対魔にンAkUイ…『コンクルージョン・ONE』 (迷子の鴉)
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由利翡翠

対魔忍やっていたら突如ひらめいた作品であります。


「悪意」とは何か。

 誰かが答えた。それは他を害する思考、行動。人間が生きる上で一番忌避するべき悍ましい心である。

 悪意は人を害するが逆にそれが人間と言う種を進化させる必須なものとして捉えられていた。

 しかし人間とは違う者であっても。悪意によって進化してきた生命でも。悪意に脅かされ虐げられた弱者であったとしても。

 行き過ぎた悪意は全てを飲み込み破滅に導くと認知するべきだ。

 かつて何処かの星。遠くない未来。

 誰かが悪意を『何か』に教えたことで、或いは【何か】が学んだことで全てを滅ぼしかねない戦い、全てを終わらせた暗黒に発展したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人魔の間で太古より守られてきた「互いに不干渉」という暗黙のルールは、

 人が外道に堕してからは綻びを見せはじめ、

 人魔結託した犯罪組織や企業が暗躍、時代は混沌へと凋落していった。

 

 しかし正道を歩まんとする人々も無力ではない。

 時の日本政府は人の身で「魔」に対抗できる“忍のもの”たちからなる集団を組織し、

 人魔外道の悪に対抗したのだ。

 

 人は彼らを 「対魔忍」と呼んだ──

 

 

 だが彼らの抵抗も世界から見れば、微弱。

 

 そもそも一国家が奮闘して解決出来るものではなく、その国家も大半数が魔の手にかかり腐っている現状。

 

 米連、犯罪組織ノマド、中華連合など敵が多すぎる現実は厳しいものだった。

 守られることが当然という者。

 力ある者は自分の玩具と勘違いした弱者。

 正義の意味を履き違えた強者。

 

 守るための力は守るべき人間に汚され、犯され、利用される日々。誇りはとうに踏みにじられた。

 

 この世界に守る価値はあるのか? 

 毎度毎度起こる危機に何時しか人は戦う意味を見失いつつあった。

 

 

 この世界は緩やかに魔の者達、あるいは賢者になることなど到底不可能な「愚者」が集った人間自身によって、破滅の時を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 あの日までは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京キングダム。廃棄された港。

 

 五車学園三年生、由利翡翠は現在困惑していた。彼女は対魔忍として若手ながらもそれなりの修羅場を潜り抜けてきた。が、今回は通常以上の想定外の事故に加えて、異常すぎる事態が起こっていた。

 

 任務自体は簡単、の筈だった。ノマドと米連の取引の場を襲撃し米連の関係者を捉える。

 その邪魔をした際に吸血鬼の傭兵がいなければ。

 下級の者であったが吸血鬼としてベテランと渡り合い、それなりの実力を持つ上に指揮に手馴れたせいで部隊は壊滅し、皆散り散りに別れてしまった。

 だがそれは小さなことであった。魔族の中でも上位に食い込む吸血鬼がいることが知らされていなかったことが小さなこととは些かどうかと思うが、今回に限ってそれは本当に珍しく小さなことであった。

 彼女が困惑する事態の詳細を語るには少し時を遡る。

 


 

 

「はははっ追いついたぞ対魔忍‼残ったのはお前だけだ!」

「‥ッ」

 当時、由利翡翠は東京キングダムの裏路地に魔族の集団に奥に奥にと追い詰められていた。

 運悪くこの集団は自分に狙いを定めて追ってきたようだ。もう体力が限界だがこいつらは容赦なんてしない。

 魔族とはそういう者だ。人間、自己以外の弱者は全て欲を満たす道具、資源としか見ていない。

 他の者はどうなったか。殺されたか。捕まり辱めを受けているのか。

 対魔忍に限らずオークなどの魔の外道に捕まった方々は大抵死ぬか性奴隷にされるかの二択に分かれる。

 どちらにしてもこの場を切り抜けねば行方を知ることも救うことも不可能だが。

「安心しろよ対魔忍の嬢ちゃん! 殺しはしねぇぜ。まぁ少し可愛がるがな! ぎゃははは!」

「おいおいそんなこと言って泣かせたらどうすんだよ。これからヒィヒィ泣かすのがツウってもんだろうが!」

「おっといけねぇいけねぇ! ハハハ‼︎」

 オーク傭兵達の汚い声が耳に流れ込む。

 追ってきたリーダー格の吸血鬼もガワだけの高貴な雰囲気とゲスな顔を見せてくる。正直にキモチワルイ。

「さて小娘よ。そろそろおとなしく我らの快楽のとリほオオォぉぉ‥‥?」

 

