今日もどこかでELダイバー (アルキメです。)
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19人目『トキ』
19人目に発見されたELダイバー『トキ』は、一時に流行ったブレイクデカールや初心者狩りを行うガンプラに対する憂いや怒りの想いを基に生まれたとされている。
そのためか、彼女の性質は『乱れを正す』という風紀委員や自警団に近しいものとなっている。
前髪をきっちり切り揃えた長めの赤茶色の髪を白いリボンでまとめ、薄い黒色の軍服めいたスーツを着こなす姿はまさしく風紀委員然としていた。
だが、ほぼほぼ脚を露出させた丈の短い赤色のスカートのせいで、そういった真面目そうな印象を台無しにしていた。
160cmほどもある身長で、丈の短いスカートを揺らしながらGBNを見回る危うい後ろ姿こそ風紀の乱れではないかと思われるが、彼女はそういう部分にはまったく無自覚であったし、また無知であった。
そんなトキは自身の生まれた場所であり、生活拠点でもあるガンダム00の世界観を再現した『ディメンション・
なのだが――
「退屈ですねぇ……」
セントラルロビー外周部。そこに設けられたベンチに腰を下ろして、ぐうたれていた。
ここ最近はあまりにも平和なため、至って問題がないのが現状だ。
ブレイクデカールは彼女が生まれる2年前に根絶され、今では自分たちをリアルへサルベージするビルドデカールとして役立っているし、初心者狩りはそもそもシステムアップデートに伴う対策や改善でハイリスクで旨味もなくなり、あるいは狙いをつけた初心者に返り討ちにあうということが多く、トキの出番はないも同然であった。
それが一番望ましいものだとはトキ自身、理解はしているも、自分の基が基だけにやはり少しばかりの寂寥を感じることもあった。
ぐでぇっとベンチの上で仰向けになり、青い空に手をかざす。
「いいことなんですけどね……」
指と指の隙間を通って刺し込む陽の光がトキの頬を照らす。
平和であることは良いこと。それは紛れもない事実であり、誰もが望んでいることだ。
それでも心のどこかでは多少の――自分が必要とされるハプニングが起きることも、望んでいた。
それが不正や違反に対する憂いや怒りから生まれたトキの存在意義を証明するためだと思っていたからだ。
だから時々、何事もないこのGBNの日常に、言いようのない不安を、不満を感じてしまうことがある。
「んなぁ~! ダメですダメダメ! 心の乱れは秩序の乱れ! ……あいたぁっ!?」
上半身を起こし、矛盾した思考を弾き飛ばすように自分の頬をパシンと叩く。
思ったよりも強く叩きすぎて、ジンジンと尾を引く結構な痛みに涙目になったが、気持ちを切り替えるのに十分だった。
その頭上をAGE-1グランサの装甲を纏ったGバウンサーと、クロスボーン・ガンダムX1とリボーンズガンダムのミキシングビルド機が通り過ぎていった。
⁎
ELバースセンターという施設が在る。
第二次有志連合戦以降、GBN運営陣によって設立された保護施設で、発見・保護されたELダイバーはここでGBNに登録され、この電子の世界に存在を明確に刻まれるのだ。
この他にもELダイバーの人格データを転用するためのビルドデカールや、リアルの世界でも活動可能なモビルドールの制作も担っている。
トキもまた、19人目のELダイバーとしてここでお世話になった一人だ。
「こんにちは~」
「やぁ、こんにちはトキくん」
ひょっこりを顔を出して挨拶をすれば、そこにはくたびれた顔のエルフチックな男性がいた。
彼の名はコーイチ。
ELバースセンターに勤務するスタッフの一人で、主にモビルドールの制作を担当している。
かつてはブレイクデカールと主犯格としてGBNを騒がせ、紆余曲折の末、現在は彼と同じスタッフとして活動している『
白髪を乱雑にかき上げながら、微笑みを浮かべてトキを迎える姿は、どこかなよなよした雰囲気だ。
「いつ見ても頼りなさそうですね」
「いきなり手厳しいね!?」
「もっとしゃんとしたほうがいいですよ。本当は頼りになるんですから」
「褒められているんだよね? まぁ、考えておくよ。それで今日は何をしに来たんだい? 定期検査ならまだ先だけど……」
