いろはの旅々 (shushusf)
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雪の女王はAAA
私って、そういえばこの学校の生徒会長じゃん。
この事実に気づいたのは、2年生になってからすぐのことでした。いや自分が生徒会長ということ自体はとっくに認識していたんですけど。
そう、そうなんです。生徒会長。うん。いわばこの学校のエンペラー。せっかくこんな都合のよくて素晴らしい特権があるんだから、もうちょいその権力を使ったり自由奔放に振る舞ったりしてもいいと思うんですよね、私。
うーむ。どうしましょうか。
権力を盾に好き放題やるといっても、なかなかいい案が浮かびませんね……
あ。
よし、思いついた。
この学校の長として、下々の一般生徒がちゃんと楽しい学校生活を送れているかどうかパトロールしてみることにしましょう。
さあ、ここで問題です。
1限の授業を受けながら朝の日差しを受け、アンニュイに窓の外を見つめて、たった今、薄くニコッと笑い今日1日のスケジュールを決めた亜麻色の綺麗な髪を持つ超絶美少女は、一体誰でしょう?
そう、私ですっっ♡
* * *
1限が終わりました。少し早く授業が終わってくれたお陰で短い休憩時間に貴重な追加タイムが訪れます。
そうだなあ、、せっかくだから普段は行けないところに行きたいなあ……
うーん……とりあえずは、、あそこに行ってみよう。
思い立つと私は歩きます。歩きます。歩きます。
目的地は、何しろ学年も違うわけで、結構時間がかかるところだし用がなければ向かうことなんでまずない場所なんですが……
その場所とは、最近優しくなった元氷の女王様がいるあの教室です。
私はルンルン気分で、3年生の国際教養科・J組に向かいました。
* * *
「ゆっきのせ〜んぱいっ♡ 」
「あら、一色さん……どうしたのかしら」
やっぱり最近柔らかくなった雪乃先輩が、少し驚きながらも優しい微笑を浮かべて私を迎えてくれました。
いきなりの年下美少女生徒会長のご来訪に、雪乃先輩以外の先輩方にはそれなりの動揺が広がっているようです。
まあ無理もないですね。私、美少女ですし。
3年J組は、どうやら1限が体育の授業だったみたいです。先輩方は体育着から制服に着替えている途中だったみたいですね。ちなみに教室を使っているのは女子のみだったので、少ない男子だけ他の場所に追いやられているんですかね。まあどーでもいいですけど。
「雪乃先輩のとこに遊びにきちゃいました! 」
明るく可愛く私は雪乃先輩に近寄ります。すると雪乃先輩は少しびっくりした後に、テレテレし始めました。
「あ、あなたも2限の授業があるでしょうに……」
「それでも、雪乃先輩に会いにきたかったんです! 」
「んなっ……何を言い出すのかしらこの後輩は……あざとい」
「あざとくないですぅ! ……だって、雪乃先輩は私の尊敬する先輩で、、無性に甘えたい時もあるんですから」
雪乃先輩はその私の言葉を聞くと、顔を赤らめて視線を下に落として恥じらいの様子を見せます。全く、ちょっと前までの『雪ノ下先輩』だったら私の魂胆を見抜こうとつまんない反応をしていたであろうに、色恋はここまで人をポンコツにするんですね。
「やっぱり雪乃先輩って肌綺麗ですね〜、、うわ、白! ってスベスベ! くびれヤバ! ……つーか本当にスタイル良すぎてちょっと引く……」
おっと、いろはちゃんのスイート甘々ボイスが最後だけ見る影もなかったですけど、まあ大丈夫ですよね?
「ちょ、、ちょっと……一色さん恥ずかしいからそんなに触らないで……あっ」
あ全然大丈夫でした雪乃先輩めっちゃ恥ずかしがってます。この手の攻撃は結衣先輩で慣れっこかと思ってましたが、全然タジタジになりますね雪乃先輩。っていうか最後色っぽい声出したな雪乃先輩。
「どうしたんですか雪乃先輩? なんか色っぽい声出ましたけど」
雪乃先輩は顔を真っ赤に染めてプルプルしています。私のことを睨んでいるつもりなのかもしれませんが、普通に可愛いです。これ写真に撮ったらせんぱいいくらで買うんだろうって思考が出てくるくらいに。
すると雪乃先輩は真っ赤になっているまま私にボソボソと呟きます。
「だ、だって……あなた、、今私の胸……直で触ったじゃない」
あ、言い忘れてましたが、私は雪乃先輩がブラを取った段階で教室に乱入したために今雪乃先輩は上半身裸です。さっきから雪乃先輩の態度が柔らかかったり妙に顔が赤いのはそういう意味もあるのかもしれませんね。
ん〜でも、胸? 当たった?
「あれ? 胸なんて当たりました? 」
あ、やった。
そう本能が告げたのは発言の直後でした。
さっきまで優しい陽だまりの中のような空気だったのに、段々教室に吹雪が吹いてきています。周りにいるお姉様方も『お前言いやがったなっ!? 』的な目線を私に向けてきていて、明らかに私はやっちまってしまったようです。
さあ、悪い時には焦ってどんどん変なことをしてしまうのが人間の性なのでしょうね。
たまたま雪乃先輩の机の上にあったブラに手が触れて、止せばいいのに私は焦りと純粋な驚きからかそのカップ表示を音読してしまいました。
「と、AAAカップ……? 」
周りのお姉様方の視線が諦めのそれに染まってしまったことを身をもって感じた時。
今度こそ私はえげつない身の危険を感じました。
即座に私は身を翻し、今年1番の俊敏性でスパっと教室からの離脱に成功します。
「じゃ、じゃあ雪乃先輩また会いましょう〜私2限に遅れちゃうから行かなきゃあー!! 」
さあ問題です。
身の危険を素早く察知し、亜麻色の髪を靡かせ風の如く去る美少女生徒会長は、一体誰でしょう?
