心に目を輝かせたナーサリーに声をかける。

1分もあればいいだろうか。

建物が壊れないように、やり過ぎてしまわないように。

 

「さあ、おいで。ちょっとぼくと遊ぼうか」

 

 

いーくん あのへんの書籍、興味あるかも

海の男 あとで読むから持って来て

 

 

はいはい

 

 

「マスター、解析が完了しました。ファイの指示通りに魔術を展開してください」

「うん。ありがとう」

「・・・凄まじいな。これが剣の精霊、これがハイラルの魔術力・・・!!」

 

ドレープのように広がる魔力。美しい光の綾は細波。

あまりにも幻想的な輝きに、アンデルセンは目を奪われた。

優美で細微な、リンクの魔術。

 

「――よし、解除」

「お疲れ様です、マスター」

 

各々、興味のある本を抱えて地上に戻った。

第四特異点の敵は、破壊の跡しか残していかなかったようだ。アテが外れてしまった。

これからどうしようか。

 

「マスター、宜しいですか?あの機械兵についてなのですが」

「うん?」

「帰還中に解析したところ、魔力で形成された機械である確率90%。サーヴァントの宝具であると推定します。ダウジングで捜索しますか?」

「んー・・・」

 

 

先にカルデアの人たちと合流した方がいいかな?

 

 

Silver bow それはそれでいろいろと活躍の機会を奪ってしまうのではないのでしょうか

りっちゃん ここに来てダウジングが猛威を振るい始めましたね

奏者のお兄さん まあいざとなればいくらでも見た目は誤魔化せるし・・・

 

 

それもそうだね

 

 

「ファイ、カルデアのマスターをダウジング」

「イエス・マスター」

「カルデア?」

「そうか、先生達は知らなかったね。向かいながら説明しよう」

 

次の目的地が決まった。

ご機嫌なナーサリーと手を繋ぎなおし、ファイを質問攻めしたくてうずうずしているアンデルセンに苦笑する。

昼か夜かも分からない、灰色の空を仰ぎ見て。大空の勇者はそっと息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ああ、もう。セイバー。見知らぬ人にすぐ真名を明かしちゃうんだ、君は」

「いいだろ、別に。あっちにパーシヴァルが居るんなら、隠しててもしょうがねぇし。なあ、シードルないか?のど渇いたぞ」

「あっ、それは僕お気に入りの個人用ソファ・・・・・・。いいけどね。シードルはもう冷やしてあるよ」

 

見るからに気弱そうなターコイズグリーン。レモンイエローの柔らかそうな髪。

家主と思われる紳士然とした青年は、モードレッドにふわふわとした返事を返した。

 

「・・・・・・ん、ん。ぷはっ。あー、生き返る。魔霧から上がったらコレにかぎる!――ん?なんだおまえら。ぼーっとしてないで適当にくつろげよ」

「あっ、はい・・・」

「お邪魔しまーす」

「ま、自分の家だと思っていいぜ。ここはオレの当座の拠点だ」

 

我が物顔でソファに陣取るモードレッドに、戸惑いながらも部屋に上がる。

青年は会釈で少女達を受け入れた。お言葉に甘えて、2人がけのソファに座る。

 

「自己紹介がまだだったね。僕はヘンリー・ジキルという」

 

ロンドンで碩学(せきがく)――科学者をしている青年は、正式な魔術師ではないが、霊薬調合の心得があるらしい。

霧が魔力を含んでいるところまでは突き止めたが、どうにも出来ずに困っていたところ、モードレッドと出会ったそうだ。

 

「こいつ魔術師としちゃ頼りないが、まあ一応それなりに役に立つからな。だから、主に実働はオレ。調査と解析がこいつ」

「そういうこと」

「あの――――すみません。ミスター・ヘンリー・ジキル?その名前は、ええと・・・・・・」

『小説の登場人物と同じね。偶然かしら。それとも、モデルになった人物だったり?マシュ、サーヴァントの気配はわかる?』

「いいえ、所長。気配では人間と区別が付きません」

 

怪奇小説「ジキル博士とハイド氏」の主人公と同じ名前だ。

この年代から少し後に出版された、善と悪を語る物語。

 

「小説?覚えがないな。僕、小説は読む方なんだけど・・・。主人公と名前も同じ?本当に?うーん、それなら忘れるはずないんだけどな」

「ただの偶然かな?」

「そうかもね。まあ僕の名前は置いておこう。どこにでもある名前だしね。僕はただ、故郷の都市が荒らされるのを止めたいだけの男さ」

『・・・・・・』

「それよりも、今は君たちだ。君たちは僕らとは少し違うようだね?」

「はい、私達は――――」

 

聖杯、特異点、カルデア。

世界に打ち込まれた七つのボトルのひとつ。それがこの時代のロンドンである。

 

「そちらの事情はおおむね理解したよ。では、僕らの知るかぎりでの、都市の状況を教えよう」

 

そして語られる悪夢の日々。

およそ三日前から毎夜に、生物の命を奪うほどの霧が都市に満ちている。

薄い場所ならマスクをすればなんとかなるが、濃い場所は駄目だ。吸い込んだだけで、通常の生物は魔力に侵されてしまう。ひどければ一時間もすれば死に至るだろう。

正確な数はわからないが、すでに数十万単位で死亡者が出ているはずだ、と。

 

「既に、完全な廃墟と化した地区もある。イーストエンドはほぼ全滅している」

 

都市の全てが完全な廃墟と化すのも、もう時間の問題だろう。

 

「死の霧に覆われるロンドン・・・。二十世紀に発生するはずの事件に少し似ていますね」

『一世紀ずれてる・・・?それが特異点になっているんでしょうけど・・・こちらでも調査しておきます』

「魔霧だけではないよ。君たちもいずれ遭遇、戦闘するだろう脅威。魔霧に隠れて凶行を繰り返すもの」

 

魔術で作られた自動人形(オートマタ)、殺人ホムンクルス、不明の怪機械(ヘルタースケルター)

 

「そして、連続殺人鬼。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)と報道されていたものだ」

「報道・・・ですか?」

「ああ、魔霧発生の初日はまだ新聞が発行されていたから・・・もう、届かないが。実質的には、既に政府機関も麻痺しつつある。外からの救援も魔霧に阻まれ、ロンドンは孤立状態だ」

『・・・酷いわね。事態は急を要するようです。では、ミスター・ジキル。モードレッド。事態の発生源と思わしき聖杯の探索に、協力してくれませんか?』

「こちらとしては願ったり叶ったりだ。なあ、セイバー?」

「いいぜ。それが最善、みたいだしな」

 

ここに協定は結ばれた。

幸いにも、ジキルのアパルトメントは霊脈の上にあったようだ。

ターミナルポイントを設置し、召喚サークルを確立させることができる。

 

「フォウ!フォーウ!」

「・・・ん?こいつどっかで見覚えあるな。幻想種か?」

「フォ、フォウウゥ・・・」

「フォウさん?」

「アフリカ辺りの稀少動物じゃないのかい?それよりもセイバー、マシュ、立香。早速だけど――君たちに頼みたいことがある」

 

パンパン、と手を叩いて視線を集めたジキルが、真剣な顔をして切り出した。

 

「――――すみません、案内を頼んでしまって。わたしたち、ロンドン市街にはまだ不慣れで」

「あーいいって、気にすんな。おまえらが来なければ、オレの仕事だったんだ」

 

霧を横切る騎士達は、曇天の下でも華やかだ。

ジキルが言うには、協力者の1人であるスイス人碩学、フランケンシュタイン氏と今朝から連絡が取れないらしい。

 

「都市のあちこちに協力者がいて、そいつらとしょっちゅう無線でやり取りしてるぜ。ヴィクターのじいさんは、昨日までは少なくとも無事だったんだけどな」

「ヴィクター・フランケンシュタイン・・・。また小説の人かと思ったら、孫なんだね」

「はい、先輩。あの小説になった魔術師の孫、というのがミスター・ジキルのお話でした」

 

メアリ・シェリーの小説の描写では、フランケンシュタイン博士は科学者だった。

けれど、モデルになった人物は実在の魔術師だったらしい。

 

「科学者と魔術師って、そんなに違うの?」

「はい。本来であれば、魔術は科学とは相反する技術ですから。カルデアの存在はきわめて例外的ですし」

『そうね。でも、ある時代では、科学と魔術はほぼ同義だった。たとえば、錬金術は科学の源流であるというし』

 

高名な科学者、化学者、学者として知られる人物が、魔術師であった例は少なくない。

 

『そもそも、ダ・ヴィンチだってそうでしょう』

「ナルホド」

「おまえたち。ソーホーあたりはもうすぐだ。気を抜くなよ」

 

モードレッドの声に会話を中断する。

戦闘の予感だ。立香は意識を切り替えた。

 

「行くよ、マシュ」

「はい、マスター。指示を!」

 

チクタクチクタクチクタク。鳴っているぞ聞こえるか?

チクタクチクタクチクタク。道化が笑うぞ気づくかな?

チクタクチクタクチクタク。チクタクチクタクチクタク。



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あわよくばきみの眷属になりたいな

眼鏡イベント良かったね。


「・・・・・・ったく。また来たぞ。宝具を好き勝手にぶっ放せりゃあな」

「ここは街中です。すみませんが、短気は抑えて下さい」

「わかってるよ盾ヤロウ。ああもう、何か、おまえに言われると変な気分だ」

「待ってください。盾ヤロウ、とはわたしの事でしょうか・・・!?」

 

この程度の戦闘は手慣れたものだ。

それでも、次々に来られると辟易してしまう。

 

「あー?だって盾ヤロウだろ、おまえ。盾で守って、盾でぶん殴ってるんだから。それとも盾オンナの方がいいか?」

「モードレッド卿、彼女の名前はマシュ、ですよ。妙な呼び名を付けては失礼です」

「うるせーぞ槍ヤロウ!黙って敵を片付けてろ!」

「(反抗期の兄と妹・・・?)」

 

場所がロンドンならば―と挙手をしてきたパーシヴァルを加えて、一行は敵を蹴散らしつつ進む。

左右からの挟撃(きょうげき)を狙ってきた敵を、二手に分れることで押しのけた。後に、マシュがおずおずとモードレッドに声を掛けた。

 

「・・・あの、少しだけお話し、良いでしょうか。・・・・・・ええ、と」

「何だ。ハッキリ言え。言いたいことがあるならまず言えって」

「・・・・・・はい。あなたに質問があります。あなたは、何故、ここで戦っているのですか?」

 

その言葉に、立香とパーシヴァルも視線を向ける。

 

「ミスター・ジキルは故郷の都市を守るため、と。では、あなたは何のために――」

「父上の愛したブリテンの都市、ロンディニウムの危機に馳せ参じた。に決まってるだろ?」

「ええ、と・・・その・・・・・・。はい、それはそうなのでしょうが・・・」

 

言葉を選ぶように、マシュが視線を彷徨わせる。

マシュが何を言いたいのかをかすかに理解して、パーシヴァルは胸中で苦い顔をした。

 

「怒らないで聞いて欲しいんですが、何故か、私・・・・・・何か・・・違うような気がして」

 

それはマシュの中に居る、サーヴァントの言葉だったかもしれない。

モードレッド卿がそんなに素直で安直な理由で来るわけないだろう、という経験則からの。

 

「・・・・・・ったく。わかったよ。ジキルにも言ってねぇんだけどな、コレ」

 

まあ盾ヤロウ(コイツ)は気づくかもな。

モードレッドはいっそ軽快な笑みを浮かべて、朗らかに言った。

 

「オレは――ああ、そうだ(・・・)。このオレは、オレ以外の奴がブリテンを穢すのを許さねぇ。父上(アーサー王)の愛したブリテンの大地を穢してもいいのは、このオレだけだ。それだけは、他の誰にも任せやしない」

「・・・・・・」

「モードレッド卿・・・・・・」

 

絶句する立香と、難しい顔をして眉間を揉むパーシヴァル。

そんな2人を見て、モードレッドは得意げに笑った。

 

「貴公がそういう人格で・・・そのような性質の英霊であることは理解していたつもりだったが・・・・・・」

優等生(イイコ)ちゃんにはわからねぇかもな。ま、安心しろ。見つけた聖杯はおまえたちにくれてやるぜ」

「いいの?」

「ああ。オレは叛逆の騎士モードレッド。でもな、今回は特別に守る側に回ってやる」

 

目を閉じれば思い出す。

欲と憎悪に満ちた母の顔。理想の王ではあったけれど、父ではないと拒絶したヒト。

飢えと戦で傷ついていく大地で、人々が縋っていたのは聖杯ではなく、たった数冊の小説。

誰も彼もが、勇者の再来を待ちわびた。けれどこの地に君臨しているのは、魔王ではなかったから。

 

「ようやく持ち主に相応しいのがやってきたんだ。聖杯はくれてやるよ」

「??」

「卿、貴公は・・・」

「それ以上言うな。お喋りはこのへんで終わりだ。蒸し返すなよ」

「――ええ。マスター、敵が接近しているようです」

「了解。マシュ、行こう」

 

そうあるべきと造られた。我こそは叛逆の騎士。予言通りにブリテンを穢して死んだ。

けれど、それは生前の話だ。

悲しいかな。あの物語のすごさに気づいたのは、勇者の偉大さに気づいたのは、死んでサーヴァントになった後。

いつかの誰かと、駆け抜けた聖杯戦争の最中。

選定の剣を抜けただけ(・・・・・)じゃ駄目だったのだ。あの人は理想の王たらんとして、振る舞っていただけのヒト。

 

「よっし、到着したな。このでかい建物がヴィクターのじいさんの屋敷だ。ジキルみたいな半端な奴とは違って、正真正銘の魔術師だから気を付けろよ」

 

大きな門ごしに見る限りでも、結界やらトラップやらが所狭しと仕掛けられている。

これではサーヴァントでも痛い目を見るだろう。なかなか、肝の据わりすぎた用心深い老人が住んでいるらしい。

 

「まずは入り口の扉だ。ほら、見ろよ。でかい扉の―――、・・・――クソ、遅かったか」

「マスター、私の後ろへ。サーヴァントです」

「あれは道化師(ピエロ)・・・?不思議な格好・・・」

 

大柄で威圧感のある男が、建物の入り口に立っていた。

角の生えた帽子に、紫の髪。原色だけを使った奇抜な衣装。青い口紅の塗られた唇が、軽薄に歪んでいる。

 

「おい、そこのカカシ。それともリビングスタチューか?どっちでもいいや。おまえさ、アホみたいに匂うぞ。血と臓物と火の匂いだ。後、じいさんの好きだった元素魔術の触媒」

 

モードレッドが剣を構えた。パーシヴァルが槍を向け、マシュがサポートできる位置に動く。

三騎から警戒と殺気を受けても、男の笑みが崩れることはない。

 

「殺したな、おまえ。ヴィクター・フランケンシュタインを」

「ええ、はい――ああいえ、どうでしょうか。少しお待ちくださいませ。確かに、確かに。かの老爺は二度と口を開かず歯を磨かず物を食べず、息をしないでしょうけど」

 

くるくると目玉が動く。

ぺらぺらと口が回る。

 

「ええ、ええ、有り体に言えば絶命しているのでしょう。残念なことです。彼は「計画」に参加することを最後まで拒んだ。しかししかし。だが、けれどもしかし。誰がヴィクター・フランケンシュタインを殺したか?」

 

大げさに手を広げ、政治家のように明るく語る。

憂いたように肩を落とし、沈痛な面持ちで語る。

 

「それはとても難しい質問かもしれません。何故なら、彼はひとりでに爆発した(・・・・・・・・・)のですからね!」

「・・・・・・ッ!」

『爆発・・・!?』

「おやおや。美しいお嬢さんを怖がらせてしまいましたか?これは失礼いたしました。わたくし、見ての通りの悪魔でございます――というのは冗談でして、ご期待に背くようで残念ですが、英霊にございます」

 

人をおちょくり絶望に落とす。当たり前のように裏切って殺す。

まさしく悪魔。最悪の悪魔!

 

「貴方様と同じくサーヴァント。クラスはキャスターでございます。・・・・・・おや?おやおや皆様、おわかりでない?」

「もういい、黙れ」

「いえいえ、おわかりでしょう。何故わたくしこうも容易くクラスを明かしたか?この聖杯戦争ならぬ聖杯戦争では道理というもの。少なくとも、そちらのお嬢さんはおわかりでしょう!」

 

けたけたけた、悪魔が笑う。

勝っても負けても怪人は困らない。

人心をかき乱し、顔を歪ませ、その愉悦に浸れれば!

 

「遭遇!すなわち即座の総力戦!我らはマスターなきサーヴァントなれば、およそ地上に在って最強の戦力と呼べましょう。しかし・・・そちらには哀れにもマスターがいる模様。ようくお守りなさい。でなければ、あっという間に・・・・・・」

「御託はいい。そのニヤけた口元を今すぐに()めろ」

「はい?」

「ニヤニヤニヤニヤと!鬱陶しいんだよ!ジジイを殺るのがそんなに楽しかったのか!」

 

苛立った顔のモードレッドが、地面を踏み鳴らした。

鈍い金属音が男を責める。悪魔はこてりと首を傾げて、邪気のない声で言った。

 

「まあ、ええ。我らの計画を拒む者なれば、まあ、言ってみれば仕事のようなものでしたので」

「計画・・・?」

「ねばならない、というのは、また、これでなかなかに厄介なもの。ええ、実に。ですがそれでも、極力、楽しむ。仕事をたのしむ。そのためにあれこれ苦心しましたから。最後の瞬間のあの、表情。生から死への切り替わりを理解してしまった人間の顔!」

 

段々と大きくなっていく声が、怪人の感情の高ぶりを表している。

 

「絶望!嘆き!ああ!それこそが――!というわけで、まあ、ええ――――退屈しのぎ、程度には?なりました、でしょうか?」

「・・・・・・そうか。移民だろうが何だろうがあのジジイもブリテンの民だ。いいか、それを、テメェは・・・無断でオレのもの(・・・・・)に手を出した。後はわかるな?」

「はて?」

「おまえを殺す、って言ってんだよ。道化野郎!」

 

言い終わる前に悪魔が飛び退く。

煽るような大げさな仕草。

 

「いやはやなかなか!殺しますか、私を!殺せますか、私を!貴方様は血の気の多いお人であるようだ!よろしい、ええとも、ではご期待には応えましょう!せいぜい、爆発にはお気を付けくださいませ!我が宝具は既に設置済み!」

「・・・!マシュ!防御を!」

「我が真名メフィストフェレスの名に懸けて!皆様を面白可笑しく絶望に叩き込んでくれましょう!」

 

モードレッドが魔力放出でメフィストフェレスに飛びかかるのと、パーシヴァルが立香から飛び退くのはほぼ同時だった。

破裂音が耳を劈く。マシュの盾の中に庇われた立香は、爆風に肩をすくめた。

 

「時に煙る白亜の壁――。マスター、ご無事ですか?」

「うん・・・何がおこったの」

「モードレッドさんとパーシヴァルさんの付近・・・体内・・・?で、爆発が起こったように見えました」

『霧のためか敵の能力なのか、感知不可能!立香、マシュから離れないで!』

「了解・・・!」

 

爆発により加速を止められたモードレッドが、忌々しそうに舌打ちをした。

 

「パーシヴァル!敵を引きつけろ!」

「了解!守護騎士(聖槍)(こちらへ来い)!悪魔!」

「イヒヒヒヒ!お言葉に甘えてェェェ!」

 

刀剣のように鋭く、刃の異様に長いハサミがパーシヴァルを切り刻むために振るわれる。

槍で捌き、弾いて、胸を貫くための突きは、感じた悪寒にすんでの所で止められた。

 

「イヒヒヒィ! ヒヒ、勘がよろしいことぉ!」

「くっ・・・!」

「さァァて! ご覧あれ!微睡む爆弾(チクタク・ボム)!!」

「させるかよ!!」

 

フィールドに仕込まれた宝具――微睡む爆弾(チクタク・ボム)

魔術回路やサーヴァントの霊基に意図的なバグを仕込み、衝撃を与えることで破裂させる呪術の一種だ。

呪いに対する耐性で判定を行うため、パーシヴァルもモードレッドも体内のものは一つしか爆発しなかったが、フィールドに設置された分は別だ。いつの間にか周りを囲まれている。

 

「オシリスの塵――。モードレッド、お願い!」

「おうよ。くたばりやがれ!ゲス野郎!」

「ヘェーッヘヘヘヘヘェ!」

 

呪術などものともせず。モードレッドが踏み込む。

突撃、一閃!道化師の首が落とされた。

怪人の体がぐらりと傾き、倒れる。同時に宝具も消えていく。

 

「ふふふはははっ死は終わりではない死は消滅ではない死はぁ――――」

「マスター、無事ですか?」

「うん、マシュが守ってくれたから大丈夫」

 

メフィストフェレスは笑っている。悲しそうに嬉しそうに。

 

「実に、実に・・・口惜しい・・・・・・!今回の現界ではそれほど楽しめませんでしたね・・・。やはり、マスターは必要なのでしょう・・・。そう、マスターとサーヴァントの絆の力がどうこう・・・ではなくて。ええ、そうではなくて」

「・・・・・・」

「切なる願いを叶えると決めたマスターに子供1人くらいは手に掛けさせなくては、ね。聖杯戦争の醍醐味を味わえないというもの。ああ、貴方様が妬ましい・・・盾のサーヴァント・・・」

 

突然水を向けられて困惑したマシュを庇うように、パーシヴァルが立つ。

モードレッドが剣を向けても、怪人の口は止まらない。

 

「貴方は、これから先、幾度でも・・・・・・。マスターを裏切り、絶望へ落とす機会がある・・・・・・!なんと・・・妬ましい・・・!」

「黙れ」

「そうだね。悪魔にこんなことを言っても無駄だと思うけど、負け惜しみにしてはみっともないよ」

 

涼風のような声が、淀んだ空気を吹き飛ばした。

霊子の粒となって消えていく、悪魔を見送る者は誰もいない。女性とも男性とも思われる声に、皆一斉に意識を向けたからだ。

 

「こんにちは、皆さん。こんばんは、かもしれないけど」

「・・・・・・ええと、こんにちは・・・・・・?」

 

金髪青目の佳人、青髪青目の少年、銀髪ゴスロリ少女、白いドレスを着た虚ろな瞳の少女が、現れた!

 

 

ウルフ 一応理由を聞いていいすか。なぜ女性に?

 

 

ぼくがリンクだって分かったら、頼り過ぎちゃうかもしれないから。スキルを使って性別をあやふやに見せてるよ

 

 

災厄ハンター 俺もそのスキル持ってるんですけど

奏者のお兄さん 俺も・・・・・・

うさぎちゃん(光) ボクも持ってる

フォースを信じろ 性別を誤認されたことのある三銃士!!

 

 

「まず伝えなくてはいけないことがあります。ヴィクター博士は生きてるよ」

「えっ」

「あのサーヴァントが屋敷を襲っているところに、ぼくたちが通りかかってね。博士を死んだふりで逃がしたんだ。その際に託されたのがこの子、人造人間のフランちゃんです」

「ちょ、ちょっとまって。早い早い。話が早い」

 

金髪の佳人にくっついている桃髪の少女は、人造人間らしい。人造人間?

確かにその情報も大事だが、その前に聞かなきゃいけないことがある。立香は両手をぱたぱたと振って、少女達に尋ねた。

 

「貴女たちは、サーヴァントでいいんだよね。フランさん・・・はともかく」

「そうだよ。ぼくはキャスターさ。そしてこっちが――」

「ハンス・クリスチャン・アンデルセン。なかなかいい戦いぶりだったぞ。円卓の騎士の名は伊達ではないな」

「こんにちは、素敵なあなた。夢見るように出会いましょう?わたしはわたし(アリス)。ナーサリー・ライム」

 

 

災厄ハンター まあいいんじゃないすか。女性のほうが有利なときもあるし

フォースを信じろ 淑女の服を普段着にしてたタイプの勇者!!

奏者のお兄さん 確かにマスターも女性の方が安心することもあるだろうし

海の男 顔の良さで人生を乗り切ってきたタイプの勇者!!

うさぎちゃん(光) リンクが美しいのは世界の共通認識なので

いーくん ドレスを堂々と着れるタイプの勇者!!

 

 

いろんな勇者が居るよね!カルデア以外には折を見て言うよ

 

 

取りあえず、落ち着くためにもジキル博士の所に帰ることになった。



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私は夜を呑み

宇宙・・・・・・かぁ・・・・・・・・・・・・。


「まず、我々が預かっている伝言を伝えよう」

 

そう切り出したのはアンデルセン。ソファーにすっぽりと収まり、お茶請けの菓子に手を伸ばした。

 

「“私はひとつの計画の存在を突き止めた。名は『魔霧計画』。実態は、未だ不明なままだが計画主導者は『P』『B』『M』の三名。いずれも人智を超えた魔術を操る、おそらくは英霊だ”」

「『M』ってのはさっきのやつか?」

「恐らくはそうだろう。あとは『P』『B』が、何処かに潜んでいるはずだ」

 

ジキルの家はそれなりに広いが、流石に八人もいれば狭い。

その一画に佇む姿は、まるで一枚の絵画。

360度どの角度から見ても美しさが損なわれない佳人が、優雅に足を組んで話を続けた。

 

「それともう一つ――――ぼくたち、魔術協会にも行ったんだ」

「魔術協会に?・・・そういえば、貴女の真名を聞いていないな。キャスターとは聞いたけど」

「ぼくはね・・・自分で言うのもなんだけど、結構マイナーな英霊なんだ。円卓の騎士までいる場で、名乗るほどの者じゃないよ。キャスターと呼んでくれ」

 

 

ウルフ どでけえ嘘

海の男 博士!?これは!?

 

 

静粛に^^

 

 

「うーん、それなら無理に聞くのも・・・」

「そうですね、先輩。ではキャスターさん、魔術協会ではなにか異変はありましたか?」

「建物がめためたに壊されてたくらいかな。博物館もぐちゃぐちゃだったよ」

「えっ」

 

ジキルとモードレッドが声を上げた。

二人が様子を見に行ったときは、まだ塔は健在だったらしい。

 

「しかし代わりに興味深い情報を得ることが出来た。“英霊”と“サーヴァント”の関係についてだ」

『・・・と、言うと?是非、聞かせてほしいわ』

「英霊とは人類史における記録、成果だ。それが実在のものであろうとなかろうと、人類があるかぎり常に在り続けるものだ。一方、サーヴァントは違う。これは英霊を現実に“在る”ものとして扱うもの・・・・・・もともと在るのか無いのか判らないものに、クラスという器を与えて“現実のもの”にした使い魔だ」

 

オルガマリーもロマニも興味深そうに聞いている。

紅茶で喉を潤して、アンデルセンは続けた。

 

「だがジキル、そしてオルガマリーとやら。そんなことが人間の、魔術師の力で可能なのか?英霊を使い魔にする――なるほど、これは強力だ。最強の召喚術だろう。だがそれは人間だけの力で扱える術式ではない」

 

可能だとしたらそれは、人間以上の存在。世界、あるいは神と呼ばれる、超自然的な存在が行う権能だ。

 

「英霊召喚は人間だけの力では行えない。他の後押しが必要なのでは、と俺は考えた」

「・・・・・・あの、それが聖杯なのではないでしょうか?事実、これまで聖杯によって多くのサーヴァントが召喚されました」

「そうだ、おまえたちは七つの特異点と言った。七つの聖杯が時代を狂わせていると。俺はそこで、魔術協会の資料を調べた」

 

英霊召喚を可能にする聖杯戦争とは何なのか。

それはどういう経緯で作り上げられたものなのかと。

・・・・・・本当はリンクに聞いたのだが。

 

「発端は日本の地方都市。そうだな?オルガマリー」

「ええ。立香、貴女が訪れたあの炎上都市のことです。その都市では聖杯の器を作り上げ、聖杯の力で英霊を召喚し、サーヴァントとして競わせたと伝わっています」

「俺が妙な引っかかりを覚えたのはそこだ。英霊同士に戦わせる、というコンセプトに(きず)がある。これはどうも、もう一段階裏がある」

 

そして、結果は読み通りだった。

 

「降霊儀式・英霊召喚とは、もともと七つの力を一つにぶつける儀式らしい。決して、呼び出した七騎の英霊同士で競い合わせるものじゃない」

 

『儀式・英霊召喚』と『儀式・聖杯戦争』は同じシステムだが、違うジャンルのものだと言えるだろう。

 

「『聖杯戦争』は元にあった魔術を、人間が利己的に使用できるようにアレンジしたものなのだろう。一方、その元になった『英霊召喚』は“一つの巨大な敵”に対して、“人類最強の七騎”を投入する用途の儀式だった。それがフユキの聖杯戦争でねじ曲げられた部分だ」

「・・・・・・じゃあ、アンデルセンたちも?」

「ああ。もともと七つしかいないモノを参考にして召喚された、それ以後の英霊――まあ、安価で使いやすい、何にでも使える使い魔というコトさ」

『・・・興味深い考察ね。カルデアも、一から英霊召喚システムを作り上げることはできませんでした』

 

フユキの儀式を解読、改良して安定させたが、そのオリジナルがある事までは考慮していなかった。

オルガマリーは感心して相槌を打つ。

 

「はい、所長。これまでになかった観点からの指摘でした。これが世界に名を残すほどの作家に備わった、研ぎ澄まされた観察眼、というものなのでしょうか」

「俯瞰した視点っていうものかな」

「そんなご大層なもんかね。まー・・・そりゃいいんだが、なんつーかさ」

 

行儀悪く足を揺らしたモードレッドが口を挟む。

 

「その考察、今の状況で何の役に立つんだ?」

『そ、それは・・・・・・そうですが・・・・・・』

「俺は英霊召喚のシステムに引っかかりを覚えて調べに行っただけだ。役に立つもなにも無い。仮に、我々が一つのシステムによって呼び出された通常の霊基(クラス)だとしたら。このシステムの元になった原点の七つは、いったいどれほどの霊基を与えられていたのかとな」

 

そしてどうやら、似たようなことを考えた奴が他にもいたらしい。

 

「この辺りの情報が、散逸して然るべき部分まで、ご丁寧に一カ所に集めてあったのは偶然とは思えん。我々の訪れを予期して、そうしておいた何者か(・・・)がいるんだろう」

「何者か・・・?」

『魔術師?それともサーヴァントでしょうか?』

「考えてもわからん。これは棚上げ事項だな」

 

霧の向こうで、徐々に夜が更けていく。

鴉の声も、今は聞こえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モードレッド、マシュ君、立香君。そのままでいい。聞いてくれ」

 

小休止の終わりを告げたのは、ジキルの一言だった。

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が再び現れた。しかも今度は、霧に紛れて女性を襲う殺人じゃない。籠城状態にあったスコットランドヤード(ロンドン警察庁)を襲撃中だ。ロンドン全域の警察署への、緊急の電波を受信してね」

「あいつか!!やっとでてきやがったか、あの野郎!」

 

椅子から飛び起きてモードレッドが叫んだ。

立香とマシュも、即座に立ち上がる。

 

「モードレッド、知ってるの?」

「ああ、あいつはサーヴァントだ。クラスはアサシン。霧の中で何度かやり合ったんだが・・・毎度、逃げられちまう。仕留めきれねぇ。霧の中に逃げられる!」

 

おまけに顔も姿形も具体的能力も、なにも思い出せやしない!

 

「あーもう、苛つくぜ・・・!切り裂きジャック、って名前を聞けばああそうかあのアサシンか、とか思うので精一杯だ!ああ、くそ、もやもやしやがる!」

「サーヴァントなら、宝具かスキルかな」

「はい、先輩。そのどちらかに依るものでしょう」

「奴は逃げ足が速い。急がないと逃げられるな、行くぞ!」

 

ガシガシと頭を掻きながら、モードレッドが玄関に走って行く。

その背中に声が掛けられた。

 

「外出か?土産はスコーンでいいぞ」

「いってらっしゃい、マスター」

「ウゥー・・・」

「相手がアサシンなら、ぼくも行こうかな。ジキル、留守をよろしくね」

「えっ、う、うん。いってらっしゃい・・・」

 

ぱっちりとした瞳の佳人に微笑まれ、ドキマギしながらジキルは答えた。

 

「全速力で行くぞ。マシュ、立香を抱えてやれ。時間との勝負だ。人間の力に合わせる暇が惜しい」

「は、はい。・・・先輩、すみません。少しだけ失礼しますね」

「うん。お願いね、マシュ」

 

横抱き――――もとい、いわゆるお姫様抱っこ。

マシュよりも立香の方が背が高いため、顔がちょっとだけ上にくる。

ぎゅっと密着して、落ちないように手を肩に回した。

 

「チッ、敵が湧いてきたぞ!」

『敵性反応多数!四方八方から寄ってくるわよ!囲まれる前に突破して!』

「モードレッド、マシュ、GO!ぼくが露払いをするから」

「了解!行くぞ!」

 

キャスターが手を翻せば、炎が走って左右に広がる。

道を開けぬ不届き者は、モードレッドが走る勢いのまま切り捨てていく。

ロンドンの街を駆けていく影。重なる足音は行進曲。

 

『しかし、すごい戦いっぷりだね、カレは。流石は叛逆の騎士といったところだ』

「はい、そうですね。伝説に違わない戦闘能力であると思います。空を疾る雷電のように迅速に、正確に、その剣先にはおよそ迷いというものがありません」

「叛逆の騎士?」

 

舌を噛まないように気を付けながら、立香が疑問を零した。

 

『そうだよ。叛逆の騎士モードレッド。五世紀から六世紀におけるアーサー王伝説、その終焉を語った人物だ。文字通り、アーサー王に叛逆してね』

『・・・・・・ただの叛逆ではありません。外敵を初めとして、存在していた反アーサー勢力のすべてを纏め上げて、いわば叛逆の王として立った人物です』

 

パーシヴァルの、感情の交ざった声が聞こえる。

心が二つも三つもあるようだ。過ぎ去ったことを、もうとやかくは言わないけれど。

 

『言わば叛逆の王として立った人物です。平時であれば、王になり得たかもしれません』

「多くの武勇の伝説を持つ人物でもあります。元は、円卓の騎士であり――――」

『アーサー王の息子(・・)だった。とも言われているね。ただ、王には子と認められなかったという話もある』

 

だからこそ、反旗を翻したとも。

何故、モードレッドはアーサー王に逆らったのか?

 

『本当のところは彼――、彼女本人にしかわからないことだ』

「・・・・・・叛逆は成功したの?」

「・・・・・・はい。騎士モードレッドは、カムランの丘の戦いで命を落としました。事実上の相打ちです。魔剣クラレントを以て彼女はアーサー王と戦って、アーサー王は聖なる槍で戦い彼女を貫きました」

「なーにをごちゃごちゃ喋ってやがる!さっさと先を急ぐぞ!」

「あっ、は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・あれ?」

 

幼い少女の、無垢で無邪気な声。

 

「そっちから来てくれたんだ。それじゃあ、ふふ、わたしたち・・・・・・どうしようかな・・・・・・?」

 

「殺してあげようか。ひとり、ふたり、さんにん、よにん。いっぱい、いっぱい」

 

「ふふ。もう、わたしたちはいっぱい殺したけど、まだお腹が空いてるの。ぺこぺこ。だって、おまわりさんたちじゃあ、あんまり魔力がないから。だから、ありがとう。あなたたちの魔力を食べてお腹いっぱいにする」

 

「間に合った――訳じゃ、ねぇみてえだな。この血の匂い・・・ヤードは全滅ってことか」

 

 

Silver bow ・・・? 小さな女の子・・・

ファイ アサシンとして顕現した切り裂きジャック、と推定します。召喚される度に姿を変貌させる英霊かと

いーくん ああ、正体がわかってないからか・・・

 

 

『動体反応は貴方たち以外には二体だけです。そこにいるジャック・ザ・リッパーともう一体』

「はい。私は、キャスターのサーヴァント。貴方たちの知る『魔霧計画』を主導するひとりです」

 

白色のローブを纏った、黒い長髪の青年。

理知的で物静かな口調とは裏腹に、拭いきれない血の気配がする。

 

「ああ、私のことは『P』とでもお呼びください。残念ながら、貴方たちは遅かった。既にスコットランドヤードは全滅しています」

 

男は憂うように瞳を伏せ、穏やかに語る。

 

「すべてが惨たらしい死にざまでした。あの子には、慈悲の心は備わっていないのです。ですが、必要なことでした。やむなき犠牲。そう表現することがせめてもの手向け。人は、慈しまれるべきです。愛も想いも、どちらも尊く眩いものに違いない」

 

 

・・・・・・・・・・・・取りあえず聞こうか

 

 

騎士 そうだな

 

 

「ですが――――哀しいかな、時に大義はそれさえ上回ってしまう。スコットランドヤード内部には、私たちの必要とするものが保管されていました。流石、魔術協会、時計塔が座す大英帝国ではある」

「・・・・・・」

「魔術的にも厳重な封印が施されていました。ですので。残念ですが彼らは皆、大義の障害となってしまったのです」

「なにをわかった風な口を叩きやがる。愛も想いも知ったことか!」

 

モードレッドが吠える。

獣のように、騎士のように。

 

「おまえたちはオレのものに手を出した。王ならざるものが、王のものに手を出しやがって」

「・・・・・・英霊が、無辜の人を殺すの?」

「ええ、ですから。私には、どうしようもない程に哀しみを禁じ得ない。想い持つ、尊く在るはずの人々を。愛を持つ、眩く在るはずの人々を。私の力では、救うことができない」

 

 

災厄ハンター ああん・・・?

銀河鉄道123 フウン・・・?

 

 

「いいえ。この結果を鑑みるに、できなかったのです。時代のすべては焼却されつつある。人類のすべては焼却されつつある。文明の歩みも、想いも、愛も潰えて、世界に残された特異点は、既に、たった四つのみ。何という哀しさでしょうか。けれど、それを私も貴方たちも止められない。いいえ、止められなかった(・・・・・・・・)のならば――――」

「・・・・・・矛盾を、感じます」

 

すらすらと淀みなく、Pは語る。

愛は尊いものだと、心の底から思っている。

想いは眩いものだと、心底信じている。

じゃあこれは何だ(・・・・・・・・)?この血の海は。

 

「想いを語るあなたの言葉には矛盾を感じます。キャスター。いえP、あなたは一体何なのです?」

 

理解できなくて、噛み砕けなくて、マシュが心底困惑した声を出す。

 

あの子(ジャック)を使って人の命を奪う。慈悲の精神が欠如しているのは。きっとあなたです」

「ええ、そうかもしれませんね。美しいお嬢さん。私は非道にして悪逆の魔術師に他ならないのでしょう。今も、こうして、あどけない少女にいうのです」

 

マシュに詰められても顔色一つ変えず、Pは少女に言うのだ。

 

「ジャック。彼女たちを任せます。好きにしなさい。彼女たちは、貴方の母(・・・・)かもしれませんよ」

「え。そう・・・・・・なの・・・・・・?」

 

ジャックの声色が変わる。ぴりぴりと空気が揺れる。

 

「なんだ。そうなの。ふうん。それじゃあ・・・・・・おかあさんにするみたいに、するね。帰らせて(・・・・)くれる?わたしたちを、あなたたちの中へ・・・・・・おかあさんの中(・・・・・・・)へ・・・・・・」

「駄目だ。おまえは座へ直行だ。ここで殺す」

「・・・・・・立香。きみが前に出てると危ないかも、マシュの後ろにいるんだよ」

「・・・うん、わかった。お願い、みんな」

 

霧に紛れてジャックが動く。

アサシンの気配遮断は、この近距離でも発動する。立香は一瞬で姿を見失い、慌てて周りを見渡した。

 

「こっちだよっ!」

「残念、見えてるよ」

 

立香の背後に現れたジャックに、リンクの早撃ちがぶち当たる。

衝撃ではじき飛ばされた小さな体を、モードレッドの袈裟斬りが襲った。

 

「危ないっ。ひどいなぁ、もう……!」

 

ジャックは咄嗟にナイフを握った手を動かし、紙一重で剣を受け止めた。

くるくると猫のように身軽に着地した瞬間、また姿が消える。

 

情報抹消(霧の都にようこそ)!当たってね!」

「ぐっ!速ぇな・・・!」

 

ナイフによる乱撃。死角から不意に殺意がくる。

縦横無尽に駆け回り、モードレッドとマシュを攪乱した。

飛び交うナイフは一本、二本、三本。四本。

甲高い音が響く。モードレッドは直感で弾き落とし、だが反撃には至らない。

ナイフと盾がぶつかる。マシュは防御で精一杯だ。

リンクはマシュの後で立香を守りながら、タイミングを窺った。

 

霧夜の殺人(夜闇に潜んで)、殺しちゃおう。ねえおかあさん。おかあさん!」

「マシュ、そのまま。モードレッド、立香を狙ってくるよ!」

「っ、了解!」

「イシスの雨。モードレッド、受け取って!」

 

霧が濃くなる。

闇が深くなる。

 

「おかあさん───おかあさん、おかあさんおかあさんっ! うう・・・・・・うあああっ! 無残に潰えて!」

「モードレッド、剣精霊の加護(当たるよ)。突っ込んでよし」

「ようし任せな!」

 

リンクがモードレッドにスキルをかける。

二人の援護を受け取って、モードレッドが踏み込んだ。

 

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

「Take That, You Fiend!」

 

ジャックの宝具は立香にもリンクにも当たらなかった。

モードレッドの攻撃が一手速く当たったように見えるが、純粋に不発に終わっている。

解体聖母。ジャック・ザ・リッパーの殺人を再現する宝具だ。

しかし条件が三つ必要である。「時間帯が夜である」「相手が女性である」「霧が出ている」。

立香の後ろにリンクが立って庇った時点で、宝具の条件は成立しなくなった。

 

「おか・・・・・・あ、さん・・・・・・。やだ・・・・・・やだ、やだ、やだ・・・いたい、よ・・・・・・」

 

倒れた子供が泣いている。

何にも愛されなかった子供が。

 

「どうして・・・どうして・・・」

「ジャック」

 

キャスターがそばにしゃがみ込む。

アサシンに手を伸ばすのを、立香は黙って見守った。

 

「愛を知らぬのではなく、教えてもらえなかった子。慈悲を知らぬのではなく、与えてもらえなかった子。いつか君という子供を満たす、深い温もりがありますように」

「・・・・・・おかあさん?」

「どうだろう。君にはどう見える?」

 

子供の手を握って、頭を撫でた。

涙のにじむ瞳に、眩しいきんいろが映る。

日向で、おかあさんに抱きしめられてるみたい――――・・・・・・。

 

「ここで私も、貴方たちの刃に掛かるべきでしょうね。悪逆の魔術師は英雄に倒される。それは、私の望む回答のひとつでもある」

「ごちゃごちゃうるせえな。おまえも座に帰してやる」

「さようなら、眩き道を歩まんとする英雄たち。・・・・・・願わくば、いつまでも貴方が、悪逆を倒す正義の味方(・・・・・)であり続けますよう」

 

Pは消えた。アサシンも。

それでもまだ、ロンドンの霧は晴れず。

ワタリガラスは何処へ。



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レディメイド

もう4月なんですか?勘弁してください


「スコットランドヤードは残念だった。旅を続けていれば、こんな出来事もあるでしょう。君たちが責任を感じすぎることはないよ」

「・・・うん」

「Pに逃げられたのはムカつくが、相手の戦力が削れただけよしとするか」

 

濃い、濃い血の匂いがする警察庁は、霧に冷やされて温度を無くしていく。

分厚い霧の向こうには、きっと夜空が広がっているのだろう。星も照らしてくれない帰路を、四人は歩いて進む。

 

 

マシュ、元気ないなぁ。ぼくが触れても大丈夫かしら

 

 

騎士 その前にモードレッドが爆発しそうだな。気難しい子だ

奏者のお兄さん まあ・・・簡単な子ではないよね

 

 

「おいマシュ。なに辛気くせぇ顔してやがる。こっちの気分まで落ちるだろーが」

「・・・すみません、モードレッドさん」

「どうしたのマシュ。つらい?」

 

歩き始めて数分も経たずに、マシュの暗い雰囲気を感じ取ったモードレッドが詰め寄る。

マシュが沈んだ声で謝罪を返すと、さらに苛立ったように舌打ちをした。

 

「オレが何かしたみてーだろ!うじうじしやがって」

「モードレッドが怒ってどうするの。マシュ、私にも話せないこと?」

「いえ、先輩。そんなことは。・・・・・・あの、わたし」

「うん」

 

今にも導火線に火が付きそうなモードレッドを、立香が二人の間に割り込むことで抑える。

マシュは二人の顔を交互に見て、ゆっくりと口を開いた。

 

「先ほどの戦いで、先輩のことを守りきれなくて、すみません・・・・・・」

「・・・確かにキャスターがフォローに入らなかったら、コイツやばかったな」

「え、でも、・・・んん」

「立香。こちらにおいで。二人で話させてあげよう」

 

立香が返答に困ったのを見て、キャスターが声を掛けた。

少女は呼ばれた方に顔を向けて、迷うような瞳を見せる。それでも手招きすれば、側に寄ってきた。

 

「デミとはいえサーヴァントだろ。こんなんでこの先マスターを守りきれんのか?」

「・・・っ」

「その盾構えろ。鍛え直してやるよ」

 

言うが早いか、剣が唸る。

反射的に盾で受け止めて、衝撃を体で散らした。

 

「生意気にもオレの初撃を受けやがったか!ようやくらしい使い方をしやがったな!」

「モードレッドさん・・・!」

「戦え!強くなれ!死んでからじゃ遅ぇーぞ!!人間の命は1つしかねぇんだ!」

「――――――」

「お前は立香のサーヴァントなんだろ?なら命がけで守りやがれ!その盾を持っておいて、守れませんでしたは通用しねぇぞ!!」

 

ちりっと灯った炎は悔しさ?まだ死んでない瞳が燃える。

噛み切れない後悔なぞ捨て置けよ。お前ならきっと出来るから。

 

「・・・マシュ!頑張れ!」

 

先輩(マスター)の声が鼓膜を揺らす。心を振るわせる。この人を失いたくない――――――。

 

「・・・はい!マシュ・キリエライト、戦闘を開始します!」

 

 

災厄ハンター 熱い展開だな・・・

 

 

「それでいい。行くぜ盾ヤロウ!仲間を守るときは限界より常に一歩前に出る、だ!その宝具を使うってんなら気合いを入れろ!先輩サーヴァントとして、徹底的に鍛えてやる!」

 

 

ウルフ 青春じゃねぇか・・・

 

 

魔力放出で加速する太刀筋。今までに戦ってきたどの剣士とも違う。

あえて近いものを上げるとしたら、ジークフリートやパーシヴァルだろうか。しかしその二人は剣(槍)の型が体に染みついている。モードレッドのように乱暴にはなれない。

ひたすら実戦本位の効率的な剣技。蹴るし踏むし投げる。形に囚われない、といえば聞こえはいいが、騎士としての礼節はかなぐり捨てている。

それでも圧倒的に強いから、円卓の騎士であるのだが。

 

「くたばりやがれ!」

「くっ・・・!」

 

ヘクトールに習った守り。ケイローンに教わった動き。ヘラクレスの攻撃よりは受け止められる!

訓練の通りに。トレーニングと同じように。

知らず知らずのうちに少女の中に積み重なっている経験が、困難に立ち向かうたびに発芽する。

鈍い音がぶつかり合う、戦闘音は長く続かず。モードレッドが剣を構えた。

 

「耐えるじゃねぇか。いくぞ盾ヤロウ!蹂躙してやる!」

「はい!宝具、展開します――!」

 

赤雷。魔力が迸る。

誇り、執念、怨念、憎悪、怒り。

モードレッドの全てがこの剣にはある。一言でも二言でも言い表せない激情。

でもそれは、いつかの誰かに受け止められたのだ。

もう顔も思い出せない、気高き獅子よ。お前が探していた勇者の魔法はなかったし、煌めく聖杯も手に入らなかったけど。

この誓いが確かに、お前とオレの戦いの証明。いつか勇者に出会えたら、お前の分もサインを貰っといてやるよ。

 

「我は王に非ず、その後ろを歩む者。彼の王の安らぎの為に、あらゆる敵を駆逐する!我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

「真名、偽装登録。疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)――――!」

 

かつては、ブリテンを守った城。

かつては、ブリテンを滅ぼした邪剣。

ぶつかり合うのは誇りと意地。どちらも引かぬ。諦めぬ。

――――しかし終わりはやって来る。モードレッドの宝具は持続力ではなく、爆発力の宝具である。

赤雷は収束し、突き刺すような殺意が収まる。どれほど膨大な魔力の奔流であっても、白亜の盾は揺らぎもしなかった。

 

「はあ・・・・・・ぁ、っ・・・・・・!」

 

リンクの後ろに庇われていた立香は、いつの間にか彼の腕を強く握っていた。

マシュが負けるなんて思っていなかったけど、それでも不安が完全に消えるわけではない。固唾をのんで見守っていた。

 

「せん、ぱ、い――――良かった。見ていてくれました、か・・・・・・?」

「うん・・・!見てたよ、マシュ・・・!」

「戦闘、終了、です――わたし、ちゃんとモードレッドさんの剣を、受け切れて――――」

 

呼吸が荒くて、でも、晴れ晴れとした顔の少女がそこに居る。

管制室ではパーシヴァルが目頭を押さえていた。色々と堪えきれなかったらしい。

 

「で、どうだマシュ。その宝具の使い方、少しは分かったか?」

「はい・・・ありがとう・・・ございます・・・。なにか、こう――心の枷がひとつ、外れた気がします。クー・フーリンさんの魔術以来の、スパルタでした・・・」

 

 

良かったねぇ・・・・・・

 

 

うさぎちゃん(光) もうエンドロールが流れそう

りっちゃん いや泣く・・・

 

 

「ったく。他人に剣を教えるなんてオレの柄じゃねぇぞ」

 

照れ隠しなのか、ぷいと顔を背けてさっさと歩き出す。

その後を追いながら、立香がマシュの元に駆け寄る。管制室ではなぜかネロとティーチがもらい泣きをしていた。感動したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カップからふわりと湯気が立つ。窓の外が魔霧に満たされていても、時計の針は止まらない。

長針と短針が文字盤を泳ぐのを、リンクは頬杖を突いて見守った。

 

「勇者様はお眠かしら」

「どちらかというと、お暇かな。こんなことを言ったら、怒られてしまうかもしれないけど」

「そんなつまらんことをいう奴がこの部屋にいるものか。・・・というか、お前の話はどれもこれも面白いな。いや分かってはいた。分かってはいたんだ」

「ペンがずっと動いてるね」

「このオレがだぞ!?自分で自分が信じられん!締め切りもないのに!自主的に文字を紡いでいる!」

 

膝の上に乗せたナーサリーの髪を梳きながら、リンクは欠伸を噛み殺す。

立香達が仮眠を取っている間、リンクはアンデルセンのインタビューを受けていた。創作意欲が大いに刺激された大作家は、先ほどからイキイキと手を動かしている。

 

「この原稿は必ず座に持ち帰るぞ。それくらいの報酬はあって然るべきだ」

「書き終わったらぼくも読んでいい?」

「私も読みたいわ!アンデルセン版“ゼルダの伝説”なんて、きっと雲雀も飛び起きるわ!」

 

ナーサリーとリンクがそう言うと、アンデルセンはまんざらでもなさそうな顔をした。

 

「まあもし書き終わったのならば。どうしてもと言うのなら、読ませてやらんこともない」

「うん。頑張ってね先生」

「――――――なんだよフラン。そんなに引っぱんなって」

 

扉の向こうから話し声。

壁に耳も障子に目もないが、なんとなくこの後の出来事が予想できて、リンクはナーサリーを抱えて座り直す。

 

「ウゥー」

「あん?」

「こんばんは、モードレッド」

 

開いた扉の向こうに鎮座する、うつくしい男。

手を引いてくれたフランの純白のドレスが、視界の端できらきらと光った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇっ?」

 

フランがモードレッドをリンクの前に連れてくる。

リンクが彼女と出会った当初は、背中からずっと出てこなかったのに。

今、ぐいぐいと遠慮無くモードレッドを引っ張る姿は、世話焼きの姉のようだ。

記憶の底にもないのに、生前だから霊基に刻まれてもいないのに。それでも心は反応している。――――いい傾向だ。きっと。

 

 

小さきもの モードレッドが動かなくなっちゃったよ

守銭奴 カチコチに固まってしまったよ

 

 

ぼくの・・・せいか・・・?ごめんね有名人で(´・ω・`)

 

 

騎士 ポジティヴだった

 

 

「突然現れた正体不明のキャスターの正体は、何とぼくでしたー!大空の勇者のリンクです。よろしくね」

 

生前はただの知識の1つとしてしか履修しなかった、伝説の物語。

サーヴァントになってから改めて読み直した、勇者の人生。

それが今、目の前に居た。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・か、」

「か?」

「かっっっっけー・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ウー!」

 

モードレッドは、輝く瞳でそう呟いた。

ヒーローに憧れる子供のように。

憧れのヒーローが助けに来てくれた大人のように。

体が震えるのは歓喜か?武者震いか?

空気を読んでぴょんと膝から降りたナーサリーが、優しい目で唇を綻ばせた。

 

「ゆ、勇者リンク・・・」

「うん」

「あの・・・オレ、・・・・・・オレと・・・」

「ゆっくりでいいよ」

「っ、手合わせしてくれ!!」

「ほほう?」

 

 

奏者のお兄さん ほほう?

ウルフ 違うパターンきたな

 

 

「オレ・・・思ってたんだ。選定の剣を抜けば、強くなれるんだって。王になれるんだ、って。でも・・・それは違ったんだ」

 

人々を守りたいから、王になった(アーサー)

大切な人の力になりたくて、剣を抜いた青年(リンク)

剣を抜こうとする少女を讃える者は誰もいない。居るのはただ、未来を知る魔術師だけ。

剣を抜こうとする青年を讃える者は誰もいない。居るのはただ、女神に使わされた精霊だけ。

なのにどうして、結末が違う。

 

「オレは王になりたかったんじゃない。オレは父の孤独を癒やしたかった。王であるが故にあの人が捨てたものを抱えていたかっただけだ」

 

あまりに寂しい伝説の幕開け(はじまり)だった。

あまりに静かな伝説の幕開け(はじまり)だった。

曇り空にひっそりと輝く三日月のようだった。

偉大な大空だった。大地を、水底を、世界を駆ける、緑の勇者。

 

「父に対して怨みがない――と言えば嘘になるけど。でも、今度こそ、違う関わり方ができるんじゃねえかって思うんだ。その・・・・・・、サーヴァントの身で何を、と思うかもしれねぇけど」

 

王であるが故に、背負い、捨てた(アーサー)

勇者で無くとも、背負い、拾い集めていただろう青年(リンク)

きっと父も無意識のうちに諦めていた。自分は勇者ではないのだから。こんな余分は(・・・・・・)許されないと。

 

「父はアンタによく似ている。けど、絶対的に違うんだ。父には我欲がなくて、アンタにはある。でも父だってヒトなんだから。ただのヒトなんだから。欲してもいいって、他人のためじゃなく自分の為に、生きてもいいんだって」

 

未練と弁解。惨めで哀れだ。

でも言いたいんだ。やっと気づけたんだから。

 

「もうオレもアンタもサーヴァントなんだから、好きに生きていいんだって、言いたいんだ。・・・・・・でも、オレの言葉なんて、きっと父は聞いたりしない。・・・・・・オレは叛逆の騎士だから」

「・・・・・・」

「だったらせめて強くなりたい。父の敵を全て倒すために。父が苦しむ前に、その原因を絶てるように。少しでも、安らぎの時間が多くなるように。――――だから!」

 

緑色の目をしたホムンクルスは、今、()の心を守るために在る。

 

「オレを鍛えてくれ!アンタに授かった経験なら、きっと座に戻っても消えない!」

「――――――言ったな?騎士モードレッド。ぼくはこうみえて厳しいよ」

「! あ・・・りがとう、ございます!」

 

 

騎士 泣くが?

厄災ハンター (´;ω;`)

海の男 こんなん卑怯やん

 

 

アンデルセンのペンのスピードが増し、ナーサリーとフランが顔を見合わせて笑う。

どこかで小夜啼鳥が愛を歌う、透き通った夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔霧の下で、空を見上げる人がいる。

次元を超えて、事象を超えて、赤い橋を超えて。

その騎士王は辿り着いた。

目深くかぶったフードの下で、きんいろが輝いている。



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壊れぬハートが欲しいのだ!

「さあ――――吾輩を召喚せしめたのはどなたか!キャスター・シェイクスピア、霧の都へ馳せ参じました。と、言いたいところなのですが。どうやらこれは聖杯戦争による召喚ではない模様。さあ、これは困ってしまいましたね。神よ、吾輩が傍観すべき物語は何処にありや?」

 

しんと静まりかえっていた路地裏を、歌うような声が通り過ぎていった。

霧に塗れた世界に洒脱な衣装を身に纏った男がいる。

 

「答えはない。答えはない。ああ、神は私を見放したか。血湧き肉躍り、心震い魂揺らす物語は何処にありや!ならば吾輩はこう言うしかないでしょう。ああ、『恋は目ではなく心にて見やるもの(Love looks not with the eyes but with the mind)』!」

 

 

フォースを信じろ たくさんお喋りしてえらいね

りっちゃん 生きているだけで褒めてくれるbot?

 

 

「・・・・・・・・・・・・ハズレだ。次」

「おお、これは。異様な霧の中にて、今度こそ貴方とこうしてお目に掛かれようとは」

「お知り合いですか?その、彼・・・・・・キャスター・シェイクスピアと?」

「知らん。こいつはハズレだ」

 

髭を蓄えた伊達男――シェイクスピアは、立香達を見つけるとつかつかと近寄ってきてニコニコと話しかけてくる。

その躊躇いのなさ・・・もとい妙な人懐っこさは、さすが世界一高名な劇作家と言えるだろう。好奇心を隠しもしない。

 

「マスターが存在しないことは不幸ではありますが、こうして貴方達にお会いできました。これも運命でしょう。今は貴方達の物語を紡ぐとしましょう。噂に違わぬ物語を期待していますよ」

 

芝居ぶった台詞で喋り倒すシェイクスピアに、管制室も微妙な空気になる。作家というものはみんなこういう感じなのか?