トキは元気よく、しゅっと手を挙げる。
「補給です!」
「……なるほどね」
その言葉に、コーイチは眼鏡をくいっと上げる。
カツ、カツと靴音を立てて、近場の棚からボックス型アイテムを取り出す。
側面には『菓子三昧』という文字がファンシーなフォントでプリントされていた。
「おぉ! これが例の!」
「GBNに出店している有名なお菓子屋さんのパーティーボックス、手に入れるの思ったよりも苦労したよ」
蓋を開ければ、キャンディ、ラムネ、スナック、せんべいなど、様々な種類のお菓子で溢れていた。
どれもコーイチの言葉通り、GBNにも店舗を進出させている有名な菓子店のお菓子であった。
これは言わばそれらを詰め込んだパーティー用の商品で、有名どころの味を楽しめる上にカロリーを気にする必要のないGBNにおいては絶大な人気を誇っていた。
コーイチはトキに頼まれてこの菓子三昧を買いに行っていたのである。
「わぁぁぁ……ありがとうございますコーイチさん!」
菓子三昧を受け取り、子供のように瞳を輝かせながら、トキは感謝した。
見た目こそ高校生くらいだが、彼女もまた他のELダイバー同様に生まれて間もないのだ。
ある程度の知識は備わっているとはいえ、やはり所々に幼さが見え隠れしていた。
人というのは、彼女たちのそういったところに母性や父性をくすぐられるのだろう。
そこでふと、コーイチはトキに菓子三昧を求められた時のことを思い出す。
あの後、ぶっきらぼうにツカサから人の混まない時間帯と最短到達ルートを書かれたメモを渡されたのだ。
「ふふ、あいつも弱いなぁ」
「何がです?」
「いや、何でもないよ。それより、あんまり食べすぎないように。僕たちのような普通のダイバーには直接影響はなくとも、君たちはまだそういった部分で不明なところ多いんだから」
「解ってますとも! ほわぁ~、温泉宿黒丸の温泉まんじゅうまで……あ、こっちは椎谷堂のごまおせんべい!? うわーうわー選り取り見取りですよコーイチさん!」
「まぁ、うん。気をつけてもらえればいいか」
涎を垂らしながら見入っているトキに、半ば呆れながらコーイチは微笑する。
保護された当初を回想すれば、彼女はずいぶん明るくなったと感慨深げに頷く。
(あの時はとにかくすごかったなぁ)
あの時のトキは、自身の生まれの理由ゆえに、それがほとんど失われていたことへの混乱で、すぐにでも飛び出さんばかりに暴れていたことを思い出す。
そんな彼女がサラを始めとしたELダイバーたちと、自分たち一般的なダイバーたちと交流を重ねるうちに、段々と今の調子に落ち着いていったのだ。
我が子の成長を見守る父親のような眼差しで、コーイチは思わず涙ぐみそうになった。
「あ、そういえばコーイチさん」
「なんだい?」
「これ、菓子三昧を頂いたお礼です」
差し出された包装を受け取れば、それはドライフルーツを盛り込んだマカロンでレアチーズを挟んだスイーツだった。
「ありがとう。ってこれ、君の嫌いなやつじゃないか」
「き、嫌いじゃないですよ!? ちょっと苦手なだけです!」
「……そういうことにしておくよ」
貰ったマカロンを懐にしまいながら、コーイチは「ありがとう」と返した。
「これからまた見回りをするのかい?」
「もちろんです。秩序の乱れは世界の乱れ! 例えタイミング悪くとも、行動はしてこそなのです!」
「程々にね」
「はい! それと後見人の件、よろしくおねがいしますね!」
「わかってるよ。気をつけてね」
むおー! とやる気を滾らせながら、ふたたび見回りに戻る彼女の後ろ姿をコーイチは軽く手を振って見送った。
その後のGBNセントラル・エリア・ロビーでは、アホ面――にこやかな笑顔でお菓子を頬張りながら見回りをするトキがいた。
因みに怪しいという理由でヤスが追い回されたが、お詫びにチョコエッグを貰ったことで後はマギーさんに任せて、早々と切り上げとなったそうだ。
19人目のELダイバー『トキ』。彼女はつまり、ポンコツだった。
作中、トキの頭上を飛んでいったグランサアーマーのGバウンサーとクロスボーン・ガンダムX1とリボーンズガンダムのミキシングビルド機は、まるぱな♪様の二次創作品『ガンダムビルドダイバーズ-戦場の白い運命-』に出てくるウルズくんの『Gグランド』とオリスくんの『クロスリボーンガンダム』ですわ。
