赤龍帝と青いヤツ (ニッカリ)
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原作開始前
プロローグ


処女作ですがお手柔らかに。
矛盾点や、誤字脱字などの指摘もよろしくお願いします。
表示の方法も改善点が有ればよろしくお願いします。


~回想開始~

                 怠惰な人生だった。

理想はあっても,妄想の中で満足してしまって何にも行動を起こさなかった。

“努力できるのも才能だ”という何処で読んだかも定かでない言葉で言い訳して、努力している人を妬んだ。

自分と何が違うのだろうと悩み、おそらく自分には才能がないのだろうと逃げていた。

そして後から思うのだ“ああ、あの時行動していれば今頃は”と。

運がいいのかそれで生きてこられた。

だからだろう、最期の時、俺は・・・。

 

 

 

ここは何処だ?真っ白な空間だ。目の前にはおぼろげな輪郭が

「テンプレです。」

「そうか。」

大体わかった。

 

「で?どこだ?」

「話が早いですね、あなたに行ってもらうのはハイスクールD×Dの世界です。」

ハイスクールD×Dか・・・。確か悪魔と堕天使が出てたな、あとは・・・

「あれか。おっぱいの。昔一巻だけ読んだな。」

「一巻だけですか・・・。覚えている内容は?」

「初期設定だけな、あとおっぱい。」

「・・・・・。」

「おっぱい。」

「・・・・・・・・・・・。」

「おっぱい。」

「わかりましたから!あなたが女性の胸にこだわるのはっ!」

「いや、べつに。初心なのな。」

「~~~~~~~ッ!?」

 閑話休題。

 

 

「んっんん!」

輪郭が揺らぐ。

「何だ、発情したのか」

「咳払いですっ!」

「そうか」

「あなたは3つの特典が選べ「いらん。」」

「は??」

「断固拒否する。」

「い、いらないって・・・。もう一人にはあるんですよ?」

もうひとりか・・・

「何人テンプレはいるんだ?」

「あなたともう一人です。」

一人ならいいか。あんまり多いのは読んでてしんどかったからな。

「そいつはなにを頼んだんだ?」

「ええっと・・・。

1、ニコポとナデポ

2、王の財宝

3、あらゆる才能と優れた容姿

ですね。」

・・・・・・・・・・・・・・・・。

「そいつは踏み台になりたいのか?」

ってかそれ三つ以上に思えるんだが

「???」

「いや、いい。とにかく俺はいらん。」

「どうしてですか!?」

物分りの悪いやつだな。

「そんなものあっても現実感が薄れるだけだ。物語ベースでも自分の人生だぞ?ゲームみたいに飽きたらポイってわけにもいかんだろ。それに俺は努力して傍若無人に生きるのが目標なんだ。」

そうだ、俺は前の人生をすさまじく後悔している。死んだときの後悔は今思い出しても震えが来る。

前世の後悔を持って人生やり直せるんだ、それだけでチートだろう?

「そ、それじゃあ困ります!何かないんですか!?」

「ないな」

ん?困る?

「俺が特典なしだとお前が困るのか?」

「え・・・。いやあそんなわけないじゃないですかぁ」

ふむ、

「じゃあ問題ないな。」

「ごめんなさいごめんなさい。ものすごく困ります主にうちの家計が!」

モヤモヤが足に纏わりついてきた。

 

なんでも転生と特典は担当が別だそうだ。

「つまり、俺が転生しても特典なしだとおまえはサボったことになんのか。」

「はいぃぃ。今期はカツカツなんです。ただでさえ家族を養わないといけないのに。

嗜好品なんて夢のまた夢、他の神みたいにわたしも蜂蜜酒とかのみたいんです!」

「なるほど。しらん、やれ。」

「美しい女神が縋り付いて頼んでるんですよ!?」

「お前女だったのか」

輪郭だけのモヤだからわかんねぇよ。

まあ、これでムキムキのオッサンだったら殺してるがな

「鬼!アクマ!変態!胸フェチ!」

「ああ?犯んぞコラ」

「ひっ」

 

 

しばらくすすり泣く声が聞こえてくる。こっちが悪い気がしてくるな。

「ハア、わかったよ決めりゃぁいいんだろ」

「スン・・・。え?いいんですか?あ、ありがとうございます!あなたいい人ですね!」

・・・・・・。

「~~~~~~♪あっ特典ふやします?あなたいい人ですから特別です!」

・・・チョロ過ぎんだろ!

 

 

「じゃあ、俺の特典は

1、生前と同じ肉体

2、必要最低限の生活基盤

3、日本在住

で頼む。」

「それでいいんですか?」

「ああ、神器とかも優遇すんなよ」

「いえ、それはあっちのルールの物なので無理です。一度行ってしまうと此方からは干渉できません。普通の人と同じ確率です。」

「そうか」

まあ、それならいいか。在ったらあったで俺の運だ。

 

 

「では、これから行く世界について軽く説明を」

「軽くな」

「ええ、・・・こほん。まず、あちらには悪魔や天使など神話上の存在が多数存在しています。

基本的には人間に認知されていませんが、まれに有能な人間をスカウトすることもあります。」

なるほど、有能な人材はどんどん引き抜かれていくわけか。人間側としては堪ったもんじゃないな、知らない間に不可逆の引抜をされるんだからな。しかし、やっぱ天使もいんのか・・・、ノリが合いそうに無いな。

「小説での主人公は兵藤一誠。“赤龍帝の籠手”を宿した少年です。とある事件から悪魔になり、様々な戦いを経験してゆきます。目標は、その・・ハーレム作りです。人物像としては“憎めないバカ”でしょうか。」

「その辺も小説どうりなのか?うろ覚えだったからあまり役に立ちそうに無いが。」

「はい、しかしあなたが生まれてからはどうなるか分かりません。あなたも世界の一部となるのですから、その行動は世界に影響を及ぼします。生まれたところから始めるんでしょう?」

「ああ。それは選択できるのか?」

「そうですが・・、赤ん坊からは嫌ですか?」

「いや、もう一人はどうなのかとおもってな。」

「もう一人の方も生まれたときからにしたそうです。何でも幼馴染になっておきたいんだとか。」

「なるほどな。」

思考までテンプレなやつだ。

 

 

「世話んなったな。」

「ええ、ホントに」

睨んでやる。

「あ、ありがとうございましたー。」

震え声になった。ヤバイぞくぞくする。

やはり俺はドSな様だ、あっちで鬼畜やってもいいかもしれない。

「じゃあやってくれ。間違っても落とし穴にすんなよ。」

「やりませんよ。」

そうか・・・

「なんでちょっと残念そうなんですか!?」

目の前に穴ができる。

「じゃあな。」

「ええ、あなたの生に幸多からんことを。」

 

 

 

 

 

「最後だけキメてもな・・・。」

「最後が肝心なんです!」

 

 

 

 



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第一話

目を開く。目の前にある顔は恐らく母のものだろう。女性が口を開く。

「青江さん、元気な男の子ですよ~。」

・・・違ったようだ。

 

 

自分の意志では体を動かせない。

母に抱かれているのだろうが、顔を見ることもできない。どうせなら美人がいいな。

横で泣いてるのは父だろう。俺は前世でも子持ちでなかったが、ドラマで号泣するのは大抵父親だった。

「お父さんもそんなに泣いてるとシュウスケに笑われるよ。」

そうか、俺の名はシュウスケになるのか。いいな、合格だカッコいい。ネーミングセンスはグッドだ。

一生使う名前だどうせなら気に入ったのがいい。

 

・・・泣いてたのは祖父だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キング・クリムゾン!・・・すまん、やってみたかった。

俺の名前は青江秀介。八ヶ月の赤子だ。ぴちぴちだ。

S県在住、家族構成は母、祖父のみ。父親はいなかった。理由は知らん、興味ないし聞く術もない。

みんな喜べ母は美人だ。うっかりヒロインにしたいと心の魔剣が動いたくらいだ。

こんないい女がフリーなのはもったいない。本当に頂こうか?

今は赤ん坊ライフをしっかりと満喫している。

赤ん坊のうちは暇かと思ったが、そんな事はない。赤ん坊は赤ん坊で寝るのに忙しいのだ。ZZZ

 

勿論、公約通り自らを限界まで鍛えるつもりだ。

体は動かせないが脳はいける。

昔やったゲーム中にあった、分割思考に挑戦してみた。

結果を言おう。駄目だった。こんな感じ。

 

1『お?いけたんじゃないか?』

2『まじで?』

3『いけんじゃね?』

4『これで我が覇道も・・クク』

5『ヤダここムサイわよ』

6『ママとヤりたい』

7『確かに』

8『殺す犯す殺す犯す殺す犯す』

 

1『よし、じゃあ役割分担すんぞ』

2『ん?今どういう状況?』

3『あ?何しきってんの?』

4『我こそがこの世界の王よ』

5『もっと可愛い服が着たいわ。スカートとか。』

6『ママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱい』

7『あれはいい物だ』

8『ひひっひっひひひっひひh』

 

1『主人格は俺だぞ』

2『ここは何処?』

3『はぁ?アホか、オレに決まってんだろォが』

4『面白い。我と覇を競うか』

5『何で男の体にしたのよ!信じらん無い!!』

6『ママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱいママのおっぱい』

7『6番を全面支援する!!』

8『血、血、血がほしい。』

 

1『落ち着けって!!』

2『僕は誰?』

3『やんのかコラ。死にさらせやぁぁァアア!!!』

4『闇の炎に抱かれて消えろ!!』

5『キー!!こうなったらタイで手術よ!』

6『ママぱいママぱいママぱい』

7『深いな・・・。今新たな言葉が生まれた、喝采せよ!!』

8『まズハ、ォオまえラだだだだだだだd』

 

なんか脳内が大惨事になった。というかこれ全部俺ん中にいんのか・・・。

 

 

というわけで現在は高速思考に挑戦中だ。時間は山ほどある、気長に行こう。

 

 

「秀君~。ご飯の時間よ~。」

おお、もうそんな時間か。母が入室してくる。

食事かククッ、離乳食ではない。

まだ八ヶ月だからな、乳離れしていない。

最初は羞恥心が勝っていたが、最近は乳離れが名残惜しく感じている。

この時間こそ、赤ん坊ながら三大欲求の内二つ、どれとは言わんが満たせる瞬間なのだ。

「んっ、く・・ふ。ぁあ・・、はっ・・・・ひうっ、ああああ、~~~~ッ!!」

「んくっ、んくっ、んくっ・・・・げぷ」

・・・・・・・、なにか?ぼくは食事してるだけですが?

顔を上気させた母が身だしなみを整える。

「はぁ・・・。こんなの父さんにいえないわ。」

祖父も同じ家に住んでいる。見事に典型的な頑固じじいだ。だが、母と俺を溺愛しているのは確かだ。

先日もベビーカーを二台とビデオカメラと動画機能つきデジカメ(かぶってる)、オムツ二年分位を買ってきた。無言でテーブルの上に置いてった。

古武術の師範代だそうで、かなりの腕前だとか。なるほどたしかに見た目は老獪な武人である。正直この顔が号泣したところは見てみたかった。

 

まあ、八ヶ月ではこんなもんだ。もっぱらの悩みはいつ喋るかということだな。

ああ、腹が張ると眠くなる・・・・

「おやすみ」

お休みなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

~一歳~

お喋りは少し前に始めた。

この位になれば片言くらい話してもいいだろう。

最初に発した言葉は無難に“お母さん”にした。

もっとも滑舌が悪かったため“かぁかん”になってしまったが。

母はそれはもう嬉しそうに祖父に報告していた。喜んでもらえて何よりだ。

しかし、それからしばらく爺さんが暇さえあれば俺を抱いて

「私がお前の祖父だ。」

と言ってくるようになった。一度母が

「父さんも名前呼んでほしいでしょ?」

と聞いたが、

「いや、話し相手になったほうが知能の発達にいいと聞いた。」

としかめっ面で答えていた。

分かっている、分かっているんだ爺さん。できるなら俺もあんたの願いを叶えてやりたい。

だがな、

 

 

誰もあんたのこと“お爺ちゃん”って呼んだことないんだよ!!!

 

一歳児が知らない言葉を話すわけにもいかない。

 

 

 

 

 

 

~一歳半~

さすがに赤ん坊ライフも飽きてきた。

早い子供は十ヶ月で歩き始めるそうだが、この頃の這い這いは後の足腰の強さに関係してくるとか。

あんまり早く歩き始めるとその経験が少なくなるそうだ。うろ覚えの豆知識だがな。

なので二歳くらいまでは這うことにしている。

しかし、這えるようになったのは大きな進展だ。まだ肉体は幼いのですぐスタミナ切れになるが、寝たままでは見えなかったものが見られるようになった。今いるのはなかなか大きな武家屋敷風の家の一室だ。

やったね!特典はしっかり生きてるよ.

 

そうそう、神器についてだが・・・あった。

どっかで見たような能力だが恐ろしく使い勝手が悪い。

名前は分からん。あのかっこいい名前は誰が付けるんだ?

 

 

 

 

 

 

「お誕生日おめでと~♪」

母さんがクラッカーを鳴らす。

隣に座る爺さんは

「やはり子供の成長は早いな、和葉の時もそうだった。」

と頷く。その頭にはポンポン付きの帽子がチョコンとのっている。ちなみに和葉は母の名だ。

目の前には十本のロウソクの立ったケーキが鎮座している。手作りとは思えないクオリティだ。何気に母のスペックは高い。一人でこの広い家と道場の掃除、家事全般をこなしているのだからその性能は推して知るべしである。

そう、今日はこの青江秀介十歳の誕生日である。

大丈夫だ、雑なスタンドですっ飛ばすつもりはない。

では、この四年間をダイジェストでどうぞ。

 

 

 

~二歳寸前~

今日は爺さんの友人である芳江婆さんが遊びに来ている。爺さんの幼馴染みだそうでよく昔話をしようとして爺さんに止められている。話によると爺さんは若い頃そうとうな朴念仁だったそうで片っ端からフラグを立ててはそれを気付かず放置していたらしい。かく言う芳江婆さんもその一人らしく、最後まで俺の祖母と張り合っていたのだとか。

その芳江婆さんだが、実は母の家事、育児の先生だったりする。俺も何度か世話になっていて、我が家のお婆ちゃんポジションについている。...爺さん、外堀埋められてってるぞ?

芳江婆さんは俺を抱いてよく話しかけてくる。

今日も抱いたまま、俺に昔話をする。

「秀介さんはお爺ちゃんみたいになってはいけませんよ?」

ん?...きっ来たー!!!

すかさず爺さんの方を向いて

「じぃじ?」

と呼んでやる。

目を見開いた爺さんは

「うむ」

そう言ってすたすた去って行ってしまった。あれ?

 

 

その日のご飯は特上寿司だった。

 

 

 

 

~秀介、大地に立つ~

立った。お寿司美味しかった。

 

 

~三歳~

......このノリで俺の成長日記を書くのか?面倒だな。

やめだ。

 

 

 

というわけで俺は今十歳だ。

鍛練は高速思考、肺活量、柔軟性、呼吸法、体幹、歩法等を重点的に行っている。まずは単純な筋力よりも体の使い方を学ぶ方が先決だ。そろそろ武術の型稽古も始める。妥協はしない。

 

母さんからは門限を守るなら行き先を告げた上で外出する事を許されている。当然、正直に言ったことはない。

今回は近所の山に来ている。鍛練のためであるが、子供の視点というのは面白い。つい本来の目的を忘れてしまう。全てが大きく見えるのは勿論、気になった事にとことん時間をかけられるのは子供の特権だと思う。今日も気が付くとダンゴムシを三時間近く追いかけてしまっていた。林のかなり奥なので薄暗い。ん?人影がある。あれは白衣か?

 

「くそっくそっくそっ!バルパーのやつ、俺をコケにしやがって!神器の研究のサンプルが一つだけだと!?それも使い道の無いゴミじゃないか!しかも人工!?失敗作を押し付けただけだろうが!何が『期待している』だ!アザゼルもアザゼルだ.........」

 

何やらまだ言い足りない様だがもはやただの愚痴と化している。

だが神器とな?実に興味深い。それにアザゼルか...何か不能にしてくるメタボなおっさん風悪魔だった気がする。となると悪魔関係者か?おっと、こっちに来るようだ。隠れねば。

 

その後、あとをつけて行くと町外れの寂れた教会に入っていった。

悪魔と教会は接点が無さそうだが、愉悦神父の例もある。

自ら死亡フラグに飛び込むこともないだろう。

 

 

 

それからは特に何事もなく俺は成長していった。

爺さんには青江流護身殺法という訳のわからん流派を叩きこまれた。

常に実戦を考えた稽古で、骨が折れるなんて日常茶飯事。何度か失明しかけたこともある。

問題は爺さんに虐待しているという自覚は無く、本当に俺のためと思っている。母も爺さんを止めないし、小さい頃から自分で鍛錬していなければ死んでいたかもしれない。

それでも俺の第二の人生は充実していた。前世とは違う。チート能力なんざ無いが俺の選択は間違っていなかった、そう思える。

 

 

 

 

 



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第二話

その日も俺は学校が終わると直ぐに帰宅した。

 

小学生の中に混ざるというのは思った以上にしんどい。

精神年齢が大人ならばクラスのリーダーになって面倒見のいい餓鬼大将になるというのは嘘だと思う。

少なくとも俺の場合は違う。精神年齢は確かに周りよりはずっと高い。だが高すぎる。

そりゃ当然だ。前世の分に加えてもう十年加算されているのだから。

保護者や先生として接するのならそれでいいのだろう。

しかし彼らに混ざり、共に同じ目線で時間を共有するにはその差は大きすぎる。

俺に彼ら十歳児の思考は理解できない。

彼らの行動に理屈を求めてしまう時点で溶け込むことは絶望的だ。

そんな訳で学校での俺は根暗な無口君で通っている。学校が終わっても友達と遊ぶこともなく帰宅だ。

 

帰宅した後は爺さんと稽古。型なんかは既に全て教わっており、もっぱら模擬戦だ。

 

 

だが、今日はちがった。

 

 

・・・・・なんか焦げ臭い。

 

最初に気付いたのは焦げ臭さ。目の前の家の方からだ。

胸を掻き毟られるかのような焦燥感に駆られて玄関へと向かう。

玄関は開きっぱなしになっており、ドアに付いているはずのガラスは粉砕していた。

「はあ、はあ、はあ・・・・げほっ」

急いで居間に向かうと母が倒れていた。

「え?」

慌てて駆け寄る。体は冷たい、まるで死―――

「おい、母さん!!どうし・・た・・・・・・」

体をあお向けに横たえると胸に大穴が空いていた。

ストンと膝が落ちる。

医学知識もない俺でもわかる。

 

 

―――母さんは死んだ。

 

だがなぜ?

 

恐らく即死だったろう。

死に顔はとても安らかで、まるで眠っているようだ。

「・・・・」

無言で母さんの目を指で押し下げる。

どういうことだ?なぜ俺の家でこんなことが起こっている?

 

ドォォン!!

 

「っ」

道場の方から爆発音が聞こえる。

訳が分からない。

だが、前世の後悔を思い出すかのような焦燥感が俺を道場のほうへ走らせる。

「はあ、はあはあ、くっ、おえぇぇぇ」

吐しゃ物をまき散らしながら、それでも走る。

おかしい、俺の体力はこんなことで尽きるはずがない。

 

呼吸が乱れる

足がもつれる

涙で視界がにじむ

瞬きする事が怖い。瞼の裏に母さんの死に顔が映るから

吐しゃ物のすえた臭いが有難い。あのむせ返るような血の匂いを思い出さなくて済むから

 

「あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟あ‟~~~~~っっ」

 

 

足は小鹿の様に震える

膝は転び過ぎたせいで血だらけだ。

転んで顔から地面に突っ込む。

鼻血が出た。

 

「う‟う‟う‟う‟う‟う‟」

 

もう真っ直ぐ走れているのかも分からない。

だが、それでも俺の足は止まらない。

 

 

「じいざん!!じいざん、はあ、はあ、・・・・おじいぢゃん!!!」

 

道場に転がり込む。道場には白い法衣のような者を羽織った老人がいた。

「遅かったな。ほれ、貴様の祖父はこれだ」

そう言って目の前の老人は手にぶら下げたものをこちらに放り投げてくる。

 

べしゃり

 

目の前に水っぽい音と共に落ちるソレ―――

頭では分かっている。この状況でそれが何なのかくらい。

だが涙でにじんだ視界でははっきりと見えない。

だから大丈夫。確証はない。

このまま目を瞑ってしまおう。眠ってしまおう。

そうすれば母さんが起こしてくれる。この悪夢から覚めるはずだ。

 

「どうした、呆けた顔をして」

目の前の人影が近づいてくる。

髪が痛い。髪を掴んで持ち上げられたようだ。

「よく見ろ。探していたのだろう?これが貴様の祖父だ」

 

―――おじいちゃん?

 

そうして俺は目を開いてしまう。

そして目が合った。

 

 

虚ろにこちらを見つめる祖父の生首と―――

 

「あ―――――――」

全身から力が抜ける。

見た。見てしまった。

どうして?このまま眠りたかったのに・・・

どうして僕にこんな生首(ゲンジツ)を見せるの?

呆然と老人を見上げる。

 

「フン、やはり失敗作か」

そう言って男は俺を投げ捨てる。

「おい、ミハイル。この餓鬼を片付けておけ。見るのも不愉快だ」

「は、はい!!あの・・・あなたは?」

「服が汚れる。ただでさえあのジジイに手間取ったのだ。これ以上私の手を煩わせるな・・・」

そう言って男は道場から出ていった。

 

「くそ!!あのジジイ!!」

老人が去ったあと残されたミハイルと呼ばれていた男が罵声と共に俺を蹴る。

どうやら俺はこいつの憂さ晴らしの的になったようだ。

「くそ、くそ、くそ、糞おおおお!!小僧、貴様に分かるか!!自分を失脚させた男に媚びを売り、研究成果すらも奪われて、奪われたものさえ鼻で笑われる。この屈辱が!!貴様さえ、貴様さえいなければ、あいつはこんな島国の田舎なんかに来なかった。俺があいつに見つかる事もなかったんだ!!」

叫びに合わせて俺はミハイルに蹴られ続ける。

 

どういうことだ?

冷静な自分が男の言葉を理解しようとする。

俺がいたからあの老人はここに来た?

それにあの老人は俺のことを失敗作と呼んでいた。

「なん・・・で?」

気が付くと俺はミハイルに尋ねていた。

「そうかぁ、お前は知らなくてとうぜんだよなぁ。くひひひひひひ。いいだろう。お前はな、あの糞じじい。

バルパー・ガリレイが『閃光』の遺伝子を人間の女に人工授精させて生ませた実験体なんだよ」

そう言いながらもミハイルは俺を蹴るのを止めない。

「せん・・・こう?」

 

「ああ、『閃光』のバラキエル。それがお前の父親だ。もっとも、あのジジイは暗示をかけて孕ませたから母体にその自覚は無かったがな?くくくく、滑稽だったぜぇ?あの女、毎回別の男を旦那と思って寝てたんだ。幸せそうな顔してなあ!」

 

父親の話を聞かなかったのはそういうことなのか?

母さんが夜な夜な男と寝ているのは知っていた。

だから俺は父親が誰か分からないんじゃないかと、そう思ってた。

心の中で母さんを軽蔑していたんだ。

 

「もしお前が成功してたら、家族の記憶を消して連れ帰るつもりだったんだ。だがてめえはどういう訳か真っ当な人間として生まれた。冷静そうな顔してたがな、ありゃ‟八つ当たり”だよ」

 

じゃあなにか?俺が特典で前世の肉体を望んだからあの老人の思い通りに生まれなかったってことか?

俺が生まれた時からチートを持ってたら、俺はあいつに引き取られていて、二人は死ななかった?

 

「『閃光』もてめえなんざ知らんだろうよ。あいつと人間の雑種が雷光を継いだって言うから‟片手間”でてめえは作られたんだ」

 

「・・・・・・」

「なんだ、死んだか?」

俺のせいなのか?俺がこんな転生を望んだから・・・

「・・・・・・」

俺はこんな奴に殺されるのか?こんな雑魚みたいな奴に自分のせいだと後悔しながら

 

――――イヤダ、モウ、コウカイノナカデシヌノハ―――

 

「ふざけんなよ!!お前さえいなければ俺は、俺はああああ!!」

蹴られ過ぎて体の感覚がない。骨もいくつか折れているだろう。

血が流れたせいだろうか?頭の中はどんどん覚めてゆく。

 

こんなのを俺は望んでいなかった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ク・・・」

 

 

―――違う、これが俺の望んだ人生だ。

自分の力で立たなければ死んでしまう人生。

現実を見据えて乗り越えなくては死んでしまう人生。

嘆いて泣き寝入りをしてもどうにもならない人生。

何を失って何を得たか。何も得なくては失った事に意味はない。二人の死は無駄となる。

 

――――そうだとも!俺は望んでいた!!こんな人生を!!!

 

「ククク・・・」

 

俺は感謝する。自分を生んでくれた母に!

俺は感謝する。愛し、鍛えてくれた祖父に!

俺は感謝する。今の人格を形成したすべての事象と前世の自分に!

俺は感謝する。この復讐心、憎悪による胸の高鳴りに!

 

「クックククク、クハハハハハ、ハァーッ、ハァーッ、ハーーッッッ!!!!」

 

 

素晴らしい、今こそこの俺、青江秀介はここに誕生した!!

俺は俺のやりたいようにやる。

失敗も、死も、喪失も、絶望も、すべてが俺だけのものだ。

俺は自分のすべてを肯定する。

後悔だけはしない。

この悲劇も、俺の誕生の切っ掛けとして無駄にしない。

今、この瞬間の俺は今日がなければ存在しなかった。

故に、この日にすら俺は感謝する!!

 

「クククク」

「気持ち悪い餓鬼だな」

体が動く。まだ動く。

「もういい。死ねよ」

ミハイルが俺の首に手をかける。このまま絞め殺すのだろう。

いや、ナイフを出した。刺し殺す気か。

 

だが、死んでなどやらん。

 

ぶちゅり

俺の指がミハイルの片目を抉る。

「ぎゃああああああああああああああああああああああっ」

絶叫しながら俺の上から転げ落ちるミハイル。

「糞餓鬼がああああああああ!!俺の目をおおお!!」

「クククク」

抉った眺める。青い色の瞳だ。

ばくん!!

目玉を口に放り込む。噛み潰すと餃子の様に中から液体があふれてくる。

口から汁をこぼさないように気を付けながら―――

ごくん

俺は口の中の物を飲み込んだ。

「ひいいいいいいい」

その様子を見たミハイルはおびえて後ずさる。

俺はナイフを拾い、ミハイルに歩み寄る。

「意外とうまいもんだな?ククッ」

「来るな、来るなあああああ!!」

俺は壁に背をぶつけたミハイルに顔をよせる。

「殺さないでくれ!」

「お前、町はずれの教会にいる奴だろ?神器持ってんだってなあ?」

「やる、お前にやるから!!助けてくれ!!」

「どこにある?」

「教会の地下だ!カギは俺が今持ってる!!」

そう言って差し出してきたカギを俺は受け取る。

「確かに。」

「殺さないでくれよ!俺は誰も殺していない!蹴ったことは謝る、復讐なんて何も生まない。そうだろ!?」

「ああ、そうだな。復讐は何も生まない。・・・・・・・・だがな」

「へ?」

ミハイルの首をナイフで掻き切る。

「俺がすっきりするだろ?」

そうしてミハイルは呆然とした表情で絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一年たった。

この一年は二人の葬式や俺の身の振り方など、かなり忙しかった。

芳恵婆さんも気丈に振る舞ってはいたが、夜はしばしば仏壇の前で泣いている。

事件は迷宮入り。俺は年齢が年齢な上に正当防衛として処理された。

バルパーを探してもいいが、どこにいるか見当もつかない。

正直面倒だ。一巻には出てなかったし、原作知識もおぼろげだ。

しばらくはこの家で芳恵婆さんと暮らすことになる。

 

 

とまあ、そんな感じで、俺は天涯孤独となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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旧校舎のディアボロス
第三話(※)


~回想終了~

 

「話聞いてんのかよ、青江~。」

ど~よ、友人の話を聞きながらのこの回想。高速思考も板についてきた。

ここは学園二年の教室、目の前にいるのは見た目丸刈りの爽やかな野球男児、中身は立派な変態というサギな男、松田。

「そうだ!俺達は何のためにこの学校に入学したのか、思い出すんだ!」

そう言う如何にもなオタメガネは元浜、女性のスリーサイズを服の上から見るだけで測定できるという異能持ちだ。

「あ?わりい話聞いてなかったわ。」

「だーかーらー!なんで俺達にはおっぱいを揉む機会が回ってこないんだって話!」

そう叫ぶのは兵藤一誠。そう、あのイッセーだ。俺は今駒王学園に通っている。

 

あれから実家で一人暮らしだったんだが、ある時爺さんの古い友人を名乗る老人が自分が学園長をやっている学園に来ないかと連絡してきた。

特にやることのないまま漫然と暮らしていたから、その申し出は渡りに船だったぜ。学園についても原作知識なんてもうほとんど皆無だったから、入学して兵藤と紅髪のグレモリーが揃ってやっと気が付いた。

やっぱあの学園長もただもんじゃないんだろう。

 

しかしまあマジでどうでもいい内容だったな。

「そりゃあれだろ、お前らが風俗に尻込みしてるだけだろ。」

何をいまさら。

「ちっげーよっ!!そういうことじゃないんだよ!彼女だよ、彼女!なんで風俗に飛ぶんだ、バカにしてんのか!?」

兵藤が胸倉を掴んでくる。

「彼女?お前らが?・・・わははははははははははははははっ。」

「「「わらうなああああああああああ!」」」

 

「んで?なんだよ急に」

返り討ちになった兵藤達が席に着いてから話をうながす。

3バカが語りだす。

「いいか?ここ駒王学園は最近まで女子校だった。つまりだ。圧倒的に女子が多い。更に海外からの美人留学生も多数。」

「すなわち!男子は貴重!故に!」

「まさに入れ食い、つまりモテモテ!!!」

 

「「「これは即ちハーレム!!!!!!」」」

 

仲が良いなこいつら。

「・・・・のはずなんだが、何故か彼女もできずこうして二年目の春を迎えているわけだ。」

「「「虚しい」」」

テンションの振れ幅が激しい・・・ここは話に乗ってやるか、メンタルカウンセラー青江の出番だぜ!

「ふむ、俺の意見としては「きゃー!!」」

なんだ?女子の悲鳴がうるさい、いや嬌声か?少し離れたところに人だかりが・・・・なるほどな。

 

「木場君、今日一緒にカラオケ行かない?」

「あ~っ!ずる~い私も~」

女子たちがイケメンを取り囲んでいる。一目では女かと思うほど中性的で恐ろしく整った顔立ち、手足の長いスラリとした細身な体型。

「ごめんね、今日は用事があるんだ。」

断る態度も余裕を感じさせる爽やかなものだ。

 

「絵に描いたような王子様だな。」

半ばあきれながら呟く。

「木場祐斗。そのルックスもさることながら、成績優秀、運動神経抜群というチートスペック。女子達からは憧れを通り越して崇拝されている。駒王学園全男子生徒の怨敵だ。」

元浜が歯ぎしりしながら解説する。器用なヤツめ。

「世の中は不公平だ。」

そう言うと、三人は涙を流しはじめた。

なんかかわいそうになってきた。ここは万能な俺が恋愛アドバイスで救済してやろう。

こいつらもブサメンじゃないんだ、となると木場とこいつらの決定的な違いは・・・

「いいか?お前らに足りなくて木場にあるものは何か?それは余裕だ。見たろ?あの受け答え。もしお前らがああやって誘われたらどうする?」

「四十八手を予習する!」

「うっすぃーのを財布に入れる!!」

「ネットで近隣のホテルを吟味する!!!」

オーケー、よくわかった。

「あきらめな。」

「「「ご無体な!!」」」

俺にも不可能はある。

 

「さて、時間だな。」

松田が立ち上がる。

「どこ行くんだ?」

「ふ・・・聞いて驚け。剣道場の壁の穴を見つけた。更衣室側のな・・・」

「っ!?なん・・・だと。」

「急げ!イッセー!元浜!青江!」

「おうよ!」

「・・・・」

「パス」

松田と元浜の二人が走り去ってゆく。

「・・・・」

兵藤がじっとこちらを見つめている。

「兵藤、お前は行かないのか?」

「・・・青江、俺はあきらめないぜ。彼女」

「おっ、おう。」

こいつにも意地があるのかね。主人公なだけはってか?

「じゃっ、俺も行ってくるぜ!」

「結局行くんかい!」

 

 

 

 

 

 

兵藤達と別れてすぐに俺は帰宅する事にした。

「あれは」

 

鮮烈な紅髪、対を為すかの様な深い青の瞳。リアス・グレモリーだ。

隣にいる大和撫子然とした、美少女というよりは美人の部類に入るであろう彼女は姫島朱乃。

学園の二大お嬢様は類友が世の真理なのか(3バカ然り)いつも一緒に行動している。

 

「あそこだけ空気がちがうな。」

拒絶している訳で無く、寧ろ穏やかで優雅なのだが、こちらから近づくのを躊躇う。そんな雰囲気だ。向かう先は・・・

「旧校舎?なんかあんのかねぇ。」

背を向け歩き出す。今日は肉豆腐にほうれん草のおひたし、みそ汁にしておひたしは明日の弁当に詰めるかな。

「っ!?」

視線を感じて振り向く。誰もいない。気のせいか?

モヤモヤした違和感を感じながら今度こそ帰途に着くのだった。

 

「お~い、虎徹~。」

いつもの様に猫の虎徹に餌をやる。飼っている訳で無く、近所の野良猫なんだが妙に懐かれてしまった。

猫は囲い込むんじゃなくてこの緩い感じがお互い心地いい気がする。

因みに虎徹は虎猫だ、黒猫じゃない、残念だったな!!

 

今住んでいるのは学校からそう離れていない所にある下宿だ。気楽な一人暮らし、バイトはしていない。

鍛錬は高速思考、ランニング10キロ、木刀の素振り3000を中心にバランス良く筋力トレーニングを組んでいる。

前世のころは苦痛だった勉強も高速思考のおかげもあってそんなに苦労していない。

 

一応、武術もやっている。俺の爺さんの流派だった青江流護身殺法は独自の技がある訳では無い。名乗るものの使う技、それが青江流というインチキみたいなもので、継承するのは代々の当主が得意とした技全て、例えば三代目が得意とした技は三の型になる。

故に九代目になる俺は武術に関してはチャンポンのようなものだ。さらに九の型を作るため、八極拳、クラヴ・マガ、システマをやっていてもはやカオスだ。イメージは白浜兼一だが、一応人間の範疇だ。

 

そしてみんな気になっているであろう神器についてだ。

ミハイルから奪った人工神器の名は‟献身者の媚薬”。いかがわしい名前だが、能力も完全にソッチ方面だ。

作った奴は変態だろう。

端的に言おう、これは服用者の血液を恒久的に特別なものに変える。服用者は{自らの血を自発的に服用した者}の感覚、主に痛覚と快感を自由に操作できる。

ここまでなら素晴らしい大人のオモチャなのだが、さすが失敗作。感覚をいじる絶対値に応じて使用者に凄まじい激痛が走る。常人なら気が触れるほどだ。

しかぁし!!10歳のころからほんんんんんの少しづつ使用し、自分に痛みを課し続けてきた俺は痛みに対して異常なほどの我慢強さを手に入れた。

痛いのは痛いが耐えられる。精神鍛錬にはもってこいだったし、痛みで動きが鈍る事ももうないだろう。

あとは使う相手だけか・・・。

 

 

 

いったん帰宅した後、夕飯の買い出しに向かっていると

「あっ、あの!」

「ん?」

橋の上で黒髪の美少女に話しかけられた。

「あの、いつもこのあたりを走ってる人だよね?」

「ああ」

近所の子か?

「えっと・・。その、よく見かけてて。」

髪をいじりながらもじもじしている。彼女の頬が赤いのは夕焼けのせいか、はたまた別の何かか。

 

 

なにこのときメモ的展開、ありえんだろ。ちなみに俺はメモオフ派だ。

彼女は目を閉じて深呼吸する。そして・・・

「一目惚れでした!付き合ってください!」

「ごめんなさい」

「早っ!!じゃなくて、どうして!?」

「そういうの信じないんだ。あんたのことよく知らんし。悪いな。」

まして今俺はジャージにトイレスリッパ、片手にエコバッグと敢えてシチュと外したスタイリッシュファッションだ。

なんでこのタイミングなんだよ、もちょっとロマン感じさせてくれよ。

「じゃあ私の事知ってよ!」

「どうやって?」

「え?・・・・・・・・・・・・・明日!明日よ!!」

「明日?」

明日は日曜日だな。特に用事もなかったか。

「明日、私とデートして下さい。」

「いいぜ。」

意図はどうあれ必死なのはなんか可愛らしかった。たまにはそういう考えなしの休日もいいだろう。

さっきの3バカの影響かねえ。

 

 

「じゃあ明日十一時に駅前で。」

そう言うと微笑んで去ろうとする。

「まて。」

「うん?どうしたの?」

まさかほんとに気付いてないのか?

「名前。明日デートするのになんで自己紹介してないんだ。お互い名前も知らんだろ。」

「あ・・・。ごめんね、緊張してて。」

疑惑度上昇。

 

「夕麻だよ。天野夕麻。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




修正しました。
五歳→十歳

献身者の媚薬の条件も少し変えました。
自分で読み返すとあんまりにもチートだったので


十月七日

感想に主人公の容姿が知りたいとありましたので、つたない物ですが挿絵を入れます。


【挿絵表示】




…ホモじゃないよ?


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第四話

「おまたせ、待った?」

駅の時計の下で待っていると夕麻が駆けてきた。

「ああ、ちょっとな。」

ここに着いたのが10時55分だったから、待ったといっても十分くらいだな。

「む~、そこは『待ってないよ。』って言うところじゃない?」

「正直が売りなんでな。」

ホストじゃないんだ、こっちも気楽に楽しみたい。

「じゃあ行こっか?なんか予定とか立ててくれてる?」

「当然だ。」

軍資金もおろしてきている。過剰に使うつもりはないが、何かあったときに男が対応できなきゃかっこ悪いだろ?

「なんか意外だなぁ、そういうのしないと思ってた。私がやらなきゃって昨日頑張ったんだよ?」

「ならお互いの予定をすり合わせていこうぜ。趣味も分かって一石二鳥だ。」

「そうだね。じゃあまずはお昼にしない?」

「近くにアンティーク喫茶がある。そこにしないか?ファミレスはあんま好きじゃないんだ。」

どうもファミレスは料理の質と値段がかみ合ってない気がする。チェーンなら特に、だ。俺の思い込みか?

「うん!じゃあエスコートお願いね♪」

そう言って腕を絡めてくる。

「遠慮しないな。」

「だってありのままの自分を知ってもらいたいんだもん。」

「ふーん。」

ありのまま、ねえ?

 

それから俺たちは喫茶店に行き、昼食をとった。勿論勘定は俺持ち、何気に夕麻の頼んだチョコレートパフェが一番痛かった。

 

 

そこからは普通のデートだった。

水族館は俺の提案。成功だったと自負している。深海魚コーナーは顔が引きつっていたが、イルカショーには目を輝かせていたし、そのあとの土産物屋で買ってやったブレスレットも度々日に透かしてながめていた。

そのあとに訪れた大型ショッピングモールでは適当にひやかしてウィンドウショッピングを楽しんだ。

深海魚のお返しと言わんばかりにランジェリーショップに連れ込まれたが、俺が全く動じてないと気付くと頬を膨らませていた。

ショッピングモール内の雑貨店では趣味が似通っていると分かり、二人で理想の部屋について議論し、構想して楽しんだ。

 

そして最後に俺たちは昨日の橋にたどり着いた。

 

「ねえ、青江君。楽しかったね。」

夕麻が振り返って口を開く。

「そうだな、俺も楽しかった。」

後ろに背負った夕日もあいまって少し見とれてしまう。

「私のこと、少しは知ってもらえたかな?」

「デートも楽しめたし、趣味も合った。ルックスもかなり好みだ。」

彼女の笑みが少しずつ妖艶さを帯びてゆく、それすらもまた美しい。

「よかった。じゃあ、初デートの記念にさ・・・お願いがあるんだ。」

だからそれだけに―

 

「死んでくれないかな?」

とても惜しく感じてしまう。

 

 

夕麻の背中から黒い翼が生える。

「驚かないのね。」

「承知の上だったからな。いつ襲われるかわからんよりは全然マシだ。堕天使とは思わなかったが・・・」

「やっぱり自分の神器に気付いてたんだ。」

―意識を切り替える―

「楽しかったわ。わずかな時間だったけど、かなり好みなタイプだった。ああ、それとね、あなたのお友達イッセー君・・・だったかしら?

彼、今頃私の仲間のドーナシークに殺されてるでしょうね。あなたは手こずりそうだったから私が来たのよ?でもあの子はそうでもなかったから回りくどいことはせずに直接殺すことにしたの。

あの世でよろしくね♪」

冷笑を浮かべて彼女は手をかざす。

―重心を前におき、相手の一挙手一投足に全神経を集中させ―

ブウンという音が空気を揺らし、耳鳴りのような音とともに堕天使の光の槍が現れる。

「それじゃ、さようなら」

夕麻が槍をかざし、振り上げ、投げる!!

「っ!!」

―相手の動きに合わせて前へ!!!―

「んなっ!?」

夕麻の顔が驚愕に歪む。いけるかっ!?

 

ゾブリ、という音と共に腹に激痛が走る。光の槍は寸分たがわず俺の腹に命中した。

血が噴き出る。俺の手に握られたナイフは僅かに彼女の頬を傷つけるに終わった。

「残念だったわね。」

返り血を舌先でチロチロと舐めながら夕麻は笑う。

「ゴメンね。恨むなら、その身に神器を宿させた神を恨んでちょうだいね。」

俺は後ろに後ずさりながら

「その、しぐさ、な、んかエロい、な・・・興奮、しちまった。」

「あら、意外と余裕?とどめが必要かしら?」

背中が欄干に当たり―

「えん、りょしとくわ・・」

そのまま俺は、橋から川に落ちたのだった。

 

 

 

 

「・・・・あの傷じゃ助からないでしょ。あーあ、汚れちゃった。」

そう言って堕天使は去り、橋の上には誰もいなくなる。いつの間にか夕日は沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたたかくてふわふわした物に包まれている。自分を包んでいるものが体の中に染みこんでゆく。

転生した俺だからこそ分かる、ここは母の腕の中。誰もが記憶の中に埋めて忘れてしまったもの。

包み込んでくれる愛に何の疑いも持たず、ただ身を預けていられる安心感。

俺は覚えている。俺を抱いて微笑む母の聖母の様な顔を・・・。

 

 

「くっ。・・・・ここは・・・」

あたりは暗い。あれからどの位時間は経過しているんだ?

「ああっ、よかったですぅぅ。もうだめかと思いましたぁ。主よ、感謝いたします。」

フランス語か・・・。

金髪のシスターの顔が目の前にある。どうやら俺はこの子に膝枕してもらっているようだ。彼女の額には玉の汗が浮かび、滝のように流れ落ちている。

上気した頬とそれに張り付いた金髪の房、そして修道服のアンバランスさが背徳感を誘いおもわず生唾を飲んでしまう。

「??どうしたんですか?」

キョトンとした顔でコテリと首をかしげた。

「い、いや何でもない。あんたは?ここはどこだ?」

目の前の彼女に尋ねる。

「言葉がわかるんですか!?ああ、これも主の導きによる運命でしょうか?」

なんか祈ってる。名残惜しいがいつまでもこのままじゃあな。

「よっこらしょっとととと。」

立ち上がると少しふらついた・・・ん?立ち上がる?

慌てて腹に手を当てる。傷が・・・ない?

「どういうことだ?」

考えられるとすれば―

「???・・・にぱ~☆」

この子だな。

「なぁ、あんた」

「アーシアです!アーシア・アルジェント。」

胸の前で手を組んで目を輝かせる。なんだろう、少し気圧される。

 

 

「俺の名前は青江秀介だ。」

「じゃあ、シュースケさんとお呼びしますね。」

土手の上では冷えるということで俺たちは近くの喫茶店に入った。半日の間に別々の女の子とこうして向かい合うとは・・・。

「私、今度隣町の教会に配属になったんです。でも、管轄内の掃除があるとかで延期に。だから私はこの町のカプセルホテルに数日宿泊する事になったんです。」

「隣町?ってことは俺の住んでる町か・・・。」

確かにあったな教会。かなり寂れてたみたいだったが・・・。

「そうなんですか!?じゃあ、これからよろしくお願いしますね!!」

「こちらこそ。」

彼女の言語はフランス語だ。見知らぬ日本の町は心細かったのだろう。

 

「ふう・・・・。で、本題だ。」

二人分のドリンクが来たところで疑問を投げかける。

「アーシア、おまえが何かしたのか?」

そう尋ねると彼女の顔にわずかだが陰りがおちた。しかし、すぐに元の笑顔に戻る。

「信じてもらえないかもしれませんけど、私には神様からもらった不思議な力があるんです。」

そう言ってアーシアは俺の手を取ると、落ちた時にできたであろう擦り傷に手をかざした。

すると淡い緑の光、そしてあたたかさ。なるほどさっき感じたのはこれか。

「なら、俺の傷も」

「はい。私が治させてもらいました。」

あの規模の怪我を治すとは・・・神器か。それもかなり上位の。

「ありがとう。アーシアは命の恩人だな。」

頭を深く下げる。俺が生きているのは凄まじい幸運とアーシアの献身のおかげだ。

川に落ちて、気を失ったままにも関わらず岸に流れ着き、たまたま心優しい美少女に発見され、たまたまその娘が癒しの奇跡を持っていた。

正直自分でも信じられない、どんな確立だよ?後で宝くじ買ってみようかな?

「・・・・・・・・・・・・・・」

???。返事がない。顔を上げてアーシアの顔を見ると、目を見開いていた。きれいな碧眼だ・・・

「え・・・?あの、信じてくれるんですか?」

アーシアが目を見開いたまま呆然とした様子で聞いてくる。

「なんだ、嘘なのか?」

「いえ、あの、そうじゃなくて、えと、皆さん最初は・・その、気味悪がられるので・・」

なるほどな、俺は自分の力が異質だと最初から分かっていたが、彼女はその事に気付くのが遅かったんだ。

「・・・・」

「ご、ごめんなさい。でも、私―」

「怖いのか?拒絶されることが」

「!?・・・はい。」

よっぽどのことがあったんだろう。彼女の力の大きさを考えればどんなことがあったのか想像に難くない。

しかし出来事を推察できるからと言って俺が彼女の痛みを理解することはできない。

「君の気持はよくわかるよ。」

なんてのは相手の気持ちを理解しようという努力すらしようとしない奴の自己満足だ。

俺に彼女は救えない。その事件の真っ只中だったなら何かできたのかもしれない。だが今はもう過去、どんな形であれ今の彼女を構成する一部となってしまっている。

もう一度言う、俺にアーシア・アルジェントは救えない。

だが――そうだな、俺は好きなんだ。

「もう一つ聞く。お前は今までその力を使ってきたことを後悔しているのか?人を救ってきたことを。」

 

 

‟彼女が勝手に助かるだけ”というフレーズが。本当の救済はそうして本人が勝ち取るものだと思うから。

 

 

アーシアがバッと顔を上げて首を振る。

「違います!そんなことはっ!・・・違います後悔なんて・・・・・・・・・・ちがう」

「本当に?気味悪がられても?」

「違う」

頭を抱えて首を振るアーシア。

「いいように利用されても?」

「違う・・・・違う違う」

「その果てに裏切られ、捨てられたとしても?」

「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うチガウチガウそんなことない。」

半狂乱になりながら体中掻き毟る。自分を戒めるかのように・・・

「今ここで俺に石を投げられても?」

「っっっ!!」

掴みかかってくる。碧い瞳に怒りを宿して。

「私だって!!私だってそんな事考えちゃいけないって分かってるんです!でも・・・・でも思っちゃうんです!!!あの時の悪魔さんを助けなければ今頃私はどうなっていたんだろうって、まだあそこに居られたのかなって!どうやってもそれが頭から離れなくて!!」

泣きながら俺の胸を叩いてくる。声を枯らして心の澱を吐き出しながら。

話から察するに、アーシアは癒したのだろう、悪魔を。教会関係者にとってそれは禁忌なのかもしれない。

「申し訳ありません、すみませんでした主よ、罪深い私をお許し下さい。ごめんなさい・・・・ごめんなさいっっっ。」

 

 

 

泣き出し、床に座り込んだアーシアをもう一度椅子に座らせる。

「・・・・・・」

二人の間に会話は無い。ただアーシアのすすり泣く声が響く。

俺はコーヒーの最後の一口を飲み、息をついて口を開く。

「なあ、逆に考えてみないか?」

アーシアはこちらを向かない。うつむいたままだ。

「お前は許せるのか?力があるのにそれを使わず、見殺しにすることを。あとから『怖かった』と言い訳する自分を。」

ビクリと肩が揺れる。

 

「やめられるのか?力を使うことを。」

 

こちらを見上げるように顔を上げる。見上げる瞳は腫れてはいても輝き始めている。

「お前が救った人間は誰も笑顔にならなかったのか?誰もお前に感謝しなかったのか?だったら―――」

 

 

―――俺が言ってやる。お前にその力があって良かった。ありがとう。―――

 

 

 

 

 

 

 

アーシアは喫茶店に置いてきた。今までずっと耐えてきた彼女だ。ほんの少しのきっかけさえあれば、自分でで自分の輝きを取り戻すだろう。

そうしたら、前を向いて自分なりの夢を見つけられる。そこから先は誰か他の奴が当事者として彼女と歩むだろう。

「さて、こっからどうすっかな。」

暗い夜道を歩きながら一人つぶやく。恐らく夕麻は俺が死んだと思っているだろう。今戻ってももう一回殺されてゲームオーバー確実だ。

「とりあえず例の教会か・・」

異端者が古びた教会に。

どっかで聞いたような話だろ?

 

 

 

 

 



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第五話

あれからかなりの時間をかけて教会について調べまわった。

どうやらかなりの人数があの教会に居住している。見張りをつづけていただけでも十人、捨てられているゴミの量からしてもっと多いはずだ。

基本的に夜活動しているため、少し太陽が恋しい今日この頃だ。

アーシアも先日この教会に入っていった。道案内をしていたのが兵藤だったのには驚いたがな。恐らく兵藤は既に悪魔化している。教会に来た際、顔が引きつってたしな。

あいつがフランス語ペラペラだったのは悪魔化の恩恵か何かだろう。あいつ自身は‟ボンジュール”くらいしか知らないはずだ。

やはり夕麻の言っていた通り彼女の仲間に殺されて、その後グレモリーに転生させられたのだろう。彼女が兵藤の悪魔化の元凶だってことはかすかに覚えている。

「アーシア笑ってたな・・・。」

彼女もイッセーハーレムに加わるのだろうか?だったら寂しくはなさそうだが・・・。

「コンビニ弁当生活は自炊派としてはSAN値削られんな~。いっそ河川敷で調理してみるか?」

アンダーザブリッジ的な?

 

深夜、コンビニ弁当を片手に俺は夜道をあるいていた。

世間では俺は行方不明扱いになっているのだろう。

クラスの机に花があったりとか、テレビのインタビューに適当な回答されてたらやだなあ。

そんなくだらないことをつらつらと考えていると、

「い、いやぁぁぁぁぁぁっ!」

すぐそこの民家から悲鳴がきこえてきた。この声は・・・アーシア!?

「っち!!」

コンビニ弁当の入った袋を投げ捨てて全速力で悲鳴の方向へ向かう。

民家の前には自転車が止められており、玄関が開きっぱなしだ。

「アーシアっ!!」

中に飛び込むと部屋には甘ったるいような血の匂いがむせ返りそうなほど充満している。

壁には杭により逆十字の形で磔にされた男性。これをやったやつはなかなかのイカレ野郎だろう。

そしてその隣には『悪いことする人はおしおきよー』というふざけた血文字。

アーシアは・・・無事か。

「青江!?」

名前を呼ばれたので振り向くと、両足を撃ち抜かれ、頭に銃口を押し付けられた兵藤がいた。メッチャピンチじゃん!

「お前どこ行ってたんだよみんな心配してたんだぞ!!いや、それよりも逃げろ、こいつはやばい!!」

自分が死にかけてるのにどこまでも他人の心配とは・・・。

「あんれあれ~?気持ちよく悪魔ちんをコロコロしようとしてるのに、邪魔する奴がいるですねえ~。」

兵藤に銃口を押し付けていた白髪の男が無駄に回りつつ体をこちらに向ける。

「・・・誰だ?」

「はあい。誰だお前と聞かれたら、答えてあげるが世の情け!!ワタクシいつもニコニコ元気印のはぐれエクソシスト、フリイイィィィィィィド・セルゼン!!!おりょ?さっきも名乗ったよねボクちん。もしかしてチミは痴呆症?」

なるほど、このイカレ具合、こいつが犯人か。

「俺はさっき入室したんだが?」

「はぁぁ?じゃなんですか、チミは遅刻してきてそんな偉そうにしてんの?だぁめだよ~、そんなマナー違反は~。アカウントをBANされちゃうよぉぉォォ!?」

「シュースケさん!?」

アーシアが驚愕の声を上げるが、相手をしている余裕はない。

「これをやったのはお前か?」

「イエスおふこ~す。自信作の観客ふえてボクちゃんうれぴー。目撃者はみんな殺してイイんだぁって♪ってことでし~んでちょ♪」

フリードが右手に持った光の剣で切りかかってくる。

「おっと。」

危ういところで身を捻り斬撃をかわす。

「青江!銃だ!!」

「なに?」

パンッと乾いた音と共に右足に激痛が走る。

「ねえねえ知ってた?人間っておてて二本あるんだよ?」

フリードが体を左右に揺らしながら歩いてくる。アホか俺は、こいつ銃持ってたじゃん。

「痛ってぇ。」

だがこの程度のいたみじゃあな。足りんよ、足りん足りん。

立ち上がって左足で軽くジャンプする。

「あれ?効いてない?でも血は出てるしィ・・・。お前人間だよな?」

フリードが不思議そうに首をかしげている。ふざけたヤツだが実力は本物だ。いくつもの修羅場をくぐってるんだろう。こいつは強い。

ククッいい、いいな。

「クックク、ハハハ、ハーッハーッハーッッッ!!いいね、いいぜお前。」

「痛みで狂った?まいいや、ばいびー♪」

「ククッ」

同じように光の剣を振ってくる。先のものと同じく、必殺の太刀筋。

今度は油断せず、こちらからも距離を詰め剣を握った方の手首を掴む。

「おりょ??・・・・・・・・ガッ!?」

フリードの体を引き寄せると同時にヤツの右膝を横から踏み砕く。その流れのまま髪を掴み、下がった頭に膝を叩きこんだ。

ガシャァァァン!!

