PhantasyStarOnline2-IF-「裏切りのユウ」 (あるふぃ@ship10)
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#1「裏切りの守護輝士」
ーマザーシップ・シバ最奥部
「まずはそうですね...手始めに、あの船に向かってもらいましょうか。」
優美な声の女性はそばにいる少年に1つのアークスシップの映像を見せる。
「...分かりました。」
その映像を見た少年は何食わぬ顔で返事をした。
ーアークスシップ10番艦「ナウシズ」
「なぁ、マザーシップ・シバに先行したウルの守護輝士の噂、知ってるか?」
「あぁ、なんでもフォトナー側に寝返ったって話だぜ。かなりまずくないか?」
ロビーですれ違うアークスたちから聞こえてくる会話に、あるふぃの不安がより一層募る。
(ユウ...マトイ...何をしている...早く帰ってこい...!)
アークスシップ2番艦「ウル」の守護輝士であるユウ、そしてマトイは先行部隊として、マザーシップ・シバへの突撃作戦を一足早く開始していた。
だが作戦開始から数刻、不穏な通信が入った。
『先行部隊によるマザーシップ・シバへの突撃作戦失敗。現在、マザーシップ・シバからの一時撤退を開始。繰り返す。先行部隊によるマザーシップ・シバへの突撃作戦失敗。現在、マザーシップ・シバからの一時撤退を開始。』
通信を聞いた直後はいったい何があったと騒ぎになったが、それから少ししてアークスたちの中で一つの噂が浮上した。
《 ウルの守護輝士が寝返った 》
当時は根も葉もない噂だったが、撤退が完了したウルから確信に迫る通信が入った。
『マザーシップ・シバからの一時撤退完了。ただし、最奥へ侵攻した守護輝士2名の消息不明。繰り返す。マザーシップ・シバからの一時撤退完了。ただし、最奥へ侵攻した守護輝士2名の消息不明。』
守護輝士2名の消息不明。
噂の信憑性を高めるには十分な言葉だった。
噂の通り守護輝士が裏切ったか、それとも死亡したか。
だが2人と親しくしてきたナウシズのアークスたちはそんなことを微塵も思ってはいなかった。
あるふぃ、セラフィム、クオン、アリシア、ALiCiA、まリス、蝉時雨、ろん...
2人と共に過ごし、皆で共に笑ったそれぞれの日々の記憶が、今起きている噂や不安を"あり得ない"と必死に否定し続ける。
そんな折、艦内に緊急アナウンスが流れる。
『緊急警報。ナウシズ市街地に多数の閃機種の反応を確認。艦内のアークス各員は、ただちに迎撃をお願いします。』
ナウシズ艦内が一気にどよめく。
自分も行かなくてはと準備をしているところに、シエラから通信が入る。
『あるふぃさん!市街地での多数の閃機種反応の他に1つ、新たなフォトナー反応があります!あるふぃさんはそちらの対処をお願いします!』
シエラの言葉に、あるふぃの脳裏に一瞬、最悪のビジョンが浮かんだ。
「...分かった。まリスや他の皆はどうしてる?」
『まリスさんにはこのあとあるふぃさんと一緒に動いてもらうようお願いしておきます!他の皆さんには閃機種の迎撃を...』
「すまないが、まリスも皆の方に行っておいてもらえるよう指示できないか?その方が早く片付くはずだ。私の方へ来るのは、そっちが落ち着いたらでいい。」
『あるふぃさん1人では危険です!まリスさんも同行させて...』
「大丈夫だ。時間稼ぎぐらいはできる。いざとなれば、あの力を解放してなんとかするさ。それに、私は1vs1の方が得意なのは、シエラもよく知ってるだろう?」
『...分かりました。くれぐれも無理はしないでくださいね!状況を見て、すぐにまリスさんを向かわせます!』
シエラに軽く返事をし、通信を切る。
あるはずがない、あってはならないと必死に考えるが、妙な胸騒ぎが抑えられない。
もし、あの噂が本当だとすれば、他の皆に会わせるわけにはいかない。
最悪の場合、手にかける必要だって出てくる。
そんなことを彼女たちにさせたくはない。
あるふぃは1人、シエラに指定された新手のフォトナーがいるというポイントへ向かう。
それが、絶望の始まりとも知らず。
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#2「対峙するは黒き死神」
シエラから受信した指定ポイントまで駆け抜ける。
ここまでの道中に閃機種の反応は無く、はるか遠くからアークスと閃機種の戦闘音が聞こえてくるぐらいには静かなものだった。
(まるで招かれているような...)
そんな不安を抱きながら進んだ先に、1人佇む少年。
「まリスさんも来ると思っていたのですが...あなただけでしたか、あるふぃさん。」
背を向けていて顔は見えなかったが、その聞き覚えのある声に、彼の名前を呼ぶのは容易かった。
「ユウ...」
必死に"あり得ない"と否定し続けていたものが崩れ去る。
今まさに最悪の状況が目の前で起きている。
《 ユウの裏切り 》
ウルからの通信、アークス間で浮上する噂、シエラの言葉...