そう、私、一色いろはなのでした。
「覚えていなさい。一色さん」
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お子様おパンツ
さて、2限の授業が終わりました。
集中してなさすぎて何の授業だったかパッと思い返すのが面倒なくらい考え事をしていたので、何の授業だったのかちょっとあやふやです。
でもそのお陰で、次の休み時間に向かう先を決めることができたので、まあよしとしましょう。
途中先生が当ててきたような気がしますがまあいいです。あ、そういえばあの先生、授業終わってから泣きながら教室を去っていったんですが、一体どうしたんでしょうかね? 情緒不安定なんでしょうか。
まあいいです。生徒会長として下々の様子を見るという責任がある私には関係ないですから。
さて、これから向かうは、絶壁の下先輩のいる場所とはまた違う場所。絶壁とは対を成す豊穣の居場所へ、私は迷うことなく足を進めます。まだ午前中の瑞々しい空気に当てられながら、私は鼻歌を歌い亜麻色の髪を靡かせて上機嫌に目的地へ向かうのです。
さて、ほんの1時間ほど前の危険な経験を無理やり忘れ、前向きにこれから会うであろう母性に胸を弾ませている絶世の美少女は、一体誰でしょう?
そう、私です☆☆
* * *
「ゆーいせーんぱいっ!!!!! 」
「えっ? あれ? いろはちゃん!? 」
「やっはろーです♡ 結衣先輩に会いたくて、来ちゃいました!!! 」
さて、みなさんもう勘づいていたと思いますが、そうです。
私がこれから会うのはあの人。
美人の後には可愛い系。黒髪ロングの後にはお団子茶髪。聡明な次はアホの子。絶壁に対して実ったメロンなどなど、先程の人とは色々と対極に位置する奉仕部の元気印。
「やっはろー!!! いろはちゃん!!! 」
由比ヶ浜結衣先輩、その人なんです。
結衣先輩は、どことは言いませんがとある場所をバインバイン揺らしながら私に駆け寄ってきました。ブラしてるはずなのになんであんなにバインバインしているんでしょうか。発育の暴力ですね。きっと結衣先輩は知能をあのバインバインに養分として吸収されているのでしょう。
そんなことを私が目からハイライトを無くして考えていると、結衣先輩は私にガバッと抱きついてきました。そのお陰様でバインバインが私の顔面を包みます。何も見えません。
「もう〜私に会いにきたなんて可愛すぎぃぃ!! 嬉しいよいろはちゃぁん!!! 」
「フゴッ……ふごふごもご…っ……んぐぅっ!! んんんぅぅ!! フゴフゴ!!!! 」
「あ、ごめんいろはちゃん。大丈夫? 」
っはー……ハァ……ハァ。
おっぱいって殺傷能力ありましたっけ? 割と真面目に色々覚悟をしてしまいました。突き詰めればおっぱいというモノは人を殺しかねないパワーがあるんですね。そりゃ雪乃先輩もこの絶大なパワーを欲するはずです。この世の真理を垣間見た気がします。
「い、いろはちゃん……大丈夫? なんか目が点になってるけど……」
「あ、いえ大丈夫です。この世の格差という不条理について悟りを得ていただけですから」
「なんかすごいこと考えてるっ!? 」
ふぅ。とりあえず落ち着きましょう。会って早速殺されかけるとは思わなかったけど。
とりあえず私は息を整えて、結衣先輩を見つめます。
……ここまで来たはいいけど、特に何をするとか考えてなかったのでちょっと困りますね。
なので私は結衣先輩をずっと見つめているわけなのですが、特にこれといってやることもないので事態が全く動きません。結衣先輩も頭にハテナマークを浮かべながら、とりあえず私の目をずっと見たままです。
そんな、お互いに互いの目をただ何もせずに凝視し合うと言うなんとも不思議な光景が出来上がっていました。まるで先に動いた方が負けみたいな、剣豪同士の決闘みたいです。私と結衣先輩はともかく、周りの先輩方が異様な状態の私たちを見て、一切の声をあげなくなったためめっちゃ静かです。
「……」
「……」
お互い、無言で見つめ合う時間が続きます。結衣先輩は一言も発しませんが、顔だけは困惑のせいで何か変な笑顔になっていました。え? 私ですか? 私はあのでっかい乳が目に入ってるせいで、内から溢れ出る黒いものを押さえるのに必死です。多分笑顔ですよ、はい。
とまあ、そんな時間が永遠に続くのではないかと誰もが思い始めた時。
「……なあ、なにやってんの? お前ら」
目の腐ったせんぱいがいました。
結衣先輩の真後ろから、私たちを危ないものを見たみたいな目で見ています。せんぱいの手には何かプリントがあり、大方お米に押し付けられて奉仕部関連の書類を結衣先輩に届けにでも来たのでしょうか。
「きゃ、きゃああああああああああああああああ!? ひ、ひひひひひひひひっきー!? 」
「えっ!? ちょ、ちょ結衣先輩っ!? 」
いきなりヌッと真後ろから現れたせんぱいの登場に焦る結衣先輩は、私の方に飛び跳ねてきます。咄嗟のことで、私はつい向かってくる結衣先輩を反射的に避けてしまいました。
その結果。
「く、……くまさんパンツ……」
なんと結衣先輩は、せんぱいにお尻を向ける形で思いっきり倒れたせいで、スカートが捲れてお子様おパンツがこんにちはしてしまっています。
ちなみに、これ私が避けなかったらこんなことにはなっていないと思います。
「ゆ、結衣先輩……この歳にもなってお子様おパンツはどうかとおもいます……せんぱい、これどう思います? 」
気が動転したのか、私は聞かなくてもいいことをせんぱいに聞いてしまいました。
「まあ……うん。なんつーか……お子様だなとしか」
せんぱいも気が動転しているのか、言わなくてもいい感想を発信してしまいました。
さて、もう休み時間も残り少ないので私は急いで自分の教室に戻ります。
ちなみに、最後に見た結衣先輩は、確かにクマさんのお子様おパンツをせんぱいに大公開したまま泣いていました。ポロポロ静かに泣いていました。
さて、あの泣き顔を思い出しながら、無表情で自分の教室へと急ぐ美少女。もっと言えば、cカップで今日は純白のパンツを穿いている美乳生徒会長は、一体だれでょう?