フリードはもんどりうって背後にあった食器棚に突っ込んだ。

「すげぇ・・・・・。」

兵藤は呆然と俺を見上げている。間抜け面が際立つぜ。

 

「イッセーさん、シュースケさん!」

アーシアが泣きそうになりながら駆け寄ってくる。

「アーシア、大丈夫か?」

兵藤がアーシアに声をかける。

「はいぃ。でもお二人ともっ血が!!」

「先に兵藤の手当てをしてやってくれ。俺よりも重症だ。」

「ちょ、おい青江!俺は頑丈だから大丈夫だって。アーシア、先に青江を!!」

「お前は傷の数も数えられんのか?俺は一つ、お前は二つだ。歩けん奴は足手まといださっさと治してもらえ」

「くそ、・・・・頼むアーシア。」

「はい!!」

兵藤の足を癒しの光が包む。暗い室内では一際神々しく感じる。

じっとそれを見つめていた兵藤がふと話しかけてくる。

「なぁ、青江。お前アーシアと知り合いだったのか?」

「ああ、隣町でちょっとな。」

「もしかしてシュースケさん、あれからお家に帰ってないんですか!?」

「まあな。いろいろと事情が・・・兵藤、動けるか?」

「おかげさまでな。アーシア、次は青江を頼む。」

「違う。お前ら下がってろ。」

「へ?」

気の抜けた声を上げる兵藤。こいつがいるとなんか締まらんな。

 

「んんんんんんんん~~~!!おいおいやってくれましたね一般ぴーぽーがよォ!決めた、キめましたよ。この作品、十字架ちゃん!!てめェの体もくっつけて『本』の形にしてやりますですよ。これが、この作品の、完成形だ~~YO!!」

がしゃあああんという音と共に狂人復活。

「存外に早かったな。」

片足をひきずり、鼻血を垂らしながらフリードが近づいてくる。

お互い片足は使えず、コンディションはほぼ同じ。相手は剣と銃の二刀流、こっちはステゴロ。

実戦経験は相手の圧勝、か・・・。

「ハッ!おもしれえ。」

 

「ひゃっは~!!」

フリードが片足だけの跳躍で飛び掛かってくる。

「ぜらァッ!!」

空中のフリードに向かってさっきから握りこんでいたこの家の包丁を投擲しつつ、体を前に投げ出しヤツの下に潜り込もうとする。

「うっひょい、すっごい手品ジャン!」

空中で剣を使って包丁を叩き落とし、こちらに銃口を向けてくる。

俺は既に身を投げ出していて、今からの方向転換は無理だ。なら――

「フッ」

床に手をつきハンドスプリングの要領で踵を叩きつける。俺の踵は寸分たがわず奴に向かい・・・

「よいさっさ。」

フリードは俺の足に手をついて飛び越える。

ダン!!

俺はそのまま食器棚の前に屈伸の形で足をつき、同時に振り返る間も惜しみながら確認もせず背後に掌底を放った!!

ごつりと鈍い音を立てて掌底とフリードの振り下ろした銃底が衝突する。銃は吹っ飛んだが手首の関節がかつてない方向を向いてしまった。

「あ~あ、右腕、イッちゃったね~。でもでもボクちんの傷心はーとはまだまだ癒えそうにないんでやんすよ。まァ、で・・・」

「オラ!!」

余裕ぶっこいて天を仰ぐフリードを折れた右腕でそのまま殴りつける。

まさかこっちの腕で殴って来るとは思わなかったのだろう、あっさりと頬に決まりたたらを踏んだ。

すかさず左手を伸ばしヤツの頭を正面から掴む。

「不感症ですかコノヤロー」

フリードも俺が掴むのに成功すると同時に光の剣を首筋に当ててくる。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

お互いに無言。硬直したまま見つめ合う。フリードが剣を動かせば俺を殺せる。

しかし俺も後ほんの少し力を加えるだけでヤツの頭蓋を破砕できる。動かないのではない、動けないのだ。

「「・・・・・・・」」

「お前らほんとに人間か?」

引きつった顔で兵藤が呟いた。

勿論俺は人間だぜ?

「・・・・・クククク・・・」

「・・・・・ひひひひ・・・」

「おっ、おい!!」

楽しい、楽しいなあ。刺激的すぎる。

「ハーッハーッハーッ!!!」

「ひひひゃははははははは」

さあ、殺そっかな?

 

 

―――その時、床が白く光りだした。

青い光は徐々にとある形を作ってゆく。

――魔方陣だ。

カッ!

床に描かれた魔方陣が光りだす。

そして中からは

「兵藤くん、たすけに・・・・・」

剣を持ったイケメンが現れる。

「あらあら。これは・・・・・どういう状況なのでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・なに、これ?」

続いて駒王学園二大お嬢様の片割れと無表情なロリッ娘。

「ハァーッハッハ・・・げほ、ごほ、・・・クハハハハハ」

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ・・・・げふ、ごふ、がは、ハックション!!」

 

 

木場が兵藤に歩み寄り、声をかける。

「兵藤くん、僕たち全然状況が掴めないんだけど。」

へたり込む金髪美少女と男子学生。壁には惨殺された男性の遺体。そして血塗れになりながら至近距離で爆笑しあっている男二人。

これで分かったらびっくりだ。

「イッセー、私も説明してほしいわね。」

グレモリーも兵藤の隣に突然現れる。

「部長!!来てくれたんですか!?」

「ゴメンなさいね。まさか、この依頼主のもとに『はぐれ悪魔祓い』の者が訪れるなんて計算外だったの。・・・この状況は理解不能だけれど。」

謝るグレモリーは目ざとく兵藤の足の傷を見つける。いや、一目瞭然か。

「・・・イッセー、ケガをしたの?」

「あ、すみません・・・・・・。その、撃たれちゃって・・・・・・。でも、その・・・アーシアが治してくれました」

だから何故そこで申し訳なさそうにすんだよ。

ボンッ!

俺たちのすぐ傍の家具の一部が消し飛んだ。

「私は、私の下僕を傷つける輩を絶対に許さない事にしているの。下手人はどっちかしら?」

凄まじい迫力だ。美人が怒ると怖い。

この背筋が凍るような重圧が魔力ってやつか?

「はぁい。ボクちんでェ~っす。」

「そう、・・・・・なら死になさい。」

グレモリーの手に赤い光が収束してゆく。

その輝きが最高潮に達しようとした時、

「!部長、この家に堕天使らしき者たちが複数近づいていますわ。このままでは、こちらが不利になります」

何かを感じたのか、姫島がそう言う。

堕天使・・・・夕麻か?

グレモリーがフリードを一睨みする。

「・・・・・朱乃、イッセーを回収次第、本拠地へ帰還するわ。ジャンプの用意を」

「はい」

姫島が何やらむにゃむにゃと呪文を唱え始める。

どうやら兵藤を連れて撤退するつもりらしい。

兵藤が俺とアーシアに目を向ける。

「部長!あの二人も一緒に!」

「無理よ。魔方陣を移動できるのは悪魔だけ。しかもこの魔方陣は私の眷属しかジャンプできないわ」

愕然とする兵藤。

「イッセーさん。また会いましょう」

アーシアは微笑む。

「ッ!?」

泣きそうな顔をした兵藤が光に包まれて消える。

後には俺たち三人が残された。

 

 

「どうする、まだやるか?」

フリードに尋ねる。

「なんか~、興ざめなんですが~。」

「だな」

二人同時に互いを開放し、ため息をつく。

「あの」

「うん?」

アーシアが声をかけてくる。

「ケガを・・・」

治してくれるのか。チラリとフリードを見る。

「だる~ん」

テーブルにへばりついていた。

「たのむわ。」

「はいっ」

 

あんなに心の傷を抉ったのに、彼女の態度は明るい。嫌われるのも当然だと思ってたんだがなあ。

「そういえば」

淡い光に照らされながら尋ねる。

「兵藤とはどこで知り合ったんだ?」

「えっとですね、私が迷子になってた時に道案内をしてくれたんです。」

「なるほど、言葉通じないもんな。」

人に道を聞けないのは無理もない。

「いえ、それもあったんですけど、買った地図と住所のメモが日本語だったんです。そのことに町に到着するまで気付かなくて・・・」

「ドジっ子め」

「あうっ」

指で彼女の額を弾く。

「・・・アーシアはあいつの素性知ってんのか?」

涙目で、赤くなった額を撫でさすりながら

「ううう・・・。はい。シュースケさんの来る直前に」

悪魔を癒して追放された彼女には酷な話だろう。だが――

 

――また会いましょう――

 

「そうか・・・」

もう大丈夫みたいだな。

 

 

「シュースケさんはイッセーさんとお知り合いなんですか?」

「同じ学校のクラスメイトだ。」

「学校・・・、どんなとこなんでしょうか?」

暗い感情は感じられない。単純に興味があるだけなんだろう。

「退屈はしないぜ?同じ町なんだ、今度案内してやるよ」

直接関わるつもりは無かったんだが、ついそんな言葉を発していた。

「ほんとですか!?」

ぱぁっと顔を輝かせるアーシア。かわいいな畜生。

頭をポンポンと撫でてやる。

「ああ、約束だ。」

 

「じゃあ、またな」

「はい」

やはりアーシアの神器は強力だ。あの怪我をあっという間に治してしまった。

フリードはまだぐだってる。

「ほんとにいいのか?俺のこと報告しなくて」

そう、こいつは間もなくやってくる堕天使たちに俺のことは言わないというのだ。

「だって、足折れてて追っかけられないし、取り逃がしたなんて言ったらボクちん怒られちゃうなりよ。ドMとは違うのだよドMとは。アーシアたん、後で俺も治してね♪」

「不良神父め」

聖職者がドMだと思うのは俺だけだろうか?

 

 

勿論、コンビニ弁当は回収した。

 



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第六話

コンコン

「あらあら、お客さんですわ。は~い、少々お待ちください。」

ドアの向こうから姫島の声が聞こえる。ビンゴだな。グレモリーの拠点はここで間違いないようだ。

ガチャリ

ドアが開いて姫島が顔を覗かせる。

「あなたは・・・」

俺の顔を見ると同時に目を丸める。

「夜遅くにすまない。グレモリー先輩はいるか?」

「ええ、少々お待ちくださいな。」

そう言って一旦俺を残して部屋に戻る。

「旧校舎?これが?」

あたりを見回すと、外観からは想像もつかないほど豪奢な造りになっている。

置いてある家具や花瓶も一目で芸術品と分かるほどの贅沢っぷりだ。どこの一流ホテルだよ、学校の予算だったら訴えるぞ。

廊下でこのクオリティーだ、室内はどうなってんだ?黄金の茶室ならぬ黄金の部室ってか?

なんかむかむかしてきた。この花瓶、叩き割ってやろうかな・・・

「なんですって!?」

グレモリーの叫び声がする。

「すんません、冗談です!!・・・・あり?」

なんだよ、中で叫んだだけかよ。びっくりさせやがって、ほんとに割るぞ?

花瓶を手に取る。

「お待たせしました。どうぞおはい・・・り・・・。何をなさっているんでしょうか?」

姫島が部屋から出てくる。

「いや、いい花瓶だなとおもってな。」

「気に入ってもらえて光栄ですわ。その花瓶、私の見立てですの」

「この色気のある曲線が何ともいえないな。」

「百円均一も馬鹿にできませんわね。」

・・・・・・・。

「・・・・・・中、入ってもいいか?」

「はい、どうぞお入り下さいな」

「おじゃまします」

入室する。室内は目も眩むような黄金・・・という訳で無く、なんというか意外と普通の談話室だった。

「そこにおかけ下さい。お茶をお持ちいたしますわ。」

「悪いな」

「いえいえ」

ソファーに腰掛ける。うわ、すっげーフカフカだ。俺の布団よりずっと寝心地が良さそう。

「いらっしゃい。まさかそちらから来てくれるとは思わなかったわ。」

声に振り返ると、グレモリーが隣のスペースから出てきたところだった。初めて近くで見たが凄い美貌だ。

しかし何より目を引くのはその圧倒的なプロポーション。なんだありゃ、メロンでも詰め込んでんのか?

「単刀直入にきくわ。あなた何者?」

正面に腰掛けたグレモリーが威圧感と共に質問してくる。

「何者って・・・、ここの生徒だよ。」

「ふざけないで。あなたのことは学園長から聞いているわ。自分の親友の孫で、眷属におすすめだと。私もいつか勧誘しようと気には掛けていた・・・。でも昨日のはそんなレベルの話じゃない。イッセーの話だと貴方、あのはぐれエクソシストと互角だったそうね?ただの学生がそんな戦闘力を持っているのは異常だわ。」

勧誘って俺も悪魔にするつもりだったのか?あんの糞じじい、最初っからそのつもりだったな?

「異常って、失礼な奴だな。俺んちは代々武術家の家系なんだよ。小さい頃からの訓練の賜物だ。」

実際、フリードとの戦闘に特別な力は使っていない。あんま人間なめんなよ?

「・・・あのシスターとはどんな関係?」

「隣町で会ったんだよ。デートの帰りにな。」

嘘は言ってない。

「へえ?」

グレモリーがにやりと笑う。

「人間のデートは、お腹に穴をあけて川に飛び込むのが一般的なの?」

アアアァァァシアァーー!!口軽すぎんだろ!なんか事情あるのかとか考えなかったの!?

「あ、ああ。意外といいもんだぜ?恋人同士腹を割ってお互いの理解を深めるんだ。ジャパニーズ・ハラキリの伝統はちゃんと受け継がれてんだよ。」

グレモリーが可哀想なものを見るような目で俺を見つめてくる。やめろ、そんな目で俺をみるんじゃねえ!!

お茶を持ってきた姫島までもが慈愛の瞳になっている。

「はあ、・・・・・最後の質問よ。なんであなたイッセーが悪魔だって知ってるの?」

もうだめだ、あのシスターにも、神にも見捨てられた。えり・えり・れま・さばくたに。

がっくりと膝をついていると

「どうぞ、お茶です。」

姫島が湯呑を手渡してくる。

ずずっ

うまい。

「うまいな。玉露か?」

「ええ、お客様にお出しするお茶ですもの。」

「お茶菓子とかないか?」

「ええっと・・・ああ!」

ぽんっと手を合わせる姫島。

「たしか戸棚におせんべいが・・・」

「いい加減にしなさい!!ふざけてても時間の無駄よ!往生際の悪い。それと朱乃、おせんべいは昨日小猫が食べちゃったわ!!」

ぶちきれて机を殴るグレモリー。紅髪がぶわっと逆立つ。ジブリだジブリ!!

「えーそーですよ。俺は普通じゃないですよ。神器持ちですもん。それがなにか?」

もうどうにでもなれだ。

「開き直ったわね・・・って神器!?」

グレモリーが目を剥く。

「なるほどね、そういうことなのね」

口元に手を当ててぶつぶつ呟く。

こんなどうでもいい仕草でも絵になる。美人はお得だ。

「あなたのお腹、穴をあけたのは堕天使ね?」

いきなり核心をついてくる。頭の回転早いな。

 

カチコチと時計の音が響く。

「この部屋にはあんたら二人しかいないのか?兵藤はどうした。」

「はあ、・・・祐斗、小猫。出てきて頂戴。」

「はい」

「・・・・」

木場と無口ロリっ娘(たしか塔城・・・だったか?学園の食いしん坊マスコットだ。可愛かったので元浜に聞いていた)が物陰から出てくる。全然わからんかった。

グレモリーに殺気を向けていたら今頃俺は挽肉だろう。

「悪いわね、素性も分からない者をそのまま招き入れるほど悪魔の世界は平和じゃないの」

全然申し訳なく思ってないよね?

「まさかこの二人も悪魔なのか?」

「ええそうよ。彼らは私の下僕。ナイトとルークよ。」

ルークってチェスのか?

俺が不思議そうな顔をしていると

「ああ、悪魔への転生にはこの悪魔の駒が用いられるわ。そして駒ごとに特性、相性がある。騎士はスピードの強化って具合にね。」

「・・・・・・・・・・・・・」

じっと四人を眺める。

 

リアス・グレモリー。紅色の髪、透き通るような白磁の肌、青い瞳。モデル顔負けのワガママボディ。

 

姫島朱乃。艶のある黒髪、大和撫子を体現したかのような雰囲気をまとう美女。

 

木場祐斗。男すらドキッとする甘いマスクに色気のある涙ぼくろ、絵本から出てきたような完璧王子様。

 

塔城子猫。小学生かと思うほどのロリボディにあどけない童顔、学園のマスコット的存在。

 

「学園の綺麗どころばっかじゃないか。グレモリー先輩の趣味か?」

夜な夜なこの面子でただれた宴を?やばい、ドキドキしてきた。

「なんだか邪念を感じます。この人も変態さんですか?」

塔城がジト目でこちらを見つめる。

ぐふっ、なかなか効いたぜ。毒舌無表情無口ロリ美少女だったか・・・・・アリだ、全然アリだ。

「そんなわけないでしょう。」

じゃあ、

「じゃあなにか!?悪魔になると美男美女になるってのか!?」

ちょっと心がゆらいじまうじゃねえか。

「・・・・・イッセーに会ったでしょう?」

あっ(察し)

「ユメもキボ―もないぜ。」

 

 

 

バン!!

「部長!!アーシアが、アーシアが!!」

兵藤が息を切らして部屋に飛び込んでくる。

「・・・またあのシスターと会ったのね。」

「アーシアが、女の堕天使にさらわれました。助けようとしたけど、俺じゃだめだった!逆に庇われて・・・。くそっ!お願いします部長、アーシアを助けてください!俺はどうなってもいいですからッ!!」

女の堕天使・・・。

パン!

部屋に乾いた音が響く。音の発生源は兵藤の頬、グレモリーがしばいたのだ。

彼女の顔は厳しい。

「何度言ったらわかるの?駄目なものは駄目よ。あのシスターの救出は認められないわ。」

呆けていた兵藤の顔が引き締まる。そして静かな、しかし決意のこもった声で

「なら、俺一人でも行きます。あいつ、儀式って言ってた。堕天使の儀式でアーシアに危害が及ばない保証なんてどこにもない!!」

アーシアを使った儀式なんざ、神器関連に決まってる。やばいモンを復活させんのか、神器そのものを奪うのか、大体そんなとこだろう。

「あなたは本当に馬鹿なの?行けば確実に殺されるわ。もう生き返ることはできないのよ?それがわかっているの?」

そう兵藤に問いかけるグレモリーの拳は固く握りしめられ震えている。

「兵藤、お前本当に分かってんのか?悪魔が神の使徒を助けるために、堕天使に喧嘩を売る。これがどんな意味を持つかわからんわけじゃないだろう?最悪お前が原因で戦争が起こるぞ?」

問いかける。兵藤はこちらを向いて目を剥いた。

「青江!?なんでお前がこんな所に!?・・・・わかってるさ、だから――」

再びグレモリーの方を向いた兵藤は

「俺を眷属から外してください。教会には俺一人で行きます。」

そう言った。

 

 

「そんなことできるはずないじゃない!」

ついにグレモリーは激昂する。無理もない、兵藤は今行けば確実に死ぬ。アーシアも助けられない。

「青江だってそうだろ!?アーシアに助けられて、彼女がいい子だって知ってる!」

「ああ」

「俺は・・・俺はアーシアの友達になったんだ!俺は友達を見捨てるなんて、絶対に嫌だ!」

そうか・・・やはり兵藤がアーシアにとっての・・・・

「いいだろう。」

「「「「「えっ!?」」」」」

「兵藤、俺も教会につれてけ。」

「あなたまでっっ!!」

グレモリーは歯ぎしりをする。

その時、姫島がそそくさとグレモリーに近づき、耳打ちする。

姫島の表情も険しい。報告を耳にしたグレモリーの顔もさらに険しくなる。

グレモリーは兵藤を一瞥し、室内の全員を見渡すように言った。

「大事な用事ができたわ。私と朱乃はこれから少し外へ出るわね。」

「ぶっ部長!まだ話は終わって―――」

愕然と訴える兵藤の口をグレモリーが人差し指でふさぐ。

「イッセー、あなたにいくつか話しておくことがあるわ―――」

彼女は兵藤に二つの助言をした。

 

ひとつは兵藤の悪魔の駒、ポーンの特性について。主の許可があればポーンは昇格し、ほかの駒の特性を使うことができる。

 

もう一つは神器と所持者の精神の関係。神器の性能は使い手の精神に左右されること。

 

「最後にイッセー、『兵士』でも『王』をとれるわ。大丈夫、あなたは強くなれる。」

伝え終わった彼女は姫島と共に魔方陣を使って消えてしまった。

「ごめんなさい、部長。」

消えた方向に頭を下げている兵藤。

「うし、さっさといくぜ。おら兵藤、これがあの教会の見取り図だ。」

野宿しながら頑張った成果だ、しっかり活用しないと。まあこの図は図書館にあったんだがな。

「なんでこんなもん持ってんだよ。まさかお前、もとから・・・」

「俺はあの子に命救われてんだぜ?」

あの子はもう少しで過去を乗り越えられる。

アフターケアもきっちりしないとな。

「青江・・・・、なんか良い子過ぎて気持ち悪ぶべらっ!」

失礼なことを言おうとしたした兵藤の頭に回し蹴りを叩きこむ。

自分でもガラじゃないのは分かってる。基本外道なこの俺が最近はなんか客観的に見るとすげぇいい奴っぽい。

恩義を感じている部分もあるが、どうも彼女を放っておけない。

まあ、目的の半分はアーシアをさらった張本人であろう夕麻なわけだが。

はあ。

「兵藤君、青江君。」

木場が俺達を呼び止める。

「どうしても行くのかい?」

「俺は行かなくちゃならない。アーシアは友達だからな。俺が助けるんだ。」

しっかりと木場の目を見据えて答える兵藤。

「殺されるよ?エクソシストの集団と堕天使に新米悪魔と人間だけで挑むなんて、正気の沙汰じゃない」

「それでも行く。たとえ死んでもアーシアだけは逃がす。そうだろ?青江」

「えっ?俺も死んじゃうの?」

「俺だけ死なすつもりだったの!?」

「ぷっ、・・・・・ふふふふ。面白いなぁ、君たちは」

くすくすと笑いだす木場。そして

「僕も行く」

「なっ」

「僕はアーシアさんをよく知らないけど、君は僕の仲間だ。部長はああおっしゃったけど、僕は君の意見を尊重したいとも思う部分もある。それに部長も暗に行くことを許可してたんだよ?」

なんてやつだ、いうセリフまでイケメン過ぎる。そんな程度の理由で死地におもむくとは。

「えっ!?え??部長が認めてたって、え?」

やっぱ気付いてなかったのか・・・。まあ兵藤だしな。

「グレモリー先輩が言ってたろ、『私が敵の陣地と認めた場所の一番重要なところへ足を踏み入れた時、王以外の駒に変ずることができる』ってな。お前ら悪魔、ひいてはリアス・グレモリーの敵である神の陣地、その拠点たる教会には彼女の眷属を傷つけた『敵』がいる。プロモーションとやらの条件はそろったろ?」

「あっ」

やっと気付いたか馬鹿め。

「もし部長が本当に行くことを認めてなかったら、君を閉じ込めてでも止めると思うよ」

木場は苦笑する。

「・・・・・私も行きます」

小柄な少女がこちらに一歩踏み出す。

「なっ、小猫ちゃん?」

なんかその呼び方おかしくね?なんだよ小猫ちゃんって。

頭の悪いジゴロみたいじゃねえか。

親なのか知らないが名前つけたヤツネーミングセンス無さすぎだろ。

「・・・いいのか?」

「・・・・三人だけでは不安です。」

「成功の暁には自作スイーツを献上しよう」

「ぜひ」

がっしと握手を交わす俺たち。彼女が食いしん坊なのはリサーチ済みだ。

しっかしちっちゃい手だな~。ぷにぷにしてる。

「感動した!俺は猛烈に感動しているよ、小猫ちゃん!」

感動した様子で小躍りする兵藤。

 

小猫ちゃぁぁぁぁぁん!無表情で何考えてるかわからないけど、その内に秘められたやさしさに触れられた気がしたよ!

 

とか思ってそうだな。

「あ、あれ?ぼ、僕も一緒に行くんだけど・・・・?」

完全に取り残された木場が捨てられた子犬のような顔をしている。

キュン

あれ?

きゅきゅん

お、おかしい。今木場に猛烈に萌えている自分がいる。

俺はやばい奴だったのか?

木場をじっと見つめる。こいつ華奢だし、顔立ちも中性的で線も細い。

ひげも全然生えてないし、色白で見るからにすべすべの肌だ。

兵藤もさすがにこいつはハーレムに入れないだろうし、俺が・・・・

「???どうしたんだい、青江君」

はっ!俺は何を・・・

「いっいや何でもない。協力してくれてありがとうな、木場」

あぶなかった。禁断の扉の鎖が緩んでいたようだ。

「うん、どういたしまして」

ぱぁっと顔を輝かせてはにかむ木場祐斗。

ガチャン!!

 

 

 

 

どこかで扉の開く音がした・・・・・。

 



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第七話

お気に入りして下さった方、ありがとうございます。
正直全然自信が無かったので、誰もしてくれないかと・・・
書き貯めはここまでです。
亀更新じゃなくて、ウサギ投稿にしようかな?
ガッと投稿してちょっとブランク、みたいな
各話5000字目指してますが、意外と長い。
でも話は遅々として進まない。


空は暗い。教会までの道には街灯があるが、この古びた教会の周りには存在しないのだ。

いや、あるにはあるが点灯していない。電力の供給が行われていないのだろう。

俺たちは教会のすぐ近くにある雑木林の中に身を潜めている。

「ここが一番教会の様子をうかがえる。・・・どうした?」

兵藤が顔を青ざめさせて胸を押さえている。息も荒い。

「さっきから気分が悪い。なんていうか、背筋が寒くなる感じだ」

「悪魔だからじゃないのか?堕天使が占拠しているとはいえここは神の領域だろ?」

アーシアを送ってきていた時もしんどそうだったし、この調子じゃ兵藤と初詣とかにいくのはもう無理かな?

「それもあるけどね、それだけじゃないみたいだ」

木場が隣に来て自分も腕をさする。

「というと?他になんかあんのか?結界とか」

「いや、教会の中からかなり強い気配を感じる。堕天使があの中にいるんだ。あいつらの気配は独特だから間違いないよ」

「へえ」

俺は何も感じないがな。悪魔には感じられるのだろう。

ずずっ

コーヒーをすする。

「・・・・なんでお前はそんなもん持ってんだよ!カセットコンロもどっから出してきた!?」

「飲むか?ちゃんとドリッパーでいれた俺のオリジナルブレンドだ」

予備のマグカップを三つ持ってくる。

「お砂糖とミルクはありますか?」

塔城がマグを受け取る。

「あるにはあるが、カフェオレもあるぞ?」

「じゃあそれでお願いします」

「僕は紅茶がいいかな。レモンはあるかい?」

木場も隣に座り込む。

「あるぜ。ティーカップじゃないからうまく入るかどうかしらんが」

「なんで二人とも普通に受け入れてんの!?ここカフェじゃないよ!?雑木林だよ!?」

兵藤が何やらわめいている。

「うるさいぞ兵藤。向こうに気付かれる」

「先輩、うるさいです」

「兵藤君、静かにね」

「くそう、畜生!!」

声を押し殺して泣き崩れる。情緒不安定か?

「青江、俺にも入れろ!!ミルクコーヒーをノンシュガーで!」

「あいよ」

四人分入れるとちょうどポットのお湯はなくなった。

 

 

「それにしてもずいぶんとたくさん持ち込んでいるんだね」

俺がほかに何かないかあさっていると木場が訪ねてくる。

「まあな。しばらくここで暮らしてたんだ。いやでも揃うさ・・・・っと。クッキーがあったけどたべ『いります』」

塔城がこちらが言い終える前に返事をした。

「ほらよ」

「ありがとうございます」

両手に持ってカリカリかじり始める。小動物みたいでなでたくなってくるな。虎徹に相通ずるものをかんじる。

「ここで暮らしてたって、まさか行方不明になってずっとか!?」

「そうなるな。公園で水浴びくらいはしてたんだが基本的には一日中ここにいたな。・・・もしかして俺臭かったりする?」

「いえ、大丈夫です」

塔城がフォローしてくれる。

良かった、体臭ってのは自分じゃ気付かないから。

むしろ自分で分かるほど匂う時はよっぽどだ。

「俺は学校でどんな扱いになってる?死んだことになってんのか?」

ずっと気になっていたことを兵藤に尋ねてみる。

「いや、そんなに長い期間じゃないからそこまでは。ああでも元浜と松田、あと桐生は心配してた」

おお、俺にもそんなやつが。くっ!ちょっと感動しちまったぜ。

「やくざの情婦に手をだして東京湾に沈されたんじゃないかって」

自分がふだんどう見られてるかよくわかる。

まあ、気に入った女だったらやくざとか気にせず奪うだろうが・・・。

 

四人で頭を突き合わせて見取り図を眺める。

「聖堂の他に宿舎。怪しいのは聖堂だろうね」

と、木場は図の聖堂を指さす。

「まあ、如何にもって感じだな」

「うん。この手の『はぐれ悪魔祓い』はね、大抵聖堂の地下なんかで怪しげな儀式を行うものなんだよ」

「自分たちを見捨てた神への冒涜に酔いしれる、か・・・。けっ、みみっちい。小学生の悪口ノートかよ」

誰でもあるんじゃないか?ノートの端に『しねしねしねしね』って書いたりとか。

「君が言うと、ほんとにくだらなく聞こえるよ。・・・入り口から聖堂まで目と鼻の先。肝心なのはアーシアさんのいる場所の確認と待ち受けているであろう刺客の排除だね」

確かに地下室うんぬんは『はぐれの一般論』だ。アーシアが本当にそこにいるという保証はない。

それにあそこには確実にフリードがいる。木場と塔城の実力は知らないが、少なくとも兵藤一人では絶対に勝てないだろう。

他のエクソシストもあのレベルなら・・・・。

「行こう。木場、小猫ちゃん、そして青江。絶対アーシアを連れて帰るぞ!!」

全員を見回して拳を握りしめる兵藤。さっきまで死ぬ覚悟だった奴が、調子のいいやつめ。

「くくく・・・ああ、いこうぜヒーロー」

 

 

バン!!

勢いよく教会の扉を開き、中に突入する。

聖堂内は蝋燭に照らされており意外と明るい。

一見普通の聖堂だが、磔にされた聖人の彫刻に首がない。

無残に破壊された頭部は祭壇に飾られている。

「来たな、悪魔どもめ」

聖堂内には十人ほどのエクソシスト達がいた。全員同じ神父服に身を包み同じ覆面をしている。フリードとはえらい違いだ。

「見るからにモブなんだが・・・。ショッ○ーかっての」

「ふん、減らず口もそこまでだ。切り刻んでくれる」

ブオンという音を立てて神父全員が光の剣やら銃をかまえる。

「じゃあ、お互いの健闘を祈って」

木場が腰に佩いた剣を抜刀する。

「・・・・いきます」

「プロモーション・『戦車』!!」

こちらも全員戦闘態勢に入る。戦闘開始だ。

 

「俺から行くぜ?」

そう宣言すると、俺は敵の集団に向かって駆け出す。目標はさっき敵側の音頭を取った奴だ。

「なめるなぁ!!」

奴は横なぎに剣を振ってくる・・・が、遅い。

即座に身をかがめやり過ごす。振り終えた直後は隙だらけだ、フリードのように銃を使ってくることもない。

腕を伸ばして頭を掴む。そしてそのまま聖堂内の長椅子の角に叩きつけた。

ごしゃり

相手の後頭部に角がめり込む。

「死因は角ですってか?」

「おのれ!!」

バン、バン!!

呆然としていた他の奴らが銃を撃ってくる。

銃の相手は初めて、ずっと日本にいたから実物を見るのも初めてだ。

「おわっ、あぶね!」

頭のすぐ横を弾丸がかすめる。

躱すなんてできるわけないからさっき殺った奴を盾にして銃弾を防ぐ。そのまま近くの銃持ちの目の前まで突き進み、

「ほらよ」

死体を押し付ける。

「なっ!?」

押し付けられた奴はつい銃撃を止め受け取ってしまう。

「かわりにこれ、もらうぜ?」

相手の手からすんなりと銃を奪う。

くるりと持ち替えて奪った銃のグリップで顔面を殴った。

「二人目」

銃撃はやんでいた。あたりを見回すと木場達も戦っている。

おわ、搭乗のやつ長椅子引っこ抜いてぶん回してら。あの小さい体のどこにそんな力があるのか。

木場もすげえ、なんだよあのスピード。目で追えねえ。

戦闘技能で負けているつもりはないが、やはり悪魔の基礎能力は別次元だな。

兵藤は・・・・まだスタート地点でオロオロしている。

責めるつもりは無い。ついこないだまでふっつーの高校生だったんだ、むしろグレモリーの言うとうり俺が異常なのだろう。

「さて」

手に握った銃を手近な剣持ちに向ける。

「くっ」

「あばよ」

引き金を引く。

銃弾は相手に向かっ・・・・。

 

かちり

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

あれ?

 

ぶんぶん

 

銃を振ってみる。

もう一回引き金を引いてみる。かちかち

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

銃口を覗いてみる。うん、弾丸はあるっぽい。

引き金を引く。かちかちかち

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

がんがん

 

しゃがんで床に叩きつける。

かちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・なあ、木場ぁ」

「っと、何だい?・・はあっ!青江君」

戦いながら律儀に返事をする木場。

「奪った銃から弾が出ないんだが」

「安全装置が掛かってるんじゃないかい?」

「安全装置?」

さっき殴った時にかかったのか?

「どれだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わからん。」

銃の横には文字が刻んである。で・・ざーといーぐる?デザート・イーグルか。

よし。

「くらえぇぇぇぇっッ!!!俺の、デザァァートォッ・イーグルッッ!!!」

使えない銃をそのまま敵にむかってシュウゥゥゥゥット!!超・エキサイティン!!!

「ぐはっ」

「ふっ、他愛無い」

 

 

「ぎゃあああ!!」

左手で神父の一人の指を掴み、指をへし折る。

怯んだ隙に首元の喉仏を右手の人差し指、中指、親指の三本で掴み思いきり引き抜いた。

「四人目」

 

「ふんっ!!」

右足で踏み込む際に震脚の要領で足の甲を踏み砕く。

相手の足を縫い付けたまま右肘で顎を打ち上げ、曲げていた右腕を伸ばし、がら空きの胴体に逆手持ちしたナイフを下から突き立てた。

「五人目」

 

十人ほど、正確には十八人いた神父は全滅した。

「なんでえ、全然じゃねえか。フリードくらい強いかと思ってたぜ」

俺は五人倒した。

「悪魔祓いをそんなふうに言える君が恐ろしいよ」

木場は七人。

「なあ、俺要らないんじゃないか?一人も倒してないんだけど」

兵藤は・・・・ゼロ。

「・・・・・先輩、役立たず」

「小猫ちゃん!?」

塔城が六人だ。

全員無事だ。後はアーシアを探すだけ―――

「すんんんんんんばらしい!!あの人数を瞬殺とは!!まあ、数だけの雑魚ばっかだったけどんね♪」

なわけないよな。

「ハハハ、てめえらアーシアたんを助けに来たんだろ?俺の仕事もね!邪魔することなわけよ!だけどォ、お前!そこのオマエ!」

こちらを指差してくるフリード。

「俺?」

「そうそうチミチミ!ボクちん君のことが忘れらんないの!ほら、俺、メチャつおいから悪魔なんて初見でちょんぱなわけですよ!それが俺の生きる道でした!でも同時に飽きてきてたの、そこにオマエ!もう悪魔に媚び売るビッチなんてどうでもいいの!殺し合おう?そんで俺の剣とお前の心臓がフォーリンラブすんの!興奮しない!?するよね?ってことで死ィィィィねえええええ!!」

「おい!アーシアはどこだ!」

「ああ?邪魔すんなよ。そこの祭壇裏から地下に行けるって。ねえもういいっしょ、もっかい言うよ。邪魔すんな!!!」

あっさりと秘密をばらすフリード。おいおい、こいつ守備に回らせたの絶対まちがいだって。

フリードは今度こそ俺に向かって駆けて来る。

他の三人なんてアウトオブ眼中だ。

ギィン!!

「僕たちのことも忘れてもらっては困るよ」

木場が飛び出してフリードの剣を受け止める。

ギャリギャリと耳障りな音と火花を散らし鍔競り合いする二人。

フリードの剣ってジェダイの騎士が持ってそうなのに物理なんだな。

「・・・・潰れて」

塔城も担いでいた長椅子をフリード目がけて投げつける。

「っちィ!!」

流石にこの二人に囲まれてはフリードもヤバいのだろう。舌打ちをしながら後ろに飛びずさる。

「お前を殺すのも魅力的だが、こっちにも優先順位というものがある」

こいつとは後で殺り合うこともできるが、アーシアの救出は一刻を争う。儀式は既に始まっているはずだ。

「・・・・ちぇー。俺もさっすがにこの面子は無理ですわ。はいはい、今日のところはこれで引きますよ」

いじけて小石を蹴っ飛ばすジェスチャーをするフリード。

「けど、次あったら絶対殺すかんね!そこんとこシクヨロ!えーっと、名前なんだっけ?」

「青江秀介」

「そんじゃシューちゃん!!絶対殺しに来っから、毎日首は磨いててね♪そんじゃ、ばーいちゃ♪」

そう言ってフリードは缶のようなものを投げる。

カッ!!

強烈な光が俺たちの目をくらます。

目を開いたときには既にヤツの姿は無かった。

あれが閃光弾ってやつか。逃げ足も一級品だな。引き際もわきまえている。狂ったように見えてなかなか冷静な行動だ。

「・・・・あいつ、秘密ゲロりに来ただけだったな・・・」

兵藤がぼそりと呟く。

確かにな。

 

 

 

フリードが去った後、俺たちはまだ息のある神父どもを拘束していた。

俺は止めをさしてもいいが、木場達が始めてしまった。

幸いそんなに時間はかからず、全員縛り終えた時

「みんな、気を付けて!!すぐ近くに堕天使がいる!!」

気配を感じたのか木場がそう叫んだ。

「最初からいた奴とは違うのか?」

「うん、相変わらず地下からも気配がする。多分増援だ」

「なんだって!?」

「・・・・・」

まずいな、いまもう一人の相手をしていては時間がかかりすぎる。

だが無視して進んで後ろから挟撃されるのも避けたいところだ。

どうするべきか・・・

 

コツコツ

 

聖堂の出入り口の方から足音が聞こえてくる。

「ほう?なにやら騒がしいと思って来てみれば、悪魔が神聖な教会に何の用だ?」

入り口から姿を現したのはトレンチコートを羽織り、同色の帽子を被った男だった。

「おっ、お前は!!」

兵藤が男を指差し驚愕の声を上げる。

「・・・知ってんのか?」

「知ってるも何も・・・こいつに俺は殺されたんだ」

なんだと?・・・なるほど、つまりこいつが夕麻の言っていた仲間の堕天使なのだろう。

たしかドーナシークとか言ったか。

「お初にお目にかかる悪魔ども。わが名は堕天使ドーナシーク、お『ふざけんな!!』」

「お前らアーシアに何するつもりだ!」

「・・・・紳士の名乗りを妨げるとは、やはり下賤な悪魔か」

ため息をついて小馬鹿にした様に肩をすくめる。

そして兵藤を見つけると

「ん?小僧、お前はあの時の・・・だが気配は悪魔のもの。そうか、あのあと転生したのだな。それにしては力を感じない」

「くうぅぅぅっ!!馬鹿にしやがって!俺だってなあ!!」

歯を食いしばり、涙を流す兵藤。

「フン、なんだ結局不安要素でも何でも無かったではないか。とんだ無駄手間だったな」

「・・・・時間がありません。どうしますか?」

塔城が顔は奴に向けたまま俺に尋ねてくる。

「そうだな・・・・木場、下のやつとこいつどっちが強い?」

「多分下だね。恐らくこいつよりも数段強い」

そうか、なら決まりだな。

 

「よし、お前ら三人さっさと下に向かえ。こいつは俺に任せろ」

 

「「「なっ!?」」」

「ほう?」

「何言ってんだよ青江!」

「そうだよ青江君。もう一人より弱いといっても相手は堕天使。さっきの神父なんかとはケタが違う。あまり舐めない方がいい」

「・・・・先輩もバカですか?」

おーおー、言いたい放題言ってくれちゃって。寄ってたかっていじめですか?

「バカはお前らだ。俺たちには時間がない。地下にはまだ神父たちもいるだろう。そしてこいつ以上の堕天使がいる。戦力の分散は当然、この分け方がベストだ」

「でも!!お前は俺たちとは違う、人間なんだぞ!?」

「・・・・わかったよ」

「木場!?」

「兵藤君、彼の言うことももっともだ。僕たちの目的は何だい?」

「それはっ」

「兵藤。おまえはアーシアの友達で、友達を助けるために主に逆らったんだ。覚悟を決めたんだろう?何があっても、どんな手を使っても助け出すと」

「・・・・・」

「行って来いよヒーロー。囚われのお姫様は目と鼻の先だぜ?」

「・・・ああ、そうだな、そうだったよ。俺はアーシアを助けると決めたんだった。・・・サンキュー、青江!!」

そう言って兵藤は祭壇に向かって駆けだす。

「ふふ、青江君。帰ったら僕と模擬戦をやってくれないかい?」

そう言って木場も俺の横を駆け抜ける。

「いいね、愉しそうだ」

三人は祭壇にむかう。

塔城が持ち前の怪力で祭壇ごと隠し扉を床から引っぺがし、順番に中に入ってゆく。

「先輩」

「あん?」

声に振り向くと、穴から顔を半分だけ覗かせた塔城と目が合った。

「スイーツの件、お忘れなく」

それだけ言い残すと、そのまま穴の中へと消えていってしまう。

「へっ」

何作ろうかねえ?

 

 

 

 

 

 



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第八話

まだ一つだけだけど、感想ってうれしいもんですね。
お気に入りもたくさんしてくれていて、モチベーション上がってます。


「ふははははは。・・・・・貴様、思い上がるのもいい加減にしろよ?」

 

哄笑したかと思うと直ぐに笑みを消し、隠し切れない怒りをぶつけてくる。

そりゃそうだ。堕天使に人間が単身立ち向かおうというのだ。

第三者からすれば笑い話だが、当事者はコケにされたという思いが強いだろう。

 

「今宵の俺は一味ちがうぜ?・・・じゃじゃーん!!さっき鹵獲した剣と銃~~~」

 

そう言って懐から取り出したのはご存知我が愛銃デザート・イーグル。

そして柄だけの剣。

 

「ふふん、これで俺もジェダイの騎士だぜ!!」

 

スイッチ・オン!!

ブオンという音と共に柄から光の剣が出てくる。

ヴォン、ヴォン、ヴォヴォヴォン

光の剣を振り回す。脳裏には夢にまで見たオビ〇ンの姿が・・・

 

「でも俺、ビームサーベルよりゃ重斬刀なんだよなあ。」

 

ブオン

音を立てて堕天使の手にも光の槍が出現する。

槍からはタービンが高速回転する際のものに似た音が鳴り響いている。

 

「我ら堕天使に光の力で向かってくるか」

「効くだろ?じゃねえと堕天使と天使、同じ光使い同士戦争にならん」

「ふん!」

 

ドーナシークが槍を投擲する。

槍は山なりの軌道を描いたりすることもなく真っ直ぐに俺に向かってくる。

 

「らあっ!!」

 

右手に持った光剣を槍に叩きつける。

二つの光がぶつかり合い、バチバチと火花を散らす。

俺はそのまま槍を弾---けない!?

俺の剣は槍に押し負け、槍は俺の二の腕を半分抉り去る。

内側から肉を焼かれるような激痛が走る。

 

「くっ」

「残念だったな」

 

イカン、右腕が使えなくなった。剣と銃どっちを捨てるか・・・

あたりを見回す。いくつか塔城が引っこ抜いているが長椅子はまだ残っている。遮蔽物として使えるだろう。

ここは室内、奴も翼で飛び回る事はしない。

となると・・・。

 

「すまんな、相棒。今日の出番はここまでだ」

 

俺は剣を選んだ。

 

 

 

 

 

バキッ、メシィ!!

光の槍が長椅子を破壊してゆく。

あれからしばらく椅子の陰に隠れてヤツの攻撃を凌いでいる。

簡単に貫通されてしまっているが目的は盾でなく目くらましだ。

 

「俺といい塔城といい、今日一番のリーサル・ウェポンはこいつだな」

 

隠れながら長椅子の角を叩く。

 

「どうした?隠れてばかりでは俺には勝てんぞ?」

「俺の役目は時間稼ぎだって」

 

どこぞの弓兵の様にはいかんのだよ。

 

「なるほど、だが本当に隠れているだけで生き残れると?」

 

んなわきゃない。もうすぐ長椅子も尽きるし、あいつらが地下で死ぬ確率も存在するのだ。

こいつを殺さない限り俺が生き残る道は無い。

 

常に現実的に最悪の状況を想定せよ、されどロマンは忘れるなってな。

 

椅子の裏から飛び出る。

ドーナシークがすぐさま反応し、右手の槍を投げてくる。

そう、やつは 投擲 してくるのだ。

ギリギリまで引き付けてから右手側に跳ぶ。

 

「小賢しい!!」

 

人型である以上、体の外側に投擲することはできない。

槍は俺を掠めただけに終わった。

 

「接近戦だ」

「人間風情が、思い上がるな!!」

 

光剣で切りかかる。

ドーナシークも槍を一本構え応戦してくる。

剣と槍がぶつかる度にバチバチという音が鳴る。

 

ヴォンヴォン、バチィッ、ヴォヴォン、ジジジ、ヴォン

 

・・・・音だけ聞くとまんまあの映画だな。

槍の最大の特徴はやはりそのリーチだ。

突きが印象的だが、本当に厄介なのは実はリーチを生かした薙ぎ払いである。

こいつら堕天使の槍は刃の面積が大きく、薙ぎ払いで両断することだって可能だろう。

対処法としては超接近戦。相手に攻撃の隙を与えないことだ。

しかし俺の光剣はこいつの槍とまともに打ち合えばすぐに駄目になるだろう。

武器を庇いながらの戦闘になる。

更に俺の力ではヤツのガードを崩せない。

よって必然的に受け流すしかないのだ。

正直ジリ貧である。

 

「・・・・・・・・・くだらん」

「あ?」

「やはり貴様ら人間と我々堕天使は根本的に次元が違うのだ・・・・・ふん!!」

 

ぼそりとつぶやくと奴は一際力を込めて槍を振りぬく。

早えぇっ!

とっさに光剣を槍と体の間に割り込ませる。

パキィィィィンンン

ガラスが砕ける様な音を立てて光剣が砕け散った。

 

「っ!!」

 

俺は五メートルほど吹き飛ばされて地面を転がる。

刃を失った柄はすぐ傍に転がった。

 

「膂力、スタミナ、動体視力、肉体の強靭さ、無論光の力も全てにわたって貴様は私に劣っている」

 

ゆっくりとこちらに絶望を与えようとするかの様に歩いてくる。

やっぱ桁違いだな。堕天使の基礎能力は全て人間を超えている。

戦闘能力とかそういうことじゃない。単純に『強い』のだ。

 

「ただの人間にしては驚異的。だが、それだけだ」

 

目の前に立つドーナシーク。

俺はふらつきながら立ち上がり対峙する。

絶体絶命だ。

攻撃を防ぐ手段は無く、右腕はお釈迦。

今から隠れようとしてもあの槍に串刺しにされるのがオチだ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・はあ。ここまでか・・・」

 

「ほう?あきらめたのか?」

 

ドーナシークは小馬鹿にしたようにせせら笑う。

 

「いや、夕麻までは残しとくつもりだったんだけどな」

「夕麻?なんのことだ。貴様の女か?」

「ああ、ついこないだデートしたんだ。喧嘩別れしちまってな。ここにいると思って来たんだが」

「何を言って・・・っ!!!!まて、貴様っ!!」

 

 

 

 

目を瞑り、思い浮かべる。

ふくれっ面をする彼女。

イルカショーに夢中になる彼女。

夕焼けの中、艶やかな笑みを浮かべる彼女。

そして腹部に感じた痛み。

 

「神器――――――――――」

 

全てが蘇る。

腹に異物の侵入する感覚。

肉を焼かれる痛み。

完全に再現される。

腹から青い刺青のような紋様が広がる。

蟲の様に体表を這い回る。そして収束。

収束した青は無事な左手に集う。

左手からはタービンが高速回転する際のソレに似た音が響き出す。

 

 

リバース・エッジ(蒼の刻印)

 

ブオンという音と共に俺の左手に光の槍が出現する。

 

「バカな・・・その光は紛れもなくレイナーレ様のもの・・・・・」

 

 

 

 

 

リバース・エッジ(蒼の刻印)

 

俺が生来宿していた神器。

これは自身にある一定の傷を負わせた攻撃を一度だけ再現する。

しかし、さっき右腕を潰した攻撃は無理だ。

あれでもまだ一定の傷にカウントしてくれないのだ。

加えて、再現した能力は二度と使えない。

再装填するにはもう一度受ける必要がある。

即死すれば勿論意味は無いし、ものすごく使いづらい。

実は禁手化もしているのだが、そちらはもっとめんどくさい。

 

この槍はアーシアに救われた日に夕麻から受けたもの。

あの時の傷はカウントされていたため、今まで温存していたのだ。

 

「貴様はレイナーレ様が殺した筈では!?」

「たまたま美少女に拾われてな。そうか、夕麻の本名はレイナーレってのか」

 

偽名だとは思ってたが、こりゃまた全然違う名前だな。

 

「第二ラウンド開始だ。いい勝負になるんじゃないか?この槍、お前のよりすげえんだろ?」

「いくら得物が強くなろうと、扱う者の差が歴然だ!!!」

「技量では勝ってるつもりだぜ?」

 

実際こいつの技量は大したことない。

完全にスペックに頼り切っている。

 

大振りで振り下ろしてくる槍を穂先で受け流す。

受け流され、前のめりになった奴の顔を石突で強打する。

左手のみなので決め手にはならない。

だが、相手はよろめいたので腹にやくざキックをお見舞いした。

ドーナシークは尻餅をついて槍を手放す。

 

「くっ」

「おらおらおら」

 

俺の突きを躱すため床を転げまわるドーナシーク。

突きを繰り返して追いかける俺。

 

「この俺が人間ごときに地を這わされるだと!?認めん、認めんぞ!!!」

 

持ち前の身体能力で飛びずさり、そのまま教会の外へ飛び出す。

そして黒い翼を広げて飛び上がった。

内部にいては奴が見えないので、俺も外へ飛び出す。

 

「もういい。教会ごと吹き飛ばしてくれる!!」

 

そう言って奴は元気玉を作るかのように手を掲げ、見上げながら集中する。

 

キィィィィィィィィィィィィィン

 

もはや飛行機のエンジン音の様な音を立てて特大の槍が生成されてゆく。

どうやら本当に逆上してこのあたり一帯に攻撃するつもりのようだ。

意外と沸点が低い奴だったな。

 

「ははははははははは、これが堕天使のち――――」

 

ドスッ

 

「か・・・ら?」

 

俺の投げた槍がドーナシークの胸に突き刺さる。

バカなのか?こいつ。

自分だって投げてたのに、同じものを待ってる敵を前にしてそんな隙だらけの攻撃するなんて。

 

ィィィィィン・・・・・・・・

 

行き場を失った槍が消滅する。

ドーナシーク自身は空中から落下した。

落下しながら徐々に体が崩れ始める。

そして地面に激突する前に、奴の体は光の粒子になって消えてしまった。

 

「あの槍すげえ致死性あったんだな」

 

散々手こずった割にはあっさり消えた。

まあ、戦いなんてそんなもんだろ。

 

 

 

 

 

 

 

「まずいな・・・・」

足元がふらつく。

右腕からの出血が止まらない。

隠れたりしている間に傷口をしばってはいたが傷が傷だ。

徐々に流れた血により貧血になっている。

放っておけば間違いなく失血死するな。

あいつらがアーシアを助け出せていればなんとかなるかもしれない。

 

がしゃあああん!!

 

「っ!!」

 

教会の裏手からガラスの砕ける音がする。

裏手に回ってみるとそこには―――

 

「なんで、なんでなの!?私は至高の癒しの力を手に入れた!至高の堕天使になったのよ!!どうしてあんなクズ悪魔に!!」

 

顔を大きく腫らせた夕麻、もといレイナーレが倒れていた。

かなりのダメージを受けたようで何度も起き上がろうとして失敗している。

 

「おい」

「え?・・・・・・・あ、あなたは・・」

 

俺だと分かると呆然とした顔で見上げてくる。

 

「あの傷で生きていたの?」

「そうなるな」

「・・・そうよ!!青江君、助けて!私殺されそうなの!ねえ、助けてよ!!私貴方のこと大好きよ。愛してる!!だからおねがい」

 

そう言って夕麻の演技を始める。

俺の足に縋り付いて助けてくれと懇願する。

・・・今その設定は無茶がありすぎるだろ。

 

「!?青江君、怪我してるじゃない。私が治してあげる!!」

「なに?」

 

そう言って俺の手を掴むと淡い緑の光で癒してゆく。

これはアーシアのものと同じ・・・・いや、アーシアのものだ。

となると儀式の目的はやはり神器を奪うことだったのか。

俺も神器持ちだから分かる。こいつらは俺たちの魂と密接に繋がっている。

というより構成している一部と言ってもいいかもしれない。

そんなものを引っぺがしたんだ。恐らくアーシアはもう・・・

 

「アーシアはどうなった」

「え・・・なんで、そんな事、聞くの?」

「あの傷を治したのはアーシアだったんだよ」

「!!・・・・そう、そういうこと。じゃああなた全部知ってるんだ。あ、あは、あははははははははっ、なによ、なによ、みんなしてっ!!!アーシア、アーシア、アーシアアーシアアーシア!!!

そんなにあの小娘がいいの!?なんであいつは何にも手を汚さないで愛されてるのよ!!」

 

そう叫んで俺のことを突き飛ばす。

 

「あなたも私のこと殺すつもりなんでしょ?あの小娘を助けに来たんでしょ!?残念だったわねぇ、あの子は死んだわよ?あのクズ悪魔の腕の中で、その名前を呼びながらねぇ。残念でした、あなたの名前じゃなくってね!!」

 

やはり死んだか・・・残念だ。

だが死んでしまったものはしょうがない。

俺は彼女の死をどうすれば無駄にせずに済むのか・・・・

 

「あのお二方は輝いていた。でも彼らは雲の上の存在、私では届かない。それでも振り向いて欲しかった。・・・そのためには何だってしたわ!!上を欺き、そしてあの子を殺した。なのに私は全て失って死んでしまう。あの子は綺麗なまま、愛されて死んでいった。なんで?何が違うのよ!?」

 

そう叫ぶ彼女は泣いていた。

話の内容からしてもはや俺に向かって言っているのではない。

ただ、叫ばずにはいられないのだ。

 

「・・・・どこに飛んでったんでしょうか?」

「「っ!?」」

 

この声は塔城か。

大方飛んでったこいつを探しに来たんだろう。

腕は・・・・完治しているな。さすが。

レイナーレを担ぐ。

 

「え?ちょ――」

「黙ってろ。見つかれば殺されるぞ」

「・・・・・・」

 

 

 

「ここまで来ればいいだろ」

 

かなり離れた林の中でレイナーレを降ろす

 

「どうして助けたの?まさか憐れんでるつも『気に入った』・・・へ?」

「おまえの命はこれから俺のモンだ。助けたんだからな。散々虐めてやる」

「何を言って・・・」

「デートの時言ったろ?デートも楽しくてルックスも好みだって」

「ふざけないで。あんなの演技よ」

「知ってたさ。知った上で楽しめたんだ。俺にとってはそれだけが事実だ」

「・・・・・・・」

「それとな。お前とアーシアはそんなに違わんぞ?」

「え?」

「お前は堕天使の中で上司を裏切って、アーシアを殺した。それは確かに手を汚す行為だ。だがな、アーシアも悪魔を癒すという大罪を犯してんだぜ?自分の所属していたコミュニティーで。あの子は一度全て失ってんだ。そのあとにああして愛してくれる奴ができた。つまりだ。お前も全て失った。じゃあこれからって事よ」

「そんなことが許されるの?」

 

信じられないといった表情で俺に尋ねてくる。

 

「じゃあ許さんって言ったら死ぬのかよ」

「ううん。嫌だ。死にたくない。死にたくないよぉ」

 

ぐずるレイナーレ。

だがしばらくすると泣き止んで、赤く腫らした目を向けてくる。

 

「私は死にたくない。死ねって言われたらいくらでも足掻いてやる」

「それでいい」

 

彼女の体から淡い緑の光があふれてくる。

それはだんだんと空に昇ってゆき・・・・・教会の方へ飛んでいった。

レイナーレと並んでそれをじっと眺める。

 

「いいのか?とんでったぞ?」

「そこは聞かないとこでしょ?」

 

そう言って彼女は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「ああ、それともう一つ」

「ん?」

 

「お前のは愛じゃない。アイドルの追っかけとそう変わらん」

 

光は徐々に高度を下げ、教会の中に入っていった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第九話

祝!!お気に入り六十突破!
感想も少しづつ増えていてニヤニヤしています。




・・・・評価付けてくれてもいいのよ?


