魔王と親友と紫電 (刀好きの第六人)
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1話

どうも、お初です。ありふれの創作を書いてみたので投稿してみました。




 

 

『ワンワン!』

 

相棒は、いつもそばに居てくれた。

 

『ワフワフ!』

 

喜んだら一緒に喜んでくれて

 

『クゥン』

 

悲しかったら一緒に悲しんでくれた

 

そんな俺の大切な相棒は中学卒業と同時に、おめでとうと祝福しながらその寿命を……全うした。

 

最初に相棒の命が終わろうとしていたのを気づいた時は、思わずお疲れ様がまず出た。

 

次に来たのは大きな悲しみ。相棒の死に俺は何日も泣き続けた。

 

半身が亡くなるのはまさにこの事かと思うくらい、悲しく、辛かった。

 

そんな俺を見かねた人達が俺の為に色々してくれた。

 

俺の悲しみを受け止めてくれる人。相棒がいた証を作ってくれた人。

 

それ以外にも色んな人が俺を心配してくれた。

 

だからこそ、俺は……前に進もう。そう誓えたのだ。

 

 

_____________________

 

 

月曜日の朝。『新宮蓮二』は目覚まし時計の音で目を覚ました。

 

ムクリと起きて、体を起こす為に上半身を天へと伸ばして、体を目覚めさせる。

 

「んっ、んぁおはよう『ロウ』」

 

蓮二は起きると日課の写真立てに挨拶をする。

 

そこには蓮二と、彼の愛犬であり、今は亡き黒い柴犬の『ロウ』がじゃれあう姿が写っていた。

 

蓮二は日課を終えると、制服に着替え、刀袋と赤黒い腰蓑を巻く。

 

この二つは祖父の刀鍛冶と祖母の革職人の手によって変貌した『ロウ』の遺品だ。

刀の方が『妖刀狼牙』腰蓑の方を『狼黒』と言う。

 

 

「今日も頑張りますか」

 

 

蓮二はその二つを携え、部屋を出た。

 

_____________________

 

 

高校に着いた蓮二は自分の教室まで向かおうと歩いていると、前方から見知った人が歩いてきていた。

 

その人物は赤みがかった髪を束ねた見目麗しく、スラリとした手足とモデルと言っても過分ではないくらいスタイルのいい女性。

 

「げっ、沙羅先生……」

 

「げっ、とはなによげって」

 

久遠寺沙羅。蓮二のクラスの担任であり、親戚でもある彼女は蓮二に対して心外だと唸る。

 

「いやつい癖で」

 

「その癖直さないと社会でやっていけないわよ」

 

「気を付けます」

 

「まあいいわ。今日も昼休み空けておきなさい。愛子連れて学食行くから」

 

「またですか…なんで俺巻き込むんですか」

 

「何か言った?」

 

「いえなんでもありません!」

 

ギラリと光る沙羅の眼光に思わず脊髄反射で了承する蓮二に、彼女は満足そうな笑顔で「それじゃあまたね」と言い残して歩いて行く。

 

「はあ…」

 

蓮二はため息を吐く。それは沙羅と彼女が述べた愛子についてだ。

 

社会科の教師である畑山愛子は背が小ささと可愛らしさの塊で、沙羅がクールビューティーの化身なら、愛子はマスコットの化身である。

 

そんな二人と一緒に昼食を食べれば自然と蓮二に嫉妬や羨望、それ以外だと敵意や悪意だって向けられる。

 

それ等は無視すれば良いのだが、蓮二はそうでも狼牙と狼黒が許さない。

 

この二つの遺品は意志を持っているのか、蓮二に敵意を向ける敵にその意志を倍化させて反射するのだ。

 

そのせいで何人もの生徒が気を失う事件が相次ぐ。そのせいで蓮二はこの高校では『触れてはならぬ者』として通っている。

 

ただでさえ、狼牙と狼黒を持っている蓮二の姿は異端なのだ。これ以上余計な事にしたくはない。

 

更に言えば、正義感の塊(蓮二としては激しい思い込み)の少年によって悪評が立っている。そのせいで嫌な事も何度も有った。

 

実力でテストの満点を取ればカンニングだと騒がれたり、体育祭で活躍すれば買収か脅した等言われたり、散々だ。

 

それを鵜呑みにする生徒や先生が居るからタチが悪い。

 

(俺としては彼女作れたら作って満喫したかったのにな……)

 

溜息しか出ない今の学生生活に我慢しつつ、今日も一日が始まるのだった。

 

 

授業が終わり、昼休みに入ると、沙羅が教室に入ってくる。

 

「蓮二ー!学食行くわよ!」

 

「分かったから叫ばないで!」

 

沙羅に呼ばれた蓮二は狼牙だけを持って沙羅の元へと向かう。

 

「あら?『ロウ』ちゃんも連れて行くの?」

 

「当たり前だろ?『ロウ』を置いてったらクラスの皆倒れちゃうって」

 

「あー……確かに。『ロウ』ちゃんならやりかねない」

 

二人して物騒な話をしているが、実際蓮二がトイレの為に狼牙を置いて行った時は溢れ出る妖気でクラスメイトが倒れていた事もあり、それからは肌身離さず一緒に居る。

 

「それじゃ愛子呼びに行きましょ」

 

沙羅と共に愛子の居るであろうクラスまで行くと、蓮二は思わず苦い顔をする。

 

何故ならこのクラスには、蓮二の悪評をばら撒いた人物が居るからだ。

 

「今日畑山先生ここ担当だったんですか……」

 

「そうなのよね。どうする?蓮二は外で待ってる?」

 

「いや行く。ハジメとも少し話したいし」

 

「南雲君?」

 

「そう」

 

蓮二はこのクラスに居る高校内唯一の友達である南雲ハジメに会う為に、教室内に入る事にした。

 

南雲ハジメは父がゲーム会社の社長、母が人気少女漫画家の純粋培養で育った所謂オタク系の人間だ。

 

モットーは「趣味の合間に人生を」

 

それを叶える為に日夜両親の仕事の手伝いをしながら学生もやり、更にはイラストレーター迄やっており、ツイッラーではフォロワー数50万人を超え、ライトノベルの挿絵や父親のゲームのイラストを担当したりしている。

 

蓮二がハジメと出会ったのは、蓮二がロウを亡くし、行く宛も無く外をふらついていたついていると、子供とおばあちゃんを守る為に不良達に土下座して謝っていた姿を見た時だった。

 

不良達は必死に謝るハジメを踏み躙る様に足蹴にしていた事もあり、蓮二が通報したふりで退散させてから子供とおばあちゃんを見送り、知り合ったついでに話してみると、思いの外話が噛み合いそのまま食事を取りに行ったりした。

 

その際、もう一人ついてきたが、それはあとにしよう。

 

兎に角ハジメは蓮二にとっては親友だった。

 

ロウのイラストを描いてくれた事や、お互いに好きな漫画について語りあえたことを含めて、ハジメは蓮二にとって親友だと思っているのだ。

 

沙羅を先頭に教室に入ると、教室は沙羅の美貌に騒つくがそれを無視してハジメを探すと、

 

ハジメは机に突っ伏して寝ていた。

 

相変わらずだなと思いながら蓮二は近寄る。

 

「よ、ハジメ。相変わらず頑張ってるみたいだな?仕事終わりの徹夜だったか?」

 

「…うん。2冊分の挿絵と表紙を終わらせたくてね。つい朝まで頑張っちゃった」

 

あははと笑いながら10秒チャージのゼリー飲料を飲み干すハジメ。

 

「あれって締め切り大分後じゃなかったか?」

 

「そうなんだけどね?なんかこう、イラストの神が降りてきたんだよ。それを忘れないうちにってやってたんだ」

 

「成る程。そんじゃあまあ頑張ったハジメに、今日は俺の奢りで夕飯行かないか?いいラーメン店見つけたんだよ」

 

「良いね。行く行く」

 

ハジメが蓮二の提案に乗って、楽しみだなぁと言っていると、二人の下に一人の少女がやって来る。

 

「ハジメ君、蓮二君。何の話?」

 

彼女は白崎香織。この高校での二大女神と呼ばれる美少女の一人でハジメの恋人候補と勝手に蓮二が決められている。

 

彼女との出会いはハジメ意気投合して食事を摂りに行こうとした時

 

『私も連れていって欲しいかな!』

 

と、押しかけてきたのだ。

 

勢いのまま香織も連れて食事していたが、香織はハジメにお熱なのか、蓮二とも話すが熱量はハジメの方に向けられていた。

 

その時蓮二は気づいた。彼女はハジメに恋をしているって。

 

その証拠に、連日蓮二ともう一人を含めた『ハジメと香織をくっつけるプロジェクト』というグループで毎日話を聞かされている。

 

「よう、白崎。いやハジメに飯を奢ってやろうって話でな」

 

「そうなの?じゃあ私もついていって良いかな?かなかな?」

 

「えっ、良いけど……白崎さんラーメン大丈夫?」

 

「うん。大丈夫だよ!」

 

「それじゃあ蓮二に奢ってもらうとしよっか」

 

「おいおい……ま、いいけどさ」

 

「だってさ白崎さん」

 

「やった!」

 

ふふふと微笑む香織。その姿はいつも微笑みの絶えない彼女の中でも最上級の微笑みだった。

 

その微笑みを直視で受けたハジメは思わず照れてしまう。

 

二人を見ていた蓮二が微笑ましいなと思っていると、制服の裾を摘まれる。

 

蓮二が後ろを振り向くと、そこには沙羅が居た。

 

「蓮二!早く学食行くわよ!」

 

「分かったよ。そんじゃ二人ともまたな」

 

何処かムスッと怒りながら急かす沙羅について行こうと踵を返すと、沙羅に声が掛かる。

 

「久遠寺先生。私もご一緒して良いですか?」

 

それは一人の少女。名を八重樫雫と言い、香織と同じ二大女神の一人にしてこの高校に沢山の妹を持つというお姉様だ。

 

実家は剣術道場をしており剣道に関する雑誌にも載ることもある位の才媛だ。

 

雫との出会いは香織からの紹介だった。香織がハジメと蓮二に親友を紹介すると連れてきてくれた事が始まりで、それからは香織とハジメをくっつける為に二人で共謀する様になった。

 

 

そんな雫の提案に沙羅は嫌そうな顔をする。

 

「なんでそんなに嫌そうな顔をするんですか!?」

 

「だって貴方、私と蓮二の話に割り込むんだもの。親戚同士話したい事もあるの。」

 

「じゃあ何で愛子先生は良いんですか!?」

 

「私に振らないでください!」

 

私は部外者ですを貫きたい愛子からすればとばっちりだった。

 

「愛子は良いのよ。私達の話を黙って聞いてくれるから。貴方は出しゃばるから」

 

「だって久遠寺先生いつも新宮君にその…私の夫になれって言うから!」

 

「えっ?それってダメなの?」

 

「普通生徒と教師の恋愛はダメですから!」

 

「でも卒業したらそこは大丈夫でしょ?実際教師と生徒の結婚なんてよく聞く話よ?」

 

「だとしてもダメです!」

 

断固として譲らない雫に、思わず沙羅は尋ねる。

 

「……八重樫さんって蓮二の彼女なの?」

 

「か!?かかか彼女!?」

 

沙羅からの発言に思わず顔を真っ赤にする雫。その姿はまさに恋する乙女だなと蓮二は雫を見ている。

 

「違います!私と新宮君はその……」

 

もじもじと指と指をクロスさせている雫は、上手く言葉を紡ぐ事が出来ないでいると、蓮二に助けを求める眼差しを送る。

 

(OK。任せとけ)

 

雫が蓮二に助けを求めることはよくある。

 

それは雫が昔の、ロウを亡くした時と同じ心の支えが無い助けを求めてる自分と似ていると知った時に蓮二が彼女に言った一言が原因だ。

 

『八重樫さん。誰かを頼るのは悪く無いことだ。そのまま助けを求めなければ君は壊れてしまう。だから……俺の事を頼ってくれて良いんだ。男ってのはさ、頼られてなんぼだからさ。遠慮なく頼ってくれ』

 

『ロウ』を失った蓮二の様な雫を見てられなかった。下手すると自分よりも辛い結果になると判断したからこそ、蓮二は彼女の支えになろうとしたのだ。

 

「沙羅先生。俺と八重樫さんはただの友だちぃ!」

 

友達だと言おうとした蓮二に、思わず雫の拳が脇腹に突き刺さり、息を漏らす。

 

「ほ、本当の事を言おうとしただけなのに……」

 

「ご、ごめんなさい新宮君!つい」

 

「ついかよ!……まあいいや。とりあえず俺は行くから。またな」

 

「……うん」

 

蓮二が沙羅と共に愛子を連れて学食へと向かおうとした時、静止の声が掛かる。

 

「待て新宮蓮二」

 

「んだよ…天之河」

 

蓮二が振り向くとそこにいたのは一人の少年、天之河光輝だった。

 

彼は所謂人気者で容姿端麗、スポーツ万能、学力優秀の欠点の無いような男に見えるが…その実、正義感という名の思い込みが激しく、自分が正しいと疑わないのだ。

 

そのせいで蓮二には謂れのない罪が積み重なっている。

 

(面倒なのに捕まったな…)

 

「要件はなんだ?」

 

「何でお前みたいな不良が先生と昼を一緒にするのか、説明しろ」

 

「……はあ?」

 

思わずこいつは何言ってんだ?と言いたげな表情で光輝を見やる。

 

「お前みたいな不良で卑怯者が何故先生達とお昼に行くのかが分からない。それを説明して欲しいんだ」

 

「んな事知るかよ……こっちだって強制的に連れてかるんだからよ。要件それだけなら俺は行くぞ」

 

「ま、待て新宮!」

 

光輝が蓮二の肩を掴もうとする。が、その前に光輝の足元から光りだす。

 

それは幾何学的な文様で、まるで魔法陣の様なそれは瞬く間に教室全部に広がる。

 

「逃げなさい!」

 

「逃げて!」

 

沙羅と愛子の声虚しく、蓮二達は光に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今作品のハジメ君はイラストレーターをやっている事にしました。


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異世界召喚

眩い光が止むと、そこは教室の様なコンクリートでは無い建物の一室だった。

 

そこには巨大な壁画があり、描かれているのは金色の髪を靡かせた中性的な人物で、その微笑みにはきっと、全てのものに加護を与えんとしているのだろう、現に動物や植物は壁画の人物を讃えているようにも見える。

 

壁画を見ていると、狼牙がガタガタと唸るように音を鳴らす。

 

(『ロウ』が唸っていやがる……こりゃ警戒しないとな……)

 

次に周囲を見渡すと、自分達を囲む様者達がおり、その者達は全員が中世の神官の様な法衣を着込み、祈りを捧げていた。

 

その中で一人、一際豪奢な法衣を纏い、平安時代の貴族が被る様な烏帽子に似たものを載せた老人が歩み寄り、蓮二達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。異世界から参られた勇者様にそのご同胞の皆様。私は聖教教会の教皇、イシュタル・ランゴバルトと申します。以後お見知り置きを」

 

そう言ってイシュタルと名乗る老人は蓮二にとって胡散臭い微笑みを見せた。

 

_____________________

 

「蓮二、貴方はどう思った?」

 

話をする為に移動している中、沙羅は蓮二に耳打ちする。それはイシュタルの事についてだ。

 

「今のところ『ロウ』が警戒しているからかなりヤバいと思う」

 

「やっぱりね。私もどうもあのイシュタルさんは胡散臭いと思うし、非常に不味いわ。昔読んだ漫画とかに、異世界召喚された人達は全員道具のように扱われながらも生き残る為に戦うお話があったから、きっと今回のケースもそうかもしれないわ」

 

沙羅は最大級今の状況を警戒しながら自分達の身を案じる。

 

(確かに……俺達を勇者とその同胞と呼んでいた。勇者と言えば魔王を倒す為に戦う運命であるが……まさかそんな事をやらないといけないなんて……)

 

蓮二が自分達が戦に巻き込まれる事に不安になっていると、イシュタルの連れられていた自分達の足が止まる。

 

どうやら目的地に着いたようだ。

 

蓮二達が通された場所は大広間のような場所だった。

 

この部屋は晩餐会をする為に作られたのか、とても豪奢で、調度品一つ一つに力を入れているのが分かる。

 

上座に近い方に愛子と光輝達四人、後はそのクラス内でのカーストの様なもの順に座っていった。

 

蓮二と沙羅は外様という事でハジメと同じ最後の方に座る。

 

 

全員が着席すると、待っていましたと言わんばかりにカートを押しながらメイドと執事達が入ってくる。それも全員美男子か美女・美少女のメイドだ。

 

異世界召喚という危険な状況に入ってきた執事とメイド達に男女共に食い入る様に凝視している。

 

(成る程、ハニトラか)

 

蓮二はこのメイドと執事達はハニートラップ要員だと気づくと、警戒色を一段階上げる。

 

沙羅も同じ事を思ったのか、弱みを握られない様に精神を張り詰めている。

 

「蓮二」

 

「ハニトラですよね。分かってます」

 

「ならいいわ」

 

阿吽の呼吸で状況交換していると飲み物を給仕してくれるメイド達に表面上の礼を言っていると、イシュタルが話し始めた。

 

「さて、これから一から説明させて貰います。まずは私のお話を聞いてくだされ」

 

そう言って語り出したイシュタルの話は蓮二達にとってどうしようもないくらい身勝手なものだった。

 

要約するとこうなる。

 

その一、この世界トータスでは人間族、魔人族、亜人族が住まう。

 

その二、人間族と魔人族は何百年もの間戦争が続き、膠着状態にある。

 

その三、魔人族が魔物の使役に成功し、数と質の暴力で攻め始め、それに対抗する為に人間族は異世界から勇者を呼べと神託が降りて今に至るらしい。

 

全ての話を聞いた蓮二はなんともまあ身勝手なものだとしか言いようが無いくらい憤っていた。

 

(ちっ、要するに俺達に戦争の道具になれって事だろ?最悪だ…)

 

蓮二が悪態をついているなか、イシュタルは興奮冷めならぬ態度で話し続ける。

 

 

「あなた方を召喚したのは我らが創世神エヒト様です。我々人間族が崇める守護神でもあるエヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶ。それを回避するためにあなた方を喚ぼうと。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持ち、救世主として召喚すると神託がありました。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様が遣わした神の使徒として、魔人族を打ち倒し我ら人間族を救って頂きたいです」

 

イシュタルは恍惚とした表情を浮かべながら話終えていた。

 

イシュタルによると、この世界の人間族の九割は創世神エヒトと呼ばれる存在を崇める聖教教会の信徒らしい。

 

その事を知った蓮二はふと、疑問に思う。地球では沢山の宗教があるのにも関わらず何故トータスは唯一神しか居ないのか。

 

(それは追々調べていくか……兎に角今はどう戦争参加を回避するかだな)

 

 

この世界の歪さを探る前に目の前の状況を打破したい蓮二。だがその前に立ち上がる者が居た。愛子だ。

 

「ふざけないで下さい!それはつまりこの子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐なんですよ!」

 

 

うがーと烈火のように怒る愛子がイシュタルに食ってかかるが次のイシュタルの一言に全員が凍りつく。

 

「お気持ちはお察しします。ですが……貴方方の帰還は現状不可能です」

 

場に静寂が満ちていく。帰れない。その一言がまだ飲み込めていないのか、どういう事だとイシュタルを見る。

 

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛子先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族には異世界に干渉するような魔法は使えません。あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

「そ、そんな……」

 

 愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで……」

 

 パニックになる生徒達。

 

無理もない。いきなり異世界に飛ばされて「世界を救う為に戦え」と言われれば誰もがこうなるだろう。

 

しかし、蓮二と沙羅はその辺りは計算通りだった。

 

(どう思いましたか?)

 

(嘘は言ってないわね…でも)

 

(本当の事も言ってないと)

 

(私としてはエヒトって神の意思で帰れるかどうか決まるところが怪しいわ。下手をすれば帰れないままだと思うし)

 

(ですよね)

 

生徒達が狼狽える中でも冷静に判断している蓮二と沙羅。二人がこそこそ話していると光輝がテーブルを叩きながら立ち上がり、皆の注目を集めると話始める。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達を救うために召喚されたのなら、戦争さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫だな。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救って「はいストーップ!」なんですか久遠寺先生!?」

 

光輝が高らかに宣言しようとする前に、沙羅は静止の声を上げる。

 

沙羅は光輝を見ながら立ち上がると、彼に対して話始める。

 

「ダメよ天乃河君。出来ない事を出来るなんて言っちゃ」

 

「俺なら出来ます!世界と人を救う事くらい」

 

「じゃあ貴方、地球で紛争止めた事あるの?」

 

「いえ、無いですけど……」

 

「なら無理よ。私達は地球の紛争一つ止められないちっぽけな存在なのよ。更に言えば私達は文官としての教育しかされてないの。それなのにいきなりこの世界の人達より力が有るから戦えって言われても無理よ」

 

「それじゃあ久遠寺先生はこの世界の人達を見捨てるって言うんですか!?」

 

「そこまで言ってないでしょ。私が言いたいのは、一度でも命のやり取りをした事がないのにも関わらず、人殺し出来るかどうかって事よ」

 

「そんなの、話し合えば」

 

「分かり合えてないから戦争が続いてんでしょ!」

 

光輝の甘えたような考えに喝を入れる沙羅。彼女はイシュタルに視線を向ける。

 

「イシュタルさんこの子達の戦争参加は志願制にしてもらえないかしら?」

 

「何故ですか?神の使徒なら、全員戦えるはずですが……」

 

「この子達は、元々文官になるように育てられているんです。そんな子達だからろくに戦闘経験も無いんです。それに無理矢理だとモチベーションも上がりません。なので、この子達に決定権を頂けないでしょうか」

 

お願いしますと頭を下げる沙羅にイシュタルは渋々ながら頷く。

 

「仕方ありません。その代わり貴方には参加してもらいますよ」

 

「構いません」

 

断固たる決意を見せながら沙羅は席に座ると、光輝は我も続けと言わんばかりに宣言する。

 

「俺も久遠寺先生と共に戦う!皆を守る為に、力を貸してくれ!」

 

光輝がクラスメイト達に力強く発言すると、それに呼応して三人が立ち上がる。

 

その内の一人は坂上龍太郎という、光輝の幼馴染だった。

 

「へっ、光輝ならそういうと思ったぜ。俺も手伝うぜ」

 

「龍太郎…」

 

「正直嫌だけど……やるしか無いのなら私も協力するわ」

 

「雫……」

 

「雫ちゃんがやるなら私も手伝うよ!」

 

「香織」

 

トップカーストの彼らに呼応してクラスメイト達もどんどん参加すると表明していく。その中で表明していない蓮二は沙羅とこそこそと話していた。

 

(あーあ。折角沙羅先生が作ったチャンスを捨てていくよ……馬鹿なのかこのクラス)

 

(なんでこうなるのかしらねぇ……)

 

二人して溜息を吐いていると、光輝の視線がハジメと蓮二に向く。

 

「二人はどうするんだ!決まってないのは二人だけだぞ!」

 

光輝が早く決めろと促し、そーだそーだと言わんばかりの視線を生徒達が送ってくる。がそれは直様間違いだと気づく。

 

何故なら蓮二の刀袋から、妖気が漏れ出したからだ。

 

その妖気は一瞬で大広間を侵食し、その場にいる者全員を畏怖させるのは容易かった。

 

「ぐっ、こ、これは……?」

 

真っ先に膝をついたのはイシュタルだった。

 

無理もない。狼牙の意思ある妖気が一番襲ったのは彼なのだから。

 

それ以外にも光輝達生徒にも同じことが起こらなかったが、体が震える状態には陥る。

 

殺される。

 

その手前まで来ている妖気を蓮二が制する。

 

「『ロウ』やりすぎ」

 

蓮二の声と共に、漏れ出ていた妖気が一気に収まる。蓮二は謝ると同時に宣言する。

 

