王子系ヤンデレ女子大生に愛されるのでどうにか生き残る話 (2.36α金属リン)
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番外集:季節イベント
番外編:ヤンデレバレンタイン迎撃戦


バレンタイン特別編です。
ヤンデレはバレンタインに一体何をやらかすのでしょう。
予め言っておくと作者は彼女居ない歴=年齢なので雑なところがあります。ご了承ください。


「……騒がしいな」

 

学校の昼休み。昼飯を食べながら憂鬱な気持ちをどうにか払拭したいな、と考える。

 

「おいおい、鉤野。どうしたんだそんな憂鬱そうな顔して」

 

同じクラスの友人が話しかけてくる。妙に浮き足立っているが……どうしたんだこいつ。

 

「……妙に周囲が煩いからな。静かに過ごしたい俺としては憂鬱にもなるさ」

 

「まあお前はなー。でも仕方ないと思うぜ?今日はなんで言っても───」

 

「2月14日。西フランクの王であるシャルル2世と東フランクの王であるルートヴィヒ2世が兄であるロタール1世に対抗するためにストラスブールの誓いを結んだ日だな」

 

「いやそうだけどそうじゃない」

 

えっ。違うのか。

 

「……じゃあ、グラハム・ベルが電話のシステムの特許を出願した日か」

 

「いやまあそれも今日だけどな?俺が言いたいのはそうじゃないんだが」

 

「あ、わかった」

 

「やっとか」

 

「マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校にて銃乱射事件が発生した日か」

 

「バレンタインだよ!!!!!」

 

「うっせ」

 

「お前が原因だよ100%な!!!!!」

 

友人の絶叫に顔を顰める。マジで煩いなこいつ。

 

「ところでお前、今んとこチョコ何個貰った?」

 

「0だけど。お前は?」

 

「1つ「家族は無しだぞ」……0です」

 

「草」

 

「除草剤撒くぞ。お前だってどうせ貰えないくせに」

 

………………。

 

「渡してくるやつはいるが……それが問題だから憂鬱なんだよな」

 

「なんだいんのかよ。何が問題なんだよ死ね」

 

「頭おかしいやつが渡してくるから問題なんだよ。去年なんてチョコレートに睡眠薬と媚薬仕込まれて逆レされかけたんだぞ」

 

「ごめん俺が悪かった」

 

「まあ報復として土に埋めたが」

 

「俺何聞かせられてんの?殺害報告?」

 

「全然生きてたけど」

 

殺すつもりはないし怪我しないように手加減はしたが。

 

「今年も絶対ろくな目に合わないから憂鬱なんだよ。拷問方法考えなきゃだし」

 

「本当に仕留めてないんだよな???」

 

「くどい」

 

さて、本当にどうしようか。

 

 

 

「まずここに逃げ込むよな」

 

「私の家はシェルターじゃないわよ?」

 

現在俺がいるのは燐舞曲のメンバーである矢野緋彩……緋彩さんの家。葵依姉ちゃんの行動がやばくなり始めるとよくここに逃げ込んでいる。

 

「いや逃げ込みますよそりゃ。去年あの馬鹿が何やらかしたか覚えてますよね?」

 

「まあアレは確かに葵依クンもやり過ぎだったわよね……」

 

「一番安全そうな場所なんで逃げ込ませていただきました。お礼として家事ぐらいはさせていただきます」

 

まあ当然である。普段から逃げ込む代わりに掃除とかはさせてもらってるし。

 

「それじゃあ……料理のお手伝い、お願いね?」

 

「喜んで」

 

頼まれた料理を手早く作っていく。緋彩さんも忙しなく動いているが……

 

「……なにをなさってるんで?」

 

「ああ、気にしないでいいわよ」

 

「さいですか」

 

緋彩さんが気にしないでいいって言うんなら大丈夫なんだろ。葵依姉ちゃんが言った時は絶対ろくなことが起きないから気にするが。

 

「ほい完成」

 

「ありがとね〜」

 

熱中していた。気がついたら終わっていたので汗を袖で拭いながらリビングに出る。

 

「お、渚さん」

 

「ん、戒矢」

 

リビングでは燐舞曲のメンバーの一人である月見山 渚がギターのチューニングをしていた。いつの間に来たんだろうか。

 

「お前がここに来るなんて珍しいな」

 

「馬鹿からのシェルター」

 

「あー……」

 

納得したようで何より。男女のイベントが発生する日にあいつが動かないわけがない。

 

「あ、そうだ。ほらよ」

 

ふと何かを思い出したらしい渚さんが何かを放り投げてくる。

 

「……なにこれ」

 

「チ○ルチョコ。来月お返し頼むぜ」

 

「お前チロルチ○コ如きでお返し要求するとか何様のつもりなんだよ152cm」

 

「身長を弄りに使うんじゃねぇ。お前が高いんだよいくつあるんだ」

 

「最後に測った時は……184かなぁ」

 

そろそろ止まると思いたい。

 

「何でそんなデカくなれるんだよ……」

 

「逆にアンタはなんであんなに食っといて背ェ伸びないんだよ。太らないならまだしも」

 

「お前女性に対して体重ネタ出すってどういうことかわかってんのか」

 

「ごめんて」

 

怖かった。俺のやることに対してほとんど全肯定決め込む葵依姉ちゃんですらキレる題材はまずかったか。

 

「とりあえずチ○ルチョコにしたこと後悔させてやるからな」

 

「どうやってだよ」

 

「罪悪感で」

 

「本当にどうやってなんだよ」

 

困惑する渚さんをスルーしながらスマホを起動、ゲームを始める。そうして暫くすると、コートを着た椿さんがやって来た。

 

「お邪魔するわね」

 

「あ、椿さん。葵依姉ちゃんは用事があるから遅くなるってさ」

 

「お、椿」

 

「椿ちゃんいらっしゃ〜い」

 

「ところで戒矢クンは……何をしてるの?ゲーム?」

 

「ゲーム」

 

「どんなゲームをしてるのか聞いてもいい?」

 

「病原菌を作って世界を滅ぼすゲーム」

 

「悩みあるなら相談聞くぞ」

 

「葵依がごめんなさい……」

 

「休んだ方がいいんじゃないかしら」

 

「別に病んでねぇよド素面だよ」

 

失礼にも程があんだろ。そうして時々雑談していると、椿さんと緋彩さんから小包を渡される。

 

「何これ」

 

「バレンタインよ。数少ない交流のある男の子だもの、これぐらいはね?」

 

「ありがとうございます。来月ちゃんと返礼するんで首洗って待ってろ」

 

「あれ?私決闘を申し込んだわけじゃないわよね?」

 

椿さんがめちゃくちゃ困惑してる。俺がおかしいだけだから気にしないでください。

 

「お邪魔します……」

 

「あ、葵依姉ちゃん……ってえらく疲れてんな。どうしたん」

 

「大学でみんなからチョコを貰ってね……何度も呼び出されて疲れたんだ」

 

「ばりヘロヘロで草も生えない。……ハグいる?」

 

「いる……」

 

「飛びついてこないあたりガチで疲れてんな」

 

ふらふらとよろけながらコートを脱ぐことなく近付いて来るので葵依姉ちゃんの後頭部が俺の胸元にくるような感じで後ろから抱き締める。体重をかけてくるので気分はさながらソファである。椿さんが羨ましそうな目で俺を見てくるが無視だ無視。

 

10分ほど経過して。

 

「よし回復」

 

「そりゃ良かった」

 

「戒矢、バレンタインプレゼントの──────

 

 

 

──────婚姻届だ」

 

「緋彩さん、ゴミ箱どこにあったっけ」

 

「キッチンにあるわよ」

 

「よし」

 

「ああ!?」

 

葵依姉ちゃんの持ってきた婚姻届を修復不可能なレベルに破ってゴミ箱に叩き込む。

 

「ならば手錠を」

 

ガシャン、と重い音と共に俺と葵依姉ちゃんの手に手錠がかけられる。

 

「これでずっと一緒だ」

 

「椿さん、ヘアピンとか持ってる?持ってたら貸して」

 

「はい」

 

渡されたヘアピンを変形させて手錠の鍵穴に突っ込む。あ、開いた。

 

「ほい解放」

 

「なんで!?」

 

「浅はかなんだよやること全てが」

 

雑なんだよ何もかも。

 

「……」

 

「おい、葵依が拗ねたぞ。ってか葵依って拗ねるんだな……」

 

「攻撃を意にも介さず適当に相手すると30分ぐらい拗ねるぞ」

 

「ゲームの攻略情報?」

 

「馬鹿の攻略情報」

 

大体あってる。

 

その後、俺が作るのを手伝った料理を5人で食べたりして時は過ぎていった。なお葵依姉ちゃんは俺作+俺の「あーん」で元気を取り戻した。性別的に逆では?

