だから俺は救世主じゃねえって (ガウチョ)
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テンプレートないきさつ

この世界は独自解釈が入っている北斗の拳です。

原作と多少の差異がございますのでご了承下さい。


病気で死んで、転生した。

 

なんというかテンプレ的な流れで神に会い、能力をランダムに二つ得て、漫画の世界に転生させて貰えることになった。

 

世界観が日本の現代っぽい世界以外教えてくれなかったので、禁書◯録とかネギ◯とかを予想している。

 

そして能力ガチャというガチャガチャを二回引かされた。出たのは科学力限界突破と資源変換という能力。

 

科学力限界突破とは文字通りの科学的な発明や装置に対して、凡そ人類が到達出来ないレベルですら産み出すことが出来る情報を何処かから受信して得る能力だそうだ。

 

そして資源変換とはあらゆる物質をその質量とかエネルギー量に応じて別の物質に変換できる能力らしい。

 

ゴミから木材を黄金に変えるどころか、有害物質とかも水とかダイヤモンドに変えれる能力である。

 

これは二つともちょいハズレの能力らしい。

 

科学力限界突破は材料と開発できる環境がないと宝の持ち腐れらしく、そして資源変換は本当に資源しか変換できないので金にはなるが、戦闘能力に直結しにくい微妙な能力なんだと。

 

でも神様曰く、この二つの能力の相乗効果は凄いらしいので期待出来るそうだ。

 

そして転生させるぞと神様に言われ、有難うございますと深々と頭と下げた瞬間、俺は日本で五才ぐらいの子供になっていた。

 

天涯孤独の子供になった俺は、最初は神様が用意してくれた小さな住居がついた町工場で生活することになった。

 

十二歳になる頃には俺は二つの能力を大体把握し始めていく。

 

科学力限界突破はあらゆる開発と研究に作用するらしく、只の子供の工作でも恐ろしいまでの物を作り上げることが出来た。それを心無い悪党とかには見せるわけにはいかなかったが、兎に角生活基盤がないことには何も出来ないので、最初は怪しまれながらも近隣の住人から有料で金物の修理を請け負ったり、加工した貴金属を売ったり、便利アイテムを発明して売ったりして生活を始める。

 

そうして成人に近づく頃には俺は若いけど腕のいい職人で、更に発明家として近隣で名が知られるようになり、色んな会社の仕事を請け負うこともするようになった。

 

そうして商売や開発に勤しんでいたあの日、二十代ごろに俺は運命の時を迎えることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦19XX年─────世界の権力者が最終戦争のきっかけを生むスイッチを押し、世界は核の炎に包まれた。

 

世界のあらゆる場所が焼かれ、海は枯れ地は裂け…あらゆる生命体は絶滅したかに見えた。

 

だが……人類は死滅していなかった!!

 

テーレッテー! バァーン!! ユアーショーック!!!

 

そんな愛をとりもどしそうな音楽が流れそうな話の下りだったがもうお気づきだろうか?

 

そう、この世界は北斗の拳に限りなく近い世界だったのである。

 

いや、ね? わかってた……ここ北斗の拳じゃねえか?って。

 

だってさ、まだ十代の頃に見た新聞に凄いこと書かれてたんだもん、デビルリバース遂に懲役二百年でビレニィプリズンに収監って……。

 

デビルリバースってのは北斗の拳で有名な犯罪者でさ、過去700人ほど人を殺し、その後13回も死刑執行されて死ななかった重犯罪者なんだよ。頭は悪いらしくケンシロウの敵に言葉巧みに利用されてたけど。

 

設定だけは凄かったんだけどね。正確な身長は不明だけど20メートル位はあったし、北斗神拳より3000年くらい古い拳法使えたしね。

 

作中では結構周知されてたし、何がしかの記録や知られる理由があったと思ったら、思いっきり新聞やテレビに出てんだもん、スゲーびっくりしたよ。

 

そんなもんで色々な関連しそうな情報を調べたらでるわでるわ……。

 

一昔前の上海の抗争に閻王という謎の拳法使いがいたとか、世界的に知られた拳法に南斗聖拳の記述があったり、それに付随するように北斗神拳なる都市伝説じみた暗殺拳法が存在するって知られてたり……。

 

そりゃ北斗の拳の人達にちょいちょい北斗神拳知ってる奴が多いわけだわ。

 

まあそんでこの世界がヒャッハーな世紀末世界に変わるとわかった俺は、何とかそれを回避すべく奔走したんだ。

 

でもまあそれは何か無駄になってしまった。まあ俺みたいな身元不明の人間はコネがなきゃ何が出来るんだって話な訳だ。

 

いくら俺が人ならざる力があっても個人では出来ることに限界がある。だから俺は来るべき世紀末に備えるために、自分の周りだけは何とかしないといけないと思って何年も前から隠れて備えをしたんだよね。

 

そんでその世紀末が始まる日、俺はたった一人である場所に来ていた。

 

物資とか食料は特製避難シェルターに入れた。他にも出来る限りの自衛手段や防衛設備をこっそり作って頑張った。

 

そして世界が幾つもの核で焼かれた時、俺は特製避難シェルターの外で仁王立ちして目の前に迫る膨大な熱エネルギーを感じていた。

 

自殺したい訳じゃない、俺にはこれを生活の糧にできる術がある。

 

熟達した資源変換の能力によって俺から半径三キロ圏内の核爆発で起きた膨大な衝撃エネルギー・熱エネルギー・光エネルギー・放射エネルギーそれらを地上にそれっぽい鉄のビルの形に変換していく。

 

流石核爆発のエネルギー量だ、辺り一面にガワがコンクリートで中身が鉄のビルの形した置物が何十も乱立していった。

 

凡そ人一人が一生使っても使いきれないかも知れないお宝だ。北斗の拳世界は水と食料が恐らく最も価値があるので、この鉄の置物を変換していけば生活に不自由はしないだろう。

 

ここからだ、ここから俺の生活は始まる……目指すは世紀末でも快適なスローライフだ!



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快適な世紀末

世紀末スローライフ開始から三ヶ月ほど、俺の生活はいたって順調と言ってよかった。

 

さっそく科学力限界の能力で得た知識でこっそり地下に作った完全循環設備のアーコロジーという施設が電気と水を安定供給していて、それらを使って同じ地下に併設した完全無人の野菜工場を稼働させている。

 

適切な温度と湿度に完璧な栄養状態の土、そして計算された光合成をした野菜は瑞々しくてとても旨く、今の世界ではとても貴重で安全な食べ物だ。

 

今現在は水も電気も全然余っているので野菜工場は地上にも建設予定だし、やるべき仕事は山ほどあった。

 

さてここでだが俺の住んでいる場所を紹介しよう。

 

この北斗の拳世界において舞台は何処が基本になっているかというと、かつて日本があった場所がベースとなっている。

 

そして俺の住居は場所でいうなら千葉県があった場所に拠点を構えていた。運命の日が近付いたときはダムの近くに引っ越したけどね。

 

この終末世界になる前は科学の発展具合は建築と車の燃費性能が著しい発展をしたが、衛星による監視システム等はまだまだ脆弱で隠れることは手間ではなかった。

 

まあ地元民はまさか自分の家の周りでこんな秘密基地を作ってるとは思わなかったんだろうな。

 

それも殆ど核で更地と瓦礫と死体になったし、地盤が捲れ上がったせいで嘗ての景色は欠片も存在しないんだけどね。

 

更に死の灰で自然環境もほぼ破壊し尽くされている。ダムの水も死の灰で暫くは使い物にならないと予想はしていた。

 

だからこそ秘密基地を作るにはうってつけなので、ダムのそばに引っ越してこっそり作ったというわけだ。

 

まあ労働力も自前で作った作業ロボットを使い、不眠不休24時間フル稼働で作れたからこその作業スピードなんだけどね。

 

ダムの水もあらかた資源変換で飲料可能な真水に変換したし、この辺一帯の死の灰もガソリンや一部レアメタルに変換済みだから環境的には問題はなくなっている……俺の秘密基地から半径三キロ圏内はね。

 

本当に資源変換がなかったら生活が辛かったわ……マジで。

 

そして俺の住みかは端から見ればダムの周りにビルっぽい鉄の置物が建ち並ぶ謎の場所となってはいるが……半年ほど経つと何処からかダムの水を求めて人が訪れるようになっていた。

 

俺は訪れた人にある程度のモラルがあるなら対価を貰ってダムの水や食料を分けはじめた。

 

資源変換は制限があるらしく、水や加工した穀物は変換出来るが、肉や魚や野菜等の変換は出来ない……食料は戦略物資として扱われてるんだろう。

 

調味料は昔金銭でやりとりされたからなのか変換可能で、酒も変換出来る。あと幾つかの嗜好品も変換できた。チョコレートとか羊羮とか昔何がしかの兵糧とかに使われたんだろうな。

 

だから来た人から交換して貰うのは専ら資源変換できない加工品だ。ハムやソーセージに干物、缶詰のツナや何か調理された物が多い。

 

最近は近隣に移り住んできた奴に食材の加工を頼むこともし始めた。周囲の汚染物質や二酸化炭素を大量の小麦に変換してそれを保存に適したものに加工してもらったりね。

 

飲料水も農業用水もある程度ダムから引いたりして畑を作って貰って生活して貰ってる。

 

勿論ダムの水利権やダムと秘密基地から半径三キロ圏内の土地は俺が権利を主張して独占したけどね。

 

この暴力が支配するようになった世界で安全に水が取得できる場所は何よりも大事で貴重だ。だから俺はこの場所を選んだわけだし、先に来たのは俺なので文句は言わせない。

 

それに民主主義だ何だと他人にでかい顔されたり、先住の権利を先に来た奴等が後に来た奴等に押し付けて問題になるのはめんどくさかった。

 

だから申し訳ないがダムの水で生活するなら俺に従って仲良く生活してくれって言ったわけだ。

 

嫌ならダムの水はやれないし出てってくれて構わないと強気の態度で言ったら勿論ごねた奴等がいたし、何様だと手に武器を持って反抗しようとする集団も現れた。

 

問答無用で叩き出したけどね。

 

こちとらありとあらゆる人的問題を解決できるように武力は揃えているんだ。科学力限界突破で得た知識で開発した、人に偽装した武装ロボットをけしかけたらすっかりおとなしくなったよ。

 

何せ此処に来る人は着の身着のままとか剣とか斧とか車とか持っていても、此方は自動小銃で完全武装した人に偽装したロボットが数十体いるんだ。マシンガンで蜂の巣になりたい奴なんてそういないでしょ?

 

更に地下の秘密基地には更にヤバい武装をした偽装ロボットを数百体開発して隠しているし、俺も其なりに用心して身辺警護を最精鋭の偽装ロボットに守らせてはいたからね。

 

俺をどうにかする前に跳ねっ返り達は偽装ロボットたちに袋叩きにされてここから出ていって貰うことになった。

 

この一件で端から見るとダムから半径三キロの内側に住む武装集団を束ねる長みたいな立ち位置に落ち着いた。ダムの半径三キロから外側に住む人には殆ど避けられるようになったけどね。

 

まあそんなこんなで日々周りの環境改善と開拓をしていると、北斗の拳で有名なあいつらがついに出てきたんだよあいつらが……。

 

 

「ヒャッハー!」

 

 

それはまるで予定調和のように改造バイクと改造トラックで現れた集団。

 

弱きものから奪い、気の向くままに人を殺すならず者たち、この世界特有のバイクや車を乗り回して徘徊する奴等は弱者からは死神の集団だと言えるだろう。

 

恐らく追い出した奴等がならず者と徒党を組んだんだろうな……先頭のいかにもボスですって顔のゴツい奴の側に追い出した奴等の中にいた顔がいる。

 

こうなったらもう後戻りできないな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掃除の時間だ。



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初防衛

この話はショッキングなグロ描写が多々出て来ます。

苦手な人は後書きに簡単なあらすじを書きますので飛ばして読んでもらえると幸いです。


side あるならず者

 

 

その村の話は最近ちらほらと聞くようになった。

 

ダムの村……山に面した巨大なダムから半円を描くようにぐるりと作られた村らしい。

 

ダムからは水が豊富に供給され、村の人間はその水を使って野菜や穀物を栽培し、更には豚や牛まで育ててんだと。

 

だがそれと同時にある怖い話を聞いたんだが嘘くせぇ話なんだよなぁ。

 

 

「ダムの掟ねえ……」

 

 

曰く、ダムから三キロ圏内の内側はある集団が独占して住むことはできない。

 

曰く、納得できないならダムの水は使わせないし村から出ていって貰う。

 

曰く、もしダムの水ほしさに略奪や殺しあいをしようとすると内側に住んでる連中が半殺しにして追い出す等々……

 

あまりに眉唾な話だったが、さっき襲ったトラックにいた人間が頭が割れて死ぬ間際にそんなことを言っていたのを俺はふと思い出していた。

 

そんな巨大なダムがある村なら大量の水に食料……それも一週間分どころではない貯蔵はあるはず……。

 

こりゃあ俺様たちが腰を据えれる安住の地が見つかるかもしれない。

 

組織も頭数が二十を越えてでかくなったから大量の食料が必要だからなぁ。

 

 

「ちっ……もう動かねえか」

 

 

ズボンをはき直し、さっきまで喚いていた女の顔に唾をかける。見た目は悪くなかったがあまりに煩くてイラッとした弾みで首を絞めすぎて死んじまった……喚かなきゃ暫くは使ってやったのによぉ。

 

 

「おい、終わったのか?…げ…何だよ、また殺したのかよ」

 

「うっせえな、喚くこいつが悪いんだ」

 

 

後ろから声をかけてくる仲間にイラついて静かになった女の顔を蹴りあげると頭があらぬ方向にねじまがった。

 

 

「おいおい勿体ないことすんなよ。これじゃ立つもんも立たねえじゃねえか」

 

「死んだ女犯すなんて頭がイカれてるとしか思えねえよ」

 

 

そう言って笑うと仲間はちげえねえと笑っておもむろにズボンを脱ぎはじめた。

 

そうだこいつはハッパやり過ぎてイカれてるんだった。

 

その場を離れ、溜め息を吐いて残り一本になった紙煙草を取り出して、いつ煙草が手に入るかわからねえからスウッ…と匂いだけ嗅いで懐にしまう。

 

こんな糞みたいな生活になって唯一の楽しみの煙草も吸えず、手慰みに襲った連中の中に女がいれば飽きるまで抱いて殺す毎日に嫌気が差す。

 

別に女は生かしてもいいんだけどよ、こっちも腹が減ってるときに喚かれると弾みで殺しちまうし、食い扶持は少ない方がいいからな。

 

情報源は一つでいいってダムの村を知ってる奴を一人を残して皆殺しにしたけどよ、まあそいつの命もダムの村を襲うまでだろうからな……せいぜい役にたってもらおうかね?

 

 

そしてあの日はやたらいい天気の中、気持ち良くバイクをぶっ飛ばして例のダムの村に向かったんだ。

 

そして遠目で村が見えた……恐らくダムから流れてきた川を伝って更に村に近付いた時、カーンカーンと鐘の音が鳴った後に暫くすると空気を引き裂くような音が聞こえてきて、仲間が身体中穴だらけになって乗り物からボロボロと溢れていく。

 

何だ……何だよこれ……

 

すると殴られたような衝撃が俺の胸を襲い、見ると最後のタバコの入った左胸のポケットが胸ごとゴッソリ無くなっていた……。

 

 

 

 

お……オレ…ノ……タ……バ……

 

 

 

チュン!

 

 

あべしっ!

 

 

 

 

 

side 主人公

 

 

双眼鏡を覗いていた俺は武装ロボットの銃による狙撃の命中精度にホッとする。

 

ダムの半径三キロの境界線に新たに建てた物見櫓には一応人間のふりをした武装ロボットが潜んでいて、こちらの指示で指定目標を攻撃するようになっている。

 

外側の村に資材を提供して建てて貰った家の屋根の箱に入っている数種類の観測センサーで弾道計算しているが、数百メートル先の動く標的に命中出来ると分かっていても初めてやった事なので少し緊張した。

 

だがこれで今の防衛能力で外側の村も守れるとわかったし収穫はあったと言えるか。

 

ただ……

 

 

「………うえっぷ」

 

 

人の頭が吹っ飛ぶのを見てものすごい吐き気が出て吐いてしまった。

 

暫く肉は食えそうにないな。

 

取り敢えずあのヒャッハー連中の死体と殆ど無傷で手に入った改造バイクや改造トラックを回収に行きますかね。

 

準備を終えて二十名ほどの武装した偽装ロボットと共に数台の大型トラックと大型レッカー車に乗ってダムの外側の村に向かうと、こっちで勝手にまとめ役に指名した村長と呼ばれる初老の男性が数人の男達と共に迎えてくれた。

 

村長に軽く挨拶してると他の男達からの緊張が窺える。

 

まあ舐められるより話がスムーズに進むから良いけどね。

 

村長には今回間接的にとはいえ外側の村を被害なく事態を収拾してくれた事には感謝をされたが、此方もああいう輩を受け入れるわけには行きませんからと説明をした。

 

 

「それでもわしらは命を助けられました。ありがとうございます」

 

 

深々と頭を下げる村長に他の男達も頭を下げていく……その光景に何とも言えないむず痒さを感じてしまった。

 

村長は本当に人が良いというか、自分でもあまり対応がいいとはいえない素性の怪しい武装集団のトップにも気を使ってくれる。

 

こんな世紀末な世界でも尊敬に値する人物ゆえにお節介を焼いてしまうんだよな。

 

取り敢えずあのヒャッハーの死体に改造バイクと改造トラックを回収することを伝えた後、俺以外の偽装ロボット達が作業をする側で村長と軽く打ち合わせをしたら、俺はそそくさと一人で回収した改造トラックに乗ってダムの基地に帰るのだった。




ヒャッハー達がダムの外側に出来た村にヒャッハーしに来たよ!

村に入る前に主人公の作った武装ロボットによる銃撃でジェノサイドされたよ!

暫く主人公が肉を食えなくなったよ。


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ある村人の話

皆さん誤字脱字報告有難うございます。

というか誤字報告と修正機能なんてあったことに驚きました。


side ダムの村の外側のまとめ役

 

 

 

 

 

カーンカーンと鐘を打ちすえる音が響き渡り、わしらは遂に来たかと緊張に包まれた。

 

 

 

わしは二ヶ月前程にこのダムの村に来た初期メンバーの一人で、こうしてダムの半径三キロの外側で生活を許された者達のまとめ役をすることになった者じゃ。

 

わしらがこのダムに来たときにここは半径三キロの内側は草木が生い茂り、かつての核の炎に焼かれる前の自然というものが残るとてつもなく貴重な土地じゃった。 

 

だがそこには先に住んでいた集団がおり、わしらはその集団によって誰一人とて半径三キロの内側に住まわせて貰うことは叶わんかったのじゃ。 

 

その集団のリーダーに勿論反発した者達もおる……貴重なものじゃし分け合って有効活用すればいいとな。

 

そういう声がメンバーの中で段々と大きくなり、しまいには暴動に発展しそうになったとき、彼らは最もわかりやすい手段で解決したのじゃ。 

 

暴力による鎮圧……ダムの内側にすむ連中には何処か軍人っぽい屈強な男達がおっての、わしらと一緒に来て喚いていた一部の奴を問答無用でボコボコにしてしまったのじゃ。

 

更にはもうこの世界でお目にかかれる事はない筈の自動小銃や拳銃を取り出して銃口をわしらに向けてきた。

 

これにわしらは鼻白んだ。わかりやすい死の恐怖が目の前に突きつけられたからのう。

 

 

「貴方達の話は良くわかりました。此方はダムから三キロ外側ならどう生活しようと構わないと言ったんですが、伝わらなかったようですね」

 

 

その集団のリーダーなんじゃろう20代くらいの青年がため息と共に此方を見ておる。

 

 

「ならば話の分かる人達が来るまで追い出すか……」

 

 

それとも……と青年の言葉に続くように周りの男達の自動小銃のトリガーにかかる指に力が入る……わしはその時前に出て殆ど脊髄反射で土下座をして謝り、そちらの言い分を全て聞くと叫んだんじゃ。

 

 

其からの話はトントン拍子じゃった。

 

 

最初の反発してボロボロになったメンバーが追い出された後、彼等はダムから三キロ外側なら本当に何も干渉はしてくることはなかったんじゃ。

 

それ所かダムから三キロ離れてさえいれば、ダムから生まれた川の使用も黙認されておるし、日が経つと子供もいるわしらのテント住まいを見るに見かねたらしくての、煉瓦や建築資材を融通してくれて、簡易的な煉瓦造りの家まで作ってくれるようになり、更には野菜や穀物の種まで融通してくれるようになったんじゃ。

 

 

「三キロの掟さえ守れば私達は共存共栄できますよ」

 

 

あの時の去り際のリーダーっぽい青年の言葉は本当じゃった。

 

 

あの青年はたまにこの外側の村に来るようになり、怪しい奴等が来たときの警報代わりの鐘や何だかよく分からない箱を煉瓦造りの家の上に置いたり、貰った種の栽培状況なんかを聞いていく。

 

青年自身はあまり根の悪い人間ではないんじゃろうな。

 

返せるものなど何もないわしらを自立できるように細々とした支援を続けてくれているからの。

 

じゃが面倒ごとがひどく嫌いで、あまりわしらの事に首を突っ込みたくはないんじゃろう。

 

しかし治安の維持のための暴力装置として彼等は機能しているのも事実なんじゃ。現にこのモラルの崩壊した世界でこの村の人間は秩序をもった生活をしておる。

 

近いけど遠くて細い繋がり……。

 

こうしたわしらの関係はある日決定的に変わることになったのじゃ。

 

 

「何ということじゃ……」

 

 

鐘の音に続く様に彼方から響く重低音に、今の暴力の支配する世界の主役とも言うべき奴等が迫ってきていた。

 

わしらには奴等に対抗できる力がないためにこうして逃げてきたんじゃが……彼等には関係のない至極簡単な問題だったようじゃ。

 

あれはハリボテで実は弾が入っていないと言われていた銃器での制圧……一人だけ見知った顔のいる死体達にわし達は言葉もなかったが、何故こやつが此処にいるかはわし達が推し量れるものではない……。

 

じゃが

 

 

「生き残っている者はいないようですね」

 

 

あのならず者達より遥かに綺麗で整備の行き届いたトラックやレッカー車に乗ってあの青年と武装集団がやって来たのじゃ。

 

わしと戦える男達が率先して彼等の前に急いで向かい、やって来た彼らを迎える。

 

皆が皆恐怖を感じておる……あの者達は間違いなく何かしらの軍事訓練を受けた者たちなのだ。

 

青年以外の男達は無駄口一つ言わずに青年の指示に従ってやって来たトラックに死体を積み込んでいく。

 

話を聞くと彼等は死体と今回の襲撃に使われた乗り物の回収に来たのだそうじゃ。手伝いを申し出ると丁重に断られたがの。

 

あと死体の中で一人だけ仲間だった者は弔うか聞かれたのじゃ。

 

出ていったこやつの顔を覚えておったとは……含むところは無いわけではないが死んでしまえば怒りも湧かん。こちらで弔うことを告げれば何も衣服が剥ぎ取られることなく返されることになる。

 

わしは彼等に深々と頭を下げて感謝を示した。

 

この弱肉強食の暴力が支配する世界で、彼等はわしらがある程度の規律や掟を守る限りは生かしてくれる事を感謝せねばなるまい。

 

わしに続くように周りの男達も頭を下げていく……皆不安じゃった、ここに新たに流れて来る者の話を聞いてならず者達が弱者に何をしていくのかを。

 

あの青年をリーダーとする集団も何かの弾みでわしらをいたずらに殺していく集団なのではないかと……。

 

だが今回の事で彼等に対する村の人間の態度も変わるじゃろう……

 

わしらは生きていける

 

人が人として尊厳を失うことなく生きていける場所が、ここには確かにあるとわしは感じたのじゃった。



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日々の変化と原作の足音

ストックが失くなりました。

二話投稿とかするもんじゃないね。


最初の襲撃から数ヶ月経つけど、最近俺に対するダムの外側の人達の態度の変化に戸惑っている。

 

なんか好感度がモリモリ上がっているのだ。

 

相変わらずダムから三キロ圏内に住むことは許してないし、何か揉め事が起きても殺しとか起きない限りは黙認してはいるんだけどね。

 

そしてならず者の襲撃も両手の指を超える数来たけど、全て撃退か皆殺しをしていると何故かダムの外側の村に移住してくる人間がじわじわと増えていってる。

 

 

「ここの治安の良さが噂になっているようですじゃ」

 

 

たまに外側の村の外に向かうと村長がそう説明してくれるが、彼等は俺の事をにこやかに出迎えてくれるようになったな……貧すれば鈍すると言うけどここの人達も最初は警戒心バリバリだったんだけどね。

 

後変化としては新たに人がトラックとかバイクとか徒歩で来るんだけど、村から見える距離に来て警告の鐘が鳴ると、乗り物に乗っている人は乗り物から降りて白っぽい何かを巻いた旗を振って歩いてくるようになった。

 

まあ狙撃されるなら無抵抗だとわかりやすいアピールしてくれた方が良いからね。

 

すると外側の村から人が何人か出て来て、その集団に向かうと武器とかを預かり、村の基本的な事を説明して村の人が乗り物を決めた場所に駐車しにいき、やって来た集団は荷物を持たすと歩かせて村に案内していく。

 

襲撃が増えたために問答無用で攻撃しないように村の方から提案された取り組みだ。

 

まあそれで最初に犠牲になるのは村の人間だから俺は許可したんだけど。

 

すると案の定やっぱり武器を隠した奴がいて、何回か村の人間が人質に取られそうになったりした(その瞬間頭を狙撃で吹っ飛ばした)。だからそれ以降は偽装ロボットを誘導係の護衛として使うようになったんだよ。

 

研究が進んで人工知能のバージョンアップが進んだ偽装ロボットは自然な受け答えが出来るように調整したので、端から見るとこいつらがロボットだとは解りにくいだろう。北斗神拳とか南斗聖拳をくらえばあっさりバレるけどな。

 

そして完全武装の偽装ロボットが護衛についていると流石に人は無駄な抵抗せずに村に入るようになっていった。

 

武器は取り上げてるし巡回に偽装ロボットを派遣しているから、流石に馬鹿な事もしないだろう。

 

夜も煉瓦の家の屋根にあるセンサーが監視しているからこそこそと悪巧みも出来ないだろうし……やったら問答無用で闇から闇へだからな。

 

そんで自然と世紀末的なならず者も町の中で増えるわけなんだけど、そうするとやっぱり軋轢というか小さな問題とか喧嘩が増えてくる。

 

水は一応あるし食料も生産してるけど、それでも限界がある。人口が増えれば消費量も比例するから何とか食料増産と人を受け入れるための仕事を増やしたいと、あの外側の村に行った時に村長が相談してきたんだ。

 

まあそれならちょうど良いかと俺は思い、ある仕事を頼むことになる。

 

 

コッケー! コッコッコッコ……。

 

 

数日後、外側の村にそんな鳴き声が鳴り響いた。

 

 

「これはまた大量ですな……この鶏の飼育を仕事にさせると?」

 

「ええ、まあ鶏は結構雑食なので育てるのが楽ですからね。卵は栄養がありますし、卵を生まなくなった鳥も捨てるところはありませんから」

 

前に労働力兼食料として数頭の豚や牛の飼育をお願いしたけど、今回は百羽近い鶏を外側の村に融通した。

 

まあ実は豚や牛等の家畜はダムの側に建設した建物の中に新たに開発した完全人工家畜出産装置から生まれた物で。食べても害がないか細かいことは黙って外側の村の人で検証していた物なんだけどね。

 

核の炎で焼かれる前に確保した豚や牛から得た精子や卵子を使い、子宮を模した出産装置から急速成長させて二週間ほどで生まれたこれら家畜達は、遺伝的な欠陥や障害はないってわかってたけど何となく安全性に疑問が残ったんで村の人で食べてもらって検査したというわけだ。

 

まあ村の人は食べても問題なかったけど、ちょっと罪悪感があったから、家畜の餌以外にも野菜の種とかガソリンを追加で融通したんだけどね。

 

 

「あと確か鳥の糞は肥料に使えると聞いたんですが、肥料作りは大変と聞きますし、それを村共同の日雇いの仕事にして労働力として使ってはどうでしょう?」

 

「ふむ……確か最近来た者の中に農業に詳しいものがおりましたから、聞いてみましょうか」

 

 

暫くすると鶏の増産と鶏糞の堆肥作りが始まる。

 

そして外側の村では堆肥作りが食べ物やガソリンを支給してもやってほしい仕事として拡大していった。

 

理由は簡単だ、鶏糞は兎に角臭いのだ! もう滅茶苦茶臭い。

 

農業に詳しい奴が堆肥作りは村の居住地域から離れてやってくれと言った理由が直ぐにわかった。

 

 

「クッセー!!」

 

「何か目に染みるレベルだな!」

 

「朝何も食ってくんなってこういう事だったのか!」

 

「吐くんじゃねえぞ! 吐いたらそれも片させるからな!」

 

 

そんな怒号が飛び交う職場は、鶏糞と土やら何かを混ぜた作業中の堆肥は湯気が立ち上る程に高熱を発し、それに負けないレベルで異臭を放っている。

 

仕事の報酬に釣られて来たならず者もこれには参っていたよ流石に。

 

まあサボろうとしてもちゃんと監視もいるし、働けば報酬も貰えて仕事終わりには貴重な石鹸を使って体を洗っても良いというおまけもあるので、やっていく奴は順番待ちになるほど増えていった。

 

あと村では一週間鶏糞の堆肥作りをした奴に対して優しくなるというか、村に受け入れられた雰囲気になるんだよね。

 

そうして食料生産量が増えて更に人を受け入れ村がどんどん大きくなって数か月後。外側の村にちょっと特殊なならず者達が現れたんだ。

 

 

 

 

 

 

「俺様は南斗聖拳を受け継ぎし者ウゾー様だぁ! ありったけの食料とガソリンを持ってこーい!」

 

 

乗り物に乗ってやって来た彼は南斗聖拳の伝承者らしく、デカイ剣(・・・・)を振り回しながらそう叫んでいる。

 

迎えに来た外側の村の人は恐れ戦くと同時に、自分達の同行者を振り返って見た。

 

その同行者は屈強な体と纏う空気は歴戦の戦士といった所だろうか…ずいっと村の人より前に出ると。

 

 

「今すぐその玩具や持ってきた武器を車のボンネットに全部出せ。さもなくばお前の頭がこうなる」

 

 

同行者は車のサイドミラーを指差した、すると。

 

ドチュン!