「ま、悪いことした詫びに戦争には参加するよ。ハジメはどうする?」

 

「ぼ、僕!?」

 

「おう。決まってないのはお前だけみたいだしな」

 

「僕は……そうだね。戦える力が有ったら参加するよ」

 

「だとよ!よかったな天乃河!皆お前と共に人殺しになってくれるってよ!」

 

蓮二は態と人殺しを強調して伝えると、光輝は蓮二に対して告げる。

 

「俺は皆を人殺しにはさせない!絶対に!」

 

それ以降は蓮二は救えねぇなと思い、敢えて黙る事にした。

 

こうして、蓮二達の戦争参加表明が決まるが、最後まで反対してくれた愛子には感謝しつつも蓮二は覚悟を決める。

 

(こうなったら先生方とハジメと白崎と八重樫だけでも守らないとな。頼むぜ『ロウ』)

 

心中で相棒に頼むと、狼牙と狼黒は震える事で蓮二の思いに同調するのだった。

 

 

 

 

 



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パーティの裏






蓮二達が戦争参加への表明を終えた後、彼等は教会のある【神山】と呼ばれる山からまさに神の使徒のように天からハイリヒ王国と呼ばれる国家の王宮の高い塔迄を絢爛な道をイシュタルが魔法で生み出しロープウェイの様に進んできた蓮二達は、王国に温かく迎えられ、神の使徒を歓迎する晩餐会に出ていた。

 

蓮二は沙羅と共に、食事を載せた皿と飲み物の入ったグラスを持って会場の外のベランダに出て外から会場内を見ていた。

 

本当はハジメも連れてきたかったが、香織に捕まっていた為に仕方ないと置いてきている。

 

会場内を見ていると、この国の貴族のような人達から話しかけられ、生徒達が浮足立っているような姿が見受けられた。

 

更にはその息子や娘達も彼らを囃し立てている所から沙羅は溜息を吐きながら蓮二に問いかける

 

「あの貴族達。何考えていると思う?」

 

「良かった、これで私と息子達も戦争に参加せずに済む。なんともまあ便利な存在が現れてくれたよ……ってか」

 

「大方そうでしょうね……反吐が出るわ」

 

蓮二と沙羅はこのハイリヒ王国の貴族達に辟易していた。

 

他者を戦争の駒に仕立て上げておきながら自分達は高みの見物をしようとしている。

 

しかも相手は異世界からの子供。誰からも糾弾や抗議されない都合のいい存在だと認識されているだろう。

 

そう推測する二人はそそくさと出てきて正解だったと思いつつ、食事をとりながらこれからの事を話す。

 

「沙羅先生はこれからどうするか考えてますか」

 

「そうねぇ……先ずは知識ね。この世界の知識を得てからじゃないと何も出来ないわ。戦う事なんて誰でも出来るし、そんなのただの道具でしかないわ」

 

「なら俺は街に出て情報収集します」

 

「頼むわ」

 

蓮二が沙羅と作戦を立てていると、二人の元一人の少女がやってくる。

 

黄金のストレートヘアを靡かせ、豪華なドレスを纏っては上品な佇まいを見せる彼女はリリアーナ・S・B・ハイリヒという。

 

リリアーナは意気消沈しながら、問いかける。

 

「お二人とも、今宵のパーティは楽しんでらっしゃ……りませんよね」

 

彼女は暗い顔を見せながら二人に申し訳なさそうにしている。

 

「元々私達の戦争なのにも関わらず、勝手に呼び出して戦わせようなんてする私達を好意的には見てくれませんよね……」

 

「まあ、な。誘拐されて兵士にされてはい殺し合えなんて言われれば誰だってアンタらを敵として見ちまうよ」

 

「そうね、私も今のところは好意的には見れないわ。なにせ私たちを戦いの駒として見てない人達の為に戦いに挑ませられるんだから」

 

思わず悪態をつく二人。無理もない、パーティを見る限り国として困窮してない裕福そうな国の為に呼び出された身としては頼るなと言いたいからだ。

 

特に貴族達の生徒達を見る目が嫌だった。殆どの生徒達が気づいていないが、貴族達の殆どが自分たちを人として見ていない。

 

何人かと話してみて、そうではなく、本当に申し訳ない気持ちで居る貴族達も居たには居たが、それを上回るほどにクズ共が多かった。

 

「本当に……申し訳ありません……私達が至らぬばかりに、貴方達異世界の人達を誘拐なんてしてしまって…」

 

リリアーナは目に涙を溜めながら、謝罪の言葉を伝えてくる。リリアーナは本当は蓮二達を呼ぶような真似はしたくなかった。トータスの問題はトータスに住む者たちで終わらせないといけない。この様に異世界からの強制的な呼び出しは人として嫌だった。

 

だからこそリリアーナは生徒達一人一人の心を見ていこうと決めたのだ。

 

そんな中で蓮二と沙羅の率直な発言は、胸に突き刺さり、申し訳なさが勝ってしまい涙を流す。

 

「あー。蓮二が女の子泣かせたぁ」

 

「……否定できないのが辛い」

 

「ほら、慰めてあげなさい。女を慰めるのは男の仕事よ」

 

「分かってるって」

 

沙羅に背中を押されて、リリアーナの前に立つ蓮二は気まずそうにしながら口を開く。

 

「あー……なんだ、その、リリアーナさん自体は悪くねぇよ。悪いのは神託を何も疑わずに実行した奴だろうし。それにアンタみたいな優しくい人が居てくれて俺は助かったと思ってる」

 

「助かる…ですか?」

 

「ああ。まあアンタを利用する形にはなるが、こちらの意を汲んでくれる人が少なからず居てくれる事はこちらとしても活動しやすいしな」

 

「…正直なんですね」

 

「何事にも素直にってのが好きでね。生き難かろうが自分らしさを持っていたいのさ」

 

「…ふふ、面白い人ですね」

 

蓮二のモットーに対して思わず笑みが出るリリアーナをまじまじと見つめる。

 

「な、なんでしょうか?」

 

「やっぱり笑顔が似合うな」

 

「ふぇ!?な、なな、何を急に!?」

 

蓮二の裏表ない発言にリリアーナは生まれてから貴族達との会話で作り上げられていた仮面が思わず剥がれ素であろう乙女な部分を見せる。

 

「そ、その、えっと、お名前は…?」

 

「蓮二です。新宮蓮二」

 

「蓮二様は……その笑顔が似合う女性が好きなんですか?」

 

リリアーナが頬を赤く染めながらの問いかけに蓮二は答える。

 

「まあ、一緒に居られるのなら笑顔が素敵な人が良いかな。ま、一番理想なのは一緒に居て気楽で居られる人だけどな」

 

ここで蓮二は沙羅みたいにとは言わない。某漫画の主人公みたいに鈍感ではなく、リリアーナが蓮二に対して興味を持ち始めている事に気付いていることもあり、正直に話した。

 

「そうですか……!あ、そうです!今度お茶会に参加してもらえないでしょうか?異世界の事を知りたいです!」

 

「それくらいなら構いませんよ」

 

「ありがとうございます!」

 

パアッと満面の笑みを見せたリリアーナは他にも話に行かないと行けない人がいるといい、蓮二の元から去っていく。その背中を見届けた蓮二が沙羅の元に戻ると、さらは半目かつムスッと怒っている。

 

「ふーん…蓮二ってああいう女の子がタイプだったんだ」

 

沙羅が怒っている理由が大体分かる蓮二は彼女に対して思っている事を述べる。

 

「んー……まあ笑顔が素敵な人と気楽に居られる人が好きなのは有ってるけどさ、それって沙羅先生といる時が一番感じていますからね」

 

「あら?それは口説いてるの?」

 

「ええまあ。『ロウ』が亡くなったあの日から俺は先生に惚れているのかもですね」

 

「……えっ?」

 

蓮二の発言に思わずどきりとする沙羅。

 

「ふ、ふーん。そうなの…困るわね、私達教師と生徒なのよ?」

 

髪の毛を弄りながらもどこか嬉しそうにしている沙羅に、蓮二は思わず可愛いと思いながらも話す。

 

「別に、卒業したらそこは解決されるし大丈夫でしょ。それにここは異世界だし、日本とは常識が違うから」

 

「でも私と蓮二の歳って9歳も違うのよ?蓮二が大人になる頃には私オバさんよ?」

 

「別に歳なんて関係ないと思うけど、それに『ロウ』も沙羅先生が良いって言うし……それに下手な女の子だと『ロウ』が怒るんだよ」

 

「あー。『ロウ』ちゃんは確かに怒るわね。私の時は構って構ってって来るけど、他の人にはそうでも無かったし。……本当に私で良いのかしら?私休みの日は酒飲みよ?」

 

「ならツマミとか作りますよ」

 

「基本的に家事とか出来ないわよ私」

 

「料理とか家事は家で良くやるんで大丈夫です」

 

「え、えっと……私我が儘よ?それも振り回す位には。それでも良いの?」

 

「構いません。俺はそんな先生に救われたんですから」

 

蓮二は『ロウ』が亡くなった時に、一番辛かった時の事を思い出す。

 

半身を無くしたかの様な虚無感に襲われて何も出来なかった自分を、無理矢理外に連れ出しては遊びに行った時の事を。その時の沙羅といた事で自分は立ち直れて前に進めたんだと思っているからこそ、蓮二は沙羅の事を想っていた。

 

「俺、多分沙羅先生の事好きなんです。だから、その……」

 

付き合ってください。その一言を伝えたいのに伝えることが出来なかった。何故ならその時、沙羅からキスをされて唇を塞がれたからだ。

 

ほんの少しの間のキスだったが、蓮二は非常にドキドキしながらも答えを貰った事に嬉しさを感じていると、沙羅が告げる。

 

「私の答えはこれだけど、今は他に沢山やる事があるから、恋人らしい事は暫くお預けよ。いい?」

 

「はい!」

 

勢いよく返事をする蓮二に沙羅はよろしいと言うと、グラスに入った飲み物を飲み干す。

 

二人はその後、パーティの事なんてお構いなしに二人の時間を楽しみながら食事を堪能しだした。

 

そんな二人をパーティ会場内から見ている人物が居た。それは雫で、彼女はふと二人が居ないことに気付いて探して見つけた時には、二人がキスしている所を見てしまった。

 

「嘘……蓮二が先生とキスしてる……」

 

雫は二人のキスを見て、心がズキリと痛む。苦しい、こんな思いは初めてだと言わんばかりに辛くなり、胸を押さえていると、沙羅と目が合う。沙羅は雫に対して勝利の目つきを見せてくる。

 

それは、この男は私のものになった。お前には渡さんと言わんばかりのものだった。

 

(……絶対に先生の元から蓮二を取り戻す!)

 

雫は二人のキスと沙羅の挑発に思わず決意する。

 

それは一人の女として、蓮二が今の自分の心の支えになっているからこそ共に生きたいと思っている雫だからこそ沙羅と戦う事を決め、二人の元に歩んでいく。

 

そんな彼女を、親友である香織と、香織の側から離れさせてくれなくてリリアーナの弟に敵意を持たれていたハジメが見ていた。

 

「ねえハジメ君」

 

「何?白崎さん?」

 

「あれ絶対修羅場になるよね」

 

「……うん」

 

香織は雫ちゃん頑張れと応援し、ハジメは蓮二にご愁傷様と心の中で祈るしかなかった。

 

 

その頃、食事を堪能している蓮二と沙羅の元に雫が来ていた。

 

「「………」」

 

(なにこれ?)

 

雫が来るや否や沙羅を睨みつけ、沙羅もまた睨むという一触即発の状況が生まれていた。

 

「あ、あの」

 

「「蓮二は黙ってて!」」

 

「あ、ハイ」

 

二人の剣幕に押されて何も言えなくなる蓮二を他所に二人の話が始まる。

 

「さっき蓮二とキスしてましたよね?あれはどういう事ですか?」

 

「あれは蓮二が私に愛の告白をしてくれたからよ」

 

「それ、無理矢理じゃないですよね?」

 

「勿論自分の意思よ」

 

「……」

 

雫は何を想ったのか蓮二を見て近寄る。

 

「な、なんでしょうか?」

 

雫から漏れるオーラに気圧されながら蓮二が思わず敬語で質問を投げかけると、更に威圧感を出しながら話出す。

 

「久遠寺先生に告白したのは本当?」

 

「あ、ああ。うん。そうだけど…」

 

「じゃあ私もするね」

 

「えっ」

 

一体何をと言う前に蓮二はまたも唇で塞がれる。

 

2回目のキスに驚きながらも、雫は蓮二と沙羅に告げる。

 

「私は蓮二の事が好きです。だから久遠寺先生から蓮二を奪い取ります」

 

まさかの略奪愛を見せつける雫に対して、沙羅は面白いと言わんばかりに不敵な笑みを見せる。

 

「やってみなさい。蓮二は渡さないから」

 

「取られて後悔しないでくださいね」

 

視線の先でばちばちと火花が散り、お互いに不敵な笑みで見つめる二人を他所に蓮二は

 

「女って怖い……」

 

二人の威圧感に気圧されていたのだった。

 




どうしてこうなったリリアーナさんに雫さん……まあ雫さんは原作でもハジメ君が心の支えになってる時点で恋心か何かを持っていたし……こうなってもおかしくは無いですよね…(苦笑)

よし、四角関係作るか(ゲス)


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ステータス

翌日王宮の練兵場に集められた蓮二達は小型のスマートフォンの様な銀色のカードを渡されると、何人もの騎士を連れた騎士団の団長である厳つい男、メルド・ロギンスから説明が入る。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化してくれるものだ。このトータスでは最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪快ながらもフランクで「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告してくれた。

 

 蓮二もその方が気楽で良かった。年上の人達から慇懃な態度を取られるとこちらとしては敵意を向けてしまい『狼牙』が妖気を振り撒く心配が無くなるからだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。ステータスオープンと言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。アーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。このステータスプレートは複製できるアーティファクトとして昔からこの世界に普及しているんだ」

 

蓮二はメルドの説明に地球で言う所謂オーパーツかと思いながら針で指を刺し、血をステータスプレートに垂らすと、銀色だったプレートは赤黒く変色し、血管の様な赤いラインの入る禍々しいプレートへと変化する。

 

 

そしてステータスが表示される

 

 

===============================

新宮蓮二 17歳 男  半人半妖 レベル:1

天職:妖刀師

筋力:250

体力:300

耐性:110

敏捷:450

魔力:0

魔耐:200

妖力 : 1500

妖耐:2000

技能:抜刀術・妖刀制御・神速・煉獄・妖力操作・真名解放・限界超越・妖気覚醒【ロウ】・ウォークライ・勇士の誇り・言語理解

===============================

 

 

(へぇ……こうなるのか……てか半人半妖ってなに!?)

 

蓮二は自分のステータスを見ながらこれは強いのかと思っていつつ、半人半妖に顔を顰めていると、沙羅がこちらに来ていた。

 

「蓮二。ステータスを見せてくれないかしら?私も見せるから」

 

「構いませんよ」

 

二人はステータスプレートを交換する。沙羅のプレートは紫色だった。

 

 

===============================

久遠寺沙羅 25歳 女 レベル:1

天職:遊撃師

筋力:90

体力:130

耐性:100

敏捷:400

魔力:350

魔耐:200

技能:剣術【+片手剣適正】・銃術【+拳銃適正】・戦術眼・雷迅功・一刀一銃・紫電・雷魔法適正・光魔法適正・ウォークライ・遊撃士の誇り・言語理解

===============================

 

(あれ?沙羅先生と俺のステータス全然違う)

 

蓮二は疑問に思う。自分のステータスには妖力と妖耐いう不思議な物が有るのに、彼女にはない事を不思議に思っていると、沙羅が蓮二に問いかける。

 

「ねえ。この妖力と妖耐ってもしかして……」

 

「多分『ロウ』ですね」

 

蓮二は肩に下げている『狼牙』と腰に巻いている『狼黒』に視線を向ける。

 

「『ロウ』は一心同体ですから。多分この二つの力も少しばかり反映されているんだと思います。それになんか半人半妖って文字も付いてますし…」

 

「となると蓮二のステータスって見せると大変かもね」

 

沙羅はメルド達と生徒達の方を見る。

 

向こうでは光輝のステータスを見てメルドが驚いている。勇者とも言っている事からかなりのステータスだろう。しかし。

 

「全部のステータス100って言ってる所から、私達の見せたら卒倒するかもね」

 

苦い顔で言う沙羅に、蓮二は同調していると、一人の騎士が此方へと向かってきていた。

 

その人物は一眼見れば見目麗しく、姫騎士の様なドレスアーマーを着た茶色い髪の女性だった。

 

「使徒様。どうかなされましたか?」

 

彼女は蓮二と沙羅を心配して来てくれたのか、心なしか不安そうな表情を見せていた。

 

「いえ、なんでも無いですよ」

 

「そうでしたか……昨日も貴方方は離れた距離から私達を見ていたので、何か有ったのかと……あ、申し遅れました。私はデュエラ・ロギンス。あの馬鹿親父の娘をしております」

 

デュエラの自己紹介を聞いて、蓮二と沙羅は驚く。まさかあのメルドに娘が居たとは知らなかったからだ。

 

更に言えば、全然似ていないところから、彼女は母親似なのだろうと推測しながら蓮二が見ていると、デュエラが首を傾げた?

 

「使徒様 ?」

 

「ああすまない。全然似てなくてつい」

 

蓮二が正直に伝えると、デュエラはクスリと笑う。

 

「確かにそうですよね。私はよく似てないと言われます。ですがまごう事なき血縁です」

 

「まあそこは疑いはしませんが……ああ、俺は新宮蓮二。蓮二でいい」

 

「私は久遠寺沙羅。私も沙羅で良いわ」

 

「蓮二さんに沙羅さんですね。私の事もデュエラとお呼びください。それで一体どうしたんですか?なんだか苦い顔をしておりましたが……」

 

デュエラが問いかけると、沙羅がバツの悪そうに話す。

 

「ちょっとね。私達のステータスを見せたらメルドさん卒倒するんじゃないかしらって思って……」

 

沙羅がそう言うと、デュエラは成る程と頷き、察してくれたのか、柔らかな笑顔で話す。

 

「でしたら私が見ますね」

 

「えっ?良いんですか?」

 

「ええ。こう見えて私、ステータスは高い方なので……そうですね父の数倍は有りますから」

 

嘘偽りない笑みを見せながらデュエラはステータスプレートを見せてくる。

 

===============================

デュエラ・ロギンス 20歳 女 レベル:40

天職:騎士

筋力:950

体力:700

耐性:650

敏捷:250

魔力:500

魔耐:350

技能:大剣術・怪力無双・天性の肉体・剛招来・限界突破・言語理解

===============================

 

 

「これはまた凄い……」

 

「これを見たら私たちなんてまだまだね」

 

蓮二と沙羅は上には上がいる事を知って安心したのか、デュエラにステータスプレートを見せると彼女はふむふむと頷く。

 

「確かにレベル1からこれだと父なら卒倒しますね。特に蓮二さんの妖力と妖耐なんて聞いたことがありませんし……分かりました。二人の確認は私がした事にしておきます」

 

「ありがとうございます」

 

「助かるわ。下手に目立ちたくないしね」

 

「それではこれから二人の訓練をどうするか考えましょうか。他の方のステータスより高い分、かなりキツめな訓練でも……ん?」

 

「どうしました?」

 

「何やら向こうが騒がしくて……」

 

デュエラの琴線に触れた事が起きたのか、嫌悪感溢れる表情を見せている。

 

「訓練内容を考える前に彼方に向かっても良いでしょうか?」

 

「構いません。蓮二も大丈夫かしら?」

 

「ああうん。俺もついて行くつもりだし」

 

「ありがとうございますお二人とも。行きましょう」

 

デュエラ先導の下、メルド達の元に行くと、ハジメを囲む様に四人の男子生徒が何やら言っている姿が見える。更には一部を除き、ハジメを嘲笑している生徒達の姿を見た蓮二は思わず何事だと問いただす。

 

「おい。何をしている」

 

蓮二の睨みを効かせた問いかけにハジメを囲んでいた一人の男子生徒『檜山大介』が笑いながら答える。

 

「南雲の奴、一般人と同じステータスな上に錬成師なんて言う非戦闘員なんだぜ!これが笑っていられ…げ!新宮!?」

 

檜山は誰からの問いかけに気づいていなかったのか、蓮二を見て狼狽える。

 

「おい…何故ハジメを笑った?答えろ」

 

「な、なんだよ新宮!?お前クラス違うんだから関係ないだろ!」

 

檜山の言い分に生徒達、特にハジメを囲む男子生徒達はそうだそうだと言ってくるが蓮二はそれを無視してハジメに話掛ける。

 

「錬成士なんだって?」

 

「う、うん…」

 

自信なさげに答えるハジメに蓮二はテンション上げながら肩を組む。

 

「やったじゃねえか!お前この世界で発明王になれるぞ!」

 

「えっ!?蓮二どういうことなの!?」

 

親友の高いテンションについていけないハジメは蓮二に問い掛けると、自信満々に答える。

 

「あん?決まってんじゃん。生産系天職って事はよ。何でも作り放題だって事じゃねえか。それこそ金を錬成したり、アニメとかであるような武器だって作れるってことだろ?それこそビームのライフルとか、パワードスーツなんてものも作れるんじゃねえか?」

 

「確かに…!」

 

蓮二とハジメは嬉しそうに錬成士の可能性について語りだす。やれビームの剣だったり、エンチャントした武具を作ったり出来ると話していると、デュエラと沙羅も話に混ざってくる。

 

「夢が広がる話ね!南雲君には私の武器とかお願いしようかしら。頼める?」

 

「はい!先生の望む物を創ってみせます!」

 

「それでは私もお願い出来ますか?。異世界の武器の中で私の筋力に合う物を…そうですね鉄塊の様なものでも構いませんので」

 

「えっと、貴方は?」

 

「私はデュエラ・ロギンス。そこにいるメルドの娘です。デュエラとお呼び下さい」

 

「南雲ハジメです。ハジメで大丈夫です」

 

ハジメとデュエラの自己紹介が終わると、沙羅を含め三人は武器案を詰めようとしたが、それに待ったをかける人物がいた。

 

光輝だ。

 

「待ってくれ南雲。その人の前にクラスメイトの武器を作るのが優先じゃないのか?」

 

「ぷっ。ははははは!」

 

光輝のクラスメイトを優先しろという名の命令に思わず蓮二は高笑いする。

 

「何がおかしいんだ!?」

 

「いやよ、さっきまでハジメの事嗤ってた奴らの一人が何様のつもりでそんな事言えるんだって話よ」

 

「俺は嗤ってなんていない!」

 

「ならなんでクラスの連中を糾弾しなかったんだ?仲間ならなんで助けないんだ?」

 

「そ、それは」

 

「ああ、言い訳は良いから。取り敢えずお前らに言っとく」

 

蓮二は生徒達に向けて宣言する。

 

「今後ハジメに対して何かしてみろ…!ハジメの親友として俺が煉獄に叩き込んでやるよ…!行くぞハジメ」

 

蓮二がそう言い切るとハジメを連れてこの場を去ろうとする。

その後ろを追ってデュエラも行こうとし、更に沙羅が続こうとする前に、彼女もまた生徒達に告げる。

 

「ああ。そうそう、あんた達。例え嫌いな人間だとしても、上から見ていれば足元掬われるわよ」

 

それじゃあねと沙羅が蓮二に付いていき、練兵場を後にしようとするが、光輝が待ったを掛ける。

 

「待ってください!生徒を置いて行くなんて、それでも先生ですか!?」

 

光輝の最もな意見に対して、沙羅は呆れながら告げる。

 

「私は先生として忠告はしたわ。そしてこれからは私だって訓練が有るし、南雲君に作ってもらう物の打ち合わせとかもしたいから貴方達に時間を割けないの。わかった?」

 

「でも!こんな時だからこそ皆で協力を!」

 

「だったら私に構うよりも謝る人が居るんじゃ無いのかしら?」

 

「謝る?誰にですか?」

 

沙羅の発言に疑問を浮かべる光輝に流石の沙羅も呆れて物が言えなくなる。

 

さっきまでハジメがイジメに近いものを受けていたにも関わらず何も悪い事をしていないと言いたげな光輝の態度、更には他の生徒達迄首を傾げている姿を見て、沙羅はもう付き合いきれなかった。

 

「はあ……聞いた私が悪かったわ。自分で考える頭を持った方が良いわよ。それじゃあね」

 

君たちの事はもう知らないと告げた沙羅は蓮二達の元へと向かって行く。

 

沙羅が去って行くその背中を、光輝はただ見送るしかなかった。

 

四人が練兵場を後にしようとした時、愛子のお説教の様なものが飛んでいる様に聞こえたが、それも殆ど無視されるだろうと沙羅は考えていた。

 

(人間って下に見れる人が居ないと自分を保てない人が多いし……さて、何人が反省するかしらね?)

