ノアが行く!FF6 (ハジケハムスター・ポッポ)
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プロローグ

ついに始めてしまったノア様主役のスピンオフ作品。
あらすじ通り更新激遅なんでお気をつけ下さい。


 とある世界の天界……そこで働く女神がまたまたやらかしてしまい、一人の人間を転生させる時の特典にされるところであった。

 寸でのところでその世界の担当光神であるウルトラマンギンガビクトリーが到着し、そうならずに済んだものの彼は事情を聞いて大噴火。

 

 

「結果はどうあれ他者を助けようとして命を落とした者をバカにするとは何事だ!!」

 

 

 今までは説教で済ませてきた彼も今回ばかりは許容出来ず、転生する少年・佐藤和真のサポートを自身が行う事にし、さらに彼にはギンガビクトリーの先輩であるウルトラマンノアより『万が一があればお前の意志で渡せ』と託されていた予備のウルティメイトイージスを渡した。

 正直なんつーものを、と思われるが今回はおいておくとしよう。本作、こっちにはほとんど関わらないので。

 

 そうして異世界転生する彼を見送った後、ある事を相談すべく、逃げようとするアクアを引っ捕まえてノアが住まう惑星・プラネットノアへ向かうギンガビクトリーであった。

 

 

「先輩、先輩の役目は私が引き継ぎますので」

「エリス!なんでもうそんな気でいるのよ!?」

「……エリス、お前が隠れてサボってんのは知ってるからな。コイツの処遇を決めたら次はお前だから」

「……え?」

 

 

 どうやらこの先輩後輩は似た者同士のようだ。

 

 

☆☆☆

 

 

「……ってわけなんですノア先輩」

「なるほど、我々ウルトラマンとしては見過ごせない所業だな」

 

 

 ギンガビクトリーの相談を受けたノアはふーむと顎に手を当てて考える。アクアはビクビクしながら正座中。

 

 

「まあ、ギンガビクトリーによる今までの事の報告と合わせると順当なのは神格剥奪――」

「それはイヤあああああ!!」

「やかましい!全部お前がやらかしてた事の積み重ねた結果だろうが!」

 

 

 ノアの案に泣きながら抵抗するアクアだったが、ギンガビクトリーに怒られてグスグスしつつ再び正座。

 

 

「――しようと思ったのだが、ぶっちゃけ剥奪したところで根本的な解決にはならんだろう。問題は性格の方らしいからな」

「あー……確かに」

 

 

グサリ

 

 

 アクアの心にダイレクトアタック。実際その通りだから仕方ない。

 そこでギンガビクトリーは思いついたように提案する。

 

 

「ノア先輩、どうせならコイツがバカにした人間達と同じ目に合ってもらうとかどうですかね?」

「!?」

「ふむ、例えば?」

「旅か何かさせてやればいいんじゃないかと。コイツの働いてた部署、転生部門なんで」

 

 

 転生部門で旅、しかも直前に関与した世界から察すると……

 

 

「もちろんモンスターや魔物の類がいるところに」

「よし採用」

「嫌あああああ!!!」

「「うるさい駄女神」」

 

 

 ピシャリと黙らされるアクア。彼女に拒否権はない。

 ついでにいうと、反逆を起こしたところで彼女が二人に勝てる気がわけもない。ゴッドブローかまそうとしてもノアインフェルノでカウンターされて即終了だ。色々どころか彼女の全部が終わる。

 そんな二人は既に駄女神(アクア)を、言い方は悪いが放り出す世界を決めていた。

 

 

「というわけでお前にはこの魔法が存在しない……正確には消え去った世界に行ってもらう」

「なんでよりによってそんなとこにぃぃぃ!!」

「お前、魔法とか自由に使えたらイカサマしまくって更生なんかしないだろ絶対」

 

 

 ギンガビクトリーはそういうが、アクアの頭では魔法でイカサマしても逆にピンチになる姿しか予想出来ない。これも普段の行いのせいだ。

 

 

「とはいえ、さすがに一人だと心配だからもう一人同行する。主に監督役で」

「なんでそんなに信用ないの!?」

「「過去の自分を省みろ馬鹿者」」

 

 

 二人に言い返されさめざめと泣くアクアだが、二人は同情しない。

 ここで疑問になるのはその同行者だが……

 

 

「それで、同行者って誰?」

「あのなぁ、お前ちょっとは敬語ってもんを……」

「安心しろ。それは大丈夫……

 

 私 が 行 く ! !

 

 

「「……は?」」

 

 

 どこぞのNo.1ヒーローよろしく堂々と宣言したノアにギンガビクトリーとアクアはポカンとしていた。

 アクアはもちろんだが、これから決めようと考えていたギンガビクトリーにとっても青天の霹靂。何言ってんのこの人状態である。

 

 

「いやいやいや何言ってんですか!?ノア先輩が行くことないでしょ!?」

「そうよ!ノア様が一緒に来たらサボれないじゃない!」

「おいお前サボるっつったか今」

 

 

サラッと出たアクアの一言にギンガビクトリーは青筋を浮かべる。

 

 

「実はその世界、どうも気になる事があってな。魔法が消えた理由に私が関わっているかもしれん。モヤモヤしたままだと職務に影響が出るかもわからないので、アクアの監視も含めて私が同行して解明しようというわけだ」

「……なんか真面目っぽく聞こえるけど微妙に自分の希望混ざってないですか?」

 

 

 モヤモヤ解明はまさにそれである。

 

 

「安心しろ、当面は護神隊だけで回せるよう仕事は済ませてある」

「そこはいいんですけど、せめて護神隊から数名は連れてった方が良くないですか?ホラ、彼ら少数精鋭のチームで行動しているのがほとんどだしこういう時にうってつけじゃ」

「えええ!?もしかしてあのギンガビクトリー様と似た声の天パとかもついて来るの!?」

「おい駄女神……ノア先輩の直属だし、あいつは神格でいうなら最低でもお前と同格以上だからな」

 

 

 護神隊とはノア直属の護衛部隊である。能力が高いのは言わずもがな、ノア本人に負けず劣らず濃いメンツだ。色んな意味で。

 

 

「まあ、それは一理ある。アクア、三日ほど準備期間をやろう。私もその間に護神隊から同行メンバーを選定しておく」

「みっかぁ!?せ、せめて三ヶ月……」

「それじゃ長すぎだろ。それじゃノア先輩、俺は約束した少年のサポートしてきますんで、バカ(アクア)頼みました」

「うむ、任せておけ。そちらもしっかりな」

 

 

 そう言い残してギンガビクトリーは帰っていく。アクアが滝のように涙を流しつつ手を伸ばしていたがガン無視であった。

 そんなこんなでたった三日のうちに確実に生死が絡むような世界へ行く準備を済ませなければいけないアクア。何故かノアは準備を済まし終わっている。最初から行く気だったなこのチートラマン。

 

 

「それから言っておく事がある」

「何ですかー……」

 

 

 もはや覇気など微塵もない。行く前からやる気なし。だが今までの事からそれを気遣ってやるほどノアも甘くない。

 

 

 

 

 

「おやつは300ギルまでだ」

 

 

 

 

 

 既に、通貨が行き先の世界のものになっているノアであった。どう考えても遠足ではない旅路で300え……ギルでは足りないがツッコんではいけない。

 とりあえずこれは様式美というものだ。

 

 しかし、作者も思う。

……大丈夫か?この二人(+α)で……

 

 兎にも角にも、こうしてノアとアクアは魔法が失われ機械が発展した世界へと向かう事になった。

 

 

「うう……向こうが暮らしやすかったらそのままそっちに永住しちゃおうかしら……」

「別に構わんがそうしたら迎えは期待するなよ」

「スイマセンでした」

 

 

 はっきり言って、幸先不安なスタートである。




こちらは本家よりギャグ色が強まるかも。
だいたいノアとアクアのせい。
それから、あっちより各話がサラッと終わりそうです。
一応原作沿いですしね、一応。


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キャラ紹介

ある程度話が進むごとに更新します。


○ウルトラマンノア

 

 

本作の主人公。作者の小説世界観において神々の上に存在する光神たちの最高位に座する『光の三超神』の一人にして〘レジェ行く!〙では最大のネタ要員。

レジェンドの『巫女』やサーガの『御使い』に相当する『神使』の他に、直属の護衛部隊『護神隊』(現在発覚してるのは『銀魂』主要キャラ)がいる。

 

〘レジェ行く!〙でもわかるように原典より桁違いにパワーアップしている。

例を挙げるならノアインフェルノと対になるレジェンドの技のぶつかり合いでビッグバンが発生し、生命が存在しなかったため被害は無かったが宇宙一つが消滅した程。しかも双方ほんの少しだけしか本気になってない。

 

レジェンド同様にチートをも遥かにぶっちぎるスペックや数々のネタの提供元な部分に目が行きがちだが、れっきとした人格者であり気配りも十二分に出来る。

さらに、普段な時と真剣な時の差がレジェンド以上に激しい。

具体例としては〘レジェ行く!〙第4章のエピソード『奴、襲来』を参照。

 

何だかんだ言ってもレジェンドとは強い信頼関係があり、ノリの良さや神使への深い愛情、そして護神隊との絆も堅い、たくさんの者から愛されている光神様である。

 

人間体のベースはスパロボCOMPACT3及びOG外伝に登場したアルティス・タール。しかもベースと多少なりとも差異があるレジェンドやサーガと違い、髪の色や長さ、服装に至るまでまんまベース元と同じである。

このおかげで上記のエピソードにおいて修羅だと間違われた。

さすがに機神拳は使わない……とは言い切れない。同僚は身勝手の極意とか発動してるし。

 

CVもウルトラ・スパロボ双方の原典同様の増谷康紀さん。真・三國無双シリーズの関羽役で有名なあの方です。

 

 

本作では後輩ギンガビクトリーに頼まれアクアの根性叩き直しを行うべくFF6の世界へ共に来訪。何かと彼女に振り回される……わけもなくいつものノリで彼女を引っ張り回す。しかし、結局は彼女のフォローに回るため全力が出せなかったりする。

この人が本気になったらそれだけで物語終わっちゃうし根性云々も有耶無耶になるし、それでいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

○アクア

 

 

本作のヒロイン。……のはず、たぶん。

『この素晴らしい世界に祝福を!』に登場するメインヒロインの一人なのだが、本作では度重なる女神にあるまじき行いや態度等でついに光神であるギンガビクトリーの堪忍袋の緒を切れさせてしまい根性叩き直しの旅に出されてしまった。

 

殆ど原作そのままの駄女神っぷりを発揮し、それで起きたトラブルにパーティメンバーを巻き込む。

正直ちゃんと更生出来るか絶望的。

 

一応曲がりなりにも女神なのでスペックはそれなりに高いのだが、例の如く知力に思いっきり不安が残り、比較相手がノアなのでぶっちゃけ霞むレベル。

ついでに本作で来た所がスキル云々とかいう世界ではないため『ポイント貯めてスキルを習得しよう!』というのは魔石入手後、魔法の習得にしか適用されない。

マジで大丈夫か?

 

ノアの神使入りを狙っているとはいえ、そもそも更生とノアのフォロー要らずになる事の方が先決だと、未だに気付かない。

 

本作の連載中に彼女は見事神使入り出来るのだろうか?

 

 

 

 

 

○ウルトラマンギンガビクトリー

 

 

光神の一人であり、ノアの後輩。

レジェンドとサーガのような関係だが、サーガほど出世していない。彼にとってはサーガも先輩である。

まだ直属の部下を持っていないが、選出に難航しているだけで所有資格はあるのでそこは安心。

 

サーガのように【エリア】の部分的ではないが、いくつかの宇宙・世界管理を任されており、その中の一つの世界の部下(神)が起こした問題が本作の発端になる。 

 

実を言うとアクアのみならず、その後輩のエリスの隠れサボり癖にも頭を悩ませている。

本来かの世界へ転生する特典に、ふざけた態度を取ったアクアを連れて行く筈だったカズマを収め、代わりにノアから渡されていたウルティメイトイージスを託す。

これによってアクアと違い、カズマからの心象は爆上がり。渡す条件は「決して諦めない事」「闇雲に使ったり、悪事には絶対使わない事」だったため、更に拍車をかけた。

 

その他にカズマのサポートを約束した後、アクアの根性を叩き直すべく旅をさせる事にし、その監督役として先輩であるノアを頼る。

 

……しかし、悲しいかな主軸となる世界が違うため彼やカズマの出番は殆ど無い。彼の方はまだ光神という立場上望みはあるかもしれないが……

 

イメージCVはギンガやダークルギエルなども演じた杉田智和さん。最近だと宇宙恐魔人ゼットの声も担当された方。大物多いなー。

 

 

 

 

 

○坂田銀時

 

 

ご存知『銀魂』の主人公。護神隊の中心人物の一人。

今回はよりにもよって二日酔い状態でスタートした。二日酔いはステータス異常じゃありません。

 

実は万事屋銀ちゃん一同、すでにノアと数々異世界を冒険していたらしく、二人は強い絆で結ばれている。適合者(デュナミスト)の資格もあるらしい。さすが銀さん。

 

ノアの光気の影響でやはりパワーアップはしているようだが、相変わらずかめはめ波は撃てない。ビクトリーバーサスでは使えたのに。

 

初心者の館にいたが、彼自身は初心者どころか冒険の大ベテランであり、宝箱に関して例を出して注意を呼びかけた人物は悲惨な目にあった。

 

現在、彼女募集中。

 

 

 

 

 

○神楽

 

 

万事屋銀ちゃんの紅一点もしくはマスコット。マスコットは定春の方じゃね?

戦闘民族夜兎族の少女。護神隊では父親の星海坊主や兄の神威も一緒。食費が半端ないが星海坊主の髪の毛は既に無い。

 

ご都合主義が炸裂してマミーの江華もノア様パワーで復活している。やったね神楽ちゃん!(ただし本作で出るとは言っていない)

ちなみに江華自身は星海坊主の髪の毛の心配はしていない。神威の髪の毛が無くなるのを危惧している。

 

本作において彼女の毒舌の犠牲になる者はどれだけいるのだろうか。

手始めと言わんばかりにロックは出会って早々犠牲になった。

 

 

 

 

 

○志村新八

 

 

万事屋銀ちゃん、引いては銀魂における最大のツッコミ役。本作でも彼のツッコミなしに本編は語れない。

アクアや他の面々では彼と並べないようだ。ツッコミに限るが。

 

お通ちゃん絡みがないからか、数少ないパーティの常識人。これでツッコミが出来なかったらたぶん空気になっていた。

 

彼自身は剣の腕前も決して低くはない……というかかなり高いのだが、ノアを筆頭に銀時や神楽というトンデモメンバーのせいで霞みがち。ノアとは比べてもしょうがない気がする。比べるならあんぱん中毒のジミーとだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○ウルトラマンレジェンド

 

 

本家〘レジェンドが行く!〙シリーズ(になるといいな)の主人公。こっちではそもそも【エリア】違いの上、自分のところで手一杯なのでほぼ出演予定は皆無。

 

一応名前は割と出るかもしれない。

ノア相手には彼クラスのツッコミ力が必要となる。

 

あっちのキャラ紹介でも書いたように、イメージCVは森川智之さん。ケンイチ・カイの吹き替えだったりパワードだったり超闘士ウルトラマンだったり、果てはダダだったりと脇役から主役まで実に多彩。




たぶんネタバレはない……ハズ。
最後のレジェンドに関してはオマケで載っけときました。


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よく盗むぼうけんかにコマンドカウンター

今回から本編スタート。
初っ端から大変な状況になりました(ロックが)。
ダガーかミスリルナイフかで迷いました。何がかはすぐにお分かりいただけるかと。


 魔大戦――かつてその世界の千年前に起こった魔法を巡る大戦争。その戦争によって魔法は失われ、その世界では機械文明が発展した。

 

 しかし、帝国の皇帝ガストラはある時を境に『魔導』と呼ばれる力を行使するようになる。

 

 そしてその魔導の力を使った兵器・魔導アーマーを始めとする強大な軍事力をもって世界征服を目論むガストラ皇帝は、炭鉱都市ナルシェにて氷漬けの幻獣が発見されたという情報を耳にする。それを奪取すべく帝国兵二名……正確には三名を送り込んだが、そのうち共鳴した一名を残し、残る二名は消滅。

 

 共鳴した一名……ティナという少女はジュンという老人の手引でナルシェから脱出しようとするが、炭鉱内での足場の崩落でそのまま落下、意識を手放してしまう。

 

 

 万が一に備えてジュンはある人物と連絡をとっており、その人物が彼の自宅の裏口より訪問する事になっていた。

 

 ……のだが……

 

 

☆☆☆

 

 

「ふむ、初期転移先としては悪くないな。自然に囲まれ機械と炭鉱で発展した都市か」

「ああぁぁぁ……結局来ちゃった……逃げられなかった……」

 

 

 二名の男女……今回の主役とヒロインであるノアとアクアがこの世界へと最初に転移してきたのは炭鉱都市ナルシェ、しかもあろう事か先のジュンの家の裏口前である。

 

 

「さて、目の前にはドアがある。そして後ろには何処かへ続く道がある。お前ならどうする?」

「寒いので炬燵に入りたいです」

「そうか、ならば目の前のドアを開けるのみ!」

 

 

 そこまで言っておきながら何故か腕組みしたまま動こうとしないノア。アクアも両腕を摩っているが、こっちも動こうとしていない。

 

 

「……ねえ、ノア様」

「何だ?」

「開けないの?こう、『たのもー!』的に」

「何を言う。今回の旅はお前の性根を叩き直す為のものだ。お前が開けて頭を下げないでどうする」

「やっぱりぃぃぃ!!」

 

 

 ノアはアクアにやらせる気だったようだが、自分がやらなければいけないと言われたアクアはへたりこんだ。

 

 

「いきなり裏口から入ってきたりしたら間違いなく不審者じゃない!ゲームみたくいきなり入って話しかけたら情報くれるとかありえるわけないじゃないぃぃぃ!!」

「まずはやってみろ。話はそれからだ」

「無理!絶対に無理ぃぃぃ!!」

 

 

 ギャーギャー騒ぐアクアと腕組みしたまま仁王立ちで動かないノア。人様の家の裏口で騒いでいるのは傍迷惑である。

 しかし、そこに神か悪魔か誰かの声がかけられた。

 

 

「……あんた達、そこで何やってんだ?」

「「!!」」

 

 

 ノアとアクアが揃って顔を向けるとそこにはバンダナをつけた如何にも『アイアム冒険者』的な格好の男性が。

 

 

「もしやこの家の住人の方か?」

「へ?いや、違うけど……」

「うああああ!せっかく希望が見えたとこだったのに!私の期待を返しなさいよ!」

「はあ!?いきなり何なんだよ!そもそも初対面だろ俺とそっちは!!」

 

 

 アクアの八つ当たりに冒険者(仮)はさすがに抗議する。そりゃそうだわな。

 そんな時、冒険者はハッとして腰から武器……たぶんダガーっぽいものを引き抜いて飛び下がった。

 

 

「まさか……帝国の刺客か!?」

「……は?」

「……む?」

「くそっ!まさか俺がリターナーのパイプ役だと分かって先手を打ってきたのか!?」

 

 

 冒険者(仮)は何やら一人で突っ走ってる感が否めない。ノアもアクアも帝国などと関係はない。というかついさっきこの世界へと来たばかりなのに。

 

 

「ノア様、なんかコイツヤバそうな奴じゃない?」

「うむ、ポーション飲みまくった挙げ句、思考が変なところに言ってしまったアル中もどきのようだな」

「誰がアル中もどきだっ!?」

 

 

 お前だよ。そう言いそうになった二人だが、冒険者(仮)はダガーを収める気はないらしい。

 

 

「さすがに命を奪う気はないが……動きや武器の一つは奪わせてもらうぜ!」

「ん?」

 

 

 ノアへ向けて冒険者(仮)が割と素早く向かってくるが、ノアからしてみれば早いというのは最低でも能力封印しているレジェンド並くらいからであって、こんなものは早いどころかノロマレベルだ。

 

 

(悪いが……もらった!)

 

 

 目の前のノアが腕組み仁王立ちのまま動こうとしないのをいい事にすれ違うように通り過ぎる冒険者(仮)。

 ヒュ〜……という一迅の風がナルシェに吹く。どことなく緊迫感が流れている。

 

 

(……あいつは武器の類を持っていなかった。隠し武器の類もありそうにない。この様子だと向こうの女の子も……しかし、何だ……この寒気は……まるでまだ何か起きそうな悪寒がする。一体何が……)

 

 

 そこまで考えて、冒険者(仮)はノアが何かを手にしていたのを確認する。まさか武器を、と思ったがそれにしては何かがおかしい。

 

 

(……あれは、布……?ん?)

 

 

 視線を感じてそっちを向けばアクアが両手で顔を隠している。指の隙間から普通に見ているが。というかガン見。

 

 

「ふっ……」

「!?」

 

 

 ノアが何かを含んだ笑みを浮かべると、冒険者は先程以上に背筋がゾクッとした。それもそのはず……

 

 

 

 

 

「随分ご立派なダガーだな」

 

 

 

 

 

 冒険者(仮)が身に着けていたのは靴だけだったのである。

 

 

 

 

 

「ホワァァァゥ!?」

 

 

 

 

 

 慌てて股間を隠す冒険者(仮)。よく見るとノアの手には布……即ち冒険者(仮)の服だけでなく、手にしていたはずのダガーまで握られていた。

 

 

「いっ……いつの間に!?」

「ふ……これぞ秘技『盗み返し』也!!」

 

 

 簡単な事である。先程の動きがノアにとって遅すぎたため、すれ違う直前に冒険者(仮)の腕を弾いて武器を奪い、続けざまに衣服を剥ぎ取ったのだ。どうやって下着まで剥ぎ取ったかは企業秘密。

 

 

「返せ!俺の服!」

「武器はいいのか?」

「武器も!」

「どちらも断る!!」

 

 

 まるで子供のやりとりだ。そしてそこにトドメと言わんばかりの一言がアクアから発せられた。

 

 

「……ちっさ」

「!!」

 

 

 冒険者(仮)のHPが1になった!

