こちらフレディ・コロニー内ギャラルホルン水星支部 (158dg)
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こちらフレディ・コロニー内ギャラルホルン水星支部
P.D.326年。「マクギリス・ファリド事件」と呼ばれる大騒動の影響によりギャラルホルンが民生主導の組織へと再編成を余儀なくされてから1年ほどが過ぎた。
水星。太陽に最も近い惑星であり、火星や金星のような開拓もロクに行われず、申し訳程度にギャラルホルンの駐留部隊がある程度であり、海賊の温床にもなるなど治安も悪い。
「太陽系の掃き溜め」とも呼ばれる辺境の星、数少ない住居コロニーである「フレディ・コロニー」内ではギャラルホルン本隊から左遷されてきた男が一騒動を起こそうとしていた―
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「先輩! また仕事をサボってパチンコですか!?」
「うるせぇなぁ。こんな星に飛ばされてきてからはこれくらいしか暇潰しが無いんだよ。それにほれ、わしがここへ毎日くるおかげで喧嘩の数が減ってきてるだろ」
「それもそうですよ、ギャラルホルンの制服姿のままでパチンコ屋まで行ったり来たりしてるんですから」
ヅガン・サイドラック三曹は一言で言うなら破天荒な男である。
宇宙海賊の取り締まりや暴動の鎮圧、違法業者の逮捕など成果こそ上げてはいたものの、命令違反の多さや事務処理の適当さでも名を広めており、ギャラルホルン屈指の問題児として上層部の頭を抱えさせていた。
「マクギリス・ファリド事件」の後処理のドサクサにより、水星へと左遷されてからは前述のように毎日の暇を持て余しており、基地内でわざわざ持ち込んできたモビルスーツやモビルワーカーのプラモデルを制作していたり、数少ない娯楽であるパチンコ店で一日を過ごし、相棒であるアイク・セントリバー二曹に逐一ツッコミを入れられるのが日課となっている。
フレディ内部の市街地はスラム一歩手前の様相であった。
コンビニやパチンコ屋の周辺では半グレ共がたむろし、そこら中にポイ捨てされた煙草が目立ち、モビルワーカーを使った喧嘩が繰り返されている。
「何? また喧嘩だと? しょうがねぇ、これも仕事だ……行くぞ、セントリバー!」
ヅガン三曹は基地に配備されているフレック・グレイズに乗り、喧嘩を止めに行く。
「おい! ギャラルホルン鎮圧部隊だ! 来る日も来る日も喧嘩ばっかしおって、いい加減やめにしねぇか!!」
「うるっせーぞギャラ公が! 何をしようが俺たちの勝手だろ!」
「なんだとこの野郎! 蹴り飛ばすぞ!!」
「わーッ! そ、それだけはやめてくれ! 本当に骨も残らず死んじまうよ!!」
このようなやり取りが四六時中何度も何度も繰り返され、ヅガン三曹のフラストレーションは溜まっていく一方であった。
「まったく、こんな寂れた土地でも喧嘩を起こすたぁ、何処においても暇な奴はいるもんだな」
「先輩がそれを言いますか」
「うるせぇ、ほっとけ!」
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と、無為な日々を過ごす中で突然、風変わりな報告が彼らの耳に入る。
「ハァ? デブリ帯から変なメカだとぉ?」
「はい。恐らく厄災戦に使われたものだと思います。それの処理を我々に何とかして欲しいと頼まれたのです」
「まぁったく、わしらギャラルホルンは便利屋じゃねぇっての。ま、暇潰しになりそうだし言ってやるかな……」
こうして彼らが向かった先、デブリ帯の発掘現場には妙な形をしたメカがひとつあった。
「おい、なんだこの禍々しい形をしたメカは。新型のモビルワーカーか?」
「こんな脚のあるモビルワーカーなんて聞いた事がありませんよ。これがその厄災戦の時に使われた……モビルスーツ、じゃないんですか?」
「こんな平べったいモビルスーツもあるかよ。ま、どっちにせよ厄災戦の時に使われたのは間違いなさそうだな……こんな形、見た事も聞いた事もねぇぞ」
彼等はロクに情報を知らないでいたが、それはモビルワーカーではなくモビルアーマーの一種であった。
名は「プルーマ」。火星の農業プラントに大打撃を与えた大型モビルアーマー・ハシュマルが生み出した小型無人機である。
その小型モビルアーマーが何故水星のデブリ帯から発掘されたのかは不明である。過去の厄災戦が水星付近でも行われた証左なのだろうか。
ヅガン三曹はプルーマのボディをあちこちベタベタと手で触るほか、コンコンと叩いて確認もする。
「ふーむ、大分痛んでるようだな…あちこち壊れてるぞ。サビも酷い」
「でも、この材質ならナノラミネートアーマーでしょう? それがサビるなんて聞いた事がありませんよ」
「こんな所に入れられてたおかげでアーマーが劣化したんだろ。おっ、武装は生きてるみたいだな…って、弾が入ったままじゃねぇか! あっぶねぇ…」
もし、ヅガン三曹が「こんなものは一発ぶん殴りゃあ動くもんだよ」とキツく叩きつけていたら、彼は今頃ミンチよりもひどいことになっていたかもしれない。
「色々調べてみたが…どうもコックピットが見当たらん。恐らくだが、こいつは無人で動くみたいだな。戦艦あたりから命令を出してそれを実行するんだろう……たぶん」
「無人で動くメカ、ですか。確かに無人で動くモビルスーツは見た事も聞いた事もありませんね。しかしこれは倫理人道に反するのでは……」
