原作崩壊・オリジナル設定などが多く含まれます。
それらが苦手な方は閲覧にご注意ください。
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本作品は某ニコ生の妖夢の日(4月6日)の企画用小説です。
例え話をしよう。
目の前に道がある。
とてもとても長く、果ても見えない。
視界のはるか先にあるはずの終着点まで、
どれだけかかるかもわからない。
どれほどの困難があるのかもわからない。
最後まで歩き切れる保証はなく。
本当に終着地点があるのかも保証はない。
すべてが無駄になるかもしれない。
けれど、
だからといって、
それで最初の一歩をあきらめる理由にはならない。
これが私の歩く道だと決めたから。
この道の先に、目指したいと思った私がいるはずだから。
* * * * * *
私には目標としている人がいる。
それは祖父であったり、幽々子様であったりする。
小さなころから二人を見てきて、その背中を追ってきて。
私も二人のようになりたい。
そう思っていた。
まだまだ私は未熟者だけれど、
頑張って二人のような「一人前」になりたいと。
けれど、二人はどうやら私が一人前になれないと思っているらしい。
「一人前なんぞなれるものか」と祖父は言い。
「一人前なんてなるものじゃないわよ」と幽々子様は言った。
きっと二人とも私がまだ幼いからって馬鹿にしているんだ。
その日から毎日のように剣を振るい続けてきた。
仕事の合間、お世話の間。
時間が許す限り鍛錬を続けた。
刀を一度振り下ろすたびに強くなれると信じて。
二人に近づけていると信じて。
一回一回、願いながら。
一歩一歩、少しずつでも。
* * * * *
例え話をしよう。
長い道を歩いてきた。
振り返っても、出発点はもう見えない。
どれだけの時間を費やしたのか、道の長さからはわからない。
前を見ても、終着点はまだ見えない。
どれだけの時間を費やすのか、道の残りではわからない。
そこに声をかける者がいた。
「ちょうどここが中間地点だよ」と。
そうか、半分か・・・・・・。
私はもう半分も来たのだろうか。
まだ半分しか来ていないのだろうか。
* * * * *
「やーいやーい、半人前の魂魄妖夢!」
まだ幼いころ、投げつけられた野次がいつまでたっても耳から離れない。
それは私の腕の未熟さでも、歳の幼さを指すものではない。
半人・・・・・・人間である者。だけれど人間ではない。
半霊・・・・・・人間でない証、けれども妖怪になり切れない。
どちらとも名乗れるが、どちらにもなり切れない半端者。
まるで昔話の蝙蝠のようだ。
半人半霊だからなじられるのだろうか。
半端者だから仲間に入れてもらえないのだろうか。
半人前だから認めてもらえないのだろうか。
一人前になれたなら、そんな言葉も投げかけられなくなるのだろうか。
早く、一人前になりたい。
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例え話をしよう。
長い時間をかけて歩いてきた。
とうとう足を踏み出す先が見つからなくなった。
やっと・・・・・・私はたどり着けたのだろうか。
ここが私の目指していた終着地点なのだろうか。
けれど、そこは想像していた華やかさも何もあったものではない。
そこにあったものは「何もない」という光景だった。
ゴールテープもなければ、看板もない。
ここが終着点だと示すのは、ただ途切れた道だけだった。
ここは本当に私の目指していたゴールなのだろうか。
ここが私の目標だったのか。
本当に私の歩いてきた道は正しかったのか。
本当にここは正しい終わりなのだろうか。
わからない。
分からない。
ワカラナイ。
正しいのか正しくないのか。
どっちつかずの立往生。
ここにずっととどまる勇気もなければ。
ここから離れる勇気もない。
ワカラナイ。
分からない。
わからない。
私は迷子になって、ここに着いたのだろうか。
私はここに着いて、迷子になったのだろうか。
* * * * *
祖父から庭師を引き継ぎ、白玉楼を守ることは私の職務になった。
自分の行動に役目が付いたのはとてもうれしかった。