 

 0にしないだけマシなのかもしれないが、ギリギリのところで活かしておくというのも生殺しに近くて嫌だと思う。

 ガックリ両手両膝をついてしまう冒険者(仮)。おい、見えてんぞお前の固定武器のダガー。

 

 

「終わりだ……どうせ俺はトレジャーハンターから『単小の冒険家』に格下げされてしまうんだ……」

「何やっとるんじゃお前ら」

「「「!!」」」

 

 

 さすがに騒ぎすぎたのか、もしくはその冒険者(仮)が訪ねてくるのが遅すぎたからか分からないが、その家の裏口のドアが開いて老人―ジュンが出て来た。

 

 

「ロック、いつまで経ってもやってこないかと思えば地面に這いつくばって何しておるんじゃ。おまけに何も身に着けず……新しいプレイでも始めたのか?」

「ちげーよ!!誰がンなプレイするか!!」

 

 

 ロックと呼ばれた冒険者は思いっきり反論するが、ジュンとしては彼よりもノアとアクアが気になっている。

 

 

「してお前さんたちは?格好からして帝国とは関係なさそうじゃが」

「ふむ、辺境ばかり巡りすぎて世間に疎くてな。帝国とは何だ?」

「「……え?」」

 

 

 アクアとロックは揃って間抜けな声を出した。アクアはノアがあまりにも自然な形で帝国とやらについて聞いている事に。そしてロックは目の前の人物が帝国の刺客ではない事に。

 

 

「……嘘ではないようじゃな。そっちの娘もか?」

「うむ。なにせ今回はその娘の根性叩き直しの旅でな。どちらかと言えば自然相手の旅路だったから街へはたまにしか寄っておらんのだ」

「それはまた難儀な……訳あって詳しく教えてる暇はないが、もし力になってくれるのであれば……」

「構わんぞ。旅とは言っても根性叩き直しというからには困難に自分から立ち向かわねば」

「私じゃなくてノア様が行動の主導権握ってるんだけど!?」

 

 

 仕方ない。アクアに答えさせたら間違いなくNOと言う。

 

 

「急ぐ必要はあるがとりあえず中へ。ロック、お前もいつまでそうしているんじゃ。さっさとこんか」

「……おう」

 

 

 釈然としないまま、三人はジュンに促され彼の家に入る。

 余談だが、後日このナルシェには突然真っ裸になる青い変態が出るという情報が駆け巡った。

 

 

☆☆☆

 

 

「まあ、何はともあれだ。よく来たなロック。ドロボウから足は洗ったのか?」

「じいさん、ドロボウじゃなくてトレジャーハンターだぜ」

「同じようなもんじゃろう」

「チッチッチ……大違いだぜ!」

 

 

 指を振って力説するロックだが、いい加減に自分で気付いてほしい。――片手で指を振り、片手は腰に当てている彼は未だに靴しか身に着けていないという事を。

 

 

「おいトレジャーハンターとやら。まずはその粗末なトレジャーを仕舞え」

「ヘアァッ!?」

「早く服着なさいよ!さっきからプラプラプラプラとドヤ顔しながらぶら下げて!」

 

 

 お前はガン見してただろ。正しくは現在進行形でも見ているが。

 いそいそと服を着直すロックだが、おそらく今後彼はこれをネタにからかわれ続ける事になるのだろう。

 それはさておき、ざっくばらんに帝国について説明されたノアとアクアは当面の間、ロックと共に行動する事にし、ジュンから帝国の操り人形にされていた少女の救出を頼まれる。

 

 

「じゃあ、俺たちはその娘を連れてナルシェから出ればいいんだな?」

「うむ。まずはフィガロ王のところへ」

「仕方ないとはいえ乗りかかった船、私達も付き合うとしよう」

「えええ……私たちはそのまま出ればいいじゃない……で、後で合流……」

「Don't say four or five!」

 

 

 ノアの言葉は訳すると『四の五の言うな』だ。ターボな風紀委員長がよく言っていた台詞である。しかも妙に発音が良い。変なところで芸達者なノア様。

 

 

「炭鉱の一部で崩落があったようでな。ガード達が気付くのもそう時間はかかるまい。頼むぞ、三人とも」

「任せときな!」

「逆境はさらなる高みへ進むために最高の環境だ」

「全ッ然私の意志は反映されてないんだけど!?」

「「「Don't say four or five!」」」

「伝染るの早すぎィ!!」

 

 

 ロックどころかジュンまでも侵食(?)する驚異のノアパワー。アクアだけではツッコミが足りなくなる可能性が出てきたぞ。

 かくして三人は少女が落ちた場所へと向かう。

 

 果たして少女を無事救出することが出来るのか。

 

 ロックはまたひん剥かれるのか。

 

 アクアは悲惨な目に合わずに済むのか。

 

 何よりノアはちゃんとフォローする気があるのか。

 

 

 

 しかしそれより何より重要なのは、次回遭遇するであろうガードリーダーが件の青い変態扱いされないかという事であった。




実際ロックはどれくらいのサイズか検討もつかない(そこかよ)。
次回はふかふかするあの生き物や原作ヒロインとの邂逅です。

激突!青い変態(脱がされた)VS青い変態(犬はいいが部下がマンモスまで連れてくる)!


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たまには武器ではなく素手でいけ

今回はモグたちモーグリとティナ初登場。
そしてやはりロックとアクアはろくな目に合わなかった……
やっぱこっちは本家と違ってギャグが大半を締めそうです。


 ナルシェの炭鉱。そこで崩落が起こった場所に三人は急行し、見つけた穴から下へと飛び降りる。

 その際ノアはアクアを抱えながらだったが、例の如くアクアが叫び声を上げた。蹴落とされなかっただけいいと思うのだが。

 

 

「毎度毎度叫び過ぎだ。少しは度胸を付けろ」

「度胸を付けろったってやらされる事がハード過ぎて無理だってば!!」

「おいおい、この程度で喚くなよ」

「うるさいわね!このお粗末トレジャー!」

 

 

 再びロックが瀕死状態に陥った。精神的に脆すぎないか、このお粗ま……トレジャーハンター。

目の前で件の少女が倒れているというのに自分まで倒れそうになっている。何しに来たんだお前。

 

 

「この娘が例の少女か。しかしまあ年頃の娘がこんな格好で外を彷徨くと危険だと分からぬものか……」

「ノア様ー私も年頃の女の子なんで守ってください♪」

「女神だろう、自分の身は自分で守れ」

「この()チートラマンんんん!!」

「それはキチガイをかけているのか鬼畜をかけているのかどっちだ?」

 

 

 倒れている少女の近くで漫才じみた事をやっている光神と女神。ロックはこの際無視する事にしたらしい。未だに復活していないし。

 

 

「いたぞ!帝国の女兵士だ!」

「む?」

「げ!見つかった!っていうか入り組んでるのによく見つけられるわね、あの連中。ガードという名のストーカー予備軍じゃない」

「誰がストーカー予備軍だ頭の弱そうな女!!」

「なぁぁぁんですってぇぇぇ!?」

「事実だな」

 

 

 だいぶ距離があるのに互いが互いに火に油を注ぐような発言をしまくっているアクアとナルシェのガードリーダー。

 ノアはさり気なくガードリーダーの発言に同意しているがアクアの怒りはガードリーダーに向いているため気付いていない。

 

 

「戦力を回せ!とりあえずあの頭の弱そうな女から捕獲する!」

「そこはこの娘じゃないの!?あんた仕事する気無いでしょ!」

「お前が言うな」

「ふぐっ……」

 

 

 何故かアクアが最優先ターゲットにされた。

 確かにアクアの言う通りなのだが、そもそもアクアも仕事をいい加減にやっていた結果こういう旅をするハメになっているのでノアから手痛い一言が放たれた。

 ……と、その時「クポー……」という声とともにノアたちの背後から可愛らしい足音がしたと思えば、これまた可愛らしい外見の生き物たちがやってきた。

 

 

「クポ!!」

「おっふゥ!?」

 

 

 いつまでへこたれてんだと言わんばかりの蹴りを背後からロックの股間に叩き込むふかふかな生き物。

 予想以上に効いたのか白目を剥いて涙を流しつつ悶絶しているロック。いやホントお前何しに来たの?

 

 

「わぁ!可愛いし度胸あるわね!」

「手助けしてくれるようだな。よし、この娘の護衛は任せて私達は青い変態を仕留めに行くぞ!……そういえばお前と粗末なトレジャーも青かったか」

「私は変態じゃないわよ!そこで倒れてるのは変態だけど!」

 

 

 もはや反論する気力さえロックには無い。アクアに粗末呼ばわりされ、ふかふか生命体モーグリに股間を攻撃された彼はもうどうでもいいやみたいに考えている。

 しかし……

 

 

「クポー!!」

「アァァァウチッ!?」

 

 

 モーグリの一匹……おそらくリーダー格のモーグリが手にしていた槍でブッスリとロックの尻を突き刺した。

 喝を入れたつもりだろうが別のものが失われた気がする。というかこれから先の旅路、ズボンの尻の部分に穴が空いたまま旅をするのだろうか……

 

 

「頼んだぞ、ふかふかの可愛い勇士たちよ!」

『クポー!』

「頑張ってねノア様!無事戻ってきたらナデナデしてあげガシッ!!……え?」

「万が一、武器が必要になったら困るのでな。こいつは『持っていく』ぞ」

「え?ちょっ、武器?持っていく?」

 

 

 理解が追いつかないアクアを脇に抱えてガードリーダーへ突撃していくノア。

 あり得ない速度で迫りくる謎の男女(片方は抱えられてるだけ)に謎の恐怖を感じたガードリーダーは急いで指令を出す。

 

 

「そ、総員!あの男女を狙え!」

「甘いな、指示に本当の意味で気合が入っていない。勲や十四郎ならばもっと的確かつ鼓舞しつつ指揮が出来る。半端だな、お前は」

「な……何だと!?」

「ふんっ!!」

 

 

 アクアを抱えているため片手しか使えなかったが、その片手で繰り出したパンチ一発の衝撃波でマンモスらしきモンスターが数匹消し飛んだ。

 

 

「「「はァ!?」」」

 

 

 先程までダウンしていたロック、抱えられてるアクア、そしてガードリーダーまでもが驚愕する。

 

 

「半端ならそれを補うべく自分でかかってこい!」

「くっ……仕方ない!全員私を援護……」

 

 

 しろ、と続けたかったが部下のガードはおろか護衛の犬か狼か判断に困る生物も一緒に逃げ出していた。

 

 

「うおぉい!?待てお前らァァァ!?」

「無理ですリーダー!倒されるならまだしも消されるとか保険意味を成さないじゃないですか!」

「クゥゥゥン!ガルルバウバウ!」

「オメーは何言ってるかわかんねーよ!!」

 

 

 部下にも見捨てられたガードリーダーは覚悟を決めた。……しかし、目の前には何故か固まったアクアを思いっきり振りかぶるノアが。

 

 

「……え?」

「いぃぃやぁぁぁあああ!?」

「食らうがいい!奥義!アクアインパルス!!」

 

 

ドゴシャァッ!!!

 

 

「「  」」チーン

 

 

 ガードリーダーにアクアがクリティカルヒットし、両者共に気を失った。ノア様マジ鬼畜。

 これにはさすがのモーグリたちも冷や汗を垂らしている。よもやアクアを武器として使うなど……実は薄々勘づいていた。

 そこでロックはようやくチャンスと気付く。

 

 

「恩に切るぜ!モーグリたち!」

 

 

 いや、自分ら何もしてないんですけど。

 ついでにオメーも何もしてないだろ。

 

 そんな言葉をモーグリ一同全員が思いつつ、本気で何しに来たのか分からないまま撤収して行った。

 オイシイところだけ持っていこうとしたロックであったが、そうは問屋が卸さない。気絶したアクアを抱えている反対の方向にノアが少女を抱えたのである。

 

 

「道案内は頼むぞお粗末」

「いや、その子は俺が……」

「いいから走れェェェ!!」

「はいぃぃぃっ!?」

 

 

 ノアに怒鳴られてロックはすたこらと先行するがノアも離れず付いていく。

 炭鉱を進んで行き、出口近辺で一休みすると同時に少女とアクアが意識を取り戻した。

 

 

「う……ううん……ここは……?」

「おっ?目が覚めたかい?」

「うぅ……まだ頭が痛い……まさか本気で武器にするなんて……」

「戦う気がないお前が悪い」

 

 

 これまた凄い差である。片や心配され片や心配どころかキッパリ言い捨てられるという正反対の事態がすぐ近くで起きていた。

 

 

「あなたが助けてくれたの?」

「モーグリたちに感謝するんだな」

「あんたはそのモーグリとやらに股間を蹴られた挙げ句尻を槍でぶっ刺されて悶絶してただけだもんね、ぶふっ!」

「……え?」

「うわあああっ!?なんでそれを初対面の子に言うんだよっ!!」

 

 

 アクアから暴露されたロックの情けない状態を聞いた少女はそっとロックから距離を置いて近くにいたノアに聞いてみる。

 

 

「もしかして、助けてくれたのはあなたの方?」

「いや何、お前の護衛をモーグリに託して相手の親玉を叩きのめしただけだ。そう大それた事をしたわけではないぞ」

 

 

 確かに文字通り叩きのめした。アクアで。

 とりあえず汚名返上すべくロックは話題を切り替えるように自己紹介する。

 

 

「俺はロック。君は?」

「私は……ティナ。帝国の兵士……だった」

「だった、とは?」

「……わからない。どうして帝国の兵士だったのかも」

「記憶がないのか!?」

 

 

 あたふたするロックの頭を容赦なくひっぱたくアクア。ノアは腕組みしつつ目を伏せて黙って聞いている。

 

 

「あんた何初対面でそんな事を突っ込んで聞くのよ!デリカシー無いわね!」

「いきなり叩くなよチキン女!」

「何よ穴空きズボン男!」

「ファッ!?」

 

 

 早速指摘されてズボンの後ろを触ってみると妙にスースーする……つまり下着まで貫通していたようだ。

 

 

「ウッソだろおい!?この状態で行けってのか!?」

「町歩く度にクスクスされるわねープププ」

「ふざけんなァァァ!!」

「ガムテープでも貼って誤魔化しておけ」

「あるわけないだろそんなもん!」

 

 

 しかしノアは無造作に空間に手を突っ込んでそこからガムテープを取り出した。ついでに青マーカーも。

 

 

「ここにある」

「「「何今の!?」」」

 

 

 三人の驚きには応えず、ノアは容赦なくガムテープをロックのズボンに貼り青マーカーで着色する。微妙に頬を染めてるロックだが現在の絵面としては果てしなく情けない。もしくはキモい。

 

 

「別の町で買い換えるまでこれで我慢しろ」

「し、仕方ないよな、うん」

「……ティナ。こっちにいましょ」

「……ええ」

「おォい!?二人して何か汚いものを見る目で見ないでくれ!?」

 

 

 ススス……とロックから離れるアクアとティナに彼は涙目で懇願した。

 

 

「どうせこの後『俺が守ってみせる』『決して見捨てたりしない』とか歯の浮くような台詞を言う気だったんだろうが、今の状態では逆効果だな。諦めて今のお前のキャラを大事にしろ」

「逆効果って言った次の瞬間に今の自分を大事にとか意味が分かんねーんだけど!?ダメ人間な自分でいろってか!?」

 

 

 キリッと言い切ったノアだがロックの言う通り支離滅裂というかダメ人間でいろというのは少々酷だろう。

 何はともあれ、ロックの男として大事な何かと引き換えに無事ナルシェは脱出出来そうだ。

 

 

「それで、ここを出てそのフィガロ王とかやつの言うところに行くんでしょ?」

「ああ」

「王って言ったら金持ちよね……懐柔したらいいパトロンになりそう」

「ぱとろん……?」

「ティナ、お前はそのままでいい。アクア、せめて誰もいないところで呟け。何ならナルシェに投げ入れてやろう」

「ゴメンナサイ捨てないで」

 

 

 意地の悪そうな笑みから一転して見事なDO☆GE☆ZAを披露するアクア。こいつ、ヒロインだよな?

 

 その後、ナルシェを出る直前に入った『初心者の館』でようやく護神隊の面々と珍妙な再会というか、合流する事になるのだが……コレ小説なのにセーブポイントとか教えんのかあそこで。




この量だとやっぱりサクサク丁度良く書けますね。
オリジナルありでもノアとアクアが動かしやすくて、原作もゲームだからイメージしやすいですし。

次回、『銀髪天然パーマは血糖値に気をつけろ』

あの世界のポーションやエーテルはアルコール入りなのか糖分入りなのか。


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銀髪天然パーマは血糖値に気をつけろ

現在の戦力

ノア(主戦力)
ティナ(サポート役)
アクア(武器)
ロック(ネタ)

……結局戦えるのはゲーム同様二人じゃん。
一人バグキャラ混じってるけど。


 ガードリーダーを気絶させ、ナルシェの炭鉱から脱出したノア、アクア、ロック、そしてティナの四人。

 これからフィガロ王とやらがいるフィガロ城とやらを目指すのだが、多少なりとも準備はしたい。

 

 

「……って言ってもなあ」

「どのみちナルシェには入れまい。そのフィガロ城とやらへの道のりに町や村はあるのか?」

「いや、民家一つない」

「えええー!?それじゃあどうするのよ!言っておくけど私とノア様はここらへんの事、全然わからないのに!」

 

 

 つまり物資の補給もままならぬ状態でフィガロ城まで辿り着く必要があるのだが、ノアは別としてもロックやティナ、アクアまで大丈夫というわけではない。

 

 

「ねえ、みんな……ここは?」

「「ん?」」「え?」

 

 

 ティナが指差したのは目の前の大きな家屋。

 ナルシェの門の横に建てられており、看板には『大事な冒険の前に必ず学ぼう!初心者の館』と書かれている。何故か日本語で。

 何故日本語なのかはこの際気にしない。気にしたら負けだ。

 

 

「初心者の館ねえ……」

「いいじゃない。あんたはどうでもいいかもしれないけどノア様はここいらの、私やティナは旅自体初心者よ!」

「あまり威張れる事でもないがな」

「あの……」

 

 

 力説しているアクアと呆れ気味なノアにおずおずとティナが声をかける。

 

 

「どうしたの?」

「そういえば、ロックの名前は聞いたけど貴方と彼の名前を聞いてなくて……そっちはノア……様?」

「様はいらんぞ。ただしアクアお前は駄目だ」

「ええーっ!?だって結婚したらあなたとかダーリンとか色々呼び方変わるじゃない!」

「色々ぶっ飛んでいる気がするがこの際それはどうでもいい。そもそも私はお前の上司のさらに上司だという事を忘れてないか」

 

 

 ガチで忘れていた。たぶんさっき武器として使われた時に飛んだのかもしれない。

 

 

「それから……貴女がアクア?」

「そう!私が水のスパァン!めぎっ!?」

「メギドフレイムを撃ちたい厨二病娘だ」

「いや、水のメギドフレイムとか打ち消し合ってるし意味不明だろ」

 

 

 案の定アクアが口走りそうになったところをノアが頭をひっぱたく事で阻止した。相変わらず頭が弱い。物理的には強いかもだけど。

 

 

「まあ何にせよ、略式の自己紹介も終わったし中に入ってみるとするか」

「もし何かの罠だったら?」

「家屋ごと消し飛ばす」

 

 

 一番物騒なのはノアだった。

 

 

「行くぞ!」

「おー!」

「お、おー……」

「はぁ……やれやれ」

「「お粗末トレジャーノリが悪い、やり直し」」

「なんでこういう時だけ息ピッタリなんだよ!!」

 

 

 その後ヤケクソになって気合入れて叫んだロックのスボンのガムテープがド派手に破ける事になったが、知ったこっちゃない。

 

 

 

 

 

「「…………」」

「おい、兄さん大丈夫か?」

「あ゛ぁ〜……おいこの回復の泉の水ってのはステータス異常も治すんじゃねーの?全然二日酔い治らねーじゃねェか」

「二日酔いなんてステータス異常ねーよ!」

「あ?何言ってんだ立派なステータス異常だろーが。やべーよこの感覚……身体に毒素回ってる気がする」

「そりゃ飲み過ぎは身体に毒ってだけだろ!?」

「分かってねーな。人間ってのはなァ、日々毒と戦ってんだよ。社会に潜む毒と知らず知らずのうちに戦いながら生きてんだよ」

 

 

 初心者の館に入って早々ノアとアクアが見た人物。それはノア直属の護神隊、その中心人物の一人。

 銀髪の天然パーマに死んだ目をした、和洋折衷の衣装に身を包み木刀を腰に差した男。その名は……

 

 

「銀パじゃない!」

「オイ誰だァァァ!?あのダメアマと同じ呼び方した奴はァァァ!!……あ?」

「おお!やはり銀時ではないか!」

「あ、ノア様じゃねーか。うぃーッス」

「なるほど、お前が……いやお前たちが来てくれたのか。心強いし賑やかになるな」

「ま、アンタとの旅は退屈しねーし何だかんだ言って俺も楽しいからな。また一緒にバカ騒ぎといこーや」

 

 

 嬉しそうに頷くノアと笑みを浮かべながら拳を軽くぶつけ合う銀時。

 この二人、相当堅い絆で結ばれているようだ。一体化したらジュネッスシルバーとかになりそうである。……これノアの次に強そうじゃね?

