転生メデューサの日常 (ぺかちゅう)
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第1話

閲覧していただいてありがとうございます。
これからよろしくお願いします。



 私はメデューサ。

 漫画【邪神ちゃんドロップキック】の登場人物(登場悪魔)です。

 

 

 私には秘密があります。実は私……かつて人間だった転生者なんです!どやっ!

 ……すいません!何言ってんだコイツって目で見つめるのやめてください!やめて!ちゃんと説明しますから!

 

 

 まあ説明と言っても劇的なエピソードなんてありません。物心ついたときにはここ……魔界に生まれる前の自分が、かつては別の存在だったことを知っていたというだけです。

 神様に会って転生させてもらったとか、前世の記憶を活かして世界を変える使命を与えられたとか……そんな胸躍るような展開はありませんでした。

 なんたって人間だったときの自分の名前すら覚えてないんですよ。この漫画についても、大好きだったことを除けばキャラクターのおおまかな立ち位置や大雑把なあらすじくらいしか覚えてませんでした。でも前世で得た多少の知識は覚えてましたよ!ご都合主義バンザイ!

 

 

 悪魔として生活していく内に、私はここが前世でお気に入りだった漫画【邪神ちゃんドロップキック】の世界だって気づきました。

 これぞ転生者特有の察しの良さ!……ではないと思います。

 仲のいい幼馴染が半人半蛇……所謂ラミアのような、邪神ちゃんって呼ばれる女の子であれば気づくというものです。

 

 

 さて、この世界のことを察した私がやったことは……特にありません!

 転生したからにはなにかやるべき事があるに違いない……なんて思ったりもしましたけど、特に思いつくはずもなし。

 そもそもこの漫画って世界の命運を賭けた壮大なストーリーを描く漫画じゃないです。邪神ちゃんと彼女を取り巻く魅力的なキャラクターたちの日常を描くコメディ漫画です。

 やるべきことって言っても普通に生活していくくらいしか思いつかないです。

 

 

 とはいえ初めのうちはいろいろ調べたりもしました。漫画と違うところがあったりするのかな?なんて思いましたからね。

 邪神ちゃんがクズじゃないかもとか、実はシリアスな世界だったりするのかもとか。

 結論としては、多分あんまり変わらないだろうということでした!

 幼馴染の邪神ちゃんやミノスと一緒に学校に通って、この世界で生きているうちに気にしなくなったんです。

 私がメデューサである時点で漫画と違うわけだし、難しいことばっかり考えてもしょうがないよねって。

 難しことを考えるのをやめたあとは、転生者特有(?)の一歩引いた視点に映る世界と自分の目に映る世界の両方を遠慮なく楽しむようになりました。

 ……あ、邪神ちゃんはクズでした。根はいい子だけどクズでした。クズなところも含めてとってもとっても可愛いです。大好き!

 

 

 邪神ちゃんは大好きだけど、原作のメデューサちゃんほどに邪神ちゃんを甘やかせている自信はありません。別人ですからね。

 やっぱり知識というのは行動に影響するもので、ふとした時にちょっと引いた視点になっちゃったりするんです。

 その影響がちょっと怖かったりもするけど、この世界でのメデューサちゃんは私なんだ!って開き直ることにしました。こればかりはどうしようもないですからね。

 でも割と甘やかしてはいます、自覚ありです。大好きですからね、自由に楽しくお付き合いしますとも!

 

 

 そんなこんなで邪神ちゃんやミノスたちと楽しく暮らしていたのですが。

 ある日、邪神ちゃんが人間界に喚び出されたと聞きました。

 ……そうです!遂に【邪神ちゃんドロップキック】が始まったのです!

 細かい展開を覚えているわけではないのですが、多分そのうち邪神ちゃんに人間界に呼ばれると思います。

 人間界……楽しみです。かつて生きていた世界ではありますが、やっぱり現世で行ったことのない世界を想像するとワクワクします!

 人間界旅行用のガイドブックで予習もバッチリです。ちょっと情報は古かったけど……。そういえば原作のミノスも既に存在しない建物に興味を持ってましたね。

 人間界もですけど、一番楽しみなのはいろんなキャラクター……こんな言い方は失礼ですね。今を生きている方たちに対して。

 改めまして、なにより楽しみなのはいろんな方たちと触れ合っていくことです!いろんな方といっしょに楽しく生きていくことです!

 

 

 

 ……スマホに電話がかかってきました。……邪神ちゃんからだ!

 

「はーい。邪神ちゃん?」

 

『あ、メデューサ~?』

 

 邪神ちゃんの声!数ヶ月ぶりの邪神ちゃんの声!

 

「邪神ちゃん!久しぶりだね!全然会えなくて心配してたよ!人間界にいるんでしょ?ご飯食べてる?暖かくして寝てる?それからそれから……」

 

『お、落ち着け!確かに久しぶりだけど落ち着きますの!』

 

「突然いなくなっちゃったんだもん、心配するよ~!ところで、なにか用事?」

 

 思わずおかしなテンションになっちゃいました。話を進めないと。

 

『お、おぉ……この突然本題に入る感じよ……。そうでしたの、本題ですの』

 

「お金?」

 

『違いますの!いや違わねーけど!……私を呼び出しやがった人間についてですの』

 

「人間?」

 

 多分ゆりねさんだよね。

 

『ですの。そいつを殺す手伝いをしてほしいんですの』

 

「殺すって……普通に帰してもらえば良いんじゃないの?」

 

 確か帰還の呪文を唱えてもらうか、呼び出した人が死んじゃうと帰れるんだけど……。

 

『そうなんだけどゆりねのやつ!……あ、ゆりねっていうのは私を呼び出したやつのことですの。そいつ召喚の呪文だけ知ってて帰還の呪文を知らねーんですの!』

 

「そ、そうなんだ……」

 

 割とかわいそうな境遇だよね、邪神ちゃん……。

 

「帰還の呪文を調べてもらったら?」

 

『そんなの待ってられねーですの!それで、手っ取り早くゆりねを殺そうとしたんですの。でもうまくいかないんですの……』

 

「うまくいかない?」

 

『ゆりねのやつ妙につえーんですの……。だからお前の能力が必要なんですの』

 

「わ、私のことが必要……!」

 

『……いや、お前の能力……』

 

 前世や原作がどうこう以前に、私は人間を傷つけたいとは思えないけど……。

 邪神ちゃんに必要とされるのはとっても嬉しい!嬉しいです!

 

「とにかく、そっちに行けばいいの?」

 

『おう、神保町で待ってますの。えっと、明日にでも……』

 

「すぐ行くね、待ってて邪神ちゃん!」

 

『へ?いやそんな焦らなくても……』

 

「重要なことだからね、早く会って話そうよ!」

 

 早く会いたいだけだけど!

 

『ちょっと落ちつ……』

 

「夕方には着くよ!じゃあね邪神ちゃん!」

 

『いや、待っ……』

 

 待っててね、邪神ちゃん!

 

 

 

 久しぶりにメデューサと話したけど、相変わらず妙に押しが強いですの……。

 なにはともあれ、対人間特化の石化能力……アレさえあればゆりねもイチコロですの!

 

「ゆりね~。さっき言ってた友達なんだけど、夕方くらいに来るそうですの」

 

「今日の?さっきは明日って言ってなかった?」

 

「うん、明日呼ぼうと思ったけどすぐ来てくれるって……。ゆりねにも紹介しますの」

 

「ふーん……。今日はアキバに行くけどすぐ帰ってこられるし……わかったわ」

 

 くくく……アキバでのお買い物がお前の人生最期の思い出になりますの!

 

「ところでその子の名前、なんていうの?」

 

「メデューサですの!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第2話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 邪神ちゃんからの電話を受けて人間界にやってきました。

 久しぶりに邪神ちゃんに会えると思うととっても嬉しい!

 

 

 わくわくしながら神保町へ向かいます。原作だとこのときに道を訪ねた人間を一人石化しちゃっていたような……。

 そのためにもガイドブックをしっかり読んできたので大丈夫!

 時間が経てば戻るとはいえ、人間を石化させるのはいい気分ではありませんからね。

 頭にはもちろん紙袋。難儀な能力ですけど、日傘代わりとでも思って我慢我慢。

 暗めのサングラスとかどうなんだろう?じっくり見つめなければ外から見えづらいし……今度試してみようかな?

 

 

 ゆりねさんと邪神ちゃんの住むアパートに向かっている間にも、ツイ●ターのDMでゆりねさんの強さについて邪神ちゃんが伝えてきます。

 曰く、必殺技のドロップキックも人間界の陶磁器メーカーから名を借りたロイヤルコペンハーゲンも通用しないうえに反撃で簡単にぶった切られる。

 曰く、指を指すだけで刺してくる。

 曰く、公共の場で舌打ちすると刺してくる。

 ……まさにバイオレンス。

 でも、会ってみなければ実際どうなのかなんてわかりません。この目で直接確かめなけれ……ば……。

 あれ?そういえば原作のゆりねさんってどうしてメデューサちゃんが直接見ても石化しなかったんだっけ?

 ……そうだ、アイテム!石化防止のアクセサリー!

 邪神ちゃんから聞き出した私の名前から推測して、前もって石化防止のアクセサリーを用意してたんだ!

 呼ばれたのが嬉しくて急いで人間界まで来ちゃったけど、ゆりねさんアクセサリー持ってるかな?

 もし持ってなかったら……。大丈夫かな、ゆりねさん……。

 あ、またDM。……合言葉?サンバのリズムで……。

 

 

 

 ゆりねも出かけたし、あとはメデューサを待つだけですの。

 それにしても勘違いして宅配便の人に怒鳴りかけたのは恥ずかしかった……。

 

「こんにちは~」

 

 来ましたの!今度は間違えないようにドア上部の覗き穴から確認……。

 ……誰?……紙袋?

 

「……サンバのリズムで?」

 

「カニバリズム」

 

 よし!……まさかノリで決めただけの合言葉を使うことになるとは……。

 

「待ってましたの!メデュー……うぉあ!」

 

「邪神ちゃーん!」

 

 ぐえぇ……抱きつくにしても勢い良すぎですの!

 

「おち、落ち着きますの……」

 

「ぎゅー!……あっごめんね邪神ちゃん」

 

 分かってはいたけど、久々だとびっくりしますの……。

 

 

 

 思わず抱きついちゃいました。

 久しぶりなんだからしょうがないということで!ごめんね邪神ちゃん。

 

「上がって上がって」

 

「おじゃましまーす」

 

「その紙袋はなんなんですの?」

 

「人間対策。人間は私と目が合うと石になっちゃうから……」

 

「魔物同士なら大丈夫なんだからとりますの」

 

「うん」

 

 ふぅ、やっぱり紙袋は無いほうがいいですね。ほんとに難儀な能力だなぁ……。

 ここがゆりねさんの家……。当たり前だけど原作といっしょだ、謎の感動がありますね。

 ……?なんだかニオイが……。

 

「さてさて、早速作戦を……何してるんですの?」

 

「あー!邪神ちゃん、また食べ物をしまってる!」

 

 ゆりねさんが使っているであろう机の引き出しに、おにぎりとサンドイッチが……。

 

「ふふん、きちんと整理整頓済みですの!」

 

「クリアファイルにサンドイッチって……相変わらずだね邪神ちゃん……」

 

 邪神ちゃんが時折見せる謎のこだわり……。

 悪魔としてなら理解できるかと思ったけど、別にそんなことはなかったです……。

 

「乾くと良くないからな!食べ物を粗末にするのはいけませんの!」

 

「大事なことだとは思うけど、だったらしまっておかないで早く食べようよ!」

 

「お腹いっぱいなのに無理して食べるのは食べ物に失礼ですの!……ってそんな事はいいんですの、早く対ゆりねの作戦を」

 

「邪神ちゃん、足音が聞こえるよ?」

 

「も、もう帰ってきちゃいましたの!?明日の朝に待ち合わせればじっくり作戦を練れたのに!」

 

 ゆりねさんが帰ってきたんだ、どんな人なんだろう?

 

 

 

 と、とにかく作戦開始ですの!

 

「いいかメデューサ!お前は出会い頭にゆりねと目を合わせて石化させますの!そこを私のドロップキックで粉々ですの!」

 

「え、えぇっ!?いきなりそんな卑怯な策を!?」

 

「卑怯ではない!先手必勝というものですの!お前には想像もつかない作戦だろうがな!」

 

「ううん、邪神ちゃんならやると思った」

 

 ……メデューサはこういうところがありますの……。変なところで察しが良いというか……。

 

「でも私、人間を石化させるのはやっぱり……」

 

「悪魔が何言ってますの!さあスタンバイ!ガ●ダム風に言うとスタンバりますの!」

 

「ただいまー」

 

 あばよゆりね!最期にお前の発した間抜けな声は忘れませんの!

 ……やっぱりすぐ忘れてやりますの!

 

「おかえりですの~!もう来てますの、この子が……お前の息の根を止める布石ですの!」

 

 勝った!勝ちましたの!

 

「可愛い子ね、確か……メデューサよね。私ゆりね、よろしくね」

 

「あ、よろしくおねがいします。……あの、こっちであってますよね?」

 

「あなたからみてちょっと右ね……うん、そのへん」

 

 ……なんか普通に会話してますの。右とかなんのことですの?

 

 

 

 紙袋は間に合わなかったけど、とにかく目を見せないようにしないと……。

 対策してくれてるかわからないし……。

 

「あー!なんで目をつぶってますの!必殺のコンビネーション殺法が!」

 

「だって私、人間を石化させるのいやだもん!」

 

 邪神ちゃんは大好きだけど、私にも譲れないものはあるのです!

 

「大丈夫よメデューサ、目を開けても」

 

「え、でも私の目は……」

 

「対策はバッチリだから」

 

「は、はい……」

 

 恐る恐る目を開くと、ゴスロリ服を身に纏った絵に描いたような美少女が立っていました。……漫画では絵だったけど!

 

「あなたがゆりねさん……あ、改めまして、私メデューサといいます。今後ともよろしくおねがいします」

 

「こちらこそ。邪神ちゃんと違って礼儀正しいのね」

 

 気だるげな表情とちょっと鋭い目つきでとっつきづらそうに見えるけど、優しい声色です。

 想像していたとおり……ううん、想像よりも素敵な人みたい。

 

「なんでメデューサとゆりねが親交を深める感じの展開になってますの!」

 

「その、人間相手にちゃんと目を見せて話せるのが嬉しくて」

 

 原作で大丈夫だったからって目の前のゆりねさんがそうとも限らないし、やっぱり不安なものは不安でした。

 

「あの、ゆりねさんはどうして私と目を合わせても石化しないんですか?」

 

「これよ」

 

 ゆりねさんが手首につけているのは……アクセサリー!

 

「石化防止のパワーストーン。アキバの露天商で買ってきたの」

 

 アキバの露天商すごい!

 

「ば、バカな……なぜゆりねは私の友人が石化能力をもっていると気づいたんですの……」

 

「あんたが教えてくれたんでしょ、友だちの名前はメデューサだって」

 

「あ……!」

 

「石化する能力をもってることぐらい想像つくわよ」

 

 邪神ちゃん……相変わらずバ……素直なんだね……。

 

「ところで邪神ちゃん……必殺のコンビネーション殺法とやらが不発に終わったけど」

 

「こ……こ……これはメデューサが立てた作戦ですのー!」

 

 えっ。

 えっ。

 

「私は嫌だって言ったのにさっさとゆりねを殺してしまえってメデューサがー!」

 

「あんたって子は……メデューサ?」

 

「ひ……ひ……ひどいよ邪神ちゃーん!」

 

「へぶー!」

 

「腰の入った見事なビンタね」

 

「パチンコ代をせびられたりならしょうがないと思ってたけど……」

 

「しょうがなくないわね」

 

「人様を傷つけようとした上に誰かに責任をなすりつけるなんて……こんな……こんな……!」

 

「い、いやあの……。その、つい勢いで……」

 

「絶対責任をなすりつけてくるとは思ってたけど!」

 

「思ってたんかーい」

 

 ……思ってました。原作知識とかじゃなくて邪神ちゃんだし……。

 どうでもいいけどゆりねさんの平坦なツッコミ、癖になりそうです。

 

「さて、邪神ちゃん……帰還の呪文を探すのを待ってなさいって言ったわよね?」

 

「は、はい……」

 

「分かってるわよね?」

 

「じゃ、邪神ちゃん!」

 

「メデューサー!は、早く助けますのー!」

 

「ア●ンアルファは用意してあるからね!」

 

「そういうことじゃね……あ゛ー!」

 

 

 

「た、助け……血が……無くなっちまいますの……」

 

 天井から吊るして血抜き中の邪神ちゃんのかすれた声がBGMになっている私の部屋。

 目の前のメデューサは顔をひきつらせてはいるけど咎めるような雰囲気は感じない。

 

「メデューサ」

 

「はい?」

 

「邪神ちゃんって昔からこうなの?」

 

「?……あ、別に召喚されたことでクズになっちゃったとかではないので、お気になさらないでください」

 

 すぐ聞きたいことを把握するあたり、この手の質問に慣れてるのかしら。

 

「そう、気にしてないけど……元からクズだったのね」

 

「あ、あはは……」

 

「気にしろー!」

 

 この子、無闇に相手を貶めるタイプには見えないけど……。邪神ちゃんは昔からの筋金入りのクズなのね、やっぱり。

 

 

 

 邪神ちゃんが血抜きをされていることを除けば友好的な雰囲気です。

 人間と仲良くなれるのはとってもうれしい!

 

「あの、ゆりねさん」

 

「なに?」

 

「人間界での邪神ちゃんのお世話をしていただいで、本当にありがとうございます」

 

「特にお世話なんてしてないけど……」

 

「いいえ。この邪神ちゃんのために生活費を割いてくれているだけで、本当に……」

 

「このってなんですの、このって……」

 

 だって、うん……。邪神ちゃんだし……。私はそんな邪神ちゃんが大好きだけど。

 

「これからは私もお手伝いできるようにするので、よろしくおねがいしますね」

 

「これから?」

 

 そう、私は考えたんです。大好きな邪神ちゃんの近くにいる方法!それは……。

 

「お隣の部屋が空いているみたいなので、お引越しすることにしました」

 

 そう、原作のミノスの真似っ子です!いずれはミノスと同居したりできるかも!

 

「そういえば空室だったわね。それじゃ、これからはお隣さんになるのね」

 

「はい、よろしくおねがいしますね!」

 

 

 

 なんか私を無視して話が進んでますの……。

 でもこれはチャンスですの。

 石化能力が効かなくても、一人で襲うよりは二人で襲った方が殺せる確率も上がるというもの!

 乗り気じゃないメデューサを言いくるめて戦力に組み込んでやりますの!

 

「邪神ちゃんがメデューサを抱き込んで私を襲わせようと思っていそうな顔をしているわね」

 

「二人で襲いかかることで勝率をあげようとしていそうな顔をしてますね……」

 

 なんで分かるんですの……。というか……。

 

「早く下ろしてくれー!血液の不足が原因でめまいや頭痛などの症状を引き起こしちまうー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第3話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 邪神ちゃん……というかゆりねさんのお部屋の隣の部屋に引っ越してから数日が経ちました。

 

 

 引っ越し後のお片付けはゆりねさんが時々手伝いに来てくれたりして、思っていたより早く終わりました。

 もちろん邪神ちゃんは手伝ってくれませんでした。知ってた!

 まあ私が自分の判断で引っ越してきたわけですからね。むしろゆりねさんがお手伝いに来てくれるのがものすごくありがたい事なのです。

 

 

 まだ部屋が散らかってるでしょうって言ってゆりねさんがお部屋に招いてくれた時には、邪神ちゃんの作ったお料理を食べさせてもらいました。

 邪神ちゃんはとってもお料理が上手です。私は大得意というほどではないので、すごく羨ましい!

 ちなみに、私の料理は邪神ちゃん曰く『普通ですの』だそうです。

 いつか邪神ちゃんに美味しいって言ってもらえるようになりたいな。

 

 

 あ、そろそろお昼。

 準備して邪神ちゃんのお部屋に行こうっと。

 

 

 

 ……暇ですの。

 日曜日というものは何もすることがありませんの。

 ダラダラするのは幸せだけど、なんかこう……楽しくダラダラしたいですの。

 ゆりね殺そっかなー。でももうお昼近いしなー。

 というかゆりねは出かけてるんだった……。暇すぎて思考が覚束無くなってますの……。

 

 

「こんにちはー」

 

 メデューサの声……。パチ代かな?

 いや、あいつは自分からお金を持ってくるタイプではありませんの。

 それに今月は既に月に一度の借金をしてあるし……。

 

「邪神ちゃーん、いませんかー?」

 

「めんごめんご、今開けますのー」

 

「ごめんね、お鍋持ってると開けづらくて……」

 

 この食欲を誘うスパイシーな香りは……。

 

「カレー作ってきたんだ、一緒に食べよ?」

 

「ラッキー、お昼作る手間が省けましたの!……でもなんで?」

 

「ゆりねさんに頼まれたの。邪神ちゃん、食事も作らずダラダラしてるだろうから見に来てって」

 

 ……なぜ分かるんですの……。そしてなぜメデューサもそれを疑いすらしてない様子なんだ……。

 

「ま、まぁとにかく上がりますの」

 

「うん、お邪魔します」

 

 

 

 やっぱり邪神ちゃんはダラダラしてました。ゆりねさんの読みは見事に的中。

 変なことをしてないか気になるからとも言われたことは黙っておこう……。

 

「ご飯はある?無ければ私の部屋から冷凍してあるのを持ってくるけど」

 

「パックのご飯があるから大丈夫ですの」

 

「わかった、温めるからちょっと待ってね」

 

 最近はパックのご飯も馬鹿にできない味だよね。……っと、できたできた。

 

「お待ち遠さま」

 

「いただきまーす!……ふむ」

 

「どうかな?美味しい?」

 

 私の料理を邪神ちゃんに食べてもらうのは久しぶり。ちょっと緊張。

 

「ん……。うん、普通ですの」

 

「そ、そっか……」

 

 邪神ちゃんはまずい時はそう言ってくれるので、悪い評価ではないと前向きに受け止めます……。

 

 

 

「ごちそうさまでしたの~」

 

「お粗末さまでした」

 

 やっぱり誰かに作ってもらうご飯は良いものですの。

 メデューサがこっちに引っ越してきたのはラッキーだったなー。お金はともかく世話焼きに来てくれるし。

 あとはゆりねを殺してくれれば……。

 

「なー、メデューサ~」

 

「なーに?」

 

「まだゆりねを殺す気にならねーんですの?」

 

「ならないよ、ゆりねさん良い人だと思うし」

 

 即答ですの……。洗い物の手すら止めずに……。

 って、ゆりねが良い人ぉ?

 

「どこがですの!すぐ切って刺して投げて叩いて吊るしてくるやつのどこが良い人なんですの!」

 

「んー、まあ過激だとは思うけど……。話を聞いてると邪神ちゃんにも問題はあると思うんだよね……」

 

「大体、帰還の呪文も知らずに私を召喚した時点でアウトですの!」

 

「帰還の呪文について知らなかったみたいだし、それに呪文が書いてある本を探してはくれてるんでしょ?時間がかかったとしても私達にとってはあっと言う間なんだし、もうちょっと待っててみようよ」

 

「ぐ……」

 

「せっかくだし仲良く暮らしたほうが楽しいと思うけどなー」

 

 メデューサを対ゆりね包囲網に引き込むのはまだ難しそうですの……。人間と仲良くしてみたいって昔から言ってたしなーこいつ……。

 

 

 

 色々言ってみたけど、絶対諦めてないよね邪神ちゃん。私は人間が好きだしちょっと引いた視点で見てるけど、邪神ちゃんからしたら理不尽でしか無いだろうし。

 ゆりねさんはとっても強いから大丈夫だと思うけど……。

 それにしても、私の家事の腕前が壊滅的じゃなくてほんとに良かったです。原作のメデューサちゃんと比べると、これもある意味転生チート!なのかな?

 

「よしっ、洗い物おしまい!邪神ちゃんは午後なにか予定とか……なんだろこれ?」

 

 タンスの上に……これは、おもちゃのステッキかな。

 

「なんですの?ステッキと置き手紙?……『絶対に変身しないでください』?」

 

「変身ステッキ……なのかな?まさか本物のわけないよね」

 

「バッカでー!こんなおもちゃで変身できるわけねーですの!」

 

 馬鹿にした様子の邪神ちゃんだけど、ステッキをチラチラ見てます。ものすごく気にしてます。

 変身してみたいのかな?

 

「やってみたいの?」

 

「いっ!?いやいやいや、全然興味なんてねーですの!」

 

「そ、そう……。そんなに焦んなくても」

 

「焦ってなんていませんの!さーて食後のダラダラですのー!」

 

 今度は露骨に目を背けてます。わかりやすいなー。

 

 

 

 しかし、あのゆりねがこんなギャグみたいなことをやるだろうか?

 石化防止のパワーストーンなんて調達してきたゆりねだぞ……。ひょっとしたら……。

 でもまさか変身ステッキはないわな!……ない、よな?

 ……。

 

「メデューサ」

 

「なぁに?」

 

「ステッキ。使ってみますの」

 

「え、なんで?」

 

「いいから!」

 

 こういう時は誰かにやってもらえば良いんですの!冴えてるなー私。

 

「で、でも恥ずかしいよ……」

 

「大丈夫ですの!私しか見てないし!」

 

 さあさあ!ハリー!ハリー!

 

 

 

 うー、邪神ちゃん物凄く急かしてくる……。

 しょうがないなあもう……。

 

「じゃ、じゃあ。……へ~んしん☆」

 

「ただいま」

 

「あ、おかえりですのー」

 

「ひえぇっ!」

 

 ゆ、ゆりねさん!?

 ものすごく微笑ましいものを見る目……!

 み、見られて……た?

 

「いらっしゃいメデューサ。とっても可愛いと思うわ」

 

「い、いえあの……。これはその、邪神ちゃんがあぁ……」

 

 私今顔真っ赤です!鏡とか無くてもわかります!

 恥ずかしいよぉ……!

 

「ぷくく……。メデューサ、恥ずかしいならその決めポーズ解きますの!」

 

 あぁぁ!やめて!言わないでえぇ!

 

「おもちゃのステッキ掲げてかわいーポーズまで決めて!ここまで露骨にぶりっ子なメデューサなんて久しぶりに見ましたの!」

 

「許してえぇ……」

 

「ゆりね、しっかり記憶しておきますの!こんなメデューサめったに見られねーぞ!」

 

「やめてあげなさいよ……。メデューサも、なにも蹲らなくても大丈夫よ」

 

「うぅ、ゆりねさん……」

 

「ほんとに可愛かったから恥ずかしがることなんて無いわ」

 

「あぁぁああ!」

 

「うひゃひゃひゃひゃ!」

 

 

 

 まあ邪神ちゃんに押されてやったんでしょうけど……。

 というかバカ笑いしすぎでしょ邪神ちゃん。

 

「でも惜しかったわね」

 

「わははは……なにがですの?」

 

「かわいーポーズを決めるまでは良かったけどそれだけじゃ足りないの」

 

「足りない?」

 

「呪文が必要なのよ」

 

「えっ、呪文?……じゃあまさかほんとにこれ……」

 

 信じちゃうんだ……。そりゃ邪神ちゃんだし信じるか……。

 

「バカでーす☆って唱えながらかわいーポーズをとらないとダメなの」

 

「そうやれば変身できるんですの!?」

 

 完全に信じてる……。

 せっかくだしメデューサにも見せて……これはダメね、しばらく恥ずかしがり続けるパターンだわ。

 

「やってみますの!……バッカで~す☆」

 

 

 

 ……。

 ……あれ?

 

「変身しませんの……」

 

 ちゃんとかわいーポーズをとって、呪文も……。

 バカでーす☆って……。バカでーす……って……。

 

「あああああ!!」

 

 騙されましたのー!

 

「邪神ちゃん……。あなた最高に面白い……!」

 

 たかが人間であるゆりねの用意したステッキ一本に、この私が翻弄されるなんて……。

 メデューサはともかくこの私が……!

 

「ププッ」

 

「くっふぅ~!いつかぶっ殺してやりますのー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第4話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 ステッキの件では邪神ちゃんにさんざんいじられました……。

 今思い出しても恥ずかしいです……。なぜ私はあんなことを……うぅ……。

 

 

 ゆりねさんの話では私が恥ずかしがってる間に邪神ちゃんもポーズをとっていたらしいです。

 ……ちょっと見てみたかったかも。

 べ、別に邪神ちゃんを笑ってやろうとかではなくてですね?

 きっと可愛かっただろうなって……。やっぱり見ておきたかったです!

 

 

 あ、電話……。邪神ちゃんからだ。

 

「はーい」

 

『メデューサ、すぐこっちに来ますの』

 

「えっ?う、うん……。ちょっと待っててね」

 

『急ぎますの』

 

 なんだろう?ずいぶん深刻そうな声だったな……。

 

 

 

「こんにちはー。邪神ちゃん、来たよー」

 

「入っていいですのー」

 

「はーい。……お邪魔しまーす」

 

 よしよし、ちゃんとすぐ来たな。

 ……これ逆にゆっくり来いって言ったらどれくらいゆっくり来るのかな……。今度試してみますの。

 まあそれはされおき……。

 

「とりあえず座りますの」

 

「うん、ありがと。……それでどうしたの?なにか良くないことでも起きた?」

 

「……実は……」

 

「実は?」

 

「夢を見たんですの」

 

「え、夢?……怖い夢でも見たの?」

 

「そうなんですの。とてもとても恐ろしい……わぷっ!」

 

 い、いきなりなんなんですの!?

 

「よしよし、大丈夫だからね……。落ち着くまでこうしていてあげるから……」

 

「……うぅ、怖かったですの……。って!そういうことじゃねーよ!」

 

 抱きしめられてよしよしされてる場合じゃねーですの!

 

 

 

 怖い夢を見て独りでいるのが不安になっちゃったのかと思ったけど、違いました。

 そもそも夢を見たのは昨晩のことだったみたい。

 その夢の内容っていうのが……。

 

「ゆりねさんに槍で殺される夢?」

 

「ですの。どこからか手に入れてきた槍で悪しき者を討つとか言い出して……」

 

「悪しき者……邪神ちゃん?なんちゃっ……うわわ、やめふぇやえふぇ!」

 

 痛い痛い!ほっぺた引っ張らないでぇ!

 

「茶化すところじゃねーですの!確かに悪魔だしゆりねも同じことを言ってたけど!」

 

「うぅ……ごめんなさい……」

 

「話を戻しますの。その後、ドロップキックによる抵抗も虚しく槍の一突きでゆりねに殺されるところで目が覚めたんですの……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 ……なんだかその光景が目に浮かぶようです……。

 ひょっとして原作にある場面なのでしょうか?でも、邪神ちゃんとゆりねさんの間柄ならあって当然みたいな状況ではあるし、どうなんだろう……。

 まあ考えても仕方ないし、原作どうこうはおいておきましょう。

 

「でも夢なんでしょ?そんなに気にしないほうが良いんじゃ……」

 

「話は終わってないですの!今朝ゆりねが出かける時に、槍のことを話してたんですの……」

 

 

 

「つまり……槍で殺されるのが正夢になるかもしれないってこと?」

 

「そういうことですの」

 

 そう……このままでは私がゆりねに殺されちまうかもしれねーんですの……。

 

「だからメデューサ、お前には今日だけでもゆりねの気が槍に向かないようにしてもらいたいんですの」

 

「ゆりねさんの気をそらすの?……普通にお話をしてれば良いのかな……」

 

「まあそれでいいですの。殺される確率は減らしておきたいからな」

 

 ほんとはそれだけじゃねーけどな!

 気をそらした隙に、今日買ったばかりのバールでぶっ殺すってスンポーよ!

 傷害事件でよく登場するバールのようなもの……。しかしこれはバールそのもの!殺傷力は段違いですの!

 ……それにしても、朝注文して夕方に届くとは。さすが大手通販サイトアマゾネス。

 素早い配送にあやかって、ゆりね殺害計画も素早く実行してやりますの。

 でもメデューサはゆりねのことを気に入ってるからな……。計画の全容は教えないでおきますの。

 邪魔されたりしたら面倒だし。

 

「……ねぇ邪神ちゃん、ほんとに気をそらすだけ?」

 

「ほ、ほほほ本当ですの……。私がお前に嘘なんてつくわけ……む!ゆりねの足音ですの!」

 

 あぶねー!このまま勢いで計画実行ですの!

 

 

 

「ただいま。あー重かった」

 

 ほ、本当に槍を持ってる……。

 

「来てたのね」

 

「あ、お邪魔してます」

 

「おかえりですのー」

 

 邪神ちゃんのことだから、なにか企んでるような気がします……。

 でもひょっとしたら……もしかしたら本当に気をそらすのだけが目的かもしれないし、とりあえずは言われたとおりにしてみようかな。

 ……でも改めて話をしようって思うと何を話せば良いのか思いつかない……。

 ど、どうしよう……。

 

「この前の、写真に撮っておけばよかったわね」

 

 良かった、ゆりねさんから話題を振ってくれた……。

 

「この前、ですか?」

 

「ええ、変身ステッキの」

 

 ……どうしてこの話題!?すごく恥ずかしかったのに、自分からこの話題に食いつかなくちゃいけないの!?

 

「あの、あれはですね?本当に邪神ちゃんに押されてですね?」

 

「分かってるわ、大丈夫よ。可愛かったし」

 

「あうぅ……」

 

 分かってる、かぁ……。邪神ちゃんに言われてやったんだって分かってくれていることを願うばかりです……。

 照れて邪神ちゃんのせいにしてるだけだって思われてないことを神様に祈るしかありません……。私は悪魔だけど。

 

「それに、撮っておけばよかったっていうのは邪神ちゃんの方よ。メデューサにも見せてあげたかったなって」

 

「え……。あ、そっちの方ですか!」

 

 完全に自分のことだと思いこんでました……。

 これ自意識過剰みたいになっちゃってたよね、一番恥ずかしいやつです……!

 

「邪神ちゃんはどんなポーズだったんですか?」

 

「そうね、こう……右手を拳銃みたいな形にして顔の下にやって」

 

「ふむふむ」

 

「ウインクをしながら左手に持ったステッキを構えて」

 

 うーん、目に浮かぶようです……。可愛かっただろうな、邪神ちゃんの変身ポーズ。

 

「それで、バッカで~す☆って決め台詞を言って」

 

 ……え?

 

「……決め台詞、ですか?それが?」

 

「そのつもりだったみたいね」

 

 ……自虐?それともなにかに感化されて?

 謎です……。邪神ちゃんのやることは時々よくわかりません……。

 

 

 邪神ちゃんの謎の行動を知って、思わず邪神ちゃんの方を見たときでした。

 いつの間にかゆりねさんの背後に移動していた邪神ちゃんが、バールを持って大きく振りかぶっていたのです。

 

「だめ!避け……」

 

 避けてと言い切る前に邪神ちゃんは思い切りバールを振り下ろし……それをゆりねさんにあっさり白刃取りされていました。

 ……ですよねー!

 

「なぜバレた……」

 

「あれだけ露骨に会話に入ってこなければ、そりゃ怪しいって思うわよ。メデューサだって多分勘付いて……なかったみたいね」

 

「め、面目無いです……」

 

 邪神ちゃんの変身ポーズのことで完全に気がそれていました、情けない……。

 

「さて、邪神ちゃん?」

 

「……メデューサ!なんてことをさせるんですのー!」

 

「じゃ、邪神ちゃん……?」

 

 ……これ、ひょっとしなくても。

 

「あんた、また……」

 

「私はもうこんなことしたくないって言ったんですの!なのにこいつがー!」

 

「ひどいよ邪神ちゃん!私こんなことさせてないよ!」

 

「てめー!この期に及んで私に責任押し付ける気か!この卑怯者ー!」

 

「邪神ちゃん、見苦しいわよ……」

 

 私と言い合っていた邪神ちゃんにゆりねさんの冷たい声がかけられます。

 こ、怖い……!

 

「分かってるわね?」

 

 

 

「うぅ……助け……」

 

 結局槍でめった刺しにされましたの……。夢よりひどい状況じゃねーか……。

 

「メデューサ……手当て……アロンア●ファを……」

 

「う、うん……」

 

「まだいいわよ、再生能力だってあるし」

 

 ゆりねめ、まだ私を苦しめ足りないんですの……?

 

「……そうですね」

 

 メデューサ!?

 

「し、親友を見捨てるんですの……?」

 

「ちょっとは反省したほうが良いよ、邪神ちゃん……」

 

「たくさん反省したほうが良いわよ、邪神ちゃん」

 

 二人して反省反省ってうるせーですの……。

 

「い、意識が遠のいていきますの……。この恨み、晴らさでおくべき……か……ですの……」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第5話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 ……夏です!暑いです!

 私の部屋はエアコンを導入していないので扇風機が最強の冷房機器だけど、あったかい空気をかき混ぜてもあんまり意味が無いんですよね……。

 それでも使わないよりマシなんだけど……。

 

 

 ……チャイム?

 誰だろう?邪神ちゃん……じゃないよね、邪神ちゃんならスマホで私の方を呼び出すはず。

 

「はーい、どちら様……遊佐さん!」

 

「お久しぶりです、メデューサさん」

 

 お客様は氷族の遊佐さんでした。

 魔界のいろんなところを回っていた時に知り合いになった方です。

 いつもは妹の氷ちゃんと一緒なんだけど……。今日はそうじゃないのかな?