 

沙羅は期待を込めながらその場を後にするのだった。

 



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和解と新たな武器

「それで、先生とデュエラさんはどんな武器が欲しいですか?」

 

練兵場から打って変わって沙羅の要望で蓮二の部屋に来た五人の内の一人であるハジメは、沙羅とディエラの要望を聞くためにペンと羊皮紙を用意して聞き出す。

 

「そうねぇ。私は剣と銃が欲しいかしら。私の技能に一刀一銃という技能があるから、多分ガンエッジをしなさいって事だと思うの」

 

「私は先程も言いましたが、折れない位頑丈で硬い鋼の塊の様な大剣でしょうか」

 

「成る程。だったらこんな感じの武器が良いのかな」

 

ハジメはイラストレーターとしての技量を持って二人の望む武器を書き上げる。

 

沙羅の方はコンパクトな赤の片手長剣と短銃。

 

デュエラの方はスマートながらも確かな重厚さと切れ味を両立させた大剣だった。

 

「とりあえずこんな感じで描いてみたけど、どうかな?先生の武器のイメージとしてはこの世界に魔石とかが有ればそれを媒体に剣の切れ味を増すための魔法剣と、属性魔法の弾丸を発射する銃。デュエラさんの武器はの方は魔力を込めれば切れ味をあげるイメージなんだけど……どうかな?」

 

ハジメは恐る恐る二人にイラストの書かれた羊皮紙を渡すと、二人の反応を見ていた。

 

「うん。カッコよくて良いわねこれ」

 

「これなら私も使ってみたいです」

 

沙羅とディエラの好意的な反応に、ハジメは思わずホッと一息つくと、ディエラに話しかける。

 

「それでデュエラさん。この世界って魔物から取れる魔石とかってありますか?」

 

「ええ。有りますよ使い道は主に魔力の貯蓄ですが」

 

ディエラの返答で、留意点だった魔石がある事を知れたハジメは思考し始める。

 

「魔力を充填できる。それなら魔法陣を描けば……いや、それなら陣に拘る事なく付与できればいい。それはどうやる?錬成でそこまで出来るのか?仮に出来ないにしてもやってみる価値は有る……」

 

ハジメが思考の海に飛び込んで二人に最高の武器を作ろうとする作り手としての血が騒ぎながらどうするか設計している。

 

その間にデュエラはこれからの訓練内容について提案していた。

 

「私としては冒険者の仕事をしながら訓練するのが良いと思うのですが、どうでしょうか?冒険者なら皆さんが街で使えるお金を稼ぎつつ目的の武器を作るための素材を集められますし、それでいて魔物を殺す訓練にもなります。特に街周辺には人型の魔物も棲息しているので、魔人族を殺す時の躊躇いは減ると思います」

 

デュエラの提案は実戦的かつ現実的なものだった。メリットデメリットをしっかり加味しつつ、王国に頼り切りにならない様に自分達で生計を立てられ素材を供給して武器を作りつつ人を殺す事に慣れさせようとする正に殺し合いの現実を教えようとするものだった。

 

「それで良いです。普通の訓練よりも経験になりそうですし」

 

「そうね。私も実戦的なのは好きよ」

 

蓮二と沙羅はデュエラの提案で、人を殺さないといけない事実に目を背けず、受け止めると、デュエラにそれで良いと伝えると、彼女は頷く。

 

「では本格的動くのは明日からにして、今日は英気を養いましょう。貴方達に会いたそうな方達も居ますし……入って来たらどうですか?」

 

デュエラが促すと、扉の外に居た者達が入ってくる。

 

それは香織、雫の二人に蓮二がよく知らない二人だった。

 

「えっと、アンタらは?白崎と八重樫は分かるけど」

 

「ああ、アタシは園部優花」

 

「俺は遠藤浩介」

 

優花と浩介が自己紹介すると、直様二人は頭を下げてくる。

 

「「ごめんなさい!南雲の事笑って!」」

 

二人は大きな声で謝ると、思考の海に居たハジメも二人の事に気づき、苦笑いを見せる。

 

「あはは……僕は気にしてないよ。蓮二や久遠寺先生が言いたいこと言ってくれたし。それに、今僕の世界の武器が作れなかったら、それこそ役に立たないしね。だから僕は気にする余裕は無いよ」

 

そう言ってハジメはまた沙羅とデュエラの武器の構想と作成の為の材料の事を考え出す。

 

また自分の世界に戻った事に気づいた蓮二は、二人と話す。

 

「悪いな。ハジメの奴ああなると止まらないんだわ。伝言あるなら聞いとくぜ」

 

「ううん!アタシはただ謝りたかっただけだから大丈夫」

 

「俺も。本当は俺の友達も連れて来たかったんだけど、アイツら頑なに謝らないって言うんだよ…」

 

気丈に振る舞う優花と申し訳なさそうにする浩介に沙羅が近寄ると二人の頭を撫でた。

 

「「あっ……」」

 

「貴方達は偉いわ。自分達の過ちを反省し、謝りに来る事が出来て。それだけで貴方達は成長したわ。貴方達の学校教師として誇りに思うわ」

 

「「久遠寺先生……」」

 

「だから貴方達は胸を張って生きなさい!貴方達はまだ成長できるわ!絶対に生き残って日本に帰るわよ!」

 

「「はい!」」

 

優花と浩介は力強く返事をすると、二人は部屋を出て行く。その背中はとても頼もしさの見える背中で、沙羅は二人の将来が楽しみになりつつも、あんな未来ある少年少女を戦わせるこの世界を恨んでいると、蓮二が沙羅の背中から抱きしめる。

 

「蓮二?」

 

「なんか、沙羅先生を放っておいたら、何かやっちゃいけない事をしそうだと思って……それでつい」

 

「つい、じゃないわよ……蓮二は本当に私の事分かってるのね」

 

「そりゃこ、恋人だし……分からなかったら失格だと思って」

 

「もう……ありがとう。蓮二」

 

「どういたしまして」

 

沙羅が後ろを振り向いて蓮二の顔を見ると、蓮二の凛々しくも優しさのある表情を見て、世界への恨みは何処かに行ったのか、もう蓮二の事しか頭に無く、そのまま顔を近づけて行く。

 

そして唇が重なろうとした瞬間、

 

「はいストップ!何出し抜こうとしてるんですか!」

 

雫が二人を引き離した。

 

「あら?嫉妬かしら八重樫さん?女の嫉妬は見苦しいわよ」

 

沙羅は余裕を持ちながら雫を挑発すると、彼女はその挑発に乗る。

 

「ええ嫉妬ですがなにか!?私の蓮二とキスしようなんて、私が見てるうちは邪魔しますから!」

 

「じゃあ、二人きりになったらしましょ?ねっ?蓮二?」

 

「あ、うんそうだね」

 

「〜!狡い!蓮二!私ともしなさい!」

 

「ダメに決まってるでしょ!蓮二はわたしの恋人なんだから!」

 

ギャァギャァと女の争いをする沙羅と雫を見ていた香織は蓮二の隣に来てあははと苦笑する。

 

「愛されてるのって大変なんだね…」

 

「そう言う白崎は早くハジメに気持ち伝えろ」

 

「ふぇっ!?……う、うん」

 

蓮二からの応援にに香織は「頑張らないと」と気合を入れてハジメの元に行くが、本人を目の前にして緊張したのか、しどろもどろな言動でハジメを困らせるだけだった。

 

(ハジメもハジメで頑張れよ)

 

ハジメと香織の交わらない姿を背にし、未だに論争が続く沙羅と雫に蓮二が止めに入ろうとするが、男は黙ってろと言わんばかりの威圧に思わず見守るしかないと思いながら終わるのを待っていると、デュエラが蓮二に話しかける。

 

「楽しい人達ですね」

 

「そう言えるのは当事者じゃないからですよデュエラさん…」

 

蓮二は苦笑するが、側から見ているデュエラはクスクスと笑いながら沙羅達のキャットファイトとハジメ達の噛み合わない姿にこの人達となら背中を預けられると思うのだった。

 

_____________________

 

 

デュエラ指導のもと蓮二、沙羅、ハジメは冒険者家業しながら魔物を倒しては魔石や市井に流れる金属類を購入してはハジメに加工してもらい、沙羅とデュエラとハジメ自身の武器を作ること、一週間が過ぎた頃。

 

魔物とは言え命を奪う行為に、最初は蓮二も沙羅もハジメも食事が喉を通らなくなった事も有ったが、少しだけ動物の様な魔物を殺せる様になっていた。

 

そんな一週間が過ぎた頃。蓮二、沙羅、デュエラはハジメに呼び出されて練兵場に居た。

 

「お待たせー……」

 

「お、ようや…おいハジメ!?」

 

「顔真っ青よ!」

 

「大丈夫ですか!?手伝います!」

 

ハジメが此方へと向かって来ようとしているのだが台車の様な物を引きながらかつ、青い顔をしている事から、とてつもないほど重いものを引っ張っていると気づいた三人は直様手伝いに向かい、四人がかりで練兵場の端まで来ると、ハジメはゼーハーと息を荒くしながら倒れ込む。

 

「大丈夫かハジメ!?」

 

「……うん。徹夜明けの肉体労働だったから大分しんどい」

 

「おいおい……無理はするなって」

 

「無理しないと、久遠寺先生とデュエラさんの武器は作れなかったんだ……ごめん」

 

「…とりあえず二人に武器渡して説明したら今日は休め。なんなら白崎に回復魔法でもかけてもらいながらな!なんなら朝までしっぽりむふふと……」

 

「っ!も、もう蓮二ってば!白崎さんが僕のためにそんな事するわけないじゃん!揶揄わないでよ!」

 

(いや絶対求められたらやってくれるって…)

 

蓮二が割と本気で香織と肉体的に繋がってしまえと言ってると、沙羅が蓮二の頭を叩く。

 

「あいた!」

 

「こら蓮二。不純異性交遊させようとしないの」

 

「すいません」

 

「全く…それで?私達の武器って?」

 

「ああ!そうでした!」

 

忘れていたと言わんばかりにハジメは慌てて台車に積まれてる武器を沙羅に渡す。

 

沙羅の武器は片手でも扱いやすい様に少し短めの片刃の刀身が幅広いブレードで鍔の部分にも刃がついてあり、柄頭と刀身の中心には赤色の魔石が装填されている。

 

銃の方は自動拳銃に似た作りだが、銃身には牙の様な装飾がされている。

 

デュエラの武器はハジメがなんとか引きずって渡す。デュエラの武器は所謂ツヴァイハンダーで、刀身が分厚く、それでいて切れ味を両立させるために刀身に反りが入った片刃の大剣だった。

 

渡し終えたハジメは二人に説明する。

 

「久遠寺先生の武器は剣の方が『ヴァイオレント』と言い、錬成の派生技能で生えた付与効果で剣の方に切れ味上昇の付与をつけています。魔力を流せば切れ味は増して行くので刀身には下手に触らないでください。銃の方は『エクレール』と言います。二種類の魔石を直列に錬成で繋いで、先生が流した魔力を一つの魔石で増幅させて、もう一つの魔石で魔法弾を放つ作りになってます。一度放つと魔力装填に数秒掛かりますので、牽制目的よりも確実に止めを刺す時か相手の動きを読んでの射撃が求められます。『エクレール』の方は予備を二丁作ってあるので、ガンガン使ってください」

 

「分かったわ。よろしくね『ヴァイオレント』、『エクレール』」

 

沙羅は相棒に挨拶をすると、それに呼応する様に少し光って見える。

 

「あら、中々素敵そうね…ふふ」

 

反応してくれた様に見えた沙羅は思わず微笑む。

 

その間にもハジメはデュエラに大剣の説明をしていた。

 

「デュエラさんの大剣は『アズール』こちらも『ヴァイオレント』同様の付与をしてあるので、切れ味は保証します。更に買える範囲で一番硬い金属と折れない為のしなやかな金属を使った四方詰めと呼ばれる技法を錬成で繋いでありますので、折れず、曲がらずを実現させながらも切れ味を損じない作りになってます。メンテが非常に難しいので、僕に言ってくれればメンテしますので気軽に言ってください」

 

「ありがとうございますハジメさん」

 

「いえ、僕に出来る事はこれくらいですので……」

 

あくまでもこれしか出来ないと卑下するハジメに蓮二は否と告げる。

 

「いや、ハジメは凄えよ。俺達みたいな戦いしか出来ない奴に比べたら遥かに凄え。流石親友だよ」

 

「蓮二……」

 

「自信持って良いんだぜ?南雲ハジメは凄いやつだってな」

 

「そうね。たった一週間で此方の要望以上の武器を作れるなんて、凄いわ」

 

「そうですよ。今迄見てきた錬成師の中でも貴方は優秀どころか天才です」

 

「久遠寺先生……デュエラさん….」

 

三人に褒められたハジメは思わず涙が出る。自分の事を認めてくれる人が居る事がこんなにも嬉しいなんてと。

 

それが自信になったのか、ハジメは笑みを見せる。

 

「ありがとう…ございます!」

 

ハジメの礼に対して蓮二と沙羅とデュエラは笑みで返す。

 

こうしてハジメと蓮二達の絆は更に深まっていくのだった。

 

 

 

 




んー。展開早いですかね……一応ハジメ君は少し強化入れてるんですが……そこの描写必要だったかな?



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新たな仲間

書いてたら自然と七千文字か…書いていると自然と越えるんですよね。

今回もオリキャラ出てきます。オリジナル展開及びハジメの微強化ありますのでご注意を


「そういやハジメ。お前自分の武器は作ったのか?」  

 

沙羅とデュエラに武器を渡し数日後、王国の冒険者協会の酒場で適当に四人分の昼飯を買ってテーブルに座った蓮二がハジメに問いかけていた。

 

冒険者協会に居るのは、ついに今日、人型の魔物を殺す依頼を受ける為だ。

 

「うん。一応これをね」

 

そう言ってハジメは一つの銃器を見せてくる。

 

AK47とよく似たアサルトライフルに見えるが、銃身の左右を金色の棒で挟んだ銃器を見せながらハジメは説明する。

 

「これは僕が作った『ヴァリス』実弾を銃身に外から嵌め込む魔石で電気を纏わせて、電磁射出……つまりレールガンの様に弾丸を発射出来るものなんださらに言えばレールガン仕様にしたお陰で装弾数が三倍になって、一つのボックスマガジンに百二十発の弾丸を詰める事が出来ているんだ。ただフルオートは無理だけどね」

 

「はー……レールガンなんて作れるもんなのか」

 

「んー。こればかりか偶然も多かったね。何せ磁気を帯びた金属を買えたのが大きいよ」

 

 

ははは。と笑うハジメの姿に蓮二は最初にトータスに来た時よりもよく笑う様になったと思っていた。

 

この数日、ハジメは自分に自信がついたのか訓練や知識を得る為の読書や戦闘に生かす為の錬成の扱い方を猛勉強していた。

 

そんな成果は彼のステータスに表れていた。

 

 

==================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:5

天職:錬成師

筋力:48

体力:46

耐性:44

敏捷:38

魔力:90

魔耐:90

技能:錬成【無陣錬成】【高速錬成】【遠距離錬成】【理解】【分解】【再構築】【付与】【調薬】【調合】・言語理解

==================================

 

ハジメのステータス、特に魔力と魔耐がかなり伸びており、派生技能も増えている。

 

特に錬成の派生技能である分解は非常に強く、ハジメの手に触れた魔物を最初からそこに居ない原子レベルに分解したのだ。

 

この技能を持ったハジメは、全体的なステータスが上がっていけばきっと強くなると、デュエラからもお墨付きを得れた。

 

そして蓮二と沙羅も訓練の間にかなり成長した。

 

 

===============================

新宮蓮二 17歳 男  半人半妖 レベル:5

天職:妖刀師

筋力:500

体力:440

耐性:220

敏捷:800

魔力:0

魔耐:400

妖力 : 2500

妖耐:3000

技能:抜刀術【我流】【残月】【神風】【煉獄撃】【煉獄斬】【斬撃強化】【一刀両断】・妖刀制御・神速・煉獄・妖力操作・真名解放・限界超越・妖気覚醒【ロウ】・ウォークライ・勇士の誇り・言語理解

===============================

 

 

 

===============================

久遠寺沙羅 25歳 女 レベル:5

天職:遊撃師

筋力:350

体力:380

耐性:280

敏捷:700

魔力:650

魔耐:450

技能:剣術【片手剣適正】【斬撃強化】【雷迅剣】【叢雲】・銃術【拳銃適正】【銃撃強化】【鳴神】・戦術眼・雷迅功・一刀一銃・紫電・雷魔法適正・光魔法適正・ウォークライ・遊撃師の誇り・言語理解【詠唱破棄】

===============================

 

 

魔物を殺して実戦での経験値を積んでいるからか、成長がよく伸びている。特に蓮二の妖力と妖耐は群を抜いている。

 

しかしながら蓮二は未だに妖力を操作しきれていないでいる。それは魔力とは違い、誰も持っていないのと、妖力を操作する時、暴走する事があるからだ。

 

前に妖力を操作していた時、急に体の奥底から妖力が溢れ出し、その力に意識を奪われていた事があり、その時はレベルが低かったからこそデュエラに止められたが、レベルが上がれば止められる人は居ないだろうと思い、今はなるべく使わないようにしている。

 

それはともかく、蓮二とハジメが昼食を摂りながら沙羅とデュエラを待っていると、一枚の羊皮紙を片手に持ったデュエラと、二人分の食事を持った沙羅がやって来る。

 

「お待たせしました。良い依頼が多くて悩みまして……」

 

「いえ、寧ろ僕達の為にありがとうございます」

 

「それでどんな仕事なんです?」

 

蓮二が問いかけると、デュエラは自信あり気に答える。

 

「ブルータスと言う人型の魔物の討伐です」

 

「「ブルータス、お前もか」」

 

「えっ?なんですか?」

 

「いや、なんでもないです」

 

「そうですよ!」

 

ブルータスの言葉に思わず反応してしまった蓮二とハジメはなんとか誤魔化すと、デュエラは首を傾げながらも席に座り、ブルータスの説明をする。

 

ブルータスは王都周辺に居る人型の魔物で、日本で言う豚のような顔をした緑色の巨人とも言える。

 

性格は残忍で、目に映る動くもの全てを壊す所から【壊し屋】とも呼ばれる。

 

特徴的なのはその筋力で、一度掴まれたら最後、死ぬまで離せない程の筋力を持っている。

 

そんな魔物をデュエラが選んだのは、ブルータスの足が遅いからだ。

 

蓮二と沙羅の敏捷とハジメの後方支援が有れば余裕だと踏んでいる事もあるらしい。

 

デュエラから説明を聞いた三人は、彼女が自分達が超えられる範囲のものを選んでくれている事に感謝しつつ、昼食を摂り、王都の外へと出るのだった。

 

_____________________

 

王都外縁の森林についた蓮二達は森の獣道を進んでいた。

 

木々が鬱蒼としているせいか薄暗く、蓮二達の進む先を明瞭に見せないまま四人は音と気配の探知する為に最大限感覚を研ぎ澄ます。

これはゲームではなく、現実なのだ。魔物とエンカウントすれば命のやり取りが始まる。トータスには蘇生魔法なんて便利なものなんてない。

 

死ねばそこで終わり。

 

その現実を分っているからこそ、蓮二達はステータスの高さによる慢心をしない。いや、出来ない。

 

デュエラですら死線を潜っているという話を聴いているからだ。

 

蓮二達は幸運だった。デュエラという現実をしっかり教えてくれる人物に教えてもらえて。

 

香織と雫、浩介と優花に訓練内容と座学の内容を聞いた時は、実体験を交えた血生臭い話など一つもない事を知って驚愕した。

 

それは戦争に参加させる側としてどうなんだと蓮二達は思ったが、デュエラ曰く王国と教会が話すなと言ってきたらしい。彼等の思惑は現実を知って尻込まれてれば困るからとも考えている。

 

彼女からすれば、そんなの無視して早く教えてしまえばいいとメルドにも進言したが、あまりいい顔しなかったみたいで、それを見かねてデュエラは現実を分ってもらうために自分がしましょうかと言ったがそれは止められた為、今は口を噤んでいる。

 

その一件から蓮二達は王国と教会に対して不信感を持っているが、それはともかく、今は人殺しの経験を積むためにブルータス探しが優先だ。

 

獣道を進んでいると、先方を務めていたデュエラが立ち止まる。

 

警戒のオーラを放つところから魔物か何かを見つけたのだろう。

 

「三人とも、茂みの中でしゃがんで下さい」

 

デュエラの言う通りにしゃがむと、何かがこちらへと来ている足音が聞こえる。

 

そして、蓮二達は目の当たりにする。

 

それは人の二倍はあるだろう体格に、豚のような顔立ち、筋骨隆々なその体はまさにファンタジーでいうオークだろう。それも一体どころか三体もいる。

 

「あれがブルータス…」

 

蓮二は思わず呟く。確かに人に似ているとも感じとっていると、何やら引きずる音が聞こえ、更には何か話してるそれは、人だった。

 

「離して!離しなさいよ!」

 

それは人よりも長い耳をした灰色の長髪が特徴的な女性でブルータスに足を引きずられながら抵抗していた。

 

「あれは…エルフ?」

 

「長耳族という言う亜人ですね。おかしいですね…ハルツェナ樹海からは出て来ない亜人種ですが…なぜここに?」

 

デュエラは疑問になりながら思考する。亜人種はハルツェナ樹海と言うトータス最大の樹海の深部にひっそりと住んでおり、こんな所にはいないしありえないのだ。

 

そんな長耳族の少女が何故ここにと疑問に思うハジメはデュエラに問い掛ける。

 

「何で捕まっているんでしょうか?ブルータスって動くもの全て壊す魔物ですよね?それなのに…」

 

「恐らく、繁殖の為ですね。この時期のブルータスは女性を攫って産ませるので…女性の天敵です」

 

三人にブルータスの生態を説明しつつさてどうするかとデュエラが考えていると蓮二が刀袋から『狼牙』を取り出し、腰に差している姿を見る。

 

「っし、やるか」

 

蓮二が立ち上がる。それと同時に沙羅とハジメも立ち上がる。

 

「そうだね。敵は三体、僕が援護するよ」

 

「頼むわね南雲君。女の敵は倒さないと」

 

「ま、待ってくださ」

 

デュエラが静止の声を上げるがそれを三人がいざ参らんと茂みから出て動き出す。

 

「ああもう!」

 

デュエラもやるしかないと判断し、動き出す。

 

先手を切ったのは沙羅だ。

 

沙羅は『エクレール』で少女を引きずるブルータスの腕を撃ち抜く。

 

「グルアアアアアアアア!」

 

雷の属性弾を撃ち込まれたブルータスは腕を焼かれる痛みで少女の足を離し、悶えている。その隙に沙羅は詠唱破棄した光魔法の中でも治癒に特化した魔法をかけて傷を癒す。

 

「大丈夫かしら!?」

 

「え、ええ!」

 

突然現れた人間に驚きつつも、少女は万事なしと伝える。

 

「ならよかったわ」

 

沙羅は少女を背にすると、怒りで我を忘れたブルータスが振り上げている腕を『ヴァイオレント』で斬り上げる。魔力を注いで切れ味を増したその斬撃はブルータスの腕の骨すらも容易く両断する。

 

切断面から生じる激痛に、再度悲鳴をあげるブルータス。その悲鳴を煩わしくなってきた沙羅はブルータスのこめかみ目掛けて『エクレール』の雷弾を撃ち込む。

 

放たれた雷弾は、ブルータスのこめかみをピンポイントで捉え、頭蓋骨なんて無視して脳を雷で焼きながら貫通すると、その命を奪う。

 

仲間が殺されたブルータスは何事だと蓮二達を見ては敵意を露わにする

 

 

「一体倒したわよ!私はこの子守るから後は頼むわよ!蓮二、南雲君!」

 

「「おう!」」

 

沙羅に返事した蓮二とハジメ。二人はそれぞれ前衛後衛に分かれる。蓮二が前衛でハジメが後衛で残り二体のブルータスを相手にする。

 

「行くぜ『ロウ』!」

 

蓮二は『狼牙』を抜刀し、ブルータス二体に詰め寄る。

 

ブルータスの一体は蓮二を敵として認識し、拳を振るう。普通の人間が直撃すれば怪我では済まないその一撃を、蓮二は真っ向から攻めに行く。

 

「甘ぇ!」

 

『狼牙』とブルータスの拳がぶつかると同時に、『狼牙』は妖力を刀身に纏い、薄く鋭い刃を形成させ、ブルータスの腕を二枚に卸すかのように斬り裂いていく。

 

腕を縦に両断し、悲鳴をあげそうになるブルータスの首を返す刀で斬り落とし、その生命を断ち切る。

 

一体倒した蓮二が二体目に行こうとした時、二体目は勝ち目が無いと判断したのか逃走していた。

 

このまま逃したら被害が出る。そう感じ取った蓮二はハジメに叫ぶ。

 

「ハジメ!」

 

「うん。分かってる」

 

蓮二に冷静ながらも確かな受け答えをしたハジメは『ヴァリス』のアイアンサイトを覗きながら、直線に逃げるブルータスの頭に標準を捉え、トリガーを引く。

 

ズァオンッと音を鳴らしながら2本のレールによって磁気を生み出し、銃身に込められた弾丸を電磁発射したそれは、ブルータスの頭を柘榴の様に弾けさせ、即死へと持っていく。

 

 

「よし!」

 

『ヴァリス』の威力とブルータスの死に思わずガッツポーズをしているハジメ。勝利を確信したのだろうか油断が生まれる。

 

その油断が仇となり、隠れていたもう一体のブルータスの存在に気付かず、ハジメは接近を許す。

 

「グルァァア!」

 

「う、うわぁ!」

 

ハジメが気づいた時には、ブルータスの拳が振りかぶり、今にも振り下ろされそうになっていた。

 

この時ハジメはああ、僕死んだと悟る。ブルータスの拳がスローモーションで自分へと迫る中、ハジメの脳裏に浮かぶは香織の笑顔。

 

(死にたく無い!まだ白崎さんと話したいんだ!)

