スクールアイドルアニメで見たような二人が、銀河の深宙域を駆けまわります!【とりあえず完結!】 (ひいちゃ)
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設定資料

活動報告で連載していた設定をまとめておきます。
これを事前に読んでおくと、いい……かも?


【深宙域】

スクみたの舞台となるエリア。『深』とあるが、実際は、銀河の中心ではなく、むしろ外縁。もしかしたら、銀河を飛び出した先の別銀河かもしれない。

銀河の中心部、二大国と呼ばれる大国の存在するエリアから、片道20年の距離にある。

なお、この20年というのは光年ではなく、超光速航法(ワープ)を使って20年という意味である。

二大国から発した探査船団によって発見され、以後、開拓や植民が行われている。

とはいえ、法の支配が行き届いているのは、人類文明圏の中心であるレーヴェ星域のみであり、それ以外の宙域は、まさに弱肉強食の無法地帯である。

西部劇の舞台を思い浮かべると近いかもしれない。

現在は、レーヴェ星域とその周辺のいくつかの星域の開拓、植民が終わり、さらにその外の星域へと開拓、植民の手を伸ばしている状況。

 

【深宙域暦】

人類がレーヴェ星域を発見した年を元年とした暦年法。D.S.E(Deep Space Era)と略される。

物語の舞台はD.S.E230年。

 

【 レーヴェ星域 】

深宙域の片隅に存在する7つの惑星からなる恒星系。人類がこの星域を発見して、開拓に着手したことから、深宙域における人類の一歩が始まった。

まず、第四惑星であるレーヴェⅣの開拓から始まり、今では先住種族の住むレーヴェⅡ、ガス惑星であるレーヴェⅥ以外のすべての惑星に人類が住んでいる。

なお、名前の由来は、開拓団の団長が敬愛するある皇帝の異名からきている。

 

・レーヴェⅠ……第一惑星。恒星レーヴェに最も近い惑星ということもあり、かなり高温の惑星。人々は、地表に作られたドーム都市に居住している。

・レーヴェⅡ……第二惑星。先住種族であるフォーリンが住む。人類はフォーリンを尊重し、レーヴェⅡの開拓や植民には手を付けていない。なお、形式上はレーヴェ星域を統治するレーヴェ惑星同盟共和国に所属しているものの、政府の統治は受けていない自治区扱い。

森や水に覆われた自然にあふれすぎる惑星。

・レーヴェⅢ……第三惑星。レーヴェⅣと位置が近いこともあり、環境もレーヴェⅣに近く、首都星であるレーヴェⅣに次いで人口が多い。

・レーヴェⅣ……第四惑星。レーヴェ星域を統治するレーヴェ惑星同盟共和国の首都がある。きわめて地球に近い環境。経済、軍事、政治の中心。

・レーヴェⅤ……第五惑星。Ⅳからかなり離れていることもあり、環境はあまりよくなく、惑星のほとんどが荒れ地である。

・レーヴェⅥ……第六惑星。土星に匹敵する大きさを持つガス惑星。同星域におけるヘリウム3の一大供給源。

・レーヴェⅦ……第七惑星で、レーヴェ星域最外周惑星でもある。氷に覆われた極寒の地。衛星軌道上には、外周防衛ステーション兼税関ステーションがある。

 

【 レーヴェ惑星同盟共和国 】

レーヴェ星域に植民した人類が打ち立てた国家。レーヴェⅣを首都としており、人類文明圏を統括している。

 

【鋼の月(スタルモンド)】

レーヴェⅣの月軌道に浮かぶ人工天体。大きさは直径60kmほど。

特殊処理を施された超硬度鋼と複数の素材を使った四重複合装甲で覆われ、さらにその外周を流体金属の層で覆っている。

宇宙港には、2万隻もの宇宙船を収納可能。もちろん、それに見合うだけの、物資生産能力も有している。

かつては、超高出力ビーム砲も装備されていたというが、現在は排除されている。

深宙域を発見した探査船団は、この鋼の月(当時は違う名前で呼ばれていた)と、その護衛艦隊を伴ってやってきた。

その後は、レーヴェⅣが共和国の首都となるまで、人類の拠点として使われていたが、それからもスペースコロニーとして使われており、500万人もの人々が居住している。

なお、ハンターオフィスもこの鋼の月に存在している。

 

【フォーリン族】

レーヴェ星域の第二惑星、レーヴェⅡに住む原住種族。

人類が初めて遭遇した地球外知的生命体(いわゆる宇宙人)でもある。

 

背丈は人間の腰ぐらいの高さで、背中に羽が生えている。

だがこの羽はとても小さく、この羽で飛ぶことはできない。

 

高度な精神文明を持っていたという噂もあるが、今のところでは噂の域を出ない。

というのも、彼らはめったにレーヴェⅡを出ることがないので、その片鱗を見ることがないからだ。

 

彼らはレーヴェⅡの森林地帯に大きな町を作り、そこを小さな王国として生活を営んでいる。

産業というのは特になく、木の実を採ったり、狩りをしたり、農業や牧畜をしたりなど、自給自足で生活を成り立たせている。

 

彼らとの接触後、人類は彼らを尊重し、レーヴェⅡの開拓や植民には手を付けていない。

 

【ダイヤ・ブラックウォーター】

主人公。相棒のマリー・フィールダーとともに、ハンターチーム『AquaS(アクア)』を結成して活動している。得物は日本刀っぽい反身のレーザーソード。

堅物で、ちょっと厳しく口うるさいが、逆に自分が暴走してしまうこともある。

家はレーヴェⅢにある旧家で、妹がいる。そして妹を溺愛している。

実家にいたころにはなかった刺激を求めてハンターとなった。

 

【マリー・フィールダー】

ダイヤの相棒の女性ハンター。ふざけるのが好きな自由人。しかし、要所要所では真面目なところも見せる。その一方でお金についてはかなりルーズで、ダイヤを悩ませている。

得物は銃。撃つときに『ロック・オーン!』というのが口癖。

フィールダーという姓(ファミリーネーム)は、実は偽名。レーヴェⅣ有数の財閥のお嬢様だったが、窮屈で退屈な家に我慢できなくなり、家を飛び出した、という経歴を持つ。

 

【ヨシコ・ダークエンジュ】

ダイヤとマリーがあることで出会うフォーリンの少女。実は、フォーリンを束ねる王家の王女。

好奇心旺盛だが、厨二病の気があり、自分のことを『深宙域を治めている女神に仕えていたが、その美しさに嫉妬した女神に堕天させられた堕天使・ヨハネ』だと思い込んでいる。それもあり、周囲には自分のことをヨシコではなくヨハネと呼ぶように言っており、本名のヨシコと呼ばれると『だからヨハネ!』『ヨハネだってば!』と返すのがテンプレww

なお、ヨシコは王族の中で一番精神文明の名残を持っているらしいが……?

 

【ウミ・プレイス】

レーヴェ防衛宇宙軍中将。『黒髪の勇将』の異名を持つ。ちなみに女性。

深宙域にやってきた探査団の護衛艦隊司令をしていた人物を祖先に持つ家系の出(ただし、彼女はその家の傍系であるが)

その家系を誇りに思っており、女性でありながら努力の末、中将にまで昇進した努力の人。

副官と、レーヴェⅦ防衛司令補佐の二人とは幼馴染同士。

戦闘においては、速戦即決を旨とする電撃戦を得意とする。

性格はちょっと堅物だが、見知らぬ人の前に出るとあがってしまったりするあがり症でもある。

 

【コトリ・サウザント】

レーヴェ防衛宇宙軍大尉でウミの副官。ウミ、そして現在レーヴェⅡ防衛司令補佐をしているホノカとは、生れた時から幼馴染で、士官学校も一緒だった。

とてもおっとりしている一方、とても軍人としても優秀。それなのに大尉で止まっているのは、ウミの副官で居続けたくて、昇官を断っているから。

 

 

【ホノカ・コーサカ】

レーヴェ防衛宇宙軍大佐。レーヴェⅦ防衛司令補佐。

ウミ、コトリとは生まれたときからの幼馴染で、幼稚園、小学校、中学校、高校はもちろん、士官学校も一緒だった仲で、プライベートではよく遊びに行くほどの関係。(ウミに怒られ、コトリに甘やかされるのが日常だったとか)

とてもポジティブで、ちょっと幼さの残る女性。(ちなみに、ウミ、コトリとも同じ23)

軍人としての才覚は確かなのだが、勤務態度が今一つなので、いまだに大佐から昇進できずにいる。一応、レーヴェ星域を悪の手から守るという決意は本物なのだが。

まだ、学校時代のことが抜けなくて、よく仕事の場でウミやコトリをちゃんづけで呼んでは、防衛司令に怒られたり、ウミに小言を言われたりしている。

 

【超生物(グレイツ)】

かつて、この深宙域に存在していたと言われる、人知を超えた力を持つ巨大生物。

いまだ生きている姿に遭遇したことはないものの、各地に散らばる、超生物由来のオーバーテクノロジーの遺跡の数々、そしてそれと思われる巨大な化石などから、存在することが推測されてきた。

 

【超生物教(グレイツ・ブラザーズ)】

上記の超生物を神のように崇拝する宗教団体。穏健派(シスターズと呼ばれる)は細々と布教活動をしているが、後述の過激派の所業もあり、あまり印象はよくない。

一方の過激派は、各地でテロや陰謀を行う狂信者のテロリスト集団。超生物を信仰するという他は、特に理由もなく、テロや陰謀を繰り返している。

一説には、彼らの中枢には、二大国時代から存在する宗教テロ集団『チキュー(地球)教』の元構成員も加わっているとも噂されている。



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第1シーズン
#01


さぁ、ここからいよいよ本編開始です!
どこまで続けられるかわかりませんが、とりあえず1シーズン13話は最低でも書けたらいいなと思っております。
よろしくお願いします!


「もう少しで『鋼の月(スタルモンド)』ですわね。やっと報酬がもらえますわ」

 

 私……ダイヤ・ブラックウォーターは目前のスクリーンから目を離さずに、傍らの相棒に話しかけました。

 もしかしたら、それがよくなかったのかもしれません。

 

「Oh! やっとお金がもらえるのね! もらったら何を買おうかしら……」

 

 と、そんな能天気なことを言う相棒に、私は思わず頭を抱えます。

 

「マリさん、いい加減にしてください! あなたがあれもこれもと買うものですから、報酬をもらってもあっという間にパーではありませんか! 私が財布を管理してなければ、とっくに路頭に迷っているところなのですよ!」

「えー、だってやっぱりお金は使ってこそでしょう?」

「それでも限度というものがある、と言っているのです! ああ本当にこの人は……」

 

 マリさん……私の相棒、金髪の女性、マリー・フィールダーのあまりの経済観念のなさに、私は再び頭を抱え、船の操縦桿を握りなおします。

 

 そんな私たちの目前に、美しい流体金属に覆われた球状の人工天体……『鋼の月』が見えてきました。

 

* * * * *

 

 今から250年前。銀河の中心部、二大国と呼ばれる二つの大きな国家のある領域から、探査船団が出発しました。

 彼らの目的は、人類の生存域を広げるため、人類の植民先を見つけること。

 

 出発から20年後、艱難辛苦の末、この深宙域の片隅に植民が可能な星域を見つけると、彼らはただちに本国に『植民先発見』の通信を送り、その星域にレーヴェ星域と名をつけ、テラフォーミングを開始しました。レーヴェの名は、探査船団のリーダーが尊敬していた皇帝の異名から取ったと言われています。

 

 さて。探査船団は必死になって、開拓を行ったと言います。何しろ、二大国からは20年もの時間をかけて移民がやってくるのです。『失敗したのでお帰りください』とは言えません。

 色々なトラブルなどがありましたが、探査団の命を削るような努力の末、ついに10年後、最初の惑星、レーヴェⅣのテラフォーミングが完了し、植民が始まりました。

 

 その後もレーヴェ星域の各惑星のテラフォーミングを進め、今ではガス惑星であるレーヴェⅥ、先住民族の住むレーヴェⅡを除く、全てのレーヴェ星域の惑星に人がひしめくようになり、そこを拠点に、人類はさらなる開拓のための冒険に繰り出しているのです。

 

 今はD.S.E(Deep Space Era、深宙域暦)230年。D.S.Eは、レーヴェ星域発見の年を元年としています。

 

* * * * *

 

 さて。私たちは『鋼の月』の宇宙港に到着すると、停泊のための作業や手続きを手早く済ませ、船……AquaS(アクア)号……を降りました。ハンターオフィスに行って、今回の仕事の報酬をいただかなくては。

 

 『鋼の月』は、レーヴェⅣの月軌道に浮かぶ、レーヴェⅣより少し小さい程度の大きさの人工天体です。この深宙域にやってきた探査団は、この『鋼の月』と、その護衛艦隊を伴ってやってきたと言われています。レーヴェⅣのテラフォーミングが完了し、植民が始まるまでの間、人類はこの『鋼の月』を拠点にしていたそうですわ。

 レーヴェⅣどころか、星域の全惑星に人が住むようになった今では、政治、軍事の中心はレーヴェⅣに移りましたが、それでもこの『鋼の月』には多くの人々が住んでいます。

 

 そうそう、『ハンター』についても説明しなくてはいけませんわね。今まで、そして現在の開拓事業は、決してすんなり進んだわけではありません。

 宇宙海賊、宇宙災害、そしてそれによるものや、人的要因による事故。宇宙にはさまざまな障害があり、それが開拓を亡き者にしようととしています。

 それに対処する賞金稼ぎ、それが『ハンター』なのです。『ハンター』たちは、『ハンターオフィス』から仕事の仲介を受け、仕事を遂行し、その報酬を受け取ることで、生業を成り立たせています。

 そして私たちも、愛船AquaS号を駆り、この深宙域を駆けまわるハンターの一人ならぬ1グループなのですわ。

 

* * * * *

 

 さてさて。私たちが報酬を受け取り、新たな依頼を受けて、レーヴェ宙域外縁にAquaS号を走らせていると……。

 

「Oh! ダイヤ、ちょっと待って」

 

 マリさんが何かに気づいたように声をあげました。私は、船を一時オートパイロットにすると、彼女に向きなおりました。

 

「マリさん、どうなさったのですか?」

「周辺のどこかから救助信号が出ているの。付近を救命ポッドか何かが漂っているのかしら」

 

 救助信号ですか。それはただちに発信元を探さなければいけませんわね。救助を必要とする者を助けるのはハンターの義務の一つということもあるのですが、私の心情としても、助けられる者は助けたいと思いますから。

 

「どの辺だか、わかりますか?」

「待って。今スキャンかけてるから……Oh! 見つけたわ。7時の方向、6.5宇宙kmよ」

「わかりました」

 

 私はスキャン結果を聞いて、その方向に船を動かしました。すると……ありましたわ。発見したというポイントに、ぷかぷかと浮かぶ救命ポッドが。あれ? あの大きさでは、どちらかといえば子供用ですわね? まぁいいです。とりあえず回収しましょう。

 

……そして無事に回収は終わりました。そしてポッドを開けてみると……。

 

「……子供ですわね」

「……子供ね。というか、顔立ちからすると、心は大人、体は子供って感じ。もしかして彼女、フォーリンじゃないかしら」

 

 中には、腰までの背丈の少女がすやすやと眠っていました。黒髪のロングで、片方の髪をシニヨンに結っています。

 それと、着ているキャミソールやアクセサリからすると、かなりやんごとなき身分のお方ではないでしょうか? 背丈からすると、やはりマリさんの言う通り、フォーリンの可能性が高いですね。

 

 フォーリンは、レーヴェ星域の第二惑星、レーヴェⅡに住む原住種族。私たち人類が初めて遭遇した、人類以外の知的生命体でもあります。

 彼女を見てもわかる通り、背丈は大人でも、人類の大人の腰までです。そんなちっこい種族の皆さんですが、精神文明は発達しているという噂もあります。

 

 ……あ、目を覚ましましたわ。

 

「う、うーん……。あっ! あなたたち、助けてくれたのね! さすが私のリトルデーモンだわっ!!」

「……あなたのリトルデーモンとやらになった覚えはありませんが……。ああ、とりあえず名乗っておきましょう。私はダイヤ。そしてこちらは、マリーですわ。あなたのお名前を聞かせてもらってもいいでしょうか?」

「私? そうね、私のことは堕天使ヨハネと呼びなさいっ!!」

 

 えーと。これは、旧地球時代に流行った厨二病とかいうものでしょうか。そう私が困惑していると、マリさんが何かを見つけたようです。

 

「えーと、ポシェットの名札に、『ヨシコ・ダークエンジュ』って書いてあるわね」

「そ、それは世を忍ぶ仮の名前! 私の真の名、魂の名前はヨハネなのよっ!」

「えーと……」

 

 厨二病を炸裂させているヨハネ……もといヨシコさんに私が困惑……している場合ではありませんっ!

 ダークエンジュといえば、フォーリンの王族の名前ではありませんか!

 

 と、そこに!

 

『そこの船! ただちに機関を停止し、武装をオフラインになさい! さもないと、主砲で宇宙の藻屑にしますよ!!』

 

 と、通信で凛とした女性の声が。ブリッジに行ってスクリーンを見ると、勇壮な宇宙戦艦の姿が。

 ああ、この船は年鑑で見たことがありますわ。名前は忘れましたが、かつて、探査団の護衛艦隊に所属していた戦艦ですわね。護衛艦隊の司令官が座乗していたというその艦は、レーヴェに到達してからも、近代化改修を繰り返しつつ、今までずっと現役で居続けていると聞いたことがあります。

 

 ……って、そんな知識を披露している場合ではありませんわ! その艦がここにいるということは……レーヴェ防衛宇宙軍の司令官の一人、『黒髪の勇将』の異名をとる、ウミ・プレイス提督の登場ではありませんか!!

 




どこかで聞いたような名前が出てきてますが、あくまでスターシステムで登場した、同名同容姿同性格の別人ですのでご了承くださいませ。

次回もお楽しみにです!


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#02

「Oh! 防衛宇宙軍のご登場!? それは逃げなくちゃ!」

 

 そう言って、マリさん……わたくしの相棒マリー・フィールダー……はコクピットに駆けこもうとします。……って、ちょっとお待ちになってください!

 

「ちょっと待ちなさい、マリさん! 相手は即戦即決に定評のあるウミ提督なのですよ! 逃げ切れるわけないじゃないですか! それに、逃げ切れたとしても、そんなことをしたらわたくしたちはお尋ね者確定なのですよ!」

「やってみなくちゃわからないわよ~。それに、お尋ね者なんていう刺激的なのもいいんじゃなーい?」

 

 そう言って、マリさんは再びコクピットに行こうとします。あー、もう! この人は本当にフリーダムすぎますわ! 頭が痛くなってしまいます。

 

「もう! ヨシコさん、あの人を止めてください!」

「ヨシコじゃなくてヨハネ! それはともかくわかったわ!」

 

 そう答えると、ヨシコさんはマリさんに飛び掛かり……

 

「Oh,No~~!!」

 

 コブラツイストでマリさんを悶絶させたのでした。わたくしたちよりも身長が低い彼女がどうやってコブラツイストをしたのか……それは謎ですが。

 

 ともあれ、その間にわたくしは、彼女の代わりにコクピットに飛び込み、エンジンを止め、武装をオフラインにしたのでした。

 お尋ね者になるなんて、ブラックウォーターの娘として恥ですもの。そんなことは願い下げですわ。

 

* * * * *

 

 わたくしたちがエンジンを止め、武装をオフラインにしたのを察したウミ提督の戦艦は、ゆっくりとこちらに接近してきて、そして接弦チューブを接続してきました。

 そして移乗してきたのは、亜麻色の髪の女性……あれ?

 

「止まってくれてありがとね。まずは身分証を見せてもらってもいいかな?」

「は、はい、いいですけど……あなたがウミ提督なのですか?」

 

 確かウミ提督は、『黒髪の勇将』と呼ばれていたはずですが……。

 

「ああ、違うよ。私はコトリ・サウザント大尉。ウミちゃん……じゃなかった、ウミ中将の副官だよ。ウミ中将は……って、ウミちゃーん、そんなところに隠れてないで出ておいでよ~。示しがつかないよ~」

「そ、そんなことを言われても、まだ心の準備が……。ああっ、引っ張らないでください~」

 

 その声とともに、物陰からコトリ大尉に、黒髪の女性が引っ張り出されてきました。どうやら彼女が『黒髪の勇将』ウミ中将のようですね。でも彼女がこんな人見知りだったとは知りませんでしたが。

 

「もう、ウミちゃんったら。ご先祖様が見たら草葉の陰から泣いちゃうよ? ウミちゃんの先祖って、護衛艦隊の司令官をしてたほどの人でしょ?」

「それは確かですが、だからと言って、私が人見知りではいけないって理由にはならないでしょう? ……こほん。レーヴェ防衛宇宙軍中将、ウミ・プレイスです。それでは身分証を見せてもらえますか?」

 

 毅然な態度に戻ったウミ提督はそう言ってきました。でも体はまだ小刻みに震えているようですが。

 なにはともあれ、わたくしは彼女に身分証代わりのハンター証明書を渡します。

 

「C級ハンター『AquaS(アクア)』のダイヤ・ブラックウォーターと、マリー・フィールダーですね。確認しました。ご協力、ありがとうございます。それともう一つ。私たちは、レーヴェⅡから拉致されたヨシコ姫を捜索していたところなのですが、彼女について心当たりはありませんか?」

 

 そう聞いてくる彼女に、わたくしは隣に立つ人影を指さしました。

 

「あっ、これはヨシコ姫ではないですか!」

「ヨシコじゃない、ヨハネ!」

「航行中に彼女が乗った救命ポッドを発見して回収していたのですわ」

 

 わたくしがそう言うと、ウミ提督もコトリ大尉も、ほっとした表情を浮かべました。

 

「そうだったのですか、ありがとうございます。それでは、彼女は私たちが責任をもってレーヴェⅡに送り届けますので、お引渡ししていただいてもいいでしょうか?」

「はい、もちろん。彼女と別れるのは名残惜しいですけど」

 

 と、そのとき、コトリ大尉の携帯通信機が鳴り響きました。それに受け答えする彼女。そして。

 

「ちょっと待って、ウミちゃん。そうはいかないみたい」

「……どうしたのですか?」

「レーヴェⅦのホノカちゃんから報告があって、宇宙海賊がレーヴェⅦに接近してきてるんだって。私たちに迎撃要請があったよ」

 

 コトリ大尉からの報告を受けて、ウミ提督の表情がきりっとしたものに変わりました。これが、彼女の軍人としての表情なのですね。さすがですわ。

 

「仕方ありませんね。ただちに向かいましょう。……すみません。そういうわけですので、ヨシコ姫は、お二人がレーヴェⅡに送り届けてあげてもらえませんか?」

「えぇ、かまいませんわ」

「ありがとうございます。他の防衛宇宙軍の艦艇に遭遇した時には、このカードを見せれば通してくれるはずです」

 

 そしてウミ提督は、わたくしにカードを渡してくれました。それを確かに受け取ります。

 

「それではただちに出撃しますよ! コトリ!」

「了解だよ!」

 

 そして二人はAquaS号を去っていったのでした。その姿は颯爽としていて、最初に会った時のような人見知りでおどおどした姿とは大違いです。さすが軍人といったところでしょうか。

 

* * * * *

 

 さて、ウミ提督たちと別れたわたくしたちは、一路レーヴェⅡに向かいました。当然、本来の仕事の依頼主さんにはその旨を伝えて、了解をとってあります。その仕事は、幸いにも急を要しないものだったようで、一週間ぐらいなら始めるのを伸ばしても構わない、とのこと。本当に助かりましたわ。

 

 そしてAquaS号を駆る私たちの目の前に、レーヴェⅡが見えてきました。一面、青と緑に包まれた美しい惑星です。

 

 ヨシコさんの故郷であるレーヴェⅡは、海と森に覆われた星。そこに住むフォーリン族はそれらをとても愛し、開発は最低限にとどめ、森の一角を切り開き、そこに小さな町を作り、自給自足の生活を営んでいるといいます。

 レーヴェⅣのレーヴェ惑星同盟共和国政府も、彼らを尊重し、レーヴェⅡに対しては開拓や植民は行っていません。

 

 ……なのですが……。

 

「おや? 『町』の規模が少し大きくなっていませんか?」

「それに、なんか『町』にビルが増えてきているような……」

 

 私たちがそう言うと、ヨシコさんは少し表情を曇らせました。

 

「うん。あなたたちもニュースで見たでしょ? フォーリン族の宰相にミシェルとかいうアースマン(人類)が就いたって。あの男が宰相になってから、レーヴェⅡは少しずつ近代化を進めてるのよ。幸いにも、お父様が過度な近代化は抑えてるけど……。それでも、素朴だった『町』が近代化したものになっていくのは寂しいものがあるわ」

 

 そう言って、ヨシコさんは寂しそうに眼を伏せました。ヨシコさんは本当に、自然あふれるレーヴェⅡを愛していらっしゃるのですね。

 

「ヨシコは故郷の星がとても好きなのね」

「ヨハネだってば! ……故郷が嫌いな人なんていないわよ。それに、自然が減っていくと、魔力がどんどん減っていくもの。この堕天使ヨハネにはそれは辛いわ……」

 

 やっぱり安定のヨシコさんに苦笑しつつ、わたくしは大気圏突入したAquaS号をレーヴェⅡの宇宙港へ向けたのでした。

 



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#03

 さて、わたくしたち……ダイヤ・ブラックウォーターとマリー・フィールダー、そしてヨシコさん……は宇宙港に着陸したAquaS(アクア)号を降りました。

 だいぶ前に仕事で立ち寄った時には、森を切り開いた平原に、仮設の着陸床を設置しただけの簡素なものでしたが、すっかり本格的な宇宙港になっています。これも近代化の成果ということなのでしょう。

 

 そしてわたくしたちが降りると、ターミナルビルのほうから、一人の女の子がこちらに走ってきています。何やら涙ぐんでいるみたいですね。ヨシコさんの身内の方でしょうか?

 

「ヨシコちゃ~~んっ!!」

 

 そしてその子は、すごい勢いで、ヨシコさんに抱き着いてきました。その勢いで、二人とも倒れこんでしまいます。

 

「うわっ、ちょ、ちょっとずら丸!?」

「ヨシコちゃ~ん、よかった、よかったずらぁ~~!!」

「み、みんな見てるから、ちょっと一度離れなさいっ。それと、ヨシコじゃなくてヨハネ!」

「本当によかったずら~! オラ、ヨシコちゃんが行方不明になったと聞いて、心配で心配で、4時間しか眠れなかったずらぁ~!!」

「とても心配かけたみたいね……って、結局寝ていたんじゃないの!」

 

 そう突っ込んで、ヨシコさんは、ずら丸さんとかいう女の子と一緒に立ち上がりました。

 

「恥ずかしかったところを見せてごめんなさいね。彼女はハナマル・カントリア。私の一番のリトルデーモンよ」

「ヨシコちゃんを助けてくれてありがとうございますずら。オラ……私は、ハナマル、ヨシコ姫の幼馴染ずら。彼女の侍女をやらせてもらってます」

 

 そう言ってハナマルさんはぺこりと頭を下げました。本当にかわいらしいお嬢さんですわね。レーヴェⅢに残してきた妹のルビィを思い出させますわ。ああ、また会いたくなってきましたわ。今度、久しぶりに里帰りしましょうか。

 

 すると、さらに向こうから、背の高い男と、その半分ほどの背丈の男がやってきました。低い背丈の男は見たことがあります。フォーリン族の長老さんですわね。もう一人のほうが、ヨシコさんが話していたミシェル宰相ですわね。

 

「おお、ダイヤ様、マリー様! 姫様を助けていただいてありがとうございます。感謝いたしますぞ」

「いえ、とんでもありません。ハンターとして当然のことですから」

「そうだ。紹介し忘れていましたな。こちらが、少し前にこのフォーリン族の宰相となられた……」

「ミシェルと申します。このたびは姫を助けてくださり、感謝の言葉もございません」

「いえ……」

 

 軽く頭を下げるミシェル。その彼を見て、わたくしはかすかに顔をしかめました。なぜなら、その彼にうさん臭いものを見たからです。そう、例えていうなら、「天使の顔して、心で爪を研いでいる者」の顔ですわ。横のマリさんもわたくしと同じ……むしろそれ以上に渋い顔をしているところを見ると、やはりそうなのでしょう。マリさんは、わたくしよりもっと陰謀うずまく世界に身を置いていたのですから、そういったことにはとても敏感なのです。

 

「今夜は、姫様が戻ってきたことを祝う宴を用意しております。二人とも、ぜひ参加してくだされ」

「えぇ、そうさせてもらいますわ」

「喜んで、参加させてもらいマース!」

「申し訳ありません。私は、まだ政務が残っておりますので、これにて」

 

 わたくしたちが参加を承諾したことを確認すると、ミシェル氏はかすかに苦虫をかみつぶしたような顔をして去っていきました。

 

* * * * *

 

 一方、そのころ、レーヴェⅦ衛星軌道上。

 

 レーヴェ防衛宇宙軍中将、ウミ・プレイスの旗艦、アースグリムの副砲が火を噴き、着弾した海賊船をあっという間に火の玉にした。

 

「ウミちゃん。残った海賊たちから通信。投降するって」

「そうですか。それならこの件はこれでおしまいですね。ただちに武装解除の準備を始めてください」

「了解♪」

 

 と、そこで通信士が着信を伝える。

 

「プレイス中将。レーヴェⅦのコーサカ大佐から通信が入っています」

「ホノカから? 何かあったのでしょうか。つないでください」

「了解」

 

 通信士が操作すると、艦橋の通信スクリーンに、顔に幼さの残る、サイドテールの若い女性の姿が映し出された。

 

「あ、ウミちゃん。そっちのほうはどうかな?」

 

 開口一番、自分のことをファーストネームで呼んでくる幼馴染に、ウミはため息をついた。

 

「もう、ホノカ。指令室ではちゃんと階級つけてファミリーネームで呼びなさいと言っているでしょう? こちらのクルーは、全員、私たちの関係を知っているから問題はありませんが、そちらはそうでないんですから。また基地司令に怒られますよ」

 

 その言葉を聞き、コトリを含めたブリッジクルーたち全員から苦笑がもれる。

 

「え~、だって、ウミちゃんはウミちゃんだもん。いいじゃない~!」

「はいはい、それでどうしたのですか?」

 

 ウミがそう聞くと、レーヴェⅦ防衛司令官補佐、ホノカ・コーサカ大佐はきりっとした表情に戻って言った。

 

「うん。情報元不明のタレコミがあって、レーヴェⅢとレーヴェⅡとの間にあるアステロイドベルトに海賊が潜んでいるんだって。今、ウミちゃんたちが戦っていたのとは別の奴ら」

「なるほど、わかりました。こちらはもうすぐ片付くので、これからただちに討伐に向かいます」

「お願いね」

 

 そして通信は切れた。

 

