テンプレバスター!ー異世界転生? 悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。クラス転移も俺(私)がどうにかして見せます! (たっさそ)
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第1話 由依ー悪役令嬢? 聖女召喚? もう慣れた。

「ああ、リリアンヌ、目を覚ましたのね!!」

 

 

「うぅん、このパターンは悪役令嬢………!」

 

 

 

頭がガンガンと痛む。

 

私の名前は、名前は………

 

 

佐藤由依だったり小鳥遊ユズハだったりローゼマリー・フォン・ブルームーンだったりします。

 

どうやら今回はリリアンヌらしい。

 

自分の手を見ると、手が小さい、つまりパターンB、幼少期だ。

何かの拍子に頭を打って私の記憶が入り込んでいる。

ちなみにAは赤子

Cは入学式

Dは婚約破棄の瞬間だ。

 

「何を言っているのですか! 先生! リリアンヌ様が目を覚ましました!!」

 

メイドが医者を呼びにいく間に、記憶の整理を行う。

 

 

リリアンヌ。

たしか、赤き瞳のマリアとかいう乙女ゲームの悪役令嬢。

 

ズキズキと痛む頭の中、

 

「ぺ、ペンを………!」

 

別のメイドにペンを準備させる。

パターンBでよかった。一番やりやすい。

 

Aだと言葉を覚えて喋れるようになるまで時間がかかりすぎる。

 

「お嬢様、一体何を!?」

 

紙とペンを持って机に向かうと

 

 

リリアンヌに向けてこれからの指南書を書き殴る

 

 

王太子

天真爛漫な子が好き、淑女教育が完璧にできるようになったら演技でもいい、笑顔の練習をして快活な声で返事をしてあげて

 

 

リリアンヌの義理の弟

そろそろ家に来るかも? 

両親が事故で亡くなっている。リリアンヌの父の不貞の子ではない。安心して。

将来歪んだ心のドSにしたくなければ、いじめずにデロデロに甘やかしてしまえ

 

騎士団長の息子

強い。

猫好き。

猫は学校の講堂裏。

以上

 

 

メガネ図書委員長

こいつに勉強見て貰えばだいたい上位の点数は取れるわ

ゴミみたいなプライドはポイっと捨てなさい

あと文学作品には目を通しておくこと。

 

 

王立学校に庶民が入学してきた時

絶対に庶民に嫌がらせはしないこと。

実は公爵の隠し子。

 

パターンA

リリアンヌが嫌がらせの主犯にされた時

庶民が王太子と恋仲になると、リリアンヌは婚約破棄及び国外追放ののち野盗に殺される

逃げる準備(武芸、資金繰り)をするべし

 

パターンB

王立学校に入学した庶民も異世界の知識を持った転生者の場合(最近のテンプレは主人公に性悪女がよく憑依するから)

大抵元の性格の悪さで自滅する。

 

パターンC

それでも庶民が手強い場合

自棄にならず、誠実でいなさい。

上記の人間は可能な限り全力で味方につけなさい。

証拠集めできる人材を見つけておきなさい

それでも無理なら、いっそ逃げて

 

以上。未来のリリアンヌより。

 

 

「よし、寝る!」

 

 

ゴン!

 

とテーブルに頭を打ちつけて意識を失った

 

さあ、リリアンヌ、あとはあなた次第よ。

 

 

 

 

意識が覚醒していく。

 

手を見ると、どうやら大人程度の大きさ。

どうやらリリアンヌは死を回避できる条件を揃えたみたい。

 

今度の場所は、石畳?

ずいぶんとひんやり。

 

となると、勇者召喚、もしくは

 

 

「おお、ようこそいらっしゃいました! 聖女様!」

 

「ううん、このパターンは、聖女召喚。」

 

ふるふると頭を振りながら起き上がる。

さらりと流れる黒髪は、元の私の髪、佐藤由依だ。

格好は制服。知らないけど、高校の制服?どこのだろう。

目の前の人物は聖女召喚を主導した王子様だな。

 

 

「して、どちらが聖女様かな?」

 

しかも、巻き込まれ系。

ただし、知ってる物語ではなさそう。

くそ、そうなったらどちらが巻き込まれたのかわからない!

パターンでは巻き込まれた方が謎のユニークスキルで草生える奴。

もしくはーーー

 

周りを見れば、ぽっちゃり体型の可愛らしい女の子がいた。

痩せたら美人になるのは間違いない。ということは

 

「美しい貴女が聖女ですね?」

 

王子が手を差し出したのは、私。

 

ぽっちゃりとわたしだと、私が聖女になるやつだ。

聖女ではあるがわたしが当て馬だ。

 

なるほど、つまり今回の主人公は聖女である私じゃなくてこちらの女の子だな。

委細承知

 

つまり今までのテンプレから当て嵌めると、この世界は飯がまずい。

ご飯のまずさに食が細くなって痩せた女の子が自ら腕を振るう奴だ。

 

この女の子は料理が趣味の聖女召喚完全無視の料理系乙女ライトノベルだ。

この子の料理にバフでもついてれば完璧だ。

 

にしても、2回連続で主人公じゃなかったけど、悪役令嬢転生はテンプレだから主人公といってもさしつかえないのかしら?

 

「私は何をしたらいい?」

 

「世界の穢れを払って頂きたいのです。」

 

「対価は?」

 

「聖女は代々、王族との婚姻を結んでおります、それが」

 

「却下で。」

 

王子様がなにか言いかけていたけれど、無視。

 

私は一緒に召喚された女の子に手を差し伸べた。

 

「私は佐藤由依、貴女は?」

「え?え? は、はい。中村カエデです。」

「カエデ、私のカンだけど、料理が得意そうね」

「は、はい。」

「じゃあこの世界にいる間、私の料理は貴女に任せるわ。対価はこの王子との結婚で」

「「えええええ!!!」」

 

王子とカエデが声を揃えて仰天するのを尻目に、私は深く頷いた。

 

 

 

…………

……

 

 

数年後

 

私の聖気とカエデが作ったご飯を食べた騎士たちの手により、世界の穢れは祓われた。

 

カエデは騎士団長と結婚した。

 

 

「あ、意識が」

 

 

結婚式を見届けた私は、意識を失い

 

 

⭐︎

 

 

ぺけぽこぽんぽん♪ ぺけぽこぽんぽん♪

 

ぺけぽこぽんぽん♪ ぺけぽこぽんぽん♪

 

ガシッ!

 

「ここはどこ!?」

 

ガバッと起き上がるとすぐに

周囲を見渡す。

 

ベッドの上だ。

 

スマホは7:00を表示している

 

周りには見覚えのある壁紙や机がある。

 

「私の、部屋? もどって、来れたの?」

 

ほっぺたをつねっても、いつも痛いからもう抓らない。

 

私の名前は、佐藤由依。

 

ごく普通の中学生。

 

ネット小説や乙女ゲーム、BLゲームなんだったら物語全般をこよなく愛する普通の中学生。13才、のはずです。

体感年齢はもう20歳は過ぎてるけど。

 

わたしにはちょっと人と違ったことがあります。

 

それは、夢の世界で物語の中や異世界にトリップしてしまうこと。

 

 

複数の物語を一晩で何年も経験するので、これが本当の自分なのか、自信がありません。

 

 

もしかしたら、まだ夢の中で逆行している可能性だってあるのですから。

 

もはや最後に寝た日がいつだったのか思い出せませんが、私の覚えている限り、今の状態がオリジナルの佐藤由依だと思います。

 

部屋の外からお母さんの「ご飯よー!」との呼び声を受け、私は慌ててベッドから降りることにした。

 

 

 

 

 

制服を着て家を出ると、隣の家から割れた腹を掻き目を擦りながら出てきた制服の男。

 

「今日は?」

 

主語も述語もない。そんな幼馴染の樹(タツル)から放たれたことばに、私は簡潔に答える。

 

「乙女ゲーム赤き瞳のマリアの悪役令嬢。解決30分。あと聖女召喚3年。そっちは?」

 

「は、勇者召喚。巻き込まれた5人目の奴が謎のユニークスキルで好き勝手する奴。最初から最強だとハーレムが増えるだけで中身がなかったのか1年で急に終わった。打ち切りみたいだった。」

「ぶっ!!」

 

さすがに吹き出した。

私たち幼馴染は、夢の中で複数の世界を行き来している。

 

樹は勇者召喚や巻き込まれ系。私は悪役令嬢転生や聖女召喚。

 

もはやテンプレすぎて感慨も湧かない。

 

いくつ世界を救ったのかわからないが、救った世界のことはちゃんと覚えている。

 

なんだったら夢の中で習得した技術や魔法なんかは別の夢の世界で使うこともできる。

 

さすがに現実じゃ魔法は使えないけど、体術なんかは体力と柔軟さえ出来れば現実でも役に立つだろう。

 

 

「タツルの夢ってなろうかよー」

「エタったのかな」

「ふはっ!やめっふふふっ!」

 

そんな私たちの朝は夢の中の冒険話から始まる。

 

 

明日、なろうでおなじみのクラス転移に巻き込まれるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告
【「俺、また何かやっちゃいましたドヤ?」を全力で否定する!!!】
お楽しみに。

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は評価をお願いします。


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第2話 樹ー「俺、また何かやっちゃいましたドヤ?」を全力で否定する!!!

「いかがいたしましょう? 魔王様」

 

「ふむ、この感じは、なろう鉄則3………魔王転生か。」

 

俺は自分の身を見下ろしながらつぶやく。

周囲を見渡せば、会議室で、俺の発言を待っている異形の者たち。

間違いない。このタイプはよくある魔王転生だ。

 

「あの、魔王様?」

 

心配そうにこちらを見る真っ赤な髪での角の生えた美しい女性。おそらく魔族。サキュバスか?

そして、こういった魔王転生には、間違いなく、裏切り者がいる。

 

テンプレだ。

考えるまでもない。

なんの会議をしていたかも重要ではない。

 

「魔王軍の師団長の誰かが間違いなく人間族と内通している。四六時中相互に監視しろ」

 

「な!?」

「我々をお疑いですか!?」

 

ざわざわ、こちらを不審な目で見るメデューサやハーピィ、サキュバス、吸血鬼、魔人。

いや、なにを不信がっているは分からんが、こういうのは、鉄則なんだよ。

 

「今日の会議は以上だな。」

 

 

………

……

 

数日後

 

コンコン

 

「入れ」

 

魔王の魔法の練習してたらサキュバスがノックしてきた。

 

「ご報告します。第二師団長ヴァンパイア族のグードルフが人間族の帝国に情報を流していることが判明しました。」

 

 

「ほらな。じゃあ次のテンプレいくわ。」

 

 

 

 

          ☆彡

 

 

 

 

 

俺の名前は………。

名前は………。

鈴木樹(すずきたつる)だったり、紫京院ワタルだったりユージだったり魔王だったりする。

 

 

なろうテンプレ絶対に許さないマンだ。

 

俺と幼馴染の由依は、夢の中でよくなろうテンプレの世界に迷い込む。

 

2人で同じ世界に行ったことはないが、俺は勇者召喚、悪徳貴族デブ転生、由依は聖女召喚や悪役令嬢転生などジャンルは分かれているものの、テンプレを知り尽くした俺らにそんなものを解決するのは容易い。そんな世界に度々夢の中で転生やら召喚やら憑依やらしているわけだ。

 

 

さらにいえば、夢で体験した事象は、別の夢でも再現可能。自分がなろうテンプレになりたくはなかったが、夢の世界での夢幻牢獄を脱出するためには活用させていただいている。

 

「………はっ!?」

 

 

というわけで、『今回のここはどこだ?』はどこなんだろう。

今は夢の中か。

 

いや、夢の中なのはいつものことだけど、どんな物語だ?

 

周囲を確認すると、どうやら体育館。

周囲は生徒で、俺自身、奇抜な制服を着ていることがわかる。

なんだこの服。線が多すぎだろ、装飾も、どうなってんだこれ。

ささくれに引っ掛かったらめっちゃほつれそう。絵師さん大変だな。

 

女子の制服なんて、乳袋がついてやがる。

女子たちはボディライン丸わかりで恥ずかしくないのかな。

パンツが見えてる子がいることから、エロ絵師がついたのだろうということはわかる。

 

 

ひとまずは状況把握だ。

 

なろう鉄則1、『とりあえず赤子転生』ではない。

 

次は………。

なろう鉄則2、『とりあえず異世界転移』かどうかの確認だ。

 

手を見ると、右手につけていた傷跡がないことから、自分の肉体ではないので

 

なろう鉄則3、『とりあえず他人に憑依』である

 

これは先の魔王転生なども鉄則3にあたる。

それがわかれば、次にやるべきこと、誰が主人公かを見定める必要がある。

 

 

俺や由依が夢の中で憑依転生などをする際に、夢幻牢獄脱出に必要な条件や脱出タイプがある。

 

己が主人公である『脱出タイプA』(楽)

 

主人公格をハッピーエンドに導く『脱出タイプB』(数年かかるがまあ楽)

 

モブ憑依による干渉が難しい『脱出タイプC』(数年かかる状況把握に時間が掛かる)

 

本来の物語の破綻による強制終了の『脱出タイプD』(非常に楽)

 

など、いくつかの脱出タイプが存在する。

由依はパターンと言っていたかな。

 

悪役令嬢転生などはタイプAとDの複合のようなもので、条件さえ満たせば一瞬で夢幻牢獄を脱出出来るそうだ。

 

 

「では、入学式を終了するぞい。皆の者、勉学を励むように。」

 

『ぞい。』キャラ付けか。なるほど。

アニメ漫画以外で何度も耳で聞いた。

 

どうやら入学式が終わったらしい。

 

というか、入学式だったのか。

 

よくわからないが、学園長っぽい人は取ってつけたようなロリババアだったので、十中八九ここは魔法学園のある世界で間違いない。

 

 

『新入生のみなさんは魔法の測定を行います。15分後に訓練所までお願いします』

 

との放送。

 

ふむ、入学試験ではなく、入学後に測定を行うあたり、シナリオの破綻を感じる。

 

魔法学園系なろうのシナリオを検証しよう。

 

シナリオA

『主人公は学園の講師。通常の数値はポンコツだが、一点突破の超絶特技、もしくは謎の古代技術を持つ。現在の基準が昔より低いドヤドヤ(ドヤ)ったれ』

 

シナリオB

『主人公は転生者、異常に甘やかされて世間知らずだが、謎の全属性無尽蔵魔力とその昔教えた人間も超絶技術をもっており「俺、なにかやっちゃいましたドヤ?」をやる最上級クラスに所属する(ドヤ)ったれ』

 

シナリオC

『実は凄いけど測定器が測りきれなくてバグって最下級のクラスに所属することになっちゃう(ドヤ)ったれ下剋上ドヤ系』

 

女子の制服がエロ過ぎるので、シナリオAが最有力だろうか

 

入学試験後に測定ということでシナリオCの可能性も出てきた。

 

 

自分の名前もわからないまま、人の流れに沿って移動する。

 

こういう時は胸ポケットに謎のタブレットか生徒手帳が入っているはずだ。

 

ふむふむ。

俺の名前は

【ヴィルフリート・フォン・リヒテンシュタイン】

 

名前が長いことから、俺は登場人物か主要人物っぽいな。

だが、この名前のやっつけ感がすごい。国名だぞ、リヒテンシュタインは。迂闊に苗字にしていいものじゃない。

この物語の作家は特に名前の由来を考えもせずにカッコ良さそうと思ってつけるタイプだ。最悪だ。

 

生徒手帳の顔写真を見る限り、俺の髪の色が赤色であることから、間違いなく俺は火の魔法を得意としていることはわかった。

 

「押さないで! 押さないでください!」

 

 

 

なんて考えながら歩いていたからか

 

「きゃっ!!」

「ぬお!!!」

 

後ろから悪質タックルされた。

 

顔面からズベシャ!と盛大にずっこける。

下手に手をついたら手首が折れる奴だ。

物語の中ならギャグや軽傷で済むかもしれないが、我が身に起きれば溜まったものではない。

 

 

いてえ、が、まあ、体育館の出口は狭いしな。

こういうこともあるのだろう。

 

「す、すみませんすみません!!」

 

タックルの張本人が申し訳なさそうに謝ってくるのを見て毒気を抜かれるも

 

「ああ、いや、問題なーーー」

 

いや待て、発言を早まるな。

 

む、ぶつかってきた少女は………なるほど、ヒロインだな。

 

ぶつかってきた少女は可愛らしかった。

薄水色の髪の毛は間違いなく水の魔法の天才であることが見え隠れしている。

それに、制服が周囲の女子たちとすこし違う。

 

周囲の女子の制服は白を基調とした金の刺繍があるが、彼女の制服はグレーを基調とした、なんというか落ちこぼれかお金がない庶民であることが一瞬でわかるようなデザインだ。

 

つまり、彼女は魔法の才能を見出された庶民で、推薦か何かでこの学校に来たのだと推測できる。

 

学校は平等に学ぶ場所であるという建前だが、学校側が平然と貴族を贔屓している奴だ。何度も見た。

 

(おい、あいつ死んだぞ)

(火の魔法の名門リヒテンシュタインを転ばせたんだからな)

 

との周囲からのヒソヒソ言葉を察するに、俺はどうやらワガママ貴族かそこらなのだろう。

 

俺自身が悪徳貴族転生だったらしい。

俺が主人公である線は消えた。

 

つまりは悪徳貴族ムーブを行わないならばこの夢の牢獄からの脱出が可能だろう。

方針が固まった。

夢幻牢獄脱出ルート、『主人公格をハッピーエンドに導く』脱出タイプBかタイプD………つまり『本来の物語の破綻』を満たすことが出来れば、脱出可能。

最速だと、悪役ムーブを回避すればヴィルフリートの死の運命を覆せる。

 

俺みたいなやつ、つまり序盤の悪役は、テンプレだと主人公にボコボコにされた後、ふてくされて謎の敵対組織の魔道具や薬の実験に協力して理性を失った後に主人公にもう一度倒されて主人公ドヤされる当て馬だ。

 

よくあるやつ………。その、なんだ。

「復讐したいか」「力が欲しいか」なんて甘言にのせられるやつ。それが今回の(ヴィルフリート)のポジションだ。

 

そういう流れだ。誰もが知ってるテンプレだ。見飽きたくらいだ。

ステータスオープンなんて言えば原理なんてどうでもいいがとりあえずステータスが見えるくらい………その流れは、なろうでは当たり前なんだ。

 

ここで彼女を罵倒し罵声を浴びせれば、主人公格が助けてくれるに違いない。

 

この場合、主人公が転生者であるか否かで対応は変わるのだが、主人公を見つけることが出来なかった現在、下手に改変すると余計に厄介になる。

 

だったら、むしろ破綻させて仕舞えばいい。

とはいえ、主人公が誰なのかを一発で判断できるこの状況を利用しない手はない。

 

俺がやるべきは、悪役ムーブ!

 

「なにを考えてこの俺様を押し倒したのだ!! この高貴な制服と顔に土を塗ったことにどう落とし前をつける!! 事と次第によってはただではおかんぞ、このッッ平民がァッッ!!!」

 

 

このムーブにより、教師(主人公)が止めに来たらシナリオA『主人公は学園の講師ドヤ』

 

生徒(主人公格)が止めたらシナリオB『俺、なにかやっちゃいましたドヤ?』

 

誰も止めに来ないのならばシナリオC『下剋上ドヤ』がほぼ確定する。

もちろん、誰も止めに来ない場合、シナリオAもあり得るが、可能性としてはシナリオCの方が高いだろう。

 

 

「うう、ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

 

さあこい、主人公!!

来てくれないとこの後どう収拾をつけるのか、俺もわからない!

魔法学園シナリオCだと基本的に主人公が来なかった場合の描写はない! 底辺の教室で泣いているところから始まるんだ!

 

「まて!!」

 

よし来た!! 制服!

シナリオB!!

 

「なんだ貴様ァ! (チラッと)平民の分際で私にたてつくつもりか!?」

 

主人公はどうやら平民として入学している。

服を見て一瞬で判断を下さないといけない。

 

 

「セロくん!」

 

主人公を涙目で見つめる女の子(チョロイン)。どうやら主人公の名前はセロ。

ヒロインとの邂逅はすでに済んでいるようだ。この当て馬感、さすがすぎる。

 

セロの髪と目を観察する。

 

黒髪黒目。

つまり間違いなく転生者だ。脳死なろう作家が考えそうなことだ。

日本人は特別なんです~^^ とでも言いたげだ。

日本人(オタク)妄想(イメージ)が得意なんですぅ。ってか?

 

だったら炎を絵で描いてみろよ、イメージできてるならアウトプットは余裕だろう。言っておくが俺には無理だった。

だから滅茶苦茶がんばって火の絵と水の絵と土の絵と空と原子の構造模式図と化学式と化学反応を描いて勉強してイメージしまくった。

すいへいりーべ ぼくのふねだ。

おかげで現実でも美術と理科の成績はそれなりにいい方だ。くそったれ。

 

そんでもって主人公の中に入っているのは過労死かトラックか通り魔にやられたおっさんだ。いつものなろうだ。

 

いい歳こいてドヤってんじゃないよと言いたい。

 

セロのセリフの「まて!」も俺の脳内で「まつドヤ!」と語尾が変換されてしまうくらいには慣れてしまっている。

 

「この私の制服を汚したのだ、まさか(文字通り)タダで済まそうと思っているわけではあるまいな!!」

 

マジでいくらするんだろう、この制服。

クリーニングだけで相当お金かかりそうなんだけど、この庶民の女の子にはクリーニング代だけで荷がおっもいはずだ。

 

心優しいお貴族様ならば、いいよいいよでなぁなぁで済ませたかもしれないが、悪役ムーブ中にそれはもうできない。

 

主人公がセロだということも分かった。

 

「セフィーラは、何度もあやまっているじゃないか!」

 

とセロが言う。そうか、彼女の名前はセフィーラというのか。

 

「なるほど、セロとやら。つまり、お前はこう言いたいわけだな。『あやまっているから許してあげろ』と。」

 

普通のなろうなら、ふざけるなとか言って手を出すのが悪役ムーブなのだろう。

だが、俺はいつだってテンプレに物申したいんだ。

 

「そ、そうだ!」

 

「つまり、顔に傷をつけ、服を汚されほつれさせたまま、今日の学校生活を行え、と!!」

 

「な、なにもそこまでは」

 

セロは急に日和りだした。

ふん。中身はサイコパスのおっさんだ。

言葉が通じるかは不明だが、言うべきことは決まっている。

 

「いーや、言っている! そもそも、わたしは謝ったから許すのではなく、落とし前の………誠意の話をしているのだ! 彼女が私の腰に思いきり激突して転げまわった結果、私は泥だらけで私を下敷きにした彼女は無傷。感謝こそさえれど、恨まれた挙句に私の制服のクリーニング代を私が出すのは筋違いというものではないか? 本当に申し訳ないと思っているのなら、謝るだけではなく、クリーニングをして返す、クリーニング代を渡す、着替えを準備するなど複数のやりようがあるのではないか?」

 

「だ、だが」

「いいの、セロくん。私がぶつかっちゃったのが悪いんだから」

「でも………」

 

「ほう、申し訳ないといっているのは、口先だけだったということだな。さすがは平民! 財布も心もすっかすかだなぁ! はっはっは!!」

 

我ながら、よくこんな憎まれ口をたたけるものだ。

 

「く………。口をはさんで、申し訳ありませんでした。」

 

おや、意外にもこの場ではサイコパスではなかったようだ。

女の子を助けるドヤ! と突っ走るのがなろうの日常だというのに。

 

とはいえ、これも「こんなに強い力を持ってるけどボクちゃんと謝ることができますよ、偉いでしょ」という作者の感情が見え隠れしている。

こんなもの、序盤を過ぎたらやはりただのサイコパスだ。

 

「制服のクリーニング代は当然私が負担します。申し訳ありませんでした。」

「ふん、初めからそういえばいいのだ。セフィーラとやら、貴様に請求書を送らせてもらう。」

 

 パンパンと、ある程度の砂を落とす。でも金の刺繍が割とボロボロだ。うひぃ。

 

「はい。庇って下さり、ありがとうございました。」

 

 

深々と頭を下げる美少女を見ると、こちらの罪悪感が爆発しそうになるから心臓に悪い。

本来、体育館の狭い出入り口がわるいのに。

 

 

 

          ☆彡

 

 

 

さて、人のことをサイコパスだなんだと言っておきながらだが、俺は自分のことをサイコパスだと思っている。

 

なぜなら、なろうテンプレを自分で体験していると、『ここぞ』という時にそれをぶち壊したくなってしまうからだ。

 

 

俺だって元々は夢の中で主人公として努力して努力して、手に入れた力がある。

夢の中ならば、それを扱える。

 

この夢の中でなら、俺はなろう転生者同然のチート持ちなのだ。

 

誰が主人公か分かってしまえば、物語をぶち壊して夢幻牢獄から脱出する。

 

 

何が悲しくて何年もそんな世界にとらわれ続けなくちゃいけないんだ。

早く目覚めたいのは当たり前だ。

 

俺は由依に会いたいんだ。

 

幼馴染の、女の子に。

 

だが、由依は物語をこよなく愛している。

俺が物語を破綻させると知ったら、きっとおっさんみたいに笑いながらプリプリと怒るだろう

 

とはいえ、もう見慣れてしまったテンプレを、あくびしながら続ける気持ちにもなってほしい。

 

 

「では、このミスリルゴーレムに向かって得意な魔法を全力(・・)で放って下さい」

 

 

ほーら、でたでた。

耐久性の優れる案山子(サンドバッグ)だ。

5個くらい並んで立っている案山子に、皆初級のファイアーボール、ウォーターボール、サンドボール、色物としては弓矢に風をまとわせて放っている。

 

「どきなさい、あたしの番よ!」

 

ちょっとおませな深紅の髪のツンデレっぽい貴族なんかは間違いなくヒロインその2。

セロのバカみたいな魔術をみてインチキだとか言ったりなんだかんだで「いっしょにパーティ組んであげてもいいわよ」とか言うに違いない。

なろうで見た。ソースは俺。

 

「立ち上る炎の壁、我が怨敵を燃やし尽くせ! ファイアーウォール!」

 

あいたたた、こりゃあ作者の詠唱語彙力が少ない奴だ!