そう。私、一色いろはなのでした。
「うぅ……いろはちゃん……恨むよ」
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「はーあ」
ちょっと疲れましたね。
今まで2回、授業の間にある休み時間を使って、私の数少ない気心が知れた人の元に訪れたわけですが……
あの人たちキャラが濃すぎると思うんですよ。はい。
一人目は黒髪ロングでスレンダーな超絶美少女。加えてその胸部の存在感のなさには目を見張るものがあります。
二人目は明るく元気な快活美少女。加えてパンツは高校生にもなってクマさんの柄のものを着用。
……ハァ。私の近くにいる人たちはみんなどうしてこんなに変人だらけなんでしょうか。生徒会長としてこの学校が心配になってきます。
……ああ、なんか真面目に授業を受けるのが億劫になってきましたね。それに、今は3限の現代文の授業中なのですが、さっきからずっと先生が教科書読んでるの聞いているだけだし、これではなんだか授業をやっている意味も感じられません。これなら家で自分で教科書読んでた方がいいです。
こんな授業を受けていると、平塚先生の偉大さを改めて感じます。あの人多分結婚に使うエネルギー全部授業の上手さに振り切っちゃったんでしょうね。合掌。
……うん。つまんないし、サボりますかね。
よし、そうと決まったら
「せんせぇ〜気分が悪いので保健室行っていいですかぁ? 」
さて。
弱々しく手をあげて、少し潤んだ上目遣いで体調の悪さをアピールし、つまらない授業からの脱走を謀っている美少女生徒会長でもあり女優でもある女の子は、一体誰でしょう?
そう。私です♡
* * *
はい。成功しました。
とりあえず保健室の先生にも気分が悪いと伝え、ベッドを案内されます。まあ熱がないので1時間だけしかこの時間は続かないでしょうが、仕方ないでしょう。
そんなことを考えているうちに、ベッドがたくさんある部屋のドアを開けます。
あ、うちの学校はですね、保健室の中にまた別に部屋があって、その部屋の中に2段ベッドがいくつかあるという作りになっているんですよ。だからしきりがあるだけの一般的な保健室とは違って、割と静かに快適にダラダラゴロゴロ出来るわけで、一部の生徒たちの憩いの場になっている訳です。照明もなく、寝たりゆっくり休むには最高の空間です。
まあ、その分私みたいなサボりの常習犯も生まれてしまうのですが……
「……またアンタか。生徒会長がそんなにサボっててもいいん? 」
あ、言った矢先ですね。
どのベッドでゴロゴロしようか決めかねている私を、いかにもギャルな金髪が横にあった二段ベッドの上から見下ろしていました。
「三浦先輩……また会いましたね。でもまあ、珍しく今日は二人しかいないんですか? 」
「まあ、そんな何回もここでサボる手は使えないかんねー……ん? 二人っきり? 」
今の会話の通り、私と三浦先輩はここの常連になります。ここでサボる人たちは基本決まっていて、だからみんな顔見知りになっちゃうんですよね。まあそうなると保健室の先生からマークされるわけなんですが、歴戦の猛者となるとそれさえもくぐり抜けます。やはり押しが強いというのは美徳ですよね。
「ちょ、ちょっと……今アンタ、二人きりって言った? 」
「はい……今日は腹痛のカズマも、頭痛のめぐみんもいませんし。……はい、目ぼしい同士をはじめ誰もいないみたいですよ?」
あ、今出てきた人物名は通り名ですね。ちなみに私は倦怠感のいろは。三浦先輩は目眩の優美子という通り名で通っています。
「あ、、うん、そうなんだ……へぇ……そう、、なんだ」
「? 三浦先輩どうしたんです? 」
二人しかいないと知ってからの三浦先輩はなんだか様子が変です。妙に顔に赤みがさし、目線はうろうろ、何かに狼狽している感じが見て取れますね。まさか、今日は本当に具合が悪いのでしょうか? 珍しい日もあるものですね。
「い、いやっ……べべべつにあーしは大丈夫だから……」
「そうですか。……じゃあ、私もそろそろベッドに入りますね」
まあ、会話をしていてもいいのですが、万が一先生が部屋に入ってきてバレたら嫌ですし。いい子に一人でゆっくりゴロゴロしているのが得策ですから。
私は三浦先輩のいるベッドから3メートルくらい離れた、別の二段ベッドの上段に陣取ります。
それ以降、30分程度は何もありませんでした。
私はぬくぬくと温かく柔らかいベッドでゴロゴロを満喫していたのですが、ある時点で、何か異変に気づきます。
小さく、物音がするのです。
それが確かに聞こえてきます。ガサガサ、トントン、ジュルリジュルリ。
その物音はだんだん近くなっていきます。ドアが開いたわけでもないので、ベッドの部屋には私と三浦先輩しかいないはずなのですが……
流石にちょっと恐怖を感じてきました。なので少し様子を見ようと、ベッドの上で起き上がると……
「……一色、いろは……いろは……いろは」
「へ? 三浦先輩? 」
その物音の正体は三浦先輩でした。まあ確かに彼女しか考えられる人はいないわけなんですが、それでも彼女から私に近寄ってくるなんて意外です。だって、わざわざ自分のベッドから降りて、3メートルほど歩いて違うベッドの上段に登ってきたのですから。
三浦先輩は、なんだか目をランランと妖しく輝かせて、なんとそのまま私に覆い被さってきました。私はまたベッドに仰向けに転がることとなり、三浦先輩は私の腰のあたりに乗って両手を私の両肩に置きました。
「へ? み、みうらせんぱい? 」
相変わらずの妖しい目、それとグヘヘみたいな笑い方をした後、三浦先輩はついに口を開きます。
「……………………か、かわいぃ」
へ? なんか嫌な予感がします。
「はああああああああ……すき♡」
三浦先輩は、目の中に♡を忍ばせて、ただでさえ近い距離なのに私に顔を近づけてきました。色々な危機を感じます。ガチで鳥肌が立ってきました。
「いろは……あーし、ずっと前から本当はいろはのこと……その、隼人たちがいる手前なかなか言い出せなかったし女子同士だからおかしいとは思うんだけど、その、やっぱりいろはのこと、その、好きなの。おかしいでしょ? でも、そのあざとさとか亜麻色の綺麗な髪とか庇護欲そそられてかわいくてかわいくてかわいくてかわいくてでもごめんねいつも冷たくあしらってごめん本当はいろはのこと大好きなのに素直になれなくてごめん本当は抱きついて抱きしめてお世話しちゃいたいくらいいろはのことが大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きでお願いだからあーしと」
もう私はダメかも知れない。
三浦先輩の唇が私のそれに間近に近づいてきた段階で、私が世界に絶望し始めたその瞬間。
「……三浦さん。あなた病人なのになにをやっているの? ……このことは先生方に報告しますから」
その後、私は無事保護されました。
また私は仮病であるにも関わらず、保健室の先生から本気の心配をされもう1時間眠ることに。
これほどまでに、保健室の先生に感謝したことはありませんし、これからもないでしょう。
さて、問題です。
ベッドの中で包まり、少し震えて未だに先程の恐怖に慄いている美少女は、一体誰でしょう?