「それでどうする? ウミちゃん」

「ただちに向かいます。ここの奴らの武装解除には、駆逐艦を数隻残しておけば十分でしょう。彼らには、海賊たちが武装をオンラインに戻すそぶりがあったら、遠慮なく撃沈していいと伝えておいてください」

「了解だよ♪」

 

 敬礼を返したコトリにうなずくと、ウミは正面を見据えて、号令を下した。

 

「よし、ただちに発進! 目標、レーヴェⅡ近傍のアステロイドベルトです!」

 

* * * * *

 

 レーヴェⅡ、フォーリン族の『町』の王宮にある執務室。そこで、ミシェルは何者かと通信を行っていた。

 

「宇宙軍は奴らのところに向かったか? ならばいい。証拠を残すわけにはいかん。もしもの時には容赦なく仕掛けを作動させろ。それと、例の件も頼むぞ。今度は失敗は許さん。いいな」

 

* * * * *

 

 レーヴェⅡの『町』の市街地。そこを、わたくしとマリさんはのんびりと歩いていました。そこに聞こえてくる声。

 

「皆さん、超生物様は、私たち人間とその文明を築いてくださった偉大な方です。超生物様を信じて、幸せになりましょう!」

 

 一人の老婆が必死になって、宗教の勧誘をしているようです。

 

「あれは、超生物教の信者かしら? もうこんなところまで布教の手を伸ばしてるのね」

「ええ。驚きですわ。もっとも、あまりいい気はしませんが」

「そうね」

 

 超生物教。それはその名の通り、超生物を崇める宗教のことです。

 かつて、この深宙域には、超生物と呼ばれる巨大で強大な力を持つ生物が棲んでいたと言われています。深宙域の各地には、彼らの存在を示す化石が見つかっている他、一部では現在の人類の科学力では説明できないような超文明の遺跡も見つかり、それらも彼らからもたらされたテクノロジーで作られたものではないか、という学説もあったりします。

 超生物教はそんな超生物を神として崇拝するという宗教なのですが、世間からの評判はあまりいいものではありません。というのも、彼らの中には、二大国でかつて暗躍していたチキュー教の残党の子孫が多く混じっているという噂があるからです。実際に、超生物教の過激派によるテロ行為が、レーヴェ星域内で起こることも少なからずあったりするのです。

 正直、わたくしたちも彼らとはあまり関わりたくはありません。もちろん、向こうからケンカを売ってきたら、喜んで撃退してあげますけどね。

 

「あ、もうそろそろ宴の時間ですわね。そろそろ王宮に行きましょう」

「そうね! おいしいお料理と、陰謀が私たちを待ってるわ!」

「陰謀は待ってません! そんなのはごめんですわ!」

 

 そして王宮のほうに走っていくマリさんを、わたくしはため息交じりに追いかけるのでした。

 

* * * * *

 

 そして舞台は再び、レーヴェⅡ近傍のアステロイドベルトへとうつる。

 アステロイドベルトに潜む海賊の艦隊と、ウミ中将率いる防衛宇宙軍の艦隊の戦いは、あっけなく決着がついた。

 海賊たちは、どうやって手に入れたものか、正規軍の戦艦(おそらく中古で軍から除籍されたものだろう)で編成されていたが、練度や作戦では軍のほうが圧倒的に上である。海賊は、ウミ中将の作戦にまんまと振り回され、彼女率いる本隊の速攻で瞬く間に壊滅したのだ。

 だが、その戦いはすっきりしない部分も含んでいた。

 

「おかしいですね……」

「さっきの自爆のこと?」

 

 コトリ大尉がそう聞くと、ウミ中将はこくんとうなずいた。

 

「ええ。彼らはこちらが武装解除のために接近するのを待たずに自爆していきました。まるで、私たちを巻き添えにすることが目的ではないかのように」

「確かにそうだね……。あと、他に気になることがあるの」

「なんです?」

 

 ウミ中将の問いに、コトリは手元のメモを見て言った。

 

「彼らの通信ログを拾ったんだけど、『あの男』『裏切りやがった』って気になるワードが出てきてるの。きっと、この海賊の裏に何かあるような気がするんだよね……」

「確かにそれは気になりますね……。コトリ、共和国警察特務課のミュラー氏に、彼らが自爆したさいの映像データと、通信ログを送って、背後関係を調べるよう依頼してください。彼は、先祖とは違って、軍才が乏しく司令官コースから自らドロップアウトしたような人ですが、こうした調査に関しては極めて有能ですから。彼なら何か裏にあるものをつかんでくれるかもしれません」

「うん、わかったよ」

 

 コトリがそう言って通信士のところに歩いていくのを見ると、ウミは真正面に向きなおり、目を閉じてつぶやいた。

 

「何か胸騒ぎがしますね……。杞憂ならよいのですが……」

 




残念ながら鉄壁ミュラー氏、子孫に「鉄壁」は受け継がれなかった模様w


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#04

お待たせしました!
さぁ、今回、いよいよ事件が起こりますよ!
アクションも盛りだくさん(のつもり)です!


 わたくし……ダイヤ・ブラックウォーターとマリー・フィールダー……が宴の会場となる屋敷に入ったころには、もう準備が終わり、宴会が始まる直前でした。

 

 どうやら、宴会は立食形式のパーティで、決められた席というものはなく、他の参加者も、思い思いのところに立っています。わたくしたちも、適当な壁際に立ちます。

 

 そのわたくしたちに、先ほど出会ったハナマルさんが飲み物を渡してくれました。それを優雅に受け取ります。

 

「ダイヤ、相変わらず振る舞いがしっかりしてるわね。さすがブラックウォーターの長女だわ」

「子供のころ、ブラックウォーター家の者として恥ずかしくないよう、みっちりと仕込まれてきましたから。それがこんなところで役立つとは思いませんでしたわ」

 

 と、わたくしたちが話していると、壇上にフォーリン族の長老さん、ミシェル宰相、そしてヨシコさんが姿を現しました。

 そして長老が長い演説を披露したあと……。

 

「それでは、姫様が無事に救出されたことを祝って……乾杯!」

『乾杯!』

 

 そしてパーティが始まりました。わたくしも、さっそくグラスに口をつけようとしたら……。

 

「これは……ダイヤ、ちょっと待って!」

 

 マリさんが、小声でわたくしを制止してきました。どうしたのでしょう?

 

「どうしたのですか、マリさん?」

「それは飲んじゃダメ、毒が入ってるわ。おそらく遅効性ね。これを飲んだら、きっとベッドの中で永遠に覚めない眠りにつくことになるわよ」

 

 それを聞いて、思わず、わたくしの顔がこわばってしまいます。危ないところでしたわ。権謀術数の世界に生きていたマリさんに感謝ですわね。

 

「でも誰がこんなことを……」

「それはわからない……。ただ、マリーたちの存在が邪魔になる者の手下ということは間違いないでしょうね」

 

 ちょっと遠回りな言い方ですが、彼女の話は、ミシェル宰相の仕業だということを示唆していました。ああ、なんということでしょう。『陰謀が私たちを待ってる』という彼女の言葉が、実現することになるとは。

 

「でも、ということは、このことは内緒にしていたほうがいいかもしれませんわね」

「えぇ。ここでこのことを言ったりしたら、間違いなく犯人は、私たちにグラスを渡してきたハナマルに責任を押し付けてくるわ。それよりは、多分、犯人は今夜あたり行動を開始するでしょうから、それまで待つことにしましょう」

「わかりましたわ」

 

 そしてわたくしたちはこの場は表向き何事もなかったかのように、パーティを楽しみました。

 

* * * * *

 

 一方、レーヴェⅡとレーヴェⅢの間にあるアステロイドベルト。そこで待機しているレーヴェ防衛宇宙軍・ウミ艦隊旗艦アースグリム。

 

「レーヴェⅡに?」

 

 その艦橋で、副官のコトリから報告を受けていたウミがそう聞き返した。

 

「うん。レーヴェⅡの周辺宙域に次元振動が感知されてるの。微弱なものだけど」

「一体どういうことなのでしょう……? でももしかしたら……」

「もしかしたら?」

 

 そう聞いていたコトリに、ウミは以前に聞いたある報告のことを話し始めた。

 

「共和国政府がレーヴェⅡへの植民を検討していたとき、事前に調査を行っていたことは知っていますよね?」

「うん。その調査中にフォーリンと遭遇して、彼らを尊重して植民や開拓は中止したんだったよね」

「えぇ。その調査の時に、レーヴェⅡに超生物(グレイツ)由来の古代文明の遺跡が発見されたと報告があったそうです。詳しいことは不明ですが、次元操作関係のものではないかと」

「ということは、もしかして、この次元振動は、その遺跡と関係が?」

「今のところは何とも言えませんが……。でももしそうだとしたら、とんでもない次元災害が起きるかもしれません。本艦隊は引き続き、この近くに待機することにします。レーヴェⅡの周辺空域は引き続き、モニターしていてください」

「わかったよ」

 

 そうコトリに指示を出すと、ウミ中将は再び正面のモニターに映るレーヴェⅡに視線を戻した。

 

* * * * *

 

 さて、その深夜。

 わたくしたちは、割り当てられた個室で寝たふりをしていました。マリさんの言う通り、犯人たちは今夜きっとことを起こすはず。その時にすぐ動けるようにです。

 

 そして、その時は来ました。

 

 ガチャと扉が開く音がして、何者が部屋に入ってくる気配がしました。わたくしたちは息をひそめて寝たふりを続けます。もちろん、手はレーザーソードを握ったままで。

 

「そんなに近づかなくてもいいだろ。毒が効いたのなら、もうそいつらは天上(ヴァルハラ)に行った頃だ」

「そうだけど、確認のためだよ。結構きつい顔だけどべっぴんさんだな。殺すのがもったいなかったぜ」

 

 おあいにく様。わたくしたちはまだ天上にも地獄にももちろん煉獄にも行っていませんわ。それに、きつい顔だけどは余計です。

 

 そう思いながら、わたくしは跳ね起き、反身のレーザーソードを振るい、刺客の手から銃を弾き飛ばしました! その横では、マリさんがキックをぶちかまし、刺客を吹き飛ばしています。

 

「お、お前ら! 毒で死んだんじゃなかったのか!」

「おあいにくさまでしたわね」

「マリーたち、そんなお人よしではないのよねー。残念でした」

 

 そう言うと、わたくしたちは、峰うちで襲撃者たちを気絶させ、手早く縛り上げました。もちろんさるぐつわも忘れずに。よく見ると、彼らの服のえりには、超生物をかたどった紋章が縫い付けてありました。あの宰相、超生物教(グレイツ・ブラザーズ)の過激派とつながっていたのですね。

 

 と、そこに。

 

 別のところでガタンゴトンと音がしました。

 

「どこからでしょう?」

「嫌な予感がするわね。行きましょう」

 

 そしてわたくしたちは武器を手に、部屋を後にしたのでした。

 

* * * * *

 

 そしてわたくしたちが物音の源の場所に行くとそこには……。

 

「お、お前ら、どうして生きてるんだ!?」

 

 そう驚く、黒ローブの男。どうやら彼も、超生物教の手の者みたいですわね。襲撃者は四人。しかも、そのうちの一人がかついでいるのは……。

 

「おい、ここは俺たちが防ぐ。お前らは、早くその娘を連れていけ!」

「わ、わかった!」

 

 そう、ヨシコ姫です。抱えられてるのは気づかないほどぐっすりと眠っています。どうやら彼女も、眠り薬を盛られていたみたいですわね。

 

 彼女を運び去ろうとする二人を追おうとするわたくしたちを阻止するかのように、残り二人がレーザーガンで応戦してきます。まずは彼らをどうにかしなければですわね。

 マリさんがレーザーガンで応戦する中、わたくしはベルトから四角形のあるものを外しました。そしてそれを投げて……。

 

「マリさん、目を閉じて!」

「OK!」

 

 ピカッ!!

 

 あたりをまばゆい光が包みます。そう、超強力な照明弾ですわ。

 襲撃者たちが目がくらんでいる間に、わたくしは目を閉じたまま、突撃し、レーザーソードを振るいます。彼らの位置はだいたいの気配でわかります。ハンターオフィスで訓練を積んできたのと、その後数々の修羅場をくぐってきたのは、伊達ではありませんわ。

 

 そして光が止むと、二人の男たちがわたくしの刃を受けて、血を流し、のたうち回っています。気の毒ですが、その傷では助かりそうもありませんわね。ご愁傷様です。

 

 と、そこに数人の供を連れた長老さんがやってきました。

 

「い、いかがなされたのですか、これは!?」

「超生物教よ。超生物教の狂信者が、ここを襲い、ヨシコを連れて行ったの!」

「な、なんですと!?」

 

 それを聞いて長老さんは、卒倒しそうなほど驚愕しています。まぁ、気持ちはわかりますわ。

 

「ヨシコさんをさらった賊は、わたくしたちが追いかけます。長老さんたちは、わたくしたちの部屋にいる奴らの捕縛と、この館の警備をお願いしますわ! 多分大丈夫だと思いますが、まだ賊が紛れているかもしれませんから」

「わ、わかりました! 姫様のこと、よろしくお願いしますぞ!」

 

 その言葉を最後まで聞くことなく、わたくしたちは、その場を走り去りました。

 

「ダイヤ、奴らはどこに向かうと思う?」

 

 マリさんの言葉に、わたくしは走りながら考えを巡らせます。

 

「そうですわね……。この星でことを起こした以上、彼らとしてはこれ以上ここにいるのはリスクが高すぎますわ。とすれば、ここから逃げ出そうとするのは当然でしょう」

「ということは、宇宙港ね。急ぎましょう!」

 

* * * * *

 

 そしてわたくしたちが宇宙港にたどり着くと……。

 

「Oh! 一歩遅かったわ!」

 

 彼らの宇宙船がちょうど飛び立ったところでした。しかもご丁寧に、わたくしたちのAquaS(アクア)号の発着床を破壊したうえで。

 こうすれば、VTOL式の宇宙船なら飛び立つことはできないと考えたのでしょう。でも残念でしたわね。

 

「さっそく乗り込んで、後を追いますわよ、マリさん!」

「OK!」

 

 わたくしたちの船、AquaS号は、VTOL式と滑走式のハイブリッドなのです。発着床が破壊されたぐらいでは、どうということはありません。

 

 わたくしたちはすぐさま船に乗り込みエンジンに火を入れ、宇宙港から出発したのです。

 ある密航者に気づかないまま……。

 



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#05

「行きますわよ、準備はいいですか?」

「ええ、気にせず思いっきりやってくれていいわよ!」

「行きますっ!」

 

 マリさん……マリー・フィールダー……の承諾を得て、わたくし……ダイヤ・ブラックウォーターは、愛船のAquaS(アクア)号を急発進させました。周囲の小さながれきを弾き飛ばしながら、船は大空へ飛び立っていきます。

 

 しかし、さすがはわたくしの相棒、ここまで共にこの船で深宙域を駆けまわったマリさんです。急発進にも関わらず、悲鳴をあげることなく。

 

「ずらぁ~!!」

 

 あれ? 今、変になまった悲鳴が?

 

 大気圏を突破したところで、わたくしはマリさんの方を向いてお願いしました。

 

「マリさん。さっき、なんか悲鳴がしたような気がしたのですが、部外者がいないか、船内をチェックしてみてもらえますか?」

「了解……Oh? 船倉に生体反応あり? ちょっと行ってくるわね」

「お願いしますわ」

 

 そして席を外したマリさんは少しして、フォーリンの女の子を連れて戻ってきました。

 

「密航者を発見したわよ。かわいい密航者さん♪」

「ずら……」

 

 その密航者とは……ヨシコ姫の侍女のハナマルさん!?

 

「ハナマルさん、なんでこの船に!?」

「お、おら、ヨシコちゃんがまた誘拐されたって聞いて、気が気でなくて、二人の後を着いてきて、船に乗り込んで……」

 

 そこまで聞いて、二人でため息をつきます。

 

「……どうする、ダイヤ?」

「本当なら一度地上に戻って彼女を降ろすべきなのですが、そんな暇もありません……。このままいくしかありませんわね。ハナマルさん、密航の件については不問としますが、あなたの生命の保証はできませんわよ。よろしいですわね?」

「わ、わかったずら……」

 

 そしてわたくしは正面に視線を戻すと、今のタイムロスを取り戻すべく、再び船を急加速させました。

 

「ずらぁ~~!!」

 

* * * * *

 

 さて。(ハナマルさんの悲鳴を聞きながらの)急加速のかいあり、わたくしたちはレーヴェⅠの周辺空域で、誘拐犯の船に追いつくことができました。

 すると、その船から脱出ポッドが放たれたではありませんか!

 

「脱出ポッド? どういうつもりなのでしょうか?」

「Oh My God! あの船、急加速を始めたわ! まずいわね、このままじゃ恒星レーヴェにダイブよ!」

「ずらぁ~!?」

 

 もしかして彼らは、船ごとヨシコ姫を恒星レーヴェで丸焼きにするつもりなのですか!?

 

「ど、どうしよう、ダイヤさん、マリーさん……!」

「むぅ……」

 

 と、そこに。

 

「ダイヤ、AquaSをそのまま奴らの船の後ろにつけて」

 

 ふと見ると、マリーさんが、ブラスター砲の照準器兼トリガーを起こして構えていました。いけませんわ、目がマジです。あれは鷹のように獲物を撃ち抜こうとする目ですわ!

 

「ま、マリさん、まさかあの船を撃ち抜くつもりなのですか!?」

「そ、それはいけないずら、マリーさ~ん!」

「違うわよ! エンジンを撃ち抜いて止めるとともに、進行方向を恒星レーヴェへの突入からずらすの! マリーに任せなさい!」

 

 そう言うと、マリさんは再び船を狙い始めました。……ここは彼女に任せるしかないようですわね。

 

 わたくしもハナマルさんも、固唾を飲んでマリさんを見守ります。それはほんの数秒だったかもしれませんが、わたくしたちにはそれが一時間にも一日にも感じたのです。そして。

 

「ロック・オーンっ!!」

 

 トリガーを引くマリさん。そして、AquaSからブラスターが放たれました! その光線は船に狙いあやまたず飛んでいき、見事に船のエンジンを撃ち抜きました。そしてそれと同時に、着弾の衝撃で船のコースが、大きく恒星レーヴェへの突入コースから外れました。

 

「今よ、ダイヤ! あの船に接弦して!」

「わかりましたわ! ハナマルさん、何かにしがみついててください!」

「ずらぁ~~!!」

 

 ハナマルさんの返事を聞かずに、わたくしはAquaSのアフターバーナーを全開にして、奴らの船に接近しました。

 そして無事に追いつき、接弦。わたくしとマリさんは、船の中に乗り込んだのです。

 

 すると、やはりというべきか、船の中には誰もいませんでした。ヨシコさん以外には。

 何はともあれ、この船がどうにかなる前に、彼女をAquaSに連れ帰らなくては。

 

「ヨシコさん、ヨシコさん」

「ん……あっ、リトルデーモンダイヤにマリー!」

「前にも言ったように、あなたのリトルデーモンになった覚えはありませんが」

「がーん!」

「それはともかく、大丈夫ですか? 具合の悪いところはありませんか?」

「え、えぇ……。少し頭がくらくらするくらいで……って、どうして私、宇宙船の中にいるの!?」

「話はあとです。わたくしたちの船に乗り移りますから、念のため、この宇宙服を着てください」

「わ、わかった……」

 

 と、ヨシコさんがわたくしから手渡された宇宙服を着始めたところで……。

 

 ブーッ! ブーッ!

 

 照明が赤く点滅を始め、警報が鳴り始めました。

 それと同時に通信機からハナマルさんの声が。

 

「ダイヤさん、マリーさん! た、大変ずら! 警報ディスプレイに、『接弦している船のエネルギー量、急上昇を確認』と出てるずら~!」

「なんですって!?」

「さすが超生物教(グレイツ・ブラザーズ)の奴らね! こうなることも想定して、接弦されたら自動的にエンジンを暴走して自爆するようにしてたんだわ! 早くEscapeしましょう!」

「そうですわね! ヨシコさん、宇宙服は着ましたか!?」

「え、えぇ……!」

「それじゃ、Let's Escape!」

 

 そしてわたくしたちは大急ぎで、船のエアロックに走り出しました。そしてAquaSに戻ると、急いで、船を急発進させます。

 

「きゃあ~!」

「ずらぁ~!!」

 

 そして安全圏まで到達できたかというところで……。

 

 チカッ!

 ドグオオォォォン!!

 

 超生物教たちの船はまばゆい光を放って、爆散しました。ふぅ、危ないところでしたわ。

 

「ふぅ……間一髪でしたわね」

「えぇ……。スリル満点すぎたわ」

 

 わたくしたちが安堵のため息をついている横では……。

 

「うわぁん、ヨシコちゃ~んっ!」

「きゃっ、ずら丸! あんたもこの船に乗ってきたの? そしてヨハネ!」

「よかった、よかったずらぁ~!」

「こんな危ないところまでやってくるなんて呆れたわ。でも……ありがと」

 

 ヨシコさんとハナマルさんが抱き合って喜びあっていました。微笑ましいですわね。

 本当に、妹のルビィと会わせてみたいですわ。きっと、三人とも仲良しになることでしょう。さて。

 

「これで一件落着……とはいきませんわね」

「そうね。レーヴェⅡに戻って、あの宰相にお礼参りしなくちゃ」

 

 しかし、それはある大きな事情により、頓挫することになるのでした。

 

* * * * *

 

 わたくしたちの船、AquaSがレーヴェⅡの周辺宙域に到達すると、『停船せよ、さもなくば攻撃する』のフレーズとともに、見覚えのある一隻の宇宙戦艦が。ウミ中将の旗艦『アースグリム』ですわね。

 

 さっそく船を止めると、アースグリムから通信が入ってきたので、通信回線を開きます。

 

『レーヴェⅠのあたりで、戦闘があったようなのですが、どうかなさったのですか?』

「はい。実は……」

 

 と、わたくしたちは、ここまでのことをウミ中将に正直に話します。ミシェル宰相の関与のことはあえて話しません。彼の関与は間違いないと思うのですが、物証がありませんからね。

 

「……というわけなのです。証人もおりますわ」

『なるほど……。それは、レーヴェⅡの調査をする必要があるようですね。まず、共和国警察にこのことを……』

 

 と、そのとき、通信モニターの向こうから警報音が聞こえてきました。何かあったのでしょうか?

 

『どうしたのですか!?』

『大変です! レーヴェⅡから次元振動反応! 巨大な次元地震が来ます!』

『なんですって!? 総員、対ショック用意! 電磁流体力場、フル出力! ダイヤさん、船をアースグリムに接近させてください! 多分その船では次元振動の直撃を受けたらひとたまりもありませんよ!』

「わ、わかりましたわ! ヨシコさん、ハナマルさん、念のため、何かにしがみついておいてください!」

「わ、わかったわ、それとヨシコじゃなくてヨハネよ!」

「わ、わかったずら!」

 

 わたくしは大急ぎでAquaSをアースグリムに接弦しそうなほど接近させました。おそらく、船をアースグリムの電磁流体力場で守ろうというのが、ウミ提督の意図なのでしょう。それを済ませると、わたくしたちはシートに捕まり、その時に備えます。

 

 そして。

 

『3……2……1……きます!』

 

 その声とともに、震度7に匹敵する激しい揺れが、船を襲います。わたくしたちは、シートにしがみつきながらそれに耐えるしか、術を持ちませんでした。きっと、アースグリムの電磁流体力場の外にいたら、ひとたまりもなかったでしょう。

 

「きゃっ……!」

「くっ……!」

「きゃあ~!」

「ずらぁ~!!」

 

 そしてやがて、どうにか揺れ……次元地震は終わりました。ふぅ、なんとか助かりましたわね。

 しかし、その直後、わたくしたちはとんでもないものを見たのです。

 

「ふぅ……なんとか助かりましたわね……」

「ちょっと待って、ダイヤ、あれを見て!」

「れ、レーヴェⅡが……」

「なくなってるずらぁ~!!」

 



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#06

「再観測結果はどうですか?」

 

 次元地震にともなうレーヴェⅡの消滅は、アースグリムからも観測できていた。その艦橋に立つウミ提督は、観測オペレーターに改めて問いただす。

 

「はい、光学的、質量的にもレーヴェⅡの存在は確認できませんでした。はじめから存在そのものがなかったかのように、惑星そのものが消失したようです。ただ……」

「ただ?」

「あれだけの質量のものが消失したにも関わらず、他の惑星の軌道や重力、次元状況に何の異変も観測できませんでした。普通、これだけの次元地震と惑星の消失があれば、少なからず影響が出てもおかしくないのですが……」

 

 と、そこでウミの副官のコトリ大尉が口を開いた。

 

「もしかしたら……」

「どうかしたのですか?」

「人為的に今の次元地震を起こして、レーヴェⅡを亜空間に落としたんじゃないかな? 次元地震を起こしてそれを使って亜空間に落ちるってことは理論上では可能だって、何かの本で読んだことがあるよ」

 

 そのコトリの話を聞いて、観測オペレーターもうなずく。

 

「なるほど。それなら、他惑星への影響がないことにもうなずけますね。消滅したわけではなく、亜空間に落ちただけなのなら、そのものが消えたわけではないので、他に影響が与える可能性は少ないでしょうから」

「ですが、消失した以上、レーヴェⅡに手を出すことは不可能ですね……。なんとか対策を考えなくては」

 

* * * * *

 

「どうにかうまくいったようだな」

 

 レーヴェⅡの某所で、ミシェルは黒ローブの男にそう話しかけていた。

 

「うむ。これでかなりの時間が稼げよう。後はお前次第だ」

「わかっている。必ず、お前たちが信じる超生物(グレイツ)様とやらを目覚めさせてやろう」

「期待しているぞ……」

 

 そして黒ローブの男は、闇の中に去っていった。その姿を見てミシェルは一人思う。

 

(つくづく怪しい奴らだ……まぁいい。奴らはしょせん、超生物とやらを復活させるための駒にすぎん。復活がなった時には、真っ先に奴らを餌にしてやろう。奴らも本望だろう)

 

 その一方、黒ローブの男、超生物教(グレイツ・ブラザーズ)の大司教の一人、ド・ボーゼル・ヴィリエも一人つぶやいていた。

 

「くくく……まぁ、せいぜい超生物様の復活のために力を尽くすがいい。お前ごときに超生物様を御せるとは思えんがな」

 

* * * * *

 

『……というのが、こちらの立てた仮説です』

「なるほど、わかりました。レーヴェⅡが消滅したわけではないとわかっただけでも幸いですわ」

 

 わたくしたちは、AquaSの通信モニターでウミ提督と話していました。そこで、レーヴェⅡが消滅したわけではなく、亜空間に落ちてしまっただけだということを聞かされたのです。

 

『防衛宇宙軍のほうで、惑星を再び通常空間に引き上げる方策を検討します。決まったらお知らせしますね』

「わかりましたわ、よろしくお願いしますわね」

 

 そして通信は切れました。その横では、ヨシコさんとハナマルさんが安堵で胸をなでおろしていました。

 

「消えたわけでなくてよかったずらね。それならきっと、みんなも無事でいるよ、ヨシコちゃん」

「そうね……本当によかったわ……それとヨハネだってば」

 

 涙ぐみながら話す二人を見て、こちらもほっとした気持ちになります。でも、安心してばかりはいられません。

 マリさんも、同じことを考えていたのか、先に彼女のほうから口を開きます。

 

「ねぇ、ダイヤ。ヨシコとハナマルの二人だけど、どうする? どこかの星に降ろすというわけにもいかないと思うわ」

「そうですわね。防衛宇宙軍に身柄の保護をお願いするという手もありますが、防衛宇宙軍に、超生物教の工作員が紛れ込んでいる可能性も捨てきれません。わたくしたちの目の届くところにおいておくのが一番ですが……」

 

 なのですが、仕事の時にどうするか、という問題があります。と、そこで。

 

「ねぇ、一つお願いがあるの」

「なんですか、ヨシコさん?」

「ヨハネも、二人に同行させてほしいの。この機会に、もっと宇宙を見てみたいと思うし、あと、それが今回の事件の解決に必要な気がするのよ。あくまで予感だけど……」

「そうですか……。ヨシコさんの気持ちは尊重したいのですが、規約があるのですよ。ハンターの仕事に、仕事に無関係の民間人は同行させられない、という規約が……」

 

 そう。ハンターズオフィスでは、ハンター本人や同行者の身の安全という観点から、規約で仕事に関係のない民間人を同行させてはいけない、と決められているのです。その同行者が危害を受ける可能性や、ハンターの仕事の障害になる可能性がありますからね。

 

 と、そこでマリさんが。

 

「そうだわ。それなら、ヨシコとハナマルに、ハンターの訓練を受けさせるのはどうかしら。マリーたちのようなC級や一ランク下のD級は、さすがに訓練はきついけど、見習いであるE級や、チームでの雑用係であるZ級ならそんなに訓練は厳しくなかったと思うわ。確か、一週間ぐらいでライセンス取れたんじゃなかったかしら」

 

 なるほど。それは一理ありますわね。まぁ、二人が受けるかどうかが問題ですが。

 ハンターたちは、色々な評価によって、S級~E級、そしてZ級のランクがつけられています。実際にハンターとして活躍しているのはD級からS級です。なお、S級はこの深宙域でも屈指の実力と事件解決能力を持つハンターで、ギルドでも三人しか存在しません。

 さて、E級は、D級以上のハンターの補佐を行う、いわばハンター見習いで、単独での活動は許されていません。さらにその下のZ級は、先ほど話したとおり、いわばチーム活動において、炊事洗濯したり、拠点や船の中での情報収集、船の操縦などの雑用を行う、いわば雑用係です。

 

「彼女たちも、E級やZ級のハンターになれば、マリーたちと同行しても問題はないと思うわ。同じハンターだもの」

「そうですわね。いかがですか、二人とも?」

 

 すると、意外とも二人とも乗り気でした。

 

「いいわよ、やってやるわ! このさい、ヨハネの魔力で、Z級どころか、E級になってやるわ! ギランッ」

「お、オラも頑張るずら! オラはヨシコちゃんの侍女だし、そのオラがヨシコちゃんと離れるわけにはいかないもん。多分Z級までしかいけないと思うけど、頑張るずら!」

 

 それを聞いて、わたくしたちはうなずきます。問題はないようですわね。

 

 そしてわたくしたちは、AquaS号を、ハンターオフィスのある鋼の月(スタルモンド)へと向けたのでした。

 

* * * * *

 

 そしてそれから一週間後。

 

 鋼の月にある食堂で、わたくしたちは食事と飲み物を囲んでいました。

 

 どうなるかと思っていたのですが、二人とも意外と真剣に、弱音を吐くことなく訓練に励み、ハンターとなることができました。さらに意外なことに、ヨシコさんはその頑張りの成果かE級になりました。ハナマルさんは残念ながら後一歩というところで、Z級止まりとなりました。でも二人とも、無事にハンターのライセンスを取れてよかったです。

 

「二人とも、ライセンス獲得おめでとうございます。心から祝福いたしますわ」

「これでヨシコ……おっと、ヨハネとハナマルも、私たちAquaSの一員ね!」

 

 そう、ヨシコさんの身柄が狙われる可能性を少しでも減らすため、彼女には偽名(彼女曰く『魂の名前』)であるヨハネでハンター登録をさせたのです。事情を話したら、オフィスの受付のエリさんが快く許可してくれて助かったですわ。

 

「ふふふ、これでヨハネもこの宇宙に羽ばたけるのね! リトルデーモンたちとともに!」

「ヨシコちゃん。ここにいる誰も、リトルデーモンになった覚えはないと思うずら」

「ヨシコじゃなくてヨハネ!」

 

 そう談笑しながら簡単なパーティをするわたくしたち。それが済んだところで……。

 

「さて、いつまでもパーティ気分でいるわけにもいきませんわね」

「そうね。先の仕事をかなり待たせているし、明日になったらさっそく向かわないとね」

 

 すると、ヨハネさんがわくわくした感じで聞いてきました。

 

「ヨハネたちの初仕事ね! 仕事先はどこなの?」

「ふっふっふっ、それはね……」

 

 聞かれたマリさんが得意そうに含み笑いをして答えます。

 

「レーヴェ星域の外、弱肉強食の星の海よ!」

 




ハンターランクの目安としては……

S級:まさにヒーロー。一騎当千の実力者
A級:S級には、実績も実力も及ばないが、それでもかなりの実力と実績を持つ強者
B級:ベテランや腕の立つデキるハンター
C級:標準的な実力。活躍しているハンターのほとんどがこのランク。
D級:駆け出し。あまり危険な仕事や難しい仕事を受けることは、基本的には許されていない。
E級:D級以上のハンターの補佐を行う見習い。
Z級:雑用係
といった感じです。

さてさて、次回からいよいよ新展開ですぞ!