そして気付けば夜10時半。流石にこれ以上遅くなってしまうと俺が補導される可能性が出るし丁度いいぐらいの時間ということで解散になった。しっかり後片付けも手伝ったぞ。

 

「……」

 

「……」

 

葵依姉ちゃんと並んで2人っきりで歩く帰り道。なんつーか……

 

「久しぶりだな……」

 

「何がだい?」

 

「あ、いや。こうして葵依姉ちゃんと2人で帰るのがさ。もう2年ぶりになるんだなって」

 

「……ああ、そういえばそうだったね」

 

俺が通ってる学校が葵依姉ちゃんが通ってた陽葉高校の近くっていうのもあり、2年前はよく俺が自転車で陽葉まで行って2人で帰るっていうのが日常だった。姉ちゃんが大学に進学してからは時間帯が合わなくなったりしてなくなっちまったけどな。

 

「昔は色々あったよなー。葵依姉ちゃんが女装してるとか言われて揶揄われたりそれが原因で泣いてんの見て俺が陽葉にカチコミかけたり」

 

「あはは、そんなこともあったね」

 

今でも思い出す。チャリで陽葉に突貫かけて揶揄ったやつ轢きにいった俺。金属バット持って自転車乗ってグラウンドで人追いかけ回してる俺見て大爆笑してた葵依姉ちゃん。俺がマジで轢いて相手の骨折るまでオロオロし続けてた教師。轢かれた後逆ギレしてきたからもっかい轢かれた奴。俺に説教かけたけど内容が「せめて釘バット、もしくは木製バットに有刺鉄線巻いたの使え」だった親父。放課後に俺のこと死ぬほど撫でまわしたりしてた葵依姉ちゃん見て薄い本分厚くしてたオカン。クズしかいねぇ。救いはないのか。ねぇな。

 

そうこうしているうちに気付けば葵依姉ちゃんの家の前。俺はこの後家に直行するわけだ。

 

「じゃ。また明日「待って」

 

葵依姉ちゃんの家に着いたのでそのまま家に帰ろうとした時、葵依姉ちゃんに呼び止められる。

 

「なんだよ、もうイカレムーブには反応しないぞ。夜遅いんだからあんま時間を取らせ……」

 

振り向いた瞬間の柔らかい感覚。至近距離にある葵依姉ちゃんの顔。それが離れて数秒、ようやく俺は葵依姉ちゃんにキスをされたということを理解した。

 

「ちょ、葵依姉ちゃん!?いきなり何すんだよ!?」

 

「……これを」

 

葵依姉ちゃんは慌て散らす俺の質問には答えず、短い文言と共に包みが差し出される。

 

「……ありがたく受け取るよ」

 

俺はそう言って包みを受け取ると、すぐさま家へと駆け出した。……流石に、今の俺じゃ葵依姉ちゃんの顔をまともに見れる気がしないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戒矢。ハッピーバレンタイン」




鉤野 戒矢
去年チョコレートに薬盛られた。今年も盛られると思ってたら私がプレゼントされた。チョコレートの方はまともではあったが重み(概念)はヤバかった模様。ちなみに身長はそれっぽいいい感じの数値を考えるのがめんどくさかったので作者のリアル身長を流用しました。
カスタムキャストでなんとなくの外見イメージを作ってみました。あくまで「作者の主観」ですので読者の方々の側でイメージが固まっている場合は無視してもらってもかまいません。余談ですが作者は今回のバレンタインイベントよガチャで天井行ったにも関わらず葵依さんが当たりませんでした。


【挿絵表示】


三宅 葵依
去年チョコレートに薬盛った。今年は私がプレゼント。余談だが戒矢が燐舞曲のメンバーにも貰ってたのを知り凄い顔をしていたが戒矢の「嫌いになるぞ」の一言で轟沈した。戒矢にあげたのは手書きで「I love you」と書かれたハート型の手作りチョコレート。

青柳 椿
恋愛的な意味で今作最もかわいそうな人。せめてもの救いは葵依本人が自分に向けられる感情に対してはある程度真摯に対応すること。戒矢にあげたのは手作りではあるが飾り気のないチョコ(単体)。

月見山 渚
初登場。葵依のヤンデレムーブに追い詰められる戒矢とその報復で締め上げられる葵依を見て大爆笑をかますタイプの人間。戒矢にあげたのはチ○ルチョコ。

矢野 緋彩
初登場。葵依のヤンデレムーブに関しては「まあそういうのもあるよね」的アバウト認識。ニコニコして見守るけど度が過ぎればちゃんと怒るタイプ。実際去年は強硬手段を取った葵依とその報復として生前土葬をかました戒矢の2人ともに説教した。戒矢にあげたのはデパ地下に売ってはいるけどその中では安めな感じの手作り。


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番外編:ヤンデレホワイトデー攻城戦

色々と考えてるうちにホワイトデーが来てしまった。


「ついにあの日が明日に来てしまった」

 

「どうしたんだよマイフレンド」

 

「お前マイフレンドなんていう柄じゃなかったろ」

 

ため息をつく。いや本当にどうしよう。

 

「で、何があったんだ?」

 

「明日ホワイトデーだからお返ししなきゃいけないんだよ」

 

「お前そういうとこ律儀だよなー。っつっても適当にお菓子買ってあげればいいんじゃね?」

 

「1人を除いて手作りを渡されたから困ってんだよ」

 

「……でも鉤野、お前って家庭科の成績良かったっけ」

 

「前学期の成績は10段階で9だったな」

 

「心配ないじゃん」

 

……何を渡そうか悩んでんだよな。そう言ったら俺の友人は合点の行った顔をする。

 

「ホワイトデーに渡す菓子にはそれぞれ意味があるって聞いたことがあるな。それ調べて相手によって変えれば?」

 

「よっしゃお前天才」

 

俺はそう言うと鞄を引っ掴んで教室の窓から飛び出した。

 

「えっちょおま……」

 

「授業始めるぞー……ん、鉤野は?」

 

「早退しました」

 

「は???」

 

 

 

 

 

「ちわーっす!三河屋でーっす!」

 

「ちょっと待って何何何」

 

次の日。学校サボって家で菓子を作ってきたのでそれ引っ掴んで葵依姉ちゃんの家に。見ると燐舞曲勢揃い。丁度いい。

 

「あ、先月のお返しですどうぞ」

 

「ありがとう」

 

「ありがとね」

 

椿さんと緋彩さんにはクッキー。プレーン、抹茶、ココア、ストロベリーの4色仕様である。

 

「お前にはこれ」

 

「ありがとな。どれどれ……なんか凄い出来なんだけど」

 

渚さんには同じくクッキー。ただし渚さんの顔をデフォルメした感じで完成度が凄いことになっている。

 

「確かに凄いわね……この黄色どうやってるの?」

 

「レモンかな」

 

「ぱっと見本命にも見えるわよね〜」

 

「本命?」

 

「やばい緋彩早く撤回してくれこのままだと明日の朝には私が東京湾に浮かんでることになる」

 

「冗談よ」

 

「それならよかった」

 

うん、そう言うなら目元の影消してから言おうか。まだ怖い。

 

「いやー最初はチロルチョコでお返し要求してきたからグーパンでもくれてやろうかと思ったんだけどな。流石にやめた」

 

「殺す気か?」

 

「次点で着色に絵具使ってやろうかと」

 

「殺す気か?」

 

あはは。

 

「絵具ぐらいじゃ死なねーよ。最近のやつはそういう風になってる」

 

「いやそもそもやったらダメなんだけど?」

 

まあ気にしないでくれ。

 

「んじゃ緋彩さん、飯作るの手伝うよ」

 

「戒矢?」

 

「あらありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわね?」

 

「戒矢??」

 

「緋彩さんの料理美味しいんで」

 

「戒矢???」

 

「あらお上手」

 

「監禁するよ???」

 

「やれるもんならやってみやがれ」

 

「監禁するよって脅迫何?」

「それに対しての返しもおかし過ぎるのよね」

 

 

 

「じゃあなー」

 

「また明日、ね〜」

 

「それじゃ」

 

夜も更け、もう10時半。3人が帰宅し、俺と葵依姉ちゃんの2人きりになる。

 

「……ほい」

 

俺はややぶっきらぼうに包みを差し出す。

 

「……これは?」

 

「ほら、バレンタインデーのお返し。ちょっと失敗しちまったけど」

 

包みを開けるとそこには黒い薔薇。黒蜜を使った立体飴細工だ。

 

「……失敗?」

 

「本当なら花だけじゃなくて葉や茎も作るつもりだったんだけど」

 

「そこまで行ったらいっそ恐怖の領域では?」

 

馬鹿め。こーいうのはめちゃくちゃ凝るもんなんだよ。

 

「……ありがとう。嬉しいよ」

 

そう言って葵依姉ちゃんはかつてないくらいの満面の笑みを浮かべる。ちなみに「満面の笑顔」だと「面」と「顔」の二重表現になって文法的に間違いだから気をつけような。同様に「満天の星空」もアウトだぞ。

 

「そりゃよかっ「永久保存するね」いや食えよ」

 

食えよ。欲しいならいくらでも作ってやるから食えよ。

 

「……せっかくのホワイトデーだしな。言ってくれりゃ可能な限り叶えるぜ」

 

怪我しない程度とはいえ反撃でちょくちょくしばいてる負い目ががががが。

 

「じゃあ監k「明らかに犯罪な奴は却下な」しょぼーん……」

 

クラスメイトが言ってても「死ねやカス」ぐらいにしか思わないのに葵依姉ちゃんが言うと可愛いから困る。

 

「うーん……じゃあ、今夜は一晩中一緒にいて欲しいな」

 

「それぐらいなら別にいいが……性的なことは却下だぞ!?」

 

「戒矢は私を何だと思っているんだい?」

 

「2つ下の幼馴染を監禁したりするやべーやつ」

 

「うーん正論パンチきっつい」

 

事実で殴るしかない。口先三寸でどうにかなる相手じゃないのは俺が誰よりも知ってる。

 

「……わーった、一緒にいるよ。但し性的な行動含め明らかに犯罪な行動したら俺は即帰るし罰を与える」

 

「罰の内容は?」

 

「玄関のドアノブにめっちゃくちゃ精巧なゴキブリのおもちゃ貼り付ける」

 

黙ってしまった。まあ昔から虫嫌いだしなぁ。ゴキとか見るからにキモいのならまだしもてんとう虫とかハナカマキリとか蝶でもダメだったみたいだし。

 

「まあ気にすんな。やんなきゃいい話だ」

 

「理性持つかな……」

 

「普通理性の心配するのって俺のはずなんだけどな」

 

何で葵依姉ちゃんが理性の心配してんの。

 

「さて……夜は長いんだ。何がしたい?何だって付き合うぜ。気に入らねー奴がいるんならそいつん家行って殴りに行こう。欲しいものがあったら買って来てやる。──────日付が変わるその時まで、俺は葵依姉ちゃんの思うがままだ」

 

 

 