別キャラ視点も入れた方がいいのかな?



教会での戦いから一夜明けた。

あの後夕麻を連れて帰った俺は事の顛末を知らない。

夕麻の話によると、彼女に賛同した堕天使は三人。

俺が殺したドーナシーク、そしてカラ・・・カラなんとかとミッテルトだったか。

残りの二人は女だったそうだが、グレモリーに殺されていたらしい。

もう命を狙われることもないだろう。

 

夕麻を倒したのはなんと兵藤だったそうだ。

夕麻は『なぜ負けたのか、未だに分からない』と憎々し気に言っていた。

そうそう、あいつの事はレイナーレでなく夕麻と呼ぶことにした。

ずっと夕麻って心の中で呼んでたし、この名前は俺しか知らない。

レイナーレが呼び辛いってのもあるがな。

 

「おっはようございま~っす」

 

グレモリーの部室に入室する。

 

「ぶごっふ!!」

 

優雅に朝のティータイムを楽しんでいたらしいグレモリーは紅茶にむせてしまった。

せき込みながらもハンカチを出して口元を拭いている。

 

「けほっ、・・・・・でたわね、青江秀介」

「人を妖怪みたいに言うんじゃない」

 

失礼なやっちゃ。

 

「・・・ふう。真面目な話をしましょう」

 

身だしなみを整えたグレモリーは真剣な顔つきをする。

制服の茶色い染みはご愛嬌だ。

彼女はこちらをじっと見つめている。

 

「・・・・生きていたのね」

「あ?」

「イッセー達から話は聞いているわ。堕天使の足止めをしてくれたそうね?昨晩は姿を見せないからみんな死んだと思っているわよ?」

「あ~。その、なんだ。ちょっと野暮用がな」

「交戦していた堕天使はどうしたの?」

「殺した」

「っ」

 

グレモリーの表情が硬くなる。

 

「どうやって・・・っていうのは馬鹿な質問ね。あなたは神器を持っているんだもの。でも人間のまま堕天使を余裕で倒すなんて、あなたの神器相当な代物みたいね」

 

あのめんどくさい神器を使うのがどれだけ大変だと思っている。

それを神器のおかげみたいな言い方しやがって。

結局頼ってしまったからなんも言えねえじゃねえか。

むかむか

 

「余裕なんかねえよ。ボロボロになっての辛勝だったんだぜ?」

「それでも倒したという事実が・・・・・・・・待って、じゃあどうしてあなたはそんなにピンピンしているの?」

 

・・・・・・・・しまったあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!

ついうっかり、ついうっかり・・・・!!!

 

「そういえば、アーシア・アルジェントの神器が戻って来たわね。あれが無ければ彼女を転生させられなかったからラッキーと思っていたけど・・・。私たち堕天使を一人取り逃がしているのよねえ?そいつが彼女の神器を奪って行ったはずなんだけど」

「・・・・・・・」

 

アーシアを転生?

・・・・・・そういうことか。

癒しの力が帰ったのは本来の持ち主の魂に引かれたからか。

アーシアは生きてるんだな。

なんだ、結局ハッピーエンドなんじゃないか。やるなあ、兵藤。

だが、ここで夕麻のことがバレるのはまずい。

グレモリーの視線が一層厳しくなった。

冷汗が止まらない。脇汗だいじょぶかな?

 

「まさか貴方――――」

「そいつも俺が殺した。ボロボロだったんでな。適当に痛めつけて傷を治させた後、さっくりと殺ったぜ」

「ずいぶんと容赦ないのね?」

「そりゃな。あの腹の傷やった奴だったんだぜ?容赦する理由が見つからん」

 

嘘はつかないです。僕は正直ですから。

 

「・・・・・分かったわ。この件はここまで。私の眷属の手助けをしてくれたこと、感謝するわ」

 

そう言って俺に頭を下げる。

 

「ふふん、苦しゅうない」

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ガチャリ

部室の扉が開いて兵藤が入室してくる。

 

「おはようございます、部長。やっぱりあお・・・え・・・は??」

「よう。先にお邪魔してるぜ」

「・・・・・・」

「どうした?今日は一段と間抜け面だな」

「・・・・・・・で、出たーーーーーーーーー!!!悪霊退散、悪霊退散!!青江、お前の犠牲は無駄にはしない!!アーシアと仲良くやっていくから!!安心して成仏してくれ!俺を呪うな!!!」

「おい」

 

どいつもこいつも妖怪扱いしやがって。

 

「俺はれっきとした人間だ」

「・・・・・マジで?」

「足あんだろうが」

「貴方たち、漫才は後でやってもらえる?イッセー、昨日の傷は大丈夫かしら?」

「あ、はい。例の治療パワーで完治です」

 

得意げに足を叩く。

 

「青江も傷、無いんだな。やっぱすげえよ。お前」

「鍛え方が違うんだよ」

「相手は堕天使だったんだろ?俺なんか手も足も出ずに殺されたよ。」

「まあ、『強い』っちゃ強かったんだが・・・・・そうだな、『つまらんかった』」

 

そう、確かに強かったがフリードの時の様な高揚感は無かった。

フリードは纏わりつく様な殺意と悪意を感じたんが・・・。

ドーナシークは自己顕示欲ってのかなあ、よくわからんがつまらんかった。

 

「そうだ、部長。悪魔の駒って余ってないんですか?」

「どうしたの?」

「いや、青江を眷属にしないのかなあと。人間なのに堕天使倒すなんて悪魔化すれば凄いと思うんですけど」

「「・・・・・」」

 

グレモリーと顔を見合わせる。

 

「ためしてみる?」

「・・・・そうだな」

 

悪魔化に忌避感は無い。

人間では無くなるが、俺が俺である事に変わりはない。

もーまんたいだ。

 

「じっとしていて頂戴」

 

そう言ってグレモリーは懐から駒を取り出した。

そして俺に二つの駒をかざしてくる。

 

「・・・・・あら?これは・・・・」

「だめなのか?」

「いえ、可能よ。というか余裕過ぎるくらいよ」

 

余裕過ぎる?

 

「私に残っている駒は騎士と戦車。チェスではね、女王は兵士九つ分、騎士と戦車は兵士三つ分って言われているの。悪魔の駒にもおいてもそれは同様。転生者が有能ならそれだけ駒の消費も大きいわ。勿論、駒との相性もあるのだけれど・・・それでね、彼を転生させるには兵士一個で十分みたいなのよ」

 

それは俺が無能ってことなのか?そうなんだな?

 

「つまりは勿体ないってことなんだな?」

「えっと、その・・・まあ、そういうことになるのかしら・・・ね?」

「あれ?なら俺と同じ兵士でいいじゃないですか」

 

兵藤が不思議そうに質問する。

 

「さっき言ったでしょう?私にはもう騎士と戦車しか残ってないって」

「じゃあ、俺にも先輩兵士がいるって事ですか?」

「違うわイッセー。私があなたを転生させるときに使った駒はね、兵士八つなのよ。だから私の兵士は貴方だけ」

 

八つ!?兵士の全部じゃねえか!

お、俺の価値は兵藤の八分の一なのか!?

 

「貴方の宿す『神滅具』、赤龍帝の籠手の価値を考えればこれでも安いくらいだわ。『紅髪の滅殺姫』と『赤龍帝の籠手』。紅と赤、相性バッチリね。言ったでしょう?貴方は強くなれる。頑張りなさい」

「部長・・・」

 

感無量です!!って顔で感動している兵藤。

 

「これはお呪いよ」

 

そう言ってグレモリーは兵藤の額に口づけする。

 

「俺、帰っていいかな?」

 

新手のいじめだよ。

 

 

 

 

「シュースケさん!?」

 

肩を落として二人を眺めていると名前を呼ばれた。

 

「・・・アーシア?」

「無事だったんですね!?・・・・・・よかったぁ。・・・・・よかった、ぐす、よがっだでずぅぅ」

 

あ~あ~、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってんじゃねえか。

顔をハンカチで拭いてやる。

おや?彼女が片手に持っているのはうちの・・・

 

「ぐす・・・・ちーーーん!!」

「アーシア、その制服・・・・」

「どうしたんだ?青江、・・・それってうちの学園の制服じゃん!!部長!?もしかして・・・」

 

兵藤がグレモリーに尋ねる。

 

「そうよ、彼女にはうちの学園に編入してもらうことにしたわ」

「マジで!?よかったな!アーシア。俺の友達、たくさん紹介してやるからなっ!アーシアなら一杯友達できるって!!」

 

アーシアの手を握って振り回す兵藤。

 

「よかったな」

 

俺もアーシアに声をかけてやる。

 

「はい!!皆さんのおかげです!これも主のお導きに違いありません!主よ、感謝します」

 

手を合わせて祈りのポーズをするアーシア。

だが・・・・

 

「あうっ!」

「どうした?」

「・・・頭痛がします」

「当り前よ。悪魔が神に祈ればダメージくらい受けるわ」

 

うむ。当然だな。

それにしてもアーシアの信仰心は凄いな。

はぐれエクソシストの『悪口ノート』とは大違いだ。

 

「うう、そうでした。私、悪魔になっちゃったんでした。神様に顔向けできません」

 

複雑そうな顔をするアーシア。

だが―――

 

「「後悔しているのか(かしら)?」」

 

俺とグレモリーが同時に尋ねる。

 

「いいえっ!!」

 

そうやって笑う彼女の笑顔には以前の陰りは微塵も感じられなかった。

 

 

 

 

 

四人で談笑していると木場、姫島、塔城の三人が入室してきた。

 

「おはよう。やっぱり無事だったんだね、青江君」

「驚かないんだな」

「うん、信じてたからね」

 

そう言って爽やかに微笑む木場。

ずっきゅーん

・・・・なんか、いろいろ気にするのやーめた。

そうだよ、俺は自分のやりたいようにやる。

気に障るものは全て潰す。

立ちはだかるものはことごとく踏み潰す。

俺はそうやって生きてゆく。

 

「ごきげんよう。あら、みんな揃いましたわね?」

「おはようございます先輩スイーツは『ここに』」

 

息もつかずにあいさつからスイーツについて尋ねてくる塔城。

俺は左手に持っていた箱を差し出す。

 

「・・・確かに」

「中身はマカロンだ。全員分ある。姫島先輩、紅茶でも入れてくれ」

「はい。わかりましたわ」

 

みんなでテーブルに着き、食べ始める。

グレモリーの作ってきたケーキも加わって本格的なパーティーになった。

 

「っ!?美味しいわ。店でも出せるレベルね」

「本当に、ほっぺたが落ちてしまいますわ」

「すごいです、シュースケさん!!」

「・・・・見事です。すばらしい」

「お前って、ホントに器用だよなぁ」

 

マカロンはみんなには好評だったようで、手放しに褒めてくれる。

最初は節約と暇つぶしの料理だったが、今では趣味と化している。

称賛されて悪い気はしない。

 

「気に入ってもらえて何よりだ」

 

それから余興として兵藤がドラゴン波を、俺が南京玉すだれを披露して場を盛り上げた。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

自分の部屋に帰宅する。

 

「あら、お帰りなさい」

 

顔に黒い羽根がぶつかる。

ダイニングのソファーに座った夕麻が翼を広げてテレビを見ていた。

翼から離れた羽が散乱している。

膝の上には虎徹をのせて背を撫でている。

部屋に入れたのかよ・・・まあいいけど。

 

「羽が散らかっているんだが・・・」

「後で片付けるわよ」

「頼んでいたことはやってくれたのか?」

「洗濯物は取り込んでるわ。あと、掃除機ってのの使い方教えてくれない?」

「後でな。今日はちょっと疲れた」

「お風呂わいてるわよ?」

 

そう言って彼女は風呂場の方を指差す。

 

「・・・・・」

「どうしたのよ、じっと見つめて」

「いや、ここまでやってくれるなんて意外だったから」

「退屈なのよ。迂闊に外に出られないし・・・」

「そうか」

 

夕麻の隣に腰を下ろす。

テレビでは韓流ドラマがやっていた。

やはり、内容は一昔前の少女漫画みたいだ。

主人公の女性が、付き合っているイケメンの、親が決めた許嫁と修羅場っている。

今の日本のドラマが難しすぎるから、年配の人は韓流の分かりやすさに惹かれるのかもな。

 

「・・・・おい、羽引っ込めろ。テレビが見えん。邪魔だ」

「もう、せっかくいいところなのに」

 

そう言いながらも渋々羽を仕舞う。

 

「そうだ、学園で余ったケーキ貰って来たんだ。食うか?」

「もらうわ」

「ちょっと待ってろ。今包丁持ってくる」

「いいわよ。ちょっと貸して」

 

そう言って俺からケーキを奪うと―――

ブオン

手のひらに小型の光を作り切ってしまう。

 

「便利だな」

「消せば洗う必要もないし、切れ味も抜群よ」

「知ってる。腹で味わったからな」

 

 

 

 

二人でぼーっとテレビを見ながらケーキをつまむ。

 

「そういえばな、今日アーシアが転校してきた」

「っ」

「悪魔に転生したそうでな。神器も戻っていたよ」

「・・・・そう」

「ああ」

 

いろいろ複雑なのだろう。

 

「晩御飯、冷蔵庫にあるモンでカレーにするけどいいよな?」

 

嫌だって言っても作るが。

 

「甘口にしてよ」

「俺は辛口派だ。安心しろ、卵やらリンゴやら蜂蜜やら、甘くする方法はいくらでもある」

「ならいいわ」

「なぁ~~~お」

 

虎徹が伸びをして立ち上がる。

 

「虎徹にずいぶん懐かれたな。こいつ人見知り激しいんだぜ?」

「虎徹?この猫の事?この子メスよ」

「・・・・・なんだと?」

「洗濯物干してたらベランダに入って来たの。すり寄って来たからこの家で飼ってるのかと思って」

 

それどころではない。虎徹がメスだと?

どうしよう、名前を変えるべきか?

 

「虎徹、おまえは虎徹で満足か?」

「何わけわかんない事言ってるのよ。あ、そうそうこれ」

 

そう言ってソファーに転がっていた剣の柄を渡してくる。

 

「なんだ?」

「私の光の力、強めに込めておいたから。はぐれ達の持ってたやつより強いはずよ」

「へぇ。サンキュー。有難くもらっとくわ」

 

収納しやすい武器が手に入ったのは嬉しい。

銃も拾って来ていたが、日本で持ち歩くわけにもいかない。

 

ドラマは彼氏のお母さんが乱入してきたところで終わった。

 

「んじゃ、そろそろカレー作り始めっかな」

 

俺は今日の晩御飯の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 




修正しました。
三人→四人


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戦闘校舎のフェニックス
第十話


うーん、今回も場面のつなげ方に失敗した。



「うおぉぉぉぉぉぉっ」

 

兵藤がランニングのラストスパートをかける。

 

「朝から叫ぶな。近所迷惑だ」

「ほら、イッセー。叫びの割にスピードが落ちてきているわ。しっかりしなさい。あと一キロくらいよ」

 

後ろからグレモリーが自転車でついてきている。

俺と兵藤は早朝の住宅街をジャージ姿でランニング中だ。

肉体を鍛えるにはどうしたらいいかと兵藤から聞かれたので、とりあえず今日は俺のトレーニングに付き合わせている。

 

「ハーレム王に、俺は・・げほ・・なる」

「志は結構だが、今のお前じゃ無理だ。人間の俺より確実に弱い」

「そうよ、悪魔の世界は力が全て。今のあなたは弱いわ。でもだからと言って焦っても駄目。何事も基礎が大事、一歩一歩でも積み重なれば大きな力になる」

「はいっ!!」

 

なんだかんだ言いながらも兵藤は十キロ走り切った。

俺も息は上がっているが、ペースは走り始めから変わらなかったな。

 

「お、まえ、ホントに人間、だよな?」

「マラソン選手のがもっと早い」

「イッセー、あなたの神器は地力がものをいうの。発動させた時を楽しみにして、今は頑張りなさい」

 

兵藤の神器・赤龍帝の籠手は十秒ごとに能力を倍加する代物だそうだ。

何そのチート。

・・・例えばだ。戦闘力一のやつがいるとする。

そいつがこれを発動させると一分後には六十四。

これだけ見ても驚異的だが・・・

もしも修行して五になるとする。

一分経てば三百二十。

修行の効率も規格外だ。

 

「この後はいつもどうしているのかしら?」

「この後は普段なら重り付きの木刀を素振りするんだが・・・今日は兵藤もいるしな。よし、兵藤かかってこい。組手するぞ」

「はあ?」

「面白そうね、貴方の実力を直で見たいわ。アーシアもそろそろ来るころだし、怪我しても大丈夫よ」

 

完全に怪我する事前提だな。

おっ、噂をすれば影。

向こうからアーシアが駆けてくる。

 

「お待たせしましたぁ。・・あう!!」

 

べしゃりと聞こえてきそうなほどの勢いでアーシアが転んだ。

よく転ぶ子だ。バランス感覚のトレーニングをやらせた方がいいかもな。

 

「だ、大丈夫か?アーシア」

 

いち早く駆け寄って兵藤が助け起こす。

アーシア大好きだよな、あいつ。

一度失っているから余計なのかもしれない。

アーシアも頬を赤らめて兵藤に服を払ってもらっているし・・・・。

見るからにお似合いなんだよなあ。

 

「今日はお二人がトレーニングするって聞いて・・・。私も何か出来ないかなぁって」

「くうぅ!この俺が美少女からそんな事言ってもらえるなんて!!その気持ちだけで俺の胸は一杯だぁ!!」

「イッセー、休憩は終わりよ。アーシアもこっちに来なさい。青江君、お願いできるかしら?」

「あ、ああ」

 

妙にグレモリーの機嫌が悪い。

アーシアが来てから態度が刺々しくなった。

さっきとは明らかに態度が違う。

まさか兵藤とアーシアに嫉妬してるのか?

・・・・まさかな・・。

 

 

 

 

「ギ、ギブアップ」

 

俺にキャメルクラッチをくらっていた兵藤がタップする。

 

「七戦七敗・・・イッセーも悪魔化して身体能力が上がっている筈なのにね」

「確かに腕力と打たれ強さはなかなかのモンだ。だが、体の使い方がダメダメだ。下手な筋トレよりもそちらの方に力を入れた方がいいかもしれない」

「なるほどね・・・参考になるわ」

「・・・・・・・・」

「はわわっ、イッセーさんが泡を吹いてますぅぅ!!?」

「おっと、わりい。・・それでな、俺が体の動かし方を覚えるためにこんなメニューを・・・」

「へえ、面白そうね。詳しく聞かせて頂戴」

 

これからしばらく、二人で絶対イッセー改造計画について語り合った。

 

「おおまかにはこんなもんだろ」

「ええ、これから私の方でも悪魔の訓練と並行して取り入れてみるわ」

「悪魔の訓練?」

「魔力操作とかいろいろあるのよ」

 

俺たちが話し終えて振り返ると

 

「イッセーさん気をしっかり!こんなところでお別れなんて絶対いやですぅ・・・」

「・・・・・・」

 

半べそかいて『聖母の微笑み』をかけるアーシアと、膝枕されて気を失っている兵藤が。

 

「なにやってんだ?」

 

 

 

 

 

 

「失礼しまーす」

 

ある日、俺は突然グレモリーに部室に呼び出された。

部室に入ると全員が揃っている。

グレモリーはいつもの様にソファーに座り紅茶を飲んでいる。

木場は読書、塔城は羊羹、姫島は花瓶の水を取り替えていた。

 

「それで?結局どうするのかしら?」

「というと?」

「うちの部活に入るのか、ということよ」

「眷属にはならんがいいのか?」

 

結局俺は彼女の眷属にはならなかった。

そんな俺が悪魔の活動に加わる事なんて・・・

 

「悪魔としての仕事だけがすべてじゃないわ。それに神器持ちを野放しにするのも、土地の管理者として避けたいの」

「・・・分かった。入部させてもらおう」

「そう、それじゃあ入部届を。別にここに縛られなくてもいいわ。掛け持ちもオッケーよ」

 

そう言って渡されたのは羊皮紙と羽ペン。

これはどこに提出されるんだ?

 

「危ない契約じゃねえよな」

「様式美というものよ」

 

初めて持ったが羽ペンというのは使い辛い。

ボールペンでいいだろこんなもん。

 

「そういえば」

 

入部届を書きながらふと

 

「なにかしら?」

「お前らバルパー・ガリレイって知ってるか?教会関係者だと思うんだが」

「いえ、知らないわ。みんなはどう?」

「・・・知りません」

「僕も知らないよ」

「存じ上げませんわ」

「そうか」

 

そんなに有名な奴ではないのか?

だとしたらもう一生見つからんかもな。

 

「それじゃもう一人。『閃光』のバラキエルって奴は?」

 

パリンッ

 

姫島の持っていた花瓶が砕ける。

そして恐ろしいまでの殺気をこちらに向けてきた。

 

「その方がどうしたんですの?」

 

顔は笑みの形を作ってはいるが声は固い。

なんだ?悪魔にとってはやばい奴なのか?

 

「・・・どこでその名前を知ったのかしら?」

「いや、たまたま」

「・・・それは堕天使の幹部の名前よ」

 

なに?人間では無かったのか。

そう言えばミハイルも雑種とか言ってたな。

堕天使の幹部か・・・夕麻に聞いてみるか。

 

「・・・・・・」

 

部室の空気は重い。

どうやらおもっきり地雷を踏んだらしい。

パンパンッ

 

「この話はここまで。青江君、書けたかしら」

「ほれ」

「・・・・・・・確かに」

 

そう言って彼女は羊皮紙を丸めて引き出しにしまう。

 

「なんか、悪かったな」

「いえ、大丈夫ですわ。入部、歓迎いたします」

 

そう言っていつもの表情に戻り微笑む。

姫島と因縁があるのだろう。彼女の前ではこの話はしないようにしよう。

命が危ない。

 

 

 

そんなこんなで俺はオカルト部に入部した。

 

それからの一か月はなんかアホみたいに濃厚だった。

アーシアの転校、そして兵藤家へのホームステイ。

俺、元浜と松田、そして『ミルたん』なる魔法少女の出会いと別れ。

抑えきれない木場へのときめき。

おっぱい紙芝居屋との激闘。

いろいろあった。語りつくすには一つ五千字じゃ足りないだろう。

 

「でなぁ、兵藤のやつアーシアと朝登校してきてさあ。あいつ絶対調子に乗ってるって」

 

コクコク

 

「わかるよ?学園の嫌われ者が急に美少女と同棲なんて浮かれちまうよ」

 

コクコク

 

「夜も一緒に悪魔の仕事してるらしいし、アーシアも好き好きオーラ全開だし」

 

コクコク

 

「それをさ、アーシアが幸せそうな顔で報告してくんのよ。美少女の他の男との惚気なんて―――」

「・・・アーシア先輩の事、気になってたんですか?」

 

今まで黙々と食べていた塔城が突然反応する。

 

「え?聞いてたの?」

「ずっと私に話しかけてたじゃないですか」

「適当に相槌うってるもんかと」

 

だってこっちも見ずに大福食ってんだぜ?

話しかけても頷くだけだったし。

お菓子の差し入れした後の習慣になってたから、最近は話しかけてる感覚じゃなかった。

思い返すとすごく失礼だ。慣れってのは怖い。

 

「悪い。聞き流してるかと思ってずっと一人で喋ってたわ。つまらんかったろ?」

「・・・・いえ、私は元々おしゃべりな方ではないですし」

 

俺は部室のソファーに寝転がり、塔城は隣に座ってお菓子を食べる。

ここんとこの昼休みはほぼ毎日のようにこうしてだらけていた。

 

「それに・・・」

「ん?」

「こののんびりした空気は嫌いじゃないです」

「・・・・」

 

さわっ

気が付くと俺は塔城の髪を撫でていた。

絹の様になめらかで気持ちいい・・・じゃない。

 

「スマン、つい・・・」

 

やばい、なんとなく虎徹を相手する感覚で撫でちまった。

慌てて手をひっこめ―――

がしっ

塔城が手を掴んで引き止める。

 

「お?」

「・・・・嫌ではないです」

「そうか」

 

めっちゃ嬉しい。

顔には出さないが俺の脳内は有頂天だ。

だが塔城はまだ手を放そうとしない。

 

「塔城?」

「嫌ではないです」

「あ、ああ」

「・・・・・・・・・」

 

これは撫でろって事か?

恐る恐る耳の横に手を差し入れ、軽く梳くようになでる。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

塔城の顔を逆さまに見ながら撫でてゆく。

彼女は目を閉じてじっと受け入れている。

次第にエスカレートし、俺は軽く頭皮を掻くように触りはじめた。

カリカリ

相手も大福を手放してされるがまま。

 

「「・・・・・・・」」

 

俺は昼休みが終わるまで撫で続けた。

これが・・・・・・癒しというものかッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、今日はデートしないか?」

「はあ?」

 

二人で洗濯物を畳みながら夕麻に提案する。

 

「何言ってるのよ、そんな事できるはずないじゃない。貴方、私を殺す気?」

「いやな?俺らヤル事ヤったじゃん?」

「んなっ!?あ、あれはあんたが無理やり!!」

「完全に誘ってたろ。ネットでわざわざ濃厚な濡れ場のある映画借りてきて、深夜に二人で見た後香水付けて寝るとか」

「それは・・・その!!」

「最初から寝たふりだったしな」

 

ホントに寝てたら欠伸とかはしないんだよ。

 

「・・・・・・・」

「それに俺の神器もあって最後の方はお前から―――――」

「あー、あー、あー。聞こえない聞こえない。」

 

耳をふさいで背中を向ける。

 

「お前ってボンテージとか着てた割には―――」

「もういいでしょ!!そうです、誘いましたぁ!!すごく期待してました!もういいでしょ!?」

「まあ聞け」

 

立ち上がろうとした彼女の手を掴んで引き止める。

 

「そんな俺たちがだ、デートは一回しかこなしてない。いろいろすっ飛ばし過ぎだろう?」

「それは・・・て、提案は魅力的よ?でも私は―――」

「じゃーん。この黒縁メガネと帽子を被れば大丈夫だって。一人じゃあ駄目かもだが、一緒なら俺がフォローできる」

 

暗い聖堂内で初対面のヤツとの戦いだったんだ、兵藤も顔の記憶はおぼろげだろうし。

話を聞く限り、木場も塔城も直接対峙していない。

 

「な?俺とデートしてくれよ」

 

 

 

 

「鍵かけたか?」

「ええ」

 

二人で部屋を後にする。

夕麻は久しぶりの外出で緊張しているのだろう。

声は硬い。

 

「前回のデートをもう一回辿ってみるってのでいいか?」

「そ、そうね」

 

いくらなんでも緊張しすぎだろ。ガチガチじゃねえか。

 

「ほら、いくぞ」

「え!?ちょっ」

 

もじもじしていた夕麻の手を掴んで引っ張る。

料理の練習をしている彼女の手にはいくつか絆創膏が貼られていた。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ~~、何名様ですか?」

「二名で、窓際空いてるか?」

「・・・・・」

 

俺たちは前回と同じ喫茶店をえらんだ。

しかし、席に着き注文をした後お互い無言だった。

夕麻もうつむいたまま、おしぼりを開いたり畳んだりしている。

 

「・・・どうした。やっぱり嫌だったか?」

「そうじゃない!・・そうじゃないのよ」

「・・・」

「私は貴方を騙すつもりで近づいた。でも、途中から楽しくなって・・・自分が演技をしているのか素で楽しんでるのか分からなくなってた。だから、だから分かんないのよ!!前回とどう違えば本当の自分なのかっ!!」

「・・・・・」

 

それきり彼女は再び口を閉じ、うつむいてしまう。

 

「お待たせしましたぁ。ご注文の品をお持ちしました・・・・あら?お客様、前も女の子といらしてませんでした?まさか浮気?」

 

料理を運んできたウェイターが話しかけてきた。

どうやらひと月前のことを覚えていたらしい。記憶力いいな。

 

「ちげえよ。おんなじ子だ」

「そうなんですか、よかった。でも喧嘩は駄目ですよ?お二人が一か月前も楽しそうでしたから、スタッフでこっそり噂してたんです。頑張ってくださいねっ」

 

そう言ってウィンクしたウェイターはニヤニヤしながら厨房へ戻っていった。

夕麻と顔を見合わせる。

 

「「・・・・・プッ」」

 

「クククク」

「あはははは」

 

二人で笑い合う。

 

「なんか、悩んでるのがアホらしくなったわ」

「だな」

「いいわ、こうなったら思いっきり楽しんでやる!!」

 

そう言って彼女はチョコパフェをかきこむ。

 

「お手柔らかにな・・クク」

 

 

予定通り、俺たちは前回の再現をした。

結果?

 

 

 

野暮なこと聞くんじゃねえよ、分かんだろ?

 

 

 

 

 

 



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第十一話

~sideアーシア~

 

「こうやって一度五十から六十度のお湯で急須を温めます―――」

「なるほど」

 

姫島先輩とシュースケさんがお茶の入れ方についてお話しています。

シュースケさん真剣な顔、姫島先輩は微笑んでメモを取る様子を見ています。

お二人とも大人びてるのですごく絵になりますね。

 

シュースケさんは私の恩人です。

あの時、私の過去について詳しい事は話していませんでした。

でも、あの時の言葉で私は前を向くことが出来たんです。

彼がいなければ、私は自分の過去をイッセーさんにお話しするなんてできなかったでしょう。

いいえ、それ以前にあの公園で男の子に力を使うことができなかったかもしれません。

大した傷じゃないからと言い訳して。

事実私はシュースケさんを見つける前に、怪我している人を見て見ぬふりしてしまいました。

最初にシュースケさんを見つけた時も足がすくんでしまって・・・

彼の目が覚めた時もその事ではなく、罪悪感が薄れたことにほっとしたんです。

なんて悪い子なんでしょう。

 

「青江君、もう少し浸出してください」

「結構長いんだな」

「あと一分ほどですわ」

「・・・ん?どうしたんだ、アーシア」

「いえ、その・・・何でもないです」

 

はわ、じっと見つめていたのがバレてしまいました。

 

「アーシアちゃんも一緒にどうかしら?」

「私ですか?でも、お二人のお邪魔に」

「大丈夫ですわ。ね?青江君」

「ああ、もちろん」

 

三人でテーブルについてシュースケさんの作ったお団子と姫島先輩の入れたお茶を頂きます。

相変わらず美味しいです。ほっぺが落ちちゃいます。

 

「美少女二人とお茶会か。入部した甲斐があったってもんだぜ」

「あらあら、お上手ですわね。褒めても何も出ませんわよ?」

「世辞じゃないさ。二人は今まで会った中でもトップクラスだ」

 

はう、そんな風に言われると照れてしまいます。

姫島先輩も顔が赤くなってて満更でもなさそうですし・・・

でも、私はシュースケさんといるとドキドキするというよりは安心・・・でしょうか?

イッセーさんといるときはドキドキして胸が張り裂けそうなのに、シュースケさんだとホッとします。

褒められても、お婆ちゃんに褒められた時みたいな照れくささです。

お兄さんがいればこんな感じでしょうか?

 

「・・・・・面と向かって言われると照れますわね」

「照れてくれ。口説いてんだ」

「そこまで言われるほど何かしてあげた事があったでしょうか?」

「感謝してるんだぜ?俺とアーシアをすぐに受け入れてくれたここにはさ」

 

はい、みなさん本当に簡単に受け入れてくれました。

元聖職者、敵側にいた私でさえ。

 

「私も、妹と弟が増えたような気分ですわ」

「じゃあ兵藤は?」

「『手のかかる』弟でしょうか」

「クククク、ちがいねえ」

 

よかった。姫島先輩はイッセーさんの事好きじゃないんだ。

とっても綺麗だからイッセーさんも夢中になっちゃうんじゃないかと。

 

「しかし弟かあ・・・男にはなんねえの?」

「それは、これから次第という事で」

 

な、なんだか大人な会話です。

私もこれくらいイッセーさんにグイグイいった方がいいのでしょうか?

後で青江さんに聞いてみます。最近よくお話を聞いてもらってるんです。

がんばりますよー。むんっ!!

 

「??どうしたんだ?ガッツポーズなんかして」

 

~sideout~

 

 

 

 

 

 

 

「グレモリー先輩の悩み?」

「最近部長よくぼーっとしてるだろ?なんていうか、心ここにあらずみたいな」

「そうだね。部長の悩みか・・・。多分だけどグレモリー家に関する事じゃないかな?」

 

木場と兵藤、アーシアと部室に向かっていると兵藤が「部長って悩みがあるのかな?」と聞いてきた。

確かに最近の彼女は如何にも悩んでますって感じだった。

ふむ、グレモリー家ねえ。

 

「やっぱ名家なのか?」

「うん。滅びの力を持つ一族で、現魔――――」

「どうした?」

「・・・僕がここまで来て初めて気配に気づくなんて・・・」

 

木場が冷汗をかいている。

尋常な事態ではない。

 

「ん?二人ともどうしたんだ?」

 

アホの兵藤が気にせず部室のドアを開ける。

室内にはグレモリー、姫島、塔城、そして銀髪のメイドがいた。

 

・・・メイド!?すっげぇ、初めて見た!!

アニメとかで見るなんちゃってじゃない。ホントのメイドだ。

室内の空気は重い。グレモリーは機嫌が悪そうだし、姫島は冷たい笑みを浮かべている。

塔城は・・・関わってくれるなと言わんばかりに端で小さくなっている。

いいなあ、俺もそっち行きたい。

アーシアも兵藤の後ろに隠れてた。

 

「全員そろったわね。では、部活する前に少し話があるわ」

 

真剣な顔つきで口を開く。

その瞬間、床が輝きだし、魔方陣が現れる。

ゴウッ

火柱が吹き上がり、室内が熱気に包まれた。

 

「ふう、人間界は久しぶりだ」

 

出てきたのはスーツを着崩したイケメン。

ワイルド系ホストって感じだ。

 

「愛しのリアス、会いに来たぜ」

 

ほう?

 

 

 

 

 

話をまとめるとこいつは由緒正しいフェニックス家とやらのボンボン。

グレモリーとは親が決めた許嫁で、彼女自身は乗り気でない。

ザックリまとめるとありきたりでつまらん感じに思えてくるな。

 

「でな?今日はドーナッツにしたんだ。しかもおからで作ってるから低カロリー」

「もふもふ・・・なるほど。おからとは可能性が広がります。ですが蜂蜜はもう少し入れるといいのでは?」

「ふむ・・・あんまり入れすぎると胸やけがしてきてな?」

「でしたら――――」

 

塔城と今日のお菓子について語り合う。

正直、彼女が誰と結婚しようが俺には関係ない。

つーかめんどくさい

 

「リアス、彼らも君の下僕なのか?」

「気にしないで」

「あの子、可愛いな。君の眷属は美人ぞろいだ。結婚の暁には眷属ともども可愛がってやるよ」

 

よし、殺そう。

俺の癒しを奪う者、それ即ち万死に値する。

いかなる手段を賭してでも貴様を絶望の極限に叩き落とそう。

 

「純血の上級悪魔の新生児、君だってその価値が分からんわけじゃないだろう?」

 

ボンボンがグレモリーを説得している。

確かに奴の言うことは正しい。

数少ない純血が貴重なのは当然だ。

だが死ね。

 

「私は私が選んだ人と結婚する。貴族にもその権利くらいあるはずよ」

「ちっ、俺は人間界が好きじゃない。汚い炎、濁った風。炎と風を司る者としては耐え難い。それを我慢してわざわざ来てやったんだ・・・・手ぶらで帰れるわけがないだろう!!」」

 

ボンボンが全身に殺気を漲らせる。

 

「「「「「っ」」」」」

 

俺とメイド以外の全員が戦闘態勢に入った。

メイドは手を出すつもりは無いらしい。

俺?無理無理、人間が上級悪魔なんかに勝てるわけないだろ。

メイドとトークでも楽しむさ。

 

「なあ、アンタ」

「グレイフィアとお呼びください」

「じゃあグレイフィアさん。あんたやっぱりメイドなんだよな?」

「はい。リアス様のご実家でメイド長をやらせていただいております。見たところ貴方はお嬢様の眷属ではないようですが」

「俺は青江秀介。神器をもっててな、いわゆる監視下にあるってやつだ」

「そうでしたか。お嬢様もお役目を果たされているようですね」

 

そう言いつつも鉄面皮は崩さない。

さすがメイド長。やっぱメイドはこうでなくちゃな。

ドジっ子メイドなんざ現実では即クビだ。

 

そもさん、メイドとは何か?

 

説破。メイドとはすなわち主を補佐するもの、サーヴァント。

スレイヴではない。ましてやマスコットでも。

主が間違った方向を向いていれば正しい道へと導き、主に足りないものがあればそれを補う。

故に主の人生を大きく左右するもの。生半可な能力では務まらない。

自己研鑽も絶えず行う、元来高貴なものにしか許されなかった名誉職。

その生き方こそが、そしてかすかに垣間見える何気ない色気、それこそが至高!!!

 

「故に、俺はミニスカパンチラメイドなど断じて認めない!!!!!!!!」

「いかがされました?」

 

グレイフィアさんが変わらぬ鉄面皮で尋ねてくる。

心なしか冷たさが増していた。

 

「いや、何でもないです」

 

視線に耐えかねて目をそらす。

いつの間にか周りの空気は最早一触即発となっていた。

グレイフィアさんはため息とともに言葉を発する。

 

「皆様、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、私も黙ってみている訳にもいかなくなります」

 

その一言で全員が硬直した。

 

「やれやれ、流石に俺も最強の女王は怖い」

 

その言葉を皮切りに全員が構えを解いた。

このメイド、そんなにすごいのか?

 

「お嬢様、こうなる事は旦那様方も重々承知でした。正直に申し上げますと、これが最後の話し合いの機会だったのです。これで決着がつかない場合のことを皆様方は予測し、最終手段を取り入れることとしました」

「最終手段?」

「ご自身のワガママを押し通すのでしたら、『レーティングゲーム』にて決着をつけるのはいかがでしょうか?」

「なんですって!?」

 

レーティングゲームって確か成人悪魔のガチンコバトル・・だっけ?

 

「俺は構わないよ。俺は既に何度か経験しているし、実際に勝ち星もある。断る理由は無い。リアス、君はどうする?」

「もちろん受けるわ。こんな機会ははない。このフザケタ縁談はこれで終わらせるわ!!」

「予想通りだな。・・・だが、君の眷属はそれだけかい?」

 

パチンッ

ボンボンが指を弾く。

と、同時にまたもや床が光りはじめる。

千客万来だな。

紋章は赤い。が、グレモリーの物ではない。

そして魔方陣からは――――

 

出るわ出るわ、鎧の美少女、魔導士、双子、etc・・・

美少女が総勢十五人。

よくここまで揃えたな。

 

「これが俺の可愛い下僕たち。十五人、フルメンバーだ。」

 

ハーレムですね、分かります。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおん、おんおん」

 

兵藤が大号泣している。

そうだよな、お前の夢だもんな。

俺だって羨ましい。

 

「お、おい、リアス・・・。この下僕君、俺を見て大号泣しているんだが」

 

ボンボンもさすがに引いたのか顔を引き攣らせている。

 

「その子の夢がハーレムなの。貴方の眷属を見て感動しているのね」

「「「きもーい」」」

 

それを聞いたボンボンの眷属たちに兵藤はボロクソにけなされた。

更に、あろうことか奴はハーレムの一人とディープキスを始める。

うまい。

相手の女は確実に感じている。

 

「んうっ、あふ・・」

 

足を絡ませてあえぐ。

兵藤は前かがみになっている。

俺もちょっとドキドキする。

夕麻とはよくヤッっているが、他人のを見るとまた新鮮だ。

童貞の兵藤にはなおさらだろう。

 

「お前じゃ、こんな事一生できまい。下級悪魔くん」

「俺が思っていることそのまんま言うな!畜生!ブーステッド・ギア!!」

 

ブチ切れた兵藤が右手に赤い籠手を出現させてボンボンを指差す。

そういえば初めて見たな、赤龍帝の籠手。

 

「お前みたいな女ったらしは部長には不釣り合いだ!!」

「は?おまえ、俺にあこがれてるんだろう?」

 

その通り。兵藤、お前は自分の夢を否定したぞ?

お前は女ったらしが嫌なんじゃなくて・・・

 

「う、うるせえ!!俺がこの場で全員倒してやらぁ!」

『BOOST!』

 

兵藤が神器を発動させてボンボンに飛び掛かる。

バカか、戦闘力一の奴が二になっただけだぞ?

ヤム〇ャがスーパー十七号に挑むくらい無謀だ。

いや、言い過ぎか。あの二人の差はもっとありそうだ。

 

「ミラ、やれ」

「はい、ライザー様」

 

長い棍を持った少女が兵藤に対峙する。

兵藤め、油断しているな?

少女は一瞬で兵藤の懐に潜り込むと足を払い、宙に浮いた兵藤の腹に棍の先端を叩きこんだ。

 

「へえ」

 

さすが悪魔。なかなかいい動きだ。

天井にぶつかり、床に落下した兵藤はアーシアに癒してもらっている。

 

「君はどうする?なにやら俺に殺気を向けていたが」

「俺は人間だ。バケモノどもと一緒にすんな」

 

俺は夕麻よりも弱い。

まして上級悪魔が相手では瞬殺だろう。

 

「懸命だな」

 

そう言って俺の横を通り過ぎたボンボンは兵藤の前にしゃがみ込んで何事か呟く。

 

「っ」

 

何を言われたか知らないが、兵藤の顔が屈辱に歪んだ。

 

「リアス、十日後でどうだ?この下僕君、使いこなせれば面白そうだ」

「余裕ね。私にハンデをくれるっていうの?そんなの―――」

「ふざけるなよ?リアス・グレモリー」

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

腹が立つ。主従揃ってここまでバカなのか?

 

「お前は絶対に勝たなくてはならない。俺はお前がどうなろうが、そこのボンボンの雌奴隷になろうがどうでもいい」

「おいっ。お前は『黙ってろ』」

「だがな、この勝負にはお前の眷属全員の人生がかかっている」

「それはっ」

 

言われてから気付いたのか唇を噛み締めるグレモリー。

 

「誰かを従えるとはそういう事だ。感情的になるな、大局を見据えろ」

 

塔城も姫島も、もちろん木場きゅんも気に入っている。

一か月の間にこの空間にも馴染んだ。

塔城の癒しは勿論、姫島とのティータイムも楽しいし、木場は言うまでもない。

 

「・・・一番状況をよく分かっているのは君の様だ」

「どうも」

「俺は帰るよ。あ、そうそう」

 

奴は兵藤を再び見下ろす。

 

「下級悪魔くん。君の一撃はリアスの一撃だ。・・・・・そのことをよく考えるといい」

 

それだけ言い残すと魔方陣を起動させて消え去った。

かっこいい。

・・・グレモリーはあいつのどこが嫌なんだ?

 

 

 

俺は全部だが。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、俺は一人で部室にいた。

他のメンバーは強化合宿に行ってしまった。

俺も誘われたが、夕麻を一人にするわけにはいかない。

 

かちゃん・・・・

 

ティーカップの音が部屋に響くぜ。

コンコン

ん?誰か来たようだ。

だが、こんな見た目おんぼろの旧校舎にくる奴なんているのか?

 

「はい」

 

ガチャリ

部室の扉を開く。

廊下には――――

 

「こんにちは、青江秀介君」

 

生徒会長がいた。

 

 

 

 



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第十二話

やった------!!お気に入り100突破!!

今回はこのテンションで書きました。
どっか駄目なとこあったら言ってください。





「生徒会?」

「そうです。リアスから聞いてないのですか?」

 

向かいに座った生徒会長、たしか支取蒼那だったか。

俺の出した紅茶を優雅に飲んでいる。

グレモリーの仕草とダブるってことはこれが上品な飲み方なのだろう。

グレモリーからは何も聞かされていないな。

ここでその名が出るってことは・・・

 

「まさか、廃部か?」

「違います。そうですね・・・支取家、いえシトリー家はグレモリー家やフェニックス家と並ぶと言えば分かりますか?」

 

その名は・・・つまりこいつは

 

「お前も悪魔って事か」

「名乗りましょう。駒王学園生徒会長並びに上級悪魔貴族シトリー家次期当主ソーナ・シトリーです」

 

居住まいを正し、こちらを真っ直ぐ見つめて名乗る。

 

「・・・・その貴族様がここに何の用だ。ここには留守番しかいない」

「私は貴方に用があって来たのです。リアスがオカルト研究部に人間を入部させたと聞きました。神器を持っているから保護すると」

「グレモリー先輩とは仲がいいのか?」

「幼馴染です。公私ともに今現在でも交流があり、この学園も夜はグレモリー、昼はシトリーに役割を分担して管理しています」

 

なるほどね。そういうことか。

つまり生徒会役員もこのオカルト研究会と同じ悪魔集団だと。

みんな、聞いてくれ!!この学校は既に悪魔に占拠されていたんだ!!

な、なんだってー。

 

「クククク」

「どうしたのですか?」

「いや、何でもない」

 

お互いに一息ついて一口紅茶を飲む。

さりげなくクッキーを前に滑らせると「ありがとうございます」と言って齧った。

物を食べる女子は可愛い。眼福眼福。

 

「単刀直入にいいます。生徒会に入りませんか?私の眷属として」

「オッケー」

「・・・即答ですか」

 

グレモリーからは掛け持ちしていいって言われてるし、敵になるってわけでもなさそうだ。

 

「俺の値段は兵士一個だそうだ。お買い得だぜ?」

「眷属になるという事は人間ではなくなるという事です。ご家族やご友人とは流れる時間が大きく異なるという事を本当に理解しているのですか?」

「俺は天涯孤独だし、友人も人外の方が多い。構わんさ」

 

俺の真意を伺うかのように目をじっと覗き込んでくる。

 

「本当にいいのですね?」

「ああ」

 

彼女は分かっているのだろう。

眷属にするという事はこれから何千年もの時間を共に過ごし、主として責任を持つことであると。

 

「おっと、大事なことを聞き忘れてたわ。あんたに目標なんかはあるのか?ただ貴族としてふんぞり返ってる奴に興味は無いぜ?」

 

彼女はほんの少し驚いた顔をすると

 

「はい、あります。とても大きく、とても困難な目標が」

 

さっきまでの切れ者の雰囲気ではなく、挑むかのような表情でそう言った。

 

「ならいい」

「内容は聞かないのですか?」

「アンタのその表情で十分だ。中身は眷属になってからのお楽しみってことで」

 

内容はぶっちゃけどうでもいい。

俺自身に目標みたいなものは無い。

誰かの夢を手伝うのもまた一興だろう。

悪魔の人生は長い。

悪魔化の切っ掛けとして、そして当面の目標となるなら一石二鳥だ。

いざとなったらはぐれになってもいいしな。

 

「・・・・分かりました。では―――」

「待ってくれ。悪魔化ってのは死者にもできるんだよな?」

「ええ。厳密には転生ですから」

「実際の悪魔化は少し待ってもらえないか?・・・そうだな、グレモリー先輩のレーティングゲームが終わるまで」

「こちらは構いませんが・・・。何かするつもりですか?」

 

警戒しているな。目つきが鋭くなった。

 

「なあ、アンタはこの縁談に賛成か?」

「・・・・上級悪魔の新生児の価値は計り知れません。私自身も彼女と似た様な境遇です。これが貴族として生まれた者の宿命と割り切るべきだと理解しています。・・・ただ―――」

「ただ?」

「友人としては気に食わないですね」

「クククククク、やっぱアンタいいわ。眷属となるのは約束しよう。だが、タイミングは俺に決めさせてくれ」

「いいでしょう。では明日、生徒会役員の紹介をします。明日の放課後、生徒会室に来てください」

「わかった」

 

話はそれきり途絶え、二人そろって紅茶とクッキーを齧る。

外では部活をしている連中の掛け声が響いている。

お互い無言だが、気まずい訳では無い。

ゆったりした時間が流れてゆく。

 

「では、私はこれで」

 

紅茶がなくなると、彼女は立ち上がり扉に向かった。

俺も立ち上がり、彼女を先導したのち扉を開けてやる。

 

「それでは明日、お待ちしています」

「あいよ」

 

バタン

 

扉が閉じてまた室内は俺一人となる。

 

「生徒会、ねえ・・・」

 

いつものフカフカソファーに転がり天井を眺める。

夕麻にはなんて説明しようかな?

すっかり俺の部屋に馴染んでいるが彼女は堕天使。

俺が悪魔になればどんな反応をするのだろう・・・

 

「・・・眠い」

 

さっきの会長との間に流れた空気がまだ残っている。

そいつは初夏のぽかぽかした陽気と相まって俺を眠りへといざなうのだった。

・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、青江。俺たち付き合うことになったんだ」

 

目の前の兵藤が木場の肩を抱いて言う。

 

「は?な、なんで?」

「合宿中、一緒にお風呂に入ってたらさ、こいつがあんまり綺麗でさぁ。・・・つい、我慢できなくて襲っちまった」

 

そう言って爽やかに笑う兵藤。

 

「イッセーさん。わ、私イッセーさんのことが好きです!!・・・だからっ」

 

アーシアが涙目で兵藤に告白する。

兵藤は驚愕に目を見開いた。

だが、悲しそうな顔で

 

「ごめん、アーシア。気持ちはすっごく嬉しい。でも、俺が本当に愛してるのは――――こいつなんだ」

 

そう言った。

 

「っっっ」

 

泣き崩れ、おえつを漏らすアーシア。

兵藤はそれを悲しそうにじっと見つめていたが、ふと俺の方に向き直り

 

「青江は俺たちの事、祝福してくれるだろ?」

 

そう言って爽やかな笑顔で―――――

 

 

 

 

 

 

「死ィィィィィィィィィねェェェェェェェェェッッッ!!!!!!!!!!」

 

慌てて飛び起きる。

 

「おのれ兵藤!!俺の木場をぉぉぉぉおおおお!!おのれおのれおのれおのれオノレオノレオノレおの・・・・・・夢か」

 

どうやらあのまま眠っていたらしい。

じっとりとした冷や汗で体が気持ち悪い。

あたりを見回すと、外は既に真っ暗。

あれから夜まで眠っていたらしい。

それにしてもあの夢――――

 

「人生最大の悪夢だ」

 

ここまで恐怖したのはいつ以来か・・・

 

「遅くなっちまったな・・・。夕麻に連絡しとかないと」

 

ケータイを取り出して、夕麻に遅くなる旨を連絡する。

メールを送信し終わった後、ふと――

 

「まさか本当に・・・まさかな。いや、もしかすると俺の秘められた予知夢能力が開花したということも・・」

 

カチャリ

 

焦燥感に駆られて木場に電話を掛ける。

プルルルルルル・・・ガチャ

おお、つながった。

山籠もりじゃなかったっけ?

さすがLTE。

 

「もしもし、木場祐斗です。どうしたんだい?青江君」

「いや、しばらく会ってないからどうしてるのかなと思って」

「こっちは順調に修行しているよ」

「・・・・兵藤と何かあったりしたか?」

「兵藤君?彼も修行を頑張っているよ。昨日の晩は女湯を覗こうとして朱乃さんに電撃、小猫ちゃんに怪力でやっつけられていたけどね」

 

よかった。姫島も塔城も木場も、俺の癒しは大丈夫そうだ。

それから修行の内容や、兵藤の覗き失敗談について会話した。

 

 

 

 

 

 

「悪かったな。こんな時間に電話して」

「いいよ、もう寝るところだったし、久しぶりに君の声が聴けてよかったよ」

 

ぐはっ

こいつはどこまで俺を弄ぶんだ。

 

「じゃあ、切るわ。おやすみ」

「うん。おやすみなさい」

 

ピッ

電話を切って懐にしまう。

 

「・・・・・・・帰るか」

 

部室の鍵を閉めて廊下に出る。

・・・ん?

一番奥の教室から青白い光が漏れている。

 

「まさか幽霊か?」

 

悪魔がいる世界だ。

幽霊がいないという方が無理があるというもの。

足音を忍ばせて教室に近寄る。

 

「この光のちらつきは・・・パソコン?」

 

どうやらこの教室には黒いカーテンが引かれているらしく、中の様子は伺えない。

だが、カーテンの隙間から漏れる光はパソコンの様に思える。

この旧校舎にあるのはグレモリーのオカルト研究部だけのはずだ。

 

「やっぱ誰かいるな」

 

扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。

 

ガチャリ

 

「誰かいるのか?」

「イヤァァァァァァァァァァッッ!!」

 

部屋の中からとんでもない絶叫が聞こえてきた。

女?

気にせず中に踏み入ると、パソコンが中央に置かれていて、コードなどが乱雑に絡まっている。

部屋の印象は女の子の部屋。

ぬいぐるみなんかも飾られていて、中央には・・・

 

「棺桶?」

「ヒィィィィィィィィッ、だ、誰ですかぁぁぁっ!!?」

 

部屋の隅には金髪と赤い双眸をした人形みたいに端正な顔立ちの美少女がいた。

 

「・・・・・こっちが聞きてえよ」

「ゴメンナサイごめんなさいごめんなさい」

 

美少女に歩み寄る。

近くで見ると本当に整った顔立ちをしている。

 

「こ、ここには誰も来ないはずじゃ・・・あっ、夜だから封印が!!どうしようどうしようどうしよう」

 

延々と取り乱した様子で叫んでいる。

 

「うるさい」

 

ゴツン

あんまりにもうるさかったのでついつい手が出てしまった。

 

「ひっ、ひっくひっく・・・うううううううう」

 

息を押し殺しておえつを漏らす美少女。

ああ、ゾクゾクする。

 

「おい、お前」

「ぐす、ひっく」

「ちっ」

 

彼女の顎を掴んでこちらを向け、息のかかる様な距離から目を覗き込む。

 

「お前はだれだ?」

「ううう、いやぁぁぁぁぁッ」

 

相手は目を見開いて絶叫――――

・・・・・・・・・・

・・・・。

あり?

目の前にいたあの子がいない。

声のする方を見れば部屋の隅でぶるぶる震えていた。

 

あ・・・ありのまま今起こったことを話すぜ!

俺はあの子の目の前に立ち、その顔を覗き込んでいたと思ったら、いつの間にか逃げられていた

頭がどうにかなりそうだった・・・

催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃねえ

もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ・・・

 

・・・・・・・・・っと、軽くポルナレってしまったぜ。

だがどういう事だ?

何かされたのは間違いない。

 

「お前、なにをした?」

「怒らないで!怒らないで!ぶたないでくださぁぁぁぁいッ!!」

 

美少女はまだ叫び続けている。

 

「ぶたねえよ」

「さっきぶったじゃないですかぁぁぁぁ!!」

 

そういやそうだった。

 

「もうぶたない、ぶたないから」

「しんじられませぇェェェん!!」

「うるせえ!!あんましつこいとはっ倒すぞ!!」

「ふっ、ぐす・・・・ずびびび」

 

ようやく泣き止んだな。

涙と鼻水でべとべとだ。

 

「ほら、これで拭け」

 

ハンカチで投げ渡す。

 

「ずび、ちーーーん」

 

鼻かみやがった。

ティッシュじゃねえ、ハンカチだぞ?

アメリカ人もよくやるが俺はこれが大嫌いだ。

はあ・・・なんにしてもまずは対話だ。

どうもこいつは俺が近寄るとひどく怯える。

少し距離を離した所から話しかけよう。

俺は彼女とは正反対の隅に腰を下ろした。

 

「で?もっかい聞くぞ?お前は誰っ・・てまずは自分か」

 

自己紹介は自分から。これ社会の常識です。

 

「俺はこの旧校舎にあるオカルト研究会の者だ。名前は青江秀介」

「おか、ると?じゃああなたも先輩の・・・」

 

あなた『も』?

もしかしてこいつ・・・

 

「お前は悪魔なのか?」

「は、はいぃぃぃぃ。も、もしかしてあなたもリアス先輩の・・・・?」

「いや、俺は人間だ。・・・お前、さっきの神器か?」

「っ!?ぐす、そうですぅ」

「すげえな。瞬間移動・・じゃないな。時間停止か?」

「凄くなんてないっ!!ぼ、僕はこんな神器いらない!!こ、これは僕の意志とは無関係に発動する・・・僕のいう事聞いてくれないんだ!!!」

 

突然彼女は怒りと共に絶叫する。

神器が暴走している?