 

 

「んで、ノア様がいるっつー事は……」

「フフン!私がいるって事よ銀パ!」

「だから銀パって言うなァァァ!前々から聞いてんだろーが!何だその銀髪にも天然パーマにもなれない中途半端な表現!!」

「『銀髪で頭クルクルパーな天然パーマ』略して銀パよ!」

「どっちも混ざってるどころか間にスゲー腹立つ言葉挟まってんだけど!少なくともその真ん中の部分はテメーにだけは言われたくねーんだよォォォ!!」

 

 

 ギャーギャー罵り合うその男――坂田銀時とアクアをポカンと見ているロックとティナ。

 ノアはこのままだといかんと思い二人を諌める。

 

 

「二人とも落ち着け。まずはお互い紹介し合わねばならんだろう」

「チッ……ノア様に言われちゃ仕方ねー。大串くんとかだったら聞く必要なかったけどな」

「マヨ方と比べないでよ小豆丼パーマ」

「また名前変わってんだよコノヤロー!それから小豆丼じゃねェ!宇治銀時丼だ!それぐらい覚えとけパープリン女!」

「なぁぁんですってぇ!?」

 

 

 今回はアクアが悪い。銀時はなんとか引き下がったのに変に突いてまた銀時の神経を逆撫でしているし。

 そうすると今度はバタバタと足音が二つ分追加で聞こえてきた。

 

 

「あー!新八ぃ、ノア様とアクアがいたアル!」

「やっぱり銀さんとアクアちゃんの言い争いか!奥の部屋まで聞こえてきてましたよ!?」

「おーうオメーら仕事だ。ノア様の足枷になってるこの自意識過剰な駄目女をシバくぞ」

「オイィィィ!?再会早々何やらかそうとしてんだアンタは!?」

「銀ちゃん、アクア倒しても経験値どころか1ギルも手に入らなさそうアル。ここは別の町で売りさばいた方が良い値で売れる可能性があるネ!」

「こっちはこっちで何人身売買しようとしてんだァァァ!?」

 

 

 奥から新たに二人が合流して騒がしさが増していく。もうロックとティナは情報処理が追いついていかない。

 とりあえず、三人ともノアやアクアの知り合いだというのは見てわかった。何故かアクアとは犬猿の仲っぽいけど。

 

 

「いや、そろそろ紹介してほしいんだけど……」

「あ、すいません!こっちばっか騒いでて……」

「……なんかお前小さそうアル。脱いでみろよ」

「初対面の人に何セクハラ発言かましてんだァァァ!スイマセン青い人!謝るんでその orz 体勢止めてください!!」

 

 

 見せた事もないのに小さいとか言われてロックはまたも大ダメージ。いや親しくもない異性に堂々と見せた事があるのも問題だけどさ。

 

 

「そこのお粗末トレジャーはどうでもいいわ!ティナに紹介すれば後で自分から聞いてくるでしょ」

「では前置きがやたら長くなったが、紹介させてもらおう。まず、こちら……私が絶大な信頼を置く男、坂田銀時」

「よろしくなーミステリアス少女。俺の事は親しみを込めて銀さんと呼びなさい」

「えっと……銀さん?」

「そーそー、素直で良い子じゃない。どっかの暴食娘や飲んだくれより全然可愛げあるぜ」

「「ちょっと表出ろコルァ」」

 

 

 自覚あるんじゃねーか、と銀時は思ったがこれ以上ノアに手間をかけさせるのも悪いと思い受け流す。

 

 

「それからこちらは志村新八。この銀時の秘書的な立場だ」

「志村新八です。……なんか他の小説と比べてマシな紹介された気がする……!」

「ノア様、そんな持ち上げる事ないアル。いつも通りアイドルヲタのダメガネで十分ネ」

「おいおい、そこはせめて地味なツッコミダメガネにしとこーや」

「ふざけんなテメーらァァァ!どっちに転んでもダメガネから離れられないだろーが!」

 

 

 結局、ノアによるまともな紹介も他の二人によって塗り潰されてしまう。哀れ新八。

 

 

「そして最後が紅一点の神楽。戦闘民族である夜兎族の出身でな、見た目はこの通り愛らしいが強さは桁違いだぞ」

「ノア様から紅一点言われたアル!キャッホォォウ!!」

「ちょっと!?私は違うの!?」

「神楽も紅一点っつーかマスコットだけどよォ、オメーはステータスを下げる呪いの装備じゃねーか」

「解ける事ない呪いの装備を頭に永続させてる奴に言われたくないわよ!」

「天然パーマのどこが呪いの装備だコルァ!」

 

 

 まあ、マスコット扱いでも呪いの装備扱いされるより全然マシである。というかこの理論だとこのパーティ、序盤にも関わらず呪いの装備を二つも装備したままエンディングまで行かなければならない事になる。

 ハードモード確定。

 

 

「「どういう意味だ地の文んんん!!」」

 

 

 それはさておき、今度はティナとお粗ま……ロックを紹介する必要がある。

 

 

「して、こっちがティナ。記憶を失っているようでな、そこにはあまり触れずフォローしてやってくれ」

「わかったアル!同じ美少女同士よろしくお願いするネ!」

「あ……ええ、よろしくね」

「ちゃんと笑えてるアル。それなら大丈夫ネ。あ、でもノア様はいいけどこっちの二人は駄目アル。甲斐性無しだからな」

「……え?」

「「誰が甲斐性無しだァァァ!!」」

「趣味が酒とパチンコの奴とアイドルの追っかけしてる奴に決まってんだろ」

 

 

 なんか最後は標準語になってる神楽。間違っていないのが悔しい二人であった。

 そして残るは未だに凹み続けている最後の一人。

 

 

「ここで凹んでいるのがトレジャー(小)ハンターのロックだ」

「トレジャー(小)ハンターって何ィィィ!?」

「どーせさっき神楽が言ってた通り小さいだけだろ?脇差みたくよォ。ま、俺のはエクスカリバーだけどね。伝説の装備だから」

「ならば私のはラグナロクだな」

「アンタら何の話してんだ!!」

 

 

 確かに一般的なダガーに対してエクスカリバーとかラグナロクとかとは勝負にならないだろう。

 いや、マジで何の話だコレ。

 

 

「とりあえず紹介としてはこんなところか。しかし三人は何故ここに?」

「いやよォ、一応護神隊で俺らか元チンピラ警察のトップ三馬鹿かで話し合ってたんだが……」

「ギンちゃんから呼ばれてあのゴリラ一味が途中退室したからなし崩しに決まったアル」

「神楽ちゃん、ギンガビクトリーさんはちゃんと言わないと銀さんと混同しちゃうってば。まあ、そういう事であまり時間もないって事で早く準備して僕らがこっちに来たんですよ」

 

 

 そして、丁度タイミング良くノアらが炭鉱を脱出した時に転移成功し、辿り着いたのが偶然にもこの初心者の館だったというわけである。

 それはそれとして、いきなり転移してきてもアッサリ対応している初心者の館の面々はメンタル強いな。

 

 

「ふむ、説明御苦労。何にせよ一気に戦力増強出来たのは嬉しい誤算だな。ちなみにこの初心者の館では何か得られたか?」

「駄目アル。メニュー画面どうこうとかセーブポイントがどうとかしか教えてくれないヨ」

「しかもさァ、宝箱開けたらなんかバトるハメになったしよ。腹が立ったから『このように宝箱にモンスターが潜んでいる事があるから気をつけろ』とか言ってた殺人未遂ヤローから有り金ぶんどってきたわ」

「オイィィィ!?そっちの方がよっぽど強盗してんじゃねーか!!返してきてください!今すぐ!」

「何バカな事言ってんだ新八ィ!こちとら開けるように誘導されて開けたらこんな感じのお陀仏必至案件だぞ!?有り金程度で済んでるだけマシだろーが!」

 

 

 ぶんどる。これ、ロックがあるアクセサリーを装備する事でぬすむから変化するコマンドである。

 銀時はアクセサリー未装備でも普通に使えるようだ。普通に使ったらマズい気がするんだけどさ、コレは。

 アイデンティティーがどんどん奪われているロックが名誉挽回するためには、フィガロ王と知り合いであることを現地で証明するしかない。

 

 

「いずれにせよ、我々にとって有益な情報はなかったな。道具の類の補充も出来んようだし……こうなったら爆速でフィガロ城とやらに向かうとしよう」

「最初からそうしようぜ……向こうには俺が入れば顔パスで入れるから」

 

 

 これで少しは尊敬されるかも、と甘い考えをしていたロック。しかし彼らの反応は……

 

 

「あ、そうなの?んじゃあ別に門前払いとかはねーな」

「もしそんな事されたらその粗末なモン引き千切るアル」

「というわけだ。嘘だったらその命、私に返すがいい」

「神楽ちゃんとノア様物騒過ぎなんだけど!!」

 

 

 ……あれ……?

 

 予想していたのと全く違う反応の銀時、神楽、ノア、新八。

 ついでにアクアとティナは、アクアがティナに泣きついていた。何気に呪いの装備扱いは傷ついたようだ。女の子だもん。

 

 

「よし……いざ行かん!フィガロ城へ!」

「「オォォォ!!」」

「いやホント毎度おなじみだけど大丈夫かな……」

「ちゃんと私とティナを守ってよね!」

「え?私はそれなりに戦えるけど……」

「俺、もう心折れそう……」

 

 

 とにもかくにも一行は初心者の館を後にして一路フィガロ城へと歩を向けた。

 この凸凹癖強パーティは後にこの世界の歴史に名を残す事になる。

 

 

 手始めに、この先のフィガロ城で出会う連中が敵味方関係なくその踏み台にされる事はなんとなく予想出来た。

 

 

「そういやよォ、こっちで売ってるポーションとかいう回復薬っていろんな味があるらしいぜ。いちご牛乳味とかねーかな」

「酢昆布味が欲しいアル!」

「何その珍味!?」

 

 

 改めて思う。大丈夫かこのメンツで。




万事屋メンバー加入でさらに混沌としてくるこのパーティ。
今後の加入メンバーが悲惨な目に合いそうだけど気にせず突っ走ります。

次回『国王だろうが浮気症な奴はそれだけでアウト』

ハーレムってのはそう簡単なモンじゃない。


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国王だろうが浮気症な奴はそれだけでアウト

今回、第二の被害者が登場。
国王だろうが容赦なし、江戸の魔境歌舞伎町で生きてきた万事屋メンバーは現在向かうところ敵なし(メンタル面で)。

これ、仲間が増える度に精神やられてくんじゃね?


 ナルシェ(正確には初心者の館)を出発し、地図上では南西に位置するフィガロ城を目指して歩を進めるノア一行。

 道中出てきたウサギのようなモンスターをしばき倒しつつ、フィガロ城があるという砂漠へと到達した。

 

 

「よし、ここまで来ればフィガロ城は目と鼻の先だ」

「よしじゃねーよ股間ダガー!テメー戦闘中『ぬすむ』しかやってねーだろーが!ほとんど俺とノア様と神楽がぶっ倒してたぞ!しかも戦利品がその毒々しい色したポーションって何の冗談だァ!?」

「そうアル!百歩譲って酢昆布味だったらまだしも、明らかにそれは溜まってた毒素を放り出して新しい毒素を溜め直しそうなポーションネ!」

「酢昆布味だったらいいのかよ」

 

 

 ドヤ顔のロックに対して抗議の声を上げる銀時と神楽。新八はジト目でツッコんでいた。ウサギって酢昆布好きなのか?

 

 

「妙薬口に苦し、きっとコイツは見た目よりも強力なポーションに違いなゴボォッ!?

「「だったらテメーが試してみろやァァァ!!」」

 

 

 青筋を浮かべながらロックが手にしていたポーションを奪い取り、神楽がロックの口を開けさせ銀時がそこにポーションを容赦なくぶち込む。何この鬼畜コンビ。

 

 

「大変……!ロックの顔の色がおかしいわ!」

「え?そう?」

「問題ないな。ハルクもあんな色だった」

「ハルクって誰!?」

 

 

 肌の色が緑色になっていくロック。明らかにキモ……おかしい。普通の人間がしていい色ではない。

 

 

「お?マジで超人とかになっちゃう系のポーションだったのか?」

「銀ちゃん、でもきっと股間のダガーはそのままアル。身体全体が大きくなっても結局そこはお粗末ヨ」

「んな事言ってる場合かァァァ!!」

「ここで倒れられては不法投棄になるな。この毒消しを使うぞ」

 

 

 ノアが取り出したのは毒消しの薬。ではなく草。

 

 

「えええええ!?草そのものなんですけど!?」

「わ……私、ポイゾナっていう解毒魔法使えるから!」

「ここで簡単な方に流れてしまえば奴のトレジャー(小)はトレジャー(小)のままだ。PLUS ULTRA、乗り越えていけ!そして食え!」

「ガボァッ!?」

 

 

 部下が部下なら上司も上司だった。マジ容赦ねえ。

 毒消しの草をノアに思いっきり口に突っ込まれたロックは泡を吹きながらも元の顔色に戻る。しかし意識は失ったままだ。

 

 

「何よ〜ホント情けないわね。とっとと起きなさい!ゴッドブロー!!」

 

ゴスゥッ!!

 

「パウゥゥゥ!?」

 

 

 アクアの鉄拳を腹にめり込ませながらも意識を覚醒させたロック。初登場時から踏んだり蹴ったりならぬ蹴られたり突っ込まれたりである。

 

 

「ちょっ……ちょっとタンマ……!」

「む?アレではないか?」

「おーさすがノア様。砂漠入って早々見つけたぜ」

「ホントアル!ようやく休めるネ!」

「そんな都合よくいくかな……」

「あのねえ新八、そんなネガティブな感情はこの砂漠にでも捨てておきなさいよ。何かあるたびにそんなんじゃ何も出来ないわ」

「……アクアはなんで私の後ろに隠れてるの?」

 

 

 ロックを放ったらかしにしてフィガロ城へ向かって歩き始めるノア一行。仕方がないのでロックは途中でノアが戻ってきて襟首を掴みながら連行した。

 

 

「ちょ……人を猫みたいに……」

「猫は可愛い。お前と一緒にするな」

 

 

 強引に毒ポーション飲まされたというのに理不尽である。ロックが盗んだものだけど。

 とりあえず城門前まで行き、そこの番兵にロックを見せた。

 

 

「ん?お前は……よし入れ」

「……おう……」

「任務御苦労。では行くぞ皆の者」

 

 

 何だアレと思いつつ、しっかり返事しているし大丈夫だろうと思った番兵はノアたちを城内へ招き入れる。

 とりあえずこういう時は玉座を目指そうという事になりひたすら直進。

 

 

「マジでファンタジーアルな。絶対『よく来た勇者よ』とか言って魔王と戦わせようとする王様がいるヨ!」

「あ〜そうそう!だったらあんたがまず戦いなさいよって奴がふんぞり返ってきらびやかな衣装で座ってんの!最近だとさ、勇者が魔王倒しても功績を横取りしたりして勇者の反感買って逆襲された結果滅んだり落ちぶれたりするのよね!」

「そ、そうなの……?」

「そうネ!だからティナも甘い言葉を言ってくる奴は要注意アル」

「炎の魔法使えるみたいだし、いざとなったら股間燃やして逃げちゃいなさい!」

 

 

 なんかこのパーティ股間に執着しすぎな気がする。しかも思いっきり物騒な事を口にしてる。

 

 

「ノア様、銀さん……このパーティって女性強いですよね」

「何言ってんだ新八ィ。アレはティナ以外女じゃなくてゴリバキィッ!!

「「女じゃなくて何だコノヤロー!!」」

「そういうところが女じゃねーんだよ!普通の女が背後から息の合ったドロップキックしてくるわけねーだろ!」

「やーねー自分の価値観押し付けるなんて」

「全くネ。だから銀ちゃんは彼女いない歴=年齢を更新し続けてるアルよ」

「うるせェェェェェ!!」

 

 

 最後の最後で涙目になった銀時。確かに一般的な女性なら二人がかりで背後からドロップキックはない……と思う。たぶん。

 グダグダしながら玉座に辿り着くとそこにはまだ20代から30代くらいと思われる男性が一人だけ座っていた。

 

 

「あの者がフィガロ王とやらか?」

「ああ」

 

 

 キリッとしたロックだが初登場から今までの道中を振り返るとロクな活躍をしていない。ロックだけに。

 今更キメられても……相変わらず尻の部分に穴開いてるし。

 男性が玉座から立ち上がり、ロックと何やら話し込んでティナを見る。

 

 

「この娘が?」

「貴方は……?」

「おっとこれは失礼。私はエドガー。このフィガロの国王だ」

「ビックリしたろ?俺が王様と知り合いなんて」

「「「「「いや全然」」」」」

「……え?」

 

 

 ティナは応えなかったがノア達はしらっと言い放った。あまりの即答にロックはもちろん、エドガーさえも間抜けな顔になってしまう。

 

 

「今時国王と知り合い程度で威張れるような世の中でもあるまいに」←最高位の光神

「やっぱりお粗末トレジャーだけあるわね」←一応水の女神

「こちとら将軍とだって知り合いなんだけどよォ。恩恵なんて録すっぽねーし」←ノア直属の護衛

「結局虎の威を借る狐アルな」←ノア直属の護衛

「というわけなんでドヤ顔されても困るんですけど……」←ノア直属の護衛

 

 

 相手が悪かった。

 銀時らからすればロックやエドガーがノアとこうして普通に会話してる事の方がすごい事だと言えるのだが、そこは言わないでおく。

 

 

「……ロック、彼らは?」

「よく分からんけどあの水色の根性叩き直しの旅の最中とか……」

「誰が水色よ毒ポーションしか盗めない三流お粗末トレジャー」

「なんか増えたァァァ!!」

 

 

 むしろアクアではなく共に旅をする連中のメンタルを鍛えに来てるんじゃないのかと。

 

 

「しばらくこの城でゆっくりするといい。この国は帝国と同盟を結んでいる。いきなり攻め込んできたりはしないはずだ」

「どうして私に優しくしてくれるの?敵かもしれない私に」

 

 

 そして、エドガーの次の台詞を言った事が彼の精神に絶大なダメージを与えるハメになるなど予想もつかなかっただろう。

 

 

「レディに優しくするのは当然のことさ。第二に君の好きなタイプが気にかかる……」

「「君『の』?」」

「へ?」

 

 

 この言葉に反応したのが神楽とアクアである。

 

 

「アクア、私たちは数に入ってないみたいアルな。女好き気取ってる割に選り好みなんて女好きの風上にもおけないアル」

「そうよね。それでもって後から『違う』とか『そんなつもりじゃなかった』とか言い訳した挙げ句『こっちにも選ぶ権利がある』って逆ギレしたりするのよね〜」

「そもそもあの程度のイケメンなら星の数ほどいるアル。あれに執着する必要性なんて感じないネ」

「国王っていうのも逆にヘイト集めやすいところがあってプラスとは言い切れないわよね。式典かなんかで大衆の面前に出てる時に狙撃であぼーんとかありそうだし」

「「結論から言うとアウト」」

 

 

 ドシャァッ……と力無く倒れ、涙を流しながら笑うエドガー。とことんボロクソに言われて自信喪失したようだ。

 

 

「エドガァァァァァ!?」

「江戸が?」

「エドが?」

「お前らちょっと黙ってろ毒舌コンビ!!」

 

 

 同じような経験があるロックは同朋の身を案じたが、エドガーは大丈夫大丈夫と言い、焦点の合っていない目から涙を流しつつフラフラと退出する。

 マジでヤバくねーかアレ。

 

 

「おーいオメーら、俺とノア様はもうダベるから探検でも昼寝でも好きにやれや。ただし城からは出るんじゃねーぞ、迷子になって探しに行くなんざゴメンだからな」

「よし銀時、この城に売店らしきものがあるようだし……ロックの盗んだゲテモノではないポーションでも買って晩酌といくか」

「よっしゃ売ってろよ、いちご牛乳味!!」

 

 

 そんなエドガーを心配する事もなくノアと銀時は休む気満々である。

 

 

「ちょっ……!ノア様も銀さんもあの人の事心配じゃないんですか!?」

「あ?勝手にナンパしくじって逆襲されただけだろ。こっちから手ェ出したならまだしも、テメーからやってああなったならただの自業自得だ。いい歳した大人のケツなんざ拭いてやる気はねーよ」

「不特定多数の女性に声をかける以上、こういった事態は想定しておくものだ。世の中の者はハーレムや一夫多妻を良い物と考えているかもしれんが、実際はそんな簡単に成立したり維持出来るものではない」

 

 

 あとは自分たちで考えろ、とノアと銀時も退出してしまう。新八とロックも釈然としないまま出ていき、残された女性陣はというと……

 

 

「銀パはともかく、ノア様ってこういうのを結構深く考えてるのね」

「伊達に神使をたくさん抱えてないアル。ガチのハーレム構築者は言う事もまさにモテ男の格言ネ」

 

 

 ティナとしてはノアがそこまでの人気者とは知らなかった。ノリがよくて強い人物だとは思っていたが。

 同時に女性の隠れファンが多いのが銀時だ。

 

 

「さ!一休みする前に城内物しょ……探索に行きましょ!」

「今物色って言いそうにならなかった?」

「ティナ、細けーこたぁ気にしないアル!」

 

 

 そして城内を三人が探索した結果。

 

 

「あのスケベキング、幼女までナンパしてたアル」

「てことは何?私たちは幼女以下?また腹立ってきたわ」

「それから……彼に弟さんがいたって教えてくれたばあやさんも口説いたって……」

「「マジで去勢すんぞあのヤロォォォ!!」」

 

 

 変なところでエドガーの武勇伝(?)を聞かされる事になった。老若関わらず手当たり次第、少なくとも城内の女性には声をかけまくっていたらしい。

 まさかの事実に神楽とアクアは尚更自分たちが眼中になかった事を腹立てている。

 

 