彼は──────戒矢は、普段と変わらぬニヒルな笑みを浮かべてそう言った。

昔から変わったようで変わってない、あの笑みで。

戒矢は覚えていない。私との約束を。私は覚えていない。戒矢との約束を。

互いが互いとの約束を覚えていないせいで生まれたすれ違いのバグ。

1つは私が、もう一つは戒矢が覚えていて。互いが互いの約束を覚えていて、それでいて忘れ去っている。それでもすり合わせなんて行わない。今が心地いいから。思い出してしまえば、壊れるような気がするから。

 

虚無的で、それでいて私への感情は表面に出す、そんな継ぎ接ぎ(モザイク)じみた在り方の戒矢。

私以外の一切───最近は椿たち燐舞曲の皆が"内側"に入りつつあるけど───外側の存在を無意味に切り捨て、無価値に吐き捨て、無感動に否定していた戒矢。

今でも私が行動原理で、普段は"平凡"を行動原理にしないとまともに生活を送れない戒矢。

 

『大丈夫、俺が葵依姉ちゃん     

 

私の……社会倫理的には過激で過剰な行動も、自分の身の安全ではなく私の立場のために拒絶する。

 

「……じゃあ、──────」

 

「仰せのままに、我が愛しき人(my dear)

 

 

 

私は普段、大学じゃ"王子様"なんて風に呼ばれているけど。

 

「それじゃあ、おやすみ」

 

七夕の日。一年でたった1日だけ、私が王子様からお姫様に戻れる日。

だけど今年は、1日だけじゃないみたいだ。

私と戒矢はそっと眠りにつく。戒矢はちょっと躊躇っていたけど、無理を言ってやってもらったこと。

 

「抱き締めて、一緒に寝て欲しい」。

最後に一緒に寝たのなんてもう12,3年も前の話だ。

ハグしたり手を繋いだりは今でもすることがあるけど、これは違う。

 

だからこそ、久しぶり過ぎて忘れ去っていた感覚を思い出す。そして、その感覚との違いを強く感じる。

昔は私より小さかったのに、今では私を優に越す身長になって。昔よりもカッコよくなって。

 

 

 

 

 

愛してるよ。戒矢。




彼女いない歴イコール年齢には思いつかなかったので雑な上短めでした。
知ってるか?これで付き合ってないんだぜ。

鉤野 戒矢
授業サボって菓子作った。その後10年ぶりぐらいに葵依と一緒に寝た。
ヤンデレによる監禁だったり危害を加えてくるのに抵抗はしているが葵依のことはしっかり大好き。なんなら愛はこいつの方が重い。

青柳 椿
不憫オブ不憫。常識人過ぎてヤンデレ狂人vsそれを平然と受け流す変人の戦いについていけてない。貰ったのは4色クッキー。

矢野 緋彩
最強(頭が上がらない的な意味で)。狂人と変人の戦いは基本傍観、行き過ぎだと判断したら仲裁。貰ったのは4色クッキー。

月見山 渚
戒矢と精神年齢が近いのでよく言い争う。チロルチョコの対価で完成度バリ高の代物を渡されて罪悪感でちょっと苦しんだ。貰ったのはデフォルメ顔イラストクッキー。

三宅 葵依
本命貰えるし一緒に寝られるしで大勝利を収めた。余談だが寝てる間にこっそり18禁ムーブしようとしたが抱き合ったせいで動けなくて断念。貰ったのは黒蜜を使った薔薇の飴細工。



ホワイトデーの贈り物の意味
クッキーは「あなたは友達」、キャンディは「あなたが好きです」


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番外編:To the only loved one in the world

ほんへ1話も更新することなくバレンタインとホワイトデーと誕生日を超えるバカおるってマ?

今回は戒矢くんのやりたい放題度合いが全力全開です。ご注意ください。


「遂にもうすぐ葵依姉ちゃんの誕生日なわけだが」

 

「まずそのゲンドウポーズやめましょうか」

 

渋々ポーズを解く。

 

「とりあえず誕生日プレゼントって何がいいと思う?月の土地でも買う?」

 

「アクセルベタ踏みなのよ」

 

「踏んで押し込まれたまま戻ってきてねぇ」

 

「とりあえずブレーキ踏みなさい」

 

「火星探査機にするわ」

 

「「「話を聞け」」」

 

聞いてるよ。聞いた上でこれなの。

 

「じゃあ何がいいんだよ」

 

「最新のヘッドセットとか」

 

「発売日に買って贈ったわ」

 

「葵依クンの言動に辟易してたけど戒矢クンもそんなに変わらないというかよっぽどヤバいわよ」

 

「普通だろ」

 

「普通じゃねぇから言ってんだよな」

 

……………?(ガチで理解してない)

 

「もう『私がプレゼント』ならぬ『俺がプレゼント』でいいじゃない」

 

「「それだ」」

 

「表出ろよお前ら」

 

そんなんで喜ぶわけ──────いや、喜びそうだな?

 

「いや、俺の人権よ」

 

「んなもんねぇよ」

 

「るせぇチビ」

 

「あ?」

 

「やんのか」

 

「殴るわよ」

 

「「ごめんなさい」」

 

敵に回したくないランキング第1位の緋彩さんだけはダメだ。

 

「はぁ……で、どんなものを送るつもりなの?探査機は却下よ」

 

「じゃあ──────石膏像」

 

「重いのよ何もかもが」

 

「ああもう、適当に似合うアクセサリーでも見繕いなさい」

 

「ブラックダイヤのネックレス買ってくる」

 

「もうそれでいいわ」

 

「いや、買うとなんか足りない気がするからもういっそ作るわ」

 

「「「作る……?」」」

 

 

 

「というわけで学校サボってやって来ました中央アフリカ共和国。旅行者目当てで金巻き上げに来たチンピラたちを半殺しにした後『案内と通訳とその他諸々しなければ殺す』と脅して従えたのでそれでは行ってみましょう」

 

え、訳が分からない?理解しろ。

 

それじゃあ採掘場から卸される市場へと向かおう。その間に今回の目当てである「ブラックダイヤ」とはどういうものなのかを説明する。

 

そもそもブラックダイヤとは、正式名称を「カーボネード(カーボナード)」という天然の多結晶ダイヤモンドだ。ダイヤモンドの微細な結晶が緻密に集積した鉱物の変種だな。

 

バラスやボルツ、ボーツとも呼ばれることがあるが……粒状結晶から成るのがカーボナード、針状結晶から成るのをバラスと区別する場合もある。ボルツはダイヤモンドの研磨くずを意味することもあるな。粒状結晶と針状結晶の違いは細かく説明すると長くなるし話の本筋から逸れるのでカット。

 

色は黒や暗灰色、濃褐色で、劈開*1を持たないので単結晶のダイヤモンドよりも割れにくい。ただ結晶の大きさやその性質上、品質にはバラつきが大きいのが欠点だな。

 

中央アフリカやブラジルで主に採掘されており、産出量が少なく高価。と言っても宝飾用の需要が少ないから一般的にダイヤモンドと称される宝石よりは安いな。

 

カーボナードを模して、ダイヤモンドの微小結晶を焼結させた人工素材 polycrystalline diamond(ダイヤモンド焼結体)が存在し、安価で品質が一定だから工業用に使われたりもする──────そろそろ着くな。丁度説明も終わったし競りに向かうとしよう。

 

 

 

よっしゃ競り落としてきた。正直バチボコに疲れました。え、金は大丈夫だったのかって?ばっかお前葵依姉ちゃんの為ならこれぐらい直ぐ捻出するわ。適当に()()()()()()()()()()()賞金かかった数学の未解明問題解いてその賞金使って株やったら直ぐ都合出来た。

 

「さて帰るか」

 

空港に戻り直ぐに飛行機で飛び立つ。次に向かったのは南アフリカ。ここは白金──────つまりプラチナの産地だ。有史以来たった5000トン────金の総産出量の僅か3%にすら満たない、希少な金属。しかしそのモース硬度は約4.5であり比較的軟らかい金属であるため加工が容易であるという特徴を持つ。

 

─────────さて。

 

「まーーーーーーーーーーたチンピラの巻き上げか。面倒だし寝てろ」

 

流石に2度目は誰か残してボコるのも面倒なので全員半殺しにして沈めておく。南アフリカは英語が公用語だし通訳要らねぇや。仮眠は飛行機で摂って置いたので休憩もそこそこにすぐさまプラチナの購入に向かう。手っ取り早く購入したいので純度は低めのやつで行こう。え、そんなことしていいのかって?馬鹿野郎そんなこと自らやろうとする俺が精錬できないと思ってんのか。多めに買って純度上げりゃいい話だ。

 

「よし購入」

 

ブラックダイヤとプラチナを持って空港に戻り、今度は中国へ。最後に確保するのは「金」。同じくモース硬度4.5の軟性金属で、世界中で今までに約19万トン産出された金属。時差ボケで帰ったらヤバいことになりそうだがまあ頑張れば問題ない(アホ)。

 

空港から出てすぐさま金を購入しに向かう。すぐに購入し終えたので日本に帰国。

 

今回作るのはブラックダイヤをメインにした、フレームをプラチナと金でデザインしたネックレス。

 

一晩爆睡して時差ボケを完全に抜いた後、自作の精錬施設にて金とプラチナを精錬して純度を高める。今回使うのは電気分解による精錬だ。

熔炉に鉱石を入れ、銅精鉱とケイ酸鉱と酸素を加えて溶かし品位99.%の銅にする。それを精錬し銅や銀河などの不純物を電気分解で除去することで高純度の金を作り出す。それを繰り返して純度99.99%以上の金、即ち純金を作り出す。

 

同様にプラチナを精錬して純度99.9%以上の純プラチナを精製。よし、素材は揃った。

 

まずは金とプラチナで全体のフレームを作る。金を高熱で溶解させ、型に流し込みベースを作る。その後溶解させたプラチナを細い針の様な道具に付けて少しずつ丁寧に手作業で飾りをつけていく。それを凡そ100時間ほど──────食事や水分補給などを行いながら眠ることなく──────続け、最後はブラックダイヤを取り付けるのみ。丁寧に丁寧に磨き上げ、最上級の輝きを放つ状態で取り付け、完成!