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#07

さぁ、お待たせしました! 今回から新展開です!

そしてAquaSの二人が、罠で大ピンチに!!


 超光速航法(ワープ)を終え、わたくしたちの船、AquaS(アクア)は、目的地の星域にワープアウトしました。

 

「よし、ワープアウト。アーペンハイル星域に到着しましたわ」

「やっと着いたわね。さて……二人とも、大丈夫?」

 

 マリさんが、後部座席の二人に声をかけます。その答えは……。

 

「うん、オラは全然大丈夫ずら。訓練の時は辛かったけど、今は全然平気になったずらよ」

「よ、ヨハネだって……ぜぇぜぇ……大丈夫よ……」

 

……すいません。全然大丈夫そうに見えないのですが。

 

「全然大丈夫そうに見えないわね。はい、ワープ酔い止めよ。まぁ、仕方ないわね。今回は、時間短縮するためにブースター使ったし」

 

 そう言って、マリさんがヨシコさん……もといヨハネさんに、薬を渡します。それを飲むと、ヨハネさんは少しは楽になってきたようです。

 

 そう、今回は、かなり時間が迫ってきたこともあって、ワープブースターを使い、本当ならば1週間はかかる距離を、2日に縮めて、アーペンハイル星域に飛んできたのです。

 

 でも、そのおかげ(と、ヨハネさんの犠牲も)あって、なんとか期限内に目的地につけてよかったですわ。

 

……あら?

 

「なんか、エンジンの具合がちょっとおかしいですわね。やっぱりブースターを使った超高速ワープをした反動でしょうか?」

 

 わたくしのその言葉に、わたくしの後ろの座席でコンソールを見ていたハナマルさんが答えてくれます。本当にいいオペレーターですわ。

 

「どうやらそうみたい。ちょっとガタが来てるみたいずらね。この仕事が終わったら、一度メンテナンスしたほうがいいかも」

「ぜぇぜぇ……。でも、このワープって、亜空間を通って移動時間を短縮する航法でしょ? そしたらこれを応用したら、亜空間に落ちたレーヴェⅡにも行けるんじゃないの?」

 

 ヨハネさんがそう、話題を振ってきます。確かに、彼女の言う通り、ワープを応用して、亜空間のレーヴェⅡに向かうことは可能です。ですが。

 

「そう簡単にはいきませんわ。亜空間にいることは、人体にかなり重い負担がかかるんです。例えるなら、今ヨハネさんが味わったような苦しさが、亜空間にいる間、ずっと受ける、と言ったところでしょうか。ワープの場合は、短時間だから、生命が危険に陥るほどではありませんが、長時間いるとなれば、生命の保証はできかねますわね」

「それに、亜空間に突入するワープインと、亜空間からこの通常空間に出るワープアウトの同調の問題もあるわ。もし下手して同調に失敗すると、永久的に亜空間をさまようことになりかねないの。ヨシコもそれは嫌でしょ?」

「うぐ……それは堕天使の私でもきつすぎるわね……。というかヨシコじゃなくてヨハネ! ってか、そんなに人体に悪いんだったら、レーヴェⅡのみんなもやばいじゃない?!」

 

 と騒ぎ出すヨハネさん。でも心配は無用だと思いますわ。

 

「心配はいらないと思いますわ。惑星にいる黒幕だって、それはわかってるはず。きっと悪影響を防ぐために、なんらかの対策を取っていると思います。自分だって死にたくはないでしょうからね」

「そ、そう……それなら安心したわ。ぐふ、安心したらまた少し具合が……」

 

 まぁ、わかってもらえて何よりですわ。さて。

 

「それでは、そろそろ大気圏突入態勢に入りますわ。準備をお願いします」

「わ、わかったわ……」

「了解ずら!」

 

 そして、AquaSは、惑星アーペンハイルⅢに降下していったのでした。

 

* * * * *

 

「それでは行ってきますわね。わたくしたち以外の者は決して船の中に入れないようにしてくださいましね?」

「うん、わかったずら!」

「ヨシコはどうする? 辛いなら、船の中に残っていていいわよ?」

「ヨシコじゃなくてヨハネだってば……。大丈夫よ。だいぶ良くなってきたし、こんなところでダウンしていては、堕天使として失格だわ……ぐふ」

 

 そう言って立ち上がるヨハネさんですが、やはり少し辛そうですわね。どうしたものでしょうか……。

 

「Oh、それじゃヨハネは船に残って、私たちのサポートと、船の安全確保をお願いね。それもハンターとして大事な仕事だから」

「残念だけど、わかったわ、任せてちょうだい……。それと……ありがと」

 

 ちょっと不満というか残念そうな様子でしたが、大事な仕事と言われて、ヨハネさんも納得したのでした。さすがマリさん。ヨハネさんを扱うのが上手ですわね。

 

 そしてわたくしたちは船を出たのでした。

 

* * * * *

 

 依頼人がいるのは、アーペンハイルⅢの研究所オフィスだということで、わたくしたちはそこへ向かいました……が。

 

「ちょっと待って、ダイヤ。あれ、戦いの煙じゃない?」

「そうですわね。それに銃声が聞こえてきますわ。急ぎましょう!」

 

 そしてわたくしはレーザーソードを、マリさんは大型レーザーガンをかまえ、研究所に走っていきました。

 

 急いでよかったです。研究所では、警備員と、黒ずくめの奴らが激しい銃撃戦を繰り広げているところでした。まだ制圧されてはいませんが、今のままではいずれ、黒ずくめの奴らに研究所が制圧されてしまうのも時間の問題でしょう。幸いにして、奴らはまだこちらに気づいてはいない様子。今から奴らを襲えば、勝てるかもしれませんわね。

 

 そこまで考えて、わたくしは横のマリさんに目配せします。その彼女も同じ考えだったのか、こくんとうなずきます。さすが我が相棒ですわ。

 そしてマリさんが銃を構え、わたくしはレーザーソードを構え、奴らに突進していきます。さすがに足音で向こうも気づいて振りまきましたが、遅すぎますわ!

 

「せいっ!!」

 

 気合一閃! わたくしはレーザーソードで、奴らのうちの一人を切り裂きました。気づいた別の男がこちらに銃を向けますが……。

 

「ロック、オーンっ!!」

 

 マリさんのレーザーソードで腕を撃ち抜かれて銃を落とし、さらに次の一発で胸を撃ち抜かれて倒れました。

 

 わたくしたちの突然の襲撃で、黒ずくめの襲撃者たちは動揺し、混乱しているようです。それを悟ったのか、警備兵たちも、猛反撃を開始しました。

 

 そして戦いは、こちらに優位に進み、奴らはついには撤退していきました。

 

 この戦いはこちらの勝利、と思っていたのですが、実はこの撤退には、一つ別の理由があったことを、わたくしたちは知らなかったのです。

 

* * * * *

 

 わたくしたちが武器をしまうと、研究所の中から、一人の男がやってきました。白衣を着たその男は、どうやらこの研究所の所長のようです。そしてその通りでした。男はぺこぺこと頭を下げながら話し始めました。

 

「おぉ、AquaSの皆さん、助けてくださって、ありがとうございます! ここの所長のアーヴァンクと申します」

「いえ、こちらこそ、来たのが遅かったみたいで申し訳ありませんわ」

「いえいえ。皆さんのおかげで奴らは撃退できました。一つ問題がありましたが……」

「問題?」

 

 マリさんがそう聞くと、アーヴァンク氏は少し表情を曇らせて言いました。

 

「はい。実は、こちらとは別の方角からも彼ら……超生物教(グレイツ・ブラザーズ)のテロリストたちがやってきて、超生物(グレイツ)の細胞サンプルを奪われてしまったのです……」

『超生物ですって!?』

 

 あ、思わずマリさんと声が重なってしまいましたわ。

 

「はい。実はここから離れたところにある遺跡から、私たちが『カトブレバス』とコードネームをつけた超生物の化石の一部が見つかったのです。それでその細胞のサンプルをここに持ち帰り、研究していたのですが……」

「それが悪用されたら大変ですわ。もしかして、依頼というのは……」

「はい。彼らから研究所と『カトブレバス』の細胞サンプルを守ってほしい、と依頼するつもりだったのです……。AquaSのお二方、改めて依頼いたします。もしあの細胞サンプルが悪用されたら大変なことになります。彼らから細胞サンプルを奪還してもらえないでしょうか? もし奪還が無理であればお二人の判断で処分していただいても構いません。必要なら追加料金もお支払いいたします」

「いえ、追加料金はいりませんわ。それが悪用されたら一大事というのはわたくしたちにもわかりますもの。当初の料金で引き受けますわ」

 

 そう言うと、アーヴァンク氏は、またぺこぺこと頭を下げてきました。そこで、はっと何かに気づいたようです。

 

「そうだ。実はその遺跡からはもう一体、『カーバンクル』という仮称の超生物も発見されているのです。こちらはほぼ完全な状態で、休眠状態になっているのですが……。セツナという研究員の一人が、『カーバンクル』が発見されてから、その遺跡で『カーバンクル』の研究を続けていたのですが、そこに超生物教の奴らが襲ってきて、私たちは彼女を置いて撤退してしまい、奴らはその遺跡を拠点にしてしまいまして……」

「オーノー! それは大変じゃない!」

「はい……。幸いというべきか、『カーバンクル』が発生された区画は、遺跡の地下のかなり奥深くのエリアだったので、奴らは彼女に気が付いていない可能性がいくらかあると思うのですが……できれば彼女の救出もお願いできますでしょうか?」

「わかりましたわ、そちらについても最善を尽くしましょう」

 

 わたくしがそう答えると、アーヴァンク氏はほっとした表情を浮かべました。そして。

 

「そちらは、追加報酬は……」

「残念ながらありですわ」

「やっぱり……」

 

* * * * *

 

「というわけですわ。AquaSは念のため、ポイントの上空で待機させておいてくださいまし」

「わかったわ。あとそれと一つ気になることがあるの」

 

 アーヴァンク氏からエアカーを借りたわたくしたちは、出発の前に、通信機でAquaSのヨハネさんとハナマルさんにここでのことを話していました。そこで、ヨハネさんから報告があったのです。

 

「なんでしょうか?」

「この星の太陽……恒星アーペンハイルなんだけど、恒星レーヴェのような通常の恒星とは違うスペクトルが含まれてるみたいずら。分析の結果、人体に悪影響をもたらすものではないみたいだけど……」

 

 スペクトルが……。それが何を意味するかわかりませんが、気に留めておく必要はありますわね。

 

「わかりましたわ。報告ありがとうございます。これからも、何かあったら知らせてください」

「了解。気を付けて行ってきてね」

「頑張ってずら~」

 

 そして通信を切り、わたくしたちはエアカーに乗り込んだのでした。

 

* * * * *

 

 問題の遺跡は、研究所から離れたジャングルの中にありました。木々をよけ、猛獣たちを銃で撃退しながら、その遺跡までやってくると、やはりアーヴァンク氏の語っていた通りです。遺跡の入り口の前には、黒ずくめの男たち……超生物教のテロリストたちが二人、見張りについていました。

 

「行きますわよ、マリさん。準備はいいですか?」

「もちろん!」

 

 わたくしはベルトのポケットから閃光弾を投げました。まばゆい閃光の中、奴らが目がくらんでいるところに、わたくしは剣を手に突入します。そして一人を袈裟斬り! もう一人は、マリさんがレーザーガンで仕留めました。

 

 見張りを排除したわたくしたちは周囲を警戒しながら遺跡の中に入ります。と、そこに……!

 

「へへへ……このままで済むと思うなよ。お前らも地獄へ落ちやがれ……!」

 

 そしてマリさんに撃たれた男の人が、床のタイルの一つを強く叩き、絶命します。

 

 すると。

 

 ガラガラガラ!

 

 なんと、足元の床が崩れだしたではありませんか! 罠ですの!?

 

「きゃーーーー!」

「オーノーーーー!!」

 

 かくしてわたくしたちは、地下に転落していったのでした……。

 



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#08

今回はアーペンハイル編の後編です!
さぁ、果たしてダイヤたちは、地下遺跡から脱出することができるのか!?


「ちょっと、ダイヤ。大丈夫?」

「う、うーん……マリさん、だから無駄遣いはあれほどダメだと……あら?」

 

 わたくし……ダイヤ・ブラックウォーター……が目覚めると、そこは暗い、遺跡のような地下空間の中でした。

 ああ、確か、あの超生物教(グレイツ・ブラザーズ)の方々の最後のあがきで、地下に落とされたのでしたっけ。

 

「大丈夫、ダイヤ? 痛いところはない?」

「ええ、大丈夫ですわ。マリさんのほうは大丈夫でしたか?」

「えぇ。私も大丈夫よ」

 

 それはよかったですわ。打ち身で少し痛むところはありますが、大したことはなさそうです。落ちる間際に、小型重力制御装置のスイッチを入れといてよかったですわね。落下速度を低下させるぐらいしかできませんが、それでもこうして無事だったのですから。

 

「それにしても……毒殺されかかったり、こんなところに落とされたり……ふんだりけったりね。超生物教の奴らにはリベンジしてやらなきゃ気が済まないわ」

「そうですわね。でもひとまず今は、ここから脱出することを先に考えましょう。あら?」

 

 と、そこでわたくしは何かの気配を感じました。とっさに、腰のレーザーソードを取り出します。

 

「What?」

「気を付けてくださいまし、マリさん。通路の奥から何者かがやってくる気配がします」

「Oh!?」

 

 わたくしの言葉に、マリさんも、レーザーガンを構えます。

 

 そうしてる間にも、足音はどんどん近づいてきて、緊張もそれに伴って強まります。そして。

 

「Fleese!!」

 

 マリさんが、入口付近の床にレーザーガンを発射しました。気配が一瞬たじろいだような感じがしました。威嚇射撃の効果はあったみたいですわね。

 

「ひいっ、待ってください待ってください!」

 

 そして、通路の奥から、手を挙げながら、わたくしたちとそれほど年も変わらなさそうな女性がやってきました。

 セミロングで、片方の髪の一部をサイドテールにして流しています。着ている白衣はところどころ薄汚れています。

 もしや彼女は……。

 

「もしかしてあなたは……ここで超生物(グレイツ)の研究をしていた……」

「はい! 研究員のセツナ・ユーキといいます!」

 

 やはりそうでしたか。わたくしたちは安心して、武器をしまいます。それを見て、セツナさんもほっとした表情を浮かべました。でも、その瞳には、何か情熱めいたものを感じます。さすが研究者といったところでしょうか。

 

「でも、ずっとこんなところにいて、大丈夫だったんですの?」

「はいっ! ここは、超生物に関する情報の宝庫なんですよ! 何日いても飽きることはありません! 超生物はすごいんですよ!」

 

 と、ここから、セツナ研究員の超生物に対するレクチャーが始まりました。

 ですが、そのレクチャーが始まって十分ぐらいしたところで……。

 

「Oh! 二人とも、ちょっと待って!」

 

 マリさんが再び銃を構えました。また何か近づいてきてるのでしょうか。

 

「敵ですの?」

「そうみたい。明らかに友好的でない気配が近づいてきてるわ。ねぇ、セツナ。これってもしかして……」

「はい、あいつ……超生物『カーバンクル』だと思います」

 

 そのセツナさんの言葉を受けて、わたくしも、レーザーソードを構えます。

 そしてどのくらい時間が経ったでしょう。『奴』はついにその姿を現したのです!

 

「こ、これが……!」

「『カーバンクル』!?」

「そうです、二人とも! そいつが『カーバンクル』です!!」

 

 それは、なめくじとカブトムシが合体したような生物でした。

 動きは遅そうですが、強大な力を持っているのが、気配からびしびしと感じられます。

 ここは、奴が動き出す前に、仕掛けたほうがいいかもしれませんわね。

 

 わたくしは、剣を構え、マリさんと視線を交わしあうと、『カーバンクル』にとびかかりました。セツナさんの制止の声に気づかないまま。

 

 そしてレーザーソードを振るいました……が。

 

「!?」

 

 なんと、剣は、音もなく、カーバンクルに弾かれてしまいました。なんなんですの!?

 マリさんは、レーザーガンを乱射しますが、それもカーバンクルに弾かれてしまいます。

 

「皆さん、落ち着いてください! カーバンクルには全ての攻撃は効かないんです! 私も、護身用のレーザーガンで攻撃したのですが駄目でした!」

「Oh,No! それを早く言ってちょうだい!」

「だって、言う前に皆さんが飛び掛かっていったから……」

『うぐ』

 

 そう言われては、ぐぅの音も出ませんわね。と、そんなことを言ってる場合ではありませんわ!

 

 そうですわ。物理的なダメージが無理なら……。

 

「皆さん、閃光弾を使いますわ! 奴が目をくらませているうちに、通路の方に逃げますわよ!」

「OK!」

「わ、わかりました!」

 

 そしてわたくしは、ベルトから閃光弾を外すと、カーバンクルのほうに投げつけます。そして三秒後……。

 

 ピカッ!!

 

 あたりを白い光が埋め尽くします。わたくしたちは、目をつぶって、目がくらんでいるであろうカーバンクルのわきを走り抜け、通路の方に逃亡していったのでした。

 

* * * * *

 

「ふぅふぅ……。なんとか逃げ切れましたわね」

「でも、あんな怪物、どうしたらいいのよ~。セツナ、何か対策はないわけ?」

「残念ながら……私が調査していたのは、『カトブレバス』の化石のほうなので、『カーバンクル』のほうは……。あ、ただ……」

「ただ?」

 

 わたくしが聞き返すと、セツナさんは首をかしげて、話をつづけました。

 

「あいつ、なぜか、日の当たる場所には近づきたがらないんですよね。私も、そのおかげで何度か助けられましたし」

「うーん。どうしてかしら……まばゆい光が苦手だとか?」

「どうなのでしょう……。でも、今はそれよりも、ここから脱出する方法を考えなきゃですわ。セツナさん、脱出の方法についてはご存じありませんか?」

 

 すると、セツナさんは自信たっぷりでうなずきました。希望が見えてきましたわね。

 

「任せてください! この遺跡のどこかに、地上に上がるエレベーターがあったと思います。私も、それを使って、ここまで来ましたから」

「Oh! それはGoodね! さっそくそこまで行きましょう!」

 

 というわけで、さっそく出発したのですが……。

 

「Oh……セツナ、そのエレベーターってどこにあるの~?」

「あれ~、ここじゃなかったかなぁ……。どこだったっけ……」

 

 地下遺跡のあちこちを歩き回ったのですが、エレベーターはなかなか見つからないのです。かれこれ、一時間歩き回ってるのですが……。

 

「さすがにマリー、もう疲れてきちゃったわ」

「わたくしもですわ……。そろそろ休憩したいところですわね」

 

 と、そこに!

 

 ドガーンッ!!

 

 天井をぶち破って、カーバンクルが落ちてきました! なんて神出鬼没な奴なんですの!?

 

「Oh,No~~!!」

「皆さん、こちらへ! ここを通れば大丈夫ですよ!」

 

 声がする方を見ると、セツナさんが、天窓から日がさしている一帯から手を振っています。天窓はかなり広いらしく、壁際を部屋の出口のほうまで照らしていました。なるほど、あそこを通っていけば、襲われる心配はなさそうですわね。

 

「わかりましたわ。逃げますわよ、マリさん!」

「OK!」

 

 そしてわたくしたちは、無事にその部屋を脱出したのでした。

 

* * * * *

 

 その後も、わたくしたちはある時はカーバンクルと鉢合わせして逃げ出したり、地面を突き破って出てきたカーバンクルから逃げ出したり、と、とにかく逃げまくったのでした。

 もうくたくたと言っていたのですが、これだけに逃げられるなんて、人間の底力ってまだまだ計り知れないのですね。

 

 そしてわたくしたちは、なんとかそこまでやってきました。

 

「行きますわよ。準備はいいですか?」

 

 わたくしは、エレベーターのリフトの上に乗っている二人に声をかけました。うなずくのを見ると、スイッチとなっている床板を踏みぬきました。それと同時に、リフトが上昇を始めました。それと同時に、わたくしはリフトのほうに走り出します。

 

「ダイヤ! Hurry,Up~~!」

「ダイヤさん、早く早く!」

「ま、待ってくださいまし。とりゃあ~!!」

 

 全力でジャンプし、なんとかリフトに飛び乗ることができました。そのまま、リフトは地上のほうに上がっていきます。

 本当に大変でしたわ。超生物教の皆さんには、本当に仕返ししないと気が済みませんわね!

 

* * * * *

 

 そして上がったところにはやはりというべきか……。

 

「お、お前ら! カーバンクルに食われたはずじゃなかったのか!」

 

 そう、超生物教の皆さんがいらっしゃったのでした。

 

「ぜぇぜぇ……ざ、残念でしたわね……」

「ま、マリーたちは、そう簡単にやられるようなBallじゃないのよ……はぁはぁ……」

「なんてこった。だが、今度こそ終わりだ! 来やがれ、カーバンクル!」

 

 なんということでしょう!

 リーダーらしき男が笛を吹くと、なんと床板を破ってカーバンクルが現れたのです!

 

「カーバンクルにはどんな攻撃も効かねぇんだ。今度こそこいつの餌になりやがれ!」

「ど、どうしましょう、ダイヤさん、マリーさん……」

「そうだわ! ここから外に出ましょう! もしかしたらそれでなんとかなるかも!」

 

 そういえば、カーバンクルは太陽の光が苦手と言ってましたわね。それは名案かもしれませんわ。

 

「敵に後ろを見せるのはしゃくですが、それが最善のようですわね。わかりましたわ!」

「レッツ・ランですね! わかりました!」

「行くわよ! それ~~!!」

 

 マリさんの号令一下、わたくしたちは最後の力を振り絞って、出口へと駆け出しました。

 カーバンクルは、一瞬、躊躇するそぶりを見せましたが、リーダーの笛の音を受け、こちらを追撃してきます!

 

 もうすぐ出口! しかし!

 

「きゃっ!!」

 

 セツナさんがつまずいて転んでしまいました! その後ろにカーバンクルが迫ってきています!

 

「セツナ!!」

「大丈夫です、私のことは気にせず先に行ってください……ってごめんなさいすいません。おいていかないでください!!」

「世話がかかりますわね……せいっ!!」

 

 わたくしはベルトの片方に備え付けられている鞭を取り出すと、それを彼女のほうに振るいました。鞭は見事に、セツナさんの脚に巻き付きました。そして。

 

「そーれっ! セツナさんの一本釣りですわっ!!」

 

 全力で彼女を釣り上げるように、こちらに引き寄せました。そして彼女をなんとか受け止め……というより、彼女の下敷きになりましたが、それでもなんとか立ち上がり、再び二人そろって逃げ出したのでした。

 

 それを追って、カーバンクルも外に出てきます。すると……なんということでしょう! カーバンクルは太陽の光を浴びると、たちまち溶けてしまったのでした。

 

 そういえば、ハナマルさんが、恒星アーペンハイルから降り注ぐ陽光のスペクトルには、普通の恒星とは違うものが含まれてる、と言っていましたわね。そのせいだったのでしょうか。

 

 何はともあれ、これで最大の障害は排除できましたわね。あとは、にっくき超生物教の奴らをぶっ飛ばすだけ……おっと、疲れからか、口が悪くなってしまいましたわ。こほん。奴らを成敗するだけですわね。とはいえ……。

 

「さすがに疲れすぎましたわね……」

「マリーもよ。もう、一歩も動きたくない……ううん、動けないわ……」

「私もです……」

 

 ここまでの逃避行で、三人とも精魂尽き果てたのでした。そして……。

 

* * * * *

 

「そうですか、サンプルは奴らの手に……」

「はい……申し訳ありませんわ……」

 

 わたくしは、研究所で、アーヴァンク氏に謝罪していました。

 

 そう、精魂尽きしてたわたくしたちは、一度AquaS(アクア)号に戻って疲れをある程度とってから、奴らを成敗しに行こうと思ったのです。ですが……。

 そうほいほい残ってやられるのを待つほど、あの遺跡の超生物教の奴らは馬鹿ではないようで……。

 疲れをいやしたわたくしたちが改めて遺跡に乗り込むと、そこはもうも抜けの空。細胞サンプルももちろんなくなっていたのでした。ですが、あのまま突っ込んでいても返り討ちにあっていた可能性が高かったですし、仕方ありませんわね。

 

「……というわけですので、報酬は半分で構いませんわ」

「いえ、報酬は全額差し上げますよ。その代わり、皆さんには引き続き、細胞サンプルの追跡と、その処分をお願いしたい」

「……いいのですか?」

 

 意外な申し出で、こちらとしてはありがたいのですが、それでいいのでしょうか?

 わたくしが聞くと、アーヴァンク氏はこくりとうなずきました。

 

「はい。事態は、この深宙域の運命にも関わりかねないことですので。ですが、皆さんには絶対に依頼を達成していただきたいのです」

「なるほど、わたくしたちが依頼をちゃんと引き受けるための鎖、ということですわね」

 

 もし報酬をもらいながら、依頼を放棄したら、持ち逃げになってお尋ね者になってしまいますからね。

 

「言い方は悪いですが、そのとおりです。なにとぞ、よろしくお願いします」

「わかりましたわ。どのくらいかかるかわかりませんが、必ず処分して見せますわ」

 

 そしてわたくしたちは、アーペンハイルⅢを後にしたのでした。

 




読んでくださり、ありがとうございました!
次回は、ちょっと骨休めの話を書く予定です。
その後はいよいよ……!

お楽しみにです!