【トキ】
GBNの「乱れを正す」という想念から生まれた19人目のELダイバー。
一人称は『私』 二人称『あなた』『きみ』『~さん』『呼び捨て』など。
長めの赤茶の髪を白いリボンで纏め、薄い黒色の軍服めいたスーツを着た少女型。
ほぼほぼ脚と言われるほど丈が短い赤いスカートで、正すよりも乱しているような気もするが本人は無自覚。
性格は真面目だが、生まれて間もないこともあり幼さが強い。
いわゆる「アホの子」と形容されるほど、どこか抜けている。
日々GBNを見回りしながら自警団的活動をしているが、特に大きな乱れはなく、ちょっとした事では長々としたお説教を避けるためお菓子や好みのものを渡して手身近に澄ませてしまうパターンが多い。
Gチューバーも存じており、ちのちゃんやチェリーちゃんなどの配信を観ていたりする。
リアルの世界をもっと見てみたいという理由から『後見人』を探しているが、ELダイバーをペット感覚で見做している者も多く、未だに見つかっていない。
「こらー! そこのダイバー、止まりなさーい!」
「うぇ? 何ですこれ? ははーん、さては賄賂というやつですねぇ? でもダメですよ! こんなもので私の目をごまかそうなんて――そ、それはちのさんとチェリーさんのかわいい切り抜き集!? どこでそれを……ゴホン、えー、いや、今回はあくまで注意だけなので、今後は気をつけるように! あとこれは証拠物品として没収! 没収です! ふへへへへ……」
【ドレッドノートガンダム・ルーラー】
トキのモビルドール姿。通称『ドレッドノートR』
ドレッドノートガンダムをベースにしたガンプラで、女性的なシルエットをしている。
その姿はほぼドレッドノートイータ。
トキと同じ薄めの黒と赤のカラーリング。
背部両側に長定規型多目的武装『ルーラーユニット』を搭載。
これはビームバスター砲/ビームライフル/ビームソード/ビームランスの複数の機能が組み込まれている。
また三角定規型の『トライアングルルーラー』をシールドとして装備。
アルミューレ・リュミエールとして機能する他、発振状態を変えることでビームナックルとしても使用できる。
手持ち武装には『コンパストアームズ』を装備。
通常は閉じたコンパス型の鈍器で、先端にニードルスピアーが内蔵されている。
分割、展開することで長大なスピアーと化す。
片側にはビーム発振器があり、物理とビーム属性の二つを兼ね揃えている。
状況に応じてコンパストアームズを展開することでトリッキーな戦闘を行える。
腰部には『XM1プリスティスビームリーマー』を改造した笛型の『ホイッスルリーマー』を搭載している。笛を吹いたような音が特徴。
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72人目『ディネ』
人と人の手によって創り出された世界に神はいない。
それでもそこに神という概念を求めてしまうのは、太古の昔より紡がれる人類の遺伝子に刻まれた、ある種の本能というものなのかも知れない。
ぼんやりとそんなことを考えながら、くすんだ黄赤色のショートボブと縁なし眼鏡が特徴的な女性ダイバー――焚き火の横でクルミは、目の前で片膝をついて祈りを捧げる少女を半目して眺めていた。
クルミはELバースセンターに勤めるスタッフの一人である。
彼女の役割は発見・保護されてからあまりELバースセンターに顔を出さないELダイバーの様子見――即ち、定期検診にあった。
故に今、ごつごつとした岩の上に腰を下ろした彼女の目の前で祈りを捧げる少女もELダイバーということになる。
(72人目のELダイバー『ディネ』……感謝という感情に基づいて生まれたとされているけれど、あれじゃまるきり信仰心よね……)
頭の中でELダイバー『ディネ』の情報を反芻する。
ディネは∀ガンダムの世界を再現した『ディメンション・
近未来チックやサイバーチックな意匠の他のELダイバーと違って、彼女は褐色肌で、布と紐、それと骨のようなアクセサリで構築した露出の多い前時代的な恰好をしており、灰色のジャギーウルフカットに、赤い目、コヨーテを丸ごと模った毛皮を被っているが特徴的だった。
