ウルトラマンドーズ(打切り) (りゅーど)
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ドクター=ファンクビート

古代怪獣 ゴメス
えりまき怪獣 ジラース
人類防衛用ロボット メカゴモラ
宇宙鯱 タカマサ
登場


 M78星雲 光の国 科学技術庁────

 日夜研究に明け暮れ、ありとあらゆるものを製造するいわば最強のライフ・ライン。

 彼もまた、そこの歯車であった。

「おい」

「はい、どうしました長官」

「ゾフィーからの勅命だ、本部へ行け」

「はい!」

 彼の名は─────────────

 

ウルトラマンドーズ

 

 宇宙警備隊本部にて、スターマーク勲章を体に着けた歴戦の勇士、宇宙警備隊隊長のゾフィーが待っていた。ドーズはゾフィーの前に立つ。見るからにして緊張でガチガチである。

「来たか、ドーズ」

「は、はい、ウルトラマンドーズただいま到着致しました」

 声が裏がえるドーズ(CV:下野紘)。

「よく来てくれた。さて、君に頼み事がある」

「なんでしょうか隊長」

「君に地球に行ってもらいたい。実技でも警備隊入り出来る力を持ちながら前線を退いた君に言うのも癪だろうが……」

 地球に行く。

 それ即ち、自身が認められた事であり、無事に帰れば箔が付くという事でもある。ドーズは野心があるとは言い難いが、しかし植物のような生活を望むとも言い難いのだ。

「……、私でいいんですか!?」

「君にしか頼めない事さ。あと、とある星の小石拾いをしてから行くといい」

「っ、はい! 精一杯務めさせていただきます!!!!!!」

 声が裏返り緊張でボロボロになりつつも、ドーズは敬礼をした。そして、速やかに退室した。

「……ドーズ、君の力を見せてくれ」

 ゾフィーは独りごちた。

 

 20XX年──────

 全世界から紛争がなくなり、皆が手を取り合い笑顔で語り合える平和な世界であった。

 しかし、頻発する怪獣災害により平和は崩されてしまう。そこで国連が提案したのが『地球防衛軍』である。

 そしてその中のエリートチームがU(Ultra)S(Special)S(Search)T(Team)、ウルトラ特捜隊である。

 ウルトラ特捜隊 宇野隊────

「メカゴモラの実用行動時間は約3分、後々増えるだろーが今は我慢しろ」

 パイロットに向け、隊長の宇野(うの)冬弥(とうや)はそう言った。

「分かった!」

 隊員の中でも最年少の江口(えぐち)美琴(みこと)は元気よく返事をした。上下関係なくタメ口を使うので少し呆れられるところもある現役JKである。

「近隣住民の避難完了」

『メカゴモラ、着陸します』

 ズシィ────ン!! 

『ギシャアアアアアアアオゥ!!』

 メカゴモラは咆哮を上げた。

「……zzZ」

「れ、霊華〜! 次の指示や状況確認して〜!」

 霊華と呼ばれたこの寝ている巫女服姿の女の名は氷川(ひかわ)霊華(れいか)、メンバーの中ではナビゲーションや情報収集などの対応をしており、今も仕事中なのだが寝てしまう癖がある不眠かつ寝不足の巫女である。

「お、起きろ〜! メカゴモラは無事に着陸したけど起きろ〜!!」

「んんっ…………zzZ」

「チッ、洒落んならねえな。漆原ァ!」

「メンタル燃やしてぶっ殺せ、以上」

 青い髪に黒い眉、全てを呪うような黒い目にスラリとした手脚のダウナー男子、漆原(うるしばら)如水(にょすい)はそう言った。実に簡単である。

「だそうだ」

「ゴシュイイイイイッ!!」

 メカゴモラ、相対するはゴメスである。

「……ん?」

「あ、起きた!」

「…………ゴメス……ですか……くぁぁ……」

 欠伸をしながら霊華は小声で呟いた。左目を前髪で隠した眠気の顔は消えることが無かった。

「……メカゴモラは異常なく動かせますよ……(ただ、今回は一筋縄ではいかないような……私の気のせいでしょうか……?)」

 通常とは違い約40m、巨大個体である。

「……ふむ?」

「どうしたの?」

「……いいえ。なんでも……zzZ」

「また寝たぁ!?」

「アンタ、仕事に寝るのはやめなってアレほど言ったじゃん……」

 強引に霊華を起こす両目を隠した女性、細川(ほそかわ)真子(まこ)は個性溢れた特徴的な女性であり、メンバーの中では人懐っこい。霊華をよく起こしてるが百合ではない。断じて。コイツらは百合じゃない、いいな? 百合と思ったやつの所にパンジャンドラム転がすからな。ちなみに高専生。

 閑話休題。

「……メカゴモラ……今回は破損されそうです……」

 寝言のように霊華は怠そうな声でそう呟いた。

「え? どういうこと?」

 美琴は霊華に聞き返した。だが、再び寝てしまった。彼女なりには耐えているらしいがこれは救いようがないわけで。漆原は冷ややかな目で霊華を睨んだ。

「ギィュアアアアアアア!!」

『ギシャアアアアアアアオゥ!!』

 咆哮をあげる二体。否、三体!! 

「2体相手は流石にマズくない?」

 美琴は霊華のことを諦めてモニターを見ながらそう呟いた。言われた通り、2対1という状況は数の暴力である。1体を相手していればもう1体に押されてしまう。まさに悪戦苦闘してしまう状況になっていた。

 そう、不意討ちで出たのである。

 ジラースが。

 メカゴモラは咆哮をあげた。

 そして、即座にぶっ殺すという意志を放ちゴメスの腹部に角を刺した。

 メカ超振動波がゴメスの腹部を破壊する。そして、地面に強かにたたきつけられ、ゴメスはその命を花火へと変えた。

「油断したみたいね。この勝負はこっちの勝ちですね」

「副隊長……いつの間にいたんだ」

 副隊長と呼ばれた彼女の名は夢乃(ゆめの)紅莉(あかり)。言われた通り、副隊長を18歳で務めている口数が少ないクールなエリート副隊長である。

 戦いの状況を静かに見つめていたため、気配を感じなかったのか、真琴は少しだけ驚いていた。

 だがしかし、残ったのはジラースだ。不意にジラースは放射熱線を放つ。それはまるで襟巻のない進化個体のようであった。

 ムクリと霊華は顔を上げた。何かに気づいたのか分からないが怠くて眠そうな顔をしながらジラースを見つめた。

「進化個体……ですね」

「進化個体ってなに?」

「そのままの意味ですよ。ですが、状況は状況次第です。どちらかが1秒でも動きを止めたら悪戦苦闘になります」

「……どうして?」

「……私の勘、ですよ」

 そう告げる霊華の瞳は、虚空を見ていた。

 

 一方、宇宙空間にて。

「デェアアッ!」

『キィュアアアアア!!』

 蹴り技とタックルの応酬。ドーズはある場を狙っていた。

 小惑星群、その中のトラップ惑星。

 ドーズは怪獣をウルトラ念力で縛りあげ、そのトラップ惑星に突っ込ませた。

 爆発する無数の火薬、ドーズは思わずガッツポーズをした。

『キィュアアアアア……!!』

 その怪獣は尾を一振し、虚弱なドーズを吹き飛ばしたや否や、青い惑星へと突撃していったのだ。

「マァッジィッ!」

 ドーズは高速でその怪獣を、宇宙鯱 タカマサを追いかけたのだった。

 

 さて、話を戻そう。

 ジラースとメカゴモラは一進一退、とんでもない闘いを繰り広げていたのだ。

 方や怪獣王のなり損ない、方や古代怪獣の模造品。

 ビームバスターメガと放射熱線の撃ち合いであった。

「損傷レベルはどれくらいですか?」

「まだ45%です……ですが流石にそろそろマズいと思います……」

 見た目とは裏腹に霊華はタブレット端末を片手に状況を確認していた。

「このまま終わってくれれば良いのですが……」

 

 ジラースが放射熱線を放とうとした、しかし。

「……ジラースのヤロー、エネルギー切れか」

 漆原はそう呟いた。

「損傷レベルが上がりました……このままではマズいですね……」

「い、一度撤退って出来ないの!?」

「撤退したらアイツが余計に暴れ回っちゃうからダメでしょ!」

「話を聞け、馬鹿。俺は『ジラースがエネルギー切れ』と言ったんだ。モニタを見ろ、ジラースのヤロー放射熱線出そうとして息切れしてやがる」

 漆原は冷めた目で見ていた。

「今だ、超振動波だァーッ」

 宇野は叫んだ。実に熱い男である。

「あ、ホントだ! 気づかなかった!」

「美琴さん……もう少し落ち着きましょう?」

「は、はーい!」

 何故こんな状況の中霊華と美琴は親子の説教みたいなことをしているのやら……

『ギシャアアアアアアアオゥ!!』

 メカゴモラはメカ超震動波を放った。ジラースはエリ巻きをばたばたと動かして、そしてそのままビルの方に倒れ、爆死した。

「やったー!」

「…………ですがあのビルって……」

 霊華がそう呟いた瞬間、空気が一気に気まずくなってしまったのだった。

「……やばいことになりましたね」

 そしてチーム随一のメカニックかつスナイパー、神田(かんだ)蔵安(くらやす)は被害額を電卓で打っていたのだった。

 

「まぁコラテラル・ダメージだよねぇ~」

 下野紘みたいな声で呑気に喋るこの小柄な──────ともすれば小学生にも見える───────青年の前で、宇野は頭を下げていた。

 彼の名は浦島(うらしま)坂舟(ばんしゅう)。USST日本本部の長官である。

「宇野っち~、そんな気に病むことじゃないよー。だってあそこ老朽化激しかったからねぇー! にしし、案ずることじゃないからねー!」

 にへら。

 純真な笑顔である。

「長官って緩いよね……」

「それは言っちゃダメだよ美琴」

 素直な所さんは良いところではあるがもう少し状況次第で言ってほしいところもしばしば。そしてその後ろでは霊華が休憩用ソファの上で横になって爆睡していた。

「またですか……」

 紅莉は呆れながらそう呟いたのだった。

「しかし」

「しかしも何も、もともと老朽化してたから解体しようとした矢先のジラース突撃だからね! 他の連中もなっとくするはずさ!」

 舌っ足らずなのは幼さなのか、それともただ滑舌の問題か。

「本当に大丈夫かな? 今回も被害が凄かったけど……」

 美琴は心配しながらそう言い、後ろから真子が安心させるように肩に手を置いて笑みを見せていた。

「あそこの一部の市民は避難させましたので負傷者は0人でしたよ……事前に避難させて起きました……」

 寝言なのか本当に言ってるのか分からないくらい霊華は眠りながら言った。あのままで良いのやら……

「にししっ、まあいいよいいよ! あと復旧作業にはメカゴモラで出向いてもらおうかな、頼んだよー!」

 無邪気に笑い、浦島は退室した。

「長官……いつも通りだったね」

「良いじゃないですか。今回も無事に退治したのですから」

「副隊長!! コーヒーこぼしてる! 床にこぼしてる!!」

「キャ────ッ!!?」

 紅莉はエリートだがドジっ子である。

「……という事だ。美琴、メカゴモラの修復が出来次第行ってこい」

 宇野はそう言って、美琴の肩に手をやった。

 

 さて、時は変わり宇宙空間。

 タカマサのしっぽを掴み何とか火星方面に投げ飛ばしたドーズであったが、その際にドーズはタカマサにより吹き飛ばされてしまう。しかし、機体制御のようにぐいと宇宙空間に留まり(どのようにとどまっているのかは全くの謎)、タカマサを蹴り飛ばした。

 タカマサはバランスを崩したが、直ぐに取り直した。そして、長い尾鰭でドーズを小惑星に叩き込み、地球へと向かったのだった。

 