どいつもこいつもクセが強いな・・・。

 

「・・・・・・おや。お客さんが来たみたいだよ、みんな」

「一度逃げ帰った割には度胸があるじゃねぇか。なあ!」

 

敵の気配に、リンクとモードレッドが真っ先に反応した。

薄暗い霧の中からあらわれたのは、幸薄そうな顔をしたキャスターだ。

 

「・・・・・・遅かったですね。新たに現界したサーヴァントは、そちらに確保されてしまったようです」

『魔霧から現界したサーヴァントを確保・回収し、自分たちの仲間にしていた、といったところかしら』

『なるほど。理屈は簡単だ。だが、言うほど容易いことではないはずだよ』

 

氷の魔――――の振りをした男は、不敵に不気味に微笑んだ。

まるで暴かれることを望んでいるかのように。断罪されることを願っているかのように。

 

『英霊を自分たちの思うがままに動かすなんて、それは、聖杯でもなければ不可能だ』

「――正解、とまずはお返ししましょう。その通りです。我々は、我々にとって必要な者がこのロンドンへと現れるのを待ち続けているのです」

 

キャスターはすらすらと語る。

いつの間にかペンを取り出しているシェイクスピアは、なにやらさらさらと書き出している。

 

「貴方達を確保できなかった事、本当に、本当に、この私には残念でありません。きっとよい友人になれたでしょう。私たちは。お互いに」

「・・・たらればの話は止めようか。私たちは貴方を止めるよ、キャスター」

 

そう言う立香の姿が、希望に満ちた瞳が、いつかの少女と重なった気がして。

 

「今度は逃がさん!切り捨てられる前に名乗ってみろ、魔術師!」

 

キャスターはとても、とてもとてもとても、己の弱さに耐えきれなくなったのだ。

 

「私は、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。四大の精霊を操る者にして、真なるエーテルを望む者。もっとも、今は・・・望むものは異なりましょうがね」

「マスター、対サーヴァント戦闘です!指示を――――!」

 

明らかに戦意を失っていることに気づいたのは、リンクとモードレッド。そして類い希なる観察眼を持つシェイクスピア。

だからといって加減はしない。裁かれたい人間を裁いてやることも、許しの1つであるのだ。

 

「おらあっ!」

「風よ」

 

モードレットが剣を振りかぶって迫る。パラケルススは避けられないと判断し、魔術で防壁をつくり出した。

パラケルススの周囲に、大きな宝石のような形をしたエレメンタルが浮かぶ。

エレメンタルとはパラケルススの作り出した五大属性の元素塊、各属性を凝縮した人工霊だ。

 

「立香、あれが宝石魔術だよ。パラケルススといえば人類史と魔術史の双方に名を残す稀有な人物。・・・それがどうして、ああも暗い目をしているのか」

「・・・きれいだね」

「うん。綺麗だ。・・・ぼくも出るよ。フォローは任せて」

 

モードレッドの激しい追撃を、複数属性の魔術をもって相手取る。

彼こそが「土」「水」「火」「風」「空」の五つの属性を併せ持つ、アベレージ・ワンの魔術師。

純粋な戦闘力、戦闘経験で劣っていても、それをカバーできるほど魔術の才が高い。

 

「土よ。水よ。炎よ」

不貞隠しの兜(特攻行くぞ)

 

避けている間も惜しいとばかりに突っ込んでくるモードレッドに、パラケルススの体力も削られていく。

ここは己の神殿ではない。長期戦は不利だ。

それにあの金髪のキャスター。一体どこの魔術師なのだろう。

なにか底知れぬものを感じる。それは単純な魔力の量ではなく。もっと偉大な、大いなる、何か。

 

「(・・・いいえ、考えても詮無きこと)」

 

強い自責の念が目を眩ませる。

とある根源の女王(ポトニアテローン)にあっさりと操られて殺されて贄になった。何も成すことの出来なかった己など。

そして今も聖杯に操られ、悪逆を続ける己が、一体何を語れるのか!

 

賢者の石(エレメンタル)、起動。高速詠唱(アルキドクセン)、解放」

 

多くの物を愛している。

愛しているけど。

それを貫き通すには、あまりにも己は弱かった。

抗う、という選択肢を持てなかったのは、なまじ多くを知る魔術師としての頭脳を有していたからだろうか。

 

「お見せしましょう・・・・・・我が、光を」

「マシュ、宝具が来るよ」

「はい。宝具、展開します――!」

 

あの緑の魔法使い以上に、輝く星を知らない。

この世の真理に触れたであろう存在。世界を救い、人々を慈しみ、知識も技術も惜しまず伝え、希望と願いを次世代に託した人。

魔術師は時に人道を外れた超越者であると語られるが、()だけは絶対の例外だった。いかな魔術師であっても、彼にだけは敬意と畏敬を表す。

パラケルススの夢の形そのもの。美しき魂。――――貴方のように、なりたかった。

 

「真なるエーテルを導かん・・・・・・我が妄念、我が想いの形──元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)

「真名、偽装登録。疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)――――!」

 

これこそがパラケルススの魔剣、アゾット剣の原典。

宝具本来の効果は魔術の増幅・補助・強化だが、五つの元素を触媒に用いることで、一時的に神代の真エーテルを擬似構成し、放出する。

しかし、単純な破壊は副次効果にすぎない。

 

「この魔霧によって、貴女の盾を砕きましょう」

 

この刀身を形成する“賢者の石”による超規模の多量並列演算能力、大規模儀式魔術レベルの神秘の即時行使。

敵対者の放った魔力を即座に解析、対応、侵食し己の物として奪い取る、番狂わせの大物喰い(ジャイアントキリング)を可能とする切り札。

そしてこの空間には、濃厚な魔力を含んだ霧が漂っている。燃料には事欠かない。

 

「くっ・・・!」

「私すら滅ぼせぬ者に、聖杯を手に入れることなど出来ませんよ」

 

 

銀河鉄道123 根暗なお兄ちゃんだな

いーくん 根暗て

 

 

「モードレッド、攻撃力を上げてあげよう。特攻(ブッコミ)よろしく」

「オシリスの塵。やっちゃえ、モードレッド!」

「任せろ。マシュ、後ろは頼んだぞ」

「はい!」

 

大空のカリスマ。リンクのスキルが発動する。

最後尾にいるシェイクスピアの筆はノリノリで動いている。

赤雷が迸る。邪剣、再閃。全力の魔力放出。

砕けた。

 

「――――――――――あぁ」

 

宝具の魔剣ごと、キャスターの霊核が消し飛ぶ。

魔剣の吸収力を上回る膨大な魔力。いつかもこうやって(・・・・・)砕かれた。眩き光。光。光。

 

「・・・・・・それでこそ、剣を持つ英雄です」

 

我が心の師であり父である、麗しき魔法使い。星の勇者よ。

獣に敗北した醜い私をお許しください。

貴方のように誇り高いままでは居られなかった、愚かな私をお許しください。

悪逆に身を落とし、慈しむべき人々を害し、聖杯に捧げようとしている私を。

どうか、許さないでください。

 

「この世すべての悪を(たお)して。この世すべての欲に抗って、この世すべての明日を拓いてみせる者たちよ」

 

魔術王という絶望的な力に屈してしまった、哀しい男がいる。

ただ。

 

「貴方たちの行く手に・・・どうか・・・」

 

勇者はそれも(・・・)許す。

 

「どうか・・・真なる、光・・・・・・を・・・・・・」

 

ファイ。繋いで(・・・)

 

 

ファイ イエス・マスター。パラケルススの座と接続します

 

 

「・・・・・・敵性サーヴァントの消滅を確認しました。先輩、わたしたちの勝利です」

「くそ、何の手がかりも残さず消えやがった。最後まで胸くそ悪い魔術師だったぜ」

「・・・・・・まあ、彼にも色々あるんでしょう」

 

リンクのフォローに、モードレッドは唇を尖らせる。

 

「わーってるよ。ったく」

「『人生は歩く影が如く、哀れな役者に過ぎぬ(Life's but a walking shadow, a poor player)』」

「あ?何だって?」

「いいえ。ただ、思い浮かんだ言葉に過ぎません。なかなか悪くないものを見せて戴けました」

 

 

フォースを信じろ なんかこの人だけずっと楽しそうだな

 

 

「吾輩が目にしたのは一端だけですが、かの魔術師殿。なかなか良い結末(エンディング)に見えました」

「・・・・・・うん。私にも」

 

最後、消えていくキャスターが、余りにも小さく見えて。

立香は少しだけ、さみしい気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そん、そんなに泣く?」

 

 

奏者のお兄さん 泣くでしょ

ウルフ 泣きすぎて死ぬんじゃねぇの

 

 

「う、うっ、うう゛。えほっ、~~~~~~~~っ」

「むせてるじゃん!」

「おゆ、おゆるしください。おゆるしください。おゆるしください。わが師。尊きあなた・・・!」

「怒ってないって。よしよし。大丈夫だから」

 

号泣。

子供のように蹲って泣きじゃくるパラケルススの背中をさすりながら、リンクは慰め続ける。

自責と懺悔で押し潰されている姿は、とても伝説的な錬金術師には見えなかった。

 

「パラケルスス。ぼくはきみを責めにきた訳じゃなくてね」

「~~~っ。、はい。はい・・・!申し訳ございません・・・!」

「どうしても己の所業が許せぬと言うのなら、ぼくがきみを許そう。――――顔をあげなさい」

 

涙に濡れる金瞳は、青い瞳に見つめられて固まる。

月からこぼれ落ちた雫のよう。生前でも、こんなに美しいものを目にしたことはなかった。

 

サーヴァント(使い魔)としての行いが、きみの生前の貢献と功績を消し去るか?」

「――――」

「我らを師と仰ぐ偉大なる英霊よ。倫理を外れがちな魔術師の身でありながら、人を救い、子を慈しみ、医療の発展に尽くした気高き弟子よ(・・・)。他者を顧みぬ獣にきみの魂が蹂躙されたことに、むしろぼくは怒っているよ」

 

体が震える。

言葉の意味を理解して、熱い涙が溢れた。

 

「パラケルスス、今日ぼくが来たのはね。きみの使っていたあの剣・・・アゾット剣といったかな。あれ、ぼくも欲しいな」

「・・・・・・・・・・・・ぇ、・・・と」

「マスターソードは出せないし、かといって手ぶらなのも落ち着かないし・・・。あれならぼくが持っててもおかしくなさそうじゃない?」

「私がつくるんですか・・・・・・?」

「うん。お願いできる?・・・あ、というかぼくがカルデア側にいたキャスターだってこと言ったっけ?ほら、金髪の」

 

 

騎士 キャパオーバーの顔してる

奏者のお兄さん 呼吸が荒くなってきましたね

 

 

「そんなに高性能じゃなくても、軽く使えるくらいで」

「いいえ!!!!!!貴方様にそのような物渡せません!!!私の全力をもって製作させて頂きます!!!!」

「じゃあよろしくね。出来たら彼女に渡してくれる?」

「彼女?」

「ファイ。呼べば来るから」

 

その言葉通り、剣の精霊が現れる。

伝説を次々と目の当たりにして、パラケルススの動悸が激しくなっていく。

 

「あとは・・・パラケルスス。こちらへ」

「? はい」

 

すっ、と頬に触れる。

それだけで男は肩を大きく震わせた。

 

「きみの信念が報われることを、ぼくは祈ろう。決して、愛を諦めてはいけないよ」

「――――・・・もう、報われています・・・・・・」

 

そう言ってまたほろほろと泣いた。

胸中を埋め続けていた、暗い気持ちはもう無い。

ようやく、朝が来たのだ。



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MoonWalker

ファンタビの第一作を繰り返し見てしまう。ママだよ・・・・・・。


『・・・・・・ん・・・・・・マイクがノイズを拾ってるみたいだ。周囲に敵性反応多数』

『さっきよりもアパルトメント周辺をうろつく数が増えているわね・・・。通信に障害が出るほど魔力が歪んでいるわ』

 

駆動音が入り乱れては、午後の閑寂を引き裂いていく。

外の喧騒に視線を向けた、リンクの瞳が窓に映り込む。

 

「この駆動音は――ヘルタースケルターの集団と思われます」

「屋内には乗り込んで来ないだろうけど、騒がしいね。どうにか元を絶てないのかな」

『――――あ!そうだ。そうだったよ!ヘルタースケルターの解析が進んでたんだった!』

 

はっと思い出したように声を上げたロマニに、マシュとモードレッドの胡乱な目が向けられる。

同じ軟弱男でもジキルとはタイプが違ぇし、こいつはこいつで何か癪に触るな・・・。という目を隠しもしないモードレッドに、リンクがおやおやと苦笑を漏らした。

 

「ドクター、そういうことはもっと早く報告してください」

『ご、ごめんね・・・。あれはやはりボクらには不明の技術で作られた機械だ。恐らくは、魔力で作られた機械――のはずだ』

「それは・・・魔術と科学を併せて作られた機械、ということかい?」

『ちょっと違うな。魔力で作られてはいるが、あれは機械なんだ』

 

ジキルの相槌に、ロマニがデータを見ながら答える。

 

『技術体系は相変わらず訳のわからないものだけど、構造そのものは機械。でも、魔力で形成されている』

「つまり・・・・・・ええと・・・・・・」

「宝具みたいなもの?」

『正解!よくわかったね!』

 

褒められた立香が嬉しそうな顔をした。

話をきいたジキルが、納得した顔で頷いている。

 

「つまり、サーヴァントの宝具のように魔力で形成された武装である、ということですね」

『うん。なまじ魔力のある機械なものだから、ボクも魔術によるゴーレムとの近似を探しすぎたよ』

 

魔力に依って編み上げられた、力あるかたちのモノ。

 

『剣の宝具が「鋭い刃」である代わりに、ヘルタースケルターは「戦う機械」の宝具なんだ。自律稼働しているように見えるけど、実際は、宝具の所有者あたりが動かしているようだ』

 

言わば、リモコンで動くロボット軍団。

リモコン相当の何かを壊せば全機が停止するだろう。

 

「では、余程の例外を除けば、宝具の所有者であるサーヴァントを叩けば――」

「連中は消え失せる。何だ、一気に話が見えてきたな」

「それでドクター、宝具の所有サーヴァントはどこに?」

『・・・・・・わかりません』

 

なんとも言えない空気が漂って、沈黙。

口火を切ったのはジキルだった。

 

「・・・・・・そうだよね。うん、それはそうだ」

『・・・ごめんなさい。ダ・ヴィンチが忙しい中解析を手伝ってくれて、ようやくここまでわかったというか・・・』

「・・・カルデアって人手が足りてないのかい?」

「一応サーヴァントとかも居るんだけど・・・暇ではなさそうというか・・・・・・」

『レイシフトの最中でもやることが山積みなの。申し訳ないわ、ミスター』

 

そうこう言っている最中に、扉の向こうからひょっこりと顔を出して聞き耳を立てている少女が二人。

一人はそのまま部屋に入ってきた。

 

「・・・・・・ゥ・・・・・・。・・・ゥ、ゥ、ゥゥ・・・」

「やるべきことは決まった。うん。だが、その目的地がどこなのか分からん、か」

「・・・ゥ・・・」

「どうしたもんか。こう、一発で、魔力なりを辿ったりできれば・・・・・・」

遠隔操作器(リモコン)の例えが正確であるなら、確かに、魔力を辿ることもできるかもしれません」

 

リンクが少女を手招きして近くに呼ぶ。

立香も気づいて顔を向けた。

 

『こと科学と魔術に長けたダ・ヴィンチちゃんがそう例えてたから、間違いないと思うんだけどね』

「でも、魔霧の影響がある上に、魔力の痕跡を辿るなんて繊細な芸当をこなすのは・・・・・・」

『少なくともボクには無理だ。カルデアの設備でも流石に難しい」

「僕もお手上げだ。そもそも、本物の魔術師じゃないからね。僕」

 

 

災厄ハンター 時先輩できます?

奏者のお兄さん うん

災厄ハンター スゲー

 

 

「・・・ゥ・・・」

「フランが何か・・・。言いたげにしてるけど・・・」

「フランさん?どうかしましたか?」

 

リンクの座るソファーの背にしがみついていたフランが、立香とマシュに言われて前に出てくる。

 

「何だ、隣の部屋の作家英霊どもから逃げてきたか?あいつらうるさいしな、気持ちはわかるぞ」

「・・・ゥ・・・。ゥ・・・ゥゥ・・・」

「ん?オレたちに言いたいことでもあるのか?それならはっきり言ってみろ」

「・・・ゥ」

 

長い前髪が表情を隠していても、モードレッドにはしかと伝わっているようだ。

ちらりと振り返った先にいるリンクにも優しく促され、口を開く。

 

「ゥ、ゥゥ・・・・・・ァ・・・。・・・ァ・・・。・・・ァ、ゥ・・・ゥゥ、ゥ・・・。・・・ァ、ァ、ァ・・・・・・」

「な・・・それ、本当か!?」

「驚きました。フランさんに、まさか、そんなことができるなんて・・・」

「?」

『?』

 

ジェスチャーと手話を混ぜたようなフランの言葉に、モードレッドとマシュが驚いた声を上げる。

反対にジキルとロマニは大きな疑問符を浮かべた。オルガマリーもちょっとあやしい。

 

『ええと、彼女は何て?』

「わかるらしいぞ、こいつ。ヘルタースケルターのリモコンの場所」

『え!?』

「ほ、本当かい?」

「よし。それなら早速出発するぞ!準備しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・しっかし、慣れたとはいえこうも視界が悪いとイライラするぜ」

「・・・ゥ・・・」

 

今日は細雨が振っている。

雨でしっとりと濡れた前髪をかき上げて、リンクは静かに周りを見渡した。

 

「なあ立香。おまえんとこの宮廷魔術師・・・ドクター・マロンだっけ?あいつに遠見の水晶とか作ってもらえないのか?マーリンだったら一発なんだけどなぁ・・・・・・」

「ロマン!ロマンだからねボク!それとマーリンなんかと比べないでほしい!あっちは究極の引きこもり魔法使い、ボクは現代のお医者さんなんだから!」

「フォウ!フォウ!」

 

 

災厄ハンター 初代様、どうしました?

 

 

・・・・・・少し、予感がするような。・・・なにか起こりそう

 

 

「まーりん?」

「ああ!?テメェ、魔術師のクセに知らないのか!?アーサー王の後見人にして円卓の仕掛け人。人間と夢魔のハーフの大魔術師なんだが・・・あいつ、もうメジャーじゃないのか?ハハ!だとしたら超愉快だな!ザマアミロ!」

「マーリンは世界でも有数のキングメーカーだよ。アーサー王に岩の剣を抜かせたのも彼だ」

 

 

奏者のお兄さん そのヒト千里眼でずっと見てますよ

ウルフ ハ!?引く

災厄ハンター うわ変態じゃん

フォースを信じろ 暇なの?

 

 

「その魔術の腕前は大したものだったらしいけど、最後には女性関係のトラブルで世界の果てに幽閉される」

「ああ。死ぬ事も出る事もできず、今でも妖精郷(アヴァロン)の片隅でいじけてるって話だ」

 

 

奏者のお兄さん なので世界が終わるまで死ねないし出れないから大目に見てやって

フォースを信じろ 暇なんだね

 

 

「まあどうでもいいけどな、アイツなんて。ロンドンの異変に駆けつけられない軟弱者なんだから」

「・・・それより、立香、いいの?マシュの元気がなさそうだけど」

「えっ?」

「フォウ・・・」

 

現実ではずっと黙っていたリンクが口を開く。

雨から避難するために肩に跳び乗ってきたフォウくんを、胸元にしまい込んでやった。

 

「元気ないぞ、マシュ。また悩み事?」

「・・・はい。身体面(フィジカル)に異常はないのです、けど・・・。・・・・・・・・・・・・精神面(メンタル)に、問題が」

「フォウ?」

「・・・宝具の話です。サーヴァントにとって宝具こそ本当の戦力。今まで多くの宝具を見てきました。どれも英雄の名に恥じない奇跡だったと思います。なのに、わたしは――。まだ、その宝具を使えません。」

 

雨粒で濡れたまつげが、泣いているように見えた。

 

「・・・マシュは真面目だね。でも、それはマシュのせいではないと思うよ」

「先輩・・・。いえ、それでも、宝具は必要だと思うんです・・・!」

 

ぽつり。

また水滴が頬に落ちる。

 

「・・・そういうコトか。ヘルタースケルターが宝具だって聞いて、落ち込んでたのか。確かに、宝具の使えないサーヴァントなんざサーヴァントじゃねぇ。どんなに弱い宝具であろうと、宝具の在り方自体がその英雄のいた証、誇りみたいなもんだからな」

「・・・・・・」

「でも、お前は違うだろマシュ。おまえはおまえだ。盾ヤロウとは考え方も誇りも違う」

 

霧にけぶる街は、雨に体温を奪われていく。

ドレスが濡れることに不満げなフランを、リンクが小声であやしている。

 

「たしかにおまえはその宝具を使いこなしていない。オレが見たところ、三分の一ってところだ。残りの三分の二は眠っている。あるいは、おまえがおまえであるかぎり百にはならないかもしれない」

「やはり・・・そうなのですね。デミである部分・・・人間としてのわたしが、先輩の足を引っ張って・・・・・・」

「バーカ。そんなワケあるか。話は最後まで聞けよ」

 

にやりと、クラッカーを鳴らす直前の子供のようにモードレッドが笑った。

 

「おまえは宝具を最大限に発揮できていない。でもな――おまえ、元の英霊より強いぞ、きっと」

「え・・・・・・?元の英霊って・・・。わたしに融合してくれた英霊さんの事、ですか?」

「ああ、そいつよりメチャクチャ強い。オレが言うんだから間違いない。宝具で負けているだけで、他の部分は負けていない。なあ、そうだよな立香?」

「うん。マシュは最高のパートナーだよ!」

 

そう笑うマスターは、霧雨の下でも綺麗だった。

マシュの心に、また情景が刻まれる。

 

「・・・・・・っ。そ、そう、なのでしょうか。・・・・・・・・・・・・はい。そうであれば、元気が出ます、わたし」

「ほら見ろ。そもそもサーヴァントの状態管理はマスターの仕事だ。おまえが宝具を発揮できるかは、おまえじゃなくて立香の問題なんだよ」

「マシュ。私も頑張るからね。一緒に一人前になろうね」

「――――はい!」

 

喜びの感情に反応したのか、フォウくんがふすふすと鼻を動かしている。

水たまりを越えた足音は、踊っているかのように軽快だった。

 

「・・・ゥ・・・」

「あっち?みんな、ここから西の方向みたいだよ」

「西というと・・・ウェストミンスターエリアでしょうか。国会議事堂があるエリアです」

 

やがてフランが立ち止まり、西の方向を指さした。

進行方向を切り替えて、少女達は進む。

 

「んじゃま、さっさと行って叩くとするか。あー。で。その前に、だ」

「はい?」

「ひとつ言っておくことがある。今回、オレはフランを守るので手が塞がっちまう。こいつはサーヴァントじゃないからな。人造人間ってのがどこまで保つのかも不明だし」

「確かに・・・」

 

 

海の男 フランは可愛いねぇ。それに比べファントム!!!!!

銀河鉄道123 塔の守護者のくせにさぁ・・・・・・

守銭奴 ファントムにも色々あるから・・・

 

 

「だから、こいつはオレが守る。・・・変な縁だ。まったく」

「立香たちは、ぼくがフォローに入るから大丈夫だよ。フランをよろしくね、モードレッド」

「! おう!」

 

 

そういえばアゾット剣が納品されてますよ。使うのが楽しみだね

 

 

フォースを信じろ 仕事はやーい

奏者のお兄さん めちゃくちゃ高性能なのが納品されてる・・・・・・

守銭奴 英霊の座に時間の概念が無いことを有効活用していますね

 

 

雨はまだ止まず。

されど行く末に光あり。



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「始めに言葉ありき」

しとしと、しとしと。

雨が降っている。

 

「・・・まさか本当に議事堂付近とは。凄い場所にあるな、リモコン。流石に中じゃないか?」

「・・・・・・ゥ、ウ・・・・・・!」

「近いようです。もう、すぐ近くにまで来ていると彼女は言って――――」

 

噴きあがる蒸気のような駆動音。地面を揺らす機械の足音。

雨を弾いて襲い来る、怪機械の親玉。

 

「来た来た、でかいのが来たぞ!フランはオレの後ろに回れ。離れるなよ!」

「マシュ、立香。あの大きいのは任せるよ。取り巻きはぼくが」

「了解しました。マスター、大型敵性体との戦闘です。指示を!」

 

路地から、背後から、ヘルタースケルターの集団が迫る。

パラケルススに作って貰ったアゾット剣を抜いて、リンクは襲撃を待ち構えた。

 

「あ?おまえそんな剣持ってたっけ?」

「ふふん。いいでしょ。作って貰ったんだ」

 

立香たちには聞こえないように会話が成された。

一見するとただの魔術礼装だが、パラケルススの宝具と同じく、刀身の全てを超々高密度の“賢者の石”で構成されている。これなら疑似スカイウォードすら打てそうだ。

 

 

ウルフ 重めの感情、伝わる

災厄ハンター 頑張ってつくったんやろなぁ・・・

 

 

モードレッドと共に取り巻きを倒していく。

魔法も悪くないが、やはり剣が一番しっくりくる。とはいえあまり剣術を見せるわけにはいかない。

え?あんなキャスターいます?みたいな空気になったときにうまく誤魔化せる気がしないからだ。

というわけで真エーテル、解放!ヘルタースケルターを砕け!

 

「ヘラクレス、お願い!」

 

後方では立香がサーヴァントを呼び出して応戦していた。

唸る偉丈夫が斧剣を振りかぶり、落とす。地鳴りがするほどの打撃。砕け散る機械の体。

 

「■■■■■■――!」

 

容赦なく叩きつけられるバーサーカーの連撃に、耐えられるほどの性能は無く。

大型の肢体を崩れさせて、敵性体は沈黙した。

 

「――ふう。お疲れ様、二人とも」

 

サムズアップ。ヘラクレスは戻っていった。

スイッチが切れたかのように、他のヘルタースケルターも倒れていく。

 

「サーヴァントではなかったようですが・・・。これが、他の個体を操る宝具本体だったのでしょうか?」

「・・・・・・ゥ。・・・・・・ゥ、ウゥ」

「そうみたいだな。よし、これで厄介ごとがひとつ片付いたか。よくやった、フラン。おまえのお陰で助かったぜ」

 

雨はすこし強くなって、少女達の体を冷やす。

さあさあ、ざあざあ。

 

『マシュ、立香ちゃん。念のため、その残骸の映像情報をまた送信してくれるかな?一応こちらでも解析しておこう』

「了解です・・・・・・ドクター。妙なものを発見しました。他のヘルタースケルターにはなかったものです」

「製造者の名前かな?英語だ」

「『チャールズ・バベッジ、AD.1888』」

「・・・・・・ゥ!?」

 

ぎくりと肩を跳ねさせたフランに、立香が驚いて声を掛ける。

 

「フラン?どうしたの?」

「・・・・・・・・・・・・」

「雨が強くなってきたな。とりあえず一度帰るか」

「はい。先輩、風邪を引かないうちに戻りましょう」

「うん・・・」

 

樹の枝状の戦槌(メイス)をぎゅうと握り込み、フランは黙りこくってしまった。

雨に濡れて重くなったドレスが、彼女の心境を表しているよう。

さあさあ、ざあざあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ゥ」

「そうだね。心配だよね」

 

現界してもやることは変わらない。

執筆、執筆、執筆!

鬼気迫る表情でペンを走らせ、脳内に浮かぶ映像を文字に変換していく作家英霊達を横目に、リンクはフランの手を握って慰めていた。

チャールズ・バベッジはフランの知り合いだったようだ。たどたどしい唸り声で、俯きながらそれを伝えるフランに、ナーサリーが心配そうに寄り添う。

 

「こんなことをする人じゃない・・・ってフランは思うんだね」

「・・・・・・ゥ、ゥ・・・ウ・・・・・・」

「なら話は簡単だ。そこで働いている作家さん達の言葉を思い出してごらん。想像力を働かせて考えてみるんだ」

「ウ、ウゥ・・・」

 

 

りっちゃん こっちすごい見てる

うさぎちゃん(光) 作家達がすごい見てる

 

 

「ミスター・バベッジはこんな事をしない。なのにヘルタースケルターはうろうろしている、聖杯は未だ行方不明」

「・・・ゥ!」

「そう、気づいたね。こんなことをするように強要されているんだろう」

 

ぱっと顔を上げて、前髪がふわりと浮く。フランの青い目が照明を反射してきらりと光った。

 

「ウゥ・・・・・・。・・・ァ・・・ァ・・・ゥゥ・・・」

「うん、許せないね。必ず助けてあげよう」

「ウ!」

 

こくこくと頷く、少女の瞳は虚ろながらも強く。

真顔でこちらをガン見している、作家共の目はギラギラ。

 

「虚ろなる少女と、金髪の佳人。手を取り合う姿はまさしく舞台のワンシーン。悲報が訪れる時は(When sorrows come, they come no)軍団で押し寄せてくる(t single spies. But in battalions.)。とは言いますが、どうやら涙に濡れた脚本はここでお終いの様子。いやはや、盛り上がりを理解しておられますなぁ!」

「いけないわ、いけないわ。茶化すなんて悪い人ね。現実はマザーグースのようには出来ていないのよ」

「おっとこれは失礼。絵本の概念に怒られてしまうとは。・・・それにしても、あちらのキャスターは何者ですかな?そろそろ吾輩にも真名を教えてほしいのですが」

 

相も変わらず、おしゃべりな作家である。

腹の底まで、裏の顔まで、暴いてしまいそうな好奇心。リンクの全身をじっくり眺める、ハシビロコウの如き目。

 

「きみは口が軽そうだからダメ」

「なんと!?否定できませんな!!」

「そうだろう?だからダメ」

 

 

りっちゃん もぎゃもぎゃしてる

うさぎちゃん(光) 活きのいい猫

 

 

静まりかえっていた扉の向こうから、生活音が聞こえる。立香たちが仮眠から目覚めたのだろう。

雨はもうすっかり止んでいた。

 

「――――話がある。いいかな・・・ああ、二人も丁度来たね」

「なにか分かった?」

『うん。先ほど君たちが見つけた名前についてだ。チャールズ・バベッジ。優れた科学者にして数学者、十九世紀英国の人物だよ』

 

蒸気機関を用いた世界初となるコンピューター「階差機関」 「解析機関」を考案した天才碩学。

現代では「コンピューターの父」とも呼ばれている。

 

「彼はこの時代の人間だ。僕は会ったことないけど、思い出したことがある。初代のヴィクター・フランケンシュタイン博士と、彼は知己だったはずなんだ」

「――すみません。待ってください。バベッジ氏はこの時代から数えて十年以上も前、既に亡くなっているはずの人物です」

「え?いや、それはおかしいな。老年だが健在で、碩学として活動しているはずだよ」

 

どうも記録と記憶が噛み合わないようだ。ジキルに新聞を持って来てもらう。

ばさりと広がった紙面を皆で確認した。チャールズ・バベッジ。生年1791年。

・・・間違いなく本人だ。

 

『考えられる可能性は二つだ。一つ目、ボクらの歴史的記録が事実と異なっていた。二つ目、事象にずれ(・・)が生じている。それ自体はこれまでの時代でもあったからね』

 

オルレアンやローマ、世界の海でも。いずれも事象がずれて(・・・)ねじ曲がっていた。

英霊としてではなく、事象の変化として故人が生存している。十二分に有り得ることだ。

 

『二十世紀の事件がこの時代にまでずれ込んでしまっている、ということなのかも知れないね』

「では、フランさんやミスター・ジキルも?」

『可能性は否定できない。誰がこの時代の人間なのか、そうでないのか。特定するのは極めて難しいだろうね』

 

現存する記録が存在しない場合は特にそうだろう。

ただ、今は深く考えるべきことではない。

 

「ん?僕の話をしているのかい?気になるけど今は後回しにしよう。緊急連絡だ。僕の情報網に引っかかったんだけど、悪い知らせだ。セイバーもいいかい、聞いてくれ」

「あ?」

「完全に稼働停止していたヘルタースケルターのすべてが――再稼働した」

 

それは確かに緊急事態だ。フランが唇にぐっと力をいれる。

再び霧の中へ。霧の中へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――近い、な」

「はい、わたしにもわかります。魔霧の中でも、魔力の集中がここに在ると」

 

聞こえる。感じる。

隠れもせず向かってくる、サーヴァントの気配を。

 

「そら、そこだ。もう立香にも聞こえてくる筈だぜ」

『こちらでも感知したぞ。極めて大型の反応だ。もう、目の前まで来ている。こんな場所にいたのか!』

「シティエリアの中心部とはな。アパルトメントのすぐ近くにいたって訳だ」

 

蒸気が噴きあがる。

王が君臨する。

 

「――――聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王」

 

重厚で機械的な音声が響く。

辺りを白く染めるのは、霧ではなく水蒸気。

 

「有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初めとして消え果てた、儚き空想世界の王である」

 

立ちふさがる巨大な影。機関鎧を纏った、熱くて冷たい、鋼鉄の男。

 

「貴様たちには魔術師「B」として知られる者である。この都市を覆う「魔霧計画」の首魁が一人である。そして――帝国首都の魔霧より現れ出でた、英霊が一騎である」

「魔術師「B」、と・・・」

「・・・敵の親玉の一人かよ。確かに頭文字は同じだ。Bか。あれこれ考えすぎて簡単なことを忘れていたぜ」

 

一見は、ヘルタースケルターと同じ姿だ。

しかしギラギラと輝く赤い目が、吹き出す蒸気の熱さが、格の違いを見せつけている。

 

「我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共に在る者である。我が空想は固有結界へと昇華されたが、足りぬ。足りぬ。これでは、まだ、足りぬ」

 

 

固有結界とは

 

 

銀河鉄道123 カッケー!!!!

災厄ハンター イカすぅ-!!!!

 

 

「見よ。我は欲す者である。見よ。我は抗う者である。鋼鉄にて、蒸気満ちる文明を導かんとする者である。想念にて、有り得ざる文明を導かんとする者である。そして――人類と文明、世界と未来の焼却を嘆く一人でもある」

『ああ、そういうことか・・・!彼自身が既に固有結界である、ということだ!』

 

魔本(ナーサリー)の時と同じだ。

彼女は自らの現界のために眠りを撒いたが、彼は自らの分身をどこまでも際限なく撒き続ける。

 

「ミスター・バベッジ。仰る言葉が真実なら、わたしたちは対話できます。未来は、焼却されてはならない・・・!」

「誇りある宣誓は受け止めた。ミスター、今度は是非耳を傾けてくれ。きみに言いたいことがある()が来ているよ」

 

リンクに促されてフランが前に出た。

白いヴェールが、清廉なる天使のように揺れる。

 

「・・・・・・ゥ、ゥ!・・・ウ・・・ゥゥ、ァ・・・ア、ァ・・・!・・・ア、ァ、ァ・・・・・・!!」

「――おお、おお。忘れるはずもなきヴィクターの娘。――そこにいるのか。おまえは」

 

落雷が落ちたのかような動揺。すぐに平静を取り戻した紳士は、身を屈めて少女に向き合った。

 

「可憐なる人造人間よ。創造主より愛されず、故に愛を欲す哀れなる者よ。嗚呼、お前の言葉が聞こえる。嗚呼、お前の思いが聞こえる。そう、だ――。私は、我らは、碩学たる務めを果たさねば」

 

むせび泣いているような声。

そうだった、私は――――。

今を生きる人々の為に。未来に生きるだろう人々の為に。学びを積み重ね磨いてきたのだ。

 

「我らは人々と文明のためにこそ在るはずだ。故にこそ、私は求めた。空想世界を。夢の新時代を。故にこそ・・・・・・グ!?」

 

油の切れた歯車の不協和音。アングルボダの無粋な介入。

組み込んだ聖杯はどぷりと魔力を溢す。

 

「ヴィクターの娘・・・!逃げ・・・ろ・・・!」

「・・・フラン、モードレッドの後ろにいなさい。きみは言うべきことをちゃんと言った。後はぼくたちに任せて」

「・・・彼を止めよう。マシュ!」

「――はい。マスター!」

 

主の暴走に引きずられて、ヘルタースケルターが湧き出てくる。

剣を抜いた騎士達が介入者の気配に反応した。

舞い上がる風の一太刀。煌めく金と銀の聖剣。魔力の奔流が敵を吹き飛ばす。

 

「――――どうやら。このロンドンは、私の知っている世界と違うようだ」

 

青銀の鎧を纏いし、白馬の騎士が如き青年。

魔霧の中でも曇らぬ碧い瞳が、立香たちをぐるりと見渡した。

 

「だがそれでも、騎士としてやることは変わらない。助太刀しよう。勇敢な魔術師たちよ」

「なっ・・・」

「あの人は・・・?」

「・・・よし!ならばこちらは頼んだよ」

 

真っ先に反応したのはリンク。ヘルタースケルターの群れを抜けて、立香の方へ戻る。

立香も詳しいことは後だと判断したのか、サーヴァントを呼び出して戦闘態勢に入った。

 

 

Silver bow アーサー王?

りっちゃん アーサー王(真)or(偽)

うさぎちゃん(光) へー男のアーサー王も居るんだ

いーくん ・・・ん?んん??

 

 

「項羽、お願い!」

「其は災厄の兆しなり。故に決して見過ごせぬ」

 

 

騎士 オーバーキルでは?

 

 

ステッキのような形状の武器と、項羽の刀がぶつかる。耳を劈く甲高い音。

重量のあるバベッジでも、覇王の腕力で追撃してくる項羽には後ずさってしまう。

だが鎧が固い。魔術の気配はしないが、特殊な科学を使用しているようだ。

 

「項羽、フォローする。あの鎧は固そうだ」

覇王の武(然り)戦術躯体(感謝する)。セヤァーッ!」

 

嵐がごとき連撃。リンクのスキルを受けてさらに重みを増す。

仙術サイバネティクスの粋を集めた兵器は、馬の如き四つ足で大地を踏みしめた。

地鳴り、轟音、鋭すぎる太刀筋。不利を悟ったバベッジは宝具の展開を目論みる。即座に覇王が演算を開始した。

 

「主導者よ。我に魔力を。ここで決着としよう」

「わかった!オシリスの塵!」

「――未来予知(見えた)

 

無敵の守りを得た項羽が、蒸気機関を全力稼働させているバベッジに突撃した。

宝具は真名解放をして能力を発揮する。その前に叩くのはある意味正解だ。

双方の溢れさせる魔力が、高濃度の疾風となって立香達に吹き荒れる。ビリビリと鳴る空気をマシュが盾で受け止めた。

吹き出した蒸気が悲鳴のようで、崩れていく塊は鋼鉄の夢。

 

「あ?消えてくな・・・」

「終わったか」

 

ヘルタースケルターが消えていく。今度こそ。泡沫のごとく。

 

「・・・・・・シティの地下へ、行くがいい」

 

もはや身動きも取れぬバベッジに、フランが駆け寄った。

 

「・・・地下鉄(アンダーグラウンド)の更に、深い、深い、深い、奥底。其処に・・・「魔霧計画」の主体が、在る、だろう・・・・・・」

「地下・・・」

「都市に充ちる・・・霧の、発生源・・・すなわち、我が発明・・・巨大蒸気機関アングルボダ・・・・・・。聖杯は・・・アングルボダの動力源として・・・設置・・・・・・」

 

冷えていく鋼の手にフランの手が重なる。

・・・アダムに寄り添うイヴのようだ。少女と紳士の、穏やかな最後

 

「・・・・・・すまぬ、ヴィクターの娘。お前の声は聞こえたが・・・私は、既に、正しき命を有した、人間・・・ではなく・・・・・・。妄念の・・・有り得ざるサーヴァント、と、化したのだ・・・・・・」

「ウ!・・・ゥ、ゥ、ァ・・・」

「・・・そうか、そう言ってくれるか。・・・・・・私は、嗚呼、私の世界を夢見てしまったが・・・しかし、それ、とて・・・・・・」

 

赤く光る瞳が、ゆっくりと立香を映した。

遠い未来を生きる、輝かしき子供よ。あなたこそが我らの希望。あなた達のために、碩学は在るのだ。

 

「・・・私の夢を叶えなかった世界であっても・・・隣人(あなた)たちの世界を、終わらせよう、とは、思わない・・・・・・」

 

光になって消えていく。握っていた手に残るものはないけれど。

フランは顔を上げた。誇りを踏みにじられた紳士が、それでも祝福をくれたのだから。

 

「次の行き先、決まったな」

「はい。地下、と。ミスター・バベッジは確かにそう言い残しました」

「――行こう、みんな。これ以上、操られる人を増やさないように」

 

最後の戦いが、始まる。

 

 

Silver bow アーサー王はどこから来たの?

りっちゃん なんか僕らと同じニオイするね

うさぎちゃん(光) 異世界に来て世界救っちゃいました系か

いーくん 異世界トリップ系騎士王



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あるいは神話のような

◆お題箱
なにかあったらどうぞ。なにもなかったらスタバのオススメカスタムとか教えてください。


「初めまして。僕はセイバー、アーサー・ペンドラゴン。異なる世界よりこのロンドンに辿り着いた、来訪者だ」

「つまり男の父上か。よろしくな!」

「異世界・・・。理の勇者や次元の勇者と同じように、役目をもって降り立った異邦の旅人、ということですね」

「そっか~よろしくね!」

 

 

騎士 理解が高速

ウルフ そういう概念が浸透してるの、助かる

りっちゃん 急に名前出されるとびっくりするな

うさぎちゃん(光) わかる

 

 

立香、マシュ、モードレッド、アーサーの四人は地下鉄(アンダーグラウンド)の更に奧、ロンディニウムの地下を進んでいた。

リンクはアーサーが居るなら大丈夫だろうと、フランを送り届けるために一時離脱している。

 

「地面の下に地下鉄ってのがあるとは知っていたが、まさかさらに下があるとはな」

「しかもこの魔霧の濃度・・・。深く潜るごとに強くなっているようだね」

『こちらからは観測できないが、視認できるほどに濃度が上昇しているとなると・・・・・・』

『バベッジ氏の言葉は事実なのでしょう。こうして、確かに地下への通路は存在しているのだし』

 

 

災厄ハンター 地下かぁ

奏者のお兄さん ・・・闇の神殿を思い出すな

 

 

「そっちじゃこの地下通路、経路を追えないんだな?」

『すまない。記録が残っていない以上、君たちには探索してもらうしかない』

「知られざる地下の迷宮・・・。・・・ちょっとワクワクするね」

「わかります先輩。ゼルダっぽい(・・・・・・)です!」

 

誰も知らない場所にこそ、伝説のお宝が眠っているものなのだ。

迷宮の冒険は地中海でもオケアノスでもしたが、前者は女神の試練、後者はサーヴァントの宝具だ。

実は昔からあった謎の地下通路、これはちょっと胸の高鳴りが違う。周りを警戒しながら、立香達は進む。

 

『ミスター・バベッジの言葉が正しければ、巨大蒸気機関が存在しているはずです』

「ロンドンに満ち渡る魔霧の発生源。聖杯を動力にしたという、大型の機械だね」

 

巨大蒸気機関アングルボダ。

異常なほどの魔力に満ちた霧の存在と、その蔓延。サーヴァントの感知能力を狂わせ、カルデアからの各種観測を阻むほどの異常な状況。

聖杯の力を以てすれば、なるほど。可能ではあるのだろう。

 

「魔霧からサーヴァントが現界する、という仕組みについても説明は付きそうですね」

『ええ。聖杯を機械に組み込むことで、英霊召喚の機能が魔霧に付与されてしまったのでしょう』

「しかし、アングルボダと来たか。大層な名前だぜ」

 

先頭を行くモードレッドの足取りは軽い。

このアーサー王が自分の知っている方だったら流石に緊張したが、そうでないのでセーフである。

 

「アングルボダ?」

『北欧神話の神性さ。フェンリルや世界蛇、死の女神などを生み出した存在だ』

「ロキとの間にな。とんでもねー女巨人だ。まあ神性持ちの女なんて大概厄介か。な!男の父上!」

「・・・・・・ノーコメントで」

 

 

海の男 こらこら

騎士 煽りよる

 

 

「――おっと、敵か」

「数が多いな。みんな、油断しないように」

 

一層目、二層目、三層目、四層目――――。

地下数百メートルを潜っていく。魔霧はどんどん濃くなって、やがて発生源に辿り着いた。

おどろおどろしい気配が立香達を出迎える。邪悪と絶望を煮詰めた、行き止まりの牢獄。

 

「何だ、こりゃ・・・?」

「・・・冬木の大聖杯に酷似していますね。凄まじい魔力です」

 

魔霧の中にあってもなお、その存在を感じる。

息が詰まりそうなほど巨大な魔術炉心。

 

『こちらでも観測しているよ。これは凄いな・・・』

「総員、警戒を。どうやら最後の敵がお出ましのようだ」

 

気配薄く。

魔霧の中から男が現れた。

 

「―――奇しくも。奇しくもパラケルススの言葉通りになったか。悪逆は、善を成す者によって阻まれなければならぬ、と」

 

一歩、一歩と、近づいてきた。痩せぎすの男。青い髪の下は、光を感じられない暗い瞳。

アーサーとモードレッドが剣を構える。

 

「巨大蒸気機関アングルボダ。これは我らの悪逆の形ではあるが、希望でもある。ここでおまえたちの道行きは終わりだ。善は今、悪逆によって駆逐されるだろう」

「ほとほと御託が好きな連中だ。語るな。ここで終わるのは、おまえの命だ」

 

 

災厄ハンター なんでみんな顔色悪いのかな

ウルフ 日光を浴びてないから

災厄ハンター 先輩がそれ言うとマジレスなんすよ

 

 

「英霊モードレッド。円卓の騎士の十三人目にして、音に聞こえし叛逆の騎士か。おまえはこちら側にいるべき存在だと思ったが・・・」

「冗談!気色の悪いことを言うんじゃねぇ!」

「あなたが「M」?」

「私はマキリ・ゾォルケン。この魔霧計画に於ける最初の指導者である」

 

マキリと呼ばれる一族の出身。

どこかの世界では間桐臓硯と名乗ることになる、とうの昔に人間を止めた「蟲」である。

 

「この時代――第四の特異点を完全破壊するため、魔霧による英国全土の浸食を目指す、ひとりの魔術師だ」

『英国全土!?ロンドンだけじゃないのか!流石に、それは・・・難しいと言わざるを得ないぞ・・・』

「ロンドンのみの破壊では物足りぬ。この時代を完全に破壊することで人理定礎を消去する。それこそが、我らの王の望みであり、我らが諦念の果てに掴むしかなかった行動でもある」

 

・・・諦めてしまったのか。この男は。

諦めてしまったのだろう。この男は。

折れてしまったのだ。

 

「あなたはレフの仲間?」

「最早、語るに及ばず。アングルボダは既に暴走状態へと移行している」

 

魔力が立ち上る。

世界を覆い尽くすために。すべてに終焉が充ちるために。

 

「さあ、見るがいい。我らの望む英霊は、間もなく魔霧より現れ出でる」

「させるかよ。おまえを殺して、アングルボダを叩き壊す」

「・・・マスター、彼は人間だ。魔術師だよ」

「! サーヴァントじゃないの?・・・どうして?」

 

彼もまた、メディアのように敗北したのだろうか。

パラケルススのように、屈してしまったのだろうか。

己の限界を知って、立ち止まってしまったのだろうか。

それとも――――。

 

「無論。抗おうと試みた。だが、すべては無為と知った。私があまねく人々の救済を望んだとしても、既に、人々の生きるはずの世界は焼却されている。過去も、現在も、未来も、我らが王は存在を許さないと決めてしまった」

 

すべては未到達のまま滅びる。王の意のままに。王の手の中で。

誰も望んでいないのに!

 

「いいや、これ以上は言うまい。我らが王の力を以ておまえたちを消去する。最後の英霊を目にすることなく、おまえたちは死ぬ。破滅の空より来たれ。我ら魔神――」

 

マキリの姿が歪む。

現れしは、天を突き破るかのような肉の柱。世界を見下す赤黒い目玉。マキリ・ゾォルケンの中にある、醜さそのもの。

己が未来を見せられて、狂ってしまった男の末路。

 

「何だ・・・!?この気配、質量と魔力・・・!!」

「魔神の召喚・・・!これまでと同様です!」

「七十二柱の魔神が一柱。魔神バルバトス――これが、我が悪逆のかたちである」

 

人々を救わんがために肉体を捨て、しかしいずれは腐敗してしまうことが確定している魂の現し身。苦痛に耐えきれなかった妖怪の果て。

善を、他人を、己すらを、嘲笑う醜悪の極み。

 

「マスター!戦闘開始です!」

「うん!行こう!」

 

敵の目玉に魔力が集まる。地面を抉りながら襲い来る光線を、騎士達は避け、立香はマシュが守る。

モードレッドの剣に赤雷が集まった。轟いて肉柱に叩き込まれる。

のたうち回るように魔神が蠢いた。蟲が集るように魔力が吹き上がって、損傷した部位を修復していく。

 

「げぇ!?気持ち悪ぃ・・・!」

「蟲・・・?――っ!」

 

ギョロ。ギョロ。

凝視。

灼けるような熱さを感じて、マシュが苦痛の声を上げる。

 

「マシュ!?どうしたの!?」

「攻撃を・・・受けたようです。これは・・・火傷・・・?」

 

皮膚が爛れてふくれていく。

状態異常を付与されたようだ。・・・現代人には見なれないだろう。

 

 

守銭奴 グロいグロいグロい

フォースを信じろ キツイキツイキツイ

 

 

『立香、礼装で手当を!落ち着きなさい!』

「は、はい・・・!イシスの雨!」

「先輩・・・ありがとうございます・・・!」

「マシュ!来るぞ!」

 

一点集中で攻撃していた騎士達が、異変を感じて後退する。

バルバトスの十字の目玉から不気味な光が溢れだした。

何も救わない、何も肯定しない、ただただすべてを焼く魔神の権限。

 

「アーサー!モードレッド!」

「仮想宝具、展開――――」

 

騎士達が円卓の盾まで下がる。

マシュは気づいていないけれど、アーサーもモードレッドも分かっている。

そこにいる気高き存在を。それを受け継ぎ、受け止め、ここに立っている強き騎士を。

 

〈焼却式・バルバトス〉

 

地下を茹で上げる灼熱の閃光。

人間など一瞬で融かしてしまう死の熱線。

でも立香には、最高の騎士が付いているから。

 

疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)――――!」

 

アーサーは一瞬、目を奪われた。

今を生きる人々を守る、懐かしき白亜の城よ。

――ああ、ギャラハッド。そこに居るんだね。

 

「マスター、魔力を!決着を付けよう」

「わかった。――令呪をもって命ずる。アーサー、私たちに勝利を!」

 

これこそが、星を救う輝きの聖剣。

アーサーの周りに光の柱が現れた。

強力な武器というものは、ここぞという時に使うものだ。

 

「マシュ、見ていなさい」

「アーサーさん?」

「彼の勇者には及ばぬだろうけど。この剣をもって、君たちを助けよう。十三拘束解放(シール・サーティーン)──円卓議決開始(デシジョン・スタート)!」

 

 

災厄ハンター そのかっこいいのなに!?!?

ウルフ オイオイオイ詠唱最強かよ

 

 

「───承認。ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド」

 

 

海の男 マスソにもあれ付けて

ファイ サポート外です

 

 

「是は、世界を救う戦いである」

「承認」

 

 

うさぎちゃん(光) ところであの人だれ?

奏者のお兄さん 異世界のマーリン(女性)

 

 

光の柱が、承認に呼応して消滅していく。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)――――ッ!!」

 

両手で振り上げて、放出。

超高密度の光の断層による究極の斬撃。

眩く、しかし美しい金色の奔流が魔神を消し飛ばした。

 

〈オ、オオ、オオオオオオオオオ――――〉

 

この断末魔は誰のものか。

魔霧を吹き飛ばし、霊核ごと肉柱は消滅した。

後に残ったのは、倒れ伏すマキリだけ。

 

「まだ生きてんな。しぶとい奴だぜ」

「モードレッド」

「む・・・」

 

アーサーに諫められて、モードレッドはちょっとばつが悪そうな顔をした。

口の端から垂れる血もそのままに、マキリはゆっくりと起き上がる。

 

「・・・さあ来たれ。我らが最後の英霊よ。我が悪逆、完成させるに足る・・・星の開拓者よ・・・!」

「マスター!警戒を!何か・・・良くない感じがします・・・!」

「・・・汝、狂乱の檻に囚われし者・・・我はその鎖を手操る者――」

 

霧が揺らぐ。濃厚な殺意を纏って。

霧が呼応する。その望みに応えよう。

 

「汝三大の言霊を纏う七天!抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

血を吐きながら男は叫んで、そのままうつぶせに倒れた。

事切れたとわかっても、不気味な空気は消えやしない。

 

『マシュ!立香ちゃん!サーヴァントが来るぞ!』

『このレベルは・・・!大英雄クラス・・・!』

 

魔力が爆発した。

鳴り響くのは活性化した魔力か?雷が落ちたかのような光が地下を裂く。

 

「――私を、呼んだな」

 

暴風が吹き荒れる。

マシュをモードレッドが、立香をアーサーが抱えて距離をとる。

 

「雷電たるこの身を呼び寄せたものは、何か。天才たるこの身を呼び寄せたのは、何だ?叫びか。願いか。善か。悪か」

 

崩れ落ちていく地下空間。

地に降りしは星の開拓者。

 

「なるほど――。今こそ、それらのすべてが私を呼び付けたと言う訳か。この私を。天才にして雷電たる、このニコラ・テスラを!」

 

 

銀河鉄道123 陽気なお兄ちゃんだな

いーくん 陽気とかいうレベルか?

 

 

「なかなかに面白い。碩学たちが揃いも揃って私を呼ぶか!人類に新たな神話をもたらした者!インドラを超え、ゼウスさえも超えるこの私!」

『立香ちゃんたちに気づいてない?』

『気づいてないっぽいわね・・・』

「ハハハ――ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

この堂々とした美男子こそ、電磁を制した天才科学者。

現代を電気を中心とした機械文明として捉えれば、その礎を築いた人物と言えるだろう。

 

「面白い!我が哄笑をもたらしたぞ、碩学ども!私は天才であると同時に奇矯を愛する超人である!ならば、良かろう!お前たちの願いのままに!天才にして雷電たる我が身は地上へと赴こう!ハハハ!ハハ――はははははははははははははははははッ!!」

 

マキリの詠唱によって狂化スキルに似た効果を付与されているようだが、それはそれとして尊大なのは元々のようだ。

高笑いをしながらテスラは進む。

崩壊した空間を抜け、地上への移動を開始した。

 

 

銀河鉄道123 そういえば初代様は?

いーくん 出るタイミングを逃してる

 

 

とりあえず・・・・・・テスラと接触しますね・・・

 

 

災厄ハンター 雷無効のアイテム使います?

 

 

ラバーシリーズはきみしか似合わないし、雷鳴の兜は大事に仕舞っておきなさい

 

 

災厄ハンター はぁい



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協和音に酔う 午前零時

星四はヘファイスティオンにしました。


雑然とした地下通路。閉所に響く、いかづちの轟き。

地上へ向かって歩みを進めていたニコラ・テスラは、行く先を阻むように立つ人影を認めて足を止めた。

 

「・・・・・・うーん。これは」

「おや、そこに居るのはサーヴァントかな?私の眼前に立ち塞がるということは、少なくとも味方ではあるまい。大変申し訳ないが、突破させていただこう」

 

金色の佳人が、難しい顔をして首を傾げた。

構わず魔霧が雷を帯びる。腹の底を重く響かせる音が、敵対者を威嚇した。

人間なら優に致死するほどの雷電が、周囲に爆発的に広がっていく。

 

「見たまえ!これが魔霧の活性化というものだ。サーヴァントの魔力さえ際限なく吸い込もう!」

「なるほど。なるほど・・・。―――宝具」

 

宝具が来る!

テスラは警戒レベルを上げて腕を構えた。武器を持っていないということはキャスターなのかもしれない。いや、アサシンの可能性もある。

 

「さあ、冒険を始めよう。約束はこの魂に。雲海の向こう、閉ざされた大地。翼を広げて飛び立つために、ぼくらは勇気を示すでしょう。天際から物語は幕開く(ファースト・アクト・バラッド)!」

 

空がうまれた。

否、空が現れた?

蒼穹がテスラを見下ろして、服を翻す天つ風。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

魔の手の及ばぬ遠い雲海の彼方、が顕現する。

都市を支えていた聖剣の所有者であり、『スカイロフトの守護騎士』と呼ばれる大空のリンクが使える結界宝具だ。

見たことないけど知っている。誰だってこの場所を知っている。天空都市・スカイロフト!

見渡せば目に飛び込む色とりどりの風景。味気ない文字ではなく、語られる小説の一編でもなく、本物の(・・・)・・・!

 

「ここはぼくの生きた世界。外部とは遮断されているから、大人しくしてくれると嬉しいな」

 

耳をくすぐる麗しい声。考える前に振り返った。佳人の魔法は解けている。

あの空と同じ、青い瞳。風に揺れる緑の衣。背中に背負う退魔の剣・・・!