でもこんなものは、なろうじゃ序の口だ。

 

「うお! すげえ! 中級魔法のファイアーウォールだ!まだ新入学生なのに!」

「ふふん♪」

 

あ、今のセリフは俺が手をメガホンにしてガヤの中から飛ばしているよ。

得意げな表情に声優不足のモブムーブも完璧だ。

 

「見ててね、セロくん。………原初の水の本流よ、揺蕩う大河よ!其れを縛り、留め、渦と為せ!! 我の祈りに応えよ! 契約の元、セフィーラが命ずる!!お願い、ウンディーネ………! アクアッットルネード!!」

 

セフィーラがなんだか炎の中級魔法よりしっかりした上級精霊水魔法の詠唱でアクアトルネードを当然のように発動してミスリルゴーレムにヒビを入れる。

 

 

「すげえ! 今年の一年生はやばい奴がいっぱいだ!!」

「どうなってんだ今年の一年は!」

「化け物揃いかよ!」

 

なんてモブムーブを行う。

お、先輩のモブムーブ素敵っすね。

 

「つぎは………、セロ。得意な魔法を全力で放ってください」

 

おおっと、今度はセロの番だ。

キョトンとした顔がわざとらしいな。本当は分かっているはずなんだ。

これまでのみんなの魔法の結果と、皆の反応を見て、中級が打てたら十分優等生だということに。

 

中身がおっさんだとしても、なんだったら引きこもりのニートだとしても。

中身が日本人であるならば、周りに合わせる方法を日本の一般常識で知っているはずだ。

 

だけど、全力で、なんて言ったら自称、世間知らずのセロくんは絶対に――

 

 

 

 

無限獄炎(インフィニティフレア)氷結地獄(・コキュートス)

 

 

 

 

 

――――ッッッドォオオオオオオオオオオオオンン!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

なんか最上級っぽいルビを振って無詠唱でなんかするに決まっている。

 

わかるよ。わかるわかる。

『ぼくがかんがえたさいきょうまほう』でしょ。

 

絶対零度まで凍った空気と、ダイヤモンドダストに一気に獄炎を点火して水蒸気爆発がうんたらかんたらしてるんでしょ。

いいよ、いらんよそんな説明。

 

聞いても意味ないし。

 

 

「まさか、ミスリルゴーレムだけじゃなくて、訓練場ごと爆発するなんて………! しかも、無詠唱………!?」

 

それさっき俺が言った。

そんな先生が驚くのを見るのは何度目だろう。

 

 

ぱらぱらと土煙と爆炎に凍り付く生徒たち。先生たちも口をあんぐりしているよ。

 

 

さあ、言うぞ。

 

今から言うぞ。

 

そんな爆炎を背景にしてお決まりのセリフを言うぞ。

 

 

 

 

 

「………あれ? 俺、またなにかやっちゃいました?」

 

 

 

 

当ったり前じゃボケ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面転換の 『☆彡(これ)』 はもうすこし待て。その伏線も回収しておく。

 

 

 

「『隕石落とし(メテオストライク)』どーん!」 

 

 

俺はさっきの魔王の夢の世界で手に入れていた星の魔法で隕石を呼んで、あの、なんだ。セロくんが使ってた『無限爆殺氷の炎(インフィニティなんだっけ)?』 のクレーターを埋めてやった。

更に大きなクレーターが出来たかも。

 

 

「いいや、お前は特になにもやっちゃっていない。安心しろ。」

 

 

☆彡(ドゴン!)   ☆★彡(ドゴーン!!) と降り注ぐ隕石。

 

それを呆然と眺めるセロくんの肩にポンと手を置いてやった。

 

 

俺の意識は消失した。

 

 

脱出タイプD(シナリオの破綻) コンプリート。

 

 

 

 

 

          ☆彡

 

 

 

 

―――ピピ(ガン!

 

 

 目覚ましが鳴った瞬間に高速チョップ。

 

「ここは、俺の部屋か」

 

 

ここは間違いなく鈴木樹(すずきたつる)の部屋だ。

 

今日の夢は短かったな。

 

時々、誰が主人公なのかよくわからないモブになることがあるんだ。

それが一番恐ろしい。

 

どういうムーブをすればシナリオを破綻できるか、まるで分らないからな。

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

「おはよー、タツル」

「おはー」

 

 

俺が家を出る時間と、由依が家を出る時間はだいたい一緒だ。

 

 

「今日は?」

 

 

主語も述語もない。由依のそんな問いかけの意味は

 

 

「は、『魔王転生』7日。『魔法学園の「俺、なにかやっちゃいました?」』対応時間は1時間。」

 

「ふっはー! ちょっふふっ、それっ、どうやって帰還したの?」

 

「なにかやっちゃいました後に、もっとすごいのやっちゃって、なにかやっちゃったのをたいしたことなくした」

 

「ぶっはー! パターンDだ! シナリオ破壊だ! 主人公を幸せにしてやってよー!」

 

「俺は早く目覚めたいんだよ。由依は?」

 

 

「は、『情報なし謎スキル突然異世界転移』5年と、『謎スキルのもう遅いざまぁ』が1年。今回はちょっとかかったなぁ。ざまあはすっきりしたよ。」

 

「主人公格の幸せを見届けようとするから時間が掛かるんだよ。どんなざまあ?」

 

「触った相手の精神が安定するスキルで有用性がわからなかったんだけど、一緒に組んでたパーティを追い出されたら一瞬で夢から醒めたの。もともとパーティメンバー全員チキンだったんだよ。あと、私なんだかんだで家事スキルたかいじゃん? 雑用する人がいなくなったんだよね」

 

「ぶふっ! じゃ、じゃあスキルがなくなったとたんにガクブルか?」

 

「そう。ゴブリン相手に手も足も出ないの。上級の魔法とか剣技とか使えたはずなのに」

 

「あっはっは! なんだそりゃ! 傑作だろ!」

 

「タツルのシナリオ破壊には負けるよ。プロローグは過ぎても第1章で完だよ!」

 

「うっせ。情報なし異世界転移は、困った時のあれか?」

 

「そう、『ステータスオープン』。なんなんだろうね、あれ。ちなみに触った魔道具の能力をスキルにして手に入るやつだった」

 

「うわ、いいなそれ」

 

 

俺たちの日常は、いつもの夢の語らいから始まる。

 

 

そんな、クラス転移に巻き込まれる30分前の、日常の光景。

 

 

 




次回予告
【通学路とキャラ紹介とクラス転移】

お楽しみに。


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は



評価をお願いします。(できれば星5はほしいよ)



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第3話 樹ー通学路とキャラ紹介とクラス転移

 

 

 

朝の通学路。

夢で大冒険をするにしても、俺と由依は中学生。

学生さんなのだ。

 

「でさ、やっぱり憑依が一番楽なわけよ。無茶出来るし。」

「まあ、わからなくもない。最近になると、もう俺は自分自身が主人公だと物語の攻略に本気になれない」

「あ、それわかるかも。私は他人のハッピーエンド見るの好き」

 

一般人には全然わからない話をしながら、2人で登校するのは、毎日の日課だ。

 

「あ、俊平ちゃんだ!」

「ん? 本当だ。後ろからこっそり佐之助が近づいてるが?」

 

そんな通学路で、身の丈に合わない学生服を着て、学生カバンをえっちらおっちらと重そうに両手で抱えて歩いている男の子。

 

彼は同じクラスの緑川俊平。

中学生にもなって、あろうことかクラスメイトの誰よりも身長が小さい学校のマスコット。

 

そして、その後ろから、なにやらイタズラをしようとしている佐之助。佐之助は樹と由依に気づいたようだが、唇に人差し指を立ててジェスチャーする。

いいだろう。俺と由依もこっそりと俊平の背後につく。

 

「俊平!」

 

 ひょいっ

 

「ぴゃ―――!!」

 

 突然、腋から手を突っ込まれて持ち上げられ、俊平は情けない悲鳴を上げる

 

 おそるおそる振り返ると、そこにいたのは

 

「佐之助! 樹くんと由依ちゃんも!」

 

「ようっ」

「おっす」

「おはよー」

 

 まあ当然、俊平の友人。エロガッパの西村佐之助。

 彼は写真部に所属するカメラマン。女子のキワドイ写真を撮るために粉骨砕身している猛者である。

 

 そんな彼は俊平とは小学生時代からの幼馴染であり、親友らしい。

 

「相変わらず軽いな!30kgもないんじゃないか?」

 

 ひょいひょいと俊平の身体を上下に上げ下げしながら佐之助はケラケラと笑う。

 

「あ、あるよ! ………四捨五入したら」

「四捨五入しないといけないのかよ。」

 

 そういって俊平を肩車する佐之助。佐之助の身長は160cmと中肉中背だが、その軽すぎる体重に納得できるほどの低身長である俊平なら全く苦にならずに肩車をする事が可能だったようだ

 

 俊平も複雑そうに佐之助の頭に腕を回して落ちないようにする

 俊平にとっても、この年になって肩車というのは、存外に恥ずかしいものであった

 

 しかし、悲しいことにお子様体型である俊平にはこれ以上ないほど似合っていた

 

「それで? 佐之助はなんで朝っぱらから僕のところに肩車しにきたの? いっしょに登校なんてガラじゃないでしょ? 樹くんと由依ちゃんはおはよう。」

 

 自分がお子様体型なことはもう仕方のないことだも諦め、佐之助がなぜここにきたのかを問う。

 

「おうよ。お宝画像を手に入れたから、ちょっくらお前さんにもお裾分けをと思ってな。ほら、修学旅行が近いだろう? 写真の整理をしていたら出てきたっぜぃ!」

 

 そう言って懐から人差し指と中指で挟んでシュビッ! と3枚の写真を取り出すと、頭の上の俊平に一枚差し出した

 

「これ? ぶーっ!」

 

 そこにあったのは、空手部大将、百地瑠々(ももちるる)のお着替えシーンであった

 俊平はたまらずに写真を見た瞬間に顔を真っ赤にして吹き出してしまった

 

「この変態! いつか捕まってしまえ!」

 

 佐之助の肩の上からポカポカと頭を殴る俊平。しかし悲しいかな、全然威力が無いのである。

 

「わー! 待て待て! これは百地が無防備すぎるせいだ! 決して盗撮じゃない! よく見ろ! 道場の中で着替える奴があるか! 緩んだ胴着で汗を拭いてるだけだっぜぃ!」

 

「でもこっそり撮ったんでしょ?」

 

 この状況をこっそり撮ること自体、盗撮ではなかろうか。

 俊平はジト目で佐之助を見下ろすと

 

「おうともさ! 逃げる、隠れる、騙くらかすにおいて俺っちに勝てるやつはそうそういないっぜぃ!」

 

 なんとも自信満々な答えが返ってきた

 それを盗撮と言わずになんという。

 

「うーわ。キモー。」

「おまわりさんこいつです!」

 

由依と俊平がドン引きするのも当然だろう。

 

「容疑はその辺の下級生に被せてきたよん。だから俺っちってばすでに表面上は無実なんだわ」

 

 なんとも用意周到な返しに俊平も呆れ気味だ。

 

「エロは死んで治したほうがいいかもね」

 

「バカ言え。エロは死んでもエロだっぜぃ!

 んで、もう一枚の写真がコレだ。」

 

 呆れたため息を漏らす俊平。エロは死んでも治らないらしい。

 性懲りもなく、二枚目、三枚目の写真を頭上に掲げ、俊平に手渡した。

 手渡された物はなんとなく掴んで目を通してしまうわけで、興味が全くない、というわけではないことがわかり、佐之助も「やっぱり俊平も男なんだなぁ」と若干ニヤケ顔だ。

 

「うん? 樹くん? 男の子が被写体って珍しいね。こっちは由依ちゃん。」

 

「ん? 由依写真?」

「タツルの写真? 見せて!」

 

俊平に渡したのはどうやら俺と由依の写真らしい。

しかし、肩車中の俊平の手のなかにある写真は見ることができない!

 

なんということだ、気になる!

 

 

「おおっと、しまった。こっちは売るようだった。」

 

ババっと俊平が持つ写真を回収する

 

「売る用ってなによ!?売買してんのかよ!?」

「変な写真撮ってんじゃねーだろーな!」

 

「安心しろ、クラスメイト全員の写真、男女ともに平等に売ってるっぜぃ。」

 

ニヤリと笑う佐之助。

そんなエロガッパの誘惑に、なろうテンプレを消化し続ける無敵の彼らがのせられるわけが

 

「由依の」

「タツルの」

「「写真を売ってください」」

 

「………まいどあり」

 

のせられてしまった。

 

異世界でなろうテンプレを軽々と消化する俺と由依だが、同級生の手のひらの上ではコロコロとよく転がるのだ。

夢とは違い、現実はままならない。

お、この由依あくびしてんじゃん。かわー。

 

「ダメだよ佐之助。盗撮した写真で売買したら。」

 

「いーのいーの。あの2人はこっちが胸焼けするほどラブラブだっぜい。本人は付き合ってないとか言ってるけど。お得意様は大事にするっぜぃ。」

 

「そうなんだぁ。」

 

「俊平はもっとエロに興味を持ったほうがいいっぜぃ! だから毛も生えないし精通もしてないんだよ。ほい、水泳部の巨乳ちゃん、岡野真澄のおっぱいドアップ写真だ。俊平も男だ。こっちのほうが好きだろう?」

 

「いらないよ! それに余計なお世話だよぉ」

 

 ズビシッと佐之助の頭にチョップをかまし、写真を元に戻させる

 小さな声で「毛も生えない………うぅ」と肩を落としていたことは心の(エロ)い佐之助はスルーしてあげることにした。それが親友の優しさである。

 

まったくもう。と佐之助の肩の上で一通りプンスコした俊平は、いらん世話を焼く友人に若干の苛立ちを覚える

 

「で、最後の一枚がアニメ研究部、田中花音のパン―――」

 

「興味深い話をしているな。話しを聞かせては貰えないか。なあ、西村。それに緑川。」

 

 ややハスキーな声がまたも背後から聞こえ、ビクリと肩を揺らす佐之助と俊平。

 

互いの写真を見せ合って「よく撮れているな」「撮影の技術すごいわね」などと言っていた由依と俺もその声に反応してそちらを向く。

 佐之助と俊平は二人そろって恐る恐る振り返ると

 

「げぇ! 百地!!」

「瑠々ちゃん………」

 

 そこに居たのは、先ほど話題に上がった空手部の大将。百地瑠々であった。

 

「それで? その写真には何が映っているんだ? 答えてくれないか、西村。『パン――』の後は何が入るのだ? んん?」

 

 ずいっと整った顔を寄せて責めるような視線を佐之助に突き刺す。

 その視線光線に大量の冷や汗を流す佐之助。

 彼が手元の写真には、百地瑠々のへそチラ画像と岡野真澄のおっぱいドアップ画像と田中花音のパンチラ画像が握られているのだ。

 言い逃れは出来ない。

 

(さらば佐之助、キミのことは忘れないよ。フォーエバー南無。)

 

 と心の中で念仏を唱えるのはもちろん俺。

 

(ただ、俺だけは巻き込まないでくれよ!)

 

由依と一緒に佐之助から距離を取る。

佐之助に肩車されている俊平が不憫でならない。

 

「こ、この写真は、パンダの写真だっぜぃ! いやぁ、この前動物園に行った時に撮ったんだよなぁ。『珍珍(ちんちん)』ってなまえだったっぜぃ! リピートアフタミー、『(ちん)ち―――」

 

 ――― ブゥン!!

 

 瞬間、百地瑠々の身体が一気に間合いを詰めた。

 俊平と佐之助の眼には彼女がブレたようにしか見えたかった。

 ブレたと思ったその時には、すでに彼女の左の上段回し蹴りが佐之助のこめかみまであと1㎝というところで停止していた

 

「ぴゃ―――!!」

「ぎゃ―――!!」

 

 遅れて俊平の太ももと佐之助の髪の毛を風が撫でる。

 一撃で死にかねない威力のその蹴りと技術を見て、何とも言えない恐怖に支配された俊平と佐之助は、情けない悲鳴を上げながらその場を動くこともできずに硬直したままガクガクと震えるという器用なことをしていた。

 

 

「嘘こけボケナス。そんな名前のパンダが居てたまるか。そしてさりげなく言わせようとするな!」

 

 

 そういって佐之助の震える左手から二枚の写真をひったくってしまった瑠々。

 

(佐之助、死んだかな?)

 

 と俺が思った、まさにその時、佐之助は右手でスマホの無音カメラ(犯罪じゃねーか)を起動していたのが夢の中とはいえ勇者の経験がある樹の動体視力に映った。

 

 無音カメラの撮影は終わっていたのか、撮った後の画像が表示されており、そこに映っていたのは―――先ほどの回し蹴りの際に舞った、スカートの中身だった。

 

「………。」

 

 佐之助は、どんな状況でも歪みなかった。

 ちなみに、ピンクの水玉だった。

 なにがとは言わない。

 

「………む、本当にパンダの画像だと!? いつの間にすり替えたのだ………」

 

 

 そしてさらに手に持っていた写真は、本物のパンダの写真にすり替えられており、佐之助を摘発する証拠としては完全に成り立たないものであった

 

 

 ―――逃げる、隠れる、騙くらかすに置いて、俺っちに勝るヤツは居ないっぜぃ!

 

 

 そのスキルをもっと有意義なことに使えれば、なろうテンプレでも有用なスキルなのにな。と、樹は心の中で思った。

 

 

「じ、じゃあ俺っちは社交ダンスのお稽古があるからお先に失礼させてもらうっぜぃ!」

「うひゃっ!? 今から学校だよぉ!?」

「おっと!?」

 

 佐之助は俊平を肩の上からぺいっと瑠々に向かって放り投げ、漫画のような逃走をしてこの場から離脱した

 

「………。」

「………。」

 

 

 取り残された瑠々と、彼女にお姫様抱っこされた俊平は気まずそうに顔を見合わせ、

 

「「………はぁ」」

 

 同時にため息を漏らした。

 

「なんかごめんね、瑠々ちゃん。」

「………犯人はアイツしかいないのだが、こうも巻かれては仕方がない。聞くとは思えんが、緑川からも今後はやめるように言っといてくれ。」

 

 佐之助の行動に呆れて頭を手で押さえながらも、一応その友人である俊平に佐之助の行動を諫めるように提言する。

 

 空手部の大将ということで身長も高く顔も整ってはいるがその凛々しい姿に周りの生徒には近寄りがたいオーラを発している瑠々。それゆえに3歳は………いや、もしかしたらそれ以上に年下に見えるこの小さな少年に名前で呼ばれて『ちゃん』付けまでされてしまうと何とも言えないむずがゆさが背中を走る。

 ただ、本人がそう言う性格だというのは同じクラスになってからのひと月でよく知っているし、不快ではないため、口には出さない。

 

「うん。聞いてくれるとは思えないけど、僕からも言っておくよ。」

「助かる。」

 

 俊平も、エロに生きる彼がその行動を止めるとは思ってはいないが、それで被害を受ける子も現にここにいるわけだし、注意くらいはしておこうと思っていた。

 

「時に緑川」

「なに?」

「最近縁子と仲がいいらしいな」

 

 唐突な話題転換に少し戸惑う俊平だが、いつまでも女の子とエロガッパの話を続けているわけにもいかないと、すぐに話題転換に乗ることにした

 

「ん、んー。そう、なのかな? 自分じゃよくわからないけど、最近はたしかに縁子ちゃんが僕に話しかけてくれるね。」

 

「そうなのか?由依。」

「確かに、俊平ちゃんとユカリコが一緒にいるのよく見るかも。俊平ちゃん、かわいいからユカリコもほっとかないんだよぉ!」

 

縁子、とは、北条縁子。

生徒会副会長を務める女の子だ。

美人で人当たりも良く、学校のマドンナ、天使とも言われている。

 

 そんな彼女がどういう意図で俊平に話しかけているのかはわからないが、それで実害があるわけでもないのでこのままもっとクラスメイト達がもっと仲良くなれたらいいなと俺はは思っている。

 

「ああ。私達にとっても縁子は大事な幼馴染だ。縁子に何かあったら許さんが、縁子のことをよろしく頼んだぞ」

 

 瑠々はどこか危なっかしいほわほわした雰囲気を纏っている縁子のことが心配らしい。

 普段の凛とした表情ではなく、慈愛に満ちたものすごく優しい笑顔でそう言った。

 

「ん? うん。わかったよ。」

 

 なぜこのタイミングで縁子のことを任されるのかわからない俊平だが、俊平にとっても縁子はかなり仲良くなってきた友人であり、大事にしたいと思っているため、瑠々のセリフにしっかりと頷いた。

 

 

「あー! 瑠々! 俊平君!」

 

 と、噂をすればそのタイミングで件の縁子が現れた

 狙っていたとしか思えないようなタイミングでの出現に、俊平と瑠々は顔を見合わせて苦笑するしかない。

 

 

「むー? 私の顔を見て二人して笑うってどういうことー!」

 

「あはは、ごめんね、縁子ちゃん」

 

「もう。俊平君を見かけたから一緒に登校しようと思ったのに。声かけた瞬間に笑うとかないよー」

 

 ひとしきりプリプリした縁子は頬を膨らませながら瑠々と俊平に文句を垂れる。

 

「はは、すまんな、ちょうど縁子の話をしていたのでな」

 

 その姿がかわいらしくてまたしても笑ってしまう瑠々だが、縁子を笑ったのは、まさに噂をすればという状況だったので仕方がないのだ。

 

「私の話? なになに、何の話?」

 

 しかし、もう笑われたことを気にしていないのか、瑠々の話に食いついた。

 自分のことを話されていたのだ。気になって当然はであるのだが………

 

「き、切り替えが早いな。器が広いのか、器に穴が開いているのか………」

「両方じゃない?」

 

 瑠々のつぶやきをバッサリと切り捨てる俊平も、その切り替えの早さには驚いた。

 三歩も歩けば何もかも忘れてそうなレベルだ。

 

「二人ともひっどーい!」

 

 からかわれる縁子の半泣きの声が路地に響いた。

 

 

「タツル?」

「ん?」

 

「私たちは、いったい何を見せられているの?」

「ラブコメか、キャラ紹介じゃね?」

 

 樹と由依にそんなことを言われているとはつゆ知らず、縁子はお返しとばかりに俊平をいじりながら通学路を辿るのであった。

 

 

「ところで、俊平くんはなんで瑠々にお姫様抱っこされているの?」

 

 

カッパに聞いて。

 

 

 

              ☆

 

 

 

HR(ホームルーム)を始めるぞ。席に着けジャリ共」

 

 無精ひげを生やしたやる気なさげな男。

 俺や由依たちのクラスの担任の矢沢聡史(やざわさとし)(25歳)だ。

 

 口も悪いし常に気だるげ。しかしなぜか生徒たちからの人望は高いんだよな、この人。

 

 今もHRを始めると言っているが、教卓に頬杖をついて持参した椅子にだるそうに座っている。

 HRを始める気があるのかと疑いたくなる気分だ。

 

「えー、欠席はなし。連絡事項はとくになし。あとは………今度ある修学旅行でいく自由時間の班分けでもしといてくれ。6人グループを5班な。余った2班は7人。じゃあよろしく」

 

 

 実際に始める気は無かったらしい。

 生徒たちの自主性に任せていると本人は言うが、ただの職務怠慢である。

いい加減にしろ。

 

 

「6人グループかぁ。………誰といっしょかなぁ」

 

 なんて、近くの俊平が言いながら成り行きに任せていた。

 

とりあえず、俺は由依と一緒の班にはなる。その上でどの班に入るかだな。

 

「由依は誰と一緒に行くんだ?」

「シノちゃんかな?」

「人選は任すわ。」

「おっけー!」

 

 なんだかんだで俺はクラスメイトみんなとある程度話すからな。誰とでも組める。

これも、なろうテンプレを行き来してついたコミュ力のおかげか。

 

一方、隣の俊平はっと。友達はいても仲のいい友達はエロガッパの佐之助しかいねーからな。

自然と受身系男子になってしまうのも仕方ないか。

 

 

「よう俊平。俺っちと同じ班になろうっぜぃ!」

 

 するとどうだろう。学校一エロガッパなことで有名な親友(エロガッパ)。もとい西村佐之助(エロガッパ)が俊平を班に誘っていた

 

 の、だが。

 

「おいチビ介ェ! テメェは俺の班だ」

「おいおいマジかよ雄大! あのチビを班に入れても足手まといだろ?」

「ヒャハハ! パシリゲェ――ット!」

 

 学校一有名な不良グループである髪を赤く染めた赤城雄大、青く染めた青葉徹、黄色に染めた黄島蓮のチンピラ信号機共がパシリ欲しさにさらに声を掛けてきた

 が、

 

「フ………フフ………。み、緑川はぼ、ボクの班だ。縁子の近くになんか行かせない。縁子はボクのことがす好きなはずなのに、ククキキ………。しかし、最近縁子と仲がいいみーみ緑川がボクの班に居ればひ、必然縁子もぼボクの班に」

 

 さらに学校一根暗で不気味なことで有名な坂本浩幸(さかもとひろゆき)までもが俊平を自分の班に組み込もうとチンピラ不良(しんごうき)どもをモノともせずに近寄って来たではないか。

 

 

「あの坂本が自ら動いたにゃ! 田中はびっくりにゃ!」

「明日は吹雪かのう」

「いや、こりゃ修学旅行の日に異世界召喚されちまうぜ!」

「珍しいことに坂本が動いたなら、それに協力してやるのがクラスメイトってもんだ!」

「俺は誰だ!?」

 

 普段、人と話すことのない坂本が積極的に俊平を取り込もうとしているのを見て、同じ班になった人たちも連携して俊平を取り込みにかかる

 

 

 

 

 

 

 

 ………ちなみに、坂本は縁子に消しゴムを拾ってもらったことがあるのだ!

 

 

 

 

 

 

「ちょーっと待ったァ―――!!」

 

 そこに待ったを掛けたのが、クラスのムードメーカー兼、学校一有名なおっさん思考の水城(みずき)しのだ。

 

「俊平ちゃんはおじさんの班のマスコットとして必要不可欠なんだよ! 勝手に持って行かれちゃ困りますな、キミタチ。」

 

 特徴的なサイドテールをぴょこぴょこと揺らし、ちっちっち、と指を動かす。

 

「そうだそうだ! ウチの班にはマスコットが居ないんだ。おっさんしかいないんだ!」

「せやから緑川が必要なんや、おっさんはもう必要あらへん!」

「俺は誰だ!?」

「おい、由依までおっさん枠ってどういうことだ!」

「笑い方」

「ふはーっ!」

 

 そしてそれに同調する水城しのと同じ班の面々。

 食道楽で食えるものは何でも食べる。「机と椅子以外の四つ足は全部食う」を豪語する学校一有名な大食漢。飲食店に行けば“団体一名様入りましたー!”と大声で言われたことのある、太田稔(おおたみのる)

 

 関西弁で喋っているのが、なんでも消せる、ただし取り出せない学校一有名な凄腕マジシャン。最近は財布と預金残高をマジックで消してしまい修学旅行の為に実家の飲食店でマジックのバイトをしているらしい加藤消吾(かとうしょうご)

 といった同じ班の仲間からもおっさん扱いされるしのの額に青筋が見えたのは気のせいではないはずだ。

 

 なんで由依は笑ってるんだよ。

 

 

 しかし、さらにそこに加わる人物が居た

 

「俊平くん! 私達の班、一人空いてるから、ここにおいでよー!」

 

 なにを隠そう、学校一有名な美少女、北条縁子である。

 彼女たちの班は言わずもがな、生徒会の超人メンバーで構成されている!!

 

 あれ? 俺のクラスってこんなに個性的だったっけ?

 

 

 

「おいおい、よりにもよってチビの俊平かよ、冗談はよしてくれよ縁子」

「まぁそういうな、瞬。緑川は小さくても努力家なのだ。知ってるだろう?なあ(リキ)

「………。」

「ほれみろ。力も俊平のことを認めている。私からは異存はないぞ、俊平。」

「ああ、瑠々の言うとおりだ。ま、俺はどんな人でも歓迎するがな。瞬の我儘だけですべてが決まるわけじゃない。」

 

 生徒会長の虹色光彦を筆頭に、副会長、北条縁子、会計の百地瑠々、書記の松擦力、庶務の早風瞬の生徒会超人メンバーだ。

 

どういうことだ!?

なろうのような世界は夢で何度も見たが、俺のクラスの人間はこんなにも個性あふれる日常系の人間だっただろうか!?

 

 

 いや、ひとまずはそんな超人の中に、特技といえば多少手先が器用な程度であるチビ介の俊平が入っても、迷惑になるし、そもそも、縁子の発言のおかげで周囲の目がよりいっそう厳しいものになりそうかな?