「そんな事は関係ねぇよ。厄災戦は人類の半分を吹き飛ばしたんだぞ。それでだ、幸いと言えばいいのか、どうやらこいつは壊れてるらしい。何をしても動かないのはそのためみたいだな」
この時、ヅガン三曹の頭に電流が走り、直後に妙にねっとりとしたニヤケ顔を浮かべた。
「ちょうどいい。フレック・グレイズも大分ポンコツになってきた所だ。当分の暇を潰せそうだし、こいつを思いっきり改造してやるぜ」
「うわぁ…悪い顔をしてる…」
** **
水星付近のデブリ帯。
宇宙海賊「ジード団」の戦艦が航行し、フレディ・コロニーへ戦闘を仕掛けようとしていた。
「ヒャッハー!!」
彼等は先ほど近くを渡航していた商船を襲い、金品や兵器を強奪。辺境では商船の一つでも貴重な資金源かつ戦力源でもあった。
「こんなものも持ってやがった~……こんなところじゃケツを拭く紙にもなりゃしねえってのによ!」
そうはしゃぐ彼らの元に、先遣隊のうちの一人が慌てて戻ってくる。
「ジード!」
「なんだ」
「た…大変だ! 先にコロニーへ向かった部隊が全滅してるんだ!!」
それを聞いたジード団は慌てて先遣隊の様子を確かめに行ったが、案の定というべきか既に全滅していた。
「なんだこれは…俺達をジードと知っての事か~~~!!」
その時だ。何かしらのただならぬ気配を感じ、彼らは視線を別の場所へと向ける。
彼らが振り向いた先、そこには超スピードで接近する謎の赤い塊が向かっていた。
それは水星―というよりは彗星であった。
「お…おい、なんだあれは!?」
「なんだありゃあ!? 新型のモビルワーカーか!?」
「あんな早いモビルワーカーがあるかよ! 阿頼耶識ってレベルじゃねーぞ!!」
それはヅガン三曹が改造したプルーマであった。
「がはははははは! お前らァ! ここはわしらギャラルホルンの陣地だぞ!!」
赤く塗られたその姿は宇宙用のモビルワーカーの三倍速い錯覚(実際はフレック・グレイズの二倍)を彼等に与えており、その姿は正しく「赤い彗星」と呼べるものと言えた…かもしれない。
また、本来は無人機なのだが「無人じゃどう扱っていいのかわからん。コックピット載せるから適当なモビルスーツから移しておけ!」とアイク二曹に命令し、強引に有人仕様機へと改造されていた。
ヅガン三曹が操縦するプルーマの動きは海賊たちは捉える事が出来ず、その勢いも相まってか狼狽えるばかりでロクに攻撃も出来ないでいた。
程なくしてプルーマは海賊のモビルスーツたちを素早く取り囲み、ワイヤーを射出。
ぐるぐると周囲を回り、ワイヤーを素早く絡め、一気に多くのモビルスーツの動きを封じ込めた。
プルーマのボディから拡声器が飛び出し、海賊たちへ向けて勧告が出される。
「どうだ。もし、また水星付近で何かドンパチやらかそうとするのなら……特上寿司か合成じゃない牛丼特盛でもおごってもらおうか」
「え、それだったら普通にドンパチやり」
「やかましい! ぶっ殺すぞ!!」
プルーマはマシンガンをモビルスーツ隊へと向けた。一応、撃つ気は無いのだが。
「は、はい! もうコロニーを襲ったりはしません!」
こうして、フレディ・コロニーを襲おうとしていた脅威はあっという間に排除されたのだった。
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「あの、先輩。海賊を退治したのはいいんですが……捕獲したモビルスーツはどうするんです?」
「テイワズ辺りにでも売る」
「売っちゃうんですか!?」
「わしが捕獲したものだ。どう使おうがわしの勝手だろう」
と、このようにヅガン三曹は宇宙海賊の方が可愛そうになるくらいの破天荒な行いを来る日も来る日も続けていったのだった。
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そんなある日、順調に思えた荒稼ぎの日々は突然終わりを告げる。
「ヘッヘッヘ、かなりの金が懐に入ったぜ」
ヅガン三曹はこれまでせしめた大金の枚数をとてもいい顔で数えている。
「あのモビルワーカーがありゃ、水星付近の通行料をせしめても問題ないかもな…うへへへ」
「ほーう、しばらく見ない間にまた色々やっているようだな三曹」
と、ここに来て妙に重い声が響き渡り、ヅガン三曹が後ろを振り向いてみたら。
「ゲッ!! い、一佐殿!?」
かつて地球でヅガン三曹の上司を務めていたビッグフィールド一佐の姿があった。
ギャラルホルン本部にて、水星の妙な噂を聞きつけた一佐はヅガン三曹が一枚絡んでいると直ぐに察し、視察も兼ねて訪れたのだ。
「全く、こんな無茶苦茶で違法な改造を施しおって……しかもデータで見た火星で暴れた機体にそっくりではないか! これはギャラルホルン本部へ送ってくぞ! お前が勝手に稼いだ金も接収するからな!」
「えっ、そ、そんな~~!! 勘弁して下さいよ一佐殿~~~!!」
「黙れ! お前は水星でも地球にまで話が届くような騒ぎを起こしたのだからもっと遠い所へ飛ばさねばならん! 天王星か海王星でモビルワーカーを使わずにレアメタルの採掘でも行ってこい!」
調子に乗ったためにこの始末。
少なくても今度の左遷先は暇ではなさそうだが、本当に死にそうなくらいの過酷な土地である事は間違いないだろう。
「ちっくしょう~!! ギャラルホルンなんて大っ嫌いだァ~~~!!」
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