幅の広い感謝という感情の中でも、いわゆるGBNという世界や大地に対する感謝の――言ってしまえばこちらで自由に身体を動かせることへの――感情に基づいて生まれたと推測される彼女は、他の比べて信心深い性格をしている。
その影響なのかは定かではないが、機能美と効率によって設計されたせせっこましいセントラルロビーや機械的な空間では落ち着かないとして、こうして広大な『ディメンション・
他にもガンダムXの世界を再現した『ディメンション・
そんな彼女が機能美と効率が集約されたELバースセンターに自ら顔を出すはずもなく、こうしてクルミがわざわざ出向くということになっていた。
それでもGBNを旅している『セレス』や隠居暮らしが好きな『フミ』と違って、どこにいるかハッキリとしているのでまだマシな方である。
「すまない。待たせてしまった」
「ん、お祈り終わったの?」
「ああ」
小さく頷くディネを、クルミはじっと見る。
最低限、隠すとこは隠した姿は際どくまさしく破廉恥で、ほぼ胸に被せただけのような布は下半分が露出しているので見ているこっちが恥ずかしい気分を催してくる。
本人はそういったことに無自覚なのもあって、形の良い顔できょとんとしているのが、それがギャップとなっていっそう如何わしいと思えてしまうのは、そういったジャンクフードとも言えるものを摂取しすぎてきた弊害なのだと内心で自嘲する。
少なくともディネ本人は自分の格好に何も疑問を抱いていないあたり、他のELダイバーと似て純粋なのだろう。願わくば清らかなままであってほしいと思う。
そんな煩悩染みた思考を脳内の隅に追いやり、口を開く。
「……そのお祈りさ、いつもやってるの?」
「やっている。毎日欠かすことなく、朝夕晩の三回」
「へぇ」
自分から訊いておいて、今の相槌は失敗だったかなと思う。
ディネはそんなことを気にすることもなく、小首を傾げた。
「変わってるだろうか?」
「いんや、あんたの感情に基づいての行動なんだから、むしろ正しいと思うけど。ただちょっと不思議な感じがしてさ」
「不思議?」
「ディネは神様って信じてる?」
「神様、か……」
ふむぅ、と顎に手を添えてディネは考える。
「……確認するが、神様とは世界を創造した存在、というものであっているだろうか?」
「まぁ、それであってると思う」
「そうか。なら私は神様を信じている」
「ほほぅ? ちょっと意外かも」
「第一、私たちの存在が奇跡みたいなものだからな」
「それは確かに」
「それに、少なくとも私にとっての神様とは、君たちのことだからな」
言われて、眼鏡の奥で意外そうに目を見開く。
「……自覚がなかったようだ」
「いやいやいや、そりゃ確かに広い目で見ればGBNを創ったのは私たち――というか前任者だけど」
「そうだ。君たちがGBNという世界を創り、データという感情によって私たちが生まれる土壌を作ってくれたのだから、これを神様と言わず何と言おうか」
そう語るディネの目は真剣だった。
面と向かって言われてしまえば、クルミもクルミで否定することはできず、曖昧な相槌を返すことしかできなかった。
嬉しいような、恥ずかしいような、誇らしいような、それらがない交ぜになった何とも形容しがたい感情に、クルミはわざとらしく咳ばらいをして、眼鏡をかけ直す。
「――そろそろ焼けたようだな」
「え、なに? 何か焼いてたの?」
「ああ。私式ワイルドグルメ、というやつだ」
「へぇ、ディネ式ワイルドグルメ!? そうなんだ! すごいじゃん!」
焚き火の中からアルミホイルのようなもので包まれたものを、ディネは長い木の枝に器用に取り出しながら、得意気に口角を吊り上げてみせた。
「焼き芋?」
「のようなものだな。食べるか?」
「いいの? じゃ、遠慮なく」
熱さを抑えるため、さらに布で包まれたそれを受け取り「あちち」と暫く手の平で転がす。
GBNでは基本的に空腹になるということはないが、満腹になるということもない。
ただそこに味わうという味覚のみがフィードバックされるだけだ。
カロリーも栄養値も気にする必要がない。
味を堪能するという一点においては、ことGBNは最大限のスペックを誇っていると言ってもいいだろう。