 

 新たな戦力の参加に俊平はもう涙目だ

 

 その様子を見たクラスメイトたちも、「なんか知らんけど俊平を取り合っているらしいぞ」「まざるか?」「そうだな」「俺は誰だ!?」

 

 と無駄な団結力を発揮し、俊平いじりと同時にすべての班で俊平の取り合いが始まってしまった。

 

「ふぇあ!? 僕は分身できないよ!?」

 

 内心で自分の意外な人気にびっくりしているんじゃないかな。

 

 信号機(ふりょう)のところには好んでそこに行こうとは思わないだろうが、まさか坂本にまで声を掛けられるとは夢にも思わなかったのだろう。

もう俊平は涙目だ。

だが、まあマスコットとしてみれば、俊平は有用な人材と見える。

 

 クラスメイトがわちゃわちゃと騒いでいるこの状況。普段なら止めそうな生徒会長、光彦だが、積極的にからかっている瑠々や縁子を見て、苦笑をもらしながら、今回は目を瞑ることにしたっぽいな。

 

 

「よし、じゃあこうしよう。俊平の手足と頭を切り離して、そしてそれを各班に1パーツずつ配ればそれで文句ねえな。とりあえず、俺っちの班は左足を貰うっぜぃ!」

 

「よくないよ! 僕の左足は取れないよ佐之助ェ!!」

 

「ふむ。では私達の班は右腕を貰うとしよう」

「ならおじさんの班は左腕ね!」

「………そそれじゃ、ぼボクの班はあ、頭を」

「俺は誰だ!?」

 

「だから僕の頭も腕も切り離しできないってばぁ! 瑠々ちゃんも、しのちゃん浩幸くんも悪乗りしないでよぉ!!」

 

 生徒会メンバーでもある空手部の大将。普段から凛とした瑠々からも悪乗りされてしまい、さらに追い打ちを掛けるようにムードメーカーの篠や陰気の浩幸にパーツの予約をされ、俊平は助け舟を求めて担任の矢沢聡史を見る

 

「あ? 俊平をとりあってんのか? じゃあ俺ぁ余った胴体でいいや。」

 

「あんた先生でしょ――――!!!」

 

 頼みの綱であった矢沢先生からもいじられてしまい、本格的に泣き出しそうだ。

 俊平は「ブルータス!!!」と叫びながら頭を抱えてうずくまった。センスあるよ。

 

 やる気なさげでありながら、生徒とのコミュニケーションをしっかりと取っていることから、人望に繋がっているのだと思われる

 

 だからといって、いじられる側の俊平にとってはたまったものではないのだろうが。

 

 だが、そんな俊平いじりも、唐突に終わりを迎えることになった。

 

 

 

 

 

 

ピリッ

 

「タツルッ!!」

「由依!!」

 

ガタタッと立ち上がる。

異変に最初に反応したのは、夢の中でなろうテンプレを幾度も経験しているこの2人だった。

 

――ガンッ!

ーーガタッガッガッ!

 

突然、互いの名を呼んだかと思えば、全力で窓に体当たりを行った樹。

そしてHR中であるにも関わらず、教室のドアを開けようとする由依。

 

「な!? おい! 何してんだ!!」

 

担任の矢沢も注意する間も無く行われたその行動に、初めて困惑する。

 

周囲の者たちにとって、明らかな奇行。

 

だが、明らかに何かしらの意図を伴って行われた行動。

自傷や大怪我さえ厭わないその行動。

 

窓に弾かれた樹などは、強すぎる己の勢いに耐えきれず、額から血を流すほどだった。

 

しかし、窓にはヒビすらない。

流石に異常すぎる事態に矢沢も立ち上がった。

 

「ドア開けろ!!」

「教室の外に出て!!」

 

樹と由依が叫ぶ。

 

 

「………あん? なんだこれ?」

 

 途中からなぜだか加速していく俊平いじりを、必然的に自分の班には俊平の右足を貰うことになっていた不良(チンピラ)の赤城は面白くなさそうに見つめていたところ、足元の異変に気がついた。

 

 

「どうした雄大………なんだこれ?」

「どうした二人と………なんだこれ? 魔法陣?」

 

 それを怪訝に思った取り巻きの黄島蓮と青葉徹が教室中に張り巡らされた魔法陣に気付く。

 

「にゃ? にゃ? どういうことにゃ!? 何が起こってるにゃ!? 誰か田中に教えてほしいにゃ!」

「知るかよ! なんかの行事か!?」

「俺は誰だ!?」

 

 他の生徒たちも異変に気づきはじめ、突然現れた魔法陣に狼狽する。

 あるものは今起こっている現象が学校行事かなにかかと一縷の希望を求めて矢沢に視線を向ける

 

「んあ? っんだよこれ! おい! 誰でもいいから扉と窓を開けろ!」

 

 矢沢も何が起こっているのかわかっていないらしく、だんだんと光量が増していく魔法陣に

 

 樹が叫んだ際には咄嗟に動けなかった生徒たちに迅速に冷や汗をかきながら同じ指示を出す。

 

 

「ぅおらあ!!」

 

―――ガンッ!!

 

 という轟音が掛け声とともに教室に響く

 

 名簿の関係で最前列の端の席に居てそこから動いていなかった赤城が、自身の隣にある廊下側の擦りガラスに先ほどまで自分が座っていた椅子を叩きつけたのだ。

 だが―――

 

「んなァ!?」

 

 

 割れやすいはずの擦りガラスにすら、傷一つついていなかった。

 

「あれ? んっ―――あれ? 窓も開かないよ! 鍵開いてるのに!」

 

 俊平も、グラウンド側の窓を必死に開けようとするも、まるで溶接されたかのようにピクリとも動かない

 俊平の筋力が無いから………という線もあるが、考えたくはなかった。

 

 

「由依、範囲は?」

「たぶんこの教室全体。学校召喚じゃなさそう」

 

黒板側のドアにビタっと顔を横にして張り付いた由依。

その窓の外から隣の教室を見ようとして、同じような魔法陣の光が漏れていないことを確認する。

 

 

「抜けられそうか?」

「無理。ここは夢じゃないもん」

 

 夢幻牢獄の中では、あらゆるテンプレを網羅して能力を引き継いでも、現実では使えなかった。

 

 それに、夢で転移や転生繰り返しても、彼らは一度もクラス転移は体験したことはなかったのだ。

 

 さらにいえば、夢ではなく、自分の身に起きる現象としても初めてのことだ。

 

 とはいえ、不可思議な出来事であることには変わりない。

 不可思議な出来事へのある程度の慣れはある。

 

 

 故に、

 

「パターン1 神様召喚サバイバル」

 

 と由依は窓から顔を離した後に、ハンカチを額から血の流れる樹の額に押し付けてから、考えうる可能性を一つ挙げた。

 

「パターン2 集団召喚戦争」

 

 と、ハンカチを受け取った樹も続ける。

 

「パターン3 蠱毒」

 

「パターン4ランダム転移異能バトル」

 

「………自分で言っててなんだけど、蠱毒だけは勘弁願いたいわね」

「同感だ。転移の最中に神様みたいなのに会う心構えだけでもしとくか。」

 

 教室から出られないと悟った瞬間には次のプランを練り始める。

 彼らは、彼らだけは次に起きた時、どのような状態であれ、すぐに行動を起こせるようにしておくのだった。

 

「いったい何が起こっているのだ!? とにかく、みんな、動くな!!」

「くぅ………落ち着くんだみんな! あまり暴れ回ると危険だ!」

 

 突然の事態に慌てながらも指示を出す瑠々の声と、皆を落ち着かせようと声を張り上げ、混乱によって生じる二次被害を押さえようとする光彦

 

 

「俊平くん!!」

 

 それを無視して、縁子は一直線に俊平の下に駆け寄る

 

「ッ! 縁子! 動くと危険だと―――」

 

 ただ、俊平と縁子の距離はさほど離れていなかったため、すぐに距離を詰めることは出来た

 

「ゆかり―――」

 

 俊平も反射的に手を伸ばす。

 だが、その縁子が伸ばした手が俊平に届く前に………

 

 

 

 カッ!

 

 

「なにごとじゃ!?」

「うわっ!」

「ぎゃあ!!」

「まぶしッ!」

「俺は―――」

 

 

 魔法陣の輝きが爆発するように教室全体を覆い尽くしたのだ。

 

 

 

 ほんの数十秒の出来事であった。

 

 その光に意識ごと思考を塗りつり潰されて、意識を保っていられた人間は、誰一人として居なかった。

 

 




あとがき

『消しゴムを拾ってもらったことがあるのだ!』
これだけで伝わるのは日本人が空気を読む力が高いからだろう。


次回予告
【どうせステータスはインフレするから見ない。】

お楽しみに。

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は

評価を願いします。(できれば星5はほしいよ)




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第4話 由依ーどうせステータスはインフレするから見ない。

 ヒヤリとする石畳

 私は頭を振って起き上がる。

 流れる黒髪は佐藤由依のもの。つまり転移。

 

 パターンAの転移であることがわかる。

 

 パターンAは現在の年齢

 パターンBは高校生の姿だ。

 

 

 以前の聖女召喚でも、高校生の制服を着ていたからね。

 何度も転移していると、自分の本来の年齢よりも高い年齢で召喚されることがあるんだ。

 

 今回の夢はいつものやつかな………

 

 

「やりました! 成功ですわ!! お父様に報告しなくては!」

 

 との声が聞こえることから、恐らく、召喚者は女性。

 たったったっ、と遠ざかっていく足音。

 まさか説明役がどっかいっちゃうとは。そのパターンは初めてだよ。

 

 ドアも開いたままだ。

 

 巫女か神官か、聖女? 言葉遣いから王族の可能性もある。

 となると、

 

「うぅん、この感じは、勇者召喚?」

 

 勇者召喚の場合は大抵は1〜5人のランダムだ。

 そして、時折り巻き込まれた奴が現れる。

 

 さて、今回は何人が召喚され………

 

「なっ!!?」

 

 周囲に倒れているのは、我が素敵なクラスの素敵なクラスメイト達。

 

 そうだ、思い出した。

 

 これは夢じゃない!!

 

「タツル、タツル!! 起きんぐぁ!!」

 

 バシッ! と口元の音源を高速チョップされた。

 

「ここは、勇者召喚か? なんで由依がって、そうか、確か魔法陣が光って意識を失って」

「まず謝らんかい!」

 

 そういや、タツルって寝起きめちゃくちゃ良いんだった。

 

「ご」

 

 ヒリヒリする口を押さえて涙目で睨みつけると、手のひらを縦にして一文字だけで謝りやがった。

 

「ゆ!」

 

 しょうがないから一文字で許してやるよ。

 

 

「状況は理解した。クラス転移だな?」

「うん。蠱毒じゃなくて良かった」

 

 それについてはほっと息を吐いた。

 

「2.4.6………32。倒れてるクラスメイトの抜けはなし。先生も含めて、全員揃ってる。」

 

 クラス転移は初めてだけど、なろうだとクラス転移で転移漏れのパターンもあった。

 だけど、今回のクラス転移は全員揃っている。

 

「おい、光彦。起きろ。」

「ユカリコ、起きて。」

 

 ひとまず、タツルが倒れている男子のまとめ役、生徒会長の光彦を起こし、私はは女子の代表であるユカリコを起こす。

 

 ユカリコなんかは、俊平ちゃんを庇ったのか、中学生にしては大きな胸で俊平ちゃんを押しつぶしていた。

 窒息してないかー?

 

「ううん、ココは?」

「あれ、どうしたんだっけ?」

「教室で魔法陣が光ったのはおぼえてる?」

「ああ………」

「その後の状態がこれだ。」

 

 

 頭を振って起き上がる。2人にひとまず状況を説明したよ。

 

「とりあえず、みんなを起こしていってくれないか? 俺は由依と状況を整理したい」

 

「ああ、わかった」

「うん。俊平くん、起きて」

 

 すぐに行動に移してくれるあたり、2人とも優秀なんだよね。

 

「由依、今までの夢のスキルや魔法は使えるか?」

 

 それは私たちが一番気になっている奴。

 夢で手に入れた能力を使えるのか否か。

 夢の世界で手に入れた便利な足。瞬間移動の発動とアイテムボックスを念じて見たが、発動しない。

 

 

「だめ、発動しない。夢じゃないからかも」

「そうか。俺もだ。脳死なろう作家がやりそうなイキリ俺TUEEEムーブでさっさと問題解決したかったのに」

「なら………」

 

 脳死だのイキリだの言ってるくせに、そういったなろうをいつもちゃんと読んでるあんたはなんやねんとツッコミを我慢しつつ

 検証を続ける。

 

 夢のスキルを使えないことに嘆いても仕方がない。

 そういった異能を使わなくても夢幻牢獄を脱出したことなどいくらでもあるのだ。

 使えないのならそういうムーブをするだけよ。

 

 それに困った時の『ステータスオープン』がある。

 

「『ステータスオープン』」

 

 ヴン! 

 出た。謎のウインドウ。

 となると、異世界に飛ばされたが、ここもなろうテンプレの世界ってことね。

 

 さてっと、表示されるステータスはっと、

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 個体名:佐藤由依 Lv.1

  種族:異世界人

  能力(アビリティ):【夢幻牢獄(ドリームゲート)

  筋力:100

  敏捷:100

魔力障壁:50

  魔力:50

  通力:100

魔力浸透:100

  器用:100

魔法適性:水・土

 スキル:<  >

  称号:夢幻の勇者

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 あー………………。だめだ、謎のオリジナル数値の項目が邪魔でぜんぜん頭に入ってこない。

 

 いや、数値に関しては正直言ってどうでもいい。

 どうせすぐにインフレする。

 こんな意味のないもん見せんなと言いたい。

 

 そんなもん消して消して。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 個体名:佐藤由依 Lv.1

  種族:異世界人

  能力(アビリティ):【夢幻牢獄(ドリームゲート)

 魔法適性:水・土

 スキル:<  >

  称号:夢幻の勇者

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ひゅーっ! これで見やすい!

 このくらいシンプルでいいんだよ。

 

「『ステータスオープン』」

 

 私がステータスを見たのを確信し、タツルもステータスを見る。

 どうやらステータス画面は本人にしか見えないようだ。

 

「レベル制か。まあ、こんなものはすぐにインフレするから数字はどうだっていい。無視でいい。」

 

 やはり幼馴染。異世界を何度も経験しているタツルも同じ感想だったようだ。

 

「私の異能は【夢幻牢獄】………元の世界の不思議な夢のことかな?」

「俺のは【夢現回廊《ドリームコリダー》】………まああの夢幻牢獄のことだろうな」

 

 なんかもう、名前だけでタツルも同じ系統の能力だとわかる。

 

「ほいっと」

 

 パシャ、と手から水が落ちる。魔法を使う感覚は夢と同じだ。慣れたものだ。

 

「適性のある魔法は使えるね。適性ないから火は出せない。」

「魔法とかの使い方が分かるのはずいぶんなアドバンテージだが、置いておこう。」

 

 タツルも指先にライター程度の火を灯し、すぐに握り潰した。

 

「なろうのクラス転移でまとめて召喚された場合、いくつかのシナリオがあるな。」

「詳しく、タツル」

 

「クラス転移なろうのテンプレシナリオだ。

 

 シナリオ A

 召喚国のきな臭さに気づいてこっそり抜け出た場合

 ルート1 魔族や獣人(モフモフ)に協力する裏切りハーレム(幼女もつくよ!)

 ルート2 戦争を無くすために裏から奔走

 ルート3逃げた主人公以外は洗脳されて傀儡。

 

 シナリオB

 最弱のやつが嵌められ追放復讐、もしくはハーレム

 ルート1 裏ダンジョンレベル上げRTA(最下層で精霊みたいなヒロインゲットだぜ!)

 ルート2 強運の人脈と謎ユニークスキル無双(ハーレムゲットだぜ!)

 ルート3 国に処分を言い渡され処刑用の兵士を派遣され、ヒロインに助けられる。実は素敵な能力持ちだった件

 

 シナリオC

 再び同じ異世界に飛ばされた2周目異世界強くてニューゲームのイキリマン

 ルート1 俺強くないんですドヤムーブ。シナリオAに続く。

 ルート2 やれやれ、この銅像俺にまったく似ていないじゃないかやれやれ。まったくもうやれやれだなぁ。

 

 ………ってところかな」

 

「よくこの一瞬でスラスラと言えるよなー」

 

「まあ、適当言ってるだけだからな。レベル制だから、どっかのゲームの世界である可能性もあるが、困ったことに俺はなろうは読むがゲームはポケモンとスマブラとイカしかしないんだ。だけど、まぁ今までの経験をもとに推測くらいはできる。」

 

「でも、それに伴って主人公を設定する必要があるね。」

「主人公は地味で陰キャラだとテンプレなんだが」

 

 

 ちらっとユカリコに起こされる坂本浩幸(陰湿根暗)を見ると

 

「ククキキ、ゆ縁子がぼボクをおっ、起こして、くれた。や、や、やっぱりボクにほ惚れているのはまー、ま間違いない」

 

 なんて気持ちの悪い笑みを浮かべている。

 

「ありゃあ寧ろ敵に回るタイプの陰キャだぞ。」

「そうなんだよねぇ」

「主人公属性持ちの陰キャラが、うちのクラスにはいない。全員個性派だ。」

 

 生徒会長の虹色光彦くん?

 

 あの人は勇者だよ。絶対に主人公じゃない。

 勇者と主人公は別物だ。なろうにおいて、安易に一緒くたに出来るものじゃあない。

 

 かわいそうに、ラブコメなんかじゃ当て馬に、なろうでは勇者に。そうなる運命なのが、私とタツルの中では確定しているのが、あの虹色光彦という男なの。

 

 ほら、なんか名前からして特別じゃん。虹とか光とか。彼には無いけど、聖がついててもそう。

 

 だから初めから主人公格としては除外してるよ。

 

 

「はやいとこ主人公(ウォーリー)を探さないといけないね」

 

 

 

 なんて冗談を言ってると

 

「2人してイチャイチャ、なーんの話をしているのかにゃー? 田中にも教えてほしいにゃん!」

 

 ぬっ!

 と私たちの間に現れたのは、猫耳のカチューシャをつけた不思議な不思議な生き物。

 

「うおっ! 田中!」

「カノンちゃん!」

「にゃはー! 田中は田中にゃー! 花音の名は田中の前には不足にゃん!」

 

 腰に手を当ててふんすと息を吐くのは

 アニメ研究部所属の田中花音(たなかかのん)

 なんのアニメの影響かは知らないが、やけに作り込んだそのキャラクター。

 

 本来ならば浮いているはずのその行動なんだけど、

 この子のすごいところは、陽キャラオタクという、超絶ポジティブで、スポーツ、ジャニーズ、アニメ、ラノベや文学なんでもござれのハイスペックオタクなの。

 あらゆる方面に友人が存在している。それが、この田中花音という生き物。

 

なぜか自分の名前じゃなく苗字で呼ばせたがる、自分の田中という苗字に絶対の自信を持っている。正直言って意味のわからない生き物なのだ!

 

「それでー、2人はこそこそとなんの悪巧みにゃん? ココに来る前にあった不可解な行動の説明もしてくれると田中はすっごく嬉しいにゃん!」

 

 口をω(こんな形)にしているが、目が笑っていない。

 事態に混乱しつつも、状況を理解してそうな人物。

 つまり私とタツルに直接問いただしにきたってことかな?

 

「そうだな。オタクの田中ならあるいは………。田中は、なろうは読むか?」

 

「あ、あー! そういうことかにゃ? もういいにゃ。なんでそんな行動取ったか全部理解したにゃん。むしろ遅れをとったことに田中は悔しさが滲み出すにゃん!」

 

「ふはっ! 状況理解が早い!」

 

 あろうことか、タナカちゃんはタツルが一言質問しただけで完全に全てを理解した。

 

 

「つまり、なろうテンプレのクラス転移ってことにゃん? それ以上の情報は不要にゃん!『ステータスオープン』にゃ」

 

 

 そんで、こちらがなろうを読むかを聞いただけで、タナカちゃんは早速『ステータスオープン』してみせた。

 

「ふむふむにゃ。レベル1。まあ、こんなのはどうでもいいにゃ」

 

 チラッとコチラを見るタナカちゃん。

 

「夢幻牢獄、ドリームゲート」

「夢現回廊、ドリームコリダー」

 

「あ、それ田中におしえていい奴かにゃ? まあいいにゃ。田中は転身願望、メタモルトリップにゃん。」

 

 タナカちゃんも実にあっさり自分の異能らしきものを教えてくれた。

 

「称号の欄に勇者とついているから、みんな何かしらの勇者みたいだ。」

 

 と、タツル。

 私は夢幻の勇者。

 タツルは夢現の勇者

 タナカちゃんは転身の勇者、らしい。

 

「となると、脳死なろう作家が考えそうなことは、ありふれたやつの流行に乗って、称号は無いけど追放後に超絶異能かにゃ? 称号はあるけどクソザコ追放の裏ダンジョンリアルタイムアタックかにゃ?裏切り最下層ダンジョントラップかにゃ?」

 

「ありそう」

 

 と頷くタツル。

 タツルの想定したシナリオにも一致する。

 

「ふっはー! 理解早すぎて草生えるんだけど!」

 

 私も、タナカちゃんの理解の速さに笑うしかない。思考回路が完全に私たちと同じ方向を向いている。

 

 

「ここがテンプレの世界とは限らないけどにゃ。追放には御用心にゃ。ようし、いっちょ田中も主人公探しに協力してやるにゃ!」

 

 改造制服の萌え袖の中で両手をグッと拳を握るタナカちゃん。

 

「あ、もちろん光彦にゃんは除外してるにゃん?」

「なんで分かるのこの人」

「なろうテンプレだと優秀な人は主人公じゃないにゃん。でもご都合主義で優秀に祭り上げられるにゃん」

 

 やるべきことと除外するべき人間まで理解している。

 このハイスペックオタク、心強すぎる。

 

「ひとまずはこの召喚を行った人間が渡してくるものを迂闊に装備したら奴隷になるタイプかもわからないにゃ。行動は慎重ににゃ!」

 

「危ねえ、それもあったな。」

 

 このハイスペックおにゃんこを味方につけてよかった。

 私たちだって、常に正解の道を歩ける訳じゃ無い。

 だからこそ、夢の中で数日から数年過ごすことになるのだ。しかも複数の物語で。

 夢幻牢獄で目覚めて誰が主人公か確定しない状態で速攻無茶魔法をぶっ放して物語を、街を、世界を壊滅させると、どんな物語であれ、自分自身が主人公の魔王ムーブを行わないといけない。

 

 私たちが見る夢は、ちゃんと主人公を設定した上で成り立っているのだ。

 

 間違えることもある。選択肢をミスって死ぬことだってある。

 

 でも、今回は夢じゃなくて本番だ。

 

 選択ミスは許されない。

 

 

 クラスメイトみんなが起きた頃、ドアから先程の女性が姿を現した。

 

 

 




次回予告
【クラス転移において、最も勇者らしいのは主人公ではない。】

お楽しみに。

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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第5話 樹ークラス転移において、最も勇者らしいのは主人公ではない。

 

「皆さまお目覚めのようですね、ようこそいらっしゃいました。勇者さま方!」

 

俺らが田中との会議を終えた頃、クラスメイトみんなの目も覚めていた。

 

そこに現れたのは、シンプルな白を基調とした青のラインの入ったドレスを着た、いかにもお姫様な格好をした銀髪の女の子。

 

17〜20歳くらいか?

 

中学生の俺たちよりは年上だ。

 

 

「あー、んー、あんたが、ココの責任者か?」

 

矢沢先生がお姫様(確定)の前に出て対話を試みる。

 

今のところ、先生も主人公候補候補なのだ。

クラス転移において、他の個性が違う者。

生徒ではなく、先生というポジションは、なろうに限らず、物語の主人公として資質の一つなのだ。

 

 

「はい。わたしはミシェル・ルルディア。ルルディア王国の第一王女です。皆様をお招きしたのも、わたくしが行った召喚魔術です。」

「しょうかんまじゅつ」

 

 

ポカーンと口を開ける矢沢先生。

 

「突然勇者様方をお招きしたこと、深くお詫び申し上げます。」

 

 

深々と頭を下げるミシェル。

 

「第一王女が召喚を一人で行ったってことは、まあ、相当な実力者ではあるはずよね?」

「独断か?」

「わからないにゃ。情報が不足しているにゃ。」

 

俺たちがこそこそと悪巧みをしている間に、どうやら王様との謁見を行って欲しいとのお姫様の言葉に従い、クラスメイトたちはお姫様と矢沢先生の後に続いて、召喚の間? らしき場所から出ることになった。

 

 

 

どうやらお城の広間みたいなところで召喚されたんだな。

つまりだ、このお城のこの広間は、召喚をするためだけに設計してある。

 

確信犯だ。

 

………

……

 

 

「田中。クラスメイトの中で、確実に味方に引き入れておきたい人物は誰だ?」

「味方にゃ? それは間違いなく葉隠妙子にゃ」

「タエコちゃんって、あの年寄りみたいな口調のあの女の子?」

 

葉隠妙子は、個性は揃いのうちのクラスでも、何を考えているのかいまいちよくわからない人物。

いや、まあみんなそうなんだけどさ。

 

葉隠は、焦げ茶色の頭の上にクヌギの葉っぱを乗せて、瓢箪をまるでアクセサリーかのように腰に下げている女の子だ。

 

「妙子にゃんは情報屋さんにゃ。いつもどこからか仕入れてきた情報をつかって、お金儲けとかよくしているにゃん。腹黒タヌキにゃん」

「なるほど。情報屋か。」

 

 

移動をしながらポケットからスマホを取り出して、黒い画面に映った葉隠妙子の様子を観察してみる

 

後方で、目をキョロキョロと動かし、窓や曲がり角を見てはメモ帳らしきものに何やら書き込んでいる。

 

 

 

そして、ポケットから人型の紙を取り出すと、すれ違う侍女や俺たちを警護? 警戒? する騎士の目を盗んで装飾品の陰やツボの中にふわりと投げ入れていた。

 

「明らかに陰陽系の異能をもってそうなムーブなんだけど」

「事態には困惑しつつも、私たちと同じようにこの世界の脱出のためにあらゆることを試しているのかもね」

「ならば味方につけるにゃん! 妙子にゃーん!」

 

 

コミュ力おばけの田中は早速、葉隠妙子へのコンタクトを図る。

 

「む、お主ら、珍しい組み合わせじゃな。二人の仲を割くでないぞ、花音。」

「田中は田中にゃ! 田中の前には花音なんて名前は格が足りないにゃ!」

「そ、そうかのう。田中よりはずいぶんハイカラな名前じゃとワシは思うのじゃが………。」

「そんなことはどうでもいいにゃ!」

 

と、話を打ち切る田中。

 

「して、花音よ」

「田中にゃ!」

「かの」

「田中にゃ!」

「………田中よ、樹に由依も。ワシになんの用じゃ?」

 

 

田中の押しに押し負けた葉隠妙子は根負けし、田中に何用かを聞く。

 

「妙子にゃんのしていることに協力させて欲しいにゃ。」

 

 

と、ここでこのコミュ力おばけは自分達に協力してほしいと頼むのではなく、相手に協力させてくれと頼んだ。

 

さすがだ、何度も異世界を経験している俺よりも、人心の掌握の仕方を知っている。

同じ志しだったら、俺ならば協力してくれと頼んでいただろう。

目指す方向性は同じでも、ここで差が出る。

 

「ふむ。ワシがなにをしようとしているのか、わかるのか?」

 

「わかんないにゃ。でも、元の世界に戻るためにと色々試していることは田中にはお見通しにゃ!」

 

「まあ、否定はしないがのう。まあ、良いじゃろう。樹と由依も。情報を提供してくれたら助かるぞい。コチラに移動する前の不可解な行動はコレを予見していたからじゃろう? ああ、ワシらを助けようとしていたことはわかる。疑ってはおらんよ。」

 

と言って、妙子は微笑んだ。

なんでこいつ、いつも頭の上に葉っぱ乗せてんだろう?

いや、まぁ、うん。いいや。

 

「いいぞ。俺と由依は、なろうのテンプレだと思ってすぐに行動を起こせたに過ぎないよ。」

 

「話を聞いて、田中もすぐに動かなかったことを後悔したにゃん。後から考えればたしかに、なろうっぽいってわかったにゃん」

 

「あと、まあ、私も夢の中とかでこう言ったなろうっぽい異世界にはよく来てたからねー。慣れかな?」

 

と言ったところで、葉隠妙子は首を捻る。

 

「ふむ。なろう、とはなんじゃ? テンプレ? 天ぷらのことかのう。」

 

そんなことをのたまった。

いや、まあ、中学生がなろうを読むかと聞いても、まあそうそう多くの人間が読んでいるわけではないだろう。

最近はなろうアニメがかなり多く輩出されているからイキリキッズが増えているのもある。

とはいえだ

 

「おい田中、こいつ情報屋のくせにポンコツだぞ! 本当にこいつでいいのか?」

 

 

俺は妙子を指差して田中に詰め寄る。

情報屋ならなろうの一つくらい知っててほしいものだがね!