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#09

9話でございます。

今回はちょっとした箸休め、筆休めのお話。

のんびりまったりとお楽しみください^^


「ワープアウト。やっと、レーヴェに到着ですわ。ハナマルさん、動力炉のほうはどうですか?」

 

 レーヴェ星域の外縁に超光速航法終了(ワープアウト)したわたくし……ダイヤ・ブラックウォーター……は、後ろのシートのハナマルさんに声をかけました。あともう少しというところで、動力炉がお陀仏になったら大変ですもの。漂流することになるならまだしも、暴走して宇宙の藻屑になったら大変です。

 

 コンソールを見ていたハナマルさんがわたくしの問いにすぐさま答えてくれました。

 

「うん。出力が不安定になってきてるけど、まだ大丈夫だよ。ただ……」

「ただ?」

「この分でいくと、レーヴェⅢまでは持つにしろ、レーヴェⅣまでは絶対にもたないと思うずら……」

 

 そうでした。今は公転軌道の関係から、ⅢよりⅣのほうが、わたくしたちからは遠くなってしまっているのです。航法ディスプレイに映った各惑星の位置表示でも、Ⅳはかなり遠ざかっています。

 

「仕方ないですわね……。鋼の月(スタルモンド)で修理してもらおうと思ったのですが、止むをえません。レーヴェⅢで修理してもらうことにしましょう」

「それしかなさそうね。でもそれなら、骨休みになっていいんじゃないかしら? Ⅲにはダイヤの実家もあるんだし」

「あ、そういえばそうですわね。たまには、実家に里帰りするのもいいかもしれませんね」

 

 そう言いながらも、わたくしはレーヴェⅢへとAquaS(アクア)の進路をとりました。そして。

 

「ひぃぃぃぃ~~! 動力炉の出力がめっちゃ不安定になってるずら~!!」

「お願いです、もってくださいまし……!」

「大丈夫なの、ねぇ大丈夫なの!?」

「は、はやく脱出ポッドの用意をしなくっちゃ!」

「まだ沈むとわかったわけではありませんわよ!! 縁起でもないことを言わないでくださいまし!」

 

 そんなこんなで大騒ぎになりながらも、なんとか船はレーヴェⅢに到着したのでした。

 

* * * * *

 

「ふぅ……。なんとか着陸できましたわね……」

「ずら……ちょうど今、動力炉が動かなくなっちゃったずら……」

「本当にここまで、自爆しなくてよかったわ……」

 

 そんな会話を交わしながら、わたくしたちは疲れた様子で、レーヴェⅢの宇宙港に着陸したAquaSを降りました。本当に、ここまでもってくれてよかったです。寿命が数年縮むかと思いましたわ。

 

 そして、カウンターで、修理の手続きをした後、わたくしたちは宇宙港を出ました。

 

「うーん、久しぶりの外ね。空気がDeliciousだわ!」

「久しぶりって、2週間前、アーペンハイルⅢで船外活動したではありませんか」

「それはそれ、これはこれよ♪」

「もう、マリさんったら……」

 

 そうわたくしが呆れながら話す横では、ヨシコさんとハナマルさんが、目を輝かせてました。

 

「ここがレーヴェⅢ……本当に都会って感じで素敵だわ……!」

「うん。都会ずら~!」

 

 本当にはしゃいでるところが素敵ですわね。これで仕事の時には凛々しくなってるのですから反則ですわ。妹のルビィと引き合わせたら、どんな風になるでしょう? ああ、わたくしも、早くルビィに会いたいですわ。

 

 そう思いながら、わたくしはタクシーを呼んだのでした。

 

* * * * *

 

 レーヴェⅢの中心都市・サイントの郊外にひっそりと建つ、サイントの中心街に乱立するビルとは大違いの和風の屋敷。そこがわたくしの実家、ブラックウォーター家です。その前に、タクシーは止まりました。

 

「へぇ~。いいところの出身っていうから、どんな豪華な建物かと思ったけど、とっても和風でいい感じじゃない」

「うん。和風ずら~!」

「……ずら丸、あんた、感動するものにいちいち、何々ずら~と言いそうなんじゃない?」

 

 そんな微笑ましい会話をしてる二人を見ながら、わたくしは門の呼び鈴を押しました。少しして、門が開き、美しく輝く赤毛をとても愛らしいツインテールにした、美少女という表現では収まらないくらいの美少女が姿を現しました。

 そう、この超絶美少女こそ、わたくしの最愛の妹、ルビィ・ブラックウォーターです。

 

「あ、お姉ちゃん! お帰りなさい!!」

 

 そう言ってまばゆいほどの笑顔を見た瞬間、わたくしの何かが一気に吹き飛びました。

 

「ただいまですわ、ルビィ!! ああ、ずっとずっとずっと会いたかったですわ!!」

 

 そう言って、ルビィを抱きしめてしまうわたくし。ああ、だってとってもかわいいんですもの。言葉では言い表せませんわ。

 

「ピギィ!? ちょ、ちょっとお姉ちゃん。みんな見てるよぉ~」

 

 ルビィにそう言われて、はっと気が付くわたくし。後ろを見ると、マリさんはやれやれというような苦笑を浮かべ、ヨシコさんは呆れた目で見つめてきて、ハナマルさんは、冷たい視線を送っています。

 それを言われて、わたくしは我に返りました。いけませんいけません。ブラックウォーターの娘として、こんなところを見せるわけにはいきませんわ。

 

「こ、こほん。失礼いたしました。こちらはわたくしの妹、ルビィですわ」

「ピギィ! る、る、ルビィ・ブラックウォーターですっ。よ、よろしくお願いしまふっ!」

 

 あらあら、まだ人見知りは治ってないようですわね。そういうところもとても愛らしいですが。

 

* * * * *

 

 さて、屋敷に入って着替えたわたくしは、ルビィやマリさんたちがくつろいでいるお座敷に行きました。

 そのとたん、皆さんから感嘆の言葉がもれました。

 

「Oh! It's Wonderful~!」

「おぉ、ダイヤさん、とてもきれいずら~!」

「本当、仕事の時の服よりもずっと似合ってるわ……」

 

 ブラックウォーターの娘ですもの。当然ですわ。ちなみにわたくしが身にまとっているのは、赤をメインとした振袖です。和服を着るのは、子供のころから、ブラックウォーターの者として厳しく教わってきましたから。

 

 我が妹ルビィも、わたくしの和服姿を見て、憧れに近い視線を向けています。

 

「本当……お姉ちゃん、とてもきれい……」

 

 あまり見ないでくださいまし。くすぐったいですわ。わたくしは皆さんに優雅に一礼すると、これまた優雅に、ルビィの隣に正座しました。

 

「それでは改めまして、あいさつさせていただきますわ。このブラックウォーター家の次代当主、ダイヤ・ブラックウォーターと申します」

「妹のルビー・ブラックウォーターです。よろしくお願いします」

 

 と、姉妹そろって正座で丁寧にあいさつ。ルビィも芯がしっかりしてるとはいえ、ちゃんとあいさつできてよい子ですわ。成長しましたわね。

 

 そのわたくしたちのあいさつを受けて、AquaSの三人もぺこりとあいさつしてきます。

 

「マリー・フィールダーよ。こちらこそ、改めてよろしくね♪」

「堕天使ヨハネよ。どうぞよろしくね、リトルデーモンルビィ」

「ピギィ、り、リトルデーモン!?」

「リトルデーモンになる必要はないし、彼女は別に堕天使じゃないから安心していいずらよ、ルビィちゃん」

「どういう意味よ!」

「マルはこのヨシコちゃんの幼馴染で侍女のハナマルです。よろしくずら……あ、ずらって言っちゃったずら……」

「話聞きなさいよっ!!」

 

* * * * *

 

 さてさて。ルビィとヨハネ(本名ヨシコ)さん、ハナマルさんの三人は、やはり年が近いこともあって、まるで数年来の幼馴染のようにすっかり仲良くなったようです。とてもよかったですわ。マリさんとも姉妹のように仲良くなったみたいです。

 

 そしてわたくしたちAquaSの面々は、わたくし、ダイヤ・ブラックウォーターの実家で、楽しくものんびりした時間を過ごしてリフレッシュしたのですわ。

 

 でも、そこであった出来事が、事態が動くきっかけになるとは思っていなかったのです。

 

 そう、それは、実家に帰ってきた日の真夜中……。

 




さぁ、一体何が起こったのか!?

次回から一気に、第一期ラストに向けて、急展開していきますよ!

次回もお楽しみに!


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#10

さぁ、ここから一気にラストに向けて急展開ですぞ!

ヨハネを呼んだのは……?


 それは、わたくし、ダイヤ・ブラックウォーターがAquaS(アクア)のメンバーと実家に里帰りした日の真夜中。

 

 その夜、わたくしはある物音で目が覚めたのです。これはもう、ハンターをやっていく中で身に着けたというか体に染みついた職業病みたいなものですわね。まぁ、これのおかげで助かったこともあるので複雑ではありますが。

 

 しかし、一体誰なのでしょう? この家に侵入するなんて只者ではなさそうなのは確かですね。この家には、ルビィの安全のために、警報装置やトラップをたんまりと仕掛けていたのですから。

 

 ……ルビィには指一本たりとも触れさせませんわ!

 わたくしはレーザー剣を手に取り、外に出ました。

 

 そして。

 

「動くなですわ!」

「ひゃあっ!!」

 

 わたくしが見つけた人影に音もなく忍びより、背後から剣を突き付ける、人影は聞き覚えのある声とともに、ぴょーんと跳ね上がりました。

 

 ……え、聞き覚えのある声?

 

「ななな、なにするのよぅ、ダイヤ!」

「え、よ、ヨシコさん? どうしてこんな真夜中にこんなところを歩いているのですか?」

「ヨシコじゃないヨハネ! ……誰かに呼ばれたような気がしたのよ」

「誰かに?」

 

* * * * *

 

 翌朝。

 

「心の中に聞こえる声?」

 

 和室で食べる朝食の席、ご飯を食べながらマリさんがそうヨシコさんに聞きました。ああもう、何かを口に入れたまま話すものではありませんわよマリさん。はしたない。

 

「うん。心の中に直接響いてきた、というか……」

「ヨシコちゃんの妄想ではないずら?」

「違うわよ! 本当に心の中に聞こえてきたんだから!」

 

 ハナマルさんはそう茶化してきますが、わたくしは真剣に話を聞いていました。

 何しろ、フォーリン族は、精神文明が非常に発達しているという噂を聞いたことがありますし、何か特別なテレパシーみたいなものを、ヨシコさんが受信してもおかしくはないと思うのです。

 

「どうしたのダイヤ? ダイヤも、ヨシコの話が気になるの?」

「だからヨハネだってば!」

「えぇ。彼女がフォーリン族であることを考えると、本当に何かありそうな気がするのです」

「わぁ、やっぱりダイヤはわかってくれるのね! さすがヨハネのリトルデーモンだわ!」

「あなたのリトルデーモンになったつもりはありませんわ」

「がーん!」

 

 そうヨシコさんと話したところで、わたくしは隣に座っているルビィのほうを向きました。

 

「そういうわけですので、ルビィ。わたくしはこの後すぐにでも、再びレーヴェⅢを発ちますわ。お留守番をお願いしますね」

 

 そう言うとルビィは、寂しさと気丈さを織り交ぜたような微笑みを浮かべました。あああ、たまりませんわっ。このままずっとこの家にいたいくらいです。いけませんいけません。わたくしには仕事があるのですわ。

 

「うんっ、お姉ちゃん。ちょっと寂しいけど、ルビィもブラックウォーター家の子だもん。お留守番がんばルビィ!」

「ありがとうございます。休暇が取れたら、みんなで遊びに行きましょうね」

「うんっ!」

 

 そして朝ご飯を食べた後、わたくしたちは家を出て、宇宙港に向かったのでした。

 

* * * * *

 

 宇宙港に着くと、AquaSの動力炉は完璧にオーバーホールされていました。さすがレーヴェⅢの技師様。レーヴェⅣや鋼の月(スタルモンド)の動力炉技師にも負けていませんわね。

 

 そしてわたくしたちは、さっそくAquaSに乗り込み、レーヴェⅢの宇宙港から飛び立ったのでした。

 

 さて。

 

「それでヨハネさん。あなたを呼んだ相手の場所について、心当たりはありますの?」

「えぇ。なぜか座標を指定してきて、そこまで来い、みたいなことを言ってたわ」

 

 そう答えてヨハネさんが教えてくれた座標は、レーヴェ星域からかなり離れたところでした。そこに何があるというのでしょう? ともあれ、行かない選択はありませんわね。

 

「それではさっそく、飛んでいくことにいたしましょう。ハナマルさん、ワープ準備お願いしますわ」

「了解ずら! 動力炉出力上昇、座標設定OK、時空同期……OK。いけるずらよ」

「それではいきますわよ! ワープ!!」

 

 そしてAquaSはワープに突入し、そしてワープアウトしました。

 そこから通常航行で進んでいくと……。

 

「これは……マインドミラー?」

 

 AquaSの前には、巨大な鏡の遺跡が浮かんでいました。

 これこそが、超生物(グレイツ)由来の遺跡で、最も有名なもののひとつ、マインドミラーです。

 マインドミラーはその名前の通り、このような巨大な鏡。大きさは小惑星ほどもあります。尋常ではないのは、この鏡は発見されてから今まで、一度も傷ついたり、くもったりしたことがないのです。学者たちの間では、おそらくは発見される前も、それこそ何者かに生み出されてからずっと傷ついたり、曇ったりしたことがなかったのではないか、と言われています。

 そしてもう一つ。この鏡、浮かんでいるのに、どうやっても動かすことも、方向を変えることすらもできないのです。まるでその空間に完全に固定されているかのように。

 そう言ったことから、この遺跡は超生物が作り出したものではないか、とも言われているのです。

 

「本当にすごいわよね。確か、フォーリンの伝承では、超生物が自分たちとの交信のために作った、と言われてるのよね?」

「え、えーと、そうだったかしら。ねぇ、ずら丸?」

「もう……ヨシコちゃんは勉強嫌いだから困ったものずら。うん、マリーさんの言うとおりずらよ。フォーリンがこの深宙域の全域に住んでいたころ、超生物様が神託を与えるためにこの深宙域のあちこちにこの鏡を作ったんだって」

 

 ヨシコ……ヨハネさんって、勉強が嫌いだったのではね。それはいけませんわ。今度、わたくし自らみっちりと勉強を教えて差し上げねば。

 さて、今ハナマルさんのおっしゃったことが、先ほどの特異性の他に、この鏡が超生物由来のものと言われている理由です。フォーリンの伝承に、『超生物が自ら、この鏡を作った』とあるからなのです。実際、フォーリンの文献には、『かつてフォーリンは、この深宙域にあまねく住んでいた』『フォーリンはとてつもなく巨大で強大な生物を神としてあがめていた』と書かれていたそうですわ。

 

 と、その時!

 

 突然、鏡が輝き始めました! な、なんなのですの!?

 

 戸惑うわたくしたちの前で、鏡は不規則に輝きを放ち、そして、コクピットを白い光で染め上げたのです。

 

「なんなんですの!?」

「Oh、No~~!!」

「ずらぁ~!!」

「い、一体なに!? 堕天使長からのお誘いーーーー!?」

 

 そして……

 

* * * * *

 

 気が付くと、わたくしたちは不思議な空間の中にいました。

 

「ど、どこなのでしょう、ここは……?」

「さぁ、マリーにもわからないわ……」

「ずら……」

「ふ、恐れることはないわ。きっとこれは、ヨハネの主、偉大なる堕天使長からのお呼びなのよ……」

 

 そう言ってかっこつけるヨハネさんに、ハナマルさんがジト目を向けます。

 

「ヨシコちゃん、こんな異常事態にそんな中二病を炸裂させるものではないずら」

「中二病じゃないし!」

 

 そうヨハネさんが言った、その時です。

 

「その通りだ。よくぞ来たな、アースマン(地球人)とフォーリンたちよ」

「ずらっ!?」

 

 声のしたほうを見ると……。

 

「ずらああああああああ!?」

 

 ハナマルさんがすっとんきょうな声をあげました。

 そう、超巨大な生物が目の前にいたのです。その大きさはもう、表現ができないほどですわ。少なくとも、惑星よりははるかに大きいです。

 

「私はバハムート。お前たちが超生物と呼ぶ生物たちの……お前たちの言葉を借りれば王に当たる存在だ」

「超生物の王……。それはなんとも……」

「ほんと、たまげたわね……」

「ふ、それで堕天使長様、このヨハネに何か命じたいことがあるのかしら?」

 

 と、これまたヨシコさん(いけませんわ、気が動転して本名で呼んでしまいましたわ)が命知らずなことを! い、いけませんわ。下手したら、わたくしたちはみんなまとめてバハムートのごはんになってしまうかもしれないのに!

 

「安心するがいい。そんなつもりはない。私はそもそも、食事を必要とする存在ではないのでな」

 

 こ、心を読んだのですか? さすが超生物ですわ……。

 

「さて、お前たちを呼んだのは他でもない。お前たちがレーヴェと呼ぶ太陽系と、我が同胞の危機について伝えたかったからだ」

「レーヴェ星域の危機……もしかして、レーヴェⅡが異空間に沈んだことと関係が?」

 

 わたくしがそう尋ねると、バハムートはそれを肯定してうなずいた……気配がしました。

 

「その通りだ。かの星の近くの宙域には、我が同胞が眠っている。だが悪しき者たちが、その眠りを覚まし、操ろうとしているのだ」

「なんですって!? それはReallyですの?」

 

 またしても、バハムートがうなずく気配。

 

「レーヴェⅡには、その同胞……ベヘモスの眠りを強制的に覚ますためのものが遺跡として眠っている。奴らは、それを使って、ベヘモスの眠りを覚まそうとしているのだ」

「そ、それは大変ずら。それを許したら、レーヴェⅡどころか、レーヴェ星域がみんな、ベヘモスさんの餌になっちゃうかもしれないずら~!!」

「本来ならば私がそれを阻止するために動くべきなのだが、それはできない。私の体ははるかに大きい。その私が動けば、深宙域どころか、この宇宙に甚大な悪影響を与えてしまいかねないのだ」

 

 なるほど、それはわかります。表現ができないほどの巨大さですものね。そんな存在が通常空間にあらわれて色々動いたりすれば、宇宙がとんでもないことになってしまいかねませんわ。

 

 そこで再び、バハムートがうなずく気配がしました。

 

「そういうことだ。なので今回の件は、お前たちに解決をゆだねることしかできないのだ。そこで私は、超生物との感応力が高い、その娘を通じて、お前たちをここに呼んだ、というわけだ」

「わかりましたわ。依頼ではありませんが、その依頼、引き受けさせていただきましょう!」

「レーヴェを超生物教(グレイツ・ブラザーズ)の好きにさせるわけにはいかないものね! そのMission、引き受けるわ!」

「ま、マルも頑張るずら!」

「お任せなさい、リトルデー……うぐっ」

 

 ハナマルさん、ヨハネさんが変なことを言う前に口をふさぐの、ナイスタイミングですわ。

 

「私はここを動くことはできないが、その娘を触媒とすることで、我が精神を現実空間に投影し、助言を与えることはできよう。よろしく頼んだぞ……」

 

 そしてあたりは再び、暗闇に包まれました。

 

* * * * *

 

 そして気が付くと、そこはAquaSのコクピットでした。目の前には相変わらず、マインドミラーが浮かんでいます。

 それにしても……。

 

「本当にすごい体験をしましたわ。これは夢ではありませんわよね」

「えぇ、夢じゃないわよ。だって……ほら」

 

 わたくしの言葉に、ヨハネさんが掌にのった何かを見せてきました。

 それは……手のりサイズの小さなドラゴン? なぜでしょう、わたくしにはそれはとても見覚えがあったのです。

 

「もしかして……バハムート?」

 



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#11

さぁ、いよいよ最終章スタートですぞ!


 ヨハネさんの手の上には、手乗りサイズのちっちゃいドラゴンが載っていました。

 これは……。

 

「もしかして……バハムート?」

 

 わたくしがそう聞くと、バハムートらしきドラゴンはこくりとうなずきました。

 

「うむ。といっても、これは私そのものではない。私の精神を、このヨハネという娘という鏡を介して現世に映し出した虚像のようなものだ。まぁ、私の分身のようなものだと思ってくれればいい」

「はぁ……」

 

 さすが超生物(グレイツ)の王。なんでもありですわね。この調子では、一瞬でここからレーヴェまで移動させてくれることも……。

 

「できるぞ」

「できるんですの!?」

 

 わたくしが思わずそう聞き返すと、ちびバハムートは再びこくりとうなずきました。

 

「うむ。人間の使う超光速航法(ワープ)とは違う原理のものではあるが、私の力ならそのぐらい簡単なことだ。ベヘモスが目を覚ますまで時間が幾何もない。さっそくそれを使うことにしよう」

 

 ちびバハムートがそう言うと、AquaS(アクア)の前に巨大な穴が現れました。この中に飛び込め、ということでしょうか。

 

「Oh……」

「なんというかたまげたずら……」

「ふ……さすがは堕天使長様、このヨハネの主ね……」

 

 そのすごい偉業を前に、マリさんもハナマルさんも圧倒されたかのように茫然としていました。一人、平然としてた人がいましたが。

 まぁ、何はともあれ、せっかくちびバハムートが開けてくれたものです。ありがたく使わせてもらいましょう。わたくしは意を決して、AquaSを穴の中に突入させました。

 

* * * * *

 

 そして穴を抜けると……。

 

「本当にレーヴェⅦに着いちゃいましたわね。ヨハネさん、穴に飛び込んでからどのくらいの時間が経ちました?」

「本当にすごいわね。飛び込んでから3秒しか経ってないわ。さすが堕天使長様ね」

「私は堕天使長ではなく、超生物の王なのだがな。まぁいい。急いで、レーヴェⅡの周辺宙域に向かうとしよう」

「わかりましたわ」

 

 そしてレーヴェⅡのあった宙域に向かうと、そこには防衛宇宙軍の艦艇がたくさん集結していました。ウミ中将のアースグリムもあります。何かあったのでしょうか?

 

 さっそく、アースグリムに連絡を……入れる前に、さっそく向こうから通信が入ってきました。なつかしの『停船せよ、さもなくば攻撃す』のフレーズです。

 わたくしは指示に従って船を停止させ、通信回線を開きました。バハムートに言って、ウミ提督と話す間は、姿を隠すように言ってあることは言うまでもありません。

 

「あ、ダイヤさん、レーヴェに戻ってこられたのですね」

「はい。それで、いったいどうしたのですか?」

 

 そのわたくしの問いに答えたのは、ウミ中将の副官のコトリ大尉です。

 

「あのね。数時間前から、この付近宙域の空間歪曲が大きく変化してるの。次元地震の予兆かもって」

「次元地震の予兆!?」

 

 もしかして……そう思ったわたくしに、ヨハネさんが耳打ちしてくれました。

 

(うん。レーヴェⅡの浮上、そして、ベヘモスの覚醒の前兆かもしれない、って、堕天使長様が言ってる)

 

 やはりそうでしたか……。間に合ったというべきか、間に合わなかったというべきか。

 

 と、その時!

 

 アースグリムの艦橋にアラームが鳴り響くのが、モニターから聞こえました。

 

「どうしたのですか?」

「次元地震が来ます! あと1分!」

 

 次元地震ですって!? こうしてはいられませんわ!

 

「ウミさん、またアースグリムの電磁流体力場の中に入れてくださいまし!」

「わかりました! あの時のようにアースグリムに接弦してください!」

 

 ウミ中将の許可を得て、わたくしは急いでAquaSをアースグリムに接弦させました。そして、またあの時のように。

 

「3……2……1……来ます!」

 

 AquaSや、宇宙軍が展開している空間を激しい揺れが襲います。でも、違うことが一つ。

 

 レーヴェⅡのあった地点にひびが入り、そこから何かが浮上してきました。

 

 それは、レーヴェⅡと……。

 

 そのレーヴェⅡに匹敵する大きさの、巨大な肉の塊でした……。

 

 おそらくあれが、超生物の一体、『ベヘモス』……。

 




今回は少し短くなってしまいました。すいません;
次回は、ベヘモス&超生物教軍との本格的なバトルが始まる予定なので、今回よりは長くなる予定ですので、どうぞ楽しみにしていて……くださると幸いです(平伏


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#12

レーヴェⅡが通常空間に戻ってきた!

 

 ……と喜んでばかりもいられません。

 その至近に巨大な肉塊……超生物・ベヘモスも出現したからです。

 

「あ、あれが……」

「ベヘモス……」

「きょ、巨大ずらぁ~……」

「Oh……」

 

 しばらくの間、わたくし……ダイヤ・ブラックウォーター……も、他のAquaSクルー……マリさんことマリー・フィールダー、ヨハネ(本名・ヨシコ・ダークエンジェ)さん、ハナマル・カントリアさん……も、絶句していました。

 だってそれぐらい圧倒的でしたもの。

 

 ですが、わたくしたちに、圧倒される時間も、また与えられませんでした。

 AquaSのブリッジに、警報が鳴り響いたからです。

 

「何事ですの!?」

「ベヘモスの開口部に多数のエネルギー反応! 何かがたくさん出現してくるずら!」

 

 見ると、ベヘモスの大きく開いた口から、何か……肉塊でできた戦艦らしきものが多数出現してきました。

 なんでしょう……? 何か嫌な感じがするのですが。

 

 ヨハネさんの肩に乗ったちびバハムートが言いました。

 

「ふむ……あれは、カトブレバスの細胞から作った戦艦サイズの生物兵器か。奴らめ、そんなものまで生み出す力を持っていたとは」

「カトブレバスですって!?」

 

 それは、アーヴァンク所長から処分を頼まれていた細胞の元となった超生物ではありませんか! ああ、なんてことでしょう……。

 

「案ずるな。最終的にあの生物兵器群が全て破壊されれば、問題はなかろう。結果的に処分したことになるのだからな」

「そ、そうですわね」

 

 バハムートの言葉に、わたくしは気を取り直しました。そうですわね、バハムートの言う通りです。それに今は頭を抱えている場合ではありませんもの。

 ……報酬に手を付けておかなくてよかったですわ。

 

* * * * *

 

 そうこうしている間に、戦艦サイズの生物兵器……マリさん命名・生体戦艦の艦隊と、ウミさん率いる防衛宇宙軍の艦隊とが接敵し、艦隊戦が始まりました。

 

 生体戦艦はその口から放つレーザーや、肉塊でできたミサイルを放って攻撃してきます。威力は防衛宇宙軍のものより上ですが、ウミさんはその攻勢を、たくみな艦隊運動で受け流しながら、敵戦力を削っていきます。さすが『黒髪の勇将』。若くして中将まで上り詰めたのは伊達ではありませんわね。

 

「ダイヤ、感心している場合じゃないわよ! こちらにも駆逐艦サイズの生体戦艦が接近してきてるわ!」

「了解ですわ! お二人とも、しっかりつかまっててください!」

「ずらぁ~!!」

 

 わたくしはAquaSを急旋回させ、生体駆逐艦のビームを回避しました。さすがは駆逐艦サイズ。その高い機動力で、しっかりとこちらの後ろに食いついてきます。

 なかなかやりますわね……ですが!

 

 わたくしは遮光シールドを展開すると同時に、恒星レーヴェのほうへと船を向けました。生体駆逐艦は、恒星レーヴェのまばゆい光に目がくらんだのか、ひるんだような動きを見せます。

 その隙を見逃すわたくしたちではありません! わたくしは再び、船を急旋回させて、生体駆逐艦を照準に収めます。そして。

 

「マリさん!」

「OK! ロック・オーンッ!!」

 

 AquaSのブラスターが連射され、生体駆逐艦に次々と光の矢が突き刺さります。そして穴だらけになった生体駆逐艦はたちまちどす黒い体液をまき散らしながら砕け散ったのでした。

 

「ふぅ、なんとかなりましたわね。お見事でしたわ、マリさん」

「まぁ、ざっとこんなものね。それに、ダイヤの操縦があったからよ」

 

 そう言ってわたくしとマリさんは、ハイタッチします。でも、その明るい雰囲気を、ハナマルさんが一変させました!

 

「た、大変ずら! ベヘモスの開口部に、再び高エネルギー反応ずら! しかも、今度はとても大きいみたい!」

「なんですって!?」

 

* * * * *

 

 レーヴェ防衛宇宙軍、第9艦隊旗艦・アースグリム。

 その艦橋で指揮をとるウミ・プレイスは、その巧みな指揮で、敵との戦線を拮抗させていた。それだけではなく、拮抗させつつも、別動隊を巧みに動かして、攻勢に転じるチャンスを着実に作っていた。しかし!

 

「た、大変です! ウミ中将! 巨大肉塊の開口部に高エネルギー反応、高出力ビームがきます!」

「なんですって!? ただちに全艦散開! 戦隊ごとの散開が無理なら、各艦の判断でかまいません! 急いで!」

 

 艦隊が散開する中、ついにベヘモスから尋常ではない太さのビームが放たれた! そのビームは逃げ遅れた一部の戦隊を飲み込み、残骸から残さず消滅させたのだった。

 

 アースグリムは無事だったが……。

 

「くっ……。まさか、こんな手を打ってくるとは……。コトリ、被害状況は?」

「うん……。第3、第7戦隊が壊滅。第4、第5戦隊も半壊状態だって」

「なんて奴らでしょう……。『鋼の月(スタルモンド)』に備えられていた、という雷神の槌(トゥールハンマー)まで撃てるとは、まさに化け物ですね……」

「ホノカちゃんが見たら喜びそうだけどね……。でも、そう言ってばかりもいられないみたい。今の一撃で陣形が崩れたうえに、各戦隊に動揺が走っちゃってるみたいだよ……」

 

 コトリの報告を受けて、ウミは苦々しい表情を浮かべた。それがこの現状を如実に物語っていた。

 

「できれば再編したいところですが、この機を逃す奴らではありませんよね……」

 

 その通りだった。生体戦艦艦隊は、このビーム攻撃によって、宇宙軍艦隊が崩れたのを見逃さず、一気に攻勢をかけてきたのである。

 動揺し、十分な迎撃態勢をとれずにいた艦隊の各戦隊は、その隙を突かれ、大苦戦を強いられていた。勇将として知られる彼女の部下たちだけあって、なんとか渡り合えているが、このままではいずれ、崩されて殲滅されるのは目に見えている。

 

「敵艦、急速に接近!」

「!!」

 

 アースグリムに一隻の生体戦艦が接近してくる。そして、アースグリムにとどめの一撃を撃とうとしたところで……なぜかその生態戦艦はUターンして飛び去って行った。

 

「何があったのでしょう……?」

「さぁ……。でも、助かったね」

「あの生体戦艦だけではありません。他の生体戦艦も、なぜか統率を乱しているようです」

「そうですか……。何が起こったのかわかりませんが、これでなんとか再編の時間が稼げそうですね」

 

 そこに、士官の一人がある報告をしてきた。

 

「AquaS号が接近してきます」

 

* * * * *

 

「どうにか間に合いましたね……」

 

 飛び去っていく生体戦艦を見ながら、わたくしはそうため息をつきました。

 そのわたくしに、ちびバハムートは、安堵とは違うため息をついて言いました。

 

「ふぅ……さすがに疲れたぞ。いくら私が全能に近いとは言っても、疲れないわけではないのだからな。それに、今度は向こうも対策はしてくるだろう。もうこの手は使えないと思っておけ」

「わかりましたわ」

 

 そう、あのビームと敵の攻勢で防衛宇宙軍が崩れてやばいのを見たわたくしは、バハムートに頼んで、彼らの動きをバハムートのテレパシーのようなもので乱してもらったのです。

 ちびバハムートによれば、上位の超生物のそれは、下位の者にとっては強い畏怖を与えるものだそうですわ。

 

「でも、安心してばかりもいられないわね。再編できたとはいえ、今ので艦隊もかなり被害を受けているみたいだし、次ぶつかれば十中八九勝てないわよ」

「むぅ……」

 

 マリさんがそう指摘します。この戦いでの敗北、それはレーヴェの人たち、いや、この深宙域の破滅につながるというのはわたくしにも予測できました。それに、ウミさんやコトリさんにも死んでほしくないですし……。何か一発逆転の良い手はないものでしょうか。

 

「我らがベヘモスの内部に突入して、彼の正気を取り戻してやるしかあるまいな」

 

 ちびバハムートがそう言いました。それは大きなばくちですわね……。わたくしもそれを考えてなかったわけではないですが……。

 

「確かにそれしか手はないでしょうけど……そんなことが可能なのですか?」

「あぁ。内部に突入して、我の思念波を、ヨハネを通してベヘモスに送れば可能なはずだ。奴の思考中枢にたどり着くまでがまた大変だろうがな」

「このまま戦っても勝てない以上、それしかないようね。やっちゃいましょう、ダイヤ」

[そうですわね。ヨハネさん、アースグリムに回線をつないでください」

「わかったわ」

 

 そしてヨハネさんが機器を操作すると、通信スクリーンにウミさんの姿が現れました。かなり疲れているようですわね。

 

* * * * *

 

「ダイヤさん、ご無事で何よりです。こうして通信を送った、ということは、何か逆転の一手を持ってきてくれたのですか?」

「普通ならここで『そんなものはない』というのがパターンですけど、幸か不幸かそんなことはありませんわよ。ちょっとバクチっぽいですが……」

 

 そしてわたくしは、ちびバハムートが話してくれたプランを彼女に説明しました。ウミさんはそれを真剣に聞いてくれました。そして。

 

「なるほど……。確かに、今のままぶつかれば勝てないと私も思います。その作戦しかありませんね。かなり危険ですが、お願いできますか?」

「えぇ。この件にはずっと関わってきましたもの。ここでさよならというわけにはいきませんわ」

「ありがとうございます。それでは再編ができ次第、私の艦隊が突破口を開きます。その後に突入をお願いします」

「わかりましたわ」

 

 そう答えて、わたくしはあることを思い出しました。

 

「あ、それから一つお願いがあるのです。ハナマルさんを、そちらのアースグリムで預かってもらえませんか?」

「ず、ずら!?」

 

 驚くハナマルさんに向きなおり、わたくしは話し始めます。

 

「ベヘモスの体内……おそらくは敵の中枢への突入です。ヨハネさんは、バハムートの件があるから仕方ないとしても、さすがに今回はハナマルさんの身の安全は保障できません」

「……」

「船の中に残ったとしても、隠れている超生物教(グレイツ・ブラザーズ)の奴らが船内に潜入して、あなたに危害を加えないとも限りませんし……わかってくださいまし」

「うん、それはわかるずら……でも……」

 

 わたくしの話を理解しつつも、それでもためらいを抑えきれないハナマルさん。まぁ、気持ちはわかりますわ。

 そこにヨハネさんが助け船を出してくれました。

 

「大丈夫よ、ずら丸。この堕天使ヨハネが、そう簡単にやられるわけないわ。安心なさい」

「ヨシコちゃん……」

「大丈夫、絶対に生きて戻ってくるわ。帰ってきたら、ルビィも入れて三人で、レーヴェⅢのアイスを食べに行きましょ」

「うん、わかったずら。ヨシコちゃん、くれぐれも気を付けてね」

 

 ヨハネさんの説得を受けて、ハナマルさんはかすかに微笑んでうなずきました。よかったですわ。

 でもヨハネさん、それってフラグ……。

 

 そしてハナマルさんは、アースグリムからやってきたシャトルに乗り込み、アースグリムへと移乗していきました。

 ウミさんには、彼女の身の安全をお願いしておきましたから、多分大丈夫でしょう。

 

 ……さぁ、いよいよ大勝負の始まりですわね!