 メカゴモラ修復完了の報告を受け、美琴はメカゴモラに搭乗。

 ガレキまみれの街を直すためにその指で繊細な作業を行っていた。

「ここら辺の市民は誰もいないみたいだね。怪我人とか瓦礫に埋もれた人はいないみたい」

 美琴はそう言いながら作業を続けた。

 近所の人達も瓦礫撤去に勤しんでいる。力自慢の若者が自分より大きな瓦礫を担いで移動し、長身痩躯の若者がリヤカーを使って瓦礫を運んでいる。

 メカゴモラは大きい瓦礫を撤去場へと運ぶ重要な役割を果たしていた。

「あ、これ……下手に動かしたら崩れ落ちそう」

「…………上の大きいやつから少しずつ抜けば問題ないですよ」

 いつの間にか霊華が起きてモニターを見ながら教えていた。

「霊華、いつ起きたのですか……?」

「二分前だねえ」

 神田はそういいながらレーダを確認していた。その時だ。

「……気をつけてくれ。上空から生命反応が近づいてる」

「…………嘘ですよね……」

 いつも眠そうな顔をした霊華が驚いた顔をしながらタブレットで生命体のことを調べた。

「嘘じゃないしアニメじゃない、ホントの事さ」

 ホログラムで出来上がったのは怪物である。

「…………まさか……ここに来てしまうとは…………来ますね……」

 霊華が言った『来る』という言葉は、分かる人もいれば分からない人もいた。

 宇宙より飛来したそれは、宇宙鯱 タカマサである。

「タカマサ……!?」

 霊華は驚きが治まらない声でそう言った。

「し、知ってるの?」

「え……まぁ、はい。ですがそんな場合ではありません。タカマサも強さはあります。早めに手を打たないと避難してない人達の誘導とかもしないといけませんから」

「もう既に避難誘導済みだ」

 宇野はそう言って、その直後こう叫んだ。

「闘うんだ、美琴!」

「分かった!!」

 美琴は元気よく叫び、タカマサに突撃をした。

「はぁっ!」

『ギシャアアアアアアアオゥ!!』

「キュイイイイッ!!」

 甲高い声で受け流すタカマサ。タカマサはその長い尾でメカゴモラを叩いた。

「このまま喰らえ!!」

 美琴は操作しながら攻撃を続けた。

「バッテリーとか損傷率大丈夫ですか?」

「問題なく稼働してます。下手に急所とかを攻撃されて損傷率を上げなければ問題ありません……」

「それフラグでは……?」

 タカマサはメカゴモラのボディに尾鰭を叩き込んだ。

「うわぁ!? こ、このまま上手く体制を……よっと!」

 美琴は手慣れた操作で倒れずになんとか持ち堪えた。

「仕返し! このまま……!」

 しかしその瞬間、タカマサは背鰭の刃でメカゴモラを切り付けた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 叫び声を上げながらメカゴモラは地面に倒れ落ちた。

「美琴!?」

「損傷レベルが45%……一気にこんなにも……」

 さらに追い打ちと言わんばかりに左腕部に噛みつき、ゼロ距離のまま光線を放った。

 サカマタレイ、と称されるヤバいやつだ。

「うわぁぁぁぁ!? も、もう!! 離せぇ!」

「損傷率が上がってます……このまま機能停止してしまいます……ッ」

「ヤバイじゃんそれ……!」

 その時だった。

「シャェア!」

 空から、青いクナイが飛んできたのだ。

 それはいとも簡単にタカマサの身体に突き刺さり、痛みに耐えきれずタカマサは離れた。

 その直後、真っ青な閃光が地面に降りた。

 それはまるで海を擬人化したかのような群青に、深海のように黒いラインを持ち、銀に輝く場所はまるでサンゴ礁の浅瀬のようで、金色に輝くプロテクターは砂浜のようであった。

 黄金に輝くその目は太陽のようにきらきらとしており、海面のような煌めきでもあった。

 彼の名は────────ウルトラマンドーズ。M78星雲からやってきた、文武両道のヒーローである。

「うぉ……!? な、何あれ!?」

「……ウルトラマン……」

 霊華は小声でそう呟いた

 ドーズはタカマサにキャッチリングを放ち、メカゴモラの損傷箇所を確認した。

「……こんくらいなら」

 ドーズはそう呟き、ウルトラ念力で損傷箇所を直した。

「損傷率が下がった……」

 美琴は驚きながらゆっくりとメカゴモラを起き上げた。

「霊華……ウルトラマンって、なに?」

「……ご存知ないのですか?」

 問いかけた真子に霊華はきょとん顔で言った。

「地球から見てオリオン座方面、つまりM78星雲からやってきて怪獣たちを倒し、平和をもたらす機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)だ」

 宇野はそう言って、その目をさらに細めた。

 傍から見れば(⌒う⌒)という顔である。

「……その通りです。宇野さん……」

「霊華はどうしてウルトラマンを知ってるの……?」

 霊華はその言葉を聞いて数秒の間無表情でいたが、すぐに軽く笑みを浮かばせて『私だけの内緒話です』と言ってモニターに見つめ直した。

「……シャァッ!」

 ドーズはメカゴモラを起き上がらせ、タカマサを挑発した。

「あ、ありがとう……一緒に行く?!」

 美琴は復帰メカゴモラを操作しながら元気よくそう言った。

「……」

 ドーズは静かに頷いた。

「よし! 共闘だぁ!」

 美琴はそう叫んでメカゴモラを突撃させた。

「シュアアアッ!!」

『ギシャアアアアアアアオゥ!!』

「キュイイイイッ!!」

 メカゴモラのナックルチェーン、そしてそこに付属している鉤爪がタカマサの右目を抉り、ドーズの貫手が左目を潰す。

 タカマサはエコーロケーションと目の両方を使っているのだが、どうやらドーズは着地時にジャミングを施し、タカマサのエコーロケーションを狂わせたらしい。

「タカマサの状態異常を起こし、体力の限度も来ています。このまま攻撃をすればウルトラマンとメカゴモラの勝利となります」

 霊華はいつもの霊華を感じないほど手早く端末を操作しながら状況を説明した。

 しかしタカマサ、そこは野生の勘が鋭い訳で。

 タカマサレイを放ち、ドーズにぶち当てた。

 ……しかし。

「ざまぁないね」

 ただ、鏡が割れただけだった。そして。

 

 タカマサレイは、鏡により跳ね返る。

「そうか、考えたなあのウルトラマン!」

 漆原は珍しく興奮していた。

「……(あれ? あのウルトラマン……見覚えある……)」

 霊華は口を開けながらドーズを見つめていた。目を大きく見開きながら見つめ続けた。

「オリャァァァ!!」

 美琴は目の前の敵に集中しながら攻撃を続けた。

「いい判断だ、あのウルトラマンは……! 瞬間的に鏡を作りあげ反射板の代わりにし、そして即席バリアにもしやがったぞ!」

 漆原はそう叫び、こう命令した。

「超震動波だァーッ!!!」

「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 美琴は叫びながら超振動波を浴びさせた。

 それと同時に、ドーズはノーモーションで腕を十字に組み、必殺光線の『バルビウム光線』を放った。

 バルビウム光線に含まれるバルビウムは安らかな眠り、そして安らかな死をもたらす。

 メカ超震動波によりズタズタになった体をバルビウム光線が破壊していくのだ。

「なんか、神様みたいなウルトラマンだね」

「ウルトラマンは一応……まぁ、良いですか……」

「……ショゥアッチ!」

 ドーズは空へと消えうせた。

 

 人気のつかない路地裏で、ドーズは人間の姿をとった。

 この日のために拵えてきた国籍と、この日のために拵えてきた見た目だ。

「……よし」

 ドーズの人間体は、USSTへと入った。

 

 数日後。

「おうい、皆」

 宇野はそう言った。

「どうしたのー?」

 美琴はいつもの調子で問いかけた。

 霊華は眠そうな顔をしながら起き上がり、宇野の方へ身体を向けた。

「新メンバーの紹介だ」

「マジで!? 誰なんですか?」

 真子は興奮しながら問いかけた。

「入りたまえ」

 カツッ、カッツ、そんな音を立てて白衣の青年が入った。

「失礼します」

「名前を」

酒井(さかい)幸村(ゆきむら)です、よろしくお願いいたします」

 ドーズの物語が、これから始まるのだった。




全てを凍てつかせ、死の眠りへと誘う巨大怪獣レイキュバス。その復活の報せを受け、USST宇野班は戦艦とメカゴモラと共に太平洋へと向かう。そこに居たのは、レイキュバスと……えっ?なぜ、ガンダーがここに!?
次回、ウルトラマンドーズ。
『Stay in your coma』
「行け!ガンダー!!」


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Stay in your coma

 今日も今日とで平和な地球、日本である。寒さが和らぎ、暖かい日が増えてきた。

「……zzZ」

「隊長ー! 霊華が寝てる!」

 今日も今日とでここ、USSTも今の所平和である。

「見逃してあげなよ……霊華は2つの職についているから身体が大変なんだよ」

「そうですよ。仕事中に寝るのは問題ありますが……」

「でも、どうして霊華は巫女の仕事をしながらここで仕事をしているの?」

 美琴はそう問いかけ、その言葉に反応したのか霊華はパチリッと目を覚まし、ウトウトとしながら顔を起こした。

「くぁぁ……強いて言うなら……巫女は一応本職ですが、この地球を守りたいからここに来た……ということですかね」

 霊華はあくびをしながらそう言った。メンバーの中で1番怠惰な性格をしているせいか、ほぼ全員、叩き起こすことを諦めていた。いや、諦めるしかないのだった。

「……ったく」

 漆原は悲しげな顔で見ていたのだった。

「……なんですか? 漆原さん?」

 なんにもなかったかのように霊華は問いかけた。原因の源でもあるが……

「もうええわ、じゃあオレ友人の鎮守府に顔出してくるから……」

 漆原は抜け出そうとした。

「? 分かりました」

 霊華は空気が読めないようだ。

「ダメだこりゃ」

 美琴は苦笑を浮かばせながらそう言った。

 神田はそれを見て呆れたような顔をしていた。

「ィアッハハハハハハハハ!!!」

 ラボからそんな声がした。

「な、なに!? 敵!?」

 全員一斉にその場に置いてあった武器を手にした。

 霊華は不審人物かと思い、各基地内にある防犯カメラを確認した。

「できた!!! できましたぞ!!!!!!!!」

 三徹と顔に書いてある。

 一斉に武器を落として呆気な空気になった。

「何を……ですか?」

 霊華は気にせずに問いかけた。

「新兵装! その名も『ハイパーナパームガン』!!」

「ハイパーナパームガン?」

 美琴は近づいてどんな兵装なのかを見てみた。

「隊長……彼、最後に寝たのいつですか?」

 流石に心配しているのか、朱莉はそう言った。

「三日前だな」

 宇野の顔が単純化され、⌒う⌒へと変わった。

「隊長、お顔がまた……」

「その兵装は何に使えるの?」

「怪獣共の土手っ腹に風穴開けられます!!」

「エグいね!?」

 真子は驚きながらそう言った。

「で、でも、これで怪獣を討伐が出来る兵器が増えたね!?」

 美琴は焦り声を上げて笑いながらそう言った。

 霊華に至っては興味ないのか椅子に座って再び眠りについた。

 朱莉は何も言わずにただ驚いているだけだった。

 このような自由な時間が続けば良いのに、と思うだろう。

「つか寒いっすね!!!」

「お前は寝ろ」

「アウタッ」

 ばたん。

「あ、寝ちゃった」

「ここで寝たら風邪引きますよ……?」

「それ、霊華にも言うことじゃない?」

 霊華は静かに眠りについていたままであった。

 ふと、霊華がいつも使う端末に通知音が鳴った。それでもなお寝ている霊華か。気づけよ。

「……」

 はぁ、と溜息をつき、神田は確認の許可を撮る。

「……あ、その通知だとおそらくどこかで怪獣が現れたのかと思いますよ」

 ムクリと起きてそう言った瞬間、即眠りについた。睡眠する力が色々と問題ありである。

「起きてすぐに寝た……」

「霊華の睡眠って凄いね……」

 不覚にも感心してしまった真子と美琴であった。

「……ああ、南極付近から冷気を帯びた海老らしきものが来てるらしいな」

「海老……?」

「…………もしや、それ……」

 霊華は心当たりがあるのか、即座に起き上がり端末で調べ出した。

「……レイキュバスではありませんか……?」

 端末に載っている容姿などモニターに送り、全員に見せた。

「これが今、南極付近にいるってこと……?」

「海老……確かに似てる」

「……皆さん……画面から近すぎます。目を悪くしますよ?」

「……嫌な予感がする」

「隊長……出動要請は出ていませんが……どうします?」

 朱莉は宇野を見て問いかけた。

「……要請が出るまで待機だ!」

「ッ……了解です」

 一瞬、声を詰めたが即返事をした。

「…………被害が悪化しなきゃ良いですがね……」

 霊華は小声で呟いた。

「……だな」

 