 

遠方からの正確な狙撃によってサイドミラーが粉々に吹っ飛ばされた。

 

やって来た村の人もビックリする射撃精度だ。

 

そして自分の頭より遥かに小さなサイドミラーの最後を見た南斗聖拳の男は顔が固まり、暫くすると。

 

 

「で、出来心だったんです……」

 

 

すごすごとボンネットにデカイ剣や武器になりそうな物を並べていくのだった。



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本物の南斗の男

今回の話には原作の改編が入ることをご理解ください。

そして皆さんのご感想や誤字報告ありがとうございます。


南斗聖拳は実は北斗の拳において門下生が数千もいる巨大拳法派閥だと言われてもピンとこないだろう。

 

俺もビックリしたんだけど漫画だとわかりやすい南斗聖拳の使い手は六人位しか出てこないけど、実際は空手とかムエタイやボクシングレベルで南斗聖拳って使える人がいるんだよね。

 

理由は簡単だ、彼等南斗聖拳の師範代クラスは教える情報を絞りながら広く浅く広めていった歴史があったそうなんだ。

 

そしてそのネームバリューに便乗する輩も現れて、本当の南斗聖拳かどうかすらわからなくなるほど南斗聖拳が乱立するようになっていったらしい。

 

 

「俺も確かにこれは怪しいと思ったけどよ。それでも師匠はまともな人だったから南斗聖拳だと信じて教えを受けたんだよ」

 

 

南斗聖拳の使い手らしいウゾーはそう言いながら飯と水を飲み食いしている。

 

彼は此方で捕まえた後、結局行き場も食料もないから外側の村で堆肥作りに従事すること1ヶ月、聞けば他所の村から飢えて出てきたので初犯らしく、ここでの生活がよかったせいか毒が抜けて外側の村に定住してしまったので、俺は彼と南斗聖拳の話のすり合わせをしに村まで来て飯を奢っていたのだ。

 

そんでビックリしたのが確かに彼は南斗聖拳っぽい技が使えるということ。

 

素手では無理だが剣を使えば岩を豆腐みたいに賽の目状に切れるし、鍛練の賜物なのか垂直に三メートル程ジャンプも出来た。

 

 

「ガキの頃南斗水鳥拳の演舞を見たことあんだけどよ、演舞を見たとき生まれて初めて鳥肌がたったんだ。あんな綺麗で恐ろしい舞いはねえってな……だから俺は南斗聖拳の門を叩いたのさ」

 

 

才能がないって水鳥拳の師範代には相手にされなかったけどな、と寂しそうに笑ったウゾーの顔が印象的だった。

 

恐らくレイの前任か兄弟子といった所だろうな。やはり其なりの才覚がないと伝承者にはなれないらしい。

 

そう思うと一子相伝なのに四人も伝承できそうな弟子を集めたリュウケンという人はたいした人物だよね。一人は何かハズレっぽいけどな。

 

それで南斗聖拳の話が聞けて満足した俺はダムのほうに帰ったんだけど、後日俺はそれが悪手だったと痛感することになる。

 

このダムの外側の村には交易で来ている商人のような奴もいるんだが、そいつらがウゾーの一連の騒ぎを元いた場所に帰ったときに周りの人間に面白おかしく吹聴してしまったんだよ。

 

南斗聖拳の人間を倒した村がある

 

これぐらいはかわいい方だが、其処にどういう経緯があったのか尾ひれ所か二足歩行から究極進化したミュータントみたいにネジ曲がり。

 

あの村には南斗聖拳に恨みを持つものが集まり、南斗聖拳を根絶せんと準備をし続けている。

 

何故かこんな感じに話が収まったのである……なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまねえ代表! 俺があんな所で叫んだばかりに!」

 

 

目の前に額を割れんばかりに頭を下げるウゾーに俺はため息をつく。ついでに俺は皆から代表と呼ばれるようになった。

 

ウゾーとの邂逅から三ヶ月……最近この村は更に頻繁に人がやって来るようになった。

 

やれ打倒南斗聖拳と集まって来る集団と、やられる前に殺れ! といわんばかりに南斗聖拳の使い手の集団が大挙して来るようになったのだ。

 

村長も困り果てていたけど、俺はこうなりゃシンプルにやるっきゃない! と、双方言い分は聞かずに説得(物理)して、今なお拡大している堆肥作りに全員ぶちこんでやったのだ。

 

この俺が新たに用意した対拳法家仕様の偽装ロボットは並じゃないんだ! 全員見事説得(物理)することに成功したよ。

 

すると今までの堆肥作りの人員があぶれたので、新規に煉瓦作りと新しく世話を始めたヤギとか数百に膨れ上がった鶏の世話とか仕事を増やして割り振っていく。

 

他にも増えた鶏の鳥小屋とか厠の建設に人の排泄物の回収作業も始まった。

 

人が増えれば糞尿の量も凄くなっていくから、これも堆肥にどうだって話が出たけど。農業に詳しい人曰く人糞は堆肥にするのが難しいらしいからやめた方が良いと聞き、それは此方で引き取ると願い出た。

 

俺は詳しくは言えないが上手く処理するよと説明すると、何か村長達に感謝というか尊敬の眼差しを更に向けられるようになった。

 

いや貴方達に融通している小麦とか調味料の一部、その人糞から資源変換してるのだからね?

 

言わねえけど人糞からかなりの割合の塩とか胡椒とか資源変換して配給してるからね?

 

……言わねえけど。

 

 

そうやって俺は程々に外側の村に協力しつつ生活していると、ついに南斗の大物がここにやって来ている事を風の噂で知ることになった。

 

 

 

さて、北斗の拳において解りやすい勢力拡大を図っていた人物を知っているだろうか?

 

原作では関東一円を実効支配する男

 

ケンシロウに七つの胸の傷をつけた男

 

愛する女のオーバーテクノロジーレベルの精巧な人形を作り、それに話しかけちゃう男

 

そして関東一円を実効支配する理由がその女の為(女は嫌がっている)というヤバい奴

 

名前はシン……北斗の拳に於いてケンシロウが初めて相対した宿敵(とも)である南斗六聖拳の一つである南斗孤鷲拳(なんとこしゅうけん)の使い手で。最近聞くようになった凶悪非道の暴力組織である【KING】のリーダーであった。



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殉星の落日

今回長くなったので二部構成になります。


side シン

 

こうして見ると中々の発展具合じゃないか……。

 

特注で作った私を乗せる玉座をつけた大型バギーはある噂のダムの周りに作られた町といっても良い規模の村の手前まで来ている。

 

ユリアの愛を私一人の為だけに……ケンシロウから奪ったは良いが、未だにユリアの心はケンシロウに囚われたまま……。

 

だからこそ私はユリアの愛を得るためにこうしてユリアの為だけの町を作る軍を組織し、私はこの一帯を支配しようとしていた。

 

だが私が集めたKING軍は既に数百の数に膨れ上がり、この軍を維持するには大量の水と食料が必要になっていく。

 

どうしようもない奴ばかりだが、それでも喉が乾き腹が減るこいつらを食わせなければならん。ゆえに何処かの食料や水を得ることのできる場所を調べていると、興味深い村が存在することを知ったのだ。

 

ダムの側に立てられた南斗聖拳を憎む村。

 

噂自体が嘘だったらしいが、どういう手段を使ったのかその嘘を信じた南斗聖拳を憎む者と南斗聖拳を多少なりとも使える者をどちらも村に取り込んで大きくなった村があると更なる噂になったのだ。

 

そしてあの村は膨れ上がった人口を受け止めるだけの水と食料があることの証明にもなっている。

 

ならば我らKING軍が今最も求めているもの……ユリアの為の町を作る為にあの村には尊い犠牲になってもらおうではないか!

 

ダイヤ、クラブ、ハート、スペードを側近に数百の兵士を従え、私はその村に襲いかかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side 主人公

 

「ついに来てしまいましたな代表……」

 

 

村長の言葉に俺も黙って頷いた。

 

南斗聖拳でも大物であるシンが生み出した悪逆非道のKING軍は、最近で最も知名度を上げたヤベー奴等である。

 

襲われた村はペンペン草も残らないと言われる死と暴虐を振り撒く奴等の襲撃は、その軍の大きさゆえに何日も前から噂に成る程だったもんなあ。

 

幸いなのは原作より軍の規模が小さいらしいという事だろう……新開発の高高度を飛べる飛行ドローンを使った偵察で、サザンクロスシティと呼ばれるようになる場所に本物のユリアがいることが判明しているからだ。

 

高精彩のカメラで見たけど、カメラ越しとはいえ確かに実際に見るユリアはとんでもなく美しい女性だった。

 

世紀末前の情報紙とかテレビで出てくる美女とかと比べても勝るとも劣らずの美しさにちょっと見惚れちゃったもん。

 

ありゃ男に何か含みがなくても彼女が関われば情欲が掻き立てられるのも納得の美貌だったね。

 

流石南斗と北斗の男を骨抜きにした実績は伊達ではない。

 

そんな彼女の為に暴虐を以て町を献上しようするシンは愛に殉じてると言えるかもしれない。

 

だけど俺から言わせれば良い迷惑だし、KING軍が来るって分かると南斗聖拳の使い手って言われてた奴等がどんどん村から逃げていって大変だったんだ。

 

打倒南斗聖拳ってやって来た人は村に残ってくれて、今日までKING軍を迎え撃つための準備を手伝ってくれたけどね。

 

南斗聖拳で暴虐してたのってこのKING軍とあと二つの流派の軍だからそりゃそうなるか。

 

外側の村の村長と共に少し前に防衛目的で作った高台から見えるKING軍の編成は、二百近いバイクやトラックやジープに人が複数乗っているので、単純に五百人位は兵士を揃えたことになる。

 

よくもまあここまで揃えたもんだけど、残念だがお前達の大半は村に辿り着けんぞ。

 

 

「それでは村長…私は準備がありますので手はず通りに避難をお願いします」

 

「はい、ですが私は皆の準備を見届けたらここに残ろうと思います……こんな老いぼれでも食い扶持になってしまいますからな。他の老いた者達も残るそうですよ」

 

 

そう言った村長の目はとても凪いでいた……これが死を定めた人間の目か……この世紀末では大半の人がこんな目をして死んでいくんだろう。

 

 

「……まあ多少喧しくなりますが村長は休んでてください。私も死ぬ気はないですし、彼等もヤル気満々ですからね」

 

そう言って高台から下を見ると今回の村の襲撃で戦うといって武器をもった人が百ちょっと、そしてダムの内側に住んでいると思われている完全武装の偽装ロボットが同じく百ちょっと。

 

合計二百ちょっとの人とロボットの混成部隊がダムの村の全戦力となっていた。

 

まあ秘匿兵器は山ほどあるけど此れぐらいが怪しまれない限界だろうな。

 

準備万端! 後は結果を待つばかり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 三人称

 

 

負けるわけがない……KING軍の連中は自分の勝利を疑ってなかった。

 

確かに今はほぼ存在が確認できない銃器がこの村に存在していることはわかっているが、例え撃たれてもこの数なら自分じゃなくて他の誰かだろうという妙な自信が全員に蔓延していた。

 

だが…彼等は相手が悪すぎた

 

 

 

 

 

 

 

 

ドドドドドドッドドドドッッガアアアアアァァァァッァァン!!!!

 

 

 

丁度KING軍が村まで約150メートルまで近づいたとき、彼等の足下から鈴生りのように地面が大爆発したのだ。

 

その余りの威力に局所的に軽度の地震が起きたほどである。

 

代表は最近溜め込んだ人糞をせっせと粘土状の爆発物に資源変換し、ダムの秘密基地に最近導入したオートメーションの工作機械から起爆装置を大量に生産。

 

更に光学迷彩を搭載した飛行ドローンを使ってKING軍の布陣を偵察していたので、それを予測して村の有志を募って地面にこれでもかとリモート起爆の爆弾を埋めていたのだ。

 

その数約300!

 

村の人は万が一を考えて建設途中だったレンガ造りの鳥小屋を補強して避難。

 

更に自陣が破られた時用の避難に使う大型トラックを貸し出し。虐殺が始まる前に皆は逃げれるように準備をしていたのである。

 

しかし少し無駄になったかもしれない……この爆発によって衝撃波と共に石や砂を派手に巻き上げ巨大な砂埃となってキノコ雲を作る現状に、村側の戦える者のまとめ役になったウゾーはそう感じていた。

 

 

「なんだよこれ……」

 

「俺達は何を埋めてたんだ?」

 

「プ、プラスチック爆弾って奴だったのかあれ?」

 

「ダイナマイトすら見たことねえんだ。俺が知るかよ!」

 

「ていうかダムの内側の連中こんなヤバいもの隠してたのかよ!」

 

 

未知とは恐怖であるが、無知とは時に人の行動に枷をつけないものへと変貌する。

 

ただの爆弾としか聞いてなかった建物の陰に隠れていた彼等は、自分達がいかに危険な物を取り扱っていたか今気づいたのだ。

 

 

「……怖じ気づくなよお前ら。少なくとも代表とあの人達は結果をちゃんと知ってて準備していたんだ。俺は馬鹿だが俺達を率いる人は馬鹿じゃねえし、こうして居場所をちゃんと作ってくれた方達なんだ。嫌ならこれが終わったら出ていきゃいいんだ」

 

 

ウゾーの言葉に騒いでいた人間も黙っていく。

 

嫌なら出ていけば良い……この村は最初、ダムの内側で完結していたのを人がやって来て今の状態になった村だ。

 

見ず知らずの流れ者を食わせるために住環境を整え、ある程度の治安維持を行ってモラルの低下を防ぎ、隠し事があったとしても一度として無体な事はしてこなかった彼等に何の文句が言えるだろう。

 

ここ以上に最低な場所は嫌って程見てきた、だがここ以上に住みやすい場所が他にあるだろうか?

 

水は飲める、飯は食える、仕事はある。

 

 

「ここには昔ほどじゃないが俺達が核の炎で焼かれる前にしていた営みってやつがある……俺はここに来て日が浅いけどよ……ここの人達が悲しむ顔は見たくねえ」

 

 

ウゾーはそう呟いて返して貰った愛剣を握り直した。

 

砂と土ぼこりで錆び付き始めていたそれは返ってきた時、油を塗られ新品同然のように研ぎ直されていた。

 

自分は頭が悪い、だがあの人達についていくのは間違いじゃねえ……ウゾーの頭はシンプルだった。そしてウゾーのそのシンプルさは周りに嫌というほど伝わった。

 

 

「そろそろだな」

 

 

そして鋼のように硬質な声が耳につく。

 

ウゾー達以外のダムの内側の戦士達、その歴戦の空気に周りの人間のざわめきも引いていった。

 

今回ダムの内側からは百人位の人が出張っているが、全員が統一した装備を身に纏い、全員がまるで一つの生き物の様に行動している。

 

これが軍隊……これが規律……。

 

彼等は無駄口を話さずに主の到着をまっていた。

 

 

「生存者はどれくらいです?」

 

 

暫くして今回の作戦の立案者がやって来ると、戦士達はキビキビと説明する。

 

 

「確認できるのは四割、うち軽傷と思われるものは恐らく二割、そしてその軽傷の中におそらく本命と思われる者がいます」

 

 

代表と呼ばれるその青年は今は貴重な双眼鏡を使って砂埃の中を見ている。

 

背丈はひょろりと高く、体もそれなりに鍛えた程度、だがダムの内側の戦士達は彼の手足であり、目であり耳であった。

 

そして彼の良くも悪くも面倒臭がりな性格が、この村の治安を守っていると言っても過言ではない。

 

あの戦士達は何故か彼の指示でないと動かない。ゆえに彼が村の問題を面倒臭がって早急に解決させているのでこの村は発展していったと言っても過言ではない。

 

二、三日に一回ふらりと護衛と一緒に来ては村長に話を聞いて、問題を解決していく。

 

彼がこの村の武力を握っている現状なら、ウゾーは大丈夫だと思えるのだ。

 

 

「よろしい、では皆さんはうちの部隊と一緒に残存勢力を掃討してください。後南斗聖拳のシンはかなりの手練れですから、見つけた場合は人数が揃うまで無闇に戦いを挑まないようにして下さい」

 

 

それでは作戦を開始します……

 

 

その言葉に押されるようにダムの村から約二百ほどの人とロボットの混成部隊が進撃するのだった。




誤字脱字報告ありがとうございます。


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殉星の落日2

今日ね、日刊ランキング見てたら自分のこの小説が三位に入ってたんですよ。

小躍りするほど嬉しかったんですけどね。

今見たら日刊ランキング一位になってたんですよ。

見た瞬間鳥の奇声みたいな声出ました。

因みにシン編は終わりませんでした。


まあ解ってはいたんだ、北斗の拳の拳法家は普通じゃないって。

 

普通ならあのリモート爆弾の爆発に巻き込まれたら全員爆死してもおかしくないのに、生きてる奴が百人近くいるのだけでも驚きだ。

 

更にその中の二十人位は軽傷で戦闘能力が落ちてないって……もうヤバいとかしか言えないよな。

 

だからこそ偽装ロボット百体に取って置きの対拳法家仕様の偽装ロボット四体を護衛に、俺と村の戦える人合計二百弱で向かったんだけど。

 

ビックリしたのは村の人達強いのよ。

 

流石に拳法家クラスはいないけど、ウゾーより少し弱い位の人が結構いて、結構重傷でも襲ってくるならず者達を五人くらいで押さえ込んでボコボコにしてんだよね。

 

流石は世紀末にいきる人達だ、中々に心強い。

 

まあ比較的戦闘力高めは偽装ロボットとウゾーが頑張って倒してるけどね。

 

 

「くぞおぉ! 銃なんて卑怯だぞぉ!」

 

 

今も偽装ロボットに体を穴だらけにされた顔に隈取りをつけた奴が死にそうなのに文句を言っている。凄い生命力だ。

 

 

パンッ!

 

 

「ぺりえっ!」

 

 

俺の護衛のロボットがそんな戯れ言に付き合わずに、腰に着けていたハンドガンで止めを刺したけどね。

 

それで残るはあの大暴れしている二人と数人の生き残りだけど……。

 

 

「こいつなんなんだ! 武器が効かねえ!」

 

「いてえよおぉぉー!」

 

 

暴れている片方は身長180ある俺が見上げるほどの巨体に、信じられないレベルの肥満体……あれがハートか。

 

ハートの周りには何か凄い衝撃でひしゃげた偽装ロボットが何体か転がっているし、村人も死者は出てないけど重軽傷者は既に二桁は超えるほど出ている。

 

転がっている偽装ロボットが庇ってくれたんだろう。

 

転がっている偽装ロボットはまだ戦えるが、あらかじめ一応致死レベルのダメージを受けたら死体の振りをするように指示を出しといたんだ。

 

俺の科学力は出来るだけ秘匿したいんだけどこりゃ無理だな。

 

手っ取り早くKING軍が来るまでに飛行機による空爆も考えたけど、飛行物が既に皆無の世紀末にそんなもん飛ばしたらあっという間に噂になってダムの外側の村に人が殺到しかねない案件だからなぁ……。

 

いくら科学力限界突破の能力があってもそんな大型の飛行物を作る工場なんて目立つもん作れないし、まずそれを行える工作機械が開発できてないんだ。

 

開発しているのが俺だけという致命的にマンパワーが足りてない状態だから、飛行機云々は年単位の時間がかかりそうなんだよね。

 

今でもダムの内側に侵入してくる奴の対応に苦慮してんのに、飽和気味のダムの外側の村の入植者を増やすわけにはいかないんだよ。

 

だから兵力を絞った状態でのKING軍迎撃作戦だったけど、早まったかもしれん。

 

 

「うわぁぁー!」

 

 

そう叫んで背中から指を生やした村の戦士は、そのまま力なく横にふっとんで地面に転がっている。

 

ついにシンによって村人に死者が出たか……偽装ロボットも何体もぶっ壊されてるし、こうなりゃなりふり構ってられん……現状の切り札を切るしかない。

 

 

「青はあの太っちょに、赤はシンの足止めを頼む」

 

「了解だ」

 

「随分と歯応えのありそうな相手ですなぁ」

 

 

俺の指示に青い奴は淡々と、赤い奴は随分と嬉しそうに答えて向かっていく。

 

同じ性能の人工知能の筈なのにどうしてああも性格に差異が出たんだろうなマジで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 三人称

 

 

シンは忌々しげに手刀で突き殺した男を投げ捨てると、現状にイラつくように舌打ちした。

 

かき集めた兵力五百弱をまさかこんな所で失うとは思わなかったからだ。

 

 

「くそっ! 爆弾とは小賢しい連中だが……しかし何だあの人間どもは?」

 

 

シンが今回一番驚いたのは村の奴等の中に妙な人間が紛れ込んでいる事がわかったのだ。

 

全員自動小銃で武装しているが、何がしかの拳法を学んだ動きではなく、何人か貫いた手応えに怪しんで傷口を見れば、表面は人っぽい皮を被った機械の中身が見えたのである。

 

(銃をもった者は全て機械仕掛けの人形というわけか……だが俺を殺すにはいささか手ぬるいな)

 

確かにスピードもパワーもそれなりではあるがその正確な動きが仇になって射線も読みやすく、手下や人形を盾にして銃撃をしのいで攻撃して倒しているので、現状シンは服が汚れた程度でダメージは皆無といってよかった。

 

それに機械人形のことを村の人間は知らなかったらしく、人形が死んだ後に晒した機械の部分に動揺していることがわかった。

 

機械人形以外は大したことがないとシンはそう感じていたが。

 

 

「ファックユー!」

 

ダガガガガガガガガガ!!!!

 

「アルプスッ!」

 

「ピザッ!」

 

「ボルシチッ!」

 

「タコスッ!」

 

 

生きている手下の所にふらりと現れたロングコートを着た青髪の男が伸縮稼働するマガジンでくっついた妙な形の大型2丁拳銃を振り回して手下を悉く撃ち殺し、そのままハートに向かっていったではないか。

 

 

「何だあいつは?」

 

 

シンの呟きに機械人形達の中から出てきた大男が答えた。

 

 

「あの者のコードネームは青……まあ皆にはブルー殿と呼ばれている者でしてな。ああして銃の扱いには滅法強い御仁なのよ」

 

 

その大男は長い髪を後ろに纏め、拵えのしっかりした朱槍を担いで前に出てくると槍をヒタリと構える。

 

その大男が出てきてから周りの銃撃を行っていた機械人形達も射撃を止めていた……どうやら隊長格の機械人形らしい奴が来たようだ。

 

 

「フン……ならば貴様は何者だ?」

 

 

人形の癖に金色に塗られたキセルを咥えた男は人好きのしそうな顔で、獰猛な肉食獣のような殺気を振り撒きながら。

 

 

「拙者はコードネーム赤……まあ皆からはケイジと呼ばれておる者だ。お主はまっこと強い武人のようじゃ……ゆえに主からの命でそのお命頂戴致す!」

 

 

やけに古風な喋りをした男は裂帛(れっぱく)の声を置き去りにして、その豪槍をシンに向けて放つのであった。




人物紹介

コードネーム【青】
原哲夫先生が作画を行った漫画の主人公。
マイナーである
やたらファックユーと叫ぶ
300才のロボットと17才の少年が融合した新人類で、融合後は自分を317才だとゆで理論みたいな年齢の数えかたをしていた。
使う武器はオートマルチラウンドマグナムマシンガンサラマンダーで死角はないらしい。

コードネーム【赤】
原哲夫先生が作画を行った漫画の主人公。
こちらは超メジャーである。
キセルが出たら激熱である。
琉球編は忘れられがちである。
明らかにこの漫画の影響で後の歴史上の人物像が固まってしまった人がいる。
だがそれがいい。


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殉星の落日3

ランキングに乗って感想がめっちゃ増えてビックリです。
一応全部目を通して拝見していますが、実は原哲夫先生の作品でしっかり見たのがあの二作と蒼天の拳だけなんですよね。
なので他作品はわからないか、中々使いにくいキャラ設定で出せないという事をご了承下さい。

ついでにもうストックがないです。


「どおりああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

「はああああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

ガカアアアアァァァァン!!!!

 

朱槍と手刀が交差し、空気が破裂したような音と共にシンとケイジはお互いに二歩下がった。

 

シンはあくまでも徒手空拳で挑み、しかしてケイジは朱槍をきつく握り直す。

 

 

「その手……槍と打ち合って無傷とはどういう理屈でござる?」

 

「南斗聖拳は外功を高め、硬気功の極みを手にする拳法だ、たかが槍程度で俺の手足に傷がつけられると思うなよ」

 

 

シンの強烈な踏み込みからの無数の突きが放たれ、ケイジは朱槍を枯れ木の枝の如く振り回してシンの突きを払い落とす。

 

しかし槍一本と手が二つ、射程の差があれどそれは南斗聖拳の使い手にとって不利にはならない!

 

シンは一瞬力を抜くと手を朱槍で払われた勢いを利用して潜り込むように間合いを詰める。

 

そのまま拳ひとつ分の距離まで詰めたシンは神速で飛び上がり、ケイジの顎目掛けて膝蹴りをぶちこんだのである。

 

しかしケイジも対拳法家仕様の特別製だ。素早く朱槍から片手を離して膝と顎の間に手を入れて間一髪で防御し、その勢いを利用して宙返りしながら距離を開けたのであった。

 

 

「ふう!危うく顎が砕かれる所でござった」

 

「並の者なら腕ごと砕けていたものを……流石は機械人形といったところか」

 

「これでも主からは強く在れと作られましての。しかし主が恐れる拳法家とはここまでの強さでござったか」

 

「ふん、人形風情に隠れて指揮とは貴様の主は恐れるような者ではなさそうだな」

 

「まあ頭脳労働に秀でてますからな」

 

 

朱槍が唸り、手刀が風を切る音が響く。

 

シンは更に苛烈な突きと足技を使い始め、ケイジも先程よりも槍先鋭く振るって時には拳打すら交えて応戦していく。

 

パワーとスピードはケイジが優勢だが、戦闘技術においてはシンが圧倒的ではあった。しかしシンは後一歩の部分で攻めきれない。

 

理由は様々な要因が関係している。

 

シンが技を組み立て、ケイジの防御を抜いて決定的な一撃を入れることが出来る瞬間が三度あった。

 

だがその三度とも、踏み込んで決めれば自分もただではすまない気配をケイジから濃密に感じた為に一撃を決めきれなかったのである。

 

更に未だシンは周りを敵に囲まれており、ケイジの差配で攻撃されていない状態だからこそ、周りに気を配るために完全にケイジに集中出来ないのも攻めあぐねる理由の一つであった。

 

(だが一番の問題なのはこいつだ……)

 

シンは顔に迫る朱槍の突きを回避しながらケイジの動きを観察していた。

 

最初は出される攻撃を捌くだけで精一杯だったケイジは今、確実に槍術の技術が上がっているとシンは感じているからだ。

 

(機械人形ゆえに普通の人間とは学習スピードが違うというわけか)

 

 

濃密なまでのシンとの戦闘はケイジを通じて周囲の偽装ロボットに共有とデバッグが行われており、戦闘データの蓄積によるケイジの戦闘技術は驚きのスピードで高まっていっている。

 

今は自分が圧倒できる、だがこのままでは遠からずにこの機械人形の朱槍に貫かれる可能性を感じたシンは賭けに出ることにしたのだ。

 

シンは気づいていた、あのケイジが主と呼んでいた人間が近くにいることを。

 

そしてケイジは特定の方角に戦闘場所を移さないように

絶妙に誘導していることを。

 

(そこに行かれると都合が悪いことは……お前の挙動で導きだしたぞ!)