今まで必死に否定してきたものを、目の前の現実が確かなものにしていく。
だが、覚悟していなかったわけではない。
あるふぃは振り返ったユウに語りかける。
「君は最奥に向かったと通信があった。その場で何があった?シバに何を吹き込まれた?」
「あるふぃさん、僕はただ、この世界に絶望しただけです。シバに何かを吹き込まれたわけではありませんよ。」
「...マトイはどうした?」
あるふぃの質問に、ユウは一瞬沈黙する。
「...マトイは、僕がこの手で殺しました。」
「っ!!」
ユウの衝撃的な言葉に、思わず感情が揺れる。
心拍数が上がり戦闘意欲が高まる。
沸きあがる感情を抑え込み、あるふぃは会話を続ける。
「...君はそれでよかったのか?愛し合っていた人を手にかけ、共に過ごしてきた仲間を裏切る。それが本当に君が望む姿なのか?」
「僕は知ってしまったんですよ。この世界の虚しさを。繰り返される悲劇を。これ以上この世界に希望が宿ることはないんです。だからせめて、僕自身の手で壊すんです。この不完全な世界を。」
ユウの"世界を壊す"という意思に、迷いは無かった。
もはや、私がどんなに声をかけたところで、何かが変わるわけでもない。
「そうか...ならばナウシズの守護輝士として、君の友人として、私には君を止める義務がある。」
背に携えていたグリムアサシンを手に持ち、武器を構える。
「僕を止める、ですか。ナウシズの"黒き死神"と言われたあなたが、そんな甘い考えでいいんですか?殺す気で来てください。僕もあなたを、殺す気でいかせてもらいます。」
どこからともなくコートエッジを出現させ、ユウも武器を構える。
フォトンコートで包まれたその刃は、かつてユウが扱っていた色とは違い、血のように赤く染まっていた。
ひしひしと伝わってくる殺気。間違いなく彼は、私を本気で殺そうとしてきている。
もはや時間稼ぎなどと言っている場合ではない。
手を抜けば、確実にもっていかれる。
「...そうだな。今の君を相手に、手加減をする余裕はないだろう。ならばこちらも、初めから本気でいかせてもらう。」
目を閉じ深呼吸をする。
抑えていた感情を解放させ、心拍数を再び跳ね上げる。
目の色は赤く染まり、開けた瞳に若干の稲妻が走る。
高まる戦闘意欲とは裏腹に、冷静に自分に言い聞かせる。
なんとしても、ここで止めなくてはならない。
なんとしても、ここで負けるわけにはいかない。
なんとしても、"あの頃のユウに戻す"。
「覚悟はできたようですね。」
「あぁ...ここで必ず、おまえを止める!!!!!」
絶対に起きてはならない死闘が、始まる。
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#3「ユウvsあるふぃ」
刃と刃が激しくぶつかり合う。
交える度に発生する衝撃波が周りの地形を変えていく。
戦いが始まってから何合打ち合っただろうか。
少しずつだが、あるふぃの動きが鈍くなっていた。
ユウは顔色を一切変えず、あるふぃへ容赦なく攻撃を続けていく。
「なるほど...シバと同じフォトン吸収の力か...!!」
「その通りです。ですが、今さら気づいたところでもう手遅れですよ。」
ユウは距離をとり、あるふぃへ向けて気弾を連発する。
一方あるふぃも、ステルスチャージとドッジカウンターショットを巧みに使い、ユウへ反撃していく。
だがどれも、決定打にはなりえない。
「いつまでそうしているつもりですか。そんな動きでは、僕を殺すことなんてできませんよ。」
たしかにこのまま長期戦に持ち込まれれば、ほぼ無尽蔵にフォトンを扱うことができるユウの方が有利なのは明白だった。
なら、今ここで決着をつけにいくしかない。
(反動は大きいがやるしかない...!)
「ファントムタイム...!!」
自身の持つ身体能力を爆発的に上げる力とファントムタイムの重ね掛け。
過去に一度試したことはあったが、あまりに大きな反動に長期間体を動かせなくなるので、使わないようにしていた。
だが、今は相手が相手だ。出し惜しみをせず死ぬ気で行かなければ、彼を止めることはできない。
(重ね掛けはもって数十秒...それまでに決着をつける!!)
ユウの気弾の弾幕を素早く避けながら、踏み込む機会を伺う。
あるふぃは、ユウが次の気弾を打とうとする一瞬の隙を逃さなかった。
(今!!)
持っていたロッドを素早くカタナに切り替え、クイックカットで一気に間合いを詰める。
「っ!!」
さすがのユウもこれには反応が僅かに間に合わず、かろうじてコートエッジで刃を受け止める。
「がはっ!」
刃を受け止めることで精一杯だったユウに、あるふぃが思いっきり腹に拳を入れる。
力を振り絞りコートエッジであるふぃを振り払うが、続けざまに後ろへ回り込みユウへ追い打ちをかける。
気弾を打たせる間も攻撃を繰り出す間も与えず、あるふぃはユウへ四方から攻撃を仕掛け続ける。
しかしぎりぎりのところで攻撃を受けきるユウに、あるふぃは若干焦りを感じていた。
(多少の傷を負わせることはできているが、このままでは間に合わない...!)
何度も刃をぶつけ、隙間に物理攻撃を打ち込む。
手ごたえは確かにあるが、何度打ち込んでも倒れる様子がない。
(倒れろ...!倒れろ...!倒れてくれ...!ユウ!!!!)
ファントムタイムの効果時間が残り僅かなのか、あるふぃの速度も落ちつつある。
もはやここまでかと思ったその時、ユウのコートエッジが攻撃を捌ききれずついに胴体ががら空きになる。
「貰った...!!」
ユウの腹部に刃が突き刺さる直前、あるふぃの腹部に重い感触が伝わってくる。
「がはぁっ!!!」
ユウの拳があるふぃの腹に深くえぐりこむ。
「......甘いですよあるふぃさん。アークスに敵対する存在に、甘さを見せちゃダメです。あの時一発目に入れた拳。もっと本気で殴っていれば、決定打を打ち込めたかもしれないのに...」
意識が飛ぶほどに強く入った拳は、あるふぃの力の解放とファントムタイムを消し飛ばすには十分な威力だった。
「さて、どうやらここまでのようですね。最初の相手があるふぃさん、あなたでよかった。きっと万全な状態で挑んでいなければ、僕の方が負けていたかもしれません。」
膝をつきもはや立ち上がる気力も、言葉を発する体力もないあるふぃに、ユウは称賛の言葉をかける。
「そして、あなたの運命はここまでです。あなたを生かしておくにはリスクが高すぎる。世界が壊れ行く様を、遠くから見守っていてください。」
ユウはコートエッジの剣先をあるふぃへ向ける。
「さようなら、あるふぃさん。おやすみなさい。」
「ユウ...皆...すまない...」
ドスッ
激しい戦闘が終わり、静かになった市街地に剣が突き刺さる鈍い音が響く。
腹部から血を流し、倒れこむ女性の姿を背に、少年はナウシズの奥へと進む。
誰にも見られることのない涙を流しながら。
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#4「連鎖する悲劇」
激しい戦闘を終え、ナウシズ中枢部へと歩みを進める少年。
歩く彼の視界は、無意識に流れる涙で前が霞んでいた。
マトイを手にかけた時を最後に、泣くのは最後だと自分の中で決めていた。
世界を壊すという目的に、感情は余計なものでしかない。
シバのように、仲間がやられても動じることなく、ただ自分の目的のために動く。
たとえそれが、共に過ごした仲間を手にかけることになっても。
「シバもなかなか、酷な指示をしてきますね...」
誰もいない道を、1人歩きながらつぶやく。
ー「いいですかユウ。ナウシズの守護輝士であるあの二人だけは、確実に殺しておきなさい。それが、あなたにとっても良いけじめになるでしょう。」
ここに来る前にシバにかけられた言葉は、冷徹で、残酷な内容だった。
(あれは間違いなく、僕を試しているんだろう。僕が本当に信用に足る存在か。そして、目的のためなら、どこまでも冷徹になれるかどうか。あるふぃさんはなんとか倒した。あとは...)