大満足していた俺だが、時計を見てあることに気付いてしまった。

 

「…………あ」

 

今日、葵依姉ちゃんの誕生日(7月7日)じゃん。

 

 

 

 

 

「っしゃあっす(お邪魔します)!」

 

時速60kmで全力疾走して誕生日パーティの会場───要は緋彩さんの家───に向かう。勿論プレゼントであるネックレスが入った箱は細心の注意を払いy軸に対して1ヨクトメートル*2のズレもなく到着して直ぐ様呼び鈴を鳴らす。緋彩さんに呼ばれて家に入り、プレゼントボックスを言われた場所に置いた後、リビングに入った瞬間──────

 

「戒矢!!!!!!!!!!」

 

「うわうるさ」

 

鼓膜ぶち抜きそうな大声で名前を呼んで半泣きの葵依姉ちゃんに突進された。完全な不意打ちなので俺は回避不可。1D4+DBだな。葵依姉ちゃんの体格とか考えるとダメージボーナスはプラマイゼロって辺りか。というわけで2のダメージ。そして俺はSIZが18以下なので吹き飛ばし判定。敏捷ロールは成功なので倒れずには済んだな。

 

「私の前から居なくなるなんて酷いじゃないかでももう大丈夫これからはずっと一緒だk「頼むから黙って退いてくれ。俺は誕生日の奴を〆る趣味はないんだ」……代わりに何してくれる?」

 

「プレゼント持ってきた」

 

「足りない」

 

「欲張りさんめ。……ハグ」

 

「もう一声」

 

「………………………今度の土日の2日間、俺のこと好きにしていいぞ。デートだろうが添い寝だろうが接吻だろうが何だってしてやらあ。本番なしな」

 

「分かったよ」

 

「傍から見ても釣り合いが消し飛ぶ勢いの取引なのだけど」

 

「本番なして。そういう……え、エッチなお店じゃねぇんだから」

 

「あ、椿さん。渚さんも。こんばんわ」

 

「「こんばんわ」」

 

「まあ賭け金(ベット)に関しては自分から出したわけだし別にいいかなーって。長期間放ったらかした俺のせいでもあるわけだし」

 

「結局何してたのよ」

 

「海外行って原材料買って帰って加工してた」

 

「本当に何してるの?」

 

「そろそろ始めるわよー。……と、その前に。葵依クンはちょっとこっちに来て。戒矢クンはそこの部屋に置いてある服に着替えてから来てね」

 

えっあっ、うん。言われた通りに指定された部屋に入る。

 

「えぇ……………」

 

 

 

 

 

「着替え終わったぞ」

 

「こちらも終わったわよ」

 

リビングに入る。そこで見たものは──────

 

 

「……どう、かな。似合ってる……かな」

 

目に入ってきたのは美しき天女。髪は飾られた星の髪留めも合わさり、まるで星々を包み込む宇宙の闇であるかのように俺の目を捉えて離さない。

身につける着物も、藍色を下地として赤や黄色、橙、白、青白の点が散らされ、天に放たれる星々を描き出す。そして帯は無数の点が集まったかのようなデザイン───すなわち、天を断ずる天の川。

更に身に纏っている羽衣は民家の陳腐で安っぽい明かりですらも綺羅綺羅と美しい輝きを放つ。そんな何よりも美しい姿を見せられて、俺は──────

 

「──────最高」

 

「へっ!?」

 

そう無意識に零し、そのまま近付いて抱き締める。

 

「蜿ッ諢帙>邯コ鮗玲怙鬮俶?縺励※繧句、ァ螂ス縺──────!」

 

「ごめん何て?」

 

「あっ思ったことが3000倍速で」

 

「3000倍速」

 

「頑張れば8000倍速ぐらいまでいける」

 

「8000倍速」

 

閑話休題。

 

「衣装チョイスが最高すぎるので何かしらの褒賞を」

 

「希少なハーブを」

 

「販売停止した洋画のDVD」

 

「ギターのアーム」

 

「遠慮微塵もねぇけど全然いいや買っちゃる」

 

今ポチッた。

 

「で、ご感想は?」

 

「ちょっと待って、感想全部言ってると月が変わる」

 

「576時間はあるぞ」

 

「今日中に言い終わるようにして欲しい」

 

「聞き取れない速度になるが」

 

「全部読み上げようとしないで」

 

「会話スキップ」

 

「ピカチュウ元気でチュウのRTAじゃねぇんだぞ」

 

俺をなんだと思ってんだ。

 

「で、俺の格好はなんなんだよ」

 

織姫してる葵依姉ちゃんと合わせて彦星ってわけじゃないし。なんで執事服?

 

「戒矢クンのやることは一つ。

 

 

 

──────全力で葵依クンをもてなしなさい」

 

「上げ膳据え膳しろってことだな任せろ

 

次の瞬間、葵依姉ちゃんを椅子に座らせてスプーンを持ってその横につく。

 

「お嬢様、なんなりとご命令を」

 

「板についてるわね」

 

「やったことある?」

 

「ない」

 

俺が誰かに仕えるなら葵依姉ちゃんだけだ。

 

「なあ緋彩。私の記憶が確かなら食器ってまだ配置されてなかったよな」

 

「ええ。まだそこにあるはずよ」

 

そう言って緋彩さんがテーブルの隅を指す。なお俺と葵依姉ちゃんがいる所の対角線上である。

 

「葵依座らせてスプーン持って傍に来るまで何秒ぐらいだった?」

 

「1秒もかかってないと思うわ」

 

「化物かよ」

 

愛は物理法則を越える。この前物理法則を越えすぎて全世界の著名な物理学者に連名で文句言われたところだ。

 

「えっと……じゃあ、アレを「はい」早いよ」

 

「もういっそ怖いんだよな」

 

その後、ディナーとデザートのケーキを食べてめちゃくちゃ楽しんだ。

 

 

 

 

 

そして深夜。片付けも終わり、帰路に着く。ちなみに織姫衣装は明日行われる燐舞曲のライブに使うらしい。チケットも一緒に貰ったので明日観に行こう。そんなことを考えながら歩いて、葵依姉ちゃんの家の前に着いた。……ここしかない。心に決めた俺は口を開いた。

 

「葵依姉ちゃん」

 

「どうしたの?」

 

「誕生日プレゼントがまだだったからさ。渡したくて」

 

「プレゼント……どんなのだい?」

 

「目ェ瞑ってくんないかな」

 

俺がそう言うと、葵依姉ちゃんは素直に目を瞑った。……正直過ぎて不安だが。まあいいか。俺はそっと取り出したネックレスを葵依姉ちゃんの首にまわし、そっと金具で留める。

 

「……はい」

 

「これは……」

 

「ブラックダイヤのネックレス。全部仕入れて、製錬して、溶かして細工作って……まあ、頑張って全部自作したんだ」

 

「……とても。とても綺麗だ」

 

「そう言ってくれると嬉しいぜ。……なあ、葵依姉ちゃん」

 

俺は少し言葉に詰まりながらも、必死に言葉を紡ぐ。

 

「俺はさ、ずっと前からどうしようもなく葵依姉ちゃんのことが大切だった」

 

「初めて出会った時から。どうしようもなく不器用で、イカレてて、破綻してた5歳のあの時から」

 

「俺は、葵依姉ちゃんに救われたんだ」

 

「誰も俺に追いつけない」

 

「誰も俺に敵わない」

 

「誰も俺に並べない」

 

「僅か5歳で、俺は人生に絶望してた」

 

「何をしても楽しくない」

 

「何をしても面白くない」

 

「何をしても、空虚に響いてた」

 

「でも、葵依姉ちゃんと出会って全てが変わった」

 

「絶対に追いつけない、敵わない、並べない。そんな何よりも遠いはずの俺に」

 

「追いつかず、敵わず。そのまま一緒に並んでいた」

 

「親以外の全てから遠巻きにされてて孤独だった俺の心を埋めたのが、葵依姉ちゃんだった」

 

「だから俺は、葵依姉ちゃんのために何かをしたくなった」

 

「俺の孤独を、寂しさを、淋しさを埋めてくれたお礼。最初はそのつもりだった」

 

「そのために助けたかった。力になりたかった。頼られたかった」

 

「でもいつの間にか欲が出た」

 

「手段と目的が合一化し、別の目的が生まれてた」

 

「お礼として助けたかったのに、何時しか葵依姉ちゃんと一緒にいるために葵依姉ちゃんに色んなことをするようになった」

 

「貴女がいたから俺は人でいられた。貴女がいたから俺は化け物にならずに済んだ。貴女がいたから、俺は"鉤野戒矢"として存在できた」

 

「だから、さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからも、ずっと一緒に居させてください」

 

戒矢はそう言ったきり、口を噤む。どうしようもないエゴでしかない。他者が介在しない自己で完結した意思にして自我。他者からすれば忌むべきものであり、それは誰よりも戒矢自身が理解していた。

 

「戒矢」

 

「……私も、戒矢とずっと一緒にいたい」

 

「些細なことを一緒に笑って」

 

「些細なことで一緒に悲しんで」

 

「些細な時を共に過ごしたい」

 

「だから」

 

「こちらこそ、一緒に居させてください」

 

そう言って、2人は抱き合う。

想いを確かめ合い、絆を確かめ合い、繋がりを確かめ合う。

今この瞬間、2人の目に映る世界にはお互いしか存在しない。

この2人の間には、数分前とは異なる確かで暖かな繋がりが生まれていた───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさ、さっきの愛の告白みたいだったよな」

 

「だね。流石に市街地ど真ん中で愛の告白するわけないよ」

 

 

ドンガラガッシャン!!!!!!!