すっかり焼き芋のようなものだと期待して、慎重にアルミホイルを剥がすと――動物の脚のようなものが臭み消しに使用されたであろうハーブに巻かれた状態でそこにあった。
「……なに、これ」
「兎の脚をハーブで巻いて、塩胡椒で味付けしたものだが?」
「でもさっき焼き芋のようなものって……」
「銀紙に包まれた姿が焼き芋のようだろう?」
「見た目がもう完全に脚なんだけど……」
「毛皮や爪、余分な血管は処理してある。安心して食べるといいぞ」
「うん……」
「では、いただきます」
「いただき……ます……」
ゲーム内とは言え、初めて食べた兎の肉は鶏肉のような味わいで思いの外、美味しかった。
クルミの横で美味しそうに齧りつくディネを見ると、先ほどまでのガッカリ感は霧散していた。
「後で定期健診でデータ抽出用の注射するから」
「んぐっ!? ――こ、今回はやらなくていいと思うのだが?」
「だーめ。あんたたちはまだまだ解らないことが多いんだから。そうやってまた面倒事になったら大変でしょうに」
「うぅ……肌に針を刺すとは度し難い発想だ……うぅぅ、いやだぁ……もっとマシな方法はなかったのかぁ……」
青筋を浮かべて唸るディネを見てふふっと微笑みながら、クルミは月の浮かぶ空を見上げた。
(余剰データによって誕生したのがELダイバーだって
もしかして本当は遥か遠い星からやってきたアパリッショナル型宇宙人かも、とありえないことを考えながら、逃げだそうとしていたディネの腕を掴んで逃がさないクルミであった。
ディネはしゅんとした顔で諦念をありありと浮かべて、兎の脚のハーブ焼きをもそもそと齧っていた。
【ディネ】
72人目のELダイバー。
一人称は『私』 二人称は『君』『呼び捨て』など。
褐色肌に赤い目、灰色のジャギーウルフカットをした姿。
服装はいわゆる前時代チックなもので、布と紐、骨のようなアクセサリーで構築した露出の覆い格好。
コヨーテの毛皮を被っている。
GBNという大地に対する「感謝」という感情に基づいて生まれた存在(これは恐らくリアル側で身体的障害があるダイバーたちが、GBNでは自由に身体を動かせることへの感謝からきているのではと推測されている)で、他のELダイバーと比べて信心深い面がある。
普段は落ち着いた性格だが、近未来チック――機械的な空間が苦手らしく、そこに来ると落ち着きがなくなる。
また注射といったものも非常に苦手。
∀ガンダムの世界観を再現した「ディメンション・C.C.」で活動していることが多い。乗機はモビルドールディネを押し込んだ『ワイルドスモー』。
【ワイルドスモー】
ブロンズカラーで、手足に爪上のブレスレット型パーツを装備している以外は原型機の同様の装備をしている。
特徴として頭部にオオカミを模したペイントが施されている。
通常のスモーよりも一回り大きいが、これは中にモビルドールディネが押し込められているため。
【モビルドールディネ】
ディネのモビルドール状態。
手首内側にビームバルカン、太腿部分にビームナイフ、腰にヒートナタ、腕部にブレスレット形状のIフィールド・ジェネレーターを装備している。
【クルミ】
ELバースセンターで働くスタッフの一人。
一人称は『私』 二人称は『あんた』『あなた』『~さん/くん/ちゃん/先輩/呼び捨て』など。
くすんだ黄赤色のショートボブで、縁無しメガネをかけた女性。
黒インナーの上から白衣のような衣装を纏い、聴診器型のインカムを付けている。
ELダイバーの状態を確認する定期健診を行う人物。
お調子者な部分こそあるものの、周囲と比較すると幾分まともな性格をしている。
普段はELバースセンターなどに来ないELダイバーを探して接触するという役割をこなしている。
個性的な仕事仲間やELダイバーたちに振り回されている苦労人。
リアルでは「シラクモ・クルミ」という名前の女性。
第二次有志連合以降に入ってきた新人だったのだが、運営側の人間として初めて3人目のELダイバー『マティ』を発見・保護したことからELバースセンターのスタッフとして正式に配属されてしまった。
カツラギ主任を「おじさん」と呼んでは注意されている所をよく目撃されている。
母方の旧姓は「カツラギ」であり、どうやら苦労人の血には抗えないらしい。