 

「どうぞ、上がってください」

 

「お邪魔します」

 

 あ、涼しい……。

 氷族の方は冷気を出して周囲を涼しくすることができるのです。

 この時期にはとても羨ましい能力ですね。

 人間を石にする能力なんかじゃ、どう考えても暑さには対抗できないし……。

 

「飲み物出しますね」

 

「ありがとうございます。……できれば麦茶以外でお願いします」

 

「あ、はい……。じゃあジュースを……」

 

 遊佐さんに限ったことではないけど、砂糖入りの麦茶は嫌がられることが多いです。

 こんなに美味しいのになんでだろう?謎です……。

 

 

「ところでどうしたんですか?なにか人間界に用事でも?」

 

「実はわたくしではなく、妹の用事で。わたくしはそれについて来たんです」

 

「氷ちゃんの用事、ですか?」

 

「ええ、こちらのアパートに住む知人に呼ばれたと言って」

 

 魔界の方の知り合い……邪神ちゃんかな?氷ちゃんと知り合いだったみたいですね。

 

「せっかくだからと思ってここまで一緒に来たのですが、お隣にメデューサさんが住んでいらっしゃるようなので。この暑さですからね、わたくしはこちらに寄らせてもらいました」

 

「ありがとうございます、本当に……」

 

 遊佐さんの優しさが心にしみます……。

 

 

 

「人間界に引っ越していたんですね、メデューサさん」

 

「はい、少し前から。そういえば遊佐さんたちには連絡してなかったですね……ごめんなさい」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

 全くの予想外というわけでもないですしね。メデューサさん、いつも人間と仲良くしてみたいと言っていましたし。

 

「人間界のこの暑さは大変でしょう?私達ならともかく……」

 

「そうですね……。石化能力は生活には役立ちませんからね」

 

 これもよく言っていたことですね、石化能力のこと。でも相変わらず卑屈さは感じません。

 自分の能力のせいで仲良くしたいはずの人間と顔を見せあって話せない……。普通なら暗くなってしまいそうなものだけど……。

 メデューサさんは昔から、そういうものだからと笑っていました。

 諦めるというよりも、いつかなんとかなると信じているような……。確信にも近い希望を持っているような……。そんな印象を受けたのは今でも覚えています。

 

「でも人間界に来て、私の目を見ても石化しない人と出会ったんですよ!」

 

「そんな人間がいるんですか!?」

 

 メデューサさんの能力は人間であれば誰にでも効くものだと思っていましたが……。

 

「あ、いえ……その方の能力というわけではないんです。私と会う時に前もって石化防止のパワーストーンを買っておいてくださって」

 

 そういうことですか……。びっくりしました……。

 

「私に向かって目を見せても大丈夫だよって言ってくださったのが、すごく嬉しくて」

 

「そんな方がいらっしゃったんですね」

 

「はい、ゆりねさんっていう女の子なんです」

 

 本当に嬉しかったんでしょうね、目が輝いてます。

 

 

「大変といえば、人間界ではレベルアップも大変なのでは?戦うことも少ないでしょうし」

 

「それが魔界とあんまり変わらないんです、私も驚いたんですけど」

 

「そうなんですか?」

 

 なんだか意外ですね。

 

「メデューサさんが魔界にいた時はたしか……レベル40後半でしたよね」

 

「はい、48でした。人間界にきてから一つ上がって49になったんです」

 

「本当に人間界でもレベルが上がるんですね……」

 

 一体何をしたのかしら。

 

「そうなんです。この辺りでは近所の家庭のゴミを所定の場所に集めて回収してもらうんですけど、そこにカラスがたくさん群がってくるんです」

 

「カラスって……あのカラスですか?」

 

 カラスという名の凶暴な獣……とかではなく?

 

「あのカラスです。それを追い払ってたらいつの間にか上がってました」

 

「ず、随分と経験値がもらえるんですね……」

 

「数が多いんです。ゴミを集めるってことは、カラスにとってはエサが一箇所に集まるってことですから」

 

 なるほど……。話を聞くだけでも魔界とは随分と経験値事情が違うのですね。

 

 

 

「それにしても邪神ちゃんからの呼び出しかぁ……」

 

 氷ちゃんをゆりねさんに紹介するのかな?

 

「邪神、さん……ですか?たしかに妹もそう言っていましたが……。お知り合いの方ですか?」

 

「え?ええ、幼馴染です。このアパートで魔界に住む知り合いがいるのは私と邪神ちゃんだけのはずですから……」

 

「そうだったんですね」

 

「さっきお話をしたゆりねさんの部屋に住んでいるんですよ。……ん?」

 

 ……そういえば邪神ちゃんってたしか。

 

「あの、失礼ですが氷族の方って一応下級悪魔……でしたよね?」

 

「そうですね。成人すれば上級悪魔の方にも引けを取らなくなることが多いですが」

 

 ……まずいかもしれない!

 

「遊佐さん、私達も氷ちゃんの所に行きましょう!」

 

「……?突然どうしたんですか?」

 

「邪神ちゃんは、その……強きを助け弱きを挫くタイプでして……。立場や見かけで相手を判断するタイプでもありまして……」

 

「妹を虐めるような方だと?」

 

 否定したいけど……。できない、よね……。

 

「はい、多分……というか間違いないかと……。ゆりねさんが一緒のはずだから、そこまで酷いことにはなっていないと思うんですけど」

 

 氷ちゃんだって強いし、怪我をしたりはしてないと思うけど……。

 

「そうですか……。妹が虐められているかもしれないとなれば……」

 

「急ぎましょう!」

 

「ええ!」

 

 

 

「ちょっと邪神ちゃん、無理にやらせちゃダメでしょ。かわいそうよ」

 

「いーんですの、こいつは下級悪魔なんだから。お前も上級悪魔様に貢献できて嬉しいよなー?」

 

 ほんと便利だなー氷ちゃん。居るだけで涼しいし、かき氷は作れるし。こうして雪まで降らせられるんだもんなー。

 夏はずっとこいつをこき使ってやろうかなー。

 ……ん?

 

「ちょ、ちょっと寒すぎですの……もうそのくらいでいいぞ……」

 

「止める気無いみたいよ。相当あんたにムカついてるみたいね」

 

 はぁ~?下級悪魔のくせに?

 

「もういいって言ってんだろ!やめて帰れよ!」

 

「やめなさいよ、邪神ちゃん」

 

「うるせーですの!こっちは上級悪魔だぞ!」

 

 下級悪魔の分際で……。邪神である私に向かってなんなんですの、その目つきは。

 ……?

 

「オメーみたいなチビに掴まれたところで怖くもなんとも……なっ!?」

 

 こいつ……こっちの腕を凍らせてきやがりましたの!

 

「こんの……クソガ……」

 

「そこまでです!」

 

「そこまでだよ邪神ちゃん!」

 

「キ……えっ?メデューサと……誰?」

 

 

 

 やっぱり邪神ちゃんは氷ちゃんを虐めてました……。なんだかなあ……。

 

「確か邪神さんでしたか……。妹に手出しをするのは許しませんよ!」

 

「大丈夫!?氷ちゃん!」

 

 ちょっと怯えちゃってる……よしよし……。自分の能力が強力でも、暴力を振るわれるのは怖いよね……。

 ……でもこれ、多分助かったのは邪神ちゃんの方です。

 

「いらっしゃい、メデューサ」

 

「あ、ゆりねさん。お邪魔してます……」

 

 ゆりねさんは突然の乱入者にも全然動じてない。さすがの冷静さです……。

 

「ご紹介しますね。こちら、氷ちゃんのお姉さんの遊佐さんです」

 

「はじめまして、わたくし遊佐と申します」

 

「氷ちゃんの……。ゆりねです、よろしく」

 

「オメーら私を無視して話を進めてるんじゃねーですの!あと邪神さんじゃない!さんをつけるなら邪神ちゃんさん、だ!」

 

「うるさいわよ、二人に助けられておいて……」

 

 やっぱりゆりねさんにもそう見えますよね……。

 

「はぁ?私が下級悪魔に負けるっていうんですの?」

 

「ええ。今のはどうみても返り討ちにされるパターンだったわね」

 

「私もそう思うよ、邪神ちゃん……」

 

「メデューサまで!?こっちは上級悪魔だぞ、こんなモグラ顔に負けるわけねーですの!」

 

 ……あ。ちょっとまずいかも……。

 

「ゆりねさん、私は大丈夫だけどゆりねさんはなにか羽織ったほうが良いかもしれないです……」

 

「え?……そうね」

 

 

 

 あーあ……。邪神ちゃん、氷族の人の地雷を踏んじゃたみたいね。

 それにしても、夏に上着を着ることになるなんて。

 

「今モグラと言いましたか……?我々氷族が最も気にしていることを……」

 

「さむっ!?……ちょっと、これシャレになんねーですの!」

 

 氷ちゃんの冷気もすごかったけど、こっちの遊佐さんの冷気は段違い。

 ふわふわした雰囲気でいることが多いメデューサも、少し緊張した様子でこっちを気にしている。

 

「大丈夫ですかゆりねさん?」

 

「ええ。すごいのね、遊佐さんって」

 

「はい、成人した氷族の方の力は上級悪魔にも匹敵しますから」

 

 上級悪魔……邪神ちゃんクラスってことね。……そもそも邪神ちゃんに強さを感じたことがあまりないけど。

 

「一応、もう少し防寒しましょう。毛布お出ししますね、押し入れですか?」

 

「ええ。ありがと、メデューサ」

 

 私がうなずくと、メデューサはいそいそと毛布を出して持ってきてくれた。

 どこぞの上級悪魔と違って気が利くわね、どこぞの上級悪魔と違って。

 

「チャーンスですの!」

 

 メデューサが氷ちゃんから離れたのを好機と見たのか、邪神ちゃんが跳び上がった。

 あー……これダメなやつだわ。やられ役の行動だわ。

 

「姉の来訪で油断しやがったなモグラ顔ー!姉の方はともかくどうみても貧弱な妹は楽に仕留められますの!妹さえやっちまえば悲しみに心を砕かれた姉など打ち倒す必要すらなくなる!つまりたった一撃で私はお前ら姉妹に完全勝利を収めることになるんですの!どうだこの完璧としか言いようのない私の作戦は!さぁくらえ!必殺!ドロップキーッ……」

 

 邪神ちゃんがグダグダ言っているうちに、遊佐さんが氷ちゃんをかばうように立つ。

 

「はっ!」

 

「冷たっ!……へ、あれ?え?え?」

 

 彼女の腕の一振りで冷たい風が勢いよく邪神ちゃんに向かい、ドロップキックの勢いを削いでしまった。

 

「ふっ……」

 

 焦った様子の邪神ちゃんに遊佐さんの吐息が吹きかけられる。

 氷漬けになった邪神ちゃんはそのまま落下して……真っ二つに砕けちゃった。

 お手本のようなやられっぷりね。

 

「だから言ったのに……。邪神ちゃん、大丈夫……じゃないよね……」

 

 緊張を解いたメデューサは、邪神ちゃんを心配しつつも大して焦ってないみたい。

 調子に乗った邪神ちゃんが返り討ちにされる光景は見慣れてるって感じね。

 

 

 

「申し訳ありません、ゆりねさんを寒がらせてしまって……」

 

「気にしないでください、誰でも言われたくないことはありますから。こちらこそ、邪神ちゃんが氷ちゃんを突然呼び出したのに涼しくしてもらって、助かりました」

 

 四人は朗らかな雰囲気を形成してますの……。氷漬けにされた挙げ句、真っ二つにされるという被害を受けた私を他所に……。

 

「それにしても姉妹なのに種族というか……生き物自体が違くないですか?」

 

「ああ、氷族の方は成人する時に遊佐さんのような姿に変わるんですよ。そして……」

 

「そのときに名前をもらい、一人前の悪魔となるのです」

 

 つまり氷ちゃんはまだ一人前じゃないってことか……。妹から撃破する作戦そのものは間違ってなかったみたいですの……。

 

「成人してなくても強さは十分にあるんですけどね。向かい合ってのやり合いなら、氷ちゃん一人でも邪神ちゃんを氷漬けにすることはできたんじゃないかな……」

 

 ……このモグラ顔にそこまでの力があるというのか……。

 

「邪神ちゃんの腕を簡単に凍らせてたものね。……ところで、氷ちゃんに付ける名前……浩二なんてどうでしょう?」

 

 遊佐の妹が浩二……。

 遊佐……浩二……。

 

「お、女の子の名前ではないような……」

 

「あ、あはは……」

 

 というかメデューサ!ゆりねのセンスに苦笑いしてる暇があったら私を助けろ!

 

「……邪神ちゃん、聞こえてる?私としてはそろそろ助けてあげたいんだけど……」

 

 そうそう!それを待ってましたの!

 

「まだ助けなくても良いんじゃない?」

 

 ゆりねめ、余計なことを……。

 

「というかですね……。実は、遊佐さんの氷はなかなか溶けないからすぐには助けられないんです……」

 

「へえ。氷族の人の氷はやっぱりすごいのね」

 

「妹に凍らせられたのであれば、わたくしの氷よりは早く溶けるのですが……。無理に割ろうとしたりするよりは、溶けるのを待ったほうが賢明だと思います」

 

 え、じゃあまだこの状態が続くんですの……?

 

「まあ死んじゃうわけじゃないし……。もうちょっと我慢しようね、邪神ちゃん」

 

 メデューサ、それが親友に対しての扱いなのか……。

 

「妹もゆりねさんが好きみたいですし、またお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか」

 

「ええ、いつでも来てください」

 

「良かったね、氷ちゃん」

 

 良かねーだろメデューサ……。お前の親友を氷漬けにするような奴らだぞ……。

 ……あぁ……意識が……薄れて……。

 もう……ダメ……です……の……。

 

「邪神ちゃん、寝たら死んじゃうわよ」

 

 ……死なねーよ!

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第6話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日はゆりねさんの誕生日!というわけで、邪神ちゃんに呼び出されて誕生日パーティーの準備中です。

 邪神ちゃんって、こういう時は大概なにか悪巧みをしているんです。

 原作でもなにか企んでいた……ような……。どうだったかな?ともかく、何事も起こらないことを祈るばかりです。

 ……正直な話、なにか起きてもゆりねさんなら大丈夫だろうという信頼はあるのですが。それでも人間が辛い目に遭うのは嫌ですからね。

 

 

 

「鶏肉はこれでよし。メデューサ、部屋の飾り付けはどうですの?」

 

「進んでるよー」

 

 ……うんうん、なかなかいい感じになってますの。

 

「……美味しそうな匂い。さすが邪神ちゃん、ゆりねさんも喜んでくれるね!」

 

「当然ですの」

 

 今日のは特に気合を入れて作ったからな!

 なんといってもゆりねにとって最期の……。まぁそれは置いておきますの。

 

「やっぱり邪神ちゃんのお料理はすごいな、味はもちろんだけど見た目も綺麗。私も追いつけるように頑張らないと」

 

「まあお前の料理も悪くはないと思いますの、私には劣るけど」

 

「ほんと!?ありがとう邪神ちゃん!」

 

「ちょ、ちょっと!褒められたくらいでいちいち抱きつくんじゃねーですの!」

 

 力いっぱい抱きしめすぎだろ!

 

「いつか美味しいって言わせてみせるからね!邪神ちゃん!」

 

「ま、まあ気長に待ってますの。というか、そろそろ離しますの」

 

「あっ、ごめん」

 

 

 

 また抱きついちゃいました。いつもは普通って言われるだけだからつい……。

 邪神ちゃんの期待に応えられるように頑張らなきゃ!

 

「お料理は大丈夫、飾り付けも終わったし……。あとはケーキを買ってくれば大体大丈夫かな?」

 

「あ、ケーキの電話はしてあるから……」

 

「うん、受け取りに行くね。不死家?」

 

「ですの。お金は……」

 

「私が出すよ。他にはなにか買ってくるものある?」

 

 といっても準備はほとんど終わってるしなんにも無いかな?

 

「んー……。対ゆりね用の武器!」

 

「……なにも無しね。じゃ、行ってくるね」

 

 こんな日でも邪神ちゃんはいつも通りです……。

 冗談だと思って出かけましょう、冗談じゃないんだろうけど……。

 

「あ、うん……。行ってらっしゃいですの……」

 

 

 

 メデューサに小言でも言われるかと思ったら、それすらなかったですの……。別に、ちょっとくらい反応してほしかったなんて思ってませんの……。

 まあいいや、人間大好きのメデューサがゆりねを殺すためのものを買って来てくれるなんて思ってなかったし。

 今日のところはパーティーの費用を全部出してくれたからよしとしますの。

 

 

 それに、武器なんてわざわざ今日手に入れなくてもいいんですの。

 私の手には既にあるのだ……本日のラッキーアイテム、スタンガンが!

 いやー、大手通販サイトアマゾネスでいろいろ買っといた甲斐がありましたの。

 下準備の大切さが身にしみるなー。

 

 

 まず何も知らずに帰ってきたゆりねの誕生日パーティーを始める。

 美味しそうな料理やケーキを前に油断しきったゆりねを、不意打ちのスタンガンで動けなくする。

 あとは包丁で腹を掻っ捌いて殺してジエンド……。

 か、完璧な計画だ……。自分の才能が怖い……。

 あえて言うならドロップキックの出番がないのが問題だが、ラッキーアイテム補正は重要だからな。

 

 

 さーて、メデューサが帰ってくるまでゴロゴロしてますの。

 テレビでも見よっかなー。

 

「ただいまー」

 

 ちょ、ゆりねのやつもう帰ってきたんですの!?

 まだメデューサ帰ってきてねーぞ!

 

「お、おかえりですのー!」

 

「あら、たしかメデューサと二人でお祝いしてくれるって言ってたけど。帰ってくるのが早すぎたかしら」

 

 早すぎですの!

 メデューサがいないと失敗した時のスケープゴートが……。

 

 

 ……いや、待ちますの。

 なぜ私はやる前から失敗したときのことを考えている?

 これは私が自分の立てた計画を信じきれていないからではないのか?

 さっき計画を完璧と称したのは他でもない私自身。

 そうだ、弱気になる要素などなにも無い。

 ケーキはなくとも料理で油断させることはできるし、失敗しなければスケープゴートなど必要ない!

 

「邪神ちゃん?急に黙ってどうかしたの?」

 

 帰ってきたばかりでゆりねの気が緩んでいるはずの今が好機!

 もはやタイミングを待っている暇など無い!いや、むしろタイミングを待つことこそが愚鈍の証明!

 やってやりますの!

 

「邪神ちゃん?」

 

「う……」

 

「う?」

 

「うをー!喰らえゆりねー!スタンガンを取り出す間すらも惜しんだ不意打ち超速ドロップキーック!」

 

 決まったー!

 この距離ではスタンガンを取り出して押し当てるまでに数歩の踏み込みが必要!

 だが悠長に踏み込んでいればゆりねに回避されるのは目に見えている!

 ならば尻尾の分リーチが長い上に踏み込みと攻撃を同時に行えるドロップキックが最善手!

 ラッキーアイテム補正も当たらなければ意味がないという見事な判断ですの!

 これで終わりだゆりねー!

 

 

 ……あれ?

 なんで私、キックを当てる前に着地してるんですの……?

 

「邪神ちゃん、あんた……」

 

「い、いや……。これは、その……」

 

 し、しまった!

 最近お菓子の食い過ぎで体重が増加気味なんだった!そのせいでドロップキックの飛距離が短く……!

 人間界のお菓子のせいで計画が台無しですのー!

 

「?……なにか落としたわよ。……スタンガン?」

 

「げ……」

 

 私のラッキーアイテムが……ゆりねの手に……。

 

「ふーん……そういうこと。私へのプレゼントにこれを渡して、そのまま自分に向かって使ってほしいってことね」

 

「……え?な、何を言って……あ゛ー!」

 

 

 

「邪神ちゃんただいまー。ごめんね遅れちゃって……あ、ゆりねさん」

 

 私より少し遅れてメデューサが帰ってきた。

 この様子だと、邪神ちゃんが私を襲うことは知らされてなかったみたいね。

 

「いらっしゃい、上がっていいわよ」

 

「お邪魔します。ケーキ出すのでちょっと待っててくださいね、他の準備は多分もう邪神ちゃんが……」

 

「あぁ、邪神ちゃんなら……」

 

「邪神ちゃんがどうかしたんですか?……あぁ、そういうことですか……」

 

 まだ部屋も見ていないのにだいたい察したみたい、さすが親友だわ。

 

 

 

 やっぱり、邪神ちゃんはゆりねさんを殺そうとしていたみたい。

 予想していなかったわけでもないのに、なんだかいつもより悲しい気持ちです……。

 楽しいパーティーにしたいと思っていたからでしょうか。

 

「ごめんなさい、ゆりねさん。せっかくの誕生日パーティーだったのに……」

 

「気にしなくていいわよ、悪いのは邪神ちゃんなんだから」

 

「でも……。私たち悪魔よりも、人間の誕生日って大事なものじゃないですか」

 

 人間だった前世があるからでしょうか、私は人間と悪魔の違いを意識することが多いです。

 

「私たちは何千年も生きてきて、誕生日だってたくさんあります」

 

 悪魔で有る私たちにとって誕生日っていうのはカウントが一つ増える日というか……少なくとも私はそういう認識です。

 

「でも人間は違う。百年くらいっていう短い時間の中で……だからこそ誕生日っていう節目もとっても大切なものだって思うんです」

 

「メデューサ……」

 

「だから……やっぱり謝らせてください。邪神ちゃんを止められなくて本当にごめんなさい!」

 

 

 

 ……メデューサの泣き顔なんて、初めて見たかも知れないわね。

 いつも笑ってることが多いし。

 

「やっぱり気にしなくていいわよ、メデューサ」

 

「で、でもゆりねさん……」

 

「大切な節目の日なんだから、今から楽しく過ごしましょう」

 

 暗い雰囲気を長続きさせるような関係でもないし、ね。

 

「……はい!そうですね!」

 

 

 

 なんかいい話っぽくなってるけど、二人とも私を忘れてるんじゃねーかこれ……。

 黒焦げだぞ?一方的にスタンガンを喰らって黒焦げの私がいるんだぞ?黒焦げのまま荒縄で椅子にキツく縛り付けられた哀れな私がいるんだぞ?

 

「邪神ちゃん」

 

「ゆ、ゆりね……なんですの?」

 

「あんたのやろうとしてたことを知ったメデューサ、心底幻滅したって顔をしてたわよ」

 

「え……」

 

「数少ない親友なんでしょ?そのうち一人にあそこまで幻滅されるって……」

 

「あ……あ……」

 

 や、やめろ……胃が……!

 

「最低ね」

 

 やめろー!ストレスで神経性胃炎になっちまうー!

 

「い、胃酸が……上がって……」

 

「あ、あの……ゆりねさん……。そこまで幻滅してたわけじゃないですから……」

 

「メデューサ……。ほんと……ですの?」

 

「うん、悲しかったけど……。邪神ちゃんならやるかもしれないって思ってもいたから……」

 

 よかった……親友との関係に傷がついたわけではなさそうですの。

 ……って、ゆりね襲撃計画自体は予想してたのか……。止めてくれればこんなことにはならなかったかもしれないのに……。

 

 

「はぁ、まったく……」

 

 ゆりね?縄……ほどいてくれるんですの?

 

「あんたの親友に免じて、今日はこれくらいで許してあげるわ」

 

「ゆりね……」

 

「ありがとうございます、ゆりねさん!」

 

「ほら、さっさとあんたの作ったお料理並べてちょうだい。おなかペコペコだわ」

 

「合点承知ですの!」

 

「手伝うね、邪神ちゃん!ゆりねさん、ちょっとだけ待っててください!」

 

 

 調理は終わってたし、並べるのはすぐに終わりましたの。

 それでは早速……。

 

「えー、これよりゆりねの生誕祭を始めますの」

 

「そんなにかしこまらなくてもいいわよ」

 

「ふふっ。許してもらえて照れちゃってるんですよ、邪神ちゃんは」

 

「そこ!うるせーですの!」

 

 ……まあいいですの。

 

「それでは、ゆりねの誕生日に……かんぱーい!ですの!」

 




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第7話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 人間界にやってきてから数ヶ月……。今日は私にとって記念すべき日です!

 なぜならば……。

 

「メデューサ様、この度はレベルアップおめでとうございます」

 

 そう、私の前で伝言用の下級悪魔である単眼ちゃんが言ってくれている通り……。

 

「ありがとうございます!」

 

 私、ついにレベル50になったんです!やったー!

 

「各種特典に加え、新たな衣装も解禁されました。どうぞお召し替えくださいませ」

 

「はい!」

 

 特典というのは電車の無料チケットにスーパーの割引券などなど……。

 たしか、原作ではゆりねさんが株主優待券みたいだって言ってたような。言い得て妙です。

 それらの特典も嬉しいけど、一番嬉しいのは新しい衣装!

 原作でおなじみ、古代エジプトの女王様みたいな服です!カッコイイ!

 

 

「それではこれで」

 

 そう言い残すと単眼ちゃんは爆発してしまいました。

 伝言を終えた単眼ちゃんは自爆して死んでしまい、魔界で再生してワンランク上の悪魔として生まれ変わるのです。ありがとう、単眼ちゃん。

 

 

 さて、早速新しい衣装にお着替えです。

 ……服を着て……腕の飾りと……この日のためにと渡されてた家宝の冠もつけて……でーきた!

 鏡の前でクルリ。前の服も嫌いじゃないけど、やっぱりこっちの服装のほうがしっくりきますね。

 邪神ちゃんたちにも見せてあげようっと!

 

 

 

「こんにちはー!邪神ちゃーん、いますかー?」

 

 メデューサか。随分弾んだ声ですの。

 

「鍵開いてるから入っていいぞー」

 

「お邪魔しまーす!」

 

「なんか用ですの?」

 

 ……って!

 

「邪神ちゃん、見て見て!」

 

「なんですの、その格好!?」

 

 メデューサのやつ、ぜんぜん違う服になってやがる!

 金の装飾とかもついてゴ~ジャスな感じになってますの!

 

「レベルが上がって衣装が変わったの!カッコイイでしょ!」

 

 ……クソカッコイイ……。

 

 

 

「メデューサ、いらっしゃい」

 

「ゆりねさん!お邪魔してます!」

 

 そんなに長い付き合いでもないけど、こんなにテンションが高いメデューサって珍しい気がするわね。

 ……あら?

 

「服装変えたの?」

 

「はい!レベルが上がって変わったんです!」

 

 ハイテンションの理由はそれか。

 

「そういう変化もあるのね。邪神ちゃんは割引特典とかのことしか言わなかったけど」

 

「邪神ちゃんは元から服を着ていませんからね」

 

 そっか、冷静に考えると邪神ちゃんって常に全裸なのよね。

 私は人間だから悪魔ってそういうものだと思ってたけど、メデューサみたいな他の悪魔はどう思ってるのかしら。

 

「ねえ、メデューサから見て邪神ちゃんの格好ってどうなの?」

 

「え?そうですね……。とっても可愛いと思いますよ!」

 

「……そう」

 

 そういうことが聞きたかったんじゃないんだけど……。まあメデューサらしい回答……なのかしらね。

 

 

 

 突然どうしたんだろう、ゆりねさん。私が邪神ちゃん大好きだってことは知ってると思うけど……。

 ……あ、格好って服装のお話だったのかな?それならこの質問も納得です。邪神ちゃんは服を着てないし、人間としては違和感があるんでしょうね。

 ただ、私としては邪神ちゃんといえば服を着ていないというのが普通だから特にどうとも思わないんですよね。それに、前世でどう思っていたのかまでは覚えてないし。

 

 

 ところで、さっきから邪神ちゃんが私を見つめてきてます……。

 

「どうしたの、邪神ちゃん?この格好、変かな……」

 

「……ですの」

 

「え?」

 

「悔しい!羨ましい!妬ましい!ですの!」

 

「じゃ、邪神ちゃん?」

 

「私もそういうカッコイイ衣装が欲しいですの!」

 

 ……あー。これはアレですね、普段気にしていないことでも知り合いがやってると羨ましくなるやつです。

 すごくよく分かるよ、邪神ちゃん。

 

「よくよく考えてみたらレベルアップしても姿に変化がないとかつまんねーですの!」

 

「あんたそういうの気にしてたのね。服装には一切興味がないのかと思ってたわ」

 

 私もゆりねさんと同じように思ってました。話題に出したことすら全然ないし。

 

「メデューサみたいにレベルに応じた服があるわけでもないんだから、好きに着ればいいじゃない」

 

「服なんて着たこと無いから持ってねーよ!」

 

「じゃあ買ってくれば。直接お金を渡すんじゃなければ、月に一回だけの借金とは別にメデューサが買ってくれるんでしょ」

 

 邪神ちゃんとお買い物!

 

「うん、服なら買ってあげるよ。一緒に買いに行く?」

 

「それはめんどくせーですの」

 

 ……だよね!知ってた!

 

「じゃ、じゃあ私の服を着てみる?」

 

「この前までお前が着てたやつ?なんか似合わなさそうだから嫌ですの……」

 

「うーん、じゃあ……」

 

 

 

 駄々をこねる邪神ちゃんとそれをなだめようとするメデューサ。もはや定番のやり取りね。

 

「めんどくさいわね……。じゃあ、私の服着てみる?」

 

「ゆりねの?」

 

「ゆりねさんのですか?」

 

 口調は違えど同じように聞き返してくる二人がちょっと面白い。

 

「ええ。買っちゃったけど色が合わないでしまいこんじゃったのがこの辺に……あった」

 

「おー、いつもゆりねが着てる服に似てますの!」

 

「ほんとだ!邪神ちゃん、着てみたら?」

 

「おう!それでは早速……あれ……」

 

 その気になっていた邪神ちゃんが動きを止めた。まだなにか気に入らないのかしら。

 

「どうしたの?」

 

「……服着たことがないから着方がわかりませんの。あー、その……メデューサ……」

 

「いいよ、着せてあげる!」

 

 ……この二人、互いに親友って言ってるしそれは正しいんでしょうけど……。

 なんか保護者と子供みたいなやり取りも結構してるわよね……。

 

 

 

 ……できたっ!

 

「これでいいよ、邪神ちゃん!」

 

 さすが邪神ちゃん、ゴスロリ服を着た姿もすっごく可愛いです!

 

「あ、ゆりねさん。鏡ってどこかに……」

 

「ここにあるわよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 準備しておいてくれたみたい、さすがゆりねさんです。

 

「さてさて、どんな感じですの?……こ、これは……!」

 

「……邪神ちゃん?」

 

「超かっけぇ……!」

 

 鏡を見て沈黙しちゃったから気に入らなかったのかと思ったけど、感激してたみたい。

 なんにせよ邪神ちゃんが喜んでくれてよかった!

 あ、そうだ。

 

「ゆりねさん」

 

「なに?」

 

「お洋服を貸していただいてありがとうございます。邪神ちゃんもとっても嬉しそうです!」

 

「気にしないでいいわ、あの服も活用できたし」

 

 優しいなあ、ゆりねさん。

 

「これホントにかっこいいですの!ありがとうですの、ゆりね!」

 

「……あんたにお礼を言われるとは思わなかったわ」

 

「よかったね、邪神ちゃん!」

 

「うん!メデューサも、着せてくれてありがとうですの!」

 

 ……!私までお礼を言われちゃいました!

 私のほうが嬉しくなっちゃいます!

 

「邪神ちゃーん!」

 

「うぉあ!またこれか!お、落ち着けー!」

 

「メデューサの抱きつき癖は相変わらずね」

 

 

 

 あの後、我に返って私を開放したメデューサも一緒に三人でお茶をしましたの。

 フレッシュムーン美味かったー。

 

「じゃあまたね、邪神ちゃん。ゆりねさん、お邪魔しました」

 

「またなー、メデューサ」

 

「ええ、またねメデューサ」

 

 

 それにしても今日は騒がしい日でしたの。

 

「メデューサ、今日は随分嬉しそうだったわね」

 

「ずっと前にちょっと服の細部が変わったことはあったけど、今日みたいにぜんぜん違う服になったのは初めてなんですの」

 

 それで喜んでたんだろうな、分かりやすいやつですの。

 

「あいつが自分のことであんなに喜ぶのは久しぶりに見ましたの、よっぽど嬉しかったんだろうな……」

 

「そうなんだ。それにしても真っ先にあんたに見せに来たみたいね、ほんと好かれてるわね邪神ちゃん」

 

「ま、まぁ当然ですの。なんたって親友ですの!」

 

「ふふっ」

 

 ……別に照れてるわけじゃねーのに、ゆりねのやつ見透かしたように笑ってきますの!

 

 

「……でも多分、ゆりねにも見せたかったんだと思いますの」

 

「私に?」

 

「うん」

 

 だって……。

 

「メデューサのやつ、いつも人間と仲良くしたいって言ってましたの。顔を合わせてお話したいって」

 

「そっか、石化能力があるものね」

 

「ですの」

 

 だから、そこに関してはゆりねに感謝してやらんこともない……ですの。

 

「……ふふ」

 

「な、なんですの?」

 

 今度はなんだよ!

 

「メデューサのことよく分かってるなって思って」

 

「だ、だから当たり前ですの!親友だぞ!」

 

「そうよね、大事な親友だものね」

 

 そーだよ!大事な親友だよ!

 だから!

 

「顔いっぱいに邪神ちゃんは照れ屋さんだなあ的な微笑みを浮かべるのをやめますのー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第8話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日は邪神ちゃんに呼ばれてゆりねさんの部屋に来ています。

 突然どうしたのかと思ったのですが……。

 

「私のレベル?」

 

「そう。いくつですの?」

 

 邪神ちゃんは私のレベルが気になっていたみたい。

 でもどうして気になるんだろう?

 

「いきなりどうしたの?邪神ちゃん……」

 

「いいから!たとえ親友でも、力関係はしっかりしないといけないからな……」

 

「邪神ちゃん、メデューサとのレベル差が縮まっていずれ追い抜かれるんじゃないかって不安がってるのよ」

 

「は、はぁ……」

 

 一緒に座って話を聞いていたゆりねさんが、クスクス笑いながら説明してくれました。

 

「昨日なんてメデューサに愛想尽かされたらどうしようって言いながらお腹抑えてたのよ。神経性胃炎ですって」

 

「な、なるほど……」

 

 私はレベルで邪神ちゃんを見捨てたりなんてする気はありません!でも邪神ちゃんにとってはレベルも重要な要素なんでしょうね、多分。

 

「メデューサ!レベル上がって喜ぶのはいいけどオメーは私より格下だ!それをゆめゆめ忘れるな!」

 

「でも私、邪神ちゃんとの格の差とか気にしたこともないんだけど……」

 

「あんた、この前メデューサがレベルアップしたって教えに来た後には珍しくしんみりムードを出してたくせに……」

 

 にやにや笑いながらツッコミを入れるゆりねさん。

 それよりも……。

 

「しんみりムード?」

 

「う、うるせーですの!」

 

 私が帰った後になにかあったのかな?ちょっと気になります。

 

 

 

 あんないい話風のやりとりをメデューサに教えられるか!

 こちとら悪魔だぞ!悪い魔物と書いて悪魔だぞ!

 

「で、結局レベルはいくつなんですの?」

 

「50だけど……」

 

「ごじゅ……え?」

 

 私はレベル48……。

 ぬ……抜かれてるじゃん……。

 

「うぷっ……」

 

 い、胃酸が……。

 まずいですの、この事実を気取られるわけには……。

 

「そ、そうかそうか!そのまま精進しろよメデューサ!」

 

「うん!」

 

 よぉーしよしよし、このまま勢いで流しますの!

 

「それで邪神ちゃん、あんたはレベルいくつなの?」

 

 ……ゆりねー!お前、今一番私に聞いてはいけないことをー!

 かくなる上は……。

 

「……うっ!きゅ、急に具合が悪くなりましたのー」

 

「ねえ、あんたのレベル……」

 

「あー、これは寝ないと治らないなー。お先に寝ますのー」

 

 ゆりねがすげー冷めた目でこっちをみてきてるけど、とりあえず寝てごまかしますの……。

 押入れの中に布団を敷きっぱなしにしといてよかったー。

 さっさと布団に……。

 ……?

 …………!?

 

 

 

「邪神ちゃん?」

 

 邪神ちゃんが固まったかと思ったら、開けていた押入れを勢いよく閉めちゃいました。

 

「……メデューサ……」

 

「なぁに?」

 

「押入れの中に、お前に見せたいものをしまっておいたのを思い出しましたの……。開けて見ていいぞ……」

 

「う、うん……」

 

 突然どうしたんだろう、邪神ちゃん。仮病を使い出したかと思ったら押入れを開けさせようとして……。

 疑問に思いながらも押入れを開けると、中にいた女の子と目が合いました。

 ……え?

 

「こ、こんにちは?」

 

「……」

 

 思わず挨拶をした私を、女の子は冷たい……というか敵を見る目で見つめています……。

 ん?……目?

 ……って!

 

「じゃ、邪神ちゃん!なんてことさせるの!?」

 

 私と目が合った人間は石化しちゃうのに!

 いまさら目をつぶったけどこれ絶対間に合ってないです!

 ど、どうしよう……。

 

「うるせー!人の押入れの中にいるとか絶対泥棒ですの!そうじゃなくても住居侵入罪だろ!3年以下の懲役または10万円以下の罰金だぞ!」

 

「そうかもしれないけど!いくらなんでもいきなり石化させるなんて!」

 

「犯罪者なんて石化して追い出しちまうのが最善だろ!大事なのは私の身の安全ですの!」

 

「二人とも」

 

 言い合う私と邪神ちゃんに、ゆりねさんが声をかけてきました。

 

「なんですのゆりね!?今分からず屋のメデューサに説教を……」

 

「ゆ、ゆりねさんどうしよう!私、私人間を!」

 

「石化してないわよ」

 

 えっ?

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ええ。能力が効いてないみたいね」

 

 目を開くと、たしかに女の子は石化していませんでした。

 

「良かったぁ……」

 

「よかねーだろ!泥棒だぞ!」

 

 あれ?でもどうして石化しないんだろう?

 ……そういえばこんな展開原作であったような……。あ、ひょっとしてこの子が……!

 

 

 

「魔女が一人に……悪魔が二匹……。数百年ぶりですよ、一気に三体を駆除するのは」

 

 押入れから出てきた女の子が、言い合う二人と私の前で立ち上がった。

 

「花園ゆりね。悪魔と結託し、人類に害をなそうとする魔女であるお前を見逃すわけにはいきません……!」

 

 悪魔と結託?人類に害を?