 



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#13

さぁ、いよいよ最終回ですぞ!


「ウミちゃん、艦隊再編、完了。いつでもいけるよ」

「はい。それでは、旗艦戦隊と第1、第2戦隊は敵の前面に展開。敵の攻勢からアースグリムを守ってください。第3、第4戦隊はそれぞれ左右から敵陣に攻撃。敵のかく乱をお願いします。アースグリムは作戦開始後、ただちに主砲・宿木の弓(ミステルテイン)の発射準備を行います。始めてください!」

 

 ウミ中将の号令のもと、艦隊はただちに行動を開始した。艦隊の一部がアースグリムの前面に展開、壁を作り、他の戦隊が左右に分かれ、生体戦艦艦隊へと襲い掛かっていく。

 

 対する生体戦艦艦隊も負けてはいない。左右からの一撃離脱戦法に対処しながらも、正面の敵に向かっていく。

 

 その攻勢は激しかったが、先ほどまでに比べると、勢いは弱かった。左右からの攻撃に対処しなければいけない分、正面への火力が弱まっているのだ。

 さらに、ウミ中将の部下たちもかなり有能かつ勇敢であり、強力な生体戦艦艦隊に果敢に立ち向かっていく。

 

 ウミ率いる防衛宇宙軍第9艦隊は、性能、数ともに上回る敵軍と対等に渡り合っていた。

 

 だが、これではらちが明かないと判断したのか、生体戦艦艦隊は戦術を転換したようだ。左右の敵への対処を放棄し、全ての戦力の前面に火力を集中したのである。

 

 左右の遊撃部隊が攻撃を加えるものの、生体戦艦艦隊の勢いはとどまるところを知らない。その火力の前に、正面の防衛宇宙軍艦隊の壁に穴が次々と開いていく。

 

「ウミちゃん、第2戦隊旗艦、ノーデンス撃沈だって……」

「くっ……。さすがに敵もバカではないようですね。第2戦隊の残余は、この旗艦戦隊の指揮下に組み入れます。その線で再編してください」

「了解だよ」

 

 そう言っている傍で、アースグリムの脇の僚艦が生体ビームの直撃を受け、轟沈する。

 

 生体戦艦艦隊の猛攻の前に、防衛宇宙軍艦隊は苦戦の中にあった。今はなんとも踏みとどまっているものの、このままでは一気に瓦解してしまうのは目に見えている。

 

 そこに! ついに、待ち望んでいた報告がもたらされた!

 

「ウミ提督! ミステルテイン、発射準備完了しました!」

「よし、各艦、砲火でアースグリムに近づく敵を阻止しつつ、ミストルテインの射線上から退避! それが済み次第、ただちにミストルテインを発射します!」

 

* * * * *

 

 わたくしたちのAquaSの脇にあるアースグリム、その前面に展開していた艦隊が左右に分かれだしました。どうやら準備ができたようですわね。

 

「ウミさんが一撃を放った後、フルスピードでベヘモスに突入しますわよ! 準備はいいですわね!」

「えぇ、こっちはいいわよ!」

「エンジンの出力もバッチリ!」

 

 二人の報告を聞き、わたくしは操縦桿を握りしめました。そして。

 

 アースグリムの艦首が展開し、中から小型とはいえ要塞砲クラスの威力がありそうな大型のビーム砲が姿を現しました。あれが、アースグリムの主砲『宿木の弓(ミストルテイン)』です。

 

 本来、アースグリムはあの『ミストルテイン』を装備した状態が計画通りの完成した姿なのだそうです。ですが、色々の要因で建造が遅れ、装備できないまま実戦に投入されてしまったとか。ミストルテインがついに装備されたのは、それからはるか先、深宙域への入植初期のころだったそうですわ。以上、『深宙域ジェーン年鑑』からの抜粋でした。

 

 さてさて、艦隊が射線を開けたと同時に、ミストルテインから、あのベヘモスの高出力ビームに劣るものの、それでもどの戦艦のビームにも勝るほどの太さのビームが放たれました!

 ウミさんの『ミストルテイン、発射ああああぁぁぁぁ!!』という叫びが聞こえてくるようです。

 

 そのビームは、射線上の生体戦艦たちを薙ぎ払い、そしてベヘモスに突き刺さりました。大きな爆発が上がり、肉片が飛び散るのがここからでもわかります。

 

「いきますわよ!」

 

 そう言ってわたくしは、操縦桿を引き、AquaSのアフターバーナーを全開にします。船は、まさに矢のようにベヘモスに突進していきました。

 

 幸いながらに生体戦艦たちは、今のミストルテインの一撃で混乱状態に陥っているようです。こちらに攻撃を仕掛けてくることはありませんでした。

 とはいえ、のんびりしているわけにもいきません。今は混乱しているとはいえ、やがては立ち直ってくるはず。そうなる前にカタをつけなくては。

 

 道をふさぐように漂ってくる生体戦艦をかわしている暇はありません。立ちふさがる生体戦艦には、マリさんがブラスターの連射をお見舞いして破壊し、さらに突進します。

 

 かなりベヘモスに接近してきました。見ると、ベヘモスの外壁に大きな穴が。あそこから中に入れるようですわね。しかし!

 

「傷がふさがっているぞ。急げ! 完全にふさがる前に、体内に飛び込むのだ!」

「言われなくてもですわ!」

 

 わたくしは、エンジンのリミッターを解除し、AquaSをさらに加速させました。そのおかげもあって、完全に傷がふさがる前に、穴に飛び込むことができたのでした。

 ……とはいえ、飛び込んだ直後に穴はふさがってしまいましたが。これは、事件を解決するまでここから脱出はできないということですね。

 

 さてさて。体内に飛び込んだわたくしたちは、さらに内部に進軍するべく……。

 

「これは……装甲車? すっごーい、こういうのもあるんだ!」

 

 ヨハネさんが、それを見て、目を輝かせています。そのヨハネさんに、マリさんが得意そうな顔を見せます。

 

「ふふん、これがマリーたちのとっておき、突入装甲車『Saint Snow』よ! さぁ、乗って乗って!」

 

 そして三人で車に乗り込みます。エンジンに火を入れると同時に、ハッチを開きました。すると案の定、外には超生物教(グレイツ・ブラザーズ)の奴らがたくさん待ち構えていました。ですが。

 

「そんなもので、このSaint Snowを止めることはできませんわよ!」

 

 敵の銃撃をはじき返しながらSaint Snowを急発進させると、マリさんが周囲にレーザー機銃を乱射します。周囲の敵はその銃撃にたちまち薙ぎ払われていきました。

 さらに機銃を乱射。また奴らが隠れていないとも限りません。船の安全確保のためにも、念入りに倒しておかなくては。

 

 そして敵の姿が完全に見えなくなったことを確認すると、わたくしは再びSaint Snowを前進させました。

 

* * * * *

 

 それからも、敵と遭遇しては、それを排除しながら前進していきました。

 ですが、好事魔多し。

 

 ドゴォォォン!!

 

 激しい音と共に、車内が大きく揺れました。

 

「これはもしかして……地雷ですの?」

「どうやらそうみたい。今ので、キャタピラがやられちゃったわ。もう進めないわね」

「ど、どうするのよぅ?」

 

 そう不安そうにヨハネさんが聞いてきます。もちろん、そんなのは決まってますわ。

 

「装甲服を着て、徒歩で行きましょう。幸いにも、目標ポイントはそう遠くないようです。ですわね、バハムート?」

 

 そう聞くと、ヨハネさんの肩に乗っているバハムートはこくりとうなずきました。

 

「うむ。ベヘモスの思考中枢のある空間へはもうすぐだ。少なくとも、クタクタになることはあるまいよ」

「それでは、さっそくピクニックにレッツゴーしましょ!」

 

 そしてわたくしたちは、車に備え付けてある装甲服を着こむと、『Saint Snow』を出て前に進んだのでした。

 

* * * * *

 

 そしてついにわたくしたちは、そこにたどり着きました! 本当にバハムートの言う通り、さほど時間はかからなかったです。

 

 そしてそこには……。

 

「ミゼル!」

「ミゼルではない、ミシェルだ! ここまでよくたどり着いたな。だがここまでだ。お前たちを屠って、この私がこの深宙域を支配してくれよう!」

「そんなことさせないわよ、リェール!」

「リェールではないミシェルだ! うぬぬ……やれ!」

 

 ミシェルの号令一下、彼の前に待機していた超生物教の信者たちが襲い掛かってきました。わたくしたちは剣や銃を手に、奴らと戦いを開始します。

 

 激しい戦い。わたくしとマリさんは、アクロバティックな動きを交えながら、激しい大立ち回りを演じます。まるで敵の目を引き付けるように。

 ですが、敵も負けてはいないようです。数が多いうえに、普通の人間とは思えぬほど、耐久力も高いようなのです。これはミシェル氏、奴らに麻薬を盛りましたわね。

 

 それから戦うこと数十分ほど。わたくしたちは、疲れて肩で息をしていました。しかし、敵のほうはまだ4人ほど残っていて、まだまだ元気そうです。とはいえ、もう十分目的は果たしたんですけどね。

 

 そのわたくしたちを見て、ミシェルが不敵な笑いを浮かべます。

 

「どうやらそこまでのようだな。私のことをバカにした罪、その身をもってあがなってもらおうか」

 

 しかし……。

 

「それはできかねますわね」

「えぇ。それに、十分な時間稼ぎはできたもの」

「なに?」

 

 それと同時に、周囲を激しい揺れが襲います。そしてその中に響く厳かな声。

 

「わしを操り、宇宙に害をなさそうとした奴らよ。覚悟はできておろうな……?」

「こ、これは……!?」

 

 そ、その声を聞き、ミシェルがうろたえます。そう、これがわたくしたちが疲れ果てるまでに大立ち回りをした理由なのです。

 

 入口のほうで待機していたヨハネさんが声を上げます。

 

「やったわよ、ダイヤ、マリー! 目を覚ましてくれたわ!」

「うむ、よくやったぞ、フォーリンの娘よ」

 

 そう、ヨハネさんがベヘモスと交信して、彼が目を覚ますまでの時間稼ぎをするのがあの大立ち回りの目的だったのです。もちろん、奴らの目をヨハネさんからそらすために、注目を集めるため、というのもあります。

 

 さて。その声の後、壁から肉でできたレーザー銃のようなものが現れ、生体レーザーで、超生物教の奴らを撃ち抜いていきます。

 奴らが倒れていく中、ミシェルは慌てて部下たちを見捨てて逃げ去っていきました。

 

「人の子よ、お前たちには迷惑をかけてしまったようじゃのう」

「えぇ。でも、正気に戻ってくれて何よりですわ。これでこの事件も無事に解決というところですね」

「そうね。ミシェルを逃がしてしまったのは痛いけど」

 

 すると、厳かな声は、笑ったような感じで言いました。

 

「なぁに、心配はいらぬ。あの男には、わしを操ってくれたお礼をせぬとのう」

「?」

 

* * * * *

 

 そのころ、ベヘモスの周辺宙域。ベヘモスから脱出していく、一機の小型艇があった。

 

「お、おのれ、小娘どもめ……。だが、この技術を利用すれば……」

 

 そう吐き捨てるミシェルだが、彼は気づいていなかった。彼の小型艇のすぐ下に、死神の鎌が現れたのを。

 次の瞬間、彼の視界は真っ白に染まった。

 

「な、なんだ!? うわあああああ!!」

 

 そして彼は光に呑まれて完全に消滅した。

 

* * * * *

 

 ミシェルの小型艇の真下に光の塊があらわれると、それは光の柱となって小型艇を飲み込み、消滅させました。その様子をわたくしたちは、ベヘモスから発進したAquaSの操縦席から見ていました。(Saint Snowは、ベヘモスのはからいで無事に回収することができましたわ)

 しかし、あれは……。

 

「二大国時代に、火炎直撃砲(フレーメン・ゲットローフェン・ゲヴェーア)というすごい兵器があると聞きましたが、それまでできるとは、さすがは超生物(グレイツ)、なんでもありですわね……」

「本当にね……」

 

 そう開いた口がふさがらないわたくしたち。そこに。

 

「あっ、二人とも。次元歪曲反応あり。ベヘモスが亜空間に沈もうとしてるわ!」

「え?」

 

 本当です。宇宙に静かに割れ目が広がり、その中にベヘモスが沈んでいきます。生体戦艦たちも、防衛宇宙軍との戦いを中断し、その割れ目の中に戻っていきます。

 

「どうやら、今回の事件で疲れたみたいで、眠りにつくって言ってるわ」

「そうですか……。次に会う時は、こんな物騒なことにならないのを祈りたいですわね」

「そうね。バハムートも、力を貸してくれてありがとう」

「なぁに、礼には及ばぬよ。全ては、我が同胞を救うため。それに何より、この事件を解決したのは、お前たち人間の力によるものだ」

 

 そうちびバハムートが言うと、その姿が揺らぎだしました。

 

「さて、我も少し疲れた。少しの間、眠りにつかせてもらおうか。お前たちから受けた恩は、ずっと忘れぬぞ」

 

 そう言うと、ちびバハムートの姿は消えていきました。ふぅ……。

 

「これで全て終わりましたわね……」

「えぇ……。本当に、波乱万丈な事件だったわ」

「そうね。それじゃ、アースグリムのずら丸のところに戻りましょう、リトルデーモンたち」

「あなたのリトルデーモンになった覚えはありませんわ」

「がーん!」

 

 そしてわたくしはAquaSを、防衛宇宙軍艦隊へと向けたのでした。

 

* * * * *

 

 そして。鋼の月(スタルモンド)のハンターオフィスの前。

 

「二人とも、クラス昇級おめでとう!」

「ヨハネさんも、D級に昇級おめでとうですわ」

 

 そう、今回の事件解決の功績でわたくしとマリさんはB級に、ヨハネさんはD級に昇格したのです。ハナマルさんは残念ながらZ級のままですが。

 B級になると、もっと多様な案件に関わることができますし、ヨハネさんもD級になれば単独での仕事ができるようになります。いいことですわ。

 

 そうそう、ウミさんも今回の事件のことで、中将から大将に昇級の話が出たのですが、彼女としては引き続き前線に立っていたいということで断ったそうです。彼女らしいですわ。

 

「それで、ヨハネはこれからどうするの? マリーたちと分かれて、独立してソロのハンターとして活動することもできるけど」

 

 マリさんがそう言うと、ヨハネさんは首をぶんぶん振って言いました。

 

「いいえ。このままあなたたちと一緒に行くわ。あなたたちと一緒にいると、もっと色々なものに出会えそうな気がするから。それに、ずら丸を放っておくわけにもいかないしね」

「マルの保護がいるのは、ヨシコちゃんのほうではないかずら~?」

 

 ハナマルさんが意地悪そうにそういうと、ヨハネさんは顔を赤くして言い返しました。

 

「そ、そんなことあるわけないじゃない! それとヨハネ!」

 

 わたくしはそんな二人のやりとりを微笑ましく眺めながら、なだめるように言いました。

 

「まぁまぁ。それではこれからもよろしくお願いしますわね、二人とも」

「えぇ、こちらこそ!」

「よろしくずら~!」

 

 そしてわたくしたちは、再びAquaSを駆り、深宙域に飛び立っていったのでした……。

 

* * * * *

 

 一方、そのころ……。

 

「本当にあそこで手を引いてよかったのでしょうか、ボーゼル大司教様?」

 

 小型艇のコクピットに座る部下に、ド・ボーゼル・ヴィリエは答えた。

 

「かまわぬ。あの男に、ベヘモスが御せるわけがないのはわかっていた。もちろん、我らでもな。超生物は我らの手に負える存在ではない。そのような危険なものに簡単に触れるべきではない」

「では……」

 

 部下が返すと、ボーゼルはローブのポケットからカプセルを取り出し、にやりと笑った。

 

「あの男が確立した、超生物の細胞から生体兵器を作る技術、我らにとって有益な道具になるとは思わぬか? わしはわしで色々と考えているのだ。偉大なる超生物様のために、な」

「ははあっ……」

 

 その部下の返事を聞き、ボーゼルは目を閉じながらも、口元に不敵かつ邪悪な笑みを浮かべていた。

 

(だが、超生物のことなどどうでもいい。題目でこいつらを操り、そしてこの技術で、再び我ら……地球教を甦らせてみせる。そしてわしがその長として、深宙域どころか、この宇宙を支配してやる。その時が楽しみだ。くくくく……)

 




読んでくださり、ありがとうございました!

そもそも、これを書き始めようとしたきっかけは、ギルキスの『New Romantic Sailors』を聞いて、中の人がAqoursのダーティペアの新シリーズが出たらいいなぁ、と思ったことでした。

そこから、前作のブラ公シリーズが完結したこともあり、Aqoursのスぺオペものを書いてみようかな、となり始めたのがこの話なわけです。

当初はギルキスの三人のうち二人がメインにする予定だったのですが、いつの間にかダイヤさんとマリーの二人がメインにw

さて、これでとりあえず一区切りですが、要望があったり、書く気が沸いてきたら、第二期も書くかもしれません。外伝も書くかも?
その時は不定期になるとは思いますが、その暁には楽しんで……いただけたら幸い。

それでは、改めて、ありがとうございました!


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第2シーズン
#01


さて、いよいよ第二シーズン開幕です!
今回も新キャラがわんさかですよ! どうぞお楽しみに!



 深宙域暦(D.S.E.)231年。深宙域のある辺境領域にて……。

 

「よし、追いつきましたわ! ヨシコさん、攻撃ポイントの算定は終わりまして!?」

 

 私……ダイヤ・ブラックウォーターの問いに、後ろのシートについている、黒髪の女の子、ヨハネさんが答えます。

 

「えぇ、できてるわ! 今、マリーのほうに送るわね!」

 

 さらに、ヨハネさんの右となりに座っている素朴そうな女の子、ハナマルさんが報告してきます。

 

「ブラスターのチャージもOKずら!」

「マリーさん!」

 

 私の言葉に、私の隣に座っている金髪の女性、マリー・フィールダーがうなずきます。

 

「わかったわ! ダイヤ、もうちょっと接近して!」

「了解ですわ!」

 

 そして私は、乗っている船、AquaS(アクア)のブースターを全開にして、一気に落下起動に乗りつつある小惑星へと接近させます。

 

「よし、いくわよ! ロック・オーン!!」

 

 マリーさんがトリガーを引きました。AquaSからブラスターが放たれ、それは見事に、攻撃ポイントに着弾! 小惑星にひびが入ります。

 

「まだまだ行くわよ、ファイア~!!」

 

 さらにブラスターを発射! 発射するごとに、小惑星にはさらに細かくひびが入っていきます。そして何発目かのブラスターがヒットした時、小惑星は小さな岩塊となって砕け散ったのでした。

 

 ふぅ……やりましたわね。あの大きさなら、大気圏で燃え尽きてくれるはずですわ。

 

「多分、これなら大丈夫と思いますが……ヨハネさん?」

「うん。計算してみたけど、ほとんど、大気圏で燃え尽きるみたいよ。一個か二個ほど、石ころぐらいの大きさの隕石になるかもしれないけど」

「そうですか。それなら、この件はこれで解決ですわね。鋼の月(スタルモンド)に戻りましょうか」

 

 私がそう言うと、私の後ろがにわかに騒がしくなります。ついでに、私の横も。

 

「わーい! 報酬もらえるずらよ、ヨシコちゃん!」

「ヨシコじゃない、ヨハネ! でも報酬は何回もらっても嬉しいものね。これでまた、堕天使にふさわしい服を買うことができるわ」

「マルは、おいしいものをたくさん買って食べたいずら~!」

 

 おいしいものをたくさん食べたいなんて、ハナマルさんらしいですわね。そして、ヨハネさんの堕天使うんぬんについては、聞かなかったことにいたしましょう。深入りしないほうがいい世界も、世の中にはあるのですわ。

 

「う~ん、マリーは何を買おうかしら……。あの服もいいし、あのアクセサリーも……」

 

 そして、そう能天気に言うマリーさんに、私は頭を抱えてしまいます。

 

「マリーさん、いつぞや言ったかもしれませんが、いい加減にしてください! お金使いが荒すぎますわ!」

「えー、だってお金は使ってこそでしょう?」

「マリーさん、だからと言って、度が過ぎるのはダメずら」

「マリー、いつもたくさん買い物してお金が足りなくなって、共同貯金に手を出すから、船の整備こそできるものの、改良する余裕がないのよね……」

 

 ハナマルさんとヨハネさんがそう突っ込みを入れます。私もまったくもって同感ですわ。

 

 まぁ、そんな風ににぎやかにしながら、私たちのAquaSはこの宙域を離れたのでした。

 

* * * * *

 

 二大国のある領域から片道20年の距離を隔てた先にある宇宙の新天地、深宙域。

 日々、開拓が進められているこの新天地では、宇宙災害や海賊の襲来、犯罪など、多くのトラブルが待ち受けています。

 

 そのトラブルを解決するために日夜奮闘しているのが、私たちハンターなのです。

 

 ハンターは、ハンターオフィスと呼ばれる施設から依頼を受注し、それを達成することで生計を立てています。

 

 私たちもそのハンターチームの一つ。コードネームは『AquaS(アクア)』。(ハンターは乗っている船の名前をコードネームにするのが慣例となっています)

 私はAquaSのリーダー。ダイヤ・ブラックウォーター。レーヴェ星域の第三惑星、レーヴェⅢの名家、ブラックウォーターの次期継承者なのですが、今はその修行も兼ねてハンター稼業に身を置いています。

 私の横に座っているのは、マリー・フィールダー。フィールダーというのは偽名で、実はレーヴェ星域第四惑星、レーヴェⅣでの有名な財閥、その当主の一人娘だそうです。でも、その窮屈な生活に耐えかねて家を飛び出した、とのことですわ。ハンターとしての実力も精神も十分なのですが、フリーダムすぎるのとお金遣いが荒いのが欠点でしょうか。

 私の後ろに座っているのはヨハネさんとハナマルさん。二人とも、前に関わった事件で出会った新たな仲間です。ヨハネさんはフォーリン族という異星人種族のお姫様、そしてハナマルさんはその侍女ですわ。どちらも今となっては元がつきますけどね。

 

 その私たちを乗せた宇宙船『AquaS』は今日も、広大な宇宙を駆け巡っています。

 

* * * * *

 

 さて、レーヴェⅣの衛星軌道上にある人工天体、鋼の月(スタルモンド)に到着した私たちは、ハンターオフィスで報酬をもらうと、次の依頼を物色していました。

 

「ねぇねぇ、ダイヤ! これなんかどう?」

「却下ですわ」

 

 なんで私たちが、怪しい宗教団体のお手伝いをしなくてはいけないのです。

 

「この依頼なんかいいと思うんだけど、どうずら? ダイヤさん」

「うーん、それもいいですが、ちょっとイマイチですわね……」

 

 有翼異星人の子供たちのお世話。ちょっとひかれますが、それなら他の有翼異星人の大人にさせればいいことですからね。わざわざハンターオフィスに持ち込むほどのことではないと思うのですが。でも、子供たちのお世話が好きなんて、ハナマルさんらしいですわね。

 

 そんなこんなで私たちが依頼を探していると、マリーさんがその依頼を持ってきたのでした。

 

「ねぇねぇ、ダイヤ。いいのがあったわ。惑星シーウォーターⅢの衛星軌道上のジブリの撤去作業だって。報酬もよさそうよ♪」

「シーウォーターⅢですか。これは懐かしい名前が出てきましたわね」

 

 私がそう言うと、ヨハネさんが横から割り込んで聞いてきました。

 

「ねぇねぇ、懐かしいって、前にも行ったことあるの?」

「えぇ。もう3年ほど前ですが。私たちがハンターになりたてのころのことですわ」

「あそこの子とも仲良くなったわよね。懐かしいわ」

 

 マリーさんがそう言うと、ハナマルさんが目を輝かせて聞いてきます。

 

「ねぇねぇ、マリーさん。シーウォーターⅢには人魚が住んでいるって聞いたけど、その人魚の子と仲良くなったずら?」

「えぇ、そうよ。色々あってね」

「あ、人魚と言っても、陸上では私たち地球人(アースマン)と同じですわよ。水中に入るとき、本人の意思で下半身を魚のそれにできるんです」

「それはすごいずら~。そんな子と仲良くなったなんて、二人がうらやましいずら~」

 

 私たちの話を聞いて、ハナマルさんがさらに目を輝かせます。それを見て、マリーさんが得意そうに言いました。

 

「ふふん、そうでしょ? まぁ、私たちもはじめて見た時にはびっくりしたわよね。でも彼女も今はハンター稼業やってるけど、元気にしてるかしら」

「そうだといいですわね。さて、報酬もよさそうですし、これにしましょうか。お二人ともいかがですか?」

 

 そう二人に確認をとります。答えは決まっていましたわ。

 

「いいわよ!」

「いいずら!」

 

* * * * *

 

 さて、依頼を受けた私たちは、再びAquaSに乗り込み、レーヴェ星域の端に向かっていました。

 そしてレーヴェⅦを超えたところで。

 

「さて、それではシーウォーターⅢに飛ぶとしましょうか。ハナマルさん、ワープ準備をお願いしますわ」

「了解ずら!」

 

 そして粛々とワープ準備を進めます。さすが、あのベヘモスの一件から時間が経ったこともあって、ハナマルさんがワープ準備をする姿も、様になってきましたわね。板につくとはこのようなことを言うのでしょうか。

 

 と、そこに。

 

「Oh、ちょっと待ってダイヤ。星域内から巡航艇が接近してきてるわ。その船から通信が届いてる」

「通信? どこからでしょうか」

 

 私がそう聞くと、マリーさんはコンソールを見て、懐かしいものを見たような表情を浮かべました。

 

「Wao! どこの船か聞かなくても、すぐにわかったわ。『シーウォーター』よ。うん。向こうからのコードネームも『シーウォーター』と名乗ってる」

「カナンさんですか。あの3年前以来、懐かしいですわね。通信をつないでくださいませ」

「OK!」

 

 そして通信スクリーンに映し出されたのは、私たちとそう年齢が変わらない女性の姿。青がかった黒髪をポニーテールにした少し垂れ目な女性。彼女が私たちの旧友です。

 

「つながったつながった。二人とも、久しぶりだね」

「そうですわね。3年ぶり、と言ったところでしょうか」

「懐かしいわね。二人で殴り合いのけんかもやったこともあったわよね」

「ははは、それはもう昔のことじゃない」

 

 そう久しぶりに出会った旧友、カナンさんと再会を喜び合う私たち。

 でも、こうしてばかりもいられません。依頼も待ってますしね。

 

「それで、カナンさん、どうされたのです? 私たち、これからシーウォーターⅢに飛ぶところだったのですが」

「あ、そうそう。そのことで二人にお願いがあってきたんだよ」

「ま、まさか、この依頼を譲ってくれというんじゃあ……!」

 

 そう愕然とした表情で言うマリーさん。それを見て、カナンさんは不本意そうな表情です。

 

「ひどいなぁ。そこまで厚かましいことは言わないよ」

「てへぺろー」

「てへぺろじゃないよ……。それでね、その依頼に私もかませてほしいんだ」

 

 んん?

 

「実は、わけあってオフィスに、『シーウォーター絡みの依頼が入ったら教えてくれ』と伝えてあってね」

「それで、依頼が入ったから向かったら、私たちが一足早く既に受けていた、と。それはすまなかったですわ」

「いや、それはいいよ。『リザーブしといてくれ』と言わなかった私が悪いんだし。それでね、ダイヤたちが受けたと聞いて急いで飛んできたんだ。私にもその仕事一緒にやらせてほしいと思って。どうだろう?」

 

 そうお願いしてくるカナンさん。その表情に、何か憂いのようなものがあるのに気づいた私は、何か気になるものを感じて聞くことにしました。

 

「それは、手続き上は共同受注ということにすれば構いませんが……。そこまでしてお願いするって、何かあったのですか?」

 

 どうやら、私の予感は正しかったようです。彼女の口からある話が出てきました。それは……。

 

「うん。何かシーウォーターⅢの二種族の間が不穏になってきてるって噂が聞こえてきてね……。とても気になって……」

 

 新たな陰謀の予感……。

 

 




読んでくださり、ありがとうございます!

次の更新は、9/25 12:00の予定です。お楽しみに!


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#02

今回もまた、新キャラが何人も出てきますよ!
もしかしたら、ニジ〇クファンは嬉しいかも?