そう。私、一色いろはなのでした。
「ぐへへ……いろはぁ♡」
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いろは先輩
「うおぇぇ……」
ひどい経験でした。そのせいか、保健室から教室へ帰っている最中の今でも、軽い吐き気がします。女の子らしからぬ声まで出てしまいました。いけないいけない。
私がいくら美少女だからって、女までもを虜にしてしまうだなんて……美しすぎるというのはやはり考えものですね。
さあ、アンニュイにため息をつき、いつもとは違った大人の魅力を解き放っている色気のある美人は、誰でしょう?
そう、私です☆
* * *
はぁやれやれ。にしてもテンションが上がらないです。
そんなふうにトボトボと歩いていると、なんだか糖分をたっぷり含んでいそうな炭水化物の声が聞こえてきました。
「あ、いろは先輩じゃないですか」
「む……お米どうしたの? あららついに授業バックれた? 不良米になっちゃったの? 」
「いやいやもう昼休みですから。それより保健室の方からやって来たということは……またですかね、、生徒会長がサボりってこんなんでいいんです? つーか不良米ってなんですか」
まったく、水分を過剰に取り込んでジメジメ育ってしまったのか知りませんが、本当に出てくる感想や質問が多い子です。
「ふむ。でも、もう4限も終わって昼休みですか。それはちょっと時間を無駄にし過ぎた感がありますね」
そう。下々の一般生徒たちの様子を眺めるという生徒会長の仕事1時間分が失われたということです。ほんっとにあの百合子は……
「ん? どうしたのお米ちゃん」
突然、米が私に近づいてきます。距離はもうすぐそこで、抱きしめようと思えばすぐできてしまうレベルに近いです。
近づいていた時は下を向いていた米でしたが、今はそっとその鼻を私の肩あたりに向けてクンクンしだしました。なんですかね。私の犬への志願ですかね。
「……やっぱり。いろは先輩、誰か女と抱き合ったりしました? 」
「ゔっ……」
抱き合ってはいないけど襲われかけたなんて言えないので、私は目を逸らしてしまいます。正直あまりいい思い出でもないので、思い出したくもないです。
「答えてくださいっ!! 」
「え、えぇ? 」
米は、下に向けていた顔を上に向け、私と目を合わせます。
そのおかげで見えた米の目からは、涙が2.3滴現れていました。ちょっと余裕もないようです。
「……ねぇえ、いろは先輩答えてくださいよどうなんですかこれ小町の知らないところで誰と会ってたんですか雪乃さんと結衣先輩は今日の休み時間にむしろ喧嘩売ってましたから違いますよねじゃあ誰なんですかいろは先輩に匂いを移すくらい密着して長い時間いろは先輩を拘束していたなんて何してたんですかいろは先輩に限って私以外の人に体を許すわけないですもんねそうですもんねいろは先輩私のこと大好きですもんね素直になれないだけですもんね私も普段からずっと頑張って調子を合わせてるのにこの仕打ちはないんじゃないですかあそうか無理矢理やられたんですねそうなんですねならそうだいろは先輩小町と結婚してくださいそれならもう離れませんしいろは先輩のことなら小町が守れますから全部小町に任せてください大丈夫です小町もいろは先輩意外に体は許しませんから安心してくださいいろは先輩いろは先輩いろは先輩いろは先輩いろは先輩いろは先輩いろは先輩いろは先輩」
さあ、問題です。
目のハイライトを無くした後輩の熱い目線に耐えられなくて、その場から走って割とガチで逃げ出した魔性の可愛さをもつ美女は、一体誰でしょう?
そう。私、一色いろはなのでした。
そういえば、私がサボり常習犯とか雪乃先輩や結衣先輩と今日会ってたってあのお米どうやって知ったの?
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on air
「うっわぁマジ疲れた本当ありえねぇです」
まさかの二回連続で貞操の危機が訪れるとは思いませんでした。しかもどっちも相手は女です。その中でもだいぶ頭のネジが飛んでしまっていた二人でした。
正直、まだまだ恐怖に体が震えている状況です。それだけ怖い思いをしてきました。
さて、全力で学校の廊下を駆け抜け、何故か開いていた放送室の中に逃げ込み、テーブルの下で、怯えながら体育座りをしている美少女生徒会長は、一体誰でしょう?
そう、私です……
* * *
ふう。放送室の機器が置いてあるテーブルの下でしばらくうずくまっていたら、流石に体の震えはなくなりました。なので、まあ恐る恐るですが立ち上がります。
ちなみに、この放送室のテーブルの下は、こたつみたいに布で中が見えないような仕様になっているのです。なので隠れ蓑としては割と安心感のある場所でした。
「……でも、どうして放送室の鍵が開いていたんでしょう」
頭が冷静になってくると、当然の疑問が頭をよぎり始めます。本当なら、放送委員や先生くらいしかこの部屋の鍵を使いません。私が入れたということは、誰かしらこの部屋にいたはずなのですが……
疑問に頭を悩ませながら、ふと機械に目が移りました。
「へぇ、こうなってるんだ」
生徒会でも見たことがないとは言いませんが、なかなかこうやって放送室の設備を間近にする機会はありませんでしたから、私としても珍しさでそれなりに心躍り始めます。
「えっと、これが電源? で、これが音量……ほうほう……まあ、電源くらいなら入れてもいいよね」
つい、出来心で機械にスイッチを入れてしまいます。
「あとは、、あ、そうか。このボタン一つ一つを押せばその場所のスピーカーから放送室の音が入るんだ」
2階廊下、やら、視聴覚室など、機械には学校中のそれぞれの場所のスピーカーに音声を届けるためのスイッチがあることに気がつきます。スイッチいれればその下に書いてある場所にここの声が届くみたいです。
「で、これが音量と……」
ここで、いろはちゃん気づいちゃいました。
音量をゼロのままにしている状態ならば、いくら学校中のマイクをオンにしても別にここの音が聞こえないんじゃないのかと。
「ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ」
一通り押しちゃいました。
まあ、違ってて音が流れちゃっても謝ればいいだけです。
それにしても面白いですねこの機械。あとこの背徳感といいたまりません。