「……」

「要請……来たっけ?」

「来てないよ……」

 かれこれ数分は経ったが、未だに何も連絡が来なかった。

「……ここって……範囲外では……ありませんよね?」

「オーストラリア支部が何とかしてくれるだろーよ」

「そこから応援がくれば、出動は可能ってことですね……」

 霊華は端末で状況を確認出来るか探り続けていた。

 ただ目が『寝たい』という目つきであった。

「…………霊華、そのまま寝ないでね?」

「仕事するときはしますから……」

「まあオーストラリア支部は強えしええやろ、あそこにはインぺライザーおるからな」

「まぁ……それもそうですが。あ、オーストリア支部が設置している防犯カメラがありました……」

「それってハッキn」

「ちゃんと許可を得て確認とれるようにしましたよ……」

 言いかけている時に霊華は早口で返答した。

「キシュイーッ!」

 レイキュバスが冷気を放つ。

 そして冷温両方をはなつのだ。

「……え? モニターに送ります……」

 霊華は驚いて目を見開きながらモニターに送った。

「……これ、ヤバくない?」

「……インぺライザー、小破か」

「……ねぇ……あの道に倒れているのって……」

 霊華はすぐに画面を拡大して見せた。

「……凍死、してない?」

「……だな。死んでるなこれ」

「ッ……もうこれ以上待ってられないよ! 要請でなくても助けに行こうよ隊長!」

 我慢の限界で美琴がついに怒鳴りながら問い詰めた。

「み、美琴……ッ」

 真子が慌てて美琴を抑えた。

「勝手に動いたことで除隊されてもいいのならば勝手にしろ」

「ッ……!」

 美琴はそれ以上何も言えなかった。

「……隊長、私は美琴さんの意見に賛成です」

 霊華はそう言った。眠い眼差しとは引き換えに、勇気ある眼差しにも見えた。

「霊華さん……隊長命令です。ダメです……」

 朱莉がなんとか説得し、霊華を抑えつけた。

「……で、酒井は」

 全員が一斉に顔を向けた。空気がさらに重くなるのを感じる。

「……」

 既に起きて上との交渉中であった。

「…………せめて……あそこに……ウルトラマンがいれば……」

 霊華はモニターを見つめながらボソッと呟いた。

 だがその声は全員の耳に通った。

「でもオーストリアにもウルトラマンっているの?」

 美琴が首を傾げて問いかけた。

「分かりません……ですが、ウルトラマンはこの地球を守ってくださる光の巨人です。だから……私はウルトラマンを信じているんです」

 霊華は真剣な眼差しで答えた。

「……上の許可が降りました。出動していいとの事。マキシマムワープ機構の使用も許可されました」

「本当!?」

 美琴は目を輝かせながらそう言った。

 霊華は少し笑いながらふぅ……と溜息を吐いた。

「私、搭乗してくる!」

「美琴、早い早い早い早いッ!」

 真子が慌てて美琴を止めていたが、出動許可が出たのなら、やるしかないのだった。

「メカゴモラに乗っていけ。我々はこれより空中母艦【蒼龍】にのって向かう」

「了解!!」

 全員の返事が基地内に響いた。

 美琴は一足先にメカゴモラにヘルメットを被りながら操縦席に座った。

「蒼龍起動確認」「メカゴモラ異常なし」「マキシマムワープ機構異常なし」「システムオールグリーン」「超振動波システム異常なし」

『フォースゲートオープン。フォースゲートオープン』

「メカゴモラ!」

「航空母艦【蒼龍】」

「「発進!」」

 かくして、二つの機体がオーストラリアへとワープした。

「寒っ!?」

 美琴はメカゴモラの操縦機にいても分かるくらい寒かった。

「レイキュバスのせいでしょうね……」

 霊華は冷静にそう言った。

「これよりオーストラリア支部の援護を行う」

 インぺライザーは、見事に中破していた。自己修復システムにバグが起きたのか、回復できていない箇所がある。

「アレがインペライザーですね……損傷レベルが高いままなのがよく分かります……」

「そ、それより……アイツはどこにいるの?!」

「……ここからだとなんの音もしないような……」

「キシュイーッ!」

 大きなハサミがメカゴモラを襲った。

「うわぁ!?」

 美琴は慌てて操作し、なんとか回避をした直後に尾でハサミを攻撃した。

「ビ、ビックリした……」

「なるほど……もう、目をつけられましたね……」

「霊華……それってどういう意味?」

「そのまんまの意味です……真子さん」

「喰らえぇぇぇぇ!!!」

 美琴がハサミをメカゴモラの両手で掴み、投げ飛ばした。

 しかしそこはレイキュバス、即座に地面に降り立つ。

「おおぉ……綺麗な着地」

「感心してる場合ではありませんよ美琴さん」

 即ツッコミを入れた霊華。どんな事でも冷静かつ慎重な態度であった。

 美琴はメカゴモラを操作し、レイキュバスへの攻撃を続けた。

「け、結構重い……!」

「キュシュイ────ッ」

 レイキュバスはメカゴモラを殴り飛ばした。

「クゥ……まだまだぁ!!」

 機械内が揺れて体制を乱れそうになりながらも諦めずに攻撃を続けた。

 その時である。

 メカゴモラの左腕に異変が起こる。

「……! 左チェーンナックル用部品凍結!」

 叫んだのは幸村であった。

「……やべ、ヤツまで来たか」

「冷たッ」

「え? 操縦席までも冷たいの……!?」

「キィアアアアア!!」

「ラゴラスエヴォ……マジかよ」

「……ラゴラス……」

 霊華は瞳を輝かせながら見つめていた。何かを思っているのだろうか……

「れ、霊華……?」

「……な、なんか寒い……」

「どうしたの美琴……!?」

「チクショー! 辺りは零下にまで下がってやがらァ!」

 万事休すだ、と歯噛みする漆原。その時だった。

「せっかくのダチとの旅行台無しにしやがって! 行け、ガンダー! 殺せぇー!!」

「プルルルァアアアアアア!!」

 そんな声がした。

 

「プルルルァアアアアアア!!」

「キィアアア!」

「キュシュイ────ッ」

 大怪獣バトルが始まる気がする。

「え!? なんの状況!?」

 真子が叫びながら状況を驚いていた。だが霊華は驚きながらも、どこからか聞こえた叫び声に聞き覚えがあるのか、それとも目の前にいる怪獣を知っているのか目を大きくしながら見つめていた。

「ガンダー……何故、ここに?」

「ガ、ガンダー……とは、何ですか?」

「凍結怪獣です。副隊長……」

「……どうして、霊華は怪獣やウルトラマンのことが分かるの? まるで……《昔》から知ってるような……」

「……私の秘密です。副隊長……」

 そんなやりとりをしながらも外は暴れに暴れ回っていた。

「プルルルァアアアアアア!!」

 クールブレスがラゴラスにぶち当たる。

「ッ……私も、ご、後衛、す、する……!」

 口元が寒さで震え、声も震えていたが美琴が前に出て援護に向かった。

「美琴さん……! 無茶はしないでください……!」

 朱莉が叫び止めようとした。

「(あまり喋らない副隊長が珍しいですね……)」

 霊華は朱莉を不思議そうに見つめていただけだった。

「下がってな、ガキ。ここはガンダーに任せとけ……」

 そこに居たのは、紫色のパーカーを着た、右目を隠した青年であった。

「……酒井は?」

 

「ド──────ズ!!!!」

 巨大な青い光が、そして絶叫が大地を裂いた。

「…………え、え?」

 美琴はメカゴモラの操作を止めてそのまま直立不動になった。指先が真っ青になっていた。

「ん……? 美琴さん……?」

「この絶叫……誰かに似てるような……」

 何人か困惑していたが、霊華だけは冷静に美琴の応答と待っていた。そして外をチラ見すると、霊華の瞳は再び輝き出した。

「……シャッ」

 ウルトラマンドーズのお出ましだ。

「あ、あの時のウルトラマン……!?」

「助けに来てくれたんですよ。地球を守るために……」

 霊華はクスッと笑いながらそう言った。

「デェリャァ!」

 ドーズは指パッチンをする。

 神田はその意を受け取り、ハイパーナパームガンでラゴラスを撃つ。ラゴラスの左腕が爆発四散した。

「あ、あの……先ほどから美琴さんからの応答が来ないのですが……」

 霊華は残ってるメンバーにそう言った。よく見ればメカゴモラはその場に立ち止まっているままだった。

「あ……もしやこれ……」

「……嫌な予感がする」

「美琴さん……返事をしてください……」

 何度も応答を願うが、美琴からの返事は無かった。気がつけば、メカゴモラの足元が凍っていた。

「美琴……もしかして操縦席にいるまま凍え死にかけているんじゃ……!?」

 真子がそう言った瞬間、一部のメンツの顔が真っ青になった。

「俺行ってくる」

 神田は即座に動く。

「うおおおおおおおお!」

 神田は寒さに耐えつつ走る。ただひた走るのだ。そしてなんと驚くべき事に、神田はメカゴモラの体を肉体ひとつで駆け上がったのだ。

「美琴ォ!」

『ダメージレベル80%、機能強制停止』

 そんな表記を見て舌打ちをする神田。温度計を見れば-60℃である。

 神田は中に乗り込み美琴を救出。

 そして高空から飛び降り、着地した。

「ッ…………ッ……」

 顔色は悪く、身体中霜焼けになっていた美琴だがなんとか一命を取り保っていた。

 全員は安心し、怪獣との戦闘をウルトラマンに託した。

「……頼んだぞ、ウルトラマン」

 

「シュウワッ!」

 膝蹴りを放つドーズ。

「ニシュイー!!」

 レイキュバスは叫びながらドーズに向かって冷気を放った。

 ドーズはバリアを展開した。バリアが凍り付く。

 放つのやめ、ご自慢のハサミでバリアを破壊しようとした。

 そのまま、頭目掛けて凍ったバリアをぶちかました。

「キシュイ!!?」

 レイキュバスは驚いて顔を抑えつけてた。それとも攻撃はやめず、冷気を放ち続けた。

 刹那、ドーズが消えた。

 レイキュバスは驚き、辺りを見渡しながらウロウロしていた。

 ドーズはレイキュバスを蹴り飛ばし、その関節に剣を刺した。

「キ、キシュイ──ーッ!!」

 レイキュバスは大きな叫び声を上げた。ツボを刺されたことによってもう戦うことは不可能だ。

 簡単に分解されるレイキュバス。その強固な殻が外れた途端、紫色のパーカーを着た青年はこう呟いた。

「殻はあげるからレイキュバスの肉ちょうだい、これならたっちゃんやシンも喜ぶやろ……」

 それを聞き、がくっとずっこける神田であった。

 

「プルルルァアアアアアア!!」

 ガンダーが吠えた。

「キィアアアッ!!」

 ラゴラスは全体を凍らすように冷気を放った。

 同時にガンダーはクールブレスを吐く。

 両者の冷気により、周りの空気が冷たくなっていく。生身だったら凍死してしまいそうな程の寒さになっていく。

 そこで青年はある力を用いた。

「っしゃあ!」

 フレイムドーム。

 暖かな空気が隊員たちを包んだ。

「キィアア!?」

 ラゴラスは温かいのが苦手なのか、多少驚いていたが即ガンダーに近づき、頭突きを放った。

 ガンダーはそれをぬるりと回避し、ドロップキックをかました。

「キィアッ!! キィアアアアアアアアアッ!!!」

 ラゴラスは怒りながらガンダーに向かって連続でパンチをした。

 しかし避ける。

 ガンダーは避ける。

「キィアアアッ!!」

 ラゴラスは隙を見て頭突きを放とうとするが、それすら避けられてしまう。

 それが【彼】の使役するガンダー。

 ガンダーはラゴラスに噛み付くや否や、ゼロ距離でクールブレスをぶちかます。

 それは頭部へといき、ラゴラスの頭を凍らせる。

「キィア!? キィアアアアアアアアアッ!!!??」

 ラゴラスは呻き声を上げた。今にも頭が氷のように凍ってしまいそうな、そんな冷たさを感じた。

 そして、ラゴラスは全身を凍らさせられた。

 ガンダーはトドメの蹴りを放つ。その時に、一瞬()()()が砕く手伝いをした気がした。

 そしてその魂は、()()()()()()に回収された。

 寒さと冷たさが多少残るこの場で戦いは終わったのだった。

 

 回収された美琴は毛布で包まれてまだ眠っていた。

「……お疲れさん」

 そう言い残し、青年は消えた。

「あ…………」

 霊華は何かに気づいたような感じで声を上げた。

「……どした?」

 神田はただ聞いた。

「……いいえ……なんでもありません。(まさかあの人が……ねぇ……)」

 霊華は先程の青年を見かけた瞬間、いつもの霊華とは違う……謎めいた笑みをこぼした。少し笑みが怖いが……

「ん、んんっ……」

「美琴……!」

 凍え死にそうになっていた美琴がようやく目を覚ました。

「ほい、これでいけるか」

「まだ寒いけど……大丈夫だよ」

 いつもの美琴が戻り、無事任務を達成することが出来たので、一同は帰還するのであった。

 ふと、霊華が振り返り戦いの場をぼんやりと見つめ始めた。

「霊華、どうしたのー? 行くよー!?」

 真子がそう叫ぼうにも、聞こえてないのか霊華はずっと見つめたままだった。

 

「うーす」

「お、帰ってきたのか」

「おかえりー」

 テントと言うにはかなり立派な……そう、簡易的な家に三人の男たちがいた。

「今日はレイキュバスのフルコースやお、いっぱい食べやぁ」

「おー! やったぜ!」

「ありがとう」

「いいってことよ」

 彼らの旅は終わらない。辿り着けるか、桃源郷────────!




