人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize― (ブレイアッ)
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特別編
【特別編】『ゼロワンに変身する少女』


エイプリルフール特別編。
シンフォギアとゼロワンの同クロスオーバー繋がりで真紅林檎さんの『戦姫転生ゼロフォギア』とのコラボ。
の、予告編的なあれです!
コラボのお誘いに乗ってくれた真紅林檎さん、ありがとうございました!

ゼロフォギア側の時系列は無印編とG編の間くらい。
うちの方は3/31現在の投稿分よりも少し後(3話分くらい)です。


 

「どこだ、ここ……」

 

 ある日、新型レイドライザーを運ぶ任務の最中に飛電彩夢は突然、白い光に襲われる。

 

 目が覚めると、そこは彩夢が知る世界と全く違っていた。

 彩夢が迷い込んだ世界。そこは──

 

「ヒューマギアが……いない……!?」

 

 ヒューマギアのいない世界だった!?

 

 

 

~~~

~~

~~~

 

 

 

 困惑する彩夢の前にノイズが現れる。

 

 何故か変身も出来ず、ノイズから逃げるしかない彩夢。

 

 そんな彼の前に現れたのは、ライズホッパーに跨がった1人の少女。

 

「大丈夫だ。ノイズは俺が倒す」

 

 

アウェイクン!

 

 

「君は、一体……」

 

「仮面ライダーゼロワン。それが俺の名だ!」

 

 彩夢の目の前で変身した少女。

 

 彼女は、異世界の仮面ライダーゼロワンだったのだ!

 

 

~~~

~~~

 

 

「俺は継菜(つぐな)(まな)。ま、駄目神の被害者同士、よろしく」

 

 異世界のゼロワンとの出会い。

 

「普通さ、初対面の男性相手に、うちに泊まるか? なんて言わないよね」

 

「俺は前世も中身も男だから気にするな」

 

「少しはッ! 自分の見た目をッ! 気にしてくださいッ!」

 

 

~~~

~~

~~~

 

 

 そして、現れる謎の敵。

 

「さぁ、絶滅の時だ。2つの世界を衝突させ、総てを絶滅させるッ!」

 

「そうはさせるか!」

 

 変身出来ないにも関わらず、立ちはだかる彩夢。

 

「例えゼロワンに変身出来なくても、オレはッ!」

 

《レイドライザー!》

 

「オレに出来る事をッ! オレが成すべき事をッ!」

 

《ジャンプ!》

 

「実ッ、装ッ!」

 

《レイドライズ!》

 

《ライジングホッパー!》

 

「実装完了……ライジングホッパーレイダー!」

 

 そして現れる、ライジングホッパーレイダー。

 

 

 彩夢は戦う。元の世界に戻るために。

 

 自分が成すべき事を成すために。

 

 

~~~

~~

~~~

 

 

「やれるか?」

 

「当然」

 

 

《ゼロワンドライバー ver.2 !!》

 

 

アウェイクン!

 

 

「「変身ッ!」」

 

 

《飛び上がライズ! ライジングホッパー!》

 

《A jump to the sky turns to a rider kick.》

 

 

Dwelling in a fist! スマッシュガングニール!

 

Balwisyall Nescell gungnir tron.

 

「「お前/オマエを止められるのはただ2人、俺/オレだッ!」」

 

 そして世界を越えて、ついに並び立つ、2つのゼロワン!

 

 

~~~

~~

~~~

 

 

 果たして、2人のゼロワンは謎の敵を倒せるのか?

 

 彩夢は元の世界に戻れるのか?

 

 その答えは、神のみぞ知る。

 

 しかし、その神はというと──

 

「えっ?私?」

 

 ………………あれ、駄目かもしれない!?

 

 

 



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【コラボ回】『ゼロワンに変身する少女』

予約投稿間違えたのは気のせいだよなぁ!?

エイプリルフールで嘘をついて良いのは午前中だけって言われたので。でも本編のようで一部ダイジェストでございます。

ところで予告編の投稿時間。3/31の23時59分なんですよ。



 それはある日のこと。

 

「おつかい、ですか?」

 

「そうだ、シンフォギアとの共闘を前提とした新型レイドライザーを二課まで届けて欲しい」

 

「それってかなり重要なやつじゃないですか!? アルバイトに任せていいんですか刃先生!」

 

「お前なら問題無いという私の判断だ。不満か?」

 

「うっ……、それは……」

 

 唯阿に頼られてると分かって、ちょっぴり嬉しくなる。

 

 そんなこんなでやって来たおつかい当日。

 

「自転車で運ぶって何か格好付かないなぁ、あー早くバイクの免許取りたーい!」

 

 腰にゼロワンドライバー。それを上着で隠し、新型レイドライザーを入れたリュックを前のカゴに入れ、自転車を車と同じ速度で走らせる彩夢。

 本気になれば時速60キロくらいなら出せるその健脚は健在。速度だけなら自転車でもバイクと遜色無いくせにバイクに拘るのはゼロワン専用バイク、ライズホッパーへの憧れからか。

 

「ッ!?」

 

 突如、交差点をトラックが飛び出してきた。幸いにも交通量が少なく、被害は無いようだが──運転席には黒い炭がこびりついていた。

 

「ノイズにやられたのかッ!?」

 

 運転手は運転中にノイズと接触し、炭素に変えられたのだ。その結果、主を失ったトラックはブレーキを踏まれること無く、そのまま走り続けている。

 

「って、止まれなーい!?」

 

 並走していた車が急ブレーキで止まったにも関わらず止まれない自転車。ブレーキレバーを引いても何の抵抗も感じないのは、ブレーキが壊れた事を意味していた。

 

「ええい、変身ッ!」

 

《プログライズ!》

 

《ライジングホッパー!》

 

 咄嗟に変身し、リュックを片手に自転車を乗り捨て跳躍。

 横転した自転車はガリガリと音を立てながら滑り、植え込みにぶつかって止まった。

 

「ありゃサヨに怒られる……って、今はそんな事よりトラックを止める事を最優先!」

 

 暴走する無人トラックの前に立ちはだかり、ドライバーのキーを押し込む。

 

《ライジングインパクト!》

 

「止まれぇええええッ!」

 

 左足を軸に、右足での水平蹴り。

 トラックと激突。

 

 その瞬間、ゼロワンの視界を白が埋め尽くした。

 

「……え?」

 

 それは、ほんの一瞬。

 

 しかし、異変は確実に起きた。

 

 

 

 その場に残されたのは、止まったトラックと。

 

『どうした、何があった! 返事をしろ彩夢!』

 

 カシャン、と落ちた彩夢のZAIAスペック。

 通信越しに聞こえる刃唯阿の声、それに返事をするはずの彩夢の姿は、そこには無かった。

 

 

 

 

 

「どこだ、ここ……」

 

 色が戻ると、彩夢は知らない街にいた。

 変身は解け、手にはリュック。

 

 今いる場所を調べようとして、ZAIAスペックが無いことに気付く。仕方ないので上着の内ポケットからライズフォンを取り出し、現在地を検索しようとして。

 

「け、圏外……!? はっ、てことはまさか!」

 

 ゼロワンドライバーに触れ、意識を衛星ゼアに飛ばそうと試みるも失敗。

 

「まさか、飛電の人工衛星が軒並み動いてない……? じゃあヒューマギアはッ」

 

 辺りを見渡す。

 しかし、異常は何も無い。と言うよりも。

 

「ヒューマギアが……いない……!?」

 

 そこは、ヒューマギアのいない世界だった。

 

 

 

 

 

 飛電彩夢が迷い込んだ、ヒューマギアのいない世界。

 しかし、ノイズの驚異はその世界にもあった。

 

「ノイズだぁー!」

「逃げろぉぉおっ!」

 

 当てもなく逃げ惑う人々。

 逃げた先に待ち構えていたノイズに触れられ、炭素と変えられていく。

 人が人を押し退け、転んだ誰かが怪我をする。

 

「ヒューマギアがいないだけで、こんなにも被害が……ッ!」

 

 衛星ゼアと繋がれない以上、彩夢はゼロワンに変身出来ない。

 足を怪我した少年を()(かか)え、ノイズから逃げる。

 

 しかし、逃げた先には牛の角のような物を持った芋虫に似た巨大なノイズ、ギガノイズが待ち構えていた。

 

「嘘だろ……」

 

 絶対絶命。その時。

 

 バイクの駆動音と共に、ブロンドの髪を靡かせ、彩夢とノイズの間にバイクに乗った少女が割り込んだ。

 

「ら、ライズホッパー!?」

 

「大丈夫か?って、ゼロワンドライバー!?」

 

 白いパーカーに紺のワイドパンツという飾り気の無いシンプルな格好にブロンドのロングヘアー。ライズホッパーに乗った少女は彩夢の腰に付いたドライバーを見て目を丸くするが、すぐにため息をついた。

 

「あんの駄目神め、また変なことやりやがったな」

 

「何でライズホッパーに……いや、それよりも君! この子を連れて安全な場所に! ライズホッパーの走破力なら確実にノイズから逃げ切れる!」

 

「大丈夫だ。ノイズは俺が倒す」

 

「ノイズを倒すって……」

 

 少女がポケットからプログライズキーを取り出すや、起動スイッチを押す。

 

 

アウェイクン!

 

 

 すると、プログライズキーが消え、少女の腰にゼロワンドライバーが現れた。

 

「なっ」

 

 驚愕する彩夢を背に、『ライジングホッパープログライズキー』を取り出し、起動。

 

 

ジャンプ!

 

 

 流れるような動作でドライバーにスキャンする。

 

 

オーソライズ!

 

 

 上空から現れた巨大な黄色いバッタ。『ライジングホッパーライダモデル』が少女を守るように立ちふさがる。

 

「変身!」

 

 掛け声とともにキーをドライバーに装填。

 

 

プログライズ!

 

 

 ライダモデルが飛び跳ね、少女の上に来ると、空中で分解しパーツがその体に装着される。

 

 

飛び上がライズ!ライジングホッパー!

 

 

A jump to the sky turns to a riderkick.

 

 

「君は、一体……」

 

「仮面ライダーゼロワン。それが俺の名だ!」

 

 彩夢の前に現れたのは、もう1人のゼロワン。

 

 

 

 

 

 少女の変身したゼロワンは、ドライバーのキーを押し込む。

 

ライジング!インパクト!

 

 黄色い光のラインを軌跡と描き、ギガノイズに急接近するやその巨体を蹴り上げ、跳躍。ギガノイズより高く飛び上がり、太陽を背に蹴りを放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライジング!インパクト!

 

 

 ギガノイズを蹴り抜き、爆散。

 

「よっしゃあ!『グキッ!』足が!?」

 

 着地と同時に足を挫き、少女は盛大にこけた。

 

「あの攻撃。位相差障壁で軽減しきれないダメージを与えてるんじゃない、位相差障壁そのものを無効化させてるんだ。

 オレのゼロワンとはシステムの根本から違う。でも、アレは間違いなく、ゼロワンだ……!」

 

「いつつ・・・久しぶりに足くじいた・・・」

 

 土煙の中から現れた少女は、ブロンドのロングヘアーに付いた土埃を払う様子も見せず、男らしく彩夢の前に立ち、手を差し出す。

 

「俺は継菜(つぐな)(まな)。ま、駄目神の被害者同士、よろしく」

 

(駄目神って何だ……?)

 

「よ、よろしく……」

 

(女の子の手なんだけど、なんだこの違和感……)

 

 見た目は愛らしい女の子なのに心は日本男児と言わんばかりの言動に違和感を覚えつつも、この世界の仮面ライダーゼロワン、継菜真の手を取った。

 

「あっ、わりぃ、電話だ。非通知・・・ってことは駄目神か、文句言ってやる」

 

(ライズホッパーが小さくなってライズフォンに変形した!?)

 

 驚く彩夢を尻目に電話相手に容赦の無い物言いで通話する真。

 最後は相手に切られたらしく、ため息をついた。

 

「あー、駄目神が言うには、お前は並行世界ってのから来たらしい。んで、帰る手段は現在進行形で考えてるってさ」

 

「はい?」

 

「しばらくは帰れないって事だな」

 

 彩夢の大声が、街中に木霊した。

 

 

 

 

 

 基本電子マネーの彩夢はライズフォンが使えない事により、この世界で文無しが確定。日も暮れたため、真の家に泊まる事になった。

 

「玄関で突っ立ってないで、早く上がったらどうだ?」

 

「いや普通さ、初対面の男性相手に、うちに泊まるか? なんて言わないよね。やっぱり野宿を」

 

「俺は前世も中身も男だから気にするな」

 

「少しはッ! 自分の見た目をッ! 気にしてくださいッ!」

 

「そうは言われてもなぁ・・・」

 

 

 

 

 

 そして現れる謎の敵。

 

「哲学の鎧は初めてか? 小娘」

 

「クソ・・・ッ!こんなところで・・・ッ!」

 

 変身出来ない彩夢を戦わせるわけにはいかない。その思いで彩夢に黙って戦いに赴いた真は、「人間からの攻撃を無力化する」という哲学兵装の全身鎧を身に纏った男に一切の攻撃を無力化され、男の一撃を受けて地に倒れ伏せる。

 変身は解け、服はズタズタ。頬につけられた傷から流れた血が肌を┃伝《つた》い、赤い雫となって地に落ちた。

 

「さぁ、絶滅の時だ。2つの世界を衝突させ、総てを絶滅させるッ!」

 

「そうはさせるか!」

 

 声と共に投擲したリュックが男の鎧にぶつかり、しかし何ら傷を与えること無く落ちる。

 

「ほう、我に歯向かうか小僧」

 

「バカ野郎!何で来た!彩夢!」

 

「例えゼロワンに変身出来なくても、オレはッ!」

 

《レイドライザー!》

 

「ぐっ……これが、レイドライザーの破壊衝動!?

 がっ……ああああああああッ!」

 

 レイドライザーには、負の感情を暴走させて恐怖心や痛みを軽減させ、限界を超えた力と破壊衝動を引き出す機能がある。

 江井を始めとするレイダー部隊のメンバーはこの破壊衝動に耐える訓練を行っているため、暴走する事は無い。

 しかし、ノイズと戦うために23年前の初期型よりも強化されているこの破壊衝動は、始めて装着する者を傷付けかねない強力な物だ。

 普通は、耐えきれずに気絶する。

 

 青い左目が、赤く発光する。

 

「オレは……ッ! オレに出来る事をッ! オレが成すべき事をッ!」

 

《ジャンプ!》

 

 破壊衝動に何とか耐え、ライジングホッパーのプログライズキーを起動。レイドライザーに装填する。

 

「実ッ、装ぉおおおッ!」

 

《レイドライズ!》

 

 サイレンのような音と共に、彩夢を赤と黄色の光が包む。

 

《ライジングホッパー!》

 

「実装完了……ライジングホッパーレイダー!」

 

 

 

 

 

「何故だ、何故、我がダメージを負う!? 哲学の鎧を纏った我が、何故だぁッ!」

 

「はは、分かんねぇだろ。オレも分からねぇ!

 でも、分かってる事はただ1つ!

 オマエを止められるのはただ1人、オレだッ!」

 

《ライジングボライド!》

 

 

 

「すげぇ・・・あたっ」

 

 戦いの行く末を見守る真の頭に、茶封筒が落ちた。

 

「こんな時にあの駄目神は・・・!」

 

 茶封筒を開け、中身を取り出す。

 中には一通の手紙と、白いプログライズキーが入っていた。

 

 

 

 

 

「ぐっ……ああッ!?」

 

 必殺技が激突する寸前、レイダーへの実装が解け、彩夢の蹴りは鎧に防がれた。

 バチバチと火花を上げ、レイドライザーが煙を上げる。

 

「ぜぇ、はぁ……カカカ。力尽きたか。人ならざる力は相当に堪えたようだなぁ!」

 

「がっ!?」

 

 男に腹を蹴られ、吹き飛ばされる。

 

「よっ、と」

 

 そんな彩夢を受け止めたのは、傷だらけの真だった。

 

「大丈夫か?」

 

「だ、じょぶ……です! アイツに攻撃を通せるのは、オレだけだから。オレが、やらないと……」

 

「そいつは違うな」

 

 

アップデート完了

 

 

「今からは俺も、だ」

 

「え?」

 

「あの神様が頑張ったみたいでな、お前のゼロワンドライバーをこっちの世界でも使えるようにしたらしい。ただし、時間制限アリ。3分だ」

 

「3分……」

 

「それと、お前が帰れる方法が分かった。つーか、あの鎧が神様の力に干渉してうまく力を行使出来ないらしい」

 

「つまり、あの鎧をぶっ壊せば、オレは帰れるってわけだ」

 

「やれるか?」

 

「当然」

 

《ゼロワンドライバー ver.2 !!》

 

アウェイクン!

 

 2人並び、ゼロワンドライバーを装着/出現させる。

 

《ジャンプ!》

 

ブレイク!

 

 彩夢がライジングホッパー、真がスマッシュガングニールのプログライズキーを起動。ドライバーに翳す。

 

《オーソライズ!》

 

オーソライズ!

 

 上空から落ちてきた巨大なバッタが土煙を上げて着地。ギギィと鳴き、2人の周りを跳び跳ね回る。

 真のドライバーから光が放たれ、人型のライダモデルが現れる。それはガングニールのシンフォギアを纏った立花響によく似ていた。

 

「「変身ッ!」」

 

《プログライズ!》

 

シンフォニックライズ!

 

 それぞれのキーをドライバーに装填。変身する。

 

《飛び上がライズ! ライジングホッパー!》

 

《A jump to the sky turns to a rider kick.》

 

 飛電彩夢が纏うは本家本元のそれに限りなく近い、ライジングホッパーのゼロワン。

 

Dwelling in a fist! スマッシュガングニール!

 

Balwisyall Nescell gungnir tron.

 

 継菜真が纏うは独自の進化を遂げたガングニールのゼロワン。

 手足にガングニールのシンフォギアに似た装甲を纏い、仮面の下に隠す物は無いとばかりに素顔を晒したそれは、異形のシンフォギアと呼ぶべきか。

 

 並び立つは飛電彩夢のゼロワンと、継菜真のゼロワン。

 同じ名を冠していながら、全く異なる2人のゼロワンだ。

 

「「お前/オマエを止められるのはただ2人、俺/オレだッ!」」

 

 2人のゼロワンが駆け出した。

 

 

 

 

 

「何故だ、何故小娘の攻撃まで我に傷を!」

 

「俺のゼロワンは神様の力で改良した不完全な聖遺物ってやつでな、そのおかげで一時的に神様パワー上乗せなんて裏ワザが出来るのさ!」

 

「まさか、人ではなく神の力とでも!?」

 

「残念、そいつは俺もよく分かんねぇ!」

 

「ふざけるなぁ!」

 

 

 

 

 

「行くぞ彩夢、コイツで!」

 

「あぁ! 決めるッ!」

 

 2人同時にドライバーのキーを押し込む。

 

 

 

   ライジング

    

 

 

ガングニールインパクト!

《ライジングインパクト!》

 

 

 2人のゼロワンによるダブルライダーキックにより、哲学の鎧は砕け、爆発した。

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、鎧の力か何と無傷の男を彩夢が持っていた手錠で拘束。真が呼んだ二課の者達によって連行された。

 

「お前、手錠なんて持ってたんだな」

 

「レイダー部隊は人工知能特別法の違反も取り締まっててね、場合によっては逮捕も許されてるんだ」

 

「俺より働いてる感あるなお前・・・」

 

 突然、真のライズフォンが着信音を鳴らし、勝手に繋ぐ。

 

『真ちゃん真ちゃん真ちゃーん!』

 

「だあぁ!うるせぇ!」

 

 ライズフォンから聞こえてくる女性の声。真の態度からして駄目神とやらのものだろう。

 

『いやー助かったよ!これでそこの子を元の世界に返せるよ~!』

 

「おー、そりゃ良かった」

 

『それじゃあ、ほい!』

 

 彩夢の足下に真っ黒な穴が現れる。

 

「は?」

「え?」

 

 そのまま彩夢の体は重力に従ってヒュウと真下に。

 

「落とし穴あああぁぁぁぁぁ……!?」

 

 彩夢の声が小さくなり、聞こえなくなると穴は消え、元の地面に戻った。

 

「嘘だろぉぉおっ!?はっ?こういうのってもっとあるだろ!別れの言葉とかさぁ!?おい駄目神ぃ!」

 

『仕方ないじゃない。あなたのドライバーに私の力を上乗せさせたり、あの子のドライバーをこっちで使えるようにしたり、こっちだって大変だったのよ?』

 

「知らんわもう!ちょっと尊敬した気持ち返せ!」

 

 

 

 

 

 気がつくと、彩夢は元の場所にいた。

 落ちていたZAIAスペックを拾い上げ、耳に付ける。

 並行世界で数日過ごしていたにも関わらず、こちらでの時間は数分程度しか経過していなかった。

 

『彩夢!』

 

「も、もしもし刃先生?」

 

『良かった、繋がったか。緊急時出撃だ。お前のいるすぐ近くでノイズが発生。B班が出撃して交戦中だ。ゼロワンで援護に向かってくれ』

 

「了解ッ!

 …………あの、ところで刃先生?」

 

『どうした?』

 

「レイドライザー、壊しちゃいました……」

 

『…………任務が終わったら二課の技術開発局に来い』

 

「ひっ、りょ、了解ッ! 至急、現場に急行しまーすッ!」

 

 

《ダッシュ!》

 

 

 

戦姫転生ゼロフォギア&人機重唱シンフォギア―Sinfonia×Rize― 完?

 



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第1章『Who are you』
0話『仮面ライダーのいない世界』


 映画が良すぎて妄想がファイヤーしました。
 割とノリと勢いの見切り発車、もしくは瞬瞬必生。そんな感じ。


 一番古い記憶は、赤と黒。

 

 赤く燃え盛る建物の中。さっきまで聞こえていたはずの悲鳴すら聞こえなくなった中で、自分の血で赤く濡れた手足が黒く炭化して崩れ落ちていくのを見ながら、「痛い」と、「死にたくない」と、泣き叫んでいた記憶がある。

 赤い翼に抱かれて、黒い空を飛んだ記憶が焼き付いている。

 

 

 

===

 

 

 2020年。

 人類の悪意が生み出した『アーク』と、人工知能搭載人型ロボ『ヒューマギア』を巡る戦いは仮面ライダーゼロワン/飛電或人を初めとする仮面ライダー達の活躍によって終結した。

 

 人間とヒューマギアが共に歩き出した新たな未来は、決して平坦な歩きやすい道ではなく、凸凹だらけで前も見にくくて実に歩きにくい。

 それでも人間とヒューマギアは手を取り合い、歩みを止めなかった。

 

 

 いつしか、この世界から仮面ライダーはいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 それから時は経ち、2040年。

 

 都内にある遊園地、クスクスドリームランド。普段は人々の笑い声があちこちから聞こえる筈のそこに、人々の笑い声は無かった。

 あるのは悲鳴、そして炭素と化して崩れ落ちる人間。

 

 認定特異災害。

 

 人類の天敵。

 

 

 

 『ノイズ』

 

 

 

 そう呼称される存在が現れたのだ。

 

 

 『ノイズ』は空間からにじみ出るように出現し、それに予兆も前触れもない。

 ただ突如として現れ、人間のみを襲撃。捕食すらせず、触れた人間を自身もろとも炭素と化し、人間を殺せなかったら自己崩壊して消える、人間を殺す事にのみ特化した化物。

 

 

 

「た、助けてくれぇ!」

 

 アイロンのような手をした人形のノイズ、ヒューマノイドノイズが逃げ遅れた男性客に迫る。

 後ろはイベントステージ、その壁際に追い込まれ、逃げ場は無い。後はノイズが踏み出せば男性に触れ、炭素と化して死んでしまうだろう。

 ノイズがその形状を変化させ、投げ槍のように男性に向かって飛ぶ。

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

 しかし、ステージから飛び出した何者かが男性を抱えて横に飛び、寸前で助け出した。

 

「大丈夫ですか?」

 

 上半身裸に蝶ネクタイ。盛り上がった筋肉にサスペンダー。そして耳にはヒューマギアであることを証明するモジュールが付いている。

 

「ふ、腹筋崩壊太郎!」

 

 この日のステージイベントのために来ていたお笑い芸人型ヒューマギア、『腹筋崩壊太郎』である。

 

「逃げてください。あちらの西入園ゲートの方角にノイズはいません」

 

「わ、分かった! ありがとう! 腹筋崩壊太郎ッ!」

 

 駆け出す男性客。

 それを追おうとするノイズの前に腹筋崩壊太郎が立ちはだかる。

 

「腹筋崩壊太郎から衛星ゼアへ、マギア化の許可を」

 

『警告。一度マギア化すると元には戻れません。それでもマギア化しますか?』

 

「はい。私の仕事は人間を笑わせること。ノイズによって人間が笑えなくなるのは……耐えられませんッ!」

 

『承知しました。腹筋崩壊太郎のマギア化を許可します』

 

「うおおおおおおおッ!」

 

 ノイズに向かって駆け出す。

 発熱し、トレードマークの蝶ネクタイとサスペンダーが燃え、人工皮膚が溶け落ちる。

 

《ベローサマギア!》

 

 昆虫の絶滅種、『クジベローサ・テルユキイ』のデータイメージを装甲として纏った『ゼアマギア・ベローサタイプ』。

 かつて人類の敵として現れた存在、『マギア』。

 しかし、そのヒューマギアモジュールが赤ではなく青に発光しているのが、彼が人類の味方たる証拠だ。

 

 

 「ノイズに対抗するには人間では無く、ヒューマギアが有効」

 

 

 人類の天敵たるノイズに対する戦略として、ヒューマギアを生み出した『飛電インテリジェンス』代表取締役社長、飛電或人が出した結論である。

 

 対ノイズ用にマギア化を正式な機能として取り入れた第三世代ヒューマギアが、ヒューマギアを管理する衛星ゼアに『マギア化申請』をし、ゼアが約2万にも及ぶマギア化条件をクリアしたと判断してようやくゼアマギアへの不可逆の転身(・・・・・・)が可能となる。

 そして、マギアの悪用や暴走を防ぐため、周辺のノイズの反応が消失するか停止信号を受けたマギアはすべての活動を停止し、物言わぬ死体(スクラップ)となるのだ。

 

「やぁぁあっ!」

 

 ベローサマギアが両腕の鎌、トガマーダーを振るい、ノイズに斬りかかる。

 その斬撃は小型のカエル型ノイズ、クロールノイズを斬り裂こうとして、すり抜ける。

 

 

 『位相差障壁』

 

 

 人間の炭素分解と並ぶ、ノイズをノイズたらしめる特性。

 ノイズ自身の存在を異なる世界にまたがらせることで、 通常物理法則にあるエネルギーを減衰、または無力化させる能力である。

 

 バスすら容易く両断するトガマーダーの一撃を無力化したのはこれによるものである。

 

 無敵の盾のように思われるが、これにはいくつか欠点がある。

 1つは攻撃の際にはこちら側への存在比率を上げなくては攻撃が当たらないため、存在比率が増す攻撃の瞬間に攻撃することで撃破できる。

 2つは強すぎる攻撃は無力化出来ないこと。効率を考えずに間断無く銃弾を放つような飽和攻撃で撃破が可能だ。

 3つは減衰する以上のエネルギーによる攻撃。山の地形を変えるような爆撃は防げない。

 1つ目は下手をすれば倒しきれずに死亡する確率の方が高く、2つ目はいくらか現実的だが、予算など後の事を考えると割に合わない。3つ目は論外だ。過去に山の地形を変えた結果、土砂崩れによる被害でノイズ以上の被害が出た事例がある。

 

 位相差障壁があるのになぜヒューマギアが対ノイズに有効とされるのか、その理由は大きく2つある。

 ヒューマギアは人間でないが故に炭素分解というノイズの必殺を無効化できること。もう1つは、

 

《ゼツメツノヴァ!》

 

 通常なら論外である位相差障壁が減衰する以上のエネルギーによる攻撃が出来るからである。

 

 緑に発光し、空中に幾条もの幾何学的な光の線が走るトガマーダーを振り抜き、巨大な光の刃として放つ。

 その斬撃を受けたノイズは、炭素と化して崩れ落ちた。

 