やっと自分が認められたと思った。
やっと一人前になれたんだと実感した。
自分のため。
主のため。
他人のため。
刀を振るう毎日となった。
けれど、どんな理由をつけようとも、それは人斬りだった。
一人斬った時、感じたのは恐怖。
刀から伝わる感触が気持ち悪かった。
本当に自分か斬ってしまったんだと、じっとりとした触感だけが残った。
十人斬った時、感じたのは歓喜。
私はここまで強くなったのだと。
私の鍛錬は無駄ではなかったのだと。沸き立つような達成感に満ちた。
何人斬ったかわからなくなったとき、感じたのは虚無。
私は何のために刀を振るっているのだろうか。
私はどうして剣を振るい始めたのか。
目的さえも忘れてしまった。
目標がなんだったのかさえも忘れていた。
目指す先はもう見えない。
けれど、戻ることさえ許されない。
ただ私にできることは、日々刀を振るうことだけだった。
* * * * *
例え話をしよう。
私はゴールへとたどり着いた。
長い時間を費やした。
多くの苦労を重ねてきた。
そしてたどり着いたここは間違いなく、私の目指していた目標だった。
道の終わり。終着地点。行き止まり。
行き着いたここは思い描いていた華やかさなどなかった。
ああこれで終わりなのか。
ただ終わったという虚しさだけが胸に残った。
これからどうしよう。
私は何をすればいいのだろうか。
目指していた目標にたどり着き、足を踏み出す方向に戸惑うばかりだ。
「なぁ、こんなところでどうして立ち止まってるんだ?」
ただ立ち尽くしている私に声をかける人がいた。
「どっちに進めばいいのかわからないんです」
その人に私は正直に言った。
視線は足元の道の終わりだけを見つめる。
視線をあげても、目の前には行き止まりの壁しか見えない。
「進む方向がわからないだって? だったらこうすりゃいいじゃないか!」
後ろから追いついたその人は、私の「一歩先」に足を踏み出した。
ズンッ、という重い音。
ミシミシと響く破壊音。
その人の足は行き止まりの向こう側にたどり着いた。
「ぬはははは。行きたい場所なんて自分で決めればいいじゃないか!」
そう言い残すと、その人は私を置いて歩いていく。
目指す先は長い、長い道の先。
どれだけ、時間がかかるかわからない。
どんなに、苦労があるのかわからない。
けれど、その人はそんなことを意も介さず歩き続ける。
自分がそう決めたから、とでもいうように。
私は、どうしたらいいのだろうか。
行き止まりはなくなった。
道の先に新しい道があった。
けれど、ここは確かに私の目指していた目標だったのだ。
ここが、終着地点のはずだったんだ。
いつまでも迷っている私に、先に行ってしまった人が大声で叫ぶ。
「おい、どうしてまだそこにいるんだ?」
「ここが、私の目標だったんです」
だから私はここから動けないんです。
そういうつもりで言ったのだが。
「そうか、じゃぁ、次は何を目指すんだ?」
さも、それが当然かのように。
「前の目標は達成したんだろ、だったら次を目指すんじゃないのか?」
「次を・・・・・・目指さなきゃダメでしょうか?」
やっと一人前になれたのに。
私はここから離れないといけないのだろうか。
「当たり前だろ、俺たちは一生「半人前」なんだから、できないことをできるようになること喜ばなけりゃ、そりゃぁ損じゃないか!」
その言葉を聞いて、「かつての目標」にしがみついていた私が恥ずかしくなってきた。
「ほら、さっさと行こうぜ」
手を差し伸べる彼が「私の前」にいた。
当面の私の目標が定まった。
「待ってください・・・・・・すぐに追いつきますから」
どれだけ長い時間がかかるかもわからない。
どれだけ苦労があるかもわからない。
けれど、一生かけて歩くのも悪くない。
それが二人でならなおのことだ。
閲覧ありがとうございました。
そして朗読ありがとうございましたー(とある人へ)
今日も今日とて独白ばっかの小説でした。
いちゃこらはどこ行ったし。
うーむ、悩みだ。
次はこころちゃんの日だし、また独白だろうなー。
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