「さあ、一通り遊んだから、もう帰るかな」
流石にポチポチするのにも飽きたので、私は全部のスイッチを押し直し、電源を消そうとしたのですが……
「なあ、本当にここ大丈夫なのか? 雪ノ下」
「ええ、だから奉仕部にインタビューの依頼が来たと言っているでしょう比企谷君? 先に言っておいて開けておいてもらったのよ。放送委員や小町さんに由比ヶ浜さんも、あと10分もすれば来るわ」
なんとせんぱいと雪乃先輩が、放送室に入ってきます。
あまりに突然なことに、私はついテーブルの下に素早く隠れてしまいました。雪乃先輩に見つかったら多分私殺されますから。
さらに、、、一番やっちまったのがですね。
……びっくりしすぎて、他のスイッチや電源そのままに、音量上げちゃったんですよね。
そうとは知らず、せんぱいと雪乃先輩は二人の会話を続けます。学校中に会話がon airなことも知らずに
「でも、なんで俺たちだけこんな早く来たの? 小町とかみたいに時間通り来ればよかったんじゃ」
「……あなたと、二人の時間が欲しかったから」
「……そ、そうか」
「……ええ、そうよ」
……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
なにイチャコラしてんですかマジヤバいですよ。今あんたたちの会話は学校中にon airなんですから。学校中の人を糖尿病にでもするつもりですか。
ですが、そんな私の危機感虚しく、二人はエスカレートし始めます。
「なあ、雪乃」
「っな、なによ、、八幡。いきなり抱き締めたりして。それに名前……普段はあんまりこういうことしてくれないのに、どういう風の吹き回しかしら」
「雪乃が可愛いことを言うのが悪い」
「か、かわっ……うぅ、もう……。ねぇ、可愛いのは、私の言葉だけ? 」
「いや、お前が言うから可愛いんだよ。雪乃……顔、こっちに向けろ」
「……うん」
ハワハワハワハワハワハワ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
これはこれはマジですかもしかしなくもいえもしかしていや明らかにこの流れは……
『んっ……♡ チュパっぶちゅっ……んん!! ぁんっ♡ ハァハァ……ちゅぷちゅっ……ああんっ♡』
ああ。やっちまいましたね。
そのあと、この私にとっては、いいえ、全校生徒にとって地獄の時間は約1分ほど続き、勢いよく放送室のドアを開けて凍えるような声を二人に浴びせた結衣先輩が来るまで、全校生徒凡そ1000人超はそれに耐えなければなりませんでした。
その後、後から来た放送委員やお米ちゃんらとともに、二人は職員室へとりあえず連行されていきます。
私は誰もいなくなった隙に、忍者のように放送室から逃げ出し、自分の教室に帰るのでした。
さて、悠々と廊下を歩きながら、自分がやってしまったことの重みを冷や汗ダラダラで思い直す美少女は、一体誰でしょう?
そう、私、一色いろはなのでした。
「」
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ふみふみ
本当にやばかった。
あそこで私がいたことがバレたら、色々と終了してしまうところだった。
雪乃先輩にお米のダブルパンチだけでオーバーキルなのに、不機嫌になった結衣先輩とか怖すぎて多分ちびる。
さあ、問題です。
廊下を青い顔をしながら歩いていても、今も周りにいる一年生男子くんたちの目線を釘付けにしてしまう、可愛いだけでなく年上の魅力まで最近身につけてしまい、なんならちょっと前に一年生のイケメン君に告られ、お陰で一年生女子たちからも妬まれ始め、そしてさらには同級生女子からの怨念がもっと強くなってしまったこの完全無欠な美少女は、一体誰か。
そう、私です⭐︎⭐︎
* * *
「い、いっしきせんぱい!」
廊下を歩いていたら、なんだか知らない一年生男子君たちに呼び止められました。私としては早く教室に戻って休みたいところなのですが、生徒会長なんてしてる手前、なかなか一般生徒の皆さんを無碍にもできません。
「はい。なんですか?」
「え、えっと……俺たち、一色先輩にお願いがあるんです」
「お願い、ですか? 」
「は、はいっ! 是非、お願いしたいです!!」
はあ。
十人ほどの一年生男子君たちは、一斉に私に向かって頭を下げました。腰の角度は90度。しっかりしたお辞儀です。人に何かを頼む態度としては申し分ないのですが、何がこれほどまでに彼らを駆り立てるのでしょうか。
「あ、申し遅れました。俺たちは、一色先輩のファンクラブやらせてもらっています。クラブ名を聖水いろはすと申します! ちなみに自分は団長です! よろしくお願いします!」
は? ファンクラブ?
「は? ファンクラブ?」
おっといけないいけない。思わず本音と建前が一緒に出ちゃいましたね。つーか団体名舐めてんのかコラ
「はい! つきましては、俺たちは一色先輩にふみふみして欲しいっす!」
は?
「は?」
何言ってんだこいつら。ふみふみ?
「ふみふみっていうのはですね、今から俺たちが全員廊下に横になるので、その上に乗って俺たちをふみふみして欲しいんです!」
頭沸いてんのかこいつら。
「お願いします! 俺たち、このままじゃあ比企谷……一年のアイドル、比企谷小町のファンクラブ、小町米との抗争に負けちまうんです!」
それは、無視して歩き出そうとしていた私の足を止めるには、十分な一言でした。
「あいつら……比企谷さんに蔑まれながら順番に顔を叩かれるっていう動画をとって、自分たちの信仰心を広く世に広げているんです! この前、小町米の団長である川崎大志にも上から目線で信仰心についてマウントとられて……だから、俺たちも負けるわけには行かないんです!」
比企谷小町、ファンクラブ?
負ける?
私が?
お米に?
ほう。
はあ。
そんなことが許されるはずないじゃない。
「みんな……いますぐそこに寝転びなさい」
* * *
「一色先輩! 準備できました!」
廊下に響く団長の声。廊下に丸太の様に寝転ぶ九人の一年生男子。一人は動画を撮っています。準備万端です。
「じゃあ、いきますよ?」
静かに上履きを脱ぎ、私はゆっくり、彼らの上に乗りました。
小町米だかてんてこまいだがなんだか知りませんが、私がお米に負けるなんて、あっていいはずがないでしょ?
あ、もしかして今日のアレもなんか裏があるの?
私を自分のものにしてペットにでもしようとか?