 

「よって、主の御使いであるこのぺこらが悪魔共々この場で駆除します」

 

 ぺこらっていう名前なのね。

 とりあえず、ぺこらが私達を敵視しているのは分かったけど……。

 

「……こいつ、頭がいかれちゃってますの。かわいそうに……」

 

「とりあえず警察に保護してもらいましょうか。……メデューサ?」

 

「待ってください」

 

 私をかばうような位置に移動したメデューサが話しだした。

 

「私と目が合っても石化しないってことは……。多分この子は……」

 

「多少は賢い悪魔もいるようですね……。そう、ぺこらは天使!悪魔から人類を守る正義の天使なのです!」

 

 へぇ……この子天使なのね、随分と可愛らしい……。中学生くらいかしら。

 

 

「人類を守るって……。たしかに私は悪魔だけど、人間を嫌ってなんていないのに……」

 

 たしかにメデューサは人間が大好きよね。

 

「私は人間を嫌ってるけどな!」

 

「少し黙ってなさいよ邪神ちゃん、そこはかとなくシリアスな雰囲気なんだから……」

 

 誇らしげに主張してないで、ちょっとは空気を読みなさい。

 

「ではその能力はなんですか、目を合わせるだけで人間を石化させるなど……。それが人間を傷つけるための力でなければ何なのですか」

 

「そ、それは……。でも私だって、望んでこの能力を得たわけじゃ……」

 

「望んでいようがいまいが関係ありません。その力が人類にとって害なのであれば駆除するまでです」

 

 平行線ね、これじゃいつまでも話が進まないわ。

 というか……。

 

「ねえ、私魔女じゃないわよ」

 

「な……嘘おっしゃい!このぺこらを騙せるとでも!?」

 

 騙すもなにも、本当に魔女じゃないんだけど……。

 

「悪魔とつるんでいるのが何よりの証拠です!地上を汚す害虫どもめ、即刻駆除して……」

 

「ドロップキーック!」

 

 邪神ちゃんの不意打ちドロップキックがぺこらに直撃。

 うん、この卑怯さは紛うことなき悪魔ね。悪さをする魔物と書いて悪魔ね。

 シリアスっぽい雰囲気も一瞬で霧散しちゃったわ。

 

 

 

 邪神ちゃんのドロップキックを横腹に受けて、ぺこらちゃんが床に倒れ込みました。

 

「ぺこらちゃん、大丈夫!?」

 

「は、はい……大丈夫です。……って!悪魔のくせに馴れ馴れしいですよ!」

 

「え?あ、ごめんなさい……」

 

「メデューサ!オメーどっちの味方なんですの!」

 

「う、うん。ごめんね邪神ちゃん……」

 

 しょうがないけど踏んだり蹴ったりです……。

 だってぺこらちゃん、すごく痛そうだったんだもん……。

 ……というか、ぺこらちゃんって最初はこんなにも悪魔を敵視していたんですね。完全に忘れてました。

 

「喋っている途中に攻撃するとは、なんて卑怯な……!」

 

「卑怯~?褒め言葉ですの~」

 

 悪魔としては褒め言葉……なのかな……?どうなんだろう……。

 

「駆除とかオメー馬鹿なんですの?こっちは悪魔が二体だぞ、天使一匹で敵うと思ってんのか?」

 

 え、私も勘定に入ってるの!?

 

「やめて!邪神ちゃん、私争いたくないよ!」

 

「アホか!やらなきゃやられるんだぞ!」

 

「で、でも!」

 

 でも傷つけ合うのはいや!

 相手が天使だろうと関係ないです、私は戦いたくなんて無いんです!

 

 

「仲間割れしている場合ですか!」

 

 そう言いながらぺこらちゃんが、言い合いをしていた私と邪神ちゃんに手を向けました。

 

「喰らえっ!」

 

「邪神ちゃん!」

 

 ぺこらちゃんが声を上げると同時に、私は邪神ちゃんを抱きしめて庇い……。

 その直後にダメージが……!ダメージが……。

 ……あれっ。

 ダメージがこない……?

 

「……あれ?」

 

 ぺこらちゃんも驚いている様子です。

 ……どうしたんだろう?

 

「はぁっ!……あれれ?」

 

「……どうしたの?ぺこらちゃん……」

 

「いや、こうすると手から聖なる力がほとばしってお前らに大ダメージを与えるはずなのですが……」

 

 調子が悪いのかな?

 

「気合いの入れ方がおかしいとか?もう一回やってみたら?」

 

「そうですね……。はあぁっ!……ダメだ、一体どうしたのでしょう……」

 

「うーん、何がいけないのかな……」

 

「……メデューサ!オメーはなんで敵の心配をしてるんですの!」

 

 え?……あ、そっか。

 

「ご、ごめんね邪神ちゃん……」

 

「……はっ!ぺ、ぺこらとしたことが悪魔に心配されるなど……」

 

 

 

 メデューサのやつ、お人好しにもほどがありますの!

 というか……。

 

「おい、いつまでも庇わないで大丈夫ですの……」

 

「え?あっ、ごめん」

 

 やっと離してくれましたの……。

 

「メデューサはある意味平常運転ね」

 

 それな!付き合いが始まってそんなに長くないゆりねも、メデューサの抱きつき癖をいつものことだって認識してますの。

 

「しかしどうして……。天使の輪に力が溜まっていないのでしょうか……」

 

 ぺこらとかいう天使の方は悠長に悩んでるし……。

 しかし天使の輪?

 

「ぺこらちゃん、輪っかなんてついてないみたいだけど……」

 

「メデューサの言うとおりですの。なんもついてねーぞ」

 

「へ?……!ない!ない!天使の輪がない!」

 

 自分の頭に天使の輪がないことに気づいて今更焦りだしましたの……。

 つーかなくせるものなのか、天使の輪……。

 

「あれがないと力が出ないどころか、天界に帰ることもできません!」

 

 そんな重要なもんなくすなよ……。

 

 

「輪のないぺこらはか弱い人間も同然……。お前たちを駆除する予定が台無しです……」

 

「だ、大丈夫?ぺこらちゃん、一緒に探そうか?」

 

 なんか天使のくせに悪魔に同情されてますの……。いや、メデューサがこうなのはいつものことか。

 

「いえ、そこまでしてもらうわけには……はっ!だ、だまりなさい!悪魔に憐れんでもらおうなどとは思いません!」

 

「あっ、えっと……。ごめんなさい……?」

 

「ぐっ……お、お前と話してると調子が狂います!」

 

 あー、ちょっと分かりますの。時々こっちのテンポを崩されるんだよなー。

 

「邪神ちゃん、今ぺこらって子に同意してたでしょ」

 

「え……」

 

 ゆ、ゆりね!?なんで分かったんですの!?

 

「と、とにかく!今日のところは見逃してあげます!覚えてなさい!」

 

 普通に帰った……。帰る時はドアから帰るのか……。

 

 

「帰っちゃったね、ぺこらちゃん」

 

「あの子、いつから押入れにいたのかしらね」

 

 ゆりね、そういうことを考えだすと怖いからやめてほしいですの……。

 

「でも良かった、ぺこらちゃんが邪神ちゃんに殺されなくて」

 

「逆だろメデューサ!私が!天使に!殺されなくて良かったんですの!」

 

「でも、ぺこらちゃんは天使の輪がないと弱くなっちゃうって言ってたし……」

 

 まあ、たしかにあの状態の天使相手だったら負ける気はしませんでしたの。

 ……ん、まてよ?これって楽に天使を倒す絶好の機会だったんじゃ?

 と、いうことは……!

 

「レベルアップのチャンスを逃しちまいましたの!力の使えない天使なら簡単にぶっ殺せたのにー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第9話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日のお夕飯はカレーです!神保町のカレー屋さんでは何故かじゃがいもが一緒に出てくるので、それを真似してみようっと。

 カレーは作り置きしてあるから、たまたま切らしてたじゃがいもを買って茹でればいいので楽ちんです!

 

 

 

 そんな事を考えながらの買い物を済ませ、今はアパートに向かっている途中なのですが……。

 

「……ぺこらちゃん?」

 

 前の方からぺこらちゃんが歩いてきました。フラつきながら、木の棒を杖代わりにして。

 ぺこらちゃんがああなることは原作知識で知っていても、この前会った時との変わりぶりに思考が一瞬止まってしまいます。

 ……って、呆然としてる場合じゃなかった!明らかにまずい状態です!

 

 

 

 うぅ、お腹が……お腹が空きました……。

 なぜ誰も助けてくれないのでしょう?今のぺこらはあからさまにやばいのに……。人間とはこんなにも無慈悲だったのか……。

 あ……空腹で……空腹で意識が……。

 

「ぺこらちゃん、大丈夫!?」

 

 杖を取り落し、倒れそうになるぺこらを誰かが支えてくれました。

 あぁ、救いはあったのですね……。

 

「うぅ……ぺこらは、ぺこらは今非常にやばいのです……」

 

 そう呟きながら支えてくれた方を見上げると……。

 ……紙袋?顔に?なんで?

 それに何故ぺこらの名前を知って……?

 ダメだ、考えようにも空腹で頭が回りません……。

 

「お腹空いてるんだよね?うちに運んじゃうね、もうちょっとの辛抱だから!」

 

 その方はぺこらをおんぶしてくれました。自分の家に連れて行ってくれるようです。

 こんな状態とはいえ、天使としてせめてお礼だけでも……。

 

「あ、ありがとうございます……。紙袋さん……」

 

 

 

 急いで部屋まで帰ってきた私たち。

 背負っていたぺこらちゃんは信じられないくらい軽かったです。何日食事を抜けばこうなるんだろう?

 

「座っててね、すぐに準備できるから」

 

「ありがとうございます。あの、顔の紙袋は一体……」

 

「え?あっごめん、忘れてた」

 

 人間対策の紙袋をかぶりっぱなしでした。

 焦ってると取るのを忘れちゃうんですよね。

 

「お前はあの時の悪魔……。なぜ天使のぺこらを……」

 

 素顔を晒すと、ぺこらちゃんは驚いた表情になりました。

 

「そういうのはあと!カレー温めたりするからちょっと待ってて!」

 

 

 

 なにはともあれ、食事を準備して食べ始めたのですが……。

 ぺこらちゃん、すごい勢いで食べてます。一心不乱とはこのことですね。

 一緒に食べ始めた私がお皿半分くらい食べたところで二度目の……。

 

「すみません、おかわりをいただいても……?」

 

「うん、ちょっと待ってね。……はい、どうぞ」

 

 これで三杯目です。よっぽどお腹空いてたんだろうな。

 

「あの、このじゃがいもはどう食べれば……」

 

「うーん……わかんないや。じゃがいもだけバターで食べてもいいし、カレーと一緒に食べるのも美味しいよ」

 

 お店で聞いたこともありますが、特に決まった食べ方はないらしいです。

 私はカレーと一緒に食べるのが好きかな。

 

 

 

「ご、ごちそうさまでした……」

 

「はい、お粗末さまでした」

 

 食事が終わると目の前の悪魔……たしかメデューサと呼ばれていましたか……彼女は洗い物をしにキッチンに向かいました。

 うう、主よ……悪魔の施しを受けてしまったぺこらをお許しください……。

 しかし、なぜ悪魔がぺこらを……。

 

「……これでよし。ぺこらちゃんがいるのにごめんね、カレーのお皿はすぐ洗わないとだから……」

 

「あ、お気になさらず。……あの、どうして天使のぺこらを救ったのですか?」

 

「んー?すごく辛そうだったから。……ひょっとして、迷惑だったかな?」

 

「いえ、辛かったのはその通りなので。しかし悪魔なのに天使を救うなんて、抵抗感というか……嫌ではなかったのですか?」

 

「そういうのは考えなかったな……。ぺこらちゃんは気にするタイプなの?」

 

 気にする、気にしないと言うよりも……。

 

「悪魔を滅するべきというのはぺこらたちにとっては常識のようなものなのです」

 

「そっか……。私はぺこらちゃんと仲良くしたいんだけどなぁ……」

 

 ……天使であるぺこらと?悪魔が?

 

 

 

 ぺこらちゃん、なんというか……びっくりするくらい真面目な考え方です。もっとゆるく考えてもいいんじゃないかな。

 でもこれは私がどうこう言うことじゃないですね。ぺこらちゃんはぺこらちゃんなんですから。

 

「ぺこらは天使で、お前は悪魔なのですよ?」

 

「それはそうなんだけど……。悪魔だって良い子はいっぱいいるよ?」

 

 そう、例えば……。

 

「ミノタウルス族のミノスもそうだし、この前一緒にいた邪神ちゃんだって……邪神ちゃんだって……」

 

 邪神ちゃんだって良い……良い……?

 

「……?あの、どうかしましたか?」

 

「じゃ、邪神ちゃんも根はすっごく優しい子なんだよ!」

 

「は、はぁ……。しかしお前らが悪魔であることには変わりないでしょう」

 

「うん、私は悪魔でぺこらちゃんは天使。でも私は……やっぱり仲良くしたいかな……」

 

 

 

 要は出自に関係なく仲良くしたい、ということですか。

 悪魔とはこういう考え方をするものなのでしょうか、それとも目の前のこいつだけが……?

 

「まあいいや、この話はおしまいにしよ?」

 

「かるっ!?い、いいんですかそれで……?」

 

「あはは……考え方の問題は難しいしね。とりあえず先送りにしちゃうに限るかな、って……」

 

 真面目に答えを出そうとしていたぺこらは一体……。

 

「この前も言いましたが、お前と話していると調子が狂います……」

 

「そうかな?私は普通にしてるだけなんだけど……」

 

「その普通でこちらの調子が狂うのですよ、まったく。……まあこの話を続けても平行線なのは間違いないですし……そうですね、終わりにしましょう」

 

 

 

 よかった、険悪ムードにはならないで済みました。

 

「……ところで、天使の輪っかはまだ見つからないの?」

 

「はい、どこかに落としたと思って探したのですが……」

 

 天使の輪っかなんてどうやって落っことすのでしょうか?

 

「そっか……。私も見つけたら拾っておくから、あんまり気を落とさないでね?」

 

「ありがとうございます。って、悪魔にお礼を述べてしまうとは……ぺこらは何という罪を……!」

 

「つ、罪って……。天界って厳しい社会なんだね……」

 

 

 あれ、電話。……邪神ちゃんだ。

 

「ちょっとごめん、電話に出るね」

 

「あ、どうぞお構いなく」

 

「ありがと。はーい……どうしたの邪神ちゃん?」

 

『あ、メデューサー?ちょっと夕飯の回鍋肉を作りすぎちゃったんですの。食うかー?』

 

「わぁ、嬉しい!うん、今から貰いに行くね!」

 

 邪神ちゃんの回鍋肉は絶品です!ぺこらちゃんにも食べてもらおうっと!

 

「今ぺこらちゃんが来ててね……あれ?」

 

 切れちゃった……。

 

 

 突然どうしたんだろう、邪神ちゃん。とりあえず行ってみれば分かるかな?

 

「ぺこらちゃん、ちょっと隣の部屋に行ってくるから待ってて……きゃあっ!?」

 

「な、なにごとですか!?って、お前は!」

 

 勢いよく開かれたドアから息を切らして入ってきたのは……。

 

「じゃ、邪神ちゃん!?どうしたの!?……わぷっ!」

 

 あわわ、邪神ちゃんが私を抱きしめて……!

 

「テメーこの天使ヤロー!私に敵わないからってメデューサを標的にしやがったなー!コイツへの手出しはこの私が許さねーぞ!」

 

 ……え?

 な、なんか勘違いしてるみたい……。

 

「ご、誤解です!その悪魔は倒れそうになっていたぺこらを救ってくれて……」

 

「ロイヤルコペンハーゲンを喰らえ……へ?そーなんですの?」

 

「う、うん。戦ったりしてたわけじゃないから……私は大丈夫だよ」

 

「そ、そーか……。ったく、心配させるんじゃねーですの……」

 

「えへへ……ありがと、邪神ちゃん」

 

 

 

 突然の乱入者は、ぺこらに不意打ちをしてきたり卑怯を褒め言葉と言ったりしていた方の悪魔でした。……邪神と呼ばれていましたね、たしか。

 会話から察するに、今電話をしていたのもこの悪魔なのでしょう。

 

「ね?ぺこらちゃん」

 

「はい?」

 

「とっても優しいでしょ?」

 

 メデューサという方の悪魔が、抱きしめられながらそう言ってきました。

 

「そう、ですね……」

 

 まあ……仲間と認めれば優しいやつではあるみたいですね。

 

「何の話ですの?」

 

「邪神ちゃんはとっても優しい子だよ、って話!」

 

「は、はぁ!?優しいとか悪魔への褒め言葉じゃねーですの!」

 

 こいつらと親しくないぺこらにも分かるくらい照れてます……。あ、抱きしめるのをやめましたね。

 

「それに今私がお前を助けようとしたのは、子分のお前がいなくなるのが私にとって不利益だからですの!勘違いするんじゃねーぞ!」

 

「はいはい、分かってるよ邪神ちゃん!」

 

 

「ずいぶん騒がしいわね」

 

「あ、ゆりねさん。どうぞ、上がってください」

 

「お邪魔するわ」

 

 今度は悪魔と結託する魔女まで!?お、穏やかな食後の空間が一瞬で恐ろしい状況に……。

 ……ん?いやいやいや!悪魔との空間を穏やかなどと、天使にあるまじき考えです!

 

「これ、回鍋肉。邪神ちゃんが忘れていったから」

 

「わざわざありがとうございます!邪神ちゃんも、ありがとう!」

 

「おう、感謝しろよ~」

 

「ぺこらちゃん、ちょっと待っててね。今これを分けるから」

 

「は、はい……」

 

「あら、ぺこらも来てたのね」

 

「メデューサが拾ってきたそうですの」

 

 拾ってきたって……。

 

「あの、捨て犬のように言わないでほしいのですが……」

 

 なんなんでしょう、このゆるい空気は。

 力を失っているとはいえ、ぺこらはこいつらの天敵のはずなのに……。

 

 

「おまたせー。はい、どうぞ」

 

「あ、はい。……それでは、ぺこらはこれで……」

 

「うん。またね、ぺこらちゃん」

 

「あ、あの……」

 

「なぁに?」

 

 悪魔相手でも、たくさんの恩を受けたのですから……。

 仲間に好かれるような悪魔だと分かったのですから……。

 

「今日は、ありがとうございました……」

 

「……うん!」

 

 お礼を言うくらいは許されますよね、きっと。

 

「もう来るんじゃねーぞ~」

 

「邪神ちゃん、あんた空気読みなさいよ……」

 

 

 

 やっと帰りやがりましたの、天使の奴め。

 こんなに焦ることになるとは……。メデューサのせいですの、まったく……。

 

「メデューサとぺこら、ね。……はは~ん」

 

「な、なんですの、ゆりね?」

 

 いきなりにやにや笑いだして……。

 

「電話の最中にいきなり焦りだしたと思ったら……そういうことかぁ~」

 

「な、なんだよ!子分を守るのは当然のことですの!」

 

「邪神ちゃん、そんなに焦ってくれたんだ……」

 

 メデューサ!その嬉しそうな顔をやめろ!

 

「普段は悪魔悪魔って言ってるのに、あんたそういう一面もあるのね」

 

 ゆりねも!その笑い方をやめますの!

 こ、こんな恥をかくことになるなんて……。

 

「みんなぺこらのせいですの~!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第10話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 私は今、魔界に帰ってきています。

 ……邪神ちゃんに愛想を尽かしたわけじゃありませんよ?

 実は、あるイベントに出場者として呼ばれたのです。

 そのイベントというのが……。

 

『本年度の魔界カワイイ子選手権グランプリは……』

 

 あ、司会の方が言ってくれましたね。……というか、マイクの音量大きいです!耳がキンキンする……。

 どうして私がこんな選手権に出ているのかと言うと、私のファンだという方がエントリーの手続きをしちゃっていたそうなのです。

 私にファンって……。まあ、メデューサちゃんは可愛いから分からないでもないですが。

 ……いえ、これは転生者特有の一歩引いた視点での感想ですよ?うぅ、なんかナルシストみたいで恥ずかしい……。

 そ、それよりも!グランプリは誰になるんでしょうか。

 

『メデューサちゃんです!』

 

 なんと、グランプリは私でした!

 ……。

 えっ?

 

「えぇっ!?」

 

 グランプリ!?私が!?

 うわわ、なんだか凄い歓声が上がってる……。

 ……ん?あそこのお客さんたちが持ってる団扇……私の絵?

 私のファンってあの中の誰かなのかな?なんだか恥ずかしいです……。

 

「おめでとうメデューサ!」

 

「おめでとう!」

 

 周りの子が私に声をかけてくれました。

 嬉しいけど、自分から参加したわけじゃないのにグランプリを持っていくなんてちょっと申し訳ない気持ち……。

 いえ、こういう考え方をするほうが失礼でしょうね、今は遠慮なく喜びましょう!

 

「ありがとうみんな!」

 

『見事グランプリに輝いたメデューサちゃんには、賞品としてこちらの品物が送られまーす!』

 

「ありがとうございます!」

 

 なんだか大きな袋を係員の方から貰えました。中は見えません、まるで福袋みたいです。そしてやっぱりマイクの音大きい……。

 

 

 

 選手権は特にハプニングもなく終わりました。

 この後はどうしようかな?せっかく魔界に帰ってきたんだし、久しぶりにミノスに会いに行こうかな。

 ……あれ?前の方から走ってきたのは……。

 

「やったなメデューサ!」

 

「ミノス!来てたの?」

 

「この選手権に出てるって聞いてさ。せっかくだから見にきたんだ」

 

 わざわざ会場まで見にきてくれてたんだ。

 ちょっと照れくさいけど、やっぱり嬉しい!

 

「しっかし、優勝なんてすげーじゃん!賞品ってなにを貰ったんだ?」

 

 袋の中身は私も気になるし、開けて確認してみましょう。

 

「えっと、洗剤でしょ……ティッシュでしょ……。それから……なんだろこれ、すごい物騒なことが書いてある……」

 

「あーそれか。今魔界で流行ってるんだぜ、中身はちゃんとしたものだから無駄にもならないしな」

 

「へぇ~」

 

 あ、裏側にちゃんと注意書きがありますね。

 

「人間界に戻ったら邪神ちゃんにも見せてあげよっと」

 

「邪神ちゃん、こういうの好きそうだもんなー」

 

「喜んで使いそうだよね」

 

 

「そういえばさ、邪神ちゃんはまだ人間界にいるんだろ?」

 

「うん。それがどうかしたの?」

 

「メデューサがあっちに引っ越したのはわかるよ、人間が好きだし。でも邪神ちゃんはなんで戻ってこないんだ?」

 

 ん?たしかミノスにも、私が引っ越すって伝えた時に邪神ちゃんの事情は説明したはずなんだけど。

 

「えっと、言わなかったっけ?邪神ちゃんを呼び出した人が帰還の呪文を知らなくて……」

 

「あぁいや、そうじゃなくて。なんで呼び出した人間をやっつけちゃわないのかって思ってさ」

 

 あ、そういうことか。

 

「ゆりねさんが……あ、邪神ちゃんを呼び出した人の名前ね。その人がすっごく強いの」

 

「ふ~ん。すごく強い、ね……」

 

 ちょっと腑に落ちない様子。

 ミノスはとっても強いですからね、悪魔が人間に勝てないっていうのがピンとこないんだろうな。

 

「ま、いいや。あたしも今度久しぶりに人間界に行ってみようと思ってるからさ、その時は観光案内でもしてくれよ」

 

「もちろん!いつでも連絡して!」

 

 ミノスと一緒に人間界を見て回ったら、きっと楽しいだろうな。

 楽しみが一つ増えました!

 

「あ、そうだ。これ……いっぱいあるからミノスも使ってよ」

 

「いいのか?サンキュー!」

 

 せっかくなので賞品をお裾分け。ほんとにいっぱい入ってました、洗剤とティッシュ。

 

 

 

 昨日はあの後、陽が落ちかけていたのでメデューサをあたしの家に泊めてあげた。

 

「もうちょっとこっちにいてもいいんじゃねーか?まだ午前中だぜ?」

 

「うん、でも邪神ちゃんたちにも早く品物を渡してあげたいから」

 

 相変わらず律儀だなー。腐るものじゃないんだし、ゆっくりでもいいと思うけどな。

 

「泊めてくれてありがとう、ミノス。ごめんね、夜中まで話し込んじゃって」

 

「気にすんなって、メデューサならいつでも大歓迎だからさ。話すのも楽しいしな」

 

 ほんとに楽しそうに話すんだもんな、メデューサ。

 あれじゃ、釣られてこっちまで楽しくなっちゃうっての。

 

「それじゃ、またね!」

 

「おう、またな!」

 

 

 にしても……自分と目を合わせて話してくれた人間か。石化防止の下準備をしてただけっつっても、そりゃ嬉しいよな。あいつの昔からの夢がかなったんだもん。

 ……ゆりねちゃん、か。弱いとはいえ魔族の邪神ちゃんも手こずってるらしいし、ちょっと興味が出てきたな。

 

 

 

「邪神ちゃん……。ほんっと、あんたって子は……」

 

 キッチンジロウでお昼を食べた後、公園で暮らすぺこらにお弁当の差し入れをした帰り道。

 邪神ちゃんがどこかに消えた後、私より少し遅れて部屋に帰ってきた。……口にお弁当の食べカスを付けて。

 

「お、落ち着けゆりねー!あの、その……そう!これはぺこらが悪いんですの!あいつがいらないって言ってたから純粋な私はそれを素直に信じただけで……」

 

 私の目の前で見苦しく言い訳をする往生際の悪い邪神ちゃん。

 

「どう見ても強がりだって、あんたも分かってたわよね?」

 

 差し入れのお弁当を拒めるような状態じゃなかったでしょうに。

 ぺこらがいらないって言ったからダンボールハウスの前にお弁当を置いてきたけど、あの子相手なら強引に受け取らせるくらいで良かったのかもしれないわね。

 

 

 さて、電話で注文し直したお弁当が出来上がるまでには時間があるし……。

 お仕置きの時間ね。

 

 

 

 なんで私が怒られてるんですの……。

 悪魔として天使に敵対するのは当然のこと……。だからゆりねがぺこらに渡した弁当を横取りするのも当然のことなんですの……。

 だいたいあいつが魔女の施しはいらないとかほざくのが悪いだろ!私は無実ですの!

 それなのになんで私が怒られなきゃならねーんだ!ゆりねの奴は何も分かってませんの!バールなんて構えやがってー!

 ……え?

 

「ゆ、ゆりね?なんでそんなもん構えてるんですの?」

 

「このバール、この前あんたが買ってから一度も活用できてないでしょ。だから今、私があんたに使ってあげるわ」

 

「ま、待ちますの!話せば分かる!」

 

「問答無用」

 

 あ、ダメだ……。これ容赦なく打たれるやつですの……。

 

 

「ぐえぇー!」

 

 ああ……私、ゆりねのフルスイングで宙を飛んでますの……。バールの直撃で背骨をめちゃくちゃにされた状態で居間を飛び出ましたの……。そのまま玄関も横切りましたの……。ついにはドアに激突しましたの……。ドアを突き破って外廊下までふっ飛ばされましたの……。

 

「きゃあっ!?じゃ、邪神ちゃん!?」

 

 メデューサの悲鳴が聞こえる……。これが走馬灯ってやつか……。

 

「だ、大丈夫……じゃないよね……」

 

 なんか、随分とはっきりした走馬灯ですの……。

 ……あ、本物だ。ちょうど魔界から帰ってきたみたいですの。

 

「邪神ちゃん、今日はなにをやっちゃったの……?」

 

 メデューサのやつ、私がなにかやらかしたって確信してますの……。合ってるけど。

 

「ぺこらに差し入れたお弁当を邪神ちゃんが横取りしちゃったのよ」

 

「ゆりねさん」

 

「おかえりなさいメデューサ。上がっていいわよ」

 

「あ、はい。お邪魔します」

 

 ……私は?放置?

 

「ちょっと待ってて、邪神ちゃん。荷物置いたら部屋まで運ぶからね」

 

 よかった、見捨てられたわけではありませんでしたの。

 

「もうちょっとほっといてもいいのに」

 

 ゆりねには見捨てられてましたの……。

 

「よかったわね、あんたに優しいメデューサが帰ってきて」

 

 ほんとだよ!

 

 

 

 邪神ちゃん、ぺこらちゃんを虐めてたみたいです……。

 お弁当を横取りって……地味だけどぺこらちゃんにとってはすごくえげつない……。

 

「それで注文し直したお弁当が出来上がるまでの間、邪神ちゃんにお仕置きをしてたってわけ」

 

「な、なるほど……」

 

 私たちの視線の先には、邪神ちゃんの激突で大穴が空いた玄関のドア。

 そして、会話の声に混じって邪神ちゃんのうめき声が部屋に響いています……。

 

「それじゃあ、これからぺこらちゃんのところに行くんですよね?私もぺこらちゃんに渡したいものがあるので、代わりに行ってきましょうか?」

 

「そう?……いいえ、私も一緒に行くわ。お弁当を置いて帰ってきちゃった私にも、ちょっとは責任があるし」

 

 ぺこらちゃんって結構強がりだし、しょうがない気もするけど。

 

「そうですか?じゃあ一緒に行きましょう。邪神ちゃん、行ってくるね」

 

「ベートの散歩もしてくるから、すぐには帰ってこないわよ。私たちが出かけてる間に体を治して、夕飯の準備を進めときなさいよ」

 

 ベートっていうのは最近ゆりねさんが飼い始めた犬です。……魔獣に見えるけど、犬として飼ってるから犬ってことでいいんだと思います。

 

「い……行ってらっしゃいですの……」

 

 

 

 二人とも出かけちゃいましたの……。哀れにも傷ついた私を放置して。

 まさか、このままどんどん私の扱いが軽くなっていずれ……。

 

「い、胃痛が……」

 

 ガ●ター10はどこに置いたっけかな……。

 あ、ありましたの。あとはコップと水……。

 

 

「ふぅ、落ち着きましたの。……ん?」

 

 なんですの、この紙袋?

 メデューサが持ってきたのかな?……開けちゃおーっと。

 おっ、手紙……魔界カワイイ子選手権?ああ、魔界に呼ばれた用事ってこれのことか。

 

「読んじゃお……なになに?『この度は魔界カワイイ子選手権での優勝、誠におめでとうございます』……優勝!?メデューサが!?」

 

 ……賞金!賞金はいくらですの!?

 特別なお金であれば、親友である私にも分け前があるはずですの!

 

「『つきましては、賞品として同梱の品をお送り致します』なーんだ、賞金はないのか」

 

 シケた大会ですの……。

 まあいいや……で、同梱の品物ってのは?

 洗剤……ティッシュ……すげー庶民的ですの……。

 ん、なんですのこの小瓶?

 ……こ、これは!

 

 

 

 私とゆりねさんはキッチンジロウでお弁当を受け取り、今はぺこらちゃんの住む公園に向かっています。

 メンチカツ弁当のいい匂い……。

 

「それにしても、メデューサはどうやってぺこらにご飯を食べさせたの?あの子かなり強情に見えたけど」

 

「え?ああ、あの時はぺこらちゃんが倒れちゃいそうでしたから。とにかくおうちにつれてきて、お話とかする前に食べてもらったんです」

 

 今思えば、ちょっと強引だったでしょうか。

 

「へぇ。結構押しが強いところもあるのね、メデューサって」

 

「あはは……邪神ちゃんにもよく言われます」

 

 あ、着きました。この公園にいくつかある段ボールハウスの一つにぺこらちゃんが住んでいるそうです。

 

 

 

 うぅ、お腹が空きました……。

 魔女の施しとはいえ、何故あの時さっさと食べてしまわなかったのでしょう……。

 そのせいであの悪魔に貴重な食事を奪われて……ぺこらはお馬鹿だ……。

 

「ぺこら、いるかしら?」

 

「ぺこらちゃん、いるー?」

 

 おや、魔女と……優しい方の悪魔ですか。

 

「……何か御用ですか?」

 

「これ、新しいお弁当。悪かったわね、邪神ちゃんが酷いことしちゃったみたいで」

 

「あ、新しいお弁当!……はっ!で、ですから魔女の施しなど……」

 

「だから、私は魔女じゃないわよ」

 

「まだしらを切りますか、悪魔と結託しておいて……」

 

「ぺこらちゃん」

 

「な、なんですか?」

 

 今度は悪魔の方が……。

 

「お腹空いてるんでしょ?」

 

「それは……そうです、が……」

 

「これはゆりねさんが、ぺこらちゃんがお腹空いてるだろうって思って買ってきたんだから。思いやりの気持ちを受け取っても、罰は当たらないんじゃない?」

 

 う……。ま、まぁ……用意していただいたものを突っぱねるのは失礼ですし……。

 

「……分かりました、ありがたく受け取らせてもらいます」

 

「はい、どうぞ」

 

「あと私の方からなんだけど、用事で魔界に行った時に貰ってきた洗剤とティッシュ。よかったら使って?」

 

「ど、どうも……」

 

「食べ物じゃなくてごめんね、食事を作りすぎちゃったりした時は持ってくるから。……いつもってわけにはいかないと思うけど」

 

「いえ、そこまでしてもらうわけには……」

 

「そう?じゃあ……私の自己満足に付き合ってもらうってことで、ね?」

 

「は、はぁ……」

 

「ぺこらも、メデューサの押しの強さにはたじたじね」

 

 うぅ……たしかに魔女の言う通りです。というか……。

 

「私はお前に対してもたじたじですよ、花園ゆりね……」

 

「そう?まぁいいわ、それじゃあまたね、ぺこら」

 

「またね、ぺこらちゃん」

 

「はい。……あの、わざわざありがとうございました」

 

「うん!」

 

 

 

 ぺこらと別れてメデューサと一緒にベートの散歩をしている最中、私は気になったことを聞いてみることにした。

 

「そういえば、魔界には何をしに行ってたの?」

 

「実は、いつの間にか魔界カワイイ子選手権っていうのに出場することになってまして……」

 

 そんなのあるんだ……。

 まあ、この子の容姿なら呼ばれて当たり前でしょうね。

 

「ふうん。それで……結果はどうだったの?」

 

「その……優勝、できました」

 

「そうなんだ、おめでと」

 

「ありがとうございます。さっきぺこらちゃんに上げた品物が優勝賞品なんですけど、ゆりねさんたちの分もありますから……部屋に戻ったらお渡ししますね」

 

 洗剤とティッシュか……。まあ絶対無駄にはならないけど、随分と庶民的なのね。

 

 

 

 ……食事はこれで良し!ったく、ゆりねは悪魔使いが荒いですの……。

 まあそれも今日限りだし、許してやりますの。

 メデューサの持ってきた袋に入っていた薬品、猛毒くん……。

 こいつをゆりねに出す料理にだけ混入すれば完璧ですの!

 

 

 お、二人が帰ってきましたの。

 

「それでですね、面白いジョークグッズが一緒に入ってて……」

 

「ふーん、そうなんだ……ただいまー。上がってちょうだい、メデューサ」

 

「はい、お邪魔します。あ、いい匂い……」

 

「おかえりですのー。夕飯のカレーができてますの~」

 

「ご苦労さま。メデューサも一緒に食べましょ」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

 メデューサよ、お前の協力のおかげで遂に魔界に帰れますの!

 

「ど、どうしたの邪神ちゃん?こっち見つめて……」

 

 ふ……さすがメデューサ。成功するまでは計画を気取られてはいけないということか。

 

「それじゃあ食べましょうか。……いただきます」

 

「いただきます!……美味しい!やっぱり邪神ちゃんのカレーは最高だね!」

 

「いやぁ、それほどでもありますの。……ほらほら、ゆりねも早く食べますの」

 

「ええ、そうね」

 

 そうそう、そのまま口に運んで……入れた!

 

「……うっ!」

 

 やった!大成功ですの!

 

「美味しい!」

 

 ……えっ。

 

「いつにも増して美味しいわ。すごいわね、邪神ちゃん」

 

 バカな!猛毒だぞ!?スプーン一杯でサタンを即死させる代物だぞ!?それを一瓶丸ごと使ったのに……。

 ん?裏の説明シールの一番下……。

 ……ジョーク賞品!?中身は美味しい調味料!?

 

「メデューサ、この薬って……」

 

「あ、それ魔界で流行ってるジョークグッズなんだって。面白いでしょ?」

 

 お、お前ー!?

 

「ああ、そういうこと……」

 

「ひっ!?」

 

 ゆりね、いつの間に私の背後に……。

 

 

 

 猛毒くんの小瓶を手にとった邪神ちゃんが突然震えだしました。

 え、もしかして……。

 

「邪神ちゃん、それ本物の毒だと思ったの……?」

 

「メ、メデューサ!お前、私を騙したなー!?」

 

「そ、そんなつもりじゃ……」

 

 説明はちゃんと読もうよ、邪神ちゃん……。

 

「邪神ちゃん。……分かってるわね?」

 

「か、堪忍や……。堪忍したってや……」

 

「ダメ」

 

 あ……ゆりねさんが邪神ちゃんを持ち上げて……。

 

「や、やめますの!やめ……あー!」

 

「じゃ、邪神ちゃーん!」

 

 外に投げ捨てた……。

 あぁ、邪神ちゃんが窓ガラスを突き破って……二階から地上へ落ちていきます……。

 痛そう……。でも悪いのは邪神ちゃんだし……しょうがない、のかな……?

 

 

 

「うぅ……」

 

 クソいてぇ……。

 体中にガラスの破片が突き刺さってますの……。早く止血しないと……。

 あ……二階で二人が話をしてますの……。

 

「あの、ゆりねさん……。今回のことは私にも責任があるし、ガラス代は私が弁償しますから……」

 

「ダメよ。勝手に勘違いして私を殺そうとしたのは邪神ちゃんなんだから、ガラスの修理代は邪神ちゃんのお小遣いから出させるわ」

 

 ……まず金の話かよ!

 

「そう、ですか……。あ、さっき言ってた洗剤とティッシュ……どうぞ使ってください」

 

「ええ、ありがと」

 

 ……次はおすそ分けの話かよ!私の心配の優先順位低すぎだろ!

 つーかメデューサ、修理代を私に払わせるのを受け入れてんじゃねーですの!金くらい出せよ!

 

「邪神ちゃん、聞こえてたわよね?それくらいじゃ死なないでしょ?ガラス代……ちゃんと弁償しなさいよ」

 

 自分で投げたくせに……。

 

「あ、ドアの方も弁償するのよ」

 

 厳しすぎだろ……。でも……もう……逆らう気力が湧きませんの……。

 

「は、はい……。分かり……ましたの……」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第11話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 この前のガラス代は、結局我慢できなくてゆりねさんにお願いして半分だけ出させてもらいました。

 あの後邪神ちゃんに魔界カワイイ子選手権での優勝でレベルが上がったって教えたら、すごくびっくりしてました。戦ったわけじゃないのに経験値がたくさんもらえるんだもん、驚くのも当然ですよね。

 もっと頑張ってレベルを上げて、邪神ちゃんの足を引っ張ることがないようにしないと!

 

 

 さて、今日は古本屋さんにお買い物にきました。

 例の魔導書の下巻が置いてないかって時々探しに来るんだけど……。ありませんね、やっぱり。

 でも神保町にはたくさん古本屋さんがあるし、探し続けていればいつか見つかるかも知れません。

 時間はたっぷりあるんだから、地道に探し続けようっと。

 

 

 

 古本屋さん巡りも一段落。そろそろスーパーに寄って帰ろうかな。

 ん?あそこにいるのは邪神ちゃん?