 

シンが隙を見てケイジが行かせないようにした場所に向かう為の移動を開始しようとすると、それにケイジが気付いて防ごうとする。

 

 

「簡単には行かせぬ!」

 

「だが貴様がいかに学習しようと初見の技ならわかるまい! 南斗飛竜拳!」

 

 

シンが繰り出し続けた突きから一転、拳による連打の技に変わって技の変化にケイジは怯むと。

 

 

「それがお前の敗因だ!南斗凄斬爪!」

 

 

間を置かず放たれた手刀による渾身の手刀がケイジの右肩に決まり、ケイジはそのダメージに一瞬身動きが取れなくなってしまう。

 

それをシンは見逃さず、周りの殺気を鋭敏に感じ取ってケイジの肩を足場に大きく跳躍。

 

 

「そこか! 首魁は!」

 

 

銃弾飛び交う空中でシンは周りとは明らかに護衛の動きが厳重な中心人物を見つけ、空中でくるりと姿勢を変えるとそのままその人物に向かって加速しながら落ちていくではないか!

 

 

「お前を殺せば機械人形も動けまい! 南斗飛燕斬!」

 

 

中心人物には護衛のロボットがいたが、シンはそのまま飛び蹴りの衝撃波で蹴散らし、ついに手が届きそうな距離まで迫った時、フードを被った誰かが中心人物を守るように前に出た。

 

 

「俺の邪魔をするな! 南斗獄屠拳!」

 

 

シンはその誰かを確認せずに四肢を切る蹴り技を放ってしまう。

 

 

 

 

 

 

「あぅ…」

 

「なっ!ユリアだと!」

 

 

そしてフードも切り裂かれてその顔があらわになった時、シンは思考が停止するほどの衝撃を受けた。

 

だがそれは敵陣の真っ只中にいて致命的な隙である。

 

 

「ここまでだよ南斗聖拳」

 

 

身体中に周りから針を打ち込まれ、そこに繋がった糸から電撃を流されたシンは揺れて白濁する視界の中、倒れ込むユリアを見ようとするが。

 

 

「取り敢えず貴方は拘束させてもらいます」

 

 

その言葉と共に後ろからの衝撃で、シンの意識は暗転するのであった。



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後始末とわかってたこと

皆さんの感想、誤字脱字報告有難うございます。

全て目を通すよう頑張っていますが、仕事もございますので感想が遅れる事はご了承下さい。


あっっぶね!!

 

やっぱり拳法家って無茶苦茶だよ!

 

何であのケイジの朱槍と素手で打ち合えるんだよ!

 

あの朱槍赤く塗ってるけど高硬度の特殊合金で出来てんだよ?

 

鉄切るための工業用金属でできてるからケイジのパワーなら鉄板とか余裕で断ち切る代物なのに何なのこの人!?

 

それに此方まで飛んできた挙げ句纏めて偽装ロボットぶっ壊すとか人間じゃねえよ彼!

 

これに勝つケンシロウって何なの?マジもんの化け物なの?

 

シンが此方に飛んできたときマジで終わったと思ったもん!

 

ホントに咄嗟の閃きで対拳法家仕様の俺の側にいた二体の内の一体にユリアに化けてくれ(・・・・・・・・・)って言って騙せなかったら俺の胸に七つの傷なんて猶予なく指が体を貫いてただろうな。

 

 

「だ、代表?……」

 

 

気を失ったシンの前で俺が恐々としていると、ウゾーがこちらを窺うように話し掛けてきた。

 

それと今回の迎撃に参加した村の人も此方を窺うように見ている。

 

 

「ウゾーさん、今回の被害を教えて下さい」

 

「あ、ああ今回は村の奴等が三人殺られた、あと半分くらいが負傷してるけど死にはしないってよ。それと代表の所の……」

 

 

ウゾーが言い淀んでいるとユリアの振りをしたコードネーム銀が説明してくれる。

 

 

「此方は六割近くの兵士が破壊されたようです」

 

「そうか……あと銀、もうユリアさんに化けなくてもいいんだよ」

 

「了解です」

 

 

俺がそう言うと彼女は体表が銀色に変質して次第に地味な顔の女性に変身していった。

 

その女性の顔を見てウゾーはびっくりしている。

 

 

「こ、この人達はやっぱり人間じゃないのか?」

 

 

ウゾーの言葉のあと、そこにいる全員が俺の顔を見ている。

 

今までずっと隠していたことだ……出来るだけ秘匿したくて色々やっていたんだけど、俺の考えている何段階も上の強さを持った拳法家のお陰で考えていた計画がかなりご破算になってしまったなぁ……。

 

 

「だ、代表?……」

 

 

予定では誰も死なず、ロボットも人がする怪我ぐらいでこんなあからさまな破壊はされないと思ったんだけどなあ……。

 

 

「だ、だい、代表?……」

 

「ん?……ああすいません、ちょっと考え事を」

 

 

かけられた声にこれからの考えを棚にあげ、ウゾー達を見る。

 

……何で皆こっち見てビクビクしてんだ?

 

 

「まあロボットの事は隠してたことなんですけど、取り敢えず怪我をした人の手当てや死んでしまったかたの処遇を決めましょうか」

 

 

その言葉に皆があからさまにホッとした空気を出して行動を始めたんだけど、なんだったんだろうあの空気?

 

 

 

 

 

side 三人称

 

 

彼等は代表の態度にあからさまにホッとすることになった。

 

代表は躊躇わない……それに気付いたのはならず者達の襲撃が始まってから段々と解ってきたことだった。

 

村の事に対しては代表は殆ど関心がなく、何か問題が起きなきゃ勝手にやってくれというスタンスを貫いてるが、代表が決めたルールを破った者に対しては恐ろしいほどの苛烈さをもって対応する事がある。

 

ある時降伏して村に入ったあるならず者が、バレなきゃいいだろうとダムの三キロ圏内に入った事があった。

 

その時は巡回していた皆が人だと思ってた機械人形に見つかって捕まったが、代表は躊躇いなくそいつの処刑をしようとしたのだ。

 

村長達村の人間は余りの即断即決ッぷりにそれはあんまりじゃないかと意見を述べると。

 

 

「ならば死ななければいいですね?」

 

 

そう代表は言ってそのならず者をダムの方に連れていってしまったのだ。

 

そして一週間後……そのならず者はダムの所で教育された以外の全ての記憶を失って帰ってきたのである。

 

代表は躊躇わない……彼は面倒臭がりだから少しの問題の種も残さないし、なあなあでは済ませない。

 

そんな代表がひたすらに隠してきた秘密の一端だ……周りの人は黙っている代表の顔を見ていて、自分達がまな板の上の鯉になってしまったような気分に陥っていた。

 

だが代表は結局秘密を知った彼等に行動を起こさないことを決めたようである……面倒臭がったのかもしれないがその心の内を代表は口にすることはなかった。

 

そしてこの時をもってダムの村の外側に、ダムの内側の秘密の一端が知られる事になり、それはまた村の外にまことしやかに伝わっていき。彼等の耳に入ることになる。

 

 

 

「機械の人形の軍隊だってぇ?……手に入ったら俺の時代が来るぜぇ」

 

 

ある犬の名前のならず者に

 

 

「其だけの力があるならわしら一族が有効活用してやろうではないか」

 

 

ある一族の族長に

 

 

「機械の兵士と重火器か……是非手に入れたい」

 

 

神の国という理想国家を目指す軍人に

 

 

「シンが拳法家ですらないものに負けただと?……所詮は愛に狂った男ということか」

 

 

将星の星を背負う男に

 

 

「……南斗乱れた時、我ら兄弟の邂逅も近づいているということか」

 

 

乱世に現れし拳王に

 

そして……

 

 

「シンが敗れただと? 」

 

 

恋人を追いかける世紀末の救世主に。

 

だが世界を動かす彼等ではない弱き者達はその話に希望を見出だした。

 

弱者が奪われず、機械の兵士が秩序を保つ村にそれを指揮するもの……救世主がいるのだと。

 

人はすがる、救世主に。

人は願う、救世主を。

 

そして人は解りやすい救いの場所に向かうのだ。

 

かの村……救世主が住まう村へ。




何か途中打ちきりみたいな話の区切りですがお話は続きます。

キャラクター紹介

コードネーム【銀】

モデルはターミネーターよりT-1000型
作者が顔と体格を変えれる機械兵士って言うとこいつしか浮かばなかった為の採用である。

戦闘力はっきりいって北斗の拳基準では低いが、その再生能力と液体金属という特性を生かした肉壁として常に主人公の盾として活躍する予定である。

なおユリアに化けれたのは、主人公が間近でユリアを観察したいが為にユリアのデータを記憶させていたからである。


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これが原作の運命力か……

みなさん感想有難うございます。

あとストックは切れてるのでいつ更新が止まるかわからない状況です。


シンを下してから一ヶ月……ダムの村は爆発的な人口増加に見舞われていた。

 

原因は色々あるけど、まずシン達KING軍がここに進軍するために拠点からダムの外側の村までの間の途中の村とか町とかをヒャッハーしていき、生きていけないと逃げてきた人が増えたのが一つ。

 

そしてあの悪逆非道なKING軍を壊滅した奴がいると人々が救いを求めてきたのが一つ。

 

そしてサザンクロスシティになる筈だった町から逃げてきた人がやって来るようになったのが一つ。

 

……全部シンが悪いじゃねえか!

 

もうやなんだけど!こちとら壊れた偽装ロボットの修理とか増産を一人でやらんといけないから忙しいってのに、村にいく度にやれ人が増えましたとか、やれ食料の生産が追い付かないとか勝手にやってくれという感じなんだけど?

 

……まあ感謝されるし、やっぱり目の前に飢えた子供とかいたらなんとかせんとなぁ…と、思ってやっちゃうんだけどね。

 

そんでまあどうするかという話になって、まずは人が増えたために必要になった現場監督を増やさないと駄目だよねって話になったんだ。

 

そんでまあ遊ばしておく人材はねえってことで捕まえてるあいつを説得することにしたんだよ。

 

 

 

KING軍襲来から五日後

 

 

「残念ですがシン、ユリアさんはもうあの町にはいません」

 

「なん!だと?」

 

 

俺の言葉に拘束されたシンはそんな馬鹿な!みたいな顔をしてビックリしている。

 

俺がそんな馬鹿なって言いたいよ。恋人の胸に七つの傷つけて俺に乗り換えろ!……なんて奴を待つわけないでしょうに。

 

 

「貴方が敗れたという噂が流れた時、何者かがユリアさんを救出したようですね」

 

 

まあドローンで監視してたから知ってるけど、青髪と赤髪と大柄なお爺さんが救出に来たから多分五車星の三人だろうな。

 

 

「心当たりはありますか?」

 

「……恐らくは五車星のリハク達だろう。あれらは常にユリアの身を案じていたはずだからな。南斗の拠点の何処かに匿ったんだろうさ」

 

 

レクター博士みたいな格好のシンが項垂れた。

 

まあ拘束しなくても問題ないように手術してるけど、取り敢えず抵抗したからはいボカン!ってやるには惜しい人材だからね。

 

 

「まあ今の貴方にユリアさんをどうこう言う資格はないですし、そう遠くない日に貴方の手からユリアさんがこぼれ落ちるのはわかっていた事でしょ?」

 

「……どういう意味だ?」

 

 

そう言ってシンの殺気が膨れ上がり、拘束具がギチギチと悲鳴をあげている。拳法家ってほんとおっかねえわ。

 

 

「心当たりが無いとは言えないでしょう、ユリアさんを欲する人を。貴方に敗れたケンシロウ、そして今や拳王と名乗るあの男もユリアさんを求めていたはずだ」

 

 

俺の言葉にシンの殺気も萎んでいく。理解したんだろうな……あのラオウに自分が果たして勝てるのかと。

 

 

「五車星がユリアさんを匿ってくれるなら、まずユリアさんの当面の安全は大丈夫でしょう。ですので貴方は暫く私の仕事を手伝って貰います」

 

「何故俺が貴様の手伝いをしなければならん」

 

「敗者が勝者に従わないのなら、何をされても文句は言えないですよね」

 

 

シンの態度に俺は早速トレーにおいた針のない射出タイプの注射器を手に取った。

 

 

「安心してください、ユリアさんの記憶も何もかも失って、新しい貴方としての生活が待ってますから」

 

「まてまてまて!それをどうするつもりだ!?」

 

「痛みなんて無いですよ?針のない最新式の注射器です」

 

「だから待てと言うに!」

 

「敗者が勝者の話を聞かないのに何故勝者が敗者の話を聞くとお思いで?」

 

「…わかった!お前の話を聞くし手伝うことも了承したから殺すならともかく記憶を消すのはやめてくれ!」

 

 

……ッチ、これで抵抗するなら躊躇いなく出来たものを。

 

 

「あの時から思っていたが貴様は中々に性格が悪いぞ」

 

「恋人乗り換えさせた屑野郎は言うことが違いますね」

 

 

ぐむぅ……とか言ってるシンはほっといて、俺はどうこいつを安全に使うか考えるのだった。

 

そんであの日から幾つかの手術を受けたシンは、早速村に送って拡張計画の現場監督として使うことにしたのであった。

 

そんでもう一月たったんだが……。

 

 

「シンさん!また石材の準備お願いします」

 

「わかった、午前中に終わらせよう」

 

「シンさん、また物々交換の事で揉め事が……」

 

「レートは決まっているだろう?従えないなら突っぱねればいい。暴れたら治安兵を送る」

 

「シンさーん!また新しく入植希望者です!」

 

「名前と人数構成を書かせろ!あと何が出来るかも聞いておけ!」

 

 

流石は暴力でとはいえ町を運営していた男、最初はあのシンが管理職になることに村の人は抵抗はあったんだけど、人を使うことに慣れているせいかすっかり村の運営責任者になっちゃったね。

 

 

「村長、家畜の飼育はどうですか?」

 

「おお代表!……現在はあちらこちらから集めて増産を進めていますが、軌道に乗るのは年単位はかかりそうですな」

 

 

シンの仕事ぶりを見たあと、今や町レベルに膨れ上がった村の村長は畜産の責任者として頑張っていた。

 

こうして増えた人に対応するために幾つかの責任者を作ったんだけど、うまく機能しているようで安心したよ。

 

 

「ウゾー殿もケイジ殿やブルー殿とうまく連携して治安兵を指揮してますし、何とか増えた人の問題も解決しそうですな」

 

「ええ、後は新たな人のための住居ですか」

 

「はい……やはりダム付近の建物は使いきりましたからな。新しく新規の住居を建てないと増えていく人に対応しきれません」

 

「まあ、そう言われることはわかっていたので準備してきましたよ」



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科学の力はこう使う

皆さん感想有難うございます。
返信は満足に出来ませんが全て目を通させて貰ってます。


その日ダムの村改め、ダムの町に心強い仲間が加わることになった。

 

大型ショベルカーにブルドーザー、そしてクレーン車が各数台である。

 

ピッピッピ!

 

プー!

 

ポッポー!!

 

細かい電子音と簡単な感情を表す電子パネルを付けたそれら重機は、なんと無人で動くように人工知能が搭載された特注品らしく、エンジンには世紀末前にすら開発されていなかった大出力のプラズマバッテリーが搭載されていると代表に説明された町の人は頭に?マークが浮かぶことになった。

 

 

「まあ簡単に言えば人の言うことを聞く大型重機だと思ってくれて構いません。意思疎通もできますしこれで周辺の廃墟の解体作業が進めやすくなるはずです」

 

 

代表の科学技術と機械に対する造詣の深さがある程度知れ渡るようになってから、代表は余り自重せずに発明品を提供してくれるようになり、そして現在は使えなくなっていた家電や機械を修理するようになり、この町の工作機械や加工品の製造力は飛躍的に発展していくことになる。

 

そしてこの意思持つ重機達はダムの町で大活躍することになった。

 

 

「ユンボ! ここの解体頼む!」

 

 

ピッ!

 

 

「ブルはここの整地だな」

 

 

プー!

 

 

「レーンはコンテナの移送を頼んだぞ」

 

 

ポー!

 

 

町の人の指示に従う彼等は従来の重機と違い化石燃料ではなく電力駆動のせいか、静かに仕事を行い排気もないために人口密集地でも文句を言われずに作業出来るので、騒音や排気による苦情なく工事を進めることが可能だった。

 

こうしてある程度の耐震性を持たせた集合住宅を大量に作ったダムの町は大量の人の流入を受け止めると、代表にとっては嬉しい副次効果が生まれることになる。

 

仕事で金属加工していた人間や工場で機械製作していた者など、ある程度の技術や工学知識を持つものが現れたのである。

 

これに気が付いた代表は早速技術者をかき集め、工作機械を大量に提供して世紀末後から稼働しなくなった家電や乗り物の修理を任せるようになっていった。

 

こうなるとダムの村には修理された工業用品が大量に出回るようになる。

 

こうしてシンの襲撃から半年も経つと冷蔵庫・洗濯機・さらには代表が問題ないと判断したロボットのパーツや工芸品の修理や製造が始まり、ダムの町は一部の文明レベルが世紀末前まで追い付くことになったのだった。

 

 

 

side 世紀末救世主

 

 

「おいケン見てみろよ! あれってもしかして冷蔵庫だよな!……それにあちこちから旨そうな匂いが漂ってきてやがる」

 

 

風の噂で聞いたシンの率いた軍が敗れた村の話を聞き、俺はユリアの居場所を聞くためにその村に向かったのだが、聞いていた話とは大きく違う村の発展ぶりに面食らう。

 

ここに向かう前にシンの拠点だった町に向かい、ユリアがいないことに肩を落とす暇もなくここに向かったが、ここに向かう道中は驚くことばかりであった。

 

この場所に近づけば近づくほど治安が回復し、途中の村や町にはそこでしか作っていない特産品という物が存在していたからだ。

 

ある村はジャガイモや玉葱を育て、ある村は大量に飼育している羊の毛の加工品を売っていた。

 

町の方には幾つかの修理された家電が売られていたし、何より驚いたのは一部の町では紙幣で取引できるものがあるということだった。

 

これもその噂の町で行っている事らしく、交換レートは世紀末前とは全く違うが、このダムの町で交換できないものはないと言われるほどの盛況ぶりだ。

 

 

「すげえ! 途中の町でも見たけどあんな大きな発電装置なんて見たことないぞ!」

 

 

周囲に漂ういい匂いもここの名物らしい鳥肉を使ったものなんだろう、豪快に網焼きで作っている屋台を通りすぎてバットが興奮していた発電装置をチラリと見た。

 

確かに途中の町で見たものより二回りは大きいそれは、周囲に何人もの男たちがせっせと機械を弄っている光景と一緒に見えていた。

 

ある程度の電気が行き渡っているのか電灯すら使う一画を越え、俺は目的の場所に到着する。

 

 

「こりゃ驚いた……おいケン見ろよ!あいつら皆銃持ってるぞ!おっかねえな」

 

 

石と鉄筋で作られたその建物は二階建てで綺麗に白で塗られ、この世紀末の世界で信じられない程の文明を感じる建物だった。

 

ひっきりなしに人が出入りし、その建物の側には武装した男達が置物の様にじっと観察していた。

 

ここに奴がいるのか……。

 

建物に入り、ご案内と書かれた立て札に進み、受付の男に用件を言付けた。

 

 

「ここにシンという男がいるはずだ、ケンシロウが来たと言えばわかる」

 

 

男は俺の顔を見たあとチラリと胸の辺りを見て。

 

 

「わかりました。少々お待ちを」

 

 

そう言って男は二階に上がっていく、そして暫くして。

 

 

「来たかケンシロウ」

 

 

ユリアを拐ったあの時と違う、理性ある瞳で此方を見ているシンを見た俺の一瞬膨れ上がった自分の怒りが解き放たれる瞬間。

 

 

「ユリアの事だろう、此方で話そう」

 

 

そう言って俺の横を何の警戒もせずに通りすぎ、シンは建物の外に出ていった。

 

シン……お前はここで何があったんだ?




シンの受けた手術は簡単に言えば逃走防止と反逆防止のものです。

主人公は記憶を消せますが人格云々を変えることは出来ません。

ただし此れからも科学力限界突破で自信の科学技術が発展していけばできる可能性があります。


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奪った者と奪われた者

感想で多いんですけどリンどこ行ったの?って質問が見受けられましたのでここに書いておきます。

実は原作ではジードから救った後、リンは村に残っているのでシン編ではケンシロウ達と行動を共にしてないんですね。

なので今作品でもリンはジードに襲われた村でまだ生活しています。




side ケンシロウ

 

「あの時からどれ程経ったか覚えているか?」

 

「……一年以上は過ぎている」

 

 

バットに適当に時間を潰してくれと言ってあの建物から離れ、練兵場と書かれた場所に一緒に来たシンの言葉にそう答えた。

 

そう、一年以上前だ……ユリアを奪われたあの日……俺の胸に七つの傷をつけ、そしてユリアに残酷な選択を迫ったあの日は。

 

 

「あれから俺はユリアの心を得ようとあらゆる手を尽くし、ユリアの為だけの町を作ろうとした。そうすればユリアは俺の愛の大きさを知り、その心を俺に向けてくれるだろうと思ってな」

 

 

そうなる前に俺は敗れたんだがな……そう話すシンは何か大切なものを失った目をしていた。

 

まさか……

 

 

「シン……ユリアは一体何処にいる?」

 

「フッ……ユリアは死んではおらん。ユリアは安全な所に匿われている」

 

「匿われているだと?」

 

「ああ…ケンシロウよ、俺は最も早くお前達を見つけ、ユリアを拐ったがな。お前の身内にもユリアに心引かれていた者がいたはずだ」

 

「それがユリアが匿われている事と何の関係がある!?」

 

 

どこか遠回しなシンの言葉に俺の心にさざ波が立つが、それすらシンは見通したかの様な静かな声で告げてきた。

 

 

「知らないのか?暴力が支配するこの世でお前の兄達は拳を封印されず生きていることを」

 

「なっ……あのラオウにトキ、そしてジャギまでもが?」

 

 

師は一子相伝の掟に背いたというのか?

 

 

「リュウケンが死んだ後、お前は兄達に会っていないだろうが、拳の封印はされていない事は確認しているし、三人とも消息がわかっている。長兄は拳王と名乗り、そして残りの兄達二人はこの街にいるがな」

 

「そんな……ではここにはトキとジャギがいるのか?」

 

「ああ、特にジャギを見たらお前も驚くだろうな」

 

 

フフフと笑うシンに俺は頭の中が混乱していた。

 

シンはこんなに穏やかに笑う奴だったか?そして話を聞くにあのジャギまでも昔と大きく変化したと言っている。

 

 

「ケンシロウよ、お前がユリアを欲するならばお前はあのラオウを倒さねばならん。あの男はまさしく乱世を統べる暴王の資格あるものだ。既に拳王軍という組織を作り上げ、この世に覇を唱えようとする奴がユリアを求める事を止めねば、ユリアはお前の手の中で屍を晒すことになる」

 

「……ならばシンよ、お前はユリアを諦めたというのか?」

 

 

シンは穏やかな顔で笑った

 

 

「俺は殉星の男だ、愛に生きるがゆえに狂ったが、今はここで敗れ、日々をここで過ごす内に気づいたのだ。愛した女が心健やかで過ごす事こそが何よりも素晴らしい事なのではないかと。生きてさえいればいいなど烏滸がましい!俺はユリアの顔に絶望しか産み出せないならば、潔く身を引こう……そう決意しただけだ」

 

 

そういうシンの顔は悲しみと、どこか透明で触れがたいものが混ざりあっていた。

 

 

「…………そうか、お前はそう決意したんだな」

 

 

変わったなシン……。

 

どこかしんみりとした空気が漂うなか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だがなケンシロウ……」

 

 

シンは(おもむろ)に構えだした。

 

それは南斗の構えではなかった、ただただ純粋に拳を叩きつけ合う強い意思を俺は感じ取った。

 

 

「俺は好いた女が自分より弱い男に連れていかれるのは我慢ならん!」

 

 

その言葉と共に俺に対する奴の闘気が膨れ上がっていく。

 

 

「同じ女を愛したのだ!このまま俺が身を引くより己が拳で納得させるのも一興だろう?」

 

 

この闘気……あの時よりも遥かに!

 

 

「俺を追いかけてきたその執念……ここで俺に全て見せ、俺にユリアを諦めさせた事を後悔させぬ証を立ててみろ!」

 

「……ならば北斗神拳伝承者ではない、ユリアを愛する一人の男として……俺はお前を納得させて見せる!」

 

 

俺もただ両の拳を握り込み、友にその意思を表した。

 

そして俺とシンはどこか顔に笑みを浮かべ

 

 

「はあああああああ!」

 

「おおおおおおおお!」

 

 

渾身の力でお互いの顔目掛けて拳を叩きつけたのだった。




この二人をスッキリさせるベストな方法がこれしか思い浮かばなかったんです。


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不器用な弟

極悪の花見ました。

そしたらこんな話ができました。


「馬鹿なんですか貴方達は?」

 

 

新しく作った練兵場で、シンと誰かが殴り合いしてるって連絡が来たんだけど、行ってみたらシンとその誰かはお互い上半身裸でガードもせずにボッコボコに殴りあってんのよ。

 

もう周りはやんややんやと大騒ぎで二人を煽ってるし何事と思ってさ、殴り合ってる二人の会話聞いたらやれユリアへの愛はこんなもんじゃないとか、ユリアへの気持ちはこの程度なのかとか……一人の女性をめぐってのバトル(物理)をこんな所でやってるわけさ。

 

もうこんなの酒の肴にしそうな奴がいそうな場所でやったら……もうそれはそれは食いついてね(あの傾き者はホントにさぁ……)。

 

そして気がつけば大盛り上がりで一時間も殴り合って、結果はシンの相手が数秒長く立ってそいつの勝利って事になったんだけど、殆どダブルノックアウトで周りの奴等に担架で新築した病院に二人とも運ばれた訳なんだ。

 

そんでそれに呆れた俺が気が付いた二人に開口一番に言ったセリフが冒頭のやつである。

 

 

「いやーシン殿の強さは拙者はよく知っているでござるが、最近では特に気合の入った熱い戦いでござった……恋とは良いものでござるなあ」

 

「ケッ!そのままくたばってくれたら俺様は清々したのによ!」

 

「ジャギよ、その辺にしときなさい」

 

「それでトキ先生?二人の状態はどうなんですか?」

 

「ええ代表……まあ技も使わない殴り合いですから青あざだらけですが口の中を切った程度ですし、二、三日ほど休めば良くなりますよ」

 

「うえー……あんだけ殴られて口の中切った程度なのかよ」

 

「バット君の言うとおりですよ。拳法家ってほんと頑丈ですよね」

 

「そういう者ですよ拳法家は」

 

 

二人の怪我の具合を見ているのは皆ご存知北斗の拳での北斗神拳継承候補だった四兄弟の次兄トキ。

 

そしてヤジを飛ばしたのがその四兄弟の三兄ジャギで二人のタフさに呆れているのが北斗の拳でお馴染みのバット君である。

 

ぶっ倒れたシンとその誰か…まあケンシロウなんだけど何処かいづらそうにモゾモゾしていた。

 

 

「シン……貴方仕事サボって何やってんですか」

 

「いや代表……これには男として引けないわけがあったわけで」

 

「それは責任者としての仕事が終わってからでもいいでしょう?」

 

「ぐむぅ」

 

「……俺が呼びつけたのだ、俺に責任があってシンの事は怒らないでほしい」

 

「だったら最初からそういう手順を踏んで行ってからでも遅くはないんですよケンシロウさん?」

 

「う、うむ……」

 

「お前のせいで呼びつけられる俺の気持ちも考えろよケンシロウ」

 

「お前は呼んでないのに来たんだろうがジャギ。また堆肥作りするか、ん?」

 

「俺だけあたりが強いよなお前!?」

 

「うるさいジャギ、仕事に戻れ」

 

 

チキショーと叫びながら持ち場に戻るジャギに何処か信じられない顔でケンシロウは見送っている。

 

まあそうだろうな、あのジャギが人の言うことを聞くなんて。

 

と言うのもジャギが変わった切っ掛けなんて本当に運命の悪戯としか思えない出会いからだったんだよな……。

 

ジャギとの出会いは実はかなり前に遡る。

 

あの日俺はダム周辺の工事が一段落すると共に、このダムの半径三キロ周辺を聖域化というか俺以外の人間がいたら追い出そうと計画したわけなんだよ。

 

すると何とダムの三キロ圏内のちょっと外側の廃墟にモヒカンだらけの結構デカイ組織が存在していてね、何かバンダナ巻いた女子大生位の女の子を寄ってたかって犯そうとしてたわけ。

 

それを流石に見捨てるのはどうなのって話だから、作ったばかりの偽装ロボットと一緒にそのモヒカン達をボコボコにして女の子を救助したんだよね。

 

んでまあ助けた彼女を彼女の兄貴の店に送ったんだけど、兄貴は片腕ぶったぎられてるわ店滅茶苦茶だわで大変な事になってたんだよ。

 

それでアンナちゃんの兄貴の腕の治療をしながらどうしますか?って話になってね。ダムの三キロ外側なら水も引いてあるんで住むにはいいですよって彼等に提案したんだよね。

 

そしたら妹が助かって嬉しそうだったアンナちゃんの兄貴が

 

 

「今の俺の妹みたいに助けが間に合う奴等がいない世の中で、俺らだけ幸せになるのは納得がいかねえんだ」

 

 

って言われてね。

 

だから厚かましいお願いだと解っちゃいるが、間に合わせたあとの奴等を助けてくれねえかって凄い真面目な顔で土下座されちゃったのよ。

 

チームのトップが片腕ぶったぎられてんのに他人の為に頭下げてんだよ?断れねえじゃん。

 

その後世の中を放浪するアンナちゃんの兄貴が方々で助けたり噂を広めたりしてやって来た人達がダムの外側の村の始まりだったんだよね。

 

そんでまあ彼等が定期的に村にガソリンの補給に戻る時に置いていったのがこのジャギだったんだ。

 

最初彼と会ったとき、もう頭が爆発するんじゃないかって位頭が膨れていた。

 

それを彼は自分で何とか押さえ込んでいる状態でさ、頭が膨張する激痛で気が狂いそうな状況だったんだ。

 

泣きそうなアンナちゃんと一緒になんて酷い……そう言いながらも、俺はいい実験台が来たなって閃いたんだよ。

 

取り敢えず触診するフリをしながらジャギの頭部で暴れる破壊エネルギーの資源変換を試みたんだ。

 

結果は成功して、いきなり頭が萎むとヤバそうだからちょっとずつちょっとずつ資源変換をやって、ジャギの頭の爆発を阻止したわけなんだ。

 

もうアンナちゃんが治った時号泣してね、何度も何度も頭を下げてるんだよ。

 

そんでその横でポカンとしていたジャギが「どうやって技を解いたんだ?」って凄い顔で睨んでくるわけ。

 

んなもん教えるわけないじゃん?