「ねぇ、二つの種族って?」

 

 カナンさんから、『シーウォーターⅢの二つの種族の関係が悪化している』という話を聞いて、ヨハネさんがそう聞いてきました。

 

「シーウォーターⅢには、二つの種族が住んでいるのよ。一つが、カナンの種族、海より陸の生活に適応したマーメイ族」

「そしてもう片方が、逆に海の生活に適応したセイレーナ族だよ」

 

 マリーさんと、カナンさんの説明を受けて、私が続けます。

 

「マーメイ族は海岸に集落を作って生活しており、セイレーナ族は海底に里を作って暮らしているのですわ。といっても、両種族の適応が進んでいて、今はそれぞれの適応力は誤差の範囲内でしかないんですけどね」

「へー、そうなんだ。その両種族が関係悪化してるってこと? 昔からそんな仲悪かったの?」

 

 ヨハネさんがそう聞くと、やはりカナンさんもそれを憂いているのか、表情を曇らせて答えました。

 

「うん。聞くところによれば、かなり昔からいがみ合っていたみたい。とはいっても、戦いになることはなかったし、特に最近では、族長である王様のおかげもあって、かなり関係が良くなっていたって聞いたのに……」

 

 やはり、自分の種族が困難なことになっていることに心を痛めているのでしょうか。カナンさんはとても沈んでいます。

 こんな彼女を放っておくわけにはいきませんわね。そしてそれは、マリーさんも同じようでした。

 

「ダイヤ。カナンも連れて行きましょうよ。そして本当に両種族が険悪になっているのなら、私たちの手でそれを解決してあげまショウ!」

「そうですわね。こんなに沈んでるカナンさんを放っておくことはできませんし、力になれるなら力になりたいですものね」

「二人とも……ありがとう」

 

 私たちにかすかに微笑みを見せるカナンさん。彼女に明るさが少しでも戻ってきてくれて、本当に良かったですわ。

 

 と、そこでヨハネさんが。

 

「ねぇねぇ! カナンって、人魚になれるんでしょ? それ、一度見てみたい!」

「ヨシコちゃん、そんな失礼なことをぶしつけに聞くものではないずら」

「ヨシコじゃなくてヨハネ! それに、あんただって本心は見たいんじゃないの、ずら丸?」

「そ、それは……見たくないといえば嘘になるけど……」

 

 後ろで何やらわいわい騒いでる、ヨハネさんとハナマルさんに思わずこっそりとため息。

 そして、もう一度ため息をついて、カナンさんにお願いしてみます。

 

「カナンさん、というわけで申し訳ありませんが、人魚になっているところを見せてあげてもらえませんか?」

「もう、しょうがないなぁ……」

 

 そしてカナンさんはまたため息をつくと、下半身を何かがさがさして、そして魚の下半身になったそれを見せてくれました。

 透き通るように蒼いウロコに覆われた魚の尾。それを見て、もちろんヨハネさんとハナマルさんは大喜びです。

 

* * * * *

 

 そして。

 

「ワープアウト完了! シーウォーター星域外縁部、シーウォーターⅣの衛星軌道上に出たわよ。ぴったりと計算通り」

「ワープドライブ、異常なしずら」

 

 後ろから聞こえてくる、二人の報告の声。それを聞き、カナンさんにも聞いてみます。

 

「カナンさん、そちらの『シーウォーター』のほうはどうですか?」

「うん。こちらのほうも問題なしだよ」

 

 向こうからも問題なしの報告がきました。よかったですわ。

 それにしても、カナンさんは操縦から射撃管制、色々な観測、ダメージ管理と色々な作業を一人でこなしているから、本当にすごいし、大変だと思いますわ。私たちも、ヨハネさんたちが入る前は、二人でそれらを分担していましたが、それでも大変でしたもの。

 

 何はともあれ、私たちの『AquaS(アクア)』と、カナンさんの船、『シーウォーター』は無事にシーウォーター星域に到着したのでした。

 シーウォーター星域は、4つの惑星からなる小さな恒星系です。とはいっても、ⅢからⅣまではかなり間があいているんですけどね。

 

 レーダーを見てみると、ⅢはⅣとは、恒星シーウォーターをはさんで反対側にある様子です。もう少し飛ぶ必要がありますが、それぐらいどうってことはないですわね。

 

 と、その時です。なんですの? 星域の外から猛スピード接近してくるこの光点は。

 そしてそれと同時に、通信が入電してきました。なんでしょうか、オフィスからの緊急連絡でしょうか? 嫌な予感がしますがつないでみましょう。ポチッとなですわ。

 

「見つけたよ~、ヨシコちゃ~ん!!」

「うわぁ! か、カナタ!?」

 

 スクリーンに映し出された、ゆるくウェーブがかかった金髪の女性を見て、ヨハネさんが大慌て。

 彼女の知り合いの方なのでしょうか?

 

「ヨハネ、知っている人なの?」

「う、うん。レーヴェⅡにいた頃、とてもお世話になっていた従姉のお姉さんなんだけど……。でも、なんでこんなところに!?」

 

 すると、カナタさんは笑顔のままこたえてくれました。でも、その笑顔に、殺気のようなすごみがあるのは気のせいでしょうか……?

 

「それはもちろん、ヨシコちゃんを悪漢たちの手から救いだして、レーヴェⅡに連れ戻しに来たんだよ~。さぁ、一緒に星に帰ろう~」

「あれ? でも、あの宰相が『ヨシコ姫は悪者の手によって、恒星レーヴェに船ごと突っ込まされて亡くなった』って発表してなかったかしら……?」

 

 そのマリーさんの言葉に、カナタさんの表情がわずかに険しくなったような気がしました。

 

「そんなの信じるわけないじゃ~ん。ヨシコちゃんがあんなことで死ぬわけないと直感で思ってたから、あちらこちらの星を巡って情報を集めて、ヨシコちゃんが悪いハンターにつかまって、ハンター稼業をさせられてるってかぎつけたんだよ~」

「なんかよくない尾ひれがつけられてるみたいですけど!?」

 

 思わずガラにもなく、そう叫んでしまいます。『悪い』ハンターなんて、冗談じゃないですわ。

 でも、そんな私の言葉も、今のカナタさんには届いてないみたいです。

 

「さぁ、ヨシコちゃんを解放してもらおうかな~? さもないと、実力行使で解放してもらっちゃうよ~」

「むぅ……」

 

 思わずうなる私に、ヨハネさんがすがるような声色で言ってきました。

 

「に、逃げて逃げて! 私、まだ堕天を極めてない……もとい、もっとハンター稼業したり、広大な宇宙を旅していたいの!」

「あらあら~。ヨシコちゃん、すっかりその二人に洗脳されちゃったんだね~。でも大丈夫。すぐに元に戻してあげるから~」

「洗脳されてない! 洗脳されてないから~!」

 

 あらあら、これは本当にどうしたものでしょうか?

 

「いったん逃げましょう、ダイヤ」

「マリー! ありがとう、やっぱりマリーは私の一番のリトルデーモンだわ!」

「……やっぱり、カナタに引き渡しちゃいましょうか」

「そ、そんな!?」

「それはともかく、星域内でチェイスするのは危険だから、いったん星域外に出ましょう。そこでまいたあと、大回りでシーウォーターⅢに出ればいいわ」

 

 マリーさんの提案に、私もうなずきます。

 

「わかりましたわ。カナンさんもいいですか?」

「うん、了解だよ! ……ダイヤたちも大変だね」

 

 そしてAquaS号とシーウォーター号は星域外の小惑星帯にフルスピードで飛んでいったのでした。もちろん、カナタさんとやらの船も猛スピードで追跡してきます。

 

* * * * *

 

 小惑星帯の小惑星の中を、私たちの船と、カナンさんのシーウォーターは鋭い動きで小惑星をかわしながら逃げ回ります。さすがカナンさん。出会ってからの二年間で鍛錬を続けてきたのか、見事な操縦テクですわ。

 一方のカナタさんも、私たちを逃がさないかのように、時には小惑星に衝突しながらも必死に追いかけてきます。その様子から、ヨシコさんを大事に思ってる気持ちが伝わってきますが、それでも捕まるわけにはいきません。

 

 一度小惑星帯に出てから、Uターンして再び小惑星帯に突っ込みます。そしてまたもチェイスを追いかけていくうち……。

 

「あら? カナタの船、なんか止まっちゃったみたいよ?」

「ほんとね。あまりに一杯衝突したから、動力炉か何かに不具合が発生したのかしら?」

 

 スクリーンを見ると、確かにカナタさんの船が停止して、ぷかぷか浮いています。あれは、自分で停止したのではなく、動力炉が緊急停止して止まったようですわね。でも……。

 

「爆発もないみたいですし、大した不具合ではないでしょう。今のうちに、シーウォーターⅢに向かいますわよ!」

「OK!」

 

 そして私たちは、再び目的地であるシーウォーターⅢに進路をとり、この場を後にしたのでした。

 カナタさんの

 

「おのれ~、覚えていなよ~」

 

 という恨み節を聞きながら……。

 

* * * * *

 

 と、ちょっと大変なことがありましたが、それでもなんとか、私たちはカナタさんを振り切ってシーウォーターⅢにたどり着きました。

 

 ……でも、ここシーウォーター星域に可住惑星はシーウォーターⅢだけなのに大丈夫でしょうか?という気が猛烈にしますが、きっと大丈夫でしょう、たぶん、おそらく。

 

 さて、シーウォーターⅢの離陸床に着陸すると、私たちは船を出ました。AquaSの隣には、シーウォーターが着陸し、そこからカナンさんも出てきます。

 そして、向こうのほうから二人の人影がやってきました。17才くらいの年頃の女の子と、私たちと同じ年ごろの女性です。女の子はカナンさんを見かけると、嬉しそうな笑顔を浮かべて彼女のほうに走っていきます。そして、カナンさんの胸元に飛び込みました。

 

「カナンちゃん!」

「チカ!」

 

 嬉しそうに互いの名前を呼びあう二人。カナンさんの知り合いの方でしょうか?

 そして、年上のほうが追い付くと、咳ばらいをしてチカと呼ばれた女の子に注意しました。

 

「こほん、チカさん。ハンターの方がいらっしゃったのですから」

「あ、ご、ごめんね、セーラさん。えーと、こほん。ようこそシーウォーターⅢへ。マーメイ族第二王女で次期族長候補のチカ・マーメイといいます。今回はよろしくお願いします」

 

 チカさんはそう丁寧にあいさつすると、セーラと呼ばれた女性のほうに顔を向けます。

 

「えーと、これでいいんだよね?」

 

 そう聞くと、セーラさんは優しく微笑みました。そして、チカさんの頭をなでながら口を開きました。

 

「はい、お見事です。……チカ姫の侍女を勤めさせていただいております、セーラ・スノーフレークと言います。どうぞお見知りおきを」

 

 そう言うと、セーラさんは見事なカーテシーで一礼しました。ブラックウォーターの次期後継者でもある私にはわかります。

 

 ……彼女、なかなかやりますわね。

 

 そして私も、一礼して自己紹介します。

 

「よろしくお願いします。AquaSリーダーのダイヤ・ブラックウォーターですわ」

「同じくAquaSのマリー・フィールダーよ。よろしくデース!」

「ヨハネ・セラフィよ。よろしくね、リトルデーモン」

「ハナマル・フラワースずら。あ、リトルデーモンという言葉は気にしなくてもいいずら」

「どういう意味よ!」

 

 ちなみに、二人が名乗っているのは、ハンター稼業のさいの偽名ですわ。

 

 さて、私たちを見渡したセーラさんは、最後にカナンさんのほうに目を向けました。

 その視線にはかなりトゲが含まれているような気がしました。それを感じ取っているのか、カナンさんの表情もかなり曇っています。

 

「えーと、私は……」

 

 ですが、セーラさんはカナンさんの言葉を遮るように言い放ちました。

 

「あなたの自己紹介など聞きたくないのですが。良くここに戻ってこれましたね、第一王女様」

「……」

 

 その言葉に、カナンさんは表情を曇らせたままうつむいてしまいました。さすがにそれを見かねたのは、チカさんがセーラさんに注意します。

 

「ちょっと、セーラさん!」

「申し訳ありません、チカさん。ですが、私はカナンさんをまだ許してはいませんので」

 

 その様子に、カナンさんとセーラさんとの間には、かなり深刻な何かがあるのを私は感じました。そして思います。

 

 ……この仕事、ただで済みそうにありませんわね。

 

 




ちょっとセーラさんがきつくしすぎたでしょうか……?
Saint Snowファンの皆さん、ごめんなさい(汗

さて、次回は10/2 12:00に更新の予定です。お楽しみに!


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#03

3話目でございます。
今回もカナタさんがお暴れですよ!ww


 さて。私たちがシーウォーターⅢを訪れてすぐに、宴が開かれました。私たちを歓迎してとのことです。なんかくすぐったいですわね。

 

 失礼ながら、レーヴェⅡでの時のように毒殺の可能性を危惧しましたが、それはありませんでした。しっかりと毒見をしてましたし、陰謀、謀略に敏感なマリーさんがリラックスした様子で飲み食いしてましたから、本当に問題はなさそうです。

 まぁ、それはそうですわね。毎回毎回、毒殺されそうになったら、たまったものではありませんわ。気が休まりません。

 

 そんなわけで、私も肩の力を抜いてパーティを楽しんでますが、気になってることが一つ。

 

 相変わらず、セーラさんの、カナンさんに対する態度がとげとげしいことです。私たちには親し気な表情を向けてくれるのに、カナンさんを前にすると、とたんに厳しい表情に変わるのです。カナンさんが何か話そうとしても、「あなたと話すことはありません」とばっさり。この二人の間には確かに、ただならぬものがありそうですわね。

 

 さすがにその様子を見かねたマリーさんが、カナンさんに近づいて問いかけます。

 

「ねぇカナン? 一体過去に、あの人との間に何があったの? あの様子、ただごとじゃないわよ?」

 

 でも、カナンさんは苦笑を浮かべたまま……。

 

「なんでもないよ……。昔にちょっと色々あっただけ……」

 

 と返すだけでした。二人の対立は、かなり根深いようですわね……。マーメイ族とセイレーナ族との対立はもちろん、この二人の関係も修復してあげたいのですが……。

 

* * * * *

 

 さて、宴が終わった後、夜中。

 

 私はあてがわれた寝室で目を覚ましました。特に気配を感じたわけではないのですが、単に目が覚めたみたいです。

 

 再び寝ようと思ったのですが、一度目が覚めたせいで、なかなか寝付けそうにありません。これはまいりましたわね……。

 仕方ないので、ちょっと散歩に出ましょうか。

 

 私はマリーさんたちを起こさないように気を付けながら、そっと寝室を後にしたのでした。

 

 そして質素ですがきれいなマーメイ族の宮殿を散策していると、海岸沿いのバルコニーに、誰かがいるのを見つけました。

 あれは……チカ姫ではありませんか? 彼女は海を見てため息をついてるみたいでした。

 

「チカ姫、どうされたのですか?」

「あ……ダイヤ……様?」

 

 慣れない様子でそう言うチカさんに、ルビィと似たものを感じて微笑ましくなりながら返します。

 

「ふふ、ダイヤさんでいいですわよ」

「あ、それじゃあそれで! 私のこともチカと呼び捨てでお願いしますね!」

「はい。それじゃあチカさんで」

 

 快活な様子で話してくるチカさん。どうやらこれが彼女の素のようですわね。

 

「それで、チカさんはどうされたのですか? 眠れないのですか?」

「うぅん、それもあるけど、ここ最近、リコちゃんやヨーちゃんと会えてないから、寂しいなーって」

「リコさんとヨーさん? お知り合いの方なのですか?」

 

 私がそう聞くと、チカさんは明るい笑顔を浮かべてうなずくと、また憂いのある表情に戻って海を見つめました。

 その様子から、二人がチカさんにとってとても親しく大切な人たちだというのが感じ取られます。

 

「うん。リコちゃんはセイレーナ族のお姫様で、ヨーちゃんはその侍女。私とは子供のころから一緒に遊んでた幼馴染なんだ。それからも時々お互いの里に遊びに行ったり、手紙のやりとりとかしてたんだけど、最近、二種族の間が険悪になってるでしょ? それで……」

「そうですか……。両種族の仲が元に戻って、会えるようになるといいですわね」

「うん、ありがとうございます……」

 

 と、そこで気配がしました。その気配の方向を見ると、ひとりの女性が、私たちの部屋へと忍び足で近寄っているところでした。

 あれは……カナタさんではありませんか。彼女、まだヨハネさんを連れ帰るのを諦めていなかったんですのね。

 

 私はチカさんをバルコニーに残し、彼女の後を追いかけることにしました。

 

* * * * *

 

 ヨハネさんを連れ帰ることを狙うカナタさんを尾行する私。

 幸いというべきか、当然というべきか、彼女は私の気配に気づくことはありませんでした。ふふふ、修羅場をくぐってきて磨かれた私の潜入術を甘くみないでいただきたいですわ。

 

 そしてもう少しで私たちの寝室にたどり着くというところで……。

 

「何をしているのですか?」

「ひゃあ!!」

 

 声をかけると、カナタさんは本当に飛び上がってびっくりしたようです。反応がオーバーですわね。

 

「ででで出たな悪徳ハンターめ! ヨシコちゃんをお前たちの好きにはさせないよ~!」

「誰が悪徳ハンターですか失礼な」

 

 そしてそこでカナタさんはすたこらと逃げ出しました。逃がすまいと私も追いかけます。

 そして追跡を続けると、カナタさんの目前に一人の怪しい男が現れました! 手にレーザー銃を持っています。どうやらよからぬ輩のようですわ!

 

「カナタさん、お伏せになってください!」

「ふへ? うわぁ!」

 

 私の警告にきょとんとしていたカナタさんでしたが、男が銃をこちらに向けると、とっさにその場に倒れこみました。さすがに彼女も場数をこなしてきたみたいですわね。見事な動きですわ。私も物陰に隠れ、その数瞬後にレーザーが私のいた場所を貫通しました。

 負けじと私も撃ち返します。

 

 かなりの銃撃戦が続きましたが、犯人は私にばかり気を取られ、足元には気が付いていませんでした。それが彼の致命傷となりました。

 

「そーれ!」

 

 いつの間にか這いつくばりながら、犯人の足元に近寄っていたカナタさんが、足払いをかけて男を転ばせたのです!

 この隙を私は逃しはしません! 全力で男に駆け寄り、銃を突き付けて制圧したのでした。

 

* * * * *

 

 そして、宴が行われた大広間。

 襲撃犯はそこで、取り調べを受けていました。どうやら彼は、チカ姫の命を狙っていたようです。

 

 あそこで見つけられてよかったですわ。あの時、チカ姫はバルコニーで一人でしたから、下手したら暗殺されていたかもしれません。カナタさんに感謝ですわね。

 

 そのカナタさんですが、他の人達が来る前にすたこらさっさと逃げてしまいました。逃げ足も速い方でしたのね。

 

 さて、いよいよその襲撃の背景を取り調べようとなった時に……。

 

「お待ちくださいませ」

 

 黒いスーツに身をまとった、いかにもやりてな、でも胡散臭そうな若い男がやってきました。

 

 彼を見て、マーメイ族の宰相様が口を開きます。

 

「おぉ、フォクス殿」

 

 このフォクスとかいう者、他の重臣の話では、両種族をまとめ、このシーウォーターⅢを統治している長官府の職員で、長官府とマーメイ族との連絡役をしている人物とのこと。

 そのフォクス氏は、宰相様にこう言ってきました。

 

「ここから先の取り調べは長官府のほうで行います。どうか、その男の身柄を引き渡していただきたい」

「あ、はい、わかりました」

 

 それを聞いて私は「ん?」と思いました。カナンさんや他の方の話では、各種族は、長官府の監督こそあるものの、自治権を与えられて自治を行っているとのこと。なのに、捜査権や司法権もないのですか?

 

 それに、引き渡しの要求も一方的みたいですし、男からの情報をもらすまいとしているようにも見えます。

 

 ……何か怪しいですわね。

 

 私はマリーさんに小声でこうお願いしました。

 

「マリーさん、あの男と長官府とやらには、何か怪しいものを感じます。長官府に忍び込んで調査してみてはもらえませんか?」

「えぇ。私もそう思っていたのよ。わかったわ」

 

 私はうなずくと、再びフォクス氏と襲撃犯のほうを見続けていたのでした。

 

 




次回は、10/9 12:00に公開の予定です。お楽しみに!


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#04

 宴会の翌日。いよいよ私たちの仕事が始まりました。

 シーウォーターⅢに浮かんでいる多くのスペースデブリ。宇宙海賊や悪徳開発業者などが違法投棄したそれを処分していくのが、私たちの仕事です。

 

 私たちとカナンさんは、AquaSに乗り込み、衛星軌道上に出発します。改めて見ると、あるわあるわ。開発プラントの残骸やら宇宙船の部品やらがわんさかと。中には、地表に堕ちたらかなりの被害を生みそうなものまであります。

 

「さて、それじゃはじめましょうか、カナンさん」

「そうだね。ちゃっちゃっと、でもしっかりとやっていこう」

 

 そう言葉を交わしながら、私とカナンさんは船に備え付けられている宇宙服を着こみました。うん、さすがカナンさん。宇宙服を着ている姿も、様になっていますわ。

 

「それじゃ行ってきますわね。ハナマルさん、ヨハネさん。周辺の監視やナビゲート、よろしくお願いしますわ」

「うん、任せてずら!」

「このヨハネの魔眼に見通せないものなどないわ。安心して」

 

 その二人の声に見送られ、私たちはエアロックから宇宙空間に飛び出しました。

 

* * * * *

 

「よいしょっと。このあたりはこれで最後ですわね」

 

 デブリの一個をコンテナに押し込んで、私はそうつぶやきました。

 本当にすごいですわね、このデブリの量は。一つのエリアだけなのに、コンテナがいっぱいになってしまうとは。

 

 まぁ、このあたりは深宙域の辺境領域。レーヴェ惑星同盟共和国の統治が届かない無法地帯なのですから、色々やり放題されても仕方ないかもしれませんが……でもあまりにひどすぎますわ。

 

 さて、次のエリアに行きましょうか。でも本当に、すごいデブリの量です。これは一日では終わりそうにありませんわね。数日はかかると見込んだほうがいいかもしれません。さて。

 

「ヨハネさん、次のコンテナを出してくださいまし。それと、こちらのコンテナの回収をお願いしますわ」

「わかった。待ってて!」

 

 そのヨハネさんの返事とともに、AquaSから空のコンテナが射出されました。それと同時、そちらのほうへ満杯のコンテナを押し出します。コンテナは慣性でそのままAquaSのほうへ飛んでいき、そして船に回収されていきました。

 それじゃ、続きをはじめましょうか。

 

* * * * *

 

 そして数時間後。

 

「ダイヤ、疲れてきたね。もうそろそろ、今日の仕事はおしまいにしようか」

「そうですわね。私もそろそろ終わりにしようかと思っていましたわ。続きはまた明日ですわね」

 

 そして私は、満杯になったコンテナを、またAquasのほうに押し出すとカナンさんと合流し、船に戻っていきました。

 この回収したデブリを詰めたコンテナはこの後、手配しておいたデブリ回収業者(もちろん悪徳じゃないところです)に引き渡す予定です。

 

 さて、AquaSに帰還した私はシートに座ると、船をシーウォーターⅢに帰還させたのでした。

 

 そして宇宙港に到着すると、宰相様の元へ報告に向かいます。かなりくたくたですけど、ブラックウォーターの娘たる者、そして何よりハンターたる者、一日の仕事が終わるまで気を抜くことは許されませんわ。

 

 宰相様の部屋には、宰相様と、それとチカさんとセーラさんの姿がありました。彼らを前に私たちはカーテシーであいさつしてから報告します。

 

「今日の仕事、無事終了しました。まだ一杯あるので、明日以降も引き続き作業いたしますわ」

「了解しました。よろしくお願いいたしますぞ」

「お疲れさまでした」

 

 その私に、宰相様とセーラさんからそう声をかけてくれました。ですが、セーラさんがカナンさんのほうを向くと、表情が硬くなります。

 

「……お疲れさまでした」

「う、うん……」

 

 感情のこもってない言葉に、カナンさんの表情が曇ります。やはり、二人の確執はかなり深そうですわね。

 

* * * * *

 

 一方そのころ、長官府に潜入を果たしていた私、マリー・フィールダーは、警備員に見つからないように隠れながら、彼らの目を盗みながら、建物内を調査していました。

 

 目指すは、コンソールルーム。そこからアクセスして、よからぬ情報をGetするのが目的デース!

 

 しかし、不思議な事が一つ。長官府の中は警備されていることは警備されているんだけど、その警備の度合いが長官府という重要施設とは思えぬほど緩いのよね。さすがに「どうぞ侵入してください」と言ってるようなものってほどゆるくはないんだけど、これぐらいなら、ある程度、潜入の経験を積んだ人なら、簡単に潜入できるんじゃないかしら?

 

 まぁ、楽に潜入できるのならそれに越したことはないけどね。

 

 ……と思っていたことがマリーにもありました。

 

 無事にコンソールルームに潜入し、コンソールをクラッキングしようとしたその時!

 

 ヴゥー! ヴゥー!!

 

 警報ブザーの音がこの部屋……いや、この建物全体に鳴り響きました! Oh!!

 

 さらに。

 

「引っかかったぞ! 逃がすな!」

 

 とこちらに近づいてくる声。これはいけないわ!

 早くここを出ないと捕まっちゃう!

 

 マリーは大急ぎで、コンソールルームから出ました。それと同時に、曲がり角から出てきた兵士とばったり!

 銃をバラライザー(麻酔弾)モードにして撃ち、その兵士を昏倒させると、彼が出てきた曲がり角を曲がって、再びランナウェイ!

 

 逃避行を続けるマリー。そこでわかったことがあるの。

 兵士たちが『引っかかったぞ』って言ってたってことは、奴らはわざと警備を緩くして、罠をはっていたってこと。きっと、長官のことを探っている者がいることに感づいて、そしてその不埒者(彼ら視点)をひっとらえるつもりだったのでしょう。

 

 でも、今はそんなことより、今は屋上まで逃げて、ここから脱出するのが先よ! レッツ・エスケーイプッ!

 

* * * * *

 

 私たちが私室(ちなみにカナンさんは別室です)でくつろいでいると、コンコンとノックする音が聞こえてきました。そして、ドアの向こうからかわいらしい声。

 

「チカです。入ってもいいですか?」

「えぇ、かまいませんわ」

 

 ドアを開けると、そこには飲み物の乗ったトレイを持ったチカ姫の姿が。

 

「飲み物を持ってきてくれたんですね、ありがとうございます。でも、召使いの方にもってこさせてもかまいませんのに」

「いえ、ここはやはり王女の私が持ってくるべきだと思いまして……なーんて。実は、ダイヤさんたちに宇宙の話を聞かせてもらいたくて、セーラさんに無理を言って代わってもらったんです。えへへ」

 

 そう言って、はにかみながら笑いチカ姫……チカさん。あぁ、とってもかわいらしいですわ。まるでルビィみたい。

 でも、そういうことなら……。

 

「それなら、持ってきてくださった飲み物に見合うような素敵な話を一杯しないといけないですわね。どうぞお入りになってください」

「はーい」

 

 チカさんを部屋に招き入れると、ソファーに腰掛けた彼女に、これまでに繰り広げた仕事や冒険の話をしてあげます。それを聞いていたチカさんはキラキラと目を輝かせています。そんな姿も、とても愛らしいですわね。飲み物に見合った話はできたようですわね、よかったです。

 

「そうなんだぁ……すごいなぁ。カナンちゃんが宇宙に飛び出していった理由もわかるよ~」

「カナンさんが?」

 

 私が聞くと、チカさんはこくんとうなずいて、カナンさんの話をしてくれました。

 

「うん。セーラさんから聞いたんだけど、ダイヤさんたち、二年前にもこの星を訪れたんでしょ?」

「えぇ」

「私はその時、セイレーナ族の里のリコちゃんのところに泊まりに行ってたから知らなかったんだけど、そこでカナンちゃん、ダイヤさんたちと一緒に当時起こってた事件を解決して、それでその時に宇宙のすばらしさに魅了されて、星を飛び出して行ったんだって」

「そんなことが……」

 

 カナンさんがハンターになった行きさつについては知らなかったから、これには驚きましたわ。彼女がハンターになったと聞いたのは、私たちが二年前の事件を解決して、シーウォーターⅢを出て行った数か月後のことでしたから。

 ……ん? もしかして……。

 

「もしかして、セーラさんがカナンさんに冷たいのは、もしかしてそれで……?」

 

 どうやら図星のようです。私が聞くと、チカさんは少し表情を曇らせてうなずき、こたえてくれました。

 

「うん。カナンちゃんがみんなには無断でこの星を出て行ったから、それで次期後継者の座が、第二王女である私に回ってきて、それで……」

「なるほど……」

「私はカナンちゃんが楽しんでくれればそれが一番だから、譲られたことは恨みにも思ってないけど、セーラさんのほうは……」

「そうですか……」

 

 セーラさんにとっては、自分と親しかったカナンさんが、自分にとっては妹のような存在のチカさんに大変な次期後継者の座を押し付けて(しかも自分たちには無断で)宇宙に飛び出していったことが許せなかったんでしょうね……。

 

 なんとか二人を和解させてあげたいですが……。

 

* * * * *

 

 一方そのころ。マリーは大ピンチの中にいたわ。

 もう少しで屋上というところで、四方を兵士たちに囲まれてしまったの!

 

 そこに現れた一人の男。どうやらこいつが、長官みたいね。

 

「まんまと引っかかってくれて嬉しいぞ、こざかしいハエめ」

「お褒め戴いて光栄ね。マリーをどうするつもりなの?」

 

 と、そこに不思議なメロディが流れ出しました。それを聞くうちに、なんか頭がくらくらして……。

 

 いけないわ、これはなんかとてもよくないものよ!

 でも、時既に遅く……。

 

 鳴り響くメロディ、ぼやけていく視界の中、長官の声が響きます。

 

「あの遺跡から再現したもので、完全ではないが、それでもお前のような小娘一人を洗脳するには十分だろう。さぁ、お前にはこれが十分に働いてもらうぞ。はっはっはっ!!」

 

 遺跡……? 一体なんの……?

 

 それを問いただす暇もなく、マリーの視界は完全に闇に閉ざサレテ、シマイ……

 

 




次の更新は、10/16 12:00の予定です。お楽しみに!


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#05

5話目です。今回もカナタがやらかしますよ!


 さて、翌日がやってきました。今日も仕事、頑張りましょうか。

 気分がたるみがちになりますけど、ブラックウォーターたる者、気を引き締めて仕事を向かわないといけませんわ。

 

 そう思いながら、カナンさんとAquaS(アクア)に乗り込もうとしたところで……。

 あれは……カナタさん? まだヨハネさんを狙っていますのね。その根性は大したものですわ。

 そんな彼女は、宇宙船を物色しているところから見るに、今回は宇宙船で追いかけて、私たちが船を開けた頃合いを見て、接弦するつもりのようです。

 

 私はカナンさんに小声でささやきました。

 

「カナンさん。今回は、最初のうちはAquaSの中にいてくれませんか? ごにょごにょ……」

「うん、わかったよ」

 

 そして改めて、二人でAquaSに乗り込んでいきました。そして、衛星軌道上へと飛び立ちます。

 

 それにしても……マリ―さんからの連絡がいまだにないのは気にかかりますわね。大変なことになっていなければいいのですが……。

 

* * * * *

 

 その一方カナタちゃんは、あの二人の悪徳ハンターを追って、レンタルした宇宙船で宇宙へと飛び立ったよ~。

 そして、デブリの陰に隠れて、宇宙船から彼女が出てくるのを待ち受ける。彼女がいない隙に、あの船に乗り移り、ヨシコちゃんを助け出そうというナイスなアイデアだ~。ふふふ、ヨシコちゃん、待っててね~。

 

 そして息をひそめることしばし。しめしめ、あの悪徳ハンターが宇宙船から出てきたぞ~。

 あれ、一人だけ? おかしいなぁ。まぁいいや。さっそくレッツゴ~。ヨシコちゃん、待っててね~。

 

 そしてカナタちゃんは宇宙服を着こむと、乗っていたレンタル船を飛び出して、悪徳ハンターの船に乗り移りました。そして、気づかれないようにハッチを開けて、エアロックに忍び込みます。そして……。

 

「ヨシコちゃ~んっ♪ げげっ」

 

 ブリッジに飛び込んだカナタちゃんを待っていたのは、銃を構えて待ち構えていた黒髪ポニーテールの女性、あの悪徳ハンターの仲間でした。待ち伏せされてたの~!?

