アニガサキ!-PASTEL COLLARS- 外伝 Episode of ランジュ (海色 桜斗)
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Prologue「そして彼女は傀儡と化す」

⚠WARNING!!⚠ 注意事項

これは「ラブライブ!スクールアイドル オールスターズ」の2nd Season改変シナリオです。ランジュ勢力側がスクールアイドル以外の大人の圧力を使うなら、同好会側だって使っちゃえばいいじゃないと言うノリで製作されています。なお、以下の方にとっては一部不愉快に映る可能性もあります。ご了承の上、御覧ください。

・スクスタストーリー2nd Seasonに肯定的な方
・クロスオーバーによる救済が苦手な方
・虹ヶ咲を巡る諍いにμ'sとApours巻き込むなよと言う方
・そもそも原作のファンではなく、アンチな方々
・各派閥の原理主義者の方々


此処は、とある国の高貴な者達にしか住めぬセレブ街。その街の一角に存在する、どの家よりも豪華絢爛仕立ての豪邸に住む彼女……ランジュは自室にて世話をするセバスチャンと共に優雅なお茶会を楽しんでいた。

 

「――ねぇ、セバス。どうしてアタシには友達がいないのかしら」

 

そんな彼女が、淹れられたばかりの紅茶を口にしながら、そんな言葉を口にした。一方のセバスチャンは全く佇まいを崩すことなく、彼女の問いにこう答えた。

 

「それはですな、お嬢様。貴女様が高貴なるお方故で御座います」

 

「でも、アタシの通う学校の他の人達には友達が沢山いる子もいるのよ?」

 

それだけでは納得ができなかった彼女はさらに質問を投げかけた。すると、またもやセバスチャンは姿勢を崩さず、こう答える。

 

「我が家系は彼奴等とは格が違います故、仕方なき事かと」

 

「そんなのつまらない、アタシだって友達が欲しいわ」

 

家の都合だから仕方がない。そんなもので諦められるほど、彼女はすんなり諦める少女ではなかった。親の言いつけや習い事、その全てを律義に守ってきた彼女ではあったが、そこだけは他人に譲る事を良しとしなかったのである。

 

「でしたら、我らに残された最善の手段をお教えしましょう」

 

不意に、セバスチャンが笑みを携えて、彼女の要望に答える。しかし、礼儀正しく下げられた彼の顔に浮かんでいたのは、今まで見せていた笑みとは全く別物の汚らしい笑みだった。

 

「……!えぇ、えぇ!教えて頂戴、今すぐに!」

 

「では、不肖の身なれどお嬢様の為、この私がお教えいたしましょう」

 

表情を何時もの柔らかい笑みに戻してから顔を上げ、彼女の期待に応えようとするセバスチャン。この場面だけを見ていれば、ただのお嬢様と従者の関係に見えただろう。だが、真実はそれほど簡単な関係ではなく、もっと血みどろで狡猾な相手の思惑に利用され続ける関係。

 

「――お嬢様の持つ、圧倒的な財力と権力。それを用いれば、必ずやご友人の一人や二人……いえ、100人以上持つ事も夢ではありますまい」

 

従者が主にではなく、主が従者に利用される。様々な環境に恵まれた人間達だからこそ、そのように立場が逆転する事を決して許してはいけない。

 

だが、この純粋さが仇となり、自身の行動全てがとある男によって利用されてしまうとはこの時の彼女には考えもしなかったのである。

 

そんな世間知らずのお嬢様、鐘嵐珠。彼女が己の過ちと自分のみが"善"であるという誤った認識に気付き、自身を利用した者の手からの脱却までを描いた、彼女に与えられるべきだったもう一つの可能性の物語。

 




……導入なんで短めではありますが、如何でしたでしょうか。

正直、作者としてはランジュ編に関する矛盾が回を追う毎に増していく現状にちょっとそれはどうかなと思うところではあります(というか、昨日公開された23章の内容含め、一連の流れが栞子参入までのフローチャートのコピペ過ぎる気が……)。

PS
スクスタ23章、もうプレイされましたか?

普通にプレイした方……さては貴様、NTR好きだな?「ぬきたし」やってみないか?

プレイして絶望を覚えたという方……お疲れ様です、取り敢えずアニガサキ見よう?ついでに「ぬきたし」も買って一緒にナナセニウムの海に溺れよう?

プレイしてないよって方……その先は地獄だぞ、アニガサキを見ろ。こういう時、男は黙って「ぬきたし」を買うものさ。覚えておいた方がいい。

今からスクスタ始めようと思っている方……一回考え直そう。そしてアニガサキのBlu-rayと「ぬきたし」を買うんだ。


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第1章「その瞳、紅に燃やして」
主な登場人物紹介・第1章


※虹ヶ咲既存キャラ&コラボキャラ以外のCV表記はイメージです。

※参戦枠の淳之介には担当声優がいません。ご自由にお好きな声優で脳内再生をおねがします(ぬきたしプレイ済みの人はどういう声か分かってるよね)。

※未プレイで実際に聞いてみたい人はYoutubeで「ぬきたし」のOP2を見よう。




虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会メンバー

 

舘 結子(CV:戸松遥)

虹ヶ咲学園所属の2年生。本編の主人公。虹ヶ咲学園の自由な校風に惹かれ、入学した。中学時代まで剣道をしていたが、その剣道の道をあっさり諦め、スクールアイドルと言うものに心惹かれ始める。虹ヶ咲入学後、スクールアイドルフェスティバルで侑と知り合い意気投合。その場で侑から「もう少しで自分の夢が見つかりそう」と言う話と共に代理人の話を持ち掛けられ今に至る。最近は割と物騒なので、武術の心得を持っている彼女に護衛役の仕事が舞い込むのは必然であった。名字の「舘」が某有名人と同じということもあり、メンバー達から度々ネタにされる(その時、何故か名字が同じ有名人の方ではなく、別の有名人の名前を絡めた弄りになり、実質即興コントみたいな空気が出来上がる)。

 

高咲 侑(CV:矢野妃菜喜)

虹ヶ咲学園所属の2年生。本編のもう一人の主人公(寧ろこっちの方が圧倒的強者感がある)。結子の友達でスクールアイドル同好会の名誉部長。始めこそスクールアイドルに興味を持っていなかったが、スクールアイドル同好会所属だった「優木せつ菜」のライブを見て感動。そのままスクールアイドル活動というものに並々ならぬ興味を持ち始める。本作では冒頭でいきなり音楽科への転入手続きの一環として異国の地へと旅立つことになる。そこで、自分がいない間の名誉部長兼マネージャー代理として幼馴染みで親友の舘結子を指名し、同好会の運営をしっかり管理しつつメンバーと少しずつ仲良くなるように指示。単身、留学先の地へ旅立って行った。

 

上原 歩夢(CV:大西亜玖璃)

虹ヶ咲学園所属の2年生。侑とは長年に渡る付き合いのある幼馴染みで、温和な性格も相成って虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会メンバー達の心の清涼剤となっている。侑がせつ菜のライブを見た時からスクールアイドルに並々ならぬ熱を持っていた為、それに触発されるような形でスクールアイドルとして活動を始める事に。昔からの幼馴染みという唯一無二のポジションに割と優越感を感じており、時々それが脅かされそうになると不貞腐れたり、普段はあまり見せない対抗心をちらつかせたりする。

 

中須 かすみ(CV:相良茉優)

虹ヶ咲学園所属の1年生。μ’sの代から続く伝統芸を引く継ぐ女、所謂オチ担当。アニガサキ時空なので同好会の部長は実質彼女。自身の可愛さに絶対的な自信を持ち、実際に見ていても表情がコロコロ変わるので非常に愛らしい。愛称は「かすみん」。もう一つの愛称の「かすかす」で呼ぶと怒る。

 

桜坂 しずく(CV:前田佳織里)

虹ヶ咲学園所属の1年生。本編中における、お世話してあげたい後輩度ナンバーワンな女の子。演劇部と掛け持ちでスクールアイドル同好会に所属している。演劇にかける情熱が物凄く、語らせると長い。運動神経は悪くない方だが、球技が苦手。かすみ同様、旧スクールアイドル同好会に所属していた。

 

朝香 果林(CV:久保田未夢)

虹ヶ咲学園所属の3年生。高校生とは思えない程の抜群のルックスとプロポーションの持ち主で、将来の夢はモデルになる事。胸元にオリオン座の三連星のような黒子があるのが、チャームポイント。情熱的で大人びた性格をしているが、年相応のピュアさも持ちあわえているので、押し切れれば強いが押されると弱い。そして大の方向音痴。見た目と中身の不相応さに「PKK(ポンコツ可愛い果林さん)」という何処ぞの死の恐怖と呼ばれたプレイヤーと似た略称を付けられた。

 

宮下 愛(CV:村上奈津美)

虹ヶ咲学園所属の2年生。ギャル系を思わせる見た目とは裏腹に、人情味に溢れた面倒見の良い性格。また、大のおばあちゃん子であり、その影響かぬか漬けが好物。ダジャレが得意で、特技として「ダジャレ100連発」を挙げているが、必ずしも万人受けはしない(本人の笑いのツボが低い為である可能性が大)。1年生の璃奈とは仲が良く、同じ情報処理科にいるので共に行動している事が多い。

 

近江 彼方(CV:鬼頭明里)

虹ヶ咲学園所属の3年生。東雲学院からの転校生。遥という妹がいる。「スローペース、マイペース」を絵にしたような人柄で常に眠そうにしている。保健委員であるのを理由に、保健室でよく寝ている。その割に日常生活ではきっちりしていて、やるべき事は熟しているし、成績はかなり良好。現時点では何人たりとも彼女の睡眠を妨げられる者はいない。スクールアイドルを始めた理由は「妹に褒められたいから」。

 

優木 せつ菜(CV:楠木ともり)

虹ヶ咲学園所属の2年生。他校生徒から期待のスクールアイドルとして注目されていて、その多忙さ故か、「彼女の姿を一度も学園内で見たことがない」と噂される。アニソンが好きで、歌詞を通じて作詞家のアニメへの愛を共感している。此方はアニメ(またはそれに付随する用語)について語らせると長い。

 

エマ・ヴェルデ(CV:指出毬亜)

虹ヶ咲学園所属の3年生。Y.G.国際学園からの転校生で、スイスからの留学生。幼少期にスイスの大自然に囲まれて育ったせいか、山や森など自然に関するものが大好き(それ故に、趣味もそれに付随するものが多い)。日々を過ごす中で、いろいろと見聞きしつつ日本語を猛勉強中。なので、たまに日本語の使用方法を間違えていたり、おかしかったりするがそこは愛すべき点。

 

天王寺 璃奈(CV:田中ちえ美)

虹ヶ咲学園所属の1年生。中等部からの進学。感情を表に出すことが苦手らしく、いつも自前の「璃奈ちゃんボード」で常に顔を隠し、異なる表情の顔が書かれたボードを切り替える事でコミュニケーションを取っている。ライブの際は手がふさがる為、自作の「璃奈ちゃんDIGITALボード:改」(以後、略称「璃奈デジボード」と表記)を装備して踊りを披露する。この「璃奈デジボード」には今現在の彼女が対応可能な技術が集約されており、日々バージョンアップもしている。我が校の情報処理学科の技術力はァァァ、世界一ィィィィィィッ!!

 

三船 栞子(CV:小泉萌香)

虹ヶ咲学園所属の1年生。別名「鋼鉄の副会長」。嘗て現生徒会長である中川菜々に対し、宣戦布告を行い選挙戦で熾烈な争いを繰り広げるも、惨敗。自分の存在理由さえ失いかけていた時、同好会名誉部長の高咲侑と部員の上原歩夢に手を差し伸べてもらったおかげで徐々に復調し、後に虹ヶ咲生徒会副会長へ任命される。侑と歩夢には一生を賭けても返しきれない恩があると常日頃から言っていて2人のためなら努力を惜しまない。本作においてはランジュに次ぐキーキャラクター。

 

 

虹ヶ咲学園スクールアイドル部

 

鐘嵐珠(CV:法元明菜)

虹ヶ咲所属の2年生。香港からの留学生で、実家は香港でも最も勢力を誇る超一流のエリート企業を経営している。その為、昔からの超お嬢様体質でいい意味でも悪い意味でも世間を知らなさすぎるのが欠点。逆にそんなエリートの家系に生まれたこそ持ち合わせる、類まれなる求心力と絶対的なカリスマ、更に何かをやらせれば必ずプロ指導の元に完璧なスタイルに仕上げることが出来る。自分の考える事全てが”善”であると強く自負していて、自身と衝突・離反するという事は彼女にとって他人が自分を理解していないだけと受け止めている。本作のキーキャラクター。

 

 

???

 

セバスチャン(CV:土師考也)

秘密組織『???』と繋がりが深かったランジュの祖父が家の召使として招き入れた、初老の男。本名は不明。

 

 

虹ヶ咲学園関係者・他作品コラボキャラ・その他の人物

 

中川 菜々(CV:楠木ともり)

虹ヶ咲学園の生徒会長。ニジガク生徒全員の顔と名前を1名たりとも間違えることなく記憶している、超高校級の記憶力の持ち主。別名『鋼鉄の生徒会長』。何となく誰かさんの面影を感じる。

 

橘 麻沙音(CV:そらまめ。)

《抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?》から参戦。虹ヶ咲学園1年生で、相変わらずのギャルビッチ好き。同性愛者。将来の夢は憧れの存在である片桐奈々瀬と宮下愛の2人と兄の淳之介と自分を交えて4Pすること。

 

片桐 奈々瀬(CV:柳ひとみ)

《抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?》から参戦。虹ヶ咲学園2年生。顔が絶妙に良く、金髪に赤い色のメッシュとギャルっぽい制服の着こなしのせいで一部界隈でギャルビッチと誤解されている。本人が強く否定できない性格の為、その誤解は噂となって尾ひれどころか胸びれ、背びれがついて広まるばかり。実際はSOYJOY。

 

橘 淳之介

《抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?》から参戦。虹ヶ咲学園2年生。過去の経歴から極端に童貞を拗らせていて、その上処女厨。『帰宅管理部』と言う謎の部活動を妹の麻沙音、幼馴染みの奈々瀬、先輩のヒナミ、同級生の美岬、後輩の文乃とやっている。

 

畔 美岬(CV:こはる凪)

《抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?》から参戦。虹ヶ咲学園2年生。影が薄く大人しそうに見えるが、実際はかなりの大ぐらいで自称デブ。食べ物を食べてもあまり太らない体質のエマと張り合う度に自分だけが太りショックを隠せずにいる。何故かはよく分からないが、乗り物全般の運転が得意で免許は一切持っていないがプロ顔負けの運転技術を持つ。

 

渡会 ヒナミ(CV:飴川紫乃)

《抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?》から参戦。虹ヶ咲学園3年生。最高学年だが、背が異様に低く胸もぺったんこな為、度々ロリに間違われる(その都度「ロリじゃないですけど!」と言ってキレる)。見かけが既にコンプレックスな為、お姉さんっぽく振舞おうとするがそれが逆に子供っぽく見られてしまっている。パイプイスを持たせると強い。

 

琴寄 文乃(CV:沢野ぽぷら)

《抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?》から参戦。虹ヶ咲学園1年生。何処かの島を占める任侠一家の女中。全てを見通す千里眼で遠距離からの支援砲撃を得意とする。女中ではあったが、非適正年齢の為、主との夜伽や性行為は経験しておらず、雇い主が淳之介と同じく処女厨で「処女は文化的遺産であってその本人が自主的に良しとするまで決して侵されてはならない」と言う思想の持ち主の為、未だその貞操は守られ続けている。




あれ、ミアがいないぞと思った方へ。ミアは2章で登場します。


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1-1「祭りの後の前日譚」

ランジュの導入部分だけでは、どうもインパクトが足らない!!

……というわけで急遽仕様変更して(全5話→全5章(各章3話構成))でお送りする事にしました。ついては進行具合もいいので投稿です。アニガサキを見てるとニヤリとできる演出もあるよ

遠からん者は音に聞け、近くば寄って物を見よ!

「ラブライブ!」×「ぬきたし」×「CITY HUNTER」×「COWBOY BEBOP」

これが、禁断の(コラボ)の始まりだ!!



スクスタ及びアニガサキ設定の変更点まとめ・その①

・栞子の役職
スクスタ内では、生徒会長である中川菜々(優木せつ菜)に選挙戦で勝利し、会長職に就いていますが、本作ではこれも改変。あの選挙戦でアニガサキ仕様の『有能なナナ』に負けて、そこを侑と歩夢に救われ、空いていた副会長の席に座っている(アニガサキのせつ菜推しモブ副会長殿……済まん)。

・栞子の加入時期
アニメ1期では勿論出ていません。しかし、ここでは選挙戦のクーデターをスクールアイドルフェスティバル開催前に起こした事になっています(ちゃっかり神シナリオのアニガサキもちょこっと改変)。彼女の専用曲「決意の光」は侑だけに見せて公の場ではまだ披露していない。故に、彼女の加入時期はアニメより早い登場(2期で出番あればの話)。


アニガサキSS劇場①「スルーされた適性」

 

か「『アニガサキ!-PASTEL COLLARS-』、遂に解禁です!」

 

侑「やははー、一時はどうなるかと思ったけど、無事波に乗れたようで良かったよ」

 

し「やりましたね、先輩!」

 

璃「準備は万全、璃奈ちゃんボード『むんっ』」

 

栞「・・・・・・」

 

か「おっ、どうしたのしお子?目出度い席なんだからもっと明るく振舞わなきゃだめだぞっ?」

 

栞「いえ、それは分かっているのですが・・・・・・」

 

か「?」

 

栞「いきなり外伝からのスタートで、第一弾が何故か私じゃなくてランジュなんですね・・・・・・」

 

し・璃・侑「「「あー・・・・・・」」」

 

か「だ、大丈夫だよ!少なくともスクスタをやってくれてる人はしお子のこと知ってるはずだから~!」

 

栞「いえ、いいんです。自分がそう言う適性を持っていることは分かってましたから」

 

か「せ゛ん゛ば~い゛、じお゛子゛ががわ゛い゛ぞう゛だよ゛~っ」

 

侑「(しまった、そっちが先だったか~・・・・・・)」

 

(※栞子の立場は生徒会副会長と仮定してお送りします。済まん、モブの副会長殿。)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――赤はいい。燃える様な赤、情熱の赤、弾ける様な赤色でなく、ずっしりと影を落とした落ち着きのある赤はもっといい。まさにこの色はアタシの為にある様なもの。そう、このアタシが満を持して民衆の前に君臨する、そんな一世一代の晴れ舞台に欠いてはいけないデコレーション。

 

『ぐっ、ぐぬぅぅぅぅぅ・・・・・・!』

 

『会場のボルテージ、超興奮状態。不味いね、男だったら「やっべぇ全然勃起収まんねぇ、くっそー」な感じだね。どうする、リナリナ?』

 

『・・・・・・今は、戦略的撤退。それしかない』

 

此処は私立虹ヶ咲学園の大きな常設ステージが特徴的な舞台上演スペース、そんな劇的な舞台に似つかわしい劇的な演出。ステージ上で今の今まで観客を盛り上げていた同好会メンバー+αの面々はこのアタシの登場によって観客の目を此方に奪われた。でもこれは当たり前、だってアタシがアタシなんだもの。さぁ、存分に嫉妬なさい、存分に悔しがりなさい・・・・・・!

 

『ちょっと、りな子ぉ、アサ子ぉ、折角此処まで来たのにもう諦めるのぉ!?』

 

『あぁん?じゃあ、そのまま一人でアレを抑えるつもりかぁ?無理だって、諦めな』

 

『かすみちゃんはよく頑張った方。だからお願い、今は引こう?』

 

『くぅっ・・・・・・ゔゔゔゔゔっ・・・・・・!』

 

不利を察して既にはけていった他のメンバーからの通信をインカム越しに受けて尚、ステージ上にてこのアタシを睨み立ち続ける愚かな偶像擬きが一人。でも、今は別に構わないわ。自分自身の身の丈をしっかりと思い知ってしっかりと学習しておきなさい。どんなステージだってアタシとアタシに賛同する友達の輝きには絶対に誰も敵わない。何故なら私は。

 

『この中に、ランジュが嫌いな人、いるわけないよね!』

 

『『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』』』』』

 

『『『ランジュ様ぁ~ッ!!』』』

 

――鐘嵐珠。全ての”善”を司り、選ばれた存在であるこのアタシに敵う者など居るはずがないのだから。

 

 

その出来事が起こる、凡そ1週間前――

 

「それじゃあ、私達の名誉部長である侑先輩の無事を願って、乾杯でーすぅ♡」

 

「「「「「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」」」」」

 

場所は変わって、此処は虹ヶ咲学園の部室棟の一角にある『スクールアイドル同好会』の部室内。晴れて普通科から音楽科への学科移動試験を勝ち得た、名誉部長兼敏腕マネージャーの高咲侑の送別会が行われていた。部室内には同好会のメンバーのみならず、スクールアイドルフェスティバルを共に戦い抜いた他の部の生徒達や他の学校のスクールアイドル達で溢れかえっていた。

 

「皆、ありがとう~!私、すっっっっごくときめいちゃった!」

 

「うふふ、侑ったら相変わらずその台詞がお気に入りなのね」

 

「うおーっ、果林だけじゃなくて愛さんの事も構え~っ!」

 

「あははははっ、ちょ、愛ちゃん止めてよ、くすぐったい~!あはははははは!」

 

こんな時でも、学校指定のジャージを何故か袖を通さずに羽織るような形・・・・・・所謂「海軍大将」風の着こなしをしている高咲侑は、同じ同好会メンバーである朝香果林と宮下愛に早速可愛がられていた。

 

「むぅぅ~っ!ちょっと愛先輩、侑先輩はかすみんの専属マネージャーなんですからねっ!」

 

「冷たいこと言うなよ、かすかすぅ~」

 

「んもぉぉぉっ、かすかすって言わないでください!か・す・み・んですぅぅぅぅぅ~っ!」

 

「かすみちゃんは今日も可愛いなぁ」

 

「ひうっ・・・・・・!?え、えへへぇ、そんな事ありますけどぉ~っ!///

 

そこへ後輩で先程乾杯の音頭を取っていた中須かすみが乱入する。因みに、彼女が乾杯の音頭取りを引き受けることになったと知った時の反応が。

 

『当然ですねッ、なんたって一番可愛いかすみんは同好会の部長でもあるんですよ、にししししっ』

 

こんな感じで、皆がやるのは構わないけれどちょっと面倒だから実質部長の座にいる彼女を持ち上げてその気にさせてやらせようと画策した結果がこれである。普段からイライラしてばかりの雷親父も思わずにっこりの相変わらずのチョロさだった。

 

「(流石かすみちゃん、今日もチョロいわね・・・・・・)」

 

「(かすかす、その内変な人にお持ち帰りされそうだなぁ。ちょっと心配)」

 

「(あ、かすみちゃんがまた侑ちゃんに抱き着いてる・・・・・・まぁ、いっか)」

 

最早二人にとっては、ある意味見慣れた光景である為、本音は敢えて出さずに心の中でそう呟いた。そして、そんな様子を傍目で見ていた侑の幼馴染みの上原歩夢には微塵も嫉妬されないポジションとして見られていた。彼女こそ、この同好会唯一の歩夢のちょっとだけ重い嫉妬意識下の対象外なのであった。

 

「あ、侑さん!!」

 

「せつ菜ちゃん、どうしたの?」

 

「じ、実は侑さんに是非とも見て貰いたい物がありまして!ちょっとだけお時間宜しいですか!?」

 

「う、うん。何?」

 

「す、少し待ってくださいね。ふへっ、じゃじゃーん!『1/1プライマルアクセプター』ですっ!!」

 

テンション高めに話しかけてきた彼女こそ虹ヶ咲の伝説のスクールアイドルとして噂高い、『優木せつ菜』その人である。虹ヶ咲学園の所属生徒でありながら、その姿を校内で見た者はいないという神出鬼没で正体不明のスクールアイドル。しかし、彼女の正体は既に同好会のメンバー達には知れ渡っている。本名、中川菜々。本職・虹ヶ咲学園生徒会会長という呆気ないほど分かりやすく、逆に何故未だにバレていないのか不思議な位である。

 

更に、彼女は超が付くほどのオタクでアニメやゲーム・特撮がこれでもかと言う程愛している。その界隈で身に付けた処世術と変装術を用いて見事に『せつ菜』である時と『菜々』である時を使い分ける様は正に神業。ただ、本人にちょっと抜けたところがあるので若干ヒヤヒヤものではあるが。

 

「それでですね、此処の電源を入れると・・・・・・」

 

『ギュピーン!!』

 

「わ、凄い、光った!」

 

「はいっ、これで起動は完了です!後は下の赤いボタンをタップすると全体が光って、同じところをもう一回押すと・・・・・・アクセス・フラーッッシュ!!

 

『バシュゥゥゥゥン、ギュインギュインギュイーーーン!!』

 

派手な音が鳴り、彼女が腕に付けているアクセプターが光り輝く。特撮厨なら誰もが唸る、最高の出来栄え、最高のクオリティだった(既に購入済みなのだぜ? by作者)。

 

「学校に何を持ってきているんですか、せつ菜さん。これは没収です」

 

「あ゛あ゛っ!?ま、待ってください、栞子さん!これには深い訳が・・・・・・!」

 

しかし、生徒会長だからと言って学校に私物を持ち込んでいい道理はなく。その場に音もなく現れた同じく生徒会副会長の三船栞子に敢え無く没収されてしまう。構造上、ベルトが大変外れやすい物でありながら本体を床に落とす等と言う特撮ファンご立腹の失態をせずに、するりとせつ菜の腕から流れるように抜き取るという超人技を披露した。

 

「一応聞きましょうか・・・・・・何です?」

 

「え、えーっと・・・・・・あ!そう、何を隠そう私は未来から来たハイパーエージェ、ン・・・・・・」

 

「一度目なので先生には言いませんが、この後、生徒会室でお話があります。いいですね?」

 

「は、はいぃ・・・・・・!(´;ω;`)」

 

生徒会長と副会長、先輩と後輩。色々とせつ菜の方が格上(形式上は)ながら、立場逆転が度々起こる大変珍しい生徒会のそんな一幕が侑の目の前で繰り広げられた。

 

「あ、侑さん。済みません、大変見苦しいところをお見せしました」

 

「う、うん、私は特に気にしてないよ、栞子ちゃん」

 

「気にしてない・・・・・・!?Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン」

 

栞子に向けて言った侑の発言を何故か自分の今までのやり取りに対するものだと誤解したせつ菜が栞子の後ろで勝手にショックを受けていた。気落ちしている分、実に面倒くさいオタクである。

 

「それより、本当に行ってしまうんですね。貴女がいない間が少しだけ不安です」

 

「大丈夫だよ、栞子ちゃんがいるなら安心して任せられるし、同好会の皆もいるしね!」

 

「そ、そうですか・・・・・・?ふふっ、そこまで言われては私も精一杯務めさせて頂く他ないですね」

 

ちょっとお堅いところがありながら、それでもここ最近はだいぶ柔らかくなってきたように思える。心の迷いを断ち切って、スクールアイドル活動に一緒に取り組んできたお陰と言うべきなのだろうか。くすり、と笑った彼女の口元で彼女のチャームポイントである八重歯がキラリと光った。

 

「侑ちゃん栞子ちゃんやっほ~、彼方ちゃんだぞ~?」

 

「先輩、栞子さん、お疲れ様です。ご一緒してよろしいですか?」

 

項垂れるせつ菜と交代するかのように、そこへやってきたのは近江彼方と桜坂しずくの二人。とある理由で何時も眠そうにしている彼方ではあるが、部活の時に限っては普段伏目がちになっている目もぱっちりと開いている様だった。一方のしずくは後夜祭の演劇衣装に身を包み、華麗に畏まっていた。流石は演技を最も得意とする未来の大女優候補だ、身振り手振りがしっかりとしている。

 

「彼方さんもしずくちゃんも大歓迎だよ。折角だから、もっかい乾杯しようっか」

 

「いいですね、誰が合図しましょうか?」

 

「ん~、じゃあ此処は彼方ちゃんがやったげるね~」

 

「あ、いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えて♪」

 

「「「「乾杯~」」」」

 

彼方らしい実にのほほんとした合図で4人が同時に乾杯をする。その後は、4人で楽しく談笑しながら料理を摘まみ、テーブルの上に置いてあった微炭酸のシャンパン(※アルコールではない)が無くなったと同時に彼方からの一時休眠を取りたいと要望もあり、既に( ˘ω˘)スヤァ状態に入りつつあった彼方をしずくが負ぶっていって解散となった。

 

「あ、侑ちゃんと栞子ちゃん!もうテーブルの上の料理は食べたのかな?私は一通り全部食べたけど、とってもボーノだったよ!」

 

「璃奈ちゃんボード『ちょっとお腹いっぱい・・・・・・』」

 

次にやって来たのはエマ・ヴェルデと天王寺璃奈の二人だった。エマはいつものように配膳用の皿にこれでもかと言う程色々な料理を乗せていて、対する璃奈は小皿に少しだけ乗せている状態。胸囲の格差、此処にありてを理不尽な程に体現していた。

 

「エ、エマさん・・・・・・あまり食べ過ぎると今後の活動に影響が・・・・・・!」

 

「心配してくれてありがとう、栞子ちゃん。でも大丈夫、私ね食べてもあんまり太らないみたい!」

 

「・・・・・・・!?」

 

エマのその言葉に軽くショックを隠せずにいる栞子。それも当然、適度な身体づくりと健康維持の食事とダイエットは年頃の男子女子問わず必然命題。それを意図も容易くパスできるなどと・・・・・・そう思いかけた栞子の思考に待ったをかけたのがエマの胸元に備わった二つの巨大なアルプス山脈。その真実を確信した時、例えかすみでなかったとしても「ぐぬぬ・・・・・・」となってしまうのは避けられぬ運命(さだめ)であった。

 

「侑さんがいない間、ちょっとだけ寂しい」

 

「それは私も同じだよ、璃奈ちゃん。ヒトリダケナンテタエラレナイヨー」

 

「侑さんも、なの?じゃあ、これあげる」

 

「うわぁっ、凄い!璃奈ちゃんボード(メモ帳サイズ)だ!!」

 

「持ち運び、便利。これで何時でも私に会える、璃奈ちゃんボード『キュピーン』」

 

そう言って、璃奈はボードを顔の真正面で無く横に置いて、素顔が見える状態で侑に向かってサムズアップをした。顔の表情にあまり変化はないように見えるが、よくよく見ると僅かながらの変化がある、そこを見逃さないのが敏腕マネージャーの高咲侑が天王寺璃奈と言う少女と交流していくうちに会得したスキルのお陰に他ならなかった。

 

「ありがとう璃奈ちゃん、大切にするね!」

 

「うん・・・・・・///

 

これと言って特に特別な事をしているわけではない。だが、彼女のいるポジションこそがある意味今まで登場してきた幾つものスクールアイドルグループの中でも特異で、所属アイドル達の士気を更に底上げするという非常に重要な役割を果たしている事は諸君らも重々承知済みのはずだ。謂わば、この『虹ヶ咲スクールアイドル同好会』は高咲侑の高咲侑による高咲侑の為の一大ハーレム王国なのである。

 

「侑ちゃん、お疲れ様」

 

「わっ、歩夢~!えっへへへ、歩夢もお疲れ様」

 

エマ、璃奈、栞子と別れた後、侑が部屋の隅にある名誉部長の専用椅子に腰かけると後ろから声を掛けてくる者がいた。侑が初めて声援を送ったスクールアイドル、幼馴染みの上原歩夢だった。

 

「同好会の皆とはもうお話しできた?」

 

「勿論、やっぱり皆が皆、魅力的で可愛いよね!」

 

「う、うん、そうだね・・・・・・」

 

「当然、歩夢も可愛いよー」

 

「も、もぅ、侑ちゃんったら~!///

 

侑のたらし発言に顔を赤くしてポクポクと侑を叩く歩夢であったが、その表情は満更でもなさそうであった。結局、彼女にとっては侑の存在と言葉こそが何よりの安心を齎すものであるという事を、あのスクールアイドルフェスティバル開催前のいざこざの最中で再確認出来たのだった。

 

「・・・・・・ねぇ、侑ちゃん」

 

「ん、どうしたの、歩夢?」

 

「私、私ね・・・・・・」

 

「侑ちゃんが皆と繋げてくれたこの同好会をどんなことがあっても絶対に守っていくから、守り抜いて見せるから・・・・・・!」

 

「だけどやっぱり侑ちゃんがいないと不安だから・・・・・・なるべく早く、帰ってきて、ね?」

 

自分に出来た一番最初のファンで、大切な幼馴染み。ずっと一緒と言う事を強要できないししてはいけない事も分かっている。ただ、歩夢はこの時一抹の不安を覚えていたのだ。

 

伝説のスクールアイドルとして語り継がれる《μ’s》と《Aqours》。彼女達の様に同じくアイドルをやる側にそのグループを支える絶対的な求心力がいない自分達に果たして彼女が一時的に姿を見せなくなった事でいつも通りのパフォーマンスを発揮できるのだろうか。万が一、同好会内で不文律が起きてまたバラバラになってしまうようなことがあったらどうなってしまうんだろうかと。

 

「そっか。ま、幼馴染みの歩夢の頼みだし、出来るだけ最短で帰ってこれるように頑張るよ」

 

「だからさ、その間だけせつ菜ちゃんや栞子ちゃん、皆と一緒に此処を任せてもいい、かな?」

 

歩夢の不安を打ち消すように、侑がいつものニカッとした笑いでそう尋ねる。一番大好きで誰よりも信頼している幼馴染の少女からそんな言葉を聞いた歩夢は、その少女・・・・・・侑に向かって彼女が彼女である所以、桜の花びらがゆっくりと花開くような、そんな静かで穏やかな笑みを浮かべた。

 

「うん、分かった」

 

「本当!?いつもすまないねぇ、歩夢おばあさん♪」

 

「もぅ、気に入ったの、その台詞?こほん・・・・・・任されました、お爺さん♪」

 

強化合宿を開いた一日目の夜のあの時の様に、二人はお互いに冗談を言って笑い合った。彼女達の尊き友情は例え二人きりの空間でなくても邪魔されることはなかった。

 

「あ、そうだ。そう言えば私、もう一つ大事な事を皆に言うのを忘れてたよ」

 

「えっ、どうしたの・・・・・・?」

 

「大事な事って何ですかー、せんぱーい?」

 

「な、何でしょう。大事なお話と言うのは・・・・・・?」

 

「おーっ、何々?愛さんを信じてドーンと話してみー?」

 

「なぁに、貴女の話なら何でも聞くよ?」

 

「侑さんからの頼み事なら、私、聞きたい・・・・・・!」

 

「んふふ、いいよぉ~。お姉さんに任せなさ~い」

 

「はい、是非とも聞かせてください、先輩」

 

「別に良いわよ?ほら、お姉さんに相談して御覧なさい?」

 

「何でしょう、業務連絡・・・・・・でしょうか?」

 

侑の声を聴いて、『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』に所属するメンバー達が十人十色の返事を返す。皆の視線が彼女の方へ向いた時、彼女は高らかにこう叫んだ。

 

「皆も知っての通り、私は今週末に音楽科の研修で暫らく席を外します」

 

「そこで、来週から私の代理で同好会のマネージャーをしてくれる人をこの場で発表したいと思います!・・・・・・ささ、前にどうぞ」

 

その言葉を聞いた周囲のザワザワに紛れて、その場で静かに侑達を見ていた少女がゆっくりと手を上げ、真っすぐに侑が先程用意した特設の壇上を目指す。彼女の名は――




ご視聴有難う御座います。これからもこんな風に不定期で更新しますので、次回の1章2話をお楽しみに。それでは、また。


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1-2「結子と生徒会と」

栞子ォォォォォ、俺だぁぁぁぁぁ!
……婚は無理ですか。
付きあ……うのも駄目ですか。
じゃあ、一生応援させてくれ!えっ、それは良いって?
やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(CV:島崎信長)

はい、クソッタレな茶番失礼致しました……というわけで連投2回目で御座います。
連投は此処まで。この後少し期間を空けての1章最終話投稿まで持っていけると思います。そうです、ランジュが来るのは1章の最終話です。

それより先に例のヤバい奴らが登場しますよ、お楽しみに。


某日・生徒会室にて。

 

「――虹ヶ咲学園普通科2年、舘結子さん」

 

「はい」

 

栞子の呼びかけに背筋を正して返答をする一人の女子生徒。そう彼女こそが、高咲侑が自身の代理人として同好会に急遽配置していった、助っ人である。

 

「幼少期から剣道を習っていて、その腕は優秀。ですが、この虹ヶ咲へは部活動推薦ではなく一般選抜。貴女程の実力であるならば、部活動推薦こそ適正・・・・・・それは何故ですか?」

 

学年的に上の先輩であっても、疑わしき部分は怯まずに徹底的に洗う。それが現生徒会副会長・三船栞子という少女。学園生徒の適正が何であるかを見抜く力を持ち、それが十全に生かせる場を生徒会長である中川菜々と協力し用意する。それが彼女の仕事だ。

 

「・・・・・・それは、言わなくちゃいけないのかな?」

 

「普段は強要はしないのですがね。貴女は侑さんの代わりに我が部の重要人物を務めますので」

 

「あの人のサポーターとして、出来る限りの不穏な要素は残したくないのです」

 

以前に生徒会長である中川菜々・・・・・・優木せつ菜が生徒会長であることに異議を唱え生徒会長を選び直す選挙戦において様々な戦略でせつ菜を追い詰めようとするも失敗し、選挙でも大敗を期した(※栞子の章は後程公開予定)。

その後、こうやって再び立ち直るまでに世話をかけた高咲侑と上原歩夢。彼女らの不利益につながる事を部内に招くのは正しくその恩を仇で返す行為。故に彼女は、事実上少しでも不透明な要素は同好会内に入れたくはなかったのだ。

 

「そんなに大したことじゃないけど。中学校3年生の時に偶々スクールアイドルに魅せられて」

 

「でも、私のガチガチの身体じゃアイドルには向かない。だからサポートに回れる所を探してた」

 

「虹ヶ咲に来たのは、此処は自由な校風で人気と聞いたから他の学校にはない選択が出来ると思っただけ。入学方法を部活動による推薦じゃなくて一般にしたのも剣道以外に興味が出来たから」

 

一方の彼女も栞子の剣幕に全く押されもせずに淡々と話し続けた。因みにこの時、生徒会室の中では生徒会長である中川菜々も作業を黙々と進めていたが、二人の間に漂う空気が尋常なものではない為、あわあわしながら事の顛末を見守っていた。

 

「後はまぁ、スクールアイドルフェスティバルで侑の存在を知って・・・・・・後は御察しかな」

 

「それで友達でもあった侑さんに掛け合ったところ、今回の役割を提案された、と?」

 

「うん、そんな感じ。ね、至って普通だったでしょ?」

 

そのまま両者は真っ向から睨み合う。もしや先程のものよりも熾烈な争いが起こる前触れなのだろうか・・・・・・そう心配した菜々ではあったが。

 

「・・・・・・分かりました。取り敢えずは特に気になる点は他にありませんし、お開きにしましょう」

 

「はぁぁ~・・・・・・良かったぁぁ~」

 

栞子が口にした尋問終了の言葉を受けて、何故か後ろにいた菜々がへなへなとその場に崩れ落ちる。なお、結子の方は席に着いたまま軽く肩を落とした程度だ。これではどちらが尋問を受けていたんだろうと誤解されたとしても何もおかしくはない。

 

「少々気を張り過ぎたかもしれませんね。菜々さん、お茶をお願いします」

 

「えっ、あっ、はい!・・・・・・って、あの~、一応私がここの生徒会長なんですケド?」

 

「まさか、お茶でも淹れるのに失敗して得体の知れない何かになる、なんてことはないですよね?」

 

「はっ、はいぃ・・・・・・!」

 

ニッコリと笑って菜々にお茶淹れをお願いする栞子。これはただ単にもしも生徒会室に自分以外がいなかった際にお茶汲みぐらいはで出来るように栞子が菜々に練習させているだけの話。だが、先刻の栞子の姿がまだ脳裏に残っているようで、会長の菜々は終始ガクブルしていた。

また、もう一つの意味合いとして含まれているのが、菜々の料理への感覚が独創的である事。その凄まじい感覚の異常さは、あの彼方でさえもさらっと毒舌を飛ばすくらいの呆れ様。まさか、『鋼鉄の生徒会長』とも呼ばれる彼女が唯一弱点とするのがそれとは誰も思うまい。

 

「さて、舘さん。今日から我が部の助っ人として加入されるわけですが、方針はお決まりですか?」

 

「方針かぁ・・・・・・あんまり詳しくないから、特にこれと言って」

 

「そうですか。では、侑さんが部員全員の情報を網羅したノートがあるので、後程、部室に顔を出した時にでも目を通してみて下さい。幾らか参考になるはずです」

 

先の問答の時とは一変して、多少柔らかめな喋り方になっている栞子。厳しく言う時もあれば優しく窘めたり助言を行う。これらが完璧に出来ているからこそ、同じく『鋼鉄の副会長』として彼女が生徒会に君臨し、多くの生徒から信頼を得ている証だった。

 

「それにしても噂で聞いてはいたけど、いざ本物と向かい合うと大違いだね、三船さん」

 

「ふふ、栞子で構いませんよ。私はただ、あの人に受けた恩を返しているだけですから」

 

「じゃあ、栞子ちゃんが副会長になったのもその恩を返す為?」

 

「この座にいることが出来るのは・・・・・・寧ろあの人のお陰、ですね」

 

そう言って栞子は彼女から視線を外し、窓辺から見える外の喧騒に目を向ける。しかし、その瞳はそれらを捉えていたのではなく、もっと遠くの何かに思いを馳せる様な、そんな感じだった。

 

「だからこの仕事を全力でやり遂げているのも、あの人への恩返しなのです」

 

「お、お茶がはいりましたよー。ダイジョウブデスヨ、ナンノヘンテツモナイソチャデスヨ・・・・・・

 

「はい、ありがとうございます、会長」

 

そんな話を栞子から来ている途中で、若干緊張した面持ちの菜々がお洒落なトレイに汲んだお茶を入れた湯呑を置いて持ってきた。栞子はそれを何の躊躇いもせずに受け取り、一口飲んでから笑って感謝の言葉を述べる。それを聞いた菜々は安堵の息を吐き、またしてもへなへなと床に崩れ落ちた。

 

「あはは・・・・・・菜々ちゃんもお疲れ様」

 

「ゔゔっ~ほんとですよぉ~。私、私生徒会長なのに゛ぃ~・・・・・・!」

 

応接間のテーブルの上に突っ伏して泣きじゃくる菜々。それを見かねて、よしよしと菜々を宥める結子。同好会名誉部長の引継ぎや経歴問答等で他の同好会メンバーよりはこの二人と自然な流れで仲良くなることは出来た。思えばその時から既にこの形式図は決まっていたようだ。

 

「会長だからと言って優遇されるようでは、旧式の縦社会を良しと認めるようなものです」

 

「この国では近代になってから、人選を阻害する極めて非効率的なその手法が長年に渡ってのさばって来ました。彼の文化からの脱出、それが今を生きる若い社会人達の命題であると言えます」

 

「それに、我が校の理念は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』事です。故に、我々生徒会は社会図の新しい未来のカタチを出来る限り実践し、常に生徒の見本とならねばいけませんので」

 

清々しい程に丁寧な説明で栞子が理由を述べる。生真面目を絵に描いたが如くな彼女の性格がしっかりと現れている・・・・・・そんな一場面であった。

 

「私達とは生徒会や役職の引継ぎ絡みで何度かお会いして仲は深まりました、ですが・・・・・・」

 

「うん、問題は他のメンバーとの交流・・・・・・だよねぇ」

 

「はい、その通りです」

 

すると、結子と栞子のやり取りを黙って聞いていた菜々が頭に?マークを浮かべて質問をした。

 

「えっ?でも、結子さんはもう既に他メンバーともお知り合いになっているのでは?」

 

「それは当然ですね、代理でも同好会を預かる者としては必要最低限の事でもあります」

 

「ですが、侑さんの作り上げた強く固い絆と比べればまだまだ小さな一歩。そうですよね?」

 

菜々の問いを軽く弾いて、私が何を言いたいか分かっていますよね、と言わんばかりに結子に問いをぶつけてくる栞子。結子は少し申し訳ないと思いつつもそれに答えた。

 

「あはは・・・・・・かたじけない」

 

「別に構いませんよ。一朝一日の交流では仲良くなるにも限度があるでしょうから」

 

「なので、本日の業務に移る前に、すぐにでも仲良くなれそうな方達から話し合ってみましょうか」

 

 

「・・・・・・お、お疲れ様でーす」

 

「あ、お疲れ様、結子ちゃん」

 

「おっ、ゆいゆいじゃん!おっす、おっす~!」

 

「結ちゃんお疲れ~」

 

「お疲れ様です・・・・・・先輩」

 

「我々にはまだ別の業務が残っていますので、終わり次第其方へ向かいますね」と栞子に言われて中庭に出向いた結子を待っていたのは歩夢、愛、エマ、かすみの4人だった。結子が緊張気味に話しかけると歩夢、愛、エマは普段通りの明るさですぐに歓迎してくれた。しかし、かすみだけがふくれっ面で此方に中々視線を合わせてくれず、そっぽを向いたままのテンションが低い挨拶を返されてしまう。

 

「おやおや~どうしたぁ、かすかすぅ!何時もの可愛いかすかすは何処に行ったぁ~?」

 

「かすかすじゃなくてかすみんですぅ!しお子に呼び出されたから何かと思えば・・・・・・いいですか、私は絶っっっっっっ対に侑先輩以外は認めませんからねっ、べーだ!」

 

歩夢や侑と出会う前に生徒会長の菜々の手によって旧『スクールアイドル同好会』の部室が『ワンダーフォーゲル部』の部室に代わっていた時に菜々に向けた顔と同じ顔でエマの後ろに隠れながら、結子を睨み続けるかすみ。その姿はお気に入りの主が何らかの原因で帰らぬ人となった時、不憫に思った隣の住人が引き取ったが、古い主が忘れられず新しい主に不満タラタラで吠えまくっている犬のように思えた。

 

「ご、ごめんね、結ちゃん。かすみちゃん、今はこうだけどいつもはとってもいい子なんだよ?」

 

「い、いえ、気にしないでください。えっと・・・・・・」

 

「私のことはエマ、でいいよ」

 

「分かりました、エマさん。取り敢えず2か月間、よろしくお願いします」

 

「うんっ、こちらこそよろしくね!」

 

結子は話している最中にずっと何かこうマイナスイオンに包まれているような感じを覚えていた。全てを包み込む大自然の如きオーラ。言葉を交わした後の流れるようなハグ。あっ、今私、天然のアルプス山脈に包み込まれてるぅ~!(結子、心の声)

 

「流石エマっち、もう陥落させちゃったかぁ」

 

「カンラク?そんなに偉そうだったかな、私?」

 

「あっはっは!エマっち、それは貫禄だよぉ!ぷっ、あははははははは!!」

 

エマに抱擁された結子の様子を見に来た愛がエマお得意の天然ボケに大爆笑している。結子はその光景を目の当たりにして「えっ、何でこの人今、大爆笑してんだろう」と頭に大量の?マークを浮かべていた。

 

「エ、エマさん。そろそろ話してあげないと何処にも移動できないよ?」

 

「あはは、そうだね。じゃあ結ちゃん、何処に行こうか?」

 

 

「ほっ、ふっ、よっ・・・・・・と!」

 

「「「「「きゃーーーーーっ、愛せんぱーーーい!!」」」」」

 

結子一行は最初に体育館を訪れた。すると、ちょうど練習試合をしていたバスケ部から愛が呼び出され、御覧の状況。正式なバスケ部員である生徒の猛攻を飄々と受け流し、ボールを一回も取られることなく、ボールを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!超、エキサイティン!!それを遠くで見ていた女性陣から黄色い声が上がっていた。

 

「はぁー・・・・・・すっごいなぁ」

 

「えっへへー、でしょでしょ?愛さんに勝てない相手はいない、愛だけにっ!」

 

「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」

 

「えぇー・・・・・・」

 

同級生の宮下愛という少女が凄く女子に人気だということが分かった。いや、正確には女子だけではない。その場を偶々通りかかった体を装った男子達も、愛の姿には密かに釘付けにされていた。

 

「さぁさぁ、他に対戦相手はー・・・・・・って、おおっ!」

 

如何やら動き足りなかったようで対戦相手を求めて体育館中を見回していた愛が突然誰かを発見したようで一目散に其方に駆け出して行った。結子たちがその方向を見るとそこには。

 

「ねぇねぇ、ナナセっちナナセっち~!」

 

「あらっ、誰かと思えば愛じゃない。どしたの、もしかして対戦相手募集中?」

 

「おおっ、流石はナナセっち、エスパーだね!」

 

「ま、何となくそんな感じがしたのよ。で、何で勝負する?」

 

愛と同じくらいの背をした金髪に赤いメッシュを付けた傍目から見ても中々刺激的な格好をしている女子生徒(一応制服なのだが、態と着崩しているのだろうか)と何やら親しげに話していた。

 

「愛ちゃん、その子知り合いなの?」

 

「うん?そうだよ、ナナセっちは何たってこの愛さんと互角にやれる強者だからね」

 

「別に愛と対戦する為だけに強くなった訳でもないんだけどね。私は奈々瀬、片桐奈々瀬よ」

 

「よろしく奈々瀬ちゃん。私はエマ、エマ・ヴェルデだよ」

 

「え、えっと、上原歩夢、です」

 

「かすみんはかすみんですよぉ~♪」

 

「舘結子です、よろしく」

 

片桐奈々瀬という少女と軽く自己紹介をして、それが終わると早速愛と奈々瀬が何で勝負をするかで相談し始める。すると、一人の男子生徒がその現場を見て、声を上げた。

 

「あっ、な、何て事だ!?あそこにいるのは、もしかしてあの有名な片桐奈々瀬じゃないか!?」

 

「本当だ・・・・・・・虹ヶ咲学園一のビッチで有名な片桐奈々瀬だ・・・・・・!」

 

「おいおい、嘘だろ!?そこに愛ちゃんも行ったことで、我が校のトップギャル2人が一堂に会しちまった・・・・・・!」

 

「大変だぁ、時代は正に大ギャルビッチ時代だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

男子生徒の言葉を皮切りに、次々と見物人として集まっていた男子生徒が周囲に群がってきた。

 

「!?(えっ、校内で堂々とそう言う言葉を使っちゃっていいの?)」

 

「???ねぇ、ナナセっち。あの子たちの言ってる『ぎゃるびっち』って一体どういう意味・・・・・・?」

 

「ええっ、あっ、う~ん・・・・・・あ、愛は~知らなくていい、と思うわよ?」

 

男子生徒の一部の発言に聞いたことのない単語が混じっていて気になったのか愛が奈々瀬をそう問い詰めていた。しかし、肝心の奈々瀬はその言葉の意味する事を如何やらよく知っているようで、額に汗を浮かべながら必死に誤魔化してその場をやり過ごそうとしていた。

 

「何かよくわからないけど、騒がしくなってきちゃったね???」

 

「あの~、かすみんは早くここから立ち去りたいんですが~・・・・・・」

 

「そ、そうだね。取り敢えず避難しよっか、愛ちゃん・・・・・・と片桐さん!」

 

体育館から脱出する準備をすぐに整えた一行は、愛と奈々瀬という女子生徒に向かって歩夢が呼び掛けた。すると、向こうも此方の動きを察知し、彼等は一先ず混乱状態になった体育館を後にした。全く、意味が分からないよ。

 

 

「ナナセっち、ここまで来れば安全かな・・・・・・!」

 

「多分だけど、私と愛が一緒にいる分、それも時間の問題よ」

 

「ゔえ゛ぇぇぇぇぇ~っ、かすみんもう走れないですぅ~!」

 

愛と奈々瀬が息を全く切らしていない状態でそんな会話を始めるも、かすみと歩夢は少し走り疲れているようだった。

 

「エマさんは何ともないんですね?」

 

「えっへん、伊達に山育ちじゃないからね。体力には自信があるんだよ!」

 

「(息を切らしてないのは私も一緒だけど・・・・・・・へぇそっか、エマさん山育ちなんだ)」

 

天然のアルプスが付いているというのに、エマがなかなか軽快な走りをしていたので結子は驚いた。成程成程、山は山で育つんだね。今はっきりと分かりました。

 

「取り敢えず、何処か避難できる場所ないかなぁ?」

 

「此処は部室棟みたいね・・・・・・あ、じゃあウチの部室に来てみない?」

 

一時的に身を隠せるところを探していると、奈々瀬が自分が所属している部活の部室に入ってやり過ごさないかと提案してくる。それを聞いて、初耳だった愛は首を傾げた。

 

「うぇ?ナナセっちって何か部活やってたっけ?」

 

「一応、部活と言う体ではあるんだけどね。正直、目標が不明瞭すぎる部活なのよ」

 

「へぇ~、何それ何それ!愛さん、行って見たーい!!」

 

「ええっと、今の説明の何処に行きたくなる要素があったのか逆に教えてほしいのだわ・・・・・・」

 

愛の興味津々の態度に若干引き気味の奈々瀬ではあったが、直ぐ近くの廊下から「こっちに行ったぞー」という声が響いてきたので止む無く、その場にいた全員を引き連れて部室棟の一角ある部屋の扉を開け放ち、中に入った。・・・・・・その数秒後には先程まで彼女達がいた空間内にドヤドヤと大勢の人間が集まってくる音が聞こえていた。ふぅ・・・・・・取り敢えずは一件落着、かな?

 

「何とか戻ってこれたわね・・・・・・何で毎回こうなるのよ、ホントに」

 

「お、奈々瀬・・・・・・と、後ろの人達は誰だ?」

 

「あぁ、淳。私の友達よ、友達。勿論、アンタ達に迷惑はかけないわよ?」

 

部屋に入ると、中には私達以外に6人の生徒がいて、その内の一人・・・・・・黒縁の眼鏡をしたガタイのいい男子生徒が此方に話しかけてきた。そして、それに倣うように他の生徒たちが一斉に顔を上げ、此方を向いた。

 

「奈々瀬さん、おかえりなさ・・・・・・って、あばばばばばば、愛しゃん!?」

 

「んー?今日は何だか凄く賑やかなんだな。奈々瀬ちゃんのお友達?」

 

「今日は何だか来客が多いですねぇ・・・・・・・はっ、これはもしかして夜は食べ放題ですか!?」

 

「お客様でしょうか?では、今日届いた特別な茶葉で文乃がお茶をお淹れ致しますね、ふんすっ」

 

「・・・・・・あれ、愛さん達、どうしたの?」

 

其々から様々な反応が帰ってくる中、部室の奥のデスクトップPCの前で作業していた人物がすっと立ち上がった。その姿を見て、愛は驚きの声を上げる。

 

「あれっ、りなりーじゃん!そういうりなりーこそ、どったの?」

 

そう、その人物は結子達と同じ『スクールアイドル同好会』に所属していて、今は部室内で練習が始まるまで待機しているはずの天王寺璃奈だった。




同時に1章の登場人物まとめも置いておきます。
……良かったら見てね。


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1-3「ランジュ、襲来」






ちょっとサブタイトルに因んでやってみたいことが出来た。満足、満足。
さぁて、今回も変更点色々述べちゃうよ。

スクスタ及びアニガサキ設定の変更点まとめ・その②

・栞子の所属学科
スクスタ内では何故か設定されていない。故に、私は彼女をエマ・しずくと同様の国際交流科に所属しているものと仮定。動機については幼馴染みで大親友のランジュの姿を今も少し何処かで追っていた……みたいな感じでいいんじゃないかな(いいねと思って下さるのなら、お好きにこの設定を使っていただいて構いませんよ)。

・ランジュの栞子への呼び方
折角幼馴染みで大親友なんだからさ、もっとあだ名とかで呼びあうとかでもいいと思うんだよね。というわけでランジュは栞子の事を「シオ」と。栞子は回想でのみランジュを「ランちゃん」と呼ばせています。

最後に、エマさんお誕生日おめでとう‼


アニガサキSS劇場②「エマ、ハッピーバースデー」

 

侑「エマさん!」

 

全員「「「「「「「「「「「お誕生日、おめでとーう!!」」」」」」」」」」」

 

エ「うわぁぁぁぁ、ありがとう皆!」

 

果「今年も無事にこの日を迎えられて嬉しいわ。ところで・・・・・・」

 

エ「どうしたの、果林ちゃん?」

 

果「何で本編で外国にいるはずの侑がまだ此処にいるのかしら?」

 

侑「酷いなぁ、果林さん。当然いるに決まってるよ、大事なメンバーの誕生日だし」

 

エ「侑ちゃん・・・・・・!」

 

侑「それにね」

 

エ「それに・・・・・・?」

 

侑「SSの時空は常に歪んでるから、本編の内容を気にせず色々出来る仕様なんだって!」

 

エ「わぁ~良く分からないけど凄いねぇ」

 

果「何がとは言わないけど色々メタいのね、この空間・・・・・・(私のさっきの発言もだけど)」

 

彼「うむ、彼方ちゃんは完全に理解した。此処では突っ込んではならぬと」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

Side:三船 栞子

 

 

――少し、昔の夢を見た。

 

『ほら、シオー、こっちこっち♪』

 

『ま、まってよー、ランちゃーん・・・・・・!』

 

私がまだ幼い時の話。この当時、今とは別の理由で友達がそんなに多くなかった時、周りの人達から優等生過ぎてつまらないとまで言われた私を毎日遊びに誘ってくれる子がいた。名前は鐘嵐珠。台湾の大きな豪邸に住む、私より一つ上の女の子だった。

 

『いっちばーん!もぅ、シオったらはりあいがないわねぇ』

 

『ランちゃんがはやすぎるだけだよぉ・・・・・・』

 

『そうかしら?わたしにとってはぜんぜんふつうよ、ふつう♪』

 

その時の私は全然体力もなくて。彼女といつも競争はしてみれど、勝つのは必ず彼女だった。それもそのはず。彼女は何かを学ぶ度にその何かを平均以上の数値で上回って見せた。努力とかそういうものではない、何故なら彼女のその才能は生まれ持ったものなのだから。

 

『シオももうすこしがんばれば、わたしみたいになれるわ。きっとまちがいないわよ!』

 

『ぐすっ・・・・・・ほんとう?』

 

『このわたしがいうのよ、ぜったいなれるわ!』

 

『・・・・・・そう、かな?なら、わたしつよくなる。つよくなってランちゃんといっしょにはしりたい!』

 

『わかった!じゃあやくそくね!』

 

『うん、やくそく・・・・・・!』

 

彼女と指切りをしたその瞬間、突然その映像はぷつりと消えて。

 

「――あ」

 

目が覚める。辺りを見渡すと、私の居るそこは生徒会室のソファの上で。ソファの近くのテーブルの上には承認・非承認の判が押された大量の書類の束。あぁ、そうか。私はこの書類を大方処理し終えて少し横になったら、そのままうたた寝してしまったんだ。

 

「んっ、んーっ・・・・・・!」

 

いつの間にか私の体の上に掛けられていた毛布をソファの端に寄せて、その場で起き上がって背伸びをする。時刻はまだ起きていた時からそんなに経ってはいない。今日の日程が特別授業の為に午前中で学校が終わり、そのまま生徒会室で・・・・・・あぁ、そうでした。結子さんと面談していたのでした。それで同好会の方には業務が終わり次第向かうと・・・・・・あれ、終わり次第?

 

「あっ、いけない!私としたことが同好会を・・・・・・!」

 

まだちょっとボーッとしていた頭が一気に覚めて、私は自分の鞄を手に急いで生徒会室を飛び出す。同じ部屋に生徒会長の菜々・・・・・・せつ菜さんがいた事で少し油断してしまった。部活動開始の時間から30分くらいは既に経過している。皆さん、既に私の到着に待ちくたびれて、練習を始めちゃっている頃でしょうか。あぁ、申し訳なさ過ぎて凄く顔合わせし辛い。

 

「あぁ、けれど」

 

「・・・・・・さっきの夢は本当に懐かしいものでした」

 

遠い記憶、懐かしき声。彼女・・・・・・嵐珠は今頃何をしているのでしょうか、元気だといいのですが。

 

『ピーンポーンパーンポーン』

 

『国際交流科1年、三船栞子さん。理事長がお呼びです。至急、理事長室までお越し下さい』

 

 

Side END

 

 

場面は戻り、部室棟1F『帰宅管理部』部室内――

 

「あれっ、りなりーじゃん!こんなところでどったの?」

 

「私?私はただアサネちゃんのお手伝いをしてるだけ」

 

彼女を象徴するべき小道具の「璃奈ちゃんボード」を片手に此方をチラリと覗き見る璃奈。そんな彼女の後ろに立っていたアサネ、と呼ばれた少女が何やら突然あわあわし出していた。

 

「あ、ああああこがれのあいしゃんとななしぇさんのツーショットがみれるというインターネッツはここですかほわぁぁぁ本当にいるああああ幸せ幸せすぎて死んじゃう死ぬ死ぬとき死ねば死んだ・・・・・・」

 

死んだ。というよりも現在進行形で何が起こっているんだかよく分かっていない結子達の前で、彼女がいきなり鼻血を出して倒れただけだが。

 

「何だアサちーのお手伝いかー、ってあれ?アサちーどうしたの?」

 

「・・・・・・気にしないでくれ、ウチの妹はこういう病気なんだ」

 

頭に?マークを浮かべる愛に先程のガタイのいい眼鏡男が困った顔しながら話しかけてきた。

 

「自己紹介が遅れたな。俺は淳之介、橘淳之介だ。で、さっきのは妹の麻沙音」

 

「渡会ヒナミだよ!こう見えても一応おねーさんなんだぞ!」

 

「は、初めまして・・・・・・畔美岬です」

 

「琴寄文乃、と申します。以後、お見知りおきを、皆様」

 

その場にいた『帰宅管理部』の4人が一斉に名乗りを上げる。それに続くように結子達同好会一行も自己紹介をする(紹介シーンは敢えて割愛)。パッと見4人とも奈々瀬と同じく特に何の変哲もない普通の学生のように思えた。

 

「成程ね~・・・・・・じゃあ、君はじゅんじゅん!」

 

「じゅ、じゅんじゅん・・・・・・?」

 

「そっちの小っちゃい子はヒナミん!」

 

「小っちゃい子じゃありませんけど!」

 

「その子は~ミサミサ!」

 

「わっ、何か凄く良いあだ名をつけてもらえました、ギャルパワー凄っ!?」

 

「最後にそこの和服の子が~・・・・・・・ふみのん!」

 

「良いあだ名を頂きました、ぬっへっへ・・・・・・!」

 

そして、自己紹介が終わるや否や愛が一人一人にあだ名をつけ始める。いきなり呼ばれた面々は初めて呼ばれるようなあだ名だけに少し戸惑いを見せる者、突っ込みを入れる者、ギャルパワーに驚く者、結構満足している者とそれぞれであった。

 

「それで、璃奈ちゃんは結局ここで何のお手伝いをしてたの?」

 

「えっと・・・・・・アサネちゃん、話してもいい、かな?」

 

今度はエマが璃奈に質問を投げかけると、璃奈はちょっと困り顔をして、気絶状態から復帰した麻沙音の方を見やる・・・・・・が。

 

「や、駄目だね。今は取り敢えず企業秘密って事で」

 

「だって。ごめんね、エマさん」

 

「ううん、話したくないならいいの。企業秘密は大事だよね、うん!」

 

「まぁ・・・・・・そう時間経たない内にお披露目する事になるかもだけどさ」

 

「???」

 

二人から詳しく明かせない旨を受けたエマは、自身に謝罪する璃奈を慰め、自分にも言い聞かせるようにそう言った。しかし、最後に麻沙音が呟いた意味深な呟きまでは何であったのか察することが出来ないエマであった。

 

「あれ、そういえば何でここにカス子がいるのさ」

 

「ちょ、アサ子酷い!それにカス子じゃなくてかすみんですぅ!」

 

「ま、別にどーっちでもいいじゃねぇか、カス子」

 

「だからカス子じゃないんだってばぁぁぁぁぁ!」

 

一方で麻沙音は視界の端っこで見つけたかすみを見るなり、ケタケタと笑って揶揄っていた。如何やら愛と奈々瀬、璃奈と彼女といい、同じ学年同士ですでに知り合い済みだったようだ。

 

「えっと・・・・・・もしかしたらさっきの人達、そろそろ何処かに行ったんじゃないかな?」

 

部屋の中で談笑を続ける面々と違って、ずっと戸の前に張り付いていた歩夢が突然そう声を上げる。どれどれ、と結子もその言葉の通りかどうか確かめる為に戸へ耳を宛がう。すると、先程とは違って廊下の方で木霊していたガヤガヤ音が綺麗さっぱり止んでいるようだ。

 

「・・・・・・確かに。皆、歩夢ちゃんの言う通り、もう安全みたいだよ」

 

「ほんとにー?それじゃあ、後は部室に戻ろうか皆。レッツゴー!」

 

「またねー、皆」

 

「うぐ~っ・・・・・・後で覚えといてよ、アサ子ォォォ・・・・・・!」

 

「へっ、そう粋がんなよ、カス野郎」

 

「私も、そろそろ部室に戻るね」

 

「また何時でもいらしてくださいねー、璃奈ちゃん!」

 

各々がそれぞれの別れの言葉を口にして部屋を出ようとする。と、そのドアノブをひねるのと同タイミングっで向こう側から誰かが戸を開けて入ってくるところだった。不味い、これは流石に見つかったか。そう思った結子達だったが。

 

「あ、皆さん。此処にいたんですね、探しましたよ」

 

そこにいた人物の姿を目にして結子は意表を突かれた。戸を開けて中に身を乗り出してきたのは生徒会長の中川菜々。そう言えば、彼女も先に部室に行っているメンバーと早く合流する為に今まで生徒会の仕事を頑張っていたのだった。

 

「せつ菜ちゃん!」

 

「さぁさぁ、早く行きましょう。時間は待ってくれませんよ!」

 

若干せつ菜モードになりつつ、キラキラとした目で先頭に立って移動し始める菜々。一行が廊下に出たところで愛がある人物だけがいないことに気が付いた。

 

「あれぇ?ねぇ、せっつー、しおってぃーは?」

 

「あ、ほんとだ、栞子ちゃんがいない」

 

そう、放課後彼女と一緒に生徒会室で作業していたはずの栞子の姿が先程から何処にも見当たらなかったのだ。しかし、それを聞いた菜々は人差し指を口の辺りに持ってきてこう言った。

 

「栞子さんは今は作業疲れで寝ちゃってます。そっとしておいてあげてくださいね?」

 

成程、作業疲れ。そう言えば、今日のお昼頃からちょっと眠そうにはしていたから心配だったけどそう言う事なら安心だ。ゆっくり寝かせてあげよう。

 

「へぇ、しお子今寝てるんだぁ~・・・・・・ニヤリ!」

 

「か・す・み・さん?」

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!?う、嘘嘘、嘘ですってばぁ~!」

 

そんな情報を聞いたかすみが一瞬だけ悪い顔になったが企みを看破した菜々がニッコリとした笑みを浮かべてかすみに迫り、かすみはビビって慌てて誤魔化していた。今のは笑顔ではあったが完全に目が笑っていなかった。流石は『鋼鉄の生徒会長』、迫力あるなぁ。

 

『ピーンポーンパーンポーン』

 

『国際交流科1年、三船栞子さん。理事長がお呼びです。至急、理事長室までお越し下さい』

 

と、その時だった。不意に学校の呼び出し放送が鳴ったかと思ったら、普段生徒を呼ぶこと自体が珍しいとされる此処の理事長が栞子を理事長室まで呼びつける旨の連絡だった。あれ、栞子ちゃん今多分ぐっすり寝てると思うけど大丈夫かな・・・・・・?

 

「理事長さんが態々呼び出すなんて珍しいね」

 

「う、うん。それに、聞き間違いじゃなかったら栞子ちゃんの事呼んでたよね?」

 

「それ大変じゃん!遅れたら間違いなくしおってぃーが大目玉喰らっちゃうよ!?」

 

「あわわわわわ、大変です!?こ、こうなったら私が代理でっ・・・・・・!」

 

今も寝ているだろう本人が早々簡単にスッと起きて迎えるものだろうか。いや、あの栞子ならそれも可能かもしれない。そうは思いつつもちょっと心配な結子とまさかの事態に慌てだす愛と軽くパニックになっている菜々が何もできずにその場でおろおろしているとその彼女達の手前をスッと駆け抜けて走っていく人影を見かけた。あれは・・・・・・!

 

「あ、栞子ちゃん・・・・・・・!」

 

「おや、皆さん?まだここにいらしたんですか?」

 

迷わず声を掛けるとその人物が立ち止まってゆっくりと此方を振り返る。間違いない、件の呼び出されていた張本人、生徒会副会長・三船栞子その人だった。

 

「し、栞子さん!?も、もう起きて大丈夫なんですか・・・・・・!?」

 

「あら、菜々さんまで。はい、別に具合が悪いとかそういう訳ではなかったので」

 

再びの突然の事に、まだパニック状態に陥っている菜々を優しく宥めるように諭し。

 

「栞子ちゃん、あんまり無理したら駄目なんだよ?」

 

「エマさん・・・・・・あぁ、いえ。無理はしてませんから、そんなに心配なさらないでください」

 

自分を心配そうに見つめるエマに申し訳なさそうにしつつ、御覧の通り大丈夫だと伝え。

 

「し、栞子ちゃん!良かったら私も付き添うよ・・・・・・!」

 

「歩夢さん・・・・・・ありがとうございます。お気持ちだけで大丈夫ですので」

 

自分達の可愛い後輩が何か不当な事で怒られてしまうのではないかと不安そうな歩夢にそんな事はないと言い聞かせた。

 

「皆さんが思っている程、理事長は酷いお方ではありませんよ」

 

「私も終わり次第、すぐ戻りますから。だから結子さん、それまで皆さんをよろしくお願いしますね」

 

そして、彼女の真っ直ぐな視線が結子に向けられる。彼女とは同好会メンバー達と同じく、まだ初めて会った時からほんの僅かしか経っていない。それでも、彼女のその笑顔の裏に隠れた何かしらの覚悟のようなものを感じ取った結子は、彼女同様にその目を真っ直ぐに見据えて口を開く。

 

「うん、分かった。後でちゃんと来てね、待ってるから」

 

「はい。ありがとうございます、結子さん」

 

「・・・・・・よし、それじゃあ皆。部室に急ぐよ、他の人達が待ってる・・・・・・!」

 

最後に栞子の顔をもう一度一瞥して、廊下を同好会の部屋の方へ早歩きで駆けていく。

 

「おおっ、ゆいゆい凄い気合入ってるね!これは愛さんも負けてられないぞぉー!」

 

「私も、頑張る。璃奈ちゃんボード『えいえいおー』!」

 

「わ、私だって皆に負けないように頑張るんだからねっ!」

 

「か、かすみんだって負けませんよっ!」

 

「部室まで競争だね?よーし、かけっこなら負けない自信があるよっ!」

 

「えっ、あっ、ちょ、ちょっと皆さん!?ろ、廊下は走らないでくださーい!!」

 

それにつられて、他のメンバー達も結子の後について廊下を駆けていく。見事に不意を突かれて、ほんの数秒遅れてしまったが為に廊下を走るなとは言いつつも皆に追いつくために誰よりも全力疾走で駆け抜ける菜々。その姿を見えなくなるまで見送り続けて、栞子はキッと前方にある理事長室の扉を見据えた。侑が不在の今、自分がやるべきことを果たさなくては。そんな決意を滲ませて。

 

 

Side:???

 

 

『失礼します』

 

「何方様ですか?」

 

『お呼びに与りました、生徒会副会長・三船栞子です』

 

「あぁ、栞子さん。いいですよ、お入りになって」

 

理事長との軽い問答が行われ、理事長室の中に入ってきた人影が一人。あぁ、その姿、その姿勢、その態度。見間違えるはずがない、あの子はアタシの唯一の親友の。

 

「失礼します、それでご用件は?」

 

「言葉にすれば大した事ではないのだけれど。貴女に是非とも会って貰いたい生徒がいてね」

 

「私に・・・・・・ですか?それは一体何方でしょう?」

 

「うふふ、そんなに急かさないであげて頂戴。あの子だって準備はしっかりとしたいでしょうし」

 

「はぁ、そうですか」

 

理事長が上手く機転を利かせて一時的にアタシの存在を秘匿しようとしてくれている。やはり頼れるべきはこの国においての唯一の肉親の存在か。このアタシでもまだパーフェクトには程遠いという証ね。

 

「ところで栞子さん。貴女、つい最近同好会に入ったみたいね」

 

「はい。スクールアイドル同好会というところなのですが、中々に良い体験が出来ていると実感しています」

 

「やはり、自分の趣味嗜好から違った角度で物を見るというのは良い経験となりますね」

 

スクールアイドル同好会?あぁ、あのスクールアイドルフェスティバルとかいう只の素人の即興劇でしかないあの祭典を開いた張本人達か。アタシもあれを遠くで見ていたが、あまり楽しめた感じはなかった。どちらかと言うと呆れたと言うべきか。

 

「やっぱり貴女のその情熱はお姉さん譲りのもの、なのかしらね」

 

「そう、かもしれませんね。姉もスクールアイドルが好きでしたので」

 

何故あんなにも個性豊かで才能溢れる人々が付き従っているのがあのあくまでプロでもなんでもない只の平凡な少女の下なのか。アタシだったら、アタシが提供する環境であったなら彼女達はきっとあれよりもさらに高みを目指せる存在となりうる。はっきり言って逸材だ、早くアタシがあれを手にしてしまいたい。そして、それを決行するにはあの少女が不在の今こそが千載一遇のチャンス。

 

「少し話は変わるけれど、もしその同好会よりも高みを目指せる場所があると言ったらどうかしら?」

 

「ええと・・・・・・いまいち質問の意味が分かりかねますが」

 

「勿論、そのままの意味よ。私はね、貴女のその情熱を見て、もっと高みへ至らせてあげたいと思っているの。それこそ、あの少女の存在が必要なくなるくらいに」

 

それに、この部屋の中にいるアタシの親友もそこへ行ってしまった様だ。ならば、取り返さなければいけない。自分に用意できる全てのものを使ったとしても。アタシは、スクールアイドル同好会という呪縛に囚われた少女達を解放してあげたい。あわよくば、お友達になりたい。

 

「それはどういう・・・・・・」

 

「うふふ、私の小難しい説明では理解し難い様ね。詳しくは発案者の本人から聞きましょう」

 

「発案者、本人・・・・・・・?」

 

「もう心の用意はいいのでしょう?出てらっしゃい」

 

何処で出ようかと迷っていたら、理事長から直々のお呼び出しがかかる。こうなってしまってはもうしょうがない。盛大に祝いましょう。貴女との久々の再会を、そして新たなるスクールアイドルの歴史の誕生を。

 

 

Side END

 

 

「――久しぶり、栞子。ううん、シオって呼んだ方が分かるかしら?」

 

「・・・・・・・本国に帰ったはずの貴方が何故、虹ヶ咲(ここ)にいるのですか」

 

理事長室の奥、客間に設置された屏風の裏から現れたのは、腰まで伸びた長い銀髪と、透き通ったクリアブルーの瞳。学校指定の黒いシャツに赤のブラウスを羽織った何とも特徴的な美少女。彼女の名は。

 

「ランジュ」

 

「んー、何か冷たくない?一応、貴女の幼馴染みで親友との感動の再会なのよ?」

 

栞子が彼女の名を呼ぶと、彼女は不満げな表情で栞子の方へ近づいてきた。そう、彼女こそが鐘嵐珠。我々の派閥で今まさに、推すべきか弾劾すべきかで意見が二分した虹ヶ咲コンテンツ内に置いて二人と存在しない者。これから、いや、この後の騒動を引き起こすトリガーと成り得る人物。

 

「では、私は感動の再会の場面で泣くような女だと貴女は一度として思うに至りましたか?」

 

「そんなまさか、全然ないわ。だってシオはそういう子だって分かってるもの」

 

両者睨み合って、同時にクスリと笑う。一見対立しているようにも見えるこの構図。だが、彼女らはお互いが本来どういった性格であるか、それを理解し合える位に大の仲良しだった。

 

「私だって分かっているつもりです。ランジュが感動の再会云々に気を取られる人ではない事も」

 

「ん、ご名答。ところで、シオは昔みたいにアタシの事、あだ名で呼んでくれないのね」

 

「あれは・・・・・・ちょっと恥ずかしいので」

 

「そう、アタシはそんな事思わないケド?」

 

昔の事を思い出してか栞子が珍しく頬を赤くする。幼馴染みで大親友である者同士の再会、通常であれば何かを飲みながら思い出語りやお互いの話で盛り上がっているはず、だが。

 

「それで、理事長の話した事でランジュが詳しいとは一体・・・・・・?」

 

「あれ、もうそこに話し戻しちゃうんだ。出来ればもうちょっとだけ楽しみたかったんだけど」

 

二人のそんなやり取りを皮切りに部屋の雰囲気が一変する。真正面で対するは最早親友同士というものではなく虹ヶ咲学園の生徒会副会長と虹ヶ咲学園理事長の娘、只それだけだった。

 

「実はアタシ、明日から虹ヶ咲に転入する事になったの」

 

「それはまた急な話ですね」

 

「でしょ?まぁ、でもその件は一旦置いといて。ここからが本題ね」

 

ランジュは一旦言葉を切って、僅か一時の思考をした後、改めて言葉を続けた。

 

「実はこの学校にアタシ主体の新しい部活を作ろうと思うの、協力してくれる?」

 

「部活動を新しく作るという事なら可能ですよ。ただ、内容にもよりますが」

 

「その点は大丈夫よ、だってもう似たような部活動がこの学校にあるんだもの」

 

ランジュのその言葉に栞子は思わず首を傾げる。似たような部活がもう既にあると言うなら、そこに入ればよいのではないかと。確かにこの学校は生徒の自主性が自由に認められてはいる。だが、ただでさえ色々な部活が点々と存在して、所属生徒のほぼ全員が何かしらの部活に入っている今の状態で新しく部を立ち上げたとしても既定の人数に達するかどうかの瀬戸際に追いやられることはこれ以上ない明白な事実であったからだ。

 

「それで、その作りたい部、というのは?」

 

「スクールアイドル部」

 

「は?」

 

「だから、スクールアイドル部よ。虹ヶ咲を筆頭にアタシがスクールアイドルの歴史を塗り替えたい」

 

以降、ランジュが言うにはこうであった。自分が鐘家の権力と財力をフルに使って集めた、スクールアイドルに必要とされる各分野のプロを集め、そのプロの指導の下、完璧で一点の曇りもない才能に溢れたスクールアイドル界のプロチームを作る事。それが今の彼女が抱いた野望だという。

 

「ですが、それであれば今ある同好会に入ってそこにプロの方をお呼びすればいいだけでは?」

 

「それは駄目。前にやってたスクールアイドルフェスティバル、だっけ?あれ、アタシも見てたんだけど、正直全然ダメダメだったわね」

 

辛辣な友人の言葉に栞子はついムッとしてしまう。しかし、そんな表情を一瞬ばかりであっても彼女に見せてしまったが故に、彼女の弁に一層の熱が入り始めた。

 

「動き、ダンス、魅せ方。どれをとってもあれじゃあ全くなってないわ、0点ね」

 

「・・・・・・」

 

「だけど、彼女達一人一人の才能は確かに感じたわ。なら、少なくとも今の環境から少し上の環境に上げるだけで自然と全てが良くなってくるはず」

 

「だから私は彼女達を同好会ではなく、部を作ってこっちに引き入れたいの」

 

ランジュは自分からは隙を見せずに栞子の顔色を窺う。気を遣っているわけでも、変に遠慮しているわけでもない。それは相手を確実に引き入れようと獲物を見据える時のハイエナの目。

 

「だから、同好会のメンバーでもあってアタシの大親友でもあるシオにお願いがあるの」

 

「――同好会を捨てて、アタシのスクールアイドル部で一緒に高みを目指しましょう?」

 

「ッ・・・・・・!」

 

ランジュは機を見て、すぐに親友へ本題をさらりと吹っ掛け、噛み付いた。例えどんなに結束が固くともこうして徐々に揺さぶって堕としていけば、何れは同好会にいるメンバーのほぼ全員が自分の元へ来る。そう踏んでの発言だった。しかし、栞子もそれにただ負ける様な人物ではない。

 

「ランジュ、貴女は私に同好会を・・・・・・あの人を裏切れと言うのですか」

 

「裏切る?違うわね、寧ろ期待に応えられるんじゃないかしら?」

 

「・・・・・・期待に、応えられる?」

 

彼女の意外な言葉に、栞子は驚きで目を見開く。裏切りではなく期待に応えられる?あの人が作り上げた同好会と言う場を捨てるという、只の背信的な行為に何故そんな力があるというのか。

 

「だって考えても見てよ。シオが今崇拝しているその高咲侑って子は、()()()()()()()()()()()()()()()()()人でしょう?」

 

「なら、貴女達がその輝きをもっと高めることが出来れば大いに喜ぶはず・・・・・・違うかしら?」

 

ランジュの言う事は何ら間違ってはない。確かに、現在のスクールアイドル同好会の中心人物となっている高咲侑は以前にスクールアイドル『優木せつ菜』の放つ輝きに魅せられて、幼馴染みの歩夢と共にスクールアイドルに興味を持った人物だ。故に、もし自分達が彼女の予想を遥かに超える速度で実力をメキメキと上げて行ったのなら、ライブを見て喜んでくれるはずだ。しかし。

 

「ですが、それではあの人が一人になってしまう」

 

今でこそ近くでスクールアイドルの活動を支えられているから問題はない。ただ、その位置から離してしまう事で、一般学生とスクールアイドルという決して一線の垣根すら越えられない遥か遠くの存在となってしまう。スクールアイドルの輝きを一番近くで見て、やっと自分の夢と言うものを見つけて旅立っていた彼女。そんな彼女がその2か月の研修を終えて帰って来た時に同好会がバラバラになってしまっていたら。その時に受けるショックは計り知れないものだろう。もしかしたら、音楽科で頑張っていくことにやる気をなくしてしまうかもしれない。

 

「ランジュは知らないのでしょうが、あの人には不思議と人を惹き付けるカリスマがあります。確かにスクールアイドルとしてさらに高みを目指すならプロによる指導も悪くないでしょう、ですが」

 

「彼女は・・・・・・侑さんはそのプロにさえ出来ない視点を持ち合わせている。その一点こそが私達虹ヶ咲スクールアイドル同好会の全員が彼女に付いて行く一番の理由です」

 

嘗て利用するだけ利用されて、全て計画通りにいかずに捨てられた。スクールアイドルになるより前、彼女は只、現生徒会長・中川菜々を打倒する為だけの存在でしかなかった。友人もいなければ、クラスメイトからも距離を置かれた。そんな自分だったから、真の仲間とも呼べる者達と裏と表で姿を使い分けようとも自分の大好きと言う感情から目を離さなかった『優木せつ菜』に負けた。当然の結果だ、最初からあちらの方が大きな輝きを背負っていたのだから。

 

「だからこそ、貴女が今ここで何を言おうとも」

 

「私はそれに協力は出来ません」

 

栞子はきっぱりとそう言い切った。正直、今のランジュが一体何を考えているのか、それは大親友の自分にも分からない。本来ならそのまま自分が協力と言う形で親友を支えてあげたい気持ちもなくはない。けれど、今の自分は同好会にも同じくらいの恩を受けた身だ。故に今此処で自分一人のみの決断で全てを持っていくにはあまりにも早計過ぎる気がした。

 

「話は以上ですか?では、私は練習があるので失礼させていただきます」

 

「・・・・・・」

 

鞄を持って態とゆっくりめに彼女は理事長室を後にする。途中でランジュか理事長が何かしら引き留めてくるものとばかり思っていたが、如何やら杞憂だったようだ。何も返事が返ってこないのを確認して、理事長室の戸を閉める。そして彼女は同好会メンバーの待つ部屋へと急ぎ足で向かうのであった。

 

「・・・・・・交渉は決裂になっちゃったみたいね、あんなこと言われるなんて考えもしなかったって顔してるわよ?」

 

「五月蠅い」

 

栞子が去ったその部屋の中には、不敵な笑みを浮かべる理事長と不貞腐れたランジュの姿だけがあった。

 

「でも、まぁ、焦らなくてもいいんじゃないかしら?」

 

「何で」

 

自分の娘の交渉が目の前で失敗したにも拘らず、それを敢えて他人事のように切り捨てて話す理事長。やはりその顔には張り付いたような不敵な笑みだけが浮かんでいた。

 

「だって理由がどうあれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうから」

 

「それも自分の意志で、ね」

 

そう宣言して、理事長が承認の判を押した書類の中にはこんな文字が躍っていた。

 

 

――『監視委員会』の設置許可証。

 

 

これこそが、後に同好会側の活動の基盤を揺るがすことになる事を、今はまだ誰も知らない。

 

 

                           第1章「その瞳、紅に燃やして」・完

 

 

             第2章へ続く......

 

 

 




次章予告

「全てのスクールアイドルとお友達になりたい」。彼女が最初に願ったのはただそれだけのはずだった。しかし、彼女を取り巻く環境は次第に彼女自身に逃れられぬ運命の枷を掛けていく。理事長と共謀する形で設置した『監視委員会』、彼等はいったい何者なのか?そして、発足したばかりのスクールアイドル部の勢力不足を嘆いた彼等の魔の手がついに同好会の果林と愛に伸びる時、物語の歯車は大きく狂いだす。

「アニガサキ!-PASTEL COLLARS- 外伝 Episode of ランジュ」次章、

第2章「彼女はそこにただ独り」

――愛がなければ、スクールアイドルではない。


以上、1章は此処で終わりです。次からは2章、此処からドーンと動きます、お楽しみに(出来れば1章を読んでの感想をお寄せいただければ幸いです)。


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第2章「彼女はそこにただ独り」
主な登場人物紹介・第2章


本編投稿の前に第2章で初登場のキャラの紹介を掲載します。

ミアの他にも各方面からキャラが出てきますので、この小説内でどう活躍するか、事前予測しながら読んでいってください!それでは!