 

「ちょっとぼくと話・・・うわ!?」

 

余りにも俊敏な動きだった。

テスラがしゅばっと近づいてきて肩を掴む。

 

「えっ。・・・あの・・・」

 

ぺたぺたぺたぺた。

全身を検分するように触れられる。

 

「・・・テスラくんはどうしたのかな?」

「・・・美しい」

「ありがとう?」

 

頬を包んでじぃ・・・と眺められた。背が高いな~。

これでちょっとでも下心が出ていたら腕をへし折っていたが、どうもそういう感じではなさそうだ。

研究者が資料を調べるような、他人の発明品を臨検しているような、異様な気迫を感じる。

 

「これが・・・最も旧き神話の勇者か。世界を繋ぐ星の英雄。人に寄り添い戦う者。なるほど、聞きしに勝る偉大さだ」

「落ち着いた?」

「嗚呼・・・。申し訳ない、取り乱してしまった。・・・・・・ハッ!!ちょっと待て、これは・・・私が(・・)終焉の者ポジションか!?」

 

冷静になったと思ったら大仰に肩を跳ねさせ、ふらふらと膝を着いた。だんだんオモロがはみ出てきている。

 

 

銀河鉄道123 碩学タイプはこうなるのか

いーくん パラケルススを記憶から消すな

銀河鉄道123 パラPは魔術師でもあるから・・・

 

 

「ニコラ・テスラ。確かに君の雷は強力だ。その魔霧もね。でも、ぼくなら完封できる。知っているだろう?」

「・・・! ハイリアの盾に、マスターソードか。確かに雷は貴方に効かない」

「まあそれを差し引いても、彼の恐ろしいところは魔族の王たる怪力と剣術だったけどね」

 

リンクはベンチに腰掛けて一息つく。隣を指でトントンと叩けば、首をブンブンと振って拒否された。ダメなの?

 

「座っていいよ?」

「雷霆を御した偉大なる君よ。我が身は大空に届いただろうか」

「ふむ?」

「かつて雷は神の領分であった。しかし私が、地上に顕した!この天才たる私が!」

「存じているとも。きみこそ偉大だ。雷電博士」

 

新たな神話を以て、新時代、新文明を築いたテスラといえど、尊敬するものはある。畏怖の念をいだく者はいる。

いかづちの雨降る天空で、神たる邪悪に立ち向かった勇者。人は、神に勝てるのだ。彼が手にした雷電の、その輝きたるや!

 

「天も地も気に食わないが、貴方は紛うことなき人の英雄。旧き時代と神話に別れを告げ、大地に降りた貴方達に私は敬意を抱こう」

「光栄だ。そしてきみもまた、神話から巣立った星の開拓者であろう。その華麗なる功績、たしかに()に届いているとも」

 

・・・届いたのか。

ならば、ならば、やはり私は間違っていなかった!交流こそが素晴らしい!

夢破れて、ひっそりと事切れたあの最後でさえ。今日この日の祝福のためだったのだ!

 

「誇りなさい。きみの技術は、遙か未来まで生きている」

「貴方こそ・・・・・・。貴方と、貴方の魂が始めた物語は、遙か未来にまで勇気を届けた。お会いできて光栄だ。大空の勇者よ」

 

固く握手が交わされる。

いつの間にか狂化はすっ飛んでいた。狂っている場合ではないので。

 

「それで、どこまで話したっけ。・・・そう、だからきみを力尽くでどうこうするのは、すこしハンデが大きすぎるかと思ってね」

「ふむ。確かに私は生まれながらの戦士ではなく。あくまで天才であり、雷電である」

「不本意な狂気に浸されていても・・・、あれ?解けてるな?・・・きみは人類を愛する英霊だろう。だから、取引をしよう」

「取引?」

 

ばさり、ばさりと翼の音。上空から落ちる大きな影。

天を見上げれば、目に眩しい紅い羽根。思わずテスラは呆然とした。神の鳥・・・!

 

「ロフトバード!!」

「おっと待て待てストップストップ。お触り禁止です。食いちぎられるよ」

『不敬な人間だな。私に触れて良いのは女神とリンクだけだ。弁えよ』

 

 

災厄ハンター とり!

ウルフ セコムじゃん

銀河鉄道123 赤福

うさぎちゃん(光) とりっぴい

りっちゃん べにまる

騎士 赤福!?!?!?

 

 

ロフトバードが口を開けば、余計に瞳を好奇心に輝かせた。らんらん。

無邪気な子供のようにそわそわとしているテスラに、あのリアクションは興奮してただけか・・・とリンクは苦笑した。尊大で自信家な性格なため、感動が追いついてくるまでに時間がかかっていたようだ。

愛鳥を撫でてやりながら、話を続ける。

 

「きみを倒すのは、カルデアのマスターが相応しい。でも、その魔霧は少し邪魔だな。このアゾット剣で吸収しておきたい。もちろんタダとは言わないさ」

「・・・貴方が?私に・・・?施しを・・・?」

「交渉!交渉だからね!脳がバグった顔しないで!」

 

発言が飲み込めなくて挙動不審になってしまった。しかしテスラは天才なのですぐに立ち直る。

 

「きみは碩学。叡智を誇るもの。ならば、シーカーストーンに興味はない?」

「・・・・・・・・・シーカー・・・ストーン・・・・・・だと」

「見せてあげるから、魔霧を弾かせてほしい」

「それで・・・足りるのですか・・・・・・?あらゆる碩学が夢を見た伝説の遺産・・・。超超超高性能な叡智の端末・・・。本当に・・・?」

 

顔を覆ってしまった。まだ出してもいないのに。

やはりこの手の英霊にはアイテム系で攻めるのが効くようだ。心のメモに書いておく。

 

 

というわけで息吹、カモン!

 

 

「ご指名ありがとうございまーす☆ 息吹の勇者です♡」

「ウワーーーーーーッ!!!!」

「大きな声が出たね」

 

 

騎士 大地、赤福って何だ

銀河鉄道123 赤くてふくふくしてるから

いーくん この流れで伊勢名物の方じゃないことある?

 

 

「息吹の勇者・・・。知、勇、力すべてを携えた英傑のリーダーにして、伝説を幕引いた末代の勇者・・・!」

「そうだぜ!!もっと褒めてくれていいぞ」

「英傑の服・・・!」

「いいだろ。お気に入りだ」

 

むっふん、と胸を張れば膝に力の入らなくなったテスラが完全に立てなくなった。

太陽の下でのびのび育ったタンポポのような、輝く髪。吸い込まれそうな瑠璃の瞳。緑ではなく、冴えた青色の戦闘服。

トライフォースを巡る長い因果を終わらせ、姫と英傑たちと一緒に時の女神から神託を受け「ゼルダの伝説」という小説を書き上げた語り部であり作家。古代シーカー族の遺産であるシーカーストーンと神獣「マスターバイク零式」の所有者だ。

 

「シーカーストーンが見たいって?ほら、初代様が言うから特別だぞ」

「アワワワワ」

「この画面がマップ。こっちが図鑑。シーカーアイテム」

「ねえテスラくん泣いているけど大丈夫??」

「う゛ぅ・・・ひっ、く・・・・・・。なんという叡智・・・。これが・・・電気を使わずに動いているだと・・・?」

 

嗚咽を漏らしながらも、息吹が操作するのをしっかりガン見している。テスラは根っからの発明家であった。

 

「触ってもいいぞ。バクダンには気をつけろよ」

「エッ!?!?!?いいいいのだろうか!?いくら私が人類史上最高峰の天才であったとしても!!こんな幸運が許されるのか!?!?」

「おもしれー男だな。俺がいいって言ってるんだからいいの」

 

震える手でシーカーストーンを受け取り、覚束ない手つきで操作し出す。

ずっと欲しかった玩具を与えられた子供のように、喜悦を隠せない顔で。

息吹の時代ですらオーパーツとして扱われていた、魔術と技術を詰め込まれた情報収集器。魔術に関心のない科学者ですら、これは知りたい(・・・・)と追い求めた。これを作りたいと人生を注いだ。

 

「・・・夢のようだ。これは、マスターバイク零式・・・?なんと荘厳な佇まい。神獣の王よ・・・!」

「(あれって神獣の王なの?)」

「(なんかそういうことになってます)」

 

導師ミィズ・キョシアから伝授された、最高傑作の神獣。勇者(リンク)の為に作られた、ユニコーン型の乗り物だ。

バイク・自転車の源流であり、動物を使用しない移動方法としては革命的な存在だった。息吹もしょっちゅう乗り回している。

 

「大空よ、差し支えなければ聞いて欲しいのだが・・・」

「ん?」

「クローショットやビートルを見せてもらうことは可能だろうか・・・?あれらも確か、古代の遺物、神器だろう。今後の為にも、是非・・・・・・」

「いいよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

濃い魔霧によって活性化した魔本たち。吸い過ぎて成長したホムンクルス。

行く手を阻む敵を捌きながら、立香たちもなんとか地上に辿り着いた。

見上げる空は泥のように黒く、気分が沈むほど汚れている。

 

「――マスター、前方に確認。ニコラ・テスラとキャスターさんです!」

「来たか!未来へ手を伸ばす希望の勇者たち」

「よかった。みんな無事だったんだね」

 

バッキンガム宮殿の上空へ続く大雷電階段(ベルクナス・ラダー)。その中腹で相対している、サーヴァントは二人。

 

「邪魔そうな魔霧は剥がしておいたから、後はよろしく。ぼくは流石に疲れた・・・」

 

キャスターの持つアゾット剣が、漏れ出る魔力で帯電している。

どうやらテスラの防御を吸収してくれたようだ。ありがたく交代する。

 

「よき技を見させて頂いた。美しきキャスターよ。だが、哀しいかな。活性魔霧がなくとも私の操る雷電はあまりに強力だ」

 

力を削がれたというのに、まったく焦る様子を見せない。

むしろ、妙にやる気に充ちているような・・・?

 

「何故なら、私は天才だ。何故なら、私は雷電だ。神とは――。神とは何だ。そう、雷だ」

 

終焉の者。主神ゼウス。帝釈天(インドラ)。空より来たる神なる力。

 

「見るがいい。私が地上へ導いたこの輝きこそ、大いなる力そのものだ!新たなる電気文明、消費文明を導きしエネルギー!旧き時代と神話に決定的な別れを告げる、我が雷電!其は新たなる神話!其は人類にもたらされた我が光(・・・)!」

 

 

フォースを信じろ やる気まんまんマン

 

 

この不安定な足場での戦闘。ギラヒムを思い出すな・・・

 

 

「ご覧に入れよう!――人類神話・雷電降臨!」

 

テスラの右手に電磁気が発生した。

宝具の電磁操作能力によって電磁投射をおこなうのが、テスラの戦闘スタイルだ。この遠距離攻撃の存在が、本来は弓や射撃武器を用いる英霊ではないテスラをアーチャーたらしめている。

突き穿つ槍の如く、電磁気が敵対者を射貫かんと放たれた。アーサーとモードレッドは飛び退き、立香はマシュに守られる。

 

「オラッ!」

「はあっ!」

 

クラレントが唸り、エスクカリバーが追撃せんと迫った。鋭い太刀筋はテスラの展開した防御に阻まれる。

これにも電気が通っているようだ。近づいた瞬間走る、静電気を超えた痛み。下手に身体に触れたら感電するかもしれない。

 

「っはははは!まさかそこなる少女はモードレッド、そしてアーサー王か。折角だ、地の英霊はすべて砕く!旧時代の神話になど負けはせん!」

 

手を天に掲げる。放電、篠突くが如く。

音速よりも速く落ちてきた雷電を、モードレッドは不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)で防いだ。

両手に電磁気を纏ったテスラがアーサーに突進する。足を踏ん張って受け止めるが、衝撃で階段の端まで押されてしまう。

 

「痺れるぞ、耐えてみろ!」

 

ふわりとテスラが浮き上がった。風を受けて翻るコート。飛び出すマシュの身体は軽く。

全力で放たれた放電は堅牢の盾に阻まれる。ここが地上だったら、地面が抉れているほどの衝撃。

目が眩むほどの光が溢れて、立香は思わず腕で顔を覆った。

 

「チッ!やりづれえったらありゃしねぇ」

「あの雷を超えないとダメージが入らないようだ。マシュ、行けるかい」

「はい!」

 

エスクカリバーが魔力を収束した。踏み込みは強く、テスラに接近する。

 

「いかなる敵も、斬り伏せてみせるとも!」

「何の!こういうのもある!」

 

テスラの右手から電気の弾が発射された。拳銃よりも大きく、派手な散弾は迫るアーサーを阻む。

 

「くたばりやがれ!」

「ぬぐっ・・・・・・!」

 

背後に回っていたモードレッドが赤雷を叩きつけた。テスラの防御が吹き飛ばされるが、この程度で怯みはしない。

 

「はぁっ!」

「ああ!?てめえっ・・・!」

 

放電。爆音。うねる稲妻の嵐。

接近していた騎士達を弾き拒む電閃。

 

「やああっ!」

「! なる、ほど・・・・・・ッ!」

 

しかしスキルで無敵状態になったマシュの足は止まらない。

身体を劈く雷なんのその。重い盾の一撃がテスラに直撃する。返す刀で二撃目。体勢を崩したテスラが吹き飛んだ。

 

「ははっ・・・。ふはははははははァ!」

「させません!」

 

右手に集めた電磁気を振るう腕で投射した。発生するは空気を切り裂く迅雷。

強大な雷の刃はマシュに防がれる。魔力放出で階段を跳び越えてきた騎士達に、敗北を悟った。

 

「終わりだ」

「赤き竜の(しるし)よ」

 

胸を貫く邪剣。霊核を砕く聖剣の閃光。

崩れ落ちるテスラの身体。

 

「――敵性サーヴァント、撃破しましたっ!」

「残念だったな、ニコラ・テスラ!」

「はは・・・!ははは、はははははははははは・・・・・・!!」

 

ずっと聞こえていた音が消える。空気を振るわせ続けていた電気が止んだからだ。

リンクの後ろに庇われていた立香は、ほっと息を吐いた。

 

「いいや、そう残念と言う訳でもなかろうさ!私は紛うことなき星の開拓者なれば!真に、人類と世界の終焉など望むことはないとも。天と地の英霊は未だ以て邪魔ではあるが――――世界の存続は我が雷電文明の存続に他ならない!礼を言おう、新たな神話を望む者ども!」

 

相変わらず尊大で大仰な振る舞いで、しかし優しい目を浮かべながら、テスラは感謝の意を示した。

 

「希望の勇者たちよ!我が文明の恩恵を受けし、輝かしき子供たちよ!その道筋に、大いなる雷電の加護があらんことを!」

「――うん。またね、テスラ」

「ああ、また会おう!星見の魔術師よ!――――さらば!」

 

 

お疲れ様。テスラ博士

 

 

銀河鉄道123 最後まで元気いっぱいだったね

いーくん なんかアイツのこと好きになってきたな・・・

 

 

『ニコラ・テスラの消滅を確認。よし、お疲れ様。これで事態は収拾するはずだよ』

「この足場は彼の魔力によって形成されていましたから、じきに存在が不安定になるものと予想されます」

「じゃあさっさと降りるか」

「あとは聖杯を回収するだけかな」

「うん。アングルボダに戻らないと――――」

 

落雷が緩んだ空気を突き破った。

轟音がロンドンを揺らし、幕引きを拒む。

 

『!?』

「なんだぁ!?」

「今度は何!?」

 

 

おやおやおや

 

 

災厄ハンター おやおやおやおや

りっちゃん もう一回遊べるドン!

うさぎちゃん(光) 喜ぶカッ!

海の男 どんちゃんに殺意を抱いたのは初めて



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簡単なことも分からないのね

新素材止めろォ!!!!!!!(シャルルマーニュを引いたけど再臨できない芸人)


『高密度の魔力反応を確認!バッキンガム宮殿上空です!』

『集積した魔霧が集まって雷雲を形成している・・・!?総員警戒!!』

 

天を見上げる人々を、冷たい目で見下ろす者がいる。

太陽の輝きを失ったような、鈍い色の金髪。夜闇にただ1つ君臨する、月の如き瞳。

黒き鎧に身を包んだ、その人こそがブリテンの王。

 

「―――――」

「・・・・・・ッ!!」

「・・・あれは・・・いいえ、彼女は、まさしく・・・・・・アーサー王・・・!」

 

アルトリア・ペンドラゴン・オルタ。

渦巻く漆黒の長槍を手にし、敵対者を屠らんと殺意を向けた。

 

『残った魔霧の殆どを吸収しながら現界している!まずいぞ、この魔力量は・・・!』

「・・・なんて、禍々しい魔力」

「魔力・・・感じるの?」

「はい、わかります・・・。魔霧があっても感じ取れるほどの巨大な魔力が・・・」

 

ニコラ・テスラの時と同じく、盲目的な狂気を感じる。

もっともテスラの時と違って、対話は不可能のようだが。

 

「どうして・・・今更、貴方は現れるんだ。ロンディニウムを救うのなら、もっと、早くに・・・・・・」

「・・・・・・ロンディニウムを救う為に来たわけではないだろう。あれは嵐。すべてを平等に粉砕する災害」

 

モードレッドの言葉に返事を返したのはアーサーだった。

魂の同じ他人を見据える目は厳しく、剣を握る手に力が籠もる。

 

『というかあの槍は・・・まさか・・・、聖槍ロンゴミニアド・・・!』

「世界の表層を繋ぎ止める神造兵器。ある意味、聖剣よりも厄介だ」

「やるしか、ない?」

「ああ、やるしかねぇ。父上に、このオレが、背中なんざ向けられるかよ」

 

鳴り響く雷鳴に囲まれて、再びの戦闘が始まる。

ランサーの掲げた槍から楔が外されていく。標的を見据えた聖槍は、禍々しい魔力を解放した。

巻き上がるは暴風。うなりを上げるは王の愛馬。最果てにて輝く光の力は、今、すべてを破壊する。

 

「来るぞ!」

「マシュ!」

「はい!仮想宝具、展開――」

 

穂先が回転し、風王結界を纏う。極限まで増幅、極大で出力。

すべてを噛み砕け。十三の牙。

 

疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)――――!」

 

赤雷を伴って発射された、聖槍の威力は絶大。

大雷電階段(ベルクナス・ラダー)の中心でマシュはそれを受け止めた。余波は向かい風となりて、立香たちを襲う。

 

「ぐぅ・・・!」

「チッ・・・」

「立香!僕の方へ」

 

アーサーに手を引かれて懐に仕舞われた。

めちゃくちゃに荒れる髪が攻撃の激しさを表す。踏ん張るマシュの足が徐々に押し返されていく。

あらゆる防御を無視する聖槍は、カルデアの守護障壁すら砕かんと唸る。

 

「う、うううう、ぐ――――!」

『マシュ!マシュ!頑張って!』

『聖槍の威力が増していく・・・!?マシュ!』

 

オルガマリーの声が、ロマニの声が、鼓膜を貫く雷の向こうで聞こえる。

マシュは一瞬、世界に自分しか居ないような錯覚に陥った。

 

「――令呪をもって命ずる」

 

――――いいえ、いいえ。一人ではない。

あの日からずっと、わたしの魂の側には貴女がいるのです。

 

「マシュ、私たちを守って!」

「ああああああああーーーーー!!」

 

牙を折れ。十三番目の盾。

その心が折れぬのなら、その守りも決して崩れぬ。

轟音が耳を劈き、弾けた赤雷がロンドンの空を照らす。静寂は一瞬。

 

『・・・・・・やった』

「油断するな!まだだ!」

「立香、大丈夫だね」

「うん。ありがとうアーサー」

 

黒馬が歩みを開始した。ゆっくりと階段を降り、射程圏内まで近づいてくる。

宝具を防がれたというのに、王の瞳は微塵も揺るがない。暴虐をもたらすために槍を構え直した。

 

「(ナーサリー)」

「(ええ。マスター(・・・・))」

 

けれど、嵐は止むものだから。

傍観していたリンクが呟く。

ひらりと舞い降りたのは小さなクイーン。絵本という名の女王様。

 

「ナーサリー?」

「ご機嫌よう。嵐の王(ワイルドハント)。わたしは誰かの為の物語(ナーサリー・ライム)。一緒に遊びましょう?」

 

頁は捲られた。

これは貴方が夢見た物語。

これは貴方が目指した物語。

 

「―――――ぁ」

 

そう溢したのは誰だろう。

高い高い空が見える。いつの間にか、全員が地面に立っていた。

 

「ここは、」

『フィローネ地方フィローネの森!!!』

『喧しいぞギルガメッシュ!!』

 

だそうです。

 

「繰り返すページのさざ波、押し返す草の栞――全ての童話は、お友達よ」

 

固有結界そのものがサーヴァントと化したもの、それがナーサリー・ライム。

マスターの心を鏡のように映して、マスターが夢見た形の疑似サーヴァントとなって顕現する。現在はリンクと契約しているが、アンデルセンに名付けられた事によって、彼女はかつてのマスターの姿を取ることを選んだ。

それでも、リンクの心象を映し出して宝具に組み込む事くらいは出来る。

 

「ブリテンの王様。どうしてその姿を選んだの?」

「・・・・・・・・・・・・」

「わたしはありすが好きだから。ありすのことを覚えているから。貴方はどうして、人間のまま(・・・・・)なの?」

 

完全な聖槍の女神へと転じる直前に、嵐の王として黒き暴虐であることを選択した。

聖槍の女神ではなく、人間アルトリア・ペンドラゴンとして在り続けることを選択したアーサー王。

それはどうして?

ねぇ、覚えてる?

 

「大人になったから忘れちゃった?世界のすべては明確に、すべての世界は残酷に、貴方の瞳を覚ましたかしら」

「・・・・・・・・・・・・」

「でも物語はここにある。現実を拒んでも、悲しい読み手でも、表紙を捲れば、ほら!緑の風が吹いているわ!」

 

キュイ族が駆けていく。

水龍フィローネが空を泳ぐ。

森の奥から、聖なる気配を感じる。

初めてこの世界を垣間見たときの、あの興奮を覚えてる?

リンクはずっと覚えている。大地を踏みしめて歩んだ、冒険の始まりを――――。

 

「――――――――あぁ」

 

感じ入った声。

郷愁が胸をよぎって、凍てつく瞳が解けていく。

大嵐をも受け止める大空の世界で、ランサーは僅かに微笑んだ。

 

「何故、だと?決まっている――――」

 

狂気が剥がれ落ちた。

故国のために戦い続けた、騎士王が此処に帰ってくる。

 

「世界を、運命を、変える権利があるのは、今を生きている人間だけだと。そう言った彼らを信じている」

 

アーサーが剣を降ろした。

モードレッドは黙って、言葉を受け止めている。

 

「我が身は大鴉の化身。ハイラルを象徴する大翼の勇者のように、このロンディニウムを守護する者である。だから、嗚呼・・・。このような現界は、本意では無い」

 

ランサーの身体がエーテルに戻っていく。自主的な退去を始めたようだ。

 

「・・・・・・迷惑を掛けました。魔術師達よ。次に相見えるときは、敵でないことを願いましょう」

 

絵本は閉じていく。小説は語りを終える。されど意志は永遠に続く。

一項目に戻すように、あるいは二巻目を手に取るように。

勇気を与えられた読み手達が、世界を生きるかぎり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たった今、Dr.ロマンから連絡があったよ。作戦は成功だ!地下のアングルボダから聖杯を取り外すことに成功したそうだ」

 

ジキルのアパルトメントはすっかりひとけがなくなっていた。

落雷の雨はとうに止み、暗雲が徐々に薄れていく。

 

「・・・・・・ウゥ・・・・・・」

「あれ、君だけ?ナーサリーはキャスターに付いていったけど、隣の部屋のアンデルセンとシェイクスピアは――」

「・・・ウ」

「ああ、そうか。それはそうだね。聖杯の回収。特異点の修正。それなら、うん」

 

この部屋はこんなに静かだっただろうか。

いつの間にか、あの騒がしさに慣れてしまっていた自分が居る。

 

「時代は正しく修正される。今までの異常事態も出来事も何もかも、消える。すべてのサーヴァントたちは消えて、僕たちの記憶だって修正されてしまうんだろうね」

「・・・ゥ、ゥ・・・ァ・・・・・・」

「ああ・・・うん。そうか。今だけはなんとなく、僕にも君の言葉がわかる気がする」

 

お菓子を勝手に食べるサーヴァントも、紅茶にケチをつけるサーヴァントも、ソファを占領するサーヴァントも、もう居ない。

 

「・・・ゥゥ・・・・・・」

「・・・ああ、そうだね。少し、寂しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、何だ。お疲れさん。おまえたちのお陰であれこれ助かったぜ」

「ロンディニウムは救われた。僕からも御礼を。ありがとう、カルデアの善き人々たちよ」

 

特異点は徐々に修復されていくだろう。

湿っぽい別れはしたくなくて、モードレッドは笑顔を浮かべる。

 

「おお、そちらが噂のアーサー王ですか。うーむ、主役が栄えそうな美青年!」

「叛逆の騎士殿は相手に絆されやすいな。それとも、異世界とはいえ親が居るから猫を被っているのか?」

「・・・全部終わってからノコノコやってきやがって。いいぜ、そこに並べ。そろって首を落としてやるよ」

 

ぽてぽてと歩いてきて余計なことをくっちゃべる作家共に、モードレッドがにっこりと笑いながら剣の柄を掴んだ。

 

「安心しろ。同時に仕留めてやる」

「保護者の方ー!お宅のお子さんがー!」

「おい保護者。ちゃんと叱っておけ」

「モードレッド、止めなさい。それはそれとして君たちの方にも非があるよ」

 

最後まで賑やかなパーティだ。大団円には相応しい。

立香もマシュも、管制室の職員達も、気の抜けた笑みを浮かべてやり取りを見守っている。

その隅でこっそり胃痛がしそうな顔をしてナーサリーを撫でているのは、リンクだけであった。

 

 

奏者のお兄さん プレッシャーを感じてる

騎士 かわいそう

 

 

『――・・・待った、なんだこの反応・・・!?みんな気をつけて!』

「ドクター?」

 

とっぜん緊張感を持って告げられた言葉に、マシュが戸惑いを返す。

直感の優れたアーサーとモードレッドが次に反応した。・・・何だ、この悪寒は?

 

『地下空間の一部が歪んでる!何か(・・)がそこに出現するぞ!サーヴァントの現界とも異なる不明の現象だ!・・・いや、これはむしろレイシフトに似てるか?」

『そんなはずないわ!カルデア以外にこの技術があるものですか!』

 

オルガマリーの上擦った声が聞こえる。管制室が一気に騒がしくなる。

不安が募った立香は、思わず辺りを見渡した。

 

「え・・・先輩、ヘンです。何も異常はないのに、寒気が――凄くて――」

『・・・空間が開く!くるぞ!』

 

 

空間が歪む。

世界が軋む。

 

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国神祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。多少は使えるかと思ったが――――。小間使いすらできぬとは興醒めだ」

 

 

膨大な存在が降り立つ。その場の空気を掌握する。

 

 

「下らない。実に下らない。やはり人間は、時代(トキ)を重ねるごとに劣化する」

 

 

“それ”は笑う。矮小さを指さして。

“それ”は嗤う。すでに見限った人類を。

 

 

『ああクソ、シバが安定しない、音声しか拾えない!どうした、何が起きたんだマシュ!?』

「わ、わかりません。ヒトのような影がゆっくりと歩いてきて――」

「・・・下がるんだ、マシュ。立香の側から離れないで」

 

まるでこの場にいることがエラー(間違い)かのようだ。

危険、という言葉では表し尽くせない。不吉な何か。

 

「――オイ、なんだこのふざけた魔力は。竜種どころの話じゃねえぞ。これは、まるで――」

「伝え聞く悪魔、天使の領域か。いや、それでは足りますまい。このシェイクスピア、生粋の魔術師ではありませんが、キャスターの端くれとして理解しました」

 

無尽蔵とも言える魔力量。

存在するだけで境域を圧し潰す支配力。

 

「まさに、まさに神に等しい創造物!というか神そのもののような気さえします!そうですな、我が友アンデルセン!我々、そろそろお(いとま)したほうがよろしいかと!」

「貴様はどうしてそう大げさなんだ。だいたい神といっても種類があるだろうに。俺が怖いのは編集の神だけだ」

 

さすが、月の聖杯戦争ではラスボスのサーヴァントをやっていただけはある度胸だ。

シェイクスピアは完全に逃亡の体勢に入っている。

 

「・・・・・・まあ、逃げの一手には賛成だが。まさか、本命がこの段階でやって来るとはな」

『本命!?本命ってどういう事だ!?立香ちゃん、状況を報告してくれ!』

「ほう、私と同じく声だけは届くのか。カルデアは時間軸から外れたが故、誰にも見つけることのできない拠点となった」

 

だからこそ生き延びている。

 

「だからこそ生き延びている。無様にも、無惨にも、無益にも」

 

魂を振り絞って。誰に笑われようとも。希望と勇気を灯しながら。

 

「決定した滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海に漂う哀れな船だ。それがおまえたちカルデアであり、藤丸立香という個体。燃え尽きた人類史に残った染み。()の事業に唯一残った、私に逆らう愚者の名前か」

「――――ドクター。いま、私たちの前に現れようとしている、のは――」

「・・・貴方が、レフの言っていた“王”?」

「ん?なんだ、既に知り得ている筈だが?そんな事も教わらなければ分からぬ猿か?」

 

白い髪。褐色の肌。絢爛な衣装。

きっと、貴い身分のヒトだったのだろう。

 

「だがよかろう。その無様さが気に入った。聞きたいのならば応えてやろう」

 

すべてを見下し、蔑む笑みを浮かべていなければ、少しは気品を纏えたものを。

 

「我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの」

 

“それ”は名乗る。星の自転を止め、世界を滅ぼすもの。

 

「名をソロモン。有象無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

 

ウルフ テメェか

災厄ハンター ふーーーーーん

奏者のお兄さん 中身違うだろ。大言吐くな

いーくん ほんとだ。肉体と中身別人だな。

Silver bow 重犯罪者がよぉ・・・

海の男 血の気が多いよ~~

 

 

『ソ――ソロモンだって!?確かにそう名乗ったのか、マシュ!?』

「・・・・・・はい、間違いありません。確かにソロモンと・・・紀元前10世紀に存在した古代イスラエルの王と同じ名を名乗りました」

『そんな・・・本当にソロモン・・・。こんな、こんなバカなことが――――』

 

打ちのめされたドクターの声。

動揺、ざわめき、戸惑い、愕然。管制室は揺れている。

 

「ハッ、そいつはまたビッグネームじゃねえか。するってーと何だ。テメエもサーヴァントな訳か?英霊として召喚され、二度目の生とやらで人類滅亡を始めたってオチか?」

「それは違うなロンディニウムの騎士よ。確かに私は英霊だが、人間に召喚されることはない」

「なに?」

「貴様ら無能どもと同じ位で考えるな。私は死後、自らの力で蘇り、英霊に昇華した」

 

 

銀河鉄道123 自力で墓地から復活するな

フォースを信じろ ウチのシマじゃノーカンだぞ

騎士 これ本物のソロモンはどういう顔で聞けばいいんだ

 

 

『み・・・自らの力で、蘇っただって・・・!?』

「私は私のまま、私の意志でこの事業を開始した。愚かな歴史を続ける塵芥――――この宇宙で唯一にして最大の無駄である、おまえたち人類を一掃するために」

「そ、そんなことができるとでも・・・!?」

 

思わず反論した立香を鼻で笑って、ソロモンは続ける。

 

「できるとも。私にはその手段があり、その意志があり、その事実がある。既におまえたちの時代は滅び去った。時間を越える我が七十二柱の魔神によって」

『時間を越える・・・じゃああの魔神たちは本当にレメゲトンにある魔神だったのか・・・!?いや、でも伝承とあまりにも違う!ソロモン王の使い魔があんな醜悪な肉の化け物のはずがない!』

 

ある意味で――――それは正しい疑問だった。

ロマニの知っている魔神の集団は、もっとただのシステム(・・・・・・・・・・)だったから。

 

「哀れだな。時代の先端に居ながら、貴様らの解釈はあまりに古い。七十二柱の魔神は受肉し、新生した。だからこそあらゆる時代に投錨(とうびょう)する」

 

新生した魔神たちは、この星の自転を止める楔である。

天に渦巻く光帯こそ、ソロモンの宝具の姿。

 

「まさか・・・・・・あらゆる時代にあった光の輪は――――」

「そうだ。あれこそは我が第三宝具、誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)

 

あの光帯の一条一条が聖剣ほどの熱線。

アーサー王の持つ聖剣を幾億も重ねた規模の光。即ち――対人理宝具である。

 

「ち・・・父上の聖剣の何億倍の熱線――。それで人理を焼き払うってのか。テメエ!?」

「――――さて、その光景を見ることのない貴様に答える気はないな。そちらの質問には答えた。次はこちらの番だ、カルデアの生き残りよ」

「野郎、やる気だ・・・!構えろ!」

 

 

ウルフ やばくね?

災厄ハンター やばいですねぇ

守銭奴 やっぱ直接殺るしかないか・・・

 

 

「で、でも――あのサーヴァントには、決して――――」

『マシュ、しっかりするんだ!心を保って、しっかり敵を見る!どんな相手であれ、敵はサーヴァントなんだろう!?なら勝機はある!』

 

怖い。

身が竦む。

勝てるわけがない。

マシュの心を負の感情が覆い尽くしていく。

 

『君の中の英霊は聖杯に選ばれた英霊だ!英霊の格は決してソロモンにひけを取らない!』

「ハ――――英霊の格、だと?そんなものが基準になると本気で思っているのか」

 

毒々しい魔力。

禍々しい術式。

ソロモンとは、これほどまでに人間を憎んでいたのか?

 

「無知とは罪だな。それなりの知恵者かと思えば、貴様らの司令官は取るに足らぬ魔術師らしい。もはや私が気に留めるのは娘、その盾を持つ貴様のみだ」

 

マシュのことだ。

立香の背筋に冷たいものが走る。

 

「さあ、楽しい会話を始めよう」

 

そこからのことを、立香はよく覚えていない。

いや、覚えてはいるのだ。

ただあまりにも非現実すぎて、夢だと思ってしまいたいだけ。

地下を這いずり回る魔神の肉柱。戦闘とはとても言えぬ、一方的な殺戮。

あっという間にキャスター、ナーサリー、シェイクスピアが消えた。

 

「・・・ドクター、レイシフトを。このままでは全滅です・・・・・・!」

『それが、無理なんだ・・・!そいつの力場でレイシフトのアンカーが届かない!ソロモンがいるかぎり、キミたちを引き戻すのは不可能だ・・・!』

「・・・っ、こうなったら・・・せめて先輩だけでも・・・!」

「駄目だよ!マシュを置いてけない!」

 

英霊としての格より、出力そのものが違う。

魔術の祖と謳われた、その逸話は伊達ではない。

 

「王殺しのモードレッド。異界からきたアーサー王。貴様らは特に、念入りに燃やすとしようか」

 

攻撃がくる。

来る、という知覚が出来ただけで、防御は一切出来なかった。

 

「・・・ふざけているな。一度防いだだけでこれか。やはりキャスターでは貴様に刃向かえないか」

「クソガキ・・・!?テメエ、なにして――」

「気まぐれだ、気にするな。おまえには散々働いてもらった借りもあったしな」

 

モードレットへの一撃を防いだのはアンデルセンだった。

肉体労働嫌いは筋金入りのようで、うまく避けて生存していたらしい。

 

「・・・まだ生きていたか。物書き」

「ああ、読まなくてはいけないものがあったからな。そして――理解したぞ、ソロモン。貴様の正体、その特例の真実をな」

「ほう?いいぞ、語ってみよ即興詩人。聞き心地のいい賞賛ならば楽に殺してやろう」

 

興味が湧いたのか、肉柱の追撃が止まる。

上から目線にも程がある態度で、続きを促した。

 

「ああ、とくと聞くがいい俗物め。時計塔の記述にはこうあった。英霊召喚とは抑止力の召喚であり、抑止力とは人類存続を守る者」

 

彼等は七つの器を以て現界し、ただひとつ(・・・・・)の敵を討つ。

敵とはなにか?決まっている。我ら霊長の世を阻む大災害!

 

「この星ではなく人間を、築き上げられた文明を滅ぼす終わりの化身!其は文明より生まれ文明を食らうもの――自業自得の死の要因(アポトーシス)に他ならない」

 

そして、これを倒すために喚ばれるものこそ、あらゆる英霊の頂点に立つモノ。

 

「――――そうだ。七騎の英霊は、ある害悪を滅ぼすために遣わされる天の御使い」

 

人理を護る、その時代最高峰の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。

 

「もともと降霊儀式・英霊召喚とは、霊長の世を救う為の決戦魔術だった。それを人間の都合で使えるよう格落ちさせたものが、おまえたちの使う召喚システム――――聖杯戦争である」

「な――――オレたちが格落ち、だと・・・!?」

「挑発にのるなモードレッド。格の問題じゃない。これは器、顕現の問題だ。ヤツはただ単に、俺たちより一段階上の器を持って顕現した英霊にすぎない」

 

我らが個人に対する英霊(へいき)なら、アレは世界に対する英霊(へいき)

その属性の英霊たちの頂点に立つもの。即ち、冠位(グランド)の器を持つサーヴァント。

 

「そうだ。よくぞその真実に辿り着いた!我こそは王の中の王、キャスターの中のキャスター!故にこう讃えるがよい!――――グランドキャスター、魔術王ソロモンと!」

 

 

りっちゃん 自分大好きなのはよくわかった

うさぎちゃん(光) 別人なら自分でもなくない?ソロモンのことが好きなんじゃない?

海の男 ソロモンに対して大きめの感情を持ってる方ですか?

 

 

『グランドのクラス、だって・・・!?根源に選ばれた英霊とでも言うつもりか・・・!?』

「――さて、では褒美だ、受け取れ即興詩人。五体を百に分け、念入りに燃やしてやろう」

「アンデルセン!」

 

わずかな悲鳴を残して、アンデルセンも消えた。

 

「・・・テメエ」

「凡百のサーヴァントよ。所詮、貴様等は生者に喚ばれなければ何も出来ぬ道具。私のように真の自由性は持ち得ていない。どうあがこうと及ばない壁を理解したか?」

「っ――――・・・、は。ここまで四つも聖杯を奪われて、何を偉そうに。もう半分も立香にやられて、あわてて出てきたんだろう?負け惜しみにしちゃあみっともないぜ?」

 

モードレッドの煽りに、返ってきたのは憐れみの目だった。

 

「――人類最高峰の馬鹿か、貴様?四つもだと?違うな。すべてを破壊してようやく、なのだ。一つも六つも私には取るに足りぬ些事である。藤丸立香なる者が脅威などと、程遠い話だよ」

 

ため息一つ。踵を返す。

 

「では帰るか。思いの外時間をとったな」

「え?」

「はあ!?帰るって、テメエ一体なにしにきやがった!?」

「いや、単なる気まぐれだが?」

 

 

弾いたっっっ!!!!!!!完!!!!!!!

 

 

騎士 よし

奏者のお兄さん やったぜ

小さきもの 勝ったわ風呂入ってくる

 

 

「ひとつの読書を終え、次の本にとりかかる前に用を足しに立つ事があるだろう?これはそれだけの話だ」

「なっ・・・小便ぶっかけにきたっつうのか!?」

「――――――、は。ハハ、ハ、ギャハハハハハハハハ・・・・・・!」

 

 

フォースを信じろ 結局アレ?アヴェンジャーくんの活躍?

 

 

アヴェンジャーくんに視線を合わせないように伝えて貰って、ソロモン(仮)の視界もいじった

 

 

フォースを信じろ 大活躍じゃん

守銭奴 ソロモン(仮)くんは格上の魔術師に会ったことがないんだね

 

 

「その通り!実にその通り!実際、貴様らは小便以下だがなァ!私はおまえたちなどどうでもいい。ここで殺すも生かすもどうでもいい」

 

「だが――ふむ。だが、もしも七つの特異点をすべて消去したのなら。その時こそ、おまえたちを、“私が解決すべき案件”として考えてやろう」

『助かったのか・・・のか?見逃されるのは癪だけど、ここは黙って――――立香ちゃん!?』

「貴方、どうしてこんなことするの?世界を燃やすのが楽しいの?」

「先輩・・・!」

 

ソロモンが振り返る。

意外そうに、面白そうに。

 

「楽しいか、と問うのか?この私に、人類を滅ぼす事が楽しいかと?ああ――無論、無論、無論、無論、最ッッ高に楽しいとも!」

「悪趣味・・・」

「楽しくなければ貴様らをひとりひとり丁寧に殺すものか!私は楽しい。貴様たちの死に様が嬉しい。貴様たちの終止符が好ましい。その断末魔がなによりも爽快だ!」

 

魔神よりも魔神。

悪魔よりも悪魔。

でも、魔王ではない。

霊基(クラス)の格は高いけど、立香はどこか、心底の愚かしさを感じる。

 

「そして、それがおまえたちにとって至上の救いである。なぜなら、私だけが、ただの一人も残さず、人類を有効活用してやれるのだから――!」

「下がってろ、立香!コイツと話すのは無駄だ、心底から腐ってやがる!」

「・・・魔術王ソロモン。貴方はレフ・ライノールと同じです。あらゆる生命への感謝がない。人間の、星の命を弄んで楽しんでいる・・・!」

「――――――」

 

カチリ。感情が変わる。

カチリ。顔が変わる。

 

「娘。人の分際で生を語るな。死を前提にする時点で、その視点に価値はない。生命の感謝だと?それはこちらが貴様らに抱く疑問だ。人間(おまえ)たちはこの二千年なにをしていた?ひたすら死に続け、ひたすら無為だった」

 

 

海の男 人間に対して大きめの感情を持ってる方ですか?

 

 

「おまえたちは死を克服できなかった知性体だ。にも関わらず、死への恐怖心を持ち続けた。死を克服できないのであれば、死への恐怖心は捨てるべきだったというのに。死を恐ろしいと、無様なものだと認識するのなら、その知性は捨てるべきだったのに!」

 

 

銀河鉄道123 ???

災厄ハンター えっ何急に。それのなにがいけないの

りっちゃん なんか・・・何・・・?人間の人生を見続けて解釈がぶっ飛んだ方?

 

 

「無様だ。あまりにも無様だ。そしてそれはおまえたちも同様だ、カルデアのマスターよ。なぜ戦う。いずれ終わる命、もう終わった命と知って。なぜまだ生き続けようと縋る。おまえたちの未来には、何一つ救いがないと気づきながら」

「・・・・・・っ」

「あまりにも幼い人間よ。人類最後のマスター、藤丸立香よ。これは私からの唯一の忠告だ」

 

まったく聞く気がしなかったけど、一応耳を傾けた。

 

「おまえはここで全てを放棄する事が、最も楽な生き方だと知るがいい」

 

やっぱり聞く必要なかった。立香は憐れみをもって見返す。

先にケンカを売ってきたのは貴方でしょう?

 

「灰すら残らぬまで燃え尽きよ。それが、貴様らの未来である」

 

今更、我が共犯者が止まるなどと思っている時点で、もう貴様の負けなのだ。

おまえは火を点けたぞ。魔術王。

人類最後のマスターの心を焚き付けた。その意味をとくと思い知れ。

影の中で、アヴェンジャーは笑った。



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メルティランドナイトメア

「・・・ここまでだな。聖杯を回収したっていうのに、締まらない気分だぜ」

「・・・うん」

 

霊基はエーテルの光となりて。

座に戻るために、データを世界に溶かしていく。お別れの時間がやってきた。

 

「だよなあ。あんなにヘコんだのは、父上の槍で――。いや、なんでもない。なんでもないさ」

「・・・でも、ロンドンは救えたよ」

「ああ、そうだな。オレにしちゃあ上出来だ」

 

特異点は修復される。修正されていく。やがて安寧を取り戻す。

有り得ざる都市は消え失せ、霧と共に消滅するだろう。

 

「無念なのはここで終わりってコトだな。本音を言えばおまえたちに付いていきたいが・・・。この通り限界だ。・・・悔しいがヤツの言うとおりだ。オレたちは喚ばれなければ戦えない」

 

それが英霊の、サーヴァントの限界だ。

――もちろん、例外はあるだろうが。

 

「時代を築くのは、いつだってその時代に・・・最先端の未来に生きている人間だからな」

 

それはランサー・アルトリアと同じ言葉。

悲観に徹した人生論ではなく、希望と願いに満ちた前を向くための祝福。

 

「だから――おまえが辿り着くんだ、立香。オレたちではたどり着けない場所へ。七つの聖杯を乗り越えて、時代の果てに乗り込んで。魔術王(グランドキャスター)を名乗る、あのいけすかねえ野郎を追い詰める。それはおまえにしか出来ない仕事だよ」

「・・・モードレッドさん」

「そんな顔するな、マシュ。盾ヤロウは気にくわないがおまえは別だ」

 

もうすっかり吹っ切れた顔をして、モードレッドは頼もしく笑った。

 

「――――そうだね、マシュ。マスターには君が必要だ。その盾をもって、助けてあげなさい」

「アーサーさん・・・」

「それに今回の件は・・・僕も考えさせられることがあった。もう少し、君たちの手伝いがしたい」

「え?」

 

にこりと笑うブリテン王の背後に、異様なオーラを感じるのは気のせいか?

なんか・・・怒ってらっしゃいます?

 

「僕にはまだやるべきことがあるのだけど。多少寄り道しても、マーリンだって許してくれるだろう」

「手伝ってくれるのは嬉しいけど・・・。あの、大丈夫?」

「大丈夫。久しぶりに心底合わない意見を聞いて驚いているだけだから」

 

なるほど。

そういうことにしておきましょう。

 

「では一度お別れだ。帰るよ、モードレッド」

「おう。じゃあな立香。こんなオレだってロンドンくらい救えたんだ。ならおまえはちょいとばかり張り切って、せいぜい世界を救ってみせろ」

 

赤と青の騎士達は、最後まで背中を押して消えていった。

作戦(オーダー)、完了。これで四つ目。

 

『アー、テステス。よし、やっと映像が繋がった』

 

耳に馴染んだ女性の声。ダ・ヴィンチからの通信だ。

 

『二人とも無事ー?無事だね。観測数値にも異常なし。魔霧もただの霧に戻っているし、もうその時代に用はない。早速レイシフトを行うよ』

「はい。よろしくお願いします」

『二人とも、やり残したコトはない?ないね?』

「う、うん」

「ではレイシフト開始ー!お疲れ様!」

 

いやに急かされて帰還する。

輪郭がぼやけて、存在が移動して、コフィンの中へ。

ぬるい水に浸っているかのような、曖昧な感覚。

 

「(・・・・・・そうだ。アヴェンジャー)」

 

彼の言うとおり、魔術王と目を合わせないようにしていたけれど。

あれは何の意味があったのだろうか。

 

「(それを知る必要は無い。全てはもう終わったこと)」

「(そう・・・なの?)」

「(ああ。故に、今は勝利に浸っても許されるだろう。よくやった、共犯者)」

 

ふっ、と眠りに落ちるかのように意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り、二人とも。今回も無事・・・とは言いがたいけど、とにかく良かった」

「そういえば、なんでダ・ヴィンチちゃんが?」

「ああ、それはね・・・」

 

やれやれと肩を竦めながら、管制室の隅を手振りで示す。

立香とマシュがのぞき見れば、項垂れているのが二人。

 

「なんてコトだ・・・こんな・・・・・・こんなコトが・・・・・・」

「そんな・・・そんなこと・・・・・・。うう、私、私、どうしたら・・・・・・」

「あの通り、ダメになってしまってね。キアラはもう呼んだから。立香ちゃん、気合いを入れ直してやってくれ」

 

胃を抑えながらぶつぶつと呟いているオルガマリーと、すっかりしょぼくれているロマニがいた。

トップとNo.2(実質)が落ち込んでいるせいで、慰める他の職員達のダメージが軽減されているのは幸いなのか。

まったく、しかたのない人たちである。

 

「しっかりしろドクター!」

「うぇえ!?」

「オルガマリー!私帰ってきたよ!」

「り、立香・・・。・・・そうね、うん。よくぞ無事に戻りました。マシュも、お疲れ様」

「はい、所長。マシュ・キリエライト、帰還いたしました」

 

ロマニの背中を勢いよく叩き、オルガマリーの正面に立って話しかける。

立香も随分、この二人の扱いに慣れてきた。

 

「ごめん、ピンチだったのはキミたちのほうなのに。ただ、なんていうか・・・あまりのショックで・・・・・・」

「はいはい、落ち込むのはそこまでにしなさい。いいかげん、本気で呆れられるぞ?」

「う、うん・・・。それは・・・すまない、マシュ、立香ちゃん」

 

先に立ち直ったのはオルガマリー。

流石、なんだかんだでもカルデアの所長だ。

挫けるたびにもっと固く、繋ぎ直されてここまで来た。彼女自身も、自覚のないままに強くなる。

 

「もっと早く強制レイシフトをするべきだったのに、ボクの判断が遅れてしまった・・・」

「あれは仕方ないよ」

「でも、もしソロモンがキミたちを消しにかかっていたら・・・。・・・うう、ボクは・・・。ダメな人間だ・・・」

「ロマニ、たらればの話をしていても仕方ありません。無事だったのだから、それでいいでしょう」

「そうです、ドクター。顔をあげてください」

 

マシュの言葉に、ぱっと彼女の方に顔を向けた。

ヘタしたら泣くんじゃないか?という落ち込みである。マシュはなにを言うのだろうか。

 

「わたしたちが作戦を続けることができるのは、あなたの存在があるからです。ドクターは確かに臆病な面があり、物事を悪い方向へと考えます」

「はい・・・」

「一言でいうとチキンです。男性のクセに、わりとなよっとしています。また、趣味は内向的によりすぎていて、電脳アイドルに依存している残念な研究者です」

 

管制室が静まりかえった。

 

「あー・・・」

「フォウ・・・」

「マシュ、もう少し手心というものを・・・」

「そうだよマシュ。こういうタイプの方が萌えるって人もいるんだから」

「それは何のフォローなの???」

 

人の趣味はいろいろなのである。

 

「でも――そんなあなたが頑張っているからこそ、カルデアに残された職員は頑張れます。所長も、あなたのことを頼りにしています」

「そうよロマニ。あなたが居ないと困ります」

「カルデアが爆破されたとき、炎の中で電源を回復させ、生存者を救い、指揮したのはドクターです」

 

ロマニ・アーキマンの短所はただ1つ。

自身を、ちょっと過小評価しすぎなところである。

 

「・・・・・・・・・ありがとう、マシュ。ボクが落ち込んでいる暇なんてなかったね」

 

ふう、と息を吐く。

大丈夫だ。ボクはまだやれる。

 

「何せ黒幕の正体が分かったんだ。あの異様な強さにも、きっとなにか理屈があるはずだ。引き続き、ボクらは作戦を続けよう。残る特異点を修正して、世界と未来を焼却させない」

「魔術王ソロモン。・・・自力で死の淵から蘇るなんて、少し・・・信じられないわ」

「はい、所長。まだ敵の全貌は見えていない。とにもかくにも、全ては聖杯を回収してからです」

 

決意新たに。

敵は新たに。

カルデアはまだ、負けていない。

 

「次は勝つ!」

「ヒュー!その意気だ立香ちゃん。よし、遅くなったけど、今回も本当にお疲れさま」

「後処理は私も手伝うよ。二人はもう休むといい」

 

マシュと共に退出する、その背中を。

どこか眩しそうに、ロマニは見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・部屋に到着しましたね。先輩、お疲れさまでした」

「マシュもお疲さま」

「いえ、わたしはデミ・サーヴァントですから。体力的な問題はありません。魔力の減少や疲弊はあるので・・・疲れている・・・と、言えるのかもしれないですね」

 

あと一歩進めば部屋の中に入れる。ようやく身体を休められる。

けれどそれをするにはどうにも――マシュの顔色が優れない。

 

「・・・・・・・・・・・・あの。すみません、どうしても話したいことがあって」

「いいよ」

「・・・先輩は、ソロモンの話をどう思いましたか?人類を有効活用してやる、というくだりです」

「・・・マシュはどう思ったの?」

 

 

厄災ハンター もちろん寝言を言っているなぁと

騎士 神目線だな~~と思いました

海の男 シンプルにムカつく

奏者のお兄さん まあまあまあ

 

 

「わたしは・・・・・・。わたしは、否定できませんでした。自分でもわからないんです。でも、あの言葉には無視できないものがあって・・・・・・」

「うん」

「命は無意味で、未来には救いがない・・・・・・。そんな悲観的な主観を、彼は希望的に語っていた」

 

でもやっぱり主観なのだ。

それは、魔術王一個人の意見に過ぎない。

 

「・・・・・・・・・・・・申し訳ありません。戦いはこれからなのに、妙なことを口にしてしまって」

「・・・マシュ。あのね、たくさん考えたら良いと思う。私でよかったら聞くからさ」

「・・・はい、マスター。おやすみなさい。また明日」

 

 

 

 

 

第四特異点 死界魔霧都市 ロンドン 定礎復元

 

 

 

 

 

 

「アヴェンジャー、そこにいる?」

「いるとも、我が共犯者」

 

ぶわりと影が蠢いて。視界を覆う、優しい男の姿。

ベッドに横になった立香に目線を合わせるように、サーヴァントは跪いた。

 

「あと三つで・・・解決するのかな」

「さて、いくらオレでも予知夢はできん。だが悪夢を取り除くくらいはできるとも。我が恩讐の炎が、おまえの意識の底を満たすだろう」

「・・・ん、おやすみ」

 

安らかな寝息が聞こえてくるまで、アヴェンジャーは寝顔を見守った。

その金の瞳が柔らかく灯っていることにはまだ少し、自覚がないようだった。




次はイベント特異点→第五特異点です。


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Fate/Accel Zero Order
星も月も太陽も一緒くた


カルデア・データベースと特異点の勇者達を更新しています。


東雲。夜明けは美しく。

窓から見える空はあいも変わらず凍りついているけれど、きっと遠い世界では、茜色に染まっているのだろう。

 

「こんな時間に呼び付けてすまない。立香ちゃん。マシュも」

「大丈夫です。レム睡眠の達人なので」

「流石です。先輩の覚醒時の快適さは、わたしの脳内ベストショットのトップ3に入る程です」

 

管制室の冷えていた空気が、歓談とともに溶けていく。

ブリーフィングは柔らかに始まる。椅子に腰をかけたオルガマリーが、ロマニに続きを促した。

 

「この特異点は以前君たちに調査してもらった特異点Fよりも10年過去にあたる。まだ聖杯そのものとは断定できないが、極めてそれに類似したものが観測されている」

「過去・・・ですか?でも同じ場所に、そう何度も聖杯が出現するなんて有り得るんでしょうか?」

「うん、それはボクにも説明がつかない。なので、説明してくれそうな人物に来てもらおうかな、と」

 

そう言ってロマニは振り返った。立香も同じように顔を向ける。

壁に寄りかかっていた青年は、背をゆっくりと離して近寄ってきた。

 

「なるほど。それで私にお呼びがかかったワケか」

「諸葛孔明・・・いえ、ロード・エルメロイⅡ世さん!」

 

ロード・エルメロイⅡ世。

何処かの時空の時計塔で、講師をしている魔術師だ。本来サーヴァントに至れるような器、歴史を持っている訳ではない。

しかし此度は、中国の英霊である諸葛孔明の依り代――疑似サーヴァントになることで現界を果たした。普段の思考や感情はエルメロイⅡ世に準じている。

 

「たしかに日本の冬木市には知悉(ちしつ)している・・・と言いたいところだが」

 

なんとも言えないため息を一つ。

蘇るのは良い思い出とも悪い思い出とも言い切れない、苦くて甘い、彼の王との日々よ。

 

「残念ながら私の知識は、このカルデアでラプラスが記録した歴史とかなり乖離がある」

「それは仕方ないかもだ。いったん人類史が焼却されてしまった後、カルデアスにおける観測はさまざまな可能性が入り乱れたものになっている」

 

エルメロイⅡ世のいた世界には、おそらくカルデアスは存在しない。

どちらの世界が正史なのかは判別がつかないが、まあ、世の中にはよくある(・・・・)ことだ。

 

「貴方が言っているのは大幹の並行世界群・・・多少の差異はあっても未来は同じになる編纂事項と、完全に別世界になり、いずれ滅びる枝葉の並行世界・・・剪定事象の話だな」

「なんか難しいこと言っている」

「先輩はこっちに居ましょうね」

「悪いが、そのあたりの話は私の管轄外だ。そして、藤丸に聞かせる話でもない」

 

なので今からするのは、あくまで『エルメロイⅡ世の世界の出来事』を前提とする話だ。

カルデアの記録では2004年の冬木市が最初の聖杯戦争の開催地、ということになっているが。

実際は違う。

 

「私の知るところでは冬木の聖杯戦争は都合5回開催されている」

「5回!そんなにですか!?」

「フォーウ!」

 

魔術協会と聖堂教会の結託により、大規模な魔術儀式でも隠蔽されていた。

今回観測された時間軸は特異点Fのものではなく、その10年前・・・第四次聖杯戦争のものだ。

 

「この座標で過去に遡って聖杯の反応が観測されるのは、決して不思議なことじゃない。私の世界においてはな」

「過去、その時代に聖杯が存在した可能性がある・・・・・・確かに、特異点として成立する可能性はありますね」

 

ならばこれはシバの調整ミスなのだろうか?過去の光を観測しているだけなのだろうか?