そんなことも起こりうるのか。

神器は魂と半ば同化した存在だ。もしも暴走するとすれば・・・・所持者の感情か。

 

「感情が昂ぶると暴走するんだな?」

「ど、どうしてそれを!?」

「考えりゃ分かる。俺も神器持ちだからな」

「え・・・・」

 

目をぱちくりとさせてこちらを見る、が目が合うと直ぐにうつむいてしまう。

 

「神器って・・」

「ふむ。・・・・どんなものなのかグレモリー先輩にも言ってないんだがな。俺の神器は。自分の受けた致命傷、それを作った攻撃を再現する。ダメージを与えるんじゃない、あくまで再現。極論、メガ粒子砲で半身消し飛ばされても生きていれば撃ち返せる・・・が、外せばそれまでだ。しかも発動の際、痛みも再現されるんだぜ?ハズレだろ?」

「そんなっ・・。使ったことあるんですか?」

「ある。こないだ堕天使の槍をな」

「・・・・・」

「だからお前の神器が羨ましい」

「そんな事言わないでよっ!!みんな停まっちゃうんです!怖いでしょ?気持ち悪いでしょ?僕だってイヤだっ!!と、友達を、仲間を止めたくないよ・・・。大切な人の止まった顔を見るのはもう嫌だ!!もういいんですっ。僕はずっとこの部屋に一人でいますからぁ!!」

 

そう、うつむいたまま叫んだ。

 

「人を止めてしまうのが怖い。だからこの部屋に閉じこもる。人と会わないように・・・か」

「怖いんです・・・。いつか自分の力が全部停めちゃうんじゃないかって・・・・。ぼ、僕一人残してみんな停まっちゃうんじゃないかって!!」

「・・・・・」

 

それっきり黙って再び泣き始めてしまった。

しばらく室内に泣き声が響く。

 

「なるだろうな」

「え?」

 

弾かれたように顔を上げ、こちらを向く。

 

「なるって言ってんだよ。このままいけば、おまえは十中八九周りのものを全て停めてしまうだろう」

「そんなっ!!どうしてそんな事分かるんですか!?」

「お前はまだ若い。これからますます力は増すだろう。だが、神器をコントロールする『お前の精神』は惰弱なまま。当然だ、こんな部屋に閉じこもってるんだからな」

 

精神は他人とのかかわり合いで成長する。

悪魔だろうが、人間だろうが猿だろうが変わらない。

 

「そんな、そんな嘘だっ!!」

「嘘じゃねえよ。お前も薄々分かってんだろ?認めたくないだけで。・・・現実を見ろ」

 

カチカチカチ

彼女は自らを抱きしめて歯を鳴らす。

 

「っじゃあ、僕は、生まれてきたらいけなかったんだ・・」

 

あ?

 

こいつ、なんてった?

 

「お父さんもお母さんも、なんで僕を生んじゃったの?なんですぐに殺してくれなかったの?もう生きていたくない!!ずっとずっと死にたかった!!」

 

ガツンッ!!

最速で彼女に接近し、首を掴んで壁に叩きつける。

 

「かっ、は・・・」

「苦しいか?・・・いいだろう。そんなに死にたいのなら俺が殺してやる」

「・・・・っ!?」

 

彼女は目を限界まで見開いた。

 

「抵抗するなよ?お前の望んだことだ」

「・・かっ・・・ひゅ・・・」

 

首を絞めている腕に力を込める。

確実に殺せるように。だが、首を折る事はしない。ただじっくりと締め付ける。

 

「・・・・・・」

「周りの音が遠くなってゆくだろう?死は終わりじゃない。死は停止だ。他者の記憶の中でお前は今のまま止まる。終わったわけじゃないから色あせない。ただ、脚色された『お前じゃない誰か』として残り続ける」

 

だらりと腕から力が抜ける。

 

「よかったな?誰も止めたくなかったんだろ?願いは永劫叶う。・・・・代償として、お前だけ停止しろ」

 

見開き、もはやどこを向いているか分からない瞳から、涙が一筋落ちる。

 

バサッ

 

次の瞬間、彼女の体は無数の蝙蝠に変わる。

そのまま俺の手からすり抜けた蝙蝠たちは俺の足元に集い、また人の形をとった。

 

「げほっ、ごほ、げぇェェェェ。・・ごほ、嫌だ、死にたくない。おえ・・・みんなと一緒にいだい・・」

 

吐しゃ物を吐き出しながらも生きたいと訴える。

 

俺はゆっくりと彼女に歩み寄り―――

 

「やればできるじゃないか」

 

しっかりとその華奢な体を抱きしめた。

 

「お前は生きたいか?」

「じにだぐない。僕は、僕は」

 

背中をゆっくりと撫で摩る。

 

「お前は生きることを選んだ。異論は認めん。俺の手から逃れたんだ。死にたいと願ったお前はここで死んだ。ここにいるのは生きたいと願うお前だ」

 

今の俺が十歳の時に生まれたように、さっきまでのこいつは死んだ。

死にたいという願いの成就を拒絶して、生きたいと願った。

 

「いいか、よく聞け。確かに今のままのお前では神器の暴走は起きるだろう。予防するにはお前を殺すのが一番だ」

「・・・・・・」

「だが、今のお前は死にたくない」

「・・・・・・」

「生きるためにはどうするべきか?簡単だ。神器を従わせろ」

「・・・・・・どう、やって?」

「外に出ろ。神器とは所持者の精神によりいくらでも変化する。禁手化がいい例だ」

 

俺の神器はあのすべてを失った日に禁手化した。

あの時の俺の欲望を反映したかの様な形に。

 

「最初は何度も周りを停めるだろう。だが、今はまだ取り返しがつくレベルだ。今しかない」

「でも・・」

「俺が手伝ってやる」

「え・・・」

 

ようやく俺と目を合わせた。

じっとその目を見つめて言う。

 

「ここまで傷つけたんだ。責任はとるさ。一緒にいて、お前を強くしてやる」

「ほん・・・とう?」

「ああ」

「どこにもいかない?気味悪がらない?一人にしない?」

「ああ、約束だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すう、すう・・・・」

 

背中に背負った彼女はあの後、泣き疲れてねむってしまった。

あの部屋に一人にする訳にもいかないし、お互いゲロまみれだ。

とりあえず、部屋に連れ帰って夕麻に洗わせよう。

 

「美少女をお持ち帰りなんて、夕麻になんて言おう?・・・あ、悪魔化についてもあったんだ。・・・胃が痛い」

 

 

 

 



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第十三話

「んう・・・」

 

背中に背負った少女が目を覚ます。

 

「起きたか」

「!?ここは、外で・・・うわ、うわ、うわ――――」

「落ち着け」

 

目覚めた瞬間にパニックになって叫びそうになる。

こいつの引きこもりは筋金入りだな。

 

「なんで、僕が、そ・・外に?」

「あのまま旧校舎に放っておくわけにもいかんだろう。お互いかなり汚れてるしな」

「汚れ?・・・・・ご、ごめんなさいごめんなさい!!」

 

顔を赤くして背中で暴れはじめる。

小柄でも悪魔、俺よりも力が強い。気を抜くと落としてしまいそうだ。

 

「落ち着けって言ってんだろ。耳元で騒ぐな、ホントに落とすぞ?」

「でも、僕今汚いです」

「俺は気にしない。それに今さらだ」

「う・・・。じゃあ、その、今どこに向かっているんですか?」

「俺の部屋だ。体洗って、服着替えて、詳しい話はそれからだ」

「・・・・・」

「安心しろ。悪いようにはせん。風呂も同居人にまかせるさ」

 

女の子が男の部屋に連れ込まれて、風呂に入れられるなんて恐怖しか感じないだろう。

 

「同居人?」

「ああ、女の子だ。結構きつい性格だがなんとかなんだろ」

 

 

 

 

 

「元の所に戻して来なさい」

 

玄関に仁王立ちした夕麻が開口一番にそう言った。

 

「いや、犬猫じゃないんだから・・・」

「おんなじよ。寧ろ余計にタチが悪い」

「ひっ」

 

夕麻はじろりと連れてきた子を見下ろす。

見下ろされた彼女は俺の後ろに隠れてしまう。

 

「ほら、怯えてんじゃねえか」

「その子、悪魔でしょ?私もいるのに悪魔をうちに連れ込むなんてあなた正気?」

「・・・・やっぱ分かるか」

「当然でしょ?その子、かなりの力を・・・・っていうか私以上よ?」

 

ふむ、夕麻以上か・・・。こいつは中級堕天使の中でも上の方だと言っていた。

となると悪魔の中でも貴族クラスなんじゃないか?

 

「あ、あの青江・・・さん?」

「あん?」

 

俺の後ろに隠れたまま、服の裾を引っ張ってくる。

 

「この人が同居人さん・・ですよね?」

「そうだ」

「悪魔の事知ってるって・・・」

「こいつは堕天使だ」

「だ・・てん・・・し」

 

愕然とそうつぶやくと俺の服から手を放してしまう。

 

「だ、だましたんですか!?最初からこのつもりで―――」

「あーもー、メンドクサイ!!夕麻、とりあえず中に入れろ。ほら、お前も。信用できんならこれでも持ってろ」

 

無理やり夕麻を押しのけて、少女には愛用の短剣を持たせる。

そのまま少女の手を引いてずかずか踏み入った。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

部屋のリビングに入ると、テーブルにはかなり豪華な料理が乗っていた。

部屋の中も様々な飾りつけがなされており、ちょっとしたパーティーみたいになっている。

 

「なんだこりゃ」

「これは・・・その・・。えっと、わ、私も最近ようやくまともに料理できるようになってきたじゃない?」

「・・・・・」

「それで、助けてもらったお礼というか・・・なんというか・・」

 

そのまま夕麻はうつむいてしまう。

俺は彼女に近寄り頭をくしゃりと撫でた。

 

「お前、ほんっと乙女だよなあ」

 

そのまま髪を梳いてやる。

 

「うるさいわね。やめてよ、髪がぐちゃぐちゃになるじゃない」

 

そう言いつつも払い除けないところがまた・・・

 

「あの・・・」

 

あ、拾って来た彼女の事忘れてた。

彼女はリビングの入り口から半分だけ顔を覗かせている。

そこまで怯えることもないだろう。

・・・いつまでも彼女って呼ぶのも変だな。

 

「お前の名前は?」

「あ・・・・ギャスパー・ヴラディです」

 

ギャスパーか。そんなお化けいたなあ。

 

「お二人は恋人同士なんですか?」

「こ、こいっ!?」

「そうだ」

「え!?」

 

驚いてこちらを向く夕麻。

なんでお前が驚くんだよ。

 

「ちがうのか?」

「え!?でも、え!?」

「まあいいや。夕麻、こいつを風呂に入れてやってくれ」

「あ、あの・・・僕は」

 

二人は動き出さない。

ギャスパーはもじもじしているし、夕麻は―――

 

「え?でも、そんな・・・・えへへ。じゃなくて、え?こ、恋?」

 

なにやら一人でぶつぶつつぶやいて悶えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ~~。ギャスパーにはああ言ったが、どうしたもんか」

 

ソファーに座ってコーヒーを飲む。

二人は今、風呂に入っている。ギャスパーもやたらと抵抗していたが夕麻が無理やり連れてった。

俺は服が汚れていただけだったので着替えるだけで良かった。

 

ギャスパーの神器が暴走するのは彼女自身の精神のせい。

だが、恐らく彼女は他人と接触した経験が極端に少ない。

いきなり学校に通わせてもそこかしこで時間を停めてしまうのがオチだろう。

とりあえずはリハビリを――――

 

「うわあああああああああああああん!!」

 

ドバンッ!!

 

風呂場の扉が勢いよく開かれ、中から胸までバスタオルを巻いたギャスパーが飛び出てくる。

そしてそのまま俺の後ろに回り込むとしゃがんで隠れてしまう。

 

「どうしたんだ?」

 

尋ねてはみるが、ギャスパーは首をふるふると振るだけで答えない。

まさか夕麻にいじめられたのか?心当たりがありすぎる。

サプライズパーティーに失敗して、帰って来たと思ったら見知らぬ美少女を部屋に連れ込む。

俺って実は最低野郎?

 

「なんなのよ、もう!!」

 

続いて頭と体にタオルを巻いた夕麻も出てくる。

 

「すまん、夕麻。今日の埋め合わせは必ず―――」

「その子、神器持ち?」

「・・・ギャスパー、お前また停めたな?」

「う・・・ひっく。ごめんなさあい。でも・・僕・・」

「その子、男の子よ」

 

・・・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 

・・・・・・・。

 

「はあ?」

 

こいつが男!?こんなに美少女で、女の格好してるのに?

 

「おいおい冗談は」

「確かめてみたら?」

「・・・・」

 

ずぼっ

 

「ひゃうっ」

 

タオルの中に手を突っ込む。

 

「ん、く・・・あ・・・」

 

ギャスパーは顔を赤らめて悶えている。

 

「ふ・・あ・・」

「ふむ・・・小さいな」

 

だが、存在している。

彼女、いや彼ことギャスパー・ヴラディは女装少年だった。

 

「まじで??」

 

 

 

 

 

 

 

「んで?なんで女装なんか?」

 

ギャスパーはあのまま服だけを着替えた。

風呂には後で一人で入り直してもらうことにした。

今俺たちは二人でテーブルについている。

夕麻の作ってくれた料理はかなり量を作っていたらしく、一人増えても大丈夫だそうだ。

彼女自身は料理を温めたりしてくれている。

手伝うと言ったが、『お礼にならないでしょ』と断られてしまった。

 

「だって、女の子の制服の方が可愛いんだもん」

「なるほど」

 

確かに似合っていた。

だが、引きこもりで誰にも見せないままの女装癖とは上級者だな。

 

「気持ち悪いですよね?がっかりですよね?せっかく連れてきたのに女の子じゃないなんて・・・。」

「いや、似合ってるぞ?」

「ふぇ?」

「似合ってるって。お前は可愛いよ」

「で、でも、僕男の子だよ?」

「だから?」

 

似合ってて可愛いからいいじゃねえか。

何を気にしてるんだ?こいつ。

本気でさっぱり分からん。

 

「女だから連れてきたってわけじゃない。まあ、下心が無かったとは言わんが、その容姿なら文句なしだ」

「じゃあ、ホントに一緒にいてくれるの?僕を強くしてくれるの?」

 

不安、そしてそれを上回る期待をひしひしと感じる。

 

「お前、俺が説得するために手加減してた。本当はギリギリで放すつもりで、殺す気は無かったとか思ってる?」

「違うんですか?」

「違う。もしお前が抵抗しなければ、俺はそのままお前を殺していた」

「っ」

 

生きるつもりもない、命がかかっているのに自分で何とかしない。

そんな奴に説教垂れるほど暇じゃない。

絶望していながらも、それでも生きたいと抵抗したからこそ俺はこいつが気に入ったんだ。

 

「だが、今の俺はお前が気に入っている。だから約束した。お前にはその価値があると思ったから」

「~~~~~~~~っ」

 

顔を赤らめる姿もかあいいなあ。

 

ドンッ

 

テーブルの上に料理が置かれる。

かなり荒々しく置かれたが、幸いこぼれる事は無かった。

 

「おまちどうさま」

 

夕麻がジト目で睨んでくる。

 

「なんだよ」

「べつに・・・・・この変態」

「・・・・はっはあ~ん。お前、妬いてんの?」

 

ブオン

 

「何か言った?」

「何でもないでしゅ」

 

光の槍を突きつけられた。

幻痛が・・・・ポンポン痛い。

 

 

 

 

 

 

「「いただきます」」

「い、いただきます」

 

まずはシチューをいただく。

うん、ニンジンもちゃんと柔らかいし、鶏肉の味もよく出ている。

 

「うまい。上達したな」

「そ、そうかしら?」

 

しばらくカチャカチャと食事の音が響く。

あら?ギャスパーはうつむいたまま料理に手を付けていないな。

 

「どうした?食べないのか?」

「いいんですか?」

 

ギャスパーは夕麻の方を向いて尋ねる。

 

「いいわよ。どうせ二人じゃ食べきれないし、何気に二人以上の食事って初めてなのよ」

「友達いなかったのな」

「うるさいわね」

「ぼ、僕もこんなお食事は初めてですっ」

「そう。初めてが素人料理で悪いわね」

 

口調とは裏腹に彼女の表情は穏やかだ。

 

「はぐ、もぐ・・・。美味しいです!!」

「ああもうほら、口元からシチューが垂れてるわ。こっち向きなさい」

「ふあ?・・・んぐっ」

 

ギャスパーの口元に付いたシチューを夕麻はティッシュで拭ってやった。

なんだ、結構うまくやってけそうじゃん。

ふと夕麻がこちらを向く。

 

「なによ、その目」

「ん?慈愛の目」

 

 

 

 

料理は本当においしかった。

俺の仕事が無くなってしまいそうで不安になるくらいには。

 

「食ったな」

「ええ、少し食べ過ぎたわ」

 

俺と夕麻は二人でベッドルームにいた。

ギャスパーは風呂に入っている。

 

「で?話って?」

「ギャスパーについてだ」

 

俺は彼女にギャスパーの抱える神器とその問題。

どういういきさつで連れてくることになったのかを説明した。

 

「それでな?しばらくあいつをここに泊めてやりたいんだが」

「ここに?」

「ああ」

「カプセルホテルとかじゃ駄目なの?」

「あいつには対人能力のリハビリが必要だ。幸いにも俺とお前には気を許してくれている。さっきもちゃんと笑えてたからな」

 

食事中にもちゃんと会話に参加していたし、緊張はしていただろうが笑ってもいた。

 

「このまま俺たちに心を開くことが改善の第一歩だと思う」

「・・・・はあ。分かったわよ」

 

渋々といった様子で了承してくれた。

 

「二人きりじゃなくて残念か?」

「そういうわけじゃ―――」

「ほぼ毎日にゃんにゃんしてたもんな?」

 

ここ一か月はホントにほぼ毎日だった。

吹っ切れたのか夕麻の方から誘ってくることもあったし、なかなかハードなものに手を出しつつもある。

 

「それはっ・・・そうね。少し残念だわ」

「やけに素直だな」

「もうあなたに嵌ってるのは否定できないもの」

「クククク、調教の成果ってか?」

「はいはいそうですそうです。私は貴方にめろめろよ~」

 

ここまで開けすけになっていながらも、好意を表すことに照れるというのはツンデレの鏡だな。

 

「お風呂、ありがとうございました」

「おう、ゆっくりつか――――」

 

風呂からギャスパーが出てきた。

良く温まった肌はほんのり桜色に上気している。

今着ているのは夕麻のピンク色のパジャマだ。

なんか、鼻血出そう。

 

「ギャスパー、夕麻が許可してくれた。お前、しばらくここに泊れ」

「い、いいんですか?」

「ああ、俺は学校もあるが夕麻はここから出られない。相手してやってくれ」

「出られない?」

「忘れたか?こいつは堕天使。ここはグレモリーの管轄地だ」

「あ・・・・」

 

得心したという顔でうなずく。

 

「グレモリー先輩にこいつの事、バラすか?」

 

こいつにとっては彼女が主だ。連絡するのが筋だろう。

もしバレたら俺たちはたたじゃ済まない。

 

「し、しません。先輩には感謝してるけど・・・どちらかと言われれば、お二人です」

 

嬉しいこと言ってくれるねえ。夕麻も平気そうな顔をしているが、少し口元が緩んでいる。

 

「じゃ、どこで寝るかな」

 

この部屋にはベッドが一つしかない。

夕麻が来てからキングサイズにしたが、流石に二つ置くスペースは無い。

 

「兄様と姉様は一緒に寝るんですか?」

「兄様?」

 

確かに食事中に『師匠』か『兄貴』と呼べと言ったがそう来たか。

天元突破な兄貴みたいなの想像してたんだが・・・・

 

「だ、だめでしたか?」

 

目を潤ませて上目づかいで見上げてくる。

 

ツー

 

「おっと鼻血が」

「なにやってんのよ」

「・・・そう言うお前も出てんぞ。鼻血」

「「・・・・・」」

 

お互いに指摘しあい、気まずい空気が流れる。

 

「なあ、さっきの話の続きなんだが・・・」

「なに?」

「コロンブス的な提案がある」

「言ってみて」

 

一息。

 

「この世には3Pという言葉がある」

「!?」

 

二人で顔を見合わせて、同時にギャスパーを見る。

 

「??兄様?姉様?」

 

小首を傾げながら見上げてくるギャスパー。

座り方も女の子座りだ。

 

プパア

 

二人同時に鼻血が出た。

 

「その提案、乗ったわ」

「よし、それじゃあ・・・・・・・・・ギャスパー」

「はい?」

 

パンッ

 

二人で合唱。

 

「「いただきます」」

 

俺たちは欲望のままに生きる!!!!

 

「え?ちょ、姉様!?兄様!?・・・・あ、だめ、そこは・・・んう・・・・あ~~~~~っ」

 

 

 

このあと滅茶苦茶ピーした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュンチュン

 

朝チュンは伝統です。

昨晩はめっちゃ楽しんだ。もう、びっくりするくらいハッスルした。

ギャスパーも堕ちた。結構簡単に。

最後は三人で頑張った。何かは聞かないでください。

 

「ん・・・」

 

俺の気配を感じたのか夕麻も目覚めた。

俺たちは俺、ギャスパー、夕麻の順番で川の字で眠っていた。

もちろん全裸だ。

ギャスパーは夕麻の胸に縋り付いて眠っている。

 

「おはよう、起きたか」

「おはよう。・・・・うう、腰痛い」

「昨日は凄かったからな」

「んん・・・兄様・・・姉様・・」

 

夕麻にしがみついたギャスパーが腕に力を込める。

 

「ずいぶん懐かれたな」

「ふふ、この子いいわね」

 

さらさらした金色の頭を撫でつつ呟く。

 

「昼間の間、頼むな」

「しょうがないわね。まかされてあげるわよ」

 

そう言って寝顔を眺める顔はとても穏やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、忘れてた。俺、今度悪魔になるんだ」

「へえ・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

このあと滅茶苦茶にされた。

物理で。

 

ピロートークでは誤魔化しきれなかったか・・・・

 



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男子高校生の休日

更新遅れてすみません。
最近忙しくて・・・。
今回はリハビリ、実験もかねてあえて主人公視点を外しました。
あんましうまくいかなかった・・・。
時間軸は適当です。多分オカ研に入っての一か月の間。
今回初登場のキャラたちはそんなに重要ではないです。
一発屋の可能性も?


ジリ―――パンッ!!

 

目覚まし時計が鳴りはじめると同時に止められる。

止めたのは青江秀介。時計は午前三時を指している。

この日は日曜日、世間一般にもれずこの男も休日である。

 

「ふああ――」

 

欠伸をしながらもしっかりとした足取りでベッドからはい出る。

同じベッドに寝ている同居人はまだ目を覚ましていない。

 

「・・・・・」

 

しばらく同居人の顔を眺めながら暗闇に目を慣らす。

そしてはだけた布団を掛け直してやってから自身は寝室を後にした。

 

 

洗面台でひげを軽く剃って顔を洗った後、歯を磨く。磨いている最中にも洗濯物を分別し、洗濯機を回した。

台所にたどり着いた彼は炊飯器にスイッチを入れて冷蔵庫を開く。

 

「朝は卵焼きに昨日の煮豆の残り、みそ汁とさば缶、納豆ってとこか。昼は・・・チャーハンの作り置き・・っと、そういや夕麻も料理できるようになってきてたな。材料はあるし自分で作れるか」

 

そう独り言をつぶやいて、みそ汁の具になるであろうニンジンやらをきざみはじめる。

料理をしながら自分は冷ご飯をレンジで温めたべる。

 

「包丁もそろそろ研いどくか・・・あ、塩もねえ。二人だと減りが早いな」

 

・・・見事な主夫である。

 

 

 

 

 

 

「さて、朝食はこんなもんだろ。明日は紙ごみを出す日、風呂とトイレは昨日掃除した・・・よし。そんじゃあ次は鍛錬だな」

 

そう言って彼はランニングウェアに着替えてまだ白み始めてもいない外へと繰り出す。

 

~ランニング中~

 

「ふっ、ふっ・・・」

 

~型稽古中~

 

「こぉ~~、ふんっ!」

 

・・・・これはつまらないのでカット。

 

 

 

 

鍛錬を終えた秀介は部屋に戻った。

帰る頃、調度に洗濯機が回り終えるのでそれを干す。

そして自分の作った朝食を食べた。

 

「うむ、今日のみそ汁は会心の出来だな」

 

食事を終えると、彼は自分の分の洗い物を先に済ませておく。

 

時計を確認し―――

 

「・・・そろそろ出るか」

 

そう言って秀介は再び出かける。―――今度は自転車で。

 

 

 

 

~5:00~

 

ざざあぁぁぁん・・・

 

「海だ」

 

海である。

 

「まだ夜は明けてない・・・おけおけ」

 

持ってきた釣竿を伸ばし、慣れた手つきで糸を結ぶ。

多機能性のライフジャケットを身に着け、餌を取り付け準備万端。

 

そう、釣りである。釣りにおいて夜明け時というのは『朝マズメ』と呼ばれ特に釣果の期待できる時間の一つと言われている。

 

「よーう、秀介ェ!今日もやってんなあ」

 

肌を黒く焼いた大男が隣にどっかりと腰を下ろす。

彼は河内遼という直ぐ近くの漁港で働いている男だ。海の漁師だが、河内遼である。

 

「・・・・いつも思うんだが、仕事はいいのか?」

「もう一仕事終えて来たんだよ。さっきまで船の上さ」

「魚を船から降ろしたりとかは?」

「終わったから来てんだ。何時から出てると思ってやがる。漁師さんの早起きを舐めんなよ?」

「はいはい・・・何してやがる」

「いや・・・お、あったあった。」

 

秀介の鞄をあさっていた河内はコーラの缶を見つけると断りもなく開けて飲んでしまう。

 

「おい」

「いいじゃねえか、二本あんだし。もとからそのつもりだったんだろ?」

「っち」

「お、ビーフジャーキーじゃん。これももらうぜ?」

 

目ざとく鞄の奥にわざわざ隠していたものまで見つけ出す。

 

「お前に遠慮という文字は無いのか?」

「お前ェの大層な辞書にゃあ『寛容さ』ってのが載ってんだろ?・・・これうめえな。どこのジャーキーだ?」

「フフン、自家製だ」

 

得意げになって竿を揺らす。

 

「相変わらず無駄に器用な奴だ。何かひとつに絞ったりしねえのかよ?」

「絞る必要が無いからな」

「嫌味な奴・・・・。どうせお前の事だ、女に関しても絞るつもりねえだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さあな」

「けっ、刺されちまえ」

「それはもう経験済みだ」

「あ?なんだって?」

「何でもねえよ」

「ま、俺は真紀ちゃん一筋だがな」

 

真紀というのは河内の奥さんだ。非常に美人でしかも八歳年下である。

そうとも、この世は不条理でできている。

 

「・・・瑠璃子ちゃん」

「ギクッ」

「香澄ちゃん、明美ちゃん、涼子さん・・・」

「まて、分かった。俺が悪かった」

「フン」

 

 

 

 

~12:30~

 

「まずまずか・・・・」

 

時刻は正午を回ったころ、秀介は切り上げる様だ。

釣果はそこそこ。あまり釣っても食べきれないし、ご近所へのお裾分けも限度がある。

季節は初夏に差し掛かっており、この時間帯はうだるように熱い。

秀介の格好は――――アロハに短パン、麦わら帽子にビーサンとある意味正装。

河内はとっくの昔に帰っている。これから寝る等とほざいていた。

ちゃっかりジャーキーのお土産も持って帰っていった。

 

 

 

~14:40~

 

「どうしよう、これからの予定考えて無かったわ」

 

一旦帰宅し、魚の保存、お裾分けを終えた秀介は暇を持て余していた。

近所の神社の石階段に座ってスマホをいじっている。

 

「映画でも見るか?・・・・一人で?それも有りか」

 

どうやら本気で上映時刻を確認しているようだ。

何とも寂しい事を決定しようとしていたその時――

 

「あら?青江君・・・ですわよね?」

「ん?」

 

名前を呼ばれて秀介が振り返るとそこには――――巫女さんがいた。

 

「姫島先輩?その恰好は・・・コスプレ?」

「うふふふ、私の家が神社なのですわ。ですからこれは本物」

「アンタ、悪魔なんじゃ」

「いろいろあるのですわ、いろいろと」

 

そう言って可愛らしく小首を傾げて唇に人差し指を当てる。

 

「謎多きお姉さん系美少女悪魔巫女か・・ありだな」

「そうですわ、青江君これからのご予定は?」

 

ぽむ、と手を胸の前で合わせて彼女はにっこりと尋ねる。

 

「いや、特に。というか時間を持て余してる」

「それはそれは。どうでしょう、これから私とお茶しませんか?先日、美味しいお茶菓子を知り合いの方から頂きましたの」

「それは願ってもない話だが・・・」

「ではどうぞ、お上がり下さいな」

 

 

 

~13:10~

 

「お待たせいたしました」

 

姫島朱乃がお盆にお茶菓子と急須、湯呑をのせて持ってくる。

二人がいるのは姫島家の縁側。

 

「・・・着替えたんだな」

 

彼女は既に着替えており、今現在は薄い黄色のブラウスにジーンズとラフな格好だ。

 

「ええ、境内のお掃除は終わりましたし・・・残念ですか?」

 

そう言って彼女は秀介に少し体を寄せてからかう。

 

「いや、普段は制服姿しか見てないから新鮮だ。大人っぽい雰囲気もいいが・・・なんだ、可愛い服も似合うんじゃないか」

「え?あの・・・・・・」

「先輩の私服見た奴なんてそういないんじゃないか?・・・ふむ、日ごろの行いかな?」

「このジゴロめ・・・ですわ」

 

逆に自分が赤面させられてしまい、俯く。それでも距離を離そうとしないのが年上の意地というもの故か・・・。

 

「ん?なんか言ったか?」

「何でもありませんわ」

 

そう言って子供の様に頬を膨らませる彼女など、学園のものには想像もつかないだろう。

 

「クククク」

「やっぱり聞こえているんじゃありませんの!!」

「前も言ったろ?口説いてるって」

 

 

 

 

 

「今日は何をなさっていたのでしょうか?」

「午前中は釣りだな」

「釣り?魚釣りの事でしょうか?」

「ああ、週末は大体な。今度なんか釣ったら・・・いや、やってみるか?釣り。俺で良ければ教えるぜ?」

「・・・・今日はグイグイ来ますわね」

「すまん、ここまで近しく感じたのは初めてだったから浮かれてるのかもしれん。迷惑だったか?」

「いえ、私だって女ですもの。殿方からそう言って頂けるのは素直にうれしいですわ」

「・・・そうか」

「ええ」

 

会話は途切れ、風が木の葉を揺らす音が唯一の音として二人の間を流れる。

二人は揃ってぼーっと外を眺める。

 

「ふあ・・・」

 

秀介が大きな欠伸をする。

 

「なんだか眠そうですわね」

「釣りのために・・・早起きしたからな・・・・」

「うふふふ、私はお茶を片付けてきます」

「手伝おうか?」

「大丈夫、ここでもう少しゆっくりしていって下さいな」

 

そう言って姫島は一度退室する。

秀介はというと―――

 

「・・・・・・・・・」

 

眠ってしまっていた。

 

「青江君・・・あらあら」

 

彼女はそっと跪き、顔を覗き込む。

 

「眠っている顔は年相応にあどけないですわね」

 

指で頬をつついたり、髪をいじったりして遊んでいる。

 

「起きませんわね。・・・いつも気を張っている感じでしたけど」

「んん・・・」

 

流石にいじりすぎたのか眠ったままの眉間にしわが寄る。

 

「くす、本当に、嫌ではないんですのよ?」

 

 

 

 

 

 

~17:30~

 

「まさかあそこまで無防備に眠ってしまうとは」

 

本当にあのまま数時間眠りこけてしまっていた秀介は未だショボつく目をこすりながら帰路についていた。

 

「姫島も起こしてくれりゃいいのに・・・、ってかなんか髪の毛が明らかに人為的な造形になってるし・・・」

 

ボリボリと頭を掻きながら商店街を歩いてゆく。

 

「あ、塩」

 

どうやらすっかり忘れていたらしい。

きょろきょろと周りを見渡して

 

「駄目だ。いったん戻らねえと。コンビニにも置いてあるかもしれんが高いだろうしなぁ」

 

そう言ってさっきまでの道を引き返すのだった。

 

 

 

 

~18:15~

 

「やめてくださいっ!!」

 

秀介が近道にと路地を通っていると女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「前にもあったな、こんなん」

 

 

 

SIDE 弓月佳代

 

 

どうしよう、どうしよう。

 

私は今、男の人に追われている。

クラスメイトの子に呼び出されたかと思ったらゾロゾロと出てきた人たちに囲まれてしまった。

 

私はいじめを受けている。原因は分からない。もしかしたらそんなものないのかもしれない。

今日私をを呼び出したのはいじめグループのリーダーの子。

不安はあった。でも、行かなければ何をされるか分からない。それにもしかしたら一対一で話ができるかも、どうして自分がいじめられなくてはならないのか分かるかもしれない。

そう思った。でも、現実は―――

 

「はあ、はあ、けほ、」

 

直線では追いつかれるからと入り組んだ路地に入ったのは失敗だった!!

凄く走りにくいし、何より助けを呼んでも誰にも届かないかもしれない。

恐怖で足がもつれる。休日だったのもあって、走るのに適した靴でもない。

捕まればろくな目に合わないだろう。

男の人たちは血走った目でこちらを見ていたし、本当に何をされるか分からない。

 

「あう!!」

 

ついに私は転がっていた酒瓶に躓いて転んでしまった。

誰よ!こんなところに置いたのはっ!?

 

「みーつけた」

「ひっ」

 

声に振り向くと既に二人の男に追いつかれていた。

はやく、はやく立ち上がらないとっ!

だが、意思に反して腰が抜けてしまう。

無様に這いつくばって這う様にして男たちから離れる。

砕けたガラス瓶などで切り傷が出来てゆくが、そんな事よりも今から自分に起こる事の方が怖い。

 

「いや、来ないで!」

「やっと追いついたぜぇ?つっても同じ所ぐるぐる回っただけであんま変わんねえんだけどな?知ってるか?この左の建物の裏がスタートなんだよ」

「そんな・・・」

「待ってな。今仲間呼んでやるから」

 

そう言って男は電話で私を捕まえた旨を報告し始めた。

駄目だ。もう逃げられない。

目の前が暗くなってゆく感じがする。傷の痛みもだんだん感じ始めてきた。

ガチガチと歯が鳴る。

私に触らないで!

どうすることもできず、せめてと体を丸める。

 

「うっ、ひっく・・うええ」

 

涙が止まらない。

今までたまりにたまった恐怖とこれからへの絶望で頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 

「やっと捕まえたんだぁ。あんたらトロくない?」

 

連絡を受けたのか連中と、私を呼び出した子―――新山美香がやってくる。

 

「ほんとにいいんだな?」

「いいって言ってんじゃん。お金もあげるし、パパもあたしには甘いのよ」

「どう・・・して?」

「ん?」

「どうしてこんな事を?」

 

どうして私は虐められるの?どうして今、こんな目にあっているの?

 

「あははははははは。そっか、気になるよね!どうしてかって?・・・う~ん、なんとなくかな?」

「なん・・・と、なく?」

「うんそうそう。なんての?こんなんあそびじゃん」

 

そんなくだらない理由で?私は?

 

 

 

 

 

「やめてくださいっ!!」

 

男の一人が私にのしかかり、顔を近づける。

 

「へえ、いじめられてるって言うからどんなブサイクかと思ったけど結構いけてんじゃん」

 

そう言ってその男は私の頬をべろりと舐める。

もがいて抵抗するが女の力で男に勝てるはずもない。

男の手が私の服に伸びる。

 

「もしもーし。お楽しみ中悪いんだが聞いていいか?」

 

私を襲っている男たちとは反対側からまた一人現れる。

また男の人が増えた・・・。

 

「なによあんた。まさか、正義ののヒーロー気取り?」

「いや、もしかしたら合意の上でのそういったプレイなのかと・・・。前にそれで恥かいちまった」

「・・・・」

 

この人は仲間じゃない!?

 

「助けて!お願い、襲われてるの!」

「そっか、ふむふむ」

 

そう言って彼は私をじろじろと眺める。

何だろう?

 

「よし、おっけー」

「おいおい、まさかまじでヒーローのつもりなのかよ?こっちには五人いるんだぜ?大人しくしとけ、おこぼれくらい―――」

 

男の話は最後まで続かなかった。

顔にキックを受けて吹っ飛んだからだ。

蹴られた男は完全に伸びている。

蹴った男の人―――ううん、よく見れば男の子。私と同じくらい。

彼は私を挟んで四人の男たち、美香と対峙する。

 

「おいおい、本気かよ?」

 

男たちが小馬鹿にしたようにせせら笑う。

しかし彼は全く意に介さず、私に歩み寄ると―――

 

「・・・・立てるか?」

 

彼は私に歩み寄り、手を差し出してくる。

 

「あ、ありがとうございます・・・」

「走って逃げろ。俺が来た方を右に折れて直進すれば大通りだ」

 

彼の手につかまって立ち上がろうとするが、うまく立ち上がれない。

 

「どうした?まさかくじいたか?」

「腰が・・・ぬけちゃって」

 

自分の体じゃないみたいに思える。

 

パアン!!

 

「ひゃう!」

 

私は突然彼にお尻を叩かれた。

 

「な、なにするんですか!?」

「立てたろ?」

「あ・・・・・はい」

「んじゃ、ダッシュでゴーだ」

「は、はい!!」

 

私は脇目もふらずに駆け出す。

必死だった。彼の事なんて頭になかった。

脇目もふらず、私は駆けだしたのだった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

路地裏に男たちのうめき声が満ちる。

 

「まあ、こんなもんか。後二人・・・」

「な、何なのよアンタ!!」

「待て、美香!こいつやべえ、こいつ駒王の青江だ!」

「はあ?だれよそれ」

「最近やってきて、あっという間にこのあたりの有名グループを根こそぎ叩き潰したっていう『駒王の悪魔』だ!あまりの外道さ、残酷さ、鬼畜具合から一度対峙すれば夢にまで現れるって。噂ではヤクザとも太いパイプをもってるとか」

「何その中二病みたいな名前・・・俺そんなふうに呼ばれてたの?ネーミングも安直すぎるし、改名を要求する!」

 

実際のところ彼に不良を討伐した覚えはない。

なんかからんでくる集団がいたから返り討ちにしたという位のものである。

だが噂が噂を呼びあいつを倒せばこのあたりのトップだといわれるようになり、名を売ろうとしたバカも現れる始末。

しかし、祓魔師なんて戦闘のプロを叩きのめせる彼に地元の不良が叶う道理はない。

 

「じゃあなんでその悪魔が正義の味方ごっこしてんのよ!?」

「知らねえよ、俺は逃げる!こんなとこで死んでたまるか!」

 

最後に残っていた男も逃げ出してしまった。

路地には倒れた男たちと美香のみが残される。

 

「ちょっと、待ちなさいよ!」

「なあ」

「ひっ、あ、あたしの家は政界に影響があるほどの名家なんだからね!こ、こんなことしてただじゃ済まないわ!アンタは正義の味方じゃなくて犯罪者になるのよ!」

「正義の味方・・・ねえ?はっはっはっは。残念ながらパパの仕事は必要ない」

「はあ?」

「ちょっと二度手間なことがあってイライラしててな?八つ当たりみたいなもんだ。それに助けた子も可愛かったし、好感度あがったと思うし・・・一石二鳥だな」

「なによそれ・・・じゃあ、あたしは見逃してもらえるの?お金なら好きな額言ってよ」

 

秀介が義憤に駆られて介入したわけではないと分かると、落ち着きを取り戻したのか強気に戻る。

どうやら今までの男と同じく金で何とかなると思ったのだろう。

だが―――

 

「ふむ、お前もなかなか・・・よし」

「え?きゃあっ!」

 

突然秀介は美香の事を押し倒す。

 

「な、何するつもりよ!」

「何って、ヤるんだよ」

「はあ?ふざけないで!離してよ!」

「おお、これで一石三鳥だ」

 

実に楽しそうに美香の服に手をかける。

 

「うそよね?冗談でしょう?」

「ククク」

「い、いや・・・・やめてえええええええええええええええっ!」

「はっはっはっはっは」

 

どうやらあだ名は『悪魔』で問題なさそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~20:30~

 

「今日はなかなか有意義だったな。写真も撮って脅したしダイジョブだろ。・・・・・・・・・・まさか、あれでMッ娘だったとはなあ」

 

既に日は暮れており、秀介は蛍光灯に照らされたアパートの階段を上る。

 

「ただいま~~」

「おかえり。遅かったわね」

 

エプロンで手を拭いながら同居人―――夕麻と呼ばれる少女があらわれる。

 

「まあ、ちょっとな」

「ふ~~ん。休日は満喫できたかしら?」

「ああ、ばっちしだ」

「そう。それは何よりね。釣ってきた魚、フライにしたんだけど・・・先にお風呂入る?なんか汗臭いわよ」

 

そりゃそうである。

 

「あ、あ~~~~。うん、先に風呂入ろうかな?うん、汗臭いし。そうしよう」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

~21:00~

 

「あぶねえな。危うくばれるとこだった」

 

そう言って湯船につかるサイテー野郎。

 

「ま、今回はセーフってことで。あーあ、明日から学校かあ」

 

そう言ってだらーっと全身を伸ばす。

この湯船はなかなかに大きく、秀介が部屋を選ぶ際のキーポイントとなったところでもある。

 

「明日は兵藤の鍛錬に付き合って・・・ああ、姫島になんかお礼しねえとな。塔城へのお菓子は冷蔵庫にあるし、宿題は・・・ないな」

 

この男ふだんからかなり長風呂であるため、次の日の予定も風呂で立てている。

だがそのほとんども女関係な事に彼自身気付いているのだろうか?

 

「ねえ、秀介」

「あん?」

 

脱衣所の方から夕麻が彼に声をかける。

刷りガラス一枚を隔てて洗濯物を分けている夕麻の姿が秀介にも伺えた。

 

「なんだ、一緒に入るか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「どうした?」

 

姿は見えるのに反応が無いことをいぶかしんだ秀介が尋ねる。

 

「・・・・・ポケットの中からうっすぃーのの包みがでてきたんだけど。カラの」

「あ」

 

因果応報、天罰覿面、NICEBOAT・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE ???

 

「ただいま」

「どうしたんだ、美香!こんな遅い時間まで、何をやっていた!!」

「ああ、うん」

「パパもママも心配したんだぞ!」

「ああ、うん」

「まさか、男か!?ゆるさんぞ!新山家の長女がどこの馬の骨ともしれん男と!」

「ああ、うん」

「美香?おい、聞いているのか!?」

「うん?パパいたんだ。あたし、今日はこのまま寝るね」

「は?おい、美香!!」

 

バタン

 

「・・・・・やだ、まだ体から彼の匂いがする。・・・・・・・はう、秀介さま・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話

深夜十一時三十分、オカルト研究部の部室。

俺はスマホで新しい友達とメールのやり取りをしていた。

ネット上で知り合ったんだが、ビックリする位意気投合した。

今度気の合いそうな友人を紹介する目的でオフ会を企画している。

 

ボンボンとのレーティングゲームまであと三十分。

グレモリー眷属はみな思い思いに決戦の時を待っている。

まあ、俺自身は緊張する理由もないので気楽なもんだ。

 

「みんなが寝静まった頃~♪」

 

歌なんか歌ってみる。

緊張感?

そんなもん俺が出さなくてもみんな自分で感じてるだろうよ。

それにあれは最低限は必須だがそれ以上は邪魔にしかならん。

 

 

 

 

「これで良しっと。ふー、ん?」

 

ふと画面から目線を上げると塔城が熱心に読書をしている。

 

「塔城は何読んでんだ?」

「・・・」

 

すっ、と読んでいた本の表紙をこちらに向ける。

タイトルは―――『男は猫耳のどこに惹かれるのか?PART4』。

・・・少なくとも過去三作は読んだのか。

 

「・・・面白いか?それ」

「後学のために」

「そ、そうか」

「先輩は―――」

「あん?」

「先輩は猫は好きですか?」

「ああ、うちでも一匹世話してるのがいる。犬よりは断然猫派だな。なんかこう普段気ままにしてつれない分、甘えられると悶えそうになるんだよな。」

「そうですか。―――やはりつんでれというのが核心の様ですね。PART33でも最終的には原点回帰でしたし。」

 

最後の方は小声だったから聞き取れなかった。

 

「なんだって?」

「・・・・」

「お~い」

 

塔城はふむふむと頷いてまた読書に戻ってしまった。

 

 

 

「・・・・」

「先輩?姫島先輩?」

 

姫島はティーカップを持ったままぼーっと中身を覗いていた。

 

「青江君。こめんなさい。少し緊張していましたわ」

「緊張?アンタはしないと思ってたが・・・なにかあったのか?」

 

いつでもニコニコ笑いながら何とかしてしまうお姉さんってキャラだと思ってたが。

 

「今までは・・・正直リアスの傍に居られるなら、彼女の夫の愛人でいいと思っていましたわ。私みたいな半端者はそんなものだって諦めて、利口な振りをしていました。自分は大人なんだから世の中の不条理なんて分かってますって」

「・・・・」

「でも、最近。今まで夢にも思わなかった・・・いえ、考えようとしなかった・・・普通の女の子みたいな夢を見るんです。ふふっ、可笑しいでしょう?今まで馬鹿にしていた少女マンガまで買って来て。どこかの誰かさんが思わせぶりなことばかりするから」

「で、今回負けたらどうしようってか?はっ」

 

彼女の手からティーカップを奪い取って中身を飲み干す。

 

「そんときゃこう考えろ。『ああ、これが囚われのお姫様ね?王子様はまだかしら?』ってな」

 

伏せられていた目がこちらを向く。

 

「俺は欲しいものは自分で獲りに行く。ククク、逃げても追っかけるぜ?」

「あなたは、本当に。・・・期待しますわよ?」

「うんにゃ、覚悟しとけ」

 

 

 

 

「あはは、君はいつでもマイペースだね」

「うむ、揺るがない男と呼んでくれ」

 

それまで壁にもたれかかり、目を閉じていた木場が話しかけてきた。

学生服の上に手甲と脛当てを装備しているが騎士というには軽装過ぎて、どちらかというとRPGの正統派勇者みたいだ。

 

「自信のほどは?」

「さあ?合宿で得たものは大きかったと思うけど、相手は若手悪魔の筆頭だ。どこまでやれるのか見当もつかないよ。」

「勝負ってのはどれも時の運、負けるときは負けるもんさ。」

 

結局のところ、戦いは運だ。

サイコロを振って出た目で競うのとそう変わらない。

相手と自分の相性、相手の癖、自分の癖、戦闘中の閃き、直観、装備、コンディション、選んだ戦法etc・・・。

無限にある要素の中から『運よく』有利なものを引いた者の勝ちだ。

故に鍛錬とは勝率を上げるために行う。

サイコロの『2が出れば勝つ』という状況を『2か3が出れば勝つ』に変えるために。

 

「絶対に約束された勝利はない。」

「うん」

 

「だが―――」

「だけど―――」

 

「「絶対に負けてはならない戦いはある」」

 

二人同時に同じことを言う。

 

「「・・・・・」」

「ククク」

「ふふふ。・・・ハッピーアイスクリーム?」

 

また懐かしい物を。

 

「今度奢ってやる。」

「うん、楽しみにしているよ。」

 

デートの約束を取り付けた!(????)

 

「兵藤はどうだ、いけそうか?」

「・・・・・。」

 

げしっ

 

「あだぁ!!なにすんだ、青江!!」

「緊張しすぎだド阿呆。お前がそんなに緊張してどうする」

 

ソファの上で俯いていた兵藤の背中を軽く蹴っ飛ばす。

 

「そ、そんなこと言ったってこの戦いには部長の人生が・・・ッ」

 

人生、ねえ?

そりゃあ『グレモリーの』戦う理由だ。

どこまで行っても所詮は他人事、『兵藤一誠の』戦う理由たりえない。

こいつそんな事にも、なんで自分が勝ちたいのかもあやふやだからここまで来ても腹くくれねえんだよ。

俺の癒しのためにもこいつに負けてもらっちゃ困るんだが・・・。

 

「そうとも、この戦いに負ければグレモリー先輩はあの焼き鳥の淫乱肉奴隷だ」

「い、いんらっ!?」

 

顔を真っ赤にした兵藤に追い打ちをかける。

 

「・・・考えても見ろ、花よ蝶よと育てられた貴族のお姫様。勿論処女だ。そしてあの美貌とプロポーション・・・男なら自分色に染める事を一度は夢見るだろう。」

「ごくり」

「あのボンボンは女遊びの経験は相当だ。見たろ?あのディープキス。こますのはプロと考えていい。まずはあの胸だな具体的には――――」

 

俺は兵藤に『美人令嬢調教記録~最初はあんなに嫌だったのに、私どうして・・・~』を懇切丁寧に具体的に事細かに語って聞かせた。

 

「・・・・どうだ?」

「うごごごごごごごごご、あの焼き鳥絶対に許さん!!」

 

血涙を流しながら地面を殴りつける兵藤。

 

「そこまではならないわよ・・・多分」

 

温度の低いジト目でグレモリーが反論してくる。

 

「やっぱり絶対負けるわけにはいかない!!」

「なんでだ?」

「え?」

 

ほんと、兵藤といえばこの間抜け顔だな。

 

「・・・約束したんだ。合宿の夜に」

「その口約束はそこまでのものなのか?ゲームの経験も、これが初めてなのに。普通は負けて当然じゃないか?」

「だって俺は部長に命を――」

「なら他の人間ならいいのか?彼女もいつかは結婚するだろう。そのたびに反対して喧嘩ふっかけんのか?」

「それは」

「今回の件、お前が嫌なのはなんだ?何にそんなに怒ってる?」

「・・・・・」

「そこまでよ。わけのわからない言葉でイッセーを惑わせないで」

「部長、俺・・・」

「大丈夫、今回負けたとしても、貴方が私の眷属であることに変わりないわ」

「・・・はい」

 

 

 

「みなさん、準備はお済みになられましたか?もう間もなく開始時刻です」

 

魔方陣から例の銀髪メイドが現れた。

彼女によると戦闘は異空間に用意された戦闘フィールドで行われるそうだ。

いくら壊しても大丈夫とは、便利なもんだ。

 

「あの、部長」

「何かしら?」

「部長にはもう一人、『僧侶』がいますよね?その人は?」

 

兵藤がグレモリーに質問した。

『僧侶』・・・ギャスパーのことか。

当然だな、ここまでの大勝負に欠番がいるというのは納得できない話だろう。

質問と同時に室内の雰囲気が重くなった。

 

「残念だけど、もう一名の『僧侶』は参加できないわ。いずれ、そのことについても話す時が来るでしょうね。」

「グレモリー先輩、そいつはこのことを知ってんのか?」

「ええ、合宿前に事情は説明してあるわ。」

 

やはりギャスパーがいなくなったことに気付いていない。

彼女自身も今回の件でいっぱいいっぱいだったのだろうが、この様子だとあいつを放置することが半ば慣例化していそうだ。

 

「ちっ」

「???どうかしたの?」

「いや、何でもねえよ。俺も出ていく。シトリー側と一緒に中継を見る手はずになってるからな。・・・兵藤、こっち来い」

「ああ」

 

他の奴らから少し離れた位置に兵藤を連れてゆく。

聞き取られないように気を配りながら小声で話しかける。

 

「これ、持ってけ」

 

もとから用意していたあるものを兵藤に手渡す。

 

「え・・・これって!?」

「しっ、こいつぁ切り札だ。いざって時まで取っておけ」

「でも、部長には―――」

「・・・お前に切り札はあるか?」

「切り札?」

「お前だってあの合宿だけで上級悪魔を越えられたなんて思っちゃいないだろ?その差をひっくり返す手立てはあんのかって聞いてんだ。具体的には禁手化とか。それはダメ押しに使え」

 

俺自身も禁手化に至ってはいる。

ミハイルの研究資料に度々出てきていたからどういうものなのかも知っている。

 

「・・・一応は使える」

「一応?」

「ああ、お前の用意してくれたプランのおかげで俺は部長の予想以上に強くなったらしい」

 

俺が担当したのは体の使い方についての強化プランだ。

どうやら結果はなかなかのものだったようだ。

 

「・・・昨日の夜、ドライグから聞いた」

「ドライグ?」

「俺の神器に宿ってるドラゴンだ。俺の強さが一定に達したおかげで会話できるようになったみたいだ」

 

人格のある神器もあるのか・・・やだなあ、それ。

 

「結論だけ言えば俺も禁手化できる。でも、いろんな過程をすっ飛ばす分代償が必要だって」

「なるほどな。・・・使うか?」

「ああ」

「グレモリーのために?」

「ああ」

 

う~む、このきりっとした顔を普段からしてりゃあもてるだろうになあ。

ってかここまで覚悟できてんのにまだ気づいてないとか・・・はあ。

 

「もーいい、メンドクサイ。言うぞ、お前が今回の件で気に入らないところ。お前は相手が『自分以外の男』だから嫌なんだよ」

「は?」

「惚れてる女の縁談をぶち壊したい。それだけだ」

「ちょちょちょちょ、ちょっと待て。なにそれ?」

「よーく考えてみろ、主とか下僕とか抜きにして。一人の女としてのリアス・グレモリーを」

「・・・・・」

 

目を瞑ってじっと考え始める。

 

「・・・あ。そうだわ、うん。俺は部長に惚れてんだ」

「だろ?」

「でも、そんな理由で―――」

「『世界平和のために』なんてのよりよっぽど強い動機になりそうだがなあ?」

「悪魔の未来が―――」

「焼き鳥を小指で潰せるくらいになれ」

「・・・」

「それに、ここでカッコいいとこみせりゃあ・・・相手は惚れるかもよ?」

「よっし、やろう!!」

 

目から迷いが全くなくなった。

だが、俺は現金だとは思わない。

 

「もう一個選別だ。腕出せ」

「お、おう」

「動くなよ・・・『青の聖痕』」

「うわ、うわ、きもっ!?」

 

俺の神器『青の聖痕』の刺青が蠢いて、一部が兵藤の皮膚に移動した。

 

「なんだよ、これ」

「俺の神器だ。効果は秘密。ご利益はばっちしだ」

「うさんくせー」

 

腕をくるくる回しながら刺青を眺める。

 

「時間掛け過ぎた。いって来い」

「おし、ありがとな」

「貸し一つな」

「一つでいいのか?」

「じゃあ三つ」

 

 

 

兵藤は魔方陣の方へ駆けてゆく。

 

「よっしゃーーーー!!みんなぁ、いくぜーーー!!!」

 

他のメンツは急にハイテンションになった兵藤にギョッとしていた。

・・・空回りしなきゃいいんだが。



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第十五話

もうちょっとでお気に入り150!!
評価も三つも頂きました!
不定期ではありますが、エタるつもりはありません。
これからも頑張りますので感想、評価ドンドンお願いします!!


~SIDE兵藤一誠~

 

 

「部長ぉぉぉォォォォォッッ!兵藤一誠!ただいま参上しましたぁぁぁぁッ!」

 

屋上全体に聞こえるように声を張り上げる。

ここに来るまでにかなり消耗したけど、まだいける。

やっぱり自分の動きから無駄がなくなったってのがちゃんと自覚できるぜ!

それに受けたダメージも思ったほど大きくない。鍛えたおかげで頑丈さも上がったんだろうか?

 

「イッセー!!」

「イッセーさん!」

 

アーシアも部長もまだ立っている。

部長は辛そうに肩で息をしている。きれいな髪も乱れ、制服もボロボロだ。

 

「ドラゴンの小僧か?レイヴェルの奴、見逃したのか」

 

ライザーは・・・無傷!?