ナウシズの守護輝士である2人には、その風貌と功績から二つ名がある。
「黒き死神」あるふぃ。
そして、「白き戦姫」まリス。
おそらく当初の指示では、2人でこちらに向かわせようとしたはずだ。
だがそれを、あるふぃさんが断った。
自分が敵になったことを薄々分かっていたから、他の皆に自分の姿を見せず、1人で止めようとしたのだ。
だがその優しさが、かえってその身を滅ぼした。
コートエッジを突き刺した時、掠れるぐらいに小さな声で放った最後の言葉ですら、自分以外のことを気にかけていた。
あの時刺した感触が、今でも忘れられない。
たとえ1人目だろうと2人目だろうと、共に戦ってきた仲間を手にかける辛さは、到底耐えられるものではない。
(それでも...僕がやらないと...この無慈悲な世界を...終わらせないと..)
ユウは自分に言い聞かせる。
これは、救いようのないこの世界を終わらせるための犠牲。
たとえこの手がかつての仲間の血に染まろうとも、進まなければならない道。
でも、それでも理解できないことが1つだけある。
「どうして2人とも、僕のことを恨まないんだ...」
コートエッジで突き刺した時、彼女たちから流れ込んでくるフォトンに、恨みや憎しみといった負の感情は一切なかった。
赤く染まったコートエッジを見ると、マトイが最後に放った言葉が再び頭の中を駆け巡る。
ー「.........これがユウの選んだ道だから.......私は恨んじゃいないよ.........だから.........生きて.......?」
「どうして...どうして2人とも......最期まで僕に優しいんだ...」
その優しさがかえって残酷なことを、彼女たちは知らない。
ユウは溢れ出ようとする涙を必死に抑え、なおも自分に言い聞かせる。
(でも....これでいいんだ...この道が、皆を救う未来に繋がるんだ...)
────────────────────────────────────────
しばらく進んだ先で、ユウは2人の少女と出会う。
少女たちは足を止め、ユウへ話しかける。
「どうして....どうしてなんですか.....ユウさん.........!!」
2人の少女は、目の前の光景に動揺を隠せずにいた。
「皆を救うためですよ、フィムさん、クオンさん。」
変わり果てた姿に、信じられないとばかりに言葉を失うセラフィム。
代わりに、クオンが口を開く。
「シエラさんからの通信で、新手のフォトナーの元へ向かったあるふぃさんの位置情報が突如消えたと連絡がありました。...念のため聞きますが...あるふぃさんはどこにいますか?」
位置情報が消えた。
おそらくシバが、あの場周辺に通信障害を引き起こしていたのだろう。
そして、念のために聞いた質問。
きっと返ってくる答えは予測済みだろう。
ユウの手に持つ血塗られたコートエッジが、すべてを物語っている。
嘘をつく必要はない。
真実を伝えればいい。
「...僕が殺しました。今さら救助に向かっても、手遅れですよ。」
ユウの返答に、再び2人は明らかな動揺を見せる。
「あるふぃさんが......そんな......」
ついには膝を崩し座り込むセラフィム。
その様子を見ながらクオンは言葉を返す。
「....そうですか.....分かりました。では、一緒に戦った友として.....ユウさん.....ここであなたを止めます。」
状況を素早く飲み込んだクオンは、武器である桜剣プルクラケウスをユウへ構える。
「フィムさん、いつまでそうしているつもりですか。目の前にいるのは私たちが倒すべき敵、フォトナーです。ここで止めなければ、さらに被害が広がりますよ。これ以上、仲間たちを危険にさらすわけにはいきません。私たち2人で、止めるんです。」
座り込むセラフィムへ冷たく言葉をかけるクオン。
もちろん、今まで共に過ごし戦ってきた仲間と、こんな形で刃を交えるのは間違っていると分かっている。
だがこの状況で、そんな甘いことは言っていられない。
今もなお、市街地での閃機種の攻撃は続いている。
たとえ相手が友であっても、この状況を打開するには戦うしかない。
クオンの覚悟を感じ取ったセラフィムは、意を決し、立ち上がる。
「分かりました.....自分は後方から支援します。それと、他の人たちにも連絡を.....」
セラフィムも自身の武器であるモタブの禁書を構える。
「はい、お願いします。それと....危なくなったら、迷わず逃げてください。そうなった場合は、私が時間を稼ぎます。」
クオンの言葉に一瞬ためらいを見せたが、セラフィムは自分たちが置かれている状況を理解し、小さくうなずく。
「作戦会議は終わりましたか?それでは、始めましょうか。」
今まで共に過ごし、共に戦ってきた仲間同士が争う。
これより先は、連鎖する絶望の追憶。
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#5「譲れない戦い」
ユウの周りを翻弄するようにふわふわと飛び回りながら攻撃を繰り出すクオン。
後方からタリスを投げ、シフタとデバンドをクオンにかけ、属性テクニックでクオンのサポートに徹するセラフィム。
2人の連携に、ユウはじわりじわりと追い詰められていた。
「さすがに、エトワールとテクターの連携は厄介ですね...」
エトワールの弱点であるフォトンアーツ直後の硬直。
その隙をカバーするように、セラフィムの属性テクニックがユウを攻め立てる。
あるふぃとの戦闘によるダメージもあり、動きが鈍っていたユウは防戦一方だった。
「ユウさん....もうやめましょう!こんなことをしても救われる命はありません!残存しているアークスが総攻撃をかければ、きっとシバも...」
攻撃を繰り出しながらクオンはユウに言葉を投げかける。
「だめなんです...だめなんですよ....クオンさん...」
繰り出される攻撃を受け流しながらユウは答える。
この2人は知らない。
たとえシバを倒しても、それで全てが解決するわけではない。
それは、新たな悲劇の始まりでしかない。
歴史とは、繰り返されるものなのだ。
「何がだめなんですか!説明してください!内容によっては、あなたの手助けをすることもできるはずです!」
「.........うるさいですよ......」
「っ!!」
小声でつぶやいたユウは、直後、発生した衝撃波でクオンを弾き飛ばす。
「これは.....ヒーロータイム...!!」
驚くクオン。
驚くのも無理はない、フォトナーとなったユウが、アークスのクラスであるヒーローのスキルを使えること自体異常なのだ。
だが、今見ている風貌は、かつてのユウがヒーロータイムを発動していた時の雰囲気と酷似していた。
「これは、僕自身が決め、僕だけが歩く道です。罪を背負うのも、僕だけです。これ以上話しても無駄です。もうここで...終わらせます。」