 

デカい音が響いたのでそちらを見ると、渚さんが頭から郵便ポストに突っ込んでデカい瘤を作っていた。

 

──────────────────────────

 

緋彩宅

 

「あら?渚ちゃんからL○NEね」

 

椿宅

 

「……渚から連絡?」

 

そこには。

 

「嘘だ!!!!!あれで違うなんて嘘だ!!!!!」

 

とだけ書かれていた。

 

「「……………どういうこと?」」

*1
岩石や鉱物の割れ方が特定方向に割れやすいという指向性を持つ性質のこと。小学校の理科の授業で習ったことがあるはず。

*2
国際単位系において最小の長さの単位。10^-24m




To the only loved one in the world(この世でたった一人の愛しき人へ)

プレゼント
金、プラチナ、ブラックダイヤモンドで作られたネックレス。
金具も細工も、それどころか製錬も何もかも───材料の採掘を除いた全てがMade in 戒矢の代物。
この為だけに資金を確保し、世界中を飛び回り、技術を身につけ、手間暇かけて作り出された至高の一品にして愛の結晶。
人でなし(バケモノ)だった男の子が作り出した、一年に一度だけの贈り物。


ちなみにこの2人、マジで付き合ってません。
バレンタインやホワイトデーの一件もあって同衾もハグもキスもしますが、まだ付き合ってません。この後抱き合って一緒に寝るけど付き合ってません。
本当になんなんだこいつら。


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番外編:Trick or Treat!!!

マジでほんへが思いつかない。


「明日は何の日でしょう」

 

「安倍晴明の死亡した日だな」

 

あくまで現在の太陽暦に合わせたらの話で当時の数え方だと「寛弘2年9月26日」だがな。

 

「違ぇよ。いや俺が知らねぇから違うとは言いづらいけど俺が言いたいのはそうじゃねぇよ」

 

「じゃあ"脱出王(マジイイジャン!すげぇマジシャン!)"ことフーディーニの死亡日だな。余談だが死亡理由は"腹を強く殴られて耐える"芸を行う際にちょっとミスった結果虫垂炎からの微慢性腹膜炎らしい」

 

「待って今のルビ何???」

 

どうでもいいだろ。

 

「ハロウィンだよ!トリックオアトリート!」

 

「……で?」

 

「お菓子くれなきゃイタズラするぞ」

 

明日学校休みだから今日強請るってか。

 

「だってお前の菓子美味いんだもん」

 

「グーパンでも喰らわせてやろうか」

 

菓子目当てやめろや。……渚さんあたりは明日普通に強請って来そうだな。

 

「っつーか事前に言われてもないのに前日に菓子を学校に持ってくると思ってるのか?」

 

「あ」

 

「馬鹿め」

 

 

 

 

 

 

 

 

葵依姉ちゃんの家に突撃。インターホンを押す。普段なら普通に入ってるが両手が塞がっているのでインターホンを押して開けてもらうしかない。というのも………

 

左手には岡持。右手には大鉈。ここまで来るのに通行人からめっちゃ二度見された。何人かは発狂してたしな。

 

『はーい』

 

緋彩さんの声がスピーカーから聞こえ──────た瞬間切られた。え、どうして。

 

 

 

「緋彩?どうしたんだ?」

 

インターホンが鳴って、取り付けられたカメラから送られてくる映像を見た瞬間緋彩が頭抱えだした。なんかやべぇのでも居たのか?

 

「渚ちゃん……いや、何故か玄関先に訳わかんないのが居て」

 

「どういうことだよ」

 

不審者だったら追っ払ってやる。そう意気込んで玄関扉を開ける。そこには──────

 

「──────」

 

マジで怖いのがいた。え、何こいつ。

 

「あ、渚さん」

 

「いや戒矢(お前)かよ」

 

……なんか気ィ抜けた。とりあえず三角頭(戒矢)を連れて家に入る。

 

「緋彩ー。変なの戒矢だったー」

 

「どうも、俺です」

 

本当に情報量が強い。

 

 

 

 

 

「どもっス」

 

「インターホンのカメラに三角頭が映ってるの結構怖かったわよ」

 

「すんません」

 

岡持と大鉈持った異形だからな。結構怖い。

 

「で、緋彩さんのコスプレは……なるほど、魔女ですか」

 

とんがり帽子に黒いローブ、藁箒。これで魔女じゃなけりゃ何だってレベル。

 

「そして渚さんは……」

 

若干露出の多い水着のような服に先の尖った尻尾、山羊の角……なるほど。

 

淫魔(サキュバス)か」

 

小悪魔(プチデビル)だよボケ」

 

まあロリ体型だから難しいよな。

 

「殺されたいのかお前」

 

はははは。

 

「あら、戒矢。こんにち─────────え?」

 

「椿、どうしたの─────────ん?」

 

キッチンから出てきた椿さんと葵依姉ちゃんがフリーズした。どうしたんだろう。

 

「どうしたんスか」

 

「あ、戒矢」

 

「分かり辛っ」

 

失礼な(三角頭の格好しながら)

 

「椿さんは……人狼(ワーウルフ)ですか」

 

獣耳に顔のペイント、手の鋭い爪……間違いなく獣人系だな。

 

「葵依姉ちゃんは吸血君主(ヴァンパイア・ロード)と」

 

黒いマントに尖った牙と耳。ハァァァァァァンくっそ可愛い。無限に抱きしめたい。

 

「で、戒矢…………………………それ何?」

 

「サイレントヒルの三角頭」

 

間違いなくこいつ相手に勝てるやつは居ない。……いや、頑張れば行けるか?でもジェイムズの方の三角頭はともかくシャロン守ってた方だとキツそうだな。

 

「ホラーもののクリーチャーの中で一番好きなんだよ」

 

その次がバイオの寄生型B.O.W.(有機生命体兵器)ネメシス。来年はネメシスのコスプレでもするかな。

 

「そんじゃあまあハッピーハロウィーンってことで」

 

岡持から取り出したカブを飾る。

 

「かぼちゃじゃないのかよ」

 

「知らないのかよ。今でこそジャック・オー・ランタンと言えばかぼちゃだが、元となったケルトの祭りではカブをくり抜いてたんだよ」

 

確か悪魔を騙したせいで天国にも地獄にも行けなくなった男に与えられた明かりが元ネタだったはず。

 

「今日はかぼちゃ料理のオンパレードよ、戒矢クン、手伝ってね」

 

「お任せあれー」

 

 

 

「……人狼と吸血鬼と小悪魔と魔女と三角頭が並んで食卓囲んでる絵面強過ぎないか?」

 

否定はしない。実際強いし。

 

「それにしてもよく出来てるよな。今度その三角頭被らせて」

 

「別にいいけど塗装で色味出すのめんどくさかったから全部金属だぞ。重さ十数キロどころじゃないから首やるかもしれんけど」

 

「やめとくわ」

 

賢明。

 

「それじゃあ」

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

うん、美味い。

 

 

 

「あ、戒矢」

 

「何」

 

お菓子くれなきゃイタズラするぞ(Trick or Treat)!」

 

「ほい」

 

岡持から取り出したパンプキンパイを3等分。その一切れを渡す。

 

「残りは緋彩さんと椿さんの分っすね」

 

「葵依忘れ去られてて笑う」

 

「いや、葵依姉ちゃんのは別に作ってある」

 

なんか葵依姉ちゃんが落ち込み出した。いやなんで。

 

「んじゃお返しに、トリックオアトリート」

 

「ほらよ」

 

ちゃんと飴渡された。え、もらう側に徹すると思ってたんだけど。

 

「念の為聞くけどもしないって言ってたらどんなイタズラしてた?」

 

「歩く時苦しむように両足の小指の爪割ってましたね」

 

「クソかこいつ」

 

ひでぇ。……俺か。

その後、椿さんや緋彩さんともお菓子を交換し終えて解散の流れに。

3人を見送った後、リビングに戻れば俺と葵依姉ちゃんの二人きり。

 

「戒矢」

 

「ん?」

 

「Trick or Treat」

 

「ほい」

 

岡持に入れておいた特別仕様のパンプキンパイを差し出す。めっちゃ苦労したよ──────表面に特殊な仕込みをして焼き目が燐舞曲のロゴになるようにするのは。

 

「うわすっごい」

 

「頑張ったわ」

 

過去一で疲れた。

 

「さて、じゃあお返しのTrick or Treatだ。お菓子くれなきゃイタズラするぞーってな」

 

「あ、ちょっと待っててね」

 

そう言って葵依姉ちゃんは冷蔵庫を開けて中を探り出す。……数秒後、妙に焦り出した。

 

「……あれ?」

 

「どしたよ」

 

「ない……作っておいたお菓子がない」

 

「多分渚さんの犯行だろ」

 

「渚……」

 

まあ─────────さっき葵依姉ちゃんにイタズラがしてみたくて隠しておいたんだがな(ガチクズ)。

 

「……さて、兎にも角にもTreat(お菓子)がないならTrick(イタズラ)な訳だが。その前に一つ質問」

 

「何……かな?」

 

「仮に俺がお菓子を持ってなかったら、どんなイタズラをするつもりだったんだ?」

 

「えっと………………………とか…………を………

 

「ん?もっと大きな声で」

 

気分は紅渡に「名護さんは最高です!」って言わせる時の妖怪ボタンむしり。気分良き。

 

「……………抱き締めたり……………キスしたり……………」

 

顔を赤らめ、目を逸らしながらそう言う葵依姉ちゃん。あ〜^くっそかわいい。

 

「そんじゃまあ、今からイタズラタイムだ。葵依姉ちゃんが俺にやろうと思ってたこと、やってやるから覚悟しろよ?」

 

「え、ちょ……」

 

俺はそう言って、三宅葵依(最愛の人)を抱き締めた。




ハロウィンの存在を当日まで忘れててこれ1日で書き上げた馬鹿がいるってマジ?