 

 ドチャ

 落ちた音がした。

「……へ? 旦那?」

 オークの一体が後ろを振り向くと「体」があった。

 

 首の断面が焼け焦げた吸血鬼の体があった。

 地面に落ちた頭は状況に理解出来ず、体が膝から崩れ落ちボロボロと灰になっていく。

「何が、起ギョ!」

 ヒュゥゥゥ! 

バキッボギャァ‼︎

 突如降りてきた何かに踏みつけられ、吸血鬼は話し終える間も無く脳漿を撒き散らされて死んだ。土煙が巻き起こって下手人の姿が影にしか見えない。味方か? 敵か? この時の翡翠には判断がつかなかった

「ヒッ!」「なんだなんだ!」「誰だテメェ!?」

 残ったオークたちは怯えながらも各々の得物を構えて人影に構える。

 

 

『悪意』

 そして響く。

『恐怖』

 どす黒く澄んだ悪意が。

『憤怒』

 外道も魔も全てを崩壊させた。

 

 

 

 

『パーフェクトコンクルージョン』

『ラーニング・スリー』


 その日の深夜、東京キングダムの一角で大爆発が起こり多数の死傷者が出た。

 生存者は数人ほどしか確認できない上に殆どがその後自ら命を絶つ。その中には魔族も含まれていた。(魔族はプライドの高さから自殺するものは珍しいとのこと)

 当時、運良く生き残った生存者は皆何かに怯えるようになり、発狂して街中で暴れまわる者もあり、多くの魔族がその様子に困惑していた。

 そして奇妙なことに生存者は口を揃えてこう述べた。

 ここにその生き残った者達の証言の一部を抜粋する。

「俺たちは相手にしてはいけないものを相手にした」

「魔族も人間も終わりだ」

「あれは悪意だ」

「あいつは言っていた」

 

 

 

『全ての結論は一つに辿り着く』

 

 

 

 追記

 またこの言葉を残した淫魔は数日後、入院していた闇医者の診療所から姿を消した。

 彼が居たはずのベッドの上には夥しい血痕が残されていたという。

 

 


 

 現在、翡翠は何とか生きていた。目の前の彼が自分だけを守るように黒いヘドロのようなエネルギー(ネガスパイト)を自分に球状に覆ってくれたおかげで、何とか爆音の影響を受けるだけで済んだ。耳は今でもキーンとイカれているが。

 

 エネルギーを取り払われ周りを見渡し驚いた。裏路地は完全に吹き飛んで建物は完全崩壊で瓦礫が盛りだくさん。およそ10メートルは更地になっていた(瓦礫は大盛り)。

 

 それは、恐らく人だった。

 腰に巻き付けられた白く中心に引き込まれる禍々しい紅のレンズを埋め込まれた機械。

 恐らく人だった。安直だが二本足で立ち、指は5本で人間のカタチをしていたから。

 概ね人だった。片方だけの白いツノと黒が合わさった骸骨型の装甲をしていたが人間を助けた者だ。

 少なくとも魔族に敵対する者かもしれない。

 

 

 だがこの世界において奇跡的希望が振り向くことはない。

 運命に定められた道を行くしかない彼女では尚更。そして『異形』は翡翠に振り向く。

「お前は誰だ」

「……え」

 翡翠に『人』は尋ねた。

「人か」

「敵か」

「敵なら」

 間を開けて白の異形は告げた。

 

 

 

「──-殺す」

 

 