田中も予想外だったみたいだが首をブンブン振って言い訳する。

 

 

「待つにゃ待つにゃ! 妙子にゃんはネットを触らないから知らないだけにゃん! 一から説明してあげれば分かってくれるはずにゃん!かくかくしかじかにゃんにゃかにゃん!」

 

………。

 

 

「ふむ。つまりお主らがよむ書物には集団神隠しによる、そういったある程度の定型が存在するということじゃな? 委細把握したぞい。」

 

「まあ、そういうことになる」

 

知らなかったとしても、知ることで武器にするのが情報屋の仕事だ。

 

「すまなんだが、そちらの方面ではワシは力になれそうにない。そういった流行り物には疎くてのう。ただ、情報提供は非常にありがたい。コレからも情報は共有してもらいたい。ワシも手に入れた情報は提供しよう。現状、ワシが仕入れた情報提供じゃと、あの姫さん以外の言語がまるで理解できん。指輪あたりに、なにかカラクリがありそうじゃ。会話の際に、右手の中指に意識が向いていたからのう。」

 

 

なんと、召喚されて15分と経っていないのに………。

この世界で会話したのは先生とお姫さまだけだ。

だというのに、妙子はその耳で騎士や侍女の声にも耳を澄ませて、そこからも情報を得ようとしていたらしい。

妙子はハイカラな事は苦手でも、情報収集能力は目を見張るものがある。

ポンコツなんて言った事は謝らないといけないな。

 

 

「うん。ありがとう、最後に妙子ちゃん。『ステータスオープン』と唱えると自分の能力とかが見えるから、後で確認したほうがいい」

 

「ふむ。試してみよう。そろそろ謁見の間につきそうじゃな。話はまた後でのう。」

 

 

          ☆

 

 

お姫様が俺たちを案内した場所は、謁見室。

 

叙勲式とかもここであげるのか、かなり広い作りになっているのがわかる。

パーティ会場も開けそうだな。

 

 

そんで、謁見の間にいるのは王様。大臣っぽい人や文官や騎士たち。

 

当たり前だな。

 

「よくぞこの世界、『アルカディア』に参られた。異界の戦士たちよ。私は“ガルヒム・ルルディア・アクト14世”である」

 

 発せられたその声は、威厳に満ち満ちていた。これぞ、『まさに王!』

 そう言わんばかりの王振りであった

 しかし、クラスメイトたちはこの王の言葉にざわざわと疑問顔を浮かべながら「王だ」「王じゃな」「王だっぜぃ」「俺は誰だ!?」と隣のクラスメイトと囁き合うばかり。

 

 状況についていけていないし圧倒的に情報が足りないのだ。

 多少騒がしくなるのは当然のことであった

 

そして、王様がなろうで何度も聞いた宣言して国の成り立ちとかなぜ勇者の召喚を行ったのかとか、

そういったことを言ってくれるのだが、その辺はみんなの頭にプレインストールされている情報だろうからダイジェストでお伝えしよう。

 

俺たちは校長先生の長話をあくびを噛み殺し、いかにも真面目に聞いていると言わんばかりの態度で聞き流すことに非常に優れる日本人のジュニアハイスクールスチューデントだ。

 

話にチャチャを入れることもない。

 

重要なところだけ抜き出すと

 

 今、俺たちが居る世界は『アルカディア』という世界らしい。って、なんで世界に名前があるんだろう。

 俺たちがいた世界にだって名前はないぞ。地球とかアースとかはただの星の名前だし。

 

 そんで、その中で、特に魔法についての深い理解がある国こそ、今俺たちがいる“ルルディア王国”だ。

 

 そう言われても、現代日本に生きてきた俺たちには実感はわかず、ざわざわと騒ぐばかりだ。

 多少、魔法と聞いて少しだけ浮き足立った程度であるが。

 

 そして、王家に伝わる秘術で異世界とアルカディアを繋ぐ門を開き、勇者の素質を持つ者を召喚さしたのだという。

 

―――なぜ、そんなことをしたのですか?

 

 手を上げてその質問をしたのは、光彦からだった。

 勇者を呼んだ理由は、まさに世界の危機だったからだ。

 

 魔王が数百年の封印を経て復活したからである。

 

 この世界には、5つの大陸がある。

 

 北東に人間の住まう大陸。  “ジラーダ大陸”

 北西に精霊種の住まう大陸。  “ラグナ大陸”

 南西に魔人の住まう大陸。  “トール大陸”

 南東に獣人種が住まう大陸。 “ヒタフジ大陸”

 神々が住まうとされる大陸。 “マベヒッツ空中大陸”

 

 

 人間が住まう“ジラーダ大陸”と隣接するのはエルフや妖精族、巨人族、小人族などの亜人が居る“ラグナ大陸”と人魚や狐人、犬人、猫人、虎人などの獣人種が住まう“ヒタフジ大陸”の二つであり、魔人が済むトール大陸とは、どちらかの大陸を経由するか海を渡るかしか、行き来する方法は無いとされている。

 

 神々が住まうとされる大陸、“マベヒッツ空中大陸”へは行き方すらわかっていないそうだ

 

なんかこう、うまいこと生活圏の区切られた大陸なんかはいつものことだ。だいたいそういう世界だ。

 

 そんな中、“トール大陸”に住まう魔人が、魔物を率いて侵攻を開始。

 “ラグナ大陸”と“ヒタフジ大陸”のほぼ全域を植民地として支配してしまったそうだ

 

 

 囚われた亜人や獣人種は奴隷のように働かされているとか

 

 このままでは魔人が“ジラーダ大陸”に攻めてくるのも時間の問題だ。

 

 しかし、人間族は獣人よりも身体能力が弱い。

 亜人よりも魔力の量も少ない。

 

 人間族がそういった亜人種より優れた点は高い繁殖力とどんな場所でも生きていける生存力だけだった。

 

 そう聞くと、なんか人間ってゴキブリみたいだね。

 

 このままでは“ジラーダ大陸”も征服されてしまうのは当然だ。

 

 ならば、最終手段に打って出るしかなかった。

 禁忌とされる召喚魔法のその極意。

 

 異世界より勇者の素質を持ったものを召喚するという方法でしか、人間族には魔族に対抗する手段は残されていなかったのだから

 

 数百年前に勇者を召喚し、その力を持って魔王を退けた。

 現代に残るその魔法に頼らざるをえないのだ。

 

 しかし、その魔法には莫大な魔力が必要であり、王族に伝わる秘術で神々の大陸、マベヒッツ空中大陸から魔力を借り、それでもなお召喚できる可能性は低かったらしい。

 

 

 

 ひと月ほど前、神々との親和性の高い王族の娘であるミシェルが憑代となって神から力を借りると、その時、1柱の神から神託が下った。

 “異世界より勇者の素質を持つ者達をそちらの世界に送る”と

 

 

 すべての準備が整ったところで異世界とこの世界を繋ぐ門を作り、勇者の適性を持ったものをこちらに召喚したのだ。

 

 

 

 

                ☆

 

「なるほどのう。それでワシらが召喚された、というワケじゃな。」

 

 

 王が話し終えると、謎が解けたと言わんばかりに妙子は頷いた。

 頭上の葉っぱがぴょこんと揺れる。

 

「お主たちを巻き込んでしまったことを、本当に申し訳なく思っている。」

 

 深々と頭を下げる王。王が軽々しく頭を下げるものではない、ということは、さすがに中学生でも知っている。

 俺もそれには驚いたよ。

 

「そんな、頭を上げてください! この大陸がどれだけ切羽詰まっているかというのはよくわかりましたから!」

 

 それに対し、光彦が慌てたように頭を上げるように催促する

 

「そうか、だが、それでもお主たちの人生を狂わせてしまった事実は変えられん。私からできることは何でもすることを、ここに誓おう。」

 

 なおも頭を下げ続ける王に光彦も眉をしかめる。

 そんな彼に助け舟を出したのは、担任の先生である矢沢先生だ。

 

「ならば、私達の質問に答えていただきたい。先ほど、勇者と言っていましたね。勇者とはいったいどういったモノなのですか?」

 

 先生の質問に対し、ようやく頭を上げた王は、説明の続きをするために体を起こす

 

「勇者とは、魔族を打ち倒すことのできる、光の剣を持った神の使者である。念じれば剣が出ると、先代勇者の残した碑文に記されておったのだが………。そなた等にはそのような能力があるのであろう?」

 

「………お言葉ですが、我々はごく普通に暮らしていた、ただの学生です。争いごとを好みません。故に、剣などと言う人を傷つける道具を持ったこともありません。あとついでに言えば、あなた方の言う“魔法”というモノについても、私達は何一つわからないのです。」

 

「なんと………魔法の無い世界からとは………」

 

 驚愕に眼を見開く王。

 テンプレなんだよなぁ。

 俺と由依はその様子に顔を見合わせて苦笑した。俺たちは魔法のない世界からきたが、使い方は知っているのだから。

 

「それに、私達は合計で33人だ。勇者というのは、33人も居るものなのだろうか。これについてはどう思われるのだ?」

 

「それは………」

 

 王の視線が泳ぐ。

 それに気づいていながら、先生は話しを続ける。

 

「私達は、本当になんの力もない一般人なのです。いきなり魔王と言われても、勇者と言われても現実味に欠けていていきなり信じることはできないのですよ。ましてやそれを他人任せにして私達に倒してくれと。正直言って、なにをいってるのか全然わからないんだ」

 

 一見すると挑発しているようにも聞こえるこのセリフだが、王たちは誠意を見せるつもりでいることを先生は把握していた。

 先生はあえて、自分たちは今のこの現状に不満を持っていますということを前面に押し出し、交渉をしやすい場を作り出したのだ

 

 

「もうしわけない。我々に神託を下さった神、『サニエラ様』からは勇者の素質を持った者たちをこの世界に送ると言われておりましたが、さすがに33人というのは、我等にとっても予想外であったのだ。だが安心してほしい。我が国が誠意をもってそなた等を保護することを誓おう。我々が、全くこの世界に関係のないそなたらの人生を狂わせてしまったのも事実であり、これは決して許されることではないというのは我々も分かっているのだ。その上で、無茶なお願いをしているというのもわかっているが、どうか力を貸しては下されぬか」

 

 再び深々と頭を下げるガルヒム王に対し、まだ情報が足りないとすぐにうなずくようなことはせず、冷静に先生は

 

「もしも、俺の生徒のなかで戦いたくないという者が居た場合、どうするのだ?」

 

 先生は今自分が危ない綱渡りをしているという自覚があるが、それを表には出さず、情報を聞き出しながらできる限り穏便に元の世界に返してもらえるように交渉しようとしているみたいだね。

 今は“勇者かもしれない”という立場のおかげで優位な位置にいるように感じてしまうだけで、本来ならただの学生である俺たちはアウェーなんだよ。

 

「その場合は、こちらで仕事を紹介しよう。そなた等の身分は私が保証する。身勝手ながら、さすがに33人も食費を提供し続けられるわけではないのでな」

 

 先生が一番聞きたかったのはそこだ。

 こちらは33人。さすがに王城とはいえ、自分たちの面倒を見続けることは不可能のはずだ。

 さらに、自分たちはつい数十分前まで学校で修学旅行の話をしていただけに過ぎないただの学生とただの担任。

 戦争とは無縁の存在である自分たちに魔人との戦争をしろと言われても大半のモノは恐れてそんな危ない所に行こうとは思わない。

 たとえ、召喚されたなんらかの影響で特別な力を持っていたとしてもだ。

 

「わかりました。では最後に………元の世界には帰れるのでしょうか?」

 

 それが、クラスの全員が気になっていた事だ。

 こちらには呼び出せる。だが、元いた世界に帰れないではやってられないのだ。

 先生の中ではもはや帰れることが前提として話を進めていた。

 

 だが、そんなことは知らない生徒たちは息をのんで王の言葉を待つ

 

「それについては、すぐにできるというわけにはいかないが、可能である」

 

 その返答に安堵のため息を漏らす俺たち。

 

「具体的には?」

 

 先生はそれでも足りないと、どうすれば元の世界に戻れるのかを問う。

 

「もう一度異世界の門を開く。だが、こちらに呼び寄せるのとこちらからあちらに送るのとでは難易度が段違いなのだ。それに、『サニエラ様』よりお借りした神力をまだ返せておらぬゆえ『サニエラ様』から再び力を借りるわけにもいかぬのである。」

 

「方法がないわけではないのだろう? どうすればその借りた力を返せるのか教えてください」

 

「………そなたらが魔王を倒せば、その魔王の力を『サニエラ様』に譲渡することで借りた時以上の力を返すことができ、その余剰分の力で、お主たちを元の世界に戻すことが可能になるはずである」

 

 頭を右手でガシガシと掻き、先生は嘆息する。

 王が言うことを端的にまとめると、『元の世界に帰りたければ、魔王を倒せ』ということらしい。はいはいテンプレテンプレ。

 揚げて食えるくらいいっぱい見てきた。

 しかもそれで元の世界に戻れる“はず”ときた。

 そのくそったれな状況に、思わず舌打ちをしたくなったが、それを口には出さず

 

「………そうですか。わかりました。こちらからの質問は以上です。すこし、生徒たちにも考えさせる時間をください。」

 

「………わかった。」

 

 

 先生は質問を終えると、クラスメイト達に振り返る。

 何人かの生徒は王の口ぶりに気付いたようだが、大半の生徒は魔王さえ倒せば元の世界に戻れるのだ。

 と希望を見出し、表情が明るくなってきている。

 

「よかったぁ、ちゃんとかえれるんだぁ」

「本当によかったね、俊平くん」

 

 それに水を差すようなことは、気だるげながら生徒のことを第一に考えてきた矢沢先生にはできなかったっぽい。

 

 いつも気だるげな先生がいつになくまじめな表情でいることに生徒たちも黙って先生の言葉を待つ

 

「お前ら、どうしたい?」

「先生………」

 

 先生の出した答えは、『生徒自身に決めさせる』ことであった。

 

「わりぃな。ここは学校じゃねえどころか地球ですらねーから、先生っていう肩書はもう意味をなさねぇ。今の俺ぁせいぜいこの世界でのお前たちの保護者代理でしかねーんだ。てめーらの人生だ、てめーらで決めろ。俺ぁお前らが情けねェ答えを出そうが勇敢な答えを出そうが、それを称えはすれど非難する資格なんざねぇからな」

 

 自分ではどうすることもできないことに、悔しそうに歯噛みする先生。

 

「正直に言うと、俺はお前たちにそんな危ないことをしてほしくねーんだ。俺ぁてめーらを無事に帰らせれば、それでいい。そういうのは、大人である俺に任せておけばいいんだ。お前らみたいな社会を何も知らないガキにさせていいことじゃないからな」

 

 口は悪くても、先生は生徒のことを第一に考えるいい先生であった。

 だからこそ、生徒からの人望は厚いのだから。

 

 

「安心してください。先生は、俺らの先生ですよ。」

 

 一番最初に答えを出したのは、生徒会長の虹色光彦であった。

 そんな場面のテンプレも幾度となくみた。

 こういった、ヒーロームーブができるやつは、天才なのだ。なろうの鉄則だ。

 

「先生ばっかりにかっこいい所を持って行かれるのはズルいですし、俺達も戦います。なにより、俺は困っているこの世界の人々のことを放っておけないんだ。俺達には“勇者の素質”っていうのがあんですよね? それをこの世界の為に使わなくて、いつ使うんだって話ですよ!」

 

「光彦………」

 

「それに、なんだかこの世界に来てからというもの、なぜかすごく力が溢れて今にも飛びだしそうなんだ。今なら俺、何でもやれそうなきがする! これが勇者の素質って奴なんだと思う。先生だって、いま似たような感覚が体の中にあるんじゃないんですか?」

 

 

 そう言われてみれば、みんな胸に手を当てて万能感みないなものに浸る。

 他の生徒たちも同様であった。

 俺と由依も同じようなモブムーブを行う。二人して苦笑した。

 

「俺達は、ここで何かをなすために他の誰でもない俺たちが召喚されたんだと思います。俺達が動かずしてこの魔人に対抗できるわけがない。俺達にしかできないんだったら、俺はやります!」

 

 

 光彦はなんかふわっとした宣言し、右手を頭上に掲げると、そこに光が集まり始めた。

 初めは蛍火のようなかすかな光だった。それが集まり、群れと無し、その光は形を作る。

 

 集まった幽かな光は次第にその姿形をあらわにする。

 

 ひときわ明るく光を放ち、その光量に生徒たちや王も目を細める。

 

 だが、誰一人としてその神々しい光景から目を逸らすことはなかった。

 

 次第にその明るさが落ち着くと、光彦の右手には【光の剣】が握られていた!!

 で、で、でたー!! なにやら伝説の勇者らしきものにしか使えなそうな伝説っぽい雰囲気の伝説の光の剣!!

 

「っ!………っ!………っ!」

「ふっ………はっ………!」

 

 何万回もなろうでみたような光景が目の前に広がり、俺と由依は笑いを堪えるのに必死だった。

 

「にゃふっ………………!」

 

 近くで静かに待機していた田中も、堪えきれなくて顔を押さえて俯いていた!!

 異世界経験は初めてのはずなのに、田中はテンプレ慣れしているおかげか、目の前の光景がギャグにしか見えなくなってしまったようだ。俺たちのせいだ! ごめん!

 ぴくぴくと動く肩は、間違いなく内心で大爆笑をしている。息を全部吐いて、みんなの雰囲気を壊さないように無理やり静かに大爆笑をしているのだ!!!

 耳とかもう真っ赤だよ。気持ちはわかる! 俺も同じだからな!

 

 そして、そんな伝説の剣っぽいのをみた王様たちは光彦をよいしょするに違いない。

 

「あれはまさしくそれは勇者の証! “光の剣”の伝承は本当だったのですね! さすがです! 勇者様!!」

 

 

「ぐっ………………!」

 

ほらきたよいしょ! 見慣れたもんよ!

 

 ガルヒム王の隣にいた女性、ミシェルが興奮したようにうっとりと光彦を見つめていた

 あ、これは惚れたな? ミシェル姫はテンプレ勇者ムーブを行う光彦に心を弾ませているのが伝わってくる。

 

「俺は人間を魔人に支配されたりなんか、絶対にさせない! みんな、オレについてきてくれるか!?」

 

 勇者の証である光の剣を握り締め、生徒たちを鼓舞するように生徒の心を突き動かし、自然と聞き入らせる、圧倒的なカリスマ。

 そうなったら、俺はとうぜんモブとして乗っかるに決まっている!!

 

「「「「 うおおおおおおおおお!!! 」」」」

 

 

 光の剣を出現させた光彦のそのカリスマに、生徒たちも、王のそばに控えていた騎士や魔術師らしき恰好をした人たちまでも拳を天に突き出して叫んでいた

 

「ま、光彦がそういうなら、オレは付いていくぜ! な、リキ!」

「………!」

「瞬もリキも勝手なことをするな! まぁ、私もお前たちが心配だからな。仕方ない」

「わ、私も、この世界の人たちの為に、やれることをやりたい!」

 

 

 生徒の中でまず決意表明をしたのは、テンプレ勇者“虹色光彦”の幼馴染である

 最速の韋駄天“早風瞬”

 無口ながらやさしい筋肉質“松擦力”

 空手部大将“百地瑠々”

 癒し系清純派大和撫子“北条縁子”

 という生徒会超人メンバーであった。

 

 さらには

 

「フヒッ、ここれでぼボクもひ、ヒーローになれるなら、いいかも、ね。クヒヒ」

「なんじゃ、お主笑い方が気持ち悪いのう、浩幸よ。独り言はやめた方がよいぞ。」

「俺っちはいまいち信用はしてねーけど、しばらくはなりゆきに任せるっぜぃ」

「おじさんも光彦くんにどこまでもついていくよー!」

「俺は誰だ!?」

「ワイもいっちょ世界の為に盛大なマジックショーを開いたろうかいね!」

 

 

 根暗の“坂本浩幸”

 謎の情報屋“葉隠妙子”

 エロガッパの“西村佐之助”

 おっさんの“水城しの”

 凄腕マジシャンの“加藤消吾”

 

 といった個性的な面々も光彦の宣言で魔人との戦争を前向きに捉えていた

 

「こ、こわいけど、がんばりますぅ! ね、美香ちゃん!」

「………うん。でもどうせ、濡れるけどね。あと私は死ぬのよ。」

「うまい飯が腹いっぱい食えりゃなんでもいいや」

「にゃふっ、たっ、田中も精一杯がんばるにゃん♪」

「ふむ。運動は苦手だが、バックアップは任せてくれたまえ」

「俺は誰だ!?」

 

 ドジッ子巨乳水泳部の“岡野真澄”

 なぜかピンポイントネガティブ雨女の。“池田美香”

 大食漢の団体一名様“太田稔”

 笑ってんじゃねーよ田中。“田中”

 インテリメガネ委員長の“硝子烏(しょうじからす)”

 

 

「チッ やってられっかよ」

「でもゲームみたいで楽しそうじゃねーか?」

「俺はわくわくするな」

「俺は誰だ!?」

「アタシも、テンアゲなんだケド~。カナは?」

「うへへ、あたしはケモミミ少女が居たら充分かも」

 

 素行不良のチンピラ信号機赤“赤城雄大”

 チンピラ信号機黄“黄島蓮”

 チンピラ信号機青“青葉徹”

 ギャルの“内山ヒロミ”

 ケモナーの“上村加奈”

 

 

「ふぁ~ぁ。ねむ………でも、やってあげるわ」

「拙者の本当の実力を発揮する機会がようやく来たでござる。忍忍。くぁ~ぁ」

「優子のあくびが感染(うつ)ったわ ………ぁふ」

「くぁ………俺は誰だ!?」

「わたしは、本さえ読めればどうでもいいわ………ふぁ………。」

「おなじくっ! 私もね! モノづくりがね! できたらね! それでいいよっ! くぁ」

 

 あらゆるものを感染させてしまう感染系女子“荒川優子”

 輪ゴマー忍者の“服部(はっとり)ゴンゾウ”

 園芸好きの裏番長“花咲(はなさき)萌”

 引きこもりの文学少女“本田美緒”

 モノづくり系女子“安達(あだち)さくら”

 

 

「異世界召喚上等! 私の唄で世界を平和にしちゃうわ!」

「HY YOU! 同じくやってやるYO!」

「俺は誰だYO!?」

「俺も俺も! 俺もやるYO!」

 

 

 ボケっぱなしの声楽部。“白石響子”

 ヒップホッパーの“佐久間太郎”

 便乗系男子“坂之下|鉄太(てつた)”

 

 さらには………

 

「僕にも、できることがあるなら………やってみるよ!」

 

 

 チビでチキンの“緑川俊平”までもである。

 光彦の宣言で、クラスは一つになった!!

 

「お前たち………」

「おお! やってくださるのか!」

 

 その様子に先生は若干呆れながらも生徒たちの意思を尊重しようと思い、皆の意思を統一してしまった光彦にやや恨めし気な視線を送ってから、頷いた。

 王やミシェルはホッとした様子で生徒たちの様子に満足そうに笑みを浮かべる

 

「ぶっふぅーー!!」

「ふっはー!」

 

 

 そんで、テンプレ経験者である俺、“鈴木樹”と“佐藤由依”の笑い声は、みんなの歓声に溶けて消えた。

 

 




次回予告
【主人公の素質】

お楽しみに。

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は

評価をお願いします。(できれば星5はほしいよ)


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第6話 由依ー主人公の素質

 

歓声がひとまず落ち着いた頃。

 

「おい、この者達に例のモノを!」

 

 王がそう命じると兵士の一人が何やら板のようなものを複数枚用意してきた。板?

 板ってことは、ステータスを表示するタブレット的なやつと思えばいいかな?