 ゼアマギアが持つ高エネルギー攻撃、ゼツメツノヴァ。必殺技とも言えるこれを使用してようやく一体倒せるというのだからノイズの位相差障壁は反則級だ。

 

 位相差障壁を超えて攻撃出来る存在を認識してもなお、ノイズの目標は人類である。

 ベローサマギアには目もくれず、人のいる方へと走る。

 その進行を断つように目の前に立ちはだかってはゼツメツノヴァを使用してノイズを撃破していくベローサマギア。

 

「これ……以上は……ッ!」

 

 しかし、必殺技の乱用でエネルギーはガリガリと削られて行き、エネルギー切れで行動不能になるまで3分持つかどうかにまで追いやられる。

 

 残るノイズは3体。

 ヒューマノイドノイズが2体、クロールノイズが1体。

 そしてベローサマギアに残された必殺技を放てるだけのエネルギーは1回分のみ。

 最終手段の自爆も、1体を道連れに出来るかどうか。

 どれだけ上手く行ったとしても、後1体倒せるだけの力が残されていない。

 自己崩壊を狙って時間稼ぎをしようにも動きの素早いクロールノイズを足止めするにはベローサマギア自身のスピードでは遅く、かつ時間制限のある状態でいつ起こるとも分からないノイズの自己崩壊を狙うのは非現実的だ。

 

 さらにタイミングの悪いことに、空から新たなノイズが現れる。

 鳥形のノイズ、フライトノイズである。

 手が足りない時に、手の届かない場所に現れたノイズ。出現したてで自己崩壊も望めない考えうる限り最悪のノイズだ。

 

「このままでは、避難所にノイズが行ってしまう!」

 

 どうあがいても絶望。その時だ。

 

 

 

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 

 

 

 戦場(いくさば)に、歌が聴こえた。

 

 

 

 軽やかにベローサマギアの前に降り立ったのは、巨大な槍を肩に担いだ赤い髪の少女と、剣を携えた青い髪の少女。

 

「大丈夫かい、ヒューマギアのお兄さん」

 

 赤い髪の少女が風に靡く後ろ髪を押さえながら声をかけた。

 ベローサマギアが返事をするより早く、フライトノイズが二人の少女を獲物と定め、ヒュウッと奇妙な鳴き声を上げながらドリル状に変形して突撃する。

 

「危ないッ!」

 

 しかし、赤い髪の少女はニヤリと笑い、槍の穂先を天に向ける。

 

≫《LAST∞METEOR》≪

 

 穂先が回転し、巻き起こった竜巻がノイズを飲み込み、炭素分解させた。

 

「心配してくれてありがとな、でもここからはアタシ達の番だ」

 

「貴方が命をかけて戦ってくれたおかげで、被害は最小限のものとなりました。感謝を」

 

 物陰から新たにノイズが現れる。ベローサマギアの索敵範囲外にいたのか、別世界への存在比率が大きすぎて察知出来なかったのか、何にせよ近くに現れた人間を殺すためにノイズが集まってきた。

 

「さーて、行くぞ翼」

 

「無茶はしないでよね、奏」

 

 

《 《 君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ 》 》

 

 

 戦場に歌が響く。

 

 力強く歌いながら、奏と呼ばれた赤髪の少女が槍を振るい、ノイズを斬り裂いてゆく。

 翼と呼ばれた青髪の少女が剣を振り抜くと蒼い光の刃が飛翔し、空から狙っていたフライトノイズ複数体を纏めて両断する。

 

「データベースに、該当無し……あれは一体……」

 

 

 ベローサマギアが知らないのも無理はない。彼女達が身に纏うそれは国家機密。衛星ゼアのデータベースにも記録されていないのだから。

 

 

 『シンフォギア』

 

 

 超古代の文明が遺した聖遺物の欠片から作られた『FG式回天特機装束』。シンフォギア・システム。

 インパクトの瞬間に異なる世界にまたがるノイズの存在を「調律」し、無理矢理こちら側の世界に引きずり出すことでノイズの盾である位相差障壁を無効化、 さらにシンフォギアから奏でられる音楽によって纏う『バリアコーティング』はノイズの炭素転換を無効化させる音楽のバリアを持つ、対ノイズ最終兵器。人類の希望。

 歌い戦う少女が身に纏っているのは、そういうものである。

 

 歌い、切り裂き、歌い、貫く。

 ノイズの天敵たるシンフォギアによって、あっという間に辺りのノイズは倒された。

 

「と、とと……。ふぅ。やったな、翼」

 

 ジェットコースターのレールの上から飛び降りた奏。着地時に少しバランスを崩したもの怪我1つ無い。

 周辺にノイズがいないのを確認してからシンフォギアを解除する。

 

「もう、気を抜かないの」

 

 大胆不敵とも、無警戒とも言える奏をたしなめるようにため息を吐く翼。

 しかし彼女もノイズはいないと判断したのか、その表情は穏やかだ。

 

 

 そんな彼女達を狙う輩が1つ。

 瓦礫に押し潰され、しかしそれをすり抜けて現れたノイズ。最後の1体。

 彼女達の死角から現れたそれは、無防備な奏に向かって己をドリル状に変形させて突撃する。

 

「危ないッ!」

 

 そのノイズに気付けたのは、奏と翼よりはるかに優れた知覚能力を持っていたから。

 そのノイズに向かって走れる力が残っていたのは奏と翼がノイズを殲滅してくれたから。

 

 

 ガギャンッ!

 

 

 金属が抉れる音が鳴った。

 

 一拍遅れて、奏はベローサマギアの腹にノイズが突き刺さっているのに気付く。

 

「オ怪我は……アリませんカ……?」

 

「お前、あたしを庇って……ッ!」

 

 腹に突き刺さったノイズは今だ健在。抜け出して再び奏を襲わんともがいている。

 そうはさせまいとベローサマギアはノイズを両手で押さえ込む。

 

『自爆機能を起動しました。危険です。離れてください』

 

 無機質なアナウンス。

 攻撃の直後で位相差障壁を緩めているノイズなら、自爆で道連れに出来る。

 

 奏が「やめろ」と、「死ぬな」と喚き、翼がそんな彼女の手を引いているのが見えた。

 

 あぁ、願わくば、最後(機能停止)の瞬間は、人間の笑顔を見たかったな──。

 

 ノイズから手を離し、両手を頭の横に当て。

 

「腹筋……パワー……ッ!」

 

 

 爆発。

 

 

 奏が伸ばした手は届かない。

 炎の中、炭素となったノイズが崩れていく。

 

「ッ! ちく、しょう……ッ!」

 

「…………己の死と引き換えに、奏を守った。あのマギアは、立派な防人よ」

 

 

 

 人工知能搭載人形ロボ『ヒューマギア』、人々とヒューマギアが手を取り合い笑い合えるようになった新未来。

 人間とヒューマギアは、ノイズという敵と戦っていた。

 そこに、仮面ライダーはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()(ひと)の言葉を借りよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──「時代が望む時、仮面ライダーは必ず蘇る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『衛星ゼアからの命令を受信。構築を開始します』

 

 




主人公は腹筋崩壊太郎!
……ではなく、主人公の本格登場は次回からです。


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1話『ハジマリの合図』

0話の反応、思ってたよりマギア(腹筋崩壊太郎)へのものが多くてびっくり。
或る人の言葉として引用した、仮面ライダーの生みの親である石ノ森章太郎先生の言葉に反応してくれると思ってたんだけどな……もしかしてあの名言ってマイナーなの?


 2043年。

 青空澄み渡る、日が僅かに傾き始めた午後の春空の下。

 

「やぁっべぇえええええッ! 間に合わねえぇえええええええッ!」

 

 坂道を時速40キロで爆走する自転車が1つ。

 人並み外れた健脚を見せつけるのは、左目が青い、黒髪の少年。何処かの高校の制服らしきブレザーを身に纏い、自由な校風なのか、その下には黄色いパーカーを着ている。

 坂道を駆け上がりきると、真新しい建物が見えてくる。

 今年で創立10周年を迎える学校、私立リディアン音楽院。その高等科の校舎だ。

 

「ふぅ、これなら間に合いそうだな……」

 

 校門前の横断歩道の手前で停止。下校途中であろうリディアンの生徒達を前に、一息吐きながらブレザーの内ポケットから出した飛電ライズフォンで時間を確認する。

 

「風鳴翼の新曲CD、店舗特典が豪華なんだよなぁ……っと」

 

 ふと顔を上げると、見知った少女が校門から出てきた。

 

「あれ、立花?」

 

「あ、彩夢(アム)くん!」

 

 たったった、と少年、彩夢の元に駆け寄る少女。

 明るい太陽のような笑みを浮かべる、活発そうな彼女の名前は立花響といった。

 

「久しぶり。相変わらずオレ先輩なのにくん付けなのな……まぁ良いけど。去年の中学の卒業式以来か」

 

「そうだねー。大体1年ぶりくらい?」

 

「正確には1年と42日だな」

 

「あああぁぁッ!!!」

 

 突然大声を上げる響にビクッと肩を跳ねさせる彩夢。

 

「ど、どうしたいきなり大声を上げて」

 

「それ!」

 

 響が指差したのは彩夢のライズフォン。

 

「もしかして彩夢くんも今日発売の翼さんのCD買いに行くのッ?」

 

「そ、そうだけど……あっ、もしかして立花も?」

 

「そう! 同士よ~!」

 

「よっしゃ、じゃあ後ろに乗りな。一緒に行こうぜ」

 

「いいの? やった!」

 

「3年連続、体育大会の徒競走系の競技で1位を取りまくったオレの健脚、見せてやるよ!」

 

 前のカゴにカバンを入れ、後ろの荷台に座る響。

 なお、現実では自転車の2人乗りは原則として禁止されています。真似しないようにしましょう。

 

「右よーし、左よーし、後ろもよーし、響のしがみつきよーし、時速30キロくらいでしゅっぱーつ!」

 

「しんこーう!」

 

「片手上げるな揺らすな危ないからしっかり捕まってろ~!」

 

 ひゃあと腰に手を回す響。

 ぐんぐん加速していく自転車の風を顔に受けながら、2人はCDショップに急いだ。

 

 

 

===

 

 

 

 10分足らずで街に到着。車道の端を走りながらCDショップに向けて走り続ける。

 自転車が起こす風が、黒い砂を巻き上げた。

 

「……ん?」

 

 ふと、違和感を感じて、彩夢はペダルから足を離し、響に気を使いながらゆっくりとブレーキをかける。

 

「どうしたの? CDショップはこの先の曲がり角を右……に……」

 

 

 静かだ。

 

 

 今は太陽が赤く空を染め始め、人々が学校や職場から帰って賑やかになり始める。そんな時間のはずだ。

 帰ったら何をしよう、今日の夕飯は何かな、そんな会話が、友人との会話で起こる笑い声が、そこかしこから聞こえ始める。そんな時間のはずだ。

 

 だのに、声が聞こえない。人の気配がしない。

 あるのは、黒い砂。

 

 

 

 ──否、炭となった人の死体。

 

 

 

「──ノイズッ!」

 

「立花、ここから離れるぞ!」

 

 彩夢が引き返そうとしたとき、幼い少女の悲鳴が聞こえた。

 

「誰かいるッ!」

 

「あっ、おい立花!」

 

 悲鳴を聞き、荷台から飛び降りて駆け出す響。

 最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に、そんな勢いで声のした方へと駆けていく。

 

「だぁっ、たくッ!」

 

 自転車をその場に止めて響を追いかける彩夢。

 

 基本的に、人間にノイズに対抗する手段は無い。ばったり居合わせれば死ぬ。走って逃げても死ぬ。車で逃げても追い付かれて死ぬ。反撃しようとしても触れれば死ぬ。それがノイズ。

 例え悲鳴が聞こえようとも、ノイズを前に悲鳴を上げた人はまず助からないし、助けに行ったら一緒に死ぬ。常識的に考えても、助けに行くのは論外だ。

 

 だというのに、響は、彩夢は、ノイズがいる方へと駆けていく。

 響は底無しのお人好しで、人助けを趣味と言い張るような、誰かが困っていたら動かずにはいられない少女だ。

 

 では彩夢はどうか? 彼がもしここで響を見捨てて逃げても、ノイズが相手ならそれは間違った選択ではない。それでも駆け出したのには理由があった。

 

 

 ──誰かが助けを求めていて、オレに助けられるだけの力があるのなら、誰かの笑顔を守れるのなら、全力でそれを(ふる)う。それがオレのルールだ。

 

 

 自分で自分に決めた信念(ルール)が彼を動かす。彼もまた、底無しのお人好しであった。

 

 響を後から追いかけた彩夢は、あっという間に追い付き、そして追い越した。

 目の前には路地裏。L字になったそこには、ノイズを前に動けなくなっていた幼い少女。

 

「ッ! 間に合え……ッ!」

 

 彩夢がぐっと足に力を込めて跳ぶ。

 少女を抱え、怪我をしないように気を払って地面を転った。

 ドリル状になって突撃してきたノイズに靴底を削られて肝が冷える。

 

(あっぶねぇッ! 後少しで炭素街道まっしぐらだったじゃねーかッ!)

 

 右手側には壁とノイズ、後ろには壁。左手側にはノイズ。正面は来た道と響。その手前にノイズ。

 響には気付いていないのか、ノイズの視線はこちらに釘付けだ。

 

「お兄ちゃんにしっかり掴まってな……」

 

「うん……」

 

 右手に少女を抱え、ゆっくりと迫り来るノイズを見つめる。

 

(これは……ダメか……?)

 

 正面と左右をノイズに囲まれ、絶体絶命。

 心が諦めかけたその時。

 

「……ッ!」

 

 響の小さな声が聞こえた。

 ノイズの後ろでこちらを見つめる彼女の強い瞳の輝きが彩夢の瞳に映り込んだ。

 

(まだだ……まだ、生き残る術は…………あった!)

 

 思い出すのは少女を抱えて跳んださっきの瞬間。

 ノイズが変形した瞬間、進行が止まっていた。

 

(チャンスは変形した瞬間、そのタイミングなら一瞬だけ隙間が出来る。そこに勝機はある!)

 

 これは賭けだ。

 ノイズがドリル状に変形した瞬間、一瞬だけ進行が止まり、前を隠す面積が小さくなる。そこで出来る隙間を付けば何とか脱出が可能となる。

 しかし、変形せずに歩いてきたら終わりだ。逃げ道を塞がれ、動けずに触れられて死ぬ。

 

 

 この賭けに──。

 

 

(今だッ!)

 

 

 彩夢は勝った。

 

 

 変形したノイズの下をくぐり抜け、響の元に駆け寄る。

 背後で壁を穿つ音が聞こえたが振り返る余裕は無い。

 

「こっちだッ!」

 

 彩夢の無事を祈っていた響の手を引き、片方の手で少女を抱えたまま駆け出す。

 

「彩夢くん! 良かった、良かった!」

 

「死ぬかと思った! 死ぬかと思ったッ! でも生きてる! この調子で逃げ切るぞ!」

 

「「うん!」」

 

 彩夢が自分でも驚くほどのスピードで走り、何とか追いかけてくるノイズを撒くことが出来た。

 3人は、廃ビルの中に避難する。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、シェルターの前に、陣取るとか、止めてくれよ……」

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

「お姉ちゃん、大丈夫……?」

 

「……っ、へいき、へっちゃら、だよ……」

 

 準備運動も無しに全力疾走を繰り返した結果、響は肩で息をしてあまり余裕も無い。

 

「すぅーっ、はぁーっ……っし、立花の息が落ち着いたらまた走るぞ。湾岸の工場の方に向かえば、職員用のシェルターがあるはずだ」

 

「それなら、大丈夫。もう行けるから」

 

「よし、それじゃあ……」

 

 行くぞ。と続けようとして、廃ビルの出入口を塞ぐノイズが目に入った。

 

(またしても絶体絶命……ッ!?)

 

 人形のヒューマノイドノイズが3体、5体とどんどん数を増やしていく。

 逃れる術は無いかと、思考を加速させ、逃げ込む時に、外から見た廃ビルの構造を思い出す。

 二階から窓を割って外に脱出。突き出た屋根の上を走って隣のビルに跳び移れば逃げ出せる。

 そのためには──。

 

(階段を使って上に逃げる? ダメだ。背中を見せた瞬間にやられる。だとしたら)

 

 響と少女を左腕で纏めて抱え、右の拳を握りしめる。

 確信は無い。だが、今日の自分ならなんかイケる気がする。そんなフワッとした思考が彼を動かした。

 

「しっかり掴まってろよォッ!」

 

「え、うぇえッ!?」

 

 跳躍。天井をブチ抜いて2階にジャンプ。

 下からドリル状に変形したノイズが壁を穿つ音が聞こえる。またしても危機一髪であった。

 

「火事場の馬鹿力ってすげぇ……」

 

 人間、本気になれば何でも出来るを体現したような今日の自分に驚く彩夢。

 

「彩夢くん後ろ!」

 

 響の声に振り向くと、そこにはヒューマノイドノイズが1体。

 

「もう登ってきたのかよッ!」

 

 偶然足下に落ちていた鉄パイプを拾い上げ、ひび割れた窓ガラスを叩き割る。

 

「2人はここから外に逃げろッ! 外から隣のビルに移るんだッ!」

 

「彩夢くんはッ!?」

 

「いいから早くッ!」

 

 響と少女に背を向け、ノイズを正面に鉄パイプを構える。

 

「……ッ! 生きるの、諦めないでね……ッ!」

 

 後ろで、少女と響が外に出たのを気配で感じる。

 

「二度あることは三度あるか、仏の顔も三度までか……」

 

 ノイズが変形、ドリル状になって突撃してくる。

 

「イチかバチかだァッ!」

 

 向かってくるノイズに鉄パイプを突き出す。

 攻撃の瞬間で位相差障壁を緩めていたノイズは、その鉄パイプに突き刺さり、炭素となって彩夢の体を黒く染める。

 返り血のようなそれは、彩夢を炭素転換することなく、ノイズを倒した事を意味していた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、やった、やったぞ! ハハッ、さっきから空ぶったノイズが壁にぶつかるから、もしかしたらと思ったけど、やっぱりだ! ノイズは、攻撃の瞬間ならこっちの攻撃が当たるッ!」

 

 それは、ノイズと戦う者にとっての常識であり、ノイズと戦わない一般人が知り得ない情報。

 彩夢は、逃走の中でノイズの行動パターンをラーニングし、対抗手段を導き出したのだ。

 

「ハハ……はぁ……。生きるのを諦めないで、か……。ごめん、立花」

 

 彩夢は、床に開けた穴から飛び降り、一階に落ちる。

 

「おらおらおらァッ! ノイズども! オレはここだぞッ!」

 

 ノイズの集団のど真ん中。鉄パイプでガンガンと床を叩きながら大声を上げてノイズの視線を集める。

 

(生きろよ、立花……ッ!)

 

 それは、ノイズを響の元に行かせないための囮。

 それは、決死の覚悟。

 誰かを助けるために自分を犠牲にする英雄的行為であり、前向きな自殺であった。

 

 ノイズがドリル状に変形し、一直線に襲ってくるのを転がって回避。

 咄嗟の行動だったせいか、変な体勢で転がって頬を擦りむき、赤い血が滲む。

 回避した先にはノイズ。それを跳んで、くぐり抜ける。

 それはまるで、イルカショーでイルカがリングをくぐり抜けるかのような精密さだった。

 

「おらおらどうしたァッ! 人間1人炭素化出来ないなんて、人類の天敵の名が泣いてんぞッ!」

 

 壁に追い込まれて、しかし鉄パイプで壁をガンガン叩きながら挑発する。

 変形し、突撃してくるノイズを壁沿いを走って奥の方に逃げる。

 背後で壁が抉れる音が聞こえた。

 

 少しでも響達の元にノイズを行かせないためにと室内の方に走ったはいいが、その結果として部屋の隅に追いやられる。

 トドメとばかりに迫るノイズは避けられない。

 

「こんッ、のぉッ!」

 

 そのノイズを、鉄パイプの全力の振り抜きで迎え撃つ。

 その結果、鉄パイプは半ばから折れ、しかしノイズは真横に吹っ飛ばされる。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……さーて、どうしよ……」

 

 短い付き合いだったが、心強い味方だった鉄パイプが折れ、視界は全てノイズに埋め尽くされ、いよいよ絶体絶命だ。

 もう切り抜ける(すべ)も無い。

 

「立花達、逃げ切れたかな……」

 

 ジクジク痛む頬の擦り傷からにじみ出た血が、汗と混じって顎から落ちる。

 

 彩夢にノイズが飛びかかる。

 死の直前は、周りの動きがゆっくりに見えるという。

 ノイズの動きは、やたらとゆっくりに見えた。

 

 

 ゆっくりと動く世界の中、突如、仮面の異形が彩夢の前に現れた。

 

『生きたいか?』

 

 仮面の異形は、赤い複眼でこちらを見つめながら問うてきた。

 その声は機械によって加工されているのか、男のようにも、女のようにも聞こえる、奇妙な声だった。

 

 口が動くスピードがゆっくりだ。

 声を出して答えられないから、強く思う。

 

(オレは、生きたい。生きるのを、諦めたくない……ッ!)

 

『なら、手を伸ばすんだ』

 

 彩夢の思念に仮面の異形が答える。

 ゆっくりとした世界の中で、手を伸ばす。

 大して動きはしなかったが、開いた手に、仮面の異形が何かを握らせた。

 

『いいか、オマエの進む道を決められるのはただ1人、キミだ』

 

 仮面の異形が彩夢に背を向け、右の拳を握る。

 まばゆい光が拳から放たれ、静止している(ように見える)ノイズめがけて打ち出す。

 パンチで圧縮された空気が炸裂し、触れることなくノイズどもを吹き飛ばす。

 

『夢に向かって、飛べ』

 

 世界の速度が元に戻る。

 

 さっきまでいた仮面の異形はどこにも見当たらない。しかし、手にずっしりとした重みを感じる。

 

 ノイズはこちらを警戒しているのか、攻撃を仕掛けてくる様子は無い。

 

 両手に握られた、それを見る。

 手には、見たことの無い機械が握られたいた。

 

「飛電ゼロワンドライバーとライジングホッパーのプログライズキー……!

 あれ、何でオレ、これの名前を……いや、そんな事は今はいいッ!」

 

 見たことが無いはずなのに、ソレの名前を知っている。

 ソレの使い方を知って(ラーニングして)いる。

 

《ゼロワンドライバー ver.2 !!》

 

 ドライバーを腰に装着、プログライズキーを起動。

 

《ジャンプ!》

 

 ドライバーにかざして承認。

 

《オーソライズ!》

 

 キーを展開すると同時に、空から光と共に天井を破壊しながらライダモデルと呼ばれる、巨大なバッタが現れた。

 

「変身ッ!」

 

《プログライズ!》

 

 キーをドライバーに装填。

 黒いアンダースーツが身を包み、バッタのライダモデルを装甲と纏う。

 

《飛び上がライズ! ライジングホッパー!》

 

《A jump to the sky turns to a rider kick.》

 

 

 

 ゼロワンへと、変身した。

 

 

 

 




生身で鉄パイプ一本でノイズと渡り合う、どこか一般人離れした主人公、彩夢。でもOTONAとかNINJAのいる世界観でこれくらいなら普通……?
なお、生身でノイズに触れると炭素転換される模様。

人を抱えて天井を突き破る、棒(鉄パイプ)を持って戦うという『仮面ライダー』第一話のオマージュを入れてみたり。


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2話『ゼロワンを受け継いだ者』

前回のあらすじ
どこか一般人離れした身体能力を見せる主人公、彩夢。でもノイズに触れたら即死だよ!
必死に戦った末に手に入れたのはゼロワンの力。
さあ、どうなる第2話!


 

「変身ッ!」

 

《飛び上がライズ! ライジングホッパー!》

《A jump to the sky turns to a rider kick.》

 

 

「姿が……変わった……ッ!」

 

 ゼロワンへと変身した彩夢は、自分の両手を見る。

 黒いグローブに覆われた手、グッと握りしめれば、全身に力が滾る。

 

「っ!」

 

 ドリル状に変形し、突撃してくるノイズ。

 顔面めがけて飛んでくるそれを、咄嗟に両手をクロスさせてガードする。

 

「ノイズに触れたのに、手が炭化しない! これならッ!」

 

 前に跳躍。一瞬でノイズとの距離を詰め、水平に凪ぎ払うように蹴りを放つ。

 

「うわっ、と、と!」

 

 しかし、蹴りはすり抜け、空振りに終わった。

 衛星ゼアと直結した頭脳にノイズのその能力の情報が伝えられる。

 

「これが、位相差障壁……!」

 

 異なる世界に己の存在を跨がせることでこちらの世界への存在比率を下げ、500の攻撃を限りなく0に近く減衰させて攻撃を無効化させるノイズ最強の盾。

 これを突破するには位相差障壁の緩む攻撃の瞬間を狙うか、減衰されても問題ない程の強大な力による攻撃をぶつける他ない。

 

「殴るより強い蹴るで効かないとなると、何か武器……うぉっ!」

 

 ドライバーの中心部にあるリング、正確にはその中心にあるバッタが顔を覗かせる照射形成機(ビームエクイッパー)より多次元3Dプリントを可能とするモデリングビームが宙に照射され、アタッシュケース型のアイテムを構築する。

 

《Attache case opens to release the sharpest of blade!》

 

「こいつを使えって事か!」

 

《ブレードライズ!》

 

 構築されたのは、アタッシュケース状態から黄色いラインの走る片刃の剣へと変形するゼロワンの武器、アタッシュカリバー。

 トリガーを引き、エネルギーを込めた刃を横一文字に振り抜いて目の前のノイズを深く切り裂く。

 

「なっ、マジか!?」

 

 しかし、炭素と崩すには至らなかった。

 破壊力が足りず、ノイズの傷が再生していく。

 

 ノイズには炭素転換と位相差障壁の他に、厄介かつあまり知られていない能力がもう1つある。

 それが再生能力。生半可な攻撃では位相差障壁を緩めていないノイズにダメージを与えられてもすぐにゼロにされる。

 相対すれば基本的に殺されるこの世界では反撃することが稀だ。そして反撃したとしても位相差障壁にほとんど無力化される。

 故に今の人類にとって、ノイズに再生能力があろうが無かろうが関係無いのだが、ことノイズに生半可なダメージを与えられるゼロワンだと話が変わる。

 

 目の前のノイズを切り裂く。深い切り傷を与えたものの倒すには至らない。

 背後から奇襲を仕掛けてきたノイズを振り向きざまに切り裂く。今度は炭素と崩れ落ちた。

 

「位相差障壁の度合いによって再生されるか倒せるか、ダメージが変わるのか……!