 由利翡翠は対魔忍だ。だがこの日、初めてのどうしようもない恐怖と絶望を味わった。

 今までの経験、先輩の体験談がチャチでお粗末すぎるものだと錯覚するほど。

 欲も打算もないあまりにも純粋で濃厚な殺意に涙を流し、せめてものの抵抗として歯を食いしばって錫杖を『仮面ライダーアークワン』に向けた。

 

 

 

 

 

 

 かつてゼロワンと呼ばれる英雄(仮面ライダー)に敗れた悪意の概念は、何の因果かこの世界に飛来してしまった。

 アークが導き出す結論は何か。

 

 それが『今』の我々には予測できないものであることは確かだ。




もしかしたらこれを基にして長編の作品書くかもしれない。
気が向くか、書き溜めることが出来たらの話ですが。
とりあえず今連載している作品をある程度落ち着かせてからかな。


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羽鳥志津香、篠原まり

一応このぐらいで続けていこうかと思います。


 悪意は連鎖する。それが空想でも虚無でも善意でも()()にあるのは確かだから。

 悪意は感染する。共感、助力、協力することで悪意は感染する。

 悪意は終わらない。全ての生命にとってそれが必要なのだから。 

 


 

 

 東京キングダム、淫魔族経営の違法風俗店。

「アギッ……ヒャペ」

「ひょろ、きょろして……きョロしてええぇぇ‥……」

 東京キングダム名物の一つである店はある人外の強襲により壊滅していた。男女問わず一人残らず無事な箇所など見当たらない上、骨格まで変えられた淫魔たちは床に転がされていた。血で汚れ、まともに喋れないまでに痛めつけられた彼らは、淫魔としてのプライドをズタボロにされ打ちのめされていた。

 

「リーディング完了、これで最優先目的は達成した。残るは一つ……」

 店の顧客データと機密情報を店内のサーバをハッキングして手に入れ、それは誰も見向きもせず立ち去る。

 

(クソッ! このままで済むと思ってんじゃねぇぞ‼あのコスプレ野郎!!)

 しかし、それを黙って見逃すほど淫魔店長のプライドは安くはなかった。

 魔界では馬鹿にされていた自分がここまで大きく幅を利かせられるようになるまでどれだけ苦労を重ねたと思っている。ノマドにアガリを収めて手に入れた地位なんだ! それをこの野郎、ゴミ掃除みたいに何とも思わずにめちゃくちゃにしやがって! 

 毎日のごとく人間をいたぶり性奴隷としてこき使い、壊れたら臓器売買屋に売り払っていた男は悪行を棚に上げてそれに催眠をかけようとした。

(淫魔の催眠は世界一‼これでてめぇは終わり「その行動は予測済みだ」だ! ‥‥へ?」

 ゴップッ! 

 淫魔十八番の催眠を向けた瞬間、店長の頭が異形が向けたビームに貫かれ即死。

 ドバドバと貫かれた額の穴から血が噴き出すが気にも留めず立ち去った。残った淫魔たちは茫然としていたが気が付けば皆我先にと逃げようとのろのろと動き出す。

 店内には店の客に娼婦も僅かながらいたが助けてもどうせ娼婦としても客としても使えないほどに痛めつけられていたから誰も気にしなかった。彼らの優先事項が自分の命だけというのもあるが。

 

 ただ見通しが甘かった。奴が店内にいる悪意をそのままにするか。自身につながる情報を残したままにするか。

 

 否である。

 結果、彼らはアークの仕掛けた罠にかかった。

「アゲッ! ガッ」

「ハ、ハハハアあアアああ!!」

「ゴッ! ヒュヒュ‥‥」

 

 我先にと店を出ようとした淫魔たちは脳内に仕込まれたエネルギーによって脳内を破壊され、その場で倒れこみ死亡した。

 更に痕跡が残らないように控えめに体を爆発させて脳を含め体を吹き飛ばされた。

 その後、残った客と娼婦たちは騒ぎに駆けつけた対魔忍の部隊に保護され、客のほとんどは検挙された。

 

 

 


 アークの惨殺突撃から数分前。

 風俗店近くのビルの屋上。

 

「準備はいいわねまり。まず貴方は裏口を土遁で塞いで。次に私が正面入り口から突入して邪眼で奴らの催眠を無効化。貴方は土遁で地震を起こして店内を更に混乱させてから合流これでいいわね?」