 

助けてもらってなんだその態度はって俺が言うと、ジャギが急にキレだしてね。

 

そんでそれ以上にブチキレたのがアンナちゃんだったんだ。

 

もう殴る蹴るの大暴れで大泣きして、これにはジャギも大弱りで。

 

俺は女って強いわってしみじみ思ったもん。

 

んで結局有耶無耶になった流れでジャギとアンナちゃんはこの外側の村で住むようになったんだ。

 

するとこのロクデナシは暇さえあればバイク乗り回しているわ、ダラダラしていたと思ったらケンシロウが云々と思い出したようにキレるから言ったわけですわ。

 

 

「お前兄より優れた弟はいないってよく言うけどさ、お前が継承者になったらラオウとトキからするとお前が兄より優れた弟になるんだけど、そこんとこどうなん?」

 

 

そう言ったら

 

 

「……うるせえ!」

 

 

って言って逆ギレ以降ジャギは弟云々の事は言わなくなったけど、その時俺は確かに兄より優れた弟じゃねえなこいつ……ってジャギを見て思ったよ。

 

結局この馬鹿は何か仕事を与えないと駄目だって事で最初は堆肥作り。

 

そんなにバイク乗りてえならアンナちゃんの兄貴についていかせたり、帰ったら堆肥作り。

 

巡回の仕事をさせてそのあと堆肥作り。

 

そんな毎日を過ごしてアンナちゃんとお揃いのバンダナをした男はさ、胸に七つの傷をつけずに見た目の大きく変わったジャギとして爆誕したわけなんだけど……。

 

すげー原作ブレイクした気がする……というかアンナちゃんとかジャギの話で出てきたっけ?

 

そこらへんわかんないんだけどアンナちゃんがいるならジャギも馬鹿はしないから安心して村にいさせることが出来る。

 

まあ今はジャギも押さえ込める戦力も増えてるし俺はもう気にしてないんだけどね。




因みに主人公は極悪の花を知らないのでアンナちゃんがどれ程ジャギにとってのキーパーソンかは知りません。

そして最初の堆肥作りで現場監督をしているのがジャギです。

村のならず者の説得(物理)にも駆り出されてますし、シンの襲撃には村の皆の避難誘導もしています。


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救世主かも知れない男

誤字脱字報告ありがとうございます。
相変わらずストックはないです。


「トキ……随分と元気そうだ」

 

 

顔中ボコボコになって自分で氷嚢を当てて椅子に座るケンシロウはトキを見て心から嬉しそうな顔で話しかける。

あの別れの時、トキの顔に死相がうっすら見えていたのをケンシロウは覚えていたからだ。

 

「代表にはずいぶん世話になっている。私の医者としての腕を大変買ってくれていてね、こんな立派な病院まで作ってくれたのだよ」

 

 

椅子に座るトキにそう言われたケンシロウは病院の入り口を見た。

 

ひょろりとした背丈にそれなりに鍛えた体の青年は、バットに用事があると言ってシンやケイジという名の男も連れて外に出ていき、今は病院にケンシロウとトキしかいなかった。

 

 

「不思議かな?何故あの青年がこうして皆に頼りにされているか」

 

「……はい」

 

「あの者はここにいる者にとって救いなのだよ。この世紀末で人は必要な者と必要ではない者に分けられることになった……そしてあの代表は必要ではないと言われた者すら必要としてくれるのだ」

 

 

トキは水の入ったコップをケンシロウに渡し、病院の窓まで歩いていく。

 

 

「かつて私は目指す頂が遠いものだと知り、何よりもその頂を目指し、精進を重ねていた。そしてそれを実践するためにまずこの村だった頃のここに訪れて、いざ己の技を試そうとした時、代表に出会ってこうしてここで医者をやることになったのだ……」

 

 

窓枠に手をかけるトキの顔はケンシロウから窺えない。

 

 

 

 

「トキ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はトキではない、俺の名はアミバだ」

 

 

 

そう言い放ったトキ……ではなくアミバは静かにケンシロウの対面の椅子に座った。

 

ケンシロウは面食らうと同時に、手に持った水が入っていたコップを見た

 

 

「安心しろ、水には何も入っていないし代表も俺をトキではないと知っている」

 

「……では何故あの男はお前をトキ先生などと呼んだんだ」

 

 

ケンシロウは沸々と燃える怒りを目に宿し、アミバを睨み付けた。

 

 

「本物のトキを救うための準備さ……」

 

 

アミバは自嘲するように笑って、ケンシロウを見るのだった。

 

 

「俺は顔を変えてトキに成りすまし、トキの名声を落とすためにこの街が村だった頃にやって来たのだ。全てはトキに復讐する為にな」

 

 

アミバはケンシロウが持っていた溶けた氷嚢を受けとると、新たな氷嚢を冷凍庫から取り出してケンシロウに渡してきた。

 

 

「だが結局代表に見つかってな……さっきいたシンとケイジに倒されて意識を失ったあと、気が付けば体の中に爆弾を仕込まれたのさ、今俺は何か馬鹿な事をすれば心臓と脳がゴッソリなくなるという寸法よ」

 

 

そう言ってアミバはほれ、と胸の辺りを見せてきた。確かにうっすらと手術痕が残っている。

 

 

「そして抵抗できなくなった俺に代表はこう言われたのだ……本物のトキを救う為、貴方にはトキの偽物として生活して貰うとな」

 

「どういうことだ?」

 

「トキは今、拳王様の手によってカサンドラという牢獄に幽閉されている。そして俺が偽物だと知るのは恐らく代表の最側近達と拳王親衛隊ぐらいだろうからな……トキとお前を引き合わせない策として、拳王様は俺を利用したかったのだろう。結果はご覧の通り代表によって俺は自由に歩き回れる囚人といった所だが」

 

 

アミバはため息をつくと水のお代わりは?とケンシロウに聞いてきた。

 

ケンシロウはコップを差し出し、アミバはコップを受けとると水差しの中の水をコップへ注いでケンシロウに渡した。

 

ケンシロウは一瞬水を飲むことを躊躇する仕草をするとアミバはフッと笑い。

 

 

「代表にウォーターサーバーでも頼むかね……今現在まで代表は密かに武道家達に接触し、拳王様に捕まる前にこことは違う秘密拠点に武道家達を匿っている。それは来るべき拳王様との闘いのため。カサンドラに残る武道家達もその為に助けるための戦力集め……という作戦を隠れ蓑にしたトキの救出も計画しているのだ」

 

 

アミバが淀みなく語る代表達が秘匿した作戦の内容にケンシロウは驚くしかない。

 

 

「代表は何故そこまでの事を……」

 

 

ケンシロウの呟きにアミバは真面目な顔で答えた。

 

 

「代表は拳王様の強さにそれだけ警戒しているのさ。拳王様は正に世紀末の覇王だ。ゆえにその拳王様を倒しうる可能性を持つ者を探し続けていた。この救出作戦にも南斗聖拳の使い手と接触を図って招聘するらしいが……本当の目的は知己を得て拳王様打倒の助力を得たいんだろう、あの人は準備に手を抜かん。だからこそケンシロウ」

 

 

ビシリとアミバはケンシロウに指差した。

 

 

「代表はお前を待っていたのだ」

 

「俺を?」

 

 

驚くケンシロウにアミバは話を続けていく。

 

 

「言っただろう、代表は拳王様打倒の戦力を集めていると。拳王様と同じ北斗神拳の使い手で、尚且つ先代リュウケンが認めた北斗神拳正当後継者のお前を知らないわけがあるまい。ここにはお前と因縁のある者も何人かいたからな」

 

「シン……そしてジャギか」

 

「察しが良くて助かるぞ」

 

 

アミバはケンシロウの前にあったテーブルに大きな紙を広げていく。

 

 

「これはカサンドラ近辺を調べて描かれた見取り図だ。代表は表の作戦としてカサンドラに収容された者達の救出作戦を発動する。そして並行するように裏の作戦としてトキの救出をお前とごく少数の者で行うということだ。私はトキとしてここに残り、お前に変装した者と一緒にこの街の防衛をすることになる」

 

「何故俺の偽物まで用意する」

 

「そうすればこの町に潜む拳王軍の密偵が私と共にいるお前の偽物を本物のケンシロウと誤認するかも知れんからな、ようはトキを助ける為じゃないとブラフを張るのさ……お前がトキを大切な者だと思うなら、この作戦に参加したほうがいいぞ?」

 

 

アミバから急に自分が組み込まれた作戦の全ての話を聞いたケンシロウが考えていると。

 

 

「お話は終わりましたか?」

 

 

まるでタイミングを計ったかのように病院に代表が一人で入ってきた。

 

 

「…俺の事は全てお見通しというわけか」

 

「全てではありませんよ、私にも調べられる限界がありますし、無理矢理貴方を戦力として計画したトキ救出作戦を断っても構いません。幾つか代案もありますからね……くれぐれもこの作戦を吹聴しないでくださいよ?」

 

 

そういって代表は本当にそんな大それた作戦の責任者とは思えないほど軽く、断ってもいいとケンシロウに言ったのだ。

 

 

「俺が断ると思っているのか?」

 

「人には譲れない仁義というものがあります。私は面倒臭がりなんです、だから譲れないものがあるなら潔く諦めて別の策を実行する……何もかも足りないこんな世の中を生きる私の秘訣ですよ」

 

 

そう笑った代表に気負いはなかった。

 

死にゆく者が多い今の世界で、眩しい程に強く生きる代表にケンシロウもつられて微笑んだ。

 

(これが皆が慕う強さの片鱗か……)

 

彼は機械という力で人々を救い、その生き方が人に楽に生きてもいいと思わせる何かを感じさせる……ケンシロウは何故か唐突に目の前の青年がこの世界で惑う人を導く(しるべ)のように感じた。

 

 

「救世主とは、お前のような者なのかもしれないな」

 

 

そういうケンシロウに

 

 

「いや、私は救世主じゃないですから」

 

 

特に貴方に言われたくないですと、代表は酷く嫌な顔で言ったのだった。




特殊フォント初めてつかいました。


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カサンドラに行かない人達

感想と誤字脱字報告ありがとうございます。


「行ってしまわれましたなあ……」

 

 

もう拡張と発展がいきすぎて村から町にグレードアップしたダム近辺は、一部に世紀末前の文明的な施設が復興しつつある。

 

そして流れで町長になった元村長と俺は、町の入り口付近で救出作戦に向かった人達をお見送りしていたんだ。

 

俺?俺はずっと代表って呼ばれてるよ。最近世紀末救世主にお前が救世主だ……的な事を言われてビックリしたんだけどね。

 

今回は前々から考えていた計画の為に方々に協力と避難誘導を行い、カサンドラという牢獄に囚われている人を助けようって作戦を隠れ蓑に、本命は拳王を倒せるかもしれないトキも助ける二段構えの作戦を考案することにしたんだ。

 

あの人は半病人で下手な長距離移動は命に関わるってんで大人しく捕まったらしいんだけどさ、あの人そのまま拳王と戦ってるんだよね。拳法家ってほんと無茶苦茶だわ。

 

そんでまあトキを助けにいくと拳王親衛隊がリンちゃんとバット君の村を襲い、レイが来た後にラオウが来るって図式が思い浮かんだんだ。

 

そうなると問題はその三人……今は俺のせいで全員バラバラの場所に居るということ……。

 

だから俺はあの原作の運命力ってやつを信じてそのキーパーソン達を集めることを始めたんだ。

 

しかし方々を放浪するアンナちゃんの兄貴に調べてもらうと、嫌なバタフライエフェクトの情報を手に入れることになる。

 

結局俺がスルーした神の国の大佐達とジャッカルのグループ、更に牙一族にユダまで拳王軍の配下として活動をしているらしいということ。

 

……まあ悪党が集まるなら対処は楽だしいいけどね。問題は奴等がどいつもこいつも人間狩りをしているグループなんだよね。

 

こうなるともう奴等と俺の人集めVS人狩りのチキンレースに突入していった。

 

幸い此方は人も多いし移住体制も揃ったから、リンちゃんとバット君がやって来るまで子供を中心にバンバン移住していいですよって噂を広めたらもう人が来るわ来るわ……。

 

気分は資源が続くまで人材ガチャ引きまくる気分になっていた、俺の資源が火を吹くぜ!

 

そんな調子に乗った行動がどんどんとダムの村を町レベルにした原因の一つなんだけどね……。

 

そしてドンドン増えていく子供達にその両親と育ての親達……広がる負担に拡大する業務。

 

自業自得とはいえ、こうなると偽装ロボットを増員しても間に合わないし、もう人を使える人がいなくてシンとかヒーヒー言ってたし、ジャギなんか治安兵として毎日町中練り歩いてるし大変だったなあ。

 

まあ今は監督出来る人間も増えたから、余裕のある生活になってきたんだけどね。

 

そんでどさくさに紛れてトキに扮したアミバがやって来てさ、最初は急に人材ガチャの大本命トキ先生来た!って喜び一杯に開発した死の灰の検査装置とか持って会いに行ったんだよ。

 

そんでレーザースキャナー方式の死の灰の検査装置使ったらさ、全く死の灰に冒されてないから直ぐにアミバだって気づいた俺の怒りときたら……あのまま護衛のケイジとたまたま一緒にいたシンが無力化してなかったらアミバはどうなっていたか……。

 

ムカついたからダムの秘密拠点で後頭部と心臓の付近に高性能爆弾を埋め込んでやったけどね。

 

んで埋め込んだ後にコイツ拳王の撹乱に使えるなって気付いたんだ。

 

幸いアミバは拳王と会って北斗神拳の経絡秘孔の基礎的なものを教わったらしくてさ、そこから新しい秘孔を開発するデク集めにこの町に来たらしいんだよね。

 

だったら沢山研究してもらおうぜって事で、ヒャッハーして指名手配だった奴を取っ捕まえて人体実験に使って研究させたんだ。

 

んでこの自称天才はまじで天才だったらしくてさ、新築の病院の地下に幾つもの計測器と体内の秘孔を押したときに流れるエネルギーの観測装置を作って研究させたらポンポン新しい秘孔を発見していくんだ。

 

ヒャッハーな人を全身麻酔で痛みも感じさせずに体内に走るエネルギーの流れを調べていく方法はアミバの性にあったんだろうな。

 

 

「俺は一つの流派が2000年研鑽してきた経絡秘孔の深奥を覗こうとしている……」

 

 

なんて呟いて研究にドップリつかっていったんだよね。

 

そんでアミバには町に潜んでいる拳王の斥候と接触させ、俺の監視が厳しいから医療的な秘孔と一部の新秘孔しか開発できないって情報を絞って報告させながら。アミバは経絡秘孔というものを丸裸にしていく。

 

幸い研究材料は向こうからやって来るし、アミバは何だかんだ凄い拾い物に化けていったなあ。

 

 

「代表よ、しかしよかったのか?俺と銀が変装したトキにケンシロウとはいえ、ここには拳王様が来るかもしれんのだぞ?」

 

 

町長は仕事が残っているらしいので別れると、今度はこちらにどこかビクビクとしながらやってきたアミバの台詞に、俺はこう答えた。

 

 

「だから拳法家の皆さんはカサンドラ救出作戦に皆出したんでしょうが。新しく作った兵器は拳法家の皆さんが居たら納得しないかもしれないからね」

 

「あれか……」

 

 

アミバは町の入り口に設置されたある防衛兵器を見ている。

 

粉塵対策で布に覆われたコイツは、対拳王用の防衛兵器で都合三つ設置されているが、普通の人間だったらまあ食らえば助からない武器であった。

 

まあ味方も巻き込むから出会い頭にぶっぱなすしかないんだけどね。

 

 

「こっちは守るもんが多いんだ。仁義やプライドよりも人命最優先でいかないと」

 

 

作戦名【カサンドラの嵐】は大量に送った戦力に紛れたケンシロウ達少数がトキを救出する比較的シンプルな作戦だ。まあ作戦自体は余程ヘマしなきゃ大丈夫だろう。

 

 

「それよりもアミバ……俺が頼んだ研究は進んでるんだろうな」

 

「ふん、俺を誰だと思っている……代表が頼んできた研究はほぼ完成している。問題は本当にそれが必要になるのかという事だけだ」

 

「だがそれで大分他の研究も進んだんだろ?」

 

「ああ、僅かだが新発見も有ったよ。それだけあれは難しかった依頼ということを忘れるな」

 

「はいはい、アミバ大先生の言っていたウォーターサーバーは準備しているよ。あとオーラを観測出来る装置も何とか目処がつきそうだ」

 

 

そう言った俺にアミバは何とも言えない顔をして

 

 

「俺は自分が天才だと疑ってはいない、だがな……俺は自分以上の天才を超えた化け物を見るなんて経験はしたことなかったんだがな」

 

「誰が化け物だ誰が……俺は開発出来るかもしれないって言ったろ?」

 

「それが化け物だと言っている。自分で言ってて馬鹿な事を頼んだと思ったんだがなあ……」

 

 

そう言ってアミバはすたすたと自分の持ち場の病院に戻っていくのであった。



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嵐の前の夜

この話では一部キャラの性格改編が起きています。

暖かい目で見てやってください


ここは牢獄の街カサンドラから車で二時間ほどの荒野。

 

カサンドラの嵐に参加する人間は四百人程……彼らは予めダムの街から先に出発した補給部隊と合流しつつ、物資をカサンドラに向かう途中の村や街に貯蔵し、それを消費しながら進むこと三日で目と鼻の先のところまでやって来ていた。

 

 

「明日は激戦になる。全員英気を養って明日に備えてください!」

 

 

補給部隊の隊長と呼ばれるその壮年の男性は、そう叫びながら他の百人ほどの補給部隊の人達と三百人はいる攻略部隊の腹を満たすために炊き出しを指揮していく。

 

 

「凄い光景だな……しかもこの人数を何一つ略奪せずに維持してここまで来るなんて、あの町の代表って奴は噂通りの人物だよ」

 

 

ケンシロウは道中一緒のトラックに乗っていた男達と攻略部隊から少し離れた場所で焚き火を囲み食事をしていた。自分達のグループは潜入ルートが違う為だ。

 

レイと名乗った彼は今回のトキの救出に参加する精鋭の1人で、南斗水鳥拳の使い手だそうだ。

 

他にも何人か耳にした流派の者がおり、カサンドラの嵐の攻略部隊の隊長はかつてケンシロウにとって命を救ってもらった南斗の男だった。

 

 

「それにあの【バンダナのジャギ】や【銃撃のブルー】までその男の救出作戦に参加させるとは……随分とあの代表が入れ込んでいるが何者なんだろうな、助けようとしているトキという男は」

 

 

レイはそう言いながら炊き出しのご飯を食べていく。

 

彼自身はその実力を知った代表が探していた人物の1人らしく、結婚した妹と両親の安住の地を求め、妹夫婦と両親の移住を条件にダムの町からの協力を承諾して参加したとケンシロウは聞いていた。

 

 

「その人は俺とジャギの血の繋がらない兄でな……今でも俺はあの人程の人格者は……1人しか知らん」

 

「全く難儀なもんだぜ。コイツとコイツの恋人を助けるために核シェルターに入らずに自分は死の灰を浴びるほどのお人好しなんだあの兄者は……補給部隊から俺らにってよ」

 

 

ケンシロウ達のグループにやってきたジャギはそう言って炊き出しの人達から酒を貰ってきたらしく、レイに酒を注いだコップを渡していた。ケンシロウには自分で注げと塩対応だったが。

 

 

「酒まであるとは……だが話を聞くにそれではもう長くないのでは?」

 

「だから今回のこの人数よ。代表は入念に戦力の準備をしていたんだぜ?」

 

 

酒を一杯だけ飲んだジャギは飯を食らうとギラついた目でケンシロウを見た。

 

 

「いいかケンシロウ、俺はお前を認めてねえ……が、俺がここで気に食わねえとお前を殺るわけにはいかねえ。曲がりなりにもここではチームだからな……だからお前は俺に背中を見せるなよぉ?弾みでお前をぶっ殺しても知らねえからな!」

 

 

俺はもう寝る!とジャギは言い捨てて寝袋に入っていくのをレイは溜め息と共に見送った。

 

 

「毎度毎度よくもまあ飽きずに悪態がつけるものだ。ケンシロウも何故言い返さない?」

 

 

ケンシロウはジャギが置いていった酒を、自分で注いで飲むとポツポツと話し始めた。

 

 

「町に来る前のジャギと俺の関係は最悪を一歩超えた先にあった。俺の流派は一子相伝ゆえにジャギが俺を殺そうとし、俺が返り討ちにしたが止めは刺さなかった。その時にかけた技でジャギが長く苦しむのを解っていながらジャギを見逃したのだ」

 

 

レイはその話に苦い顔になる。

 

 

「拳法家という者の宿業だな……誰が技を継ぐのか……難しい問題だ」

 

「結局ジャギはあの代表にどういう手を使われたのか俺の技を解いてもらい、こうして殺しかけた俺と一緒に行動している……代表の頼みだから仕方ないと文句を言いながらな」

 

「フッ、狂犬も命を助けた主人には懐くということか……ならばお前はいいのか?あの男はお前が背中を見せた時、本当に殺しにかかるかもしれんぞ?」

 

「その時が本当に来たなら、俺はジャギと雌雄を決することになるだろうが……」

 

 

そんな事にはならないだろうとケンシロウは思った。

 

ここに来るときに見た、ジャギとお揃いのバンダナを巻く彼女がジャギを見捨てない限り。

 

 

「人は変われる……それがいかなる理由でも、人は変わっていけると俺は思っている」

 

 

そう言ってケンシロウは焚き火を見つめて静かになった。

 

 

「随分と此方は静かなんですね、やっぱり皆さん手練れそうだから落ち着いてるのかしら?」

 

 

暫くすると補給部隊の炊き出しの所から一目で美しいとわかる美女がやって来た。

 

 

「陰気な面子ばかりでね、貴方が来ると場が華やかになって俺も随分と呼吸が楽になるよ」

 

「あら、お上手」

 

 

補給部隊隊長の娘だという彼女は道中もこうして周りの人に声をかけながら皆の体調を気にしていたし、ケンシロウもどこかユリアと似てる彼女に心を開いていると自覚していた。

 

 

「でもアイリさんからくれぐれも兄には気をつけてと言われてますから……」

 

 

だから一杯だけ注いであげますと酒を勧められたレイは上機嫌で酒を貰うと

 

 

「アイリめ……しかしマミヤ、この酒は大分上物のようだが大丈夫なのか?」

 

「ええ、あの時ジャギさん達が来てくれなければ私達家族は最悪の結末を迎えていたでしょうから」

 

 

補給部隊長の娘であるマミヤ。

 

原作ではユダに両親を殺された彼女だが、この世界では両親がマミヤの二十歳の誕生日の時に合わせてご馳走としてダムの町が村だった頃に飼育していた鶏と卵を交易品として運んでもらっていたのだ。

 

そして娘の誕生日に奮発したなと代表が美人で評判の娘の名前を聞いたとき、マミヤってあのマミヤじゃねえかと気が付いて、代表はちょっと過剰な戦力を誕生日の当日に送った結果。

 

 

「あのユダ達が私を拐いに攻めてきたとき、両親がダムの町が村だった頃に私の為に交易品を求めなかったらどうなっていたか…だからこれぐらいは感謝させて下さい」

 

「風の噂で聞いたよ、あのユダが女を拐いに行って返り討ちにあったって。その時の傷が癒えるまで随分とあいつは人目に出ずに荒れていたと聞いたが……君の所で起きたことだったのか?」

 

「ええ、私は本当に幸運だったんです。ジャギさん達が来なければ私の体は汚れに汚れていたでしょうから」

 

「同じ流派の流れを組む技を受け継いだ者としては耳の痛い話だがな。マミヤほどのいい女を汚されなかったことを俺も感謝しないとな」

 

「ふふふ……本当に口がお上手ですこと」

 

 

マミヤはそう笑って補給部隊の所に戻っていった。

 

 

「何か言いたいことでもあるのかケンシロウ」

 

「……すまんな陰気な面子で」

 

 

焚き火を見ていたケンシロウと目があったレイにケンシロウは少し笑いながら毒づいた。

 

 

「あれは言葉のあやさケンシロウ。こんな世界になる前ですらあんないい女お目にかかった事がなくてね……お前は随分と余裕そうだが相手でもいるのか?」

 

「……ああ、あまりに美しくて安全な場所に匿うくらいのがな」

 

「何だよそうだったのか!というとそこで寝てる奴はどうなんだ?」

 

 

レイは向こうで寝てるジャギを指差す。

 

 

「ジャギにはアンナという女性がいる……揃いのバンダナを巻いているから町に戻ればすぐ見つかるさ」

 

「……まさかここで独り身が俺だけとはね……何だか急に酒が飲みたくなったよ」

 

 

レイはもう一杯酒を飲むと寝床に向かっていき、ケンシロウも焚き火の処理をすると寝るために寝床に向かうのであった。




北斗の拳で恋バナする奴等を書きたかったんです
(´・ω・`)


ケンシロウは酒を飲むことに変更しました。


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カサンドラの嵐

例によってストック切れました


その日、牢獄の街カサンドラでは蜂の巣をつついたような喧騒に包まれていた。

 

何せこのカサンドラが出来てから最大規模の襲撃部隊が数多のトラックやバイクと共にやって来ているからだ。

 

 

「獄長!奴等尋常な数ではないです!」

 

 

拳王軍から派遣された看守の1人がこの町の最高責任者であるウイグルのいる部屋にそう言いながら転がり込んでくる。

 

 

「ここカサンドラは一度も破られたことはない伝説の場所……なぜ不落と言われているか忘れたのか?」

 

 

ウイグルは余裕の表情で立ち上がり、獄舎の方へ歩いていく。

 

 

「いくら数を揃えようと私の伝説が破られることはないのだ……ライガとフウガは?」

 

「はっ!既に門の前におります!」

 

「ならばよい……念のために人質も用意しておけ、数に臆して裏切らぬとは限らんからな」

 

「はっ!」

 

 

看守はキビキビと動いて獄舎に向かうのを見たウイグルは忌々しそうに呟く。

 

 

「ダムの町というたか、これ程の戦力を投入してくるとはこのカサンドラの不落伝説を余程警戒していると見える……だが、拳王様はこの動きを予期しておったわ」

 

 

グッフッフと笑うウイグル。そのダムの町で起こる残酷な未来に愉悦を覚えながら外に出ていくのだった。

 

 

そしてカサンドラの外では……

 

 

「やめておけ……お主達の主は事態を把握できていない、何故今になってカサンドラ攻略を始めたかをな」

 

 

カサンドラの門の前、顔を二つの鉤爪で撫で切った様な傷を持つ男は優しそうな眼差し(・・・・・・・・)で二つの筋骨隆々の銅像に話しかける。

 

そしてその男の横にロングコートと背中に大きな二つの拳銃を持った男も出てくると。

 

 

「俺の目はサーモグラフィー……熱感知の機能が搭載されている。銅像が人の体温を持っているなどありえん」

 

「……噂に聞いた機械人形か、端から見ると機械とは思えんな」

 

「……その二丁拳銃は銃撃のブルーか……我らがただでここを通すと思うなよ!」

 

 

銅像だと思っていた二つの筋骨隆々の像は二人の男だったのだ!