 

そう思うもハジメはブルータスの拳を避けられないでいると、その間に入り込む人物が居た。

 

デュエラだ。

 

デュエラはブルータスの拳を『アズール』の腹で受け止めると、覇気を四肢に込めて弾く。

 

弾いた事でよろけるブルータスを見て好機と見たデュエラはブルータスの真上に跳躍すると、落下の勢いをつけて、その大剣を振り下ろす。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

振り下ろされ、地面へと叩きつけられた『アズール』の衝撃で地面を割りながら、ブルータスを一刀両断したデュエラは剣についた血糊を払うとハジメに近づき、頭に拳骨を入れる。

 

「あいったぁ!」

 

手加減はしたが、ステータスの高いデュエラの拳骨にハジメの地面をのたうち回る姿を見ながらデュエラが怒りの声をあげる。

 

「全く……戦場での油断は死につながるんですよ!それから蓮二さんと沙羅さんも無茶しちゃダメです!」

 

「「すいません……」」

 

蓮二と沙羅は反省しつつ謝ると、デュエラが溜息混じえながらも更に話す。

 

「ですが、人助けをする為に動けたのは私としてはとても嬉しい事です。トータスでは魔力を持たないからと差別されている亜人種を助ける人なんて居ませんからね…悔しい事に」

 

思わず手に力が入り、苦い顔をするデュエラ。

 

彼女の言う通り、このトータスでは亜人種を助ける様な人間は居ない。寧ろそのまま死ねと思っている者も多い。

 

だからこそ、蓮二達の様に種族関係なく助ける三人を好ましいと思ってしまう。

 

悔しそうにしているデュエラに、蓮二は頬を掻きながら話す。

 

「いやさ、俺だって半人半妖なんていう…謂わば亜人種だし、俺も魔力を一切持ってないんだしさ。そんな魔力の有る無しで人を助けるか助けないか決められないんだよ……」

 

蓮二は苦笑しながら話す。確かに蓮二は魔力が無く、妖力と言う不思議な力を持っている。

 

もしデュエラ以外に自分のステータスを見られていたらと思うとを考えるだけでも恐怖してしまう。

 

二人して暗い表情を見せていると、沙羅が手を叩いて注目を此方にと向けさせる。

 

「はいはい。とりあえずその辺は後にしましょ。今私達が考えないといけないのはこの子の事でしょ?」

 

そう言って沙羅は長耳族の少女を見ると、彼女は立ちあがり、自身の事を話し始める。

 

「助ったわ……私はミレイナ・アージェス。歌姫の一族、アージェス族の一人にして……樹海を追い出された者よ」

 

「追い出された?どうして?」

 

蓮二が問いかけると、ミレイナは身の上を語り出す。

 

彼女は元々、アージェス族の中でも一番実力のある歌姫として暮らしていたが、ある日体中が痛みだし、熱が治らない日々が続き、治った頃にはこの灰色の髪になっていた。更に亜人種では使えないはずの魔力を扱える様になったミレイナは忌み子として樹海を追い出され、途方に暮れていた所を奴隷商人に捕まり、王都周辺でブルータスに襲撃されて今に至るらしい。

 

「と言うわけなの」

 

「成る程……つまりは先祖返りみたいなものか」

 

「なにそれ?」

 

聞き慣れない言葉にデュエラは首を傾げるので、蓮二が簡単に説明する。

 

「まあ簡単に言うと、先祖返りってのはお爺ちゃんとかの世代には持っていた力を受け継いでいるって事かな?」

 

「ふむ……」

 

納得してくれたのか、デュエラは唸っている中、沙羅はミレイナにこれからの事を聞いていた。

 

「貴方、これからどうするの?」

 

「……わからないわ。何をしたらいいのか……」

 

俯くミレイナのその姿は道を指し示して欲しい子供の様に見えた。

 

無理もない。今迄の生活が一変すればこうもなる。

 

さてどうしようかと考えているミレイナに沙羅はこう提案した。

 

「なら貴方、私達と一緒にいない?」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

沙羅の提案に、この場にいる全員が驚く。

 

「なによそんなに驚いて」

 

「いやいや久遠寺先生!亜人族を連れていってたらきっと余計な事が起きますって!?ねえ蓮二!…蓮二?」

 

ハジメは思い込みの激しい男による厄介事が起こるかもと示唆し蓮二にも同意してもらおうと視線を向けるが、蓮二は何かを考えているのか、手を顎に付けている。

 

蓮二の心中は迷いと不安だった。半人半妖の自分も同じ目に遭うんじゃないかないかと。沙羅やハジメにデュエラという心強い仲間が居るが、もしもの事を考えると、蓮二はミレイナを放っておく事は出来ない。

 

腹を括り、蓮二は自分の意見を述べる。

 

「俺は、沙羅先生に賛成する」

 

「…本気ですか?蓮二さん」

 

デュエラの問いかけに頷くと、蓮二はミレイナにも聞こえる様に話し出す。

 

「俺だって半人半妖なんていう種族なんだ。そんな半端者だからこそ俺はこの人を、ミレイナさんを放って置けない」

 

「…蓮二ならそう言うと思ったよ」

 

「悪いなハジメ」

 

「いいよ。蓮二って一度決めたら変わらないもん」

 

「そうね。頑固ですもの…ありがとう蓮二」

 

「寧ろ沙羅先生が言わなかったら俺もどうしてたかわからないからさ。先生が言ってくれて嬉しかったよ」

 

「あら、嬉しい事言っちゃって。ご褒美にキスしてあげましょうか?」

 

「部屋でお願いします!」

 

キス発言に顔を赤くしてここでするなと言うデュエラに沙羅はクスクス笑う

 

「分ってるわよ。からかっただけよ」

 

「もう…兎に角目的は果たしましたし、街に戻りますよ。ミレイナさんの件もありますから」

 

デュエラを先頭に街に戻る事になった蓮二達は帰り道は警戒しながらも、無事に街に戻る。その際門番にミレイナの事を訪ねられたが、そこは神の使徒である蓮二の奴隷として話を通し、城下町へと戻る。蓮二の奴隷にした理由は同じ亜人だと仲間意識を持ったミレイナの希望である。

 

ちなみにだが、蓮二に楽しく話しかけるミレイナに沙羅は若干嫉妬の目線を向けていたのはかわいい話だ。

 




戦闘あっさり終わらせました。ベヒモス戦とかはもう少し重厚に書き上げたい。
とりあえず主人公達と共に戦うパーティメンバーはこれで揃いました。

ハジメ君が抜けた後は彼の様に後方からの攻撃が出来るキャラは考えているので、バランスは良いと思います

話を読んでいて疑問に思った事や感想有ればお気軽に送って頂ければしっかり読んで返信します……


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王城での一悶着

ミレイナが蓮二達と一緒に行動する様になって更に数日が経過した。

 

流石に彼女を連れて城には入れないと考えた結果蓮二達はミレイナと共に城下街の借家を借りてそこに住み出した。

 

神の使徒が市井で暮らすのはどうかと、上層部は顰めっ面したりしたが、蓮二が「それじゃあ亜人の奴隷連れて来て良いのか?」と聞くと、それは困ると言われ、それならという事で蓮二達は市井で暮らしていい許可が降りた。

 

その代わり、亜人を連れ込んでいる事を知った光輝からは目の敵にされ、また面倒な事にはなっている。

 

光輝曰く、「奴隷なんてダメだ!俺が解放して彼女を自由にする!」らしい。

 

このトータスでの奴隷の扱いは亜人でもしっかり人権を守っている為、寧ろミレイナは奴隷のままの方が良い。

 

誰かの所有物にしておけばいざと言う時守れるからだ。

 

そんなミレイナの事を考えながら蓮二、沙羅、ハジメ、通いでデュエラが来る形で異世界生活をしている。

 

そして今蓮二、沙羅、ハジメはデュエラがメルドを脅……説得して手に入れてきたステータスプレートをミレイナに渡して、彼女のステータスを見ていた所だ。

 

 

==================================

ミレイナ・アージェス 18歳 女 レベル:25

天職:歌姫

筋力:80

体力:350

耐性:400

敏捷:100

魔力:3500

魔耐:4000

技能:聖歌【全能力上昇】【指定者への効果上昇】【浄化】【自動回復】・魔歌【全能力減少】【呪い】【状態異常付与】・魔力操作【声帯強化】・魔力防壁【全耐性】・風の祝福【風魔法適正】【風魔法威力強化】【風魔法詠唱破棄】・並列発動

==================================

 

 

ミレイナは歌による補助に特化しており、支援と妨害が出来るみたいだ。

 

特に凄まじいのは魔力と魔耐で、蓮二の妖力を超えている。

 

更には風の祝福と呼ばれる技能と並列発動で風魔法を使用しながら歌を歌う事も出来るみたいで、後衛としてはこれ以上無いくらい強い。

 

「なぁハジメ」

 

「なに蓮二?」

 

ミレイナのステータスを見た蓮二はハジメに問いかけると、テンションあげながら話す。

 

「ミレイナって俺達の世界でいうアイドルやれるんじゃね?」

 

「!確かに……歌で支援出来るのならアイドルやれるよね!ほら、聞くだけで元気になるのならそれこそピッタリだよ!」

 

「よーし!そうと決まればハジメ!俺達の世界の歌で歌詞を全部覚えてる奴書き出してミレイナに歌ってもらって、どれが使えるか試してみて貰おうぜ!」

 

「それなら僕!ゲーソンメインで教えたい!」

 

「いやアニソンも良いぞ!特に声優がアイドルユニット組んだ奴とかマジでいい!」

 

男二人で盛り上がる中、デュエラとミレイナは「アニソン?ゲーソン?」と頭上にハテナマークを出し、沙羅はそんな蓮二に近寄るとムスッとしながら話す。

 

「そんなにアイドルとか好きなのかしら蓮二?」

 

笑いながら話しかける沙羅。しかし蓮二には分かる。彼女が笑っていない事に、更に言えば女の嫉妬の様なものが垣間見えている事も。

 

これは不味いと感じた蓮二は慌てて言い訳する。

 

「いや、これはミレイナの技能が何処までの歌を反映するか知りたくて」

 

「そんなのどうでも良いから、さっさと正座」

 

「えっ?」

 

「正座」

 

「はい……」

 

有無を言わさない沙羅に負けて、蓮二は正座すると、沙羅は口を開く。

 

「いい蓮二。向こうに帰ったら女の子のアイドルとか見るの禁止だから」

 

「えっ!?それってテレビ殆ど見れないじゃん!」

 

「あ、勿論アニメを見る時は私が監修したのだけなら一緒に見る事で許してあげる」

 

「アニメくらい自由に見せてください!」

 

「ダメに決まってるでしょ。蓮二が他の女の子に目移りしないように、若いうちから教育するつもりなんだから」

 

「それって日常生活に支障きたすから!俺だって女子とたまに話してたし!」

 

「は?」

 

「あ、やべ……」

 

今の沙羅には絶対言ってはならない事を言ってしまった蓮二は顔を青くしながら、沙羅に頭をアイアンクローの形で掴まれる。

 

「何?私以外の女と話してたの?私が居ないからってビッチ達と話をしてたの?」

 

「いやいやビッチって決めつけはぎゃぁぁ!!」

 

蓮二が反論しようとすると、沙羅は指に力を込めてぎゅうっと締め付ける。

 

「あなたと同じ歳の女子は大体顔とかセックスの腕で男を乗り換えるビッチだから。私結構情報通でね。貴方のクラスにいる子の素行は調査済みなの。あんな女どもは他校の子とラブホ入ってにゃんにゃんしてるのに貴方にも色目かける子達だからビッチで良いのよ」

 

「えっ!?マジで!?色目使われてたのあいたたたたた!頭がザクロの様に潰れるぅぅ!!」

 

「今如何わしい妄想したでしょ?」

 

「すいませんでしたぁぁぁぁ!!」

 

蓮二は正直に謝るが、沙羅は力を緩めないままお仕置きしていると、それを見ていたハジメ達は傍観者になりながら感想を言い合う。

 

「愛されてますね蓮二さんは」

 

「え!?あれ愛されてるの!?ただの鬼嫁だよね!?」

 

「いえ、うちの馬鹿親父もよくやられてますから。特に女の匂いをさせた日なんて一日中寝室に籠りきりになって父を調きょ……いえ、愛を確かめ合います」

 

「今調教って言いかけたよね!?」

 

「ふーん、二人はあんな関係なのね」

 

三人は蓮二と沙羅の夫婦喧嘩(沙羅の一方的な嫉妬)を見ながら、異世界生活も悪くないと思うのだった。

 

 

_____________________

 

「あー。痛かった……」

 

「ご愁傷様蓮二」

 

場所は変わって王城内。蓮二は久しぶりにこのトータスの知識が学べる図書庫に向かおうとしていた。

 

知識を得る為にとはいえ、今の王城には来たくなかった。蓮二としては他の生徒達とはあまり会いたくないのもある。それは生徒達に蓮二が亜人の性奴隷を買って色んな事を強要させてるという噂が立っているからだ。

 

勿論これは捏造で、正義感という名の思い込みの激しい少年による確証の無い噂かつ、日本でも蓮二を好ましく思っていない者共もそれを言いふらしており、王城内はそれを鵜呑みにした連中によって蓮二にとっては針の筵になっている。

 

勿論そうじゃない者も居る。リリアーナを筆頭とした心ある貴族と使用人達だ。

 

蓮二はこの二週間全てを訓練に充てるのではなく、王城内の人間関係を滑らかにする為の交流を行っていた。

 

ある時は新料理のアイデアを、ある時は仕事の手伝い、またある時はハジメが作ったチェスなどのゲームを持っていっては色んな人と交流を深めていった。

 

そのおかげもあって、噂を信じ込んでいるのは生徒達と蓮二達を好まない連中だけに抑え込んでいる。

 

因みにだが、チェス等のハジメじゃなくても作れるゲームはリリアーナの政治的な力を増やす為に使う資金の足がかりにしてほしいと製法を譲った。

 

その為かなり纏まった金額が蓮二達に支払われ、王国に頼らなくても生活できるくらいには余裕が出来ている。

 

それ以外にもハジメの有能さを売り込む為に色んな開発品や医薬品、特にトータスでは不治の病である結核似た病気等に効く特効薬を進呈している為、非戦闘天職ではあるが、国にとって居なくなればかなりの痛手になるとまで思い込ませる事にも成功している。

 

そんなこんなで王国に利益を与えてる蓮二達はそれなりに自由を得ている為、こうして二人で歩く事も出来る。

 

 

「そんで?今日はハジメ何すんの?」

 

「今日は姫様に頼まれた薬の調薬かな?僕の作った薬でかなりの病人が治ってるらしくて、王国の各地どころか国外からも要望があるみたい」

 

「そっか。やっぱりハジメは凄えな。薬まで作れるなんてよ」

 

「これも久遠寺先生が元医学部だったお陰だよ先生の薬学知識が無かったら作れなかったものも多かったし」

 

しみじみとハジメが沙羅に感謝していると、ハジメの目的地に到着する。

 

「あ、調合室に着いたね。それじゃあ僕は仕事があるから」

 

「無茶すんなよ。親友が酷使される姿は見たくねえからな」

 

「うん。無理のない範囲で頑張るよ」

 

「じゃ、また後でな」

 

ハジメが調合室に入るのを確認した蓮二は、後ろから来ている人達の気配に対して、声を掛ける。

 

「なんか用か?」

 

蓮二が問いかけながら振り向くと、そこに居たのは光輝と、ハジメを笑い者にした檜山大介とその取り巻きであろう三人の男子生徒達だった。

 

更に光輝は怒っているのか、蓮二を目の敵にしては怒鳴り出す。

 

「どうして檜山達からお金を奪ったりなんてした!答えろ新宮!」

 

「……はぁ?」

 

(コイツは何を言ってるんだ?)

 

蓮二は光輝が何を言ってるのか理解できなかった。そもそも檜山達から金をむしり取る程余裕が無いわけではない。寧ろチェスの製法譲渡で使い切れないくらいの資金が有る。

 

にも関わらず、金を奪ったとはどういう事だと蓮二は質問を投げかける。

 

「あー……先ずはどんな状況で檜山達から金を奪ったか事細やかに教えてくれない?あ、勿論不備が無いように話は最後まで聞くから」

 

蓮二が物事を解決する為に相手の話を聞く姿勢を取ると、光輝は周囲にも聞こえるように高らかに説明する。

 

それは昨日の事。生徒達が自由に行動出来る日に城下街の屋台通りを食べ歩きの為に練り歩いていた檜山達は、突如蓮二が現れると、金を寄越せと脅してきた。勿論それは嫌だと断ると、蓮二は暴力に訴えてきて、四人を暴行した後金を奪って今に至るらしい。

 

説明を全部聞いた蓮二は、溜息を吐きながら呆れた視線を送る。

 

「お前アホか?」

 

「な!?俺はアホじゃない!」

 

「いやいやアホだろ……とりあえず被害者がここにいる事は分かった。んで?目撃者は?それに暴力事件なんて起きてれば警備の兵士さん達に話が通ってるとしたらさ、俺ここに来る前に取調べ受けてるから今いないよ?」

 

「目撃者は檜山達だ!彼等一人一人がお前の事を見ていたんだ!」

 

「いやいやいや。被害者が目撃者にならんからな。被害者なんて捏造する可能性あるし」

 

「おいおい!俺等は確かにお前に殴られたぞ!な!?」

 

「そうだ!折角の休日にあんな事されたら嫌でも覚えてるぜ!」

 

ぎゃーぎゃーと被害者ぶる四人。その騒ぎ声に気づいたのか周囲にいた城に勤める人達、主にメイド達が来てしまう。

 

その中で一人だけ貴族然とした人物が光輝に話しかける。

 

「どうしましたか勇者様に神の使徒の方々?」

 

「ウサンさん!実は新宮が仲間から金を奪いまして」

 

「ほうほう。それは一大事ですね」

 

光輝にウサンと呼ばれた貴族は、これは大変だとオーバーなリアクションを取りながら蓮二を見ながら話し始める。

 

「いくら神の使徒様と言えども犯罪は犯罪。これは檜山様たちに何か補填がいりますね」

 

下卑た笑いをしながら補填が必要だと宣うウサン。それを好機到来と見た檜山達は下種な笑みで蓮二を見る。

 

「ウサンさんがそういってんだからよ何かしら俺達に寄越してくれくれよ。お前が奴隷買えるくらい金持ってんの知ってんだよ。それともその大事そうに持っているものでもいいんだぜ」

 

優勢なのをいいことに蓮二に集る檜山は蓮二に近寄ると、『狼牙』の柄を掴む。それが命を捨てるかもしれない結果になるとも知らずに。

 

檜山が『狼牙』の柄を掴んだ瞬間、檜山へと拒絶反応の様に湧き出る妖気が襲った。

 

「ああああああああ!」

 

たった一瞬の事にも関わらず、檜山は高濃度の妖気を浴び、体に走る拒絶反応による激痛に絶叫する。それも当然だ。『狼牙』にとって嫌いな存在が触れてきたのだ。全力で拒絶もする。

 

『狼牙』に触れていいのは蓮二の事が好きな人のみ。それ以外は滅してもいい。その意思が『狼牙』にはある。

 

だからこそこうなるのは当然の結果なのだが、それを知らない者からすれば何事だと思うしかなかった。

 

「おい大介!?大介!?」

 

「あああ!やめてくれ!やめてくれよぉ!」

 

仲間が声を掛けようが今の檜山には届かない。高濃度の妖気を浴びた彼は悪夢のようなものと体に走る激痛でそれどころではない。

 

そんな檜山を見て蓮二は一言告げる。

 

「次は誰がこうなるかな?」

 

悪魔の様な一言に周囲の人達は後退りする。それを見た蓮二は更に告げる。

 

「ああ、大丈夫ですよ。こうなるのは俺の敵だけなので…まあそこの貴族はこうなるかもな」

 

蓮二がそう告げると周囲の人の殆どがほっと安堵する。今集まっている人の殆どが蓮二を好意的に見ているからだ。

 

そうじゃない人物とウサンと呼ばれた貴族は恐怖の声をあげると、そそくさと逃げるように退散する。

 

「まあ、ああいう小物はちょっとした事で逃げるよな…あ、お集りの皆さんもお仕事お疲れ様です。すいませんね。茶番劇を見せてしまって」

 

蓮二が申し訳ない気持ちで謝罪するとメイド達が蓮二に話しかける。

 

「いえ、蓮二様が大変な状況に陥りかけているのを見て助けが要るかと思い私達は集まっただけですので」

 