 

「私としてはそうであってほしいがね。人類史が燃え尽きている今、通常の時間軸にある光はそもそも観測されないはずだ」

「そうね。今のカルデアスに光が灯っているという事は、そこはもう時間軸から外れた特異点になります。そうでしょう、ロマニ」

「ええ、所長。これはいずれ人類史を汚染する染みになりかねません」

 

聖杯の回収、あるいは破壊。

今回のミッションはそうなるだろう。

 

「・・・ただし、そこに問題がある。そもそも冬木で5回もの聖杯戦争が繰り返された理由は、聖杯が只の一度も具現化しなかったが故だ」

「えっ?」

 

加えて、この儀式は3度目以降、とある事故のせいで儀式とは言いがたい代物に変質している。

つまりこの聖杯は回収してはいけない。実現してはいけない聖杯なのだ。

 

「願望器という触れ込みで参加者を惑わしておきながら、その実態は世界を滅ぼす殺戮兵器だった」

「本当に詳しいのね」

「そりゃあ調べましたからね。私は冬木の聖杯を解体するために、多大な労力を払った」

 

エルメロイⅡ世の話を聞いて、オルガマリーはすっかり感心したようだった。

ロマニも安心したように頷く。

 

「これは頼もしいな。ぜひ、オブザーバーとして頼むよ」

「言われずともそのつもりだ。藤丸、マシュ、よろしく頼む」

「はい!行く先の情報が揃っているのは心強いかぎりです!」

「よろしく、エルメロイ先生」

 

フォウくんがぴょんとマシュの肩に乗ってくる。

コフィンはすでに準備万端だ。

魔術礼装のスカートをふわりとなびかせて、いざ、新たな特異点へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イベント特異点 Fate/Accel Zero Order

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか―――――まさかあんなことになっているとは思わなかった。

エルメロイⅡ世は当時を振り返ってそう呟いた。疲労とストレスで重くなった肩を、灰色の髪の内弟子が懸命に叩いている。

だって誰が予想できる。サーヴァントユニヴァースって何だ。私が何をしたというんだ。もう勘弁してくれ・・・・・・。

がっくりと沈んだ背中からは、世知辛い社会人の哀愁が漂っていたという。



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デートですか こんばんは

わんわん!わんわん!うわああああああワンチャン!!!!!!


照明に照らされた赤い橋。川の流れはさめざめと。

日本、冬木市。

立香たちが降り立ったのは、黒雲が空を覆う夜の時であった。

 

「これが・・・まだ燃えてしまう前の冬木の街?」

「フォウ、フォウ!」

 

車の通りもなく、街並みはまだ静寂を保っている。

聖杯戦争の最中、とは言われなくてはわからないだろう。

 

「こんな静かな街並みが、10年後にはあんな悲惨な光景になってしまうのですね・・・」

「それはよくない感傷だ。この街ひとつではなく、全ての人類史が燃え尽きた後の世界に我々はいるのだから」

「それは・・・そうですが・・・」

「失礼。言い方が悪かったな。日常を得がたく思うのはいいが、囚われるなという事だ」

 

戦いによって引き起こされる惨劇。回避できない悲劇。恐れていては歩みを遅める。

常に石橋を叩いて渡れるわけではない。準備万端で出発できるわけではない。

だからこそ戦場では、臨戦態勢を緩めてはいけないのだ。

 

「たとえば今この状況だ。平和な住宅街、誰もが寝静まった深夜。ひとまず差し迫った脅威はない。そう思うかね」

「はい。正直なところ・・・」

「でも、こういう瞬間に敵が出てきたりするんだよね。フラグってやつ?」

「藤丸はわかっているようだな。――奇門遁甲(とうこう)、八門金鎖の陣!」

 

魔術の発動を示す光。星のない夜を賑やかす。

エルメロイⅡ世の持つ煙草の煙が、目を眩ますかのようにふわりとたゆたった。

今この瞬間までバレずに潜んでいたアサシンは、哀れ表に引きずり出される。

 

「ぐわぁ!」

「っ!?」

『アサシンのサーヴァント!?気配遮断か!?それにしても存在感薄すぎだろう!?』

「き、貴様!どうして我々を!?」

 

まず目に入るのは白い仮面、そして真っ青な長髪。

つい先ほどまで闇夜に紛れていた装束と立ち振る舞い。

動揺しつつも油断なく構えるそのサーヴァントこそ、歴代の山の翁ハサンの一人・百貌のハサンである。

 

「どうやって気配遮断スキルを見破ったのかって?残念、まったく分からなかったよ。だが四次のアサシンが分裂能力を備え、冬木市をくまなく見張っていたことは調査済みだったんでね」

 

レイシフトなんて派手な手段で来たのだ。

監視があるなら即座に引っかかって、偵察に来ることは必至だろう。

 

「ひとたび我が石兵八陣に嵌まったが最後、お得意の気配遮断も意味はない」

「戦闘だね?シェイクスピア!」

「吾輩ですか!?正気ですかなマスター!あっ待ってタンマタンマえーいままよ!」

『元気なおじさまね・・・』

 

クラス相性って素晴らしい。

キャスターが開く本から次々と飛び出した光弾は、突貫してきたアサシンにぶち当たって共に消えた。

いくらシェイクスピアがよわよわ代表サーヴァントだとしても、この程度は。この程度なら勝てる!

 

「いけませんな。歴戦のマスターともあろう御方が、管制室に居ただけのサーヴァントを召喚するなど!らしくありませんぞ?」

「シェイクスピア。リンクに会ったことあるサーヴァント達に根掘り葉掘りインタビューしてるんだって?」

「ギクッ」

「クレームが来てるよ。ほどほどにしてね」

「これは作家の性というもの!物書きが好奇心から逃れられますかな!」

『流石天下の大文豪ですね。マスター、あとは私が叱っておきましょう』

 

カルデアに戻されたシェイクスピアは、イタズラをしてとっ捕まった猫のように天草に連行されていった。

 

『それにしたって今のサーヴァントは弱すぎないかい?』

「今のアサシンは群体の一部だ。そういう風に自分を分割して顕現できる能力の持ち主でね。だからまだ奴の息の根を止めたわけではない」

「単体の英霊が、集団として実体化していた、ということですか?」

 

諜報に徹すれば恐ろしい能力だ。対軍宝具のない相手なら人海戦術で圧倒することも可能だろう。

しかしアサシンには冬木全体を監視する仕事があるため、カルデアを無視するわけにはいかない。

 

「結果、兵法の禁則である戦力の逐次投入を余儀なくされる。哀れな事にね。――さて、次に行くぞ!」

「えっ?」

「先生、説明は?」

「もったいぶっているわけではない。ただ時間が惜しい。道すがら説明しよう」

 

俊敏に動くエルメロイⅡ世、という珍しいものを眺めながら、立香達は次の目的地に急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも冬木の聖杯戦争というのは詐欺みたいなものでね。願望器を巡るバトルロイヤル、という体裁は他の参加者を釣るための真っ赤な嘘なんだよ」

「嘘って、そんな・・・。願いが叶うと言って騙すなんて、刑事案件です!」

 

コンテナが積まれ、倉庫が建ち並ぶ湾港区域。

潮風に乗ってかすかに磯の香りがする。墨染めの空を映し出した海はか黒く。来訪者をじっと見ている。

 

「この戦いは参加したサーヴァントたちが脱落するにつれ、大災害のカウントダウンが進むという婉曲な罠だ。ここに召喚されたサーヴァントが一定数まで生け贄になった時点で“この世すべての悪(アンリマユ)”が起動する」

「アンリマユ?」

「詳しい実態までは知る必要はないが、地球破壊爆弾の類似品だとでも思っておきたまえ。人類史を破壊し尽くすには充分な威力の代物だ」

 

もしかすると――――特異点F。あれは5度目の聖杯戦争が完遂された後のことなのではないか。エルメロイⅡ世は考える。

世界が崩れだした最初のポイント。成功させてはいけない儀式を成功させてしまったのか――――。

 

「でも、どうしてそんな酷い罠を?いったい誰が仕掛けたんです?」

 

マシュの疑問の声に、思いを馳せていた思考が戻ってくる。・・・今は気にすることではないか。

 

「儀式の本来の目的は他にあって、それが馬鹿げた人災で変質してしまった。しかしそれはこの時間軸においても『過去』の話だ。問題は、シバがこの時点での冬木に聖杯に類する反応を感知したという矛盾」

『そうか、聖杯が既にあるということは・・・』

「ああ。聖杯が既に出現しているなら街はとっくに火の海のはず。つまりカルデアで感知された聖杯は、汚染された冬木の大聖杯とはまた別の代物だろう」

 

時間が刻々と過ぎていく。

 

「私の記憶でも、4度目の聖杯戦争はまだ序盤も序盤だ。戦況が大きく動くのは今夜が契機だ」

 

足音はこつこつと近づいてくる。

 

「ここでなにが起こるの?」

「うむ、それを説明してやるより先に、お喋りの時間が尽きたぞ」

 

状況が追いついてきて肩を叩く。

まるで旧知のような気軽さで。

 

「そこのあなたたち、いったい何者なの?」

 

白い、白い女性。

髪も服もミルクで染めたかのよう。こちらを気丈に睨む赤い瞳だけが、辛うじて人間の生気を感じさせる。

 

「サーヴァントを連れている以上は聖杯戦争の参加者みたいだけど・・・」

「ならば敵。見たところセイバーではなさそうですが、セイバーはすぐに連鎖召喚、無限増殖!ここできっちり息の根を止めておきましょう。行きますよ、アイリスフィール!」

「ま、待ってセイバー。せめてどの陣営なのかは知りたいわ」

 

ラフ&スポーティな金髪少女。

青いマフラーは勇気の印。帽子から突き抜けるアホ毛はチャームポイント。闇夜でもきらんと光る剣を構えて、少女ははっきりと敵意を見せた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「サーヴァント?だよね?」

「はい。随分現代っぽい服装ですが、サーヴァントの気配です」

 

 

奏者のお兄さん ・・・・・・・・・・・・・・・は?

ウルフ 誰?セイバー?

バードマスター ねぇ、あの剣、エクスカリバーじゃない・・・?

災厄ハンター は?アーサー王?

 

 

『エルメロイⅡ世!あのマスターとサーヴァントは・・・。エルメロイⅡ世?』

「ちょっと・・・・・・腹痛が・・・・・・。・・・どうして・・・・・・」

「先生!?大丈夫!?」

「エルメロイⅡ世さん!?」

「なんだかよくわかりませんがチャーンス!月夜ばかりと思うなよカリバー!」

 

勢いよくすっ飛んでくるセイバーに、なぜか突然腹を押さえて使い物にならなくなってしまったキャスター。現場は大混乱である。

それでも咄嗟に前に出たマシュが振りかぶられた剣を弾き返す。セイバーはその盾を見て追撃せずに距離を取った。

ここでキャスターがようやくふらふらと顔を上げる。先ほどまでの落ち着いた雰囲気は何処へ・・・!?

 

「アイリスフィール・フォン・アインツベルン。そして・・・・・・恐らく・・・・・・アルトリア・ペンドラゴン・・・・・・」

「いいえ。私のコードネームはA-X。サーヴァントユニヴァースから来た対セイバー用決戦兵器。アサシンと思ったか?残念!セイバーです!」

「助けてくれ」

「ごめん私もまだ追いついてない」

 

サーヴァントユニヴァースから来た対セイバー用決戦兵器。霊基名は謎のヒロインX。第四次聖杯戦争に堂々登場!

こんなのエルメロイⅡ世の知ってる第四次聖杯戦争じゃないよ。躓き方が酷すぎる。ロードの胃を虐めるのはやめてさし上げろ。

 

「その盾・・・。アヴァロン星のコスモキャメロットにある机によく似ています。しかしだからといって容赦しないのがこの私!さあ歯を食いしばりなさい!」

「セ、セイバー。ええと、気を付けてね」

『相手のマスターも置いてかれてるじゃない』

 

 

騎士 面白くなってきたな・・・・・・

海の男 おや、珍しい

りっちゃん お出かけですかー?

騎士 ああ、たまにはな。行ってくる

 

 

かつて相対したオルタのアーサー王や、ロンドンで共闘したアーサー王よりも身軽。

まさしく宙を駆ける星の如く、白銀の連撃が立ち塞がるマシュを襲う。

守りに徹すればシールダーは強い。魔力を纏った剣の衝撃を受け流して、Xの銀河流星剣を捌く。

立香は援護のサーヴァントを召喚しようとして――――その手を掴まれた。

 

「っ!?」

「まあ待て」

「・・・な、」

 

カルデアの探知やエルメロイⅡ世の警戒をすり抜けて、大翼の勇者は地に現れる。

手首からするりと滑った指は立香の令呪を一撫でして、少女がその仕草に顔を赤くした。

 

「ここはサーヴァントユニヴァースから来た対アーチャー用決戦兵器、コードネームL-Xに任せておくがいい」

「なんて???」

「また変なのが来た・・・・・・」

『霊基パターン・ランサー!カルデアのデータベースには該当しません!』

『・・・・・・サーヴァントユニヴァース用のファイルを作っておきなさい。多分まだ増えるわよ』

 

 

海の男 ノリノリじゃん

銀河鉄道123 ここぞとばかりにふざけていく

いーくん 顔がいいと何でも似合うな

うさぎちゃん(光) でしょ?ボクがコーディネートしました

災厄ハンター 槍は俺がお貸ししました

 

 

ラフ&スポーティな金髪の男。随分若く見えるが、これでも三十代である。

赤いマフラーは勇者の証。携えるは青き古代の槍。ここまで現代風なら流石に勇者リンクとは思われないだろう。

とはいえ気づく奴は気づきそうなので。トライフォースでちょちょいっと隠蔽しているが。

じわりと色気が滴る果実のような甘い瞳が、Xとマシュを捉えた。

 

「むむ・・・。アイリスフィール、今夜は引きましょう。あのランサーは強敵です」

「そうね・・・。セイバーがそう言うのなら」

「追うか?軍師殿」

「いや・・・・・・。ここでの本命は、次にやって来る二人なので・・・」

 

一歩も動いていないのに息も絶え絶えな軍師である。

アイリスフィールを抱えてXが離脱する。息つく間もなく次のお客さんがやって来た。

キャスターが先ほどの戦闘に手を出さなかったのは、本来セイバーに挑戦するはずだったサーヴァントを奇門遁甲陣で閉め出していたからだ。

苛立ちが如実に現れた殺気を放ちながら、その男は現れる。

 

「おのれ、いったい何者だ?あの妙な石の迷路は貴様らの仕業か」

「先生ーーーーー!!!」

「大丈夫ですかーー!?!?」

「フォウ、フォーーウ!」

「膝から盛大に崩れ落ちたな」

 

赤と黄の双剣(・・・・・・)を構えて、青と緑を基調とした戦闘服を纏う男。頬にあるほくろが特徴的な、リンクに負けず劣らずの美貌を持つランサー。

 

「見たところセイバーのように見えるが、二振りの魔剣を持つ騎士と言えば、二本の魔槍を持つフィオナ騎士団の騎士。ディルムッド・オディナか?」

「――如何にも。そういう貴殿は・・・。貴殿は・・・?・・・まあいいだろう。立ち会えば分かること」

 

地面に両手をつくキャスターの代わりにリンクが確認してくれた。ディルムッドで合ってるらしい。

エルメロイⅡ世の知ってるランサーのディルムッドは緑が多めでもっと年が上だったが、これ以上突っ込んだら胃薬じゃすまないので話を進めることにする。

 

「・・・・・・我々はアーチボルト陣営の敵ではない。ケイネス卿、我々は御身の支援にはせ参じたものです」

「ふむ?ランサーのマスターが私であることを知っている上に、支援だと?」

「ッ?どこから声が?」

『魔術迷彩だね。そのサーヴァントのマスター、すぐ近くに隠れているよ』

 

エルメロイⅡ世が立った!しかしメンタルのダメージは深刻だ。

 

「故あって名は秘せざるを得ないのですが、ここはひとまずレディ・ライネスの名代とだけ申し上げておきます」

「ライネス・・・・・・。我が姪の?いったいどういうことだ?」

「この場でご説明差し上げるのも吝かではないのですが、敢えて明日までご猶予をいただきたい」

 

 

奏者のお兄さん 頑張れ・・・!先生・・・!

Silver bow おそらくかなり予想外のことが起こっているのはわかる

守銭奴 こんな混沌が正規であってたまるか

小さきもの 始祖様も珍しくご機嫌おふざけモードだしな

 

 

「ただ、これだけを先に申し上げおきましょう。『キャスターの居場所をお伝えできる』と」

「キャスター?それがどうした?」

「この言葉、明日の昼頃にあらためて吟味して頂きたい。そのときは改めて我々の話に耳を傾ける価値を見出していただけるものと」

「ふむ・・・・・・」

「明日22時、冬木ニュータワー最上階のスイートをお訪ねいたします。ひとまずこの場は見逃して頂けますか?」

 

沸き上がる愉悦を笑いに変えて噛み殺した。

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはまったく予想外の出来事に驚きつつも、未知の出来事に高鳴る胸を押さえきれない。

 

「・・・よかろう。有能な男は嫌いじゃない。それが礼を弁えた魔術師であれば尚更だ。少々、田舎訛りの英語(イングリッシュ)なのが残念だがね。――いいだろう。君の提案を受けよう。私は逃げも隠れもしない。何を企んでいるのか、聞き出すのが愉しみだよ」

 

青い礼装に身を包んだ男が歩み寄ってくる。

眼光鋭く、振る舞いは優雅に。彼こそがアーチボルト家の正式後継者。偉大なるロード・エルメロイ。

 

「宜しいのですか?マスター」

「逸るなランサー。たしかに怪しい連中であるが、ここまで得体が知れないとなると様子見が必要だ」

「御意」

「それではお暇させていただきます。さあ行こう藤丸――――と・・・・・・」

「私も行くぞ」

「ハイ」

 

服装と顔の綺麗さがあってないな・・・。

立香はコードネームL-Xの顔を見上げながら、ぼんやりとそう思った。



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Cry Baby

深夜の公園は無法地帯。しかしキャスターの魔術があれば。これこの通り陣地作成。

ふわりと立つ湯気はテイクアウトの牛丼から。食欲をそそるいい匂いだ。

 

「はふ・・・はふ、もぐっ」

「やっぱりチーズは外れないよね」

「ねぎ玉もおいしいぞマスター」

 

せっかく現代に来たのだからとランサーが牛丼屋を指さし、立香がノったので無事夜食は購入された。

 

 

現代の飯は美味いな。生前の質素オブ質素の飯がどんどん恋しくなくなる

 

 

りっちゃん あなたリンクにあるまじき料理ステの低さですからね

海の男 恋しくなくなっちゃうか~

いーくん 始祖様は戦中だし俺は戦後。飯のレベル推して知るべし。Yeah

小さきもの ラッパーがログインしました

 

 

Ⅱ世は一応任務中であることを指摘したのだが、マシュに色々体験させてあげたい。というマスターの意見には反論できなかった。あとランサーがお金出すっていうから・・・。牛丼に罪はないからな・・・。

 

「さて、どこまで話したか」

「この戦いが終わると世界が滅ぶとか・・・」

「ああ、そこだったな。冬木の聖杯は戦闘で脱落したサーヴァントを生け贄として取り込み完成する」

 

食休みを挟んで会議は始まる。

またランサー(リンク)の自己紹介は大半がよくわからなかったことを記しておく。よくわからない、というかわからないようにあえて曖昧にしているのだが、Ⅱ世は私の知見はまだ狭いな・・・という顔をして受け止めた。そんなに重く捉える場所じゃないですここ。

 

「だがそこから出現するのは願望器ではなくアンリマユ・・・この戦いには初めから勝利者など存在しないのだ」

『ひどい話があったもんだね・・・。他の魔術師を殺してまで手に入れた報酬が、まさか真逆のものだったなんて・・・』

「まったくだ。もし私が第四次の勝者だったら、絶望で悪逆に落ちていたと思うよ。・・・いや、すまない。感傷は意味がない、と言ったのは私だったな」

 

髪を揺らす程度の、淡い風が吹いている。

いずれ炎に飲まれるとも知らず安寧を保つ街よ。この私で良ければ、やり直しを始めよう。

 

「私の経験上、大聖杯が限定的ながらも稼働を始めるのは、七騎のうち五騎目のサーヴァントが敗退した後だ」

『つまり裏を返せば、最低でも三騎のサーヴァントを健在のまま戦線離脱をさせれば・・・』

「儀式は有耶無耶のうちに終わり、聖杯は完成せず、その器をだけを確保することができると」

「フォ~ウ」

 

ロマニが推測を続け、リンクが結論を出した。マシュの膝の上に収まっていたフォウ君が相槌を打つ。

 

「了解しました。今回は他のサーヴァントを倒すのではなく、守るための戦い、というわけですね」

「穏便にすむなら、それに越したことはないよね」

「ああ、だからといって平和主義で事が済む訳でもない」

 

ベンチに並んで座る少女達に、Ⅱ世はきっぱりと断言した。

 

「最終的に和解で決着をつけるためにも、まずは和解に応じる余地のない相手を積極的に排除させてもらう」

「紳士的かと思ったら独裁的だ!?」

 

立香のツッコミを受け流して、キャスターはにっこりと微笑む。

若干自棄っぱちを感じなくもない、圧のある笑みだった。

 

「荒っぽいのは自覚している。言っておくと、元来の私はもっと臆病で、卑屈な男なんだがね」

「そうなの?」

「そうとも。今はどうにもこの身に宿した乱世の策士が昂ぶって仕方ない」

「孔明だもんね・・・」

 

中華の軍師は時に武将より猛々しく、暴力的だ。

 

 

守銭奴 わかるよ。荒ぶるよね

フォースを信じろ 肉体の主導権で揉めるまでがセット

守銭奴 だから予め分裂しておく必要があったんですね

銀河鉄道123 どこで使うライフハック?

 

 

「今回の聖杯戦争の参加者のうち、どう転んでも救いようがないのはキャスターとアーチャーだ。こいつらは、はっきり言ってまともに意思疎通できる相手ですらない」

「だから早々にお引き取り願うと」

「ああ。それとアサシン。こいつらはマスターがアーチャーを擁する陣営と結託している」

 

 

Silver bow アサシン単体で勝つのは厳しいか

災厄ハンター まー俺らでも若干キツイかも

銀河鉄道123 やっぱ真正面から轢き潰すにかぎる

災厄ハンター ガチで轢いていた人静かに

 

 

「次はバーサーカーだが・・・なにせ狂化している以上、これはマスター次第、というほかない。令呪を温存し、サーヴァントを十全に制御できる状態のうちにマスターを懐柔できるかどうかが鍵だ」

「とはいえバーサーカーだろう?暴走する可能性は常にある」

「しかも召喚者は心身共に危うい状態の人物だったと、後から調査で判明している」

「おっと」

 

ランサーは飄々と笑っている。それがどうしてか不快でなくて。

むしろ奇妙な安堵をⅡ世に抱かせるのだ。

立香もすっかり懐いてしまった。

 

「では、バーサーカーについては保留ですか?」

「安全牌ではない、と結論せざるを得ない。よって消去法で最終的な保護対象はセイバー、ランサー、ライダーの三騎ということになる」

『ああ、それで先ほどの波止場ではセイバーとランサーの衝突を回避させたんだね』

「ではあとはライダーの陣営ですね。うまく交渉できるでしょうか」

「・・・。状況次第だな」

 

・・・・・・他のサーヴァントたちもなんか変になってたらどうしよう。どうしようもないが?我が王までバグってたらどうしよう・・・。あっまた胃痛が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうだいマシュ?サークルの設営は上手くいきそうかな』

 

空がまだらに白く染まる。

太陽は目を擦って、欠伸をしながら目を覚ました。

 

「それがどうにも・・・」

「駄目なの?」

「霊脈もあるにはあるのですが、何か別の術式によって保護されていて、こちらの介入を受け付けません」

「フォウ?」

 

冬木市を中心とした一帯の霊脈は、とある魔術師一族の独占化にある。

質実剛健な術式は外部からの無粋な干渉を阻んだ。

まったくもって良い腕だ。Ⅱ世は内心で賞賛する。

 

「仕方あるまい。魔術師が設置している要石を破壊し、霊脈の主導権をこちらが奪おう」

「そんなことをしたら管理人(セカンドオーナー)の魔術師は怒るのでは?」

「当然な。だがこの土地を仕切る遠坂家はアーチャーを召喚した魔術師でもある」

「なるほど。あらかじめ喧嘩を売っておくと」

「いや・・・まあ・・・そういうことでもあるんだが・・・・・・」

 

このランサー血の気が多いな。

いや、サーヴァントなんてそんなものか・・・?

 

『でも霊脈の要石は慎重に秘匿されている筈だよね?』

「問題ない。位置は予め知っている」

『ええっ?どうやって調べたんですか?』

「次の代の遠坂を継ぐのは私の教え子でね。最終的には彼女の協力を得てここの大聖杯を解体するわけだが・・・」

 

そのとき自ずと土地と霊脈の構造も把握することになった。

つまり未来の教え子の土地だが、時間軸が違う以上なんの義理も負い目もない。

 

「そもそも遠坂家は冬木の聖杯戦争の発端について責任の一端を担う家門だ。霊脈を失って素寒貧になろうとも、まぁ自業自得というものさ。きっと未来の遠坂も理解してくれるだろう」

「ものすごい事後承諾だ!」

「悪い大人だな」

 

立香は呆れた顔をし、リンクはけらけらと笑った。

 

「――――そろそろ約束の時間だ。ここで切り上げてランサーのマスターと交渉に向かおう」

 

たっぷり昼寝をした後、一同は霊脈の基点を確保していく。

観光を兼ねた探索は、少女達の心を大いに楽しませた。

 

「本当に上手くいくのでしょうか。なんとなく、酷薄そうな方のようで・・・」

「冷徹な魔術師っぽいよね」

「任せておけ。ただし藤丸、ケイネス卿との会話はすべて私に一任してもらいたい」

 

街にネオンサインが溢れて、色とりどりに闇を彩った。

今日は雲もなく、夜空が高く見える。

 

「いちおう念話のパスだけは繋げておくから内緒話は可能だが、決して口を開かないように。いいな?」

「わかった。お任せします」

 

いざ、冬木ニュータワーの最上階へ。



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惨憺たる結末は美しさを纏うほど

最上階のスイートは、夜景を展望できる絶好の客室。

香辛料よりもぴりりと辛い空気が部屋を支配していなければ――の話ではあるが。

 

『(なんか相手のサーヴァントは臨戦態勢ですよ!?)』

「(空気が重いです・・・Ⅱ世さん、一体どうやって切り抜けるつもりなんでしょうか・・・・・・)」

 

呑気なのは霊体化しているリンクと、どうやら勝ちを確信しているらしいⅡ世、取りあえず真面目な顔をしている立香だけだ。・・・結構居るな。

 

「昨夜のうちにアーチゾルデに問い合わせた。ライネスの名代などと、よくも根も葉もない法螺を吹いてくれたものだ」

「それでもなお我々との会見に応じてくださった、ということは・・・」

「問い糾したい事もまた別にある。昨夜のキャスターについての思わせぶりな発言だが」

 

そこで一度言葉を切って、ケイネスは居住まいを正した。

こちらに圧を与え、交渉を優位に進めようとする仕草が身についている。リンクは一人感心した。

 

「なぜ聖堂教会の動向を事前に知ることができた?」

「それが私にとっての事後・・・遠い昔の記憶だからです」

「なに?」

 

ケイネスの気難しそうな顔にほころびが生じた。

一方のⅡ世は穏やかな表情を崩さない。

 

埠頭(ふとう)でサーヴァント戦が行われた翌朝、監視役が各陣営に招集をかけキャスターの優先的抹殺とその褒美を提示する。・・・・・・私の知識は、それだけではありません」

 

Ⅱ世が部屋の空気を掌握し始めた。

ケイネスもディルムッドも熱心に話を聞き始める。

 

「あなたが当初この戦いにおいて召喚する予定だったのが征服王イスカンダルだったこと。そのための聖遺物を、時計塔の聴講生ウェイバー・ベルベットに盗まれ、やむなく代わりにディルムッド・オディナを使役していること」

「どうしてそれを・・・・・・」

「そのサーヴァントに魔力を供給しているのは貴方ではなく、婚約者のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ嬢でしたね」

 

カルデアの職員がディルムッドの解析をすれば、確かに魔力はケイネスから来ていない。

 

「ああソラウ嬢といえば、貴方の書斎に恋文の下書きが残されていましたよ。ええと、たしか書き出しは『麗しき我が想いの君よ、その瞳には朝露の輝きを宿し・・・・・・』」

「ええい、やめんか!もういい!貴様はいったい何者だ!?」

 

 

センスはありそうな恋文だな

 

 

バードマスター ラス、その節はトイレの人にわたしてごめんね

奏者のお兄さん トイレの人の方が大ごとだからね・・・

 

 

「レディ・ライネスの名代であることは事実です。ただしその肩書きを賜るのは、いまから四年ほど後のことになります」

 

思わず怒鳴って椅子から傾いたケイネスが、その言葉を聞いて椅子に座り直す。

 

「故にいま申し上げた諸々は、すべて私の『過去の記憶』に属する事柄です」

「・・・ほほう」

「そこで一笑に付さないところは、さすがアーチボルトの長、といったところですな」

「時間渡航者か。そういう研究に血道を上げている輩もいるとは聞いている」

 

おだての言葉を挟んでいきながら、ケイネスの興味をうまく惹いていく。

エルメロイⅡ世となってから身につけただろう話術が存分に発揮されていた。

 

「実現の目処などない。馬鹿げた探求だと思っていたが・・・・・・それにしても、もう少し納得のいく説明が欲しいところだ。魔法に手が届くほどの術理ともなれば、当然、生半可なものではあるまい?」

「それでは、かいつまんで説明させていただきます。しばしご傾聴を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、地球環境モデルを投影し過去を観測、英霊召喚システムを応用したレイシフト・・・・・・。それらすべてを、霊子演算器の導入によって可能にしたわけか」

 

 

守銭奴 そうだったのか・・・

フォースを信じろ 知らなかった・・・

 

 

「霊子演算器・・・アトラス院ではそのような試みが為されている、と風の便りで聞いてはいたが・・・」

「はい。それらすべての魔術的偉業が、アーチボルト門閥(もんばつ)によって達成されることになります」

『(えーッ)』

『(ハァ?)』

『(なんて堂々とした嘘・・・!俺でなきゃ見逃しちゃうね)』

「(管制室静かに!!)」

 

Ⅱ世のアクロバティック説明によりにわかに職員達が騒ぎ出したが、音声がオフだったためことなきを得た。

オルガマリーはⅡ世(あのひと)のボーナス減給しようかな・・・と一瞬思った。やめてあげてください。

 

「未来のアーチボルト家が、そこまで大それた成果を挙げた、と?」

「もちろんケイネス卿の卓越した采配と総括あっての成果です。今後の時計塔におけるあなたの躍進が、様々な学派の成果を吸収しこの一大プロジェクト『カルデア』の実現にいたったのです!」

 

Ⅱ世のオンステージ!効果はばつぐんだ。

 

「フン。私にアトラス院との繋がりはない。むしろあの偏屈たちを毛嫌いしている。あの悲観主義たちと手を取り合う事はない。ないと思っていたが・・・ふ、ふふふ」

 

先ほどまでの堅苦しい顔は何処へやら。ケイネスはもう機嫌のよさを隠し切れていない。

 

「(元弟子にこうも手玉に取られるか)」

「(時計塔のロードって・・・)」

「そうかー、うん。まああり得ぬ話ではないな!」

「(いやこれはケイネス卿が単純すぎるだけだな)」

 

ニッコニコである。

 

『(ええーッ)』

「(なんだか全然、まったく、イメージと違う人ですね・・・)」

「いやぁ、そろそろ降霊科と鉱石科だけでは派閥争いの切り札には足りないかな、とは思っていたのだよ。何か別口の研究にも手を付ける頃合かとね。うむ、しかしまさかそんな方向にも才能あったとはなぁ私」

 

急に早口になった。

 

「そうかー歳食ってからも大人げなく本気出しちゃうかー」

「流石です!ええ、このディルムッドめは信じておりました。マスターは今でこそ色々危なっかしいものの、将来は必ずや大事を成し遂げられる御方だと!」

 

ディルムッドこっち側だった?と思うくらいのナイス加勢である。

 

「無論、技術的成果だけでなく、ソフィアリ家の経済的援助によるところも大です。カルデアの施設構築に至る莫大な経費が賄えたのも、貴方と未来の奥方様との仲睦まじい私生活あってのことで」

 

ワッショイが止まるところをしらない。

 

「いやあ、フハハ。魔術の求道にばかり専念してきた私が、はたして家庭人として成功できるかどうか・・・・・・一抹の不安はあったのだがね。そっかー。フハハハハ!」

「(ああ、ロードがまずランサー陣営を味方に付けようとしたのって・・・)」

『(いちばん騙すのが簡単だから、かもね)』

「(・・・フォウ)」

 

ご機嫌なランサー陣営を眺めながら、カルデア陣営には「まあ上手くいってるならいいか・・・」の空気が漂っていた。

 

「というわけで、我々は御身にアーチボルトの栄光の(きざはし)を確実に築いていただくべく馳せ参じた次第です」

「(マスター。飽きてきた顔が隠せてないぞ)」

「(あっごめんねランサー)」

「とはいえ、時間渡航による過去干渉には様々な禁則が伴います。あまり大袈裟な援助までは叶いませんが、こと情報面においては・・・」

「うむ、君らの介入さえあれば戦況のあらゆる段階で敵に先手を打てるわけだな」

 

 

海の男 情報は武器だな

災厄ハンター すいませんメル友からメール来たので外れます

海の男 誰?

災厄ハンター シャルルくん

 

 

「ひとまずはキャスターの排除です。まだ他のマスターたちは標的の潜伏場所を知りません。先んじて襲撃をかければ、監視役が確約した追加令呪は御身のものに」

「素晴らしい!まだ一画の消費もないうちから、新たに四画目の令呪がこの手に刻まれるというわけか。ククク、この戦い。もはや勝ったも同然ではないか!」

「(フラグだ)」

「(フラグだなマスター)」

 

 

海の男 どこのシャルルくん?

災厄ハンター シャルルマーニュのシャルルくんです。カール大帝に音声読み上げソフトの入ったタブレット(シーカー印)をプレゼントした関係で

銀河鉄道123 カール大帝とはどこで知り合ったの?

災厄ハンター 俺ルーラー適正があるのでその関係ですね

 

 

なにやらコミニュティがあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽつぽつと明かりが照らす地下空間は、今はまだ、闇に静けさを浸している。

 

「マスター、マシュ。足下には気を付けろよ」

「うん。平気だよ」

「はい。・・・なんだか、異様な雰囲気を感じますね」

 

ぴちょん、ぴちょん。水滴が落ちる音。先導するⅡ世は迷わず進む。

 

「――しかし、半ば遊びも同然のつもりで参加したこの戦いだが。わざわざ未来の末裔が干渉してくるとは・・・。この私が考えていた以上に大きな意味がある、ということかね?」

「そうなり得る可能性が無視できない、という程度にお考えください。我々は過去に干渉するにあたって、既に確定した事象についてしか言及できません」

 

まだこの時間軸において誰にも干渉されていない出来事に関しては、口を慎まざるを得ない。

歴史を改編するとはそういうことだ。あまりにも余波が大きければ、抑止力が発動しかねない。

 

「ふむ・・・」

「そもそも我々がこうして介入した時点で、歴史は改編されて精度を失っています。ここから先は、私にとっても未知の領域、ということです」

「(だからユニヴァースなのかな)」

「(だからユニヴァースから来たんですかね先輩)」

「(ふふ。ナイショだ)」

「(そこ静かに。いや本当に頼む)」

 

世の中には不用意に掘り返してはいけないことがあります。Ⅱ世はそっと腹を押さえた。

話しているうちにキャスターの魔術工房に近づいていたようだ。境界が変わったのを察知して、ランサーとリンクが警戒を強くする。

 

「何か来るぞ!」

 

深淵から来たれり。烏合の使い魔たちよ。

第四次キャスターが脅威なのは宝具だけだが、頭数での力押しはそれなりに厄介だ。

 

「フン。魔術の秘匿すら弁えぬ下賤に、ここまで度を越した力を与えるとは・・・。やはり冬木の聖杯とやらは私が手ずから確保し管理する必要がありそうだ」

 

ケイネスが前に出た。ディルムッドが剣を抜く。

 

「行けランサー!我が道を阻む有象無象を排除せよ!」

「御意!」

「先輩、なんだかわたしたち蚊帳の外ですけど、黙ってみている訳にもいきません!」

「そうだなマシュ。立香を守ってくれ。私がランサーのフォローをしよう」

「了解です!」「オッケー!」

 

赤と黄の魔剣が唸る。

回転を加えられて破壊力の増した双剣は、眼前に溢れていた使い魔たちを砕ききった。

そのまま薙ぎ払い、袈裟切り。目にもとまらぬ連撃こそ、ディルムッドの本領!

 

「せいっ!とおっ!」

『おお・・・!流石フィオナ騎士団筆頭・・・!』

「当然だ。この程度はやってもらわなければな」

「おおおおおっ!輝く貌のディルムッド・・・・・・ここに!」

 

仕方なくで召喚したサーヴァントとはいえ、褒められて悪い気はしない。ケイネスは自慢げだ。

このディルムッドも騎士としての自覚が強く、何よりスキル「愛の黒子」が制御されているため、本来の主従よりも安定した関係性を築いているようだ。

 

「ふっ!」

 

青槍―ガーディアンランス―を振るう姿は、何故だか目が離せないほど優雅。

赤いマフラーが動きに合わせて靡く。まるで踊り子のようだ。れっきとした男性なのに、なぜか女性的な美しさを感じる。

 

「・・・Lさん、強いですね」

「・・・うん。すごい」

 

ふいに赤と黄の光が鮮烈に地下を照らした。少女たちの視線を奪う。

踏み込み深く一文字斬り。抵抗もできずに消滅していく使い魔たちよ。

魔力を纏ったディルムッドの双剣が重なる。夕紅といなびかりが混じり合いより威力を増す。

叩きつけられた衝撃で地下通路が揺れた。真っ向斬りで道は拓ける。

 

「マスター。どうやらあそこがキャスターの本拠地のようです」

「よし。この汚らわしい眷属の主に、エルメロイの名のもと誅を下せ!」

 

先に進んでいく二人を追いかけようとして、リンクはぴくりと反応する。

 

「(・・・嫌なニオイ。・・・・・・死肉が積み重なったニオイだ)」

「――なんと、おぞましい・・・。死体をここまで慰め物にするとは!」

「ふむ、これは監視役が始末を急ぐのも頷ける」

 

それ(・・)を発見した二人の声を聞いて、いよいよため息が零れてしまった。

 

「マスター、マシュ。気分が悪くなったら言うんだぞ」

「わたしは平気です。マスターは・・・・・・」

「マシュの後ろにいるから大丈夫。進もう」

 

踏み込んだ先は――――凌辱された童の亡骸まみれ。吐き気を催す凶行の場。

血と臓物が溢れて、否。工芸品として創り直されて(・・・・・・)いる。

リンクから舌打ちが漏れた。

見渡すかぎりの死体の山。無辜の民を襲い、引き裂き、残酷に笑う魔の者ども。

輩が倒れても、弔いさえできぬ生前の戦。七日七晩の悪夢よ。否でも応でも思い出してしまうだろう!

立香がそっとマシュに隠れた事を確認して、近づいてきたキャスターに殺気を向けた。本当にろくでもない男だな・・・!

 

「おのれ、おのれ、おのれ・・・!我らが美の探求を阻む蒙昧(もうまい)め!さっ、ささては貴様らも聖処女の覚醒を阻むつもりかっ!?」

 

リンクに睨み付けられて、ジル・ド・レェは竦み上がる。言葉尻が震えあがる。

それでも錯乱した眼で魔道書を開き、敵意を露わにした。狂気もここまでくると哀れだ。

 

「ケイネス卿。ディルムッドに宝具をお願いできますか?この手の輩は一気に吹き飛ばしてしまった方が早い」

「宝具か。確かにそれなら一掃できるだろうが・・・」

「奥方・・・いえ、まだ婚約者でしたね。魔力の供給ならご安心を。私はランサーですが、スキルでサポートできます。ソラウ嬢への影響は軽微です」

「そうだ。まだ婚約者だぞ。間違えないでくれまったく。よし、ランサー。宝具を発動しろ!」

「お任せを!」

 

怒りに心を燃やしていてもリンクは冷静だった。ケイネスは相変わらず乗せられやすかった。

スキルを発動しながら、キャスターを睥睨する。律儀にびくりと震えたジル・ド・レェは、魔力放出(跳躍)で接近してきたランサーに反応が遅れた。

 

「生死を分かつ境界線・・・・・・見定める! 」

 

花びらが散る。

目が覚めるほど赤い華の。はっとするほど鮮やかな黄の。

 

「はああああっ! ここだ!憤怒の波濤(モラ・ルタ)!!」

 

逃げられぬ。逃れられぬ。まさしく激情の細波。

触れれば絡みつく薔薇の棘のごとく。キャスターの霊核を貫き砕く。

 

「おお、おおお・・・!」

 

悪あがきの海魔はリンクに切り裂かれた。

地下空間に断末魔が響いて、消える。

 

「サーヴァント、キャスター消滅。我々の勝利です」

「・・・キャスターのマスターはいないの?」

「単独では脅威になるような魔術師ではないが・・・・・・放っておけばキャスター抜きでもこういう凶行を続ける殺人鬼だ。見逃すわけにはいかないな」

 

 

Silver bow マスターからしてそういう感じか・・・

 

 

「しかし肝心のキャスターは倒したのだ。これで監視役に課された指令は果たしたことになろう?」

「確かに。ケイネス卿はさっそく冬木教会に赴き追加令呪の要求を。我々はこの場で事後処理に当たります」

「ふむ、そうだな。確かに諸君らを引き連れて監視役の前に出るわけにもいくまい。では、また後ほど」

「心強い助勢、感謝する。次もまた頼むぞ。未来の勇者たちよ」

 

ケイネスたちが去って行く。

立香たちは、子供の供養をしてからキャスターのマスターを追うことにした。

 

 

災厄ハンター シャルルが「自国の冒涜者が申し訳ない」って言ってます

 

 

お前のせいではないのだから気にするな、と

 

 

厄災ハンター 伝えておきますね

Silver bow フランスが自国・・・。幻想寄りのシャルルマーニュってこと?

厄災ハンター 幻想と史実で別れてるらしーですよ

Silver bow ふうん。珍しいね



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メンタルも成長痛

「フォウ?」

 

立香の肩に乗っていたフォウくんが、前方に倒れている人影を見つけて首を傾げる。

地面をじわりと伝う黒い染みが、既に生命が絶命していることを示していた。

 

「あれは・・・死んでいるな。状況から見てこいつがキャスターを召喚したマスターだろう」

「・・・そんな。サーヴァントと仲間割れでもしたのでしょうか?」

 

エルメロイⅡ世が近づいて死因を確認する。死体の鮮やかな橙の髪が照明に照らされて鈍く光っていた。

どうやら刃物で一刀のもとに斬り伏せられたようだ。あのキャスターがこんな芸当をこなすだろうか?

 

「ッ!?八門金鎖陣!」

「敵襲。新手のサーヴァントか」

 

ぶわりと魔術の陣が広がり闇夜からの攻撃を弾いた。リンクは既に構えている。

驚きつつも反射的に盾を構えたマシュの後ろに下がった立香は、目を凝らして通路の奧をのぞき見た。

突然現れたように見える、男から揺らぎ上がる警戒心。伸びる影だけは消えずに残っている。

 

「気配遮断。アサシンか・・・奇門遁甲がなければ我々も危うかったぞ」

「・・・・・・。妙な術を使う連中だ。まさか見つかるとはね」

 

足音もなく襲来したサーヴァントは、異様な雰囲気を纏っていた。

顔の半分を包帯で隠した上、赤いフードで更に覆っている。微塵も露出のない出で立ちと低く冷たく聞こえる声が、男が世界の暗部で生きる存在であることを示していた。

 

「これもまた以前戦ったアサシンの分体ですか?なんだか雰囲気が違いますが・・・」

「こいつは・・・違うぞ。私の知っている第四次聖杯戦争に、こんなサーヴァントはいなかった」

『じゃあつまり、これがキミの捜していた「異物」なのか?』

 

本来あるべき1994年冬木の事象を歪め、ここを特異点たらしめている原因。

たとえ元凶でなかったとしても、何らかの可能性はあるだろう。

 

「こちらは君たちと争う理由は何もない。大人しく道を空けてくれるならば立ち去るのみだが?」

「そうはいかん。おまえが何者で、いったい何のためにここにいるのか説明してもらわなければ。我々はそのためにここまで出張ってきたようなものだ」

 

戦闘態勢を解かないエルメロイⅡ世を見て、アサシンは呆れたように小さく息を吐いた。

 

「そんな要求に従う理由はないし、強要されるなら敵対するしかない」

「だそうだ藤丸。遺憾ながら暴力しかなさそうだ」

「遺憾だな~」

 

鋭い風切り音と共に投擲されたナイフを、リンクが弾き落としていく。

飛び抜けた敏捷に物を言わせて突撃してきたアサシンはしかし、エルメロイⅡ世の防壁に阻まれた。

破壊するための一点攻撃。拳銃の連射。背後の気配を察知して身体を捻る。数ミリずれた位置を刈り取る青槍のなぎ払い。

ナイフで捌こうとするも、その上から槍に絡め取られてしまう。即座に不利を悟って背後に下がった。

 

「ちっ、手強い・・・!」

「・・・このサーヴァント、何かが変です。この聖杯戦争に参加している他のサーヴァントとは、明らかに気配が違います」

「ああ、それでいてどこか馴染みがある。むしろ我々カルデアの側で」

 

違和感を口にしたマシュにエルメロイⅡ世が同意する。立香はあまりよく分からなくて、フォウくんを無言で撫でた。

 

「そう、どことなくアーチャーのエミヤ先輩のような・・・」

「ッ!?」

 

アサシンが反応したのはその言葉ではなく、ふいに轟いた雷撃の方だった。

リンクが襲いかかってきた雷の波状攻撃を払えば、地下通路を一瞬スパークが照らす。派手な横やりをしてきたサーヴァントの声よりも早く、馬の嘶きが耳を劈いた。

 

『みんな、気をつけてくれ!新たなサーヴァントの反応だ。真っ直ぐそちらに向かっている!」

「何だと?こんなタイミングでいったい誰が・・・。あ、まさか!」

「ッ!マスター、伏せて!」

 

ここが鋼鉄で構築された地下でよかった。地上だったら地面が抉れていただろう。

地響きと共に飛び込んできたのは立派な戦車。たなびくサーヴァントの赤いマントが砂埃の中でもよく見える。

戦車が着地するよりも速くマシュたちの側に戻っていたリンクは、侵入者の顔を見上げて少しぎょっとした。

 

「大丈夫ですか?マスター」

「うん。ありがとう」

「良かった。でも今の隙にアサシンを逃がしてしまいました。申し訳ありません・・・」

「私の金鎖陣も今の雷撃でぶち壊しだ。おのれ・・・・・・」

 

 

奏者のお兄さん うわ

ウルフ うわびっくりした 似てんな

 

 

やっぱそうだよな?なんか似てるよな?ガノンドロフに

 

 

「おおう?やはり既に戦いは始まっていた様子だな。いささか我らは遅参のようだぞ。坊主」

「あれ?おかしいな。てっきりボクらが一番乗りだと思ってたのに」

「あ、あれは!」「フォ~ウ!」

「あっ。あー・・・そういうことかぁ!」

 

赤髪の益荒男が居る。

筋骨隆々の体躯。威風堂々とした振る舞い。この薄暗い場所でも聞き逃さないような快活な声。暴れ馬すら手懐けるその器。

第四次聖杯戦争のライダーたる王。征服王イスカンダルである。

――そしてそのマスター。立香達は一目で気づいて察した。納得をもってエルメロイⅡ世を見る。

その反応を見てリンクも向こうのマスターを観察していると、立香が耳打ちで教えてくれた。その間にエルメロイⅡ世が我慢ならぬ様子で口を開く。

 

「何が一番乗りだこのたわけ!この場所を突き止めたのがいかに稚拙な方法だったか、貴様自身がよく理解していたはずだろう!」

「・・・・・・なるほど。青かった過去ほど恥ずかしいものはないな」

「黒歴史だね」

「あんなんで他の一流のマスターを出し抜けるものと、まさか本気で思っていたのか?」

 

エルメロイⅡ世の言葉に相手のマスターが驚きながら立ち上がる。

向こうからしてみれば突然怒鳴られているのだ。困惑するのは当然だろう。

 

「な、な、何だよオマエ!いきなり何の話を・・・」

「今回に限らず後にも先にも、貴様はことごとく幸運に恵まれ、状況を切り抜けてきたにすぎん!なのにたまたま結果が伴ったというだけで自らの状況を過信するその甘さ!そんなザマだから貴様には進歩がないのだ!自覚がない訳でもなかろう!あん!?」

「ちょっと待てよ!なんで出会い頭にボクが説教されなきゃならないんだよ!」

 

 

ウルフ それはそうでもある

Silver bow ある意味恥ずかしい過去を思い出すよりも辛いから・・・

 

 

「いったい誰だよオマエ!子供を攫ったキャスターとそのマスターって、オマエらじゃないのかよ!?」

「大馬鹿者!まともな状況観察もできんのか!それでよくもまぁのほほんと聖杯戦争に・・・・・・」

 

葉巻を握りつぶして、長い黒髪を振り乱して、心のままに叫ぶ――!

 

「ああもうッ!馬鹿!馬鹿!マジ大馬鹿!鰻玉丼食べ過ぎて死ね!」

「・・・何でしょう。困った方向にスイッチが入ってしまったようです・・・・・・」

「フォ~ウ・・・」

「なぜ鰻玉丼ピンポイント」

「うなぎ美味しいよね」

 

すっかり蚊帳の外になってしまったが、リンクは槍から手を離していない。

顎髭をさすりながら、興味深そうにこちらを見ているライダーの姿があるからだ。

 

「こ、このッ!いったい何様のつもりだよ!大体オマエのステータス、どう見たってキャスターだろ?オマエが聖杯戦争そっちのけで悪さをしているのは監視役が突き止めてるんだぞ!」

「ブルシット!ステータスの透視が出来ているのなら私が疑似サーヴァントだということくらい気付けこのトンチキ!」

 

 

それは無理では?

 

 

守銭奴 自分相手だからね。しょうがないね

フォースを信じろ 同情の余地がありますよ

 

 

「ああ情けない!おまえなんぞの手に刻まれた令呪が勿体なくて泣けてくる!」

「な、な、な・・・何だよ疑似何とかって?だってキャスターのクラスが他に二騎も三騎もいるなんて変だろ!聞いてないぞ!」

「まぁ待て坊主、そいつのクラスがキャスターであれ何であれ、少なくともこの工房の主ではあるまいさ」

 

ここでようやく征服王が口を挟んできた。

辺りをさらりと見渡して状況を確認しつつ、ウェイバー同士の会話もきちんと聞いていたらしい。

 

「え?な、何で?」

「ここに残された痕跡を見るに、だな。どっちも地勢を利用しとらんし周囲の被害を憚ってもいない。こりゃ攻めた守ったの戦闘じゃない。逃げようとした奴と、それを阻んだ奴の戦いの跡だ」

 

若干不満げな顔をしつつも、ウェイバーは静かに聞いている。

 

「故に、我らと入れ違いに逃げたのも、今ここに居残っている連中も、我らが狙った相手とは違う。また別口だ」

「うむ、流石は征服王の戦略眼だ。一を見て十を読み取るとは」

「それはそうとしてそこの顰めっ面よ」

「な、何・・・かね?」

 

急に水を向けられたエルメロイⅡ世が身構える。

イスカンダルはにかりと笑みを浮かべて、菓子をつまむような気軽さで言った。

 

「さっきからやけにうちの坊主に因縁を付けたがっている様子だが。それはつまりこの征服王と一戦交えようって覚悟なわけか?」

「な、何でそうなる?貴方だってどちらの言い分が間違っているかの判断はついているだろうに!」

「それはそれとして、この坊主は余のマスターなのでな」

 

すぅ、と笑みを消して真顔になる。

その落差は確かに、武勲を立て続けた王の覇気。

 

「喧嘩を売られたとあればサーヴァントとして黙って見過ごすわけにもいかん」

「ライダー、オマエ・・・」

「くッ・・・それは・・・・・・」

 

感動したような声を溢すウェイバーと、道理の通った発言に言葉に詰まるエルメロイⅡ世。しばし天使が通る。

立香たちは顔を見合わせて、マシュが代表して声を掛けた。

 

「あの、ロード?たしかライダーとは戦わない方針だったのでは?」

「・・・撤退しよう藤丸、今ここでさらに事を荒立てるわけにもいかない」

「なんだつまらん。ちったぁ骨のある奴かと思ったのだがな」

「それは失礼、マケドニアの王よ。まさかこの程度で相手の底が知れたとお考えかな」

 

エルメロイⅡ世が反応するよりも早く、リンクが茶々を入れる。

金の双眼がこちらを捉える前に立香を抱えて駆けだした。マシュが続き、出遅れたエルメロイⅡ世が追いかける。

あっという間に見えなくなった一同を見送ったライダー陣営がその後どうしたかは、主従のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああ腹立たしい!マスターの諍いにサーヴァントが口を出すなどと!モンペか!モンペなのか!」

「荒れてるな」

「落ち着きましょう先生」

 

ハシゴを登って地上へ。籠もっていた場所にいたせいか、風が妙に冷たく感じる。

ううんと伸びをした立香は、イライラとした様子で葉巻を吸うエルメロイⅡ世に苦笑する。

放っておいたら地団駄を踏み出しそうだ。

 

『しかしせっかく第三の保護対象だったライダーのサーヴァントと接触できたのに・・・。あんな形で決裂してしまってよかったのかい?』

「構うものか!どうせ真面目に戦うつもりなどない連中だ。放っておけば隠れ家で煎餅囓ってビデオ見て遊んでるだけだ!」

『いいのかなぁ・・・』

 

 

Silver bow 現世を満喫してるじゃん

りっちゃん エンジョイ勢イイゾ~

ウルフ ガノンドロフはそんなに大人しくねぇな・・・

バードマスター そもそも大人しく召喚されてる時点でね。話が通じる余地があるよね

 

 

「どうやらライダー絡みはロード・エルメロイさんにとって地雷案件みたいですね、先輩」

「困ったものだね」

「はい。わたしもそうおもいます。今後はLさんに対応してもらいましょうか・・・」

「私は構わないぞ?なかなか面白そうな御人だ」

 

にやりと笑うリンクを見上げて、立香とマシュも気が抜けたように笑った。



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M八七

この大量の石があればドーマンを引けるし周年鯖も引けちゃうし福袋でオベロンを引けるなぁ!!!!!!!!(素振り)


「さて、次の一手を打とう」

 

エルメロイⅡ世の唇から細い紫煙が燻る。

今日の夕飯は全国チェーンのハンバーガー。やはりたまにはジャンクなものを食べないと。

立香は満足げに口元を拭って、Ⅱ世の話を聞く体勢に入る。

 

「誰かを納得させるためにはな、その人物にとっていちばん都合のいい虚構を用意してやるのが早道だ。その点、ケイネス卿は『世界が自分を中心に回っている』という前提に基づいた話であれば・・・」

「あれば?」

「何の疑いもなく信じてくれる。実に御しやすい人物だ。これ何もかも人の心を流し動かす策士の技なり」

「詐欺師の間違いでは?」

 

不敵に笑ったⅡ世に立香がツッコミを入れる。

というか、どれほどちょろく見られているんだあのロードは。確かに魔術師たちは魔術に傾倒しすぎて少し、いやかなり感性が特殊なことがあるが・・・。まぁ、Ⅱ世が相手の性格を知り尽くしてるのもあるだろう。

 

一同は再び、冬木ニュータワー最上階へ。

天を衝く楼閣の腹中で、ケイネスは手元のワイングラスをくるりと回した。

 

「君の提案の通り、昨夜のうちに間桐邸へ使い魔を送り交渉を行った。バーサーカーは共闘に応じるそうだ。遠坂家のサーヴァントと対決する機会をこちらで設える、という条件でな」

「恐れ入ります。しかし残念ながら、その件についてはお手間をとらせるだけの甲斐があったかどうか・・・」

「なに?どういうことだね?」

 

少し芝居がかった仕草でエルメロイⅡ世は切り出した。ケイネスが素直に疑問を口にする。

 

「こちらでも大きく進捗がありました。いや、決定的な成果とも言えましょう。いくつかの不確定要素について観測がつき、パラドックスを回避しつつ開示できる情報が大幅に増えました」

「・・・ほう」

「結果・・・今こそ私は貴方にすべての真相を語ることができます。この冬木市における聖杯戦争の真意を」

 

まるで封印の解けた扉を開くような慎重さで、Ⅱ世は語り出した。

一体なにを言い出す気なのか。少女たちは首を傾げ、フォウくんはぴこんと両耳を立てる。

 

「そもそも奇妙だとは思いませんでしたか?万能の願望器を奪い合うなどという大仰な大儀式が、時計塔を遠く離れたこのような僻地で開催されたこと。七人を募った参加者のうち、魔術協会のために用意されたのがたった一枠限りしかない点・・・」

「うむ、まぁ、だからこそ然程のリスクもない、評判倒れの遊興であろうと見越して参加した訳だが」

「評判倒れどころか、その実態は有名無実。ここ冬木での聖杯戦争とは、実は虚構でしかありません」

 

これにはケイネス陣営だけでなく、カルデア陣営も驚いた顔をした。

もっとも、その形で感情が発露されただけで、呆れているか苦笑しているかの違いはあったが。

 

「全ては我がアーチボルト家の政敵、トランベリオ一派による陰謀なのです!」

『(ダ・ヴィンチ。私、仮眠とるわ)』

『(了解所長~)』

「ある期間だけロード・エルメロイを時計塔から引き離し、その留守の隙に乗じて一気に魔術協会内部の勢力を拡大しようという企みなのです!」

「な、なんだとぉ!?」

 

付き合いきれないとばかりにオルガマリーが退出した。

ダ・ヴィンチを除く他の職員たちは、羨ましそうに所長の華奢な背中を見送っている。

 

「我々は御身がトランベリオ派の陰謀で罠に嵌められる、という結果だけを知って過去干渉に踏み切りました。ただし未然の出来事について警告はできない」

「・・・・・・そうだな」

「未来の知識を貴方と共有するためには、干渉先の過去時間で確かに陰謀が存在するという明確な証拠を観測する必要があったのです」

『(うわ~口から出任せでよくもここまで・・・)』

 

感心するやら感服するやら。ロマニの呟きに、管制室中から同意が返る。

ここで霊体化して散歩していたリンクが戻ってきた。扉をするりとくぐり抜けて、立香の側に侍る。

 

「昨夜ようやくその証拠を掴みました。聖杯戦争の関係者たる御三家のひとつ、遠坂家から直々に証言を得ました」

「ど、どうやってかね?」

「この街の霊脈を手当たり次第に破壊してやったのです。もちろん聖杯戦争という枠組みとは何の関係もない破壊活動ですが、だからこそ遠坂は音をあげた」

 

机におかれたワイン瓶の中で、赤い液体が波紋を起こしている。

まるでケイネスの動揺を表しているようだ。水銀よりも雄弁に、苛立ちの逆波を起こしている。

 

「狂言の聖杯戦争のために管理地の支配権を奪われたのでは、たまったものではないでしょうしね。遠坂はトランベリオ派と共謀し、四度目の聖杯戦争をでっち上げてロード・エルメロイに誘いをかけたと白状しました」

「(そうだっけ?)」

「(いいえ、遠坂のマスターとは初日以来会っていません)」

「(霊脈の件しか事実がないな)」

 

しかしケイネスはそんなこと知りようもない。

軍師の策略に、ぐるんぐるん回る口車に乗せられていく。

 

「研究者としてではなく実践、『武勲』を求めていたケイネス卿が、まんまと誘いに釣られるような絶好の闘技場・・・。それがこの冬木の儀式の正体です。招かれた他の参加者も、監視役として引き入れられた聖堂教会も、すべてこの狂言に真実味を持たせるための囮に過ぎません」

「なんと周到、なんと悪辣・・・」

 

わなわなと震える主君を案じながら、ランサーがグラスにワインを注いでいく。

ぐいっと勢いよく呷ってから、ケイネスは空気を切り裂くように叫んだ。

 

「だが民主主義に傾倒した愚者ども、トランベリオ派なら、やる!確かにやりかねない!・・・私は・・・いったい私は何のために、貴重な時間を割いてまでこのような徒労を!」

「(釣られちゃった)」

「(釣られちゃいましたね)」

「まぁ、とはいえ。キャスターを倒したお手並みは実に見事でしたし、ソラウ嬢もあらためて貴方の頼もしさに惚れ直したのではないかと」

「そ、そうかね?フム・・・」

 

 

守銭奴 そうかね?