 

 

「ここを進ませるわけにはいかん……いくぞライガ!」

 

「応!フウガ」

 

 

ほぼそっくりな二人の男は顔に傷ある男を挟むように通りすぎるが。

 

 

「我が南斗白鷺拳(なんとはくろけん)……その真髄はこの足技にある」

 

 

南斗白鷺拳継承者……仁星のシュウと呼ばれた盲目の闘将は疾風の様な縦蹴り一つでライガとフウガが仕掛けた二神風雷拳で使われた糸を断ち切ったのだった。

 

 

「なんと!」

 

「我ら兄弟の拳がこれ程容易く破られるとは……」

 

 

シュウはそれ以上の追撃を行わず目の前の門に×の字を描くように足を振るうと。

 

キンッ! バッキャーン!!

 

割れるような音と共に扉がバラバラになるのだった。

 

 

「安心してほしい、貴方達の事も調べあげ、弟殿の救助も隠れて進んでいる……我らは本隊でありながら大きな陽動部隊としてこうして参った次第なのだ」

 

「そ、そうなのか……」

 

「まさか我らの事まで調べているとは……」

 

 

シュウの話に驚くライガとフウガ。その間にも攻略部隊が扉から突入し、広場の看守達を次々と打ち倒していく。

 

しかし暫くすると。

 

 

「何をしておるか貴様らああぁぁぁぁ!!!」

 

 

カサンドラの獄長であるウイグルが両手の鞭をしならせながらやって来た。

 

原作では御輿のような物の上に設置した椅子に座ってふてぶてしく登場したのだが、シュウ達のあまりの迅速な攻略と部隊の進行速度に焦ったのだろう。自分の足で急いで走ってきたせいか少し息が切れていた。

 

 

「随分と遅かったな」

 

「フン……ライガとフウガがこれ程早く攻略されるとは……しかし貴様ら、負けてなお生きておるとは情けをかけられたようだなぁ……カサンドラを守る者としての義務が全う出来ない罪は重い!奴等の弟をここに!」

 

 

シュウの言葉にウイグルは鼻で笑って言い返しながらも鞭を振り回し他者を寄せ付けず、人質を連れてくるよう指示を出す。

 

しかし一分近く待ってもその弟とやらは現れず、ウイグルの鞭の届かないところに離れた攻略部隊はウイグルを無視してカサンドラにどんどん浸透していく。

 

それにまたもやキレたウイグルは

 

 

「……貴様ら何をしたあああぁぁぁぁ!!!」

 

 

と叫び鞭をシュウに向けて放った。

 

 

「言っただろう随分と遅かったと……わたし達は既に進んでいた作戦の最後の仕上げに来たに過ぎないのだよ」

 

 

シュウは目で見えない速度で放たれる鞭の先端を空中に軽やかに飛んで蹴り散らす。

 

鞭の先端をバラバラにされたウイグルは両手の鞭を捨て、自分の兜の角を掴むとそれを左右に引き抜いた。

 

すると兜からどうやって入っていたのかわからない程の細い鞭が角についた状態で引き出され、ウイグルはそれを振り回すと。

 

 

「この泰山流千条鞭(たいざんりゅうせんじょうべん)……その二本の足で受けきれるかああぁぁ!」

 

 

シュウに向かって放つのだった。




ウイグルさんが激おこ回です。


ウイグルの兜の鞭とは?

北斗の拳で有名なウイグルの兜に仕舞われた鞭のことである。
気になった方は北斗の拳を読んでその神秘に触れてみてくれ!


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嵐の目の闇の中で

細かい原作改編があります。ご了承下さい。


「バレてはねえようだな……」

 

 

シュウ達が派手に暴れている頃、ケンシロウ、ジャギ、レイは協力者によってカサンドラの城壁の端に作られた穴から侵入していた。

 

 

「しかしカサンドラ内部に協力者をどうやって入れたんだろうな?」

 

 

レイの言葉にジャギはチッチッチと指を振る。

 

 

「協力者を入れたんじゃねえ、寝返らせたんだよ。むこう一年の食料と水にガソリン、ピカピカの乗り物とダムの町に作られる集合住宅の永住権と仕事の斡旋……こんな掃き溜めに暮らす奴等にはどれ一つとっても黄金よりも貴重な品々だ……捨てるには勿体ない誘いさ」

 

 

粗野な態度とは裏腹に警戒する猫の様に音をたてずに通路を進むジャギの話に同じく慎重に進むレイはニヤリと笑う。

 

 

「あの街ならではの方法と言えるな」

 

「一昔前なら金で解決したんだろうが……あの代表はそいつが今一番欲しがっている物を容易く用意できるって強みがあるからな」

 

「シュウの事か?俺はあの人の目を見たときビックリしたぞ……どうやって治したんだ?」

 

 

一緒に進んでいたケンシロウもそれは気になっていた。

 

幼い頃の朧気な記憶でもシュウは自身の目を到底治せないレベルで自傷した筈だからだ。

 

 

「詳しくは知らねえが、あの代表がわざわざダムの内側に招いて治療したらしいからな……眼球だけ機械にされても俺は不思議じゃねえと思ってる」

 

 

ジャギは怖い怖いと言いつつ先頭を歩いていく……ケンシロウもあの代表ならやりそうだと思っていると。

 

 

「おい……どうやら俺達みたいな奴が来ることは読んでたみたいだな」

 

 

通路を進んでいた三人は薄暗い開けた部屋に出ると、ジャギの言葉の通りに部屋の至るところから無数の殺気を感じた。

 

 

「よくぞ我々の気配に気が付いたな……」

 

 

ゆらりと闇の中から出てきたのは狼の毛皮を被った男達……。

 

 

「我らは牙一族……貴様らの様な別動隊が来ることを拳王様が予見しないと思うてか?」

 

 

牙一族と名乗った彼らの気配は部屋の中を蠢き始める。

 

 

「数はひいふうみい……まあ三十くらいか?」

 

「正確には三十六だ」

 

「てめえに聞いてねえよケンシロウ!……どうせ全員殺るんだから大体わかってりゃいいんだ」

 

 

ツンケンするジャギにケンシロウとレイは目で語り合い、溜め息をついた。

 

 

「まあいい……ここは俺がやろう、兄貴を助けるんだからこういうのは無関係な奴が前座をやるものさ」

 

 

そしてレイがそう言いながら前に出てくると。

 

 

「一人だけ出てくるとは……そのままボロ雑巾みたいにしてやるわ!」

 

 

牙一族のリーダー格っぽい男がそういうと蠢く気配が一斉にレイに襲いかかった。

 

だがその瞬間レイは重力を感じさせない程の軽やかさで空中を舞い、手でしなる様に蠢く気配達を撫で斬った。

 

 

「俺の南斗水鳥拳の鋭い手刀は大気の中に真空波を生む!」

 

 

レイがそう言って着地すると、気配を発していた男達が胴と首が別れた状態でボトボトと落ちてきた。

 

 

「な!俺の兄弟達が!」

 

「……まさかこいつら全員親族なのか?父親はとんでもない奴だな」

 

 

レイは驚きながらも動きは止まらず、一人また一人と男達の首を落としていく。

 

 

「こいつらは大したことなさそうだ……二人とも先にいけ!」

 

「ケッ!カッコつけやがって……死ぬんじゃねえぞ!」

 

「俺達は先で待っているぞレイ」

 

 

ケンシロウとジャギの二人が死体転がる部屋を駆け抜けていくのを見たレイは、出ていった場所を守るように立ち塞がった。

 

 

「さて……大人しく逃げるかこのまま転がってる奴等の仲間入りをするか……選びな?」

 

「ぐぬぅ……お前は親父殿に子細を伝えろ!残りは必殺闘法で迎え撃つぞ!」

 

 

リーダー格の男は一人の小男を逃がすと残りの生きている面子に指示を出した。

 

 

「くらえ!中国拳法象形拳は集団殺人拳の一つ!華山群狼拳(かざんぐんろうけん)!」

 

 

そう叫んだとき、蠢く気配はより三次元な動きとなってレイに襲いかかる。

 

 

「ふ…踊る水鳥の危険を知って逃げれば良かったものを……代償は貴様らの首になるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして先に進むケンシロウとジャギはやや広くなった通路に差し掛かった時。

 

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……

 

 

「馬鹿が!見えてるぜ!」

 

 

ダダダダダダン!

 

 

ジャギは腰に着けた二丁のリボルバー(・・・・・・・・)で此方に飛んできた六つの金属製のブーメランを正確に撃ち抜き、更に弾倉に残った玉もブーメランの飛んできた方に撃ち込んだ。

 

 

「……随分と銃の腕がいいなジャギ」

 

「ヘッ……ブルーの奴に基本的な銃や重火器の使い方を教わったんだよ……俺は拘らねえ男だからな」

 

 

それにな……そう言ったジャギの目はケンシロウに向けられていなかった。

 

 

「てめえは兄者達と一緒で北斗神拳一本でいけるだろうさ……だが俺はそういう男じゃねえからよ」

 

 

ジャギの目は薄暗い通路の奥にいる者を見極めようとしていた。

 

さっきの牙一族と比較にならないレベルでこの先にいる人間の気配が薄いからだ。

 

そしてケンシロウも驚いている……目の前の男は粗暴が服を着て歩いているような存在で、これ程までに静かな殺気を放っている所など見たことがなかったからだ。

 

 

「ケンシロウ、お前は先に行け……どうやらここにいる奴等は俺様に用があるらしい」

 

「……死ぬなよジャギ」

 

「誰にもの言ってんだボケが……てめえこそ合流したときに死体になってたら腹抱えて笑ってやるぜ!」

 

 

だから死ぬなら俺に殺されて死ね……ケンシロウ……

 

 

後ろから聞かす気がない小さな声でそう聞こえたケンシロウは

 

 

「フッ……お前もな……ジャギ」

 

 

そう呟いて更に奥へと走っていくのだった。



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進化する男

カッコいいジャギが見たいって?

ちょっとだけね?


原作でヘルメットを被ってケンシロウのフリをしていたジャギはこの世界ではアンナとお揃いのバンダナを巻き、バンダナのジャギとして巷では有名である。

 

数多の銃を使い、ならず者を凪ぎ払う。

 

たとえ銃がなくても神速の拳でならず者を制圧する。

 

彼は昔北斗神拳に拘っていた……しかし今の彼は北斗神拳を滅多に使わない。

 

きっかけは些細なものだった。

 

 

「銃を使いたい……ですか?」

 

「ああ、俺に銃……というか武器の使い方を教えて欲しい」

 

 

ダムの村にやって来ていた代表に真摯に頭を下げるジャギ……その頃はケンシロウの技を解いてもらい、落ち着いた生活をしていたジャギはブルーという銃の達人が現れてから、やけに銃に対して聞いてくるなあと代表は思っていた。

 

 

「貴方には北斗神拳という二千年近く続く無敵の暗殺拳があるじゃないですか……なのにどうして?」

 

「ハッ……その無敵の暗殺拳を食らって死にかけたんだ……死ぬほど頭にくるが俺よりも北斗神拳が使える奴にな」

 

 

代表は納得したようなしてないような顔をする。

 

 

「だから北斗神拳を捨てると?」

 

「親父から教わった北斗神拳を捨てるわけじゃねえ……ただどうしてもてめえの使う北斗神拳に命を預け続ける自信がなくなっちまったんだ」

 

 

そう言って背中を丸めるジャギ……。

 

暫くすると代表はにこやかな顔をして。

 

 

「いいでしょう。その代わり貴方には協力してもらいましょうか」

 

 

そう言って護衛のブルーを指差し。

 

 

「知ってるでしょうが彼はブルー。見ての通りの銃と兵器の扱いに長けたものです。そしてケイジは槍と肉弾戦を想定した人造人間なんですが、どちらも戦闘経験値が不足しています」

 

「ブルー殿は銃器運用なので銃撃の練習をしていけばどんどん経験値が上がっていくのでござるが、生憎とわしは相手がいないと難しくての」

 

 

代表はケイジの話にうんうんと頷き。

 

 

「シンは割り振った仕事が忙しいですし貴方暇でしょ?……アンナちゃんが頼んだガソリンを貴方がパクってそれを使ってバイクを乗り回してるのは知ってるんでちょっと働きましょうか?」

 

 

そう言って代表はジャギに多少の仕事をさせながら銃器の扱いを仕込んでいく。

 

最初は銃の知識と整備から始まり、片手銃から自動小銃・狙撃銃・散弾銃・猟銃・機関銃……終いには爆弾にロケット砲とあらゆる携行可能火器を教え込まれること数週間。

 

 

「……随分とそれが気に入ったみたいだな」

 

「何でかわかんねえが、やたらこいつが手に馴染むんだよな」

 

 

ジャギが握るのはS&Wのコンバットマグナムによく似た大型リボルバーで、元々銃身を詰めたショットガンを片手で振り回して使っていたせいか変な癖がついていたが、正しいフォームに矯正したジャギはこの大型リボルバーをいたく気に入って使うようになっていく。

 

それと並行して行われるのはケイジとの模擬戦……という名の二人の大喧嘩だった。

 

 

「ぬおおおおりゃあああぁぁぁぁ!!!」

 

「はっはっは!!まだまだいけるぞジャギよ!」

 

 

拳と拳、足や頭突きまでぶつかり合うそれは並の人では捉えきれないレベルでの応酬が続いていく。

 

だがジャギにとっては地獄の時間だった。

 

(人造人間は経絡秘孔がねえから北斗神拳が効かねえなくそが!)

 

いくら経絡秘孔を突こうとも、そういう器官のない人造人間は北斗神拳にとって天敵であり、そしてケイジは並の人類を超越した身体能力を持つフィジカルモンスターである。

 

昔稽古した時のラオウよりパワーがあり、トキより速いケイジとの戦闘はジャギの思考をゾリゾリと削りあげ、身体中にダメージを負いながら思考が鈍っていく。

 

 

「ほれ隙だな」

 

「グボオアァ!」

 

 

こうして経験値が貯蓄されたケイジの体術は既にジャギも手に負えないレベルまで上昇し、欠片でも隙を見せるとこうして思考の間に潜り込むようなボディブローが決まって吹っ飛ぶ。

 

 

「ゼエ……ゼエ……ガハッ!」

 

「今日も拙者の勝ちであったな。最初の頃より随分と拙者も殴りあいが出来るようになった」

 

「ゼエ……てめえで言ってちゃ世話ねえぜ……ゼエ……くそ」

 

 

大の字にぶっ倒れるジャギに多少の汚れだけついたケイジは模擬戦の感想を言い合いながら暫く話していると。

 

 

「いやーとんでもないですね拳法家ってのは」

 

 

模擬戦を見ていた代表がやって来た。

 

 

「日々改良が進んでいるケイジにここまで食い下がれるなんて……銃もかなり使えると聞きますし多才ですねジャギは。まあこうして頑張っているようですから私からジャギにプレゼントです」

 

 

そう言ってドサリとミリタリーバックを渡され、中身は今のジャギを形作る装備が詰め込まれていたのだった。

 

 

 

 

 

「だから見えてるって言ってんだろうが!」

 

 

スピードローダーを使い殆ど一瞬でリボルバーのリロードをしたジャギはすかさず暗闇に三連発、左手のリボルバーをしまい、背中に背負った連発ができるショットガンを背後にぶっぱなした。

 

ジャギが銃を撃つ度に闇の向こうから呻き声が聞こえたりそのまま気配が消えていくと、一人の男がぬらりと闇から現れた。

 

 

「雑兵とはいえ我がGOLANの兵士をこうも容易く倒すとは……流石は音に聞くバンダナのジャギだな。それに」

 

 

その男はジャギのしている装備をなめるように見た。

 

 

「リボルバーはともかく連発可能なショットガンなど完全に軍用の装備ではないか……是非手にいれたいものだが」

 

 

ダーン!

 

 

ジャギは何も言わずにリボルバーで男の眉間に撃ち込むが、男は腕で顔を庇う。

 

 

「……チッ、防弾仕様のコートか。武器は保管できなかったようだがなぁ」

 

 

「ほざけ!ここで貴様を生け捕りにし、武器の出所を洗いざらい吐いてもらおうか!」

 

「出来るもんならやってみな……俺もてめえらには聞きたいことがあるからよ」

 

 

ジャギはふてぶてしく部屋の中央に歩いていくと

 

 

「……きな」

 

 

返答は無数のナイフだった。

 

ジャギはガンベルトからスピードローダーを二つ投げるとそのまま二丁のリボルバーを抜き撃ちで全弾発射。そのままリボルバーから空薬莢を弾倉から抜くと、空中に飛んでいたスピードローダーをそのまま弾倉に入れ込んだ。

 

飛んできたナイフをあらかた撃ち落とし、飛んできた残りの二本のナイフをリボルバーで弾くと。

 

 

「いつまでも隠れてネズミかてめえらは!」

 

 

弾いたナイフを蹴り飛ばして闇の中に豪速で放り込んだ。

 

 

「ギャァ!」

 

「うう……」

 

 

そして消える二つの気配。

 

 

「犬といいてめえらといい…ここはこそこそ隠れてマスをかくインキン野郎しかいねえのか、ええ?」

 

 

しまいにはリボルバーをしまい棒立ちになるジャギ。その挑発行為に流石に相手もキレたのだろう。

 

 

「少佐、軍曹…一息に殺す」

 

「はっ!」

 

「了解」

 

 

ついに本命が動いた!ジャギは胸中で確信した。

 

今の今まで把握できなかった薄い気配が動いたからだ。

 

 

「冥土の土産に見せてやるぜ……これを使うのは久々だ」

 

 

ジャギは肩幅に足を広げ、膝を曲げると両手を前に出した。

 

その瞬間ジャギの気配が希薄に変わった。そこにいるのにそこにいない……見失いそうなのに視界から離れない不思議な気配に。

 

 

生前のリュウケンが、そして残る北斗の三兄弟も今のジャギの姿を見たら驚くに違いない。

 

かつてのジャギとは次元が違うその技の完成度に。

 

 

フワリ……

 

 

ジャギに襲いかかったのは六つの気配!うち一つは音すら出さずにジャギの背後から接近していく!

 

だが甘かった……GOLANは知らない、ジャギが誰とシノギを削ったか。

 

ジャギは知った。闘争の先、感情を捨て、意識と無意識の狭間で見た己の技の真の姿を!

 

 

北斗羅漢撃

 

 

流動するはあまりの速度に六つに分かれた様に見える腕。

 

それぞれがしなりながら六つの気配に正確に打ち込まれた。

 

そしてジャギが構えを解いたとき、六つの気配はジャギの前に跪く様な格好で動かない。

 

 

「一つ聞く、お前ら神の国は創設した初期にマスクを被っていたモヒカン集団を子飼いにして使ってたのか?」

 

「……そうだ、しかし使いだして直ぐにダムの連中に半数近くを討ち取られたが……バワタッ!」

 

 

その言葉を残してGOLANの総帥の大佐は、他の戦士達と同時に頭が破裂して絶命したのだった。

 

 

 

 

 

「借りは返したぜ、アンナ……」



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出会いと変わる運命、変わらない運命。

この作品でのトキの一人称は私で統一します。

一部原作の技の改編があります。ご了承下さい。


「蒙古覇極道!」

 

 

カサンドラの外でウイグルの必殺技が放たれている。

 

しかし角の鞭はシュウの足技でバラバラにされ、その後に今日で六回放たれた技もいずれも狙いが外れ、鋼鉄のトゲや自分が倒した奴の墓を空しく粉砕するだけだった。

 

 

「ハア……ハア……さっきから避けてばかりで戦う気はないのか貴様」

 

 

六度も必殺技を使えば流石に疲れが出るのかウイグルの息は荒い。

 

逆にシュウはそれを軽やかに避けてウイグルに適度に攻撃するだけ……端から見たらなぶり殺しに見えた。

 

 

「私は時間を稼いでいるだけだ。それに……そろそろ終いのようだ」

 

 

シュウはカサンドラの奥の方から打ち上げられた照明弾を確認すると、さっきまでとは明らかに闘気の気配が変わった。

 

 

「では参ろう……南斗白鷺拳奥義、誘幻掌」

 

 

シュウはウイグルに掌を向けながら、ユラユラと手を回してウイグルを中心に円を描くように回っていく……のではなく、小刻みにステップを刻みながら手を回している。

 

 

「誘幻掌とは間合いを惑わし、攻撃の機先を隠し、一撃の虚実を隠し、そして思考を縛る奥義……わたしの目が見えないときは機先を制す程度しか使えなかったが……」

 

 

シュウの動きにウイグルは混乱していく。

 

(何だこれは?……どう攻めてくる、どんな技なのだ……突きか?蹴りか?それとも……)

 

 

早くなったり遅くなったり、止まったかと思えば見失いそうになるシュウの掌……。

 

 

「お前は幻を追い、その首を私の前に晒すだろう……だが恐れることはない……」

 

 

視線誘導と掌の動きによる思考の撹乱……ウイグルは考えるあまり棒立ちになってしまう。

 

 

「その時はもう思考が麻痺し、自分が死んだことすらわからなくなるのだから……」

 

 

シュッ……ゴロリ。

 

 

ウイグルの目が見えない掌を追いかけその喉元を晒した時、シュウの足刀がウイグルの首を通過してそのまま首が呆気なく落ちた。

 

 

「数多の罪なき人を葬った男の最後としては呆気ないが……私達はやることがあるのでな」

 

 

シュウはそう言って早速カサンドラ側でも協力的なフウガやライガを部下に迎え、自身も攻略に乗り出すのだった。

 

攻略部隊は広大に広がる迷路じみた内部のせいでカサンドラの掌握に二日ほどかかったが、ケンシロウは何故か特に妨害もなく無事にトキを見つけ、このカサンドラの奥に秘められた赤き部屋で行われた長兄の所業を目の辺りにした。

 

そして……。

 

 

「今回は世話になったな、レイ」

 

「いや、俺も中々に刺激的な道中だった、ケン」

 

 

三日後の朝にカサンドラの前で固く握手するケンシロウとレイの姿があった。

 

 

「俺は先にバイクで帰るよ。これでアイリ達の安住の地も手に入るからな」

 

「だがあそこはラオウが目を付けているかもしれんぞ?」

 

「その時は俺がいるしお前もいる、だろ?……じゃあなケン!」

 

 

レイはそう言ってカサンドラから先行して帰る部隊と共にバイクで随伴していったのだった。

 

 

「そんでトキの兄者とお前は一緒に帰るわけか……兄者の容態はどうなんだケンシロウ?」

 

「ああ、半病人だと聞いていたがな……拳の冴えは些かも衰えていなかった」

 

「へえ……流石は兄者といった所か。だが養生するにはここは血生臭くていけねえや。俺は先に帰る」

 

「ああ、ジャギよ」

 

「あん?何だよ」

 

「……これからもよろしくな」

 

「かっ!……やめろやめろ!鳥肌が立ってしょうがねえ!」

 

 

そしてジャギもバイクで戻っていく。

 

 

「……ジャギと仲直りしたのか?」

 

「そういうつもりはない、ただお互いに気持ちの落とし所を知っただけだ」

 

「そうか……兄弟で争うのは辛いからな……」

 

 

ケンシロウに話しかけた白髪の男はそう言ってゆっくりと立ち上がった。

 

北斗四兄弟の次兄トキ……死の灰に体を侵され、余命もあと一年あるかわからない程弱っている彼は死期を悟った仙人のような男であった。

 

 

「私の為にこれ程の作戦を実行するとは……代表という方には感謝してもしきれないな」

 

「それだけ貴方を必要としているのだトキ」

 

「ふっ……今の私にそれほどの価値があるかどうか……」

 

 

トキの言葉にケンシロウは無言だった。

 

今のトキには自分の言葉が届かない……何かトキは生きることに意義を見出だせていないようだった。

 

 

「……兎に角一日休んであの街に向かう事にしよう」

 

 

今ここにはケンシロウとトキ、そして車を運転してくれるマミヤが残っている。

 

その夜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……馬鹿な!」

 

 

トキは久しぶりに見た夜空に輝く北斗七星を見て驚愕した。

 

 

「何故だ……何故私にあの星が見えなくなって(・・・・・・・)いるんだ!」

 

「どうしたんです、トキさん?」

 

 

トキが驚いていた所にご飯の支度をしていたマミヤがやって来た。

 

 

「あ、ああ……久しぶりの夜空で…ついでに北斗七星を見ていたんです」

 

「そうなんですか?……確かに今日は北斗七星がよく見えるわね。でも残念だわ……北斗七星に寄り添うように星が瞬いてたんですけど、最近見えなくなっちゃって」

 

 

きれいな星だったんだけど……そう言ったマミヤにトキは更に驚いた。

 

(彼女も死兆星が見えなくなった?……彼はもしや運命を変える力があるとでも?)

 

会わなければいけない……トキの目に生気が宿る。

 

だが運命を変えられた者もいれば変えられなかった者も……。

 

ケンシロウ達はダムの町の帰り道、その残酷な宿命を知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ!…ジャギ!」



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その長兄、最強

この世界のラオウさんはガチです。


ケンシロウ達よりも先行していた補給部隊がダムの町から20キロ程離れた荒廃した町まで来たとき、その集団は現れた。

 

 

「……あれはやべえ!」

 

 

すかさずジャギが手信号で周りに伝えると、補給部隊は支給されていた無線機を使い救援を要請。そして補給部隊に配属されていた武装偽装ロボットが周囲を警戒する。

 

だがそれは目の前まで迫る脅威にはあまりにも足りない戦力であった。

 

 

「ぬるいわ!」

 

 

その放たれた闘気は前方を走る偽装ロボットのジープを三台ほど纏めて破壊し、更に後方の補給部隊の車やバイクを横転させた。

 

偽装ロボット達は跳躍して破壊から免れ、攻撃してきた者に対して自動小銃による正確な射撃が行われる。

 

だが彼にはそれが悪手であった。

 

 

「そのような豆鉄砲、我が身を撃ち抜く事など出来ん!」

 

 

体には当たるが、一体いかなる力が働いているのか自動小銃の弾はその偉丈夫に当たってひしゃげて落ちていく。

 

 

「銃が効かない!?ジャギ、誰だあいつは!」

 

「兄者だ!長兄ラオウ!……だがあの(オーラ)……また強くなってやがる!」

 

 

レイとジャギはまるで生身で戦車と遭遇した気持ちになった。

 

補給部隊で生身の人間が乗った物はラオウを出来るだけ迂回しようとするが、補給部隊を包囲するように拳王軍が襲いかかった。

 

 

「ヒャッハー!アガッ!」

 

「落ち着いて攻撃だ!まずはここを急いで切り抜ける!」

 

 

しかし更に後方にいたカサンドラ攻略部隊が突貫し、拳王軍に攻撃。統率がとれていない拳王軍は歯抜けの櫛のように隊列に穴が開いてそこを抜けられていく。

 

そして人馬一体となったラオウの猛追は人の命を守らんと偽装ロボットの特攻染みた攻勢で凌いでいた。

 

 

「このままでは一分と持たん……誰かが殿(しんがり)を務めねば……」

 

 

部隊長のシュウが拳王軍の乗り物から乗り物へ飛んで移動し、烈脚空舞という技を駆使して乗っている拳王軍を蹴りでなます切りにしていく。

 

 

「ならば俺がいく!ここはダムの町に近い……アイリ達の所まで行かせてたまるか!」

 

「シュウは先に行け!……兄者にレイ一人だけじゃ心許ないからなぁ」

 

 

南斗水鳥拳でバイクや車ごと切り裂くレイと、バイクに備え付けられたグレネードランチャーやショットガンで応戦していたジャギがそう叫んでラオウに突っ込んでいく。

 

 

「すまぬ!直ぐに町から応援が来るはずだ!」

 

 

ラオウによって少数の負傷者が出たが、幸い拳王軍の攻勢はうまく切り抜けて補給部隊も攻略部隊も逃げることに成功しつつあった。

 

そしてラオウは地に降り立ち偽装ロボットを紙切れの様に破壊していく。理由は自分の負傷より愛馬である黒王号を考慮したのだろう。

 

 

「噂の機械人形、確かに恐怖なく挑みかかるそれは便利な玩具よな……だがこの拳王たる(われ)が玩具程度でどうにかなると思うなよ!」

 

 

周囲の空気が歪むほどの気を放出しているラオウに周りの拳王軍も迂闊に近づかない。

 

 

「あれが拳王か……」

 

「浸っている場合じゃねえぞ!」

 

 

ジャギが先制攻撃とばかりにリボルバーをラオウに撃ちまくり、更に追い打ちとばかりにショットガンを連射する。

 

しかし口径の大きいリボルバーは流石にラオウの肌を貫くが、表層の筋肉で全て止められ、ショットガンに至っては全て気に阻まれ届いてすらいなかった。

 

 

「兄者を倒すには大質量の武器がいるって代表の話はフカシじゃねえって事かよ」

 

「ジャギ……まさかうぬが我に攻撃するとは思わなんだ」

 

「俺も思ってなかったぜ兄者……だが生憎とあんたの目指す場所には俺の大切なものがあるんでね」

 

「まさか愛などと抜かすまいなジャギよ」

 

「さてね……だが譲れねえものではあるがな!……合わせろレイ!」

 

「言われずとも!」

 

 

地を滑るような歩法でジャギが迫り、空を舞うようにレイが飛び込んでくる。

 