虹ヶ咲学園スクールアイドル部

 

ミア・テイラー(CV:内田秀)

虹ヶ咲学園所属の3年生。アメリカからの留学生で、本国では飛び級で今現在の地位まで上り詰めた為、日本に来てもそれは適用されている。因みに実年齢14歳と登場人物中最年少。世界的に有名なテイラー一家の次女に生まれたまごう事なき天才作曲家。その実力を証明するものとして、ランジュに頼まれて虹ヶ咲に来る前に彼女が個人的に作曲していた曲が世界の音楽ランキングヒットチャートに複数ランクインしている。常日頃から「退屈」と口にしていて、かなりの厭世家。

 

 

藤黄学園・スクールアイドル部

 

綾小路 姫乃(CV:日岡なつみ)

華道部との掛け持ちでスクールアイドル活動に取り組んでいる、写真撮影が趣味の女の子。モデルで虹ヶ咲スクールアイドル同好会所属の朝香果林のモデル時代の時から大ファンで彼女に接触する為ならば、どんなことでもやってのける覚悟とほんの少しの異常性を持ち合わせている。けれど、必要以上の干渉はしない、ファンの鏡。

 

 

東雲学院・スクールアイドル部

 

近江 遥(CV:本渡楓)

今一番注目されている新人スクールアイドルとして雑誌に特集が組まれる程に人気を高めている東雲学院のスクールアイドル。同好会所属の彼方の妹。基本、自分一人で何でも卒なく熟す姉・彼方を心配していたが、原作アニガサキの彼方回でその問題は解決。現在も仲睦まじい姉妹愛で良好な関係を築けている。彼方が遥ちゃん一筋に対して此方はお姉ちゃん一筋。

 

 

対愛弗防衛機関《ムーンカテドラル》

 

???(CV:杉田智和)

対愛弗防衛機関《ムーンカテドラル》に所属する謎の男。ランジュの設置した『監視委員会』に何やら異常に警戒を示している様だが……。

 

???(CV:新田恵海)

対愛弗防衛機関《ムーンカテドラル》に所属する、流浪の女性シンガーソングライター。『監視委員会』の実態調査を兼ねて、ストリートライブ開催の為にお台場を訪れていた。

 

???(CV:楠田亜衣奈)

対愛弗防衛機関《ムーンカテドラル》を経営している女性。特徴的な関西地方の方言で話す。虹ヶ咲学園内に『NLNS』基地を作り、淳之介達を雇用した張本人。

 

 

虹ヶ咲学園関係者・他作品コラボキャラ・その他の人物

 

サスケ(CV:杉山紀章)

歩夢が飼っているペット。紫色の身体をした蛇で人語を理解し、話すこともできる。チャーミングな見た目にそぐわず、ハスキーなイケボをしている。

 

オロチ(CV:くじら)

サスケよりもうんと長生きしている、虹ヶ咲学園内に生息する伝説の白い大蛇。歩夢の隠れファンのようで幼馴染みと言う理由だけで歩夢とイチャイチャできる侑にちょっとした殺意を抱いている。偶に料理を作って優勝していたりする。

 




以上が2章で初登場を飾るキャラクター達ですね。

他校のスクールアイドルである姫乃ちゃんと彼方の妹・遥ちゃんが遂に参戦。

対愛弗防衛機関《ムーンカテドラル》とは一体?
そして、そこに所属する謎の男と女……彼と彼女らの正体や如何に!?(というか約2名が声優表記の時点でバレバレというね……)

あと、何処かで聞いたことがあるキャラもコラボ参戦。サスケェ……!


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2-1「NLNS、始動」

さてさて、まさかまさかでかなり早めの第2章突入です!!

そして何と、今回ライブ演出初公開です!やっぱりニジガクにはライブ演出は必須だからね、頑張ってみました(昨日2章の登場人物紹介挙げてます、そっちも見てね)。

原作でも本作でも「目的に至るまでの過程を履き違えている系の悪役」であるランジュの暗躍、そして何より今回のノベライズでメインでコラボさせている「ぬきたし」のNLNS陣営とスクールアイドル同好会メンバーが繰り広げる「スタイリッシュ逃亡・バトルADV」風味のちょっぴり大人なラブライブ。

今宵(投稿時間は正午ですが)もどうか、コッペパン片手にご賞味あれ……!


ノベライズ本編でのオリジナル設定解説①

〇主人公『舘 結子(タチ ユイコ)』について
スクスタのあなたちゃん的な立ち位置。ビジュアルとして
・栗色の髪のセミロング。平常時はポニーにしている(家では下ろす)。
・顔立ちはスッとしていてつり目。一応美少女。
・体系は平均的。胸は貧乳クラスだが、本人曰く「武術の型を披露する時に邪魔だから不要、これくらいがちょうどいい」。
・『パッと見普通の女子高生っぽいんだけど脱いだら凄い(筋肉量的な意味で)』
・本人曰く、自身の筋肉量は一般以上朝の某テレビショッピングで出てくるムキムキの女性以下

〇《μ's》《Aqours》の扱い
設定的に全員が母校から卒業している状態(詳細な年数は敢えて記載しない事とする)。尚、本編中に述べられる彼女達絡みの『事件』は、作者が以前書こうとして或いは書いたが途中で行き詰って止めた作品群の設定の名残(要望があれば、事件内容のみをピックアップしてノベライズ化する事を検討中)。

〇橘兄妹の境遇
原作「抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳(わたし)はどうすりゃいいですか?」では不慮の事故により両親を失っているが、本作では双方とも健在。ただ、仕事の都合で海外出張に出ている為、家には実質淳之介と麻沙音以外誰もいない。

〇Georgius Protocol(ゲオルギウス・プロトコル)
麻沙音作の逃亡用シュミレーションシステム『アリアドネー・プロトコル』を参考にして璃奈が開発したゴーグル型の内蔵秘密兵器(第1章でのお手伝いとはこれの製作の事)。ランジュ率いるスクールアイドル部と『監視委員会』の手から無事に逃れる為のもの。本編ではあまり描写しないが一応、人数分製作済み。

〇監視委員会
ランジュ及び理事長が鍾家の財力を使い、設置したスクールアイドル部の用心棒(詳しくは次回の2章2節で解説)。


……そういや、4日前は「ぬきたし」に登場するアサちゃんこと橘麻沙音の誕生日で今日は糺川礼先輩の誕生日ではないか!
Youtubeで中の人である水野七海さんによるライブ配信がされているようだぞ。是非とも見てみようじゃないか!
アサちゃん、礼先輩、ハッピーバースデー!!(尚、礼先輩は本作には出てこない模様)



アニガサキSS劇場③「貴女と貴方にハッピーバレンタイン」

 

歩「侑ちゃん、ハッピーバレンタイン・・・・・・!」

 

侑「歩夢~ぅ、いつもありがとね」

 

愛「はい!ゆうゆにちょこっとだけチョコを上げるよ。チョコだけにっ!」

 

侑「あっはっはっはっはっは!!ちょ、ちょっと待って、全然、ツボって、受け取れ、ない・・・・・・ぷはははははははははっ!」

 

せ「不肖優木せつ菜、侑さんの為に手作りチョコをご用意しました!(善意100%の笑顔)」

 

侑「えっ、私、せつ菜ちゃんから貰っちゃっていいの!?やったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

か「侑せんぱぁ~い、かすみん特製のチョコ生地コッペパン、受け取って下さい♪」

 

侑「わぁぁ、おいしそう!有難う、かすみちゃん!(やっぱりコッペパンなのか~・・・・・・)」

 

し「流石にチョコレートばかりでは飽きてしまいますよね。と言う訳で、私からはクッキーです、先輩!」

 

侑「しずくちゃんの心遣いが心に沁みるよ・・・・・・有難う、有難う・・・・・・!」

 

璃「私からはこれ。名付けて『璃奈ちゃんマシュマロボード』」

 

侑「わ、凄い!マシュマロ一つ一つに違う表情が描かれてる・・・・・・!」

 

栞「ゆ、侑さん。私からも、その、つまらないものですが・・・・・・!」

 

侑「えぇ~、そんなことないよー。ありがとう、栞子ちゃん!」

 

エ「侑ちゃん、いつも私達の事を見ててくれてありがとう。はい、これは感謝の気持ちだよ!」

 

侑「有難うエマさん・・・・・・!」

 

果「ふふっ、何だかんだ侑にはお世話になってるから。はい、お姉さんからのプレゼントよ?」

 

侑「こ、高級なチョコレートだ・・・・・・!」

 

彼「ふっふっふー、彼方ちゃんからはポッキーをお裾分けだ~」

 

侑「作った訳じゃないんですね・・・・・・」

 

彼「うんにゃ、作ったは作ったけど例年通り全部自分で食い申した」

 

侑「やっぱりかぁ~」

 

侑「あ、そう言えば私もチョコ用意して来てるんだった!先ず、これは同好会の皆の分で、そしてこれが・・・・・・行くよ皆、せーのっ!」

 

全員「「「「「「「「「「「この作品を呼んでくれる貴方へ、ハッピーバレンタイン!!」」」」」」」」」」」

 

(※明日、作者同様チョコをもらう予定のない人へ……おいおい、総勢12名からチョコのプレゼントだぜ?嬉しいけど、糖尿病にならないようにな!)

(※明日、チョコ貰うの確定事項だよって人……モテの最前線へ行った者達に私が声を掛けるべき事は何もない。取り敢えず(幸せで)孕めオラァ!!)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

それから一週間後の事。私達スクールアイドル同好会は、講堂のステージにて急遽ライブを行う事にした。その原因としては勿論、あのスクールアイドル部の存在。

 

時を遡る事4日前、ライブの下準備を整えた私達の元にいきなり現れた彼女達は、スクールアイドル同好会に対して宣戦布告をしてきた。

 

『来週の貴女達の講堂のライブ、私達も乱入させてもらうわ』

 

『精々、このアタシに観客が取られないように頑張りなさい?ふふふっ・・・・・・!』

 

私の友達である高咲侑。このスクールアイドル同好会の大黒柱たる存在が音楽科の研修の為にこの地を去って2週間。私が代理として就任してから次から次へと色々起こり過ぎだ。しかも、私の頼みの綱でもあった栞子ちゃんも最近は時々何か凄い思い詰めてるし。こんなの私のデータにないよぉ・・・・・・!

 

「あら、また考え事かしら、結子。追い込み過ぎは体に毒よ?」

 

「果林さん・・・・・・」

 

「そういう時は寝るのが一番。どれどれ彼方ちゃんが君を( ˘ω˘)スヤァさせてあげよう」

 

「彼方さん、今は練習中だからちょ・・・・・・( ˘ω˘)スヤァ」

 

「先輩!?嘘、本当に彼方さんの力で先輩が眠りについた・・・・・・!?」

 

「おーい、起きてー。璃奈ちゃんボード『おはようございまーす』」

 

「あらあら、完全に寝ちゃったわ。これは相当、疲れが溜まってたのね」

 

でも、そんな明確な敵対組織みたいなのが出てきたものだから、あの時に交流を深めた愛ちゃん、エマさん、歩夢ちゃん、かすみちゃん以外のメンバーとも仲良くなれた。あれだね、不幸中の幸いもしくは怪我の功名って奴かな。前途多難過ぎるけど、意外と悪くない・・・・・・のかも。

 

「結子さーん、そろそろ再開・・・・・・って寝ちゃってますね」

 

「フフフ、彼方ちゃんの超絶マジックは種も仕掛けもないのだよ」

 

「そりゃあまぁ、疲れてた時にいきなり頭の下によさげな枕置かれたら・・・・・・ねぇ?」

 

「仕方ありませんね。では、代わりに私がリズムをとるので皆さんはそのままでお願いします」

 

連日続いた、侑のノートから同好会のみんなと関わっていく為に必要な、様々な情報の数々の暗記。それにライブも控えているから個々の演出がどうだとか楽曲の云々閑雲がどうとか。ねぇ本当にこれ、侑が全部一人でやってたの、作業量とかあり得なくない?

 

「とてもじゃないけどときめきだけでやれる作業量じゃな・・・・・・Zzz」

 

「わぁ、寝言だ」

 

「侑ちゃん程じゃないけど、結子ちゃんの寝顔も可愛いね」

 

「かすみんは最近の歩夢先輩の侑先輩へのこだわりが怖いDEATH・・・・・・」

 

とはいえ、ライブが始まらない限りは向こうも手出しはしてこない気らしいので、本日も同好会メンバー達はいつも通りの練習を少し軽めに行っていたのだった。

 

 

一方、その頃の『帰宅管理部』では――

 

「そういや今日はカス子たちのライブらしいじゃん」

 

いつもの寝床、部屋の隅っこに置かれた毛布の詰まった段ボール箱の中に麻沙音はいた。そして、暫らくボーッとした後に急に思い出したが如く、講堂でやるライブの話をし始めた。

 

「急にどうした、アサちゃん」

 

「見に行こうかって話をしてんだよ、兄。何たってあそこには愛しの愛しゃんが露出高めの衣装で踊ってくれるって言う個人的にとんでもないご褒美があって、でっへっへっへ・・・・・・!」

 

麻沙音はいつものげへげへした笑いを浮かべて、両手をわきわきさせていた。相変わらず、処女童貞を拗らせた可愛げのない可愛い妹だった。

 

「はい!良ければ私もドスコイ系スクールアイドルとしてデビューしてみたいです!」

 

「けっ、誰がピザの擬人化のステージなんか見るかよ、養豚所に帰れ」

 

「大体いいのかよ。アイドルやるって事は必然的に露出多めの格好をさせられる可能性があるから、畔さんのその醜い腹の皮下脂肪が観衆のもとに晒されるんだぞ?」

 

「あっ・・・・・・それは普通に死ねますね。止めておきます」

 

スクールアイドルへの転換を夢見た美岬の妄想を間発入れずに叩き壊す麻沙音。だがそれは罵倒に見せかけた助言だったのかもしれない。でもなければ、美岬の他人に腹を見せるのが怖いというコンプレックスを態々使って説明などしないはずなのだ。

 

「スクールアイドルかぁ。いいな、私もやってみたいな!」

 

「わたちゃん、ロリにはスクールアイドルなんて無理な相談だぜ」

 

「ロリじゃないですけど!」

 

「成程、ロリ系スクールアイドルの先駆けか・・・・・・!」

 

「何だぁ、兄?ついにモテなさ過ぎてロリコンでも拗らせたか・・・・・・?」

 

「ロリじゃらいれすけろぉ!?」

 

橘兄妹の畳みかけるような禁句攻撃に、遂にヒナミは怒り心頭のあまり呂律が回らなくなってしまっていた。こういうところこそがロリと呼ばれる要素をさらに加速させているとは、思いもしないだろう。

 

「すくーるあいどる、で御座いますか。私もそのような存在になれますでしょうか」

 

「文乃の場合はなったらなったで実家のお父さんとかが五月蠅そうだよね、溺愛するって意味で」

 

「あの人の事など気にするだけ無駄に御座います、ぷいっ」

 

その瞬間、何時もニヒルに笑って悪いおっちゃんのイメージがある文乃の父親が、そんなイメージをぶち壊すが如く、何処かで号泣しながら文乃の名前を叫んでのたうち回っている姿が、その場にいる全員の頭の中に浮かぶ様だった。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、文乃ーーーーーーーっ!?』

 

「私は・・・・・・流石に無理よねぇ」

 

「いいえいいえななしぇさんならいずれきっとギャルビッチかいのかがやけるニュースターとなってわたしらのとようなギャルビッチにうえるものたちのきぼうのひかりとなってそしてゆくゆくはふしょうこのわたくしめがかならずやファンクラブかいいんいちごうをかちとってみせまする、デュフフフフ」

 

「グッズとか出たらアサちゃんが原因で我が家が破産する・・・・・・!?頼む奈々瀬、後生だ!!」

 

「あー・・・・・・流石は私のチャンネルに呟く一言一言が全部スパチャの子なのだわ」

 

ちょっと残念そうにしながら、まさか自分が間接的に橘家の家計を火の車にし兼ねないと言う事情から何時ものように一歩引いて見せる奈々瀬であった。

 

・・・・・・一応、これは補足なのだが、奈々瀬は動画配信サイト『Youkakutube』で個人的に動画配信をしており、フォロワー数も多い。そして、そんな彼女が動画配信生放送をする度に麻沙音は自宅のPCから呟く一言一言を全てスパチャに載せている。本人曰く。

 

『奈々瀬さんいう一生涯ではどうやってもお目に掛かれない至高のギャルビッチの配信となれば、全てを賭けるのは当然だろ、兄ィ!!』

 

・・・・・・と言う事らしい。一方兄であり、現在は海外出張中の両親の代わりに家計を維持している淳之介としては、出来れば一個人の精神論だけで家計を圧迫しないでほしい、との事。

 

「じゃあ、アサちゃんがなるってのはどうかしら?」

 

「えっ、わ、私ですか?いや、私もそういうのは別にいいかな、と・・・・・・」

 

「こんなに可愛いアサちゃんを不特定多数の童貞達の前に出せと?お兄ちゃん、許しませんよ!?」

 

「あんだよ兄、お前も童貞イ〇ポの同類の癖して他の人らに文句言える立場かよ!?」

 

「今度は俺が我が家の家計を火の車にしてしまうだろぉ!?」

 

「結局はファンになる事前提じゃんかよ。でも妹の為なら財布の紐ゆるゆるにしてくれる兄、好き!」

 

淳之介と麻沙音が罵倒し合うのを止め、がしっとお互いを抱擁する。性別の壁を越えた、まさに橘兄妹にしか再現できない理想の兄妹愛だった。

 

「淳くんと麻沙音ちゃんは相変わらず仲がいいなぁ」

 

「平常運転過ぎて何だか安心しちゃうわね」

 

奈々瀬の言う通り、これが彼等の日常、変わり映えのない程退屈な今の象徴でもあった。

 

「あのー、いつものやり取りも良いのですが今日は何で態々集まったんですかね、私達?」

 

「あんだよ、食べて寝るだけが取り柄のピザファットにしては今日は冴えてるじゃねぇか」

 

「私、間違ったこと何も言ってないのに・・・・・・酷い!」

 

「今日集まって貰ったのには訳がある。奈々瀬、例のアレを」

 

「ん、了解。やれやれ、最近大人しいと思ったらまた淳の厨二病が始まったのだわ・・・・・・」

 

珍しく美岬が突っ込んだ発言から始まり、何やら再びわちゃわちゃし出したと思ったら、淳之介の指示を受けて奈々瀬が壁側に一つだけ付いている怪しげなスイッチを何の躊躇いもなく押す。すると、今までホワイトボードが掛けられていた壁がスライドして開き、中に広めの空間のある1台のエレベーターが姿を現した。

 

「ホント、何でこんな大掛かりな設備がついてるのかしら、この部室」

 

「さぁな。ただ、こういうのは漫画とかアニメだと俺達がこれから学園に潜む秘密組織と戦って、とんでもない活躍をする暗示だったりするわけだ」

 

「だーから、そういうのを厨二病っつーんだよ、兄」

 

「何か淳之介君、今めちゃくちゃ悪い顔してません?」

 

「古来より、力を持つ者は他者より忌み嫌われる定めにあります。ここは我慢の時で御座います」

 

「あーあ、こんなトキ、礼ちゃんが居てくれればなぁ」

 

各々が別々の事を宣りながら、そのエレベーターの中へ乗り込んでいく。彼等の後姿は宛ら戦場に向かう選ばれた戦士達のようであった。

 

「アサちゃん、ホワイトボードに例の張り紙は張ったか?」

 

「ん、任せてよ兄。そこら辺の細工は事前にしとくのがこのアサちゃんなんだぜ?」

 

「よし、それじゃあ作戦会議と行こうか」

 

扉が閉まり、淳之介たちの姿が見えなくなると、その空間は自動的に元の何の変哲もない教室へと戻り、ホワイトボードには先程淳之介と麻沙音が言った通り、一枚のメモ帳が貼ってあった。

 

 

――舞台は整った。いざ、戦いの始まりへ。

 

 

「うん、大丈夫。機材は、問題ない」

 

「スクールアイドル部の人、まだ来ませんね」

 

「どうせこっちの事甘く見て途中でフラっと現れるつもりなんですよ。こうなったら、かすみんのステージで会場を盛り上げまくって、乱入しても無駄な足掻きにしてやりますよ・・・・・・!」

 

最初の場面から2時間後。いよいよ今日のライブ本番直前となって、私達は学園の劇場のステージ裏・・・・・・つまり楽屋に集まっていた。先程、彼方さんによって一時的な睡眠を得ることのできた私の目はすっかり元のパッチリ感を取り戻していた。

 

「結子ちゃん、調子は大丈夫そう?」

 

「歩夢ちゃん・・・・・・うん、さっき寝たから問題ないよ」

 

「そっか、良かった」

 

今日のセトリを確認していた私の前に歩夢ちゃんが駆け寄ってくる。基本、このスクールアイドル同好会に所属する人達はとっても優しいが、中でも一番歩夢ちゃんがエマさんとは違うベクトルでフワッとしていて近くにいてもらえると凄く落ち着く。そんな彼女だから。

 

「歩夢ちゃんは、さ・・・・・・ホントは私の事、どう思ってるの、かな?」

 

「どう思ってるって?」

 

「うん。侑からさ、大体聞いてるんだ、歩夢ちゃんの事」

 

高校に入って、何か目付きが怖いとか女子なのに筋肉が付きすぎてて萎えるだとかそんなことばかり言われて避けられてきた私。そんな私に唯一話しかけてくれたのが侑だった。

 

そう、あれはスクールアイドルフェスティバルという行事がある事を知らなくて偶々通りかかった時の事。

 

『あれ・・・・・・何かやってるな?』

 

『えっと・・・・・・スクールアイドル、フェスティバル?』

 

思えばあれが初めてだった。中学校時代から憧れてはいたが、所属していた剣道部の大会がライブの当日に運悪く重なることが多くて、直接見にいけたことはなかった。だから、買い出しの用事があるというのについつい足が其方に向いてしまった。そして、出会った。

 

『スクールアイドルフェスティバルー、まだまだ盛り上がってますよー、是非見ていって下さーい!』

 

『・・・・・・!』

 

ライブ会場の近くで、道行く人全員に懸命にチラシを配り続ける一人の少女。宣伝用のスタッフでも雇っているのかなと思いきや、その子の服装・・・・・・上は何かオリジナルのTシャツっぽいものを着ているがスカートを見た途端、驚いた。アレは間違いなくウチの学園の指定制服、ということはあの子はウチの学園の生徒・・・・・・?

 

『あ!ねぇねぇ、そこの貴女。もしかしてスクールアイドル、興味あるのっ?』

 

『えっ、あー・・・・・・うん』

 

『わ、本当!?じゃあ私と一緒だ、嬉しいな!』

 

急に話しかけられて最初は戸惑ったけど、それでも彼女の問いへの返答を同意で返した私に、物凄くキラキラした笑顔で反応してくれた。私にはそんな彼女の反応が新鮮で嬉しかった、だからついつい余計な事を世間話ついでに話してしまったのだ。

 

『へぇー、スクールアイドルは好きだけど自分はあんまり似合わないと思ってるんだ』

 

『まぁね。私って・・・・・・ほら、この通り筋肉量凄くてさ』

 

制服の袖を捲って、腕に力を入れて彼女に見せてみる。すると、彼女は特に怖がる様子もなくただ純粋に「うわぁ~、凄い!」と目を輝かせていた。

 

『だからやるならマネージャーみたいな立場がいいなと思って色々調べてたんだけど・・・・・・』

 

スクールアイドルがいてその上マネージャーを必要としている学校を調べたはいいが、マネージャーの募集要項にははっきりとした字でこう書かれていた。

 

《条件:我が校に所属している男子生徒であること》

 

結局、何処を見ても同じ条件付きで電話して聞いて見ても答えは同じ。自分が元剣道部で力もあって何かあった時に護衛となれると言っても「でも、男子生徒の方がいいから」の門前払いであった。

 

それにしても、何故男子生徒でなければいけないのか。それについても調べた、そしたらその解はあっさりと見つかった。

 

『伝説のスクールアイドルグループ《μ’s》と《Aqours》。彼等と彼女達の起こした奇跡・・・・・・?』

 

当時、まだスクールアイドル活動が活発化する前の事。突如、スクールアイドル界に彗星の如く殴りこんできた期待の新星《μ’s》。そこに所属する9人の歌の女神達を護衛する3人の騎士(ナイト)達。彼等はその当時の音ノ木坂が廃校の危機から脱するために募集した共学化テスターで音ノ木坂に所属していた生徒だったようだ。そして何より目を引いたのが。

 

『《μ’s》のリーダーである高坂穂乃果の誘拐事件・・・・・・・!?』

 

日付はラブライブ準決勝が行われた日の会場での事。《μ’s》誕生のきっかけとなった、音ノ木坂学院と同じく東京都千代田区に存在するUT-X高校の《A-RIZE》。彼女達との決戦ともいえる舞台で疲労する曲のセンターを務めるはずだったリーダーの高坂穂乃果が行方不明になる事件があったが、その3人の男子生徒の勇気ある行動のお陰で高坂穂乃果は無事会場へ到着。彼の名曲『Snow halation』が披露されたのだとか。

 

『成程・・・・・・それじゃあ次は《Aqours》の方か』

 

《μ’s》の活躍によって中止が騒がれていたラブライブ大会が延命し、スクールアイドル活動が一気に伸び始めた数年後の事。今度は《μ’s》に憧れた一人の少女が立ち上げた《Aqours》。静岡県沼津の内浦という小さな港町にある浦の星女学院。その当時で既に廃校が決定されていたこの学校を廃校から救うために生まれた奇跡のスクールアイドル。彼女達も《μ’s》と同じく3人の男子生徒によって護衛されていたのだという。そして、そんな《Aqours》が体験したという一番の事件が。

 

『沼津内浦間のヤクザ抗争・・・・・・』

 

元々沼津と内浦の地を代々守り、その地に住まう人々とご近所付き合いまでしていたとある一族の家系。当時、沼津の地に舞い降りたフランス・パリで栄華を築いた『オハラグループ』と冷戦中だったとされた時。突如彼等の領地内に無法者ばかりが集められたヤクザグループが侵入。そのまま抗争に繋がり、《Aqours》も被害を受けたが、土地を管理していた一族とオハラグループの結託。そして、要である3人の男子生徒達による命がけの護衛でラブライブ大会に優勝。優勝旗を母校に持ち帰り、見事廃校が決定した危機から母校を救い出すことに成功したのだという。

 

『ちょっとおっかなすぎじゃない・・・・・・?スクールアイドル活動』

 

何故男子生徒である事が絶対条件として重宝されるのか。その理由は今現在において、伝説のスクールアイドルと呼ばれる《μ’s》と《Aqours》の彼女達を大きな事件から助けたのが彼女達の学校に所属していた男子生徒達だったから、と言う事だった。

 

『でも、不自然な事にその後はそう言う過激な事件がパッタリとなくなってるんだよね・・・・・・怖いな』

 

《スクールアイドル2大事件簿》として今尚語り継がれるそれは、《Aqours》の巻き込まれた事件を最後に急に途絶えていた。後は、所属アイドルが男に強引にナンパされかけたーとか、過激な活動をしているスクールアイドル反対派の突然のデモでライブが中止にされたーとかそんな感じ。確かにそれも事件ではあるが、《μ’s》と《Aqours》の時ほどではない。

 

『だったら、猶更私の力が役に立つかもしれない・・・・・・!』

 

決して自惚れているわけではない。けれど、もし実際に《μ’s》や《Aqours》の時のようなものではないかも知れないが、少なくとも多少の危険を払いのけることはできるはずだ。だからこそ私は、募集要項こそなかったものの自由な校風で知られる虹ヶ咲ならそれっぽいものがあると信じて入学したのである。

 

『でも、やっぱり虹ヶ咲にもなかったし。そもそも来た当時はスクールアイドルもいなかったし』

 

『そっかぁ・・・・・・そんな事があったんだ、知らなかったなぁ』

 

『ま、そういう事件とかは起きて~・・・・・・いや、それっぽい感じのはあったけど』

 

『あったの!?』

 

それっぽい事件がこの虹ヶ咲でもあった、そう侑から聞いた私は不謹慎ではあるがその時に少し心が躍った。ならば、もしかしたら、此処でなら出来るかもしれない。私が心の底からやりたいと思ったこの力が背負いし使命というものを。ただ侑は少し困惑した表情で言葉を続ける。

 

『い、いやぁ、でもそれは身内のゴタゴタみたいなやつだったし・・・・・・ねぇ?』

 

『そっか・・・・・・ところで話は変わるけど、高咲さんはスクールアイドルなの?』

 

『侑、でいいよ。ううん、私はどちらかと言えばマネージャー、みたいなもの、かな?』

 

マネージャー枠。そして原作・アニガサキを視聴した読者の皆さんならば分かる通り、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会名誉部長・高咲侑は女子生徒である。疑問詞が付いてはいるが、その返答を聞いて漸く確信できた。今の私の居場所は此処にしかないと。

 

『でも結子が話してくれた、スクールアイドルならではの事件が起こるってのは気になる所かな』

 

『ウチの同好会には幼馴染みの歩夢もいるし、皆が皆、普通の女子高校生なワケで』

 

『だから皆が将来的にそう言う事件に巻き込まれるのは何か嫌だなって思う』

 

『侑・・・・・・』

 

「大切な仲間を守りたい、全力で応援したい」。侑のそんな本心が先程述べた言葉に全て詰まっていた。なればこそ、今の自分が力になりたい・・・・・・が果たして侑はそれを望んでいるのだろうか。誰かを救いたいという気持ちは同時に誰かの危機を望むものである、と誰かが言っていた。侑と同じで私もスクールアイドルが好きだから、自分で使命を感じてはいても、侑からの誘いの言葉が出ない限りは、自分のこの願望をこの場で容易に口にするのは憚られた。

 

『あ、じゃあさ、結子に一つ提案があるんだけど、いいかな?』

 

『何?』

 

『実は私、まだ自分の夢みたいなのをきちんと見つけられてなくて。けど、このスクールアイドルフェスティバルが無事終わった時に何となくだけどそれが掴めそうな気がする』

 

『それで私が夢を見つけて一時期皆と離れるようなことになった時は、結子が私の代わりに皆を守ってくれないかな?』

 

『それって・・・・・・』

 

『あはは、まぁ簡単に言えばマネージャー役の体験実習って感じだよ。結子がいいなら、だけどね』

 

言いながら、侑の表情に少し影が落ちる。ああ、本来なら彼女は決してこういう選択をしたりはしないのだろう。だからこそ、私は本来ならば此処にはいない。彼女と彼女達の、平和だけれど日常的な波風の立ち引きがあって。それらを乗り越えていくからこその青春群像劇がある。だが、私は今此処にいる。此処にいて高咲侑と向き合っている。で、あるならば。

 

『分かった。もしそんな時が来たら、侑の大切なスクールアイドル達は私が守るよ』

 

『ホントに!?あははっ、有難う結子!』

 

私の答えを受けて、再び侑の表情に光が戻る。やっぱり彼女の存在は眩しい、だからこそ憧れた。例えスクールアイドルではなくとも、スクールアイドルを全力で、ただ直向きに応援するその姿が他のどんなスクールアイドルよりも輝いていたからだ。

 

『じゃ、約束!』

 

『うん、約束』

 

『あ、それともう一つだけ。もしその期間が終わって私が帰ってきても、結子がまだ続けたいって思ったなら私と一緒にやってみるってのはどう?マネージャーの相棒的な、さ』

 

『うん、それもいいかもね。考えとく』

 

『へへっ、じゃあ、それも約束だねっ!』

 

そう言葉を交わして、私と侑はお互いに誓いの握手をした。

 

――それから数日後の事。彼女との一つ目の約束を果たす機会はすぐにやってきた。彼女は同好会の皆ともっと深く関われるようにと音楽科への学科移動を試みた。無事、一次試験は合格。そして今、彼女は2次試験であり同時に音楽科加入の際のカリキュラムである海外での2か月間の滞在をしている。私は、あの時の事を一生涯、決して忘れはしないだろう。

 

「へぇ、侑ちゃんがそんな事を・・・・・・」

 

「そ。だから偶に思っちゃうんだ、こんな私があの侑の代わりで良かったんだろうかって」

 

私の侑との出会いの経緯をずっと聞いていた歩夢ちゃんは静かに、けれど力強くうんうんと頷く。入ってみて分かった、この同好会には侑の存在は絶対的に必要であると。現に他のメンバーとはそこそこ仲良くはなれたが、まだかすみちゃんには認めてもらえてはいない。だから思ってしまうのだ、本当に私の選択は正しかったのだろうかと。

 

「・・・・・・それは大丈夫だと思うよ」

 

「歩夢ちゃん?」

 

私はその言葉に思わず顔を上げる。すると、歩夢ちゃんがその場に屈んで私の手を握った。私のすっかりゴツくなってしまった手とは大違いの、とても柔らかい手だった。

 

「確かにこの同好会には侑ちゃんが必要だよ」

 

「でもね、それと同じくらい。一緒に過ごした時間はまだ少ないけど、貴女の居場所にもなってる」

 

「だからもう少しだけ自分を信じてあげようよ。かすみちゃんもそのうちきっと分かってくれるから」

 

その時、私に向けられた歩夢ちゃんの笑顔は、私の心の清涼剤となって自分の中で燻ぶっていた気持ちを晴れやかなものにしてくれた。

 

「有難う、歩夢ちゃん。お陰でいろいろ吹っ切れそうだ」

 

「ふふっ、どういたしまして。これからは、あんまり一人で抱え込んでちゃダメだよ?」

 

優しい言葉を言い残して、歩夢ちゃんは楽屋奥の部屋に引っ込んでいった。恐らく、ライブの為の最終確認でもするつもりなのだろう。本当に噂通り、頑張り屋な子だ。

 

「もうそろそろ本番ですよ、結子さん。行けそうですか?」

 

「あ、栞子ちゃん」

 

歩夢ちゃんの姿を見送った後、今度は栞子ちゃんが私に近づいてきて話しかけてくれた。表情は・・・・・・うん、いつも通りのキリリとした顔に戻っている。良かった、最近はよく暗い顔をするから心配だったんだけどこの調子なら。

 

「うん、私は大丈夫。さっきまで歩夢ちゃんに励まされてたからね」

 

「歩夢さんが・・・・・・ふふっ、相変わらずお優しい方ですね」

 

「栞子ちゃんも歩夢ちゃんのああいうところが好きなの?」

 

「す、好き・・・・・・ですか?///

 

栞子ちゃんも以前歩夢ちゃんと侑に励まされたという話を聞いた。だから、もしかしたら今の私と同じ気持ちだったのだろうかと、そう聞こうとしたが栞子ちゃんはその問いに、少し頬を赤らめて黙りこくる。中々珍しい反応だったため、少し驚いてしまった。

 

「た、確かに大変好ましくはありますが、別にそういう訳では・・・・・・///

 

「そう?でも、私は栞子ちゃんの事も同じくらい好きだけどな」

 

「っ・・・・・・!?そ、そうですか・・・・・・その、えっと、ありがとう、ございます///

 

おや、気のせいかな?さっきよりも栞子ちゃんの顔が一層真っ赤になった気がする。ど、どうしよう、まさか急に熱でも出てきたのかな!?

 

「栞子ちゃん、顔赤いけど・・・・・・大丈夫?」

 

「えっ!?あ、い、いえ!何でもありません、大丈夫です!?///

 

「そっか、良かったぁ。無意識に栞子ちゃんに無理させちゃってたら侑に合わせる顔がないからね」

 

彼女はまだスクールアイドルとしてステージに立つということはしていないようだが、それでも私の友達である侑がスクールアイドル枠として採用した子でもある。そして、彼女は同時に学園の生徒会の副会長も務めている。サポートで不慣れな私に色々教えてくれるのは有り難いが、やはり無理だけはさせないようにしないとな。

 

「結子さん、もうすぐで開演ですよ!」

 

「あれ、もうそんな時間か。それじゃあ皆、今日のライブ絶対に成功させよう!」

 

「「「「「「「「「「私達の虹を咲かせに・・・・・・!」」」」」」」」」」

 

こうして、ランジュ率いるスクールアイドル部との対立が予想される今日のライブが幕を開けた。

 

 

「――雷鳴が胸に鳴り響いて、閉じ込めていた感情が溢れ出していく」

 

「もう、見失ったりしない。私だけの、思いを・・・・・・!」

 

トップバッターはしずくちゃんで『Solitude Rain』。前奏と共に語り紡がれるモノローグに周囲の観客達のボルテージが一気にブチ上がる。

 

 

『天(そら)から舞い落ちる雨粒が ぽつり ぽつり 頬伝って』

 

しずくちゃんの演劇風の曲調に、会場の皆と一緒に、私は歌詞が紡ぐ物語の中へと誘われた。

 

『知らないうちに 心 覆っていた仮面を そっと洗い流していくの』

 

そして同時に、こんな物語の誕生の時に一番近くで立ち会えた侑には嫉妬の感情すら覚えた。

 

『胸の奥 変わらない たったひとつの思いに やっと気づいたの』

 

ああ、でもこの曲を聞いていると、当時のしずくちゃんの心境の変化が理解できてしまうようで。

 

『目覚めていく 強く 裸足で駆けだして行こう どんな私からも逃げたりしない』

 

気付いた時には、私の目からは一滴の涙がつーっと頬を伝わっていくのが分かった。

 

『迷いも不安も全部 ありのまま抱きしめたなら まぶしいあの空へと 飛びだすよ』

 

 

曲と言うものを聞きながら、涙を流したのは何時ぶりだろうか。少なくともここ最近では滅多にそう言う体験は出来ていなかったと思う。意味もなく飾られた歌詞、遠回り過ぎる表現・・・・・・現代病とも呼ばれるその事実をこの歌は容易に吹き飛ばした。それくらいに感動的だったのだ。

 

「結子さんは、感受性が豊かなんですね」

 

「えっ、わっ、栞子ちゃん!?」

 

私が歌に夢中になっていると先程まで曲に合わせて機材調整していた栞子ちゃんが、背後から私に声を掛けてくる。私はびっくりしすぎて座っていたパイプ椅子から転げ落ちてしまった。

 

「だ、大丈夫ですか・・・・・・!?」

 

「あ、あはは、大丈夫大丈夫。元々身体は丈夫な方だからさ」

 

「そ、そうですか。それなら良かったですが・・・・・・」

 

こうして何かあった時は咄嗟に心配してくれる辺り、栞子ちゃんも優しい子だなぁ。

 

「それで何の話だったっけ?」

 

「結子さんは感受性が豊かな方ですね、という話です」

 

「私が・・・・・・?そうかな、自分ではあまりそうは思わないけど」

 

「何を言っているんですか。先程、しずくさんの曲を聞いて泣いていらしたでしょう?」

 

あ、そっか。さっきの驚きで少し忘れかけたけど、しずくちゃんの歌を聞いているうちに色々な感情がごっちゃになって、感動に打ち震えていた自分がいたのは覚えている。けど、感受性が豊かかどうかで言われるとそうでもないような気もするが。

 

「でも、いい曲だよね。今まで携わってこれた侑が羨ましいくらい」

 

「ふふっ、そうですね。皆さんの曲を聞くと、やはり羨ましい気持ちが勝ってしまいます」

 

「あはは、じゃあ栞子ちゃんと私、一緒だね」

 

「ですね。活動に途中から加入した者同士ですから、私達」

 

言い合ってお互いにふふふ、と笑う。うん、こういう同じ部活動の仲間との何気ない会話が出来るって言うのは本当にいいものだ。

 

それから、しずくちゃんが終わって璃奈ちゃん→愛さん→エマさん→果林さんと続いて、無事ステージはスクールアイドル部の干渉もないまま、進行していった。次の出番は――

 

「しお子ー、次ぃ、かすみんの出番だからぁ、行ってくるねぇ~♪」

 

「おや、かすみさん。そうですね、是非、皆さんに可愛いかすみさんを見せてあげてください」

 

「ぬっ、おうっ・・・・・・い、言われなくても分かってるからぁ!!///

 

かすみちゃんだ。何かよく分からないけど凄く、くるくる回りながら移動していったと言うか。そして、当然の事ではあるが栞子ちゃんには声を掛けていったものの、私には一切のコミュニケーションがなかった。うーん、まだまだ遠いなぁ。

 

「かすみさんに声を掛けられなかった事がそんなに残念でしたか?」

 

「まぁ、だって、一番懐いてくれそうな子だから猶更、ね・・・・・・」

 

「恐らく時間の問題ですよ。かすみさんだって今のままじゃいけないと思っているでしょうし」

 

「そうかな、だったらいいんだけど」

 

「間違いないかと。あ、そろそろ始まりますよ」

 

栞子ちゃんが、次のかすみちゃんの曲に合わせて素早く調整を終わらせた。私もそれを合図に部屋の中にある外部撮影のカメラから録画されている映像が映ったモニターをチェックする。

 

だが、この時の私達は完全に油断しきっていた。未だスクールアイドル部の介入のない中で着実に進んでいく目の前のライブに夢中になり過ぎて、肝心な警戒を怠ってしまっていたんだ。

 

 

『ああ、きらり輝く未来にきゅんとしたなあ (大切な場所)なんだかんだね』

 

『たくさんの願いと思いを込めた歌を歌おう』

 

『このダイヤモンド光って・・・・・・』

 

 

非常に可愛らしい、まさに可愛さの果てを追求し続ける彼女の為の曲。サビ前のコーレスが最高に気持ちいい、かすみちゃんの持ち曲「ダイヤモンド」の歌詞が、2番に差し掛かったその時。

 

「あら、所詮その程度の実力なのかしら?なら、貴女達はやっぱりアタシの敵じゃあないわね!」

 

「sit・・・・・・怠いな」

 

最も恐れていた事態。ライブ中にも拘らず、彼女は仲間を引き連れ、そのステージの上に実に堂々と。そして、自身に満ち溢れた笑みを浮かべて現れた。

 

「――平伏しなさい!全ては”善”全ては”アタシ”・・・・・・このランジュの最高のパフォーマンスを、貴女達に見せてあげるわ!!」

 

・・・・・・彼女の高らかな宣言と共に、彼女の持ち曲「QueenDom」が披露された。

 

それからは実に見るも無残な惨敗の形。彼女を妨害する形で持ち曲をステージの端で披露し続けたかすみちゃんの抵抗も空しく、会場内はスクールアイドル部部長の鐘嵐珠・・・・・・彼女の領域に完全に支配される形となってしまった。

 

『・・・・・・!かすみちゃん、これを!』

 

「へっ、り、りな子!?な、何コレ・・・・・・?」

 

『説明は後。取り敢えず、付けてみて』

 

と、そこへ舞台裏で待機していた璃奈がステージ上のかすみに向かってゴーグルのようなものを投げ渡す。友達から取り敢えず付けてみてとお願いされた手前、いつものように「これじゃあかすみんの可愛い顔が隠れるでしょ」とは言えず、指示通りにそのゴーグルを掛けた。

 

 

――顔認証、完了。生体データベース、登録条件2に該当・・・・・・一致。プログラム、起動します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Georgius Protocol Online...

 

そして場面は、1章1話の冒頭へ戻る。

 

『へっ、やーっぱり現れやがったか・・・・・・あのいけ好かない中華野郎』

 

かすみがそのゴーグルを掛けると、何処からともなくその場にいないはずの麻沙音の声が聞こえてきた。最初こそ従ってはいたが、かすみは楽屋に戻って少し落ち着きを取り戻した為、漸く浮き上がってきた疑問をそのまま麻沙音にぶつけた。

 

「あのぅ・・・・・さっきまで聞き覚えある声だったから自然に受け入れちゃってたけど」

 

『あんだよ』

 

「アサ子、何処から喋ってんの?」

 

『・・・・・・企業秘密だよ。場所考えろ、盗聴されてる可能性もなくはないでしょ』

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

『いいから、黙って私の指示通りの経路で其処を脱出すりゃあいいんだよ』

 

『ちゃーんと全員で無事に着ける事を、ほんのちょっとくらいは祈ってるぜ、カス子』

 

「だからカス子じゃないんだってばぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

麻沙音とかすみの何時もの口論が始まったところで、すぐ近くの通路から楽屋に近づいてくる複数の足音が聞こえてきた。やがて楽屋の扉が乱暴に開かれ、中に数人のスーツを着た男達が押し寄せて来る。あまりに突然の出来事に、その場にいた同好会メンバーは恐怖で固まってしまった。

 

「貴様らがスクールアイドル同好会だな?」

 

突入から一拍間をおいて、スーツの男達の代表であるような男が声を上げる。そんな彼の問いに、この現状になっても唯一恐怖心に打ち勝つ事が出来た結子が問いを投げ返す。

 

「・・・・・・ご名答。それで、貴方達は誰?」

 

「我等はランジュ様及び虹ヶ咲学園理事長様よりこの学園に派遣された『監視委員会』の者だ」

 

「よって、ランジュ様の言伝通り、貴様らをこの場で拘束させてもらう!」

 

その言葉を合図に、複数人の男が一箇所に集まった同好会メンバーに迫る。そんな同好会メンバー達を守るように立ち塞がっていた結子は、故郷を離れる前に聞いた祖父の言葉を思い出した。

 

『――結子よ。儂が何故、オヌシに武術を覚えさせたか、それが理解できるか?』

 

私の実家・・・・・・舘家は戦国の世より名だたる武術の師範代として名を轟かせてきた銘家の一つ。

 

『武術とは、即ち守る力也。例えその技術を持っていたとしても、真に揮える者は少ない』

 

そこに男女と言う区切りはなく、その家の孫娘として生まれた私も例外ではなかった。

 

『故に、守る力が失われ始めた現代にこそ、その術は真価を発揮する』

 

全ては家の為、と父も母も言っていた。だが、祖父だけはその固定概念に縛られていなかった。

 

『覚えておきなさい。オヌシが今まで携わったモノは、全て守るための力であると』

 

家柄などどうでも良い。ただ一つ、これから学ぶ武術の道の先の果てを捉えよ、と。

 

『そして、もしオヌシが心の底から守りたいと願った何かが危機に晒されるようなことになった時』

 

道を一生を賭けて貫こうが、途中で道を違えようが、何処かで履き違えなければそれは同じ道と。

 

『オヌシの培った全てを使って守れ。それがその場でオヌシにしか出来ぬのなら、猶更だ』

 

 

――幾重にも辛酸を舐め、七難八苦を越え、艱難辛苦の果て、満願成就に至る。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「なっ、貴様、何をッ・・・・・・ぐふっ!?」

 

結子が正面に放った掌底が男の腹部に突き刺さり、男がその場に崩れ落ちる。

 

それを見た他の男が結子の身柄を取り押さえようと向かってくる。・・・・・・甘い!

 

「貴様、よくも・・・・・・がはっ!?」

 

「やってくれたなぁテメェ・・・・・・!いいかァ、言っとくが俺は中学のこ・・・・・・げっふぅっ!?」

 

「おのれ、学園に所属していながら理事長様に楯突く気か・・・・・・ぐわぁぁぁぁぁっ!?」

 

気を整え、相手の隙を窺い、その一点に攻撃を絞る。

 

――舘家秘伝奥義参の型『激身裂砕』。

 

文字通り、相手の身を激しく裂き砕く技。打ち込む位置を見誤れば、人を殺す凶器とも成り得るが技巧によって正しく磨くことで急所に当てずとも相手を気絶させることの出来る、不殺生の奥義となる。兎に角、今は同好会の皆をこの場から逃がすことだけを考えろ・・・・・・!

 

「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 

「くっ・・・・・・こんなやり手がいるなんて聞いていないぞ!至急、増援を・・・・・・だはぁっ!?」

 

「何て迷いのない動き・・・・・・こんなの私のデータにない・・・・・・おほぉ!?」

 

近づいては打ち、挟まれては後退し、打ち返す。大の大人の男を一切顔色を変えずに倒し続ける私を見て、同好会メンバーの目に少しずつ希望の光が戻ってきた。指示するなら・・・・・・今か。

 

「皆は急いで扉から出て脱出して!私もすぐに追いかけるから・・・・・・!」

 

「結子、せんぱぁい・・・・・・!」

 

「結子さん貴女という人は一体・・・・・・いえ、先を急ぎましょう。皆さん、此方へ!」

 

『えぇ・・・・・・こんなに強いとかチートかよ。まぁ、いいや。地図はデータベース通り、行くよカス子』

 

「頼りにしてるよ~、かすかすぅ!」

 

「もぅ、急かさないでよぉ、分かってるってば!あと、カス子でもかすかすでもないです、かすみんですぅ!!」

 

同好会メンバーがかすみちゃんを筆頭に楽屋の入口へ向かう。その最中で。

 

「絶対に・・・・・・絶対に戻ってくださいね、先輩。じゃないとかすみん、許してあげませんから!」

 

「うん、分かった。約束だよ」

 

この土壇場で漸くかすみちゃんに認めてもらえたようだ。なら、彼女の期待に応えないといけない。それが、友達の高咲侑から託された、私のやるべき事なのだから・・・・・・!

 

 

――それから数分の刻が経ち、応援を呼ばれる前に全ての男達を気絶させ薙ぎ倒した私は脱出する前のかすみちゃんからもらったメモ用紙に書かれている指示に従い、無人の廊下を駆け抜ける。流石に今ばかりは「廊下は走ってはいけません」を守るわけにはいかなかった。

 

「ふっ、はぁ、はぁ・・・・・・!」

 

走る、走る、走る。只管に、がむしゃらに、必死で。そうして辺りを警戒しながら廊下を走り抜ける事十数秒。遂にメモ用紙に書かれている部屋へと辿り着く。そこは。

 

「あ、此処『帰宅管理部』の部室だ・・・・・・!」

 

つい最近に見つけた、記憶に新しいこの場所。しかし、此処は只の部室だったはずだ。虱潰しに探されると直ぐに見つかってしまうのでは・・・・・・?

 

「おい、奴を見かけなかったか?」

 

「いいや、全く。向こうの方も探してみましょうぜ・・・・・・!」

 

「そうだな。む、この先は部室棟か・・・・・・ちょうどいい、此処にある部屋を全て回って探し出せ!」

 

「うわっ、やばっ!?」

 

暫し悩んでいると遠くの方からそんな声が聞こえてきた。最早一刻の猶予も時間もなし。黙っているより行動した方がマシだ、そう考えた私はメモ用紙を信じて『帰宅管理部』の部室の扉を開け、中に入った。急いで扉を閉め、念の為鍵はそのままにしておく。そして、細工として窓を開け放った後、ホワイトボード上に貼られている紙の存在に気付く。私は迷わずそれを手にした。

 

『壁の近くの非常用スイッチを押し、エレベーターに乗り込み、至急地下へ来られたし』

 

『PS 最後の人は責任をもってこの用紙を剥がして帰宅後に処分するように』

 

・・・・・・書かれている意味は解らなかったが、私はその通りに壁の非常ボタンと思わしきものを押す。すると、ホワイトボードの掛かっていた壁がスライドし、その奥に立派なエレベーターが現れた(勿論、ボードの紙は回収済み)。

 

「えぇ・・・・・・すごっ・・・・・・!?」

 

SF映画のワンシーンを彷彿とさせる場面に立ち会ったことに驚きと興奮を覚えるが、今は感傷に耽っている程時間がない。私はすぐにエレベーターへ乗り込み、地下を目指した。

 

扉が閉まる瞬間、先程スライドした壁が元通りになって手前側に立ちふさがる光景がほんの一瞬だけ見えた気がした。

 

「・・・・・・流石にオーバーテクノロジー過ぎじゃない?」

 

そんな私の突っ込みはエレベーターの空間内に虚しく響き渡り、周囲の壁を伝って反響していた。

 

・・・・・・暫らく無言の時間が続き、エレベーターが下へと移動する微かな音だけが響く中、遂にエレベーターが目的の階へ到着したことを告げるアナウンスを流した。

 

『お待たせ致しました。地下1F、地下1Fで御座います』

 

目の前の扉が開き、外の空間が視界に移る。そこには――

 

「あら、よかったわ。元気そうじゃない」

 

「う、うぐぅ~ぐすっ・・・・・・ゆ、結子しぇんぱぁ~い・・・・・・!」

 

「結子ちゃん・・・・・・!良かったぁ」

 

「えっへへ、貴女ならきっと来てくれると信じていました!」

 

「先輩、ご無事で何よりです!本当に、本当に良かった・・・・・・・!」

 

「ふふふ~、貴女も中々に強運の持ち主みたいだねぇ~?」

 

「ゆいゆい~っ!愛さんは心配したんだぞ、このこのぉ~!」

 

「私は・・・・・・結さんなら大丈夫だって信じてた」

 

「良かった・・・・・・結子ちゃん!さっきはありがとうね」

 

「これで無事に全員が揃いましたね。全く・・・・・・一時はどうなる事かと」

 

自分の手で守り通した同好会のメンバー全員が、涙を浮かべて私の帰りを待っていてくれた。

 

「おーおー、再会して早々に感動的な物を見せてくれるねぇ」

 

「良い話ね、いい話なのだわ・・・・・・っ!」

 

「皆さん・・・・・・ゔあ゛ぁぁぁぁぁ~よ゛がっだでずね゛ぇぇぇぇぇぇ・・・・・・っ!

 

「素晴らしい青春の一幕で御座いました。我々も負けてはいられませんね、ふんすっ」

 

「何だろう、美岬の泣き方が凄くて逆に泣けない・・・・・・ッ!」

 

そのメンバー達に紛れて、見慣れた『帰宅管理部』のメンバー達も一堂に会していた。そこで私は恐らくこの部のリーダー的立ち位置であろう淳之介君に質問をする。

 

「ところで、何で一介の部活がこんな場所を?」

 

「あぁ、すまない。余り部外者に感づかれたくなくて態と隠していたんだ。だが、舘さんとスクールアイドル同好会の皆は俺達の敵とたった今敵対した」

 

「だからこそ、俺達は漸く本来の形で動けるようになったんだ。感謝してるよ」

 

( ,,`・ω・´)ンンン?何だか私の問いに対する答えになっていない気がするぞ?そして、何故かさっきから淳之介君が少し悪い顔をしている。あれ、もしかして厨二病患者だったのかな、淳之介君。

 

「おいこら、淳。それじゃあ答えになってないでしょ、ちゃんと答えてあげなさい」

 

「う・・・・・・・分かってるぞ、奈々瀬。ええとだな、つまり俺達は普通の部なようでそうじゃないのさ」

 

「だからこそこんな多少オーバーっぽい工作も出来るって訳なんだが、詳しくは分からない」

 

「俺達はとある人に頼まれてこの学校のこの部を引き継いだだけの一般生徒だからな」

 

成程、つまりその見ず知らずの誰かに利用・・・・・・と言われれば聞こえが悪いが、要するに学校内部の事情をよく知る何らかの情報網からの協力要請に応じただけと言う事か。さては厨二病心が上手く利用された事に何も気が付いてないな?

 

「ふぅん、じゃあ本来は『帰宅管理部』なんて名前じゃないって事?」

 

「その通りだ・・・・・・よくぞ聞いてくれたな!」

 

そして、私の次の質問を聞いた瞬間、明らかにテンションが上がり始める淳之介君。うわぁ、マジだ。

 

「本来なら名乗り口上などないのだが――」

 

「あぁ、ならば今から協力関係となる君達にだけ聞かせてやろう」

 

淳之介がニヤリと笑い、それに倣うかのように他メンバーが淳之介を囲うように周りに集まる。

 

「我等は()()()()()()()N()L()N()S()()――」

 

「・・・・・・全ては危機に晒され続けるスクールアイドル達を守護する者達だ」

 

愛弗防衛勢力”NLNS”。彼等との出会いは、私達とスクールアイドル部の長い戦いの始まりを意味していたのだった。

 

 

 

 

 

「「「「「「――ようこそ、”NLNS”(部)へ!」」」」」」

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?

「ぬきたし」をプレイしている方ならきっと「Georgius Protocol(ゲオルギウス・プロトコル)」起動と「NLNS」の名乗り口上の所でハッスルして頂けたと思います。

そして、今回初挑戦のライブパート。もし何か御意見・御要望等ありましたら、是非感想欄にご記入ください。設定に関する質問でも構いません。現段階で明かせる出来る限りの事に全てお答えします。


……それでは、また次の投稿でお会いしましょう。お楽しみに。


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2-2「鐘嵐珠の激動」

Twitterのフリート機能で告知した時間帯を作者がド忘れしたので、予告より投稿時間早かったかもしれない件。

まぁ、いいや。何時もの設定解説、行きまぁぁぁす!!


スクスタ及びアニガサキ設定の変更点まとめ・その③

・ランジュとミアの関係
スクスタ本編では友達……の間柄であると言う事だが、本作での2人の関係性は無いに等しい。単純に雇用上の関係のみ(ランジュが一方的に親友と思っているだけ、ミアは前述の通りの関係性だと思っている)。故に、ランジュが自身の預かり知らぬところでどういう目に合おうと誰かに何かを吹き込まれようとミアにとっては興味の対象外。支払われた分の仕事はするが、それ以上の領域には首を突っ込まない。

・監視委員会について
スクスタ本編では開始早々から栞子が生徒会長であり、同時に部へ移動しているが為に生徒会役員である右月・左月姉妹が監視委員会の実質的メンバーとなっている……なっているが、ええい、クソぬるい!!頼むから栞子にそう言う謎配慮やらせんな、クソ脚本が!何だ、テイルズオブゼスティリア(ゲーム版)を制作した馬場Pと鉄血のオルフェンズの監督と岡田摩里がシナリオでも作っとんのか、あァ!?という具合でストーリーを見てた作者が、事実上の名前が似ている秘密組織として設定改修。本作では生徒会長がせつ菜のままである為、ランジュが生徒会を乗っ取ることはできなかった。元ネタはSteins;Gateで有名な5pb.社の化学アドベンチャーシリーズにて暗躍する「三百人委員会」。

・ランジュの目的と思想
スクスタでは同好会メンバー(あなたちゃんを除く)を部に引き抜きたいだけ。本作ではそんな生ぬるい事にはせず、最初から自分で思うところの”善”を振りかざす”悪”である事を強調。更には野望として「スクールアイドル全員と仲良くなる」や「同志を募った上でスクールアイドルの可能性を広げる為の革命を起こす」という目的の為に動いている(だから、若干言ってることが某アグニカ信者みたいになってるのは気にせんでくれ……)。


ノベライズ本編でのオリジナル設定解説②

・主人公『舘 結子』について②
以前、スクスタにおけるあなたちゃんサイドと説明したが、性格は大きく違う。自分の信念を否定されたら普通に怒るし、他人の意志に簡単に左右されない(と言うかスクスタ版あなたちゃんが聖人君主過ぎるだけ)。個人的にはやっぱりランジュにどうこう言われたり、同好会の頑張りを全部スクールアイドル部の実績にされたりした辺りのところで一度くらいは本域で怒りの感情くらいは見せてほしかったなって思う。だから、その全部をオリキャラの結子へ落とし込んだって感じですね。




アニガサキSS劇場④「最強、2年生ズ」

 

せ「優木、せつ菜ですっ!(バァーーーン!!)」

 

愛「はろはろ~、愛さんだぞっ!」

 

歩「う、上原歩夢です」

 

侑「すっごーい、ときめいちゃった!高咲侑だよっ!」

 

せ・愛・歩・侑「「「「四人揃って、公式虹ヶ咲戦隊ニネンジャーズ!!」」」」

 

せ「くぅぅぅぅぅっ・・・・・・・今の紹介はすっっっごく良かったんじゃないですか!?」

 

愛「あっはは、愛さんも久々にテンション爆上がりだったよー!」

 

侑「戦隊モノってやっぱりいいよね。ときめき感じちゃう!」

 

せ「侑さんも分かりますか!?じゃ、じゃあ、今度おすすめの作品お貸ししますねッ!」

 

歩「あはは・・・・・・私にはよく分かんないや」

 

ラ「(ワクワク、ソワソワ・・・・・・)」

 

*ランジュが なかまに なりたそうに こちらをみている・・・・・・!

 

せ「あ、皆さん、あちらの方を見てください」

 

歩「あれ、あの子って・・・・・・」

 

愛「あー、そっかぁ。此処は時系列関係ないから遊びに来たみたいだね、どうする?」

 

侑「取り敢えず放置で」

 

                           To be continued...?

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

Side:ランジュ

 

「――状況はどうかしら?」

 

ステージで披露する曲目が全て終わり、観衆の熱烈な歓声を後に楽屋へ戻るアタシ。そして、楽屋に着くなり一人のスーツ姿の男がアタシの到着を待ちわびていたようだった。同好会の人々がどうなったか、アタシは戦況を彼に問う。すると彼は。

 

「申し訳ございません。我等としたことが不覚を取ってしまい・・・・・・彼の者達には逃げられてしまいました」

 

「そ、使えないわね」

 

「・・・・・・仰せの通りで」

 

彼等は『監視委員会』。アタシとママ・・・・・・理事長が学園でのスクールアイドル部の活動をよりアクティブにするために同好会の動きを監視する名目で設置した運営組織である。

 

・・・・・・本来であれば、強制力を押し出す為に生徒会に圧を掛けてスカウトしたかったが、今の生徒会を束ねているのは中川菜々。いや、スクールアイドル同好会の優木せつ菜である。故に一般企業から募集を掛けた上で、鐘家から彼等に事前報酬を4割程前払いしているはずだが。はっきり言って金の無駄遣いだったわね。

 

「それで、最後に目撃したのは?」

 

「はっ、目撃と言うより逃げた跡と言いますか。部室棟1Fにある『帰宅管理部』なる部活動の部屋の窓が開いたままになっておりました。恐らく、彼らの協力でそこから外へ逃げたのではないかと」

 

「へぇ・・・・・・『帰宅管理部』、ねぇ」

 

理事長を務めているママもあまりに適当過ぎる。確かに此処は「自由な校風」で親しまれている虹ヶ咲学園だ。しかし、だからといってこれを筆頭とする色々と胡散臭い名前の部活動をそのまま放置しているのもどうかと思うが。まぁ尤も、このアタシに楯突くのなら、例えあの人の擁護があろうとなかろうと一切の容赦はしない。

 

「じゃあ命令よ。次はその『帰宅管理部』を潰しなさい」

 

「・・・・・・!?し、しかし、理事長様の情報では彼等と『ムーンカテドラル』が通じていると・・・・・・」

 

「『ムーンカテドラル』ぅ?知らないわよ、いいから潰しなさい」

 

「・・・・・・承知、致しました」

 

何にせよ、アタシがスクールアイドル同好会の全てを部に吸収さえできれば、全ては詮無き事。一応の対策として、その他の一般生徒とは既にお友達になって貰った。まだまだ一部ではあるが、それもあともう少し。生徒会と同好会が陥落すれば、全てはアタシのものになる。

 

「待っててね、シオ」

 

「アタシが必ず貴女を同好会の呪縛から解放してあげるわ」

 

全ては親友を救う為とここの全校生徒と等しくお友達になる事。そして、ゆくゆくはアタシのスクールアイドル部が掲げる革命の旗の下で全てのスクールアイドルと繋がる事。これが今のアタシの野望、夢のような現実の完成形。これだけは必ずや成し遂げて見せる。

 

 

――この、鐘嵐珠の名において。

 

 

Side END

 

 

「「「「「「――ようこそ、”NLNS”部へ!」」」」」」

 

拝啓、実家の祖父様。私は如何やら、友達の選び方を間違ったようです。

 

「・・・・・・はっ、しまった!?つい兄につられてこのアサちゃんまでもが厨二病の真似事を!?」

 

「・・・・・・慣れって怖いのだわ」

 

何かこう・・・・・・良さげな紹介シーンを終えた後、麻沙音ちゃんと奈々瀬ちゃんの二人は自分達の身体が淳之介君の動きと連動するように動いてしまったことを嘆いているようだった。しかし、他の三人は寧ろそういう風ではなく。

 

「やったぁ、綺麗に決まりましたね、淳之介くん!」

 

「うんうん、漸くチーム感が出て来たんだな、嬉しいんだな!」

 

「たいみんぐはこれ以上無い程に正確で御座いました。どうぞ、文乃をお褒め下さい、淳之介様」

 

素直に喜びを分かち合っていた。あれ、もしかして同類なのかな?

 

「流石は文乃だ。よしよ~し」

 

「ぬっへっへ・・・・・・!」

 

「ああっ、文乃ちゃんだけズルい!淳之介くん、私もナデナデしてください!あ、でもどうせなら頭じゃなくておっぱいとかお尻でもいいですよ!」

 

「ええっ!?あー、じゃあ、私は~・・・・・・よし、頑張った淳くんをナデナデだ!」

 

「え゛ん゛っ!?」

 

そして自動的に形成されつつある、橘淳之介専用ハーレム。・・・・・・もう何でもいいや。

 

「あああ、くそぅ!兄を見てたらもう我慢の限界だ!愛しゃん、ななしぇさん、やっぱりここはわれわれとしてもたいこうするべくむこうのへやでしっぽりとゆめのような3Pを・・・・・・!」

 

「ナナセっち~、3Pって何?」

 

「・・・・・・・愛は気にしないでいい事よ。もぅ、大勢人がいる中でそんなこと言っちゃめーでしょ?」

 

「はいぃ、ぜんしょしまふです、でっへっへっへっへ・・・・・・!」

 

前回迄では確かにシリアスだったのに・・・・・・おかしい、まるで空間が歪んだみたいにおかしい。

 

「ん゛ん゛っ!・・・・・・・皆さん、取り敢えず現状をおさらいしましょう」

 

ヘンテコな空気に耐えられなくなった栞子ちゃんが咳払いをすると共に、部屋の中の空気が一瞬にしてピシャリと入れ替わる。おぉ~流石は生徒会副会長・・・・・・!

 

「今より数刻前、私達スクールアイドル同好会はランジュ率いるスクールアイドル部の妨害を受けて『帰宅管理部』の・・・・・・」

 

「『NLNS』だ、これからはそう呼んでくれて構わない」

 

「・・・・・・『NLNS』の皆さんの協力のお陰で此処まで逃げ果せることが出来ました。それに関しましては我々一同、感謝の念に堪えません」

 

「残された問題は帰路の確保と言う事ですが・・・・・・恐らく、現状で脅威はないとだけ宣言します」

 

その場にいるスクールアイドル同好会とNLNSの皆が栞子ちゃんの話に聞き入っていた。目まぐるしい状況の変化に頭がおかしくなりそうだが、今は気にしている場合ではなさそうだ。

 

「でもさ、しお子。もしかしたらさっきのスーツ男がまだ学園内にいるかもしれないし・・・・・・」

 

「いえ、それについては問題ありません。先程のアレは我々の行動を一時的に妨害するだけの、謂わばスクールアイドル部からの牽制のようなものです。今頃はきっと解除されているはずでしょう」

 

ランジュならきっとそうするはずでしょう、と最後に付け加えた栞子ちゃんの言葉にひっかかりを覚えた果林さんがすぐにそれに対しての質問を返した。

 

「ふぅーん・・・・・・まるで、昔からあの子を知ってるような口ぶりなのね、栞子ちゃん?」

 

「えぇ、まぁ。何せ、私とランジュは小さい頃からの幼馴染み、ですので」

 

「・・・・・・本当にそれだけかしら?」

 

「何がおっしゃりたいかは分かりませんが、私は皆さんの味方ですので。悪しからず」

 

直ぐに警戒を解かない果林さんの続けざまの質問に、あくまで冷静に答える栞子ちゃん。確かに私達に被害を与えた人と親しい関係にあるならば疑われても何も文句は言えない。けど、やっぱりこういう部員同士の衝突というかそういうのは見ている此方の方が辛くなる。

 

「これは仮の話よ。もし今、裏で栞子ちゃんとあのランジュって子が繋がっていた場合、さっきの帰路の話に関しても罠だったりしないかしら?」

 

「ちょっと、果林ちゃん!?それは流石に言いすぎだよぉ・・・・・・!」

 

「いえ、大丈夫です、エマさん。私とランジュの関係性を言えば、真っ先に私が疑われるのは分かっていましたから」

 

「現状の私はそれに反論出来る証拠を持っていません。ですが、これだけは言わせてください」

 

「――今は、私を信じてください。同じ同好会の仲間として皆さんの安全は保障致しますので」

 

自身に疑いの目を向ける果林さんの目を真っすぐに見据えながら、そう発言した栞子ちゃんの赤い瞳が何かを果林さんに訴える。その目を向けられた果林さんは、やがて溜息を吐いて口を開く。

 

「そ、関係性については否定も肯定もしないのね。分かったわ、一先ずは信用してあげる」

 

「ご理解頂き、ありがとうございます。では今後についてですが――」

 

果林さんと栞子ちゃんの間に漂っていたピリピリしたムードが果林さんのその言葉で一気に覚める。取り敢えずは一安心、と私はほっと胸を撫で下ろす。

 

その後。スクールアイドル同好会とNLNS部による合同での作戦会議が1時間に渡り続いて、各自の区切りのいい所で終了の宣言がされ、今日はそのままお開きとなった。

 

 

「ふぅ・・・・・・・」

 

虹ヶ咲学園前の自動販売機。解散後に他のメンバー達が帰路に着く中、自販機で買ったコーヒーを飲みながら結子はそこにいた。とある人物に待ち合わせ場所として指定されたからである。そして、その人物と言うのが。

 

「あの、お待たせしました。結子、先輩・・・・・・」

 

「そんなに気を遣わなくても大丈夫だよ、かすみちゃん」

 

そう、同好会最後の防壁として結子を頑なに認めようとしなかった中須かすみであった。心配そうな顔をする彼女の呼びかけに対して、結子は優しく笑って返した。

 

「それで、今日はどうしたの?」

 

「うえっ!?え、ええっとですね・・・・・・その・・・・・・い、今まで変に無視してしまってごめんなさい!」

 

かすみが結子に向かって謝罪の言葉を述べながら、勢いよく頭を下げる。結子は急に謝られたものだからどうしたら良いか分からないといった表情を浮かべ困惑していた。すると、そんな結子の考えを察したかのようにかすみは瞬時に顔を上げて、更に言葉を続けた。

 

「最初、侑先輩から結子先輩の事を聞いて・・・・・・それで侑先輩がいなくなって結子先輩が代わりに同好会に来て・・・・・・同好会の皆は割りと早い段階で結子先輩と打ち解けて。なのに・・・・・・」

 

「かすみんばっかり意地を張ってて、でも、何となく侑先輩の居場所が突然知らない誰かに奪われたみたいで・・・・・・だから、かすみんは・・・・・・かすみんはぁ・・・・・・!」

 

その先を言おうとして、言葉に詰まる。果たしてこの言葉を向けても良いのだろうか、自分達が危険に晒された時、必死に体を張って守ってくれた勇気ある先輩に。

 

今まではそれを何回心の中で思って叫んでいた事か。しかし、心の中で思うだけと実際に言葉にするのとでは重みが違ってくる。それは例え勉学であまり成績が芳しくない彼女であっても十分に理解できることであった。だからこそ、その先を言って恩人である彼女を傷付けてしまわないかが、どうしようもなく怖かったのだ。

 

「かすみちゃんは、偉いなぁ」

 

「へっ・・・・・・?」

 

そんなかすみの姿を見て、結子は彼女の頭を優しく撫でた。自分でも良く分からない、初めての体験。だが、これはもしかすると噂に聞いた「母性本能を刺激される」と言うヤツなのかな、と頭の中でそう解釈し、本能のままに彼女の頭を撫で続けた。

 

「寧ろ私が此処に来てから今までの皆の受け入れ様が凄すぎただけでさ。かすみちゃんの反応が多分一番普通なんだと思う」

 

「そりゃそうだ。いきなり他人が大きい功績を残した後に臨時と言う形ではあるとはいえ別の人が入る・・・・・・そんなの、抵抗があって当たり前なんだよ」

 

読者諸君も学生の身であった頃……または現在進行形で一度は体験したことはないだろうか。自分が尊敬していたクラスの担任が大人の事情で別の教師に代わるという体験を。

 

昨今の問題である学校の教師達の質の低下。これによってクラス内による、いじめを筆頭とした様々な問題・・・・・・それが深刻化しつつある。クラス担任というのはコミュ力が低い生徒にとっては親の次に身近な大人だ。故に、その立場にある人間が全く別の性格をした人間に代わるというのは中々子供心ながら精神的にもかなりの負担を強いることになる。

 

スクールアイドル同好会を自身の絶対的な居場所として捉え、色々なトラブルに見舞われながらも再興した同好会の象徴的存在、高咲侑。彼女の代わりが来るということは、まさにかすみにとっては前述のそれと同義であり、決して認めたくない事象の一つであった。

 

「あはは、やっぱり私じゃ侑みたいな精神的支柱にはなれないのかなぁ?」

 

結子は心にもない事を言って笑ってみる。自分でも薄々気が付いてはいた、平和を象徴する存在である高咲侑の対極に存在する自分では決して侑の代わりにはなれないのではないかと。事実、それは誰が言わんとする前に当人である舘結子自身が一番良く分かっていた事だからだ。

 

「そんな事・・・・・・そんな事、ありません!!」

 

「かすみちゃん・・・・・・」

 

「確かに、侑先輩は凄い人です。ちゃんと同好会の皆の事も見てくれてるし・・・・・・かすみんの事だって一番近くで理解してくれてる凄い人です!・・・・・・でも、それは結子先輩も同じなんですよ」

 

「普通なら怖くて動けないはずなのに、結子先輩は真っ先に私達の前に立って守ろうとしてくれました。あの行動はきっと侑先輩でも出来ないだろうから・・・・・・結子先輩だけのものだから・・・・・・!」

 

だが、それ以上に中須かすみと言う少女が真に持つ思いと言うか、心の奥深く・・・・・・根底に秘めた隠しきれない優しさ。それらが日常において輝く瞬間があるからこそ、彼女の人気は高いのだ。

 

普通であれば誤解されて嫌われてしまってもおかしくはない彼女の性格。だが、その裏に隠し持っているのは他の何でもない、自身が所属する同好会とそのメンバー達に対する熱き思い。そんな彼女の一面に気付けた者達が挙ってファンとしてついてくれているのであった。故に彼女は、自身と同じく裏で必死に努力を重ねて来たであろう人間に否定の言葉を掛けるなど出来る筈がなかった。

 

「少なくともかすみんはっ・・・・・・かすみんだけは、先輩が努力されてた事を知ってますから」

 

「だから、そんなに自分を否定しないであげてください。どんな努力だって、それが決して報われることがない・・・・・・他の人から見れば意味のない事だったとしても、その過程で本人がいろいろ苦しんだり悩んだりして頑張っているのなら・・・・・・それが全部、無駄じゃなかった証なんですから!」

 

「・・・・・・!」

 

長い長いかすみの思いの丈を全て含んだ演説を聞いて、結子は自然と歓喜の涙を流していた。ああ、何もかもが途中参加の自分はなれるはずがないと諦めてかけていたというのに、彼女は私を支えてくれようとしている。ならば、もう、迷う必要などないのだろう。私は、この2ヵ月の間の代理役を見事に熟しきり、その果てに自分だけの答えを掴んでみせると。

 

「あはは、まさか部活動の後輩に泣かされる日が来るなんて、夢にも思わなかったな」

 

「けど、そうだね・・・・・・うん、決めた。私は、今度こそこの道を最後まで貫く事にするよ」

 

「だから、有難う。かすみちゃん」

 

「ゔえ゛ぇ・・・・・・ひぐっ・・・・・・じぇん゛ばぁ~い゛!ゔあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ~っ!!」

 

何故か自分よりも号泣してしまっている彼女を、私は優しく抱きしめた。スクールアイドル同好会の中で人一倍優しい心根を持った後輩、中須かすみ。今この時を以て、私は彼女に漸く認められたんだ。此処にいていいと。全てにおいて侑の行動と自身の行動を比較して顧みずともいいのだと。

 

「でも何で私よりも泣いちゃうかなぁ・・・・・・」

 

「だっで、だっでぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・!」

 

「おー、はいはい。頑張ったねかすみちゃん、よしよーし」

 

「ゔわ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ~ん!!」

 

そして、私はかすみちゃんが泣き止むまでずっと彼女の頭を優しく撫でて、慰めてあげたのだった。

 

 

 

――その翌日の事。

 

「ふあ・・・・・・はあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!」

 

登校を終えて教室に着くなり、自分の席で大欠伸をする私。しかし、昨日の夜は凄かったなぁ。

 

『結先輩、結せんぱ~い!どうですか、寝間着のかすみんも可愛いでしょ~?』

 

『うんうん、凄く可愛いよかすみちゃん』

 

『うひゃあぁぁぁぁっ、ありがとうございますぅ~!かすみん、とっても嬉しいですぅ~♪』

 

泣き止むまで面倒見てあげたら、昨日のうちに態度が一変したかすみちゃんからあんな熱烈なラブコールが来るとは・・・・・・チョロ可愛いって、いいなぁ。

 

「おや、結子さん、おはようございます。どうしましたか、朝から大分お疲れのようですね」

 

「あ、菜々ちゃん、おはよー。いやぁ、昨日はかすみちゃんからのラブコールが凄くてね、参っちゃうよ」

 

「あはは・・・・・・それは、お疲れ様です・・・・・・」

 

すると、丁度菜々ちゃんが自分の鞄を持って教室に入ってきて、私に声を掛けてくれた。まさか菜々ちゃんの登校が私より遅いはずがない。きっと朝早くから生徒会室に用事があって今の時間までいたのだろう。そうに違いない。

 

「菜々ちゃんはもしかしてさっきまで生徒会室に?」

 

「えぇ、はい。普段はそうやって気付いてくれる方は少ないのですが、流石は結子さんですね。私の事を理解してもらえているようで助かります」

 

「ふっふっふ、クラス内唯一の情報通(自称)である私を舐めてもらっては困りますなァ・・・・・・!」

 

態とらしく手を顎の下に持ってきて、目の奥をきキラーンと光らせてみる私。しかし、情報通であるのは強ち間違いではなくて。何故なら、普通科は他の科より遥かに人数が多いので4クラスほどあるのだが・・・・・・同じ普通科2年の歩夢ちゃんとは他クラスで、侑は音楽科に行き(普通科だった時は歩夢ちゃんと同じクラス)、スーパー助っ人ギャルの愛さんは情報処理科。つまり、同好会内で私が唯一菜々ちゃんとクラスが同じで。更に、伝説のスクールアイドル『優木せつ菜』の正体が彼女である事を知っているのもこのクラスで私一人。・・・・・・もしかしたらその内、自称ではないホンモノになれる日が来るかもしれない。

 

「成程、宛ら昔の映画やドラマなどでよくいる主人公の友人のようですね・・・・・・!」

 

「・・・・・・それは私に主役が似合わんと言う意味での意表返しかな?」

 

「あっ、い、いえ、そうではなく!ただ情報通と言う言葉を聞くとそれを連想してしまう訳でして」

 

菜々ちゃんと会話をしながら私は、彼女の擬態スキルの高さに思わず唸っていた。とは言え、途中途中でボロが出そうにはなるが気付かれない様慌てて引っ込めて菜々モードに戻る様は本当に素晴らしい演技力を感じさせる。道理で演劇の道を行くしずくちゃんがリスペクトするはずだよ。

 

「へ~っ、会長もドラマとか見るんだ?」

 

「はい。やはり力を込められて作られた映像作品には心動かされるものがありますから、あまり見たくなくてもついつい見入ってしまうんですよね」

 

「あ~っ、分かる分かるぅ!横目に偶々チラッと良いシーンが映ると目が離せなくなるよねー」

 

「えぇ、それが映像作品の偉大さと言いますか醍醐味と言いますか。・・・・・・良い物ですよね」

 

他のクラスメイトに突然話しかけられてもこの通り。おぉー、高ぶりそうになりつつも見事にそれを抑えている・・・・・・流石だなぁ。

 

「あ、そう言えばさ、結子って会長と仲いいじゃん?」

 

「あ、私?ま、まぁ、良い方・・・・・・ではあるの、かな?」

 

「わ、酷ーい。幾ら鋼鉄の生徒会長でも仲が良いクラスメイトにそれ言われたら傷付くよー」

 

「お、お気になさらず・・・・・・」

 

まさかのクラスメイトの真意を突いた質問に遠慮気味に答える菜々ちゃん。本人は平然とできていると思っているだろうが先程よりも明らかに内心でションボリしているだろうオーラが漂ってきている。嗚呼、菜々ちゃんのこういうオタク特有の素直に感情表現したいけどいざしてみたら周りにちょっと引かれそうで怖くて取り敢えず愛想笑いしてみるところ、好きィ!!

 

「それに結子、会長の事好きなんでしょ。球筋に出てるぞ~?」

 

「ゔえっ!?///

 

「いやいや、球筋って何さ。野球やってんじゃないんだから」

 

「まぁまぁ、いいじゃないのさ。で、実際のところ、どうなの?」

 

その問いを受けた直後、横目でチラリと菜々ちゃんの様子を見る。おや、頬を赤くして何やらもじもじしているぞ、トイレにでも行きたいのかな???

 

「好き、だね。眼鏡っ娘枠は至高」

 

「分かりみが深い」

 

その瞬間、私とそのクラスメイトはがっしりと握手をしてお互いの中に眠る熱い思いを確認し合う。現実に男なんていらない、フェミニストもニッコリの世界の真理の域・・・・・・私達はそこに到達した。

 

「あ、あの、お二人共・・・・・・?一体、どうなされた――」

 

「「よぉ、眼鏡っ娘」」

 

「何故、いきなり属性呼びに!?Σ(・ω・ノ)ノ!」

 

趣味の合うクラスメイトの乱入によって騒がしくも微笑ましい・・・・・・そんな朝の一幕であった。

 

 

 

場面は飛び、本日も放課後がやってきた。さぁ、今日も楽しく部活をしよう。・・・・・・流石に練習の邪魔まではしてこないはず、ランジュって子も、その子の手先の『監視委員会』も。

 

「――あら。貴女、もしかして同好会のマネージャー代理の人?」

 

部室へ向かうとする途中、誰かに呼び止められた私は後ろを振り返る。すると、そこには今最も出会いたくなかった相手が待っていた。

 

「・・・・・・スクールアイドル部の、鐘嵐珠・・・・・・!」

 

「貴女もシオと同じでお堅いのね。同じ学年なんだし、普通にランジュでいいわよ?」

 

至って普通の顔で彼女はそんな事を言ってのける。普段ならば、私も此処まで警戒を強めないが妨害されたのが昨日の今日である。当然、近くに『監視委員会』の黒スーツの男達がいないものかと辺りを見回す。・・・・・・如何やら、今日は引き連れてはいないようだ。

 

「そう。じゃあ、ランジュさん。貴女の目的は何?どうして同好会の皆にあんな真似を?」

 

「言ったでしょう、これは戦いだと。でも、昨日の部下達の非礼は詫びさせてもらうわ、御免なさい」

 

出会った時から浮かべていた余裕の笑みを崩さぬまま、彼女は礼儀正しく姿勢を正して首を垂れる。既に昨日の時点で倒さねばならない敵であることが分かっている為、その謝罪すら全く反省の色が見られないように思えた。それでも彼女は何も気にすることなく、言葉を続ける。

 

「アタシはね、ただあの子達をスクールアイドルとして輝かせたいだけなの」

 

「今だって、十分に彼女達は輝いていると思うけど?」

 

「いいえ、違うわ。貴女のそれはシロウト目の判断ね。考えてもみてよ、彼女達はこれまでのスクールアイドル業界にはなかったソロアイドルとして羽ばたこうとしている。それは良い考えだと思うわ、正直に言っていい線を言ってると思う」

 

「でも、だからこそ足りないの。今までになかった常識を新たに作り上げる・・・・・・そう、これは謂わば一種の革命のようなモノ。それを成し遂げる為には劇的な舞台に似付かわしい劇的な演出こそが必要不可欠。でも、今の彼女達ではまだそのレベルにまで達せていない」

 

「だから、アタシが直々にその道のプロの力を借りて、スクールアイドルに必要な要素全てをパーフェクトに鍛え上げる。そうすればきっと彼女達も急成長間違いなしってワケ。理解了?」

 

理解できたか、だって?冗談じゃない。だからって彼女達と侑の居場所である同好会を活動停止にさせるような真似をしたとでもいうのか。そんな事、権力も何も持ち合わせていない普通の一般学生がやっていい事の限界を超えている。はっきり言ってやり過ぎだ。

 

「確かにプロの手を借りるのは悪い事じゃない。でも、今より良い環境で練習できるようになるとはいえそれを他人に強いるのはあまり褒められたことじゃないね」

 

「何で?別にいいじゃない、全ては”善”で全てが”アタシ”なんだもの。これは良い事よ」

 

彼女の言葉に私は自分の耳を疑った。何だ、その極論ともいえる暴論は。全ては”善”で全てが”アタシ”?ふざけるな、それではまるで自分自身が正義の権化であると思い上がっている醜いヒトのようではないか。

 

「良い事な訳がない。ともすれば、貴女はただそれだけの為に、彼女達と侑の居場所を奪おうと言うの?」

 

「・・・・・・貴女も同好会と言う呪縛に囚われてしまっているのね」

 

「大丈夫よ、アタシは絶対に貴女もシオも彼女達も助けてあげられる。そう、絶対によ」

 

いや、落ち着け私。もしかすると、もしかするとだ、彼女は同好会の事を単に誤解しているだけではないのか?現に彼女は私達を救うと言った。なら、その誤解さえ解けばまだ説得の余地があるかもしれない。私は意を決して次の言葉を紡いだ。

 

「ランジュさん、貴女はもしかして同好会の事を何処かで誤解しているんじゃないの?」

 

「・・・・・・誤解?まさか、このアタシが間違える筈がないもの。在り得ない」

 

「アタシにとって討つべきは高咲侑ただ独り。これには変更も妥協も一切してあげないわ」

 

彼女の返答を聞いて、数刻前の希望的観測をした自分を思わず呪い殺したくなる。やはり彼女は此方の話を聞く気はないらしい。耳にラードが・・・・・・いや、耳が完全に狂戦士(バーサーク)なのだ。

 

「何れにせよ、同好会は必ず潰すわ。どんな手を遣ってもね」

 

「そんな事、一介の学生である私達に出来るはずがない」

 

「いいえ、出来るわ。だってここの理事長様は・・・・・・」

 

「アタシのママなんだもの」

 

何だって?いや、しかし、それは当然の帰結か。だって、一介の生徒であるだけの彼女がなぜこんなにも堂々と間違った論を振りかざせるのか、そしてどう見ても部活動同士の交流として最も適切ではない行為まで働いているというのにそれを上が見逃すはずがない。そうか、理事長が母親だと言うなら納得だ。恐らく今までもそうやって過剰に甘やかしてきたのだろう、そんな一家庭の下手なコントが災いして、同好会の皆が危険に晒されたって訳か。全く・・・・・・下らなさ過ぎて反吐が出る。

 

「只、潰すだけじゃ物足りない。だから、アタシの理論が本当に正しいんだって事を皆に理解してもらう。それで同好会から部に移ってもらって高咲侑以外が抜けたところで潰す」

 

「そんな横暴を通して許されるとでも?」

 

「それは大丈夫。何たってアタシの協力者はこの学園内でも日毎に増え続けているわ」

 

「手段は簡単よ。その人が望んでいるけれど出来ない事情があるから出来ずにいる事をその事情を取っ払って解決してあげるの、例えば資金提供とか、ね」

 

成程、言葉で言って通じぬなら金で黙らせると。そういう事か、実にやり口がドラマや映画などで出てくる悪役のようでゾッっとする。恐らく、今の彼女の歪みようでは私がどうこう動いたところで直せるモノではない。

 

「あ、もうこんな時間なのね。貴女とはもっとお話ししたかったけれど今日は一先ず此処まで」

 

「・・・・・・」

 

そんな事を独り言ちって彼女が私に向かって一礼をする。行動以外は本当によく出来たお嬢様なんだけど同じ女性としてどころか同じ人間としてよく思えないそんな存在だった。

 

「そうそう、すっかり聞き忘れてたわ。貴女、名前は?」

 

「結子・・・・・・舘結子だよ」

 

「結子。へぇ・・・・・・いい名前、益々気に入っちゃった」

 

「それじゃあ結子・・・・・・ううん、ユイ、再見吧。次は必ず貴女を手に入れて見せるわ」

 

また会いましょう、そんな台詞を残して彼女・・・・・・鐘嵐珠は何とも風格のある歩き方でその場から去っていった。私はこの時に思った。もし、次に彼女と再び相まみえる時があるならば、それはこの戦いに決着がつく戦いの最中であると。そんな予感が。

 

 

 

「はぁ~・・・・・・やっと着いた」

 

「おお~重役出勤とは珍しいですなぁ・・・・・・って、何だかゆいゆい疲れ切ってるね、大丈夫?」

 

ランジュとの不毛な会話を切り抜け、無事部室へと辿り着いた私をいの一番に介抱してくれたのは同級生の愛さんだった。

 

「話が一方的すぎる相手との会話って、こんなに疲れるんだね・・・・・・」

 

「んん~?よく話が見えないけど、ゆいゆいも苦労してるんだなぁ。よーし、ここは愛さんのダジャレで気分を解してあげる!」

 

侑じゃないんでそれは勘弁してください、と心の中で思っても、愛さんの元気溌剌な笑顔を見ると不思議とそれを伝えるのはナンセンスだという結論に至ってしまう。つまり結果は。

 

「行くよー!誰とー?IKUZO~、GoToで誰が得をしたの?ゴトゥーさん!りなりーが凄い発明したんだって!りな(あ)りー?」

 

「わーい、面白ーい・・・・・・」

 

当然こうなる。侑みたいに笑いのレベルが赤ちゃんだったらどれ程良かったことか。まさか人生でこれほどまでに気を遣わねばならん時が来るとは思いもしなかった。

 

「あの、愛さん?其方の方は?」

 

そこへ、部屋の広いテーブルの椅子に腰かけていた他校の制服を着た女の子が愛さんに話しかけてきていた。其方を見やると如何やらもう一人・・・・・・此方も違う学校の制服を着ていた。

 

「駅弁が~・・・・・・と、姫乃っち。ごめんごめん、紹介し忘れてたよ」

 

「聞いて驚け!この子がウチのゆうゆの代わりにマネージャーをしてくれてるゆいゆいだ~!」

 

「え、えっと、マネージャー代理の舘結子です。よろしくお願いします」

 

言いかけたダジャレを言うのを断念して、愛さんがテンション高めに私の事をその子に紹介する。アタシもそれに倣って軽く自己紹介をした。もしかして愛さんの知り合い・・・・・・かな?