フォースを信じろ そうだぞ。信じろ

 

 

お前らさては飽きてきてるな?

 

 

「間違いありません。私は女性のその手の感情の動きには敏感なのです。あれは、そう――――。“今までまったく興味がなかったけれど、今回の頼れる一面がギャップになって嫌いが好きに反転した” それぐらいの心の変化ではないでしょうか」

「なんという・・・・・・!いや、その前提はなんという?まあいい、結果は素晴らしいものなのだからな!」

「(ギャルゲーじゃないんだから・・・)」

『(ちょっとボク、この人に同情しちゃうなぁ・・・)』

 

 

災厄ハンター シャルルが手伝いたそうにこちらを見ています

りっちゃん かわいいね

 

 

じゃあ呼ぶか。ディルムッドより御しやすそうだし・・・

 

 

海の男 その理由でええんか

Silver bow まあ多少事情を分かってくれてる方が

 

 

「ともあれ、事は一刻を争います。どうか急ぎロンドンへと帰還しトランベリオ派の陰謀を阻んでくださいませ!」

「当然だ!ええい、小癪なトランベリオめ、バリュエレータめ!目にもの見せてやるわ!ソラウ、急ぎ身支度を!」

「新たなる戦場は海の彼方・・・マスター、不肖このディルムッドもお供させていただきます!」

 

色めきだった展望の客室。窓から差す月光が、室内の照明に溶けて混ざる。

 

「(Ⅱ世。そのランサーもロンドンに返していいぞ)」

「(ッ!?わ、わかった。貴方が言うのなら・・・)」

 

脳髄に響く念話。意識を掴んで離さない、甘い低音。Ⅱ世は動揺を隠して受け入れた。

たかだか数日行動を共にしただけでも、このサーヴァントのステータスの高さを十二分に理解している。

それに・・・何というか。大丈夫だと思う(・・・・・・・)のだ。彼がいい(・・)と言うのならば、本当に良いのだろう・・・と。

Xを名乗るセイバーはアーサー王。ならば彼は?どこの王、騎士、偉大なる英霊?

あえて明かさぬ辺りは事情があるのだろう。エルメロイⅡ世に宿る軍師は言う。ロードとしてのⅡ世も頷く。

このサーヴァントは強く、信頼できる。現状はそれでいいだろう、と。

 

「もとより聖杯に託す願いなど持ち合わせぬ身。主の望む戦場こそ我が槍の見せ所です!」

「おお、それは心強い。サーヴァントまで同伴させてきたとなると、いかなトランベリオ派でも臆する気持ちを隠せないでしょう。このような卑劣な行いをロード・エルメロイが許すはずがないことを、どうかロンドン中に知らしめてくださいまし」

 

満足そうに頷き立ち上がったケイネスは、すぐに立ち去ることをせず、Ⅱ世に向き合った。

 

「・・・・・・ああ、最後にひとつだけ。君は私の書斎で恋文の下書きを見つけたと言っていたな」

「・・・・・・?はい。それが何か?」

「その私がそんな迂闊なものを残したまま、他人の手で部屋を漁らせるなど、断じてあり得ぬ話だ。――思うに、未来の君が検めた私の書斎というのは・・・主がついに戻らなかった部屋ではないのか?」

 

息を呑んだのは誰か。

ぱちんと割れた風船のような沈黙。目が覚めるような問いかけ。

 

「・・・・・・はい。仰せの通りです」

「ふむ。その一点についてだけは、礼を言っておくべきなのだろう」

「・・・・・・勿体なきお言葉、恐縮です。わが昔日の師。私が目指したロード。偉大なるエルメロイ」

 

心からの賞賛だと理解して、ケイネスはそれを受け止めた。

 

「御身の才能は時計塔の誇る至宝です。どうかくれぐれもご自愛なさるよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロード・エルメロイ・・・ここは改まってⅡ世と呼ばせてもらうけど』

「何かね?」

 

ネオンライトに引き出された影が、生きているかのように伸びていく。

口火を切ったのはロマニだった。Ⅱ世の返答は短い。

 

『釈迦に説法だとは思うけれど、キミが先代に吹き込んだ虚偽は・・・。そもそもの根幹においても全くの虚偽だということを、キミ自身もきちんと理解しているんだよね?』

「どういう意味ですか?ドクター」

『カルデアスはタイムマシンなどではないし、君たちもまたその時間における未来人という訳じゃない』

 

特異点というものは、焼却された歴史の中にたまたま浮かび上がった泡のようなもの。ごく限られた領域でしかない。

出現の原因となった異変が解消されれば消えてしまう、史実とは無縁な夢のようなものだ。

 

『故に、キミがどんなに骨を折ろうと、実際の歴史が改編できるわけではない。たとえこの場で誰かを救済しても、その救いはこの場限りのものだ』

「フォ~ウ・・・」

『もといたキミの時間軸においては、死者は死者のまま、悲劇は悲劇として確定したままだ。レイシフトで過去に干渉することは、理論上不可能なんだ。キミの行いは・・・全て無意味なんだぞ?』

「それがどうしたというのだ?ドクター」

 

カルデア医療班トップ。現在は実質カルデアNo.2。

言いづらいことをいうのは自分の役目。

その言葉に小石を蹴るような気軽さで、Ⅱ世は返した。

 

『これがまったくの徒労だということをキミ自身が自覚しているのか、確かめておきたかったのさ。どうにもキミはこの局面を可能なかぎり穏便かつ円満に解決しようとしているようだけど』

 

そこまで徹底しなくても、より単純で手間のかからない方法だってある。

なぜ、こんな手段をとるのか。

何故?

―――――本当は薄々、分かるような気もするけれど。ロマニ・アーキマンは知りたいのだ。

 

「徒労か・・・傍目にはそう見えるかもしれない。だが私にとっては大きな意味のあることだ。実際には救えないとしても。私は、今この場でできる最善をなし得たかった」

「最善・・・」

「かつてできなかった事への償いではない。同じ間違いを二度も看過する――――。そんな弱さを、私の心が許さなかった。それだけの話だ」

「・・・・・・」

 

 

小さきもの ふぁぼしました

銀河鉄道123 高評価押した

バードマスター いまⅡ世に対する好感度上がってきてるよ

 

 

「ただの自己満足と笑ってくれて構わんよ。私はたんに、自らの無力さを思い知らされるような展開を、再び味わわぬよう避けて立ち回っているだけの話だ。もちろん、悔恨の痛みは私だけのもの。他の誰かにとっては痛痒(つうよう)でも何でもあるまい」

「笑わないよ。先生」

「はい。良くないことが起こるのを黙ってみているのは、何か、人間として間違っていると思います」

「結果がどうなるかなど、したいことをしていれば自ずと決まる。私もロードの方針に賛成しよう」

「フォウ!」

 

顰めっ面がようやく崩れた。

卑屈と自己嫌悪と不器用な真面目さの底に確かにある、ロード・エルメロイⅡ世としての誇りが燃えている。

――――こういう魂を応援するために、リンク達はいるのだ。

 

「ありがとう。そう言ってくれると助かる」

『・・・そうか。人間らしい、という事だね。OK、この件に関してはボクはもう何も言わない』

『もとよりこの件はⅡ世に一任しています。それで、次の計略はあるのかしら?』

『所長!?仮眠から戻ってきてたんですかいたたたた耳を引っ張らないで!パワハラ!パワハラですよ!』

『ロマニは本当に心配性だね~』

「・・・よし。じゃあバーサーカー陣営と合流してアーチャー陣営を落とそうか」

『全スルー!?!?』

 

 

銀河鉄道123 アーチャーだれ?

奏者のお兄さん ギ ル ガ メ ッ シ ュ

 

 

マジか。なんとか味方にできないか?この状態からでも入れる保険ある?



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白と黒ともう一色

「・・・・・・あんたが、ランサーのマスター?」

 

ざわざわ。さわさわ。

冷え切った音が木の葉を叩く。

夜の森は物寂しげ。

 

「その名代として聖杯戦争を請け負った者だ。そちらは間桐雁夜、バーサーカーのマスターだな?」

「ああ。約束の条件、本当に守ってくれるんだろうな?」

「無論だ。アーチャーは我々にとっても由々しい難敵」

 

合流場所で待っていたのは白髪の男と、プレートアーマーのサーヴァント。

幸いにもカルデアはこのサーヴァントを知っていた。円卓の騎士の中でも最強と謳われた、湖の騎士。ランスロット。

なぜアーチャー陣営を目の敵にしているのかは知らないが、単純戦力としては心強い限りだ。・・・・・・ただ。

 

「(ねぇ。あの人大丈夫かな)」

「(今にも倒れてしまいそうな顔色の悪さです。・・・ですが、止める術がありませんね)」

 

死相が浮かんでいる。

まるで適合していない臓器を移植されたかのよう。ちぎれた血管をツギハギに接合されたかのよう。

間桐雁夜。

間桐家に養子に出された遠坂桜を救う為に、自ら忌むべき実家へ戻った男。

それだけ聞けば素晴らしいが―――悲しいかな。間桐家を牛耳る真の当主は、彼の苦悶に満ちた顔が見たいだけでバーサーカーを召喚させるような人物だ。

たとえ勝利できたとしても、望む結果は得られないだろう。

 

 

というかなんか、何だ?なんか身体の中に入ってる?

 

 

フォースを信じろ ワーーー!!!蟲がい゙る゙!!!!!焼いて!!!!

奏者のお兄さん だから言ったじゃん!だから言ったじゃん!

小さきもの まことのメガネか

りっちゃん 始祖様の火力で焼いたら本体ごと逝くだろ

災厄ハンター ていうか蟲??????いやなんでもない聞きたくない

 

 

「(いざとなったら私が割って入るから大丈夫だ。おまえたちは目の前のことに集中しなさい)」

「(うん。ありがとうランサー)」

 

 

フォースを信じろ ぞわぞわする よくない キミにも見せてあげよう

Blue ウワーーーーーッッッ!!!!!!

ウルフ 何やってんだバカ共

バードマスター おや珍しい子が

 

 

何か勝手に正気度ロールし始めた後輩どもをスルーしつつ、夜間ライトが照らす方向を目指す。

 

「他の邪魔が入らない環境で、遠坂のサーヴァントと一対一・・・。そんな状況を誂えてくれるっていうのか?この森で?」

「正しくはこの森の奥にある洋館で、ね。今そこにはアーチャーの他にセイバーとライダーが集合して睨みあっている」

「あの、ロード。それでは邪魔どころか乱戦になるのでは?」

 

ざくざくと落ち葉を踏みしめながら進む一行を阻むものはない。

警報や防御用のトラップは根こそぎ破壊されており、木々はなぎ倒されて俯いている。

 

「いいや、そうはならない。この三騎は揃いも揃って戦略よりも優先せざるを得ない拘り処があるのでね。王様としての意地、ってやつのはずだ恐らくは。恐らくは」

「自信を無くしてる」

『予想外のことが起きすぎたんだ。そっとしていてあげよう』

 

白光を浴びて光る、明るい庭が見えてくる。

闇夜に慣れていた目をぱちぱちと瞬かせながら、立香達は身を潜めて様子を窺った。

 

『ところで、サーヴァントが三騎も集まって一体なにをしているんだい?』

「ああ、聞いて驚くな」

 

夜露に濡れた風に髪を靡かせながら、Ⅱ世は言った。

 

「ただの飲み会なんだよ。これが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう?こりゃまた珍妙な取り合わせだな」

 

面白がるような声色を隠さずに、ライダーが言った。

長い柄のついたコップ――柄杓で、樽のワインを飲んでいる。どういう知識をインストールしたのだろうか。

 

「おや。貴方たちですか。働き者ですね」

「貴方達は・・・、バーサーカーと手を組んだの?」

 

呑気に酒を呷るのはセイバー。少し身構えた様子で尋ねたのはアイリスフィール。

 

「こ、ここでボクらを襲う気なのか?」

 

完全に戦闘態勢に入っているバーサ―カーを見て、反射的に身を竦ませたウェイバー。

そして。

 

「――――――来ると思っていましたよ」

「は?」

「ん?」

「子供・・・?」

 

―――――幼い、そう、子供と言って差し支えないサーヴァント。

金色の髪、赤い瞳。紅顔の美少年は、立香達を見てにこりと笑って――――。

ぷらぷらと揺らしていた足を地面につけて、座っていた椅子から立ち上がる。逸る気持ちを堪えぬまま、少年は心のままに動いた。

 

「お兄ちゃん!」

「は???????」

「えっ」

「ご兄弟・・・?」

「知らん知らん知らん知らん!」

 

若返りの霊薬を口にして幼くなった、ウルクの英雄ギルガメッシュ。霊基名は子ギル。

は、リンクのお腹にぎゅうっと抱きつくと、その場にいる全員が固まる台詞を言い放ったのだった。

 

「もー酷いですよお兄ちゃん!ボクを置いて何してたんですか!」

「いや違っ・・・まてマトウ私は無関係だ!落ち着け!」

「アンタも遠坂のサーヴァントだったのか・・・?バーサーカー・・・!!」

「Arrrrrrr!」

 

しっちゃかめっちゃかである。

激痛と憎悪で正常な判断が出来なくなっている雁夜が、今更ここで止まるはずもなく。

赤黒い魔力を纏った剣が脳天目がけて振り落とされるのを見て、リンクは仕方なく子ギルを抱えて回避するのだった。

 

「先生!どうしよう・・・、先生?先生ーーーー!?」

「ドクター!エルメロイさんが膝を付いて顔を覆ってしまいました!それにランサーさんが・・・!」

『どうしたら良いと思う?はいダ・ヴィンチ』

『とりあえずランサーくんはほっといても死ななそうだし、他の陣営に協力を取り付けたら?』

『採用』

 

バーサーカーの攻撃で、美しく整えられていた花壇がぶち壊れていく。

ニヤニヤと眺めているライダーの横をすり抜けながら、飛んでくる瓦礫を回避。赤いマフラーが翻って風に揉まれる。

舌打ちは騒音に呑まれた。肌を灼く魔力の余波を捌きながら、胸元にしがみついてる――――。・・・顔をうずめている元凶に、抗議をするのも忘れない。

 

「おい、お前ギルガメッシュだろう。何を考えてこんな真似を・・・」

「ふへへへいい香りする。勇者リンク、勇者リンクに抱えられてえへへへへ」

「ぶん投げるぞ」

「ボク気づいちゃったんです。子供の姿になれば合法的に抱きつけるんじゃないかと。勿論全力の貴方と戦える機会を逃すのも惜しいんですけど。気づいちゃったのでもう、やるしかないなって」

 

 

Silver bow 真顔で言うじゃん

Blue 変態・・・・・・?

 

 

「Arrrrrr!」

「ぐ、ゔ・・・。・・・何してるバーサーカー!早く仕留めろ!」

「先にあっちが倒れそうだな・・・」

 

魔力を消費するたびに視界が霞んでいく。全身を痛みが走る。上ずる声を漏らしながら、それでも敵を睨めつける。

遠坂時臣に対する憎しみが、膝を折ることを許さない。ここで死ぬことを許さない。ささいな嫉妬から発芽した感情は、虫の餌となりさらに燃えあがる。

決して高潔とは言えぬ、愚かな男の背中よ。

 

「・・・はぁ、仕方ない。マスター!」

「はーい!」

「一時離脱する!許せよ!」

「気を付けてね!」

 

返す微笑ですら麗しい。

即座に身体は急旋回。バーサーカーの横をすり抜けて、雁夜の体を担ぎ上げた。

 

「あぐっ!?」

 

跳躍。暗転。

気絶。

リンクは軽やかに洋館の屋根に降り立つ。

エレベーターよりも荒い浮遊感に耐えきれず、雁夜の意識が途切れた。ぶちん。バーサーカーの制御が外れる。

鎧の隙間から見える目がふらり、と辺りを見渡して。――赤く染まった。

 

「Aaaaaaa、uaaaaaaaッ!!」

「なっ・・・。今こっち完全に関係ない感じだったじゃないですか!」

「セイバー!」

 

突進してきた狂犬を受け止めて、鍔迫り合ったのはほんの一瞬。

天から落ちてきた閃光に、バーサーカーは蹴り飛ばされた。

 

「今度は何かな」

『新手のサーヴァントだよ立香ちゃん』

「またか~」

 

舞い散る羽根は魔力の具現。遍く全てを照らす聖光。

 

「ルーラー、カール大帝。またの名をシャルルマーニュ。聖杯戦争の監督者として参上した。総員、武器を降ろすがよい」

 

千変無限の彩りを携え、最後のサーヴァントが参戦した。

 

「(今のうちだぞ。リンク)」

「(おっ、ナイスタイミング)」

 

こっそりウインクを受け取って、リンクは庭園を後にした。

目指すは雁夜の実家。間桐家である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・と、まぁ、俺がバーサーカーのマスターになった経緯は、こんなところだ」

「なるほど。で、どうするカリヤ。アーチャーを倒すか?」

 

閑散とした間桐家の門前。敷地外であるはずなのに蟲の這いずる音が聞こえた気がして、雁夜の鼓動が早くなったのはわずかだ。

リンクの問いかけに意識を引き戻される。深い湖から浮上した時のように、その声は鮮明に耳に届いた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

美しい男だ。食い散らかされて破壊された身でもなお、つくづくと感嘆する。

どうして初めに会ったときは気づかなかったんだろう。隣の、この子供も。見た目だけなら至高の――。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

リンクと雁夜が横目で見れば、ぺかっと輝く笑みが返ってくる。リンクの方に。

カリヤは静かに項垂れた。戦意はとうに折れていた。もう桜ちゃんさえ無事なら、それで。

 

「カリヤ。話を聞くかぎり、サクラはもうだいぶマトウの魔術に影響されている。元凶たるゾウケンをどうにかしたところで、サクラ自身を治療せねば助からん」

「そんな・・・。・・・いや、でも、聖杯があれば・・・!」

「残念ながら、冬木の聖杯は汚染されています。どうにもなりませんね」

「――――――」

 

青ざめ、血の気の引いた男のなんて小さく見えることか。

 

「カリヤ」

 

語りかける声は優しい。

泥沼の中で蹲る死骸を、抱き上げた妖精のように。

 

「サクラを連れて逃げなさい。どんなに彼女に恨まれても、憎まれても、救う意志がまだあるのならば」

 

顔をあげた男の奥底にある、惨めな矜持でさえも。

燃えよ。輝け。命の煌めきと共に。

リンクに出来るのは最後の一押し。勇気が宿るかは本人次第。

 

「・・・・・・ある。チャンスが、まだあるのなら・・・!俺は・・・桜ちゃんだけでも救いたい・・・」

「いいだろう。では、対価として令呪を差し出せ」

 

突き出された右手から令呪を剥がす。

驚きに目を見開く雁夜を余所に、握りしめて魔力に戻した。

 

Flames炎よ

 

子ギルですら、何の言語(・・・・)か分からなかった。

ただ確かなことは、燃え広がる炎が屋敷を飲み込んでいったこと。

熱風が敷地内を荒れ狂い、灼熱は蟲だけを焼き尽くし、歩むリンクの道を開く。

 

「当主は留守か。・・・む」

 

 

バードマスター その子がサクラちゃんか・・・

奏者のお兄さん うわ気持ち悪よくこんな下手な調整できるな燃やしてください全部

Silver bow 落ち着いてください。燃やすなら当主ですよ。念入りに炙りましょう

 

 

そうだな。とりあえず、彼女の蟲も排除しておくか・・・

 

 

『調整』がまだ初期段階でよかった。リンクの宝具で生命力を引き上げれば、桜本来の色が戻るだろう。

抱き上げた身体は軽く。魘されて流れただろう涙の跡を、優しく拭って退出する。

 

「ほら」

「桜ちゃん!」

「もう帰ってくるなよ」

「ああ、嗚呼・・・。ありがとう、ランサー・・・」

 

もつれる足を夢中で動かしながら、桜を連れて、雁夜は闇に去って行った。

それを見送ってから口を開いた、子ギルはどこか嬉しげで。

 

「なぜ、助けたんですか?ここは特異点。実際の歴史ではありません」

「見た目の錯覚は素晴らしいな。お前が完全に無害に見える」

「無害ですよ!貴方に危害を加えるようなことはしません!」

「何故、だと?徒労だからしない、という考えが無駄だと(・・・・・・・)思っているだけだ。やりたいことが出来るならばするべきだろう。人はすぐ死ぬし、運命は常に転換する」

 

戦って戦って戦って戦って、無惨に殺された。故に構築された人生観。

大翼のリンクは、他人が思うよりもシビアでドライだ。

 

「令呪だけでなく、刻印虫も回収しましたよね」

「餞別だ。そのくらいの報酬はあっていい」

「間桐臓硯を相手取るつもりですか?」

「かつては理想を抱いた求道者に、引導を渡してやらなければな」

 

でも、本人が思っているよりは、深い情を抱えている。

 

「間桐臓硯に怒りや嫌悪を感じている訳ではない、と?」

「苦痛に耐えきれないことは罪ではない。魂が摩耗し、意志と記憶を失ったことは、同情すべき事実だ。あの男が不幸を連鎖させる怪物であることと、救われるべき人物であることは両立する」

 

子ギルを見つめる二つの瞳は、冷たく清い水底の青。

守護女神の心すら溶かす、透き通った優しい温度。

 

「・・・人を恨むのは苦手なんだ。怒りを抱え続けるのは疲れる。あの黒き者でさえ、俺は(・・)、憎み続けることができなかった」

 

その魂こそ勇者。

その姿こそハイリアの誉れ。

貴方から始まった、貴方が教えてくれた、人間の強さだから。

 

「――――――――尊い・・・・・・・・・・・・」

「ん?」

「想像以上に・・・・・・格好良すぎて・・・・・・。待って、待って。ちょっと・・・、ちょっと待って涙が・・・止まらない・・・・・・。というかさっきの言語まさか貴方の時代のハイリア語・・・?ああああ生で聞いてしまったすみませんどういう意味なのか後で教えてもらっていいですか・・・・・・」

「何を待つんだ・・・?」

「一゙生゙推゙ず」

「ああ、はい」

 

 

いーくん 今世紀一感情の籠もってない「はい」だったな

災厄ハンター 人んちの玄関先で泣き崩れるな

Blue この人はいつもこうなの?

災厄ハンター こうじゃない時見たことない



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転生林檎

ルフィ、海賊王になれ・・・。


「――――――間桐臓硯。500年の妄執に囚われしものよ。其方が見た理想は最早形もなく。ここで眠るが定めと知れ」

 

静まりかえった屋敷。不用心に開かれた門。

外灯だけがうら寂しく立ち尽くしている、深夜の邂逅。

 

「―――――。・・・・・・誰、だ」

 

眩しい。目が灼かれる・・・!

何だこの魂は・・・!?

肉体を構築する蟲全てが怯えている。『怪物』にとって最も恐れる存在がそこに居る。

輝ける星となりて、人々を奮い立たせる勇者。悪鬼羅刹を打ち砕く、希望を背負いし英雄。

間桐臓硯がかつてなりたかった、夢のカタチそのもの。

 

「介錯仕る」

 

あまりにも、あまりにも!――――美しいものを見てしまった。

天色の瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、鮮烈に突きつけられる現実に脳が上手く動かなくて。ただ(おこり)のように震える手足よ。

斬られたことすら知覚することなく、間桐臓硯は死んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・ギルガメッシュ」

「はい」

「撮影は禁止だ」

「えっ。ネットにアップしたりしませんよ!個人で楽しむ用です!」

「そのビデオカメラごと叩き斬られたく無かったら今すぐデータを消去しろ。俺はそういう撮られる奴・・・好きじゃないから・・・。光とか次元とか息吹なら喜ぶだろうけど・・・」

「いくら出したらお呼び頂けますか」

「急に真顔になるな。金で解決しようとするな。撮影の許可は個々に取ってくれ」

 

 

守銭奴 待ち時間で時間食ったな

Blue わぁー・・・蟲の死骸が・・・

 

 

「というかお前。自分のマスターはいいのか?」

「問題ありません。令呪は没収してあります」

「可哀想になってきたな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、アインツベルンの洋館にて。

蹴り飛ばされてもなお暴れようとするバーサーカーを神明裁決(令呪)で縛り付けた後、シャルルマーニュは隠れていたサーヴァントに出てくるよう呼びかけた。

素直に姿を現したのは赤いフードのアサシン。状況が変わったことを察したのか、ルーラーに説明を求め――――。

 

「まさか、そんな・・・・・・大聖杯が反英雄に汚染されているですって!?」

「サーヴァントが脱落し続け、アンリマユが覚醒すれば、部外者を巻き込むどころの話じゃない。とはいえカルデアと抑止力の代行者が既に来ている以上、俺が出る幕はないと思っていたが・・・・・・」

 

アイリスフィールの顔色がどんどん悪くなっていく。セイバーが気遣うように背をさすった。

ライダーが思案するように顎髭をさすった後、ルーラーに疑問をぶつける。

 

「なあ、その汚染とやらは聖杯を解体しないと解決せんのか?」

「超一流の魔術師、もしくは悪神殺しの概念を持つ宝具や聖遺物があれば可能性はあるだろう。すぐに思いつくのはギルガメッシュ王の宝物庫だが・・・・・・」

「あやつはアテにならんな。・・・ルーラー、あのランサーの真名は?」

「・・・言わないぞ?彼は第三者、勝手にバラすのはルール違反だろう」

 

ようやく事態が解決しそうだ。Ⅱ世はほっと胸を撫で下ろす。

一時はどうなることかと思ったが・・・、あのシャルルマーニュが来てくれたのだ。流石にもう大丈夫だろう。

――――人はそれをフラグと言う。

 

「納得していない者も少々見受けられる。ここは1つ、直接確認しに行くことにしよう。異論があるものは?」

 

ルーラーは周りをぐるりと見渡して、バーサーカーが消滅しかかっていることに気づく。リンクはうまくやったようだ。

流石原点にして頂点の格好良い男!俺も負けてらんねぇな!

 

「先輩、バーサーカーが・・・!」

「うん。ランサーの方、解決したのかな」

「彼だけならいいが・・・アーチャーまで戻ってこられると面倒だ。さっさと向かってしまおう」

 

ギルガメッシュの兄発言うんぬんに関しては、あんな面倒な男に興味持たれてランサーも大変だな・・・。で意見が一致している。

カルデアの方の英雄王?なんか触れたらヤバそうなので全員目を逸らしています。

聖杯が保管されているのは、柳洞寺の山奥。

特異点Fのときにも決戦の場になった大空洞である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カウンターガーディアン・・・』

「そうだ。僕は英霊の座にいるサーヴァントじゃない。守護者と呼ばれる“英霊もどき”。正しい人類史には存在しない」

 

ぴちょん。水滴が落ちる。

こんな時でなければゆっくり鑑賞していただろうと思えるほど、天然の鍾乳洞は見事だ。

ルーラーを先頭に、足下に気を付けながら進む中で、赤いフードのアサシンについて触れたのはオルガマリーだった。

 

「僕たちはいつ、何処の戦場に呼ばれようとも、常に人智を超えた理由と目的で血を流す。誰に理解されることもなく、関わる人間全てを敵に廻すことさえ珍しくない。全ては、世界を滅ぼす要因を抹消するために」

『人類史が焼却された後でもまだ、抑止力は機能しているのね(・・・勇者リンクが抑止力に選ばれた存在であるか否かは、魔術師の間で長年議論されていることではあるけど・・・。座から徒歩で来れるような人が、今更そんな力に縛られたりしないわよね)』

「(・・・ねぇマシュ。抑止力って?)」

「(以前ドクターに聞いたことがあります。この世界に人類を存続させるべく働く概念的な力・・・)」

 

生前に類い稀な功績を残した人間は、この抑止力によって召し上げられ、使役されることになるという。

彼らは人類に破滅の危機が訪れるたび、時間と空間を超えて召喚され、災厄の原因を取り除く役目を課されるのだ。

 

「(つまりマスターとの契約もなく、ただ戦う理由だけを与えられて召喚されるサーヴァントです)」

「(それは・・・・・・)」

 

殿に控える、顔色ひとつ窺えぬ男。振り返ったら気づかれてしまうかもしれないと、立香は意識して前を向いた。

死してなお、決して終わることのない戦いの使命を背負い続ける魂。

いったいどのような人生を歩めば、その果てにまで至るのだろう。

 

「(リンクは・・・、きっと違うよね。戦う理由を、他人に与えられたりしない)」

 

そこまで考えて、ふと気づく。

・・・・・・あなた、もしかして。勇者に、なりたかったの―――――?

 

「・・・だから、奇妙な気分だよ。誰かと協力関係を結ぶなんて体験、久しく・・・・・・ん?」

 

アサシンが言葉を止め、音も無く得物を抜く。

Ⅱ世とルーラーがほぼ同時に気づき、違和感を覚えたセイバーもマスターを背に庇う。シャルルマーニュにあれこれ話しかけていたライダーも、乱入者に視線をのんびりと向けた。

 

「流石だな。気配遮断もさらに上手のアサシンには無効か」

「闇に潜むのが得手なのはこちらも同じ。手の内はお互い見え透いているからな」

『・・・・・・アサシンのサーヴァント!?凄いな。こっちじゃ全然感知できないのに!』

「・・・・・・おのれ!」

 

悔しげな様子を隠しもせず現れたのは百貌のハサン。アーチャーを召喚した遠坂時臣と裏で結託している、言峰綺礼に呼ばれしサーヴァントだ。

ギルガメッシュが完全に制御不能になったことで、なんとか再起を図ろうと遠坂の指示で潜ませていたようだが・・・。流石にこれは多数に無勢。暗殺の『機』も完全に逃している。

 

「先手を防いだくらいでいい気になるな!今度こそ貴様らに引導を渡してくれる!」

「気をつけろ、藤丸。これまでの断片の連中とはひと味違う。『残り全部』を総動員する気だ」

「了解。行くよ、マシュ!」

「アイリスフィール、援護に入ります」

「ええ。お願いセイバー」

「余が出る幕はなさそうだの」

「う~~ん・・・。まぁ・・・うん・・・」

 

手を出す気のないシャルルマーニュと同じく、観戦の体勢に入った征服王を動かす言葉は、戦闘終了まで出てこなかった。

ウェイバーもまだまだである。



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勘冴えて悔しいわ

「どうだ?アインツベルン。ここまでくれば歴然だろう。大聖杯の放つ魔力が変質していると」

「・・・ええ、残念ながら。これは我々の悲願とする聖杯とは程遠い」

 

聖なる杯とはもはや皮肉。

これではまるで汚泥だ。邪悪とケガレをぐつぐつ煮込んだ、獣を生み出す魔の盃。

アイリスフィールは額に手を当てて、ゆっくりと息を吐いた。

 

「ようやく勝利に手が届くかと思ったときには、既に勝ち取るべき悲願が潰えていたなんて・・・」

「これはただ壊してしまってよいのですか?中身が溢れてしまうのでは・・・」

「敗退したサーヴァントはまだ二騎。アンリマユの覚醒には至っていない。中身が溢れたとしても、今はまだ指向性のない曖昧な呪いの塊だ。ここに揃った戦力だけで充分に対処できる」

「そうかそうか。では、邪魔させてもらおうかの」

「は?」

 

何言ってんだこいつ。という目でⅡ世はイスカンダルを見た。

状況分かってんのか?という目でルーラーも見た。

ウェイバーは気配を消し他人の振りをした。

 

「聖杯戦争はもう終わりだ。我々が戦う理由はない。そもそも、貴方は騙されていたんだぞ!」

「うん?いやそんなことはどうでも良いのだ」

「いいのかよ!?」

 

堪えきれなかったウェイバーがツッコミを入れる。

立香は「あっちのマスターも大変だなぁ」と思った。

 

「このまま大聖杯が破壊されたら、貴様らの目的だけが達成されることになる。それは――勝ち逃げというものだろう?」

「な・・・」

「顰め面の軍師よ。むしろ我らが雌雄を決する戦場には誂え向きの場所ではないか」

 

対峙するように向き合ったライダーは、両手を広げ大猫のように目を細める。

反対にⅡ世は苦虫をかみつぶしたような顔をして、しばし口籠もった。

 

「・・・・・・わけが、わからん。何故そうまでして我々に敵対する?」

「貴様、何やら先の因果の行く末を見通している様子だが、つまんないだろ?それ」

 

あっけらかんと王は言う。あっさりと。

道を歩いていたら死角から子供が飛び出してきた。そんな心境がⅡ世を襲う。

 

「だったらせめて余くらいは番狂わせを演じてやるしかなかろうよ。たとえ辿り着く先が決まっていても、道筋はいくらでも変えられる。我らはそういう夢のある伝説を、ずっと追いかけてきたはずだ」

「”ゼルダの伝説”・・・・・・」

「応とも。貴様もまた、覇道の影を追い求める者。つまりはこの征服王と悦びの形を等しくする者。そう言う奴はきちんと楽しませてやらんとな。王たる余の務めだ」

 

仏頂面が染みついている青年の顔が、ふいに猫じゃらしで擽られた時のようにほどけた。

葉巻を吸っていない口がぽかんと開いて、反論する言葉を探している。

 

「楽しませる・・・エルメロイさんを笑わせるために、我々の敵に?」

「無茶苦茶だわ・・・」

「ええ、無茶苦茶ではありますが、この英霊ならではの動機です」

 

驚くマシュに、呆れるアイリスフィール。理解を示したのはXと、状況を見守っているシャルルマーニュだ。

 

「この王はどこまでも身勝手ながらも、相手に対する関心で動く。つまり――むくつけきゴリ、いや失礼、荒々しい武人に見えて、その実、極めつけのお節介者なのです!」

「あんまり本音が隠れてないね」

「フォ~ウ」

「王の務めとまで言われたら、俺は口を挟めないな」

「な、あ、貴方とて状況判断は得意とするところだろうに!」

 

そう肩をすくめたルーラーを見て、泡を食ったようにⅡ世がライダーに言う。

 

「この呪いを蓄えた大聖杯がどんな災厄をもたらすかは歴然だろう!世界の危機だぞ!なのにそんな、まるで遊び半分のような動機のために、今ここで私と戦うだと?いったいどういう了見だ!?」

「まぁ四の五言っても、貴様だって好きだろ?ゲーム」

「・・・・・・な・・・・・・」

 

いくら訴えようが暖簾に腕押し。王は既に指針を決めている。

 

「何を背負い、何を賭するにせよ、挑むとなれば楽しまずして何のための人生か。もっと熱くなれよ、策士」

「・・・・・・・・・・・・勇者リンクのようにか?」

「分かっているではないか。余が思うに、彼の魔王に足りなかったのは遊び心だ。熱砂のように乾いた心では、真に欲したものもそりゃ見失うだろう。さあ勝負だ。あの崩壊した玉座での戦いのように、剣をまじえようではないか」

 

あの日から瞳に焼き付いている、征服王の不敵な笑みだった。

 

「そこまでして・・・私が、矛を交えるに値する存在だと?」

「応さ。貴様がいったいどういう出自で、余とどんな縁故があるのかまでは知らぬがな。いま余の目の前におる男は、ぜひとも制覇せねば気が済まぬ猛者である」

「・・・・・・はは、あはははッ。はっはっはっはッ!」

 

とうとう癇癪玉が弾けた。笑い声は大空洞に響く。

滲むのは愉悦の涙か?背負っていた使命はほろほろと崩れ落ちた。

 

「エルメロイさん?いったい・・・・・・」

「済まない藤丸、我がマスターよ。これが一度きりの我侭だ。アイツと戦わせてくれ。使命も、世界の命運も、全てを忘れた上で・・・。あの男だけを見据えて、この私に、勝つか負けるかも分からない競い合いをやらせてくれ!」

「・・・仕方ないなぁ」

 

ようやく眉間の皺がなくなった軍師に、立香はふくふくとした笑いが堪えきれない。

 

「そう言ってくれるか。フフ、これがもしうちの生徒なら大馬鹿者と叱り飛ばすところだが・・・」

「私は生徒だけど、マスターだもんね。いいよ!」

「ははは!それでいい!アイツや私に負けず劣らずの大馬鹿なればこそ、仕える甲斐がある!」

 

高らかに嘶き巨馬が顕現する。赤いマントを翻し、ライダーは堂々と跨がった。

全身から発する魔力は吹きすさぶ風となりて。観覧者たちの髪をかき混ぜる。

 

「いるのだろう、ランサー!貴様も出てこい!」

「バレてるか。アーチャー、お前は手を出すなよ」

「もちろんです」

 

赤いマフラーがふわりと帰還する。少し乱れた髪の隙間から見える青藍は、好戦的に光っていた。

 

「蹴散らせブケファラス!」

「ランサー、攻撃。先生は宝具を。マシュ、受け止めて!」

「了解!」

 

主人の号令に答えて、愛馬―ブケファラス―が強襲する。

有象無象を挽き潰す巨馬の突進。巻き込まれたらひとたまりも無い。

 

「むう!?」

「はああぁっ!」

 

衝撃に空気が弾けた。マシュがブケファラスを盾で食い止めたのだ。

それにライダーが気を取られたのは一瞬。視界の端から鋭い刺突。リンクの攻撃を迎撃する。

ブケファラスが力尽くで盾から離れた。鞍に片足をついて体勢を直したリンクを、雷撃を纏ったライダーの槍が襲う。電撃は捌いたが薙ぎ払われた。

少し離れた場所に着地する。

 

「これでどうだ!歯を食いしばれい!」

「投槍・・・!?っと!」

 

間髪入れずに投げられた、槍はいかずちのごとくリンクに飛んでいく。

その間もブケファラスは跳ぶように走り、シールダーを破らんと踏みつぶそうとする。

魔力の波が馬を包んだ。宝具の1つが顕現する!

 

神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)!」

戦車(チャリオット)・・・!?」

「マシュ、緊急回避!」

「・・・入ったな!これぞ大軍師の究極陣地――」

 

マシュが先ほどまで立っていた場所をライダーが通過する――ことは叶わなかった。

足下から浮かび上がる陣。積み上げられた巨岩。組み上げられたのは迷宮か。

侵入者を決して逃がさぬ、伝説上の陣形。

 

石兵八陣(かえらずのじん)!破ってみせるがいい」

「・・・・・・ライダー!令呪を以て命ずる!オマエが勝て!!」

「はははははは!いいだろう!声の限りに勝利を謳え!」

 

三画全て。

ウェイバーの胸を奮い立たせる、この炎は何だ。いっぱいいっぱいな感情を、それでもなんとか声に乗せた。

魔力が膨れあがる。石兵八陣に罅が入った。

Ⅱ世はその声に、どんな感情を抱いたのだろうか。自分でもよくわからなくて、ただ、唇を噛み締めた。

 

「遠征は終わらぬ。我らが胸に彼方への野心ある限り。――勝鬨を上げよ!」

 

旋風が吹き荒れる。

いや、熱風?

肌を灼くとげとげしい熱を感じて、立香は周囲を見渡した。

 

「・・・固有結界か」

 

一足先に答えに辿り着いたルーラーに応えるかのように、その砂漠は現れる。

風塵が舞っていた。

Ⅱ世が吐いた息は(つぶて)に飲み込まれ、目を見開くマシュの眼前に砂の大地が広がっていく。

やがて砂塵が大空洞を覆い尽くしたとき、幕開けのように視界が晴れた。

 

「すごい、」

 

立香の目に飛び込む蒼穹。灼熱の太陽。

魔法に最も近い魔術とされ、魔術協会では禁呪のカテゴリーに入る。魔術の到達点のひとつ。

ただしこれは、彼個人の心象風景ではなく――――。

 

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!!」

 

此方に集いしは一騎当千の軍勢。その全てが共有する風景がカタチとなったもの。

英霊の座に召し上げられてもなお、王に忠誠を誓い続ける英雄たち。

王の召喚に応じ、サーヴァントとして馳せ参じた臣下たち。

王とは――――孤高にあらず!

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!!」

 

 

咆哮。咆哮。

轟け!

根本的な勢力が違う。

多数、という暴力が進撃する。

たった三人に向けられた、刃の数よ。

 

「令呪を以て命ずる。マシュ、私たちを守って!」

「了解です、マスター!」

 

それでも立ち塞がる盾がある。負ける気のないマスターがいる。

艱難辛苦を乗り越えた、雪花の盾が呼応する。

 

「仮想宝具、展開――――。疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

宝具と宝具が激突する。衝撃波から立香を庇いながら、Ⅱ世はリンクの姿が見えないことに気づいた。

 

「マスター、魔力を送れるか?」

 

熱風を忘れさせるような、涼やかな声だった。

考える前に身体が動いている。令呪が全て消え、サーヴァントに送られる。

 

「使って!」

「ありがとう。――少し、見せてやろう」

 

熱と光で蜃気楼のように揺れる視界では、ランサーの姿を確認できない。

ただ、パスから感じる魔力の揺らぎから、彼が魔力を解放したことを察した。

 

「私も持っているんだ。無窮の武練。あとは・・・魔力放出(光)(これだな)

 

そんな声が聞こえた気がして、ライダーは気を張り巡らせ。

針の穴に糸を通すかのような精度で気配を消した、金色が飛び込んできた。

 

「・・・・・・見事」

 

胸を貫く青槍が霊核を砕いて、咳き込む口元から血が垂れる。

あっという間の出来事だった。

陽炎のように世界が消えていく。広大な荒野は閉じていく。

 

「・・・最後に聞こう。お主、何者だ?」

「しがない騎士さ。天空にたどり着けなかった、ね」

 

イスカンダルは目を見開いた。

 

「まさか、」

 

とん、とランサーが跳ぶ。

気にいりの人間に近づく鳥のように、軽やかに自陣に戻っていった。

 

「ライダー!?」

「ぐっ・・・・・・フフ、してやられたわい。・・・そうか、石兵八陣といったか」

「・・・・・・この力は、私が自ら身に修めたものではない。ただの偶然で手に入れたものだ。・・・破られてしまったしな」

 

ブケファラスを一撫でしてライダーが下馬する。

のっしのっしと近づいてくる筋骨隆々の男と、Ⅱ世は目を合わせられなかった。

 

「結局、私は自分の力では、貴方に及ぶことなど・・・」

「ハハ、ばかもん」

「!?」

「デコピンした?」

「なんでソイツに・・・」

 

 

奏者のお兄さん 痛そう

 

 

痛そう

 

 

「覇道を拓くのに、揮う力が誰のものかなんぞ関係ないわ。それをいかに御し、導くか・・・肝要なのはそっちだ。余の王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)を目の当たりにしたのなら、その程度は悟れよな。この唐変木め」

「ライダー・・・・・・」

 

 

わりと良いこと言ってるな

 

 

バードマスター 本質ついてるね

 

 

「ん?痛かったか?済まんな。力加減が分からなかった。ちょっともう、指先の感覚がおぼつかないもんでな・・・」

 

滲むⅡ世の瞳を見て、イスカンダルは苦笑した。

 

「まぁ、そこまで深い皺を刻んだ額なら、今さらちょっとやそっとでは傷はつくまい。なぁ?」

「・・・・・・馬鹿なことを。体より心に響く傷というものもある」

「ハハ、そう言うな。いやぁ、いい戦だった」

 

立香を見て、マシュを見て、・・・リンクを見て。

 

「済まんな坊主、余は、ここまでのようだ・・・・・・」

 

最後に満足そうな笑みを浮かべながら、ウェイバーにそう言い残したのだった。

 

「・・・・・・なんでだよ?ここで泣くのはボクの筈だろ。なんであんたが泣いてんだよ?」

 

そういうウェイバーの声もみずみずしくて。

 

「・・・・・・ああ。無様なところを見せたな。今生、会うコトはないと思っていたが・・・・・・」

 

とうとう顔を覆ったⅡ世の声も、震えていたけれど。

それを茶化す者なんて、一人もいないのだった。



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FEARLESS

熱砂の風が遠のいていく。

肌に滲んだ汗が引いていくように、物語は結末へ向かう。

 

「――では、大聖杯を破壊する。準備はいいな?」

「いつでもどうぞ」

「はい」

 

宝具を構えるのは三騎。アサシン、ヒロインX、子ギル。

ぽたり、ぽたりと垂れ落ちる汚泥に眉をひそめながら、ルーラーは号令を掛けた。

 

「さあ、ついてこれるか。時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)

 

時は流れ、今日には微笑む花も明日には枯れ果てる。

守護者は今日も花を消し(摘み)、無数の花を殺し(摘み)、世界を延長させていくのだろう。

 

「野蛮ですがこれも戦法の一つ。財宝とはこう使う物です。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!」

 

見よ。王の宝物庫を。この世の全ての財宝を。

それはすなわち、あらゆる宝具の原典が納められているということ。

360度から一斉投射された武具たちが、大聖杯に罅を入れた。

 

「星光の剣よ!赤とか白とか黒とか消し去るべし!・・・みんなにはナイショだよ!無銘勝利剣(エックス・カリバー)ーーッ!!」

 

白き剣と黒き剣。交われば無敵。攻めれば最強。そして勝利!

連撃、連撃、トドメはX!王道の力を知れ!カリバーーーッッ!!

大空洞が揺れる。光がまだら模様をつくって、見守る立香たちの体に映った。

 

「フォウ!」

「うん、やったね」

 

煙が晴れたとき、もうそこに悪性の杯は無く。

やりきった三騎のサーヴァントが、各々の速度で戻ってきているのだった。

 

『・・・・・・アレ?君たちは消滅しないの?』

「私はサーヴァントユニヴァースから来たので」

「右に同じく」

「おまえたちを見送ってから戻るさ」

「この程度の小細工は造作もないですよ」

『イロモノサーヴァントしかいないの?この空間』

 

ヒロインXはともかく、リンクは座から直で来ているし、シャルルマーニュはリンクに召喚された形で顕現しているし、子ギルはなんか勝手に色々している。変なやつしかいないな。

 

『さて、カルデアが検知した聖杯は、けっきょく出現することもなく姿を消した。あとは、聖杯になり得たかもしれない、という可能性の存在だったアイリスフィール、貴女の身の振り方だが・・・・・・』

「ええ、聖杯戦争が無意味になった今、私は存在価値そのものを失ったも同然ね」

 

白皙の顔に憂いが浮かぶ。

こんなに怒濤の一日を過ごしたのは初めてだ。落胆とは別に、不思議な安堵がある。

聖杯戦争が終わっても生きている、という。むずがゆい事実が。

 

「そもそも、この手で大聖杯を壊してしまった身で、おめおめとアインツベルンに戻れるはずもないし・・・」

「あの、我々の本来の目的には、特異点に出現した聖杯の回収も含まれています」

 

マシュの言葉に、スカーレットが瞬く。

 

「もし宜しければ、一緒にカルデアに来ませんか?」

「そうだね。彼女のような存在を放置したら、後々もっと厄介な輩に目をつけられて悪用されかねない。ボクらの庇護下に入ってもらえるなら、それに越したことはないんだが」

「・・・寄る辺ない身にとっては、またとないお誘いね」

 

微笑みは雪解けのように。

 

「ええ、それならば是非。この身はあなたたちの手に委ねます。どうかよろしく。違う世界のマスターさん」

 

少女のような彼女はようやく、ただのホムンクルス(・・・・・・・・・)になったのだ。

 

「ならば私もお世話になります」

『えっ』

「昨今、社会的な問題となっているセイバー増加に対応するためにも、地球用の拠点が必要ですからね。決してマシュに聞いたそちらの雇用形態と美味しいご飯に釣られたわけではありません。今後もよろしくお願いします」

『あっはい』

「二人ともよろしくね!」

「セイバーも来てくれるの?なら安心だわ」

『立香ちゃんとアイリスフィールがいいなら・・・・・・』

 

このセイバー、長期で居座る気マンマンである。まぁ戦力にはなるので良いのだが・・・。

ワイワイと話し込む少女たちの輪から少し離れて、Ⅱ世が葉巻に火を着けた。

 

「・・・オマエらも・・・帰るのか?」

「ああ。・・・地上まで送ろう。途中の洞窟は迷路だからな。そこで、解散だ」

「では、僕ともここまでだな」

「あんたは地上に戻らないのか?」

 

少し腫れた目元を隠すように遠くを見ていたウェイバーが、アサシンに振り向く。

煙を細長く吐いたⅡ世が、肩に乗っていた髪を払った。

 

「もとよりこの世界の住人ではないんだ。無駄足さ。このまま待てば、ほどなく座へと呼び戻される」

「そうか、お前はそういう存在だったな」

「・・・・・・」

 

別れの気配を感じ取って、アイリスフィールが近寄ってくる。

理由は・・・よくわからないけれど。なんだか、側で話したいと思ったのだ。

 

「・・・不思議だな。君とは出会ったが最後、どちらかが死んで別れるものかと思っていたが」

「ええ、不思議。なぜそれが不思議なのかさえ分からない。けれど・・・この違和感。不愉快ではありません」

「ああ、僕も・・・・・・」

 

アサシンもそれを当然のように受け入れた。そうしたいと、なぜか思ったので。

 

「・・・・・・何かを切り捨てることでしか使命を果たせない、そういう星の(もと)に生まれたと諦めていたんだが。・・・今ここで初めて、本当の意味で、『何かを守る』ために戦えた気がする」

 

相変わらず顔色の窺えない風貌で、けれど、先ほどよりはかすかに、かすかに。

軽やかな口ぶりで、アサシンは言った。

 

「さようなら。・・・・・・礼を言う筋合いかどうかも分からないが」

「ええ、さようなら。あなたと出会えて良かったわ。名も知らぬ英霊の人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルガメッシュ。帰れ」

「いやですぅー!座までついていきます!だってボクは弟ですからね!」

「斬るか?」

「斬らんでいい」

 

リンクにしがみつく子ギル。を指さして不穏なことを言うシャルルマーニュ。疲労を感じ始めたリンク。

大空洞の真ん中で騒ぐ三人組を横目に見ながら、アサシンは聖杯があった場所を窺った。

 

「・・・はぁ、仕方ないな。ギルガメッシュ」

「はい!」

 

するりと膝を付いて、幼い瞳にめいっぱい映るよう、額を合わせた。

肩と背中を優しく引き寄せながら、にこりと笑いかける。近距離で直視した子ギルはここで思考が飛んだ。

 

「――イイコだから、兄さんの言うことが聞けるな?」

 

頬ずりするような温度で、とびっきりの包容力を込めて囁いてあげれば、もう貴方は私の虜。

 

「ミ゜ッ」

「死んだ!?!?」

 

聞き分けのない子を宥める、甘い甘いブルー。

子ギルは至福の笑みを浮かべながら、鼻血を流しつつ消滅した。

 

「ヨシ!いくぞシャルル」

「・・・うむ!」

 

 

災厄ハンター 最後までいい空気吸ってたなコイツ・・・

 

 

「では守護者よ、また会おう」

「あ、ああ・・・」

 

勢いに気圧されつつ、アサシンは二人を見送る。

影に隠れていたアンリマユは、明らかに相性不利の二人組が居なくなったことに、ほっと息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

―――――――――――――

―――――――

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真昼間でも薄暗い、間桐邸は静か。

鍵の掛かった門を過ぎれば、一斉に発動したトラップが襲いかかってくる。その内の1つも二人の歩みを止めることができず、主人達を守るように浮くジュワユーズに砕かれていく。

異常事態に飛び出してきた老人が来訪者を見て、―――ただ、言葉を失った。

 

「ご機嫌よう。マトウ・ゾウケン」

「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「世間では大翼の勇者と呼ばれている。我が名はリンク。アポ無しで失礼する」

「セイバー・シャルルマーニュだ。よろしく!」

「ああ、なにも言わなくて良い。さようなら、かつての求道者よ」

 

剣を抜いたことすら知覚できず、間桐臓硯は死んだ。

臓硯の肉体を構成していた蟲群は、もう崩れ落ちたまま動かない。

屋敷のそこかしこからしていた蟲が這いずる音も、電源を切ったかのように消えていた。

 

「お見事」

「お前こそ。素晴らしい剣のコントロールだ」

「! えへへ・・・」

 

シャルルの頭を撫でてやると、照れたようにふにゃりと笑った。

玄関を上がって、屋敷からする気配は2つ。サクラと、恐らくカリヤの兄。

今後の為にも本人のためにも、兄の方にはさっさと出ていってもらった方がいいだろう。

 

「・・・・・・・・・・・・。お兄ちゃんたち、だれ・・・?」

「おや、ようやくまともに会えたな。リトル・レディ」

 

黒髪の少女が、開いた部屋の扉からおずおずと覗いている。

リンクとシャルルが安心させるように笑いかけると、とてとてと近寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fate/Zero 春風の騎士と大翼の騎士

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンク!カリヤが泡を吹いて気絶した!」

「その辺に寝かせておけ」

 

この後――――マスター・リンク、サーヴァント・シャルルマーニュで他陣営を蹂躙しさっさと聖杯を浄化して聖杯戦争を終わらせるだなんて。

気絶している雁夜にも、準備を進めるアインツベルンにも、勝利を確信している遠坂時臣も。

当然、分かるわけがないのだった。

 

「サクラ、虚数魔術の練習をしようか」

「うんっ」

「カリヤ、カリヤ。手が震えてるぞ。大丈夫か?水飲むか?」

「・・・・・・熱いお茶を・・・ください・・・・・・」

 

 

 

 

 

配信中です。
 
上位チャット▼


ラスボス系後輩 ちょっとちょっとぉ、待ってください!異議を申し立てますぅ!月からのお助けキャラと言ったらこのグレートデビルな月の蝶、BBちゃんの役目でしょう!?

奏者のお兄さん シャルルとカール大帝の縁を伝ってムーンセル・オートマトンに繋がったぞって言いに来たんだけどもういるなAIが

ラスボス系後輩 こうなったらわたしもサーヴァントになって直接介入するしかないですね・・・!いざゆかん、カルデア!