衝撃波で怯んだ隙を突き、ユウはセラフィムの背後へワープする。
「んなっ...!」
「まずはあなたからです、フィムさん。」
ワープ前に溜めていた気弾を至近距離で構える。
「フィムさん!!!!!!」
必死になってセラフィムの元へ向かうクオンだったが、その甲斐むなしく、最大にまで溜められた気弾が、セラフィムを大きく吹き飛ばす。
「うぐっ!!!!!........がはっ!!!!」
吹き飛ばされたセラフィムはクオンの真横を通り抜け、市街地の建物の壁に大きく打ち付けられる。
「うっ.......クオン.....さん.............逃げ...............て..........」
必死に声を振り絞り、クオンへ伝えようとするセラフィム。
だがクオンに、その声は届かなかった。
「ユウさん........あなたという人は......!!!!!!!!」
もはやクオンに、セラフィムの声を聞く余裕はなかった。
「オーバードライブ!!!!!!」
クオンに光の柱が降り注ぐ。
友を目の前で傷つけられ、とても冷静でいられる状態ではなかった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ユウに向かって、渾身のプロテクトリリースを放つ。
だが冷静さを欠いて、真っ向から突撃してきたクオンの攻撃を避けるのは、ヒーロータイム中のユウにとって、とても容易かった。
「くっ!!!!」
プロテクトリリースを外し、焦るクオン。
すかさず、ユウはクオンの懐に潜り込む。
「すみませんクオンさん。少し痛いですが、我慢してください。」
ユウは持っていたコートエッジをコートバレルに切り替え、ヒーロータイムフィニッシュを放つ。
「ぐっ!!!!.....がぁぁぁっっ!!!!!」
大きく吹き飛ばされたクオンは、セラフィムと同じように建物の壁に打ち付けられる。
あまりに大きな衝撃に、口から血を吐き、即意識を失ってしまう。
「2人とも、そこでしばらく眠っていてください。安心してください、殺しはしませんよ。」
持っていたコートバレルを再びコートエッジに戻し、ユウはまた、ナウシズの奥へと進む。
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#6「白の巫女、黒の巫女」
市街地にこだまする戦闘音。
閃機種の大群とはまた違った場所で、再び戦闘が始まっていた。
「ユウ君.....私には分からないよ.....どうしてそこまでして、シバの側につくのか....」
1人の少女は、ユウに語りかけながら、持っている武器、斬雪に一回り大きな刃を纏わせ攻撃を繰り出す。
「これが、真実を知った僕の答えです。もう、他に選ぶ道なんてなかったんですよ....」
少女の攻撃を受け流しながら、ユウは答える。
"他に選ぶ道なんてなかった"
それはきっと嘘だ。
戦おうと思えば、まだ戦えた。
抗おうとすれば、まだ抗えた。
だけどシバの放つ言葉を聞いているうちに、気が付けば僕は、シバの手を取っていた。
他に選ぶ道が無かったのではない。
他にあった道を、自らの手で諦めたのだ。
もちろんマトイは僕を止めようとした。
その様子を見たシバは、僕に残酷な言葉を放った。
ー「ユウ。彼女を、殺しなさい。」
それは、僕の覚悟を試す言葉。
ここでマトイを殺せないのなら、シバは容赦なく僕を切り捨てるだろう。
生半可な覚悟で歩める道ではないことは、当然僕も分かっていた。
気が付けば僕は、手に持つコートエッジで、マトイを突き刺していた。
目の前で、大切な人が血を流している。
きっと、涙で前が霞んでいたのだろう。
表情はよく見えなかったが、彼女が放つ最期の声は、決して恨みや憎しみの籠った声ではなく、いつも僕に対して話しかけるような、優しい声だった。
「アリシア、ユウはもう、あとには引けない道を選んだのよ。あるふぃさんを殺し、フィムさんとクオンちゃんを倒した。ここまで来たらもう、誰かが止めるまで、進むしかないの。」
もう1人の少女の声が、僕を現実に引き戻す。
「リア.....」
アリシアとALiCiA。
僕がフィムさんとクオンさんを倒してまもなく、この2人は僕の背後を狙って奇襲を仕掛けてきた。
僕はなんとかそれを受け切り、そのまま戦闘に入った。
おそらく、フィムさんの通信を聞いたのだろう。
僕を襲った2人の目はすでに、覚悟を決めていた。
「ユウ君......やっぱりもう.....戻れないんだね.....」
アリシアは最後の確認をするように問いかける。
「....はい。僕はもう、そちらに戻ることはありません。これが、僕の選んだ道です。」
ユウの返答を聞いたアリシアは、降ろしていた斬雪を再び構える。
「......分かったよ。なら私たちは、本気で君を止めるよ。もうこれ以上、君が悲しまないように。」
アリシアは武器を一振りすると、自身とALiCiAに光の柱が降り注いだ。
「オーバードライブですか.....エトワールの硬さと再生能力は、敵にすると非常に厄介ですね。」
「もう、出し惜しみはできないからね。そうだよね、リア。」
アリシアはALiCiAに言葉を投げかける。
「えぇ.....私たちが教えてあげるわ、ユウ。あなたの選択は間違っていると。あなたのその間違った考えを......断絶してあげる。」
ALiCiAの周囲に、炎のようなフォトンが巻き上がる。
手に持っていたグレンノオオダチは、シエンノオオダチへと姿を変える。
「決着をつけよう、ユウ君。私たち2人が、君を全力で止める。」
こちらへ向き直したアリシアの目は、今までの不安や動揺はなく、しっかりとした覚悟を持っていた。
「.....分かりました。こちらも、短期決戦は望むところです。それでは、いきますよ。」
ユウも再び、コートエッジを構える。
(お願いだ二人とも.......もしも本当に僕の道が誤っているのだとしたら.....止めてくれ.....もう僕は.......こんな思いはしたくない.......)
自分の決めた道を突き進むため、友の誤った道を正すため、ユウ、アリシア、ALiCiAの3人は、同時に足を踏み込んだ。
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#7「憧れの人、導いてくれた人、最愛の人」
「ぐっ...........」
ユウは1人、足を引きずりながら、ナウシズの奥へと進む。
────────────────────────────────────────
アリシアとALiCiA、本気の2人の攻撃は、直前までの戦闘よりも遥かに激しく厳しい攻撃だった。
2人の連携にユウは防戦一方。
ここに来てから連戦だったことによる疲弊もあり、攻撃を凌ぎ切ることに精一杯だったユウは、ついに膝をつく。
(....!!)