 

「ふふっ、私は藤黄学園の綾小路姫乃です。此方こそ、不束者ですがよろしくお願いしますね」

 

「あ、ええと、東雲学院の近江遥、です。お姉ちゃんがいつもお世話になっております」

 

ふむふむ、姫乃ちゃんに遥ちゃんか。・・・・・って、遥ちゃん、さっきお姉ちゃんって言った?苗字が同じだから何となく引っ掛かりはしたが。成程、彼方さんの妹さんか。

 

「それで、二人は違う学校の生徒さんだよね?何でウチに?」

 

「あぁ、その件ですが・・・・・・近日中、此方のイベントが開催されるようなので、虹ヶ咲の皆さんにも是非参加頂けたらなと思いまして」

 

そう言って、姫乃ちゃんが見せてきたのは近々DIVERCITYで開かれるDIVERフェスというイベントへの案内状であった。へぇ、こんなのがあるんだ。

 

「前回の果林さ・・・・・・こほん、皆さんの参加で非常に好評だったという事で第2回が開かれるようなのですが、宜しければまた私達と参加して頂けませんか?」

 

「あー、前のフェスはウチの代表としてカリンが出たんだよねー。そっかー、もう一回やれるんだ!ねぇねぇ、だったら次はさ、私が出たーい!」

 

「ちょっ、抜け駆けはズルいですよ、愛先輩!やっぱり此処は世界一可愛いかすみんの出番だと思いませんか?ね、結衣せんぱーい?」

 

「でしたら、私も参加したいです!結さん、いいですよね!?」

 

フェスへの参加の話が来た途端に愛さんとかすみちゃんとせつ菜ちゃんが真っ先に手を挙げて参加希望を表明する。先を越されはしたがこれには同好会の他の面子も黙っていられなかったようで。

 

「私も是非出場してみたいです!日頃演劇の成果、皆様にお見せしたいです!」

 

「私も参加したい。璃奈ちゃんボード『ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!』

 

「私も・・・・・・出てみたい、かな?侑ちゃんが帰ってきたら見せてあげたいし・・・・・・!」

 

「いやいや、次は彼方ちゃんの出番だぜぇ?また皆と一緒に( ˘ω˘)スヤァしたいからね~」

 

「お姉ちゃんと一緒に出れたら、私は嬉しいです・・・・・・!」

 

「わ、私だって!前の果林ちゃんに負けないくらい、見に来たお客さんを癒したいもん!」

 

「エマ、私はヒーリング担当じゃないからね。ま、でも、また私が出るのも、悪くないんじゃない?」

 

「そうですよ!果林さんこそが王者・・・・・・果林さんこそがフェスクイーンなのですから!」

 

次々と挙手をするメンバー達。何故かこの話を持ってきた張本人の姫乃ちゃんと遥ちゃんも一緒になってワイワイし始めたけど。姫乃ちゃん、果林先輩のファンなのかな。

 

「・・・・・・」

 

「あれ、栞子ちゃん・・・・・・?」

 

そんな中、一人だけ椅子に座ったまま黙りこくっている人物が一人・・・・・・他でもない栞子ちゃんであった。栞子ちゃんは真剣な表情で考え事をしているかと思いきや少し難しい顔になって小さく唸り出したりと情緒不安定のように見えた。やっぱりまだ何か引きずっているのだろうか、心配だな。

 

「ね、栞子ちゃんは出なくていいの?」

 

「へっ?あ、ゆ、結子さん。いえ、私はまだ皆さんの実力と並ぶには程遠いので・・・・・・」

 

「えぇ~っ、そうかな?私は栞子ちゃんの練習してるところ見てもそうは思わないけど」

 

「・・・・・・練習同様に本番も上手く運ぶとは限りません。ですから、私はまた皆さんのサポートを」

 

少し影のある笑顔で私に微笑みかける栞子ちゃん。何だろう、今のままでは流石の栞子ちゃんと言えどもサポートをさせるのは色々と精神面に悪いのではないか。

 

「栞子ちゃんが何で悩んでるかは・・・・・・まだ私に話してくれないんだね」

 

「あ、ご、ごめんなさい、顔に出ていましたか?」

 

「ううん、いいんだ。ただ、答えに行き詰まったら何時でも頼っていいんだからね」

 

「はい、ありがとうございます。一応、もう少しで自分なりの回答が出そうなのですが・・・・・・そうですね、いざと言う時は遠慮なく頼らせて頂きますね」

 

今度はちゃんと明るい笑顔で返してくれた栞子ちゃん。気にはなるけど、そこは恐らく個人の問題である為、必要以上に干渉する訳にはいかない。取り敢えずは彼女が自分を頼ってくれるまで気長に待つとしよう。それも一つの信頼の形なのだから。

 

「ねぇ、ゆいゆい~!そろそろこっち来てくれないと決めれないよ~!」

 

「せんぱぁ~い、しお子だけじゃなくてかすみんも構って下さいよぉ~!」

 

「結さん!私、いいステージの演出を思いつきました!相談に乗って下さい!!」

 

「はいはーい、今行くからちょっと待ってー!」

 

背中越しに聞こえる催促の声に返事をすると、私は何時もの同好会の騒がしいテーブルの元へ真っ直ぐに向かって行った。過去の私には何もなかった。でも、今の私には大切な同好会の皆がいる。だから向こうがどんな手を使ってきたとしても、私は絶対に、挫けたりはしない・・・・・・!

 

 

Side:ランジュ

 

 

「はい、ランジュ。次の曲できたよ、確認してみて」

 

「流石はミアね!分かった、聞いて見るわ」

 

此処はスクールアイドル部の部室。理事長特権を使い、他の教師陣を買収し、生徒会を通さずに設置した普通ならば存在すること自体が憚られる部活動。だが、そこに所属するランジュは勿論の事、このミアと言う少女も学生とは思えない輝かしい功績を持っていた為、反論する事は許されない。日本人特有の集団心理がそれらの問題点を隠蔽し、一途に黙り込むことを強要した。

 

「ランジュお嬢様、ミア様。本日仕入れたばかりの茶葉で淹れた紅茶が出来上がりました」

 

「あら、セバス、ありがとう。ミアも、丁度いいからここで一旦休憩にしましょ」

 

「本当ならその時間もボクは有効に使いたいけど・・・・・・ん、分かったよ」

 

ミアが先程仕上げたとされる曲を部屋に設置された最高級のスピーカーで流しながら、優雅にセバスチャンの淹れた紅茶を口にするランジュ。室内にあるものは全てが最高級品、揃えたるは名立たる各界隈のプロの指導者達。まさに此処は、最初から勝利が約束された場所でもあった。

 

「そう言えばお嬢様。お耳に入れたい話が一つ」

 

「何かしら、セバス?」

 

「近頃、我らの施しを受けながら部の存在に苦言を呈す輩が出てきたと報告が」

 

「そう、もしかしてあの教師達かしら。全く、これだから()()()()()()()()()()

 

そう言って、軽く舌打ちをするランジュ。全く愚かとしか言いようがない、全ての”善”であるべき自分の行動に献金を受け取りながら告発しようとする輩がいる。要するにもう少し値を上げろと言う事だろうか。教師とてこんなものか・・・・・・本当に救いようがない。

 

「如何いたしましょう?」

 

「時代遅れの老いぼれにそこまでする義理はないわ。追放してやりなさい」

 

「畏まりました。それでは早速その手配に移ります故、失礼致します」

 

「えぇ、よろしくね、セバス」

 

主であるランジュからの命を受けて、セバスチャンが紅茶の台を片付けに掛かる。と、粗方片付け終わったところでセバスチャンは再びランジュに向き直り、こう提言した。

 

「しかし、このままでは何れ第2第3の愚かな者達が出てきて騒ぎ出すやもしれません。此処は、我々も手を打って確実にこの部を承認条件まで持って行き、生徒会を通す他ありませぬ」

 

「アタシはあそこの同好会以外から集める気はないわ。これは絶対事項よ」

 

「ええ、それは重々承知しております。ですので、そろそろ引き抜きの手引きを、と思いまして」

 

「わぁ、もう手段を思いついたの!?流石はアタシのセバスね!」

 

自身を絶賛するランジュの耳元へ口を近づけ、何やらこそこそと話すセバスチャン。そんな如何にも”悪”を絵に描いたかのような出来事が目の前で起こっているのも関わらず、一方のミアはそれらに全く興味を持っておらず、ただ静かに出された紅茶を愉しんでいた。

 

「良い作戦ね!でも、本当に上手く行くのかしら?」

 

「お任せ下さい、全ては我が主ランジュ様の仰せのままに。必ずやその二人を引き入れて御覧に見せましょう」

 

「分かったわ、そっちもお願いね、セバス!」

 

「畏まりました、お嬢様」

 

その時、セバスチャンの用意した2枚の写真がヒラリと床に落ちる。その2枚にはそれぞれ違う人物が一人ずつ写っていた。彼女達の名は。

 

『朝香 果林』

 

『宮下 愛』

 

何れも同好会に所属しているスクールアイドル達の名前だった。果たして、彼等は彼女達をどうやって部に引き入れようというのか。マネージャーの代理人である結子が守る使命に目覚めた今、どう彼女と相対し、どのような手段で近づこうというのか。今はまだ、神のみぞ知る。

 

 

Side END...

 

 

 

 




ランジュ視点から始まりランジュ視点で終わる……如何でしたでしょうか。

姫乃ちゃんと遥ちゃんが初登場。舞台は2回目のDIVERフェスへ。最後のシーンでお分かりの方もいると思いますが……そう、問題のあの話への突入です。対象のキャラ推しの方は心の準備をした上で次回更新をお楽しみに。

あ、先に行っておくと本作でしずくは向こうにはいきませんよ。


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2-3「渦中に落ちるDiver Diva」

SAO同時公開は出来なかった、済まない(明日の『魔王学院の不適合者』生放送までには投稿致します、SAO待機勢の皆さん、今しばらくお待ちを)。

さて、オリジナル設定解説行きましょー


ノベライズ本編におけるオリジナル設定解説③

・東條希の通り名「トピー」
由来は希の誕生花である「スイートピー」から。当初は第3章の登場時まで名前隠そうと思ったんですが、スクールアイドルに夢中になって色々なスクールアイドルの動画を見まくった侑が流石に知らないはずないよなぁ…ってことで初登場にて早速の本名バラシとさせて頂きました。

・お台場の守護神『ユニコーンガンダム』
本編中で触れている内容は後日製作予定の前日譚「Episode of 栞子」の事の顛末までをさっくり説明したものです。ほら、実際に現実で動くはずがないものが何かこう不思議な力で起動するのって燃えるじゃないっスか!

・衛星落下事件
ユニコーンガンダムと同様「Episode of 栞子」の事の顛末までをさっくり説明したもの。元ネタは現在放送中の「デジモンアドベンチャー:」の宇宙ステーション落とし。ガンダム出張ってくるわけだし、これくらいせんと。

・300UCポイント
結子がこの回のみ発言した某バエルマイスターの「300アグニカポイント」と似たような響きの意味のないモノ。所謂小ネタね。

・虹ヶ咲マスコット連盟
本編中ではまだ名称として出してはいないが、文字通り虹ヶ咲に関連するマスコットキャラ達による一時的な協定組織。メンバーは、サスケ、ネーヴェ、アラン、オフィーリア、はんぺん。



アニガサキSS劇場⑤「最強、2年生ズ~続~」

 

ラ「待たせたわねッ、皆!放置からのランジュ、参入よッ!(ラァァァァァァァァン!!)」

 

愛「流石ランラン、今日もテンション高くてランランルンルンだね。ランランだけにっ!」

 

ラ「ふふっ、当然よ、愛。アタシは何時だって気高く咲く花の如くなきゃいけないじゃない!」

 

せ「ランジュさん、そんなにキャラ全開で大丈夫ですか?ネタバレになりませんか!?」

 

ラ「いいえ、無問題ラ!大体、スクスタやってくれてる人はランジュのキャラ、知ってるでしょ?」

 

せ「ま、まぁ、それはそうなんですが・・・・・・(突っ込み忘れてましたが、最初の謎SEは何だったんでしょうか・・・・・・?)」

 

侑「ランジュちゃんが来たら、もう私達怖いものなしだね」

 

ラ「当然よ、侑!出演記念として、鐘家の財力で公式から権限全てを買い取ってあげるわ!」

 

(それ以上はいけない)

 

歩「そう言えば、栞子ちゃんの寝そべりぬいぐるみが出るみたいだけど、ランジュちゃんのはまだなのかな?私、出たら買ってみたいな(アニメ未登場の癖に私の侑ちゃんに抱き着くなんて、許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない)」

 

ラ「ひうっ!?何か歩夢が怖い・・・・・・結子、助けてぇ!?」

 

(私は撮影係で忙しいからまた後でね)

 

ラ「そんなぁ~!?」

 

せ「しかし・・・・・・現存メンバーを全て揃えると、私達2年生組も中々キャラが濃いですよね」

 

愛「それが愛さん達だしねー、せっつーだって属性もりもりじゃん?」

 

せ「ふふん!何たって私は最初期からの謎の多いスクールアイドルですから!」

 

愛「うーん、ごめんせっつー。うまく言えないけど、多分せっつーは正体隠せてないよ、きっと」

 

せ「ゔえ゛ぇっ!?そ、そんな筈は・・・・・・!?」

 

侑「あはは・・・・・・という訳で!今回のSSは此処まで。次回からは、私達同好会メンバーじゃなくて、コラボキャラの人達や《μ’s》メンバーが来てくれるみたいだよ」

 

侑「何だか凄いときめきの予感・・・・・・!皆、絶対に見逃さないでね!」

 

ラ「ランジュの加入までしっかり見届けてよね!!」

 

侑・愛・せ・歩「「「「意外とちゃっかりしてるなぁ、ランジュ(ちゃん)(さん)・・・・・・」」」」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

麻『・・・・・・ら・・・・・・此方、Nullベース。聞こえてる、兄?』

 

麻『しかし、侑さんも予告するならゲストが誰か紹介ぐらいしとけよな』

 

麻『ま、そう言う何もかも完璧じゃないところが愛されてんのは、アサちゃんも分かってんだけどさぁ』

 

麻『って事で、次回のSSは第3章から活躍してくれる「CITY HUNTER」の主演のお二人の登場だ』

 

麻『・・・・・・公開前にアサちゃんと一緒に「CITY HUNTER」予習しようね、兄』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

Side:侑

 

「はふぅ・・・・・・疲れたぁ~」

 

ここは音楽科の生徒達が最後に通過する最長にして最大の難関、海外への2か月間の短期留学。その舞台ともなるべき街だった。希望生徒達が宿泊するホテルの周りには音楽に付随したありとあらゆる専門的なショップが立ち並び、その目を飽きさせない。その一人であった高咲侑も漏れなくその一人であった。

 

「同好会の皆、元気かなぁ」

 

遠く離れた異国の地にいても思うのは自身が発足したと言っても過言ではないスクールアイドル同好会のメンバー達の顔。一緒に濃密な時を過ごした彼女達は、たった数ヶ月間という短い期間でしかないがそれでも一緒に高め合った日々を通して深い深い絆で結ばれていたのである。

 

「あ、そうだ!電話してみよう」

 

思い立ったが吉日。侑は迷う事なく、携帯の電話帳を開き、同好会メンバーで幼馴染みでもある『上原歩夢』の名前をタップし、電話を掛けた。だが。

 

『現在、この電話は電波の届かないところにあるか電源が入っておりません。今一度確認の上――』

 

「あっれー、おかしいな???」

 

一応、此処に来る前にもしもの時の海外からの通話が出来るプランに同好会の皆で入って置いたはずだ。しかし、電話は何度かけ直しても誰にかけても一切通じることはなかった。

 

「もしかして電波障害か何か?うーん、困ったな」

 

そう言って、ネットに接続し、電波障害情報を調べてみる。すると。

 

『現在、この国内のみにおいて日本との通話ができない状況になっております。ご了承ください』

 

「えぇ~、そんなぁ!?何でこのタイミングでピンポイントで電波障害が起こるのさー!」

 

現状においてメンバーの誰とも通話したくとも出来ない。そんな歯がゆい状況に居ても立ってもいられず、ホテルの外へ飛び出した。これは素人目から見ても明らかにおかしい。まるで、誰かが意図的に日本への通信を拒絶しているかのように。

 

「すみませーん、固定電話を貸していただけませんかー!?」

 

侑は覚えたてで拙い英語を使いながら、外にいる人々に声を掛ける。しかし、その呼びかけに応じる者は誰もおらず、皆が皆、我が物顔で街を練り歩いて行った。

 

「んー、私が上手く言葉を喋れてないのかな・・・・・・どうしよう、誰か、誰か同郷の人は・・・・・・?」

 

辺りを見回す。だが、そこには同じ日本で生まれ育ったであろうと思われる人物は一人もおらず、やがて侑は落胆に溺れた。

 

「はぁ~っ・・・・・・付いてないなぁ、もぅ・・・・・・!」

 

久しぶりに皆の声が聞きたい。でも聞けない。そろそろ此方へきて1ヶ月程となる。残りは後もう1ヶ月。それを生き抜くために少しくらいは救いがあってもいいだろうと侑は思う。すると、そんな侑に救済の手を差し伸べる人物が現れた。

 

「やぁやぁ、お嬢さん。何事かお困りのようやんな?」

 

「・・・・・・!?あっ、は、はい!あの、実はですね――」

 

「うっふふ、そんなに焦らんでもええよ。ウチは逃げたりせぇへんから」

 

その人は独特な関西弁で喋っていた。馴染みはなくても、その発音・その声。全てが懐かしさを感じる。そして、侑は何故か自分はこの声を何処かで聞いたことがある。そう思った。

 

「へぇ。そんな事になってたん。気づかなかったなぁ」

 

「あの、貴女の家に固定電話はありませんか?それならもしかしたら日本に通じるかも・・・・・・!」

 

「あー、ごめんなぁ。ウチのとこには置いてないんよー」

 

彼女の返答を聞いて、もう駄目だ、と侑は思った。しかし、そんな彼女の姿を見て、顔にレースローブを纏った女は微笑みながら、こう諭した。

 

「別に、電話だけが手段ではないやろ。もっといい方法も他に一杯あるやん?」

 

「あ、そうだ!SNS・・・・・・!」

 

声が聴きたいという思いに駆られて、文章で会話をするSNSの存在をすっかり失念してしまっていた。侑はすぐにLINEを開き、同好会の共有チャットにメッセージを送ろうとした、が。

 

『メッセージが送信できません』

 

「駄目だぁ~・・・・・・!」

 

「あらまぁ」

 

アプリは開けるが、メッセージを送信しても横の矢印マークが全く消えず、エラーを吐く。電話の時と同じく何度繰り返しても、挙句携帯を再起動して見ても上手く行かなかった。

 

「もう、終わりだぁ~・・・・・・!」

 

「えぇ~っ、手段ならまだまだあるやん」

 

「もう無いですってばぁぁぁぁぁ~」

 

「ほんとにぃ?」

 

侑が現状で考えうる事の出来るありとあらゆる手段を試すもどれも無理な話。しかし、目の前の女性はまだ何かあるまだ何かあるとしつこい程に訴えかけてきている。

 

「じゃあ、その他の手段って一体何なんですかぁ~!」

 

「んー、それは勿論――」

 

『ババババババババババババババババババ・・・・・・・!』

 

女性が言葉を切った次の瞬間、侑達がいる場所の上空に一台のヘリコプターが現れ、滞空をしている様が確認できた。その常識を逸脱した状況に侑は思わず驚きの声を上げた。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「トピー様、如何いたしましたか?」

 

「えっとな~、何故か今ここじゃあ日本に電話もメッセージもできないみたいなんよ~。だから、この子の伝言を現地のラグナくんとミノリちゃんに伝えてくれる~?」

 

「ええ、お安い御用ですよ。それで、お伝えしたい事とは?」

 

ヘリから身を乗り出した男が侑のいる方を見て、そんな事を尋ねる。侑はその視線に気づき、驚いている暇はないとその男に向かって思いっきり叫んだ。

 

「虹ヶ咲の同好会の皆にー、後1ヶ月で戻るから待っててって伝えてくださーーーーい!」

 

「成程、成程。あの近頃有名な虹ヶ咲学園の方でしたか。了解です、必ずお伝えいたしますので」

 

侑の言伝を聞いて、再びヘリの中へと戻っていった後、男はそのままヘリで遠くの空へと飛び去って行った。な、なんでもありなのか・・・・・・世界の富豪人と言うのは・・・・・・!?

 

「さ、あの人が戻ってくるまでウチらもそれぞれ頑張ろうっか、到着したら連絡するから無理せぇへんようになぁ~!」

 

その時だった。顔が隠れて見えなくなっているその女性の別れ際の声を聴いて、侑の中にあった何処かで聞き覚えのある声と言う疑問が確信へと変わる。侑は思わず叫んだ。

 

「あ、あのっ!もしかして貴女は・・・・・・《μ’s》の希ちゃんですかー!?」

 

そんな侑の声に、少しびっくりしたような反応をした彼女は、やがて口を開いてこう言った。

 

「へぇ、ウチのこと知っててくれたんやね。でも、今日ここであった事は絶対に内緒ね!」

 

嗚呼、やっぱりだ。自分の思った通り・・・・・・しかして念願の。伝説のスクールアイドルとして名高い《μ’s》。そのアイドルグループの一員であった彼女にまさかこんなところで出会えるとは。運命の出会いに高ぶった感情をぶつけようとしたが、彼女にそう言われては仕方がない。侑は自身から溢れ出る気持ちをなるべく抑えながら。

 

「分かりましたーーーっ、秘密にしまぁぁぁぁぁぁぁす!!」

 

そう叫んで、彼女・・・・・・《μ’s》の東條希と別れたのであった。

 

「・・・・・・ふふっ、まさかまだウチらのあの一瞬を覚えててくれた人がいたなんて、感動モノやんな」

 

「こういう巡り合わせこそ、まさしく・・・・・・」

 

「スピリチュアル、やね」

 

 

Side:END...

 

 

一方その頃、虹ヶ咲では――

 

「・・・・・・・」

 

『おかけになった電話番号は現在、電波の届かないところか――』

 

「おかしいですね、何度試しても全く通じません・・・・・・」

 

ここは生徒会室。その部屋の中で栞子は、高咲侑に連絡を取ろうとしていた。だが、結果は同じ。向こうで侑が同好会のメンバーに連絡しようとしても連絡が取れなかったように、此方からも侑の携帯へ連絡を取る術が全くと言ってなかったのだ。

 

「菜々さん、其方は通じましたか?」

 

「いいえ・・・・・・やはり駄目ですね。何故か通じなくなっています」

 

「そう、ですか・・・・・・」

 

生徒会長である中川菜々と協力し、侑以外の音楽科転入手続きを行った生徒全員に連絡を試みるもやはり誰一人として通じる者はいなかった。

 

「固定電話でも駄目となると・・・・・・もう何者かが意図的に仕組んだとしか考えられませんね」

 

「何者か、と言うと・・・・・・やっぱり『監視委員会』でしょうか?」

 

「・・・・・・ええ、残念ながらそれで間違いありませんね」

 

スクールアイドル部との対決を見越したあのステージ、その裏の楽屋スペースでメンバー全員が黒服の男達に襲われかけた時。あの男達は確かに自分達を『監視委員会』の者と名乗った。偶々似ている組織名という可能性もなくはないが、敢えてここ虹ヶ咲をピンポイントで狙ってくるあたり、彼ら以外に心当たりはなかったのである。

 

「栞子さんを利用するだけ利用して、失敗してそれで諦めたかと思いましたが・・・・・・如何やら、あの時の事は単なる前哨戦でしかなかった、と言う事でしょうね」

 

「・・・・・・気になる事は沢山ありますが、一先ず私達にとってはDIVERフェスもありますから」

 

「取り敢えず、この事は結さんにも話しておきましょう。あの方なら、きっと護衛をしてくれます」

 

「そうですね。それと『NLNS』の皆さんにも協力を要請しますか?」

 

「今は頼れる戦力はより多い方が良いでしょうから。是非、そうしてください」

 

そして、二人は生徒会室を出て同好会の部室へと急ぐ。だが、彼女達はまだ知らない。敵の狙いがDIVERフェスを妨害する事ではなく、同好会所属のとある二人のメンバーだと言う事に。

 

 

 

「――それじゃあ、せつ菜ちゃんと栞子ちゃんが戻ってきたから、結果発表だよ・・・・・・!」

 

「結果発表ォォォォォォッ!!」

 

「な・・・・・・何で二回言ったんですか???」

 

年末の特番などでよくやっている格付け系の番組の某MCの物真似を小ボケで挟みながら、私は部室にて、事前に私と遥ちゃんと姫乃ちゃんと栞子ちゃんで審査員をして、そのほかのメンバーには踊りを披露してもらい、総合評価が高かった人が次のDIVERフェス枠に参加が出来るという前回のフェスで侑達が取った選考方法で予選会なるものを開き、その結果を皆に伝える時が来た。第2回DIVERフェスの参加という名誉を手に入れた今回の出場者は。

 

「優勝は・・・・・・宮下愛ちゃん!」

 

「えっ、アタシ!?おっ、おおおおおお、やったぁぁぁぁぁ!」

 

私が優勝者の名前を発表すると、その当事者である愛さんはその場で飛び上がり喜びを全身で体現していた。他メンバーは悔しそうではあったが、勝者が決まったのならしょうがないという事で皆一斉に愛さんにエールを送っていた。

 

「悔しいけど、今回はお預けって事ね。頑張りなさい、愛」

 

「応ともさ!愛さん、カリンの分まで頑張ってくるぞー!」

 

「うぅ~っ、また出られなかった・・・・・・ぐや゛じい゛~・・・・・・!」

 

「いやいや、かすかすもナイスファイトだったぞ~。次は頑張れ、かすかす~」

 

「かすかすじゃありません、かすみんですぅ!」

 

「愛ちゃん、おめでとう!前の果林ちゃんみたいに怖くなったらいつでも呼んでいいからね」

 

「ちょっ、エマ!?///

 

「あっはは!うん、もしそうなったらその時はよろしくね、エマっち!」

 

「愛さん、頑張って。璃奈ちゃんボード『ファイト!』」

 

「ありがとう、りなりー!りなりーが応援してくれるなら愛さん百人力だぞ~!」

 

果林さん、かすみちゃん、エマさん、璃奈ちゃん。この4人から始まった愛さんへのエール掛けが一通り終わったところで、不意に愛さんがせつ菜ちゃんに声を掛けた。

 

「そいや、せっつー。最初はあんなにやる気だったのに途中で棄権したのは何でなのさ?」

 

そう、この中で誰よりもスクールアイドルへの情熱が高いせつ菜ちゃんだけが何故か今回の選考会をパスしていたのだった。その時の本人は何となくのぼやっとした理由で誤魔化したが、選考会が終わった今、果たして真実を答えてくれるのだろうか。

 

「前にもお話しましたよ、個人的に思うところがあると。ですから、私は大丈夫です」

 

「ホントにぃ?だって辞退した後も何か凄くソワソワしてたって言うか、終始何かやりたいんだけど何らかの事情でやれなくてもどかしいみたいな感じだったし」

 

「一人で無理しちゃだめだよ、せっつー。アタシ達、同じ同好会の仲間じゃんか」

 

「愛さん・・・・・・」

 

しかし、未だに意地のようなものは張り続ける彼女を見兼ねて、そういう他人の感情の機微に聡い愛さんが説得を試みていた。うーん・・・・・・最初は栞子ちゃんから始まって次はせつ菜ちゃんか。明らかに一人で抱え込んで無理をしそうな二人だけに、今のような状態は猶更心配であった。

 

「そう、ですね。皆さんも既に一度巻き込まれている当事者であるわけですし・・・・・・分かりました」

 

そう口にして、せつ菜ちゃんは今自分が思っている・・・・・・いや、正確には危惧している事を同好会の皆に分かりやすいように掻い摘んで話していく。「スクールアイドル部との対立が最近は均衡状態にある事」「栞子ちゃんと名誉部長の侑に電話をしてみても通じなかった事」「侑の他にカリキュラムに同行した生徒・教員達への連絡すらままならない事」そして何より。

 

「皆さんは覚えていますか、栞子さんの時に私達の周囲で暗躍していた『監視委員会』と言う謎の組織の存在を」

 

「ええ、そりゃあもう。一発派手な事をされたんだもの、忘れるのは無理な話ね」

 

「今回のスクールアイドル部の一件も恐らくあの組織絡みのものだと分かったんです」

 

「ええっ、そんなぁ・・・・・・!?」

 

「なので、私は一応生徒会長でもありますので、会場の安全確保に努めようかと思いまして」

 

せつ菜ちゃんのその断言にエマさんが困惑の声を上げる。しかし、私は何のことかさっぱりわからず、ただただ首を傾げるしかなかった。

 

「あぁ、そう言えばこの件は結子さん加入以前のお話でしたね。では、私から簡単に説明しましょう」

 

せつ菜ちゃんが言うにはこう。侑がスクールアイドルフェスティバルなるものを企画しようと同好会メンバーと動いていた時の事。突然、生徒会に当時の栞子ちゃんが殴り込みし、現・生徒会長だった菜々ちゃんに宣戦布告し結果は惨敗。その後、栞子ちゃんを今まで利用していた『監視委員会』が栞子ちゃんを捨て、強行手段としてお台場中心部へ人工衛星の落下を画策した。しかし、その場にいたスクールアイドルとそれを愛する人たち全員の気持ちが一つとなり、それがお台場の守護神「ユニコーンガンダム」を起動。人々の想いの力を増幅した「ユニコーンガンダム」の活躍によってその脅威を配する事に成功。計画が全て失敗した『監視委員会』はすぐに姿を消したのだった。

 

「へぇ、何か凄いね!あの『ユニコーンガンダム』が動いたんだ!」

 

「人工衛星の落下を聞いた時は悪夢と思ったけど、アレがまさか本当に動くなんて、ね」

 

「あの時に経験したことは、思えば全てが夢のようなそんな感じでした」

 

「まぁ、何であの時だけ動いたのかとかそう言うのは、未だに謎のままなんだけどねぇ」

 

「私もアニメは実際に見てたけど・・・・・・凄く驚いた。璃奈ちゃんボード『びっくり』!」

 

そうか、侑が前に言っていた身内のゴタゴタとはこの事件の事だったのか!本当にその事件身内のゴタゴタっていう表現だけで収集して良いのだろうかという突っ込みはさて置いて、う~ん・・・・・・私も実際に見たかったなぁ『ユニコーンガンダム』が動くところ。そんな風に私が悔しさを滲ませていると、今まで事の顛末を説明していたせつ菜ちゃんが凄くプルプルと震えていた。あ、せつ菜ちゃんのオタクスイッチがオンになった。

 

「嗚呼、鮮明に思い出したら凄く興奮してきました!皆さん!!良ければこの後『機動戦士ガンダムUC』と『機動戦士ガンダムNT』の上映会をしませんか!?」

 

「ほぅ・・・・・・そうですか。では、せつ菜さん。貴女はそれをどこで見る気なのですか?」

 

「ひいぃっ・・・・・・!?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」

 

「この人数で見るとなればかなり開けた空間でなければいけません。まさか、この間みたいに無断で学校に何かを持ってきている・・・・・・という訳ではありませんよね?」

 

「(もの凄い勢いで首を上下に振る)」

 

しかし、その提案をしたところでそれを聞き逃さなかった栞子ちゃんが物凄い形相を浮かべ、ドスの利いた声でせつ菜ちゃんを問い詰めると、せつ菜ちゃんはすっかり怯えてしまって、それ以上は何も喋らなくなってしまった。・・・・・・そっちも、ちょっと見たかったなぁ。

「駄目だよ、しおってぃー。そんなに怒ったらせっつーが可愛そうじゃんかー」

 

「あ、愛さん?いえ、しかし・・・・・・」

 

「しかしもこけしもないよ。例え悪い事でも、人の話は最後までちゃんと聞いてあげないと」

 

「す、済みません。この間の事もあって少しピリピリし過ぎたかもしれません・・・・・・」

 

そんな栞子に対してせつ菜を庇う発言をする愛さん。そうか、今までアニメとかゲームとかでしか見たことはなかったから信じてなかったけど、オタクに優しいギャルは本当に実在したんだ!

 

「せつ菜さんも済みませんでした」

 

「うえっ!?あ、いえ!そんなに気に病まなくてもいいんですよ栞子さん、私は大丈夫ですから!」

 

「うんうん、せっつーもしおってぃーもなかなか直りにくい中で仲直りできたね!仲直りだけにっ!」

 

喧嘩と言う程ではなかったにしろ、少しピリッとした空気をやわらげる役割を果たしたこの場での愛さんの活躍は素晴らしいものだった。いいね、300UCポイント。

 

「ええと、話を戻しましょうか。それでその問題の彼等ですが・・・・・・」

 

「次のDIVERフェスを狙っている・・・・・・そう言いたいのね、せつ菜?」

 

「はい、もし彼等の目的がスクールアイドル部との連携によって私達同好会の活動を阻む事だったとするなら、これ以上の絶好の機会もないでしょうしね」

 

「横槍を入れて私達の代表で選ばれたメンバーのステージを中断させて、同時に観客に虹ヶ咲のいるステージには襲撃が付き物と思わせて私達の総評を下げる。敵にとっては一石二鳥ね」

 

別に直接的にウチの同好会が関わっているという話ではないにしろ、相手はあのスクールアイドル部のランジュと手を組んでいる。虹ヶ咲の総評を私達への信頼毎下げるという、演出的にもあちら側に有利に働いてしまう・・・・・・上手く計算しつくされた計画と言う事か。

 

「なので、私は栞子さんと一緒に生徒会メンバーで会場周辺の警備をします。この間私達が協定を結んだ『NLNS』の皆さんと、結子さんにもその時は一緒に警備に当たってもらうとして」

 

「ステージ演出の操作は・・・・・・璃奈さん、またお願いしてもよろしいですか?」

 

「うん、分かった。頑張る」

 

璃奈ちゃんがこくり、と頷いた。

 

「ありがとうございます。それとステージに立つ愛さんのサポーターは前回のDIVERフェス担当の果林さんに」

 

「ええ、分かったわ。愛、よろしくね」

 

「おおっ、果林も来てくれるの!?愛さん心強ーい!」

 

果林さんがサポーターに入ると言う事で愛さんは大喜び。えっ、でもこの人確か侑のノートに書いてあった事前情報ではかなりの方向音痴じゃなかったっけ。一人で大丈夫なんだろうか。

 

「あ、それと果林さんが会場内で迷子にならないようにエマさんも同行お願いします」

 

「うん!私、頑張るね」

 

「ううっ・・・・・・それに関しては何も言えないわね。よろしく、エマ」

 

「任せてよ!」

 

が、その心配も杞憂。せつ菜ちゃんは如何やら果林さんが方向音痴であるという事実を侑と一緒に目撃していたらしいので、そこら辺もきちんと気を配っていたらしい。流石は生徒会長だ。

 

「またかすみん達を追い出して自分がステージに立つつもりなんですかね。ぐぬぬ、おのれぇ、スクールアイドル部ぅぅぅ・・・・・・!」

 

「いえ、今回ばかりは流石にそれは不可能かと」

 

「うえぇ!?な、何でですか!?」

 

「幾らあちらが資金力に長けているとは言え、DIVERフェスに関してはまだ私達スクールアイドルはお試し出演のような立ち位置です。如何にランジュさんとは言え、自分達が後々不利になる様な行動は決してとられないかと」

 

常識はずれな行動が多い彼女とは言え、流石に自身の今後の身の保証すら付かなくなるようなことは絶対にしないだろう。何せ、今回の参加は敢えて見送って私達同好会のライブの妨害を『監視委員会』側にやらせることで、私達に代わってそれ以降の活躍は彼女達が仕切る事になるはずなのだから。そんな将来の美味い商談条件をまさか手放すとは思えない訳で。

 

「あ、あの、結ちゃん!」

 

「わぁ、びっくりした!?」

 

私がスクールアイドル部と『監視委員会』対策で色々と考え事をしていると、不意に歩夢ちゃんが私に話しかけてきたものだからびくっとして振り返る。そんな私を見て、歩夢ちゃんはすぐに申し訳なさそうな顔をしてしまう。あああ、気にしてないから落ち込まないでぇ~・・・・・・!

 

「あ、ご、ごめんね。色々考え事してる時にいきなり話しかけちゃって」

 

「ううん、全然大丈夫!それで、何かな?」

 

「え、えっとね、良ければ結ちゃんの警護の仕事、私も手伝いたい・・・・・・いいかな?」

 

え、歩夢ちゃんが警護の仕事を・・・・・・?いやいや、まさかそんなやらせるわけには。

 

「無理しなくても大丈夫だよ、歩夢ちゃん?相手は只でさえおっかない相手だし・・・・・・」

 

「それでも・・・・・・!私も侑ちゃんから部活と皆を守ってってお願いされたから。だから、私にもできることがあったら何でもするから・・・・・・お願い!」

 

成程、そう来ましたか。うーん、どうしよう・・・・・・歩夢ちゃんにできる事と言っても何かあるだろうか。私みたいにムキムキな訳で無し、『NLNS』や生徒会の人達みたいに護身用の何かを持っているわけでもないし。参ったなぁ、私こういう子に必死にお願いされると弱いんだよなぁ・・・・・・。

 

「おや、歩夢さんも加わって頂けるのですか?それは力強いですね」

 

どうしたものか、と迷っているとその会話を聞いていたせつ菜ちゃんが突拍子もない事を言い出した。ち、力強いって何処が!?

 

「ええっ!?せつ菜ちゃん、正気!?」

 

「はい、正気も正気、寧ろ本気です!ね、歩夢さん」

 

「う、うん。ありがとう、せつ菜ちゃん」

 

「歩夢さんの侑さんを思う心は誰よりも強いので此処は存分に頼るべきかと!」

 

いやいやいや、そんな馬鹿な。大体、戦力が欲しいからと言って歩夢ちゃんを借り出す様な真似をして怪我でもさせてしまえばそれこそ侑に合わせる顔がなくなってしまう!

 

「それに大丈夫ですよ、結さん。歩夢さんには”彼”が付いてますから!」

 

”彼”!?えっと、それはもしかしてボディーガード役の男の子的な人って事・・・・・・?

 

「えっと、それじゃあ・・・・・・おいで、サスケ」

 

「サスケ?」

 

侑のノートにも書かれていなかった全く聞き覚えのない名前に首を傾げながら、部室の窓を開けて外に向かって歩夢ちゃんが両腕を広げるポーズ(すしざんまいでもバエルでもないからね!)をしたその瞬間だった。

窓の外に急に小さな長い影が現れ、その物体が歩夢ちゃんへ向かって飛んでいき、その綺麗な首に巻き付いた。な、あれはッ・・・・・・!?

 

『呼んだか、歩夢』

 

「ん、一緒にやってもらいたい仕事があるの。手伝ってくれる?」

 

『他ならぬ歩夢の頼みだ、やってやるよ』

 

「わ、本当!?ありがとう、サスケ!」

 

チベッタァァァァァ、じゃなくて喋ったァァァァァァ!?え、これどう見てもただの紫色の蛇だよね!?いや、現実に紫色の蛇なんていないけど。蛇が、人語を理解して、喋ってる!?

 

「あ、紹介するね。この子はサスケ、小さい頃からの私のお友達なんだ」

 

『ほぅ、侑の奴よりは頼りになりそうだ。まぁ、俺には敵わないだろうがな』

 

「こーら、今は侑ちゃんの代わりに頑張ってくれてる子なんだからそんなこと言っちゃ、めっ!」

 

しかもさっきから歩夢ちゃん普通に会話してるし。えぇ~・・・・・・何コレ。

 

「久しぶりですね、サスケさん!」

 

『応よ、せつ菜。確か選挙戦の時以来か』

 

「はい、あの時のサスケさんの御活躍には大いに助けられましたよ!」

 

『当然だ、この俺がやったんだからな』

 

ってせつ菜ちゃんまで!?も、もしかして同好会の皆と関わりがあるの、この蛇!?

 

「わぁ、サスケくんだぁ~!元気してた?」

 

『エマか。俺はこの通り大事ない、ネーヴェの奴は元気か?』

 

「うちのネーヴェちゃん?うん、夏休みに一回帰った時は元気だったよ~」

 

『だろうな。心配するまでもねぇか』

 

エマ・・・・・・さんは何かパッと見動物と会話できそうな感じだから自然体に見えるなぁ。

 

「サスケだ、元気してた?」

 

『璃奈。アランは大事ないか?』

 

「うん。この間、アップデートして空を飛べるようになった」

 

『はっ、璃奈程の腕を持つ主に迎えられてアイツも幸せだろうよ』

 

「そうかな?私、機械の心は分からないけど、アランがそう思っててくれるなら嬉しい」

 

璃奈ちゃんもか。っていうかさ、さっきから私の知らないネーヴェだとかアランだとか知らない名前が出てくるんだけどその方たちは誰なの・・・・・・?

 

「うわぁ、サスケだぁ!?」

 

『愛、何で怖がる?』

 

「い、いやぁ・・・・・・何かよく分からないけどサスケを見ると妙に落ち着かなくて」

 

へぇ、愛さんはもしかして蛇が苦手なのかな?そっかぁ、意外だな。イメージだとカエルとか虫とか普通に触れる方だと思ったけど。

 

「あ、そうだ。サスケ、オロチは戻ってきてる?」

 

『オロチか?あぁ、多分いると思うぜ』

 

あら、呼んだかしら・・・・・・?

 

サスケが皆に声を一通り掛けて歩夢ちゃんの元へ戻る。すると、今度は歩夢ちゃんがオロチという又もや知らない名前を口にする。そして、歩夢ちゃんが呼んだ途端にそれは姿を現した。

 

「オロチ~、久しぶりだね、元気だった?」

 

アタシはアユムちゃんのお陰でいつも元気よ?

 

「本当?えっへへ、ありがとう~」

 

礼を言われるまでもないワ。一ファンとして当然の事よ

 

今度は白蛇が出てきた。しかも、サスケとは比べ物にならない位大きな・・・・・・ざっと体長が8mくらいありそうな巨大な白蛇。軽く化け物ジャン・・・・・・。

 

「あ、この子はオロチ。虹ヶ咲に昔から住んでる池のヌシなんだって」

 

オロチよ。アユムちゃんを守れと言うならいつだって従うワ・・・・・・

 

その後。歩夢ちゃんの警護の件はサスケとオロチ、二人(?)の協力によって実現できる流れとなった。何だろう、歩夢ちゃん、蛇使いの才能があるんだろうか。いや、これ以上は何も言うまい。

それからというもの。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会名義での2回目の出場に当たるDIVERフェスに備え、着実に準備を進めていった。不思議な事にその期間はスクールアイドル部の妨害みたいなものが入ることは一切なくまさに順風満帆。でも、私達はもしかしたら前みたいに油断したころにまた来るのかもしれないと気を張り詰めて、練習の場やリハーサルに挑み続ける。

 

 

――しかし、敵は既に私達の2手3手先を読んでいた。

 

 

 

それはDIVERフェスを前日に控えた、ある日の練習後の帰宅途中での出来事だった。

 

「ふいーっ、今日も疲れた疲れた~」

 

「そうかしら?その割には全然疲れてなさそうね、愛」

 

「そりゃあね!カリンも分かるでしょ、このライブを目前に控えたワクワク感って言うかさ・・・・・・!」

 

「ええ、それについては分かるわ。だって、一度あそこを経験してるんだもの」

 

その日、前回DIVERフェス出演者である朝香果林と今回の出演者となった宮下愛の二人は決起会と称して新宿まで足を延ばし、ショッピングを楽しんでいた。フリーとなった午後の時間を目一杯に使った二人は時刻がギリギリになるまで色々な場所を回り、或いは外にあるベンチでちょっと一休みしたりを繰り返して駅前を散策し尽くした。その帰り道。

 

「あ、見て、カリン!あそこ、お金持ちの人が良く乗ってる車だ!」

 

「あぁ、リムジンの事ね。珍しいわね、こんな場所でリムジンを見かけるなんて」

 

漫画やアニメなどの娯楽作品に登場するお嬢様・お坊ちゃまキャラが一度は乗ってくるであろう白塗りのリムジン車。二人が物珍しそうにそれをみていると、そのリムジン車は二人が歩いていた歩道の近くに一時停車し、ハザードランプを焚く。すると、中から一人の初老の男が姿を現した。

 

「お初お目にかかります。失礼ですが、お二人は虹ヶ咲スクールアイドル同好会所属の朝香果林様と宮下愛様で間違いは御座いませんか?」

 

「おおっ、もしかして愛さん達のファンの人だったり!?」

 

サッと振りかぶって、姿勢正しく挨拶するその男に愛は興奮を隠せぬようだった。それもそうだ、自分が今まで出会ったことのないタイプの人間と出会ってしまえば、彼女は興味を示さずに愛られない質なのであった。

 

「ある意味ではそうやもしれませぬ。なればこそ、今日はこの私めの話を是非ともお聞きいただきたいのです、よろしいですかな?」

 

「うわーっ、やっぱり!って事は、何々!?もしかして、豪勢な会場でライブのお誘いとか!?」

 

いきなりの未知なる体験と未知なる遭遇。自分の好奇心に先程から引っ張られまくりの愛であったが、それとは対極に果林は至って冷静だった。

 

「・・・・・・待って、愛。この人、怪しくないかしら?」

 

「そお?パッと見普通のおじ様に見えるけど?」

 

「・・・・・・愛は少し他人を疑う事を覚えた方がいいわね」

 

果林が愛には聞こえないように、小さな声でそう呟く。愛の天性の才とも言える程の人の良さは、果林自身も好印象を持っている。だが、それは時として何かを企んでいる人間に利用されてしまうかもしれない弱点にもなり得るモノ。彼女はそれが今の状況では後者となるであろう事を直感で感じ取ったのだ。

 

「おっと、そう言えば自己紹介が済んでおりませんでしたな。私共はこういうものに御座います」

 

そう言って男が差し出した名刺には『株式会社WCO 代表取締役補佐 藤井孝則』と書かれていた。如何やら、中々に偉い立場にいる人間らしい。

 

「成程ね。それで、その取締役補佐の方が私達学生に何の用かしら?」

 

「実は私、本業とは別に副業でとある家の執事もやっておりまして」

 

「へぇ・・・・・・その立場に甘えず態々遜る真似までするのね、アナタ」

 

「何、元々今の地位よりも其方が向いているという事でしょう。今の職を退いたらその道を考えるのもありかも知れませんなぁ」

 

男が笑いながらそんな事を宣う。ああ、やはりこの男は何処か信用できない。果林の中で疑念が確信へと変わった時、彼女は傍にいた愛の手を取り、その場から立ち去ろうとした。

 

「ちょ、ちょっとカリン、何処に行くのさ!?」

 

「何処にも何も家に帰るだけよ。行きましょ、愛」

 

「おやおや、此方の話はお聞きにならないというのですか?」

 

その場から早急に立ち去ろうとする果林とそれを引き留めようとする愛。そんな彼女達を見て、男は特別表情を変えることなくそう呟いた。早く逃げなければ自分と仲間の身が危険に曝されるかも知れない、彼女のその考えは本来なら非常に優秀な判断になるはずだった。しかし。

 

「それは残念ですな。では、この画面に映っている彼女達がどうなってもよろしいと?」

 

男は先程と同様に全く表情を変えずに果林と愛に向かって携帯に映った画面を見せる。そこに映り込んでいたのは。

 

「あれ、これってりなりーとエマっち?えっ、どういう事!?」

 

「この二人は人質って事かしら。随分と卑怯な手を使うわね、取締役補佐さん?」

 

そこには、果林と愛の最も仲の良い二人である天王寺璃奈とエマ・ヴェルデの二人が大勢の黒服の男達に囲まれている様子が映っており、画面外から激しい取っ組み合いの音が聞こえてきていた。恐らく、結子達が必死で抵抗してくれているのだろう。だが。

 

『あがっ!?』

 

『あ、兄、大丈夫!?』

 

『はは・・・・・・あんまり大丈夫ではないかもな。けど、退くのは難しそうだ・・・・・・!』

 

『くうっ・・・・・・!敵が遠距離攻撃を使ってくるなんて・・・・・・!』

 

「「・・・・・・!?」」

 

苦戦を強いられている仲間達。そんな中、果林と愛は黒服の男達が手にしていたものに目を引き付けられた。黒い鈍色の光を放つ、殺意を持ったコンパクトサイズの鉄の塊・・・・・・即ち、拳銃。日本においてはただの護身用であるはずの威嚇道具。それが本来の殺戮兵器としての一面を顕わにし、その冷たい銃口は静かに彼女達に向けられていた。

 

「貴方は何を考えているの、アレから出た弾が当たれば人が死ぬのよ!?」

 

「カッカッカ、ご安心なされよ。我等とて無益な殺生は避けたいところ。あれは暴徒鎮圧用のライオット弾というものだよ」

 

「まぁ、尤も、ライオット弾であっても当たりどころが悪ければ当然死んでしまうがね」

 

果林が檄を飛ばしたにも拘らず、男は特にこれと言って焦る様子もなく、ただニヤリと笑ってその映像を消して、携帯をポケットにしまった。これで彼女達と離れた場所にいる果林と愛には彼女達がどうなったのかを見ることは出来なくなってしまった。

 

「申し遅れました。私、鐘家にてお仕えさせて頂いているセバスと申します。同時に貴女方を捕らえる為にランジュ様より遣わされた『監視委員会』に所属する者でもあります。以後、お見知りおきを」

 

「監視委員会、ですって!?スクールアイドル部はこんなことをしても許されるの!?」

 

全く以てその通り(イグザクトリィ)、で御座います。全ては我が主の思うがままに」

 

「ど、どうしよう、カリン!?このままじゃ、このままじゃりなりー達が!?」

 

「くっ・・・・・・!なら、こっちもなりふり構ってられない、わね!」

 

 

――顔認証、完了。生体データベース、登録条件9に該当・・・・・・一致。プログラム、起動します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Georgius Protocol Online...

 

 

果林が鞄の中に忍ばせておいたゴーグル型の兵器を掛け、データベースを展開し、男に向かって一直線に突貫した。手に持つは結子から事前に預かった護身用スタンガン。恐らく、敵の旗本であるコイツを叩けば彼女達の安全が確保できる。そう読んでの事だったのだろう。だが。

 

「フッ、やはり動きは素人。まだまだですなぁ・・・・・・!」

 

「かはっ・・・・・・!?」

 

「カリン!?」

 

初老を迎えていると思って油断していた。相手はそんな年齢を感じさせることのないくらいに筋力が発達しており、流れるようなスピードで果林の攻撃をひらりと躱し、彼女の腹部に鉄拳を叩き込んだ。その瞬間、彼女は身体全体を駆け抜けるような痛みに襲われ、吐血。手にしたスタンガンは一回も電流を迸らせることも出来ずに落下。そのまま意識を失い、床に倒れ伏した。

 

「ククク、実に他愛ない。さて、次は貴方の番ですか?」

 

「何で・・・・・・何でこんな事するのさ!?」

 

愛はその場に倒れた果林の元へ駆け寄り、起こそうと試みる。その最中で未だに冷静さを保ち、果林を道端に落ちたゴミを見るような目で見つめる男に純粋な怒りをぶつける。しかし、当の本人である男は平然とした表情でこう言った。

 

「何故、で御座いますか。それはこれが戦いである証、至極簡単な話です」

 

「そんなの・・・・・・そんなのおかしいじゃん!私達はただスクールアイドルがやりたいだけなのに」

 

「ほぅ・・・・・・成程成程。でしたら、この事態を止める事の出来る打開策を、貴女に授けましょう」

 

「えっ・・・・・・?」

 

打開策、この言葉が精神的に追い詰められた者にどれ程の効果を発揮するか。それは火を見るよりも明らかな事実で。

 

「朝香果林、宮下愛。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、たったそれだけの話に御座います」

 

「うえっ・・・・・・!?でも、そしたらあの子が・・・・・・ゆうゆが・・・・・・!」

 

「何も心配為される必要はない。貴女達は今し方選ぶ権利を勝ち得た勝利者だ。だが、注意なされよ、貴女方の判断一つで向こう側の方々の命は保証できなくなる」

 

「ッ・・・・・・!」

 

「さぁ、如何致しますかな?」

 

目の前の圧倒的な光景を前に愉悦に溺れる一人の紳士。かたや、自分達のせいで大切な仲間が命を落とそうとしているかもしれないと言う事実を突きつけられたか弱き少女。後者である彼女がその場で何を選択するか。

 

「分かり・・・・・・ました・・・・・・!カリンと一緒に行くから、皆にはこれ以上手を出さないで!!」

 

「フフフ、一方が物分りの良い方で助かりました。では、此方へどうぞ」

 

男が愛のその言葉を聞き、不敵に微笑むと車の扉を開けた。愛は倒れたままの果林を担いでゆっくりと車の中へと入っていく。もし今気を失っている彼女が目を覚ましたら勝手な判断をしたことで怒られるんだろう・・・・・・そんな事を思いながら。

 

「ああ、それともう一つ。貴女の明日のDIVERフェスへの参加は予定通り行っていただきますよ」

 

「同好会ではなく、我々スクールアイドル部名義での出場とはなりますが、悪しからず」

 

男のそんな言葉を最後に愛の乗った後部座席の扉がぱたりと閉まる。それから1分も経たない内に彼女達を乗せた白塗りのリムジン車は駅前をお台場方面へ向けて発車した。

 

 

 

「・・・・・・」

 

「ゴメン、皆。ゴメン、ゆうゆ・・・・・・!」

 

後部座席に倒れた友人を介抱しながら、愛は一人涙を流す。自分だけが何もできなかった、自分のせいで果林を危険に巻き込んでしまった、傷付けてしまった。学校の部活動の頼れる助っ人としてヒーロー扱いを受けてきた自身がこのザマだ。

 

「あははっ・・・・・・アタシってば、弱すぎだよ・・・・・・!」

 

何がヒーローだ、何が部活動の救世主だ。肝心な時に身体が動かないなんて本当にどうかしている。彼女の顔には何時ものようなあの晴れやかな笑顔は全くなかった。

 

「りなりー達、無事だと良いな・・・・・・」

 

それでも、自分にできることはやった。相手が何処まであの交渉を飲んでくれるか分からない。けれど、彼女は自分が・・・・・・いや、正確には自分と果林があちら側に行くだけで他のメンバー達がこれ以上危険な目に合わないのであれば、それでいいと思った。

 

「後で・・・・・・果林に、も・・・・・・謝ら、なく――」

 

 

 

――緊張の糸が切れた彼女は、そのままプツリと意識を失い、眠りの淵へと落ちていった。

 

 

 

 

「・・・・・・っ」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

その翌日の放課後の事。部室に集まった面々は全員が全員、意気消沈した悲痛な表情を浮かべて黙りこくっていた。テーブルの周りにある椅子には2つ程空きが出来ていて、昨日の午後に起こった騒動が原因で本来そこにいるべき2人がこの同好会からいなくなってしまった事を意味していた。

 

『・・・・・・以上、虹ヶ咲学園スクールアイドル部代表、鐘嵐珠さんのステージをお届けしました!』

 

TVには今日、DIVERフェス会場で披露されるはずだった愛の代わりに、部の代表であるランジュが代理としてステージを独占している姿が映っていた。当初、自分達と一緒に出るはずだった藤黄学園と東雲学園のスクールアイドル達もランジュによってバックダンサーに位置付けられていた。

 

「ごめん、皆。私が守らなきゃいけなかったのに・・・・・・守れなかった・・・・・・!」

 

そんな中、最初に口を開いたのは結子だった。守るのは自分の役割のはずだった、けれど自分の近くだけで精一杯で離れたところにいる仲間を助けてやれなかった。彼女にはその事実がどうしても我慢ならなかった。

 

「そんな・・・・・・!先輩は・・・・・・先輩は一生懸命頑張ってくれたじゃないですか!」

 

「かすみちゃん・・・・・・」

 

落ち込む結子にかすみが声を振り絞って、喝を入れる。確かに果林と愛を守ることは敵わなかったけれどあの時みたいに自分達を守ろうとしてくれた。その身体に幾つものライオット弾による弾痕を付けられても尚、アイドルである自分達を守るために人一倍奮起してくれた。そんな彼女を非難出来る者等、何処に居ようものか。

 

「私も、ごめんね。サスケたちも頑張ってくれたのに・・・・・・!」

 

『いや、謝るのは俺の方だ、歩夢。役に立てなくて済まん・・・・・・』

 

全くだワ。流石にあの人数はアタシ達でもキツかったわね・・・・・・

 

一方で、歩夢も傷だらけのサスケとオロチに寄り添いながら、そんな事を口にしていた。

 

「皆、ごめん。私、役に立てなかった」

 

「璃奈ちゃんも皆も悪くなんかないよ・・・・・・ごめんね、果林ちゃん・・・・・・!」

 

「これでは、何の為に生徒会長をやっているのか分からないではないですかっ・・・・・・!」

 

「・・・・・・今夜は彼方ちゃんでも、あんまりすやぴ出来ないかも・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

そして、虹ヶ咲学園に登校した私達に待っていたのは、理事長によるスクールアイドル同好会部室の使用禁止命令。そして、学校内での練習の一切を禁じるという、同好会の実質的活動停止を意味する制裁だった。部室を失った結子達は淳之介達の計らいで当分の間、放課後は『NLNS』基地に身を寄せる事となった。何故同好会と共に潰される予定だったこの部屋が残っているのかは謎だったが、こんな事態だ。逃げ込めるところがあるだけ奇跡的と言うべきか。

 

「・・・・・・皆さん、少し聞いていただきたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 

「栞子ちゃん・・・・・・?」

 

部屋が薄暗い雰囲気に包まれる中、急に栞子が席から立ち上がり、メンバー全員の顔を見回す。そして、何かを決意したような表情になると、彼女は再び口を開いた。

 

「本当ならこの場で言うべき事ではないのかもしれません。ですが、昨日の件と言い、今日の件と言い、こんなやり方が私の幼馴染みのランジュのやり方ではないように思えるんです」

 

「でも、ランジュさんが命令したから、愛さんと果林さんが・・・・・・!」

 

「それは分かっています。けど、もしそれが本当だとしても嘘だとしても私はそれを確かめに行かなくちゃならない」

 

「ランジュの幼馴染みとして・・・・・・そして何より、これ以上スクールアイドル部と監視委員会に何も奪われないように・・・・・・侑さんのスクールアイドル同好会を守るために」

 

「私がスクールアイドル部に入る事で、捕らわれた愛さんと果林さんを手助けして、ランジュを説得して・・・・・・・監視委員会が何を企んでいるのか、調査して来たいのです」

 

現時点でランジュとの仲が良かった実績があるのは彼女だけだ。だからこそ自分が囮になって、スパイのような形で自然体で潜り込むことでランジュの背後にいるであろう監視委員会を探ってきたい。それが、今栞子が口にした言葉だった。

 

「そんな!?栞子ちゃん一人じゃ幾ら何でも危ないよ!?」

 

「そうだよ、しお子!考え直そう!?」

 

「歩夢さん、かすみさん・・・・・・・すみません。でも、これは私にしかできない事で」

 

「――部への潜入、ね。へぇ、面白いこと言うじゃねぇか」

 

その時だった。今まで誰もいなかったNLNS部の地下室の扉の前に見知らぬ男女が立ったまま此方の様子を見つめていた。男の方は灰色の髪のショートウルフに翡翠色の瞳。女性の方は肩まで伸ばしたオレンジ色のセミロング、そして何より、特徴的な蒼い瞳をしていた。

 

「だ、誰なんですか、貴方達は?」

 

「誰、ねェ・・・・・・ま、念の為、俺もコイツも通り名で名乗らせてもらうぜ」

 

「俺はラグナ。《ムーンカテドラル》所属のNo.0灰の狼だ」

 

「私はミノリ。この人と同じく《ムーンカテドラル》所属のNo.1晴天の化身だよっ」

 

 

《ムーンカテドラル》。結子達は初めて聞く名前に思わず首を傾げる。誰だかは分からないが、少なくとも部や委員会側の者達ではない事は明らかであった。

 

 

――彼女達《ムーンカテドラル》との出会い。それは、この後に続くとある男を巡る因縁の争いに発展するとは、この時に誰が予想できただろうか。そして、徐々にその戦いは結子達スクールアイドル同好会だけの問題だけでない大きな陰謀の塊となって襲い来る、その序章に過ぎなかったのだ。

 

 

 

 

                             

 第2章「彼女はそこにただ独り」・完

 

 

                     

第3章へ続く......

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 次 章 予 告 

 

 

同好会から果林と愛が監視委員会が操る部に囚われの身となってしまった。本格的に活動を開始するスクールアイドル部と監視委員会。そして、運命に翻弄されるが如く意のままに操り人形と化すランジュ、傍観するミア、脅迫に動けない果林と愛。委員会の目論見を暴き、その呪縛からランジュを助けようとする栞子は、一人同好会を抜け、スパイとして部の拠点へと潜り込む。その時、某所の駅の掲示板には東條希の名前でXYZの文字があった。

 

「アニガサキ!-PASTEL COLLARS- 外伝 Episode of ランジュ」次章、

 

第3章「新宿より愛を込めて」

 

 

――俺を呼んだのは、君だろ?

 

 

 




……ちょっと盛り上がりに欠けたかなぁ、今回。

という訳で如何でしたでしょうか。シナリオの運びとしましては、前回の戦い(?)が同好会側についたばかりの結子の実力を向こう側が知らなかったことによるまぐれ勝ちのような感じで、今回が敵がそれを見越したうえで同好会側の予測を完全に上回ってきた事による敗北と言う流れです(戦闘シーンある時点でラブライブじゃない何かになっているのは承知済み)。

さて、次の第3章では謎の組織『ムーンカテドラル』とそれに所属しているラグナ、ミノリ、そして元《μ’s》メンバーの東條希。彼等とNLNSと同好会が共闘して、捕らわれた果林と愛の救出と部室の奪還を目指して、スクールアイドル部陣営への反撃を開始します。

こんなんでも読み続けてくれる方に感謝の意を示しつつ、楽しめる様なシナリオ作りを今後もしていきたいと思っております。

2章完結後の感想も欲しいな……

それでは、また次回更新の第3章でお会いしましょう。


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第3章「新宿より愛を込めて」
主な登場人物紹介・第3章


はい、どうも。Episode ofランジュ第3章に向けての登場人物公開です‼︎

「CITY HUNTER」コラボという事で私が影響を受けた作品が、ニコニコ動画にて公開されております。(※LL×CHで検索して見てね‼︎)

原作予習するなら「劇場版CITY HUNTER 新宿PRIVATE EYES」を視聴するのがおすすめです。もっと知りたくなったら、原作本やアニメ視聴もしてみよう‼︎



音ノ木坂学園スクールアイドル研究会

 

矢澤 虎太郎(CV:立花慎之介)

国立音ノ木坂学園所属の高校1年生。矢澤にこの弟で、少々(?)シスコン気味な男子生徒。様々な経緯を経て本物のアイドルへと昇進した姉の『矢澤にこ』の大ファン。アイドル活動で忙しい姉に代わり、家事をこなしていく度にいつ一人暮らしを始めても恥ずかしくないレベルまで腕が上達。心と共に毎日台所に立ってはご飯を作っている。一方で何をやるにもぐうたらな姉・心愛にはいつも振り回されるため気苦労が絶えない(その為、この歳から既に胃薬を常に持ち歩いている)。愛読書は『月刊 大銀河宇宙№1ニコニー』。

 

矢澤 心(CV:伊藤かな恵)

国立音ノ木坂学園所属の高校2年生。今や伝説級アイドルとして世間の注目を集める矢澤にこの妹。今回のスクールアイドル活動の発起人で自分も姉同様にアイドルとして輝きたいと言う強い願望を持っている。料理の腕は姉のにこ直伝で教わっていたため、矢澤姉妹の中でピカイチ。幼い頃から守られてきた純真さがまだ保たれており、それ故に良い事があったり、逆に悪い事に巻き込まれたり。

 

矢澤 心愛(CV:大坪由佳)

国立音ノ木坂学園所属の高校2年生。心と同じくにこの妹である。基本は怠け者スタンスで居間でごろごろしたり寝ていたりぐうたらしていたり。勿論、そんなものだから家事全般は超が付く程、不得意。中二病系及びかっこいい響きのする物が大好きで、《静寂の冬月》という異名を名乗っている。特撮ヒーローヲタク。運動神経や運動能力についてはμ’s時代の『星空凛』を軽く凌駕する程の才能を持っている。ヲタク同士、せつ菜とは気が合う。

 

南 比奈(CV:宮崎羽衣)

国立音ノ木坂学園所属の高校2年生。ことりの妹。こころあ姉妹とは昔から交流があり、現在もその延長戦で付き合いを続けている。生徒会副会長を務めている。時折、姉の店のお手伝いをしており、様々なスクールアイドル達と交流を持っていたりいなかったり。

 

 

 

監視委員会

 

土井 匠実(CV:子安武人)

秘密組織『監視委員会』の代表役。スクールアイドルを心の底から憎んでいる男で、虹ヶ咲の事件に関わるより以前に、音ノ木坂学院では《μ’s》のリーダー高坂穂乃果の誘拐事件、浦の星女学院では《Aqours》の活動拠点である沼津でヤクザ抗争を引き起こして危害を加えようとしている。3度目の正直・・・・・・ということで今回の事件を起こす。裏社会との繋がりも強く、歴史の陰で蠢く不法者達ともコネがある。

 

 

 

ムーンカテドラル

 

園田 海未(CV:三森すずこ)

《ムーンカテドラル》所属No.3コードネーム『ハタ=アキ』。元《μ’s》の作詞担当。今は家督を継いで実家での仕事に力を入れている。息抜きの為に、偶に穂乃果の実家『穂むら』で名物の穂むら饅頭を購入して食べている姿が目撃されている。

 

南 ことり(CV:内田彩)

《ムーンカテドラル》所属No.2コードネーム『ミナリンスキー』。元《μ’s》の衣装担当。数年間に及ぶ海外での研修を終えて、地元の秋葉原へ戻る。現在は個人経営の『手芸の店 ミナ(・8・)ちゅん』と『喫茶ミナミ』を交互に経営している。

 

 

 

???

 

夢の中の男(CV:速水奨)

ランジュの夢の中に出てくる謎の男。ランジュはこの男にどこか懐かしい雰囲気を感じている様だが一体・・・・・・?

 

 

 

虹ヶ咲学園関係者・他作品コラボキャラ・その他の人物

 

冴羽 獠(CV:神谷明)

《CITY HUNTER》から参戦。表稼業の『冴羽商事』を経営しながら、裏の仕事である「新宿のスイーパー」と呼ばれる所以の都会の掃除屋のような業務を熟す。彼に一度でも歯向かったものは地獄で黙り込み、二度目は生きて帰さない。希の営む裏稼業『ムーンカテドラル』と繋がりがある。

 

槇村 香(CV:伊倉一恵)

《CITY HUNTER》から参戦。故人・槇村秀幸の妹で兄の跡を継いで、冴羽と共に都会の掃除屋の助手を務める。男勝りな性格ではあるが、美人でスタイルも良く、女性にモテる。

 

野上 冴子(CV:一龍齋春水)

《CITY HUNTER》から参戦。警視庁の女狐と呼ばれる、頭脳明晰で顔の整った麗人。冴羽からの追及(主にモッコリ案件)を唯一(?)回避できる術を持つ。




(基本何でもありなので)成長した矢澤姉妹(弟)も参戦‼︎
勿論、CVはイメージです‼︎

《μ’s》からも海未とことりが参戦。さらに気になる人物も……?

ではでは、一節公開まで少々お待ちを。


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3-1「ムーンカテドラル」

あー、24章ホントに胸糞悪かったわ~……という訳で、スクスタの脚本家を脳内でボコボコにしながら書くノベライズ、予定通りの時刻にて最新話更新です。

果林、愛、栞子、せつ菜推しの方へ。
もう公式の扱いが不憫すぎるから、此処で目一杯活躍させます!今こそ、基本全員推しを貫いてきた私が真価を発揮する時……!マグロ、ご期待ください。

あ、因みに此方が世界観参考にしたMAD動画です。是非、此方も見てみて下さい。
https://www.nicovideo.jp/search/LL%C3%97CH?ref=nicotop_search

歩夢ちゃんの誕生日が2日前だったので歩夢誕記念のSSと合わせて、今回は豪華2本立て!改めて、歩夢ちゃんHappy Birthday!!


ノベライズ本編におけるオリジナル設定解説④

・対愛弗防衛機関ムーンカテドラル
《μ’s》の元メンバー、東條希が密かに設立した一見普通のバー。本来の店としての役割も兼ねるが、裏の仕事も存在しており、組織には《μ’s》メンバー全員が漏れなく所属している。シティーハンターの冴羽獠が営む『冴羽商事』とも繋がりがあり、依頼を彼に頼むことも屡々。虹ヶ咲NLNSの親元。今を生きるスクールアイドル達を裏組織から守るために結成されたレジスタンス。

既存メンバー ステータス更新

長谷部 祐介(CV:杉田智和)
《ムーンカテドラル》所属のNo.0灰の狼。穂乃果、ことり、海未、絵里の幼馴染で音ノ木坂学院共学化の選抜テスターに選ばれた男子生徒。常時、面倒臭がり屋ではあるものの、根は真っ直ぐな男。ことり、海未同様にいつも穂乃果の急な思いつきに付き合わされて、廃校阻止の為のスクールアイドルグループ「μ's(音ノ木坂学院アイドル研究部)」のマネージャー(兼監督)を務めていた。学院を卒業してからは流浪のシンガーソングライターとなった穂乃果のマネージャーとして付き添いつつ、裏業の関係上で操作が命じられている「監視委員会」の動向を探っている。

高坂 穂乃果(CV:新田恵海)
《ムーンカテドラル》所属のNo.1晴天の化身。今尚語り継がれる伝説のスクールアイドルグループ《μ’s》の元リーダー。何事にも一所懸命な頑張り屋で、一度思い立ったら猪突猛進の割と情熱的な性格。実家は老舗の和菓子屋「穂むら」。無意識ながら周囲を惹きつける行動力とその精神力の強さは今も健在。現在は、流浪のシンガーソングライターとして各地でゲリラストリートライブを披露したり、《μ’s》時代のコネを使って、マネージャーである長谷部祐介と共に大型ライブ等に電撃参戦したりしている。裏稼業も同時にこなしており、今回は「監視委員会」の実態調査の名目でお台場を訪れていた。

東條 希(CV:楠田亜衣奈)
《ムーンカテドラル》所属のNo.8母なる女神。関西出身ではないが、関西地方の方言で話す。くじ引きなどでは決して悪い結果にならない強運の持ち主で、占いやスピリチュアルパワーなどに凝っている。現在はその強運さを見初められ、学生時代にアルバイトしていた神田明神で巫女の仕事を熟しているが、その裏で伝説の新宿のスイーパー『CITY HUNTER』こと「冴羽獠」への間接依頼口及び穂乃果と祐介が所属している裏組織に対抗するために結成されたレジスタンス『ムーンカテドラル』の経営に勤しむ。



アニガサキSS劇場⑥「歩夢、ハッピーバースデー」

 

侑「歩夢っ!」

 

全員「「「「「「「「「「「「「お誕生日、おめでとう!!」」」」」」」」」」」」」

 

歩「うわぁぁぁぁぁ、ありがとう侑ちゃん、皆!」

 

せ「歩夢さん、改めておめでとうございます!私、今日の為にカップケーキを作りました、食べてください!!」

 

歩「え、ええっと・・・・・・」

 

(すぐ近くにいた彼方をチラリと横目で見る)

 

彼「(フッフッフ、安心なされよ歩夢ちゃん。彼方ちゃん、バッチリ監修済みだよー)」

 

(歩夢に向かって小さくサムズアップする)

 

歩「ほっ・・・・・・」

 

愛「歩夢ぅー!愛さんのバースデーギャグを喰らえぇぇぇ!」

 

愛「歩夢と一緒にあゆむり(謝り)に行こう!誰にー?あゆむーる(アムール)貝に!」

 

侑「ぷひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、くぁwせdrftgyふじこlp」

 

歩「ゆ、侑ちゃん・・・・・・」

 

ラ「誕生日おめでとう、歩夢!ランジュがいい物を上げるわ!」

 

歩「えっと、ランジュちゃん・・・・・・これは?」

 

ラ「お台場上空ヘリ一周の旅の搭乗パスよ、意中の相手がいるならこれでイチコロね!」

 

歩「あ、ありがとう(流石、お金持ちだなぁ・・・・・・)」

 

侑「歩夢っ、私からはこれ、あげるねっ!」

 

歩「わぁっ、可愛い!」

 

侑「私の寝そべりぬいぐるみだよー、大事にしてね♪」

 

歩「うんっ、家に帰ったら早速お部屋に飾るね!」

 

(えっ、何それ、私も欲しい・・・・・・)

 

(※虹ヶ咲スクールアイドル同好会メガジャンボ寝そべりぬいぐるみ 上原歩夢、宮下愛、桜坂しずく 各地域のゲームセンターに取扱中!目指せコンプリート!あと侑ちゃんのも出ろ!!)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アニガサキSS劇場SP「勝利の法則XYZ」

 

『ジリリリリリリリリ、ジリリリリリリ!』

 

獠「はいはーい、此方冴羽商事。ご用件をどうぞー」

 

希『獠ちゃん、駅前の掲示板見たらすぐにお台場まで来てねー、待っとるよ?』

 

『ブツンッ、ツー、ツー、ツー・・・・・・』

 

獠「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

香「おろ、どったの獠?こんな朝早くから」

 

獠「香・・・・・・。仕事だよ、駅前の掲示板を見てからお台場まで来いとさ」

 

香「へぇ、誰から?」

 

獠「そりゃあ、こんな時代に依頼寄こすんだ、物凄い変わり者だよ」

 

香「へっへ~、当ててあげようか。『ムーンカテドラル』から!」

 

獠「・・・・・・あぁ、正解だよ。という訳でちょっくら足伸ばしてくるぜ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

獠「ほほぅ、XYZで宛名があの子か・・・・・・」

 

香「わっ、懐かしいわね!会うの何年ぶりかしら、楽しみだわ!」

 

獠「・・・・・・何でお前もいんの?」

 

香「何、馬鹿なこと言ってんだよ。アンタが行くなら相棒のアタシも行かなくてどうすんのさ」

 

獠「ま、別にいいがな」

 

香「あ、待って。先に冴子さんに電話しといたほうがいいかな?」

 

獠「何、大丈夫だろ。別に何週間も空けるわけじゃないんだ、何とかなるさ」

 

香「そっかー・・・・・・ま、そうよね!」

 

獠「フ、お台場か・・・・・・ぐふふ、かわいこちゃんはいるかなぁ、楽しみだなぁ~!」

 

香「こぉんのぉ~・・・・・・おのれは結局、そこになるんかいィィィィィィィ!!」(2021tハンマー)

 

獠「あぼぁ!?」

 

(※お待たせいたしました、アニガサキ×CITY HUNTER編、始まるよっ!)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――数年前。東京都千代田区秋葉原にて。

 

『追いかけっこは終わりだ、子猫ちゃん?』

 

『ぐ、ぐっ・・・・・・おのれ、おのれェェェェェェェェ!』

 

半ば自暴自棄になった男が、冷静に自分へ銃口を向ける男に手元の拳銃で発砲する。しかし、その拳銃を握る手は焦りで震えていて銃弾は男には当たらない。自棄になってもう一発、更に一発。目の前の男は一切回避行動をとることはなく。やがて、追いつめられた男の拳銃の銃弾が尽きた。

 

『馬鹿なッ!?わ、私は認めん!認めんぞォォォォ!!』

 

『そうだ・・・・・・この私が、勝利を約束されたはずのこの私がァ!ここで負け――』

 

カチカチと男の拳銃が虚しく響く音を立て、男が吠える。その様子を見て、相変わらず銃口をその男に向け続ける体格の良い男は、その銃弾をまずは一発。吠える男の顔面の真横に。因みに今のは態と外した。

 

『アンタがこれ以上罪を重ねないと誓うなら、俺もこれ以上はしない。さぁ、どうする?』

 

『わ、分かった・・・・・・!わ、私は此処で降りる!だからそれを仕舞え・・・・・・仕舞ってくれ!!』

 

『あらら、急にお利口さんだこと。だが、約束は必ず守れよ?』

 

男の説得に成功した体格のいい男が何の躊躇いもせずに男との距離を一気に詰める。そして、彼は鈍色に光る美しき銃を片手にこう言った。

 

『何せ、この俺を前にして2度も罪を重ねた場合は』

 

『今度こそ俺の相棒の銃弾が、貴様の脳天を貫くからな。それがこの俺(シティーハンター)を敵に回した奴さんの宿る末路さ』

 

『・・・・・・・ッ!』

 

 

COLT PYTHON 357 MAGNUM。そう、彼こそ新宿のスイーパーとして裏社会中から恐れられた伝説の用心棒。その名は――

 

 

 

「――部への潜入、ね。へぇ、面白いこと言うじゃねぇか」

 

「だ、誰なんですか、貴方達は?」

 

「誰、ねェ・・・・・・ま、念の為、俺もコイツも通り名で名乗らせてもらうぜ」

 

「俺はラグナ。《ムーンカテドラル》所属のNo.0灰の狼だ」

 

「私はミノリ。この人と同じく《ムーンカテドラル》所属のNo.1晴天の化身だよっ」

 

ラグナ、ミノリ・・・・・・うん、いきなりそう言われても誰だか分からない。おまけに今はそういう気分じゃないし。と、思っていたら、何だかせつ菜ちゃんが先程からわなわなと震えている。あれ、せつ菜ちゃんは知ってるのかな?

 

「あ、あああああああ、あのっ、ミノリさん!!」

 

「ええと・・・・・・何かな?」

 

「その全てを見通すかのような瞳、そして丁度良い音程の声・・・・・・間違いありません!」

 

「ミノリさん、貴女はあの伝説のスクールアイドル《μ’s》の高坂穂乃果さんではありませんか!?」

 

「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」」」

 

NLNS基地内に全員の驚愕の声が響き渡る。え、嘘!?この人があの《μ’s》の高坂穂乃果ちゃん!?いや、待て。確かに、確かによく見れば何となく面影はある。ほ、本物!?

 

「あちゃ~・・・・・・バレちった。有名過ぎるのも大概だね~、どうしよ?」

 

「・・・・・・ま、遅かれ早かれお前は気付かれると思ったがな。流石に早すぎてビビったが」

 

「そして、そんな穂乃果さん御隣に居らっしゃる貴方は、長谷部祐介さんですねッ!?」

 

「うそーん・・・・・・」

 

せつ菜ちゃんが興奮気味に隣の男の名前をスラリと言い当てた。長谷部祐介と呼ばれた男の方はまさかこんなに早く言い当てられるとは思ってなかったらしく、穂乃果ちゃん同様頭をポリポリと掻いていた。あれ、でも、長谷部祐介って誰・・・・・・・?

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!よ、よろしければお二人のサインをお願います!!」

 

「ちょっと、せつ菜先輩!?あ~ん、かすみんにも書いてくださ~い!」

 

「抜け駆けは許さないぞ~?彼方ちゃんにもくださ~い」

 

「わ、私も、私もっ!!」

 

「もしよければ、この後スクールアイドルとしての演技指導をお願いできますでしょうか!?」

 

そんな疑問を抱いている間に旧スクールアイドル同好会メンバーがせつ菜に続くように一斉にサインを求めだした。しずくちゃんなんか指導お願いしに行っちゃったよ・・・・・・。

 

「むはーっ!これは超レアものですね、一生家宝にします!」

 

「あ、あのさ、せつ菜ちゃん」

 

「はい、何でしょう!!」

 

「えっと・・・・・・穂乃果ちゃんは分かったんだけど、隣の長谷部さんって、誰?」

 

「ええっ、ご存じ・・・・・・ないのですか!?」

 

「《μ’s》に所属する穂乃果さん達を守る為に当時の音ノ木坂で募集されていた共学化テスターと呼ばれる特殊入学条件を持った男子生徒3人で結成された、通称『女神達の守り人』『護衛三騎士』の中のリーダー格と呼ばれていた方です!」

 

「普段の態度は少し荒々しさがありますが、そんな彼にだからこそ守ってもらいたい、近くで囁かれてみたい、Sっ気全開で攻められたい等各所のスクールアイドル達から注目を集めた存在だったんですよ!」

 

せつ菜ちゃんのオタクモードが全開になり、オタク特有の早口で彼について語り始めるせつ菜ちゃん。あぁ、そうか。護衛役が男子生徒こそ適任だと言わしめたその一番最初の要因になった人か。流石に『女神達の守り人』なる呼び方が付いていたのは知らなかったが。

 

「あー、喜んでくれているところ悪いがその通称使うの止めてくれねぇか?当時のオレ達で考えた通り名とは言えちょい恥ずかしいんでな・・・・・・」

 

「ええーっ、何でですか!?十分カッコいいじゃないですか、長谷部さん!」

 

「そ、そうかぁ?へへっ、まぁ、そこまで絶賛されると考えた甲斐があったってもんだ」

 

さっきまで恥ずかしがっていたのに、せつ菜ちゃんに絶賛されて満更でもない顔をしている。成程、さては長谷部さん、とんでもなくチョロいのでは?

 

「ユースケ、間抜け面になってるよ」

 

「るせぇ、余計なお世話だ。・・・・・・とまぁ、最初に通り名で名乗った意味は完全になくなった訳だが改めて」

 

「オレは《μ’s》の元監督兼マネージャーの長谷部祐介だ、よろしくな」

 

「高坂穂乃果ですっ!皆、ファイトだよっ♪」

 

さも当然のように、しかしてあっさりと。彼と彼女は自分達の正体を認め、本名を名乗る。す、凄い!まさか伝説のスクールアイドルにこんなところで会えるなんて。侑が聞いたらきっと羨ましがるんだろうなぁ・・・・・・!

 

「穂乃果さん、長谷部さん、初めまして!虹ヶ咲スクールアイドル同好会の、優木せつ菜です!」

 

「お、同じく、中須かすみです!かすみん、って呼んでください♪」

 

「エマ・ヴェルデです。エマでいいよ?」

 

「お、桜坂しずくと申します!お会いできて光栄です・・・・・・!」

 

「彼方ちゃんは彼方ちゃんだぞ~?よろしく~」

 

「て、天王寺璃奈」

 

「えっと・・・・・・う、上原歩夢、です」

 

「始めまして、《μ’s》のお二人。私は三船栞子です」

 

穂乃果さんと長谷部さん両名にメンバー全員が挨拶を終えたところで、私達は気分を切り替えて現状についての対策を練ろうとした。が、長谷部さんは此方側に構わず、学園内へと戻るエレベーターのスイッチをオンにする。

 

「あの、長谷部さん?今学園内に戻るのは危険なのでは・・・・・・?」

 

「あ?そうりゃそうだろ、この上がNLNSを隠すための仮部室とは言え、敵地の真っ只中だしなぁ」

 

「えっ、じゃあ何でエレベーター前に?」

 

「決まってんだろ、エレベーターの下に隠してある地下通路から『ムーンカテドラル』最前線基地に行く為だよ」

 

えぇ・・・・・・最前線基地ぃ?この部屋の存在だけでもびっくりだったのに、まだ仕掛けがあるのか・・・・・・・というか、常識的に此処、他人の所有地だけどいいのだろうか、そんなことして。

 

「あぁ、何だテメェら。淳之介達から何も聞いてねぇのか?」

 

「な、何をですか・・・・・・?」

 

「この施設の使い方とかそういうの諸々をだよ」

 

「いや、聞いてませんが」

 

「マジかよ・・・・・・さてはまた説明省きやがったなアイツ。まぁ、別に今となっちゃどうでもいいか」

 

「あぁ、それともう一つ。今のテメェらの学園を管理してるあの理事長、ニセモノだからな」

 

「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」」」」

 

今明かされる衝撃の真実。というかいきなりすぎでしょう、何でそんな情報言ってくれなかったのさ淳之介君達は!?