「にしてもアイツ兄ちゃんだったアルな」

「意外よね。弟は城を飛び出して行方知れずみたいだけど」

「マッシュさん……だったわよね。相手が女性じゃなくても優しかったって」

「兄貴とはエラい違いアル」

「もしくは兄貴がアレだからまともになったとか」

 

 

 エドガーの弟・マッシュ。

 病に倒れた父である先代フィガロ王を心配していたが、周りの者が父ではなく国……フィガロの方を心配していた事に憤りを感じ、先代が亡くなってすぐに国を出たそうだ。

 

 

「神威とは逆アル。あれはあっちが飛び出して行ったアルからな」

「そういえば彼そんな事を言ってたわね」

「神威……?」

「私の兄貴アル。しばらく前までは喧嘩してたネ」

「あれそういうレベルだった?」

「パピーとは本気で殺し合いレベルだったヨ」

 

 

 アクアはそうでもないがティナは絶句している。簡単に言ってはいるが彼女は相当ハードな家庭で育ったようだが……

 

 

「今は平気ネ。マミーもパピーも兄ちゃんもいるアル。パピーの毛根だけは帰って来ないけどな」

「ぶふっ!」

「ぷっ……」

 

 

 彼女の最後の一言で重い部分が吹き飛んだ。今日も彼の頭はスースーしている事だろう。

 そんな感じで女子同士交流を深めつつ休もうとしたら……

 

 

「なんでここにいるアルかお粗末」

「いや、俺の事詳しく教えてなかったなって……」

「別にいいわよ。モーグリに股間蹴られて尻刺された男の事知ってどうすんの?」

「エドガーさんから聞きました。ドロボウさんなんでしょ?」

「トレジャーハンターさ」

「見栄張ってんじゃねーよ負け組が」

「定職着きなさいよ無職」

 

 

 神楽が標準語になるくらい冷たく突き放された。同作品では最も主人公らしいと言われた彼は既に無く、もはやネタ枠が確定しつつある。

 

 

「実はティナにあってほしい人がいるんだ」

 

 

 真面目に言う彼だが、涙目でプルプルしながらひくついた表情で言われても真剣味が薄い。そこまでやったのは神楽とアクアだけど。

 

 この後、ある魔導士がフィガロへと来訪する。

 その者とはこの先長く関わっていく事になるのだが、ハッキリ言ってご愁傷さまとしか思えない。

 

 そして……

 

 

「マジでいちご牛乳味あったぜキャッホォォウ!!」

「ポーションというから炭酸入りぐらいあるかと予想していたが予想通りあったぞイェア!!」

 

 

 ……主人公格二名は宣言通りポーションがぶ飲みしていた。何やってんだお前ら。




着々と近づいてくるさらなる犠牲者。
味付きポーションを飲みまくるノアと銀時。
更にこき降ろされたロック。
そして今回ラストで触れられなかった新八とエドガー。
何より舌戦無双しまくる神楽とアクア(+ティナ)。

次回、『ピエロは道化で人を楽しませるのであって楽しませなきゃただのメイク野郎でしかない』

魔導アーマーがあれば勝てると思うなコノヤロー。


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ピエロは道化で人を楽しませるのであって楽しませなきゃただのメイク野郎でしかない

前回からの追加戦力

銀さん→主戦力
神楽→主戦力
新八→主ツッコミ

「主ツッコミって何だァァァ!!」


 フィガロ城のある砂漠、二人の帝国兵を連れた奇抜な格好の男がフィガロ城を目指して歩いていた。

 しかし、延々と続く砂漠に嫌気が差したのか座り込む。

 

 

「くっそー……なんで俺がこんな砂漠をえっちらおっちら歩かなきゃいけないんだ」

 

 

 その男――帝国の魔導士であるケフカは暑さも相まって苛つき始めた。

 

 

「そもそもエドガーのやつがこんな辺鄙な所に城なんか建てるから悪いんだ!」

 

 

 まあ、確かに辺鄙な所ではある。

 

 

「おい!水!」

 

 

 怒鳴るケフカに慌てて帝国兵が水を渡し、それを奪い取ったケフカは一気飲みし高笑いするが……

 

 

「つまらん!」

 

 

 何がしたかったのか。

 再び目前であったフィガロ城へと歩き出し、番兵が入口を塞ぐように立つ。

 

 

「ケフカ殿、本日はどういった用件で……」

「どけ!」

 

 

 番兵を突き飛ばし強引に城内へ入っていくケフカだが、今度はそれを阻むようにエドガーがやってくる。 

 

 

「今日は何の用だ?ケフカ」

「ふん!お前になんて用はない!あの娘を出せ!」

「娘か……娘なら星の数ほどいるんだがな……」

「しらばっくれるつもりか。まあいい。こんな小さな国、帝国が本気になればひと捻りだという事を忘れるなよ。おい、行くぞ!」

 

 

 意外にもあっさり引き下がったケフカが城から出て行くのをちゃんと見送ってから引き返すと、ロックが玉座の間へ続く扉の前で待っていた。 

 

 

「嫌な奴だな」

「ティナは?」

 

 

 その質問に答えるようにロックが扉の前からどくと、扉を開けてティナ、神楽、アクアが出てきた。

 加えてエドガーの後ろからノアと銀時、新八も姿を現す。

 

 

「やるじゃない。まさかちゃんと追い返すなんてね」

「お前、やれば出来るアルな。少しは見直したヨ」

「褒め言葉、ありがたく頂いておくよ」

 

 

 ロックと違い男気を見せたエドガーを少なからず神楽とアクアは称賛した。おかげでエドガーの顔色も良くなっている。

 しかし、ティナだけは不安な表情だ。無理もない。

 

 

「あの人は私を狙っているの?」

「ティナ、考えるだけ時間の無駄アル。あのピエロ野郎、普通じゃないネ」

「そうそう、あっちの言い分を理解してやる必要ないわ」

 

 

 神楽とアクアがティナを安心させようとしてくれている間に、ロックはエドガーに「例の場所へ……」と言われ了承する。

 

 

「俺についてきてくれ」

「変なマネしたらただじゃおかないわよ」

「蜂の巣にしてやるヨ」

「オイィィィ!?やっぱり俺扱いヒドくね!?……まあ、この際我慢するか。こっちだ」

「あ、ハイ。ほら、皆行くよ」

 

 

 ティナを守るように傍に寄り添いつつロックについていく女性三人。

 新八はロックのすぐ後ろにいるが、彼の服は相変わらず尻の部分が裂けたままである。なんでこれのままキメてんだろこの人。

 エドガーは何かを察しており対策をしなければと考えているとノアと銀時から声をかけられた。

 

 

「おい王様よォ」

「どうした?君たちも早く行った方がいい。私は今後の事で大臣達と話し合わなくてはならないのでね」

「ンなこたァ分かってるよ。一つだけ言っとくぜ」

 

 

 一見軽い感じだが次の瞬間、銀時の雰囲気はガラリと変わりエドガーも身を強張らせた。

 

 

「あの野郎は諦めちゃいねーぞ」

「!」

「奴の出ていく時の顔、醜い笑みを浮かべていた。十中八九良からぬ事を考えているとみて間違いあるまい。対策するならば念を入れておけ」

「……ご忠告、感謝する。私だけ懸念していたわけではないようで安心した。安心出来る状況でないのはわかるがね」

 

 

 それ以上は何も言わないノアと、「んじゃな」と手をヒラヒラさせながら去っていく銀時を見送り、エドガーは大臣達とある事を話し合った後、自室にて仮眠を取るべくベッドに潜り込んだ。

 そしてロック達はというと、入り口や玉座の間から離れた棟にやってきていた。

 

 

「こんなトコに連れてきて何する気ネ?UNOでもするアルか?ヅラみたいに」

「UNOとかヅラとかまた訳わからない単語出てきたな……」

「ヅラの方は覚えときなさいよ?案外若いうちから使う事になるかもしれないんだしー」

「そうなる原因、現段階だと神楽ちゃんとアクアちゃんだよね」

「???」

 

 

 ティナはアクアや新八の言った事の意味を理解していない。その方が幸せだ、たぶん。

 

 

「おいオメーら何ぐだついてんだ。こんなとこでぐだ男ぐだ子になっても英霊なんて召喚出来ねーぞ」

「英霊どころか天パの亡霊がやってきたわね」

「誰が天パの亡霊だ!頭パーの背後霊女にそこまで言われる筋合いはねーんだよォォォ!!」

「誰の頭がパーですってぇぇぇ!?」

「オイィィィ!!話進まねーよ!あんたらのやり取りだけでどんだけ文字数使ってると思ってんですか!」

「新八ィ、なんでそんなメタ発言してるアルか」

 

 

 懲りずに銀時とアクアの喧嘩が始まり、さすがにマズいと思ったのか新八が止めた。神楽の言う通り止めるための発言がアレだったが。

 しばらく後に「このまま眺めてるのもいいか」とかいう選択肢が出てくるロックだが、当然この場ではやっているわけにはいかないのですぐに本題に入る事にする。

 

 

「実は俺はある組織に属しているんだが……」

「リターナーとかいう組織だったか?」

「……!知っていたのか」

「私やアクアを帝国とやらの刺客と勘違いした上、襲いかかって身ぐるみを文字通り剥がれた時に言っていただろう」

 

 

 ノアの言葉でティナや万事屋メンバーから冷めた目を向けられたロックは過去の出来事を思い出すが、今は羞恥に震えている場合ではない。

 

 

「ま……まあ、あの時は悪かった。それはともかく、この国の王であるエドガーは、表向きは帝国と同盟を結んでいるが、裏ではリターナーと手を組みたがっているんだ。俺はそれのパイプ役をしている」

「ま、あんなピエロ野郎の態度見てりゃ帝国っつーのがロクでもない連中だってのは嫌でも理解できるぜ」

「この国を見た限りでは奴らから支援や援助といったものを受けているわけでもあるまい。まさしく形だけの同盟といったものなのだろう」

「ああ、その通りだ。そこで、皆にはリターナーの本部に来てもらいたい。協力してくれるかどうかはそこで決めてくれ」

「おいおい、確かに俺たちゃ帝国に協力する気は起きねーけどよ。お前らに手を貸すって決めたわけでもねーのに、腹の中に虫抱えるようなマネしていいのか?」

「腹を割って話す、ってよく言うだろ。それだよ」

 

 

 ロックの言葉で一区切りつくとアクアはノアを、神楽や新八は銀時を見る。ティナと違い、それぞれにとって上司である彼らの判断が優先となる以上、自分たちはそれに従う他ない。何より、最終的にはノアの判断に一任される。

 

 

「行くとするか。どのみち他に明確な当てがあるわけでもない」

「それに俺たちを武力行使でどうこうしようってんならこっちもそれ相応の方法で反撃すりゃいいだけだしな」

 

 

 つまり、同行の意思が固まったという事。

ティナはまだ決めかねていたが……直後に、ある意味予想通りの出来事が起きる事となる。

 

 

☆☆☆

 

 

 仮眠を取っていたエドガーは不意に目を覚ます。それと同時に違和感を覚える。

 

 焦げ臭い。

 

 最悪の事態を予想してすぐさま自室より飛び出していくと、フィガロ城のあちこちから火の手が上がっていた。

 そして原因は当然の如くあの男。

 

 

「ヒーッヒッヒ!燃やせ燃やせ!どんどん燃やせ!」

「何のつもりだ!ケフカ!」

「皇帝の命令でね、あの娘を取り戻すためならどんな方法も問わないとさ。さっさと出したらどうだ?」

「いないと言っているだろう!」

「そうかい。ならこのまま城と一緒に焼け死ぬんだな」

 

 

 ケフカの傍に控えていた帝国兵まで「焼け死ね」と言う始末。

 仕方ない、と玉座の間へと続く扉の前にいた大臣の所まで行くと、エドガーは指示を出す。

 

 

「例のものを……」

「はっ!」

 

 

 大臣はすぐさまその扉の中へと消えていく。

 それを見たケフカはやっとかと笑みを浮かべながらエドガーに問う。

 

 

「渡す気になったか?」

「……そろそろか」

 

 

 一言発すると、エドガーは突然城壁に飛び乗り指笛を鳴らす。

 すると4匹の黄色い体毛の大きなダチョウに似た生物がその城壁の下まで駆けてくる。

 そう、お馴染みのチョコボである。

 エドガーはすかさず城壁からチョコボへと飛び降り、城の外周を回るように走らせる。

 

 

「ヒーッヒッヒ!これは愉快愉快!王様は一人だけ逃げ出すようですよ!」

 

 

 エドガーを乗せたチョコボと残り3羽はそのまま外周を走りロック達がいた棟と城を繋ぐ通路の真下を通過しようとする。

 

 

「飛び降りろ!」

 

 

 エドガーの指示でティナは単独で、ロックと新八、神楽とアクアがそれぞれ一緒にチョコボへと飛び降り見事騎乗。

 

 

「おおお!?定春に乗ってる時とはまた違うアル!」

「っ!ロック、あの二人は!?」

「まだ城内だ!チョコボ数が足りないって教えたら自分たちはいいからさっさと行けと……」

 

 

 そう、ノアと銀時はロックたちを脱出させるために自分たちはチョコボに乗らなかった。

 

 

(乗せられるとしたら()のチョコボかティナのチョコボだけか……!)

 

 

 王としてではなく、既に個人として思考していたエドガーは一人称が変わっていたが、それはさておき。

 ティナに申し訳ないが手伝ってもらおうとした時に大声が聞こえた。

 

 

「おいテメーらァァァ!!」

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

「そのまま例の場所へ走れ!!」

 

「俺らは自分(てめー)で何とかするからよォォォ!!」

 

 

 エドガーらが声のした方を見ると、城壁に片足をかけながら笑っているノアと銀時がいた。

 策があるのかは分からないが、グズグズしていればケフカに追撃される可能性がある。

 二人を信じて頷き、エドガーは屋上にいた大臣へとさらなる指示を出した。

 

 

「いいぞ!やれ!」

 

 

 エドガーの指示に待っていましたとばかりに大臣も指示を出す。

 今こそ、フィガロ城の切り札を出す時だ。

 

 

「了解!フィガロ城、潜行モード!」

 

 

 なんと通路を格納しつつ離れの棟を全てフィガロ城に密着させ、窓や扉の部分はシャッターで砂が入り込まないように遮断しつつフィガロ城が砂漠に潜り出したのである。

 

 

「スゲェェェ!!何ですかアレ!?何ですかアレェェ!?」

「カッケェェェ!!城じゃなくて秘密基地だったアルゥゥゥ!!」

「あんなもんあるんだったら最初から出しなさいよ!」

 

 

 新八、神楽、アクアは興奮気味だ。仕方ない。

 

 

「これより黄金の大海原へダイブする!フィガロの勇姿、とくとご覧あれ!」

 

 

 そう言うと大臣もフィガロ城の中に入る。

 残るはケフカらを除けばノアと銀時だが……なんと、こっちはこっちでチョコボ無しなのに飛び降りた。

 通路が完全に格納される前に。

 

 

「「イィィィヤッホウゥゥゥゥゥゥ!!」」

 

 

 ヅラじゃない、プロだ。そんな声が聞こえそうな叫び声だった。当然の如く砂煙が盛大に舞い上がる。

 同時にフィガロ城はそのほとんどを地中に沈め、ケフカは砂漠に投げ出されていた。さすがに頭にきたのか、起き上がり帝国兵二人に指示を出す。

 

 

「行け!奴らを殺せ!」

 

 

 その指示を受け、魔導アーマーに乗った帝国兵がチョコボに乗ったエドガーたちを襲おうとするが、それは叶わなかった。

 

 

「んだよてっきり頑侍とか持ち出してくるかと思ったのによォ。せめてキングジョーくらいは持ってこいっつーの」

 

 

 未だ晴れやらぬ砂埃から一閃、魔導アーマーが2機まとめて爆散し、帝国兵は遥か彼方へと吹っ飛んで行った。

 

 

「んなあああ!?」

 

 

 帝国自慢の魔導アーマーが一瞬で撃破された事にケフカは目を見開いて驚くが、それに驚いていたのは彼だけではない。

 

 

(銀時という男、彼はあの木刀で鋼の魔導アーマーを斬り捨てたのか!?どうなっているんだ……あの木刀に何か仕掛けでもあるのか……!?)

 

 

 単なる通販で買える木刀です。

 いや、それはそれでおかしいが事実なのでどうしようもない。

 エドガーだけでなくティナやロックまで驚いている。

 確かに今までは生物相手に振るっていたので、まさか鋼鉄まであっさり斬り捨てるなど誰が予想できるだろうか。

 

 

「私たちにとってはいつもの事アル。銀ちゃんが使うとただの木刀がアルテマウェポンになるネ」

「夜王鳳仙を倒したのも木刀みたいですし」

「えっと……夜王って?」

「かつて夜兎族最強と言われた人物ですよ。とはいっても銀さんも一対一で勝ったわけじゃないですけど」

 

 

 ティナとロックはさらに驚く。

 エドガーは知らないが、夜兎族と言えば神楽と同じ戦闘民族だ。

 その中でも過去形とはいえ最強と呼ばれた鳳仙と真っ正面からやり合った時点でとんでもないのだが、結果勝利した(しかもノアの光気受ける前で)というのは偉業という他ない。

 

 

「ええーい!何なんだお前は!?」

「何だつみはってか。そうです俺が今からテメーをぶん殴る……」

「え?」

「その人の直属護衛だよ」

 

 

 ニッと笑う銀時が指差した方向をケフカが振り向いた瞬間……

 

 

ゴバキィィィィィッ!!!

 

「ブニョおおおおおおおっ!?」

 

 

 ノアの真っ赤に燃える拳がケフカの顔面にストレートでブチ込まれ、ケフカはフィガロ城の遥か南にある海まで吹っ飛んで行くとバシャーン!とド派手な水しぶきを上げて海に沈んでいった。

 たぶん死んでない。たぶん。

 

 

「フン。所詮は偉そうにしてるだけのピエロだったか」

 

 

 フッと拳に息を吹きかけるノア。

 やってきた銀時とクロスタッチを決め、エドガーたちのいる場所へゆっくりと歩いて行く。

 

 

「い……今、何をしたんだ?」

「あ?クロスタッチだよ。絆を結ぶ新たな印って偉大なるマン兄さんが言ってただろーが」

「いや、そっちの彼のパンチの事なんだが……」

「無論、ただのパンチだが?」

 

 

 ノア様の一撃は色々おかしいのです。

 そしてマン兄さんって誰?とティナやロックが言うならわかるが……

 

 

「マン兄さんって誰よ銀パ」

 

 

 よりにもよってアクアが言った。

 

 

「「「バカかお前はァァァ!!」」」

 

 

 ノアや銀時はもちろん、新八もキレながらツッコんだ。

 

 

「アクア!お前は何故ギンガビクトリーの部下でありながら彼を知らない!?あの基礎を極限まで極め、ウルトラの星において原点にして頂点と言われる彼を知らんとはどれだけバカなのだ!!」

「テメースペシウム光線が基本中の基本、最弱の光線技って知らねーだろ!?マン兄さんはなァ、逆にスペシウム光線の構え取っただけで相手が腰抜かすレベルの威力なんだよ!構えるだけで圧が半端ねーんだよ!」

「しかも年々筋肉増してますし!というかマン兄さんはマリンスペシウム光線とか、最終奥義ギガスペシウム光線まで後に控えさせてますからね!」

 

 

 ノアでさえ力説するほどの生ける伝説マン兄さん。ウルトラマンに関わる者で(女神、しかもギンガビクトリーの部下なのに)彼を知らないアクアがどれだけ失礼なのかは彼らの怒り具合で推して知るべしである。

 さすがにアクアも涙目。

 

 

「う……な、何もそこまで怒らなくたっていいじゃない!!」

「仕方ないアル。ウルトラシリーズのクロスオーバーなのにウルトラマンを知らないのはモグリもいいとこネ」

 

 

 エドガーやティナ、ロックはポカンとしていたが、ただ一つ……『マン兄さんという人物はとんでもなく偉大である』という事だけは理解できたようだった。

 

 

 ケフカと帝国兵?知らん。




マン兄さんのギガスペシウム光線とはゲームFERにてシナリオ上のみ使用できる正しくマン兄さん最強技です。
プラズマスパークのエネルギーを利用したそれは間違いなく究極のスペシウム光線なので、一見の価値有り。

次回『山登りの準備には手間暇を惜しむべからず』。
城と城下町が洞窟抜けるほど離れてるってほとんどないよね。


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山登りの準備には手間暇を惜しむべからず

前回からの追加戦力

エドガー 人型モンスター

「いやそれ機械だから全部機械でやってるから!」

※後々ジェイソン化するので注意!(かいてんのこぎり)


 フィガロ城は砂漠の中に消え、魔導アーマーは銀時によって爆砕、ケフカもノアが遥か彼方の海へぶっ飛ばした。

 ようやく一段落といったところか。

 

 

「ブラボーフィガロ!」

「お前何言ってるアルか」

「いや、なんか本来の言うタイミングを逃したというか……」

「確かにあんたは棒をブラブラさせてたけど」

「やーめーろーよー!ここでそんなん蒸し返さなくていいだろ!?」

 

 

 キメ顔でチッチッと指と一緒にソレも揺らしてたのはつい最近である。

 そりゃ忘れろと言っても無理な光景だろう。

 

 

「やっぱりあの人たちは私を狙ってたのね……私、怖い……」

「つっても連中、相当オメーに執着してんぞ。その力を持ってる以上これから先もああいう連中は出てくんだろ」

「私は何も知らないわ!この力だって、物心ついた時には使えたもの!」

「生まれつき魔導の力を持っている者はいない!」

 

 

 銀時はいつもの調子で言うが、身に覚えがなく狙われ続けていたティナは混乱のあまり声を荒げ、エドガーもそれに釣られて声色を強める。

 