 USSTに助けを求めに来た少女、バルバ。彼女は自らをバロッサ星人だという。混乱する僕達の前に現れたのは、大きな耳の宇宙人!?
 守るために響け、正義のオーケストラよ!
 次回、ウルトラマンドーズ!
『ジャンキーナイトタウンオーケストラ』
「たっ、助けて欲しいバロー!」


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ジャンキーナイトタウンオーケストラ

異次元宇宙人 イカルス星人
小型宇宙有翼怪獣 ピグミーアリゲラ
叛逆ノ海賊宇宙人 バロッサ星人バルバ
人類防衛用ロボット メカゴモラ
登場


「Are you ready?」

 異形の放つそんな声がして、何かが蠢く。

 追いかける異形の者共はそのなにかの行く末に熱中し、夜の街を彩る。その歓声はまるで狂っているかのようで、そしてそれは誰かを感動させる為ではなく誰かを貶めて初めて出来るオーケストラであり、いわば偽物の(Fake)オーケストラ(Orchestra)なのである。

「嫌だァー!! まだ死にたくないよォーッ」

 金髪の少女が逃げ惑う。今日の獲物は彼女らしい。

「イーカカカカカ! 逃げちゃダメでゲソ!」

 追いかけるは耳の大きな宇宙人────イカルス星人だ。

「お願いだから見逃してよぉおお!!」

「いつ()()なる理由があれど、この私は貴様を逃がしてはならないと言われた訳キューバン!」

「てかそこまでイカネタ引っ張る必要ある!?」

「キャラ付けしないと他の同族だとか他作品などに埋もれるじゃあなイカ! ほらほら逃げないとこのカラストンビですり潰すゲソ!」

 その時、銃声がした。

「……チッ。硬いぞ。まさか」

 USST宇野隊のスナイパーこと神田(かんだ)蔵安(くらやす)だった。

「チィ! 貴様からカラストンビの錆にゲソッ!?」

「黙ってろ」

 前蹴り一閃。

 イカルス星人は取り巻きの異形の者共もろとも吹っ飛ばされた。

「怪我は無いか?」

「は、はい」

「そうか、今日は遅いし早めに帰りな」

 そう言って、神田は別の現場に向かった。

「……あれが、占いで出た王子様……?」

 少女の頬は赤く染まった。

 

「こちら酒井、任務完了。これより神田隊員を回収して帰還します」

 銀髪を揺らし、隊の本部に連絡を入れるは我らが主人公、酒井(さかい)幸村(ゆきむら)

 どうやら敵性宇宙人を葬り去ることに成功したらしく、右手が緑色────────怪獣の血の色だ────────に染まっている。

 連絡を早々に終え、コンビニおにぎりをかじる。

「んぐっ。こちら酒井、神田隊員応答して下さい」

「こちら神田、オレも任務完了したぞ」

「任務完了了解、早めに帰還しましょう。副隊長にどやされちゃいます」

「おう」

 この時、二人は知らなかった。

 二人を追いかける二つの影がある事に。

 

「ただいま戻りました~」

「ご苦労だった」

 宇野は二人の帰還に満足気だ。

「ふたりとも大した怪我はなくてよかったよ。ゆっくり休むといい」

「あ、隊長。その件なんですけど、最近の神田隊員、ちょっと肩の調子悪そうなんでつい先日僕の開発した『ハイパーマッサージャー・ウルティマ』で治療(実験)させてもらっても大丈夫ですか?」

「いいぞ、神田も構わないな」

「……酒井ってほんとよく見てるよな。感心感心」

「えへへっ」

 照れくさそうに頭を搔く低身長(153cm)長髪男子、酒井。その風貌だとか声色から場の女性陣の思考回路か弾き出した答えはただ一つであった。

 かわいい。

 現に夢乃は酒井のそのかわいさに悶絶しているわけで。

 死んだ目で漆原が倒れかけている夢乃を支えているのは気の所為(せい)であろう。むしろ気の所為にしてくれ。

「……?」

 首を傾げる酒井。ふぁさ、とたなびく青みがかった銀髪の髪の毛がいい匂いを発する。

 夢乃、気絶。

「何やってんだこの変態は」

 漆原、罵倒。

 ついでにわざと倒れさせる。

「痛っ」

 夢乃は痛みで意識を取り戻したようだ。

「このショタコンが……」

「可愛いもの好きなだけですっ!!」

 ぷんすこ、と擬音がしそうな怒り方である。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ほ゛ぐ゛れ゛る゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛」

 遠くの方で神田の声がした。

 酒井のラボの中で治療中らしい。

 肩の調子が悪かったのはメカニックとして、そして銃使いとしての二重疲労と銃の反動が原因らしい。

「お、効いてそうだなアレは」

 酒井はぐっとガッツポーズした。

 

「ばろばろ……」

 

 そんな声とともに、バタン。

 なにかが倒れる音がした。

 いち早く動いたのは宇野だ。隊長として、そして一人の戦士として、危機管理能力には長けているというわけだ。

 続いて動いたのは漆原であった。

「バロッ!? (迫真)」

「何だお前!?」

 漆原は驚愕した。

「……なるほどバロッサ星人か! (超速理解)」

 そして即座に理解した。

オロナイン(動くんじゃない)! 控えろ(抑えろ)!」

 憔悴からかいつもより滑舌の悪い宇野の指示が飛ぶ。その瞬間、宇野と漆原は同時にバロッサ星人を押さえつけた。

「何するバロお前! 流行らせコラ(離せコラ)!」

「しっかりそっち押さえろ!」

 宇野の的確な指示に答える漆原。

「あ何だコイツら?! ドロヘドロ《どぉけこの》! (名作)やぁめろバロ……バーロ……」

「抵抗しても無駄だ!」

 漆原たちはしっかりと押さえつけているようだ。

「うざってぇ……」

 宇野はボヤいた。

「海 賊 野 郎 大 人 し く し ろ よ ぉ ……(ねっとり)」

 漆原に至っては殺意マシマシである。

「お前ら、お前ら二人なんかに負けるわけねぇバロ! (慢心)流行らせコラ! 流行らせコラ! ブルーヘアー野郎お前離せバロ!」

 そこに三人目登場。解剖したい、という知的欲求に駆られ満面の笑みで乱入する酒井と、やっと来たかと言わんばかりの明るい表情で見つめる宇野。なお相変わらず⌒う⌒の模様。

「何だお前!? (素)」

 バロッサ星人は驚いた。

「酒井、お前はそっち押さえろ!」

「了解です!」

 右腕、左腕、両足の三点ホールドができ上がる。

「どけバロ!」

 涙目のバロッサ星人。

「常識的に考えて三人に勝てるわけないだろ!」

 酒井の脅しに、

「馬鹿野郎私は勝つバロお前! (天下無双)」

 バロッサ星人はこう返す。

「どけバロ!! シッ……アァッ……」

フル焼きそば(ひっくり返すぞ)!」

「ゲッホゲッホ……(迫真)やめて!! あぁも! ア゛ァ……」

 咳き込むバロッサ星人。

シュバルゴ(縛るぞ)! (炎四倍)」

 対人戦の興奮からか、宇野の滑舌が怪しくなる。

「あぁもう……もう抵抗しても無駄だぞ!」

 いよいよ漆原の目が据わった。亀甲縛りになる寸前である。

「だぁーもう! 私は助けてくれた王子様に会いに来たバロッサ!!」

「はぁ?! 何言ってんだこいつ……(困惑)」

「だから離せバローッ!!」

「隊長! どうしましたっ!?」

 騒ぎに気付いた神田が走ってきた。治療が終わったようで少し髪が濡れている。

「この侵入者を外に放り出すぞ!」

 宇野は『#⌒う⌒』みたいな顔をしながら神田に指示する。その時だった。

「バァアアアロッサ!!!!」

 先程まで押さえていた三人をバロッサ星人が吹っ飛ばす。そしてそのまま勢いよく神田に抱きついた。

「うおおおおおおおおっ!! 王子様をようやく見つけられたバロ!!!!」

「……えっ」

「What the-」

「……は?」

「……ん?」

 

「「「「はぁああああああああああ!?」」」」

 

 男性陣の叫びがこだました。

 

「で、だ」

 宇野はそう切り出した。

 死んだ目の漆原に長ドスを突きつけられつつもそんな事は何処吹く風、神田に抱きつき幸せそうに笑う金髪の少女がいる。

 なお当の神田‪は死んだ目で虚空を見ている模様。

「ばろ~♡」

「オレハマネキンオレハマネキンオレハマネキンオレハマネキン……」

「このメスガキは神田に助けられて一目惚れしたと、そういう事か?」

「違うバロ、これは神様のくださった運命バロッサ♡」

 運命ね、と漆原は猜疑した。

「カミハシンダカミハシンダカミハシンダカミハシンダ……」

「神田先輩、ニーチェ先生じゃあないんですから落ち着いてください」

 モンスターエナジーをキメつつ宇野は辛辣な言葉をバロッサ星人に投げかける。

「結局のところは他力本願寺じゃねぇかバロッサ星人」

「あの時は必死だったバロ!」

「お前ほんまそういうとこやぞ」

「バロッサぁ……」

「存在自体が悪。人様のもの盗まねえと何も出来んのか貴様は」

 漆原は宇野の援護射撃をする。その口撃はバロッサ星人の心を大きく傷つけ、ついに。

「う、ぇ……うえぇえええん……」

 泣いた。

 酒井は俺知らねえと言わんばかりに虚空を見つめた。

 神田は無意識ながらハンカチを渡したようだ。止まらない涙を拭く姿が実にいじめたい同情を誘う。

「……やめてやれ」

 神田は絞り出すように呟いた。

 

 暫くして。

 神田に宥められて落ち着いたバロッサ星人。宇野と漆原は酒井謹製、神田の放った麻酔銃で昏倒中である。

「私は初めて恋をしたバロ。迷惑にはならないようにするから、傍にいてほしいバロッサ」

「……はぁ」

 神田は困惑していた。

 生まれてこの方誰かを愛した覚えがない。このチーム以外の誰かから愛された覚えもない。

 そんな自分が明確に『愛されている』と思った訳だ。しかし神田はそれ以上に恐怖している。これが偽りの愛情を向けられている可能性だ。

 故に神田は信じることを諦めた。こんなに困惑するのなら、いっそ心なんてずぅーっと閉ざしておけばよかったな、と哀しんでいる。

「……なんでそんなに黙りこくるの?」

 涙目+上目遣い。さらに金髪美少女と来たものだ、あざとい通り越して天然記念物というものである。バロッサ星人じゃなければ。

 神田は頭が痛くなってきた。その時だった。

『USST日本本部付近に敵性知的生命体出現! 宇野隊ならびにカミザワ隊に出動要請!』

「……! カミザワ隊と合同で敵性宇宙人を叩くぞ! 宇野隊出撃用意!!」

 宇野が立ち上がる。そして叫ぶ。出動の命令を受け、皆が走り出した。

 

 そこにいたのはイカルス星人。あのバロッサ星人を追いかけていた奴だ。

『ギシャァアアオ!!』

 メカゴモラ出動。それと共に叫ぶは別働隊のカミザワ隊である。

「チッ、面倒だなアイツ」

 カミザワ隊の隊長、カミザワ・サトル。

 宇野と同様、USSTに首席で入隊し、それ以来宇野とタメを張りあうエリートである。

「攻撃開始!」

 カミザワ隊は敵性宇宙人──────イカルス星人を撃つ。

 彼らはロボットをあまり……というか、ほとんど使わない。その代わり、彼らは『クロムチェスター』という戦闘機を用いて戦闘を繰り広げる。

 イカルス星人はそれに怯んだ。その背後より、何かが飛ぶ。

「……! 小型アリゲラ、厄介だな、クソッ!」

「カミザワ隊長、知ってるんすか!?」

 カミザワ隊のパワーファイター、シノノメ・シンヤがカミザワに問う。

「ああ、どっかで聞いた事がある。宇宙有翼怪獣 アリゲラ────超高速で飛ぶ怪獣だ。迂闊に近づくと斬られるぞ!」

「了解ッ!」

 正確に言えば小型宇宙有翼怪獣 ピグミーアリゲラなのだが。

 何はともあれ、一同は了解と答え、そしてアリゲラとのドッグファイトが始まった。

 その一方で、メカゴモラが起動した。

『ギシャァアアオ!!!』

「イーカカカカ! やはり来ると思ってたでゲソ!」

「もうっ、めんどくさい! さっさとくたばれっつーの!」

 江口はキレた。どうやらイカルス星人の見た目が生理的に気に入らないらしい。

「そのでっかい耳とかぜんっぶキライ! 死んじゃえ!」

 メカゴモラはチェーンナックルを放つ。そして尻尾を高速で伸ばし、槍のように刺した。

「イーカッ」

『ギシャァアアオ!!!』

「ちょ、痛いゲソッ!?」

『ギシャァアアオ!!! ギシャァアアッ!!!』

「こうなれば……!」

 イカルス星人はなんとかエスケープし、アロー光線を放つ。それはメカゴモラに満遍なく突き刺さり、クラッシャーメガというビーム兵器を破壊、そして放てなくした。

「ちょっ、卑怯よ!!」

「卑怯もラッキョウもあるものか!」

『ギシャァアアオ!!!』

「もうあったまきた! 焼け死ね!!」

 メカゴモラは口からビームバスターメガを照射した。

「あたりめよりも甘いでゲソ! 今度はこっちの番ゲソ!」

『ギシャッ!?』

 今度はイカルス星人は四次元空間を空け、棍棒を取りだした。ペダニウム鉱を精錬したペダニウムインゴット、それを寄せ集めた圧倒的硬度の棍棒だ。

「イーカカカカ!!」

 何回も叩くイカルス星人。その背中に、何かが刺された。

 チクッ。

「あ・あ・あぁ・ぁああああ↑↑アーイク……」

 バタン。

 イカルス星人の背中には注射器のようなものが刺された跡があった。

「……シュワッ」

「ウルトラマンドーズ……! 来てたんだ!」

「……」

 ドーズは何も言わずに頷いた。

「……そろそろ死んだ振りをやめて起きたらどうだ、イカルス星人」

「……チッ、バレたキューバン」

「……シュゥワッ」

 ドーズは構えた。

 江口は援護のためにメカゴモラを起動しようとしたが……。

『エンジン部大破。続行できません。脱出してください』

 そんな無機質な声がして、戦いを降りることを余儀なくされた。

 