 

「だから俺達『ムーンカテドラル』はホンモノの理事長様に召集掛けられたんだっての」

 

「って言っても誤解すんなよ?第三者が今の理事長様に変装してるっていう意味のニセモノホンモノじゃなくて、元の理事長様を如何にかするとかして席を奪っただけの他人が座ってるって意味だからな」

 

そんな事を長谷部さんはごくごく普通の事の様に説明しているが。いやいや、それが本当ならかなりヤバい案件じゃないですか。しかも、成り済まし以前の犯罪行為だし、それ。

 

「ただまぁ、厄介なのは奴さんが『監視委員会』って奴らとつるんで悪さしてるってところだな。いや、寧ろその悪行すらも世間に公表させずに保ってる鐘家の財政がヤバいと言うべきか」

 

「では、実質この学園は第三者である現学園長に乗っ取られている、と・・・・・・?」

 

「ま、そんなとこかね。取り敢えず、此処でこれ以上話していれば、向こうに情報が筒抜けるかもしれねぇ。早いとこ、こっからずらかるぞ」

 

長谷部さんの発言のすぐ後に、エレベーターがこの階に到着したことを告げる音が鳴り、扉が開いて、エレベーターの中が顕わになる。そして、長谷部さんがその中へ入り、穂乃果さんがエレベーターが閉まらないように開ボタンを押しっぱなしにする。それを一瞬だけ後ろを振り向いて確認した長谷部さんはエレベータールームの床をゴソゴソといじり始め、その内一箇所の床面を叩いて床板を剥がした。すると。

 

「よし、此処を下りるぞ。ついて来い」

 

エレベータールームの床にぽっかりと空いた穴に長谷部さんは何の躊躇いもなく飛び込んだ。私が急いで駆け寄ってその下を除いてみると、壁伝いに梯子がかかっていて、その梯子を使って長谷部さんが下へ下へ降りていく姿が確認できた。

 

「さ、エレベーターはこの状態のまま非常停止しておくから、皆は急いで下りてって」

 

穂乃果さんがそう言うと同時にエレベータールームの電気がすべて消え、扉が開きっぱなしの状態で動作を完全停止したことが分かった。後ろに控えている皆を誘導する為、私はすぐに長谷部さんの後に続いた。あ、でも制服のままだと確実にパンツ見えるよなぁ・・・・・・。

 

「安心しろ、伊達に何年も女の園の中の黒一点で過ごしてきてるわけじゃねェ」

 

「普通に下りてきてさえくれりゃあ、オレは何も見ねぇよ。()宿()()()()じゃあないんでな」

 

ですよね、と心の中で賛同し、梯子を伝って下へ降り始める私。それにしても長谷部さんが最後に言ってた新宿の種馬って一体誰の事なんだろうか。気になる・・・・・・けど、聞いちゃいけない気がする。止めておこう。

 

 

 

――それから。全員が梯子を下りて、最後に穂乃果さんが諸々の証拠隠滅を行って、下へと降りて来て。大分下へと降りてきた私達を出迎えたのは遥か先まで続く、長い長い平坦な通路であった。

 

「そう言えば、淳之介君達は一体何処に?」

 

「あいつら『NLNS』ならもう本部に一足先に到着して会議しながら待ってるだろうよ、急ぐぞ」

 

そうだったのか、通りで先程から姿が見えないはずだ。

 

「ところで、穂乃果さん達はどうしてお台場へ?」

 

「えっとね、ストリートライブをしに来たの。因みにこの作戦はあくまで現地に行くならそのついでにって希ちゃんにね」

 

「希さんもいらっしゃるんですか!?」

 

「んー、支部からの通信って形だから、残念だけど来てはないよ」

 

「そうですかぁ・・・・・・お会いしたかったです」

 

穂乃果さんから希さんの話を聞いて期待に胸を躍らせたせつ菜ちゃんだったが、穂乃果さんの口から来ていないとの説明がなされるや否や明らかにテンションダウンしたのが分かった。

 

「・・・・・・せつ菜ちゃんは希ちゃん推しなのかな?」

 

「いえ、私はどちらかと言えば絵里さんですかね!同じ生徒会長を務める者として尊敬しています」

 

「あはは、そっかぁ。そう言えばせつ菜ちゃんは生徒会長さんだったね、憧れちゃうな」

 

「勿論、私は《μ’s》の活動の発起人でもある穂乃果さんも尊敬していますよ!」

 

「えぇ~、私はそんな大したことしてないよ~?」

 

「そんな事ありませんよ!《μ’s》の精神が今も生き続けているのは、やはりあの時の穂乃果さんが口にした言葉の息吹が人の心に少なからず衝撃を与えた証拠です、間違いありません!」

 

せつ菜ちゃんの言う通り、伝説のスクールアイドル《μ’s》は嘗て、世界中の期待を一身に背負う中でその活動に終止符を打った。だが、その潔い解散こそが当時の人々の心に伝説のスクールアイドル《μ’s》としての姿を長く刻み込むきっかけとなり、その姿は今も多くのスクールアイドル達の心の中に焼き付いている。

 

『行こう。《μ’s》なら・・・・・・スクールアイドル(わたしたち)になら出来る。どんな希望もどんな夢だって叶えられる!』

 

そんな穂乃果さんの掛け声と共に、あの日の秋葉原は一つの思いで世界を染め上げた。宿敵でもありライバルでもあったA-RIZEをも引き込んだ、今も語り継がれる幻の名曲。

 

――全てのスクールアイドルの為の歌、『SUNNY DAY SONG』。

 

「ストリートライブでは、今も歌われているんですか?《μ’s》の曲を」

 

「偶にねー。私が自主的にセトリに組み込むこともあるけど・・・・・・やっぱり一番多いパターンは会場に来てくれた皆からリクエストされてやる、って感じかな」

 

「おおおおおおっ、やっぱり!!後でライブ見に行かせてもらってよろしいですかっ!?」

 

「いいよ~、この騒動が終わってからならいつでも、ね」

 

せつ菜ちゃんばかりが穂乃果さんと会話を進めているが、他のメンバーは特に不満そうという訳でもなく、寧ろご本人を前にしなければ聞けない貴重な話に挙って耳を傾けていた。

 

「あ、そうそう。実は私とユースケがここに来る前に希ちゃんのお遣いで来た人がね」

 

「丁度今希ちゃんがいる現地で研修してた高咲侑って子から言伝があったんだってさ」

 

そんなことを穂乃果さんが口にした瞬間、そこにいた同好会メンバー全員が驚きと嬉しさとが混じり合った表情で一斉に反応を示した。

 

「嘘、侑ちゃんが・・・・・・!?」

 

「ああああああ、あのっ、それで侑先輩は何と・・・・・・!?」

 

「侑さんが元気にしてるか、私、知りたい・・・・・・!」

 

「良かったぁ~、ずっと音信不通だったから心配だったんだぁ・・・・・・!」

 

「侑さん・・・・・・!」

 

高咲侑という一つの個人名のみでここまで複数の対象の心を動かすことが出来るとは。やっぱり私の友達は・・・・・・侑は凄いんだな。すっかり彼女達が虜じゃないか。

 

「穂乃果さん、それで侑さんは何と・・・・・・?」

 

「ふふっ、後1ヶ月で戻るから待ってて、だってさ」

 

「侑ちゃん・・・・・・うん、待ってるよ。私達、ずっと侑ちゃんが帰るの待ってるから・・・・・・!」

 

メンバー2人と活動場所を奪われた同好会の皆の顔から、すっかり影が消え去った。そっか、侑は向こうで元気にやってるんだな。なら、私もマネージャー代理として負けてられないな。

 

「・・・・・・話は終わったか?着いたぜ、オレ達の目的地によ」

 

長谷部さんがそう言って、正面にある近未来的なドアに手を伸ばし、認証機器のようなものにカード―キーをかざす。扉が開く。私達は、迷わずその扉の向こうへ駆け込んだ。

 

「おっ、噂をしてたら何とやらだね、兄」

 

「そうだな。取り敢えずは全員無事って訳か」

 

「これで一安心ね。さ、気を取り直して作戦会議を進めるわよ、淳」

 

「此度はお互いに窮地で御座いましたね。お疲れ様です、同好会の皆様」

 

「もうあそこの基地使えないっぽいですね・・・・・・少し寂しい気がします」

 

「ごめんね、皆。あのトキは、あまりに突然だったから椅子持ってくるの忘れてたんだよ・・・・・・」

 

先程のNLNS基地とは規模も設備も部屋の大きさも桁違いの、御立派な空間の中に見慣れた皆の顔が一堂に会していた。

 

「で、三船さん、だったか」

 

「栞子でよろしいですよ、長谷部さん」

 

「じゃあ栞子さんよ、さっき向こうで言いかけた件について詳しく聞かせてもらうじゃねぇか」

 

「はい、分かりました。やはり、皆さんに直接聞いてもらった方が早そうですから」

 

 

 

Side:ランジュ

 

 

 

『・・・・・・ジュ・・・・・・ランジュ』

 

――夢を見た。アタシにとって大切な誰かの夢を。

 

その人は夢の中でアタシを呼んでいる。遥か遠くまで響くような酷く優しい声をして。

 

『誰・・・・・・?』

 

アタシは問いかける。不思議な事に相手の姿はぼやけていてはっきりと見えない。

 

『忘れてしまったかな。無理もないか、もうかれこれ十年は会ってないからね』

 

アタシの問いに答えたその人は何だか悲しげな顔をした。相変わらずぼやけたままだけど、何故かそういう顔をしているであろうことだけは分かった。

 

『十年・・・・・・そんなに?』

 

『あぁ、やっぱりキミは変わらないな。相変わらずの綺麗で聡明な目をしている』

 

ふとそんな風に褒められて、何だか少し照れくさい。何故だろう、他の人から言われても何とも思わないというか寧ろ当然だと受け入れているのに。この人だけは違う、もっと褒められたい。

 

『だが、如何やらそんな君の純粋さに付け込んで誰かが悪さをしようとしている』

 

『これは多分、キミにとっても、キミの家にとっても、あまり良くないモノを運んでくる』

 

良くないモノ・・・・・・それを聞いてちょっと怖くなる。それじゃあアタシはどうすればいいの?

 

『それは・・・・・・おっと、如何やら今日は此処までの様だ、追手が来ているのでね』

 

その人がそう言った途端、その人の身体がすうっと半透明になり消えかけているのが分かった。

 

『追手・・・・・・?誰かに追われてるの?アタシに・・・・・・ランジュに何か出来ない?』

 

『あぁ、いや。そう意味ではなかったんだけどね。だから今は大丈夫だ』

 

徐々に姿が薄れていくその人は、そう言って微笑む。まだ靄のようなものがかかっていて顔は見えない。でもやっぱり、アタシにはその人の感情が手に取るように理解できた。もしかしたらアタシは何か、大切な何かを忘れている気がする。ここで別れるのは嫌だ、とその人へ叫ぶ。

 

『心配しなくても、またいつか会えるさ。それまで、キミもどうか変わらずに、ね』

 

『待って・・・・・・!待って、アナタの名前は――』

 

『また会おう・・・・・・が・・・・・・しの・・・・・・めよ・・・・・・』

 

――夢は、そこでプツリと終わった。

 

「・・・・・・ま・・・・・・うさま」

 

「んうっ・・・・・・うぅ~ん・・・・・・?」

 

また誰かがアタシを呼ぶ。あ、でもこれはとても聞き覚えがある。

 

「・・・・・・お嬢様・・・・・・ランジュお嬢様」

 

間違いないセバスだ。きっとアタシを心配して起こしに来てくれたのだろう。アタシはそれを悟るとゆっくりと目を開けた。

 

「セバス・・・・・・?」

 

「はい、おはようございます、お嬢様。その通り、貴女のセバスに御座います」

 

「ゆっくりとお休みのところ申し訳ないのですが、至急ご報告をと思いまして」

 

アタシはその声を聞きながらベッドから体を起こし、背伸びをする。えっと報告?アタシ寝る前にセバスに何か頼んだかしら?そんな調子で寝ぼけ眼のアタシがポケーッとしていると。

 

「ランジュお嬢様、予定通り同好会の二人をお連れしました」

 

同好会・・・・・・?同好会の二人って・・・・・・と思い起こした瞬間、アタシは、はっと思い出した。

 

「もしかして、昨日言ってた果林と愛のことかしら!?」

 

「はい、左様に御座います。お二人を説得し、無事部への転入を済ませました」

 

「正式な採用基準まであと一人に御座います、お嬢様」

 

「でかしたわ!流石ね、セバス」

 

「勿体なきお言葉・・・・・・感謝致します」

 

「「・・・・・・」」

 

セバスが部室のドアを開けると、廊下の方には確かに虹ヶ咲スクールアイドル同好会の朝香果林と宮下愛の二人が立っていた。あぁ、遂にこうして対面することが出来た。アタシは嬉しくなって廊下にいる二人にブンブンと手を振ってみる。

 

しかし、二人共何か驚いたような顔をして此方に近づいてくる気配がない。あれ、アタシ二人に何かしたかしら・・・・・・?すると、セバスも何やら慌てたような顔でアタシに詰め寄って来た。

 

「お、お嬢様!何時ものように鐘家の者としての正しい振舞いをなさって下さりますかな?」

 

「えぇ、どうしてセバス?だって、二人はもうアタシの友達なんでしょう?なら、遠慮する必要はないと思うのだけれど」

 

「親しき仲にも礼儀あり、と申します。此処は何卒、尊大なる態度にて・・・・・・!」

 

セバスが頭を下げる。まぁ、そこまで言われてしまったら仕方がないか。アタシの元々のスタンスとは違うけど家柄の問題もある訳だしね。あぁ、出来るなら普通の家に生まれたかったな。

 

「それじゃあ改めて。果林、愛、Welcome to perfect world。アタシは貴女達を歓迎するわ」

 

「一応聞くけど、アタシの名前は知っててくれてるのよね?」

 

アタシが質問をすると、二人は無言でこくりとだけ頷く。それなら自己紹介はいらないか。うんうん、折角アタシの部に二人が来てくれたんだし精一杯もてなさなくっちゃね。ええっと、先ずは。

 

「・・・・・・セバスは下がっていてくれるかしら?この3人でお話がしたいの」

 

「もてなしの紅茶等はご不要に御座いますか?私めが淹れてきますが」

 

「大丈夫よ、紅茶だったら自分で出来るわ。アタシのお客様なんだもの、アタシに淹れさせて」

 

「・・・・・・畏まりました。御用があればお呼びください、その都度お邪魔致します故」

 

普段通りの規制な姿勢をキープしたまま、セバスは部屋から退出する。その場には、今回の事件の()()()()()()()()()()()()()()()と被害者達だけが残った。

 

「さ、好きなところに座って、二人共。紅茶は砂糖は多めかしら少なめかしら?」

 

「え、えっと・・・・・・じゃあ、少なめで」

 

「ちょっと、愛!?」

 

「わっ、ちょっと待って、カリン!せ、折角淹れてくれるって言ってくれてるわけだし、此処は、ね?」

 

「はぁ・・・・・・勝手にしなさい。因みに、私は要らないわ」

 

アタシの提案に愛は素直に応じてくれたが、果林はきっぱりと断ってすぐにそっぽを向いてしまう。う~ん・・・・・・流石にこの前のライブ乱入はやり過ぎたかしら。ユイにも謝ったんだけどなぁ、ちょっとショック。

 

「ねぇねぇ、他の皆はどうなの?ウチに来てくれそうかしら?」

 

「えぇ!?えっと、う~ん・・・・・・い、今のところはアタシ達だけかな~あはは・・・・・・」

 

「そうなの?悪くない提案だと思ったんだけど・・・・・・何がいけなかったのかしら?」

 

紅茶の茶葉を適温のお湯で蒸かしながら、アタシは考え事をする。うーん、もしかしたらアタシが多々純粋に経験不足なだけかも。だって今まで友達なんてシオしかいなかったわけだし。

 

「じゃあ、友達が沢山いる愛ならきっと分かるわよね。皆に来てもらう方法、とか」

 

「え、えぇ~・・・・・・ア、アタシはほら、何て言うか、同好会以外からも勧誘受けてるけど断ってる立場だからそこまではよく分からない、かなぁ?」

 

愛の言葉を聞いて成程、と思うアタシ。部に勧誘するっていうのはそういうのとはちょっと違うのね、やっぱり難しいわ。でも、友達は欲しいし・・・・・・どうしよう。

 

「と、と言うかさ、えっと、ランジュ、さん?」

 

そんな考え事をしていると、愛が突然アタシの事をさん付けで呼び始めるからちょっと驚いた。へぇ、あの友達が多い事で有名な愛もそういう時があるのね、意外な発見だわ!

 

「ランジュでいいわよ。だって、愛とはもうお友達じゃない、気軽に呼んでくれていいわよ!」

 

「・・・・・・えっと、じゃあ、ランランでいい?」

 

ランランだって!きゃあ、初めてあだ名で呼ばれちゃったわ!愛の提案に胸のときめきを隠しきれないアタシは上がり過ぎたテンションで紅茶をティーカップ一杯になみなみまで淹れないよう、細心の注意を払いながら、愛の元へ自分の分と一緒にお盆に乗せて持って行った。

 

「はい、愛の分の紅茶ね。それとさっきの呼び方だけど、勿論いいわよ!」

 

「そっか。じゃあ、ランラン。何か今日凄くテンション高いって言うか何か前にあった時よりもキャラが違うって言うか・・・・・・」

 

あぁ、それでさっきから愛が必要以上におっかながってると言うか困惑顔な訳ね!何となく避けられてる感じな理由が分かったのならもう大丈夫。要はアタシがもっと歩み寄ればいいのね!

 

「無問題よ、愛!これが普段のアタシ、プライベートランジュ。で、一回同好会の部室まで行った時のアタシがさっきもセバスが言ってた鐘家スタイルね、覚えておいて!」

 

「へぇ~、そうなんだ。ランランも苦労してるんだね」

 

「分かってくれて嬉しいわ、愛!ホントは家柄とかそういうの、あんまり気にしたくないんだけど」

 

実際問題、このアタシにシオ以外の友達がいないのはこれが所以だったりする。出来る事なら今すぐ取っ払ってしまいたいくらい。でも、それでもこのアタシが鍾家に生まれた鐘嵐珠としての生きるに必要な道であるなら、アタシはその使命を全うするべきだ。

 

「そ、御高説どうも。まさか貴女がそれ程の事を考えているなんて思いも寄らなかったわ」

 

「でも・・・・・・よくもまぁ、あれだけの事を仕出かしておいて私達を前にその言葉が吐けるわね?」

 

初めて出来た友達にアタシの全てを知ってほしい。だから、アタシは全てを語る。けれど、その話の途中で今まで黙りこくっていた果林が苛立ち交じりの表情でアタシを睨んでいた。アタシはその表情を向けられる理由が分からず、果林に問い返す。

 

「果林、どうしたの?アタシ、果林に何か悪いことした?」

 

「そう言ってすっ呆けるつもり?私と愛はね、貴女の部下に無理矢理連れてこられたのよ」

 

「他の誰でもない、貴女の命令でね」

 

「嘘・・・・・・!?」

 

果林の言葉を受けて、アタシは絶句した。アタシが、セバスに果林と愛を無理にでも連れてこいと命令したって言うの・・・・・・!?在り得ない、そんな事、アタシが言った記憶はない。もしかしたら、果林がアタシにドッキリを仕掛けているのかもと考えて向かい側に座る愛を見たが、愛は此方に目を合わせてはくれず俯いていた。そんな・・・・・・果林の言ってることは事実なの・・・・・・!?

 

「当り前よ、決定権を持つ人間は此処に貴女しかいないんだもの」

 

「嘘・・・・・・嘘よ!アタシは・・・・・・ランジュは絶対にそんなことしない!」

 

「じゃあ、今私が言っている事と貴方の部下であるセバスの言ったことが嘘って事になるわね?でも、そんな事はないわ、だって私と愛は駅前であの男に襲われたんだから!」

 

アタシの記憶にはそんな事実は存在しない。けど、目の前の二人はそれが実際にあった事だと言っている。何だろう、間違っているならいつもはちゃんときっぱり否定できるはずなのに。それが全く出来ずにいる。段々と頭が痛みだす。

 

「う、ぐっ・・・・・・アタシは・・・・・・アタシ、は・・・・・・!?」

 

「――おおっと。私の”娘”を虐めるのは、それ位にしておいてもらえるかい?」

 

シンと静まり返った部室内に突然響いた男の声。アタシは聞き覚えがあるようでないその声のする方を向く。その男と目を合わせた時、アタシはアタシの中に眠る得体の知れない何かに急速に精神を浸食されるような感覚に飲まれ、気付いた時には。

 

「・・・・・・お父様?」

 

どことなく虚ろな目で。しかし、元のアタシよりも遥かに上品で気高く。そんな誰かになっていた。

 

 

 

Side END...

 

 

 

「ああ、そうだよ。私は君の父だ。愛しき”娘”よ」

 

「フフ、あまりに急すぎるわ、お父様。アタシ、びっくりしちゃったじゃない」

 

ランジュの目に再び光が灯る。しかし、それは以前の様にキラキラと綺麗に輝いてはいなかった。

 

「それは済まなかったねぇ、ランジュ。ところで、此方の方々はどうしたんだい?」

 

「アタシがセバスに頼んであの同好会から部に連れてきてもらったの。大丈夫よ、お父様。あそこの部室はお母様に頼んで使えなくしてもらったから」

 

果林と愛は確かに見た。今まで、ただ純粋に自分達の事を見ていた彼女が急にあの時のような態度と正確に豹変していく様を。しかもそれは、ランジュの父を名乗る男が部屋に入ってきてからすぐの事。あまりにも辻褄が合いすぎていた。

 

「ランランのお父さん・・・・・・・?ねぇ、ランランはどうしちゃったの?」

 

彼女の変貌に耐えきれなくなった愛が男にそう質問した。だが、男は愛をチラリと一瞥するが特に答える様子がない。その代わりに彼女が、ランジュがその問いに答えた。

 

「アタシはどうもしてないわ、愛。心配は不要よ」

 

「えっ、そ、そう?あ、あはは、ごめんね。愛さん、てっきりランランが――」

 

「それと、その呼び方やめてくれるかしら?いつも通り、ランジュでいいわよ」

 

「・・・・・・!!」

 

愛の背筋が凍った。さっきのようなあの何かちょっと抜けてて、でも心の奥底に熱いものというか信念みたいなものを秘めている彼女ではない。極めて冷徹に非情に。見慣れたあのスクールアイドル部の女帝、鐘嵐珠の声が辺りを支配する。

 

此処で、果林と愛の中で渦巻いていた疑念がはっきりとした。間違いない、スクールアイドル部の部長・鐘嵐珠はこの男に操られている、と。

 

「ご、ごめん、ランジュ・・・・・・」

 

「別にいいわよ、愛はもうアタシの友達なんだから。勿論、果林も・・・・・・ね」

 

「なぁに、漸く本性を見せたって事かしら。スクールアイドル部の部長さん?」

 

ランジュがそうなったことで、周りの空気がどんどん彼女の支配域として律されていく気配を感じる。しかし、彼女の今の状況が操られている状態だとしたら、まだそれが何かは分からないが、何処かに必ず解決策はあるはず。

 

部に無理やり連れて来られたとは言え、現状を作り出している要因を早くも見つけてしまったのだ。果林と愛は今の自分達がやるべきことをしっかりと理解した。

 

「成程、成程。キミ達がランジュの大切なお客様だというのはよく分かった。しかしだ」

 

「此処で”我々”に逆らえば、キミ達が折角セバスの手から守り抜いたお仲間が、また窮地に陥ってしまうかもしれないよォ?果たして、本当にいいのかなァ?」

 

「くっ・・・・・・!」

 

まさに万事休す。またもや危機を迎えてしまった果林と愛はその言葉に身動き一つ取れなくなってしまう。自分の行動一つで今の部室を失った仲間たちがあの黒服の男達に再び囲まれて、狙撃されて、傷ついて。そうなることを恐れてしまったのだった。

 

「お父様、あまり二人を委縮させてはいけないわ。だって彼女達は今日から正式にスクールアイドル部で活動していくことになったんですもの、仲間は大切にしなくちゃいけないでしょう?」

 

「あぁ、そうだったな。済まない、ランジュ」

 

「でも目標まであと一人、あと一人仲間になってくれればアタシ達は本格的に動くことが出来る」

 

「長かった、長かったわ。全く、目の前にそれがあるのに届かないというのは中々に厄介な事象ですね、お父様」

 

「あぁ、そうだな」

 

父と娘が何処か遠くを見るような目で窓の外を見やる。外には直ぐ近くにある海が真夏の空の元に燦々と照らされてキラキラと光り輝いていた。愛と果林がその光景を前に立ち竦んでいると、不意に部室のドアが素早く開かれ、中に一人の女子生徒が入ってきた。

 

「果林さん、愛さん、ランジュ、無事ですか!?」

 

黒髪のボブに短い紐のような髪飾り。特徴的な赤い瞳と偶に口元からチラリと此方を覗く八重歯。そして、学校指定の制服の上着の袖に通したワッペンに書かれた『虹ヶ咲学園生徒会』の文字。一年生にして生徒会長の次に偉い立場に選ばれた少女。彼女こそ。

 

「栞子、何で貴女が此処に!?」

 

「嘘、しおってぃー!?」

 

――虹ヶ咲学園生徒会・副会長、別名『鋼鉄の副会長』として知られる三船栞子、その人だった。

 

「果林さん、愛さん・・・・・・!良かった、お二人は無事のようですね」

 

「うぐぅ・・・・・・しおってぃーが来てくれた、アタシ達の為に来てくれたよぅ・・・・・・!」

 

「あら、スパイ疑惑が確信に変わって追い出されてきたのかしら?」

 

「ちょっと、カリン!その言い方は酷いんじゃないのっ!?」

 

「・・・・・・いえ、いいんです、愛さん。果林さんも悪気があって言っている訳ではないでしょうし」

 

意外な仲間の登場に少し心を落ち着かせた二人を相手にした後、彼女は本来の目的であるランジュの方へと向き直る。そして、ランジュの傍にいる男に向かってこう叫んだ。

 

「ランジュに何をしたんですか・・・・・・『監視委員会』の代表取締役である貴方が!!」

 

「へっ、やっぱり覚えてやがったか。だよなぁ、僕達は元々協力者同士だったもんなぁ。なぁ、三船栞子ォ!!

 

栞子とその男は嘗ての事件において途中まで共闘関係にあった。だが、彼は役目を果たせなかった彼女をそのまま見捨てて次の作戦へと歩みを進めた。栞子にとってこの男ほど憎い存在もいなければ、今の仲間達に出会うきっかけを与えてくれたであろう、ある意味において恩師的な存在も他にはいなかったのだ。

 

「本来ならあそこでテメェが生徒会を乗っ取っていれば、此処までもっとスムーズに、もっと早く来れたのによォ!」

 

「だが、テメェはあの現生徒会長様に負けた。しかも、今はその右腕として扱き使われてやがる!」

 

「自ら戦いを挑んで負けた相手に尻尾を振る気分はどうだァ・・・・・・?この負け犬ゥ!!」

 

「口を慎みなさい、土井。貴方が文句を言える程、私の今の仲間は安くありませんよ」

 

因縁の相手を前に栞子もいつもより言葉に熱がこもっているし、土井と呼ばれた男も自身の本性を露わにした。果林と愛はその雰囲気に圧されながらも、両者の争いを見ている。だが、そこで今まで事を静観していたランジュが口を開く。

 

「・・・・・・シオ、お父様。今は少しだけ、その争いを止めて頂けないかしら?」

 

「ランジュ・・・・・・」

 

「何を言う、ランジュ。キミの嘗ての友は、今は君を阻害する側についているのだぞ、それを認めるとでも言うのか・・・・・・!?」

 

「そうではないわ、お父様。アタシはただ、シオがどうして此処に来たかを知りたいだけ」

 

「さぁ、シオ。一度アタシの誘いを断った貴方が何故来たのか・・・・・・教えてくれる?」

 

ゆっくりと誘うように栞子に問いを投げかけるランジュ。一方の栞子は、ほんの一瞬だけ目を閉じ、己の心の中で此処に来る時に抱いた決意を以て、その問いに答えた。

 

「ランジュ、私をスクールアイドル部に入れて頂けませんか・・・・・・!」

 

「「しおってぃー(栞子)!?」」

 

栞子の言葉に驚きを隠せない果林と愛。当然だ、彼女がこの行動をとった経緯を知らないのと部側に強引に引きずり込まれた二人からすれば、これは只の同好会に対する裏切り行為でしかない。実際、栞子も彼女達からこの言葉を述べた時にバッシングされるであろうことを覚悟しないままに来たわけではない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

『成程な、アンタの考えていることは分かった。だが、いいのか?』

 

ムーンカテドラル基地での事。栞子は自らが同好会のスパイになって部に潜り込むことで、捕らわれた二人の救出と自分の幼馴染みであり親友でもあるランジュの真意を探り、同時にランジュに手を貸す『監視委員会』が最終的に何を成す為に何を企んでいるのか。それを見極めるのだと言う。

 

『もしかしたら、その行動が部に連れ去られた二人からは悪印象に見えるかもしれない。それでも、その意志を貫くのか?』

 

『それで構いません。私は本来強い女です、一時の誤解ならば堪えて見せます』

 

同好会のメンバー達は揃って彼女の事を心配してくれた。けれど、これがもしあの時の自分も関わった事件の続きと言うならば。私が動かずして誰が動くというのか。今の栞子はそんな固い信念のもと、目の前の困難に挑もうとしていた。

 

『友の為に見せる覚悟、か・・・・・・悪くねぇ』

 

彼女の言葉を聞いた祐介は、ふとある日の思い出に耽る。まさか自分がスクールアイドルのマネージャー兼監督のような立場になり、未来でもそれと同じような立場にいる。あの一瞬のような時間の中で起こした奇跡は確実に自分の中の価値観を塗り替えたのだと、そう悟った。

 

『長谷部さん・・・・・・?』

 

『フ、悪い。少しばかり昔の事を思い出してな』

 

『ま、アンタはアンタのやり方って奴を通して見せろ。途中で誤解されようが何されようが、自分の信念が変わらないならきっとその姿を見てる内に自ずと分かってくれるはずだ』

 

自分があの時味わった「楽しい」を、これから出てくるアイドル達やマネージャーを引き受ける奴らに味わってほしい。だからこそ、自分達の代から続くこの長き因縁をそろそろ断ち切らねばと、そう思った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「貴様・・・・・・一体どの口でそれを・・・・・・ッ!」

 

「いいわ、アタシは歓迎するわよ、シオ。貴方がいれば心強いわ」

 

栞子の願いを聞いて、激昂する土井とは裏腹に冷静に対処するランジュ。彼女には彼女の思うところがあるのだろう。土井はそう考えてすぐに怒りを収めるも、まだ納得のいかない表情でランジュを見る。

 

「ランジュ・・・・・・しかし」

 

「お父様がシオの存在を危険に思うのも無理はないわ。でも、アタシはシオを信じる。それに、生徒会と繋がりがある人間を事前に引き込むのも一つの手・・・・・・いいでしょう?」

 

「ふん・・・・・・勝手にしろ」

 

そんな捨て台詞を吐いて、土井は部屋から出ていった。恐らく理事長室にでも向かったのだろう。

 

「ありがとう、シオ。お父様は気に入らないみたいだけど、実際貴方が入ってくれたお陰でこれからのスクールアイドル部は正式な認可された部として本格的に始動できるわ」

 

やれやれと言った感じで溜息を吐きながら、ランジュは栞子を見つめたまま微笑む。やはり、彼女にとって栞子は大切な存在であることが傍目から見ても良く分かる。

 

「ランジュ・・・・・・活動を開始する前に一つ聞いてもよろしいですか」

 

「えぇ、他ならぬシオの頼みだもの。一つと言わず幾らでも」

 

「ランジュは・・・・・・この部で一体何を成そうというのですか?」

 

栞子はランジュと再会したあの時に聞いた質問と同じ問いを彼女に投げかける。ランジュはそれを聞いてニヤリと笑い、掲げる思いを口にした。

 

「当然、アタシの野望はこの平行線を辿るスクールアイドル史に再び革命を齎す事」

 

「嘗ての《μ’s》や《Aqours》にも負けないような、ね」

 

「アタシがやる決めたんだもの。これはもう、決定事項よ・・・・・・!」

 




24章の影響で果林と愛のところ、初期案からざっくり内容変えました。

というか見ました!?今月号のLoveLiveDaysに乗ってたランジュの説明文!
きっと、あれが本来ラブライブ運営が出したかったランジュの設定なのでしょう。それを脚本の雨野の野郎がクソ改変して……脚本家辞めちまえ!!

仮に↑みたいな推測したらランジュ推せてこない?一緒に推そうよ、ストーリーガン無視でいいから!さぁさぁ、ランジュ沼(まだグッズもないけど)へWelcome come on!!

ミアは璃奈の事好きすぎですね、りなミアはいいぞ。

PS

地道にUAが増えてきてて嬉しい限りです。文章力は雑魚いですが、これからもお付き合いよろしくお願いします!増えろ、ランジュ推し!


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3-2「ミア・テイラーの退屈」


――人数が増えた程度で、この俺が推すのを辞めるとでも思ったか?

どうも、今回も無事に投稿できた投稿者です。
コラム的なモノは活動報告でいつも通り書くので、今回は早めに解説に移ります。
(※尚、今回から設定変更とオリジナル設定解説を統合しています)


アニガサキ及びスクスタ設定変更・オリジナル設定解説

・ミアの性格(思考・目的等)
ハンバーガーが好きな事とゲームが好きな事。スクスタでも璃奈との共通点として掲げられたこの2点はそのままに。けれど、人と喋る事に関しては苦手ではないけれど限りなく面倒だと思っていると言う事に。故に、自分のペースを崩される相手と絡むのがあまり得意ではない(主に愛やランジュ、美岬等)。ランジュとは友達でもなんでもないので作曲以外で部に協力する気は皆無。寧ろ、同好会の短期間で成したとは到底思えない絆の深さや披露する楽曲の独特さに一人の音楽家として非常に興味を持っている。性格は原作よりも大分達観していて、でもちょっと中二病の気がある。作者テイストで年相応感出そうとしたらこうなった。……すまない。

・NLNSの由来
原作「抜きゲーみたいな島に住んでる貧乳はどうすりゃいいですか?」では「No Love, No Sex」が名前の由来だが、本作ではドスケベ条例に立ち向かうというシナリオではない為、「No Love, No School(idol)」となっている。何故、今更説明したのか。それはただ単純に作者が今まで開設を忘れていたからだ。
(※意訳…原作:愛がなければSEXではない 本作:愛がなければスクールアイドルではない)

・こころあ姉妹
アニメ「ラブライブ!」において登場した矢澤にこの妹達。正直、この子達には明確な設定や詳細が描かれたものが作者の手元になかったので、オリジナルの設定に極振り。心と心愛が同い年なのは、SID設定参照(確かそうだったはず……)。原作で唯一の男キャラ虎太郎には矢澤家の実子ではなく養子という設定も挟んだが、これについては本作で語る事でもないので割愛。何れ詳しく書く、チョットマッテテー

・南家について
アニメではことりが一人っ子だが、SIDでは上と下に姉と妹がいたのでその設定を採用。姉は出てこないが、妹の比奈は出番有(南比奈については「第三章・登場人物紹介」をご覧ください)。

・喫茶ミナミ
南ことりが卒業後の海外での服飾系の専門留学から帰ってきた際に『手芸の店 ミナ(・8・)ちゅん』と同時に経営し始めた喫茶店。ことほのうみの集会場所として主に利用されている。

・スクールアイドル研究会
嘗て《μ’s》のいた旧・アイドル研究部が名前を変えた姿。活動内容は《ムーンカテドラル》の影響を受けて、主に都内のスクールアイドルの活動のバックアップをしている(一方で、スクールアイドル活動も行ってはいるがラブライブを目指しているわけではない)。


……あ、今回から「ぬきたし」の美岬が本調子になります。お気をつけて。



アニガサキSS劇場⑦「集結!陸空海幼馴染み連合」

 

穂「帰って来た・・・・・・!」

 

穂「ホント、変わりないなぁ。ことりちゃんと海未ちゃんは元気にしてるかな?」

 

『カランコローン』

 

比「いらっしゃいませー、喫茶ミナミへようこそ・・・・・・って穂乃果さん!?」

 

穂「こんにちはー、比奈ちゃん。いやぁ、久しぶりだねぇ・・・・・・!」

 

比「あ、ええと、今、お姉ちゃん呼んできますね!」

 

穂「ゆっくりでいいよ~」

 

穂「・・・・・・ふぅ、お待たせ。海未ちゃん」

 

海「お久しぶりです、穂乃果。また急な帰省でしたね」

 

穂「へっへへ~、また何時ものアレだからねぇ」

 

海「全く、希も人使いが荒いですね。今度は一体何を考えているのやら」

 

海「・・・・・・そう言えば、祐介の姿が見えませんが?」

 

穂「あ、ユースケは今、ニジガクの子達の面倒見てるから今日は来れないよ?」

 

海「そうですか。・・・・・・本当にロリコンを拗らせた訳ではないのですよね?」

 

穂「さぁね~」

 

こ「――お客様、ご注文はお決まりでしたか?」

 

穂「おおっ、ことりちゃん!流石は看板店長、ビューチホー!!」

 

こ「ふふっ、ありがとう穂乃果ちゃん。海未ちゃんも決まった?」

 

海「はい、私はこれとこれを。穂乃果はどうしますか?」

 

穂「あ、えっとね、オススメ!今日のオススメ下さい!」

 

こ「はぁい。コーヒーセットと今日のオススメセット1つずつ入りまーす」

 

こ「あ、それと私用にダージリンセットもお願いね」

 

従業員一同「「「「「畏まりました、ことり様ァ!!」」」」」

 

こ「それじゃあ、私も失礼して・・・・・・ふぅ~っ」

 

穂「お店、いい感じに繁盛してるみたいだね、ことりちゃん」

 

こ「うん、比奈と従業員の皆が頑張ってくれてるお陰だよ~」

 

こ「・・・・・・それにしても、こうやって3人集まるのは久しぶりだね」

 

穂「ホントだよね!どうせなら、絵里ちゃんとユースケも来れば勢揃いだったんだけど」

 

海「仕方ありません。絵里は本職の方が忙しいようですし、祐介は・・・・・・アレですし」

 

こ「あははは・・・・・・別にゆーちゃんはロリコンじゃないと思うケドなぁ・・・・・・?」

 

海「それで?今日ここに私達を集めた用件は何ですか、穂乃果」

 

穂「おおっと、忘れる所だった!えっとね、実は――」

 

海「・・・・・・ふむん。成程、大体話は見えました。要はまた、何時ものと言う事ですね?」

 

こ「あはは、そうなるよね・・・・・・」

 

穂「あ、でもでも、海未ちゃんもことりちゃんも今日OKしてくれたって事は、いいんだよね!?」

 

海「えぇ、勿論です。他ならぬ穂乃果と祐介からの頼みですからね」

 

こ「私も賛成。穂乃果ちゃんと海未ちゃんのいる場所が、私のいる場所だよ」

 

こ「あ、でも、お店暫らく空けちゃうことになっちゃう・・・・・・どうしよう」

 

比「お、お姉ちゃん!お店は私達に任せていいから、穂乃果さん達と行ってきて!」

 

こ「比奈・・・・・・」

 

従業員リーダー「水臭いですよ、ことり様。我ら従業員一同、既にことり様の僕故。そうだな、貴様らァ!?」

 

従業員一同「「「「「イエス、サー!!」」」」」

 

比「ほら、この人たちもこう言ってる事だし・・・・・・ね?」

 

こ「ありがとう、皆・・・・・・私、行ってくるね!」

 

穂「よぉし、じゃあ行こう!《μ’s》の時とは違う、今の私達の最高のステージに・・・・・・!」

 

海・こ「「うん(はい)っ・・・・・・!」」

 

従業員一同「「「「「行ってらっしゃいませ、穂乃果様、海未様、ことり様ァァァァァァ!!」」」」」

 

(作者のボヤキ:3章突入してからSSが本編の補足になりつつあるなァ……)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

Side:ミア

 

 

「――あー・・・・・・暇」

 

土曜日。今日は何か捗りが良くて、午前中に何曲か作って、ランジュに見せて。で、それが終わったから今から昼食を食べに行くつもりだ。とは言え、土曜日は学食も購買もやっていない。だからボクは、街中に出てヤクトナルドでビックヤックを食べた。

 

「・・・・・・うまうま」

 

いつもは大体此処に足を運ぶとボク一人で随分と気楽なものだ。しかし、今日だけは何故か違った。

 

「あ、スクールアイドル部の作曲してる人だ」

 

「お前・・・・・・天王寺璃奈」

 

今、ランジュが裏でこそこそ進めている同好会との全面戦争の構図。その中の当事者の一人である同好会側所属の1年生・天王寺璃奈がそこにいた。

 

「一応、知ってくれてるんだね。璃奈ちゃんボード『びっくり』」

 

「・・・・・・同好会メンバーの名前はランジュから耳タコな位聞いてるからね。で、ボクに何か用?」

 

「ううん、見かけたからちょっと話してみたいと思った。・・・・・・駄目だった?」

 

何だコイツ・・・・・・考えてることが全然分からない。というか、何故ボード?

 

「人と話すの、面倒なんだよね」

 

「そうなんだ。向かいの席、いい?」

 

「・・・・・・お前なぁ、人の話聞いてたか?」

 

ボクがそんな風に独り言ちるもそれも無視して、向かい側の席に腰を下ろす璃奈。ああ、この絡み方は間違いなくこの前ランジュが部に無理矢理引っ張ってきた宮下愛と似ているものがある。

 

――そう、あれは愛が果林や栞子と来てから1週間経った時。

 

『おおっ、ミアっちじゃん!愛さんと一緒にお昼食べようぜ~?』

 

『・・・・・・曲作りで忙しいから、また今度ね』

 

『そんな冷たい事言うなよ~。ほれほれ、武士は食わねど高笑い~ってね』

 

最初の頃は凄いどんよりしてたけど、何か最近は元同好会所属のメンバーである果林や栞子と一緒に楽しげに談笑している。幾ら何でも慣れが早すぎないか?

 

『それを言うなら武士は食わねど高楊枝、だろ。そもそも今の状況に適してない言葉だ』

 

『分かってるってばー。そんな事より・・・・・・じゃーん!愛さん特製のぬか漬け、お上がりよっ!』

 

こういう一度話しかけたら絶対に引かない系の人間はボクはあまり好きじゃない。ランジュは、まぁ、元々が我儘お嬢様だから一人でわーわー騒いだら勝手に帰ってくけどね。ただ、ボクを友達扱いして来ている事だけは無性にイラつく。

 

「ミアさん、ハンバーガー好きなんだね」

 

「日本のは、小さくて物足りないけどね。味はしっかりしてるし、嫌いじゃない」

 

「うん、私もハンバーガーは好き」

 

「ホントに!?・・・・・・ん゛ん゛っ、センスいいね、璃奈」

 

不覚にも、意見の同じ同志を見つけられたことについ喜びの感情を抑えきれなくなりそうだったが。寸でのところでぐっと興奮を抑え込んでクールに振舞う。いけないいけない、仮にもテイラー家の産まれであるこのボクとしたことがあるまじき姿を見せるところだった。

 

「・・・・・・ミアさんは、ゲームとかやる?」

 

「勿論、最近は野球ゲームが熱いね。たかがCPUとなめちゃいけない、彼等との戦いの中で如何に自分が極めて効率よく或いは相手に能動的に点を取らせないようにするかの駆引きで・・・・・・」

 

そこまで言いかけてボクはハッと気づく。またコイツに乗せられて、ついつい喋り過ぎてしまったと。ああ、くそ、駄目だ・・・・・・コイツといるとペースを乱される。何故だ。

 

「他には何かやらないの?」

 

「いや、だからボクは別に――」

 

「性乱闘スマタッシコブラザーメンズスペルマ射ル!!」

 

「は?」

 

これ以上コイツの話に付き合って溜まるか、とボクが席を立ちかけたその時。ボクと璃奈が座っていた席の下から急に知らない女が生えてきた。そんな馬鹿な・・・・・・さっきまでまるで存在感がなかったぞ?何なんだコイツは?

 

「美岬さん、そんな名前のゲームはないよ?」

 

「はっ!?すみません、何だか分かりませんが言わなきゃいけないような気がして、つい・・・・・・!」

 

しかし次の瞬間には、突っ込みを入れた璃奈にその女はペコペコと頭を下げていた。そしてよく見れば胸元のリボンは明らかに2年生のもの。上級生が下級生にそんな姿見せていいものなのか?いや、でも二人は如何やら知り合いみたいだし別に気にする事でもない・・・・・・か?

 

「あ、ごめんね、ミアさん。この人は私の友達の畔美岬さんだよ」

 

「ミアちゃんって言うんですか?初めまして!オッス、私美岬!」

 

「・・・・・・」

 

「因みにミアちゃんは璃奈ちゃんと同じ1年せ・・・・・・ほぎゃぁぁ、3年生だぁぁぁっ!?」

 

何かよく分からない内に馴れ馴れしくしてくると思ったら、急に驚いて飛び上がって、今度はボクに向かってヘコヘコし始める。マジで何なんだ、コイツは。

 

「すみません、すみません!上級生の方とは思いも寄らず・・・・・・!」

 

「別に気にしてないし・・・・・・」

 

「チャーシューにするなりスペアリブにするなり好きにしていいですからぁ!?」

 

「shit!ええい、鬱陶しいなぁ・・・・・・!」

 

気にしていないと言ったはずなのに。まだ許されていないと思い込んで必死にボクに食い下がって来る。耳にラードでも詰まってるのか、この美岬とかいう女は。というか、何で全部豚肉料理なんだ。

 

「ミアさん、ごめんなさい・・・・・・」

 

「・・・・・・何でお前が謝るんだよ。気にしてないって言っただろ」

 

「本当?ありがとう、ミアさん、優しい」

 

「・・・・・・ッ!?///

 

ありがとうって何だよ、後これくらいで優しいとか馬鹿か?・・・・・・駄目だ、やっぱり調子狂う。

 

「大体、いいのか?ボクはキミ達の敵であるスクールアイドル部の所属なんだぞ」

 

「うえぇ、そうだったんですかぁ!?」

 

「・・・・・・うん、知ってるよ」

 

「璃奈ちゃんは知ってたんですかぁ!?」

 

ボク等の反応に一々突っ込んでくるクソ女は無視するとしよう、そうしよう。

 

「でも、さっき話してみて分かった。私とミアさん、好きなものが一緒。だから、もっとお話したい」

 

「・・・・・・勝手にしろ」

 

璃奈の言葉にぶっきらぼうに返答をしながらも、ボクは何となくこの胸の内に芽生えつつある妙に落ち着かない感情に、イライラして。でも、不思議と嬉しさみたいなものもあって。何だこれは。

 

「そう言えば璃奈さん、聞きましたか?近々ヤクトナルドであのメガヤックが復活するそうですよ!」

 

「うん、この間からCMでやってたね。楽しみ」

 

「はい、何たってビックヤックの2倍の大きさですからね!食べがいがあります!」

 

「何・・・・・・だと・・・・・・!?」

 

その会話の内容を聞いて、ボクの顔が一瞬で驚愕に染まる。本来であればあのクソ女の戯言など聞くつもりはなかったのだが・・・・・・なかったのだが!!

 

「おい、お前!それは本当か!?」

 

「ひいぃっ!?な、何でしょう・・・・・・?」

 

「さっき璃奈と喋ってたそのメガヤックって商品の事だよ!」

 

「えっ、あ、はい。それは確かな情報ですよ。ほら、予告ポスターもありましたし・・・・・・」

 

「ポスター・・・・・・確かに、ある。チッ、ボクとしたことが全く気に留めてなかったなんて・・・・・・!」

 

クソ女に指摘されて、壁際にそのポスターを見つけるボク。ボクの本国、アメリカのと比べるとまだまだ小さいが大分理想に近い大きさになっている・・・・・・と思う。復活と言う事はきっと前も販売していたが、期間限定でしか置かれなかったのか、それとも単に日本人には需要がなかったのか。

 

それが今回、期間限定ではあるが再び復活の兆しを迎えたと言う事。ならば、本国のハンバーガーを片っ端から食べつくしてきたボクにとってこれは、とても見逃せないイベント。ああ、早く此れに出会いたい。出会った暁にはきっとボクの作る曲も彼の力を得て、更にパワーアップすること間違いなし。逆に、此れを知ってしまったからには多分、これが発売されるまで作曲に気が乗りそうにない。そう思った。

 

「璃奈、此れの発売は何時だ・・・・・・!?」

 

「えっと・・・・・・来週の土曜日、だって」

 

「よし来週か、こうしちゃいられないな・・・・・・!」

 

そう言ってボクは真っ直ぐ虹ヶ咲学園の方へ駆け出す。思えば、ランジュに雇われてから初めてかも知れない。こんな理由で休暇を申請する等。だけど、この休業期間には意味がある。通らないなんてことはないとは思うが、これだけは何としても通してやる・・・・・・!

 

「あ、ミアさん・・・・・・行っちゃった」

 

「んぐんぐ・・・・・・はふはのほうほうりょふでふねぇ(流石の行動力ですねぇ)・・・・・・」

 

その場には、猛ダッシュで駆けだしていったミアの後ろ姿を呆然と眺める璃奈と、注文した大量のハンバーガーを口の中に詰め込みながら見送る美岬の姿があった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・ランジュ!」

 

「あら、ミアじゃない。珍しいわね、何か用かしら?」

 

その後、息を切らして部室に入ってきたボクの姿を見るなり、何時もの冷静さを保ちつつ、何処かキョトンとしているランジュに向かって、来る途中で書いた申請書を突き出し宣言した。

 

「次の土曜日までボクは休業する・・・・・・休業申請!」

 

それを聞いたランジュはやっぱり意外そうな顔をして。だが、その提案をすぐに肯定して、あくまでいつも通りの雰囲気を貫ぬかんとしていた。

 

「えぇ、次のライブの曲は事足りているわけだし、別に構わないけど・・・・・・本当に珍しいわね?」

 

「じゃあ、後はよろしく・・・・・!」

 

ランジュの問いには答えず、ボクは再び駆け出す。うん、どうせなら璃奈も誘おう。ハンバーガー好きって言ってたし、何か色々話したくなって来た。あのクソ女も付いてきそうだが仕方がない。

 

「待ってろ、メガヤック・・・・・・!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そう、これは。ボクが別にスクールアイドル同好会との対立をするわけでもなく、同時に曲作りで難航してスランプ気味になる訳でもなく。ただただ、自分の大好きなものの発売日まで体験した、今まで経験したこともない非常に濃厚な一週間の出来事の体験記である。

 

 

Side END...

 

 

「――行きますッ、せつ菜スカーレット・ストォォォォォォーム!!

 

「へっへへ~何のッ!喰らえ、アタシの必殺技パート1ッ!!」

 

『ガキィィィンッ!!』

 

「な、中々やりますね・・・・・・心愛さん!」

 

「そっちこそ、前より大分強くなったね。菜っちゃん!!」

 

此処は『音ノ木坂学院・アイドル研究部』改め『音ノ木坂学園・スクールアイドル研究会』部室の練習スペース。そこで虹ヶ咲スクールアイドル同好会の《最強の剣》優木せつ菜とスクールアイドル研究会の《静寂の冬月》矢澤心愛が死力を尽くして戦っていた。ガチの肉弾戦で。

 

「ですがっ、まだまだです!うおぉぉぉぉぉっ、私の拳が真っ赤に燃えるッ!」

 

「おおっ、それで来るか・・・・・・なら、こっちだって!行くぞ、アタシのドラグバイザー!!」

 

『FINAL VENT』

 

「勝利を掴めとッ、轟叫ぶッ!!」

 

「一撃必殺!」

 

「ばぁぁぁぁぁぁく熱ッ、ゴッド・フィンガァァァァァァァァァァ!!

 

オーラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!

 

二人の連撃がぶつかり合う。あのー、原作だとどっちも連撃技じゃないし、心愛さんに至っては一言前に一撃必殺って言ってるんですが、それは。

 

「単純なのは変わってないね・・・・・・だからこそっ、ザ・ワールド!時よとまれッ!」

 

その掛け声を合図にせつ菜ちゃんが時間停止されたように動きを止める。再現度スゲェ・・・・・・!

 

「フフフ、やっぱり菜っちゃんでも止めた時の中では・・・・・・なッ!?」

 

「無駄ですよ。時間を止めたくらいで、私の歩みを止められるとでも思いましたか?」

 

互いに一進一退の戦いが繰り広げられる。けど、流石に長い。誰か二人を止めて下さい。

 

「おいテメェらァァァァァァ、練習サボって遊んでんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「「ひぎゃっ!?」」

 

スパーン、と長谷部さんが持っていたメガホンが二人の頭に炸裂する。あ、良かった。長谷部さんずっといたんだ。

 

「う゛うっ・・・・・・すみません。テンション上がって羽目外し過ぎました・・・・・・!」

 

「あんだよー、いいところだったのに邪魔すんなよなー、ハセ兄~!」

 

「るっせぇな、心愛ァ!元はと言えばテメェが蒔いた種だろうが、ちったぁ反省しろやァ!!」

 

元凶の二人が長谷部さんによって止められたお陰で、練習を再開させる私達、虹ヶ咲スクールアイドル同好会。だが、何故学園側から活動出来なくされている私達がこうして練習に専念できているかと言うと。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『――何だ、テメェら。練習場所がないのか?』

 

それはあの時の《ムーンカテドラル》本部内での作戦会議が終わって、部へ向かった栞子ちゃんを見送ってから数日後の事。私達を其々の家まで送り届ける為に、長谷部さんが用意した大型車に乗って、皆で談笑していた時。不意に、かすみちゃんが「でも練習場所がないんですよね、どうしましょう」と言ったことからそれは始まった。

 

『はい。学園側から止められてる状況でして。かといって他に頼れる場所がある訳でもないので』

 

現在、学園長(偽)によって、自分の娘が所属するスクールアイドル部が超優遇されており、それと対を成す私達スクールアイドル同好会は部室を奪われ、校内での練習をしようものなら、その度に監視委員会の黒服の男達に狙われる。思えばこの数日間は、《ムーンカテドラル》からの供給をフルに受けた淳之介君達の協力によって難を逃れ続けたが、今後も堪え続けられるか如何かは非常にビミョーなラインだ。

 

『じゃあ、ウチを使え』

 

『へ?』

 

『此処の本部を使えって話だよ。一応そういう設備は何かあった時の為に万全だし、地下だけど地上とそう変わりない環境下で出来るように色々配慮が行き届いてるしな』

 

その話を聞いていた長谷部さんから、いきなりそんな提案が。え、あの地下室あそこの会議屋以外にまだ色々部屋があるの・・・・・・強すぎない?

 

『ま、土日は流石に別の場所を使ってもらうがな』

 

『別の場所とは・・・・・・?』

 

『聞いて驚け。土日のテメェらの練習の舞台は、俺達の母校・音ノ木坂だ』

 

『『『『『・・・・・・!』』』』』

 

旧スクールアイドル同好会として活動していた5人が再び一斉に反応する。それはそうなるよなぁ、だってあの伝説のスクールアイドル《μ’s》の活動場所を一時的とはいえ借りる事になるのだから。しかし、それだけでは収まりきらず。

 

『まぁ、もしかしたら暇した元メンバーの誰かがちょくちょく遊びに来るかもしれんがな』

 

『皆さん、やりましょう!これはもしかしたら私達の更なるステップアップも夢ではありませんよ!!』

 

『あと、皆さんが良ければサインも!!』

 

何だかんだでちゃっかりした思考をしつつ、同好会の皆に呼びかけるせつ菜ちゃん。それを聞いてその場の全員がしっかりと頷いて。

 

――それから、この夢のような・・・・・・けれど普段よりハードな特訓が幕を開けた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「「すいません長谷部さん、姉(妹)が迷惑を掛けまして・・・・・・!」」

 

「気にすんな虎太郎、心。しかしお前ら、よくアレに堪えてるよな・・・・・・すげぇよ」

 

「ははは・・・・・・まぁ、にこ姉との約束ですから」

 

この土日の音ノ木坂での特訓が始まって、直ぐに仲良くなったスクールアイドル研究会の矢澤心ちゃん、矢澤心愛ちゃん、矢澤虎太郎くん。何と、彼等はあの矢澤にこさんの妹達らしく、元からのレベルがかなり高かった。一応、ソロで活動していた時期もあったせつ菜ちゃんとは3人ともが知り合いだったようで、同好会の皆とも早々に打ち解けたみたいだ。

 

「あぁ・・・・・・彼方ちゃんもう駄目・・・・・・( ˘ω˘)スヤァ」

 

「ああっ、彼方さんが寝てしまいました!?」

 

「・・・・・・本格的に寝る前にストレッチさせとけ、しずく」

 

「はい、分かりました!」

 

長谷部さんの指示でしずくちゃんが彼方さんを運んでいく。最早、これも恒例の一幕となっていた。

 

「うえぇ~・・・・・・ハードすぎますぅぅぅ。こんなの可愛くないですよぉぉぉ!」

 

「ほほぅ・・・・・・いいのか、かすみん。お前のメニューはあのことり考案のものだぞ?」

 

「ええっ、あのことりさんがですかぁ!?」

 

「あぁ。映像資料で見ただろう、あの全身から溢れ出る可愛さを。お前はそうなりたくないのか?」

 

「いえ、なりたいです!かすみん、頑張りますっ!」

 

少しへばってきたかすみちゃんを、本人が一番やる気を出しそうな文句を携えて励ます長谷部さん。的確な程の飴と鞭・・・・・・凄い、やっぱり参考になるなぁ。

 

「ふぅ~・・・・・・何時もの練習よりちょっと厳しめだね。私もちょっとヘトヘトだよ~」

 

「いや、だが流石は山育ちだけあるな。他の奴等よりポテンシャルは高いぞ、その調子だ」

 

「ホント~!?よぉし、皆に負けないようにどんどん頑張らなくちゃだよー」

 

「・・・・・・ッ!?そ、そうだな。頑張れよ、エマ///

 

ふんふん、さしもの長谷部さんもやっぱり巨乳には弱い、と。まぁ、私には不要な代物だけどね。

 

「・・・・・・何でボクはこんなところにいるんだろうか」

 

そして、そんな練習風景を先程帰ってきた璃奈ちゃんと一緒に招かれた、スクールアイドル部のミアちゃんが見ていた。その隣にはNLNSの美岬ちゃんもいて、無言で買ってきたハンバーガーを頻りに喰らい続けている。

 

「そして何でお前はこの状況でハンバーガーを食えるんだよ・・・・・・」

 

「ふへ?ほれはほう、へのはえにはんはーははあふはらへふ(それはもう、目の前にハンバーガーがあるからです)」

 

「ええい、分かったから、食ったまま喋るな・・・・・・!」

 

何故スクールアイドル部の所属であるミアちゃんが此処に招かれたのか。一番の理由は長谷部さんがミアちゃんを連れて来た璃奈ちゃんの強引な押しに負けたのと、もう一つ。

 

『ボクは曲作りで雇われただけだからね。だから、プライベートの事をアイツらに喋る義務はないよ』

 

彼女本人が部と委員会の方には決して他言しないと明言してくれたからであった。勿論、それだけでは疑いは掛かったままなので念の為荷物検査も行ったが、特にこれと言って怪しいものは入ってなかった。というか、彼女の鞄に入っていたのは作成途中の譜面と携帯のみだった。

 

「そう言えば、長谷部さん。今日は穂乃果さんは?」

 

朝来た時は長谷部さんと一緒にいたはずの穂乃果さんの姿が昼時から見えなくなっていたので、思い切って長谷部さんに尋ねてみる。すると彼は。

 

「穂乃果の奴なら、今頃秋葉原でことりが経営してる喫茶店に顔出してるぞ」

 

「ことりさん、喫茶店やってるんですね。てっきり、服飾関連のお仕事かと」

 

「あー、兼業なんだよ。喫茶店の休業日に服飾やって、服飾の休業日に喫茶店やるって感じだな」

 

流石はメイド喫茶のメイド軍団を率いる大師団長とも呼ばれた伝説のメイド「ミナリンスキー」であるだけはある。でも、それちょっとオーバーワーク過ぎない?

 

「それじゃあ大変なんじゃないですか?」

 

「大変なんてもんじゃねぇよ。だから数年前にオレと穂乃果と海未で説得して従業員雇ったのさ」

 

「ことりは昔からああやって偶に無茶するから、オレ達幼馴染みがその都度止めてやらんとな」

 

何て素敵な幼馴染み関係・・・・・・!侑と歩夢ちゃんもそんな感じなんだろうか、いいなぁ幼馴染み。

 

「ふぅん・・・・・・お前があの噂の同好会のマネージャーか」

 

すると突然、ミアちゃんが私に隣から話しかけてきた。わ、やっぱり近くで見ると凄い綺麗な顔立ち。勿体ないなぁ、スクールアイドルやらないのかなぁ。

 

「よろしくねミアちゃん、私は結子、舘結子だよ」

 

「・・・・・・!ふいほはん、みははんはへんはいれふよっ(結子さん、ミアさんは先輩ですよっ)!?」

 

そしたら何故かミアちゃんじゃなくて、ミアちゃんの隣の美岬ちゃんが話しかけてきた。え、何て?

 

「だから食ったまま喋るなって言ってるだろ、クソ女!」

 

「ふいぃ・・・・・・ふいまへんふいまへん(ひいぃ・・・・・・すいませんすいません)!」

 

美岬ちゃんの行儀の悪さにキレたミアちゃんが、彼女に最大級の罵倒を喰らわす。美岬ちゃんはと言うとそんなミアちゃんに只管謝り続けていた。勿論、大量のハンバーガーを口に加えたままで。

 

「ま、コイツの言う通り、ボクの方が学年は上だけどね。別に敬語とかは使わなくて良いから」

 

「寧ろお前に使われたら気持ちが悪い」

 

「そ、そうなんだ。じゃあ、このままの喋り方にするね?」

 

「ん」

 

随分棘がある喋り方する子だなぁ・・・・・・下手したら心に一生残る深手の傷を負いそう。だって、幾ら肉体は強くても心は硝子だもの。

 

「ところで噂って?私ってそんなに噂になってるの?」

 

「委員会の連中の中でも特にイキり倒すのが好きな奴が言ってたんだよ、あんな奴女じゃねぇって」

 

イキり倒すのが好きな奴って言えば・・・・・・ああ、あの戦闘行為の最中に中学時代の話を始めようとしたあの人か(※詳しくは2章1節へGO!)。よし、今度会ったら確実に息の根止めよう。

 

「そう言えばお前、ランジュに相当気に入られてるみたいじゃん」

 

「こっちからしたら傍迷惑なんだけどね」

 

「・・・・・・その気持ちは何となく分かるかな。アイツ、いつも五月蠅いからさ」

 

「いや、違った。五月蠅いどころじゃない、ウザい」

 

同じ部の所属であり、同時に部の統括者である彼女の事をそこまで言えるのは恐らく現状でミアちゃんぐらいなもんだろう。あと他・・・・・・というか委員会の奴らは総じて「ランジュ様、ランジュ様」だからね。個人の持ち上げもあそこまで来れば寧ろ清々しいと言ったところか。

 

「流石に部の情報なんかまでは話してはくれない、よね?」

 

「まぁね。でも、その点は別に心配いらないんじゃない」

 

「え、どうして?」

 

「ほら、同好会から部に行った3人がいたろ?何だっけ、果林と愛と・・・・・・栞子?」

 

「アイツら、ランジュに気付かれないように結託して、部と委員会と理事長様の動向とかを密かに見張ってるからね。待ってれば多分、そのうちお前の携帯に連絡入るんじゃない?」

 

何故、彼女がここで口にしたのか。その情報はある意味此方が徐々に有利になりつつあるという暗示でもあり事実でもあるというのに。まさか敢えて偽の情報を・・・・・・いや、それはないか。嘘を吐くなら、事前にもっと大幅な情報公開をして此方を揺さぶってくるはずだ。真実とも言い切れないが一概に嘘とも言い切れない訳か。どうする、私・・・・・・!?

 

「何でこんなこと話すのか、って顔だね」

 

「えっ、そんな顔してた・・・・・・?」

 

「まぁね。現状のボクの立場がアレだから信用に足らないのも分かるけど」

 

「この際だから正直に言おう。ボクは、これまでキミ達を部の方から見てきて、キミ達同好会の持つ力の源が何なのか知りたいと思った」

 

つまりは興味を持ったって事さ、とミアちゃんは付け足す。そうか、これは彼女がスクールアイドル部所属のミア・テイラーじゃなく、テイラー家の一員であるミア・テイラーとして話を進めているのだと。

 

「力の源・・・・・・?」

 

「キミ達の音楽は聴いたよ。ボクから言わせれば何てことない、特に注目もされない曲ばかりだ」

 

「けれど、それ以上に。彼女達の楽曲には、その個人が歌うからこそという独特な世界観があった。曲は本来、大勢に歌ってもらう為のモノだけど、それとはベクトルが全く違う」

 

「でも、だからこそ。キミ達が掲げるソロアイドルという、嘗て誰も目指さなかった異例の試みをより引き立てる為のいい材料になっている」

 

「ボクは純粋に知りたいんだ、キミ達同好会が目指しているものを。あのランジュがやたらと煙たがっている高咲侑って子がその道の先に何を成し得るのかって事が」

 

個人としてではない、あくまで音楽家が揃った一家に生まれた自分だからこそ。自分が普段気にも留めないような曲が今後の自分の糧になるかもしれないしならないかもしれない。けれど、一見じゃどうと思われる道の先に自分が今見つけたい答えに近い何かがあるのなら、それを見極めたいと。先程からの彼女の言葉は、彼女がアメリカにおいて何故飛び級をする程の天才に至ったのか。その理由が明確に現れていた。

 

「まぁ、暫らくはキミ達と一緒にいる事にするよ。多分、その方が手っ取り早いはずだから」

 

「それに、その・・・・・・璃奈の事も、いろいろ気になるし、さ・・・・・・///

 

「そっか。それじゃあよろしくね、ミアちゃん!」

 

最後の方は何を言ったか全く聞き取れなかったが、こうして私達スクールアイドル同好会とミアちゃんの奇妙で不思議な一時的共闘条約が結ばれたのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そんなこんなで一日目。

 

「うわっ、何でアメリカン合法ロリが此処にいんのさ・・・・・・」

 

「誰がアメリカン合法ロリだ。確かにボクは14歳だがお前より上級生なんだぞ、敬語使えよ」

 

「うるせぇ!こちとらリナリナと遊ぶために来たんじゃい、お前は呼んでねぇんだよ!」

 

「アサネちゃん、落ち着いて。璃奈ちゃんボード『あわあわ』」

 

暫らく続いた練習を今日はOFFにして、遊びに出かけた璃奈と麻沙音とミア。その傍らで同じく遊びに誘われたしずくとかすみの両名が控えていた。

 

「おんのれぇ、スクールアイドル部ゥ・・・・・・ガルルルルルルルル!」

 

「かすみさん、今日は璃奈さんに付き合う予定なんだから。我儘言っちゃ、めっ!」

 

「それはそうだけどぉ・・・・・・」

 

しずくはスクールアイドル部所属のミアがいることで警戒心を顕わにしているかすみを叱り付け、かすみはしずくに叱られながらも少し納得のいかない表情をしていた。

 

「それで皆様、今日は何をなさるのでしょうか」

 

「文乃としては、是非とも楽しい一日にしたい所存でございます。ふんす」

 

「あ、文乃さんも来てくれたんですか?今日は一緒に楽しみましょうね!」

 

「はい、しずく様。よろしくお願いいたします」

 

今日集まったメンバーの中で、恐らく先程から一番ソワソワしているであろう文乃が気合十分と言った体で今日の意気込みを語る。今まで共に多くの困難を乗り越えたお陰か、しずく達とは心の距離も縮まり、すっかり仲良しになったようだ。

 

「そして勿論、私もいますよ!やる気、元気、美岬ィ、ハメかわっ!」

 

「うげ・・・・・・何で畔先輩も一緒なんですか・・・・・・?」

 

「ミーッサッサッサッサッサ!それは当然の事ですよ、かすみちゃん!」

 

「何せ私と璃奈ちゃんと文乃ちゃんはむべむべな友情で結ばれてますからね!むべっ♪」

 

「「むべ・・・・・・」」

 

「滅茶苦茶むべハラじゃないですか・・・・・・」

 

1年生組での交流と想定して集まったこのグループの中に、何故か2年生のはずの美岬が乱入したことにより、遊ぶというよりは色々なお店で色々なものを食べつくすと言った食い倒れ珍道中に様変わりしてしまった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

二日目。

 

「今日は私達と一緒だね、よろしくねミアちゃん」

 

「ん、よろしく」

 

今度は2年生組が一堂に会してのおもてなし。少し雰囲気に慣れないのか落ち着かない様子のミアちゃんに歩夢ちゃんが優しく声を掛ける。300アグリナポイント・・・・・・亜玖璃だけに。

 

「今日は歩夢ちゃんがいてくれて良かったのだわ。私達だけだと色々大変だっただろうし・・・・・・」

 

「本当にこれは俺が付いて行ってもいいものだったんだろうか・・・・・・?」

 

「別にいいんじゃないの。少なくとも私は気にしないけど」

 

「古来から、百合に挟まる男は殺されるんだぞ・・・・・・!?」

 

「何の話をしてるのよ」

 

一方で、歩夢が持ち合わせる心の清涼剤とも呼ぶべきその優しさに打ち震える奈々瀬とこういう作品内に置いて忌み嫌われるポジションとなってしまった現状に震えが止まらない淳之介。彼は恋愛のいろはなど知らぬ、ただ処女厨である為、そういう知識には人一倍聡かった。

 

「ミアさん!ミアさんはアメコミヒーローはお好きですか!?」

 

「興味ない」

 

「そ、そうですか・・・・・・よよよ」

 

アメリカの生まれであるならば、一度くらいはアメコミヒーローに嵌ったことがあるはずと想定したせつ菜がミアに質問を言い放ったが、即答で瞬殺されてしまい、床に崩れ落ちる。頑張れ、せつ菜。幾らフラれようと自分の大好きを広め続ける立派な布教ヲタクになるんだ。

 

「じゃあ皆、何処に行こうか?」

 

「あ、そう言えば最近有名なファッション専門店が近くにオープンしたって聞いたよ」

 

「あぁ、あそこのお店ですね!私も知ってますよ、折角ですし行って見ましょう!」

 

結子の問いを受けた歩夢の提案で、近くのファッション専門店へと行くことがほぼほぼ確定となっていく。しかし、当面の問題としては。

 

「奈々瀬、俺、アサちゃんと変わる・・・・・・」

 

「淳がプレッシャーのあまり凄くよわよわに・・・・・・!?だ、大丈夫よ淳、きっと・・・・・・!」

 

「ななせぇ・・・・・・!」

 

「全く、NLNSのリーダー様がそんな事でどうするの?いざと言う時は相棒の私がなんとかフォローするから、アンタはどーんと構えて此処に居ても良いのよ」

 

いや、正確に言えば特に問題はなかった。何故なら、この集団で一人だけ男であるという、個人的には役得ではあるが非常に気不味い立場が淳之介を追い込みつつあったが、奈々瀬の持つ包容力がそれを全て中和してくれていたのだ。窘め方に若干のオカンみを感じるが、そこは気にしてはいけない。

 

「sit・・・・・・甘ったるいな」

 

勿論、その光景を傍から見ていたミアから罵倒が飛んだのは言うまでもないが。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そして、三日目。

 

「そっかぁ、ミアちゃんと私達、学年が同じなんだ。今日はよろしくね、ミアちゃん」

 

「飛び級してるなんて、ミアちゃんは凄いなぁ。よぉ~し、今日は彼方ちゃん達がいっぱい甘やかしてあげちゃうよー」

 

「や、止めろ、子供扱いするな・・・・・・ッ!///

 

今日は各個人が母性の塊であると専らの噂の3年生達・・・・・・要するにミアの今の学年でいう同学年の人々との交流が彼女を待っていた。嫌がってはいるが、自分からその差し伸べられる手を強引に退かさない辺り、彼女も満更ではなさそうであった。

 

「ミアちゃんは凄いな、偉いんだな!どれどれ、おねーさんからも一杯甘やかしをあげようね!」

 

「・・・・・・もしかしてお前も飛び級なのか?」

 

「これでも17歳ですけど!!」

 

「何だって、こんなに背が小さいのにか・・・・・・!?」

 

「小さくありませんけど!!」

 

傍から見ればただのロリっ娘にしか見えない(ロリじゃないですけど!!)ヒナミではあったが、やはり彼女も母性を持っているという意味では人一倍、この虹ヶ咲学園の3年生として申し分ない適性を持っていた。そう、皆さんご存じ、あのヒナミママなのである。

 

「果林ちゃん、大丈夫かなぁ・・・・・・」

 

母性の塊が集結して和やかなムードに包まれたその場で、ふとエマがそんな事を呟いた。やはり、普段から日常生活面では結構ずぼらな彼女の身の回りを全てやってあげていると言っても過言ではないエマにとっては、部に連れていかれた彼女がどうしても心配だったのだ。

 

「・・・・・・何、果林の事が気になるのか?」

 

「うん・・・・・・だって、私がいないと果林ちゃん、何やらかすか分からないし」

 

「寮の方にも監視の人達がいて、ちゃんとご飯食べてるのかも確かめられないから・・・・・・」

 

「あー、そう言えば監視の人いたねぇ、大勢。要人のSPかと思うくらいの規模だったよ」

 

加えて寮生活に於いても監視委員会の黒服達が介入している事態。委員会側もそう簡単には捕まえた相手を逃がすつもりはないようだった。

 

「他の学年の奴らも愛や栞子を心配してたけど、お前達も同じなんだな」

 

「勿論だよ、だって果林ちゃん達とは仲間だし、皆大切なお友達だから・・・・・・!」

 

「そりゃあそうだよ。だって私達、ライバルやってるけど仲間な事に変わりないしね~」

 

「私は皆と違ってまだ顔合わせてからそこまで日は経ってないケド・・・・・・うん、そうだな、私達も仲間だもんな!」

 

ミアの言葉にエマも彼方もヒナミもそう答える。あぁ、此処の連中はどうしてそんなに・・・・・・此処の中でそう思いながらも、ミアの中ではこれまで聞いた彼女達の声が頭の中にフラッシュバックした。

 

『栞子ちゃん達、自分の意志でとは言え一人で行っちゃったから、やっぱり心配・・・・・・』

 

『しお子達があのショウランジュと委員会に負けるとは思えないけど・・・・・・でも、しお子達もかすみんの仲間なんだから、心配するのは当たり前じゃん!』

 

『栞子さん達とはまだ出会って日は浅いですが、それでも。私達は、ライバルで仲間なんです』

 

『同好会の皆さんとはもう完璧に仲間ですからねっ!私も何かお手伝いをしたいです!』

 

『日は短けれど、その絆は一朝一夕のものではありません。文乃に、何か出来ますでしょうか』

 

『愛ちゃん達はいつも私達に元気をくれるから・・・・・・やっぱり、いないと寂しいな』

 

『愛さんも果林さんも栞子さんも、私達には大切な仲間ですから。やはり助けに行くべきかと!』

 

『仲間は絶対に助ける、それもヒーローのお約束だ』

 

『ま、淳はこう言ってるけど、多分素直に言えないだけだと思うわ。私も賛成ね』

 

『お世話したりお世話になったり。多分、そうやって繋がっていくんじゃないかな、仲間って』

 

『そしてそれは、今までの侑達も同じだったんだよ、きっとね!』

 

「・・・・・・」

 

しかし、それで漸く思い至った。彼女達がなぜこんなにも短期間でありながら強い絆で結ばれているのかが。あぁそうだ、これがあの今の状態にあるランジュに真似出来るはずがない。所詮は一時的な仮初の関係。ならば、今の自分がやるべき事は。

 

「ん、分かった。ちょっと早いけど、キミ達には説明した方がよさそうだ」

 

「「「えっ、何の事?」」」

 

ミアの何かを決意したかのような発言に首を傾げる3人。だが、ミアはそれを気に留めることなく、3人の前でこう言い放った。

 

「あの3人がこの一週間、何もしてなかったとでも思うか?」

 

「そんな事はない。皆が皆、追い詰められたフリをして監視の目を誤魔化してきた」

 

ミアの手元に握られた携帯には、3人とのメッセージでの交流の履歴が表示された画面。そこに書かれていたのは一つの暗号文。彼等にしか分からない様、密かに共有していたキーワードを使わなければ絶対に解けないものになっていた。

 

「ボクとしては、この休暇が終わって目標を達するより前に面倒事はなるべく片付けておきたいしね」

 

「一応、全員に話を聞いてもらおう。そして、良ければボクも一緒にやらせてくれないか」

 

 

「――キミ達の活動を阻害する委員会の()()()()への、反逆を」

 

 




……如何でしたか?今回、ちょっと場面の切り替わりが凄いのとギャグ回としながらもギャグに極振りできなかったのとギャグ→シリアスへの変調が下手糞すぎるのが反省点かも知れません。こういう展開が丁寧に出来る人には、マジで頭あがりませんね。

そして、シナリオの都合上大してりなミア出来んかった。すまん。


さて次回、遂にシティーハンター冴羽獠が登場です。お楽しみに。


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3-3「勝利の法則XYZ」

はい、どうも。ちょっと間が空いての最新話投稿で御座います。

いや、うん。今回はちょっと個人的に視聴してる「転スラ」のアニメに出てくるゲスい転生者が無様にやられる様を見るまで執筆に集中できなくなるという病に侵されていました、申し訳ない。

そして、まぁ。此処まで来るともう設定解説するべきことが無くなってくるわけでして。今回は特にありませぬ。次章ではまた色々解説点出てくると思うんですが。

それでは、ごゆるりとお楽しみくださいませ。

(※SSコーナーも今回はお休みです。ご了承ください。)


Side:希

 

 

「ほな、ウチも待たせてる人がおるし、そろそろ向こうに戻るね」

 

「はい、希さん!えっと・・・・・・この前の言伝の件、ありがとうございました!」

 

音楽科研修の地。そこの大きなビル群が立ち並ぶ摩天楼の一角の屋上で、《ムーンカテドラル》所有のヘリコプターに乗り、高咲侑に一時の別れを告げる東條希と東條希に前にしてもらった事への感謝を伝えながら別れを惜しむ高咲侑の姿があった。

 

「ふふっ、別にええんよ?ウチがしたいからやっただけやし」

 

「それでもです!私も同好会の皆も希さん達に助けられたのは事実なのでー!」

 

「相変わらず、しっかりしとるなぁ。ホント、誰かさんにそっくりやね、そういうところ」

 

そんな発言をしたウチの記憶の片隅に、チラリと長い金髪をポニーテールで纏めたとある女性の姿が過ぎる。あ、でも、行動力からしたら何方かと言えば穂乃果ちゃんかな。

 

「それじゃあ、さっき確認したことやけどー」

 

「もし、向こうが気になるんやったら、引率で来てるお爺ちゃん先生に話を通して、許可貰ってな。そしたら此処から少し行ったところに紫と緑と赤色のライブハウスがあるから」

 

「そこを訪ねてみてくれる?中に多分マリーっていう名前のオーナーがいるはずだから、その人にさっき渡したメモ用紙見せれば何とかしてくれるはずやからねー」

 

「はい、分かりましたー!」

 

再確認の為、ウチがそう言うと何時ものように元気な返答をくれる彼女。うん、この調子なら安心やね。

 

「あ、そうでしたー!ついでにこれも皆にお願いできますか?」

 

ウチが出発しようとしたその時、侑ちゃんから渡された紙の束。・・・・・・ふぅん、これは楽譜やね。

 

「私が研修中に思いついた曲でーす!皆には事前に話してあるので、よろしくお願いしまーす!」

 

へぇ、曲もいい感じに出来てるし、メンバーの皆には事前に話しといたんやな。じゃあ、話は早いね。早速渡して、ライブ見せてもらわんと。歌詞の横に書かれてる名前の子もきっとこれが来るの待っとるやろうし。

 

「勿論、オッケーよ。それじゃあ、侑ちゃん、今度は東京で会おうなー!」

 

「はい、待っててください!必ず行きますからー!」

 

その会話を合図に、ウチを乗せたヘリコプターが屋上のヘリポートから飛び立ち、大空を舞う。地上で侑ちゃんが此方に向かって手を振り続けてくれて、ウチもそれに答えるかのように窓辺から手を振り返す。ふふっ、《ムーンカテドラル》の本格始動やね。

 

「そんじゃ、後は任せたで。ライブハウスのマリーちゃん」

 

今回の事件に巻き込まれた虹ヶ咲スクールアイドル同好会の皆にとって重要人物である侑ちゃんはきっと敵側にとっても同じ事だろう。だから、ウチが去った後は彼女に任せるしかない。

 

――大丈夫。彼女なら、彼女達ならきっと、侑ちゃんを約束の地へと導いてくれるはずだから。

 

 

Side END...

 

 

『――という訳やから。よろしくなぁ、栞子ちゃん』

 

「えぇ、はい。分かりました」

 

此処は、虹ヶ咲学園屋上。屋上入り口前の扉の近くの壁に寄りかかるようにして誰かと電話をしている人物が一人。生徒会副会長にして、スクールアイドル同好会所属部員の三船栞子である。

 

『おおっ、話しが早くて助かるわぁ。侑ちゃんから聞いた通り、いい子やね』

 

「そうでしょうか・・・・・・?」

 

『謙遜しなくてもええんやよ、こうして話してるだけでも大体そう言うのって感じ取れちゃうんやから』

 

「え、ええっと、ありがとう、ございます?」

 

『良きに計らえ、皆の衆。それじゃ、そっちに着いたらまた連絡するね』

 

電話の向こうの主はそう言うと通話を切り、携帯の画面が待ち受け画面へと切り替わる。それを確認した後、携帯をスリープモードにしてポケットへしまう。そして彼女は自分を囲むように前で待機していた二人の人物の顔を見つめる。同じく同好会所属の宮下愛と朝香果林であった。

 

「今後の作戦は今聞いた通りです。お二人共、よろしいでしょうか?」

 

「おー、遂に本格的に動くんだね!いいよいいよ、愛さんにどーんと任せてよ!」

 

「歩夢じゃないけど今まで地道にコツコツやって来たものね。必ず成功させましょう?」

 

彼女達は一体何の話し合いをしているのか。それは、前日の話に遡る。

 

『ええっ、皆さんにもう話したんですか・・・・・・!?』

 

『まぁね。ちょっと早いとは思ったけど、こっちとしても悠長に構える気はないからさ』

 

ミアが同好会に接触してから3日が経った日のその翌日の事。珍しく直接対面する形で、彼女からその旨を聞いた栞子は、素直に驚いた。だが、しかし。元々一枚岩ではないのがこのスクールアイドル部。

 

このスクールアイドル部の部長のランジュ、監視委員会の土井、ランジュの母でもある虹ヶ咲学園の理事長。彼女達トップが何れも三者三葉の思惑を持ってそこに君臨している。故に、その見事なまでのプチ内部分裂具合が幸か不幸か彼女達の作戦行動をより円滑に進めさせる為の一因となっていたのである。そして、その波にミアも乗ったというのも、また必然とも言える事であったのだ。

 

『代わりに、そっちにお願いするのはたった一つだけ。委員会の真の目的を調べてほしい』

 

『それは構いませんが・・・・・・ランジュや理事長に関しては調べずとも良いのですか、ミアさん?』

 

『ランジュ含む鐘家の人間については別に後からでも問題はない・・・・・・と思う』

 

『現状としては、その二人を使って委員会が何をしようとしているかが知りたいだけだしね』

 

それに《ムーンカテドラル》とかいう組織と繋がりを持っておくのは、今後の展開次第で最も重要なファクターの一つになってくるはずだから、と言う事だった。

 

『ああ、それと。ボクの作曲に使ってる部屋の中にダンボールが4つあるから、間違えないようにスクールアイドル部の全員に渡して』

 

『一番上をランジュに、2番目を宮下愛に、3番目を朝香果林にあげておいてくれ。最後の箱は、三船栞子・・・・・・キミ用だ』

 

『ランジュにも渡すのですか?』

 

『差し入れ用って見せかける為にね。因みに、ランジュの箱の中身は高級肉の詰め合わせだ』

 

「それは何と、用意周到な」と栞子は思う。土井によって洗脳されている状態であっても、ランジュの肉好きは全く以て変わらないというのは、部に来てからのここ数日間で理解できた。ならば、それを利用して上手く自分達の作戦遂行に必要な装備類を、怪しまれずに各々の手元へ届けられると言う事か。

 

『それじゃ、ボクは引き続き璃奈達と一緒にいるから。そっちはよろしく頼むよ』

 

栞子の返答を待たぬまま、ミアはそれだけ言い残してその場から立ち去ろうと踵を返す、が。

 

『ああ、sorry。もう一つだけ』

 

『明日、キミの携帯にある人物から電話がかかってくるはずだ』

 

『放課後にかかってくるから必ず出るようにして。勿論、愛と果林も連れた上で、ね』

 

「ミアさんにそう言われて応じてみましたが、まさか相手があの《μ’s》の希さんだったなんて」

 

「んん?アタシは《μ’s》って良く知らないんだけど、しおってぃーは分かるの?」

 

「はい・・・・・・と言っても、私も知ったのはつい最近の事ですが」

 

「へぇ~、もしかしてせっつーから聞いた、とか?せっつーは詳しそうだもんね~」

 

「いえ、あの、実はですね」

 

そう言えば、愛と果林が部に連行される前はまだ《ムーンカテドラル》との接触がなかった時だ、二人が知らないのも無理はない。そう思って、栞子は同好会が今まで辿った経緯を、掻い摘んで愛と果林へ説明する。

それを聞いた二人は、最初こそ驚いたような顔をしていたが、同好会のメンバーが今は大きな存在で守られている事を知ると安堵の息を吐いた。

 

「そっかぁ、皆無事なんだね・・・・・・!」

 

「電話でなら話せたけど、直接会うのは監視の目があって難しかったから。そういうことなら安心ね」

 

「はい、穂乃果さんも長谷部さんも頼りになるお方ですよ」

 

SNSやメッセージで会話は出来るものの、自分の目で直接的に確かめに行けない現状に、心の何処かでもどかしさや寂しさを覚えていた愛と果林。それ故に、自分達がいない間も常に同好会の講堂を密かに見ていた栞子には、感謝の念が絶えなかったのである。

 

「それに、私がこうして皆さんの情報を得ることが出来たのは、偏に菜々さんのお陰でもあります」

 

栞子が同好会へ出向く前、優木せつ菜・・・・・・いや、虹ヶ咲生徒会の生徒会長・中川菜々が他の生徒会役員を収集し、生徒会活動広報と言う形で部にいる副会長の栞子に情報を流すようにしていたのだ。

 

自身に歯向かう・・・・・・要するにスクールアイドル同好会を擁護する声を上げていた他の部活動の面々の動きを抑え、一時的に無理矢理活動を停止させている理事長や委員会でさえ、それなりの権威と責任で動いている生徒会をどうこうする手段を持ち合わせていなかった。後々、何らかの対策措置を練ってくるだろうが、何をしても無意味だろう。

 

何故なら、今の生徒会は中心人物である中川菜々を止めなければ、決して止められないのだから。

 

「ですので、私も生徒会副会長として、今度こそ使命を果たします」

 

「お二人にはそのサポートをお願いしたいのです。よろしいですか?」

 

栞子の問いを受けて、愛と果林は静かに微笑んで。それに答えた。

 

「うんうん、他ならぬしおってぃーからの直々の頼みだしね!」

 

「ええ。それに、今の同好会の活動環境がさっき聞いた通りなら、私達もうかうかしてられないわね」

 

「そうそう!もしかしたらせっつーなんてそのお陰で前よりパワーアップしてるかもだし!」

 

「そうね。せつ菜にこのまま追いつけなくなるのは悔しいから、早く戻りたいところね」

 

部の活動方針であるあらゆる道のプロによる徹底的な指導。それらを体験した彼女達も一応の成長は感じられてはいた。だが、それが今までプロに頼らず自分自身の何かを高めてきた彼女達にとっては参考にはなっても相容れぬモノ、逆に今までのパフォーマンスを崩しかねないモノであるとの結論に至ったのである。そして、嘗ての自分のパフォーマンスが出来なくなると言う事は即ち。

 

――”我流”を通し続け、自分達よりも経歴が長い優木せつ菜。彼女に一生負け続ける事になるであろう選択への肯定でもあった。

 

「それで?前に栞子ちゃんが持ってきた箱の中身についてだけど。何が入ってたのかしら」

 

「因みに私は、委員会が使ってるライオット弾の入った銃と防弾チョッキだったわ」

 

「アタシは何か良く分からないけど、卵型の何かとめっちゃ小さいビリビリする奴だった」

 

「私は、レシーバーと盗聴器のようなものでした。それと、別途で何故かパイプイスが・・・・・・」

 

3人が其々に届いた装備品を見せ合う。比較的分かりやすい果林と栞子のモノに比べて、愛の受け取ったものは最新版にアップデートされたゲオルギウス・プロトコル以外、良く分からないモノだらけだった。

 

「見た事ないわね、どうやって使うのかしら?」

 

「それを投げると効果が出るって中の解説書に書いてあったよ」

 

「一回、試してみましょうか。幸い、数はそれなりにあるようですから」

 

こうして作戦決行前の3人による、謎の装備品の効果測定が開始された。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「――と、言う訳で。私達の作戦名はズバリ・・・・・・『雌雄決す、ゲリラライブ作戦』ですッ!!」

 

「おぉ~、ものの見事にそのまんまだぁ」

 

その頃、音ノ木坂学院会議室にて。せつ菜が企画した作戦名が提示され、彼方がまんま過ぎるその作戦名に突っ込みを入れていた。だが、そんな事はお構いなしと言わんばかりにせつ菜は続けて作戦概要を熱く語る。

 

「私達が同好会の部室と活動場所を失って2週間が経ちました。今でこそ、長谷部さん達のお陰で此処音ノ木坂とムーンカテドラル基地を併用で借りている状況にあります」

 

「ですが、あくまでお借りしている為、長期間の活動を甘んじていてはいられません。だからこそ、私は皆さんとの相談の元、早急な同好会の部室奪還を条件にスクールアイドル部のランジュさんへライブによる決闘を申し込みました」

 

それはつい先日の事。校内及びお台場の至る場所に貼り出された、スクールアイドル部による緊急ライブ開催のお知らせ。それを見た同好会メンバー達は、この会場を利用してランジュとのライブバトルをしてあわよくば勝利し、一気に攻勢を逆転させようと考えたのである。この作戦がまさにその決断の解答として該当するもので、ここ2週間で鍛えられた同好会の力を発揮する最大の見せ場でもあった。

 

「ランジュさんからは許可を貰いました。しかし、当日に委員会が此方側に何か妨害をしてくる可能性があると、先程栞子さん達から連絡を受けています」

 

「えぇー、ショウランジュには許可とってるのに何でかすみん達を妨害してくるんですかー」

 

せつ菜のその説明にかすみが不貞腐れた顔で文句を垂れる。しかし、かすみのその反応は当然と言えば当然の反応である。現に他のメンバー達もあまりいい顔はしていないようだった。

 

「それについてはミアさんがお話しした通り、相手側の各代表が掲げる最終目的の違い、であるのではないかと」

 

「敵組織側の意見の二分による対立・・・・・・アニメで見たことある」

 

「王道的展開ですよね!・・・・・・っと、コホン。すみません、脱線しました」

 

璃奈の例えに興奮気味に食いついたせつ菜だったが、直ぐに持ち直し説明を続ける。

 

「なので、私達がランジュさんとライブ対決をしている間、長谷部さん達とNLNSの皆さんにはその護衛に当たって貰いたいのです」

 

「勿論、栞子さん側も其方の援護をしてくれるそうです。・・・・・・よろしいですか?」

 

せつ菜が該当する人物達に視線を向け、問う。すると、彼等全員が頷いて其々の答えを返した。

 

「ま、それがオレ等の本来の仕事な訳だしな。当然、引き受けさせてもらうぜ」

 

「長谷部さん達が一緒なら心強い事この上ないな・・・・・・よし、俺達も行くぞ!」

 

「はいはい、淳のフォローは私達にしかできないしね。皆、頑張りましょ」

 

「はい!今こそ私達NLNSの力の見せどころですねっ!やる気、元気、美岬ッ!」

 

「パイプイスよーし、これで皆の役に立てるはずなんだな!おねーさん、頑張るんだな!」

 

「以前のような不覚は取りませぬ。我が瞳、我が豊玉のご加護は皆様の為に」

 

「漸くあの中華娘に一発お見舞いできるわけだね、やってやろうじゃん」

 

――総勢力25名による、委員会勢力への反撃が今、始まる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「フフフ、如何やら逃げずに来たようね。優木せつ菜」

 

「自分で申し込みましたので。当然ですよ、ランジュさん」

 

作戦開始の時刻となり、スクールアイドル部の主催するライブイベント会場にて優木せつ菜と鐘嵐珠の両者が睨み合い、バチバチと火花を散らす。会場内は既に沢山の観客で溢れており、その熱狂っぷりは少し離れた場所にいた彼等にも十分伝わる程の規模であった。

 

「わっ、凄い盛り上がり!噂には聞いてたけど、何だか凄い事になってるのねぇ」

 

「うーむ、穂乃果ちゃん達の時はまさかとは思ったが。此処まで人気になるとはなぁ・・・・・・」

 

「ふふっ、それ程ウチらに興味を持ってくれた人がおるって事やろ?嬉しい限りやん」

 

東條希、冴羽獠、槇村香。東京テレポート駅で待ち合わせをした3人は、ランジュがライブの開催場所とした海浜公園の敷地内にいた。此処へ来る前に連絡を取り合った栞子達との合流を目的にしながら、委員会の監視の目を潜り抜けて近くまで迫ってきていたのだ。

 

「しかし、希くんが待ち合わせした相手は一体何処にいるんだ?全く見当たらないが」

 

「3人共美人さんだから、獠ちゃんならすぐにでも見つけられるんやない?」

 

「何だって、本当かい!?」

 

そんな希の言葉に獠が色めき立つ。一方で香は自分のバッグの中に入っている(どんな原理かは不明だが)いつもの100tハンマーの柄を静かに握りしめた。

 

「ま、当然彼女達はまだ高校生やけどね」

 

「いやいや、希くん。今ドキの高校生を舐めたらいかんぞ」

 

「キミ達の時も相当だったが、2020年にもなって世の女性達のメイク技術は更に大きく進化を遂げた。今や小学生の女の子ですらメイクをすると言うじゃないか」

 

「昔こそメイクがまだ不慣れでそれ故に異性としては見れなんだが、今はメイク慣れしている子が多くてこの俺でも時々ナンパしたくなるくらいに魅力的・・・・・・何とも恐ろしい時代になった」

 

それでも一応、大人な紳士である俺としては妄りに交流は避けているのだが・・・・・・と付け足して最近の女子高生達について熱弁を振るう獠。幾ら「新宿の種馬」と呼ばれる程、美しい女性に目がない獠であっても自分が立てたポリシーをきっちりと守る辺り、大人の男としての自覚はあるようだった。すぐに暴走を始めなかった彼の様子を見て、香はハンマーの柄から手を放し、体勢を元に戻す。

 

「へぇ、流石獠ちゃんやね。って・・・・・・おっ?もしかしてあそこにいる子らかな」

 

希が視線の先に朝香果林と宮下愛らしき人物を捉えた瞬間、ライブ会場の方からランジュの歌う「Queen Dom」の前奏が流れ始める。如何やら、向こう側ではライブ対決が始まった様だ。

 

「もう見つけたのか・・・・・・いや、しかし。もしかして、あれは既に」

 

「委員会の人らと交戦中みたいやね。さ、ウチらも急ごっか」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ライブの邪魔はさせないわ、これでも・・・・・・喰らいなさいッ!!」

 

「目標位置想定、第一射用意。3、2、1・・・・・・命中確認。次弾装填、発射用意。3、2、1・・・・・・」

 

「バ、馬鹿なッ!?向こうもライオット銃を・・・・・・ぐはっ!?」

 

「長距離狙撃だと!?そんなもの、我々のデータに・・・・・・かはっ!?」

 

「やってみるしかないよね、りなりー!」

 

『うん、分かった。新機能の奴早速試すね、愛さん』

 

 

――顔認証、完了。生体データベース、登録条件4に該当・・・・・・一致。プログラム、起動します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

Georgius Protocol Online...