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42人目『シヅナ』
お金がなければ人は生きてはいけない。
それなら自給自足をすればいい、と言う人もいるだろうが、現在の利便性の高い文明に馴染みきった人間には、それは容易いことではない。
多ければ多いほど困ることはないし、少なければ少ないほど死活問題として関わってくる。
それがお金というものだ。
無論、それはGBNでも同じである。
円やドルの代わりにビルドコイン――通称を『BC』と呼ばれ、利用されているゲーム内通貨は、リアルのように死活問題に関わるほど重要性のあるものではないにせよ、ないならないで困ることが多い。
モビルスーツとして再現されたガンプラに乗れて、広大なディメンションを自由に探索できるというのに、人間はかようにお金という呪縛からは逃れられない。
だから、そうしたお金に纏わる感情からELダイバーが生まれたって何ら不思議なことではないのだろう。
クルミは小さなアイテムショップの商品棚をぼやぼやと覗きこみながら、そんなことを考えていた。
彼女がいるのは『カウキアキナイネン』という店名のアイテムショップだ。
ガンダムXの世界観を再現した『ディメンション・A.W.』の侘しい小さな村の片隅に建てられた個人のお店である。
GBNでは前身のGPD同様にガンプラバトルが主流であるため、BCを稼ぐ場合やダイバーポイント、あるいはフォースポイントを貯める場合は基本的にガンプラバトルというのが常識だ。
しかし、バトルを好まないダイバーがいるのも事実であるため、アイテムの売買やアトラクションによってBCやポイントが稼ぐことができるようにもなっている。
そのためか、今でもGBNのあちらこちらで商いを始めるダイバーも多く、またリアルでもお店を経営しているところがGBNに進出してくるという、VRゲームの中でも恐らく最大規模の盛り上がりをみせていた。
かつて誰かが言った『VRはもう一つの世界である』と言葉は、確かな説得力を持ち始めていた。
「ほんで、買うの買わへんの? ただの冷やかしなら帰ってほしいんやけど」
木製のカウンターの向こう側で退屈そうに本を読んでいた少女がいつまでも商品を眺め続けるクルミの様子に堪えかねたようで、苛立たし気に声をかけた。
縁のない半円の眼鏡をかけた猫口の少女は、ブラウンカラーの髪を後ろ手に二つに編んで、背中まで垂らしているのが特徴的だった。
サラやメイとはまた違った、袖の大きなゆったりとした和風サイバーチックな衣装が薄紫のライン模様を歪めて揺れる。
彼女の名は――シヅナ。
42人目のELダイバーであり、『商売事』に関する感情から生まれたとされている少女だ。
ELダイバー言えば今やサラやメイ、チィやセツといった一時の騒動の中心となった存在が有名だが、そういったものに極力無縁を通していたシヅナは彼女たちのように有名ではない。
と、言うのも当初はセントラル・エリア・ロビーで小さな雑貨店を構えてはいたが、通う客足は品物を購入することよりもELダイバーであるシヅナ自身を一目でも見てみようというダイバーばかりで、ろくに商品に手をつけてはくれなかった。
彼女はそうした好奇な目に晒されるのが堪らなく苦手だったようだ。
だから一度、店を畳んでこのような辺鄙な片田舎とも言える場所でお店を開いているのだ。
そういった上辺の事情だけを聞けば同情の余地はあるのだが、実際のところはと言うと――
「買う、買わない以前にさ、これ何?」
「何って、MS少女のデータキットやけど? 存じておりまへんの?」
「いや存じてるよ!? 私が言ってるのはこれ!」
クルミは目の前の商品を指差しながら、苦い顔でシヅナを見た。
指の先には可憐な少女が陸戦型ガンダムの装甲を纏ったガンプラが展示されていた。
それだけならまだ良いが、問題は値札にあった。
本来なら数字の羅列が書かれているはずの値札には、筆で書いたような達筆で『非売品』と書かれていたのだ。
そう、シヅナは自身が製作した商品に愛着を持つことが多く、値札に『非売品』と書いては見せびらかす目的で店頭に並べているのだ。気分次第では要相談で売ってくれることもあるらしいが。