その勝機を見逃さず、ALiCiAはアリシアに声をかける。
「アリシア!!!!!!」
アリシアも、今が全力を叩きこむ時と、ALiCiAに小さくうなずく。
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」
ALiCiAは持っていたシエンノオオダチを大きく振り回し、渾身の一振りをユウへぶつける。
咄嗟にコートエッジで防ぐユウだったが、背後に回ったアリシアの攻撃を受け止められる余裕はなかった。
「ユウ君..........これが私たちの..........思いだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
両手に持つ剣を1つに合わせ、纏わせていた光の刃をさらに大きなものへと変化させる。
アリシアの渾身のフルコネクト。
その一撃は確実に、ユウを捉えていた。
はずだった。
ガキンッ!という大きな音と共に、辺り一面に煙が舞い上がる。
舞い上がった煙がおさまっていき、視界が晴れた3人の目の先には、見覚えのある創世器が、アリシアのフルコネクトからユウを守っていた。
「これは......明錫クラリッサⅢ.......?」
アリシアが、信じられないとばかりに声を発する。
「はは..........そう.......なんだね..........ユウ君........君はもう..............本当にもう.......あとに引けないんだね..............」
納得したように話すアリシアの声は震えていて、泣いていた。
明錫クラリッサⅢとぶつかりあっていた大きな光の刃は形を崩し、それと同時にアリシアはその場に倒れこむ。
「ふふ........馬鹿だよユウ.............そこまでされちゃったら.............もう私たちだけじゃ...........どうしようもないじゃない..........」
アリシアと同じく、状況を理解したALiCiAも、声を震わせていた。
手に持つシエンノオオダチは、グレンノオオダチへと姿を戻すと同時に、アリシアと同じように、その場に倒れこんだ。
「マトイ..........ありがとう.........」
突如目の前に現れた明錫クラリッサⅢに礼を言うと、出現した時と同じように、パッと目の前から消え去った。
2人はおそらく、体内のフォトンを使い切ったのだろう。
ー「.........これがユウの選んだ道だから.......私は恨んじゃいないよ.........だから.........生きて.......?」
マトイにかけられた最後の言葉が、再び頭の中を駆け巡る。
「そう.....僕は、生きなければならない.....僕にはもう.....戦い続けることしか.....許されていない.......」
ボロボロの体に鞭を打ち、再び立ち上がる。
たとえこの身が果てようとも、僕は戦い続けなければならない。
それが、僕が進むと決めた道だから。
────────────────────────────────────────
「見つけたわよ、ユウ」
足を止め、声のする方へ向く。
その声は、僕が一番尊敬していて、一番憧れている、ナウシズ最強のヒーローだった。
「まリスさん.......蝉さん.......ろん.......」
「シエラから聞いたの。あるふぃの位置情報が消えたって。それに、ここに来るまでにもいろんな情報が入ってきた。あなたは本当に、戻ってくるつもりはないのね。」
簡潔に、淡々と話すまリスの言葉には、憤りなどといった感情は一切なく、ただ重く、冷たかった。
「......はい。僕はもう、そちらに戻るつもりも、引き返すつもりもありません。」
僕も簡潔に言葉を返す。
「分かったわ。武器を構えなさい。始めるわよ。」
不安や動揺など微塵も感じさせず、まリスは素早く、エクスカリバーを構える。
「割り切るのが早いのは、さすが守護輝士といったところですかね.....こちらとしても、助かります。」
こちらも持っていたコートエッジを、3人に向け構える。
「.....ユウ.......最期にもう一度だけ聞きます。これが本当に、あなたの望む道なのですか?」
今まで口を開かなかった蝉時雨が、ユウに質問を投げかける。
「蝉さん.......そうですよ.....これが僕の......僕が望み、歩む道です。」
蝉時雨は少し目を閉じ、しばらくして言葉を返す。
「分かりました。こうなってしまった説明はあとで、ゆっくりと聞かせてもらいます。まずはユウ、あなたを止めます。」
蝉時雨も覚悟を決め、光跡剣ディメシオンを取り出す。
「ユウくん......やっぱり私.....信じられないよ......だってついこの前まで......皆で笑って過ごしてたじゃん.....」
声が震えている。今にも泣きだしそうなか弱い声に、僕は冷たく言葉を返す。
「ろん、僕はシバの手をとったあの時から、変わったんだ。僕はもう.......この前まで皆で過ごしていた僕じゃない。」
「でも.......やだよ......私..........こんな形でユウくんと戦いたくない....!!!」
それでもなお、目の前の状況を受け止めきれないろん。
震えて動けないろんに、蝉時雨は声をかける。
「ろん、戦えないのなら、下がっていなさい。あなたまでもが無理して戦う必要はありません。」
「どうして蝉さんもまリスさんも、そんなすぐに受け入れられるの!?だってユウくんは.......この前まで一緒に過ごしてきた仲間なんだよ!?」
ろんの感情が爆発する。
涙を流し、声を荒げる。
「ろん、仲間だったアークスが、敵対するようになったのは今回だけではないのはあなたも知っているでしょう。もはやこれは、感情論でどうにかなる問題ではありません。」
「でも.......でも........!!!」
反論する言葉こそ出てこないが、それでも納得はしたくない。
ろんはもう、戦意を完全に失くしていた。
「これ以上の話し合いは時間の無駄です。ろん、あなたは下がっていなさい。ここは私とまリスで戦います。まリスもそれでいいですよね?」
「えぇ、大丈夫よ。問題ないわ。」
蝉時雨の問いかけに、まリスは簡潔に答えた。
だが、答えると同時に、武器を持つ手が震えていたのを、蝉時雨は見逃さなかった。
(まリス........やはりあなたも......)
彼女は、守護輝士であるが故に、自身の感情を押し殺している。
本当はまリスも、ろんと同じぐらいに戦いたくない気持ちでいっぱいのはずだ。
それでも.....ユウを止められるのは、現状まリスをおいて他にはいない。
それを理解しているからこそ、余計な言葉を交わさず、守護輝士としての責務を全うしようとしている。
ならばできる限り早く、この地獄を終わらせなければならない。
長引けば長引くほど、それぞれの心に傷をつけていくだけだ。
「お待たせしました、ユウ。始めましょうか。」
蝉時雨の言葉に、ユウも淡々と返す。
「.....はい。行きますよ、まリスさん、蝉さん。」
(お願いです......2人とも.......僕を早く......止めてください.........これ以上の悲劇はもう.......耐えられない.......!!!!!)