想像してしまう。私を蔑んだ目で見るお米を。
薄ら笑いを浮かべながら、あいつはこう言うんだ。
『ふっ。所詮いろは先輩なんて、小町に好きかってされるのが似合ってますから……大丈夫ですよ。優しく扱ってあげますからね……ふふふふふふ、アハハハハハハ』
その想像が、私に火を点けました。
「しぃねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねぃ!!」
「あっいい、いいです!」
「ああ、俺たちは今一色先輩にふみふみされている!」
「ああ! 幸せ!」
「最高だぜぇ!」
「もう俺風呂はいらねぇ!」
「すごぉいのぉ」
「す、素晴らしい、素晴らしい感情の昂ぶりです!」
「あっあっあ」
「至上の幸福にござるゥゥ」
さて、問題です。
鬼の気を放ちながら、全身全霊をかけて年下の男の子たちをふみふみしている、最近大人の魅力をつけてきた美女は、一体誰でしょうか?
そう、私、一色いろはなのでした。
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お団子頭の恐怖
海からの風が、私の白くきめ細やかな頰の柔肌を撫でます。
せんぱいが言うベストプレイスという場所に、私は来ていました。
今は昼休みも終わり、5時間目の待ったただ中。
そうです、なんとなく、また授業サボっちゃいました。
平塚先生みたいにガミガミうるさい人がいなくなった今、割と好き放題やれているのが楽なとこでもあり、悲しいところでもありますね。
放置というのは、信頼されているといえば聞こえはいいですが、ろくに見られていないとも取れますから。
さあ、問題です。
午後の陽差しに当たりながら、時折吹く風に亜麻色の髪をたなびかせ、優雅に甘々なコーヒーを飲んでいる、まるで自然の祝福を一身に受けたかの様な美少女は、一体誰でしょう。
そう、、私です!
* * *
「といっても、ここで座っているだけというのも暇だなぁ」
そうです。
午前中にベッドの中でぬくぬくしたりした私には、正直眠気はほとんどないわけで。
いくら午後のお天気の日の陽差しだとしても、私をウトウトさせることには成功していないようでした。
加えて、昼休みも色々あったから、私まだお昼食べてないんですよね。
「はぁ。暇。……とりあえずどこかに移動しよう」
ただの日向ぼっこで満足するほど、私はまだ老け込んではいないのです。それなりの刺激を探して、私は立ち上がります。
まあ、授業中の今、それなりの刺激なんて探してもないんでしょうけどね……
そう思っていたことが、私にもありました。
* * *
私の城。
ゲフンゲフン、総武高校では、一階に多目的トイレが設置されています。まあうちの学校には今のところ健常者の方々しかいないので、普通にちょっと豪華な誰でもトイレというのが現状なんですが。
その多目的トイレが、ほんの少しだけ開いていました。
中の電気がうっすらと外に漏れ出しています。
まあ、それだけなら別になんの問題もないんです。
中から、人の声がしなければ。
恐る恐る、私はほんのちょっと開けっぱになっている多目的トイレまで近づいていきます。
近づくにつれ、だんだん中からの音も聞こえるようになってきました。
甲高い女子の声……そして、ぴちゃぴちゃという水音がうっすら聞こえます。
考えないようにしながら、私はさらに近づきました。
この時点で嬌声と謎の水音は結構大きく聞こえています。それにしてもさっきよりも大きいので、もしかしたらラストスパートに突入しているのでしょうか。
そして、隙間から恐る恐る中を覗くと……
『ハァンハァン! ……ひっきー! ヒッキー! ゆきのんじゃなくて私をみてぇ♡ わたしをすきにしていいからぁ……あふんんんんん♡♡♡ 』
中には、見慣れたお団子頭が、私に背を向けるように便器に座って真っ最中でした。最高にハイってやつです。
そして……結衣先輩は左手でグチョグチョしながら、スマホを右手に持って……あ、あれせんぱいの写真だ……なるほど、あれをおかずにしてるのか。
『やぁん♡♡♡ わたし、もうがまんできないぃん!! わたしのなかにだしてヒッキィィン!! あっあっあっぁああああああああああぁああああああああああん!!!』
果てたようです。グッタリしてます。
……っちょっとくさい。
それにしても、多目的トイレの鍵を閉め忘れてしまうほどに欲求に支配されていたわけですか……
まあ、十中八九結衣先輩が授業サボってまでこんなところでいたしているのは、昼休みの雪乃先輩とせんぱいのアレが原因でしょう。結衣先輩にも本当に悪いことをしました……
さあ、長居は無用です。
さっさと帰りましょうと、覗いていた体勢から動かした、その時でした。
がつん
「っ」
不意に、私の手が多目的トイレのドアに当たってしまいます。音が出てしまいました。流石の私も少し焦ってしまい、少しだけ体がフリーズしてしまいます。
そのフリーズが、良くありませんでした。
『……だれ? ……あ、あいてる…………ドア、鍵かけるのわすれちゃったかぁ』
ゆっくりと結衣先輩は便器に座ったまま、顔だけをこっちに振り返ります。その顔は、致したばかりだからなのかどこか呆けていながら、、泣いていました。
めっちゃ涙が頰を伝っていました。
目からはハイライトもなくなっていて、まるでこの世の全てを呪っているかのような……そんな恐ろしい目。
『んん……ああ、そのこっちをのぞいているめは……いろはちゃんかぁ。………………ねぇ、ちょっとこっちに来なよ』
恥も外聞もなく、半泣きになりながらも懸命に廊下を走っている生徒会長がいました。
とにかく体に鞭を打って恐怖から逃げることに全力をあげ、この世の恐ろしさを身をもって体感した、儚げな美少女は一体だれなのか?