 一方、アリゲラとのドッグファイトである。

 小型故にダメージは通りやすいのだが、驚くべきはその速度。

 マッハ2で飛行可能なクロムチェスターではあるが、それを上回る速度でアリゲラが飛ぶのだ。肉薄し、そして一撃を与える。それが精一杯。

 しかしここでシノノメは思いついた。

「……隊長、試してみます」

 シノノメの操る機体は、超音波をそこかしこから放った。

 アリゲラは超音波でものを掴む、というのを先程カミザワが呟いていた事を思い出したのだ。

 アリゲラは前後不覚に陥った。そして訳の分からぬまま、硬い地面に激突。

 マッハを越えた速度の代償はその衝撃にある。強かに頭部を打ち、その直後。

 ゴキリ、と嫌な音を響かせ、アリゲラ達は首の骨を折り即死した。

「シノノメ、よくやったぞ。あとはウルトラマンの援護だ」

 カミザワはそう言った。

 

「キィアッ」

 地上からの銃撃、空中からの砲撃、そしてドーズからの薬撃。

 何を隠そう、ドーズは左手をまるでネイルのように伸ばし、尖らせてそして毒物を流し込むというとんでもない戦法を取っているのだ。

 先程流し込んだ毒もそれだ。そして、その毒は直に効くわけで。

「イカカカカカカカカカカ!??!」

「シュウァアア!」

 ドーズの怒涛の蹴り技が放たれる。この程度に頭脳のリソースは割いてられない、とばかりに蹴りまくる。

「……シャァアア!!」

 そしてドーズはバルビウム光線を放った。

 イカルス星人は途端に安らぎ、そのまま静かに死んだ。

 

 数日後。

「あー、という訳でだ」

 宇野の話を聞く酒井。

「今日からここのラボに出入りするバロ!」

 酒井に助手が出来たようだ。そう、あのバロッサ星人だ。

「私はバロッサ星人バロバ! 旦那様と一緒に頑張るバロ!!」

 元気だけはいいんだが、と幸先を危ぶむ酒井であった。

 

 ……その夜。

 シャプレー星人が何者かによって殺された。

 その魂は悪霊へと変わり、死神の身に取り込まれる。

「……任務完了」

 その死神はそう呟くと、鎌をまた振り回す。

 辺りの霊を刈り取り、また自身の糧にする。

 彼の名は四ノ原(しのはら)真司(しんじ)。又の名を────────────

 

 ──────────────死神、シン。




突如現れた透明怪獣 ネロンガ。対抗策を講ずるために僕達はカミザワ隊と共同戦線を組む。
そんな中、カミザワ隊の隊員の一人、ニシキダ隊員が妙なことを口走り始め……。
その一方で、死神シンはある侍の魂を追う。その魂とは!
次回、ウルトラマンドーズ!
『セイデンキニンゲン』
「カミザワ・宇野合同隊、出動!」


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セイデンキニンゲン

透明怪獣 ネロンガ
登場


 昔昔、大昔。

 ある所に瓏牙(ろんが)と呼ばれる怪物がおったそうな。

 そいつは人間を食べるのが大好きじゃった。

 人々は瓏牙に怯えながら暮らしておったそうな。

 ある日、自らを怪異狩りと名乗るお侍さんがやって来た。お侍さんは瓏牙を斬るために来たとおっしゃったそうな。

 もちろん、瓏牙はお侍さんに襲いかかった。じゃが、お侍さんはたった一太刀で瓏牙を斬り殺したのじゃ。

 そして、お侍さんは夜光りの石という青く光る石でその地に災いが来ないようにお祓いをしたそうな。さらにお侍さんは、瓏牙を弱めるためにとある舞を創作し、今も尚その舞は受け継がれているそうな……。

 

「……って、五年前に御歳114歳で大往生なさったひい爺ちゃんが言ってた」

「「「「「「「いや最後のせいで暗なったし爺声のクオリティ高ぇな!?」」」」」」」

 漆原がクッソハイクオリティな爺声でした昔話。それを鵜呑みにするのならば瓏牙と呼ばれる怪物が戦国時代に居たらしい。

 どうやらその侍の名前はもう消えてしまったそうだ。しかし、その血は未だに残っているとのこと。

「と、言う訳で。その村付近で怪現象起きてますし行きませんか? 行きましょうよ」

 食い気味の漆原。

「そんな話があるなんて凄いね! 舞もつまり踊って弱らせたんでしょ? 凄いねー! 私行きたい!」

 美琴は興奮しながら声を上げて言った。

「もし何かあったら危険だから良いと思います……」

 無口の朱莉が珍しく声を出して言った。

「あれ? ところで霊華は……?」

 真子が周りを見ながらそう言った。

「神社だろどーせ」

「あー、本職……」

「そういえば、みんな霊華の巫女姿で仕事しているの見たことある?」

 氷川霊華。このチームの隊員でもあるが、とある神社の巫女も務めており、噂ではその神社に伝わる神楽を踊れるという噂があるが……全員、霊華の本職姿を見たことがない。本人曰く、『極秘なので見せない』……らしい。

「無いな」

 宇野はそう言い切った。

「なんで見せてくれないんだろうねー?」

「色々と事情があるのかな?」

 美琴と真子が一緒に首を傾げながら顔を合わせて言った。

「さあどうだか」

 神田は機械をいじりながらそう言って、ひとつ息をついてこう呟く。

「……あんま深入りはしたかねぇ」

「私も……そう思います。彼女には彼女なりの理由があると思います。私たちが神田さんの言う通り、深入りしない方が良いです」

 朱莉は真面目な口調でそう言った。全員、今の言葉に同感した。

「まぁ、いないのはしょうがないよね。早速その噂の村に行ってみようか!」

「ああ、そうだな」

 そう言って重い腰をあげようとした、その時だった。

「宇野ォ!! うちの隊員が失踪した!!」

「……はぁ!?」

 カミザワ・サトルからの失踪報告で、宇野の興味は失踪事件へと移ってしまった。

「切り替え早いですね隊長……」

「だけど……その失踪事件の方がヤバいような……」

「……あり得ますね」

「まずは事情を聞くか」

 

「……何から話せばいいだろうか」

 珍しくカミザワは憔悴しきっていた。

「まるで刑事ドラマの事情聴取してるみたい……」

「でも話してくれないと事件解決しないよ……」

 美琴と真子が壁の後ろから確認していた。その横にいる朱莉は少し引いていた。

「……今朝は普通に居たのさ」

 カミザワは、ぽつりぽつりと話しだした。

 

 今日もカミザワ隊は賑やかだ。

 シノノメ・シンヤ隊員はミット打ちに励んでいるし、モノノベ・ソウタ隊員は銃を整備している。マキヤマ・クウト副隊長は始末書を監査し、フルカワ・カナエ隊員は始末書を書き直す羽目になっている。

 そんな中、モノノベはこう言った。

「あれ? ニシキダ隊員何処だ?」

 カミザワは部屋を見渡した。

 ニシキダ隊員が見つからない。

 ニシキダ・コウキ。

 剣術でいけばUSST開催の大会で(軽量級の部とはいえ)ぶっちぎりの優勝を果たす実力者である。

「ニシキダ隊員! ニシキダ隊員応答セヨ!!」

 ………………。

 帰ってきたのは沈黙。

 カミザワの連絡をもぶっちしている。

 カミザワは心配になって、宇野隊の部屋に来た……。

 

「─────という訳さ」

「もしかして何かに巻き込まれたのかな?」

 美琴は真子の顔を見ながらそう言った。

「そうかもね……」

「あの……とりあえずお二人は壁の後ろで聞く耳を立つようなことをしない方が良いですよ。気になるのは分かりますが……」

「……聞いてんのはわかってんだよ」

 カミザワは睨みつけた。

「わぁ……」

「ごめんなさい……」

「ほら……言わんこっちゃありません。あ……話、どうでしたか?」

「……まあ、カミザワ隊の皆さんは捜索に勤しんでもらうよ」

「分かりました……」

「任務が始まるね!」

「一応、霊華にも伝えておきますか隊長?」

「……ああ。霊華には伝えておくとしよう」

「なら私、伝えておきます!」

 真子は即座に霊華に連絡を始めた。

「そういえば村のことは探索しなくて良いの?」

「それもする予定だよ。男性陣は例の怪物を追ってくれ。女性陣は村を探索して欲しい」

「りょーかい!」

「了解です……」

「……あれ?」

 先程から霊華に連絡をしている真子の様子がおかしかった。

「おいどうした真子」

 漆原はそう聞いた。冷静な目であった。

「さっきから……霊華から連絡が取れないんです」

「音信不通なの?」

「音信不通……」

「……まあいい。後で連絡は届く筈だ。総員出撃用意! メカゴモラも発進用意だ!」

「りょーかい! メカゴモラの用意お願い!」

 美琴はヘルメットを持ち出して駆け足でメカゴモラに向かった。

「……さて、俺は俺で隊員達を向かわせるよ」

 カミザワはそう言って部屋から出た。

「……ああ、幸運を祈る」

 宇野はそう呟き、自身もヘルメットを装着した。

 

「……ここが例の村か」

「なんか……重い空気を感じる……」

「…………そうですね」

「とりあえずメカゴモラは念のために起動のままにしておくね」

「嗚呼了解、俺達は瓏牙を探す」

 

 まずは女性陣をクローズアップしよう。

 女性陣は、その淀んだ雰囲気の村に足を踏み入れた。

「誰かいるかな?」

「……村人達の話とか、聞きたいですが……」

「……おやおや、お客人かえ」

 老人の声がした。

「……あなたは?」

「ま、間に合ったぁ〜……!」

 背後でメカゴモラを起動したまま降りてきた美琴がようやく追いついたようだ。

「わしはここの村長じゃよ」

 口調こそ年老いてはいるが、どうもただの老人には見えない。

「村長さん……私たちはここの調査で来ました。SDTの副隊長、なのですが……」

「……ほぉう、SDTとはまた変な名前じゃのう……。わしはUSSTなら知っているのじゃがのう……」

 老人は、鋭い目をしていた。

 それはまるで、見たもの全てを刺し殺すかのようであった。

「副隊長……だからアレほど寝た方が良いって」

「…………寝ましたよ?」

「いや昨日調査報告書とか色々とやって寝てないですよね……?」

 突然のガールズトークが始まったが、朱莉は軽く咳払いして本題に戻った。

「そ、その……本題に戻りますが……この村の伝説を隊員から聞きまして……念のために調査に来ました」

 少し顔が赤い朱莉は問いかけた。

「……伝説か。その子はもしや、如水かえ?」

「知ってるの?」

 馴れ馴れしく声をかけた美琴。どんな人にもタメ口は変わらないようだ。

「わしの孫じゃよ」

 ───────硬直。

 

 数分後。

「…………あの迫真のお爺さんの声をしてた漆原隊員が、語ってくれたと言っていたお爺様ご本人……」

「…………Wow……」

「…………貴方が……でしたか」

「いかにも。わしは漆原竜介という」

「彼から突然、この村の伝説を聞きまして……それで来たんですよ」

「あのー、舞も存在するんだっけ?」

「うむ、そうじゃ。今は消えておるがな……」

「え? 消えているの?」

「どうも途中で古文書が焼かれたらしくてのう……」

「焼かれた……? 誰かに、ですか?」

 空気が変わる。重さは変わらないがピリピリするような空気にもなりだした。

「先の大戦でな……」

 俗に言う第二次世界大戦である。

「そうだったんですか……」

「それでも伝説って今でも知られているんだね〜」

 美琴は不思議そうにそう言う。今時の子には興味なさそうにも見える話だが美琴は聞き続けた。

「うむうむ。如水から話は聞いたじゃろう?」

「聞いたよ。だから来たんだけどね」

「……ですが、何か……不穏な空気を感じますね。何かあったのですか?」

「どうもその侍様の子孫がいるらしくてのう……」

「子孫ですか……」

 そんな中、美琴は気づいた。

「ん? あの舞台みたいなの何?」

 美琴が指を指した方向には狂言などが披露されそうな舞台が設置されていた。だが、もうここ何年も使われていないのか、埃まみれだった。

「……かつて巫女が舞を練習し、奉納した場所じゃよ」

 そう言うと、竜介は何かを思い出したように言った。

「そういえば、主らは伝説を調べに来たんじゃったか?」

「ああ、はい……そうですよ。何か心当たりでも……?」

「今思い出した。わしのおじいが言っていたことじゃ。たしか……錦田という苗字の侍が倒したのじゃが、その血は未だ受け継がれておるそうな」

 竜介は、懐かしむように言った。

 