ユウ、まリス、蝉時雨。
誰よりも早く出会い、誰よりも早く深まった友情。
3人のそれぞれの感情が、刃を通してぶつかり合う。
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#8「衝突する思い」
―ナウシズには、とてつもなく腕の立つ、ヒーローの守護輝士がいる。
昔、そんな噂がウルにも届いた時があった。
各艦にはそれぞれ、アークスの中でも特に実力に優れ、多大な功績を立てた者に、「守護輝士」という役職が与えられる。
指示がない限りは各惑星の調査も探索も自由。専属のオペレーターもいて、衣食住も他のアークスたちより優れている。
そんな夢のような役職を与えられたばかりの僕のところに、例の噂が流れてきた。
僕は噂を確かめに、姉ちゃんのミカエラに無理を言って、ナウシズへの一時渡航許可を貰った。
ナウシズに来て、初めて出会った人は、姉ちゃんの知り合いで、蝉時雨という女性だった。
彼女はたまに怖い部分があるが、普段はとても優しく、来たばかりの僕にとても親切に接してくれた。
ナウシズに滞在してから2日目。
さっそく、腕の立つヒーローと噂の守護輝士の元へ案内されることになった。
蝉時雨に案内され、訓練用のVR空間へと足を運ぶ。
そこには、僕より小柄ではあったが、自身の一回りも二回りも大きなソードを軽々と振り回す一人の少女がいた。
「あの人が.....ナウシズの守護輝士ですか?」
「そうですよ。さぁ、挨拶に行きましょう。」
再び、僕は蝉時雨に連れられ、訓練場へ降りる。
「ふぅ、今日はこのぐらいにしておこうかな...」
ちょうど訓練が終わったようで、彼女は一息ついていた。
「訓練お疲れ様ですまリス。あなたに会いたいという人がいましたので、連れてきましたよ。」
蝉時雨は労いの言葉を彼女にかける。
「ありがとう蝉。ん?あなたもしかして....」
彼女はまじまじと僕の顔を見つめ、必死に思い出そうとしている。
うーん...と悩む彼女に対し、蝉時雨がそっとフォローをする。
「彼は最近ウルの守護輝士になった、ユウといいます。この前のアークスの定例会議で、顔と名前が挙がっていた人ですよ。」
蝉時雨の言葉に、彼女はぽんっと手を叩く。
「あーーーっ!!!!そうそうそうウルの!!!!あたしはこのナウシズの守護輝士で、まリスっていうの。よろしくね!ユウ!」
「えっと....ウルの守護輝士になったユウです...こちらこそよろしくお願いします。まリスさん....」
これが、僕と蝉さんとまリスさんの、最初の出会いだった。
お互いに挨拶を交わしたのち、僕とまリスさんは、蝉さんの提案で、エキシビションマッチをすることになった。
強さを知りたいのなら、直接戦うのが手っ取り早いと、蝉さんは言った。
結果は、まリスさんの圧勝。
僕の攻撃がまったく当たらず、ヒーローの使用武器であるソード、ツインマシンガン、タリスを巧みに使いわけ、終始一方的な展開だった。
訓練後の疲れもあったはずなのにこの実力差...噂は本当だったと、その時確信した。
それ以来僕は、まリスさんを目標に、守護輝士として、ヒーローとして、自分を磨き続けた。
その後、度々ナウシズへ出向くことがあって、蝉さんやまリスさんの他に、いろんな人に会うことができた。
あるふぃさん、セラフィムさん、クオンさん、アリシアさん、ALiCiAさん.......そしてろん.........
まリスさんを中心に広がる輪に、僕が入れることになったのは、とても嬉しかった。
なかでもろんとは、とても仲良くしていて、彼女の声を聞くたびに、不思議と気分が落ち着いて、安心できていた。
こんな幸せな日々がずっと....ずっとずっと続いてくれればいいと.....願っていた......
────────────────────────────────────────
「ユウ.......あなた......泣いてるわよ....」
「っ!?」
幾度となく刃を交え、激しい戦いを繰り広げていたまリスが唐突に放った言葉に、僕は咄嗟に距離を取った。
言われるまで気づかなかった....僕は...戦いながら.....泣いている......?
「ねぇユウ.......あなたがしたいことって、本当にこんなことなの.....?」
まリスは武器を降ろし、話し始める。
「マトイとあるふぃを殺して、セラフィムにクオン、アリシアやALiCiAを傷つけて、あたしや蝉と戦って.........ろんを泣かせて......」
「..................」
返す言葉が浮かばない。
確かに僕は、シバの手をとった。
でも本当は......なんとかできる未来があったのではないか?
こんなことにならずに済む方法が、あったのではないか?
本当にこれが、僕の望んだ道なのだろうか?
「あたしはねユウ。こんなことにならずに済む未来が、絶対あると思ってる。だってあたしたちアークスは、どんなに無理と言われても、どんなに不可能と言われても、なんとかしてみせるって思いで、今までの窮地を乗り越えてきた。」
まリスの足元から、バチバチと稲妻が走る。
「だからねユウ......本当のことを言って。あなたの本当の願いを。あなたが望もうとした未来を。」
「僕は..............」
今まで生きてきた中での大切な思い出が頭の中を駆け巡る。
どれも全て、かけがえのない、決して捨てることのできない思い出。
まリスさんは言った。
どんなに無理と言われても、どんなに不可能と言われても、なんとかしてみせるという思いで、アークスは今までの窮地を乗り越えてきたと。
僕だってそうだ。
アークスになってから様々な困難にぶつかってきた。
それでも僕は諦めず、抗い続け、困難を乗り越えてきた。
なんでこんなに大事なことを忘れていたのだろう.......