だから売れない。売れるわけがない。あまりにも商売に向いていない。
本当に商売事に関する感情を起因に誕生したELダイバーなのかと疑問を抱くほどに。もはやチィに一任させたほうがいいのではないだろうか。
因みにデータキットとはGBNで組めるガンプラのことであり、フォースネストに飾れる家具系アイテムとして数えられている。
その気になればプラ材アイテムから完全なオリジナル――即ちフルスクラッチも製作できるようになっている。
ここでしか発売されていないデータキット限定のガンプラもあり、人気によってはリアルでも発売されるということもままある。
「ええ出来やろ?」
「それはそうだけど、これじゃあ閑古鳥が鳴くわけね」
「ちゃんと売れる品も置いてあるんやけども」
「いやそれだってジャンクパーツばかりじゃない」
店内の片隅に置かれた木箱の中には雑に積まれた大小のジャンクパーツが埃を被っていた。
ジャンクパーツと言えばGBNで最も知れ渡るハズレアイテムであり、リサイクルでもしない限りは使い道がないとされている。
一応、ジャンクパーツそのものを使用した強化パーツなども作成できるようにはなっているが、そういったものは大抵性能が極端に低かったり、発動確率があまりにも微妙だったりと『テム・レイの回路』とどっこいどっこいの効果しか発揮できない。
ただ、時たま『3%の確率で機体性能を90%引き上げる』といった、これまた極端な成功品が誕生することもあるので、分の悪い賭けが嫌いではないダイバーからは妙な人気を得ていたりする。
最も、ジャンクパーツ自体は普通にプレイしていれば入手するのに困らないものなので、ここでわざわざBCを払ってまで買おうとする物好きはいない。
「失礼な。ちゃんと相談してくれれば売ったりもするで」
「因みに最近何か売れた?」
「……ない」
「ほらやっぱり」
「言うてお気にのばっか欲しい欲しい言うてくるんやもん! そら売れるわけないやろ!」
頬を膨らませるシヅナに、クルミは「はいはい」と適当に聞き流す。
「あ、でもちゃーんと売れる品も作ってあるで」
言って、カウンターの棚から取り出したのはオレンジ色にピカピカ光る集積回路のようなアイテムだった。
テム・レイの回路のような形状をしているが、中身はどことなく近未来チックだ。
「装甲値50%の向上に加えて、何と実弾系射撃武器の射程と弾速が30%もアップや! どや!?」
「おぉー、すごいすごい。それで、値段は?」
「ざっと3000万BC!」
「……値段設定下手すぎない?」
「だ、だってずっと非売品か100BCぽっちのジャンクパーツしか売ってこなかったやもん! どない値段にしたらええかわからんねん!」
「商売下手すぎない?」
「言わんといて! 正論は時に人を傷つけるんやで!?」
「わぁー!」と大袈裟な泣き真似をするシヅナ。
彼女のことをそれなりに知っているクルミは、それに対して動じるようなことはない。
肩を軽く竦めて、それはそれとしてといった気持ちで出来の良いMS少女たちを見やる。
いずれもMS少女も、よく見ればガンダムシリーズの主人公のような雰囲気があり、モデルが誰かなのかを何となく察することができた。
「ちょっと! 何か言ってや! 流石に放置されるんは辛いんやけども!」
耐えかねたのか、シヅナが勢いよく顔を上げて怒鳴る。
バンバンと両手でカウンターを叩いたが、思ったよりも堅い材木で構築されたカウンターに逆に手を痛めてひぃひぃと呻く始末であった。
「あーもうやってられんわ。……それにしても」
両手をプラプラと揺らしながら、シヅナはクルミの持っている鞄に目を向けた。
中身には定期健診用の道具が入っていることを、彼女は知っている。
実は既に受けた後だったからだ。
勿論、どのELダイバーも必ず受ける注射も受けていた。
一々ELバースセンターに通うってもらうよりも、抽出したデータ――人間でいう血液を回収して、それを調べたほうが効率が良いらしいとのことだが。
「何で注射なんやろな。もっと痛くないやつがあってもええんちゃう?」
「上が言うには“同じ人型なのだから、我々と同じ道具で対応すべし”ってことらしいけど」
「変なところで拘るなぁ。上だけに、上からっぽい言い方も気に入らん」