小さきもの カルデア行くって

奏者のお兄さん 行ってらっしゃい

【寄り道中】れっつごー冬木

21人が視聴中

 

 

 

 

 

「そういえばシャルル。大帝は元気か」

「俺を通して今も見守ってるぞ。・・・あ、代わる?」

「カリヤが出かけているときにしよう。いよいよ死にそうだから」




次は第五特異点です


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▼カルデア・データベース2

☆zeroまでの情報を含みます
☆サーヴァントは第三特異点後~zero後に召喚されたメンバーです












藤丸立香

毎日トレーニングを欠かさない人類最後のマスター。幸運はB。

Aチームに対しては「なんか凄いらしい人たち」という認識。治療が上手くいって元気になったらいいな、という思いはある。ぐっちゃんとはなんだかんだ良い関係を築いているようだ。

アヴェンジャーという共犯者と、ジャンヌオルタというパートナーを得てメンタルはかなり安定した。

生リンクがマジでヤバかったので順調にゼル伝オタクの道を歩み始めている。止める人間は当然誰も居ない。

料理はレシピがあればその通りに作れる。シチュー派のタケノコ派。

魔術礼装に可愛いのが多いのでお着替えがちょっと楽しい。礼装ごとに髪型を変えようか検討している。

 

 

 

 

マシュ・キリエライト

だんだんはっきりとした自我が出て、強めの自己主張をし始めたデミ・サーヴァントの少女。

先輩に対する憧れと、隣に立つに相応しいファーストサーヴァントに成りたいという一心で体を鍛えている。

ケイローン塾生。嫌がるイアソンをヘラクレスと担いで授業を受けるのが日課。

先輩面している虞美人が予想の10倍ポンコツで自由なので思わず世話を焼き始めた。服は着て下さい。

料理は興味も関心も無かったが、立香の真似をしてキッチン組の手伝いをするようになった。情緒が育ち始めている。

 

 

 

 

ロマニ・アーキマン

光に目を灼かれ、傷を癒やす音色を聴いた。

蕾は芽吹く。春は必ず来る。

キミが信じ切れていなくても。

 

 

 

 

オルガマリー・アニムスフィア

だんだんたくましくなってきたカルデアの所長。

境界線を越えて、星を見上げて、誇りをもって歩き出した。

もう彼女は大丈夫。

料理よりお菓子作りが得意なタイプ。キアラや職員達とカップケーキを作ったりして交流しているようだ。

 

 

 

 

虞美人

項羽とイチャイチャのびのび過ごしている精霊。先輩面が止まることを知らない。

あんまりリンクに詳しくなさそうだったのはぐっちゃんだから。以前は項羽から聞いた知識しかなかったが、最近もう一度読み直している。

リンクは時(妖精の子)、理(精霊に近い)が行くと警戒されない。風は特異点で項羽様に会えるって言ったのに会えなかったじゃない!と出会い頭に攻撃される可能性がある。忘れてたのが悪い。

項羽様の為なら料理だってする。Aチーム?ああ居たわねそういえば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■セイバー

モードレッド

アーサー・ペンドラゴン

イアソン

 特異点の記憶あり。そこそこ反省している。

ディルムッド・オディナ

 

 

■アーチャー

エウリュアレ

オリオン

ダビデ

アタランテ

ニコラ・テスラ

ケイローン

 一足早く来た先生。イアソンには補習が必要ですね。

子ギル

 

 

■ランサー

ヘクトール

アルトリア・ペンドラゴン[オルタ]

 

 

■ライダー

フランシス・ドレイク

エドワード・ティーチ

アン・ボニー&メアリー・リード

イスカンダル

 

 

■キャスター

メディア・リリィ

諸葛孔明(エルメロイⅡ世)

ハンス・クリスチャン・アンデルセン

メフィストフェレス

ウィリアム・シェイクスピア

ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス

チャールズ・バベッジ

アスクレピオス

 一足早く来た医神。医務室を牛耳っている。

アイリスフィール[天の衣]

 

 

■アサシン

ジャック・ザ・リッパー

ヘンリー・ジキル&ハイド

百貌のハサン

ヒロインX

「あなたセイバーじゃなかったの?」「なんか召喚ゲート通ったらクラス変わりました」

エミヤ

 

 

■バーサーカー

アステリオス

ヘラクレス

エイリーク・ブラッドアクス

フランケンシュタイン

項羽

 「出番なくてすみませんー」「構わぬ。我が妻に会えたという事実で、十分釣りが来るとも」

 

 

■ルーラー

天草四郎

 

 

■アヴェンジャー

巌窟王 エドモン・ダンテス

 カルデアのデータには登録されていない。



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第五特異点
水曜日のエジソン


軍勢ゆきゆきて喇叭を吹く。

耳鳴り止まず星屑のごとく。

 

「怯むな、栄光ある機械化兵団の精鋭たちよ!この陣地を何としてでも死守するのだ!」

「オオオオオオオオオオーーーーーーーーー!!」

 

軍靴の轟き雷鳴のごとく。

こびり付いている血の臭い。

 

「イエス、ドミネーション・オーダー!弾倉が空になるまで撃ち続ける覚悟であります!」

「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!敵は殺せ!女王のために!」

 

文明の発展は、必ずしも幸福ばかりをもたらすものではない。

それは当たり前のことだ。

開拓の為に森が消え、産業排水は海を汚す。労働力は奴隷が補う。

だがそれでも人々は自然を保護しようと活動し、浄化槽をつくって排水を処理する。人権宣言がされ、権利と主張が守られる。

 

遠回りしながらも未来に進んでいくことができるのが、人類という生き物ならば。

これ(・・)は随分と、回り道をしている。

 

「大統王に会いに行きます。彼は西――アメリカ側のようですし」

 

時は1783年、独立戦争末期のアメリカ。

当時イギリスの植民地だったアメリカは、この戦争の勝利を以て独立。

以後、比肩するもののない超大国として発展していく。

 

「ああ、やだなぁ・・・。戦いは嫌いです。ですがわたしが適任なのも事実。・・・はぁ、さっさと終わらせて帰りましょう」

 

現在アメリカは東西に別れて戦争をしている。

西は近代武器を装備したアメリカ軍。東は槍を携えた、サーヴァントとは異なる戦士たち。

大陸のあちこちで悲鳴が上がり、戦火が止むことは無い。戦乱の時代。

 

 

災厄ハンター テンション低いね

海の男 まぁこの子は騎士でも旅人でもないしな

バードマスター 機関士の服、似合ってるよ

 

 

「ありがとうございます。さて、この距離なら鳥で充分でしょう」

 

特異点に降り立った猫目の少年は、ため息をつきながら立ち上がった。

懐から取り出したのは、大地の笛と呼ばれるパンフルート。

奏でられるは鳥使いの唄。響く、響く、笛の音。伸びやかに空に広がって、風に紛れて流れていく。

まるで大地を慰めるかのように聞こえる唄が、届いた人間はまだいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第五特異点 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立派なお城ですね。ハイラル城とどちらが大きいでしょう」

 

白壁の門前に降り立てば、即座に数多の視線に射貫かれる。

それは監視カメラだったり、魔術的な索敵だったり、守衛についていた機械化歩兵だったり。

そしてそれら全てが、客人を認識して固まっていた。

 

「お邪魔します。大統王はいらっしゃいますか?アポはとっていませんが、ぜひお目通りを」

 

ふんわりと微笑む顔は、懐いた猫のようにかわいらしくて。

つやりと毛並みのよい少年は、礼儀正しく歩兵に問いかけた。

白い鳩がかかれた赤い帽子が、ゆれる金髪を柔らかく抑えている。

紺色の制服は、ブラウンのベルトがワンポイント。両手をきっちり手袋で保護した、麗しい少年。

ざあ、と空気が吹き荒れて木々を揺らした。

 

それは出迎えに現れたサーヴァントの動揺を表しているようでもあり、宮殿の城主の歓喜があふれ出たかのようだった。

 

「客人。名を聞こう」

「機関士のリンクと申します。世間では大地の勇者とも。こちらは名刺です。あなたは?」

「・・・ランサー・カルナだ」

 

マハーバーラタの英雄は名刺を受け取り、ほんの少しだけ息を飲んでから、先導して歩き出した。

見た目にそぐわず絢爛な宮殿は、方々から機械音が響いている。それに興味深そうに視線を向ける少年は、あまりにもうまくステータスを隠していた。

いや、本人には隠しているつもりはないのだろう。ただ見せていないだけだ。世界を救った英雄としての顔を、魔王を打ち倒した勇者としての振る舞いを。

だがカルナには分かる。貧者の見識によって、その少年の本質が見えている。

あまりにも高潔で、堅強な精神が。施しの英雄ですら畏敬するほどの、勇ある魂が。

 

「(彼の言葉ならば・・・・・・大統王にも届くだろう)」

 

古代インドの戦士で、彼等のことを知らぬ者はいない。

固い身分制度が存在していたあの時代で、まともな身分の生まれであったことの方が少ないリンク達の存在は、大変に偉大なものだったのだ。

人は誇り。魂。出身も血縁も、ただの情報にすぎぬ。剣を握る理由など、ありふれていていいのだと。彼は生き様で示した。

・・・なんて眩しい人だ。

ただの人間なのに、黄金の英雄たるカルナのように、彼は世界の光だった。

 

「大統王、連れてきたぞ」

「こんにちは、大統王閣下。・・・おや」

 

 

ウルフ ねこ!

バードマスター ライオン?

 

 

待ち構えていたのはホワイトライオン。

しかも、筋骨隆々である。

 

 

うさぎちゃん(光) カワイイ~!

いーくん カワイイ・・・?

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・?」

「・・・・・・・・・・・・ッ、ハー・・・ハー・・・」

「エジソン!しっかりしなさい!ほら自己紹介!」

「あ、ああ。もちろんだエレナ君。大丈夫だ。私は偉大なる大統王。たとえ眼前に立つのが勇者リンクであったとしても、臆したりなどしないさ」

「胸を押さえながら言われても説得力がないのよ!」

「不整脈が・・・」

 

そして過呼吸気味のライオンである。

 

「初めまして、ミスタ・エジソン。わたし、こういう者です」

 

一社会人としての動きが染みついているリンクは、取りあえず生前と同じように話の口を切った。

差し出された名刺を受け取ったのは、隣にいたバブルピンクの少女。エレナと呼ばれていたか。

 

〈新生ハイラル王国鉄道 機関士 リンク〉

 

「・・・本物、なのね?」

「そのつもりです。あなたもサーヴァントですね」

「ええ。私はキャスター、エレナ・ブラヴァツキーよ」

 

冷や汗をかく。

可能性は、ゼロではないと思っていたけれど。

いざ、眼前に現れると、とても、すごく、こんなにも―――――。

 

「マハトマだわ・・・」

「ん?」

「なんて強い神秘・・・!あなたはこの世の真理に触れ、されど地に足をつけて人のままに生きたのね。ねえ、あなたもマハトマを感じてる?彼らからのメッセージが聞こえる?私、あなたたちこそが神智学の祖だと思うの。だってあなたたちの時代は神がとても近くて、でも常に感じ取れていたのはごく少数。でもあなたは大地の笛やフォースを通じて、高次の感覚を掴んだんじゃない?そして何より、あなたたちは忘れられた叡智を数多く知っている。世界の仕組みを探ろうとしていた。ゼルダの伝説(小説)に書いていないこと、たくさんあるでしょう?ああ・・・本当に、尊敬に値するわ!」

「ありがとうございます?」

 

 

小さきもの 何何何

奏者のお兄さん 急に早口になるよ

災厄ハンター 書いていないこと、あるけどぉ・・・・

 

 

「まて、ズルイぞエレナくん!私もリンクくんと話したい!」

 

がおーと復活したライオンが、ずんずん近づいてきて手を差し出した。

 

「キャスター、トーマス・アルバ・エジソン!産業革命の象徴たる鉄道の歴史、その始まりに立つ偉大なる駅長よ。歓迎する!会えて嬉しいとも!」

「こちらこそ。わたしはこの時代にきたばかりで。よければ情報提供を願いたい。聖杯はどちらに?」

「自明だよ。我々は持っていない。東部の女王が所持している」

 

大きさの違う手が重なり、固く握手が交わされる。

固く、固く・・・・・・・・・・・。固すぎない?

 

「あの」

「彼らはケルトだ。この時代に突如現れ、侵攻を開始した。英霊に至るまでではないが、それでも神話の戦士。アメリカ軍はなす術もなく敗れ去った」

「そして貴方が呼ばれたのですね。・・・貴方から複数の気配を感じるのは気のせいでしょうか。あと手を」

「! やはり分かるか。では説明しよう」

 

彼らはこの国の力ある存在だった。

しかし彼らがサーヴァントになったとてケルトには負ける。故に彼らは私に力を託した。

私一人に力を集積することでアメリカを守らんとしたのだ!

 

「彼らの名は「合衆国大統領」!私には過去、現在、未来、全ての大統領の想いが宿っているのだ!」

「なるほど、それで・・・。順番に握手しに来ていると」

「サインも良いかね?」

「いいですよ」

 

どっさり積まれた色紙が出てきた。

え?これ全部?あ、大統領たちの分か。うん。

 

「・・・後で書かせていただきます。東部の女王とは誰のことでしょう」

「女王メイヴ。傍らには狂王クー・フーリン。そして――――ケルトの名高き蛮人たちだ。一方我が軍は私を含めて三騎。他に召喚されたサーヴァントたちは散り散りで、こちらつく素振りも見せぬ」

 

 

Silver bow クー・フーリン!?

 

 

狂・・・王・・・?わたしたちのクー・フーリンが・・・?

 

 

奏者のお兄さん あれ知り合いだっけ

 

 

アイルランド国鉄に行ったときに会いました。電車も景色もいいですよ

 

 

「なんと怠慢なことだ!アメリカを救うべき英霊たちが、敵を恐れて戦いを拒否するなど!」

 

UOOOOOOOOO!!とエジソンが吠える。

よっぽど非戦闘向きなサーヴァントでない限り、拒否なんてしないと思うのだが・・・。

 

「あのパワードスーツは貴方の発案ですか?ケルトに対抗するために、兵士を機械化したと」

「いかにも!国家団結、市民一軍、老若男女、分け隔てのない国家への奉仕!いずれ、全ての国民が機械化兵団となって侵略者を討つだろう」

「勝算はあるのですか?」

「もちろん!」

「わたしはそう思いません」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だって?」

 

がたりと声のトーンが落ちて、ぶわりとたてがみが逆立った。

 

「わたしは戦士ではなく、ただの運転士ですので、あまり偉そうなことは言えませんが」

 

つぶらな瞳の獣が、こちらを精一杯睨み付けている。

 

「生きて死ぬまで戦いに明け暮れた戦士たちに、パワードスーツを着た市民で勝てるわけがない」

「―――――それは」

「ケルトの女王は聖杯以外の資源を必要としない。しかしこちらは、人間という資源まで導入している。勝敗がつく前に国民が死に絶えますよ。王として(・・・・)、それでよいのですか?」

「・・・・・・ぐ・・・・・・う・・・」

 

苦虫を噛み潰したような顔でプレジデントが唸った。

カルナは無表情で成り行きを見守り、エレナは心配そうにエジソンを見ている。

 

「もう一つ。他のサーヴァントが戦いを拒否したと言いましたが、貴方の思想に反して離脱した、の間違いでは?・・・まだ何か隠していますね。正直に仰ってください」

「・・・・・・・・・・・・」

「エジソン、彼に隠し事は不能だ。お前の野望を話してみるがいい」

 

カルナに促されて、エジソンはゆっくりと胸を張った。

猛獣の威嚇というよりは、子猫の虚勢のようで。

彼の葛藤と、混在する思想が、乱れたままにこぼれ落ちた。

 

「時代は修正しない」

「なぜ?」

「必要がないからだ。聖杯を使えば、この国だけを焼却から守れることがわかった。このアメリカを永遠に残すのだ。私の発明が、アメリカを作り直すのだ。これほど素晴らしいことはない!」

「他の時代は滅びますよ」

「私の発明こそが人類の光、文明の力!何の問題もあるまい!」

 

咄嗟にカルナとエレナを見る。

カルナは静かに首を横に振り、エレナは悲痛な顔を浮かべた。

一見するとただの独断的なリーダーだが、リンクには分かる。見失い、絡まった、使命(オーダー)をほどこう。

 

「貴方の発明は確かに、あらゆる人々を救ったでしょう。闇を照らし、電車を走らせ、大地を広く拓いたでしょう。なればこそ、大人しくなさい。歴代の大統領たちよ」

 

エジソンに憑依する大統領たちが、リンクの二の句を待っている。

 

「多数の民族から成立した国家である貴方がたは、あらゆる国家の子供に等しい。我が故郷、新生ハイラル王国が、かつての大国の子であるように」

 

自分のリンク、という名が好きだ。初代国王と同じだから。

彼のように聡明で、懐の大きい男になれと、シロクニによく言われたっけ。

 

「ならば、貴方がたには世界を救う義務がある。そこから目を逸らして自分の国だけを救おうなどと、不義理にも程がありますよ」

「ぬ・・・・・・ぐ・・・・・・」

「貴方たちは、英雄(ヒーロー)になりたかった。国も世界も救う、輝かしいヒトに。でも、無理だと悟って諦めてしまったんですね。だからできそうなことを(・・・・・・・・)しようとしている」

 

しょぼくれたライオンと大統領たちは、肩を落として俯いた。

図星も図星。

よりにもよって、勇者リンクに指摘されるなんて――――。

 

「あなたたちが目指した道は間違いですが、愛する国を守らんとしたその意志は、否定されるものではありません。――顔を上げなさい」

 

エジソンは顔を上げた。

曇っていた視界が晴れる。暗澹としていた心が晴れる。朝焼けを迎えた大陸のように。

初めて小説を読んだ時と同じ希望が、こんこんと心から湧き出ている。

憧れのヒーロー!人生の指針!「努力の人」と呼ばれたエジソンが、不屈で在り続けられた理由にして光!

 

「一緒に、世界を救う方法を考えましょう。貴方たちがもう一度、この国を導けるように、わたしの知恵と力をお貸しします」

「おお・・・!おお・・・!UOOOOOOOOOOOーーーーー!!」

「歓喜のあまり野生に帰ったか」

「ふふっ!よかった・・・。本当に・・・。あなたのお陰だわ、大地の勇者」

 

かすかにカルナが微笑んで。

涙の滲んだ目元を拭いながらエレナが笑った。

 

「では早速東部プロパガンダのためのCM撮影に移ろうか!もちろん主役はリンクくん!君だ!」

「汽車が走っているところを映しましょう!編集は任せて!」

「私は大地の汽笛を読んで電気鉄道を作ったのだ。あなたの口から感想が聞きたい。是非乗ってほしい。運転してほしい!」

「いいでしょうわたしのギア捌きを見せてあげます!!」

 

 

災厄ハンター 鉄道って聞いたとたん全てのツッコミを放棄したな

ウルフ 乗り物オタクがよ




BLEACH-56 より
特異点の勇者達を更新しています。


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新しい季節が、きらり

「BB―――――、チャンネル―――――!」

 

 

全く予想外の声が管制室に響いて、持っていたカップを落としそうになった。

慌てて指に力を入れてから周りを確認すると、管制室のモニターに映る、見なれぬ少女の姿。

 

「人類の皆さーん、あいかわらずお間抜けな顔をさらしていますかー?」

 

桜色の瞳が、笑うチェシャ猫のように弧を描く。

 

「突如襲われた蟻さんのようにアタフタしていますかー?していますねー?」

 

黒衣はひらり、スカートはふわり。まるでどこぞの小悪魔のよう。

 

「いやーん、何千年経っても進歩しないとか皆さんサイコー!これには邪悪なBBちゃんも思わず同情です!」

 

温室で育てられた令嬢のように澄んだ声。発言内容に目を瞑れば、可愛らしい天使のささやき。

 

「ま、といっても可哀想、のベクトルではなく、情けない、のベクトルなんですけどね?」

 

不法接続謎通信。

ラスボス系後輩、カルデアに参上!

 

「どういう事だ、どこからの通信だ!?通信、何をしている!?」

「それがコントロール、受け付けません!こちらの回線とはまったく別の通信手段です!」

「隔壁閉鎖、霊基保管室ロック、レイシフト用のシステムまで全遮断(オールロック)――――」

「カルデアの全コントロールを奪われた・・・!貴女、いったい何者ですか!?」

 

騒然。混乱。職員達は右往左往。

毅然と立ち上がり相対する所長に、謎の侵入者は得意げに胸を張った。

 

「えー、この放送は月の支配者ことわたし、違法上級AI、BBの手でお送りしています」

「AI・・・?BB・・・?」

「え?なんでカラーになっているかって?それはもちろん、わたしがチートキャラだからです」

 

チートかぁ・・・じゃあしょうがないな・・・。

今までのサーヴァント達とは一線を画す佇まい。不安よりも不信よりも、あの子かわいいな・・という気持ちの方が勝った。

英霊って色々いるんだな~。

 

「初登場時にこそ最大のインパクトを。ヒロイン足る者、少女のように強欲に、天使のように冷酷に。人間との(かく)の違いを見せつける、大人げないBBちゃんなのでしたー!」

「でも負けヒロイン臭もする」

「なんですかその切り返し!だれが負けヒロインですか!これだから直感だけで生きてるマスターさんは・・・!」

 

ぷりぷり怒り出したBBちゃんは、私以外の人間が警戒を解いていないのを見て、こほんと仕切り直しをした。

 

「さて、そろそろ本題に入りましょう。こんにちは、カルデアの皆さん。わたしは怪しいAIではありません。炬燵に入ってうとうとしていたら、石油ストーブが燃えだしたので飛び起きた系のものです」

 

騒ぎを聞きつけて集まってきたサーヴァントたちが、興味深そうに、おもしろそうに、面倒ごとを押しつけられた時のようにおののいている。

 

「石油ストーブなんてどうなろうといいんですけども、ほら、わたしの部屋が台無しにされるのもなんですし?そんなワケで、助けたくもないアナタたちに助け船を出す為に、こうして回線(チャンネル)を開いたのでした!」

「・・・つまり、人理継続のために力を貸してくれると?」

「もちろん。ただしわたしがするのはあくまで裏方。そちらに行くのはわたしの眷属たち。そ・の・か・わ・り。カルデアにムーンセル専用回路の設立と、わたし作成電脳警備プログラムの導入を要求します!あ、あとわたし専用のスペースも♡」

「タイム!」

「どうぞ♡」

 

所長とロマニとダ・ヴィンチちゃんが顔を突き合わせて作戦会議を始めた。

私は特に発言したいこともなかったので、大人しく座っておく。

気の利くレディことマシュがお茶のおかわりを入れてくれたので、キアラさんが持って来てくれたクッキーと頂くことにした。

 

「キアラさんこのクッキー美味しいよ」

「ふふっ。ありがとうございます。マシュさんもどうぞ」

「はいっ。いただきます」

「はいそこ、真面目なシーンなのに優雅にお茶しないでくださーい」

「だって他にやることないし・・・」

「もぐもぐ」

「クッキーを食べるのをやめなさーい!」

 

話し合いがすんだ所長が戻ってきた。

 

「質問良いかしら。貴女の眷属って?」

「メルトリリス、パッションリップ。カルデアのデータを圧迫するゴミをパッションリップがクラッシュし、メルトリリスがウイルスをドレインします。ちゃんとカルデア用に調整していますから、他のサーヴァントと同じように霊基再臨ができますよ」

「電脳警備プログラムを導入することによる、こちらのメリットは?」

「今回のように回線を奪われる可能性がぐーっと減ります。魔術や機械では届かない部分の警備を担当するなんて、BBちゃんにしかできません!虚数空間へのアクセスもできちゃうかも?とにかくとにかく、こんなにオトクでスペシャルなサービスは他にはありません!さあ、契約書にサインを♡」

「・・・・・・いいでしょう。そのかわり、こちらも条件があります」

 

あ、ぐっちゃんと項羽だ。

神祖とカエサルも来た。

 

「カルデアの一員として働く以上、最終決定権は所長たるわたしにあります。報告、連絡、相談を欠かさないように」

「BBちゃんはスーパーAIですよ?そんなのお茶の子さいさいです」

「では労働規則に則った契約書の作成を・・・カエサル、お願いします」

「任せたまえ」

 

早朝ブリーフィングは一端中断。

所員達は各々の仕事に戻り、BBちゃんがサインをするために一度離脱した。召喚ゲートを潜ってこちらに来るらしい。なんでもアリだな。

 

「BBとやらが手を貸してくれるのなら、魔術王への対処もなにか浮かぶかも知れないね」

「今は特異点の修正しか、できることはないんだっけ」

「ああ。グランドキャスター、魔術師の中の魔術師ときた。この私より上位のキャスターなんて、かの勇者しかいないと思っていたんだけどねぇ。相手がアレならしょうがない」

 

さくさくのクッキーをひょいひょい口に入れながら、ダ・ヴィンチちゃんはため息をついた。

受肉した魔神を錨として時代に打ち込むとか、常人の発想じゃないらしい。カルデアにきたメディア・リリィも真っ青だ。現状、探す手段も倒す手段も見当たらない。

 

「次の特異点は北アメリカ大陸。聞いた?」

「ううん。まだ挨拶しかしてなかったから」

「魔術的な価値も、歴史的な価値も高い国さ。あの大地には、精霊を降臨させるような独自の魔術が発達していてね」

「精霊?」

「そう。勇者リンクと縁深い、精霊が眠るとされる土地。もしかしたら――――居るかもね」

 

第二特異点、第三特異点、そして監獄塔で存在が確認された勇者たち。

あくまでも主役はカルデアである、という姿勢を崩さずに、的確に力を貸してくれる英雄たち。

観測されたデータを集めても集めてもまだ足りない。憧れの勇者。皆の希望。夢そのもの。あの光が道を指し示す限り、人類が真に挫けることなど無いのだと。

だから―――――もっともっと知りたい!

なのでそろそろ・・・カルデアに・・・来てほしいな~~・・・。なんて・・・。

 

「もし居たら勧誘する」

「うむ。応援しよう」

「カルデアのアピールポイントは既に資料に纏めてあります。いつでも取り出せる場所にしまっておきますね!」

 

有能な後輩に頷く。

次のレイシフトも気合い入れて行こう!

 

「では契約はこんな感じで、えーと、そちらのちっぽけな人間(マスター)さん。お名前、なんて言うんですか?」

「私?藤丸立香です」

「立香・・・うわあ・・・いかにもモブな名前です・・・可哀想に・・・。でもご安心を。わたし、憐れ萌えですので!軽蔑しながらも愉しく助けてあげますね、センパイ!」

 

腰に手を当てて、座る私を挑発的に見下ろしてくる美少女は、隣に座っているキアラさんに気づいてエビのように飛び退いた。

 

「な、な、な、なんでアナタがここに!?・・・・・・いえ、失礼。取り乱しました。アナタはわたしの知るアナタじゃないんですね。牙が生えることのなかった、無垢なままの少女のアナタ。初めまして」

「?  え、ええ。セラピストの殺生院キアラと申します。はじめまして」

「わたしはマシュ・キリエライトです。初めましてBBさん。なぜ先輩をセンパイと呼称するのでしょうか?」

「ええー、食いつくのはそこなんですかぁ?上級AIとか、この時代だと垂涎のテクノロジーだと思うんですけどぉ・・・そんなに真顔で見ないでくれませんか!?わかりましたわかりましたお答えします!」

 

最近マシュが私に関してこう・・・積極性を増してきてるんだよな。

第四特異点で、また1つ殻を破ったからだろうか。私としては自己の成長が活発でなによりだと思うんだけど、ロマニが微妙な顔するんだよね。

 

「すばり――――サービスです!」

「サービス・・・・・・!」

「はい。わたしのモチベーション維持のため、苦肉の策と思ってください。わたしの先輩はこの宇宙でただひとり。キラキラ光る星の王女さま、みたいな」

 

ほんの少しだけ声のトーンが変わって、BBちゃんの瞳は真面目な色を宿す。

 

「・・・・・・でも、わたしはそんな人とは出会えなかった。ボスとして君臨した後、色々と後悔したり自重したわたしは、わたしの運命をそのように修正したのです」

 

なかったこと、にしたのだろうか。

なかったこと、になった時の勇者のように。

 

「ですので立香さんはあくまで先輩の代理。わたしの先輩の代わりに、今回の事変で翻弄される、わたしのオモチャⅡ号としてセンパイよびしちゃいます♡」

「いいよ。よろしくね」

「先輩がいいのなら・・・いいですけど・・・」

「この後輩さんはあんまりわたしに近づけないでくださいね。相性が悪そうな感じがするので」

「善処しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルデア秘密顧問プロフェッサーMダヨ。よろしくね♡」

「何か変なことしたら彼に教育的指導をしてもらいます」

「聞いてなーーーーい!!こんな窮屈な職場イヤでーーーす!!」

「じゃあ、わたしは仕事に戻ります」

 

さっさと戻っていったオルガマリーにブーブー文句を投げるBBを横目に、モリアーティはのんびり椅子に腰を下ろした。

 

「なにがそんなに不満なんだい。キミもどうせ、彼の勇者の息が掛かっているんだろう?」

「! ・・・確かにムーンセルとカルデアの接続をしたのは時の勇者です。でも、ここに出向いたのはわたしの意志ですよ」

「勝手に来たの間違いではなく?」

「なんでわかるんですか!?あっいえ違います違います。・・・さーてプログラムのダウンロードをしちゃいますねー!」

「お邪魔します」

「今度は何!?!?」

 

予兆もなく空間が避けて、当たり前のように足を踏み入れてきたのは一人。

銀の弓矢を背負った少年が、プロフェッサーとAIの間に降りたった。

 

「目覚めの勇者・・・?」

「はい。こんにちは。コフィンにいるAチームに用があるのですが」

「・・・・・・取りあえず聞こうか。何故?」

 

冷凍保存された47人のマスター候補生達は、医療系サーヴァントとキャスター達によってすでに治療は完了している。

たがコフィン起動中だったAチーム・・・マシュを除く6人のマスターはまだ冷凍中だ。

解凍と蘇生が他のコフィンに比べて難しいから――――ということになっているが・・・・・・。

 

「モリアーティ、蘇生はどこまで進みました?」

「半分くらいカナ?」

「BBちゃん」

「結構進んでますよ~?3分の2くらい?」

「アッキミどっちの味方なんだい!?」

「面白そうなほうでーす♡」

「正直ィ!」

 

 

りっちゃん モリアーティは優秀ですね~

奏者のお兄さん いいコンビじゃん 仲良くしなよ

 

 

「それだけ元気になったのなら大丈夫ですね。夢を見せてあげましょう」

「夢・・・?」

「ずっと気になっていたんです。死ぬことも生きることもできず、狭間をたゆたい続けるAチームのこと。虞美人さんがああだから余計に」

 

取り出したるはセイレーンの楽器。愛用のオカリナ。

夜明け前のうたた寝をあなたに。その目覚めが鮮やかであるために。

 

 

守銭奴 目覚めって・・・いい子だよね・・・

フォースを信じろ いい子すぎてびびる。さすが良心

 

 

「悪夢を見ているのならば――。それを吹き飛ばす音色を。光に誘う唄を。許可を頂けますか?所長代理」

「――――お」

「お?」

「面白そうダネ!!!いいヨ!!!あとその夢って私も見れる?」

「あっわたしもわたしも!体験してみたいです!」

「いいですよ。よかった。断られたらここに銀の雨が降るところでした」

「ここに!?!?やっぱキミも勇者だね!?ぶっ飛んでるよ!!」

 

 

ウルフ だれがこの子をこんな暴力的にしたんですか・・・!

海の男 許せねぇぜ・・・世界・・・!

 

 

お前らのせいだが?

 

 

ウルフ (´·ω·`)

海の男 (´゚ω゚`)

 

 

そして音色が、電子の棺を包む。

 

かぜのさかなよ。僕に力を。

 

八色の楽器よ、大海にかかる虹となれ。

 

コホリントじまへようこそ。来訪者よ。

 

朝がくるまで、楽しんでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

―――――――――――――

―――――――

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「えっ??????」

「嘘ぉ・・・・・・・・・・・・・・・」

「!?!?!?!?」

「マジ?えっ。マジ?・・・・・・・・・・・・えぇ・・・・・・・・・」

「―――――――――――成程」

 

カドック・ゼムルプス

オフェリア・ファムルソローネ

スカンジナビア・ペペロンチーノ

キリシュタリア・ヴォーダイム

ベリル・ガット

デイビット・ゼム・ヴォイドはそれぞれの意識の中で、コホリントじまに辿り着いた。

夢の冒険が、始まる。

 

「ところでこれは、いつ戻ってこれるんだい?」

「指定のイベントをクリアするか、僕が魔法を解除するかです」

「夢の中のリソースやデータは持ってこれるんですか?」

「僕が不可能だったので・・・。まあ今はかぜのさかなの力が戻っていますし、彼が協力してくれれば」

 

 

かぜのさかな (*゚▽゚)ノ

奏者のお兄さん あっどうも

バードマスター お疲れ様です




やーっとAチームに触れれました。


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よもやま話 sunset Straight

袖幕はひらめく カルデア・データーベース2 更新しています。
本編が全く進まなかった・・・。
あと誤字報告いつもありがとうございます!!!!助かってます!!!


配信中です。
 
上位チャット▼


うさぎちゃん(光) 夢の中へ 夢の中へ

うさぎちゃん(闇) 行ってみたいと思いませんか

うさぎちゃん(光) うふっふー

うさぎちゃん(闇) うふっふー

影姫 この「夢」は観測できないのか?

奏者のお兄さん いかんせん夢なので

ウルフ 大人しく大地と始祖様を二窓してような

災厄ハンター 青コッコはかわいい。ノマコッコも見習って

いーくん あんなにまるまるしてても飛べるのはすごいよ

りっちゃん かわいいすぎて永遠にもちもちしてしまう

バードマスター かわいいけど構い過ぎるとロフトバードが妬くんだよな

海の男 侮ってるわけじゃないが、現代の魔術師が夢島を越えられるのか?

守銭奴 そら人海戦術でしょ 6人もいるしへーきへーき

かぜのさかな (ง •̀ω•́)ง

フォースを信じろ ほらかぜのさかなさんも応援してくれてるよ

【Aチーム】人理修復RTA【いけいけどんどん】

24人が視聴中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒンッ。っう・・・ぐす・・・うぅ・・・」

「今まで魔術師として生きてきた報酬なのねこれは。もう満足だわ。もう覚めたくない・・・・・・私・・・一生ここに居る・・・・・・」

「いい人生だったわ。さようなら。コフィンに入るまでの私――――――」

「離してくれデイビット私はAチームいやカルデアの代表としてこのコホリント島を調査する使命があるたとえここが幻の島だとしても行かなければならないんだ君も行こうほら早く!!!!!!!」

 

「嘘でしょ?オレがツッコミ入れなきゃ行けない感じ?」

「・・・落ち着け、キリシュタリア。まだ敵の罠である可能性も否めないし、これが夢である確証もない(・・・・・・・・・・・・)

 

被っていた仮面を投げ捨てて興奮しているキリシュタリアと、泣き崩れるカドックとオフェリア。辞世の句を詠み始めたペペロンチーノ。4人が盛り上がりすぎて逆に冷静になってしまったベリル。キリシュタリアのマントをひっつかんで飛び出して行こうとしているのを止めているデイビット。

これがエリート集団の姿ですか?

 

念のためフォローを入れておくと、生粋の魔術師にとって神代よりも遙か旧き時代のハイラルなど、憧れるなというほうが無理がある。

当たり前に魔法があり、奇跡が起こり、神にとても近い世界。

都市が空を飛び、ヒトが時を渡り、異界が存在し、科学と魔法が共存する時代。

 

これが夢でなくてなんだというのか。

20世紀21世紀になっても、ハイラル時代の道具や遺跡を発掘しようという試みが止まることはないし、歴史の考察や神話の考証も盛んに行われている。

光の勇者がカバンからホイホイ出した食材だって、本来ならとんでもない価値を持つのだ。なんか普通に料理して食べさせてもらったけど。実は魔力と栄養が潤沢に含まれた神秘の食材を口にしたことにより、あの場にいたメンバー全員にとんでもないバフが掛かっていた。

後々当時のデータを纏めていた職員が気づいて腰を抜かすという事件がカルデアでは起こっていたが、今は置いておこう。

 

「カドック!オフェリア!泣いている場合じゃないよ。いつこの夢が覚めるかも分からないんだ。今のうちにこの島のことを記憶に焼き付けて――――」

「なあアイツあんなキャラだったっけ?」

「――待て。何か来る」

 

羽根の音が、混迷する砂浜をさらに乱して。

 

「ホッホウ!ホッホウ!」

 

一羽のフクロウが、6人を見下ろす木の上に降り立った。

 

「おまえたちが、ぼうやの言っていた使者かのう」

あの(・・)フクロウだ・・・・・・・・・」

「使者・・・?・・・・・・ぼうや・・・?」

「コホリントを調べてくれる使者を送ると、ぼうやが教えてくれてのう」

「え、待て、待ってくれ・・・。その坊や(・・)って・・・・・・」

 

動揺で掠れる声のまま、カドックが尋ねる。

目覚めの勇者?勇者がいるのか?

サーヴァント?英霊?どうやって?どうして。なんで。

勇者が、僕たちを、助けて・・・、見つけて、くれたのか――――?

 

「無論。目覚めの使者・・・目覚めの勇者、と言った方が伝わるかのう」

 

息を呑む。

心臓がさらに高鳴り出す。

手に汗がじわりと滲んで、慌てて服の裾で拭った。

 

「だがかぜのさかなを起こさねば、おまえたちはこの島から出られぬぞ。この島はそういうルールだ」

「目覚めの勇者が、私たちをここへ送ったってこと?・・・どうして?」

「逆じゃな。先に狭間に堕ちていったのはおまえたちじゃ。彼はおまえたちの魂をすくい上げ、この島に避難させた。――――心当たりはあるじゃろう?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

カドックとキリシュタリアが渋面を作り、オフェリアがうつむいた。ペペロンチーノとベリルは肩をすくめて、デイビットは無表情に推論を組み立てた。

 

「目覚めの勇者がコフィンの中で死の状態にある我々を見つけ、応急的な処置としてコホリントに避難させた。ならばここを出れたとしても、またコフィンの中に逆戻りしてしまうのではないか?」

「うむ。しかし問題はない。人間を蘇らせる為には、因果を覆すだけの“成果”が必要じゃ」

 

キリシュタリアがぴくりと反応して、すぐに取り繕った。

 

「ならばこのコホリントで、世界を救うという『成果』を手に入れてみよ」

 

クリプターを蘇生させるための最後の1。手に入れられるかは本人たち次第。

 

「この島は泡沫。記録も忘れ形見も残らぬ幻の幕間。それでも目を覚ますか(・・・・・・)?現実に戻って生き続けるか?」

 

ホホウ。ホホウ。かぜのさかな(フクロウ)は笑う。

久方ぶりの来訪者に、喜びの音色を響かせながら。

 

「忘れるな。目覚めの勇者は見ているぞ。かぜのさかなは待っているぞ。ホッホウ!」

 

飛び立つフクロウを見送ったデイビットが振り返ると、砂を払ったキリシュタリアが立ち上がったところだった。

 

「どうりで芥は居ないはずだ。彼女は精霊種だから、自力で蘇生できたのだろう」

「えっ」

「えっ」

「あら。なーんか違う感じだとは思ってたけど、あのコ精霊だったのねぇ」

「・・・・・・行くのか?」

「私は行く。生き返りたいからね」

 

わくわくが抑えきれません!という顔をして、キリシュタリアは笑った。

デイビットは頷くと、同行の意を示した。

ペペロンチーノは期待に瞳を輝かせて、カドックとオフェリアも歩き出した。

 

「ベリル?行くわよ」

「・・・へいへい」

 

振り返って声を掛けてくれたオフェリアに、曖昧な笑みで返答したベリルは天を仰いで。

あんまりにも青くて美しいから死にたくなった。

彼の勇者に、己はどんな風に見えているのだろうか。そんな疑問がぷかりと浮かんで、ぱちんと消えた。

 

 

 

 

 

「―――――――うーむ。これは」

 

 

 

 

 

その身に宿す悪性を。狂気を。

殺人鬼としての生き方を(・・・・)

きっちり確認した目覚めの勇者は。

 

「悪党共が見つけたら嬉々としてオモチャにしそう・・・。でも放置はできないよな。・・・んー、魔女の末裔なら妖精郷で性根を叩き直してもらえないかな。もしくは息吹の時代の祠とか。初代様のサイレンとか。ようは一度鼻っ面を折れればいいわけだから――――。みんなにも相談してみよう」

 

ぎりぎり死なない・・・死なないよね?なブートキャンプの計画を練っていた。

ベリルの明日はどっちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タスケテー。・・・いやマジで・・・助けてください・・・・・・」

「なんだコイツ」

「この世すべての悪、だとか」

これが(・・・)?ただの生け贄じゃないですか」

 

特異点から座に戻る途中でハイラルの悪役共に捕まった悪魔王(アンリマユ)は、英霊になってから初めて、本気で勇者の助けを望んでいた。

 

「首根っこつかまないで・・・。じろじろ観察しないで・・・。オレ本当に弱いんで・・・。なんも面白くねえっすよ・・・」

 

・・・アンリマユの受難が、始まる。



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ワタリドリ

活動報告にお題箱の返信もといプロットを乗せています。
心当たりのある方はどうぞ。


火薬のニオイも届かない、アメリカ独立軍の後方基地。

怒号と銃弾の飛び交う戦場を外れて、辿り着いたのは野戦病院。

ため息の充満するテントの中で、立香達はそのサーヴァントに出会った。

 

「―――ありがとう、ございます・・・・・・。あなたは・・・天使ですか・・・?」

「知りません。天使とは美しい花を撒く者でなく、苦悩する誰かのために戦う者。貴方が苦悶し、それでも戦いを選ぶ限り――私は此処に居ます」

「・・・先輩、やはりあのサーヴァントはフローレンス・ナイチンゲールかと思われます」

 

花園に咲く花のような色の髪をかちりと纏めて、赤い軍服を身に纏う女性。

彼女こそが奉仕と献身を信条とするクリミアの天使。“看護師の祖”と呼ばれる、不屈の女である。

 

「患者ですか? ・・・・・・人の名を用もないのに呼ばないで下さい」

「用はあります!ナイチンゲール、わたしたちに協力して下さい。特異点を修復しなければ――」

「愚かなことを仰らないで下さい。目の前に患者がいます。私が召喚され、働く理由はただそれだけです」

 

アスクレピオスが頷いた。素晴らしい。それでこそ医療従業者だ。

白い手袋で覆われた両手が的確に止血を行う。苦痛にうめく患者に薬を塗り、包帯を巻いていく。

バーサーカーとして狂気に浸されていても、女はずっと看護師だった。

 

「・・・ナイチンゲール。でも、このままだと患者は増え続けるよ。これは普通の戦争じゃないから」

「・・・なんですって?」

「その通りです。根本を断たないことには、この病は完治しません。わたしたちと一緒に、原因を取り除きに行きましょう」

 

治療が終わった。

感情の読みづらい瞳が振り返り、ポケットから何かを取り出す。

 

「そういうことは早く言いなさい。ところで、貴女達はこれ(・・)をご存じですか?」

「これ? ・・・・・・・・え?」

「えっなにこれ」

 

 

〈ケルトに負けるな!アメリカを取り戻せ!我々には大地の勇者が付いている!〉

〈大地に汽車を。勇敢なる戦士と資源を乗せて、列車は走るよどこまでも〉

〈我らの故郷を守れ!逃げる勇気を。レジスタンスは味方だ。今こそアメリカは1つに〉

 

 

チラシ・・・である。

軽快な謳い文句が踊る、西部の首脳部が発行している広告だ。

しかし採用されている写真に映る人物は―――――。

 

「リンク・・・だよね?」

「服装と容姿の特徴からして、大地の勇者かと・・・」

『は??????』

『え??????』

「そろそろCMが流れる時間ですね。動ける方でご覧になりたい方はどうぞ」

「CM!?」

 

慌ててテントから飛び出せば、日脚が移っている。

空中に展開した魔術が映像を流しはじめた。

患者も医者も避難してきた兵士たちも、みなかぶりつきで見つめている。

 

 

〈この大統王たるエジソンのもとに、大地の勇者は降り立った!我らがアメリカを駆ける汽車、これこそが祝福の証!西部万歳!西部万歳!ケルトを下し、戦争を終わらせよう!〉――このCMはご覧のスポンサーの提供でお送りしました

 

 

小気味よく流れるBGM。

勝利を宣誓する大統王。(ライオン)

大地を走る神の汽車。運転席にいるよく見知った(・・・・)機関士。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・無駄にノリノリだね』

『りんく?』

『西部のプロパガンダか。出来はともかく、効果は発揮しているようだな』

 

絶句する立香とマシュ。職員たち。

ジキル、アステリオスは思わずといった風に言葉を落とし、バベッジが冷静に所感を述べた。

 

「数日前から流れはじめたこのCMにより、明らかに軍の士気が上がってきています」

「・・・本人?」

「知りません。ですが、この汽車が走り出したことにより戦況は変わりました。患者の数が減ったのです(・・・・・・・・・・・)

「!!」

「ならば私がここを離れても大丈夫でしょう。ドクター・ラッシュ!」

「な、何かね!?今度は何かね!?」

 

色々慣らされている。

すっ飛んできた医者――ドクター・ベンジャミン・ラッシュに引き継ぎをし、カルデア一行はエジソンのいる宮殿を目指す。

今後の方針と、リンクの真偽を確認するために。無駄に写りのいいチラシを握りしめながら。

 

「・・・これ、貰って帰れない?」

「このチラシ自体は現代に近い印刷技術で作成されているようですし・・・。貰って帰りましょう」

『凡骨のくせにやるではないか。まあ、真の天才たるこの私の足下にも及んでいないがな!』

『マスター、吾輩たちの分も貰って帰ってきてくだされ~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?いや勇者リンクをプロパガンダに使うとか何様????いやでも本人かも知れな・・・えっ本人?これ本人?えっ。・・・・・・ど、どうしよう」

「知らね~~~~~なんでだよ~~~~~~。本物だろうと偽物だろうとレジスタンスの士気も上がっちまったしマジエジソン余計なことしてくれたっつーかほんとに本人だったら逆にどうする??????オレは無理です。座に帰ります」

「帰らないでくれ。・・・さて、どうしたものかな、これは・・・・・・」

 

動揺のままにチラシを握りしめる金髪の少年。ビリー・ザ・キッド

机にぐったりと突っ伏したまま動かないオレンジ髪の青年。ロビンフッド。

理知的な態度を崩さない、民族衣装を纏った男。ジェロニモ。

 

ここはレジスタンスの隠れ家の1つ。エジソンの思想に反した人々と、サーヴァントたちの集まりだ。

 

「(我々がすることは変わらない。東部の(キング)を討ち取り、この大地を人間(ひと)の手に取り戻す・・・。・・・・・・だが)」

「ねえ本人だったらエジソンのとこに居るってことだよね。これ機関士の服だよね。じゃあライダーとして現界してるのかな。ねえねえ二人はどう思う??」

「本物リンクの前でこんな緑マントしてるのキッツいからライダーで来てくれてよかったと思う」

「・・・・・・会いたいのか?二人とも」

「いいいや別にそんなんじゃないしまだ本人だって決まってないし」

「いや別に大丈夫だしファンとかじゃないしマジでほんとにほんとだし」

 

うん、会いたいんだな。

ジェロニモは空気の読める大人だった。

でもジェロニモだって、許されるのならば一度、話をしてみたいと思った。

 

「いくらエジソンとは言えど、彼を無許可で使うことはないだろう。それにあの汽車(・・・・)、かすかに神性を感じる。・・・本物だろう」

 

勢いよく振り向いた二人の顔があまりにも幼くて、画面越しのヒーローを応援している子供のように、幼くて。

 

「勇者リンクがついているのならば、エジソンのやり方も矯正されているかもしれない。ならば今度こそ、共にケルトに立ち向かえる道がある。――会いに行こう」

 

ジェロニモは柄にもなく、笑いを溢してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう思う?」

 

噛み殺し切れなかった笑いを含んで、半裸の偉丈夫が口火を切った。

 

「どうもせんさ。敵ならば、殺す。それだけだろう?」

 

長く美しい金髪を靡かせて、美丈夫が言う。

 

「しかし妙な汽車(・・・・)が走っているという報告もあります。放置するのは不味いのでは?」

 

そう発言したのは癖のある黒髪を後ろに撫でつけた、片目の下に泣き黒子のある美男子。

 

「別に? 恐るるに足らないわ」

 

清楚さと淫蕩さを混ぜ込んで、白い衣装で包み込めばこの女になるのだろう。

余裕をたっぷり、無垢を一匙、女王が断言する。

 

「大空、時、息吹の勇者ならともかく、一般人に近い大地の勇者でしょう?じゃあ勝てるわ(・・・・・・・)。殺せるわ。私のクーちゃんなら、必ずね!」

 

話を振られた狂王は、閉じていた瞳をひらいた。

もし彼が、本来のクー・フーリンならば。死力を尽くしての戦いを望む、戦士ならば。

たとえどの年代だろうと勇者リンクと戦える幸運に歓喜し、狂喜し、今すぐにでも飛び出していただろうけど。

 

「・・・所詮サーヴァントだろう(・・・・・・・・・・・)。生身じゃねぇんだ。過剰に警戒する必要はねえ」

「ええ、ええ、そうよ!流石クーちゃん!こっちには聖杯だってあるの、勇者だろうと無様に殺してあげる!」

 

狂王たちの見解は正しい。

生前ならともかく、いまは過去の影法師の身。リンクと言えども、どうしても本来の格からスケールダウンしている。

おまけに本職はただの機関士。初期は回転切りで目を回していたレベルの剣士が、聖杯の後押しを得たクー・フーリンに勝てるのか?

 

「・・・では、私が索敵してきましょうか?真偽がどうであれ、東部の士気が上がっているのは事実。ついでに妙な汽車とやらも確認してきましょう」

「んー、そうね。・・・ああ、ついでに。この世界を修正するサーヴァントが現れたらしいわ。もし見掛けたら殺してきて♪」

「了解しました」

 

そう返答した青年の声を最後に、会議が終わった。

各々が夢を見ている。ここは狂乱の国。凄惨な未来が約束された、血に濡れた大地。

悪夢は続く――――――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白壁の門を見下ろして、アルジュナは周囲を確認する。

念の為弓は出しているが、放つ気は無い。

・・・・・・放てる気が、しない。

・・・・・・どうして、来たのだろう。もし、本人だとしても、どうすればいい(・・・・・・・)のだろう。

アルジュナはずっと立ち止まっている。心が、体が重い。

 

もっともそんなことは、リンクには関係ないのだが。

 

「あ、本当にいましたね。さすがカルナ」

「―――――――――」

「東部の斥候か?アルジュナ。生憎見せられるものはない。大人しく――――む」

 

カルナに抱えられて崖を上がってきた少年に、アルジュナの視線は釘付けになった。

思考が一瞬で吹っ飛んで、考えていた言葉を忘れて、持っていた弓を落としそうになる。

 

「こんにちは、わたしはこういう者です。ご用件は?」

「ヒッ」

「すまない。アルジュナはお前たちのファンでな。動揺しているようだ」

 

いつものように名刺を差し出せば、息を思いっきり吸って吐き出せない時の声が漏れた。

ふらりと後ろに後ずさり、縋るようにカルナを見ては頷かれ、震える手で名刺を受け取るが――。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・む」

「む?」

「む?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理、です・・・・・・・・・」

「アルジュナ、落ち着くがいい」

「これが落ち着いていられますかぁ!?!?!?」

 

 

Silver bow 爆発した。

小さきもの 泣いているのか怒っているのかわからん。どうした。

 

 

「だって・・・!勇者、勇者リンクがいて、れいっせいになるなんて、ム゙リ゙で゙ず。あなただってそうでしょファンなんだから!!!!!」

「そうだな。偉大なる勇者に相見えるなど、やはりオレは運がいい。アルジュナ、お前に再会できたことも含めてだ」

「~~~~~~そ、ういうところですよ兄上!!!!!!私だって私だって女王メイヴに先に会わなければ西部に居たかったですし貴方たちばっか勇者リンクと共に戦えるなんてずるい羨ましい羨ましい!!!!!!」

「だがここまできて裏切るなど、戦士の名折れ。己が務めを果たせ、アルジュナよ」

「ゔ~~~~~~~~~~」

 

「仲がよろしいんですね。兄弟としても、ライバルとしても」

 

半泣きでカルナにしがみついていたアルジュナがびっくう!と肩を跳ねさせて、後ろにそっと隠れた。

 

「・・・・・・・・・あの、」

「はい」

「サーヴァント・アーチャー、アルジュナと申します・・・。お会いできて光栄です、大地の勇者」

「こちらこそ。マハーバーラタの英雄に二人も会えるとは、サーヴァントにもなってみるものですね」

「ヒェ、・・・イエ・・・ソンナ・・・・・・」

「すまない。容量オーバーのようだ。普段はしっかりした子なのだが・・・・・・」

 

カルナの腕にしがみつくアルジュナからは、殺意も敵意も感じない。むしろ大きな好意と敬意を感じる。

ならばもう少し踏み込んでみましょう。リンクはことりと首を傾げる。

 

「アルジュナ、あなたはわたしのことを探りにきたのでしょう?心配しなくても、わたしでは狂王に勝てませんよ」

 

驚いて息を呑む兄弟に、のんびりと説明する。

 

「わたしは剣士ではなく、魔法使いでもなく、フォーソードも持っていません」

 

いや、持ってこようと思えば持ってこられるのだが、それは秘密にしておこう。

 

「次元や光のように特殊能力も持ってませんし、理や回生のような旅人ではありません」

 

大地の笛や神の汽車は託されたものだ。リンクの肉体能力が上がっているわけではない。

 

「何より、カルデアがいます。今を生きる人々が懸命に戦っているのだから、あまり手を出したりはしませんよ」

「・・・・・・メイヴやクー・フーリンも、同じような推測を」

「ならば訂正する必要はありません。あの汽車も、物資や人々を運ぶために使っていますが、線路がなければ走れません(・・・・・・・・・・・・)し」

 

アルジュナは思わずカルナを見た。

 

「嘘はついていないな」

「ふふ」

 

 

海の男 まー悪い子

騎士 意外と口が上手いんだよな・・・

 

 

「・・・・・・わかりました。ですが、こちらに居るサーヴァントは皆ケルトの戦士。貴方を見つけたら即座に殺しにかかるでしょう」

「注意しておきます。警告の御礼に、汽車に乗せてあげましょうか?」

「エ゙ッッッッッ!?!?!?いいんですか!?!?!?ののののりたいです!!!!!!」

「カルナ、あなたもどうぞ」

「では言葉に甘えよう」

 

アルジュナ()の手前平静を装っていたカルナも、衝撃と感動と興奮で優等生の仮面をぶん投げたアルジュナも、輝く瞳で汽車に乗り込んだ。

風と共に地を駆けるこの汽車があるかぎり、大地が血に濡れ続けることはない。

そう確信できるほど、素敵な時間だった。

 

あの日振りしぼった勇気が、叫んだ言葉が、泣きながら抱きしめた希望は。

今、咲き誇る。

太陽と雷の兄弟の無邪気な笑みを見て、大地の機関士もそっと微笑んだ。



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抗菌性の絶唱

リンクたちの口調を直しました


燦々降り注ぐ太陽の光。焼かれて熱した荒廃の地。

場違いなほどに絢爛なのは、プレジデントのおわす王宮だけ。

 

「ようこそ!会えて嬉しいぞ!クリミアの天使にカルデアの諸君!」

 

分厚い城門は開かれた。王の心情を表しているかのよう。

先に合流していたレジスタンスの面々と打ち解けているのがいい証拠だ。大統王は葛藤を降ろし、夢を背負い直し、誇りを掲げて歓迎した。獅子の毛づやもピカピカである。

 

『我々のことをご存じで?』

「大地の勇者から聞いたとも。星見の愉快な後輩たち、とな」

『ヒュッッ・・・・・・・・・・・・』

『メディア・リリィ!パラケルスス!気を確かに!』

「先ずは現状から説明しよう。この時代を苛んでいる、女王と狂王についてだ」

 

現在確認されている東部側のサーヴァントは六騎。

メイヴ、クー・フーリン、アルジュナ。そしてケルトの戦士と思われる三騎だ。

聖杯を持つメイヴによって無尽蔵に生み出される無限の兵士たちは、大統王率いる機械化兵士によってギリギリのところで食い止められている。

しかしそれも長くは続かないだろう。数、質、勢い、全てにおいてこちらが劣っている。―――――劣っていた、のだ。

 

「大地の勇者は線路を敷いた。西部の領土、隅々まで行き渡るように!それによって人員と物資の速やかな移動が可能になった!」

 

しかもこれは宝具だ。

旧き神話。ハイラルの時代の神秘。

たとえ千軍万馬のサーヴァントだとしても、壊すことすら容易ではない。

 

「徐々に、徐々に、攻勢は転じてきている。この機会を逃す訳にはいかない!」

「同意です。これ以上怪我人を増やすわけにはいきません。早急に根本を断ちに行きましょう」

「あのCMについては触れていいの?」

「あれか!君たちも見たかね!素晴らしい出来だろう!!!東部のプロパガンダとして製作したのだが思いのほか反響が良くてね!勇者が最高、私も最高、兵士の士気も急上昇!!!!本当にいい仕事をしたものだ!!」

『素晴らしいのは勇者リンクと編集者の腕だろう。そんなこともわからんのか凡骨が』

「その不愉快な言動と態度はすっとんきょう!ミスター・すっとんきょうではないか!私がリンクくんと一大プロジェクトを成し遂げたからといって、そう嫉妬するな。見苦しいぞ?」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

画面越しの睨み合い。二人は犬猿の仲だ。

鼻で笑うライオン。青筋を立てる美丈夫。

立香は火花が散ったのを幻視した。

 

 

『「死ね!!!!!」』

「や・め・な・さーい!!」

 

「スゴいですね先輩!史実通り仲が悪いようです!」

「水と油ってこういうことを言うんだね」

 

があがあと騒ぐ大人たちの声が天に響く。鳥もびっくりなシンプルな煩さ。ここでブリテン平等チョップ!