 

「ここまでだよ、カナタ」

「ま、待ち伏せるなんて卑怯だぞ~。ここは一時退却だ~! あ、あれ?」

 

 エアロックに逃げようとしますが、ブリッジのドアはロックされているようで何しても開きませんでした。

 これってもしかして……絶体絶命ってやつ~!?

 

* * * * *

 

「さぁ、悪徳ハンターめ~。焼くなり煮るなり、好きにしやがれ~」

 

 AquaSに戻ってみると、縛られたカナタさんがそう強がりを言っていました。この期に至っても強がりを言えるなんて大したものですわ。この神経、超テクタイト製ファイバーにも匹敵しますわね。

 

 そんなカナタさんを、ヨハネさんが説得します。

 

「だからカナタ、何度も言ってるでしょ。私は洗脳されているわけでも、捕まってるわけでも、奴隷として使われてるわけでもないんだって」

 

 ちょっと待ってくださいヨハネさん。奴隷として使われてるってなんですか。

 

「うぅ~、悪徳ハンターめ~。ヨシコちゃんをここまで洗脳するなんて、許さないぞ~」

「だから洗脳されたわけじゃないって!」

 

 そんなヨハネさんとカナタさんを前に、戸惑う私……とカナンさん。一体どうしたものでしょうか?

 

「どうしましょうか、カナンさん?」

「いや、私に聞かれても……。この船の主はダイヤなんだし。まぁ、しばっておけば大それたことはできないでしょ」

「そうですわね」

 

 というわけで、カナタさんはブリッジの後ろの椅子に縛り付けておくことにしました。超テクタイト製ファイバーの縄なので、ちょっとやそっとで切られる心配はないですし、なんか様子を見る限り、少し観念しているようにも見えますし、大丈夫でしょう。

 

 さて、それでは仕事を再開することにしましょうか。

 

* * * * *

 

 というわけで、晴れてカナタちゃんは、椅子に縛られ、囚われの身になったのでした……くすん。

 この縛られている縄も、とても頑丈で切れそうな気がしないよ~。く~。ヨシコちゃんが目の前にいるのに~。なんてことだ~。

 

 おのれ~、あの極悪ハンターめ~。

 

 そう思いながら、ブリッジの中を見てみるのですが、そこで働くヨシコちゃんは、とても真面目で一生懸命で、とても洗脳されている風には見えませんでした。良く見ると、その横のハナマルちゃんも、洗脳されているようではないみたいだし……。

 

 もしかして……本当に洗脳されたわけではないのかな?

 

* * * * *

 

 一方そのころ、海底のセイレーナ族の里。

 

 そこはドームのようになっており、人々はドームの中に簡素な家を作って住んでいるのだ。

 

 そのうちの一つ、セイレーナ族の族長の宮殿の一室で、長髪の少女がため息をついている。

 上を向いて、さらにため息一つ。そこに、ウェーブのかかった銀髪セミロングの少女が入ってきた。簡素なメイド服をまとったその少女は、長髪の少女に親し気に、でも心配そうに話しかける。

 

「リコちゃん、大丈夫? 数日前からずっと元気ないよ?」

「あ……ヨーちゃん……うん……」

 

 侍女で親友でもあるヨーに目を向けると、リコは再び上……海上に目を向けて口を開く。

 

「ここ最近、宰相様がマーメイ族に対して厳しい態度を取っているのが気になって……。二つの種族の関係も悪化してきてるし……。チカちゃんからの手紙も……」

「そうだよね……。でも大丈夫。王様もいるし、きっと大変なことにはならないよ」

「うん、ありがとう……ヨーちゃん……」

 

 それでも、リコの表情は晴れなかった。

 

「ちょっと待ってて。元気になれるように、私の特製紅茶入れてくるよ」

「うん、ありがとう。待ってるね」

 

 そしてヨーは、王女の部屋を出て、台所へ行く。そして、独特な味ながらも、リコ(とチカ)からはとても好評な特製ブレンドの紅茶を二つのティーカップに淹れる。

 

 そしてそれをトレイに乗せて運ぶ途中、彼女は宰相室の扉の向こうから聞こえてくる話し声に気づいた。

 

「宰相様? 誰と話してるんだろ……?」

 

 ヨーはそう想いつつも、扉の前を通り過ぎて、リコの部屋へと向かった。

 

 だが、彼女は知る由もない。

 

 その会話……電話が、事態をリコの懸念通りの、ヨーの想いを裏切るものにしていくものだったことを……。

 




今回もお読みいただき、ありがとうございます!
次の更新は、10/23 12:00の予定です。お楽しみに!

そしてここで嬉しいお知らせです!
算段(?)がついたので、今週の木曜日(10/20)か来週の木曜日(10/27)あたりから、いよいよ北斗転生の連載をはじめようと思っています!

とりあえず第一部として、牙一族編~アミバ編までをやっていく予定。人気があるようであれば第二部(???編~ユダ編)、第三部(聖帝編~最後の将編)もやっていく予定。

どうぞお楽しみに!


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#06

さぁ、今回はいよいよ事態が大きく動きますよ!


 シーウォーターⅢでの仕事、三日目。今日も気を引き締めていきましょうか。

 

 昨日と同じように、AquaSに乗り込んで衛星軌道上に飛んでいきます。そうそう、もちろんカナタさんは縛り付けたままで。

 ですが、昨日までと比べ、カナタさんはいくらか大人しいように感じました。どういうことでしょう? もしや、私たちを安心させて、その隙にヨハネさんをさらう気なのでは?

 

 ……いえいえいけません。そうすぐに決めつけてしまうのはよくありませんわ。

 ブラックウォーター家家訓第二条・『油断しすぎず、疑いすぎず』。最初から疑うようなことをせず、でも気を許しすぎずにいきましょう。

 

* * * * *

 

 そしてこの日も、カナタちゃんはあのハンターたちの船のブリッジで、ヨシコちゃんの仕事ぶりを眺めていたのでした。

 くぅ~。ヨシコちゃんが目の前にいるのに~。

 

 でも、目の前でモニターに目を走らせ、キーボードをたたき、時にはあのハンターたちに通信を送っている彼女は、とても真面目に作業にいそしんでいる。その様子に、洗脳されている様子は一切なさそう。

 

 最初のほうこそ、あの二人は極悪ハンターで、ヨシコちゃんは彼女たちに洗脳されていたのでは? と思っていたけど、こうして彼女が一生懸命真面目に仕事をしているところを見ると、もしかしたらそれは誤解だったのかも。

 だって、もし洗脳されただけだったら、こんなに一生懸命に熱意をもって仕事しただろうか。

 

「ん、どうしたのよカナタ?」

「いや~、ヨシコちゃん、とっても真面目に仕事してるな~って。レーヴェⅡにいた頃、変な配信してたころからは想像もつかないよ~」

「ヨシコじゃなくてヨハネ! それにその配信のことは黒歴史なの、忘れてちょうだい! ……ふ、配信してたころの私は、恒星レーヴェに捨ててきたわ」

 

 やっぱり根は変わらないヨシコちゃんを見て、つい笑みが漏れてしまう。ふふふ。やっぱりヨシコちゃんはかわいいなぁ。

 ……あれ?

 

「ねぇ、ヨシコちゃん。あそこの、惑星のほうに向かっている光点はなんだろう?」

「え……? あ、も、もしかして……!」

 

 カナタちゃんの言葉に、その光点に気づいたヨシコちゃんは、表情を変えてキーボードをたたきだす。モニターに流れていく情報を必死に読み取り、そして血相を変えた!

 

「い、いけないわ! すぐにダイヤたちに連絡をとらなきゃ!」

 

 そして、手早くキーボードを叩くヨシコちゃん。そんな中、カナタちゃんはあることに気づいたのだ~。

 

「ヨシコちゃん。そのデブリの近くに誰かいない? そこのところも録画したほうがいいと思うよ~」

「あ、う、うん、わかった! ありがとう、カナタ!」

「どういたしまして~」

 

* * * * *

 

 そのころ、私たちがデブリ回収の作業を続けていると、突然、AquaSから通信が入りました。どうしたのでしょう?

 通信回線を開くと、聞こえてきたのは、慌てふためいたヨハネさんの声でした。

 

「た、大変よ、ダイヤ! 衛星軌道上座標445-XZ-2265にある衛星が、シーウォーターⅢに落下しようとしているの!」

「なんですって!?」

 

 ヨハネさんから送られてきたデータを見てみると、確かに一基の人工衛星が、惑星に落下しようとしていました。

 いけませんわ、あの大きさだと、もし海に堕ちたら、海中にあるセイレーナ族の里に甚大な被害が発生してしまいます!

 

 しかし、この距離では宇宙服で向かっても、間に合いそうに遭いません。

 

「ダイヤ、AquaSに戻ろう! そして船のブラスターで衛星を破壊するんだよ!」

「えぇ、それが今できる最善の手ですわね。そうしましょう!」

 

 カナンさんの提案にうなずくと、私は大急ぎで、彼女とともにAquaSに戻ったのです。

 

* * * * *

 

 そして船に戻ると、宇宙服を着替えるのももどかしく、私はブリッジに飛び込みました。そして、パイロットシートにつくと、エンジンに火を入れます。

 

「それではいきますわよ! ヨハネさん、あの衛星をスキャンして、破壊するのにベストなポイントを割り出してくださいまし!」

「わかったわ、任せて!」

「行きます!」

 

 アフターバーナー全開で、件の人工衛星に急行します。

 

「くっ……!」

「くうぅぅぅ……!」

「ずらぁ~!!」

「あわわ~」

 

 カナンさん、ヨハネさん、ハナマルさん、そしてカナタさんの悲鳴をBGMにしながら……。

 

* * * * *

 

 そして加速のおかげあって、なんとかAquaSは、人工衛星に追いつくことができました。

 

「ヨハネさん、計算のほうは!?」

「ばっちりできてるわよ! 今、カナンのほうに送るわね!」

「よし、受け取ったよ! ……」

 

 そう言って、ブラスターのトリガーを握り狙いを定めるカナンさん。でも、心なしか、その手は震えているようです。

 

「……緊張しているのですか?」

「うん。私の一撃に、シーウォーターⅢの命運がかかってるんだよ。当然じゃない」

 

 そう言いながらも狙いを定めるカナンさん。緊張しながらも自分のするべきことを成そうというその姿は、まさに一流のハンターのものでした。

 私はそっとその手に、自分の手を重ねます。

 

「……え、ダイヤ?」

「大丈夫です。カナンさんならやれますわ」

「……ありがとう……」

 

 そして再び狙い始めます。その身体からは震えが止まっていました。

 

 そして、永遠のような一瞬が過ぎて……。

 

「発射!」

 

 カナンさんがトリガーをひき、AquaSからブラスターが放たれました! それは狙いあやまたず、衛星の破壊ポイントを貫通!

 

 さらにブラスターを発射! 衛星をバラバラにしていきます。

 

 あれだけの大きさなら、壊滅的な被害が及ぶことはないでしょう。多少の被害は出るかもしれませんが。

 

 こうして、なんとかシーウォーターⅢの危機は免れたのです。

 

* * * * *

 

 私は一つ見逃していたことがありました。

 

 確かにシーウォーターⅢの危機は免れたのですが、両種族の危機はまだ続き、そして今、爆発の時を迎えていたのです!

 

 私たちがあの衛星の破壊に成功したことで、確かにセイレーナ族の里には壊滅的な被害が及ぶことはありませんでした。それでも、ある程度の被害はあったのです。少数ですが亡くなった方もいたとか。

 

 そして、それを待ち構えていたかのように、セイレーナ族の宰相から声明が出されたのです。

 

 曰く、「この事故はマーメイ族の工作である。我が種族はマーメイ族と断交、そして宣戦布告する」と!

 

 そして、ついに、セイレーナ族の軍隊が陸に上がって、マーメイ族の里に押し寄せてきたではありませんか!

 

 そして、なぜかこの混乱を収拾すべきである長官府は沈黙を保ったままなのでした。

 

 ですが、この沈黙が、ある陰謀の実行を物語っていることを、この時の私たちはまだ知る由もありませんでした……。

 

 




読んでくださり、ありがとうございました!

次回の更新は、10/30 12:00の予定です。お楽しみに!


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#07

 事態は急展開を迎えました。

 

 人工衛星の破片が落ちた事件。セイレーナ族の宰相は、これを『マーメイ族の破壊工作』と言いがかりをつけて、マーメイ族との断交を宣言。攻め込んできたのです!

 

 既にマーメイ族の里近くの砂浜には、セイレーナ族の軍が上陸してきていました。それもかなりの数です。これはぶつかり合ったらただではすみませんわ。まさに戦争です。下手したら、互いの種族の絶滅戦争にまで発展してしまうかもしれません。

 

 その知らせを受けて、マーメイ族の王宮でも……。

 

「王様、セイレーナ族の軍が砂浜に上陸、この里に迫ってきております!」

「むむむ……こうなってはやむをえまい。ただちに戦いの準備を……」

 

 私たちが王宮に駆け付けると、そのような相談がなされているところでした。

 そんなことをさせるわけにはいきません! 私とカナンさんは急いで王様の元に急いで駆け付けました。

 

「待ってくださいまし! そんなことをしては、互いの種族の関係は修復不可能なまでに悪化して、終わらない戦いをするはめになってしまいますわ!」

「そうだよ、父さん。チカはセイレーナ族のことも好きだったじゃないか。そんなことになったら、チカも悲しむよ」

「カナン、ダイヤ殿、だが……」

 

 苦悩する王様に私は自信を込めて言ってあげました。ここは、ハンターの出番ですものね!

 

「私たちにお任せください。ハンターの戦い方をお見せしますわ。そして、双方の犠牲を少なくして、彼らを追い払ってみせましょう」

 

* * * * *

 

 私とカナンさんは、里上空のAquaS号で、地表の様子を観察していました。

 上陸したセイレーナ族の軍勢は、怒涛の勢いでマーメイ族の里へ迫っていきます。ですが、戦意はさほど高そうには見えません。彼らも、この戦いには抵抗があるのでしょう。

 

 あ、作戦通り。彼らの先頭の一団が、里の手前に掘ってあった堀に落ちましたわ。あの堀は、命に係わる怪我をするほど深くはないものの、そう簡単に抜け出せないぐらいの深さに掘ってあります。あそこから脱出するには難儀することでしょう。

 

「それでは、次の作戦に行きましょうか。カナンさん、ネット弾の用意はいいですか?」

「うん、いつでもいいよ!」

 

 そのカナンさんの声を聴くと、私は船を降下させます。その中、カナンさんはトリガーを握り、狙いを定めています。

 

「発射!!」

 

 カナンさんがトリガーをひくと、AquaSからミサイルが発射します。それが途中で弾けると、大きなネットが広がり、セイレーナ軍の人たちに覆いかぶさります。ネットには鳥もちが仕込んであり、哀れ、その餌食になった人たちは動けなくなってしまいました。

 

「まだまだ行くよ!」

 

 再びネット弾を発射! 再び、多くのセイレーナ族の人たちの動きを封じることができました。

 それを確認した私は、王宮のほうに通信を入れます。

 

「今ですわ! ときの声を!」

 

 そして、里のほうからときの声が上がり始めます。もちろん、この場にマーメイ族の兵士たちがいるわけではありません。砂浜に隠してあるスピーカーから、録音したときの声を流しているのです。

 

 そのときの声の轟音を耳にしたセイレーナ族たちは、狙い通り大混乱を起こしました。

 戦意が少ないところに、落とし穴やネット弾で混乱に陥ったところにこれです。ひとたまりもないでしょう。

 

 セイレーナ族の兵士たちは、指揮官が止めるのも聞かず、我先にと海に逃げていきます。落とし穴に落ちた人やネット弾に捕らえられた人たちも、なんとかそこから脱出して、やはり逃げていきます。

 

 ふぅ、これでなんとかなりましたわね。

 

* * * * *

 

 と、そこで。

 

 何かに気づいたらしいヨハネさんが声をあげました。どうしたのでしょう?

 

「ねぇ、ダイヤ? もしかしてあの指揮官、マリーなんじゃない?」

「え?」

 

 彼女に言われて、カメラ映像をその敵の指揮官に切り替えます。確かに、その指揮官の金髪には覚えがありました。

 やはり、それに気づいたハナマルさんも動揺したようにつぶやきます。

 

「ほ、ほんとだ。多分あれ、マリーさんだと思うずら。でも、どうして……?」

「もしかしたら洗脳されたのかもしれませんわね……。どうにかして助け出さなければ……」

 

 そう言う私を後目に、マリーさんらしき指揮官は、兵士たちに続いて、海の中に潜っていきました。

 

* * * * *

 

そして戦いが終わった後。

 

 私たちは王宮で、マーメイ族の族長である王様からお礼を言われていました。

 

「おぉ、よくやってくださった。ダイヤ殿、カナン! そなたたちのおかげで里は守られ、セイレーナの者たちに禍根を残さずに済んだ。礼を言うぞ」

「いえ、当然のことをしたまでですわ」

「だけど、油断はしたらダメだと思うよ。また彼らが攻めてくるかもしれないし、守りを固めたほうがいいと思う」

「そうですわね。がっちり守りを固めておけば、それが抑止力となって、彼らも簡単に攻めてこれなくなるでしょうから」

「わかった。さっそく手配しよう」

 

 そして王様との謁見を終えた私たちは、王の間を出ました。そこで、カナンさんが声をかけてきます。

 

「そういえばダイヤ。マリーのほかにも一つ、気になってることがあるんだ」

「なんですの?」

「セイレーナ軍の中に、水陸両用の装甲車があったんだよ。彼らが撤退した後、乗り捨ててあったんだ」

「それは……確かに気になりますわね」

 

 このマーメイ族の里を見てもわかる通り、両種族の文明はそれほど進んだものではありません。ヨハネさんの種族、フォーリン族と同じぐらいか少し劣るぐらい。まだそんな兵器を作って使えるほどではないのです。

 ということは、何者かからの支援があったから、ということ。それは……。

 

「長官府がセイレーナ族に手を貸していると考えるのが妥当ですわね。マリーさんが長官府に潜入していたことも考えると、彼女を洗脳したのも長官府なのかもしれません」

「うん、私もそう思うよ。それに、だとすれば彼らがこのままで済ますはずがないとも思う。おそらく次の手は……」

「えぇ、気を付けたほうがいいですわね」

 

 そう、彼ら……というか長官府とセイレーナ族の宰相がこのままで済ますはずがなかったのです。

 

 私たちの予感は、この数日後、見事に当たったのでした。

 

 




次の更新は、11/6 12:00の予定です。
どうぞお楽しみに!


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#08

「えーい、なんで攻め込まん! 我が長官府も力を貸しているのだぞ!」

 

 セイレーナ族の里、その王宮にある宰相執務室では、宰相が一人のひげ面の男に詰め寄られていた。

 彼はゴクア・クチョー・カン。シーウォーターⅢに住む二つの種族、マーメイ族とセイレーナ族との関係を調停し、まとめる役を持つ長官である。

 

 本来長官となれば、両種族を仲良くさせ、幸せにするために動くものだが、彼は自分の私利私欲のために、両種族の関係を弄ぶ悪人であった。

 

 その長官に、宰相はしどろもどろになりながら返す。

 

「それが……マーメイ族は堅く守りを固めておりまして……。おまけに先の戦いで、兵士たちの戦意が……」

 

 その答えに、長官ゴクアは怒りに満ちた表情を浮かべて言い放った。

 

「えーい、使えん奴め! マーメイ族を戦争で負かして、お前たちの支配下におければ、お前も願ったりかなったりだろうが! 観ておれ。わしがこの事態を打開してやるわ!」

「ち、長官様、何を!?」

 

 怒りと秘策を胸にしながら鬼の形相をした長官は、あわてふためく宰相の言葉に耳を貸さず、宰相の部屋を出て行った。

 

(あのマーメイ族の姫を暗殺してやる。そうすれば、マーメイ族も姫を失った怒りで我を忘れ、守りを捨てて攻めてくるだろう。そうなれば事はなったも同然。マーメイ族はセイレーナ族に支配され、その宰相の裏で、わしがこのシーウォーターⅢを完全支配してやるのだ! もしそれがダメでもあの奥の手もある……)

 

* * * * *

 

 その日、私はマーメイ族の王宮内を巡回していました。

 セイレーナ族が攻めてきてから一週間。それからセイレーナ族が攻めてくることはありませんでした。ですが、向こうの宰相も、その背後にいるであろう長官とやらも、マーメイ族を攻撃するのを諦めてはいないはず。何かアクションを起こしてくるだろうと考えていたのです。

 

 おそらく次は、チカさんか王様の暗殺を狙ってくるはず。カナンさんにはチカさんの護衛をお願いし(もちろん王様の警護もしっかりするよう助言しておきました)、私はこうして王宮内の巡回をすることにしたのです。

 

 そしてそれから一週間。彼らがアクションを起こしてくることはありませんでした。もしかして諦めたのでしょうか?

 そう油断していたのがいけなかったのかもしれません。

 

 バタッ。

 

「!?」

 

 どこかから誰かが倒れる物音がしました。まさか!? 私は大急ぎで、音がしたほうに駆け出しました。

 そしてそこで倒れていたのは……。

 

「セーラさん!?」

 

 そう、チカさんのメイド、セーラさんでした。そのメイド服には少しも争った跡はありません。ということは、侵入者は彼女に気づかれずに昏倒させたということ。相手はかなりの手練れのようですわね。

 ……と、そんなことを考えている場合ではありません。私は大急ぎで、彼女のそばに駆け寄りました。

 よかった、息はあるようですわ。

 

「セーラさん、セーラさん!」

 

 そう名前を呼びながらゆすると、少しして彼女は目を開けてくれました。

 

「あ……ダイヤ様……」

「一体どうしたんですの?」

「それがかすかな足音がしたと思ったら突然当身を受けて……はっ! いけません、チカさんが!」

 

 セーラさんがチカさんの危機に気づいて起き上がりますが、すぐにうずくまります。

 

「……ぐっ!」

「これは……当身であばらをやられたようですわね。無理をしてはいけませんわ」

「ダイヤ様……しかし……」

「大丈夫。チカ姫は、この身にかけても守ってみせますわ。ですから、セーラさんはここで休んでいてください」

「ありがとうございます……。チカさんのことをお願いします……」

「もちろんですわ」

 

 そうこたえると、私はレーザーソードの刃を出して立ち上がりました。

 

* * * * *

 

 間一髪でした。

 

 小さいながらも複雑な迷宮を必死で走っていると、ちょうどチカさんの部屋で、刺客がカナンさんとチカさんを襲っているところに出くわしたのです。

 

 そしてちょうどその時、刺客の鞭がカナンさんの手からレーザーガンを弾き飛ばしました。

 

「ヒャーハハハァ! これで終わりだぜぇ!」

「チカ……!」

「カナンちゃん!」

 

 そう下卑た笑いをあげ、鞭を振り上げる刺客。チカを抱きしめてかばうカナンさん。

 そこで私は、刺客の注意を引き付けるように、声をあげました。

 

「お待ちなさい、そうはさせませんわ!」

「むぅ!?」

「ダイヤ!」

 

 こちらに向きなおった暗殺者が、また笑みを浮かべます。狂ったような笑み。こちらには不快さしか感じませんわ。

 

「邪魔するなら、お前のほうから血祭りにあげてやるぜぇ! ヒャハァ!!」

 

 そしてこちらに鞭を振り下ろします。私が飛びずさったところで、そこの床に命中! 石畳が砕けました。これは……かなりの威力のようですわね。喰らったらひとたまりもありませんわ。本当に間に合ってよかったです。

 

「ヒャハハァ! どうしたどうしたぁ! ヒャーハハハァ! お前なんざ、ゴクア長官様の一番の部下、鞭使いのルブラが肉片にしてやるぜぇ!」

 

 そう狂気に満ちた笑いを浮かべながら、ルブラとかいう刺客は鞭を振るってきます。それにしても、自分の名前ばかりか雇い主の名前まで口にしちゃうなんて、これで本当に長官の一番の部下の暗殺者なのですか? こんなんじゃ暗殺者失格ですわよ。長官の人材の底が見えましたわね。

 

 とはいえ、さすがに鞭使いと名乗るだけあって、その鞭の扱いはかなりのもののようです。鋭く激しい攻撃が私を襲います。確かに実力では第一の部下というのもうなずけます。

 

 ですが……まだまだですわね。確かにその攻撃は鋭く激しいのですが、やはり粗削りで、洗練された私の戦いにはあと一歩及びません。ブラックウォーターの娘をなめてもらっては困りますわ。

 

 私は集中力を研ぎ澄ませ、一気にルブラに突っ込みました。その集中力で、彼の鞭の動きを見切り、よけていきます。そして!

 

「こ、このアマァ……!」

「誰がアマですか失礼な。これで終わりですわよ!」

「ひぃ!」

 

 焦りと恐怖にひきつったルブラの顔面に膝蹴りを叩きこみます。それで決着はつきました。

 倒れこんで気絶した暗殺者を見下ろす私に、カナンさんとチカさんが声をかけてきます。

 

「ありがとうダイヤ。助かったよ」

「助けていただいてありがとうございます!」

「いえ。無事に間に合ってよかったですわ」

 

 さて、この男から色々聞きださないといけませんわね。

 

* * * * *

 

 王宮の会議室。そこの椅子の一つに縛り付けられたルブラを、私とカナンさん、ヨハネさんとハナマルさん、そしてカナタさんが囲んでいました。

 

 そこで男の顔を見たカナタさんが口を開きました。何か気がついたことがあったのでしょうか?

 

「おや~? この人は~? もしかしたら、人工衛星を落とした男じゃないかな~? ね、ヨシコちゃん?」

「あ……そういえば、確かに……」

「え、そうなのですか!?」

 

 これは初耳でしたわ! 私がそう聞くと、ヨハネさんは携帯端末を私に見せてきました。

 

「うん。カナタに言われて、件の人工衛星に取り付いて作業していたこいつの拡大映像を録画しておいたの、はい」

 

 そこに映し出されていた人影。細かい表情などは良く見えませんが、確かにその特徴はこのルブラに酷似していきました。これは間違いなさそうですわね。

 

 私は鋭く、ルブラをにらみつけて口を開きました。

 

「だそうですが、どうなのですか、ルブラさん?」

「知らん、しゃべらん、口を割らんぜ! 俺は長官の第一の部下だからな。ヒャハハハァ!!」

 

 ……よく言いますわね。さっきはノリノリで、自分の雇い主の名前を口にしていたくせに。

 まぁ、本人が口を割らないなら仕方ありません。私は、背後のカナタさんに向きなおってお願いしました。

 

「カナタさん、ヨハネさんとハナマルさんを連れて、この部屋を出てくれませんか? ちょっと二人の精神安定によろしくないことをしますので」

 

 私がそう言うと、カナタさんはウィンクしてこたえてくれました。どうやら彼女も、ヨハネさんを追いかける中で、なかなかな修羅場をくぐってきた様子。すぐにわかってくれたようです。

 

 そしてその一方で、ルブラが息をのむ気配がしました。

 

「うん、わかったよ~。頑張ってね~」

 

 そしてカナタさんが部屋を出て行ったのを見届けると、カナンさんと一緒にルブラに視線を向けました。

 

「さて、それじゃはじめましょうか」

 

 ブラックウォーターの裏の技の髄、心行くまで味わっていただきませんとね☆

 

* * * * *

 

 セイレーナ族の里。その王宮の一室で、長官ゴクアは苦虫をかみつぶしたという言葉では生ぬるい表情の顔を真っ赤にしていた。その視線の先には、3Dビジョンテレビモニターがあった。

 

 まだまだ文明が未熟なマーメイ族とセイレーナ族の両種族だが、まったくの未開というとそうではない。酒場や飲食店など、人が多く集まる場や、公共の場には3Dビジョンテレビモニターが配置され、それぞれの里の特定のポイントには、その送受信施設や放送局が存在していた。

 長官府が、その文化を発展させるように援助として提供していたものである。

 

 今、そのモニターに表示されているのは、臨時ニュース。先の人工衛星落下は、長官とセイレーナ族宰相の息のかかった者による犯行ということ。彼らの狙いは、両種族を戦いあわせ、マーメイ族を倒したうえで、彼らはをセイレーナ族、しいては長官と宰相が支配するため。というニュースが、実行犯である暗殺者の証言とともに流れていた。

 

 それを聞いて、当然セイレーナ族の民は怒り心頭。各地で暴動が巻き起こり、この王宮にも人々が押し寄せてきている。長官府の兵たちがそれを阻止しているが、このままでは突破されるのも時間の問題だろう。

 

「おのれ、役立たずどもめ……! かくなるうえは……!」

 

 そして長官は立ち上がり、部屋を出た。セイレーナ族の王の間に向かって。

 

* * * * *

 

 そのころ私は、人魚の姿になったカナンさんの先導で、海に潜り、セイレーナ族の里に向かっていました。

 

 あのルブラとかいう男から聞き出した事実……全ては長官とセイレーナ族の宰相の私利私欲からの自作自演によるもの……を、深宙域随一のニュースネットワーク・『深宙域ニュースネットワーク(DSNN)』に提供して、ニュースとして流してもらった私たちは、そのニュースが流れたことで生じるセイレーナ族の混乱に乗じて、彼らの里に潜入し、長官と宰相を逮捕する作戦に出たのです。

 

 それにしても……。潜水用ウェットスーツに身を包んだ私は、その前を行くカナンさんの泳ぎに思わずうっとりしてしまいます。さすが水中に適応した人魚族であるマーメイ族。とても板についていますわ。

 

 そう思いながら海の中を往くと、ほどなくして、ドームが見えてきました。あれがセイレーナ族の里です。彼らはあのような透明のドームの中に、街を作って住んでいるのです。

 

 エアロックにつくと、電子ロックをクラッキングして、ドーム内へ続く扉を開けます。さて、いよいよ潜入ですわ!……と思っていたのですが、肩透かしをくらいました。気張って潜入する必要はなかったのです。

 

 流したニュースの影響が強すぎたのか、セイレーナ族の里では混乱どころか革命が起こり、王宮に乱入した人々により、宰相が縛り上げられていたのでした。

 

「わしは……ただのあの長官に命じられて、彼の言うとおり動いていただけだったんだ。許してくれぇ……」

 

 宰相はそう許しを請うていましたが、それでも、セイレーナの人たちの視線は厳しいままでした。まぁ、私利私欲のまま、長官の手下になっていた自業自得ですわね、ご愁傷様です。

 

 でもこれで、後は長官だけ……と思っていましたが、事態はそれでは収まらなかったのです。

 

 私たちの元に、簡素なメイド服をまとった少女がやってきて、ぱたりと倒れたのです。

 それに気づいたカナンさんが真っ先に駆け寄ります。

 

「ヨー!」

「あ……カナンちゃん……よかった……」

 

 ヨー? ヨーさんといえば、チカさんが言っていた、彼女の幼馴染で、もう一人の幼馴染であるセイレーナ族のリコ姫の侍女の方ではありませんか!?

 

 彼女がただならぬ様子でこちらに来たってことは、リコ姫の身に何かが!?