「向こうは情報でしかELダイバーを判断していないからね。いくら共存やら理解を求めても、そうそうに許容できるほどまだ器用じゃないのよ。実際、ELダイバーの存在の知名度なんてGBN以外じゃまだまだ低いほうだから」
「そんなもんか」
「そんなものよ。こればかりは時間とこっちでどうにかするしかないの」
「ま、ウチはええねんけど。そやそや、実は受注生産っちゅーのやろうと思っててな」
「へぇ? お値段は?」
「要相談!」
二ッと笑って人差し指と親指でCの字を作る。BCのCを意味するものだ。
ただ実際、受注という形でビルダーとして活動しているダイバーもいるので、クルミから何かを言うことはなかった。後は彼女の問題なのだから。
「良いと思うよ」
「せやろ~」
適当に肯定すると、シヅナはさらに子供のような笑みを作った。
壁にひっかけた時計から鳩の鳴き声が鳴り、午後を報せる。
「お、時間や!」
シズナは棚からレトロなラジオを取り出し、ガチャガチャを操作する。すると、
『ドーモドーモモード! 今週も始まった心形レイディオ~! お届けするのはご存知窓辺のモクシュンギク……』
聞こえてきたのはミスターMSの声。とすればそれは彼がパーソナリティを務めるラジオ番組だ。
あの男、意外にも手広く色々なことをやっている。
クルミは特段興味があるわけでもないので、雑多なBGM程度に捉えてもう暫くMS少女を眺めていたが、
「うわーはっはっはっは! い、今のボケはあかんて! 腹捩れるわ!」
シヅナの大笑いが耳朶を打った。
そういえば彼女はELダイバーの中でもとりわけ笑いのツボがズレていることを思い出す。
特にミスターMSのボケが想像以上にツボに入るらしい。ついでに言えば彼のファンだったりする。
「ひぃー……ひぃー……おなか、おなかいたい……ぅふ、アッハッハッハ!」
バンバンバンとカウンターを叩いて気持ちよく笑うシヅナを見て、クルミも釣られてほほ笑んだ。
ミスターMSのラジオ番組が終わるまでの一時間、シヅナの笑い声が絶え間なく響き渡るのだった。
バクシン! バクシンです!
【シヅナ】
42人目に発見・保護されたELダイバー。
お金に纏わる『商売事』に関連する感情から生まれたとされている。
一人称は『ウチ』 二人称は『アンタ』『キミ』『〇〇ねぇ/にぃ』『〇〇のお嬢/〇〇のお坊』など、
縁のない半円の眼鏡と猫口の特徴的な少女で、背中にかかるほどのブラウンカラーの長髪を後ろ手に二つ結びにして垂らしている。
袖の大きい着物めいたサイバーチックな衣装を着ており、薄紫のライン模様が飾られている。
ガンダムXの世界を再現した『ディメンション・A.W.』の辺鄙な片田舎とも言える場所で『カウキアキナイネン』というアイテムショップを開いている。
自身が製作したアイテム(主にMS少女)に愛着を湧かしてしまい、商品棚に並べられているのはほとんど非売品。
売ってくれることもあるらしいが、要相談な上に気分次第なため、売れ行きは無いも同然である。
ジャンクパーツを100BCで投げ売り販売しているが、普通にGBNをプレイしていれば入手にさほど困らないので売れない。
たまに有用な強化パーツも販売するが、値段があまりにも高く設定されているので買い手がつかない。
その商売下手さゆえに、他のELダイバーから心配されている。
勿論、閑古鳥が鳴いているため稼げるわけがなく、恥を忍んで堂々とELバースセンターや他のELダイバーたちにたかりにいっている姿を度々目撃されている。
総じて言えば『商売事が好き』であって、商売そのものが上手というわけではない。
【モビルドール・シヅナ】
シヅナのモビルドール姿。
フィンのような柔軟な袖パーツを武器とする。
モビルドールの中では小型であり、小回りが利く分、防御力は低め。
眼鏡はセンサーパーツとして組み込まれている。
【MS少女シリーズ】
過去に実際に販売されたものを除き、殆どはGBN限定のデータキットとしてのみ実装されている。
シヅナの製作したMS少女はオリジナルタイプであるため、一点ものである。
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