 

「ったく……ギャーギャー喧しいんだよ。発情期ですかコノヤロー。王様の方は万年発情期みたいなモンだけどよォ。自分でもわからねーモンをそれ以上にわからねー他人がとやかく言ったところでわかるわけねーだろーが。ちったあ落ち着け」

「ごめんなさい……」

「……すまない」

 

 

 銀時の言葉でティナとエドガーは一先ず沈静化する。サラッと毒を吐いていたが気づいているのかいないのか。

 

 

「どのみちここで彷徨いているわけにも行くまい。我々はリターナーとやらの本部に行く事を決めたが、ティナはまだ決めあぐねているようだな」

「……私は」

「ティナ、リターナーの指導者であるバナン様に会ってほしい。きっと何らかの道を示してくれるはずだ」

「俺からも頼む」

 

 

 エドガーとロックの説得の甲斐あって、他の皆も一緒ならとティナもようやく首を縦に振った。

 そうとなればとエドガーの先導によって一先ずフィガロの城下町であるサウスフィガロまで洞窟を通って向かう事にする。

 

 

「なんで城下町なのに城のトコにないアルか?」

「ご覧の通り我がフィガロ城は砂漠にあるのでね、交易関係などを考えると港を作れて自然も豊かな地にあった方が何かと都合が良いんだよ」

「まあ、ここら一帯砂漠だしねー」

 

 

 ノアと銀時以外もチョコボを降り、洞窟に入った一行の目の前にあったのは、初心者の館にて銀時が顔を突っ込んでいたバケツの中にあった『回復の泉』の水と同じ水で満たされた小さな湖……と亀。

 この亀はしばらく後に重要な役割を持つのだが、今は放っておくとしよう。

 

 

「オイこれアレじゃねーの?ほら……あの、アレだよ」

「アレって何ですか銀さん」

「だからアレだよ。えー……この天パをストパーにしてくれる的な」

「銀ちゃん、そんな都合の良いモンあるわけないネ」

「その天パをストパーに出来るトリートメントがこんなとこに亀浮かせながら湧き出てるはずないでしょ」

「うるせェェェ!お前らみたいなサラサラふわふわヘアーの連中に天パの気持ちがわかるわけねーよなチクショー!!」

 

 

 銀時の魂の叫びが木霊する。

 そして頭にプラズマスパーク……もとい、豆電球を閃かせたノアが思い出したように言った。

 

 

「……回復の泉か?」

「そう!それがアレだよ!」

「「天パはステータス異常じゃないネ(わよ)」」

「なんでだよォォォ!!そこのお粗末の盗み癖の方がステータス異常じゃねーだろ!?そこの王様のナンパ癖の方がステータス異常じゃねーだろ!?こいつらのはもう矯正不可能なレベルじゃねーかよォォォ!!」

「「アンタに言われたくねーよ!!」」

 

 

 銀時の天パも矯正不可能だろう。昔っからだし。

 おそらくはトリートメントも弾き返す無敵の天パ髪質と化してるに違いない。

 

 

「オイ地の文どういう事だァァァ!!俺はまだストパーの夢を諦めちゃいねェェェ!!」

 

 

 その後、勢いよく頭を回復の泉に突っ込んだ銀時だったが、水で濡れて一時的に天パではなくなったがものの数分で元通り。

 天パはステータス異常さえ治し全回復する回復の泉にさえ打ち勝ったのだ!

 

 

「嬉しくねェェェ!!」

「今度私が愛用しているやつを貸してやろう。今は戦え、今日は熊鍋にするぞ」

 

 

 銀時の大絶叫を聞きつつ熊型のモンスターを容赦なく仕留めるノア。

 熊鍋というがそれは熊型のモンスター……食えるのかそれ。

 

 

「問題ないネ。腹に入れば一緒アル」

 

 

 さすが大食い少女。身も蓋もない。

 そんなこんなで道中、洞窟内にある宝箱を物色しつつ洞窟を抜けて一行はサウスフィガロへと到達した。

 

 

「おお!立派な町じゃないですか!」

「そうだろう?我がフィガロ貿易の要でもあるからな」

 

 

 新八の言葉で少し気を良くしたエドガーはサウスフィガロについて説明する。

 港自体がこのサウスフィガロを除いて世界中でもわずかしかないため、必然的にフィガロの物流拠点となっているようだ。

 

 

「よォーしそういう事なら前は急げだ。宿屋のチェックインはオメーらに任せた」

「我々は必要な物の調達と帝国の情勢に関する聞き込みを行う事にする」

「いやチェックインとかあるんですかね、この世界……っていうかノア様と銀さんは聞き込みって何処に?」

 

 

 新八の質問にゆっくりと振り向くノアと銀時。

 二人は真顔ではあったが、新八は嫌な予感がしていた。

 

 

「フ……新八よ、わかりきった事を聞くな。栄えた町で聞き込みをする絶好の場というものは古来より決まっている……即ち!!」

 

「「酒場だァァァァァ!!」」

 

 

 言うやいなや酒場らしき店まで爆走する二人。

 

 

「オイィィィ!?思いっきりお前らが行きたいだけだろーがァァァ!!つーかそこの水色も追いかけんなァァァ!!」

「シュワシュワが私を呼んでるのよぉぉぉ!!」

 

 

 相変わらずツッコミを炸裂させる新八の懸念は見事的中し、ついでにアクアまで行ってしまった。

 新八と神楽以外はポカンとしていたが、神楽の一言で我に返る。

 

 

「とりあえず銀ちゃんたちを追いかけるアル。どのみち酔い潰れて口からデビューする銀ちゃんとアクアを連れ帰んなきゃいけないネ」

「あの二人って酒に弱いくせにガブガブ飲むからなぁ……ノア様はザルどころかワクだけど」

 

 

 正直酒場に入っていきなり神楽の言ったような状況はゴメンなのだが、仕方ない。

 意を決して酒場に突入すると……

 

 

「いいかァ!己を卑下しすぎんじゃねーぞ!たとえ天パだったとしても強く生きなきゃいけねーんだよ!ヒック」

「なんで私ばっかこんな目に合わなきゃいけないのよぅ!女神なのに!女神なのにぃぃぃ!!ヒック」

 

 

 すっかり出来上がっていた。

 というかアクアはシラフだったらヤバい爆弾発言をしているし。

 

 

「早すぎだろォォォ!?どんだけだよ!どんだけ飲んでんだよ!この短時間で酔ってるってどういうことォォォ!?」

「なあ、そこの黒服のアンタ……こいつらどんな飲み方したか見てないか?」

「……」

「ちょっと、なんとか言ったらどうだ?」

「おい、よせ!」

 

 

 エドガーがロックを無理矢理引き離す。

 

 

「どこかで見た事があると思ったが、思い出したぞ。シャドウ……金のためなら仲間でも平気で見捨てる傭兵だ。あまり関わり合いにならない方がいい」

「お、おう……てか思いっきり関わってる奴がいるんだけど」

「……へ?」

 

 

 エドガーがロックに指摘されて、再度そのシャドウの方を向くと……

 

 

「ホラホラ〜酢昆布アル。美味いアルよ〜ブラックサンダー号〜」

「オイ何してんだァァァ!?」

「……インターセプターだ。何だそのブラックサンダー号というのは」

「走る雷、漆黒の稲妻アル」

「なんか無駄にカッコいい二つ名付けてんじゃねーよ!!スイマセンこの娘、頭弱いんで!!」

 

 

 神楽がシャドウの連れていたインターセプターという犬にちょっかい出していた。

 エドガーと新八にツッコまれ、二人に首根っこ掴まれて連れ戻される。

 

 

「神楽ちゃん今関わるなって言われたばかりでしょ!?」

「固い事言うなヨ新八ィ、人は一人じゃ生きていけないネ」

「いやいや大丈夫ホラ犬いるから犬!」

「犬じゃないアル!マッハトルネード号ネ!」

「「さっきと名前変わってんじゃねーか!!」」

「しかも結局犬だよな!?」

「……えっと、ブラックマッハ・サンダートルネード号が犬になったの?」

「「「二つ合体しちゃったよオイ!?しかも最初から犬だから!!」」」

 

 

 ティナまで影響され始めた。というかエドガーやロックも染まりかけている。

 相変わらず人を引き込むのが上手い者たちだ。

 

 

☆☆☆

 

 

 普通に飲み続けていたノアを説得して、勘定し酒場を後にした一行は酔い潰れていた銀時とアクアを一足先に宿屋へ放り込み、今後の旅支度を整えるべく別れて買い出しに出た。

 

 エドガーとノアは武器防具。

 ロックと新八はアクセサリー。

 ティナと神楽はアイテム。

 

 武器防具に関してノアや銀時たちは不要なのでエドガーらだけの分だ。

 なお、ネタ&ツッコミ組がアクセサリーなのは「見た目ではなくちゃんと用途重視で選びそうだから」である。

 ノアはスペックの関係上そういうのに無頓着(ただし神使へのプレゼントの場合は除く)だし、エドガーはこっそり女性へのプレゼントに使えそうな物を選びそう、神楽はわけのわからない物を買いそうで、ティナはまあ……自分の趣味になるかちゃんとしたものかは五分五分の確率といったところか。

 そんなわけでトレジャー(小)ハンターと装備・メガネならば有用性を見極めて買ってくれそうという事でノアが決めた。

 

 

「つーか俺まだトレジャー(小)ハンターとか呼ばれてんのかよ!!」

「装備・メガネってそれメガネキャラ全員に適用されんの!?もしかして僕だけ!?しかもアクセサリー屋に銀縁メガネ置いてんじゃねーかァァァ!!」

 

 

 ツッコミ役が組んでしまったおかげで他の二組のツッコミがいない。

 アレ?エドガーツッコミいけんじゃね?

 

 

「おいエドガー。お前はこんな物を使うのか」

「オートボウガン、ブラストボイス、バイオブラストの事か?フィガロ城を出る時に持ってきたんだ。アイテム班の娘たちが買わなくてもいいようにな」

「てっきり人間かと思ったが……お前、モルボルだったのか」

「ちょっと待て2個目と3個目しか見てないだろ!?」

「そのうち暗闇効果とか防御無視とか即死とか弱点付与とか『動いたら死ぬぞ!』とかが増えそうだからな」

「何でそんなピンポイントなんだよ!?」

 

 

 恐るべしノア様。先見の明がありすぎる。

 一応、必要な物は買ったのでよしとしよう。

 

 

「このフェニックスの尾って高いアルな。何でこんなぼったくりアルか?」

「い、いやお客さん、これは色々な用途に使えて……」

「ナマ言ってんじゃないアル。これを頭に使っても失われた毛根が生き返るワケないネ」

 

 

 アイテム屋では神楽が毒舌によって店主をK.O.していた。

 頭が微妙なサンビームを発射している店主はがっくり項垂れてフェニックスの尾を500ギルから50ギルにまで値下げ。

 いやマジで毛根生き返ると思ったんかい。

 

 

「神楽、毒消しとか金の針とか……必要な物はだいたい買ったし、そろそろ戻りましょう?」

「ティナ、まだ買ってないものがあったネ」

「え?」

「どうせあの二人、二日酔いになってるだろうからエチケット袋が必要アル!」

「えええ!?」

 

 

 口からデビューするのは決定事項らしい。

 否定出来ないのは確かだが。

 準備を終えた六人は宿屋に戻り、男部屋と女部屋それぞれで唸っている銀時とアクアを一瞥して休む事にした。

 

 

 目指すはリターナー本部へ向かうための最大の難所、コルツ山。

 しかし先の二人にとって最大最強の敵、二日酔いが待ち受けている事を、当人どころか全員が薄々感付いていた。




そういえば書いてる最中に思い出したけど、ラスダンに出てくるボスに『女神』いたな……
アレとアクアどっちが強いんだ?

次回『険しい山道乗り越えるには鼻歌かBGMないとやる気出ない』オーラキャノンってアレかめはめ波だよね。


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険しい山道乗り越えるには鼻歌かBGMないとやる気出ない

 前回の出来事

 銀時とアクアが酔い潰れた。


 翌日、サウスフィガロを出発した一行はやはり苦戦していた。

 

 銀時とアクアの二日酔いに。

 

 途中、エドガーの弟がいたのかもしれないポツンと一軒家で休憩するも、この世界で初めて飲んだ酒がかなり効いたらしい。

 

 

「やべーよ視界がウルトラプロペラで安定しねーよ虹の向こう側行く前に虹作りそうだよ」

 

「もう駄目〜……動けば動くほどせり上がってくる感じが……感じが……」

 

 

――デーデッデデーデッデ――

 

 

「「……」」

 

 

――デーデッデデーデッデ――

 

 

「「…………」」

 

 

――デーデッデデーデッデデーデッデデーデッデ――

 

 

「……オイ」

「……ちょっと」

 

 

「デーデーデーデーデッデレデレデレデーデーデーデーデッデレデレデレ!!」

「うるせェェェェェ!!!」

「アンタもねェェェ!!!」

「いやお前ら二人揃って煩いんだけど」

「「黙れお粗末トレジャー(小)」」

「なんでそこだけ息ピッタリなんだよォォォ!!」

 

 

 何やら神楽がBGMを声に出して流していたのが二日酔いの頭に響いたらしい銀時とアクアはツッコミを入れたロックに反撃したあと、我慢出来なくなって銀時の言葉通り崖下へ虹を作り出した。

 

 

「何やってんですか二人とも。まだ登山始めたばかりですよ。このコルツ山を越えないとリターナー本部に辿り着けないんですからね、しっかりして下さい」

 

「新八ィ、オメーしっかりしろとか言ってるけど思っくそ俺らを冷めた目で見てるよな?見てるだろチクショー」

 

 

 未だ酔いが抜けず青い顔をしながら新八に文句を言う銀時だが、真に文句を言いたい相手は別にいる。

 そう、神楽である。

 

 

「つーかテメーデーデッデうるせーんだよ。二日酔いの頭に響くんだからんな大音量サラウンドで喚くな今度はその能天気な頭に吐くぞコルァ」

「でもこんな何もない山を越えるのに無言無音なんて嫌アル!テンションだだ下がりで来た道リターンしそうネ」

「リターナー本部行く前にリターンしてどうすんだよ。無言じゃねーし無音でもねーだろ。ほらエドガーの奴がモンスターをボウガンで串刺しにしてる音が……」

「頼むから戦ってくんない!?さっきから俺しか戦ってないんですけどォォォ!!」

 

 

 銀時・アクア→二日酔い

 神楽→音楽係

 新八→ツッコミ

 ロック→凹み中

 ティナ→アイテム整理

 ノア→なんかポーズとってる

 

 

「オイ最後ォォォォォ!?」

「心配するなモルボル。これはとある世界にて『カッコいいポーズ』という歴とした光魔法なのだ」

「魔法!?それ魔法なの!?」

「他にも『もんちゃらへっぴーもけもけさー』と踊る闇魔法もある」

「何それどんな世界ィィィィィ!?」

 

 

 モルボル呼びにはツッコまないのかエドガー。

 つーかまともなのはティナだけか。いや、仲間が戦闘している最中にアイテム整理するのもアレだけど。

 そんなこんなで洞窟内で神楽が見つけたセーブポイントなる所で休憩する一行。

 

 

「つかよォ、セーブポイントはマジであったけどメニュー画面て何よ?何そのRPG的な説明」

「出せたぞ」

「「「「「「「えええええ!?」」」」」」」

 

 

 

 ティナ レベル11

 ロック レベル12

 エドガー レベル13

 銀時 レベル108

 神楽 レベル100

 メガネ レベル88

 アクア レベル駄目

 ノア レベル114514

 

 

 

「馬鹿な、お粗末とモルボルがちゃんと名前で表示されるだと!?」

「「そこかよォォォォォ!!」」

「銀さんたちって凄いのね」

「いや〜それほどでもないっていうかね、これでも俺ら経験豊富なワケよ」

「ていうか銀ちゃんレベルがそのまま煩悩の数アル。もしくは108(天パ)だからネ」

「うるせーよ!俺よりレベル低いくせによォォォ!!」

「なんで僕だけ名前メガネになってんだァァァ!!」

「私一人だけレベル『駄目』って何よ!?ちゃんと数字で表示しなさいよォォォ!!」

 

 

 メニュー画面で名前とレベル確認しただけでこの騒ぎ。

 開かない方が良かったんじゃないかと思ったが、一番の問題は別のところにある。それは……

 

 

『そのレベル何ィィィィィ!?』

「わからん」

 

 

 ぶっちぎりカンストどころかバグなレベルのノア。明らかに変である。

 まあ、宇宙と一体化したりする奴や究極生命体が即座に逃げ出すような奴と同格だから仕方ない。

 何故かテントを張るとモンスターが寄ってこなくなったので、セーブポイントでとりあえず仮眠を取る事にした一行。

 

 気のせいだと思うが、寝ようとした時に遠くから「レッドフォール!」という声と何かが岩にぶつかりながら落ちていく音がしたという。

 

 

☆☆☆

 

 

 一眠りした一行は大きく螺旋状になっている道を歩いていき、再び洞窟に入ろうというところでその入り口に誰かが立っている事に気づく。

 その人物はノアたちを見るなり変な因縁をつけてきた。

 

 

「貴様ら、マッシュの手のものか」

「あ?マッチョ?んなのスピンオフ元の方にいんだろーが。何だっけ?タイタン?」

「タイタスだ」

「メタ発言してる場合かァァァ!!何かヤバい人がこっち見てるんですけど!?」

「黙って退けヨ。このレベル12のお粗末と同じレベルのくせに」

「えええええ!?なんでわかるの神楽ちゃん!?」

 

 

 どうやらティナがライブラ使って調べてみたらしい。

 しかし、その人物はレベルがノアや銀時らよりレベルが低い事よりも別の事にショックを受けていた。

 

 

「お、俺が……そこのピーがお粗末なヤツと同じレベルだと……!?ありえん!俺はここも鍛えているッ!!」

 

 

 そういうと己の拳法着のズボンを掴み……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ク ロ ス ア ウ ッ(脱衣)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「キャアアアアアッ!?」」

「「何してんだお前ェェェェェ!?」」

「「バカですかお前はァァァァァ!!」」

「どんぐりの背比べアルな」

「貴様のレベルは12。そして貴様のソレのレベルは8か。ついでにお粗末のソレのレベルは5だ」

「よーし勝ったァ!!」

「何の話してんだオメーらァァァ!!つーかノア様なんでそんなの分析してんですか!?神楽ちゃんもガン見して辛辣なこと言わない!!」

 

 

 何このコルツ山。こんな変態が生息してんの?

 それから、ティナは目を覆いながら後ろを向いたがアクアはやはり手で隠したようにしつつも指の隙間からしっかり見て「ちっさ」とか呟いている。やめてやれ。

 そしてロックはやはり凹んでいる。

 

 

「なんで……変態な赤の他人にお粗末呼ばわりされなきゃいけないんだよォォォ!!」

「いやあんたズボンと下着まで穴が開いた状態であいつに尻向けて『掘ってください』みたいなポーズしてる時点で同じ穴のムジナでしょ。穴だけに」

「上手い事言ってんじゃねーよ!!」

 

 

 アクアに言われて涙目でツッコミ返すロック。

 そろそろ本格的に修繕した方がいいと思う。ってかそれであのサウスフィガロの町を歩き回ったのか……?

 

 

「ふっ……満足したし俺はここで捕まるわけにはいかん!貴様ら全員始末してやる!」

 

 

 ズボンを履かずそのまま戦闘に突入。

 イプーという熊を2匹呼び出し、マッパのままファイティングポーズを取るその人物に、呼び出された熊2匹は尻を押さえている。

 

 

「オイオイやべーよ何なのあのチンピラ警察24時のゴリラみたいな羞恥心ないヤローは」

「冥土の土産に教えてやろう!俺の名はバルガス!」

「自分が最強などとマッパのままブラブラさせてるお前の姿はお笑いだったぜ」

「それパラガスじゃねーかァァァ!!しかも台詞が嫌な改変されてるし!!」

 

 

 意地でも履く気がないのかコイツ。

 そのせいでティナが戦闘に参戦出来ない&後ろ向きの無防備状態。

 だからといって容赦するようなバルガスではない。

 

 

「戦いの最中に敵に背後を晒すとは!死ねいっ!」

「ティナ!」

 

 

 プラプラさせつつティナに迫る変態(バルガス)

 エドガーが叫ぶもバルガスの姿を直視できない(したくない)ティナは身動きが取れない。

 万事休すかと思われた時、そこに割って入る影があった。

 

 

「ほあちゃあァァァァァ!!」

 

 

 神楽である。

 夜兎族である彼女の重く鋭い蹴りはバルガスに突き刺さる。

 

 そう、アレに。

 

 

 グシャアァァァッ!!