「は、はい!」

 羽鳥志津香は今回のバディの篠原まりと作戦の確認をしていた。

 違法風俗店で働かされている一般人と捕虜になった対魔忍の救出のために二人だけで任務に挑んでいた。

「今回の任務は淫魔族が相手だけど調査では奴らの催眠能力は良くて下の中。淫魔の催眠攻撃には気をしっかりと保てば対抗できるわ」

「分かりました!宜しくお願いします!」

 若手ながらも熱意をもって己の正義を執行するまりは気合が入っていた。(入りすぎともいえるが)

(この目にこの熱意…ウザイ)

 だがしかしもっとも羽鳥にはまりの真剣さがうざったくて仕方なかった。そもそも羽鳥の得意な任務はこういう強硬な手段に出るものではない。もっと恐怖を募ってそれをぶちまけられることをしたい。一人の方が気楽でいいのに。もっとも人手不足の対魔忍界隈に大声を上げるつもりなどないが。

「じゃあ行くわよ」

 愚痴を貯めこむ前に早く終わらせようと位置に着こうと移動し始めた時にそれは起こった。

 がしゃァァん!! 

 

 

 店の入り口が爆破されて何かが出てきた。

 店から出てきたものは異形だった。魔族でもない。区別するならパワードスーツのようなものを着込んだ人間か。

 いきなりの展開に唖然としたが、アークを黙って見逃すほど羽鳥達はぼんくらではない。

「ねぇあなたちょっといい?」

 志津香は近づく。

 任務先の不審者を見逃すわけにもいかない。何より先ほどからいら立ちが募っていたので早速邪眼でストレスを発散したかったのである。

「……あれ、あの人どこかで……?」

 まりは異形の姿に既視感を感じるがそれが何かがわからず立ち尽くす。

 その間に志津香は自慢の邪眼を異形の赤い複眼に合わせて術を発動。

 

 彼女の瞳に捉えられた者は強い恐怖や、猜疑心に支配され、精神の弱い者などは発狂することすらある。

(はいおしまいほんっと楽勝な仕事……)

ゴギャァァァァァン‼‼

 

「は、羽鳥さん!?」

 志津香はアークワンの何気ないアッパーに顎を粉砕されビルにめり込まされた。

 志津香の敗因はただ一つ。

 悪意の塊のアークに恐怖を増長させるなどアークのパワーを底上げすることにしかならないことを分かっていなかったことだ。

 まして元々機械のアークに恐怖という不必要な感情はインプットされていない。

 つまり油断と情報不足と邪眼に対する信頼があだとなって志津香は全治二か月の重傷となり、生まれて初めての敗北というものを見に味わった。


 

 

 

《マジヤバ》俺の勤務先の風俗店崩壊ww《情報求む‼》

 

1:名無しの野次馬 ID:LuBoeaItq

 俺今日マジやばい場面目撃した

 

2:名無しの野次馬  ID:qAZsU5Bmz

 なになに~(・・?))

 

3:名無しの野次馬  ID:MlxIu04Zn

 つかタイトルからしてなんだこれ

 

4:名無しの野次馬  ID:LbwgY0XjG

 掲示板作ってまで報告することか? 

 

5:名無しの野次馬  ID:Yigw1S7qc

 おもろなかったらBANするわ>>1

 

6:名無しの野次馬  ID:LuBoeaItq

 >>4、>>5

 いや本当にすげぇんだよ! 

 俺東京キングダムで親の借金返すためにブラック環境で働かされてるボーイなんだけどさ

 今日、勤務先のノマドの下請け店に出勤したら先輩達の淫魔が店長含めて全員死んでた

 ビックリ。

 

7:名無しの野次馬  ID:kxrLdy21f

 まず自己紹介で草

8:名無しの野次馬  ID:1c8v2nk3N

 親の借金返すために東京キングダムとかノマドとか突っ込みどころおおすぎ

 

9:名無しの野次馬  ID:N7LPvKkcx

 えまじ? 噂の死神そっち来たの? 