 時をもどし、瓏牙捜索の男性陣。

 かれらは山の中を走り続けていた。

 こんな所にいるか? そんな思いが皆を包む。

「帰りたい……」

 酒井はげっそりしていた。運動不足である。そんな酒井をよそにひょいひょいと進むは神田隊員だ。登山が趣味な彼は、この程度楽ちんなのである。

「酒井ー早くしろー」

「はっやいんすよ……ひぃ……きちぃ……でーれえれぇ……」

 酒井はウイダーinゼリーでエネルギーをチャージし、捜し出す。その時である。

 おい、みんなこれを見ろ。宇野はそう言って、何かを指さした。

「……祠だよ。なにかの」

 酒井の知的好奇心は一瞬にして最大を迎えた。祠の扉を開けると、そこには刀があった。

「……見たところ、戦国時代の刀ですね。しばらく手入れはされていないのかなぁ」

 酒井は嫌な予感がしたため、刀を取るのをやめた。その時である。

 誰かがその刀を奪い去った。

 特徴的な紫と黄緑のオッドアイが見えた。

「ニシキダ隊員!! 何をしてんすか!!」

 酒井はニシキダらしき男を捕まえた。ニシキダはこう語った。

 

「蘇らせて殺す」

 

 ──────────地面が、揺れた。

 

「……しかし、何かしらの情報は得ることが出来たかもしれませんのに……」

「あまり良い情報がなかったね〜」

 伝説の件で村に来ている女性陣はアレから色々と聞き込みなどをしていたが、なかなか良い情報が掴めず少し休んでいた。

 その時である。

 ビデオシーバーが鳴り響いた! 

 余談だが、ウルトラマンゼロのカラータイマー音が着信音なのである。アバドン曰くくたばれゼロカス!! 

「ん? ……隊長からですね」

 起動して通話に出た。

『宇野だ! 位置情報を送る、今すぐ来てくれたまえ!』

 宇野はそう言った。

 銃撃音がした。

「うわぁ!!? て、敵……!?」

「隊長、何があったのですか……?」

「美琴は急いでメカゴモラのところに向かった方がいいと思う……!」

 真子に言われて美琴は慌ててメカゴモラのところに駆け足で向かった。

 ──────ギシャァアアアアアオ!! 

 電子的な叫びがこだました。

「メカゴモラに乗り込んだよ! だけどどこから銃撃が……!?」

 メカゴモラを操作しながら辺りを見渡す。

『位置情報送っただろ!! 蹴り殺すぞ!!』

 漆原の怒号が通信で響く。憔悴からか、どうも息が荒い。

『この汚物め!! 死に晒せ!!』

 銃撃音(ばーん)

「あ、こ、ここかぁ!!」

 慌ててメカゴモラを操作して目的の位置に移動した。

「私、人の避難をさせます副隊長!」

「あ、は、はい……!」

『近隣住民の皆様は、速やかに避難してください』

 すでにサイレンは鳴り響いていた、そして。

「こっちに進んでください……!」

 真子は避難誘導をしながら状況を確認していた。

 美琴もようやく目的の位置について周りを見ていた。

「……ここかぁ!」

 そこでは火災が起きていた。

「あ……ッ!?」

 美琴は玉のような汗を流しながら火の海を見ていた。

「でも……敵が近いのは分かるよ!」

 そこに居たのは─────

「ゴァアアアアッ」

 ───────ネロンガだった。

「な、なに……!?」

 美琴は驚きのあまりにメカゴモラを操作して尾で殴りにかかった。

「アレは一体……ッ」

 一目見ただけで怪獣の名と特徴が分かる霊華がいないせいでなんとも言えないが、全員、全てを分かっていないわけではない。

「透明怪獣 ネロンガ! 確か初代マンさんやらゼットくんやらに倒されたというのに……なんでこんな強化を!?」

 酒井は心の中で叫ぶ。

 そんな時、彼らの魂に声が響いてきた。

 聞こえる。

 怨嗟の声が。

 生を呪う声が。

 命を、奪う。その為に、彼らは呪う。

「ッ……?!」

 恐怖のあまりに朱莉は耳を塞いでその場にしゃがんだ。

「副隊長……!? ……待って、これって……」

 真子は声を震わせて今の状況がなんなのか思い出した。

 ───────瓏牙を封じる為には、人智を超えた力が必要である。

 その『人智を超えた力』は、この世界に於いては『人智を超えた力』では最早なく、それらは『人間の手に収まる』力へと変身しているのである。

 ─────そう、戦犯はウルトラマンアバドンなのだ。

「うわぁぁぁぁ!!?」

 メカゴモラは背後から勢いよく倒れてしまった。何人の人間を人柱にしたのだろうか、腹が減っているのか。ネロンガはバッテリーから電気を食い始める。

「美琴!!」

「美琴さん……ッ!」

 神田は物陰から銃を放つ。

 酒井謹製の特殊兵装である。

「ぐっ……負けるもんかぁ!」

 なんとかメカゴモラを起き上がらせて戦いを続けた。

 だがそれでも状況は変わらず苦戦状態だった。

 特殊兵装すら弾き返したネロンガはさらに蹂躙する。

 酒井は居てもたってもいられなくなって、ウルトラマンドーズに変身した!! 

「あ……ウ、ウルトラマン!」

 損傷レベルが少しずつ上がってしまっているが、ギリギリまでメカゴモラを操作して戦い続ける美琴はドーズの隣に立ち、助太刀をすることにした。

「…………大丈夫かな……?」

 真子は不安げな声を出して言った。だが不安なのは確かだ。

 ドーズはネロンガの腹を蹴った。

 その隙を見て美琴がメカゴモラの尾で背中を強打させた。

 ……しかし、ネロンガはピンピンしている。

「……効いてないの!?」

「ジィッ」

 次の瞬間、ネロンガは消えた。

「……!!」

「サーモグラフィーを起動しろバカ!!」

「けどダメ!! 熱源反応がドーズからしか出ない!!」

 ネロンガは透明化する事で熱源反応を消すことが可能だ。故にドーズとメカゴモラは見えない方向からの攻撃でダメージを受け続けていくのであった。

「物理がダメなら……超振動波……!! でも……バッテリーがもうない……ッ」

 その時、どこからか、しゃらん、しゃらんと鈴の音が聞こえた。人間より聴力が良いウルトラマンだけではなく、全員の耳に届く。

「鈴の……音?」

「あ……あの舞台ッ!」

 真子は指を指した。

 古びて埃まみれ()()()舞台で、誰かが神楽を踊っている。

 顔が挿頭で上手く隠されていてよく見えないが、神楽鈴を持ちながら踊っていた。

「……なんだあの姿は」

 漆原はそう言いつつも、的確にネロンガの眼球に鉛玉を浴びせる。

 後ろではドーズとメカゴモラがネロンガと戦闘を繰り広げているわけで、それはもう素晴らしく酷い騒音が響いている訳だ。

「ぐっ……しぶといなぁ!」

 メカゴモラのバッテリーがもうじき10%になりそうになっていたが限界まで操作を続けた。

 次の瞬間、ネロンガが神楽を踊っている巫女服を着て挿頭で顔を隠した人物に気づいたのか、突然耳を塞ぎたくなるほどの雄叫び声を上げた。

 ネロンガは怒り狂っている。

 かつてネロンガを封じた舞に似ている。波長すらも。

「うるさっ……!」

「デェイアッ!!」

 ドーズは喉奥まで腕をぶち込むと、体内に小型爆弾を仕掛ける。

 念力で爆破し、ネロンガは痙攣した。

 その時、ドーズはあるものを上空に投げた。気付かれぬように。

 神楽舞の踊りは止まない。神楽鈴の音も消えない。

 ネロンガはドーズとメカゴモラを無視して巫女姿の人物に攻撃をした。

「危ないッ!!!」

 ドーズが庇いに行こうにも、どうも間に合わない。

 その時だった。

「……()ッ」

 そんな息とともに、ネロンガが袈裟斬りにされた。

 袈裟斬りの爆風で舞台が揺れたが、神楽は踊り続けた。その瞬間、カシャンッと何かが落ちた。落ちたのは挿頭だった。そして神楽舞を踊っていた人物が分かり、全員その場で驚愕した。

「……なっ」

「お前は!」

「えっなにそれは(困惑)」

「……えっ!?」

「うそぉ!?」

「……!!」

「ジュッ!? ウーン……」

 多種多様な反応を返す一同。

「極光神楽舞……我が一族に受け継がれし伝説の舞……そして私はその神楽舞を受け継ぐ者です」

 巫女服を着て、神楽鈴を手にしながら《極光神楽舞》を踊る人物は……霊華だった。霊華はこの村の伝説に出てくる神楽舞を踊った一族の末裔なのだ。

 踊りながら霊華はドーズと目を合わせる。伝えているのだ……ネロンガを()()()させた、と。

 そして、そこに怯えさせた原因がもう一人いる。

 彼は妖を斬る者。

 妖の首を狩り、妖の命を奪う。人々を助け、時に悪に落ちた人間を殺す。

 彼の先祖は錦田(にしきだ)小十郎(こじゅうろう)景竜(かげたつ)─────

 その子孫、錦田(にしきだ)光輝(こうき)である。

 上空から三機の戦闘機が尾を引き飛び回る。

 カミザワ隊の操るクロムチェスターだ。目まぐるしく飛び交うクロムチェスターに目を取られ、ネロンガはドーズの存在を忘れていた。

 ドーズはあるトラップを起動した。

 それは勢いよく上空で爆発する。ドーズはまたあるものを投げる。

 大きく山なりの軌道を描き、ネロンガの動きをとめた。

「よぉし! この大天才ドーズ開発、トリモチボールと瞬着くす玉だっ! フッ、瞬着で引っ付いたトリモチは強固な皮膚どころか装甲すら剥がす! 更にこいつには猛毒も混ぜておいた! 猛毒入りのトリモチは痛かろう!!」

 ドーズは腰に手を当てて大笑いした。

 ネロンガはいよいよ発狂した。

「お、効いてる効いてる!」

 先程爆発させたものは、対象の恐怖心を高め精神をすりへらす働きがある。

「名付けて『SAN値直葬爆弾』! こいつもこの稀代の鬼才の素敵な大天才様には不可能はぬぁい!! 畜生風情の行動なんぞ、まるっとするっとお見通しだ!」

 なお七徹の模様。

「私は……残りのバッテリーを使って超振動波を放つ!!」

 美琴は残りのバッテリーを利用して超振動波を溜める。

 しゃらん、しゃらんと鈴の音がさらに鳴り響く。霊華が神楽舞をさらに素早く踊り始めたのだ。だが動きは変わらず滑らかで、キレを外すことがなかった。まるで満点の夜空を彩るオーロラのように。

 そして、ニシキダ隊員はその手に握りしめた日本刀を振るう。ネロンガの体に傷がつき始め、ドーズはある事を思いついたようで何かを取りだした。それは注射器であった。

 ドーズは傷口に注射器をぶち込んでやると、中の液体を流し込む。

 テトロドトキシンの114514倍の致死性のある猛毒である。

「あのウルトラマンエグくない!?」

 美琴は多少引きながらもメカゴモラから超振動波を放った。

 しゃらん、鈴の音が鳴り響き、ざくりとネロンガは斬られる。そこに超振動波を浴び、さらにドーズはバルビウム光線を照射する。

 ネロンガは悶え苦しみ、爆発四散した。

 ドーズのカラータイマーは酷く点滅していた。

 膝をつき、しかしそれでも立ち上がり空に消えた。

 鈴の音が止まり、霊華は瞳を閉じて一礼をした。

「ふぅ……」

 静かに息を吐いて床に落とした挿頭を手にする。

 前を見ると、村の人達が拍手喝采を浴びせていた。正座をして拝む人もいた。

 霊華は思わず困惑顔をしていた。いつもは眠そうな顔をしている霊華が他の顔をしているのを見るのは全員初めてだ。

「……まさか君とは思わなかったよ」

 いつの間にやら酒井が戻ってきていた。

 その時、青年の声がした。

「ネロンガ討伐作戦成功だな」

 カミザワ・サトルの声であった。

「霊華〜!」

 バッテリーが無くなったメカゴモラから降りてきた美琴が勢いよく舞台に上がって抱きついた。

「ッ……!? ど、どうしましたか……?」

「凄かった! 霊華って私たちの見えないところで凄いことをしていたんだね! 今度基地で見せてよ!!」

 興奮しながら言う美琴の顔を霊華はいつもの真顔で見つめていた。ふと、霊華は酒井の顔を見つめた。

「……隊長たちから聞きましたよ。一芝居打ってたんですよね?」

 酒井はそう言った。

 タネさえ明かせばほかでもない、元からかからない場所にかけて虚偽の捜索作戦を立てる。そしてその間にカミザワ隊で舞台を掃除しニシキダ隊員を捜索、ネロンガを封印ではなく抹殺に導く……とまあ、かなり大雑把、というか行き当たりばったりな計画なのだった。

 信頼なくては出来ないことであった。

「……はい、その通りです」

 霊華は顔を変えずにそう言ったが……

「…………あれ?」

 美琴が霊華を見て何かに気づいた。何故か音もなく、いつの間にか酒井の目の前にいたのだ。

「……なんですか」

 霊華はただ酒井の顔を見ていた。だが……霊華の口角が上がったのが見えた。

 あの霊華が初めて隊員の目の前で———笑顔を見せたのだ。周りの隊員達は息を呑むほど驚いていた。そして……

「あなたの活躍……今後も楽しみしています♪」

 満面の笑みで言った。まるで、酒井が《何者》なのか分かっているかのように……

「……貴様」

 酒井は注射器に手をかけようとした、その時。

「ま、ネロンガは討伐できた。帰ろうぜ」

 宇野の呑気な声がした。

 場の空気が緩む。

「さ、帰投だ」

 一同はゾロゾロと帰路に着く。

 

 

 

 

 

 

「楽しませてくれよ」

 

 

 

 

 

 帰路のある時だった。

 ……カミザワ・サトル。

 彼の本性は?