「そーそー。蓮二様みたいに私達の事も気にかけてくれたり、愚痴に付き合ってくれる神の使徒様なんて居ませんし」

 

「寧ろ、檜山様とそのお仲間が行う私達への態度が気に入りません。既婚者だと言ってるのにいつも使用人なんだから夜伽しろとか言ってきてもう最悪です…あ、これ内緒話でお願いします」

 

「大丈夫だと思いますよ?あいつ等檜山に夢中になってるみたいですし」

 

蓮二の言う通り、檜山の取り巻き達は今必死に檜山を見ている。その為今メイドが言ったような事は聞かれていないだろうと教えると、彼女達はホッと一息つく。

 

彼女達も彼女達でストレスは溜まってるんだろうなと思った蓮二は今度お菓子でも焼いて持ってくるかと考えていると、彼女達の内の一人にそういえばと前置きされてから話しかけられる。

 

「姫様が蓮二様を探してましたよ。異世界の政治の話を聞きたいとかで」

 

「そうなの?……政治とか俺全然分からんけど良いのかな……」

 

「大丈夫だと思いますよ。姫様が蓮二様と会う為の口実ですから」

 

「成る程。それならいいか……で?何処に行けば良いんだ?」

 

「王城の庭園です」

 

「分かった。ありが「待て新宮!」…なんだよ天乃河?」

 

面倒だと言わんばかりに蓮二は光輝を見ると、彼は行かさないという決意に溢れた目をしていた。

 

「リリィの所に行ってお前は何をするんだ!」

 

「普通に話に付き合うだけだが?」

 

「嘘だ!彼女の弱みを握っているのをいい事に悪い事をするんだろ!」

 

「んな檜山達みてえな事するわけないだろが……俺だってこの世界で生き抜く為に人間関係形成してる途中なんだからよ。そんな事したら今迄の努力が水の泡になっちまうよ」

 

「檜山達は被害者だ!なのに何故新宮は檜山に攻撃した!答えろ!」

 

「あのさ、お前言ってる事が支離滅裂だから少し冷静になれ。てかメイドさんも見てたよね?俺が何もしてないの」

 

「はい。寧ろ檜山様が蓮二様の大切なものを奪おうとしていた所を見るに、被害者と加害者は逆だと判断します」

 

「目撃者はそう言ってるが?そこんとこどうなんだ?」

 

蓮二は目撃者の証言と共に光輝へと追求する。流石に目撃者の発言は無視できなかったのか言葉が詰まる。

 

そんな光輝を見て蓮二は時間の無駄だと判断して庭園へと足を運ぼうとする。

 

「待て新宮!話は終わってない!」

 

「俺の方は終わってんの。こちとら姫様待たせてる身なんでな」

 

「待て!」

 

光輝の声を無視して蓮二はその場を立ち去る。その背中を光輝はただ、見送ることしか出来なかった。

 




今作品では檜山達小悪党共は悪党共へと悪い意味でジョブチェンジしております。

虎の威を借る狐の様に光輝の勇者としての立場、位、カリスマ性を利用して蓮二から現金をせしめようとしたり、異世界で大きな力を得た事で元々悪い人間性が更に悪くなるという風にしております。

こうしたのも理由はあります。他人より強くなる事で彼等が元々日本でやっていた弱者を攻撃する性格が増長するんじゃないかという解釈が入りました。偏見があるかもしれませんがね。

でも蓮二って強いよね?と思われる方も居ますが、蓮二の強さをしっかり分かっているのは沙羅やハジメにデュエラとミレイナ、生徒達ならまともに分かるのは交流の有る雫、香織、優花、浩介位です。後はデュエラ越しに聞いてるリリアーナと彼女を支える心ある貴族位ですかね。

殆どの生徒は別行動を取ってる蓮二とハジメは弱いんだろうなと勘違いしています。

とまあ、後書きはこの辺にして、他に知りたい事がありましたら感想やメッセージいただけたらネタバレにならない程度に回答させて戴きます。それでは皆さん。また次回でお会いしましょう!


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庭園にて

王城内にある庭園は、非常に綺麗なスポットだ。

 

季節によって花の色が変わっては庭園の景色すら一新される庭園は王族や貴族達にはとても好まれがちで、プロポーズの為に庭園の使用を予約する者も居るくらいには素敵なんだそうで、今の季節はライラックに似た紫の花と緑色の生垣のコントラストが楽しめる庭園の中心にあるテーブルに、蓮二とリリアーナは居た。

 

「それでですね、弟のランデルが『カオリと結婚する為にはどうしたらいい』と聞いてくるんですよ。カオリにはハジメさんと言う素敵な男性しか眼中に無いのに…」

 

「男なんてそんなもんだ。好きな人が振り向いてくれないと知っていてもやらずにいられないんだよ」

 

「そうなんですか。やはり男性からの意見はかなり貴重ですね。勉強になります」

 

蓮二がリリアーナと話しているのは日常会話で、家族の事や仲間の事、最近あった出来事を中心に話している。

 

実はこうした会話をするのは今日だけではなく、仕事のない日とかはこうして蓮二が遊びに来ては二人で話す事をしていた。

 

最初はぎこちなく、難しいかつ理解しにくい話ばかりだったが、そんなつまらない事を話しても楽しくないと二人して同時に告げた時からこうして何気ない話をする様になっていた。

 

リリアーナは弟であるランデルの話を終えると紅茶を一口飲み、ティーカップを置いてからまた話始める。

 

「そういえば今日、図書庫に行く予定だったんですよね?何が知りたかったんですか?」

 

「んー……まあ色々とな。小説とか有ればそれを読んでみたかったかな?」

 

「小説ですか?」

 

「ああ。小説って結構奥深くてな。読めばこのトータスの事が大雑把に分かるっていうか、そう、ノンフィクションの小説とかが有ると知識と同時に歴史が学べるんだよ」

 

「成る程。私が読んだのでそう言ったものは……すいません。直ぐには出ないです」

 

「大丈夫大丈夫。そういうのは自分で探すのも醍醐味だから。姫様も小説ってか物語は読むのか?」

 

「私は……えっと、え、絵本、とかですね……」

 

「へぇ。絵本か」

 

「あ、今幼稚だと思いました?どうせ私は幼稚ですよ」

 

ムスーと頬を膨らませるリリアーナに蓮二は苦笑しながら話す。

 

「そんな事は無いぞ。俺達の世界にもマンガっていう絵本があるしな」

 

「マンガ?」

 

「ああ。絵本の様な文字数は無いが、あらゆる技法で絵を書いてはハラハラドキドキ感を味わえるものをマンガっていうんだ」

 

「それは凄いですね。因みにそれってこの世界でも作れますか?」

 

「ハジメなら多分作れるかも。アイツ元々イラストレーターって言う絵を描く仕事してたし」

 

「ハジメさんって既にお仕事をされていたんですか!?」

 

「そうそう。アイツ人気があるイラストレーターでな。ちょっと待ってくれ。確かスマホに…お、ギリギリ電池が残ってた。ほらこれ」

 

蓮二はハジメに描いてもらった愛犬の『ロウ』のイラストを見せる。少しだけデフォルメされた飼い主の蓮二に抱きついて甘えてくる可愛らしい『ロウ』にリリアーナは釘付けになると、一人の少女として目をキラキラさせて『ロウ』のイラストを見る。

 

「わぁ!可愛いですね!この子ってどんな生き物なんですか!?」

 

「柴犬って言う犬種で、元にしたのは俺の相棒だった『ロウ』って言うんだ」

 

「だった……?」

 

過去形で話す彼に思わず聞き返すリリアーナを見ながら蓮二は答える。

 

「『ロウ』は俺が十五の時に寿命でな……ああそんな悲しい顔をしないでくれ。『ロウ』はいつも俺の側にいるから。この『狼牙』と『狼黒』が遺品でな。じいちゃんとばあちゃんに作って貰ったんだよ。お陰で寂しく無い……ってのは嘘になるが、今はこうして前に進めている。だからそんな顔しないでくれ」

 

イラストでしか見たことのない『ロウ』の死に泣いてくれているリリアーナに蓮二は優しく声をかけると、彼女は涙を拭って笑顔を見せてくれる。

 

「レンジさんは『ロウ』ちゃんが好きだったんですね」

 

「相棒…だからな」

 

蓮二が『狼牙』を見ながら懐かしそうな顔を見せている中、リリアーナは蓮二にそういえばと前置きして話題を変えて話だす。

 

「レンジさん、先程カティさんから聞いたのですが、コウキさんと揉めてた話は本当ですか?」

 

カティと言うのはリリアーナ専属のメイドで、そんじょそこらのメイドよりも仕事が早くて丁寧な人だ。

 

彼女から話を聞いていると言う事は最後まで内容は知ってると見ている蓮二は頷く。

 

「ん?ああ。捏造された話で揉めていたのは事実だな。ま、姫様が気にする様な事じゃねえよ」

 

「リリィと呼んでくれないのですね……」

 

姫様と呼ぶ蓮二に対してリリアーナはしょんぼりとした表情で落ち込む。

 

「いや身分差とか大きいし」

 

「寧ろ神の使徒様であるレンジさんの方が身分上ですよ」

 

「……まあそれは確かにそうかもしれないな」

 

「ですのでリリィと呼んでください」

 

「いや、でも」

 

「ダメですか?」

 

「…分かったよ、リリィ」

 

根負けした蓮二が愛称でリリアーナの事を呼ぶと、彼女は満面の笑みを見せる。

 

こういうところが年頃の少女としてあるべき姿だよなと思っていると、彼女は首を傾げる。

 

「私の顔に何かついてますか?」

 

「いや?可愛いなと思っただけだよ」

 

「か、可愛い……そ、そうですか」

 

蓮二の不意打ちにも近いその言葉の弾丸を直撃を受けたリリアーナは蓮二に対して狡いと思っていると、蓮二から問いかけられる。

 

「そんで?俺を探してた理由って何だったの?」

 

蓮二の言葉に、先程まで忘れていたリリアーナの頭に本題が浮かび上がり、それを蓮二へと説明しだす

 

「レンジさん達勇者様一行は明日から王城を出て、ホルアドと呼ばれる宿場町に有る『オルクス大迷宮』での実践訓練が始まるそうです『オルクス大迷宮』はご存知ですか?」

 

「知識としては頭に入れている。魔物の素材と魔石が安定供給出来る新米冒険者にとっての最高の環境だろ」

 

「はい。明日から其方に向かって本格的な魔物との戦闘が始まります。……その、命のやりとりは慣れましたか?」

 

恐る恐る尋ねるリリアーナ。彼女の心中は心配だらけで、デュエラ経由で蓮二と沙羅とハジメが人型の魔物を殺す訓練に入ったとはいえ、嫌悪感等はあるか、嫌になっていないかと心配だった。

 

その気持ちが蓮二にも伝わったのか、彼は心の内を話す。

 

「正直言ってまだ慣れない。まだ魔物だから殺せているが、これがもし盗賊の様な人間になったらどうなるんだと不安もある。けどさ、俺には沙羅先生にハジメ、デュエラやミレイナだって居る。仲間が居れば、俺は戦える。仲間を守る為に敵は殺す覚悟は決めている。あ、ミレイナってのは長耳族の女の子でな。リリィが亜人族を差別してなかったら紹介するぞ?」

 

 

蓮二は決意溢れる表情を見せてリリアーナに告げる。最後の方は少し話が逸れていたが、蓮二の言葉は口だけの言葉では無く、一人の勇士としての覚悟が決まったものだった。

 

そんな蓮二を見ていたリリアーナは思わず、ここに居ない沙羅が羨ましいと思ってしまうと同時に、雫が蓮二に御執心なのかもわかってしまう。

 

蓮二という男はリリアーナが会ってきた男の中でも超優良物件で、気配り上手で人当たりもよく、誰かのために動き、更には守る為にその手を血で汚す覚悟すら出来る様な男はあまり見た事が無い。

 

仕事の為にやる者も知っているが、リリアーナとしては守ってくれるというのがポイントだ。

 

自分も守ってくれるのか。それが気になった彼女は蓮二に思わず問いかける。

 

「…もし、もしですよ?もし私が一般人だとして、守ってくださいと言ったら……守ってくれますか?」

 

それは乙女として、自分の事も蓮二の大切になれるかの問いかけだった。

 

リリアーナは今、王族の一人では無く、一人の女として蓮二に問いかけている。

 

それを証拠に、リリアーナの表情は真剣そのものだった。

 

そんな彼女に蓮二は曖昧で半端な答えではなく、ハッキリとした答えを突きつける。

 

「守るよ。例え一般人だろうがリリィはリリィだ。肩書きとか身分なんて関係ない。俺は一人の人間として、リリィを守る」

 

「……!」

 

リリアーナは蓮二からの返答、それも軽薄なものでは無く、流されてもいない確かな決意による肯定の言葉に、彼女は思わず涙が流れる。

 

「り、リリィ?大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫です…その、私の事をお姫様の私では無く、一人の私としてしっかり見てくれる男性が居てくれるのが嬉しくて……」

 

リリアーナの言葉は、彼女が相当辛い人生を送ってきた事を蓮二に痛感させる事は容易かった。

 

リリアーナは幼少期から仮面を被っていた。自分を一人の少女であるリリアーナでは無く、王族の一人にして、貴族と民を統べる施政者として自分を殺し続けていた。

 

何故ならそれは周囲の人間が彼女を一人の女の子として見ず、王族としての彼女としか見なかったからだ。

 

十四歳になる頃には周囲からは才媛と呼ばれ、貴族や民からも慕われてはいたが、同年代の友人はたった一人しかおらず、その友人にすら情けないところは見せられまいと、彼等にとっての理想のお姫様として在り続けた。

 

それはいずれ壊れる物だと分かっていて被り続けた仮面だが、それはそれは一人の男によって壊された。

 

それが異世界から勇者と共に現れた新宮蓮二だ。

 

最初の出会いは最悪だった。蓮二からは嫌われていそうな声音で悪態を突かれ、リリアーナが謝罪するなんていう始まりだが、リリアーナの為人を見抜いた蓮二はその出会いから良い関係を作ろうと歩み寄っていくために自分の素直な気持ちを伝えてくれた。

 

 

その時からリリアーナは蓮二という男に興味を持ち、彼が用事の無い時を狙ってはこうして会話の機会を設けて彼の事を知ろうとした。

 

最初は何を話せば良いのか分からなかったが、お互いに特別でもなんでもない自分の身に起きた話をしだしてからは、リリアーナは楽しそうに話す蓮二の生活に混ざりたいと思い始めていた。

 

沙羅の様に蓮二と暮らしたい。そんな気持ちが芽生え始めていた時に嘘偽りない蓮二の守る発言に、リリアーナは思ってしまった。

 

運命だと。

 

そう思ったリリアーナは、心の奥から湧き出るものを抑えきれなくなり、立ち上がるとスタスタ蓮二の側まで歩き出す。

 

そして、リリアーナは蓮二の顔に近づくと、唇を重ねてキスした。

 

「っ!」

 

リリアーナの突然な行動に蓮二は意味不明だと頭を混乱させる。訳が分からないまま唇が離れると、リリアーナはクスリと笑いながら蓮二に宣言する。

 

「私、レンジさんの事が好きみたいです。キスした時、とても幸せな気分で、ずっとしていたい……って思うくらい貴方の事が好きになってしまいました。こんな気持ちにした以上、責任…とってくださいね?正妻は譲りますけどお妾にはしてくださいね」

 

最後に耳元で責任を取ってください発言とお妾発言をしたリリアーナは公務の時間だと告げにきたメイドのカティと共に庭園を後にする。その際彼女は「今度サラさんとシズクに宣戦布告して、貴方の争奪戦に加わりますので、これから宜しくお願いします」と言い残して去っていった。

 

リリアーナの背中を見ながら蓮二は思わず。

 

「俺、もしかして告白でもしたのか!?」

 

と自分の発言を思い出し、守る発言に思わず顔を真っ赤にして、悶えるのだった。

 

 

 




はい。補足入りますと、この話でタグにある四角関係が始まりました。流石に展開早いかなーと思いながらもこの後奈落とかに落ちるかもしれないので、リリアーナとの接点とかを作っておかなければならないという考えでこの話は生まれました。

原作のスピンオフ見てもリリアーナは可愛いのにスポットがあまり当たらないままってのはねぇ……

えー、現在の原作速度では最弱とイジメという時系列になっております。これも作者が時間を掛けているからですね。キャラの登場や強化含めるとこれくらい時間がかかるんですよ。一次創作とか特に顕著ですね。

この作品はオリジナル展開がかなり多くなる予定なので、スピーディーには出来ませんが、これからもよろしくお願いします



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怒りと光

リリアーナと別れた後、蓮二はハジメがいるであろう調合室に行く途中、通りがかりに有った練兵場をふと見ていた。

 

練兵場では生徒達が騎士と共に訓練しており、そこには浩介や優花、香織と雫の姿もあった。

 

蓮二がどんな訓練をしているのか気になり、少しの間だけ見ることにすると、四人と他の生徒の訓練量が違うことに気付く。

 

雫と香織と浩介と優花は二倍の訓練量が有り、他の生徒よりも高いモチベーションがあるのか、熱気が違う。

 

(負けてられないな)

 

蓮二は共に戦う仲間として頼もしさを感じながらその場を後にしようとするが、その前に雫が蓮二の存在気づいて声を掛ける。

 

「あ、蓮二!こっち来なさいよー!」

 

手を振りながら招く雫。蓮二としては、彼女の声で周囲の生徒や騎士達に見られている今、無視するわけにもいかないと思い、彼女らに近づいて行く。

 

四人と至近距離まで近づいた蓮二は何用かと問い掛ける。

 

「そんで?要件は何?」

 

「要件というかお願いというか…その、蓮二が良ければなんだけど、私のたちとお昼ご飯行かない?ほら、蓮二と久遠寺先生と南雲君はメルドさんの娘さん…デュエラさんの特別メニューじゃない。普段何してるのか気になって…どうかな?」

 

「そうだな…」

 

蓮二は雫の提案に乗ろうとは思っている。蓮二としても訓練内容は気になっていたのと、彼女達も今の訓練生活に対して何かしら思うところがあるのか、相談相手が欲しそうにもしていた。

 

そんな状態の彼女を放っておけないと思った蓮二は雫の提案に乗る事にした。

 

「折角の機会だ、ご一緒させてもらうよ。ハジメも連れてきて良いか?」

 

「勿論!南雲君からも色々話を聞きたいしね」

 

「んじゃま、ハジメ迎えに行ってくるわ、どこに行けばいい?食堂か?」

 

「あ、私達も行くよ!」

 

蓮二が調合室に行こうとすると、香織がついてこようとする。それは恋する乙女が好きな男性を迎えに行きたいっていう気持ちだろう。

 

蓮二としては香織の恋を応援している。ならこういう小さな所からハジメと香織の接点を増やしてあげるかと思った蓮二は香織いいぞと言うと、彼女は大喜びしながら早く行こうと急かしてくる。

 

そんな香織を見ながら蓮二はそういうのをハジメに見せてやれよと思いながら、雫達と共にハジメのいる調合室に向かうのだった。

 

 

_____________________

 

「戻ってきてない?」

 

「はい。先程席を立たれてからは戻ってきておりません」

 

調合室で蓮二はハジメの助手を務めている男性からハジメが戻ってきてない事を知らされていた。

 

蓮二は行く先を知りたいが為に男性から話を聞き出す。

 

「何処に行くとか言ってなかったか?」

 

「えっと……お手洗いだったような」

 

「それならもう戻ってきても良いが……なんだか嫌な予感がするな」

 

蓮二はハジメの身に何か起きていないか不安になってきたのか、男性に礼を言うと直ぐに探しに行こうと調合室を出る。

 

「蓮二君、ハジメ君は?」

 

調合室を出たところで香織から目的の人物がいない事への不安の声が掛かる。

 

「ハジメの奴戻ってきてないみたいなんだ。ちょっと探してくるから先に食堂で待っててくれ」

 

蓮二がそう促すも、香織達は首を横に振る。

 

「ううん私達も一緒に探すよ」

 

「一人で探すよりも効率的だしね」

 

「俺、周囲の人に話聞いてくる」

 

「勿論私も南雲君を探すわ。なんだか嫌な予感もするのよね」

 

四人がハジメの捜索に協力すると表明する。特に優花と同じように蓮二も今嫌な予感が働いている。ハジメを早く探さないと後悔すると。

 

「分かった。皆、力を貸してくれ」

 

「「「「おう!」」」」

 

蓮二達は其々手分けしてハジメを探し始めた。

 

捜索を始めて数分後、蓮二が練兵場に戻って来ていると、さっきには無かったものが目に見えた。

 

それは誰かの血痕だった。

 

地面に点在する血痕は練兵場の奥にある倉庫まで続いており、蓮二は何があってもいいように『狼牙』を腰に差すと、血痕を頼りに倉庫の方まで近づいていく。

 

そして血痕が終点まで来た蓮二は見てしまう。

 

 

ハジメが檜山達に囲まれながらボロボロになって倒れている姿を。

 

檜山達は訓練用とは程遠い真剣を手に持ち、ハジメを足蹴にしていた。

 

更にハジメは体中に切り傷があり、深傷は見当たらないが服ごと皮膚が切れている部位もある。

 

そして、地面に流れる大量のハジメの血が蓮二の心のナニカをバキバキと壊していく。

 

親友のハジメを傷つけ、更に足蹴にするという行いをしている檜山達に蓮二は、自分でも出した事のない低くてドスの聞いた声が出る。

 

「テメェ等。俺の親友に何をしてんだ」

 

蓮二の声に気づいた檜山達は彼の方へと向くと、宣い始めた。

 

「教育だよ。教育」

 

「そうそう。戦えないくせに俺達に逆らうんだぜコイツ。俺達が金を貸してくれって言っても貸さないから教えてやってんだよ。戦闘天職持ちに逆らうなってな」

 

「そうそう。俺達の世界の発明品で稼いでんだから俺等にも分前あっても良いだろ?」

 

「まあ、金は借りても返さないけどな!」

 

「そして新宮ぁ。これはお前への制裁でもあんだよ。俺をさっきあんな目に遭わせた罰を南雲に支払わせたんだよ。調子に乗ってるお前等へのなぁ!」

 

ぎゃはは!と笑う檜山達。檜山に至っては先程蓮二の『狼牙』から受けた痛みなんて最初からなかったかのようにしている。

 

喉元過ぎれば熱さ忘れるとはこの事を言うのだろう。

 

それ程までに檜山達が愚かだとは知らなかった蓮二に湧き上がるのは怒りと憎しみだった。

 

もっと早くこいつ等を潰しておけば良かった。自分に害意が来るだけなら飄々とかわせば良い。今迄だってそれが出来た。

 

けど、大事な仲間であり親友のハジメに害意が向かってしまった今、黙っていられない。

 

ましてや多量の血を流しているハジメの姿を見て蓮二は檜山達がハジメを殺すつもりだった事まで分かると沸々と怒りが湧き上がり、更には憎しみの様な黒い感情すら生み出し、蓮二が抑えていた力すら目覚めさせる。

 

蓮二の体から、赤黒色のエネルギー…妖力が天を突くように漏れ出る。

 

『殺シテヤル……!!』

 

ナニカを解き放つように雄叫びをあげる蓮二を見ていた檜山達は、蓮二が変貌していく姿に驚愕する。

 

黒かった髪は真っ白になっては腰まで伸び、八重歯は吸血鬼の様に長く鋭さを増し、目は赤く染まる。腰蓑だった『狼黒』が黒く染まった軍服の外套のような物へと変わり、それを羽織った蓮二は唸りながら『狼牙』を抜刀する。

 

『グルゥゥゥゥ!』

 

日本刀だった『狼牙』は抜刀と同時に刀から赤黒く染まった片刃の大刀へと変貌する。

 

柄と大刀の根本には動物の爪を模した装飾がされ、反りが入った大刀の刀身は生きてるかのように脈動し、纏っている赤黒い妖力は、周囲の空気すら染めていく。

 