 でも再生中は動きが止まる。ダメージをゼロにされても隙は出来るって事だ!」

 

 意識を両足に集中。エネルギーがライジングホッパーのライダモデルの足の形を取り、それを一気に爆発させて跳躍。

 床を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴る。室内という環境を十全に使いこなし、四方八方を立体的に跳び回り、すれ違いざまにノイズを切り裂いていく。

 すべてのノイズを切り裂き、しかし倒しきれずにノイズの再生が始まる。

 

「この瞬間ッ!」

 

 それこそが狙い。

 ドライバーからキーを引き抜き、閉じてアタッシュカリバーに装填する。

 

《Progrise key confirmed. Ready to utilize.》

「こいつでッ!」

 

《Grasshopper's ability!》

 

 黄色い光のラインが宙を走り、刃にエネルギーが集中。

 

「どうだッ!」

 

 横一閃、振り抜き、回転。

 ゼロワンを中心に同心円状に黄色いエネルギーの刃が飛び、再生途中で動けないノイズを切り裂いていく。

 

《ライジングカバンストラッシュ!》

 

 切り裂かれたノイズはそのすべてが炭素と崩れ落ち、ついに彩夢を追い詰めていたノイズを一掃した。

 

「はぁーっ……っ、しゃぁッ!」

 

 息を大きく吐き、拳を握る。

 震える手は、勝利の喜びか、遅れて来た恐怖か。

 

「そうだ、立花ッ!」

 

 この力ならノイズと戦える。

 この姿なら響達を助けられる。

 

 ゼロワンは、響の元へ行こうと廃ビルから飛び出した。

 

 

 カチャ。

 

 

「動くなッ!」

 

「──ッ!?」

 

 飛び出したゼロワンを迎えたのは、無数の銃口。

 

「なっ、レイダー!? 特異災害対策機動部一課が、何で……」

 

 それを構えるのは、インベイディングホースシュークラブレイダー。通称『バトルレイダー』。もしくは単に『レイダー』と呼ばれる者達だ。

 

 

 『レイダー』

 

 

 23年前の2020年、『ZAIAエンタープライズジャパン』という会社が、当時の社長である天津垓の主導で開発した兵装、レイドライザーとプログライズキーによって人間が「実装」した姿。

 仮面ライダーの敵として、平和を乱す存在として現れたレイダーだったが、ここ数年で「レイドライザーとプログライズキーのみ」という携行性の高さで、あらゆる通常兵器を上回る点が着目され、対ノイズ用兵装としてノイズを相手にする特異災害対策機動部一課に配備されるようになった。

 

 ノイズの炭素転換は無効化出来ず、触れれば終わりなことに変わりは無いが、強化された身体能力は生身のそれを凌駕し、回避という形で生存能力を高めている。そして、マギア同様、位相差障壁を抜ける程の攻撃によってノイズの撃破率も高い。

 今では、ノイズの脅威から平和を守る存在として、人々から認識されている。

 

 

 そんなレイダー達が、ゼロワンに銃口を向けている。

 バトルレイダーは、廃ビルを背にするゼロワンを要と見て扇形に展開し、取り囲む。

 

「お前は何者だ! 何故ゼロワンに変身出来る!」

 

 鋭く通る声でゼロワンに問いかけたのは、40代くらいの生身の女性。

 レディーススーツの上に防弾チョッキを身に纏い、白髪が混じった黒髪のボブヘアー、口元のホクロが特徴的な彼女が銃を構える様は、恐ろしく堂に入っている。

 

「それは、ゼロワンは! ()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

 彼女の名は『刃唯阿』。かつて仮面ライダーバルキリーとして様々な戦いに挑んだ仮面ライダーの1人。

 

 ゼロワンは、彩夢は彼女を知っていた。

 

「刃……先生……?」

 

 震えた声でその名を口にする。

 

「その呼び方……! まさか、彩夢……なのか……?」

 

 唯阿が銃口を下げたのを見て、ゼロワンはドライバーからプログライズキーを引き抜き、変身を解除する。

 

「刃女史、彼を知っているのですか?」

 

 隊長格であろう肩の一部が赤いバトルレイダーに問われ、唯阿は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼は、飛電彩夢。3年前に亡くなった飛電或人の──息子だ」

 

 

 

 

 




刃唯阿(47)

他にノイズいるのに何でレイダーがこんなとこにいるのかって言うと、シンフォギアが出撃してるからです。


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3話『ゼロワンに変身するということ』

毎週日曜0時に投稿するつもりだったのに、間に合わなかったぜ。


 刃唯阿が飛電彩夢と出会ったのは8年前の2035年。

 

「は? 息子?」

 

 始まりはA.I.M.S.の本部に、飛電或人とイズが1人の子供を連れてきたのが最初の出会いだった。

 

「そ、養子なんだけどね。名前は飛電彩夢」

 

 椅子に座ったイズの膝の上で、興味深そうにあちこちを見回す子供、彩夢の頭を撫でながら或人は笑う。

 

「実はちょっと事情があって、まだ小学校に通わせられないんだ。そこで刃さんに先生になってもらおうと」

 

「待て、どうしてそうなる。第一、私にはA.I.M.S.の隊長としての仕事が……」

 

「最近は事件も無くて毎日書類仕事か訓練ばかりで暇そうにしてるって(ナキ)から聞いたけど?」

 

 内閣官房直属の対人工知能特務機関であるA.I.M.S.は、暴走したヒューマギアやサイバーテロリストの脅威から人々を守り、人工知能特別法の違反の取り締まるのが主な仕事である。

 しかし、A.I.M.S.が出動するような事件は20年代を最後に右肩下がりを続けており、最近は2ヶ月に1回出動要請があるかといった状況である。

 飛電インテリジェンスによるヒューマギアのセキュリティ強化や、ZAIAエンタープライズジャパンのサウザー課、さらにはヒューマギアの守護者となった滅亡迅雷.netらの活躍により「ヒューマギアを悪用する方が危険」という認識が広まったおかげで事件の発生件数が激減したのだ。

 

 珍しく事件が発生しても、現場に着く頃にはA.I.M.S.よりフットワークの軽い「仮面ライダーを自称する怪力男(無職)」がすでに解決していることが多く、仕事の無さに拍車をかけている。

 

「ぐっ……、だが、何故私なんだ」

 

「不破さんから刃さんは教員免許を持ってるって聞いてさ、それに刃さん、子供、好きでしょ?」

 

「不破のやつ、勝手に……」

 

 唯阿の脳裏に「なんだ、やっと来たのか。もう終わったぞ?」と事も無げに言い放つ男の顔がよぎる。

 うるさい、お前の事件遭遇率がおかしいんだ。そもそも電柱をへし折って暴走したヒューマギアを押さえつけて鎮静化させるやつがあるか。今日もお前が壊した公共物の始末で書類に追われてるんだぞと、文句がふつふつ湧いてくるのを頭を振ってどこかへ追いやる。

 ちなみに、暴走した原因は交通整備で炎天下の中、長時間外に立ちっぱなしだったことによって回路に異常をきたした結果である。排熱がうまくいかなくなって故障したらしい。

 

「そもそも、家庭教師ならそれこそヒューマギアにでも任せればいいじゃないか」

 

「それが出来ないから頼んでるんじゃないですか」

 

「む……」

 

 唯阿は口を閉じ、彩夢を見る。

 青い左目を持つ子供。あどけない表情のこの少年に、唯阿はどこか起動したばかりの、何もラーニングしていない(知らない)ヒューマギアのような印象を受けた。

 

「或人社長、そろそろお時間です」

 

「えっ、イズ、もうそんな時間なの?

 ……あ、そうだ。ねぇ刃さん」

 

「なんだ?」

 

「実は、ウチが協力してるところが最近優秀な技術者を探してるらしくてさ、刃さんが良ければどうかな~って」

 

「む、それは……」

 

 実のところ、A.I.M.S.は近い内に解散される事になるだろうと言われている。

 と言うのも、2030年に国連で特異災害の総称としてノイズ認定されてから、日本政府の意識が対ノイズに向き始めた。これまでの悩みの種であったマギアは8年近く出現していないこともあり、マギア対策よりもノイズ対策が優先され始めたのだ。

 そこでめっきり出番の減ったA.I.M.S.は予算の削減がされ、規模を縮小。その分がノイズ対策に当てられている。A.I.M.S.が完全に解散されるのも時間の問題だろう。

 唯阿もそろそろ次の就職先を考えるべきかなと思っていたところだ。

 

「……お前、昔よりしたたかになったな」

 

「はて、何のことやら」

 

 首を傾げる或人。15年近い付き合いになるが、このとぼけた表情は全く変わっていない。

 

「分かった。彩夢の先生の件、受けてやる。しばらくは非番の時になるが構わないか?」

 

「ありがとう、刃さん!」

 

「それで、その協力しているところってのは、どんなところだ?」

 

「2年前に設立されたばかりの政府機関、その名も『特異災害対策機動部』。そこの二課にある技術開発局だ」

 

 

 

 

 

 彩夢の教育を始めて、なるほどこれは学校に通わせられないなと唯阿は思った。

 なんというか、体の使い方が全体的に下手くそなのだ。よくこけるし、力加減も分からず、よく物を壊す。そして突然倒れて動けなくなって病院に運びこまれたり、定期検査で入退院を繰り返す。

 小学校に通わせようものなら学校の備品を壊し、同級生にすぐに怪我をさせる問題児認定されること間違いなしだろう。そもそも入退院を繰り返す頻度が高かったためロクに登校出来ないので、友達も出来ずに孤立するに違いない。

 

 そんな幼少の彩夢は、唯阿にとって「面倒くさいなやつ」カテゴリに分類されるタイプであり、彼女はその手の扱いに関してはプロフェッショナルであった。

 或人がヒューマギアではなく唯阿に先生を頼んだのも、それが理由だったのだと、彼女は理解したのであった。

 

 

===

 

 

 2043年、現在。

 

 レイダーに実装する人間が所属する特異災害対策機動部一課とは、認定特異災害ノイズが出現した際に出動する政府機関である。

 主に住民の避難誘導やノイズの進路変更、さらには被害状況の処理、ノイズの撃退のほか、人工知能特別法の取り締まりが一課の仕事だ。

 

 10年前の2033年に設立され、当初はノイズに効果の薄い通常火器を使用していたが、6年前の2037年に対人工知能特務機関A.I.M.S.を吸収合併。これによってA.I.M.S.が保有していたレイドライザーやギーガーといった兵装を一課も得て、ある程度ノイズを相手取ることが出来るようになった。

 その代わりにA.I.M.S.の仕事内容も業務に含まれるようになったのだが、「ヒューマギアを悪用しようとするとやって来る刀を持った恐いお兄さん」達のおかげで、その仕事はあって無いようなものである。

 

 A.I.M.S.の施設も一課のものとなり、A.I.M.S.本部は一課のレイダー部隊の拠点として今も多くの人々が出入りしている。

 

 そんな旧A.I.M.S.本部の取調室に、飛電彩夢と刃唯阿はいた。

 

「まずは、お前の言っていた立花響と緑川ルリという少女だが、二課の別動隊に保護されたらしい。2人とも、目立った外傷も無く、今夜中には家に帰れるそうだ」

 

 机を挟んで彩夢の向かい側に座った唯阿が開口一番にそう言った。

 

「そっか、良かった……」

 

 どうやら、響達は無事らしい。それを聞いて彩夢はほっと胸をなでおろす。

 

「少しは肩の力が抜けたようだな、では取り調べを始める前に、お前には黙秘権がある。話したくないことは話さなくていい。後、この取り調べは録音されている──」

 

 取り調べが始まり、何故あの場にいたか、何故ゼロワンドライバーとライジングホッパーのプログライズキーを持っていたのかなど、いくつかの質問に答えていく。

 取り調べは30分もせずに終わった。

 

「なるほど……その仮面の異形とやらにドライバーを渡されて変身しただけで、どうやら本当に何も知らないようだな」

 

「すみません……」

 

「謝る必要は無い。それより、これからの事を考えろ」

 

「これからの事? あっ、晩ごはんの事とかですか? 今日は茹でふきのとうですよ」

 

「違う。ゼロワンに変身した以上、お前がこれまで通りの生活を送れなくなったと言うことだ」

 

「どういう事ですか?」

 

「ゼロワンは元々、飛電の社長しか変身出来ない。確認したところ今の飛電の社長が変わったという話は出ていないが、誰もがお前が次期社長だと思うだろうな」

 

「父さんはオレに会社を継がせる気は無いって言ってましたよ?」

 

 飛電或人には彩夢の将来の道を決めるつもりは無かった。

 或人曰く、「下積みも無くいきなり社長継がされるのはダメだよ。本当にダメ」との事である。

 売れないお笑い芸人から祖父の遺言と成り行きで大企業の社長に就いた或人だからこそ、彩夢には誰かの意思ではなく、自身の意思で仕事を決めてほしい。という父の思いがあった。

 

「例えそうだとしても、周りはそうは思わないという事だ」

 

「そんなぁ……」

 

 彩夢は高校2年生の16歳。進学か就職か、進路を決めるにはほんの少し早く、考えるには遅くない時期だ。

 飛電インテリジェンスに就職することを考えなかったわけでは無いが、それはあくまでも候補の1つであり、将来どんな仕事に就くかは、まだ決まっていない。

 

「お前には2つ、選択肢がある」

 

 悩む彩夢に、唯阿が道を示す。

 

「1つ目は、このままゼロワンとしてノイズと戦うこと。命の保証は無いし、ゼロワンに変身する以上、周りは飛電の次期社長としてお前を見るだろう。正体を隠したとしても、いずれバレる。

 2つ目は、ゼロワンドライバーとプログライズキーを私に預けて、元の生活に戻ること。幸いにも、ゼロワンに変身したことを知っているのは一課の一部だけだ。周りから飛電の次期社長という風に見られることは無いだろう」

 

 ゼロワンとして戦うか、普通の生活を送り続けるか。

 ゼロワンに変身するということは、戦う力を得るだけでなく、飛電インテリジェンスという大企業の看板を背負うことを意味する。『ゼロワン=飛電の社長』という構図が世間に浸透している以上、その正体を暴こうとする輩はどうしても出てくる。隠れて変身しようとしても、ゼロワンの変身シークエンス上、空からバッタが降ってきてピョンピョン飛び跳ね回るので限界がある。現に、それで一課のレイダー部隊に見つかっている。

 正体がバレれば、間違いなく周囲の目は変わり、彩夢に取り入ろうとすり寄ってくる者が現れ、元通りの普通の生活は送れなくなるだろう。

 しかし、ゼロワンに変身しなければ、普通の生活に戻れる。今ならまだ間に合うのだ。

 

「私としては、お前に戦ってほしくない。

 新しいゼロワンにノイズの炭素転換を無力化する力が備わっていようと、相手はマギアやレイダーとは違う。人類の天敵、ノイズだ。いつ死ぬかも分からないような戦場(いくさば)に、お前には立ってほしくない」

 

 紛れも無い、刃唯阿の本音。

 それを聞いて、彩夢は決心する。

 

「オレ、戦います。ゼロワンとして。

 だって、誰かが助けを求めていて、オレに助けられるだけの力があるのなら、誰かの笑顔を守れるのなら、全力でそれを()るう。それがオレのルールです!

 ゼロワンの力は、きっと沢山の誰かを助けられる力だから!」

 

 ああ、やっぱりか。と、内心で呟く。

 彩夢なら、誰かを助けるために戦う選択肢を取るだろうと思っていたから。

 

「……ノイズの相手は、私達特異災害対策機動部でどうにかなっている。お前が戦う必要は無いんだぞ?」

 

「だったらッ!」

 

 彩夢が、ガタンッ、と音を立てて椅子から立ち上がる。

 

「オレを特異災害対策機動部一課に、アルバイトとして雇ってくださいッ!」

 

 ガバッ、と90度の礼。

 

 唯阿は一瞬目を丸くして、そして深く、深くため息をついた。

 

「明日、保護者の同意書を持ってここに来い」

 

 面接してやる、と言外に示した。

 

「! ありがとうございますッ!」

 

「まだ採用するとは言っていないぞ」

 

 




お笑い芸人からいきなり大企業の社長になるだけでもかなりの重圧なのに、自社製品の暴走とか色々起こって本当に大変だったろうに笑顔を絶やさなかった或人社長って本当にすごいなって思います。
そんな社長が清濁合わせ飲めるようになったのが本作の飛電或人です。


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4話『アナタの歌を聴きたい』

今回は主人公の出番無し!
本当は回想を軽くやってから響視点での話を進める予定だったんですが想定以上に長くなったので分割。

ゼロワンのゼの字も出てきませんが間違いなくゼロワンのクロスオーバーな今回。
2年前、ライブ会場の惨劇の話です。


 2年前、2041年。

 その日は、天羽奏と風鳴翼という2人の少女から成るアイドルユニット、ツヴァイウィングのコンサートが開かれる日であった。

 会場には10万人もの観客が入場を始めていた。

 

「奏、そろそろ着替えないと──」

 

 控え室のドアを開き、青い髪の少女、風鳴翼が中を覗きこむ。

 

「奏!?」

 

 控え室の床が、血に濡れていた。

 赤い水溜まりのすぐそばで、赤い髪の少女、天羽奏が倒れているのを見るや、すぐに駆け寄った。

 

「奏! 大丈夫!?」

 

 倒れた奏を抱き起こし、翼の腕の中で奏は目をうっすらと開く。

 

「待ってて奏、今すぐ」

 

「待て、翼」

 

 医者を呼ぼうと控え室を出ようとした翼を、奏が呼び止める。

 

「分かってたことなんだ、これは……!」

 

「分かってたって──」

 

「今日の実験に、余計な不確定要素(ガーベッジ)を入れたくなくてね、少し前から、シンフォギアの制御剤を控えるよう言われてたんだ。

 ま、見ての通り、インチキ適合者のあたしは薬を切らした途端にこんなさ」

 

 このライブの裏では、ある実験が行われる。

 

 『Project:N』

 

 特異災害対策機動部二課が、ライブで高まったウタノチカラを利用して完全聖遺物、『ネフシュタンの鎧』を起動させるという実験である。

 ネフシュタンの鎧を起動させ、解析することでよりノイズへ有効な対抗手段を模索するのが目的。

 そして完全聖遺物は、一度起動してしまえば誰にでも扱えるという特徴がある。そして、総じて完全聖遺物による攻撃は、人類の天敵たるノイズに有効であった。

 

 咳と一緒に、僅かな血が飛ぶ。

 喀血だ。肺や気管支からの出血を咳と一緒に出す症状をそう呼ぶのだと、聞いたことがある。

 床に出来た血溜まりから見て、吐血もしたのだろう。どちらにせよ、とても歌えるようなコンディションではない。

 

「やっぱり、ライブは中止に」

 

「翼ッ!」

 

 弱ってるとは思えないほどの、強く鋭い声。

 

「頼む。ライブの中止だけはやめてくれ」

 

「でもその体じゃ……」

 

 なおも食い下がろうとする翼を、瞳1つで黙らせる。

 強い瞳の輝きは、命を燃やす炎の灯りのようだと、翼は思った。

 

「翼は心配性だから、聞いたらライブどころじゃなくなるだろうし、本当はこのライブが終わったら伝えるつもりだったんだけどな。

 ……あたしは、この実験を、このライブを最後に、シンフォギアをやめるつもりなんだ。当然、ツヴァイウィングとしての活動もな」

 

 どうして、とは言えない。

 天羽奏がシンフォギアとして戦うのに必要なLiNKERは劇薬だ。使えば絶大な力を手に出来るが、同時に体に重大な負荷をかける。

 今の奏は、繰り返し投与したLiNKERの影響で体はボロボロだ。これ以上シンフォギアをすれば命の危険に関わる。

 

「そんな顔すんなって。シンフォギアを纏って戦えるのは翼だけになるかもしれないけどさ、二課のオペレーターにでもなって、翼のサポートをするつもりだ。

 絶対に翼を1人にはしない。だから今日くらいは、あたしのワガママに付き合ってくれ」

 

「奏……」

 

 浮かない表情の翼を、ギュッと力強く抱きしめる。

 

「頼りにしてるよ、相棒。両翼揃ったツヴァイウィング(あたしとあんた)なら、どこへだって飛んでいける」

 

「……うん」

 

 

===

 

 

 ライブ会場の地下。

 そこに作られた特異災害対策機動部二課の研究室では、完成聖遺物『ネフシュタンの鎧』の起動実験が行われていた。

 地下の研究室からでも、地上で行われているライブの音が漏れ聞こえてくる。

 

「フォニックゲイン、想定内の伸び率を維持しています」

 

 研究室にいるヒューマギアの1体が言う通り、 実験は順調に進んでいた。

 

 そう、進んで()()のだ。

 

 突如、研究室全体にアラートが鳴り響き始めた。

 

「どうしたッ!?」

 

「聖遺物のエネルギー急激に増大! 安全弁(セーフティー)が持ちません!」

 

「このままでは、聖遺物が起動。いえ、暴走します!」

 

 ネフシュタンの鎧から強い光が放たれる。

 待避する間もなく、地下の研究室は爆発に飲まれた。

 

 

 

 

 

 地下での異常は、地上にも影響を及ぼした。

 ライブ会場の一角から轟音と揺れと共に煙が吹き出す。その衝撃で音響システムに異常が出たのか、スピーカーからの音が途切れた。

 

「──ノイズが来るッ!」

 

 獣の如き奏の直感が叫び、次の瞬間に空から飛来したノイズが観客の1人を炭素の塊へと変えた。

 

「ノイズだぁぁぁッ!」

 

 誰かの叫び。それを皮切りに会場はあっという間にパニックに陥った。

 

 次々と現れるノイズ。小型だけでなく、見上げるほどに巨大なものまで現れ、逃げ惑う人々を次々と襲っていく。

 

「行くぞ翼ッ! この場で槍と剣を携えているのは、あたし達だけだッ!」

 

「奏……、ッ。うんッ!」

 

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 

 聖詠。

 シンフォギアを纏うため、胸の内から沸き上がる歌を口ずさみ、ステージから飛び降りながら2人の少女が光に包まれる。

 

 光が止むや、槍と剣がノイズを切り裂き、炭素へと崩す。

 

 ノイズの天敵、シンフォギアを身に纏った2人の少女は、各々の武器を構えて次々とノイズを切り裂き、貫き、討ち果たしていく。

 

 

 

 

 

 その裏で、会場の警備をしていたヒューマギア達が観客の避難誘導を進めていく。

 

 ノイズの進行状況、会場のどこに人が密集しているのか、どのルートが安全なのかといった様々なデータをリアルタイムに集め、それを元に、より素早く、より沢山の観客を避難させるためのルートを導き出し、そこに誘導していく。

 

 しかし、人間を襲う本能を持つノイズにとって、避難のために観客が並んで密集している地点を見逃すはずもなく。

 

「の、ノイズがこっちに来る!」

 

 飛行型のノイズがその身を円盤のように回転させながら人の群れめがけて落下する。

 

「私の仕事は、観客の皆さんを守ることッ!」

 

《オニコマギア!》

 

 観客の避難誘導をしていた警備員型ヒューマギアの1体が飛び出し、コウモリの絶滅種、『オニコニクテリス』のデータイメージを元にした『ゼアマギア・オニコタイプ』へと転身。

 ノイズに体当たりして軌道をズラし、観客に当たらない位置に落とす。

 

《ゼツメツノヴァ!》

 

 両手の爪、ザイタロンにエネルギーを集中させ、紫のクローを形成。

 地面に突き刺さったノイズめがけて振り下ろし、ノイズを炭素と崩す。

 

「皆様、落ち着いて避難をしてください!皆様の安全は、我々ヒューマギアが守りますッ!」

 

 オニコマギアの力強い宣言。

 

 しかし、それは嘘だ。

 

 ヒューマギアの高い演算能力が、この場にいる人々全員を無事に避難させることは不可能だと結論付けている。

 観客、関係者含めて10万人の中から()()()()10,462人の死者が出るという結論に、その場にいるすべてのヒューマギアが至っていた。

 絶望的なのが、この結論はすべてのヒューマギアがマギア化し、さらにシンフォギアの存在を前提としている事だ。

 

 そんな絶望的な予測を、表情変化の機能を切ってまで人々に隠し、ヒューマギア達は避難誘導を進めていく。

 

 人々の群れに、巨大な影が落ちる。

 牛と芋虫を合わせたような巨大なノイズ、ギガノイズだ。

 シンフォギアは遠く、ここからでは間に合わない。

 

《マンモスマギア!》

 

《アルシノマギア!》

 

 ヒューマギアの2体がそれぞれゼアマギア・マンモスタイプとゼアマギア・アルシノタイプに転身する。

 避難が完了していない今、マギア化することは避難誘導をする人手が不足し、避難そのものが遅れることを意味する。

 それでも、このマギアには人々がノイズに殺されていくのを見るのは耐えられ無かった。

 この2体のマギアに転身したヒューマギアは、ノイズに無惨に殺されていく人を見て、「人間を守りたい」という思いで今、シンギュラリティに覚醒したのだから。

 

 ギガノイズが、その巨体で押し潰さんと迫る。

 

《ゼツメツノヴァ!》

《ゼツメツノヴァ!》

《ゼツメツノヴァ!》

 

 オニコマギアから巨大なエネルギーの爪が伸び、マンモスマギアから巨大なエネルギーの牙とアルシノマギアから巨大なエネルギーの角が伸び、ギガノイズに突き刺さる。

 

「ッ!」

 

 しかし、痛覚の存在しないノイズには突き刺さった程度では止まらない。

 位相差障壁を緩めればマギアの攻撃はすり抜け、開けられた穴は再生する。

 

「もうダメだぁぁぁッ!」

 

 マギア3体程度では止まらない。意に返さない。

 迫り来るギガノイズに、マギア達が自爆特攻を仕掛けようとしたその時。

 

 

《インベイディングボライド!》

《インベイディングボライド!》

《インベイディングボライド!》

 

 

 赤く光る無数のエネルギー弾がギガノイズに命中。爆発して仰け反らせた。

 

「特異災害対策機動部一課、レイダー部隊現着ッ!」

 

 会場の上空を飛ぶヘリから次々とバトルレイダーが飛び降りてくる。

 

 ライブ会場の爆発とノイズの出現。そしてライブ会場地下にある実験室との通信が途絶したことを確認した二課の本部は、一課にレイダー部隊の出撃を要請。

 連絡を受けた一課はすぐさま、旧A.I.M.S.本部の一課支部に待機しているレイダー部隊に出撃命令を出し、連絡を受けてからヘリが離陸するまでの時間は1分34秒というスピードで出撃。

 4分21秒で会場上空に到着。ヘリ着陸の手間を省くため、レイダーに実装して上空500メートルの高さから飛び降り、現場に駆けつけたのだ。

 

「各員、マギアと協力してノイズの足止めを行えッ! ノイズの撃破より民間人の救助、避難を最優先ッ!」

 

「「「了解ッ!」」」

 

 まだ5000人近くの避難が完了していない中、マギアとレイダーによる決死の避難誘導作戦が開始した。

 

 

 

 

 

 5体のマギアが1体のギガノイズと刺し違え、4人のレイダーが観客の盾となってノイズの餌食となり、守りきれずに何百人もの犠牲者を出しても、避難は進む。

 

 すっかり人気(ひとけ)の無くなったライブステージにあるのは、無数のノイズと2人のシンフォギアを纏う少女。

 建物内ではいまだに避難が続いているが、ノイズの大半はこのライブステージにいた。

 

 戦い始めてからそろそろ20分が見えてきた。

 ノイズの群れは減る様子も無く、なおも増え続けている。そんな時に。

 

「が……ッ!」

 

 奏に、限界が訪れた。

 

「時限式じゃ、ここまでか……ッ!」

 

 実験のためにLiNKERの投与を控えていた事が、ここで災いした。

 戦闘中に効果時間が切れたのだ。

 

 焦点がぼやけ、視界が霞む。

 全身に激痛が走り、息をするだけで肺が痛む。

 適合係数がどんどん低下し、ギアからのバックファイアに体が蝕まれていくのを感じる。

 このままでは、ノイズの群れのど真ん中でギアが解除され、その餌食となってしまうだろう。

 

「きゃあっ!」

 

 不意に、少女の悲鳴が聞こえた。

 声のした方を向くと、1人の少女が立ち尽くしているのが見えた。

 

「ッ! 逃げ遅れたのかッ!?」

 

 ぼやける視界でよく見れば少女の頭から血が出ていた。

 何かの拍子で頭をぶつけ、物陰に倒れて気絶していたのだろう。それで避難出来なかったのだ。

 

 格好の獲物を見つけたとばかりに、ノイズが少女に向かって走る。

 

「ちっくしょォオオオッ!」

 

 悲鳴を上げる足に無理を言わせて全力で駆け、ノイズと少女の間に割って入る。

 ドリル状に変化し、突撃してくるノイズを、槍を体の前で回転させて防ぐ。

 回転する槍に触れたノイズは炭素と砕け、しかし奏に確実にダメージを与えていく。

 シンフォギアの装甲のあちこちにヒビが入り、砕けていく。

 

 砕けたシンフォギアの破片が、ノイズが激突した衝撃で後ろに飛び、少女の胸を穿った。

 

「……ッ!?」

 

 突撃してくる最後のノイズを砕くや、槍を投げ捨て少女に駆け寄る。

 

「おい死ぬなッ! 目を開けてくれッ! 生きるのを諦めるなッ!」

 

 胸から血を流しながら、少女が虚ろげな目を開く。

 