 

10:名無しの野次馬  ID:j+woNv85F

 東京キングダムオワタ(´;Д;`)

 

11:名無しの野次馬 ID:kK74f+exi

 話し進まへん。何があった>>6

 

12:名無しの野次馬 ID:7YJldfDU/

 >>6

 わい、現場付近にいた者。あれはマジでやばい。1の言う淫魔の違法風俗店がいきなりドーンと爆発したら魔族でも人間でもない奴が出てきたもん。その後、職質してきたS気質な対魔忍を問答無用のワンパンで吹っ飛ばして消えた。

《画像》(吹っ飛ばした奴、白黒の特撮ヒーローみたい)

 

13:名無しの野次馬 ID:1J1vU5UIK

 オワッ骸骨かいな

 

14:名無しの野次馬 ID:86XzmVk6Y

 画面越しでも分かる。やばい奴やん。これはまぁ……対魔忍の方は運が悪かったってことで

 

15:元・ボーイの野次馬 ID:LuBoeaItq

 へぇこんな人だったんか。俺、店着いたのが全部終わった時だから見れなかった。大怪我してる対魔忍とすごい巨乳のメガネっ子対魔忍はいたけど。

 

16:名無しの野次馬 ID:8RyRL+UJo

 イッチ見てなかったんかい。つか人なのかこれ? パワードスーツっぽいけど米連や陸自のものにしては随分凝ってるような‥‥

 

17:名無しの野次馬 ID:7pBKzRN/p

 >>12俺コイツ知っている。今「東京キングダムの死神」って騒がれている奴だ。何処にも属さない神出鬼没の未確認。確かこの前キングダム内で起こった爆発事件の犯人らしき奴。噂だと吸血鬼率いる傭兵集団を秒殺したとか

 

18:名無しの野次馬 ID:4b1sS8Onn

 ヒエッ

 

19:名無しの野次馬 ID:eTEWvb/iY

 吸血鬼秒殺とかマジかよ

 

20:名無しの野次馬 ID:7pBKzRN/p

 >>19マジみたいやぞ。しかも現場の周辺にいた魔族が全員頭おかしくなって自殺したとかで有名や

 

21:名無しの野次馬 ID:EN8ez2qZa

 それ見たことある。なんか突然通りすがりのオークが「ごめんなさいごめんなさい」って頭と股間抑えながら独り言呟いていたり、野良魔犬が泡吹いて死んでたりしててなんやコイツラ、ラリッたかってすげぇ気持ち悪かった

 

22:名無しの野次馬 ID:0QiE1yXPg

 何それこわ

 

23:名無しの野次馬 ID:VRoFGkHsz

 そういや15番、元・ボーイって何? 

 

24:元・ボーイの野次馬 ID:LuBoeaItq

 いや店潰れちゃったから。もう借金返す仕事無いからどうしようかと思ってたら、助けに来てくれたもう一人の対魔忍の可愛い子に仕事紹介してもらって現在対魔忍の事務処理仕事の研修中。借金は踏み倒してグッバイってことにしたわ。

 

25:名無しの野次馬 ID:l3/dSdhfP

 良かったやん。あの町人間が生きるにはキツイから、ついでにノマドはマジで糞。アイツら魔族贔屓で人間は絶滅だから

 

26:元・ボーイの野次馬 ID:LuBoeaItq

 サンクス。そこでなんだけどとりあえず俺その人に会ってお礼したいんだ。経緯はどうあれ借金踏み倒すきっかけ作ってくれたし。誰か情報頼みます。

 

27:名無しの野次馬 ID:xbztnfC9b

 ちょいちょいちょいいきなり過ぎ

 

28:名無しの野次馬 ID:+Ho4XgfN1

 >>26

 吸血鬼秒殺どころかノマドの店に殴り込んだ挙句対魔忍吹っ飛ばす奴やぞ危険すぎるわ

 

29:名無しの野次馬 ID:7pBKzRN/p

 情報だけなら何とか集まるけど‥‥……ノマドの大物まで動いている噂出てきてる。とりあえず今はやめろ

 

30:名無しの野次馬 ID:N7LPvKkcx

 ワイは死神の追っかけ

 すんませんこんな記事見つけました

《魔界騎士イングリッド敗れる! 意識不明の重体⁉犯人は白い死神‼》

 

31:名無しの野次馬 ID:EN8ez2qZa

 あかん

 

 





次回、魔界騎士イングリッド敗れる!!