そう、わたし。
一色いろはなのでした。
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花占いサキサキ
「はぁ、、はぁ」
屋上に来ました。
無我夢中で走っていたので、別にここに逃げ込もうと思っていたわけではないのですが。
……それにしてもこの学校、闇が深くて重すぎませんか? ヤバいやつしかいないんですか? ちょっと責任者出てきて欲しいですね。
さあ、その責任者とは、いったい誰か
そう、私です……
* * *
せっかく屋上に来たので一休みします。
あ、闇落ちデカパイオナニー団子はあれから全く襲ってくる気配もないので、撒いたと言って差し支えないでしょう。そこは一安心です。
「はぁ。とりあえず、ここなら気を休められるかも」
大の字になって、私は今日一日の出来事を思い出します。
雪乃先輩の胸を無意識に煽り、結衣先輩のお子様パンツを白日の元に晒し、三浦先輩とお米に襲われそうになって、せんぱいと雪乃先輩のラブサウンドを学校中にon air。一年生男子をふみふみして、悲嘆に暮れて授業中に抜け出してまで多目的トイレで072していた結衣先輩に見つかるというホラー体験。
……厄日かなにかでしょうか。
総武高校って、実は結構問題だらけの学校なのかもしれません。生徒たちのメンタルヘルスケアに乗り出したほうがいいのかも、結構本気で。
そんなふうに大の字で屋上で横になりながら、私は青い空を見上げていると、また、何かの音……いえ、なにかの声が聞こえてきました。
「……すき、きらい、すき、きらい、すき……や、やったっ! 比企谷は私のことやっぱり好きなんだ……」
……屋上には、またさらに梯子みたいなものを登って行ける場所がるのですが、そこにどうやら誰かいらっしゃるようです。
「うふふ……よ、よし、けーちゃんを出汁に、あいつをウチに誘おう。家に呼んで……そしてなし崩し的に私の部屋にいれて、、襲えば……ふふふ」
屋上に自分以外は誰もいないと思っているのか、随分上機嫌、、いや、興奮気味に喋ってくれていますね。どうやらせんぱいの関係者みたいです。あの人はどうやら変人に好かれる傾向があるみたいですね。なんだかせんぱいが可哀想になってきました。
そして、ニヤニヤ顔の声の主が顔を見せました。
ニヤニヤしながら、梯子を降って、屋上の私と同じ段に今降り立ちました。
手には花びらがなくなった花のようなものを持っていて、どうやらさっきまで花占いでもしていたみたいです。
「……」
「……」
目が合いました。
あ、この人……たしか、えっと、川なんとか先輩?
プロムの時とか付き合ってくれたひとだったから、なんとなく覚えています。
目があってからは、顔を真っ赤にして段々と怒りの形相に変わっていく川なんとか先輩を視界に入れているのですが、さっきまでに経験した本物の恐怖と比べると、随分チープに思えてなりません。平時なら十分怖いんでしょうけどね。
「あ、あんた……聞いてた?」
顔を真っ赤にプルプルしながら、川なんとか先輩は私に尋ねます。
ちょっと可愛いので、おちょくってみることにしました。
「すき、きらい、すき、きらい、すき……あと、比企谷とか言ってましたね! 」
満面の笑みで言ってやりました。
あ、もしかしてこれはゆすりのネタに使えるかも。
川なんとか先輩を使ってせんぱいを誘き寄せるとか……ぐへへへ、夢が膨らみますね。
「あれれ〜。そういえば、せんぱいを部屋に連れ込んでとかも聞こえたんですけど、連れ込んで何する気だったんですかぁ? わたしぃ、気になっちゃいますぅ」
あ、両手を顔にやった。
プルプルがすごいです川なんとか先輩。ちょっと可愛いですよこれ。なんだか唆られますね。
「まあ? とりあえず、せんぱいのことが超大大大好きなんだなぁってことは、よぉーく伝わりました!」
ビシッと敬礼。
さあ、ここまでやればもういいでしょう。あとはゆっくりと脅して私の忠実なる僕に……
「……そう、そこまで聞こえてたんだ……生かしてはおけないね……悪いけど、せめてあんたにはしばらく眠ってもらうよ」
え?
プルプルするのをやめて、川なんとか先輩は覚悟の座った目をしておられました。そして、右手をグーにして、左手で右手をなでなでしながら私に近づいてきます。
なにこれ、ヤバくない?
「あ、わ、わたしはこれで」
本能で危険を察知。
足早に私は逃げようと、したのですが……
「逃がすわけ、ないでしょ?」
「うぅっ……」
腹パンを一つ、決められてしまいます。
それが確認できた頃にはもうすでに、私の意識はだんだんと薄れていっていました。
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比企谷八幡狂 狂祖 雪ノ下陽乃
あれ?
ここはどこ?
……って、あ、屋上だ。
そうだ私……あの怖い人に鳩尾ブン殴られてから気を失ってだんだ。全く、本当に怖い人は怖い人の素質があるんじゃないですかね。まさか雪乃先輩よりも前に誰かに実力行使されることになるとは思いませんでした。
雪乃先輩vsあの怖い人で戦ってみたりしたら面白いんじゃないんですかね? ほら、ゴジラvsガメラみたいに。
「ハァ……今時間どのくらいだろう」
私はどのくらいノビていたのか分からないので、とりあえず携帯を出して時間を確認します。
「うっわぁ。もう5時間目始まってる」
はい。ばっちり昼休みの時間はぶっちぎっていて、もう普通に5時間目の時間です。
さすがに午後の授業はサボるつもりはなかったんだけどなあ……まあもう仕方がない、見晴らしのいいところでぼうっとしますか。ということで私はちょっと登って、屋上をまた見渡せる、さっきまであの怖い人がいた場所に登ります。
「うわあ……わりといい景色ですね」
ちょっと上がっただけなのに、それなりに良い眺めがそこにはありました。
午後の暖かい日差しと、ほんの少し感じる風。一面の青空に、静かな空間。そして下に広がるは平民たちが暮らす学校。
「なるほど、ここは生徒会長に相応しい場所ですね。今度サボる時来ようかな」
それにしてもこの景色、良い気分になってきます。私の天下ですよねこれ。うへへへへ
と、天下に浸っていた私の静かな世界は、すぐに潰されることになります。
というのも
「ここなら誰もいないよね。来なよ比企谷くん」
「……なんなんすかね。俺一応授業なんですけど……勘弁してくださいよ陽乃さん」
よもやよもやです。
なんと屋上にはハルさん先輩と、げっそりしたせんぱいがやってきました。
私はとっさに二人に見つからないように、その場で固まります。こっちに登ってこない限りバレることはないので、音さえ立てなければこっちのもんです。
「あれれ〜、そんなこと言っていいのかな比企谷くん。別に、この『比企谷クンがガハマちゃんの胸をガン見してる写真』を雪乃ちゃんにばらしたって良いんだぞ?」
「……要求はなんですか?」
……ははん。ハルさん先輩がせんぱいの弱みを握ったって訳でした。確かにこれは雪乃先輩にバレたらやばいですね。……でもなんかこれ面白そう。録音しておこう。
「うふふ……簡単だよ。私を抱きしめてチューしてくれればいいだけだから」
「は?」
は?