 ……なんで道路に寝転んでるんでしょうか?

 道路になにかを広げてますね。あれは……フィギュアかな?

 

「邪神ちゃん、なにしてるの?」

 

「ん?あ、メデューサ。そこのガチャガチャを回してたんだけど、レアのツチノコが出ねーんですの」

 

「ガチャガチャ?」

 

 あ、これですね。なになに……?UMAフィギュア、か。

 そういえば邪神ちゃん、こういうのを集めるのが好きなんですよね。

 

「あーあ、あとツチノコだけ引ければコンプなんだけどなー。あと一回引いたら出そうなんだけどなー、もうお小遣いがないんだよなー」

 

 邪神ちゃんが、こっちをチラチラ見ながらそう言ってきます。

 

「はいはい。じゃあ一回だけだよ、邪神ちゃん」

 

「ありがとーですの、メデューサ!」

 

 満面の笑顔でお金を受け取る邪神ちゃん。可愛い!

 ……これだからついつい甘やかしちゃうんですよね。

 

「……これが出たら死ぬ!」

 

 でました、邪神ちゃんの謎ルール。

 独自ルールで緊張感を増すことで、よりガチャガチャを楽しめるんだそうです。

 まあ実際は死なないけど。

 

「どう、邪神ちゃん?ツチノコ当たった?」

 

「……違うやつでしたの。死なずには済んだけど」

 

 あらら、残念。

 まあ、そう都合良くはいきませんよね。

 

「……メデューサ~。次やれば多分出ると思うんだけど……」

 

「だぁめ。一回だけって言ったからね」

 

 

 

 くっふぅ~!なんて厳しい幼馴染ですの……。

 ん?私の次に回した少年が当てたフィギュア、あれは……ツチノコ!?

 わ、私があと一回だけ回せていれば……。いや、順序があの少年と逆であったならば……。

 メデューサがあと一回分お金をくれるか、もう少し遅れて声をかけてくれればあのツチノコは私のものだったのに……!

 ……いや、落ち着きますの。私は上級悪魔の邪神ちゃん。ここは広い心でメデューサを許してやりますの。

 

「それより邪神ちゃん、危ないから道路で寝転んじゃダメだよ?」

 

「はいはい、分かりましたの。……メデューサ、その手提げ袋……買い物中だったんですの?」

 

「うん、本屋さんに行ってたの」

 

 本屋か。そういや私も夕飯の食材を買いに来たんでしたの。

 ん、そうか!そのお金がありましたの!それを使えばまだガチャガチャを回せる!

 ……いやいやいや、ダメですの。ぜってーゆりねにお仕置きされますの……。

 

「ガチャガチャかぁ……。可愛いキーホルダーとかあるかな?」

 

「メデューサ、私も買い物があるから先に行きますの。お前もあんまり遅くならないようにするんだぞ」

 

「うん、分かった。またね、邪神ちゃん」

 

 ガチャガチャコーナーを眺めるメデューサに声をかけつつ、真面目に買い物に向かう私……。ああ、なんて立派なんですの……。

 

 

 

 うーん……特にめぼしいのもなかったし、そろそろ私もスーパーに行こうかな。

 そうだ、さっき邪神ちゃんが回してたのを私もやってみよう。

 

「何が出るかな……それっ!」

 

 ……あっ、ツチノコ!

 うーん、でも集めてるわけじゃないし……あとで邪神ちゃんにあげようっと。

 それじゃ、スーパーに向かいましょう。

 

 

 

 さて、スーパーに着いたのですが……。

 婦警の人がこっちに走ってきました。

 なにかあったのかな?

 

「そこの紙袋ちゃん!」

 

 えっ、私?

 

「はい、なんです……きゃあっ!?」

 

 い、いきなり肩を掴まれた!?

 なに!?なんなの!?

 

「あぁ、可憐な体と紙袋のギャップ……。たまらないわ!」

 

「ちょ、ちょっと……。なにするん、ですかぁ!」

 

 ガックンガックン揺すらないでぇ!

 

「こうまでして隠さなければいけないなんて!一体どんな中身なのかしら!?」

 

 か、紙袋を取ったら目が!?

 

「や、やめてください!私の目は!」

 

「大丈夫よ、好みの顔だったら大事にしてあげるから!」

 

 とにかく目を閉じておかないと!

 

「それっ!……なーんだ、普通ね……」

 

「えっ、なんのこと……ですか?」

 

「はい、戻したわ。じゃあね~」

 

 そう言うと、婦警さんはそのまま歩いて行ってしまいました。

 こ、怖かったぁ……。一体なんだったんでしょうか……。

 うーん……ま、まぁいいや。とりあえず買い物です。

 中に入りながらさっきの婦警さんの方を見ると、別の出口から出てくる邪神ちゃんが視界に入りました。同じスーパーに向かってたんですね。

 フィギュアは……後で渡せばいいかな。わざわざあっちまで行って呼び止めることもないよね。

 お買い物の帰りにゆりねさんの部屋に寄ることにしましょう。

 邪神ちゃん、喜んでくれるといいなあ。

 

 

 

 買い物に行った邪神ちゃんを部屋で待っていると、私のスマホに電話がかかってきた。

 なんでも、邪神ちゃんが警察に捕まっちゃったらしい。

 ……ついに罪を犯しちゃったのね、邪神ちゃん。

 同居人の私が身元引受人として迎えに行かないといけないみたいなので、戸締まりをして出かけようと思っていたのだけど……。

 ……チャイム?

 

「はーい」

 

「あ、ゆりねさん。メデューサです」

 

「いらっしゃい。邪神ちゃんに用事?」

 

「はい、渡したいものがあって。……大したものじゃないんですけど」

 

「わざわざ悪いわね。でもね、邪神ちゃんは警察に捕まっちゃったの」

 

「……はい?」

 

 何を言ってるのかわからないって顔のメデューサ。無理もないわね、私もよく分かってないし。

 

「さっき電話がきたのよ。一緒に住んでる人じゃないと身元を引き受けられないらしいから、これから警察に行ってくるところなの」

 

「そ、そうなんですか……。あ、じゃあ私が留守番してましょうか?戸締まりするの面倒でしょうし」

 

「そう?じゃあ……悪いけどお願いするわ、テレビ見たりしてていいから。行ってくるわね」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 ……それにしても邪神ちゃん、いつかやらかすとは思っていたけど……。

 帰ったらお仕置きね。

 

 

 

 ゆりねさんが出かけてしばらく経ちました。

 ……結構暇ですね、テレビもそんなに面白いのはやってないし。

 それにしても、邪神ちゃんが犯罪者になっちゃうなんて……。

 でも、邪神ちゃんが罪を犯して警察に捕まっちゃうお話なんて原作には無かったような。

 ……ん?捕まっちゃう話?

 

「……あ」

 

 そういえばありました、邪神ちゃんが捕まっちゃうお話!

 原作屈指の頭のおかし……もとい、不思議な人!橘芽依さんの登場エピソードだ!

 ひょっとして、私に掴みかかってきた人が……?

 ……毎回あの勢いで迫られたらそりゃ怖いですよね、あの人に好かれちゃった邪神ちゃんの気持ちが分かった気がします……。

 

 

 あ、足音。二人が帰ってきたみたいですね。

 

「ただいま」

 

「ただいまですの……」

 

「おかえりなさい」

 

 ゆりねさんは普段どおりだけど、邪神ちゃんは声が沈んでます。

 そりゃ怖かったよね……。私の想像が当たっていればの話ですが。

 

「あの、邪神ちゃんが捕まっちゃったのって……」

 

「婦警さんの心を盗んじゃったんですって、邪神ちゃ……大蛇丸は」

 

「心?……大蛇丸?」

 

 大蛇丸に心を奪われた婦警さん……。ってことは、やっぱり……。

 

「その呼び方をするんじゃねーですの!」

 

「ご、ごめん」

 

「悪かったわね、大蛇丸」

 

「だからー!……実は、橘芽依ってやつが無実の私を捕まえやがったんですの。フォルムが気に入ったとかなんとか言って……」

 

「自己紹介する時にベガ立ちしてたわ」

 

「は、はぁ……」

 

 ベガ立ちは重要な情報なのかな……。

 

「それで、私に邪神ちゃんを譲ってくれってお願いしてきたの」

 

「そうなんですの!その時ゆりねのやつ、一度私を見捨てようとしたんですの!」

 

「別にいいじゃない、こうして連れて帰ってきてあげたんだから」

 

「そういう問題じゃねーですの!……しかもゆりねがやっぱり連れて帰るって言ったときに、手に入らないなら殺すって言って撃ってきたんですの……」

 

「う、撃ってきた?」

 

 原作と同じで凄まじい人みたいです。

 あの時、あの人に気に入られてたら私も捕まっちゃってたんでしょうか……。

 

「と、とにかく解放してもらえてよかったね」

 

「ほんとですの……」

 

「芽依さん、定時になったからって言って邪神ちゃんを放置して先に帰っちゃったのよ」

 

 やっぱり、諦めて解放してもらったわけでは無いみたいですね……。

 

 

 

 まったく、今日は散々な一日でしたの……。

 ツチノコは手に入らないわ、変な人間に捕まるわ……。

 

「あ、そうだ邪神ちゃん」

 

「なんですの、メデューサ?」

 

「これ。邪神ちゃんが買い物に行ったあとにガチャガチャを回したら当たったんだ」

 

 ん?あ、これ……ツチノコフィギュア!

 

「くれるんですの?」

 

「うん、私は集めてないから」

 

「サンキューですの、メデューサ!」

 

「うん!それと……えいっ!」

 

「な、なんですの!?」

 

 メデューサのやつ、いきなり抱きついてきましたの!

 

「邪神ちゃん、捕まったり撃たれたりして怖かっただろうなって思って」

 

「いや、別に抱きしめて慰める程のことじゃねーだろ……」

 

 ……まあ、芽依がすげー怖かったのはそのとおりだけど。

 

「邪神ちゃん、慰めてもらえてずいぶん嬉しそうじゃない」

 

 ゆりねはそのにやにや笑いをやめろ!

 

「メデューサ、いつまでもこうしてなくていいから!離しますの!」

 

「あ、うん」

 

 ったく。ほんとに抱きつくのが好きなやつですの……。

 

「で、でも感謝はしてやりますの……」

 

「あんた、お礼くらい素直に言ったら?」

 

「うるせーぞゆりね!ま、まぁ……その……」

 

「なぁに?」

 

 ……やっぱり無理ですの!

 メデューサのおかげで安心できただなんて、恥ずかしくて言えるか!

 

「な、なんでもねーですの!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第12話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日はぺこらちゃんにお昼ごはんのおかずの差し入れをするために、公園にやってきました。

 持ってきたのはポテトサラダ。りんごを入れて作ってみました!

 

「こんにちはー。ぺこらちゃん、いる?」

 

「いますよ。……お前ですか」

 

「はい、差し入れのポテトサラダ。りんご入りだよ!」

 

「あ、ありがとうございます。……なんだか渡し方が有無を言わせない感じになってませんか?」

 

「あー、そうかも……」

 

 毎回断られて押し付けてを繰り返しても仕方ないと思ったのですが……。

 流石に押し付けがましいかな?

 

「ごめん、無理やり渡されても嫌だよね。今度からはもうちょっと考えるようにするから……」

 

「いえ、少し気になっただけですから。……嫌では、ないですよ」

 

「本当!?嬉しいな!」

 

 なんだか最近、ぺこらちゃんも素直というか……自然体で話してくれているような気がします。

 気のせいじゃないといいなぁ。

 

 

 

「それじゃあ、またくるね!」

 

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 渡すだけ渡して帰ってしまいましたね。

 彼女は悪魔。ぺこらとは敵同士ですが、こう何度も会いに来られるとそういう感覚も薄れていきます。

 種族関係なく仲良くしたい、ですか。まあそういうのも悪くは……。

 ……って、いつまで手を振ってるんですかあいつは!

 そ、それでは早速。

 

「いただきます」

 

 

 

 さて、サラダを渡して用も済んだし帰りましょう。

 ……あ、電話ですね。邪神ちゃんからだ。

 

「はーい。邪神ちゃん、なぁに?」

 

「メデューサ?ちょっとうちに来てほしいんですの」

 

「うん、いいよ。今でかけてるからちょっと待っててね」

 

「おう、待ってますの~」

 

 なんだか邪神ちゃんから呼ばれるのは久しぶりのような気がします。

 そうだ!フレッシュムーン買っていってあげようっと!

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 りんご入りのポテトサラダというのもなかなか美味しいものですね。

 天使のぺこらとしては情けないですが、彼女には感謝をしなければいけないでしょう。

 そういえば、今日はいつもと違って使い捨て容器ではありませんでしたね。

 他意はないのでしょうが、ずっと預かっていても仕方ないですし……。返しに行きましょうかね。

 

「善は急げです。早速出発しましょう」

 

 

 

 フレッシュムーンを買ってアパートまで戻ってきました。

 それにしても邪神ちゃん、なにか私に用事でもあるのかな?

 とりあえずチャイムを。

 ……あれ、返事がない。

 

「邪神ちゃん?……入るよ?」

 

 あ、いました。

 電気もつけずに、部屋の真ん中で微動だにせず立ってます。

 

「邪神ちゃん、用事ってなぁに?」

 

 フレッシュムーンを置きながら話しかけると、邪神ちゃんの首が落ちました。

 ……え。

 

「邪神……ちゃ……え?」

 

 ……なにこれ?

 ウソ……なんで?

 

「あ……死んじゃ……邪神ちゃん……?」

 

 だって、だってさっき電話で……。

 いつもどおりで……。

 

「やだ……やだよ……邪神ちゃん……」

 

 邪神ちゃん……。

 

「うわぁあぁぁん!邪神ちゃぁあん!」

 

 

「わははははははは!」

 

 ……え。……邪神ちゃん?

 

「今のお前の一連のリアクション!押入れから見させてもらったけど笑えたわー!」

 

「……邪神ちゃん?」

 

「うひゃひゃひゃ……おわぁ!笑いすぎて落ちちまった……。それ、脱皮した私の皮ですの」

 

「皮……?」

 

 え、でも……さっき邪神ちゃんは死んじゃって……。でも生きてて邪神ちゃんは皮で……え?

 

「私が何千年かに一度脱皮するのを忘れたんですの?今日がその日だったってわけ」

 

「脱皮?」

 

 脱皮って、死んじゃうんだっけ?あれ……でも邪神ちゃんは生きて……。

 

「それでこのいたずらを思いついてお前を呼びつけたんですの」

 

 いたずら……?いたずらで死んじゃうの?……え、でも死んでない……よね?

 

「マジで死んだと思ったんですの?んなわけねーだろ!」

 

「邪神ちゃん……」

 

「ん、どした?」

 

 邪神ちゃん……邪神ちゃん……。

 

「うわぁああぁああん!邪神ちゃぁぁあああん!」

 

「おわー!」

 

「邪神ちゃん!死んじゃやだよぉ!邪神ちゃん!邪神ちゃん!」

 

「ぐえぇ、苦しい……力を込めて抱きつくなー!」

 

「やだあぁぁぁあ!うああぁぁあぁぁぁん!」

 

「お、落ち着けー!」

 

 

 

「あら、ぺこらじゃない。どうしたの、こんな所で?」

 

「ん、花園ゆりね?……そうか、このアパートに住んでいるのでしたね。今お帰りですか」

 

「ええ」

 

 ぺこらがここに来るなんて随分と珍しいわね。

 邪神ちゃんに会いに来るとは思えないし、メデューサに会いに来たのかしら。

 

「メデューサに用事?」

 

「はい、渡したいものがありまして。でも留守のようなので、また改めて来ようかと……」

 

「あの子は邪神ちゃんと仲がいいから、私の部屋にいるかも知れないわね。来てみる?」

 

「でも魔女の……いえ、お邪魔させていただきます」

 

 この子も随分柔らかくなったわね。以前はこっちの提案をひたすら突っぱねてたけど。

 

 

 

 さて、ぺこらを連れて部屋の前まで来たけど……。

 

「あの、中からなにか聞こえませんか?」

 

「そうね。……泣き声かしら?」

 

 部屋の中からぐすぐすと泣いているような声が聞こえてくる。

 とりあえず入ってみましょ。

 

「ただいまー。ぺこらも上がってちょうだい」

 

「はい。お邪魔します」

 

 

 部屋の中には邪神ちゃんとメデューサがいた。

 いることはいたんだけど。

 

「ぐす……ひっく……邪神、ちゃ……ひぐ……」

 

「も、もう泣き止みますのメデューサ……なっ?なっ?……げっ、ゆりねとぺこら!」

 

 何この状況。

 

「な、なにがあったのですか……?」

 

「あんた、またなんかやらかしたの?」

 

「いや、これはその……」

 

「ぅぐ……うえぇ……やだぁ……邪神ちゃん……やだよぅ……」

 

 メデューサがこんな泣き方してるの初めて見たんだけど。

 

 

 

「……で、メデューサが泣き出して今に至るというわけですの……」

 

「ひっく、うぐ……うえぇん……」

 

 ぺこらと一緒に事情を聞いている間も、メデューサはずっと泣き続けていた。

 私たちに気づいているのかいないのか、こっちには目もくれずに邪神ちゃんにしがみついている。

 

「いたずらでそこまでやりますか、普通……」

 

 邪神ちゃんの説明にぺこらはドン引き。

 それはもちろん私も同じ。いつも大事にされておいてこの仕打ちは……ないわー。

 

「あんた、ほんと……サイテーね」

 

 

 

 事情を話し終えた私に、ゆりねとぺこらがドン引きした視線を向けてきてますの……。

 

「なんだよ!私がそんな目で見られるほどのことをしたってのか!?……したか……」

 

 ま、まあ考えてみればちょっと行き過ぎたいたずらだった気はしますの……。

 

「邪神ちゃん、あんた……もういいわ。メデューサ、どうする?部屋に帰る?」

 

「ぐすっ……ひっく……」

 

 私にしがみついたまま、メデューサは首を横に振りましたの。

 

「分かった、落ち着くまでこっちにいるといいわ」

 

 今度は首を縦に振りましたの。

 

「ぺこらはこれを返しに来たのですが……それどころではないですよね」

 

 食べ物の容器?

 メデューサ、またなんか料理を渡しに行ってたんですの?

 

「いいわ、こっちで預かっておくから」

 

「はい、お願いします」

 

「ひっく……ひっく……」

 

 ゆりねとぺこらが話をしている間もずっとメデューサは私にしがみついたままでいましたの。

 さすがに罪悪感がこみ上げてきますの……。

 そしてゆりねたちの怒る気も起きないとでも言いたげな視線で胃酸もこみ上げてくる……。

 

「うぷっ……」

 

 こ、こらえろ私!今吐いたら、親友をガチ泣きさせた挙げ句自分が大ダメージを受けてゲロを吐いた情けない魔物に成り下がっちまう!

 

「メデューサ、私は死んでないから。な?大丈夫だから離れますの……」

 

「ひぐ……やだ……やだぁ……ぐす……」

 

 ダメだ、離れようとすらしてくれませんの……。

 

「あんた、親友を泣かせといて自分はそれを引き剥がそうとするとか……」

 

「悪魔にしたってやりすぎですよ……」

 

 違いますの!泣かせたのは間違ってねーけど!

 た、頼むから二人してその軽蔑した視線を私に向けるのをやめてくれ……!

 ……わ、私が……。

 

「私が悪かったから!せめて泣き止んでくれメデューサー!」

 




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第13話

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 こんにちは、メデューサです。

 この前はずっとしがみついたままでいて、邪神ちゃんには迷惑かけちゃったなぁ……。

 でも、邪神ちゃんが死んじゃったわけじゃなくて本当に良かったです。

 ……泣きはらしたあとに気づいたのですが、あれって多分敬語メデューサちゃんのエピソードだったんだと思います。

 とても好きなお話だったので今でも覚えているのですが、いざ自分がその状況に置かれたら悲しくて、怖くて……。それどころではなくなってしまいました……。

 ま、まあ過ぎてしまったことは仕方ないです!……そもそも原作再現をするために生きているわけではないので、仕方ないもなにも無いような気もしますが。

 

 

 さて、今日は邪神ちゃんとお買い物。なんと邪神ちゃんの方からのお誘いです!

 泣かせちゃったお詫びだって言って誘ってくれたんです!優しいなあ、邪神ちゃん。

 邪神ちゃんの提案で、センタッキーというフライドチキンのお店の前で待ち合わせ。

 お隣だから待ち合わせの必要なんて無いのですが、こういう演出が楽しいんだそうです。うんうん、すごくよく分かるよ邪神ちゃん!

 

 

 そろそろ待ち合わせの時間だし出発しようかな。

 ……そうだ!ちょっと前に魔界から送られてきたコンタクトレンズを使ってみましょう!

 このコンタクトレンズにはあっと驚く機能があるのです!邪神ちゃん、びっくりするかな?

 

 

 

 着いた着いた、センタッキー。

 ぷっ●んプリン食べてたらちょっと遅れちまいましたの。

 まぁいいや、なんたって親友だからな!多少の遅れは許されますの!

 さてメデューサは……おっ、いたいた。

 

「おーい、メデューサ~」

 

「あ、邪神ちゃ……!」

 

 ん?いきなり黙ってどうしたんですの?

 ……ジェスチャー?……私の……後ろ?後ろになにか……げっ!

 キ●ガイ婦警の橘芽依!?なんでこんな時にこんな所で……。パトロールでもしてたんですの?

 とにかく、気づかれないうちにさっさと移動……。

 

「大蛇丸!?」

 

 あああ……あっさり見つかった……。

 しかも目まで合っちまった……。なんでタイミングよく振り返るんですの……。

 

「逃げるぞメデューサ!……メデューサ?」

 

 なんで固まってるんですの?

 

「大蛇丸~!」

 

「固まってないで走れメデューサ!」

 

「じゃ、邪神ちゃん……。私、足がすくんで……」

 

 何言ってんだ!この程度、ゆりねに殺されかけることに比べれば!

 ……ああ、毎度殺されかけてるのは私だけだった……。そりゃ足もすくむわけですの……。

 って、納得してる場合じゃねー!

 

「ほら、手を貸しますの!」

 

「う、うん!」

 

 

 

「待って大蛇丸~!待ってってば~!」

 

 お、追ってきた!

 邪神ちゃんが手を引いてくれてるけど感動してる余裕なんてないです!

 私は標的から外れてるけど、いきなり掴みかかられた時の恐怖を思い出してしまって……。

 怯えながらも後ろを振り返ると……。うそっ!?

 

「邪神ちゃん避けてー!」

 

「え?……ぐえぇっ!」

 

「じゃ、邪神ちゃーん!」

 

「めーちゅー!」

 

 と、飛んできた女の子の像が邪神ちゃんの後頭部に!

 芽依さんが投げたみたい……。

 

「つかまえた~!……あぁ……大蛇丸……!美しい……可愛い……!」

 

「やめろぉ……」

 

「あわわ、邪神ちゃん……」

 

「あら?そっちのあなたは……」

 

「ひっ!」

 

 やっぱり怖い!

 

「紙袋の中身ちゃん。大蛇丸の友達だったのね」

 

 な、中身ちゃんって……。

 

「ど、どうも……」

 

「お久しぶり。……それよりも大蛇丸、今日も記念の一枚撮ろうね!」

 

 もはや私は眼中に無いみたい……。

 私から意識を外した芽依さんはぐったりしている邪神ちゃんを抱き寄せ、スマホで自撮りを始めました。

 ……無理矢理ピースさせてるの怖いよぉ……。

 

 

 

「ふぅ、楽しかったわね大蛇丸!それじゃまたね~」

 

「またって……。もう会いたくねーよ……」

 

 マジで芽依とは関わりたくねーですの……。

 それにしても……。

 

「メデューサもあいつと知り合いだったんですの?」

 

「う、うん。紙袋を被ってる時に会って、中身が気になるって言って掴みかかられて……」

 

 芽依のターゲットになりかけたのか……そりゃ怖がるわけですの。

 ん?紙袋といえば……。

 

「いつもの紙袋はどうしたんですの?」

 

「あっ、そうだった!実は……あっ……」

 

「……?実は、どうしたんですの?」

 

「まずは怪我の手当てしよっか……」

 

 ……そうでしたの……。

 

 

 

 手当てといっても、邪神ちゃん……というか悪魔は基本的に治癒力が高いのでこのくらいなら消毒だけで十分です。

 

「これで、よし」

 

「サンキューですの……で?なんで紙袋を被ってないんですの?」

 

 あ、そうでした。

 

「あのね、石化能力を封じるコンタクトレンズを使ってみたの!」

 

「コンタクト?そんなもんでお前の強力な石化能力を防げるんですの?」

 

 うわぁ、物凄く疑ってる目です……。

 あたりまえだよね、私も実際使ってみるまでは不安だったもん。

 

「試作品が魔界から届いたの、うまく機能したら製品化するかもしれないんだって。私もちょっと不安だったけど、今の所誰も石化してないし……ちゃんとしたものみたい」

 

「ふーん、ずいぶん都合のいい話ですの。……でもよかったな、メデューサ」

 

「うん!」

 

 

 

「で、どこに買い物に行くんですの?」

 

「え?……私が決めていいの?」

 

 ……そんな驚くことか?まるで私がいつもメデューサを振り回してるみたいな……いや、振り回してるのか?

 ま、まぁいいですの。

 

「お前のために出かけるんだから当たり前ですの」

 

「あ、そっか。……じゃあ、お洋服!人間の女の子みたいな服が欲しいな!」

 

「よし、じゃあせっかくだし新宿に行きますの」

 

 

 

 で、メデューサと一緒に服屋に来たわけだけど……。

 

「邪神ちゃん、これはどうかな?かわいい?」

 

「……服とかほとんど着ないから、かわいいとかよく分かりませんの」

 

 どれでも良いんじゃねーの?メデューサが着るんだから、どれを選んでもそれなりにはなるはずですの。

 

「そ、そっか。うーん、じゃあ……これとこれならどっちがかっこいい?」

 

 かっこよさなら……。

 

「こっち」

 

「ふむふむ……。じゃあ、これとこれならどっちが強そう?」

 

「こっち」

 

「なるほど。じゃあこれにする!」

 

「ちょ、ちょっと!私の意見だけで決めちゃっていいんですの!?」

 

「いいの!邪神ちゃんが選んでくれた服が欲しかったんだもん!」

 

「お、おぉ……そうか……」

 

 そういうもんなのか?

 ……それにしてもメデューサのやつ、すげー楽しそうですの。

 紙袋よっぽど嫌だったんだなー。……そりゃそうか。

 

 

 

 人間界で顔を出してお買い物なんて、前世以来です!

 広い視野で周りを見られるのってやっぱり楽しいな。

 

「邪神ちゃん、次は喫茶店に行きたい!一緒にお食事……きゃあ!」

 

「メデューサ!大丈夫ですの?」

 

「えへへ、慣れない靴で転んじゃった。大丈夫……あれっ……」

 

 うまく立てない……?

 

「メデューサ、脚!石化しかけてますの!」

 

「えっ?」

 

 な、なんで?

 

「とにかくどっか座れるところ……近くに遊歩道公園があるからそこに行きますの!」

 

「う、うん!」

 

 

 

「とりあえずここで休みますの」

 

「うん。ありがとう、邪神ちゃん」

 

「そのコンタクトの副作用じゃないんですの?外してみますの」

 

「う、うん……。あ、石化が止まった気がする」

 

「メデューサの能力がそんな簡単に抑えられるわけなかったんですの。インチキコンタクト作りやがって……あとでカスタマーサービスに文句を言ってやれ!」

 

 邪神ちゃんのおかげで、少し落ち着けました。

 ……そういえば原作でもありましたよね、自分が石化しちゃうコンタクトレンズ。

 知ってたはずなのに……。浮かれて忘れちゃうなんて……。

 

「ごめんね邪神ちゃん……せっかく付き合ってもらったのに、こんなことになっちゃって……」

 

「メデューサ……」

 

「ごめんね……」

 

 また泣いちゃってる……。情けないなぁ……。

 

 

 

「泣くなメデューサ!お前はなにも悪いことをしてないんだぞ!」

 

 悪いのはこんな出来損ないの品物を送りつけてきたヤツですの!

 

「邪神ちゃん……」

 

「だいたいお前は一々責任を感じすぎなんですの!」

 

「そう、かな……?」

 

「そーなの!もうちょっと私を見習ってだな!こう……図太さを身につけるべきなんですの!」

 

「……」

 

「……」

 

 

 さ、さすがにクサい言い方だったか?

 沈黙が痛いですの……。

 

「……ふふっ」

 

「?……なんですの?」

 

「あははっ!無理だよ、私じゃ邪神ちゃんみたいに図々しく振る舞えないよ!」

 

「な、なにー!?」

 

 私渾身の励ましを笑い飛ばしやがってー!

 

「私が言いたいのはだな……」

 

「ありがとう、邪神ちゃん。元気出てきたよ」

 

「……そーか」

 

 だったら、良いんですの。

 

 

「ほら、涙を拭きますの」

 

「うん」

 

「買い物袋を一つ空にして穴を開けたから、被りますの」

 

「ありがと」

 

「じゃ、帰るか。……ほれ」

 

「え?」

 

「それじゃうまく歩けないだろ?おんぶしてやるから」

 

「あ、うん……。気を遣わせちゃってごめんね、邪神ちゃん」

 

 よっ……と。軽いなーこいつ。

 

「邪神ちゃん、重くない?」

 

「……重い」

 

「ごめんね……」

 

「……メデューサ。お前、今日はもう謝るの禁止な」

 

「え、なんで?」

 

「いいから」

 

「……うん。……邪神ちゃん」

 

「なんですの?」

 

「今日はありがとう……」

 

「……おう。感謝しろよ」

 

 

「メデューサ……」

 

「……ん……なぁに?」

 

「あー、その……なんだ……」

 

 ……ん?

 

「おーい、メデューサ?」

 

「……すぅ……すぅ……」

 

 ……寝ちゃってますの。

 はしゃいだり泣いたりしたもんな……。

 ……。

 

「いつも一緒にいてくれてありがとうですの、メデューサ」

 

 

 

 やっとアパートの前に着きましたのー!

 

「ほれメデューサー、起きますのー。アパートだぞー」

 

「ん、んぅ……」

 

「起きたかー?」

 

「あれ、私……寝ちゃってたんだ……。ねぇ、邪神ちゃん……さっきなにか言いかけて……」

 

「な、なんでもねーですの!……もう脚の石化も解けてるし、自分で歩けるだろ?」

 

 ……ていうか、よく考えたら歩いてこなくてもタクシーでも使えばよかったですの。

 

「……邪神ちゃん」

 

「ん?」

 

「部屋までおんぶして?」

 

「……なんでですの?」

 

「えへへ、今日は邪神ちゃんみたいに図々しくするんだもん」

 

 ……しょーがねーなー!

 

「今日だけだぞ、メデューサ!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第14話

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 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日は駅に来ています。

 ミノスから人間界に来るという連絡をもらったので、ここで待ち合わせ中。

 観光案内の準備もバッチリです!

 そういえば、原作のミノスはどういうきっかけで人間界に来たんだっけ?やっぱり観光だったかな?

 ……まあそれは置いておきましょう、気にしても仕方ないですからね。

 

 

 そろそろ連絡があった時間です。……えっと、あの電車かな?

 あ、やっぱりそうでした。電車から降りてきましたね。

 

「ミノス!人間界にようこそ!」

 

「うわっ、紙袋!?……って、その声と服は……メデューサか?」

 

「あ、ごめん。この格好のこと言ってなかったっけ」

 

 外では紙袋を被るのが当たり前になっちゃってるから、伝えておくのを忘れちゃってました。反省反省。

 

「なんでそんなの……あぁ、人間対策か」

 

「うん。ほんと、難儀な能力だよね」

 

「大変だな……まぁそれはいいや。改めて……今日はよろしくな、メデューサ!」

 

「うん!任せておいて、ミノス!」

 

 

 

 久しぶりに人間界に来たけど、随分と様変わりしてるなー。

 こっちにも電車ができたのか。

 

「どうするミノス?早速観光に行く?」

 

「その前に……せっかく人間界に来たんだから人間の格好をしてみようと思ってさ、まずは洋服屋かな。虎穴に入らずんば……なんとかって言うし」

 

「それは危険を冒すときの……郷に入っては郷に従えでしょ?」

 

「そう、それそれ!」

 

 博識だなーメデューサは!

 

「おっけー。じゃあ……原宿に行こっか」

 

「原宿?」

 

「うん、ファッションの街って感じかな。地名ではないんだけどね、一帯をまとめて原宿って呼んでるの」

 

「へぇー。うっし、じゃあ早速行こうぜ!」

 

 

 

 とりあえず原宿でミノスのお洋服を買いました。

 牛柄のパーカーにスカート、そしてビーフ100%と印字されたシャツという原作でおなじみの格好になりましたね。

 ミノスはとてもスタイルが良いのですっごく似合ってます!

 

「よし、じゃあ観光に行くか!」

 

「うん。ミノスはどこか行きたいところってあるの?」

 

「友達に聞いたんだけどさ、凌雲閣っていうすげー高い建物を見とけって。そこに行ってみたいかなー」

 

「凌雲閣……。たしか今は無いんじゃなかったかな」

 

「あれ、そーなの?」

 

 お友達の情報がちょっと古かったみたいですね。

 

「今高い建物って言うと……スカイ●リーだね、お買い物もできるよ」

 

「じゃあ、そこに行きてーな!」

 

「分かった、じゃあ出発しよう!」

 

「おー!」

 

 

 

 ……どうすればゆりねを殺せるんだ?

 私の必殺技はどれも通用しないし、メデューサもゆりねを殺す気になってくれないし……。

 もう一つの手段である魔導書も見つからないし……。

 まさか本当にゆりねの寿命を待つしか……。

 いや!この先は考えてはいけませんの!

 

 

 考え事をしてたら甘いものが食べたくなってきましたの。

 もう夕方だけどエンジェルパイ食べよ。

 ……やはり人間界のお菓子は実に美味い!

 魔界のお菓子メーカーも見習ってほしいですの。

 

 

 お、チャイム。

 メデューサかな?そういや魔界の友達が来るって言ってたな。

 ……いやチャイム連打しすぎだろ!そんなに鳴らさんでも開けますの!

 

「はいよー、メデューサか?」

 

「ハロー!」

 

 ……誰ですの?思わずドアを閉めちまったけど。

 

「おじゃましまーす!」

 

「ヒィー!」

 

 ドアを蹴破りやがった!?

 ……あ。

 

「お前ミノスですの?」

 

「そーだよ。いきなりドア閉めるなんてひどくねー?」

 

 人間みたいな格好してるから気づきませんでしたの……。

 

「あわわ、ドア蹴っちゃだめだよミノス!」

 

「メデューサ!友達ってミノスのことだったんですの?」

 

「あ、邪神ちゃん……。うん、そうだけど」

 

 どうしてこんな何でも力で解決しようとするバカを連れてきたんですの……。

 

「……邪神ちゃん、すごく失礼なこと考えてない?」

 

 ……なぜ分かった!?

 

「さっすがー。邪神ちゃんのことはなんでもお見通しだな、メデューサは」

 

「ま、まぁ二人とも上がりますの。……ミノス、靴は脱げよ!あとドアも弁償しろよ!」

 

「はいはい、分かってるって」

 

「お邪魔しまーす」

 

 

 

「はい、お土産のケーキ。……お茶ついでくるね」

 

「頼みますの~」

 

 ここに住んでるのって、メデューサじゃなくて邪神ちゃんだろ?

 

「相変わらずメデューサ使いが荒いなー」

 

「いいんですの。というかメデューサの場合は……」

 

「まあな、みんなに優しい……っていうか甘いからなー基本的に」

 

「そういうことですの。だから私が甘やかされてやってるのはメデューサのためなんですの」

 

 な~に言ってんだか。

 

「はい、お茶。なんの話をしてたの?」

 

「サンキュ。メデューサは邪神ちゃんに優しいなってさ」

 

「えへへ……つい、ね。でもお金に関しては結構厳しいと思うよ」

 

 ……ふーん。

 

「邪神ちゃんへの借金の回数は?」

 

「なぁに、いきなり?……月に一度だけだよ?」

 

「厳しいですの……」

 

「返済期限は?」

 

「特に決めてないけど……でもずっと貸しておくつもりはないよ?」

 

「すごく厳しいですの……」

 

「やっぱり甘いじゃん」

 

「やめろミノス!これ以上メデューサがお金に厳しくなったらどうするつもりですの!?」

 

 ……ま、いいか。ゆる~いとはいえ、取り決めがあるだけマシなのかもな。

 

「あ、そうだ……ぺこらちゃんにもお土産渡してこなきゃ。ちょっと行ってくるね」

 

「おう」

 

「分かりましたの」

 

 

 

「邪神ちゃん、ぺこらちゃんって誰なんだ?」

 

 ミノスのやつ、知らないで返事してたのか……。

 

「天使ですの。私たち悪魔を駆除しに来たんだと」

 

「ふーん」

 

「ふーんって……。もうちょっとこう……焦るとかしないんですの?」

 

「メデューサの方から会いに行くってことは、そうされないってことだろ?だったら大丈夫さ」

 

「いや、まあそうかも知れねーけど……」

 

 私はあの時焦ったのに……。

 

「はっはーん。邪神ちゃんは、そのぺこらちゃんって天使とメデューサが会ってた時に焦ったわけだ」

 

「な!な、なにを根拠に言ってるんですの!?」

 

「根拠なんてねーよ。邪神ちゃんならそうするだろうって思っただけさ」

 

 うぎぎ……。

 

「しょうがねーだろ!状況も知らせず一緒にいるってだけ伝えられたんだから!」

 

「分かった分かった。なんだかんだ言って邪神ちゃんもメデューサが大好きだもんな」

 

 ちゃんと聞けー!

 

「ところで、邪神ちゃんを呼び出した人間についてなんだけどさぁ」

 

「……ゆりねがどうしたんですの?」

 

「そう、そのゆりねちゃんのことでさ……」

 

 

 

「こんにちは。ぺこらちゃん、いるー?」

 

 おや、この声は……いつもの悪魔ですね。

 

「いますよ。今日はなんの御用ですか?」

 

「友達とスカイ●リーに行ってきてね、そのお土産を持ってきたの。はい、ケーキ」

 

「あ、ありがとうございます……。お友達ですか……やはり悪魔の?」

 

「うん、この前名前だけ教えたミノスっていう子。とっても良い子なんだよ!」

 

 ミノス……たしかミノタウロス族の悪魔と言っていましたか。

 

「それじゃまたね、ぺこらちゃん」

 

「あ、はい」

 

 この調子で人間界に悪魔が増えていくのでしょうか……。

 まあいいです、今はケーキを食べましょう。

 

「いただきます」

 

 

 

 ケーキ、受け取ってもらえてよかった!