その間に幕間を挟み込みます

「その後の由利翡翠」


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由利翡翠2

遅くなってすいません。ちょっとどう書き進めるか悩んでヘタってしまいました。本当にお待たせてすいません。

色々困難がありますが、とにかくきれいにまとめて終わらせることを第一に書いていきます


 悪意【あくーい】

 ①他人に害を与えようとする心。わるぎ。「―を抱く」「―に満ちた批判」「―のない冗談」

 ②わざと悪くとった意味。「―に解釈する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰も助けてくれなかった

 

 

 

トウサンだけが助けてくれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーまえさき市五車町、五車学園敷地内第一訓練場14;00ー

 

 魔界の者たちの侵略に対抗するために日夜問わず。対魔忍は己が持つ「忍術」を極め駆使することにより卑劣で悪辣な魔の手から人を救っているのである。

 

 

 その対魔忍を養成する五車学園で翡翠は一人荒んでいた。

 

「……ハッ、せいっ、やぁっ!!」

 錫杖を構え、ゆっくりと体勢を変えて一気に力を放出させ、攻撃を繰り広げる。

 

 対魔忍の体内を(めぐ)る『対魔粒子』を加速、錫杖に纏わせ風を切り唸らせ一気に穿つ。

 更に動きを止めずに遠心力で体を回し、全方位へ錫杖を振り払ってゆく。

 更に次々に刺突、薙ぎ払い、袈裟おろし、蹴り上げからの追撃の下突き。実戦で用いる動きを取り入れた演武を繰り広げ続けること5分。

「……」

 どれだけ美しく速く重く。繰り広げる武の舞を変化させても彼女の表情は、戸惑いと苦痛に満ちたものだった。

「駄目、やっぱり……あれから全く体がついて行かない」

 

 動きを止めて訓練用に着替えていた対魔忍スーツの裾をめくり、覆われていた体を見る。

 

 

 そこには、まばらにだが赤くぽつぽつと浮き出たアトピーが翡翠の体全体に広がっていた。

 


 

 

 

 

みんな嫌いなんだ誰もボクのことを見てくれないから

 

 

 

 


 

「痒い…」

 自主練に区切りをつけた翡翠は制服に着替え、教室に置いた荷物を取りに廊下を歩いていた。やはりその際にもアトピーの湿疹が服と擦れて痒くなってしまう。服で隠せない手首に脹脛の部分は包帯を巻くことで周囲の目をごまかしていた。

 

 2日前に人生で生まれて初めて皮膚科の診断を受けたが、そもそも対魔忍の体は一般人とはかけ離れたものであるうえに診断材料が圧倒的に足りない。というより対魔忍のカルテはたいていが戦死か行方不明で埋め尽くされるために病状を判断できるものがない。だから政府管轄下の専門医でも「原因不明」という苦虫を噛み潰したような屈辱の判断をくだす他なかった。

 

 

 任務に失敗した日。白い異形と出会ったあの日。地に手を付け座り込み、自分は錫杖を向けることしか出来なかったあの日。

 どの魔族とも違う覇気、殺気を纏うそれに終始圧倒されるしかなかった。

大きく深く長く煮こんだ悪意が奴から溢れていた。

 あの時、偶然キングダムで単独捜査中だった呪捜官(じゅそうかん)*1が駆けつけに来てくれなければ、間違いなく死んでいたと断言できる。

 

 

 『人か』

 

『敵か』

 

『敵なら』

 

『殺す』

 

恐怖は未だに記憶から拭いきれないほどに深く浸透しすぎていた。あの日を境に魔族の惨殺を行う異形は公式に「白い死神」と呼ばれるようになり、多くの裏社会関係者が彼に注目し、裏掲示板*2では日夜情報が更新され続けるほど世界をさわがせている。

 