鉤野戒矢
今回のハロウィンのコスプレ内容は「三角頭(レッドピラミッドシング)」。実は最初はは「ウルトラマントリガー グリッタートリガーエタニティ」の格好をするつもりだったがそんなに怖くないので却下した。燐舞曲の皆に渡したお菓子は「パンプキンパイ」。葵依のみ特別仕様のお菓子。珍しく今日は抱き締められる側ではなく抱き締める側だった。

三宅葵依
ハロウィンのコスプレ内容は「吸血君主(ヴァンパイア・ロード)」。作者の個人的イメージは「ツイステッドワンダーランド」のハロウィンイベント「スケアリー・モンスターズ」にて「ポムフィオーレ」の3人の衣装。
大切な人が何をとち狂ったのか三角頭になっててちょっと怖かった。ハロウィンパーティーも終えた後、普段なら抱き締める側なのに抱き締められたのでかなり満足。

青柳椿
ハロウィンのコスプレ内容は「人狼(ワーウルフ)」。作者の個人的イメージは「ツイステッドワンダーランド」のハロウィンイベント「スケアリー・モンスターズ!」にて「スカラビア」の2人の衣装。
良く話す後輩が異形になってて内心死ぬほどビビっていた。パーティー中も視界に入り込む度にビクついていた。今回の最大の被害者。

矢野緋彩
ハロウィンのコスプレ内容は「魔女(ウィッチ)」。作者の個人的イメージは特になし。
インターホンが鳴る→カメラに玄関先の映像が映る→岡持を持った三角頭とかいう謎映像に脳が停止するという謎コンボが勝手に決まった人。

月見山渚
ハロウィンのコスプレ内容は「小悪魔(プチデビル)」。ロリ体型って言ったやつは殺す。
緋彩がビビり散らかしてたから代わりに出たら処刑人と相対してしまった。死ぬかと思ったらしい。


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本編:ヤンデレ女子大生vsサイコ男子高校生
第一話:ロープで縛られてもそんなに痛くない。


見切り発車オーライ。次の駅は知りません。


ご都合主義、という言葉がある。

ヒーローがピンチになった時に覚醒するとか、突如現れたライバルが助けてくれるとか。偶然当たった攻撃が敵の急所だったとか、色々な用途で扱われる単語ではあるが……まあ、基本的にあまりいい意味では使われない。

どこぞのデビルかっけぇ男の子なんて幼馴染みの主人公と対等に戦うためだけに一切の都合も確率も排除するような頭のおかしい能力を獲得してたし。

まあ、それぐらいにはありとあらゆる局面に置いて「不純物」と定義される要素ではある。

え、なんでそんな話をし始めたのか……って?

うん、まあ俺はそのご都合主義ってのが嫌いだったんだよね。主人公に都合よく世界が回ってるような気がして、世界の全ては主人公のためにあるような気がして。そんな窮屈さが嫌いだった。そう、"だった"んだ。今は違う。ちょっと危機的状況でね。ご都合主義にでも藁にでも……とにかく何でもいいから縋りたい状況なんだ。

 

ところで質問なんだけどさ。近所に住んでて昔から仲良かった姉ちゃんに監禁されたんだけどどうすればいいと思う?

 

「ふふ……ようやく2人っきりになれたね、"戒矢"」

 

むー(んー)ほほはい(この際)ほーほふ(拘束)はへへふ(されてる)ほほひふいへは(ことについては)ほやはふいははいはらは(とやかく言わないからさ)ほへ(これ)はふひへ(外して)ふんはい(くんない)?」

 

ガムテープで口塞ぐとかいつの時代の誘拐だよ。時代はギャグボールか猿轡だろ。いや誘拐に時代もクソもねぇわ。

 

「ああ、ごめんね。苦しかったよね」

 

そう言って口元に貼り付けられていたガムテが剥ぎ取られる。両腕は椅子に固定されたままだが……まあ喋れるようになったしマシになったか。

 

「……で、"葵依"姉ちゃん。こんな凶行に出た理由は?今ならボディブロー1発で水に流してやるけど」

 

「凶行?……ああ、『コレ』のことかい?凶行だなんて酷いな……傷つくよ?」

 

ハイライトのない瞳でそう言ってくるのは葵依姉ちゃん……フルネームだと"三宅葵依"。大学2年生で、身長170cmの長身女性。趣味は散歩とジャム作り……そして巻き込まれる俺としては不本意ながら、"鉤野 戒矢"観察。要は俺の観察である。ざっけんなプライバシーを寄越せ。

いつからかは覚えてないが……まあ葵依姉ちゃんは俺のことを可愛がるようになった。いっそ過剰なぐらいに。いやまあ親がいない時は作ってくれたし、体調崩してぶっ倒れた時も看病してくれたし助かりはしたんだけどさ。

そういや葵依姉ちゃんに家の合鍵って渡してたっけ。渡されてるの見た覚えがねぇぞ。え、怖くなってきた。これ以上考えたら恐ろしいので考えんのやめよ。

 

「傷つくようなメンタルだったら人拉致ったりしないんだよ?ほらさっさと解放しろ。わーった、デコピンで許してやっから」

 

大分譲歩したぞ。ボディブローがデコピンに格下げされたんだからな。わかったら早く解いてくれ。

 

「……なんで解放しなきゃいけないんだい?」

 

うーん風向きが変わってきた。嫌な予感しかしないぞ。

 

「私は戒矢を愛している。どうしようもなく愛している。それは君も同じはずだ。戒矢は私が大好きだ。大好きに決まってる。だから他に何も必要ないだろう。戒矢は私の物だ。私以外の人間を視界に入れる必要はないし入れてはいけない私が私が私が私が私が私が誰よりも戒矢のことが好きで戒矢も誰よりも私のことが好きなんだから相思相愛両思いだ結婚しようああまだ18歳になっていないんだねじゃあそれまでの1年ほどを私と共に過ごそう君がいれば他に要らな─────────」

 

「んー、ちょっといい?」

 

トリップ決め込んだ葵依姉ちゃんを呼び止める。俺は縛られていた右腕を()()()()──────

 

「どうしたんだい?ああ、心配は」

 

「寝てろ馬鹿」

 

脳天にチョップを叩き込み意識を刈り取る。

 

「はぁー……長々とトリップ決め込んでたから隙だらけで楽だったよ。ここは……葵依姉ちゃんの部屋だよな。なんなら俺の部屋よりもいた時間長いの怖いな」

 

とりあえず葵依姉ちゃんをベッドに放り込み、部屋を出る。

 

「……鍵掛かってら。しゃーない、壊すか」

 

蹴破って退室する。人監禁にはドア1枚と脳天へのチョップ一撃で勘弁してやんよ。次やったらエグめにシメなきゃなぁ。

 

 

 

これは、俺───鉤野 戒矢が、俺のことが大好き過ぎてイカれた葵依姉ちゃん───三宅 葵依から、全力で逃げる物語である。




鉤野 戒矢
主人公。名前の読みは"かぎの かいや"。
ヤンデレに付き纏われる日々を過ごすちょっと物理が強いだけの高校生。
といっても暴れるタイプではなく、基本的に迎撃する派。基本的に矛先が葵依に向いている。本人も暴力に訴えたくはないが相手が対話でどうにかなりそうにない上手を出した方が早いので出してる。怪我はないようにしている模様。
最近の悩みは葵依が自分の行動を分刻みで記録していること。燃やさなきゃ。

三宅 葵依
王子様系ヤンデレ女子大生ヒロイン。作者の最推し。
葵依さんメインの作品がなかったので書いてみた。
第一話からいきなり主人公を監禁した今作のやべーやつ。自身の熱量が主人公に極振りされているせいで、
周囲の女の子→→葵依→→→→→→→(超クソデカ感情)→→→→→→→戒矢という謎の二面性を持っている。
外で戒矢が絡まなければまともだが、一人になるか戒矢が絡むと途端に取り繕っていた外面が消し飛ぶ。


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第二話:盗聴自体は犯罪じゃない

お気に入り登録者数が思ったよりいてびっくり。みんなヤンデレ好きなんやなって。


いきなり監禁かまされてから数日。葵依姉ちゃんの干渉がないのでのんびりと平和を享受している中のそんなある日のこと。

 

「あ、鉤野君」

 

教室窓側の日当たりの良い席にて良い感じの眠気に微睡んでいると、クラスメイトの女子に話しかけられる。

 

「んー……どしたの」

 

眠いとこに話しかけられてちょっとアレだけど、まあそんな目くじら立てるようなことでもない。体を起こして返答する。

 

「今度文化祭があるでしょ?それでうちのクラスで何するかの案を募集しててさ。みんなに聞いて回ってるんだ」

 

「なるほどなー……まあ料理関連は衛生的にアレだし、演劇とかお化け屋敷とかが安牌なんじゃない?」

 

そういえばこの子学級委員だったな。そんなことを考えながら、パッと思いついたやつを適当にあげる。

 

「……うん、ありがとね!じゃあ」

 

「ばーい」

 

立ち去るクラスメイトの背中に手を振る。そして再び突っ伏して微睡もうとしたその瞬間。ピロン、と俺のスマホから着信音が鳴り響く。マナーモードにしてなかったっけな。

 

[葵依姉ちゃん:戒矢、今私以外の女の子と話しただろう。ダメじゃ

 

ブロック。ついでに着信拒否して友達登録も消しとかなきゃ。ああ、考えてみれば盗聴されてんのか。仕方ない。俺はおもむろに鞄からガラパゴスケータイよりもひと回り大きいぐらいの機械を取り出した。

 

「悔い改めろ馬鹿」

 

俺はそう言って、機械を起動した。

 

 

 

 

 

「あっ!?!?!!???!!?!?」

 

「どうしたの葵依、何かあった?」

 

「あ、いや。なんでもないよ椿。気にしないで」

 

 

 

 

 