 

 

「りなりー、認証完了したよ!」

 

『うん、こっちでも確認した。それじゃあ新機能、行くよ』

 

『――”ゲオルギウス・プロトコル”、再起動』

 

『”AIRINA DOKIPIPO EMOTIONAL”、起動・・・・・・!』

 

 

GEORGIUS PROTOCOL

SYSTEM

 

―――――――――――――――AiRina-D-ETL―――――――――――――――

 

AIRINA DOKIPIPO EMOTIONAL

 

 

説明しよう、”AIRINA DOKIPIPO EMOTIONAL”とは!

 

部への強制連行にって離れ離れとなった璃奈と愛のコンビ愛を繋ぎ止める為に用意された、ゲオルギウス・プロトコルの新しい機能の一つ。このシステムに搭載された多階層空間掌握機能と委員会に所属するメンバー全員の情報に不正アクセスし抜き取った個人的な身体情報を掛け合わせ、その個人個人への攻撃の際に結子のように特別鍛錬を積んで居なくとも、相手の急所を立ちどころに見破る優れモノなのだ!当然、愛の使っているモノにしかインストールされていないぞ!!

 

「いよぉぉぉぉぉしっ、りなりーと愛さんのコンビっぷり、とくと味わえぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

「何、これは・・・・・・煙幕!?」

 

「お次はこれだぁぁぁぁっ!!」

 

「何だこの小さい球のようなモノは・・・・・・ぐわぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

続いて取り出すは『小型ローター型ショックガン』。狙った対象を一撃で気絶させるほどの超高圧電流が流れていて、投げて使えば遠隔操作で確実に相手を仕留めることの出来る優れモノ!ただし使用後は投げた位置まで取りにいかねばならないという不便さもあるが、そこはご愛敬だ!!

 

『よし、果林さんと文乃と愛さんとりなりなが敵を引き付けてくれてるよ。兄、今のうちに!』

 

「あぁ、分かったぜ、アサちゃん!」

 

「――・・・・・・”アリアドネー・プロトコル”、起動!!」

 

Loading...Ariadne protocol Online

 

委員会側の一瞬の隙を縫って、淳之介がゲオルギウス・プロトコルの元となった決戦兵器、アリアドネー・プロトコルを起動させ、草むらの陰から飛び出し、相手を奇襲する。そして、その手に持っていたのは。

 

――何の変哲もない。しかして、銀色にコーティングされた一本のバイブであった。

 

『処女躯不明器、多数接近中。兄、このままだと囲まれちゃう・・・・・・!』

 

「それを切り抜けるの為の切り札を、今使ってるんだろうがよ!」

 

淳之介が手にしたその武器こそ。通称”穿(つらぬ)き丸”。ただのバイブと侮ることなかれ、この武器こそ彼の象徴。此処にいる彼ではない彼が、嘗てドスケベと言う名の同調圧力が支配するディストピアとなった島に反旗を翻した時に使用した、純然たる武器。

 

表面は、一度衝撃を受ければ分子同士が結合し、鋼と化す『d10o』で塗り固められている。故にそれはバイブであれどバイブに非ず。彼の不屈の心を現す、鋼の剣。更に。

 

「”穿き丸”と来れば、当然コイツもセットだ。そうだろ、”菊紋一字”!!」

 

懐から取り出すは、再び硬化素材『d10o』で固められたアナルバイブ、通称”菊紋一字”。”穿き丸”と対を成す、またまた彼を象徴する第2の武器。そしてこの2本が揃う事で。

 

「行くぜ、この前の結子さんの奥義を見て思いついた、俺の奥義!!」

 

「奈々瀬、援護頼む!」

 

「分かったわ。しっかりやりなさい、淳・・・・・・!」

 

奈々瀬の投げた閃光弾による援護を受けて、淳之介の隠し持っていた奥義が、今まさに繰り出されようとしていた。

 

――全膣中

 

ハメドリの呼吸、ドスケベの型・・・・・・ッ!

 

「孕めオラァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

前方に突き出した”穿き丸”と”菊紋一字”を手に一直線に敵の集団の中へ突っ込む淳之介。物凄い勢いをつけて突っ込んでくるその一撃を前に敵は成す術もなく蹴散らされていく。

 

「しまった、いつの間に背後に・・・・・・んほぉぉぉぉぉ!?」

 

「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」

 

「一気に何十人も蹴散らされただと!?くっ、救援だ、救援を・・・・・・ぐはぁ!?」

 

敵が動揺して体勢を崩したのをいいことに、淳之介が、果林が、愛が、文乃が、奈々瀬が。敵陣に飛び込み、次々と男達を薙ぎ倒していく。

 

「ククク、隙を見せたな!そこだッ!」

 

「わわっ、ちぇいさー!」

 

「何ッ、弾がパイプイスに跳ね返され・・・・・・ごほっ!?」

 

「さぁさぁ、悪い子はおねーさんが懲らしめてあげるよッ!」

 

淳之介らが取り逃がした敵のライオット弾をヒナミが手にしたパイプイスで跳ね返しながら、その敵を殴って一発KOする。これこそがNLNS本来の戦い方。正面衝突で勝てる程、彼等は戦闘面で経験がある訳ではない。なればこそ、敵の隙を突き、その度に奇襲を仕掛け反撃の機会を与えなくすることが彼等の強みだった。

 

これならいける、この調子ならば前みたいに惨敗する要因は何処にもない。そこにいる彼等が先に見据えた勝利と言う名の一筋の光明。だが、それは。

 

「おっと、おいたはそこまでにして頂けますかな、皆々様方」

 

「「・・・・・・ッ!?皆、下がって・・・・・・!」」

 

初老を迎えた男の声が響き、果林と奈々瀬の迅速な判断により、全員が敵陣から飛び退くと、敵陣の中心部に一つの影が現れた。果林と愛の誘拐事件の際に辛酸を舐めさせられた相手・・・・・・委員会の刺客、セバスであった。

 

「成程、今回は想定よりもお早い判断ですな。流石で御座います」

 

「ですが、今回もまた私が来ました。最早、貴女方に勝ち目はありませぬぞ」

 

その男を見据えて、その場にいる全員が息を飲む。他の戦闘員は大したことはないが、この男だけは殺す気でやらなければやられる。それを分かってはいても、殺しの戦場に慣れていない彼等にはそれを実行する事は至難の業。例えその行いが正義だったとしても、人殺しの罪は一生ついて回る。

 

それだけは避けなければならない。だが、一体どうやって。

 

「何方も己が手を血で染める覚悟がないと。では、私めがキミ達を楽にして差し上げましょう」

 

「安心なされよ、後でお仲間も同じ場所に送ります故・・・・・・」

 

そう言って、セバスは彼等の元へ一歩ずつ迫り来る。セバスの放つプレッシャーに動けなくなってしまった彼女達にセバスと共ににじり寄る委員会の者達。まさに絶体絶命。しかし、その時。

 

「――へぇ、そうかい。じゃあ、送れるもんなら送ってみな」

 

「何ッ・・・・・・!?」

 

「俺等に喧嘩売っておいて逃げられるんなら、な」

 

「行くぞテメェら・・・・・・《ムーンカテドラル》、総員突撃ィィィィィィ!!」

 

迫りくる委員会の者達の前に長谷部祐介を始めとした《ムーンカテドラル》の面々が姿を現した。過去から続く委員会との決着を付ける為に。お台場の地を、これ以上侵略させない為に。

 

(ある日 空から 天照が言った 一体なんだ)

 

(ヒトノ知恵ニ限界ナドナイノダ へぇそうなんだ)

 

「覚悟してください、貴方達はもう包囲されていますよ・・・・・・!」

 

「そっちが本気なら、こっちも手加減できへんよ。精々、覚悟しておくんやね」

 

(闘いに明け暮れて 疲れ切った奴の為に)

 

(花束を捧げよう んで ずっとずっと楽しむさ)

 

「虹ヶ咲の皆、大丈夫!?」

 

「任せて、私達が来たからにはもう安心だから・・・・・・!」

 

(道楽心情 制御不能 自分に喝采 イェイェイェ)

 

(既成の概念放りなせえ 自由な行動 オオオ)

 

「そんな馬鹿な・・・・・・!?《ムーンカテドラル》、何故此処に!?」

 

「くっ、応援部隊はまだか・・・・・・ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

(大人しくしてなんていられませんぜ)

 

(粋な 粋な バカ騒ぎ)

 

高坂穂乃果、南ことり、園田海未、東條希。元μ’sのメンバー4人がこの場に集結し、瞬く間に敵を切り倒す。ライオット銃、納刀状態の刀、見たこともない大剣の柄、タロットカード。それらが次々と集まる委員会の無法者達を葬っていく。

 

「《ムーンカテドラル》・・・・・・おのれ、まさかここまで追ってくるとは」

 

「仕方がない、今すぐ土井様に連絡を・・・・・・!」

 

「成程、成程。懐かしい名前を聞いたな、アンタは土井を知ってるのか?」

 

想定外の事態に、セバスは委員会の代表である土井へ連絡を試みようとする。だが、その行く手は一人のガタイのいい男によって塞がれてしまった。

 

「ちょうどいい、案内してくれないか。昔の件で落とし前をつけに来たわけなんだが」

 

「なッ・・・・・・き、貴様は!?」

 

「断るってなら断ってくれてもいいんだぜ?」

 

「最も、その瞬間に俺がアンタを撃たない保証はないけどな」

 

日の暮れた海浜公園の闇夜の中、彼がセバスへ向けた銃口がライトの光に照らされてキラリと光る。『COLT PYTHON 357 MAGNUM』、彼用にカスタマイズされた、悪を仕留め、熱く震えるワンホールショット。

その名を聞いて、戦慄しない人間など何処にもいない。『都会のスイーパー』、『新宿の種馬』等、名誉と不名誉を同時に持つ男。そう彼こそ、シティーハンター冴羽獠その人である。

 

「獠!」

 

「香・・・・・・お前は虹ヶ咲の子達とNLNSの皆を連れて彼女と合流してくれ」

 

「俺とムーンカテドラルの皆も後で行く。それまで、頼んだぞ」

 

獠の身を心配した相棒の香が背後から声を掛ける。獠はセバスを見据えたまま、香に別の任務を与えた。間もなく、此処は鮮血の飛び散る悍ましい戦場へと姿を変える。その前に最愛の人と一般人である虹ヶ咲の生徒達にはその現場から早急に立ち去って貰わなければならない。

 

「ほぅ、彼女達を逃がすおつもりですか。幾らシティハンターの冴羽獠と言えど、複数の対象を守りながら我々の猛攻を果たして防げますかなぁ?」

 

「厳しいな。だが、だからこそ、彼等《ムーンカテドラル》には俺とこの場に留まってもらう」

 

自分と同じく委員会の者達の行方に立ち塞がる《ムーンカテドラル》の面々の顔を交互に見て、彼等と無言で頷きあう獠。数年前にひょんなことから交流する事になり、以後は組織間での繋がりを得た彼等に最早言葉と言うコミュニケーションツールは要らず。最低限の身振り手振りのみで互いの思いを確認できる程に深い関係が出来上がっていた。

 

「淳之介、行けそうか・・・・・・?」

 

祐介が背中越しに淳之介に話しかける。すると、淳之介はポケットから無線機を取り出し、その場にいないメンバーの名を声高に叫んだ。

 

「えぇ、そろそろ準備は出来たはずです。・・・・・・行けるな、美岬ィ!」

 

「――合点承知です、淳之介くん!!」

 

明らかに道路交通法違反で逮捕されそうな場所から、キキキキキキキキと甲高い音を立てながら公園内に一台のトラックが文字通り飛びこんできた。派手なライトに荷台コンテナにはその運転している主の顔と名前がデカデカと書かれて、運転席のある車体の上にはスピーカーが設置され、そこから大音量で何処かで聞いたことのある独特な音楽が流れてくる。

 

都会の街を我が物顔で闊歩し、誰しもが必ず一度は見たことがある、あの有名な――

 

「あれは何だ、運送屋のトラックか!?」

 

「いや、巷で噂の暴走機関車か!?」

 

「『マジキチヴァニラ号』じゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

本家よりもさらに頭がおかしくなった某・高収入を謳う車が、目の前に現れた。

 

 

Side:ランジュ

 

 

『走り出した! 思いは強くするよ 悩んだら君の手を握ろう』

 

――アタシはプロの指導を受けて来た。何故って?その方がより自分が目指しているスクールアイドルの頂点への道が近くなるから。けれど、これは何なの・・・・・・!?

 

『なりたい自分を我慢しないでいいよ 夢はいつか ほら輝き出すんだ!』

 

アタシのターンが終わり、次は同好会に所属するスクールアイドルである優木せつ菜の出番。彼女の披露した前のライブ・・・・・・あのスクールアイドルフェスティバルでは確かに彼女の歌と踊りは全く以て素人のそれにしか見えなかった。なのに、今見ている光景は、それを遥かに凌駕していて。

 

Wou...Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh ahhhhhhhhhh!!(弾み出した! 思いは嘘じゃないよ)』

 

Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!(涙から生まれる希望も)』

 

「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」」

 

優木せつ菜の全力のシャウトに、その場にいる観客全員のボルテージが最高潮になる。アタシの身体にもビリビリと響く『ソレ』は、このアタシが「Queen Dom」とミアに作ってもらった新曲を以てしても出来なかった、完全なる会場の掌握をあの優木せつ菜はやり遂げたのだ。

――しかも、新曲でもなんでもない。彼女が彼女たる所以、その最初の曲で。

 

『目には見えない力で繋がる 夢はいつか ほら輝き出すんだ!』

 

――何で。何で何で何で何で何で何で何で何で何で!?

 

観客にとって、スクールアイドルに求められているのは使い古された曲じゃなくて、ただ只管に斬新な楽曲とプロに近い実力を持ち合わせたこのアタシじゃないの!?

 

「・・・・・・皆さん、声援ありがとうございました!!」

 

「「「「いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」」」」

 

「「「「「せつ菜ちゃーーーーーーーーーーん!!」」」」」

 

アタシの心の中が色々な感情でぐちゃぐちゃになっている間に、優木せつ菜は曲間のMCを挟んで再び会場を盛り上げていた。

 

「――次に私が歌う曲は、学園外の皆さんには初公開になる、私の新しい曲です」

 

新曲。彼女のその言葉を耳にして、やはり彼女もアタシと同じ考えをしていると思った。しかし、彼女の次に続く言葉は全く予想外のモノだった。

 

「皆さんにはありますか。自分の”大好き”が自分の身近な人に受け入れてもらえなかった時が」

 

「私はあります。でも、それを私の”大好き”な仲間達のお陰で、今は受け入れてもらえています」

 

彼女が語ったのは、自分自身の体験談。意味が分からない。そんな個人的なもの、ファンは一切求めないというのに。何故、態々私情を挟む理由があるというのか。

 

「もし、会場の皆さんの中で同じように今悩んでいる方がいるなら」

 

「私のこの曲で、そんな皆さんの背中を少しでも押してあげられれば・・・・・・そう思います」

 

だが、アタシの思考と反して、会場内の観客達はそれに聞き入っている様だった。馬鹿な、たかがMCにそれ程までに観客の心を鷲掴む要素が何処にある。スクールアイドルは、ただ曲のみで会場を支配する者ではないのか、圧倒させるだけのパフォーマンスをすればいいだけではないのか。

 

「それでは、聞いてください。優木せつ菜で『MELODY』」

 

スピーカーから曲の前奏が流れ始め、会場が再び熱気に包まれる。

 

『好きなこと 私だってここに見つけたんだ』

 

『力いっぱい頑張れるよ 本当の自分だから』

 

先程のMCがそんなに良かったのだろうか。前に歌っていた「CHASE!」の時よりも観客達のボルテージの上がり方が異常な位に早い。会場全体が彼女・・・・・・優木せつ菜の領域へと一瞬で変わり、アタシの不安定な心でさえもがっちりと掴んでのけたのだ。

 

『なんで私のことわかってくれないんだろう 言葉にして初めて分かり合える』

 

『抱きしめてた想いが ここにずっとあったんだ 空に弾けてった』

 

『まっすぐ伝えることも もう怖くないよ これからはなんでも話せる気がして』

 

『光が差し込んだ これから先もずっと ステージを照らすように』

 

『強く願い込めた歌を あの空まで ほら届け!』

 

曲調も相まってそこまでブチ上がれる曲ではない。けれど、彼女の本音が歌の細部に深く刻み込まれている気がして。そして、いつの間にかアタシもその歌に聞き入っていて。アタシの心の奥底にあった、ヒビ割れて今にも壊れそうだった『大切なモノ』が少しだけ修復されていくような、そんな不思議な感覚に包まれた。

 

「ホントは・・・・・・もう、分かってるはずなのに・・・・・・怖いの・・・・・・受け入れるのが怖い」

 

「お願い・・・・・・アタシを助けて、シオ・・・・・・!」

 

膨大な感情の波によって意識が途切れる前。零れ落ちたのは、アタシの素直な気持ちだった。

 

 

Side END...

 

 

『バキューン!』

 

「そ、そんな馬鹿な・・・・・・この私が指揮する部下達が、全滅ですと・・・・・・!?」

 

「あぁ、その通り。彼等はもう、生半可な覚悟で倒せるような人材ではないってことだ」

 

場所は再び会場近くの一角。大勢いた委員会の人間達は祐介達ムーンカテドラルの所属員と冴羽獠によって殆どが闇に葬られ、地面に倒れ伏して動かぬ骸と化していた。

 

何故それ程までに激しい戦闘だったのに会場内に何も聞こえないどころか被害がないのか。それは、希が戦闘が始まる前に展開した結界によって、そのエリア一帯の防音は勿論のこと、万が一会場内に流れ弾が行くのを防ぐ、緊急防壁が出来上がっていた為であった。

 

「彼女の結界のお陰で、アンタと俺が本気でやり合っても会場に被害が及ぶ憂いもないしな」

 

「さ、チェックメイトだ、セバスさんとやら」

 

「この俺を敵に回しちまった事を、精々あの世で後悔するんだな」

 

「くッ・・・・・・おのれ、おのれ、冴羽ァァァァァァァァ!!」

 

血気に走ったセバスが我を忘れて獠へと肉薄する。だが、彼がその行動を取った時点でもう既に決着はついたようなものであった。

 

「フ、如何やら向こうの彼女も無事にやり遂げたようだ」

 

「ッ・・・・・・!?ま、まさかランジュ様があの出来損ないに負けた・・・・・・!?」

 

獠の言葉にセバスの動きが一瞬だけ止まった。獠はその隙を見逃さず、銃のトリガーに手を掛ける。そして、そのまま背後に回り込み、引き金を引く。

 

「ば、馬鹿な・・・・・・こ、の、私がッ・・・・・・!?」

 

獠の構えた銃口から発射された弾は、見事に彼の心臓を貫き、セバスは地面に崩れ落ちた。

 

「先に地獄で待っていろ、すぐに貴様の上司もそこへ送ってやる」

 

手にした銃をくるくると回し、コートの下のホルダーに収め、シティーハンター冴羽獠はクールに微笑み、早急にその場を立ち去る。その間際。

 

「獠ちゃん、あの人の場所は分かっとる?」

 

後方で結界を解除していた希が獠に質問を投げた。すると、彼は。

 

「あぁ」

 

「そっか、じゃあそっちはよろしくね。ウチは皆と一緒に虹ヶ咲の子達の本会場に向かうから」

 

「分かった。それじゃあ、また後で」

 

「・・・・・・それと、香を頼む」

 

「ん、任しとき」

 

虹ヶ咲の生徒達と共に本会場へ向かわせた相棒の身を希に託し、彼は始末屋らしくお台場の闇夜に消えていった。その道中で彼はポツリと呟く。

 

「――本来なら、俺も行くべきなんだろうが。まぁ、彼等がいればきっと大丈夫だろう」

 

「何せ、この時代の主役は俺じゃなくて、彼女達スクールアイドルなんだからな」

 

 

第3章「新宿より愛を込めて」・完

 

 

第4章へ続く......

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 次 章 予 告 

 

ランジュVSせつ菜のライブバトルの結果はせつ菜の勝利に終わり、委員会のセバスは冴羽獠の凶弾によって倒れた。次なる彼女達の目的地は、栞子と結子の待つ本会場。美岬の運転する『マジキチヴァニラ号』の荷台コンテナに乗って、愛と果林含む全員と突如気を失ったランジュを保護し、目的地へ急いでいた。その頃、優秀なセバスを失った委員会は、代表の土井と協力者である虹ヶ咲理事長と共に彼女達のライブ会場で全ての決着をつける為、準備を整えていた。この戦闘に押し負ければ、理事長によって今度はスクールアイドル活動の生命線を絶たれるにも等しい状況を作り出されてしまうかもしれない。彼女達の決して負けられない戦いの第2回戦が始まる。一方、遠く離れた沼津の地では音楽科の研修から帰還した高咲侑が謎の赤い機体に乗り、都心へ向かう姿が・・・・・・。

 

「アニガサキ!-PASTEL COLLARS- 外伝 Episode of ランジュ」次章、

 

第4章「THE REAL SPECE COWBOY」

 

――俺が何者かって?・・・・・・時代遅れの、カウボーイさ。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか。

せつ菜の2曲目である「MELODY」をここで初披露と言う演出にしてみました。
フハハ、やったぞ!せつ菜の大勝利だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

Twitterで発言したGetWild風の止めて引くっぽい感じをラストの方で精一杯再現してみた感じではあります(曲は敢えて載せないので、最後の獠の台詞の辺りで個人的に流してみてね!!)。

"マジキチヴァニラ号"のテーマも脳内再生でお願いします。……知ってるよね?

さてさて、次章はいよいよAqoursの登場、そして我らが高咲侑の帰還回であります!乞うご期待!!


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第4章「THE REAL SPECE COWBOY」
主な登場人物紹介・第4章


いよいよ第4章突入、です!!

4章は1節~2節中盤まで、今までのオリ主視点から少し離れて、成長したAqours一行の力を借りて研修先からお台場へ戻る高咲侑の視点でお届けしようと思っております。

……実は、オリ主+高咲侑のW主人公の構成で進めてたんですよ。お気づきになられましたか(気付けなかったって場合は、多分作者の実力不足故でしょう)?

それでは、早速いって見ましょう!


元・浦ノ星女学院スクールアイドル部《Aqours》メンバー

 

高海 千歌(CV:伊波杏樹)

私立浦の星女学院に所属していたOB。沼津・内浦のスクールアイドル《Aqours》のリーダーとして実家の民宿を切り盛りしながら、活動にも精力的に取り組む。普段の状態では特にこれと言って特別な何かを持っているようには見えないが、暴走状態『一般信者の伊波さん(ヲタクティブ・イナミーナ)』を発現させると、色々と思考がごり押しする方に切り替わり、かなり厄介になる。

 

小原 鞠莉(CV:鈴木愛奈)

私立浦の星女学院に所属していたOB。卒業して3年後に内浦へ戻ってきて、母校である浦女の理事長を務める。その2年後に、父親が経営する「ホテルオハラ」を兼任と言う形で継ぐことにした。任侠道も兼ねている「オハラグループ」の総長でもあり、異世界から迷い込んだスパイク達『SPACE COWBOY』を雇い入れ、裏社会に蔓延る組織の一掃を目指して日々戦い続けている。

 

松浦 果南(CV:諏訪ななか)

私立浦の星女学院に所属していたOB。難しいことを考えるのがかなり苦手な方。内浦にある実家のダイビングショップを切り盛りしながら、同時に副業として『松浦探偵事務所』を構えている。海外渡航の旅路で会得したバリツ真拳や持ち味のフィジカル特化の体質を活かして、有事の際にはあちこちを駆けまわる。球体のモノを手にすれば、あの有名な某小学生探偵のような超強力弾を放つことが出来るぞ。

 

津島 善子(CV:小林愛香)

私立浦の星女学院に所属していたOB。幼い頃から何かと自身に不幸な出来事がよく降りかかることが多いため、それを悪魔の力と呼称する年相応の痛い中二病患者となってしまった経歴を持つ女性。気が利き、頭もよく、高スペックの美女だが尋常ない程の悪運の持ち主。

 

ギルバート・司=ハウリィ(CV:関智一)

私立浦の星女学院に所属していたOB。母国イタリアで超有名な一流企業の御曹司。自称・英雄王ギルガメッシュに所縁のある遠縁の子孫。自身が大富豪の御曹司であるからという理由で決して威張ることはせず、一般的な視野で物事を考えることが出来るVIP界でも稀有な存在。若干痛い部分があり、その点で善子とは物凄く気が合う。「オハラグループ」の鞠莉とは企業的にも個人的にもライバル関係にある。

 

 

監視委員会

 

飴野口

秘密組織『監視委員会』に所属する新人。雑魚モブなのに何故名前がついてるのかは・・・・・・スクスタをやっている人なら分かるな?つまりは、そういう事さ!

 

 

虹ヶ咲学園関係者・他作品コラボキャラ・その他の人物

 

スパイク(CV:山寺宏一)

《COWBOY BEBOP》から参戦。表では『ホテルオハラ』の警備員を担当し、裏では内浦に不時着する前にやっていた賞金首の捕獲や暗殺に携わる。現代科学では再現が難しい赤い機体の戦闘機のような愛機「ソードフィッシュ」に乗って日本中、はたまた世界の国々を転々とする。

 

ジェット(CV:石塚運昇)

《COWBOY BEBOP》から参戦。スパイク達を乗せ、宇宙を転々とする「ビバップ号」の船長。顎髭禿頭の強面。とある事件で左腕が義手になっている。また自身も専用の機体「ハンマーヘッド」を所持している。

 

フェイ(CV:林原めぐみ)

《COWBOY BEBOP》から参戦。スレた性格の自称・いい女。スパイク達と共に過去の地球へ来たことで自分の親に会えるかもしれないと期待したが、そもそも同じ地球でも世界軸が違った為、すこしげんなりしている。この世界で成すべき目的を見つけ、再びスパイク達と行動を共にする。専用機「レッドテイル」を所有している。

 

エドワード(CV:多田葵)

《COWBOY BEBOP》から参戦。本名は不明で、この名前は本人が適当に付けたもの。「ラディカルエドワード」の異名を持つ天才ハッカーで、先にラブライブ世界に転送されたスパイクの位置情報を利用し、ゲートをハックしてフェイ、ジェットと共にこの世界に流れ込む。就業手当として鞠莉に買ってもらった最新式のゴツい高性能PCがお気に入り。

 

アイン

《COWBOY BEBOP》から参戦。データ犬と呼ばれる特殊な犬種だが、本編でそれが活かされるかは不明。各地を転々として忙しいスパイク達の代わりに千歌の実家でしいたけと共に面倒を見られている。

 




以上が4章の登場人物になります。
Aqoursはわちゃわちゃしてる感じがあるので、設定がそれなりにハチャメチャですがご了承ください。

COWBOY BEBOPからはビバップ号全員が参戦。
シティーハンターみたく、何らかの形で復活したりしないかなぁ……

何時もの如く、色々予想してお待ちください。それでは!


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4-1「時代遅れのカウボーイ」

「聖地巡礼は沼津に行け、でなければ帰れ!!」

……どないしろっちゅうねん(笑)
前の章では、本当に描きたかったものがあまり再現出来てなかった為、反省してこの章に活かします。μ’sもあんまりシリアスに書きすぎたかもしれない、寧ろこのくらいのノリで良かったのでは。

という訳で、第4章の始まりの一節です。
前回投稿した登場人物紹介で入れ忘れた人を用語解説と共に↓に掲載します。

さぁさ、今宵はスクスタの生放送!
テーマは恐らく……そう、あの「25章」です。Twitterでも告知しておりますが、生放送待機のお供として、是非。何卒、何卒、よろしくお願い申し上げます。
では、お楽しみください!!

※因みに、冒頭のシーンはこのMAD動画のシーンの演出を一部変えたものです。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm33476458


登場人物・追加参戦キャラ紹介

国木田 花丸(CV:高槻かなこ)
私立浦の星女学院に所属していたOB。一緒に暮らしている祖父と祖母がお寺の住職を務めている事もあり、年齢の割に妙に落ち着いて悟りきっている。当初気にしていた語尾の「ずら」は、今では開き直って普通に使っている(というか昔から沁みついた癖で、もう取れなくなってしまった)。善子とルビィとは幼馴染みで前者は幼稚園時代、後者は小学校からの付き合い。

お爺ちゃん先生(CV:チョー)
虹ヶ咲学園音楽科担当の教師で、音楽科への転入希望者研修の引率も担当している老人。彼の経歴に関してはまだまだ謎が多い。


アニガサキ及びスクスタ設定変更・オリジナル設定解説②

・善子と花丸とルビィ
アニメ版「ラブライブ!サンシャイン!!」では花丸が善子の幼馴染みとなっていて、Gs設定のルビィとの幼馴染み設定が消されたが、本ノベライズではその設定を全て両立。私も初期から追ってるんでね、Gsの勿体ないなぁという設定をこれ以外にもこれでもかと盛り込む予定です。

・腕っぷしの強いリトルデーモン達
ヨハネ様ファンクラブに所属する力自慢の眷属たちの事。ヨハネ様の為ならば、某渋谷の暴動系アニメに出てくる一組織の様に対象をボコす。兎に角、ボコす。

・ギルバート
作者が構想案として考えていた小説の設定の名残。同じくオリ主設定で出てくる長谷部祐介よりも大分濃ゆいキャラが出来てしまった(※詳しくは主な登場人物紹介・第4章を参照)。

・千歌のダジャレ好き
これも失われた貴重な設定の一つ。愛さんと被るだぁ?関係ないね。

・ゲート
『COWBOY BEBOP』の原作で登場した超オーバーテクノロジーな転送装置。原作は舞台が全宇宙だから、これさえあれば移動が楽になるね!ただし、何故ラブライブ世界の、しかも宇宙でなくて上空に現れたのか。エドのハッキングによる影響か、それとも……。

・Aqoursの現在
スクールアイドルを継続して続けている。けれど、それは学校所属のと言う意味ではなくて……(※詳しくは本編参照)?ネタ元はrontorl氏の同人誌より。本人に突っ込まれたら変えます。




アニガサキSS劇場⑧「ズラララ!!×2」

 

?「見えます。もうじき、かの運命すら打ち破る大きな輝きを持った者がこの地へ降臨する様が」

 

?「救世の鐘は既に鳴らされた。今こそ、この長きに渡る最終決戦(ラグナロク)、真なる決着がつく時が遂に訪れたのです・・・・・・!」

 

花「・・・・・・善子ちゃん、また中二病発症したずらか?」

 

善「う、うううう五月蠅い!悪かったわね、もう止めたくても止めれなくなってるのよぉ!?」

 

花「うわぁ、末期ずら」

 

善「末期言うなぁ!」

 

花「まぁ、でも、千歌ちゃん達も丁度動き出したみたいだし、強ち間違いでもないかなぁ」

 

善「ふん・・・・・・それで、黒澤姉妹と曜は何で来れないのよ?」

 

花「ルビィちゃん達は親戚のお家の用事。曜ちゃんは今頃きっと大航海時代ずら」

 

善「嘘・・・・・・!?魔都・東京で聖戦が始まるのよ、それ以上に大切な用事なんてあるわけないわ!」

 

花「仕方がないよ、人生生きていればそういう時もあるずら」

 

♪Ringing -Over the field-♪

 

善「ごめん、ずら丸。ちょっと電話出るわね」

 

花「お構いなく~」

 

善「・・・・・・はい、もしもし」

 

花「・・・・・・」

 

善「――ん、分かったわ。それじゃあ、また後でね」

 

『ピッ!』

 

花「誰からだったずら?」

 

善「誰からですって?決まってるじゃない」

 

善「私のリトルデーモン達からよ。如何やら早々に事は始まっていたみたいね」

 

花「今すぐ出る?」

 

善「勿論。現に今、腕っぷしに自信のあるリトルデーモン達が県境から入って来た委員会の人間達への襲撃に成功したわ」

 

花「うん、じゃあ急いだほうがよさそうだね」

 

善「えぇ、だからこそ」

 

善「私達の目的地への送迎、頼んだわよ、ギル」

 

ギ「ク、任せておけ」

 

花「・・・・・・本当に、大丈夫かなぁ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「――・・・・・・良いかァ?世の中ってのは煮え滾った鍋の中みたいなもんなんだ」

 

「ドロドロに溶けたシチューの中では、どれが偉い訳でもどれが役立たずな訳でもない。一つだってっシチューな訳だ」

 

「ただ、どうしても忘れちゃいけねぇものがある・・・・・・何だかわかるかァ?」

 

此処は日本から遠く離れた海外の地。その都心から離れたちょっと寂れたコンビニで、その地に蔓延る無法者達が今まさにコンビニ強盗を働いている所であった。そんな中、運悪くそのコンビニに足を運んでしまったのが。

 

「(どうしよう・・・・・・何だか良く分からないけど、私、絶体絶命のピンチ・・・・・・!?)」

 

――虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会名誉部長・高咲侑、その人であった。

 

「・・・・・・お肉?」

 

「成程、それもそうだ。だがな、シチューの素がなけりゃシチューじゃない」

 

「同じ材料だってカレーにもなっちまうのさ」

 

「シチューの素なら、あそこに・・・・・・」

 

「そういうこと言ってんじゃねぇんだよ!!」

 

店員の女性の対応が気に食わなかったのか、バァン!と男がカウンターの上に座ったままカウンターを思い切り叩く音がした。現在、侑は後ろ向きで両手を挙げている為、その様子を直に確認する事は出来ない。だが、この状況は明らかに不味い状況であることは直ぐに理解できた。

 

「あら、何か凄く大変な事になってるわねぇ・・・・・・いけるの?」

 

「まぁ、任せときなって。全ては、お嬢様の命令通り、ってな」

 

その時、店の外で中の様子を伺う人物が二人。一人は派手な長い金髪を、サイドで輪っか状に結ぶという何とも特徴的な髪型をした女。もう一人は少し姿勢の悪い、ボサボサ頭の長身痩身の男。

 

『ザザッ』

 

『いーい?虹ヶ咲の子、撃っちゃダメだからね!』

 

「オーラ~イ」

 

と、男の持っていた通信機のようなモノにオレンジの髪の、頭の上にぴょこんと跳ねたアホ毛が特徴的な女の姿が映り、男に向かって注意を飛ばす。男はそれを受けて、やや気だるげに了解の返事を唱え、コンビニの入り口へとゆっくりと歩を進めていった。

 

「警察を呼んだって無駄だぜ?此処のセキュリティは全部分かってんだからな、何故だと思う?」

 

「レンジ、早くやっちまえよ!」

 

店の中で相も変わらず偉そうに御高説を垂れる、コンビニ強盗のリーダー格の男。すると、仲間の一人が痺れを切らして彼に催促をする。彼の名前は、どうやら「レンジ」というらしい。間違っても家電製品ではない。

 

「――おい、今日はもう閉店だ。他所へ行きな」

 

再び店外。ボサボサ頭の男が自動ドアの前に来ると、その前に立ち塞がっている、恐らく彼ら強盗一味の仲間であろう巨漢の大男がズボンのポケットに手を突っ込んだまま、そんな言葉を漏らす。

 

その男の背後にはコンビニであればお馴染みの、24時間営業を現す『24H』の文字・・・・・・全く以て説得力がない。

 

「・・・・・・」

 

しかし、そんな男の言葉を特に気にする様子もなく、ただ黙って入り口前の地面を見つめて俯き続けるボサボサ男。当然、そんな彼の態度に腹を立てた大男は。

 

「おい!」

 

声を荒げて目の前の男に退却を迫る。が――

 

「・・・・・・」

 

「んん?・・・・・・ぐをっ!?」

 

何も変わらぬ男の視線にふと興味を駆られ、同じように地面を見たその瞬間。視界に映った男の足が容赦なく顔面にめり込み、そのまま上を向いて気絶した。

 

「ワォ、何て素早い蹴り上げ。マリーじゃなかったら見逃しちゃうかも、ネ」

 

その一連の動作を見て、後ろに控えた金髪の女がそう呟く。先程の何処か心配しているような様子とは打って変わって、今は何だかその状況を愉しんでいるようにも思える発言であった。

 

「――分かったら、さっさとこの電子マネーに金を・・・・・・あぁん?」

 

更に再び店内。リーダー格の男が仲間の催促に応じて、此処に来た目的を果たそうとしていたその時。入り口の自動ドアが開き、店の中にボサボサ男が入ってくる。先刻までは暗がりでよく分からなかったが、彼は如何やら両耳をヘッドホンで塞いでいる様だった。成程、これであれば大男の忠告が聞こえなかったとしても何ら不思議ではない。

 

「おいこら、誰だテメェ!?」

 

「・・・・・・」

 

「おい、聞こえねぇのか!・・・・・・くっそ~ぅ」

 

入り口前でのやり取りよろしく、特に男に興味を持たず、商品棚にあるクラッカーを手に取るボサボサ男。自分の問いかけに無反応な男に痺れを切らしたのか。彼は拳銃を男に向けたまま、今まで座っていたカウンターを下り、その人物に詰め寄ろうとした。しかし。

 

「おい、ソイツを外して聞け!お゛ぉん!?」

 

「・・・・・すいませーん、これ下さい」

 

『パァン!』

 

『ドキューン!』

 

ボサボサ男が手にしたクラッカーを目の前で鳴らし、それに驚いた男は、怯んだ影響で持っていた拳銃から弾を天井に向けて発砲。その一瞬の隙を突いてボサボサ男の蹴りが男の顔面横に命中。近くのコーヒーサーバーに顔を突っ込むように倒れこんだ男は、流れるような勢いで「コーヒーを入れる」ボタンをボサボサ男に押され、顔にアツアツのコーヒーを浴びながら気絶した。

 

「野郎・・・・・・ッ!」

 

その様子を見た仲間の赤ジャケの色黒男が発砲し、あっという間に店内で銃撃戦が開始される。その男を援護しようと白ジャケの男が同じように拳銃をボサボサ男に向ける、が。

 

「よーいしょ、っと・・・・・!」

 

「ぐはっ・・・・・・!?」

 

「ふぅっ・・・・・・まだまだ甘いね。プロテイン、足りてないんじゃないの?」

 

急に天井の板を剥がして降って来た、青髪のポニーテールの女に殴り倒され、呆気なく気絶し昏倒。援護することさえ叶わなかった。

 

「ぐっ、うううっ・・・・・・!」

 

赤ジャケの色黒男は、ボサボサ男の背後の商品棚を登り、不意打ちで倒そうとするも。

 

「あらよっと」

 

「ッ・・・・・・ぐおわっ!?」

 

その行動を呼んでいたボサボサ男に上から出てきた腕を引っ張られ、そのまま向こうの通路のドーナツ販売スペースに背中から投げ付けられる。ガシャーン、と派手な音が鳴り、男は台の上で動かなくなった。

 

「スパイクさん、そっちはどう?」

 

「おぅ、上々だ。・・・・・・ドーナツ代はコイツ等にツケておいてくれ」

 

一通り店内の強盗一味を全員撃退した二人は、互いの戦況を確認し合う。天井から降りて来たポニーテールの女が言うには、ボサボサ男の名前は「スパイク」というらしい。

 

彼・・・・・・スパイクは、その光景を前に呆然と立ち尽くす店員を一瞥し、そんな言葉を漏らす。

 

元より、自分で弁償する気はないようだった。

 

『ズゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・』

 

「ふぅっ・・・・・・んあ?」

 

ポニーテールの女と退店しようとした、まさにその時。コンビニの奥、トイレのスペースから水を流す様な音が聞こえ、扉が開く。中から帽子を被った男が出てくる。

 

先程まで強盗によってジャックされていた店内。ならばそこに普通の客がいるなんてことはまずなく。

 

「あ・・・・・・」

 

「ッ・・・・・・う、動くな・・・・・・!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

店内の状況を目にした帽子男と暫らく見つめ合い間が空いた、刹那。拳銃を取り出した男は、その店内で唯一の普通の客である高咲侑を人質に此処から逃げ果せようと企てた。罪を犯した人間の防衛本能に基づく、実にシンプルな。この場において最も成功確率の高い選択である。

 

「・・・・・・カナンさんよぉ」

 

そんな一幕を目にして、スパイクは苦虫を噛み潰したような表情でポニーテールの女に尋ねる。

 

「ええと・・・・・・何かなん?」

 

「・・・・・・三人、って言ったよなぁ?」

 

予め提示された人数と違う、と抗議するスパイク。如何やら店内侵入前に「カナン」と呼ばれた女が隠れていた天井裏で犯人達の人数や様子を偵察し、その情報を元にして突入したスパイクとの連携で早急な撃退に至った・・・・・・というのが先程までの一連の流れらしかった。

 

成程、ではその時から既にこの男がトイレに籠っていたのであれば、数えられないはずである。

 

「銃を床に捨てろォ!」

 

「・・・・・・っ!」

 

人質を手にした男の要求を前に、何かを決意したかのような表情になった彼女は。

 

「ま、まぁ、人生誰だって失敗はあるって!・・・・・・次、頑張ろう?」

 

「さり気無く立場逆転させてんじゃねェ、馬鹿!」

 

雰囲気が一瞬にして、シリアスからコミカルなコント劇風に変わる。海外ドラマあるあるだ。

 

「大体、テメェのクソが長すぎんだよ!」

 

「や、喧しい!コイツが死んでもいいのかァ!?」

 

帽子男が侑の頭に銃を突きつけて脅しをかけてきた。ここで保護対象を殺されてしまえば、彼等の今迄のプランが全部パーだ。カナンはため息を吐くと、その要求に従い、隠し持っていた銃を床に捨てる。だが、スパイクは。

 

「へっ・・・・・・?」

 

「聞こえてんのかァ、おい!コイツが見えねぇのか!?」

 

銃を床に捨てる訳でもなく、逆にその男に向かって銃口を向けていた。

 

――何時ものように余裕たっぷりの顔をして。

 

「そこのアンタ、俺達は警察でも無ければ警備員でもない」

 

「それこそ、人の命を守る義務何て、持ち合わせちゃいねぇ」

 

「(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)」

 

スパイクが吐いたその言葉を、侑は内心で驚きと共に受け止めた。では、何故彼が自分を助ける様な真似をしたのか。それが分からなかった。

 

「だが、俺達『掃除屋』を信用してついて来るってなら助けてやる」

 

「えぇ・・・・・・?」

 

普通なら、こんな見知らぬ土地で出会った見知らぬ人間に、正体が分からぬまま全信頼を置けと言うのも酷な話だ。けれど、ここで志半ばに命を散らしてしまうかもしれない危機であるならば。

 

「ちょっ、スパイクさん、正気!?」

 

「掃除屋・・・・・・ちっ、カウボーイか」

 

「・・・・・・さぁ、どうする?」

 

選択を間違えれば立ちどころに死に至る。そんな究極の選択を前に、侑は。

 

「――分かりました、行きます!」

 

「いい子だ」

 

覚悟を決めた侑の期待に答えるが如く、帽子男が銃で狙いを付けるより早く。

 

――ジェリコ941改、その引き金を引いた。

 

 

時は進み、某海外都内上空。

 

「――わぁ、凄い!」

 

虹ヶ咲スクールアイドル同好会名誉部長の高咲侑は、一生に一度あるかないかの絶体絶命の危機を脱して、スパイクと言う男に言われるままに彼の愛機でもある赤い戦闘機のような機体『ソードフィッシュ』に乗ってとある目的地へ赴く為に空の上にいた。

 

「ここら辺は、世界の夜景百選の中でも飛びぬけて絶景のスポットだ。早々拝めるもんじゃないぜ」

 

「はい、とっても綺麗です!」

 

運転席に座る男、スパイクからの発言を受けて、素直な返答を返す侑。と、機体の通信機から通信が入った。

 

『ハァイ、侑。最上級の夜景、堪能してもらえてるかしら?』

 

「はい!上空からのこんな景色、あまり見たことが無かったので、とっても新鮮です!」

 

『ウフフ、そういう素直な反応、ワタシ的にすっごく好きヨ!』

 

「あははっ、ありがとうございます、鞠莉さん!」

 

画面に映るは先程の事件の際にスパイクと共にコンビニ前で待機していた金髪の女。彼女の正体、それは嘗てμ’sと同じようにスクールアイドル史に名前を残した、伝説のスクールアイドルグループ《Aqours》のメンバーの一人、小原鞠莉であった。

 

『ちょっとぉ!何で前に乗り出してくんのよ、後ろにも通信機付いてるでしょうが!』

 

『いやぁ、つい癖で。後ろの席に座ったら、前の方に顔出したく・・・・・・ならない?』

 

鞠莉と侑の和やかな会話を遮るかのように、機内の別の通信機から聞こえて来た、同乗している人物に文句タラタラな女と物腰柔らかな女の声。

 

『ならないわよ!いいから黙って座ってなさい・・・・・・!』

 

『ちぇー・・・・・・って、あ、そうだった。やっほー、侑。さっきは大変だったねぇ』

 

「は、はい!でも、お陰様で無事助かりました。ありがとうございます、果南さん」

 

侑と会話を始めたのほほ~んとした声の女を、侑は「果南さん」と呼んだ。そう、彼女もまたあの伝説のスクールアイドルグループ《Aqours》のメンバー、松浦果南。コンビニ騒動の際にスパイクと大暴れしていたのも彼女だ。

 

一方、イライラしている声の女の名は、フェイ。スパイクが所属している『ビバップ号』というならず者や賞金首を懸賞金目当てにしょっ引く組織に同じく属している、元イカサマギャンブラーの女。今は訳あって、『ビバップ号』クルー全員が鞠莉の経営する「オハラグループ」の用心棒をしている。

 

『勿論私もいるよぉ。やっほー侑ちゃん、お次はチカだぞ~?』

 

「わあぁ、ホントに千歌ちゃんだ・・・・・・!」

 

『へっへ~ん!そうなんだぞ、私はあの「チカ」なんだぞぉ~!』

 

またまた別回線から聞こえてきたのは、《Aqours》の実質的リーダー高海千歌の声。スクールアイドルの魅力にすっかり虜になった侑にとってはこれ以上ない程「ハコオシダイカンキ」な事態だった。

 

「普通怪獣ー!」

 

『がお~っ!』

 

「誰かの物真似やって!」

 

『生しらす揚げとぉ、とろぼっちぃ・・・・・・!』

 

「ダジャレを一つ!」

 

『カエル館で()()()()()()()()()なんて・・・・・・許されないよッ!』

 

「ぷひゃひゃひゃひゃ、くぁwせdrftgyふじこlp」

 

『嘘、千歌のダジャレでこんなに大爆笑してる人初めて見た・・・・・・』

 

そして、唐突に始まった侑の千歌へのリクエスト大会。ノリ良く全てのフリに対応する千歌と、最後の千歌のダジャレを受けた侑の反応に困惑する果南がそこにはいた。

 

『と言うかスパイク!なーんでアンタの方はその子だけなのに、アタシの方は2人なワケ!?』

 

「仕方ねーだろ、ジェットは向こうでやることがあるから来れなかったわけだし」

 

『狭苦しいったらありゃしないのよ!誰か一人、マリーの方に乗りなさい、よッ!』

 

『Sorry,ワタシの専用機、一人乗り用なの』

 

スパイクの専用機『ソードフィッシュ』とフェイの専用機『レッドテイル』。その2機の前を優雅に飛んでいるのが小原鞠莉専用機『スペシャリティシャイニーマリーゴールド』。豪華絢爛な見た目に予想を裏切らぬ純粋な一人乗り専用機。当然、後部座席などはついていない。

 

『・・・・・・ていうかアンタの専用機、無駄に名前長いわよね。一々呼ぶのがめんどいわ』

 

『oh yes,全てはマリィから溢れ出るこのオーラを完全再現したんだもの、抜かりはないワ』

 

「機体の良さは素材の味、シンプルイズザベストだ。ごちゃごちゃ付けりゃいいってもんじゃあない」

 

――何故か機体乗り達による、良く分からない議論が始まった。

 

『第一、機体へのカスタマイズなんて個人の自由なんだから、文句付けること自体ナンセンスね』

 

「金だけを豪勢につぎ込めばいいってもんじゃない。妥協に次ぐ妥協でも本人の熱意さえあればそれは最高のカスタマイズになり得る・・・・・・世の人間全てがアンタみたいな富豪人だけと思うなよ」

 

『何言ってんのよ、金を掛けてこそのカスタマイズでしょうが。昔とは環境が違うんだから、いい加減その沁みついた貧乏人根性直しなさい』

 

勿論、その議論の内容が行き着くところを、蚊帳の外の3名は全く着いていけてない訳で。

 

『・・・・・・で、その時の千歌が何て言ったと思う?』

 

『わ、わぁ~っ!?果南ちゃん、その話は秘密って約束したよねぇ!?』

 

「え、もしかしてあの有名なエピソードの話ですか!?」

 

『惜しい。正確にはそのライブ会場に入る前、ここだけの裏話だよ?』

 

浦の星女学院スクールアイドル部《Aqours》に所属していた時の話に花を咲かせていた。

 

『ジーーー、ザザッ・・・・・・』

 

『・・・・・・っほー、やっほー、スパイクの人~』

 

『んん、ちゃんと繋がったのかぁ?スパイクゥ、聞こえてんなら応答しろぉ!』

 

機体内の会話が其々カスタマイズの話とスクールアイドル時代の話で見事に分断されている中、またまた別の通信機から此処に来て初めて耳にする声が聞こえて来る。一人は無邪気な少年のような声でもう一人はそれなりに年を感じさせる厳つい男の声だった。

 

「お、噂をすれば。あー、此方スパイク。ちゃんと聞こえてるぞ、ジェット、エド」

 

『おぉ~、スパイクの人から反応ありましたー、わはは~い』

 

『おぅ、如何やら今度はちゃんと接続出来たみたいだな。全く久方ぶりに熱中しちまったぜ』

 

『ワフゥ・・・・・・ウォンウォン!』

 

スパイクにジェット、エドと呼ばれた2人が無事通信が繋がった事を安堵したような声になる。同時に背後で犬の鳴き声のようなものが聞こえた、彼等が飼っている犬なのだろうか。だが、ここでその会話を耳にした侑は、ふと頭をよぎったある疑問点を口にした。

 

「あの、そのジェットって人、確か沼津にいるはずですよね?」

 

「ん、まぁ、そうだな」

 

「此処のエリア一帯だと日本への通信は出来なかったはずですが・・・・・・」

 

『ああ、それについてはマリーが説明してあげるわね!』

 

この現地にいて、身をもってその不便さを体験をしたからこその当然の疑問。そんな彼女の問いに通信機越しで鞠莉がノリノリで説明を始める。

 

『確かに、現状では既存の回線系は全て、委員会の手で意図的に封鎖されてしまっているワ』

 

『ケ・ド、小原家の財力を持ってすれば、既存の回線系に縋らない新たな個人用回線を用意する事も不可能ではないのデース!』

 

「えぇぇ・・・・・・?」

 

この地に来て色々なトラブルに巻き込まれて。その度に侑が思い知る、巨額の富を持つ者達が行使する一般常識を遥かに逸脱した行動の数々。自分の夢を漸く見つけて動き出した侑にとってこれ程までに濃密である意味良い体験となる事態は、この後の人生においても早々起こらないだろう。

 

『相変わらず行動力の化身だね、鞠莉。全く、これだから小原家の人間は』

 

『私はその内、実家の旅館が乗っ取られないか心配だよ・・・・・・』

 

けれど、だからこそ。普通ではきっと味わえない体験がスクールアイドルとトキメキを追いかけ続ける彼女にとっては逆に更なる刺激と自己の成長へと繋がった。この2か月間弱で遭遇した出来事はきっと約束の地へ帰還した時の自分への力となってくれるはず。

 

『んで、これからどーすんのよ?このまま日本へ戻るとしてもそれなりに時間は掛かるわよ?』

 

『まさか!セイコーホーで戻ってたら、今向こうで起きてるフェスティバルに乗り遅れちゃうワ』

 

「んじゃ、どうするんだい、お嬢様よ」

 

『こういう時こそ、『ゲート』を使いマース!エドー、後はよろしく!』

 

『あいあいさ~』

 

何だか徐々に意味深な会話になって来た通信を聞いていたら、先程から自分達が乗る機体がどんどん加速し高度を上げていっている事に気が付く。

 

「あの、一体何を・・・・・・?」

 

「『ゲート』は初めてかい?まぁ、無理もないか。元々この世界には存在しない代物だしな」

 

「げ、『ゲート』?」

 

ゲート。和訳すると「扉」という意味でも使われる言葉だが、こんな上空にそんなものがあるのだろうか。そう思っていた矢先。

 

「見えたぜ、『ゲート』のお出ましだ」

 

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

さらに高度が上がり、機体が雲を突き抜ける。スパイクの言葉を受けて、侑が前方を見ると。そこには明らかに現代には存在しない技術で形成された謎の大きな輪っかが空に浮かんでいた。

 

「な、なななな、何ですかこれぇ!?」

 

『瞬間移動装置よ。何かよく分からないけど、エドのハッキングで使えるみたいなの』

 

『あ、モチロン普段は絶対使えないし見えるモノじゃ無いから、そこら辺は安心してOKヨ♪』

 

『皆、沼津におかえり、おかえりぃ~、えっへっへ~!』

 

ああ、これは。きっと今の自分には幾ら考えても理解できない事だ、侑は静かにそう悟った。

 

『先に行くわよ、スパイク』

 

「おう、先行よろしく頼むぜ」

 

『ワタシも続きマース!』

 

フェイと千歌と果南の乗った『レッドテイル』が。鞠莉の乗る『スペシャリティシャイニーマリーゴールド』が、スパイクの乗る『ソードフィッシュ』の前に連なり、『ゲート』と呼ばれたモノの中へ一直線に飛び込んでいく。

 

「・・・・・・さて、行きますかぁ!!」

 

前方の2機がさらに加速し、距離を放される。しかし、ここでスパイクが機体のアクセルペダルを全開にする。長くて高いレールの上から急降下するジェットコースターが如く、機体の速度はみるみる上がっていき、身体で感じるGがどんどん重くなっていく。

 

――あぁ、駄目だ。これは確実に酔うかもしれない。

 

『Fantastic!Yeahhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!』

 

『そうそう、この感覚よぉ!やっぱりお構いなしに速度出せるのはいいわねぇ!!』

 

「あんま燥ぎすぎんなよ。『ゲート』の出口付近で減速しないと目的地を通り過ぎちまうかもだからな」

 

『うぷ・・・・・・ごめん、果南ちゃん。私、まだそんなに慣れてない・・・・・・!』

 

『それじゃあ、早く慣れるように帰ったら体幹鍛えようか、千歌』

 

『それは嫌だぁ~!!』

 

酔いがこれ以上深刻化しないように、侑はぎゅっと目をつぶり何とか持ち堪える。

 

視界が意識的に塞がれて数刻後。先程までとは逆に徐々に速度が落ちていく感覚を覚え、侑は恐る恐る閉じていた眼を見開いた。すると、そこには。

 

「・・・・・・!うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

太陽(サンシャイン)を浴びて煌めく砂浜に、何処までも続いていそうな青い海。

 

嘗ての浦ノ星女学院スクールアイドルであり、現在はこの土地を総括する新たな括りのスクールアイドル《Aqours》の本拠地。

 

――静岡県沼津市内浦、その上空に彼等はいた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うぅ~・・・・・・まだクラクラする」

 

「大丈夫、侑?ま、そこで少しゆっくりしててよ。今お茶淹れてくるからさ」

 

「あー・・・・・・お気遣いなくぅ~・・・・・・」

 

未知の体験をして『ソードフィッシュ』を降りた侑は、一度スパイク達と別れ、果南に連れられて淡島の一角にある『松浦探偵事務所』に足を運んでいた。如何やら、《Aqours》メンバーの松浦果南はここで探偵業を営んでいる様だった。

 

まだ酔いが醒めない侑を見兼ねてか、果南がお茶を汲みに事務所の中へと入っていく。海岸沿いに建てられたここから淡島からの景色が一望できる解放的なラウンジでベンチに座りながら、侑は気分を落ち着けていた。

 

「(それにしても・・・・・・)」

 

「(適度に吹き抜ける風が心地よくて、日差しも丁度いい感じに照らしてくれてる)」

 

「(こんな、こんな最高な環境なら絶対に彼方さんじゃなくても・・・・・・)」

 

「( ˘ω˘)スヤァ」

 

何処でも寝れる先輩、近江彼方ように。彼女は、眠りの淵へと落ちてい・・・・・・

 

「はッ!?(って、ダメダメ!色々パニックで整理したいのは分かるけど、もう少し頑張れ私!!)」

 

かなかった。

 

決して無理をしようとかそういうことを考えていたわけではない。だが、今はそれよりも先に自分にしかできない、やるべきことがあると。その思いで彼女は、襲い来る睡魔に見事打ち勝ったのだ。

 

「はい、お待たせ。今朝摘み立ての茶葉で淹れた『ぬまづ茶』だよ」

 

「あ、すみません、いただきます。・・・・・・わ、美味しい!」

 

その後、果南が淹れてきてくれたお茶を堪能した侑。静岡県産の『ぬまづ茶』。緑茶好きなら誰もが唸る、至高の一品。

 

「お気に召したようで何より。今なら急須セットとリユースボトルセットもあるから、もし近くのお店で見かけたらよろしくね。ネット通販もあるよ」

 

「商魂逞しいなァ・・・・・・」

 

流石は地元と密接な関係にあるスクールアイドルグループだ、地元産の物の売り上げに余念がない。けれど、それもまた一つのトキメキの集大成なのかもしれない・・・・・・そう思った。

 

「そう言えば、さっき鞠莉から電話が来てね。今日の夜7時、作戦決行だってさ」

 

「今日の夜7時・・・・・・急ですね」

 

「まぁ、如何やら私達が相当出遅れてたみたいでね。現地ではもう何度か交戦があったそうだよ」

 

「そう、ですよね・・・・・・皆、大丈夫かな」

 

果南の言葉につられて、侑はお台場に続いているであろう地平線の彼方を見やる。自分の大切な仲間達が自分が不在の間にも色々と奮闘してくれていることは、希から話を聞いていた為、分かってはいたのだが。

やはり、出来る事なら直接会いたい。会って自分にできることがまだ残されているのなら、私は同好会の名誉部長として。そして何より、皆と同じ同好会の仲間として皆の力になりたい、と。

 

「大丈夫だよ、きっと。今はあっちで《ムーンカテドラル》が護衛してるって話だしね」

 

「《ムーンカテドラル》・・・・・・?」

 

聞きなれない単語に、侑は思わず機微を傾げる。そんな侑を見て、果南は一瞬だけはっとした顔つきになってから、すぐに苦笑いを浮かべてこう言った。

 

「ありゃりゃ、希さんってばそこだけ伝え忘れるとか。そりゃあないでしょうに・・・・・・」

 

「希さん・・・・・・?希さんってもしかしてあの《μ’s》の希さんの事ですか!?」

 

恩人ともいえる人の名を聞き、侑のテンションが一気にブチ上がる。噂にまで聞いた伝説のスクールアイドル《μ’s》と《Aqours》、この二つが今回の事件の裏で密かに共闘していた。そうともとれる発言を聞いてしまえば、侑が興奮を抑えきれないのも無理はない。いや、実際そうだったわけなのだが。

 

「あぁ、そこは聞いてたのね。そう、さっきの《ムーンカテドラル》ってのは今の《μ’s》が作戦行動中に使ってる組織名みたいなものだよ」

 

「っていう事は、同好会の皆からの報告にも含まれてた長谷部さんや穂乃果さん以外にも《μ’s》メンバーがお台場にいるって事ですか!?」

 

「流石に全員ではないけど・・・・・・まぁ、そう聞いてるかなん?」

 

「うわぁぁぁぁ、ってことは皆はもう直接会ってるって事だよね!うぅ~っ、私も早く会いた~い!!」

 

「・・・・・・凄いハイテンションだね」

 

《μ’s》とまではいかなくても一応自分達も有名どころだと思ってたんだけどなー、一応キミも有名人にはもう会ってるんだけどなーと心の中でぼやいた果南であった。

 

「――あ、果南ちゃんに侑ちゃん、此処にいたんだね!おーい!!」

 

「ったく、何で俺まで・・・・・・」

 

「千歌さん!それに、スパイクさんも!」

 

その最中、船着き場のある方から此方に向かって歩いてくる影が二つ。同じく《Aqours》の高海千歌と雇われカウボーイのスパイクであった。

 

「よぉ、侑ちゃん。さっきぶりだな」

 

「はい。作戦会議はもういいんですか?」

 

「まぁ、粗方決まってはいたから明確化してすぐ終わったもんでな、心配ないさ」

 

「そこで!暇そうにしているスパイクさんをチカが連れてきたのです!ドヤァ・・・・・・!」

 

「アンタの行動が偶に迷惑なのは自覚がないのな・・・・・・」

 

いいことしたでしょ、私と言わんばかりの千歌と迷惑そうにしながらも実際は満更でもない顔をしているスパイク。もしかしたら、この二人は結構いいコンビなのかもしれない。

 

「あ、そうでした。あの、千歌さん、質問いいですか?」

 

「おおっ、何々?チカに答えられることなら何でも答えちゃうよ!」

 

色々振り回され過ぎて質問するのを忘れていたけれど、こればかりは聞いておかなければいけない。侑はノリノリな千歌の様子を見て、意を決して尋ねる事にした。

 

――昔の《Aqours》と現在の《Aqours》。その二つの違いについて。

 

「違い・・・・・・違いねぇ。果南ちゃん、分かる?」

 

「自分で答えるんじゃなかったの、千歌」

 

「答えようと思ったけどー、チカだけだと難しくて良く分かんないんだよぉー!」

 

「やれやれ、じゃあ途中途中で私がフォロー入れるから。ちゃんと話してあげて」

 

「合点承知だよ!えっとね、それなりに長くなるとは思うんだけどー」

 

以降、彼女の話はこうだった。

 

昔の《Aqours》についてはスクールアイドル界隈の人達にとっては説明不要な位に有名な浦の星女学院のスクールアイドル部で生まれたスクールアイドルグループ。一方で、現状の《Aqours》はメンバー全員が母校である浦の星女学院を卒業している為、浦女のスクールアイドルではなく。この静岡県沼津市を代表する地域密接という形でのスクールアイドルグループ。

 

元来、スクールアイドルの『School』という単語は「学校」と言う意味の他に「(魚・クジラなどの)群れ」という意味も含んでおり、今のスクールアイドル《Aqours》はそう言った意味合いを指しているのだという。スクールアイドルが誕生する前から、地元に寄り添う形で活動をしているアイドルは多く見られていた・・・・・・要はその派生形ともいえる一つのカタチ。

 

つまり、彼女達《Aqours》は《μ’s》と同じく、ラブライブ優勝や母校の廃校阻止を成し遂げる以外に、自分達の行動の結果としてスクールアイドル界に新たな定義を開拓していたのだ。

 

「やっぱり凄い・・・・・・まさかそういう意味もあったなんて!」

 

「えへへぇ、それ程でも~」

 

「ま、実際にはホントに卒業後の自分達が好きでやってたことが、そういう意味で世間に捉えられてたからそれに乗っかっただけって話なんだけどね」

 

「もー、果南ちゃん!ホントのこと言ったら一気にショボくなるじゃんかー、やめろぉー!」

 

伝説を残したスクールアイドル《Aqours》の再結成。流石に学生の時みたいに全員が集まる機会はそうそうないようだが、それでも彼女達は活動し続けている。今度は、母校のみでなく自分達が生まれ育ったこの土地を守るために。

 

彼女達の代表曲の一つである「想いよひとつになれ」の歌詞が指すように。彼女達は今まさに、何かを掴むことで何かを諦めない・・・・・・それを実行し続けているんだ!

 

「ショボくなんて、全然ないですよ!私、ときめいちゃいました!!」

 

「えぇ、ホント!?いやぁ、侑ちゃんは話が分かる人だなぁ、凄いなぁ!」

 

「いえいえ、千歌さん達の方が凄いですって!」

 

「いやいや、侑ちゃんこそ!」

 

再結成の裏エピソードについて、真実は少しカッコ悪いと心の何処かで思っていた千歌だったが侑の言葉を受けて思い直す。やっぱり、自分達が辿ってきた道は間違っていなかったんだと。自信をもって誇ってもいい事なのだと。そして、それは果南やスパイクも同じことを思っていたようで。

 

「へぇ、成程ね。そういう見方も出来るわけだ、知らなかったよ」

 

「あの時の夢はまだ続いてる・・・・・・か。悪くねぇな、そういうのも」

 

「何、スパイクさんもそういう事があったの?」

 

「まぁな。今はその()()()()()()()()()()()()()()()()()が・・・・・・代わりにいいモノをもらった」

 

「ふぅん、そっか。こう言っていいのか分からないけど・・・・・・良かったね」

 

「あぁ、俺を雇ってくれたアンタ達には感謝の言葉しかないかもな」

 

そう呟いて、胸ポケットにしまってあった煙草を取り出し、火をつける。ああ、これが全て終わった後に飲む酒は、過去に飲んだどんな酒より美味いはずだ。そう確信して。

 

「わ、気付いたらもうこんな時間だ!そろそろ鞠莉ちゃんの言ってた集合時間だよ、行こう皆!」

 

「ホントだ、全然気づかなかった・・・・・・」

 

「センセーの話が長すぎたんじゃねぇのかい?」

 

「んもー、またスパイクさんってばそういう事を言うー!今度言ったら鞠莉ちゃんに直訴するんだからぁ!」

 

「ハハハ、そりゃあ勘弁してくれ。マジでジリ貧金なしになっちまう」

 

笑いながら、その場にいる全員が鞠莉の待つ『ホテルオハラ』の前へと急ぐ。その中で高咲侑は。

 

「歩夢、結子、皆・・・・・・やっぱり《Aqours》は凄いよ、だってこんな事が普通に出来ちゃうんだもん」

 

この研修中、自分は色々な人に助けられてきた。そして何より、伝説のスクールアイドルである彼女達に色々なことを教わった。

 

「私も改めて分かったんだ、皆と目指すこれからの道」

 

それらの経験を活かして。私は、今度もまた同好会の皆と一緒に歩み続ける為に。己が信じた道を突き進もう。嘗ての《μ’s》や《Aqours》の皆の様に・・・・・・!

 

「――だから待っててね、もうすぐ会えるよ・・・・・・!」

 

沼津の大地を吹き抜けた一陣の風と共に、その『羽根(バトン)』は確かに繋がった。

 

 

『――あのっ、先生!』

 

『おや、キミは確か・・・・・・普通科から転向した高咲侑さん、だったかな』

 

コンビニ騒動に巻き込まれる2日程前。彼女は、希に言われた通りに今回の研修の引率担当の教師である老年の男に話を通しに行っていた。

 

『じ、実は、先生に折り入ってお願いがあって・・・・・・!』

 

自分が離れている間にお台場で、虹ヶ咲で起こっている騒動を彼女なりの決断と行動で解決する為に。そして、それは彼女の決意を灯した目を見れば誰もが何かを察せる程にギラギラと輝いていた。

 

『・・・・・・希くんに言われたんだね、私に話せと』

 

『えっ、先生、ご存じなんですか!?』

 

『私も、教師をやって短くはないものでね。それに、彼女が指し示したのなら間違い等あろうものか』

 

この教師も彼女とは偶然会っただけだ、長らく時を同じくして理解を深めたわけではない。だが、もしあの時の自分自身が背負った責務を全う出来るのなら、そこに後悔はなかった。

 

『いいでしょう、あちらの事は私も聞いている。キミは、キミの成すべきことをしに行きなさい』

 

『はい・・・・・・ありがとうございます、先生!』

 

みなまで言わずとも、彼女の言わんとしている事を即座に理解し、夜の街に駆けだした彼女の後ろ姿を見送った彼。若いからこそ今しか出来ない事もある、虹ヶ咲学園という生徒達にとって希望が開けた道の一端になれればそれでいい。

嘗て、起こる全ての事象を上から見守る事だけを徹していた男は、やがてポツリと呟いた。

 

「大人は子供のやる事にそっと手を添えるだけでいい、か・・・・・・」

 

「強ち間違いではないのかもしれんな、その言葉も」

 

教育現場の最高権威を意図的に剥奪されたその男は、静かな笑みを携えながら夜の街の暗がりの中へと姿を消した。

 




はい、如何でしたでしょうか。

Aqoursらしいわちゃわちゃと、侑の別視点ならではの意見。作者的には見事に内包出来たかと思います。お時間があれば、是非感想等でお聞かせいただければと。

そして、このお爺ちゃん先生の正体は、4章のラストではっきりします。
……分かってる人には分かってると思うけどネ。

今回の活動報告ではスクスタの25章について語ります。良ければ見てね。

では、また次回の更新でお会いしましょう!


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4-2「高咲侑の帰還」

ここで一句。

推しキャラの チャンネル登録したけれど 結局いつもと同じく もう飽きた
(意訳:スクスタの新機能のスクールアイドルチャンネルで推しを選んで感謝されたはいいものの、やるべきことが何時ものプレイやイベントと大差がないので競う意味の重要さを理解できないまま、既にもう飽きてきた)  

予定より30分ずれ込みました、誠に済みませぬ……!!

取り敢えず、本編だけ今はささっと投稿しますので、用語解説とかは時間差で更新いたします!(※16:40更新完了しました)

一先ず、ゆっくりしていってね!!

※今回から、同じシーンで該当するキャラが連続で喋っている場合、文体を離さない仕様にしました。ちょっとは読みやすくなるかな……?


アニガサキSS劇場⑨「【非公式】ぬきラジ2 アニガサキ出張版」

 

麻「もう4章突入したのか・・・・・・よく続いたな、こんなおかしなノベライズがさ」

 

文「これも偏に毎回読んでくださる皆様のお陰かと。皆様、顔射マンイキハメ逆レに御座います」

 

麻「おい、作者ァ。非公式だからって文乃に変なこと言わせんじゃあないよ」

 

(済みませんでした、ほんの出来心です ^_^;)

 

麻「大体、そういうのをやらせんなら適役がいただろ、呼んで来いよ」

 

(美岬は本編で既に色々やってますからね、此処は目新しさを求めて・・・・・・)

 

麻「畔部屋に飽きしてるんじゃあないよ、それでも本当にぬきたしファンかぁ?」

 

麻「・・・・・・まぁ、いいや。で、前まで本編の補足みたいなことやってたSSで急にこういうこと始めたって事はこれから不定期でこのコーナーもやっていくって解釈してもいいんだな?」

 

(いや、もしかしたら私の発想不足でこれっきりになるかもしれません)

 

麻「マジかよ、行き当たりばったり過ぎるだろ・・・・・・」

 

文「では、そろそろ始めて行きましょうか、お二人共」

 

麻「あー、そだね。ええっと、ドスケベOKな常夏島・青藍島からお送りしている風ラジオ」

 

文「抜きゲーみたいな島で流れるラジオはどうすりゃいいですか?」

 

麻「略して!」

 

麻・文「「ぬきラジ2ーーーーーーーー!」」

 

♪〇〇〇は好きですか?♪

 

麻「・・・・・・って、いやいや。今から始まるんかい」

 

(そろそろ本編開始でーす、3、2、1・・・・・・)

 

麻「んで、まだ何もやってないのに本編開始かい」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

Side:???