大人しくなったテスラをランサー・アルトリア〔オルタ〕が隅に片付けた。世話の焼ける天才である。

 

一方エジソンは麗しい少女に叱られている。あんまり良くない絵面の後ろをゆったり歩いてきたのは、黄金の鎧を纏いし戦士だ。

 

「こんな時まで喧嘩しないの!リンクに言いつけるわよ!」

「そそそそれは勘弁してくれ私が悪かった!!!」

「お前たちがカルデアか。自己紹介が遅れたな」

「い、いえ、お気遣いなく」

「すでにマイペースなのがわかる」

 

ベレー帽で東雲色の髪をおさえた少女。キャスター、エレナ・ブラヴァツキー。

空を泳ぐ雲のように白い髪のランサー・カルナ。西部側に組みするサーヴァントだ。

 

「先に伝えておく。勇者リンクは不在だ。自力で西部まで逃げられない避難民を救出しに行った」

「そうなんだ・・・!ありがとう」

「それともう一つ。フローレンス・ナイチンゲール」

「なんでしょう」

 

芽吹いたばかりの若草の瞳が、ナイチンゲールをひたと見据えた。

 

「レジスタンスの長が呼んでいる。治療を施してほしい英霊がいると」

「行きます。すぐに案内しなさい」

 

風が吹いている。

枯れた大地を呑み込むように、冷たい風が。

 

「先輩、私たちも行きましょう」

「うん」

 

日盛りは過ぎた。

陰影が濃くなって、足下にぞろりと広がる。

駆けだしていった少女たちを叩く、向かい風の強さよ。

 

「・・・来たか。待ちくたびれたぞ・・・・・・」

「すぐに治療を!」

「酷い・・・!心臓が・・・!」

 

避難民のテントが点在する庭に、濃厚な死の気配が漂っている。

入り口で待機していたサーヴァントに促され、幕を上げれば血のニオイ。心臓から溢るる呪いの血。

 

掠れた視界で、途切れ途切れの呼吸で、それでも少年は希望を待っていた。

それだけが、今の自分にできる唯一のことだから。

 

「――こんな傷は初めてです。ですが、見捨てることはしません。安心しなさい、少年。地獄に落ちても引き摺り出してみせます」

「くく・・・・・・それは、安心できそうだ・・・!あ、イタタタタタ!加減は!加減はしてくれ!」

 

この希望、怖いなぁ・・・!

若干そうも思ったが、どのみち動けないので大人しくした。

彼こそがインドにおける二大叙事詩の一つ、「ラーマーヤナ」の主人公。セイバー・ラーマである。

 

邪魔にならないように退出した立香とマシュは、三騎のサーヴァントと相見える。

乾いた大地に根を出した木のように、揺らがぬ意志の瞳をもつ英雄たちと。

 

「私はジェロニモ。キャスターのサーヴァントだ」

 

ネイティヴ・アメリカン一部族の“精霊使い(シャーマン)”であり、何十年も“白人社会”と戦い続けたアパッチ族の戦士。

獅子の如く戦うその様は聖ジェロームと恐怖され、大翼の勇者と讃えられた。

 

「アーチャー・ロビンフッド。ま、ぼちぼちよろしく」

 

ロビンフッドに該当する、数多くいた"誰か"のひとり。

顔のない、名前のない森の義賊。世界一有名な緑衣の英雄に重ねられたせいか、知名度は非常に高く。本人の劣等感は強い。

勝つために手段を選ばないのは、リンク達だって同じなのだが―――――。

 

「同じくアーチャー。ビリー・ザ・キッドさ」

 

アメリカ西部開拓時代の代表的なアウトローであり、21歳で21人を殺したと言われる、少年悪漢王。

アウトローな金髪ガンナーという経歴から、光の勇者を重ねる人間も多い。ビリー自身も満更ではない。

 

「なんか・・・二人とも、元気ない?」

「勇者リンクに会えると思ったのに会えなくて肩透かしを食らっているだけだ。気にしないでくれ」

「はーーーーーー!?別にそんなんじゃないし!!」

「はーーーーーー!?ガキじゃねえんだからそんなワケないでしょ!」

 

そんなワケありそうだが、立香は慣れていたので流した。

カルデアのサーヴァントたちも、わかり顔をして頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・悔しい。悔しい、悔しい、悔しい、悔しい・・・!追いかける死の速度を鈍くはできても、止めることはできないの・・・!?」

 

立香の肩が驚いて跳ねる。初めて聞く女の声だった。

怒りと悲鳴が混在した、ナイチンゲールの魂の叫び。

 

「いいえ、諦めはしません。この肉体が生きているかぎり、私は私の役割を果たすのです!」

「ああ、婦長、お手柔らかに!」

 

鬼気迫る表情で治療を施すナイチンゲールは、確かに正気とは思えない(・・・・・・・・)

殺してでも治してみせる。死んでも救ってみせる。狂気に感じるほどの信念と姿勢。しかしこれこそが、「近代看護教育の母」と呼ばれる女の姿。

看護師という職業そのものの社会的地位向上に貢献した、鋼の意志を持つ看護師の生き様なのだ。

 

「(同じ医療従事者でも、キアラさんとは違うな・・・)」

 

その背中を、立香は天幕をずらして覗き見た。

将来の夢は決まっていないけれど、将来のために色々見ておくべきだって、高校の先生も言っていたし。

 

「ラーマは、誰にやられたの・・・?」

「・・・・・・アイルランド最強の英霊」

 

喘鳴のラーマに変わって、答えたのは悩ましげなジェロニモ。

まるで大岳で立ち往生した登山家のようだ。吐息が転がり落ちた。

 

「狂王クー・フーリンの持つ槍ゲイ・ボルクによって、ラーマは呪いを受けた。放てば必ず心臓を破壊するという“呪い”に」

「!!」

「“呪い”・・・?オカルトは好みません。どういった対処ができますか?」

 

ラーマの心臓は半分抉られ、治癒しても抉られた状態に戻っていく。

まるでその状態こそが、正常だとでもいうように。

 

『治療より解呪が先だよ。一番手っ取り早いのは、傷を負わせた本人を倒すこと。もしくは解呪できる者を探す』

『これは本来は死んでいるはずの状態を、ラーマが無理矢理逆転させているのが現状だ。その2つよりも、治療の精度を上げるのが現実的だろう』

『アスクレピオスの言うとおりだ。医療に人体の理解は欠かせない。患者が人間ならば貴女の理解は万全で、治療の効果が上がることはない』

 

だが彼は“英霊”。精度に伸びしろがある。

 

『一番いいのは生前の彼を知っているサーヴァントと接触を図ることだ。生前の彼という設計図(にくたい)を知っているのなら、間違いなく治療の効果はあがるだろう』

「・・・・・・・・・・・・それは、なんとも幸運だな」

 

全員の視線が集まった。

快調なら薔薇のように赤いだろう瞳は、今は苦痛に染まっている。

 

「一人、いる。・・・余はその者の行方を尋ねる為・・・あの狂王に、戦いを挑んだのだから・・・」

「・・・誰、ですか?」

「――――我が妻、シータ」

「敵襲!!」

 

反射的に立ち上がったのは立香とマシュ、ジェロニモはもう飛び出している。

ロビンは避難民と共に残り、ビリーが後を追いかけてきた。

 

 

・・・地鳴り。

地鳴りだ。

大地が、揺れている・・・!

 

 

「ドクター!」

『サーヴァント反応が一騎!まだかなり遠いが・・・! 何だ・・・!?地面が・・・!』

「先輩、気を付けて!」

 

地面が割れて、裂けて、砕かれていく!大地を犯す虹色の剣光よ!

猛獣が吠え猛るような螺旋を引き連れて、その男は現れた。大熊のような足取りで、大口をあけて笑いながら!

 

「はっはっはっはっはぁ!来たか、誇り高き西部のサーヴァントたちよ!」

『リンクの線路だけを(・・・・・)避けて地形を破壊している!?なんて宝具の精度だ・・・!?』

「この線路は壊すのに手間取りそうだったのでな。だがこれ以上敷かれるのも困る。故に、地形ごと破壊させてもらった」

 

その剣の名は虹霓剣(カラドボルグ)

『虹の如く伸びた剣光』によって丘を切ったという伝説により、地形破壊兵器としての側面を色濃く有している魔剣だ。

そしてその剣を携える、恐れ知らずの勇士の男。西部のサーヴァントたちに囲まれても、堂々とした姿を隠しもしない。

 

「セイバー、フェルグス・マック・ロイ。ケルトの将としてお前達を穿ちに来た。・・・何だ、たった三騎か?」

『フェルグス・・・!クー・フーリンの友にして養父でもあった魔剣使い。彼の下に仕えるのは道理か・・・!』

『どう思うさっきから不自然なほどに黙ってるキャスター』

『俺も槍欲しいなー』

『現実逃避が過ぎる・・・』

 

管制室では天を仰いでいるキャスター(クー・フーリン)がモードレットとアーサーに呆れられていた。

 

「まあいい。お前達全員を殺せば、穴熊を決め込んでいる勇者も出てくるだろう」

「!!」

「行くぞぉ!」

 

剛撃刺突。引き絞られた豪腕が勢いよく剣を引き、貫く。

たったそれだけの攻撃をマシュは冷や汗をかいて受け止めた。手が痺れるほどの衝撃。アステリオスやヘラクレスに純粋な腕力は劣るものの、技術の上手さがそれを感じさせない。

両手にナイフを構えたジェロニモが背後から襲いかかる。フェルグスは盾を弾いた残心のまま横薙ぎで打ち払い、死角から飛び出してきたコヨーテに気づいた。

 

「ぬんっ!」

「く・・・!」

 

即座に背後に回した剣で祖霊を受け止めて、ひび割れた大地を踏みしめて放った剣閃の余波で銃弾を撃ち落とす。

虹色の剣光が出鱈目に唸りを上げる。どんどんと地形を破砕していく。立香はまだ影響の少ない部分を移動しながら、タイミングを待っていた。

マシュとジェロニモが仕切り直すために体勢を直し、ビリーが遠距離から撃ちまくる。鼓膜を掻き回す鉄の歌が、荒れ続ける大陸に響いた。

 

「当たらん!」

「ムカつくなぁ!」

「手を休めるな!引いたら勝てんぞ!」

「マシュ!」

「はい!」

 

瞬時に間合いを詰めて、勢いのまま盾を振るう。当然のように受け止めたフェルグスの袈裟切り。重い唐竹、技量の逆袈裟。受けづらく、躱しづらい縦横無尽の連撃。だが、まだ見える(・・・・・)

 

「(疾さならディルムッドさんやヘクトールさんの方が上・・・!)」

 

百戦錬磨の戦士に敵わなくとも、こちらだって経験は唯一無二。

受けづらいのならば(・・・・・・・・・)受けてやろう(・・・・・・)。マシュが体運(たいはこ)びを僅かに変えた。

 

「・・・んん?」

「(奮い断つ決意の盾――)」

 

怪力を受け止めきれずに盾ごと吹き飛ばされ――――たように見えた。剣先が勢いのまま外にずれる。軽い手応え。フェルグスは奇妙な感覚に訝しみ、極限の鍛錬によって染みついた体捌きで剣を構え直してマシュにトドメを――――。

 

 

「オーダーチェンジ」

 

 

入れ替わった。

まずそう知覚して、認識して、既に動いていた剣に更に怪力を乗せた。驚愕はほんの一瞬。

マシュと位置が変わったジェロニモが全力でそれを受け止める。衝撃が空気を割り、甲高い音が戦場に鳴った。

勇士は油断しない。フェルグスの魔力量が上がった。報告するロマニの声を聞きながら、立香は虹の波濤が吹き上がるのを見て。

 

壊音の霹靂(サンダラー)

 

岩に当たって砕かれた波のように、崩壊していくのを見た。

 

必中の矢の如く霊核を砕く、ビリーの射撃。

ビリー・ザ・キッドが愛用していたと言われるリボルバーによる、カウンターの三連撃。つまりフェルグスが宝具を発動した「後」に、フェルグスより「先」に宝具を撃ち放ったのだ。

正確に言うと拳銃が宝具という訳ではなく、「この拳銃を手にしたビリー・ザ・キッドの射撃」全体を包括して宝具と見なされており、固有のスキルに近いもの。

 

「・・・ははっ!」

 

フェルグスは笑った。

いつの間にか黄昏に染まっていた空を見上げながら、なんと清々しいと。

 

「いや、見事だ。西部の勇士達よ。女王には顔向けできんが、これも戦士の宿命。大人しく去るとするか」

「待って!フェルグス、ラーマの妻・・・シータを知らない?」

「おお、将来有望そうな可憐な娘!シータという女かどうかは知らんが――――アルカトラズ島に幽閉されているサーヴァントがいる。いるとしたらそこだろうな」

『アルカトラズ島・・・!?脱獄不可能と謳われたあの島か!?』

 

いつの間にか風が止んでいる。誰そ彼がやってくる。

ラーマの視界にはまだ、薄暗く染まっていく天幕しか映らない。



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世界のつづき

道行く道行く兵士は閑々。荒野をぞろ征く黒い影。

まるで亡霊のような顔をして歩く戦士達は、ただしく亡者であり、影法師であった。

首都ワシントンを拠点とする女王軍は、無限の兵士と血に飢えたサーヴァントを手足として、アメリカを東部から侵し尽くしていく。

エジソン率いる西部軍、合流したレジスタンス、そしてリンクのテコ入れによって戦況は一時拮抗したものの、それもいつまでも続くものではない。

いかに素早く戦力を集めきり、敵の首魁を打倒できるか。目下、会議は踊っている。

 

「――――――暗殺」

「いい案だ。しかし、却下する!いや、これは私の意見ではなく、リンクくんの意見なのだがね」

「なんだと?」

 

たき火の炎がゆらりとふらつく。まるでこの緊迫した空気を受けて驚いたかのように。

フェルグスの強襲を防いだ一行は、夜襲を警戒しつつも寝床の準備を整えた。避難民と交流しながらナイチンゲールの治療を手伝っていた立香とマシュは、語尾の上がったジェロニモに気づいて振り返る。

 

「君もすでに知っていると思うが、ケルトの戦士は極めて好戦的だ。そして侵攻の出鱈目さからも、彼らはおのおのが好き勝手に動いていることが理解できる」

「同意する。ケルトの戦士にとって、首都の防備は重要視するものではないと推測できるだろう」

『彼らにとって城は住み処であって、守るべきところではない。といったところか』

 

ケルトの戦士が重視するのは戦士としての力の在り方、生き様だ。

全体よりも個を尊重する社会形態であるケルトでは、エジソンのように城に多量の罠を仕掛けたりしないだろう。

 

「彼はこう言った。“誇りを重視するのならば、それを餌に引き摺り出してあげればいい。それまでに戦力を揃えておいて。全面戦争の準備を”」

「全面戦争・・・? ・・・・・・勝てるのか?」

「勝つとも。我らには、大地の勇者がついている。そのためにも君たちレジスタンスには、指定の場所へ仕掛ける罠の準備をしてほしい」

 

リンクとエジソン達が立てた作戦はこうだ。

何らかの方法をもって女王軍をあえて西部まで侵攻させ、のこのこと来たところを罠で一網打尽に。

あとは揃えていた戦力でサーヴァント達を足止めし、その間にカルデア一向を聖杯奪還に向かわせる。

・・・・・・あまりにもざっくりしすぎている。大丈夫なのか?

 

「“籠城されるとこちらが不利になる”と」

「・・・・・・私には未だ真意が読めないが、大地に生きた彼の勇者の言葉ならば、信ずる価値もあるだろう」

『ではその間に我々がアルカトラズに向かい、ラーマの奥方を探す。ということでいいかな。立香ちゃん』

「うん。明日の朝出発だね。がんばるよ」

 

話し終えるのを待ちわびていたかのように、夕餉の香りが人々を包んだ。

どんなに苦悩していても、侘しくても、腹は減るもの。眠くなるもの。それが人。

恐怖に縮こまっていた体を伸ばし、微笑みと共に食事を取る人々を見て、ようやくジェロニモは体の力を抜いた。

 

夜のカーテンが空を滑る。鉄の味がする口内で呼吸をしながら生きるラーマの汗を、ナイチンゲールが優しく拭っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごうごうと、風が吹いている。

荒れた大地の岩肌を削り、僅かに生える植物を揺らし、洗濯物をはためかせた、朝風。

あきれかえるほど天気のいい今朝、カルデア一行は宮殿を旅立った。見送る西部のサーヴァント達に手を振り、無事を祈ってくれた兵士達に挨拶をし、朝日の眩しさに目を細めながら。

 

地面に刻まれた轍を指針にして、目指すは監獄島アルカトラズ。

アメリカ史上最も有名な刑務所であり、脱獄不可能と謳われた伝説的な島だ。

――――――などというロマニの説明を、立香の影に潜むアヴェンジャーは話半分に聞いていた。

脳内にガンガン話しかけて(愚痴って)くるアヴェリンがあまりにも喧しかったので。

 

「ラーマ、具合はどう?」

「・・・良くはない。ところでなぜこの持ち運び方法に対してはスルーしたのだ?マシュは二度見してたぞ?」

「だってそれ以外にラーマを運ぶ方法ないし・・・」

「くっ・・・、なんて冷静なマスターなんだ・・・」

 

これこそはナイチンゲールが考案した要介護者運搬装置、ラーマバッグである。

コサラの王の威厳はもうボロボロ。生きたいけど死にたい。なぜ余を背負ったまま戦闘しようとするんだ。この看護師無茶苦茶だ・・・。

 

「・・・・・・マスター。状態は良くない、という彼の自己分析は正しいようです。いよいよ以て限界が近づいてきています。出来得るだけ急ぎましょう。さもなくば、やはり患者の腕か足を切・・・・・・」

それは勘弁してほしい。ふふ、気力を出さねばな・・・」

「この患者のタフネスぶりは賞賛すべきでしょうね。常人ならば、とうに精神が参っています」

「妻と会うまで、余は死ぬわけにはいかん」

 

ああ、けれど、こうも空が青くて綺麗だと。

身動きできないまま、天を仰ぐしかできないと。

余計なことばかり考えてしまう。思考が横道に逸れてしまう。心の中の冷静な部分が、己を苛なんでしょうがない。

 

「余はコサラの王として賢政に努めた。少なくともそうしようとした。・・・・・・だが、そのために、彼女を犠牲にした」

『確か「ラーマーヤナ」によれば君は妻の不貞を疑い、二度、彼女を試したんだっけか』

「え?そうなの?奥さん怒んなかったの?」

 

まだ恋の何たるかを理解しきってない少女が、愛の話に耳を傾けている。

その無邪気とも言える疑問の声が、少し微笑ましかった。

 

「・・・・・・いや、余は妻の不貞を疑ったことは一度もない。ただ、民が承知しなかった。一度の儀式で疑いは晴れたはずなのに、民は疑念を持ち続けた」

「・・・ラーマは、信じたんだよね?」

「信じていたさ。だが、余はシータを追放した。せざるを得なかった」

「どうして?」

「それは疑った、と同義になるのでは?」

 

考えるよりも前に言葉を発した立香と、黙って聞いているマシュの視線を感じる。

ナイチンゲールの声は、背中のラーマを揺らさないように歩む足音のように静かだった。

 

『夫のくせに妻を疑うなんて・・・』

『最低ね!男の風上にも置けないわ!』

『虞美人、アルテミス。追い打ちを掛けるのは止めてあげてね・・・』

「・・・いや、全くその通り。余は最低である」

 

こぼれ落ちたのは何だ。苦笑か?

いいや、きっと嘲笑だった。立香達には、見えてなければいいが。

 

「保身、困惑、恐怖・・・歳を取ると様々なものが絡み合い、身動きが取れなくなる。余が小僧の姿で召喚されるのも自明の理だな。この頃は、ただシータだけが愛おしかった」

 

「ただそれだけで良かった時代が余の全盛期――という訳だ」

「・・・なら、その愛しい人間に会うまで辛抱なさい。愛しているのなら、愛していることを証明しなければ――」

 

一度言葉を切って、ラーマを背負い直して、ナイチンゲールは凛とした声で言った。

 

「それは、愛していないのと同じこと。言葉で伝えないかぎり、伝わらないこともあります」

「分かっているさ。さ、急ごう。余はまだ大丈夫だ」

「ええ。急ぎましょう、マスター」

「うん。シータさんに引っぱたかれても、ちゃんと受け入れるんだよ」

「はは、それは恐ろしいな」

 

さあ行こう。アルカトラズは目の前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オケアノスとは違う潮風が立香の頬を撫でる。

冷たい水面は何も生まず、静かな孤島はただ不気味に佇んでいた。

不機嫌に門を開く監獄塔に上陸して、目指すは最奧。最短距離で、最愛のもとへ。

 

「来ました!ワイバーンとケルト兵です!」

「蹴散らす!行くよ!」

「もちろんですマスター!」

 

駆けていく。駆けていく。

己の為に、少女達が夢中で。

傷つきながらも賢明に。

――――――ああ、何と、罪深い。

 

「・・・くっ・・・・・・」

「婦長!」

「婦長!大丈夫ですか!?」

「余のためにあまり傷つかないでくれ、ナイチンゲール。余とて恥も知っておるし、何より先にお前が言っただろう。余は、お前が傷つくことを望んではいない」

「黙りなさい。私がこの世で二番目に嫌いなものは治せない病気。一番嫌いなものは、治ろうとしない患者です」

 

治癒魔術の巻子本(スクロール)を取り出して手当をしてくれたマシュに礼を言った後、ナイチンゲールは揺らぐことなく言い放った。

 

「そ、それは逆ではないか?」

「違います。治せない病気はいつか治せる。私たち医者は、看護師はその為に東奔西走し、知恵という知恵を絞り続けて居るのですから」

 

おそらく余はもう一時間も保つまい。それまでに彼女に会えるのだろうか。

 

殺してでも(・・・・・)治す。病気という病気を殺して殺して殺し尽くす。――しかしその為には、何より患者の気力が必要です。治ろうとする気力のない者を治すのは、どれほどの医者であろうと不可能。人が治そうとする意志を持つことで初めて、治療が開始できるのです」

 

いや、会えなくても仕方あるまい。それほどまでにこの大地で余は、余のわがままのために犠牲を出し続けたのだ。

 

「あなたが奥方に愛を囁けるように治す。あなたがその手に剣を持ち、戦えるように治す。その為には何よりまず、あなたの肉体が、細胞が、治すことを決意しなければ」

 

召喚されシータを探していた余は、虐殺を行なう狂王を見つけ戦いを挑んだ。それが軽率だったのだ。

結局返り討ちに遭い誰も救えなかったばかりか、余を救う為ジェロニモの部下が盾となり散った。彼らはただの人間だったのに。

 

「気力が萎えたのならば奮い立たせなさい。殺しますよ。あなたが何を深く悔いているのかは知りませんが、傷病が罰であるなどありえません」

 

・・・・・・・・・・・・だった、のに。

 

「それはあなたを治そうとする者、救おうとした者、今まさに救おうとしてる彼女達への侮辱です」

「・・・ああ、そうだな・・・。すまない、立香、マシュ」

「ううん。私たちは気にしてないよ」

「はい。身心に深いダメージを負った患者の精神が沈むのは、ある意味当然のことです。侮辱だなんて思いません」

 

森林を抜ける。

眼前にぱっと拓けた景色は、まるでラーマの心の有り様のよう。

晴天の監獄内に佇む看守は、宝を守る竜がごとし。

 

「アルカトラズ刑務所にようこそ」

 

侵入者の足音をかき消すような、男の声。

打撃音。強襲。

挨拶早々に振るわれた剣が、ナイチンゲールの頬を殴った。

一歩遅れて気づいたマシュがそれを呆然と見送る。

ラーマを守るために受け身を取らず吹き飛ばされたナイチンゲールが、衝撃で壁に激突した。

 

「入監か襲撃か脱獄の手伝いか、用件を言いな。殺した後に叶えてやる」

『サーヴァント・・・!』

「俺の真名()は“ベオウルフ”・バーサーカー。せいぜい楽しませてくれよ、お嬢ちゃん達!」

 

否、竜ではなく。

彼は竜を屠る者。

英文学最古の叙事詩と謳われる物語の主人公。戦士であり王。そして今は監獄塔の番人。“竜殺し”――ベオウルフ!

 

「おらおらおらァ!」

「・・・!」

 

ベオウルフの振るう剣が唸る。蠢く。筋肉の動きと連動せず、独自に動いて敵を切り刻まんとする。

標的にされたナイチンゲールが防御しきれず血潮を撒き散らすのが立香の視界に入った。早くなる鼓動。

 

『魔剣・・・!?血の匂いに反応して動いている・・・!』

「マシュ!婦長を!来て、ケイローン!」

「はい!」

「お任せを」

 

カバーの為に飛び出したマシュはしかし、叩きつぶすような斬撃を受け止めるのに精一杯だ。

鎖で連結されているというのに可動域が驚くほど広い。軌道の読みづらい連撃な上に、片方は剣と言うより棍棒のよう。敵を叩きつぶすことをを目的とした殴打は鈍い音を監獄に響かせて、じりじりとマシュを後ろに下がらせていく。

 

「撃ちます!」

「おおっと!アーチャーか!」

「婦長!手当を・・・!」

「ありがとうございます。マスターは下がっていてください。危険です」

 

流れ星よりも速い輝線を描いて、ケイローンの撃つ矢がベオウルフを引きはがす。

バーサーカーは俊敏な動きでそれを避け、警鐘を鳴らした直感に従って足に力を入れた。

衝撃で罅の入った床に無数の矢が突き刺さる。迷わず突貫してきたベオウルフが振り抜く剣を躱して、手首に一撃、懐に向けた足は空ぶった。

 

「ハハッ!ステゴロも行けんのかアンタ!」

全ての力(パンクラチオン)と言うのですよ」

 

背後から重量のある盾が襲い来る。前方からはケイローンが厄介な魔剣を抑えようと弓を引き絞る。

ベオウルフは振り向きざま魔剣で盾ごと少女を弾き飛ばした。そのままマシュの方に飛び退き体を横にずらす。直撃しそうな矢は叩き落として、ナイチンゲールの固く握られた拳を首を曲げることで避けきった。

 

「(強い・・・!攻めきれない・・・!)」

「(長期戦は不利ですね。ラーマが耐えられません)」

 

聖杯によって魔力を供給されているだけはある。

ただでさえ高いベオウルフの性能は更に底上げされていた。隙がない。

 

「(互角には出来たようですが、一手足りません。私の宝具なら落とせそうですが・・・。どうします、マスター?)」

 

ケイローンの宝具は強力だが、必中の矢ではない。当てられなければ状況は好転しない。マスターもそれを分かっているはずだ。

だが何もかも指し示してしまっては意味がない。

考えること。考え続けること。それを実行すること。賢者は何よりも、弟子の意志を尊重している。

 

「・・・待て、ナイチンゲール。頼みがある」

「患者は大人しくしていてください」

「いいや、治療のために必要な行為だ。余を下ろせ」

「・・・できません」

 

打開策を考え続けるマスターの顔を横目で見て、ラーマの発言に耳だけ傾けた。

どうやら状況が変わりそうだ。ケイローンは戦闘に集中しなおす。

 

「余を信じろ。患者と医者は、まず互いを信頼するものだろう?」

「・・・・・・一つだけ、訂正を。私は看護師です。医者ではありません」

 

身軽になったナイチンゲールが銃を片手に飛び出すのを、ラーマはなんだか清々しい心地で見送って。

心配している顔を隠さずに隣にしゃがみ込んだ立香に、努めて優しく話しかけた。

 

「藤丸、頼みがある」

「なに?」

「宝具を使いたい。令呪を一画くれないか」

『な・・・!無茶だよ、君の今の霊基で、』

「・・・・・・いけるの?」

「当然だ。余を誰だと思っている」

 

激痛を無視して立ち上がる。

歯を食いしばって前を睨み付ける。背筋を伸ばして胸を張る。

”英雄”が、この程度でくたばるものか!

 

「余はコサラの王、シータの夫、ラーマである!」

「――うん。やっちゃえ、セイバー!」

 

右手の令呪が光を帯びた。

息を吸って、吐く。

――――――シータ、僕は。

 

「我が(つるぎ)──烈火の如く」

 

君が透明な幽霊になったとき、君を見つけられるだろうか。

あの大地の勇者のように、君の手を握れるだろうか。

恐怖と孤独に襲われた君を、安心させられるだろうか。

 

愛しき者の手を離した後悔すら、時の流れは思い出にする。

穏やかな国、賢き治世。その代償が君との愛しい日々だとするのならば。

 

月輪(げつりん)(つるぎ)、必滅の矢。すなわち羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)。この一撃を、我が妻シータに捧ぐ」

 

ならば今こそ、剣を取らねば。

君に会うために。君に愛を伝えるために。君を抱きしめるために。二度と手を離さないように。

―――――――本当に、遅くなってしまったけれど。

 

「―――――いっけえぇぇぇぇっ!!!」

 

不滅の刃よ、呪いを断ち切れ。

――――どうか、どうか・・・!



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CITRUS

冷たい地下の牢獄で、少女は一人待っている。

お化けのように希薄な己を探しに来てくれる誰かが、扉を開けてくれるのを待っている。

それが大好きで、大好きなあの人であったらいいな。・・・なんて、夢想をして過ごす日々に、ようやく終わりが訪れた。

 

「シータ!!」

「―――――ラーマ様・・・?」

 

少年は血が滲む喉で叫んだ。愛しい君の名前を。

足下はおぼつかなくて、目は擦れて、呼吸に忙しい肺を振り絞りながら。耳鳴りよりも大きな声で呼んだ。

そうすることでしか、今は愛を伝えられなかったから。

 

「迎えに来たぞ・・・!迎えに・・・来たんだ・・・」

「ラーマさん!その体で走ったら・・・!」

「どこだ・・・シータ・・・どこにいる・・・・・・?」

 

二人を阻むぬるい鉄格子が、入り口から伸びる光を反射して光る。

そんな鈍い輝きに用はないとばかりに、シータは精一杯手を伸ばして答えた。

 

「ラーマ様!シータはここにおります!」

「・・・会いたかった、会いたかった。本当に、本当に・・・会いたかったんだ・・・!」

 

ようやく触れられた手は震えていた。

心を飛び出していった言葉は、たった一つの大事なこと。

 

「僕は、君がいれば、それだけで良かった・・・・・・!!」

 

涙で視界がにじむ。

シータは返す言葉を持たなかった。

色々と考えていたような気もするのに、全て忘れてしまったから。

ただ、熱い涙が頬を滑り落ちて、喉を震わせてしゃくり上げて、愛しい人の手を固く握ったのだ。

 

「早速ですが治療を開始します」

「キャッ!?」

 

ほどほどに空気を読んだナイチンゲールが割って入る。二人の様子に安心したマシュが後に続いた。

これでようやくラーマも元気になるだろう。

立香と虞美人とアルテミスは若干もらい泣きをしていた。オリオンと項羽が慰める声が聞こえる。

 

「申し訳ありません、本来ならばこんな不衛生な場所で治療を行なうべきではないのですが、サーヴァントなので特例です。貴女は遠慮なく、そのまま手を握りしめてください」

「・・・・・・あの、ラーマ様は、一体・・・?」

「わたしが説明します。実は――――」

 

マシュの話に真剣に耳を傾けるシータに優しい目を遣ってから、立香の視線はベオウルフに移った。

敗北を悟った後潔く降参した王は、今はアスクレピオスに手当を受けている。

ラーマの渾身の宝具でも間一髪で致命傷を避けたのは、流石北欧の英雄と言ったところか。壁に背を預ける王に習って、立香も腰を下ろした。

 

「あの夫婦、やけに似てんな。気配がほぼ同じだ」

「そうなの?」

『こちらの観測でも、二人の霊基はほぼ同一だ。恐らくラーマが“生前”にかけられた呪いが原因だろう』

「呪い・・・」

 

バーリという猿を騙し討ちしたことによって、彼の妻にかけられた呪い。「(シータ)と共に喜びを分かちあえない」というものが、英霊になった際に転じて「共に存在することができない」という呪いに変わった。

聖杯戦争下であれば、どちらも“ラーマ”として召喚されるだろう。

 

「でも、今は二人が出会えてる・・・」

『特異点という、不安定な環境故だろうね。本来これは、起こりうるはずのない奇跡の再会だ』

 

どこかで鳥の群れが飛び立った。

浦風が吹き込んできて、立香の肌に振れる。

話題が尽きて、静寂。

ひたひたに水が注がれたグラスをたゆたっているかのような沈黙。

なんとなしに風向を探しながら、少女はラーマの治療が終わるのを待った。

 

「・・・修復は大分終わりましたが、巣くった“何か”が厄介です」

「恐らく、ゲイ・ボルクの呪いが残っているのかと・・・」

「残念ですが、元気になっても戦う力は戻らないかもしれません」

「そんな・・・」

 

管制室が最後の来訪者を感知した。

オーバーオーバー。想定の数値を超えています。報告音のアンサンブル。

類似データを検出しますか? Yes/No

 

「ならば、私がこの身を捧げましょう」

「その必要はありません。ミセス・シータ」

 

振り返ったマシュが見たのは、上を見上げて呆然としている立香とベオウルフ。

視線の先を辿って、マシュもぱかりと口を開けた。奇跡を運ぶきんいろの人。

 

「初めまして、カルデアの皆様。わたし、こういう者です」

 

きんいろはそっと微笑んで、琴の音のように美しい声と共に名刺を差し出した。

白い鳩がかかれた赤い帽子がはっとするほど鮮やかで。

違和感も場違いもなく、大地の勇者は合流した。

 

「・・・その必要がない、とはどういう意味でしょうか。貴方にはこの病巣(のろい)を解く手段が?」

「はい。ですがその為には術式の展開が必要です。一分で良いのでいただけないでしょうか」

「・・・・・・・・・・・・アッ私か!はい!どうぞ!」

 

周りの動揺も混乱もお構いなしに話を進めたナイチンゲールに、リンクはこくんと頷いた。名刺は立香に渡しておく。

バーサーカーと聞いていたけれど、思いの外理性的で助かりますね。

立香(カルデア代表)の許可も貰ったことだしと、全員に入り口に戻るよう促した。そこで取り出したるは聖なる石版。

 

「それは・・・海の大地の石版?」

「ええ。この石版に蓄えられたフォースを使って、本土からこの島に続く線路を敷きます。そうすれば・・・」

「・・・そうすれば?」

「新生ハイラル王国というテクスチャを張ることができます。そうなればあとはわたしの管理下。いかなる呪いも恐ろしい病巣も、神話より旧き神秘には敵いません」

『そ、そんなことが、可能で・・・・・・?』

「わたし、戦闘は苦手ですが、陣取り合戦なら負けません。すでに西部のあちこちに石版とそれを守る塔を設置しています。――――では」

 

石版を掲げる。

監獄の高い窓から差した日光が、日だまりを転々とつくった。

カルデアの一同が一斉に口を噤んで、リンクの一挙一動を見守っている。

肌に触れる風が柔らかくなったことを、ラーマはぼんやりとした意識で知覚した。シータに握られている手だけがずっと熱い。

 

「我が名、大地の勇者リンク。ロコモ族の名代として命ず。路よ拓け、未知を走れ。フォースの輝きはくすむことなく、神の威光を知らしめるでしょう」

 

人を捕らえるための監獄は、人を送り出すための神の塔に。

作り替えられていく。作り替えられていく。女王メイヴが聖杯で建設した監獄島は、リンクの介入によって変じていく。

看守を務めていたサーヴァントが下ったことと、捕らえられていたシータを助け出したことにより、アルカトラズの“守り”という概念は綻んだ。そこを基点に塗り替えていく。

 

顕現せよ神の塔(タワー・オブ・ゴッド)

 

木の葉を連れて風が通り過ぎた。

瞬間。

立香達の目に映ったのは、遙かなる大地。

新生ハイラル王国の、みずみずしい景色。

森の大地。雪の大地。海の大地。火の大地。安寧と共に生きる、笑顔の人々。

それは。

胸が切なくなるほど美しくて、息をするのも忘れるくらい、素晴らしかったのだ――――――。

 

「―――――う、」

「ラーマ様!」

 

神殿―エジソンの宮殿―と繋がったことにより、聖なる魔力が島に届く。

それはラーマの呪いを吹き飛ばし、柔らかい目覚めを促した。

 

「ラーマ様、・・・ラーマ。わかりますか、私です。シータです・・・」

「・・・ああ、わかるとも。シータ、シータ・・・・・・!」

 

抱き合って泣きじゃくる夫婦を祝福するかのように、光は満ちた。大地が歌っている。

お互いがお互いに注いだ愛を受け取って、二人は世界の片隅で泣いていた。

世界のつづきへ向かうために、泣きながら、笑い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バードマスター いい話だなぁ・・・

海の男 いい夫婦だなぁ・・・

うさぎちゃん(光) よかったねぇ二人とも

 

「なあ、どうしたらアンタと戦える?」

「そちらの女王に戦闘の許可でも貰ってきてください。今はもちろん無理ですよ」

 

 

さっきまではあんなにやる気がなかったのに・・・。もう戦闘はスカサハでお腹いっぱいです。キャンセルキャンセル

 

 

奏者のお兄さん あのお師匠はすごかったな・・・

 

 

ギラギラと瞳を輝かせて、ベオウルフはすっかり戦闘狂に戻ってしまった。

戦闘は苦手、と言っていた割りに隙のない勇者に顔を近づけて、じっくり全身を検分している。

若かりし狂乱が「拳で語り合いてぇ!」と騒ぎ、老いた智賢が「なんてすばらしい魔術だ」と感嘆して。興奮のままに歩調が荒くなっている。

 

『君はCM見てないのかい?』

「CM?」

「アルカトラズまでは流石に魔術を展開できなかったので。皆さん、帰るのならばわたしの汽車にどうぞ」

「神の汽車!?!?!?」

『ウワーーーーーーッ!!!!!!!本物!!!!!!』

『こっこここ興奮してきたな』

『ハアッ・・・・・・ハア・・・・・・ハァ・・・・・・ハー・・・・・・』

『ゲホッエホッゴホッ、オエッ』

 

 

ウルフ 死にそうなのが何人かいるな

 

 

「賢者の名代、大地の勇者リンクよ」

「はい」

 

身なりを整え、シータに髪を結び直してもらったラーマがリンクの前に立つ。

もはや迷いなど一欠片もない。燃える魂のごとき真紅の瞳が、煌々と輝いている。

 

「感謝する。そなたのお陰で――――、いや、そなたとカルデアの者達のお陰で、余はこうして再起を果たすことが出来た。シータと再会することが出来た。この大恩、決して忘れぬ。身命を賭して返すことを誓おう」

「どういたしまして。カルデアのマスターの力になってあげてくださいね」

「もちろんだ」

 

隣を見ればシータがいる。

それのなんと幸福なことか。喜びに満ちたことか。

 

「ナイチンゲール、マシュ。そしてマスター。お前達にも心より感謝する。セイバー・ラーマ。余は、あなたのサーヴァントだ」

「アーチャー・シータ。戦闘でお役に立てるかはわかりませんが、精一杯努めさせて頂きます。よろしくお願いします、マスター様」

「うん。二人ともよろしくね」

 

機嫌良く去っていたベオウルフに手を振って、汽車は線路を走り出す。

 

「戸締点灯、進行確認。安全ヨシ。速度設定。出発、進行!」

 

煙突から煙がもくもくと上がって、天にふわふわと消えていった。

夢の汽車に乗車した少女達は目を輝かせて。婦長は景色を眺めながら僅かな休息に浸り。夫婦は身を寄せ合って座る。

カルデアの職員とサーヴァントたちの羨望を一心に浴びながら、汽車は安全運転で帰っていった。



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ハッピーで埋め尽くして♡

時は少し遡り。

こちらは絶賛撮影中の勇者である。

 

「いいよー!キマってるよー!こっち向いて!ナイスアングル!サイコーだよ!」

「照明動かすわよ!・・・・・・うん、ベストマッチ!横顔が素敵だわ!」

 

 

ウルフ ベテランカメラマンとスタッフ?

 

 

パシャパシャと軽快なシャッター音が晴天に響く。

突っ立っているだけでも絵になる己の容姿に感謝しつつ、リンクは乗せられるがままにポーズを決めていた。

この写真はアメリカ全土にばらまくチラシに使われるらしい。豪勢だ。なんか触媒とかになりそうだな。記念に何枚か貰って帰りましょう。

 

「エジソン、CM撮影の準備が出来たぞ」

「ありがとうカルナくん。ではリンクくん、次はこちらの録画器機の前に来てくれ。あと・・・あの・・・・・・神の機関車は出せるだろうか・・・・・・?」

「出せますよ。いらっしゃい、神の機関車(ゴッド・ロコモーティブ)

「UWOOOOOOOOOOO!!!!!!!」

 

どどんと大地に登場したのは、古の時代に神が用いていたという神の汽車。

天高くそびえる緑の煙突が光を反射してきらりと輝いた。後年のあらゆる科学者、発明家、魔術師たちがこぞって己の時代に作り上げようと苦心した、伝説の乗り物。

メンロパークの魔術師と呼ばれたエジソンは科学を用いて電気鉄道を作り上げたが、これは基礎から全く違う。魔法と科学が融合した、あり得ざる神の叡智。

希望と勇者を乗せた、夢の機関車なのだ。

 

「なんと・・・・・・なんという・・・・・・・・・。こんな・・・・・・こんなものが・・・・・本当に、実在して・・・・・・」

 

白銀のたてがみをぶわりと揺らして、ライオンはふらふらと地に膝をついた。

頬がカッと熱くなって、暴れる心臓が胸骨に罅を入れてしまいそう。口からは涙に濡れたうわごとしか出てこなかった。

ぼやける視界をゆっくり拭って、伝説を目に焼き付けて、もはや後光が差しているようにすら見える。

本当に、本物なのか・・・・・・。

 

「これが・・・ハイラルの神秘。神の伝承を裏付けた、伝説の機関車なのね・・・」

 

興奮に擦れる声のまま、エレナは鳥肌の立った腕をしきりにさすった。

行く先を示す線路さえあれば、どんな異空間だろうと走り抜けるだろう。あまりに偉大な神の遺産の一つ。

 

「(やっぱり、凄いわ・・・)」

 

傷一つない客車をそっと撫でれば、強い魔力と神の存在を感じる。本来ならば個人が所有出来る物ではないはずだ。それなのに大地の勇者の宝具として呼び出せるということは、彼は神にも認められたということ。

 

「・・・・・・これが、神の機関車か」

 

うっすらと桜色に染まった頬は、白磁の髪に紛れて見えないだろう。

表面上は平静を保っているように見えるカルナがぽつりと呟いて、カバンを漁りだしたリンクの手元を興味深そうに覗き込んだ。

なにやら聖なる力を感じる。次は何が出てくるのだろうか。

 

「リンクよ、それは?」

「森の大地の石版です。宮殿に設置して、線路の起点にしたいと思います」

「線路・・・。そうだな。汽車は線路がなければ走れない」

「ええ。ですがこの石版にはフォースの力が多く宿っています。特異点という不安定な場所で解放しても大丈夫なのか、少し確認しますね」

「ふむ」

 

こくりと頷いたカルナは、膝をついたまま動けなくなっているエジソンを救出しに行った。

 

 

というわけでファイ。もしくは詳しい人、どうですか

 

 

ファイ 4つの石版全てを設置した時のフォースの量は、聖杯一個分に匹敵すると推測します。つまり、この特異点には聖杯が2つ存在するということになる可能性、80%

奏者のお兄さん 神の汽車+線路があるところ=新生ハイラル王国の概念が付いちゃわないか?

バードマスター 線路から塔に魔力が集まる仕組みだよね?なんかすごいことになっちゃわない?

いーくん これワンチャン宮殿からビーム出るぞ

 

 

ここが新生ハイラル王国(擬)になると何か困ることありますか?

 

 

騎士 特異点が消えない

災厄ハンター 大問題じゃん

小さき爺 本来の聖杯を手に入れたときに解除すれば大丈夫だと思うぞ

Silver bow そしてずっと俺のターン!になる

 

 

じゃあ問題ないですね

 

 

大丈夫そうなので石版を設置した。

エレナに地図を貰っておおよその行き先を確定する。三騎のサーヴァントにも見えるように広げると、リンクはポケットから取り出したペンで線を引いていく。

 

「石版はあと3つ。1つは海を挟んだアルカトラズに、残りの2つは南北に設置します。するとこの大地には“新生ハイラル王国”というテクスチャが張られることになる。そうなれば侵略してきたケルト軍は大幅に弱体化します。そこを狙いましょう」

「神の汽車が走っている場所が、新生ハイラル王国という概念を獲得するということかしら」

「その通りです。推測するかぎり、ケルトの戦士は極めて好戦的。こちらが攻めたとて、守りに入る可能性は低いでしょう」

 

ならば攻めてこさせればいい。幸いこの地にはレジスタンス達も居るようだし、ありったけの罠を仕掛けてお出迎えしましょう。

 

「西部のサーヴァントや兵士達には、全面戦争をするとお伝え下さい。そのためにできうる限りの準備を」

「うむ!レジスタンス達もこの広告を見れば飛び上がって歓喜するに違いない!撮影が終わればすぐさま放映しよう!」

「まかせて!とびっきりのものを作るわよ!」

「オレに手伝えることがあれば言ってくれ。勝利のために尽力しよう」

 

やる気満々で頼もしいばかりだ。リンクも笑みを溢して頷く。

そして、こちらが東部に警戒するものは3つ。

魔槍ゲイ・ボルク。聖杯。確実に現れるだろう、七十二柱の魔神。

 

「狂王は星見の子供達に任せましょう。魔神はどうにでもなります。問題は女王と聖杯ですね」

「星見の子供達、とは?」

「カルデアのマスター達です。・・・ああ、それも説明します」

 

 

災厄ハンター 話がどんどん決まっていく

海の男 サックサクでイイゾ~

 

 

「わたしが出るのは最終手段。なので肝心なのはそれ以外のこちらの戦力です。もう少し人材が揃ってから作戦を詰めることにしましょう」

「うむ。ではさっそく撮ろうか!」

「ええ。目線はこっちにお願い!」

「ああ。BGMを流そう。合図を出してくれ」

 

ポップでクールで最新のCM撮影が、始まる―――――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誇りを一つ捨てるたび、戦士は獣に堕ちていく。

誇りを一つ謳うたび、勇士はヴァルハラに昇っていく。

 

ならばあの男は?

 

変わり果てた阿呆。

聖杯に憑かれた戦士。

王妃を得た王。

あるいは―――――獣。

 

では、あの少年は?

 

王族付きの機関士。

聖剣の勇者。

大地を守護する者。

あるいは―――――星。

 

ならば、奇跡を見せてみよ。

 

 

 

 

 

風切り音は唐突に。魔女を伴ってやって来る。

神槍は正確無比にリンクの心臓を狙い、しなるムチに絡め取られて軌道が逸れた。

剣で弾かなかったのは、速度と腕力の合わさった勢いに負けると判断したからだ。ヘビのような外見をしたムチは伸縮する己の身で絶技を殺し、そのまま投げ飛ばす。

死角から赤い色が飛び出てきた。今度こそ左手の剣で受け流し、ぐるりと回る勢いのまま右手のムチを振り回す。

赤色はひらりとそれを躱し、膝を曲げて構えを作った。口元に浮かび上がる笑みが喜色を隠せない。

 

「ふむ、今のを捌くか」

「―――――よもや、勇者リンクに出会えるとはな」

「どちら様でしょう。不意打ちはよくないですよ」

 

方や、体の曲線がくっきりと見える黒い戦装束を着た美女。

方や、ゆったりとした中華服の武術家然とした男。

どちらも油断なく槍を構えては、リンクに戦意と闘志を伝えてくる。これぞまさしく前門の虎、後門の狼。

しかし女の赤目からは光を感じず、男の両目は輝きを失っていない。この違いは何だろうか。

リンクはため息一つで緑衣に着替えると、ムチを仕舞って名乗りを促した。

仕事は一時中断だ。雪の大地の石板を設置するために北に来ていたのだが、こんなエンカウントがあるとは予想していなかった。

 

「ランサー、李書文!貴様を見つけた時から我が心中は嵐の如し。もはや倒さねば収まらん。いざ、立ち会いを所望する!」

「ランサー、我が名はスカサハ。聖剣の勇者よ。境界を越えし者よ。お前は―――――――私を殺せるか?」

 

 

助けて下さい

 

 

災厄ハンター やべえよ・・・

ウルフ あのお姉さんは何?病んでるの?

海の男 会話で時間を稼ぐんだーーーっ

 

 

「・・・順番にいきましょう。まず、李書文と名乗った貴方。ここに召喚された理由は分かっていますか?」

「無論。しかし、自分はやはり――どうしようもなく、我欲に満ちた存在でな。己の槍がハイラルの勇者に通じるかどうか、試したくてたまらんのだ」

「飢えてますね~・・・」

 

なるほど、目がギラつくわけだ。

李書文、それは近代の生まれでありながら、数々の伝説を刻んだ中国の伝説的武術家の名。

八極拳の使い手であり、「神槍」として讃えられるほどの槍技の持ち主。

強いサーヴァントとなら誰とでも戦いたがり、老いた己とすら死合を望む男は、召喚された地で魔王を倒して世界を救ったとかいうレア経歴を持つ大地の勇者を見つけてしまった。

当然の如く沸き上がる闘争心が抑えきれない。槍は今か今かと振るわれるのを待っている。

すぐさま飛びかかってきそうな武術家を両手で制して、リンクは真紅の魔槍を携える女に向き直った。

 

「スカサハ。「影の国」の女王の名ですね。貴女の質問に答える前に、なぜその質問をしたのか尋ねなければなりません」

「なに、簡単な話さ。正真正銘の死を得て、ただの一騎のサーヴァントとなるために。人のように死のうとしているだけだ」

 

赤目と青目が交錯した。

弟子の不始末は師の責任。そう思って人理焼却と共に消滅した影の国から出てきたものの、相対したのは呪いの戦士。もはや己すら勝てぬ死棘の牙神。

胸中を埋め尽くしたのは哀れみと嘆き。もしくは――――失望だったのかもしれない。無意識に心の拠り所にしていた美しい弟子が、醜い王になってしまったことに。

 

「私はもう既に魂が衰えている。冥府の魔物と大差がないほどに。そして私を殺せる者が居るとしたら、それは愛弟子たるクー・フーリンだと思っていたが・・・・・・」

「ここにいる彼は狂王でしかないですよ」

「嗚呼。そうだ・・・。この目で見た。・・・・・・だがあんな男に殺されるなど願い下げだ。しかし他に私を殺せる者などいるはずがない。そう、思っていたのだがな・・・・・・」

 

いざ、目の前に来ると。

いざ、それを認識すると。

眠っていた戦の虫が騒ぎ出す。

凍りついていた戦士の心が震え出す。

燃え上がるような渇望が喉を渇かせる。

 

戦い(殺し合い)たい!この男と!刃を交わして語り合いたい。世界に誇る武勇を見せてくれ・・・!

魔王を倒し、魔神を屠り、人理を脅かす獣すら殺して見せた勇者よ!!

 

「有り体にいえばーーーーそう。お前を気に入った!!!!!!勇気ある者よ、私と愛し(殺し)あおう!!!!」

「お帰り下さい」

「遠慮するな、私は強いぞ」

「本心です」

「待て、儂が先だぞ!!!抜け駆けはよくないとも!!!!」

「こんなに嬉しくないモテ方あるんだ」

 

やっぱりシリアスにはなれなかったよ。

ぎゃいぎゃいと騒ぎ出したランサー共を前に、リンクはがっくりと立ち尽くした。

 

 

騎士 でもスカサハはわりと切実そうだったな

 

 

わたしが・・・彼女に・・・勝てるとでも・・・・・・?歴代リンク強さランキング下位常連のわたしが・・・?

 

 

騎士 諦めんなよリンクともあろうものが

守銭奴 ワンチャンあるよ

影姫 殺してやったらどうだ

ウルフ #がんばれ大地

 

 

他人事だと思って・・・!




とうとうパソコンが寿命を迎えました。悲しい・・・。
新しいパソコンはゲーミングPCにしようと思います。


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SENSATION

わあわあと騒ぐランサーは二騎。額に手を当ててため息をつくエクストラクラス・ブレイヴが一騎。

見た目だけなら最年少の少年は、残念ながらこの場どころかこの特異点でもっとも年長だった。

ぱちん!と手を叩いて討論を終わらせると、すぐに振り返った二人に提案を投げ掛ける。

 

「わかりました!そこまで言うのなら一戦交えましょう。ただしお相手は一人だけです。わたしも忙しいので」

「その一人はどうやって決めるんだ?殺し合いか?」

「思考回路闘神なんですか?闘神だったな・・・・・・。じゃんけんしてください」

 

スカサハと李書文がじゃんけんを始めて一瞬で終わった。もっと3ターンくらいしなさいよ。こっちにも心の準備とかあるんですけど。

 

「勝ったぞ」

「ぐあああああ」

「こんなことで崩れ落ちないでください」

 

 

奏者のお兄さん 一応伝えておくけどその闘神ルーン使ってるよ

 

 

ズルじゃん・・・。いやなんか発動したとは思ったけど。じゃんけんに勝つためのなりふり構わなさが潔すぎる。クソッルーン禁止って言っとけばよかったな。

 

 

「では勇者よ、がっかりさせてくれるなよ」

「どうぞ」

 

獣が獲物に飛びかかるときにも、きっとこのような殺気を放つのだろう。

下段から真っ直ぐに振るわれた槍を、体をわずかに反らすことで避ける。戦士の着地から踏み込みはコンマよりも速い。二撃目を振り返らずに躱して、上から振り下ろされた槍を剣で受け止めた。双方の得物がぶつかった衝撃は魔力の波となって地面を走る。

 

「(重・・・!?)」

 

さすが人を超え、神を殺し、影の国に君臨し続けた女王だ。大地の勇者を焦らせる剛力など、生前にどれほどいただろうか。

理想的な女性を想像したときに真っ先に頭に浮かぶような豊満な肉体美など、彼女の魅力の一片にしかならぬ。

朱槍が二本に増えた。スカサハが左手にも呼び出したのだ。勢いのままに回すことで生まれる残像は死の車輪のごとく。下から上から、刺すというよりは叩きつけるかのように襲い来る赤槍を大回転斬りで捌ききった。一歩飛び退いて空中に止まった、女王の瞳に愉悦が浮かぶ。

 

当然のように空中にいないでほしい。リンクの中でも自力で飛べるのは少数なんですよ。そんな思考が横切って、しかし体は危機を察知して動いている。

 

「そぉらっ!」

 

両手と合わせて七本。槍はさらに増殖した。天から四肢を、心臓を貫くために落ちてくる。

そしてその内の一本たりともリンクの体に触れることは叶わなかった。サンドロッドによって発生した厚い砂の壁に、すべて受け止められたからだ。

着地したスカサハの槍の穂先に、影の中でなおも輝く赤光の魔力が集中する。それは空気を震撼させ、大地の精の肩を竦ませた。

弾丸の如き射出。投槍は五芒星を描くように砂の壁を砕き、中心にいる獲物を嬲らんと飛び交った。瞬きよりも速くリンクの頭上に移動したスカハサの手に槍が戻る。

目に見える負傷、無し。砂塵が舞ったせいで視認しづらかったが、剣と盾を持っているということは上手く凌いだのだろう。すばしっこいことだ。

では、これはどうかな?

 

「耐えて──みせろっ!」

 

亡霊を屈服させる赤雷が膨らんで、轟音。クレーターのように抉れた大地は悲しそうに亀裂を深くした。

槍が落ちてきたのか、雷が落ちてきたのか?ただひとつ分かることは、仕留め損なったということだけ。リンクが無事だということだけ。

嗚呼――――素晴らしい!

 

「(あっっっっぶな・・・・・・!紫の薬飲んどいてよかった、)」

 

さて、大地の勇者はなぜ今の攻撃を防げたのか。砂の壁に守られている一瞬の間に紫の薬を飲んで死に戻ったからではない。

答えはロコモの剣に宿る光のパワーを防御に回し、己は全力でその場から離脱した、である。ロコモの剣はマスターソードや夢幻のつるぎと比べて目立たないところもあるが、間違いなくこの世に一振りしかない聖なる剣だ。

その刀身に宿る聖なる光は悪しき思念に乗っ取られたファントムを下し、魔王の野望すらも打ち砕くだろう。

 

そして魔力の波動で視界が塞がっていたとはいえ、スカサハの射程圏内から逃れられるリンクのその身体能力。どう考えても“弱く”はない。弱いわけないのだが、大地の勇者は己を限りなく凡人に近いものと認識している。他のリンクの水準が高すぎるせいで、感覚が麻痺しているから。

言わずとしれた大空&大翼。フォーソードを持つ創剣、四星、聖光。魔王ガノンドロフ/魔獣ガノンを倒した時、目覚め、光、風、息吹。世界を渡った理、次元。回生ですら魔法使いだ。しょうがないといえばしょうがない・・・・・・かもしれないが、ハイラル時代の人間とそれ以降の人間では根本的な特性(ルール)が違う。

住んでいる世界の環境が違う。魔法と幻想の近さが違う。並べて比べる時点でナンセンスなのだ。

 

そもそも神の声を聴ける長い耳を持つ時点でただの人間じゃないんだからもうちょっとこう・・・偉そうにしていいんじゃぞ?とは先代である風の勇者の台詞である。

 

「(長引いたら不利ですね・・・) 魔力放出(光)(フォースよ)!」

「ほう、来るか?原初のルーン(いいだろう)魔境の智慧(魔境、深淵の叡智)――」

 

広がる魔力は眩しい鮮緑。食い入るように見つめていた李書文もはっとするようなグラデーション。

剣はさらに輝いた。主の意志に答えるように。

 

「はあっ!」

「力を示せ!このスカサハに!」

 

女王の命に従って襲い来る無数の槍を、突進する速度を落とさぬまま剣で弾き進む。ほんの数メートルの距離が一瞬で詰まった。途切れぬ舞がごとき連撃、少年の体躯とは思えぬ力強さ。金髪の隙間から見える黒い瞳が太陽を反射して、深い湖底のようにきらめいた。

魔王が現れなければ開花しなかっただろう天賦の才からくる技の冴えは、死後出会うことになった歴代リンク達の教えを受けて更に高まった。本人も流石にこれは自覚している。恐らく生前より強い。

足捌きから腕の動きまで、まさしく伝説に謳われる勇者よ。スカサハは両手に携えた朱槍で相手取りながら、うっとりとしたまなざしを抑えきれない。

槍と剣がぶつかる硬質な音と風切り音が混じり合って、空気を花火のように震撼させた。

 

距離をとったのはほぼ同時、宝具の発動はまったく同じ。

 

「刺し穿ち、突き穿つ──!」

ロコモの剣よ(・・・・・・)!」

 

氷に浸ったような女の声と、どこか甘やかさの混じった少年の声。

双槍を構えて踏み込んできたスカサハを待ち構えるは、剣を構えた大地の勇者。

 

貫き穿つ(ゲイ・ボルク)・・・・・・!?」

 

胸を貫く激痛にわずかに動揺した、女王を刈り取る剣の追撃。霊核が砕け散った。

思わず見下ろした心臓に、突き刺さるは光の矢。境界の向こうから射貫く狙撃宝具。

 

「――――――ゼルダ姫は、居ないはずだが・・・・・・」

「ええ。ですがこの宝具は“勇者、もしくは姫を囮にして弓を引いた”逸話の具現なので。貴女がわたしを狙う、一瞬だけあればいい」

「・・・・・・成程。あの詠唱は嘘か。すっかり真に受けてしまった」

 

宝具・比翼三射(スターライト・スナイプ)。大地の勇者とその相棒たるゼルダ姫の二人が持つ宝具。己を囮にすることで予備動作無しに光の矢を発動する。

敵襲を想定して魔力充填や真名開放を済ませていたのが功を奏した。人目がなかったらガッツポースをしていた。

 

スカサハの霊基が崩れていく。霊子の粒に還っていく。

魔王を射貫く光の弓矢、魔境の女王も例外ではない。勝敗は決した。敗者は大人しく去るのみだ。

 

「大地の勇者よ」

「何でしょう」

「・・・不肖の弟子だが、頼む」

「ええ、しっかり躾けてあげます」

 

浮かぶ笑みは安堵。

突風が髪を散らして、緑衣をはためかせた。天高く鳴く鳥の声は、伸びやかに。

 

 

勝った・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

りっちゃん 乙

いーくん 頑張ったじゃん

Silver bow 初見殺し宝具持っててよかったね

 

 

「勇者よ。このままお主と共にいけば更に強き者と戦えるか?正直今すぐここで襲いかかりたいのだが」

「狼だってもう少し“待て”ができますよ。・・・そうですね、少なくともわたしの好感度は稼げます」

「稼げるとどうなる」

「他のリンクとの遭遇率がアップします」

 

ランサー・李書文が仲間になった!中国武術が得意なフレンズだぞ!