 そうだ!今度ぺこらちゃんにミノスを紹介してあげようっと。

 

「ただいま。……あれ?」

 

 なんだか変な雰囲気です。どうしたんだろう?

 

「じゃあやってみ?戦ってみ?ぜって~勝てね~から」

 

「勝てるって言ってるでしょーが!」

 

 な、なに?喧嘩!?

 

「二人とも、喧嘩はだめだよ!」

 

「いや、喧嘩じゃねーよ」

 

「そうそう、違いますの」

 

「じゃあどうしたの?」

 

 勝てるとか勝てないとか……。

 ……あ。

 

「ゆりねはメチャクチャつえーからミノスでも勝てねーって言ったら……」

 

「ミノタウルス族のあたしが人間に負けるわけねーだろ!」

 

 そ、そうでした!原作でもミノスがゆりねさんと戦うことになるんでした!

 

「ミノス?その、ミノスがゆりねさんと戦う必要なんて無いんじゃ……」

 

「そーそー、やめといた方がいいですの!勝てるわけねーんだから!」

 

 邪神ちゃん、煽らないでー!

 

「ぜってー勝ってやるからな!」

 

 ……うわぁ、邪神ちゃんがすごく悪い顔をしてる……。

 戦ったあとの疲れたゆりねさんをやっつけようって感じかな……。

 

「メデューサ」

 

「なに、ミノス?」

 

「悪いけど、今日だけ泊まらせてくれよ」

 

「う、うん。いいけど……」

 

 こうなるとミノスは聞かないからなあ……。

 ゆりねさんが戦う気にならないのを祈るしかないかも……。

 

「それじゃ邪神ちゃん、また明日な。ゆりねちゃんを連れ出すのは任せたぜ」

 

「任せときますの!」

 

「はぁ、もう……。じゃあまた明日ね、邪神ちゃん」

 

「おう、またな~」

 

 そういえばこの前魔界に戻った時、私がミノスにゆりねさんのことを教えたんでした……。

 こんなことになったのって、多分私にも責任があるよね……。どうしよう……。

 

 

 

 今日は休日。バイトに行ってレポートを進めて、やることが結構あるのに……。

 

「おはようですの、ゆりねー!今日はいい朝ですのー!」

 

 邪神ちゃんがあからさまに怪しい。

 

「……どうしたの、邪神ちゃん?」

 

「実は~私とメデューサの幼馴染が人間界に来てるんですの~。それで~是非そいつと会ってほしくて~」

 

「鬱陶しいからその口調やめなさい」

 

「はい。……ミノスっていうやつなんだけど、そいつがゆりねと会ってみたいって言ってるんですの」

 

「ふーん。ここにいないならメデューサの部屋にいるのかしら?」

 

「公園で会ってほしいそうなんですの」

 

「なんで?」

 

「……さ、さぁ?なんでだろうな~」

 

 これ絶対知ってるパターンね。

 

「まぁいいわ、行きましょうか」

 

「っしゃー!早速行きますの!」

 

 

 

「ここで待ってりゃ来るんだよな、メデューサ?」

 

「うん、そうだと思う……」

 

 ああ、ついにこの時が来てしまいました……。

 どうにかしてミノスに考え直してもらえないかな……。

 

「ねぇミノス、ほんとに戦うの?」

 

「なんだよー、あたしが人間に負けるってのか?」

 

 そうじゃなくて……。

 

「私はミノスとゆりねさんが戦うのが嫌で……あれ、ぺこらちゃん?」

 

「朝早くに物音がすると思ったら……どうしたのですか?あ、昨日のケーキ美味しかったです。ありがとうございました」

 

「ケーキ食べてくれたんだね、良かった。今日はちょっと、邪神ちゃんの企みでね……」

 

「あの悪魔の、ですか。そちらの方は……」

 

「あ、この子がミノスだよ」

 

「よろしくな。天使の……ぺこらちゃんだっけ」

 

「はい、ぺこらと申します。……なんだか悪魔と会話するのにも抵抗がなくなってきてしまっています……主よ、お許しを……」

 

 

 

 邪神ちゃんと一緒に公園に着くとメデューサとぺこら……それと初めて見る子がいた。

 あの子がミノスかしら。

 

「連れてきましたのー!」

 

「おはよう、みんな」

 

「おはようございます、ゆりねさん。今日はわざわざ来てもらっちゃって、すみません……」

 

「その子がミノス?」

 

「はい。ミノス、この人がゆりねさんだよ」

 

「オッス。で、さっそく本題なんだけど……」

 

 本題……。挨拶するだけじゃないのね、やっぱり。

 

「ゆりねちゃんって相当つえーらしいじゃん?でも、邪神ちゃんより強いぐらいで悪魔を舐めないでほしいんだよなぁ」

 

「ミノス、邪神ちゃんもそんなに弱いわけじゃない……と……思うんだけど……」

 

「なんでちょっと自信なさげなんですの、メデューサ……」

 

 邪神ちゃんだからでしょ。

 

「つーわけでゆりねちゃん、私と勝負しな!」

 

 そんなことを言っているミノスの後ろで、メデューサがジェスチャーをしてる。

 ……戦わないで、かしら?

 まぁ、言われるまでもないことだけど。

 

「勝負なんてしないわ」

 

「!?」

 

「バイトがあるしレポートも書かなきゃいけないから」

 

 

 

 よかった、ゆりねさんは戦うつもりなんて無かったみたいです。

 これで穏便に済むはず……。

 

「あの、どうしてあの悪魔は魔女に戦いを挑んだのですか?」

 

「え?」

 

 ……魔女?あ、ゆりねさんのことか。

 ぺこらちゃんはゆりねさんのことを魔女だと思ってるんでしたね。

 

「ミノスは自分がゆりねさんより強いって証明したいみたいなの」

 

「自分の強さを、ですか?」

 

「うん。悪魔の邪神ちゃんが人間のゆりねさんに勝てないのが、すごく不甲斐なく見えるみたい」

 

「なるほど、たしかに花園ゆりねは使い魔にお仕置きを繰り返すほどに強い魔女ですからね……」

 

「うん」

 

 ……ゆりねさんは魔女じゃないし、邪神ちゃんも使い魔じゃないんだけど。それはこの際置いておきましょう。

 

 

 ぺこらちゃんと話しながらゆりねさんたちの方を見ると……邪神ちゃんが尻尾でゆりねさんの足を引っ掛けて転ばせていました。

 そして、そのまま邪神ちゃんは倒れたゆりねさんの上に馬乗りになって……!

 

「やめて邪神ちゃーん!」

 

「離せメデューサー!ゆりねをぶっ殺すチャンスなんだぞー!」

 

「だめー!これ以上の外道に落ちないでー!」

 

「ミノス、今だ!トドメをさせー!」

 

 私が邪神ちゃんを抑えていると、ミノスが私たち……というかゆりねさんに近づいてきました。

 

「ミノスもやめて!こんなのだめだよ!」

 

「ミノス!早くゆりねに必殺の一撃をー!」

 

「……やめな、邪神ちゃん」

 

「え……。なぜ……ですの……」

 

「立てよ、ゆりねちゃん。大丈夫か?」

 

「ええ、ありがとう。油断しちゃってたわ」

 

 ミノスはゆりねちゃんに手を差し出しました。

 良かった、ミノスが卑怯な戦いを嫌う性格で……。

 

「邪神ちゃん、おめーよ……プライドとかねーのか?勝負ってのは正々堂々と戦わなきゃ意味ねーだろ!」

 

 まあプライドは……あんまりないよね……。

 全然ないわけじゃない……と思う……けど……。

 

「な……何が正々堂々ですの!勝負なんてのは勝ちゃいいんだよ!」

 

 やっぱりないかも……。

 

「モー……すっかりしらけちゃったじゃんか……ま、勝負はおあずけだな。またくるぜ!」

 

「あ、ミノス!駅まで送るね!」

 

「サンキュー、メデューサ」

 

 

 

 そんな……ゆりねを殺して魔界に帰るチャンスが……。

 ……はっ!

 

「ま、待ちますのメデューサ!」

 

 お前がいなくなったら最後の手段のスケープゴート作戦がー!

 

「邪神ちゃん、あんたが足払いしたせいで服が汚れちゃったじゃない……」

 

「いや……これはその……。これはぺこらの策略に違いないですの!」

 

「は、はい!?」

 

「天使のぺこらが私たちの仲間割れを狙って仕組んだんですのー!」

 

「お、お前!ぺこらに罪をなすりつけるなんて……」

 

「大丈夫よぺこら。これは邪神ちゃんがよくやる悪あがきだから」

 

「え……そうなのですか?」

 

「ええ、大概はメデューサを身代わりにしようとするんだけど……今はあの子がいないからぺこらを身代わりにしようとしてるのね」

 

 ……なぜ毎回バレるんですの……。

 完璧な作戦のはずなのに……。

 

「さて、邪神ちゃん……。分かってるわね?」

 

「えっ……うそ……」

 

 私の身体を持ち上げてのこの技は……脳天杭打ちとも呼ばれる……パイルドライバー……!?

 

「み゛ぎー!」

 

「……帰ろ」

 

「魔女のお仕置き……なんと恐ろしい……」

 

 なんつー危険な技を……死んだらどーすんですの……。

 

「ゆ、ゆりね……。頼む……せめて、部屋まで運んでくれ……」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第15話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 私は今、お買い物を済ませてアパートに帰っているところです。

 今更ながら、紙袋を被っている相手にも普通に接してくれるって凄いですね。最初は驚かれましたけど。

 ……ん?正面から走ってきたのは……邪神ちゃん?

 

「うををををををを!」

 

 猛スピードで走ってきた邪神ちゃんがそのまま走り去っていきました。なにかを持ち上げてたけど……。

 走ってきた方向は……公園ですね。ぺこらちゃんのダンボールハウスもある公園の方です。

 ちょっと行ってみましょう。

 

 

 

 公園に着くと、服の汚れたぺこらちゃんが呆然と立ち尽くしていました。

 あ、ダンボールハウスが吹き飛んじゃってる……。

 一体何があったんでしょうか?

 

「どうしたのぺこらちゃん?服が煤だらけ……。それに、おうちが跡形もなくなっちゃってるけど」

 

「お前ですか。実は、天使に襲撃されまして……」

 

「え、天使に?でもぺこらちゃんも……」

 

「はい、同じ天使なのですが……。ぽぽろんは自分の地位をぺこらに返したくないようなのです」

 

「ぽぽろん……?」

 

「ぺこらの部下の天使見習いの子です。今はぺこらの代わりに天使を務めているようなのですが……」

 

 ぽぽろんちゃん……たしか原作でも天界からぺこらちゃんを襲いに来ていましたね。

 さっき邪神ちゃんが持ち上げてたのって、もしかして……。

 

 

 

 やっと天界に戻れると思ったのに、まさかぽぽろんがぺこらを始末しようとするとは……。

 昔から腹黒いところがあると思っていましたが……。

 

「そうだ、さっき邪神ちゃんがこっちの方から走ってきたんだけど……」

 

「あの悪魔ですか?ぺこらがぽぽろんに襲われている時に、彼女が差し入れを持ってきてくれたのですが……」

 

「差し入れ?」

 

「はい、肉じゃがを。ぽぽろんがそれをはたき落としたのに悪魔が怒りだしたのです」

 

「あぁ、邪神ちゃんは食べ物を粗末にされるとすっごく怒るんだよね」

 

「ええ。それでぽぽろんを殴り飛ばしてテープでぐるぐる巻きにしたあとに……」

 

「どこかへ運んで行っちゃったんだ」

 

「はい」

 

 今回ばかりはあの悪魔に救われましたね……。

 返せるものはありませんが、せめてお礼だけでも言うことにしましょう。

 

 

 

 やっぱり、邪神ちゃんが持ち上げていたのはぽぽろんちゃんだったみたいです。

 どこに運んでいたんだろう?原作ではどうしてたんだったかな……。

 あ、邪神ちゃんが戻ってきたみたい。

 

「はぁ、はぁ……。誰だったんですの、今の?」

 

「あ、あの……先程はぺこらを助けていただいて……」

 

「あれ、メデューサじゃん。オッスメッス」

 

 邪神ちゃん、ナチュラルにぺこらちゃんをスルーしちゃった……。

 

「邪神ちゃん、ぺこらちゃんがなにか……」

 

「ん?なんですの、ぺこら?」

 

「先程はありがとうございました。助けてもらわなかったら今頃ぺこらは……」

 

「助けるとか、別にそんなつもりはなかったですの。肉じゃがの恨みは恐ろしいんですの」

 

 照れ隠しにも聞こえるけど、肉じゃがの恨みっていうのは本当だろうなぁ。

 

「んじゃ、私は帰りますの。じゃあな、二人とも」

 

「は、はい」

 

「またね、邪神ちゃん」

 

 

 さて、と。

 

「じゃあ、ぺこらちゃんも行こっか」

 

「……?どこへですか?」

 

「私の家。服だけじゃなくてぺこらちゃんも汚れちゃってるから……お風呂貸してあげる」

 

 ぺこらちゃんは文字通りボロボロ。たしか原作ではバズーカの爆風に晒されてたような……。

 

「え、そんな……。悪いですよ」

 

「いいから行こ。ね?」

 

 私としても、このまま帰るのは心が痛むし……。

 

「うぅ……はい」

 

 

 

 結局連れられて来てしまった……。

 いつもながら強引です、ぺこらが遠慮するのを完全に読まれてますね……。

 まあいいです、せっかくですからご厚意に甘えさせていただきましょう。

 

「ふぅ。いい湯加減です」

 

「ぺこらちゃーん、着替えここにおいておくねー。洗濯しちゃってるから私のパジャマ使ってー」

 

「分かりましたー、ありがとうございますー」

 

 あいつにはお世話になりっぱなしですね……。

 

 

 

「お風呂ありがとうございました、気持ちよかったです」

 

「よかった。今ご飯ができるから、座って待っててね」

 

 なんというか、至れり尽くせりです。

 いつかお返しができれば良いのですが……。今はできることをさせてもらいましょう。

 

「お皿を運ぶの、手伝いますよ」

 

「わぁ、ありがとう。じゃあこっちのを持っていってくれる?」

 

「はい」

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さまでした」

 

「ちょっと待っててね、お皿洗ってきちゃうから」

 

「あの、お皿を拭くぐらいはさせてください」

 

「いいの?ありがとう!」

 

 準備だけじゃなくてお片付けまで手伝ってくれました。

 こういうのっていいですね、あったかい気持ちになるというか……。

 

「あ、そうだ。今日は泊まっていってよ、お布団は二人分あるから」

 

 こんな事もあろうかと、ってやつです!

 ぺこらちゃん、びっくりしてますね。お皿を拭く手が止まってます。

 

「……どうしてですか?」

 

「ぺこらちゃんのお家、壊れちゃったでしょ?」

 

「いえ、流石にそこまで甘えるわけには……」

 

 やっぱり遠慮されちゃいましたね……。

 

「じゃあ……私、今日は一人で寝るのが淋しいんだ」

 

「は、はぁ……」

 

「だからぺこらちゃんに泊まっていってほしいな。お願い!」

 

 なんだか良心に付け込むみたいで、ちょっと嫌な感じだけど……。

 受け入れてもらえないかな?

 

「……分かりました、ありがたく泊まらせていただきます」

 

「ありがとう!」

 

 よかった、泊まっていってくれるみたいです。

 

「お皿洗ったら私もお風呂に入ってきちゃうね。そしたらお布団敷くから、テレビでも見て待っててね」

 

「はい」

 

 

 

 昨日は、お布団に入ってからぺこらちゃんと色々とお話できました。

 なんだか大変なアルバイトばっかりやってるみたいです……。

 今は、ぺこらちゃんも帰っちゃって特にすることもなかったのでお散歩中。

 いい天気です、まさにお散歩日和ですね。

 

「あ、邪神ちゃん」

 

「おう、メデューサ。買い物か?」

 

「ううん、お散歩中。邪神ちゃんは?」

 

「買い物が終わって帰るところですの。ホントはゲーセンに寄りたかったんだけど……」

 

 邪神ちゃんの手提げ袋の中には冷凍食品。

 これなら、たしかにすぐ帰ったほうが良いですよね。

 

「途中まで一緒に行っても良い?」

 

「別にいいぞー。っていうか、わざわざ聞かなくてもいいですの」

 

「うんっ!」

 

 

 

 さて、邪神ちゃんと話しながら歩いていたのですが……。

 あれ?電柱の陰に人影が……。突然飛び出してきた!?

 

「おらぁあぁぁ!」

 

「ゴファーガメ!」

 

「じゃ、邪神ちゃーん!?」

 

 な、なに!?いきなり邪神ちゃんを殴り飛ばした!?

 

「な、なにをするんですかいきなり!?」

 

「邪魔だよ、肉じゃがの付属物!悪魔らしくダッサい格好しちゃって、なによその紙袋!」

 

 に、肉じゃが?付属物?

 

「肉じゃがを仕留めたら、この光の剣で始末してやるから!そこで震えて待ってなよ!」

 

 光の剣?……金属バットに見えるけど。

 あ……この子、頭の上に光の輪っかが……!

 

「もしかして……あなたがぽぽろんちゃん?」

 

「はぁ?なんで悪魔ごときがぽぽろんちゃんを知って……あ、ぺこら様に聞いたの?」

 

「そ、そうだけど……」

 

「ふぅん……ぺこら様、肉じゃがだけじゃなくてそのオマケとも仲良くしてるんだぁ。じゃあわざわざ始末しなくても失脚間違いなしだったじゃん、わざわざ手を下すまでもなかったのか……」

 

 今度はオマケ扱い……。いっしょにいることが多いのは確かだけど……。

 

 

 

 いきなり私を殴りつけた上に肉じゃが呼ばわりしやがって、なんなんですのこいつは!?

 

「私は邪神ちゃんだ!肉じゃがじゃねーですの!」

 

「昨日は良くもやってくれたじゃん、肉じゃが!」

 

「だから私は肉じゃがじゃねーって……」

 

 ん?昨日?

 そういやこいつ、どっかで……。

 

「あっ、昨日ぺこらと一緒にいた天使!」

 

「そう、お前に簀巻きにされて海に投げ込まれた天使のぽぽろんちゃんだよ!」

 

「海に投げ込んだって……。邪神ちゃん、相変わらず容赦ないね……」

 

 まあ天使相手だし。

 ……というか!

 

「お前ー!昨日はよくも私の尊い肉じゃがを地面にぶちまけてくれたなー!」

 

 ゆりねにめっちゃ叱られたんだぞ!?

 なんで私が叱られなきゃならねーんですの!

 

「知らないよそんなの。天使が悪魔にやられっぱなしじゃ、ぽぽろんちゃんの気が収まらないんだよ!」

 

「はぁ!?」

 

「そもそもお前ら悪魔は目障りなの!生きる価値のない劣等種のくせに!消えちゃってくれる!?」

 

 ……。

 

「消えない」

 

「消えるの!」

 

「絶対に消えない」

 

「あー、もうムカつく!さっさと死んでしまえー!」

 

 ふん、切りかかってきたってだなー!

 

「ウソ!?」

 

「見たか必殺、白刃取り!」

 

 さあ、どう反撃してやろうか……ん?

 あーっ!

 

「ゆ、ゆりねに頼まれていたシロクマ杏仁豆腐が!」

 

 こいつの攻撃のせいでダメになっちまってる!

 やばい……やばいやばい!これ、お仕置きほぼ確定じゃねーか……。

 またもこいつのせいでー!

 

「きさまーっ!肉じゃがに続いて杏仁豆腐までも……」

 

「そんなの知らないって言ってんでしょ!悪魔なんかの事情なんて!」

 

 ぜってー許しませんの!

 

「何が天使だ、この輪っかを付けてるのがそんなに偉いのかよ!」

 

 こんな輪っか、奪い取って……!

 

「喰ってやる」

 

「えっ……あぁっ!?」

 

「ふむ……なかなかの風味ですの。バリバリしてて食いづらい上に喉越しも最悪だが……おぉっ!?」

 

 聖なる光の力と邪なる闇の力の融合によって最強の力が湧いて!……こねーな。

 ま、まぁ頭がおかしくならなかっただけマシか……。

 

 

 それはさておき!

 輪っかさえなければこいつもただの雑魚!

 

「さーて、ここからは劣等種である悪魔のターン……」

 

「邪神ちゃん」

 

 ……メデューサ?

 

「な、なんですの?いきなり押しのけてきて」

 

「これ」

 

 被ってた紙袋?こっちに渡したりしてどうするんですの?

 

「持ってて」

 

「は、はい!」

 

 こ、これは……。

 

「ぽぽろんちゃん」

 

「……なによ?」

 

「食べ物をそんな風に扱っちゃダメでしょ?」

 

 ガチ説教モードですの!

 そういえば、メデューサって食べ物を粗末にされるとすっげー怒るんだった……。

 

「はぁ?悪魔ごときがなにを……」

 

「悪魔とか!」

 

「ひぃっ!?」

 

「悪魔とか天使とか関係ないの!この杏仁豆腐も、この前はたき落としたっていう肉じゃがも!誰かに美味しく食べてもらうために作られたものなの!」

 

「そ、それは……」

 

 ぽぽろんのやつ、言い返せないでやんの。

 しっかし、相変わらず怒ったメデューサはこえーですの。

 言ってることは普通なのに、得も言われぬ迫力がありますの……。

 

「食べ物を粗末にして、あまつさえそんなの扱いするなんて絶対ダメ!分かった!?」

 

「え、あ……その……」

 

 メデューサのやつ、めっちゃぽぽろんを見つめてますの。

 謝るまでやめないやつですの……。

 

「あ、えと……あの……」

 

「なに!?」

 

「ひぅっ!……ご、ごめんなさ……はっ!て、天使のぽぽろんちゃんが悪魔なんかに謝るわけないでしょ!」

 

 なんだとこいつー!この期に及んでー!

 

「覚えてなさいよ!」

 

 逃げやがった……。テンプレ的な捨て台詞でしたの。

 ……あぁっ!また経験値を積むチャンスを逃しましたの!

 

 

「行っちゃったね、ぽぽろんちゃん」

 

「メデューサ……あんま悔しそうじゃねーのな」

 

 あいつにちゃんと謝らせてねーのに。

 

「まあ、謝ろうとはしてくれたし。……今はそれで十分かなって」

 

「ふーん、そんなもんなんですの?」

 

「うん、そんなもんなんですの。ごめんね、邪神ちゃんの邪魔をしちゃって」

 

「別にいいですの」

 

 経験値はちょっと惜しかったけど……あの状態のメデューサにとばっちりで怒られたりしたら嫌だったしな!

 

「それより、怒るのはわかるけどもうちょっと冷静でいたほうが良かったと思いますの」

 

「そうかな?」

 

「私が天使の輪っかを奪い取ったあとだったからよかったけど、そうじゃなかったら有無をいわさず殺されてたかもしれねーんだぞ……」

 

「……あっ」

 

 今気づいたのか……。

 やれやれですの。これだから目が離せないんだよなー、メデューサは。

 こいつには私が必要だな、やっぱり。

 

 

「ま、まぁ攻撃もされなかったし結果オーライってことで!」

 

「そういうことにしておきますの。とりあえず帰るか……あ」

 

 ゆりねに頼まれてたシロクマ杏仁豆腐……。

 

「どうしたの、邪神ちゃん?……あ、ひょっとして杏仁豆腐……?」

 

「ですの。あぁ、ゆりねにどう言い訳すれば……」

 

「とにかく、ちゃんと説明しよう?わたしも一緒にお話するから、ね?」

 

 マジか!

 ゆりねと仲良しのメデューサなら多分説得できるはずですの!

 

「頼むぞメデューサ、お前だけが頼りだ!」

 

 やっぱり私にはお前が必要なんですの!

 

「う、うん!任せておいて!」

 

「さぁ、一緒に帰りますのー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第16話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 この前は会ったばかりのぽぽろんちゃんに向かって怒っちゃいました。

 後になって思ったけど、初対面でやることではなかったかもしれません。間違ったことは言ってないと思うけど……なんにせよ反省です。

 

 

 ぽぽろんちゃん、今はどうしてるんだろう?

 ぺこらちゃんも知らないみたいだけど、天使同士で協力して暮らすのは拒否されちゃったそうです。

 足手まといになるとかなんとか。……なかなかキツいこと言うなぁ、ぽぽろんちゃん。

 原作では、ラーメン屋さんで働いてたけど……。

 

 

 さて、今日はゆりねさんと邪神ちゃんと私の三人でお出かけです。

 といっても買い物に行くタイミングが重なっただけなのですが。

 

「お昼、三人でいっしょに食べて帰りましょうか」

 

「わぁ、いいですね!」

 

 みんなでお食事、嬉しいな!

 

「何食べるんですの?」

 

「私はなんでもいいけど……邪神ちゃんは?」

 

「ん~、私は……」

 

「邪神ちゃんはラーメンが食べたいわよね?」

 

「いや、私はごはんの気分……」

 

「いいえ、ラーメンが食べたいって顔よ」

 

 こ、これは……!原作でよく見たやり取りです……!

 

「いや、ごはん……」

 

「ラーメンが食べたいわよね」

 

「……はい、ラーメンが食べたいです」

 

 ゆりねさん、すごい迫力……。

 

「じゃ、じゃあラーメン屋さんに行きましょうか!」

 

「ええ、そうしましょ。よく行ってたお店があるのよ」

 

 ……あれ?ラーメン屋さんってもしかして……。

 

 

 

 三人揃ってラーメン屋に到着。

 メデューサは食べたいものがあるときは言ってくれるから気楽でいいわね。今日みたいになんでもいいって言った時に、本当になんでもいいんだって分かるから。

 

「さ、入りましょうか」

 

「はい!」

 

「へ~い」

 

 このお店に入るのも久しぶりね。

 邪神ちゃんたちがこっちに来てからは初めてじゃないかしら。

 

「いらっしゃいませ~!……あ」

 

「あれっ?」

 

「あー!お前!」

 

 アルバイトを入れたのね。

 二人の知り合いみたいだし、魔界関係の子なのかしら。

 いえ、このオーラは……ぺこらと同じ?

 邪神ちゃんたちを見て引いてるし、そういうことかしらね。

 

「今日こそしとめて……」

 

「……はじめまして!アイドルを目指してここで働かせてもらってる、天使のえるです!よろしくお願いしま~す!」

 

「……は?あま……つか……?」

 

「……のえるちゃん?」

 

「はい!」

 

 知り合いのそっくりさん……ってわけじゃないみたいね、二人の反応的に。

 偽名で働いてるってところかしら。

 

 

 

 ぽぽろんちゃんがラーメン屋さんで働くっていうこと、原作知識としては知っていたけど……。突然だとびっくりしちゃいますね。

 それにしても見事な営業スマイルです、混じりっけなしの良い子って感じ。

 

「とぼけてんじゃねーですの、ぽぽろんちゃんだろお前ー!」

 

「や、やめてください!何の話ですか!?」

 

 邪神ちゃんがぽぽろんちゃんに掴みかかっちゃった!

 と、止めないと!

 

「邪神ちゃん、抑えてー!」

 

 他の客さんもいるから!

 

「離せメデューサ!私らはこいつに殺されかけたんだぞ!?」

 

「ぽぽろ……じゃない、のえるちゃんには何もされてないでしょ!ね!?」

 

「……え、ほんとにぽぽろんちゃんじゃないんですの……?」

 

 え?……いやその、とりあえず別人として接してあげようって意味だったんだけど……。

 ま、まぁいいか……。

 

「う、うん……。別人だよね?のえるちゃん?」

 

「そ、そうですよー!」

 

 ぽぽろんちゃん、すごいホッとしてる……。

 

 

 

 いくらなんでもあっさり騙されすぎでしょ、邪神ちゃん。

 メデューサもぽぽろんって子も、逆に驚いちゃってるじゃないの。

 

「早く注文しましょ」

 

「はい、じゃあ私は……」

 

「う~む……。別人……?」

 

 邪神ちゃんもいつまでも悩んでないで、とりあえず注文を決めてくれないかしら。

 

 

 

 ここのラーメンは変わらない美味しさだわ。

 大将に話を聞いてみると、ぽぽろんは最近アルバイトに入ったらしい。

 アイドルを目指して住み込みで働いてる天使のえるちゃん、という設定みたいね。

 彼女目当てに来店する客も多いとか。まあ可愛いものね。

 それに、可愛いだけじゃなくて……。

 

「毎日ありがとー!のえるのバイト代からもやし炒めサービスしちゃうね!」

 

 あれは男の人ならコロッと落ちるでしょうね、自分の魅力を理解した上で活かしてる。

 私の周りにも可愛い子は結構いるけど、自分の武器として意識的に使いこなしてる子は珍しいかも。

 

 

 

 もやし炒めぐらいで感激しちゃって、人間の男ってホントチョロいわー。

 客を手玉に取りながら悪魔たちの方を見てみたけど、肉じゃが以外は別にぽぽろんちゃんに手を出そうって気はないのかな?

 ……メデューサってやつ、紙袋被ったままラーメンすすってる……。器用ー……。

 

「のえるちゃん」

 

 は、話しかけてきた!?

 

「はい、なんですか?」

 

 この前みたいに説教でもする気?

 

「私ね、あなたに似てる子と知り合いで……知り合いっていうのはちょっと違うかな……会ったことがあるの」

 

「は、はぁ……」

 

「この前初めて会ったんだけど、初対面なのに頭ごなしに厳しいこと言っちゃって……。失敗したな、今度会ったら謝りたいなって思ってるんだ」

 

「……」

 

 なによこいつ、悪魔のくせに天使であるぽぽろんちゃんに謝りたいなんて。……変なの。

 

「それでね、のえるちゃんを相手に練習したいなって。……ダメかな?」

 

「……い、いいんじゃないですか?その……のえるが相手でいいなら……」

 

「そっか、それじゃあ。……突然怒ったりしてごめんなさい!」

 

「う、うん……」

 

「……ありがとう、聞いてくれて」

 

「えっと……その知り合いの子も気にしてないんじゃないですか?」

 

 食べ物を粗末にしちゃったのはまぁ……良いことじゃなかったわけだし……。

 

「そうかな?……でも怒るんじゃなくて、ちゃんとお話をしてあげればよかったなって思ってるんだ」

 

「そう、ですか……」

 

 

 

 練習って建前だけど、とりあえず謝れてよかった。

 

「さっき他のお客さんとお話してたけど、アイドルを目指してるんでしょ?のえるちゃんはすっごく可愛いから、絶対成功すると思うよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「そーそー!可愛い顔してるんだから頑張りますの、ぽぽろんちゃん!」

 

「はい!……あっ」

 

 あっ、邪神ちゃんのかまかけが成功しちゃった……。

 

「……なにがのえるだ!テメーやっぱり天使のぽぽろんちゃんじゃねーか!」

 

「きゃーっ!」

 

「メデューサは騙せたみてーだが、私はそう簡単には騙されませんの!」

 

 私、騙されちゃったことになってる……。

 

「うをー!」

 

「いやーっ!」

 

 あぁ、また店内でドタバタが……。

 

「お、落ち着いて邪神ちゃん!」

 

「邪神ちゃん、ここは皆がお食事するところよ」

 

 あ、これは……お仕置きされる流れです……。

 

「そ、そうだよ邪神ちゃん。静かに……ね?」

 

「だってこいつは私たちを!」

 

「人を指差しちゃダメって……」

 

「な、なんですの?……えっ、ちょ……ちょっと……」

 

 あ、ゆりねさんが邪神ちゃんの人差し指を掴んで……。

 

「言ったでしょ!」

 

「あぴょ!」

 

 ゆ、指がありえない方向に……。

 痛そう……。

 

「あ、悪魔を従えるだけでなくお仕置きまで……」

 

 ぽぽろんちゃんも驚いちゃってます……。

 

「邪神ちゃん、大丈夫……?」

 

「ダメですの……」

 

「みんな食べ終わったみたいだし、そろそろ帰りましょうか」

 

「は、はい……」

 

 

 

 あー、疲れた……。

 人間どもを手玉に取って、天使の輪が再生するまで気楽にすごそうと思ってたのに。

 面倒な奴らにぽぽろんちゃんのことを知られちゃったなー……。

 

「あなた」

 

「はい?」

 

「邪神ちゃんが言うように、ただの人間じゃないみたいね。私の知り合いと同じものを感じるもの」

 

 ……私のことを天使だって疑いもせずに看破した?

 知り合いって、ぺこら様のこと?

 悪魔も従えてるし、この女はいったい……。

 

 

「えっと、のえるちゃん」

 

「うひゃい!?」

 

 こ、今度は悪魔の方か。

 人間の方に驚かされたせいで変な声が出ちゃったじゃん……。

 

「また来てもいいかな?迷惑をかけないようにするから」

 

「はい、いつでもどうぞ!」

 

 できればあんまり来ないでほしい……。

 

「それと……」

 

 な、なに!?顔が近い!紙袋だけど!……あ、耳打ちか。

 

「一応ぺこらちゃんに伝えておくね?ぽぽろんちゃんは元気にやってるよって」

 

「は、はぁ……」

 

 別に伝えなくてもいいんだけど……まぁいいか。

 

「チキショー、まだ指が痛みますの……。メデューサ、行くぞー」

 

「うん!……またね、のえるちゃん!」

 

 やっと行ってくれた。

 ……って、いつまで手を振ってるのよあいつは!

 

 

 

 ったく、散々な昼飯でしたの。ラーメンは美味かったけど。

 

「おい、メデューサ」

 

「なぁに?」

 

「お前、ホントに気をつけますの。私がいなけりゃあの天使に騙されたままだったんだぞ?」

 

「……う、うん」

 

「邪神ちゃん、アンタが言うの?」

 

 私が注意しなきゃメデューサは今日みたいにすぐ騙されちまうだろ、何言ってるんですのゆりねは。

 

「いいんですゆりねさん、私を心配してくれてのことですから」

 

「ふーん。まぁ、私が口出しすることじゃないわね」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

 そうそう、これはメデューサのことを心配して……。

 ……ん?

 

「い、いや別に心配してるってわけじゃ……」

 

「邪神ちゃんも、心配してくれてありがとう!」

 

「だから違うって言ってんだろー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第17話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日は、ゆりねさんと邪神ちゃんと私の三人でお茶をしてます。

 お茶請けはカステラ。紅茶とよく合って美味しいですね。

 ゆりねさんと私はちゃぶ台でお茶を楽しんでいるのですが……。

 

「なんか面白いモノ飛んできたりしないかなー」

 

 何故か邪神ちゃんは外をぼーっと眺めています……。

 

「邪神ちゃん、寒いから窓閉めたほうがいいんじゃ……」

 

「今日はあそこが定位置みたいよ、暇さえあればずっと外を見てるわ」

 

「は、はぁ……」

 

 

 うーん、外から何かが飛んでくるなんてそうそうないと思うのですが……あれ?

 

「ハロー!」

 

 ……ミノスが飛んできました……。

 

「ヴェポラップ!」

 

「邪神ちゃーん!?」

 

 邪神ちゃんがふっ飛ばされた!?

 ……お、お約束だなんて思ってませんよ?

 

「何その悲鳴、ウケる」

 

 ゆりねさんも慣れたものですね……。

 というかミノス、ターザンロープのように入ってきたけど……どこに吊ってたんだろう……。

 

「ミノス、凄いところから来たね……」

 

「いらっしゃい、ミノス」

 

「よっ、メデューサとゆりねちゃん!……あれ、邪神ちゃんは?」

 

 そ、そうでした!

 邪神ちゃんは!?……うわぁ、お腹にミノスの靴の跡が……。

 

「邪神ちゃん、大丈夫……?」

 

「なわけねーだろ……。ミノス!なんで窓から入ってくるんだよ!普通に玄関から入ってこられないんですの!?」

 

「いいじゃねーか、こまけーこたぁ」

 

 細かい……細かいかな?

 それにしても、こういうやり取りは幼い頃から変わらなくてなんだか安心しますね。

 

 

 

 邪神ちゃんが面白い悲鳴と共にすっ飛ばされた。

 まあ元気にツッコミを入れてるし大丈夫でしょ。

 

「それで、この間の勝負の件で来たのかしら?」

 

「えっ、なんのこと?」

 

「ミノスはバカだから忘れてますの」

 

 メデューサにお腹をさすられながら邪神ちゃんが説明してくれた。

 邪神ちゃんにバカ扱いされるって結構凄いことなんじゃないかしら。

 

「勝負、勝負……。あぁ、この前こっちに来た時の話か!」

 

 ホントに忘れてたのね。

 

「その話はもういいや、大したことでもないしな」

 

「大したことだろ!」

 

 邪神ちゃんのツッコミが、心なしか必死に聞こえる。

 

「そんなに重要なことじゃないと思うよ……」

 

 対してメデューサは疲れを思いだしたような口調。

 この間勝負をしかけられた時も、私に戦わないでって伝えてきてたものね。

 

「いーや重要なことですの!ミノスと戦って疲弊したゆりねを私が……」

 

「私が疲弊したところをどうするの?」

 

「ミノスの分のお茶を入れてきますの~」

 

 露骨に話題をそらしたわね。

 

 

 

 ミノスも交えて四人でのお茶になりました。

 それにしても……。

 

「勝負じゃないなら今日はどうしたの、ミノス?」

 

「そうだそうだ、みんなに報告があってきたんだった」

 

「報告?なんですの?」

 

 あ!もしかして、原作と同じようにミノスも!

 

「あたし、人間界がすげー気に入っちゃってさ。こっちに引っ越そうかと思うんだよね」

 

「わぁ、ミノスもこっちに引っ越すの?じゃあまた三人で一緒にいろいろ……」

 

「なんやてーっ!?」

 

 うわぁっ!?……なんで邪神ちゃんが怒るんだろ?