 

「これは………?」

 

 首を傾げるクラスメイトたち。兵士はとりあえず全員の保護者的存在である担任の矢沢聡史に10枚程度の板を手渡した

 

「それは、ステータスプレートである」

 

「ステータスプレート………」

 

 はい正解。『ステータスオープン』は本人にしかみれないからかな。

 それを他人に見えるようにするためのものだろう。

 しかし、レベルや能力まで見られてしまうのは困るな………。

 さらに言えば、国が管理しているだろうものに、そう言った情報を任せたくない。

 とはいえ、免許証のようなものと思えばまぁ納得はできなくもない、かな。

 

「今は手元にそれだけしか無いが、近日中に全員分のステータスプレートをそろえよう。それは我が国が発行している身分証のようなものだ。無くさぬように気をつけてくれ」

 

 先生は、渡された板を一枚だけ自分の分に取ってから、何とはなしに近くにいた凄腕マジシャン、加藤消吾に手渡す。

 突然手渡された大事なモノに対して、「え、ワイに渡されたっちゅうことは消してもええのん!? 戻らんくなってまうで!?」と渡されたプレートを一枚取ってから消吾の隣にいた佐之助(エロガッパ)に手渡す

 

「そんじゃ俺っちも一枚だけ拝借するっぜぃ。ほい、虹色どん。」

「ああ、助かるよ」

 

 佐之助は一枚取ってからこれまた近くにいた光彦に残りの7枚を手渡す。

 光彦はそれを生徒会メンバーである、ルル、瞬、リキ、そしてユカリコに手渡した。

 

「えへへ、はい、俊平君」

「ふえ? あ、ありがと、縁子ちゃん」

 

 

 光彦に最後に手渡されたユカリコが残りの2枚を俊平ちゃんに渡す。

 先生が近くにいた消吾に手渡したことから始まった謎のプレートリレー。

 先生がが初めから自分の独断で選んでも文句などなかっただろうけど、生徒の自主性に任せると言った手前、そう言うことも生徒自身に決めさせた方がいいと思った結果かな。

 

 まさかリレーになるとは思わなかったけど、まぁ、周りもやってたら続けてしまうのが日本人っぽい。

 

 

「えっと、最後の一枚だ。妙子ちゃん。いる?」

「うむ。では儂が貰い受けよう。」

 

 なんとなく手渡されてしまったそれを、一枚だけ自分の分として手元に置き、ラストの1枚を近くに居た妙子ちゃんに手渡した。

 身長の低い俊平からプレートを受け取る際、顔は下を向いているはずなのに、頭の上に乗っている葉っぱはなぜか頭から落ちない。不思議である。

 

 プレートは数が足りないため、クラス全員分は無かったが、後日用意するという話なので、慌てず騒がず生徒たちも待っている。

 というか、私もタツルも、『ステータスオープン』でネタバレしてるから、別に必要としていないんだよね。

 

「それで、このプレートをどうすればいいのですか?」

 

 先生の質問。

 プレートを渡されたはいいが、見る限り、ただの鉄の板である。

 スマホよりも薄く、スマホ程の大きさだ。何かが表示されている様子もない。

 

 振ってみて、指ではじいてみて、曲げてみても特に変化をもたらさないそのプレートに何の意味があるのかが分からず、王に詳細を聞いた。

 

「そのプレートの表面に血を垂らすことにより、その者の情報をその板に刻み付けることができるのだ。個人の登録が完了すると、そのプレートは完全に血を垂らした者の所有物となる。魔力の波長で承認されるから偽造はできんぞ」

 

「なるほど………血を垂らさないといけないのか………」

 

 プレートを持ってきた兵士とは別の男が、小さなナイフを持って来ていた。

 コレで指先を刺せということだろうか

 

「あ、僕は朝ごはんを作ったときに指を切った傷跡があるや―――あっ!」

「コレは俺が貰うわ」

 

 意外にも家庭科の成績は言い方の俊平ちゃんが呟いて

 絆創膏を剥いでその血をプレートになすりつけようとしたその時。

 

 俊平のステータスプレートを横から赤い髪の少年が掻っ攫ったのだ

 ピンとプレートを指で上に弾くと、クルクルと回転してパシッという音と共に赤い髪の少年――チンピラ信号機の赤である赤城雄大の指の隙間に収まる。

 

「ちょっと赤城くん! それは私が俊平君に渡した物よ! 俊平君に返しなさい!」

「あん? 別にいいだろ。そのうち全員に配られるんだ。早いか遅いかってだけだ」

「だからって人から取るのはいけないよ!」

 

 人のものを平然と取る赤城に憤慨するユカリコ。

 しかし、赤城はそんなユカリコの言葉も鼻で笑って俊平を見下ろした

 

「はん、おいチビ介。こいつぁ俺が貰ってもいいだろ?」

「ひぅ! う、うん………僕は後でもいいよ………」

 

 頷くことしかできない小心者の俊平ちゃんは、おとなしく赤木にステータスプレートを差し出すしかないのだ。

 

 彼は俊平ちゃんからステータスプレートを盗った罪悪感は無い。

 その様子を見て、光彦が眉根を寄せる。

 タエコちゃんや佐之助と言った俊平ちゃんと親しき人間も眉間に皺を寄せて赤城を睨んだ。だが、被害者である俊平ちゃんが「後でもいい」と言っている以上、そこを深く掘り下げるわけにもいかないもどかしさ。

 

「へっ、初めから俺に寄越せってんだ」

 

 赤城はそのまま右手の平にプレートを押し付ける

 

 それは、この世界に召喚される前に椅子で教室の窓を割ろうとして割れなかった時にその反動で手のひらの皮がむけてできた傷だ

 

 手を離すと、ステータスカードは淡く光を発する。

 しばらくすると、なにやら文字が浮かび上がるではないか。

 

 その様子を見て、聡史や消吾、といった面々もかさぶたを剥いだり小指の先にナイフの切っ先で突っついたりしてステータスプレートに血を垂らしていった

 

 浮かび上がった文字を見て、一同は眉をしかめる

 

 

―――――

 

 ●▼◆:

  ×Д:○◎▽

 ξΨ:<■□Ω>

   Ψ:ω〟Ш

^Д^m:ωξΨ

  Шχ:ξ〇Ю

  ∽£:£∽£

☆ω〟Ш:ξΨ〇

  ξ★:χ▼н

Ш∽£∽:ξШ☆

  Ш☆:ξ・£・ξ

  ξ★:<〇><★><ξ><ξ£ξ〇>

  нΨ:<×_▼ξ>

 

―――――

 

 

「よ、読めない………」

「………なるほどのぅ」

「ま、当然だっぜぃ」

 

 当然ながら、全く知らない言語ですべてを書かれているため、読むことができなかった

 俊平ちゃんからステータスプレートを奪った赤城ももちろん同様である。

 

 奪った意味など初めからなかったのだ。

 

 周囲の生徒たちからクスリと笑われて顔を赤くした。

 

「そうですか………では、わたしがプレートを預かって読み聞かせますねっ!」

「頼んでもいいか?」

 

 光彦の手を取って頬を染めながらプレートを預かるミシェル。

 

「ひっ!?」

 

 その周囲に居たクラスの女性陣はこぞって殺気を飛ばし、ミシェルがキョロキョロと殺気の正体を探るが、そこにはにこやかにほほ笑む女の子たちしかいなかった。

 私? 私は別に光彦くんのこと好きでもないからどうでもいいよ。

 

「そ、それでは、読み上げますね! そうだ、勇者様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 そういえば、自己紹介がまだだったことを思い出し、ミシェルは光彦の手を―――殺気が放たれたため握ることはなかったが、手を降ろして光彦の眼を見つめる

 

「ああ、虹色光彦です。よろしくおねがいします、ミシェル様」

「呼び捨てでも構いませんわ、光彦さま」

 

 

―――――

 

 個体名:

  種族:異世界人

  能力(アビリティ):<聖剣使い(ソードマスター)

  筋力:150

  敏捷:150

魔力障壁:100

  魔力:50

  通力:200

魔力浸透:200

  器用:100

魔法適性:光・火・雷

 スキル:<聖剣召喚><瞬動><破斬><纏魔剣><リミッター解除>

  称号:聖剣の勇者

 

―――――

 

 

 コレが光彦のステータスであった。

 個体名に何も記載されていないのは、まだ名前を登録していないからかな。

 

 ステータスオープンをしたときと大差ない。

 ただ、スキルがすでにあるってのが天才のすごいところだ。

 それに比べたら私の能力はクソザコナメクジね。

 

 予想通りの勇者っぷりに私とタツルもにっこりだ。

 

「一般人のステータスだと、だいたいすべて20から30くらいです。」

 

「なるほど、数値もそんなに高いのか………」

 

 

 ミシェルの説明に光彦はまじまじと読めない文字で書いてあるそのプレートを見つめる。

私はすでにインフレの予感がぷんぷんしてるけどね。

 

「はい! この国の騎士団長のダンと遜色ないレベルかと!」

「ふうん………でも、俺達は戦闘経験の全くない素人だ。現職の騎士団長に勝てるとは思えないな」

「そこは勇者様方の鍛錬次第です! <聖剣使い(ソードマスター)>というアビリティは伝説級のアビリティです! は、初めて見ました………おとぎ話ではなかったのですね!」

 

 キラキラした瞳で光彦に熱くそう語るミシェル。

 光彦のステータスを聞いて、クラスメイトたちも『チート来た!』だの『俺TUEEやりてえ』だの『俺は誰だ!?』だの言いたい放題だ。

 それほど、自分の持つ能力の詳細が気になっているのだ。

 後日同じものを渡されるとはいえ、それは仕方のない事と言えた

 

「なあなあ姫様! 俺のステータスの詳細も教えてくれよ!」

 

 ずいぶんと光彦に執着しているらしいミシェルに痺れを切らし、ミシェルに自分のプレートを見せたのは、100m走ジュニア記録保持者の早風瞬だった

 

 早風瞬。彼は幼少期から陸上選手に成るべくして育て上げられた天才である。

 両親は共にオリンピック陸上競技の出場者。その息子である彼がサラブレッドとして親から受け継いだその足と、さらには整ったその顔で学校内でも光彦に次ぐ人気を誇っている。

 

 彼は自分の思い通りに行かないことは腹を立ててしまう少々ワガママな性格になってしまい、女遊びも激しい。

 そんな瞬は、ミシェルを一目見た瞬間から、彼女に一目ぼれしていたっぽいね。スッと通った鼻筋。蒼い瞳に金糸のような美しい銀髪。ホレるなという方が無理な話であった。

 思い通りに行かない事の方が少ない彼は、彼女もそのうち自分が好きになるに違いないと全く疑っていない。

 

 やや押しが強すぎるせいでミシェルは少し引いていたが、それでもイケメンからの頼みである。彼女は快くそれを引き受けた。

 

―――――

 

  個体名:早風瞬

   種族:異世界人

アビリティ:<韋駄天(ランナー)>

   筋力:100

   敏捷:250

 魔力障壁:100

   魔力:50

   通力:100

 魔力浸透:100

   器用:50

 魔法適性:雷・風

 スキル:<瞬動><縮地><刃蹴><空歩>

  称号:韋駄天の勇者

 

―――――

 

「こ、これは………速さが飛びぬけております! すごい、こんなステータスはみたことがありません! この国では敏捷が200を超えるような方はいらっしゃいませんので、本当にすごいことですよ!」

 

「へっ、当然だぜ。誰も俺に追いつけやしねえんだ!」

 

「しかも、<韋駄天>なんて、新種のアビリティですよ! きっととてもすごいに違いありません!」

 

 どうだすごいだろ、と言わんばかりに胸を張る瞬。

 そらから後も、しばらく「ねえ、好きな食べ物って何?」だの「婚約者っているの?」だの、しつこくミシェルに付きまとっていたのだが、それを押しのけるように巨体がぬっとあらわれた。

 

「うお!?」

「………。」

「てめ、なにすんだよリキィ!」

「………。」

「あ? しつこいだぁ? 姫様は一言もそんなこと言ってねえだろ! 余計なことすんじゃねえよ!」

 

 

 ドスッとその鍛え上げられた足を、その巨体――松擦力(まつするリキ)のふとももに突き刺した。

 だが、その異世界に来たことによる筋力の変化などものともせずに何事もなかったかのようにピンピンしている。

 

「………」

「………ちっ。わぁったよ。姫様。このノッポのステータスも見てやってよ」

 

 無口なリキと、なぜか会話が成立しているのは、彼が幼馴染だからかな。

 まあ、私もタツルが考えていることは無言でもわりと分かる方なのでなんともいえない。

 無言のやり取りの後、なにかしらに決着がついたのか、瞬が折れてミシェルから離れた

 

 

「え、ええ。わかりました」

 

 松擦力は、中学生ながら身長が2mに迫る巨漢だ。

 体重も100kg近くある。しかし、それは無駄な脂肪など全くない、芸術的なまでに磨き上げられた美しい筋肉の塊であった。

 学制服に身を包んではいるが、はちきれんばかりのその筋肉に、今まさに学ランの第1ボタンがはちきれてどっかに飛んでしまっていた!

 

 その圧倒的な迫力に、ミシェルや王も眼を見開くしかない。

 腰を折って、ミシェルに目線を合わせながらステータスプレートをミシェルに手渡す。

 

 リキの掌は小柄なミシェルの頭を簡単に握り締めてしまいそうなほど大きく、スマホ程の大きさがあるステータスプレートも、どこかつまんでいるような印象さえ与えていた。

 

 

 そんな彼はバスケットボールや柔道部、バレー部などからも引っ張りだこ。陸上競技も砲丸投げ、ハンマー投げ、やり投げ重量上げといったパワーを使うものでは学校のエース級の生徒さえもぶち抜く成績を誇っている。

 

 大きなガタイをしている割に、かわいいモノが好きという一面もあり、そのギャップからか、女子からの人気も高い。

 すれ違うたびに俊平ちゃんの頭をポンポンと撫でる姿も確認されているため、もしかしたら“小さいモノ”が好きなのかもしれない

 

 そのたびに俊平ちゃんが「ぴゃー! なでないでー!」と喚いているのはご愛嬌だ。

 文学少女の本田ミオちゃんが「リキ×俊………いいかも」とか言ってるのも、わたしはしたり顔で「わかる」とうなずくしかない。

 

 

―――――

 

  個体名:松擦力

   種族:異世界人

アビリティ:<要塞(フォートレス)>

   筋力:300

   敏捷:30

 魔力障壁:200

   魔力:20

   通力:100

 魔力浸透:30

   器用:10

 魔法適性:重力

 スキル:<不動><威圧><爆拳骨><巨大化>

  称号:要塞の勇者

 

―――――

 

 

「魔力値や敏捷は低いですが、これはいくらなんでも、筋力が異常すぎです………。しかも<要塞(フォートレス)>なんて………これも伝説級………これは夢なんでしょうか………しかも、スキルに<巨大化>だなんて………さらに大きくなっちゃうのですか………?」

 

 どうやら、生徒会メンバーはぶっ壊れた性能を持っていたらしい。

 

「………?」

「ん? ああ。姫様。普通のアビリティってのはどういうのなんだ?」

 

 ミシェルのつぶやきに疑問を思ったらしいリキを瞬が通訳してミシェルに聞くと

 

「え、ええ。アビリティを持つ者は5人に1人程度でよくあることなのですが………そういう人は大抵常人よりもステータスが高い傾向にあります。では普通のアビリティなのですが………<剣士>や<武道家>、<足軽>に<戦士>、<重戦士>などといったものなのですが………なんと説明したらよろしいのでしょう。あなた方のアビリティはそういったアビリティの数段階上をゆく、特別なアビリティなのです」

 

 どうやら、アビリティにも強さのランクがあるらしい。

 下級 中級 上級 超越級 伝説級 といった具合である。

 

 <聖剣使い(ソードマスター)>でいうならば

 

 下級に<剣士>

 中級に<重剣士>や<双剣士>

 上級に<剣闘士>

 超越級に<剣聖>

 最後の伝説級に<聖剣使い(ソードマスター)

 

 といった具合だってさ。

 それ以外にも、“ユニークアビリティ”を持つ者もいるんだとか。

 ユニークアビリティとは他と被らぬ自分のみが持つアビリティ。もしくは希少性の高いアビリティのことを言う。その効果は強力で、ほぼ確実に“上級”“超越級”以上の強力なアビリティとなるらしい。

 新種だった瞬の韋駄天なんかもそうなんだって。へえ。

 

 でも、ステータスに書かれていないから、この世界の人たちが呼称しているだけなんだろうね。

 とはいえ、強力であることは変わりなさそうだね。

 

「………。」

「なるほどね。だいたいわかったぜ。次は縁子あたりが調べてもらえよ」

 

 本当に理解しているのかいないのか、瞬は目を瞑って『理解してるぜ!』と言いたげに頷いた。

 たぶん理解していない。

 

「うん、わかった」

「では、その次は私だな」

 

 だが、そんな難しいことは考えを放棄することで解決する。

 彼は次にユカリコとルルのステータスを見てもらうように促し、ユカリコはミシェルの前に歩み出た。

 

 

 

 なんか長くなりそうだから、あとでタエコちゃんにまとめてもらおっと。

 もちろん、数値なんかは全部無視してもらってね。

 

 

「タツル。誰が主人公だとおもう?」

 

と、私が聞くと

 

「光彦のフワッとした宣誓に同調しなかった奴が、不審がっている主人公の可能性は高い。」

 

 先の宣誓を思い出す。えーっと………。

 

「それって、赤城雄大(チンピラ赤信号)西村佐之助(エロガッパ)じゃん。その二人が主人公ってある?」

 

「………。だよなぁ………。」

 

 

なんて頭を悩ませていたその時だ。

 

 

「樹にゃん、由依にゃん。あれをみるにゃん!」

 

 こそこそと近づいてきたタナカちゃんが、謁見室の角を指差した。

 

「うん? 俊平ちゃん?」

 

 そこにいたのは、ステータスプレートを赤信号(赤城雄大)に取られて手持ち無沙汰になった俊平の姿が。

 

「なんかもじもじしてんな。」

 

「あれは俊平にゃんがおしっこを我慢している顔にゃ。」

 

「俺たちは何を見せられているんだ?」

 

 タナカちゃんに俊平ちゃんのおしっこを我慢している姿を見せられる気持ちにもなってほしい。

 

あれ? 小さな男の子と女の子が俊平ちゃんに話しかけてる。

言葉、わかるのかな?

 

「玉座の近くには、美人のミシェルの他に、10歳程度の男の子と、5歳程度の女の子がずっといたにゃん。おそらく第一王子と第二王女にゃん。」

 

「ほむ。」

 

「あのショタはずっとちびっ子の俊平を気にしていたにゃん!」

 

「ほむ?まあ、俊平ちゃんはクラスで一番背が小さい小学生レベルだからね。見ちゃうのもわかるかも」

 

「で、第二王女らしきロリっ子もおしっこを我慢してたにゃん。」

 

「つまり?」

 

「気遣い上手な王子がロリを連れていっしょにトイレに連れてってあげようとしているにゃん!」

 

「俊平、子供に世話焼かれとる!!」

 

この通常では考えられないようなポンコツムーブは、主人公にも当てはまりそう!

まさか、嘘でしょ。

俊平ちゃんが主人公!?

 

ショタが主人公とかあまり見ないんだけど!?

序盤だけだよ!

 

「まさか、俊平が主人公だとでも?」

「可能性がないわけじゃないにゃ!」

 

いや、たしかに俊平ちゃんは非力ないじられキャラだ。

チンピラ信号機にはよくちょっかいかけられているが、クラスの愛されるべきマスコットだ。

その辺は主人公としての素質はあるのかも?

 

「ちょ、ちょっと俺、確認してくる!」

 

タツルが早歩きで謁見の間から出ようとする俊平ちゃん達を追いかけた。

 

扉の辺りで追いついたタツルが俊平ちゃんの耳元で何かを囁くと、俊平ちゃんは何事かの返事をして、お腹を押さえた。膀胱の決壊が近い。

 

タツルが王子に「俊平をよろしく頼む」と伝えたのが見えて、タツルはコチラに戻ってきた。

 

 

「ど、どうだった?」

 

「………俊平にステータスオープンを唱えてもらった」

 

「にゃにゃ!? 結果はどうにゃ!? 田中にも早く教えるにゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

能力(アビリティ)が、自爆(ディシンテグレイト)。自爆の勇者だった」

 

 

 

 

 

 

 

地雷だあああああああああああ!!!!!!!

これもう確定だよぉおおおおお!!

 

 

 

 

「あまりの衝撃に………俊平、ちょっと漏らしてたよ。」

 

 

 

 

そりゃあねえ!!!

 

 

 

 

 

 




あとがき

樹と由依もちゃんと主人公の要素満たしているんだよなぁ。

次回予告
【パニックホラーのお約束】

おたのしみに。

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は
評価をお願いします。(できれば星5はほしいよ)


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第7話 樹ーパニックホラーのお約束。

 

 

おそらく、たぶん、メイビーという形にはなるが

 

俊平が主人公らしいことはわかった。

田中も頭を押さえている。

俊平を主人公とした物語ならば、作者の意図は、おねショタかもしれない。

 

異世界転生ならば序盤のショタ主人公はありえるだろうが

 

ファンタジークラス転移で主人公がショタはあまり見ない。だけれど、自爆というデメリットが高い能力は迫害の対象になりかねない。

 

迫害はつまりなろうにおける追放に繋がる。

夢を見るだけの俺たちよりも、周りを巻き込む可能性が高い分危なっかしいのだ。

 

 

―――――

 

  個体名:北条縁子

   種族:異世界人

アビリティ:<精霊使い(エレメンツ)

 魔法適性:光・闇・火・水・風・土・雷

 スキル:<精霊召喚><精霊の祝福><精霊の聖域><同化>

  称号:精霊の勇者

 

―――――

 

―――――

 

  個体名:百地瑠々

   種族:異世界人

アビリティ:<武神(ファイター)>

 魔法適性:重力

 スキル:<瞬動><纏気><覇動拳><リミッター解除>

  称号:武神の勇者

 

―――――

 

 

「<精霊使い>に<武神>まで………! すごい、すごいです! 伝説級のアビリティがこんなにゴロゴロ転がっているなんて、あなたたちの世界は、どれだけ混沌としていたのでしょうか!?」

 

 

俺と由依と田中が集まって悶々としていると、向こうも進展があったようだ。

 

 縁子と瑠々のステータスを確認したところ、ミシェルは伝説級のアビリティばかりがはびこっている彼らの世界に旋律(戦慄)したみたい。いいよ、そういうテンプレでしょ。

 

 それはそうだろう。この世界では見ることのなかったアビリティの数々が、召喚された少年少女たちに備わっている。それが、33人もとなると、その世界を疑わざるを得ないだろうさ。

 

「い、いやあ、私達の世界にはそもそも<アビリティ>っていうのがなかったからそれほど混沌としていたわけではないよ………?」

「うむ。少なくとも国に住む国民は戦争などとは無縁の存在であったからな」

 

「そうなのですか………?」

「むしろ、戦争中の国の者や特殊な訓練を受けているものではなく、なぜ、普通に暮らしていたはずのわたしたちがこの世界に呼ばれてきたのか、それが理解できないのだ。」

 

 瑠々は、自分たちを召喚した神『サニエラ』というモノに疑念を持っていた。

 当然だ。神を自称するものなど、信用できるはずがない。

 宗教で神を信仰するのは精神の安定にも必要な時もある。

 

 だが、神を自称するものが自分たちを選んでこの世界に送ったと言われても、そこにはちぐはぐさしか見えなかった。

 

 この世界の人間たちを救おうと思うのならば、現代日本の技術の結晶や、特殊な訓練を受けたものを大量に送り込めばいい話。

 それを、なぜ自分たちのような一介の高校生にしたのか。

 戦争の経験もない自分たちよりも、戦闘の訓練を受けたものを召喚した方が、はるかに国にとっての負担も、人間族にとっての負担にもならないはずなのに、だ。

 

 

「まぁ、それは考えても仕方のない事なのだろうな。たまたま私たちが勇者の素質を持っていた、ともとれるわけなのだし」

 

 

 そういう疑念を持っても、すでにこの国に召喚されてしまった事実は変わらない。

 ならば、一刻も早く地球に帰還するために、できることをやらなければならないだろう。

 

そんなこんなで、俺たちとは別行動の腹黒タヌキである妙子が行動を起こした。

 

 

「のう、そろそろ話を先に進めてもよいじゃろうか」

 

 

 まとまらない考えを思案し続けても無駄である。これ以上この場に留まる理由も思いつかなかった妙子は、そろえた情報を頭の中に叩き込みつつ状況を進展させるために口を開く。

 

「まだ、全員分のプレートを確認しておりませんが………」

「どうせあと5人程度じゃ。それに、まだあと20人以上もプレートを貰っておらんものもいる。一気に確認した方が良いじゃろう。儂も本当は自分の持つ能力が気になるところじゃが、何事も順序が必要じゃ。」

「は、はい………」

 

 今はまだ、召喚された勇者たちを置いてけぼりにして、ミシェルや王、騎士たちが舞い上がっているだけなのだ。

 こちらは家に帰れない不安で押しつぶされそうな子も居るというのに。なんとも身勝手な話である。

 

「仕事を斡旋してもらえるのはありがたいが、最低でも衣食住は確保してもらわないとならんのでのう。こちらも無一文で知らぬ世界に放り出されてしまえば、今を生きるにも困ってしまうからの。そこの確認をしたいのじゃ。アビリティの確認なんぞは後回しでもよい」

 

「で、ですが………」

 

 なおもみんなの能力を確認したいと食い下がろうとするミシェルに対し、冷えた目で見下ろす妙子。

 

「なんじゃ、ずいぶんと強欲な『人攫い』じゃのう。」

「なっ!?」

 

突然の暴言にミシェルは目を見開く。

 

 

「其方の都合で勝手に住処を奪われ、親元を離され、そして自分の支配下に閉じ込められ、戦いに投じられる。まるで奴隷じゃな。」

 

鼻で笑う妙子。

 

「おい、それは言い過ぎだぞ葉隠! 彼らは本当に困っているから、俺達を呼んだんじゃないか!」

 

 あまりの物言いに眼を見開いて妙子に近づく光彦。

 しかし、どこか切なさと怒気を含んだ妙子の瞳に押されて怯む

 

 

「誠意を見せると言うのなら、こちらにも譲歩していただかねばならぬものがあると、なぜそれがわからんのじゃ。困っていたらワシらを奴隷のようにこきつかってもよいものなのかのう? なあ? 光彦。どうなんじゃ?」

 

 やれやれと肩をすくめて光彦に一歩だけ近づくと、息を呑む光彦を押しのけて王に目を向ける。

 

「王よ、お主は自分が言語も分からぬ土地に、金も地位も持たずに降り立てばどういう気分じゃろうか」

 

「む、ぅ………」

 

「しかも、こちらは無理やり“世界”から切り離されたのじゃ。元の国どころか、元の世界にも帰れないと来た。儂は正直、ハラワタが煮えくり返っておるのじゃよ」

「おい、それはさっき王様が頭を下げただろう!」

 

 光彦が妙子に詰め寄るが、妙子は光彦に一瞥もくれずに王を見据える。

 

 妙子は確信していた。

 この国は、勇者というモノに対して最大限の敬意を払っていると。

 宗教と同じで、勇者は神の使徒という枠組み。場合によっては“王”よりも上の立場にあるということを。

 

 上の立場にあるということは、情報戦に置いて、これほど優位なことは無い。

 できるだけの情報を引き出した上で、相手にこちらが優位になるような条件を飲んでもらえてこその、情報屋である。

 

 俺は妙子の観察眼と度胸には勝てないな。

 今の何の力もない俺には、そんな強気なムーブは絶対に出来ない。

 

 こちらの立場が上ならば、多少強引に迫っても、相手には拒否権は無いのだ。

 

「頭を下げたなら許されるような問題ではないぞい。儂らは無理やりこの世界に連れてこられたのじゃからな。人攫いとなんらかわらんよ。」

 

 光彦を見ることなく、光彦を諭すように事実を述べる。

 好き好んで戦争に行こうとするものの気がしれないのだ。正義を振りかざして悪人を切れば、そいつはもう日常には戻れないことになぜ気が付かないのだと妙子は光彦の評価を下げた。

 

「そして王よ。お主は儂らにできることは何でもすると言った。ならば早急に手配してもらいたいのじゃが、儂らはこの世界の言語をまったく知らぬ。ここは魔法といった不可思議な現象が支配する世界じゃ。お主の指に嵌っておるそれはおそらく言語を理解させてくれるカラクリ道具といったところじゃろう? ならばすでにこの地の言語を熟知しておるお主よりも、儂ら全員に寄越してもらえると助かるのう。多少時間がかかっても構わんが、できるだけ早急にのう。」

 

 心象を悪くする可能性と天秤にかけて、無理にでも、言語を把握できる指輪の早急な手配を促したのだ。

 まずは言語。それがどうにもならないことには始まらない。

 この国も、勇者たちとの会話がうまくいくとは思っていなかったのか、言語を通訳する指輪を準備していたくらいだ。

 確信犯なのだ。

 

「わ、わかった。」

 

「最低でも5つ。これだけは今日中にそろえていただきたい。此方の世界の言語をわかるものが居た方が何かと便利なものじゃからのう」

 

「善処しよう。おい、今すぐ翻訳の指輪を手配するのだ!」

 

 王に命令され、急いで指輪を手配するために騎士たちは動き出した。

 俺たちクラスメイトは、呆然とそれを見つめる。

 

 

「す、すげぇっぜぃ」

「絶対に妙子にゃんには弱みを握られたくないにゃん」

「俺は誰だ!?」

「拙者のプライベートは誰にもわからないはずでござる。忍忍」

「葉隠に掛かればワイの手品のタネも見破られちまいそうや! 商売あがったりやで!」

 

 

 その情報戦に勝利して、王様から衣食住と指輪を勝ち取った妙子に戦慄するクラスメイト達。

 

「心配せずとも、儂はクラス全員分の弱味などすでに握っておるぞい」

 

「「「ひぃぃ~~~~~!」」」

 

 振り返りながら不敵に微笑む妙子に、一同は全身の震えが止まらなかったとか。

 

 

 

     ☆

 

 

 

 

 さてさて、俊平が主人公だと言うことが判明したが、それは置いておいて、クラスメイトたちはそれぞれ妙子が勝ち取った部屋を割り当てられて、王城で暮らすことになった。

 

 そのへんの長話は割愛して、ひとまず今日のところは王城の案内と施設の案内。

 食事をして、稔が大食漢ぶりを披露しコックを戦慄させ、午後は姫さまに魔法とか見せてもらって、できそうな人は魔法の練習にのめり込んでいた。

 騎士団にも顔を出してみて、剣を振るわせてみたり希望者は一緒に走り込んでみたり。

 非番の侍女の案内で街に出かけたり。

 物づくり系女子の安達さくらが細工職人のショーウィンドウや魔道具屋さんから動かなくなったりしたけど、なんとか連れて帰り、とかいろいろあったけど、割愛!!