起動したのはジャミングを行う機械。ちょくちょく盗聴されるからその対策として自作した。ちなみに周囲の機械に無差別に影響を与える暴れ馬なので俺のスマホは改造を施して影響がないようにしてある。あーあ、クラスメイトのスマホや教室のモニターが馬鹿になって阿鼻叫喚だわ。葵依姉ちゃんがこんなことしなかったら俺だってこんな技術持ってないんだけどなぁ。なので全部葵依姉ちゃんが悪い。えっと、エラーの反応はっと。あ、これとこれとこれだな。あんにゃろ鞄は兎も角ボールペンの中にまで仕込みやがって。……どうやって仕込んだんだろう。怖い。とりあえずぶっ壊しておくか。

 

それにしても、何でこんなやべームーブに出始めたんだろ。わかんねぇや。とりあえず寝るかぁ。すやー。

 

気付けば放課後。部活は今日は休みだし、直帰でいいだろ。

 

「…」

 

うーん帰りたくない。帰路に満面の笑みのやべーやつが待ち構えてんだぞ。弁慶でも小便漏らしながら逃げるわ。

 

「よー葵依姉ちゃん。昼間はよくもやってくれたなこん畜生。悔い改めろ」

 

「悔いる……?私は悪いことをしたつもりはないんだけど」

 

まあ盗聴自体は犯罪じゃないからなぁ。それを悪用したら犯罪にはなるが。まあプライバシーの侵害なんでどっちにしろ悪い。

 

「開き直ったやつって一番タチ悪いんだぜ。そんじゃ俺はこの辺で」

 

そう言って俺は葵依姉ちゃんの横を通ろうとする。

 

「いやいや、話はまだ終わっていないよ。せっかく私が仕掛けた愛を壊すなんて、そんな風に育てた覚えはないよ?」

 

と言って進路を遮ってくる葵依姉ちゃん。まあぶっちゃけこの程度は予想内の内、予想ど真ん中よ。

 

「育てられた覚えねぇんだなこれが。ってか早く帰らせてくんね?今日ソシャゲで推しのピックアップなんだから」

 

CV.内○兄妹の双子座。可愛くてカッコよくて好き。

 

「は?」

 

ん?

 

「いやいや、戒矢には私がいればそれで充分だろう?他の存在を気にする必要なんてあるのかい?」

 

んー……これは大人しく肯定しといた方がいいな。

 

「まあなくても問題ないっちゃないな。まあ腹減ってるから帰るんだけど」

 

「じゃあ私が晩ご飯を作ってあげよう。それでどうだい?」

 

拒否ったら絶対面倒になる。ついていくしかないか。

 

「あ、じゃあその前に晩飯いらないってオカンに連絡させて」

 

「私以外の女の子と……?」

 

「オカンもアウトっていうかオカン女の子判定下んの?????昼間から黒執事読んでBL本書いて描いてる40代後半ぞ?????」

 

可能なら絶縁したい。

 

[葵依姉ちゃんとこで飯食うから今日は晩飯いらない]

 

送信、と。あ、すぐ返信来た。

 

[腐れオカン:避妊はするのよ]

 

[お願いだから死んでくれ]

 

葵依姉ちゃんが中性的だからって男体化葵依姉ちゃん×俺とかいう業の深い代物書いてるやつは頼むから死んでくれ。無理なら殺しに行く。ってかなんで俺が受けなんだよ。親父はなんでこんなの選んだ。

 

「…………………………………………………じゃ、行こうか」

 

行きたくねぇ。

 

 

 

というわけでやってきました三宅さん家。葵依姉ちゃん、所属してるユニットのメンバーがいつ来てもいいようにって名目で一人暮らししてるんだよな。なおマジで名目であった実際の理由は俺を監禁出来る様に。最悪この家ブッ解体(バラ)すしかねぇ気がしてきた。

 

「何が食べたい?」

 

万が一ヤバいことになった時のための逃走経路考えないとな。じゃあ手間がそこそこかかって時間を稼げるやつを注文しとくか。

 

「じゃあミートドリアで」

 

「わかった、オムライスね」

 

「疎通」

 

早よ考えるか。窓ぶち破りは……後処理が出来ない以上葵依姉ちゃんが片付けるわけだしなぁ。怪我されたら寝覚め悪いし却下。となるとトイレの窓から?いや流石に通れない。どうすっかなぁ。

 

「はい、これが戒矢全否定丼だよ」

 

「カツ丼出てきたんだけど」

 

本当に全否定しやがった。なら聞くなや。

 

「いただきまーす」

 

「どうぞ」

 

普通に美味いの腹立つな。てっきり血液とか媚薬とか混ぜ込んでると思ってた。

 

「ところで戒矢。私と食事だったらどっちの方が好き?」

 

「……………………? 三大欲求と張り合う気か?」

 

「いいから答えてくれ」

 

数秒考え込み。

 

「飯食えなくて死ぬのと葵依姉ちゃんに会えなくて死ぬの、どっちが早いかと言われたら飯かなぁ……」

 

「何故?」

 

「生命だからだけど……?」

 

何言ってんの(困惑)

 

「戒矢の人権はたった今喪失しました」

 

「いきなり色んな過程すっ飛ばして非国民判定なの?今戦役中だったっけ?」

 

国家反逆罪に問われるようなことした覚えないぞ。ちなみに国家反逆罪、首謀者の場合はほぼ確定で無期懲役か死刑なので気をつけような。

 

そんなことを考えていたら突き飛ばされ、床に押し倒される。

 

「エロゲみてぇな展開だな……」

 

「私以外の女の子に「もうそれいいから」あっうん」

 

さてやべぇな。このままだと性的にやられる。第二話にしてクライマックスだぜ。突き飛ばすと怪我するしなぁ。最悪抱き締めて脳味噌ショート、フリーズしてる隙に逃げるか。

 

そんなことを考えている最中、不意にインターホンが鳴る。

 

「葵依姉ちゃん、出た方が良いんじゃね?」

 

「無視で」

 

「社会不適合者かこいつ」

 

ひっついてくる葵依姉ちゃんを引き剥がしていると、リビングの扉が開けられる。

 

「葵依、忘れ物……」

 

「「「………」」」

 

「おー椿さん。悪いんだけどこの馬鹿引っ剥がしてくんね?」

 

入ってきたのな葵依姉ちゃんが所属してるユニット、燐舞曲のボーカルをしている青柳椿さん。ん?これちょうど良いわ。

 

「ほいっ」

 

「え?あ!?」

 

壁際に追い込まれていたのが功を奏した。思い切り壁を押して前へと移動する。もちろん葵依姉ちゃんにぶつかるが、その際にうなじのあたりに手を添えて柔道の要領で"回す"。空中で一回転する形になり、そのまま床に叩きつけられる。まあ床に絨毯敷いてあるし怪我はせんじゃろ。手加減もしてるし。

 

「そんじゃ俺は失礼!」

 

「え?あ、ちょっと!?」

 

椿さんの横をすり抜けて逃亡。この後アレの相手してもらわなきゃだし今度お礼しないとなぁ。

 




鉤野 戒矢
幼馴染みが盗聴器仕掛けてくるせいでジャミング装置を自作出来るレベルに技術力が身についている。この主人公はハイスペックだが基本的に葵依のヤンデレムーブ対策のため。ちなみに葵依を攻撃する際も怪我とかしないようにしているせいで助長させている。

三宅 葵依
盗聴器を仕掛けているやべーやつ。ジャミングされて情報が途絶した挙句破壊された。主人公が自分のヤンデレムーブ対策でスペックが上がっているとは微塵も考えていない。むしろ自分のために凄くなってるのではと思っている盲目。まあ自分の(ヤンデレムーブに対抗する)ためなので間違ってはいない。

青柳 椿
ちょい登場。原作では葵依にクソデカ感情を向けており、今作でも向けてはいるのだが全く意に介されていないかわいそうな子。
感性は常識人なのでヤンデレ襲撃に居合わせた時は守ってくれる。なお傷つけないと逃げられない時に限る。


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最新投稿回
番外編:Merry X'mas!!!!


マジでほんへが思いつかない。もうすぐ丸一年エタる。


「クリスマス何にすっかねぇ」

 

まあ緋彩さんにプレゼント交換会するから「まともなの(当たり障りのないやつ)持って来て」って言われてんだけど。

馬鹿正直にやるわけねぇだろ。俺が葵依姉ちゃんのやつ以外を引き当てるわけが無いし、同様に葵依姉ちゃんが俺以外のを引き当てるわけがない。

 

「んー……本当に何にしようか」

 

ネックレスは前に送ったし。となると指輪?いや流石にそれは早い。……髪飾り?簪でも贈るか。というわけで作るか。材料は誕生日プレゼントに作ったネックレスの余りがある。

 

というわけで作ってきましたブラックダイヤの簪。いざという時は護身になる。相手の眼球にでもぶっ刺しちまえ。

 

「お邪魔します」

 

緋彩さんの家に到着。扉を開けるのが面倒なので意図的にトンネル現象を引き起こして玄関に入る。これぐらいならまあどうにかなる。他人にトンネル現象を引き起こさせるのは流石に無理だけど。

 

「あら、いらっしゃい」

 

「一応プレゼント交換会の用のプレゼント持って来ました。まあどうせ葵依姉ちゃんの元に行くし葵依姉ちゃんの持って来たプレゼントは俺の元に来ますし」

 

「何を言っているの……?」

 

困惑してら。草。

 

「あ、緋彩さん。ディナーってまだ作ってませんよね?」

 

「……? ええ。一応まだだけど」

 

「良いもん持ってきたんで使いましょ」

 

「何を持ってきたの?」

 

「丸鶏」

 

 

 

 

 

 

品目名「丸鶏のローストチキン バターライス詰め」

 

材料

 

丸鶏 1羽(1,800g)