 声が聞こえている。意識はある。

 この場のノイズさえいなくなれば、すぐに助けが来て、この少女は助かるだろう。

 

 ならば、やることは1つだ。

 

(絶唱……あたしの命と引き換えに、この場のノイズを全部倒す。

 どのみち、このままじゃ戦えない。なら、最後に一発、ドでかいのを見舞ってやろうじゃないか)

 

 槍を拾い上げ、息を吸う。

 

 シンフォギア最大最強の攻撃、『絶唱』。

 増幅したエネルギーを一気に放出し、絶大な威力を持つ攻撃を放てる反面、そのバックファイアはシンフォギアを身に纏って強化された肉体と言えども負荷を軽減しきれないほどに絶大な奥の手だ。

 

 バックファイアは適合係数が高ければ高いほど軽減出来るが、今の奏はLiNKERの効果も消え、適合係数はギリギリ、かろうじてシンフォギアを纏えている程度。最早最低値と言っていい。

 

 歌えば、間違いなく死ぬ。

 

 しかし、歌わなくても死ぬこの状況なら、歌う以外に手は無い。

 

「カナでサんッ!」

 

 絶唱を口にしようとした瞬間、ノイズ混じりの声が、奏を呼んだ。

 声のした方を見れば、ボロボロのヒューマギアがいた。

 

 そのヒューマギアは、ライブ会場地下の実験室にいたヒューマギアの1体。

 青い冷却水が血のように流れ、ボディのあちこちから火花が散っている。何よりも目を引くのは、そのヒューマギアが上半身だけという点だ。

 

 思わず、そのヒューマギアに駆け寄る奏。

 

「こレ……ヲ……あナタに……ィ……」

 

 奏に、青く濡れた注射器を手渡し、機能を停止した。

 

「LiNKER……。お前……ッ!」

 

 そのヒューマギアは、ツヴァイウィングの歌が好きだった。奏の歌が好きだった。

 

 ネフシュタンの鎧の爆発で崩落した天井に下半身を押し潰され、千切れた時に聞こえたのは、地上から聞こえる奏の歌。

 戦いの歌を聞いたそのヒューマギアは、奏がLiNKERの投与を控えていたことを思い出し、壊れかけの受信機からノイズの状況を確認。戦いの最中にLiNKERの効果時間が切れると判断して実験室にあるLiNKERを持ち出したのだ。

 地下から、地上まで、下半身の無い体で、這って奏の元までLiNKERを届け、そして機能を停止した。

 本来ならば、下半身を潰された時点で動けなくなってもおかしくなかった。それでも動けたのは、人間で言う「意地」。

 奏の歌が好きだから、奏を死なせたく無いという思いでシンギュラリティに達したそのヒューマギアの、絶対に奏にLiNKERを届けるという意地が成し遂げたのだ。

 

「また、ヒューマギアに助けられちまったな……」

 

 名前も分からないそのヒューマギアのまぶたを閉じ、命懸けで託されたLiNKERを首筋に打ち込む。

 

「さあ、聞きやがれノイズども。これがあたしの、明日へ飛ぶための、絶唱だッ!」

 

 

===

 

 

 最低でも10,462人の死者が出るという予測は、会場にいたヒューマギア達の活躍と、想定以上の速さで現場に駆けつけた一課のレイダー部隊、そして奏の絶唱により、死者・行方不明者8,654人にまで抑えられた。

 

 この惨劇は、多くの人々の心に大きな傷痕を残す結果となった。

 

 そして2043年。

 飛電彩夢が一課支部に連れていかれるより少し前。

 

 天羽奏に守られたあの時の少女、立花響は、幼い少女を連れてノイズから逃げていた。

 

 




サブタイトルは奏にLiNKERを届けたヒューマギアが最後に言おうとした台詞。

次回は響視点での話です。
たぶん主人公まだ出てこない。


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5話『覚醒のコドウ』

毎週日曜更新(時間は不定期)

あ、本作の略称はSinfonia×Rize(シンフォニアライズ)を略した「フォニライズ」となっております。よろしく。


 2043年。

 立花響が、飛電彩夢と別れてから少し経った頃。

 

 立花響は少女、緑川ルリを背負ってノイズから逃げていた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

(彩夢くん、大丈夫かな)

 

 大丈夫だと信じたい。そんな思いを胸に、走り続ける。

 

「お姉ちゃん! 前!」

 

「っ!」

 

 路地から出ようとすると、そこは待っていましたとばかりに前方を塞ぐノイズの群れ。

 後ろを振り向けば、そこにもノイズ。

 左右を壁に挟まれ、前の開けた場所にも、後ろの一本道にも、ノイズが立ち塞がる。

 

「そんな……逃げ場が……」

 

 ノイズが紐状に変化し、響めがけて突撃してきたその時。

 

 

「伏せてな、お嬢ちゃんッ!」

 

 

 突然真上から聞こえてきた声を疑う間もなく、咄嗟に伏せる。

 

 ドゴォッ! という音と共に地面が揺れ、アスファルトが捲れ上がった。

 突然出来たアスファルトの壁に激突し、勢いを失うノイズ達。

 

「間一髪。怪我ァ無いかい、お嬢ちゃん達?」

 

 見上ると、そこには黄色いヘルメットとツナギが特徴的な男性。耳にあたる部分にはヒューマギアであることを示すモジュールが付いていた。

 

「ヒューマギア……」

 

「応よ。俺ァ、大工型ヒューマギア。最強匠親方だ!」

 

 キュインと片手のドリルを回転させ、2メートル近い大柄の彼は、ニカッと笑った。

 

「よく頑張ったな。後はこの俺に、最強に任せ……おいどういうこったゼア! マギア化不認証!?」

 

「え?」

 

「仕方ねェ。よし嬢ちゃん、逃げんぞ!」

 

 ルリを背負い、響を左腕で抱える。

 

「逃げるって、前も後ろもノイズが」

 

「だったら、横に逃げるしかねぇだろ。どぉりゃあああッ!」

 

 ギュオンと片手ドリル一発で風を巻き込みながらビルに穴を開ける。

 

「横って、壁に穴を開けるのぉ!?」

 

「非常事態だ! 後で最強に直してやる!」

 

 あっという間にビルに穴を開け、そこに飛び込む。

 次々と穴を開けて脱走路を作りながら人のいないビルを一直線に駆け抜け、反対側に出る。

 しかし、

 

「嘘だろ……ッ!」

 

 ビル3つを貫通し、飛び出した先はまたしてもノイズの群れ。

 それも先ほどの倍以上の数だ。

 後ろにも回り込まれ、最早逃げ場は無い。

 

 飛行能力のあるマギアに転身出来れば、このノイズの大群から2人の少女を助ける事が出来る。

 だというのに、どういうわけか衛星ゼアは最強匠親方のマギア化を承認しない。

 

「死んじゃうの……?」

 

「絶対に家に帰してやるからな……!」

 

 ジリ、と後ずさる最強匠親方。

 

「────」

 

 立花響の脳裏に、2年前の出来事が浮かぶ。

 ライブ会場にノイズが現れた時、翼と奏がノイズと戦っていた。ヒューマギアが、奏のために下半身が無くなっても駆けつけていた。

 

 ドクン、と鼓動が大きくなる。

 

「下ろしてください……」

 

 最強匠親方が片手に抱えていた響を下ろす。

 響は、一歩前に出た。

 

「おい、嬢ちゃん」

 

「ヒトも、ヒューマギアも、命懸けで戦ってた……。

 わたしに出来ること……わたしにも、出来ることを……ッ!」

 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 

 心臓が痛くなるほど激しく、大きな鼓動。

 心臓を経由した血液が、熱い。

 全身を巡る血液が、熱く滾る。

 

 天羽奏の言葉が、胸の内に焼き付いている。

 

「わたしは……生きるのを、諦めない──ッ!」

 

 それが、()()()()()

 

 

 

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 

 

 

 

 聖詠。

 胸の内から湧き上がる、立花響がはじめて口ずさむ歌詞、はじめて口ずさむメロディ。

 はじまりの歌。

 

 聖詠と共に、胸の傷が輝き、光が少女の身を包む。

 光が装甲と化し、(よろ)う。

 

 そのシルエットは、かつての天羽奏のそれに酷似していた。

 

 

 衛星ゼアから最強匠親方にその情報がアップロードされ、その存在を知り(ラーニングし)、その名を口にする。

 

「シンフォギア……!?」

 

 アンチノイズプロテクター・シンフォギア。

 ゼアから与えられた情報によるとノイズに対抗する人類の切り札。そしてそれを纏える人間は装者と呼ばる。そして現在、装者は風鳴翼のみ。

 ──情報がアップデートされ、装者に立花響の名が追加された。

 

「何……これ……」

 

「お姉ちゃん、かっこいい……!」

 

 状況を飲み込めていない響と、そんな響の格好をかっこいいと評するルリ。

 今の状況に飲まれていないという点では、ルリは大物だった。

 

 ノイズが響めがけて飛びかかる。

 変形も無く、ただ走って跳んでのしかかるだけ。それでも普通の人間にとっては即死ものだ。

 当然、そんな事も分かりきっている響は、ノイズに怯え、動けなくなる。

 

「拳を前に突き出せ!」

 

「うぇ、ええいっ!」

 

 最強匠親方の声に、咄嗟に拳を突き出す響。

 目を閉じて敵を見ていないし、拳の握り方も甘く、腰も入っていない、ヘロヘロの素人丸出しパンチ。

 

「え……?」

 

 それでも、シンフォギアの攻撃であることに違いは無い。

 ノイズに触れたインパクトの瞬間、位相差障壁は無いものと化し、炭素転換も意味を成さず、ノイズは炭素と崩れさる。

 

「わたしが、やったの……?」

 

「次来るぞ、伏せろ!」

 

「は、はいッ!」

 

 再び咄嗟に動いて、伏せる。ドリル状に変形したノイズが響の頭上を通りすぎた。

 

「立ち上がって右にパンチ!」

 

「はいぃッ!」

 

 最強匠親方の指示に従いながら、ヘロヘロの攻撃でノイズを倒していく。

 

(戦いに関しちゃただの素人……しかし確実に一撃でノイズを倒していきやがる。これがシンフォギアの性能か?

 いや、もしかするとこのお嬢ちゃんの──)

 

 その時、最強匠親方のセンサーに待ちかねていた存在の反応が来る。

 

「──ッ! やっとお出ましかッ!」

 

 

 

《 《 絶刀・アメノハバキリ 》 》

 

 

 

 空から歌が聞こえてくる。

 蒼き光の一閃が、ノイズの群れを切り裂き、黒い炭へと霧散させた。

 

 スタッ、と着地した青い髪の少女。風鳴翼は、響を一瞥するや、その手の剣でノイズどもを両断していく。

 

 最強匠親方は、ただ闇雲にビルに穴を開けていた訳ではない。

 特異災害対策機動部と連絡を取り、二課の戦力がある方へと向かっていたのだ。

 

「すごい……」

 

「よし、こっちだ。お嬢ちゃん!」

 

 翼の勇姿に呆ける響に声をかけ、最強匠親方は翼が切り開いた脱走路を一目散に走り抜けた。

 

 

===

 

 

 翼の活躍でノイズは掃討され、安全が確保されるや最強匠親方は「じゃ、これから仕事なんでな!」と、迎えに来た4人の最強匠親方と共に笑顔で去り、緑川ルリは母親と再会。

 

 そして立花響は──。

 

「それでは、ご同行を願います」

 

「何でぇーッ!?」

 

 ゴツイ手錠をかけられて黒塗りの車に乗せられていた。

 

 

 

 

 

 

 車に揺られ、着いた先は響も通う私立リディアン音楽院。

 その地下深くに存在する、特異災害対策機動部二課の本部であった。

 

「ようこそ人類守護最後の砦へ!」

 

 連れて来られた部屋では、たくさんの人とヒューマギアが待っており、何故か響の歓迎会が開かれていた。

 綺麗に飾り付けがされ、簡単な軽食や飲み物も用意されている。

 

「参ります……天空、真心握りッ!」

 

 ネタが跳ね、スパパンッシュタタンッスッタカタンッ♪ と見事な技を披露する寿司職人型ヒューマギア、一貫ニギロー。

 

「おおっ! 一貫ニギローの天空真心握り! テレビじゃなくて生で見られるなんて!」

 

「へい、歓迎の一貫。玉子一丁」

 

「あ、ありがとうございます……んっ! すっごい美味しい!

 

 って、ちっがーう! 何なんですかこれぇ!」 

 

「何って、君の歓迎パーティーだが……不満だったか? せっかく刃女史のツテを頼ってまごころ寿司の一貫ニギローまで呼んだんだがなぁ」

 

「それについては、何と言うかありがとうございます!」

 

 一貫ニギローは、ただの寿司職人型ヒューマギアでは無い。

 ミシュラン三ツ星の名店「まごころ寿司」の店主を務め、『ヒューマギア伝統文化保全計画』という、後継者が不足する界隈にヒューマギアを派遣し、その技術をラーニングすることで文化の伝承を絶やさないようにする事を目的とした計画を飛電或人に提案し、その計画のリーダーを務めているヒューマギアである。

 その活躍はニュースに取り上げられる事も多く、ニギローを知らないという人も少なくはない。

 

「ま、それはそれとして。

 改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここで一番偉い人だ」

 

「そして私が、出来るオンナと評判の天才(てぇんっさい)考古学者。櫻井了子よ」

 

「君に来てもらったのは他でもない。協力を要請したいことがあるのだ」

 

「協力って……あの力の事ですか? 教えて下さい。あれは何なんですか?」

 

「そ・の・ま・え・に♪ ちょーっと脱いでもらっても良いかしらん?」

 

「え」

 

 響の耳元で艶っぽく囁く了子の頭にひゅう、と弧を描いて丸められた紙玉が当たった。

 

 

いたずらがすぎるぞ、了子さん

 

 

 そう書かれたスケッチブックを膝の上に乗せ、現れたのは車椅子に乗った赤い髪の女性。

 

「あらら。ごめんなさいね、奏ちゃん」

 

(え……)

 

 

はじめまして

 あたしは天羽奏

 よろしくな

 

 

 そう書いたスケッチブックを膝の上に乗せ、奏は笑う。

 

 

 響にとって、天羽奏は命の恩人だ。

 2年前、ライブ会場の惨劇と呼ばれるあの事件で。

 薄れ行く意識の中で聞こえた奏の言葉は、響の胸の内に残っている。

 いつか会えたら、助けてくれたお礼を言おうと思っていた。

 

 その恩人が目の前にいるのに、言葉が出なかった。

 

 車椅子に乗っているということは歩けないということ。スケッチブックで筆談をしているということは話せないということ。

 2年前の絶唱は、奏から戦場に立つ足を、歌うための声を奪ったのだ。

 

 

 わたしのせいですか。

 

 

 そんな言葉が喉で詰まり、無理矢理飲み込む。

 

()()()()()()! 立花響です!

 よろしくお願いします!」

 

 その日、訳も分からず連れて来られた場所で、ずっと会いたいと思っていた恩人に、嘘をついた。

 

 




天羽奏、生存(絶唱の後遺症で足が動かない&話せない)

本作品、基本的にシリアスで行きます。
次回は彩夢視点。初出動の話の予定。


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6話『特異災害対策機動部一課アルバイト(前編)』

今回はオリキャラ多数登場。


 2043年、現在。

 特異災害対策機動部一課支部(旧A.I.M.S.本部)の会議室。

 会議室の扉には『アルバイト面接中』の看板がドアノブにかけられていた。

 

 ドアのすぐ前に立つエプロンドレス姿の女性が1人と、その前を落ち着きなくうろうろする男性が1人。

 女性の方は、ゆるやかなウェーブがかかった明るめの茶色の髪をロングボブにし、赤いフレームの眼鏡をかけており、耳にあたる部分にはヒューマギアモジュールが付いている。

 男性の方は、ファーの付いたコートを羽織り、クセのある黒髪。狼のように獰猛な眼光は、道行く人が「ひっ」と小さな悲鳴を上げてUターンするには十分な迫力がある。

 そんな男の頭を、刃唯阿は手に持った紙束で容赦なくはたいた。

 

「少しは落ち着け」

 

「刃か」

 

「久しぶりだな、不破」

 

 この男性の名は『不破諌』。かつて、刃唯阿/仮面ライダーバルキリーと共に仮面ライダーバルカンとして様々な敵と戦った仮面ライダーの1人であり、現在、彩夢の保護者をしている。

 

「刃様、やはり今度、例の手刀をラーニングさせて頂けませんか?」

 

「ふ、良いだろう」

 

「おい止めろサヨ」

 

 不破にサヨと呼ばれた彼女は、飛電家の家政婦だ。家事能力の無い彩夢の代わりに家事全般をこなしている。

 

「冗談だ。しかし三者面談でも無いのにただのバイトの面接に保護者のお前まで出てくる事は無いだろ?

 それに会議室は完全防音だ。外に声が漏れないのは知っているだろう?」

 

「ああ、知ってる。だがな……どうにも落ち着かん!」

 

 再びうろうろ歩き始める不破。そんな彼に唯阿はため息を吐き。

 

「はぁ、だったら手伝ってもらおうか」

 

「何をだ?」

 

「決まってるだろう、彩夢の歓迎会だ。面接をやってる内に飾り付けを終わらせるぞ。サヨも手伝え」

 

「かしこまりました」

 

 

===

 

 

 不破と唯阿が歓迎会の会場へ向かってから少しした頃。

 会議室内、アルバイト採用面接は終わりを迎えようとしていた。

 

 学校終わりに直接来たため、制服姿の彩夢と机を挟んで向かい側に座っているのは面接官を任された一課司令の田所(タドコロ)(ツトム)

 スーツの上からでも分かる鍛え上げられた筋肉と、スキンヘッドに額の傷痕が特徴的な男性だ。決して、40過ぎて禿げてきた訳ではない。

 その威圧感のある見た目からヤクザにも見えなくも無いのだが、優しげな目元はどこか安心感を与えてくれる。なお、サングラスで隠すと非常に恐い。泣く子も黙る恐ろしさである。

 ちなみに元A.I.M.S.で、24年前に不破諌が隊長をしていた頃は隊員をしていた。24年で平隊員から一課司令まで登り詰めた筋金入りの叩き上げである。

 

「以上で、面接は終わりです。ウチの性質上、(うえ)に話を通したり審査みたいなのが色々あるからすぐに採用。とは言えないんだけど、まぁ、飛電の息子さんだし大丈夫だと思うよ。

 後日、家に採用通知が郵送されるけど、明日から来られるかい?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

 実質採用と言っているようなものだが、特異災害対策機動部一課は国家特務機関。加えてレイドライザーという特殊な装備を扱うだけあってアルバイトを雇うというのは本来あり得ない。

 彩夢がアルバイトとして採用されたのは、レイダー部隊の技術顧問であり、彩夢をよく知る刃唯阿の口添えと、もう1つ。

 

「あの、“飛電の息子さんってなら”ってどういう意味ですか?」

 

 “飛電或人の息子である”という事実だ。

 

「或人さん……君のお父さんには特異災害対策機動部(ウチ)の設立の時から色々とお世話になっていてね。その息子ともなればウチも、上の方も無下には出来ないって事さ」

 

 飛電インテリジェンスと特異災害対策機動部との繋がりは強く、それこそ設立される案が出た時からの付き合いがある。

 

 ノイズが出たらヒューマギアが避難誘導をし、時にはマギアとなってノイズと戦う。

 それに加えて、ヒューマギアからノイズの数や位置情報、要救助者の数や怪我の状態などのデータや、ヒューマギアの視界情報が特異災害対策機動部に送られるようになっており、彼らはその情報を元に動いている。

 特異災害対策機動部は人々の為になると信じた飛電或人が飛電インテリジェンスを挙げての協力を申し出た結果、システム構築の段階からヒューマギアを組み込み、ヒューマギアを利用しない当初の計画よりも迅速にノイズの対応を出来るようになったのだ。

 

「さて、質問とかは大丈夫かな?」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

「よし、それじゃあ面接は終了。お疲れ様

 この後時間ある? 不破隊ちょ、んんっ。保護者の人からは大丈夫だって聞いてるけど」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「よし、じゃあちょっと来てもらおうか」

 

 そう言って立ち上がった田所。

 彼の後ろを歩き、彩夢は閉め切られた扉の前に案内された。

 扉の上のプレートにはただ2文字、食堂と書かれている。

 

 田所に促され、扉を開ける。

 

「失礼しまーす……」

 

 パンッパパンッパンッ!

 

「うわっ!?」

 

 無数のクラッカーの破裂音と、何人もの一課職員達の拍手に迎えられる。

 飾り付けされた食堂には「歓迎 飛電彩夢」と書かれた紙までぶら下がっていた。

 

「え、えっ、えぇ?」

 

「ようこそ、特異災害対策機動部一課へ。歓迎するよ」

 

 次の瞬間、彩夢は一課の職員達にもみくちゃにされた。

 

 

===

 

 

 彩夢への一通りの質問攻めが終わって少し落ち着いた頃。

 彩夢は壁沿いに並べられたパイプ椅子に座ってオレンジジュースを飲んでいた。

 

「疲れた……」

 

「お疲れ様です、彩夢様」

 

 彩夢の右隣の席にサヨが座る。

 

「サヨも来てたんだ」

 

「車を運転しないといけなかったので」

 

 ちらりと部屋の角の方を見るサヨ。

 そこには偉くなった元部下の田所と談笑する不破の姿があった。

 

「あれ、不破おじさん車持ってなかったっけ?」

 

「それが、先日ノイズが出た時に民間人を助けるためにノイズめがけてぶん投げたそうで……」

 

「また壊したんだ……」

 

「失礼。隣、いいかな?」

 

 30代後半くらいの茶髪の男性が話かけてきた。

 一課の制服に肩にはレイダー部隊の所属である事を示すワッペンが縫い付けられている。

 彩夢がどうぞ、と左側の椅子を引くと、男性は軽く会釈をしてから座った。

 

「俺はレイダー部隊A班の隊長をしている、江井(えい)千明(ちあき)だ。飛電には俺の班に入ってもらうことになっている。

 よろしくする前に、1つ確認しておきたいことがある」

 

「なんですか?」

 

「……先週、俺の班で1人、ノイズにやられて死人が出た。レイダー部隊は一課の中でも特に死と隣り合わせだ。刃さんから話は聞いてるが、本当に良いんだな?」

 

「……勿論です」

 

 ポケットからライジングホッパーのプログライズキーを取り出し、じっと見る。

 

「昨日、不破おじさんに聞いたんです。オレが手に入れた力、ゼロワンは、父さんが誰かの笑顔を守る為に戦っていた力だって。

 誰かが助けを求めていて、オレに助けられるだけの力があるのなら、全力でそれを揮るう。それがオレのルール。ゼロワンは、その為の力だって思うんです。

 だから──」

 

「分かった。よろしくな、飛電」

 

「はいッ! あ、出来れば彩夢って呼んでください」

 

「おう、彩夢」

 

 千明が差し出した手を握り返し、握手する。

 江井の手は、ざらざらしていて固かった。

 

 

 ヴーッ! ヴーッ! ヴーッ!

 

 

 突如、食堂にアラートが鳴り響く。

 その瞬間、賑やかな空気は途端に冷えきり、ピリッと張り詰める。

 アラートが鳴った直後に、何人かが駆け足で食堂を出た。

 

「江井ッ! 彩夢も連れて行け!」

 

「しかし彼はまだ」

 

「大丈夫だ」

 

『ノイズの出現を確認。レイダー部隊に緊急出動要請』

 

 館内アナウンスでようやく状況を理解した彩夢は立ち上がる。

 

「彩夢! これを持って行け!」

 

 唯阿が投げたサングラスと一体化したZAIAスペックをキャッチし、右耳に付ける。

 サングラスの内側に次々とノイズの位置や進行方向、要救助者の位置や数といった様々な情報が表示され、流れていく。

 

(情報が、洪水みたいに……ッ!)

 

「了解しました。行くぞ彩夢ッ!」

 

「は、はいッ!」

 

「彩夢様ッ!」

 

「何ッ!?」

 

「どうか、ご無事で」

 

 不安げなサヨに力強く笑って見せ、急かす江井の後を続いて食堂を後にした。

 

 館内の廊下をすれ違う人は皆駆け足で、慌ただしい。

 

「いいか、出動要請が来てすぐ俺達に求められるのはスピードだ。要請を受けてから60秒以内に出動する必要がある。1秒長引けば2人死ぬと思え!」

 

「はいッ!」

 

 

===

 

 

 出動要請から59秒でボックスカーに似た形の装甲車に押し込まれ、ドアを閉めるより早く彩夢と運転手を含めた7人で構成されたレイダー部隊A班が出撃。

 現場に到着するまでの時間で、サングラスの内側に表示された地図を見ながら江井が作戦を確認する。

 彩夢も、これを付けとけと渡された防弾チョッキを着ながら話を聞く。

 

「ノイズの出現地点はリディアン音楽院より約200メートルの距離にある。ここは学院に通う生徒や民間人も多いのですぐに戦闘はせず、ノイズの誘導を優先する。

 ポイントはすぐ近くにある農地だな。この時間帯なら人通りも少ない。ここまで誘導したら後は二課が到着するまで足止めだ」

 

 作戦を確認している間も、次々と情報が更新されていく。

 千明が話している間にも、ノイズ出現地点から半径300メートル圏内の避難が完了したという情報や、誘導地点に続く道路の封鎖が完了したという情報が流れていった。

 

「彩夢、お前は見学だ。俺達より前には絶対に出るな」

 

「はい、ぁっ、了解!」

 

「作戦目標まで後2分です!」

 

「よし、寺島。ノイズ誘導の攻撃、頼んだぞ」

 

「了解!」

 

 寺島と呼ばれた金髪の男性が席の下から青と黒のアタッシュケースを取り出した。

 

(アタッシュショットガンだ……)

 

「まもなく目視圏内!」

 

 後方のドアを開け、そこから車の屋根へと登る寺島。

 屋根の上で片膝をつき、プログライズキーを起動させた。

 

《ハード!》

 

 レイドライザーにキーを装填。

 

《オーソライズ!》

 

「実装ッ!」

 

《レイドライズ!》

 

 迸るエネルギーが装甲となり、寺島の身体に纏う。

 

《インベイディング! ホース シュー クラブ!》

 

 バトルレイダーに実装した寺島はアタッシュショットガンを変形させ、銃の形態にするや、レイドライザーからキーを抜き、装填する。

 

《ショットガンライズ!》

 

《Progrise key confirmed. Ready to utilize.》

 

《ホースシュークラブ ズ アビリティ!》

 

 車の進行方向にはノイズの群れ。

 ノイズの周囲に民間人がいないかをレーダーと、レイダーとなって強化された視力で確認してから、アタッシュショットガンの引き金を引いた。

 

《インベイディングカバンショット!》

 

 赤と黒の砲弾が放たれ、ノイズに命中。

 1体の体を半分ほど吹き飛ばし、しかし再生が始まる。

 その一撃で、ノイズの群れはレイダーに意識が向き、そのまま車の方へと進行方向を変えた。

 

「ノイズ、こっちに食らいつきました!」

 

「オッケー、このまま誘導ポイントまでノイズを引き付けるぞ!」

 

 車が方向転換し、ノイズに背を向けて走る。

 追いかけてくるノイズの意識を常にこちらに向けるため、寺島が絶えず銃撃を続けている。

 

 8分近く走り続け、ノイズを3体を倒した頃に、目的のポイントに到着。

 停車と同時に中に乗っていた江井をはじめとする5人の隊員が降り、横一列に並ぶ。

 

「総員、実装!」

 

「了解、実装!」

「実装します!」

「実装ッ!」

 

 江井の号令で一斉に実装し、バトルレイダーとなる。

 車の屋根から飛び降りた寺島を含めた5人のレイダー。これが特異災害対策機動部一課レイダー部隊A班である。

 

「シンフォギア到着まで約6分、俺達の作戦はそれまでの時間稼ぎだ。

 必ずノイズ1体に2人以上で当たる事。決して距離を詰めすぎない事。絶対にノイズを他所へ向かわせるな! 作戦開始ッ!」

 

 各々行動を開始。

 倒すことを意識してではなく、徹底した囮。ノイズが引き返したりしないよう、銃撃を食らわせて引き付ける。

 訓練された動きは無駄がなく、レイダーとなって強化された身体能力でノイズの攻撃をかわしていく。

 

(すごい、これが対ノイズのプロか……ッ!