そう、僕の願いはいつも変わらない。
「僕は..........皆と........アークスの皆と.......楽しく笑って過ごしたい.......!!ろんにマトイ、まリスさんに蝉さんにあるふぃさん、フィムさんにクオンさん、アリシアさんにALiCiAさん.......ナウシズの皆とも......もっとたくさん笑い合っていたい!!!!!!!!」
泣きながら叫ぶユウの周りに、衝撃波が発生する。
「よし!!!!ならその思いをすべて、あたしと蝉に思いっきりぶつけてみなさい!!!!!!蝉!!!!!!準備はいいわね!!!!!!」
周囲に稲妻を走らせながら、まリスは蝉に問いかける。
「えぇ......!!枷をすべて外します.....!!!!ユウ........あなたにはこのあと、私の気が済むまでお話に付き合ってもらいますからね......!!!!!!」
見た目こそ変わらないものの、蝉時雨のフォトンが、大きく膨れ上がったのを感じた。
「それじゃあ........行くよ!!!!!!」
まリスの掛け声を合図に、3人は一斉に足を踏み込み突撃する。
「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
3人の思いが、願いが、全身全霊の一撃が、奇跡を引き起こそうとしていた。
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#9-A「せめて君の手で」
「.......ウ.......ユウ........ユウ君..........ユウ君!!!!」
僕を呼ぶ声が聞こえる。
戻ってきた意識をバネに、ゆっくりと目を開ける。
「...........ろん.......?」
自身の名前を呼ぶ声を聞いて、彼女はほっと息をつく。
「うん......私だよ......ろんだよ......ユウ君......」
手足は動かないが、首から上は動く。
周りを見渡す限り、あの時ぶつかりあった衝撃波で、相打ちになったんだろう。
近くに、蝉さんとまリスさんが倒れこんでいる。
「蝉さんもまリスさんも、体内のフォトンを使い切って気を失っているだけみたい。市街地の各所で出現した閃機種も、今はいなくなって、被害を受けたアークスたちの救助活動が行われている。救難信号を送ったから、ここにもじきに、他のアークスが救助に来てくれるよ。」
ろんの言葉を静かに聞く。
「そう...........ねぇ.......ろん......」
「なぁに?ユウ君」
ろんは優しい声で言葉を返す。
「僕の身体さ........もうフォトンがほぼ底をついてて.......シバから受け取った深遠なる闇の因子が......浸食してきているんだ.......」
「えっ......!?」
ここまで話せば、アークスなら誰でもわかる。
アークスの体内には、一定量のフォトンが流れていて、ダーカーとの戦闘で浴びてしまうダーカー因子を、そのフォトンが浄化させている。
もし体内のフォトン量を超えるダーカー因子を身体に浴び続ければ.........破壊衝動に駆られ、暴走してしまう。
だが、あくまでそれはダーカーの場合であって、僕のように深遠なる闇の因子を抱えたまま浄化能力が機能しなくなった場合どうなるかは、正直言って分からない。
過去に【仮面】やマトイがなった、ダークファルスに近い強力な敵性存在になる可能性も十分にある。
「ろん........僕はもう.......これ以上かつての仲間を傷つけたくない........だからね......ろん..........」
「..だ........やだ........やだよユウ君........」
ろんの目から大粒の涙が流れる。
それでも僕は、話を続ける。
「せめて君の手で...........僕を終わらせてほしい..........」
僕の最期の願い。
いじわるで、わがままで、残酷な願い。
このまま救助が来るのを待っていても、その時にはきっと、僕は深遠なる闇の因子に負けてダーカー化しているだろう。
そうなった場合、一番最初に傷つけるのは間違いなく.......ろんになる。
それだけは絶対にしたくない。
「お願い......ろん...........時間がないんだ.........残酷な願いなのは分かっている........でも.........君にしか頼めないんだ.........」
ユウの必死の願いに、大量の涙を流していたろんも、決意を固める。
「......ぐすっ.........分かったよ......ユウ君.............ごめんね........ごめんね.........」
ろんはユウの頬に、そっと手を触れる。
「ろんは悪くないよ...........こうなってしまったのは全部........僕のせいだから........」
少しの沈黙のあと、ユウが再び口を開く。
「ねぇろん.........最期に1つだけ........言ってもいい........?」
「うん...........なぁに?.......ユウ君......」
「ろん....................大好きだよ................」
「うん.................私も大好きだよ.................ユウ君..............」
(あぁ.............もっと..............もっと皆と.............ろんと..................楽しい日々を過ごしたかったなぁ...........)
ユウはそっと目を閉じ、ろんはユウの頬に触れていた手を、そっと首元に移動させる。
手に徐々に力を入れるろん、それに応じるように苦しむ声をあげるユウ。
数秒後、ユウは苦しむ声を止め、そっと眠りについた。
「......あ.......あぁ...........」
市街地に響く少女の悲痛な叫び声。
溢れ出る涙と悲痛な叫び声をあげる少女の傍らには、笑顔で眠る、少年の姿があった。
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#9-B「もう一度だけ」
「.......ウ.......ユウ........ユウ君..........ユウ君!!!!」
僕を呼ぶ声が聞こえる。
戻ってきた意識をバネに、ゆっくりと目を開ける。
「...........ろん.......?」
自身の名前を呼ぶ声を聞いて、彼女はほっと息をつく。
「うん......私だよ......ろんだよ......ユウ君......」
ゆっくりと起き上がり、周りを見渡す。
おそらく、あの時ぶつかりあった衝撃波で、相打ちになったんだろう。
近くに、蝉さんとまリスさんが倒れこんでいる。
「蝉さんもまリスさんも、体内のフォトンを使い切って気を失っているだけみたい。市街地の各所で出現した閃機種も、今はいなくなって、被害を受けたアークスたちの救助活動が行われている。救難信号を送ったから、ここにもじきに、他のアークスが救助に来てくれるよ。それと...」
ろんは話を続ける。
「ユウ君が去ったあと、こっそりあるふぃさんの後ろをついていってたもちさんが、急いで救助してくれたみたいで、メディカルセンターからの話だと、一命を取り留めたみたい。なんでももちさん、迷子になってるところにあるふぃさんが一人走っていくのを見かけて、あとを追っていたみたい。」
ろんの言葉を静かに聞く。
「そう.......あるふぃさんが......」
良かった....本当によかった.....
ユウは思わず、安堵のため息を漏らす。
「でも.......よかった.......いつものユウ君に戻ってくれて.........」
「えっ.....?」
どうやら僕の目は、フォトナーになる前のいつもの青い目に戻っているようだ。
コートエッジのフォトンカラーも、赤からいつもの水色に戻っている。
「たぶん、まリスさんと蝉さんとぶつかり合った時に、ユウ君の中にあった、フォトナーとしての力を形成していたダーカー因子が浄化されたんじゃないかな....」
確かに、フォトナーになるために、僕はシバから深遠なる闇の因子の一部を貰い受けた。
その因子が、あの時の衝撃で浄化されたというのか...
それになんだろう.......力がみなぎる.......まさかこのフォトンの流れは.......
「まリスさん......蝉さん......?」
3人の剣がぶつかり合ったあの時、もしかしてあの2人は、僕にフォトンを託していた....?
狙ってやったのか、それとも奇跡が起きたのか。
この力なら....きっと.....