 

「――・・・・・・ジュ、・・・・・・ジュ」

「・・・・・・ないのかい、・・・・・・ジュ」

「・・・・・・ジュ、ランジュ!」

 

何処までも広がる青空が美しい草原地帯。そこで眠りにつく彼女に私は何度も呼び掛ける。

 

しかし、幾ら呼び掛けても彼女からの返答はなく、彼女の美しい瞳も開くことはなかった。

 

「ううむ、彼女のバイタルはいつも以上に平常通りなんだが。一体何が・・・・・・」

「いや、待て。そうか、現実世界の彼女は今意識を失っているのか」

 

私の予測が正しいのなら、道理で彼女が目を覚まさないはずだ。この精神世界に降りて来るには彼女の意識が比較的安定していることが絶対条件だ。ということは。

 

「外界からの衝撃か、それとも精神面的な過重負荷か・・・・・・或いは、そのどちらもか」

 

まさか自分で呪縛を振り切ってしまったことであの男に眠らされたのだろうか。いや、まさかな。今の彼女はそこまで強くはなれない。だから、仮にあの男の洗脳を解くなら外界からの情報によって彼女の深層意識へアクセスする他ない。

 

――私がこの間、彼女の洗脳が弱まった時期を狙って、此処に引き連れてきた時の様に。

 

「んん・・・・・・待てよ、これは・・・・・・!」

 

その時、私の目に映ったのは彼女の胸元に煌めく『紋章(アイコン)』。それが固有の色を失った灰色から暗みを宿した赤色へと変化していく。ダークレッド、染められやすくはあるがその内に秘めたる情熱を灯した彼女だけの色。

 

「そうか、君は漸く覚醒(めざめ)の時を迎えようとしているのか」

 

スクールアイドルという輝きを内包した存在となり、その過程で自身の道を見つけた時に発現する、所有者の可能性のカタチを模したモノ。それが『紋章(アイコン)』。

 

今までの彼女は他者からの洗脳により、その輝きが失われていた。だが、それがまた輝きを取り戻しつつあると言う事は、彼女の心の奥底の決意が目覚め始めたと言う事。

 

「成程。ともすれば、後は外界の君が目覚めて。その君の背中を押す者が必要、と言う事だね」

 

所詮、血筋の力を用いて精神世界に潜航する事しかできない私には外界の彼女に希望を与える事などできる筈もないが。それをできる人物が彼女の渡った日本にいる。彼女が幼少期を共に過ごし、何時か再会を夢見て何度も心の支えにしてきた、翡翠色の輝きを持つとある少女。

彼女の後押しさえあれば、『紋章(アイコン)』の力は完全に戻り、彼女は本来の自分を取り戻すだろう。

 

「――嗚呼、長かった。今この時を何度待ち望んだ事か」

 

もし、この私の微かな声が現実世界の彼女の体を通して、一瞬でも伝わったのなら。お願いだ、彼女にこの永劫の暗闇から逃げだす勇気を与えてあげてくれないか。彼女は今、長年に渡る呪縛で足が竦んで動けなくなっているだけなんだ。

 

「後は君に任せたよ。ランジュを・・・・・・私の娘をよろしく頼む」

()()()()を持つ少女よ・・・・・・!」

 

 

Side END

 

 

「同好会の皆さん、後ろの方は揺れ具合、大丈夫でしょうか?」

 

「問題ないわ。寧ろ、トラックの荷台に乗ってるとは思えない快適さよ」

 

「ありがとね、ミサミサ~」

 

「へへへぇ、それなら良かったですぅ♪」

 

東京都内お台場周辺の某道路。NLNSのメンバー、畔美岬が運転する『マジキチヴァニラ号』は他のNLNSメンバーと同じく作戦行動していた朝香果林と宮下愛、そしてライブ対決を制した優木せつ菜を荷台に乗せて、ゲリラライブ開催予定地・・・・・・詰まる所、同好会が最終決戦の地として選んだ『有明テニスの森公園』、そこを目指していた。

 

――ライブ対決の最中に突如意識を失った、鐘嵐珠・・・・・・彼女も連れて。

 

「ねぇ、せっつー。ランランは大丈夫なの!?」

 

「恐らく、大事はないと思われます。今は気を失って眠っておられるようなので」

 

「そっか、良かったぁ~」

 

改造尽くされた荷台のスペースに設置されていたソファの上で、眠り続ける彼女に膝枕をしながら様子を伺い続けるせつ菜。愛も如何やら彼女の事が心配なようでせつ菜の傍に来て、眠り続ける彼女を優しく見守っていた。

 

「ただ、原因は何なのかまでは、はっきりとはしないので何とも・・・・・・」

 

「そっか・・・・・・そうだよね、まだ安心できないよね」

 

「・・・・・・」

 

「せっつー、あのね、ランランは・・・・・・!」

 

アタシ達の事が嫌いって訳じゃないんだよ、この子は委員会に操られてるだけなんだよ、と自分が見たあの時のランジュの様子について話そうとする愛。だが、次に続けようとした言葉は奇しくも同じ現場を目撃した果林によって遮られた。

 

「待ちなさい、愛。今此処でそれを言っても意味のない話よ」

 

「でも・・・・・・!」

 

「話すなら他の皆とも合流した時に言うべきよ。気持ちは分かるけど、間違えないで」

 

もし。もし仮に、全員が揃った場でそれを言ったとして。幾ら彼女が今まで操られていたとしても、同好会のメンバー全員が「はい、そうですか」と肯定的に捉えてくれるかどうかは分からない。

 

ましてや、侑のいない今、同好会の最終決定権を持つのは、現在に至るまで名誉部長代理を務めている結子だ。メンバーを守る為、委員会と戦い続けてきた彼女がどう思うだろう。

 

――仲間の言葉だからと。素直に聞き入れて、メンバーを説得してくれるか。

 

――それとも。仲間の言葉であっても、彼女は信用できないと切り捨てるか。

 

「・・・・・・ところで、何ですが。あの、美岬さん」

 

「はい、何でしょう?」

 

そんな重苦しい話から少し変わって。せつ菜は現状で最も疑問点である事を聞いて見る事にした。

 

「美岬さんは今普通にトラックを運転しているわけですが、その免許は・・・・・・」

 

――すると、美岬から返ってきたのは驚きの答えだった。

 

「勿論、持ってませんが!!」

 

「「「うえぇ!?それじゃあ、駄目じゃない(ですか)(の)!?」」」

 

「普段ならですけどね。けど、今私達は、おっかない組織に狙われてますんで、お気になさらず!」

 

免許を持たずに運転する・・・・・・それはつまり、立派な交通法違反に当たるわけで。しかも、美岬はそれだけに飽き足らず、先程の突入時にも通常の装甲コースを明らかに違反したところから強引にトラックを侵入させ、委員会の人間と言えど危うく轢きかけたのだ。自分達の身が緊急事態とは言え、警察沙汰になって追いかけられても文句は言えない。

 

「それでもですよ!大体、いいんですか?」

「後々、これを見て影響されてやったなんて言う人達が出てきても文句が言えない状況になってしまうのですよ!最悪、この作品自体が配信停止を喰らう事態にも成り兼ねませんが!?」

 

せつ菜の言い分は正しい。一作品のキャラが喋る内容として、ちょっとメタい事を除けば。しかし。

 

「それはそれ、これはこれです!」

 

「第一、そんな連中は最初からこの作品を見るまでもなく将来的に事故を起こすくらいの危険運転常習犯なんです!人の心が分からない学会やPTAみたいな意見に、私は動じませんよ!!」

 

美岬は美岬で、自我を押し通すことを忘れない。流石は数々の勢力に対して喧嘩を吹っ掛けて来た原作ゲームの登場人物である、面構えが違う。

 

「そんなの、正気じゃあありません!」

 

「yes I do!これが正気なもんですか。――いいえ、私は狂気です!!」

 

更に開き直った発言に、その場にいた同じ原作出身のNLNSのメンバーは・・・・・・。

 

「まぁ、美岬だからな・・・・・・」

 

「畔部屋の美岬さんだからね」

 

「美岬・・・・・・なのだわよねぇ」

 

「美岬ちゃんだからだな、しょうがないよな!」

 

「数々の常識に囚われぬ姿こそ我等の美岬様で御座いますね」

 

全員が全員、諦めの境地にて彼女の異常さを追求する事を拒否していた。

 

『そこの車、止まりなさい!』

 

そして案の定、後方からサイレンを鳴らしてパトカーが追いかけて来る。時既に遅しだ。

 

「・・・・・・不味いわね」

 

「ほらぁぁぁ!美岬さんのせいで、恐れていたことが起こっちゃったじゃないですかぁ!?」

 

「あ、パトカー来ちゃったじゃん。・・・・・・ねぇ、ミサミサ、流石にやばくない?」

 

「いや、多分大丈夫だよ、愛さん。あれ、偽装車両だから」

 

この事態に動揺を隠せない果林、せつ菜、愛の3人だったが、その時不意に声を上げたのは、意外にも麻沙音だった。

 

「アサちー、何か心当たりあるの?」

 

「実は、兄に頼まれてここら辺一帯の監視カメラジャックしてるんですけど」

「車両のデザインとサイレンが全く同じで気づけないかもですが、乗ってる人たちの格好とか見てればどうも普通の警察にしてはおかしいなって部分がありまして・・・・・・」

 

「へぇ、そんなこと出来るんだ!アサちー、凄いね!」

 

「いえいえ、わたくしめにはこれくらいというかむしろこれしかおやくにたてることがないものでしてそれをつかうならいまだとはんだんしただけでべつにじまんとかほめてもらいたいとかそういうわけでなく、でっへっへっへ・・・・・・!」

 

憧れの愛に褒めちぎられて、上機嫌の麻沙音であった。

 

「・・・・・・と言う事らしい。美岬、行けるか?」

 

「はい、合点承知です!!」

 

そんな中、淳之介が美岬に対して何か恐ろしい耳打ちをした様子だったので、それを偶然耳にしてしまったせつ菜は恐る恐るそれについて質問をした。

 

「あのー・・・・・・何をするおつもりなんでしょうか・・・・・・?」

 

「何って、そりゃあ追われてるんですから、当然」

「――カーチェイスしか、ないでしょう!!」

 

ギャギャギャギャ、と勢いよくハンドルを切って方向転換をした美岬の運転するトラックは、アクセルを全開にして近くにあった細い路地を抜け、一気に駆け出したのである。

 

「「「「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)!?」」」」」」」」

 

当然、荷台にいた8人は衝撃に耐え切れず、未だに目を覚ます気配のないランジュを庇いながらソファーにしがみ付いていたせつ菜以外、全員がバランスを崩してその場にズッコケた。

 

「み、美岬さん!?」

 

「大丈夫です!都心にしては珍しく、他の車どころか歩行者も見当たりませんし!」

 

「いえ、そういうことではなくてですね!?」

 

「問答無用!これからこの車両は、なろう運転に切り替えです!!」

 

「轢かれて異世界に転生したい輩は、躊躇わず餌食になりなさいっ!!」

 

速度を上げてドライバーズハイになった今の彼女を止められる者は、誰もいなかった。

 

「それにしても・・・・・・こんな状況でもその、ランジュちゃんだっけ?彼女、目を覚まさないのね」

 

「それもそうですね。気を失ってるとは言え、呼吸はあるので大丈夫だとは思いますが・・・・・・」

 

奈々瀬から振られたそんな話を受けて、少し心配になったせつ菜は、彼女の腕を掴んで脈を確認しようとした、その時。

 

『――私の娘を頼む、栞の紋章を持つ少女よ・・・・・・!』

 

「えっ・・・・・・?」

 

「どうかした、せっつー?」

 

「あ、いえ。ランジュさんの腕に触れた時に、誰かの声が聞こえた気がしたのですが・・・・・・」

 

「えぇ~?ねぇ皆、誰かさっき、せっつーに話しかけたりした?」

 

愛の質問を受けた他のメンバー達は、一様に首を横に振って誰も話しかけていない事をアピールする。もう一度触れたら同じ声が聞こえるかもしれない。そう思ってせつ菜は、彼女の腕を取るが。

 

「・・・・・・聞こえませんね。私の気のせい、でしょうか?」

 

「でも、聞こえたには聞こえたんでしょ?」

 

「はい。栞の紋章を持つ少女よ・・・・・・みたいな感じの」

 

「紋章?紋章ってもしかして、愛さん達が持ってるこれの事かな?」

 

そう言って愛が右手を宙に翳すと、掌の上に浮かび上がった「ハイタッチ」を表す愛の紋章。同好会に加入し、皆と一緒に練習に参加し、自身の目指す方向性について色々悩んだ挙句に答えに辿り着いた時に気付いたら出せるようになっていたモノ。その名も『友愛』の紋章。

 

「えっ、何それ。普通に非現実系なんですけど・・・・・・」

 

「わ、凄いな!それ、どうなってるの!?」

 

いきなり現実世界からかけ離れたモノを見せられて、麻沙音とヒナミが同時に興味を示す。それもそうだ、この紋章(アイコン)はスクールアイドルにしか宿らないもの。故に、彼女達NLNSのメンバーが趣旨を転向してスクールアイドルを目指さぬ限り、それが現れる事は決してない。

 

「おおっ、アサちーとヒナミん、興味あるの?」

 

「これはね、紋章(アイコン)って言うんだ。・・・・・・って、愛さん達もこれについてはまだよく分かってなくて、現状で分かってるのは名前だけなんだけどね~」

 

――スクールアイドルに宿りしモノ、紋章(アイコン)

 

一人の少女がスクールアイドルとなり、自身の目指す理想のアイドル像を捉えた時に発現するモノ。更に今現在、全てのスクールアイドルに宿る訳ではなく、一部の選ばれたスクールアイドル達にしか出せないとされる等、極めて謎が多いのだが。

 

「まぁ、別にこれがあるから何かしら日常生活に大きな支障が出る訳じゃないしね。アタシは特に気にしてないかな」

 

「そうね。今のところ、特にこれと言って害もないし、『これ』も意識しないと出てこないし・・・・・・ね」

 

愛に倣って、せつ菜と果林も右手を同じように宙に翳して自身の紋章を呼び出す。其々が違った形をしているが先程の声の主が言っているものにはまるで一致しない。

 

「ええと、一旦話を戻しますよ」

 

「愛さんのは『友愛』。なら、私や果林さんの『大好き』や『美貌』の紋章、の事ではない様ですね」

 

「うわぁ、統一性がない・・・・・・」

 

3人の紋章を交互に見つめながら、麻沙音がいつもの癖でボソッとツッコミを入れる。愛がその横で「まぁまぁ・・・・・・」とお茶を濁すような感じで言い宥めていた。実際、両者ともこれについては良く分からない為、仕方のない事ではあるが。

 

「栞の紋章・・・・・・と言っていましたね。と言う事はそれに該当するのはまさか」

 

「まぁ、一人しかいないよね」

 

♪パッヘルベル/カノン♪

 

その時、果林の携帯に着信が入り、メロディを奏で始めた。まさにナイスタイミングだった。

 

「ふふっ、噂をすれば何とやら、ね。通話、入れるわよ?」

 

そう言ってせつ菜と愛が頷いたことを確認した果林は、迷わず電話を手に取り、直ぐにスピーカーモードに切り替え周りのメンバー達にもよく聞こえるように音量を少し上げた。すると。

 

『果林さん!!』

 

「あら、栞子ちゃん。どうしたの、せつ菜みたいな大声出して」

 

携帯のスピーカーから、今まで聞いたことがないようなくらいの栞子の大きな声が聞こえて来た。それを聞いた果林が、少し悪戯っぽく微笑んで何時もの調子で揶揄い混じりに訊ねると、電話の向こう側にいる栞子が恥ずかしさから来る、実に弱々しい声で謝罪の言葉を述べた。

 

『あ・・・・・・すみません、急いでいたものでつい・・・・・・///

 

「いいわよ、別に。それより用件は何かしら?」

 

『はい、実は今、結さんと無事合流できたわけなのですが』

『そこに向かう道中で偶々委員会の方々に遭遇したので、バレないようにこっそり会話の内容を聞いていたら・・・・・・』

 

栞子の若干緊張気味の声に、それまで和やかだったムードが一瞬で引き締まる。そして。

 

『委員会の真の目的が、分かりました』

 

「「「「「「「「「・・・・・・!!」」」」」」」」」

 

遂に来たか、と言わんばかりにその場の全員が驚愕と共に息を飲んだ。

 

『やはり、彼等の真の狙いはランジュと同じものではありませんでした』

『土井の・・・・・・彼等の最終目的は』

――全てのスクールアイドル。彼女達と拠点の抹殺、です・・・・・・!!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――場所は移り、ここは静岡県沼津市の淡島。

 

伝説のスクールアイドルグループ《Aqours》のメンバーである高海千歌、松浦果南、小原鞠莉と行動を共にしていた侑は、今の《Aqours》についての話を果南と千歌に聞いてから、鞠莉の待つ「ホテルオハラ」の在中スタッフ専用の滑走路に来ていた。

 

「ワォ、指定時間ピッタリね、皆。嬉しいわ」

 

「御託は良いから。で、準備は終わったの?」

 

「えぇ、何時でもお台場へ向かう準備は出来てるわ。手伝ってくれたパパも張り切ってたわよ」

 

『――ハーッハッハッハッハッハ!!』

 

鞠莉がそう言い終わるのと同時に、滑走路傍の格納庫入り口に設置されたスピーカーから、高らかな笑い声が聞こえて来て。

 

『小原家先代当主、ケイニス・オハラ=コペルニカが此処に仕る』

『我が娘の愛護を受けしスクールアイドル達よ、求めし道の最果てにある奇跡に縋りたければ、いざ尋常に立ち会うがいい!!』

 

「えぇ~・・・・・・?」

 

このノリに不慣れな侑は、ただただ困惑するしかなかった。

 

「パパ~、手伝ってくれてありがとう~!」

 

『なぁに、他ならぬ愛しき娘の頼みだ。どれ、では早速報酬のCHUを!!』

 

「えぇ、侑を見送ってからのお楽しみね!」

 

『あぁ、分かっているとも』

 

ホテルオハラ内にある管制室のような場所に向かって笑顔で手を振り終えた鞠莉は、再び侑達の正面に向き直り、口を開く。だが、鞠莉の口から飛び出したのは衝撃の台詞だった。

 

「それじゃあ、早速・・・・・・と行きたいところなんだけど」

「皆には此処で、グッドニュースとバッドニュースがありマース!ねぇねぇ、どっちから聞きたい?」

 

「は、何それ、聞いてないんだけど?」

 

「だってこの場で初めて発表したんだもの、当然ね!」

 

「はぁ・・・・・・これだから小原家は」

「・・・・・・いや、この場合は鞠莉だけの問題かな」

 

一人突っ込みを入れながらボヤいている果南はさて置き。グッドニュースはいいとして、この現状でバッドニュースもあるとは果たしてどう言う事だろうか、そう考えた一行を代表し侑が声を上げる。

 

「・・・・・・いい方から、お願いします」

 

「オーケー、グッドニュースからね」

「実は今し方μ’sから連絡が入ってね、如何やら向こうの第一次作戦は成功。第二次作戦に向けて動き出してるみたいなの。勿論、侑の大切な虹ヶ咲の子達も全員無事よ」

 

「そうか、皆は無事なんだ・・・・・・!」侑は、鞠莉の言葉を受け取ると共に内心ホッとしていた。

 

しかし、そうなってくると気になってくるのは悪い情報・・・・・・バッドニュースについてだ。

 

「ええと、それで悪い方って言うのは、一体・・・・・・?」

 

「あー、うん。やっぱりこうやって聞いた後だと猶更気になって来ちゃうわよね、失敗失敗♪」

 

てへ、と付け足しながら舌をペロッと出して、拳で自分の頭を可愛く小突く鞠莉。

 

何だか良く分からないが。正直、嫌な予感しかしなかった。

 

「一応、色々対策は打ったのよ?だけど、何か途中で押し負けちゃったみたいで」

「――()()()()()()()。・・・・・・ゴメンネ?」

 

鞠莉がそんな不吉な事を言い放った次の瞬間――

 

「いたぞー!」

 

「此方、西方包囲班!土井様の予測通り、対象は《Aqours》と共に行動している。繰り返す!」

 

「此方、西方包囲班!我々の拘束対象『高咲侑』は、《Aqours》と共に行動している。以上!」

 

――滑走路全体を囲うような超厳戒体勢とでも言うべきか。

 

気付いた時にはもう遅く、委員会に所属しているであろう大勢の者達に取り囲まれてしまっていた。

 

「うえぇぇぇぇぇ!?もうこんなに人員が!?」

 

「ちょっと鞠莉、どうしてそんな重要な事を早く言わないのさ!!」

 

「だからホントにごめんってば!私もまさかここまで早いとは思ってなかったのよぉ!?」

 

「おいおい・・・・・・冗談もほどほどにしろよな」

 

容赦なく四方八方から降り注ぐ、無数のライオット弾。その中をスパイクが先行し、後に続くように侑を守るように果南が。侑を守る事に専念して、反撃が出来ない果南を守るようにそのまた後ろから千歌と鞠莉が護衛を務める。これ以上ない、柔軟な立ち回りをして見せた。

 

「気を付けろ、《Aqours》にはあのカウボーイも付いている!油断は決して――ぐはっ!?」

 

「どうすんだ、嬢ちゃん。流石に俺とは言えこの状況じゃあ、ちとキツイぞ・・・・・・!」

 

「分かってるわ!だからこうするの、よっ・・・・・・エド、聞こえる!?」

 

『はいはーい。漸くエドの活躍を見せれる時が来ました~、やっちゃえー!』

 

鞠莉の持つ通信機から聞こえたエドの声に呼応するかのように、逃げ遂せる一行を守るようにして複数体の自警ロボットが立ち塞がる。エドの発明品の一つ『どこでもアルソッ君』だ。

 

「何ィ、ロボットの大群だと・・・・・・!?」

 

『わははーい、これで皆の事、守れるよ~』

 

「はッ、流石は俺達の船で唯一のハッカー要員様だ。心強いったらありゃしないぜ・・・・・・!」

 

『やったー、エド、スパイクの人に褒められたー!』

 

「ええい!総員、砲撃止めェ!!警棒部隊、突撃準備!!」

 

状況を見兼ねた指揮役の男が声を荒げると、先程までの集中砲火が止み、今度は警棒を装備した部隊が此方に突撃してくる。

 

恐らく、彼等が装備しているのは只の警棒ではない。スタンガンの様に電流が流せる仕様のモノだ。

 

「そう言えば、先に委員会を襲撃してもらってた善子と花丸ちゃんは!?」

 

「・・・・・・此処にいるわよ、果南」

 

「オラも同じく、ずら」

 

「わ、二人共何時の間に。・・・・・・結構体力消耗してると思うけど、何とか抑えられない?」

 

果南の声につられて侑が横を見やると、そこにはやたらと顔のいい美人と柔和な雰囲気を持つ童顔の女性がいた。《Aqours》メンバーの津島善子と国木田花丸の二人だ。

 

「アレ、を使えば何とか」

 

「そうね。久々だから上手く行くか分かんないけど、やってみる価値はあるわ・・・・・・!」

 

善子と花丸の言うアレ、とは一体何なのだろうか?侑は、すぐに聞いて見る事にした。

 

「何って言われても・・・・・・まぁ、実際見てみれば分かる、わよッ!」

 

「よぉーし、もうひと踏ん張り、頑張るずらぁ!」

 

警棒部隊の前に立ち塞がった二人はポケットから携帯ゲーム機のようなものを取り出し、掌を宙に翳す。彼女の掌の上、そこには。

 

「あ――」

 

――侑が虹ヶ咲で見慣れたモノ・・・・・・紋章(アイコン)らしきものが光り輝いていた。

 

「「マトリックスエレメント、エヴォリューション・・・・・・!!」」

 

「ヨハネ、降臨・・・・・・!!」

 

「マルにだって、出来る事はあるずら・・・・・・!」

 

光の球体によって彼女達の身体が覆われ、それが打ち払われた時。そこにいたのはさっきまでの私服姿の彼女達ではなく、各々のスクールアイドルの本質が現れた衣装を身に纏った姿。

 

「凄い・・・・・・これもまた、スクールアイドルの一つのカタチなんだ・・・・・・!」

 

――偶像転身(エレメント・エヴォリューション)。嘗て自身の母校と、ラブライブを救った9人の女神達・・・・・・《μ’s》の伝説を受け継いだ者達に宿る特殊なアイコンを以て発現する、虹ヶ咲の紋章とはまた違ったスクールアイドルとしての可能性の示唆。そして、これこそが《Aqours》の力である。

 

「私こそ、天上天下にて唯一無二の地獄の使者。貴方達を、墜としてあげるッ・・・・・・!」

 

「に、人間に翼!?そんな事が――だはぁっ!?」

 

「くうっ・・・・・・!全体、再び発砲用意・・・・・・放てェ!!」

 

善子・・・・・・いや、ヨハネによる自身の羽と黒い傘の攻撃で迫って来た警棒部隊が軒並み蹴散らされる。しかし、そこで号令による再びの集中放火。スパイク一行だけでは今度も最後まで防げるとは限らない・・・・・・だが!

 

「極限の悟りにて開け、『キングシールド』・・・・・・!」

 

滑走路周辺と自分達のいるエリア、それらを2重の結界のようなもので覆い、攻撃を難なく防ぐ。更に侑編を完全に隔離したことによって敵もこれ以上の増援を望めなくなっていた。

 

「・・・・・・マルのキングシールドは強力だけど、これだけの勢力を前にそう長くは保てないずら」

 

「だから、後の事は果南さんと千歌さんに任せるよ・・・・・・!」

 

「果南達は早くその子を連れて第2滑走路の方に!そこでジェット達が待ってるわ!!」

 

「皆、行こう・・・・・・!花丸ちゃんのシールドは味方の私達なら識別して通れようになってるから!」

 

善子と花丸。彼女達の言葉と千歌の号令を受けて、果南達はエド作の自警ロボットに守られながら戦線を離脱。その場には、彼女達二人だけが残る事となった。

 

「フフ、また同じ状況になったわね・・・・・・ズラ丸」

 

「そうだね。何だか今日のマル達は、一段と運がないみたいずら・・・・・・!」

 

「えぇ、でも。それもまた私達らしい・・・・・・でしょ?」

 

どうせまた何時もの事だ、彼女らは互いに笑い合う。どんなに戦況が芳しくなくとも決して弱音は吐かない、今の自分達はスクールアイドルとしての可能性を体現した姿なのだから・・・・・・!

 

「でも、やっぱりちょっと厳しい、かな」

 

「大丈夫よ、果南と千歌とスパイクなら絶対にあの子を無事に守り通せるはずだわ・・・・・・!」

 

「うん。でも、出来ればこの状況もどうにかして覆したい、けどねッ!」

 

出来る事なら、新たなスクールアイドルの歴史を紡ぎ始めた者達の代表を《Aqours》全員で見送りたい。この状況下で望み薄な希望に縋った二人がやがて耳にしたのは。

 

♪海に還るもの♪

 

「「・・・・・・!」」

 

滑走路に響き渡った、優しく何処か儚げなピアノの旋律。それは真に音楽を愛す者とスクールアイドルを信仰する者・・・・・・聞く者全ての心を癒し、同時に消耗した体力や気力を回復してくれる。

 

『ユメノトビラ ずっと探し続けた』

 

『君と僕との つながりを探してた』

 

奏でる旋律が変化し、今度は同時に透き通った可憐な歌声が響き渡る。間違いない、これは。

 

「全く、姿を現さなくても存在をこれ程までに明確に主張してくるなんて。憎らしいわね」

 

「当然だよ、だって梨子ちゃんはさ」

 

「「――私(善子ちゃん)の上級リトルデーモンだからね・・・・・・!」」

 

嗚呼、逆転劇こそ自分達の本懐なれば。まさにこの状況こそが、ある意味一番相応しい。

 

 

一方、その頃。無事に脱出した侑達は――

 

「鞠莉、第2滑走路まであとどれくらい?」

 

「もう少しでつく筈よ!皆、辛いけど此処が踏ん張りどころよ、頑張って!」

 

「今のところは特に敵をちらほらと見かけはするが数は少ない。けど、油断はするなよ!」

 

「当然だよ!千歌達には侑ちゃんを見送るって言う使命があるからね・・・・・・!」

 

今までの私の人生において、ここまでVIP待遇と言うかどこぞの国のお偉いさんみたいに厳重な警護付きで守られたりしたことは全くない。いや、寧ろあった方がおかしいんだろう。

 

それでも、こんな私を送り届ける為に尽くしてくれる《Aqours》の皆にはもう感謝しかなくて。だから私はここにいる皆を信じて進み続けなきゃいけない。

 

――そう、無事にお台場に辿り着く、その時まで。

 

「いたぞ、《Aqours》と高咲侑だ!追え、追えーっ!!」

 

「ヤバ、感づかれた!皆、こっちへ!」

 

さっきの時よりは大勢ではないものの、余り悠長に構えていられないのも確かだ。そして、号令を聞いた鞠莉さんに連れられて私達は咄嗟に脇道へと逃げ込む。

 

「何ッ・・・・・・消えた・・・・・・?」

 

「くっ、相変わらず小賢しい真似を・・・・・・!」

 

「いいか、奴らはまだ遠くへは逃げていない!早急に探し出して高咲侑を捕えろ!奴以外は射殺して構わん、行けェ!!」

 

私達が逃げ込んだ先は、道と言うにはあまりに狭く細い道であった為、夜の暗がりに紛れることが出来たらしい。けど、きっとそれも時間の問題だ。

 

「どうする、また誰かが囮を引き受けるか?」

 

「そうね・・・・・・この際仕方ないわ。此処はマリーが・・・・・・!」

 

「――たわけめ、そうしてまた自分の責務とやらを一人で背負い込むつもりか」

 

鞠莉さんがそう言って自ら囮を演じようとした、その時だった。私達のいる道の奥の方から、鞠莉さんと同じく黄金の髪を持った灼眼の男の人が現れた。

 

「「「ギル(くん)・・・・・・」」」

 

「チカもカナンも・・・・・そして、スパイクも何故止めん。イタリアの時もそうだ、婚約の話の為にお前を捕らえようとした母の暴挙の際にも、責任を果たすと言って一人で行こうとした」

「今の状況でその選択を取る愚かさが分からぬ程、若くもなかろうに」

 

千歌さんと《Aqours》の話をしていた時に小耳に挟んだ。ギルバート・司=ハウリィ、廃校が決定されていた浦の星女学院に当時の理事長の判断で呼びこまれた男子テスターの一人。イタリアの地で鞠莉さんの実家である小原家と、ライバル関係にあるハウリィ家の一人息子。

まだ年齢的にも歳を食っているわけではない。けれど、その威圧感は凄く、とても善子さんや花丸さん達と同年代であるとは思えなかった。

 

「この場はオレに任せよ。マリーは次の目的地にチカ達を案内する・・・・・・その使命を果たせ」

 

「本当に任せても良いのね、ギル」

 

「誰に向かってものを言っているつもりだ。オレにもコレはある、いざとなったら使ってみるさ」

 

彼はあくまでスクールアイドルではなく、私と同じマネージャーのような存在。だから本来はあるはずのないものなのだが・・・・・・宙に翳した彼の掌の上には、善子さんや花丸さんと同じく《エレメント》が輝いていた。

 

「・・・・・・」

 

「何やら不思議そうに見つめているな、高咲侑とやら。このオレにこれが宿る事が、それ程おかしい事か?」

 

「えっ、違うんですか・・・・・・?」

 

「・・・・・・このオレとて、コイツについては詳しい事は分からん。だが、一つだけ確かなことがある」

 

「可能性を内包する輝き、それがスクールアイドルだけの特権という訳ではないという事だ」

 

この時の私には彼の言っている言葉の意味が全く分からなかった。何故なら、私は紋章(アイコン)やエレメントと複数の呼び名を持つモノを他の人々が外で見せ合ったりしている様子を見たことがないからだ。

 

確かに、特殊な事例だからと自重できる人もいる事は分かっている。けれど、世の中には自身に不思議な力が宿ったと気付いた時、それを悪用しようとする人間がいる事も知らない訳ではない。それでこそ、目立つつもりならニュースや新聞などに取り上げられていても不思議ではない。だが、そういう事例はどんなニュースを見ても、どんな新聞の読んでも、どんなサイトを閲覧しようと、全くなかったのだ。故に、事情を自分達と同じくあまり知らない彼が何故そこまで断言できるのか。正直、理解に苦しんでいた。

 

「馬鹿者め、そういう意味ではない」

「だが、そうだな。其れの真偽性も含めて、お前自身がこれから仲間と共に歩み、その道の過程で自ずと答えを拾って見せよ。きっと、それはお前にしか出来ぬことだ」

「さぁ、行け!この場は彼の英雄王に所縁ある、このオレが預かる!!」

 

「・・・・・・行こう、皆」

 

彼の言葉を受けた果南さんからの指示で、私達は再び走り出す。

 

結局、言わんとしていることは分からないままだったが。自分がまだまだスクールアイドルと言う可能性の全てを目撃出来ていないという仮説は、私の中に眠るトキメキを再び呼び起こしてくれた。

 

――・・・・・・そんな、気がした。

 

「皆、もう少しよ・・・・・・!」

 

走り続ける事、数分。先頭を走る鞠莉さんからそんな情報を聞き、街を抜けて飛び込んだ雑木林の中から脱出する。視界が開け、私の目が捉えたそこは間違いなく先程のモノと規模の変わらない、大きく広い滑走路だった。

 

「鞠莉、追手は・・・・・・!?」

 

「大丈夫、如何やら此処はまだ嗅ぎ付けられてないみたい」

「けど、それもまた時間の問題よ。スパイク、お願い!」

 

「オーライ、お嬢様。・・・・・・じゃあ行こうぜ、侑さんよ」

 

「はい!」

 

追手の警戒を鞠莉さんと果南さんがしてくれている間に、私は千歌さんとスパイクさんと共にエドさんの警護ロボに守られながら格納庫の前へと急ぐ。すると、真ん中の格納庫のシャッター近くにフェイさん、ジェットさん、エドさんが私達の到着を待っていた。

 

「おう、フェイ。もしもの時は頼んだぜ・・・・・・!」

 

「縁起でもないこと言わないでよね、全く。ま、援護くらいなら何時でもやったげるわよ・・・・・・!」

 

「ジェット、オレの《ソードフィッシュ》の調整具合は!?」

 

「任せろ、バッチリ済ませてある。何時でも行けるぜ、スパイク!」

 

「エド、モニタリングは任せたからな・・・・・・!」

 

「はいはーい、了解したでありまーす!」

 

擦れ違い様にメンバーとやり取りを挟んだスパイクさんは、シャッターを開き、格納庫に鎮座している自身の愛機《ソードフィッシュ》の運転席に華麗な跳躍をしつつ、乗り込む。私も頑張って真似しようとしたのだが。

 

「あいてっ!?」

 

案の定というか何と言うか。ジャンプした拍子に機体に頭をぶつけて情けない声が出た。やっぱり私には難しかったか・・・・・・割とフィジカル面は自信あったんだけどなぁ。

 

「わわっ、大丈夫!?」

 

「おいおい、無茶すんな。ほれ、梯子(これ)で登って来い」

 

「あはは・・・・・・面目ない」

 

地面に倒れこむ前に千歌さんが支えてくれて、私はスパイクさんの出してくれた梯子を使って後部座席に乗り込んだ。

 

「準備OKです、スパイクさん!」

 

「よし、すぐに飛び立つ!危ないから離れてくれ、千歌さんよォ・・・・・・!」

 

「う、うん、分かった!」

 

千歌さんが十分離れたことを確認したスパイクさんがエンジンを掛け、《ソードフィッシュ》の補助輪が動き出した。格納庫を抜け、滑走路へと機体を移動させると、今度はプロペラが回転を始め、大空に飛び立つ準備が整う。

 

「そんじゃあ、ぼちぼち出発するぜ・・・・・・!」

 

「はい、何時でも行けます!」

 

スパイクさんに返答をし、滑走路を飛び立とうとしたその時。千歌さんが私に向かって呼び掛けた。

 

「侑ちゃん!」

 

「千歌さん・・・・・・!」

 

「向こうに行っても元気でね!それでまた、気が向いたら沼津に遊びに来てよ!」

 

「はい!」

 

「それから、えっと・・・・・・ありゃ、なんて言おうとしたんだっけ???」

 

「ズコー」

 

こんな大事な場面においても発揮される千歌さんの天然ボケっぷりに感じていた緊張が程良く解ける。そうだなぁ、うん。近いうちに機会があったらもう一度。今度は虹ヶ咲の皆も連れて・・・・・・伝説のスクールアイドルの《Aqours》に会いに行くんだ!

 

「全く、チカは相変わらずだね。・・・・・・取り敢えず、元気でね侑」

 

「今度は虹ヶ咲の皆も連れて来てよね!そしたら、ウチのホテルオハラに招待しちゃうわよ!」

 

「あっという間の付き合いだったけど、中々楽しかったわ。また来なさい、話相手になるわよ?」

 

「そこまで顔を合わせた仲じゃねぇが、アンタはいい目をしている。あばよ、嬢ちゃん」

 

「今度来たら、エドと遊んでくださーい!」

 

果南さんが、鞠莉さんが、フェイさんが、ジェットさんが、エドさんが。

 

「――まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁにあったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわっ、善子に花丸!?もう向こう片付いたの、早くない!?」

 

「えっへへ~、マル達にかかればこれくらい余裕ずら!!」

 

「とっ、兎に角!!知り合ったからには貴方も正式な私のリトルデーモンよ、感謝しなさい!」

 

「まーた善子ちゃんの中二病が始まったずら」

 

「中二病言うなぁ!?」

 

善子ちゃんが花丸ちゃんが。

 

「――皆の者、王の帰還である!」

 

「わ、ギル君まで来たずら」

 

「誰にモノを問うている、このオレであれば間に合って当然の事だ・・・・・・!」

 

「でも、ぜーはー言ってるねぇ」

 

「でっ、出来れば、そこは、気にしないでもらえると・・・・・・ごほっごほっ・・・・・・!」

 

ギルさんが・・・・・・これまで出会った人達が、私を見送る為だけに勢揃いしてくれた。こんなに、こんなに嬉しい事はない・・・・・・!

 

「皆さん、ありがとうございました!私、絶対また沼津に来ます!だから、待ってて下さい!!」

 

後部座席からその場にいる全員に向かって大きく頭を下げる。短い間のちょっとした感謝を込めながら、私の中で芽生えたこの気持ちを同好会の皆にも分けてあげたいと思いながら。

 

「「「「「「「「「侑(ちゃん)(さん)、行ってらっしゃい・・・・・・!」」」」」」」」」

 

「行ってきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!」

 

――私は、沼津の大空をお台場のある方向へと飛び立っていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「――ね、ホントに皆と一緒に見送らなくても良かったの、梨子ちゃん?」

 

その時、沼津港近くに停泊していた一隻の船の上では、空へと向かって飛び立つその真紅の機体を見つめる、二つの影が甲板にあった。

 

「別に私は顔を見せたわけじゃないから特に思い入れもないだろうし、ね」

「それにね、何かあの子にはきっとまたどこかで会える気がするの。何故かは分からないけど」

 

「ふぅーん、そっかぁ・・・・・・」

 

そう呟いて、その船の船長である彼女は、梨子と呼んだ少女の隣に腰かけた。

 

「でも、そうだね。梨子ちゃんと同じで、私も何かそう思う・・・・・・!」

 

「ふふっ、私達やっぱり以心伝心だね」

 

「えへへっ、だったらきっと千歌ちゃんも同じ考えのはずだよね!」

 

彼女がその時見せた純粋な笑み、その煌めきは彼女達もまたスクールアイドルの一人である事を彷彿とさせる、最高の輝き。

 

「えぇ、きっとね。それじゃあ、千歌ちゃん達を迎えに行きましょうか、曜ちゃん」

 

「へっへー、任せておいてよっ!行くよー、全速前進・・・・・・」

 

「「ヨーソロー!!」」

 

彼女らの高らかな敬礼と共に、その船は港に向かってゆっくりと進みはじめたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――場面は再びお台場の地へと戻る。地獄のカーチェイスを味わいながらも何とか無事に集合場所である『有明テニスの森公園』にNLNSのメンバー達と共に辿り着いた愛と果林、そして一人情報収集の為に別行動をしていた栞子。部とのいざこざによって交流を絶たれていた3人が、同好会メンバーとの再会を喜んでいた。

 

「りなりー、会いたかったぞー!ぎゅーーーーーっ!」

 

「あ、愛さん、苦しい・・・・・・///

 

「果林ちゃん・・・・・・良かった、本当に無事で良かったよぉ・・・・・・!」

 

「エマぁ・・・・・・!」

 

「栞子ちゃん、おかえり。一杯頑張ったね、よしよし」

 

「あ、あの、歩夢さん、皆さんの前ですので、その・・・・・・///

 

各自がそれぞれの反応で無事の帰還を祝福されている中、その光景を目の当たりにした結子がふと頭の中で思い浮かべた人物は。

 

「・・・・・・(後は、侑が帰って来ればスクールアイドル同好会は全員揃う事になるのか)」

 

「(早く帰って来なよ、侑。皆が侑の帰りをずっと待ってるんだから・・・・・・!)」

 

彼女達の中心人物である、高咲侑。彼女も揃ってこそ、同好会のピースが全て満たされるのだから。

 

『最終目的地、到着です!皆さん、私はもう暫らくカーチェイスの続きを繰り広げて、委員会の動きを錯乱しますので。その内に準備をお願いします・・・・・・!』

 

目的地に全員を下ろした後に美岬がそう言って、すぐに『マジキチヴァニラ号』を発進させ、再び夜の街を縦横無尽に駆け抜けていった。彼女の陽動作戦を無駄にしない為にも、万全を期しておかなければならない。

 

何故なら。此処の舞台こそが、私達の最終決戦場なのだから・・・・・・!

 

「皆、準備を始めるよ!・・・・・・と言っても、先にこっちに来てた私と歩夢ちゃん達で一通り作業は終わらせておいたから最終確認だけなんだけど」

 

「愛さん、果林さん、栞子ちゃん、せつ菜ちゃん・・・・・・お願いできるかな?」

 

戻って来たばかりで疲れているかもしれない状況で申し訳ないけれど。私は4人にそう呼び掛けた。

 

「おおっ、ゆいゆいもまた一段と逞しくなってきたじゃん!いいよいいよ、愛さんに任せてー!」

 

「あら、ホントね。この調子じゃ、逆に侑がうかうかしてられなくなっちゃうかも」

 

「はい、暫らく現場を離れていた分、私にも精一杯尽くさせてください!」

 

愛さん、果林さん、栞子ちゃんが呼びかけに応じてくれて。最後にせつ菜ちゃんが。

 

「はい、それは勿論。このゲリラライブ、必ず成功させて見せましょう!!」

 

今から立った数刻前に、全力を出し切ったライブパフォーマンスをしたとはとても思えないほどの元気溌剌な様子で、そう答えてくれた。

 

しかし、私の目はそこでふと。NLNSの皆が控える会場のベンチ付近・・・・・・そこで奈々瀬ちゃんに介護されるような形でベンチに腰を下ろしていた虚ろな瞳の少女、ランジュを捉える。

 

彼女とは最終決戦の地で再び会う、以前そんな確信をした私の目の前に久々に表れた彼女は、あの時の様子からはまるで想像もつかない位に自信も覇気もなくなっていた。

 

「・・・・・・態々彼女を連れてきて、どうするの」

 

「待って、ゆいゆい!ランランについてはアタシが・・・・・・!」

 

「――よくも此処まで手間を掛けさせてくれたわね、スクールアイドル同好会」

 

苛立ちを募らせた私に愛さんが必死で説得をしようと駆け寄った・・・・・・まさにその時。

 

護衛を誰一人連れてくるわけでもなく、その場にただ一人足を踏み入れた、ある意味今回の騒動の一因を生み出したとも思える相手・・・・・・虹ヶ咲学園の理事長が姿を現した。

 

「理事長・・・・・・」

 

「気を遣うにしては今更過ぎじゃない、どうせ私が偽物って事くらい分かってるんでしょう?」

「あのムーンカテドラルとかいう小娘達の口車で、ね」

 

途端に背筋が、ぞくり、とした。偶に集会中に見る、あの全校生徒を見渡す慈愛の籠ったような瞳は影もなく・・・・・・そこには、私達への恨みの籠ったような冷酷な瞳だけが存在していた。

 

「まさかこの娘が貴女達に負けるなんてね、夢にも思わなかったわ」

 

そこで言葉を切り、理事長はベンチに座って項垂れている自分の娘の姿を一瞥する。

 

勿論、そこには自分の娘に対する愛情はなく。まるで壊れた自分の所有物を見る様な、そんな目。

 

「これで約束通り部室を戻さなければ、また校内に我々へ仇為す不届き者が増える事でしょう」

「ですが、貴女方に部室を渡さずにそれを阻止する方法が一つだけある」

「そうですね・・・・・・貴女達は娘を誘拐した罪で全員退学。えぇ、それが妥当ですわね」

 

「そ、そんな・・・・・・!?」

 

何という事だ、これでは完全に理事長の思惑通りに事が動く正真正銘のディストピアの完成じゃないか。自由な校風で知られるこの学園がそうなってしまえば、被害者でもある学園側が不利になってしまうのは明白。まさかこの人は、最初から学園も利用するつもりで・・・・・・!?

 

「さぁ、理事長命令ですよ。大人しく引きさがりなさい」

 

「理事長・・・・・・貴女は、貴女はそんな事で私達を・・・・・・ッ!」

 

「スクールアイドル優木せつ菜・・・・・・いえ。確か貴女があの生徒会長ね、中川菜々」

 

「くぅっ・・・・・・!」

 

「これはまた都合がいいわね。だって、貴女さえ消えれば生徒会も只の役立たずですもの」

「そうなったら、もう私の野望を止める者は誰もいないわ・・・・・・!!」

 

冷徹な目に狂気を宿らせて、理事長はせつ菜ちゃんへ掴みかかる。

 

・・・・・・遂に本性を現した虹ヶ咲学園の偽理事長、自信の娘が設立したスクールアイドル部でさえも協定関係を築いていたであろう委員会も関係なく。彼女は最初から自分の中に眠る野望を叶える、只それだけの為に多くのモノを利用できる立場の人を蹴落とし、成り替わったのだ。

 

「スクールアイドルの希望のカタチ・・・・・・紋章(アイコン)の力も、貴女達はあの高咲侑が近くにいなければ使うことが出来ない!そう、貴女達がまだ未熟だからこそ!!」

 

「う、くっ・・・・・・!?」

 

「その力がどんなものかは知らないけれど!私にとって脅威になり得る可能性のあるモノは全て握り潰す・・・・・・さぁ、観念しなさい!!」

 

「っ・・・・・・せつ菜ちゃんから、手を放せ・・・・・・!」

 

力負けしそうなせつ菜ちゃんの前に割り込む形で、私は理事長の前へと躍り出た。さっきは不覚にも護衛し損ねてしまったが。此処で阻止しなければ、護衛役の名が廃る・・・・・・!

 

「スクールアイドル同好会代理マネージャー、舘結子」

 

「残念だったわね、貴女じゃ高咲侑の代わりにこの子たちの力を導くことは出来ない・・・・・・!」

 

「かはっ・・・・・・!?」

 

「結子さん!?」

 

突然、腹部に重い痛みが走る。せつ菜ちゃんを取っ組み合いから引き剝がして、自分が加勢したその一瞬の隙を突かれ、理事長の蹴りが私の腹を直撃したのだ。

 

「私を只の一般人と一緒にしないで頂戴、私は中国拳法でも名が知れた鐘家の女!」

「日本の武術家でも知られた舘家だか何だか知らないけど、その程度で私が倒せると思ったら大間違いなのよ!」

 

台湾で最たる富豪人の家である鐘家。まさか、彼等が中国拳法にまで通じていようとは。であるならば、先の一撃が私の腹筋を貫通して、体内にダメージを負わせられる程に威力が高くないはずがない。何て悪い冗談・・・・・・理事長の発言は全部嘘じゃないって事か・・・・・・!

 

「格上が相手・・・・・・だけど、私は負けない・・・・・・ッ!!」

 

「無駄よ!貴女如きの未熟な腕で私に勝てる道理はないわ!!」

 

「うがっ・・・・・・!?」

 

次は脚部に一撃、左足が痙攣を起こして動けなくなる。

 

「退きなさい、未熟な護衛役。貴女を戦闘不能にすれば、同好会の生殺与奪は私のモノよ!」

 

「ぐあっ・・・・・・!?」

 

左肩に一撃。だらんと垂れて、左腕に力が入らなくなる。不味い、片腕を封じられたのはかなり痛い損失だ、このままじゃ・・・・・・!

 

「往生際が悪いわね、けどこれで最後――」

 

理事長の手刀がガラ空きになった左側から首筋に迫る。絶体絶命のピンチ、その時・・・・・・!

 

『――現場には、遅れて登場するのがヒーロー様の鉄則って奴でね。さ、逆転劇の時間だぜ!』

 

「なッ・・・・・・あれは・・・・・・!?」

 

お台場上空を切り裂くように通りかかった、赤色をした不思議な形状の戦闘機。少なくとも現代には存在しないはずの特異な機構を前にして、理事長の視線がそれに釘付けとなり、攻撃が止む。更にそれだけではなく。

 

「み、皆さん!見て下さい、紋章が勝手に・・・・・・!」

 

それに反応するかのように、せつ菜ちゃんの胸元に何かのマークのようなものが光り輝く。周囲を見渡すとせつ菜ちゃんだけでなく、同好会の皆の胸元に同じようなものが輝いていた。

 

「これって、栞子ちゃんの時と同じ・・・・・・って事はあの機体に乗ってるのは――」

 

侑(ちゃん)(さん)(ゆうゆ)・・・・・・!

 

同好会メンバー全員が期待の眼差しでその戦闘機を見上げる。そして、遂にその時は訪れた。

 

「スパイクさん、ありがとうございました!私、行ってきます・・・・・・!」

 

「おう、達者でな・・・・・・って言っても、これから俺も色々やらなきゃいけない訳だが」

 

「ま、一時のお別れって事だな」

 

「はい、本当にありがとうございました・・・・・・!!」

 

その戦闘機の中から、随分と懐かしいあの聞きなれた声が聞こえて来た気がした。

 

再び赤い戦闘機が上空を旋回し、此方の上空を通過した。それと同時に此方に向かってパラシュートを使って飛び降りる影が一つ。あぁ、ずっと待ち侘びていた、この時を。

 

「皆、ただいまーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

――同好会最後の希望。高咲侑が様々な困難を乗り越えお台場に、そして彼女が一番大切に思っている仲間達の元へ無事に帰還を果たした・・・・・・!!

 

 

 




さて、如何でしたでしょうか。これで漸く同好会側の舞台が完全に整った形になりましたね!

さぁ、何も裏方で引っ込んで傍観しているだけではない……表に出てきても十分強いと言うか何なら最初から最後まで貴女がやれと言わんばかりの強さを誇る理事長。果たして結子に勝ち目はあるのか……!?

では、前書きで言った通り、用語解説を今回から此方の方でやっていきたいと思います。前書きに書くと本編読む前にネタバレされたようなもんだしね……。

それでは、用語解説です。どうぞ。


アニガサキ及びスクスタ設定変更・オリジナル設定解説③

・紋章(アイコン)
虹ヶ咲スクールアイドル同好会限定の設定。他のグループにも似たような設定はあるが、それぞれが別の名称と能力を持っている為、同じ力とは断言できない。スクールアイドルとしての方針を決めたその瞬間に発現するモノと言う情報だけでその他に関しては全くの謎。元ネタはデジモンアドベンチャーの選ばれし子供たちの紋章。ただ、本家とは違ってタグとかには入ってない。

・偶像転身(エレメント・エヴォリューション)
Aqours限定の設定。虹ヶ咲の紋章(アイコン)と似ているが、全く違う力。小型ゲーム機のような専用機器SIヴァイス(通称:シーヴァイス)を使う事で、自信が目指すスクールアイドルとしての理想像を具現化し、その力と衣装を身に纏うことが出来る。元ネタはデジモンフロンティアのスピリット・エヴォリューション。

・どこでもアルソッ君
ビバップ号の船員である天才ハッカーのエドワードが開発した、自警ロボット。某警備会社の名前を借りて、優秀な警備で対象を守る事の出来るハイテクな存在。本編でも登場したが、その数は一体のみではなく複数体いる。

・鐘家
本編で登場する理事長とランジュが所属する家系。様々な交易などで莫大な利益を得ると共に、中国古来の武術であった中国拳法を扱う名家にも数えられており、その家に生まれた者や嫁いだ者は性別や大人子供の区別なく、技術を磨かなければならない。その為、所属する人間の殆どが武術の師範代並の強さを併せ持つ。並みより強いだけの結子にはまさに天敵中の天敵であった。

・紋章の力の発動条件
本編で描かれているように、個人の意思で胸元や掌から出したり消したりできるが、内包している力を具現化するためには近くに高咲侑の存在がある事が必要不可欠。何故、彼女が発動条件となっているのか。それに関しては全くの不明である。

登場人物・追加参戦キャラ紹介②

渡辺 曜(CV:斎藤朱夏)
私立浦の星女学院に所属していたOB。沼津・内浦のスクールアイドル《Aqours》でも引き続き皆の衣装係として所属している。現在は憧れだったパパと同じく船の船長をしており、本人もかなり船上生活を楽しんでいる様だ。遠出することが多く、あまり練習にこそ参加は出来ないが。それでも自分を誘ってくれた千歌ちゃんの為、と参加できる日は積極的に参加している。

桜内 梨子(CV:蓬田梨香子)
私立浦の星女学院に所属していたOB。沼津・内浦のスクールアイドル《Aqours》でも引き続きAqoursの曲の作曲を担当する。なお、現在は東京の音楽科でピアノのアーティストとして活動しており、様々なアーティスト達の作曲を担当することもある程、ピアノ界隈でもかなり有名な人物。アニメ版の性格ではなく、Gs版の設定になっている。

ケイニス・小原=コペルニカ(CV:山崎たくみ)
小原家の先代当主で鞠莉のパパ。かなりの自信家で経営に関しての豊富な戦略性を生み出す柔軟な頭を持っているが、その生真面目さが祟って時折行動が裏目に出たりする。娘の鞠莉を超が付くほど溺愛していて、毎回登場しては娘にスキンシップのCHUを強請る。


……以上です。
いやぁ、いつもながらでは御座いますが、拾ってくるネタ元が古いなぁ、私。


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4-3「栞の旗を掲げよ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
アホの(スクスタ)運営へ

ランジュのアイコン出来ましたー、ざまぁみろー

早くスクスタでも仲間にして、公式産のアイコン持ってこーい

                              海色太子

P.S
公式よりも私の方がランジュを愛していると、自負している。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

はい、どうも。世間はGWに入りましたね、作者です。

スクスタで配信された最新章26章については、最早私が以前に思った通りの栞子の時と大いに既視感(デジャヴ)を感じる展開となった為、いつものあーだーこーだ無しで一言で締めくくらせてもらうと。


「何でもかんでもポンコツ化すんなし!!」


……では、気を取り直して本編をお楽しみください。
(※自作したランジュのアイコン、初披露回でっせ。)


アニガサキSS劇場⑩「お台場の守護者と言えば・・・・・・?」

 

せ「璃奈さん、璃奈さん!突然ですが、お台場の守護者、と聞いて何を想像しますか!?」

 

璃「ええと・・・・・・やっぱり私達絡みで言ったら、ユニコーンガンダム?」

 

せ「確かにそうですね。ですが、ユニコーンガンダム以外にもお台場の守護者はいるんですよ!」

 

璃「へぇ、知らなかった。教えて、せつ菜さん。璃奈ちゃんボード『わくわく』」

 

せ「はい、喜んで!・・・・・・では、璃奈さんはこの作品を見た事はありますか?」

 

璃「これは・・・・・・『デジモンアドベンチャー』・・・・・・!」

 

せ「やはりご存じでしたか!えぇ、アニメ史を語る上で非常に重要な作品と言っても過言ではない、まさに名作中の名作ですよね!」

 

璃「私達は当時の世代じゃないけど・・・・・・今でも見てて凄く惹き込まれちゃう」

 

せ「分かります!!最近のアニメと比べると流石に画風が今風ではないのですが、兎に角クオリティが凄いんです!」

 

璃「うん、パートナーデジモンの進化演出は本当に凄かった。璃奈ちゃんボード『びっくり!』」

 

せ「では、璃奈さんには私が今言わんとしてることが、既にお分かりなのではないですか!?」

 

璃「もしかして・・・・・・この作品の舞台も此処お台場だって事?」

 

せ「はい、そうなんです!何と言う奇遇でしょう、私達の生まれ育った町であるこのお台場があのアニメの聖地でもあるんですよ!」

せ「何と言う巡り合わせ、何と言う浪漫ッ!くうぅっ、最・高です!!」

 

璃「じゃあ、せつ菜さんが言うお台場の守護者っていうのは、その選ばれし子供達とパートナーデジモンの事?」

 

せ「確かに彼等全員にお台場を救ったという実績がありますが・・・・・・このアニメを語る上で一番忘れられない存在は――」

 

璃「あ、私、分かったかも。せつ菜さんが思い浮かべてるのって――」

 

璃・せ「「――劇場版に出て来た、オメガモン・・・・・・!」」

 

せ「ですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

璃「うん、やっぱりそうだった。私も劇場版のクライマックスは本当に良かった、って思う・・・・・・!」

 

せ「映画としては短い上映時間なんですが・・・・・・その少ない時間で伝えるべき情報がぎゅっと詰まった至極のクオリティですよね!」

 

璃「じゃあ、もしかしたら。栞子ちゃんの時に、奇跡の力でお台場のユニコーンガンダム像が動いたように、今度はオメガモンが来てくれるかも知れないね」

 

せ「なッ、何ですか、その神展開!?恐れ多くはありますが、もし実現したら一生の思い出ですね!」

 

璃「うん・・・・・・!璃奈ちゃんボード『キラキラーン!』」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

ΓΔΘЖΨЮΞβΣαΧ@¥;#$%&/*-+^={*>’_”<

 

Qazwsxedcrfvtgbyhnujmik,ol.p;/@:\[]-^\

 

???『・・・・・・』

 

???『・・・・・・・・・・・・』

 

???『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 

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???『――・・・・・・ココハ、ドコダ?』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「――な、何ですって・・・・・・!?」

「高咲侑、貴女が帰ってくるのは少なくとも一週間後の筈・・・・・・何故!?」

 

スクールアイドル同好会のメンバー達が侑との再会に喜びを爆発させる中、理事長は自身の同好会を潰すという目的の為に一番邪魔になる存在が予想よりも早く帰っていたことに驚きを隠せずにいた。

 

「――それは、私が許可したからですよ。現理事長殿」

 

「お前はッ・・・・・・そうですか。元から全て貴方の策略の内と言う事ですか、前理事長」

 

そんな彼女の目の前に現れたのは、侑を含む音楽科転入試験生たちに同行し、共に留学先の地へ足を運んでいたおじいちゃん先生・・・・・・基、虹ヶ咲学園前理事長その人だった。

 

「既に高咲さんを含め、全ての転入希望生徒には特例で研修を切り上げ、帰還させました」

「勿論、彼等には既に短期留学修了の印と音楽科への転入許可を発行していますとも」

「貴女のしてきた数々の悪行も此処までです。さぁ、この老いぼれと共に舞台上から降りましょうぞ」

 

この地へ帰還するために生徒達と飛行機へ乗り合わせた時、彼の覚悟は既に固まっていた。

 

今回の騒動・・・・・・確かに自分は、只不幸が祟って追いやられた被害者なのかもしれない。だが、だからと言って自分がまだこの学園の一教師として存続出来ていたにも拘らず、数年に及ぶ彼女の愚行を黙って見て来た罪が裁かれなくなるというのはあまりにも不当。故に彼は、彼女を辞職へ追い込むと共に後見人となる新理事長を採用し、自身もその立場から退場する事にしたのだ。

 

「はッ、何を言うかと思えば!今更、貴方が何を言おうと全てが無駄、行動が遅すぎたのよ!」

 

「えぇ、全く以てその通りで御座いますな」

「ですが、今のこの身を賭してでも出来ることがあるのなら。私はそれをやり遂げる迄です」

 

現理事長がこの場で何をどう思おうが、全てを覚悟している彼を如何にか出来る術はなく。

 

「ぐっ・・・・・・一時撤退よ!」

「けれど、まだ諦めた訳じゃないわよ。精々、今の仮初の平和を愉しむといいわ!!」

 

状況不利と判断するや否や予め周りに待機させておいた委員会の下っ端たちを連れて、早急にその場から立ち去る理事長。だが、その姿を見送りながらも、彼は決して追いかけようとはしなかった。

 

「・・・・・・あの、せんせ――じゃなくて、理事長さん?」

 

「先生で構いませんよ、高咲さん。少なくとも今の私は只の一教師に過ぎませんので」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

自分の短期留学の付き添いの先生がまさか現理事長によって退任させられた前理事長だったとは思いも寄らず。侑は彼に、恐る恐る話しかける。一方、話かけられた彼は何時もの穏やかな笑みを湛えて、彼女に優しく返答した。

 

「老い先短い私をそこまで気に掛ける必要はありません」

「君達には先ず、彼女と言う先客の問題から解決する必要があるのではないかな」

 

そう言って、彼はベンチに座って俯いたままのランジュを見やる。それにつられるようにして侑も彼女の様子を横目で一瞥した。

 

虹ヶ咲スクールアイドル同好会を一時的とはいえ活動停止寸前まで追い詰めた、高咲侑の目には打倒するべき敵と映っても仕方のない所業をしてきたランジュ。勿論、他の同好会メンバーのみならず、侑の大切な幼馴染みである上原歩夢さえも危険な目に合わせようとした分、それに対する恨みや苛立ちが完全になかった訳ではない。彼女は、少し間を開けて考え、そして再び口を開いた。

 

「あ、そっか。ランジュちゃん・・・・・・でしたっけ、スクールアイドル部の」

 

「えぇ。今回の君達の一連の騒動、その中心人物こそ彼女です」

「今回ばかりは他の部活動の生徒も何人か被害に合ってはいるが、中でも特に被害を受けた君達にとっては何よりも打破すべき宿敵・・・・・・そうではないのかね?」

 

前理事長の言わんとしている事は全く以て正しいのだろう。だが、侑は思う。その判断は果たして、スクールアイドルを巡るモノとして本当に正しい事なのかと。

 

「確かに、彼女の行動で虹ヶ咲の皆や同好会の皆の”大好き”が踏み躙られたのは事実です」

「私だって、同好会の皆や結子、歩夢を危険な目に合わせた事は許せません」

 

自分はその時、留学先の地へ旅立っていて詳しい状況をはっきりとは知らない。しかし、今まで夢というものが特にこれと言ってなかった自分に夢を与えてくれた彼女達を。そして、旅立つ自分の代わりに自分の代理を務めてくれた友達を苦しめた彼女の罪を許さない。けれど。

 

「彼女もまた、スクールアイドルが”大好き”なら」

「私は――高咲侑は、その気持ちを肯定してあげたい・・・・・・!」

 

例え、多くの罪を犯したとしても。彼女もまたスクールアイドルに憧れてスクールアイドルを目指したのなら、その罪滅ぼしは同じスクールアイドル活動で返すべき。それが、留学中にあった出来事を仲間達から聞いた上で彼女が言える、最適解だった。

 

 

 

Side:ランジュ

 

 

 

お前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だ

 

――頭の中で繰り返し響く声。アタシのライブに来てくれた人達が口々に言い紡ぐ。

 

お前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だ

 

歓声も上げず、ライブ会場でよくみられるあの光るブレードすらも持たずに。彼等は只々虚ろな目で見つめ続ける。アタシのライブを。

 

お前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だ

 

止めて。止めて止めて止めて止めて止めて・・・・・・!アタシをそんな風に見ないで!!

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

曲が奇妙なエラー音に紛れて聞こえなくなり、堪らずアタシはステージの上で膝を抱えて蹲る。

 

お前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だ 自分だけが お前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だ そうやってまた お前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だ 許されるつもりか お前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だお前は邪魔だ

 

だって、それはアタシが望んでやった事じゃない!!

 

――ダカラオマエニハトクニツミハナイト?ナゼソウイイキレル

 

センノウサレテイルト、ツゴウノイイヨウニリヨウサレテイルト、オマエハキヅイテイタハズダ

 

そうだ、最初から気づいていた。アタシはただこの人達に利用されているだけだと。でも、幼いころから身近にいたその人を、その人の存在を不要と断ち切れるほどアタシはまだ大人じゃない。だから、気付かないフリをした・・・・・・気づいていないフリをした。自分からこの罪に向き合うのが怖くて。

 

ジカクシテイタノナラ、ソレガオマエノツミダ ダンザイサレテシカルベキアクトクダ

 

ツグナエ、モトヨリキサマハニジガサキニフヨウ――ランジュ、イラナイ

 

オマエニスガルキボウハナイ、ソノイノチツキルマデゼツボウニサイナマレツヅケロ

 

――ツグナエ

 

償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え

 

「お願い・・・・・・止めて。もう・・・・・・止めて・・・・・・!」

 

償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え償え

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーザザッ。

 

 

 

 

お前を 見ているぞ

 

 

 

 

「――・・・・・・ッ!!はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・!?」

 

「あれ、ランラン?どうしたの、そんな急に立ち上がって?」

 

目を覚ます。いや、正確には漸く色々と混濁した何かから意識が一時的に抜け出した様な感覚。視線を自分の周囲のあちこちに向けると如何やら此処は同好会の皆が開催を宣言していたゲリラライブイベント、その設営テントの中のようで――アタシのすぐ近くに愛がいた。

 

「愛・・・・・・?本当に、愛、なの・・・・・・?」

 

「えぇー、当然じゃん。ていうか、もう大丈夫なの?」

 

「トラックの中では全然目が覚めなかったのに、会場に着いたら急に目を覚ましてさ」

 

「でも、何かすごく心此処に非ずみたいな顔してるからずっと心配してたんだ」

 

彼女の、いつか見たあの時の優しい声と笑顔がアタシに向けられる。うん、良かった本当に本物の愛だ。アタシが、本当に心の底から友達になれてよかったと。そう思えた彼女のままだった。

 

「ご、ごめんなさい、愛。心配かけちゃって・・・・・・」

 

彼女については、アタシがただ単純にこの学校で新しい友達を作れるか不安だったから誘った。「部室棟のヒーロー」と呼ばれて皆から親しまれる、その所以は彼女の大らかさにあるもの。ある日噂で聞いた彼女がとある1年生の子を大層気に入っているらしいとの事。大勢の友達を持ちながら、その子にも気を配れる人情味あふれた優しさ。その優しさの恩恵が少しでも自分に向けられて欲しいと。そう願ったから、連れ出そうとした。

 

――結果は大失敗。逆に、アタシが彼女を大多数の人から強制的に奪ってしまっただけだった。

 

「別に気にしないでいいって!それより――」

 

「おーい、皆!ランランの意識が戻ったみたいだよ~!」

 

大丈夫、ちゃんと話せば同好会の皆も分かってくれるよ、と。そう付け足して、同好会の仲間のいるであろう野営テントの外へパタパタと出ていく愛。嗚呼、良かった。アタシはまだちゃんと愛されてる。見放されてなんかないんだ。

 

そして、そんな愛の呼びかけに応じて、テントの中へ入ってきたのは果林と栞子と・・・・・・ミアだった。

 

「何だ、起きれたのか。ボクとしては、てっきり死んだもんかと思ってたよ」

 

「ミア・・・・・・何でここに?」

 

「ボクは今休暇中だぞ、何処で何してようがボクの勝手だろ」

 

「それは、そうだけど・・・・・・」

 

「ま、仮に今死なれても困るんだけどね」

 

「ミア・・・・・・!」

 

「特に給与面の支払いとか、すっぽかしたままあの世にトンズラされるのは御免だよ」

 

あ、あれ・・・・・・?何か珍しく心配してくれるなぁと思ったらそう言う事?もぅ、酷いなぁ。

 

ミア、に関しては特に交流関係が特別あった訳じゃない。ただ、ママの伝手でテイラー家の人と出会い、歳も近いという事でアタシが自分一人だけが大人のプロに囲まれる寂しさを少しでも和らげたかったから、作曲のプロとしてスカウトした。

――あの時は強引さに身を任せて気づかなかったけど。まさか、関係性が友達以下のままだとは。

 

「あら、起きたのね。手間もかからなくてタイミングも良い、こっちとしては大助かりよ」

 

「果林・・・・・・」

「何で来てくれたの・・・・・・アタシの事、嫌いなんじゃなかったの?」

 

次に、アタシは果林にそう尋ねた。愛と部の方に来てくれた時に、果林だけが最初から当たりがキツくて。確かに洗脳されていたとはいえ、アタシのやっていた事はそれなりに酷い事だったから嫌われるのも当たり前と言えば当たり前。けど、その思いを抱えてるはずの彼女が、来てくれたのだ。

例えそれがどんな意図だったとしても、アタシはその事実が素直に嬉しかった。

 

「えぇ、そりゃあもう。貴女のせいで、一時期はエマと会えなかったんだもの」

 

「じゃあ何で・・・・・・?」

 

「・・・・・・貴女が回復してくれなきゃ、この問題が何時まで経っても終わらないままだからよ」

 

果林の答えは、世間知らずのお嬢様であるアタシが聞いても実に納得できる理由だった。付き合いがあまり長くなくたって分かる、彼女は愛みたいに優しくはない。けど、かえってその厳しさは時に相手への思いやりにもなる事を彼女は知っている。

 

「・・・・・・アタシに責任を取れ、って事?」

 

「分かっているなら話が早いわ。そ、貴女の行動は多かれ少なかれ他者の考えを否定していた」

「要するに、貴女の行動はただの勧誘とか価値観の共有でもなく、単なる脅迫でしかない」

「脅迫は誰の理解も生まなければ、一方的に相手を傷付けるだけなのよ」

 

彼女はれっきとしたプロである。スクールアイドルではなく、あくまでモデルではあるが。それでもその時の経験が活動全体を通して活きない筈がない。きっと、その厳しさをアタシは求めたんだ。洗脳されている状態にあっても、彼女の噂を耳にしない日はなかったのだから。

 

『ねぇ、知ってる?3年生の、朝香果林さん』

 

『あ、知ってる知ってる!私、あの雑誌定期購入してるからずっとファンなんだよね!』

 

『分かるぅ~!カッコよくて、美人で、スタイルも良くて・・・・・・あんなの絶対虜になっちゃうよね!』

 

廊下ですれ違った同級生たちがそんな話をしていた。憧れの上級生、もしそんな人が学年の垣根を越えてアタシの友達になってくれたら。そう考えたら、彼女を何が何でもスカウトしたくなった。プロの彼女には、絶対に此方のプロの環境の方が似合うだろう、気に入ってくれるだろう、と。

 

――まぁ、結局。それはただの自分勝手な憶測に過ぎなかった訳だが。

 

「ランジュ、無事ですか!?」

 

「シオ・・・・・・うん、何とかね」

 

最後に。アタシがこの中で唯一胸を張って”親友”と呼べる、大切な幼馴染み。うん、彼女に関しては知り合った経緯で特に迷惑はかけていない、と思う。でもきっと、彼女には今までそれ以外の部分で少なからず迷惑を掛けてきたのだろう。本来なら、呆れて途中で目の前からいなくなってもいいはずなのに。シオは何時だって、アタシの隣にいてくれた。

 

――カッコ悪いな。アタシ、一応シオよりも1つ年上のお姉ちゃんのはずなのに。

 

「・・・・・・ランジュ、体調が大丈夫そうなら私のお願いを聞いてくれますか?」

 

「お願い・・・・・・?ふふっ、いいわよ。シオがそこまで言うなら、聞いてあげる」

 

普段からしっかりしていて頼み事を滅多にしてこないはずのシオが、アタシにお願いをしてきた。あ、もしかしたら今なのかもしれない。彼女に、シオにお姉ちゃん面してあげられるのは。アタシは、無言でこくりと頷くと、シオが嬉しそうに微笑んで。

 

「ランジュ、貴女には是非――でもらいたいのです

 

あれ・・・・・・?今、シオの声が何か一瞬だけ変なノイズ音のせいで、聞き取れなかった。

 

アタシは、シオに聞き直してみる事にした。

 

「あ、ご、ごめん、シオ。ちょっとボーっとしてたみたいで聞き取れなかったわ」

 

「ええ、本当に大丈夫なんですか?・・・・・・分かりました、もう一度言いますね」

 

ピ――――――――――――――――――――――――――ザザッ

 

お前は要らないお前は要らないお前は要らないお前は要らない ランジュ、お前は要らないお前は要らないお前は要らない 貴女には お前は要らないお前は要らないお前は要らないお前は要らないお前は要らないお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らないお前は邪魔だお前は要らない

 

――此処デ、死ンデ貰イタイノデス

 

 

 

Side END...

 

 

 

 

「では、ライブの成功を祈っているよ」

 

「はい、先生・・・・・・!」

 

その頃、ランジュと愛、果林と栞子とミアのいる野外テントの外では前理事長と侑の会話が終わり、前理事長が護衛役を引き受けたμ’s・・・・・・ムーンカテドラルに連れられて学園内へと向かおうとしていた。

 

「それじゃあ頼むよ、希くん達」

 

「任せといてくださいな、理事長様」

 

前理事長が後ろを振り返って虚空に呼びかけると、今まで姿が見えなかった彼女達が刹那の内に姿を現す。最早、スクールアイドルと言うよりかは忍とかくノ一とかその類である。

 

「それじゃあ、ここで班分けしよか。長谷部君とことりちゃんは学園に着いた後も引き続き護衛、ウチと穂乃果ちゃんと海未ちゃんは獠ちゃん追っかけながら他メンバーと合流ね」

 

「どうせアンタん中ではもう決定事項なんだろ。いいですよ、付き合いますよっと」

 

「うん!私、理事長様のお役に立てるように頑張るね!」

 

「絵里ちゃん達、本当に来てくれるのかな・・・・・・忙しくないのかな???」

 

「合間を縫って皆来てくれるようですから。あまり無理をさせないようにお願いしますね、穂乃果」

 

次の指定場所までの作戦概要を話し合い、車を発進させようとした・・・・・・その時。

 

「――嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

テント内から聞こえてきたのは、耳を劈く様な悲鳴。それが上がると同時に、周辺で待機していた同好会メンバーとNLNSメンバー達がテント前に一堂に会した。

 

「結子、今のって・・・・・・!」

 

「うん、間違いない。彼女・・・・・・ランジュだ」

 

先程、愛や果林達が入っていった野外テント。少し耳をすませば微かに楽しげに話す団欒の様なものが聞こえてきていたその中で何があったというのだろうか。彼女達は急いでテントの中へ入る。すると。

 

「――止めてっ・・・・・・!止めて止めて止めて止めて止めて!もう来ないでッ・・・・・・!!」

 

「ちょ、ちょっと!?アタシ達、ランランに何も酷いことしてないじゃん・・・・・・ねぇ、止めてよ!?」

 

「sit...まさか此処まで悪化してるなんて。中途半端な状態でいたことが仇になったか・・・・・・!」

 

「一体何が・・・・・・!?ランジュ、落ち着きなさい・・・・・・!!」

 

「ランジュ、さっきから一体何を――あ、皆さん!ランジュが、ランジュの様子がおかしいんです!」

 

――室内を見て、全員が唖然とした。テント内に設置されていた簡易ベッド、その上に掛けられていた毛布類は全て床に散乱し、敷布団も強い力で引き裂かれたような傷があちこちに出来て、新品同然だったのがもうボロボロにされていて。果林達が用意したであろう、お見舞い用のパイプイスは4人分全てが薙ぎ倒され、ありとあらゆる物が散乱している荒れ果てた状態になっていたのだ。

 

「何があったの・・・・・・栞子ちゃん!?」

 

「そ、それが私達にも分からないんです。私がランジュに私のライブを見てほしいと言った途端、こんな感じでいきなり半狂乱状態で暴れ出してしまって・・・・・・!」

 

「駄目ッ、来ないで!!いや・・・・・・嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

彼女は手にした枕をブンブンと振り回しながら、宥めようと接近を試みる愛と果林を一向に近寄らせなかった。涙が溢れて、ぐしゃぐしゃになった顔で、何かに怯えるように、一心不乱に。

 

「あ、そういえばさっき――ミアちゃん!」

 

原因が分からない以上、対策のしようがないのは明らかだ。だが、結子は先程テント内に入った際に聞いたミアの言葉が引っ掛かり、その言葉の真意を彼女に問う。

 

「お喋りな委員会の犬から聞いたんだけどね」

「ランジュに施された洗脳は、呪いとかトラウマを利用して強い洗脳を掛けるっていう、その術式自体が単独でも作用するように仕組まれた、とある古い術式を利用してるんだ」

「だから、今それがアイツの中に生まれた一筋の希望・・・・・・みたいなものを検知して。それに掻き消されそうになったから、生存本能でアイツのトラウマに強制アクセスしてこうなってる、と思う」

 

掛けられた時間が長ければ長い程、その術式は強く心に爪痕を刻み込み、最終的には幻聴や幻覚によって掛けられた者の精神を崩壊させるまで導く。謂わば対象の『心』に寄生する術式。

 

完全に消し去るには、その術式が与える効果を撥ね退ける位の強くて大きな希望の光を彼女に灯してやらなければならないのだと言う。

 

「それで、その希望に光とやらはあの子に何を見せたら灯るの!?」

 

「ボクが知る訳ないだろ。大体洗脳されてて探りようがないアイツの腹の中なんて、さ」

 

全く以てその通り。では、一体誰が彼女が過去に背負った何らかのトラウマを掻き消せる程の光を示せるのか・・・・・・そこまで考えて、結衣はふと前に聞いた彼女の言葉を思い出す。

 

『――貴女もシオと同じでお堅いのね。同じ学年なんだし、普通にランジュでいいわよ?』

 

『大丈夫よ、アタシは絶対に貴女もシオも彼女達も助けてあげられるわ』

 

残念ながら、私が彼女と会話したのは初めて邂逅したあの時しかない。けれど、多分その洗脳状態が極めて安定していた頃からずっと彼女が無意識に呼び続けていた名前。彼女がシオと呼ぶ人物はこの中に一人しかいない。そして、何より。

 

『あ、そうだ!ね、ユイユイはアタシ達の紋章(アイコン)について何か知ってたりする?』

 

紋章(アイコン)・・・・・・?』

 

それは、ゲリラライブ会場でまだ彼女が完全に意識を取り戻していない・・・・・・現理事長との対決を終えて開催準備に取り掛かっていた時の事。愛さんが突然、そのような突拍子もない質問をしてきたのだ。私は当然、何のことか見当もつかず、首を横に振る。

 

『じゃじゃーん、これが紋章(アイコン)だよっ!』

 

『わ、凄い・・・・・・ていうか、どうなってるの、これ?』

 

『あっはは、それが今のところ愛さん達も何であるのか分からないモノなんだけどさ』

 

『実は会場に向かう前に何かせっつーがね――』

 

愛さんが言うには。車内で保護したランジュを様子見を兼ねて見張っていたせつ菜ちゃんが、彼女の無事を確認しようと脈に触れる為に腕を触ったところ、不意に何処からか男の人の声が響いてきたのだそうだ。そして、その男が誰かに向けて伝えた言葉が。

 

『栞の紋章を持つ少女・・・・・・?』

 

『そう。まぁ、もう大体見当ついてるかとは思うんだけど、その栞の紋章を持つ少女ってさ』

 

『もしかして、栞子ちゃん?』

 

『おぉー、大正解!そ、だからもし何かがあった時にランランを救えるのはしおってぃーかも知れないって事!』

 

もし、あの時の愛さんとの憶測合戦で愛さんが語った話が事実なら。恐らく、この事態を収束させるために必要な事は。

 

「栞子ちゃん、予定通りライブはやってくれるんだよね?」

 

「そ、それは・・・・・・はい。一応、せつ菜さんのライブを見てから連続で来てくださる方もいるので」

 

「ん、分かった。じゃあ、それを黙って見させる為に」

 

「先ずは、私が今の彼女を止めて見せる・・・・・・!」

 

正直、コンディションとしては理事長との戦いのダメージがまだ残っている為、余りよろしくはない。

 

そして、彼女も理事長と同じく鐘家の人間だ、それなりの強さを持っている事は間違いない。だが、それは彼女があくまで平常時だった場合。過去のトラウマに縛られ、精神的に不安定になっている彼女ならば・・・・・・私にも十分勝機がある!

 

「嫌・・・・・・アタシは・・・・・・アタシはもう関わらないから!何もかもから、逃げさせてよッ!!」

 

「そんなことさせるか、貴女には自分の犯した罪と向き合う責任がある・・・・・・!」

「そうでなきゃ、貴女が今まで傷付けてきた人達が。何より貴女自身が前に進めなくなる!」

 

精神集中・・・・・・思えば、私の腕が未熟過ぎるが故に今まで型を使ったとしても初めて使う技の為、どうしても粗さが目立ってしまっていた。だが、この奥義だけは雑に熟すつもりはない。

 

「舘家流番外秘伝奥義――」

 

心に一定量以上の闇を抱える人へ。そして、現状としてその状況からの脱出を望む者の背中を押すエールの様な気功を送る技。この私、舘結子が武道の先に見つけた本来の願いのカタチ。

 

「――・・・・・・みんなで叶える物語(ワンフォアオール・オールフォアワン)!」

 

「かはっ・・・・・・!?」

 

――みんなで叶える物語(ワンフォアオール・オールフォアワン)

 

全てのスクールアイドルとファンの心に刻み込まれた、嘗てのμ’sの放った光。何かを推す推さないの前に私達に課された使命の様なモノ。全てを拒んではいけない、その意志を宿した一撃。

ただ彼女を完全に呪縛から解放するには、私だけの力では足りない。だからこそ、彼女と同じ立場であるスクールアイドルの誰かがもう一押ししなければ。

 

「あれ・・・・・・アタシ?一撃喰らったはずなのに・・・・・・痛くない?」

 

少し間をおいて。私から一撃をもらった彼女が、目を覚まして立ち上がる。よし、今だ・・・・・・!

 

「栞子ちゃん、準備はいい!?」

 

「あっ、は、はい!」

 

「侑、璃奈ちゃん、ステージの環境設定終わってる!?」

 

「「勿論、ばっちりだよ・・・・・・!」」

 

「集客状況、待機時間、オールコンプリート。その輝きで闇を払え、栞の紋章(アイコン)・・・・・・!」

 

――私の叫びを合図に、栞の紋章が光を放ち、その両隣で美貌の紋章と友愛の紋章が輝く。

 

私が望む遥かな世界 どこにあるんだろう?

 

立ち止まり見上げた先に 道がひらいた

 

皆の期待を一身に背負った栞子ちゃんの、人生初の大勢の観客の前でのライブが幕を開けた!

 

 

 

Cross Side:ランジュ・栞子

 

 

 

髪飾り強く結び直して 翡翠色の光放って

 

立ち上がろう 幾度つまづいたって

 

――その時、アタシの視界に映ったのは、シオの全力を込めたステージ。

 

――聞こえていますか、ランジュ。私の歌が。

 

揺るぎないキズナ胸に 目の前に広がる舞台で

 

伝えたい 思い 歌に乗せて

 

昔から、ずっと自分がお姉ちゃんだからと世話を焼きたかった、守ってあげたかった彼女の姿が。今は何だか凄く遠くに見えて。

 

『――なら、わたしつよくなる。つよくなってランちゃんといっしょにはしりたい!』

 

幼き頃。彼女がまだ自分よりも弱かった時に彼女が口にした言葉。その当時のアタシはいつかその時がゆっくりと訪れるはず、そう感じていたのだが。

 

昔から、貴女は私にとって強さの理想の様な人で。でも、その分孤独になりやすくて寂しがりで。そんな貴女だったからこそ、私は今こうして再び貴女を支えようとしているんです。

 

『シオもがんばれば、わたしみたいになれるわ。きっとまちがいないわよ!』

 

貴女のそんな言葉を信じて、私は今まで頑張ってこれたと言っても過言ではありません。だから、このステージは私と離れてからきっと色々なものを背負いすぎた貴女へ捧げる、私なりのエールを綴った曲。

 

ひらひらり空を舞う蝶の様に 僅かでも風を起こして

 

やがて誰かの背中を押すその日まで

 

頼りなく揺れる心 飾らずに打ち明けたなら

 

輝ける

 

「そっか・・・・・・アタシが此処で立ち止まってる間に、シオはずっと先に行っちゃってたんだ」

 

誰よりも優れたスクールアイドルとして、プロの力を借りてまで辿り着こうとしたけれど、こんな状態のアタシがどんなに足掻こうと辿り着けなかった光り輝く回廊の先。そこに最初から彼女はいたのだ。このアタシがスクールアイドル部なんかに誘うよりもずっと前に。彼女はそこに辿り着いていたんだ。

 

髪飾り強く結び直して 翡翠色の光放って

 

進んでゆく迷いの向こう側へ

 

揺るぎないキズナ胸に 物語は次の舞台へ

 

そうここから輝き紡いでゆけ

 

「(きっと、本来の貴女がまだそこにあるならば。これが終わった後に、私が何か言わずとも察してくれるでしょうから)」

 

願わくば、このライブが終わったその後に・・・・・・本来の強い貴女がそこにいますように。

 

 

ライブ会場が大きな歓声に包まれて。気付いた時には、アタシは見知らぬ草原に一人立っていた。

 

いや、見知らぬ場所なんかじゃない。ここは、きっと。

 

『・・・・・・やぁ、また会えたね。ランジュ』

 

『貴方は・・・・・・あの時の・・・・・・!』

 

『ふふ、覚えていてくれたのかい。それは有り難いな、実に喜ばしい事だ』

 

いつかの夢の中に出て来た男の人が、アタシの目の前に現れた。あの時は彼の顔は靄の様なものがかかってよく見えなかったが、今ははっきりと分かる。

 

『・・・・・・!』

 

そして、思い出した。この男の人は・・・・・・彼は・・・・・・!

 

『――・・・・・・パパ・・・・・・?』

 

『ッ・・・・・・!?ランジュ、まさか・・・・・・全部思い出した、のかい?』

 

次の瞬間、彼の顔が驚きを隠せないと言わんばかりの表情を浮かべた。嗚呼、やっぱり。今まで洗脳によって委員会の土井を父親と思い込んでいたが。アタシにもいたんだ、こんなに優しくて頼りになりそうな、そんな父親が。

アタシは、凄く嬉しくなって目の前の彼・・・・・・パパに思い切り抱き着いた。

 

『パパ・・・・・・パパ・・・・・・!』

 

『あぁ、そうだ。私は、君の本物のパパだよ。ランジュ・・・・・・!』

 

いきなりだったにも拘らず、パパはアタシをその場で優しく抱き留めてくれて。そうだ、アタシのパパは10年前にママと離婚して、別々の場所で暮らすことになったんだった。

 

『パパ、今まで忘れててごめんなさい・・・・・・!』

 

『いいんだよ、ランジュ。今は、君が私を思い出してくれた・・・・・・それだけでいい』

 

『小さい頃にいきなり居なくなるから心配したんだから、寂しかったんだから・・・・・・っ!』

 

『あぁ、色々と不安にさせてしまって済まなかったね、ランジュ。けど、もう大丈夫だ』

 

幼少期、何方かと言えばパパ大好きっ子だったアタシは、突然のパパの失踪に不安に駆られてしまった。当時は何度も夜に涙を流して、ママに気付かれないようにひっそりと泣いたりもした。

 

『しかし、君がこうして完全に自我を取り戻したのなら。これはもう、君のモノだ』

 

そう言って、パパがアタシの目の前に差し出したのは。シオのステージの時に見えていたあの光り輝く何かの印のようなモノ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

――シオのとは、全く似ても似つかない。ましてや、その時にシオのそれとはまた違う、両隣に現れた同じように光る印の様なモノ。それらとも違う別の何かを象ったであろうモノ。

 

 

『それは、君の・・・・・・君だけの紋章(アイコン)だよ、ランジュ』

 

『アタシだけの・・・・・・紋章・・・・・・?』

 

『その紋章の名は、「煌めき」の紋章』

 

『君が目指すべき、君本来の姿でのスクールアイドルとしての可能性のカタチさ』

 

それは、アタシの掌の上でゆっくりと回転しながら、キラキラと光り輝く。まるでアタシにはまだスクールアイドルとしてやり遂げなければならない何かがあると訴えかけているかのように。

 

(ゴキゲンな蝶になって きらめく風に乗って)

 

(今すぐ キミに会いに行こう)

 

『君のそれは染まりやすいが、その分他の紋章に負けない力強さを持っている』

『さぁ、ランジュ。それをもって君の果たすべき責任を果たしてくるといい』

 

『アタシの・・・・・・果たすべき責任』

 

(余計な事なんて 忘れた方がマシさ)

 

(これ以上 シャレてる時間はない)

 

(何がWOW WOW~ この空に届くのだろう)

 

(だけどWOW WOW~ 明日の予定も分からない)

 

『うん、分かった。アタシ、皆の所に行ってくる・・・・・・!』

 

『あぁ、そうしなさい。そして、その後に君が選ぶべき道を選ぶといい』

 

(無限大な夢のあとの 何もない世の中じゃ)

 

(そうさ愛しい 想いも負けそうになるけど)

 

『此方に戻って鐘家の人間として責任を果たすか、其方でスクールアイドルとして責任を果たすか』

『私は、君が何方を選んでも。ランジュ、君の味方でいよう』

 

『・・・・・・ありがとう、パパ。そうだね、何時までも逃げてばかりじゃいられないよね』

 

(Stayしがちなイメージだらけの 頼りない翼でも)

 

(きっと飛べるさ On My Love)

 

『ほら、君のお友達が迎えに来たようだよ』

 

パパがそう言って指差した方向を見ると、遠くの方からアタシに向かって走ってくる見慣れた影が一つ。あれは。

 

『ランジュ・・・・・・!』

 

――アタシの、一番大好きで一番大切な友人の、シオだった。

 

『シオ!?えっ、此処アタシの心の中とかじゃないの!?』

 

『強ち間違ってはいないけどね。正確に言うなら、此処は君の精神世界のような場所だ』

『そして、彼女は私の力を使って招待した。・・・・・・嫌だったかな?』

 

正直、アタシの知っている知識の範囲では心の中と精神世界の違いが良く分からないけれど。まぁ、シオだから別に大丈夫か。何せ、アタシよりもアタシの事を知ってる子だからね。

 

『ランジュ、このお方はもしかして・・・・・・?』

 

『パパよ、アタシの!』

 

シオがアタシの後ろにいるパパを見て、そう言う。アタシが自信満々に自分の父親だと告げると、シオは少しびっくりしたような。けど、同時に喜びを噛み締めているかのような何とも言えない表情で。

 

『この人が・・・・・・ランジュのお父様』

 

『やぁ、初めまして、三船栞子さん』

 

『こ、これはどうも、ご丁寧に・・・・・・!』

 

パパに挨拶を返されたシオは何時もの通り、ぎこちない動きで頭を下げる。もぅ、ホントに昔から頭が固いんだから。

 

『それより、早く行きましょ!皆が待ってるわ!』

 

『ランジュ・・・・・・えぇ、帰りましょう。皆さんの所へ・・・・・・!』

 

シオの手を取り、アタシは後ろにいるパパの方は振り向かず、前へと進み続ける。きっとパパとはこの騒動が終わった後に何処かで会える、そんな気がしたから。

 

『ふふふ、如何やらランジュは昔とは比べ物にならない位、強くなってしまった様だよ』

『嘗て私が愛した女性よ、貴女は彼女に勝つことが出来るかな』

 

――徐々に遠ざかっていく彼女達の後姿を見送りながら、彼はそう呟いた。

 

 

 

「――・・・・・・遂に、戻って来てしまったか」

 

同好会メンバー達が大波乱を迎えていた中。μ’s基、ムーンカテドラルメンバーの長谷部祐介と南ことりを連れて虹ヶ咲学園の前理事長は、学園の敷地内へと足を踏み入れた。

 

「気を付けろよ、アンタは今、委員会の連中からいつ狙われてもおかしくないんだからな」

 

「あぁ、分かってるとも」

 

「しかし、あれだな。実際に自分がそう言う身の上になってみると、不思議とワクワクしてしまうな」

 

「燥ぎたい気持ちは分からんでもないが・・・・・・程々に頼むぜ」

 

護衛の二人に守られるようにして歩を進める前理事長が玄関前まで近づいた時、その目線の先に一人の男が立っていた。当然、護衛を担当している二人は即座に警戒を強める。

 

「――おや、アンタが噂の理事長様かい?」

 

「あぁ、そうだ。私が、虹ヶ咲学園の前理事長だ。・・・・・・そう言う君は?」

 

「じゃあビンゴってワケか。オレは、監視委員会の飴野口。土井様に命じられて此処を守る門番さ」

 

やはり、というべきか。目の前の相手は監視委員会の手先の一人であった。

 

「テメェ、やっぱり委員会の・・・・・・!」

 

「おっとお!止めときな、ムーンカテドラルの長谷部祐介」

 

「そこから一歩でも動いて見ろ、テメェら纏めてハチの巣にしてやるからよォ・・・・・・」

 

男の言葉になるべく隙を生まぬように周囲を見渡す祐介。だが、その周囲にはその男以外の気配はまるで感じなかった。・・・・・・ただのハッタリだろうか。

 

「ことり、レーダーの反応はどうだ?」

 

「レーダーには何も検知されてないみたいだよ、ゆーちゃん」

 

「ほほう、此処に来てまさかのブラフを仕掛けてきましたか。委員会も大分焦っておりますなぁ」

 

「うるせぇな、爺!黙れやァッ!」

 

すると、いきなり男が銃を構えて発砲してきた・・・・・・その弾が前理事長に当たる事はなかったが。

 

「クソ、当たんねーじゃねぇか。クソ、クソ、クソッ!!」

 

男は何故か逆ギレを起こして再び発砲する、今度は数発。だが、それも当たらない。

 

「ゆーちゃん、これはまさか・・・・・・」

 

「あぁ、そうだな。登場の雰囲気から中堅かと思ったが。戦闘慣れしていない只の下っ端みたいだ」

 

「狙いが上手く定まっていないようですな。彼は恐らく銃を握るのは初めてなんでしょう、きっと」

 

銃を撃つ時に若干手の動きにもたつきがある事や、足元を見れば膝が笑っていることから、目の前の敵が自分達よりも遥かに格下だと分かった祐介達はある程度の余裕を見せ始める。

当然その男がそれをみて、取り乱さない訳がなく。

 

「さっきから聞いてりゃあ言いたい放題言いやがって!ぜってー殺してやる!!」

 

無我夢中でトリガーを引きまくる。一発、また一発、もう一発。だが、一向に当たらない。

 

そして、彼の持つ拳銃は取り分け充填数が少ない仕様のモノ。それを連発し続ければ何れ。

 

「くそッ・・・・・・もう弾がねぇ!?」

 

弾切れを起こすのは時間の問題であった。

 

「・・・・・・行くぞ、ことり、理事長さん。アイツに構う事はねぇ」

 

「う、うん!理事長さん、こっちへ・・・・・・!」

 

「やれやれ、何とも興醒めで御座いますなぁ」

 

案の定、彼はその場で易々と標的に道を譲る結果となってしまい、気付いた時には一人だけ取り残されていた。

 

「逃げ足が速い奴らめ・・・・・・次は必ず――あ゛?」

 

『バクン』

 

捨て台詞を吐き終わるより前に。自分の頭上から振って来た巨大な白蛇に、頭からすっぽりと飲み込まれてしまい。

 

『グシャ、バキバキ・・・・・・ゴクン』

 

フー・・・・・・やっぱりそんなに美味しくないわね

 

不味過ぎて、馬にはなれなかったワ

 

こうして、監視委員会の飴野口は、歩夢のペットであるオロチに丸吞みされ、絶命しましたとさ。

 

とっぴんぱらりのぷう。

 

 

「――いや、弱過ぎなんだけど、マジで!!」(by作者のツッコミ)

                                    

第4章「THE REAL SPECE COWBOY」・完

 

第5章へ続く......

 

 

 

 

 

 

 

 次 章 予 告 

 

遂に監視委員会による「お台場騒乱事変」は最終局面へ。ムーンカテドラルと新宿のスイーパー、Aqoursと内浦のカウボーイ、虹ヶ咲NLNS・・・・・・助っ人として呼ばれた彼等の協力を得て、委員会が設置した東京都全土を巻き込む大型時限爆弾の起動阻止へむけての作戦が開始される。委員会が雇った軍事組織の秘密兵器がお台場を埋め尽くす中、栞子のライブを見終え、自らの過ちを清算する覚悟を固めたランジュは精神世界で再会を果たした父の言葉を胸に、監視委員会と自らの母の打倒を掲げ、同好会への協力を宣言した。

 

「アニガサキ!-PASTEL COLLARS- 外伝 Episode of ランジュ」次章、

 

最終章「輝ける陽はまた昇る-私達のウォーゲーム-」

 

 

 

――今、冒険が進化する。

 

 

 

 




はい、如何でしたでしょうか。……上手くこれまでの伏線回収できてたかな?

やっぱり、私としてはこのランジュを同好会側に引き入れる前に栞子には是非とも活躍してほしいと言う事でこの展開で描きました。スクスタ運営はきっと、こういう展開すらもう出しては来ないでしょう……頼むから、しお子の出番をくれぇ!!あの子、スクスタでは未だにまともに同好会の活動どころかスクールアイドルとしても活躍で来てないのよ!?

でも、ランジュの私服初披露は良かったし、練習着エロくて最高でした。(こなみかん)

さて、泣いても笑っても、次回からいよいよ運命の最終章!私が愛の溢れるままに作り出したランジュの行く末を、どうか最後まで見届けてやってください!!よろしくお願いします!!