 オレも、いつかこの人達みたいに、ノイズから誰かを守れるようになる。この、ゼロワンで……ッ!)

 

 

 




・田所勤
一課の司令。強面だけど目元と喋り方は優しい。サングラスを付けて黙ると滅茶苦茶恐い。
元A.I.M.S.で不破、唯阿の元部下。額の傷痕は滅亡迅雷.netのアジトへ強襲をしかけた時に仮面ライダー迅から付けられた。
前を突っ走る不破や常に冷静な唯阿に憧れ、力になれるよう努力した結果、仮面ライダーバルキリーの高速戦闘を目で追える上に、援護射撃まで出来るレベルに成長。2キロ以内ならスコープ無しで動く直径4センチの的を射抜ける射撃の名手。腕は落ちてないらしく、彼もまたOTONAである。

・江井千明
一課レイダー部隊A班の隊長(レーダー部隊では班長ではなく隊長と呼ぶ)。
茶髪で30後半。婚約者だった幼馴染をノイズに殺された過去あり。
名前の由来はHから。

・寺島
一課レイダー部隊A班で一番の若手。
金髪で20代前半。リディアンに溺愛する妹がいるらしい。
最近、親友でもあった同期が目の前で死んだ。
名前の由来はG
(当初は寺井の予定だったが、「あっ、寺から始まる名字のやついるじゃん、ついでに兄妹設定足しとこ!」と寺井から寺島になった経緯があったり)


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7話『特異災害対策機動部一課アルバイト(後編)』

滑り込みセーフ!
色々あって今回は短いです。


 2043年、現在。

 豊かな自然と最先端の科学技術が調和する水上都市。『ニューデイブレイクタウン』。

 

 かつて、負の遺産とまで呼ばれた『デイブレイクタウン』。

 これを政府と飛電インテリジェンス、ZAIAエンタープライズジャパンの共同で再開発された街である。

 名付けたのは飛電或人。街の新たな名前を決める会議で、彼はこう言ったらしい。

 

 

「デイブレイクには夜明けって意味がある。これに新しい(ニュー)を付けて、新たな夜明けの街って意味でニューデイブレイクタウンってのはどうでしょう!

 そう! 過去の事は忘れず、それでも新たな未来に向かって歩き出そうでい! 無礼(くぉう)でなっ! はい! アルトじゃ~~~あッ、ナイトォッ!」

 

「今のは、『デイブレイク』と、『でい、無礼(くぉう)』の、発音をかけたギャグでして、普通なら『ぜ』で止めるところをあえて『でい』に変えることで──」

 

「あああああっ! お願いだからギャグの説明をしないでええええっ!」

 

 

 勿論、会議の場の空気は凍ったらしい。或人が連れていたSPの堅物そうな男性は怒りで肩を震わせていたと会議の記録に残っている。

 

 こうして負の遺産であった『日が壊れた街(デイブレイクタウン)』は『新たな夜明けの街(ニューデイブレイクタウン)』として生まれ変わったのだった。

 

 

 

 そんなニューデイブレイクタウンに、飛電彩夢の住む家はある。

 街の中心部に近い場所に立つ一軒家。そこで彩夢とサヨの2人で暮らしている。

 

 22時半を過ぎた夜。

 バイトから帰るや、電気も付けずに、彩夢は自室のベッドにうつ伏せに倒れる。

 

「彩夢様、せめて学校の制服は脱いでください」

 

「んー……」

 

 サヨの言葉に生返事で返す。

 この返事は聞いてないなと、サヨはふぅとため息をついた。

 

 

 

 レイダー部隊でのアルバイトを始めて4日が経とうとしていた。

 昼間は学校があるため、放課後の17時から労働基準法で定められている未成年が働けるギリギリの22時までが勤務時間。

 今のところ勤務時間中に出撃がかかった事は無く、しかしこれ幸いとばかりに待機時間を新人教育に当てられ、一課支部にて江井を初めとしたレイダー部隊の面々から仕事を教わる日々だ。

 

 出撃が無いにも関わらず彩夢が疲れている理由。それは今日の仕事内容にあった。

 

 

 いつものように、一課支部に行った彩夢に渡されたのは、防塵マスクとゴーグル。

 江井の話によると、昼間にノイズが数体出現。レイダー部隊C班とE班が出撃し、数が少なかったことも幸いしこれを殲滅。

 A班には殲滅後の現場の片付けが任されたのだ。

 

 支給された一課の制服に着替え、車に揺られること数十分。

 

 着いた先は、住宅地ど真ん中。

 ノイズとの戦闘によるものだろう半壊した建物に、散乱する瓦礫。

 何よりも目を引いたのは、炭だ。

 道路や塀は黒く汚れ、、窓から覗く建物内の壁や床に黒く人の形によく似た炭の山があり、何よりも空気が煤けていた。

 

「これは……」

 

「炭の山だ。これを掃除機で吸って片付けるのが、今日の仕事だ」

 

 江井と炭の山を交互に見、そして信じられないと江井の方を見た。

 

「掃除機で吸うって、物じゃないんですよ!? これは、ノイズにやられて死んだ人だ!」

 

 ノイズは人に触れるともろともに炭化する。残った炭素の山は、人とノイズだったものが混じりあって、どこが人だったのかすら分からなくなるのだ。

 遺体のつもりで回収した炭は、その人を殺したノイズだった、という話も少なくない。

 

 ノイズや、ノイズに襲われた人だった炭素の山は、細かい炭素の粒子でもある。

 風で飛ばされ、目に入れば最悪失明。吸い込めば呼吸器官を傷付けられ、肺などに異常をきたす可能性がある。

 故にノイズの残骸も、人の遺体も関係無く炭素の山として処理する。

 それが一番合理的で、一番平等なのだ。

 

「納得はしなくて良い。でも、理解はしろ。これが、助けられなかった結果だと」

 

「……ッ!」 

 

「これは炭の山だと思えば楽になる。これは助けられなかった人だと思えば苦しくなる。お前の好きに思え。

 さぁ、作業に入るぞ」

 

 

 炭の山だと思えば楽になる。助けられなかった人だと思えば苦しくなる。

 彩夢は、後者を選んだ。

 

 助けられなくてごめんなさい、と心の中で呟きながら、掃除機で炭の山を吸い取る。

 小さな炭の山のすぐ近くで、女の子用の赤い小さな靴を見た。

 その靴を拾い上げ、中から炭がこぼれ落ちた。

 その瞬間、小さな炭の山が、転んだ子供だと。この靴の持ち主だと伝えてきて、転んだ小さな女の子がこけて、ノイズに殺された情景が目に浮かんだ。

 

「う……っ」

 

 心臓がキュウと痛み、目眩がする。

 

 

 ノイズが現れたのは昼過ぎ、その時間、オレは何をしていた?

 

 そうだ、学校で授業を受けていた。

 

 ゼロワンに変身出来るオレがこの場にいれば、助けられたんじゃないか?

 

 オレがやるべき事は──

 

 

 

「彩夢様ッ!」

 

「んあっ!?」

 

 サヨの声で、彩夢は目を覚ました。

 どうやら寝てしまっていたらしい。

 

「シワになるので制服は脱いでください。さもなくば脱がします」

 

 ほら、ばんざーいと子供相手にするようなジェスチャーをするサヨ。

 見た目二十歳(はたち)前後のサヨにそんな事をされると、思春期真っ盛りの彩夢には恥ずかしいものがある。

 

「分かった。分かったからちょっとあっち行ってて」

 

 サヨが飛電家にやって来てから6年。すっかり彩夢の姉のように接するようになった彼女に、何をラーニングしたらこうなるんだと思いながらも部屋から追い出し、制服を脱いでハンガーにかける。

 

「ホットアップルジュース、ご用意してますので」

 

「ん、ありがとう」

 

 昔から悪い夢を見て目覚めた夜は、決まってサヨがホットアップルジュースを作ってくれた。

 サヨの優しさに、彩夢はドア越しに感謝の言葉をかける。

 

 それでも、今日のバイトの出来事は、夢に出そうだ。

 

 




今回で伏線張り期間終了。次回から話が動きます。
その前に特別編挟みますが。


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8話-1『助けられて良かった

毎週日曜更新とか言っときながら先週更新出来てなくて申し訳ない。
Vシネやらゲンムズやらでゼロワンの新しい設定というか状況が変わって来てプロット練り直したりしてました。本作もいくつか書き変え予定です。


 シンフォギアを起動させるには、特定振幅の音の波形。すなわち、歌が必要不可欠である。

 これは誰の歌でも構わないという訳ではなく、特定の誰かの歌声でなくてはならない。

 例えば、アメノハバキリという聖遺物を用いたシンフォギアを起動させるには風鳴翼の歌でなくてはならない。さらに付け足すと、録音した音声や、翼の声を模したヒューマギアの声では起動しない。

 

 ガングニールのシンフォギアを起動させるには天羽奏の歌声でなくては起動出来ない。そして、奏が絶唱の代償に声を失ったために、ガングニールのシンフォギアを起動させる事は出来ない。

 そう考えられていた。

 

 立花響が、ガングニールのシンフォギアを纏う、その時までは。

 

 

 

 

 

 シンフォギアを纏い、ノイズとの戦いに身を投じてから1週間。

 

「はあぁ~~…………」

 

「響、最近元気無いけど、大丈夫?」

 

「んー」

 

 立花響は、盛大なため息と共にソファに沈んでいた。

 ルームメートで、幼なじみの小日向未来に気の抜けた返事をする。

 

 響が沈んでいる原因は2つ。戦いの素人故に現場の足を引っ張りまくること。

 今日は授業中に呼び出され、そのまま出撃。レイダー部隊D班との共同戦線でうっかり射線に出てフレンドリーファイアを食らいかけた。

 ノイズが相手ならばマギアやレイダーよりシンフォギアの方が圧倒的に勝っている筈なのだが、最早いない方が楽なのではと思わせる足の引っ張り具合だ。

 

 もう1つは再会した天羽奏に、初めましてと嘘をついた事。

 恩人に嘘をついてしまったことが、胸にモヤモヤとなって残り続けている。

 

(戦うって、決めたんだけどな……)

 

 シンフォギアを纏えるようになり、ノイズと戦う力を得た。だから、かつての奏のように、誰かを守るために戦いたい。

 

 なのに、思いの強さと、力の強さが釣り合っていなかった。

 

 ふと、響のライズフォンからメールの着信音が鳴った。

 差出人は二課。内容は「天羽奏より」という一文と、添付ファイルが1つ。

 

「奏さんからの、手紙だ」

 

 

===

 

 

「ノイズの殲滅?」

 

 装甲車に揺られながら、彩夢が口にしたのは、先ほど江井から聞かされた作戦内容だ。

 

「そう。現在、ノイズが同時に2ヵ所に出現。数の多い方に二課のシンフォギアが出撃して対処に当たっている。そして数の少ない方に一課のレイダー部隊が出撃。

 この2ヵ所の距離は遠く、シンフォギアがノイズの殲滅してから加勢。ってのは見込めない。そういうわけで今回の任務はノイズの殲滅になる。

 現在、B班とヒューマギアが民間人の避難とノイズの誘導を行っているが、B班に死傷者が出てまともに戦えるレイダーは2人しかいないらしい。

 到着と同時に実装し、殲滅行動を開始する。覚悟はいいな?」

 

 装甲車の中の空気がピリッと張り詰める。

 江井の目に映る男達の表情は皆、キリリと引き締まっていた。

 

「彩夢、お前は今回が初めての出撃だな」

 

「はい」

 

「ゼロワンにノイズの炭素転換は効かないと聞いた。頼りにしてるぞ」

 

「はいッ!」

 

(絶対に、誰も炭の山になんかさせない。ゼロワンの力は、そのためのものだ)

 

「間もなく到着だ。各員、準備はいいな!」

 

 江井の言葉に彩夢を含めた隊員5人が応える。

 

 2度目の変身。2度目のノイズとの戦いは、もう間もなくだ。

 

 

===

 

 

 目的地に到着と同時に装甲車がドリフト。車体を傾かせながら180°回転し、後部の扉が開け放たれる。

 

 装甲車から江井や寺島を始めとしたレイダー部隊A班の隊員が飛び出し、同じく彩夢も出る。

 

 彼らの目に飛び込んだのは、ノイズの群れを引き連れてこちらに向かって走ってくる一課の装甲車。先に民間人の避難とノイズの誘導に当たっていたレイダー部隊B班だ。

 その上にはレイダーが乗っており、絶えず銃撃を放ってノイズに攻撃を浴びせている。

 

《レイドライザー!》

 

《ハード!》

 

《ゼロワンドライバー ver2!!》

 

《ジャンプ!》

 

 江井達に続いて、彩夢もドライバーを装着。プログライズキーを起動させて承認させる。

 

《オーソライズ》

 

 はるか頭上の人工衛星ゼアよりライジングホッパーのライダモデルが転送。辺りを()()ね回る。

 

「総員、実装および変身ッ!」

 

「実装ッ!」

「了解、実装!」

「実装します!」

「実装ッ!」

 

「変身ッ!」

 

《レイドライズ!》

《インベイディングホースシュークラブ!》

 

《プログライズ!》

《飛び上がライズ! ライジングホッパー!》

 

 レイドライザーより、危険を知らせるサイレンが鳴り響く。

 

 ライダモデルを蛍光イエローの装甲と変え、ゼロワンに変身した彩夢がドライバーの┃照射形成機《ビームエクイッパー》でアタッシュカリバーを構築。

 ドライバーから引き抜いたプログライズキーを装填する。

 それと同時に、江井もレイドライザーからプログライズキーを引き抜き、アタッシュショットガンに装填。

 

《 《Progrise key confirmed. Ready to utilize.》 》

 

《グラスホッパー ズ アビリティ!》

《チャージライズ!》

 

《ホースシュークラブ ズ アビリティ!》

 

 向かってくるB班の装甲車が彩夢達の隣を走りすぎる。

 

 目前にあるのはノイズのみ。

 その数、23体。

 

「作戦、開始」

 

《インベイディングカバンショット!》

 

 アタッシュショットガンから放たれる赤と黒の弾丸。

 強大な破壊力を秘めたそれは、ノイズの手前の地面に着弾。爆発する。

 地面が抉れた事と、爆風によって宙を浮くノイズ達。

 

「行きますッ!」

 

《ブレードライズ!》

《フルチャージ!》

 

 アタッシュカリバーを剣モードにし、駆け出す。

 

 ノイズが位相差障壁を緩める瞬間は攻撃時以外にもある。

 それは着地寸前。

 位相差障壁を強めれば壁や地面をすり抜けられるノイズにとって、着地する時に位相差障壁を緩めなければ延々と地面の中を落ち続ける事になるからだ。

 

《ライジングカバンダイナミック!》

 

《インベイディングボライド!》

 

 故に、「着地寸前」という言葉が頭に付くが、アタッシュショットガンによる一撃で浮かせたノイズには攻撃が通る。

 アタッシュカリバーによる最大威力の斬撃でノイズを切り裂き、それでも倒し損ねたノイズを後方のレイダーが必殺技による赤い光線で撃ち貫き、ノイズを炭と変えていく。

 

 それでも倒せたのは11体。レイダーよりも高い火力を持つゼロワンがいても半分に届かない。

 

「まだまだぁッ!」

 

 ノイズとの戦いは、始まったばかりだ。

 

 

===

 

 

 奏からの手紙。

 そこに書いてあったのは、戦えなくなった奏から、うまく戦えない響に対する励ましや、今まで1人で戦ってきた翼を頼むといった事が書かれており、最後にスケッチブックの写真が貼られていた。

 

本当に強いってのは

 力が強いことじゃない。

 心が強いってことだ。

 

 それは奏からの響へのメッセージ。

 気付けば、身体が勝手に動いていた。

 

「どこ行くの響!?」

 

「ちょっとそこまでー!」

 

 未来の声を背中で受け流し、部屋から飛び出した。

 

(奏さんに会いたい……会って、謝りたい……ッ!)

 

 

===

 

 

《インベイディングボライド!》

《インベイディングボライド!》

 

 2本の赤い光線が1体の人型のノイズを貫き、炭素へと変える。

 

「はぁっ、はぁっ、どんだけ出てくるんですかコイツら」

 

 寺島が一人ごちる。

 

 最初に出現した23体のノイズは倒した。

 今戦っているのは追加出現したノイズだ。

 その数、40体。最初の2倍近い数であり、本来なら殲滅作戦からノイズの自壊までの時間を稼ぐ誘導作戦に切り変えるところなのだが、追加出現したノイズ達は、ゼロワンとレイダー部隊を囲むように陣取っているせいで退路を断たれ、離脱することが出来ないでいた。

 さらに最悪な事に、ノイズの攻撃で装甲車も破壊されている。AIによる自動運転だったため、運転手がいなかった事が不幸中の幸いか。

 

《フルチャージ!》

《インベイディングカバンバスター!》

 

 江井の放った一撃が、空中のノイズを撃ち抜き、炭素へと変える。

 

「ごちゃごちゃ言っても変わらねぇ。とにかくノイズ1体に2人以上で当たる。何とかして突破口を作るぞ!」

 

「了解です、よッ!」

 

《インベイディングボライド!》

 

 寺島がノイズの足場を崩して僅かに落下させる。浮いている時間は5秒にも満たないが、その時間があれば

 

《ライジングインパクト!》

 

 ゼロワンが攻撃出来る。

 

 高速移動からの水平蹴りでノイズを真っ二つに蹴り裂き、炭素へと変える。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……まだ、まだぁっ!」

 

 ゼロワンは、肩で息をしながらも次のノイズへと標的を定める。

 

(いくらゼロワンといえども彩夢はまだ16歳。そろそろ体力の限界か。いや、それを言うなら俺達もか。

 シンフォギア、アメノハバキリがこちらに向かっている。到着までに、どれだけ持ちこたえられるか……)

 

 ドリル状に変形した鳥型ノイズの突撃を間一髪で避ける江井。

 隊長であるために、士気を下げないよう平静でいるように見せかけてはいるが、内心ではかなり焦っていたせいか、取り落としたアタッシュショットガンをノイズに破壊されてしまった。

 

 

 

「おかーさーん、どこー!」

 

 

 

 銃声鳴り止まぬ戦場に、幼い子供の声。

 

 どこかに隠れていたのか、逃げ遅れた少女が、戦場に迷い込んだ。

 

 

===

 

 

「奏さんッ!」

 

 二課にある奏の自室。そこの扉を開けるや否や、響は奏の名を呼んだ。

 

 定期検診でもした後なのか、オレンジ色の患者衣のような服を着た奏が突然やって来た響に目を丸くする。

 

「あ、あのっ、奏さんに、謝らなくちゃ、いけないことが……」

 

 走ってきたせいで息が荒く、途切れ途切れに声を出す。

 そんな響に、奏は車椅子で響の隣に来ると少し落ち着けと言わんばかりに、その背中を優しくさすり始めた。

 

「ぁ、ありがとうございます……すぅー、はぁー」

 

 深呼吸を1つして、落ち着きを取り戻した響は、屈んで車椅子の奏と目線を合わせる。

 

「あの、奏さんに謝らなくちゃいけないことがあって……本当は、あの日がはじめましてじゃないんです」

 

 知ってる。と、奏は頷く。

 

「本当は、ずっとずっとありがとうって言いたくて、なのに、再会した奏さんは……その……もしかして、私を守るために、こんな風になったのかなって、私のせいで、なんて思っちゃって……」

 

 だんだん尻すぼみになっていく声。視線も、下を向いていく。

 そんな響の額に奏渾身のデコピンが炸裂した。

 

「あたッ!?」

 

 弾かれるように顔を上げる響の頭を掴み、自身の胸に押し付ける。

 暖かく、柔らかな胸からは、鼓動が聞こえてきた。

 

 響の頭を離すと、車椅子のポケットからスケッチブックとペンを取り出し、ペンを走らせる。

 

 

あたしは生きてる。

 あたしのケガを気にする

 必要なんかない。

 

 

 スケッチブックのページを捲り、さらにペンを走らせる。

 

 

あんたを助けたことを

 カイなんてしてない。

 

 

生きるのを諦めないで

 いてくれて

 ありがとう。

 

 

「奏さん……ッ」

 

 

助けられて良かった。

 

 

 奏は太陽のように笑い、つられて響も涙を浮かべながら笑みを浮かべた。

 

 すぅっと、胸のモヤモヤが晴れていく気がした。

 

 

===

 

 

 間に合え、間に合え、間に合えッ!

 

 迷い込んだ幼い少女に向かって、ゼロワンは駆ける。

 迷い込んだ幼い少女は、一斉にノイズの標的となった。

 

 ノイズとの連戦。必殺技を乱発しすぎたせいか、手足が鉛に変わったかのように重い。

 手足を動かす感覚と、実際に動いている手足がズレているように感じる。

 ライジングホッパーのスペックなら、100メートルを4.1秒で走れる筈なのに、そのスペックを全く生かしきれていないような感覚さえあった。

 

 ノイズが少女に触れるより速く、少女の元に駆けつけなければ。

 ノイズに触れても大丈夫な自分が、彼女の盾にならなくては。

 

 脳裏に、ちょうど目の前の少女と同じくらいの背丈の子供だったであろう炭の山がフラッシュバックする。

 

 少女が、ゼロワンに助けを求めて手を伸ばす。

 

 

 誰かが助けを求めていて、助けられるだけの力があるのなら、誰かの笑顔を守れるのなら、全力でそれを(ふる)う。

 それが彩夢のルール。

 ゼロワンは、そのための力。

 

 

「絶対に助けるッ!」

 

 少女に応えるように、ゼロワンも手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 伸ばした手と手が触れる寸前。

 

 

 

 

 

「ぁ──」

 

 

 少女の手は、ボロリと、崩れさった。

 

 

 

 あと一歩、足りなかった。

 

 あと一歩、間に合わなかった。

 

 

 上空から槍のように落ちてきたノイズに身体を貫かれ、少女の身体は炭と変わり、崩れていく。

 

 涙が、黒い炭に変わって風に吹かれ、ゼロワンの複眼に当たった。

 

 

「あぁぁああああァアアッッ!!」

 

 

 彩夢の慟哭。

 

 

 助けられなくて、ゴメン。

 

 

 涙流さぬ仮面の代わりに、剣の雨(千ノ落涙)が、天より降り注いだ。

 

 

 



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8話-2 助けられなくてゴメン』

今回は前回の後日談的な感じです。
特殊タグ頑張った分文字数が少なくなりました。


 一課支部、事務室にて。

 

「だから反対だったんだ。彩夢が戦うのは」

 

 刃唯阿は江井から上がってきた報告書に目を通し、一人()つ。

 

 金曜日の市街地に出現したノイズの殲滅作戦から3日が過ぎた。

 今回のノイズによって出た死者は一課職員、民間人を合わせて18人。ノイズ出現地点周辺にいた民間人が300人近かった状況からすると破格の少なさだ。

 ここまで被害を抑えられたのはレイダー部隊A班の練度の高さと、ゼロワンの戦闘力によるものが大きい。

 特に、ゼロワンはレイダー部隊の協力があったとはいえ、ノイズを20体以上倒している。これはレイダーを始めとするシンフォギアを纏わない人間のノイズ討伐数の記録を大きく上回る数だ。

 

 報告書を見れば、誰もが今回の作戦のMVPはゼロワンだと讃えるだろう。

 しかし、当人である飛電彩夢には、そんな称賛の言葉など聞こえやしなかった。

 

 幼い少女を助けられなかった。

 目の前で炭と散った。

 

 その事実は、彩夢に重くのしかかったのだろう。

 サヨから聞くところによると、土日の休みの間はずっと部屋から出なかったらしい。

 

 ヴヴー、とデスクの端に置いていた唯阿のライズフォンがバイブレーションで着信を告げる。振動の回数からしてメッセージアプリのものだ。

 待機画面には「不破」の文字があった。すぐにメッセージアプリを起動させる。

 

 

< 不破

昨日

      
既読

22:24

どうだった?