着ているスーツはボロボロだが、破れ目から見える肌はとてもきれいだ。

部長の様に息切れしている様子もない・・・クソッここまで差がッ。

 

「ライザー様、私が『兵士』の坊やと『僧侶』のお嬢さんをお相手しましょうか?ライザー様はこのままリアス様のお相手を――」

 

ライザーの『女王』が一歩前に出て提案した。

しかし、

 

「いや、『兵士』君の相手は俺がやる。どのみちリアスに力はほとんど残っていない。・・・それに伝説のドラゴンの力がどんなものか見てみたい」

「・・・分かりました」

 

クソ野郎が・・・完全に舐めてやがるッ!!

 

「ふざけないでライザー!!」

 

激昂した部長が、魔力の球をライザーの顔面に撃ち放つ!

 

キュボッ

 

・・・ええええええええええええ!?

ラ、ライザーの首から上がなくなっちまった!?

しかし、やったのか?と思ったのも束の間、消し飛んだ部分から炎が立ち上る。

炎は次第に形をとりはじめ、収まったころには・・・

 

「ふー、まだそんな力が残っていたとはな」

 

こきこきと首を鳴らす無傷のライザーが何事もなかったかのように立っていた。

これが不死鳥の『再生能力』か・・・・。

部長は手も足も出なかったんじゃない。何度攻撃しても、こいつはすぐに復活してしまうんだ。

 

「リアス、投了するんだ。折れない意志は評価する。だがそれも度を過ぎれば無様だよ。これ以上は君の株を下げる行為だ」

「ふざけないで!!『王』である私はまだ立っている。まだ詰んでなんかいないのよッ!!」」

「部長!俺はまだまだいけます!!指示をください!」

「よく言ったわ!イッセー、一緒にライザーを倒すわよ!!」

「はい!!」

 

いくぜ、ドライグ!!

指示は簡単だ。部長はこう言ってる。

 

 

目の前の敵をぶん殴れって!!

 

『・・・・・・・・・・・』

 

 

SIDEOUT

 

 

 

 

 

「ごふっ・・・・あのバカ、ムチャクチャしやがって・・・」

 

俺の体は擦過傷に打撲傷、火傷に切り傷と満身創痍だ。

骨も何本か折れているし、内臓にもかなりのダメージがある。

おかげで咳き込むたびに腹の底から赤いものがこみ上げてくる。

 

「・・・・あなたの神器は―――」

「そうだ。これが俺の禁手化、『背負いし十字架の愉悦』だ」

 

俺の禁手化は『対象に降りかかる災いを請け負う』というもの。

攻撃を直接受け取るのではない。斬撃を受けたのなら、威力に関わらず切り傷と痛みという結果を受け取る。

仮に俺が即死するような攻撃でも、本来受ける者の防御力が高くかすり傷だったなら、俺が受けるのはかすり傷になる。

毒も病も、果ては悲しみの感情までも請け負うことが可能だ。

今回俺は常時ダメージの半分を、致命的なものは全て引き受けている

生徒会長にも既に説明してあるし、万が一俺が死んだ場合はその場で転生させてもらうよう言ってある。

 

「あなたは・・・」

「あ?・・・げほっ」

「貴方はどうして彼のためにそこまで?」

 

倒れそうになる俺を支えている生徒会長が少し声を上擦らせながら聞いてくる。

 

「はっ、あいつのためじゃねえよ。誰が野郎のためにここまでするかってんだ。あそこには・・・っ、狙ってる女と癒し、木場がいるんだ。戦況を変えうる存在があいつだったってだけよ」

「彼こそがこの戦いの鍵だと?」

「ああ。それに・・・まあ。まあ、あんなんでも今生初の友人だ。勝ってほしいという思いも多少はある。」

 

クラスに馴染めないままだった俺に最初に話しかけてきたのはあいつだった。

『な、なあ。ちょっとこれ預かってくれないか?今日の荷物検査、明らかに俺を狙ってのものだと思うんだ』

拝む手にエロ本を挟んで頭を下げている馬鹿に、不覚にも笑ってしまった。

それから奴を通して松田や元浜、桐生とも知り合ったし、退屈だった学園もそれなりに良いものと感じられるようになった。

認めるのは癪だが、俺はあいつに感謝している。

 

「悪魔に転生するなら人としての命は捨てることになる。死んでも大丈夫なら、その一回は有効活用したいんだよ」

 

肩を掴む彼女の手に若干力がこもる。

 

「アンタから見てどうだ?兵藤達は勝てそうか?」

「・・・・難しいと思います。リアスの実力も、赤龍帝の成長も素晴らしいものです。ですが、フェニックスを倒すには――」

「塵も残さず消し飛ばすか、心をへし折るか・・・だったな」

「はい。恐らくライザーも疲弊はしているのでしょう。しかしそれでも二人では届かない」

 

俺のやっていることを否定したくはないのだろう。

甘いとは思うが、冷徹であろうとしつつも徹しきれない彼女には素直に好感が持てる。

 

「このままだったらな」

「え?」

「主人公の覚醒ってのはヒロインか絶体絶命の状況って相場が決まってんだよ」

「あの・・・」

「あそこにはソレが両方揃ってる。しかもヒロインは二人だ。フラグは立ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

~SIDE兵藤一誠~

 

 

「ぐはっ!」

 

痛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

ライザーに吹き飛ばされて俺は屋上の端まで転がる。

 

「でも」

 

まだやれるっ!

やっぱりダメージが少ない。明らかに異常だ。考えられる原因は―――

 

「やっぱこれだよな」

 

青江にもらった青い刺青。効果が何なのか分からないが、これのおかげで俺はまだ戦えている。

 

「部長!!もう一度連携、お願いします!!・・・部長!?」

 

返事が聞こえないので慌てて振り返ると、部長はうつぶせに倒れて咳き込んでいた。

何度も立ち上がろうとしているけど、その悉くに失敗している。

 

「ふむ、流石にリアスは限界か・・・もういいだろう。下僕君ももうあきらめたまえよ」

「うるっせぇ!!」

「リアス。この下僕君はどこまでも立ち上がるだろう。君があきらめない限りは永遠になぶられ続ける」

 

「くっ。・・・・・・」

 

部長が悔しそうに顔をゆがめる。

ライザーを睨めつけ反論しようとするが、俺の姿を視界に収めると一瞬泣きそうな顔をした。

再び俯いた彼女の前髪の間から数滴の涙が・・・。

 

――違う、俺のあこがれたリアス・グレモリーはそんな顔をする人じゃない。

いつも堂々としていて、余裕の笑みを絶やさない。そんな彼女に俺は惹かれたんだ。

俺なんかのために悲しんでくれるのは嬉しい。でも、それでは俺は自分が許せない。

俺は彼女と一緒に居たい。でもそれだけじゃない。リアス・グレモリーの隣に立つのはそんな男では駄目なんだッ!!

俺は『兵士』だ。兵士として彼女の隣に立つ。

だから

 

 

彼女の顔を曇らせる存在があるのなら、俺はそれを払い退けられる最強の『兵士』になる!!

 

「部長ッ!!」

 

俺は部長に向かって叫ぶ。

 

「俺には木場みたいな剣士の才能はありませんッ!朱乃さんみたいな魔力の天才でもありませんッ!小猫ちゃんみたいなバカ力もなければ、青江みたいな技量もないです!・・・それでもッ!!!!!!!」

 

俺自身には何にもない。それに苦しんだこともあった。でもそれは部長が励ましてくれた。

そうとも、俺は弱くとも俺にはこの神器が、赤龍帝の籠手が、ドライグがいるッ!!

 

『ククク、あの男の望んだことだ。見せつけてやれ、本当のドラゴンの力をッ!!』

「おうよッ!部長、見ていてください。俺は、兵藤一誠は貴方の隣に立てるような『最強の兵士』になります!!!!!」

 

代償?持ってけ!ここで勝てるならどんなモノだって捧げてやる!!

 

「輝きやがれぇぇぇぇぇぇッ!!オーバーブーストォッ!!!」

『Welsh Dragon over booster!!!!』

 

 

SIDEOUT

 

 

 

戦況は一変した。兵藤が禁手化してからは二人は完全に殴り合いの状況になった。

焼き鳥は拳に炎を纏い、兵藤は俺の渡したロザリオを握りこんでいる。

『譲渡』で水増しされたロザリオの力は確実に焼き鳥に効いている。

だが、あのバカはそのままロザリオを握りこんで殴っている。おかげで俺の腕は焼け爛れて嫌なにおいを放っていた。

更に常時展開していた『請負い』が例の『代償』まで半分持ってきてしまった。さっきから右目に激痛を感じる。

 

「これで勝たなきゃ帰ってきたらぶっ殺すぞ」

「これ以上は無理です!!今すぐに能力を止めてくださいっ!!本当に死にますよ!」

「ここまで来たらもう手遅れだ。あんたは転生の準備だけしておいてくれ」

 

今能力を解除すれば兵藤は焼き鳥の攻撃と自身のロザリオによる自爆で負けてしまう。

俺にできるのは祈る事だけ。

 

「早く終わってくれ・・・。」

 

 

 

 

SIDEライザー・フェニックス

 

なぜだなぜだなぜだっ!?

なぜこいつは立ち上がれる!?

なぜこいつの一撃はここまで響く!?ロザリオの聖なる力も大きい。だが、それ以上にっ!!

 

なぜこいつの拳はここまで重いっ!?

 

一撃一撃が確実に体に残り、俺に膝をつかせようとする!!

ふざけるなっ!俺は上級悪魔、不死身のフェニックス家その次期当主ライザー・フェニックスだぞ!?

こんな、神器がなけれは下級悪魔と呼ぶのもおこがましい様な餓鬼に追いつめられているだと!?

 

「ふざけるなっ!なんなのだ、なんなんだ、貴様はぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

殴る殴る燃やす燃やす。これだけしても奴は倒れない。

分からない、理解できない。俺は生まれて初めて恐怖というものを感じた。

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!」」

 

お互いの拳がぶつかり合い、両者ともに弾き飛ばされる。

 

「ぐぅ!!」

 

俺は思わず膝をついてしまった。戦いでここまで追い詰められるとは・・・。

そうだ、小僧はっ!?

 

「はあ、はあっ」

 

は、ははははははははははははっ!!

奴の纏っていた赤い鎧は消えている。奴自身も膝をついて満身創痍だ。

勝った!!俺の勝ちだ!!

炎が、随分と弱々しくなった炎が体を修復してゆく。これ以上は俺も限界だ。

 

「あとは、はあ。リアスに止めを刺すだけだな・・・・。残念だったな、下僕君。だが、俺はお前に対して生まれて初めて畏怖というものを感じた。誇るがいい」

 

ゆっくりと歩いてゆき、俺とリアスの間に立ちふさがる奴に近づく。

もう一歩も動けまい。

そう思った時だった。

 

「あああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

奴は最後の力を振り絞ってこちらに突撃してくる。

だが、本当に限界が近いのだろう。躓き、何度も転びそうになっている。

無様だ。この上なく無様だ。だが不思議と奴をあざける気持ちは起こらなかった。

 

「いいだろう、俺は全力でお前を倒す!!」

 

奴を迎撃するため、最高の炎を練り上げる。

 

「火の鳥と鳳凰!そして不死鳥フェニックスと讃えられた我が一族の業火!その身で受けて燃え尽きろッッ!!」

 

俺の全力の炎が奴を覆い尽くす。

本来であれば即死するほどの威力、これでおわっ――――

 

「あああああああっ!!」

 

馬鹿なっ!!あの炎の中を抜けてくるだと!?ありえん、今の奴は鎧も纏っていないんだぞ!?

ふところに潜り込まれる。

 

ドンッ

 

殴りつけるように俺の胸に叩きつけられたのは――――剣の柄??

 

「切り札は―――」

 

奴がうつむいたまま呟く。

 

「切り札は最後のダメ押しなんだってよッッッ!!!!!!」

『Transfer!!』

 

次の瞬間、柄から発せられた光は爆発的に膨張し―――

 

「がああああああああああああああああああっ!!」

 

激痛と共に、俺の意識は光に飲まれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第十六話

しまったああああっ!!
投稿する順番を間違えてしまいました。

本当にすみません。


ああ、冷汗が。
感想に下さった方、本当にありがとうございます。


『おい、クソガキ』

 

声が聞こえる。

 

「ああ?」

 

気付くと目の前には赤い壁がそびえ立っていた。

なんだこりゃ?

 

『貴様、相棒に何をした?』

「相棒?」

 

声は上から聞こえてくる。

上?

見上げるとそこには赤い龍の頭部があった。

壁だと思っていたのは鱗でおおわれた胴体だったようだ。

でけえ・・・。誇張抜きで本当に小山位ある。

 

『聞いているのか?』

「聞こえてるよ。・・・お前がドライグか?」

『フン、頭の巡りは悪くないようだな』

「接点のありそうな赤い龍なんざ一つしか思い当たらねえよ」

 

――ウェルシュ・ドラゴン、赤龍帝ドライグ―――

 

兵藤の神器に封印された伝説のドラゴン。

ウェールズ地方では未だに守り神の様な扱いを受けている存在。

 

「で?兵藤の神器が俺に何の用だ?」

『惚けるな、貴様が施したあの青い刺青・・・あれは何だ?最初はダメージを減らすものだと思っていたが、代償を支払う際に半分は貴様が支払っている。今現在俺との対話ができるのもその影響だ』

「なるほどな・・・代償って何だったんだ?」

『本来であれば相棒の腕一本がドラゴンの、俺の腕に置き換わるはずだった。だが実際は相棒の皮膚の一部、貴様の眼球一個が支払われた』

「俺の目はどうなったんだ?失明したのか?」

『言っただろう。『置き換わった』と・・・お前の目は俺の、ドラゴンの目に置き換わった』

 

そうドライグが言った途端、右目の景色が切り替わり、片方の視界が自分を見下ろすものになった。

これはドライグの視点?

 

「・・・あの刺青は俺の神器、その禁手化だ。能力は他人に降りかかる災いを使用者が引き受けること」

『なに?では軽減されていたダメージは・・・』

「俺が受けていた。常時半分、致命的なものは全部と設定していた」

『なぜそこまでした?貴様には何のメリットがある?』

「メリット・・・ねえ。あいつに勝ってもらった方が都合がよかった。それだけだ」

『まさか本当にそれだけではなかろう?・・・まあいい、今回貴様に呼びかけたのは警告だ』

 

警告?

 

『この目に映る世界は、全てが緩慢に動いているように見えるはずだ』

「ほう?」

 

それが本当ならばうれしい誤算だ。意図せずして魔眼を手にしたようなものだ。

 

『だが、本来俺の目は人間にも、悪魔にも過ぎた代物、性能が高すぎる。長時間の使用はやめておけ』

「もしも使い過ぎれば?」

『貴様の脳が焼け付くことだろう。本来からかけ離れた量と速度で情報を処理するんだからな』

 

脳が焼け付く・・・悪くて死亡、良くて廃人ってとこか。

 

「普段はどうしていればいいんだ?」

『閉じていれば問題ないだろう』

 

そんなんでいいのか?

封印とかが必要かと思ったが・・・

 

『性能のいい目、というだけで魔眼ではないからな』

 

そんなものかと納得していると、ドライグと俺だけだった世界に光が差した。

青い光・・・。

冷色系の色なのにどこか温かい。

 

『時間切れだな。・・・最後に聞いておく。貴様にとって兵藤一誠は何者だ?』

「認識的には世界の中心、個人的には・・・あー、ただの友人だよ」

 

その返事を最後に、俺の意識は急速に引き上げられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「グッ―――」

目を覚ますと、俺は生徒会室のソファーの上で眠っていた。

気を失っていたのか・・・。

 

「目が覚めましたか?」

 

体を起こし声に振り向くと、窓辺に寄りかかりこちらを見つめる生徒会長がいた。

青白い月を背にしたその姿はまるで一枚の絵画の様だった。

一瞬、見惚れてぼーっとしてしまった。

 

「っ?どこか痛むのですか?」

「いや、大丈夫だ・・・綺麗だな」

「?・・・ああ、確かに今日は月がきれいですね」

 

そうじゃないんだが・・・まあいい。

 

「状況は?兵藤は勝ったのか?」

「はい。今回のレーティングゲーム、勝者はリアス・グレモリーです」

 

そうか。勝ったか。

これで焼き鳥(名前なんだっけ?)とグレモリーの縁談は破談。

塔城も姫島も大丈夫だろう。

次に俺は自分の体に意識を向ける。

・・・体の傷が無くなっている。という事は――

 

「俺は悪魔化したのか」

「はい。人間であった青江秀介は死に、シトリー眷属の『兵士』となりました。」

「最後の記憶は兵藤への焼き鳥の全力を『請け負った』ところまでだ」

「・・・あの一撃を兵藤君が受けた瞬間、貴方は全身ケロイド状態の焼死体になりました」

 

うへェ。そいつは自分でも覚えてる。

皮膚の中が膨れてむくむ感覚、気管が張り付いて呼吸できない苦しさ、眼球が熱で変質し視界が白濁する―――。

止めよう。精神衛生上非常によろしくない。

暫くは火がトラウマになりそうだ。

 

「会長も、済まなかった。グロテスクなものを見せた。気持ち悪かったろう?」

「いいえ。・・・貴方は文字通り命を懸けて友を救った。その結果が気持ち悪いはずがありません」

「あー、別に友情の為って訳じゃあ―――」

「ふふふふふふ。・・・ええ、分かっていますとも。ですがあなたの行動は結果的に多くの者に益をもたらした。それはとても尊い事だと、私は思います」

 

くっ、なんだこれ。俺を褒め殺すつもりか?

やめて、そんな慈愛の目で見つめないで!!

 

「あとは―――」

 

そうだ、代償!!

右目を持っていかれたという実感はあった。

さっきのドライグとの対話もただの夢だったなんてことはないだろう。

だが、両目とも視界は―――

 

「ぎ――――あ――」

 

頭がいてェ!!

右の眼窩からナイフでも突っ込まれているような、それでいて掻きまわされるような痛みが続く。

 

「青江、青江!?」

 

会長が慌てて駆け寄ってきて背中を擦ってくれるが気にしている余裕がない。

 

 

 

 

「ふー」

 

暫くして痛みはようやく治まった。

 

「・・・会長、鏡持ってきてくれないか?」

「鏡・・・ですか?」

 

いぶかしみながらも自身の鞄から手鏡を持ってきてくれる。

・・・意外とファンシーな趣味だな。

受けとって中を覗き込む。

 

「その目・・・」

「ああ、どうやって誤魔化そう?」

 

右の眼窩には赤い眼―――虹彩が赤だとかじゃない。

白目は一切なく、全てが虹彩でできているかのようだ。

瞳孔が縦に裂けた爬虫類独特の目。

ドラゴンの目。

 

 

 

 

 

 

「うぃーっす」

「いらっしゃい、青江君」

 

オカルト研究部の部室に入ると、部員たちは飲み物勝手に楽しそうにおしゃべりをしていた。

軽い祝勝会ってとこか。

ドリンクを片手に木場が歩み寄ってくる。

 

「おつかれさん」

 

受け取りつつあたりを見回す。

兵藤とグレモリーがいない。

 

「主役二人はどこ行った?」

「テラスにいる。兵藤君はずっと君のおかげだって言っていたよ。でも今は―――」

 

窓から少し様子が伺えるが・・・フン、なかなかいい雰囲気じゃないか。

もらったドリンクに口をつける。

―――ジンジャエールか。

 

「大丈夫だって、そこまで野暮じゃねえよ」

「シュースケさん!!」

 

こちらに気付いたアーシアも駆け寄って来た。

後ろからは姫島もついてきている。

 

「どーだった?初めての戦いは?」

「はい!すごく緊張しました!」

 

喧嘩なんてしたことのないであろう彼女だ。

心理的負担は大きかったろう。

ポンポンと頭を撫でながらねぎらう。

 

「イッセーさんがとってもかっこよかったんですッ!でも、部長さんもそれを見ていて・・・お二人の距離がずっと近くなった気も――」

「あー、うん。今度相談に乗ってやるから」

 

恋敵の出現に戦々恐々って感じか?

俺としてはアーシアに頑張ってほしいと思うんだが・・・まああいつはハーレム王志望だ。なんとかなんだろ。

 

「姫島先輩も大丈夫か?結構派手に爆破されてたけど」

「言わないでくださいな。結構気にしてますのよ?」

「勝ったからいいじゃねえか。これはチーム戦だ。確実に先輩たちは勝利に貢献してる。それにまだ次があるんだ、次勝てよ」

 

俺の言葉に全員が頷く。

それぞれに今回の試合、至らなかったと自覚しているところがあるのだろう。

 

「そう・・・ですわね。ああでも、心残りといえばもう一つ・・・お姫様になり損ねましたわ」

「お姫様?」

 

木場が首をかしげる。

 

「ああ、それは―――」

 

くいっくいっ

 

「ん?」

「先輩」

 

袖を引かれたのでそちらを向くと、塔城が俺の袖口をつまんでいた。

 

「どうした?」

「先輩、私も頑張りました」

「うむ、見ていたぞ。偉かったな」

 

しかし彼女はまだじっとこちらを見つめてくる。

心なしか不満そうだ。なんだ?

 

「頑張りました」

「あ、ああ」

 

どうすりゃいいんだ?

こちらが困惑していると、チラリと塔城の目がアーシアに向けられた。

これは―――そういう事なのか?

 

ポンポン

 

塔城の頭も、アーシアと同じように撫でてやる。

 

「あ、・・・・・・・・」

 

彼女は目を閉じて受け入れた。

おかしいな・・・俺はナデポを貰った覚えがないんだが・・・。

 

「いらっしゃい。よく来てくれたわね」

 

テラスから二人が戻って来た。

 

「おめでとさん。デビュー戦で勝利とは、幸先いいじゃねえか」

「そうね。・・・いずれ戦う時はよろしくお願いするわ。シトリー眷属の『兵士』さん?」

「ええええええええええっ!?あ、青江も悪魔になったのか!?」

「ああ、グレモリー先輩にフられたんでな。別の悪魔に眷属にしてもらった」

「人聞きの悪い事言わないでちょうだい。・・・朱乃?小猫もなんでそんなに睨むのかしら?」

 

賑やかだねえ。

 

「青江、悪い。借りてたあの光の剣、壊れちまった」

「いいって。もとからそのつもりだったんだ。役に立ったか?」

「ああ、もちろん。この刺青もありがとな。よくわからないけど、こいつに助けられてたのは分かってる」

 

ふん。

俺はぐるりとあたりを見回した。

 

「グレモリー先輩、ほかの眷属になったけど―――」

「大丈夫よ。追い出したりはしないわ」

「感謝する」

 

心配事は無くなったな。

悪魔としての生。

人間よりもずっと長い生。

 

「楽しいねえ」

 

こいつらとなら退屈しなさそうだ。

俺は残りのジンジャエールを一気に飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青江、その眼帯似合ってないぞ?どうしたんだ?」

 

うるせえよ。

 

 

 



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月光校舎のエクスカリバー
第十七話


すみません。
投稿順を間違えていました。

これが十七話です。

ひとつ前に本来の十六話を入れました。


ゴンッ!!

 

「だりぃ・・・」

 

椅子に座っているのでさえ億劫で、脱力して机に額を打ち付ける。

悪魔が日中しんどいってのは事前に聞いていたがここまでとは・・・。

個人差もあるらしいが俺はかなり重い方なんだとか。

今でも気を抜けば気を失ってしまいそうだ。

夜には絶好調な分、落差が酷い。

額を打ち付けた際かなり大きな音を立ててしまった為、

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

隣に座って書類整理をしていたおさげの少女、草下 憐耶が心配そうにのぞき込んできた。

パッと見地味な印象を受けるが、この素朴さがいいと僕は思います。

 

「個人差はありますが、誰でも最初はそうなります。・・・あまりしんどいようでしたら早退しますか?」

 

会長もさすがに見かねたのか気遣いを見せた。

 

「いや、やるよ。雑用とはいえ新入りなんだ。いきなり病欠みたいな真似はしたくない」

 

俺は悪魔に転生してからはほぼ毎日、昼休みと放課後を生徒会業務に費やしている。

既に今年度の役職は決まっていたので表向きは雑用係という事になった。

 

「そうっすよ会長!!新入りなんだからもっとビシバシしごかれるべきなんすよッ!!」

 

デスクの向かいから身を乗り出して匙が大声で主張する。

匙元士郎。同い年で隣のクラスだったはずだが、眷属としては先輩だ。

 

「匙、彼は転生してまだ数日なのです。・・・それにあなたが転生した際は丸二日寝込んでいたはずですが」

「うぐっ」

「ははは、だっせぇ」

 

指をさして笑ってやる。

二日?俺は翌日には登校したぞ。

 

「うるせぇ!お前なんてまだ魔力にも目覚めてないじゃないか!!」

 

こ、こいつ人が気にしていることを。

そう、俺はまだ魔法というものが使えない。

魔力は知覚しているし、流れも操作できる。

どころか、会長によるとちょっと異常なくらいの精度らしい。

だが、未だ魔力を持ってして現象を起こす―――炎を出したり、物を氷らせたりに成功していないのだ。

内包している魔力量が大したことないとも言われた。

 

「バッカ。俺はほら、大器晩成型なんだよ」

 

家で夜中に自主練習はしているが、うまくいかない。

魔力を練って固めて研ぎ澄ませるまではいくのだが、最後の変換のイメージが全く湧かない。

相談に乗ってくれた堕天使と女装少年は

 

『さあ?私魔力なんて持ってないし』

『ごめんなさい、兄様。僕も何となくで今までやって来たから…』

 

との事。

 

「魔法に最も必要なのは想像力です。何かモデルを思い浮かべながらやってみてはどうですか?」

 

暫く顎に手を当てて考えこんでいた会長が顔を上げ発言する。

 

「モデル?」

「ええ。例えば魔術師たちが唱える呪文、あれはそのものに意味があるのではありません。トランス状態になることで成功率を高める、一種の自己暗示の様なもの」

「なるほど。呪文か・・・やってみる価値はあるかもな」

 

うむ、さっそくやってみよう。

立ち上がり、少し広いスペースを確保。

えーっと?魔法の呪文、魔法の呪文・・・・。

目を閉じて魔力を練る。純度を高めて手に収束―――

 

「バルスッ!!」

「「「・・・・・・・・・・・・・」」」

 

何も起こらない。いや、心なしか三人の眼差しの温度が下がった。

 

「だめか・・・」

 

しかし一度で諦めるわけにはいかない。

 

「カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク―――」

 

不発

 

「黄昏よりも昏きモノ、血の流れよりも赤きモノ―――」

 

不発

 

「宇宙天地興我力量降伏群魔迎来曙光―――」

 

不発

 

「アブトルダムラル―――」

「Iam the bone of my sword――」

「我は放つ、光の白刃ッ―――」

 

俺の中での魔法の呪文を片っ端から唱えてみる。

だが、結果は

不発

不発

不発

不発―――途中までは注目してくれていた三人も、今はガン無視で生徒会業務に戻っている。

 

「・・・すみません。貴方にはこの方法は―――」

 

流石に鬱陶しくなったのだろう。会長がため息をついて制止しようとしたその時

 

「ザケルッ!!」

 

パリッ

 

「え?」

 

手のひらに青白い静電気程度だが、確かに電流が走った。

 

「おお、出た」

 

できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ、ふう・・・。ありがとう。おかげでだいぶ楽になりました」

 

俺は副会長の肩に行っていた放電を止める。

やっぱ胸が大きいと凝るんだな。

あれから数日、何度か練習してコツを覚えた俺は呪文なしでも電気を発生させることが出来るようになった。

しかし、成功したのは電気のみで他のものは成功していない。

電気も非常に微弱で、本当に静電気よりはちょっとマシなレベル。

活用法としては肩こり解消位しか思いつかない。

あ、猫の蚤取りができるかも。

 

「・・・眼の調子はどうですか?」

 

自分の力の新たな可能性に喜んでいると、会長が心配そうにこちらを見ていた。

 

「ぼちぼちだ」

 

問いかけに曖昧な回答をしつつ、俺は自身の右目に手をやる。

医療用のガーゼに覆われているが別に怪我をしている訳では無い。

――赤龍帝の代償――

人に見せるわけにはいかないから隠している。

クラスメイトに中二病だと笑われたので、眼帯は避けたいと思う。

そろそろ物もらいでは誤魔化し辛くなっているがどうしたもんかねぇ。

 

「あんま気にすんな」

 

気遣わしげな視線から目をそらし、窓の外へと向ける。

自業自得な上に、俺は本気で気にしてないってのに。

むしろパワーアップだろ、これ。

 

カキ―ン!!

 

生徒会室の窓からは生徒たちが来たる球技大会へ向けて練習しているのが見下ろせる。

おお?

あの白、赤、金と目立つ頭が揃っているのは兵藤達か。

白い頭――塔城がものすごい勢いでホームランをカッ飛ばしている。

 

「会長、オカ研の連中も練習してるんだが、あの人外集団も参加すんのか?」

「ええ。彼らも参加します。勿論、我々も」

「は?」

「部活対抗試合に我々は『生徒会』として参加します」

 

うそーん

 

「遊びといえど、勝敗の分かれるものでリアスに後れを取る訳にはいきません」

 

悪魔陣営が人間の目の前でぶつかるって・・・秘匿性は?

 

「もちろん悪魔としての力は使いません。ですが、手も抜きません」

 

魔力なしでも悪魔の体力は反則だって。

俺も悪魔化して得た身体能力に未だに少し戸惑っているくらいだ。

 

「競技は?」

「ドッジボール」

 

あー、うん。

何人か死ぬんじゃないかな?

 

「本日のノルマを達成次第、我々も練習を開始します。既にほかのメンバーは始めていますので・・・椿姫、今日の練習場所は?」

「体育館のコートを一つ抑えています」

「わかりました。青江も、もう体調は大丈夫なようですね」

「すんません、今日はちょっと体調が」

「もうじき日も暮れます。・・・大丈夫ですね?」

「イエス、サー」

 

新人に拒否権はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーン! パーン!

球技大会の開催を知らせる花火が空に響く。

と言ってもあれは経費削減のために魔力弾での代用だ。

 

『あー、塚本くーん。漫研ロリ絵担当の塚本くーん。至急職員室まで来てくださーい。橋岡先生がお呼びでーす』

 

この学校は生徒会の権力が非常に大きい。

こういったイベントもほとんど生徒会が発案、主催、運営を行っている。

俺は生徒会役員としてサポートに回っている。今は放送部のピンチヒッターだ。

生徒会は当日も仕事があるため、参加できるのは一つ。

優勝チームとのエキシビジョンマッチ、つまり最後の最後。

 

『そこ、テニスコートへのカメラ持ち込みは禁止。アンダ―スコートは自分の目に焼き付けろ。―――警備員、部外者が紛れ込んでる。つまみだせ。―――二年三組、先頭の子が倒れそうだ。必要なら保健室へ連れていけ』

 

この学校は毎年盗撮被害が多い。会長の方針で、今年は警備を例年の倍近く強化している。

ここ、女子のレベルが滅茶苦茶だからなあ。写真一枚でも需要は天井知らずだろう。

なんとなく放送委員の役割から外れている気もするが、目に入るものはしょうがない。

まあ、渡されたマニュアルにコーヒー零しちまって本来の業務自体を知らないけどな。

 

 

 

 

 

「あ~~!青江~ッ!!」

「あ?」

 

休憩時間にぶらぶらしていると背後から大声で名前を呼ばれた。

振り返ると、良く知った顔の少女が階段に腰掛け手招きをしていた。

 

「なんだ、桐生か」

「なんだじゃないわよッ!!アンタがいなかったせいでうちのクラス一回戦落ちだったんだから!!」

 

怒りも露わにガーッと叫ぶ。

 

「俺のせいかよ。生徒会の仕事だって」

 

連絡はしていたはずだ。もしかして伝わってなかったのか?

だったら怒りも納得できる。うちのクラスは特に練習に力入れてたからな。

しかし

 

「知ってるわよそんな事。言ってみただけ」

 

彼女はケロッとした表情でほざいた。

 

「・・・そのこころは?」

「ん?八つ当たり」

「しばくぞ」

 

他にすることも無かったので隣に腰を下ろす。

グラウンドではドッジボールの準決勝が行われていた。

 

『イッセーを殺せえぇぇぇぇぇぇッ!!』

『お願い!兵藤を倒して!リアスお姉さまのために!朱乃お姉さまのために!』

『アーシアさんを正常な世界へ取り戻すんだ!』

『落ちろ!右!いや、正面か!』

 

オカ研の中で兵藤だけが集中砲火を受けている。

観客からも死ね死ねコール。

 

「うわあ。あれ、最早勝ち負け考えて無いわよ」

「ああ、兵藤しか狙ってない―――あ、股間に当たった」

 

うおおおおおおおおおおおお!!!

 

『淫獣討ち取ったりぃぃィィ!!!』

『やったー!やっぱり正義はあるのね!!』

 

兵藤が倒れたことにより大歓声が上がる。

 

「あれってそんなに痛いの?」

「痛い」

 

あの痛みは形容しがたい。禁手の『請負』もあれだけはお断りだ。

 

「ヒヒヒッ、標的が兵藤に集中してよかったわねえ?」

 

嫌らしい顔をして肘で小突いてくる。

 

「何が言いたい?」

「姫島先輩と塔城小猫、一番仲が良いのはアンタでしょ?」

「・・・・」

「しかも異例の生徒会入り――あの青江秀介がよ?あり得ない・・・何?今度は会長狙ってるの?」

 

鋭いな。

 

「モテモテじゃない?その可愛げないくらい立派なものにもやっと使い道ができたわね?」

 

そうだった。こいつは女版元浜だった。

見ただけでアレのサイズが分かるんだ。

 

「羞恥心とかないのか?」

「ない」

 

きっぱりとそんなに大きくない胸を張ってふんぞり返る。

 

「まーねー、私くらい経験豊富になればそんなもの『でもお前、処女だろ?』―――ふぇッ!?」

 

素っ頓狂な声を上げて仰け反った。

サイズを測る異能はどう習得できるか見当もつかないが、生乳を見た事のない元浜が編み出している。

桐生はすぐに平静を取り戻し、

 

「あー、やだやだ。すぐに男ってそういう幻想抱くよねー」

 

やれやれと言いたげに首を振る。

 

「この私が?この『匠』が?そんな訳ないじゃない。男なんてね、もうとっかえひっかえよ」

「なら、俺でもいいのか?」

 

顎をツイと持ち上げておとがいをそらさせる。

 

「え?ちょ、冗談でしょ?」

「・・・」

 

無言で顔を近づける。身をよじって逃れようとするが放さない。

 

「――――ッ!!」

 

ついに彼女は顔を真っ赤にして目をぎゅっと閉じた。

吐息のかかる距離、意外と長い睫毛が震えている。

俺は―――

 

 

 

 

「ぶはははははははっ」

 

堪えきれなくなって至近距離で爆笑した。

 

「アンタねぇ!!やっていいことと悪いことがッ」

「いやいや、なかなか・・・ククク」

 

腕を振り回しての攻撃を躱してゆく。

所詮女の腕力、しかも座った態勢だ。当たっても大したことはないが、悔しそうな様子が面白い。

 

「よっと」

「うわあ!?」

 

隙をついて、ひざ裏と背中に手を回し持ち上げた。

俗に言う『お姫様だっこ』だ。

 

「なにすんのよ!」

「保健室だ。さっき出塁したときに足捻ったんだろ?」

「!?・・・なによ、見てたんじゃない」

「放送室は見晴らしがいいからな」

「はあ・・・もういい。さっさと連れてって」

 

ため息をつき、観念したように体から力を抜く。

 

「あいよ」

 

視界の端では兵藤が外野なのに中からボールをぶつけられていた。

 

 

 

 

「ついにこの時が来ましたね、リアス」

「ええ、去年のテニスは引き分け・・・。決着をつけましょう」

 

赤と青が対峙する。

先生は俺たち生徒会。人数的にはこちらが上だがどうなることやら・・・。

 

「おくらいなさいッ!!支取流、レーザービーム!!」

 

会長の投げたボールが一切曲線を描かずグレモリーに迫る。

速ッ!?

ドッジボールが硬球よりも早く飛んでやがる。

 

「くう!!」

 

グレモリーも辛うじて受け止める。

実力は拮抗しているのだろう。

が、なんというかあっちの眷属は全員心ここにあらずみたいな感じだ。

木場もいない。

どんな凄まじい戦いになるか戦々恐々だった分、拍子抜け。

 

「兵藤、木場は?」

「分からない。最近ずっと心ここにあらずって感じで、さっきも部長に叱られて早退したんだ」

「原因は分からないのか?」

「・・・写真」

「写真?」

「俺の昔の写真に聖剣が映ってたんだ。それを見てから・・・」

 

聖剣?クラウ・ソラスやらエクスカリバーの事か?

 

「聖剣って―――」

 

なんだ?と聞こうとしたが――

 

「青江!!」

「イッセー!!」

 

二人の主が同時に叫ぶ。

 

「「まじめにやりなさい!!」」

「「イエッサー!!!」」

 

木場、大丈夫かなあ?

 

 

 

 

「遅くなっちまったな」

 

エキシビジョンマッチはあり得ないくらい長引いた。

他は全滅したのに主二人が延々とラリーを繰り返したのだ。

終盤には『なぜか』二人ともボールを受けるたびに服にまでダメージが及びはじめ、別の意味でかなり際どい試合となった。

おかげでいくら長引いても観客は男女ともに減ることが無かった。

最後は完全に相打ち。会長は最後の一球を投げたと同時に気絶したが、受け止めたグレモリーも投げ返すことが出来なかった。

ちょうど雨も降り始めたので、引き分けという事に落ち着いた。

 

「腹減った・・・」

 

時間は既に夜と言っても差し支えのない時間。

道を照らすのは街灯の光のみ。

傘はさしているが、帰ったらまず風呂に入りたい。

 

「ん?」

 

正面から人影が近づいてくる。かなりふらついているな。

悪魔化したことで夜目も聞くようになった。

でなければ目の前に来るまで何者なのか分からなかったろう。

影は神父だ。

 

どしゃっ

 

人影は10mほど俺の手前で崩れ落ちた。

 

「おいおい」

 

いくら神父とはいえ、流石に放っておけない。

駆け足で近寄ると、詳細が分かる。

 

「・・・こりゃだめだ」

 

腹には大きな傷があり、明らかに致死量の出血をしている。

――意識を戦闘用のものに切り替える。

通り魔のナイフではこの傷はつけられない。つまり、大きな刃物を持った下手人はまだこの近くにいる。

 

「っ」

 

背筋に極大の悪寒が走る。殺気だとかそんなものじゃない。

本能が全力で警報を発していた。

 

ひゅっ

 

頭を下げると、直前まで首があった場所に何かが通る。

勢いのまま前転しつつ距離をとった。

反撃できるよう身構えるが、相手に追撃してくる気配はない。

 

「いきなりなにしやがる」

 

ゆっくりと立ち上がると相手は余裕の足取りで接近してくる。

 

「おまえは・・・」

 

街灯の光の範囲に入ったその姿は忘れもしないクソ神父――

 

「フリード・セルゼン?」

 

相手の顔が喜色に染まった。

 

 

 

 



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第十八話

「シューちゃん、おっひさ~~♪」

 

くねくね上半身を揺らしながら相変わらずの陽気な声を上げる。

 

「お前がいるってことはまた堕天使か?」

「イエース、イエスイエス!!・・・ッてゆーかシューちゃん悪魔になったの?なんか悪魔臭い。こちらにおわすはデビル・シューちゃんですかぁ?」

「そうだよ、デビル秀介さんだ。恐れおのののけ」

「いやいやおうおうおう、悪魔くんには分ーかりませんかァ~?それとも見えない?このっ、聖ッ、剣ッ、がッ」

 

左手に握った奇抜な形の件をかっこよく天につきつける。

・・・悪寒の正体はあれか。

聖剣―――昼間兵藤が言ってたやつだな。

 

「悪魔はこれで斬られると一撃ッスからねぇ~~。ほらほら、みてみてこのエクスカリバー」

「マジでっ!?」

「あり?知んないの?悪魔にとって聖剣は―――」

「いや、そんなのどーでもいいから。なに?ソレがあのエクスカリバーなの?」

 

すっげー!!男の子なら一度はあこがれる武器トップ10には入ってんだろ!

悪魔とか神とかいるんだから聖剣くらいあるとは思ってたけど、まさか実物を見られるとは!!

 

「あ、うん。そうです・・・じゃなくてぇ。んん?シューちゃんエクスカリバー好きなの?目ぇめっちゃキラキラしてんだけど」

「かっこいいじゃねぇか」

「おおおおおおッ!!!わっかるー?やっぱそーだよねー!!いいっしょー、これー」

 

見せびらかすようにブンブンと振り回す。

剣はふられる度に軌跡を描くように金色の粒子を残す。

 

「うはー、眼福だわー」

「だしょー??やっぱシューちゃんセンスいいって、うんうん」

 

一通り二人で黄金の煌めきを眺める。

 

「そーいやさぁ、シューちゃんさァ、そこに転がってる神父、見ちゃったよねぇ?」

「ああこれ?・・・忘れてたわ」

「ひっどー。そこはどうしてこんなことをッ!?つって飛び掛かってくるとこだよ」

「だって死んでんじゃん。知り合いでもないし」

 

生きていたなら助けるし、知り合いだったら、大切な存在だったらもちろんフリードを殺そうとしただろう。

だが、死んでいる他人に俺がしてやれることは弔うことくらいだ。

 

「吾輩、目撃者は全員コロコロしろって言われてんのよねっとォ」

 

突然フリードは俺に向かって切りかかってくる。

 

ブオン!!

 

「っとぉ」

 

俺はスウェーで躱しつつ距離をとった。

さっきまでの和気藹々ムードは一変して、ピリピリとした緊張感が二人の間を流れる。

 

「見逃すわけにはいかんのか?」

「えー、別にボクちん真面目君じゃないけどォ~。命令とは別ナンスわ、この感情はッ!!もーね、我慢できない!!興奮しちゃった!殺し合おうよ!?」

 

完全に目がイってらっしゃる。

この表情を見ていると初対面の時を思い出すな。

あの殺し合い――――クククククッ

 

「伝説の聖剣が相手・・・あたりゃあ即死だっけか?クハッ」

「シューちゃんも悪魔になって強くなったよねェ?ひひひゃは」

 

俺も気が狂っているのだろう。だが、死ぬような状況が楽しい訳じゃない。

むしろ逆だ。死ぬつもりは毛頭ない。

俺は死ぬことが何よりも恐ろしい。

俺は生きることが何よりも楽しい。

死にそうな状況、死んでもおかしくない状況、そこから『生き延びる』事が最高に興奮する。

平々凡々と、だらだらと生きるよりもずっと自分の生を実感できる。

俺は永遠に生きて、生を実感し続けたい!!!

 

「ハッハハハハハハハハハ――!!」

「イイェェェェェェアッハアァァァァ!!」

 

フリードの聖剣を傘ではじく。

勿論、傘を両断されないように剣の腹を横から殴りつけてだ。

パンッパンッパンッ

剣と傘のぶつかる間抜けな音がしばらく続く。

 

バシィッ

 

一際大きくぶつけると、傘を鎬を削るようにして鍔元まで滑らせフリードの手首を押さえつけた。

鍔迫り合いの形で接近した俺は

 

「オラァッ」

 

全力で額を奴の顔にぶつける。

が、相手も同時に同じことを実行したため額には二倍の衝撃が走った。

 

ゴッ!!

 

額を突き合わせたまま、吐息の掛かる様な距離でにらみ合う。

俺の額から一筋、血が流れるのを感じる。

フリードの顔にも同様に血が滴っていた。

 

「ククク」

「ヒヒヒ」

 

同時に弾かれたように距離をとり、体勢を立て直そうとする。

俺が人間のままならここで仕切り直しだ。

しかしこの身は既に人間では無い。

悪魔の瞬発力をもってすれば、人間の奴よりも先に行動に移れるッ!!

 

「シッ!!」

 

右足の爪先で聖剣を相手の体の外側へ弾く。

そのまま足を下げず、一発二発と胸を足裏で蹴りつけた。

ダメージは少ないようだが体勢は崩せた。

攻撃した足で踏み込みつつ、接地した瞬間軸足に変える。

頭を狙った後ろ回し蹴り。

 

「うおわあァァァい!?」

 

ギリギリのところでフリードは仰け反って死神の鎌を回避する。

そしてバク転を繰り返し距離をとった奴は、一段と高く飛んで背後の塀に飛び乗った。

俺も奴を追って塀に難なく飛び乗る。

どうやら塀の内側は民家のようだ。

 

「む?あれは・・・」

「戦闘中にッ、よそ見ですかァっ!?」

 

正面からの斬撃を躱しつつ塀を飛び下りる。

 

「ちょっとお借りしまーす」

 

俺は庭に出しっぱなしだった物干し竿を掴み、再び塀に戻った。

 

「傘の次はその棒っきれ?」

「・・・かの高名な佐々木小次郎は、物干し竿でエクスカリバーと互角に渡り合ったという」

 

金属製のソレは傘なんかよりもよっぽど頼りがいがある。

俺は物干し竿を槍の様に構えた。

 

「第二ラウンドだ」

 

先制して突きを放つ。引きを極限まで早くして、高速で突く。

線よりも点での攻め。金属製とはいえ聖剣とまともにぶつかればアウト。

接触は最小限に。

 

「ほんっと器用だねェ!!苦手な武器はなんですかっとォ!!」

 

武器を変えてからは明らかに俺の方が押している。

聖剣がいくら凄かろうと、振っているのは人間だ。

だが、油断は禁物。ただの光属性の剣が伝説と呼ばれるはずがない。

 

「ぶぎゃっ」

 

俺の突きがフリードの脇腹を捉えた。

 

「げっほ、ぐふ、おえええ。・・・・やだ~~、素の能力じゃあもう敵わぬですなぁ!こうなったらぁ―――」

 

聖剣が金色のオーラを纏い始める。来るか・・・。

――まさか対場攻撃とかしてこないよな?

 

「解放!『天閃の聖剣』!!!」

 

次の瞬間、フリードの剣を振る速度が劇的に加速した。

速い。速すぎる。人間の出せる速度じゃない。

普通に木場クラス、いや恐らくもっと速い。

間違いなく聖剣の能力だろう。

 

ザンッ

 

速さに全く追いつけず、竿を二つに両断されてしまった。

まだまだっ

 

「得物が、二本に増えたなッ!」

 

斬られた半分ずつを両手に握って双剣の構えに変えた。

フリードの高速剣を二刀でさばく。

いなす、弾く、逸らす、弾く、いなす、いなす。

防戦一方。

それでも完全にはさばき切れず、俺の体には無数の小さな切り傷が出来る。

 

ギギギギギギッ

 

音は一続きの音楽の様に連続で鳴りはじめる。

片目が使えないのが本当にしんどい。

相手も覆われた右目の方を重点的に狙ってくる。

どうする、『目』を使うか?

 

「ッ!?」

 

そう思った瞬間、全身から力が抜けた。

踏ん張ろうとするが敵わず膝をつく。

 

「あーあ、いったじゃーん。ボクちん言いましたよねェ?」

「ちっ」

 

そうか、悪魔にとっての光は『こういうもの』か。

夕麻の槍を受けた時は人間だったから、焼けるようなものをイメージしていたが・・・。

これは毒だ。ごく少量の傷でも確実に体を蝕む。

 

「っていうかいくら七分の一とはいえそんなもので聖剣と張り合うってねェ?すごいけどさァ、なーんか拍子抜けってかァ?もっと期待してたんよ?シューちゃんとやり合ってからさー、雑魚をぐっちゃぐちゃにしても前みたいに興奮しないワケ。万年欲求不満。どうしてくれんの?」

 

そう言うフリードは、珍しく本気で不満そうな顔だった。

 

「わかってねェ・・・なァ」

「んんんんん?」

 

俺にはこいつが満足できなくなった理由に心当たりがある。

武を志すものなら一度は必ず感じるであろう葛藤。

 

「殺すのが困難な、はぁッ・・・奴を殺す方が楽しいんじゃねえか。・・・新人の時にはもっと楽しかった。成長するほどにつまらなくなった。そう思わないか?」

「・・・」

「お前は相手してるのが雑魚すぎんだよ」

 

こいつは根っからの戦闘狂だ。

だが、なまじ才能があった分満足できる殺し合いが無かった。

物足りない、満たされない。そんな思いが残虐性をエスカレートさせていったのだろう。

勿体ない。死線をくぐるのはこんなにも楽しいのに。

 

「想像してみろよ、戦う前までふんぞり返ってた格上が這いつくばってお前に命乞いをする様を」

「うーん、うーん・・・お、お?おおお?・・・うへへ、ひひひぇへ」

 

想像しているのだろう。奴の顔が徐々に喜悦に染まってゆく。

 

prprprprprprpr

 

しかし妄想を中断するかのようにフリードの携帯電話が鳴った。

フリードは見るからに不満そうに電話をつまみ上げる。

 

「あ、はいもしもしィ?・・・ええええ、しょーが無いッスね~」

 

ピッ

 

通話を終了したフリードは頭をガシガシと掻く。

 

「・・・ごめんシューちゃん、ワタクシ帰りますわ」

「とどめは刺さねえのか?」

「だァって今のシュウちゃん殺してもねえ?こーね、アガらないっすわ」

 

そう言って奴は俺に背を向け、振り返りもせずに立ち去った。

今のお前には殺す価値もない、という事だろう。

 

「・・・・・・・完敗、だなぁ」

 

油断していたつもりは一切ない。

俺の悪魔としての初戦は敗北だ。

 

 

 

 

 

「ってことがあったわけよ・・・いで、いででででっ」

 

ピンセットにつまんだ脱脂綿で消毒液を塗ってくれていた夕麻が傷口をぐりぐりと突っつく。

俺はソファーに座ってさっきの出来事を報告していた。

 

「なんで悪魔になって一か月にも満たない下級悪魔が、聖剣に喧嘩売ってんのよ。バカなの?死にたいの?」

「フリード・セルゼン、フリード・セルゼン、フリード・セルゼン兄様を殺そうとしたニンゲン・・・・」

 

そうだ、堕天使なら聖剣についても詳しいんじゃないだろうか?

 

「エクスカリバーについて、知ってることある?」

「はぁ・・・聖剣といえばって言うとまず挙げられる代名詞ね。でも、たしかエクスカリバーは全部教会が管理している筈よ。堕天使側に渡ったなんて話、少なくとも私はしらないわ」

 

だがフリードは堕天使側だと言っていた。

ここ最近の急な出来事なのか、水面下での極秘事項なのか・・・。

ってか全部?

 

「エクスカリバーって何本もあるの?」

「本来は一本よ。でもかつての大戦で砕けたらしいわ。いまあるのは破片から再構成した七本」

「だから七分の一か・・・」

「アンタが相手したのは『天閃』でしょうね。能力は所持者の加速よ」

「フリードフリードフリードフリード・・・わわっ」

 

ハイライトの消えた目でブツブツ呟いていたギャスパーを膝の上に載せる。

――加速か・・・間違いなくそれだな。

七分の一であれか・・・

 

「もしも本当に堕天使の手にエクスカリバーが渡っているならかなりの大事件よ。教会の人間にとっては切り札なんだから」

「最悪の場合は?」

「さぁ?・・・戦争?」

 

そこまでデカい話なのか・・・会長に報告すべきだな。

ギャスパーの頭に顎をのせ、考えにふける。あ、結構いい匂い。

――グレモリーの方にも言っておいた方がいいだろう。

悪魔なら絶対に気を付けておくべきだ。

暫くは全員に警戒してもらう必要がある。

 

「このことは主に報告しておく」

「それがいいでしょうね。でも、聖剣の詳細までは言わない方がいいわ。あんたさっきまで知らなかったんだから」

「ああ、分かってる」

 

夕麻を匿っていることが知れればどうなるか。

それこそ大問題だ。

 

「さて、メンドクサイ話は終わりだ。お前らも一応気を付けとけよ」

「はいはい。で?ごはんどうするの?」

「そーだなぁ。宅配ピザなんてどうだ?」

「けち臭いアンタにしては珍しいわね」

「けち臭い言うな、倹約家と言え。・・・今回は別に目的がある」

「目的?」

 

膝の上でうつらうつらしているのをチラリと一瞥し

 

「注文はギャスパーにやってもらう。もちろん、受け取りもだ」

「えええっ!?む、無理です嫌です怖いです」

 

膝から飛び降り、手をバッテンの形にして首を振る。

 

「まだ人の多い外に出るのは怖いんだろう?だったらまずは赤の他人と一対一の状況を乗り越えてみろ。ステップワンだ」

「ふーん。更生ってただの口説き文句じゃなかったのね。・・・いいんじゃない?ギャスパー、頼んだわよ」

「そ、そんなぁ」

「大丈夫だって、俺らも見といてやるから」

「一緒にいてくれるんですか?」

 

少し光明が差したという様に聞いてくる。

 

「いや、物陰から」

「うわーんっ」

「はい、チラシ」

「お、サンキュー」

 

 

 

 

 

 

 

「うまー」

 

なんだかんだでギャスパーはやり遂げた。

配達員にもつっかえながらも応対し、代金も支払った。

こっそりつり銭が出るようにしていたが、それもクリア。

 

「たまにはこういうジャンクなのもいいわね」

「・・・・・・」

 

ギャスパーはさっきからずっとつり銭とピザを交互に眺めている。

 

「できたろ?」

「・・・はい」

「今回の挑戦で少しは自信が付いたはずだ」

「そうなんでしょうか?」

 

不安そうな様子は変わらない。

 

「別に一気に治す必要はないんだ。気長に、一歩ずつやってこうぜ?俺も手伝ってやるからさ」

「・・・次も、次のときも僕がやっていいですか?」

 

驚いた。ここまで前向きな意見が出るとは。

 

「もちろんだ。そう思えるだけで大きな成果だよ。・・・頑張ったな」

「えへへ」

「ほら食え。おい、夕麻食い過ぎだ。ジャーマン後一切れしかねえじゃねえか!!」

「これが一番おいしいのよ」

 

結局ギャスパーに譲ったため、俺はジャーマンが食えなかった。

くそっ、俺も一番好きなのに。

 



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第十九話

ヤバい、詰め込み過ぎた!!


「・・・分かりました」

「やっぱヤバいのか?」

 

俺は会長に昨夜の顛末を説明した。

彼女は最初こそ驚愕して呆然としていたが、すぐに冷静さを取り戻し、質問を交えながら俺の報告を聞いた。

 

「由々しき事態です。その話が本当ならグレモリーとシトリー、二つの上級貴族が管理している土地に堕天使勢力しかも聖剣持ちが無断侵入しているという事です。更にあなたの目撃した神父。殺されていた事を考えると教会側の人間でしょう。悪魔、教会、堕天使・・・外交問題に発展しても何の不思議もありません」

「この後、オカ研にも伝えに行くつもりだ」

「お願いします。報告、ご苦労様でした・・・・が」

 

会長のメガネがギラリと光る。

なんか、ヤな予感。

 

「なぜ聖剣使いと交戦したのです?口振りでは面識がある様ですが、友好的な人物でしたか?」

「二回遭遇して、二回殺し合ってる」

「・・・・・」

 

いよいよ目つきがヤバい域に達した。

なまじ美人な分チョー怖い。

 

「では貴方は聖剣の危険性を承知の上で、危険人物と戦闘を行ったという事ですね?」

「ああ」

「ふーーーーーーー」

 

大きなため息をついて椅子の背もたれに体を預ける。

眼鏡を外してレンズを磨きつつ

 

「お仕置きです」

「は?」

「お尻をこちらに向けなさい」

「・・・・・え?」

 

なんかの聞き間違いか?