 

 

石版を設置したらさっさと帰りますからね!もう疲れた!疲れました!

 

 

海の男 よしよし 頑張ったな

 

 

このあと戻ったエジソンの宮殿でカルデア一同が来てすぐにラーマと一緒に出かけていったこと知り、慌てて追いかけることになることをまだ――リンクは知らない。



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病名は愛だった

新しいパソコンはキーボードが光ります(報告)


――――そうして、戦力は揃い踏み。わたしたちは会議の席に着きました。

ケルトは現在北米大陸の東半分を占領しています。最終的に彼らは南北の二ルートから攻め入るでしょう。

神の塔にいる監視員からも同じような情報が上がっています。

 

ドクター曰くこの戦争の敗北条件は「一定以上の領土が占領されること」。しかしすでに西部はリンクさんが展開したハイラルのテクスチャで守られています。これを塗り替えるのは聖杯でも時間がかかるとのこと。

むこうの戦力は、女王メイヴにクー・フーリン。ベオウルフ、アルジュナ。

わたしたちはまだ遭遇していないフィン・マックール。ディルムッド・オディナ。

数がそろえばサーヴァントすら圧倒できるケルトの戦士たち、モンスターやシャドウサーヴァント。

 

でも、恐れることはありません。わたしたちには、大地の勇者の加護がついています。

 

我々カルデアがいかに素早く、確実に、聖杯を獲得できるか。腕の見せ所です。

なぜならこちらには先輩がいます。マスターがいます。

だからきっと大丈夫。わたしはもう知っているし、そう信じているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな夜中に散歩ですか?」

「…うん。ちょっと、気分転換に」

 

月光に照らされて光る新雪のようにひそやかに、ナイチンゲールは声をかけた。

呼び止められた立香はすこし気まずそうな顔をして、でもすぐにひっこめて、静かな声で返す。

 

「これも何かの縁です。お付き合いしましょう」

 

顔を見返してくる少女にうっすらとほほ笑んで、看護師は先導するように歩き出した。

光源の絞られた間接照明が廊下を照らしている。足音が二人並んで、夜風に消えていった。

 

「この世界に残る病は一つ。それで癒されるといいのですが」

「頑張るよ」

「貴女に重圧を掛けているわけではありません。そこは勘違いされないようにお願いします。世界の崩壊を止める責務をただ一人に負わせるなど、本来は正気の沙汰ではないのです」

 

天に瞬く星は遠く。神も瞼を閉じた真夜中の直後。

こんな時間にイキイキとしているのなんて、魔女か悪魔くらいだろう。

 

「それはまさしく、絶望的な所業に他ならず。狂っていなければ耐えられない。かつての私のように」

「…………」

「でも、貴女はそうではない」

 

紡がれる言葉は天使の祝福。立香はナイチンゲールの、本来の性格を垣間見たような気がした。

纏った狂気をめくった内側。淑やかで心優しいあなた。殺すためではなく、生かすために戦場にいる看護師。

 

「貴女は鋼血の理性をもって、前進をつづけるでしょう。狂うことを選ばないまま、星を目指すでしょう」

「あなたにはそう見えるの?」

「ええ。“元凶を殴り飛ばして完璧に勝利するため”ならば、雌伏の日々を選べる勇者のように」

 

それは、大地の勇者が言っていた言葉だ。

カルデアに来ないかと勧誘した立香とマシュに対して、まだ早いとその理由を述べた。

 

……本当はサーヴァントの枠組みにはいると弱体化するから。

他のサーヴァント(身内以外)とのコミュニケーションが久しぶりすぎてしんどい。

年だからシリアスな空気に耐えらない。

引きこもりなので(自称)。

だったりするのだが、口に出さなきゃセーフである。

 

「私は貴女を信用しています。かつて、分からず屋の陸軍を相手に戦った同胞たちのように」

 

ラズベリーのように赤い瞳が、立香を柔らかく見つめている。

ここだけ世界に切り取られたみたい。

アメリカの夜は静かで、むずがゆく下ろしていた髪をかき混ぜた。照れと、安心と、ちょっとした居心地の悪さ。

 

「努力する必要はあります。しかし、重荷を背負う必要はありません。貴女の選択が間違いでなくとも、託された側である我々が失敗することもある」

「うん」

「盤石の態勢を整えても、兵士は死に、病人は発生する」

 

「だから、気楽に進めてもいいのです」

 

冷たい夜風が二人の頬を撫でて、暗い大地へ走っていく。

それを目で追いながら、明日は晴れるかな。なんて、そう思った。

 

「気楽に、そして誠実に―――。であれば、私たちはきっと大丈夫」

「うん。ねぇ、ナイチンゲール…」

「はい」

「私、将来はビッグな女になるよ」

「楽しみですね。きっと、叶いますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明朝。雲は綿菓子のように。

空は筆で刷いた白縹(しろはなだ)

髪をしっかり結んで、スカートを整えて、朝ごはんも食べた。立香は今日も元気である。

 

「立香」

「ジェロニモ。リンクも!おはよう」

「おはようございます」

「ああ、おはよう。作戦は頭に入っているな。門前でマシュたちが待っているぞ」

「はーい。先行くね!」

 

駆けていく少女の背はまだ幼い。隣に並ぶ少年も。

しかしその身に背負う宿命の重さは?ジェロニモの想像を掻き立てて、心にさざ波をつくる。

 

「ジェロニモ」

「何だ?」

 

見上げる瞳が賢者のように静謐で、ジェロニモは無意識に力を抜いた。

 

「良いのですか?誇り高きアパッチ族が、この国を救って」

「……私は子狡いコヨーテではなく、最後まで戦士でいることを望む。貴方の目があるのならなおさらだ」

 

アパッチ族に、“ゼルダの伝説”は伝わっていなった。

もっと正確に言えば、“精霊と共に生きた長い耳の男”としてリンクであろう人の伝承があり、勇者云々のことを知ったのは後々のことだった。

知って、そして、さらに白人に対する憎しみは大きくなった。

“ゼルダの伝説に出てきた文明を現実のものに!”と謳いながら自然を破壊し、反抗する先住民たちを迫害していく移民たちに。

 

「この時代を潰すということは、私が流した血が、同胞が、家族が流した血が、無為になるということだ。それを私は看過できない。この国を救わなければ、我らも救われない」

 

わかっている。悪いのはリンクではなく、勇者リンクの名を大義名分にして大地を穢した者共だ。

彼はずっとこちらに寄り添って、耳を傾けていた。

種族、性別、年齢、立場、思想。何もかも違っても同じ鍋を囲み、隣り合って生きることができるのだと教えてくれた。

 

「何、アメリカに借りを作らせるというのも愉快だ。それがたとえ、世界が修正されれば忘れ去られるものであったとしても。……貴方ならば、わかるでしょう?」

「…ええ。それを言われては敵いませんね」

 

ほほ笑む少年に手を引かれて、朝日差す玄関に向かう。

この大地の勇者が見ていてくれるのならば、あの少女もきっと大丈夫だ。

血に濡れた道ではなく、希望に満ちた未来に進めるだろう。

 

「気高き戦士、■■■■■よ。あなたがあなたのままここに立っていることを、私は祝福しましょう」

 

そっとささやかれた真名に、驚いてしまったのはご愛敬。

 

 

 

『北軍にビリーとロビン、ジェロニモ。エジソン、エレナ、李書文。東軍にカルナ、ラーマ、ナイチンゲール。立香とマシュ。後方支援はリンクとシータ』

「問題ありません。ビリー、ロビン。その戦闘狂はほっといていいですからね」

「ようやく出番か。血が滾るな…!」

「大丈夫っす。近寄りたくねぇです」

「人ってあんな凶悪な顔できるんだ」

 

槍を握りしめながらやる気に満ちている李書文に、レジスタンスの二人が引いた眼で見ていた。怖…。

 

「任されたわ。こちらのまともな戦闘員は李書文しかいないけど、ここまでお膳立てしてもらったんだもの。頑張らなきゃ嘘だわ」

「うむ。北軍は責任をもって預からせてもらおう。総員、忘れ物はないな?では、すぐに軍を進めるぞ」

「みんな、気を付けてね」

「ああ、マスターよ。……君たちとの再会は叶わないだろう。わずかな間だったが、楽しい日々だった。今を生きる君たちの未来を守るために戦えること、光栄に思うよ」

 

ホワイトライオンは勇ましく吠えて、大きな手を差し出した。

握手は固く。瞳に宿る勇気の輝きよ。彼を縛る妄執は無く、心は赤く燃えている。

 

「ごきげんよう、マスター。またどこかで会えたら、マハトマの話をしましょう」

「うん、またねエレナ」

 

髪を梳く手が優しくて、立香はとろりと目を伏せた。

なんだかおばあちゃんみたいだ。見た目ではなく雰囲気が。

 

「んじゃ、オレらも行こうかね。これで今生の別れだな」

「……そういわれると、寂しいね」

「ゲリラ活動なんてそんなもんだ。お互い、生きていればいつか会える。顔を合わせるって意味じゃなくてな」

 

例えば、一方が残した歌とか手紙とか。

書き残した日記とか冒険記とか。

そこにいて、生きていた証とか。

 

「そういうのに、生きていれば出会えるって話でね。人間ってのは顔を合わせるだけじゃ再会じゃないのさ」

「そうだよマスター。生きていたことすら失って消えていくなんて、実際そうそうないからね。僕やロビンでさえ、こうしてここにいるんだから」

「…わかった。じゃあ覚えておくね。忘れるまで二人のこと」

「そりゃありがたいな」

 

涙にぬれて、しみったれた別れなんて御免だね。

笑って手を振ってさよならしよう。アウトローだって世界を救えるのだ。それを今から見せてあげる。

 

「勇者リンクよ。シータを頼む」

「任されました。必ず、貴方のもとへお返ししましょう」

「ラーマ様。マスター、マシュ。どうかご武運を。私は信じています。あなたたちの勝利を」

 

うなずいて、目を合わせて、それでも足りなくて抱きしめた。

…暖かい。

じわりと溶け出すお互いの体温が、名残惜しいけども。

 

「必ず帰る」

「はいっ」

「マスター!命令を!」

 

戦争が始まる。

人間たちの、誇りを掛けた戦いが。

 

「目標、聖杯!邪魔するなら狂王も女王もぶっ飛ばす!」

「応とも!全員出撃!これが最後の戦いだ!」

 

「アメリカ合衆国をお前たちの手に取り戻せ!そのために我らも力を貸そう!」

 

大地よ、この雄たけびを聞け。

覚悟を決めた人間の、勇ましき姿を刮目せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に。唐突に。前触れもなく。

東部全土に、その映像は流れた。

 

 

「こんにちは。アメリカを征服せんとするケルト軍のみなさん。大地の勇者、リンクと申します」

 

「突然ですが今日から三日後の**月**日に、我ら西部軍が東部に侵略を開始します」

 

「お察しの通りこれは宣戦布告。あなた方を蹂躙するという予言です」

 

「ご不満があるならばどうぞ。武力をもって反論してください」

 

「まさか、ケルトに名高い戦士たるあなたたちが籠城を決め込むなんて―――――恥ずかしい真似はしないでくださいよ?」

 

「では三日後に、またお会いしましょう」

 

 

あまりにもあからさますぎる煽りに、ぽかんとしていたのはアルジュナだけ。

いや、ベオウルフは面白そうににやにや笑っていたが。その身からピリピリとあふれ出している闘志のせいで、とても穏やかとは称せない。

 

狂王は表情を変えず、出陣だけを命令した。

角笛を鳴らし、殺意と戦意を膨れ上がらせた戦士が進軍を開始する。女王は変わらず君臨し、勝利を微塵も疑わない。

勇者リンク何するものぞ。奇跡も正義も砕き壊し、無様に殺してあげましょう。

 

フィン・マックールは、リンクの言葉の節々から感じる違和感に緊張した。

それは彼が長年エリンの守護者としてあり続けたが故の直感だったのかもしれない。彼はこれほどまでにこちらを煽っているのに、“実際何とも思っていない”。

興味がないのだ。本質的な部分では。我々になど。

そしてそれは当たっている。そもそも大地の勇者は戦いが嫌いだ。ケルト軍に好感を持つような出来事が起きてない以上、この対応は当然。

そしてこの程度で怒りを覚えるほど(・・・・・・・・・・・・・)の精神でもない。カルデア側の勝利を確信している以上、向ける関心はなく。

 

これがもう少し世渡りの上手い風の勇者や大翼の勇者だったら、悟らせることもなかっただろう。

そしてそんな彼に慈悲を貰えるとしたら、本心をさらけ出したアルジュナと潔さを見せたベオウルフくらいだ。

 

――――ところで、彼の麾下(きか)たるディルムッド・オディナの幸運値はEである。

いや、だからどうということはないのだが……。



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狂者の行進

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。



「グアアアアアアーーーーー!!!!!」

「ディルムッドーーーーー!!!」

 

 

バードマスター ランサーが死んだ!

騎士 はえーよ

影姫 出オチがすぎる

 

 

一体何があったのか?

 

戦士の雄たけびは大地を震動させ、機械兵の進軍に鳥が慌てて飛び立っていく。

戦争が始まった。

ケルト兵は西軍の領地にたやすく侵入し、尊大で不遜な布告をした勇者を仕留めんと周囲をねめつけながら走り周り、爆発して炎上した。

ロビンフッド達が事前に仕込んだ破壊工作は、リンクの支配地の機能を向上させるスキルによって威力が倍増している。おまけにこの土地そのものも「神聖ハイラル王国」というテクスチャを張られているため、現在管理権を持っているリンクに「民」と認識されている者以外の能力値は著しく下降していた。

まるで子供にもてあそばれて逃げ惑う蟻のように、ケルトの戦士たちは隊列を崩し消滅していく。

女王によって無限に生み出される兵士達は、物量としての戦力は申し分ないが、知能はかなりパワー寄りだ。

進軍すればするほど弱くなることに気づけても、戦略的撤退などという選択肢はとれやしない。そうしてどんどん自慢の数も減らしていく。

 

想像していた以上に好調の滑り出しだ。管制室で見守っていたロマニはひとまず安心する。

 

『前方にサーヴァント反応が三騎!一騎はベオウルフです!』

 

そしてすぐに背筋を伸ばした。

たまたま目撃した職員が口の中で笑いをかみ殺して、緊張感とともに飲み込んだ。

 

「エジソン、指揮を頼む!」

「任せたまえ!」

 

リンクからベオウルフの話を聞いていた李書文が一声かけて飛び出していく。ジェロニモは返事だけ返して隊の前方に躍り出た。

視界に見えるは無数の水の球。その速度は、よく引き絞られた弓矢のごとく!

 

「ビリー!」

「オーケイ、任せてよ」

 

濁流。

まるで、川をそのまま背負ってきたかのよう。

槍とともに清き流れを振るうランサーが、戦意と共に来る。

 

「はーっはっはっは!ランサー、フィン・マックール。参る……」

壊音の霹靂(サンダラー)

 

宝具が放たれたことを意識するよりも先に、渦を描いて巻き上がる水がフィンを守るように質量を増した。

この反応速度はやはり大英雄。優美にして華麗なる騎士。栄光のフィオナ騎士団!

水に飲みこまれて勢いを失った銃弾は、槍に弾かれて不発に終わり。

 

「想定内だよ。とっておきのワン・ショットだ」

「………!?」

 

弾けて、中身が散布した。

弾丸に仕込まれた毒の粉は、フィンの周囲に散乱する。とっさに呼吸を止めても遅い。

 

「王よ!」

「(ディルムッド…!)」

「逃がすか!」

 

振るわれる槍の風圧が、フィンを窮地から救い上げる。

ひとまず距離を取ろうとする二騎に、アウトローたちは食らいついて離さない。

西軍にとっては圧倒的に有利なこの状況で、後手に回ることがあるとすればそれはやはり、東部のサーヴァントの存在だ。

たとえ仕留めきれなくとも。一騎だけでも。マスターが聖杯を手に入れるまでは、彼女たちのもとへ行かせはしない!

 

「チッ…!罠が多い…!」

「王よ!やはりこの土地(・・・・)には魔術が仕込まれています!深入りは危険です!」

「しかしなディルムッド。だからといって引けんだろう。勇者が見ているぞ…!」

「ッ…」

 

リンクの挑発はよく機能しているらしい。

足元の自由を奪わんと、次々作動していくトラップを強引に破壊しながらも、二人は撤退を選べない。

それは戦士としての矜持であり、英雄としての意地であり、勇者リンクにいいところを見せたいという見栄であった。

ケルトの戦士の全速力に、ジェロニモとビリーはすっかり引き離されてしまう。

暴れる戦士たちが大地を踏み荒らす。砂埃が巻き上がる。

戦場の視界は悪く、焼け焦げたニオイが血と混ざる。

 

ここまでくれば大丈夫だろう――――。その思考の間隙(かんげき)を突いて、顔のない王(ノーフェイス・メイキング)は笑った。

 

擬似(フェイク)森の弓矢(バウ)

 

貫かれてからようやく、痛みの走った胸を見下ろした。

遅れて驚愕がやってくる。膝から力が抜けて、ふらついて、よろける戦士に脂汗。

隣で目を見開く王にかける言葉もない様を確認して、ロビンフッドは肺からすべて空気を出す勢いで息を吐いた。

 

フィオナ騎士団の二人はマスターを狙って一直線にくるだろう。というのがリンクの見解であり、遠目で存在を確認していたロビンにも異論はなかった。

そこから「ではその二騎が間違えて北軍に行くように細工しておきますから、足止めよろしくお願いしますね」という流れになるのはまったく予想していなかったが。

 

「そのボウガンはとても素敵ですけど、あまり遠いと届かないのでは?」

「つってもオレはこれが慣れてますしね。まあ普通の弓も使えるっちゃ使えますけど…」

「わたしの弓を貸しましょうか?……そんなに勢いよく首を振ったら取れてしまいますよ」

「いいなー!ロビン!貸してもらいなよ!」

「無理無理無理無理無理無理」

 

話し合いの末、大地の勇者からもらったハイラル産のアイテムを使って弓矢を作らせてもらうことになり。

これのどこが妥協案なんだよ!もはや聖遺物じゃん!というロビンの叫びは全員にスルーされた。

 

「(よかった。当たった。マジでよかった外さなくて)」

 

「ロビンフッド」という名を襲名しただけの、善良で、やや小心者の青年は嘆息する。安堵したことで気が抜けたのか、いまさら手が震えてきた。

心の底で憧れていた、心の底から焦がれていた緑の勇者に顔を覗き込まれて、緊張しないわけがない。

彼と己の違いを見比べて、みじめにならないわけがない。

己の顔を隠し続け、本当の名すら失った青年が、英雄と呼ばれるわけがない。

 

そんな卑屈と孤独に凝り固まった思考は、“本当の英雄”にあっさり晴らされてしまったが。

だってそれは生前の話だ。サーヴァントとなった、今じゃない。

 

「北軍を頼みますよ。ロビンフッド。もう一人の緑衣の勇者よ」

「……………………過言です」

「いいえ。森に愛され、森を愛し、平和のために戦った。まるで時の勇者ではありませんか。あなたもまた、勇ある魂の持ち主ですよ」

「…………………………」

「顔を上げていなさい。隠したままでもいいから。わたしは貴方を応援していますよ。騎士見習いさん」

 

祝福は流れ星のように唐突に、薄明の太陽のように鮮やかだ。

この程度で泣きそうになるなんて!

なんと単純なのか。ぼやく心は温もりに満ちている。希望という名の、暖かい光に!

 

「(李書文は…ベオウルフと殴り合ってんな。なんで殴り合ってんの?槍は?アンタもバーサーカーだったか…)」

 

周囲を一通り確認して、ジェロニモとビリーの加勢をするため矢を番えなおすと、ディルムッドが爆発していた。

 

「なんで!?」

「なんで!?」

「地雷を踏んだな」

「ディルムッドーーーーー!!!」

 

ふらついていたときにトラップを踏んだようだ。

 

「おのれ…!アメリカ軍!ディルムッド、お前の仇は私が取る!」

「自分で踏んだじゃん」

「人のせいにしないでくれ」

 

 

海の男 毒食らってんのに元気だな

災厄ハンター 地雷…? アッ

 

 

「グワーーーーーー!!!!!」

「連鎖爆発したな」

「そうだここチュチュ爆弾ゾーンじゃん」

 

ディルムッドが踏み残していった爆発により、近くに埋められていたチュチュ爆弾にも衝撃が伝わり、発動する。

赤チュチュ爆弾は炎を、黄チュチュ爆弾は周囲に電撃を巻き起こし、うっかり立ち入ってしまったフィンを襲う!

 

 

ウルフ ポケモンでもこんなデバフうけねぇよ

いーくん 麻痺を許さない会会長です よろしくお願いします

りっちゃん ホゲータのぬいぐるみを買うために世界を救わなくっちゃな

 

 

「ぐ…! フフ…!この程度で私を止められるとでも! 舞い上がれ!ヌアザの清き流れよ!」

「もちろんそんなこと思っていないさ。いくぞ!」

 

激流が大地を抉っていく。

鋭い刺突がジェロニモの短刀を弾き飛ばし、上から叩きつけられた槍の軌道をビリーの弾丸が逸らす。

円を大きく描く動きは、見とれてしまうほど優雅な舞。下から襲い来る冷たい攻撃を、横から嚙みついたコヨーテが受け止める。飛び散る水が獣の頬を濡らした。

それなりにあった距離を一度の跳躍で詰め、穂先をビリーの心臓に食い込ませんと接近する。フィンの顔には笑みが浮かんでいた。

 

体を着実に蝕む毒。動けば動くほど下がっていくステータス。不可視の矢。劣勢どころの話ではない。

戦いを挑んだこと自体が間違いだといわんばかりの容赦のなさ。なるほど、これが大地の勇者か。

 

「(女王たちは、負けるな……)」

 

だが、それは己が諦める理由にはなりはしない。降参する理由足りえない。

最後まで、あがいて見せようじゃないか。フィオナ騎士団の名に懸けて!

 

「――――さあ、栄光と勝利の時」

『宝具が来るぞ!』

「押し返す。――ここが勝負どころだ」

 

魔力が高まっていく。

大地から湧き出た清流が、フィンの意思に従いあふれ出す。

巨大なコヨーテが吠えた。雲が吹き飛ぶほど高々と。

 

「堕ちたる神霊をも屠る魔の一撃……その身で味わえ!」

「精霊よ、太陽よ!今ひと時、我に力を貸し与えたまえ!その大いなるいたずらを……」

 

水の本流は穂先に集束していく。渦は加速していく。

太陽は燃え上がった。天を真っ赤に染めて、煙草を探している。

 

無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!」

大地を創りし者(ツァゴ・デジ・ナレヤ)

 

高圧洗浄機よりも高速で発射された水と、大地を炙る高温の陽光は、つまり冷えた空気と暖かい空気である。

ぶつかり合った空気が上昇する。断熱膨張によって急激に雲がつくられていく。アメリカ大陸の一角で天気が大きく崩れたのを、宮殿にいるリンクとシータが見上げていた。

 

ごうごうと鼓膜を揺らす空気の悲鳴。

びりびりと暴れまわる風の叫び。

暑かったり寒かったりと、めちゃくちゃになる気温。

長いようで一瞬の喧騒は終わり、やがて大地はひと時の静けさを取り戻す。

荒い息を吐いて崩れ落ちそうになったジェロニモの体を、駆け寄ってきたビリーがとっさに支えた。

 

「フィンは…!」

「勝ったよ。大丈夫」

「…………やれやれ。負けてしまったな。些か思うところもあるが、潔く()くとしよう」

 

地面に倒れ伏すのはエリンの守護者。

ごぷりと吐き出した血が金髪をべとりと汚した。

悔しいが仕方ない。負けは負けである。

そんなことを考えながら霞む視界で空を見上げていたせいで、近づいてくる影への反応が少し遅れた。

緑衣。

 

「……君は?」

「ただの騎士見習いですよっと。…はい、解毒しましたよ」

「…律儀だな?」

「オレなりの、あ~……ケジメ、的な…?」

「…ふふ」

 

なんとも気まずそうにマリーゴールドの髪をかき混ぜる青年に、フィンは思わず微笑んだ。

うん、貧乏くじだったな。まったく。次は勇者リンクと同じ陣営になれればよいが。

 

いつの間にか上空に戻ってきてた鳥たちが、遠く、のびやかに鳴いていた。



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〇〇が泣いている

「――来たか、カルナ」

 

民草の見上げる空の先。手を伸ばしても掴めぬ大渓谷(グランド・キャニオン)

大陸中で巻き上がる粉塵と絶えぬ剣戦を見下ろしながら、アルジュナは待っていた。

 

「来るとも。いついかなる時代とて、お前の相手はオレしかいるまい」

 

宿敵の相対は静謐。

どんなに離れていてもお互いの声だけは届くだろうという確信をもって、言葉を続けた。

 

「聖杯戦争にサーヴァントとして召喚されるたび、私は貴様の姿を探し続けたのかもしれない」

「それはきっとオレも同じだろう。再び巡り合い、言葉を交わす束の間があったこと。大地の勇者に感謝しよう」

 

アルジュナ。インド古代叙事詩「マハーバーラタ」の大英雄。

万民に好かれ、神の寵愛を受け、天賦の才を持ちながら努力も欠かさない。正義がそのまま形になったような誠実な男。

まさしく大英雄。非の打ちどころがない――――という姿を求められ続けて答え続けてしまった、半神の男。

 

けれど、カルナを殺さ(と戦わ)なければならない、と決めたのは自分だ。

時の勇者がガノンドロフを殺したように。たとえその後、どんな人生を歩むことになろうとも。

そしてカルナはそれを許した。宿敵の決意に、誇りと称賛を向けて。

ガノンドロフが時の勇者に、奇妙な連帯感を感じながら称賛を与えたように。

それだけは運命ではなく、己で選んだ(カルマ)だった。

 

「おまえがそこに立った時点で、他の全てのものが優先事項から滑り落ちた。だが…」

「この宿痾は癒えるものだ。オレもお前も、気づいていなかっただけで」

「――そうだな。この決着をもって終わりにしよう。殺意だけが、我らの会話ではなかった」

「異論はない。エゴイズムを押し通して、己も世界も救うのが英雄というものだ」

 

アルジュナは正しい人になりたかった。

カルナと出会ったとき、確かに夢見た正義の心を感じたのだ。初めて己に匹敵する技量をもつ男を見つけて、嬉しかったのだ。

だから友達になりたかった。声をかけた。立場なんて知らなかった。そんなものは魔物にでも食わせておけばいい。勇者リンクだってきっとそう言うから。

そこからの日々は、あまりにもかけがえがなくて。二人はあっという間に距離を縮めていった。

武を競うことも、跡がつくほど繰り返し繰り返し本を読みあうことも、くだらないことを話しては笑いあうことも、なにもかもが幸せだった。

ただ、世界がそれを許さなかっただけで。時代がそれについていけなかっただけで。

 

戦争は回避できず、大地は血と敗者の呻き声に満たされた。

多くの命を奪い、奪われ。憎悪と怒りが重なり合う。二人の声は喧騒に拒まれ、かき消されては望みも潰える。

カルナはドゥリーヨダナへの元へ戻り、アルジュナは兄弟たちを選んだ。

二人の間に流れる絶望の川は速く、亀裂はもはや超えられない。それでも――という願いを否定する謀略が、義務が、体を動かし弓を引き絞る。

苦悩と愛。悔恨の決着。残ったのは神話だけ?

 

「この世界に神はなく、呪いもなく、宿命すらもない。あるとすればそれは大地の悲鳴を聞き届けて現れた、勇者の意思だけだ」

「ああ――行くぞ!」

 

再演ではない。

これは終わりであり、始まりである。

燃え尽きた焔が再び点るための序奏。大地に捧げる雷炎のデュオ。

 

梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!」

 

様子見など不要。初手から全力全開の投槍。

灼熱の炎をまとった黄金の槍は、まるでスプーンでケーキを抉るような簡単さで山を陥没させた。

座っていた体制からあまりにも素早く回避を選択したアルジュナの手に、神弓が呼び出される。矢を番えてから討つまでの速度はさらにそれよりも速い。

スキル「千里眼」により透視すら可能としているアルジュナに、撃ち落とせぬ獲物などごくわずか。

常人には到底目に追えぬ。達人でも不可能。だが英雄なら対応する。

 

「ハアッ!」

「せえっ!」

 

流星よりも凶悪な矢の雨嵐。

回避、迎撃、焼き尽くす!すり抜けた数本は黄金の鎧に阻まれて、しかしカルナの頬に赤い線を作った。

生前ならばこの程度、かすり傷にだってなりはしないが。そこはサーヴァント。マスターとの魔力供給をカットして、アルジュナと対等になるためにリンクの援護も受けていない今では、わずかな油断が致命傷になり得るだろう。

魔力放出で距離を詰める。アルジュナは焦らず、上段から振りかぶられた槍を弓で受け止めた。

青い炎と赤い炎。混じりあうことはなく、ただ幻想的な色彩を観客に見せる。まだ青い空の下で行われる灼熱の交錯は、網膜を焼くほどの輝き。

アルジュナの背後に展開された魔力の矢が、丸い軌道を描いてカルナを襲う。回避後の軌道すら予測された絶技。

しかしカルナとて超絶の戦士。天を縫うように振るわれた槍が、赤金の軌線を残して矢を叩き落す。

 

「頭上注意だ、悪く思え」

「狙わずとも!」

 

炎の槍が落ちてくる前に、さらに上から落ちてきた青い矢にかき消された。

アルジュナは弓の名手。その技量は、射る際に極度に集中することによって時間感覚操作を行えるほど。

魔力が乗ることによって加速した矢はさらに速い。場合によっては、ビリーの早打ちをも上回るだろう。

だが、マスターからの魔力供給を断っているのはカルナだけではない。アルジュナもだ。残量はどんどん枯渇していく。肉体も徐々に脆くなっていく。

それで構わない。もとより長期戦など望んでいない。

ただ、全力で。全霊で。この歓喜を分かち合いたい!

 

「…………すごい」

「……カルナのほうがわずかに圧していますね」

「ほう、分かるかナイチンゲール」

 

軍の先頭を走り続けていた立香たちは、わずかな休憩時間に背後を振り返って、圧倒されていた。

こんなに離れているのに、ここまで届く戦闘音。甲高い金属音。空気が焼き焦げる鈍い音。豆腐を握りつぶしたかのように崩壊していく山々。融けていく大陸。血潮を滾らせて吠える戦士たち。――――それはまさしく神話だった。

 

「やはり弓兵は遠距離戦こそが華。あそこまで接近されていては、さしものアルジュナでも手に追えまい」

『というより、本来ならばカルナが圧倒していて然るべき状態だ。それをほぼ互角に見えるところまで待ちこむとは……。さすがアルジュナ、大英雄だね』

「だが、決着は近いだろう」

 

拳がぶつかる。

高速で展開する攻勢は交唱。雄弁な瞳が決着を予感させる。

伝えることなく熟れて潰れた言葉を、振り返ることはもうない。新たに芽吹いて花咲いて、時の流れに乗って行くだろうから。

風向きが変わる。笑みを作る口元を隠さずに、声を張った。

 

「――――此処に、我が宿業を解き放とう」

「神々の王の、慈悲を知れ――――」

 

それは、世界そのものを破壊する(やじり)。破壊神シヴァから授けられた、滅ぼしの兵装。

それは、たった一度だけ使える神殺しの槍。雷神インドラから授かった、高潔の証。

 

――――長い、長い日々だった。

カルナが実兄であることが判明した日から。ヒマラヤで生涯を終えた日から!渇望していた時が来る。邪魔をするものは何も無い!

霧が晴れたように澄んだ心のまま、宝具を放ち――――――。

 

 

破壊神の手翳(パーシュパタ)!!」

日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!」

 

 

この瞬間。この空間。この大地に存在するあらゆる生命が、二人を見ていた。

宮殿に残っていた二人も、東軍の王と女王も、見ていた。

…鮮血が散る。

倒れた人影を認識した者たちが、驚愕を顔に浮かべて。

 

「―――――え?」

「……!」

「な、に――――」

 

崩れ落ちたのは狂王、クー・フーリン。

直後、宝具がぶつかって――――――。

 

『何が起きた!?サーヴァント反応と…、ああもう宝具の衝撃で計測器が大騒ぎだ!』

『映像戻ります!……これは…!』

 

砂塵が晴れた。

煌々と視界を覆っていた光が収まる。

まず立香たちが見つけたのは、ぜいぜいと荒く息を吐き、負傷した体を気力で保ちながらも眼光鋭く立っている戦士の二人。

鎧と霊基を代償に宝具を放ったカルナに対して、スキル「単独行動」を有しているが故わずかな余裕があるアルジュナ。……雌雄は決したようだ。

そしてその傍に居る、腹に穴を空けたクー・フーリン。

 

《……令呪を以て命じます。クーちゃん、私の元へ帰りなさい》

「チッ……!」

 

屈辱……!

隙をついたつもりで、完璧にカウンターをくらった。

この土地が勇者リンクに管理されているからとか、そういうレベルのタイミングじゃない。こちらにだって聖杯がある上に、必中必殺の呪いの魔槍だ。

放つ前に止められるなんて、予想されていた(・・・・・・・)以外にない……!

脳内に響いたメイヴの命令にも己にも舌打ちをしながら、狂王は撤退した。

 

「えと、なにがあったの?」

「わ、わかりません。ドクター!」

『……シータの宝具!?宮殿から!?こんな、よく届いたな!?』

「シータが…?」

 

そう、超遠距離狙撃こそ弓兵(アーチャー)の華。

誰も戦力として数えていなかっただろう少女の、渾身の一矢。力と勇気を試すためにジャナカ王の祖先に授けられ、この弓に弦を張ることが出来た者がシータ姫の花婿に相応しいと謳われた神弓。

追想せし無双弓(ハラダヌ・ジャナカ)

 

「……や、やった!やりました!勇者様!ありがとうございます!」

「いえいえ、わたしは少しサポートしただけですよ。さすが羅刹の王、ラーマの伴侶。見事な一撃でした」

「はい、はい…!」

 

 

いーくん 弓、こんなにデカくなるんか…。姫様全身で引いてたぞ

うさぎちゃん(光) ギリッギリで心臓を避けたのはさすがですね

小さきもの ようやく余裕が崩れたんじゃない?いけいけー

 

 

うたた寝していた夢魔が思わず飛び起きて、「えげつないなぁ…」とつぶやきながらまた横になった。

獅子王軍、オジマンディアス軍、山の民、ゼル伝の悪役達の四つ巴で、混乱と混迷を極めているキャメロットとは大違いだ。

やがて勇者リンクとカルデア一行がたどり着いたとき、果たして原型は残っているだろうか……。

星見にできることは余りに少なくて、いっそ笑いがこみ上げてくるくらい。

 

最果ての島から出る日は近い。

それまでにどうか…なんか……うまい感じにいってくれよと、花の魔術師は思った。



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二息歩行

「カルナ…!」

「カルナさん!」

 

ごうごうと風が吹き荒れた。

迅雷のごとく大地を走り回る魔力が、やがて空気に溶けて消えていく。

陥没した大地に足を取られながらも、できる限り近くに走り寄ってきた少女たちを見て、カルナはわずかに―――(アルジュナにも辛うじてそうとわかるレベルで)ほほ笑んだ。

 

「やはりランサーは燃費が悪いな。次はセイバーかランチャーにしよう」

「この状況でそれを言うの、カルナなりの慰めだってわかるよ」

「大丈夫です、カルナさん。わたしたち、貴方が居なくてもちゃんと勝って帰ります…!」

「――――ならば、オレが心配することはなかったな。さらばだ。マスター、マシュ」

 

伸ばした手が血に濡れていることに気づいてひっこめた、カルナの右手を掴む。少し豆ができた少女の手の暖かさよ。

真似をするように手を出したマシュの掌を左手で包んで、不格好な握手を交わした。

 

「お前たちに、太陽の加護があらんことを」

 

雲一つない空に消えていくエーテルが、まるで光を反射したガラスのように光っていた。

 

「……アルジュナ」

「……彼の心配はいらないでしょう。望んでいた決着はつきました。妄執に囚われることもなく、後悔に精神を侵されてもいない。私達は先に進みましょう」

「うむ。シータのおかげで神聖な決闘が邪魔されることもなかったからな。シータのおかげで。さすが余のシータ!目の前に居たらすぐに抱きしめて称讃の言葉を浴びせていたのに…!ええいすぐに終わらせて帰るぞ!シータが余を待っているのだ!」

『なんかおかしなテンションになっちゃったな』

『やる気は出たからいいんじゃない?』

 

喧喧諤諤、遠ざかっていく声を背中で聞いた。

アルジュナの目に映る、世界はいまだ鮮やかで。

 

「(―――――――カルナ)」

 

しばし目を閉じて、感情の波に身を任せることを許してほしい。

ここに一つの戦いが終わり、戦況はまた動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――欲しい。

欲しいの。

あの男が。

 

手に入らなかった。

私のものにならなかった。

心は堕ちずに、体は離れ。欲望は弾け、果実は落ち。

恋は何処に?愛をあげる!どうして、どうして――――!

 

声を掛けたのに!誘ったのに!

許せない…!許せない許せない許せない許せない許せない!

アルスターのクー・フーリン!

その視線が欲しいの!その心が欲しいの!体が、思想が、主義が、貴方を構成するすべてが!

絶っっっっ対に、屈服させてあげる!

 

「クーちゃんを王にして!私と並びたてる程に、“邪悪”で“逞しい”王に!」

 

願望の杯は満たされた。

表面張力でなみなみ揺れる、魔力のワインを飲み干して。

王は産まれた。女王は笑った。

 

「さあ、蹂躙を始めましょう!見せて、クーちゃん…!あなたという王様が、この世界の何もかも滅茶苦茶にするのを…!敵も、味方さえも、その死棘の槍(ゲイ・ボルク)で殺しつくす様を…!」

 

希望も奇跡も正義も宝も夢も未来も全て全て全て全て全て!!

無様に惨めに呆気なく!粉々に壊して殺しましょう!

だから――――――――――。

 

 

どうして邪魔するの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きることと戦うこと。

それがクー・フーリンにとっての至上の喜びだった。

 

得難い強敵との死闘で死力を尽くすこと。

望むままに、望む相手と、技を交わしあうこと。

なんのしがらみもなく、遠慮もなく、惰性もなく、義務も無い。

ただ、ただ、純粋に戦うこと。殺してもなお殺せない相手との死闘!これだけを望んで座に至る。至ったのだ。

 

「最短距離で王になり、最短距離で支配する」

 

生前存在しなかった望みが生まれるなど、サーヴァントにはよくあることだ。

王を望まれ。

王になった。

――――だが、王意がない。理想がない。

 

「ならば全てを破壊して、目についた敵はブチ殺し、誰も居ない荒野に立つ」

 

己の道は真っ直ぐだ。

寄り道している余裕もなく、誰かの荷物を担ぐ余裕もない。

我欲で槍を振るい。余分を捨てて愉悦を捨てて。世界を滅ぼすに足る力を得た。王は君臨する。

 

角笛を鳴らせ。

天高く飛ぶ鴉を撃ち落とし、敗者の血で大地を染めろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ来るわね、王様。体は大丈夫かしら」

「修復は完了した。二度も無様は晒さねぇ」

「もしもの時は、こっちにアレ(・・)を持ってくるわ」

「……必要ねえ。オレ一人で十分だ」

 

ホワイトハウスは悪の巣窟?

排他的で閉鎖的。刹那のしじまに佇んで。

 

「連中は全て北部戦線に叩き込め。それで戦争も世界も終わりを告げる」

「……勇者は?」

「ヤツが出るのは最終手段だろう。さっきの一矢で確定した。少なくとも北部のサーヴァントが全滅でもしない限り、巣から出てくることはねぇだろう」

「そうね。――あーあ、楽しい女王ごっこもこれでおしまいかぁ」

 

チェリーピンクの髪を揺らして、メイヴは甘やかなため息をついた。

それは彼女に気を惹かれている者が見れば、一気に引き込まれ目を離せなくなるほど婀娜っぽかったが、ここにいるのは狂王だけである。

 

「楽しいか?」

 

真顔は崩れない。永遠結氷よりも凍える声が、ただ冷徹に女を見ている。

 

「ええ、とても楽しいわ。予想外のこともあったけど。だからこそ、最後の最後まで楽しみたいものね」

 

見上げる女の蜂蜜のような瞳が、愛しい男をとらえてとろんと蕩けた。

 

「クーちゃんは楽しくないのよね」

「どうだかな。おまえは勝手に楽しめばいい」

 

不吉なほど明るいカーマインが、からからの返事を打ち返す。

それにだって女は嬉しそうに、――――嬉しそうに、言うのだ。

 

「……ん。クーちゃん、愛してるわ」

「そうかい」

 

椅子から立ち上がって、白いバトルドレスの裾を直す。

一般的な人間から、平均的な思考から、逸脱した倫理感を持った女であるが、これでも根は乙女である。

死んでも愛を謳い、恋を叶えるために努力した。永久の貴婦人。女王メイヴ。

悪辣なのは生まれつき。ありのままであるが故の無垢。勇者を待つのではなく、我が物にするために戦車を駆る少女!

 

「さあ、終わりの戦いを始めましょう。みっともなく足掻いて、もがいて、立ち上がって。決意の眼差しでこちらを睨みつける彼らを。造作もなく踏みつぶしてあげましょう」

 

――ああ、最高に楽しみ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽があくびを繰り返し、寝返りを打つように沈んでいく。

強い日差しに目を奪われている暇はない。

大地を駆けて、駆けて、走る。西部の領土を飛び出して、東部のワシントンへ急ぎ足。

 

『ここからはもう女王の領地だ!リンク君の援護も届かない!最大限の警戒を!』

「了解!」

『北部戦線も健闘している。これなら何とか――』

「来ちゃったのね」

 

いたずら好きの子供を咎める母のように感じたのは、はたして立香だけだろうか。

女神のごとき完璧な肉体から、清廉で包容力に満ちた女王の気品を漂わせて。

 

「おまえは――」

「女王メイヴ。ケルトの勇者たちを産み続ける女王ですね」

「あなたが……!」

 

事前情報と妙にチグハグで、戸惑っているのは立香だけ?

一片の穢れなど存在しないような、自信満々で勝気な笑みを浮かべて、女王は高らかに宣誓した。

 

「アンタたちのガラクタ兵隊と私の可愛い坊やたち――果たしてどっちが強いのか」

 

途端血だまりから飛び出した、怪物たちのカプリチオ。

 

『竜種に、シャドウサーヴァントに、キメラ…!?』

「……勝って見せるわ。王様に全てを託されたのは、この女王なんだから……!」

『スプリガンまで!?無茶苦茶だな…!』

「大丈夫、行くよみんな」

「はい!」

 

覚悟を決めた者は強い。

それは古今東西。今も昔も変わらない。

高く跳躍したラーマが竜を撃ち落としても。

マシュが叩きつけた盾でキメラが押し潰されても。

ナイチンゲールがスプリガンの顔に拳を叩き込んでも。

メイヴは一切の動揺を見せなかった。

 

『何だ…?やけに冷静だな……。何を企んでいる…?』

『聖杯は持っているようだけど……。ただの時間稼ぎかしら』

「オルタ、お願い!」

「戦だ。蹴散らすぞ、ラムレイ」

 

じわじわと湧き上がる不安をロマニとオルガマリーが分析している間にも、敵はどんどん消滅していく。

渦巻くように発生したアルトリア・ペンドラゴン[オルタ]の魔力の濁流に、飲み込まれて崩壊していく。

それでも、混濁とした血液から蠢く影は途切れることなく。

 

「無限とは言い難いですね。時間をかければ無限というだけで、ここまでくれば、減速の速さが勝る。魔術においても、科学においても、彼女は追い詰められていると言っていいでしょう。ただ――」

「――ハ、ハハ。ハハハハハ!」

 

ナイチンゲールの分析に、無邪気な笑い声が重なった。

 

「…追い詰められている?私が?逆よ、逆」

 

血泡とともに浮きあがり、ぱちんと弾けるように目を覚ます。兵士の士気は右肩上がり。

 

「追い詰めているのが私なの。ホワイトハウスにいらっしゃいな」

 

肉壁に庇われながら優雅に背を向けた、女王は去る姿も美しい。

 

「チッ……間合いに入らなんだ。羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)は投擲武器ということ、知っていたか」

「行きましょう、皆さん。……間に合わないかもしれませんが」

「間に合わない?」

 

槍を振るうたびに敵が吹き飛んでいく。その中心でランサーに守られながら、立香はナイチンゲールに振り返った。

 

「……分かりません。ただ、彼らは秘密の刃を隠し持っています。彼女(メイヴ)の笑みは余裕から出たものではなく、こちらを嘲弄(ちょうろう)したものでもありません」

 

あっという間に静かになった。ラムレイが悠々と主人を乗せて戻ってくる。

 

「あの笑みは略奪の笑み。こちらが大事にしていたものを破壊するときの、たまらない嗜虐の笑みです。我々ではない。我々なら、すぐにその切り札を出している。ならば――」

「うむ。ナイチンゲールの言いたいことは分かる。すぐに追うぞ!」

「うん、行こう。ホワイトハウスへ」

 

なにが待っているんだろう。

つぶやきは胸の中。立香は足を動かした。



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愛及屋烏

明日を憂いた風神のため息が、硬質化したような雲だった。

見上げる空に安寧はなく。来客を出迎える片時雨。ホワイトハウスは異界化していた。

廊下に響く複数の足音が反響して、反響して、不気味さを増幅させていく。

玉座を背に立つ狂王よ。君の目に、映る世界は醜いか?

 

「――――よう」

「……クー・フーリン」

「女王メイヴ……!」

「ちょっと、そこのデミ・サーヴァント。人の名前を気安く呼ぶものではなくてよ?」

 

苛立ちと嘲笑をかき混ぜて、女王は不快そうに鞭を撫でた。

 

「気分が悪いから、殺して構わないかしら」

「……!」

 

ドロドロの蜂蜜の目に囚われて、マシュがかすかに身を固くする。

今までに浴びてきたどんな殺意よりも、軽くて洒脱で生々しかった。

その視線を遮るように前に出る、ナイチンゲールの華奢な背中よ。

 

「退きなさい。あなたの邪悪は病ではなく、生まれついてのもの。健康優良児そのものです。邪悪ではありますが」

「は?」

「退け、メイヴ。そいつはオレに用があるらしい」

 

ぽかんと口をあけた女王など見向きもせず、その後ろに佇む狂王を検分する。

女の目に狂いはなく、しかし狂気に近い凄みがあった。

 

「クーちゃんをどうする気?」

「どうするもこうするも。私は看護師です。看護師としての役割を全うするだけ」

「は?クーちゃんに?看護師として?」

「治療する、ということです」

 

今まで身の回りに居なかったタイプだわ。メイヴは表情を引きつらせた。

いや居たかもしれないけど。それでもこの状況で、戦士でもあるまいに。世界うんぬんよりも己の職務を語る人間は、異質に分類していいだろう。

他者の視線や時代の規則など、彼女の足を止めるに足らん。鋼の意思を持つ信念の女。それは己の享楽を第一とする女王には理解できないものであり、しかし誇りをもって女王足らんとする女にとっては、一種の感服をもたらすものだった。

 

「……単純な理屈だな。だから、オレもおまえを敵として殺害する。看護師であろうが、誰であろうが敵は敵。そら、単純だ」

「どうぞご自由に。私は貴方を治療し、貴方は私を殺害する。矛盾ですが、我々の在り方としては妥当です。では戦う前に一言」

 

聞く必要はない。この戦いにルールなどない。一歩踏み出せば鞭が届く。

それでも女王が口を閉ざしたのは、その女の纏う気迫を眼前に突き付けられたからであり。

診察室の椅子に座る患者の気分に、一瞬でもなってしまったからであった。

 

「あなたは病気です。自刃するか、敗北することをお勧めします」

「オレも大概だが、おまえも静かに狂っているな?言っていることが無茶苦茶だな?」

 

自分よりおかしい存在がいると途端に冷静になるのは、生き物が持つ脳みその自然な働きである。

 

「――愉悦を抱けない」

「……あ?」

「いえ、違いますか。愉悦を抱けないのではなく、愉悦を抱かない(・・・・・・・)。王になったことで愉悦を感じられなくなった訳ではなく、王になったことで、愉悦を封じたのですか」

「…………」

 

管制室にいる各時代の王たちが、呆れたり苦い顔をしたり沈黙を保ったりした。

 

「自らを檻に閉じ込め、代わりに“王”という機構(システム)に体を譲り渡す。愉悦を感じないが故に自動的、機械的に戦える。そうしなければ、王であり続けられない」

「見てきたような口ぶりだな。なんだ。おまえ、前世で縁とかあったか?」

「いいえ、見てきた訳ではありません。何故なら、生前の私自身がそういう在り方でしたから」

 

 

バードマスター ああ…

海の男 ふーむ

 

 

「己の人間らしさを全て投げ捨て、私はただ目的のために邁進した。そのために代償も必要としたけれど、そんなものは私には必要ない。私はただ、純粋な治療機械であればよかった」

 

立香は思い出す。

月光の差す夜に、二人きりで話したことを。

狂っていなければ耐えられない。と断言した。優しい淑女のことを。

 

「無論、それは歪んだ生き方であることも否めません。生前、寝床で執念を燃やし続けたあの頃と何も」

 

それでも。

自ら光の弓矢をとった女傑のように。守護者に乗り移って戦った王女のように。その女は美しかった。

姿かたちではなく生き様が。死んでもなお、燃え盛る魂が。

 

「治療されるという希望。快癒(かいゆ)する歓喜。それが、あのときの世界には必要だった。その目的のために全てを擲って、後悔はしていない!」

 

挫けることのない未来への意思こそが、世界を変革してみせた信念だ。

勇者ではなく、英雄と呼ばれるにふさわしい。苦悩する誰かの為に戦う天使。

 

「――問いましょう、蛮族の王。この支配に必要性はあるのですか?」

「さてな」

「無いでしょう。それは重度の火傷に等しい所業。だから――貴方は私と違う」

 

 

奏者のお兄さん 北部でなにかしらの召喚術が動いてない?

いーくん これは……ハァ?なんだこりゃ

うさぎちゃん(光) どうすんの大地~~って気づいてるか。忙しそう

 

 

「私の血は夢のために熱く滾る。貴方の血は野望のために冷えて濁る。それは病です。私に治療させなさい。クー・フーリン」

 

その言葉はたしかにクー・フーリンに届き、そして跳ね返された。

交わる視線が火花のように弾け、すぐに冷たく凍えていく。

 

「私は、死んでも、貴方を治療しなければならない」

「……話はそれで終わりか?あんまりにも突拍子のない言葉なんで、つい聞き入っちまった」

 

王がおもむろに口を開く様は、獲物を見つけてゆうらりと立ち上がる、肉食獣によく似ていた。

 

「病。病。病気か。なるほど。言い得て妙だ。オレは呪いや傷には慣れていたが――――。病気ってヤツには罹った事はてんでなかった。目から鱗とはこの事だ。鉄の女。となると、このどうしようもない倦怠感は病気ってヤツなんだろうな」

「……ッ」

 

メイヴが思わず零した動揺を、立香は不思議な気分で見ていた。

どうして彼女はあんなに辛そう(・・・)なのだ?少女にはまだわからない。恋する乙女は複雑怪奇。

 

「この体を癒し、この血を清らかにすれば正気とやらに戻るのかもしれん。――だが、それはあり得ない。アンタはよーくご存じだと思うがね。そら、世の中には決して治らない、不治の病ってもんがあるんだろう?」

「――ッ!!」

 

しかして戦士は冠を抱き、王であることを選んだ。

冷静に、冷徹に、邪悪な王であることを。

国家を成立させるための機構として、敵対するものを殺戮する武器として。

しかしそれは女王のためではなく、利己的で自分本位な己の意思。まったくもって英雄など、矛盾だらけの存在である。

 

「――――ええ。そう。そうよ。そうでなくっちゃ。私の王様。私の王様……!何者にも指図されず、誰にも従わず、ただ一人、世界の玉座に君臨して……!」

 

そうして時に愛を飛び越える、ただ一つの恋は。悪辣な女王にだって献身を選ばせるのだ。

 

『なんだ!?この……、これは………!!』

「ドクター!?どうしました!?」

『嘘でしょ……』

 

耳を劈く警報は、異常事態を知らせるために踊り。

騒然としだした管制室で、職員たちは慌てだす。

状況を把握してオルガマリーは絶句した。画面を見る体が震えている。

 

「あははははは!あははははは!――私の名前を知っていて?」

 

女は笑った。

貴方を勝たせるためならば、火の海にだって飛び込める!

 

「我が名はメイヴ!女王メイヴ!私の伝説に刻まれた最高傑作をご存じかしら!」

 

その名は『二十八人の戦士(クラン・カラティン)』。稀代の戦士クー・フーリンを倒す集合戦士!

 

『英霊がこんな恐ろしい構想を練れるものなのか!?いや、術式として可能なのか!?女王メイヴ……!これはソロモンですら試そうとしない試みだぞ!?』

「いったい何が…?こちらは何の異常も――」

「北部戦線……!」

 

女王メイヴの秘密の刃。

気づいたナイチンゲールが声をあげて、被さるようにロマニが言った。

 

『そう!そこについさっき、二十八体の魔神柱が確認された……!』

「…………え?」

 

二十八人の戦士(クラン・カラティン)』という枠組みに押し込むことで、魔神柱を丸ごと召喚する。

聖杯を所有している以上理論的には可能だ。可能だが―――――。

 

「有り得るのか、それは……!?」

「…それだけ強いのでしょう。彼女の願いは、これまでの誰にも負けぬほどに。あの男のためならば。如何なる犠牲をも許容し、自分自身をも擲って」

 

 

小さきもの 愛か

小さき爺 恋かもな

 

 

他者の感情を想像でラベリングするなど、無粋なことですよ

 

 

Silver bow あ、戻ってきた

 

 

ひび割れた体で凛と立つ、女は最後まで女王だった。

 

「――逝くのか」

「ええ、逝くわ。……クーちゃん。私、うまくできた……?」

「――――嗚呼。そうだな。おまえさんにしては、よくやった。女王として自分の国を守る。やればできる女だよ、おまえは」

「……うれしい。私、その一言が聞きたかったの」

 

ほろりと崩れた果実のように、柔くて、甘くて。

心が満たされる。

魔力のワインよりも身体を喜ばし、乙女を蕩かす男の言葉。

 

「それだけ、それだけで救われたの。私の願いは、叶った」

 

ほほ笑む貴婦人は麗しく。無垢で透明な少女の笑み。

この瞬間、この世界で、彼女は誰よりも報われていた。

 

「やっと、貴方は、私のものに――なってくれた」

 

 

 

 

 

轟音。

 

 

 

 

 

「――――――――――――――ぇ」

 

 

 

 

 

崩落。

熱。

 

 

 

 

 

『なに…………り■…………■■■………■……』

 

ぶつぶつと途切れる通信が、意識の遠くで聞こえる。

 

「せんぱ――――――――」

 

女王メイヴが己の霊基を薪にして、召喚せしめた最後の魔神が、全てを灰燼に帰した。

焦土に王が一人。聖杯を懐に仕舞い。

回避しきれず吹き飛んだサーヴァントと人類最後のマスターが地に沈むのを、千里の果てで、夢魔がハラハラと見守っていた。



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