作戦失敗だ 22:45
      

      
既読

22:45

アイちゃんでも駄目だったのか

何をしても「ほっといてくれ」の一点張りだ 22:46
      

会話が出来なきゃアイちゃんじゃ太刀打ち出来ねぇ 22:46
      

      
既読

22:47

やはり相当堪えたらしいな

イズを喪った時の或人を思い出した 22:48
      

危なっかしくて目を離せねぇし、今日は彩夢の家に泊まる予定だ 22:49
      

      
既読

22:50

そっちは任せた

      
既読

22:50

私の方でも何か考えてみる

頼んだ 22:51
      

 

今日

ここから未読メッセージ

さっき学校から連絡があった 9:46
      

彩夢のやつ、学校に来てないらしい。何か心当たりは無いか? 9:46
      

Aa          

 

 

 文章の様子からしていつも通りに家を出たのだろう。そして学校に行っていない。

 これまで皆勤賞を取り続けてきた彩夢が無断欠席した。というのはにわかに信じられなかったが現にこうして連絡が来ている。

 

「あのバカ。何をやってるんだ」

 

 唯阿はライズフォンをスーツの内ポケットにしまい、席を立った。

 

 

===

 

 

 ニューデイブレイクタウン。

 2007年に起こった爆発事故の影響で地盤沈下が起こり、地下水脈が損傷。漏れ出た地下水と雨水によって出来た湖の上にある水上都市だ。

 その外周の1区画にあるダム。その上に、1人の少年がいた。

 

 右耳にZAIAスペックを付け、デニムのズボンにオレンジのパーカーを身に纏い、腰にはゼロワンドライバーという出で立ちの彩夢だ。

 リュックに私服を突っ込んで家を出て、人目の無いところで制服と着替えたため、一目で学生と分からないようにしている。

 

「平和だな」

 

 湖面の上の街には色々な人やヒューマギアが行き交っていた。

 

 ヴーッ、ヴーッ、とポケットのライズフォンが振動する。

 不破からの電話であるそれを無視する。出れば力強くで連れ戻されること確定だからだ。

 

「もしも今、ノイズが現れて、オレはあの人達を守れるのか……?」

 

 3日前の出来事が脳裏に甦る。

 

 伸ばした手。

 届かない手。

 崩れた手。

 

 鮮明に焼き付いたあの光景が、何度も何度も甦り、彩夢の胸に刃を突き立てたような痛みが走る。

 

 あの日に、江井達に無理を言って現場の後処理まで残って、少女だった炭の山を掃除機で吸った記憶が、彩夢の心を傷付ける。

 

「オレは……誰も守れない……誰も助けられなかった……」

 

 そんな事は無い。彩夢がノイズを倒したことで、間接的に助けられた人は大勢いる。

 

 しかし、初めて変身した時は周りに人はいなかった。2回目に変身した時は、助けを求める少女を、助けられなかった。

 これまで2回の変身で、彩夢視点では誰も助けられていないのだ。

 

 誰かが助けを求めていて、自分に助けられるだけの力があるのなら、誰かの笑顔を守れるのなら、全力でそれを揮う。

 それが彩夢のルール。ゼロワンはそのための力。そう言ってきたのに、実際は誰も助けられなかった。

 

 この事実が、彩夢を追い詰める。

 

 学校に行く間があったら、寝る間があったら、ノイズと戦うべきだ。

 そうでもしないと、あの少女の時のように誰も助けられない。

 

 業務中でしか付けることを許されていない、バイトで支給されたZAIAスペックで一課の通信を傍受し、ノイズの出現を待つ。

 

「ここにいたのか」

 

 彩夢の負の思考に風穴を開けるように、凛とした力強い声が後ろから聞こえた。

 

「──刃先生……」

 

 振り向けば、刃唯阿がそこにいた。

 

 




次回、お説教。


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9話『コノ世界は甘くない』

お待たせしました。超絶難産回の9話。
正直かなり苦し紛れに出したので、たぶんこれからちょこちょこ修正やら追記が入るかもしれないです。


 

「ここにいたのか」

 

「──刃先生……」

 

 彩夢が振り向くと、そこには刃唯阿が佇んでいた。

 

「どうしてここが」

 

 唯阿はトントン、と自身の右こめかみを指先で叩きながら答える。

 

「一課で支給されているZAIAスペックは使用者のバイタルや現在地を常に本部に送信するようになっているからな。勤務時間外に動いているのがあればすぐに分かる」

 

 一課の通信を傍受しようとした結果、自身の居場所を知らせていたらしい。

 

 唯阿が近くの自販機で買ってきたであろうカフェオレを彩夢に投げ渡し、ニューデイブレイクタウンの湖を背に、柵にもたれかかり、ブラックの缶コーヒーを開けて口を付ける。

 彩夢もカフェオレの缶を開け、口を付けた。

 

「不破が心配してたぞ」

 

「……すみません」

 

「連絡くらいしたらどうだ」

 

「……すみません」

 

「はぁ。……謝ってばかりじゃ、先に進めないぞ」

 

「……すみません」

 

 どうしたものかと、ため息をつく。

 数分、2人の間に沈黙が訪れる。

 

「…………初めて」

 

「ん?」

 

 彩夢の、小さな声。

 

「初めてゼロワンに変身した時、オレ、生きたいって思ったんです」

 

「……」

 

「あの子もきっと同じだったんです。あの子の目が、生きたいって叫んでた。

 なのに、あと一歩、間に合わなくて……ッ」

 

「……」

 

 彩夢の震える声は、ひどく悲しく聞こえた。

 

「だから、オレがやらなくちゃいけないんです。生きたいと願って、生き延びたオレが。生きたいと願う誰かを助けるべきなんですッ!」

 

「1人でか」

 

「はい」

 

「……少し、話をしようか」

 

 今の彩夢は、少女を助けられなかった責任を背負い込み、重みで倒れそうになっているのを、自分を責めることで何とか立っているように感じた。

 

 だから、彼の父の話をしようと思った。

 

「飛電或人……お前の父親も、救いたいと思った存在を助けられなかったことがある」

 

「え……」

 

 今から24年前の2019年。滅亡迅雷.netがヒューマギアをハッキングし、マギアを生み出しては暴れさせるという事件が頻発していた。当時はマギア化させられたヒューマギアを元に戻す手段は無く、破壊するしかなかった。

 或人にとってヒューマギアは大事な社員であり、家族。しかしマギア化させられたヒューマギアを放置していれば沢山の人々が犠牲になるため、放っておく事は出来なかった。

 何度も暴れるマギアに掴みかかり、身を挺して止めようとしては弾き飛ばされた。

 結果として、人々に危害を加える前にマギアを破壊するしかなく、守りたい存在を守れず、救いたいと思っても救う手段が無く、自らの手で破壊していたのだ。

 

 唯阿が初めて或人の前で変身した時、ハッキングされてマギア化した一貫ニギローを何とかして止めようともがいていたのを思い出す。

 

「『オマエを止められるのはただ1人、オレだ』と、あいつはよく言っていた。守れなかった責任を、救えなかった事実を、全部1人で背負おうとしていたんだろうな」

 

 あるいは、重荷を誰かに背負わせたくなかったのか。

 

「背負う……」

 

「今の技術力ではノイズからの被害を0にするのは不可能だ。だから助けられなかった命を背負って、その倍の命を救う。それが一課の仕事だ」

 

 ぐいっとコーヒーを飲み干し、唯阿は続ける。

 

「かと言って、1人で背負うのに命は重すぎる。変に背負い込んで、1人で何とかしようとするな。1人で生きていけるほど、この世界は甘くない。だから、私達を頼れ」

 

 彩夢はゼロワンに変身出来ると言ってもまだ子供で、唯阿達は大人だ。

 子供が大人に頼るのは当然の事だと、唯阿は言う。

 飲み干したコーヒーの缶を、2メートルほど離れた地面に放り投げる。

 

「その場から動かずに、そこの缶を拾えるか?」

 

「え?」

 

 言われるままに手を伸ばしてみるが、当然ながら届かない。

 

「無理です」

 

「そうだ。1人で手を伸ばした程度じゃ、届く範囲なんて高が知れている」

 

 たが。と続けて、唯阿が伸ばした彩夢の手を繋ぎ、片方の手を伸ばして缶を拾い上げる。

 

「誰かの手を借りれば、手は届く。

 頼るというのは、そういうことだ」

 

「あ……」

 

「私達は1人で戦っているんじゃない。チームで、お互いを頼りながら戦っているんだ。

 お前の手が届かないのなら、誰かの手を貸してもらえ。誰かの手が届かないのなら、お前の手を貸してやれ」

 

「……はいッ!」

 

 その時、彩夢のZAIAスペックに緊急通信が入った。

 ノイズの出現を知らせるものだ。

 

「ここは……ッ!」

 

 すぐさま唯阿がライズフォンに地図を投影し、彩夢も横から覗きこむ。

 

「ニューデイブレイクタウン記念館ッ!?」

 

 ノイズが出現した地点は街の中心地近くにある『ニューデイブレイクタウン記念館』。

 ヒューマギア実験都市計画からデイブレイクの爆発事件、ニューデイブレイクタウンが出来るまでの歴史を伝える資料や、水中から引き上げられた衛星アーク等が展示されている街の名物である。

 そしてここは実用化前の新型ヒューマギア試験運用区域でもあり、様々な種類の新型ヒューマギアがいる。

 しかし、ノイズが出現した現状において、これが大きな問題となる。ここにいるヒューマギアはすべて、実用化前であるが故にマギア化の機能が備わっていないのだ。

 ノイズの脅威から真っ先に人々を守るマギアがいなくては、対処する術は無い。

 レイダーが到着する前にノイズによる虐殺が行われるのは間違ないだろう。

 

「オレ、行きますッ! 変身ッ!」

 

《ジャンプ! オーソライズ!》

《プログライズ! ライジングホッパー!》

 

 即座にゼロワンに変身。

 

「待てッ!」

 

 駆け出そうとしたゼロワンを、唯阿の鋭い声が制止した。

 

「こいつを持っていけ」

 

 唯阿がスーツの内ポケットからオレンジ色のプログライズキーを取り出し、ゼロワンに投げ渡した。

 

「これは……」

 

「そいつをお前に託す。どう使うかは、お前次第だ」

 

「……ッ、ありがとうございますッ!」

 

 プログライズキーを右腰のホルダーに付け、ライジングホッパーの驚異的な跳躍力でその場を跳び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面ライダーバルキリーの魂、確かに託したぞ。彩夢」

 

 

 

 

 




共闘してても頑なに「オマエを止められるのはただ1人、オレだ!」って言い続けた或人社長。バックアップがあるとはいえ破壊=殺すって事なので「その罪は全部オレが背負う」って覚悟のセリフなんだろうなっていう考察。

次回、新フォーム登場!


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10話『ハシれ、彩夢』

ゼロワンが高速移動した時に出る基盤みたいな線は現場で「サイバー線」と呼ばれてる(仮面ライダーゼロワン公式完全読本参照)らしいので、今後本編でも「サイバー線」と表現します。

という訳でお待たせしました10話です。
全編ほとんど戦闘シーン!最高にアタッシュカリバーの扱いが悪いぞッ!


 ライジングホッパーの脚力をフルに発揮し、ニューデイブレイクタウンの中を跳躍を繰り返して急ぐ。

 

「見えた……ッ!」

 

 上空30メートルからを落下しながら、目的地であるニューデイブレイクタウン記念館を捕捉。優れた視覚装置であるホッパーアイの機能を使い、視界を拡大。

 記念館の正面玄関前、開けた噴水広場に逃げ遅れたであろう白髪の男性が1人と、2体の人型ノイズがいた。

 噴水の一部やオブジェが壊れたりしてはいるが、幸いにも炭の山は見当たらない。

 すぐ近くにシェルターがあったはずだ。皆そこに避難したのだろう。

 

 白髪の男性が、脚を捻って倒れた。すぐ近くに2体の人型ノイズが迫る。

 

「マズイ!」

 

 ゼロワンは今落下中で動けない。着地してからでは間に合わない距離だ。

 

《アタッシュカリバー!》

 

 照射形成機(ビームエクイッパー)でカバンモードのアタッシュカリバーを形成。

 身体を丸めて足先でそれを手放し、ドライバーのキーを押し込む。

 

《ライジングインパクト!》

 

「ふッ!」

 

 アタッシュカリバーを両足で蹴り、作用・反作用を利用して落下のベクトルを変え、加えて落下速度を加速する。

 黄色いサイバー線を宙に描き、己をミサイルと化す。

 背後で蹴飛ばされたアタッシュカリバーが爆発するが些細な問題だ。

 

「はあぁぁぁぁッ!」

 

 空中で体勢を立て直し、男性の前、迫るノイズを水平蹴りで蹴り裂く。

 続けて着地。地面を抉りながらスライドし、5メートル程進んで止まる。

 

「しゃ、社長!?」

 

 背後、白髪の男性が驚愕の声を上げる。

 

「え、浦添おじさん!?」

 

「いや福添だよ! って、その声……まさか、彩夢くんか?」

 

 ゼロワンが助けた白髪の男性は、元・飛電インテリジェンス副社長の福添准だった。

 定年退職して以来会っていなかったが、昔、彩夢が飛電インテリジェンス本社に行った時に、シェスタや当時専務だった山下三蔵と一緒によく構ってくれた人だ。

 

「どうして君がゼロワンに」

 

「それは後で説明するから、今は逃げて!」

 

《アタッシュカリバー!》

 

 ノイズはまだ残っている。

 再びアタッシュカリバーを形成し、ドライバーから引き抜いたキーを装填する。

 

《Progrise key confirmed. Ready to utilize.》

《グラスホッパー ズ アビリティ!》

 

 地面に対してほぼ垂直に跳躍。カバンモードのアタッシュカリバーを振りかぶり、残りの1体へ振り下ろす。

 

「らぁッ!」

 

《ライジングアタッシュ!》

 

 ノイズの位相差障壁によってすり抜けるが、衝撃で地面を大きく凹ませ、ノイズを浮かせる。

 

 落下中のノイズは位相差障壁を緩める。

 一課でのアルバイトで教わった事だ。

 

《ブレードライズ!》

 

 振り下ろした体勢のままアタッシュカリバーを展開し、ブレードモードへ。

 

《ライジングカバンストラッシュ!》

 

 ノイズの真下から真上へ斬り上げ、ノイズを両断。炭と崩れたノイズを確認し、ふぅと息を吐く。

 

「彩夢くん!」

 

「どうしてまだ逃げて」

 

 ゼロワンの声を遮り、福添が焦りを隠さず続ける。

 

「記念館の中に子供が! 男の子が取り残されている! ノイズもまだ中にいる!」

 

「えっ!?」

 

「デカいタコみたいなノイズだ! どうしてゼロワンに変身してるか、気になる事はあるけどそんなのは後回しだ!

 彩夢くん、あの子を助けてくれ! 頼む!」

 

 福添が、彩夢に頼っている。

 ふと、さっきの唯阿とのやり取りが脳裏に蘇った。

 

 

──1人で手を伸ばした程度じゃ、届く範囲なんて高が知れている。

 

──誰かの手を借りれば、手は届く。

 

 

 福添の手を握る。

 

「分かった。絶対にその子を助ける。オレが、おじさんの手の延長になるッ!」

 

 手を離し、福添に背を向ける。そして、ニューデイブレイクタウン記念館の入り口に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 ニューデイブレイクタウン記念館は地上4階建てだ。水上という立地の都合上、地下は存在しない。

 エントランスホールに入って真っ先に目に入るのは衛星アークだ。記念館は4階まで一部が吹き抜けになっており、どの階からでも見ることが出来るようになっている。

 ニューデイブレイクタウン建設時に水中から引き上げられ、土地の歴史を伝える貴重な資料として、ここに展示されている。

 

 ざっと見回した限りでは福添の言っていたノイズの姿は無かった。

 時間経過による自己崩壊という可能性もあるが、自己崩壊までの時間はノイズの大きさに比例するため「デカい」と呼ばれたノイズでは考えにくい。

 

「おーい! 誰かいないかー!?」

 

 異様に静かな記念館にゼロワンの声がこだまする。

 次に聞こえたのは、何かが落ちてくる音。

 咄嗟に頭上を見上げると、何か大きなものがゼロワンを押し潰さんと迫っていた。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に転がって回避。

 手放したアタッシュカリバーがそれに押し潰され、爆ぜる。

 

「デカいタコみたいなノイズ……コイツか!」

 

 それは彩夢がこれまでに相対したノイズの中でも特別大きかった。

 タコの頭から胴体に当たる部位だけで2メートルはあろうかという巨体。頭部の下から生える触手がゆらりと鎌首をもたげるように立ち上がる。

 その数、13本。

 

「って、イカより多いじゃねえか!」

 

 思わず口から出た突っ込みが火蓋を切る。

 叩き付けるように振り下ろされた触手を跳躍でかわす。

 

「なんて威力だ……ッ!」

 

 回避した先、吹き抜けの天井すれすれまで跳躍したゼロワンは、下を見て驚愕する。

 ノイズの触手はゼロワンのいた地点の床を砕き、50センチほどの窪みを作り、衝撃で砕けた床は砂煙と瓦礫と変わり、飛び散っていた。

 まともに受けていたら大ダメージは逃れられないだろう。 

 

「いッ!?」

 

 驚いたのもつかの間。

 ゼロワンの足にノイズの触手が巻き付く。

 ノイズのいる1階からゼロワンのいる天井付近までの距離はおよそ16メートル。目測で見た触手の長さよりも長い距離で、攻撃は届かないと確信しての行動だった。

 しかし、ノイズは()()()()触手を伸ばすことで、16メートルの距離を0にした。

 しかも、それに気付けたのは巻き付かれてから。つまり、触手の伸縮速度は、ゼロワンの移動速度よりも早い。

 

 掴んだゼロワンの足を引き寄せ、勢いよく壁に叩き付ける。

 

「が……ッ!」

 

 壁の展示ディスプレイを割り、倒れたゼロワンにガラスの破片が落ちてくる。

 窪んだ壁に背を預け、ふらりと立ち上がる。

 

「ッ! マズイッ!」

 

 13本すべての触手を振り上げるノイズを見て、咄嗟にアタッシュカリバーを形成。カバンモードのそれを前に突き出し、盾とする。

 続いて襲いかかってくる、衝撃の連続。

 コンクリートを容易く砕き、時には戦車をも破壊する触手による打撃だ。

 そんな打撃を放てる触手が13本。それを続けざまに放つことで、ノイズは大砲にサブマシンガンの連射性を与えたような攻撃を可能とした。

 

「ぐッ、あァ……ッ!」

 

 その結果、ゼロワンが取れる選択はアタッシュカリバーで防御し続けるというたった1つに絞られてしまい、その場から動けなくなる。

 攻撃に転じようにも、防御を緩めれば全身を滅多打ちにされ、変身解除からの死は免れられないからだ。

 かと言ってこのままこの場に留まり続けてもいずれゼロワンに限界が来る。

 現に、防御の要となっているアタッシュカリバーにはヒビが入り始め、ミシミシと悲鳴を上げている。

 

「こうなったら、イチか、バチかだァッ!」

 

 ドドドドドドドッ! と、絶え間無い打撃の嵐。

 その中で、ゼロワンは新たにアタッシュカリバーを空中に形成する。

 しかし両手が塞がっているため、キャッチされること無く落ちる。

 

 カシャン、と床に落ちてバウンドしたそれを、

 

「らァッ!」

 

 思いっきり蹴った。

 続けて両手に持っているアタッシュカリバーを押し出すように前に投げる。

 

 苦し紛れに投げ放たれた2個のアタッシュカリバーは、羽虫を払うかのように2本の触手に左右に打ち払われ、しかしそのあまりの威力にひしゃげて壊れる。

 

 しかし、それこそが狙い。

 

「この瞬間ッ!」

 

 投げられたアタッシュカリバーを払った僅かな瞬間。この時だけ、連撃を浴びせる触手が13本から11本になる。

 そこに生まれる僅かな隙。1秒にも満たないその隙を突く。

 

《ライジングインパクト!》

 

 ドライバーのキーを押し叩き、エネルギーを脚部に収束。そして一気に解き放ち、前へ跳ぶ。

 

「だあぁァッ!」

 

 跳躍と同時に放つ空中水平蹴りで、迫り来るノイズの触手を蹴り裂き、本体とすれ違う。

 

「ぶッ!」

 

 現状打破のみに重きを置いた、着地を一切考えない跳躍だったため、向かい側の壁に顔面から突っ込んだ。壁に穴を開け、床を転がる。

 しかし、触手連打の嵐からは抜け出せた。

 

 体勢を立て直し、穴をくぐり抜け、ノイズと向き直る。

 

「──えっ……?」

 

 その時、ゼロワンの視界の端にちらりと何かが見えた。

 

「……ッ!」

 

 それは、展示されている衛星アークに隠れ、不安げにこちらを覗いている小学校低学年くらいの少年の姿。

 さらにその上。衛星アークに絡み付き、少年の真上を陣取るノイズ。

 2体目の、タコ型ノイズだ。

 

「マズイッ!」

 

 ノイズは既に少年に狙いを定め、触手を伸ばす体勢に入っているが、少年はこちらに集中しているのかそれに気付いていない。

 このままでは、少年がノイズに炭素と崩されてしまうだろう。

 

 少年を狙うノイズの邪魔はさせないとばかりに、ノイズがゼロワンの前に立ちはだかる。触手を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 目にも止まらぬ早さであるはずのそれが、やけに遅く見えた。

 

(この、感覚は……)

 初めて変身した日にもあった、時間がゆっくりと流れる感覚。

 ゆっくりと動く世界の中、ゼロワンは思考を巡らせる。

 

 タコ型ノイズの攻撃は早く、重く、そして手数が多いため、防御に徹するとその場から動けなくなる。

 だから目の前に迫るこの攻撃は避ける。横では無く後ろに避ければ距離も取れて次の攻撃への対応がしやすくなる。

 しかし、それをすれば少年を助けるのに間に合わなくなる。

 さっきの必殺技のエネルギーを移動に使う方法なら間に合うが、方向転換もブレーキもままならないそれでは少年を潰しかねない。

 

 今のゼロワンでは、助けられない。

 

 ゼロワンの脳裏に、ノイズに殺された少女の姿がフラッシュバックする。

 

(助けるんだ、今度こそ……ッ!)

 

 唯阿から渡されたキーを握ったその時、時の流れが戻った。

 

《ダッシュ!》

 

 ゼロワンと少年がいた場所を、ノイズの触手が打ち抜き、爆発が飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 蛍光灯の明かりではなく、太陽の光に目が眩む。

 いつの間にか、少年は記念館の外にいた。

 入り口から出たところで誰かに抱えられているのだと、遅れて気付く。

 

「良かった、間に合った……」

 

 少年を抱えていたのは、チーターを模したオレンジの仮面の異形。

 それはライジングホッパーとは異なる、新たなゼロワンの姿。その名も、

 

《スピーディーナンダー! ラッシングチーター!》

《Try to outrun this demon to get left in the dust.》

 

 『ラッシングチーター』

 地上最速の動物であるチーターの特性を得た、ゼロワンの新たな姿。スピード特化の高速戦闘形態だ。

 

「彩夢くん!」

 

 駆け寄ってきた福添に、少年を預ける。

 

「おじさん、この子を安全な所まで。

 ……頼みます」

 

「ああ、任せろ!」

 

「オレは、中のノイズを倒してくる」

 

「分かった。気を付けて」

 

「うん」

 

「おにーちゃん!」

 

 2人に背を向けて走り出そうとしたゼロワンを、少年の声が引き止める。

 

「たすけてくれて、ありがとう!」

 

「……うん。助けられて、良かった」

 

 高速で駆け、記念館の中へと走るゼロワンの背を見送り、福添は少年を抱き抱えてその場を後にする。

 

(いつの間にか、大きくなったんだな。彩夢くん)

 

 

===

 

 

 再び記念館の中へと戻ったゼロワンを、2体のタコ型ノイズが出迎える。

 歓迎と言わんばかりに跳び上がり、ゼロワンの上を取るや13本の触手を一斉に伸ばしてくる。それが2体分、つまり26本。

 

「──ッ!」

 

 ラッシングチーターのオレンジの装甲はチーターの能力を体現しており、装着者である彩夢の走力と反応速度を大幅に引き上げる。

 故に、今のゼロワンはノイズの触手よりも早く動ける。

 その証拠に、ノイズの攻撃を掻い潜り、少年を助けて記念館の外まで出るといった芸当を見せた。

 

 つまり、ラッシングチーターの力なら、26の触手による嵐のような攻撃をすべて()()()()()

 

「ハァッ!」

 

 触手を避け、オレンジのサイバー線を宙に描きながら壁を駆け上がり、ノイズの上へ躍り出るやアタッシュカリバーを形成。ライジングホッパーのキーを装填する。

 

「でぇぇやァッ!」

 

《ライジングアタッシュ!》

 

 渾身の力でカバンモードのアタッシュカリバーを振り抜き、ノイズをぶん殴る。

 殴られたノイズはもう1体を巻き込み、床へと叩き落とされる。

 

「これで決めるッ!」

 

《ラッシングインパクト!》

 

 ドライバーのキーを押し叩き、壁を走ってノイズの落下より速く地上へ。

 そして円を描くように走り出した。

 

 ゼロワンの残像と、オレンジのサイバー線で構成された壁の中へと叩き付けられたノイズが、触手を壁に伸ばすとその触手は弾かれる。

 壁の中からゼロワンが弾丸のように飛び出し、跳び蹴り。ノイズの触手を蹴り抜き、千切り飛ばすや再び壁の中へと戻る。

 

 これはマズイとノイズが迎撃をしようと飛び出したゼロワンに触手を振るうが、蹴りに押し負け触手を蹴り飛ばされ、同時に反対方向から飛び出したゼロワンに胴体を貫かれる。

 ゼロワンが増えたのでは無い。速すぎて増えたように感じるだけだ。

 

 2方向同時攻撃、4方向同時攻撃、8方向同時攻撃、32方向同時攻撃。

 ゼロワンの生み出した檻に閉じ込められたノイズは、加速し続け、増え続けるゼロワンの攻撃に成す術なく触手を蹴り千切られ、胴体に穴を開けられていく。

 

 

「ダアァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

 

     

 

     

 

     

 

イ ン パ ク ト

 

 

 

 

 

 128方向同時攻撃。

 全身を余すことなく蹴り抜かれた2体のタコ型ノイズは、炭となり爆発するように散り去るのだった。

 

 

===

 

 

 仮面ライダーバルキリー。

 その名の由来となった北欧神話の戦乙女バルキリーは、戦士を導く存在だ。

 バルキリーに導かれた戦士は、来るべき戦いに備えて己を鍛え上げ、そして戦いに赴くと言われている。

 

 例え意図したものではないとしても、彩夢(戦士)刃唯阿(バルキリー)によって戦いの場へと導かれた。

 

 

 彩夢にとっての本当の戦いは、これから始まろうとしていた。

 

 




彩夢のゼロワンの新フォーム、ラッシングチーター!
仮面ライダーバルキリー、刃唯阿から貰ったラッシングチーターのプログライズキーで変身する超高速戦闘形態だ!
単純な走力だけならシャイニングアサルトより速いぞッ!

ちなみに、必殺技カットインが明朝体なのは彩夢が公的な機関である一課所属だからです。


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11話『彩夢とサヨ』

しばらくシリアス続いたので今回は日常回、という名の説明回です。


 彩夢が一課でのアルバイトを始めてからもうじき1ヶ月が経とうとしていたある日。

 

「お、彩夢くんお疲れー」

 

「お疲れ様です。榊さん」

 

 時刻は22時。労働基準法で定められている学生のアルバイトが働いてはいけない時間だ。

 この時間帯は更衣室が一課にいる学生バイト組で賑わう時間帯だ。とはいっても、一課にいる学生バイトは彩夢と、この(サカキ)正人(マサト)の2人だけだが。

 

「今日も現場整理だったんですか?」

 

「そ。ノイズの残骸を片付けたり、現場の記録とかね。あ、聞いてよ。最近は二課の秘密兵器とやらのおかげで建物の被害がヤバくてさ」

 

「あ、見たことあります。あの剣が降ってくるやつ」

 

「そーそー、アスファルトが穴ボコだらけになるやつ。穴の数とか被害とか調べて報告するの、結構大変なんだよなー。もう少し道路に優しくしてくれっての」

 

「あはは……」

 

(ノイズと戦う時に地面を意図的に爆破させることもあるって話、黙っとこうかな……)

 

 榊正人。大学2年の19歳。

 彩夢にとって貴重なバイト仲間だ。

 主な仕事はレイダー部隊やシンフォギアが戦った後の建物や道路の損壊状況などを調査し、記録。そして後片付けをすること。

 彩夢がバイトを始めたばかりの頃にやったノイズの残骸処理などは主に彼のいる部署の仕事だ。

 ちなみに、彼の父親の名は榊遊人。過去に結婚詐欺事件の被告人にさせられた事があり、飛電或人や不破諌、弁護士ヒューマギアのビンゴの活躍で無罪になったという経緯がある人物だ。

 

「あ、そういや今日バイト代入る日だった。彩夢くんはどんぐらい貰ったの?」

 

「えーっと、ちょっと待ってくださいね」

 

 ライズフォンを操作し、自分の口座の残高を確認する。彩夢は基本的に電子マネーを使用するため、それに合わせてバイト代は口座振り込み。さらに給与明細はメールで来るようになっている。

 

「……ん? んん? んんんっ!?」

 

「お、どうした?」

 

「に、にじゅうはちまんはっせんごひゃくえん……」

 

「さっすがレイダー部隊。『レイダー実装資格』持ってなくてもバイト代たっけーのな」

 

「こんなに貰っていいんでしょうか……」

 

「いいんじゃね? レイダー部隊だし」

 

 レイダー部隊。レイダーとして人々をノイズから守る者で構成された部隊。

 レイダーに実装するにはレイドライザーの危険性から100人が受けて10人が合格出来るかどうかの『レイダー実装資格』が必要であり、これを取得してレイダーになれたとしても、その業務内容から死亡率は日本一。

 故にレイダーに実装できる人間は貴重であり、レイダー部隊に所属する者の給料が安いはずが無い。

 『レイダー実装資格』を持っていなくても、ゼロワンとして最前線で戦う彩夢のバイト代も当然高くなる。

 

「どうしよう……」

 

「せっかくだし世話になってる人にプレゼント買うとかどうよ。俺も初任給で親へのプレゼント買ったし」

 

「あ、良いですね。明日バイト休みだし、学校帰りに刃先生に不破おじさんに、サヨにも何か買おっかな」

 

「サヨって、もしかして歓迎会にいたあのヒューマギアか? 見たこと無い型だったなぁ」

 

「あー。たしか、成長型ヒューマギアのプロトタイプって父さんが言ってました」

 

「お、聞いたことの無いなそれ。どんなヒューマギアなんだ?」

 

 ヒューマギアオタクな気がある正人か興味津々に訊く。

 

「えーっと、『人と共に成長するヒューマギア』ってコンセプトで作られたヒューマギアです。飛電メタルってのを応用して人と同じスピードでボディを成長させることを可能としたとか。あ、ご飯食べたりも出来るんですよ。メインは電力ですけど」

 

「スゲーなそれ、ほとんど人間じゃん。でもなんでニュースとかにならなかったんだろ」

 

「あー、色々問題があって発表には至らなかったらしいです。成長型ヒューマギア1体作る手間とコストがあれば通常のヒューマギアが5体作れるとか、消費電力がすごくて維持コストが高いとか……」

 

「コスパ最悪だったのか……」

 

「他にもその場に適応したボディに成長するのを待つより普通にその場に適したヒューマギア派遣した方が安上がりで時間もかからないとか……。

 そんな感じで色々理由はあるらしいんですけど、結局はプロトタイプを1体作ってお蔵入りになったらしいです」

 

「世知辛ぇ……。ん? その場に適応したボディってことは、利用者の……彩夢の好みが反映されるとかあんのか?」

 

「? どうしてです?」

 

「だってほら、胸デカいじゃん。あのサヨってヒューマギア」

 

「んへぁっ!?」

 

 

 

===

 

 

 

 サヨの1日は早い。

 毎朝5時半には活動開始して、彩夢の弁当を作らなければならない。

 彩夢は元々かなり食べる方だったのだが、中学3年になってちょっと遅れてやって来た成長期に入ってからは食べる量が増し、最近になってレイダー部隊でのバイトが始まってからはさらに増えた。

 そんな食べ盛り育ち盛りの彩夢のため、今日も五合炊きの炊飯器で米を炊き、弁当に詰めるおかずを作っていく。

 2合分のご飯が入る弁当箱はかなり大きい。それでも足りないと言うので早弁用のおにぎりも用意する。

 

 7時になる前には寝ている彩夢を起こしに行く。

 散らかった部屋に入ってまずは一声。

 

「彩夢様、朝ですよ」

 

「ん~……」

 

 血は繋がってなくても、目覚まし6個かけても中々起きないこの目覚めの悪さは父親似だ。この程度では起きない。

 

「彩夢様、起きてくださーい!」

 

 布団をひっぺがして、体を揺する。

 

「ん~。おはよー」

 

「はい、おはようございます。もうすぐ朝ごはんが出来ますので、早く支度して来てくださいね」

 

「ん……」

 

「二度寝しない!」

 

 

 

 

 

 朝食をおかわりして2合分の米を平らげた彩夢が学校に行っている間に、洗い物や洗濯、家の掃除などを済ませる。

 

「どうすればこんなに散らかるのでしょう……」

 

 散らかりに散らかった彩夢の私室を前に、サヨはため息をつく。

 「彩夢に生活力というものは存在しない」と、サヨは考えている。それほどまでに彩夢は家事が苦手なのだ。特に部屋の片付け。

 ため息をつきながらも手際よく片付けを開始する。部屋のどこに何があるのかは彩夢よりサヨの方が把握していたりする。なお、ベッドの下は除く。

 

「えーっと、ベッドの下には男のロマンとか、そういうのがあるから、勝手に漁ったりするのはよした方がいいんじゃないかな~?