 夕食で稔がまたも大暴走してお代わりしすぎたものだから、あいつだけ騎士団の量が多くて安いメニューがアホみたいに出されてた。

 

その時、何故かメイドの姿をした、頭につけるホワイトブリムを猫耳にしたままの田中が給仕に入っており、所作の完璧さにクラスメイト一同気づくのが遅れたりとなんかいろいろあったけど、まあ、異世界1日目が終わるところだ。

 

 

 ひとまず就寝。

 

 今日のところはみんな混乱しているからね。

 世界に慣れるところから始めないと。

 

 訓練とか何をしたいのかとかは明日、確認することになったんだ。

 

 

 ただ、電気が無いので20時には就寝の時間だ。

 電気が無いなら仕方ないね。もうランプがないと真っ暗だもんな。

 

「ランプ消すぞ。」

 

 

「ええで」

「ういー」

「構わないっぜぃ!」

 

  流石に30人以上をそれぞれ別の部屋で用意は出来なかったようで、俺とマジシャンの加藤消吾、大食漢の大田稔。エロガッパの西村佐之助は同室だ。

 真っ暗ですることもないので、早速寝る。

 

「なんかちょっと早めの修学旅行って感じやな」

 

「ちょっとわくわくしねえか?」

 

 

 暗くなった室内で消吾と稔が

 

 

「あれやろ。最近流行りの異世界転生」

 

 転移な。

 

 

「俺TUEEEできたらええな。ワイもちょっと緊張しとる。」

 

「あんま信用しすぎも良くないっぜぃ。何が絡んでいるのかわからないからな」

 

 エロガッパの佐之助はどうやら信用はしていないようだ

 

「その点、樹っちは落ち着いてるな。異世界に転移すること、知ってたのか?」

 

 佐之助もどうやら俺を疑問視しているようだ

 

「まあ、なろう読んでて似たような状況を良く知っていただけだ。あとは夢の中で異世界やら現実世界やらを冒険したりとか?」

 

「ああー、なろうか。俺っちは読まないけど、なろう原作のアニメは見るっぜぃ! そっか。それでか。なんか納得だっぜぃ」

 

 

 納得顔の佐之助。

 

「樹。なろうだと、他にどんなことがある?」

 

 と聞く稔。

 おや、なにやら俺がレクチャーする流れ。いいだろう。別に隠すことでもないし

 

「そうだな。例えば、ステータスオープンだ。リピートアフタミー。ステータスオープン」

 

「「「 ステータスオープン 」」」

 

 3人がステータスオープンを、唱えると、自分のステータスが表示されてる

 

「うお、ステータスプレートに表示されているのと同じことが書いてあるやんけ。こっちは読めるで」

 

 と、すでにステータスプレートを受け取っていた消吾

 

「俺っちはわざわざ血ぃ垂らすのが嫌やったからまだいじってないっぜぃ」

 

 佐之助は慎重派だったようだ。

 このムーブは主人公っぽさもまあまあある。

 盗撮魔だから慎重なのだろうか。

 口調は小物だけど。

 

 

「みんなの能力(アビリティ)と称号は? ああ、数値はどうでもいい。どうせすぐにインフレする。」

 

 と俺が聞くと

 

「ワイは次元収納(アイテムボックス)。収納の勇者」

 

「俺っちは空間探知(サーチ)。探知の勇者。」

 

「俺は暴飲暴食(ハングリー)。暴食の勇者」

 

 

 やべえ能力者の集まりじゃねぇか。

 

 テンプレから当て嵌めれば、一番やばいのが稔の暴飲暴食だろうか。

 

 暴食系の異能はラーニング性能があるブッ壊れの筈だ。

 イキリゴミなろう作家が考えそうな、よくありふれた強奪系の異能と言えよう。

 例えば、食らった魔物の能力を手に入れたり、殺した相手の能力を奪ったり。

 これも何万回となろうで見たな。

 

「ちなみに俺は夢現回廊(ドリームコリダー)。夢現の勇者な」

 

 佐之助は主人公向けの能力では無さそうだが、サポート性能バリバリの支援職。

 俊平の親友なだけある。

 

「このステータスオープンっての知ってるのは何人だ?」

 

 

 と、稔が聞いてくる。

 利権を独占したいのか?暴飲暴食の能力を持つ稔に疑心暗鬼になってしまうぞ。

 

「一応、俺と由依、あと田中と、妙子………。あとは俊平だな。」

 

「みんなの能力はなんや?」

 

 と、今度は消吾が聞いてきた。

 

 

「流石に俺が勝手に教えちゃまずいだろ。後で個人的に聞いてくれ。」

 

「それもそうだな。わかった。」

 

 

 

 と、まあこんな感じで夜を迎え、就寝することになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ここは俺の夢の中。

 

 

ーーーきゃー!

ーーーおいあぶねぇぞ!

 

ーーーこっち来た!!

 

 

 

「ううん、これはパニックホラー。」

 

 

 

 

 まさか異世界に生身が召喚された状態で、地球のパニックホラーの世界に夢の中でご招待されるとは思っても居なかった。

 

 

「こまったなぁ、俺、パニックホラーは苦手なんだけどなぁ」

 

 なろうでもホラーはマイナーなジャンルだ。

 俺はもっぱらファンタジー専門で、ホラーは読まない。

 

 しかも、バイオなどのゲームもやらないからセオリーがよくわからないんだ。

 さらに言えば、幽霊とかだったら、情けない話、俺はマジで怖い。泣く。

 

「こういう場合は、なろうに限らず、パニックホラーの鉄則に従うべきだ。」

 

 

 ではまず、シナリオの確認だ。

 

 シナリオA シャークパニック

 ご存知サメのパニックホラー。ただし、ここは海の上では無さそうなので除外したいが、水没した都市だったらどうしようもないな。

 

 シナリオB ゾンビパニック

 触れたり噛まれたりしたら感染するタイプのパニックホラー。

 ゾンビの弱点は脳だったり脊椎だったりする。

 

 シナリオC エイリアンパニック

 謎の知的生命体が襲撃してくるやつ。

 人間は餌。謎の超技術により手も足も出ない。

 敵の基地に潜入して大本を叩く必要がある。

 

 

 クローズドシナリオ 心霊ホラーパニック。

 閉じ込められた曰く付きの館で、謎を解き館からの脱出が最終目標。

 

 

 

 そして、パニックホラー映画の鉄則。

 

 鉄則1.セックスしてるリア充は優先的に死ぬ。

 

 鉄則2.お色気シャワーシーンを優先的に映した結果、待っている男は死ぬ。惨たらしく死ぬ。

 

 鉄則3.童貞は生きる。

 

 鉄則4.柄の悪いやつは劇場版ジャイアンみたいになって改心して主人公格を庇って死ぬ。

 

 鉄則5.武器は使い捨て(ハンマーで相手を殺した後に「ここは危険だ」ぽいっ)

 

 鉄則6.一人になると死ぬ。(有名なテンプレ)

 

 

「現状確認。俺は誰だ?」

 

 

 ポケットには割れたスマホ。画面に映っているのは

 

 鼻にピアス。鼻くそほじりにくそう。よく知らんけど。

 そんで金髪刈り上げ。これはまさしく

 

 

「優先的に死ぬ奴だ!」

 

 

 今いる場所は?

 

 

 陳列棚に食料が置いてある。ということは、

 

 

「ショッピングモール立てこもりは定番だな」

 

 

 物資がそれなりに沢山ある。

 ならばショッピングモールに立て篭もるのは当然。

 

 ショッピングモール立て篭もりってことは必然、ゾンビパニックあたりが最有力。

 

 主人公は逃げるのが得意なのか、特殊部隊か、はたまた研究員か。

 

 どちらにせよ、行動を起こさねばなるまい。

 

 よっこらどっこいしょ! と立ち上がり

 

 

「しゅ、しゅーちゃん。どこにいくの?」

 

 と、金髪ギャルが俺の手を掴んだ。

 

 なるほど、この男はカップルで、二人でここに立てこもっているんだな。

 

「武器になるものと食料を調達する。一緒に来てくれるか?」

 

「い、嫌だよ! 動いたらアイツらに見つかっちゃう!」

 

「ずっとここにいてもいつかは食料も無くなる。それに、一人は危険だ。」

 

「だったらしゅーちゃんはここにいてよ! 私を一人にしないで!」

 

 

 ………くっっっっそ面倒くさい女!!!

 

 

 いや、違う。正しい反応だ。パニックホラーの最中ならば当たり前の反応だ。

 

 慣れてる俺の方がおかしいんだ。

 

「ならば、ここでずっとじっとしててくれ。俺はバリケードを作ってくる。安心しろ、俺が守ってやる。」

 

「………ぐすっ、わかった。」

 

 

 うるさいこの女と一緒に行動してたら俺が間違いなく死ぬ。

 

 とはいえ、俺も人の心を持ったなにがしだ。

 容易に囮や道連れにはしないようにしよう。

 

 いざとなったら脱出タイプDのシナリオの破綻でどうにかする。

 

 とはいえ、主人公が見つからないことにはシナリオの破綻すらできないのも現状だ。

 

 

 

 俺が主人公でないのなら、現在の脱出タイプはCのモブ転移。

 まあ、俺が主人公ではない確証もないが。

 

 主人公が見つかったらBのハッピーエンドに移行。

 無理そうならDのシナリオの破綻。

 

 優先順位はこうだな。

 

 

 つまり、生き残るのは最優先。残れそうなら物資の確保。

 それができてから夢幻牢獄の脱出については考えよう。

 

 身を低くしてモールを探索。

 

 落ちてたバッグに食料品を詰め込み、階を上がって、雑貨店に到着。

 

 看板を見た限り、1階は鮮生食品売り場と衣類雑貨。2階は飲食店と雑貨店、3階は映画館とスポーツ用品や小物。アウトドア製品。目標はアウトドア製品だな。サバイバルグッズが手に入るかも。

 地下は土産物売り場だな。日持ちするものが置いてあるかも。

 

 現在、彼女がいた場所は衣類雑貨の場所。服に埋もれる形で隠れているのだ。

 

「ア”ア”………ウウゥウアアア!!」

 

 すれ違った人はゾンビだった。

 おけまる。シナリオBのゾンビパニックで間違いないな。

 

 足を引きずり、バランスが悪く、俺を見つけると、ずりずりとコチラに寄ってきた。

 

 

 接触したくないので、衣類雑貨からかっぱらってきた手袋を二重にして、掴みかかってきたゾンビの左腕を逆に掴んでやり、そのまま引っ張って足を引っ掛けてうつ伏せに転がすと

 

「どっこいしょ!」

 

 ゾンビの首に全体重を乗せて両足スタンプ。

 

 ボキッ!

 

 という音で、ゾンビの無力化を確信した。

 首の皮なんて肉の下で滑るから、しっかりと踏み込まないと転んじゃうから気をつけないといけないけど、よし、やり方は覚えたぞ。

 

 

 2、3秒ほどゾンビの手足が動いているかを確認すると、やはり頚椎は弱点なのか。

 ウイルスだか菌だか寄生虫だかはわからないが、脳から送られる神経伝達系が損傷するとゾンビも動かなくなってしまうらしい。

 

 まあ、それがまかり通ってしまうと、切り離した手足までもがカサカサと動き回る結果になる。

 

 そうならなくてよかった。

 

 

 

 

 ってか、あまりゾンビも強くないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………モールの中、皆殺しにするか。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、いい汗かいた。」

 

 

 

 俺の殺り方は返り血をあまり浴びないため、血液感染のリスクも少ない。

 

 単独で行動するはぐれのゾンビを狙って転がしてスタンプ。

 

 これ最強。

 

 生死の戦いなんて慣れ親しんだものだからね。

 気負いもなく、異能もなく対処はできる。

 

 ついでに雑貨屋でセラミック包丁見つけたから、突っ張り棒3つとガムテープで合成して、簡易槍を作成。

 持ち手もガムテープで少し太めにしてあります。

 

 

 旅行鞄も見つけたから、ペットボトル水を詰めて彼女のところに戻るとしよう。

 

 

 うーん、ゾンビ相手って、槍よりも鈍器の方がいいのかな。

 脳を損傷させるとしたら鈍器の方がいいのかも。

 衣類雑貨の靴下に工具詰めてブラックジャックも作っておいた。

 これならあの女でも遠心力で戦えるだろう。

 

 シャベルがあれば一番良かったんだが、さすがにホームセンターに行かないとないだろうな。

 

 ひとまず、目につくところにいた三十匹のゾンビは追加で行動不能にした。

 ブラックジャックいいな。脳死で振り回すだけでゾンビを退治できる。

 ただ、複数回やると靴下が破れるのが難点か。靴下は二重三重にして強度を高めるかな。

 

 そんでもって、こういう閉鎖空間で一番恐ろしいのは集団感染。クラスターだ。

 モールに閉じこもっていると、その中の誰かが、噛まれたことを黙っていて、それが原因で全滅なんてのはよくあるお話。

 

 あと、映画館には感染者が閉じ込められており、迂闊に開けるとゾンビに飲み込まれるというお決まりパティーンだ。さすがにそんな迂闊な真似は出来ないな。

 

 俺がゾンビバスターしてるときに

 感染していない若い男性とこんにちはしたけど、特に会話もなく、目的は同じモールの資源の略奪であろうことはわかった。

 

 その男はガチャガチャのカプセルの中に小石を入れてマラカスを作って、音でゾンビを誘導してここまで来たっぽい。

 

 頭使ってんなぁ。

 

 そっか、ガチャガチャって空気穴みたいなのが空いてると鈴みたいにいい音が出せるんだ。

 すげえなあいつ。

 

 俺みたいなサーチアンドデストロイの脳死プレイじゃないんだ。

 

 まあ、あっちも俺の戦法を見て感心してたみたいだけど。

 

 さすがの俺も、ゾンビの一匹や二、三匹を一気に相手する程度なら問題ないが、集団で来られたらなすすべもない。

 

 はやいところ自分の城を築かないといけないな。

 ある程度のゾンビを退治したら、

 

 今度はモールの出入り口はひとまずイートインコーナーの椅子や机をポイポイと放り投げて人間はかがんで通れるけどゾンビの知能じゃ通れない程度のバリケードを作った。

 

 物資を補給しに来た普通の人間が通れないのはダメだからな。

 

 

 

 

「ただーい」

「おそーい! 本当に怖かったんだからね!」

 

 すまんって。

 

 

 

 

 と、合流したところで俺の意識が途絶えた。

 

 

 

 よくわからないけど、図らずも脱出タイプDの条件か何かを満たしたっぽい。

 

 

 あれか、あの場でエッチしてれば、俺、死んでたのか?

 まじかぁ

 それとも、あのいい感じのバリケードが将来の主人公の助けになったのだろうか。

 

 もしかして、途中で出会ったあの男が主人公? わからん。

 

 サーチアンドデストロイがよかったのか。

 本来は一人で物資の略奪をしている時に一人で死んでしまう運命だったのかはわからないが、ひとまず。

 

 金髪ピアスの生存確定。脱出タイプA 主人公(おれ)の生存確定?

 もしくは脱出タイプD(シナリオの破綻)?

 

 いや、この程度でシナリオ自体は破綻しないか。

 

 脱出タイプA 自分の生存 コンプリート。

 

 

 

 

 

「もっとモールの元締めと主人公がドンパチやるのかと思ったのにな。」

 

 頭をふりながら起き上がる。

 

『何を言っているのですか、ご主人様』

 

 

 と、無機質な声。

 周囲は岩に閉ざされたクローズドシナリオか。

 

 

「今度はどこよ。」

 

『ここはダンジョンの最下層。貴方はダンジョンマスターに選ばれました。』

 

 

 ほいきたダンジョンマスターなろう。

 今度はホラーの次はダンジョンマスターですよもう。

 

 

 どうせダンジョンポイントとかそんな数値でダンジョンの拡張とか、なんかするんでしょ!!

 

 

『ご主人様にはダンジョンポイントを使ってダンジョンを拡張していただきたいのです』

 

 

 正解!

 今回の肉体は鈴木樹そのもの。

 ってことは、俺が主人公かな。

 

「いいだろう。ダンジョンマスターがダンジョンの外を出歩くのはありか?」

 

『ありです。ただ、遠くに行きすぎると死にますので注意してください。』

 

 あ、勝ったわ。

 

 

『では、ダンジョンコアで、ダンジョンの設定を、行ってください。』

 

 ダンジョンの入り口の幅は60cm四方。匍匐前進で入れる程度。

 ボス部屋はダンジョンの入り口のほぼ真上に、やはり匍匐前進して体を捩じ込まないと通れない通路を作り、石で目隠しした。

 ダンジョンの入り口は石や草で隠して極力見つからないようにしてっと

 

 ダンジョンポイント節約っとね。

 

 見つけられる大きさしか出来ないタイプとかあるしな。

 この世界は運がいい。

 

 2週間くらいかけて、ダンジョンの外で生捕にしたウサギやシカやゴブリンやオークやオーガなんかを、ダンジョンの入り口に頭を突っ込ませては殺害するを繰り返してダンジョンポイントを貯めた。

 

 なんかダンジョンの精霊? みたいな人がぶつくさ言ってるけど、ようはダンジョン内でなんか殺してダンジョンコアに養分あげればいいんだろ。

 

 

 ダンジョンマスターがせかせか働いてやってんだ。文句言うな。

 

 

 いい感じのポイントが貯まった所で入り口を拡張。

 ダンジョンを拡張。

 中ボス部屋を作った。

 中ボスはホブゴブリン君だ。

 

 

 ダンジョンコアの部屋? 入り口の真上にあるよ。

 トリックアートっぽく、入り口側からは見えないけど、内側から見ると天井の岩の一部に横穴があるけど、その横穴もすぐに行き止まりが見えるので、体を捻り込まないとダンジョンコアにたどり着けないようになってるよ。

 

 だれがわざわざそんなとこまで見るかよ。

 

 

 俺の外出が面倒なだけで、見つからないにこしたことはない。

 

 

 で、ダンジョンが相手するのは人間だ。

 俺の敵は人間だ。

 

 

 そこで、ダンジョンポイントを使って出歩ける距離を現在のポイントでできる最大まで強化。

 

 コツコツ貯めたダンジョンポイントは人間との取引に使うんだよ。

 

 ダンジョンで暇を持て余している間は、その辺の薬草から、別の世界の知識で手に入れたポーションを作り。

 

 それらを売り捌いて金を作り、闇の奴隷市で、処分品の奴隷を購入。

 

 口減らしで売られた老人、手足の欠損した男。

 生きてさえいれば、死にかけだろうと二束三文で買って、馬車で連れ帰って、このダンジョンで生き残れたら奴隷から解放してやる、といってホブコブリン君に挑ませる。

 

 鬼畜の所業だ。

 

 

 おかげでダンジョンポイントもサクサクだ。

 

 

 さすがに手足を生やせるほどの薬は作れんからな。

 老い先短かったのを俺の我儘で消費させてしまったのをお悔やみ申し上げる。

 

 そうやってポイントを貯めたところで一ヶ月。

 そろそろ元の世界に帰りたい。

 

 あ、いや元の肉体も異世界転移中だった。

 忘れる所だった。危ない危ない。

 

 同じような作業を繰り返して

 ダンジョンポイントを自力で稼ぐと、冒険者がウチのダンジョンを見つけた。

 

 ふむ。あまりは沢山あるからな。

 

 

 ダンジョンを拡張して、ボス部屋っぽい中ボス部屋にガーゴイルを配置。

 

 ダンジョンとしてようやく始動する。

 

 拡張は続けるよ。

 

 

 

 最奥まで行ったのにダンジョンコアがない。

 なんだか不思議なダンジョンとして、有名になったおかげか、人が増えた。

 予想外だが、まあそういうこともある。

 

 とはいえ、コツコツとダンジョンポイントを貯めたのに、最奥まで行かれちゃ世話ないよ。俺にはダンジョンマスターとしての才能はなかったようだ。

 

 1年も代わり映えのないダンジョン生成をしていたからか、唐突に意識を失った。

 

 おそらく、ダンジョンマスターとして1年耐えることが今回の夢幻牢獄の脱出に必要な条件だったのかもしれない。

 

 ふぅ、ダンジョンコアが入り口の真上だとは思うまい。

 なんだかんだで出入り口付近に人がいるといつもヒヤヒヤしてたからな。

 

 なんとか耐えたぞ。

 

 

脱出タイプA 主人公の生存 コンプリート。

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました。

目を覚ましたが目を開けない。心地の良い微睡の世界だ。

目覚ましがなるまではこの微睡にまかせよう。

 

 

………………

………

 

 

 

「樹っち、起きぐへぇ!!」

 

 

 声をかけられて高速チョップ。

 音源にヒットした。

 

「なんだ、佐之助か」

 

 周りを見渡すと、自分の部屋ではなく、異世界の部屋だと分かる。

 

 スマホのメモ機能を確認して、現在、俺は自分が異世界にいることを思い出す。

 

 寝る前に、直前の行動を書いておかないと忘れっぽくなるからな。

 

 夢は起きるとあやふやになっていき、昨日まで何をしていたのか、ぼんやりと思い出してくる。

 

「いってえな。樹、いつもそうやって起きるのか?」

「わりとこうだぞ。目覚ましがなった瞬間に高速チョップだ。」

「じゃあ声かけた俺っちがわりぃな。とはいえ、痛いっぜぃ」

「すまん」

 

 

 佐之助に起こされて、周りを見渡すと、まだ暗い。

 夜明け前か。

 

「それで、どうしたんだ佐之助。」

探索(トイレ)に行こうっぜぃ」

「おっと、俺には本音が透けて見えるぞ。いいよ、付き合ってやる。」

「さすが、樹っちは話がわかるっぜぃ!」

 

 佐之助に促されて、一緒に探索(トイレ)に行くことにした。

 

 女子部屋にも行ってみたいなぁ。

 

 俺と佐之助はぴょんこぴょんこと音を立てないようにスキップしながら、部屋を出るのだ!!

 修学旅行の醍醐味は女子部屋への潜入と相場が決まっているのだ!

 

 レッツゴー!

 




次回予告
【夢幻牢獄】

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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第8話 由依ー夢幻牢獄

 

 

 シノちゃん、タナカちゃん、タエコちゃんと同室の私は、夜中に語り合う。

 

「いやあー、あの謁見の間で宣誓した光彦くん、かっこよかったなぁ〜。おじさん惚れ惚れしちゃうよ」

「なんじゃ。しのはあんなのを慕っておるのか?」

 

思考がおっさんの割に、しのちゃんはミーハーで光彦くんの事を好いている。

まあ、顔はいいしスポーツはできるし、光彦くんは見る分には優良物件なんだろうね。

 

タエコちゃんは王様や王女に対してイエスマンだった光彦のことを一切合切信用していなかったからね。

タエコちゃんにとっては光彦くんの評価は地に落ちているっぽい。

 

「たしかににゃー。田中も光彦にゃんは格好よかったとおもうにゃん。でもあのときはギャグにしか見えなかったにゃ」

「わかる〜。私もなろうで何度もみたような光景がそこにあったら、笑うしかないってね」

「ほう、光彦が演説をしておったあれも、天ぷらというやつかのう」

 

 

むしろ天丼だよ。

 

 

「そうそう。だいたい、物語でもああいうのってリーダーシップのある人が率先してみんなを賛同させちゃうんだよね。」

「しかも日本人は場の空気を読む能力に長けているから、長いものに巻かれて流されちゃうにゃ。集団圧力にゃ」

「まあ、勇者なんて祭り上げられたら悪い気はしないけどね」

 

 

なんてシノが言うけど、テンプレ経験者の私としては………もう慣れたというか、一番大事なことは

 

「祭り上げられるだけの功績を残さないと、ただの金食い虫になるから、それだけは気をつけないといけないぞ」

 

「うえ、まあ、そうだよね………。自分の能力のこと、ちゃんと知っとかないといけないね」

 

 

勇者には責任が伴う。

私も夢の世界で聖女をしていたときに、何度もその責任に押し潰されそうになった。

 

瘴気の発見が遅れて到着まで時間がかかり、救えなかった命も沢山ある。

 

その度に苦しくなって、苦しくなって、やがて何も感じなくなるの。

 

冷たくなる心に火を入れてくれるのは、いつもタツルの役目。

朝の日常で笑い話にしてくれる。

 

世界は残酷だから。

ゲームのようだと、所詮は夢の世界の出来事だと、思えないのだから。

 

ましてや今は現実。私が夢の世界でみんなを救ってきたように、この世界もハッピーエンドを目指してみせる。

 

「妙ちゃん、由依ちゃん、田中ちゃんも、自分の能力はなんだと思う? あ、妙子ちゃんはステータスプレート? っての持ってるんだっけ。」

 

なんてシノちゃんが聞いてくる。

 

「しのにゃん。『ステータスオープン』にゃ。それで自分の能力はわかるにゃん」

 

「うえ!? す、ステータスオープン………あ」

 

 

タナカちゃんに促されて唱えると、シノちゃんは目を丸くした

 

 

「ど、どうしたのこれ、みんな、知ってたの?」

「私は知ってたよ。」

「ワシはこの二人に教えてもらったぞい」

 

「アビリティの名前はなんにゃ? ちなみに田中は転身願望(メタモルトリップ)にゃん。ちょっと試したけど、たぶん最強の能力にゃん」

 

タナカちゃん、そのよくわからない能力をちゃっかり試していたのか。

なろうを知ってるタナカちゃんが最強とか言うのだから、そのよくわからない能力は利便性の高い能力なんだろうね。

ちょっと試しただけで応用の仕方までわかるんだから、このハイスペックオタクの底が知れない。

 

「もしかして、夕食の時にメイドさんの格好をしてたのって能力が関係するの? あまりにも自然だったから、タナカちゃんに気づくのが遅れちゃったから………。」

 

 そう、タナカちゃんは夕食の時にずっとメイドさんの格好をして、ホワイトブリムだけは猫耳カチューシャのまま給仕を行っていた。

 まるで熟練の侍女のように夕食会場のセッティングを行い、給仕を行い、皿洗いや片付けまで行っていた。

 

「そうにゃ。田中の転身願望(メタモルトリップ)は、メイドさんの格好(コスプレ)をしたら、メイドさんの技能をまるまる使える様になるにゃ。本来の田中は部屋のお片付けもできない干物女にゃん! いっつもお母さんに怒られるにゃん!」

 

 むふーっ、と腰に手を当てて胸を張るタナカちゃん。

 胸を張る様なことかよー。

 

「そ、それって凄いのかな?」

 

 

 と、シノちゃんが首を捻る。

 しかしそれが最強だと言い張るタナカちゃん。

 ちょっとその能力についての応用を考えて………確かに、最強だ。

 

 しかも、タナカちゃんはハイスペックオタクなので、自分でコスプレ衣装を作ることもできる。

 

「田中が魔法少女のコスプレしたら、どうなると思うかにゃ?」

 

 魔法少女の能力をまるまる使うことができるってこと?

 まじで最強だ。もはやレベルもステータスも一切関係がない。

 コスプレをしたらそれになれる。やばすぎる。

 

 

 タナカちゃんがそんなやべー能力を持っているとは思わなかった。

 

「にゃははーっ! というわけで、田中は文学少女の美緒にゃんと物づくりが得意のさくらにゃんと共に魔王のコスプレでも作成するにゃん!」

 

 拳を天井に突き出して ><(こんな目)で宣言するタナカちゃん。

 やりたい放題するつもりらしい。なんというか、味方でよかった。心強すぎる。

 さっそく能力の検証を行い、自分のものとして扱うタナカちゃんには脱帽だよ。

 

「が、頑張ってね………………。おじさんのアビリティは、魔道士、ウィッチみたいです。魔道の勇者?スキルはとくに無いかな。魔法の適性はなんかいっぱいあるっぽい」

 

「魔法を使うのに優れたアビリティってことかよー。いいなー。」

 

 と素直にシノちゃんを羨ましがると

 

「由依ちゃんは?」

 

 とシノちゃんからお返しを受けた。

 

「私の能力は夢幻牢獄《ドリームゲート》。たぶん寝てる時じゃないと意味ない能力だから。戦闘能力とかは特にないと思う」

「牢獄ってついているのにかにゃ?」

 

 素直に答えれば、タナカちゃんも私の能力を知りたがっていた。

 クラスメイトとはいえ、うかつに能力を喋るのは現状だとよした方がいいのかもしれない。

 でも、それを知っていて率先して話したタナカちゃんにも報いたい。

 

「うん。牢獄に囚われているのは私の方。私とタツルは、眠ると夢の中で物語の中みたいな世界に飛んでっちゃうことがよくあるの。これはたぶん、そういう能力。」

 

「ふーん。そういえば夢で冒険とか言ってたにゃ。それもあって、転移の瞬間に即座に行動ができたってことにゃん?」

 

 下唇に指を当てて首を捻るタナカちゃん。

 このハイスペックオタクの理解力なんなの。怖い。

 

「そういうことだね。なんか肌をビリビリ刺すような嫌な感じがしたから、教室から逃げようとしたんだ。夢の中とはいえ、そういう不思議なことには慣れてたからね。」

 

「ほへー、だから樹と由依ちゃんは落ち着いていたんだね。妙ちゃんは?」

 

と、聞かれたタエコちゃんは、腰からぶら下げている瓢箪から、何かを一口含む。

米とアルコールの匂い。日本酒?