「なに? やりたくないならこれを雪乃ちゃんだけじゃなくて色んな人に送りつけるし、なんなら生徒会長ちゃんの生足やお尻ガン見してた写真なんかもあるからそれも」
「……お願いします。勘弁してください」
は? 生足ガン見ってなんです? っていうかお尻? せんぱいガチですか?
……今度生足でわざと軽くお尻ぶつけようかな。ポヨンって感じで。
「えー、やだよ。この比企谷八幡狂狂祖としては、ね♡」
「なんすかその怖すぎるワード」
「まあ、ここまで来たら逃さないけどねぇ……本当は保健室が良かったけど、なぜか今日保健室の監視体制は万全だったから……でもまあここで青姦も中々に乙だしいっか。ほら比企谷くん……年上のお姉さんは嫌い?」
「うわちょっと待てこっち来るな!? 今何つったあんた!!」
「んもぅ。待ちなよ、もうキミは私に食べられる運命なんだから♡♡♡ 私の性欲ももう限界なんだよね」
「あんた雪ノ下の家に怒られたらどうすんだよ!?」
「どうせ来年には雪乃ちゃんと交代だも〜ん。ほら、比企谷くんも雪乃ちゃんと一発ヤル前にお姉さんと練習しよ? 大丈夫だよ私も初めてだし。一緒に気持ちよくなろうね? 」
「アンタまじで落ち着け!? しかもこんな屋上でとか頭おかしくなってますよ雪ノ下さん!」
「いいのよ、逆に興奮するでしょう? ……比企谷くん、青空の下で、一緒に気持ちよくなろう?」
「うっうお!?」
あ、せんぱいがハルさんに押し倒された。
あー、このままじゃあせんぱいやられちゃいますね。
まあ、本当なら私直々に性欲に溺れたハルさん先輩からせんぱいを守るところなんですが
「姉さん。私の比企谷君に何をしているのかしら」
ここ、総武高校は私の城な訳です。
ラインって便利ですね。本当。
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溜まっていたストレスからのいきなりの解放は人をおかしくする
「……っク……どうしてこんなに、手も足も出ないの」
雪乃先輩は、ハルさん先輩に蹂躙されていました。
結局、せんぱいを守りながら戦う雪乃先輩では遥か上位互換の姉には敵わないのか、割と最初の方でもう大勢は決していました。
「もう……実力差を考えないで私に挑むからだよ雪乃ちゃん。でも、彼を無事にここから逃したことだけは評価してあげる」
屋上で息を切らしながら膝をつく雪乃先輩に、余裕さを崩さずハルさん先輩は歩き言います。
その目には……欲望に忠実なハルさん先輩の狂気がハッキリと浮かんでいて……
「……も、う……ここまできたら、、我が姉ながら……呆れたと言う、、しか」
その言葉を最後に雪乃先輩は倒れました。
……これ、結構やばいです。
せんぱいがどこまで逃げているのか分かりませんが、今のハルさん先輩は授業中の教室であろうとも突撃していきかねない怖さがあります。
自身の解き放たれた性欲に歯止めがかからず暴れ回る、悲しきモンスターがそこにはいました。
はぁ。やだなぁもう。
でも、ここは私の城なのです。私の領地でやりたい放題やられるのも、見過ごすことはできません。
「ちょっと待ってください。これ以上好き勝手 やらせるわけにはいきません」
私は屋上の安全スペースから降りて、性欲モンスターと同じステージに立ちました。
さあ、いろはちゃんだってやる時はやるってところを見せてあげましょうか。
「……あら、もしかして雪乃ちゃんを呼んで私の邪魔をしてくれたのはあなただったの? ……あなたがいらないことをしなければ、今頃私は比企谷君に跨っていたはずなのに……覚悟はいいかな?」
うっわぁ。
人って欲望に支配されるとこんなんになるんですね。
こうはなりたくないです。嫌悪感とかやばいです。
「ハルさん先輩、自分で自分の欲望を抑えられなくなったら、それはもうただの獣ですよ? 家畜同然な人に私の城を荒らされるのは我慢ならないんです。どっか行ってくれませんかねこのメス豚が」
精一杯、強がりと共に私は目の前のモンスターに吐き捨てました。
……正直、雪乃先輩さえも倒された今、私単体でなんとかなる相手だとは思えないのですが……
多vs一人なら、勝機はある。
「……ひっきーは渡さない」
「ヒキガヤ、ヒキガヤ、アイシテル……ユキノシタのネーちゃん、コロス」
「いろは先輩のお願いいろは先輩のお願いいろは先輩のお願いいろは先輩のお願いいろは先輩のお願い」
「いろははあーしが守るいろははあーしが守るいろははあーしが守るいろははあーしが守るいろははあーしが守る」
屋上に続々と入ってくる歴戦の猛者たち。
いやあ我ながら人望が厚いですね。録音と簡単な状況説明、あと私があのモンスターを止めると書いたらすぐに来てくれました。
さあ、少なくともこれで戦いにはなるでしょう。
私は、モンスターの方を見ました。
「……ねえ、いろはちゃん今私になんで言ったの?」
モンスターは、顔を下に向けながら私に聞いてきました。……家畜とかメス豚発言は流石に気分を害しましたかね? まあ、今の私にはたくさんの盾があることですし、訂正の必要もないでしょう。
「家畜にメス豚って言ったんです。それとも暇人クソ乳ババアって言った方が良かったですか?」
私の言葉を聞いたハルさん先輩は、ゆっくりとその下を向いた顔を上にあげました。
その顔は、さぞかし怒りに支配されているのだろう
と思ったのですが
現実はそれなりに厳しいものだったみたいです。
重責から解放され、恍惚の表情をした頭のおかしくなったお姉さんがそこにはいました。
「……アアン……いい♡」
「は?」
「いい、いいよいろはちゃん……なんだか私すっごくゾクゾクしてきちゃった♡♡♡♡♡ ねえ、もっと言って? いや、もっと罵ってください……ご主人様ぁ♡♡♡」
顔を上げたハルさん先輩は、目がイッちまったドMの悦ぶ顔をしていました。両手で自分の頬を両サイドから挟んで、悦びに満ちた顔をしていらっしゃいまして
そのハートが浮かんだ目はたしかに、私にロックオンしていました。
その顔を確認し、
冷や汗をダラダラ流しながら、
すぐに屋上から脱兎の如く逃げ出した亜麻色の髪を持つ知的な美人は、一体誰でしょう?
そう、私なのでした。
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