 

 

 

「アァァァァァオォウッ!?」

 

 

 

 

 

 聞こえてはいけない音と、バルガスの絶叫が木霊する。

 よりによって最強の戦闘民族夜兎族の一撃が丸出しのアレに炸裂した。

 音からして、おそらく潰れた。

 

 

「お……オウッ……!」

 

 

 股を押さえながら内股になって血涙流しつつ倒れ込み、イモムシのようにのたうち回るバルガス。

 頼みの綱のイプー二体は……

 

 

「今夜は熊鍋だ!!」

 

 

 ノアに仕留められ晩飯のメインディッシュにされようとしている。

 そもそもレベルでも数でも負けているバルガスにハナっから勝機などあるわけなかった。

 そんな時、何者かがやってくる。

 誰かと思い全員がそちらを向くと……

 

 

 

 

 

「「「「「「「「誰!?」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 凄まじく劇画タッチなムキムキマッチョのモンク。

 例えて言うなら髪型と服が変わり、金髪になったケン○ロウ。

 バックの挿入歌に『愛をとりもどせ』が流れ始め、なんかもう雰囲気まさに世紀末。

 

 

「オイィィィィィ!?なんか違くね!?出る作品間違ってるだろォォォォォ!?」

「マ……マッシュ……!」

「「「「え゛え゛え゛え゛え゛!?」」」」

 

 

 バルガスの一言にエドガーとティナ、神楽、そしてアクアが本気で驚いている。

 そりゃそうだ、エドガーはしばらく見ないうちに弟が全く別人と化しているし、女性陣は聞いていた話と全然違う雰囲気だったんだもん。

 

 

「バルガスよ……何故あなたはそこまで堕ちてしまったのか……」

 

 

 ツゥ……と涙を流すマッシュ(?)。外見通りというか声が神○明なんですが。

 

 

「しっ……知れた事……!実の息子の俺ではなくお前を後継者に選んだからだ……!」

 

 

 股を押さえたまま内股で立ち上がっているからか全然締まらない。

 だが、今度容赦がないのはマッシュの方だった。

 

 

「もはや道を外れ、外道へとその身を落としたまま進むというのなら、例え業を背負おうともそれを止めるのがダンカン流の同門として学んだ者の使命……!」

「え……」

「ぬああああ……!!」

 

 

 マッシュの手に凄まじい気が集約される。

 

 

北斗剛掌波(オーラキャノン)!!」

「ぐあああああ!!」

「なんかルビは合ってるけど文字がおかしい技出たァァァァァ!?」

「かめはめ波じゃねーかアレ!やっぱり修行すれば出せんじゃねーか!」

「違うだろォォォォォ!!問題はそこじゃねーよ!!」

 

 

 マッシュの放った一撃でもはやバルガスは虫の息だ。

 しかし彼は攻撃の手を緩めない。

 

 

「ダンカン流武術奥義!北斗百烈拳(ばくれつけん)!!」

「……!!」

「ホゥゥゥアタタタタタタ!!」

「ゴバァァァァ!?」

 

「ホアタァ!!」

 

 

 

 一迅の風が吹く。

 バルガスが動こうとした時、マッシュは告げる。

 

 

「お前は、もう死んでいる」

「何……!?ぶべらあ!!」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、バルガスは全身から血を噴き出して絶命した。

 

 

「俺には貴方が……最高の好敵手(とも)だった」

 

 

 そこには、ただ哀愁だけが漂っていた。

 

 

 

 

 

「いやこれ作品違くね?」




 変な方向に進化(魔改造)してしまったマッシュ。
 果たしてガストラ帝国は壊滅しないで済むのだろうか。

 次回『組織の本部ってカッコいいか地味かで両極端』。
 秘密基地も大体似たようなもんだよね。


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組織の本部ってカッコいいか地味かで両極端

前回登場した新キャラ

・羞恥心を捨てた変態(故)
・熊鍋の具×2(故)
・なんか世紀末救世主なモンク僧

「ダンカン流武術は、無敵だ……!」
「いや一人と二匹は前回限りの敵だろ!!」


 マッシュの放った奥義によってバルガスは倒された。

 悲しげに俯くマッシュにエドガーは声をかける。

 

 

「え……えーと……マッシュ、だよな?」

「兄さん……」

(え?昔は兄貴って言ってなかったか?マジで変わり過ぎだろォォォォォ!?)

 

 

 なんか呼び方まで変わってる実弟に困惑しつつもエドガーはマッシュに協力を呼びかけると……

 

 

「ようやくフィガロも重い腰を上げたということか。ならばその国の出身である俺が力を貸すのも道理ということ。俺の力、存分に使ってくれ」

「あ、ああ……助かる」

 

 

 ハッキリ言ってマッシュの方が貫禄あるんですが。

 

 

「しかし……なんというか、すげえな」

「ほ、本当にエドガーの弟さん?私、てっきり大きな熊かと……」

「アレ熊じゃなくてなんかの一子相伝の継承者だろ」

「きっと暗殺拳の使い手ネ!」

「あんまり失礼な事言うなァ!!スンマセンマッシュさん!!」

 

 

 好き放題言われるマッシュだったが気にしていない、と微笑みながら軽く右手を上げた。器が大きい。

 

 

☆☆☆

 

 

 マッシュが加入してからというもの戦闘が格段に楽になった。というのも……

 

 

岩山両斬波(たたかう)!!」

「ギャヒン!?」

 

 

 ありえない攻撃力と攻撃速度でマッシュが先制攻撃+一撃必殺で仕留めまくっているからだ。

 現に今もゴルギアスというマンモス型のモンスター二体が脳天をカチ割られ絶命した。強すぎる。

 

 

「もうあいつ一人でいいんじゃないかな」

「そうよね〜」

「おいお粗末とお荷物。少し働け」ガシッ

「「え?」」

 

 

 マッシュの活躍のおかげで暇になっていた(そもそもこの二人、本作が始まってからまともに戦った描写がない気がする)ロックとアクアの頭をノアが鷲掴みにする。

 なんとなくこの後起こることを予想した二人は逃げようとするが、ノアの力の前では無力。

 

 

二大馬鹿旋風(ダブルタイフーン)!!」

「「ぎゃあああああ!!」」

 

 

 二人の頭を鷲掴みにした状態でノアが高速回転し、敵を引きつけながらぶっ飛ばしていく。

 

 

「強い……!」

「アイツら武器としての方が役に立つんじゃね?」

「マッシュさん感心しないで下さい!つーか銀さん、ノア様あの二人の人権ガン無視してるんですが!?」

「細けぇこたぁいいんだヨ」

「細かいどころか人としての尊厳が関わってるんだけどォォォ!!」

 

 

 ティナはオロオロしているが、エドガーはもう何が起きても驚くまいと考えるのをやめた。

 どうせまたすぐ驚くハメになるのに。

 ぐったりしてロックとアクアをノアが俵抱きしつつ、無事コルツ山を越えられた一行はそのままリターナー本部へと向かう。

 

 

「私……ヒロインなのに……ヒロインなのにぃぃぃ……」

「俺主役じゃなかったの……?主役じゃなくてもメインじゃなかったの……?」

 

 

 アクアに現時点でヒロインらしいムーブもなく、そもそも主役はノアである。

 メイン?万事屋三人組じゃね?

 

 

☆☆☆

 

 

 リターナー本部に着くと同時に一行はエドガーの案内によって指導者であるバナンの元へ案内される。

 

 

「バナン様、例の娘を連れて参りました」

「ほう、この娘か……氷づけの幻獣と反応したというのは」

「幻獣……?」

「もしかして私たちが助ける前の事?」

「ロックがプラプラさせる前の事か」

「それを言うなァァァ!!」

 

 

 バナンと呼ばれた初老の男性は正直幻獣の事と同じくらいロックがプラプラさせたという事について詳しく聞きたかったが、それは後回しにする。

 

 

「どうやらこの娘は帝国に操られていたようです」

「伝書鳥の知らせで、おおよそは聞いておる。帝国兵50人をたったの3分で皆殺しにしたとか……」

「いやー!!」

 

 

 自分がそんな事をしたと信じられない、もしくは思い出したくないのかティナは頭を抱えて泣き叫ぶ。

 そんなティナをロックや神楽、アクアは気遣う。

 

 

「ティナ!」

「しっかりするアル!あんなモジャジジイの話をまともに受け止める必要ないネ!」

「そうよ!結局又聞きじゃない!見たわけでもあるまいし!」

 

 

 予想外の暴露に対してエドガーも抗議する。

 

 

「バナン様!酷すぎます!」

「逃げるな!」

 

 

 叱咤しようとするバナンだが、その瞬間バナンの胸ぐらを銀時が掴んで持ち上げた。

 いきなりの事に誰も反応出来なかったが、エドガーが我に返り銀時を諌めようとする。

 

 

「なっ……!?銀時、やめろ!」

「やめろじゃねェ。テメーも同罪だクソ国王」

 

 

 その赤い双眸の奥底には紛れもなく怒りがあり、ノア以外の誰もが、マッシュでさえ臆している。

 

 

「こちとらそいつがデリケートなのは百も承知で下手にそういうとこは突かねぇようにしてたのによォ。女の扱いに慣れてるテメーが操られてただの何だのそいつが思い出したくもねぇ事をベラベラ言ったからだろーが」

 

 

 銀時の正論にエドガーは口を噤む。

 

 

「テメーもテメーだクソジジイ。出会い頭に人の古傷広げるようなマネして楽しいですかコノヤロー。しかもマジで自分の意思が関わってないってのに責め立てて責任感駆り立たせて無理矢理協力でもさせようってか。虫酸が走るぜ。何が帝国と戦うだ?」

「ぐ……うぐぅ……」

 

 

 銀時の腕を掴みつつジタバタともがくバナンだが、一向に手が緩む気配はない。

 

 

「銀時、もういい。どうせ何を言っても変わらんだろう。そんな奴に構うよりティナを休ませてやった方がいい」

「……仕方ねーな」

 

 

 ノアの一言で銀時が手を離すと持ち上げられていたバナンが落ち、咳き込みながら再度話し出した。

 

 

「ま、待て……こんな話を知っておるか?まだ邪悪な心が人々の中に存在しない頃、開けてはならないとされていた1つの箱があった。だが、1人の男が箱を開けてしまった。中から出たのは、あらゆる邪悪な心……嫉妬……妬み……独占……破壊……支配……だが、箱の奥に一粒の光が残っていた……希望という名の光じゃ」

 

 

 銀時に拘束されていた事もあり、呼吸は粗かったがしっかりとした言葉でバナンは語る。

 

 

「……」

「どんな事があろうと、自分の力を呪われたものと考えるな。お主は世界に残された最後の一粒。『希望』と言う名の一粒の光じゃ」

 

 

 ここで遂にノアも口を出した。

 

 

「どうやら本気で銀時が言った事を理解出来ていないらしいな。希望は誰かに押し付けられるものではない。第一、そんなものを今の彼女に背負わせてみろ。自分の事で手一杯だというのに不必要な重責を背負わされたら潰れるどころか下手すれば壊れるぞ。お前たちの身勝手な思想に付き合わされる筋合いはこの娘にはない。幻獣とやらと反応したというだけで年端も行かぬ少女を前線に放り込むなど、帝国と同じ事をしているだけと何故気付かん」

 

 

 その場にいたリターナー側の人物は誰一人反論出来ない。

 反論しようものならどんな理由であろうと自分たちは帝国と同じだと認める事になる。

 

 

「おい」

 

「は、はい!?」

 

「彼女が休める所は」

 

「こ、こちらへどうぞ!」

 

 

 ノアの雰囲気に呑まれたリターナーのメンバーの一人は、言われるがままにノアや万事屋メンバーとティナをベッドのある場所に案内する。

 バナンはもちろん、エドガーらもそれを黙って見送る他なかった。

 

 

☆☆☆

 

 

 その後、ティナは一休みして目を覚ましたあと、ロックやエドガー、マッシュに話を聞いてまわった。

 ロックは大切な者を帝国に奪われたとか、エドガーが思想の強要はしないと言ってくれたりとか、マッシュは愛を説いたりとか……なんか最後違くね?

 

 そういえばとノアやアクア、万事屋メンバーにはまだ聞いてないことを思い出したティナはベッドのある部屋まで戻ってくる。

 

 そこでは……

 

 

 

 

 

(トラップ)カード発動!聖なるバリア―ミラーフォース!相手の場の表側攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

「何ィィィ!?ミラーフォースが仕事しただとォォォ!?」

「ふっふ〜ん!フィールドがガラ空きよ!」

「フッ……」

「!?」

「どこがガラ空きだって?伏せ(リバース)カードオープン!リビングデッドの呼び声!!墓地から青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)を特殊召喚だァァァ!!」

「えええええ!?」

「相変わらず浅はかだなテメーはよ!融合バニラモンスターの維持を思い知れ!アルティメット・バァァァスト!!」

「また負けたあああ!!」

 

 

 

 

 

 遊戯王やってた。ちょっと前のシリアスどこいった。

 対戦していたのは銀時とアクアだが、ノアや神楽、新八もデッキ構築している。

 ちなみにノアの同僚のレジェンドもやっている。『万物創世龍(テンサウザンド・ドラゴン)』がエースモンスターらしい。

 

 それはおいといて。

 

 

「銀さんたち、何してるの?」

「あ、ティナ!これは熱き決闘精神(デュエルスピリッツ)をぶつけ合ってるアル!」

「なんでこっちでも強いのよこの銀パ!」

「世の中効果モンスターばっか出回って通常(バニラ)モンスターの底力をナメ腐ってる奴ばっかだからよォ、返り討ちにするために磨きまくっただけだぜ?中でもテメーは綺麗に俺の戦略にハマってくれたけどな!」

「お前は目の前にぶら下げられた人参にすぐ飛びつくからな。思考が読みやすすぎる」

「うあああああ!!」

 

 

 これは戦闘にも通ずることである。

 カードゲームらしいそれに関しては後でゆっくり聞くとして、ティナはロックらと話したことをノアたちにも話し、その上で聞いてみた。

 

 

「なんで戦うか?」

「うん……ロックたちはみんな、それぞれ色々考えてた。でも、私は……」

「そんなもん時と場合によりけり、じゃねーの?」

「……え?」

 

 

 銀時の言葉にノア以外の全員が振り向く。

 

 

「そもそも帝国とやらが各地でドンパチやらかしてるからここにいる連中は戦ってるだけだろ?少なくとも安っぽい正義感なんかで戦ってる奴なんざほとんどいねーだろーな」

「確かに。おそらくその帝国が自国周辺のみで同じようなことをしていたならここの者たちがこうしてレジスタンス運動をすることもなかっただろう。結局、戦う理由などその場その時で変わるものだ。これが正解でこれが間違っているというのは個人個人によって差異がある」

「ま、一度しかない人生だし好きにすりゃいいんじゃね?つーか今のオメーは自分の記憶も過去も分からねーのに難しいこと考えんなよ。ただでさえ面倒事背負ってんのに他人の戦う理由なんざ聞いて、考え込んで、キャパオーバーして頭パーンなんてシャレになんねーぞ。気楽に行け気楽に」

 

 

 ノアと銀時の言葉はティナが気にしていた部分を少し軽くした。

 気楽に、自分の好きにすればいい。

 実際にそれを体現しているかのような振る舞いをしているノアや銀時が言うと説得力がある。

 この世界に強制連行されたアクアはともかく、神楽や新八も銀時と同じくノアの護衛という名目ではあっても、何だかんだ言ってこの世界を満喫しているようだし、ノアなど自分の興味からアクアの監視を兼ねてこの世界へやってきたくらいだ。

 

 

「……うん、ありがとう。ノア、銀さん」

「ティナ、もしあのモジャ公に協力するのが嫌なら私たちと一緒にくるアル。当てもなくする旅もオツなもんネ。世界各国食べ歩きじゃあァァァ!!」

「オイィィィ!?違うでしょ神楽ちゃん!僕らはアクアちゃんの更生を監視するノア様の護衛なんだから!」

「えー?いいじゃない、食べ歩き。そりゃあんたはメガネにしか栄養いかないから反対するのはわかるけど」

「わかってねーよ!!大体メガネに栄養いくわけねーだろォォォ!!」

「何言ってんだ。オメーのメガネはたんぱく質とビタミンで出来てんだろ」

「それっぽい単語並べて言えばそう思うとでも思ってんのかァァァ!!」

 

 

 新八、絶好調である。やはり彼にはツッコミが良く似合う。

 そのやりとりにティナはくすっと笑い、改めて自分は希望にはなれないことを伝えに行く、とその場を離れた。

 

 

「どうするの?もし、ティナがまた強要されたら」

「その時は彼女を連れてここを強行突破して脱出するか。どのみち帝国に追われるならどこに誰といようと変わるまい。もっとも、我々と一緒なら戦力的にも問題はないだろうしな……約一名を除いて」

 

 

 レベル駄目な彼女である。

 

 

 

 

 

「お、おい!どうした!?何があったんじゃ!?」

 

 

 

 

 

 突如、バナンの焦った声が聞こえてきた。

 

 

「あ?何このデジャヴ。今までの経験上ロクな事起こってねーよコレ」

「この組織のメンバーが闇の巨人にでもなったか?スペースビーストでも出てきたか?まさかあのお粗末が実はダークザギだったのか?」

「「「「どれも最悪なんですが!?特に最後ォ!!」」」」

 

 

 ロックがダークザギとか何その超ドンデン返し。

 ともかく行ってみるか、とノアたちも声のした方向へ向かうと、リターナーの構成員がボロボロになって倒れていた。

 

 

「な……!何があったんですか、エドガーさん!?」

「サウスフィガロから帝国が向かってきているらしい。どうやら気付かれたようだ」

「むう……致し方ない、作戦を急がねばならん!」

 

 

 作戦が何なのかノアたちは知らなかったが、バナンの言葉にエドガーは頷いた。

 

 

「ロック!」

「わかってる。サウスフィガロで内部から敵を足止めする作戦だろ?」

「お前の特技を見込んでの作戦だ!頼んだぞ」

「そのお粗末だけじゃ頼りねーな。俺も行ってやるよ」

「「!」」

 

 

 撹乱作戦を単独で行おうとするロックに銀時が同行を申し出る。

 銀時はノアの方を向くが、付き合いの長い、強い絆で結ばれている二人は何も言わずとも互いの言わんとしている事を理解しており、ノアは銀時にサムズアップしつつ頷く。

 

 

「ノア様の護衛なら心配いらねーよ。あの人自体俺らが束になっても敵わねーし、神楽や新八もいるからな。ついでに言っとくと俺ァ忍者の真似事とか潜入捜査なんかもやったことあんだぜ?」

「……わかった、手を貸してくれ!」

「オーケー、銀さんにお任せだ。あ、報酬は出世払いでいいから」

「金とんのかよ!?まあいいや……ティナ。俺が戻るまでおとなしく待ってなよ。特に……手が早いので有名などこかの王様には気をつけろよ」

「心配しなくても私たちがそんなマネさせないアル。いいからとっとと行けよお粗末」

 

 

 神楽に急かされつつ、ロックと銀時は再びサウスフィガロへと急行する。

 エドガーはナンパ癖が直っていないのをマッシュに知られ、凄まじい威圧を受けていた。

 

 

「兄さん……」

「スイマセン、見逃してください」

 

 

 やはりマッシュの方が威厳たっぷり。

 

 

「そこまでにしておかんか。こっちはどうする?」

「レテ川を抜けてナルシェに逃げるのがいいでしょう。炭坑で見つかった幻獣の事も気にかかります」

 

 

 川を抜ける、ということでイカダを使った川下りになったのだが、どうやらそのレテ川というのはかなり流れが激しいらしい。

 アクアがビクついているが、そもそもお前水を司る女神だろ。

 新八は気を引き締め、神楽はワクワクしており、ノアは明日の献立について考えている。

 その後、ティナが『源氏の小手』を貰っていたが、あまり自分には合わなさそうだと新八に渡していた。あげた人涙目。

 

 

「イカダで川下り……なんかスキー場でスノボ代わりになった事を思い出しますね」

「将ちゃんと勲の前立腺ブレーキが折れたアレか」

(((((何だそれ!?)))))