いま尻を出せって・・・まっさかぁ~~。

会長は椅子から立ち上がり、手首をほぐしたりプラプラさせたりしている。

 

「しり叩き千回」

「・・・・・」

「お仕置きです」

 

 

 

 

バッ←秀介の駆け出す音

 

ズバァァァァァァァッ!!!←生徒会長の放った水がぶつかる音

 

ビターン!!←秀介が壁に叩きつけられる音

 

ズルズル←カイチョーが伸びた下手人を引きずる音

 

ガチャンッ!!←手錠で椅子に固定する音

 

かちゃかちゃ←ズボンのベルトを――――

 

 

 

 

「あかん!!ソレはまずい!!」

 

これ以上は流石にシャレにならん。

 

「これは教育です」

「わ、分かった。ケツたたきは甘んじて受けよう。だがズボンはやめろズボンは!!」

 

俺の最終防衛線は半分パージしかけている。

必死で抵抗しているが、魔力強化された腕力に敵わない。

 

「教育すらも拒絶しますか・・・問題児ですね。もう少し厳しい調きょ・・・指導が必要なようです」

「おいいいい!?なんか本音漏れてない!?アンタ絶対楽しんでるだろ!!」

「楽しむ?何をですか?それに言うではありませんか、手のかかる子の方が可愛いと。楽しそうに見えるのはきっとそれでしょう」

「え?無自覚なの!?」

 

無自覚のサディスト・・・サイアクだ。

 

「こんなとこ誰かに見られたらどうすん―――『失礼する』」

 

突然生徒会室の扉が開き、真っ白な外套に身を包んだ二人組が入室してくる。

 

「ソーナ・シトリーはいるか?我々は教会の―――」

「ゼッ、ゼノヴィア!!あの二人を見て!!なんだかただならぬ雰囲気よ!これがうわさに聞くSMプレイ!?流石悪魔ね、爛れてる、爛れてるわ!!」

「・・・出直した方がいいだろうか?」

「助けてください!!」

 

俺は全力で泣きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々の要求は二つ。この町にいる間の我々への不干渉とグレモリーへの引き合わせだ」

 

開口一番、二人組の片方ゼノヴィアと呼ばれていた女はそう言った。

無駄にエラそうな奴だな。

だが脇に抱えていた大きな包み。

あれから感じるものには覚えがある。

―――聖剣だ。

 

「事情も説明せずに要求ですか・・・教会の人間は交渉事は苦手なのでしょうか?」

「回りくどいことが嫌いなんだよ。陰険な君たち悪魔と違ってね」

 

室内は異常な緊張感に包まれている。

最早交渉中の二人は一触即発だ。

 

「ゼノヴィア。いくら悪魔が相手とはいえ、説明は必要よ。頼み込んでいるのはこっちなんだから」

「・・・・わかった」

「私が説明するわね?・・・先日、カトリック教会及び、プロテスタント側、正教会側に保管されていたエクスカリバーが強奪されました」

「そうですか」

「・・・驚かないのか?」

「その情報は既に掴んでいます。既にこの町に聖剣が持ち込まれていることも」

「「なっ!?」」

 

上手い言い方だ。確かに嘘は言ってない。

たとえ直前であったとしても、俺たちはその情報を知っている。

教会にとっても極秘事項だ。相手の動揺を誘うには十分なブラフだろう。

ゼノヴィアは剣を手に立ち上がり、殺気を放つ。

 

「やはり今回の件、『神の子を見張る者』のみならず貴様ら悪魔も!!」

「『神の子を見張る者』!?・・・確かにくだらない駆け引きをしている場合ではないようですね」

 

『神の子を見張る者』・・・堕天使の幹部集団だったか。

やはり相手は堕天使。それもかなりの大物。

 

「剣を収めてください。我々がこのことを知り得たのはそこの青江が昨夜聖剣使いと交戦したからなのです」

「なんだと!?」

 

二人の視線が俺に集中する。

 

「本当だ。・・・フリード・セルゼン。しってるか?」

「っ・・・なるほど、あの男か」

「心当たりがあるみたいだな」

「フリード・セルゼン。元法皇庁直属のエクソシスト。若干十三歳でエクソシストになった天才よ。功績も大きかったけど、彼の行動は常軌を逸していたわ」

「奴は魔獣のみでは飽き足らず、同胞たちにまで手をかけ始めた。異端認定されるのは当然のことだったよ」

 

やはり本物の天才なんだな。俺の考察もあながち間違いでは無さそうだ。

だが、十三歳か・・・確か人間はそのあたりの性的な発育の過程で性的関心や破壊衝動など様々なものが分離、確立されるそうだ。

その辺もあの狂気に関係しているのかもしれない。

 

「それで、教会側が堕天使から聖剣を奪還する戦いに悪魔は介入するなってことだな?」

「ああ、我々はともかく上の人間は君たち悪魔を信用していない」

「いいでしょう。今回の件、我々シトリー眷属は手を引きましょう」

「いいのか?会長?」

「この件は非常にデリケートな問題です。言い方は悪いですが、彼女たちが勝とうが負けようが我々にできることはありません」

 

出来るなら双方だけで解決してとっとと出てってくれって事か。

まぁ、そうだろうな。

 

「ただし、この町にいる間は悪魔に手を出さない。それだけは誓ってもらいます」

「それはグレモリー側の態度にもよる」

「では、あなた方からは攻撃しない」

「いいだろう。・・・神の名のもとに誓う。この町の悪魔にはこちらから手を出さない」

 

二人は額にロザリオを当てて誓った。

 

「ありがとうございます。・・・リアスと対話する際は彼を連れていくといいでしょう」

「俺?」

「問題の聖剣とも交戦経験があり、リアス達とも親交が深い。適任でしょう」

「なるほどな・・・了解」

 

とりあえずオカ研に向かおう。

 

「案内はよろしくたのむ」

 

え?

もしかしてこのコスプレつれて校内練り歩くの・・・か?

 

「ええええ」

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で教会の聖剣使いゼノヴィアさんとイリナさんです」

 

二人をオカ研のメンツに紹介する。

オカ研のメンバーは教会関係者という事で最大級の警戒をしている。

そして何よりも

 

「・・・・・」

 

木場が恐ろしいまでの殺気を放っている。

兵藤が言ってたな・・・木場は聖剣に特別な感情がありそうだって。

 

「やっほー、イッセー君おひさー」

 

あと紫藤イリナと兵藤は幼馴染だったそうな。

いろんなのに縁があるなぁ。

 

「ゼノヴィア、イリナ。悪いがさっきの説明をもう一度頼む」

「わかった。・・・事の発端は――」

 

二人はさっき俺達にしたのと同様の説明を彼らにもした。

 

「そしてこれが――聖剣エクスカリバーだ」

 

ゼノヴィアが包みを解き、刀身をあらわにした瞬間背筋が泡立つ。

やっぱすげえな・・・。

 

「私の持っているのは『破壊の聖剣』。カトリックに保管されていたものだ」

「私のはこれ」

 

イリナが腕に巻きつけていた紐を解くと、それは形を変え日本刀になった。

日本刀型のエクスカリバー?

 

「『擬態の聖剣』。こんなふうに形を自由に変えられるの」

 

そう言った彼女は俺たちの目の前で剣の形をグニャグニャと変えてみせる。

 

「イリナ、軽々しく聖剣の能力を悪魔に話すな」

「あら、たとえ悪魔が相手でも信頼関係は大切よ。それに私は聖剣の能力が知られていようと彼らに後れを取るつもりはないわ」

 

この人数相手にその自信は凄いな。

確かにフリードも強かったが、聖剣一本で人間が上級悪魔に太刀打ちできるものなのか?

ってかそんな事よりもいよいよ木場の形相がヤバいことになっている。

まずい、今にも飛び掛かりそうだ。

 

「木場、落ち着け。・・・俺が交戦した聖剣は恐らく『天閃の聖剣』だ。能力も合致するしほぼ間違いないだろう。持っていた人間はフリード・セルゼン。例のクソ神父だ」

「フリードさんが!?」

 

アーシアが驚愕の声を上げる。

 

「ちょっと待ってくれ。聖剣と戦ったって、青江大丈夫だったのか!?フリードって元のままでも滅茶苦茶強かったじゃないか。そいつが聖剣なんて持ったら」

「戦いには負けた。見逃してもらったってのが正しいな」

「あの狂人が見逃すなんて、我々にもにわかには信じがたいがね」

 

ゼノヴィアにまで懐疑の視線を向けられる。

 

「・・・つまらないんだそうだ」

「なに?」

「弱い俺を殺すのはつまらないんだと。万全の状況でもう一度やろうって意味だろう」

「青江が弱いって・・・聖剣ってのはそこまでの」

 

兵藤が愕然としている。まぁ、俺に未だに勝っていない奴からすればそうなるのも当然か。

でもそれは今までの話。禁手使われたら絶対に勝てない自信がある。

 

「もういいだろ。ゼノヴィア、本来の目的を忘れてる。ここには交渉に来たはずだ」

「そうだったな。聖剣を奪ったのは『神の子を見張る者』の幹部コカビエルだ。我々はこれから奴を相手に奪還作戦を決行する」

「コカビエル!?聖書にも記されている超大物じゃない。増援は?正教会は?」

「増援は無い。正教会の連中は今回の件を保留にした。残り一本を死守するつもりのようだ」

 

コカビエルって聖書に載ってたっけ?

いやまぁ、会長のスパルタ教育で堕天使幹部の名前くらいは把握してるけどさ。

 

「たった二人でやるっていうの?・・・貴方たち、死ぬ気?」

「教会は堕天使に利用されるくらいなら、エクスカリバーがすべて消滅しても構わないと決定した。私たちの役目は最低でも堕天使の手からエクスカリバーを無くすことだ。そのためなら、私たちは死んでもいいんだよ」

 

死んでもいい・・・か。

 

「お前たちはそれで納得しているのか?」

「ああ。もとよりこの身は神に捧げた身。主のために死ねるなら我々も本望だ」

「ふーん」

 

ま、いいや。

 

「シトリーにも言ったが、我々としては君たちが堕天使と手を組んだりしなければそれで十分だ。協力しろとも言わない。一時的にでも魔王の妹が教会と手を組むというのは三すくみの関係に影響を与えかねないだろうしね」

「私は何があろうと堕天使などと手は組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るようなまねはしない!」」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

グレモリーとゼノヴィア、両者は一歩も譲らずにらみ合う。

暫くその状態が続いたが、ゼノヴィアの方が先に気を緩めた。

 

「それだけで十分だ。・・・用は済んだな。我々は失礼する」

 

二人はもう話すことはないと言わんばかりに席を立つ。

だが

 

「まぁ、そんなに急ぐこともないじゃないか。もう少しゆっくりしていくといい」

 

ザンッ

 

木場の一言を合図に室内に剣が咲き乱れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐斗!!」

「・・・なんのつもりだ?君は・・・グレモリーの『騎士』だったか」

「うん。そして・・・君たちの先輩でもある。失敗作らしいけどね」

 

にっこりと笑っているが普段の爽やかさは無く、ただひたすらに凄絶さをたたえている。

なんつーの?こういう顔が修羅の顔って言うんだろうな。

 

「おい、せっかく話が纏まりそうだったんだ。いきなりひっくり返すようなことをするんじゃない」

「君は黙っていてくれないかな?同じ眷属ならともかく、部外者の君には関係のない話だ。やっと見つけんだ・・・ふふふ、ドラゴンは力ある者を引き寄せるというけどまさかこんなに早く・・・」

 

肩に手を置いて止めようとするが振りはらわれてしまった。

不味いな、完全に頭に血が上っている。

ゼノヴィアは周りに並ぶ魔剣の群れを見回して

 

「『魔剣創造』か・・・所有者の想像した剣を創造する神器だったか?その口ぶりだとエクスカリバーを探していたように聞こえる」

「そうだよ。ずっと探してた。僕が今ここにいるのは全て、それを壊すためなんだ」

「・・・『聖剣計画』の被験者で処分を免れた者がいるかもしれないと聞いたが、それが君なのか?」

「・・・・」

 

木場は答えない。

だが雰囲気から察するに無言の肯定なのだろう。

『聖剣計画』に『先輩』、『失敗作』と『処分』か・・・。

なんとなく事情は予測できるな。

 

「恨む気持ちは分かるわ。でも、あの計画のおかげで聖剣の計画は飛躍的に伸びた。おかげで私やゼノヴィアといった聖剣に呼応できる人間が生まれたの」

 

え?なにこいつ煽ってんの?

・・・なわけないか。こいつの中では本当に研究の進展は素晴らしい事なのだろう。

だから犠牲となったモノは尊い犠牲の様に考えている。

そんなとこか。

 

「だが、計画失敗と判断された僕たちは僕を残して全員処分された」

「それはっ―――」

「・・・あれは教会の中でも最大級の汚点として扱われている。当時の責任者も異端認定されて、今では堕天使側の人間だ。そしてその者は今回の件に深く関わっており、今現在この町にいる」

 

異端認定って、おいおい。

研究は飛躍的に伸びたって言ったじゃん。

まだそれを基にして同じような研究やってんだよな?

頭挿げ替えただけじゃねえか。

 

「この町に!?その者の名前は!!」

 

あーあ、復讐相手追加だなあ。

正直木場にはそんなモンに縛られてほしくないんだけどなーー。

ってか木場にさっき言われた拒絶チョー傷ついた―。

少々うんざり気味に話を聞く。

しかし、それは次の言葉を聞くまでだった。

神妙な面持ちでゼノヴィアが口にする名前。

忘れもしない、探していた人間―――

 

「バルパー・ガリレイ」

 

 

 

 

 

 

 

ガタンッ

 

名前を聞いて体が反応する。

椅子にかなりの勢いで体をぶつけてしまったが、今はそんな事どうでもいい。

 

「バルパ―、だと?」

「あ、ああ。皆殺しの大司教と呼ばれた者だ。知っているのか?」

「・・・・・・」

 

そうか、そうかそうかそうか。

ここで、ここで繋がるか!!

 

「ククッ、ククククククク」

「お、おい。青江?お前までおかしくなっちまったのかよ?」

「バルパー。それって・・・青江君が探していた?」

 

姫島がグレモリーと顔を突き合わせる。

そうだったな。

こいつらには心当たりがないか一度聞いている。

・・・面倒だな。

 

「どういう事だい?事と次第によってはたとえ君でも―――」

「・・・・・リアス・グレモリー。俺はやることができた。先に失礼する」

「ちょっと、まちなさい!!!」

 

呼び止める声を無視して退室する。

木場もグレモリーも睨んでいたが無視を決め込んだ。

 

 

 

向かうは生徒会室。

会長に伝えなくてはならない。

 

―――俺はこの件に関わると。

 



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第二十話

個人的に結構大きな出来事があったため、更新が遅れました。
申し訳ない。


「駄目です」

「はい」

 

会長は資料から顔もあげずに返事をした。

事件への介入許可を貰いに行ったんだが、取り合ってもくれない。

さっきゼノヴィア達に関与しないって言ったばかりだもんな。

今回の件、勝手に介入したと会長の耳に入れば尻叩きどころではないだろう。

最悪はぐれ悪魔になるかもしれない。

 

「悩ましいねェ」

「青江君」

 

生徒会室をあとにした俺は廊下に出たとたんに呼び止められた。

木場か…。

 

「どうしたんだ?こんなとこで」

「君を待っていたんだ」

「俺を?」

「心当たりがあるみたいだったからね。あの男…バルパー・ガリレイに」

 

そういうことか…。

 

「分かったからその殺気やめろ。ほら、周りがみんなビビってる」

 

学校一の王子様が一人で廊下に立ってりゃあ、そら注目を集めるだろう。

現に見える範囲でも廊下の陰に三人いる。

そして全員が王子の様子に何事かとオロオロしていた。

 

「………」

 

それでも、周りなど知ったことかと殺気を緩めない。

 

「はぁ…場所を変える。ついてこい」

 

 

 

 

チリンチリン

 

「いらっしゃいませ~♪何名様でしょうか?」

「二人。できるだけ奥の席を頼む」

 

木場を連れて入ったのは喫茶店。

 

「なんにする?お、アイスあんじゃん。奢るぜ?」

「……」

「すんませーん」

 

近くを歩いていた店員さんを呼び止める。

 

「はい。ご注文はお決まりでしょうか?」

「コーヒーを二つと…あー、このアイスクリーム」

「かしこまりましたぁ!!…今日は違う方とデートですか?」

「アンタは…」

 

確か夕麻と初デートの時にいた子だ。

 

「見りゃわかんだろ。相手は男だ」

「でもでも、女の子みたいに綺麗ですし…まさか禁断の?きゃー」

 

彼女は身もだえしながら厨房に引っこんでいった。

しばらくすると

 

『きゃーーーーー』

 

何重にも重なった嬌声が聞こえてきた。

おおかた他のスタッフに自分の妄想をぶちまけたのだろう。

悪い気はしない。(あれ?)

 

「で?何が聞きたい?」

 

いままで無言を貫いていた木場に問いかける。

 

「君とバルパーの関係を」

「関係…あー。人違いでした、じゃあ駄目か?」

「ふざけないでくれっ!!!」

 

ガチャンッ

木場は思わず、といったふうに立ち上がる。

勢いでお冷がこぼれてしまった。

あわててやってこようとする店員を手で制して俺は木場に尋ねた。

 

「どうしてそこまで聖剣に執着する?」

「…君のことだ、おおよその見当はついているんだろう?」

「ああ、だがお前の口からは聞いていない」

 

俺が知りたいのはただの概要ではない。

こいつが、木場祐斗がどう感じているのかが知りたい。

 

「お前に事情がある様に、俺にも俺で奴には因縁がある。自分だけ情報を引き出そうってのはちょっと虫のいい話じゃないか?」

「それは…」

「別にいいだろう?お互い少しでも手がかりが欲しいんだ。情報交換といこうじゃないか」

 

俺の言い分が至極真っ当なものだと思ったのだろう。

木場は再び腰を下ろして目を閉じた。

 

「「………」」

 

店員が濡れたテーブルを拭いてゆく。

俺たちは互いに一言も話さずそれをじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「…わかったよ。…じゃあ、まずは僕の話を聞いてくれ」

 

どれ位経っただろうか?それまでじっと目を瞑っていた木場が口を開いた。

語られたのは、自分の生い立ちと聖剣との因縁。

 

 

 

 

『聖剣計画』―――聖剣に適合できる人間を人為的に造り出そうとした計画。

木場自身も被験者であり、同年代の子供たちも大勢いたこと。

過酷な実験に信仰を支えに耐えた事、検体同士互いに励まし合ったこと。

 

「僕たちは信じていた。聖剣に適合し、神の使徒として生きられることを。そうすれば、身寄りのない僕たちにも居場所ができると思った。…でも、結果は―――」

 

研究の打ち切り、そして被検体の処分。

木場以外は全滅だったそうだ。

仲間たちは全員が毒ガスを浴びせられ、木場の目の前でもがき苦しみながら死んでいった。

 

「僕は仇を討たなくちゃならない。死んでいった仲間たちの無念を晴らすためにも。そのために僕だけが生き残ったんだと思っているし、これまでもそれだけのために生きてきた」

 

自分の手のひらをじっと見つめ、自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 

「そう…そのために悪魔なり、力を蓄えた」

「……」

 

思いつめた様な木場の顔を見て俺は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重おおおォォォォォぉぉおいっッッ!!

想像以上にへヴィだったっ!!

小説として呼んでた時はギャグ路線だとおもってたんだけどなー。

 

「僕の話はこれで全部だよ」

「そうか…」

「次は君の番だ。…ここではぐらかすことは許さないよ?」

「大丈夫だ。…だが」

「?」

 

まいったな、この空気じゃ適当なこと言えん。

 

「あー、すまん。俺は今のあいつには詳しくない。だから今の潜伏先についても手がかりすらない。

「…君もあの聖剣使いから聞いて驚いていたみたいだったからね。そこにはもともと期待していなかったよ」

「俺の話は無駄になるかもしれん…それでも聞くか?」

「バルパー・ガリレイの人物像が知りたい」

 

こちらを見つめてくる木場の目は真剣そのものだ。

憎しみだけが募っていたこれまでと違い、復讐の対象が出来た…か。

俺はテーブルの上のグラスを手にし、軽く口を湿らせた。

 

「わかった。…端的に言うとな?母さんと爺さんの仇だ」

「っ!?」

 

木場が目を見開き、息をのんだ。

 

「どういう、ことだい?」

「俺もお前と似たようなもんでな?あのジジイが人為的に生み出したんだ。高位な存在の遺伝子を使ってな」

「なっ!?それじゃあ君は元から人間ではなかった!?」

「いや、どうも俺は失敗作だったらしい。区別な力も持たず、人間として生まれた。それに――」

 

ミハイルは俺が片手間に作られたと言っていた。

よって本命は他にある。

十中八九それが『聖剣計画』。

 

「俺は本命ではなかったらしい。大して期待もしてなかったみたいだ。それでも失敗作は許せんかったらしい。あのジジイの処分ってのが何を意味するか、よく分かってるだろ?」

「…」

 

 

 

 

 

 

「「……」」

「あの男は――」

 

木場がうつむいたまま喋りはじめた。

こちらからはその表情は伺えない。

 

「ん?」

「あの男との決着は僕が自分で着ける。あの男を殺すのは僕だ。譲れない。君には悪いけど、たとえ敵対しても『おう、そうしろそうしろ』――え?」

 

ぽかんとした表情で顔を上げた。

大きな瞳と半開きの口がちゃーみんぐ。

 

「バルパーはお前が倒せ。協力もしてやる」

「な…君にとっても仇だろう!?君の恨みはそんなッ―――」

 

激昂する木場を手で制する。

俺と木場は同じ奪われた者同士。

俺が復讐を軽んじる事で、自分の復讐までも否定されたと感じたのだろう。

勿論俺の中で爺さんや母さんがどうでもいい存在なわけがない。

だが、

 

「俺の中では復讐に大したメリットがない。殺した所で二人が戻ってくるわけでもなし、ちょっとすっきりする位だろう。勿論最初は俺自身の手でと思ったが、お前の話を聞いて気が変わった」

「それは…、それは憐れんでいるのかッ!?僕を、同胞たちを!!」

「…お前の中で同胞の無念を晴らすというのはそんなに軽い物なのか?」

 

ジャキン!!

 

首筋に木場の生み出した魔剣があてがわれる。

もうほんの少し力を加えれば―――

 

「それ以上言うな」

「怒ったのか?」

 

首筋が軽く斬れた。

流れる血が少しこそばゆい。

 

「お前が本当に無念を晴らしたいなら、一人でやるなんて選択肢は出ないはずだ。一人よりも複数の方が確率は上がる。ましてや俺は首を譲ってやると言っているんだぞ?これ以上の協力者はそういない」

「くっ」

「その気があるのならお前は手段を選んではならない。俺をもっと憐れませろ、手伝いたいと思わせろ。本当に譲れないならプライドも捨てろ。それができないなら―――」

 

首に当てられた刃をつかむ。

俯きそうになる顔を髪を掴んで引上げ、目を合わせて言ってやる。

 

「そんな軽い復讐、やめちまえ。お前は人の命を奪おうとしているんだ」

 

復讐、無念を晴らす、敵討ち―――どう言いつくろったところでこいつのやろうとしていることは殺人だ。

この俺が人を殺すななんて言ったらお笑い草。

だが中途半端な理由での殺人は許せない。

 

「同胞は関係ない。お前が決めろ。他者に動機を求めるな」

 

それが快楽のため、金のため、不快感、守るため―――復讐のため…なんだっていい。

ただ、他に責任を転嫁することが許せない。

これは木場祐斗の復讐。死者は何も願わない。

 

「ま、俺が言いたいのはそんなとこ」

 

パッと手を放して椅子に座り直す。

 

「どうして君は―――」

 

木場も少し落ち着いたようで口を開いた。

 

prprprprprpr

 

と、突然電話が鳴り始めた。

 

「…僕のだね。もしもし?ああ、ごめん。いま―――わかった。すぐに行く」

 

最初は何か断るつもりだったようだが、急に顔が険しくなる。

 

「誰だ?」

「兵藤君。いま聖剣使いと一緒らしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……話は分かったよ。正直言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね」

「おい木場」

「分かっているよ。手段は選ばない」

 

何事かと慌てて待ち合わせ場所のファミレスに向かってみれば、塔城と兵藤、そして何故か匙までもがいた。

何でも兵藤が自発的に動いて聖剣使い達との共同戦線に漕ぎ着けたらしい。

んで、肝心の聖剣使い二人組はというと―――

 

「もうみゅうまけ(そういうわけ)…んぐ、だ。しかしっはぐ…むいむんないいむんなな(随分な言い分だな)」

「やはり、聖剣計画の―――あー!!ゼノヴィアそれ私のケーキ!!」

「二つもあるんだから、一つくらいいいだろう」

「駄目よ!!二つ食べたいから二つ頼んだの!!」

「では、もう一つ注文しよう。それなら構わんだろう?」

「ええ、そうねっ。それがいいわ!!あ、だったらついでにこのモンブランも頼もっかな~」

「ふむ、モンブラン。私にもひとつ頼む」

「ええ。すみませーん。ショートケーキ一つとモンブラン…五つお願いしまーす」

 

状況の説明を兵藤達に任せてひたすら食っていた。

ってかお前は四つ食うんかい!

テーブル脇には山と積まれた皿がそびえ立っている。

お子様ランチなどに見られる例の旗も万国旗が作れそうなほどに集まっていた。普通一皿一本だよな、あれ。

 

「教会は清貧を尊ぶと思っていたが…」

「みゅのおみにみみにさかりゃうことまなみしゃ(主のお導きに逆らうことはないさ)」

「みゅも、ももぐもめむみみ、んぐ!?げほっみ、みず~」(主よ、あなたのお恵みに感謝します)」

「食うか喋るかどっちかにしろ」

「んぐっ…そうか、では――――」

 

やっと手を止めたか。

未だに目線はこちらと料理を行き来しているが。

今回、兵藤から始まった協力体制を再度確認するために俺は口を開いた。

 

「はあ、とりあえずエクスカリバーについては共同―――」

「がつがつがつがつ」

 

そうか、そっちを選んだか。

 

―――ああ、偉大なる主よ、あなたのしもべに禁欲の教授を願います。

 

この俺を今(さいな)んでいる頭痛は祈りによるものだけではないはずだ。

 

「…話を聞いているだけでいい。同意なら頷け」

 

コクコク

 

二人の聖剣使いは同時に首を振った。

ゼノヴィアの口からはみ出たスパゲッティが俺の顔にミートソースのしぶきを浴びせる。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

話が終わっても食欲に屈した乙女の進撃は止まらない。

周囲からの目線も痛い。

ホールスタッフはこの席に専属が控えているくらいだ。

彼は一歩も動かずただただ聞こえる注文を入力するのみ。

 

「なんだか彼女たちを敵視しているのが馬鹿馬鹿しくなってきたよ」

「お前らが来る前もずっと食ってたんだぜ?話がひと段落ついたと思ったらまた…お会計って言いたくない」

「イッセーさん…。あの、私もお小遣いから出しますから!!」

「いやいやいや、アーシアに出させるわけには」

「俺は何のためにここにいるんだ?割り勘要因?ああああ、時間が、生徒会が、会長があああ!!」

 

事態の収拾も途中から投げてしまった。

 

「うまいか~?ほれほれ~」

「う~、にゃん」

 

塔城の口にデラックスパフェを運びながら、俺は顔のソースを拭っていた。

 

 

 

 

 

お会計38960円。

俺は涙を流す兵藤にそっと半額を握らせた。



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第二十一話

暫くブランクがあったのでリハビリに書きたいものを書きました。
なのでかなり短めです。

暫くあいたのに読んで下さってありがとうございます。
感想や評価値はモチベーションの回復に効果てきめんでした。(わーい、単純~)
これからもどんどんお待ちしておりますのでよろしくお願いします。

最低でもこれからは週一で上げる予定です。


教会組との共同戦線が決まってから数日。

俺たちは深夜の徘徊を繰り返しつつも、何の成果も上げられていなかった。

全員、日に日に苛立ちを感じはじめている。

だが代案がある訳でもなく、焦りばかりが募る。

 

「先輩?」

 

大体なぜ連中がこの地を潜伏場所に選んだのかも分かっていない。

『魔王の妹』の肩書きを持つものが二人もいる場所を『たまたま』選ぶなんてことはあり得ない。

何か理由があるはずだ。

 

「聞こえていますか?」

 

これでは悪魔側を挑発しているかのようだ。

堕天使は戦争でも起こすつもりなのか?

それとも―――

 

「先輩!!」

「あ?」

「どうかしましたか?先ほどから心ここにあらずといった様子でしたけれど」

 

塔城と姫島が心配そうにこちらを覗き込んでいた。

どうやら思考にのめり込み過ぎていた様だ。

 

「ああ、悪い。ちょっとボケてただけだ」

「体調が悪いとかではないんですの?」

「大丈夫だ。悪い。余計な気を使わせた」

 

時計を見れば、昼休みの三分の一が過ぎている。

 

「何かあったら遠慮なくいって下さいね?」

「ああ。それよりも早く食っちまおうぜ?昼飯」

 

俺は部室で塔城、姫島と昼食の約束をしていた。

 

「全員飯はあるんだろ?」

「ええ」

「勿論」

 

俺と姫島は家から弁当を、塔城は購買のパンをテーブルの上に並べた。

 

「小猫ちゃんはお昼、それだけですの?」

「はい」

 

彼女の前には山と積まれた菓子パンの山。

見ているだけで胸焼けしそうだ。

 

「確かに褒められた献立ではないな」

「良かったら私がお弁当を作ってきた方がいいでしょうか?」

「……魅力的なご提案ですが、姫島先輩に負担をかけるわけには―――『なら俺も参加しよう』」

「「え?」」

「俺と姫島先輩で交互に弁当を作ってくるんだ」

「それは名案ですわ。青江君も自分でお弁当を?」

「一応な」

 

夕麻には家事を大分任せてしまっているが、いかんせんアイツは朝に弱い。

早朝に無理に起こすのも忍びないからな。

 

「先輩の手料理先輩の手料理先輩の手料理――――いえ、ですが」

「俺が心配なんだよ。悪魔が病気にかかるか知らんがな。最近はただでさえ夜の事も――」

「夜?」

 

しまった。聖剣破壊計画は姫島に話していなかった。

 

「いや―――まぁ、それに毎日パンというのも味気ないだろ?」

「……」

 

塔城が俺たちの弁当を交互に見詰めながら黙りこくる。

弁当は欲しい。でも、手間を掛けさせるのはってのが手に取るようにわかる。

俺は姫島とアイコンタクトを取り、

 

「まぁ、実際のところ弁当を作んのって一人分も二人分も大差ないんだ」

「ええ。むしろ作ったけれど余ってしまう、なんてこともよくある事ですわ」

 

この発言が後押しになったのだろう。

 

「……………お願いしてもいいですか?」

「「勿論」」

 

久しぶりに料理に張り合いが出てきたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ばりっばりっ

 

「「…」」

「ん?」

「いえ、青江君はエビフライのしっぽも食べるんですのね」

「ああ。正直本体よりも好きかもしれん」

「…美味しいんですか?」

「スナック菓子みたいな感じ…食ってみるか?」

 

幸い尻尾は二本残っている。

俺はそのうちの一つを箸で掴んで塔城の前に差し出す。

 

「っ!?」

「では、遠慮なく。……なるほど、これはこれで」

「だろ?何でも尻尾にはキチンって栄養があるらしくってな。抗がん作用があるらしい―――姫島先輩?」

「……わ、私も少し興味がありますわ」

 

心なしか少し興奮した様子で尻尾―――ではなく俺の箸を見つめている。

 

「いいぜ。ほれ」

 

俺は姫島の方に弁当箱を滑らせる。

 

「どうぞ」

 

姫島はパン食の塔城と違って箸を持っているから自分で取ってもらっても…。

しかし、彼女はそれを一瞥した後、

 

「私も少し興味がありますわ」

 

ニコニコと俺の顔をみつめてきた。

 

「いや、だからどうぞって―――」

「私も興味がありますわ」

 

ニコニコ

 

「いや、先輩は自分の箸が―――」

 

キュガッ!!!!!

 

姫島の手が残像を伴ってぶれたかと思えば、部室の壁に二本の箸が突き立っていた。

視認できないような速度で突きたったソレは半分ほどまで刺さり、ビィィィィンと未だに震えている。

 

「あらあら、すみません。お箸を落としてしまいましたわ」

 

嘘だ!!

 

「あの…」

「私もか・な・り興味がありますわ」

 

にっこり

 

「…お食べ下さい」

 

俺は自分の箸で彼女の口に尻尾を運ぶ。

 

「……あら、本当においしいですわね」

 

望みを叶えた彼女は満足そうに戦果を咀嚼する。

 

「ま、いいか」

 

ひな鳥の様に口を開けている姫島の姿には普段とのギャップもあり、かなりクるものがあった。

 

「む…やはり手ごわい。…先輩」

「んん?」

「先輩はどんな女性が好みですか?」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんなって…特にこだわりは」

「まず女性のどこを見ますか?」

「顔」

 

即答だ。

自分を磨こうとしている人間というのは結構顔に出る。

だらしない奴は相応にだらしない顔をしている。

人間顔じゃないなんて言うが、人となりなんてしばらく付き合ってみないと分からんのだ。

ならまずは見ていて不快にならない顔がいい。

 

「では今まであった中でどストライクな女性は?」

「私も興味はありますわね」

「んー。そうだな……ああ、あの人。グレイフィアさん」

「「!!!!!????」」

 

ずがびしゃーん!!

 

そんな擬音が聞こえてきそうなほど衝撃を受ける二人。

 

「青江君の好みがサラサラの白髪無口美人だったなんて…」

「先輩の好みが年上の仕事ができるグラマラスお姉さんだったとは…」

「「!?」」

 

何かに気付いたのか弾かれたかのように互いを見つめる白髪無口美少女とグラマラスお姉さん。

 

「…姫島先輩は青江先輩相手には随分素を出しますね」

「小猫ちゃんこそ、貴方が他人にしかも殿方に頭を撫でさせるなんて」

「「………」」

 

二人の間に迸る火花が見える気がする。

どうする?話を逸らせるか?いやしかし―――

 

「ま、まぁ。青江君は弟みたいなものですから。彼も結構気を許してくれていますし」

「……先輩も私といると落ち着くと言ってくれています」

「ああ、小猫ちゃんも見たんですの?青江君の寝顔。何というか普段と違って年相応のあどけないものですよね?」

「なん……だと?」

 

愕然とした顔で塔城がこちらを見てくる。

そういや姫島の前では寝ちまったことあったな。

塔城といるときは基本彼女が先に寝ちまうし…。

 

「…ときに先輩」

「ん?」

「喉は乾いていませんか?」

「いや、べつに――『そうですか。では、私が汲んできます』」

 

そう言うや否や小走りで部室に備え付けのキッチンに小走りで向かう。

 

「「???」」

 

姫島と顔を見合わせて首をかしげているとトコトコと戻って来た。

その手のグラスグラスには

 

「お待たせしました。お水です」

 

シュワシュワと泡立つ液体が入っていた。

明らかに錠剤かなんか入ってる。底に白い物見えるし。

 

「いや、お前何入れた?」

「…水です」

「このシュワシュワしてる白い粒は?」

「……ラムネです。ただの水では物足りないかと」

「いや、水にお菓子のラムネ入れたって瓶のラムネと一緒にはならないから」

「え…?」

 

初めて知ったとでも言わんばかりの様子だ。

心なしかがっかりしているかのように思える。

 

「で?これは?」

 

強めの口調で問いただすと彼女は目をそらしつつ

 

「……………………………バ〇」

「ねぇよ!?いくらシュワってるからって〇ブはねぇよ!!!」

 

 

 

 

 

 

案の定中身は睡眠薬だった。



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第二十二話

「ふう、今日も収穫なし…か」

 

匙がため息をつきながら肩を落とす。

何気に木場の事情を知ってからはこいつが一番積極的だ。

 

「くそッ、どこにいるんだよあいつら!!」

「落ち着けって」

「分かってる。わかってるんだけどよぉ」

 

兵藤は苛立ち紛れに近くの壁を殴る。

兵藤達は部活が深夜行われるので放課後の時間しか参加できない。

深夜は仕事が昼間にある俺と匙の二人で担当することになっている。

 

「…あとは俺たちに任せろ。一番気を付けるべきは―――」

「どうしたんだい?」

「…」

 

この感覚は何だ?初めてのはずだがどこか懐かしい。

 

「??」

 

どうやら分かるのは俺だけ――

 

「ッ!?」

 

慌てて兵藤を蹴っ飛ばして塔城を抱き寄せる。

直後、俺たちがさっきまで立っていた場所に黄金の軌跡が走った。

 

「…何も感じませんでした。この人、殺気が…ない?」

 

腕の中の塔城が呟くが同意見だ。俺が気付けたのもあの得体のしれない感覚のおかげ。

だがさっきの一撃は避けなければ確実に死んでいた。

こいつは―――敵だ。

 

「木場ァ!!」

「分かってる!!」

 

流石というべきか、すぐに立て直した木場がすぐさま襲撃者に切りかかった。

 

「…」

 

相手は無言のまま木場の魔剣を迎え撃ち

 

 

 

 

バキィィン!!

 

そのまま一撃で粉砕した。

 

「くっ!!」

 

木場はある程度予想していたのだろう。

すぐに新しい剣を出して戦闘を続行しようとする。

 

「『天閃』」

 

襲撃者が何事か呟いた瞬間、爆発的に加速した。

あの切っ先すら霞むスピードには覚えがある。

しかし

 

「フリードじゃない?」

 

そう。格好こそはエクソシストのものだが、フリードよりも一回り小柄なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手は木場をはるかに上回る速度で追い打ちを掛けてゆく。

出した剣は出した瞬間に砕かれ、木場は防戦一方。

 

「青江ッ!お前も加勢に行けよ!!」

「無理だ。あれに素手で介入することはできない。辛うじて保っている均衡を壊してしまう。お前はいつでも譲渡出来るように準備をしておけ」

「そんなッ!?」

 

とはいえ、このままでは木場が押し負ける。

 

「匙!!」

「応よっ!!伸びろ、ラインよ!」

 

匙がそう叫ぶと手に出現した奴の神器から黒い触手が伸びた。

蛇のように伸びたソレは相手の腕に絡みついた。

 

「よっしゃ!」

 

匙はそのまま触手を全力で引き寄せた。

 

「ッ!?」

 

力はそんなに強くないのか謎の聖剣使いは体勢を崩す。

木場はその隙をついて距離を開けた。

よし、

 

「木場、俺にも一本寄越せ。できる限り頑丈なやつ。形状はスパタ」

「わかった。でも、限界まで強度を上げても僕の魔剣では」

「分かってるさ」

 

木場から受け取りつつも相手から目を離さない。

どうせ大きい剣を使ってもすぐに砕かれる。それなら取り回しのきく方がいい。

この形状を選んだのにもちゃんと理由があるのだ。

 

「…」

 

二人で聖剣使いと対峙する。

顔は上半分が銀色の仮面で隠されているが、見える部分から推察するにかなり若い。

華奢さと金髪をシニヨンにしていることから、恐らく少女。

 

「七分の一でこの強さ、すべて破壊するのは修羅の道…か」

「ここで殺されちゃあ元も子もない。加勢するぞ」

「うん。こいつには、今の僕一人では敵わない。悔しいけどね」

「木場、青江!俺の神器で可能な限りこいつの力を吸い取る!!お前たちは時間を稼いでくれ!!」

 

匙が大声で叫んだ。

アイツの神器『黒い龍脈』は接続したものの力を吸い取る者だったはず。

触手の強度もなかなかだと聞いた。

しかし匙よ…ソレは相手に伝えてもいいのか?もっとこう、こっそりと―――

 

「…」

 

ふと、相手の視線感じた。

俺を見ている?

さっきから感じる感覚は完全にこいつから発せられている。

俺の知り合い…なのか?

俺から目を離した聖剣使いは、自身の腕に巻きついた匙の触手をじっと見つめ――

 

ブツン

 

何の苦も無く切断した。

 

「なっ、そんな。俺の触手をあんな簡単に!?」

「…匙先輩、役立たず」

「何やってんだよ、匙ッ!?」

 

…なんか匙が可哀想になって来た。

 

「ガチンコバトルしかねぇって事か」

「僕としては望むところなんだけどね」

 

俺たちが同時に切りかかろうとしたその時―――

 

「ほう、魔剣使い。…いや、さっきから多く使い分けているところを見ると『魔剣創造』か。使い手次第で無類の力を発揮する神器だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗がりから三人の男たちが現れた。

やたらデカい筋肉質のハゲと俺たちより少し下くらいの年齢の少年。

二人に共通するのは血の様に赤い瞳。

そして…忘れもしないあの男。

 

「バルパー・ガリレイ…」

「なんだって!?」

「あいつが、木場の同胞たちの仇…」

 

木場が殺気を爆発させて今にも飛び掛かろうとしている。

 

「悪魔の中に私を知っている者がいようとはな。貴様、何者だ?」

「覚えてないのか?まぁ、会ったのは七年前か。見た目もだいぶ変わったしな」

「七年前…すまないね。私の記憶にはない。私の脳は些末なことは記録しないようにできていてね。覚えていないというならそういう事なのだろう」

 

言うねぇ。

母さんたちを殺したのは些細なことってか?

 

「ねぇ、おじさん。やっぱりあの聖剣僕にくれない?」

「ふむ。E3、君ならば聖剣なしでもあのくらいのスピードは出せると思うのだがね?」

「お、おれ。あのちっちゃい子、欲しい。かわいい」

「君、そう言って何人の女の子を壊してきたかちゃんと記憶してる?E1。僕もう後片付けやだよ?」

 

生意気そうな餓鬼は艶のある黒髪にゴーグルをのっけている。

服はパンク風で、小馬鹿にしたような視線をこちらに向けている。

 

「人間のこ、もろい。でも、あくまなら、だいじょうぶ」

 

そう言いながら塔城に粘着質な視線を舐めるように向けるのは筋肉達磨。

見た目通りに脳みそが足りないようだ。

スポポ〇ッチみたいな見た目しやがって、俺の癒しをそんな目で視姦するとは―――万死に値する。

 

「バァァァルパァァァァッ!!!」

 

しまった!!

二人組に気を取られて木場の事を忘れていた。

なりふり構わず一直線にバルパーに突っ込んでいく。

 

「待て、木場!!」

「あああああああああああッ!!!」

 

慌てて全速力で追いかける。

あの二人組が只者なわけないだろうに―――ッ

 

「なにこいつ?」

 

小さい方、E3と呼ばれた方が木場を上回る速度で肉薄し、顔に蹴りを叩きこんだ。

 

「くっ」

 

それでもまだ進もうとする木場だが、こちらからなら見える。

 

後ろで腕を振りかぶっているデカブツが。

速い方が足止めしてデカい方が叩き込む。

単純だが強力なコンビネーションだ。

 

「あー、クソッ」

 

木場とデカブツの間に自分の体をねじ込む。

この場で一番の戦力は木場だ。今倒れられたら俺たちは全滅だ。

デカイのの拳が脇腹に直撃する。

何の抵抗もなく、一瞬であばらが砕かれた。

何つ~パワーだよ。

 

「青江!!」

「先輩!!」

 

川で行う水切りの石が如く飛ばされた俺は、塔城と兵藤の傍まで十メートル以上吹き飛ばされた。

慌てて二人が駆け寄ってくる。

木場も青ざめた顔で同じようにこちらに向かって来た。

 

「問題ない…プッ」

 

腹からこみ上げてきた血反吐を吐き出して立ち上がる。

内臓もいくつか傷ついているな。

木場の方は先ほどの蹴りで脳を揺さぶられたのかふらついている。

 

「つまらんな。今回の『魔剣創造』の使い手ははずれか…E2、もういい。全員始末しろ。ああ、そこの赤龍帝は残しておけよ」

「…」

 

こくりと頷いたのは先ほどまで戦っていた金髪の聖剣使い。

こいつはE2か…シリアルナンバーみたいだな。

 

「そのE2とやらがもっている…聖剣、はフリードが持っていたと思ったんだが…」

「む?ああ、彼とも知己なのか。残念ながら彼は死んだよ」

「死んだ?」

「そうそう。ぜんっぜんいう事聞かないしさ。やっぱり駄目だね、キチ〇イは。僕達三人で殺しちゃった」

「フリード君にももう少し利用価値があったんだが…彼らが先走ってしまってね」

 

後ろにかばった塔城たちに敵からは見えないよう気を付けながら手で逃げろと指図する。

 

きゅっ

 

小猫ちゃんは優しく手を握ってくれました…ってちがう!!なんでその発想に行き着くんだ!!

 

「その三人は本名なのか?」

「…時間稼ぎは無駄だと思うが?」

 

ちっ、ばれてるよな。やっぱり。

目の前のE2が剣を振りかぶった。

 

「いろいろと因縁があったようだが…ここまでだ」

 

その聖剣が容赦なく俺に向かって振り下ろされ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ。彼らにはお仕置きを受けてもらわなければなりません」

「私の可愛い眷属に手を出したこと、後悔させてあげるわ」

 

大質量の水と赤い魔力弾がバルパーとE2に殺到した。

 

「ッ!?」

 

初めて大きな動揺を見せたE2がバルパーを抱えて回避する。

攻撃の発生源を見れば、そこには勿論我らが主様達。

 

「やっべ~~」

「部長!!」

「ひィィィィィ!?かかかか会長!?」

 

ここまで両極端なリアクションになるとは…主を間違えたかな?

だが、その安心感は半端ない。

 

「小猫と祐斗が遅いからと探ってみれば…随分と楽しそうなことになっているようね?」

「青江、匙。これはいったいどういう事です?」

 

こちらを叱責するも敵への警戒は解かない。

 

「…あの男がバルパー・ガリレイだ」

「っ!?…そう。貴方が…私の眷属が随分と世話になったようね?」

「その紅髪…なるほど。リアス・グレモリーか」

 

奴は軽く周りを見回して戦況を眺める。

木場は既に復活して殺気を放っているし、兵藤の倍加は完了。

塔城と匙は無傷。そして上級悪魔が二人。

 

「悪魔の姫君が二人か…流石にこの人数では分が悪い。ここは引かせてもらう」

 

ふっと体から力を抜いた奴はそのまま背を向けた。

 

「待ちなさい!!逃がすと思っているの!?」

「いいのかね?そこの下級悪魔たちはともかく、このような場所で君たちが全力を出すなど」

 

近くには民家も多くはないが存在している。

大規模な魔力は使えないだろうし、相手は最悪の手段として人質というカードをとれる。

 

「くっ……」

「いくぞ、お前たち」

「ちぇー」

「…」

「ま、まって。お、おいてかないで」

 

会長たちは見送るしかない。

悠々と遠ざかってゆく四人はすぐに夜の闇に消えていく。

しかしそれでは納得しない奴がいた。

 

「逃がすものかっ!!」

「祐斗!!」

 

主の言葉を無視してそのまま追いかけようと駆け出す木場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシンッ

 

「いい加減にしてください!!」

 

最初は誰の声か分からなかった。

駆け出した木場をビンタで止めたのは…塔城だった。

 

「小猫ちゃん…」

「先輩は分かっているんですか!?みんな先輩のためにこうやって毎日毎日頑張っていたんですよ!?青江先輩だって木場先輩を庇ってこんなにボロボロになったのに…。今行けば死んでしまいます!!私も、先輩がいなくなるのが嫌だからこうやってお手伝いしました!!」

 

ここまで感情的になる彼女は見たことが無い。

 

「みんなの思いを無駄に…しないでください」

 

それきり彼女は俯いてしまった。

 

「祐斗」

「……すみませんでした」

「後で詳しく話してもらうわ」

「はい」

 

木場も流石に堪えたのかうなだれて剣を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エクスカリバーの破壊って貴方たちね」

 

グレモリーが激しい頭痛に襲われたかのように額を抑える。

 

「すみません、部長」

「ごめんなさい」

 

兵藤と塔城は正座して謝っていた。

木場も正座してはいるが

 

「……」

 

心ここにあらずといった様子。時折俺と目が合っては気まずそうに眼を逸らしていた。

 

「青江、匙」

「はいっ」

「…」

 

こっちはこっちでお説教だ。

どうなるんだろう?最悪追放だろうか?

いや、死刑?

だが、会長は本当にそうなったらどう逃げるべきかと思案している俺を裏切った。

 

「貴方たちが無事で本当に良かった」

 

その顔がどれほど心配してくれていたかを物語っていて

 

「済まなかった」

 

俺は素直に謝罪の言葉を口にした。

いつ以来だろうか?

自分が間違った事をしたなんて毛ほども思っていないが、彼女を心配させたことについては謝っておきたかった。

 

「かいちょ~~~」

 

感動して男泣きする匙。

 

「青江の治療、貴方の眷属にお任せしても?」

「ええ。大丈夫よ」

 

またアーシアの世話になんのか…常連だな。

 

「では匙、お尻をこちらへ」

「へ?」

「尻叩き」

 

右手に魔力を込めて準備体操を始める会長。

 

「行きますよ、匙。青江は…そこまでボロボロでは仕方がありませんね」

「え、ちょ、あれ?い、いやあああああああああああ!!」

 

ズルズルと引きずられてゆく匙元士郎。

俺は彼に心の中で最敬礼を―――

 

「青江も、怪我の治療が終わり次第生徒会室へ来なさい」

「え?」

「お仕置きです」

 

ぶんっぶんっと何かを振る仕草をする我が主。

匙は尻叩きらしいけど、俺に対するジェスチャーおかしくない?

なんか完全に鞭打ちみたいなんだけど。

 

「ではリアス。私はこれで」

「え、ええ…ほどほどにね?」

 

グレモリーも若干引いている。

 

「~~~♪」

 

皆の困惑の視線に気付かぬまま、会長は鼻歌を歌いつつ去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、アーシアに治療してもらったのだが。

俺の怪我が割とシャレにならないレベルのもので、全員から『もっと痛そうにしろ!!』と怒られてしまった。

 

 

解せぬ

 

 



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第二十三話

おんにゃのこ成分が足りない…


アーシアの治療を受けて回復した俺は指示どおり生徒会室に赴いた。

 

「では、詳しい話を聞かせてもらいましょう」

「…大体の事情はそこに転がってるのから聞いたと思うんだが?」

 

親指で背後―――生徒会室の隅でケツから煙を上げている匙をさす。

 

「木場祐斗の事については聞きました。あなた方が彼の為に行動していたという事も」

 

なんだ、全部わかっているじゃないか。

 

「それ以上に何が知りたいんだ?」

「……匙は貴方がかの男と知り合いの様であったと供述していました」

「………」

「正直…正直後悔しているのです。貴方の『関わりたい』という要望を頭ごなしに却下したことを」

「それは…」

「今思い返せば、あなたほど頭の回る者が危険性を理解していないとは思えません。何かよほどの事情があったのかと、そう思うべきでした」

 

なんであんたがそんな顔をする?

今回悪いのは全面的に俺だ。

命令を無視した。悪魔と堕天使の間に火種を作りそうになった。

後悔はしていないが、それがやってはいけない事だというのは理解しているのに。

なんでアンタが頭を下げようとしている?

そんな事は―――

 

「やめろ」

「…」

「今回の件、悪いのは俺だ。危険性を一番自覚していたのは俺だった。…匙や兵藤を無理やり止めることだってできた」

「では教えてください。貴方とバルパー・ガリレイはどんな関係なのですか?」

「家族の仇」

「っ…どういう、事ですか?」

「おい、青江!!俺たちはそんな事一度も聞いてないぞ!!」

 

後ろから立ち上がってこちらに寄って来る気配を感じる。

なんで復帰するんだよ。もうちょっと寝てろよ。

振り返って目を合わせる。

 

「当然だ。言わなかったからな」

「こんッの、馬鹿野郎!!」

 

殴られた。予想外にいい一撃だ。

 

「必要性を感じなかった」

「おま、おまえッ」

「たとえ俺にとっての仇だと知っていても、会長は許可してはいけないんだ」

「なんだよ、それ!!」

「…匙、落ち着いてください」

「でも、会長!!」

「いいからっ!!」

「っ…はい」

「青江、すべて話してくれますね?」

 

参った。

誤魔化せない…いや、誤魔化したくない。

 

「俺は自然に生まれた人間じゃない。父親もいない」

「父親がいないって…」

「ああ、離婚とかじゃあないぞ?俺にはそもそも存在しない」

 

あまりにも予想外だったのだろう。

匙はいまいち理解できていない様だ。

会長はじっと俺を見つめている。

 

「まぁ、キャベツ畑から生まれたって訳じゃないから遺伝子学上の父親は…いや、やっぱいないわ」

 

俺は転生の特典で生前の肉体を選んだ。

ならば無論、母さんの遺伝子も受け継いでいない。

俺の血縁というものはこの世のどこにも、誰一人として存在しないんだ。

 

「俺はあのジジイ、バルパー・ガリレイが高位存在の遺伝子を使って人工授精させて生まれたんだ。母さんに暗示をかけてな」

「なんだってっ!?」

「その高位存在とは?」

「バラキエル。堕天使幹部、閃光のバラキエルだ」

「はぁ!?じゃあお前はもともと堕天使と人間のハーフだったのか!?」

「正確にはその失敗作だ。俺は普通の人間…どころか母親とも遺伝子的に繋がらないゲテモノとして生まれた」

 

こないだまでは普通の人間のつもりだったが、それも違うと思い知らされた。

今まで誰にも見せていなかった翼を広げる。

 

「なんですかっ、それは!!」

 

今度ばかりは会長も悲鳴のような声を上げる。

匙も呆然と見つめるだけ。

俺の翼は悪魔のものでは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の翼?は兵藤達の様な蝙蝠みたいなものじゃない。

形は出来の悪い粘土細工の様。

灰色の人皮の様な体表にまばらに、申し訳程度に生えた黒い羽毛。

左右のサイズはかなり違っており、更に長い方が歪に短い方へと絡まっていた。

これでは飛べない。

 

「なぜ今まで言わなかったのです!!」

「言ったら気にするだろ?」

 

本当はずっと秘密にするつもりだった。

このクソ真面目な会長は絶対に自分に不手際があったのではないかと考えてしまうだろう。

 

「なんですか…それは…」

 

先ほどと同じ、けれど弱々しい言葉。

身を乗り出したまま、拳を握って俯く。

 

「話を続けるぞ。十歳の時、あのジジイがやって来た。学校から帰った時には家は炎上、母は胸に風穴が空いていた」

「…」

「あのジジイは片手間で俺を作ったそうだが、それでも自身の失敗作が許せんかったらしい。爺さんの首を投げてよこした後、俺も殺すように部下に命じて去った。…しっかし、バルパーはどうやってあのバケモノみたいに強かった爺さんを殺したんだか」

 

そこだけがあの事件で気になるところだ。

武闘派タイプには見えんかったし、爺さんがそうそう後れを取るとは思えんのだが。

 

「首は木場に譲るつもりだった。だが、このまま逃げおうせてのうのうと生きてる。なんてことにはしたくなかった。…こんなとこかな」

 

 

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

誰も何も言わない。

匙はじっと俺を見つめていて、会長は俯いたまま。

どれほどそうしていただろう?