塩 小さじ1

こしょう 適宜

【バターライス】

ごはん 300g

玉ねぎ 1/2個

バター 10g

塩  適宜

こしょう  適宜

【付け合せ】

じゃがいも、セロリ、玉ねぎ、人参など 適量

バター  適宜

油 適宜

【グレービーソース】

コンソメ 1個(5g)

【準備するもの】

たこ糸、竹串

 

鶏肉は冷凍した状態でクーラーボックスにぶち込んで置いてあったので解凍。水気を拭いておいて塩と胡椒をすり込んでおく。

次はバターライスだな。玉ねぎは刻んで、バターをフライパンで熱して溶かす。そして刻んだ玉ねぎを炒める。

ボウルに炊いておいた米と炒めた玉ねぎ、塩・胡椒を投入して混ぜ合わせる。これでバターライスの出来上がりだ。

丸鶏の腹の方を上にし、中にバターライスを詰め込む。しっかり、ぎゅうぎゅうに詰め込むのがポイントだな。

そして詰め込み口が開いたままなのでたこ糸を使って縫い合わせる。任せろ、医療ドラマや漫画を読んで縫合技術はなんとなく身につけた。

そして鶏の形を整える。首部分の皮を内側に押し込み、足の先をたこ糸で結ぶ。最後に手羽先を背中にまわして固定。見栄えが良くなるようにしっかりと固定しよう。

付け合せとして用意した野菜を一口大にカット。油で和えてオーブンの天板に。

そして丸鶏を腹側を上にして天板に置き、溶かしたバターを表面に塗る。

220~240℃に熱したオーブンで70~80分ほど焼こう。

 

……そろそろ焼き上がるか。コンソメをお湯1カップほどで溶き、天板に流し入れる。残った肉汁なども溶かし入れ、小鍋に移した後に量が半分ぐらいになるまで煮詰めて完成!

 

 

 

 

 

ディナータイム。

 

「わ、すっげー!ローストチキンだよな!?」

 

「おう。俺が作ったから味わって食えよ」

 

「全部食べていい?」

 

「俺が作ったからって全部食おうとすんなよ馬鹿(葵依姉ちゃん)

 

食べたければまた今度作ってやるから。葵依姉ちゃんの頼みならこんなもんで良けりゃいくらでも作ってやるから。

 

「……丸鶏なんて何処で手に入れたの?」

 

「意外と手に入るもんなんだよ」

 

養鶏場とかに恩売っとくと簡単よ。

 

そんじゃまあ。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

うん、美味い。

 

 

 

「それじゃあ、プレゼント交換だー!」

 

相変わらず常にテンションが高いというか元気な渚さん。基本的にダウナーな俺、お世辞にもコミュ力が高いとは言えない椿さん、どんちゃん騒ぎしてたら混ざりはするけど中心で盛り上がるタイプではない葵依姉ちゃんと緋彩さんなので一人だけ圧倒的に浮いている。

 

ぶっちゃけ包装とかもバラバラで狙おうと思ったら余裕なのでそれぞれに番号を振り、くじ引きで決めることに。

 

「それじゃあまずは私からね」

 

そう言って椿さんがくじを掴み、勢い良く引き抜く。

 

「……緋彩のプレゼントね。中身は……手袋?」

 

「これから益々寒くなってくるもの。末端部の冷えは病気の元よ」

 

「ありがとう、緋彩。大切にするわ」

 

あらいい雰囲気。

 

「それじゃあ次はアタシだな!」

 

今度は渚さんの番。同じようにくじを引くと……。

 

「あ、椿のやつだ!えっと……お、アクセサリーじゃん!」

 

「燐舞曲イメージの青い炎のアクセサリーよ」

 

「サンキューな!大事にするよ!」

 

となると……次は。

 

「じゃあ次は私が」

 

お、葵依姉ちゃんの番か。どれを引くのかね。

 

「……戒矢のだね」

 

「やっぱりな」

 

「やっぱりって?」

 

椿さんが俺の発言に反応したので言葉を返す。

 

「質問に質問で返すようで申し訳ないけどさ。逆に聞くけど俺が葵依姉ちゃん以外のを引き当てる道理があると思う?同様に葵依姉ちゃんが俺以外のを引き当てる道理がある?」

 

「何を言っているの?」

 

わからんならわからんでいい。

 

「戒矢のプレゼントは……髪飾り?」

 

「誕生日に贈ったネックレスの材料の余りで作ったやつ」

 

「つまり?」

 

「金とプラチナとブラックダイヤで出来ています」

 

「前々から思っていたのだけど貴方葵依に関してだと妙に頭のネジが外れるわよね」

 

「寄木細工なんで」

 

「ネジが使われていない!?」

 

「【急募】ツッコミ不在の恐怖」

 

「スレ立てんな渚」

 

あ、敬語が抜けた。

 

「気を取り直して、次は私の番ね」

 

「これで緋彩が葵依の引いたら馬鹿面白いんだけどな」

 

「流石に知り合いが引いたなら潔く諦めるよ」

 

「知らん奴が引いたら?」

 

「こ ろ し て で も う ば い と る」

 

「こっわ」

 

あ、引いた。

 

「……あら、渚ちゃんのプレゼントね。中身は……これは、ブレスレットかしら?」

 

「ああ、燐舞曲の4人をイメージして(葵依)(椿)(アタシ)(緋彩)の4色が組み合わさったブレスレットになってんだ」

 

「渚ちゃん、とっても嬉しいわ!大事にするわね!」

 

「……さて。おい大トリ(戒矢)

 

「殺すぞ」

 

「葵依のプレゼントが確定したわけですがそれだけだと面白くないので1つゲームをしよう」

 

「失敗したら罰ゲームでプレゼント没収とかした日にはこの家原子レベルまで分解するからな」

 

「やらないで?」

 

「出来んの?」

 

「2時間あれば」

 

「本当にやめてね?」

 

やらんわ。出来るのは本当だけど。

 

「葵依のプレゼントの中身は何でしょう。ちなみにアタシは知らない」

 

「答え合わせどうすんだよ」

 

「さあ?」

 

「立っ端半減するまで脳天ぶん殴ってやろうかこのチビ」

 

……ふむ。葵依姉ちゃんの性格を考えると……

 

「チョーカー」

 

「その心は」

 

「葵依姉ちゃんは今までの行動の問題で俺を束縛する方面で動こうとする。そんで首輪を渡そうと考えるだろうが……馬鹿正直に首輪を渡したら速攻で破壊されかねないので首輪っぽいアクセサリーになる。つまりネックレスかチョーカー。そんでもってネックレスは葵依姉ちゃんに贈った前例があるからお揃いで仕立て上げるかもしれないが、チョーカーの方が首輪としての印象が強い。そう考えるとチョーカーだろう」

 

「で、答えは?」

 

包装を丁寧に開封。中身は……

 

 

 

 

 

「な?」

 

黒のチョーカーだった。鈍く光る金属パーツが怜悧な印象を与えてくる。クールでかっけぇ。

 

「アタシもうお前が怖いよ」

 

「好きな人の考えてることなんざ簡単にわかるんだよ」

 

「結婚しよう」

 

「手順踏めや」

 

そうツッコミを入れながらチョーカーを首につける。初めてつけるからやや窮屈で違和感があるが……悪くないな。

 

「とりあえず風呂の時以外は常につけておくか」

 

「学校大丈夫なの?」

 

「襟立てときゃバレんじゃろ」

 

バレたら逃げればいいし。

 

「ありがとな、葵依姉ちゃん。大事にする」

 

「うん、戒矢が喜んでくれたなら嬉しいよ」

 

「……ナチュラルに二人だけの世界に入るのホントやめて欲しいよな」

 

「「わかる」」

 

その後、クリスマスケーキとして俺と緋彩さんで作ったケーキを食べてお開きとなった。……みんなローストチキンでかなり腹が膨れててあんまり食べられなかったらしく、6割ぐらい俺が食べて残りの4割を4人で等分する羽目になったが。やっべ腹はち切れそう。ちょ、胃にブロック反応引き起こさせて中身圧縮しよ。

 

「……雪?」

 

帰り道を葵依姉ちゃんと歩いていると、ふと雪が降ってきていることに気付いた。

 

「ホワイトクリスマスってやつか」

 

「だね。……とてもロマンチックだ」

 

……このタイミングで「雪は空気中のホコリなどのゴミに水分が付着、それが冷気で凍結して発生するんだよな」とか言ったら流石の葵依姉ちゃんでもグーで殴ってきそうなので言わないでおこう。

 

「……来年も、再来年も。戒矢と、こうしてクリスマスに雪を見れたらいいな」

 

「人工降雪機でも作ればいいのか?」

 

「そうじゃなくてね?」

 

葵依姉ちゃんは僅かに口を噤んだ後、再び口を開く。

 

「……私は、ずっと戒矢の傍に居たいんだ」

 

「……愚問だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の傍は、葵依姉ちゃん専用の特等席だっての」

 

雪が降り積る寒い夜。でも、間違いなくこの瞬間は。

どんな場所よりも暖かい。




鉤野 戒矢
全てにおいて微妙にズレている。
トンネル現象とか意図的に引き起こしているあたり、ズレているのは思考回路とかだけじゃなく世界線とか時間軸とかも微妙にズレていそう。なお、本編の設定とは全く関係ない。
プレゼントはブラックダイヤの簪。こいつはクリスマスのプレゼント交換会を何だと思っているのだろうか。

三宅 葵依
ズレた男の傍に居続けることを望んでいる。
プレゼントはチョーカー。男は大切な人の束縛の想いを受け入れる。拒絶はひとえに共にいるため。

月見山 渚
ズレた馬鹿とそいつを愛する女を呆れた目で眺めている。
プレゼントはブレスレット。2人の恋路を友として応援している。

青柳椿
馬鹿と女を見守っている。
プレゼントはアクセサリー。2人のことは呆れ半分嫉妬半分。

矢野緋彩
馬鹿と女のことは微笑ましく思っている。
プレゼントは手袋。2人のことはもうちょっと自重して欲しいと考えている。


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