だがラオウはニヤリと笑い、自らの闘気を圧縮して掌から解き放った。

 

 

 

「北斗剛掌波!」

 

 

 

「ぐわあぁ!」

 

「ちいっ!」

 

 

両手で放たれた北斗剛掌波が二人纏めて襲いかかるとレイは吹き飛ばされ、ジャギは何とか捌ききった。

 

 

「ほう……これを捌くかジャギ」

 

「兄者と俺は何回試合したと思ってる!北斗千手殺!」

 

 

ジャギがついにラオウの懐に入ると出し惜しみは無しで技を使う。

 

 

「それは我も同じ事……だがその拳、迷いが無くなり鋭くなったな」

 

 

ラオウはジャギの拳を軽々と受け止め、小手調べとばかりにその気の乗った剛拳が飛んできた。

 

 

「ただの直突きなのになんて無茶苦茶な気だ!岩山両斬波!」

 

 

剛拳をジャギは渾身の手刀で受け止めるが、あまりの威力に後方に軽く吹っ飛ぶ。

 

 

「ほう……並の拳法家なら今ので四肢が砕けるが無傷とは……強者に揉まれたな、ジャギよ」

 

「ちっ!だったら見逃してほしいがな、兄者よ」

 

「それは無理な相談だ……貴様達は見たのだろう?北斗七星の横に輝く蒼星を」

 

 

ラオウの話にジャギはピクリと眉を動かした。

 

 

「おいジャギ……北斗七星の横に輝く星ってあの蒼い星か?」

 

 

戻ってきたレイがジャギに聞いてくる。

 

 

「さてな、嫌な与太話だよ……見たら一年以内に死ぬとか言うやつだ」

 

「……聞かなきゃよかったぜ」

 

「二人とも心当たりがあるか……ならば貴様らは我と相対する宿命にあったということ」

 

 

その言葉を皮切りにラオウは二人の前に猛進する。

 

 

「やるならとっておきを使え!兄者に半端な技は効かねえぞ!」

 

「応!」

 

 

膝を曲げ、両手を前に出すジャギ。

 

そのまま跳躍し、更に空中で手をつき高く弧を描いて飛ぶレイ。

 

全身の気を己が内に高め、両手に尋常ではない気を集めて日輪の如く掌を回すラオウ。

 

そして三者の技が炸裂した。

 

 

「北斗羅漢撃!」

 

「南斗水鳥拳奥義!飛翔白麗(ひしょうはくれい)!」

 

 

地から幾つもの虎の牙、空からは流麗な龍の一撃。

 

だが、それでもなお、世紀末覇王の頂は高かった。

 

 

 

 

 

 

「天将奔烈!」

 

 

爆発的に高まった闘気の波動が二人の技を完全に相殺してなお甚大なダメージを与え、ジャギとレイは技の後に無防備になってしまう。

 

 

「お前達には敬意を表してこれをくれてやる」

 

 

ラオウの突きがジャギとレイの心臓付近に突き刺さると、二人ともクタリと倒れ込んだ。

 

 

「これ程滾る戦いは久々であった……そしてこの二人にはしてやられたわ」

 

 

ラオウは周りを見てそう呟いた。

 

既に補給部隊も攻略部隊もダムの町に逃げ延び、ここには疲弊した拳王軍と最後まで拳王軍を妨害し続けた偽装ロボットの残骸しか残っていなかった。

 

 

「拳王様、どうしますか?既に追撃は難しい距離ですしあの町には何やら恐ろしい兵器を準備しているという情報もありますが」

 

 

ラオウは部下の話に耳を傾け、倒れているジャギとレイを見ると。

 

 

「奴等に免じてここは引こう……あの代表という男がこの事態をどう治めるか、見極めようではないか」

 

 

そうラオウは部下に告げると黒王号に乗り込んで帰っていくのだった。




レイがあの技を使わなかったのは連携プレイに自爆技は打たないだろうという考察によるものです。


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変えられぬ運命など……

「レイ!…ジャギ!」

 

 

ケンシロウが帰ってきたのはレイとジャギがボロボロの状態で病院に搬送された後だった。

 

 

「すまぬケンシロウ……私達が救援に駆け付けた時にはもう」

 

 

肩を落とすシュウ。

 

トキは二人の状態を見て一筋の汗を流した。

 

 

「恐らく二人とも新血愁(しんけつしゅう)という秘孔を突かれている。突かれた者はその後三日間激しい痛みに襲われ、時と共にその痛みは増大していき、最後には全身から血を吹き出して……」

 

 

トキはこれ以上先は言えなかった。なにせジャギの容態を見に来たアンナや両親を助けられたマミヤとレイの妹のアイリが来ていたからだ。

 

 

「……代表なら…代表なら治せるんじゃないですか!?」

 

 

アンナは一緒に来ていた代表に詰め寄った。

 

 

「昔ジャギの馬鹿の頭が破裂しそうになったのを代表が治していた筈…だったらこれも!」

 

 

その言葉に代表が首を振った。

 

 

「あれは特殊なケースでしてうまく治せたのも奇跡に近かった、私も前回の方法で治せるか試しましたがあまりに危険で……恐ろしい秘孔ですよ。確実に死に至るのを三日に延ばす等……人の恐怖を知り尽くした悪魔の技だ」

 

 

「じゃあ……二人は助からないの?」

 

「嘘……兄さん」

 

 

マミヤの言葉にこの場にいた人間に絶望が襲いかかった。

 

トキとケンシロウやシュウはうつむき、アンナは目に涙を溜める。アイリは今にも倒れそうだった。

 

そんな重たい空気の中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから私は備えていたんですよ。こんなこともあろうかと…ね?」

 

「勿体ぶりすぎだお前は」

 

 

代表の言葉と共にある男がトレーに何やら色々な器具を乗せてやって来た。

 

トキはその男の顔を見て驚く。

 

 

「お前は……アミバか?」

 

 

トキの顔だった自分の顔を整形し直したアミバがそこにいた。

 

 

「あのラオウが拳法家にそういった秘孔をつき、恐怖のドン底に落としていた情報を私は掴んでいました。彼の恐怖伝説には必要不可欠なのでしょうが生憎と私は面倒臭がりですから……治せそうな奴に調べさせてたんですよ」

 

「打たれれば確殺される秘孔を治すなんて無茶苦茶な事言っていると思ったが、三日という期限にこいつは可能性を見たのさ」

 

 

アミバは針灸に使われる針や吸い玉という器具を並べてそう説明する。

 

 

「じゃあ……治せるの?」

 

 

絶望から一転して感情が振り切れたのか涙を流すアンナの言葉に代表は力強く頷いた。

 

 

「カサンドラに行った皆さんを死なないよう逃がしてくれた英雄を死なせはしませんよ」

 

 

 

 

「う……うえぇぇぇぇん!!よがっだぁ……よがっだよぉぉぉぉ!!!」

 

 

号泣するアンナを抱き締めたマミヤも良かったねと泣きながらアンナの背中を擦っている。

 

アイリも寝ているレイの手を取って嬉しそうだ。

 

 

「本当に……あの秘孔を破れるというのか?」

 

 

そしてここで一番驚いているのが北斗の二人だろう。

 

なにせ真の伝承者すら破れない秘孔を北斗神拳を使えない人間と北斗神拳の基礎しか知らない男が破れると言っているのだ、驚くなと言うほうが無理があった。

 

 

「仮令(たとえ)二千年無敗の暗殺拳だろうと人が築き上げてきた文明と科学技術を甘く見てはいけないという事ですね」

 

 

機械を取って来ます……そう言って代表は部屋を出ていくのを唖然と見送るトキとケンシロウ。

 

 

「俺が天才という事もあるが、本当に恐ろしいのはあいつだよ。俺一人ではこの複雑過ぎる秘孔の謎は解くのは難しかっただろうな」

 

 

気が散るからと二人以外を追い出したアミバは、寝ているジャギやレイの体の人体における急所といわれる部分にトットットと針を刺していく。

 

 

「お前達に見せてやる。俺とあいつが解き明かしつつある北斗神拳の秘奥の一端をな」

 

 

結局治療が終わるまで面会謝絶となり、関係者がやきもきする運命の三日後……。

 

 

 

 

 

「久々の外だなぁ」

 

「全くえらい目にあったぜ」

 

 

そこには大分やつれたがピンピンしているジャギとレイの姿があった。

 

 

「ジャギ!!」

 

「どぅわぁ!ア、アンナ……くっつくなよ」

 

「うるさいこのバカ!心配したんだこのバカ!……このばかぁぁぁぁぁ!!」

 

「わかった!わーかったから!離れろよ!」

 

 

ジャギとアンナの二人は病院の前でギャイギャイやっている横では。

 

 

「両親達を助けてくれてありがとう」

 

「あそこではああするしかなかったのさマミヤ……それに男って奴は見栄を張りたがる生き物でね」

 

「ふふ、そう……じゃあこれはカッコつけてくれたお礼ね」

 

 

マミヤはそう言って。

 

 

チュッ……

 

 

レイの頬にキスをして微笑みながら去っていった。

 

 

「……こいつはとんだプレゼントだな」

 

 

そう言って笑うレイに

 

 

「よかったですね兄さん」

 

「……びっくりするからやめてくれアイリ」

 

「マミヤさんはライバルが多いですから大変ですよ兄さん」

 

「いやいや、俺とマミヤはそういう関係じゃなくてな」

 

「キスされた時、鼻の下伸びてましたよ兄さん」

 

「……まさか」

 

 

そうじゃれあうレイとアイリの兄妹も。

 

 

 

「ケンシロウ……私は確信したよ。運命は変えられると、そして変えるのは何よりも変えたいと願う意思だと」

 

「トキ……」

 

 

病院から出てきたトキはカサンドラで出会った頃とは違い、目に生きる活力が湧いている。

 

 

「何故私は生きてしまったのだろう……こうして兄弟で争う世界で、余命短い私が兄を殺してしまう運命にあるのかと嘆いていたが……それは甘えであったな」

 

「……俺も痛感したよ。生きる事に必死な余りに忘れていた、より良い明日のための努力を怠っていたと」

 

 

二人は笑いあった。この三日間、自分達が受けた衝撃は数多くあった。

 

何故そこを突けばそうなるのか隠されていた秘孔の謎。

 

そしてそれを破るための備え……ケンシロウとトキはあの代表とアミバが解き明かし、そして開発した技術の数々にただただ圧倒されるしかなかった。

 

北斗神拳を知っていた気になっていた自分達が見えていなかった物をあの二人は見ていた。

 

 

「救世主は一人ではなかったな……」

 

「誰が救世主だ誰が」

 

「本当にそうですよケンシロウさん、そしてトキ先生もお手伝いありがとうございました」

 

 

二人の背後からやれやれ疲れたとアミバと代表が出てくるとケンシロウの言葉に嫌そうな顔で言った。

 

 

「いや代表、私も大変に勉強になりました。アミバには学ばされることも多かった」

 

「ふふん!そうだろうそうだろう……何せ私は天才だからな!」

 

「はいはい天才天才」

 

 

胸を張るアミバにおざなりな代表。

 

 

「まあこうして二人とも回復したのでカサンドラ攻略祝いの宴の準備も終わってますから宴を始めますか!」

 

 

代表はそう言って秘蔵の酒を持ってきますとダムのほうに歩いていくのだった。




変えられぬ運命などない!


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つかの間の平穏

「カンパーイ!!」

 

 

今日のダムの町はこの世界では珍しいほどのお祭り騒ぎだ。

 

理由は簡単だ。カサンドラの攻略の帰りに拳王から三日で死ぬ技をくらった殿をしていた英雄が死なずにすんだからだ。

 

もうこの三日間お通夜ムードだったけどあの二人が出てきてからはもう朝から飲めや歌えやの大騒ぎになっちゃった。

 

こんな日に酒がないのは可愛そうだからと幾つものデカイビールサーバーに10バレル程ビールを入れて差し入れに出したら大盛り上がりしてね。

 

 

「ぎゃああぁぁぁ!浴びる程ビールが飲めるぜえ!」

 

「キンッキンだ!キンッキンに冷えてやがるぜえ!」

 

「酒なんていつ以来だろうなあ……今日はしこたま飲むぞオラァ!」

 

 

もう飲兵衛は何だかヒャッハーして飲んでいる側で、俺は手元のタブレット端末を操作していた。

 

今回皆から隠れてラオウの強さやオーラというか気の観測が成功したので新しい機能をケイジに搭載する計画を練っているんだよね。

 

後あいつラオウの乗っていた黒王号が凄い気にいったらしくて「拙者も馬が欲しい!」と最近はあっちこっちふらふらしてる……あんな馬まずいないと思うんだけど。

 

しかし今回は収穫の多い作戦だった。

 

トキを救出してラオウの強襲も犠牲なく凌いだ。ロボットはやられたけどね。

 

そして一番の成果である大量の拳法家達と拳法家の資料!

 

彼等を味方に出来たのはでかいんだよなぁ……そんで資料もありがたい。これでケイジの格闘能力も向上するしいいことだよ。

 

問題はラオウの強さが想定以上ということ……果たしてあれにケンシロウは勝てるのかね?

 

ケンシロウ強化フラグをバッキバキに折ってるんだよな俺……まあ強化イコールいい人が亡くなるフラグと連動しているケンシロウが悪いんだよ。

 

それにいかに殺さずに(・・・・)ラオウを倒すか考えないといけないしねえ……やっぱりラオウと交渉しないと駄目なのかなあ……。

 

 

「代表!なに難しい顔してるの?」

 

「ん?ああタキ君。少し寒くなってきましたからどうしようか考えてたんですよ。トヨさんはどうしたんです?」

 

「お婆ちゃんはミスミのお爺ちゃんとご飯作ってたよ。最近お米が収穫できたからお釜でご飯炊くんだって」

 

「それは美味しそうですね」

 

「出来たら代表に持ってきてあげるね!」

 

 

そういってタキ君は向こうに走っていく。

 

タキ君いい子だなあ……荒野を歩いていて目を紫外線にやられてたけど、特製の目薬とアミバの治療で視力も戻ったし良かったよ。

 

あの子もアンナちゃんの兄貴が放浪して見つけてきた孤児でね、ジャッカルが壊滅させる筈のバットの育った村の子供で、村の水が失くなったってこのダムの町に移住してきた中にいた子なんだよ。

 

あの時は結構大規模な住人募集してたから色んな原作のキャラがやって来てるんだよなあ。

 

でも誰がどう原作に関わっていたかはもうわかんないんだけどね、ある程度の知名度がないと俺も覚えきれないからさ。

 

こうして子供達が明日を苦労することなく生きていられるの見ると、満更面倒臭がってもやってきた事に意味はあるんだなあってしみじみ思うんだよね。

 

そんな風に思っていると誰かがやって来た。

 

 

「ここにいたか代表」

 

「ああ、シュウさん。どうですか目の調子は」

 

「うむ……全く違和感なく見えるぞ代表」

 

「それは良かった。一応実験はしていますが被験者の話を聞くとやった私も安心できるというものです」

 

「しかし科学技術というものは凄いな……もう一生見れないと思っていた息子の顔と、あの時から成長したケンシロウの顔を見れるとは思わなかった」

 

 

この人は南斗六聖拳の一人でシュウといって、反帝部隊というレジスタンスを率いていた人だ。

 

南斗聖拳の使い手の中でもトップクラスの人格者で、尚且つ部隊を指揮出来るというもう喉から手が出るくらい欲しい人材なんだ。

 

昔ケンシロウを助ける為に目を自分で潰して長らく盲目だったんだけど、開発に成功したバイオクローニング技術でシュウの細胞から培養して作った人工眼球を移植して目が見えるようになったんだ。

 

その見返りにカサンドラの救出部隊の指揮を頼んだんだけど快く引き受けてくれたんだよね。

 

噂に違わない良い人だよ。

 

 

「それは良かったです……それとあの聖帝の事ですが、何とか向こうの人手に使われていた子供達は此方に引き渡してくれることになりました」

 

「な、なんと!……あのサウザーがそれを了承したのか!?」

 

 

驚くシュウ。まああのサウザーが譲歩するとは思えないよな。

 

 

「見返りはあの人工知能搭載型の重機です。あれ一つで子供百人分くらいの労働力になりますし、反抗せずに休まず働きますから」

 

「だが良かったのか?あれはここでも数少ないものだと聞いたが」

 

「最近人が増えたので昔の工事現場跡地に打ち捨てられた重機の回収も始めたんですよ。人工知能とプラズマバッテリーを積み替えるだけならある程度の数は揃えられるようになったんです」

 

 

そう、やっと重機の数が揃えられるような体制が整ってきたんだよな。

 

 

「そうだったのか……だがすまない、私の意を酌んでくれたのだろう?」

 

「貴方の協力が得られるならこれぐらいはね?」

 

 

だから俺の為に頑張って働いて欲しい。

 

 

「……代表……この恩を私は一生忘れぬと誓うぞ」

 

「そんな大袈裟な……ほら、貴方の部下達が呼んでますよ?」

 

 

そう促すとシュウは一度深く頭を下げて呼ばれているほうに歩いていった。

 

 

「ここも随分と大きくなったな代表よ」

 

 

今日は千客万来だね。

 

 

「シンか……あそこのドンチャン騒ぎしているほうに行かなくていいのか?」

 

「そういうのは苦手でね……それに最近どっかの誰かが体に埋め込んだ装置をはずしたお陰で行動の制限が解除されたからな。大分生活範囲が広がってこの町を楽しめるようになったよ」

 

「ま、お前からアクが抜けたと感じたからな、そろそろいいだろうと思ったまでさ」

 

 

もうこいつは大丈夫だろうな。なんせこの町にはしがらみとかが大量に出来たからね、もうあんなアホな事は出来るような立場じゃないんだ。

 

立場が人を変える……俺が人間を観察して確信したことなんだ。



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つかの間の平穏2

「はーい、じゃあ皆さん並んでくださーい」

 

「「「「はーーーい!」」」」

 

 

小さな子供をワチャワチャと連れているのは嘗てシンの部下だったハートである。

 

拳法家殺しと恐れられた彼はブルーとの戦闘時、高圧の電気ショックであっさりやられた後に断片的な記憶処理と再教育を経てこの町の孤児の面倒を見るグループに入っている。

 

奇っ怪な風貌だが物腰は記憶処理前も丁寧で、子供の世話をさせても本人が嫌がらなかったのでこうして保父さんのような立ち位置になっていった。

 

ぶよぶよの大きな体という子供心を擽る体つきは大層受けて、ハートの周りは常に高い声が絶えなかった。

 

そしてその中には北斗の拳での重要キャラといえるリンの姿もあった。

 

 

「ケーーーーーーン!」

 

 

ハートタイフーンという名の人間風車でキャッキャと遊んでいたリンはケンシロウとバットがやって来るのを見て二人の方に駆けていく。

 

 

「リン……元気にしていたか?」

 

「うん!ケンはお兄さんの看病は終わったの?」

 

「……ジャギは元気になったぞ」

 

「一瞬ジャギを兄貴と思ってなかったなケン?」

 

 

一緒にいたバットの鋭い指摘にケンシロウは。

 

 

「すまん……ジャギとお兄さんが結びつかなかった」

 

 

バットもあのバンダナ巻いたチンピラみたいな風貌を思い出して確かに……と思う。

 

 

「もう!折角兄弟が三人揃ったんだからもっと嬉しがらなきゃ!」

 

 

リンはプンプンと怒ってますという顔をしているが、幼い顔立ちのせいか迫力は無く、可愛いだけだ。

 

原作ではリンは色々な死に目を見て、年齢のわりに恐ろしいほど達観した考えと純真さの融合したカリスマ性のある少女だった。

 

しかしこの世界ではケンシロウが居なくなった後にダムの町の支援や移住計画でここにやって来たお陰か、拐われたり殴られたり人間の丸焼きにされかける等恐ろしい目に遭わなかったので年相応の可愛らしい少女として生活している。

 

恐らく原作の様なユリアを彷彿とさせるような雰囲気は生まれず、未来予知じみた力も発揮されないだろう。

 

今は余りにも歳上の漢を仄かに思う美少女というだけだった。

 

 

「ケンもバットもご飯は食べた?」

 

「ああ、バットの所のお婆さんに山程貰ったよ」

 

「あんのババア……育ち盛りだろ?ってアホみたいに飯出しやがって」

 

「そう言いながら全部食べてたじゃないか?」

 

「いいんだよ!あの時は俺は腹ペコだったの!」

 

「そうか?」

 

「バットは素直じゃないね?ケン」

 

「うるせえ!」

 

 

むくれるバットにケンシロウとリンはお互いを見て笑い合う。

 

そんな他愛ない話をしている間に目的地についた三人はその狂騒に圧倒された。

 

 

「うわあああああ!」

 

「駄目だ!ウゾーの旦那がぶっ倒れた!」

 

「マミヤさんつえー!」

 

「ま……まだ…ま…うえっぷ」

 

バタン!

 

「レイもぶっ倒れたぞー!」

 

 

代表が用意したという巨大ビールサーバーの周りは正に死屍累々と化していて、その屍達の上には何故か足を組んですました顔をして座るマミヤと、今にも吐きそうな顔のジャギがいた。

 

 

「てめえ……大した……酒飲みだなぁ……」

 

 

今にも天地がひっくり返りそうなジャギと余裕そうなマミヤ。

 

 

「あれは何だ?」

 

 

ケンシロウが呟くとそこを監督していたシュウがやって来た。

 

 

「ケンシロウか……いや、久しぶりの酒に飲み比べを始めた馬鹿がいてな、あれはそれで倒れた者達だよ」

 

 

全く付き合いきれん……シュウが堪える様に頭を抱えた。

 

状況から察するにシュウのレジスタンスの連中も参加したんだろう。

 

 

「しかしマミヤさんは凄いな……ずーっと飲んでいるがああも平然とするなど……」

 

 

シュウ自体も酒を嗜むがそこまで強いわけではないのだろう。こうして監督に回っている所に苦労性が感じられる。

 

 

「さあどうぞジャギ……これは私からのプレゼントよ」

 

「おいおい……ありゃテキーラじゃねえか!?」

 

「そんなもん何処に隠してたんだ!?」

 

 

マミヤが二つのワンショットグラスに注いだのはまごうことなき高アルコールのテキーラで、推定度数は約50パーセント程のかなりきつい奴であった。

 

 

「てめえ……この酒どうしたんだ?」

 

 

震えるようにグラスを受け取ったジャギはマミヤを睨み付ける。

 

 

「代表が私の両親に贈ったものよ。両親とも凄い酒豪だって聞いて幾つかくれた内の一本なの」

 

「酒飲みのサラブレッドってわけか……こりゃとんでもない猛者がいたもんだぜ」

 

 

体が拒否反応をしそうなジャギだが、同量の酒を飲んでいる筈のマミヤがそのグラスをイッキ飲みし、プウーと息を吐いて此方を見てくる。その姿の艶やかさを見れたのは目の前のジャギとこの飲み比べに参加しなかった者たちだけだが、ジャギは意を決してグラスの酒を喉に流し込んだ。

 

 

「………あべし」

 

 

だが流し込んだままジャギは後ろにぶっ倒れるのだった。

 

 

「うわー!」

「マミヤさんが勝った!」

「つえー!」

「格好いいぞー!」

 

 

この馬鹿なイベントを見てた連中はやんややんやの大喝采で、マミヤは笑顔で皆に手を振りながら屍たちから降りてくる。

 

 

「凄いなマミヤ」

 

 

ケンシロウの賛辞にマミヤは茶目っ気たっぷりにウインクして

 

 

「ケンも参加すれば良かったのに」

 

「……すまないが俺は酒に強くないんだ」

 

「あら意外ね……私は夜風に当たってくるわ」

 

 

流石にあの量を飲むのは大変だったのか、少し顔を赤くしたマミヤは喧騒から離れていった。

 

 

「……ケンシロウも中々に罪作りだな」

 

 

シュウはニヤリと笑って馬鹿どもを起こしてくると言って屍達に向かい。

 

 

「……ケンの馬鹿」

 

 

リンは一緒にいたバットを引っ張って何処かに行ってしまう。

 

キョトンとするケンシロウ……わかっていないのはこの世紀末救世主だけだった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで夜も更け、屍だった人間も一人二人とゾンビの様に寝床に帰る頃、ジャギとレイは野郎二人で夜空を見ながら酒が抜けずにボーッとしていた。

 

 

「おいレイ……あれは見えるか?」

 

「残念ながら曇ってるのかな?全く見えないね」

 

「馬鹿言え……今日は雲一つないだろうが」

 

 

楽しく星座を見てるわけでなく、二人はあの北斗七星の横に並ぶ星を探していたのだ。

 

だがどう目を凝らしてもあの死を予見する星は見付からなかった。

 

 

「死兆星……見れば近いうちに死ぬ運命の人間のみに見える星か……」

 

「さながら俺達は死を乗り越えたって所かな?」

 

「さあなぁ……死ぬまではわかんねえよ」

 

「そうか……」

 

「そうだぜ……」

 

 

少しの無言の後、何がおかしいのか二人とも笑いだした。

 

大きな大きな笑い声、涙が出るほど笑うその声は夜の帳の中に消えていくのだった。




ちょっと変な設定つけちゃったかもしれないっす


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愛とは

「貴方とこうして話すのは何回目でしたっけ、サウザー殿?」

 

「その立体映像を映写する機械で対面するのは三回目か……おまえが用意した人工知能搭載型の重機達は中々便利だった」

 

 

聖帝と呼ばれ、あの拳王ですら戦うことを避けたといわれる男は王座にリラックスした姿勢で座っていた。

 

 

「まあ明らかに子供より効率がいいですし、貴方に送った設計図通りに作れば耐久面も改良されますからね」

 

 

立体映像として映る男は今やこの近隣で知らぬものはいない有名な男であり、完成した(・・・・)聖帝十字陵の耐震設計を行っていた人物でもある。

 

 

「だが良いのか?おまえは反帝部隊を懐に迎えているのにおれに協力して」

 

「子供は返して貰いましたし人質も順次解放していくんですよね?ならば返礼とは言いませんが貴方の宿願の手伝いぐらいはしますよ」

 

「宿願か……言い得て妙だな」

 

 

実際に聖帝十字陵が完成した後にサウザーは少しずつ人質を解放し、それに比例するように反帝部隊も縮小の一途を辿っている。

 

 

「おまえが最初、おれにいった言葉は忘れんぞ。子供を解放するか、建設途中の聖帝十字陵を粉微塵にされるか選べとな……有象無象がどうなろうと構わないが、師父が眠る地を盾にするとは……ダムに住まう救世主はとんだ性悪だな」

 

 

その言葉に立体映像として表示される男……代表は酷く嫌な顔をしていた。

 

だが代表は特に言い返す事もなく話題をふっていく。

 

 

「聖帝十字陵……オウガイ氏と貴方の愛という気持ちの墓場が完成した現在。貴方が次に起こす行動に私は非常に興味があるんです」

 

「興味だと?」

 

「ええ、事と次第によれば私はある方の死体を暴き、言葉にするのも憚られる行為を報復の為にしなければならないのでね」

 

 

そう言った代表の顔の目の奥には怠惰の為なら何の躊躇いもない暗い闇の眼差し……ではなく死んだ魚の目がくっついていた。

 

 

「……やる気のない顔で恐ろしいことを口にする男だな」

 

 

流石にサウザーもあまり出会ったことのないタイプの人間である代表の言葉に戸惑った。

 

 

「まあオウガイ氏という人物も聞く限りではぶっ飛んだ性格をしていたようですし、一子相伝の伝承者というのは中々に曲者揃いのようですね」

 

「我が師父が人格破綻者と言いたいのか?」

 

 

サウザーの顔から笑みが消える。

 

 

「間違ってますか?愛情を一身に与えた孤児に一子相伝の掟の為に自らを殺めさせるなんて普通の精神では中々……」

 

「あれは事故だった!」

 

「いえ、あれはオウガイ氏の貴方の手を借りた自殺だったと思います。お忘れでしょうが貴方がオウガイ氏を殺めたようにオウガイ氏も貴方の先々代の師を殺めているんですよ?敬愛する人物がそんな事をしてまともでいられますかね?」

 

 

その言葉にサウザーは反論しようとして口をつぐむ。

 

 

「オウガイ氏は伝承者になってから、探していたんでしょうね。自分を終わらせる才を持った伝承者になり得る者を、そして貴方という傑物に出会ってしまった」

 

 

代表の言葉がサウザーの封印した部分をガリガリと削っていく。

 

 

「果たしてオウガイ氏は貴方の様に愛を捨てていたのでしょうか……貴方と同じように愛を捨てていたら、オウガイ氏は何故笑って看取られたのでしょうか」

 

「……黙れ黙れ黙れ!!今すぐその減らず口を潰しにいってやろうか!」

 

 

左手で王座の肘掛けを砕きながらサウザーは立ち上がった。

 

 

「愛とは難しいものです……人には様々な愛があります。それは宝であり麻薬であり空気であり半身なんです」

 

 

しかし代表の口は止まらない。

 

 