 

「どうしたんだい、ヨー!?」

「お願い……リコちゃんを助けて……。リコちゃんが……長官の奴に連れ去られちゃったんだ……」

 

 なんですって!?

 

 




さぁ、いよいよ大詰めです!

次回の更新は、11/13の予定です。お楽しみに!


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#09

さぁ、いよいよ大詰めですぞ!


 セイレーナの宰相が革命で捕まって、これで残るは長官だけと一息ついたのもつかの間、駆け込んできたヨーさんによってもたらされたのは、その長官によって、リコ姫が連れ去られたという報せでした!

 

「リコが連れ去られたってどういうことなんだい、ヨー!?」

「それは……うぅ……」

 

 カナンさんがそうヨーに聞きますが、彼女はかなり消耗している様子で、答える余裕もなさそうです。

 ……仕方ありませんわね。

 

「待ってくださいカナンさん。ヨーさんはかなり消耗しているみたいですし、ここの混乱の収拾は、革命派のリーダーにお願いして、一度地上に戻りましょう。話を聞くのはそれからでも遅くないですわ」

「そ、そうだね。気が付かなくてごめん……」

 

 そして私たちは、革命派のリーダーの方を見つけ出して、後のことをお願いすると、ヨーさんを抱えて地上に戻っていったのでした。

 

* * * * *

 

 そして地上に戻った後。マーメイ族の里にある小さな病院……というより医院にヨーさんを休ませていると、ヨーさんが運ばれてきたことを知らされたのか、チカさんが大急ぎで駆けつけてきました。

 

「ヨーちゃん! みんな、ヨーちゃんは!?」

「チカさん、落ち着いてください。消耗しているだけで、大事はありませんわ」

「そっか……よかった~……」

 

 そう言って、安堵した表情を浮かべて肩の力を抜いたチカさんに、そっとカナンさんが椅子を進めました。

 それから少しして、ヨーさんが目を覚ましました。

 

「あ……カナンちゃん、チカちゃん……。ここは……?」

「ここは、マーメイ族の里の病院だよ。倒れたヨーをここまで運んできたんだ」

「そうなんだ……ありがとう……」

「大丈夫? 痛いところはない?」

 

 そう心配そうに聞いてくるチカさんに、ヨーさんはうなずいて弱々しい笑みを返しました。

 

「うん。少しくらくらするけど、大丈夫……」

「それでヨーさん。一体何があったのですか?」

「うん、それは……」

 

 ヨーさんが語るところによると、このようなことだそうです。

 あのニュースで革命が起こり、王宮が対処に困っているところに、長官と宰相がやってきたんだそうです。

 二人はこの事態をどうにかして、マーメイ族を倒すために、ある場所に軍勢を派遣するよう、王様を説得したのですが、王様は首を横に振らなかったと。

 それでしびれを切らした長官は、自分の軍を王様の部屋に突入させ、催眠ガスでその場にいたみんなを昏倒させ、その場にいたリコ姫をさらっていった、と……。

 

 その時、ヨーさんは王様の部屋の外にいたのですが、そこから漏れ出た催眠ガスを吸って昏倒したようです。それで気がついたら、既に人々が王宮に突入していたということでした。それでもみくちゃになったりなんだりして、消耗しちゃったみたいですね。

 

* * * * *

 

「なるほど……それで、ヨーさん。彼らがどこへ行こうとしたかはわからないんですの?」

「うん。中と外の喧騒が大きくて、そこまでは……」

「うーん……」

 

 そう言って考え込む私とカナンさん。そこに小さい影がこっちにやってくるのが見えました。

 

「あれは?」

「あっ、リコちゃんのツブヤキドリだ。長官のところから逃げ出してきたのかな?

 

 そのツブヤキドリという小鳥は、ヨーさんの手に留まるとつぶやきだしました。もしかしたら、リコさんが連れ去られた場所のヒントでしょうか?

 

「木は緑で美しく

 んーと香りもいい匂い。

 大丈夫だと

 んーっと、息を吸い込むと気持ちいいの。

 野原の草の香りも

 四肢がリフレッシュするようで

 的に当てられそう」

 

「うーん、なんだろこれ? 詩みたいだけど、全然わからないね」

 

 と、カナンさんが頭を抱えます。もしかして、これは暗号なのでしょうか?

 頭を悩ませて考える私たち。そこに、チカさんが何かに気づいたようで、助言を出してくれました。

 

「ねぇ、もしかしてこれ、縦読みにするんじゃないかな?」

「縦読み?」

 

 あ、もしかしたらそうなのかも。

 各文章の先頭の文字をひらがなにして読んでみると……。

 

 きはみどりで~

 んーと~

 だいじょうぶだと

 んーっと息を~

 のはらの~

 ししが~

 まとに~

 

「き……ん……だ……ん……の……し……ま。禁断の島だって!?」

 

 そこで、カナンさんが大きな声をあげました。大変なことなのでしょうか?

 

「知っているところですの? 何か大変なことみたいですが」

 

 私の質問に、カナンさんはうなずくと、真剣な顔をして話し始めました。

 

「うん。マーメイ族の伝承にあるんだ。はるか沖にある小島。そこには、神様が作ったすごいものが眠っている」

 

 カナンさんの後を、チカさんが続けました。

 

「だけど、それを動かしたら大変なことが起こるから、絶対にそこに行ってはダメだって。私も、お父さんやセーラさんから口うるさく言われてたよ」

「セイレーナ族でもそれと同じような言い伝えがあったよ。でも、リコちゃんがそこに連れていかれたなんて……」

 

 そんな大変なことだったのですね。でも、神様が作ったすごいもの……もしかしたら、先史文明の遺産が眠ってたりするのでしょうか? なら、ぐずぐずしてはいられませんわ。長官がそれを手にしてしまったら大変です。

 

「それではこうしてはいられませんわね。ただちに、AquaS(アクア)で禁断の島に向かいましょう!」

「うん!」

 

 そしてカナンさんと二人で立ち上がったところで、ヨーさんが声をかけてきました。

 

「あ、二人とも、ちょっと待って」

「どうしたのですか?」

「セイレーナに伝わってる言い伝えには、まだ先があるの。『禁断の島からの歌声はあらゆるものを惑わす』って。気を付けてね」

 

『あらゆるものを惑わす』……ただ事ではないようですわね。でもそれならなおのこと、急がなくてはいけませんわ。ヨーさんの助言を胸に刻んでいくとしましょう。

 

「わかりましたわ、教えてくださり、ありがとうございます」

 

* * * * *

 

 そして私とカナンさんは、AquaSに乗り込み、フルスビートで禁断の島へと向かいました。

 島の座標は、カナンさんが知っていたので問題ありませんでした。

 

 なんとしても、長官が先史文明の遺産とやらを手にする前に、それを阻止しなくては!

 

 気を急いて、急ぎに急ぐ私たち。でも、それは遅かったのです。

 ヨハネさんがそれを報告してくれました。

 

「ダイヤ、島の座標から何かが出現するわ!」

「なんですって!?」

 

 モニターに目を向けます。映し出されている島。そこから土煙が立ったと思うと、中から何かが出現してきました。あれは……塔?

 

「あれはもしや……、禁断の島に眠っているという遺産……?」

「間に合わなかったですの!? なんてこと……!」

 

 しかし、それだけではなかったのです! その塔から、何かが流れてきました。

 これは……もしや、リコ姫の歌声……?

 

「な、なんでしょう、これは……。頭がぼーっとして……」

「うん。も、もしかしてこれが遺産の力……?」

 

 そのカナンさんの声をBGMとして、私の意識は深い霧の中に沈んで行ってしまいました。

 いけませんわ、このまま……では……。

 

* * * * *

 

 ハローハロー、こちらヨハネ! 大変なことになっちゃってるわ!

 

 突然、塔が現れて、歌声が流れてきたと思ったら、ダイヤとカナンがぼーっとしちゃって、船を急降下させたの!

 もしかして、この歌には洗脳効果があったりするのかも!? ヨハネが無事なのは堕天使の加護?

 

「うーん……。ヨシコちゃん、きっとそれは堕天使の加護ではなくて……フォーリン族がもつ精神耐性のおかげだと思う……ずら……」

「ヨシコじゃなくてヨハネ! というか、あんたも洗脳されかかってるんじゃない!」

 

 あーもう、どうにかしないと! このままではヨハネたち、海面に墜落して海の藻屑になっちゃうわ!

 ヨハネは、ずら丸にビンタして気合を入れると、ダイヤのところのコンソールを操作して、外部音声入力と、それから通信回線を切った。これであの歌声の効果はなくなるはず!

 

 あーーー、やばいやばいやばい! 急がないと! ヨハネは、ダイヤたちにビンタしながら声をかけ続けたわ。

 

「ダイヤしっかりして! ほら、マリーがまた無駄遣いしそうになってる!」

「う、うーん……マリ―さん、だから無駄遣いはあれほど……はっ!」

 

 そこでダイヤはやっと気が付いてくれたみたい。そしてこの船が置かれている状況を確認すると、大急ぎで船を急上昇させてくれたの。ふぅ、助かった……。

 

「危ないところでしたわ。ありがとうございますヨハネさん。おかげで助かりましたわ」

「ふっ、堕天使であるこのヨハネなら、このぐらい当然よ……」

 

 そこで、同じく我に返ったらしいカナンが、真剣な顔をして言った。

 

「でもどうにかしないと、あの島に近づけないよ……。それに下手したら、星のみんなにも……」

「そうですわね。なんとか対処方法を考えなくては……」

 

 そしてAquaSは反転。マーメイ族の里に引き返したのでした、まる。

 

* * * * *

 

 私の危惧は当たっていました。

 

 里に帰ってみると、里の人たちはみんな、あの歌声に洗脳されて、腑抜けになっていたのです。

 ある人は歌声をありがたがって、平伏して礼を繰り返し、またある人は食べ物をもって禁断の島へ泳ぎに行こうとしています。

 

 もう、里は大混乱ですわ。きっと、セイレーナ族のほうでも同じことになっているでしょう。

 

 チカさんやヨーさんも例にもれず、洗脳され、二人して禁断の島へ泳いでいこうとしていました。もちろん、当身で気絶させ、その間に船にあった、高性能なノイズキャンセルヘッドホンをつけて事なきを得ましたが。

 

 でも、どうしたものでしょう? このままでは、この星の人達全てが、あの長官のしもべになってしまいます。

 

 私たちは、正気に戻したチカさんやヨーさん、それと同じく洗脳されかかっていた王様やセーラさんを船の中に収容した後、ブリッジであの歌声の解析を行っていました。

 

「うーん、急がないといけないんですのに……。どうにかしなくては……」

「うーん、うーん……」

 

 必死に解析を続けます。もう里の人たちはすっかり、しもべになっていました。ここで長官が「互いに戦いあえ」と命令したら最後、この星の人たちは絶望的な状況になってしまいます。その前になんとしても対策を立てなければ……。

 

 寝る間も惜しんで解析を行う私たち。そして!

 

「わかったよ! あの音波は、特定の周波数の音波を発することで相殺することができるんだ!」

「そうですか! それはよかったですわ!」

「ただ……その音波は、人工的なものではダメなんだ。つまり、人間の歌声じゃないとダメなんだよ。しかも、録音でもダメみたい」

「なるほど……ということは、誰かに歌ってもらって、その間に長官を倒すしかないですわね。それで、誰の歌声かはわかっていますの?」

 

 私がそう聞くと、カナンさんは複雑な表情でうなずきました。

 

「うん。チカやヨー、セーラに歌ってもらった結果、チカの声がぴったりってことがわかったよ」

「そうですか。後は彼女が歌ってくれたらいいのですが……」

 

 ですが、それは奇遇のようでした。彼女に相談してみたところ……。

 

「うん、歌う! 歌うの好きだし、みんなを洗脳から救うためだったら喜んで歌うよ!」

 

 と快諾しました。これでなんとかなりそうですわね。

 ですが、そこでチカさんは一つ条件を出してきたのです。

 

「でもね、一つ、お願いがあるの」

「お願い? 何でしょうか、聞けるものなら聞きますが」

 

 そこでチカさんは一息ついて。

 

「お願い、必ずリコちゃんを助け出してください!」

「わかりましたわ。ブラックウォーターの名に賭けて、彼女を無事に連れ帰ってみせます」

 

 また一方では、セーラさんがカナンさんと向かい合っていました。

 

「チカさんは私が必ずお守りします。だからどうか、マーメイ族の人たちを、いえこの星を救ってください」

「うん、わかったよ」

「お願いします。それから……チカさんを守ってくれて、ありがとうございました」

 

 さぁ、いよいよ決戦ですわよ!

 

 




さぁ、いよいよ次回は最終回です!

ダイヤさんたちの最終決戦にご期待ください!

※次の更新は、11/20 12:00の予定です!


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#10

さぁ、いよいよ二期の最終話ですぞ!

ダイヤさんとカナンの活躍、とくとごらんあれ!


 マーメイ族の里の宇宙港。そこで、ノイズキャンセルヘッドホンをつけた私……ダイヤ・ブラックウォーターとカナンさんは、出発する準備を整えていました。

 

 今から、チカさんの歌が響く中を、あの禁断の島まで突っ込むのです。船の点検はばっちり。後は突入するだけですわ。

 

 人々のほうですが、王様や宰相様、城の中の人などは当身で一度気絶させて洗脳を解いた(どうやら一度気を失わせれば、洗脳の効果は解けるようです。とはいえ、またあの歌を聞けば洗脳されてしまいますが)のですが、さすがマーメイ族、そしてセイレーナ族の人達全てには手が回りません。なので王様たちには、人々が暴動を起こしたり、殺しあったりといった危ない行動をしそうな気配があれば、命を奪わない限りで阻止するように伝えてあります。

 

 里にもチカさんの歌が流れるので、一度洗脳が解ければ問題はないでしょう。後は、チカさんが歌えなくなる前に、私たちが長官を倒し、遺跡を潰せるかどうか、ですわね。もちろん、必ず成し遂げるつもりですわ。

 

 船に乗り込み、ブリッジのシートに座ります。回線の設定で、このブリッジ、そして装甲車『Saint Snow』の車内にも、チカさんの歌声が最優先で届くようにしてあります。対策はばっちりですわ。ベルトを締めると、計器のチェックを行います。その準備中に、チカさんからの通信が入りました。

 

『こちらの準備はできたみたい。ダイヤさん、カナンちゃん。くれぐれも気を付けてね。リコちゃんをよろしくお願いします』

「任せておいてください。チカさんも、歌頑張ってくださいね」

『はい!』

 

 そして今度は、通信スクリーンに、セーラさんが現れました。

 

「……」

『……』

 

 二人はしばし無言のまま、見つめあいます。やはりセーラさんも心中は複雑なのでしょう。

 そしてその無言の後、セーラさんのほうから口を開きました。

 

『カナンさん、武運をお祈りしています。必ず無事に戻ってきてください。チカさんのためにも……』

「うん、わかってる。ありがとう」

『いえ。それから……チカさんを身体を張って守ってくれてありがとうございます』

 

 そして通信は切れました。でもその間際、セーラさんの表情が少し柔らかくなっていたのに、私は気づきました。きっと、カナンさんがチカさんを守ったことに、彼女にも心情の変化があったのでしょう。そしてそれはカナンさんも気づいたようでした。その証拠に、カナンさんの表情から後ろめたさのようなものは消えていました。

 

 そのカナンさんに声をかけます。

 

「こちらのほうはOKですわ。そちらはどうです?」

「うん、こちらもOKだよ。ハナマルちゃんとヨハネのほうはどう?」

「エンジン、ワープドライブ、ともにバッチリずら!」

「こちらもいいわよ!」

 

 そしてカナンさんと顔を合わせます。

 

「必ず、長官を倒し、遺跡を破壊し、リコ姫を助け出しましょうね」

「うん、そして必ず無事で帰ってこよう!」

「そうですわね……行きます!」

 

 そして私たちの船、AquaS号は飛び立ったのでした!

 

* * * * *

 

~見たことない~夢の軌道~追いかけて~♪

 

 チカさんの歌がスピーカーから流れる中、私たちはAquaSを禁断の島に飛ばしていました。

 それにしても、チカさんがポップな歌を好きとは驚きですわ。テレビか何かで聞いたのでしょうか?

 

 さて、その歌が流れる中、進んでいくと、禁断の島のほうから戦闘機が飛び立ってきました。どうやら、長官府の軍のものみたいですわね。

 

「行きますわよ、カナンさん!」

「OK!」

 

 ブースターを全開にして、戦闘機の群れに突撃していきます。戦闘機はこちらにレーザーを発射していきますが、私は集中力を研ぎ澄ませて、そのレーザーを見切り、紙一重でかわしていきます。

 振り切れる敵については振り切っていきますが、それでも追撃してくる敵には……。

 

「そこだよ!」

 

 カナンさんが狙いを定めて、トリガーをひきます。AquaSの後方ハッチが開き、中から迎撃ミサイルが発射されます。迎撃ミサイルからさらに小型のミサイルが発射され、追いすがる敵戦闘機を撃墜していきました。

 

 前方から接近してくる敵機については、レーザーを発射し、撃墜していきます。

 

 そんな空中戦を繰り広げつつ、敵の群れを突破しましたわ!……といったところで。

 

 ドゴァ!!

 

 爆音とともに激しい振動が。もしや!?

 

「ハナマルさん!?」

「さ、左舷エンジンを撃ち抜かれたずら! 今、切り離すね!」

 

 敵の苦し紛れの攻撃が、エンジンの一機を撃ち抜いてしまったようです。ハナマルさんの操作で爆発する寸前にエンジンを切り離したので、大事に至りませんでしたが、推力と機動力が落ちたのは困りものです。

 

 後方から追いかけてきた敵機と再び空中戦!

 

 それでも、敵と戦いながら、島の目前まで来ましたが……。

 

「右舷エンジン、出力大幅低下ずら~! これ以上飛び続けられないよ~!」

「レーダー、ダウンしちゃったわ!」

「仕方ありませんわね。島の、あの滑走路に不時着しましょう。皆さん、ショックに備えてくださいまし! それと、念のため、ノイズキャンセルヘッドホン着用ですわ!」

「わかった!」

 

 各所から煙を吐きながら、傷だらけのAquaS号は急降下し、そして……。

 

「くぅ……!」

「ぐうぅ……」

「~~~!!」

「ずらぁ~!!」

 

 激しい振動が襲う中、なんとか滑走路に着陸したのでした。

 

「皆さん、Saint Snowに乗り込みましょう! 施設内部に突入ですわ!」

「わかったよ!」

「OK!」

「はいずら!」

 

* * * * *

 

 装甲車『Saint Snow』に乗り込み、AquaSの後部ハッチを開くと、いるわいるわ。いつぞやの超生物の内部のように、兵士がわんさかと。

 ですが。

 

「そんなもので、このSaint Snowを止めることはできませんわよ!」

 

 機銃で兵士たちをなぎ倒していきます。船に乗り込まれないように、念には念を入れて。

 ちなみに麻酔弾なので、死んだわけではありません。かなり長い間、気を失っているだけです。

 

 そして、周囲に動いている者がいないことを確認して……よしOK。

 AquaSのハッチを閉め、警備システムをオンラインにして施設の中にレッツゴーですわ! ……あら、マリーさんの口癖がうつってしまったかもしれませんわ。でも、彼女は無事なのでしょうか? 少し気になりますわ。

 

 さらに進んでいくと、今度はロケットランチャーを持った警備兵が! こんなところで重火器を撃ったら大変でしょうに!

 彼らが構える前に機銃を発射! 昏倒させて、さらに前進。

 

 敵を機銃でなぎ倒し、隔壁は備え付けのビーム砲で破壊して、とにかく前進前進。

 

 でも、前進はそこまででした。かなり広い空間のところで、パワードスーツに身を包んだ敵と遭遇したのです!

 

 パワードスーツは飛び上がると、ロケットランチャーをこちらに向けました! やばいですわ!!

 

「皆さん、しっかり捕まっててくださいまし!」

 

 そう言うやいなや、ハンドルを操作し、そのランチャーから発射されたロケット弾を必死に回避します。後ろから悲鳴が聞こえてきますが、気にしません。

 

「このぉ!!」

 

 その中、カナンさんがガトリングガンを発射しますが、パワードスーツはそれを難なく回避しました。そして腕のガトリングガンを発射してきます。それを再び回避。

 

 ……敵は、かなりの手練れのようですわね。

 

* * * * *

 

 それからも、私たちのSaint Snowはパワードスーツと激しい戦いを必死で繰り広げました。

 こうなれば、出し惜しみはなし。

 

 ビームキャノンを発射し、向こうが撃ってきたロケット弾をかわし、ガトリングを放ちます。

 

 でも、その攻撃のどれも、敵に有効打を与えることはできませんでした。

 ……くっ、早く中枢部に行かなければいけませんのに!

 

 そう焦りながら、私たちのSaint Snowが最後のロケットランチャーを発射したその時!

 ロケット弾をかわすパワードスーツの動き……正確にはその動きの癖から、私はそのことに気づいたのです。

 

 あのパワードスーツは……マリーさん!?

 

 そのことに、どうやらカナンさんも気づいたようです。

 

「ねぇ、あのパワードスーツ、もしかして……」

「もしかしなくてもそうですわね。マリーさんとここで戦うなんて、なんてことでしょう……きゃっ!!」

 

 そこで爆音と衝撃! マリーさんのパワードスーツのガトリングガンが、Saint Snowのビームキャノンを撃ち抜いたのです。

 

「カナンさん、ビームキャノンのパージを!」

「わ、わかった!」

 

 ビームキャノンを切り離すと同時に、それが爆発しました。これで、残された武器はガトリングガンと機銃、そして体当たりのみ、ですか……。

 ですが!

 

「ですが、相手がマリーさんとなれば、やりようはありますわ!」

 

 何と言っても、彼女の動きの癖は熟知してますからね! 私は集中力を研ぎ澄ますと、彼女のパワードスーツに向けて、Saint Snowを突進させました。

 パワードスーツが撃ってきたガトリングガンを、急旋回してかわします。しばらく撃ち続けた後、ガトリングガンを上に向けて持ち上げたところで、そのガトリングガンに、ガトリングガンを発射! 彼女は機関銃を撃った後に、銃口を上に向けて構える癖があるのです。

 ガトリングガンは、パワードスーツのガトリングガンに命中し、爆散させます。ですが、これでこちらのガトリングガンも弾切れ。パージします。

 

 そこでまた、マリーさんは機銃を放ってきます。それに対し、私はそのままSaint Snowを突進させました。

 マリーさんは、機関銃などを撃つときは、集中したりせず、相手がよける可能性も踏まえて、弾をばらまく癖があるのです。ならばこうやって一直線に突っ込めばバッチリですわ! Saint Snowの前面装甲なら、多少弾が当たってもびくともしません。

 

 そして体当たり! 隔壁と車体の間に、はさみこみ、動きを封じることに成功しました。さらに抵抗すると思われましたが、体当たりの衝撃で気を失ったみたいです。

 

 とりあえず、勝ってよかったですわ……。

 

* * * * *

 

「マリーさん、しっかりしてください。請求書が来ていますわよ」

「う、うーん……。それぐらい、ダイヤの財布から払ってもらえば……はっ」

 

 彼女を倒した後、何度か声をかけてゆすると、やっとマリーさんは目を覚ましてくれました。

 それにしても、請求書を私の財布から払ってもらうなんて聞き捨てなりませんわね。まぁ、今はそれどころではありませんが。

 

「あれ、ダイヤ、私……確か長官府に潜入して……」

「えぇ。おそらくそこで洗脳されて、長官のしもべにされていたのですわ」

「そうだったの。助けてくれてありがとうダイヤ」

「いえいえ。ところで、自分への請求を私の財布から出そうなんて感心できない考えですわね」

 

 そうさっきの寝言を指摘してやると、マリーさんは慌てだしました。

 

「えー、嫌だダイヤ、ジョークよジョーク! おほほほ……」

「……」

「ちょっとダイヤ。今はそれどころじゃないんじゃない?」

 

 おっとそうでした。今はそんな場合ではなかったんでしたわ。

 

「まぁ、それについて追及するのはあとにしましょう。今は長官のいる遺跡の中枢に突撃ですわ!」

「そうね。マリーを洗脳してくれた借り、しっかりと返してあげなきゃ!」

 

* * * * *

 

「むむむ、まさかここまでくるとは! だが、この星と遺跡は誰にも渡さんぞ!」

 

 中枢部にたどり着くと、そこでは兵士たちに囲まれた長官がそう強がっていました。その彼の背後には、カプセルの中に封じ込められたリコ姫がうつろな目で歌を歌っています。

 

「強がりはそこまでですか?」

「この星をあんたの好きにはさせないよ!」

「マリーを洗脳してくれた借り、返してもらうわ!」

 

 Saint Snowから降りた私たちは、そう言い放ちました。本当はSaint Snowで暴れまわってやりたいのですが、リコ姫もこの場にいるので、そういうわけにもいきません。

 

「うぬぬ……やってしまえ!」

 

 そして、長官の号令一下、最後のバトルが始まりました。

 

~君は何度も~立ち上がれ~るかい? 胸にあ~てて、Yes!と笑うんだよ~♪

 

 チカ姫の歌がSaint Snowのスピーカーから流れる中、私たちは大立ち回りを繰り広げます。

 

 私はレーザーソードで兵士たちを切り倒し。

 マリーさんはレーザーガンの乱れうちと、セラミックダガーの二刀流で、敵を撃ち抜き、切り裂き。

 そしてカナンさんは、金属製のグローブをつけた手と、同じく金属製のブーツを身に着けた脚による格闘戦で、敵を打ち倒していきます。

 

~まだ出会いにどんな意味があるか~知らないけれど、まぶしいね~僕らの夢~♪

 

「今ですわ、カナンさん、リコさんを!」

「OK!」

 

 長い大立ち回りの末、カナンさんの周囲が手薄になったのを見てとった私は、カナンさんに声をかけます。うなずいた彼女は、高くジャンプし、そしてリコさんのカプセルに向けて飛び掛かり。

 

「砕け……ろおおぉぉぉぉ!!」

 

 強烈なパンチの一撃が炸裂! それによって、カプセルのガラスにひびが入り、そして砕けました! 中の液体が流れ出し、リコさんも飛び出してきます。その身体を、しっかりとカナンさんが抱き留めました。

 

 そして私は、それによって長官たちが動揺した隙をついて、一気に長官へと迫り、そして剣を突きつけます。そして言い放ってやりました。

 

「これでチェックメイトですわよ?」

 

~今み~ら~い~変わり始めた~かも~。そうだ僕たちはまだ夢~に~気づいたば~かり~♪

 

* * * * *

 

 そして禁断の島の戦いが終わった後。

 

「ダイヤさん、カナンちゃん、マリーさん、それにハナマルちゃんにヨシコちゃん! 今回は本当にありがとうございました!」

 

 宇宙港で、チカさんがそう礼を言って、頭をぺこりと下げました。

 それが本当にかわいらしくて……はぁ……ルビィに匹敵しますわ、このかわいさは。

 

「大したことはしていませんわよ。礼には及びませんわ」

「まぁ、どうしてもというなら私に供物を……」

「ヨハネちゃん。相手を怖がらせることを言うのはやめるずら」

「どういう意味よ!」

 

 そこで、くすくす笑いながら、リコ姫が一歩前に進み出ます。

 

「それでも、礼を言わせてください。本当にありがとうございました。宰相と長官がいなくなったことで、これからセイレーナとマーメイ、両種族とも、今までよりずっと仲良くやっていけると思います」

「本当によかったですわね。でも、これからはあなたたち次第ですわ。次に来た時には、今より美しいシーウォーターⅢを見せてくださいね」

「はい、必ず!」

 

 そして次に、カナタさんが進み出てきて口を開きました。

 

「カナタちゃんはここで、復興の手伝いをすることにしたよ~。ダイヤちゃん。ヨシコちゃん……ううん、ヨハネちゃんのこと、よろしくね~」

 

 その口調には、かつてのような敵意はありませんでした。ヨハネさんのことをハンターとして認めてくれて、そして私たちのことも悪人ではないとわかってくれたのでしょうか? その嬉しさに胸がいっぱいになりながら答えます。

 

「えぇ、わかりましたわ」

 

 そしてその横では、カナンさんとセーラさんが会話していました。

 

「カナンさん、あの時はチカさんを守っていただき、ありがとうございました。そして、厳しい態度をとってしまって申し訳ありません」

「い、いや、いいんだよ。何も言わずに星を飛び出した私も悪いんだし」

「そうですか。そう言っていただくとこちらも助かります」

「え、えーと……」

 

 そこでセーラさんがくすっと笑います。

 

「冗談ですよ。これからもハンター業、頑張ってください。次に会ったときは、また一回り大きくなったあなたに会いたいです」

「ありがとう……また機会を見て帰ってくるよ。その時にはもっと仲良くできたらいいな。それじゃ、チカ、またね」

「うん、カナンちゃん、ばいばい! 本当にありがとう!」

 

 そして私たちはそれぞれの船で、シーウォーターⅢを旅立ったのでした。

 

* * * * *

 

 これでこの話は終わりなのですが、実は余談があります。

 

 シーウォーターⅢを出てから2週間後。私たちのAquaSにまた通信が入りました。

 

「あら? 通信が入ってるわ」

「どこからです?」

「Wao! コードネーム『シーウォーター』よ!」

「カナンさんからですか。2週間ぶりですわね。でもどうしたことでしょうか? ともあれつないでください」

「わかったわ」

 

 そして通信スクリーンに映し出されたのは、私たちとそう年齢が変わらない女性の姿。青がかった黒髪をポニーテールにした少し垂れ目な女性。カナンさんでした。

 

「つながったつながった。二人とも、シーウォーターⅢを出て以来だね」

「えぇ、でもどうしたのです? 急に通信を送って」

「うん、それが、二人に気を付けてほしいことがあるんだ……」

「??」

 

 そこでカナンさんから告げられたのは、とんでもないことでした。

 

「実はね。チカが、2週間前の件で、宇宙とハンターに憧れて、ちょうどシーウォーターⅢの復興が終わった直後に、『ハンターになる!』と言って、ヨーやリコと一緒に星を出て行ったらしいんだ。セーラから、そう連絡があったんだよ」

「ええ!?」

 

 その話には、私もマリーも開いた口がふさがりませんでした。というか、後継者がいなくなったら、マーメイ族とセイレーナ族はどうなるのでしょうか?

 

「二人とも、もし三人を見かけたら、ハンターの先輩として見守ってあげてくれないかな? できれば諦めて星に帰ってくれたらいいんだけど、そうもいかないだろうし……」

「ははは……」

 

 私とマリーさんのひきつった笑いが宇宙に消えていきました。

 

 

 

END

 

 




ここまで読んでくれてありがとうございました!

『スクールアイドルアニメで見たような二人が、銀河の深宙域を駆けまわります!』はとりあえず、これにて完結とさせていただきます。

感想くれたら嬉しいです!

それではまた、別の作品でお会いいたしましょう!


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