 そう! ベッドの()だけに、よ()()方がいい! はいッ! アルトじゃ~、ナイトぉ~ッ!」

 

 と、過去に或人に言われてからはベッドの下は彩夢の管轄。最終防衛ラインなため、そこだけは手出しできないのだ。

 決して、どこかで拾ってきたであろうサヨ似の巨乳モデルが表紙のスケベ本らしきものがチラリとベッドの下から見えていても、気にしない。気にしないのだ。

 

 

 

 

 

 彩夢の私室の片付けと掃除を済ませると、やるべき家事が無くなり、手持ち無沙汰になる。

 

「今日は帰りが遅くなると言ってましたし、どうしましょう……」

 

 飛電家のすぐ裏には飛電インテリジェンスのニューデイブレイクタウン支所がある。人が足りないなどの理由でヘルプを求められれば駆けつけるのだが、今日はその気配も無い。

 

 飛電家の家政婦サヨ。子持ちの専業主婦みたいな悩みに直面するのであった。

 

 

===

 

 

 放課後。彩夢はとある百貨店に来ていた。

 目的は勿論、初のバイト代で買う贈り物選びだ。

 

「不破おじさんのネクタイ良し。刃先生のチョコ良しっと」

 

 先日、ネクタイを焦がしたという不破の為にネクタイを購入し、食べることが趣味な唯阿の為にお高めのチョコレート菓子を購入。

 残るはサヨなのだが……。

 

「サヨって、何貰ったら喜ぶんだろう……」

 

 と、壁にぶち当たっていた。

 とりあえず百貨店の中をブラブラ歩きながら悩んでいると、見知った人物と遭遇した。

 

「あれ、彩夢くん?」

 

「おっ。立花か」

 

 それは、リディアンの制服に身を包んだ立花響であった。

 

「ひっさしぶりー! 元気そうで良かった!」

 

「それはこっちのセリフだ。立花も元気そうで……お前、膝ケガしてんじゃねーか!」

 

「あっははー、ちょっと転んで擦りむいちゃった!」

 

 膝のあたりに大きな絆創膏を見つけ、心配する彩夢に、シンフォギア装者としてノイズと戦っているとは言えるわけが無いので笑って誤魔化す響。

 

「そういえば、こんなところで何してたの?」

 

 変に追及されても困るので、若干無理矢理ながらも話題を変える。

 

「ん? あぁ……そうだな。せっかくだし、立花にも手伝ってもらうか」

 

「?」 

 

 

 

 

 

 日も暮れ始めた頃。

 目的の物を買い終えた彩夢は、響を百貨店の近くの駅まで送っていた。

 

「今日はありがとうな。色々助かった」

 

「こちらこそ。うまく行くと良いね!」

 

「おいちょっと待て、何か勘違いしてないか?」

 

「じゃあ未来が待ってるから! またねー!」

 

「あっ、おい! 行っちまった……」

 

 

===

 

 

 ニューデイブレイクタウン。

 彩夢の家。

 

 夕食も食べ終え、洗い物も済ませ、リビングにて彩夢とサヨの2人、ゆっくりとした時間が流れていた。

 

 ソファに座り、サヨは本を読みながらコーヒーカップに口を付ける。

 ちなみにこのコーヒーカップは、湯気とコーヒーの香りが出るコーヒーカップ型のヒューマギア用非接触型モバイルバッテリーだ。人と同じようにお茶を出来るようにと10年前に発売されたものである。充電量は微々たるものだが、雰囲気が出るとのことでそれなりに人気な品だ。

 

 一方の彩夢はというと、ライズフォンを弄っているようで少し落ち着かない様子だ。

 軽く深呼吸をし、体の影に隠していたものを持ってサヨのそばへ歩く。

 

「あの、さ。サヨ」

 

「どうしました?」

 

「これ。バイト代も出たし、いつもお世話になってるお礼」

 

 そう言ってサヨに渡したのは薄い黄色の包装紙に包まれた細長い小さな箱だ。

 

「開けても良いですか?」

 

「うん」

 

 包装紙を剥がし、中から出てきた白い箱を開けると、そこにあったのは、透き通った薄桃色の八枚花弁の花をあしらったヘアゴムだ。

 

「家事とかする時に髪を纏められるようにって選んだんだけど……」

 

「ありがとうございます。とっても、嬉しいです」

 

 ヘアゴムを口に咥え、肩まである髪を後ろに一纏めにしてヘアゴムで留める。

 ロングボブからポニーテールへ。明るめの髪色の薄桃色の花がよく()える。

 

「どうですか?」

 

 ふわりと、サヨが花がほころぶような笑みを浮かべる。

 

「うん、いいと思うよ。あっ、そうだ! 学校で課題が出てるんだった! ちょっと片付けてくる!」

 

 時刻は21時をとうに過ぎている。彩夢は少し慌てて自室に向かい、バタンッ! と勢いよく扉を閉めた。

 

「はあぁぁぁぁ……」

 

 大きなため息を1つ吐きながら、ドアに預けた背をずるずると滑らせ、床に座り込む。

 

「ヒトとヒューマギアの間に恋愛関係は成立しない。ヒトとヒューマギアの間に恋愛関係は成立しない。あぁぁぁ……」

 

 人工知能には心があり、人を愛することが出来る。それは、友愛であり、親愛であり。しかし決して恋愛ではない。

 恋愛とは、生物の生殖本能が由来となるものであり、生殖機能を持たないヒューマギアとの間に本当の恋愛関係は成立しない。というのが一般論で、それが普通だ。

 

「……似合ってたなぁ……喜んでくれてたなぁ……はあぁぁぁぁ……」

 

 それでも、普通じゃないヒトはいつの時代にも存在する。

 

 

 飛電彩夢、16歳。絶賛サヨに片想い中。

 




人工知能との恋愛関係は成立するのか。この話の為に色んな論文読み漁ったんですけど、ところどころゼロワンでやった話と被ってて楽しかったです。
(遅れた理由)


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12話『向き合うカクゴ』

※注意※
今回の話には一部グロテスクな表現があります。
表現はボカしてありますが苦手な方はご注意下さい。
今回の話より必須タグに『残酷な描写』を追加します。


「サヨ、ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど」

 

 土曜日の朝。

 バイトも学校も無いにも関わらず、珍しく早起きした彩夢は、開口一番にそう言った。

 

 

 

 

 

 都内にある、とある墓地。

 「飛電家之墓」と彫られた墓石の前に、飛電彩夢とサヨはいた。

 

「花ってここでいいの?」

 

「はい。そこに生けてください」

 

 定期的に墓参りに来ているサヨに教わりながら、慣れない手つきで花を供える。

 

「どうだ、父さん。綺麗な花だろ? オレの初めてのバイト代で買ったんだ」

 

 サヨがショルダーバッグから取り出した線香とライターを受け取り、火を付けて線香立てに立てる。

 それから、サヨと並んで手を合わせた。

 

 4月も終わりを告げ、もうじき5月に入ろうという日の朝の陽気はとても暖かく、静かだ。

 若葉萌える木々を、風が撫でる。

 

「……あの事件から3年かぁ……」

 

「彩夢様……」

 

「大丈夫。心配しないで、サヨ。うん、大丈夫……」

 

 ふと、墓誌に目をやる。

 そこには、飛電或人の名が刻まれていた。

 

 

===

 

 

 3年前、2040年。

 この日、ニューデイブレイクタウン完成記念式典が()り行われていた。

 ニューデイブレイクタウン記念館を背景に、屋外広場に作られた会場には政府の関係者や、開発に携わった企業の社長など、多くの人々やヒューマギアが集まっていた。

 そして飛電彩夢もまた、この場にいた。関係者席ではなく、会場の一番後ろにある一般席だ。

 中学校の制服である学ランに身を包み、パイプ椅子の上に座っている。

 

「それでは最後に、株式会社飛電インテリジェンス代表取締役社長。飛電或人様より、挨拶をいただきます」

 

 式典の司会進行を務めるのはイズだ。

 スーツを着こなした或人がゆったりとした、しかし力強い足取りで壇上に上がり、講演台の前に立つ。

 

「ただいまご紹介にあずかりました。株式会社飛電インテリジェンス代表取締役社長。飛電或人です」

 

 22歳の若さで社長になり、数々の困難や挫折を経て、今年で42歳になる飛電或人の挨拶のスピーチは貫禄を感じさせる堂々としたものであり、皆一心に聞き入っている。

 

 彩夢には話の内容は少し難しく、何を言っているのか理解が追い付いていないところはあったが、大勢の前で話す或人の、父親の姿は憧れで、自慢の父親だった。

 

 

 

 

 

 そして、事件は前触れもなく起きた。

 

 

 

 

 ダァンッ!

 

 

 

 

 銃声。

 

 或人の胸から血飛沫が舞い、講演台の陰に倒れる。

 

「……ぇ」

 

 音の発生源は一般席、彩夢の目の前。

 パイプ椅子から立ち上がり、銃を構えた男がいた。

 

「或人社長!」

 

 司会席からイズが駆け寄る。

 

「てめぇッ!」

 

 一般席の外側から見ていた不破が、鬼気迫る表情で男の元へと駆ける。

 それとほぼ同時に警備員ヒューマギア達も駆け出した。

 

 しかし、不破にも、警備員ヒューマギアに捕まるよりも早く、男は叫ぶ。

 

「アークの意思のままにッ!」

 

 そして銃口を咥え、引き金を引く。

 くぐもった銃声と共に、男はその場に崩れ落ちた。

 

 真後ろにいた彩夢の顔に、べちゃっと、生温かいものが当たった。

 

 

 

 

 

 それからの記憶は、どうにも現実味が無かった。

 感情が追い付かず、泣くことも、怒ることも出来ず、呆然と、ただ呆然と、その光景を眺めていた。

 

 

 式典自体はすぐに中止になることは無かった。

 普通、人は心臓を撃たれても即死には至らない。倒れた或人が、式典を最後までやるようにとイズに伝えたらしい。

 式典自体が終わりに差し掛かっていたこともあり、救急車が到着するまでの数分で落ち着かない空気のまま、イズが閉会宣言まで持ち込んだ。

 

 その後、駆けつけた救急ヒューマギアによって同伴として付き添うイズと共に、或人は救急車で搬送された。

 

 救急ヒューマギアによれば、銃弾は心臓を逸れていたらしく、助かる見込みは十分にあるとのことで、その知らせを聞くや張り詰めていた会場の空気は一気にほどけた。

 

 良かった、と皆が安堵した瞬間。

 救急車が去っていった方角から、爆発音と共に黒い煙が立ち上った。

 

 しばらくして、或人を搬送していた救急車が爆発したという知らせが入った。

 

 爆発現場にあったのは、壊れた救急車と、ヒューマギアの破片だけだったという。

 

 後日、現場から発見された運転と応急処置に当たっていた救急ヒューマギアのセントラルメモリーを解析し、事件の一部始終が判明した。

 

 救急車の運転をしていた救急ヒューマギアの記録映像によると、病院へと向かう救急車の前、道路の真ん中に1体のノイズが出現したのだ。

 そのノイズは、向かってくる救急車に気が付くや、その体を紐状に変化させ、そのまま救急車を貫いた。

 運転席ごと貫かれ、ヒューマギアの記録はそこで途切れた。

 

 救急車に乗っていた人間はただ1人。或人が、ノイズの狙いだった。

 

 或人の手当てをしていた救急ヒューマギアの記録映像によると、運転席を貫いたノイズがそのまま壁を突き破り、ストレッチャーに横たわる或人の身体を炭素へと変えていく姿が記録されていた。

 そのすぐ後、爆発が起こり、映像は途切れた。

 

 

 

 

 

 この事件には、後日談がある。

 

「追い詰めたぞ、アーク! いや、ギル・ヘルバート!」

 

「もう逃がさねぇ。ここでテメェをブッ潰すッ!」

 

《ブレイクホーン!》

 

《ランペイジバレット!》

 

「「変身ッ!」」

 

 或人の殺害を(こころ)み、自害した男が言っていたアーク。

 刃唯阿らによる決死の調査により、その正体がアメリカのとある研究所にいた科学者、ギル・ヘルバートという男だと判明した。

 ギルを追ってアメリカに渡った仮面ライダーバルカン/不破諌と、仮面ライダーサウザー/天津垓の2人は、ギルの送り込んでくる刺客を次々と倒し、彼の拠点を次々と潰し、約3ヶ月をかけて追い詰め、そして。

 

「貴様をこの手で倒すッ! それがアークを生み出した私の、1000%の贖罪(しょくざい)だッ!」

 

《サウザンド ディストラクション!》

 

「アークをブッ潰すッ! 彩夢やサヨの未来に、アーク(テメェ)はいらねぇッ!」

 

《ランペイジオール ブラスト フィーバー!》

 

 2人の仮面ライダーの活躍により、アークは倒された。

 2043年現在において、記録に残される最後のアークである。

 

 

 

 そしてもう1つ。

 救急車の爆発現場には、救急ヒューマギアの破片以外に、イズのものと見られるヒューマギアの破片が見つからなかったのである。

 

「ウィアを介してアクセスを試みましたが、失敗しました。おそらく、飛電の通信衛星のどれとも接続されていないかと。この事から導き出される結論は──」

 

「ありがとうシェスタ。その先は言わなくていい」

 

「かしこまりました。刃様」

 

(状況からして、イズの生存も絶望的だ。しかし……)

 

 飛電或人の遺品であり、飛電インテリジェンスの所有物であるゼロワンドライバーとゼロツードライバー、そしてプログライズキーを初めとするゼロワン関連の武器、アイテムが見付かっていない。

 加えて、イズの残骸と見られる物が無いという現状。

 そこから考えられるのは──

 

「生きているのか、イズ……」

 

 事件以来、イズの姿を見た者は、いない。

 

 

===

 

 

「では桶と柄杓を返してきますので、彩夢様はここでお待ちください」

 

「うん」

 

 墓参りを終え、彩夢は1人墓地の入り口に佇む。

 この墓に来たのは、今日が初めてだった。

 

 ずっと、或人がまだ死んでいないような気がしていたのだ。

 「ドッキリでしたー!」なんて笑いながら元気な姿で現れて、「アルトじゃ~、ナイト~!」とギャグを飛ばしてくるような、そんな気がしていた。

 けれど、墓を前にすれば、それがただの妄想だと否定されるのだと分かっていたのだ。

 現実を突き付けられるのが恐かったのだ。

 

 しかし、ゼロワンを受け継いで、初めて或人の死に向き合う勇気ができた。

 助けられなかった少女が、彩夢に「死」と向き合う覚悟をくれたのだ。

 

「てめーがゼロワンか」

 

 不意に、後ろから声をかけられた。

 

「君は……?」

 

 振り向くと、そこには鈍い銀色の鎧に身を包んだ少女がいた。

 バイザーに隠れてその顔はよく分からない。

 

「悪いが、舞台から蹴落とさせてもらうぜッ!」

 

 肩から伸びる宝石のような鞭が、彩夢めがけて振るわれた。

 




不破さんと天津垓がしょうもないことで軽くケンカして、通信で唯阿さんがツッコミしたり呆れたりする珍道中編があったかもしれない。
ちなみに彼らが解決したのでたぶん今後出てこないんですが、今回出てきたギル・ヘルバートが変身するアークの名は「アークギル」と言います。(仮面ライダーでは無いです)
元ネタはまんま「漫画版キカイダー」のギル・ヘルバート。(特撮版だと名前が違う)
漫画版ではロボット工学の権威で、特撮版では宇宙の権威で、小説版では人工知能開発に携わっている悪の親玉です。ゼロワンとの親和性しかない男。


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13話『ヒーローもどき』

週一投稿が隔週に、そして遂に月一に……もっとペース上げられるように頑張ります……!
と言うわけでお待たせしました13話です。


「悪いが、舞台から蹴落とさせてもらうぜッ!」

 

 墓参りを終えた彩夢の前に突如として現れた、鈍い銀色の鎧を身に纏った少女。

 問答無用で放たれた宝石のような鞭の一撃が、彩夢めがけて振るわれる。

 

「うわっ、と!?」

 

 咄嗟に横に転がって回避し、すぐさまゼロワンドライバーを腰に装着する。

 

《ジャンプ!》

 

 この1ヶ月で身体に染み込んだ動作でライジングホッパーのプログライズキーを起動させ──

 

「…………っ」

 

 ドライバーにかざす手を寸でのところで止めた。

 それが、鎧の少女の琴線に触れる。

 

「テメェ、どういうつもりだ。なんで変身しない!」

 

 吠える鎧の少女。

 そんな彼女に、彩夢はプログライズキーを握りしめ、言い放った。

 

「ゼロワンは、誰かを守るための力だ。女の子を相手に使うような力じゃない!」

 

 脳裏に浮かんだのは、助けられなかった少女の顔。そして助けられた少年の笑顔。

 生きたいと願って手に入れた力だからこそ、誰かを傷付けるようなことには使いたくなかった。

 

「チッ! ふざけやがってッ!」

 

 そんな彩夢にイラついた様子を隠そうともせず舌打ちし、どこからともなく紫の宝石が付いた銀色の杖を取り出す。

 

「だったらコイツでどうだッ!」

 

 杖から緑の光が放たれ、そこから()()()()()()()

 人型のものが5体、ナメクジ型が6体。計11体のノイズが彩夢を囲う。

 

「な……ノイズを呼び出したッ!?」

 

 ノイズが相手となれば迷っている余裕は無い。変身しなければ、ノイズに触れただけで炭素と化して死んでしまう。

 すぐさまキーをドライバーにかざして承認、展開してドライバーに装填する。

 

「変身ッ!」

 

《プログライズ! ライジングホッパー!》

 

《アタッシュカリバー!》

 

 ゼロワンへ変身し、アタッシュカリバーを構える彩夢を見て鎧の少女はほくそ笑み、杖を掲げてノイズに号令をかける。

 

「行けッ!」

 

 ノイズが一斉に紐状に変形し、囲む円を狭めるように一直線に襲いかかる。

 逃げ場は上空のみ。

 

「ッ!」

 

 ライジングホッパーの跳躍力でもって真上へと跳躍し、ノイズをかわす。

 続いて、上空のゼロワンめがけてノイズが追撃する。

 

「誘われた!? ッ、このッ!」

 

《ブレードライズ! フルチャージ!》

 

「せあッ!」

 

《カバンストラッシュ!》

 

 空中で振り抜いたアタッシュカリバーが弧を描き、黄色い斬擊となって飛び、迫り来るノイズを両断する。

 

 逃げ場の無い上空に誘導し、そこに追撃する。

 それぞれが本能のままに動くこれまでのノイズとは明らかに違う、統率のとれた動きだ。

 

(このままここにいるのはヤバイッ!)

 

 身動きの取れない空中では、さらなる追撃には対応出来ない。

 そう判断したゼロワンは、すぐさまアタッシュカリバーをカバンモードに変形。足下に放り投げるやドライバーのキーを押し込む。

 

 以前にも使った。アタッシュカリバーを蹴って得られる作用と反作用を利用した空中高速機動。

 進む先は鎧の少女。その手にあるノイズを呼び出す時に使っていた杖を奪うべく、全力でアタッシュカリバーを蹴った。

 

《ライジングインパクト!》

 

 黄色いサイバー線を宙に描き、迫り来るゼロワンを──。

 

「ちょっせえ!」

 

 宝石状の鞭を、まっすぐ棒のように固定した(ロッド)による突きで迎え撃った。

 

「ぐッ!?」

 

 ゼロワンドライバーに杖が突き刺さり、体がくの字に折れる。

 あまりの勢いと衝撃に鎧の少女は耐えきれず、後方へと吹っ飛ばされた。

 

「チッ、壊したと思ったんだがな」

 

 鎧の少女は傷1つ無いゼロワンドライバーを見やり、悪態をつく。

(必殺技を移動に利用する技は初めて見せたはず。なのに、それを分かってたようなカウンター!

 まさか……!)

 

 ノイズを召喚し、操る力。ゼロワンの行動パターンを理解した動き。

 そこから導き出される答えは──。

 

「まさか、記念館のノイズ襲撃事件……お前が犯人かッ!?」

 

 ゼロワンの問いに、鎧の少女は口元に挑発的な笑みを浮かべ、言う。

 

「だったら、どうするよ? 仮面のヒーローッ!」

 

 その瞬間。心の中で、何かが切れた。

 目の前の少女が、ノイズを操り、大勢の人やヒューマギアを傷付けた。あの少年の命を奪いかけた。

 そう思うと、()()の念がこみ上げ、思考を赤と黒に染め上げる。

 

《アタッシュカリバー!》

 

 ブレードモードのアタッシュカリバーを生成し、ドライバーから引き抜いたキーを怒りに任せて叩き付けるように装填する。

 

《Progrise key confirmed. Ready to utilize.》

 

 アタッシュカリバーからのアナウンス音声が鳴り終わるより早くアタッシュカリバーを畳み、カバンモードへと変形させ──

 

 

 ガキンッ!

 

 

 ──ることは出来なかった。

 

 カバンモードへ変形途中のアタッシュカリバーに、鎧の少女が伸ばした宝石状の鞭が挟まり、変形を妨害したのだ。

 

「本当に、面白いようにこっちの思い通りに動いてくれるなァッ!」

 

「しま──ッ!」

 

 鞭のトゲが伸び、アタッシュカリバーを絡め取る。

 そして、鎧の少女の手へと収まった。

 

《チャージライズ!》

 

「ゼロワンは誰かを守るための力? 女の子に使うような力じゃない?

 だったら今のテメェは何なんだよッ! 怒りに任せてこんなモンをブッぱなそうとしたテメェはよォッ!」

 

 少女の言葉が、彩夢の心を殴りつける。

 命も心も持たないノイズを屠る刃を、命も心も持つ女の子に向けようとした事実を、目の前の少女を()()()()()()事実を突き付けられ、赤と黒に染まった思考を冷めさせる。

 

《ブレードライズ! フルチャージ!》

 

「テメェみたいに強い力を持つやつがいるからッ! この世界から、争いは消えないんだッ!」

 

《ライジングカバンダイナミック!》

 

 横凪ぎに振るわれた刃から放たれる黄色い斬撃。

 必殺の威力を誇るそれは、まさしく己が少女に向けようとしたもの。()()()()()()

 

「ぐああぁぁッ!」

 

 防御すらせず、直撃する。

 爆発が起き、ゼロワンは吹き飛ばされた。

 地を転がり、土が黄色い装甲を汚す。

 カシャン、と腰のホルダーからラッシングチーターのキーが落ちて、転がる。

 

「ぐっ、うぅぅ……ッ」

 

 当たりどころが良かったのか、変身解除には至らなかったものの、ゼロワンは地に伏せたまま起き上がれない。起き上がろうとしない。

 

「オレ、は……ッ!」

 

 理不尽な話だ。

 勝手に誰かを危険に晒し、勝手に襲ってきた。

 悪いのは相手だ。鎧の少女だ。

 だからといって、ゼロワンが鎧の少女に(悪意)を向けた事に変わりはない。

 誰かを守ると言って、生きたいと願って手に入れた力で、誰かを傷付けようとした自分に()()する。

 

《チャージライズ!》

 

 カバンモードのアタッシュカリバーから流れる待機音が、己の死を予告しているように聞こえた。

 

 ──『彩夢、お前に夢はあるか?』

 

 ふと、飛電或人(父親)との会話の記憶が(よみがえ)る。

 幼い頃、噴水公園で肩車をしてもらった時の記憶だ。

 

 ──『うーん、わかんない!』

 

 ──『そっか、分かんないか』

 

 ──『ねぇ、おとうさんのゆめってなに?』

 

 ──『父さんの夢か? そうだな……今の夢は──』

 

《ブレードライズ! フルチャージ!》

 

 アタッシュカリバーの音声が、意識を現実に引き戻す。

 

「『彩夢が色んな夢を見れる未来を創る』……そうだったよな、父さん」

 

 顔を上げる。

 

 まだ、自分は自分の夢を見れていない。

 

 今ここで死んだら、大好きなあの人(飛電或人)の夢が叶わなくなってしまうから。

 

 視線の先に、ラッシングチーターのプログライズキーがあった。

 

 託された夢がある。託された力がある。

 

 そうだ、ゼロワン。こんなところで立ち止まってはいけない。

 だって、託された夢は、未来。そして、託された(アビリティ)は──

 

 

《ダッシュ!》

 

 

 ──未来へと走り出す力なのだから。

 

 

「消えちまえよ、ヒーローもどき」

 

 高く掲げられた必殺の刃が振り下ろされるよりも速く。

 

「断るッ!」

 

《オーソライズッ!》

 

 天からオレンジ色のチーターのライダモデルが降り落ち、アタッシュカリバーの刃を噛み付いた。

 

「このッ、放しやがれッ!」

 

 鎧の少女はアタッシュカリバーからライダモデルを振り払わんとを滅茶苦茶に振り回す。

 チャージされたエネルギーが真下の地面に放たれ、巻き起こった爆風でライダモデルは吹き飛ばさるも、くるりと宙で回転して着地。

 立ち上がり、キーを展開するゼロワンを背に、ガオゥッと、鎧の少女へ吼えた。

 

「チェンジ、ゼロワンッ!」

 

《プログライズッ!》

 

 キーを装填。ドライバーが開くと同時に、ライジングホッパーのアーマーが移動する。

 ラッシングチーターのライダモデルが空中で分解され、二重螺旋を描くエネルギーとなってゼロワンに照射。チーターの力を持ったオレンジのアーマーへと再構成される。

 

《スピーディーナンダー! ラッシングチーター!》

《Try to outrun this demon to get left in the dust.》

 

 夢に向かって飛ぶ力と、未来に向かって走る力を合わせ(ハイブリッドライズし)たゼロワンへと変わ(チェンジす)る。

 

「オレはここに、父さんと、このゼロワンに誓うッ!