 

「ど、どうしたの邪神ちゃん?」

 

「私は帰りたくても帰れないのに、なんて贅沢なー!」

 

「怒りの沸点低い……。わわっ、ごめんね邪神ちゃん!」

 

 睨まれちゃいました。邪神ちゃんにとっては重要なことでしたね、反省しなきゃ。

 

「贅沢は敵だー!」

 

 な、何も殴りかからなくても……。

 案の定、ミノスはあっさり受け止めちゃった。

 さすがの腕力です。……邪神ちゃんが弱いわけじゃないです、きっと。

 

 

 

 ミノタウルス族は力が強いってメデューサから聞いたことが有るけど、それにしたってあっさり受け止められすぎじゃないかしら。

 まあ邪神ちゃんだし、しょうがないのかしらね。

 

「どこに住むか決めてあるの?」

 

「ああ、もう決まってるよ。ここの隣の部屋!」

 

 あら?でも隣は……。

 

「私の部屋?」

 

 そう、メデューサが住んでるわよね。

 一緒に住むとか?でもメデューサも引っ越しについて聞かされてないみたいだし、そういうわけじゃないのかしら?

 

「違う違う、反対側の隣。誰も借りてないからそっちに住もうと思って」

 

「反対側には別の人が……。そういえば最近、あの部屋からの騒音が無くなってたわね」

 

 いつの間にかいなくなってたのね、全然知らなかったわ。

 

「いつごろ引っ越してくるんですの?」

 

「二、三日中かな」

 

「ずいぶん急なのね」

 

「ミノスは、思い立ったらすぐ行動の子なんです」

 

「何も考えずに行動してるだけですの」

 

 邪神ちゃんがそれを言っちゃうんだ。

 それにしても、このアパートに悪魔が何人も住むようになるなんてね。

 そのうち天使とかも住むようになったりして。

 

 

 

「それでさ、引っ越しの報告ついでにゆりねちゃんにお土産持ってきたんだ」

 

「そうなの?なんだか悪いわね」

 

「この袋の中に……じゃーん、マンドラゴラのおもちゃ!レアなんだぜーこれ!」

 

 うへぇ、相変わらず変な趣味してますの……。

 ……メデューサが固まってますの。こういうの苦手だもんな、こいつ。

 

「お腹のところを押すと……。ほら、断末魔の悲鳴!」

 

「……ロックだわ……!」

 

 な~にがロックですの。キモいだけだろ。

 ゆりねの感想はさておいて……。

 

「おい、メデューサ痛い!痛いですの!」

 

 怖いからって力いっぱい私の手を握るんじゃねーですの!

 

「ご、ごめんね邪神ちゃん……」

 

 苦手ならそういえばいいのに。

 まぁ、ミノスとゆりねの話だから口出しするべきじゃないって思ってるんだろうなー。

 ……とはいえ。

 

「超キモいですの!とりあえずしまっとけー!」

 

 私は素直だから自分の気持ちをしっかり表明しますの。

 ……別に真っ青になってるメデューサを見てられなくなったからではない!

 

「あ、そっか。悪い悪い、メデューサはこういうの苦手だったよな」

 

「へぇ、そうなのね。特別苦手なものなんてないのかと思ってたわ」

 

 いや、こいつだって苦手なものくらいありますの。

 

「あはは、すみません……。ゆりねさんは気に入ってたのに、しまわせちゃって……」

 

 あれ、文句を言ったのは私なのになんでメデューサが謝ってるんですの?

 ……ま、まぁいいか。

 

 

 

 いやー、反省反省。

 メデューサはこういう時に我慢しちゃうんだったな、忘れてたぜ。

 あたしも、メデューサの代わりに伝えてくれた邪神ちゃんの思いやりに感謝しないと。本人は照れて否定するだろうけど。それに、邪神ちゃん自身は誤魔化せてると思ってるみたいだしな。

 

「それでミノス、今日はこれからどうするの?」

 

 おっ、メデューサ。顔色も復活したか、よかったよかった。

 

「そうだなー、引っ越しの準備があるし……。もうちょっとしたら帰るよ」

 

「そっか。私に手伝えることがあったら言ってね」

 

「サンキュ。あ、忘れてた……二人にもお土産があったんだった」

 

「え、そうなの?」

 

「メデューサには……はい、Tシャツ。この前連れていってもらった所で買ってきたんだ」

 

 胸のところの日本って文字がカッコイイよなーこれ!

 

「あ、ありがとう……」

 

「おう!それで、邪神ちゃんには……」

 

「なんですの?……こ、これは……」

 

「指出しグローブ!タイタン族の力が宿ってるらしいぜ、パンチ力が十倍になるんだって!」

 

「……お、おぉ……」

 

 

 

 これ、この前邪神ちゃんが騙されたって言ってたグローブですね……。

 試しに着用してゆりねさんに殴りかかったけど、全然効果がなかったらしいです。

 

「私だけでなくミノスまで騙されるとは。……いや、もしや私はミノスと同レベルの頭脳なのか?」

 

 邪神ちゃんがすごく失礼なことを呟きながら落ち込んでる……。

 ま、まぁ二人とも純粋ですから……。たまに騙されちゃうのもしょうがないですね!

 

「ミノス、こっちに来る日がはっきりしたら教えてちょうだい。みんなでちょっとした歓迎会くらいやりたいしね」

 

「いいのか?嬉しいなー!」

 

「うわぁ、楽しみですね!」

 

 みんなで歓迎会、すごく楽しそうです!

 

「えー、わざわざ歓迎するほどのことじゃないですのー」

 

 ……邪神ちゃんはいつもどおりですね!

 

 

 

「じゃ、今日はそろそろ帰るよ」

 

「駅まで送るね、ミノス」

 

 メデューサのやつ、この前もミノスを送ってた気がしますの。

 面倒見のいいやつだなーほんと。

 

「サンキュ。じゃあな、ゆりねちゃんと邪神ちゃん!」

 

「ええ。またね、ミノス」

 

「あ、そうだ……。邪神ちゃん」

 

「なんですの、メデューサ?」

 

「さっきはありがとね」

 

 ……なんのことですの?あぁ、マンドラゴラの話か。

 

「別に気にしなくてもいいですの。……ん?いや、別にお前のためじゃ……」

 

「それじゃあまたね、邪神ちゃん。ゆりねさん、お邪魔しました」

 

「またね、メデューサ」

 

「聞けよ!」

 




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第18話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 この前ゆりねさんが貰ったマンドラゴラのおもちゃは、邪神ちゃんがゆりねさんを殺そうとした時に踏み潰して壊してしまったそうです。

 それのお仕置きに出くわしたときは何事かと思いました……。

 石抱なんて拷問を実際に見る時がくるなんて……。原作でもやってたような記憶がありますが、リアルで見たときは凄い衝撃でした。

 

 

 それと、ミノスの引っ越しも終わりましたよ!

 歓迎会はすっごく楽しかったし、邪神ちゃんたちと一緒に準備をするのも楽しかったなぁ。

 引っ越してすぐ、ミノスは牛乳配達のアルバイトを始めたみたいです。時々牛乳をおごってくれます。

 

 

 さて、今はお散歩中に邪神ちゃんとゆりねさんに出会ったので一緒に歩いて帰っているところです。

 

「この前カエルが部屋にいてさー」

 

「邪神ちゃん平気だったの?たしか、カエルがすごく苦手だったんじゃ……」

 

「どうにか部屋から脱出したあとに、ゆりねがやっつけてくれたんですの」

 

「へぇ、よかったね邪神ちゃん!」

 

「あの時ばかりはゆりねに感謝してやりましたの~」

 

 ……ん?

 そういえば、原作でもそんなエピソードがあったような。

 たしかあのエピソードのオチって……カエルの唐揚げ……。

 

「あ、あの……ゆりねさん……」

 

「なに?」

 

「その時の夕食って……」

 

「久々に私が作ったのよ、なかなか美味しくできたわ」

 

「たしか唐揚げを作ってくれたんですの、超美味かったんだぞー」

 

「そ、そうなんだ……。えと……邪神ちゃんを救ってくれてありがとうございました……」

 

「気にしないでいいわよ」

 

 ……知らぬが仏ですね!

 

 

 

「それにしても、今日はいい天気ね」

 

 今日は雲ひとつない空。

 朝、邪神ちゃんがウキウキしながら洗濯物を干してたのも納得だわ。

 

「そうですね。こんなにいい天気だと、なにか良いことがありそうに゛ゃっ!」

 

「メデューサー!?」

 

 ……メデューサの頭に植木鉢が降ってきた!?

 こういうのは邪神ちゃんが被害を受けるのがお約束なのに……!?

 

 

 

「うぅ……」

 

「メデューサ!しっかりしますの!」

 

「揺らしちゃダメよ、邪神ちゃん」

 

「そ、そうだった……」

 

 死んじゃったりはしないだろうけど……。

 メデューサも邪神ちゃんと同じく悪魔だし。悪い魔物って感じじゃないけど。

 

「う、うぅん……」

 

「メデューサ、大丈夫ですの?」

 

「うん、大丈夫……」

 

 メデューサ、起きるには起きたけど……。ちょっとボーっとしてるみたいね。

 

「本当に大丈夫?フラフラしたりとかはない?」

 

「はい、大丈夫です。……ゆりねさん」

 

「なにかしら?」

 

「心配してくれてありがとうございます!」

 

 ……え?

 なんでメデューサが私に抱きついてきてるの?

 

「ちょ、ちょっとメデューサ?どうしたの?」

 

「え?だって、心配してくれたから嬉しくて!」

 

 それがなんで抱きついてくることになるのかしら……。

 ……って、自分から紙袋を!?

 

「メデューサ、紙袋を取ったら他の人間が石化しちまいますの!」

 

「大丈夫だよ邪神ちゃん、他に誰もいないもん!」

 

「ちょ、ちょっとメデューサ……。頬を擦り付けないで……」

 

「えへへ~、ゆりねさ~ん」

 

 ……もしかして、頭を打って性格が変わっちゃったのかしら?

 邪神ちゃん相手なら力技でどうにかするけど、メデューサにはそういうことはしたくないし……。

 どうしたものかしら……。

 

「ゆりね、とりあえず部屋につれて帰りますの。もし人間を石化させちまったら、元に戻った時にメデューサが後悔しちゃいますの」

 

「そ、そうね……。メデューサ、一旦帰りましょう?」

 

「えぇ?大丈夫なのに~……。すりすり~」

 

 執拗に頬を擦り付けてくる……。

 

 

 

「ふぅ、これくらいで明日までの生活用水は大丈夫ですね……」

 

 食事もろくに食べてないし、天使の力を失ったぺこらでは水を備蓄するのも一苦労ですね……。

 おや、あちらから歩いてくるのは……花園ゆりねたちではないですか。

 

「あ、ぺこらですの」

 

「こんにちは、ぺこら」

 

「どうも。……あの、そちらの悪魔はどうしたんですか?」

 

 花園ゆりねにひっつくような悪魔ではなかったような……。

 紙袋も被ってないし。

 

「あ、ぺこらちゃん!」

 

「こんにち……は?」

 

 ……な、なぜぺこらが抱きつかれてるのでしょう?

 

「ぎゅー!」

 

「ど、どうしたのですか?」

 

「ぺこらちゃん、いつも頑張ってるから!」

 

 理由になってないような……。

 

「むぎゅー!」

 

「あ、あわわ……」

 

 ほ、頬同士が……!

 

「私は解放されたけど……。やっぱり早く帰りましょうか」

 

「うん、そうしますの。メデューサ、行くぞー」

 

「もうちょっと~……」

 

「いいから、帰りますの」

 

 も、もう片方の悪魔が引き剥がしてくれた……。

 

「むうぅ~。……じゃあね、ぺこらちゃん」

 

「またね、ぺこら。今日のメデューサはちょっと変になっちゃってるだけだから……気にしないであげて」

 

「は、はぁ……お大事に……」

 

「ほら、いつまでもふくれっ面になってないで……。いい加減紙袋を被りますの」

 

「もぉ、大丈夫なのに~……」

 

 ちょっとというか、これ以上ないくらい変でしたね……。

 あいつが仲間に注意されるところなんて初めてみたような?

 あ、今度は悪魔の方に抱きついた。

 

 

 

 さて、邪神ちゃんたちと部屋に戻ってきたわけだけど。

 

「まさか、芽依さんに抱きつきに行こうとするとはね……」

 

 芽依さんを見つけるやいなや走っていこうとするメデューサを邪神ちゃんが必死に止めてるのは、ちょっとおもしろい光景だったわね。

 笑ってる場合じゃなかったけど。

 

「自分から芽依に近づくなんてありえないだろ……。メデューサ、あいつに迂闊に近づくのは危険ですの!」

 

「え~?紙袋があれば石化させたりしないから大丈夫だよ、邪神ちゃん!」

 

「いや、お前が大丈夫じゃないから言ってるんですの……」

 

 たしかに、メデューサは大丈夫じゃないでしょうね。

 ……今だって私にひっついてきてるわけだし。

 

「まあ家にいれば心配する必要もないか……。とりあえず夕飯作りますの」

 

「今日は三人分お願いね」

 

「分かってますの~」

 

「ごはん作ってくれるの!?ありがとう邪神ちゃん!」

 

「包丁使おうって時に抱きついてくるのはやめろ!危ないだろ!」

 

 これは……料理するのもちょっと大変かもね……。

 

「いいわ、たまには出前取りましょ。創世記でいいわよね?」

 

「あの天使が働いてるラーメン屋か。分かりましたの」

 

「ラーメン!やったー!」

 

 ……今のやり取りのどこに、私に抱きついてくる要素があったのかしら。

 

 

 

「花園ゆりねの部屋は……ここね」

 

 まさか、出前とはいえぽぽろんちゃんの方からあの人間たちの部屋に向かうことになるなんて。

 大将は、お店に来ることは多いけど出前を取るのは珍しいなって言ってたわね。

 何かあったのかしら。

 

「こんばんはー、創世記ですけどー……」

 

「ぽぽろんちゃん!いらっしゃーい!」

 

 ……!?

 

「ちょ、ちょっと!?なに、なんなの!?」

 

 なんで悪魔がぽぽろんちゃんに抱きついてきてるの!?

 

「やっぱりこうなっちゃったか……」

 

「とりあえずラーメンを置きますの、あぶねーぞ」

 

「う、うん……」

 

「え~い!」

 

 って、ほっぺた!ほっぺたくっつけんな!

 

 

 

「ふぅん、頭をぶつけて……」

 

 頭をぶつけて性格が変わるって、なんか漫画みたいな展開……。

 

「そう。まさかメデューサがこんな風になっちゃうなんて」

 

「でもこいつが無警戒なのは割といつものことっぽい気もする……」

 

 お店に来た時もその前に会った時も、ぽぽろんちゃんとの距離が近かったし。

 

「まあそうね。メデューサは天使のぽぽろんやぺこらともフレンドリーだものね」

 

 やっぱりぺこら様とも仲良しなんだ。

 いつも気にかけてくれてるって言ってたもんな、ぺこら様。

 

「まぁいいや。じゃあぽぽろんちゃんはお店に戻るから……ほら、いい加減離して!」

 

「え~……」

 

「こいつも忙しいだろうし、我慢しますの」

 

「はーい」

 

 あ、悪魔の方にひっついた。

 

「それじゃあね~」

 

「ご苦労さま」

 

「またね!ぽぽろんちゃーん!」

 

「耳元で叫ぶなメデューサ!……また今度ですの~」

 

 あー疲れた。

 ……なんかあいつと会うたびに疲れてる気がするな……。

 

 

 

 食事が終わってもメデューサが元に戻る気配はない。

 それどころか……。

 

「お泊りさせてくれるなんて嬉しいです!ゆりねさーん!」

 

「落ち着いて、メデューサ……。走って抱きついてこなくていいから、ね?」

 

 悪化してきてるような……。

 さすがにこれじゃ、一人の部屋には帰せないわよね……。

 

「お風呂沸きましたの~」

 

「ありがとう邪神ちゃん!」

 

「メデューサ、さっきも言ったけど部屋の中で走ってきたら危ないですの……」

 

「そうだゆりねさん、一緒に……」

 

「それはダメよ」

 

「えー……」

 

 駆け寄ってきてもダメなものはダメ。

 

 

 ……あら、チャイム?

 

「はーい」

 

「ミノスだけどー、バイトから帰ってきたらこっちからドタバタ聞こえてきてさ。心配になって見にきたんだけど……なんかあった?」

 

「あ、ミノスー!」

 

 メデューサがミノスに向かって走っていった。

 さらに混乱が広がるのかしら……。

 

「おっとと……。どうしたメデューサ?いきなり抱きついてきたりして」

 

「えへへ~、ミノス~!」

 

「よしよーし……」

 

 ……想像してたのと違う反応。

 抱きつかれても、頬を擦り付けられても全然動じてない。

 

「ゆりねちゃん、メデューサのやつ頭でもぶつけちゃったのか?」

 

「ええ。夕方、外を歩いてる時に頭上から降ってきた植木鉢が直撃して……」

 

「夕方からずっとってこと?そりゃまた……いろんなやつに抱きついて大変だっただろ?」

 

「どうなってたのか分かるの?」

 

「まぁ、前にもあったことだしな。魔界学校の頃にさ、教室のみんなに抱きついていって」

 

「そうだったのね」

 

 ん?だけど……。

 

「邪神ちゃんは、メデューサがこうなっちゃうことを……」

 

「知ってるはずだぜ?別に驚いてはいなかっただろ?」

 

 ……言われてみれば。心配はしてたけど動揺してるって感じじゃなかったわね。

 

「こうなると何をしでかすかわからないからな、さすがの私でも物凄く心配でしたの……」

 

 

「でもずいぶん長いことこの状態だったんだな、いつもはすぐ戻るんだけど」

 

「戻す方法はないの?」

 

 違和感の塊だから早く元に戻って欲しいんだけど……。

 

「ある、っていうかなんていうか……」

 

「どういうこと?」

 

「もっかい頭をぶつけりゃすぐ戻るよ。でもなぁ……」

 

「メデューサの頭を殴りつけるってのはどうにも罪悪感があるんですの……。特に今の状態だと……」

 

 あぁ、そういうこと……。やっぱり、邪神ちゃんたちもメデューサを殴るのは気が引けるってわけね。

 

「ま、今のメデューサは注意力散漫だから。そのうち足でも滑らせて頭ぶつけるだろうし……」

 

「気長に待ちますの」

 

「え~?私そんな簡単に滑ったりしないよ゛っ!?」

 

 ……。

 

「簡単に……」

 

「足を滑らせて……」

 

「頭をぶつけましたの……」

 

 

 

「ん……」

 

 ……あれ、私……どうしてたんだっけ。

 

「おっ、起きたな。よかったよかった」

 

「メデューサ、大丈夫ですの?」

 

「う、うん」

 

「メデューサ、大丈夫?あなたさっきまで……」

 

 さっきまで?さっきまで……。

 あ、あわわ……!

 

「ごめんなさいゆりねさん!私ゆりねさんにたくさんご迷惑を!」

 

「え、えぇ……大丈夫よ……。邪神ちゃん、メデューサはさっきまでのこと……」

 

「覚えてるはずですの」

 

「うわ、顔が真っ赤だなメデューサ……」

 

 だって、だっていろいろやらかしちゃったんだもん!

 

「邪神ちゃんとミノスも、ごめん!」

 

「怪我したとかじゃないんだから大丈夫ですの」

 

「あたしも最後にひっつかれただけだしな、気にすんなよ」

 

「みんな、ホントにごめんなさい!」

 

 ……そうだ、ぺこらちゃんとぽぽろんちゃんにも謝ってこなきゃ!

 

「私、ちょっと出かけてきます!ゆりねさん、お邪魔しました!」

 

 

 

 メデューサはほんとに生真面目だな、これから謝罪行脚か。

 ま、今日はゆりねちゃんが一番大変だっただろうな。あの状態のメデューサを見るのは初めてだったみたいだし。

 あたしも一緒にいる時だったらよかったんだけど。

 

「考えてみれば、メデューサって邪神ちゃんにはいつもああいう感じなのよね」

 

「なんのことですの?」

 

「今日のメデューサのことで、ね」

 

「あぁ、たしかにあの状態だと半端ねー危なっかしさですの……」

 

「いや、そこじゃなくて」

 

「……?じゃあ、どこなんですの?」

 

 なんか二人の会話が噛み合ってねーな。

 ……あぁ、邪神ちゃんがいつも抱きつかれてることについて言いたいのか。

 

「ゆりねちゃん。邪神ちゃんはさ、普段メデューサが抱きついてくるのは自分に対してだけじゃないって思ってるから」

 

「ああ、そういうこと。だから私やみんなが抱きつかれてても全然驚いてなかったのね……」

 

「おーい、ああいう感じってどういう感じですの?」

 

 

 

 なんかゆりねとミノスだけでコソコソ話しだして、私だけ蚊帳の外にされてますの……。

 

「ちょっと!二人とも、なんの話をしてるんですの!?」

 

「んー?邪神ちゃんとメデューサが仲良しだなって話だよ」

 

「そう、二人が如何に仲良しなのかって再確認してたのよ」

 

 はぁ?なんであいつが無用心になると私たちの仲の良さが分かるんですの?

 

「適当なことを言って誤魔化さないでほしいですの!」

 

 ……あれ?

 な、なんですの?そのやれやれとでも言いたげな表情は……。

 

「全然分かってないっていうのが……」

 

「二人の距離の近さの証明だよなぁ……」

 

「だからー!一体何のことなんですの!?」

 




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第19話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 頭をぶつけてしまった後、ぺこらちゃんとぽぽろんちゃんに謝りに行ったのですが……。

 二人とも許してはくれました。でも、ぽぽろんちゃんの目をそらしながらの対応はなんというか……やってしまった感が凄かったです……。

 どうして私、頭をぶつけると時々ああなっちゃうんだろう……!でも、みんなに抱きつくのは幸せだった……いえ、なんでもないです!

 

 

 さ、さて!今は久々の古本屋さん巡りを終えて帰っている途中なのですが!

 正面から邪神ちゃんが歩いてきました。なんだかシリアスな表情……。

 

「邪神ちゃん!」

 

「……ん?メデューサか、散歩中ですの?」

 

「うん、古本屋さんに行ってきたの。邪神ちゃんは?」

 

「これからパチンコですの。小遣いの残りが少ないから、どの台で勝負をかけるか考えてたんですの」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 ……邪神ちゃんにとってはシリアスな悩みなんでしょう、多分。

 

「っと、そろそろ戦場へ赴かないといけませんの。じゃあなメデューサ、頭上に気をつけて帰れよー」

 

「うん、またね邪神ちゃん」

 

 邪神ちゃんは大勝負に向けて表情を引き締め、パチンコに向かいました。

 頭上注意……。何度もみんなに迷惑を掛ける訳にはいきませんからね、邪神ちゃんの言うとおりです。

 

 

 

 邪神ちゃんと別れてしばらく歩いていると、スマホに電話がかかってきました。

 ミノスからですね、珍しい。

 

「はーい。ミノス?」

 

『メデューサ、今電話大丈夫か?』

 

「うん、大丈夫。今は外だけど、もう家に帰るだけだから」

 

 なんの用事でしょうか?

 ミノスの声色からして、こっちもシリアスな展開ではなさそうだけど。

 

『そっか、じゃあちょうどいいや。今ゆりねちゃんの部屋にいるんだけどさ、こっちに寄ってほしいんだ』

 

「わかった、ゆりねさんの部屋に行けばいいんだね?」

 

『おう、待ってるからなー』

 

 

 

「よっし、メデューサなら多分覚えてると思うぜ」

 

 メデューサとの通話を終えたミノスがそう告げる。

 

「悪いわねミノス、部屋に来て貰った上にメデューサまで呼んでもらっちゃって」

 

「気にしなくていいよ、大したことじゃないしな。でも邪神ちゃんの本名か、あたしも教えてもらった記憶はあるんだけどなー」

 

「私が邪神ちゃんに直接聞いた時には俯いちゃったの。あんまり教えたくないのかしら?」

 

「いや、そんなことは無いと思うぜ」

 

 じゃあ人間の私にだけは知られたくないとか?

 邪神ちゃんにもそういう繊細なところが……あるわけないか。

 

 

 

 ……チャイムの音。到着したみたいね。

 

「こんにちはー」

 

「お、きたきた!」

 

「いらっしゃいメデューサ。上がってちょうだい」

 

「はい、お邪魔しますね」

 

 

 

 あたしは覚えてないけど、まあメデューサなら覚えてるだろ。

 なんたって邪神ちゃんのことだからな。

 

「それで、どうしたのミノス?」

 

「あぁ、邪神ちゃんの名前がさ……」

 

「邪神ちゃんの名前?」

 

「ええ。私が邪神ちゃんにフルネームを教えてって言ったんだけど、俯いて答えてくれなかったのよ」

 

「そうなんですか。さっき邪神ちゃんと会いましたけど、多分……名前のことと俯いてたことは関係ないんじゃないかなぁ」

 

「そうなの?」

 

「はい。邪神ちゃん、どの台で勝負するかで悩んでただけみたいですから」

 

 パチンコのことで悩んでただけってことか……。

 すげー呆れてるな、ゆりねちゃん。

 ま、それも邪神ちゃんらしいよな。

 

「あれ、でもミノスに教えてもらえばよかったんじゃ?」

 

「それがさぁ、あたしも忘れちゃって。教えてもらったのは覚えてるんだけど」

 

「メデューサなら絶対忘れてないって、ミノスのお墨付きをもらったのよ」

 

「邪神ちゃんのことならメデューサに聞くのが一番だからな!」

 

「はぁ、なるほど……?分かったような分からないような……。邪神ちゃんのフルネームはですね、邪神……」

 

 

 

 くっふぅ~!完敗……いや、惜敗ですの!

 どうして別の台で勝負をかけなかったんだ私は!

 ん、あれは……?

 

「あ、肉じゃがだ」

 

「ぽぽろんちゃんじゃん、オッスメッス!出前ですの?」

 

「だから、今はのえる……まぁいいや。そうよ、今は届け終わった帰り」

 

「真面目にやってんだなー、褒めて遣わしますの」

 

「悪魔に褒められてもなぁ……」

 

「この私が褒めてやってるんだから、ありがたく頂戴しとけば良いんですの」

 

 仮に私に褒められたのがメデューサなら、それこそ涙を流さんばかりに……さすがにそれほどではないか。

 

 

「それにしても、この前は助かりましたの」

 

「この前って……あぁ、あの悪魔がおかしくなったときの?」

 

「そうそう、包丁使うのが怖いくらいだったんですの」

 

 周りを気にせずはしゃぎ回られるとさすがになぁ……。

 ま、ああいう無邪気なメデューサも嫌いじゃないけどな。

 ……いや、無邪気なのはいつものことか?

 

「ふーん、そんなんだったんだ。でも、あんたは随分冷静だったように見えたけど」

 

「メデューサがあんな感じになるのは初めてじゃなかったんですの。魔界学校の時に一度な~」

 

「へえ、その時もあんな感じだったの?」

 

「うん。他の奴らが話してるところにまで突っ込んでいったりして、超大変だったんですの」

 

「なんていうか、容易に想像できるわ。人懐っこそうな雰囲気がすごかったもん」

 

「人懐っこいのは普段からだけどな、スキンシップが多いのもいつものことだし」

 

「ぽぽろんちゃんが初めて会ったときには、すごい剣幕で怒られたけどね」

 

「それは、初対面でメデューサの数少ない地雷を踏み抜いたお前が凄いんだと思いますの。誇っていいぞ!」

 

「全然嬉しくない……」

 

「あ、そういや私もお前に初対面で地雷踏み抜かれてましたの。ぽぽろんちゃんは地雷処理の達人だな!」

 

「これっぽっちも嬉しくない……」

 

 

 

「……っていう名前なんですよ!」

 

「そ、そうなのね……」

 

「そうだった、名前が長すぎて覚えられなかったんだ……」

 

 やっと終わった……。

 まさか名前を聞くだけで一時間もかかるとは思わなかったわ。

 だけどそれを淀みなく、しかもそらで言えるメデューサも凄いわね……。

 

「でもあたしの言うとおりだったろ?メデューサなら絶対覚えてるって」

 

「そうね。それに全部言い切るのも凄いわ、私だったら絶対途中で面倒になって教えるのをやめてたと思う」

 

「えぇ?そんなに凄いことなんでしょうか……?」

 

 この反応……。この前、私たちが抱きつかれるところを見ていた邪神ちゃんと似てるわね。

 

「なんだかんだ言って、メデューサと邪神ちゃんは似てるのかもね」

 

「えっ、そうですか?えへへ、なんだか照れちゃいます」

 

 ……邪神ちゃんと似ているって言われて照れちゃうのも中々よね。

 

 

「ただいまですのー」

 

 邪神ちゃんが帰ってきた。

 名前も聞き終わったしちょうどいいタイミングだわ。

 

「おかえりなさい、邪神ちゃん!」

 

「おかえりー」

 

「あれ、メデューサとミノス。どうしたんですの?」

 

「私が呼んだのよ」

 

「邪神ちゃんのフルネームを知りたかったんだって」

 

「ふーん。で、教えてもらえたんですの?」

 

「えぇ。メデューサからちゃんと聞いたわ」

 

 曖昧にしか覚えてないけど。

 多分、フルネームで呼ぶことは一生ないでしょうね。

 

 

 

「それにしてもメデューサはすげーな、あの長い名前をスラスラ言えちゃうんだもん」

 

「え、そう?」

 

 メデューサのやつキョトンとしてますの。

 

「あたしは覚えられなかったからなー」

 

「あれだけ長い名前だし、覚えきれなくてもしょうがないわね」

 

「私の名前ってそんなに覚えづらいんですの……?」

 

「私は覚えづらいなんて思わないけど……」

 

「そうだよなメデューサ!?」

 

 覚えづらい名前なんかじゃないよな!?

 

「まあ、メデューサが覚えててくれたんだからいいんじゃない?」

 

「そうそう、覚えてくれる相手がいるってのが大事なんだぜ?」

 

 それはそうかもしれないけど……。

 

「なんか、ごまかされてる感がすごいですのー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第20話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日はみんなでお花見です!

 ゆりねさんとミノスと私の三人でお花見の場所に出発……の前に、公園に寄り道です。

 寄り道の理由はもちろん……。

 

「お花見ですか?」

 

「ええ、ぺこらも一緒にどう?」

 

 そう、ぺこらちゃんを誘うためです。

 たしか原作でもこのお話はあったと思います。ぺこらちゃんが悪魔と一緒に出かけるのを嫌がっていたような記憶。

 なので、にべもなく断られちゃうかな?と勝手に想像していたのですが……。

 

「お花見くらいなら……。いや、しかしこれはサバトと言っても過言ではないのでは?そんなものに天使のぺこらが加わるわけには……」

 

 随分と悩んでます……。

 悩んでいるぺこらちゃんには申し訳ないけど、原作よりも心を許してくれているみたいでちょっと嬉しい!

 あ、サバトっていうのは魔女崇拝の集会のことですね。

 

「別にいいじゃん、友達なんだしさ!食事もあるぜ?」

 

「しょ、食事……。あくまでも参考までにですが、一体どんな……?」

 

「そうね……。焼き鳥とかお寿司とかサンドイッチとか……」

 

「……い、いやいやいや。それでもぺこらは天使……」

 

 すごく心動かされてる……。私が心配することでもないんだろうけど、悪い人に騙されないか心配になります……。

 あ、頷いた。

 

 

 なにはともあれ、ぺこらちゃんも加えてお花見に出発です!

 

「しかしもうお昼前ですよ、場所は大丈夫なのでしょうか?」

 

「大丈夫だと思うよ、邪神ちゃんが場所取りをしてくれてるらしいから」

 

「あの悪魔がですか」

 

「うん」

 

 出かけるときに、ゆりねさんが教えてくれたんです。

 ……そういえば原作だとすごい表情で場所取りしてたような?なんでだったかな……?

 

 

 

 ……。

 

「いい場所ですね。一体いつから場所取りを?」

 

 ……。

 

「じゃ、邪神ちゃん?どうしたの?」

 

「はっ!い、いたのか!」

 

 全然気づきませんでしたの……。

 

「ここで六時間前から、スマホもゲームもなしに一人で場所取りをしてたんですの……」

 

「六時間も!?邪神ちゃん、また何かやらかしたんですか……?」

 

 そう、これは号泣必至の悲劇的展開の結果なんですの……。

 ……というかメデューサ、私がやらかしたことを前提に考えてるのひどくないか?

 

 

 

 みんなも疑問に思ってるみたいだし、心底くだらない理由だけど説明しましょうか。

 

「邪神ちゃん、自分が食べ残したサンドイッチやおにぎりを机の引き出しに隠してたのよ」

 

「あぁ、それですか……」

 

「クリアファイルに挟むやつか?まだやってるのかよ邪神ちゃん……」

 

「なんですかそれ……?」

 

 ぺこらはともかく、メデューサとミノスは納得って感じの表情ね。

 

「なんでお前ら納得してるんだ!?食べ物を大事にしてるだけだぞ!?」

 

「大事にしてるって言っても……」

 

「腐るまで放置してる時点でなぁ?」

 

「そ、そもそもちょっと食べきれないだけで捨てちまうほうがよっぽど悪いですの!私は悪くない!」

 

 食べきれば良いだけでしょ。

 ……あ、メデューサがため息をついた。

 

「……突然のそういうリアクションはやめてほしいですの。怒られるよりよっぽど心に突き刺さりますの……」

 

 怒ってた邪神ちゃんが一瞬でクールダウン。さすが親友ね、扱い方を分かってるわ。

 

 

 

 邪神ちゃんのよく分からないこだわりは未だに健在です……。

 腐る前に食べたほうが絶対にいいはずなんだけど。

 

「あの」

 

 ……というかしまっておくこと自体もよくないですよね。

 サンドイッチをファイルに挟むっていうのも謎だし……。

 

「あのー……」

 

「あ、ごめん。なぁに、ぺこらちゃん?」

 

 いけないいけない、考え事に夢中になっちゃってましたね。

 

「どうしてあの悪魔は主人を困らせる真似をするのですか?」

 

「え?」

 

 しゅ、主人?

 ……あ、そっか。ぺこらちゃん、まだ二人が悪いことを企んでるって勘違いしてるんだった。

 

「えっと、ぺこらちゃん?邪神ちゃんたちはね……」

 

 

 

「そ、そうだったのですか……」

 

 悪魔と花園ゆりねが共に悪事を企てているわけではなかったうえに、そもそも花園ゆりねは魔女ではなかったなんて……。

 ……というか、考えてみれば本人もずっと否定していたじゃないですか。

 なぜぺこらは頑なに決めつけていたのでしょう……!

 

「そんなことより、今はお花見だよね。荷物広げちゃおっか!」

 

 ……ぺこらの重大な勘違いがそんなこと扱い……。

 しかし食事の準備が大事なのもまた事実ですね。早く準備を済ませましょう!

 

 

 

「これでよし!」

 

 準備と言っても荷物を広げるだけですから、あっという間に終わりましたね。

 

「いやー、お腹すいたな!」

 

「それじゃ始めましょうか」

 

「えー、皆様お飲み物をお持ちくださいですのー。乾杯ですのー!」

 

 悪魔による雑な乾杯の音頭で、食事……もといお花見が始まりました。

 

 

 

「この卵焼きうめーな!」

 

「お寿司も美味しいわね」

 

「焼き鳥は味が濃くて……幸せです!」

 

 桜の下でみんなでお食事……。こういうのっていいですよね。

 

「メデューサー」

 

「うん、お寿司だね。はい、あーん」

 

「あーん……うめー!」

 

 お寿司を美味しそうに頬張る邪神ちゃん。……可愛い!

 

「メデューサも。ほれ、サンドイッチですの」

 

「ありがと、邪神ちゃん!」

 

「相変わらずね、二人とも」

 

「なにがですの?」

 

「二人は本当に仲良しだなって思ってたんだよ」

 

「いや、こいつが食べたいものくらい分かりますの。メデューサはすぐ顔に出るし」

 

 私ってそんなにわかりやすいかな?

 ……まぁ気にしてもしょうがないですね!

 

 

 

「花見をしながらの食事……。これぞ日本だな!」

 

「ミノスは本当、観光に来た外国人みたいですの……」

 

「きゃー!大蛇丸ー!」

 

 げっ!この声は芽依じゃねーか!

 

「私がパトロールをしているからお花見に来てくれたのね!」

 

「ちげーよ!たまたま鉢合わせしただけですの!」

 

 相変わらず訳の分からん思考回路ですの……。

 

「あら、紙袋ちゃんも一緒だったのね」

 

「ひえっ……。こ、こんにちは、芽依さん」

 

「うんうん、やっぱり紙袋被ってる方が想像の余地があっていいわね!……ん!?」

 

 芽依の目つきが変わった?何を見つけたんですの?

 目線の先には……ぺこら?

 

 

 

「その不健康そうな顔つきに細すぎる身体!最高だわ!」

 

「な、なんですかいきなり!?」

 

 なんですかこの婦警は……。

 ぺこらが健康的でない自覚はありますが、いくらなんでも失礼すぎやしませんか……?

 

「こんな子が私に会いに来てくれるなんて!」

 

「あの、あなたに会いに来たわけでは……」

 

「魔除けの置物として大事にするからね!」

 

「そんなの嫌ですよ!」

 

「あ、あの。芽依さん……」

 

「なぁに、紙袋ちゃん?」

 

「私たち、みんなでお花見にきただけなんです……。見逃してもらえませんか?」

 

 あ、悪魔の救いが……。

 

「うーん……。まぁパトロールの仕事もあるし、また今度にしましょっか!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「じゃあまたね大蛇丸!今度会ったときに、魔除けの子と一緒に持ち帰ってあげるからね!」

 

「やめろ!いい加減に諦めますの!」

 

 悪魔が怯える姿を見ることになるとは……。

 橘芽依、恐ろしい人間のようですね……。

 

 

 

 去っていく芽依さん。

 いつ会っても嵐のような人です……。

 

「やっと行きましたの……。気分転換になんか違うもの食べたいなー」

 

「肉まんいかがですか~」

 

 あ、肉まん屋さんが歩いてますね。

 

「ちょうどいいですの!肉まんくださいな~!」

 

「はーい!……げっ」

 

 ぽぽろんちゃんだ。創世記のお仕事で来てたのかな。

 

「あ、のえるサンじゃん」

 

「のえるちゃん、こんにちは!」

 

「知り合いなのか?」

 

「うん、アイドルを目指しながら近所のラーメン屋さんでバイトしてる子なんだよ」

 

 

 

「おや、ぽぽろ……むぐぐっ」

 

「ま、待ってぺこらちゃん。実はね……」

 

 ぺこら様が悪魔に耳打ちされてる。ぽぽろんちゃんのことを教えてるのかな?