 宇野はそう思いながら、先頭を進む。

 もし彼が本当に()()()()()()()───────

 果たして我々は、()()()()()()()()()()? 

 

 ──────────最後尾に位置しているカミザワが、不敵に笑ったことに、ただ一人として誰も気付くことは無かった。




戦国時代、錦田小十郎景竜により封印されたとされる武田軍の切り札(ジョーカー)こと伝説魔獣 ルーリュガが復活!対策を講じる中、細川隊員が失踪!?救出に向かう僕と漆原先輩の前に現れたのは……二人の謎の少女! その一方で、人造ウルトラマン計画が進んでいた……!
次回、ウルトラマンドーズ!
『アンチジョーカー』
「切り札を倒すには切り札しかないのです……」


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アンチジョーカー

伝説魔獣 ルーリュガ
叛逆ノ悪質宇宙人 メフィラス星人セイカ



誰も来なくなった祠。静かな空間に、誰かがひっそりと居る。なにかが眠りに就いているのだろうか、地下の空洞音がやけに優しく聞こえる。一人の青年はここを訪れ、祠にお酒とお饅頭を供えた。

「おやすみなさい、良い夢を……」

手を合わせ、ただ一身に祈る。全てはその祠の地下に眠る彼らを成仏させるために。

彼の名はニシキダ・コウキ。

錦田小十郎景竜の子孫である。

◇◆◇◆◇

その頃、USSTの宇野隊では。

「完成です!!!!!!!!」

魔剤のカラを地面に放置し、瞳孔を全開にし、いつも以上に狂った目と上擦った声色で報告する少年がいた。またか!と、隊長の宇野は少年を見る。少年はあるものを取り出し、

「これですよこれ!!!!!!!!ご覧下さい!!!!!!!銃だけでなく、ボタンひとつで剣にもなり、カートリッジの差し替えでハンマーにもなる!!!!!!!!名付けて『カラドクラッカー』!!!!!!!!是非とも転売ヤーに甘々なクソ企業バンダイに売り込みましょうよ!!!!!!(ここまで一息)きっと爆売れまちがいなしです!!!!!!!!!!!!!!(爆音)」

と言った。

「ただの販促じゃねえか」

「はい!!!!!!!!!!」

「はいじゃないが」

「なら押忍!!!!!」

どこかで畠中祐さんや平野宏周さんみたいなくしゃみの声がした気がするのは気のせいだろうか。無論、シュンケルをキメて報告書を書きその反動でものの見事に気を失っていた漆原の怒りを買い、無事と言ってはなんだが蹴り飛ばされて強制睡眠に掛けられたことは言うまでもない。その時、漆原は、

「うるっせぇんだよクソガキャァァア!!!」

と叫んでいたという。

◇◆◇◆◇

まあそれはそれとして。(わかるマン並感)

◇◆◇◆◇

「……え?山の中で怪現象?」

そうだ、と宇野は呟いた。

「怪現象、っつっても人が消えるわけじゃねえが……ちょいと磁場がおかしくなってんのさ」

「磁場ァ?」

漆原はそう言うと、ふいと横をむく。目の下には黒いクマが出来上がっている。多分徹夜していたのだろうと神田は推測した。

「そう、磁場」

氷川はそう言って、モニタに何かを映し出す。寂れた祠である。

「ニシキダ隊員の送ってくれた祠の写真、コレ見て」

「……あぁ!武田って書いてあんぞ!」

「そう、ここは武田軍にまつわる()()()が祀られた祠。これも見て?」

そう言って、氷川は全員に謎のデータを送り付けた。

「これはその祠の周りの磁場をデータ化したの」

「強くなったり弱くなったり忙しいな」

「……そう、それのせいで……対策が取りにくいの……」

「噂じゃ幽霊が出るんだってな?」

神田はそう言うと、ちらっと江口を見た。

「うぇっ!?私、幽霊なんか怖くないもん!もう高校生だもん!!」

江口は強がるようにして神田を軽く叩く。そのむちましい足は震えていた。

「怖いんやな?」

漆原は光の無い目で江口を見る。そして嘲るようにこう言った。

「ざーこ、ざーこ。そこら辺にいっぱい居るのに気づかない()感女、聡ずかしくないの?」

なお「聡ずかしくないの?」は誤字ではない。そういうネットミームである。

「そこら……へん……!?」

江口は青ざめ、倒れた。

「ヨシ!」

「嫌がらせすんなバカ」

会議は踊る、されど進まず。そんな矢先であった。

────────── 一同の意識が暗転した。

◇◆◇◆◇

酒井が起きた時、基地の中はやけに静かだった。宇野隊の全メンバーが寝ている。あの鉄面皮で有名な漆原ですら眠っている。幸せな夢でも見ているのだろうか。

酒井は寝惚け眼を擦りながら、基地を見渡した。

やけに静かだ。酒井(ドーズ)の圧倒的な聴覚でも、足音を捉えられないくらいには。

ガスやフェロモンは感じない。どうせ疲れだろう、と誤認した。

そして酒井は安心してしまった。どうせ来ないだろう、とタカをくくった。

────直後、首に強い衝撃が走り、酒井の視界は再度暗転した。

 

酒井が目覚めたのは、警報音が原因だった。

チーム内では三番目に早く目を覚まし、即座にカフェインを摂取。脳を覚醒させ、状況判断に務める。

漆原は既に目を覚まし、誰かとの応答を試みている。そして宇野はなにかを悩んでいるかのようだった。

「どうしました……」

「細川隊員が失踪した」

「なっ……!」

さらに漆原は何かを操作しながら続ける。

「しまった!鎮守府の方に気を取られすぎたッ」

クソッ!と叫び、漆原は目を瞑る。その直後、神田の叫び声が上がる。

「隊長!何者かに通常兵装のエネルギー抜かれてますよ!」

「なんだと……ッ」

「カラドクラッカーは無事ですがUSSTガンは使えません!」

その時、ショタみのある声が鳴り響く。

『こちら整備班。メカゴモラのバッテリーが抜かれた』

「……頼りになるのは、あるのか……?!」

「俺たちを忘れてもらっちゃ困るぜ、宇野くんよォ!」

若い声がした。

「アンタは」

宇野は振り返る。そこに居たのは、

「……カミザワ隊長!?」

カミザワ・サトルであった。

◇◆◇◆◇

「裏で手を引いている宇宙人がいる」

カミザワはそう言った。

「騙されるかッ」

先日まんまと騙された酒井は、まるで猫のように毛を逆立てている。ふぅーーーーっ、と息を吐きながら、カミザワを威嚇する。どこからどう見ても子猫である。

「嘘をつくわけねえだろ、俺が」

「じゃあ前回はなんなんですか」

「敵を欺くには、まずは味方から、ってよくいうだろ?」

酒井からの信用はないが、不思議と漆原たちからは慕われているようで。

「……その宇宙人って?」

漆原はそう言うと、カミザワは、

「……バロッサ星人だな」

と言った。

「バロッサ星人……!?バルバの野郎やらかしたかッ」

神田は憤慨した。

「あのガキじゃあねえよ」

「そうか……」

人違いだと気付き、少しホッとしたようだ。

「バロッサ星人……確か宇宙の盗賊だったな、しかし何故……」

宇野はそう呟くと、一同を見る。

「よし。これより宇野・カミザワ合同部隊を編成する。細川隊員の救出もだ!」

出動。

やけにその声は震えていた。

◇◆◇◆◇

そんなこんなで、漆原と酒井は探索をしていた。

「くっそー!全然見つかんないよ!」

「諦めてんじゃねえよカス」

漆原は怒り、酒井は諦めはじめる。

「チッ……どこに消えた?」

漆原はイライラし始めた。そして、おもむろに虚空を蹴り抜く──────────

────────────その脚には、確かに『当たった』感触があった。

「バロッ!?」

「よしビンゴ」

漆原はそれを掴み、顔面を殴り抜く。そして首を絞め、投げ飛ばした。

「よし」

「おファックですわバロッ!!逃げるが勝ちですわバロ!」

「……Bang」

酒井はカラドクラッカーの銃弾を放つ。それは逃げる『それ』に突き刺さり、体内にあるものを植え付けた。

「よし!」

「何を撃ったんだ?」

「ナノマシンが入った銃弾です!細胞内で遺伝子にナノマシンが絡みますからGPSでの追跡もバッチリですよ!」

「よし」

漆原と酒井は走り出した。その速度はまるで競走馬のようであった。最初こそ酒井も追いつけていたが、無事に逆噴射。

依然として先頭は卑しき逃亡者バロッサ星人。二馬身離れて青い影の怪物漆原如水。大きく離れてフィクサー酒井幸村となっております。酒井幸村、ここでセグウェイに飛び乗り漆原らを追いかけますがあっとここでなんと漆原加速!バロッサ星人スタミナ切れかガクンと速度が落ちている!ここで漆原バロッサ星人に追いついて長ドスを取り出したッさらに後方から酒井幸村援護射撃であります!第11レースは審議です!!

──────失礼。書き手が取り乱した。

もだもだ、と泥沼の闘いになる瞬間。

「お排泄物共に捕まってなんかいられませんわバロッサ!スタコラバロッサ、ですわ!」

バロッサ星人は煙幕を炊いた。

「げほ、ごほ」

煙を払うと、そこには誰もいない。

「逃げられたッ!」

「……チッ。こちら漆原。今からデータを送る。コイツの追跡をしてくれ」

漆原はバロッサ星人の位置情報を送る。ほかのメンバーに追跡を任せるつもりだ。

さすがに遠すぎる。そして、漆原の直感はその事実以上の事を警告していたのだ。

「……来るぜ、宇宙人がよ」

「……はい」

漆原と酒井は背中合わせに立ち、酒井はドーズの時の構えを、漆原は空手の構えをとる。

ざっ───────

地面を踏み付ける音がした。

◇◆◇◆◇

その頃。

「本部より別働隊へ!本部より別働隊へ!こちら神田!漆原隊員の付けたGPSの情報から、拠点の割り出しが完了しました!」

「データ転送しま……zzzz…」

本部に残った隊員のうち一人使い物になっていないが、それはそれとして。

本部に残って拠点の割り出しをしていたフルカワと氷川は各チームにデータを転送。神田とシノノメの急造コンビが一番近いとの連絡を受け、二人はその方角にバイクで走り出した。

◇◆◇◆◇

「は、早い……!」

「バロッサ星人め……何処までも逃げ足の早い生命体だ……!」

バイクの排気音が空気を震わせる。風を突っ切り、神田とシノノメは街を駆けた。

「バロッサ!バロッサ!!」

「逃がすか!」

シノノメはバイクからレーザーを放った。神田も同じように、バイクからバルカン砲を撃った。

バロッサ星人はダメージを受け失速。しかし煙幕を張ると、また逃走した。

「これでも喰らえ!!」

神田は煙幕の奥にある影を見逃さなかった。新兵器であるカラドクラッカーを放つや否や、バロッサ星人は今度こそ吹き飛んだ。

「ば、ろっさ……」

直後、バロッサ星人の腕にかかるは銀色のリング。

「ヒトマルマルヨン、バロッサ星人確保ォ!!」

シノノメはバロッサ星人に手錠をかけたのだった。

 