 

 

 

 特にエドガーは経験すべきだと思う。

 去勢的な意味で。




 サウスフィガロで帝国を足止めするのはロックと銀時、他のメンバーは川下りでナルシェへ。
 その最中、みんな大好き紫のタコが現れる。

次回『タコってアレ海洋棲だよね』そもそもアレは本当にタコなのか。


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タコってアレ海洋棲だよね

前回の出来事

ロックと銀時が帝国を足止めすべくサウスフィガロへ。
他のメンバーは川下りしてナルシェへと向かう。

あと、怖い顔の教祖っぽいジーさんがスポット参戦。


「対して強くもなく倒されたら終わりだと?スパロボAのナデシコ初登場シナリオのエステバリスか貴様」
「操作出来る分マシじゃろ……ってなんてマニアックな例えするんじゃ!!」


 帝国の足止めをロックと銀時に任せ、代わりにバナンを連れてナルシェへ向かうべくレテ川をイカダで下る事にした一行。

 いや、それはいいのだが……

 

 

「ちょっとォォォ!?ものっそい激流なんですけど!イカダよく流されませんねアレ!!」

「特殊な材質を使っているおかげでヘッチャラだそうだ」

「まんま木製なんですが!!」

「新八ィそんなん今さらアル。モンスターがポーション持ってる世界に常識なんか通用しないネ」

「神楽ちゃん、ソレ僕たちが言っちゃ駄目な気がするんだけど」

 

 

 新八、割とボケの頻度が高いメンバー二人が一時離脱しているのに仕事量が減らない。頑張れ。

 

 

「事態は一刻を争う……急がねばなるまい」

 

 

 バナンではなくマッシュが言い、イカダへと飛び降りた。

 やはり一人だけ画風がぶっ飛んでいる。

 

 

「え?飛ぶの?ここから飛び降りるの!?」

「ぶん殴られてナルシェまで飛んでいくか蹴り落とされるか飛び降りるか選べ」

「飛びます」

 

 

 ノアから出された三択にアクアは迷わずイカダへと飛び降りる方を選ぶ。

 ついでに本気で殴られたら飛ぶは飛ぶでもその場で弾け飛びそうである。血塗られた盾ならぬ血塗られたポップコーン。

 早すぎるバッドエンドは嫌だ。作者的にも。

 

 

「よし、ティナ。俺に掴ま「さっさと行け(ゲシッ!)」アァァァァァ!?」

 

 

 注意されたばかりなのに下心丸出しだったエドガーはノアによってイカダへと蹴り落とされ、顔面から着地。

 レテ川に落下した方がダメージ少なかったんじゃなかろうか……。

 

 

「こうなりゃヤケだコノヤロー!!」

「テンションアゲアゲネ!キャッホォォウ!!」

 

 

 言葉通りヤケクソになった新八に対してノリノリで飛び降りる神楽。

 

 

「スマンがゆっくり運んで「その図太い神経があれば問題ない(ゲシッ!)」オアァァァ!!」

 

 

 相手が50歳超えの神官だろうと容赦なく蹴り落とすノア。まさに鬼畜。

 そして最後のティナだけノアがお姫様抱っこで抱えて飛び降りた。

 

 

「あ、ありがとう……」

「礼には及ばん」

「なんで!?なんでティナだけ!?私がヒロインなのに!タグにもあるけど私がヒロインなのにぃぃぃ!!」

「タグとか言うなァ!これ以上メタ発言にツッコミきれねーよ!もうそのうち四六時中メタ発言が当たり前のように飛び交う未来しか想像出来ねーよォォォ!!」

 

 アクアと新八の慟哭がレテ川に響く。

 とりあえず一行を乗せたイカダが出発するが、顔面強打したエドガーとバナンは o⁄Z な状態で痙攣しており戦力にならず、マッシュはオーラキャノンを後方にぶっ放してブースター役になっているため戦闘には参加出来ないので残りのメンバーでモンスターの相手をしている。

 

 

「なんか川なのに海鮮物とか居るアルな」

「ぎゃあああ!?なんか翼竜っぽいの来たァァァ!!」

「この世界は鍋の具に困らんな」

「え……?あれ、食べれるの?」

「違うわよティナそこじゃない!!」

 

 

 ぎゃあぎゃあ喚きながらも進みつつ、洞窟内で減速し例の如くもう狙ってんだろと言わんばかりに存在していたセーブポイントで一休みするノアたち。

 

 

「お疲れさま、マッシュ」

「ああ」

「そこの振られマンと宗教ジジイはちゃんと働くアル。マッシュや私たちしか動いてなかったネ。労基に訴えるぞコノヤロー」

「いやこの世界に労基あんのコレ」

 

 

 エドガーとバナンに文句を言う神楽だが、コルツ山では真逆だっただろ、さっきまでの状況。

 

 

「仕方ないだろ……蹴落されて未だ顔が……」

「女性に手を出すのは早いくせに戦線復帰は遅いのか」

 

 

 ノアの一撃がエドガーの心にクリティカルヒット。

 

 

「ま……まあまあ、これから頑張ればいいじゃろう」

「だったら『いのる』くらい真面目にやれよ無職予備軍が」

 

 

 バナンも神楽の一言で撃沈した。さすがノア組、追撃にも容赦がない。

 しかも神楽は無表情で標準語になっている。

 

 

「……仕方ないったら仕方ないだろォォォ!!俺だってこの常識外れのパーティーの中で唯一癒やしと言えるティナとイチャつきながら冒険したいんだよ!でもさァ!周りがさァ!アクが強すぎんだよ!少しでも印象残しとかないとすぐに埋もれそうなくらい周りが濃すぎるんだよォォォ!!」

「その結果ロックはお粗末やトレジャー(小)ハンターなどという称号を貰ったわけだが」

「っていうかアンタもう振られマンとかドスケベ大明神とか称号貰ってるでしょ?良かったじゃない印象残ってプププ!」

「ドスケベ大明神ってなんだァァァ!?」

 

 

 ノアはもちろん、アクアの指摘も間違っていない。というか駄女神の称号持ちな彼女に言われた時点で色々致命的な気もするけど。

 

 

「それはそうと今さらな気もするけど、エドガーさんとバナンさんを連れて行ったとしてナルシェに入れるんですか?聞いた話だとロックさんとかノア様(とついでにアクアちゃん)が色々やらかしてたらしいですし」

 

 

 ここにきて新八が最もな意見を口にする。

 ティナの事は指摘しないあたり、しっかり気遣いは出来ていた。

 

 

「ふむ、確かに。正面から行っても駄目そうな気がしないでもないな」

「ごめんなさい……私のせいで」

「ティナは気にすることないアル!駄目だったら強行突破して町のボスを〆ればヨロシ」

「オイィィィ!?それ思いっきりヤクザやマフィアのやり方じゃねーか!!んなことしたら二度とナルシェに入れなくなるわ!!」

「町を牛耳ってしまえばこっちのもんネ」

「何そのディストピア!?」

 

 

 ウルトラマンであり光神でもあるノアの眷属が言ったらイカンのではないかと思う。

 スケールこそ小さいが地球侵略を企む宇宙人と変わらない気がするが。

 

 

「まあ……そこはそれ、向こうに着いてから考えるか。催眠術用の五円玉の用意を忘れるな

「わかったアル!」

「わかるなァァァ!!なんで洗脳前提で話し進めてんだアンタは!!むしろ自分の立場わかってんですかァ!?」

「今の私はアクアの監視役だ。それ以上でもそれ以下でもない」

「普通にそれ以上だろーがァァァ!!」

「ここまで監視役らしい事っていったら私を武器にしたぐらいしか思い出せないんだけど!もう解放してくれてもいいと思いまーす!」

「水を司るしこの川に捨てても問題ないということか」

「スイマセン調子に乗りました許して下さい」

 

 

 正直、銀時がいなくてよかった。いたらおそらく収拾がつかない。

 

 

「なんというか……騒がしい連中じゃな」

「全くです……」

「……」

「でも、私はあの雰囲気好きよ。どんな立場も超えてああして言い合えるんだもの。羨ましいな」

 

 

 実際、ノアも彼らを護衛に付けるだけでなく、逆に万事屋銀ちゃんや真選組の一員として参加する時もある。馴染みすぎじゃね?

 つかマッシュは落ち着きすぎ。

 

 

「よしお前たち、そろそろ出発するぞ。なんとなくあと半分くらいな気がする」

「気がするだけなんですか」

「私はこの世界の地理を知らん」

「いや、その認識で間違いない。もう少しだ、踏ん張るぞ」

 

 

 エドガーの言葉に頷くと、先程に加えてようやく復帰したエドガーとバナンも戦闘に参加する。

 と言ってもバナンは『いのる』(回復)専門なのだが。

 

 そしてレテ川下りも終盤に差し掛かったとき、向かい側から変な紫色の物体が流れて?いや流されて?どっちでもいいや、やってきた。

 

 

「何だ、何だ?」

 

 

 妙にノアたちを見たと思えばいきなり攻撃を仕掛けてくる謎の紫。

 

 

「うわっ!?何か変なの来たァァァ!?」

「何か変なのって何やねん!まあええわ、ここは通せんぼ!」

「喋ったァァァ!マジで紫色の変な物体アル!」

「アレ絶対触手か足っぽいものでちょっかいかけてくるパターンよね!」

「私も何か、嫌……」

 

 

 初対面なのに散々な言われようである。

 この紫色の物体――オルトロスは自称・タコなのだが、それっぽさはあるとしてもタコだと言われたら疑問が残る姿だ。

 そしてそんなタコ(仮)はティナを見ると……

 

 

「可愛い女の子……わいの好みや……ポッ」

「ノア様ァ!新八ィ!私狙われてるアル!」

「だから私を守って!乙女のお願いですよノア様!」

「あ、なんか色々ヤバそうなそこの二人はチェンジで」

「「んだとコルァァァ!!」」

 

 

 真っ赤になったかと思えば真顔で神楽とアクアをディスった。性格がアレだし仕方ない。

 神楽の番傘が火を吹き、ティナがファイアを唱え、アクアがオルトロスの蛸足にゴッドブロー……って初めてか?アクアが敵にまともに攻撃したの。

 続いてマッシュを見て……

 

 

「筋肉モリモリ……きら……」

「…………」

「スンマセンコッチ見んといて下さい本気で怖いですいや調子こいてマジスンマセンした」

 

 

 チキンと化した。タコなのに。

 まあマッシュ相手では仕方ないといえば仕方ないか。

 で、当のマッシュはというと容赦なく北斗剛掌波(オーラキャノン)をぶっ放していた。

 そしてバナン……

 

 

「お前の顔……こわーい!!」

「「ああん?」」

「こっちのが怖かったー!!何なのこのメンツ!?」

 

 

 神楽とノアがメンチを切り出した。

 神楽は慣れてるし、ノアも見た目が整っているが故に恐ろしいというか。

 なお、この直後放たれたノアインフェルノでオルトロスは色々ヤバい事になっている。色々。

 

 

「あのォ!俺まだ何もちょっかい掛けられてないんですが!!」

「同じく僕も何も言われてません!言われない方が幸せかもしれないけど!!」

「あ、うん。なんか頑張って。以上」

「「何だその投げやりかつ哀れみを含んだ目はァァァ!!」」

 

 

 エドガーと新八は絶叫するが、そりゃ初見で色々濃いもの見せられた後じゃそうもなるわ。

 ついでに現在進行形でオルトロス自身が危険だし正直構ってられないと水中に潜り込んだ。

 

 

「ガボガボガボ……」

「逃げんなコルァァァ!!まだ私の怒りは収まってないアル!!」

「おのれたこ焼きの具材め……どうしてくれようか」

「アレ食う気なんですか!?」

「きゃっ!?」

 

 

 そんな時、ティナが小さく声を上げ今度こそとエドガーが一歩踏み出した時には既に遅し、ノアが退避させていた。

 エドガー、血涙。

 

 

「ここなら大丈夫だ」

「ありがとう……今、足に何かが……」

「いやあのノアさん?ちょっとは俺にもこう……花を持たせてくれるとか……そういう気遣いはしてくれないの?」

「その下半身のテントを片付けたら考えてやる」

 

 

 もっこり。

 何を考えているか丸わかりな王様である。

 とりあえず何かしら発散させないと欲望が暴走してパーティーの女性メンバーが狙われかねない。棒だけに。

 

 

「あのクソタコ、水中からセクハラアルか!!こんの女の敵めェェェ!!」

「しかも例の如く私たちはスルー!?ますます腹立つわねあのゲテモノ!!」

 

 

 神楽とアクアが激昂しており、それを鎮めるかのようにマッシュが名乗りを上げる。

 

 

「婦女子への狼藉……見過ごすわけにはいかんな。ここは調気呼吸術(すいちゅうこきゅう)が使える俺が行こう」

「マッシュさん、エドガーさんよりイケメンすぎるんですが。何この安心感」

「言わないでくれ新八……ホント城出て何があったの俺の弟」

 

 

 エドガーが新八の意見を痛感していると、ノアもマッシュに続く。

 

 

「では私も付き合おう。これでも水中戦経験者だ」

「……ねえ、これは何なの……?」

 

 

 ……アクアをノア自身の身体にロープで固定して。アクアの柔らかいモノがノアに密着しているがノアは気にしない。

 エドガーは血涙どころか白目にまでなってしまった。

 

 

「先程も言ったが水を司るのだから少しは恩恵を見せてみろ」

「いやいやいや嫌ァァァァァ!?」

「ゆくぞマッシュ!」

「ああ!」

「「はっ!!」」

「待ってえええええ!!」

 

 

 バシャーンという豪快な音と水柱を発生させながら水中へと飛び込んだノアとマッシュ(+1)。

 なんか水中にも関わらず素早く動きながらタコ殴りにしている音とオルトロスの悲鳴が聞こえる。だって相手タコだもん。

 

 

「……理不尽とはまさにこの事か……」

「それ、アクアちゃんとあのタコが言いたいですよね」

「三人とも大丈夫かしら……」

「アクアはともかくノア様とマッシュはきっと問題ないアル」

「不確定ではあるが納得出来てしまうのが恐ろしいのう……」

 

 

 残された五人はのんびり待っていた。てか流されずにその場で留まってるイカダすげえ。

 と、突如ノア(&アクア)とマッシュが水中から勢いよく飛び出して……というか飛ばされて行った。

 

 

「くっ……あのテュポーンとかいう奴、相当な手練だ」

「フンガー、と鼻息だけで我々がこうだからな」

「何でこんな状況で落ち着いてるのっていうか予想出来てたけどねぇぇぇ!!」

 

 

 そしてそのままナルシェとは違う方向に飛んで行く三人。

 ……いやなんかだいぶ先に登場するヤツの名前が聞こえた気がするけど空知、いや間違った空耳だろう。

 

 

「えええええ!?ノア様ァァァ!?アクアちゃんんん!?」

「ノアー!アクアー!マッシュー!」

アレ?これチャンスじゃね?マッシュー!後は自分たちで何とかしろー!!」

「オイ聞こえてるアルこのドスケベ大魔王が」

「……むしろこっちに残ったメンバーの方が心配なんじゃが」

 

 

 遥か遠くでドボン、という音が聞こえた気がする。

 多分再びレテ川に落ちたんだろう。どの道離れ離れなのは変わらないが。

 

 

 

 こうして、ロック&銀時、ティナ&エドガー&バナン&新八&神楽、そしてマッシュ&ノア&アクアに分断されたパーティーはそれぞれ別行動でナルシェに向かう事になる。

 

 果たして誰一人欠けることなく無事にナルシェに辿り着けるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……帝国側が。




当初、ルート分岐でノアが分身としてネクサスのジュネッスとジュネッスブルーを作り出す案があったけど結局没に。

次回『変装とコスプレは似てるようで似てない』二人いるから剥ぎ取る量も二倍だ。


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変装とコスプレは似てるようで似てない

前回のあらすじ

なんか最後にタコ以外にも出てきたっぽい。


「フンガー!!」


 サウスフィガロで帝国軍の足止めに成功したロックと銀時だが、予想以上に警戒は厳しく自分たちも足止めをくらう羽目になっていた。

 

 

「くっそー……早くナルシェに行かなきゃ……」

「あー動いてばっかで糖分足りねーよ。パフェ食いに行こーぜパフェ。俺は特大サイズでいいから」

「状況分かってんの!?つか全然譲歩してねーよなソレ!!」

「バカヤロー普段の俺ァここにトッピングがコルツ山の如くてんこ盛りに加わんだよ」

「どーでもいいわ!!ったく……」

 

 

 やっぱり銀時も平常運転だ。

どうするかと悩むロックだったが、銀時の発案が突破口を開くカギとなる。

 

 

「そういやオメー『盗む』やれたよな」

「……スリでもしろってか?」

「ちげーよ。スリなんかより確実な方法だ。財布スるより身ぐるみ丸ごと剥いじまえばいいじゃねーか」

「もっとヤベ……!そうか!それだ!」

「あ?どーした?」

「変装だよ変装、商人とか帝国兵ならバレないだろ!」

 

 

 つまり服をぶんどる。リアルじゃ紛れもなく犯罪者である。さらに相手によっては変態である。

 ドヤ顔のロックに引き気味の銀時だが、RPGなんて大体そんなもんだ。てか発案はオメーだろ。

 

 

☆☆☆

 

 

 とりあえずは手短な商人を狙うことにしたロックと銀時は適当な商人に一先ずは予備の服があったら分けてくれないかと交渉してみようとしたのだが……

 

 

「お前は悪名高い泥棒単小だな!?」

「オイちょっと待てェェェ!?何でそんな名前で広まってんだァァァ!!」

「泥棒じゃなくてトレハンだっつー訂正はどうしたよ」

 

 

 何故だろう……トレハン呼びするとスピンオフ元のクロスオーバー作品の一つが頭に浮かぶのは。

 何はともあれロックに服を盗まれパンツ一丁で逃走する元商人現はだか。

 よくよく考えたらあれで町中を駆け抜けるのはマズいんじゃないのかと思ったが、ロックもロックで似たような事をやらかしてたというのを思い出す銀時。

 ちなみにそいつは外へ逃げようとした瞬間、足を滑らせてすっ転び頭を打って気絶するというコントのような展開になった。

 

「ちょっと小さいけど……まあいいか」

「そーいやお前ケツ抜きズボンとパンツはどうしたよ?」

「ちゃんと替えたよ!嫌な事思い出させんな!」

「思い出すも何も俺と出会ってからつい最近までそのまんまだったじゃねーか」

 

 

 確かにそうである。ノアとアクアに至っては素っ裸にされたロックを見る羽目になったが。

 それはそれとして、逃走した商人の荷物からもう一着服を取り出して着込む銀時。

 その商人装束のおかげかだいぶ行動範囲の制限が緩くなった。

 

 

「で、次はどうするよ?」

「そうだな……帝国兵から服を頂くか」

「うん、お前トレハンじゃなくて立派な泥棒だわ」

 

 

 あっさりそういう思考に行き着きすぎである。ちったあ悩めコノヤロー。

 で、路地裏に二人の帝国兵を二人で引きずり込んで……

 

 

「「な、何だ貴様ら!?」」

「万事屋でーす。商品の仕入れにご協力願いまーす」

 

ゴスッ!!

 

「「ぶげっ!?」」

 

 

 銀時の一撃で簡単に気絶する帝国兵2名。もう完全に強盗じゃねーかコレ。

 そして気絶した帝国兵から平然と服を剥ぎ取るロックもロックである。

 ついでに二人してその帝国兵の有り金も頂戴していた。

 

 

「ちょっと大きめ……しょうがないか」

「さてと……連中と同じ格好に成り済ましたっつってもこのままここの外には出れそうにねーな。こーゆー町にはどっかしら抜け道みたいなモンがあると相場が決まってるが実際どうなんだ?」

「さあな……とりあえず聞き込みでもしよう。住民が帝国兵相手に喋るとは思えないが、逆に同僚なら多少は喋るんじゃないか?」

 

 

 しゃーねーな、とぼやくもしっかり仕事をするあたりさすがプロ。

 見張りというか巡回というか、そんな感じの帝国兵に交代と言ってそこを離れさせ、少し離れた時に銀時とロックは酒場へと向かう。

 

 

「やっぱここだろ。情報収集なら」

「……こないだみたいなのは勘弁してくれよ」

「わぁーってるよ。俺だって連中にゃ捕まりたくねーし、それに……」

「それに?」

「あとはテメーで考えろや」

「な!?そこまで言ったなら教えてくれたっていいだろ」

 

 

 やなこった、と返した銀時の脳裏に浮かんだのは、ロックとこのサウスフィガロへ向かう時にサムズアップで返してくれたノアや、万事屋の残りの二人、それからついでにアクア。

 

 

(オメーらもしっかりやれよコノヤロー)

 

 

 彼らの信頼に応えるべく銀時は奔走する。

 

 

☆☆☆

 

 

「結局振り出しに戻ってんじゃねーか」

「別に振り出しじゃないだろ?抜け道を知ってるってじいさんの話を聞けたんだから」

「いやそうじゃなくてこのカッコだよ。また商人ルックに逆戻りしてんだろーが。帝国兵のコスプレする必要あったのコレ」

 

 

 ロックの言う通り抜け道を知ってるという老人の事を聞き、酒好きだというのでどっかの商人から服を剥ぎ取り変装して、届ける酒まで奪い取っていた二人。

 マジで強盗である。ヤベーイ。

 

 そしてその酒(銀時が途中で開けようとしたが、ロックが死守した)を酒飲み酔っぱらいじいさんに届け、金持ちの屋敷の地下から町の外に出れることを聞いた二人は、孫に合言葉を言って通してもらおうとしたのだが、肝心の合言葉をじいさんが忘れてしまっていたため……

 

 

「おい坊主、通してくれるならコイツをやるぜ?」

「オーケイ、商談成立」

 

 

 銀時がエロ本で懐柔した。

 

 

「オイィィィ!?未成年になんつーモン渡してんだ!!」

「バカヤロー性教育は早ェ方がいいんだよ。なァ?」

「うん。こっちのイケメンお兄さんと違ってそっちの人は前時代的だね」

「だろ?で、ちなみにオメーはこっちとこっちどっち派だ?」

「断然こっちだよ。やっぱ大きい方がいいな」

「わかってんじゃねーか。オメーは大物になるぜ」

「どんだけ頭ン中真っピンクなんだテメーらァァァ!!」

 

 

 何故か妙な友情が生まれてしまった銀時と孫は名残惜しくも別れる事になった。さらば友よ。

 

 

「あの歳でどんだけませてんだよ……」

「誰も見てないからって商人や帝国兵を一切の迷いなくひん剥くテメーが言うんじゃねーよ。しかもどいつもこいつも男だっただろ。さてはテメーそっち派か?」

「変な勘違いすんなァァァ!!」

「うるせーな。デケー声出すな連中にバレたらほっぽり出してくぞ」

 

 

 商人ルックでこっそり金持ちの屋敷に忍び込み、風が吹く音がするという部屋に入ると、そこで見つけた隠し通路らしき場所から地下へ降りていくロックと銀時。

 

 

「オイオイすげーなここの金持ちはよ。こんな地下室まで持ってんのか」

「聴いた限りじゃあの屋敷の住人も知らなかったっぽいけどな……ん?」

 

 

 地下のある部屋から何か音がすることに気付いたロックはちょうど外から部屋の中が見れるのを確認して覗き込む。

 

 

「オイ何してんだオメーは。バカなことしてねーでとっとと行くぞ。バレたら今度こそ振り出しどころか悪い意味でジ・エンドなんだからよ」

「あいつ見た事がある……」

「あ?」

「帝国の将軍……確か……」

 

 

 銀時は俺の話聞いてんのか、と頭を掻きつつ仕方なく自分も見てみる事にすると、部屋の中では一人の女性が帝国兵に殴られている。

 

 

 

 

 

「裏切り者はこうなるんだ!常勝将軍セリスも落ちたもんだな」

「弱者を力で踏み潰すお前たちほどとは思わんがな……」

「何っ!?」

「ケフカは東方の国ドマを毒を用いて皆殺しにする計画をしているそうじゃないか。しかも自業自得な報復をされて酷い火傷を負った自分を治療させるために腕の立つ医者をあちこちから無理矢理かき集めたとか」

「うるさい!」

 

 

 さらに帝国兵に殴られ、セリスと呼ばれた女性は気絶した。

 

 

「チッ!明日はどうせ処刑されるんだ。今のうちにへらず口を叩いているんだな!おい、しっかり見張っておけよ!」

「はっ!三日三晩寝ずに見張ります!」

 

 

 

 

 

 部屋から兵士の片割れが出ていき、姿が見えなくなったところで柱の裏側、しかも上の方にへばり付いていたロックと銀時は通路に降りる。

 

 

「……行ったか?」

「おう。しっかしまあ数奇な事もあるもんだ。つか何やらかしたんだあのべっぴんさん……ってオイ!?」

 

 

 平然とその部屋に入っていくロックと、驚きつつこれまた仕方なしに追いかける銀時。

 部屋に入ると寝ずに見張ると言っていた兵士はどこぞの小学生もかくやといったレベルで夢の中に突入しており、セリスは枷で壁に繋がれていた。

 

 

「え、何コイツのび太くん?」

「誰だよのび太って……それより」

 

 

 繋がれているセリスを見て……

 

 

「「このまま眺めてるのもいいか」」

 

 

「じゃねーだろォォォ!!」

「うるせーっつってんだろこの単小!何がわりーんだよ。このくい込みの部分とか見てるだけでこうムラムラくるっつーか……ティナといいこの女といい帝国の女兵士ってこれが正装?やべ、俺この世界じゃ帝国に就職しよーかな」

「エロ目的で帝国に就職しようとするなよ!エドガーと似たようなモンになってるぞ!?」

「てかこののび太くんマジで起きねーな。ホントにのび太くんの転生者じゃねーのかコイツ」

 

 

 のび太くん呼びされる帝国兵はさておき、溜息を吐きつつセリスの枷を外すロック。

 銀時は帝国兵が何か持っていないか身体調査している。

 セリスは枷を外されたことで倒れ込むが起き上がり二人を見、第一声が……

 

 

「……こんなところまで押し売り?」

 

 

 この言葉で未だ商人ルックだったことに気付いた二人はそれを脱ぎ捨ていつもの服装に戻る。

 

 

「おっとこんな格好で失礼。俺はリターナーに与する者、ロック。で、こっちが……」

「ったくしけたもんしか持ってねーなのび太くん。何かの鍵と小銭しか持ってねーよ。こんなんポーション何個か買ったら無くなるっつーの」

「いやソコは自己紹介しろよ!?何でこっちのシリアスを吹き飛ばすようなマネしてんだァァァ!!」

「ぎゃっふァァァァァ!?」

 

 

 相変わらず帝国兵の持ち物を物色していた銀時にロック渾身の踵落としが炸裂!