 

「お仕置きです」

 

沈黙を破り会長は呟く。

 

「…追放とかはしないのか?」

「逃げられると思っているのですか?ここまで負い目を感じさせて」

「アンタが負い目に感じる必要は―――」

「貴方はそう言いますが、私は気にします」

 

会長は椅子に体を沈めると天を仰ぎ、目元を腕で隠す。

 

「レーティングゲームに向けての戦略にはすでにあなたも組み込まれています。生徒会としての戦力としても数えています」

「…」

「もしも、もしも貴方が…私に責などなく自分がすべて悪いというのなら…」

 

ああ、この流れは駄目だ。

 

「その分償ってください。私に仕えることで。逃げる事だけは許しません」

「ずるいな」

 

そんな言い方をされてはどうしようもないじゃないか。

 

「どっちがですか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――しばらく一人にしてください――

 

そう言われた俺と匙は生徒会室を後にし、屋上にいた。

 

「会長は優しいからああ言ってくれた」

「ああ」

 

あの人は優しい。

グレモリーの様に甘やかすような人ではないが、本質的にはどっこいどっこいだろう。

今まで会って来た奴だけ見ると、悪魔ってなんだっけ?って感じになるな。

みんなみんな優しすぎる。

 

「でも、俺は許さない」

「…」

「会長がどれだけ心配したか、お前の怪我が酷いと聞いてどれだけ狼狽したか俺は知っているから」

「…」

「だから俺はお前をずっと許さない。そして俺も会長に逆らったから同罪だ」

 

自嘲げに顔をゆがめて拳を握る。

 

「なんせ、目標もなくどん底にいた俺を引き上げてくれた人を裏切ったんだかんな」

「そうか」

「お前だけ逃げられると思うなよ?」

 

そう言って俺に尻をバシッと叩くと

 

「会長の尻叩きは痛いぞ?覚悟しとけよ、秀介(・・)

 

そう言い残して屋上から去っていった。

 

「はっ、お前とは鍛え方が違うっての」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「青江君、ここにいたのか」

「木場か」

「ケガは大したことなかったか?顔蹴られてたろ?」

 

あんのクッソ餓鬼めが…よくも木場の顔を。

デカブツも塔城を視姦していやがったし…

E3とE1だったな。

 

「うん。本当に大したケガじゃなかったしね。君のおかげだよ」

「あの場はあれが最善だった」

「そんなわけないじゃないか。僕が飛び出していったせいで起こった事なんだ」

 

否定はしない。それはれっきとした事実だからだ。

否定してもこいつは納得しないだろう。

木場は大きく頭を下げた。

 

「すまなかった。言い訳はしない。あの時の僕は周りが全く見えていなかった」

「誰にだって感情的になることくらいあるさ。顔上げろ」

「でも…」

「お前は俺につむじと会話しろというのか?」

 

渋々といった様子で顔を上げる。

 

「説教なら塔城にきっついの貰ったろ?あれ以上言うこたねぇよ」

「…うん。あれは効いた」

 

思い返すように視線を飛ばした木場は壁に背を預け、そのまま滑るように座り込む。

頭を足の間に入れてうなだれたまま

 

「情けないことにね、小猫ちゃんに言われて初めて気づいたんだ。確かに同胞たちもかけがえのない人たちだった。でも、いま(・・)の僕にもまた昔と同じようにかけがえのない人がいる。部長、朱乃さん、小猫ちゃん、イッセー君、匙君に…もちろん青江君も」

 

ちょっと焦った。最後まで俺の名前出てこないかと思った。

 

「みんな過去に囚われた僕を必死に助けようとしてくれた。なのにっ、僕はっ」

 

頭を抱え込んで体を縮めこむ。

俺は同じように隣に座り込んで空を見上げる。

今宵の満月は青く、さっきまで会話していたあの人を連想させる。

 

「俺もさっきこっぴどく叱れられちまった。口では平気だって言いつつも心の奥ではバルパーにこだわってた。裏切った相手は許してくれないってさ」

「…」

「だが、それならそれで次は大丈夫だろう。今回の失敗は次につなげるんだ」

「…君は強いね」

「ん?」

 

何を言われたのかわからなくて木場の方を見ると、今度は向こうが月を眺めていた。

 

「君はそうやってすぐに次を見つめられる。過去に縛られたまま、間違いを繰り返す僕とは違う。羨ましいよ。…肉親の仇を譲るって言ってくれたのはなんでだい?」

 

羨ましい…か、自分がそんな事言われるなんて前世では考えもしなかった。

俺は妬む側だったからな。

 

「…俺は復讐が何も生まないなんて言うつもりは無い。実際俺は復讐して気が晴れたことだってある」

 

俺は気が晴れるから、という理由でミハイルを殺した。

 

「バルパーとの決着をつけなければ、お前が前に進めないと思ったからだ」

「それだけの理由で?」

「ああ、自分で殺して気が晴れるよりもそっちの方がメリットがあると感じた」

「…やっぱり君は強いよ」

 

木場は絞り出すような声でつぶやいた。

 

「どうだかな…」

「え?」

「俺は確かに前だけ見てまっすぐ進む。だが、逆を言えばそれしかできないんだ」

 

過去を後悔せず、失敗も、喪失も糧として次につなげる。

これまでそうして生きてきた。それならばすべては無駄ではないと思えるから。

 

「俺だって心がある。悲しみを感じないわけじゃないし、振り向きたくなる時もある。だが、一度振り返ってしまうと…もう二度と前を向けないような気がしてな」

 

これは強迫観念なのかもしれない。

だが、俺はこの生き方しかできない。

折れれば前世に戻ってしまう。

 

「俺はそれが死と同じくらい恐ろしい」

「そっか…」

 

今度は二人で月を見上げる。

 

「満月だな」

「満月だね」

 

暫く二人でそうしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グレモリーから連絡があった。

この学校にコカビエル本人がやってくるらしい。

奴自身の目的は戦争…。

まさかとっくの昔に答えにたどり着いていたとはな。

 

「我々は被害を最小限に食止めるために結界を張ります。コカビエルの相手はグレモリー眷属に」

「教会の聖剣使いは?」

「…先ほど、二人が近隣で倒れているのを発見したそうです」

「まじか…」

「あの二人がやられるなんて信じられないよ」

「勿論聖剣は――」

「発見された時には所持していなかったそうです」

「ソーナっ!!」

 

グレモリーたちもやって来た。

 

「状況は!?」

「結界を張っていますが、どこまで効果があるか怪しいところです。コカビエルがその気になればこの地方都市ごと消し飛ばせるでしょう。実際、コカビエルが力を開放しつつあることを確認しています」

「わかったわ。オフェンスはこちらに任せて頂戴」

「リアス、お兄様に連絡は?」

「そう言うあなたこそ」

 

まさかここまでの話になってるのに魔王に報告してないのか?

 

「サーゼクス様にはすでに連絡しています」

「朱乃!?」

「リアス、貴方がお兄様に迷惑を掛けたくない事は知っているわ。でもね、いまは意地を張っている場合じゃない。そのくらい分かっているでしょう?」

 

姫島が語気を強くしてグレモリーに詰め寄る。

暫く唇を噛み締めていたが、肩の力を抜きため息とともに頷いた。

 

「はあっ、そうね。私が愚かだった。ありがとう、朱乃」

「いえいえ、下僕として当然のことをしたまでですわ。…援軍は一時間後だそうです」

 

一時間…長い。長すぎる。

 

「…一時間ね。さて、みんな。話は聞いての通りよ。私たちの戦いにはこの町すべての命がかかっているわ。これは死戦。だけど死ぬことは許さない。生きて、もう一度学園に通うのよ!!」

 

鼓舞する本人も分かっているだろう。

この場における一時間がどれほど長いのかを。

しかし、怯えは見せない。なぜなら彼女は『王』なのだから。

 

「「「応!!」」」

 

グレモリー眷属は正門の方へと向かって行く。

 

「青江、貴方も行きなさい」

「いいのか?」

「貴方の魔力量では焼け石に水です」

 

おおう。

ザックリいうねぇ。

 

「決着をつけてきなさい。お仕置きは帰ってからです」

「…感謝する」

 

これは裏切れん。

 

「おい秀介!!お前も絶対受けろよ、お仕置き!!」

 

後ろからの声に手を上げる事で応える。

さあ行こう。

 

―――戦場へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十四話

 

 

「貴方も来たのね…正直、今の状況では一人でも心強いわ」

 

一足遅れてグラウンドに足を踏み入れると、グレモリー達が既にバルパーと対峙していた。

あたり一帯は魔方陣に埋め尽くされており、校舎までもが淡く燐光を放っている。

バルパーの両脇を固めるようにE3とE1が。

そして陣の中心にはE2と―――

 

「エクスカリバーが五本か」

 

ゼノヴィア達から奪ったであろうものも同じく宙を漂う。

背筋が凍るような神聖さを感じると同時に、その幻想的な光景に目を奪われた。

 

「おや、観客が増えたか。運がいい。歴史的な瞬間だ。冥土の土産には十分すぎるだろう」

 

バルパーが興奮を隠しきれないといった風に語り掛けてくる。

ジジイの上気した顔なんざ需要ねえっての。

 

「バルパー、あとどの位でエクスカリバーの統合は完了する?」

 

空中からの声。

天を仰ぐと、月を背に男の姿があった。

いかなる力か宙に浮いた椅子に腰かけ、あたかも喜劇の開演を待つかのようにこちらを見下ろしている。

 

「これから始まる。待たせたな、コカビエル」

 

あれが…。

 

「そうか」

 

チラリとグレモリーに目を向けると

 

「誰が来る?セラフォルーか?個人的にはサーゼクスに―――」

「魔王の代わりに、私たちが相手――」

 

一瞬の閃光。

奴が軽く腕を薙いだかと思えば極大の光の槍…いや、最早柱というべき代物が顕現していた。

本来そこに存在した体育館はどこにもそん…ざ…い…。

 

「何やってくれちゃってんの?」

 

思わず泣きそうな声が零れた。

因みに他の奴らは目を見開いて硬直している。

 

Q.あれの事後処理は誰がすると思ってんだ?

A.もちろん生徒会。

 

一夜にして、体育館が消えた。

しかも結界のせいで轟音も確認されない。

その言い訳だけでも胃が痛いのに、その後の時間割りの修正、無くなった体育用具の補充とその資金繰りetc…。

木場とゼノヴィアが空けたって言う大穴だって、業者には頼めないから俺と匙で半日かけて埋めたんだぞ?

悪魔側の業者も簡単には呼べないってのに…。

 

「フン、臆したか…つまらん、つまらんぞ。やはり貴様らは挑発の材料だ」

「コカビエル、準備は整った。見逃すなよ?」

 

コカビエルが体を硬直させたこちら側に侮蔑の眼差しを向けていると、バルパーが声を上げた。

あの爆音の中でも着々と準備を進めていたらしい。

聖剣たちが放つ光は直視できないほどまでになっていた。

手でおおわれた視界の中で五つの輪郭が重なる。

 

「五本のエクスカリバーが一つになる」

 

バルパーは瞬きもせずにそれを見つめていた。

アイツだって眩しいだろうに。

陣の中央に立つ少女――E2が掲げる手に五本が集結し、一つになる。

 

 

 

 

 

光が収まると、魔方陣は消失し後には一人の少女が残った。

その手に握られるのは、青い燐光を纏った剣。

 

「素晴らしい。素晴らしい。これなのだ。私が追い求めたのはこの輝きなのだ―――ッ!!」

「バルパー、術式の方はどうだ?」

 

コカビエルが陶酔の表情を浮かべるバルパーに顔をしかめつつ尋ねた。

やっぱキモイよね。

 

「問題なく起動した。あと半刻ほどでこの町は崩壊する。コカビエル、君が敗北しない限りな」

 

バルパーは聖剣から眼を逸らさぬまま答える。

 

「―――だ、そうだが?どうするかね?紅髪の姫君よ」

 

半刻か。これであとは無くなった。

援軍が来る頃にはこの町は無い。

回避する手段をわざわざ知らせるのは自信の表れか。

 

「決まっているわっ!!あなたを倒す。やる事は変わらない!!」

「クククク、いいぞ。やはり挑戦者はそのくらい決死でなくてはなッ!!バルパー!!その人形に聖剣でもってこいつらの相手をさせろ!」

「言われずともそのつもりだ…さあ、E2。私に見せてくれ、聖剣の力をッ!!私を魅せてくれ、その輝きでッ!!」

「…はい」

 

E2がこちらに向けて一歩踏み出した。

 

「僕たちもやっちゃっていいんだよね?」

「いいだろう。流石に一人ではいくら聖剣と言えど分が悪かろうよ。ああ、倒した者は好きにして構わん」

「やったねっ。僕、あの黒髪のお姉さんが気になってたんだ」

「ちっちゃい子…ほしい。きんぱつのこも…おれの」

 

E3とE1もやる気の様だ。

それぞれに姫島、塔城、アーシアの事を言っているのだろう。

眼の付け所はいい…だが、やらんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最大の脅威はあの聖剣よ!!集中攻撃でもって速攻で倒しなさい!!他は私が引き付けるっ!!」

 

そう叫ぶと同時に、グレモリーが大小コンビに向けて魔力弾を放った。

 

「「「はいっ!!」」」

「…エクスカリバー。もう僕個人の復讐では済まなくなった。全員でやらせてもらうよ」

「兵藤。倍加はどこまで終わった?」

「まだ完全じゃない。でも、俺自身を強化すればやり直しだし、全力はできて三回だ。それ以上は俺がもたない」

「しばらくじっとしてろ。今のところお前が切り札だ」

 

木場から貰ったスパタを構える。左手にはデザート・イーグル。

会長に借りたものだ。

生徒会備品室の一角が武器庫になってるなんざ一般生徒は想像もしてないだろうな。

木場本人は『光喰剣』を二本、両手に構えて。

姫島は既に魔力を練り始めており、手から雷が溢れていた。

塔城はアーシアの護衛だ。

 

「『天閃』」

「来るよ!!」

 

凄まじい速度でE2が突っ込んでくる。

俺は向かってくるE2に向かって撃ち尽くす勢いで発砲する。

 

「…無駄」

 

E2は減速すらせずに全ての銃弾を剣で叩き落とした。

 

「やっぱ牽制にもならんか」

 

眼帯を外してドライグの眼を開く。

世界が鈍重に、すべてが緩慢になった。

―――色覚をシャットアウト

余計な情報は要らない。処理するものは最小限に。

灰色の世界ではE2が大地を削りながら切り上げようとしている。

 

「っづぁ!!」

 

横から叩きつけてその軌道を逸らす。

相変わらず殺気が無い!

二閃、三閃。

息もつかず、流れるような動作での三連撃。

ついていくのでギリギリだ。

見えてはいる。だが、この緩やかな世界では当然ながら俺自身も緩慢に動く。

体が追いつかない。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

横から木場が切りかかった。

俺と切り結んでいたはずなのに、顔色一つ変えずに奴は迎撃する。

 

「邪魔」

 

その呟きを聞き取ったと同時、腹にドンッという衝撃。

腹を蹴られた。剣にばかり気を取られ過ぎたかッ!!

 

「ちっ」

 

転がりながら『眼』を閉じる。無駄に開くわけにはいかない。

世界が色彩を取り戻し、軽い頭痛が起きる。

受け身をとって体を起こすと、木場の二刀流に難なく応戦していた。

 

「くっ、流石に速い。でもっ」

 

一段と木場のスピードが上がった。

 

「速さが自慢なのは僕も同じだ!!」

 

すげぇ。あの『天閃』に追いついてる。

二刀である分、手数では木場の勝利。

スピードも互角となれば――

 

「やった!!木場が押してる!!」

 

兵藤も歓声を上げるが、こんなに簡単なわけもない。

実際、辛うじて仮面から見えている口元には焦りの陰もない。

 

「『天』『壊』連携」

 

一瞬聖剣が煌めいた。

 

ガキィィィィッ

 

「なっ!?」

 

木場の魔剣が両方砕かれた。ただの一撃で。

流石に無手では不利であると判断した木場が後退する。

 

「この破壊力は『破壊の聖剣』!?」

 

ゼノヴィアがもってたやつか…。

スピードは速いままだった。つまり―――

 

「厄介だな。複数同時に発動できるのか」

「二人とも、下がって下さいなっ!!」

 

姫島が背後、その上空で叫んだ。

 

「「―――ッ」」

 

俺と木場は左右に全力ではねる。

直後――

 

ズガァァァァァァン

 

凄まじいまでの雷撃がE2に降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっすが」

 

威力も抜群だった。

躱した筈のこちらにまで痺れが伝わってくるかのよう。

 

「やったか!?」

 

兵藤が叫んだ。

うん、駄目だろうな。土煙も出てるし。

姫島も次の一撃に備えて早くも魔力を練り直している。

 

「やはりそう簡単にはいきませんわね」

 

姫島がそう呟いた。

土煙の中から人影が飛び出してくる。

 

「なんだって!?」

 

だが問題はその数、出てきた影は六つだった。

 

「これも聖剣の能力か!!」

 

俺に二人、木場には三人向かって来た。

構えて攻撃を受けようとするが、目の前に来た途端、煙の様に姿は掻き消える。

幻術か!!なら、本命は――

 

「朱乃さんッ」

 

木場が振り返って叫ぶ。

やっぱあっちもダミーか。

俺や木場も分身を殺気で見分けるくらいできる。

しかし、このE2には相変わらず殺気が全くない。他者に対して害意がある以上、どうやっても発生するはずなのに。

 

「くっ」

 

姫島が全力で身を捻って斬撃を躱す。

さすがに集中は途切れて、練っていた魔力は霧散してしまう。

不味い、前衛でない彼女では切り伏せられる!!

俺と木場は助けに向かおうと駆け出そうとした。

 

「皆さん、違います!!敵はこっちです!!」

 

遥か後方にいた塔城が叫んだ。

その目は何もない中空を睨みつけている。

彼女が身構えたのと同時に

 

「ここが一番弱い」

 

何もない空間からE2が現れた。

 

「『透明の聖剣』!?」

 

やばい、こいつマジで強い。

分身を生み出して俺と木場を足止めしつつ、姫島にも差し向けることで大技を強制的に中断させる。

しかし、姿の見えるものは実はすべてダミー。

本命は透明化した自身が守られているアーシア、塔城、兵藤に向かう事。

行動すべてが合理的、聖剣を使いこなしてる。

 

「やらせるかよっ!!アーシアはやらせねぇ!!」

 

聖剣を兵藤が籠手で受け止め…その勢いのまま吹き飛ばされる。

『破壊』を載せたのか…。

流石は神滅具。断ち切られることは無かった。

 

「やっべぇ、間に合わん」

「きゃああああああっ」

「アーシア!!」

 

E2は塔城も軽く躱してアーシアに肉薄、そのまま剣を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィィィィン

 

「え?」

 

斬撃は止められた。

介入してきた乱入者―――

 

「流石に命の恩人を見捨てるわけにはいかない。たとえそれが堕ちた聖女だとしてもね」

 

ゼノヴィアに。

彼女が手に持った剣を振るとE2が大きく跳ね飛ばされる。

 

「兵藤君!!譲渡を!!」

「わかった!!」

 

俺より一足早く駆けつけた木場が兵藤に触れた。

 

『Transfer!!』

「『魔剣創造』!!」

 

「!?」

 

E2の着地地点付近に剣が無数に生成される。

人間では振れないような、この技に特化したであろう異常な長さの魔剣がE2に殺到した。360度全方向から突き上げてくる魔剣の群れ。

狙われた者は重力に従って落ちるのみ。

躱すなど不可能。

 

「『擬』『壊』連携」

 

それを奴は凌いだ。

鞭のように変化させた剣で薙ぎ払い、全て破壊することで。

『破壊』の特性のまま変形させたのか。

難なく着地したE2は様子見なのかじっとこちらを見ている。

 

「ゼノヴィアさん!!怪我は大丈夫なんですか!?」

「問題ない。おかげさまでね」

 

なるほどな、アーシアの治療を受けたのか。

 

「塔城、どうやってあいつに気が付いた?」

 

俺たちでは全く気が付かなかった。

塔城がいなければ今頃アーシアは斬られていたろう。

 

「……」

 

塔城は眼を逸らして答えにくそうにしている。

 

「…生気を探知しました」

「生気?」

「生命エネルギーの様なものです。生物であれば必ず持っていますから」

「そうか…よくやった。お前がいなければどうなっていた事か…」

 

未だ顔を上げない彼女の頭を撫ぜる。

何やら事情がありそうだが…

 

「おかげでアーシアは助かった」

「この力は…」

「今ここでは役に立った。それ以上でもそれ以下でもない。俺はお前がその力を持っていた事を有難く思う」

「…はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、完全に仕切り直しになったが…。

 

「くっ、ちょこまかと」

「あはははは、そんな大振りじゃ当たらないよ?」

 

向こうではグレモリーが息を切らしていた。

E3が攪乱して隙が出来ればE1が攻撃をする。先にE1を狙えばE3が妨害。

グレモリーはパワーはあるみたいだが、狙いや制御が大雑把すぎる。

捉えきれず翻弄されるままだ。

 

「あっちはあっちで相性悪そうな」

「うん、もしかしたらあっちは僕の方が適任なのかもしれない。でも…」

「気になるよな?エクスカリバー」

「…君は誤魔化せないね」

「ふむ…なら俺が行こう」

「え?」

「ゼノヴィアも来たからな。代わりに入ってもらう。共同戦線は生きてんだろ?」

 

アーシアと会話していたゼノヴィアに問いかける。

 

「ああ、一度はあの三人に無様を晒したが…今度は出し惜しみせずいく」

「その剣は?」

 

ゼノヴィアの持つ大剣はエクスカリバーに負けず劣らず…というかそれ以上の威圧感を放っている。

エクスカリバーと打ち合っても刃こぼれひとつない。

 

「デュランダルだ」

「デュランダルだとっ!?バカな、私の研究ではそこまでの成果は出ていないはずだ!!」

 

バルパーが目を言開いて叫んだ。

デュランダル…聖騎士ローランが持っていたとされる絶世の名剣。

確か柄には数多くの聖遺物が収められていたんだっけか。

 

「私はイリナと違って人工的な聖剣使いではない。いわゆる天然ものというやつだ」

「E2!!」

「…大丈夫。あの人、使いこなせてない。振ってない。振られてる」

「そっ、そうか。…くくく、まさかここに来て聖剣がもう一本手に入るとは。次の研究は決まりだな」

「まだ続けるのか!?バルパー・ガリレイ!!」

 

木場が激昂して叫ぶ。

また同じことをするのかと、第二第三の自分たちを生み出すのかと。

 

「なんだ貴様は?」

「僕は『聖剣計画』の生き残りだ」

「なに?」

 

バルパーの目が大きく見開かれた。

 

「は、ははははは。そうか、貴様あのガキどもの生き残りか!!これは、これは面白い!!」

 

余程おかしかったのか顔を引き攣らせて笑う。

腹をよじって、息が続かないと涙を流して。

周りの冷めた視線などお構いなし。

奴はひとしきり笑った後

 

「――私はな…聖剣が好きなのだよ」

 

唐突に真顔になって語りはじめる。

 

「母であったかな?いや、兄だったか。とにかく幼い頃から私は語られる寝物語に出てくる聖剣に心を躍らせていた。その思いは年を重ねる毎に増していった。今では研究者をしているが、一度はエクソシストを目指したこともある。青春のほとんどを費やしたよ」

 

遠い過去を思い返すようにしゃべり続ける。

 

――だが私には聖剣への適性が無かった――

 

「絶望したよ。だが、同時に思ったのだ。こうまでして聖剣を求める私と、生まれだけで聖剣を振るうもの――いったい何が違うのかと。執念だった。諦めきれなかった」

 

――憧れるものと自身の何が違うのか?

誰しもが思う、思わずにはいられない問いかけ。

大抵は諦めるか別の道を探す。

だが、この男は見つけてしまった。

 

「因子だ。聖剣を使うにはとある因子が必要だった。気付いていないだけで万人が持っていた。ただ一定の数値に達していないだけ。…発見した時は笑いが止まらなかったよ。なんだ、こんなモノかと」

 

くくく、と再び笑い始める。

 

「時に君たちは我々錬金術師…いや、魔術師もか。魔導を追及するモノの根底に根差す通念というものを知っているかね?」

 

いよいよもって本当に狂気に侵された表情。

これも、この狂気も魔導に足を踏み入れた者の共通するものなのか

 

「『足りないのなら、他から持ってくればいい』」

 

分かった。

他の奴らは今一つピンと来ていない様だが、俺には分かってしまった。

 

「バルパー、貴様抜いたな?木場達被験者からその因子を」

「「「なっ!?」」」

「クククク…ハハハハハッ!!」

 

奴は懐に手を入れると青い何かの結晶を取り出した。

淡く、エクスカリバーと同色に輝くソレからは神聖な力を感じる。

 

「フリード君にも使ったのだがね…もう少しデータが欲しかったというのに…。他の被験者は軒並み死んでしまった。これは最後の一つだ。要るかね?量産の目途は立っている。一つくらいいいだろう」

 

そう言って奴はその結晶を木場の足元に放った。

 

「因子を抜いたくらいでは死なないのだが…彼らには随分と色々実験を、表ざたにはできない事をやっていてね。野放しにするわけにはいかんし、まぁどうせ搾りカスだ。そう思って処分したのだが、まさか追放とは」

「てんんんっめぇぇぇぇぇっ!!人の命を何だと思ってやがる!!」

『Boost!!』

 

話を聞いて堪え切れなかったのだろう、兵藤が倍加もそこそこに奴へと殴りかかった。

 

ギィィィィィィンッ!!

 

それをE2がすかさず受け止める。

だが

 

「どけぇぇぇぇぇっ!!」

『Boost!!』

 

いかなる手段か連続で倍加した兵藤が押し切った。

その拳がE2の顔面を捉える。

 

「っ」

「お前もなんでそんな奴の味方をするッ!?さっきの話を聞いていただろう!!」

 

倒れ込んだE2に兵藤は叫んだ。

 

「無駄だ。コレにはその様な小難しい事など理解できん。ほれ、起きたまえ」

「ん…」

 

バルパーは倒れたE2を足で蹴って催促する。

立ち上がったE2は仮面が砕け、素顔になっていた。

E3、E1と同じく赤い瞳。

だが、それ以上に目を引くのは…

 

「朱乃さん?」

 

そっくりとはいかない。だが、面影がある。

兄弟と言われても配色を除けば信じてしまう。

全員が姫島を見た。

グレモリーも戦闘を中断して目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたというのかね?…これは…コカビエル、まさか彼女は――」

「クハハハハハ、そうだ。そこの小娘がバラキエルの娘だ。」

「なんだと?」

 

思わず声が漏れ出る。

姫島がバラキエルの娘?

皆の視線にさらされた彼女の瞳は大きく見開かれ―――困惑に揺れていた。

 

 

 

 



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第二十五話

難産でした…

評価、感想、指摘ドンドンおねがいします。


「???」

 

状況の分かっていないE2が小首を傾げた。

 

「うわー、E2ってあんな顔してたんだ。僕初めて見た。可愛いじゃん」

「…いい、ほしい」

 

どうやら身内にも見せたことが無かったらしい。

 

「どういう…事ですの?」

「クククク」

「ははははははは」

 

事情を知る二人はおかしくて仕方ないと言った様子だ。

 

「クククク、このE2は貴様らにはいくつに見える?」

「同い年くらいじゃないのか?」

「外れだ。クク…E2お前は今いくつだ?」

「???」

「ああ、聞き方が悪かった。お前は今まで何回夜を経験した?」

「…1786回」

 

1786…これが生まれてからの経過日数だとすると…

頭で軽く暗算して口を開く。

 

「つまりE2が五歳にも満たないと?」

「はぁ!?」

「私は聖剣因子の結晶化に成功した。研究を始めたころは自身が聖剣を振いたいがための研究だった。しかし、研究をするほどに気付いていった。聖剣に秘められた力を、今までの聖剣使いのほとんどが十全に力を引き出せていなかったと。私が振るっても同じことだと」

 

ゆっくりとE2の頭を撫ぜる。

 

「だから作った。完璧に聖剣を使いこなせる存在を。幸い過去に手駒として作ったEシリーズのノウハウがあった」

「Eシリーズ…」

「知っているかね?高位存在のクローンというのは成功率が非常に低い。細胞自体に初めから強力な魔力や光力が宿っているために、胚珠の段階で極少の暴発を起こし自滅してしまうのだ」

 

高位存在…。

なるほどな。

 

「しかし、人間とのハーフは問題なく生まれたのだ。そこのバラキエルの娘の様にな」

「朱乃さんが…堕天使の娘…」

 

兵藤とアーシアの驚愕の眼差しを受けて姫島が唇を噛み締めた。

目元は隠れて見えない。

彼女にとってそれは汚点なのか。

 

「真の目標であった聖剣の汎用化に成功した途端、私はそれにあまり価値を見出せなくなった。『凡庸な』聖剣使いを増やした所で伝説には届かない。皮肉だったよ、片手間に行っていた研究の方が価値を持つようになった」

 

憧れ、目標として走り、届かないと知れば何が足りないのか答えを求めた。

得た答えは些細なことで、憧れを凡庸に堕とした。

 

「その究極の存在がE2か」

「そうだ。本当の伝説をこの目にしたかった」

「…それが私とどう関係があるというの?」

「分からんかね?私は人工的にハーフを作ろうとした。そのもととなったのが――バラキエルだ。貴様とEシリーズは半分だが血が繋がっている。」

 

全員が息をのむ。驚愕以外の何物でもないだろう。

その言葉が正しければEシリーズは全て最上級堕天使の子供。

因みに俺も。

パパン(バラキエル)子だくさんだな。

やったね、朱乃ちゃん。家族が増えたよ。いっぱい。

 

「実のところ僕たちは片手間だった時期のプロトタイプなんだ。そこのE2だけ特別製」

「…Eシリーズは何人完成したんですの?」

「ここにいるのが全てだ。失敗作もいくつかあったが全て処分済みだ」

「そう」

 

再び顔を上げた彼女の瞳は極寒の殺意を湛えている。

 

「紛い物は私自身の手で全て消滅させますわ」

「ひゃ~、怖い怖い」

 

E3がけらけらと茶化す。

 

紛い物か…。

 

「E2が特別性ってのは?」

「コレは完全な人工子宮で生まれた。母体を用意するのはコストは低いのだがどうにも安定さに欠ける。ハイエンドを目指すのならば不確定要素は避けたい。現に本来のE2は失敗作だったからな。高名な武術家の家系だと聞いていたのだが、生まれたのは完全な失敗作だった」

 

苦々しげに吐き捨てる。

ああ、それ俺じゃん。

 

「その点、コレは素晴らしい。雷光こそ継がなかったが、基礎能力は非常に高い。何よりも聖剣全般との相性が素晴らしい。わざわざ苦労してペンドラゴン家の遺伝子を入手しただけの事はある」

「ペンドラゴン!?」

 

グレモリーが信じられないと首を振る。

 

「あり得ないわ。そんなものどうやって…」

「なに、蛇の道は蛇というやつさ。とある組織と取引をしてね。技術提供を対価に融通してもらったのだ」

「ペンドラゴン??」

 

兵藤が首を傾げた。

お前には随分と関係の深い名だと思うんだがなぁ。

 

「ふー、エクスカリバーの最初の持ち主は?」

「アーサー王だろ?そのくらい知ってるよ」

「そのアーサー王のフルネームがアーサー・ペンドラゴンなんだよ」

「ええええええええええっ!?じゃ、じゃああの子は最上級堕天使の娘で、同時にアーサー王の末裔ってこと!?」

 

言葉にすると凄まじいな。

何そのチート。ジジイめ、まんま『私の考えた最強の』って感じじゃねぇか。

自重しろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「バルパー・ガリレイ…あなたにとって僕を…僕たち同胞を犠牲にしたことは」

「ふむ、結果からいえば―――――すべて徒労だったな。随分と無駄な事をした」

「――――ッ!!」

 

木場が因子の結晶を掻き抱いて涙を流す。

同志たちは欲望のためだけにゴミの様に殺された。

木場はこれまでの生涯のほぼ全てを復讐に捧げてきたのに、相手にとっては惨劇も、得たモノもどうでもいいものだった。

 

「…」

 

その時、因子の結晶が光を放ち始めた。

それは次第に形を作り、いくつもに分かれる。

それは人影だった。

 

「みんな…」

 

あれが木場の同志達か…。

 

「あれは、木場の仲間たちの魂なのか?」

 

兵藤が呟くが、正しい事はわからない。

バルパーに因子を抜き取られた後も彼らは生きていたらしい。

つまり魂そのものでは無い…はずだ。

因子が魂と密接に繋がっていて、死後引っ張られたという可能性もあるが。

 

「っと。この考えはあまりに無粋か」

 

本当に魂だろうが残留思念だろうがどちらでもいい。

 

『自分たちの事はもういい。君は、今の仲間たちと先に進んでくれ』

 

彼らは生前伝えられなかった言葉を伝えられた。

それこそがこの奇跡の全て。

 

「死者との語らい、か…」

 

木場を囲んだ同志たちが聖歌を口ずさむ。

木場も、同じように涙を流してそれに続いた。

 

Jesus loves me! He will stay

Close beside me all the way;

Thou hast bled and died for me,

I will henceforth live for Thee.

 

――『主、我を愛す』

 

これほど今の彼らに相応しいものはないだろう。

聖歌のはずなのに、この歌は悪魔にすら心地いい。

 

「~~~♪っづ」

 

彼らに続いて俺も口ずさんでみたが激しい頭痛に襲われた。

当然か。この奇跡は彼らだけのもの。

 

「…気にすんな。続けてくれ」

 

周りにいた被験者たちの何人かは申し訳なさそうに苦笑していた。

次第に輪郭があやふやになり、一つになってゆく。

 

『僕らは一人では駄目だった』

『私たちは聖剣を扱う因子が足りなかった。けれど―――』

『みんなが集まればきっと大丈夫―――』

 

一番近くにいた恐らく最年少の少女が俺を見上げて口をパクパクさせる。

 

「なんだ?」

 

しゃがんで目線を合わせると、彼女は耳元に口をよせ――

 

『ユートのこと、よろしくね?』

 

そう言うや否や身をひるがえし、ほかの光に合流していった。

ユート…木場の人間だった時の名前だろうか?

 

『聖剣を受け入れるんだ―――』

『怖くなんてない―――』

『たとえ神がいなくても―――』

『神が見ていなくても―――』

『僕たちの心は―――』

「いつも一つだ」

 

大きな塊になった光は一度天に上り…木場と一つに重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹っ切れたか?」

「うん」

 

木場の顔は晴れやかで、しかしかつてなく気迫に満ちている。

 

「もう復讐は要らない。でも、彼をこのまま野放しにすれば更なる犠牲者が増える。彼を倒し、コカビエルを倒さなくてはみんな死んでしまう。この町さえもなくなってしまう」

「ああ」

「―――今の僕は力が欲しい。復讐のためじゃない。破壊のためじゃない。大切な人たちを守るための力がっ!!僕は同胞たちと共に、前に進む。応えてくれ、『魔剣創造』!!」

 

木場の造り出した魔剣に先ほどの光が流れ込む。

混ざるのではない。

黒と白が混ざってもくすんだ灰にしかならない。

理想は太極図。

二つを受け入れるのだ。聖と魔、相反する二つの力。過去と今二つを。内包するのだ。一本の(ちかい)のもとに。

 

「―――禁手化、『双覇の聖魔剣』。いくよ、この剣ならエクスカリバーと渡り合える」

 

自慢のスピードで斬りかかった。

スピードは変わらない。

しかしフェイントを織り交ぜ確実に接近してゆく。

最近は感情的になって突っ込むばかりであったが木場の本来の戦闘スタイルはこういうものだ。

 

「『天』『壊』連携」

「今度は負けない!!」

 

まともに聖剣と打ち合う。

今度は折れない。真正面から受け止められている。

 

「私も行こう」

 

ゼノヴィアも一歩前に踏み出す。

 

「奴が言うには私も凡庸な聖剣使らしい。伝説とやらを味わい…そして勝つ」

「いってらっしゃい」

 

適当に手を振って見送る。あの二人が力を合わせりゃ…あれ?ゼノヴィアって強いのか?確か剣に振られてるって…。

 

「はあああああああ!!」

 

ドガン、バガンッ

 

嫌な音が、校庭の悲鳴が聞こえるが聞かなかったことにしよう。

 

「兵藤といい、グレモリーといい、なんでこっちはパワー馬鹿が多いんだ…」

「なんですって!?」

 

上空のグレモリーが心外だとでも言う様に肩を怒らせる。

 

「文句言えるか、へなちょこ!!バカスカ穴ばっか増やしやがって!!」

「ぐぎぎぎぎぎぎ」

 

校庭はE3とE1との戦闘でボコボコになっている。

彼女自身も息を切らして汗だくだ。

 

 

 

 

 

「バトンタッチだ、下がってろ」

「なにを!?私はまだやれるわ!!」

「阿呆、忘れたのか?これは前哨戦だぞ?ここで息切れしてどうする。本命はアイツだろうに」

 

ニヤニヤとこちらを見下ろすコカビエルを親指で指差す。

 

「くっ」

「ま、見とけって。そんでもって回復に努めろ」

 

E3達に向かって進む。取りあえずは納得したのかグレモリーは道を譲った。

 

「次はお兄さんが相手?もしかして君も上級悪魔だったりする?」

「いや、こないだ悪魔になったばかりの元人間だ」

「…馬鹿にしてる?」

「お前ほどじゃないさ」

 

E3は酷くつまらなそうにため息をつく。

 

「話聞いてた?僕たちは特別な存在なんだ。いわば天才」

「…俺がここ最近、戦って来た奴は全員俺より才能があったよ」

「じゃあそいつらは大したことなかったんだよ」

「かもな」

 

歩みは止めない。

 

「ひとりで行くつもり?」

 

後ろから心底あきれたように問いかけてくる。

 

「応よ。あっちにはゼノヴィアが入ってくれたからな。…ああ、そうだ」

 

チラリと首だけ振り返ると、グレモリーはこちらを心配そうに見ていた。

自身の不甲斐なさも実感しているのだろう、唇を噛み締めている。

俺はニヤリと嫌らしく笑って一言、

 

「時間稼ぎご苦労」

「むきーーーーーーーーっ」

 

 

 

 

 

「『天才は九十九パーセントの努力と一パーセントの才能でできている』これってホントはどう頑張っても結局はその一パーセントが無いと意味がないって事なんだ。…知ってる?人間と猿の違いも一パーセントかそこらなんだって」

「ふーん」

「っ…もういいよ、すぐに終わらせてあげる」

「一つ聞くが…お前は九十九の努力をしたのか?」

「いらないよ、僕には才能がある…人間は猿と競ったりはしないんだ」

 

直後、奴の姿がブレた。

『天閃』を使ったE2よりもまだ速い。

 

ブシッ

 

「っと」

 

首筋が浅く裂かれ血が出る。

 

「速いな」

 

振り返れば、駆け抜けたE3がさっきとは反対側に立っている。

右手にはダガー、その切っ先には俺のものであろう血がついている。

 

「外した?…首筋を狙ったんだけどなぁ」

「ふむ、惜しい惜しい」

「まぐれで躱したからって調子に乗らないでよ」

「まぐれだと思うか?」

「目で追えてなかったことは分かってるんだ」

 

少しイラついたように顔を顰める。

 

「次は殺すよ」

「やってみな」

 

奴は次の疾走に向けて身を屈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、くそお!!なんで当たらない!?なんで殺せないんだ!!」

「いや、ちゃんと当たってるから」

 

何度繰り返しただろう、E3が高速で仕掛けてきて俺はそれを薄皮一枚で凌ぐ。

俺の体は小さな切り傷が無数に付けられている。

奴のスピードも徐々に上がってきている。

 

「おれ、てつだう?」

「要らない!!こいつは僕一人で殺す!」

 

E1の助力も、頭に血の上ったE3は拒絶する。

 

「頃合いか」

「僕は天才だ。猿とは、違うんだよぉぉ!!」

 

E3の姿が掻き消えた。

これまでとは段違いの速度、まさに神速。

しかし――

 

「バカが」

 

ズドン!!

 

「な、が…」

 

俺が振り下ろした足は奴の頭を捉え、大地に叩き伏せた。

 

「な…んで」

 

顔面から叩きつけられて鼻でも折れたのだろう。奴の声はくぐもって上手く発音できていない。

 

「殺気がダダ漏れだ」

 

別にE2との戦闘だって速度が問題だった訳では無い。

アレの一番厄介なところは殺気なしに予測できない攻撃が高速でやってくることだった。

 

「駆け出す前に狙った場所に目をやるのもNG。頭に血が上りやすいのもアウト」

 

こいつは相手を舐めすぎている。短剣に毒でも塗っていれば良かったのだ。

そうすれば俺は既に死んでいる。

まあ、自身の力を過信しているから小細工はしてこないとは踏んでいたがね。

 

「そして今の攪乱もしない、緩急も付けない真っ直ぐな突進。真っ直ぐ飛んでくるならタイミングを合わせればいい。的も大きい分、銃弾を弾く方が難しいよ」

 

ドライグの眼を使うまでもなかった。

 

「つまらん奴だ」

 

踏みつける足に力を込める。

 

「まげるわげない…ぼぐが、こんな…」

「…さっきのセリフな?俺はこう考える。猿でも努力すりゃあ、才能だけの奴の九十九倍強くなるってな」

 

ミシミシと奴の頭蓋が軋む音がする。

 

「精進が足らんよ、天才」

「…」

 

あら、気絶したか…。

根性ないなー。

 

 

 

 

 

 

「がああああああっ!ころす、おまえ…ころす!!」

 

E1が怒り狂って殴りかかってくる。

遅いっての。

紙一重で躱してスパタで斬りつける。

 

ギィィィィン!!

 

「お?」

 

奴の体を切ったにもかかわらず、響くのは鉄のぶつかったような音。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

 

俺の攻撃など気にも留めず、そのまま拳を大地に叩きつけた。

鉄槌の様な一撃を受けた地面は広範囲に渡って陥没と隆起を起こした。

弾けた石が飛んでくる。剣で弾くが、幾つか小さいのが体に当たる。

 

「防御とパワー特化か。…当たったら死ぬな」

 

石の当たった部分は早くも青くなり始め、ひときわ大きなものが当たった肋骨は折れた。

破壊力は凄まじい…

 

「ま、オワタ式なんて…いつも通りだ」

 

大振りな攻撃を余裕をもって大きく躱す。

振り下ろしは距離をとって石の礫に備える。

 

「ごごごごおおおおお!!」

 

まさに暴風、この破壊の嵐の前では数など問題ではない。

近づいた者はその余波のみで粉々に砕ける。

 

「なあ、お前美少女を壊すのが趣味なんだって?」

「ころすころすころす」

「話聞けよ…」

 

横なぎの腕をバク転で躱す。

風圧だけでバランスを崩しそうになった。

だが、俺は死んでいない。

こいつも…俺を殺せない。

 

「やっぱお前も単調な?」

 

先程バク転したときに掴んでいた校庭の砂を顔に叩きつけた。

 

「うううううう!?」

 

砂によって視界を奪われたE1は目を擦りながらうめく。

闇雲に腕を振って地団太を…

 

ぐしゃっ

 

「あ…」

 

さっきから転がっていたE3を踏んづけた。

 

「えー」

 

あれ死んだわ、絶対。

E1は気が付かないのか、そこまで頭が回らないのか動きを止めない。

 

「ああああああ…アガッ!?」

 

いい加減うるさくなってきた口にスパタを全力で突っ込んだ。

やはり体内の強度はそこまでではないのか、しっかりと刺さり血が噴き出た。

 

「お前が壊した者の中には俺のタイプの子がいたやもしれん。何より塔城とアーシアをそんな目で見た…殺すには十分だ」

「おごっ、ごふ…」

 

刺さった剣に全開の力で電流を流し込んだ。

俺の電撃は姫島に比べれば全然大したことが無い。

しかし、体内で発生したのなら…

 

「…」

 

全身を大きく痙攣させて、耳と鼻から黒い血を垂らしながらE1は絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝った」

「…えげつないわね」

「美しい殺し方ってのを教えてもらいたいね」

「はあ…」

 

さて、木場達は…と

 

「くっ、はあ…」

 

E2を完全に押している。

 

「はあああっ」

 

ドガン、ズドン!!

 

ゼノヴィアが大振りに攻撃し、木場がその隙を埋めるように攻める。

意外といいコンビネーションだな。

 

ドォォォン、ズガガガガ

 

あれ?おかしいな、ゼノヴィアがさっき倒したE1とダブって見えるぞ?

 

「「脳筋」」

 

グレモリーとハモってしまった。

 

「少し…」

「ん?」

「少し、自分の戦い方を考え直してみるわ」

「…手伝おうか?」

「…」

 

顔を手で覆って俯いてしまった。

あの戦い方を見て、自分と相通ずるものを多分に感じてしまったのだろう。

 

「ええい!!E2、いい加減にせんか!!聖剣の力は、お前の力はそんなモノではないはずだ!!」

 

顔を真っ赤にしたバルパーが唾をまき散らしながら怒り狂う。

 

「…全開放、する」

 

大きく木場達から距離をとったE2は聖剣を掲げて瞑目する。

 

「なんだ?」

 

聖剣の輝きが一際大きくなった。これまでとは質まで別物に感じる。

あふれ出る力の波動は先ほどのコカビエルの一撃にも届く。

コカビエル自身もさすがに驚いたのか、余裕の笑みを消して目を見開いていた。

 

「まずい!!」

 

木場が慌てて追いすがるが、距離がありすぎる。

輝きは加速的に増し、E2が背にしている校舎の窓ガラスが軒並み弾け飛んだ。

 

「止めなさい、なんとしても止めるの!!」

「ふははははは、見よこれが…真の、伝せ―――『ところがどっこいぎっちょんちょん』」

 

ザシュッ

 

「…え?」

 

E2の体から刃が生えていた。

当の本人も理解できないと言った顔でキョトンと自分の胸から生えたソレを眺めている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から刺し貫き、今引き抜かれると同時に崩れ落ちるE2から聖剣をぶんどったのは…

 

「いや~、覚醒シーンの邪魔しちゃってごめんねぇ~。いや、空気読めないんじゃないの、読まないの。だって俺っち狂人だカラ。やっほー、あいむばーっく!!お久しぶりです、どうもこんにちは!!あれ?こんばんは!!」

 



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第二十六話

フリードの人気にびっくり。




はっはっは、こんなおもろいキャラ殺すわけないじゃないか。


「フリード・セルゼン…」

「そんな!?死んだはずじゃあ!?」

「やーっぱ生きてたか…」

「おおおおお、シューちゃんは分かってたん!?」

 

他の全員が唖然としている中、俺だけがあきれた声を出した。

 

「あんな奴らが殺れるんなら苦労せんわ」

「んんんん~、俺っち感激…って邪魔邪魔」

 

フリードは目の前に倒れ伏すE2を足で蹴り飛ばして道を作り、スキップでこちらに向かって来た。

そして―――

 

バタンッ

 

俺の目の前で顔面から倒れ込んだ。

近くに来て分かったが、奴の白い神父服はどす黒く血に染まっている。

 

「何やってんのお前…」

「死んだふりしてからずっとこの校舎でスタンバってました」

 

顔を上げず、地に伏したまま答えた。

 

「ずっとって…」

 

兵藤が何とも言えない顔でつぶやく。

 

「よく見つからんかったな」

「旦那が体育館吹っ飛ばしたときはレバーがチルドされました」

「あ、そう」

「フリードッ!!き、きさ、きさま自分が一体何を…何故!?」

 

バルパーが金切り声をあげて駆け寄る。

あまりにも感情が昂ぶっている為、発する言葉も支離滅裂。

 

「使い捨て感バリバリポジだったし~、エクスカリバーもパワーアップするってゆ~じゃん?場所もここって知ってたし…これはもう漁夫の利するしかないっしょ」

 

もぞもぞと動いてエクスカリバーを抱き枕の様に抱きしめて頬擦りする。

うわ、足まで絡めてら

 

「その、薄汚い手で、私のエクスカリバーに触れるな!!狂人めが!!」

 

眼を血走らせ、口の端に泡を吹かせながら絶叫する。

あ、唾が靴に掛かった。

 

めしょっ

 

顔面に足の裏を叩きこんで黙らせる。

ジジイのヒスほどキモイ物もそうはない。

バルパーは蹴られた勢いのまま仰向けにひっくり返った。

 

「へぶっ」

 

背中を強かに打ったのだろう。咳き込んで苦しそうに悶えている。

自身は受け身を取れないほどインドアなんだな。

 

 

 

 

 

 

「さて…」

 

少し離れた位置で倒れているE2に歩み寄る。

胸を突かれたせいで肺をやられたのか、呼吸するたびにヒュー、ヒュー、とヤバげな音が聞こえる。

 

「ふむ…」

 

首根っこを掴んで猫の様に持ち上げる。

顔色は青く、このまま放っておけば確実にあの世行き。

 

「やっぱ似てんなー」

 

顔は西洋人形の様に整っているが、それでも姫島を連想させるには十分なほど似ている。薄く、虚ろに開かれた瞳も、彼女と同じく真紅。

 

「…よし」

 

一旦降ろして背中に手を回し、膝裏を抱える。所謂お姫様抱っこ。

 

「どうするつもり?」

「アーシア、こいつ助けてくんない?」

「えっ?」

 

グレモリーの目が釣り上がり、姫島からは殺気があふれ出た。

 

「どういうつもりだよ、青江!!」

「あなた、E1とE3は容赦なく殺したわよね?どういう風の吹き回し?」

「美少女だから」

 

「「「「「…………」」」」」

 

「まさか、それだけじゃないわよね?」

「それだけ」

 

「「「「「…」」」」」

 

グレモリーは腕を組み、瞑目して口元を引き攣らせる。

額には青筋が浮いている。

他の連中も同じ様な顔をしている―――と

 

バシィッ

 

俺のすぐ横の地面が雷撃によって弾けた。

 

「青江君、お巫山戯はそこまでにしましょう?」

「…姫島先輩」

 

彼女は再び雷撃を手に宿しつつ微笑む。

しかし、薄く開かれた瞳には有無を言わさぬ殺意がありありと見えた。

俺は敢えて彼女を無視してグレモリーに語り掛ける。

 

「殺すには惜しいと思わんか?ここまでの剣の技量、聖剣への適性。バルパーの話から察するに善悪の判別も付いていない」

「何が言いたいの?」

「いや?確かどっかの魔王の妹は『騎士』の駒が余ってたなー、と。ちゃんと教えれば常識は身に付くかもしれん。そのくらいのリスクには見合う人材だなーと」

 

グレモリーの眉がピクリと動く。

フフフ、揺れてる揺れてる。

 

「僕も賛成です」

 

ここで思わぬ助けが来た。木場だ。

 

「彼女の剣はとても純粋でした。もう一度、手合せしたいと思える。今度は一対一で勝ちたいとも。それに…」

 

木場は最後の言葉は濁らせて俺を見た。

そうか、木場には話したから気付いてるのか。

こいつが俺の『妹』だという事に。

 

「…アーシアはどうなの?」

「わ、わたしですか?」

「私たちがどう話しあったとしても、最終的には貴方の手にゆだねられるわ」

 

アーシアはこうしている間にも刻一刻と顔から血の気の引いてゆくE2を見た。

そして――

 

「わ、わたしはっ…わたしは助けたいです!!たとえその人がどんな立場であっても、わたしの力で助けられるのならっ!!」

 

きゅっと胸の前で拳を作って、相手の目を見て伝えた。

 

「そう…決まりね」

「リアスッ!!!」

 

それまでは肩を震わせるだけだった姫島が、我慢の限界だと言わんばかりに叫んだ。

 

「朱乃、貴方の気持ちも分からなくはないわ」

「ならっ」

「でもね、これは私の眷属としての総意。そして『王』である私の決定よ」

「兵藤君は!?」

「うぇ!?」

 

事態についていけず、目を白黒させていた兵藤が姫島に詰め寄られてたじろぐ。

 

「貴方も賛成なの!?アレを助ける事に!!」

「お、俺は…」

 

若干気圧されつつ、仰け反りながらも兵藤は

 

「俺も賛成…です。やっぱり、目の前で人が死ぬのを見過ごすのは…」

「…アーシア、頼む」

「はい…」

 

俺がゆっくりとE2を横たえると、横目で姫島を気にしつつアーシアが治療を開始した。

 

「…わかりました」

「朱乃…」

「ですが、更生の余地がないのなら…」

「当然よ」

 

 

 

 

 

 

「おのれ、おのれ、おのれえええええ!!」

 

ようやく息が整ったバルパーが立ち上がろうと四つん這いになっていた。

俺は奴の元に歩み寄り、頭を掴んでもう一度叩き伏せた。

 

「木場…どうする?お前がやるか?」

「いや…僕に復讐はもう要らないよ」

「そうか…では、俺がもらおう」

「なんだ、わたしを殺すか!?」

「お前にはいくつか聞きたいことがある」

 

顔面を掴まれたままにもかかわらず、射殺さんばかりの勢いで睨んでくる。

 

「Eシリーズはもういないのか?」

「…」

 

ごしゃ

 

地面に顔を叩きつける。

 

「もう一度聞く、Eシリーズはもういないな?」

「あ、あの三人で全てだ…他は処分した」

「バラキエルの遺伝子はどこから?」

「…」

 

震える指で上空のコカビエルを指差した。

奴は戦いが起こっていないことが不満なのだろう、懐中時計を眺めながらこちらには目もくれない。

 

「ペンドラゴンの方は?」

「『禍の団』というテロリスト集団だ」

「グレモリー先輩、知ってるか?」

「いいえ。でも、お兄様ならあるいは…」

 

騎士王の遺伝子を提供できるテロリストなんてヤバそうなのがノーマーク?

 

「詳細は?」

「し、知らん。あ奴らは同じ組織名を名乗りながら細分化しすぎている。取引した私でさえ全容は掴んでおらん!!」

「そうか」

 

それは、かなり厄介だな。

 

「他に質問のあるやつは?」

「現存する聖剣計画関連の実験施設は?」

「…」

 

ガツン

 

「フ、フランスとイタリア、に一つずつ。イギリスには教会直属のものがいくつかあるはずだ!!」

「信憑性は?」

「どうやって証明しろというのだ!!少なくとも私が教会にいた時にはあった!!」

「部長…」

「ええ、探りを入れてみるわ」

「この件に関しては私も協力しよう」

 

ゼノヴィアも聖剣計画については納得がいっていないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「他には?」

「「「「「…」」」」」

「ないか…では俺から個人的なものを一つ」

「な、なんだ?」

「本来のE2と言っていたが、ナンバリングはどうやって付けているんだ?」

 

一見してどうでも良さそうな質問。

こちら側の連中も不思議そうに顔を見合わせている。

 

「いいから答えろ」

「ナンバリングに大した意味などない!!ただの管理番号、欠番は埋める。それだけだ!…こんなことを聞いて何になる!?」

 

今回の質問ばかりは本当に意図が分からないと困惑を見せる。

 

「俺を思い出さんか?」

「し、知らん、貴様など―――」

「俺の家はな…そこそこ名の知れた武術家の家系だったんだ」

「それが―――まさか」

 

やっと気が付いたか…クククク。

驚愕に見開かれていた奴の目が細められ――――顔が笑みを形作る。

 

「は…ははははは、ひーっははははははは!!貴様、貴様がッ!!お前が私を終わらせるか!?母を殺され取り乱した貴様が!!祖父の首の前で呆然としていた貴様が!!あの無力な、出来損ないが!?」

 

今度の哄笑は木場の時の様な狂気ではない。

本当に可笑しいから笑っている。

 

「クククク、ハハハハハ…。そうだ。俺だ、俺がお前を殺す…譲ってもらったからな」

「E1とE3を殺ったのも貴様だったな!!どうだ!?兄弟を殺した感想は!?」

「え…」

「ちょっと、それは一体―――」

「嘘…嘘よ」

 

外野がざわめき立っているが今は気にならない。

ああ、やはり俺は心の中でこいつに執着していた。

 

「別に、どうとも。見ず知らずの血縁なんぞよりも、俺はこの町を選ぶ」

「そうか…ははははは」

「クックック」

 

復讐が出来るからうれしい訳では無い。

だが、笑える。

 

「つくづくこの地には因縁があった!!聖剣計画、バラキエルの娘―――だが、これは、これは笑うしかない!!」

 

笑う、笑う、笑う。

二人で顔を突き合わせて笑う。

嬉しい訳でも、愉しい訳でもない。

ただ可笑しいから笑う。

 

「ハーハーッ、ハ―――!!」

「ははははははははは―――!!」

 

運命と言うしかないようなこの陳腐な因縁を―――

 

「ふう…笑った笑った。ああ、俺は別にアンタのしたこと自体はどうとも思ってない。木場の件も、『木場』だったからだ。他だったらどうだったかな」

「それは許容していたと?」

「いんや。そうさな…どうでもいい、だ」

 

自分の知らないところで悲劇が起こる。

そんなの日常茶飯事だ。

 

「それに、そこまで純粋に聖剣を求めた渇望は嫌いじゃない」

「分かったような口を聞きおって」

「ま、手を出したのが俺のお気に入り…母、祖父、木場、そして姫島だった。運が悪かったな」

「ふん…恨むぞ、出来損ない」

「存分に」

 

首筋に剣をあてがう。

俺を恨め、俺を憎め、お前の夢は俺が潰す。

その憎悪も無念も、一身に受け奪い尽くそう。

俺は―――強欲なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、時間を取った。ただでさえ押してるってのに」

「あなた…」

「話は後だ。来るぞ、本命が」

 

全員が俺に言いたい事があるだろう。だが、時間がない。

上空を見上げる。

 

「茶番は終わったか?」

「おう、またせたな」

「では―――始めよう!!戦いを!!これが、開戦の狼煙となる!!まずは誰だ!?グレモリーか!?バラキエルの娘?赤龍帝?無論、全員でも構わんぞ!!」

 

十枚の翼を広げて朗々と謳う。

放出する闘気は最早重圧となり俺たちにのしかかる。

 

「イッセー、朱乃、祐斗、小猫!!出し惜しみは無しよ!!迷いも捨てて、どんな手を使っても勝つのよ!!青江君も、その傷が治り次第参加して!!」

 

また回復か…締まらんなー。

少年誌の主人公はどうやってあんなに連戦しているんだろう?