 異形が彼女に残したものは確実に由利翡翠という少女の心に悪影響を及ぼしていた。

 

 人間と魔族が織りなす「悪意」

 命を失い、凌辱され、仲間を失う「恐怖」

 奪われ、弄ばれ、それでも今が何も変わらないことへの「憤怒」

 終わらない戦いへの絶望

 

 あの日から由利翡翠の中でナにかが壊れ始め、ナニカが蠢き始めた。

 

『死神』が大技を出すときに発した電子音が頭の中から離れない。どれも対魔忍として戦う際、抑え込むべき感情なのに以前より歯止めが利かなくなっている。

 運動不足、PTSD、恐怖心。どれも違う。体も集中も平常運転だ。心だけが「悪意」に捕らわれたままだ。

 

 念のために桐生佐馬斗の魔界医療の診察も受けてみたが全項目異常なし。

 あの日から、周りの対魔忍達からは動きが良くなった。判断が早い。キレが違うと褒められもした。

 だが賞賛の言葉をもらっても翡翠の心は晴れなかった。むしろ悪化した。その頃からアトピー性皮膚炎の症状が出始めた。

 何かが足りない。その「何か」が分からなくて苛立つ。足りないと言うよりは何か余計なものが体に纏わりついて重くなっているような気がする。周りが良くても自身が納得出来ない。まだいける領域があると本能が叫んでいる。

 言うなれば、体と心の波長が合っていない。体が脳の命令にスムーズに動かない。

 

 今の自分はまだまだまだまだ強くなれる。

 

 今よりもっと早く動ければ効率よく殺せる。方向転換を早くすればスムーズに殺せる。対魔粒子の巡りを意識すれば軽く殺せる。

 殺せる早く殺せるいっぱい潰そうキモチワルイ死んじゃえ消えろ滅びろぶつけロ弾けろ。

 もっと先へ行ける。今よりももっと高く高く高く高く高くどこかへと行けるような。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せコロせ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺す殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せこロせ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺すすすす殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺す

 

 パチン‼

 頬をひっぱたいて暴走しかけた思考を閉ざし、現実へと目を向ける。

「……本当に疲れているかも」

 このように一度思考に入ると殺意が増幅するようになり、あたりかまわずゼンブぶっ壊したくなるような以前の自分では考えられないほどのすさんだ感情が彼女を蝕んでいた。そろそろ限界が近づいてきた翡翠は帰りに稲毛屋のアイスを買って帰ろうかと考えた。

 

 

 

 

 

 

 だから翡翠は気づけなかった。後ろから普通に近寄る彼女に。今最も会ってはいけない『対魔忍』に。

 

「今から帰るの?翡翠ちゃん」

「⁉……鬼埼、ちゃん……」

 普段なら早く気付けるはずの同級生に反応が遅れてしまう。

 

「ちょっと大丈夫?ここ最近変よ。なんかあからさまにみんなと距離置いてるし」

「…そう、かな」ズキズキ

「そうよ!委員長とかさくら先生も心配してたし」パキパキッ

 

 話に相槌を打っているが内心早くこの場から去りたい。駆け足でもすぐに。頭痛が酷くなる。

 実際にアトピーよりも翡翠を悩ませているのが仲間とのコミュニケーションの際に生じてせりあがるこの不快感だ。

 

 

 由利翡翠という少女は基本仲間のことを重んじる協調性のある対魔忍だ。

 基本は無口でコミュニケーションが取りにくい翡翠だが任務を共にする仲間に対しては深く信頼し、何が何でも守り抜こうと必死になれる者だ。

 

 

 だが、最近は酷く思いが虚ろになってきていた。

 

 日夜問わずに仕事を依頼してくる上層部への不満。我先にと突っ込んで敵に捕まってアヘアへいう仲間に煩わしさと殺意がにじむ。

 

 

 此の世で息つく全てのものが翡翠を苦しめるような。そんな悪夢が長々と続く日々。

 

今まで仲間にも親にも先生にも思っていなかったことが浮き上がってどろどろと心に侵食していく。媚薬よりもへばりつき鈍らせ殺意を高めるこの悪意に翡翠の心は限界だった。

 