「サウザー殿……掟に縛られた者の我が儘に貴方は付き合わされたと私は思っています……だから貴方はオウガイ氏のした事を泣くのではなく、馬鹿野郎と文句の一つでも言ってやれば良かったんだと思いますよ」

 

 

そう言って代表の映像は消え、映していた機械は何処かに飛んでいく。

 

それをサウザーはギラリと光る目で睨むが、眉間の力を抜き。

 

 

「馬鹿野郎か……おれは貴方の行いにどう応えれば良かったのですか、お師さん……」

 

 

サウザー以外誰もいない聖帝の寝所で、南斗の帝王は思い悩むことになる。



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原作は粉微塵に、そして騒動の原因の話

「美しい……」

 

 

男はモデリングされた立体映像を見てそう呟いていた。

 

それは何処か男の面影を残した美女の顔、見る人が兄妹だと推察するかもしれない映像に男は釘付けだった。

 

 

「言っておきますがこれはかなり難度の高い手術になります。貴方の体のDNAから作りだした異なる染色体の体に脳を丸ごと移植する手術ですから失敗も当然考えられますし、下手をすると一生植物人間になるかもしれません」

 

「成功率はどれくらいなのだ?」

 

「準備が万全なら八割は成功します。しかし二割のリスクは覚悟してください」

 

「男か女か二分の一を引けなかった俺には中々のリスクかもしれないな」

 

 

目の前の彼は顔を包帯でグルグル巻きにしているので表情はわからないが、きっと笑っているのだろう。

 

 

「別に其ほどの無茶をしなくても、ガワをこの体に限りなく近づけることは可能ですよ?まあ妊娠や女性特有のあれこれなんかは起きませんが、リスクはほぼゼロですし」

 

「それでは駄目なのだ!……女の様な男ではない、女になることに意味があるのだ」

 

「……まあ言っときますが手術後は私達も裏切りが怖いので万が一の為の処置をしますがいいんですね?」

 

「かまわない……妖星は死に俺は……いや私は美しい自分に生まれ変わるの!」

 

 

そう笑う彼に手術を担当する男達……代表とアミバはヤベー奴引き込んじゃったなぁと、若干後悔していた。

 

 

「あれはどうなんだ代表?本当は十分なデータを実験できたから失敗する確率は相当低いんだろ?」

 

「まあ試算では雷に当たる確率位低いですけどねぇ……成功例がアレだけいれば失敗を盛れませんでした」

 

「性同一性障害だったか?……お前の妙なお人好しのせいで始めた研究だったがあんな人物が釣れるとは思わなかったぞ」

 

「あれはもっと別の病気な気がします……強いて名前をつけるなら……美醜アレルギーですかね?」

 

「かもしれんなあ」

 

 

代表とアミバは溜め息をついた。代表からすればこんなバタフライエフェクト等望んではいなかったのだが本人の希望なのでどうしようもない。

 

 

「まあ例のごとく手綱を握るための準備は怠りませんがね」

 

「ナノマシンだったか?……もう俺の理解の及ばない領域の科学技術だが効果は凄まじいな」

 

「材料は金属ではなくタンパク質と植物の電気反応を利用したバイオテクノロジーの産物ですよ……これが改良されていけば体内の死の灰の成分だけを吸着して体に何の拒否反応もなく排泄物として出すことも可能ですからね……遣り甲斐のある研究です」

 

「俺は経絡秘孔の気の衝撃による運動反応が大詰めだからな……そちらには余り手は貸せんぞ?」

 

「トキ先生にケンシロウさんとジャギがいるから解決は早いのでは?」

 

「馬鹿言え、あいつらは拳士としては超一流だが科学的アプローチは二流もいいとこだよ。トキは兎も角ケンシロウとジャギは使い物にならん」

 

「おや、意外です」

 

 

アミバは代表の驚いた顔にフンと鼻を鳴らす。

 

 

「あいつらは破壊に理屈を求めんからな……ケンシロウもジャギも体で覚えるタイプだし研究の戦力としては使えん」

 

「拳法家って体育会系ですもんねえ……だとするとあの三人は練兵場ですか?」

 

 

代表はあの三人の場所をアミバに聞くと、アミバはうなずいた。

 

 

「水影心だったか?……あの奥義で色んな拳法家から技や奥義を吸収してメキメキ強くなっているよ……まあ個人差があるがな。ジャギとトキは同じくらいだがケンシロウは化け物だ。技の理解度や再現度が飛び抜けて速く深い……伝承者ってのはあの水影心がどれ程出来るかが鍵のようだ」

 

 

アミバは代表も認める鋭い観察眼で北斗神拳伝承者に求められるものを推察していた。

 

 

「ほう……確か北斗神拳の究極奥義は哀しみを背負った者が体得できると聞いたことありますが……あらゆる屍の上に立つ無敵の暗殺者なら行き着ける境地というわけですね」

 

「水影心によって死者と共感し、哀しみという名の他者の感情や技を取り込む……そこに自己は無く、無念無想……感情や挙動の乗らない一撃必殺の拳が生まれるわけか……流石は長い歴史を持つ暗殺拳だ、陰惨だねぇ」

 

 

アミバの言葉に代表は困った顔をする。

 

 

「その陰惨な拳を使って天を目指す傍迷惑な覇王がいますからねえ……まあその原因を作った人間はもう亡くなっていますけど」

 

「原因を作った人間だと?」

 

 

アミバは少し驚く、こんな状況を産み出した人間がもう亡くなっていることに。

 

 

「誰だ?……拳王が天を目指す原因とは?」

 

 

代表は言った。

 

 

「死した人間を貶すのは私は好きではないんですが……ラオウが覇王という道を進まざるを得ず、ジャギが道を踏み外しかけ、トキやケンシロウが兄弟と死闘を繰り広げるのを宿命とさせてしまった原因……それは勿論先代伝承者リュウケンその人ですよ」




次回、リュウケンという人物


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リュウケンという男

これは作者のリュウケンという人物に対して多少の偏見が入ったものになります。

リュウケンのファンのかたはブラウザバック……せずにリュウケンの下りの先の話をお読みいただけると幸いです。


先代北斗神拳伝承者のリュウケンこと本名霞羅門(かすみ らもん)

 

作中の彼を分析していうなら良く言えばステレオタイプの格闘家、悪く言うなら人でなしである。

 

作中の彼の行動は過去の出来事として幾つもの回想が描写されるのだが、はっきり言って人でなしでない回想は三つあるかないかであった。

 

崖落とし、フドウの道場破り、ラオウへの指導……わかる人間が聞くと思い浮かぶ外道エピソードが幾つもある彼だが、教育者としてはどうだったのだろうか?

 

実は彼は物事を伝承するにあたって致命的な間違いをしている事があった。

 

それは一子相伝の拳法の教えるべき情報を人によって変えた事だった。

 

不思議に思わなかっただろうか?何故ケンシロウはトキの柔の拳を知らず、ラオウと同じ剛の拳しか出来なかったのか?

 

一子相伝なら一から十まで北斗神拳の知識や技を知っていないとまずい筈だし、仮令(たとえ)得手不得手があっても知ってておかしくない筈の奥義を継承できてない節があったり、四兄弟は小さい頃から組手をしてる筈なのに相手の技の傾向を知らないような描写が見受けられた。

 

そして継承者のケンシロウには非情になれないと強くならない剛拳を教えてたり、ジャギは親心なのかケンシロウと戦って頭が膨らんだ後に拳の封印もしてないわ後で後悔するぞって言ってほったらかすわ、公私混同極まっていてろくな人物じゃないなって印象しかわかなかった。

 

まあリュウケンの世代の他流派の伝承者にはジュウケイというとんでもない糞野郎とか他にも何人かめんどくさい奴がいるから、世代的に外れ世代だったんだろうね。

 

 

「はあ……それが次の世代に生きる人間に多大な迷惑をかけているとわかっているんでしょうかねえ……」

 

「何かを伝えるってそんなものよ。自分より小さい器に水を注げば溢れ落ちるけど、自分より大きい器は満たすことが出来ないし、満たす器は好みで選ぶ。教育者って何処か傲慢じゃないと出来ない部分があるの」

 

 

そう言って目の前の眩しいほどの美女はガラスに入ったウイスキーを俺のグラスに注いでくれる。

 

ここはダムの町最大の歓楽エリア【新世紀】

 

男女の夢と欲がドップリ詰まった場所である。

 

これは人が増えるにつれて出てくる様々な欲を発散させるために俺がオーナーとなって世紀末を流離う旅人を癒す為に経営していた。

 

風俗用の偽装ロボットと本物の人が行き交い、そこから夢を買い、春を売り、酒を飲むあらゆる欲望が集うユートピア……となる予定である。

 

出来てから一週間しか経ってないし、其なりの蓄えがある人しか遊べない高級施設だからね。利用するのも資産を持っている人物しかいない。

 

ここはそんな新世紀でも更に高級なクラブがあるエリアで、揃っているホステスも皆ロボットではない選りすぐりの美女達だ。

 

自分も鼻の下が伸びない自信はなかった。

 

 

「どうですか?新しい体は」

 

「リハビリはしたけど……まだまだね、どうしても男の時みたいな剛の拳が難しくなったから女拳を磨き直してるわ」

 

 

背の空いた赤いドレスに身を包む彼女は赤毛混じりの金髪をウェーブにして対面に座っているが、とても昔男だったと思えない。

 

 

「私が侍らせて世話してた女達の仕事の斡旋や手下の南斗聖拳の者達もここのボディガードに使ってくれてありがとうね代表」

 

「これも懐柔策の一つですよ。腹が満たされれば獅子も兎を追いませんから」

 

「怖い人ね」

 

 

そう言って小首を傾げて笑う彼女を見てクラリときた、気を強く持たないとその美貌に持っていかれそうだ!

 

 

「ええと……今は名前は何にしたんですかユダさん」

 

「悩んだんだけど……スカーレットにしたわ。代表だったら愛称のレティって呼んでいいわよ」

 

 

バチコンとウインクを飛ばすユダ……ではなくスカーレット(愛称レティ)

 

 

「はは、ではレティさんと……南斗六聖拳の皆さんには一応説明しましたけど皆さん困惑してましたよ?」

 

 

サウザーとシュウはポカン顔、シンはまあ代表だからとか言ってた。

 

レイはおぞましい化け物になってそうだなって言ってて、ユリアにはケンシロウの手紙と一緒に報告したけど返答は『そうですか、お体にお気をつけください』という一文だけ帰って来た。ケンシロウ以外にはスーパードライだね。

 

 

「皆さんには写真とか見せませんでしたけど良かったんですか?」

 

「ええ、いつかあいつらが俺を見て驚く姿を……ちょっと口調が戻っちゃったわね、気にしないでね代表?」

 

「勿論勿論!私から貴方の正体は言いませんが、結構すぐばれそうですけど?」

 

「大丈夫よ、いざという時までレイにバレなければ」

 

 

フフフと笑うレティ(ユダ)の心底楽しそうな顔に心の中でレイに合掌するしかなかった。

 

それから一ヶ月後……。

 

 

「代表……お前の仕業か?」

 

 

町の拡張計画を聞いていた俺の元に地獄を見てきた顔をしたレイがやって来て、慰めるのに半日を使うのだった。




兎に角この話のリュウケン考察を作るの難しかった。滅茶苦茶文句書きたいけど書けないもどかしさよ……。

ユダ改めスカーレット(愛称レティ)

皆が考える好きなパツキンハリウッド美女を当てはめればいいよ!

作者はスカーレットヨハン○ンとかフィフスエレメントとかバイオ1の時のミラ・ジョヴォヴィ○チとかテイラー・スウ○フトとかをイメージしてます。


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騙された者と備える者

何かギャグっぽく書こうとするとイチゴ味っぽく見えてしまって大変悩みました。

いちご味ェ……


「町を歩いていたとき、新しく出来た新世界の入り口でとんでもない美女を見かけたんだ。そしたらその美女がやけに好意的に話しかけてきてね……そのまま新世界でタダで酒を美女と一緒に飲めるってなったらそれはもうウキウキさ……美女と楽しく酒を飲んで、いい気分になったらそのまま寝室に連れ込まれてさ……彼女は初めてだって言うから燃え上がってしまって……そんで朝になって別れ際に」

 

 

ウグウゥゥゥゥ……と泣きに泣くレイと「確かに初めてになりますよねえ」と宥める代表。

 

そしてこめかみに全力で力を入れて何かを我慢するサウザーとえらい目にあったなあとしみじみ思うシンとシュウがいる。

 

しかし。

 

 

 

 

「……ぶほあぁ!……アーハッハッハッハッハッハ!!!貴様それで女になったユダと寝たのか!なんたる馬鹿!なんたるアホなのだ!」

 

 

サウザーの我慢が限界に来たのか腹がよじきれんばかりに大笑いし始めた。

 

流石にそのセリフにシンもシュウも笑ってはいけない空気に我慢しているが、何かの一押しで爆発しそうであった。

 

 

「なーにが『君のような女の初めてを奪えるなんて光栄だな』よ……私より先に寝ちゃってケツをひっぱたきたくなったわ」

 

「やめろー!!」

 

「……んぐふぉ!」

 

 

全員分の酒とグラスを持ってきたスカーレット(ユダ)の締めの言葉についにシンとシュウも我慢の限界だった。

 

ここはダムの町の役場の二階にある客人を迎えるための場所で、バーカウンターも併設したお洒落な部屋となっている。

 

今回代表は南斗六聖拳のユリアを除いたメンバーをここに招待して、今後のことを話すことになっていた。

 

 

「フッフッフ……しかしユダ…ではなくスカーレットか、お前はここと敵対関係だったと記憶しているが?」

 

 

ひとしきり笑ったサウザーはスカーレットを鋭い目線で睨んだ。

 

だがスカーレットはまるで動じずに

 

 

「欲しいものが相手の手の中にあるから私は懐に飛び込んだの、何もかも投げうってね」

 

 

スカーレットの自信満々な言葉にサウザーはニヤリと笑う。

 

 

「それがレイに抱かれる事なのか?」

 

「それも目的の一つね、でもやっぱり正真正銘の女になれるなんて聞いて、気が付いたら此処にいたわ……でも満足よ?なにせここには私の欲しかったものがたくさんあるもの」

 

 

各々のグラスに酒を注ぐ彼女には疚しいものなど何もないと言わんばかりにふてぶてしかった。

 

 

「私は美しいものが好きよ。男も女も美しいものを愛でて愛したい……でも私は自分の心の中が一番美しくないって知ってたわ。だから本当に美しいものを自分の手でどうにかしようとして、美しくない方法を取り続けたの」

 

 

その所作は完璧なまでに女性的で、かつては男だったと思えない妖艶さが滲み出ている。

 

 

「でも風の噂で男が女になれる手術があると聞いて、頭に電気が流れたの!正に天啓ね」

 

 

にこりと笑うスカーレット。

 

 

「それに聞いたわよ、貴方達だって代表に少なくない借りがあるんでしょ?あの最終戦争から南斗聖拳は分裂の一途を辿ったけど、こうして一人の男のお陰で拳を交えることなく集まれる事になって……全く不思議な巡り合わせだわ」

 

 

代表はスカーレットの言葉に若干照れながら頭を掻いている。

 

原作では南斗六聖拳は誰一人としてまともな死に方をしていない。

 

ケンシロウという存在を中心に誰かを殺し、誰かや何かに殺されながら消えていった彼等がこうして集まるというのは数奇な運命と言えただろう。

 

 

「まあ南斗最後の将はまだいないけど、あっちは五車星が守ってるから問題はないんでしょ?」

 

「ええ、近々彼等も此方に合流しますから南斗六聖拳は全員揃うことになりますね……そしてそうなるとここは人も規模も東日本では最大の勢力になるはずです」

 

 

スカーレットの言葉に代表も今回集まって貰った本題に入っていく。

 

 

「南斗六聖拳、そして北斗神拳の三兄弟がいるここに対抗できる勢力は一つだけ」

 

 

ピッと人差し指を上げる代表にシュウが呟いた。

 

 

「拳王ラオウか……その剛拳一つで天を掴まんとする男……」

 

 

その言葉にサウザーが鼻で笑う。

 

 

「しかし奴はこの聖帝との戦いを避けた男だぞ?……何を恐怖することがある」

 

 

その言葉にレイは戦った経験則からの答えを述べる。

 

 

「サウザー、ラオウはお前の体の秘密を知らずとも、あの剛拳は全てを砕くぞ」

 

「臆したか、レイ?」

 

 

サウザーの挑発にレイは静謐な眼差しで静かに答える。

 

 

「ああ、俺は確かにあの時臆したよサウザー……戦いに身を置くものとして情けない限りだがな」

 

 

それは弱気なのに強い言葉の響きがあった。

 

 

「俺はラオウにジャギと一緒に相対したとき、自然とジャギと共闘して戦おうとした。いま思えば本能で一人では勝てぬと分かっていたのかもしれん」

 

 

自分のグラスの酒を飲んだレイは空になったグラスを見て染々と言った。

 

 

「あの時のラオウの(オーラ)……銃弾すら跳ね返すあの密度は既に人の枠組みから外れた存在になりつつある。あの男は俺とジャギが組んでも尚余裕ある態度を崩さなかったからな……何故あいつが伝承者になれなかったのか俺は理解できん」

 

 

その言葉にサウザーが答える

 

 

「ふん……リュウケンは秘密主義でな、他流試合を殊更嫌がり南斗と北斗の交流を避けている節があった……そういう事に開明的だったラオウを伝承者にすることはリュウケンの本意ではなかったのかもしれんな」

 

「なんというかラオウは北斗神拳より強い拳法があるならそれに鞍替えしそうな雰囲気がありますからね」

 

 

代表の言葉に周りの面子も確かにそうだな……みたいな空気が出ていた。

 

 

「北斗の確執はそれぐらいで、当人であるラオウですが恐らく二ヶ月もしないうちにここに攻めてくるでしょうから各々の準備をお願いしたかったんですよ」

 

「何故二ヶ月だと?」

 

 

シュウの疑問にシンが答えた

 

 

「拳王軍はならず者や武芸者、それに離反した南斗聖拳の一派を取り込み巨大化した。そしてその巨大化した組織を食わせられる食料の限界が二ヶ月程度と計算されているのだ」

 

「恐らくその戦いが東側一帯の支配者を決める一戦となることでしょう。それ故に我々も戦力を統一するために皆さんに集まってもらったという事なんです」

 

 

代表のセリフに皆の気配が引き締まる。

 

 

「と言っても内容は簡単です。人質を防ぐために人の避難誘導と要所の防衛……今回はダムの町と聖帝十字陵を中心に守ることになります」

 

「聖帝十字陵か……」

 

 

代表の言葉にシュウはやや苦い顔をする。建設の初期に子供を使っていたのであまり良い印象がないのだろう。

 

 

「ふん……我が聖帝十字陵はこれから師と南斗門派の墓標となるのだ。あれを壊されるわけにはいかん」

 

「師と南斗門派の墓?……そうか、あそこはそういう場所にするのだな」

 

 

どこか気に食わぬ顔をするサウザーの顔を見ながらシュウの機嫌も戻っていく。

 

 

「誰かを偲ぶ大切な場所になりますからねあそこは。そして聖帝十字陵は基本的にサウザーさん主導の南斗聖拳の方達で防衛してもらい、ダムの街は北斗三兄弟と私の手勢で守る事になります」

 

 

こうしてダムの町と聖帝十字陵を守る防衛作戦の準備が始まるのだった。



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五車星と企み

ストックはないです。


その日、ダムの町には最近では見なくなった物々しい一団がやって来た。

 

バイクや大型トラックを率いた一団は町の境界線まで来ると全員停車する。端から見ても統率のとれた集団だとわかる。

 

そしてその集団から赤と青の髪の兄弟、銀髪の老人、見上げんばかりの大柄な男に守られながら顔を隠すように兜を被った女性が出てきた。

 

対してダムの町からはケンシロウとトキ、そしてブルーと銀を護衛にした代表とダムの町の町長が出迎えた。

 

 

「……顔を見せてくれないか?」

 

 

ケンシロウの言葉にその女性は兜を脱いだ。

 

兜から出てきたのは美しい顔だった。母性を感じさせながら何処か超然としたその美貌の女性はケンシロウに熱いぐらいの視線を送っている。

 

 

「ケン……」

 

「ユリア……」

 

 

それはうねるような甘い空気だった。

 

 

「……二人とも皆が見てますよ」

 

 

ハッとする二人とガムシロップを口にねじ込まれたような顔をしている代表。

 

そしてその二人の空気に当てられてムズムズした顔をしている周りの人達。

 

 

「取り敢えず皆さんを迎え入れましょうか」

 

 

代表がテキパキと指示を出して迎え入れていく。

 

原作ブレイクの一つ、五車星が誰一人死なずにケンシロウとユリアが出会ったのであった。

 

そして五車星の一団がダムの町に入ったあと、ダムの町の役場の二階で銀髪の老人と代表が相対していた。

 

 

「わしの名前はリハク……皆からは海のリハクと呼ばれています」

 

「ああどうも、私の事は代表と呼んでいただければいいです。皆もそう言ってますから」

 

 

代表の言葉を聞きながらリハクはじっくりと代表を見ている、まるで心の中を覗くように。

 

しかし

 

(なんということだ……この男の心が全く見えん……いや見えすぎて見えないと言えば良いのか)

 

リハクという人物はネット界隈では節穴として有名だが、彼が其なりに人を見る目があったのは事実である。

 

しかしそのリハクですらこの代表という人物は何処にでもいそうな普通の人物に見えた。

 

とてもこの地域一帯を世紀末覇者のラオウと二分するダムの救世主と呼ばれる人物には見えないし、彼自体にラオウと比肩しうるカリスマというものが感じられない。

 

やはりケンシロウがラオウ討伐の鍵なのかとリハクが考えていると。

 

 

「こいつラオウとは比べられんほど普通だなって顔に出てますよリハクさん」

 

 

代表の言ったセリフにギクリとなった。

 

 

「まああの人と比べられたら誰だって普通でしょうからね」

 

「……そう思われているなら何故あのラオウと敵対出来るのです?」

 

「敵対?……私は一度も彼と敵対なんてしてないですよ。簡単に言うなら生存戦略でしょうか?」

 

 

代表はテーブルに並べたお茶を啜ると。

 

 

「生きるためには自分が死ぬ要因を遠ざけなければならない……飢餓、病気、事故、そして外敵による攻撃などね。だから私は住居と食料と医療を揃え、外敵から守るための武力を求めただけなんです」

 

 

代表の言葉にリハクは納得と共に疑問を抱いた。

 

 

「一個人の願いとしては随分と人を集めてるようだが?」

 

 

その言葉に代表は苦笑する。

 

 

「ええ、最初は十人も居なかった村だったんですけどね。……私はその人達を余裕を持って助けることが出来た。そしたら噂を聞き付けて更に人が増えたんですけど、それも助けることにそこまでの苦労がなかった。……そうやって人が増えていき、結局私が投げ出したくなるほどの苦労がなかったので、こんな規模になっても私は誰かを助けているんです」

 

「投げ出したくなるほどの苦労がなかった……その程度の動機でここまで大それたことをやるのですか?」

 

「まあやりがいはありますから」

 

 

違う……リハクは今、目の前の青年を見誤ったのを直感した。

 

何かの使命感があるわけでもない……人に席を譲るように親切にしていたらこうなっていただけ……彼にとってこの町は親切心の延長でしかないのだ。

 

平和だったなら彼のこの親切はただのいい人で終わっていただろう。

 

満たされていた人間は驚くほどヘソ曲がりになり、ただの親切すら嫌がる人がいることをリハクは知っていたからだ。

 

 

「それに最初っから何かしらの野望を持ってこんなことをやるつもりはなかったんです。最悪私一人でも快適に暮らせたんですけど……なんというか慕われたり頼りにされると頑張っちゃう人なんですよ自分は」

 

 

後頭部を手で掻く彼の顔には照れが見てとれた。

 

 

「まあ二ヶ月もすれば拳王軍が襲ってくることは間違いないですから、私達は手早く準備しないと」

 

「準備とは?」

 

 

リハクは対拳王軍に対する作戦を考えるのかと身構えるが。

 

 

「ケンシロウとユリアさんの結婚式ですよ。ああいうタイプは周りがケツを蹴ってやんないといつまで経っても身を固めませんからね」




周りが勝手に企画して迷惑なやつ


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天に届く力

皆さんお久しぶりです。
いつものようにストックがないです。


その日、このダムの町ではとても大きなイベントが行われた。

 

南斗乱れるとき北斗あらわる……密かに伝わる伝承は最終戦争にて行われた核攻撃と死の灰の被害を受けながらも生き残っていた南斗聖拳の将と、北斗神拳の伝承者が結婚を期に一応の終結に相成ることになる。

 

参列するのは南斗六聖拳に南斗の将を守っていた五車星の面々……。

 

そして驚くべきは北斗神拳の方からは新郎ケンシロウを含めた四兄弟(・・・)が出席することだろう。

 

超突貫で作られた教会の控え室に集まるジャギとトキと代表に、対面には大きな椅子に座るラオウ……。

 

 

「初めまして世紀末覇者で拳王であるラオウさん」

 

 

代表はニコニコと笑顔でラオウに話しかけるが、当のラオウは寄らばもろとも殺しそうな殺気を出している。しかし代表が動揺した気配はない。

 

 

「今回は貴方の兄弟の祝いの場所ですから、私のほうでラオウさん達のお召し物は用意させていただきましたよ」

 

 

そう言うと代表の背後にいた偽装ロボットがラオウの目の前に白い大きな箱を置いていった。

 

 

「ありきたりですがスーツです。サイズは調べていますのであっていると思いますが……」

 

「貴様は……」

 

 

その言葉と共にブワリとラオウの気配が強まった。そしてゆっくりと立ち上がるラオウ。

 

それに反応するジャギとトキだが代表が手で合図して二人を抑えた。

 

 

「あのような手段で我を呼びつけるとは大した策士だな」

 

「貴方にも人の情があって良かったですよ。これが成功しなければ文字通り焼き尽くすしか手はありませんでした」

 

 

代表とラオウの言葉に怪訝な顔になる後ろの二人に、ラオウは鉛を食らったかのような苦い顔をして。

 

 

「お前達が代表と慕うその男は我がここに来なければ我の子供を殺すといったのだ。随分な手を使う」

 

「貴方と自分の部下が散々似たような事をやっておいてなにを言ってるんでしょうねこの人は」

 

 

トキとジャギはその言葉の意味を理解するのに大分時間を使った。

 

 

「あ、兄者に子供がいるのか?」

 

「そんな馬鹿な!」

 

「いえいえ、貴殿方の長兄は間違いなく妻子がいますよ?……北斗の隠れ里に隠していたようですが、私がそんな貴方のアキレス腱を見逃すとお思いですか?」

 

 

代表はあっけらかんと言ってラオウを見てニコニコしている。

 

逆にラオウは厳しい顔で

 

 

「貴様の事を調べたが、肉親と呼べる人間もいなければ友と呼べるものも確認できなかった……(しがらみ)を作らぬように世を生き、こうなることがわかっていたかのように行動して今の地位に至っている」

 

「貴方は随分とデリケートな問題を野放しにしているようだ。北斗後継者問題、天帝の側近による横暴、そして修羅の国に残されたラオウ伝説……貴方が死んだとき、どれだけの人間が血の海の中で溺れるんでしょうね?」

 

 

代表の言葉にラオウは臍を噛んだ。皮肉を言えば自分のやり残した事や秘事を平然と代表は口にしてきた。

 

 

「私が何故貴方の喉元に手が届く状態になってさえ殺しにいかないかわかりますか?……貴方を殺した後に起きる凄惨な出来事を起こしたくないからです」

 

「貴様は…このラオウに手心を加えていたと申すのか!?」

 

「手心?……貴方は世紀末前、自らを拳王として名乗り出て、天を掴もうと思いましたか?」

 

「なに?」

 

 

胸ぐらを掴むラオウに代表は感情を映さない瞳で問いかける。

 

 

「世紀末前の貴方は今のような立場ではなかったし、知る人ぞ知る無敵の暗殺拳の弟子である四兄弟の長兄でしかなかった。拳王と名乗り、世界に暴力で覇を唱えるきっかけは何か……その時に貴方を殺せる存在が極少数しかいないと確信したからだ」

 

 

足は宙に浮いたまま、代表は言葉を続けていく。

 

 

「世紀末前は貴方を殺しうる手段は膨大にあった。どうあがいても道半ばで倒れる運命にあったのを理解していた貴方は、理性ある行動を取っていた節がある……だが貴方は乱世になってその理性のタガが外れてしまう。更に止めとしてリュウケンを手にかけたことがそれを助長することになった」

 

 

ラオウはギラギラと殺気を纏った視線を出しているが代表の態度は揺るがなかった。

 

 

「止めることが出来ないとわかれば人は簡単に理性をかなぐり捨てていく。咎めるものや罰するものがいなければ、人は何処までも残酷になれる……だからラオウ、私は貴方を阻む者として、立ちはだかる力を持った今こそ貴方の目の前にいるんです」

 

 

ラオウは右の拳を振り上げるが代表の顔に変化はない。

 

 

「今ここで貴様を殺せばこの町は終わる!」

 