 

この腹黒タヌキ、中学生のくせに酒飲んでやがる!

 

「ワシは情報を開示するのには賛成しかねるのじゃが………田中と由依には借りがあるからのう。ワシだけ教えないのも義に反する。ワシの異能は解析(アナライズ)。まあ、相手の能力を見たり、品物の詳細を確認できる能力のようじゃ。ワシらしいといえば、ワシらしいとも言えるじゃろう。」

 

「たしかに、情報屋らしい能力にゃん。」

 

 

しかし、式神っぽい紙の人型はどう説明するのか。

あたまの葉っぱはなんだ。

言いたいことはあるが、流石に言いたくないことなんだろう。

まあ、予想はつくが。もう大抵のことでは驚かない自信がある。

 

タナカちゃんも私も、あえて言及はしなかった。

 

「そう言うわけで、ワシにはこのカードは今のところ必要性を感じぬのでな。由依にやろう」

 

そして、タエコちゃんは、使い道のないステータスプレートは私にくれた。

 

「わお、じゃあもらっとこうかな。針とか持ってる人いる?」

「ソーイングセットはオタクの嗜みにゃ! それを進呈しますにゃ。」

「オタクが針を常備してるとか初耳だけどありがと。タエコちゃん、指輪借りるね」

「うむ。」

 

現状だと、指輪がないとこの世界の言語がわからない。

ひとまず優先的に用意してもらった指輪は現在、妙子ちゃんと先生と光彦くんがしているよ。

 

赤子から始まる夢を見たこともあるから、言語の学び方はわかるが、流石に時間がかかるからね。

日常会話を理解するために1週間は時間が欲しい。

まあ、時間はおいおい作るとしよう。

 

タナカちゃんから借りた針でブスッと小指をやる。

 

「いったーい!」

 

 

出てきた血をプレートに付着させるとステータスオープンで出てきたものと同じものが表示された。

 

「………代わり映えないね。スキルがあるわけでもない。」

 

そう思うと、謎のアビリティだけが存在する私は、夢を見るだけの能力?

実質無能力じゃない? 

 

まさか、私も主人公だった!?

 

いや、私とタツルは誰よりも魔法の使い方を熟知しているじゃないか。ないない。

 

 

「これ、身分証って言ってたね、お姫様。」

 

とシノちゃん。

 

「だったら、名前だけ見える様にしとけばいっか。」

 

プレートをいじって名前だけ表示できるようにした。

住所とかは、後で市役所とかで書き込めるのかな?

 

 

「さて、と。ワシは夜風に当たってくる。皆は先に休んでおって構わんぞ」

 

みんなの能力談義も終わったと判断したのか、タエコちゃんはお酒の入った瓢箪を肩にかけて立ち上がる。

 

なんでこの子飲酒してるのよ。ってかそれ、持ち込めたってことは肌身離さず酒持ち歩いてたってこと?

 

中学生のやることかよ!

 

「月見酒?」

「まあ、そんなところじゃ。」

 

もはや否定すらしない。

 

まあ、こういう強キャラは好きに行動させておくのが一番だよね。

自由に動かしてた方が情報も集まるだろうし、ほっとこ。

 

明日から訓練らしいし、寝よ寝よ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぺけぽこぽんぽん♪ ぺけぽこぽんぽん♪

 

ガシッ!

 

 

「は?」

 

 

目が覚めた。

 

 

 

目が覚めたら、ベッドの上だった。

ベッドは、見慣れた私の部屋のもの。

 

 

「なんで?」

 

 

なんでが過ぎる。今まで、異世界に居たでしょ、私。

 

 

もしかして、今回の夢は逆行?

 

 

今日の日付は………?

 

「1日、経ってる」

 

 

スマホを確認してみれば、私たちがクラス転移してから、1日が経過していた。

 

 

「ご飯よー」

というお母さんの声を振り切り、私は寝巻きのまま家を飛び出した。

 

何故か、とても嫌な予感がした。

 

「タツル! タツル!!!」

 

 

ドン、ドンッ!と隣の家をノックする。

 

 

「なあに? あら、由依ちゃんじゃない! いらっしゃい」

 

「あ、おばさん。おはようございます。あの、タツルは………?」

 

「タツル? タツルって、なんだったかしら………」

 

ひゅっと息を呑んだ。

 

「失礼します!」

 

靴を脱いで上がり込む。ドカドカと足音を響かせて階段を上がって扉を開けば

 

がちゃ!!

 

「タツルの、部屋だ。」

 

見覚えのあるタツルの部屋。

だが、誰もいない。そのベッドで寝ているはずの、タツルの姿がない。

音がなったら高速チョップするはずの目覚ましが、止まることなくピピッピピッと優しく鳴り響いている。

 

 

「ちょっと、由依ちゃん! お隣さんだからってやっていいことと悪いことが………」

 

「おばさん、この部屋は?」

 

 

私を注意しに来たおばさんに部屋を見せる

 

「この部屋は………なんだったかしら」

 

「タツルの部屋だよ!! おばさんの息子の部屋! 私の、大好きな幼馴染の部屋なんだよ!!」

 

「でも、ウチに子供は………あれ、息子が、うぅ……でも、この部屋は………?」

 

タツルの記憶が抜け落ちている

 

常識が書き変わる。

 

「ミーム汚染だ………」

 

 

あの日、クラスメイトが異世界に転移した時に、私たちの存在自体が無かったことにされている?

 

 

「が、学校は、どうなってるんだろう?」

 

 

 

 

ひとまず、制服に着替えて学校に到着すると、

 

「おはよー由依ちゃん。」

「おは、って、シノちゃん!?」

 

 

先ほどまで能力の話をしていた、シノちゃんがいた。

 

なんで!? タツルは居ないのにシノちゃんがいる?

 

これが夢だから?

 

「シノちゃん、昨日は何があったか覚えてる?」

 

昨日の教室で光った魔法陣。それを覚えているはずだ。

 

「おはよー由依ちゃん」

 

「は?」

 

しかし、帰ってきたのは二度目の挨拶。

 

 

「………正気じゃない!」

 

 

気持ち悪くなって、駆け足で教室まで向かうと

 

 

「おはよー由依にゃん」

 

 

タナカちゃんが由依と同じような挨拶を交わしてきた

 

「おはよう、カノンちゃん」

 

「もうすぐ先生が来るにゃ。はやく席に着くにゃ」

 

 

アイデンティティともいえる田中押しをまったくしない。

おかしい。タナカちゃんはカノンって呼んだら間違いなく田中を押してくるはずなのに。

 

その目には、光が無かった。

 

学校を問題なく動くようにできている、人形のようだった

 

 

「ここが夢なら………! 正気に戻って!」

 

私は聖女召喚された際に手に入れた浄化魔法の力を繰り出そうとしたが、まるで魔力がない。

 

「うそ、じゃあこれ、現実!? 夢じゃないの!?」

 

 

夢と現がごっちゃになる。

現実だと言うのに、タツルが居ない?

みんなは居るのにどこか上の空。

 

私だけ、帰ってこれたってこと!?

 

「どうなってるのよ………」

 

 

クラスメイト達がいつものように登校してくるが、目に生気を感じられない。

 

「なんなんだよ、この世界は………!」

 

何が何だかわからない。目の前に映る光景があまりにも気持ち悪くて、私は倒れるように意識を失った

 

「由依にゃん早く席に着いた方がいいにゃ」

 

薄れる意識の中で、タナカちゃんの無機質な声が私の脳を掻き回して。

 

 

 

 

「ようこそ、いらっしゃいました、聖女様」

 

 

目を覚ますと、今度はよくある聖女召喚。

今回は一人、か。

 

「………穢れっぽいのを祓えばいいのね」

 

 

さっきのは、夢? 現実?

わからない。

 

 

私が主人公ならば、持てる力を全て使って解決してみる。

 

 

 

………

……

 

 

1週間後

 

世界の穢れは祓われた。

 

ラスボスが邪神みたいなのだった。さっさと浄化して可愛らしいショタっぽい精霊みたいなのが変質して邪神になったとか。知らん

もう、どうでもいい。

 

騎士団長とか宮廷魔法職員とか王子とか、興味ないんで。

 

元の世界に帰らせてもらいます。

 

 

 

 

 

「っはぁ!!」

 

目を覚ました。

 

 

「はぁ、はぁ。」

 

全力だった。

 

夢の世界から戻るために、全力を使った。

 

眠っているはずなのに、疲労が一切抜けない。

 

「ここは………」

 

 

スヤスヤと寝息を立てるシノちゃんと、私のベッドに侵入して私を抱き枕にしているタナカちゃん。

あの、気持ちの悪い目をした無機質なシノちゃんじゃない。

機械的に返事をするタナカちゃんじゃない。

 

タエコちゃんの姿は見えない。

 

タナカちゃんをゆっくりと剥がして、用意されたベッドから降りる。

 

 

窓から見える景色は、まだ真っ暗だ。

 

日没で寝たからかな。早く起きたらしい。

 

 

朝方だからか、すこし冷える。

暖かいショールを羽織って外に出る。

 

タツルに、会いたい。

 

 

 

 





次回予告
【とりあえず月を二つ用意しておけば異世界っぽいよね】

おたのしみに。

読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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第9話 由依ーとりあえず月を二つ用意しておけば異世界っぽいよね

 

 

速攻で夢を終わらせたからか、起きた時間にしてはまだ暗い。

 

 

「タツル………」

 

あの、気持ちの悪い夢は、ただの夢?

 

クラスメイトが無機質な声で無機質な瞳で見つめてくる。

ホラーだった。

 

今までの夢とは一線を画する。

 

とぼとぼと回廊を歩いていると、パタリ、パタリ、と音が聞こえた

 

 

音源の方に目を向けると、タエコちゃんが窓枠に座り、膝を立ててお月見をしていた。

 

まんまるお月様がふたつ。

どちらも満月だ。

なんでこう、異世界って二つ月があるんだろうね。みっつじゃダメ?

 

 

「タエコちゃん。」

 

「なんじゃ、由依か。良い子は眠る時間じゃぞ。」

 

なんて言いながら優しい目を向ける。

 

「タエコちゃんはいい子じゃないのかよー」

 

なんて、苦笑しながら問うと

 

「ワシはいい子でも、子供でもないからのう」

 

などとしれっと言い放って瓢箪に口をつける。

 

ぱたり、ぱたり、と規則的に窓枠から音が聞こえる。

 

ふと、タエコちゃんの頭に目をやると、いつも頭に乗っけている葉っぱがなかった。

 

そのかわりにそこにあったのは、二つの丸い耳。

ぱたり、ぱたり、と規則的に音を鳴らしているのは、縞模様の尻尾。

 

「耳と尻尾、隠さなくていいの?」

「今更じゃろう?」

 

私の問いに、やはりしれっと返す。

 

「まあ、タエコちゃんみたいな強キャラはそんな秘密があっても驚かないけどね。頭に葉っぱ乗せてる時点で化けてるのは知ってた」

「そうじゃろうな。」

 

 

かかっと笑みを浮かべるタエコちゃん。

どこかその表情は悲しげだった。

 

「のう、由依。ワシは日本に残してきたものがあまりにも多すぎた。元の世界に戻るための情報が欲しい。協力してくれるか?」

「………。もちろん。だから、やけ酒はやめておいた方がいいよ」

 

タエコちゃんは、初めから元の世界に戻るために奔走している。戻れない焦燥感で、どうにかなってしまいそうだった。

 

「………由依も顔色がよろしくない。やけ酒に付き合え。」

 

タエコちゃんは、悪夢を見た私を気遣ってか、お酒の入った瓢箪を私に差し出した。

 

「ふはっ、本当に悪い子だ。普通、顔色よろしくない中学生にお酒勧めるかよー」

 

なんて笑いながら、私は瓢箪を受け取って口をつける。

 

 

「んっ、強いねこれ」

「大吟醸じゃ」

「ふーん、初めて飲む」

 

異世界で何年も過ごしていたら、そりゃあつきあいでお酒くらい飲むよ。

私はこの肉体では呑んだことなかったけど、まあ美味しい。

 

「由依、何があった? 先程の様子から、ただごとではないのはわかる。ワシでよかったら愚痴を聞こう。」

 

私は瓢箪をタエコちゃんに返すと、タエコちゃんは真剣にこちらをみた。

 

「私、夢で異世界を何度も旅したって言ったでしょ?」

「うむ。」

「それで、さっき、また夢を見たんだけど、たぶん………元の世界に戻ったの。1時間程度だけど。」

「なんじゃと?」

 

丸い耳をピクンと動かし、ぱたり、ぱたり、と音を鳴らしていた尻尾の動きも止まる。

 

「召喚されてから、1日経ってた。でも、みんな学校に登校して、普通に学校生活をしてたの! でも、みんなどこか上の空で、人形みたいだった。目に生気がなくって、気持ち悪くて………! どこを探してもタツルがいなくて、タツルのことを誰も覚えてなくて! 私には、あれが単なる夢だとは思えない。今、日本で起きている事実だと思うの! 確証なんてない。所詮は夢だから。でも、何度も夢を見てきた私だからこそ、あれが元の世界で起きている現実だって思えるの!」

 

ポロポロと涙をこぼしながら語る私に、タエコちゃんはそっと背中に手を添えた。

 

「…………つまり、ワシらは肉体をそのままに、精神だけコチラに飛ばされてきた、ということじゃな。」

 

こちらの瞳を覗き込むように私の眼を見るタエコちゃん。

夢で見ただけ、ただそれだけなのに、タエコちゃんは真剣に私の話を聞いてくれた。

 

「な、んで? 疑ったりしないの?」

 

と、コチラが逆に問うと、タエコちゃんは私の頭にポンと手を乗せて

 

「もちろん(うたご)うておる。しかし、情報が増えることは喜ばしいことじゃ。ワシにはそれが事実かの判断はできん。鵜呑みにもできん。じゃがな、判断の材料くらいにはできる。………よく耐えたな、由依。」

 

「うぅ、うぅうううう!!!」

 

タエコちゃんは泣きじゃくる私の頭を抱きかかえ、その胸で心ゆくまで泣かせてくれた。

 

 

タエコちゃんとお話をして、泣き続けていたからか、空が白んできた。

夜明けが近いのかもしれない。

 

 

 

「由依!? それに妙子も!」

 

安心する、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「佐藤が泣いてるっぜぃ。俺っちは何も見てないから、樹っちがどうにかしろい」

「ん? 樹か。ならばワシは邪魔じゃのう。ほれ、由依。樹が来たぞ。」

 

ポンポンと私の背中をさすってくれるタエコちゃん。いつの間にか頭に葉っぱを乗せている。

耳も尻尾もない。

タツル? タツルが居るの?

 

タエコちゃんから離れて振り向けば

 

 

「何泣いてんだよ。怖い夢でも見たのか? ちなみに俺はゾンビパニックだった。俺より怖い夢はそうそうねぇぞ。」

 

おどけてそう言うタツルは、ちゃんといつものタツルだった。

私の知ってる、タツルだった。

 

「ふっ、はは、タツルだ。」

 

思わず笑みが溢れる。

機械的な反応じゃない。

いなくなってもいない。

いつものタツルが、そこにいた。

 

「おう、俺だぞ。どうした?」

 

私はタツルのシャツを掴み、額を彼の胸に押し付ける。

 

「安心した。」

 

泣き顔を見られたくなくて、私は俯いたままそう言った。

 

「おう。よかったな。」

 

タツルも、ただただ優しく、私の頭を撫てくれた。

 

 

双子の月は、優しく、私たちを見守って。

 

 

 

 

さて、時間は飛びまして日も登った頃。

 

私たちは王様から私たち全員の分のステータスプレートと、言語を翻訳する指輪を賜った。

異世界に生きる環境が整ったとも言える。

 

 

私はタツルに昨日見た夢の話をした。

 

「ふぅん。学校に行ったら、クラスメイトみんな人形みたいだった、と。その次は聖女召喚。」

 

「うん、なんで、タツルだけいなかったんだろう」

 

「みんなの精神だけこの世界に来ている。そして俺だけがいない世界。だとしたら答えは出てるじゃんか。」

 

「なに?」

 

「俺は生身の肉体ってことじゃん? 生身で召喚されたのが俺だけで、みんなは精神だけこっちに来ているってこと」

 

「それって、どうなんだろう。」

 

「俺の部屋はそのまま残っているのに、母ちゃんが俺のことを忘れちまっているのなら、俺がいなくなったことの辻褄を合わせようとしているんだろう。他のみんなは精神だけこの世界に来ている。うは、マジか。それって俺が主人公みたいじゃね?」

 

 

 

現在は魔法の訓練中。

 

みんなが魔法を打つために、練習用の杖を持ち、体の中にある魔力を感じようと座禅を組んだり杖から魔法を出そうとして腕を伸ばしていたりする。

 

私とタツルは魔法の使い方についてはみんなよりはネタバレしている感じなので、座禅をしている風を装って、魔力の圧縮をしながら雑談。あ、私とタツルは杖なしでも魔法は使えるよ。余裕余裕。

一応念のため紛れるために杖は装備しているけどね。

 

「でも、昨日は主人公は俊平ちゃんだって………………。というか、誰かが主人公って本当にあるのかー? 主人公の条件なんて、夢を見るだけの私たちだって当てはまるよ?」

 

 

そう、私たちの能力は夢を見るだけの力。

魔法はたしかに使えるけれど、アビリティ自体になにか特殊なことは特に起こっていない。

夢ではないこの世界では夢の力など意味をなしていないのよ。

 

昨日、私たちは光彦くんの宣誓に同調していない。

意味のない異能。

これは主人公としてもありうる資質でもあるの。

 

当事者になりたくないからあまり言葉には出さないでいたけどさ。

 

「だとしても、やることは変わらねえよ。妙子が言っていたのもそうだが、由依の夢ってだけじゃ確証がない。」

 

「それは、そうだけど」

 

「逆に考えよう。俺だけ生身で、他のみんなが精神だけここに来ているとしよう。なんかみんなの能力をうまいことわーってやったら、みんなの精神だけ元の世界に送ることってできたりしないのかな? この際俺は後回しで」

 

「うーん? なにいってるの?」

 

 タツルの言いたいことが全然理解できなくて首を捻る。

 言ってることはわかるんだけど、言いたいことがわからない。

 

 

「なんか適当なこと言ってるんだよ。こういうのは、ちゃんと時が進めばなんとかなるもんだって。」

 

「ふはっ、タツルは楽観視してるんだね」

 

「もちろん。これまでだってなんとかしてきたんだ。どうにかなるだろ」

 

 

タツルは両手を前に突き出して、風を操る。タツルの魔法の適性は火と風だ。

杖は……………ベルトに挟んでやがった。まあ、細かく動かすためにはむしろ杖はじゃまだしね。

 

 

「とはいえ、今回は脱出タイプDのシナリオの破綻が使えない。破綻できるだけの能力がないのもそうだが、自身に起きているシナリオだから、破綻のしようがない。俊平が主人公だと仮定した場合のハッピーエンドを目指しつつ、この世界から元の世界に帰れるように画策しないといけないな」

 

「うん」

 

「そのためにも、能力の検証が必要になる。」

 

「検証っていったって、寝るだけだよ? どうやって検証するの?」

 

 私は圧縮した属性が乗る前の魔力を身体中にめぐらせて、活性化。身体強化だ。

 この辺は別の異世界での知識を元にある程度の応用が効く。

 

「もちろん、寝る。行ったことのある世界に行けるか、とか。狙った世界に行けるか、とか。夢を見ないことはできるのか、とか。いろいろな。俺と由依の能力の名前が違うんだ。夢幻牢獄と夢現回廊。系統は同じでも違う能力なんだろう。」

 

「………それはあるかも。」

 

「それに、妙子が陰陽ムーブをしているのに、アビリティは解析ときた。本当に元の世界の能力なのかもわからんし、ステータスにそれが反映されているのかも不明だ。」

 

「………たしかに」

 

「夢の世界の能力をこっちでも引き継げれば、万々歳なんだけどな。ステータスオープン」

 

 たしかに。夢の世界の私たちは数え切れないほどの能力を持っているはずなんだ。

 星を降らせたり、未来を読んだり、天候を変えたり、腕を生やしたり、穢れを祓ったり。

 その能力を引き継ぐことさえできれば………。

 

「一晩経ってもとくにステータスに影響は………。なんかレベルがあがってんな」

「え!? どういうこと!?」

 

「昨日の夢、ゾンビパニックとダンジョンマスターだったんだが、ゾンビはめっちゃ倒した。魔物や人も殺してダンジョンに吸わせた。そのせいか?」

 

「ステータスオープン」

 

 私もステータスを開いてみる。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 個体名:佐藤由依 Lv.45

  種族:異世界人

  能力(アビリティ):【夢幻牢獄(ドリームゲート)】【聖女(ホーリーセイント)

 魔法適性:水・土・聖

 スキル:<癒しの光><破邪の矢><極光>

  称号:夢幻の勇者

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

………。本気出して1週間で世界救ったから、めっちゃステータス伸びてた。

 

 

「私もあの後の聖女召喚で、1週間で世界救ったから、その分だけ伸びてるっぽい………? しかもアビリティと魔法適性、スキルも増えてる。【聖女】だって。」

 

「なんだそりゃ。勝ったな。風呂行ってくるわ」

 

 いや、まぁ、気持ちはわかる。

 いっきに力が抜けてしまった。

 つまりは、私の夢幻牢獄は、この世界で夢を見ると、その技能をいただけるみたい。

 タナカちゃんとどっこいくらいぶっ壊れている能力ってことだね

 

「タツルも同じでしょうが。アビリティにダンジョンマスターとかは追加されてないの?」

 

「ないな。その辺が俺と由依の違いなんだろうか。それとも、ステータスに現れてないだけで、ダンジョンをいじれるのか………?ダンジョンコアがないから無理なのか?」

 

「要検証だね」

 

「由依、ステータスプレートは?」

 

「あー、昨日登録してたけど………。おっと、昨日のままだ。聖女のアビリティがない。」

 

 ポッケにないないしている私のステータスカードは、昨日血を垂らしたまま。最新の状態にはなっていない。

 

「ってーことは、ステータスプレートは血をたらすことで、情報を更新する。ステータスプレートなんて国が管理しているんだ。もう、うかつに血をたらすことはできないぞ」

 

「………そうだね。このままじゃ私が主人公になっちゃうし。クラスメイトが死んでも寝覚が悪いからいざとなったら聖女のスキルを使うのも辞さないわ。いや、聖女には慣れているし、私が聖女として世界を救えば………あーでも、相手が穢れとかじゃなくて戦争か。聖女のアビリティも役に立たないな。回復役くらいにはなれるだろうけど。」

 

「そうだな………。あと、レベルアップしたことで夢幻牢獄の能力にも変化があるかもしれない。注意しておいた方がいいかもな」

 

 

 と、締め括ったタツル。

 

 ………………ちょっと気になっていたんだけどさ。

 なんかいま、タツルの周囲の空気がすごく熱いんだけど。

 

「ねえ。ところでタツル。その魔法、何やってるの? 陽炎(カゲロウ)が揺らめいているんだけど?」

 

「理科の実験」

 

魔法の練習中だよ? しかも、魔力を感じるための。

シノちゃんは魔法を使う才能があったみたいだから水の魔法とか火の魔法とかバンバンだしているけどさ。

 

「マジでこの辺、空気がめっちゃ熱いよ? 大丈夫? 火の魔法使ってるの?」

 

「いや、使ってるのは風の魔法だけ」

 

「風の魔法だけで、そんなに熱くなる? 何が起こってるの?」

 

「俺の適性、風の魔法なんて言うからさ、今、めっちゃ窒素(N)だけを集めて圧縮、というか気を抜いたらみんな吹っ飛ぶレベルで凝縮しまくってるんだけど」

「まってそれ、何やってんのほんと」

 

 タツルは頬に汗を垂らしながら、真剣に虚空を見つめていた。

 うわ、こいつ魔法で遊んでる!!

 こっちが真剣に相談しているってのに、なにしてんだよ。

 

「魔法で科学をするって、なんか楽しいんだよな」

 

「魔法で科学ってなにそれ!」

 

「魔法という不可思議な現象に法則を見つけて名前をつける。それが科学。魔法を科学することってできるんだぞ。」

 

「なんか言い始めたんだけど………」

 

「あ、由依、この辺の空気冷やしたいから冷水で空気だけ冷やせるか? 水蒸気が入ると台無しになるんだけど」

「そんな難しそうなこと頼まないで欲しいな………」

 

 

 とりあえず、氷の柱を4本ほど立ててみた。

 今の私のレベルじゃあ余裕だったけど、これ、目立つよね?

 

「わあ! ユイさん、氷の柱が出せるなんてすごいです!!」

 

 授業の教師であるお姫様のミシェルが目をきらめかせてこちらを向いた。

 

 ああ、やっぱり。

 

「さすが勇者様ですね!!」

 

でも、勇者補正のメガネの曇りようで、なんとかなっているみたい?