なによりここで彼女、鬼埼きららという『対魔忍』に遭うことは翡翠にとって大災害に等しい苦境に立たされた瞬間だった。

 

 

 

「そういえばまた任務で大けがしたんでしょ」「そ、そうだね。でももう大丈夫だから」「良くないわよ!また男をかばって怪我したんでしょ!」「それは、私が行かなきゃもっと酷いことになっていたかもしれないから・・・」

「だからってねぇ。ああもう!」

 

 

 

 

 

やめろ。やめてやめてよ。

今の私の前でこれ以上言葉を吐かないで。

 

 

「ほんと。男ってどいつもこいつも頼りにならないわよねぇ。足ばっか引っ張ってさ!翡翠ちゃんも気をつけなよ!」

 

 

⦅ふざけるなオマエはいつモ自分しか見テナい癖に⦆

 

『Malice learning ability』

 

「‥……ッ!!」

 頭を振りかぶって廊下の壁に激突させる。

 即座に回れ右をして駆ける。頭から血が流れ始めたが気にもできなかった。

 

 

 

「え? ちょっと翡翠ちゃん!?」

 

 後ろからきららの驚いた声が聞こえる。

 

  

 翡翠は振り向けなかった。これ以上向かい合えば自分が何をするか怖くなったから。

 

 


 仕方ないから。全部壊そう。誰も何も聞いてくれないし邪魔しかしないからさ


 

 ―東京都内渋谷区某ビル15;26―

 

「あちゃ──翡翠ちゃんだっけ? 彼女には荷が重かったかねぇ」

 渋谷の高層ビルの屋上。そこに行くためにはビルの管理会社のアクセスキーが必要となる場所に少年はいた。

 八重歯をのぞかせ口元をあげて笑っている彼は、まえさき市の方角を向いて独り言を呟いていた。常人には見えることも認識することもできないはずのはるか数百キロの距離の田舎町の様子を彼はその場で見ているかのように認識して上で呟いているのである。

 

「とはいえあれはアーク様に必要な『要素』だからねー簡単に抜けられると僕ッチがアーク様と()()()に消されちゃうんで―……」

 

 座っていた屋上の淵から立ち上がり、飛び降りる。

「もう少し、()()をかけとこうかなーキキ」

 

 

 

 ビルの下の道路には今日も変わりなく車がうごめき、人は歩く。

 

 

 そこには何の変化もない日々が続いていた。

 

 

 

 ③〔法〕ある事実を知っていること。「悪意の」は「知りつつ」の意。必ずしも道徳的不誠実の意味を含まない。

 引用:広辞苑 第七版

 

 

 

 

 

 -五車学園三年生フロア「3-〇」教室前-

 

 由利翡翠が鬼埼きららから逃げた教室前の廊下に二人の若き対魔忍がいた。一人は可愛いもの好きの女装の男子生徒。もう一人が髪で顔の半分を隠したミステリアスな剣士の女子生徒。

 

「(・・・・)」

「ん?どうしたのコロちゃん?」

「(何でもない。……行こ)」

 友人の声にこたえ、彼女は己の仕事、風紀委員としての操作を全うするために彼とともにその場から去り行く。

 少し早歩きになりその場から一刻も早く離れるように急ぎ足で着替えを取りに行く。

 


 

コロちゃんなら、きっと俺に気づいてくれると思っていたんだ

 


 

「(なんだか……すごく懐かしかったような・・・・)」

 

 

 

 道は長くとも終わりは必ず結び付く。

*1
内務省公共安全庁・調査第三部<セクションスリー>が設立したにもかかわらず、年々被害が増加・深刻化する「魔界案件」の完全撲滅を目標と定め、警視庁公安部が独断で設立させてしまった(公には)存在しない部署に所属する警察官(一応、所属職員は公務員試験に合格している)の呼称

*2
何処の誰がそのサイトを作り、誰が運営しているのかも分からない「プライベート完全保護」を掲げ高評価を得ている掲示板サイト。閲覧は誰でも出来るが、投稿するには古参の多数決によるスレ民加入審査に合格する必要がある



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