そこまでは、よかったのだ。

◇◆◇◆◇

さて、ここで漆原たちの方に視点を移すとしようか。

漆原たちは再度臨戦態勢に入った。

実力のある宇宙人だと脳が警告している。

「死に晒せェッ」

漆原の声が空間を震わせた。拳からは覇気のようにもうもうと煙がたちこめ、その目には青い光が燃えていた。

「動くな!動くとお前達の頭が吹き飛ぶと思え!」

酒井は即座にカラドクラッカーとウルトラガンを構え、発砲準備を済ませる。狙うは勿論頭部と心臓だ。

「あ、ありゃー……。ヨウちゃん、警戒されちゃってるねぇこれ」

「ですねぇ~。怪しい宇宙人じゃありませんよ~」

「黙れ、どうせ侵略宇宙人だろう!?」

ハァルルルァ、と獣のように威嚇する漆原を見て、軽薄そうな宇宙人の少女はお手上げと言わんばかりに首をすくめた。

「あちゃ~……そっちのウルトラマンはどう?」

「………………えっ誰の事ですか(困惑)」

「君だよ、キ・ミ」

酒井幸村、完全に沈黙。

「……僕は人間です!!!!」

「そういう事にしとくよー。さーて、私たちは善良な宇宙人だとは言っておくよ。あのバロッサ星人とは違ってね」

「なんだと?」

漆原は警戒しながら問うた。

「あのバロッサ星人は何人かのチームを組んでるらしくてね、私……メフィラス星人セイカとこっちにいるマグマ星人のヨウカって子でまあ頑張ってやってたのさ」

「そうなんだ……。銃向けてごめん」

酒井は銃をおろした。

「うふふ、いつも街の治安維持お疲れ様です♪いい子、いい子……」

「触るな」

漆原、拒絶。

「セイちゃ~ん……」

「おーよしよし、ドンマイだったねえ」

「漆原先輩??」

「俺は悪くねぇ」

コントやってる場合じゃない、と漆原は前置きし、

「お前らの知っている情報は他にはないか?言わなければこれだぞよ」

そう言って首を斬る仕草をする。

「おお、こわ。もちろん知ってるよ。あのバロッサ星人は呪いの力を活かそうとしているみたいなんだ。人を触媒としてね」

「なんだと……!?」

「じゃあ、細川隊員は……!」

「呪いの触媒になるかもしれないね」

酒井は走り出した。

「行っといで、防衛隊員さん」

セイカはそう言った。

◇◆◇◆◇

漆原たちは現場に急行した。細川の命が掛かっている。

排気音が街を切り裂き、規制のせいで仮面ライダーでは出来なくなったバイクアクションで観る者全ての目を奪い。

「よほど僕達の方が仮面ライダーやってますよ……!」

「まったくだ!」

そう愚痴りながら途中で神田・シノノメチームとニシカワ・江口チームに合流。細川のいる拠点に急ぐ。

それを裏で見る人影があった。

それは男である。左手からぽたぽたと緑色の返り血を垂らしている男である。

「フン、なかなかやるな、あいつら。オレも少しは手伝うか」

赤い眼光をきらり輝かせ、男の影は消える。その跡には、宇宙人の死骸があった。

◇◆◇◆◇

「だっしゃあああおら!!」

漆原が扉を蹴り飛ばした瞬間、そこにいたのは呑気に酒をかっ喰らう宇宙人たち、そして流血しつつ拘束された細川であった。

「USSTの漆原だ。お前達を逮捕する。抵抗は無駄だ、降伏しろ!」

「なっ……!おまえらぁ!嗅ぎつけられた、さっさとやるぞぉ!」

「言い方を変えよう。降伏は無駄だ、せめて抵抗しろ。殺してやる」

「ええっ!?」

そう驚きつつも酒井はカラドクラッカーで命を奪っていく。ぴちぴちと血と脳漿が舞い散り、一人また一人死んでいく。

漆原は細川を回収すると、すぐさま別働隊に明け渡す。

細川は、血を流しながらもこう叫んだ。

「二人とも!ルーリュガの封印は弱まってる!だけど、まだルーリュガは不完全体!メカゴモラなら、ううん!あの兵器ならきっと!」

そう言い残し、細川は意識を失った。

漆原たちは、宇宙人の命を刈り取って行った。

◇◆◇◆◇

その頃、地上には文字列が浮かんでいた。それは人の生命力を奪い取り、やがて怪物の姿となる。

伝説魔獣 ルーリュガだ。

かつて、武田軍が生み出した最悪の兵器。人の怨嗟の力で際限なく強くなる化け物である。

東京のビル街に現れたルーリュガは、手当たり次第に生命力を奪っていった。

人々の悲鳴が怨嗟となり、ルーリュガは力を貯めていく。

『ギシャァアアアオ!』

そんな電子音が流れ、ルーリュガは吹き飛んだ。

そこに居たのはメカゴモラ。ルーリュガ討伐の為に、江口隊員が搭乗したのである。

先に動いたのはメカゴモラだ。チェーンナックルを飛ばし、ルーリュガの顔面をぶち抜く。そのままルーリュガに掴みかかり、投げ飛ばす。

そしてメカゴモラはエネルギーチャージを開始し、胸部の砲口から光弾を放った。

放たれた光弾はルーリュガを直撃し、爆発する。

それでも終わらない。ルーリュガはすっと立ち上がり、メカゴモラを蹴り飛ばした。

「なっ!?」

衝撃で倒れるメカゴモラ。その隙を突き、ルーリュガは再び飛びかかった。

爪を振り下ろすルーリュガに対し、メカゴモラは腕をクロスして受け止める。

火花が散り、押し込まれるメカゴモラ。しかし次の瞬間、空中から鉛玉の雨が降った。

カミザワ隊の操る戦闘機、クロムチェスターである。

『今です、カミザワ隊長! 早く!』

通信機越しの声を聞きながら、カミザワは操縦桿を動かした。

「シィッ」

ミサイルと弾丸を受け、よろめくルーリュガ。その隙に、メカゴモラは体勢を立て直す。

『おおお!!』

雄叫びを上げ、突進するメカゴモラ。ルーリュガはその勢いのまま殴り飛ばされ、倒れ込む。

それを見たカミザワは、更に指示を出した。

「総員、一斉攻撃!」

クロムチェスターが一斉にビームやミサイルを放つ。無数の攻撃を受け、ルーリュガはとうとう倒れた。

だが……。

 

「ゲァアアアアアゥウ!」

 

────────ルーリュガは、怨嗟の声で復活するのだ。

ルーリュガはメカゴモラを軽々と吹き飛ばし、クロムチェスターにレーザを放つ。

回避に精一杯になる彼らを見て、ルーリュガは笑っていた。

◇◆◇◆◇

その頃、USSTの整備班では、試作機を使うかどうかで揉めていた。そんなときである。

「切り札を倒すには切り札しかないのです……」

そんな声がした。整備班が振り向けば、そこにいたのはマグマ星人ヨウカとメフィラス星人セイカ。

宇宙人としての姿を見せ、ヨウカは語り掛ける。

「いいですか、あれはかつての切り札。呪術で動くロボットのようなものです」

「ロボットだって!?」

「ですから、同じく命を持たぬロボットで戦う必要があるのですよ」

「だがメカゴモラでダメだったんだ!たとえ新機体でも……。ろくに、使える状態じゃないぞ!」

「それでいいんだよピーキーでないと、切り札でないと。切り札を打ちのめす切り札(アンチジョーカー)でないと、奴は倒せない。絶対にね」

その時、放送越しに凛とした声が響く。

「なら、俺達が行くよ」

「カミザワ隊が、しかしなぜ」

「ロボットじゃないとダメなんだろ?なら、あれを使うしか手段はねえだろ」

「…………」

宇野は何かを確信したように頷き、

「カミザワ隊に()()()()の使用を許可する。存分に暴れろ!」

◇◆◇◆◇

「宇野っちは話が早いな」

カミザワはそう笑うと、叫ぶ。

「各機所定の位置に付け!フォーメーション・フェスターだ!」

「「「「「了解!!」」」」」

三機のクロムチェイサーが縦に並ぶ。

ドーズは何かを察し、必死でルーリュガを抑え込む。

瞬間、クロムチェイサーが変形しだした。

それは三機ごとにそれぞれ違った形になり、そして一つずつドッキングしていく。

まるでその形はウルトラマンダイナを苦しめたロボット、デスフェイサー。

「完成!クロムフェイサー!」

◇◆◇◆◇

「デェアアアッ!!」

ルーリュガを蹴り飛ばし、ドーズはクロムフェイサーの隣に立った。目配せ(?)をし、同時に走り出す。クロムフェイサーはそのガトリング砲を撃ちまくり、ドーズは空中からスラッシュ系の光弾を放つ。「ゼェアッ!」鋭い蹴り技で追撃し、直後ルーリュガに突き刺さるは無数の銃撃。クロムフェイサーのバルカン砲である。『……っ!』

「シュワッ!」

ルーリュガがよろけた瞬間を狙い、ドーズは大きく跳躍した。そのまま着地と同時に拳を振り上げる。その動きに合わせるように、クロムフェイサーも飛び上がった。

そして――二人の攻撃は見事に直撃する!

『うああああっ!!』

叫び声と共に吹き飛ばされたルーリュガはそのまま地面を転げまわった。そこへすかさず追い打ちをかけるように、ドーズが迫る。

ドーズが繰り出したのは強烈な右ストレートだ。

「セェヤッ!!」

『くぅ……』

しかしルーリュガはそれを左腕で防いだ。ダメージはそれほどでもないのか、すぐに立ち上がると右手を差し出し、そこにエネルギーを集める。そしてその姿勢のまま、指先から光線を放った。それは真っすぐ伸びてルーリュガの胸に命中する。

『ぐああぁっ!?』

胸部に大きな穴を空けられ、ルーリュガは再び地面に倒れた。

「ネオマキシマ砲スタンバイ」

カミザワはそう命令を降す。直後、シノノメは配列系統を変え、ネオマキシマ砲のチャージに入る。

追い詰められたルーリュガは、全力の呪いを光線にして放った。ドーズはバリアを貼ったが、そのバリアは破壊され、ドーズは呪いに捕われる。

ネオマキシマ砲のチャージには時間がかかる、いよいよクロムフェイサーもダメだろうかと思った瞬間、()()()()()()()()()()()()

誰がやったかはすぐに分かった。

錦田小十郎景竜の子孫、ニシキダ隊員である。漆原から押し付けられたカラドクラッカーを用いて呪いを断ち切ったのだ。

「今だ、カミザワ隊長!!動けるだろ、奴を撃ってくれウルトラマン!!」

そう叫ぶニシキダに信頼の微笑を浮かべながら、カミザワはネオマキシマ砲発射の指示を出す。

「最大出力・ネオマキシマ砲!行けぇえええっ!!」

クロムフェイサーの胸にある赤い結晶体――単装ネオマキシマ砲が激しく点滅を始めた。それを見て、ルーリュガは慌てて駆け出そうとしたが、瞬間ドーズはスペシウム光線を照射し足止めする。

そして、ついにその時が来た。クロムフェイサー最大の必殺技、ネオマキシマ砲が放たれたのである。

「ハァアアア……ッ!」

赤い極太レーザーがルーリュガの身体を焼き尽くす。

直後、ドーズは腕をL字に組み、ドーズの誇る必殺技のバルビウム光線を放つ。緩慢に死をもたらす光線と、圧倒的熱量を誇る光線。二種類の強力な光線を浴び続け、ついにルーリュガは爆散した。

その瞬間、ドーズの目は何かを目敏く見つけた。

爆発の中から現れた黒い塊を、ドーズは左手で掴み取る。そしてそのまま握りつぶすと、その中から何か小さな物体が出てきた。

「何だ?」

───────おぞましく禍々しい箱であった。

◇◆◇◆◇

箱は地下深くに封印された。

そして禁足地として指定された。

また誰も入らなくなる『入らずの森』。

また誰も来なくなる祠。静かな空間に、誰かがひっそりと居る。かつての強者たちが眠りに就いているのだろうか、地下の空洞音がやけに優しく聞こえる。

一人の青年は特例としてここを訪れ、祠にお酒とお饅頭を供えた。

「今は君たちの時代じゃなくなったんだよ。おやすみなさい、良い夢を……」

手を合わせ、ただ一身に祈る。全てはその祠の地下に眠る彼らを成仏させるために。

彼の名はニシキダ・コウキ。

錦田小十郎景竜の子孫である。

どうか静かに眠っててくれ、と祈るニシキダであった。




とある中学校の音楽室で、幽霊による殺傷事件が発生!音楽室に乗り込んだ僕達を待っていたのは、非業の死を遂げ悪霊へと変貌してしまった哀しき少年であった……。
次回、ウルトラマンドーズ!
『レーイレーイ』
「ふぇえん……成仏して下さい……」


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