 

 

 

 

 

 

「E2はどうだ?」

「はい!!今はもう安定しています」

「そっか…ありがとう」

「いえ!シュースケさんのおかげで見えましたから。私のやりたいこと!!」

 

―――たとえその人がどんな立場であっても、わたしの力で助けられるのならっ!!

 

ドォォォォォン!!

 

「ふははははははっ、流石は赤龍帝。譲渡すればリアス・グレモリーの力もここまで上がるか!!」

 

上空では激しい戦闘が行われている。

さっきのは譲渡を受けたグレモリーか…。

ダメージは通っているようだが、ドーピング込みであの程度じゃあ…。

 

「「はああああっ」」

 

剣士二人も善戦してるが、相手の剣技も凄まじい。

伊達に歳くってないってか。

 

「やべぇな…」

「やべぇねぇ」

 

未だにうつ伏せのままフリードも呟く。

 

「見えんのか?」

「いや、吾輩の命が」

「ああ」

 

そういやこいつも重症だったな。

 

「…アーシア、回復ってまだいける?」

「はい…でも、もうあと一人が限界です…」

 

汗だくのまま彼女は気丈に答える。

本当は既に限界を超えているのだろう。それでも―――

 

「…フリードさん、ですか?」

「ああ、今は猫の手でも借りたい。使えるんだろ?エクスカリバー」

「えー、きょーとー?そんなんガラじゃないってかキャラじゃないってかー。シューちゃんとは殺し合いたいんだしー」

「あいつ、強いぞ?」

 

ピタリ、とグニャグニャしていた動きが止まる。

 

「…」

「聖書にのってるらしいから?自分の力に自信もあるみたいだなー。自分が死ぬわけないって顔だ」

 

ピクピク

 

「わんもあぷりーず?」

 

あと一押し。

 

「見てみたいと思わない?あいつの屈辱の顔、命乞い」

「いよーっし!!アーシアたん、かもんかもーん!!ヒーリングプリーズ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂人復活。

 

 




感想、評価、ご指摘、お待ちしています。


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第二十七話

遅くなりました申し訳ない。




「おまたせ…どうした?」

「「「「………」」」」

「ふはははははっ!!!」

 

ようやく戦線に復帰できるようになった俺は兵藤達と合流したのだが―――様子がおかしい。

 

「嘘だ…」

 

特にゼノヴィアの様子が尋常ではない。

瞳は同様に揺れ、呆然としている。

戦意も失ったのか構えは解かれ聖剣を握る力も弱々しい。

 

「「???」」」

 

フリードと顔を見合わせて首を傾げる。

ゼノヴィア以外の連中も困惑顔で動きを止めていた。

 

「くくくくく…。やはり魔王の娘すらも知らされてはいなかったか」

 

ただ、コカビエルのみが滑稽なものを眺めるように愉快そうだ。

その目は主にゼノヴィアに向けられていた。

 

「どうだ?教会の聖剣使い。お前は『信仰』の名のもとに多くの者を切り捨ててきたはずだ」

「…」

「殺した後に神に懺悔したか?それとも神の名のもとにという免罪符で罪悪感は無かったか?」

「っ―――――貴様の戯言には惑わされん…」

 

ゼノヴィアは聖剣を握り直して切っ先をコカビエルに向ける。

歯を食いしばり、必死の形相で掲げられたソレは誰が見ても分かるほどに揺れていた。

 

「その言葉が出る時点で意志が揺らいでいる証。認められん…いや、認めたくない…か。ふん、もう一度言ってやろう―――先の大戦で神は死んだのだ」

 

…ニーチェ?

 

「黙れ…」

「貴様は今まで誰に向かって祈っていたのだ?誰から赦しを得ていた?誰の名の元に裁いてきた?」

「だまれえええええええええっ!!」

 

ゼノヴィアがコカビエルに向かって突っ込む。

勢いは凄まじい。

だが、それだけ。

精彩を欠いており、剣技のかけらもないただの突進。

殺気すらもどこに向けていいのか見失った――――八つ当たり。

 

「つまらん」

「げぇっ――――」

 

コカビエルは難なく攻撃を躱し、彼女の腹を無造作にボールでも蹴るかのように蹴り飛ばした。

ゼノヴィアは大きく吹き飛ばされ、俺たちのすぐ近くまで転がって来た。

 

「ぐっ、が…」

 

それでも、口から血反吐を吐き出しながらも立ち上がろうとする。

 

「貴様の信仰心もその程度か」

「なん…だと?」

 

剣を杖の様にして立ち上がろうとする。

その顔は血と埃にまみれ、憤怒の形相に歪められていた。

 

「なぜ俺の言葉を信じる?なぜそこまで動揺する?」

「え…」

「貴様が真に狂信者であるのなら、初対面の俺の言葉など聞く耳を持たんだろう」

「!!??」

 

ピタリとゼノヴィアの動きが止まった。

 

「何よりだ…そこまで動揺するのは何か?『神がいなかったのなら、自分の信仰は無駄だった』とでも?」

「あ・あああ」

「神のご加護?神の赦し?……はっ、所詮見返りが無ければ意味を見いだせないと?」

「やめろ…やめてくれ…」

 

先程までの気迫は既に無く、ゼノヴィアは弱々しく首を振る。

 

「神の実在、天使の実在をしっていた貴様がその程度とは…これなら何も知らず、日曜に教会に通う者の方がよほど敬虔だろうな」

「ぁ―――」

 

 

 

 

 

 

 

カランッ

 

ついにゼノヴィアは聖剣を取り落した。

へたり込み、虚ろに目を見開いてブツブツと呟く。

 

「結構陰湿だな、お前」

 

俺はチラリとゼノヴィアを一瞥して声を発した。

一名離脱か。

 

「期待外れにもほどがある。デュランダルの適合者と聞いて一度は心躍ったが…実力も、信念も、信仰も先代やローランに遠く及ばん。滑稽さでは随一だったがな」

 

心底不愉快だといった様にゼノヴィアを視界から外し、俺に鋭い眼光を向ける。

尋常ではないプレッシャーがのしかかった。

常人なら目を合わせただけで戦意を喪失するレベル。

 

「貴様らは…フリードと出来損ないだな?俺と真っ向から目を合わせてくるか…見込みがあるのか、はたまた蛮勇か」

 

そう言ってコカビエルは自身の頬を伝う血を拭う。

そして掌に付いた自身の血をじっと見つめると。

 

「聖魔剣使いっ!!」

「…なんだい?」

「貴様はこの中で一番見込みがある。バルパーの人形と戦っているときはゴミかと思ったが、今のお前は戦士として完成されている…俺に傷をつけた事といい、見事だ」

「……」

「だがグレモリーッ!!貴様らは駄目だ!!赤龍帝も、バラキエルの娘も!!」

 

コカビエルは振り向きざまに腕を振りぬき、衝撃波を飛ばす。

それだけで守りの体制に入った姫島、グレモリー、兵藤は大きく後退させられた。

 

「グレモリーと赤龍帝は口では守ると言っておきながら既に臆している。本当に何かを失ったことが無いだろう?喪失の恐怖を知っていれば、目先の恐怖に怯むことなどない。先の大戦ではそういった輩が溢れていた故に苦戦し、同時に心躍った。…いっそ誰かをむごたらしく殺すか?」

「くっ…」

 

奴は俺たちに無防備にも背を向ける。

なにをしても無駄ってか?

 

「木場、あいつに傷をつけたのはその剣か?」

「うん。でも、奴の剣技は僕よりずっと上だ。地力も経験もね」

「だろうな…」

「ね~、シューちゃん俺様暇なのよ。かんっぜんに舐めてくれちゃってるでございますよねあのお方」

 

フリードが聖剣の形状をグネグネ、ついでに自分もくねくねさせながらぶーぶーと不平を漏らす。

おー、エクスカリバーが犬の形になってる。

ホントに自由自在…使えるな。

 

「ちょっとだまってろ…木場、今から俺とフリードで時間稼ぎをする。その間に兵藤と塔城に―――」

 

俺は木場に作戦の説明をする。

木場は真剣に頷きながら聞いてくれた。

 

「…大丈夫かい?」

「ああ、そして俺とフリードが一瞬奴に隙を作るからそのタイミングでお前も戻ってこい」

「わかった。…しなないでね。僕は君に何も返せていない」

 

木場はそう言い残すと兵藤達の方へとむかった。

 

「はて、何かそこまでのことをしたっけか?」

 

もしかして『何でも』いう事聞いてくれるとか?

 

「フラグ立ったんじゃないの~~?ま、まさかシューちゃんはあたくしの貞操までも!?」

「それだけは無いから安心しろ…行くぞ」

「あいよ~」

 

俺たちは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

ヒュン

 

「む?」

 

極限まで殺気を押さえて背後からの攻撃。

タイミングも会心のものだったが、奴は難なく躱して見せた。

 

「不意打ちか…」

「卑怯とはいわねえよな?」

「無論。ここは戦場だ。格下の貴様らはいかなる手をも講じねばならん」

 

そのまま超近接戦に持ち込む。

背中の翼が刃の様に自在なことも、槍の威力がシャレにならんのも確認済みだからな。

コカビエルは手に光の剣を出して応戦する。

半身だけ振り返り、片腕だけで俺の攻撃を凌いでみせる。

こっちはドライグの眼まで併用してるってのに…。

 

「ほう…錬度だけならば貴様が随一か」

「シェァァァァァァァァッ」

 

逆方向からフリードが聖剣での一撃を放った。

フリードは殺気がダダ漏れだから不意打ちには向かない。

だから俺の殺気に紛れれば行けると思ったんだが…。

 

「……」

 

コカビエルは少し眉を動かすだけでそれに対応して見せた。

両手に一本ずつ光の剣を手にし、俺たちを相手取る。

 

「聖剣エクスカリバー。不完全とはいえ使い手次第でここまで活きるか…。先のデュランダルよりも面白い」

「ひはっ。さっすが旦那。余裕っすね。でもでもエクスカリバーちゃんの可能性は無限大よ!?」

 

そういってフリードがエクスカリバーを一瞬両手持ちし、すぐに離す。

するとそれぞれの手には少し小さくなったエクスカリバーが。

『擬態』の応用か。

 

「むっ…」

 

流石にこれには驚いたのかコカビエルの意識の大半がフリードに注がれた。

 

「ひははは、これでもっともっとバラバラさ~」

 

一歩間違えれば即死するような状況でも狂人は笑う。

その目にはコカビエルの首、それしか映っていない。

 

「いい殺気だ。心地いい。やはりこうでなくてはな」

「俺も忘れんなよっと」

 

完全に奴がフリードに注目したタイミングで自慢の後ろ回し蹴りを顔に向かって叩き込んだ。

 

ゴッ

 

クリティカル。

これ以上ないほどの位置に決まった。

並の相手なら首が180度回転してもおかしくない…が。

 

「…貴様の錬度は感嘆に値する。最近悪魔に転生したと言ったか…人の身でよくぞそこまで磨いた。技量だけならば俺の知る中でも上位に位置するだろう」

 

効いてないか…ま、予想通り。

 

「そいつぁどうも」

「故に惜しい」

「あ?」

「貴様には基礎的な能力、そして決定打が絶望的に欠けている」

「んなこたァ百も承知よ。俺は出来損ないだからな」

 

努力が実らないかもしれない?

どうあがいても才能のあるやつに敵わないかもしれない?

だからどうした。

どんな結果に終わろうと、今俺にできるのは鍛えるのみ。

後悔なんざ死んでからでも遅くないだろうよ。

 

「くくくっ」

「どうした?」

「いやぁ?堕天使の幹部様はザコ悪魔に顔を足蹴にされても平気なのかなぁって」

 

余裕の笑みを湛えていたコカビエルの顔が引きつった。

俺はそれはそれはいやらしい顔で煽ってやる。

 

「言うではないか…きさ―――くっ」

 

ヒュオッという音と共にコカビエルのすぐ近くを斬撃が走る。

フリードではない―――木場だ。

 

「僕も参加するよ」

「作戦は?」

「伝えたよ」

「うし」

「いいぞ、先ほどの挑発は俺の意識を逸らせるためか…戦上手というべきか」

「さて…どうかな?」

 

今度は三対一だ。

 

 

 

 

 

「ふははははっ!!いいぞ、貴様らは合格だ。まさかここまで楽しめるとは!!連携も即興と言われてもにわかには信じがたい」

「ちっ…余裕ぶっこきやがって」

 

三人になってから奴と俺たちは辛うじて均衡を保っている。

三人、しかも全力でこれとは…そこが知れんな。

 

「くっ」

「木場っ!!」

 

ずっと攪乱するように全速で動いていた木場が足をもつれさせた。

 

「どうした、均衡が崩れるぞ?」

 

そう言いつつコカビエルは木場に追い打ちをかける。

だが、なんとか木場は奴と距離を取って攻撃を躱した―――来た。

 

「うあああああああああああっ!!!!」

「なんだ!?」

 

コカビエルの背後、正確にはグレモリー達のいた方向から猛スピードで何かが飛んできた。

搭城に投げられた兵藤だ。

 

 

 

 

 

 

「ひいいいいいいいいいっ」

 

奴はそのまま木場にすれ違いざまに一瞬だけ触れ―――

 

「ふざけ過ぎだ!!」

 

コカビエルに突っ込むも奴は回避。

兵藤はドップラー現象を起こしつつ明後日の方向へ飛んでいった。

だが、あまりにも予想外の攻撃にコカビエルはこの戦闘が始まって最大と言っていいほどの隙を見せた。

 

「おいおい、よそ見すんなよ?」

 

そんな奴に俺は初めの方に放った蹴り、それと全く同じものを繰り出した。

狙いは勿論頭。

奴はそれを見ても全く動じない。

早くもフリードの方へと意識を映しかけていた。

当然だ。

俺の攻撃は何一つ奴に効かない―――だが

 

「ククク」

 

俺は先程と同じように自分でも鏡で見れば殴りたくなるような笑みをして見せた。

 

――――もっかい顔を足蹴にしますよ?

 

それを見たコカビエルは半笑いの様な、怒り過ぎて零れたかのような表情をする。

 

「おのれっ」

 

奴は己のプライドにかけて俺の攻撃を回避した。

顔を仰け反らせて辛うじて。

だが、この場にいるのは俺一人ではない。

 

「勝機っ!!」

 

木場が体勢を立て直して正面から疾走する。

俺の反対側にはフリードが。

逃げられるのは後方か…上空。

 

「この俺を、コケにするかっ!?」

 

バサリッ

 

奴が翼を―――広げた。

 

「フリードォ!!」

「ひはははははっ、ばっらばらにしてやんよ!!」

 

フリードが思いっきり、剣を振りかぶる。

剣を振るための動作ではない。

まるで一本釣りをするかのような…。

 

「があああああああああっ!?」

 

次の瞬間、宣言通りにバラバラに分割された。

奴の十枚ある翼、そのうちの三枚が。

 

「いいいいいやっふううううう!!」

 

飛び散る肉片を浴びながらフリードが歓声を上げる。

手に握られたエクスカリバーからはキラキラと、よくよく目を凝らせばやって見えるほどの線が何本も生えていた。

―――鋼糸。

極限まで細くした金属の糸、その摩擦で肉を断つ武器だ。

奴は戦闘を続けながらも少しづつ上空にソレを張り巡らせていた。

そして奴が翼を広げ、網にかかった瞬間にすべて手繰りよせたのだ。

 

「キッサマ…ラァァ!!」

 

翼を三枚も失ったコカビエルは空中で体勢を大きく崩した。

飛び上がる事は出来ず、重力に引きずられ落下する。

 

「木場ァッ、やれぇぇぇぇぇぇ!!!」

「聖魔剣よっ!!!!」

 

ザンッ

 

木場の掛け声とともに大地に剣の花が咲く。

兵藤からの譲渡を受けたおかげで、一本一本に込められた力は今木場が手に持っている物を遥かにしのぐ。

無論、発生地点はコカビエルの真下。

 

「ごああああああっ」

 

自由落下するコカビエルは重力加速プラス剣の突き上げ、その勢いのまま剣の花に突っ込んだ。

奴は無数の刃に全身を切り刻まれてゆく。

 

「よっしゃ」

 

作戦成功。

 

 



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第二十八話

ヤバい…超スランプ。


「いててて…ど、どうなったんだ?」

 

砂で汚れた兵藤がよろよろと立ち上がり聖魔剣の群れを眺める。

グレモリー達も合流し、全員で巨大な剣の花の前に立つ。

龍のあぎとの様に八方からコカビエルを包み込んだ剣たちは蕾の様な形で奴を閉じ込めている。

 

「…まさか本当にコカビエルを手玉に取るなんて…」

「簡単そうに言ってくれるなや。博打の連続だったんだ。もっかいやれって言われても―――」

「青江君」

 

姫島が俺の名を呼んだ。

 

「なんだ?」

「……」

 

一度は口を開こうとしたが、躊躇う様なそぶりを見せたあと口を閉ざしてしまう。

言いたいことはいくらでもあるだろう。

だが、なにか負い目を感じているのか悔いるように唇を噛み締めている。

 

「な、なあ青江。お前がE2達と同じって…」

「本当だ。俺は真っ当に生まれた人間じゃない」

「…出来損ないと呼ばれていたわね。つまりあなたに堕天使の力は発現しなかった。そういうことかしら?」

「ああ。俺の能力は人間と大差ないものだった」

 

全員が沈痛な面持ちで黙りこくった。

空気も若干重苦しく、俺を気遣うような雰囲気だ。

…こういうのが嫌だから黙ってたのになー。

ばれたのは自業自得なんだが。

 

「…なんで言ってくれなかったんですか?」

「ん?」

 

搭城が詰め寄って来た。

 

「私たちがそんなに信用できませんでしたか!?」

「は?」

 

目に涙を浮かべて俺にしがみつく。

 

「先輩が言わなかったのは…隠していたのは私たちの態度が変わるのが嫌だったんじゃないですか?」

「ま、まあ間違いではない…けど」

 

なんかちょっと意味が食い違ってる気が…。

 

「私はっ」

「言っとくがな。俺は自分の生まれを悲観したことも、負い目に感じたこともないぞ?」

「…え?」

「俺は今の自分に満足している。そして、過去も生まれも今の俺を構成する一部だ」

 

あの日にそうすると決めた。

過去も、悲劇も、喪失も全て糧とし自らの一部として肯定すると。

あの日が無ければ今の俺はいない。

あの時家族を失った代わりに今の居場所を手に入れた。

悪魔なんかにならなかったかもしれないし、夕麻やギャスパー、塔城や姫島にも出会わなかったかもしれない。

大切なのは何を失って何を得たか、だ。

 

「けれど、貴方が成功体としての力をもって生まれたのなら、貴方の家族は―――」

「かもな。バルパーの期待通りに生まれていれば家族はみんな生きていて、俺自身も今よりずっと強いかもしれない。それを幸福だと感じ、安らぎをおぼえるかもしれない」

「……」

「だが、それは俺が肯定している『俺』じゃない。青江秀介という名の同姓同名の別人だ」

 

誰も何も言わない。

木場も目を閉じてじっと俺の言葉を聞いていた。

あいつとは似たような話をしてるからな。

 

「過去の理想像を描いても、今の『もしも』を考えても所詮絵空事だ。理想とは『この先』をどうしたいか。そしてそのために今できる事は何か?考えて考えて考えて、出来る全てを行って、失敗したのなら次につなげる」

 

そのためには現在の自分をしっかりと認めなくてはならない。

 

「そうやって俺は生きてきたし、これからもそうやって生きてゆく」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあああああ。…あ、話し終わった?」

 

どうでもよさげに爪の間のごみをほじくっていたフリードが一声上げた。

 

「…そろそろか」

「ねーシューちゃん。こっから先、考えてる?」

「いや?」

 

俺たちは再び剣を手にし、意識を戦闘に切り替える。

どうやら木場も気が付いたようだ。

ふむ、殺気を感じる力は俺とフリードの方が上だったか。

 

バギィイイ

 

耳をつんざくような破砕音と共に剣の花が開いた。

中からは勿論

 

「くっくくははははははははははははははははッ!!!」

 

コカビエルが哄笑を上げつつ出てきた。

体には無数の切り傷が刻まれ、相当なダメージを受けている事が伺える。

だが、その覇気は先ほどまでの比ではない。

 

「あーあ、旦那マジ切れじゃん」

「慢心はもうないよなァ」

 

出来ればあの連携で仕留めておきたかった。

相手が本気で無かったのは分かっていた。

本気になれば勝ち目はない。

ならどうするか?

 

簡単だ。

本気を出す前に倒せばいい。

どっかの宇宙の帝王も変身を何回残しているかに絶望するんじゃなくて―――っと

 

「ここまで、ここまで俺を追いつめた者たちは大戦以来だ。しかも数人、それも実力でははるかに劣る者たち」

「どっ、どうするんだよ!?こっちは種切れだぞ?」

 

兵藤が慌てふためいて泡を飛ばす。

うーむ…どうしよう。

 

「…随分楽しそうだな」

「いや……はらわたが煮えくり返りそうだ。なるほど、憤怒も度を過ぎれば笑いに変わるらしい」

「戦いが好きなんじゃないのか?」

「そうとも。貴様らはなかなかに俺を楽しませた。だが……調子に乗りすぎだ」

 

コカビエルはそう言うと手のひらをこちらに向けてくる。

タービンが高速回転するような音が、耳をふさぎたくなるほどに鳴り響く。

 

「貴様らカス悪魔がこの俺を地に堕とすだと?魔王でもない、ましてや上級悪魔でもない貴様らが」

「そういうのが戦いの醍醐味じゃないのか?」

「違うな。俺は貴様らにそんなことは求めていない。精々俺を高ぶらせるのが貴様らの役目だった。それを、前菜の分際で…俺の翼を――――ッ!!」

 

奴の手に体育館を吹き飛ばした光の槍…いや、それ以上のものが生成された。

まだ放たれていないにもかかわらず、その濃密な光力は俺たちの肌をチリチリと焼き焦がす。

 

「なぁ、アンタが堕天使の中では最上位にいるんだよな?」

 

堕天使の力は翼の数だと夕麻からは聞いている。

そして十二枚が最強で、トップのアザゼルのみがそれに該当するらしい。

こいつの翼は今は七枚だが元は十枚。

 

「…我々の力は翼の数で表される。トップのアザゼルが唯一翼十二枚。その次が十枚だ」

「そうか、この世界の最強クラスはそんくらいか」

 

やっとわかった。

なるほどなるほど。

確かにでたらめに強いが…。

 

「なんだ?今さら自身の矮小さを痛感したか?」

「いや、確認しただけだ。…届かない強さじゃない」

「…その考えが調子に乗りすぎだというのだ」

 

この世界のパワーバランスがいまいち掴めてなかった。

神だの天使だの魔王だのいるんだ。

てっきりシャイニングなトラペゾへドロン片手に『流出』とか使ってくるかと…。

 

「現に俺たちはアンタを追いつめた…だろ?」

「俺は聖書にも記された至高の存在―――『ハッ、しらねぇよ』」

「俺にとっちゃ、んなもんタウ○ページに載ってるくらいどうでも良いことだ」

「……哀れだな。そのような幻想を抱かせたか…。いいだろう…絶対的な力の差を教えてやる」

 

そう言うと、手の中の光はさらに輝きを強め――――。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、俺は彼が正しいと思うよ」

 

頭上から放たれた声。

それに乗せられた静かな、けれど隠し切れぬほどに昂ぶる覇気。

見上げればそこには純白の鎧に身を包んだ姿があった。

 

「『白龍皇』…」

「なっ―――」

 

隣の兵藤が絶句する。

白龍皇…あれが兵藤の対となる存在か。

 

「駄目だねぇ。アレ」

 

隣のフリードがお手上げだと言わんばかりに肩をすくめる。

 

「ああ」

 

今の俺達がどうあがいたってアレには勝てない。

話が違うぞ、コカビエル。

 

「邪魔立てするか、白龍皇」

「今代の赤龍帝は君か…禁手化には至っている様だが…」

 

コカビエルの言葉も、殺気もまるで気にした様子もなく白き王は兵藤をしげしげと眺める。

やがて小さく肩を落とすと首を振った。

 

「白龍皇ッ!!貴様までも―――」

「黙れ」

 

無視されて顔を真っ赤にしたコカビエルが声を上げた次の瞬間、コカビエルのすべての翼が散った。

辛うじて見えたのは白い閃き。

 

「あ―――がっ」

「いっそすっきりしただろう?中途半端に残った翼は情けなくないか?」

 

奴の手に握られた黒い翼。

白龍皇はそれを眺め

 

「薄汚いな」

 

そのまま握りつぶした。

最早原形をとどめない翼たちは白い炎に焼かれ、塵と化す。

 

「貴様ぁ…この俺の翼を―――」

 

奴は宙に無数の光槍、手には光剣を生み出して白龍皇に向けた。

 

『Divide!』

 

白龍皇からドライグに似た機械音が聞こえると同時に槍は数を、剣は大きさを半分に減らした。

白龍皇の力…すべてを半分にする…か。

兵藤と同じくらいデタラメな力だ。

 

 

 

 

 

 

「バカなッ!?」

「『この俺が?』か?もう少し捻りがある言葉が欲しかったな」

 

そう言って白龍皇はコカビエルを叩き伏せた。

戦闘開始からあっという間―――いや、戦闘では無い。

コカビエルは何もできずにやられた。

これではただの蹂躙劇だ。

 

「さて…」

 

コカビエルを担いだ白龍皇は俺達に背を向けた。

 

『無視か、白いの』

『目覚めていたか、赤いの。今代の赤龍帝も捨てたものでは無いのかもしれんな』

『いずれ戦う時に分かる事だ』

『…そうだな、それが我らの定め』

 

ドライグと白龍皇――アルビオンだったか?

 

『にしては今回は敵意が薄いな?』

『それは貴様も同じだろう?どうやらお互い戦い以外に興味対象が出来た様だな』

『そうだな。いずれ戦う事は分かっている。少しくらい寄り道してもかまわんだろう』

『違いない』

 

それきり二人は言葉を発しなかった。

 

「ふむ、ドライグがそう言うには君も化けるかもしれないな」

 

白龍皇は振り返って兵藤を見る。

仮面に覆われた表情は伺えないが、兵藤に少し興味を覚えた様だ。

 

「もっと強くなってくれ。ライバルがそれではあまりに張り合いがない」

 

そう言い残して奴は夜空に白い軌跡を残しつつ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わり…でいいのか?」

「ええ。コカビエルは倒され、白龍皇は去った。腑に落ちない点は多々あるけれど、今は生き残る事が出来た事を喜びましょう」

 

改めて校庭を見渡―――したくはないな。

バルパーの遺体は未だに放置され、木場はそれを眺めていた。

俺?俺はもう奴に思うところはないよ。

そんな木場に兵藤が歩み寄る。

 

「綺麗な剣じゃないか。しかもコカビエルにダメージを与えられるなんて」

「イッセーくん、僕は―――」

「細かい事は言いっこなしだ。説教も小猫ちゃんにもらってたし、お仕置きは部長がしてくれるだろ?とりあえず俺からは何もないさ」

「……うん。そうだね」

 

そう言った木場と一瞬目が合った。

うむ、なんかいいとことられた気はするが…まぁいいだろ。

問題はこっちだよなぁ…。

チラリと視線を横にずらす。

姫島と塔城は黙ったまま。

 

「ちっ」

 

なんて言やいいのかわからん。

俺の舌打ちに二人はびくりと肩を竦めた。

ああ、ごめん。違うんだって。

 

「むがーーーー!!」

 

と、突然フリードが叫び声を上げた。

 

「なに?この不完全燃焼!?最近こういうの多いよ!!なにこれ焦らしプレイ!?いくら我慢強いフリード君でもこんなにお預けされたらキレちゃうよ!?」

 

聖剣を片手にブンブンと両手を振り回す。

危ないっての。

 

「青江っ!!リアス!!先程、白龍皇が―――」

 

戦闘が終わったと知った会長たちが息せき切って駈け込んで来た。

空を見れば結界も消滅していた。

 

「白龍皇がコカビエルを担いで結界を―――」

「むがーーーーーっ」

「ッ!!?聖剣!?下がりなさい、匙!!」

「ひぃ!!」

 

フリードを見た俺の同僚たちが一斉に殺気立つ。

そらそうだ。神父が発狂しながら聖剣振り回してんだもんな。

 

「そうよっ!!あまりの展開についていけなかったけど青江君。まさかこの神父まで助けたの!?」

「アーシアッ大丈夫か!?」

「はいいい。ちょっと疲れただけですうううう」

「椿姫っ、消耗している彼らを後ろに―――!!」

「うわっ、ゼノヴィア大丈夫か!?会長!!ゼノヴィアがゲロって気を失ってます!!」

「んう…ここは?…あ……聖剣。エクスカリバー、どこ?」

「むきゃーっ」

「ゼノヴィア大丈夫!?」

 

イリナがゼノヴィアを助け起こして…あ、ゲロ見て手ぇ放した。

強かに彼女の頭が大地と再開する。

 

「みなさん、ご無事でしたか!?」

 

グレイフィアさんも駈け込んで来た。

後ろにはすんげえ威圧感を纏った連中がいる。

 

「従者部隊!!あの聖剣を持った神父を!!」

「あーもう!!シューちゃんこれメアド!!次は絶対殺りあうかんね!!」

「逃げるぞっ!!追えーーーっ」

 

ああ、なんか、もう…。

 

「めんどくせ…」

 

 

 

 

 



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第二十九話

「「「「終わっっっっっっったああああぁぁぁぁ」」」」

 

生徒会室にゾンビどもの呻きが満ちる。

普段は隙を見せない会長までもが呻きに加わっていることに注目していただきたい。

 

終わった。

コカビエル襲撃並びに聖剣エクスカリバー強奪事件の事後処理プラスアルファがーーー

 

「「「「終わったああああぁぁぁぁ」」」」

 

まともに書類の向かって座っている奴は少ない。

匙と仁村は二人ならんで壁に頭を打ち付けている。

 

ぱっと見まともそうにペンを動かしている草下もーー

 

「えへへ~、あんぱんまーん」

 

書いているのがそんな感じ…幼児退行していた。

長かった…

 

あの後フリードは聖剣を持ってとんずらこいて、それを追っかけてE2も失踪。

バルパーや大小コンビの死体はグレイフィアさんが率いていた連中が回収していった。

校庭の片づけや隠蔽工作もグレイフィアさんの派遣してくれた人員のおかげで思いのほかスムーズに済んだ。

 

ここまでは良かった。

ここまでは―――

 

「三勢力首脳会談をこんなとこでやるか?フツー」

 

今回の一件は三竦みの情勢に大きく影響を出した。

事態を重く見た上の連中は一度トップ同士での会談が必要だと判断。

その会場にここ、駒王学園が選ばれた。

 

会場設営に三者陣営のスケジュールの擦り合わせ等やる事一つ一つは普段の業務、体育祭の運営等と変わらない。

だが、今回の話には一切の間違いが起こってはならないのだ。

 

「みんな、よくやってくれました」

 

そうねぎらう会長の声にもいつもの覇気がない。

そりゃそうだ。一番働いていたのは彼女だ。

その彼女にそう言われては、全員が正気に戻らざるを得ない。

本来は数日後、なんて無茶なスケジュールだったのを一か月まで伸ばしてくれたのは他ならぬ会長の功績だ。

 

「「うううう~~~~~~」」

 

ゴスッ、ゴスッ

 

「へぶっ」

「はうあっ!?」

 

壁に頭をぶつけてたやつにも四十五度のチョップで復活してもらった。

 

「いつつ…でも、なーんか納得いかないっすよ。兵藤のとこはなんもしないでうちだけ…」

「それは違いますよ、匙」

 

頭を押さえながら不平を漏らす匙を会長がたしなめる。

 

「彼らには会談までの近辺警備と不穏分子の排除を任せています。何もしていないはずもありません。むしろ危険度でいえば彼らの方が数段上でしょう。深夜にパトロールも行っていますし、何より―――」

 

そこで会長は言葉をいったん区切った。

 

「現在兵藤邸には現魔王、サーゼクス・ルシファーが滞在しています」

「でも、それってかえって安全なんじゃ?」

「それは…そうなのですが」

 

匙の疑問の声に会長の言葉が詰まった。

どうにもこの人は魔王の話になると途端に歯切れが悪くなるな。

やっぱ魔王って言うからには傲慢だったり、『ハァーーーッハッハッハ!!』とかうるさかったりするのだろうか?

 

「と、とにかくっ。来たる会談に向けての準備は整いました。実際に参加するのは私と椿姫、そして青江ですが各自気を抜かぬよう。何があったとしてもすぐに対応できるようにしてください」

「「「「はい」」」」

 

今回の会談には俺も参加する。

実際にあの場にいたのは勿論、神の不在を知る悪魔。

それだけならまだしも当人が元教会関係者に作られた堕天使幹部の息子となれば…ねぇ?

親父殿はくるのだろうか?

まあ、その前に俺がこの件を終わったというにはまだもう一つやるべきことがある。

 

「会長、俺今から早退するから」

「体調が悪いのですか?」

「いや?ちょっとな…」

「……分かりました。今回だけは特別に許可しましょう」

「理由は聞かないのか?」

 

意外だ。

真面目な会長の事だから反対されるかと思った。

 

「ええ」

「俺は―――」

「行ってきなさい。私の気が変わらないうちに」

「………ういっす」

 

それきり会長は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。

怪訝そうな表情の匙たちに見詰められながら、俺は生徒会室を後にする。

最後にチラリと振り返ると―――

 

「つくづく私も甘い…」

 

閉じる扉の隙間からそう呟いて頭を抱える会長が見えた。

 

 

 

 

 

 

「409、409……っと、ここか」

 

コンコン

 

病室の白いドアをノックする。

 

「はい、少し待ってくださいねー」

 

扉の向こうからは看護師さんのものと思われる若い女性の返事があった。

 

「おまたせしました」

「どうも」

 

しばらくして出てきた看護師さんに軽く会釈をしてすれ違う。

うむ、いいケツだ。

 

「入るぞ?」

 

病室は白い色合いで統一されており、少し眩しさを感じた。

中央に備え付けられたベッドには先ほどまで検診を受けていたのであろう、一人の老婆が上体を起こしていた。

 

「元気か?…ばあさん」

「あら?秀介さん。珍しいですねぇ、貴方がここに来るなんていつぶりでしょうか?」

「入院してすぐだったか?」

 

芳江婆さんはしばらく前から入院しており、こちらの大きな病院でお世話になっている。

 

「ばあさんとこの家族は?」

「ふふふ、今日は平日ですよ?あら?秀介さんも学校があるのではないですか?」

 

そう、俺がわざわざ学校をサボってここに来たのはこの為だったりする。青江の家は嫌われてるからな。

 

「それで?今日はどういった用で?」

 

背筋を伸ばしてこちらを見つめる。

その姿は幼少時に正座していた時と何ら変わりなく、一瞬ここが病室であることを忘れそうになる。

俺は一呼吸置いた後、単刀直入に告げた。

 

「爺さんを殺した奴が死んだ」

 

細められていた目が大きく見開かれた。

何度か口をパクパクさせて何事か言おうとする。

 

「っ…。そう、です…か」

 

やっとのことで出てきた言葉はそんなものだった。

口を閉ざしたあと、俯いて目を閉じてしまう。

そして、俯いたまま何度か深呼吸をする。

 

「復讐に身を焦がすのはいけないと、頭では分かっていますが…やはり…」

「…」

「秀介さん、この言葉が正しいのかは分かりません。ですが…ありがとうございます」

 

俺が手を下したとは言わない。

だが……バレてそうだな。

 

 

 

 

シャリシャリ

見舞いの品のなかにあったリンゴを剥いてゆく。

 

「秀介さんの顔も見られましたし、これで思い残すことはありませんね」

 

ナイフを持った手が止まった。

顔をあげてみれば芳江婆さんはにっこりと微笑む。

 

「長くないのか?」

「ええ。会うのもこれで最後になります」

「…」

「そんな顔をしないでください」

 

そういって婆さんは困ったように笑う。

俺は表情を変えたつもりは無いんだが…。

 

「不思議そうな顔をしない。全く、そういうところだけはそっくりなんですから…」

「???」

「気付ける人が出来ればいいんですけどねぇ」

 

そう言いつつも嬉しそうに笑う。

遺伝子的な繋がりはないが、俺にも爺さんに似た部分があるのだろうか?

見方を変えれば癖も方言だって親から受け継いだと言えなくもない。

 

「それに、私は少し楽しみなんですよ?」

「楽しみ?」

「あの子にはさっさと勝ち逃げされてしまいましたからねぇ。向こうでリベンジ、というやつです」

 

あの子、というのは早死にした俺の祖母だろう。

爺さん、芳江婆さん、俺の祖母の三人は幼馴染みだったという。

 

「アンタにはアンタで旦那がいただろう」

「あら、彼のことも愛していましたよ?お家のための結婚だったとはいえ息子ができ、孫までいるのですから」

「…」

「ですが、最も愛した人を問われたのなら…あとにも先にも、私の答えは…」

「おいおい」

 

だから青江家が嫌われるんだっての。

本人も分かってるだろうに。

俺は葬式にいっても追い出されるんだろうなー。

 

「勝てんのかよ?元々夫婦だったんだぜ?」

「確かにそうですね。ですが共に過ごした時間なら、さっさと逝ってしまった彼女よりもずっと長いですから」

「…そうかい」

 

ま、暗い別れよりはこっちの方がらしいかね。

婆さんの青江家びいきには随分と助けられたしな。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、俺帰るわ」

 

俺は立ち上がった。

二人でリンゴを食べ尽くし、しばらく話し込んでいたらいつの間にか日は暮れかけていた。そろそろ婆さんの孫が来る時間らしい。鉢合わせは避けたい。

 

「秀介さん。血は繋がっていなくとも私はーー」

「さっきの話な?」

「え?」

 

俺はしばらくここには来られない。

葬式には出られない。

これが本当に別れになるだろう。

 

「リベンジの話。会ったこともない実の祖母か芳江婆さん、どっちかと問われれば俺は迷い無くアンタを推す」

「あ…」

「健闘を祈るよーーーーお祖母ちゃん?」

 

こうやって呼ぶのは初めてだったか。

驚いた表情の婆さんが目を赤くし、潤ませる。

だが、涙は溢さなかった。

 

「ええ。そうですね、百年ほどすれば決着は着くでしょう。その頃にお会いしましょうか」

「はっ」

 

あと百年生きろってか。

だが残念。

この身は既に人ではない。

 

「悪い。すっげえ遅刻するかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして婆さんは死んだ。

やはり俺が彼女を看取る事は無かった。

報告は婆さんの息子からの淡白な電話のみ。

 

「はい、そっすか。ええ、どうも」

 

Pi…

 

「…………」

「どうしたの?」

 

ああ、少しボケていたか。

ソファーの隣に座っていた夕麻が顔をのぞきこんでいた。

 

「兄様?」

 

反対側のギャスパーも俺の袖をぎゅっと掴む。

 

「いや、知り合いが亡くなった」

「……葬式は?」

「行かない」

「ふーん……それでいいの?」

「ああ、別れはすませてる」

「そ」

 

交わした言葉はそれだけ。

すぐに夕麻はバラエティ番組を垂れ流すテレビへと向き直った。

 

「………」

「………」

「……」

 

俺はギャスパーの髪を鋤きギャスパーは俺を見上げる。

夕麻はテレビを眺めるーーーと思いきやチラチラとしきりにこちらの顔を伺っている。

膝を揺さぶってそわそわしてもいるし、間違いなく意識はテレビに向いていない。

 

「なんだよ?」

「べつに…」

 

いや、明らかになんかあんだろ。

ギャスパーも俺たち二人の顔を交互に見ては口を開こうとしている。

 

「「「……」」」

 

気まずい空気になっていても夕麻はテレビから目を逸らさない。

 

 

 

 

 

 

 

「終わったか…」

 

さっきまで見ていたテレビ番組が終わった。

 

「どうする?俺はもう少し起きてるつもりだが、先に寝てもかまわんぞ?」

「~~~~~ッあーもうっ!!ギャスパー!!」

 

夕麻が突然叫んだかと思うと立ち上がり俺を見下ろす。

 

「ひゃい!?」

「分かってるわね!?」

「え?あ………はいっ」

 

ギャスパーまでもがこちらを向いて立ち上がった。

 

「???」

「「不思議そうな顔しないっ」」

「お、おお?」

 

二人に腕を引っ張られて立たされる。

そのまま二人はずんずんと寝室に向かっていった。

 

「何するんだ?ヤるってんなら疲れてるから今日はーーー」

「「寝る!!!」」

「アッハイ」

 

 

 

「なんだってんだ?」

 

三人で一緒に寝るのはいつもの通りだ。

だが今日はいつもに増して密着度が高かった。

夕麻は俺の頭を胸に抱えるように横になり(少し息苦しい)、ギャスパーは後ろから腹付近にしがみついている。

 

「暑くないか?」

 

二人の腕に更に力が籠った。

離れるつもりは無いという意思表示か。

 

「……」

「……」

「ふー……」

 

なんか力が抜けた。

 

「ん?」

 

と言うことはーーー

 

「無意識に力んでたのか……」

「それだけじゃ……もういい」

 

それきり目を閉じてしまった。

 

「わけわからん」

 

俺は正直まだ眠くない…がこうもくっ付かれては今さら押し退けるのもなんだかな。

何とも手持ち無沙汰になって、天井にまるで海の様に貼られた蛍光シールを眺める。

この間夕麻とギャスパーが二人で貼ったものだ。

この部屋にも二人のものが増えたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さっき言ってた知り合いな?」

 

どれくらいそうしていただろう?

寝付くには十分な時間が経ったのは間違いない。

俺はふと気づけば口を開いていた。

 

「…」

「…」

 

返事はない。

しかし、耳を傾けてくれているという確信がどこかにあった。

 

「最後の家族だった」

「「………」」

「それだけだ」

 

心なしか二人の腕に力が籠った気がした。

 

 

 

 

 

 



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停止結界のヴァンパイア
第三十話


出来れば低評価をつける際は一言つけてくださるとうれしいです。
もっと良い物にしたいですから。
今後の参考にもなりますので。


「コンドームを買おうと思うんだが、何かおすすめは無いか?」

「は?」

 

授業参観の朝、ホームルームまでの時間を潰すため読書をしていた俺にかけられたのはそんな言葉だった。

質問したのはいたって真面目な表情のゼノヴィアだ。まぁ、こいつは普段からこんな顔だけど

 

ゼノヴィアはなんとグレモリーの眷属になった。

イリナに連れられて一度は教会に帰ったらしいのだが、教会は神の不在を知ってしまった彼女の受け入れを拒否。

更にはイリナに打ち明けようとしたことで異端認定を受け追放されてしまった。

物心ついた頃から教会に所属していた彼女には教会関係者を除いてしまえば頼れる人間が誰もいなかった。

 

「あっ、ゼノヴィアさんっ。おはようございますっ」

「アーシアッ!!待っていたぞ!!」

 

先程までの不愛想な表情は何処へやら。

アーシアと兵藤が教室に入ってきた途端、顔を上気させて興奮した様子で彼女に駆け寄りペタペタと体をまさぐる。

 

「元気だったか?どこか体に不調は?朝ごはんはちゃんと食べたか?」

「ひゃんっ…もうっ、ゼノヴィアさんくすぐったいです。それに昨日会ったばっかりじゃないですかぁ」

 

そう言いながらもアーシアは満更でもなさそうだ。

きゃいきゃい言いながら二人でじゃれ合う。眼福ではあるのだが…

 

「依存…だよなぁ」

 

ゼノヴィアが行き場を失ったと聞いたアーシアはグレモリーに彼女の保護を頼み込んだ。

かつての自身の境遇と似た点も多かったのだろう。

そうして連れられてきたゼノヴィアはなんていうか…ヤバかった。

 

顔はやつれて眼の周りは隈がくっきりだったし、髪もボサボサ。

体を小さく丸め、虚ろに開かれた眼は何かにおびえたように周囲をせわしなく観察していた。

正直若干引くほどに彼女の精神状態はボロボロだった。

泣いて抱きしめるアーシアを不思議そうに見上げていたのを覚えている。

 

「むふー、ほご…ふー」

「あの、ちょっと…ゼノヴィアさん?」

 

アーシアの胸に顔をうずめて恍惚としている彼女は明らかに変態だが、あの時よりはましだと言える…筈だ。

数日間アーシアと共に、抱きしめられて眠ったというが…なんというか、信仰じみたほどアーシアに依存しているな。

 

「朝っぱらから盛ってんじゃねぇよ、阿呆」

 

ゴスッ

 

「ふごっ…どういうつもりだ?青江秀介。私の至高の瞬間を妨げるとは…」

 

おかしいな、軽く失神する位には力を込めたはずなんだが。

ってか怖い怖い。目からハイライト消えてんじゃねーか。

 

「お前にとっては至高かもしれないがな…アーシアを見ろ。困ってんじゃねぇか」

「なっ……本当か!?ど、どうなんだ?アーシア!?」

 

この世の終わりといったようね様子でうろたえる。

すがるような目でアーシアを見上げるが

 

「その、ちょっと…教室では恥ずかしいというか…その」

「……(ぱくぱくぱく)」

 

恥ずかしそうに俯くアーシアを見て愕然とする。

 

「ああ、アーシアに嫌われた嫌われたキラワレタ…」

「はー…アーシア、別にゼノヴィアが嫌いなわけじゃないんだろ?」

「???はい。ゼノヴィアさんの事は大好きですよ?」

「!?っ…アーシアが私の事を好きってすき…ああ…」

 

体を仰け反らせてビクビクさせている。

ダメだこいつ、早くなんとかしないと。

 

 

 

 

 

「んで?なんでいきなりコンドームなんか?」

 

気を取り直してさっきの話に話題を戻す。

アーシアはクラスの他の連中にあいさつしに行った。

 

「ああ、先日兵藤一誠に性的交渉を持ちかけたんだが…」

「待て」

 

あまりの展開に頭がついていかない。

どうしてそうなった?

 

「悔しい事にアーシアは兵藤一誠に好意を抱いている。互いの絆は出会ったばかりの私では到底届かないだろう」

「…そんで?」

「同じ悪魔になった。だが、私はアーシアとの繋がりがもっと欲しい」

 

ああ、なるほど。

 

「そう、例えば同じ男に愛してもらい共にその子を孕む…とかいったな。ああ、私の子とアーシアの子が兄弟となるのだ…想像するだけで私は…私はああああぁぁぁんん///」

 

こいつぁもう、だめかもしらんね。

 

「なになにぃ?誰が誰に愛してもらうってぇ?」

 

エロ眼鏡の桐生がニヤつきながら俺の机にやって来た。

後ろには少し顔を赤くしたアーシアと兵藤がいた。

 

「うむ、『私が』『兵藤一誠に』愛してもらうのだ」

「ええっ!?」

「ぶごっふ!?」

 

アーシアが驚愕の面持ちで口元に手を当てる。

兵藤も慌てて口を挟もうとするが、その声帯が音を発する前にクラスの男子たちから飛び膝蹴りを受けて視界から消え去った。

 

「でも、いいのかなー?ゼノヴィアっちが抱かれちゃったらアーシアはどうするのよ?」

「問題ない。その時はアーシアも一緒だ」

「それって…3P?」

「ふむ、一般的にはそう呼ばれているのだな」

 

ゴスっガスッベキッメショッ

 

遠くの方で男子勢が集まって何やらエキサイティングしているが、俺には何が起こっているのか想像もつかないな。

…ちょっと食らってろ。昨日俺に『モテたい、モテない』って言ってたやつはどこのどいつだっての。

 

 

 

 

 

 

「やあ、秀介君」

「んあ?…祐斗か」

 

昼休み、いつも通り塔城に弁当を渡した俺は(随分と受け取る事を躊躇われてしまったが)食堂脇の自販機で牛乳を買っていた。

後ろからの声に振り向けばイケメン。

そう、ついに…ついに俺達は名前で呼び合う仲となったのだ!!

 

「どうしたんだ?今日は部室で食うって言ってたろ?」

「うん。昼食は部室で済ませてきたよ。そうだ、秀介君も行かないかい?」

「行く」

 

祐斗はにこりと爽やかな笑顔で誘ってくれる。

俺はどんなところでもついていくつもりだぞ。

 

「あはは、まだどこに行くかも言ってないよ…なんかね、魔女っ子が撮影会をやってるって聞いてね、見に行こうかと」

「魔女っ子?」

 

 

 

カシャカシャカシャ

 

カメラのフラッシュがたかれているのは廊下の一角、何やら結構な人だかりができている。

 

「あれか…」

「みたいだね」

 

…あのカメコ達はどこからカメラを持って来たんだ?ここ学校だぞ?

ウチの学校の写真部の連中もチラホラいるが…

 

「息子たちを撮るよりゃ有意義な使い方って事かね?」

「うーん、確かに父兄の人たちが多いみたいだね」

 

言い方を変えればそこまでするほどにイイ魔女っ娘という事だろう。

うーむ、何とかして近づけないモノか…

 

「おお、秀介か。お前も来てたんだな。手伝ってくれよ」

 

人ごみが切れる瞬間を見計らっていると、匙が近づいてきた。

 

「匙…止めるのか?」

「当り前だ。ここは学校だぞ?それにここはもうすぐサーゼクス様を会長が案内するんだよ」

「なるほど」

 

よしよし、人ごみを掻き分ける口実が出来た。

 

「オラオラ、天下の往来で撮影会たーいいご身分だぜ!!」

 

匙はそう叫びつつ、乱暴に人ごみを掻き分けてゆく。

俺はその後ろについていくだけで良かった。

 

「ほらほら、解散解散!こんなところで人ごみを作るな!!」

 

流石に父兄は学校で問題を起こすのは避けたかったのだろう。

渋々ではあったが、迅速に蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

ありゃ、こうなるんだったら見てるだけで良かったな。

 

「アンタもアンタだ。授業参観に来たんだろうけど、来るならそれ相応のふさわしい格好で来てくれ」

 

ようやく見えてきたな…お、兵藤達もいる。

 

「ぶー、これが私の正装なんだもん」

 

そう言って頬を膨らませるのは件のスゲー美少女魔女っ娘…って

 

「レヴィアたんじゃん」

「あっ、シューくん!!やっほー!!」

 

不満そうな表情から一転、花が咲いたように笑顔になった彼女は衣装のフリルをヒラヒラさせながら駆け寄って来た。

 

「どうしたんだよ、こんなとこで」

「ふふーん♪今日の私はお姉ちゃんとして、妹の様子を見に来たんだよ☆」

「ほう?」

 

妹…ねぇ?

 

「それよりそれよりっ」

「あん?」

 

レヴィアたんは一歩俺から離れるとその場でくるりと回って見せた。

お、パンツ見えた。

 

「どう?どうどうどう?」

 

コスプレの感想を言えということか…

 

「ふむ…」

 

頭のてっぺんからつま先までじっくりと、舐めまわす様に見つめる。

遠慮?向こうから見てくれと言っているのだ。

大丈夫。問題ない。

 

衣装はなかなかに際どいものだ

上はもともと丈が短い服だが、意外に大きい胸に押し上げられて可愛らしいへそが見えている。

下のスカートに至っては短いなんてレベルではない。

普通にしていてもチラチラと白い布が見え隠れしてる。

そして白く華奢な足を包むのはニーハイソックス。絶対領域も完璧。

 

「パーフェクトだ」

「やたー☆」

 

嬉しそうにぴょんぴょか跳ねる。

 

「秀介、知り合いか?」

「ああ、ネット上で知り合った友達だ。こないだオフ会もやった」

 

焼き鳥との試合前にやっていたメールの相手も彼女だ。

 

「オフ会って…」

「兵藤も知ってると思うぞ?面子は俺にレヴィアたんにミルたん。後はリルたんとモモたん…だったか」

「そうそう!みんなでカラオケとかボーリングしたんだよねー☆」

 

ありゃすごかったなー。

俺以外全員がノーバウンドでピンを薙ぎ倒してストライクとってたかんな。

 

「ミルたん?え、それってあの…」

「そのミルたんだ。コスプレ衣装の相談とか製作でよく連絡とってんだよ」

 

松田と元浜も勿体ない。

あいつらは逃げちまったが、ミルたんを筆頭とする『魔法少女戦隊マジカル☆ファイブ』にはレヴィアたんが加入したぞ。

まぁ、ほかのメンツはミルたんとどっこいだが。

ちなみに俺は衣装制作担当だ。

 

 

 

 

 

「なにごとですか、匙。いつまで時間をかけているのです。物事は迅速にかつ適…かく…二」

 

匙が言っていた通り、会長が魔王を案内してここまで来たらしい。

後ろにはグレモリーによく似た紅髪を持つ二人の男性がきょろきょろと周りを見て回りながらついてきている。

しかし、会長はレヴィアたんの姿を認めた途端、ビシリと固まった。

 

「ソーナちゃん!みぃつけた☆」

「おや?セラフォルー、君も来ていたのか」

 

会長に追いついた紅髪のイケメンが声を上げた。

こいつがサーゼクス・ルシファーか。

 

「イッセー、彼女が現魔王セラフォルー・レヴィアタン様よ。…セラフォルー様、お久しぶりです」

「えええええええええええええええええっ!?」

 

兵藤が驚愕の声を上げる。

匙も固まってしまって声が出ない様だ。

 

「リアスちゃん、お久しぶり!!そして、改めて名乗ります☆セラフォルー・レヴィアタン。今現在魔王やってまーす☆気軽に『レヴィアたん』って呼んでね!!」

「…青江君は聞いていたの?彼女が魔王様だって」

 

俺が大して驚いていないことが気になったのだろう。

グレモリーが尋ねてきた。

 

「いんや?さっき初めて聞いたよ」

「ソーナちゃん、どうしたの?ほらほら、お姉ちゃんだよ?感動的な姉妹の再開だよ!!へいへいかもんかもん☆抱きしめて!!情熱的にッ、大胆にッ、激しくッそして百合百合しく!!!ほーるどみーたい(Hold Me Tight)☆」

 

ああ、会長が困っている。

羞恥で赤くなった耳、引き結ばれた口元、ハの字になった眉―――素晴らしい。

 

「お姉さま、お姉さまは魔王なのです。もう少し威厳というものを持っていただかないと」

「『お姉さま』なんて固っ苦しいのはダメダメ。今日は魔王様としてじゃなくておねーちゃんとして来てるんだから☆昔みたいに『おねーたん』でもいいのよ!?私も『ソーたん』って呼ぶから!!」

「~~ッ」

 

会長は縮こまりながらも周囲を気にする。

カメコは散ったが、今度は野次馬が湧いてきている。

 

『うわ、魔女っ娘じゃん…って肌白!?足細!?』

『バカな…二次元と三次元を繋ぐゲートが確立されたとでもいうのか!?』

『てか、あのコ会長に似てない?…妹?』

 

「お、お姉さまが来て下さったことは嬉しく思います。…ですが、その恰好だけは何とか…してください…どうか…何卒…」

 

あ、会長が折れた。

 

「えー、かわいいのにー」

「そもそもどこから入手したんですか、そんなモノ!?魔界にはありませんよね!?」

「えへへー、作ってもらったの☆オーダーメイド、私のためだけの衣装だよっ!!」

「誰にですか!?まさか魔界の仕立て屋に注文したなんてことは…ああ、そうなればシトリー家は笑いものに…」

「おともだちだよ☆」

 

あ…やべ。

 

「…お姉さまに友人?」

「うん、ほらっそこにいるシューくんだよ☆」

 

ギギギ、といった音が聞こえてきそうなほどにゆっくりと振り返った会長と目が合う。

目を見開いて、ついでに瞳孔まで開いた会長が口を開く。

あかん、このままでは死んでしまう。

なにか、ここで気の利いた一言で――――切り抜ける!!!

 

「……サイズさえ教えてくれればお揃いを作るぞ?ソーたん」

 

 

 

 

 




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