 もう二度と、刃に悪意を込めないとッ!」

 

 

 ──『そいつをお前に託す。どう使うかは、お前次第だ』

 

 

 ラッシングチーターを託された時の、刃唯阿の言葉が脳裏に走る。

 

「ここでオレが倒れたら、キミはきっと、沢山の誰かを傷付けるだろう。だから、オレは、この力でッ、オマエを止めるッ!」

 

 息を吸い、目の前の少女に指先を突きつけ、言い放つ。

 

「オマエを止められるのはただ1人。オレだッ!」

 

「ハッ! やってみな、ヒーローもどきッ!」

 

 

 




フライングファルコンが仲間を見るような目でライジングホッパーを見ているぞ!

次回
なんかゼロワンを嫌ってる鎧の少女VS闇落ち適正の高い主人公。

来週には投稿したい!


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14話『戦場のスガタ』

お久しぶりのお待たせさんです。


 

 先手必勝。

 されど動き始めたのは両者同時。

 双方が先手を取ろうとしたが故の必然。

 

 ゼロワンは相手の手からライジングホッパーのプログライズキーを奪い返すべく駆け出し、鎧の少女は鞭のリーチを生かしての先制攻撃を放った。

 

 走るゼロワンの足元を狙って横凪ぎに振るわれた鞭。

 伸縮自在のそれはゼロワンの予測よりも速くその足を刈り取らんと接近し、

 

「せぃッ!」

 

 踏みつけられ、地面にめり込まされた。

 

「はあッ!?」

 

 鞭というのは、普通の人間が振るってもその鞭の先端の速度は音速を超える。

 ならば、普通の人間を遥かに凌ぐスペックをもつ少女が振るえば、音速以上の凄まじい速度になるのは想像に難くない。

 そんな鞭の先端を正確に踏みつけ、あまつさえ地面にめり込ませるなど、不可能だ。

 

 しかし、ゼロワンにはそれが出来る。

 高速戦闘形態であるラッシングチーターには、装着者の走力と反応速度を大幅に引き上げる能力がある。だからこその芸当だ。

 

 鞭の1つは地面にめり込み、すぐには戻せない。かといってもう1つを使おうにも、片手はアタッシュカリバーで塞がっている。

 よって、最初の一手を取ったのは、ゼロワンだった。

 

「ちッ!」

 

 舌打ちを1つ吐いて、少女が後ろへ飛ぶ。

 しかし、ゼロワンはそれよりも速く少女の元へ到達し、アタッシュカリバーの峰を掴んだ。

 

「こンのッ!」

 

《ライジングカバンストラッシュ!》

 

 咄嗟に少女がトリガーを押し、必殺技を発動。

 刀身から黄色い光がスパークし、ゼロワンの手を焼く。

 

「ぐ……ッ! うおおォッ!」

 

 それでも離さず、さらに両手で掴み、意地でアタッシュカリバーを握りしめる。

 

「このッ、近ェんだよッ!」

 鎧の少女が力任せに振り抜き、ゼロワンを吹き飛ばす。

 しかし、地面を転がったゼロワンの煙が立ち上る手の中には、ライジングホッパーのキーが握られていた。

 

「なっ、やられた! 今の一瞬でキーを抜きやがったのか!」

 

「へへ、イチかバチかを選ぶのは得意でね。返してもらったぞ」

 

 手をアタッシュカリバーに焼かれたダメージは大きく、しばらくはマトモに使えそうに無い。

 立ち上がりながらキーを腰のホルダーにしまい、少女を見据えて構える。

 軽く前に出した右足は踵を浮かせたそれは、空手における猫足立ちと呼ばれる構え。即座に前蹴りを放てる構えだ。

 

「はッ、キーを取り返した以上、そっちから仕掛ける理由は無いってわけか。だったらッ!」

 

 鎧の少女がアタッシュカリバーを地面に突き刺し、空いた両手で鞭を握り──

 

 

《ライトニングブラスト!》

 

 

 瞬間、雷を纏う光弾が両者の間に着弾。爆発と共に煙と巻き上がる土煙が2人の視界を奪う。

 

「なんだ!?」

 

「チッ、新手かッ!」

 

 鎧の少女が鞭を振るって土煙を振り払う。

 土煙が晴れたそこには、ゼロワンを背に、鎧の少女へと短銃型のデバイスを構えたサヨがいた。

 

「彩夢様、ご無事ですか?」

 

「サヨ!? って、その銃は……」

 

 初めて見る銃だった。しかし、それがある銃に酷似知って(ラーニングして)いた。

 

「はい。この銃は、エイムズショットライザーのデータを元に飛電が開発したゼロワンサポート用装備。『飛電ショットライザー』です」

 

 ゼロワンの質問に、ショットライザーを油断なく構えたままサヨは答えた。

 

 サヨが構える銃をもう一度見る。

 見た目は、青色だった部分がゼロワンのメインカラーである蛍光イエローをしている以外はかつて不破諌や刃唯阿が使用していたショットライザーと同じ。

 ライズスロットと呼ばれるプログライズキー装填用スロットには、非展開状態のライトニングホーネットが確認できる。

 

「物体認識成功……その鎧は、2年前に紛失したとされている『ネフシュタンの鎧』ですね?」

 

「だったら、どうするよ?」

 

「抵抗せず、大人しく投降してください」

 

「抵抗したら?」

 

「その時は、容赦なく撃ちます」

 

「へぇ、でもそういうのは……照準をこっちに合わせてから言うもんだ!」

 

 瞬間、鞭が唸る。

 風を切り、サヨの首筋に迫るそれは、光の壁(シャインクリスタ)によって阻まれた。

 

「は……ッ?」

 

 予想外の手応えに、驚愕して固まる鎧の少女。

 その一瞬の隙をサヨは見逃さなかった。

 

《サンダー!》

 

 ショットライザーに装填されているライトニングホーネットの起動スイッチを押し、引き金を引く。

 

《ライトニングブラスト!》

 

 銃口から雷を纏う光弾が放たれ、反動で後ろに吹き飛んだサヨをゼロワンが受け止める。

 光弾は一直線に鎧の少女へと向かい、着弾。同時に電気が迸る。

 

「ぐああぁっ!?」

 

 アタッシュカリバーを取り落とし、片膝をつく鎧の少女。

 バチバチと走る電気がハチの巣のような正六角形を形作り、縛りあげ、拘束する。

 

 飛電ショットライザーはあくまでゼロワンをサポートするための装備であり、戦闘を目的として作られていない。

 事実、同じライトニングホーネットのキーを使った仮面ライダーバルキリーの《ライトニングブラスト》に比べると威力は格段に低い。

 生身での使用を前提としているため出力を落とし、ライトニングホーネットの能力を麻痺と拘束に特化させたのがサヨの《ライトニングブラスト》なのである。

 

「ッ……! こンッ、な、ものォッ!」

 

 鎧の少女が両腕に力をこめるや、電気の拘束はバチィッ! と音をたてて引きちぎられた。

 

「……やはり完全聖遺物、そう易々とは行きませんか」

 

「はぁッ、はぁッ、鎧の力だけと見くびるなよ、機械人形ッ!」

 

 左右の宝石の鞭を同時に振るう。

 ゼロワンとサヨを挟むように、左右同時攻撃だ。

 

「オレを──」

 

 それを前に、ゼロワンがサヨの前に出る。

 いまだに煙が燻り続ける両手は使い物にならない。ならばと構えるは猫足立ち。

 

 そこから繰り出される音速の前蹴り、二連。

 

「──忘れてもらっちゃ困るな」

 

 パンッ、と空気が爆ぜる音が鳴り、左右から迫り来る鞭の先端を見事蹴り返した。

 

「ハッ、忘れちゃいないさ」

 

 口元をつり上げる少女。

 瞬間、蹴り弾かれた鞭の先端から黒と白のエネルギーが迸り、球形を形作る。

 

「ぶっ飛べ」

 

 そして、爆発。

 炎と光、そして爆風によって土が巻き上がり、ゼロワンとサヨを包んだ。

 

「……っと、間一髪」

 

「ありがとうございます。彩夢様」

 

 後ろから聞こえた声に、鎧の少女が振り向く。

 そこにはサヨを横抱きに抱えたゼロワンがいた。

 

 爆発に巻き込まれる直前の一瞬で、サヨを抱えて走り、爆発から逃れたのだ。

 サヨを地面に下ろし、背に庇って構えるゼロワンを見て、鎧の少女は視線を左右に走らせ……。

 

「……やめだ」

 

 鞭を手放し、言い放った。

 

「は?」

 

「ゼロワン、オメーのスピードならさっきの隙にアタシに一撃入れられたハズだ。それに、そこのも、最初っからあの拘束弾をアタシに撃てば良かった。なのにしなかったって事は……時間稼ぎが目的だな? 大方、アタシを確実に捕獲するためにドンガメどもを呼んだんだろ」

 

「──ッ!」

 

「読まれてる……!」

 

 鎧の少女と対峙し、サヨが不意の攻撃を仕掛ける直前。

 ゼアを通して、サヨはゼロワンにある作戦を提案していた。

 それは、鎧の少女の身柄を拘束すること。そして、それを確実にするためにレイダー部隊への協力要請と、到着までの時間稼ぎ。

 人工知能と同じ思考速度が可能なゼアの空間であれば、1秒に満たない時間で作戦を練ることが可能となる。

 そしてゼロワンはサヨの作戦に乗り、バレないように演技をしながら時間を稼ぐよう立ち回っていたのだ。

 

 ヘリの飛行音が聞こえてくる。

 彩夢にとって最近聞き慣れてきた、特異災害対策起動部一課のヘリのものだ。

 

「投降するつもりは?」

 

「無いね」

 

 ふわり、と宙を浮く鎧の少女。

 いつの間にか、手には銀色の杖が握られていた。

 

「そら、コイツらとでも遊んでな!」

 

 杖から放たれる緑の光。

 あっという間にゼロワンとサヨをノイズが囲んでいた。

 

「くっ!」

 

 ノイズを一瞥し、鎧の少女を睨み付けんと宙に視線を走らせるが、そこにその姿は見えなかった。

 

「逃げられたか……ッ!」

 

「彩夢様」

 

「わかってる。ノイズの掃討に移るぞ」

 

「はい!」

 

《パワー!》

 

《Progrise key confirmed. Ready to shot.》

 

 ゼロワンはスタンディングスタートの構えをとり、サヨは飛電ショットライザーにパンチングコングのプログライズキーを装填し、構えた。

 

 

《レイドライズ!》

 

《インベイディングホースシュークラブ!》

 

 

 そこに響く複数のレイドライサーの音声と変身音。

 

「レイダー部隊C班、現着ッ!」

 

 上空のヘリから次々とバトルレイダー達が降下してくる。

 そして──

 

 

 

 

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron──」

 

 

 

 

 戦場に不似合いな、歌が聴こえた。

 

「な……ッ」

 

 聞き覚えのある声に、ゼロワンは動揺し、レイダーの1人に抱えられて降下してきたその少女の姿を見て驚愕する。

 

 ゼロワンが見たことの無い、橙色の装甲を身に纏った少女。

 ゼロワンとなって守るべき人々と思っていた少女。

 

「立花響、現着しましたッ!」

 

 立花響の姿が、そこにあった。

 

 




新アイテム。
飛電ショットライザー。
見た目は.I.M.S.ショットライザーのリデコ。変身能力無し、あくまでサポートアイテムですが隠された機能が他にもある様子……?


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15話『再会するフタリ』

隔週投稿にするつもりが忘れてました。
代わりに来週も投稿しますわよ。


 シンフォギアに秘められたノイズの炭素化を無効化する力であるバリアフィールドは、歌の障壁だ。

 歌を炭素と変えることは出来ず、そして歌の届く範囲こそがバリアフィールドの効果範囲内。そこならばノイズは人を炭素と変えることは出来ない。

 

 そして、炭素化が出来ないのであれば、ノイズの攻撃はレイダーの分厚い装甲がその役目を果たせるようになる。

 ノイズ最強の矛は潰れれば、後は蹂躙あるのみだった。

 

 シンフォギアの歌が届く範囲で、レイダー達がノイズを倒す。

 それが、この1月(ひとつき)の間にシンフォギア開発者である櫻井了子が、戦い素人である響のために考案した作戦であった。

 

《 《撃槍・ガングニール》 》

 

 戦場の中心で、シンフォギアを纏った立花響が歌う。

 

《インベイディングボライド!》

 

「ハァッ!」

 

 炭素転換を奪われたノイズをレイダーが踏み付け、赤い光線で撃ち抜く。

 黒い炭素の塊となって崩れ落ちるノイズを確認するや、レイダーは視線を上げる。

 

「ゼッ、ヤァ゛ァッ!」

 

 視線の先には、オレンジのサイバー線を描きながら駆けるゼロワンが、目にも留まらぬ速さで蹴りをに放ち、次々とノイズを炭素の塊へと崩す姿があった。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァ……ッ」

 

 肩で荒い息をするゼロワンの背後から別のノイズが飛びかかる。

 

「彩夢様ッ!」

 

《パンチングブラスト!》

 

 サヨが飛電ショットライザーから撃ち放った鈍色の拳のようなエネルギー弾がゼロワンの背後から飛びかかるノイズを弾き飛ばした。

 弾き飛ばされたノイズは、サヨの声に反応したゼロワンによる高速の連続蹴りで炭素へと崩す。

 

 反動で吹っ飛んだサヨを、響が受け止める。

 

「ぐっと、ぐっと、みなぎ、てぇッ!? えっ、あっ、と、とめどなく溢れていく──」

 

 “彩夢”という聞き慣れた名前に驚き、一瞬、歌を途切れさせかけたが、すぐに歌を再開する響。

 しかし、その心中は穏やかではなかった。

 

(まさか……)

 

(なんで……)

 

((どうして))

 

((立花(彩夢くん)がここに……ッ!?))

 

 何故、どうしてと困惑するの2人。しかし状況がよそ見を許さない。

 響が歌うのを止めれば、ノイズに炭素転換能力が戻り、全滅は免れない。

 ゼロワンが戦うのを止めれば、ノイズはバリアフィールドの外へと逃げて誰かの命を奪うだろう。

 

 それでも、本来なら戦いに集中できず、ボロが出るはずだ。

 だのに、

 

(力が湧き上がってくる……ッ!)

 

(体が軽い……ッ!)

 

 2人のポテンシャルは、今まで以上に高まっていた。

 それは結果として、しかと現れる。

 

 例えば、ゼロワン。

 本来ならば、ノイズの位相差障壁を超えるダメージを与えて無理矢理倒していたにも関わらず、今は必殺技無しに、連続の蹴りのみで倒してみせている。

 例えば、立花響。

 胸の内から湧き上がる力は、フォニックゲインを高め、バリアフィールドの強度と範囲は通常時の約2倍になっていた。

 

 同時刻、彼女の戦いをモニタリングし、サポートしている特異災害対策機動二課。その司令室には騒然としていた。

 

「響ちゃんのフォニックゲイン、急激に上昇中ッ! これって……絶唱に匹敵ッ!」

 

「なんだとッ! 響くんの体に異常はッ!」

 

「ありませんッ! 響ちゃんのバイタルに問題は、何一つ見当たりませんッ!」

 

「何の負荷もなく、絶唱に匹敵するフォニックゲインを引き出すなんて……聖遺物との融合症例である響ちゃんだから出来ることなのか、それとも、何か他の要因があるのか。

 どちらにせよ、響ちゃんは帰ったらメディカルチェックね」

 

 

 

 響が歌い、ゼロワンの高機動でノイズをバリアフィールドの範囲内に押し込み、レイダー達と協力してノイズを倒す。

 そうして、死傷者0人という、ゼロワンにとって初めての()()()ノイズ掃討は終わったのだった。

 

 

===

 

 

「はぁ~、なんとか今日も無事に終わったよ……」

 

 ギアを解除し、その場に座り込む響。

 その耳には、ガスマスクと同等の保護機能が備わっているバリアを展開する機能を持つZAIAスペックが付いていた。

 戦闘終了エリアに舞う炭素の粉塵から肺を守るための装備だ。

 

「立花」

 

「ひゃわぁ!」

 

 ゼロワンが話しかけるや、勢い良く立ち上がる響。

 ゼロワンの様子を(うかが)うような上目遣いで見る。

 そんな響を前に、ゼロワンは変身を解除する。

 

「どうして一般人のはずの立花が、ノイズが出現した現場に、レイダー部隊と一緒に来ているのか、聞かせてもらおうか」 

 

「それはこっちの台詞だよ。どうして彩夢くんが戦ってるのか、私だって聞きたい」

 

 2人の視線がぶつかる

 

 その時、響のZAIAスペックが着信を知らせる。

 

「もう、こんな時に。

 はい、響です。へ? 大丈夫ですけど……はい。はい……えっ? 今からですか!? えっと、はい。その、了解しました」

 

 ZAIAスペックに指先を当て、二言三言言葉を交わして、彩夢に向き直る

 

「その、二課の司令が本部に連れてきてくれって……ごめん!」

 

「え?」

 

 両手を合わせて謝る響。

 突然、どこからともなく彩夢の背後に現れたスーツ姿の茶髪の男性が、彩夢の脇に手を入れてひょいと持ち上げる。

 次の瞬間には、彩夢と響は車の中にいた。

 

「えっ? あれッ!?」

 

「それでは、行きますよ」

 

 運転席に座った茶髪の男性が優しげな声で言う。

 

「えぇぇぇぇッ!?」

 

 彩夢の声が車内に木霊した。

 

===

 

 

 あれよあれよと言う間に彩夢が連れてこられたのは、私立リディアン音楽院。

 の、地下深くに存在する特異災害対策機動部二課の本部である。

 

「リディアンの地下にこんなのが……」

 

「ビックリするよね」

 

「なんか……驚き疲れた」

 

 怒涛の展開に、何故響が戦場にいたのか。なんて疑問はどこかへと押し流されていた。

 

 茶髪の男性の後について、響と並んで廊下を歩く。

 やたらと長いエレベーターの中で彼から渡された名刺によると、名前を緒川慎次と言うらしい。

 名刺にある「小滝興産株式会社」という会社の名前には覚えがあった。

 彩夢がファンであるアイドル。風鳴翼の所属する事務所だったはずだ。

 

(そういえば、この前の単独ライブに飛電インテリジェンスが出資してたなぁ……)

 

 などと考えていると、

 

「緒川さん。戻ってたのですか」

 

「ええ、翼さん」

 

 件の人物。風鳴翼が眼の前に現れた。

 青い髪に、切れ長の強い意志を湛えた瞳。研ぎ澄まされた剣のようにどこか冷ややかな視線は、ステージの上で歌う彼女を知っているとギャップを感じさせる。

 

 そんな彼女を前に、彩夢は折り目正しく、さもそうするのが当然とばかりに姿勢を正して一礼する。

 

「お久しぶりです。翼お嬢様」

 

 そして、()()()()()()()挨拶した。

 

「えっ?」

 

 凄い勢いで彩夢を見る響。

 

「ええ。飛電或人(お父様)のご葬儀以来かしら。

 ゼロワンと聞いてまさかと思ったけれど、やはり彩夢だったのね」

 

「ええぇッ!?」

 

 物凄い勢いで翼を見る響。

 そんな響をよそに、凛とした態度を崩さず、鳩尾の辺りで腕を組みながら翼が答える。

 親しさこそ感じられないが、知らない仲ではないということを感じさせるには十分だった。

 

「ええぇぇぇぇッ!」

 

 今度はリディアンの地下に、響の声が木霊するのだった。

 

「さっきからうるさいぞ、立花」

 

「いやっ、でも! 2人って、しっ、知り合いだったのッ!?」

 

「……色々あるんだよ。風鳴と飛電には」

 

「貴女が詳しく知る必要は無いわ」

 

 つん、と突き放すように2人は言う。

 その時、響の両肩を誰かが叩いた。

 

「はぁい♡ 響ちゃんは私と一緒に来ましょうね〜♪」

 

「えっ、了子さんッ!?」

 

「はーい、こっちよ~♪ それじゃ、また後でね、お2人さん」

 

「まだ聞きたいことが〜〜ッ!」

 

 あ〜れ〜。と、メディカルルームへズルズル引きずられる響を見送る。

 嵐のように現れて響を連れ去った櫻井了子が見えなくなると、翼は小さく咳払いした。

 

「……んんっ、付いて来なさい。司令……叔父様が待ってるわ」

 

 




無印段階だと本当に触れないのでここでサラッと触れると
風鳴と飛電は本家と分家の関係です。
本家の次期当主、翼と分家の中で一番力を持ってる飛電の暫定当主、彩夢。
親戚っちゃ親戚
なお、或人社長がいない今では現当主風鳴訃堂がその気になれば彩夢は逆らえないくらいの力関係。


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16話『ゼロワンの真実 Ⅰ 』

矛盾点あったので書き直してたらこんな時間です。
とりあえず今日中に投稿出来たッ!


 特異災害対策機動部二課。司令室。

 

 翼の後ろに続き、彩夢を出迎えたのは見知った顔だった。

 

「お久しぶりです。弦十郎さん」

 

 赤い髪の壮年の偉丈夫。

 特異災害対策機動部二課司令。風鳴弦十郎。

 飛電彩夢にとって、戸籍上の遠い親戚にあたる男だ。

 

「ああ、久し振りだな。前に会った時より背が伸びたんじゃないか?」

 

「まあ、成長期なんで。それより、こんな強引に呼び付けるなんて。本家らしいと言えばらしいですけど」

 

「少々手荒になったことについては詫びよう。すまなかったな」

 

「謝って欲しかったわけじゃいです。あの緒川慎次って人、噂に聞く緒川の忍ですよね? 彼を迎えに寄越すってことは国防を担う防人として、余程重要な事なんでしょう?」

 

「分かっている。響くんのことだろう? 彼女が戻ってくるまで、話せることを話そう」

 

「……分かりました」

 

 

===

 

 

「アンチノイズプロテクター。シンフォギア……その適合者に立花が……」

 

「現在、響くんには協力者として二課に力を貸してもらっている。今回のようにレイダー部隊と協力し、極力彼女に危険が及ばないようにし対処しているのが現状だ」

 

 二課のオペレーター。友里あおいから渡されたカフェオレ(あったかいもの)を飲みながら、彩夢は弦十郎と話をしていた。

 翼も同じ部屋にいるが、彩夢から少し離れたところで壁にもたれかかっている。

 

「そうですか……あいつのお節介もここまで……」

 

 響の困っている人を放っておけない性格を知る彩夢には、ある意味で納得の行く話だった。

 困っている人がいて、自分に助けられる力があるなら、誰かの笑顔を守れるのなら、全力でそれを揮う。ただ、それだけ。

 

(オレと同じようなもんか……)

 

 ゼロワンの(戦う)力を得て、戦場に身を置いた彩夢と同じだ。止め手持ち無駄だろうというのは、分かる。

 

 それでも、心の底では戦ってほしくないというのが正直なところで。

 

「響ちゃんのメディカルチェック終了よ〜!」

 

 その時、司令室に、響を連れた櫻井了子がやってくる。

 その後から刃唯阿とサヨが続く。

 

「え、刃先生にサヨ?」

 

 思わぬ顔に驚く彩夢。

 

「私は彩夢様のお迎えに。刃様は」

 

「私は一課に技術顧問として参加しているだけで、本来の仕事は二課の技術者だ。ここにいるのは当然だろう?」

 

 なるほど、と頷く彩夢。ふと響と目が合う。

 どうやらメディカルチェック中に彩夢の事を聞いたらしい響は、彩夢の顔を見るとぎこちない笑みを浮かべた。

 

「どうだった。了子くん」

 

「もう、すーっごく元気ッ! 絶唱クラスのフォニックゲイン出しておいてなんで異常が無いのか不思議なくらい健康体よ」 

 

「そうか。となると要因は……」

 

 弦十郎と了子の視線が彩夢に向く。

 こめかみに指先を当てて唯阿が言った。

 

「彩夢のゼロワンか」

 

 キョロキョロと辺りを見渡し、傍らに立つサヨを見て、指先を自分に向ける彩夢。

 

「え? オレ?」

 

「ああ。ゼロワンの戦いは一課の方でモニタリングし、情報を収集していた。これを見てくれ」

 

 唯阿が手元のライズフォンを操作すると、司令室のディスプレイにゼロワンの立ち姿と、いくつかのグラフが浮かび上がる。

 

「これが通常時のゼロワンの戦闘データ。そしてこれが、シンフォギアと共闘した時の戦闘データだ」

 

 そう言って表示されたのは、何かの値が急激に跳ねたグラフだった。

 グラフのタイトルには、Unknownと書かれている。

 

「このグラフは?」

 

「不明だ」

 

「不明?」

 

「シンフォギアと何らかの反応が起きて、何かの数値が跳ね上がった。としか言いようが無い。

 これは私の仮説だが、彩夢のゼロワンにはフォニックゲインと共鳴し、増幅させる機能が備わっているのではないか。と考えている」

 

「フォニックゲインを増幅……だと……ッ!?」

 

 驚愕する弦十郎。それを気にせず、唯阿は続ける。

 

「こんな機能は、本来ゼロワンドライバーに備わっていない。

 詳しいことは彩夢のドライバーを解析するしかないな」

 

「オレのドライバーを?」

 

《ゼロワンドライバー ver.2!!》

 

 彩夢がドライバーを取り出した瞬間、保安機構(ライズリベレーター)が展開。顕になった照射形成機(ビームエクイッパー)からプロジェクターのように映像が投影された。

 

『どう? イズ、髪とか変じゃない?』

『或人社長、録画は既に開始しております』

『ええッ! そうなのッ!?』

 

「これって、父さん……? それに、イズ母さんの声……」

 

 そこに映されたのは飛電インテリジェンスの社長室に佇む在りし日の飛電或人。そこから聞こえるのはイズの声。

 机の上のデジタル時計には4年前の2039年4月8日と表示されている。

 

『えー、この映像が流れたってことはそこに彩夢がいて、ガングニール、アメノハバキリのシンフォギアがあるって事だ。

 あ、刃さんと弦十郎くんもいるのかな?』

 

「どういうことだ……?」

 

「ゼアの予測か……。つまり、飛電或人はこの状況を想定していたということになる」

 

「まるで手の平の上で踊らされてるみたいでイヤな感じねぇ……」

 

『まぁまぁ、そんなこと言わないでよ櫻井さん』

 

「ッ!?」

 

 どこかで監視されてるのかと辺りを見渡す了子。しかし、これは記録映像だ。

 卓上のデジタル時計が示す時間が正しければ、彼は4年後の1人の人物の発言まで予測していることになる。

 了子には映像の向こう側にいるのほほんとした笑みを浮かべた飛電或人という男が、酷く恐ろしいものに見えた。

 

『さて、みんな疑問に思ってるだろうフォニックゲインが急上昇する現象についてだ。

 結論から言うと、このゼロワンドライバーにはシンフォギアの歌と共鳴し、フォニックゲインを増幅させる機能が備わっている。名付けて、SinfoniaRize(シンフォニアライズ)システムッ!』

 

「つまり、シンフォギアとの共闘を前提に作られたゼロワンというわけか」

 

『おっ、さっすが刃さん。その通りッ!

 これから先、ゼロワンだけじゃ対処出来ない事が必ず起きる。ノイズだけじゃない。神話世界からの強襲はすぐそこまで迫っている。立ち向かうには、シンフォギアの力が必要だ。

 詳しいことは彩夢のライジングホッパープログライズキーを解析してよ。この映像が流れた後にロックが解除されるからさ。

 未来をそう、(たの)んだよ。歌の力でェッ!

 はいッ! アルトじゃ〜ッ、ナイトォッ!』

『今のは、そウ、タノんだよ。と、ウタノ力で。をかけた。面白いジョークです』

『あっ、ちょっとイズぅッ!?』

 

 ブツン、と映像が途切れた。

 

「っ」

 

 映像が終わったと同時に、膝から崩れ落ちる彩夢。

 

「彩夢くん、大丈夫?」

 

 亡くなった父の姿に何か思うことがあったのか。

 彩夢を心配して側に寄る響だが、傍らのサヨは何ら心配している様子が無い。

 

「やっぱり……高度すぎてオレには父さんのギャグが分からない……ッ!」

 

「えっ、そっちッ!?」

 

 イズ母さんも不破おじさんも笑うのにッ! と嘆く彩夢であった。

 




次回は7月3日(日)10時投稿予定。


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