 いきなり訳のわからないやりとりを見せられたセリスは案の定ポカン顔。

 

 

「何しやがる単小の分際で」

「初対面が近くにいるのにそう呼ぶのはやめろォォォ!!」

「自己紹介すりゃいいんだろ自己紹介。俺ァ坂田銀時、万事屋だ。世を忍ぶ二つ名はギントキ・ザ・ナイスガイ」

「初めて聞いたんだけどそんな二つ名」

「リターナー!そうか……私はセリス将軍……だった。今はただの裏切り者」

「「え?今のスルー?」」

「あ、いや……ツッコんだらいけないのかと……」

 

 

 変なところで気遣いが出来る人だったらしい。

 つかあのバカ騒ぎの中、帝国兵まだ寝てるんですが。こんなんばっかで大丈夫なのかガストラ帝国。

 

 

「行くぞ!」

「主語もなしじゃ分かんねーだろ」

「……!?私を連れてか?いいや無理だ。走る事が出来ない」

「え?分かっちゃったのこの子。もうわけわかんねーよ」

 

 

 セリスは何とか歩けるものの確かに走れそうにない。痛めつけられて拘束されていたのだから当然といえば当然だ。

 銀時はセリスがロックの言った事を即座に理解出来たことが理解出来ない。

 

 

「ありがとう……だが、仮にお前たちが私を連れ出しても守りきれるはずがない……それならば、ここで潔く死を迎えた方が」

「守りきれるはずがないだ?勝手に人の実力を決めつけてんじゃねーぞテメー」

「「!?」」

「ウダウダ言ってんじゃねーよ。美しく最後を飾りつける暇があるなら、最後まで美しく生きようじゃねーか」

 

 

 かつて銀時が攘夷志士だった頃、桂小太郎と共に包囲された際に口にした言葉。

 それに動揺するセリスと、それに感銘を受けたロック。

 

 

「守る!俺が守ってみせる!行くぞ!」

「なら俺がオメーを守ってやらァ。そっちのレオタード将軍はオメーが責任持って守れよ。あ、報酬割り増しで頼むわ」

「オイィィィ!?せっかくカッコ良かったのに自分から台無しにしてんじゃねーか!!」

 

 

 そんな二人のやりとりにようやくセリスも笑みが零れた。

 ついでにセリスはのび太くん兵士が役立つ物を持っているかも、と言おうとしたが先程まで銀時が手当たり次第物色していたのを思い出して言うのを止めた。

 ……服を剥ぎ取られなかっただけマシと思ってもらおう。

 

 それから奥の部屋の宝箱の中身を頂戴しつつ、兵士からパクった鍵で時計を動かして地下通路を抜ける三人。

 そこの宝箱も当然のごとく頂いていく。

 

 

「おーうオメーら無事についてきてんだろーな」

「ああ、俺もセリスも無事だ」

「……あの木の刀、何か特別な一品なのか?」

「いや……後で聞いたら通信販売とか言うもので買った物らしい」

「ふ、普通に売ってるの!?」

 

 

 そういう反応が普通なのだ。銀時が振るうからおかしいのであって。

 途中で出てきたワン公を銀時が威圧しながらボコったらいきなり何も出て来なくなり、割と地下通路は安全に突破でき、階段を上り地上に出るといい感じにサウスフィガロから出られそうな場所に出て来れた。

 

 

「お、ラッキー。ちょうど町の外側じゃねーか」

「どうして私を守ると……?」

「似てるんだ……いや、何でもない。俺自身のためさ」

「そりゃ結構だが人に勝手な行動しないよう釘指してるくせにテメーが勝手な行動すんのはやめろよな。今回はテメーが騒ぎの発端のほとんどだし」

「うっ……悪かったよ」

 

 

 そこからはかつてフィガロ城から移動してきたのと逆に洞窟を通ってナルシェに向かう三人。

 フィガロ側からの入口、つまりサウスフィガロ側からは出口付近にある回復の泉で休憩し、いざ洞窟を出ようとした時……

 

 

「さっきから何の音だ?何だ?」

「何コレお前のドリルで天を突け的な?」

「壁の中から何か来る!」

 

 

 セリスがそう叫ぶと、壁をブチ壊しながら大型のバイク型魔導アーマーらしき物が現れた。

 

 

「ディッグアーマーだ!コイツの魔法を浴びればひとたまりもないはず!!」

「見たとこ自律走行してるみてーだな。これも魔法の産物か?」

「いや、そのあたりは私も詳しくは聞いていない」

「そうかい。ま、やる事は決まってんだけどな」

「それで、どうすりゃいい?」

 

 

 ロックに対してセリスは病み上がりだというのにある提案を出す。

 

 

「魔法は魔封剣で私が引き寄せる!」

「そんなことして大丈夫なのか!?」

「まあ、見ていなさい!!」

 

 

 ディッグアーマーは三人に対してサンダーを放つも、セリスの魔封剣により一人分に集束されて吸収され、僅かながらMPを回復させる結果になってしまう。

 

 

「大したモンだな。マジで身体とか平気なのかよ?」

「身体の方は。だが、魔封剣を行っている間は私は他の行動が取れない。戦闘は実質二人に任せてしまう形になるが……」

「心配すんな。あの厄介な魔法ってのが来ないならあとはガチンコ勝負だろ?そうなりゃ相手が魔導アーマーだろーがブルドーザーだろーが負けねーよ。行くぜ、ロック」

「ああ、直接の相手は俺たちに任せてくれ!」

 

 

 心強い返事と共にディッグアーマーへ立ち向かう二人にどことなく安心感を覚え、セリスは魔封剣の維持に集中する。

 ……が。

 

 

「『盗む』っ!!」

 

 

 盛大に銀時とセリスがズッコケた。

 ディッグアーマーも自律回路の理解が追いついていかないようで、アイドリングしているだけだ。

 

 

「よっしゃあ!エアナイフを盗んだぜ!」

「テメーはこの状況で何してんだァァァ!!」

「……ちょっと格好いいと思った少し前の自分を殴りたい」

 

 

 浮かれるロックに対して怒鳴る銀時と後悔しているセリス。

 そしてそんなロックにディッグアーマーの攻撃が迫る。

 魔法ではなく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ドリル』が後ろ向きのロックの尻に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンギャアァァァァァ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲劇は繰り返された。

 ついでに今回は刺さっただけじゃなく回転していたから大ダメージである。痛すぎる。

 

 

「お……おぐっふぅ…………」

「あのディッグアーマーとかいうのハンパねーな。岩盤だけじゃなくて別のモンも掘れんのか」

「何かが頭に語りかけてくるのだが……『アレに惚れてはいけない』と」

 

 

 銀時なんかもういつもの事と考え始め、セリスは何故か天の声らしきものを受信している。

 目から血涙、尻からも血が出ているロックも含めこのパーティーも色々ヤバいだろ。

 そんな事などお構いなしにディッグアーマーは追撃を仕掛けてきた。

 

 

「生憎だったな。俺ァそんなモンで掘られる気は毛頭ねェ。もし掘りたいってんなら……」

 

 

 銀時は迫りくるディッグアーマーに対して跳躍し――

 

 

 

 

 

「てめーの墓穴でも掘ってやがれェェェ!!」

 

 

 

 

 

 ダイブしながら手にした木刀でディッグアーマーを思いっきり突き刺した。

 それは動力部まで及んだらしく、銀時がディッグアーマーから飛び離れると軽く爆発して停止した。

 

 

「はァい終了〜」

「……すごい」

「似たようなやつと何度もやりあってるからな。こんなん屁でもねーよ」

 

 

 感嘆の声を上げるセリスに対しいつもの調子で応える銀時。

 そしてようやく復帰出来たロックが一言。

 

 

「ふう、やっと振り切れたようだな」

「オメーは結局盗んで報復されただけだろ」

「……それ、丸出しで進むのか……?」

 

 

 セリスのツッコミに再びロックは絶叫する。

 せっかく着替えたばかりなのに早速穴が空いたズボンとパンツ。

 

 ロックはがっくりと肩を落としつつも、サウスフィガロへと引き返せない三人はそのままナルシェへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「なあ、モンスターの俺を見る目が哀れみを含んでるように見えるんだけど」

「コイツに関わっちゃいけません的なモンじゃねーの?」

「私たちはそのとばっちりか……」

 

 

 ……この作品におけるロックの好感度、だだ下がりである。




モグ、ディッグアーマー、次は何にロックは狙われるのか!?(どっちもほぼ自業自得だったけど)

一方そのままイカダに乗ってナルシェへ向かっていた五人は無事にナルシェに到着。
……したはいいが……

次回『パワーは全てを解決する』困った時頼りになるのはやはり腕力。力こそパワー!


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パワーは全てを解決する

前回加入の新戦力

レオタード女将軍・セリス

○まふうけんがつかえるぞ!

※ロックの尻が悲惨な事になりました。


「オイ最後ォォォ!!」
「魔封剣でそうなったみたいに書かないで!」
「原因むしろソイツの自業自得だからな」


 帝国の魔の手から逃れるべく急流の中をナルシェに向かう。

 神楽、新八、バナン、エドガー、そしてティナ……ナルシェまであと少し……

 

 

「銀ちゃんもノア様も、あとマッシュもいなくなって戦力不足アル。男どもが揃いも揃って役立たずだし、ティナを守れるのは私しかいないネ!」

「いやなんで僕も役立たず扱いされてんの!?ていうかロックさんとかアクアちゃん数に入れてないよね!?」

「アクアはノア様の武器になるけどケツ出しハンターは武器にさえなんないアル!」

「なんでその二人は武器である事が前提なんだァァァ!!」

 

 

 たとえメンバーが減ろうとも新八のツッコミは健在だ。これがないと詰む。雰囲気的に。

 それはそれとして人数は減ったが無事残りのメンバーはレテ川を突破し、ナルシェに到達。

 

 しかし、いざナルシェに入ろうとするとガードが出て来てティナを見るやいなや……

 

 

「お前は……この前の帝国兵士!?」

「待ってください!」

 

 

 バナンの制止も虚しく、ガードはバナンを突き飛ばす。

 

 

「出ていけ!さもないと……!!」

「まあ、待て。私はフィガロ国王エドガー……」

「嘘をつけ!」

 

 

 バナンに続きエドガーも突き飛ばされる。

 

 

「信用ないアルなお前ら。知ってたけど」

「オイィィィ!!ちょっとは二人の心配しなよ神楽ちゃん!」

「ごめんなさい、神楽……私のせいなの」

「ティナ、待ってるアル。私が道を切り開くネ!」

((すっごく嫌な予感しかしないんだが……))

 

 

 鼻息荒く意気込む神楽に突き飛ばされた二人は不安を隠せない。

 未だ警戒しているガード2名へとズンズン進んでいく神楽。

 

 

「おい、さっさと退くアル。さもないと……」

「さもないと、何だ?ガキ」

「出ていくのはお前たち「ほあちゃあァァァ!!」ぶべら!?」

 

 

ゴシャアァァァァァ!!!

 

 

「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」」」

 

 

 神楽の容赦ない一撃がガード1名の股間に炸裂し、蹴り上げられたガードは門の天井に突き刺さる。

 そんな光景を見て男三人は絶叫し、ティナは口に手を当てて驚いていた。

 

 

「な……な……!?」

「一人分空いたアル。お前もこうなりたくなかったらおとなしく引き下がるヨロシ」

「なんつー強引な方法取ってんだお前はァァァ!!」

「グダグダ言う方が悪いネ!この通り、パワーは全てを解決するアル!」

「いややってる事が帝国と変わんねーだろォォォ!!」

 

 

 結局、増援を呼ばれてしまったので仕方なくその場を離れるエドガーたちだったが、神楽は不満そうである。

 

 

「エドガーたちがチンタラやってたからザコが増殖したアル。どう責任を取るつもりアルか?私は酢昆布一年分で手打ちにしてやるネ」

「「どう見てもお前が原因だろーが」」

 

 

 新八とエドガーのダブルツッコミを受ける神楽だが、そんなんで反省するような彼女ではない。

 ハァー……と溜息を吐く新八にエドガーが一つの案を出す。

 

 

「仕方ない。元々正面から行って入れるなんて思ってなかったからな。もう一つの方法で行こう」

「エドガーさん、何か案があるんですか?」

「まあな。とりあえず、こっちだ」

 

 

 エドガーに連れられ、門から離れて岩山らしさがある場所までやってくる一行。

 そこはかつてティナがロックやノア、アクアと共に脱出してきた場所だった。

 

 

「ロック達に助けられた時、確かこの辺りから……」

「ロックから聞いている。たぶん、この出っ張りをひねれば……」

 

 

 なんでそんなミステリーちっくなモンあるんだ、と思いたくもなるがエドガーがそれを動かすと入口らしきものが出現する。

 

 

「おおっ!?ここから侵入するわけですね!」

「ま、言葉は悪いがそうなるな」

「何ドヤ顔してるアルか。あのお粗末トレジャーとしか相談してない時点で良からぬ事に使おうとしてたのバレバレネ」

「えっ……ノアやアクアも知ってるはずなのに、ロックとしかここの事……相談してなかったの?やっぱりそういう人なのね……」

「何この扱い納得出来ないんだけど!!」

 

 

 普段の振る舞いのせいか神楽はもちろんティナにも信用されてないエドガー。まあ頑張れ。

 新八とバナンに慰められつつナルシェの炭鉱に入るエドガーと他の四人。

 炭坑をつつがなく進むもある場所に出ると何やら光が妙な動きをしながら先行して次の通路までの道筋を描く。

 

 

「何アルか今の」

「聞いたことがある。ナルシェにはガードに認められるための試練があると。確かあの光が通った道を進めば問題なく突破でき……」

「面倒くさいアル。心配しなくてもあんな一般ピーポーに毛が生えた程度の連中になるための試練に付き合う必要ないヨ」

「人の話聞いてお願いだからァァァ!!」

 

 

 自分から聞いておきながらそんなの関係ねぇ!とばかりに突き進んで行く神楽だが、当然ペナルティに引っ掛かる。

 その時、自身の周囲を回る光が自身の正面に来るように止められればモンスターとエンカウントせずに再開出来るのだが、神楽はそれすらもお構い無しだ。

 邪魔だと光を蹴っ飛ばし、現れたモンスターを尽くブッ飛ばしを繰り返して逆に試練のシステムがブッ壊れ、しかもモンスターが恐怖のあまり出て来なくなってしまった。

 

 ナルシェ、こんなんでガードの選定してたのか……。

 

 

「これでわかったアルな。力こそパワー!パワーがあれば何でも出来るアル!キャッホォォウ!!」

「神楽すごい!」

 

 

 ノリノリな神楽と尊敬の眼差しでそれを見るティナ。

 一方の男性陣はもはや達観してしまっていた。

 

 

「……エドガーさん、バナンさん」

「……何だ、新八」

「僕、生態系が壊れる瞬間を目の当たりにした気がするんですが」

「安心しろ、俺もそうだから」

「脳が考える事を拒否しとるな。かくいうワシもそうじゃ」

 

 

 彼らは知る。神楽こそが、少なくともフィガロ国最強のモンスターだと。

 知ったところで対処出来るわけじゃないが。

 

 それからの道中、ロックの尻を槍で一突きしたモーグリなる生物をティナがふかふかしたり神楽が締め殺しかけたりしたものの問題らしい問題も起きず、無事に炭鉱を抜けティナを助けたジュンという老人の家の裏手に到着した。

 

 

「私、ここから外に逃されて……」

「ここで間違いないアルか?無信用ドスケベ振られマン国王」

「何かダメな方にグレードアップしてんだけど!?」

「じゃあマダオにするアル。まるでダメな王様、略してマダオネ!この世界にもいたアルな、これが似合うどうしようもない奴」

「……あれ、おかしいな。目の前が滲んで見えないや」

 

 

 頑張れエドガー。負けるなエドガー。

 もう負けてるし頑張れなさそうだけど。

 

 

「人んちの裏手で何しとるんじゃ」

「「「「「あ」」」」」

「なんかデジャヴ感じるのう。あの時はロックがバンダナと靴だけで素っ裸じゃったが」

「「「「「!?」」」」」

 

 

 本人の素知らぬところで黒歴史が大暴露されているロック。知ってるのジュン以外だとロック本人とノアとアクアだけだし。

 

 

「あの野郎ォォォ!!やっぱり真正の変態だったアルかァァァ!!」

「私……そんな人に助けられたの……?」

 

 

 激怒する神楽と絶望した顔でへたり込むティナ。

 男三人は「いやいやそんなまさか」とか「さすがにそれはないだろう」とか「真実だったらどうしよう」とか色々混乱している。

 まあ、ノアに盗み返しされたとはいえ先に有無を言わさず仕掛けたのはロックだし、自業自得だろう。

 

 

「んん?よく見ればバナン様、エドガー様!ほう、それにティナか!見たことない新顔もおるようだが、ひとまず中へ」

 

 

 ぶっちゃけロックの醜態は気になるがとりあえずそれは置いておくとしよう。

 ジュンの家に招かれた5人はさっそく話を聞く。

 

 

「ジュンよ。ナルシェの様子はどうじゃ?」

「ここは帝国からもリターナーからも独立している町。リターナーに加われと説得してもなかなか聞きません。バナン様やフィガロ王が来てくれたとなれば、もしかしたら……」

「でもさっき門番にぶっ飛ばされたアル。あんまり期待しない方がいいネ。いざとなったら力づくアル!POWER!!」

「「オメーはそのいざとなったらしか考えてねーだろ!!」」

 

 

 エドガーと新八、割と良いコンビかもしれない。ツッコミ的な意味で。

 何故か発音が無駄に良い神楽をスルーしてエドガーはジュンに尋ねる。

 

 

「ゴホン!……住民の様子は?」

「炭坑の幻獣を見て、みな不安がっています」

「それが原因で帝国が来たんですよね。不安がるのも当然か……」

「実際、幻獣発掘以前は帝国もこのナルシェには手を出して来なかったからのう。しかし、この子がその幻獣についての答えを導き出してくれるかもしれんのだ」

 

 

 バナンの言葉にジュンも頷く。

 

 

「住民も幻獣の正体を知りたがっている事には変わりない。説得の仕方によってはティナを受け入れてくれるかもしれません……」

「ティナはともかく……もう一つ問題があるというか、ナルシェに着いてから追加されたというか……」

「また問題行動アルか?面倒起こすんじゃねーヨ」

「「原因はお前だァァァァァ!!」」

 

 

 ド派手にガードを1名ブッ飛ばし、ガード選定試験を破壊したことをもう忘れたらしい。

 エドガーと新八が揃って額に青筋浮かべてツッコんだ。やはりナイスコンビ。

 

 

「ふう……さて幻獣は、我々にとって救世主となってくれるのか……それとも地獄からの使者となるのか?」

「地獄からの使者!スパイダーマッ!!」

「何してんの神楽ちゃん。ノア様やアクアちゃん、銀さんは大丈夫かな……」

 

 

 銀時とロックはセリスを仲間に加え、またもロックが尻にダメージを受けつつこのナルシェへと向かっている。

 

 

 

 

 

 ノアとアクア、マッシュはどうなるやら。




ナルシェの防備が手薄になった原因がティナと神楽(前者は洗脳されてた)の女性キャラかつ二人ともガードとモンスターの撃滅という共通の事を成し遂げている点。
……アクアは?

次回『たとえ激流に流されようと雰囲気には流されるな』勇気と無謀を履き違えるなってよく言うよね。


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