「まリスさん.....蝉さん......少し、力を借りますね。」
小声でつぶやいた声はろんには聞こえず、無反応だったが、改めてユウは、ろんに呼びかける。
「ねぇろん」
「なぁに?ユウ君」
隣に座り込んでいるろんに、僕はそっと抱擁をする。
「っっっ!?!?!?!?」
ろんの心臓の鼓動が早くなっているのが伝わってくる。
顔は見えないが、きっと赤面しているんだろう。
「ろん.........ごめんね.........心配かけちゃって........」
「うっ........うっ........ばか!....ばかばか.....!!ユウ君一人で抱え込もうとして....」
耳元でろんが泣いているのが分かる。
「もうあんな無茶したら、絶対に許さないんだから.....!!!」
ろんは力いっぱいユウを抱きしめる。
「ちょ.....苦しいよ......ろん.......」
「だめ........しばらくこのままでいて.........」
しばらくの沈黙のあと、ろんが口を開く。
「ねぇユウ君、これからはずっと一緒にいてくれる.....?」
「..................」
「.........ユウ君?」
返答が来ないことに、ろんは不安を感じる。
「.......うん.......これからはずっと一緒にいてあげる。」
少し間を置いて、ろんの質問に返答する。
「だから今は.........少しだけ.......眠っていて?」
「......えっ?」
ユウはろんの首のうしろをトンッと叩き、ろんの意識を失わさせる。
「あっ.......────────」
意識を失ったろんを、ゆっくりと横にさせる。
「ごめんねろん........僕....."もう1度だけ、みんなの為に頑張るよ"......」
────────────────────────────────────────
ピッ......ピッ......ピッ.....
無機質な音が、脳裏を通り抜けていく。
ゆっくりと目を開けると、そこは、メディカルセンターのベッドだった。
心拍計の音とは別に、ロビーで流れているアナウンスがかすかに聞こえる。
『終の女神、シバの消滅を確認.....!繰り返す!終の女神、シバの消滅を確認.....!』
シバを....倒した.......?いったい誰が.....
起き上がろうとしたろんは、自分の首に、身に覚えのないネックレスがかけられていることに気づいた。
「このネックレスは......なに.......?」
ネックレスにぶらさがっている金属をてのひらに乗せると、かすかにだが、とても大事な、とても大切な人のフォトンを感じられた。
それと同時に、気を失う直前の言葉が、記憶によみがえってくる。
─「.......うん.......これからはずっと一緒にいてあげる。」
─「ごめんねろん........僕....."もう1度だけ、みんなの為に頑張るよ"......」
「そんな.......違うよ.......ユウ君..............そんなの........ずるいよ.........」
少女はメディカルセンターのベッドルームで1人、泣き崩れる。
少年の思いが籠った、サクラを象った金属のネックレスをその手に握りしめながら。
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#9-C「一つの可能性」
とても、悲しい夢を見た。
目を覚ました僕は、涙を流していた。
何より驚いたのは、その夢の内容をナウシズの皆に話したところ、あの時あの夢に出ていた全員が、同じ夢を見ていたという。
僕たちは、この偶然とも思えない不思議な出来事を、シャオに伝えた。
「なるほど......同じ日の晩、ここにいる全員が、同じ夢を見ていたと.....」
シャオは、今回起きた事について、1つの仮説を立てた。
おそらくこれは、短期間に深く関わりすぎたことによるフォトンの感応現象だと。
実際に夢を見ていたのはユウで、皆はその夢を、第三者として見ていたに過ぎない。
別の世界線の出来事を疑似体験していたのか、単なる夢だったのかは分からない。
ただどちらの結末においても、まず最初に「先行部隊によるマザーシップ・シバへの突撃作戦」という共通事項がある。
現実世界では、「アークスシップ全艦の、マザーシップ・シバへの一斉突撃作戦」だった。
おそらくここが分岐点で、"もし突撃作戦の内容が違っていたら"、というユウの想像が、今回の原因であろう。
「おそらく原理は何者かが強く思うことによって発生する、具現化現象に近いものだと思うけど、それが夢で発生して、他の者が同じ夢を見るというのは、実に珍しいものだね。」
シャオは一通りの説明を終える。
「....私ってそんなに、1人であることに自信を持ってるナルシストに見られているのか?」
あるふぃが最初に口を開く。
「夢の中での性格や行動は、夢を見ている張本人からの印象を一番に受ける。つまりユウは、君のことを"そういう人"だと認識しているってことだね。」
「うぐっ.....」
......心の折れる音がした気がする。
「私とフィムさん、容赦なく吹き飛ばされてましたね.......」
「そうですね......見てて普通につらかったです.....」
「私とえりしゃは、即行で力尽きてたね(笑)」
「なんていうか....明錫クラリッサⅢ....仕事しすぎじゃない?」
クオン、セラフィム、アリシア、ALiCiAは、それぞれに夢を見て思った感想を述べる。
「ねぇ蝉。なんかあたし、美化されてない?」
「そんなことはないと思いますよ。おそらく一番、現実に近い認識だと思います。」
「そういう蝉も、現実と変わりなかったよね。あの容赦ない感じとか。」
「まリス?あとでちょっと、お話してもよろしいですか?」
「あ、いや....ごめんなさい....なんでもないです.....」
「分かればよろしい」
やっぱり蝉さんは...こわい....
「えぇっと........ろん........?」
1人下を向いていたろんは、ユウが声をかけると、素早くこちらを向き、ものすごい勢いで詰め寄ってきた。
そして.......
バチンッ!!!!!!
「いっ......たいっ!ろ、ろん!?」
思いっきり僕にビンタをかました彼女の目には、涙が浮かんでいた。
「ひどいよユウ君.....!!あんな辛くて悲しい夢見させるなんて.....あんまりだよ!!!!」
「いやちが....あれは不可抗力で......」
「うるさい!!!!」
バチンッ!!!!!!
2度目のビンタが炸裂する。
「あ~あ~、ユウ。女の子を泣かせるのはさすがにまずいんじゃないの~?」
まリスが、ニヤニヤしながらいじってくる。
「ご....ごめんなさい....」
(これって僕が悪いの.....?)
とりあえずなだめようと、そっとろんを抱きしめて、頭を撫でる。
「ろん.....ごめんね......でも大丈夫だから......僕はここにいるよ?」
「うん.....うん.........」
少しは落ち着いてくれたようで、涙も少しずつおさまってくれた。
他の皆は、僕たちの光景を微笑ましそうに見ている。
.........なんか恥ずかしい......
不思議な体験をしたけど、僕たちはこの世界でしっかりと生きている。
誰1人欠けることなく。
これからもきっと、皆と共に歩んでいくことだろう。
これからもずっと、皆で楽しく笑って過ごしていこう。
『これは、もしかしたら起きていたかもしれない、1つの物語。』
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