 

「ご、ごめんねのえるちゃん。ぺこらちゃんに事情を伝え忘れてたの……」

 

 やっぱり今知ったのね。ぺこら様、すごい複雑な表情してるもん。

 人を騙すのはよくない、とか考えてんだろうなー。

 

「相変わらずバカ正直だよね、ぺこら様」

 

「あ、あはは……。でも正直なのは良いことだと思うよ……」

 

 それで生活困窮してちゃ世話ないけどね。

 つーか、悪魔に庇ってもらう天使ってどうなのよ……。

 

 

 あ、そろそろ時間だ。

 

「じゃあね、休憩の時間だから」

 

「あら、休憩?だったら一緒にお花見していく?」

 

「わぁ、いいですね!」

 

「ぺこらちゃんの友達みたいだし、大歓迎だぜ?」

 

「……あんたたちと一緒に食事なんかしたくないし」

 

 悪魔の誘いになんて乗るわけないじゃん。

 

「せっかく誘ってくださっているのですから、そんな言い方は……」

 

「うるさいな!ぺこら様は関係ないでしょ!」

 

「なんだとー!?生意気な奴めー!」

 

「お、抑えて邪神ちゃん!」

 

「……ふんっ。じゃあね」

 

 

 

 行っちゃったか。

 

「ちょっとかわった子だな」

 

 天使っていってもぺこらちゃんみたいな子ばっかじゃないんだな。……当たり前か。

 

「すみません、ぽぽろんはちょっと性格が歪んでいて……。大昔はあんな性格ではなかったのですが」

 

「そーなのか。ま、別にぺこらちゃんが謝ることはないって」

 

 あたしは別に気にしてないしな!

 

「……メデューサ、どうしたのかしらね?食事をタッパーに詰めて……」

 

「あ、ほんとだ。もう持ち帰る準備……じゃないよな?」

 

 そこまで気が早いわけないか。

 

「メデューサ、あんま時間かけずに戻ってこいよ。せっかくのお花見なんだから、ゆっくり楽しまないと損ですの」

 

「うん」

 

 すげーな、邪神ちゃんはメデューサが何をする気なのか分かってるみたいだ。

 お、詰め終わった。

 

「どうしたのですか、突然立ち上がって?」

 

「ちょっとね。……邪神ちゃん、行ってくるね」

 

「おう」

 

「……一体どこへ行くのでしょう?」

 

「ぽぽろんちゃんのところ。食事だけでも渡しに行ったんですの」

 

 ああ、そういうことか。

 

 

 

 えっと、ぽぽろんちゃんはこっちに来てたよね。

 ……あ、いた!

 

「のえるちゃーん!」

 

「……なぁに?」

 

「さっきはごめんね、無理に誘っちゃって」

 

「別に。あんたが気にすることじゃないでしょ」

 

「そ、そうかな?……これ、食べてほしくて持ってきたの」

 

「え……。これ、あんたたちのところにあったやつ?」

 

「うん、一緒の場所じゃなければ大丈夫かなって」

 

 ちょっと押し付けがましかったかな……。

 でも、あのまま別れちゃうのも嫌だったんですよね。

 

「……こんなぎゅうぎゅう詰めにされたのをもらってもな……」

 

「あ……。ご、ごめんね……」

 

 いっぱい食べてほしくて詰め込んだのが裏目に出ちゃったみたい……。

 

「……あー、もう!ほら、行くわよ!」

 

「え?ど、どこに?」

 

「無理矢理詰め込まれたのじゃなくて、ちゃんとしたお皿に載ってるやつを食べに行くの!」

 

「……それって?」

 

 一緒にお花見してくれるのかな?

 

「早く!さっさと来ないと置いてくわよ!」

 

「う、うん!……あ、詰めちゃったのはどうしよう……」

 

「知らない。ぺこら様にでも持ち帰ってもらえばいいでしょ」

 

 

 

「肉まんうめーですの~」

 

「しかし、二人は大丈夫でしょうか。ぽぽろんが失礼なことをしてないといいのですが……」

 

「大丈夫よ、ぺこら」

 

「そうそう、邪神ちゃんも心配してないしさ」

 

 ……なんで私が心配してるかどうかで、大丈夫なのかが分かるんですの?

 たしかに心配してないけど。

 

「だってメデューサだぞ?なんだかんだ言って丸く収めてくれますの」

 

 

「邪神ちゃーん!みんなー!」

 

「お、戻ってきたな!」

 

「ぽぽろんも一緒じゃないですか」

 

「ふふっ、邪神ちゃんの言った通り、丸く収まりそうね」

 

「当たり前ですの」

 

 メデューサだしな。そりゃこうなるはずですの。

 

「さ、のえるちゃんもどうぞ!」

 

「う、うん……。その、お邪魔するわね」

 

「ええ。こっちに座ってちょうだい」

 

 それじゃ、メデューサも戻ってきたことだし!

 

「食べまくりますのー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第21話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 今日のお昼は、キッチンジロウでした!

 そして今は、二人でお店から出てきたところ。

 一緒に食事をしてくれたのは……。

 

「美味しかったね、ぺこらちゃん!」

 

「あの、今回も奢っていただいてしまって……」

 

「気にしないで、私が一緒に食べたかっただけなんだから」

 

 ぺこらちゃんです!

 それにしてもやっぱり美味しいですね、キッチンジロウは。

 メニューは私がハンバーグライス、ぺこらちゃんはロースカツライスにエビフライのトッピング!

 ぺこらちゃんはトッピングなしでいいと言っていたのですが、あのお腹が空いていそうな様子を見てしまうと……。いっぱい食べてほしくて、ちょっと押し付けがましいと思いながらも無理やり勧めてしまいました。

 

「それじゃあまたね、ぺこらちゃん!」

 

「はい、誘っていただいてありがとうございました」

 

 

 

 さて、ぺこらちゃんと別れてアパートに戻ってきたのですが……。

 ……なんで遊佐さんがベートの犬小屋を氷漬けにしているんでしょう?

 別にベートが憎いってわけじゃないよね?第一、ベートは小屋の外にいるし……。

 ベートのために小屋を冷やしてる……とか?真夏で暑いから?

 

「げっ、メデューサ!」

 

 あ、邪神ちゃんもいました。

 

「邪神ちゃん、一体なにが……」

 

「これは別に、夏の風物詩のロケット花火でゆりねを攻撃しようとしたけど練習中の些細なミスで意図せず全部のロケット花火が暴発したわけじゃありませんの!ましてや、その火がベートの犬小屋に燃え移ってどうしようもなくなったから偶然ここに来た遊佐に消してもらったわけじゃねーぞ!」

 

「……そっか」

 

 邪神ちゃんがどうしてこうなったのかを教えてくれました……。

 そういえば、原作でも似たようなお話がありましたね。たしか焚き火で犬小屋に火がついちゃったんだったかな?

 

 

 何が起きたのかは把握したけど、遊佐さんと浩二ちゃん……じゃなくて氷ちゃんはどうしてこのアパートに来たんでしょうか?

 

「あら、メデューサさん」

 

「遊佐さん、それに氷ちゃんも。お久しぶりです、今日はどうされたんですか?」

 

 駆け寄ってきた氷ちゃんの頭を撫でながら、遊佐さんに聞いてみます。

 

「お久しぶりです。実は、ゆりねさんに用事があって……お部屋にいらっしゃいますか?」

 

「いねーよ。死んだよ」

 

「まだお昼すぎですし、大学にいると思いますよ。……夕方には戻ってくると思います」

 

「そうですか。でしたら、待たせていただきますね」

 

「無視すんなや!」

 

「だって邪神ちゃん、ウソつくんだもん……」

 

 ロケット花火でゆりねさんを攻撃しようとしてたってことは生きてるってことだし……。

 ……氷ちゃんが怒ってます。ウソだったとしても、懐いてるゆりねさんが死んじゃったって言われれば怒りたくなるよね。

 私が抱きしめてなかったら邪神ちゃんに掴みかかってましたね、多分。

 

「それじゃあ、私の部屋で待ちますか?」

 

「いいんですか?でしたらありがたく……」

 

「氷ちゃんは私の部屋で待つといいですの!」

 

「と、突然どうしたの邪神ちゃん?」

 

「いやー、今日も暑いからな。冷房が欲しかったんですの」

 

 ……ブレないなぁ、邪神ちゃん。

 

「どうする、氷ちゃん?……分かった、私の部屋で一緒に待とうね」

 

「なんでですの!?」

 

 邪神ちゃんが乱暴に接するからじゃないかな……。

 

「邪神ちゃん、そういうわけだから……。じゃあお二人とも、私の部屋に行きましょうか」

 

「はい、よろしくお願いしますね」

 

「自分の人望の無さが辛いですの……」

 

「あ、邪神ちゃん」

 

「なんですの?」

 

「火の扱いには気をつけないとダメだよ?」

 

「分かってますの!お母さんかオメーは!」

 

 

 

「どうぞ、上がってください」

 

「お邪魔します」

 

 妹と一緒にメデューサさんの部屋に上がります。

 以前お邪魔させていただいたときより、少し物が増えているように感じますね。

 

「お茶、お出ししますね。麦茶は……」

 

「ノンシュガーでお願いします」

 

「あ、はい……」

 

 すみません、でもこればかりは美味しさがよくわからないんです……。

 

 

「最近はお変わりありませんか?人間界に越してきてそれなりに経ちましたが……」

 

「そうですね。友人のミノスもこっちに越してきたりして、楽しく過ごしてますよ」

 

「ミノス、さん……ですか?」

 

「はい、ミノタウルス族の。幼馴染なんです」

 

 人間界にも悪魔が増えてきているんですね。

 

 

「それとですね、天使の子たちとも知り合いになったんですよ!」

 

「天使の方とですか?一体どこで……」

 

「片方の子はぺこらちゃんっていう名前で、ゆりねさんのお部屋で出会ったんです。私たちを駆除しに来たって言って」

 

「駆除って……。よく無事でしたね、メデューサさんもゆりねさんも」

 

「それが、ぺこらちゃんは天使の輪っかをなくしちゃってまして……。それが力の源みたいで、逆にぺこらちゃんのほうが邪神ちゃんにいじめられちゃってて……」

 

 苦笑いしながら説明するメデューサさん。

 というか、天使の輪ってなくせるものなんですね……。

 

「輪っかが再生するまでは人間界で暮らすことにしたみたいなんです。それで一緒にお食事したりするうちに仲良くなって」

 

 もともと友達をつくるのは得意なメデューサさんですけど、自分を排除しようとしてきた相手とまで仲良くできるなんて。

 ちょっと心配な気もするけれど……これもメデューサさんらしさですよね。

 

 

「もう片方の子……ぽぽろんちゃんはぺこらちゃんを探しに人間界に来たんですけど、邪神ちゃんに天使の輪っかを食べられちゃって。ぽぽろんちゃんも人間界で暮らしてるんです」

 

 ……食べられるんですね、天使の輪って。

 

「そ、そうなんですね……。その方とも?」

 

「はい、仲良く……していきたいんですけど。ぺこらちゃんと比べると距離を置かれてる感じはありますね……」

 

「それってやっぱり……」

 

「私が悪魔だからだと思います。あと、初対面で私のほうが怒っちゃって」

 

 メデューサさんが怒ることって、あまりないですよね。

 逆鱗に触れるようなことでもされてしまったということなのでしょうか?

 

「でも怒っちゃったことを謝ったら許してくれて。優しい子ですよね、いつかはちゃんとお友達になりたいって思ってるんです!」

 

「うふふっ」

 

「?」

 

 やっぱりメデューサさんらしいですね。

 

 

 

「ところで、ゆりねさんにはなんのご用で?」

 

 人間界に関することでの用事でしょうか?

 直接聞くってことは、人間の感性が必要なのかな?

 

「はい、ゆりねさんに商売の相談をしたくて……」

 

「商売ですか?」

 

 たしか、遊佐さんたちは氷屋さんを経営してましたよね。

 

「ええ。実は……」

 

 

 

 隣の部屋ではメデューサたちが楽しくお茶してるんだろうな……。

 それに比べて私は部屋で一人きりですの。

 私だけが孤独……。

 

「うぷっ!」

 

 ひ、久々に胃酸が上がってきましたの。

 このままでは不安と孤立感で気が狂っちまう……!

 とりあえずトイレに行かねば……。

 

 

 

 ……よし!

 胃酸も吐いたしガ●ター10も飲んだし、これで万全ですの。

 

「ただいまー」

 

 お、ゆりねが帰ってきましたの。

 

「おかえりですの。遊佐と浩二がゆりねに会いに来てたぞー」

 

「そうなの?なんの用だったのかしら?」

 

「二人ともメデューサの部屋で待ってるから、今電話で呼び出しますの」

 

 時間を見計らってこっちにくるって言ってたけど、特別に私の方から教えてやりますの。

 

「いいわよ、私が行ってくるから。邪神ちゃんは留守番を……」

 

「私も行きますの」

 

「そう?普段は誘っても面倒だからとか言って待ってるのに……どうかしたの?」

 

「一人だとまずいんですの。……ガ●ター10の在庫が切れたからな」

 

「は?」

 

 

 

 意味不明の理由でついてきた邪神ちゃんと一緒に、メデューサの部屋の前までやってきた。

 ただの人間の私になんの用事なのかしら。

 

「こんにちは」

 

「はーい。……あ、ゆりねさん!どうぞ上がってください」

 

「メデューサ、お邪魔するわね。……遊佐さんと氷ちゃん、お久しぶりです」

 

「お久しぶりです。早速ですけど、今日はゆりねさんにお願いがありまして……」

 

「お願い、ですか?」

 

「実は魔界での商売が不景気なので、人間界でアイスを販売しようと考えているんです。それで、人間のゆりねさんに試食をしていただけないかと」

 

 なるほど、それで人間の私に会いに来たのね。

 ……パッケージかわいい。

 

「ええ、私でよければ。ところで、不景気って普段はなにを?」

 

「遊佐さんたちは氷屋さんをやってらっしゃるんですよ」

 

 邪神ちゃんに膝枕をしながらメデューサが教えてくれた。

 

「そうなんです。でもなぜか地元では全然売れなくて」

 

「地元?」

 

「その、氷族の方の地元は氷だらけの寒い地方でして……」

 

 ああ、そういう……。

 

「そんなところじゃ氷なんて売れるわけねーですの……」

 

「……ああ、なるほど!全然気づきませんでした」

 

「お前のねーさんバカなんですの?」

 

 邪神ちゃんにそう聞かれた氷ちゃんも、ちょっとだけ呆れた感じの表情。

 

「あはは……。遊佐さんはちょっと商売が苦手なだけなんですよ?」

 

 メデューサが苦笑い気味にフォローしてきた。

 商品の質は間違いないだろうし……。実際に売るのだけが苦手なのね、多分。

 

「せっかくですので、メデューサさんと邪神ちゃんさんも食べてみてください」

 

「いいんですか?じゃあ遠慮なく……」

 

「いただきますの~」

 

 

 

 さてさて、どんな味ですの?

 ……こ、これは!

 

「凄く美味しいわ」

 

「絶妙な甘さですの」

 

「なめらかな食感もいいですね!これはなんの味なんですか?」

 

「バジリスクの毒液です」

 

 ふむ、バジリ……!?

 

「バジリスクって、そばを歩いただけで生き物が死ぬアレか!?そんなのをアイスにするって何考えてるんですの!?」

 

「大丈夫ですよ、処理はしてありますから」

 

 そりゃそうか。まぁ私もメデューサも死んでないしな。

 ゆりねも……当然死んでないよな。……残念。

 でも処理が必要なものを使ってるなら先に言ってほしかった……。

 畳に噴き出しちまいましたの。これは掃除が大変ですの……。

 

「おい、大丈夫かメデューサ?」

 

 思いっきり咽てる……。

 仕方ない、背中を擦ってやろう。感動で咽び泣くがいいですの。

 

「あ、ありがとう邪神ちゃん……」

 

 

「それにしてもバジリスクの毒液なんてよく取ってこれましたの……」

 

「はい。そのせいで費用がかかってしまったので……」

 

「かかってしまったので?」

 

「このアイスは一個百万円で売ろうと思っているんです!」

 

 ひゃく……まんえん?

 

「売れますかね?」

 

「売れないんじゃないですかね……」

 

「き、厳しいかと……」

 

「売れるわけねーですの!」

 




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第22話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 ゆりねさんのお部屋にお邪魔している私の隣で、邪神ちゃんがしょぼくれています。

 その理由は至って単純。

 

「パパとママは、どうして娘である私の顔を見にこないんですの……」

 

 ……と、いうことです。

 邪神ちゃんからすれば寂しくてもしかたないけど……。

 

「しょうがないよ、邪神ちゃんのお父さんもお母さんも忙しいんだから」

 

「邪神ちゃんと違ってな!」

 

 慰める私に、先にゆりねさんの部屋に遊びに来ていたミノスが続きます。

 バッサリ言っちゃってるけど、否定できないのが悲しいところ……。

 

「私が暇してるだけの悪魔だと言いたいのか……」

 

「その通りでしょ」

 

 ゆりねさんも容赦ないです……!

 

 

 

「メデューサ、邪神ちゃんをなんとかできねーかな?」

 

「うーん、なんとか……かぁ。こうなっちゃった邪神ちゃんは結構強情なんだよね……」

 

 ミノスとメデューサが相談中。

 たしかに、邪神ちゃんはめんどくさい子よね。

 でも一応試してくれるみたいね、メデューサ。

 

「邪神ちゃん、ご両親は忙しいけど私たちがいるじゃない。ねっ?」

 

「お前は私の親じゃね~じゃん……」

 

 言うと思った。

 メデューサもそう言われると思ってたのか、やっぱりと言わんばかりの表情。

 

「さしもの邪神ちゃん係もお手上げだな」

 

「なにそれ?」

 

 邪神ちゃん係?

 

「魔界学校の頃にさ、めんどくさい性格の邪神ちゃんと凄くいい感じにやり取りできてたのがメデューサだったんだよ」

 

「邪神ちゃんの手綱を握る係ってこと?」

 

「別にそういう係があったわけじゃないけどな。なんとなくそう呼ばれてたんだよ」

 

「私を聞き分けの悪いやつみたいに言うな!」

 

 みたい、じゃなくて事実でしょ。

 

「うーん、私としては仲良くしてるだけのつもりだったんですけど……」

 

 メデューサとしてはあんまり嬉しくないみたい。

 係とか言われると仕事みたいだし、それが好きじゃないのかしらね。

 

 

 

「ところで、邪神ちゃんのご両親って何をしてる方なの?忙しいって言ってたけど」

 

「でかい事業をやってる人なんだよ。邪神ちゃんはお嬢様って感じだな」

 

「お、お嬢様!?これが!?」

 

 ゆりねさんがこんなにびっくりしてるのって、初めて見たかもしれません。

 

「これとはなんだこれとはー!」

 

 まぁ、普段の行い的にお嬢様という感じじゃないですからね……。口調はともかく。

 

「詳しく教えなさいよ、邪神ちゃん」

 

「言いたくねーですの」

 

「なんでよ?」

 

「邪神ちゃんは、ゆりねちゃんが自分を見る目が変わっちゃうのが嫌なんだよ」

 

「ち、ちげーし!そんなんじゃねーし!」

 

 焦ってますね。ミノスの言ったことが図星だったみたい。

 他人には、自分は魔界の農林水産省的な所の一番偉い人の娘なんだぞって自慢することもあるのに。ゆりねさんは特別なんでしょうね、やっぱり。

 

「へぇ~。邪神ちゃんも、可愛いところあるじゃない」

 

「違うって言ってんだろ、ゆりね!」

 

 可愛いなぁ、邪神ちゃん。

 

「メデューサも!微笑ましそ~に見るのをやめろ!」

 

 

 

「まぁ邪神ちゃんのツンデレは置いといて。電話でもしてみりゃいいんじゃねーの?」

 

「ツンデレじゃねーよ!……いきなり電話したら仕事の邪魔になっちゃいますの……」

 

 とか言いながらかけてるし。

 たまに会いたくなる気持ちはあたしにもわかるけどな。

 

「かかった!……出た!もしも……し……切られた……」

 

 うわぁ、これはキツいな……。

 

「げ、元気出して邪神ちゃん。きっとほんとに忙しかったんだよ!ね?」

 

「うぅ、メデューサ……」

 

 あまりの不憫さにメデューサが邪神ちゃんを抱きしめて……。

 これはいつものことだな。

 

 

 

 なんとかして邪神ちゃんを元気にしてあげられないかな……。

 ……そうだ!

 

「邪神ちゃん!」

 

「なんですの?」

 

「一緒にお食事に行こう!」

 

 こういうときは、美味しいものを食べて元気を出すのが一番!

 

「……お金がねーですの」

 

「私がおごるから!」

 

「行きますの」

 

 ……反応が早い!

 

「どこの店に行くんだ?」

 

「最近この辺に来るようになったおでんの屋台に行こうかなって。ミノスも行く?」

 

「おう、行く行く!」

 

「じゃあ一緒に行こっか。ゆりねさんは……」

 

「私はいいわ、レポートが終わってないのよ。三人で行ってきて」

 

「あ、そうだったんですね。すみません、忙しいのにお邪魔しちゃって」

 

「いいのよ。邪神ちゃんをなんとかしてくれる方がありがたいし」

 

「そ、そうですか……」

 

 たしかに、ヘコんでる人がいたら集中できませんよね。

 ……心配するにしろ、鬱陶しがるにしろ。

 

 

「あ、そうだ。出かけるなら注意するのよ」

 

「注意……ですか?」

 

 不審者でも出るのかな?

 

「最近、変な人がウロウロしてるらしいわ。全身黒ずくめでガスマスクをしてるとかなんとか……」

 

「なんだそりゃ?」

 

「まあ、三人とも魔族だし心配ないだろうけど……」

 

 ガスマスクというと……ひょっとして。

 

「わかりました、気をつけておきますね。じゃあ行こっか邪神ちゃん、ミノス」

 

「おう!」

 

「うん。じゃあゆりね、行ってきますの」

 

 

 

 このおでんうめ~ですの。

 またこの店におごられに来てやってもいいな!

 それにしても……。

 

「こんな時にあのお方がいてくれれば……」

 

「あのお方……。あぁ、先生だね?」

 

「先生が邪神ちゃんにドロップキックを授けてくれたんだもんな」

 

 魔界学校に通っていた時の先生。いわゆるお師匠様ですの。

 

「お師匠様にドロップキックを強化してもらえればなー。ゆりねなんて一瞬で殺せて、親に文句の一つも言いに行けるのに……」

 

「あたしはそうは思わないけどな」

 

「私も」

 

 ……?

 

「なんでですの?いくらゆりねが強くたって、ドロップキックが強くなれば……」

 

「なんだかんだ言って、ゆりねちゃんとの生活を気に入ってるんだろ?」

 

「邪神ちゃん、ゆりねさんのこと大好きだもんね!」

 

 ……なっ!?

 

「何言ってんですの!んなわけねーだろ!」

 

「この前だってゆりねさんのために必死になってたじゃない」

 

「この前って……ゆりねちゃんがインフルエンザになったときの?」

 

「い、いや……あれは……!」

 

 やめろ!私の恥部を晒そうとするんじゃねー!

 

「私の部屋に駆け込んできたとき、ゆりねさんが死んじゃうかもしれないって泣きそうになってたんだよ」

 

「あたしが合流したときも焦りまくってる感じだったけど、そんなにだったんだな。……へぇ~」

 

「たのむ、やめてくれー!」

 

 にやにやした顔でこっち見んな!

 というか、私を慰めるために食事に来たはずなのに、なんでからかわれてるんですの!?

 

「も、もういいだろ!私は充分元気になりましたの!」

 

 

 

 さて、焦る邪神ちゃんに引きずられるように帰路についたのですが。

 ……前の方から、ガスマスクをつけた黒ずくめの人影が私たちに近づいてきます。

 きっとあれが……!

 

「なんだあの人……」

 

「ゆりねさんが言ってた人かな?」

 

「変質者ですの……」

 

「こんばんは、邪神ちゃんとミノスちゃん、メデューサちゃんだよね?」

 

 ガスマスクの子が話しかけてきました。

 原作知識で誰だか分かっていても、威圧感がすごいですね。

 

「ち、違いますの……」

 

 邪神ちゃんがごまかそうとしてます。

 

「なんで嘘つくんだよ邪神ちゃん?」

 

「バッカおめー!不審者に名前教えるとかありえねーだろ!」

 

「うん、私たちがその三人で合ってるよ」

 

「メデューサ!?」

 

「私たちのことを知ってるみたいだし、隠してもしょうがないよ」

 

「……相変わらず危機感がねーやつですの」

 

「わたしペルセポネ二世。お母様のお使いで魔界からやってきたの」

 

「ペルセポネっつーことは……」

 

「あたしたちの先生の……」

 

「お嬢さんってこと?」

 

 二世ちゃんが頷きます。

 

「そのマスクはなんなんですの?」

 

「人間界の空気が汚れてるから、ってお母様が言ってたから」

 

「いや、私たちが影響受けてないんだから大丈夫だろ……」

 

「そっか。じゃあ……」

 

 邪神ちゃんに言われて、二世ちゃんはガスマスクを外しました。

 ……わぁ、すごく整った顔。

 

「ホントだ、なんともな……ゴフッ!」

 

 な、なんともなくないみたい!

 

「うわわ、やっぱりガスマスクつけておいたほうが!」

 

「大丈夫……。これはただわたしが虚弱体質なだけだから、心配しないで……」

 

「いや、そこまで虚弱なら心配もするだろ……」

 

 ミノスの言う通りです。

 ほんとに大丈夫なのかな?

 

「おもしれー、こいつちょっと押しただけで吐血してますの!」

 

「邪神ちゃん、ダメだよ酷いことしちゃ!」

 

 二世ちゃん、咳き込んじゃってる……。

 

「ごめんね、邪神ちゃんが……」

 

「き、気にしないで。二人とも優しいんだね、お母様が言ってたとおりだ」

 

「二人って、メデューサとミノスのことか……。私は優しくないとでも言いたいのか……」

 

 ……私は邪神ちゃんのことを優しいと思ってるけど、今の所業はどう考えても優しくないです……。

 まあそれは置いておいて。

 

「先生が私たちのことを話してたの?」

 

「うん、困ったちゃんの邪神ちゃんと仲良しでいてくれてるって」

 

「困ったちゃんとはなんですの!」

 

「いや、困ったちゃんだろ。邪神ちゃんはさ」

 

「特にメデューサちゃんは邪神ちゃん係なんて呼ばれてるんだって言ってたよ」

 

「え……そんなことも言ってたの?」

 

「うん。暴走しがちな邪神ちゃんとすっごく上手に付き合ってるって」

 

 な、なんだか恥ずかしいです……。

 

「……あ、ごめんなさい。係って言われるのは好きじゃなさそうってお母様が言ってたのを忘れてた……」

 

「たしかにあんまり好きじゃないけど……。嫌いっていうほどでもないから、あんまり気にしないで」

 

 

「ところで、師匠のお使いってなんですの?」

 

「邪神ちゃんに完成版ドロップキックを教えてあげなさいって」

 

「完成版?邪神ちゃんが使ってるドロップキックは未完成ってことか?」

 

「うん。邪神ちゃんが繰り出してるのはただの飛び蹴りでしょ?」

 

 ドロップキックという言葉の意味合いとしては、ただの飛び蹴りでも間違ってないけど。

 先生が邪神ちゃんに伝えたいのは、違う動作からのドロップキックなんでしょうね。

 

「完成版ドロップキックってのはどういう技なんですの?」

 

「それは……」

 

 二世ちゃんが高く跳びました。

 

「こういう……」

 

 前宙をして、その勢いを落下の勢いに加えて……。

 

「技だよ!」

 

 飛び蹴りを繰り出しました!

 ……邪神ちゃんに向かって。

 

「ゴーフル!」

 

「じゃ、邪神ちゃーん!」

 

 邪神ちゃんが悲鳴を上げて吹っ飛んでいってしまいました……。

 

「すげー。邪神ちゃんのしょぼいドロップキックとは雲泥の差だな」

 

「たしかにすごい威力だね。……どうしたの、二世ちゃん?」

 

 着地した二世ちゃんがしゃがみ込んじゃってます。

 たしかこれって……。

 

「脚が折れちゃった……」

 

「だ、大丈夫!?……じゃないよね……」

 

「虚弱体質ってレベルじゃねーぞ!」

 

「しばらくすればくっつくから大丈夫……」

 

 

「メデューサ、これ邪神ちゃんが習得したらヤバいんじゃ……」

 

「うん、ひょっとしたらゆりねさんが殺されちゃうかも……」

 

 原作で殺されてなかったわけだし、多分大丈夫だろうけど……。

 やっぱり心配です。

 

「くそー、これほどのダメージをくらうとは……」

 

 あ、邪神ちゃんが戻ってきました。

 

 

 

 これが完成版ドロップキック……。凄まじい威力ですの。

 

「邪神ちゃん、大丈夫?」

 

「おう、だいぶ遠くまですっ飛ばされたけど……。しかしこの威力のドロップキックであればゆりねも……!」

 

 これはつまり、ついに魔界に帰れるときが来たというわけですの!

 

「すげーな二世ちゃん、さっすが師匠の娘ですの!それじゃ、早速その技を教えてチョーヨンピル!」

 

「う、うん……」

 

「邪神ちゃん、お前……。さっきまで二世ちゃんの虚弱体質をバカにしといて……」

 

「やっぱり変わり身早い……」

 

 ミノスとメデューサが私の世渡りの上手さに感動してますの。

 ところで!

 

「完成版ドロップキックはどれぐらいで覚えられるんですの?一週間?一ヶ月?」

 

「ほんの八十年もあれば習得できるよ!」

 

 ……は?

 

「は、八から十年……ですの?」

 

 多分そう聞き間違えたに違いないですの!……それでもクソなげーけど!

 

「八十年だよ」

 

「えっと、たしか日本人女性の平均寿命がだいたい八十七歳だから……」

 

 ……詳しいなメデューサ。

 

「今のゆりねちゃんの年齢を考えると……」

 

「ゆりねの寿命を待ったほうが早いじゃねーか!」

 

 

 あぁ、ようやく見えた希望の光が消えていきますの……。

 

「でもよかった、ゆりねさんに向かって完成版ドロップキックが繰り出されることはなさそうだね」

 

「ああ。よかったな邪神ちゃん!」

 

 メデューサもミノスも、好き勝手言いやがって……!

 

「なんにもよくねーですのー!」

 




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第23話

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 こんにちは、メデューサです。

 

 

「サンキューなメデューサ。わざわざ手伝いに来てくれて」

 

「ううん、気にしないで!」

 

 今日は、ミノスの部屋のお片付けを手伝いに来ています。

 二世ちゃんが虚弱体質を治すために、人間界のミノスのお部屋で暮らすことになったんです。

 別に今日来るというわけではないそうだけど、ある程度片付けておいたほうが楽ですからね。

 

「そういえば、どうして私の部屋じゃないのかな?私もミノスと同じで、一人暮らしだけど……」

 

 ミノスの方が積極的に身体を鍛えているからでしょうか?

 

「あたしも気になって二世に聞いてみたよ。先生から、メデューサだと二世を甘やかしちゃいそうだって言われたんだとさ」

 

「な、なるほど……」

 

 ……否定できないです。

 猫可愛がりしちゃうかも……。

 いえ、しちゃいますね間違いなく!

 

「あと、あたしの方が運動してそうだからだって。一緒に行動させて、より健康的になってほしいみたいだな」

 

「あぁ、それならたしかにミノスが適任だね」

 

 やっぱりそういうのも関係してるみたい。

 私もお散歩したりはするけど、積極的に運動するという感じではないですからね。

 

 

 

「それで、二世ちゃんはいつこっちに来るの?」

 

「明後日だってさ」

 

「え、明後日?ずいぶん急だね……」

 

 メデューサも驚いてるな。そりゃそうか、あたしも結構びっくりしたし。

 

「身体のことでもあるし、早いほうがいいって考えたのかもな」

 

「そうかもね。……よし、これでだいたい大丈夫かな!」

 

「おう。あとは、この後よっぽど散らかさなければ大丈夫だな」

 

 そんなに物が多い部屋ってわけでもないけど、やっぱり手伝ってもらうと効率が違うな。

 あたし自身、話しながらのほうが黙々と作業するよりも性に合ってるし。

 

「メデューサ、今日はありがとな!」

 

「うん!それじゃ私は戻るから、また手が必要なときはいつでも呼んでね!」

 

 

 

 さて、ミノスの部屋を片付けてから二日が経ちました。

 予定では今日が、二世ちゃんがこっちに引っ越す日。

 ミノスは二世ちゃんを迎えに出発するまで暇だからということで、私の部屋で一緒に過ごしています。

 

「そろそろこっちに着く頃かな。……私も一緒に迎えに行こうか?」

 

「いや、大丈夫。車もあるし」

 

「車……」

 

 愛用のリヤカーで迎えに行くみたいです。

 二世ちゃんを乗せるのかな?……あ、荷物とかがあるからそれ用かな?

 まぁそれは置いといて。

 

「分かった、じゃあ二世ちゃんによろしくね。……といってもすぐ顔合わせするだろうけど」

 

「ああ。じゃあ、行ってくるぜ」

 

 

 

「い、いけない!お店に戻らなきゃ!じゃあねー!」

 

「う、うん。あ、ラーメン代とクリーニング代を……行っちゃった」

 

 握手に応じようと思わず差し出した手を引っ込めて、悪魔の元から急いで走り去った。……別に逃げたかったわけじゃないけど。

 

「ペルセポネ二世か……。変な悪魔だったなぁ」

 

 魔族のくせに、天使のぽぽろんちゃんと友だちになりたいなんて。

 あんな変なやつぽぽろんちゃんの周りには……いたなぁ、あいつが。

 それにしても、無意識とはいえ悪魔と握手しそうになるなんて。

 

「ま、どうせ始末するために仲良くしてみせるだけだしね。握手なんてする必要ないもーん」

 

 そう、悪魔相手の握手が嫌だから拒んだだけ。……別に騙してる罪悪感なんてないし。

 

「……あれ?」

 

 前の方から……。

 

「きゃああ!ぽぽろ……じゃなかった、のえるちゃん!?」

 

 魔族のくせに天使と仲良くしようとして、いつもぽぽろんちゃんに構ってくる変なやつ。そいつが血相を変えて駆け寄ってきた。

 ……紙袋をかぶってるから表情は見えないけど。

 

 

 

 ミノスが出発した後、やることがなくなった私は散歩にでかけていました。

 その最中にぽぽろんちゃんを見つけ、急いで駆け寄りました。

 なぜなら……。

 

「のえるちゃん、大丈夫!?どこを怪我したの!?」

 

 そう、ぽぽろんちゃんの服が血まみれになっていたからです……!

 

「あの、これは……」

 

「とにかく手当てを……。私の部屋が近いから、とりあえずおぶさって!」

 

「いや、自分で歩けるし……」

 

「いいから!行こう!」

 

 無理して大丈夫だって言ってるみたいだけど、急いで部屋に戻らなきゃ!

 

 

 

 そんなわけで、ぽぽろんちゃんを背負って部屋まで走ってきたのですが……。

 

「……えっと。その……早とちりしちゃってごめんなさい!」

 

「ほんとよ、まったく……」

 

 全部私の勘違いだったみたい……。

 服に染み付いていたのはぽぽろんちゃんの血じゃなかったし、当然怪我もしてませんでした。

 すれ違いざまに二世ちゃんが吐いた血が、エプロンにかかっちゃったんだそうです。

 そして出前箱を持ってるということは、出前の途中だったということで……。

 

「お仕事の邪魔をしちゃったよね……。本当にごめんね……」

 

 というか、どんな怪我なのかを聞かずに背負うのもダメでしたよね。実際は怪我をしていなかったからよかったとはいえ……。

 反省点ばかりで、もう謝ることしかできません……!

 

「はぁ……いいわよ、もう。ラーメン届けたら今日はおしまいでいいって言われてたからさ」

 

 そう言われて顔をあげると、すっごく微妙そうな表情のぽぽろんちゃん。

 

「ていうか、そこまでヘコまれると怒る気も失せちゃうじゃん……」

 

「ごめん……じゃなかった、許してくれてありがとう」

 

「ふんっ……」

 

 ……そういえばこれ、原作でもあったことですよね。

 ぽぽろんちゃんと二世ちゃんが初めて出会うお話だったはずです。

 まあ、それはさておいて。

 

「今日はおしまいってことは、急いでるわけじゃないんだ」

 

「そうよ、お金とかはお店に戻ったときでいいし。住み込みの強みよね」

 

「そっか。じゃあ、お詫びになにか……そうだ!エプロンの洗濯だけでもさせて?」

 

「はぁ?なんでそんなことされなきゃいけないの?」

 

「血だらけの服着てるをほっとくのは嫌だから!」

 

「別に大丈夫だって……まぁいいや。じゃあお願いね」

 

「洗わせてくれるの?」

 

 受け入れてくれるなんて、ちょっと意外です。

 自分で言い出しておいてアレだけど。

 

「どうせ洗わせてもらえるまで食い下がるんでしょ?」

 

「うん」

 

「……」

 

 

 

 目の前に座ってるこいつにぽぽろんちゃんのエプロンを洗濯してもらって、ついでにお茶を出してもらったわけだけど……。

 

「ねぇ」

 

「なぁに?」

 

「何がそんなに嬉しいわけ?」

 

 別に見返りがあるわけでもないのに。

 

「え、そんなに嬉しそうに見える?」

 

「見える」

 

 なんていうか、ハッピーです!って雰囲気がすごく出てる。

 

「うーん、誰かと一緒にいられるのが嬉しい……のかな」

 

「その誰かが天使でも?」

 

「それは関係ないかな、私にとっては」

 

 ……やっぱ変なやつ。

 

 

「ごちそうさま。それじゃ、ぽぽろんちゃんは帰るから」

 

「あ、うん。洗濯物は私が届けに行っても大丈夫?」

 

「それでいいよ。……じゃ、またね」

 

「……うん!」

 

 またね、か。

 ……悪魔相手に何やってんだろ。

 まぁいいや、さっさと帰ろっと。

 

 

 

 さて、二世ちゃんが引っ越して来てから数日が経ちました。

 今日はミノスと二人でゆりねさんのお部屋にお邪魔しています。

 二世ちゃんはゆりねさんとお出かけ中。

 スマホをいじるミノスの横で、私は邪神ちゃんの耳かきをしながら二人の帰りを待っています。

 

「邪神ちゃん、ふ~ってするよ?」

 

「わかりましたの~」

 

 耳に息を吹きかけると、邪神ちゃんが少しくすぐったそうに身じろぎます。

 こういうゆったりした雰囲気、好きだなぁ。

 

 

 ……あ、二人が帰ってきたみたいですね。

 

「ただいまー。二世ちゃんの服買って来たわよ」

 

「おかえりー」

 

「おかえりなさい」

 

「二世はどうしたんですの?」

 

 邪神ちゃんのいうとおり、二世ちゃんの姿が見えません。

 

「は、恥ずかしい……」

 

「大丈夫よ、かわいいから」

 

 ふすまの後ろに隠れていたみたい。ゆりねさんに促されて出てきました。

 

「わぁ、かわいい!」

 

「おー、いいじゃん!」

 

「豆板醤!」

 

 ……邪神ちゃんのギャグはさておいて。

 二世ちゃん、原作でもおなじみの服装になってました。

 やっぱり可愛いなぁ、二世ちゃん。

 

 

 

 ミノスに頼まれて二世ちゃんの服を買いに行ったけど、気に入ってくれてよかったわ。

 素材がいいと選びがいがあるわね。

 

「けっ!服なんて着ちゃってさ!」

 

 邪神ちゃんがまた変なことを言いだした。

 

「服は弱いやつが着るモノ!私のように強いヤツは着ないんですの!」

 

 ……その理屈だと、邪神ちゃんは相当厚着したほうがいいでしょうね。

 

「うん、その通りだね邪神ちゃん」

 

「まったく感情のこもってない同意はやめてくれメデューサ……。キッパリ否定されるよりキツいですの……」

 

 なんだかんだいって邪神ちゃんには遠慮がないわよね、メデューサも。

 

 

 

「パジャマとか下着も私が選んじゃったけど」

 

「あたし、センス無いから助かるよ」

 

 他のやつは私の金言に反応すらしてくれませんの……。

 

「邪神ちゃん、あんたにはこれ」

 

 こ、これは!