「ば、化け物…!」

 

「な、なんだよ!なんだよこいつ!」

 

「人間じゃねぇ!」

 

檜山の取り巻きである中野と斎藤と近藤が狼狽するが、檜山は狼狽えるなと制する。

 

「どうせ見掛け倒しだ!数ならこっちが上なんだ!俺達の方が勝てる!」

 

檜山の激励に、取り巻き達は威勢を取り戻し、剣を蓮二へと向ける。

 

「行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

檜山の掛け声と共に取り巻き達も動き出し、同時攻撃を仕掛けようと詰め寄っては四方から剣を振り下ろす。しかし

 

『グルゥァァァ!』

 

蓮二の『狼牙』による薙ぎ払いよって生まれた暴風で檜山達は其々呆気なく四方に吹き飛ばされ、其々壁か植えられた樹木等に背中を打ち付ける。

 

『ウゥゥゥゥ!』

 

蓮二は唸り声をあげながら主犯格であろう檜山目掛けて駆け抜ける。

 

檜山は練兵場の訓練用の打木にぶつかっていた為、身動きが取れないでいでいると、正面に蓮二が陣取る。

 

『ウルゥアァァァ!』

 

「う、うわぁぁぁぁ!」

 

蓮二が『狼牙』を振り上げその命を絶たんと振り下ろされる。が、それを邪魔する3本の剣閃が『狼牙』を食い止める。

 

それは沙羅、デュエラ、メルドの三人だった。

 

「止まりなさい蓮二!」

 

「蓮二さん!落ち着いてください!」

 

沙羅とデュエラは変貌した蓮二の暴走を止める為に言葉を尽くすが、今の蓮二には届かなかった。

 

『邪魔ヲ……スルナァァ!!』

 

溢れ出る妖力と共に力が上がり、押し込まれそうになる三人。三人がかりでも無理だと判断し、この状況を打破するにはと考えた沙羅はここで自身の筋力と敏捷を強化する雷迅功を発動、デュエラは筋力の大幅強化する技能である怪力無双と全ステータスを底上げする天性の肉体を発動して押し返す。

 

 

押し返された蓮二はバックステップで距離を取ると、能力が高まり強いオーラを纏った二人に対して警戒する。

 

『ウゥゥゥゥ……!ウォォォォ!!』

 

蓮二は全能力を高めるウォークライを発動し、妖力を高めていく。蓮二の周囲の空間が歪むほど高まった妖力に沙羅とデュエラは息を飲む。

 

メルドは状況が飲み込めない混乱した状態で沙羅とデュエラに問いかける。

 

「蓮二はどうなってるんだ!?訳がわからんぞ!」

 

「あれは暴走です」

 

「暴走!?」

 

「前に一度、蓮二さんの技能訓練をしていた時に一度同じ事が有りました。あの時はなんとか止められましたが……今回はどうなるか分かりません。現に一度目よりも状況が全然違い、あの様に姿が変わることは無かったので……」

 

 

「それほどまでか……一体何があったんだ!?」

 

「……あれは怒りと憎しみよ」

 

沙羅はメルドに答える。そう、彼女は分かっていた。蓮二が今激しい怒りと憎しみに呑み込まれている事を。

 

「蓮二は今怒りと憎しみに囚われているわ……自分でも制御出来ないくらいにね」

 

「…となると、どうすれば良い?」

 

メルドの問いにデュエラは深刻な表情で告げる。

 

「気絶させるか……殺すしかありません。それだけ今の状態はとても危険です」

 

「…そうなるのか!」

 

メルドは悪態を吐きながらデュエラと共に蓮二を殺す覚悟を決めて相対しようとするが、その前に沙羅が武器を捨てて蓮二の方に歩み寄っていた。

 

「沙羅さん危険です!」

 

「危険上等!あの子を救えるのなら命なんて惜しくない!」

 

沙羅は覇気を込めながらデュエラに告げると、蓮二の方を向いて話し始める。

 

「蓮二、貴方の怒りは私にはわかるわ。その怒りは自分じゃなくて大切な人が傷つけられて怒ってるのよね。でも怒りに身を任せちゃダメ。感情のままに動いたら、貴方も魔物になっちゃうわ。貴方は強さを持った優しい人なの。だから戻ってきて!蓮二!」

 

しかし、その言葉は今の蓮二には届かず、蓮二は更に肉薄しては『狼牙』を振り下ろさんとする。

 

「沙羅さん!!」

 

デュエラが沙羅の名前を呼ぶ中で沙羅は自分が斬られようとしている。そして『狼牙』が沙羅の眼前まで振り下ろされかけたその瞬間。

 

蓮二の動きが止まった。

 

『ウ、ウァ……!サ、サラ?ア、アァァァ!』

 

蓮二は今、デュエラの叫びで自分が斬りかかろうとしたのが沙羅だと知ると、蓮二は頭を抱えながら苦しみ、絶叫する。

 

叫びと共に妖力が収まっていく蓮二。そして、赤黒く染まったエネルギーが見る影も無くなると、『狼牙』と『狼黒』も元に戻っていく。

 

しかし、体に起きた変貌だけは元に戻らないまま蓮二は『狼牙』を手放し、吼える。

 

『アァァァァ!』

 

それは様々な感情が乗った咆哮だった。ハジメを殺そうとした者たちへの復讐心から来る強い憎しみと、もう二度と大切な人に剣を向けない為に戻ろうとする強い決意が込められていた。

 

そして、咆哮が止むと同時に、妖力が完全に表に出なくなった蓮二は声を発する。

 

「俺、ハジメが死んだと思ったら……自分でも抑え切れなくなったんだ。沢山血を流していたハジメの姿を見たら、もう自分が自分じゃなくなって……」

 

「そういう事だったのね」

 

「でも、怒りのままに殺したらきっと、俺は後悔してたよ。こんな事をしてもハジメは喜ばないって」

 

「そうね」

 

「だから……ありがとう沙羅先生。俺は沙羅先生のお陰で自分を止められたよ…そしてごめん。沙羅先生を斬ろうとしちゃって」

 

「良いのよ。全く……世話が焼ける恋人ね」

 

「ごめん」

 

「だから良いって。それよりも南雲君はどこ?早く見つけて治療しましょ。生きてるかどうかは治療してみないと」

 

「そうだ!待ってろハジメ!」

 

蓮二は沙羅を連れてハジメの居た場所へと向かい、血を流して倒れているハジメを沙羅に治療してもらう。

 

その間にデュエラはメルドと共に檜山達小悪党共を回収していた。

 

治療を始めて数分。漸くハジメの意識が戻ってきたのか、「う、ん……」と声を出しながら目を開ける。

 

「ハジメ…!ハジメ!」

 

蓮二は親友が目を覚ますと同時に抱きつく。ハジメは朧気になりながらも親友の変貌に目を丸くする。

 

「あれ…蓮二だよね?いきなりイメチェンしたね?白髪のロングストレートなんて何処の漫画の主人公なの?それに目も赤くなってるし。全く、何処の厨ニ病患者なのかな?」

 

「馬鹿野郎…!俺の事はどうでも良いんだよ!……生きててくれて本当によかった!」

 

「蓮二ってば…痛いよ」

 

「あ、すまん」

 

治りたてのハジメには蓮二の抱擁はきつかったらしく蓮二の背中にタップしてくるので、離れる。

 

「兎に角生きてて良かったよ…」

 

「悪運が強かったみたいだね」

 

「本当な」

 

はははと笑い合う二人。それを見ていた沙羅は咳払いすると、二人の注目を自身に向けさせる。

 

「南雲君が生きてて良かったけど、他にもやる事あるでしょ?」

 

沙羅に言われた通り、蓮二には檜山達に対する仲間殺し未遂の結末を見届ける義務があった。

 

蓮二はハジメに手を貸して立ち上げ、肩を貸して歩いていくと、デュエラが冷徹そのものな声音で檜山達を問い詰めていた。

 

「それで?何故貴方達は蓮二さんに殺されそうになっていたんですか?」

 

「それは新宮が勝手にキレたんだよ!」

 

「嘘ですね。この二週間彼を見てきましたが、無闇矢鱈に怒りをばら撒くような人ではありません。更に言えば貴方達に対して途轍もない憎しみすら向けていました。どう考えても貴方達が何かしたとしか言えませんよ」

 

檜山達の言い分に含まれた嘘を見抜きながらデュエラが問い詰めていると、蓮二達が近寄ってくることに気づき、更にハジメの傷だらけの服を見て察した。蓮二はハジメの為にああなったと。

 

そうと理解すれば、デュエラが次に質問する内容は決まったも同然。

 

「貴方達はハジメさんを攻撃しましたね?それも訓練用ではなく真剣で」

 

「「「「!」」」」

 

「…図星ですか」

 

檜山達に呆れてものが言えなくなり怒りを見せるデュエラ。檜山達の処遇について、父であるメルドに相談しようと思っていると、先程までの強い力が王城全体を襲っていたのか、次々と人が集まってくる。その中には愛子や生徒達もおり、特に愛子は何事だと檜山達を問い詰めているデュエラに話しかける。

 

「あの、デュエラさん。檜山君達が何かしたのですか?」

 

「そこのクズどもが仲間である筈のハジメさんを殺そうとしてました」

 

「!?」

 

おずおずと話しかける愛子にデュエラは怒りが篭った声で答える。今のデュエラは夜叉の如き憤怒の表情を見せているのもあって、穏やかでない。

 

彼女は蓮二が暴走し、変貌した姿を見た時、生まれて初めて心が苦しく感じた。普段はとても優しく、人当たりが良く、誰かの為に動ける彼があんなにも怒りと憎しみに塗れた表情を向けている彼を見た時、自分迄悲しく辛くなっていた。

 

そして暴走して止まる気配の無い蓮二を止めるには殺すしかないと迄考えた彼女だが、それを言葉だけで止めた沙羅と蓮二の愛をその時初めて、羨ましいとも思った。

 

自分もああなりたいと。二人のように心が通じ合いたいとも。

 

それは仲間に対する友情なのかは分からなかったが、ハジメが傷ついていた姿を見て、デュエラは蓮二の怒りを理解し、もう檜山達を許すつもりは無くなっていた。

 

「父上。今ここで私は騎士団を辞めます。そして私が異端者になることをお許しください」

 

「まっ、まさか…早まるなデュエラ!」

 

「だ、ダメです!檜山君達は殺させません!」

 

デュエラの意図を理解したメルドと愛子は『アズール』を振り下ろさんと構えるデュエラの凶行を止めんと必死にしがみついて邪魔する。

 

「離して下さい父上、愛子さん!」

 

「ダメだ!今離したら大介達を殺すつもりだろ!俺は全力で止めるぞ!」

 

「生徒は殺させません!絶対に!」

 

「離して下さい!私は「ダメだデュエラさん!」蓮二さん…!?」

 

「ダメだ。絶対にそれはやっちゃいけない」

 

蓮二はデュエラに強く言葉を突きつけると、暴走してたことを後ろめたく思いながら、話す。

 

「仲間が傷つけられて怒り心頭なのは痛いほど分かるよ。俺だってそうだったし。でも感情で物事を決めたら、絶対に後悔するから…」

 

蓮二は今のデュエラがさっきまで暴走してた時の自分と酷似していた。だからこそ蓮二は止めないとの思いでデュエラを説得しようとしている。

 

「だからその…俺にその感情全部ぶつけて下さい!デュエラさんがむしゃくしゃしてたりなんかこう…とりあえず発散したい感情は俺が受け止めます!なんなら今から戦って発散させますか!?」

 

蓮二は傍から聞けば戦闘狂のような発言に聞こえるが、当事者からすればそれはある意味

愛情表現にも聞こえていたそれは、デュエラの溜飲を下げた。

 

デュエラは『アズール』を降ろすと、クスクス笑い、蓮二を見る。

 

「全く貴方は…そんな愛の告白がありますか?」

 

「こ!?告白じゃないから!俺はその…デュエラさんのことを考えたらつい」

 

「分かってますよ……ふふ、揶揄っただけです」

 

告白だと勘違いされた蓮二は戸惑い気味になりながらもデュエラを見る。

 

デュエラは楽しそうに笑った後、メルドと愛子に謝罪していた。

 

「早計でした父上。それに愛子様、申し訳ありませんでした。私が至らぬばかりに」

 

「分かればいい……」

 

頭下げるデュエラに、メルドは許し愛子はアタフタしながらその謝罪を受け入れる。

 

「いえ、その、檜山君達が悪い事をしたからですよね?それだったら私は気にしません」

 

「ありがとうございます」

 

デュエラは感謝の微笑みを見せた後蓮二達三人の元に向かうと、ハジメの容態を聞いてきたので命に別条はないと沙羅が教えると、肩を撫でおろした後、蓮二に話しかける。。

 

「ありがとうございました。蓮二の言葉が無かったら私は道を踏み外しておりました」

 

「いや、俺はただ自分がしてもらったことをお返ししただけですよ」

 

「それでも今日、貴方は私にとっての光になりました」

 

「光?」

 

「はい。私が道を踏み外さないために明るく照らしてくれる……そんな温かな光です。貴方が勇者なら良かったのに」

 

「残念ながら俺は妖刀師ですので。それに勇者なんて俺には務まりませんよ」

 

「そういう事にしておきますね……あら、誰か来ますね」

 

「ん……げっ、噂をすれば天乃河。それに坂上まで」

 

蓮二はズンズンと怒りを露わにしながら此方へと近づいてくる光輝とそれについて来る龍太郎を見て思わず苦い顔をしてしまう。

 

後ろからは香織と雫が本当に申し訳なさそうについてきており優花と浩介も溜息を吐きながら此方へと近づいてきていた。

 

それを見ただけで蓮二とハジメはこれから起こるであろう問答の面倒さに辟易するのだった。

 




えー。色々聞きたい事は有ると思った方は感想メッセージ頂ければお答えしますが、なるべくネタバレにならない範囲でお答えします。

後はそうですね……これからはメッセージの方もお答えできるものとそうでないものもありますので、ネタを探るような質問されると此方としては想像にお任せしてもらうという定型文しか書けなくなります……。




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衝突

評価バーに色が付きました!まさかの赤でビックリしております。

ここからはオレンジくらいには保ちながらこれからも書けていけたら良いなと思います。

これからもよろしくお願いします!


「なんで檜山達はデュエラさんに殺されそうになっていたんだ!それと新宮、その姿はなんだ!答えろ!」

 

 

練兵場で光輝の声が喧しく響く。特に近くに居た蓮二、ハジメは耳を塞いで

鼓膜を守ろうとするが、寧ろそれによってハウリングしたため、頭がグワングワンと揺れて気持ち悪くなっている。

 

しかし光輝にそれは通じなく、更に追求される。

 

「答えろ新宮!」

 

光輝が我慢の限界と言わんばかりに蓮二の胸倉をつかみに行こうとするが、それは沙羅とデュエラに止められる。

 

「天之河君、止めなさい!」

 

「これ以上蓮二さんに近付くなら、こちらもそれなりの手段に出ますよ」

 

「久遠寺先生!デュエラさん!止めないでくれ!俺は新宮を」

 

「だからやめなさい!」

 

「いい加減にしろ!」

 

頑なに蓮二に近づこうとする光輝に、我慢できなくなったのかデュエラは荒い口調と共に『アズール』を振り下ろして地面に叩きつける。

 

威力が高い振り下ろしのせいか、砂煙を上げながら『アズール』の剣先は地面に陥没し、口の中に砂が入ったのか、ゲホゲホと咽ている光輝にデュエラは殺気を向けながら視線を光輝に移すと話し始める。

 

「幾ら勇者様と言えど、これ以上の行いは処罰の対象として私は動きます」

 

「な!?それは新宮にじゃないのか!?アイツは!」

 

「仲間を殺そうとした」

 

「そうです!だから」

 

「だからと言えど、檜山一行の罪は見逃して、蓮二さんの罪だけを裁くおつもりですか?」

 

ギロリとした目線で光輝を見るデュエラ。彼女は光輝がどう考えているかよく理解していた。檜山達は被害者で、蓮二が加害者。つまり蓮二が檜山達をなんの理由もなく殺そうとしていたと思い込んでいる。

 

デュエラがそう判断したのは彼女の人間関係に起因する。彼女の交友関係に光輝の様な人物と生き写しのように見える者が居たのだ。

 

今はその人物の恋人の努力あってまともになったが、それはもう酷かった。

 

毎日のように苦情が騎士団に来ては友人という事でそれの後始末なんてザラだった事もあり、光輝の思い込みの激しさは見抜いている。

 

だからこそデュエラは蓮二を守る。彼女の道を照らす大きな光とその光に集う強く輝く星達を奪う闇などいらないのだ。

 

「今回の事件は元々そこの畜生どもがハジメさんを死んでもおかしくない状態まで追い込んだのが原因です。勇者様だって自分の大切な人を傷つけられて、黙っていられますか?」

 

「でも!南雲は生きてるしケガだって」

 

「2億ルタと2500人」

 

「え?」

 

「今、ハジメさんのお陰で王国が稼いでいる金額と、彼が作った薬で救われた人の数です。人数は王国以外も含んでおりますが、これだけの人間を救っているのですよハジメさんは。勇者様よりも立派に救世主をしているのですよ」

 

「でも、俺達はこの世界を救う為に訓練を」

 

「そんなの魔物だって出来ますよ。私が言いたいのは異世界の知識という大きな力を人間族に齎し、救っているんです。そんな彼が死ねば、大きな損失になるのが分からないのですか?」

 

「うぐっ…なら新宮は何をしているんですか!アイツは奴隷なんてもので人の自由を奪うような悪なんですよ!」 

 

2億ルタ。日本円で2億円稼いでいて2500人もの人を助けているハジメの有用性は分かった光輝は苦し紛れに蓮二を睨みながら大きな声でそう告げると、檜山達もそうだと言い始める。

 

確かに日本人の感覚からすれば奴隷なんてものは忌避するものだろう。現に集まっていた生徒達や愛子、事情を聞いていない雫、香織、優花、浩介もいい顔はしない。蓮二を非難する雰囲気をたった一言で作った光輝の溢れるカリスマ性にデュエラは忌々しげに歯嚙みする。

 

だが、そんな雰囲気を物ともせず、蓮二は話しだす。

 

「確かに日本人の俺達からすれば奴隷なんてダメだろうな。だがそれは日本の様に基本的人権が備わっていればの話なんだよ……。あの、畑山先生」

 

突如話を振られた愛子は驚きながらも受け答えする。

 

「な、何でしょうか新宮君!?」

 

「先進国の様に政治が整ってない国ではまだ奴隷制度は無くなっても人身売買とかはありますよね?」

 

蓮二が愛子に問いかけたのは彼女が社会科目の教師だからだ。愛子なら世界情勢に詳しいと踏んで問い掛けると、彼女は昏い表情を見せながら答える。

 

「はい…残念ながらまだそういうものは残ってます」

 

「ここで先生からの返事を貰ってからが肝で、この世界の亜人族は差別されてはいるが、奴隷としての需要は非常に高い事を調べた人はいるか?」

 

蓮二が問い掛けるとハジメ、沙羅、雫、香織、優花、浩介以外は首を傾げている。

 

「おいおい元々は学生なんだから勉強しようぜ…俺だって無知は罪だから勉強してるのに……まいいや、亜人族は数が少ないからこそ、奴隷にしたら人権を守られんだよ。人権が守られるって事は表向きでも差別とかされなくなる。つまり俺が言いたいのは、今俺のもとにいる奴隷は人間社会で暮らすには最も安全が保障されてるって事だ」

 

蓮二が細かく説明説明して漸く生徒達にも理解してもらえたのか、ざわざわとしながらも理解者が増えている感覚を覚えていると、光輝はそれでもと食らいつく。

 

「新宮の言いたい事は分かった。でも、彼女の意思を奪っているのは事実だろ?俺なら彼女の意思を尊重して、解放するな。その人だって解放を望んでいるだろうし」

 

「お前さぁ……今のままのが一番安全だって説明しただろ?なんで分からないんだよ……」

 

「蓮二さん。勇者様のような人は固定観念が大きすぎるので、理解は中々してくれませんよ」

 

呆れて物が言えなくなる蓮二を慰めるようにデュエラが肩に手を置いていると、沙羅も空いてる肩に手を乗せてくる。

 

「まあでも、他の生徒達には伝わったんだしいいでしょ?それよりも……」

 

「彼等の処遇ですね」

 

沙羅が本題に戻し、デュエラと共に檜山達を睨むと、彼等は蛇に睨まれた蛙のように身動き取れなくなる。

 

「それで?この世界での殺人未遂ってどれだけ重いのかしら」

 

「そうですね……今回の場合、国の要人とも言えるハジメさんが被害者ですので、少なくとも鉱山送りかと。犯罪奴隷は人権無視した労働をさせますからね」

 

沙羅とデュエラが檜山達の罪の重さを話し合っていると、練兵場に新たな人物がやってきた。

 

それはイシュタルだった。

 

「何事ですかな?先程強い力を感じ取りましたが……」

 

「ランゴバルド様。実は…」

 

メルドが今回の事件の詳細をイシュタルに説明すると、イシュタルは顎髭を触りながら告げる。

 

「成る程。では、檜山殿達には厳重注意という事で今回の事はお終いにしましょう」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

イシュタルの発言に思わず口を揃えてどうしてと言う蓮二、ハジメ、沙羅、愛子。更には雫、香織、優花、浩介も唖然とする。

 

「神の使徒である檜山殿達が犯罪者として裁かれるのは外聞が悪いですし。これから名誉挽回のチャンスを与えるために厳重注意で終わらせます。宜しいですね」

 

「いいわけ「蓮二さん!」なんだよデュエラさ…っ!」

 

蓮二が食ってかかろうとした所をデュエラが肩を掴んで止める。彼女の手は怒りで震えており、今は耐えるしかないと言葉にするまでも無いほど伝わってきた。

 

彼女の想いを無駄にしない為に、蓮二も口を閉じて耐えているとイシュタルは満場一致に喜ぶ。

 

「それでは」

 

言いたいことだけ言ったイシュタルは踵を返して帰っていくと、檜山達は立ち上がり、下卑た笑いをしながら蓮二を挑発する。

 

「残念だったな」

 

「流石イシュタルさん。分かってるぅ」

 

「そうそうイシュタルさんに感謝感謝。行こうぜ」

 

「じゃあな。何も言い返せない負け犬さんよ」

 

檜山達はそう言い残して去ろうとする。その際『狼牙』からはかなりの妖気が漏れていたが、それは蓮二の技能で彼等に向かないように抑えていた。

 

彼等に関わらないように、生徒達もそれぞれ元の場所に帰っていく姿を見ながら、蓮二はデュエラとメルドに問いかける

 

「この国って国王よりも教皇の方が偉いんですか?」

 

蓮二が問いかけると、嫌々ながらもそうだと言わんばかりに頷く二人。

 

「すまない。本当なら国の法律が裁くんだが、神の使徒の扱いだけは教会が握っているんだ」

 

「つまり、アイツらがどれだけこの国で悪事を働こうが教会が無罪と言えば無罪になるんですね」

 

「……ああ」

 

「チッ……つまり治外法権があんのかよ。んで?そんな事実を知った勇者様はどうするよ?教会は間違っているとでも言うのか?」

 

蓮二は真の正義感が有ると思い、最後の希望として光輝に聞くが、彼の答えは蓮二を失望させるには充分だった

 

「……俺は、イシュタルさんが正しいと思う」

 

「はあ?お前正気か?」

 

「たかがこんな事で仲間割れなんてしてたら、世界なんて救えないし、皆を守れない。だから俺は、イシュタルさんの選択は正しいと思ってる」

 

その一言を聞いた蓮二は、怒りが湧き出し、思わず光輝の胸ぐらを掴んで怒鳴る。

 