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最終章「輝ける日はまた昇る-私達のウォーゲーム-」
主な登場人物紹介・最終章



長いようで短いこの作品、「Episode of ランジュ」も残すところ最終章と分岐式のエピローグのみ!

最終章では、今まで出し惜しみしていたμ’sとAqoursのメンバーをフル動員でお送りします。そうです、貴方の推しの活躍のお時間です、大変長らくお待たせいたしました。

同好会+ランジュ、ミアの最後の戦いを見逃すな!!


 

元・音ノ木坂学院アイドル研究部《μ’s》メンバー

 

 

絢瀬 絵里(CV:南条愛乃)

国立音ノ木坂学院に所属していたOB。祖母がロシア人のクォーター。在学中に生徒会長を務めた経験を活かし、現在は音ノ木坂の新理事長として自身の母校であり最高の思い出の場所でもある学園を見守り続けている。

 

矢澤にこ(CV:徳井青空)

国立音ノ木坂学院に所属していたOB。スクールアイドルとしてのプライドなら誰にも負けないスクールアイドルオタク。現在は、大銀河宇宙ナンバーワンアイドルにこにーとして長くしぶとくプロのアイドル業界のトップに君臨している。彼女のみを特集した雑誌『月刊大銀河宇宙NICO』は弟である虎太郎の愛読書。

 

星空 凛(CV:飯田里穂)

国立音ノ木坂学院に所属していたOB。フィジカルに長けていて、軽やかな動きで何でも熟す(勉強以外)才能溢れるスポーツウーマン。現在はプロの陸上選手となっており、駅伝大会の企業部門を見ると意気揚々と走る彼女の姿が確認できる。

 

小泉 花陽(CV:久保ユリカ)

国立音ノ木坂学院に所属していたOB。矢澤にこ同様、此方もスクールアイドルについて語らせれば何時までも長々と喋れるほどにはアイドルオタク。現在は、今最も炊き立てのご飯の様にアツいコメンテーター、通称「米ンテーター」として様々な番組に引っ張りだこなご様子。そんな経緯もあってか資金に余裕が出来、昨年遂に、自分名義の田んぼを東京郊外の土地で手に入れた。

 

西木野 真姫(CV:Plie)

国立音ノ木坂学院に所属していたOB。東京で有数の規模を持つ大手総合病院「西木野総合病院」を経営する西木野家のご令嬢。現在は、父親から家督を譲り受け、病院の院長として君臨している。クール&ドライではありつつも、緊急時には素早い判断と早急なオペで幾人もの重症患者達を救ってきた実績を持つ。

 

 

元・浦ノ星女学院スクールアイドル部《Aqours》メンバー

 

黒澤 ダイヤ(CV:小宮有紗)

私立浦の星女学院に所属していたOB。浦の星の元生徒会長。東京の大学へ進学後、地元へ戻り両親から黒澤家の家督を譲り受ける。黒澤家に仕える男達からは「姐さん」と呼び慕われている。強面の男達を従わせる様子から「女帝」と恐れられるが、それは大きな誤解。

 

黒澤 ルビィ(CV:降幡愛)

私立浦の星女学院に所属していたOB。姉・ダイヤが浦の星を卒業した後、姉の跡を継ぐように生徒会長を務めあげた。昔のうゆうゆ口調で気弱そうな面影はなくなってしまったが、油断すると偶に出る。黒澤家の男達からは「お嬢」と呼ばれ慕われている。

 

 

Sainto Snow(セイントスノー)

 

鹿角 聖良(CV:田野アサミ)

鹿角姉妹の姉。口調が丁寧で優しい。AqoursのPVで彼女達に興味を持ち、ライバルとして意識している。現在は実家の店を経営しつつ、株取引等の副業で生活費を稼いでいる。北海道在住のスクールアイドル達の憧れの存在で、偶に気が向いては知り合ったスクールアイドル達に的確な指導や激励を送っている。

 

鹿角 理亞(CV:佐藤日向)

鹿角姉妹の妹。ずば抜けた身体能力とジャンプ力を持っている。姉の聖良と共にSaint Snowに所属していた。常に落ち着きを放つ姉と違い、激情家である。Aqoursに対抗して数年前に北海道を代表するスクールアイドルとなる。

 

 

虹ヶ咲学園関係者・他作品コラボキャラ・その他の人物

 

三船 薫子(CV:日笠陽子)

自分の家の家業に「興味が無い」の一言を残して一人海外へ旅立って行った栞子の姉。「三船財閥の不良長女」と一部の親戚から呼ばれている。偶に気が向いてはフラフラと日本へ戻ってきて、妹の栞子を揶揄って帰っていく。

 

演劇部部長(CV:小山百代)

しずくが同好会と兼任する演劇部の部長。演技、完璧な変装はお手の物。

 

色葉・今日子・浅希(CV:若井友希、桑原由気、川井田夏海)

璃奈のクラスの同級生達。璃奈がクラスメイトに心ひらくきっかけにもなった恩人でもある。色葉は愛のファン、今日子は歩夢のファン、浅希は璃奈のファン。

 

右月・左月(CV:佐々木李子、市ノ瀬加那)

生徒書記を務める双子の姉妹。同好会のメンバー以外で優木せつ菜の正体が中川菜々だと言う事を唯一知っている存在。

 

 





以上になります。

自らの使命に気付き、同好会と協力して目の前の脅威である委員会打倒に向かうランジュの活躍に乞うご期待!因みに私のランジュはポンコツではないぞ。


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5-1「父の言葉」


複数回の延長乗り越え、遂に満を持して最終章第1節、投稿完了です!!

スクスタ本編は完結迄もう2章くらい必要そうですね。

よし、本編よりお先に完結準備に入らせてもらうぜ……!
ごゆるりとお楽しみください。



〇既存キャラ・ステータス更新

鍾嵐珠(CV:法元明菜)
虹ヶ咲学園所属の2年生。香港からの留学生で、実家は香港でも最も勢力を誇る超一流のエリート企業を経営している。その為、昔からの超お嬢様体質でいい意味でも悪い意味でも世間を知らなさすぎるのが欠点。逆にそんなエリートの家系に生まれたこそ持ち合わせる、類まれなる求心力と絶対的なカリスマが持ち味。何でもできるように見られがちだが、実は何かを新しき始める時には自身が納得するレベルまで仕上げる事を忘れない、努力の天才。常に『鐘』家の人間であることを忘れず、権力に溺れず、自身の力を過信し過ぎない。しかし、しっかりしなきゃとは思っていても偶に気が抜けて幼馴染みのシオや他人に甘えがち。本人もそこは直すべきところだと自負している。


アニガサキSS劇場⑪「気象操作、その秘密」

 

侑「穂乃果さん、穂乃果さん!」

 

穂「はいはーい、穂乃果だよー?」

 

侑「穂乃果さんは、気象操作が出来るって話を聞いたんですが、それって本当なんですか!?」

 

穂「えっ・・・・・・?あっ、あー、うん。勿論、出来るよ(あの時の話かぁ~・・・・・・)?!」

 

侑「やっぱり出来るんだ・・・・・・!くうぅっ、スクールアイドルフェスティバルの時に知り合えてれば、もしかしたらあの時の急な雨も・・・・・・惜しい、惜しいなぁ」

 

栞「あ、あのっ、誠に個人的なお願いで恐縮なのですが・・・・・・。実は明日、歩夢さんとの久しぶりのお出かけをすることになりまして・・・・・・出来れば、いいお天気にして欲しいんです!」

 

愛「おおっ、じゃあ愛さんもお願いしちゃおうかな!ソフトボール部の練習試合が――」

 

し「私も実は明日は野外ステージでの演劇がありまして――」

 

穂「ちょ、ちょっと皆!?せめて、せめて一人ずつ!?」

 

侑・栞・愛・し「「「「お願いします、穂乃果さん!!」」」」

 

穂「うわぁぁぁぁぁぁん、助けて祐介~っ!?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

 

祐「やれやれ、穂乃果のカリスマっぷりは相変わらず健在って事か」

 

 「さて、と。ここでお前らには、あの時のリアル天気の子騒動の真相をお話しよう」

 

 「・・・・・・つっても、何て難しい事は何一つない、単純な原理さ」

 

 「穂乃果があの時叫んだタイミング、丁度あの時に偶々通り雨様が止んだ。それだけさ」

 

 「ただ、秋葉原じゃない別の所・・・・・・そうだな確かアメリカ辺りだったか」

 

 「物凄い勢いで降り続いたスコールを引き起こした分厚い雲が、その日突然消し飛んだらしい」

 

 「他にもインド洋から接近しつつあった超大型台風が忽然と姿を消したりもしたそうだ」

 

 「・・・・・・何か平然と凄い事起きてるけど、俺は認めねぇ!認めねぇからなぁ!?

 

海「あの、祐介?貴方は一体、誰に向かって言っているのですか・・・・・・?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「――今まで迷惑ばかりかけて、ごめんなさい!!」

 

「「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」」

 

虹ヶ咲スクールアイドル同好会の皆が顔を揃える中、アタシは彼女達に向かって頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。第三者によって洗脳されていた事を抜きにしても、今回の自分の行いはあまりに無責任なものだった。これしきで許されていいはずない。

だが、それでも。

 

「こんな言葉だけでどうにかなるなんて思ってない・・・・・・けど、アタシは」

「アタシは此処が・・・・・・お台場が好きなの!」

 

上っ面の言葉だけじゃない、ちゃんと自分の心のありのままの言葉を紡げ。別に許してくれなくてもいい、ただこの言葉に込めた誠意が彼女達にもし伝わったのなら、行動で信頼を勝ち得ろ。

 

「同好会の皆が力を合わせて作った、あのスクールアイドルフェスティバルお陰でアタシはもう一度ここに戻って来ようって思った・・・・・・此処でスクールアイドルとして頑張りたいって思った!」

 

今のアタシは、ただ委員会の思惑通りに動く操り人形じゃない。

 

そう、アタシの名前は鐘嵐珠。台湾で有数の、巨額の富を築いた誇り高き『鐘』家の一人娘だ。

 

そんな名高い名家の生まれであるアタシが、長年自分を苦しめて来た委員会の呪縛から逃れたからそれでお終いでは、格好がつかない。10年前に離れてしまったけど、それでもこんな自分をずっと信じて待っててくれたパパの為にも。アタシは必ず、やり遂げなければいけない・・・・・・!

 

「だから、お願い・・・・・・!皆の最後の作戦に、アタシも協力させてほしいの・・・・・・!」

 

もう一度、皆に向かって頭を下げる。すると、そんな様子を見兼ねた果林が。

 

「この子はこう言ってるわけだけど・・・・・・どうするの、皆?」

 

その場にいる皆に聞こえるように。全員の顔を見渡しながら、そう問いかけた。

 

「ま、私は少なくとも反対はしないわ。それに・・・・・・今の貴女なら、少しは信用できそうだもの」

 

「はい、私は何時だって貴女の味方ですよ、ランジュ」

 

「アタシだって!ランランとは、もう友達だからね!」

 

「別にいいんじゃない。けど、足だけは引っ張んないでね」

 

「今は兎に角戦力が欲しい。だから、協力してくれるなら嬉しい」

 

「璃奈さんの言う通りです。今はこの事態の収拾を最優先しましょう、ランジュさん」

 

「別にまだ認めた訳でも許した訳でもないですけど!あくまで一時的ですからね、一時的!」

 

「私達のだけじゃない・・・・・・一緒に守ろう、皆のお台場を!」

 

「そうですね、一先ずはその辺で落とし前を付けて頂きましょうか」

 

「まぁ、今は一刻を争う事態ですからなぁ・・・・・・」

 

「うん、スクールアイドルや私達の学校には罪はないしね。皆で守り抜こう・・・・・・!」

 

「分かった、さっき言った言葉信じるからね、ランジュちゃん」

 

「皆・・・・・・!」

 

果林が、シオが、愛が、ミアが、璃奈が、しずくが、かすみが、歩夢が、せつ菜が、彼方が、エマが、侑が。アタシの言葉に頷き返してくれている・・・・・・厳しい言葉も刺さるが、そこは気にしても仕方がない。今は取り敢えず委員会の手から、同時にママの手からこのお台場を救わなきゃ。

 

「それで?この約2か月間に私達の代理マネージャーになってくれた結は、どう思うの?」

 

そんな風にアタシが心の中で決意を新たに掲げていると、先程の問いに一人だけ答えていなかったユイが果林に質問をされていた。

 

「はぁ・・・・・・皆、やっぱりお人好しだよね。ま、分かってはいたんだけどさ・・・・・・」

「うん、許す許さないは別としても、好きにすればいいと思うよ」

 

「ユイ・・・・・・!」

 

シオのライブを見る前。アタシの心の中に粘り強く居座ろうと抵抗し続けた闇を、完全に抗えない状態まで一時的な封印を施してくれた彼女はやや不服そうな顔をしながらも、アタシの言葉に了承の意を唱えてくれた。

 

――舘結子。アタシがまだ完全な洗脳状態にあった時、シオと同様に、その時のアタシにも信頼されていた虹ヶ咲スクールアイドル同好会のニューカマー。勿論、素の状態のアタシと彼女が話したことなんて一度もあるはずがなく。それでも何故かこう、彼女に対しては同好会の皆とはまた違った心惹かれるものがあるというか何と言うか。要するに、シンパシーみたいなものを感じて赤の他人とは全く思えない。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだ。

 

「・・・・・・因みに、NLNSの皆は?」

 

「これまでの事を思うとあまり歓迎は出来ないが・・・・・・協力してくれるなら有難い」

 

「ま、いいんじゃないの。アサちゃん的にはあんましそこの中華野郎と慣れ合いたくはないけど」

 

「ウチのリーダーが一応了承してることだし、私は問題ないわ」

 

「うんうん、困った時はお互い様だしね!それに、味方が増えるのはいいコトなんだな!」

 

「事態はいよいよ最終局面に御座います。先ずはご助力に感謝を」

 

愛弗防衛勢力”NLNS”。彼等の活動もまた、洗脳されていたアタシや、ママと委員会の土井の野望を食い止める一因となったと聞いた。大敗を期して逃げ帰ってきた委員会の男達曰く、データになかった戦力であるユイの存在に続いて、彼等も出てきたことで近接戦は分が悪すぎた為に急遽現在の主装備であるライオット弾導入に至った理由だとか。

 

兎に角、今回の戦いの中で彼等が同好会側に齎した貢献はかなり大きい。功を焦って同好会メンバー以外を実弾で撃ち殺すという選択をさせなかった詰めの甘い自分を褒めてどうかいいかは微妙ではあるが、少なくとも犠牲者を一人も出さなかったのはことこの状況を見ていると英断としか言いようがない。

 

「NLNS側からも、特に反論なしみたいね」

 

果林がそう言って、次の話題へ移ろうとする。が、アタシは少し引っ掛かる事があったのでその疑問をぶつけてみる事にした。

 

「ねぇ、果林?これで全員だったかしら、誰か一人足りないような気がするのだけれど」

 

「えっ、そうかしら?気のせいじゃない、私は少なくとも全員いるように見えるわよ?」

 

「そうよね、皆?」と一応その場にいる全員に確認を取った果林。それに対し、他の面々は一様に首を横に振り、人数が間違っていない事を果林へ伝える。あれ、おかしいな、アタシの記憶違いだったかしら。それならそれでいいんだけど・・・・・・何か、引っ掛かるなぁ。

 

「じゃあ、各自色々思うところはあるかもしれないけれど。最後の作戦会議と行きましょうか」

 

未だ気になって仕方ないもやもやを抱えたままのアタシの様子を気にしながら、全員の意見を聞き終わった果林が発した言葉で、この場の空気が一瞬にして引き締まる。続いて、果林はアタシにチラリと視線を向けながら再び口を開く。

 

「現状として私達は、委員会の情報は掴んでるし、その委員会と理事長様との間で連携していた貴女の身柄も確保出来た。けど、肝心の理事長さんの狙いは分からず仕舞い」

「そこで質問よ、ランジュ。貴女は理事長さん・・・・・・いいえ、実のお母様の狙いは何か、分かっているのかしら?」

 

「先ずは情報提供をしろ・・・・・・そう言いたいのね?」

 

「まぁ、そう言う事になるわね。何せ、この中では貴女程、今の理事長さんに近い人はいないもの」

 

本当なら。育ての親の不利益になる情報なんて子が言うべき事じゃないのだろうけど・・・・・・色々な事を差し引いたとしても、アタシのママのこれまでの行いは到底看過できるものではない。

だから、此処でアタシが今更ながら味方をする義理は一切ない。今優先すべきは同好会の皆だ。

 

「アタシのママ・・・・・・理事長の目的は、鐘家の現当主になる事よ」

 

「・・・・・・分かってはいたけど、かなりの野心家なのね。で、それが今回の件と関係あるのかしら?」

 

「一見無関係に見えるけどね、実はちゃんと裏で繋がってるの」

「本来なら、今の鐘家の当主はアタシのパパのはずだった。けど、10年前にパパは家から追い出されたわ・・・・・・ママと先代の当主だったアタシの祖父に当たる人によって」

 

鐘家の先代当主、鐘李芳(リーファン)。アタシも詳しい事は知らないが、如何やら今の鐘家が様々な業界を独占していられるのは彼の活躍による恩恵といても過言ではないらしい。そんな家の者達から見たら確実に英雄扱いされる男も、老いを重ね、隠居生活を始めた辺りから段々と性格が豹変。嘗て、自分から手放したはずの権威を今更になって急に取り返そうと躍起になり始めた。この世のありとあらゆるものを制覇しつくした経験が、老体に沁みついた自己顕示欲と共に大きくなってしまったのだろう。

 

「でも祖父は、既に当主として居座れる年齢を越えてしまってる。そこで目を付けられたのがママ」

「自分の息子には愛想を尽かされたけど、ママとは凄く気があったらしくて。だから、当主になる事は出来なくても、当主のアドバイザー的な地位を得るって腹積もりみたい」

 

引退済みの当主という条件付きでなれる特殊な役職で当主程・・・・・・とはいかなくてもそれなりの権力を持つことが出来る。後の事は恐らく、権力を手にして慢心状態のママに上手く口裏を合わせつつ、自分の都合のいい方向に持っていくように仕向けるつもりなのだろう。アタシが委員会に上手い事騙されてすっかり洗脳されてしまっていたように。

 

「要するに、アタシのママが虹ヶ咲(ここ)の理事長に成り替わったのはその前準備ってワケ」

「ま、何方かと言うと一応協力者でもある委員会の土井の目的を、前報酬で達成したかったのよ」

 

「その為だけに皆さんを危険な目に合わせたというのですか・・・・・・度し難いですね」

 

アタシの話を粗方聞き終わって。ママの横暴さというかそう言うものに(同じようなことしてたアタシが言えたことではないかもだけど)呆れかえる同好会の皆の気持ちを代弁するかのように、シオがポツリと呟いた。正直、その気持ちは分からなくもない。

 

「はいはーい。その件について、かすみんからショウランジュに質問でーす」

「何で今までそれに協力的だった人が、いきなりこっちの味方面してるんですかー?」

 

案の定、アタシの事を一番快く思っていないであろうかすみが、そんな意地悪な問いを投げかけてくる。うん、だけど今のアタシならそれに対する答えは勿論。

 

「アタシも貴女達と同じく、此処お台場とスクールアイドルが好きだからよ」

 

この言葉以外に適切な表現を、今のアタシは知らない。だからこそ、きっぱりとそう答えた。

 

「うぐっ・・・・・・そう言われたら何も言えなくなるじゃないですか、ぐぬぬぅ・・・・・・!」

 

「かすみさん、ランジュさんも真剣なんだからそんなこと言っちゃ、めっ!」

 

「しず子ぉ、だってぇ・・・・・・!」

 

駄々をこねるかすみを、しずくが叱りつける。皆の前に行く前にシオから色々聞いたけど、この二人はいつもこんな感じらしくて。このスクールアイドル同好会が今の状態になる前からの付き合いで、同じ一年生同士だったことも相まって、かなり仲が良いみたい。何かいいな、そう言う関係性。

 

「すみません、ランジュさん。説明中にかすみさんが変に突っかかってしまって・・・・・・」

 

「そんな、気にしないでいいのよ、しずく」

「・・・・・・虹ヶ咲の皆には、突っかかられて当然の事を今までしてきたんだもの」

 

「ランジュさん・・・・・・」

 

何かを言いたげな様子のしずくではあったが、敢えてその言葉の先を言う事なく、再び話を聞く体勢を整え、アタシを真っすぐに見つめた。何だろう、1年生だというのに随分と肝が据わっている。この子より年下のミアもそうだが、最近の子はこんなにもある程度の覚悟が出来ている子ばかりなんだろうか・・・・・・アタシもそう年も変わらない内から何言ってるんだって感じだけど。

 

でも、もしかしたら。洗脳されたアタシが唯一見逃していた部の勧誘候補はこの子だったかもしれない。そうね・・・・・・きっと、シオと一緒に暴走するアタシを止めてくれたかも。

 

まぁ、此処でたられば話をしても、既に後の祭りにしかならないのは分かってはいるが。

 

「だからアタシは皆と一緒に委員会とママを止めるわ。何が何でも、絶対に」

 

「へぇ、いい目をするようになったわね、ランジュ」

 

「そして、それが栞子ちゃんの言ってた、本来のアナタなのね」

 

シオが果林や皆にアタシの事をどう説明したのかまでは分からないが。でも、そっか。にへへ、果林に褒められると何だかちょっと嬉しいかも。

・・・・・・って、いけないいけない。アタシとしたことが一層気を引き締めないといけない局面で気を抜いてしまうところだった。直すべきは甘えたな性格ってとこかしら。

 

「だから、これから向かうべき場所についてなんだけど――」

 

「――ね、そこのアナタ達。作戦会議中に急で申し訳ないけれど、少しいいかしら?」

 

アタシが同好会とNLNSの皆に作戦地点と概要を説明しようとすると、公園の入り口側から此方に向かって歩いてくる、スタイルの良い女性が一人。何処かで見たことがある訳でもない、全くの赤の他人。普段ならば人違いかも知れないと彼方側からの指摘があるまで反応しない事にしているのだが・・・・・・その女性の隣で泣きべそを掻きながら連れられていた人物を見て、話しかけられた対象が間違いなくアタシ達である事を理解すると共に。

 

「み゛な゛ざん゛、ずびばぜん(すみません)~・・・・・・!」

 

「「「「「あっ、美岬(さん)(ちゃん)・・・・・・」」」」」

 

アタシが抱いていた違和感が解消された。そうだ、畔美岬。普段からそれなりに存在感はあるほうだとは思うけれど、ふとした瞬間にあまりにも存在感が希薄になりがちな彼女だからこそアタシもその存在を忘れかけていてしまったんだ。無意識下のステルス性能、気を抜けば常に戦いに身を置くプロでさえその存在を途中で見失って痛手を喰らうかもしれない厄介な存在だ。

 

「あっ、そっか。じゃあ、さっきまでランランが気になってたのってミサミサの事だったのかぁ」

 

「仲良くしてる皆の顔なら全部覚えてるはずなんだけど・・・・・・私も忘れちゃってたよぉ~」

 

「あ、あはは~、別に気にしないでいいのよ?あの子偶に影が極端に薄くなるから・・・・・・」

 

「まぁ、発言してる時のインパクトが本体には付属してない欠陥品だからな、親方は」

 

「ちょっ、皆、酷いですよぉ!?Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン」

 

まさに泣きっ面に蜂とはこの事。普通は仲間であるからこそ覚えてなくちゃいけないモノじゃ無いの?それとも交流が深い故の・・・・・・って事かしら。うーん、アタシには理解出来そうにもないわ。

 

「で、用件はそれだけなの?」

 

「フフ、本当ならこのまま返して終わりなのだけれど。そうもいかなくてねぇ」

「アナタ達の作戦に獠も絡んでるって言うじゃない?だから、そこら辺を詳しく聞いておきたくて」

 

都会のスイーパー、冴羽獠。あぁ、時々土井が愚痴を漏らしていた彼にとっての天敵の事ね。裏社会で生きる人々にその名前は広く知れ渡っていて、一度も歯向かいもせずに大人しくしている輩もいれば、一度歯向かって見事なまでにコテンパンにされて、その後は彼の存在にビクビクしながら過ごす輩もいるのだとか。

 

しかし、そんな人物と知り合いと言う事はこの人もまさか裏社会の・・・・・・そんな一抹の不安を抱いたアタシの心配は次の彼女の発言で杞憂となった。

 

「自己紹介が遅れたわね。私は新宿の警視庁捜査一課所属の野上冴子よ、よろしく」

 

「え、マジ?本物の警察・・・・・・?え、でも、何で態々新宿から・・・・・・!?」

 

予想だにもしなかった正真正銘、本物の警察関係者の登場に、アサネは驚きを隠せずにいた。

 

「ところで、この子は・・・・・・アナタ達のお仲間さんよね?」

 

「は、はい。そうです、けど・・・・・・」

 

「見かけた時はびっくりしたわよ、まさか街中の道路をあんなに速度で走行してるのに後続の車と違って何処にも接触したり擦ったりぶつかったりしないんだもの」

「アクション映画の登場人物も真っ青の、凄い操縦テクニックだったわ」

 

「えへへへへ、それ程でも~」

 

だが、サエコは本題に触れるわけでもなく、美岬が委員会の者達とカーチェイスを繰り広げていた時の事を語り出す。この人が一体何を考えているのか、先程から思考が全く読めない。

 

「ま、それでも一応、未成年の上、無免許運転ともなれば当然警察としては取り締まらないとだし」

「現に、貴女達が彼女の車に乗っていた時にここら辺の交通車両が1台もいなくて道路がガラガラだったのは、私達の敷いた大規模な交通規制のお陰でもあるって訳」

 

そこまで言われて漸く気が付いた。そうか、サエコが言いたいことは恐らく、事故を起こさなかったとはいえ、美岬が違反行為したことに変わりはないので、それを見逃す代わりに此方の現在の状況を詳しく知りたい・・・・・・ということなんだろう。TVでよく見る外国の警察とかがよくやる、捜査に協力する見返りとして特定の人物に課せられた刑を軽くするという条件の下に行われる交渉手段だ。

 

「へぇ、日本の警察にしては中々いい方法思いついたじゃん。嫌いじゃないよ、そういうの」

 

「ミア・・・・・・貴女、もうちょっと言い方何とかならないの?」

 

「は?普段から我儘お嬢様っ気全開で発言してるお前に言われたくないんだけど」

 

そして案の定、そう言う交渉術が実際に行われている国の出身であるミアが皮肉交じりの表情でそう答え、それに何となく突っ込みを入れてみたアタシはミアの毒舌を前に敢え無く轟沈した。

 

「美岬は俺達の仲間だ、だから、その交渉には応じさせて貰いたい」

 

一方、そんなサエコの言葉を受けて、淳之介がNLNSメンバー全員の言いたい事を代弁する形で同好会メンバー全員に頼み込んだ。そして、その熱意をいち早く理解した人物はと言うと。

 

「そうですね、美岬さんには移動の際にお世話になりましたし・・・・・・分かりました、説明します」

「皆さんも異論はない、ですよね?」

 

そう言って、同好会の皆の反応を伺う優木せつ菜・・・・・・あれ、せつ菜って髪型こんな感じの三つ編みだったっけ?そもそも眼鏡かけてたっけ?・・・・・・えっ、誰???

 

「アタシも賛成だよー」

 

「はい、やはり今回の騒動はNLNSの皆さんにも御恩がありますので」

 

「うん。所属してる部活は違うけど、皆、大切な仲間・・・・・・!」

 

「μ’sの人達と会えたのも、NLNSの皆がいてくれたお陰だしね!」

 

愛、シオ、璃奈、エマ・・・・・・次々と同好会メンバーが突如現れたせつ菜に少し似ている謎の人物に返答をしていく。えっ、何でみんな何も疑問に思わないの!?

 

「あら、もしかしてランジュは()()に直接会うのは初めて?」

 

「果林・・・・・・何か知ってるの?」

 

「えぇ、勿論。と言っても、今まで散々敵対してたわけなんだから、流石に聞いたことあるんじゃない?ウチの生徒会長の中川菜々ちゃんよ」

 

中川菜々。その名前を聞いてピンときた、そう、彼女があの噂の『鋼鉄の生徒会長』の中川菜々なのね。え、待って、じゃあ猶更何で此処に?そもそもさっきまで端っこの方で何やらごそごそしていたせつ菜は何処に消えたって言うの・・・・・・???

 

「ふぅん、流石のランジュも初見は一発でピンとこない訳ねぇ・・・・・・」

 

「ええっ、何なの果林、その反応は!?」

 

「ふふ、焦らなくてもその内分かるわ。存分に悩みなさい、後輩さん♪」

 

「もーっ、何なのよぉーっ!?」

 

結局、果林は先程起こった出来事にまつわる事実を一向にアタシに話してくれないまま、お茶を濁してしまうのであった。

 

「ええと、そろそろ話を進めてもよろしいでしょうか、ランジュさん」

 

「えっ、あっ、ごめんなさい。えっと・・・・・・生徒会長、さん?」

 

「ふふふっ、そんなに畏まらなくても。同学年なんですから、好きに呼んで頂いて構いませんよ?」

 

「直接会うのは初めてですね。初めまして、普通科2年、中川菜々です」

 

「・・・・・・ランジュよ。よろしくね、菜々」

 

「はい・・・・・・!」

 

噂通りの生徒会長であったなら、アタシが学内で行った行為は当然彼女の逆鱗にとっくに触れているはずでこの通り仲良くは出来ない筈である。その噂が単なる噂であるだけなのか、それとも彼女自身の相当広いだけなのか。少なくとも、今のアタシでは問うことは出来なかった。

 

「ところで、アナタ達の代表は・・・・・・高咲侑、さん、で良かったかしら?」

 

「はっ、はい!」

 

「うふふ、そんなに固くならなくても大丈夫よ。いつも通りのアナタの姿勢で答えて頂戴」

 

それから、侑はこれまでの事件の流れを掻い摘んで、しかして分かり易い様に説明を続けた。無論、サエコが話の途中で何らかのアクションをして侑を問い詰める・・・・・・みたいな尋問に掛ける様な事をせず、時々を相槌を打ちながら、真剣な表情で手元のメモ帳に書き込んでいく作業に徹していて。その姿は、昨今の腐り果てていく一部組織の上層部に見習わせたい姿勢だった。

 

「――・・・・・・って言うのが、今までの経緯と現在の状況になります」

 

「成程ね。良く分かったわ、有難う」

「でも、そうねぇ。獠が早めに動いてるなら、きっと今頃、彼がホシを抑えてるんじゃないかしら」

 

「ええっ、そんなに早くも、ですか!?」

 

「ええ、シティーハンターは一度狙った獲物は逃さない。増してやそれが二度目なら、猶更ね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「――数年ぶりだな。だろ、土井さんよ?」

 

「ちぃっ・・・・・・やはり私の前に立ちはだかるのは貴様か・・・・・・!」

 

お台場にある建物の中で、一際目を引く造形をしているフジテレビ本社。今回の事件を受けてお台場一帯が交通規制により封鎖され、無人となったその建物の屋上で、2人の男が睨み合う。

一人は自分が長年に渡って抱いてきた野望を叶える為に。一人は嘗て果たせなかった因縁に、この場で終止符を打つ為に。

 

「あの時アンタが命乞いをした時に俺は言ったはずだぜ?2度目はない、とな」

 

冴羽獠が土井の返答を待たずにCOLT PYTHON 357MAGNUMを構え、発砲する。

 

――先ずは一発目。威嚇射撃の為、相手の足元に近い場所に態と外す。

 

「威嚇射撃・・・・・・嘗めているのか、冴羽」

 

「嘗めてはいないさ。少しばかり、用心の為の威嚇射撃だ」

 

「アンタほどの人間が、数年前と全く同じ戦法で挑んでくるとは限らないんでね」

 

冴羽は至って冷静に言葉を返す。すると、土井は突然とち狂ったかのように高笑いを飛ばした。

 

「く、くはははははははっ!あぁ、その通り、流石は天下のシティーハンター様だなァ!!」

「貴様にとっては容易い相手の私とて、情け無用の裏社会を生き残ってきた男の一人!」

「最早因縁深き関係と行っても過言ではない貴様との決着を、コイツで付けてやろう・・・・・・!」

 

土井の叫びが屋上階に響き渡った次の瞬間、下の階層に隠れるようにして潜んでいたであろう、黒い大型の飛行物体が冴羽に襲い掛かる。

 

「何ッ・・・・・・『それ』は・・・・・・!?」

 

予想外の獲物の出現に、少しばかりたじろぐ冴羽。

 

彼が驚くのも無理はない。何せ、先程彼に襲い掛かり、派手なプロペラ音と共に、夜のお台場の上空を我が物顔で滑空する。一度対峙したことのある、大量殺戮兵器の名は・・・・・・!

 

「紹介しよう。と言っても、貴様は既にコレと相対した事があるだろうから知っているとは思うが」

「Warfare製の対戦争用大量殺戮兵器『メビウス』。その後継機、『メビウスMk-Ⅱ』だ!!」

 

――『メビウス』。今より数年前に、冴羽が自身のホームである新宿で戦う事になった鋼の大量殺戮兵器。『死の商人』ヴィンス・イングラードと提携したIT企業「ドミナテック」代表の御国真司によって新宿の地へ放たれたそれらの殺戮兵器は、次々と被害を齎すも、冴羽や香、海坊主や冴子らの活躍によって無事に撃墜された(※詳しくは「劇場版CITY HUNTER 新宿PRIVATE EYES」参照)。

 

そして、今相対しているのがそれの後継機とされる『メビウスMk-Ⅱ』だと言う。

 

「それらは末端情報に至るまで俺達が潰したはずだ。どうやってその状態から後継機を作れた?」

 

その事件の解決へ動く最中、『メビウス』は破壊され、それらの情報が詰まったコンソールは外側のジュラルミンケースごと粉々にして二度と使えないようにし、首謀者の御国やヴィンスらもまとめて逮捕したことで実質再開発不可能まで追い込んだ。ならば何故、それに相当するモノを開発することが出来たのか。

 

「フハハ、何も不思議な事はない。これは我々委員会が、裏社会の情報戦に勝利した証だ」

「実を言えば、我々もあの時に実演会の会場に呼ばれていてね。まぁ、幾らヴィンスが入れ込んだ男とは言え所詮は小物も小物。計画は失敗するとみて、敢えて不参加を決め込んだのさ」

「そしたら予想通り、ヴィンスと御国は貴様の手で無様に敗北した!全て、全て予想通りだ!」

 

土井は冴羽の投げかけた問いに丁寧には答えず、代わりに冴羽が出くわした例の事件の渦中に敢えて身を潜めた自分自身の行動を、如何にも最善の方法であったかのように語り、同時に事件の当事者であるヴィンスと御国を小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 

「混迷の裏社会で散り散りになった者達を歓迎し、拡大するのが我が監視委員会の利点」

「さぁ、見てみろ、冴羽!貴様とそのお仲間の相手をするのは、何もこの私だけではない!!」

 

「・・・・・・そういう、事か」

 

土井の言葉に促されるように冴羽が見たものは、フジテレビ屋上から望めるお台場の夜景。いや、それだけではない。その闇夜に紛れて、続々と海上に姿を現し始める無数の所属不明のボート達。そう、土井が委員会で持ちえたコネ全てを使い、世界中のありとあらゆる不法者達を、此処お台場に集結させんとしていたのである。

 

「土井・・・・・・!」

 

「フ、そう焦るな、冴羽。先ず貴様には此処で、この殺戮機械擬きの相手をしていてもらおう」

 

冷酷な笑みを浮かべたまま、土井はパチンと指を鳴らす。すると、何処からか土井が手配していたであろう自前のヘリコプターが屋上へと飛来し、土井はそこから垂らされた梯子に掴まり、その場から逃亡しようとしていた。

勿論、冴羽がそれを逃がす筈もなく、再び彼の銃が火を噴く。だが、その弾は目標の目の前に立ち塞がった『メビウスMk-Ⅱ』によって防がれてしまう。そして、更には向こうの方から容赦のない連弾の嵐が冴羽に襲い来る。

 

「くっ・・・・・・こうも足場が狭くては、あまりにも地の利が向こうにあり過ぎる・・・・・・!」

 

「はははっ、いい、いいぞ!それでこそ態々決戦兵器として引っ張り出してきた甲斐があると言うものッ!」

 

その間に、土井はヘリに乗り込み、屋上からの脱出を試みる。『メビウスMk-Ⅱ』に徹底的にマークされた状態の冴羽にそれを止める手立てはなく、彼は物陰に隠れてそれを見送る事しかできなかった。

 

「もしも、貴様が運良くそれを突破で来たならば。その足でDIVERCITYまで来るがいい」

「今度は最初から万全の準備で、貴様を討つとしよう」

「――待たせたな、冴羽ァ・・・・・・()()()()()()()とシャレこもうじゃないか!!」

 

奇しくも、最終決戦の地としてこれ以上なく相応しい舞台となってしまったお台場。今此処に、彼女達スクールアイドル連合と委員会との最後の戦いの火蓋が切って落とされた・・・・・・!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

一方その頃、野上冴子との交渉が一段落付いたところで、突如侑に呼び出された結子は、菜々と栞子、そして後から来た生徒会の面々にその場を任せ、侑の待つ公園の海沿いの道へと向かう。

 

――歩くこと約数分。視線の先に侑の姿を捕らえた結子は、若干急ぎ足になりつつ歩み寄った。

 

「侑・・・・・・!」

 

「おおっ、意外に早かったね。別にもうちょっとゆっくり来ても良かったんだよ?」

 

「いやいや、事態が事態だし。それに、侑がこうやって私だけ呼び出したってことはあの話でしょ?」

 

「えっへっへー、大正解~」

 

緊迫した状況が迫り行く中、こうしていつも通りのテンションで振舞えているのは、元々のポテンシャルの高さからか、それとも彼女が留学先の地でそれに足る何かを得て成長したからか。何方にせよ、このスクールアイドル部との熾烈な戦いを通して、更にパフォーマンスに磨きがかかった同好会メンバー全員をこれからも牽引していける・・・・・・そんな最高のリーダーへとレベルアップして、彼女は帰って来たのだ。

 

「先ずは、約2ヶ月お疲れ様、結子」

 

「ホントにね。あまりにも色々起こり過ぎて体感5分どころか1年位だったよ」

 

「あはは!うん、分かるよ。同好会の皆といると、時間の感覚が長いんだか短いんだか分からなくなっちゃうくらいに楽しいよね!!」

 

「いやぁ、それだけが原因じゃあないんだけどさ・・・・・・(汗)」

 

振り返れば本当に色々あった。約2ヶ月という長いようで短い時間がこんなにも充実以上に満ち溢れていた事など、私のこれまでの人生の中で全く体験したことがないと言っても過言ではない。

 

「あ、でも、結子はもう同好会の皆のパフォーマンスは一通り見れてるんだよね」

 

「ま、まぁ、一応は・・・・・・」

 

「くうぅぅぅぅぅっ・・・・・・いいなぁ、いいなぁ!!」

 

「わっ、ちょっ!?」

 

そして、パフォーマンスの話になるや否や急にハイテンションになり始める侑。抗えぬ衝動に身を任せてとでも言うべきか、彼女は私の方に思い切り身を傾けて超至近距離で私の目を覗き込んでくる。心なしか、侑の目には特大のハートマークが浮かんでいるように見えた。

おおぅ、気持ちは分かるけどちょい待って、顔が近い近い。

 

「やっぱり人から聞くだけじゃ駄目だ・・・・・・!私も同好会の皆の今のパフォーマンス見たい!!」

 

「ゆ、侑が言えば皆喜んで無条件で見せてくれるんじゃない・・・・・・?」

 

「いや、そこはほら!完成系としてのライブの風景とセットで見たいじゃん!?」

 

「えぇ~・・・・・・じゃ、じゃあ、これまでのライブ映像、動画サイトに投稿してるからそれを見れば?」

 

「うーん・・・・・・それもいいけど、でもでもっ、折角だから会場の雰囲気全部を感じたくない!?」

 

あー、これはアレだね。この件にカタが付いたら、速攻ライブの準備だね。タイトルは・・・・・・えっと、『名誉部長・高咲侑おかえりなさいlive』的な?

 

「それじゃあ駄目だよ!やっぱり私がメイン過ぎるとライブに来てくれたファンの皆が、同好会の皆を純粋に応援できなくなるかもしれないし!」

 

「主人公特有のNT並みの思考読み取り、止めて!?」

 

「あ、そうだ!話変わるけど、結子は推しは誰にするか決まった!?」

 

「話の方向転換、いきなり過ぎじゃない・・・・・・?」

 

ちょいシリアス展開からの急激なギャグパートへの移行。そんな転換も思いのままにやってのける侑はやっぱり凄いなと呆れながら感心している私を他所に、侑が更にヒートアップしていく。

 

「――歩夢は勿論可愛いよね!何かこう、大人しめに見えて凄く感情表現が豊かでさ!何かあるたびに表情がコロコロ変わって・・・・・・そう言うところが可愛いYOー!因みにあの子私の幼馴染みなんだよ、凄くない!?」

 

「――かすみちゃんは何て言うか守ってあげたくなるよね!自分の可愛いを磨くために普段から色々見えないところで頑張ってるところとかさ!同好会の皆が皆凄く可愛いけど、かすみちゃんは何か特別で無敵級で・・・・・・何だか私、かすみちゃん推しになれそう!みたいな気持ちにしてくれたりとか!!」

 

「――せつ菜ちゃん!?いいよねぇ、せつ菜ちゃん!何たって私がスクールアイドルに嵌るきっかけをくれた子だし、大好きを貫く姿勢はかっこいいけどやっぱり可愛くもあって・・・・・・!結子も一回聞いたなら分かるよね、せつ菜ちゃんの曲に必ずと言っていいほど入ってるシャウトは凄いビリビリ来るって言うかさ・・・・・・もう、最高にときめいちゃった!!(オタク特有の早口)」

 

「――愛ちゃんはいつも明るくて元気で、同好会のムードメーカーだよね!愛ちゃんがいるだけで何か周りの雰囲気が凄く明るくなるし!それに、果林さんみたいに意識して作られたわけじゃないと思うけど、あの抜群のプロポーション!あ、駄目だ、さっき聞いた渾身の駄洒落思い出したら急に・・・・・・ぷひゃひゃひゃひゃひゃ!!(軽く呼吸困難)」

 

「――エマさんは包容力が物凄いよね!こっちがお願いしてもないのに時々、優しくギュッとしてくれたりしてその度に癒されるって言うか・・・・・・出てるよね、エマさんからは人口のマイナスイオンが完全に出てるよね!?見える、私も見えるよ、溢れ出んばかりのマイナスイオンが!!」

 

「――璃奈ちゃんには編集作業とか曲作りの時に凄くお世話になってるよ!いやぁ、私ってばPCの専門的な部分になるとてんで駄目でさ。だから、璃奈ちゃんの持ってる技術力は本当凄いと思う!最初はちょっと表情が乏しい子だななんて思ったりもしたけど、ああ見えて凄く表情以上に言葉的な感情の起伏が分かりやすい子で、しかも人懐っこいんだよ!?推さずにはいられないよ!!」

 

・・・・・・とまぁ、こんな感じで。同好会に所属する一人一人の事を語る侑の顔は誰よりも一番輝いていて。こういう話を見聞きするだけで本当にこの虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会という部の中にどれ程彼女の存在が必要不可欠か、嫌が応にも理解できてしまう。

――ついでに、そんな彼女が何らかの理由で同好会からいなくなってしまった場合、現状の同好会がどうなってしまうのかも。

 

「あ、あのさ、侑。そろそろ本題に・・・・・・」

 

「えっ、ああ、ごめんごめん。いやぁ、皆の事になるとついつい話が長くなっちゃうね」

 

「それじゃあ、結子に質問。同好会の皆と一緒に活動して、どうだった?」

 

侑のその言葉に、私はこれまでの皆と過ごした日々を思い返す。

 

侑が帰ってくるまでの約2か月。丸々スクールアイドル活動が出来たかと言えばそうではなかったけれど、それでもこんなにも間近で大好きになったスクールアイドルの現場を見れる立場に付けたというのは、私にとってかなり嬉しい体験だった。

それに、うん。自分ではそれなりに護衛役として自信を持ってはいたけれど、色々な危険から彼女達を守るというのは自分だけでは限りなく不可能な事だと実感したし、所々で私の詰めの甘さが露呈した。悉く辛酸を舐め、それでも抗った日々を一言にまとめるのなら。

 

「勿論、楽しかったよ!」

 

周囲に仲間がいるという事がどれだけ幸せなことか、私はそれを知り得た。同時に、武術を極める為に孤高で我が道を貫くにも限界があると言う事を。

ただ、一人で出来る限界を知ったからこそ。今度は皆と共に高め合って、何れその限界さえも越えていきたいと。適性も可能性も資質さえも越えて、自分自身が嘗て見たこともない景色に同好会の皆となら辿り着けると、そう思った。

 

「だから、私の答えは決まってる」

 

「――侑、私はこれからも皆と一緒に頑張っていきたい・・・・・・!」

 

これが、ほんの一握りのスクールアイドルの輝きを特等席で目にした、今の私の偽らざる気持ち。そして、それを聞いた侑は、やがていつものように無邪気なニッカリ顔で微笑んで。

 

「うん、よろしく、結子。これから一緒に皆の可愛さ、広めていこうね!」

 

最も彼女らしい言葉を述べた後に、私に向かって手を差し伸べてくれた侑。そんな侑の期待に応えるべく、私はその手を握り返し、握手を交わす。

 

――こうして、私こと舘結子は、この場から正式に虹ヶ咲スクールアイドル同好会名誉部長補佐に任命されたのだった。

 

「えっへっへ、これで完全に結子とは同じ穴の狢だね」

 

「よし、それじゃあ皆の可愛さを伝えるために、早速最初の共犯と行ってみよーう!」

 

「共犯って・・・・・・何だか悪いことしてる響きだなぁ」

 

愚痴を垂れつつ、侑と一緒になって笑い合う。出来ればこの時がずっと続けばいい、思わず平和ボケの思考に逃れようとし始めた私の意識は、次の瞬間、一気に現実へと引き戻された。

 

「――ちょっと。こんなところで何してんのよ、アンタ達」

 

不意に、私達の背後からそんなボヤキが聞こえて。驚いて振り向くと、そこにいたのは。

 

「何って見るからに大事そうな話し合いしてたじゃない。もうちょっと位待ってあげたら?」

 

「そうよ、あくまで私達は虹ヶ咲の子達のサポートをしに来たんだから。日程がギチギチでどうしようもないのは分かるけど、そこは貴女のマネージャーさんが頑張ってくれるんでしょう?」

 

「成程、成程ぉ・・・・・・此処がお台場かぁ。じっくり探索したことなかったから、何だか新鮮だね」

 

「うんうん、久しぶりに獠ちんにも会えたし、テンション上がるにゃー!」

 

その人だけでなく、更に続々と後ろから現れる見知らぬ女性達。いや、しかし、この人たちには何処かで見たようなそんな面影を感じる。私が思い出せずに考え込んでいると、その5人の女性達に続いて現れた3人組を見て、彼女達が誰なのか、瞬時に理解できた。

 

「やっほー、ちょっと前ぶりだね、結子ちゃん、侑ちゃん。高坂穂乃果、只今帰還です!」

 

「結局、冴羽さんには一人で大丈夫と追い払われてしまいました。まぁ、予測通りではありますが」

 

「それじゃあ皆、揃ったみたいだしそろそろ行こうか」

 

「「「「「「「「愛弗防衛機構《ムーンカテドラル》、いざ出陣(です)(だ)(よ)!!」」」」」」」」

 

――元音ノ木坂学園スクールアイドル研究部、通称《μ’s》。スクールアイドルの時代を最先端で切り開いた彼女達全員が、遂に此処、お台場の地に集結したのであった。

 

 





さて、如何でしたでしょうか。

スクスタのランジュからいい所だけ取って、オリジナル設定を多少付け加えた私のランジュは可愛いだろう!?

と言う事で、今回の活動報告では、予定通りランジュを語ります。
諸々の事はそこで話すので是非、気になった方は覗いて頂けると幸いです。

次回更新予定の激動の2~3節を経ての、最後に分岐式Epilogue。
一気に駆け抜けますので、よろしくお願いします!!


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5-2「お台場動乱事変」

済みません、予定より遅れました。海色桜斗です。

さて、締め切りの6月ももう残すところ僅か!

現状、ひぃひぃ言いながら頑張ってる作者です。
解説点はオリジナル設定は小説内に記載してあるのと、特に原作と比較するべき場所もないので解説コーナーはありません。

出番が少なすぎたキャラには本当に申し訳ないですが(特に香さんとか)。
動かし方、もうちょい勉強しますか……

新しく始まったPSO2NGSで色々やったり、ウマ娘育成に熱意を注いだりで忙しい身ですが何とか間に合わせたいとは思ってます。ご期待ください。

それとお知らせ。
此処から、クライマックスですんでなるべく読者の皆さんに世界観に浸ってもらう為、今日の後書きと活動報告、そして次回の前・後書きは書かない方向で行きます。
(※SSもネタ切れし申した。次回作まで温存します)

エピローグ完成後にまたお会いしましょう。それでは、どうぞ。



※注釈
最後の侑視点のカタカナ台詞(メール)はデジモンの文字表記にしたかったのですが、そのフォントがなかったので断念しました。侑にはそんな感じで見えてるってことで保管しておいてね。



「よしっ、それじゃあ行こうか、皆!」

 

「「「「「「「「――愛弗防衛機構《ムーンカテドラル》、いざ出陣(です)(だ)(よ)!!」」」」」」」」

 

嘗てない危機がお台場を襲い来ようとする最中、同好会の面々と別行動を取っていた侑と結子は、元《μ’s》である愛弗防衛機構《ムーンカテドラル》の中でまだ出会えていなかった矢澤にこ、絢瀬絵里、西木野真姫、小泉花陽、星空凛の5人とまさかの初対面を果たしたのだった。

・・・・・・勿論、そんな運命的状況を侑が黙って静観していられるはずもなく。

 

「わぁぁぁぁ、μ’sだ、本物だ!!」

 

「ちょ、ゆ、侑・・・・・・!?」

 

「サインお願いします!!」

 

 

その場の興奮と勢いに身を任せ、目の前の8人に向かって色紙を差し出した。

えっと・・・・・・それ、バッグも何も持っていない状況なのに一体何処から取り出したの?

 

「うわ・・・・・・律義にちゃんと8枚あるわね、これ」

 

「はい、出来ればコンプリートしたいので!」

 

うわ、出た。オタク特有のコンプ欲。

 

「流石、侑ちゃんやね。それで、何処に飾るつもりなん?」

 

「はい、部室に飾りたいと思ってます!」

 

是非とも額縁に入れて飾ろう、そうしよう。

 

「別に構いませんが、神棚と一緒に飾るのだけは勘弁してくださいね?」

 

「えっ、駄目なんですか!?」

 

「ええと・・・・・・私のお父上様がそうしていまして。何と言うかその、気恥ずかしさがありますので」

 

説明しとくよ。この世界線のスクールアイドルを娘に持つパパさん達は、大体ドタコンなんだって。

 

「あのー、私達もそろそろ虹ヶ咲に向かったことりちゃん達と合流しないといけないんじゃ?」

 

「大丈夫、走っていけばまあ何とかなるって!」

 

「そんな根性論が通じる人は凛ちゃん以外、此処にいないんだよォ!?」

 

花陽さんと凛さんのショートコントみたいなやり取りが炸裂する。あれ?でも、最初のあの口上で名乗った愛弗防衛機構だか何だかやってるんだから、皆さん現役時代以上の体力をお持ちなのでは?

 

「あら、ちょっとそこのアナタ。もしかして負傷してるんじゃない、大丈夫?」

 

「・・・・・・えっ、私!?」

 

「アナタ以外他に誰にいるってのよ・・・・・・まぁ、いいわ。診せてみなさい」

 

そして私は、今まで侑を中心に話が進んでいた為に、真姫さんに話しかけられた際に直ぐに自分の事を指摘されているとは思いも寄らず、多少テンパってしまった。

 

「あの・・・・・・この場じゃ流石に応急処置くらいしかできないんじゃ?」

 

「まぁ、普通であればね。けど、此処には幸いこの力を実際に知ってる人しかいないから・・・・・・」

 

そう言うと、真姫さんはニジガクの皆と同じように掌の上に紋章(アイコン)のようなものを顕現させ、空いた片方の手で偽理事長との戦いで付いた私の身体の負傷個所に次々と触れていく。

全ての場所を触り終えた彼女は、シンプルなデザインの赤く光る星形の『それ』をぐっ、と握りしめる。

・・・・・・その輝きが真姫さんの手の中で一層強く輝いたかと思うと。次の瞬間には私の腹部の痛みは消え、少し動きづらくなっていた左肩と左脚は負傷前のように軽く、しなやかに動くようになった。

 

「わ、凄い、身体が一気に軽くなった!・・・・・・これが、真姫さんの紋章の力なんですか?」

 

「そう言う風に呼ぶ者かは知らないケド。まぁ、その通りよ」

「でも、それも一時的に治癒しただけだから・・・・・・これが終わったら、また悪化する前に私の病院に来なさい、今度はちゃんとしっかり診てあげるわ」

 

説明が端的すぎていまいち理解できないが、ゲームやファンタジー世界の治癒術みたく万能ではないと言う事だろうか。でも、うん。流石にまだ負傷が酷くて暫らく寝たきり・・・・・・にはなりたくないのでその内お世話になるとしよう。

 

「それと、これについては一切口外しない事。勿論、侑も同じく・・・・・・いいわね?」

 

「はい、一ファンとして守秘義務は守らせてもらいます!」

 

「安心してください、口は堅い方なので」

 

「えぇ、約束よ」

 

何処ぞの某藪医者もびっくりな『神の御手(ゴッド・ハンド)』。現在、真姫さんが携わっている医療界ではそう呼ばれそうな代物ではあったが、あくまで彼女はそれを軽々しく使う事を嫌っている様だ。

 

「さ、結子ちゃんの治療も終わったことだし、気を取り直して虹ヶ咲の皆と合流しよっか!」

 

穂乃果さんの号令を受けて、私達はそのまま、虹ヶ咲スクールアイドル同好会とNLNSの面々と合流すべく足を急がせたのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

一方その頃、同好会メンバー達は――

 

「――ん、取り敢えず現状把握は出来たわ。色々聞かせてくれて有難う、虹ヶ咲の生徒会長さん」

 

「いえ、冴子さん達も態々遠いところから来て頂いて有難う御座います」

 

「ふふ、良いのよ。私達はこれも仕事の一環な訳だし、ね」

 

結子との話し合いの為に一時その場を離脱した侑の代わりに、冴羽と同業者の援護でやって来た冴子へ現状を伝え終わった菜々、そして生徒会メンバー達と行動を共にしていた。

 

「それじゃあ、私は持ち場に戻るから。気を付けていってらっしゃい」

 

「はい、冴子さんもお気を付けて」

 

粗方詳細を聞き終わった冴子は、菜々と虹ヶ咲の面々に別れを告げて、公園内を後にする。彼女を最後まで見送ったところで、虹ヶ咲学園生徒会は直ぐに行動を開始した。

 

「皆さん、急いでください。此処からではあまり猶予はありませんよ」

 

「会長、委員会は我々との最終決戦の地にDIVERCITYを選んだようです、如何致しますか?」

 

「問題ありません。右月さんと左月さんは念の為、逃げ遅れた人がいないかの確認を」

 

「「はい、会長」」

 

会場内で、ここ数ヶ月で身に付いた驚くべき速度の早着替え術でスクールアイドル・優木せつ菜から虹ヶ咲生徒会長・中川菜々へ転身した彼女は、生徒会書記である3年生の右月左月姉妹や他生徒会役員達に指示を出し、迫りくる悪党達に接触することがない様、避難誘導をしていた。

 

「菜々さん、私はどうしたら・・・・・・?」

 

「栞子さんは、NLNSの皆さんと引き続き、同好会の皆さんの警護を」

 

「侑さんと結子さんも直ぐに戻ってきますので、そしたら皆さんでDIVERCITYに向かいましょう」

 

「・・・・・・」

 

生徒会の人間達が菜々の指示で忙しなく動き回る中、その様子を少し離れたところでみていたランジュは、少しだけ躊躇いを見せた後、菜々に向かってこう呼びかけた。

 

「――ねぇ、菜々。この後の目的地、ニジガクにしてもいいかしら?」

 

彼女のこの唐突とも取れる発言に、菜々は眉を顰める。まだ完全に信頼を置かれていないので当然と言えば当然の事。だが、彼女も彼女でそれを覚悟して問いを投げかけたのである。

 

「ランジュさん・・・・・・一応、訳を聞いてもよろしいですか?」

 

「構わないわ。現状、皆には隠し通す理由がないものね」

 

そう言ってから、一呼吸置き、彼女は再び口を開く。

 

「虹ヶ咲の本物の理事長さんから、さっき菜々とサエコと話してる途中で連絡があって」

「アタシのママ、ニジガクにいるみたい」

 

短く、しかしてはっきりと。ランジュは菜々の目を真っ直ぐに見つめてそう言った。

 

「理事長・・・・・・いえ、ランジュさんのお母様ですか」

 

「そ、先に委員会の土井を抑えるのも手だけど、アイツはあのシティハンターに任せましょう」

「それよりも先に、この土壇場に来て功を焦ってるママの方が何を仕出かすか分らないもの」

 

要は優先事項を変えろ、と彼女は言っているのだ。確かに其方の方がDIVERCITY近辺で護衛の者達を大勢配備している土井の元へ真っ先に飛び込むよりも遥かに効率はいい。

 

「ですが、あの人は結子さんでも倒せなかったのですよ?流石に私達だけでは・・・・・・」

 

「あの人が鐘家の人間ならアタシもその一人よ。実力的には大分下だけど、ね」

 

チラリと。ランジュが自分の手を握りしめながら、それを見る。顔には彼女らしくない不安げな表情が影を落としていたが、自身の余りある実力不足を補える方法に一つ心当たりがあった。

 

「でも、ユイと一緒なら何とか出来る、と思う」

「勿論、これはユイが良いって言ってくれればの話だけど」

 

彼女が以前から不思議なシンパシーを感じていた人物、それが同好会名誉部長補佐となった舘結子ただ一人。

 

何故だかは分からない。けれど、ランジュの中では彼女の存在はある意味特別な存在で、きっと洗脳されていた自分でさえも欲していた理由が何処かにあるはず。そうでもなければ、ほぼ同様の立ち位置となる高咲侑だけを放っておくこうとした理由とイコールにはならないだろう。

 

「・・・・・・ランジュさんは、やけに結子さんを意識なさっているんですね」

 

「うん、不思議な事にね。初対面なはずなんだけど、シオとはまた違った懐かしさがあると言うか」

 

――とは言え、栞子と同様に過去に何らかの交流があった訳ではない。だからこそ、真っ先に付き合っていく人々と自分との間にある関係性が気になってしまう彼女の心は、少しモヤモヤとしていた。

 

「って、ごめんなさい、菜々。話が大分逸れちゃったわね」

 

「いえ、構いませんよ」

 

「取り敢えず、ユイの返答次第ではアタシ一人で戦わなきゃいけなくなるかもだけど」

「安心して、虹ヶ咲の皆はランジュが守るわ」

 

本当は、彼女の協力を多少強引にでも取り付けたいところではある。けれど。

 

『そんな事、一介の学生に許される行為じゃない』

 

彼女と初めて一対一で向き合った時の言葉を思い出し、その愚行ともいえる手段はそっと胸の内に秘めた。仮に今そんな事をしてしまえば、彼女の協力を得られないどころか同好会の皆の信頼も二度と得られなくなってしまうかもしれない。それは限りなく苦痛だから。

 

「――おーい、皆ー!」

 

その時。遠くから声が聞こえたかと思うと、此方に向かって大きく手を振る侑と控えめながら同じく手を振る結子の姿が見えた。

 

「あっ、侑ちゃん!おかえり」

 

「おお~、ゆうゆとゆいゆい、知らない間に大所帯になってるねぇ」

 

「侑せんぱーい、こっちですよ~・・・・・・ってよく見たら穂乃果さん達じゃないですか、あれ!?」

 

愛の言葉で咄嗟にその事に気が付いたかすみが嬉しさに悲鳴を上げる。一方で、菜々モードに徹しきっているせつ菜はどうしたものかと凄くアワアワしていた。

 

そんな菜々の姿を見兼ねてか、右月左月姉妹が持っていた通学用バッグから何かを取り出し始め。

 

「「会長、せつ菜さんと交代のお時間ですよ」」

 

「・・・・・・!」

 

マジックショーの消失マジックなどでよく用いられる、縦に伸びる分厚い布製のアレ。如何やら、この書記姉妹はこの場での菜々とせつ菜との入れ替えを、彼女の正体をしならない者達に自分達のマジックによるものだと錯覚させる腹積もりの様だ。

菜々は当然、この策に乗らざるを得ないとかなり強引で春が完璧なフォローを出した二人に感謝しつつ、その中へ身を隠した。

 

「さてさて、遠からん者は音に聞け、近くば寄って物を見よ!」

 

「今から私達姉妹がマジックで会長を家まで送り届け、代わりにせつ菜さんを呼び出します!」

 

二人の掛け声が公園内に響き渡り、周囲の視線が一気に其方へ集まる。事情を知っている同好会の面々と、同好会メンバーからこっそりと事前に情報提供されている(情報提供者は中川菜々本人)NLNSとムーンカテドラルのメンバー達は周囲に悟られない様にこっそりと物知り顔でそれを眺め、事情を知らないランジュとミアが興味津々の様子でそれを見つめた。

 

「行きます、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~・・・・・・!」

 

「「そいやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

「――お待たせ致しました!優木、せつ菜、です!!」

 

バァーーーーーーーーーン!という勢いの良いSEが今にも聞こえてきそうな雰囲気を醸し出しつつ、髪型・衣装共に優木せつ菜へ変貌を遂げた菜々が、特徴的なクソデカボイスと共に布生地の向こう側から姿を現した。

 

「わぁぁぁぁぁ!ねね、淳くん、生徒会の人達のマジック見た?凄かったねぇ!」

 

「この方法、もしかしたら俺達の新しい戦略に使える・・・・・・!?」

 

「いやいや、そんな訳ないでしょうよ」

 

「むべ・・・・・・実に素晴らしい出来栄えのまじっくに御座います、ふんすふんす!」

 

「うぉぉぉぉぉぉ、これは同じエンターテイナーとして負けられません!私も此処で新技披露していいですかっ!?」

 

「止めとけよ、畔さん。新技って言ってもアンタが出来る事なんて精々アナルにフィギュア挿入するとかそういうやつだろ?」

 

タネは分かっていても数名が若干興奮を抑えきれていないNLNS。一方、完全初見のランジュとミアはというと。

 

「えっ、凄・・・・・・何それ、どうやったの!?ランジュにも教えて教えて!」

 

「うわ、うざっ・・・・・・」

 

目にも止まらぬ速さでせつ菜と書記姉妹の元へ駆け寄り、如何にも興味津々と言った様子で目を輝かせながら教えを請おうとしているランジュと、恐らくタネを一瞬で理解出来た為にランジュの様子を遠くから呆れて見つめるミア。二者二様の反応をしていた。

 

「では、早速ですがμ’sの皆さんにサインをッ!!」

 

「あ、それならさっき侑ちゃんからそう言われてしてあるよ?」

 

「大丈夫です、これは個人用ですから!」

 

・・・・・・正直なところ。何が大丈夫なのかは、意味が分からないが。

 

「ええと、右月さんに左月さん。あれで本当に良かったんですか?」

 

「せつ菜さんが良ければ、それで構わないかと」

 

「はい、会長のサポートもせつ菜さんのサポートも出来る。明らかに役得じゃないですか」

 

先程の即興劇に関する栞子の疑問に対して、当事者の二人はにこやかな笑みを浮かべてそう答える。正体を隠しているというのに普段から何かしらやらかしてバレそうになりつつある彼女の全面的なフォローを受け持つ、それが新生虹ヶ咲生徒会の追加業務となっていたのだった。

 

「はい、せつ菜ちゃん。これでいいかな?」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

またもやサイン色紙を託されたμ’sの面々は、特に呆れる様子もなく手慣れた様子でサインを書き込み、代表して穂乃果が全員分の色紙をせつ菜へ渡す。

 

「さぁ、準備は整いました!行きましょう、皆さん!」

 

「敵は、私達の学校に在り、です!!」

 

「ってぇ、何でいつの間にかせつ菜先輩が仕切ってるんですかぁぁぁ!?」

 

すっかりハイテンションになって先導しようとするせつ菜に、かすみ渾身のツッコミが炸裂した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「――・・・・・・つまり、だ。アンタには元々こういう事に備えての手持ちがあったって事か」

 

「ええ、その通り。少々出遅れた感はありましょうが、それも誤差の範囲内、無用の心配ですとも」

 

此処は夜の虹ヶ咲学園校舎内。日はとっくの昔に暮れ、何処の部屋にも明かりは灯っていない。そんな中、とある一室だけ、外部にまるで人がいるぞとでも豪語するように煌々と明かりが照っている。

 

「しかし、先にあの偽理事長の目をこっちに向けさせる為とは言え。目立たせ過ぎちゃねぇか?」

 

「確かに、我々のみでしたらデメリットしかなかったでしょう」

「だが、あのお方には我々以外に決して放置できない存在がいる。そう、実の娘さんがね」

 

男が二人と女が一人。奥の豪華なつくりをした机の椅子に座っている男が虹ヶ咲の前理事長、その部屋の入口の扉にもたれ掛かって理事長を真っ直ぐと見据える男が愛弗防衛機構《ムーンカテドラル》リーダーの長谷部祐介。そして、睨み合う男達を部屋の来客用ソファに腰かけながら何処か不安げな表情で見守る女が、元《μ’s》の南ことり・・・・・・その人だった。

 

「成程、さっきの意味深な電話の相手はあのランジュって言う鐘家のお嬢さんとだったんだな」

 

「ええ。そして、彼女の提案を受けて彼女達は恐らく此処へ向かってくるでしょう」

 

此処ではない、何処か遠くの方角を。両手指を組んだ状態の腕を机上に乗せたまま見やる虹ヶ咲前理事長。彼は一体その瞳の先に何を見据えるのか。

 

「・・・・・・!ことり、こっちに来い」

 

「どうしたの、ゆーちゃ――っ!?」

 

祐介が窓辺の外から見える景色を視界に入れたその時。不意にその近くを横切る何者かの影を捕らえ、急いでことりを傍に来るよう促し、当の本人であることりもその気配を察知して、彼の背後に身を潜める。

 

「間違いない、あの偽理事長様だ。やっぱり先にこっちを・・・・・・!」

 

「どうする、ゆーちゃん」

 

「どうするもこうするもねぇ、飛び込んで来たら返り討ちにしてぶっ叩く。それだけだ」

 

剣でいて何処か不自然にアンバランスな、セバスとの戦いのときにも持っていた彼自身の所有物である大剣を構える。しかし、その状況下においても狙われているはずの身である前理事長は、先程から全く同じポーズのまま微動だにせず、奇妙な程に落ち着き払っていた。

 

「いえ、それはないでしょう。ですから、その特徴的な大剣をどうかおしまい下さい、長谷部君」

 

「何をそんなにのんびりと・・・・・・狙われてんのはアンタなんだぞ」

 

「まぁ、何。あまりそう警戒せずに、御覧なさい」

 

依頼人の言葉だから、祐介はそう自分に言い聞かせ黙ってその場を見送る。すると、どうだろうか。偽理事長・・・・・・基、ランジュ母は明かりが灯っている祐介達のいる部屋には目も暮れず、必死の形相を浮かべて校門の外へと飛び出していった。

――奇しくも、前理事長の言葉通りに。

 

「・・・・・・マジで行っちまいやがったな。一体何だってんだ、あの女は」

 

「恐らく、本国の方で何か動きがあったのでしょう。勿論、彼女に都合の悪い方向に」

 

「何だって、それはどういう・・・・・・?」

 

委員会絡みの事件を幾度となく解決へ導いてきた祐介やことりでさえ、今回の真の黒幕ともいえる彼女の行動がいまいち理解できなかった。そして、それを予め分かっていたかのように推察した前理事長。この男の不可解なまでの先読み能力とその身分に隠した正体すらも。

 

「――時に長谷部君。キミは『十徳の六氏族』という名前を聞いたことはないかね?」

 

「日本の何処かにいて、特殊な協定を結んでるとかいうあの『十徳の六氏族』か?」

 

「流石は《ムーンカテドラル》、良く情報を知り得ている。そう、あの『十徳の六氏族』です」

 

――十徳(じっとく)の六氏族。

時は遡る事、江戸時代中期。都心の江戸を守るため、極めて主要な6つの県境から伸びる膨大な土地を所有する守人の代表格とも呼ばれた家々の直系。その当時の主であった者達がより強固な守りを実現する為、互いに手を取り合って生まれたのが始まり。以降、彼等は間に結ばれたとある協定を守り続け、幕府が存在しなくなった今もこの国の何処かにその末裔達が暮らしているのだという。

 

「何でここでそれが出てくる。今の『十徳の六氏族』には正式な守人はいないんだぞ」

 

「知っていますとも。今ではすっかり衰退して一般の家庭と同じようになっている家もあれば、まだまだその時の財力や権力を残して富を謳歌している家もある」

 

「では、その協定を結んだ6つの家名も、当然把握しているんでしょうな?」

 

「当たり前だ。中川、三船、高咲、冷泉院、天王寺、鐘・・・・・・あぁ、そう言う事か」

 

「フフ、キミの様に勘の良い御仁がいる事は実に有難いね」

 

前理事長が祐介の理解した様子を見て、静かに微笑む。

 

「それは神の気紛れか否か。お台場の、更に言えばその中にある我が校・虹ヶ咲学園に六氏族が揃っているこの状況」

 

「冷泉院以外はな」

 

「・・・・・・えぇ。ですが、その事実は恐らく彼女も理解している事でしょう」

 

「嘗てない不利に見舞われたその状況下で、彼女が死守すべきは古より伝わる《十徳の宝玉》」

 

――十徳の宝玉。前述の『十徳の六氏族』初代当主達が来るべき時の為に絶対的権力者の証として残した秘宝中の秘宝。それを所有する者はどんな圧力にも決して負けない不変の富と名声と力が手に入るとされている。

本来は、時の政権に何らかの不穏や行き過ぎた汚職が発覚した際に六氏族全員の賛同を得る事で正しく世を導ける人物にその役割を託すためのモノ。だが、しかし。

 

「強大過ぎる力は、大きな影を生む。故に、何かに固執し過ぎている者の手にあってはならぬ」

 

それは逆に、一度でも悪人の手に渡ってしまえば取り返しがつかなくなると言う事。一つのミスがお台場だけでなく日本全国を滅ぼすことに成り兼ねないのだ。

 

「では、それを踏まえた上でキミ達《ムーンカテドラル》に正真正銘、最後のミッションを授けよう」

 

「《十徳の宝玉》、これをきっと彼女は持っている。だからこそ、彼女が戦局をひっくり返すべく血迷ってその力を行使する前に彼女を倒し、宝玉を奪還せよ・・・・・・!」

 

「あぁ、任務了解だ」

 

「はい、精一杯頑張りますね!」

 

愛弗防衛機構《ムーンカテドラル》。彼等の長きに渡る戦いに、遂に終止符が打たれようとしていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ユイ、お願いがあるの。聞いてくれる?」

 

「・・・・・・急いでるから、手短にね」

 

場所は再び戻り、有明テニスの森公園付近。公園内からは脱出し、いざ自分達の母校へと足を進めていた時。急にランジュが不安げな表情で私に話しかけて来た。

 

流石にここまで来て、本人の話したいという意思を無碍にしようものなら今度は彼女ではなく私が悪者になってしまう。それだけは避けたかったので、渋々彼女に同意する事に。すると。

 

「学園に付いたら。アタシと一緒に、そこで待ち構えてるアタシのママと戦ってほしいの」

 

次に彼女の口から飛び出したのはとんでもない発言だった。えっ、只でさえ一回ボロ負けしているというのにそんな相手にもう一度挑めと?いやいやいや、無理があるでしょうよ。

 

「とても正気とは思えない提案だけど、一応聞いとく。何で?」

 

「ユイとアタシが力を合わせれば、きっとママほどの実力者でも倒せるはずだから・・・・・・!」

 

視線は痛い程此方に真っ直ぐに向けられ、口も真横一文字にグッと固く結ばれている。少なくとも、洗脳の後遺症的な症状で思考がおかしくなっているとかそういう事ではなさそうだ。私は、彼女の次の言葉を待った。

 

「お願い、ユイ。まだ信じてもらえる段階じゃないかもだけど・・・・・・でも!」

「今のアタシには、ユイが必要なの。だからお願い、力を貸して・・・・・・!」

 

参ったなぁ、何で彼女はそこまで私に固執してるんだか。意味が分からないよ。

 

「ちょっと待った、ショウ・ランジュ!」

 

私が返答に迷っていると。いつの間にか、かすみちゃんがまるで私を守るかのように、私とランジュとの間に立ちはだかって、彼女の発言を遮った。

 

「もしかして、またあの時みたいにユイ先輩を危険な目に合わせる気ですか!?」

 

「違う・・・・・・!アタシは、アタシはユイにそんな事をさせるつもりじゃないわ!」

 

「同じ事じゃないですか!ユイ先輩は、私達の為に何度も身を張って戦ってくれた人ですよ!?さっきだって、せつ菜先輩を守るためにお前の母親と戦う事になってボロボロにされてた!」

「かすみんだって・・・・・・かすみんだって本当は守ってもらってばかりじゃなくて、先輩を守れる位の力が欲しい!なのに・・・・・・お前はまだ、先輩だけを酷使させるつもりですか!?」

 

「ッ・・・・・・!?」

 

私がかすみちゃんを最初に守ってあげた日の時と同じく、彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。身体は小刻みに震え、声は感情的になるあまり、少し荒っぽくなっていて。

彼女の涙で潤んだその真っ直ぐな瞳は、ランジュだけを真っ向から睨みつけていた。

 

「かすみちゃん、流石にそれは言い過ぎだよ」

 

「エマ先輩・・・・・・だって、だってぇ・・・・・・ッ!」

 

「気持ちは分かるよ。でも、ユイちゃんはそれも覚悟して護衛役を引き受けてくれたんじゃないかな」

 

「だったら、先ずはそのユイちゃんの気持ちを、私達が信じて見守ってあげなくちゃ、ね?」

 

そんなかすみちゃんをエマさんが優しく抱き寄せて宥める。全くかすみちゃんったら、大丈夫だからって言ったのに。本当、いい後輩に恵まれたなぁ、私は。

一方、かすみちゃんの本音を真正面から叩きつけられたランジュはと言うと。

 

「――そう、ね。アタシ、ユイに甘えすぎてたんだわ」

 

「・・・・・・」

 

「アタシ、ユイには何か凄く特別なものを感じてるというか。何でか分からないけど、気付いたら何時の間にかそうなってたのよ」

「シオみたいに幼馴染みって訳じゃない。けど、何て言うかその・・・・・・家族、みたいな凄く温かいシンパシーみたいなものを感じてるの」

 

かすみちゃんの私を想う気持ちが痛いほど伝わったのか。唇をキュッと噛み締めながら、彼女はゆっくりと語り出す。彼女が心の奥底で私に抱いていた気持ちを。

 

「ユイはアタシの恩人よ。勿論、ここにいる同好会の皆も、他の皆も」

「絶対に無茶はさせないし、何かあったらアタシが全部責任を取る」

「だからお願い。かすみの、同好会の大切な仲間の、ユイの力が必要なの・・・・・・!」

 

自分へ本心をぶつけに来てくれたかすみちゃんへ。そして同好会の皆に向かって頭を下げて懇願するランジュ。その姿は今まで闇に囚われていた彼女が見せた、彼女自身の、他人に誠意を見せる際の姿勢であった。

 

「そっか。じゃあ、一つだけ質問」

 

「・・・・・・本当に、全部に責任を負うつもりはある?」

 

一介の学生には重すぎてとてもじゃないが一人では背負いきれるはずのない、責任という言葉。普通ならこういう言葉を向けるべきではないのは分かっている。けれど彼女は、ランジュは今、鐘家という自分自身の生まれ育った家の将来の主になるべく存在として私達に向き合っている。故に、その覚悟を無駄にすることはあってはならないはずだ。

 

「勿論。だってアタシは今、その為だけに此処にいる」

「皆とユイには今のアタシの覚悟がどれくらいなのか、見ててほしい」

「それで皆がアタシを認めてくれるなら、アタシは皆と一緒に歩いて行きたい。もしその結果が逆だったとしてもそれが皆の答えなら、アタシは満足して向こうに帰れるから」

 

そう言ったランジュの瞳の奥には、静かな熱意が火を灯していた。あぁ、そう言う事ならば私は。

 

「・・・・・・分かった、今だけはランジュを信じるよ」

 

「うんうん、彼方ちゃんも今の言葉の中にかなりの覚悟を感じたよ。ちょっと見直しちゃった」

 

「はい、ランジュさんの中の確かな大好きの気持ちを捉えました。一緒に戦い抜きましょう!」

 

「ユイ、皆・・・・・・!」

 

彼女の相応の覚悟を認めた私に続いて、彼方さんとせつ菜ちゃんが其々思ったことを口にし、それに倣うかのように他の同好会のメンバーやNLNS、ムーンカテドラルの皆が強く頷き返す。

それを見たランジュは、少しだけ溢れ出した涙を拭い、再び全員を見回し、こう言った。

 

「えぇ、必ずママ達の野望を食い止めるわよ!」

 

「――へぇ、誰が誰の野望を食い止める、ですって?」

 

「――ッ!?皆、下がって!!」

 

刹那。ガキィン、と何かがぶつかり合う音と共に此方に向かって強襲を仕掛けて来た影が一つ。その人物は・・・・・・。

 

「・・・・・・ママ」

 

「まさかここまで情に絆されているなんて。やっぱり、アナタもあの人の血を引くのね、ランジュ」

 

まさに噂をすれば何とやら。私達が目標(ターゲット)にしていた偽理事長・・・・・・ランジュの母親がその場に姿を現した。

 

「漸く姿を見せたわね、大人しく観念しとけってんだ!」

 

その場にいた誰よりも早く、ずっと私達の周辺で偵察をしてくれていた香さんがランジュ母に麻酔弾が装填された銃を向ける。だが、彼女はそれを一瞥したにも関わらず、余裕の笑みを見せた。

 

「その程度の脅しで、この私が怯むとでも?」

 

「はっ、アタシだって伊達にこの仕事長くやってるわけじゃねぇんだ、覚悟しな!」

 

「鐘家当主候補の元妻、鐘悠嵐(ヨウラン)。貴女の罪も此処までよ・・・・・・!」

 

「流石はムーンカテドラル、私の名前を既に知っているみたいで。でも、詰めが甘かったわね!」

 

ランジュ母、悠嵐の叫びに呼応するように。周囲からざっと数百名の委員会の手の者達が街中の物陰から姿を現した。その手には当然、実弾が装填された銃が握られている。

 

「しまった、増援・・・・・・!?」

 

「彼等だけじゃないわよ。今に貴女達の背後から、公園内に到着した支援部隊も追い付く筈」

「流れが変わったわ。反抗組織の貴女達だけじゃない、この場にいる全員、皆殺しよ!!」

 

背後を確認すると、悠嵐の言葉通り、先程まで私達が離脱して無人だった公園内にぞろぞろと人影が増えつつあった。不味い、このままじゃ囲まれる・・・・・・!

 

『ザザッ・・・・・・――せよ、応答せよ、生徒会諸君』

 

思わず焦燥に駆られそうになった、まさにその時。書記姉妹の持っていたトランシーバーから誰かの声が聞こえて来た。通信・・・・・・一体何処から?

 

「はい、此方生徒会書記の左月。用件をどうぞ、オーバー」

 

『あぁ、漸く繋がった。此方、虹ヶ咲特別支援部隊』

『お台場近海に乗り上げた沼津のスクールアイドルを名乗る者達から、支援を得たり』

『彼女達がもう直ぐ其方に到着するはずだ。私の部の大切な後輩、しずくを頼む』

 

「部長!?」

 

トランシーバー越しに聞こえて来たその声に、しずくちゃんが驚愕の声を上げる。何と、通信してきた人物の正体はしずくちゃんが同好会と掛け持ちで所属している演劇部の部長さんからだったのだ。更に、彼女の言うとおりであるならば。

 

「――これでも、喰らえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「「「「「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」」

 

「な、何事ッ・・・・・・!?」

 

理事長のすぐ傍に控えていた委員会の役人達が数名程、突如飛来した凄まじい速度で回転するサッカーボールに吹き飛ばされた。近いとは言い難いその距離から聞こえてきたその声に聞き覚えがあったようで、今度は侑が声を上げる。

 

「果南さん!!」

 

『やっほー、侑。この間ぶりだね』

 

侑の声に反応するように、トランシーバーから先程聞こえたらしき声が響き渡る。そして、それは彼女だけに留まらず。

 

「――超偶像転身(ハイパーエレメント・エヴォリューション)・・・・・・!」

 

「超謝罪案件だろ、これぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

一つの影が公園の方から此方側の空の彼方へ飛翔し、遥か上空から本来の威力と重力を掛け合わせて周辺の地面を叩き割る。再び、侑が反応する。

 

「千歌さん!!」

 

「私達の後輩を虐める奴は許さないぞ~全員纏めて掛かってこぉぉぉぉぉい!!」

 

「千歌ちゃんと果南ちゃん・・・・・・って事は、来てくれたんだね。Aqoursの皆が・・・・・・!」

 

果南と千歌。この二人の名前を聞き、穂乃果さんがあまりの嬉しさに声を弾ませる。

そして、よく見ると港近くに何処かで見たことがある様な白く巨大な船が停泊していた。

 

『視界良好、ヨシ!全弾装填、発射(フォイヤ)!!』

 

『響け旋律、その歌を力に変えて・・・・・・!』

 

『行くわよ!全員、地獄の業火に焼かれなさい・・・・・・!!』

 

『よぉし、マルもそろそろ本気だすずらぁ!』

 

『皆様、お覚悟を。黒澤の名の前に立ちはだかった事、後悔させて差し上げますわ!』

 

『ル、ルビィだって負けないんだからぁ・・・・・・!!』

 

『オハラグループに楯突くなんて、本当に愚かな人達デース!』

 

『自らの地位に溺れし愚民共め――贖罪の準備は出来たか、ならば疾く失せよ!』

 

『お嬢達は地上を頼む。俺達は空の敵を叩く!』

 

『今月はお給料がどんと弾みそうね。いいわ、やってやろうじゃんの!』

 

『あんだとぉ、老いぼれに見えるだぁ?ならその言葉、後悔させてやるぜ』

 

『お台場の全区域、ハッキングしましたー、わーいわーい!』

 

今度は生徒会のものではなく、千歌さんの腰にぶら下がったトランシーバーから様々な声が聞こえてくる。渡辺曜、桜内梨子、津島善子ヨハネ、国木田花丸、黒澤ダイヤ、黒澤ルビィ、小原鞠莉、ギルバート・司=ハウリィ。そして、スパイク、フェイ、ジェット、エドワード。

伝説の沼津のスクールアイドルAqoursと彼女達の護衛役であるスペースカウボーイ達が向こうで知り合った侑の為、このお台場に駆けつけてくれたのだ。

 

「おのれぇ・・・・・・今度はAqoursまでも・・・・・・ッ!?」

 

「追い詰めたつもりが逆に追い詰められたみたいね、ママ」

 

「くッ、高々小娘たちが数人増えた程度で、図に乗るなァッ!!」

 

「ユイ!」

 

「分かってるよ。その代わり、ちゃんと付いて来てよね、ランジュ」

 

悠嵐の繰り出した掌底をランジュはギリギリのところで回避し、背後に隠れていた私がその一撃を弾く。そのまま相手が体勢を崩したところにランジュの技が炸裂した。

 

「鐘家百八奥義・弐拾四の型、絶空拳!!」

 

「うぐっ!?」

 

先ずは腹部に一撃。だが、相手はまだ折れてはいない。

 

「これしきの負傷で・・・・・・ッ!」

 

「きゃあっ!?」

 

「ランジュ・・・・・・!?」

 

相手の素早い立ち回りに翻弄され、ランジュに軽い一撃が入る。次の一撃が来る前に私が先行してそれを受け止める。

 

「ほぅ、少々出来るようになったな、舘家の小娘・・・・・・!」

 

「そりゃあ、自分よりも不利な状況にある子が頑張ってんだから猶更――ねッ!」

 

相手の動きをよく見ろ、よく見た上で今までの経験を活かせば、ギリギリでもやり合える可能性はまだ・・・・・・ある!