「その前に貴方が死にますよラオウ」

 

 

その瞬間代表の胸ぐらを掴んでいたラオウの左腕に鋭い衝撃が二つ走り、ラオウの意思とは関係なく左手がガバリと開いて代表を離した。

 

更に代表とラオウの前に光学迷彩を解いた白いマネキンのようなロボットが現れ、更に部屋の四隅からも同じマネキンロボットが一瞬でラオウに詰め寄り両手の指を向けて停止した。

 

一秒程でおきた出来事に後ろにいたトキやジャギは反応出来ず、事態は進んでいく。

 

 

「隠密戦闘ロボットで名前をノーフェイスと言います。光学迷彩で隠れ、小型オーラコンバーターで増幅した気を指先から経絡秘孔へ打ち込んで敵を無力化します」

 

「貴様……木偶にすら秘孔を突く術を与えたのか!」

 

「私とアミバは研究を重ね、人体のあらゆる経絡秘孔の効果を紐解いてきました。ジャギやレイにかかった技を解く前から随分と研究していましたが、ついに実用段階に至ったんです」

 

「代表……いつの間にそんなものを」

 

 

トキのセリフに代表は苦笑する。

 

 

「北斗神拳の秘孔による医療効果を知って作っていた秘密兵器なんです。トキ先生だけではこの町の人の医療を賄いきれませんからね」

 

「ぐ!」

 

既にラオウから距離をとった代表は一体のノーフェイスに守られ、他四体のノーフェイスがラオウを四方から取り囲んでいる。

 

「貴方は自分が死ぬなど毛ほども思ってなかった様ですが。これで貴方は絶体絶命ですね」

 

「なめるなぁ!」

 

 

ラオウの剛拳が唸りをあげ、二体のノーフェイスを粉砕したが残りの二体のノーフェイスに肩と背中の秘孔を突かれて身動きを取れなくされてしまう。

 

 

「北斗神拳に伝わっていない秘孔で、全身の筋肉が暫く痺れ、尚且つ気の循環が出来なくなる場所です。自力での解除は不可能でしょう」

 

「ぐう……其だけの木偶を貴様は作り出すとは」

 

「これが半年以上前の邂逅なら私が屍を晒す事になったでしょうがね……さて、私の力を見せたところで本題に入りましょうか」

 

 

全身の痺れに膝をつくラオウに代表は近づいたあと、しゃがんで目線を合わせると

 

 

「今日から一週間後、貴方にはケンシロウと戦ってもらいます。北斗神拳を巡る問題はここでハッキリしておきたいですからね。勝てば私達ダムの町は貴方に食料支援と武器の供給をし、貴方には干渉しません……しかし負けたら」

 

 

ラオウはギリっと歯を食いしばり、次の言葉を待った。

 

 

 

 

 

 

「貴方には西へ行って貰います」



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めでたい日

切りがいいので短めです


有り合わせの超突貫、天井の塗装も済んでない鉄骨むき出しの教会で、ユリアとケンシロウは向かい合っていた。

 

 

「ユリア……」

 

「ケン」

 

 

代表からの差し入れでケンシロウは白のタキシード、ユリアは白いウェディングドレスを着ている。

 

新郎新婦入場の際にはケンシロウには笑いとやっかみ、ユリアには男女問わず感嘆の溜め息が出ていたが、こうして二人が向かい合うと皆静かに事を見守っている。

 

 

「それではお二人には誓いのキスを……」

 

 

神父の代役としてダムの村の町長がそう告げると二人の体はゆっくりと近づき……

 

 

そして重なった。

 

 

 

「「「「わあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

 

 

その瞬間に爆発したような歓声と盛大な拍手の音の中で、ただただ幸せそうに笑うユリアと微笑むケンシロウの姿があった。

 

 

 

 

「いやー良かったですね二人とも」

 

 

結婚式は成功を収め、取り敢えずはと代表が盛大な立食パーティーを開いてもてなす中、ケンシロウとユリアが代表の前にやって来ていた。

 

 

「……俺は結局代表の世話になりっぱなしだったな」

 

 

ケンシロウの言葉に代表は苦笑し。

 

 

「幻の暗殺拳が世の中で轟くこと自体が異常なんですよ。それに貴方はこの町で色んな仕事や治安維持で頑張ってるじゃないですかケンシロウ」

 

「フッ……たまに自分が拳法家だと忘れそうになる」

 

 

ケンシロウはそう言って笑うと気を引き締めた顔になり。

 

 

「長兄ラオウとの真剣勝負の件、場を整えてくれて感謝する」

 

 

実はラオウとケンシロウの真剣勝負はケンシロウからの提案だった。

 

 

「私としてはラオウを無力化してさっさと西に行って問題を解決するまで帰らせないことも出来るんですけどね」

 

「それでは天を目指した一人の武人としてラオウは納得できないだろう。伝承者となって結局手合わせが唯一出来なかった相手なんだ……勝って兄に認められたい俺の我が儘さ」

 

「面倒ですね拳法家ってやつは……ユリアさんも先行きが大変ですね」

 

「ケンなら大丈夫です。その時は私が支えますから」

 

「これはこれは、随分と綺麗で頑丈そうだ」

 

 

新婚らしい熱々っぷりに代表は苦笑いしたが、真面目な顔になり。

 

 

「相手は北斗神拳の使い手で兄弟子。更に親代わりの師匠を殺しその行為による非情さで莫大な闘気の高まりを得た傑物です…勝算は?」

 

 

代表の言葉にケンシロウは自信を漲らせた顔で

 

 

「ある……俺は非情になれなかったが、ここでの生活で一つ確信したことがある……非情さだけが闘気を高める方法ではないことを」

 

 

 

 

 

そして結婚式から一週間後……過程は大分違ったが北斗の拳において最も有名なシーンと言えるケンシロウ対ラオウの真剣勝負が始まろうとしていた。




次回【真剣勝負】


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真拳勝負

お久しぶりです。

感想欄の返答は出来ていませんが、全て目を通させてもらっています。

有難うございます。

相変わらずストックはないです。


その日は雲一つない晴天で、嵐などが起こりそうにない朗らかな日。

 

ダムの町にはあらゆる武術家や拳法家、または武器術等を使う人間が多いのでサッカーや野球が出来る程度に大きい練兵場という場所があった。

 

其所にはこのダムの町の代表が企画した真剣勝負が行われようとしている。

 

周りへの被害を考慮し、相撲の土俵を二倍ほど広げた特設会場は西と東に陣営を分けていた。

 

東はダムの町の関係者が集まり、リンやバット、マミヤにアイリ等原作に出てきたメンバーもいれば。

 

 

「ケンシロウさん!負けるなよー!」

 

「ケンさん、兄貴だからって容赦すんな!」

 

「ケンさーん!結婚しても私達は待ってるからねえ~!」

 

 

この町でケンシロウに助けられた者、手合わせとして武を競ったもの、仕事の手伝いや治安維持で出てきたケンシロウに心奪われたもの達が応援に来ていた。

 

最後の声援にはユリアもムッとしたが、其だけ慕われるケンシロウの人徳に後で何があったのか説明して貰いますとケンシロウに目で訴えかける。

 

 

「代表……ユリアの視線が凄いんだが」

 

「まあこれが終わったらしっかり説明してあげなさいな。貴方がこの町で慕われていると私も言ってあげますから」

 

「助かる」

 

 

ケンシロウはそう言って特設会場の中心に歩いていった。

 

 

対する西はガヤガヤと喧しい東と違って実にピリピリとした空気が漂っていた。

 

 

「兄者よ……」

 

「トキか……向こうに居なくて良かったのか?」

 

 

黒王号から降りて仁王立ちするラオウの背後からトキが話しかけている。

 

 

「ケンシロウには付き添ってくれるものが多いからな。兄者が寂しがってないか見に来たんだ」

 

「ぬかせ……」

 

 

そう言いつつ対面から歩いてくるケンシロウにラオウは武者震いの様なものを感じる。

 

 

「この町には少なくとも数百の拳法家や腕に覚えのあるものがいる。ケンシロウはその者達とほぼ毎日手合わせをしていたのでな……昔とは比べ物にならん」

 

「フン……雑魚を並べ立てても所詮雑魚に変わりあるまい」

 

「兄者ならそう言うのだろうな……だからこそ代表はケンシロウを選んだのだろう」

 

 

トキの言葉にラオウは振り向く。

 

 

「どういう意味だ?」

 

「我等は一つ間違いを犯していたということだ」

 

 

トキはそう言ってラオウ陣営にいるユリアの兄にあたるリュウガに挨拶に行ってしまう。

 

胸に少しのモヤモヤを残し、ラオウも会場の中心に向かった。

 

 

 

ラオウとケンシロウ……使う拳法はどちらも北斗神拳。

 

 

「ラオウ……」

 

「ケンシロウ、もはや問答は必要ない!」

 

 

ケンシロウが何か言う前にラオウは闘気を高め、臨戦態勢に入っていく。

 

ケンシロウも覚悟を決めたのか、ゆっくりと構える。

 

かつては激流といっていいほどの圧のある闘気を纏っていた両者だが、その様相は変わっていた。

 

ラオウは目で可視化出きるほどの闘気を体内から太陽の様に放射させて周囲を圧倒している。

 

対してケンシロウはというと……。

 

 

「……貴様は」

 

 

その様相にラオウは絶句した。

 

それは激流と言われたラオウとも静水を目指したトキとも違う、ケンシロウのは薄く稀薄で、周囲を揺蕩う霧のような闘気だった。

 

空気は歪む事もなくラオウの闘気はケンシロウにぶつかるが、薄い霧のような闘気に飲み込まれていく。

 

 

「他者を圧倒することなく、拳を交えてお互いを理解する……そこには武を通して作った己の道があり、道と道が交わった時に相手を知り、世界の広さを感じ、そして気がつけば俺の道は広く長くなっていった」

 

「何をゴチャゴチャと……このラオウにそんなものが通じるとでも!」

 

 

ラオウの闘気が収縮し、両手から北斗剛掌波が放たれるがケンシロウは岩山両斬波でまとめて切り裂いた。

 

そしてそれが真剣勝負の開始のゴングとなる。

 

 

「ヌウオオオオオオオォォォォォォ!!」

 

「ホォォォワッッタアアアァァァ!!」

 

 

両者の拳が余りの早さに残像を描き、岩と岩がぶつかり合う様な音が響き渡る。

 

手管を変え、立ち位置が目まぐるしく変わり、ラオウは経絡秘孔に目掛けて突きを放とうとするが、ケンシロウは巧妙に体勢をずらしたり筋肉の収縮を使って経絡秘孔の点を防御して打ち込ませなかった。

 

 

「何故秘孔を突かん!ケンシロウ!」

 

「暗殺拳という薄暗い暗黒の道を一人で歩く人間に誰が気がついてくれる?……俺は兄者を殺すのではなく救うために戦っている」

 

「救うだと?……驕ったかケンシロウ!」

 

 

ラオウの怒りが闘気に影響し、放たれた右手に闘気が渦を巻く。

 

しかしケンシロウは更に内側に間合いを詰めるとラオウの放たれる右手を両手をしなるように絡ませて投げ飛ばした。

 

 

「ぬうおっ!」

 

 

宙を舞うラオウだが流石に綺麗に体勢を整えて着地してケンシロウを見ると、ケンシロウはその場で構えたまま動かない。

 

そしてその態度に怒りが高まるラオウ。

 

溢れる闘気が更に膨れ上がり、ラオウは手で円を描き気を練り上げ始めると、それをケンシロウに向かって解き放った。

 

 

「この無敵の拳受けれるか!……天将奔烈!」

 

 

爆発的に膨れ上がり全てを破壊する闘気の波動を放ったラオウだが。

 

 

「ふうぅぅぅぅん!」

 

 

ケンシロウはそのまま両腕で天将奔烈の闘気の波動を受け止めて、円を描くように腕を回して絡めとり、そのまま後退しながらラオウの天将奔烈を払った。

 

 

「な……何だそれは!」

 

 

北斗神拳では絶対にない受け技に、ラオウは久方に感じなかった恐怖を思い出した。



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真拳勝負2

出てくる人物はそれっぽい人なのであしからず


「廻し受けですね……しかし見事なもんだ」

 

 

ケンシロウの受け技を見ていた代表はそう呟いた。

 

ラオウとケンシロウの真拳勝負を見守る面々はその戦闘の激しさに息を飲んで見守っている。

 

そして代表の言葉に一緒に見ていたアミバが反応した。

 

 

「確か虎殺しをしたと言っていた空手家が使っていた技だったな。その前に使ったのは蛇拳の型で組み付いて変則の背負い投げ……器用なもんだ」

 

「受けたり見たりした技を血肉に出来る北斗神拳ならではの技ですね」

 

 

腕組みをするアミバは厳しい顔をして言う。

 

 

「しかしラオウを殺さずに無力化なんて出来るのか? ……いくらケンシロウがあの頃とは比べられんほど強くなったとはいえ無茶だろう?」

 

 

その警告に代表は微笑んだ。

 

 

「北斗神拳は一撃必殺の無敵の拳ですが、一撃必殺故に防御の型がほぼ存在しません。大体回避か相殺かカウンターしかない故に防御だけは個人の能力に頼っている節がある……いうなればそこが北斗神拳の弱点なんです」

 

「防御が北斗神拳の弱点か……どうにも想像つかん」

 

 

アミバは距離を詰めるラオウを見てそう言った。

 

 

「まあ見ててください……ケンシロウの得た答えを」

 

 

 

 

 

 

 

 

side ケンシロウ

 

 

おめえさんの技は正に修羅だなぁ……だがまだまだ技の強さに頼っていて練りがたんねえよ。

 

 

そう言ったあの隻眼の空手家は俺の北斗百裂拳を事も無げに二つの正拳突きで弾き飛ばした。

 

 

百回殴ろうが腕は二本なんだ。来るとわかればやれねえ事はねえさ。

 

 

悉く技を受けきられて衝撃を受けた。

 

自分よりも二回り以上年上だったあの空手家は正に達人だった。

 

 

「何故北斗神拳を使わんケンシロウ!」

 

 

ラオウの闘気を纏う剛拳を化勁で反らし、経絡秘孔を突かれそうになれば、アイソレーションというボディコントロールで筋肉と秘孔の位置をずらして無効化する。

 

 

 

力は利用し、制御してこそネ! (ことわり)を理解していれば恐れることはないネ!

 

 

 

あの拳法家はそう言って技を教えてくれたが、ユリアの事を見る視線は気に食わなかった。

 

 

「妙な動きをしおって……戦いの最中に秘孔をずらすなどいつの間にそんな技を覚えた!」

 

 

はた目にはわからないほどの大振りになった右拳を体を滑らせる様に避け、ラオウの懐に潜り込む。

 

 

「また投げるつもりか! させん!」

 

 

組み付く事を警戒し、両腕を広げて逆に組み付こうとするラオウだが、投げるだけが能ではない!

 

 

わしは腕が届く距離におるなら戦車ですらひっくり返せるわい……。

 

 

そう言った御老人の枯木の様な体から放たれた一撃は容易く岩を砕いていたのを覚えている。

 

 

 

 

「ふん!」

 

ズン!

 

「ぐぬう!」

 

 

地を砕くほどの震脚から背中からもたれ掛かるようにラオウに俺はぶち当たる。

 

八極拳が一つ鉄山靠だが、闘気を纏うラオウには其なりのダメージと体勢を崩す事しか出来なかった。

 

だがそれが好機だ!

 

体勢を崩すラオウと目が合う、俺の答えを示すぞ、ラオウよ!

 

 

「俺は北斗神拳以外を知った……そして知った俺は変わる……そしてこれは明日へと繋ぐ俺の技だ!」

 

 

やや開いた間合い、力強く踏み込んで宙を舞う。

 

 

「その動きレイ……いやシュウの気配も感じるだと?」

 

 

南斗水鳥拳の疾風行法に南斗白鷺拳の烈脚空舞を混ぜた蹴りはラオウの胸に浅い傷を作る。

 

 

「空手に中国拳法に次は南斗聖拳……他者の猿真似で我を倒せると思うたか!」

 

 

闘気が荒れ狂い、ラオウの手刀が空気を引き裂くが俺は十字に手刀を放って相殺し、ラオウの四肢に斬撃めいた飛び蹴りを浴びせた。

 

 

「サウザーにシンの技か……いよいよもって下らんな」

 

 

ラオウの目に侮蔑の色が浮かぶ。

 

 

「どれもこれも我を倒すには至らんものばかり……こんな大道芸じみたものを見せる為に挑んだというならその命いらんようだな?」

 

 

ラオウの殺気が闘気と融合し、赤黒いオーラとなって可視化出来るまで高まった。

 

確かに全ての技はラオウの命に届かなかった。

 

しかし、俺は確信した。

 

 

「ラオウ……お前は既に負けている」




ケンシロウに教えをくれた人達はダムの町以外で元気に治安維持を行ったりしてます。


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勝負の終わり

お久しぶりです。感想を全て目を通していますが、返信できなくてすいません。


「何を言っている?」

 

 

一瞬言われた言葉に呆然とするラオウだが、すぐに自分の体の異常に気がついた。

 

 

闘気が使えない……

 

 

正確には体から生み出す気に大きなムラが出るようになり、戦闘に使用することが難しくなっていた。

 

闘気が使えなければ攻撃や防御に大きな減衰が起き、現状でラオウはケンシロウに対する勝率が限りなく低くなっていたのである。

 

 

「経絡秘孔ではなく秘孔と秘孔の間に流れる気脈に闘気を打ち込み、体に流れる闘気の循環を一時的に絶つ……名付けるなら北斗活人拳」

 

 

構えを解かないケンシロウを前にラオウはたらりと一筋の汗をかいた。

 

 

「秘孔を突かずに気脈を封じる……だと?」

 

「そうだ、北斗活人拳は暗殺拳ではない……故に技を決めても相手は死なず、しかし勝敗を決する結果を引き込む拳法だ……」

 

 

気脈を封じられ、闘気の運用が出来なければ北斗神拳も使えず、純粋な腕力と武術だけで戦うことになれば現状のラオウがケンシロウに勝つ可能性は限りなく低い。

 

 

「他者を殺すことだけが武術の全てではない……弱き者が強き者に勝つための技術、他者の戦闘力を奪い無力化する力もまた武術だ……それに」

 

 

ケンシロウは代表達の集まっている所を見ると。

 

 

「北斗神拳を使う者は彼に技を見せすぎた……既に北斗神拳は丸裸になったと言っていい」

 

 

そう言ってケンシロウはラオウに説明を始めた。

 

 

「兄者が基礎を手解きしたアミバ、そしてこの町の代表は体の全ての経絡秘孔と秘孔を突いた時の効果を調べ挙げたのは知っているな? 彼等はそれをリストにまとめて技術の体系化を進めている……北斗神拳は一子相伝の暗殺拳ではなく、活人拳と暗殺拳を内包した体系化された武術として技術の拡散がされるだろう……だから」

 

 

ケンシロウはラオウに近づき、ラオウの両手を自分の手で包み込み。

 

 

「もう掟云々は意味がなくなり、兄弟で殺しあいをする必要がなくなる世が来るのだ兄さん」

 

 

その言葉にラオウは憤怒の表情をした。

 

 

だが暫くすると。

 

 

「そうか……もう兄弟で血で血を洗う日々は永久に来なくなるのか」

 

 

プツリと……何かが切れたように穏やかな顔をしたラオウが其処にいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラオウという男の本質は責任感が悪い方に転がった人なんでしょうね」

 

 

ラオウとケンシロウ……決着がついた二人を見ながら代表はそう呟いた。

 

 

「恋慕すれど踏みとどまれる彼がユリアを欲したのもいずれケンシロウの脇の甘さを危惧したから、天を目指したのも誰か力あるものが統率しなければ心ないもの達が地獄を生み出すから……拳王軍が治めた際の焼き印もそれが魔除けがわりに使えると思ったから……全て私の想像ですけどね」

 

 

アミバは代表の考察に一理あるなと考えた。

 

 

明らかに足りない食料と水、過酷な気候と理性失う人々、本能に忠実に生きる者達に道理を教えるなら圧倒的な強者による統制が必要だとラオウは思ったのだろう。

 

現に拳王軍は少なくとも末端以外は人を面白半分に殺すことはせず、見せしめに数人殺しながら人々を従えていた節があった。

 

彼等は確かに悪人ではあったが理性なき獣ではなかったのだ。

 

 

「それも限界が来ていたのは間違いなかった……立場が人を変えるように拳王軍も腐敗が始まっていたんでしょう」

 

 

代表の言葉に

 

 

「立場が人を変えるか……」

 

 

アミバは代表と決着を迎えた二人を見ながらポツリと答えた。

 

そして今ここに北斗の拳のターニングポイントと戦いが終幕し、拳王は死ぬことなく北斗の因縁は終わることになったのだった。



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そして世紀末は伝説となる

最終話です。


大きな歓声と幾多の人がその建物にいる人間を祝福している。

 

新しくダムの側にある国に生まれた次代の大統領に国民は笑顔と称賛を持って迎えていた。

 

そしてその建物の最奥……この国の初代大統領だった人物は今、静かにその命の火が消えようとしている。

 

 

「……リンちゃん、起きてください」

 

 

意識がゆらゆらとしていた初代大統領の耳に懐かしい人の声が聞こえてくる。

 

 

「……代表?」

 

「ええ、私です」

 

 

初代大統領だった(・・・)リンは急速に意識が覚醒する。

 

それは最後に燃え盛る炎の瞬きのように。

 

 

「……私のお迎えに来たの?」

 

 

高齢による重度の認知症にかかっていたリンはあの頃の少女のように目の前の人物に質問した。

 

 

「……はい、もうあの頃を知るのは貴方だけになりましたので、お迎えに来たんですよ」

 

「そうなんだ……じゃあまたケンシロウやバットに会えるの?」

 

「ええ、皆さんあなたの事をお待ちしていますよ」

 

 

代表の言葉にニコリとリンが笑う

 

 

「代表ありがとう……実はちょっと怖かったの」

 

 

少女の様に笑うリンはそう言ってペロリと舌を出した。

 

そしてリンの呼吸が少しずつ浅くなり、ゆっくり一呼吸して。

 

 

「じゃあ私は先に行って貴方の事を待っているわ……」

 

 

もう寝るわね……そういって目を瞑ったリンは、それから二度と目を覚ますことはなかった。

 

 

「……ええ、いつか会える日を」

 

 

代表と呼ばれたひょろりとした青年……転生者であり、あの世紀末の人達と星を救った男はリンのいた部屋から蜃気楼のように消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだ後、開口一番に神様にこう言われた

 

 

 

「お前頑張りすぎ」

 

「はい?」

 

「人を救った数が尋常じゃない……信仰と功徳積みすぎ」

 

「ええ……」

 

「数多の宗教や神話があの核の炎で焼かれて焼失したからなあ……そりゃ信仰があんたに集中するよね?」

 

「ああ……なるほど」

 

「それに名前……皆代表って呼ばせて本名を明かさなかったのが神秘性高めちゃってさぁ……」

 

「いやあ……何か中二っぽい名前過ぎて名乗りづらいんですよ」

 

「いいじゃんいいじゃん、神代 表悟(かみしろ ひょうご)ってカッコいい名前だと思わない?」

 

「神に代わり、世に触れて悟るもの……痛々しいですって」

 

「だから真ん中とって代表って名乗るのどうなの?……兎に角、人としてあの世界にそのまま転生したら大問題なんだよね……力はまだ弱いけど殆ど神みたいなもんだよ」

 

「なんかそんな気がしてきました」

 

「そんでこれからどうすんの?」

 

 

神様の問いに俺は即答した。

 

 

「俺の知っている北斗の拳の主要メンバーが全て亡くなるまで見守るつもりです」

 

「後の世界はいいの?」

 

「ええ、俺や皆の時代は記録の中の過去の話ですから……後は皆の子孫に任せますよ」

 

「北斗と南斗の融和を導き、星と人を救った救世主が寂しい事言うなよ」

 

 

神様の言葉に苦笑して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから俺は救世主じゃねえって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に見送ったリンちゃんは皆のいるところに迷わずに逝けたのだろうか?

 

残念だけど俺はそちらに行けなくなったよ、ちょっと長いお別れだ。

 

幽体となった俺は神様の導きでまた別の世界に行くことになる。

 

俺の手元には資源変換と科学技術限界突破が残り、そして新たに信仰の力ってのが加わった。

 

向かう世界はわからねえけど俺はまた力を付けて精一杯生きていくしかない。

 

 

俺の名前は神代表悟……人は俺を代表と呼び。

 

そして少し恥ずかしいが……俺は世界を救った人となった。




これにて完結


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作者の戯れ言

これにて《だから俺は救世主じゃねえって》は完結いたします。

 

自分の拙い作品にお付き合い下さいましてありがとうございました。

 

最後の方は更新がかなり遅く、バタバタとした展開になってしまい申し訳ありません。

 

そしてぶん投げてしまった伏線の数々……。

 

町に置いてあった秘密兵器

 

出番のなかった四人目の護衛

 

南斗のメンバーのその後

 

ジャッカルにデビルリバース

 

雲のジュウザ

 

松風を探しにいった慶次

 

フウガとライガ

 

結局ラオウの子供を誰が生んだか

 

牙一族等々……。

 

挙げればきりがないのですが、作者自身が広げた風呂敷を上手く畳む術が思い付かず、泣く泣くカットしてしまいました。

 

余りに大量にある北斗の拳の外伝作品のせいでキャラを掘り下げようとすると芋づる式に原作にないキャラが出て来て混乱するんですよね……全てはコミックゼノンが悪い……。

 

元々は修羅の国までやろうとは思っていたんですが、ラオウとの決着以降は何か消化試合というか、ラオウ編以降の北斗の拳は急にサイキックバトル漫画風に変わってしまうので違和感が拭えず、話納めとしてはちょうどいいなと思い完結することにしました。

 

もしかしたら回収してない伏線でサイドストーリーを不定期更新するかもしれませんが、それよりも別の世界にいった代表の話を書いてるかも……モチベーションが上がったらまた書きたいと思います。

 

そしてこの作品は私だけではなく、数多の誤字脱字を指摘して下さった読者の方達の尽力があった事をこの場を借りて深く感謝いたします。

 

余りの誤字報告の量に自分の日本語レベルの低さにびっくり仰天しました。

 

そして感想をくれた読者の方達にも有り難うと言いたいです。そして途中から返信できなくてごめんなさい。

 

なにはともあれこうして一つの作品を完結できたのは皆さんのお陰です。

 

また何か思い付いたら書こうと思いますのでその時は誤字脱字報告をドシドシお願いします(笑)

 

それではまたどこかで!

 

 

 

 

 

 

 

 

これ以降は文字数稼ぎ

 

 

 

 

 

ダムがシンボルのある国のネット検索結果

 

代表と呼ばれた男(名前は記録に残っていない)

 

数世紀以上前に実際に存在した人物で、この国の礎を作った人

 

現在からしてもオーパーツに近いロボット技術と数多の機械工学の天才にして鬼才。

 

その当時核の炎によって壊滅したインフラやライフラインを一代で整えきったその手腕はまさに天才を越えた何かとしか言いようがない。

 

北斗鍼灸術の開祖であるアミバ氏や今や伝説として残る北斗神拳伝承者で北斗活人拳の開祖である初代ケンシロウ氏が活躍した時代にいた人物だが、その素性には謎が多い。

 

一部の歴史学者には、この人物は個人をさすのではなく名前すら残さなかった企業または組織の代表として彼がシンボルとして使われたのではないかと考察する者もいる。

 

世界でも最大規模を誇る南斗聖拳の分家として残る南斗五車星家の海の一族の記録にはしっかりとした個人としての記録が残っているが、彼の行った功績は創作のキャラクターとしても盛りすぎでは? と言われるものが多かった。

 

現在でも完全な複製が不可能な培養が出来るタンパク質由来のナノマシンの開発。

 

世紀末後の資源の枯渇した世界で太陽光発電、振動発電、宇宙放射線発電の発電所の開発と建造。

 

手をかざしただけで汚染された海を浄化した。

 

宗教家でもないのに残存する一大派閥の宗教では神の使いとして定義されている。

 

男を正真正銘の女にした(後に発見された資料で特殊な移植手術だとわかったが、現在でも再現は難しいと言われている)など逸話は多い。

 

しかし彼自身はあまり自分が救世主と呼ばれることが好きではなかったそうだ。

 

記録に残る彼は秘密主義だが温厚な性格だったらしく、やった功績に比べると、凡庸に見える男だったらしい。

 

ただ敵対者には容赦がなく、人質は取るわ捕らえた者を人体実験するわと冷酷な一面も……。

 

しかしまだ町程度の大きさだったこの国の礎を築き、周辺の自然環境を改善しながら明日をも知れぬ人を受け入れて助け続けた彼の偉大さは神格化され、今も尚彼を題材にした創作物が出るほどの人気の人物である。

 

ネット界隈では性転換を完璧に行う人物として色んな作品に出張しては性転換する変人として描かれることが多かったり、ピンチの時に秘密兵器を出してくれるお助けキャラとして登場したりする。




南斗聖拳の事を少し追記しました。


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