「たかがだと!テメェ!ハジメが仲間に殺されかけたのをこんな事で済ませていいのか!皆を守るって言っておいて、ハジメは見捨てんのか!あぁ!?」

 

「俺は見捨てるなんて言ってない!ただ俺は仲間を守るためなら」

 

「だからテメェの中ではハジメは仲間として認識してねえって事だろ!」

 

「そんなわけないだろ!南雲だって仲間だ!」

 

「ならなんで守ろうとしねぇ!ステータスプレート渡された時に能力値が一般人と同じだって分かってただろ!一般人がお前らみたいな高ステータスの奴等から攻撃を受けてみろ!一撃で死ぬんだぞ!この世界はゲームみたいに蘇生魔法の無いコンテニュー出来ない現実で俺達は人を殺せる武器と魔法をもってんだぞ!お前はリーダーとしての自覚を持て!本当に仲間を守りたいのなら仲間を裏切ったり殺そうとしたりする奴等を罰しろ!」

 

「俺は檜山達を信じる!檜山達だって反省してるはずだ!」

 

「それなら俺を挑発したりあんな笑いするわけ無いだろ!アイツ等は反省なんてしてねぇよ!お前去り際の言葉を聞いてなかったのか!?断言してやる!アイツらは近い内にまた同じことをやる!それも今度はハジメよりも立場の弱い一般人に仕掛けるぞ!それも女子供にだ!王国の法律では裁けない、教会が許せば何をしても良いと思ってやがるアイツ等は女の尊厳を踏み躙りながら殺し、何も悪い事をしていない非力な子供は玩具の様に殺されるんだよ!それも誰も気づかれない様に、孤児院の子達なんか格好の獲物だろうよ!」

 

「檜山達はそんな事しない!絶対にだ!お前みたいな卑怯者で奴隷を手に入れるような屑と檜山達は違う!」

 

「っ!ふざけんな!」

 

蓮二はミレイナの事を何にも知らない光輝に対して怒りに身を任せ顔をブン殴る。

 

高いステータスを持つ蓮二の拳は、光輝の頬に痣をつくり、口の中は切れ、光輝の口内には鉄の味が広がる。

 

「光輝!新宮ァァ!」

 

幼馴染を殴られた龍太郎は蓮二に対する怒りで殴りかかろうとするが、沙羅が間に入って邪魔をする。

 

「退いてください久遠寺先生!アイツは光輝を!」

 

「坂上君に彼を殴る権利は無いわ。それとも、私を倒してでも殴りに行くかしら?」

 

沙羅は『ヴァイオレント』と『エクレール』を構え、雷迅功を発動させる。全身から紫電を撒き散らせながら、武器を構える沙羅は冷徹に、人を殺す覚悟を持った瞳で龍太郎を見る。

 

「やるのなら私も本気で行くわよ。殺す気でね」

 

「……っ」

 

沙羅から放たれる紫電とオーラから、勝ち目がない事が分かると、龍太郎は大人しくする。

 

その間にも蓮二と光輝の問答は続いていた。

 

「檜山達は真面目な奴等だ!だから」

 

「元々真面目なら、金目的でハジメを殺そうとするわけねぇだろ!いい加減現実みろよ!アイツ等がお前の言う守るべき者を攻撃して人を不幸にさせる卑怯者の屑だってよ!」

 

「卑怯者の屑はお前だ!先生やリリィの弱みを握ったりする様なお前の方がよっぽど屑だ!」

 

蓮二と光輝の問答は平行線だった。

 

現実を理解し、未来に確実に起こると冷静に判断して伝える蓮二の言葉は、蓮二を自分にとって、世界にとっての悪だと認識している光輝には何も響かない。それどころか、光輝には蓮二の言っていることは世迷言だと思われていた。

 

埒があかない。そう感じた蓮二は、『狼牙』を抜いてでも教え込んでやろうと柄を掴み、抜刀しようとするが、どれだけ力を入れても抜けなかった。

 

「『ロウ』?」

 

蓮二が『狼牙』に問いかけると、『狼牙』から妖気が漏れ、蓮二を包む。それは敵意や害意に対する拒絶の妖気では無く、彼の心を癒す妖気だった。

 

 

『狼牙』は蓮二に、檜山等と同じ外道に堕ちないように、その刃を抜けないようにしていた。蓮二はその『狼牙』の想いを妖気越しに伝わると、半身の相棒に感謝する。

 

「ありがとよ『ロウ』。お前のお陰で俺は檜山達と同じところに堕ちなくて済んだよ…」

 

蓮二は『狼牙』に窘められ、ヒートアップしていた心を冷まし、光輝を掴んでいた手を離してから告げる。

 

「天乃河。お前の正義感有るところは好ましいし悪を許さない気持ちはよく分かる。でも自分の考えだけが正義じゃないんだ。本当の正義を語るのなら他者の正義を認め、真の悪とはなんなのかを探さないといけない。だから天乃河、檜山達の行動には注意しろ。アイツ等はこれから確実にお前の嫌う悪を行うはずだ。…もし、そうなったら俺は……問答無用で殺す」

 

そう言い残すと、蓮二は沙羅とハジメとデュエラに話しを切り出す。

 

「行こう」

 

「ええ」

 

「……うん」

 

「分かりました」

 

蓮二達四人は練兵場から立ち去ろうと動き出す。その前に雫が蓮二について行こうと話し掛ける

 

「私達も行くわ。今は城に居たくないの」

 

「……好きにしてくれ」

 

蓮二が自分たちの意思に任せると言うと、雫、香織、優花、浩介はついて行く。

 

蓮二達が歩き出すと同時に、メルドは蓮二達に告げる。

 

「明日から実地訓練で全員『オルクス大迷宮』に行く事になってる!明日の朝には城に来てくれ!」

 

メルドの伝言を聞いた蓮二達はそれぞれ頷き、再度歩き始めると、光輝が呼び止める。

 

「新宮!」

 

「ん?」

 

「俺は……俺は最後まで檜山達を信じる!お前がなんと言おうとも!」

 

「そうかい……」

 

蓮二は最後まで変わろうとしない光輝を見て、失望に似た何かを感じながら、この場を立ち去るのだった。

 



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出発

城下町の借家の居間に集まった九人の内の三人。蓮二、優花、雫はキッチンに立ちながら昼食の準備をしている中、ソファーテーブルが置かれた所で沙羅はデュエラと共にイシュタルに対しての愚痴りあいという名の酒飲みにミレイナを巻き込んで始め、テーブル席ではハジメはリンゴに似た果物で作った蓮二お手製のジュースを飲みながら香織、浩介と共に明日のことについて話していた。

 

「それで二人は明日からの実地訓練は誰と組むの?」

 

「俺は重吾達とかな。なんだかんだこっちでも付き合いあるし」

 

「私と雫ちゃんは多分天之河君のチームかな…不本意だけど。多分向こうでパーティー作られてると思うから」

 

「ご愁傷様…」

 

苦笑いするハジメは落ち込んでいる香織に何か出来ないかと思考していると、ハジメはいいアイデアを浮かび、提案してみる。

 

「じゃあこの実地訓練が終わったら、何か身に着けやすいアイテムを作るよ」

 

「…本当に?」

 

「うん。どんなのがいいかな?」

 

「指輪がいい」

 

「ゆ、指輪?」

 

「…ダメかな?」

 

思わずウルウルさせた瞳でハジメを見る香織。彼女の様な美少女の涙目は反則だと思いながらハジメは答える。

 

「ううん、いいよ」

 

「本当に!?やった、ハジメ君からのエンゲージリングだ」

 

「え、エンゲージリング…」

 

香織が指輪をお願いした理由が分かると、ハジメは顔を赤くする。香織の喜ぶ顔を見ては作らない訳には行かないなと思っていると、浩介が口を開く。

 

「他人の恋路って見てると微笑ましいのな…新宮と久遠寺先生はとてもお似合いだし、今は南雲と白崎さんも相性良さそうに見えるし…俺も相手欲しいよ」

 

浩介が溜息混じりに恋をしたいと言っていると、蓮二と雫と優花が料理の皿を持ってやって来る。

 

「お待ちどう。ミートソースのパスタだぞー」

 

蓮二はテーブルにミートソースのパスタを配膳していく。この世界でのトマトは見つからなかったため、デミグラス風にしているが、ソースの重厚感ある香りに、ハジメたちの食欲が刺激される。

 

本格的なパスタを見て、浩介は蓮二に問いかける。

 

「これ新宮が作ったのか?」

 

「ああ。ソースの方は昨日のうちに仕込んでおいて、今日はパスタを茹でるだけにしておいたんだ。パスタも手打ちだから、味の保証はないけどな」

 

「いやいや充分凄いって!新宮って料理得意だったんだな」

 

浩介が感心していると、雫と優花の顔が暗いのに気付き声を掛ける。

 

「どうしたの?」

 

「いやね、アタシ達よりも料理上手な新宮に負けた気がして…」

 

「なんかこう…ね」

 

「あー」

 

二人が暗かった理由が分かると浩介は納得する。異世界でも本格的な料理が出来る蓮二のスペックの高さに負けたと感じるのも無理はないだろう。

 

意気消沈する雫と優花を他所に、蓮二は沙羅達酒盛り組にも料理を配膳していく。

 

「ありがと蓮二〜」

 

「沙羅先生もデュエラさんも明日の事考えてお酒飲んでくださいね」

 

「承知しております」

 

「分かってるって〜」

 

しっかり明日のことを考えて少量しか飲んでいないデュエラと、二日酔い確定な飲みっぷりを見せている沙羅に注意をし終えた蓮二がハジメ達の元に戻ろうとすると、ミレイナが服の裾をつかむ。

 

「お願い助けて!私酔っ払いの相手苦手なの!」

 

ミレイナが助けを求めてくるが、蓮二としては一度沙羅に巻き込まれたミレイナを助ける事は出来なかった。

 

下手に飲み相手、特に女性を連れて行くと、沙羅からの嫉妬が怖いからだ。

 

「すまんミレイナ。俺の為に犠牲になってくれ」

 

「いやちょっとそれ酷くない!ねぇ!行かないでよぉぉ!」

 

「ん〜!ミレイナちゃんも飲むわよー!」

 

「いやいや!私お酒ダメなの!本当!飲むと脱ぎ癖でるから!」

 

「「「脱ぎ癖!?……はっ!」」」

 

ミレイナの脱ぎ癖発言に思わず反応してしまう蓮二達男性陣。男としては美少女の艶やかな姿を見たいと思ってしまうのは当然だった。しかし。

 

「蓮二、ちょっとお話しましょうか?」

 

「そうですね。教育しないといけませんね」

 

「先生、デュエラさん。私も手伝います」

 

「ハジメ君。正座しよっか」

 

「「……はい」」

 

男の煩悩によって蓮二は沙羅とデュエラと雫に、ハジメは香織からのお説教を受けることとなる。それを見ながら優花は一人ごちる。

 

「アタシも彼氏出来たらああやって自分好みにする為に説教するのかな…ああ遠藤とかは彼氏にしたいとかは考えてないから」

 

「告白してないのに振られた!?」

 

突然振られた浩介は思春期の男子生徒としての心が傷つくのだった。

 

______________________________

 

 

「それにしてもサラサラの白髪ねぇ」

 

昼食を終えた後ハジメと香織と優花と浩介はハジメの自室に、居間では蓮二の髪を梳く雫は女子顔負けの白色の長髪に脱帽していた。何があったらここまでの変化するのか疑問に思いながら髪を触っていると、段々むず痒くなったのか溜息を吐く蓮二はステータスを確認していた。

 

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新宮蓮二 17歳 男 半人半妖【妖状態】

レベル:5

天職:妖刀師

筋力:500

体力:440

耐性:220

敏捷:800

魔力:0

魔耐:400

妖力 : 2500

妖耐:3000

技能:抜刀術【我流】【残月】【神風】【煉獄撃】【煉獄斬】【斬撃強化】【一刀両断】・妖刀制御・神速・煉獄・妖力操作・真名解放・限界超越【成長効率上昇】・妖気覚醒【ロウ】・人化・妖化【妖刀進化】【妖具進化】【妖気強化】【妖気効率上昇】・ウォークライ・勇士の誇り・言語理解

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「…はあ?」

 

蓮二は色々と変わっているステータスプレートの表記に思わず何故とクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「人化に限界超越の派生技能、更には妖化の派生技能五つとかなにこれ……そもそも人化も妖化も無かったのに……」

 

「どうかしたの蓮二?……うわ、なにこのステータス!?四桁あるのはそうだけど、数値おかしいって!」

 

後ろから見ていた雫が思わず驚く。その声に気づいたデュエラはお酒を片手にやってくる。

 

「蓮二さん、失礼します……これは」

 

お酒を飲んでるのにも関わらずケロッとしているデュエラもまた、蓮二のステータスを見て驚く。

 

「今の蓮二さんは妖状態という、謂わば状態変化しているんですね。となると、今日生まれた技能、人化で元に戻れそうですね。蓮二さん、元に戻るイメージをしてみてください」

 

「分かった……」

 

蓮二が目を瞑り、元の姿をイメージしていると、ナニカが内に眠っていく感覚を蓮二が覚えていると、見た目に変化が起こる。白髪だった髪は黒く染まり、長さも元に戻って行く。

 

無事に元に戻れたのを確認したデュエラは蓮二にもう良いと伝えると、彼は目を開ける。真紅のように赤かった瞳も元に戻り、デュエラと雫はホッとしてると、沙羅がやって来た。

 

「あら〜蓮二ってば元に戻ったのね。さっき迄の姿もかっこいいけどやっぱり見慣れた姿も素敵ね〜ほらデュエラさん。飲むわよ」

 

「明日辛くなりますよ」

 

「沙羅先生はある程度飲むとすぐ寝て、寝た後はケロッとしてるから大丈夫ですよ」

 

「そうそう。ほら~溜め込んだストレス吐き出しましょ~」

 

「全く…」

 

うふふと笑う沙羅は呆れているデュエラを連れて宴席に戻るのを蓮二は見送り、夕飯の準備をする為に蓮二は一人買い物に行こうと買い物カバンと生活用の共有財布を持って家を出ようとする。

 

「そんじゃあまあ俺は夕飯の買い物行くけど、雫達はどうする?そろそろ城戻らないと行けないんだろ?」

 

蓮二の問いかけに雫は残念にしながら、コクリと頷く。

 

「ええ。残念だけど……」

 

「そんじゃ、送ってくわ。悪いけど3人を連れて来てくれるか?ハジメの自室はすぐそこだから」

 

「分かったわ」

 

蓮二は雫に呼び出しを頼むと、沙羅に夕飯のメニューのリクエストを聞きに行くと、酔いが回ったのか、スヤスヤと寝ていた。それに釣られてか、ミレイナも寝ており、起こしちゃいけないなと思った蓮二はデュエラに小声で買い物に行くと伝えて、雫達を待つ事数分。漸くやってきた四人を連れて借家を出るのだった。

 

____________________

 

 

翌日の朝。蓮二、ハジメ、沙羅、ミレイナは王城前迄来ていた。ミレイナを連れてきているのは、単純に彼女を単身で置いて何か起きないかの心配だった。

 

王城の前は既に幾つかの馬車が集まっており、護衛の騎士の元それぞれのパーティに分かれて馬車に乗り込む姿が見え、更には実際に魔物を殺す訓練が始まる事に対して考えている生徒が殆どなためか此方を見る余裕はなさそうだった。

 

これには蓮二達も助かった。何故ならミレイナを見られても今なら一悶着は無さそうだからだ。

 

一安心蓮二達は自分達の護衛になる騎士のデュエラを探していると、直ぐに見つけられたので其方に向かうと、デュエラは柔和な笑みを見せて蓮二達を迎える。

 

「おはよう御座います蓮二さん、沙羅さん、ハジメさん、ミレイナさん。皆さんの馬車は最後尾になります」

 

そう言ってデュエラが蓮二達を連れて馬車へと向かい、五人が乗り込むと、一番前に乗り込んだであろうメルドが号令をかける。

 

「これより宿場町ホルアドへと向かう!」

 

その掛け声と共に全ての馬車が動き出すと、一行は『オルクス大迷宮』のある宿場町ホルアドへと向かって行く。

 

馬車の中では沙羅とデュエラがホルアドにある酒について話したり、ハジメはミレイナにゲーソンを教えていたりと中々賑やかな時間が生まれている。

 

それを見ながら蓮二は微笑ましそうに見ていると、『狼牙』と『狼黒』が自分も楽しいと言わんばかりに震えている。

 

(そうか、お前も楽しいんだな『ロウ』…俺もだよ)

 

この時間を守っていきたい。そう思っている蓮二は『オルクス大迷宮』での実地訓練後の事を考える。

 

(この訓練が終われば次は本格的に戦争への参加だろう……もしそうなら俺は、仲間を守る為にまたあの状態になってでも戦ってやる)

 

蓮二は例え自分がまた【妖】の姿になってでもこの大切な仲間を守ろうとこの場決意する。

 

しかし、その決意は悪意ある者によって守れなくなる事を、その時の蓮二は知らなかった。

 




と言うわけで明日は月下の語らいやってオルクス編に突入します。


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トラップ

【オルクス大迷宮】のある宿場町【ホルアド】へと到着したのは夕方だった。蓮二達は王国直営の宿屋に入って行き、それぞれの部屋に向かった。

 

部屋割りは蓮二とハジメ。沙羅とミレイナとデュエラという形となった。

 

蓮二とハジメは部屋に着くと、それぞれベッドに寝転がると、迷宮に出現する魔物の図鑑を読んでいた。ハジメは低層の、蓮二はいざと言うとき用に深層の図鑑をだ。

 

深層には今の蓮二でも倒せるかわからない様な魔物が載っており、特に数で押してくるトラウムソルジャーに警戒していた。

 

「深層になると一筋縄ではいかなさそうだな。そっちは……おいおい眠そうだな」

 

蓮二がハジメを見ると、眠そうにしていた。寝るにはまだ早いと思った蓮二は、ハジメの為にお茶を淹れてやるかと思い、宿屋の受付まで行く。

 

「すいません。お茶を頂けますか?二人分」

 

「畏まりました」

 

受付の人からお茶を頂いた蓮二は部屋に戻ろうとすると、部屋の中では話し声が聞こえた。

 

(白崎か…)

 

ハジメと香織が何かを話していることに気づいた蓮二は、二人の時間を作ってやるかと思いながら宿屋のバルコニーまで来ると、ベンチの様なものに座りながら一人お茶を飲みながら夜景を見ていた。

 

(そういえば一人の時間は久しぶりだな…この二週間は色々有ったしな)

 

蓮二は一人、このトータスに来てからの事を思い出す。いきなり戦争に参加しろと言われ、自分達の安全を確保する為に蓮二は王国の人達との人間関係を良くしたり、ハジメが色んな物で人々を救ったり。

 

それ以外にも物事は有ったが、蓮二は一つだけ気になっていた。

 

それは自身の事だ。半人半妖などという種族に妖化や人化等、自分の身に何が起きているのかは未だに分からなかった。

 

人とは違う。そう思うと蓮二は思わず表情に影が生まれていると、彼の後頭部に叩かれた様な衝撃が走る。

 

「あいた!なんだよ…沙羅先生」

 

「なんだとは何よ。あっ、お茶貰うわね」

 

蓮二が振り向くとそこには沙羅が居た。沙羅は隣に座ってハジメの分のお茶を一口飲む、静かに話し始めた。

 

「蓮二、貴方は何処にも行かないわよね?」

 

「急にどうしたんですか?」

 

蓮二は理知的で冷静沈着な彼女らしからぬ弱々しい声で問いかけてくる沙羅に疑問を浮かべていると、沙羅は説明し出す。

 

「嫌な夢を見たのよ。蓮二がまた暴走する夢、それも今度は元に戻らないまま……だからかしらね、今の貴方を見たくなったの。優しい貴方の顔を。それじゃあお休み、また明日ね」

 

「うん」

 

沙羅がバルコニーから自室へと向かうのを見送った蓮二はそろそろ戻っても大丈夫だなと思いながら、自室に戻るのだった。

 

____________________

 

 

翌日の朝、【オルクス大迷宮】正面広場の入口居る。蓮二達は光輝たち勇者一行と少し距離を取りながら歩いていた。

 

距離を取っているのは光輝がミレイナを見て何かしら言ってこないようにする為であり、ミレイナを見つければきっと奴隷として解放しようと宣いてくるだろう。

 

それは兎も角【オルクス大迷宮】の入口は博物館の様な入場ゲートが有り、メルドが今受付嬢に話を通している。

 

 

入口付近には食べ歩きが出来るほどの屋台も並んでおり、仕事終わりに食べて行くことも出来るのは良いなと蓮二が思っていると、受付が蓮二達の順番になったので、ステータスプレートを受付に見せて迷宮内に入って行く。

 

 

迷宮内は外とは違う雰囲気を見せる。

 

迷宮内は緑光石と呼ばれる光源になる石によって通路内は明るく照らされているものの、ここから先は命を賭けた戦いになる事を蓮二とハジメと沙羅は感じとる。

 

そんな中で蓮二達はドーム状の広間に出る。天井は7メートルは有りそうな広い空間の壁の隙間からはネズミの様な魔物が蓮二達を獲物として認識してわらわらと出てくるとメルドは光輝達に支持する。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

 灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみだが、人と同じ二足歩行で上半身がムキムキのマッチョネズミだった。

 

そんな可愛らしさのかけらも無いラットマンは、可愛いもの好きの雫にはとても気持ち悪く見え、引いていた。

 

クロスレンジに入ったラットマンを迎え撃つ為に光輝、龍太郎、雫が武器を構え、後衛の香織に谷口鈴と中村恵里と呼ばれる女子生徒二人が魔法を唱えると言った堅実的な陣営を取る。

 

いざ戦闘になれば決着も早かった。

 

光輝の高水準のステータスに光属性付与及び自身の強化と敵の弱体化を行うアーティファクトの聖剣と呼ばれる片手半剣を振るい、ラットマンを切り裂いていく。

 

龍太郎は振るえば衝撃波を生む籠手と脛当てを用いてラットマンの体の内側を破壊して行く。

 

雫はハジメ謹製の日本刀を用いた抜刀術で敵を両断して行く。日本では剣を習っていたお陰かその太刀筋や洗練さに騎士達も驚く。

 

そんな光輝達の戦いぶりに生徒達が見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達勇者パーティの戦力では浅い階層の敵は脅威とならないみたいだ。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルドは肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルドの言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 

それからは交代交代で魔物と戦闘を行なっていく生徒達の最後に蓮二達の戦いが有った。

 

蓮二達が戦う魔物の名前はドギーテル。ファンタジーでいうコボルトの様な犬顔の魔物で、ドギーテル達は粗末では有るが武装しているため、かなり注意が必要だとデュエラから説明を受けた蓮二とハジメと沙羅とミレイナはハジメとミレイナを遊撃にして戦うことを決めると、行動を開始する。

 

駆け抜け始める蓮二と沙羅、二人の接近に気付いたドギーテルの群れはは前衛後衛に分かれて動き出す。前衛達は後衛を守る為に盾を構え、後衛は弓の弦を引っ張り始めるが、その前に後衛のドギーテル達は、ハジメの錬成によって地面から突如生えてきた土の槍によって心臓を貫かれ、絶命する。

 

「ドギー!」

 

悲鳴を聞いた前衛のドギーテル達はいつの間にか槍に貫かれて死んでいる後衛の姿に驚いていると、蓮二と沙羅が肉薄していた。

 

ドギーテル達は密集しながら盾を構えるが、蓮二の『狼牙』による薙ぎ払いは受け止める事すら出来ず、盾ごと切り裂かれる。

 

沙羅は一体のドギーテルを『ヴァイオレント』で突き刺し、抜くと同時に後方へと跳躍しつつ『エクレール』の雷弾を一体ずつ確実に頭に撃ち込んでいく。

 