 

「悠嵐様、援護を・・・・・・!」

 

「サスケ、お願い!」

 

『ガブッと行くぜ』

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

援護射撃をしようとした一人の足元に歩夢ちゃんが呼び寄せたサスケが飛び掛かり、齧り付く。

 

「くっ、何なのだ、あの蛇は――あがががががががががっ!?」

 

「ふふっ、油断大敵、よ?」

 

『果林さん・・・・・・やっぱり素敵!』

 

その光景に一瞬だけ気を取られた役人が果林さんのローター型ショックガンで気絶する。

 

「無駄な抵抗を・・・・・・ッ!!」

 

「りなりー、行くよ!」

 

『うん、愛さんも気を付けて』

 

『『『やっほー、璃奈(ちゃん)。私達もサポートするよー』』』

 

『浅希ちゃん、色葉ちゃん、今日子ちゃん・・・・・・!』

 

「おおっ、りなりーのクラスメイトちゃん達もいるの?よぉぉぉし、愛さん燃えて来たぁぁぁぁ!」

 

「「「うぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 

璃奈ちゃんと愛さんのコンビがファンの子達のサポートを受けて、一気に数名を吹き飛ばす。

 

「右月さん、左月さん、援護お願いします・・・・・・!」

 

「「ええ、やりましょう、副会長!」」

 

「うがぁぁぁぁぁぁ!?」

 

『おーっす、栞子。2時方向に敵来てるぞー、頑張りなー』

 

「姉さん!?」

 

栞子ちゃんが書記姉妹と通信で割って入ってきた姉の薫子さんの援護を受けながら奮闘する。

 

「しずくスカイブルーハリケーン!!」

 

「ば、馬鹿なァッ・・・・・・!?」

 

『いいねぇ、役者魂にさらに磨きがかかってきたよ、しずく』

 

『じゃ、次は前に教え込んだアレ、いってみようか!』

 

「はい、行きます・・・・・・!」

 

「な、何だ、何をする気だ・・・・・・!?」

 

「せつ菜さん、かすみさん!」

 

「はい、一緒に戦いましょう、しずくさん!」

 

「ったくもー、しょうがないなぁ、しず子は」

 

「「「ミストルティンキーーーーーーーーーック!!」」」

 

「「「「「それ、キックじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

 

しずくちゃんが部長さんの指示を受けながら、せつ菜ちゃんやかすみちゃんと共闘する。

 

「くっ、突撃、突撃ーィ!!」

 

「ほらほら、お兄さん達、頑張り過ぎは良くないよ。彼方ちゃんと、( ˘ω˘)スヤァしようぜ?」

 

「「「( ˘ω˘)スヤァ」」」

 

『わ、本当に寝ちゃった・・・・・・流石お姉ちゃん!』

 

「ふっふっふ~、遥ちゃんのサポートがあれば彼方ちゃんのステータスは10倍になるのだぜぇ」

 

彼方さんが指揮をしていた隊長クラスの役人達を、一瞬にして眠りの淵に墜とす。

 

「はいはーい、マイナスイオン放出~」

 

「な、何をす――ばぶぅぅぅ、ママー!」

 

「はーい、エママだよぉ。よしよーし」

 

「「「ばぶぅぅぅ、ママー!全員がおぎゃれる様に均等に甘やかしてほしいでちゅー!!」」」

 

エマさんは纏ったマイナスイオンを放出する事で、数名を幼児退化させ。

 

「よ、よし、皆が頑張ってるなら私だって!おりゃあぁぁぁぁぁぁ!」

 

『ポコッ』

 

「あんじゃ、おどれぇぇぇぇ!?」

 

「ひぃぃぃぃぃっ、やっぱり無理だったぁぁぁぁ!?」

 

「待てや、コラ――あぁぁぁぁぁぁん!?」

 

「やれやれ、困った名誉部長さんだ。ここはボクに任せなよ」

 

皆の雄姿を見て自分も頑張ろうとした侑が、間一髪の所でミアちゃんに助けられて。

 

「淳、今よ!」

 

「任せろ、孕めオラァァァァァァァ!!」

 

「オラオラァ、自転車でも一応人を撥ねる位は出来るんですよぉぉぉぉぉっ!!」

 

「周囲索敵、後方6時の方角に敵を補足。射撃用意3・2・1、『パァン!』次弾装填」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ、ヒナミ式大回転ガードォォォォ!!」

 

「へっ、非戦闘員だからって戦えないとで思ったかよ。逝けよ、やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「「「「「「「んほぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」」」」」

 

NLNSの皆がそれぞれの持ち場に立ち、様々な道具を使って、襲い来る敵を薙ぎ倒していく。

 

「おのれぇ、次から次へと・・・・・・!北方部隊を呼び戻せ、今すぐに!」

 

「は、はい!此方お台場本支部、北方部隊、応答せよ!」

 

『――はい、北方部隊です。如何なされましたか?』

 

「此方、多数の敵勢力出現により大いに不利!至急、援護を!」

 

『残念ながら、それは応じる事が出来兼ねませんね』

 

「な、何故――ごはっ!?」

 

「――連絡基地の敵勢力、全滅確認。ミッション完了したよ、姉様」

 

『はい、お疲れさまでした。理亞』

 

「全く・・・・・・何で私だけ態々お台場になんていかなきゃならなかったのよ」

 

公園内にて他地域に派遣していた更なる増援を呼び戻す算段が敵側でとられたが、突如そこへ乱入してきた函館のスクールアイドルSainto Snowの鹿角理亞の活躍によって援護要請が叶わぬこととなった。

まぁ、これは後に聞いた話だが、もし仮に理亞がここに来なくとも、既に鹿角聖良と東北のスクールアイドル達によって委員会の北方部隊は全滅していた為、同じ事であったとされる。

 

「ぐぅぅ、嘘よ・・・・・・!まさかここまで来て、こんな小娘共にこの私が負けるなんて・・・・・・!」

 

そして、場面は戻り、私とランジュの戦い。これまで悠嵐は私とランジュの必死の攻防によって既に体力が限界へと近づいてきた様だった。無論、私とランジュもそこまで余裕がある訳ではないのだが。それでも、決着の時は訪れようとしていた。

 

「もう止めよう、ママ。ママは李芳に都合よく利用されてるだけなのよ・・・・・・!」

 

「ふざ、けるな・・・・・・あの男を利用しているのはこの私だァァァァァァァァ!!」

 

「(もう重心が安定してない・・・・・・ママも、ここら辺が限界って訳ね)」

「ユイ、アタシに呼吸を合わせて!」

 

「無茶言ってくれるなぁ・・・・・・しょうがない、行くよ」

 

フラフラになりつつある悠嵐。しかし、彼女は未だ執念をその目に宿らせてギラギラとしていた。

権力と言う名の悪魔に取りつかれた哀れな母親。せめてもの情けだ、此処できっちり終わらせる!

 

「そこだァァァァァ!!」

 

「――幾重にも辛酸を舐め」

 

「ふっ・・・・・・!」

 

「な、何・・・・・・ッ!?」

 

「――七難八苦を越え」

 

「舘家奥義伍の型、掌破絶海断!」

 

「・・・・・・がはァ!?」

 

「――艱難辛苦の果て」

 

「鐘家百八奥義・六十九の――」

 

「「――満願成就に至る」」

 

ランジュと共に精神統一の詠唱を唱え終わり、悠嵐へトドメの一撃を・・・・・・!

 

「「宗家複合秘伝最終奥義・・・・・・烈火天響拳・珠結(たまむすび)!!」」

 

「そん、な――私の、私の野望、が、こんな、ところで・・・・・・」

 

私とランジュの重ねた思いが紋章を通して光り輝く巨大な拳に具現化し、悠嵐をコンクリートの壁へ勢いよく叩きつける。瓦礫が散乱し土煙が舞う中、彼女はゆっくりと此方へ近づいてきたが、やがて力尽きるように地面へと倒れ伏した。

 

「はぁ、はぁ・・・・・・勝った、の・・・・・・?」

 

「多分、ね。ふぅ・・・・・・終わったんだ、これで」

 

気を失ったらしい悠嵐の姿を見て、私とランジュもそのまま地面に横たわる。残り体力の限界ギリギリではあったが、如何やら無事に戦いを終わらせることが出来たようだ。

 

「「「「「「「「「「「「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」」」」」

 

直ぐ近くでは、同好会の皆の歓喜の声が響き渡っていた。

 

「でも、まだ委員会の土井が・・・・・・残ってる、わよ。ユイ」

 

「ははは、今すぐ向かうのは流石にしんどいかも・・・・・・」

 

全員が全員、全力を尽くして戦った為、私達は少しばかりその場で休憩を挟むことに。しかし、皆が揃って休憩に入った次の瞬間。

 

『――ドガァァァァァァァァン!!』

 

あまり遠くにではない場所で、爆発音が鳴り響いた。次第に各メンバー達がその爆発した方角を見てあたふたし始める。

 

「きゃあっ、ば、爆発!?」

 

「い、一体何処から・・・・・・!?」

 

「皆さん、あそこです!アレを見てください・・・・・・!」

 

せつ菜ちゃんの叫び声に呼応して、皆が視線を指さした方向に向ける。すると、その先にいたのは監視委員会の土井が待ち受けているとされる東京DIVERCITY。その広場にお台場を見守るように立っていたユニコーンガンダムが先程爆発した方向にライフルを向けている光景だった。

 

「嘘、何でユニコーンガンダムが・・・・・・!?」

 

『ふはははははっ、やったぞ!遂に!私は、ユニコーンガンダムを手に入れたァ!!』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ユニコーンガンダム

  機械型    ウィルス種    究極体(?)  
      

『機動戦士ガンダムUC』で主人公バナージ・リンクスの搭乗する機体として描かれたガンダムだ。

お台場にあるユニコーンガンダムは等身大なだけで完全な立像でしかないが、

今回は委員会の土井が奇跡の力を逆利用してハッキングし、土井の憎悪によって生まれた邪悪なシステム、SID(スクールアイドルデストロイ)によって強制的に暴走させられている様だ。

使用する武器は、どれも生身の人間が受けるにはあまりにも危険すぎる代物。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

愛のふと呟いた疑問に、答えるような形で土井が周辺のスピーカーをジャックして返答をする。ユニコーンガンダムを手に入れた、だって!?それはどういう・・・・・・!?

 

『行くぞ、SIDシステム、発動!』

 

土井の掛け声と共に、ユニコーンガンダムの装甲が開き、中から赤色に光るサイコフレームが辺りをギラギラと照らし始める。そして、ユニコーンガンダムは方向転換をし、私達のいる方角を向いた。まさか、こっちを攻撃してくるつもりか・・・・・・!?

 

『さぁ、貴様の手で嘗て守り通したモノを、すべてを破壊しろォ!!』

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

Side:侑

 

「あれ、あの光の柱・・・・・・なんだろう?」

 

皆が迫りくるユニコーンガンダムに戦慄している中、私の視界にふと飛び込んできたのはさっきまではなかったはずの遥か上の空の彼方まで伸びる不思議な光の柱。

その柱は、私以外にも誰かが気付けそうなくらい近くにあったが、誰も反応を示さない。如何やら、皆には見えていないみたいだ。でも、何で私だけ・・・・・・?

 

「(もしかして、あのお爺ちゃん先生の秘策があそこにある、とか・・・・・・?)」

 

そうでなくてもこのタイミングで私にだけ見える形で現れたということは、皆をこの状況から救うヒントがあそこに少なからずあるかもしれないと言う事。だったら、私は。

 

「歩夢、歩夢」

 

「ゆ、侑ちゃん、どうしたの・・・・・・?」

 

「ちょっと私、向こうの方に行ってくるね」

 

「えぇ!?だって今こんな状況なんだよ、逃げ遅れちゃうよ!?」

 

「歩夢は心配性だなぁ。大丈夫、大丈夫、直ぐ行って見てきて戻ってくるだけだから」

 

不安げに私を見つめる歩夢に、いつものようにへらへらとした笑みで手を振ると、私はそこに向かって駆けだしていた。

 

「あ、何か落ちてる」

 

光の柱のすぐ近くまで差し掛かった時、その中心部に何かが落ちている事に気が付く。急いで拾い上げると、それは見たこともない黒い色をした携帯機器の様だった。

 

「待てよ、でも、何か見覚えがあるな。これって確か・・・・・・」

 

見つめていると何か自分の中で引っ掛かりを覚えて、私は自分の記憶を順を追って辿り始める。と言ってもあまり記憶力はよろしく無い方なので、非常に断片的ではあるけれど。

 

『おとーさん、これ、なんていうげーむ?』

 

すると、とある記憶の断片に辿り着いた。あぁ、これは確かまだ幼稚園に入って間もない頃の話だ。

 

『これかい?これは父さん達が高校生だった頃に流行ったアニメのグッズでね』

 

『――デジタルデヴァイス、通称デジヴァイスって言うのさ』

 

『でじ、う゛ぁいす?』

 

父さんがその時持っていたのは、水色をした精巧なデザインのモノ。やっぱり、色は違えど形は見れば見るほどそっくりだ。でも、何でこんなところに?

 

「誰かが落としていったのかな・・・・・・?」

 

♪Bolero♪

 

疑問に思っていると、不意に私の携帯の着信音が鳴り始める。

 

「んん?こんな着信音、設定してたっけ?」

 

もしかして、何処かで間違えて操作してたかな、と思い、届いたメールを確認する。そこには。

 

『ハシラノナカニハイッテ』

 

「な、何これ・・・・・・何処の言語?」

 

よく歴史の教科書で出てくる古代文明の古代文字の様な羅列が一言(?)だけ添えられていた。

 

「駄目だ・・・・・・全然分かんないや」

 

考えども考えども、私の中で解読できる問題ではなくて。散々試行錯誤した挙句。

 

「よし、せつ菜ちゃんに聞いてみよう」

 

私達の同好会で成績が飛びぬけていいのはせつ菜ちゃんと愛ちゃんだ。もしかしたら、この文字の羅列も解読できるかもしれない。そう思って、再び皆の所へ戻ろうとすると。

 

「――死ねェ、高咲侑!!」

 

『パァン!』

 

「え――」

 

私の直ぐ近くで、突然発砲音が鳴り響き。頭がグラッと揺れたかと思うと。

 

 

 

 

 

 

――私の意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 



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5-3「終局のオメガ」

「フ、フハハハハハハ!見ろ、お台場がゴミの様だ・・・・・・!」

 

土井がユニコーンガンダムによって炎が燃え広がっていくお台場の景色を眺めながら、顔面を狂気に歪ませる。ただの一度、自らの壮大な計画を破綻させたこの街が。皮肉にも以前に街を守った守護神から矛を向けられ破滅していく様が、この男にはこれ以上ない程に愉快に思えてならないのだった。

 

「さぁ、ユニコーンガンダム!嘗てお前が守ったこの土地に、今こそ反逆の意思を唱えよ!」

 

「――土井、今すぐその兵器を止めろ・・・・・・!」

 

「来たか、冴羽。そうだろうな、あのポンコツ殺戮兵器が貴様に敵うはずもないのは重々承知だ」

 

そんな中、このお台場と言う戦場において再び土井の前に姿を現したのは・・・・・・紛れもない、彼の絶対的な宿敵・シティーハンターの冴羽獠。

 

「悪いが、その相談には乗れんな。何故なら、私はまだ復讐を終えてはいないのだから・・・・・・!」

 

「なら、貴様を今此処で葬って止める。それまでだ」

 

冴羽は彼を睨んだまま、銃口を其方へ向ける。だが、彼はそこで意外にも冷静を装った。

 

「おっと、待て、冴羽。そう焦るな」

 

「この地は私にとっての最終決戦場。故に、貴様が今取ろうとした軽率な行動が、更なる絶望を生んでしまうかもしれんが・・・・・・いいのか?」

 

「何、どういう事だ・・・・・・!」

 

「”アレ”が見えるか、冴羽」

 

そう言って彼は、自らが立つ東京DIVERCITYの屋上の一角を指さす。そこにあったのは。

 

「時限、爆弾・・・・・・!?」

 

「ああ、そうさ。しかも只の時限爆弾じゃあない。アレはほんじょそこらのものより遥かに一級品」

 

「此処お台場だけじゃない、東京中を死の街へと変える・・・・・・原子力爆弾だ」

 

「そして、その爆弾を解除する為に唯一必要な起爆コンソールはあの中にある・・・・・・!」

 

彼が再び場所を変えて指示した方向。それは今まさに虹ヶ咲の面々のいる方角に向かってゆっくりと歩み寄る暴走したユニコーンガンダムの頭部だった。

 

「無論、貴様の銃でも数十発は撃ち込まねば破壊は不可能なようにしてある」

 

「さぁ、どうする冴羽ァ!私を此処で撃ち殺しても、あの爆弾を止めねば意味がないぞォ!!」

 

「くっ・・・・・・!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――最悪な結末は何時も唐突に訪れる。そう、今日もあんな事態になっている時に限って。

 

「死ねェ、高咲侑!!」

 

『パァン!』

 

「え――」

 

「侑ちゃん?――侑ちゃん!?」

 

 

Episode of ランジュ 最終章3節

終局の  オメガ

  

 

歩夢の悲鳴を皮切りに、同好会メンバーが一斉に倒れている侑の元へと駆け寄り、声を掛ける。

 

「そんな・・・・・・侑先輩、嘘、ですよね・・・・・・嘘って言ってくださいよぉ!!」

 

「侑さん・・・・・・どうして・・・・・・!?」

 

「ゆうゆ・・・・・・お願い、目を開けてよ、ゆうゆ・・・・・・!」

 

「侑ちゃん、それは、駄目だよ・・・・・・まだ、侑ちゃんは、おねむする時間じゃないんだよ!?」

 

「侑さん。ねぇ、私、まだ侑さんに、教わる事、一杯、あるのに・・・・・・ッ」

 

「侑さん・・・・・・?そんな、こんな事って・・・・・・!?」

 

「侑ちゃん・・・・・・まだ、まだ私、色んな人の事ポカポカにできてないよ・・・・・・っ!」

 

「ね、ねぇ、侑?また何時もの冗談とかなんでしょう?――・・・・・・ねぇ、何とか言いなさいよ!」

 

「そんな・・・・・・私、まだ貴女にきちんと恩返しできてないんですよ――いいんですか!?」

 

「侑・・・・・・嘘だ、私は一番、大切な人を・・・・・・・守れ、なかった・・・・・・!?」

 

「sit最悪だ・・・・・・」

 

かすみが、せつ菜が、愛が、彼方が、璃奈が、しずくが、エマが、果林が、栞子が、結子が、ミアが。各々が呼びかけるも侑は一向に目を開けてくれない。そんな彼女の頭部からは、べっとりとした血が顔を伝い、頬を伝い、地面へと滴っていた。

 

「嘘・・・・・・侑ちゃん!?ねぇ、しっかりして、侑ちゃん!!」

 

「あ・・・・・・あゆ、む・・・・・・?」

 

「侑ちゃん・・・・・・ッ!」

 

「「「「「「「「「「「「侑(ちゃん)(さん)(先輩)(ゆうゆ)・・・・・・!!」」」」」」」」」」」」

 

だが。歩夢が再び呼び掛けた時、侑の目が朧気に開き、地に伏した腕をゆっくりと上へ掲げた。歩夢は迷わずその手を取り、同好会のメンバー達は次々と声を掛ける。

 

「ご、め――みん、な・・・・・・」

 

「わ、たし・・・・・・もう、うご、けない、や」

 

「ッ・・・・・・何で、何でそんなこと言うの、侑ちゃん・・・・・・!」

 

今の侑の言わんとしている事を理解した歩夢はその事実を否定しようと力強く首を横に振る。しかし、侑はそんな幼馴染みの様子を見て、苦しげに何時もの笑顔を見せた。

 

「えっ、へへ。なん、と、なく――か、るん、だ。も――だって、さ」

 

「侑、もういい・・・・・・もう喋らなくていいから、早く病院に・・・・・・!」

 

「ゆ、い――んね・・・・・・やく、そく、まも、れ、ない」

 

「真姫さん、何とかならないんですか・・・・・・このままじゃ、侑は!?」

 

最後の希望とでも言うべき真姫の方へ顔を向ける結子。だが、真姫は。

 

「最善を尽くしたいけれど・・・・・・ごめんなさい、その状態では、もう――」

 

「あ・・・・・・でき、れば、もう、ちょ、っと――たか、った・・・・・・」

 

「侑!?」

 

「・・・・・・」

 

「侑ちゃん・・・・・?待ってよ、ねぇ、いつもみたいに返事してよ・・・・・・っ!」

 

やがて。侑の辛うじて開いていた虚ろな目は完全に閉じられ、歩夢によって握られていた手が力を失い、彼女の手の中からずるりと下へ滑り落ちた。

 

「嫌・・・・・・嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

2020/9/20(Fri) PM20:16
虹ヶ咲スクールアイドル同好会 名誉部長 高咲侑 死亡

 

 

Side:ランジュ

 

「そんな・・・・・・アタシのせい、なの・・・・・・?」

 

同好会の皆が、ユイが。侑の亡骸を前に涙を流して、蹲る事しかできなくなっていた。その悲痛を極めた光景には《ムーンカテドラル》もAqoursもNLNSも。この場にいる全員が絶望に打ちひしがれるしかなかった。

 

その中で、アタシは怒りに震えていた。何故なら、侑を狙撃し、死に至らせた人物は。

 

「ッ・・・・・・何で。何で侑を撃ったの、ママ!?」

 

他ならぬ、アタシ自身の肉親である人だったのだから。

 

「あっはははははははは、死んだわ!漸く、同好会の、あの、煩わしい小娘が・・・・・・!!」

 

「えぇ、そうよ。そのまま絶望の中で泣き続けているといいわ!どうせすぐにアナタ達全員を同じ場所に送ってあげるから、アハハハハハハハハハハハ!!」

 

この状況下だというのに、仮にも自ら理事長として在籍した学園の生徒を殺めておいて。それでも狂気に染まった光悦の表情で笑い続ける。

 

――あぁ、そうか。この人は。もう、アタシのママじゃない。只の殺人快楽者になってしまったんだ。

 

「ランジュ。アナタ、ほんの少し仲間に加われた程度で調子に乗るんじゃないわよ!当然じゃない、何もかもアンタのせいでこうなったのよ!精々、自身の愚かさを――こはっ!?」

 

「――本当に愚かなのは、ママの方よ」

 

精神を研ぎ澄ます。そして、先程の戦いでユイが見せてくれた戦い方を思い出す。

 

「アタシは、その程度の覚悟で、同好会の皆と向き合ったわけじゃない・・・・・・!!」

 

今のアタシに必要なものはスピードとか勢いなどではない、足りないのは”練度”。一つ一つの技に対する編み込みが全くなっていないのだ。

 

――ならば。

 

「鐘家百八奥義・参拾弐の型、大紅蓮・崩華燕閃!!」

 

「ぐはっ・・・・・・!?」

 

どのジャンルの物事においても、全て()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のがアタシの生まれ持った才能、一つのポテンシャルだ。

 

「鐘家百八奥義・四拾八の型、絶翔炎舞・神樂!!」

 

なら、今この時、その奥義全てをこの人へ打ち込んでしまえばいい。

 

――二度と、アタシと同好会の皆の前に立ちはだかれないように。

 

――二度と、こんな馬鹿げた真似が出来ないように。

 

「鐘家百八奥義・五拾七の型、裂旋紅蓮廻拿!!」

 

技の連続使用による影響か、周辺に巻き起こる突風で上着と髪が暴れ、のた打ち回る。

 

「――五月蠅い」

 

上着をその場で脱ぎ捨て、髪は瞬時に後ろ手に束ねてポニーテールにする。

これで、さっきよりは多少身軽になるはずだ。

 

「はッ・・・・・・げほっ、ごほっ!?奥義、ばかりを、むやみやたらに使っていたら・・・・・・先にアンタの身体が限界を迎えるわよ。そうなっても、いいのかしらァ!?」

 

「構わないわ。だって、今のアタシは皆の為の礎になる覚悟は出来てるんだから・・・・・・!」

 

ユイとの共闘で与えたダメージがまだ残っているはずなのに、あの人はまだ倒れない。まだ足りない、あの人を完全に叩きのめすには、あと何発放てばいいのだろう。

 

「鐘家百八奥義・六拾壱の型、大螺旋・廻廊天舞!!」

 

――身体の奥が、焼けるように熱い。腕や脚に段々と乳酸がたまり、ビリビリとした痺れが動きを鈍くしようとしてくる。だが、まだだ。

 

「鐘家百八奥義・七拾五の型――」

 

「ちッ・・・・・・好き放題、やってくれるじゃない、のッ!!」

 

「しまっ――きゃああああああああああああああああっ!?」

 

次の型を繰り出そうとしたが、思わぬ角度からの反撃を喰らい、数メートルほど吹き飛ばされる。

身体中に、さっきまでの筋肉の痺れと激痛が襲う。ま、だ――諦め、られないんだから・・・・・・ッ!

 

「――ランジュ様」

 

「う、くっ・・・・・・!?」

 

ほんの僅か、ぼそりとアタシの名を呼ぶ誰かの声が聞こえて。アタシの脚と胸部に2発の弾丸が打ち込まれた。弾が飛んできた方角を見ると、そこにはNLNSの中で一番華奢な体をしている儚げな佇まいの少女がライフル銃を構えて此方を見ていた。

まさか、此処に来てNLNSから標的にされたのだろうか。不意にそんなネガティブな考えに辿り着いたが、彼女の発言でそれは杞憂であると思い知る。

 

「ランジュ様より、極度の筋肉疲労と中規模の負傷を確認。それ故、文乃は貴女様の援護の為、増強剤とモルヒネ弾を撃たせて頂きました」

「これで、何もないよりは確実に。貴女自身の命運を賭けた戦いへ、より一層集中なされるでしょう」

 

彼女の言う通り、次第に身体中を駆け巡っていた痺れと激痛が和らぎ、動きやすくなる。

 

アタシはすかさず彼女の目を真っ直ぐに見つめて礼を言う。すると、彼女は。

 

「貴女様の鋼の如き覚悟、しかと見届けさせて頂きました」

「よって、今より我が瞳、豊玉のご加護を貴女様にも。如何様にも、お使いくださいませ」

 

彼女・・・・・・フミノの、全てを見透かされそうな程綺麗な緋色の瞳がアタシを一点に見つめてくる。

最初から退路等ないと思っていたが、如何やら僅か一つだけアタシの心の弱い部分がそれを作り出していたようで。けど、そんな目で見つめられたら、どっちみち絶つしかないじゃない・・・・・・!

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「おのれェ、何処までも小賢しい真似を・・・・・・ッ!」

 

アタシとあの人の拳が真正面から激突する。負けるわけにはいかない、この勝負・・・・・・!

 

「――鐘家百八奥義・八拾参の型、星天絶牙裂砕掌!!」

 

「ぐあはッ――!?」

 

「鐘家百八奥義・九拾六の型、絶破巴大車輪!!」

 

「があァァァァァァァッ!?」

 

あの人が遂に膝をつく。着実に今までの連撃が効いてきている、だったらこれで・・・・・・・っ!

 

「そこ、まで、実の母親に逆らうか――けれど、残念だったわね、私には”これ”がある!!」

 

そう言って、あの人が取り出したのは黄金色に輝く儀式などで用いられているような見た目をした大きな宝玉。しまった、あれは・・・・・・!

 

「フフフフ、その、反応・・・・・・アナタも、流石に知っていた、みたいね」

「そう、これこそ、彼の有名な『十徳の六氏族』に伝わる秘宝、《十徳の宝玉》・・・・・・ッ!」

「これがあれば、貴女の相手を律義にし続けなくても、この私が絶対の権力者になれる!!」

 

――瞳孔の開き切った目で再び高笑いをする、()()()()

”権力”なんて・・・・・・そんな矮小なモノに縋るために、貴女は人であることを止めたというのか。

 

「いい加減、目を覚まして現実を見るといいわ。そんなまやかし程度の術式で、この世の中が全部全部貴女の思い通りになるなんて・・・・・・絶対に、ない!」

 

「よく吠えたァ!だったら試して・・・・・・――何ッ!?」

 

素早い回し蹴りであのヒトの手元からその宝玉を空中へと吹っ飛ばす。そして、アタシはそれをすかさず自分の手中へと収めた。

 

「これがあの伝説の宝玉・・・・・・これ一つの力で莫大な権限を得られる」

 

「どうしたァ、まさかあれ程吹いておいてその秘宝の魅力に取り付かれたかァ?アッハハハハハハハハハハハハ、傑作ね、それは!!」

 

あぁ、耳障り。どうしたらそこまで他人の感情迄、歪んだ思考で読み取った気になれるものだ。

 

「ちょっと、冗談はよしてよ。アタシは、最初から使う為に手に持ったわけじゃないわ」

 

「何ですって・・・・・・それじゃあ何をするつもりよ!?」

 

「何って、こうするつもり」

 

刹那。アタシは自分の手元から宝玉を真上へと投げる。当然、その大きな宝玉は重力に引き寄せられて、真っ直ぐに、アタシの頭上へと落ちてくる。うん、きっとこの判断は間違いなんかじゃない。

 

――アタシは、空に向かって拳を構えた。

 

「まさか、まさかそんな・・・・・・ヤァメロォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

予想通り、あのヒトは取り乱し、鬼気とした表情でアタシへ迫りくる。アタシは迷わず指示を飛ばした。

 

「フミノ」

 

「はい、ランジュ様。麻酔弾、装填完了。狙撃開始まで3・2・1――発射」

 

『パァン!』

 

「■■■■■■■■■■■■■■――こふっ・・・・・・!?」

 

狂気に狂った、元は人であった者。そのヒトの首元に強力な麻酔弾が撃ち込まれ、徐々に生気を失っていくその朧げな瞳の先でアタシは。

 

「鐘家百八奥義・百八の型」

 

「――盛者必衰滅殺拳」

 

今まで使用してきた技と比べると如何せんショボくれてしまうような、たった一発の拳による一撃。

 

だが、その一撃は。様々な者達の偏った力への執念、それを断ち切るには十分な威力。

 

「さよなら・・・・・・ママ」

 

――パキン、と音を立てて。宝玉は無数の細かい欠片となって周囲に飛散し、崩れ去った。

 

 

 

Side:ランジュ END

 

 

 

Side Change:ランジュ→侑

 

 

「・・・・・・」

 

――身体の感覚が軽い。

 

「――ば」

 

さっきまで倒れていた地面の感覚はなくて、何と言うか無重力空間でふわふわと浮かんでいるような、そんな不思議な感覚。

 

「――ってば」

 

同好会の皆の悲しみに暮れる声が徐々に聞こえなくなっていった時とは裏腹に、今度は周囲を認識するための自分の五感が急激に再生を始めて。そして、ふと。誰かの声の様なモノを聞き取った。

 

「――じゃったのかなぁ?」

 

「いや――だけだと思うよ」

 

その声が二つに増えたところで、今まで断片的にしか拾えていなかった聴覚が研ぎ澄まされ、段々とはっきり聞こえるようになってきた。

 

声の感じからして、これは歩夢達じゃないみたい。どうしよう、初対面の人とかだったらあまり積極的に絡んでいけないかも知れない。

 

「(あ、そう言えば・・・・・・)」

 

次に思考回路が冴え渡り始める。直後、私の頭の中に浮かんだのはお台場の町を次第に燃え盛る炎で包み込んでいく、暴走したユニコーンガンダムの姿。

 

「(あぁ、そうだ。あんまり悠長にもしてられないや・・・・・・)」

 

感覚がなくなり、意識が遠のいていくあの瞬間。私は本能的に自分の死を悟った。全てを諦めて真摯に受け止めたい感情とまだ死にたくないという情動が入り混じって、気付いたら此処にいた。

 

「――れ、お主や」

 

もしまだ、私と言う存在があの時に死んでいないのなら。私は、同好会の皆を守りたい。もう一度あの中に入って、私の留学期間中にレベルアップしたという彼女達の輝きを是非、この目で見てみたい。

 

「うぅむ、聞こえんかったかのぅ?これ、そこのお主や」

 

「わっ、は、はい!」

 

呼びかけられていた声が自分へ向けられたものだと悟ると、私は勢いよく返事をし、起き上がった。

 

――重たくなっていた瞼がすんなりと開き、視界が徐々にはっきりとしてくる。

 

「ほっほっほ、如何やら今し方意識が回復した様じゃな」

 

まだ少しぼやけた視界を声の方向へ移すと、そこには年老いた男の人が立っていた。

そのお爺ちゃんの両隣には黄色と水色の不思議な生き物が。もしかして、最初に聞こえてきた声はこの2匹のものだったのだろうか。

 

「良かったぁ、何とか間に合ったみたいだね。ボク、アグモン。よろしくねぇ~」

 

「だから大丈夫って言ったじゃないか。あ、オレはガブモン。よろしくな!」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アグモン

爬虫類型    ワクチン種    成長期 
       

成長して二足歩行が出来るようになった、小型の恐竜のような姿をした爬虫類型デジモン。

両手足には硬く鋭い爪が生えており、戦闘においても威力は凄まじいものとなっている。

必殺技は、口から火炎の息を吐き敵を攻撃する、『ベビーフレイム』。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ガブモン

爬虫類型    データ種    成長期
        

毛皮を被っているが、れっきとした爬虫類型デジモン。

とても臆病で恥ずかしがりやな性格の為、いつもガルルモンが残していったデータをかき集めて作ったモノを毛皮状にして被る事で、周囲の危険から身を守っている。

必殺技は『プチファイヤー』。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「わ、凄い。この子達、やっぱり喋れるんですか?」

 

「当然じゃ。まぁ、中には全く喋れん奴もおるにはおるがの」

 

アグモンとガブモン。あれ、そう言えば一回だけせつ菜ちゃんから聞いたことがあったっけ。確か『デジモンアドベンチャー』?みたいな名前の作品に出てくる架空のキャラクター何だっけか。

えっ、じゃあ、何で今私の目の前にいるの!?もしかして、今流行りの異世界転生!?

 

「おっと、紹介が遅れて済まんの。儂はゲンナイじゃ、訳あって今はこの子達と共におる」

 

「アグモンにガブモン。それと、ゲンナイさん。あ、えっと、私は侑、高咲侑です!」

 

「ユウ、かぁ。えっへへ、いい名前だね!」

 

「ヤマトには負けるけど、カッコいい名前だな」

 

ガブモンが口にしたヤマトという名前の人物に心当たりはないけど。きっと彼にとっては大切な友達だったのかな、私が虹ヶ咲の皆を大切に思っているように。

 

「何だとぉ、名前のカッコ良さならタイチの方が負けてないんだぞぉ!」

 

「いーや、絶対にヤマトの方がカッコいいね!」

 

「絶対、タイチ!」

 

「絶対、ヤマト!」

 

――何だか良く分からないが、2匹の間で口論が始まった。

 

「ほっほっほ。いやいや、度々すまんのぉ。身内のちょっとした事情を曝してしまった」

 

「あ、いいえ、お気になさらず!それに、大切な友達を自慢したい気持ちはよく分かりますから」

 

そう言えば、今頃皆はどうしているのだろう。私は何故かさっきとは全く違う場所にいて。皆はまだ恐らく暴走したユニコーンガンダムが迫ってくる最中でどうしていいか分からなくなってはいないだろうか。仮に転生するとしてもそれだけが心残りだった。

 

「へぇ、ユウにも向こうの世界に友達がいるの?」

 

「うん、皆可愛くてカッコよくて大好きな子達だよ」

 

「そっかぁ、じゃあタイチ達と一緒だ!」

 

ガブモンと口論していた時の剣幕は何処へやら。でも、その何かある度にコロコロ表情が変わる様子が歩夢やかすみちゃんみたいだなと思えて。気付けば、お互いに握手を交わしていた。

 

「あっ、アグモンばっかりズルいぞ!オレも、オレも!」

 

「にへへ、そんなに慌てなくてもしてあげるってば、ガブモン」

 

続いてガブモンとも握手を交わす。あれ、でもさっきの図鑑みたいな説明と性格全然違うな。やっぱり個体差・・・・・・みたいなものがこの子達にもあるのかな。

 

「さて、そろそろ本題に入るとするかの」

 

「本題、ですか?」

 

「うむ。現状、お主の感覚では向こうの世界で自分は死んだものと捉えているだろうが」

 

「違うんですか?」

 

「そうじゃな。お主たちの世界への儂らの干渉が、如何やらギリギリのところで間に合ったようでの」

 

「簡単に言えば、お主は今、此処に魂と精神がデータとして奇跡的に残留する事で生と死の狭間にいる状況な訳じゃ」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

ゲンナイさんから現在進行形で私の今の状態について語られるが、何せ私は今まで現実世界の情報のみで生きてきた人間だ、そんな事を言われても急に理解できる訳がない。

 

「・・・・・・まぁ、そこまで詳しく理解する必要はない。取り敢えずは、現状を軽く説明しただけの事」

 

「結論として、お主はまだ死んどらん、と言う事じゃ」

 

「死んでないって事は、じゃあ、私、皆の所に帰れるって事ですか!?」

 

「うむ」

 

ゲンナイさんのその説明を聞いた私は、喜びのあまりその場で勢いよく飛び上がった。そっか、私まだ死んでないんだ。同好会の皆の活躍を一番近くでまだ見ることが出来るんだ・・・・・・!

 

「とは言え、今のお主の世界は色々と大変なことにもなっておる。そこで、じゃ」

 

「今からお主にそこの2人の可能性の力を分け与える。当然、それを活かして世界の危機に立ち向かうも活かさずに仲間と共に逃げる道を選ぶのも全てはお主に全てがかかっとる」

 

私が、この子たちの力を?でも、可能性の力って一体何?そうやって私が再び理解できずにいると、近くにいた彼等が話しかけて来てくれた。

 

「ユウとユウの友達なら、きっとボク達の力を正しく使ってくれるって、ボク、信じてるから!」

 

「ユウは今まで気付かなかったかもしれないけどさ。オレ達、ずっと此処でユウ達のこと見てたんだ」

 

「だから、オレ達はユウを信じてるし、ユウにもオレ達を信じてほしい!」

 

アグモンとガブモン、2人のその温かい言葉は私の胸に響くものがあったし、何より。2人とは初対面のはずなのに何故か初めて会った気がしなかった。まるで、ずっと昔から姿は見えずとも傍で寄り添ってくれていた・・・・・・そんな気がして。

 

「うん、分かった。信じるって約束するよ、友達だもんね!」

 

「「うん(ああ)!」」

 

2人の返事に呼応するかのように、私と二人の間に紋章のようなものが2つ浮かび上がった。

 

「――ボクからは、タイチから貰った、勇気の紋章」

 

「――オレは、ヤマトから貰った、友情の紋章」

 

「「ボク(オレ)達が信じたニジガサキの皆によろしくね、ユウ!!」」

 

 

 

Side:侑 END

 

 

 

「――あ・・・・・・」

 

「「「「「「「「「「「「「・・・・・・!」」」」」」」」」」」」」

 

それは、偶然に起こった奇跡か。すっかり冷たくなってしまった侑の身体に熱が戻り、心臓が動き出し、全身の血が躍動し始める。地面に横たわった彼女の手が再び同好会の面々の目の前で上へ上へと上がり始め、それを見たメンバー達の目が驚きと嬉しさで見開かれる。

 

――信じられないものを見た、とでも言いたげな目で驚きを隠せずにいる、ムーンカテドラルとAqours、NLNSのメンバー達。

 

――同じく我が目に映った光景を疑いながらも、それをじっと見つめ続けるランジュ。

 

その事態を風の噂で察してか、別の場所で待機していた同じ学園に通う者達が。

 

『まだキミ達の全てを見たわけじゃなかったからね、是非とも見せてくれ、キミ達の可能性の全てを』

 

『早く起きてくれないと、歩夢ちゃんが悲しむよ・・・・・・!侑先輩、負けないで!!』

 

『ウチの栞子が世話になったからね。キミに先に逝かれては返せる恩も返せなくなってしまうよ』

 

『璃奈があそこまで変われたのは、同好会の皆のお陰って事もあるけど。多分一番は侑先輩です』

 

『愛さん達のステージを、また全力で応援したい!だから侑先輩、これからも一緒に応援しましょう』

 

彼等だけではない。その後に続くように、同じスクールアイドルとして繋がった者達の声も。

 

『あの果林さんを泣かせたままにしたら、絶対に私が許しませんからね!』

 

『お姉ちゃんたちにはきっと、侑さんが必要なんだと思います!だから、まだ諦めちゃダメです!』

 

『援護に間に合わなくて済まなかった。だが、俺はお前の可能性を信じてるぜ、侑』

 

『私達、ムーンカテドラルとAqoursとNLNSの皆の想い・・・・・・受け取って!!』

 

これらのメッセージが一気に侑のメールBOXに送信され、最後に。

 

『まだ見てないわよ。だから、貴女がこのアタシよりも同好会の皆に相応しい理由を、見せて』

 

ランジュから届いた文面が届いたと同時に。侑の天に掲げた手と同好会全員の手が握られて、彼女達は光に包まれた。

 

「――なッ・・・・・・何だと!?一体、これは何が起きていると言うのだ!?」

 

「フッ・・・・・・やはり今の主役はキミ達と言う事か。まるで新宿のあの場所の様な、眩しすぎる光だ」

 

有明公園より少し離れたところに突如として立ち上った、大きく太い光の柱。その様子は遠くにいる土井や冴羽の目にも届いた。土井はあまりに急な出来事に戦慄し、冴羽はその光から少し目を逸らしつつも穏やかね笑みでその光景を見守った。

 

『『『『『『侑ちゃん(さん)、私達も戦いに来(まし)たよ・・・・・・!』』』』』』

 

『『『『『『ゆうゆ(侑先輩)(侑さん)(侑)、アタシ(私)(ボク)達と一緒に行(きましょう)こう・・・・・・!』』』』』』

 

『勿論、皆、一緒に戦おう・・・・・・!』

 

――歩夢、せつ菜、璃奈、栞子、エマ、彼方の紋章が輝き、勇気の腕に。

 

――愛、果林、しずく、かすみ、ミア、結子の紋章が輝き、友情の腕に。

 

――そして、侑と彼等と共に立った全ての人の思いが紋章となり合わさって、一体の聖騎士を生み出した。

 

『ほほぅ、まさかあそこまで可能性の力を強めようとは。これもまた、運命かのぉ』

 

『やっぱり、ユウに託して正解だったね』

 

『そうだね。ユウ達なら、きっと上手くやってくれるさ』

 

13の光が全て合わさり、徐々に彼女体を覆っていた光の柱が消えていく。その光が全て消え去った時、”彼”はそこに降臨していた。

 

『『『『『『『『『『『『『――オメガモン!!』』』』』』』』』』』』』

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

オメガモン(Alter-N)

聖騎士型    ワクチン種    究極体
  

ウイルスバスターであるウォーグレイモン・メタルガルルモンが、善を望む人々の願いによって融合し誕生したとされる神々しいオーラを放つ、聖騎士型の究極体デジモン。

ウォーグレイモンの形をした腕には盾と剣が、メタルガルルモンの形をした腕には大砲やミサイルが装備されている。必殺技は、メタルガルルモンの形をした大砲から打ち出される絶対零度の冷気弾で敵を凍結させる『ガルルキャノン』と左腕に付いた無敵の剣で敵を切り裂く『グレイソード』。

更に、お台場に集った全ての人々のスクールアイドルに対する膨大な意思を紡いで誕生した結果、通常形態でありながらX抗体時の必殺技『オールデリート』も使用可能となっているぞ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『オメガモン、だと・・・・・・!?おのれ、忌々しい!さっさと片付けてしまえ、ユニコーンガンダム!』

 

『・・・・・・・!』

 

土井の声に反応し、ユニコーンガンダムが真っ先にオメガモンへ狙いを定める。オメガモンは、右腕の大砲を構え、ユニコーンガンダムへ狙いを定めた。オメガモンが地上から飛び立とうとした時、ランジュは直ぐに足元に駆け寄り、オメガモンとなった皆に声を掛ける。

 

「皆、アタシも連れて行って・・・・・・!」

 

『・・・・・・』

 

「皆の力にはなれないかもしれない・・・・・・けど、アタシにも最後まで、戦わせてほしいの!!」

 

『・・・・・・別に、勝手にすれば』

 

ランジュの必死のお願いに、オメガモンの中から結子がめんどくさそうに返事をする。それを聞いて、ランジュは一瞬だけ嬉しそうに顔を綻ばせると、オメガモンの身体を伝って、左腕の上に乗った。

 

「行くわよ、皆・・・・・・!」

 

『sit、何勝手に指揮ってんだよ、ウザ』

 

「い、いいでしょ別に!というか、何でミアは皆と一緒に合体出来てるの、ズルいわよ!」

 

『まだ完全にお前が認められてないだけじゃない?てか、そんなのどうでもいいからさっさと行くよ』

 

オメガモンが飛翔し、ランジュの紋章が光り輝いて、”彼”の最後のパーツである白と赤のマントが背中から出現する。ユニコーンガンダムの砲撃は外れ、さっきまでいた場所に爆発が起こった。

 

(逃げたりあきらめるコトは 誰も)

 

(一瞬あれば出来るから 歩き続けよう)

 

『ええい、小癪な!貴様らも続け、ドローン部隊!』

 

土井が吠え、DIVERCITYの屋上近くから戦闘ドローンの大群がオメガモンに向かって銃撃を放ちながら突進してくる。一気に数十機程現れたドローンに対してオメガモンは。

 

『ガルルキャノンで、一気に吹き飛ばすわよ・・・・・・・!』

 

果林が声を上げ、右腕の大砲が火を噴く。超強力な冷気弾の爆破に巻き込まれ、あっという間に約半数のドローンが撃墜され、凍結した。

 

(君にしか出来ないコトがある)

 

(青い星に 光が無くせぬように)

 

『馬鹿な・・・・・・たった一撃でこれほどの数を撃ち落とした、だと・・・・・・!?』

 

『まだまだこんなものではありませんよ、オメガモンの力は!!』

 

『うん、こんなチャンス滅多にない。だから、行くよ・・・・・・!』

 

(つかめ!描いた夢を 守れ!大事な友を)

 

(逞しい自分になれるさ)

 

土井は驚愕し、憧れの対象になったせつ菜と璃奈がハイテンションで次々とドローンを撃ち落としていく。

 

『おっとぉ、こっちの存在も忘れちゃいけませんなぁ』

 

その合間を縫ってビームサーベルを片手に突撃してきたユニコーンガンダムを、彼方がグレイソードを展開して受け止めた。

 

(知らないパワーが宿る ハートに火が付いたら)

 

(どんな願いも嘘じゃない きっと叶うから)

 

『無駄な抵抗を・・・・・・!間もなく東京ごと、この街は滅びるのだ!諦めろぉぉぉぉっ!』

 

00:00:20.13 

                 

『『『そんな事、させない・・・・・・!』』』

 

(Show me your brave heart)

 

――振り払い、投げ飛ばし。

 

ユニコーンガンダムがバズーカを放てば、ガルルキャノンで即座に相殺し、此方に向かって真っすぐ突撃して来ようものなら背中に棚引くマントを利用し、回避。追尾型のビーム兵器であるファンネルが起動すれば、迎撃される前にグレイソードで木っ端微塵に叩き落す。

 

00:00:10.28 
   

               

『皆さんと共に戦えるのなら・・・・・・私にとって、これ以上ない程、頼もしい限りです・・・・・・!』

 

『おのれェ、おのれおのれおのれぇーーーーーーっ!!』

 

00:00:09.44 
 

                 

『かすみんだって、全部は守れなくても・・・・・・お台場(ここ)は守って見せますけどぉ!』

 

『ぐうぅっ・・・・・・無駄だと言っているのにまだ分からんか!』

 

00:00:08.37 
 

                 

『決して、決して無駄なんかじゃありません!私達はその先が見たいだけなんです!』

 

『戯言をォ、抜かすなァァァァァァァァァ!!』

 

00:00:07.20 

                  

『貴方が何でそんなにスクールアイドルを恨んでいるかは分からないけど。何もそこまでしなくてもいいじゃないか・・・・・・!』

 

『ハ、その時の流行に流されるだけ流される、そんな貴様らの何処が良いというのだ!』

 

00:00:06.39 
          

        

『貴方も私達のステージを何処かで見たなら分かるはずだよ、スクールアイドルの輝きの凄さが!』

 

『下らんなァ、少なくとも私には貴様らのやっている事は全て児戯に等しく見えるのだ!!』

 

00:00:05.57 
       

           

「皆、多分もうそんなに余裕はないわ!急いで!」

 

『大丈夫、大丈夫!分かってるからそんなに慌てないで、ランラン!』

 

00:00:04.46 
       

           

『止めさせはせん、止めさせはせんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

『視界良好、オールグリーン。皆、このまま突っ込もう・・・・・・!』

 

00:00:03.35 
  

                

『この世界の皆からだけじゃない、あの2人からも応援してもらったんだ。だから絶対に・・・・・・負けられない!!』

 

『この・・・・・・死に損ないの分際でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

オメガモンがグレイソードを構え、ユニコーンガンダムに突撃する。ユニコーンガンダムは盾を構えて頭部に攻撃が届かないようにその攻撃を防ぐ。しかし。

 

00:00:02.10 
     

             

『『――オールデリート、展開・・・・・・!』』

 

『なッ、何だとォォォォォォォォォォォォッ!?』

 

オールデリートを適用したオメガモンのグレイソードにより、ユニコーンガンダムが展開した盾は材質の厚さも強度も関係なく、ソードに触れただけで消滅し、あっという間に目標の頭部がオメガモンの目の前に顕わとなる。

 

00:00:01.08 
   

               

『『『『『『『『『『『『『『――いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』』』』』』』』』』』』』』

 

ほんの一瞬。ザンッ、とユニコーンガンダムの頭部をグレイソードが捉えた音が響き、頭部だけが消滅したユニコーンガンダムはそのまま元々立っていた土台近くに倒れ、動かなくなった。

 

00:00:00.02 
  

                

『ユニコーンガンダム頭部及び起爆コンソール、消滅確認・・・・・・!』

 

『って事は、アタシ達・・・・・・!』

 

「委員会に勝てたってコトね・・・・・・!」

 

オメガモンになった状態で、虹ヶ咲学園へ降り立った13人はその状態が解除されて、元の姿へと戻り。ランジュも混ざる形でその場でお互いに抱き合って14人は喜びを爆発させた。

 

「「「「「「「「「「「「「「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」」」」」」」

 

「これにてはっぴーえんど、に御座います?」

 

「いえいえ、寧ろそれ以外に適切な表現何てありませんとも!やったー、これで晴れやかな気分でミアちゃん達と復刻バーガーを食べることが出来ますぅ!」

 

「あ、その約束生きてたのね。何か色々あり過ぎて忘れてたのだわ・・・・・・」

 

「一時はどうなる事かと思ったけど、皆無事だったんだな、良かったんだな!」

 

「アサちゃん、皆・・・・・・この戦い、俺達の勝利だ!」

 

「いや、兄。それ言ったら死亡フラグだよ」

 

彼女達の喜びを分かち合うその姿を見て、遅れて登場したNLNSの面々も、自分達が勝ち取った未来に嬉しさをブチまけたのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「――何故だ・・・・・・我が長年の野望が、またしてもあんな小娘共に・・・・・・ッ!?」

 

その頃、DIVERCITYの屋上にて。ユニコーンガンダムを撃破され、起動も爆破も出来なくなり只の置物と化した原子力爆弾を見て、絶望に暮れる土井。

 

「さぁね。だが、ただ一つ言える事は、これで漸くアンタの運も尽きたって訳だ」

 

そんな失意のどん底にいる彼に引導を渡すべく冴羽が再び銃口を向ける。ここにも、また一つの因縁にピリオドが打たれようとしていた。

 

「まだだ・・・・・・私はまだ、負けてはいない!冴羽ァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「――あばよ、子猫ちゃん。精々、地獄でのんびりやるといいさ」

 

「そ、んな・・・・・・私が、この、わた、しが――う、うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

冴羽に脳天を貫かれ、体勢を崩した土井は屋上から滑り落ち、すぐ下の地面へ叩きつけられた。

 

その夜、お台場の空に鈍色の光が瞬いたという。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

 

「――うんうん、悪は滅びてこれにて一件落着。そう言う事だねぇ」

 

「駄目だよー、アレク。また変なこと考えちゃあ」

 

土井を始末した冴羽獠がその場を去っていくタイミングで、何時の間にか停止したままにされている原子力爆弾の直ぐ近くに一人の少女が自身のノートPCを膝に乗せて、何かを書き込んでいた。

 

如何やら彼等は、その様子を含めた今までの顛末を、現場から離れた場所で傍観していたらしい。

 

「滅相もない。私は只、私と言うプログラムを開発してくれた貢献者であるアカネ君の為に、起こった事件の全容をプロファイリングしてあげているだけだよ」

 

「えぇー、ほんとかなー?」

 

「勿論だとも。だがそれ以前に、君の作ったAIである私をもう少し信用してほしいものだけどねぇ」

 

如何にも自分達は今回の件に一切関係ないとでも言わんばかりに、二人はニマニマと笑い合う。

果たして彼等は本当に只この場で起きた『お台場動乱事変』を見に来ただけの野次馬だったのだろうか・・・・・・その真相は神のみぞ知る。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「――ユイ、いきなり呼び出してごめんね」

 

今回、実際の現場となったお台場のみならず、東京中に大波乱を起こし兼ねなかった、あの『お台場動乱事変』から数日後。周囲にまだその時の被害は残るものの、今日も今日とて普通に登校日となった虹ヶ咲学園の中庭で、結子とランジュが向かい合っていた。

 

「いいよ、別に。事件が終わった後に話があるって言ってたもんね、ランジュがさ」

 

あれからと言うもの、結子達の通う学校である私立虹ヶ咲学園では色々な人事異動や対策の繰り替えなどがあり、教師陣と生徒会の人員達は朝から晩まで何かと忙しそうに校内を奔走する日々。

 

前述の通り、生徒会が忙しい為、菜々や栞子にはここ数日あまり会えてはいない日々が続く同好会の面々だったが、特にどうする訳でもなく全員が全員、いつもと変わらぬ日常を過ごしていた。

 

「ねぇ、ユイ。侑は、あの後、大丈夫だったの?」

 

「まぁね。真姫さんも言ってたんだけど、頭部を銃撃されたはずなんだけどその痕跡が幾ら調べても全く見つからなかったみたいなんだよね」

 

「ホント、不思議なことってあるもんだなぁ・・・・・・」

 

侑本人曰く、自覚症状的にも何もないから大丈夫だと言っていた。もしかしたら、精神的な面で少し無理をしている所はあるかもしれないけれど、特におかしな様子もなければいつも通り同好会の皆と戯れてニマニマしてる辺り、多分大丈夫なのだろう。

 

「それで、ランジュはスクールアイドル部はどうする事にしたのさ」

 

「もぅ、分かり切ってる事を聞かないでよ。ユイの意地悪」

 

事件の黒幕だったランジュの母親・・・・・・鐘悠嵐はあの後、冴子さん達によって敢え無く御用となり、今は裁判待ちらしい。そして、その活動にある意味で絡んでいたランジュが建てたスクールアイドル部はと言うと。

 

「当然、廃部になったわよ。元々、部員数も足りてなかったしね」

 

そう言ってランジュは、嘗てスクールアイドル部だった部屋をちょっと切なげな目で見つめる。身内で色々な問題を抱えすぎた鐘家は以前の栄光は影も形もなく既に没落貴族となってしまったようで。部室内にあった備品類全て(ミアの私物だった業務機材以外)が取り押さえられてしまった様だ。

 

「部室内のモノだけで足りたの?」

 

「まさか。それだけじゃ足りなかったから、もしかしたら後々お台場の別荘もその為に取り押さえられちゃうかも」

 

彼女が今まで自分の帰る家として使っていた鐘家の別荘が無くなるかもしれない。同時にそれは、彼女が日本に居られなくなるかもしれないという事を指していた。故に。

 

「じゃあ、約束通り・・・・・・ユイに質問ね」

 

「ん」

 

ランジュは、彼女への問いに託そうとしていたのだ。これからの自分自身の未来の顛末さえ変えてしまうかも知れない、非常に重要な選択を。

 

「あ、そうだ。その前に。ユイ、同好会は楽しい?」

 

「んー、そうだね。まだまだ侑に比べたら何てことない活躍ばかりだけど、悪くは無いよ」

 

「そっか・・・・・・うん、なら良かった」

 

彼女もまた今回の事件で傷を負った一人。一応、侑と一緒に真姫に検査してもらったが特に骨や神経に異常は見られなかった様で、この通りピンピンしている訳だ。

 

「じゃあ、今度こそ――ねぇ、ユイ」

 

「何?」

 

「ユイはアタシの戦いぶり見ててくれた?」

 

「そりゃもう。それにしても、一度実技で試したら奥義さえ習得してのけるとか、ホント化け物だよね」

 

「あ、酷い。仮にもアタシも女子なんだから化け物はないわよ、化け物は」

 

「そ、じゃあ訂正しといて」

 

「訂正しといてって・・・・・・それもアタシの仕事なワケ?全くもぅ・・・・・・」

 

一時的にランジュを避けようとも考えた結子であったが、寧ろランジュの方がそれをさせない勢いで絡んでくるのでもう考えるのを止めたそうな。

 

「じゃあ、その戦いぶりを見て、さ――貴女は、アタシも一緒にいていいと思った?」

 

「ねぇ、正直に聞かせて。貴女の答えを」

 

 

 

 

 

 

 

・勿論、一緒に行こう(Epilogue Bへ)

 

 

・ごめん、一緒には行けない(Epilogue Aへ)

 

 

 

 

 

 

 



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Epilogue「最後に、彼女は掴み取る」
EpilogueA「償うというコト」


おや、此方を選びましたか。

成程成程、つまり諸君はそういう奴なんだな(エーミール風)。

ま、どっち選んでもいいんですけどね!
短いですが、お楽しみください!

それと、最後まで見て下さってありがとうございました!!


――ガヤガヤガヤガヤガヤガヤ

 

「えっ、嘘、○○ちゃん!?ヤダもう、変わらなーい」

 

「おいおい、あそこにいるの○○○じゃない?ほら、あの有名な・・・・・・」

 

「マジかよー、めっちゃ美人になってんじゃん。何とかして口説けねぇかなwww」

 

「おいおい。出たよ、コイツの悪い癖。お前もう彼女いんじゃーんwww」

 

あのお台場全土を巻き込んだ重大事件、『お台場動乱事変』より数年後。

あの時の傷跡も既に修復が終わった現地・お台場で開かれたとあるパーティ会場では沢山の人々が何らかの集いで大勢が喧噪に混じって集まっていた。

 

一方、そんな只々騒がしいだけのパリピのいる会場とは打って変わって。隣の某ビュッフェ会場内。

 

普通に利用するだけでもそれなりにお高いそのビュッフェにて、会場内全てを貸し切って盛大に同窓会を祝うその会場に、彼女達はいた。

 

「おおっ、りなりー!久しぶりだね~、ところでさ、髪、伸ばしてるの?」

 

「久しぶり、愛さん。ううん、これは暫らく切りに行けなかっただけ」

 

「そっかー。あ、じゃあ、髪切るの、愛さんに任せてみない?こう見えて美容師免許持ってるんだ」

 

「流石、愛さん。何でもできる」

 

「あっはは!褒めても何も出ないぞぉ~ほれほれ~」

 

「わーーーー」

 

先ずは宮下愛と天王寺璃奈。

 

愛は現在、人材派遣会社のエースとして色々な職場を渡り歩き、日本各地を転々としながら、忙しい日々を過ごしている。彼女の腕は嘗て「部活棟のヒーロー」と呼ばれていた頃と何も変わる事はなく、その経験が生きて今や持っている資格はかなり有名なモノから凄くマイナーなものまで幅広いのだという。

 

対して璃奈は現在、自分で創設したベンチャー企業の代表取締役。主にPC等の高等技術などを用いて色々な新製品を開発・販売する。因みに彼女が美容院に行けずじまいだった理由は、先月発売したばかりの『璃奈ちゃん謹製ドリンクΞ』、通称『リナドリΞ』があらゆる世代に爆発的に売れてしまい、生産が追い付かなかったせいもあるのだとか。

 

「という訳で、そんな売れ行き絶好調のリナドリΞを特注品扱いの箱で持ってきた、飲んで」

 

『ドン!!』

 

「えぇ・・・・・・こんなに?」

 

「美味しいよ」

 

「おほーっ、リナドリΞはっけーん!いただきまーす、ゴクゴクゴクゴク・・・・・・!」

 

「わっ、誰かと思ったらカナちゃんか。びっくりしたー・・・・・・」

 

「びゃあぁあ、ゔま゛びぃぃぃ~!!」

 

お次はこのどこぞの飲兵衛みたくなっている近江彼方。彼女は、数年前までとある会社の正社員勤めだったがゆるふわが足りないという良く分からない理由で脱サラし、そのまま複数のバイト先を掛け持ちするバイト戦士へジョブチェンジ。普通に働いている時よりも合計すると給与はかなり稼げるらしいし、休日もそれなりにあるので本人曰く、自分に向いてるのだとか。

 

「もー、カナちゃんってば。夜勤直後だったんなら、もう少し遅く来ても良かったんだよ~?」

 

「うるせぇ、飲む!」

 

「彼方、本当に大丈夫?さっきから言動が何処かの海賊王みたいになってるけれど」

 

「おぉーっ、カリンじゃん。元気してたー?」

 

「あら、愛。久しぶりね。勿論、私は通常運転よ」

 

朝香果林。高校の時にやっていたモデルの仕事の経験から、本格的なモデル業の道へ進み始めた。高校時代から既にかなりの人気を博していたが、数年前からその美貌に益々磨きがかかってきたと大絶賛。今や雑誌やテレビ、新聞などで彼女の姿を見かけない日はないとまでされる。

 

「ふーん、じゃあその通常運転の人はここに来るまで何本道を間違ったのかな?」

 

「あ、エマさんだ。いつも果林さんのお世話、お疲れ様」

 

「わ、璃奈ちゃんだぁ~!久しぶりだね、会いたかったよぉ~!」

 

「ちょっと、エマ!それは言わないでって約束したじゃない・・・・・・」

 

「別にここでなら変に遠慮したりカッコつけたりする必要、無いでしょ?」

 

「それは・・・・・・そうだけど」

 

エマ・ヴェルデ。本国スイスに戻って職を探すことも出来たが、プロのモデルを始めた果林の元マネージャーでそれなりの交友関係を気づいていた友人から「彼女の世話は私には無理」と泣きつかれ、急遽マネージャー職をする事に。普通ならそういう系の仕事なりの学習は積んでおくべきなのだろうが・・・・・・学生時代に果林の身の回りのお世話係を担当していた事もあって、今のところは難なく仕事を熟せているらしい。

 

「いやぁ、でも、エマちゃんは実際凄いと思うよー」

 

「彼方ちゃん?」

 

「フツー、マネージャーさんっていうのは担当する人の周辺までは流石に世話しないんだけど、エマちゃんは通常業務+果林ちゃんのお世話をやってのけるから強いのさ」

 

「えぇー、そうかなぁ?私なんてまだまだだよー」

 

「えっ、果林さんってまだそんなに手間がかかるんですか!?」

 

「おおっ、しずくちゃんも来たねぇ。ささ、こっち来て一緒に話そうぜぇ?」

 

桜坂しずく。彼女は学生時代に言っていた通り、スクールアイドルを3年間やり遂げた経験を活かし、彼女が望んだ舞台女優としてのデビューが即座に決定した。見るものすべてをその作品の世界へと誘う彼女の特筆すべき表現力の凄さは芸能界で長年仕事をしてきた者達すら戦慄させ、今や大注目のトップスタァとなっていた。

「しずくちゃんはやっぱり大人気。私も、この前かすみちゃんとサイン会行ってきた」

 

「ふふっ、この前はありがとう、璃奈さん」

 

「どういたしまして。あれ、そう言えばかすみちゃんは?」

 

「うぐぅ・・・・・・しず子ばっかりズルい~!!」

 

「かすみんだって、かすみんだってもっとデビューが早かったらぁ~っ!!」

 

「もぅ・・・・・・・かすみさんは相変わらずなんだから。よしよし」

 

中須かすみ。彼女は予想通りと言うか想像通りと言うか、高校卒業後、すぐに本格的なアイドルを目指して修行を開始。当然直ぐにデビューとはならなかったが、数年の努力が実を結び、昨年に漸くデビューを飾り、爆発的ではないものの、大勢のファンを従える立派な愛され系ソロアイドルとなったのだった。因みに、下積み時代の彼女を支えたのは、嘗て大銀河宇宙№1アイドルとして世間を圧巻した矢澤にこであったらしい。

 

「かすみちゃんのCD、欠かさずに買ってるよ。次の曲も楽しみにしてるね」

 

「り゛な゛子゛~あ゛り゛がどゔぅぅぅぅぅ!」

 

「おぉっ、かすかすじゃん!元気してたー?」

 

「んもぉぉぉぉっ、かすかすじゃありません!かすみんですぅぅぅぅぅっ!!」

 

「・・・・・・そう呼ばれて起こる辺り、やはり相変わらずの様ですね、かすみさん」

 

「しお子、何時の間に!?」

 

「あ、栞子ちゃん。久しぶり」

 

「はい、お久しぶりです璃奈さん。ふふっ、何だか懐かしいですね」

 

三船栞子。彼女は事件の後も生徒会副会長を務め、その当時の会長・中川菜々が3年生となり会長としての任期が終了し会長職を降りた事を機に、彼女の後押しもあり、以後2年間無事に会長職を務めあげた。その経験あってか、姉・薫子の代わりに三船財閥を継いだ彼女はその敏腕っぷりで職場に長く務める重鎮達をも認めさせる才能を発揮しているようだ。

 

「ここ数年で皆いろいろ忙しくなっちゃったから、会う機会が滅多になくなっちゃったもんね」

 

「そうですね。ですが、こうして皆さんと久々に顔を合わせられて、嬉しい限りです」

 

「あ、栞子ちゃんだ!それにかすみちゃんと璃奈ちゃんとしずくちゃんも!おーい!!」

 

「侑さん、歩夢さん・・・・・・!」

 

「久しぶりだね、栞子ちゃん。元気だった?」

 

「はい!あの、それで歩夢さん。この間は、ありがとうございました・・・・・・!」

 

「ううん、気にしないで。こんな私で良かったら何時でも相談に乗るからね」

 

上原歩夢。彼女は地道にコツコツと頑張る姿勢を活かして、税理士の職に就いた。彼女の頑張る姿を見て、もしくは直接励まされる事で気を持ち直した同僚や事務所を訪れた人々は数知れず。数年前にファンクラブが密かに設立されたらしいと聞いた時は驚きはしたが、本人も満更ではないようだ。

 

続いて、高咲侑。彼女は「次世代のスクールアイドルと交流して、もっともっとトキメキを感じたい」という願いの下、スクールアイドルによる自由参加可能な大型イベント『スクールアイドルフェスティバル』を公式化し、その運営をしている。趣味がそのまま仕事になって楽しいとは本人談。

 

「侑せんぱぁ~い、かすみんデビュー出来たので次のフェスには絶対参加しますからね!」

 

「う、うん。気持ちは有り難いけど、ほら。参加条件はスクールアイドルって限定してるし、ね?」

 

「ぐぬぬ・・・・・・やっぱりかすみんも、Aqoursさんみたいにスクールアイドルしてれば良かったですぅ~!?」

 

「かすみちゃん、あんまり侑ちゃんを困らせないでね?」

 

「ひっ・・・・・・!?」

 

「フ、このやり取りも久々に見たな。ホント、懲りないね」

 

「ミアちゃん」

 

ミア・テイラー。事件解決後、取り潰しとなったスクールアイドル部から晴れてスクールアイドル同好会へ正式入部。璃奈達と約束していた復刻ハンバーガーを食べるという約束も無事に果たした。ランジュと結んだ鐘家との専属サポーター契約は解約されたが、後学の為と高校卒業後も期間を延長して日本にそのまま滞在。今はフリーのアーティストとして様々な楽曲を他人に提供したり世に送り出したりしている。

 

「やぁ、璃奈。そっちの仕事は順調かい?」

 

「うん、ミアちゃんが宣伝してくれたお陰もあって凄く大好評」

 

「ふふん、当然だね!ボクにして掛かれば、それくらいはお茶の子さいさい――」

 

「皆さん、お待たせしましたっ!!」

 

「せつ菜ちゃん!」

 

中川菜々。彼女はファンの間でAqoursと同じくスクールアイドルとして活躍していくものだと期待されていたが、まさかの生徒会会長を任期で辞する時に高らかにこう宣言した。

 

『――以上、虹ヶ咲生徒会長中川菜々!そして、スクールアイドルの優木、せつ菜でしたッ!!』

 

全校生徒が集まる中、彼女は憧れの特撮のヒーローが最終回で見せた姿の様に、自分が優木せつ菜であったことを名乗り、卒業後は極々普通の会社で働き始めたという。

・・・・・・只、一つだけものを言うのであれば。会長引退時の衝撃の名乗りでもう一波乱と本人は踏んでいたが皆一様に「あー、やっぱりね」というような反応をしていた。本人がバレてないと思っていただけで実は周囲がそれと無く察していて、本人の知らぬ間に虹ヶ咲学園内の暗黙の了解と化していただけだったというオチ・・・・・・本当に、残念な点である。

 

「ウザ・・・・・・ねぇ、せつ菜。何とかならないの、声の音量」

 

「なりません!(鋼の意思)」

 

「・・・・・・聞かなきゃよかったって心の底から思ったね」

 

「ま、クソデカボイスとペカ顔がせつ菜ちゃんのパッシブスキルだったりするから」

 

「おっ、今日の主役のご登場だー」

 

「そういうノリ止めてもらえないかな、侑。ちょっと恥ずかしい」

 

舘結子。事件終息後、侑と共に同好会メンバーのサポート業に取り組み続けた。あれから特に大きな事件もなく至って平和な学園生活をエンジョイ出来た為、護衛役としての役割は薄くなってしまったが、厄払いの意味も含めて最後までその肩書を捨てる事はしなかった。卒業後は、一旦配送関係の仕事に就き、当初から進められていた侑の「スクールアイドルフェスティバル」公式化プロジェクトに投資協力。それが実現した際に、転職し侑と共にスクールアイドルフェスティバルの運営をする事に。ポジションは勿論、学生時代と同じく護衛役。フェスにエントリーしている沢山のスクールアイドル達を様々なトラブルから身を守る護衛隊の隊長を務めている。

 

「それじゃあ、全員揃ったという事で・・・・・・カンパーイ!」

 

「「「「「「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」」」」」」

 

――会場に集まった13人の持ったグラスが合わさり、カチンと音を立てる。

こうして、会場全体を貸し切っての虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会初期メンバーによる同窓会が始まったのだった。

 

「いやぁ、そうして見回してみても、皆あの頃から全然変わりありませんなぁ」

 

「あはは・・・・・・変わりたい、とは思っていても中々上手く行かないものですからね」

 

「いいじゃん、いいじゃん!無理に変える必要なんて、何処にもないんだぞー!」

 

「うん、皆が皆、学生時代に描いていた未来像にちゃんとなれた気がする」

 

「ちょっとぉ!かすみんは色々予想外が多すぎたんですけどぉ!?」

 

「いいじゃないですか、それもまた、可愛らしいかすみさんらしいと言う事で」

 

「そうだよ~、皆が皆らしくあることが一番いいと思うな」

 

「そうね、何だかんだ言っても結局この集まりが一番居心地いい事に変わりないんだもの」

 

「あ、そうだ。実はまた歩夢に頼みたいことがあって持ってきたんだ、ちょっと見てくれる?」

 

「もー、侑ちゃんったら。今は仕事の話はやめてよぉ~」

 

「やれやれ、何が面白くてボクは此処に入る気になったんだろうなぁ・・・・・・」

 

「うーん、余興で歌う楽曲は何にしましょう、ここ最近は神曲ばかりで迷ってしまいます・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

そんなワイワイガヤガヤといつもの雰囲気で談笑し始める同好会メンバー達。その光景を見て、結子は学生時代に体験した密度の高い思い出に浸っていた。そして、その時の一番の思い出として残っているのが。

 

「やっぱり、あのスクールアイドル部騒動なんだよなぁ・・・・・・」

 

スクールアイドル部はあの日にお取り潰しとなり、お台場に会った鐘家のご立派な屋敷も忽然と姿を消した。勿論、被害者でもあり加害者でもあった彼女も。

 

「ま、追い出した本人が言うべきセリフじゃあなんだけどさ」

 

「今頃、何してるんだろ」

 

結子は、窓辺に近づき、近い様で遠い、向こうの空を見つめた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「――はぁっ、はぁっ・・・・・・!」

 

周囲にはドリルやノコギリ、大型のショベルカーやダンプ。色々なものが立てる音で辺りはとても騒がしい。それでも、空は雲一つないスッキリとした青空で。アタシの心は今日の空模様の様に広く澄み渡っていた。

 

「嬢ちゃん、こっちの蔵壊すからちょっと手伝ってくれー!」

 

「あっ、はーい!」

 

近くにいたおじちゃんに言われて、アタシは直ぐに今の作業を中断し、別の業務へと移る。

 

え、アタシが今何してるのかって?えっとね、実はアタシの家の解体工事。

 

あの後、こっちに戻ってきてパパと再会して。パパと一緒に色々駆けまわって何とか鐘家の存続の為に頑張ったんだけど。此処でも色々とあの鐘李芳の影が常について回って。結局はその頑張りも叶わず、アタシとパパが守ろうとした鐘家はここに潰えた。

 

だからこうして。アタシ自ら、現場作業に交じって鐘家の最期を見届けている、という訳だ。

 

「ランジュ」

 

「あっ、パパ!」

 

作業に向かう途中で、敷地の外からアタシのパパが声を掛けてきてくれた。アタシは周囲の破片に足を取られて転ばないように気を付けながら、パパの元へと駆け寄った。するとパパは。

 

「ランジュ・・・・・・本当にこれで良かったのかい?」

 

「へっ?何が?」

 

「キミは、あっちの方でスクールアイドルをやりたかったんじゃなかったのかい?」

 

あぁ、そう言う事。なら、アタシの答えは――

 

「大丈夫よ、パパ。例え今、アタシがスクールアイドルをやってなかったとしても」

 

「虹ヶ咲の皆との関係が、全部終わった訳じゃないもの」

 

「そうか。あぁ、キミがそう言うなら、キミの想うがままに進むといい」

 

「うん!」

 

距離は離れてしまっても、あの時に繋いだ絆はそう容易く破れない。そう思う。

だから、今はアタシ自身がこの地で鐘家の背負ってしまった贖罪全てをパパと一緒に頑張って頑張って一つずつ解消とはいかなくても、出来るだけ穏便に片づけて。それが一段落付いた暁には。

 

 

「――必ずまた、皆に会いに行くからね・・・・・・!」

 

 

何年かかるかなんて分からない。でも、いつかは必ずこの願いを果たして見せる。

 

 

それが、アタシがあのお台場の地で手に入れた、掛け替えのない絆と思い出と。

 

 

たった一つの()()()()()()()()()、なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

アニガサキ!-PASTEL COLLARS-外伝 Episode of ランジュ NORMAL END

 

 

 

 

 

 

 



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EpilogueB「ずっと一緒に……」

はい、此方を選んだ人TRUE ENDです、おめでとうございます。


時間も予告時間を大分過ぎたんで、簡易的にまとめます。

読者の皆々様、今までご愛読ありがとうございました!作者のうざったい程のスクスタへの鬱憤返しもこれにて終了です。

次回作に乞うご期待!それでは!


――チュン、チュン

 

「Zzz・・・・・・」

 

朝が来た。でも、まだ眠い。だから、おやすみ。

 

「ねぇ――ってば」

 

誰かの声が聞こえる。あれ、昨日誰か内に泊めてたっけ?記憶がない、誰だろう。

 

「ねぇ――もう朝よ――ってば!」

 

もしかして、このしつこさは母さんか?ああ、もう・・・・・・お母さん五月蠅い。

 

「んもぉぉぉっ、ユイ、いい加減起きなさい!」

 

『ガーン、ガーン、ガーン!!』

 

「――いいや、それは死者の目覚めェ!?」

 

フライパンとお玉を叩き合わせて鳴らすという何とも近所迷惑な行為を意図も容易くやってのけるその人物に対し、私は起き抜けに某芸人の突っ込み風に声を上げる。

 

徐々に視界の焦点が合わさり、目の前にいる人物の顔が段々とはっきり見えて来た。その人物とは。

 

「あ、漸く目が覚めた。もう直ぐ朝食出来るから、パパっと食べて学校に行きましょ?」

 

「えっ、は?あ、あの・・・・・・何でランジュさんが我が家に?」

 

見間違えるはずもない。それはあのランジュ、鐘嵐珠本人だったのだ。

 

「むっ・・・・・・それ言われるの昨日に引き続き2回目なんですケド。流石に酷いと思うわ」

 

「といっても心当たりが全く・・・・・・いや、あったな」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――それは本当に唐突に訪れた。

ランジュを認める事にした私は、彼女を引き連れそのまま同好会の部室へ連れて行き、同好会の皆から許可をもらってランジュとミアちゃんを正式に同好会の仲間入りさせることに成功。その放課後の帰り道での事。

 

『・・・・・・!ね、ユイ、電話なってるわよ、誰から?』

 

『あ、ホントだ・・・・・・って爺さんからか、何だろ?』

 

珍しい事に滅多に連絡などしてこない爺さんから連絡があり、私は直ぐに携帯を手に取った。

 

『あぁ、もしもし。結子か?』

 

『ん、そうだけど。爺さんの方から電話なんて珍しいね』

 

『偶には孫娘と話すのも悪くないと思ってな、それとちょっとした老いぼれの頼み事じゃ』

 

しかも頼み事も込みで来た、か。その要件とは何か、私が訊ねたところ。

 

『ほれ、お前さんがつい最近知り合った・・・・・・ランジュちゃんだったかの?』

 

『・・・・・・うん?まぁ、そうだけど』

 

『以前お主からのメール報告で書かれていた「鐘家」という単語が気になってな、少し調べてみたんだが』

 

うん、確かに送った。あの『お台場動乱事件』集結の翌日。爺さんに此処に来てから起こった事の簡易報告書みたいなものをメールで送信した覚えはある。何だろ、因縁の関係的な?

電話の向こうから何やらゴソゴソとその時に書留したメモ帳を探す音が響く。暫らくその音が続いたかと思うと、音が止み此方に向かって歩いてくる足音が聞こえて。

 

『・・・・・・すまん、待たせた。それで鐘家についてなんだがな』

 

『うん』

 

『いやぁ、長生きしていればこんな偶然もあるんじゃな。お前さんは知らんかったかもしれんが、実はな――』

 

え、何その溜め方、怖い。

 

『我等舘家と鐘家は、凡そ100年ほど前まで本家とその分家の関係だったんじゃ』

 

『はい???』

 

爺さんから聞いた衝撃の事実。えっ、っていう事はなに?私とランジュって従兄妹みたいな関係にあるって事?え、は、何ですと?

 

『その交流こそ今は途絶えてはおるが・・・・・・鐘家の現当主様が何やら凄腕の持ち主と聞いてな』

 

それは、うん。十中八九ランジュのお父さんの事だね。

 

『儂らも、遥か遠く次の世代に流派を残してく為、彼との間に提携を結ぶことにしたんじゃ』

 

『へ?』

 

『要するにアレじゃ、再び鐘家と舘家間で関係をやり直そうという話じゃ』

 

『ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

あ、ヤバい、何か本格的にめんどくさい案件が回って来そうな気がしてきた。何で、今諸々のアレで崩壊寸前の一族と同盟結ぶ気になったな爺さん、一族掃討も夢じゃないよ!?

 

『・・・・・・?どしたの、ユイ。そんなに大声上げて』

 

『いいから、ランジュは少しだま――』

 

『む、今鐘家のお嬢さんと一緒におるのか?』

 

『――え、えっとぉ・・・・・・』

 

『どうなんじゃ、正直に答えよ、結子』

 

『まぁ・・・・・・はい』

 

隠し通せるわけないじゃない、多分今の声バッチリ向こうに聞こえちゃったんだからさぁ!全く、何でランジュってこんなに声量あるんだよ・・・・・・スクールアイドルだからか、畜生!

 

『お嬢さんと話がしたい。代わってもらっても構わぬか?』

 

『分かったよ・・・・・・はい、ランジュ。ウチの爺さんが話したいんだって』

 

『ユイのお爺さんが、アタシに?うん、分かったわ』

『もしもし・・・・・・はい、初めまして。鐘嵐珠です』

 

ランジュに携帯を渡して、私は近くの壁に寄りかかる。あぁ、こういう時が一番不安だ。自分には聞き及ばないところで何か重大な話が進められてるかも知れないとなると尚更だ。

 

これはもう、ランジュのリアクションを見てその都度介入するしか・・・・・・!

 

『えっ、はい。はい、それはアタシのパパ、のことですよね?』

『はい・・・・・・えっ、ええっ!?』

 

ほら見た事か。来ちゃったな、あのランジュが驚く様な余程の案件がさぁ!私はランジュから勢いよく携帯をもぎ取り、携帯を耳に当てる。すると。

 

『ちょっ、ユイ!?』

 

『やれやれ・・・・・・もう少し待てんのか、お主は。まぁ、良い』

『鐘家のお嬢さんとの話し合いが丁度終わって、お主に変わろうとしてたところじゃ』

 

『・・・・・・はい』

 

あ、しまった。すでに手遅れだった。

 

『儂らの交流の先駆けとして、先ずは身近な次の世代の代表同士のお主らに協力してもらいたい』

 

『今の鐘家は厳しい状況にある。日本に唯一あるお台場の別荘も、もしかすればなくなってしまうやもしれん』

 

『そこでじゃ。お主に今明け渡している儂が前に住んどった家があるじゃろう。そこに、鐘家のお嬢さんを一緒に住まわせてやって欲しい』

 

『あー・・・・・・そう来ましたかー』

 

ある意味で予想外、しかしてある意味では想定内。その事実に呆然と立ち尽くす私に、爺さんは無情にも最後の一押しを畳みかけて来た。

 

『無論、お前さんの意思もちゃんと聞いた上で話を動かそうと思っとったよ』

 

『え、ホント!じゃあ私的にはさ・・・・・・!』

 

『ふむ、ところで結子よ。お主の今住んでる家の家主登録は誰の名前になっとったかのぉ?』

 

『あー・・・・・・はい、分かりました。ダイジョウブデス』

 

『うむ、それではお嬢さんの事、よろしく頼んだぞ』

 

そう言って、爺さんはこれ以上何も言わせまいという意思をもう一度伝えるかのように勢いよく電話を切ったのだった。成程、爺さんの家を借りてる時点で最初から私に拒否権はなかったんですね。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

・・・・・・多少ざっくりとなってしまったが。これが、我が家にランジュがいる理由なのであった。

そして、お台場に会った鐘家の別荘は予想通り取り潰しが決定し、そこから必要な荷物のみを持ってきたランジュが此処に居候を始めたと。つまりはそういう事だ。

 

「思い出した?」

 

「まぁ・・・・・・はい」

 

「ん、よろしい。じゃ、すぐ顔洗ってお皿用意してて」

 

「はーい・・・・・・」

 

こうなってしまったのなら、もうなるようにしかなならないか。人生時に諦めも肝心って誰かが言ってたしなぁ。あーあ、何かの手違いで絶大な権力が手に入らないカナー。

 

「――ん、それじゃあ」

 

「「いただきます」」

 

居間にある中くらいのテーブルにランジュと向かい合うようにして座って、朝食をかっ食らう。

 

最初ウチに来た時に彼女に作らせたらまぁ、作るもの全部不味い事不味い事。目を離した瞬間一瞬でゲテモノ料理が出来上がる。そんな実力程度しかなかったというのに。今や私が料理を作っている時に勉強したあれこれを駆使して、味が問題ないくらいには成長した。学んで実技でやって直ぐ習得できる彼女はこれだから怖い。

 

「どう、最初と比べて上手くなったんじゃないかしら、アタシ?」

 

「ん、そうだね。十分美味しいと思うよ」

 

「ホント、やったぁ!?」

 

頭の上のアホ毛をピョコピョコさせて、喜びを噛み締めているランジュ。現金な性格してるなぁ、と私が心の中でボヤいていると、ランジュが目を爛々と輝かせながら此方に期待の眼差しを向けていることに気付く。なんだろう、小動物かな?

 

「あー、いつものね。分かった、分かった」

 

ランジュが私にこういう目を向けている時は大体どうすればいいのか。それはもう嫌と言う程理解させられた。だから私は。

 

「よしよーし」

 

「♪」

 

こんな感じに、彼女の頭をよしよししてあげるのだ。

 

爺さんから電話が来て、一緒に暮らすことになる前は何か遠慮しているような素振りが見られたので私に対して何を躊躇っているのだろうと思ったら。まさかこんな事だとは。

 

「(ま、それもこれも全部)」

「(あのクソ理事長のせいだと思っとけばいいか)」

 

そのクソ理事長ことランジュのお母様の鐘悠嵐は、開かれた裁判の結果、最高裁で有罪判決が決定した。禁固刑三十年だそうだ、当分脱獄でもしない限り、厳重な警備の敷かれた臭い飯が出ると噂のブタ箱からは出てこないだろう。出来れば、そのまま牢獄の中でおっ死んでしまえばいい。素直にそう思った。

 

「よし、ご馳走様!そろそろ行くわよ、ユイ!」

 

「ほいほーい」

 

何時ものことながら食べ終わるのが早いなぁとは思いつつも、何だかんだピリピリしていた頃に見られなかった彼女の酷く純粋な笑みに、今ではすっかり乗せられてしまっている自分が憎い。

 

「ユイ、早く行かないと遅刻するわよ」

 

「いやいや、まだそんな時間じゃないでしょうに」

 

「いいから!はーやーくー!」

 

「はいはい、さっさと着替えますよーっと」

 

まだ登校時間にはちょっとだけ早い時間帯。だというのに彼女は何をそんなに行き急ぐのだろうか。まぁ、理由は大体早く同好会の皆に会いたいとかそういう事なんだろうけど。

 

「――さぁ、出発よ!」

 

「ふわぁぁぁぁぁ、眠・・・・・・」

 

「ちょっとぉ、しゃっきりしなさい!」

 

家の玄関に鍵をかけて、振り向きざまにランジュに顔をパンパンと叩かれる。うん、子供っぽいけど時折お姉さんじみた行動してくるからなぁ。これ以上絆されないように気を付けないと。

 

「普通に痛いよ」

 

「あ、ご、ごめん・・・・・・」

 

で、こんな風に私がガチのトーンで怒るとこの通りしゅんとしてしまう。幾ら何でも私一人の存在だけで情緒が不安定すぎやしないかい?

 

「学校、行くんでしょ。ほら、歩いた歩いた」

 

「もーぅ、それはアタシの台詞よ、ユイ~」

 

「分かったから機嫌直してねー、別にそれしきで嫌いにはならないから、普通」

 

「そ、そっか、えへへぇ」

 

あーもう、本当にめんどくさいな。これだからお嬢様の世話係なんてやりたくなかったんだ。

うん、実際にこうでも言ったらランジュが確実に泣き出すし、爺さんに何されるか分からないから言わないでおくんだけどさ・・・・・・。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「♪ンフフ、フフフーフフフフフーン、フフフフーン、フーンフフフフ♪」

 

「・・・・・・」

 

駅のホームにて。何処かで聞いたことがある曲を鼻歌で歌っているランジュ。当然、彼女の透き通ったような声に駅にいる人の何人かが此方を凝視している。うわぁ、やりづら。

 

「♪フンフフフフフーン、フンフンフーフフ、フフフフーンフフーン♪」

 

「ね、それ何の曲?」

 

「♪フフフンフンフ――えっ、ユイ知らないの?」

 

「ちょっと思い出さないだけ。何て言う曲名だっけ?」

 

「音楽の授業で一度くらいは聞いたことあるんじゃない?『Believe』よ」

 

あぁー、思い出した。そっか、通りで聞き覚えあるなと思ったら学校の音楽の授業でしつこい程出てくる楽曲じゃん。しかし、何でまた?

 

「いいわよね、この曲。昨日ミアに教えてもらったんだけど、凄くアタシ好みだわ」

 

あー成程。ミアちゃん発祥か、それなら頷ける。ランジュが自主的に聞くとは思えないからねー。

 

「ね、ユイ」

 

「何さ、突然。藪から棒に」

 

「スクールアイドル部もなくなって、元あった家もなくなって。ここから先の未来、アタシは本当にいつも通りのアタシで生きていけるのかなって不安だったけど・・・・・・」

 

「うん」

 

「でも、今同好会の皆と一緒に同好会に入れて。ミアもシオも一緒で」

 

「そんな毎日だから、アタシ、昔よりずっと楽しいわ・・・・・・!」

 

「・・・・・・そっか」

 

ランジュが飛び切りの笑顔を私に向けてそう口にする。

ランジュとしては一刻も早く十年ぶりに父親と再会したかったのだろうが、彼女はそれに対して。

 

『パパには、電話で何時でも話せるわ。それよりアタシは、皆に罪滅ぼしと恩返しがしたいの!』

 

そんな決意みたいなものを語って、彼女は只管前に行く。例えこれから何があろうともこのお嬢様はそう簡単に挫けはしないだろう。そして、何度でも足掻き努力するはずだ。

 

『キミが結子くん、か。暫らくの間、娘をよろしく頼むよ。彼女は、私の生きる希望だからね』

 

ランジュの父親とも一度電話で対談したが、優しい声のいい御仁であることが分かった。きっとあの鐘悠嵐のように娘を道具としか思わない扱い方をしない、人として出来ている人なのだろう。そんな聡明な心を持った人に言われてしまったなら、私は。

 

「ねぇ、ランジュ」

 

「ん、なぁに、ユイ?」

 

「ランジュが思ってるよりスクールアイドルの道は厳しいかもよ、覚悟はできてる?」

 

彼女も虹ヶ咲の皆も。守り通すしかないだろう、護衛役の名に懸けて。

 

「ふふっ、そんなコト、このランジュには愚問よ!」

 

 

 

そう言って、彼女は駅のホームの広くなっている所まで駆けて行って、振り返りざまに。

 

 

 

 

 

「――無問題ラ!!」

 

 

 

 

 

 

――目に映る者全てを魅了する、晴れやかな笑顔で笑って見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

アニガサキ!-PASTEL COLLARS-外伝 Episode of ランジュ TRUE END

 

 

 




最後に……

ランジュにこのセリフを今まで言わせなかったのはこの為さ、あばよ!!


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