 

「私が欲していたケ~プ!」

 

 早速装備しますの!

 

「あんたさっき、強いヤツは着ないって……」

 

「ケ~プはいいんですの!」

 

 強い者を強くする装備……。それがケ~プなんですの!

 

「邪神ちゃんかわいい~!」

 

「かわいいのではない、強いのだ!」

 

 

 

「ところで、二世ちゃんの呼び方なんだけど。もっとかわいい感じの呼び方にしてあげたほうがいいと思ううの」

 

 ゆりねさんがそう提案しました。

 二世ちゃんだとたしかに味気ないというか、女の子っぽくないですよね。

 

「じゃあ私が決めますの!」

 

「え~、邪神ちゃんが?変な呼び方にしそうだな……」

 

 ミノス、凄く嫌そうです。

 そこまで嫌がらなくても。……でも、おかしな呼び方を提案しそうなのもたしかですね。

 

「セカンドはどうですの?」

 

「セカンド?」

 

「メンズセカンドバッグ!」

 

 聞き返した二世ちゃんに解説をしている邪神ちゃん。

 でも、私には全然意味が分からないです。ミノスと二世ちゃんも分かってない様子。

 分かっているのは……。

 

「プッ……。あんたのギャグ難しいのよ、面白いけど」

 

 ゆりねさんだけみたい。

 邪神ちゃんとゆりねさんって、こういうところで妙に波長が合うみたいなんですよね。

 ……あれ?原作で二世ちゃんのあだ名を提案したのって、たしか……。

 

 

 

 これはセカンドで決定間違いなしですの!

 自分のセンスが恐ろしい……。

 

「かわいいあだ名がいいよね……。そうだ、ペルちゃん!ペルセポネのペルちゃんはどうかな!?」

 

 メデューサよ、それは……。

 

「いくらなんでも安直がすぎますの!」

 

「こういうのは、凝りすぎるよりも分かりやすくてかわいいほうがいいの!」

 

 な、なんか妙に食い下がってきますの。

 まぁ悪くはないが、セカンドを超えるほどでは……。

 

「ペルちゃん……いいかも。かわいい!」

 

 本人による鶴の一声で私のセンスが存分に発揮されたあだ名が蹴落とされましたの……。

 

「よかったな、ペルちゃん!」

 

 ミノスもあっさり受け入れてますの……。

 

 

「ミノス、ペルちゃんが来てから楽しそうだね」

 

「あたし、男の兄弟しかいないからさ。妹ができたみたいで嬉しいんだ」

 

 ふーん、そういうもんなのか。

 

「わたしもひとりっこだから、お姉さんが四人もできて嬉しいな!」

 

 ……ん?

 ここにいるのは、メデューサとミノスとゆりねと……。

 

「四人って、私も入ってるんですの?」

 

「うん。邪神ちゃんお姉さん!」

 

 ……!

 

「お、お姉さんじゃねーし!お前のお姉さんじゃねーし!」

 

「……嫌だった?」

 

「あ、いや。その……」

 

 嫌というわけでは……。

 

「嬉しくて照れちゃってるだけだから大丈夫だよ、ペルちゃん」

 

「おいメデューサ!」

 

「素直じゃねーなぁ」

 

「本当ね」

 

 ミノス!ゆりねまで!

 

「お前ら、好機と見るや私を弄り始めるのをやめろ!」

 

 

 

 邪神ちゃんにもかわいいところがあるんだ。

 そんなことを考えていたら、メデューサちゃんが紙袋を被った。たしか人間対策だったよね。

 

「ったく!……メデューサ、出かけるぞ!」

 

「は〜い。ゆりねさん、ちょっとお買い物してきますね」

 

「いってらっしゃい」

 

 ……行っちゃった。

 

「ずいぶん急いでたけど、何を買いに行ったのかな?」

 

「ペルちゃんの引っ越しに関するいろいろが落ち着いたし、夕食会でも開くんじゃねーかな」

 

「結構バタバタしてて、歓迎会もできてなかったものね」

 

「そうそう、メデューサはみんなで集まって食事したりするのが好きだからな」

 

「邪神ちゃんが急いでたのは、照れ隠しをしたかったんでしょうね」

 

 なるほど。それでメデューサちゃんに声をかけて、一緒に買い物に行ったんだね。

 ……あれ?

 

「でもメデューサちゃん、邪神ちゃんに声をかけられる前に紙袋を被ってたよ?」

 

「二人に聞いてみたことがあるけど、お互いになんとな〜く雰囲気で分かるんだってさ」

 

「阿吽の呼吸ってやつね」

 

「へぇ~」

 

 すごいなぁ……。

 

 

 

「メデューサ、あいつは……」

 

「ペルちゃんは特に好き嫌いはないと思うよ。一緒に食事に行ったときも、特にそういう素振りはなかったし」

 

「わかりましたの」

 

 そういや人間界の案内で一緒にでかけてたな、こいつら。

 

「お肉とお野菜と……。うん、これで大丈夫のはずだよ」

 

「よっし、じゃあ帰るぞー」

 

「うん!邪神ちゃんのお料理楽しみだなー」

 

 ふっ。覚悟しろよメデューサ、そして家で待っているミノスたちよ……。

 

「今宵の食卓は、私の料理で完全に支配してやりますの!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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第24話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 

 

 砂浜です!海です!海水浴です!

 潮風が気持ちいい!天気もよくて最高です!

 

「ゆりねちゃん、運いいよな~」

 

「うん!商店街の福引で一日プライベートビーチ券を当てるなんて!」

 

 ここにきた理由はミノスとペルちゃんが話している通り。

 

「ゆりねさん、私たちまで誘ってくれてありがとうございます!」

 

「いいのよ、こういうのは大人数のほうが楽しいもの」

 

 ゆりねさんのご厚意で、私たち悪魔も海に来られたというわけです。

 

「私にも感謝しろよメデューサ~。なんたって、私が呼びつけなければお前は人間界に来れてなかったんですの!」

 

「う、うん!ありがとう、邪神ちゃん!」

 

「なに言ってんのよ、それを言い出したら全部私があんたを召喚したおかげになっちゃうじゃないの」

 

「あはは……」

 

 あ、それからもう一人。

 

「そういえば、今日は紙袋を被っていないのですね」

 

 ぺこらちゃんも一緒です!

 誘っておいてくれたゆりねさんによると、最初は渋っていたらしいです。

 でも、バーベキューをすると教えたら悩みつつも一緒に来ると言ってくれたそうで。

 

「うん。ここなら人間がゆりねさんだけだからね」

 

 ほんと、顔を出して外を歩けるなんて嬉しいな。

 石化対策をしてくれているゆりねさんには、頭が上がりませんね!

 

 

 

「それにしても、邪神ちゃんの水着かわいいなぁ」

 

「かわいいのではない、強いのだ!」

 

 邪神ちゃん、また訳の分からない価値観を発揮してる。

 でも、たしかにビジュアルだけはいいわよね、邪神ちゃん。

 メデューサはそれ以外も含めてかわいいと思ってるんでしょうけど。

 というか……。

 

「普段裸なのに水着着る必要あるの?」

 

「そりゃあ、海に来たんだから着るに決まってんだろフツー」

 

「……あんたの普通の基準がわからないのよ」

 

 

 

「あれ、天使さん。その水着……」

 

 ぺこらに話しかけてきたのは……初めて見る悪魔ですね。

 そういえば、新しく人間界に引っ越してきた悪魔がいるとぽぽろんが言っていました。

 たしか冥界のペルセポネとハーデスの娘、ペルセポネ二世でしたか。ビッグネームですね。

 

「……水着がなにか?」

 

 ぺこらの着ているスクール水着が気になっている様子です。

 

「田尻……田尻ちゃん?」

 

 あぁ、この名札の話ですか。

 

「いや、この水着はバイト先の人が昔着ていたのを譲ってもらっただけで……」

 

「へ~、田尻ぺこらちゃんっていうのか。あたし知らなかったよ」

 

「私も知りませんでしたの。お前田尻って名字だったんだなー」

 

「だから田尻ではないって……」

 

「よろしくね、田尻ぺこらちゃん!」

 

 聞いてくださいよ!

 

「三人とも、そのくらいにしておきなよ~」

 

 案の定、庇ってくれるのは悪魔のうち一人だけ……。

 花園ゆりねは加わるでも止めるでもない。

 まぁわざと間違えてるのも一人だけのようですが。

 ……考えてみれば、石化能力なんて危険極まりない能力を持っている悪魔が一番気遣いに長けているというのもなんだか不思議な感じですね。

 

 

「さーて……いつまでも砂浜にいてもしょうがないし、泳ぎに行きますの!」

 

「邪神ちゃん、準備運動は!?」

 

「いりませんのー!」

 

 あんなことを言ってますが本当に大丈夫なのでしょうか?

 足が攣ったりとか。

 ……いや、尻尾か。……尻尾って攣るんですかね……?

 

 

 

「邪神ちゃんは行っちゃったけど、あたしたちはちゃんと準備運動しないとな!」

 

「はーい!」

 

「は、はい」

 

「うん!」

 

 うんうん、良い返事だな。

 ……あれ?

 

「メデューサも海に入るのか?でもたしか……」

 

「うん、泳げないよ。でも今日は……じゃーん!秘密兵器!」

 

「浮き輪だ!」

 

「なるほどな~。あたしはてっきり砂浜で遊ぶつもりなのかと思ってたぜ」

 

「そうしようかと思ったんだけど、せっかくのプライベートビーチだしね」

 

「泳げなかったのですね」

 

「そうなの。人間を浮かない石にしちゃう能力があるのに、こっちが浮かばないなんて変な感じだよね」

 

「そうなの……でしょうか?うぅん……?」

 

 ぺこらちゃん、どう答えたらいいか考え込んでるな……。

 結構深刻な悩みに聞こえなくもないよな、たしかに。

 あたしなんかは付き合いが長いから、ジョークだって分かるけど。

 

「あ、あの……そんな真面目に考えなくても大丈夫だよ……」

 

 案の定、メデューサの方が戸惑っちゃってるよ。

 たまーに自虐なのか何なのかよくわからない冗談を言うんだよなぁ、メデューサ。

 ノータイムでツッコめるやつはもう海に行っちゃってるし。

 ま、いいや。別に深刻な話題でもないしな。

 

「あたしたちも泳ごうぜ、ペルちゃん」

 

「うん!」

 

 

 

「気持ちいいねー、ぺこらちゃん」

 

「はい。この暑さだと、海はまさに天国ですね……」

 

 浮き輪は偉大ですね、私でも海に浮かべます。

 実は、お料理のときみたいに原作と違って泳げたりするかと思ったのですが……ダメでした。もう覚えてすらいませんが、前世でも泳げなかったりしたのかもしれないですね。

 そういえば……。

 

「ゆりねさんは泳がないんですか?」

 

「私はいいわ、日焼けしたくないし。気にしないで泳いでていいわよ」

 

「そうですか、じゃあ遠慮なくー」

 

 と、いってもあんまり激しく泳いだりとかはできません。浮き輪を使ってますからね。

 邪神ちゃんたちが泳いだりしてるのを、ぷかぷか浮かんで見てるだけ。

 でも広い海で波に身を任せているだけでも、開放感があって気持ちいいです。

 

 

 ……ほんとに気持ちいいなぁ。

 波に揺られて、足になにかが触ってきて。

 ……ん?

 

「……はぇ?」

 

 なにかが私の足に?

 え?え?巻き付いて?

 

 

 

 ミノスのやつ体力ありすぎだろ!全然追いつけねーですの!

 もう疲れちゃったしメデューサと合流してゆっくり遊ぶべきか……?

 

「きゃああああ!?」

 

「どーしたメデューサ?浮き輪でも外れ……って、なんですのあれ!?」

 

 イカ!?……じゃねー、クラーケンですの!

 

「た、助けてえぇ!」

 

「振りほどけないんですのー!?」

 

「え、えぇ~い!……む、無理だよー!」

 

 だろうな……。私より腕力ないからな、あいつ……。

 

「……以前も言った気がするけど、こういうのって邪神ちゃんの役回りじゃないのかしら?」

 

 いや、役回りの分担とかねーから!

 

「そ、そうだ石化!石化できないんですの!?」

 

「人間以外には効かないよぉ!」

 

 ……そうだった。

 ほんと、戦うのに向いてねーなメデューサ……。

 

 

 

「ミノス、ゆりね!二人の力で何とかしてくれ~!」

 

 まず人を頼るのは邪神ちゃんらしいわね……。

 

「しょうがないか。行きましょ、ミノス」

 

「おう!」

 

「頑張ってふたりともー!戦う気のない邪神ちゃんに代わってやっつけちゃえー!」

 

「地味に腹の立つ応援のしかたをやめますの!」

 

「い、いつの間にそんな武器を?花園ゆりね……」

 

 武器くらい携帯しておくものよ。

 いつお仕置きをすることになるかわからないんだから。

 

 

 

 このクラーケン、想像以上に強くないわね。

 だけどメデューサを振り回してるせいで微妙に攻撃しづらい……。

 

「捕まってるのが邪神ちゃんだったら……」

 

「遠慮せずに攻撃できるのにな……!」

 

「……お前らひどくねーか?」

 

 事実を言ってるだけよ。

 

「ふ、ふえぇん!助けてぇ……!」

 

 メデューサも泣き出しちゃってるし……。

 

「あちゃー、泣いちゃったかメデューサ……。でもまぁ、これで解決かな?」

 

「どういうこと?」

 

「ん?あぁ、それは……」

 

「ロイヤルコペンハーゲン!」

 

 ……邪神ちゃんが自ら戦いに行った!?

 

「邪神ちゃんの地雷ってやつだよ」

 

「くらえー!必殺ドロップキーック!」

 

 ロイヤルコペンハーゲンでよろけたところに、ドロップキックの一撃を……。

 

「自分以外がメデューサを泣かせるとああなっちゃうんだよなぁ、邪神ちゃん」

 

 なるほど。

 ……というかちゃんと戦えるのね、邪神ちゃんって。

 

 

 

「ぐすっ……。ありがとう、邪神ちゃん」

 

「……クラーケンが調子に乗ってるのがムカついただけですの」

 

「うぅ、巻き付かれるなら邪神ちゃんの方がいいよぅ……」

 

「なに言ってんですの……」

 

 ほれほれ、頭なでてやるから落ち着きますの~。

 

「大丈夫、メデューサ?」

 

「怪我してないか?」

 

「うん、二人も戦ってくれてありがとうございます」

 

「でも無事みたいで良かった!」

 

「そうですね」

 

「心配かけちゃってごめんね」

 

 それにしても、当たり前のようにクラーケンがいるとは……。

 このビーチはどうなってるんですの……?

 

「邪神ちゃん」

 

「なんですの、ゆりね?」

 

「気にしたら負けよ」

 

「お、おぉ……。分かりましたの……」

 

 ……なんで私が考えてることが分かったんだ?

 ま、まぁいいか。こえ〜から考えないほうがよさそうですの。

 それはさておき!

 

「こいつは昼飯の足しにしますの!」

 

「焼きクラーケンか、邪神ちゃんの調理なら絶対美味いだろうなー!」

 

「……食べるのですか、これを?」

 

 

「さーて、脅威も過ぎ去ったしもう一回遊びますのー!」

 

「私も行く!」

 

 へ?メデューサも来るんですの?

 

「襲われといて、すぐまた遊びに行けるってのもすげーよなぁ」

 

「だって邪神ちゃんが助けてくれるもん!」

 

「相変わらずね、メデューサは」

 

 まぁいいや、泳ぎますの!

 ……ん?

 

「……ぐあぁ!尻尾が攣りましたのー!」

 

「邪神ちゃん、大丈夫!?」

 

「あーあ、締まらねーなぁ」

 

「準備運動しないからですよ……」

 

「平常運転ってやつね」

 

「あはは、邪神ちゃんかっこわるーい!」

 

 お前ら、他人事みたいに見てるんじゃねーですの!

 この状況でできることと言ったらただ一つ……!

 

「た、助けてくれメデューサー!」

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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最終話

閲覧していただいてありがとうございます。



 こんにちは、メデューサです。

 年末年始も過ぎ去り、今日からはまた平常運転です。といっても初詣に行ったりしたくらいで、大事件が起こったりしたというわけでもないのですが。

 

 

 今はスーパーでお買い物中です。

 お正月にゆっくりしたから色々買わないと。

 

「あら、紙袋ちゃん」

 

「うひゃぁ!め、芽依さん。こんにちは」

 

「こんにちは。今日は大蛇丸と一緒じゃないの?」

 

「はい。多分お部屋でゆっくりしてると思いますけど……」

 

「そう……。ま、紙袋ちゃんのアンバランスな格好を見れただけでも良しとしましょ」

 

 ……?なんて言ったんだろう?小さい声でよく聞こえなかったけど……。

 

「なんですか?」

 

「なんでもないわよ?大蛇丸がなにかしでかしたらすぐ伝えてね、超特急で捕まえてあげるから!」

 

「は、はぁ……」

 

「あ、大蛇丸に悪いことをさせて捕まえる理由を作ってくれてもいいわよ?」

 

「えぇ~……」

 

 すごいこと言ってますね……。

 

「え、えぇっと……。それじゃあ、これで失礼しますね……」

 

 芽依さんも初対面のときみたいに掴みかかってくることは無いけど、ちょっと身構えてしまいますね……。

 それはともかく、まずはお野菜から見ようかな。

 

 

 

 いやぁ、起きてから昼までず~っとダラダラするのは最高ですの~。

 

「邪神ちゃん……。あんた、もう三が日も過ぎたんだからいつまでも正月気分でいるのはよしなさいよ」

 

「分かってねーなぁゆりね。お正月は初詣に行ったりして忙しかったんですの~」

 

「はぁ……。でもまぁ、お正月がすぎると気が抜けちゃうわよね」

 

「そーそー。一月といえば成人の日があるくらいで……」

 

 ……ん?一月ってなんか他にもイベントがあったような……。

 

「邪神ちゃん?」

 

「なんか忘れてるような気がするんだよな……」

 

「ふ~ん、アンタにも覚えておきたいイベントがあったのね。内容を忘れてちゃ意味ないけど」

 

「うるせー!」

 

 でもマジで大事なことだったはずなんだよな……。

 ……。

 

「メデューサにでも聞いてみますの」

 

 スマホスマホっと。

 早速電話を……ん?

 

「おわぁ!」

 

「プッ。電話がかかってきただけでおわぁ!って……」

 

「しょ、しょうがねーだろ!かけようとしたときにいきなり電話が鳴ったんだぞ!」

 

 ったく!

 

「えーっと、誰から……ミノス?」

 

 丁度いいや、ミノスに聞いてみますの。

 

『お、出た出た。もしも~し』

 

「おーう、ミノス。なんか用ですの?」

 

『ああ、今日集まるのは邪神ちゃんの家でいいんだよな?』

 

 ……?

 

「なんで集まるんですの?」

 

『誕生日だろ、メデューサの』

 

 ……え?

 

「ゆ、ゆりね?今日は何月何日ですの?」

 

「は?一月四日に決まってるじゃない、昨日まで三が日だったんだから」

 

 そ、そうか……。思い出さなきゃいけないことって……。

 

『おーい、邪神ちゃん?』

 

「メデューサの誕生日だー!」

 

 

 

「ふ~ん、なるほどね。お正月にかまけて、親友の誕生日をすっかり忘れてたと」

 

「すっかりってわけじゃねーですの!ほら、プレゼントは買ってあるし」

 

 以前一緒に服を買いに行ったお店で強そうなやつを買っておいたんですの。

 気まぐれとはいえ、数ヶ月前に買っておいてよかった~。

 

「なんだ、だったら問題ないじゃない。なにをそんなに焦ってるのよ?」

 

「実は、パーティをしようってミノスと計画してたんですの」

 

「パーティ?」

 

「そう。毎年ちょろっとプレゼント渡しておしまいになっちゃってるからな、今回は豪華にしようって」

 

「あぁ、その準備を邪神ちゃんがする予定だったのね」

 

「ですの……」

 

「で、メデューサに楽しみにしとけって言っちゃったとかそういう……」

 

「いや、メデューサには言ってねーんですの。驚かせる計画だったからな」

 

「もともと期待もさせてないってこと?ならそこまで焦ることでもないんじゃない?」

 

「その、せっかくメデューサのためにやろうって決めたことなのに……。すっぽかすのは罪悪感が……」

 

「ふふっ」

 

「なんだよ?」

 

 人が絶望しかけてるときになんなんですの?

 

「あんた、メデューサのことになると真剣になるわよね」

 

「あたりめーだろ。親友だぞ」

 

「ぞんざいな扱いのことも多いみたいだけど」

 

「一言余計ですの!」

 

「ま、それはいいとして。とにかく準備を進めたら?急げば夕飯には間に合うんじゃない?」

 

 

 

 いっぱい買い物しちゃった。

 お散歩でもしようかと思ったけど、一旦お部屋に帰ってからですね。

 あれ、向こうから歩いてくるのは……。

 

「のえるちゃん?」

 

「ん?あぁ、あんたか」

 

「出前?」

 

「今終わったところ、これから休憩時間よ。あんたは……買い物の帰り?」

 

「うん、お正月にゆっくりしたから買い置きが減っちゃって。一度部屋に持って帰ってからもう一回出かけようかなって」

 

「ふーん。……あ、電話だ……なんであいつから?」

 

 あいつ?

 

「あんたの親友から電話。ちょっと出るね」

 

 親友……。邪神ちゃんのことですね、多分。

 私が頷くのをみて、ぽぽろんちゃんは電話に出ました。

 

「もしもし……なによ?……へぇ……そうなんだ……私も?なんで?……分かったわよ。……ぺこら様を?どうしてぽぽろんちゃんが……うっさい!引き受ければいいんでしょ!」

 

 何を話してるんでしょうか、ぺこらちゃんの事が話題になってるみたいだけど。

 ぽぽろんちゃん、時々こっちをちらちら見てます。うるさいとは思ってないからそんなに気にしなくても大丈夫なんだけどな。

 あ、通話が終わったみたい。

 

「ったく。……ごめん、用事ができたからまた今度」

 

「う、うん。えと、ぺこらちゃんになにかあったの?」

 

「まぁね、伝言を頼まれたから」

 

「そうなんだ。じゃあ、またね」

 

「はいはい、またね」

 

 行っちゃった。

 私も部屋に戻ろうっと。

 

 

 

「ふぅ、なんとかぽぽろんちゃんを説得できましたの」

 

「説得っていうか、あんたが一方的に駄々をこねてただけじゃない?」

 

「いいだろ別に」

 

 こっちの要求を会話で了承させたんだから説得なんですの!

 これでぽぽろんちゃんとぺこらの二人もパーティに参加決定っと。

 

「……ていうか、このペースだと料理が完成しませんの!部屋の飾りつけは終わりそうなのに!」

 

 さすがに夕食の時間よりも遅くなるのはまずい!メデューサが食事を作っちまいますの!

 朝から準備を進めてたら、夕方には部屋に誘えたはずなのにー!

 

「しょうがないわね……。私がメデューサを連れ回して時間を稼いでくるわ」

 

「おぉ、頼んだぞゆりね!」

 

「ほんと調子いいわね……。じゃ、行ってくるわ」

 

「行ってらっしゃいですの~」

 

 

 

 ふぅ、結構重かったです。

 ちょっと疲れちゃったし、今日は少し早めに夕ごはんを作って早く休んじゃおうかな?

 ……あれ、お部屋の前にいるのは……ゆりねさんだ。

 

「おかえりなさい、メデューサ」

 

「あ、ただいまです。ゆりねさん、なにか御用ですか?」

 

「ちょっと付き合ってもらいたくてね」

 

 私に?

 

「えっと、どこかにお出かけですか?」

 

「ええ、アクセサリーを買いたくて。あなたの好みを参考にしたくてね」

 

「なるほど……?わかりました、荷物置くのでちょっと待っててもらえますか?」

 

「分かったわ」

 

 それじゃ、急いで荷物を置いてきちゃいましょう。

 

 

「お待たせしました」

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

「はい!どこへ行くんですか?」

 

「そうね……。細かく考えてたわけでもないし、適当に歩いて目についたところね」

 

「分かりました!」

 

 ゆりねさんと二人でのお出かけはなんだか久しぶりな気がしますね、楽しみです。

 

 

 

「ゆりねの時間稼ぎがあればなんとかできあがるだろ。いやぁ、焦りましたの~」

 

 ……ん?チャイムですの。

 

「はーい。……なんだお前らか」

 

「なんだお前らか~はないでしょ、肉じゃが。ぽぽろんちゃんをいきなり呼びつけといて」

 

「悪魔のお前がぺこらを呼び出すなんて何事かと思いましたよ」

 

 私が誘ってやったとはいえ、こいつらが来てくれたのは正直ちょっと驚きですの。

 人望のなせる業だな。私と、ついでにメデューサの!

 

「ま、それはいいから上がりますの」

 

「はいはい、おじゃましま~す」

 

「お邪魔しますね」

 

「よし、せっかく来たんだから手伝わせてやりますの。ぽぽろんちゃんは料理で、ぺこらは……飾り付けを頼むぞ」

 

「はーい。……ん、なにこれ?麦茶とお砂糖?」

 

「メデューサの好物なんですの、砂糖入りの麦茶。こっそり飲んだりすんなよ~」

 

「えぇ、なにそれ……。わけ分かんない舌してるのね、あいつ……」

 

「美味しそうですねぇ」

 

「ぺこら様まで……」

 

 ……ぺこらは調理に参加させなくて正解だったみたいですの。

 

 

 お、またチャイム。

 

「お邪魔するぜ」

 

「こんにちは~」

 

 ミノスとペルちゃんか。これで全員揃いましたの。

 

「よく来たな、上がりますの」

 

「おじゃましまーす!あ、ぽぽろんちゃん!」

 

「おー、ちゃんと準備進めてるじゃん。忘れてるかと思ってたぜ」

 

「そそそ、そんなわけねーですの!」

 

「……忘れてたんですか?」

 

 やめろぺこら!こんなときだけ察するんじゃねーですの!

 

「忘れてたんだな」

 

「い、いいだろ別に!ちゃんと準備できそうなんだから!」

 

 四方からの呆れた視線がいてーですの……。

 

「とにかく!準備を手伝いますの!」

 

「はいはい……あ、ちょっと冷凍庫に物を入れさせてもらうぜー。……ところでゆりねちゃんはどこ行ったんだ?」

 

「メデューサを連れ出して時間稼ぎですの。ちょっと遅くなりそうだからな」

 

「ダメダメな邪神ちゃんを扶養してると、ゆりねちゃんも大変だね」

 

 うるせーぞ!

 

 

 

「ありがとうねメデューサ。おかげで可愛いのが買えたわ」

 

「いえ、私の方も一緒にお買い物するのは楽しかったですから」

 

「それに、メデューサの好みも把握できたしね」

 

「?」

 

 どういうことでしょうか?

 

 

 マンションに戻ってきました。

 夜になっちゃいましたね。

 

「着いたわね。連れ回しちゃったし、部屋に寄っていって」

 

「ありがとうございます」

 

「さ、入って」

 

「おじゃましまー……」

 

「メデューサ、誕生日おめでとう!」

 

「ですのー!」

 

「……え?えっ?」

 

 邪神ちゃんにミノス、ペルちゃん……。それに、ぺこらちゃんとぽぽろんちゃんまで……。

 あれ?そういえば今日って……。

 

「一月四日だ……」

 

「こんな大事なことを忘れてたんですの?相変わらず自分のことには無頓着なやつですの……」

 

「あんたがそれ言っちゃう?それにしても……ぷぷっ」

 

「花園ゆりね?どうしたのですか?」

 

「ふふっ。日付を確認するのが邪神ちゃんと同じだったからつい、ね」

 

 すっごく嬉しいけど、原作でこんなお話……。

 ……。

 いえ、原作がどうだったかなんてどうでもいいことですね。

 だって今、すごく嬉しいんですから。

 今するべきなのは……。

 

「みんな、ありがとう!」

 

 今を受け入れて楽しむことです!

 

 

「わぁ、きれいな飾り付け……!」

 

「へへっ、あたしたちの渾身の飾り付けだぜ」

 

「ほんとにすごい……。ありがとう、みんな」

 

「メデューサちゃんのためだもん、なんてことないよ!」

 

「いつもお世話になっていますからね。こんな日くらいは主もお許しになる……と……思います、多分」

 

 あのぺこらちゃんがここまで言ってくれるなんて、感激です……!

 

 

 そしてテーブルの上には……。

 

「すごいお料理だね……。これも全部作ってくれたの?」

 

「そうだぞー、ぽぽろんちゃんと二人で作ったんですの。感謝しろよ、私に」

 

「うん、ありがとう邪神ちゃん。ぽぽろんちゃんも、ありがとう!」

 

「ま、まぁあんたには応援してもらったりもしてるしね」

 

「素直じゃないですね、ぽぽろんは」

 

「ぺこら様うっさい!」

 

 やっぱり仲良しだなぁ、ぺこらちゃんとぽぽろんちゃん。

 見てるだけでもなんだか楽しくなってきます。

 

「だけど、まさか本人と話してるときに肉じゃがから電話がかかってくるとは思わなかったな~」

 

「あぁ、あの電話ってそういうことだったんだね」

 

「へ、あのときメデューサと一緒に居たんですの!?」

 

「そうよ、気付かれないように気を使ってたんだからね」

 

「ぽぽろんちゃんは優しいもんね!」

 

「い、いや別に優しいってわけじゃ……」

 

 ペルちゃんの言うとおり。本人は恥ずかしがってるけど、本当に優しいです!

 

「あ、じゃあぺこらちゃんへの伝言って……」

 

「このパーティのこと。なんか準備で忙しかったみたいだからね」

 

「ぽぽろんの口からあなたの話題が出てくるなんて思いませんでしたよ」

 

「ん……まぁそれに関してはぺこら様の言う通りかな……」

 

 私のことを話題にしてくれるって、なんだかちょっと照れくさいです。

 

「ま、そういう話はともかくさ。まずは始めちゃおうぜ」

 

「そうね。邪神ちゃん音頭とりなさいな」

 

「りょーかいですの。……みんなコップは持ったかー?それでは、メデューサの誕生日に乾杯ですのー!」

 

「かんぱーい!」

 

 あ、これお砂糖入りの麦茶だ!

 みんなの……は違う中身みたいですね。私だけで飲んじゃっていいのかな……誕生日だから特別メニューってことでしょうか?

 

 

 

「どうだメデューサ、美味いか~?」

 

「うん、すっごく美味しい!」

 

 さすが邪神ちゃんたちのお料理!

 ケーキにすき焼きに……どれも最高です。

 

「それじゃ、一旦プレゼントタイムにしましょうか」

 

 え、お料理だけじゃないの?

 

「プレゼントですか?あの、私もう十分楽しませてもらってて……」

 

「お前のために用意したんだから、素直に受け取りますの!」

 

「そうそう、あたしたちがメデューサに受け取ってほしくて準備したんだからさ」

 

「うんうん、メデューサちゃんに受け取ってほしいな!」

 

「こういうのはこちらの気持ちですからね」

 

「ていうか、受け取ってもらわないと無駄になっちゃうし~」

 

 ……そっか。

 

「そうだよね。ありがとう、みんな!」

 

「そーそー。素直が一番ですの」

 

 

 

 ではまず私からプレゼントを渡しますの……おっと!

 

「ゆ、ゆりね?」

 

 なんですの、いきなり遮ってきて?

 

「あんたは最後よ」

 

「お、おぉ……」

 

「んじゃ、あたしが最初な。あたしのプレゼントは……じゃ~ん!」

 

「わ、可愛いマグカップ!」

 

 ふむ、とんでもねーセンスのものかと思ったけど普通に可愛いやつですの。

 

「だろ?メデューサに案内してもらったお店で買ってきたんだ」

 

「大事に使うね。ありがとう、ミノス!」

 

「おう!あとこれ、魔界に戻ったときに預かってきたんだ……遊佐さんと氷ちゃんから」

 

 あ、部屋に来たとき冷凍庫に入れてた包みですの。

 

「わぁ……アイスだ。美味しそう!」

 

「この寒い時期に?」

 

 ぽぽろんちゃんが若干引いてますの。でもあいつらの商売下手ぶりを考えれば納得だな。

 

「遊佐さんたちというと……たしか氷族の悪魔でしたか?」

 

「そうですの」

 

「大事に食べようっと」

 

「あとこれ、手紙も渡してくれってさ」

 

「ありがとう、ミノス。えっと……ふふっ、ありがとうございます」

 

 なんて書いてあるんだろ、後で聞いてみるか?……いや、やめとくか。私宛じゃねーしな。

 

「わたしはこれ、ぬいぐるみ!」

 

「わぁ、可愛い!」

 

 クマですの。普通に可愛くて突っ込みどころがありませんの。

 

「ありがとう、ペルちゃん。どこに飾ろうかなぁ?」

 

「大事にしてくれると嬉しいな~。じゃあ次は……」

 

「ぽぽろんちゃんとぺこら様から。はい、これ」

 

 二人で一つか。ぺこらは貧乏だからな……。

 

「ヘアブラシ?」

 

「そうよ」

 

「いつも紙袋をかぶっているので、使うことも多いかと思いまして」

 

「ま、お金を出したのはほとんどぽぽろんちゃんだけどね~」

 

「うぅ、情けない限りです……」

 

 ……あぁ、これはアレですの。ぺこらが無理してお金を出したわけじゃないぞ的な主張ですの。

 相変わらず素直じゃねぇな、ぽぽろんちゃんは!

 

「あんたがそういうこと考えちゃう?」

 

「な、なんですのゆりね?」

 

 だから、ゆりねはなんで私の考えてることが分かるんですの……。

 

「ありがとう、二人とも!」

 

「大事に使ってよね~」

 

「うん!」

 

「じゃ、次は私ね」

 

 ゆりねのプレゼントは何なんだろ?

 

「あ、これ……アクセサリーだ」

 

「さっき買っておいたのよ。誕生日のことを邪神ちゃんが言ってくれて助かったわ、気づかないまま過ぎちゃうのは嫌だもの」

 

 ふむ、私が忘れたのにもしっかり意味があったということですの。

 

「無いと思うぜ」

 

「無いと思うよ」

 

「無いわ~」

 

「そもそも忘れなければ、花園ゆりねももう少し早く準備できたと思いますよ」

 

 うるせー!

 ってか、なんでこいつらも私の考えてることが分かるんだよ!

 

「顔に書いてあるぜ」

 

「ぽぽろんちゃんたちは事情を知ってるしね」

 

 ……まぁいいですの。

 

「あ、私の好みって……。ありがとうございます、ゆりねさん!」

 

「えぇ。それじゃあ……」

 

「最後はお待ちかね、邪神ちゃんからのプレゼントですの!私からは……これですの~!」

 

「わぁっ!可愛い……じゃなかった、強そうな服!」

 

「だろ~?」

 

 さすが、メデューサは分かってるな!

 

「ずっと大事にするね!」

 

「うんうん、そうしろそうしろ!」

 

「ケースに入れて飾っておこうかな!」

 

「そこまではしなくていいですの」

 

「あ、うん。そうだね」

 

 こういうのは使ってなんぼですの。

 

「……相変わらずね」

 

「そうだね……」

 

 ゆりねとペルちゃんがなんか話してますの。

 なにが相変わらずなんですの?

 

 

「それじゃ、あとはみんなでワイワイやりますの~!」

 

「おー!」

 

 いやぁ、それにしても思い出したときはどうなることかと思いましたの。

 でも無事にペーティができてよかった~。

 

「ねぇ、邪神ちゃん」

 

「メデューサ、どうしたんですの?」

 

「今日、結構焦って準備してたでしょ」

 

 !?

 

「な、ななな何のことですの?」

 

「なんていうか……雰囲気がそういう感じだったから」

 

 バレてましたの!?

 

「い、いやその……」

 

「ありがとう、邪神ちゃん」

 

「……へ?」

 

 怒ってるわけではないんですの?

 

「焦ってくれて、なんだかちゃんと友達なんだなって思えたから」

 

「そ、そりゃ友達だろ!友達なんだから!」

 

「……相変わらずだな!」

 

「そうですねぇ」

 

「付き合いの浅いぽぽろんちゃんでも相変わらずだって分かる」

 

 ミノスにぺこらにぽぽろんちゃんまで……。

 だから何が相変わらずなんだよ?

 

 

「邪神ちゃん」

 

「んー?」

 

「これからもよろしくね!」

 

「お、おう。……メデューサ」

 

「え?」

 

「これからもよろしくな!ですの!」

 




これにて、本作を一旦完結とさせていただきます。
これまで読んでいただき、ありがとうございました。


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