蓮二と沙羅が前衛で大暴れしている間、ハジメは冷静に『ヴァリス』で二人の後ろを取ったドギーテル達を撃ち抜いていきながら、錬成で足元の土で拘束するなどのサポートをする。

 

ミレイナは風魔法【風刃閃】を放ち、蓮二達に臆して逃げ出そうとするドギーテルを堅実に倒していく。ミレイナは体にも纏っている風に靡く灰色の髪と美貌から、生徒達は戦姫の様にミレイナを見ていた。

 

蓮二達の連携によってドギーテル達の群れはものの数分で片付いた。

 

「お疲れ様」

 

四人は駆け寄るとハイタッチを交わした後に、メルド達と共に【オルクス大迷宮】を降りて行く。

 

二十階層に来た蓮二達一行は鍾乳洞の様な道を進んでいた。この鍾乳洞らしきものを進みきれば今日の訓練は終わりだと教えられた生徒達は命のやりとりをする迷宮でものほほんとしていた。

 

そんな中で先頭を行く光輝達やメルドが立ち止まる。メルドの雰囲気から魔物がいる事が分かる蓮二達五人も、戦闘準備に入る。

 

「擬態しているぞ! 周囲の観察を怠るなよ!」

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、褐色へと変わり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンに似た擬態能力を持つゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! とてつもない豪腕だからな!」

 

 メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞のような地形と足場が悪さから思うように囲むことができない。

 

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸うと

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの持つ固有魔法威圧の咆哮だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

 ロックマウントはその隙に突撃するかと思えば横に移動し、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで!咆哮によって動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 

 香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

 しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。更には女に欲情する雄らしいのか、目が血走り、鼻息も荒かった。そのせいか香織は気持ち悪さで顔を青ざめてしまう中、ロックマウントの進行方向に巨大な壁が生まれる。

 

「グガァ!?」

 

投げられていたロックマウントは巨大な壁に頭から激突すると、グシャァという音と共に頭が潰れ、地面へと激突する。

 

「大丈夫ー!?」

 

最後尾に居るハジメが地面に手を当てながら香織に問いかけると、彼女はとても嬉しそうにうん!と伝える。

 

そんな香織がハジメに笑顔を見せるのは気に食わないが、それよりも自分の香織を怯えさせた敵は殺すと言わんばかりに光輝は怒りに任せて聖剣の力を解放する。

 

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ__『天翔閃』!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。一息吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝は香織達に声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルド団長のお叱りに声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。龍太郎と鈴と恵里が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

 ハジメに改めて礼を言おうとした香織がふと崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるで水晶のようである鉱石に、沙羅、ミレイナ、デュエラを除いた香織達女子達はその美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るらしい

 

「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとしている。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはハジメだ。ハジメは錬成の派生技能の【理解】でグランツ鉱石を触った途端トラップが発動する事を気づいていたのだ。

 

「待って!トラップが有るよ!」

 

「テメェの言う事なんて聞くかよキモオタ!」

 

蔑む様に吐き捨てると檜山はグランツ鉱石の有る場所までついてしまう。

 

「ちっ、ハジメ!錬成で妨害は!?」

 

「だめだ!間に合わない!」

 

「くっ!間に合え!」

 

蓮二は、ハジメの発言から慌てて止めようと檜山を追いかける。しかし、檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。召喚されたあの日の再現をするかの様に。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルドの言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 部屋の中に光が満ち、蓮二達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 蓮二達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

蓮二は空気の変化に警戒する様に立ち上がり周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルドや騎士団員達、ハジメと沙羅とデュエラとミレイナに光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、トラップの魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

 蓮二達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはあるだろう。天井もかなり高く二十メートルはあり橋の下覗くと、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。落ちれば奈落の底に一直線だなと感じとる。

 

 橋の横幅は十メートルくらいはありそうだが、手すりすらなく足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。蓮二達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わない。なぜなら階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 




というわけで月下のシーンとオルクスの前半終わりました。明日以降にベヒモスの所書けたらなと思います。それではまた次回、お会いしましょう


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ベヒモス

橋の両サイドに魔法陣が浮かぶ。光輝達先頭組の方には十メートルのものが一つ、蓮二達後方には一メートル四方のものが幾つも生まれ、魔物達が現れる。

 

 

小さな魔法陣からは骨格だけの体に剣を持つ魔物、トラウムソルジャー達がぞろぞろと現れる。その数百はくだらないだろう魔物の数を見たデュエラはいち早く騎士に指示する。

 

「各員守護の構えを取れ!」

 

デュエラの指示と共に動き出す騎士達は武器と盾を構えて生徒達の前に出る。

 

騎士達がトラウムソルジャーから生徒達を守ろうと陣を構える中、蓮二達は光輝達の方に生まれた魔法陣から現れた魔物に注目していた。

 

 

十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている。

 

 メルド団長が呟いたベヒモスという魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げる。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」 

 

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのか、メルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン!デュエラと共に生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、最強と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。

 

 どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

 そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――聖絶!!」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節による最大級の詠唱、さらに三人同時発動。一回のみ一分だけの防御であるが、絶対守護領域となる聖なる輝き半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

 

それでも衝突の瞬間は凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れ、撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

そんな中で前方に立ちはだかるトラウムソルジャーの大群、後ろから迫る恐ろしい気配から生徒達は半ばパニック状態だ。

 

「各員落ち着け!冷静に対処しなければ死ぬぞ!」

 

隊列など無視して我先にと階段を目指し進んでいく。デュエラがアランと共にパニックを抑えようとするが、眼前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

そんな中で優花が後ろから突き飛ばされ転倒してしまう。呻き声をあげながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

 そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

 死ぬ。優花がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーの足元から石造りの槍が生まれ、骸骨の魔物は貫かれる。

 

「大丈夫かい」

 

優花を心配する声でハジメは声を掛けると、優花はうんと答えて立ち上がる。彼女は大丈夫だと分かった瞬間、歌が聞こえてきた。

 

「聖歌・独奏曲・安らぎの歌」

 

ミレイナは聖歌を歌う。彼女の歌声は優しく、心に響いてくる。彼女の歌声がこの空間に響き渡る内に生徒達も歌による効果で冷静さを取り戻し、パニック状態から脱していく。

 

「先生!」

 

「ええ!任せなさい!」

 

トラウムソルジャー達に接近する蓮二と沙羅は神速の如き速さを持って駆け抜け、『狼牙』と『ヴァイオレント』で難なく切り裂いていく。

 

「ここは先生と俺が道を切り拓く!」

 

「だからあんた達は冷静に階段まで向かいなさい!」

 

蓮二と沙羅の頼もしい声を聞きながら生徒達は階段まで向かい始める。この場は蓮二達に任せればいいと分かったハジメは最後の一押しにと光輝のカリスマとリーダーシップを確保しようとベヒモスの方に向かう。

 

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕け散るのは時間の問題だ。既にメルドも障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

 

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

メルドは子供の様な我儘を言う光輝に対して悪態を吐く。

 

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

 

しかし、それは戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。

 

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は置いていくということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

 

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

 

「雫ちゃん……」

 

苛立つ雫に心配そうな香織。

 

その時、ハジメが光輝の前に飛び込んできた。

 

「天之河くん!」

 

「なっ、南雲!?」

 

「南雲くん!?」

 

一同が驚く中ハジメは状況を説明する。

 

「早く撤退するんだ!今は蓮二と久遠寺先生が魔物を倒しながら生徒達を避難させている。天之河君たちも早く!」

 

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

 

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

 ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

「今はミレイナさんが歌で皆を落ち着かせているけど、君というリーダーがいないから混乱してるんだぞ!」

 

ハジメの声でクラスメイト達を見る。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「せやぁぁぁ!!」

 

「むうん!」

 

蓮二と沙羅とデュエラだけがトラウムソルジャーの相手をしており数の不利と生徒を守らなきゃいけない立ち回りのせいでかなり消耗している姿が見えた。

 

蓮二と沙羅とデュエラの三人が何とか敵を倒しつつ生徒達を避難させているが、増援が来たら犠牲者が出る可能性は目に見えていた。

 

「今は彼らの恐怖を根本から吹き飛ばせる君の力が必要なんだ!しっかり仲間を見てよ!」

 

ハジメの言葉と、仲間の現状を見た光輝は頷く。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ―」

 

「下がれぇー!」

 

すいません、先に撤退しますと言おうとしてメルドを振り返った瞬間、そのメルドの悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により何重もの石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。

 

衝撃波の影響でメルド達騎士は身動きが取れなくなっている。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。幸いにもハジメの石壁が守ってくれたようだ

「くっ」

 

ハジメは何とかベヒモスの身動きを止めようと橋に手を掛け錬成をする。

 

ベヒモスの周りの石を材料に拘束具を生成し、雁字搦めの要領で拘束すると光輝達に指示する。

 

「今のうちにメルドさんたちを連れて逃げるんだ!」

 

「でもそれじゃあハジメ君が」

 

「今は僕よりも皆を気にして!大丈夫、死ぬつもりは無いから」

 

「…信じるねハジメ君」

 

香織はハジメの決意有る表情を見て、香織は騎士達の治癒へと向かう。それを追いかけて光輝達もメルドの方に向かうのを見送るハジメはベヒモスに対して苦笑する。

 

「悪いけど、暫くは僕との我慢比べに付き合ってもらうよ」

 

ハジメは力の限り暴れるベヒモスの拘束具を壊れる度に錬成で直していく。奴の力は尋常じゃないが、ハジメがベヒモスを観察して得た【理解】によって一番力が入らない場所のみを拘束しているため、破壊には時間をかけさせていた。

 

そうすること数分だろうか、メルドが叫ぶ。

 

「坊主!魔法でベヒモスの地面を破壊する!戻ってこい!」

 

撤退合図だと分かるとハジメは錬成を止めて踵を帰す様に蓮二達のいる階段まで走り抜ける。それと同時に魔法の弾丸が降り注がんと飛んでいく中、一つの魔法、火球がハジメへと向かってきていた。

 

余りにも突然だったため、ハジメはよけることも出来ずに直撃を貰う。

 

「ぐっ、うう」

 

火球の直撃によりひるんだハジメはフラフラしながらも前に進もうとする。しかし

 

「グルアアアアアアアア!」

 

魔法攻撃とベヒモス自身の力によって拘束が解かれた暴力の化身は頭部を赤熱化させ、ハジメへと跳躍突進する。

 

ハジメはなけなしの力で飛びのくが、ベヒモスの攻撃は橋全体を鳴動させると同時に着弾地点を中心に物凄い勢いで亀裂が走り、崩壊を始める。

 

「キュグルアアアアアアアア」

 

悲鳴をあげながらも崩壊していく橋と共に奈落の底へと落ちていくベヒモスの断末魔を聞きながら次は自分かと思いながら這いつくばるハジメ。そして彼もまた奈落へと落ちかけたその時、彼の手を掴む者がいた。蓮二だ。

 

「ハジメ!今すぐ助けるからな!」

 

蓮二はハジメを掴んだ手から彼を引っ張り上げようと力を入れる。しかしそんな蓮二に、四つの魔弾が襲い掛かる。

 

「がっ!」

 

背中へと当たった魔弾により、力は一時的に抜けてしまったのか、蓮二はハジメの手を離してしまった。

 

「ハジメーー!!」

 

蓮二は助けられたはずの親友が奈落へと落ちる姿をただ見ながら叫ぶしか出来なかった。

 

 

 




はい、というわけで蓮二とハジメの一時的な別れのシーンとなりました。

ここからハジメは魔王、蓮二は修羅になっていきますので、これからもよろしくお願いします


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強くなるために

今回オリジナル種族と舞台が出ます。ご注意を


「ハジメ…ハジメーー!!」

 

蓮二は奈落へと叫ぶ。しかし、落ちてしまった彼は答えない。文字通りの奈落の底へと行ってしまったと蓮二が理解するのも容易く、それでいて彼の怒りすらも出て来る。

 

「誰ダ…」

 

蓮二はわなわなと震えながら問い掛ける。しかし誰も答えない。現に生徒達も彼等の凶行に開いた口が塞がらず、ただ見るだけしか出来ないのだから。

 

凶行を行なった下手人、それは檜山達四人だった。

 

「ちっ!新宮の野郎は落ちなかったか」

 

檜山が舌打ちすると同時に光輝は問い詰める。

 

「どうして新宮を攻撃したんだ檜山!」

 

「んなの決まってんだろ。あの化物を殺すためだよ。お前だってあの時の新宮の姿を見ただろ?アイツは化物なんだよ!化物が俺達を攻撃する前に殺さないとだろ!」

 

「ふざけるな!それだけで仲間を攻撃していい訳が…っ!」

 

光輝が問い詰めようとする中で空気が変わる。先程までのミレイナの歌が生み出した清らかな空気からどす黒く、濃密な殺気が込められた空気へと。

 

そしてその空気は蓮二から生み出されており、彼の姿はまたも変貌していく。

 

以前と同様、白髪と赤い瞳に外套を加え、今度は爪は鋭くも長くなり、犬歯は吸血鬼の様な長さになると、『狼牙』を抜刀変化させ、濃密な妖気を振り撒きながら叫ぶ。

 

「コロス…コロスコロスコロスゥゥゥゥ!!檜山ァァァァァァァ!!」

 

それは怒りと憎しみ。蓮二は今、前よりも激しい負の感情に支配されながら駆け出す。

 

「させるか!」

 

騎士達は仲間殺しをしたとはいえ、神の使徒たる檜山達を守ろうと剣をとる。しかし蓮二は

騎士の肩を踏み台にして跳躍する。

 

檜山達の後ろを取りながら着地した蓮二は檜山達に斬りかかろうとする。しかしそれをデュエラの『アズール』によって食い止められる。

 

「邪魔ヲスルナァァァァァァァ!」

 

「力に飲まれたまま罪を犯させるわけにはいきません!沙羅さん!」

 

「任されたわ!」

 

デュエラの『アズール』が蓮二の『狼牙』を食い止めている内に沙羅は後ろへと回っており手刀を蓮二の首に当てる。

 

「ウウ…」

 

気を失った蓮二はそのままデュエラへと倒れこむ。姿は妖状態のままだが、何とか蓮二を無力化した沙羅は『狼牙』を納刀させるとすぐさま担ぐ。

 

「デュエラさんは前衛を!ミレイナちゃんは後衛を頼むわ!」

 

「「了解!」」

 

三人はすぐさま蓮二を連れて階段を登り始める。沙羅はが急いでいるのはこのまま立ち止まって蓮二が目覚めた時に何が起こるか分からなかったからだ。

 

「おい待て!ああくそ!全員撤退するぞ!」

 

メルドの号令で一斉に階段を駆け上り始める。しかし香織は違った。

 

「雫ちゃん…私、行くね」

 

「!?かお…」

 

香織!待ちなさい!と言おうとしたが、その前に香織は身投げするように飛び込んでいた。その事実を飲み込んだ瞬間、雫のナニカが壊れた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!香織ー!」

 

奈落へと飛び込んで行く幼馴染を止められなかった雫は発狂じみた声で叫ぶと、ふらりと体が揺れ、倒れこんでしまう。その叫びを聞いた光輝達は目の前で死にに行った少女に対する叫びでいっぱいになりながらも雫に近付く。

 

「雫!くそ!なんでこんなことに…!」

 

光輝は悪態を吐きながら倒れ込んだ雫を抱えて撤退していく。

 

 

デュエラが道を切り拓き、その後ろを沙羅とミレイナ、更にその後ろを生徒達と騎士の順番で出口へと走っていく。

 

どれくらい走ったか分からなくなりながらも無我夢中で駆け抜け、漸く【オルクス大迷宮】の入口までたどり着いた彼女達。

 

人影と活気から漸く戻ってこれたと実感する生徒達はその場にへたり込んだり涙を流す。

 

だが一部の教師と騎士と生徒達、沙羅とデュエラとミレイナは変貌したまま眠る蓮二の心配を。光輝と龍太郎と鈴と恵理は倒れた雫の心配と自ら奈落へと飛び込んだ香織に対してのどうしてで頭がいっぱいだった。

 

そんな彼等を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド。

 

二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。

 

そして、ハジメと香織の死亡報告もしなければならない。

 

憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルドだった。

 

____________________

 

 

ホルアドに戻った沙羅たちは蓮二をベッドに寝かせ、世話をミレイナに任せた後二人は今回の事件についてどう処断するかメルドと話あっていた。

 

「それでデュエラさんにメルドさん。今回の南雲君殺害事件について、檜山君達四人にはどんな処罰が下されるんですか?」

 

「最低ででも極刑ですね。ハジメさんはハイリヒ王国にとって最重要人物でしたので」

 

「ああ。坊主のお陰で救われた人達や収入的にはそうなるだろう。しかし……」

 

「また教会が免罪してくる可能性が高いのね」

 

沙羅の言葉にメルドとデュエラはコクリと頷き、デュエラは話す。

 

「言い方が悪いですが国王陛下は教皇の言いなりですからね。リリアーナ姫を筆頭に貴族達も諫言をしているのですが、教皇の言葉しか信じませんので」

 

「……腐ってるわね」

 

沙羅は歯噛みしながらこのハイリヒ王国の腐敗を呪いながら思わず言葉が出る。

 

「この国出ようかしら。その方が蓮二にも良さそうだし」

 

それは紛れもない沙羅の本心。沙羅としてはこんな国ではない国に居たくない。確かな悪を罰しない国は国では無いからだ。

 

沙羅の国を出る発言にメルドは待ったをかける。

 

「待ってくれ!お前達が抜けたら困る!」

 

「困るのはこっちよ。犯罪者が取り締まらない国になんていられないわよ、こっちは」

 

「それなら、私達の元に来ないかしら?我等が同胞に愛されてる人間族のお姉さん達」

 

「「「!?」」」

 

三人は謎の声の方へと視線を向ける。そこには和服に似た様な服を着た一人の女性が立っていた。

 

「誰だ貴様は!」

 

「何者!」

 

「一体何処から!?」

 

沙羅達は謎の女性に警戒するが、まあまあと手で制すと、話し始める。

 

「私は妖人族の使者。名をセレーネと言うわ。私達は貴方達の元に居る仲間を誘いに来たの。私達の集落【ストラーン】に」

 

うふふと妖艶な笑みを見せるセレーネは三人を見定める様な目つきで見始める。

 

「そこの男は不合格だけど、貴方達二人と、そうねぇ、私に風の刃を放てる準備をしているそこの長耳の子なら仲間として共に来てもいいわ」

 

「っ!気づかれてたのね……」

 

物陰から魔法を解いたミレイナが出てくる。

 

「ミレイナ!?なんでここに!?」

 

「蓮二と同じ気配のする存在が現れたから来たのよ……まさか伝説の妖人族とはね」

 

「伝説?」

 

「ええ。亜人族の中でも魔力に似たものを操る種族がかつて居たと聞いてるの。それが」

 

「私達妖人族ってわけなのよ。理解できたかしら?」

 

ミレイナの説明で合点が言った沙羅は、セレーネに問いかける。

 

「それで?蓮二を連れて行ったらどうするのかしら?」

 

「勿論修行とかが中心になるけど、目的は子孫繁栄かしら」

 

「……はあ?」

 

子孫繁栄の言葉に思わず沙羅のこめかみに青筋が生まれる。

 

「妖人族は男不足なの。幸い長命だから良いけど、血を絶やさない為に彼には……これ以上は言わなくても分かるわよね?」

 

じゅるりと舌なめずりするセレーネ。彼女の挑発的な言葉に沙羅は堪忍袋の尾が切れた。

 

「させる訳ないでしょ!蓮二の初めては私が貰うの!」

 

「ならついてきなさいな。初めては貴方にあげるから」

 

「良いわよ!私はその【ストラーン】に行くわよ!デュエラさんとミレイナは!?」

 

「私は蓮二さんの行く処なら着いていきます」

 

「私も行く宛無いし、着いていくわ」

 

「というわけでセレーネさんでいいかしら?貴方の提案に乗るわ」

 

沙羅達の決断に、セレーネは大変満足したのか、満面の笑みを見せる。

 

「そう言うと信じてましたよ。それでは早速彼を」

 

「待ってくれ!」

 

セレーネが蓮二を連れて行くために彼のいる寝室にまで向かおうとした時、メルドに止められる。

 

折角良い感じに纏ったのにと不満気にしながらセレーネは口を開く。

 

「なんでしょうか?国に逆らえない哀れな犬」

 

「い、犬…いや違う!新宮達は神の使徒として必要なんだ!今仲間を失えばきっと他の仲間に影響がある。だから連れていかれるわけにはいかない」

 

「そんなの知らないわ。私は使者なの。最終的な判断はその新宮?に任せるけど、私達としては同族をこんな所に居させたくないの。見ていたのよ。あの時、仲間を助けようとする彼を攻撃した愚か者達を」

 

「!?」

 

「こう見えても隠密は得意中の得意なの。一部始終を見ていた私が言えるのはただ一つ。仲間の皮を被った化物の巣から同族を救出したい。それだけよ」

 

セレーネの的確な言葉の刃はメルドに深く突き刺さり、それ以上は何も言えなくなる。

 

「さ、行きましょう。愛しの彼がお目覚めよ」

 

セレーネは沙羅達を連れて、蓮二の寝室へと向かう。それをメルドはただ、見送るしかなかった。

 

セレーネが扉を開けて入ると、既に蓮二は目を覚ましていたのか立ち上がって窓から見える空を見ていた。

 

「お目覚めですね」

 

「どちら様…?」

 

振り返った蓮二はセレーネを見て誰だと問いかける。

 

「申し遅れました、私はセレーネ。【ストラーン】の使者として貴方を迎えに参りました」

 

「【ストラーン】?」

 

「はい。貴方と同じ力を持つ者達が住まう集落の名前です。そして私達は妖人族と呼ばれております。そして貴方は半人半妖…つまり私達の同胞なのです」

 

「……そっか」

 

蓮二は短く切り返すと、また遠くを見つめる様に窓を見る。今の彼の心のうちは助けられなかったハジメの事でいっぱいでそれどころではない。

 

自分が魔法に当たらなければハジメを助ける事が出来たと後悔していると、セレーネから声が掛かる。

 

「強くなりたくはありませんか?」

 

「…」

 

「貴方はこの国に居ても強くはなれません。でも【ストラーン】でなら、私たち妖人族から妖力の使い方を学び取れば貴方は間違いなく強くなります」

 

それは悪魔の誘惑にも聞こえた。彼女の提案に乗ればきっと自分は変わってしまうだろう。そんな予感がしていた。だからこそ蓮二は、彼女の手を取る。親友を守れない弱いままの自分が嫌なのだから。

 

「本当に強くなれるんだな?」

 

「あなたなら確実に」

 

「なら俺は【ストラーン】に行く。もう二度と親友を殺させないために」

 

「なら私も行くわ。この国にいるよりも強くなれそうだし」

 

「蓮二さんが行く所なら例え奈落だろうがお供します」

 

「仕方ないわね、私も行くわ。どうせ残ってもろくな事にならなさそうだし」

 

蓮二の決断と共に立ち上がる沙羅達に蓮二は深い感謝を心中で言いながらセレーネを見る。

 

「早速連れて行ってくれ」

 

「畏まりました。それでは私に触れて下さい」

 

セレーネの言う通りに彼女に触れる。四人が触れた事を確認したセレーネは目を閉じて唱え始めると、彼女を中心に紫の魔法陣に近い何かが現れ、一際輝き、輝きが消えたころには、蓮二の部屋に居た者の影も形も無くなるのだった。

 

 




というわけで主人公は主人公で修行の舞台へと赴きます。ここから暫くは原作には触れないかつクラスメイトサイドは有るけどそちらは少し脚色加えたりしますし、そして修行シーンをしっかり書くために投稿頻度は落ちます。原作に合流出来るのは大体三巻くらいでしょうか。そこら辺で強化版の魔王ハジメと合流しつつ、四巻迄は原作沿いにして行きたいと思います。



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