 

「うにゃー、由依にゃんすごいにゃ。田中も妄想力で負けてらんないにゃ!! お姫さま! 田中に魔道士のローブを貸して欲しいにゃ!」

 

「ふふっ、形から入るのですね、カノンさん」

「田中にゃ!」

「た、タナカさん?」

「そうにゃ。田中は田中であるがゆえに田中なのにゃ」

「ええ〜………?」

 

 ミシェルが戸惑いながらも用意した魔道士のローブを手渡され、タナカちゃんが羽織った瞬間。

 

「来た来た! 魔力の使い方が手に取るようにわかるにゃん! 氷と風の合成魔法! <氷結豪風(ダイヤモンドブリザード)>にゃん!」

 

 魔道士コスのおかげか、転身願望(メタモルトリップ)の効果で魔道士の能力を扱うことができる。

 マジでタナカちゃんの能力は意味不明に強い。

 

 雪符「ダイヤモンドブリザード」かな? なんだか(ばか)そうな名前。 タナカちゃんが魔道士じゃなくて氷の氷精のコスプレしたら本当にできちゃうのか! すごく気になるところだ。

 

 そんで、そのおかげか、私が氷柱を出したのなんかどうでもいいくらいにすごい魔法だった。。

 

「うごご………窒素が飛ばされる………………不純物が………いや、このさい不純物はあとで取り除こう。温度を下げるのが先決か」

 

こっちはこっちで何やってんの。

集めた窒素が飛ばないようにめちゃくちゃ踏ん張っているみたいだけど、空気は目に見えないから滑稽でしかない。

 

「ふにゃあ………疲れたにゃ………」

 

「す、すごいですタナカさん! まさか合成魔法まで会得するなんて!」

 

 

 タナカちゃんは燃料切れでダウンしている。魔法の技術に伴う魔力の容量がまだ追いついていないみたいだね

 ヘトヘトになったタナカちゃんを介抱してあげるお姫様がかわいそうだ。

 

「しかし、おかげで温度は下がった。試してみるか。」

 

「で、結局、タツルは何をやっていたのよ。」

 

 私がタツルにそう切り出すと

 

「うーんと、舌と上顎の間に空気をためて、ぎゅっとすると少しだけ熱くなった気がしないか?」

 

 そんなことを言いやがった。

 

「え? ………うーん。するかも?」

 

「空気を伸ばすと、逆にすこし冷たくなった気がしないか?」

 

「え、どうなんだろう?」

 

「まあ、空気を圧縮すると熱くなって、膨張させると冷えるんだよ。その性質を使って………」

 

 

 タツルはどこからくすねてきたのか、ポーションを入れる瓶を取り出した。

 革手袋をはめ、そして−−−

 

 ぶしゅううううう!!! と、派手な音と白煙が舞う

 

 なんだ、何事だとタツルに注目するクラスメイトたち。

 

 ぽた、ぽたたたっ とポーション瓶の中に液体が入り始めた。

 

「ふはは! 風魔法だけの冷凍サイクルで水を………というか液体窒素を錬成してやったぞこら!!!」

 

 

 

「「「 なにしてんのーーー!!!?? 」」」

 

 

 タツルの常識外れの宣言に、クラスメイトの理系たちが思いっきり吹き出していた。

 

 

 

 

 

 

 





次回予告
【知識チートドヤではお馴染みに出来ないハーバーボッシュ法】

お楽しみに。

二つ名
【テンプレ勇者】   虹色光彦
【テンプレマスター】 佐藤由依
【理系の人】     鈴木樹


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第10話 樹ー知識チートドヤではお馴染みに出来ないハーバーボッシュ法

 

 

「た、タツルぅう!! 魔法の世界でなに化学(ばけがく)やってるんだよ!!」

 

 由依が思わずといった感じで俺に詰め寄る。

 

「おっと、少量とはいえ液体窒素だ。危ないぞ。」

 

 

 俺が風の魔法で作り出した液体窒素を由依の手の触れないところに手を伸ばす。

 

「わかるよ、摂氏−196℃でしょ! わざわざ魔法で作り出しちゃうなんて、どうかしている! あ、土魔法で土台つくったから、置いといて。危ないから」

 

「ありがと。いやー、できそうだと思ったからな。でもほら、風の魔法だけでここまで応用ができるんだ。みんなも、やろうと思えばかなりの無茶ができるはずだぞ」

 

「田中も、あとで科学者用の白衣を用意してもらうにゃん………樹にゃんにはあとで理科の授業をして欲しいにゃん」

 

 魔力切れでへたり込んでいるタナカちゃんも、科学力は力になることを一瞬で把握して、知識だけでも得るために白衣を準備するのだろう。

 

「とはいえ、全力で窒素に圧力かけてたから、めっちゃんこ疲れた………」

 

 どかっと、座り込んでポーション瓶を見つめる。

 あー、もうほとんど気化してる。

 外気とポーション瓶の温度に耐えられなくて沸騰しているんだ。

 

「そういえばね! そういえばね! 液体窒素をね! 真空に放り込んでね! 沸騰させればね! 固体窒素! 固体窒素ができるんだよ!!」

 

 

 理系女子というか、物づくりが大好きな安達さくらがふんすふんすと鼻息を荒くしてこちらに近寄ってきた

 黄色い安全第一と描かれたヘルメットに、ゴーグル。ポケットにはスパナやドライバーを忍ばせている。

 安達さくらという物づくりが生きがいの生き物。

 

 

「それ、僕も聞いたことがありますね。たしか、真空状態にすることで沸点が下がり、沸騰させることによって気化熱でさらに熱が奪われて固体窒素になると。」

 

 

 インテリメガネの硝子烏(しょうじからす)も、メガネをクイクイさせながら寄ってきた。

 

「俺も俺も! 俺も聞いたことある!」

 

 便乗系男子の坂之下鉄太も便乗して名乗り出してきた。お前は本当か?

 

「俺は誰だ!?」

 

 おまえは………お前は誰だ?

 しかし、理系の人間がこんなにも。いち理系男子として、語りあいたいものだ。

 

「まあ、固体にしたって使い道ないけどな。さくら、液体窒素を保存できる魔法瓶ってつくれるか?」

 

「液体窒素はね! 密閉で保存したらね! 爆発するんだよね! 詳しい作り方は知らないから試行錯誤するけど! 任せて欲しいかな!!!」

 

「テンションたっけえなおい」

 

「んふー! ここにきてからというもの、インスピレーションがね! ビンビンなんだよね!!」

 

 下から覗き込むように、さくらは蹲み込んで俺の目を見る。

 俊平ほどじゃないが、小柄な彼女が両手をぐっと握る姿は、なんというか、可愛らしいな。ほっこりだ。

 

「あとは、この冷凍サイクルを機械化、もしくは魔道具化できれば、液体窒素の量産ができる。そうなれば………」

「まあ、保存技術の拡大だな。」

「うむ。扱いには最新の注意が必要ではあるがな。すごいな、樹くん。」

「烏の見識の広さもあっぱれだぞ」

 

 俺は理科しかできないからな。

 

「俺も俺も!」

 

「そうか。ところで鉄太。ハーバーボッシュ法って知ってるか?」

 

「え?」

 

「じゃあいいや。」

 

 テレビかなんかで見たことを自慢したかっただけらしい。鉄太は理系じゃなさそうだ。

 

 ハーバーボッシュ法でぴくりと反応してこちらを向いたのは、園芸好きの裏番長、花咲萌だけだった。

 意外だけど、さすがだな。理系だったのか。

 え? ハーバーボッシュ法を知らない? この世から飢えを根絶させるような技術だぞ。wikiっといて。

 

「あの、みなさん、すごくはしゃいでますが、そのお水? 煙が出てますけれど、そんなにすごいものなんですか?」

 

 お姫様がこちらにやってきて、ポーション瓶を見て首を傾げている。

 

「ああ、これ? 液体窒素っつって、空気中に約70%から80%ほど存在する窒素っていう空気の元を液体にしたやつなんだ。これが液体になると、まあもうべらぼうに冷たい。うかつに触ったら凍って指が持ってかれるから、気をつけてくださいね」

 

地球では窒素の割合は78%だけど、異世界に来て酸素濃度が変わったら呼吸どうなんのとかそういう疑問は無粋だよな。

きっとその辺は割合同じくらいになってるのがお約束だ。

 

「そ、そんなものが………」

 

「すごいでしょ。俺は「なにかやっちゃいました?」とかは言いませんよ。こころゆくまでドヤします」

 

「そういやタツルって、理科の模試だけ県一位とかとってたっけ………。理科一点突破で他の科目が壊滅的みたいだけど。………その得意な分野でイキるのは許してやろう。」

 

なんかしらんが由依に許された。

 

 

「ところで、樹くん。ハーバーボッシュ法と言っていたが………やるのかい?」

 

 烏がメガネをクイっとやりながら聞いてきた。

 メガネずれてないよ。安心しろ。

 ほら動かすな。

 

「いや、さすがの俺も原理や設備や作り方まではわかんない。なんか四酸化三鉄を触媒に使うことで解決したらしいけど、そこまで詳しくはやり方なんて覚えてない。所詮は中学生の知識だ。それに、戦争が長引く原因にもなるからな。下手に技術を広めると破滅するってだれかが言ってた」

 

 

ここがなろうの知識チートドヤの世界なら、確実にハーバーボッシュ法は採用されていただろう。

でもな、俺にはそんな技術は、ない!!

 

「ふむ。たしかに空気からパンを作る方法。空気から火薬を作る方法とまで言われているからね。地球でも飢えを減らすのに大貢献したけど、人を殺す技術としても優れていたから、広めないが吉だろう」

 

 また烏がクイクイとメガネをやる。

 だからずれてないって。

 

「そのメガネ、おしゃれだね」

「ありがとう。」

 

クイクイクイ。と弄りながらどこかに歩き去る烏。

チップを渡さないと部屋から出ない外国のホテルマンかな?

よくわからないけど、メガネを褒めて欲しかったのかもしれない。

 

「タツルさま。タツルさまの魔法の適性は火と風だと伺っております。風魔法のように、火魔法も変わった使い方とかありますか?」

 

 お姫様が俺にそんなことを聞いてきた。

 なんで光彦じゃなくて俺に聞くんですか? さっき面白いことをしてたから? ごもっとも。

 

「あー………お姫様。火って、何色ですか?」

「火ですか? オレンジとか、赤とかですわ。」

 

 おけ、じゃあ炎色反応見せればいいのね。

 

「おーい、誰か銅貨とか持ってるかー?」

 

 

 

………………

………

 

 

 

さて、魔法で遊ぶのもこれくらいにして、と。

 

 

あ、ちなみに銅貨を燃やしても緑色に反応しなかった。なんでだろう。何か足りなかったんだろうか。

あれ、塩化銅じゃないと緑にならないんだっけ?

銅貨を粉状にした方がよかったのかもしれないけど、さすがにお金を粉々にするわけにはいかないしな。

 

ひとまず塩を燃やして黄色にして驚かしといた。

 

「では、魔法はここまでに致しましょう! 次に皆様のアビリティについてですね。皆さま、ステータスプレートの登録はしましたか?」

 

 

「はーい。」

 

 

と、モブムーブの俺。 クラスメイトたちも続いて返事を行う。

 

「アビリティとは、そのアビリティがそのまま効果を表すものもあれば、スキルとしてその効果が現れるものもあります。」

 

ほむ。田中の転身願望(メタモルトリップ)や俺と由依の夢幻牢獄(ドリームゲート)夢現回廊(ドリームコリダー)はまさに前者だな。

多分、マジシャン消吾の次元収納(アイテムボックス)もそう。

 

 

そんで、光彦の聖剣使い(ソードマスター)なんかはスキルとして聖剣を出現させ、スキルとしてなんか斬撃とか使う。みたいな。

 

そのアビリティが無ければ、聖剣を召喚できないし、いろいろあんのね。

 

おっさんの水城しのの魔道士(ウィッチ)なんかはスキルではないが、アビリティ自体が魔法を強化して、魔法の属性をたくさん扱えるようにしてくれているのか。

 

 

「もちろん、訓練次第で覚えられるスキルもあります。頑張って訓練しましょうね」

 

 

と、お姫様がおっしゃった。

 

能力(アビリティ)を意識してしまえば、どのような効果があるのか。どのような使い方なのか。おのずとわかってきます。アビリティは焦らずに育てて下さいね」

 

訓練してたら、アビリティ専用のスキルとかが生えてくるってことかな。

 

俺も夢現回廊に意識を集中してみたが、ひとまずは寝ることしかわからん。

あとは夢を見て、どうにかなるかんじ。

 

詳しくは自分で検証を続けないといけないな。

 

この世界で見た夢の経験、レベルなんかは引き継げることはわかったが、これだけでは田中のアビリティに完全に負けている。下位互換だ。

 

 

というか、コスプレしたらその技能を頂けちゃうってヤバくね?

経験や知識は田中のものになるし、やり方さえ分かれば、田中は自力でその魔法を覚えたりできるだろう。

あいつ、ハイスペックオタクだからな。

 

 

稔の暴飲暴食(ハングリー)も十中八九ラーニング性能持ち。

スキルの数やアビリティを大量に獲得されたら、レベルがいくら上がっても足りない。

 

消吾は指に挟んだトランプをクルクルと消したり表したりしてるけど、どこまでがアビリティでどこまでが手品なのかわからん

 

「あ、ワイの通帳の預金残高がこんなところに!?」

 

マジックで消した預金残高がどうしてアイテムボックスに入っているのだとツッコミを我慢した。

文字なのか? 現金なのか?

 

たしかに、俺のアビリティはパワーレベリングが出来るだろうが、みんなヘンテコな異能を持っているのだ。取り残されたくはないな。

 

 

「ところで、俊平は?」

 

ミシェル姫殿下の授業中だというのに、俊平の姿が見当たらない。

 

どこに行ったんだ? と首を傾げていると

 

 

「俊平なら、中庭の方で王子と第二王女とおままごとしてるっぜい」

 

佐之助が答えてくれた。

探知してくれたのか。

 

「なんでまたそんな。俊平だってアビリティの話は聞きたいはずなのに。」

「王子と第二王女からの頼みなら、お人好しの俊平には断れないっぜぃ」

 

「それもそうなんだけどさあ。もしかして、お姫様たち、俊平の年齢を誤解してない?」

「…………実は俺っちもその懸念はあったっぜぃ」

 

 

やっぱりか。

俊平は俺たちのクラスでは一回り小さい。

 

13歳14歳の俺らの中で、完全に10歳程度の低身長なのだ。

俊平は食は細い方だが、お昼休みにみんなでドッジボールとかよく混ざる。

 

病気とかの話も聞かないし、そういう体質なんだろうが、なんというか、不憫な子だ。

 

「佐之助、後で俊平に魔法のこと、教えてやってくれ」

「言われなくても教えてやるっぜい」

 

とはいえ、アビリティについては俊平も聞いておかないと後から大変だ。

なんせ、俊平のアビリティは自爆。扱いを間違えたらみんなを巻き込んでしまうからな。

 

 

「しゃーねー。呼びに行ってやるか。」

「付き合うっぜぃ」

 

 

お姫様に、ちょっと俊平呼んできますと一言申し入れて、俊平をお迎えに行くのだった。

なんか保護者みたいだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき


今はハーバーボッシュ法でも追いつかないくらい世界人口が増えているから科学者さんたちが頑張ってくれてるよ。
あと、やっぱりハーバーボッシュ法は用意する設備がめちゃくちゃ複雑だから、安易になろうで知識チート出来ないよ。

アンモニアを作るために水素と窒素の温度の調整をしても、あちらが立てばこちらが立たず。二律背反になっちゃう! ってのをなんか触媒使ったら解決したわwwってのがハーバーボッシュ法だよ。

触媒ってのはそれ自体は化学反応したり変化したりしないんだけど、ほかの化学反応をなんか上手いことわーってやってくれるやつのことだよ。

やってる作品ないかなーって調べてみたらドクターストーンですでにやってたやん。はっず。

次回予告
【主人公の理由】

お楽しみに。

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第11話 樹ー主人公の理由

 

「俊平、アビリティの講習やってるから迎えに来たっぜぃ。」

 

俺と佐之助は中庭で騎士や侍女に囲まれておままごとしている俊平に声をかける。

 

「樹くん、佐之助も! ありがとう、でも、イルシオとネマを置いていくわけには………」

 

くまの人形を手に持つ俊平。

言語を理解させてくれる指輪のおかげで王子と第二王女の言葉がわかるから、おままごとなんてできるんだろうな。

 

王子と第二王女はイルシオとネマ。

俊平は名前を呼び合う程度には仲良くなっているようだ。

身長が同等だったが故にできた人脈チート。

 

俊平らしいな。こうしてみると、やはり主人公の素質がある。

 

 

「じゃあこの際、イルシオ殿下とネマ姫殿下には一緒に授業に参加してもらっちゃいましょう。お二方の集中力が切れたら、俊平も一緒に退場して、後で佐之助からどんなことをしていたのか、教えてもらうってことで。」

 

と、提案してみる。

 

「え!? 俺っちが!? まあいいっぜぃ」

 

佐之助はなんだかんだで俊平に甘いからな。

とはいえ、俊平にも力はつけてもらいたい。

主人公として、自爆に頼らない能力を身につけてもらわないとな。

 

 

「しゅんぺい、いっちゃう、です?」

 

したったらずに俊平の服の袖を摘むネマ姫殿下。

 

「もっとあそぶ、です」

 

と、上目遣いで俊平を見上げる。天使。

 

俊平も、なんというか(^﹏^ )こんな感じで笑ってるのに口元をもごもごさせながら俺と佐之助を見た。

気持ちはわかる。

 

「俊平をここで遊ばせていた方がいい気がしてきた」

「困るよぉ………」

 

 

俊平も困惑している。

俊平だって、本当は魔法の授業を受けたかったはずだ。

なのに、イルシオ殿下とネマ姫殿下に付き合って、おままごとなんてやっている。

あまり流されすぎは感心しないが、あの天使の笑顔を曇らせると思うと、俊平と一緒にしていた方が良さそうな気にもなる

 

「ネマ、しゅんぺいはお仕事にいかないといけないんだ。見送ってあげよう」

 

そこで、その泥をかぶる役目はイルシオ殿下が被ってくれた。

 

この子、もしかしなくても大人の感情を読むのが上手だな?

 

俊平はどうしても俺たちのクラスには必要な人間だし、自分たちだけで独占していいものではないことも分かっていたはずだ。

 

でも、歳の近そうな俊平と友達になれて嬉しくても、俊平は勇者として召喚されている。

 

「しゅんぺい、また来て」

「うん。イルシオとネマも、兄妹仲良くね」

「はいです!」

「うん」

 

結局、俊平とお別れしたイルシオ殿下とネマ姫殿下。

寂しそうに手を振って分かれた。

 

後ろ髪引かれながらも、中庭を後にする。

 

「俊平、王子とよく仲良くなれたな」

「困ってたところで、トイレに連れてってくれたからね」

 

やっぱり、仲良くなったのはあの時か。

 

「同い年くらいだと思ったんだろうっぜぃ」

「だよね………。はぁ、身長が欲しい。」

 

と、ため息をつく俊平を、二人して宥めた。

高校生になったらそれなりに伸びるでしょ。俊平は成長期がおそいんだろうな。

 

「あ、でもね、昨日、トイレに行った時に、イルシオの秘密基地に案内してもらったんだけど」

 

慰めていると、唐突に俊平が切り出してきた

 

「お、なにその面白そうなイベント。」

 

木の上にある子供の秘密基地に案内される俊平を想像してほっこりしちゃうよ、俺は。

 

「気になるでしょ。その秘密基地なんだけど、禁書庫だったんだよね」

 

と、特大の爆弾に火をつけやがった。このおチビちゃん。

 

「ぶーーーっ!!!」

「おまっ、このっ、おいっ!」

 

召喚1日目、それに召喚30分程度で禁書庫にたどり着くってどういうことなの!?

 

衝撃的すぎて日本語忘れちまったじゃねえか!!

 

 

「入れんのか? 禁書庫なんて………」

 

恐る恐る聞いてみた。すると

 

「イルシオも普通に入ったわけじゃないよ。魔法的な施錠がされてるから、扉からじゃ入れないんだけど、開かずの禁書庫の隣に物置があるんだって。そこのタイルを剥がしたら、子供なら通れるくらいの通気口があったんだぁ」

 

ああ、これか、チビの俊平が主人公の理由!!

 

低身長のミニマムサイズで無ければ通れない抜け道。

 

「初めて自分のサイズに感謝したよ。僕がギリギリ通れるくらいの通気口だからね。」

 

それで通気口を通って禁書庫に侵入ってか。

 

子供とは言え、王子が勝手に入っていい場所じゃなさそうだ。

しかも、完全部外者である俊平に見せるなんてもってのほかだ。

 

「なんか収穫とかあったのか? 昨日だったら文字読めないだろ」

 

「まあね。でも、指輪を持ってたのがイルシオだけで、ネマは持ってなかったから、トイレの後に案内された秘密基地の間も、ネマとイルシオ二人と会話するために僕が指輪を預かってたんだよ。まあ、必要なかったけど」

「というと?」

「禁書庫でイルシオが目をつけていた本がね、日本語で書かれていたから。それらを読むために、イルシオは宝物殿に忍び込んで翻訳の指輪を盗ってきていたって。」

 

ほう。

数百年ぶりの召喚と言ってたし、先代の記録かな?

でも、王子の行動力すげえな。悪い子かよ。

 

「古代魔法の実験の記録だった。強くなるために必要なことが書いてあるって。」

 

「ほむ。俊平、要点だけまとめて話すことはできるか?」

 

「ちょっと待って…………。うん。出来そう。」

 

ギュッと目を瞑って眉間に右手の第一関節を当て、しばらく考えた俊平は、パッと手を離してこちらを見上げた。

 

「よし、詳しく。」

 

「ステータスの項目にあった【通力】っていうのは、魔法と違って、スキルを使うための項目みたいでね、魔力がへそ、丹田に集中しているのに対して、通力ってのは血液やリンパに中に流れているものみたい。通力は基本的に自分の意思で動かせないから、魔力を血液の流れに沿うように操作することで、通力と魔力を一体化させて、よりつよい魔法やスキルが放てるようになるって書いてあった。魔力と通力を同時に使うことは【通魔活性】って名付けたみたい。」

 

まじかー………。

マジで要点だけまとめてある。

さっき、お姫様の言っていたスキルの話にも合致するし、かなり有用性の高い情報だろう

 

「俊平、お前凄いな。どうせ本当は分厚い本かなんかに書いてあったんだろう」

 

「うん。初代? 先代の? 勇者の実験記録がついた日記帳みたいだったよ。魔力や通力を感じるために、魔族を生捕りにして拷問して聞き出して、試して、どちらの力も空っぽにして、何処に力の源があるのか手探りで探っていた手記だった。」

 

「よくそれでそこまでまとめたな。けしかけた俺が言うのもなんだが、教師に向いてると思うよ。」

 

「えへへ、そうかな」

 

てれてれとほおを掻く俊平。

照れる姿は完全に小学生の少年だ。

 

「でも、本来は魔力や通力を空っぽにしてからじゃないと感じられなかった古代魔法の片鱗を、手記のおかげでショートカットできるよ」

 

「俊平、俺っちはお前が親友で心からよかったっぜぃ!!」

 

「ぴゃーーー!!」

 

 

佐之助に振り回される俊平も、何処からみても小学生だった。

 

 

 

 

 





次回予告
【おもしろアビリティ祭り】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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第12話 由依ーおもしろアビリティ祭り

 

 

タツルと佐之助(エロガッパ)が俊平ちゃんを迎えに行っていた頃。

 

 

「アビリティを実際に使ってみましょう。すでに試している人もいるとは思いますが、人に向けて魔法やアビリティを使ってはいけませんよ」

 

「はーい」

 

私たちはアビリティの講習を行っていた。

モブムーブを行うタツルがいないから、率先して返事を行う。みんなもつられて返事をしてくれた。

 

「タナカ様は転身願望(メタモルトリップ)。初めて聞くアビリティですが、どうやら先ほどの魔法を見る限り、魔法の習得に関するアビリティのようですね」

「にゃふふ、田中の異能は最強にゃ!!」

 

 ばっさぁ! と魔道士のローブを翻すタナカちゃん。魔力、回復したんだ。

 

 転身願望(メタモルトリップ)はコスプレした衣装の能力を発揮するアビリティ。

 たしかに、魔道士コスの今ならば、魔法を使うことはお茶の子さいさいなのだろう。

 

「出でよ聖剣!」

 

 向こうでは光彦くんが聖剣を召喚して巻き藁相手になんかざっしゅざっしゅやってた。

 

「<破斬>!! 」

 

 スキルを使って巻き藁をぶった切っている。ふーん。

 おっさんのシノちゃんやギャルの内山ヒロミ、ケモナーの上村加奈、巨乳水泳部の岡野真澄なんかも光彦君がなんかやるたびにきゃーきゃー言っている。

 ふーん。

 

 そんなありふれた聖剣よりも、おもしろアビリティの方が私にとっては目を楽しませてくれる。

 

 

「うぁ~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」

 

 

 たとえば、そう。

 あらゆるものを感染させてしまう感染系女子、荒川優子(ユウコ)ちゃんが両手を広げて、なんかくにゃくにゃしている。

 

「なんや、優子。なにしとるん?」

 

 なんて聞いたマジシャンの消吾

 いや、その気持ちはわかる。ユウコちゃん、何してるんだろう?

 そう思って成り行きを見守っていたら

 

「うぁ~~~………タッチ(ポン)」

 

 突如ユウコちゃんは消吾くんの肩にタッチした。

 

「は? 何をうぁ~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」

 

 今度は消吾くんが両手を広げてくにゃくにゃし始めた。

 

「(クイクイ)消吾、いったいなにを(ポン)うぁ~~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」

 

 眼鏡をクイクイしながら止めに入ったインテリメガネの硝子(カラス)くんまで!?

 

「お、なんだそれおもしれーのか? カラス、俺も混ぜろ!(ポン)うぁ~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」

 

 大食漢の団体一名様、太田(ミノル)までカラスくんから肩に触れられて感染する。

 

「あ、じゃあ私も。ミノルくん、失礼して………(モミ)うぁ~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」

 

 ついでだから私もミノルくんのお腹を揉みってやると、なぜか両手を広げてくにゃくにゃしちゃう。

 これやばいな。接触感染で広がる意味不明の行動。

 ユウコちゃんはこんなことを感染させてしまう【感染症候群(インフルエンサー)】というアビリティのようだ。

 

 

「俺も俺も! うぁ~~~~~~~(くにゃくにゃくにゃ)」

 

 

「「「「「 なにやってんのお前 」」」」」

 

「ええ~~~~!!?」

 

 

 便乗系男子の坂之下鉄太くんが接触してないのにくにゃくにゃし始めたから、急に素に戻ってツッコミを入れる。ユウコと消吾くん、カラスくんにミノルくんと私。

 いきなりハブられる鉄太には申し訳ないが、感染していない人はお呼びでないの。

 

 

例えば、ボケっぱなしの声楽部。白石響子(キョーコ)なんか

 

「ある~日♪ 森の中♪」

 

 

なんて歌った瞬間に周囲の景色が森に変わる。

 

 

「くまさんに♪ 出会った♪」

 

『がおー!!』

 

クマさんが出現した!!

 

「スタコーラ サッサッサのサ~♪」

 

 花咲く森の道はどこに行ったのやら、いきなりエスケープだ。

 

「え、ちょ!? なんかクマが、急に熊が追いかけてくるっぜぃ!?」

「スタコラ サッサッサのサ~♪」

 

 俊平ちゃんを連れて戻って来た佐之助が巻き込まれて熊に追いかけられていたとか。

 

「ところが♪」

 

しかし、歌詞はまだ続く。

 

「くまさんが♪ 前から♪ 回り込む♪」

 

 シュバッ! と、佐之助を捉えていたクマさんが、突如スピードを上げて佐之助の進路を妨害!!

 

「瞬間移動!? このクマ想像以上にやばいっぜぃ!?」

 

「スタコラ サッサッサのサ~♪」

 

 歌に合わせて景色を変え、クマをも召喚する。マジで意味不明の能力(アビリティ)だ。

 なんかもう、逃げ続ける佐之助がかわいそうだよ。

 

「くまさんの♪ 言うことにゃ」

「にゃ?」

 

 タナカちゃんじゃないよ。

 

「『お嬢さん、お逃げなさい』♪」

 

『お嬢さん、お逃げなさい、私の理性が保つうちに。………さあ早く!』

 

「なんか熊がしゃべりだしたっぜぃ!? なんかダンディーな声で逃亡を促されたんだけど、俺っちはお嬢さんじゃないっぜぃ!?」

 

 おそらく、言霊を操る系統の能力なのだろうと予想は付く。

 アビリティの名前は【歌詞限界(リミテッドライター)

 

「スタコラ サッサッサのサ~♪」

 

『がおー!』

「ぎゃー! また追いかけてきたっぜぃ!!」

 

 こういった理解不能で意味不明の能力は、意味不明の強さを発揮することを私は知っている。

 

「ポッポッポー、ハトポッポ―♪」

 

 急に歌が変わる。情緒不安定かよ?

 森は無くなり、今度は平和的な日本のハトが佐之助の周囲にバサバサと降り立つ

 

「こ、こんどは何事だっぜぃ!?」

 

「まーめが欲しいか………ソラマメバズーカ!!!」

 

 ガチャ! 

 ―――ドゴーン!!!

 

「ぎゃああああああ~~~~~~!!!!」

 

 もはや韻を踏んでなくたってソラマメバズーカを召喚してぶっ放している。

 マジで意味が分からん。

 

 ソラマメバズーカってなに? 

 豆鉄砲ですらないの?

 

「盗撮の恨み、晴らしたり。」

 

 ふっとバズーカの硝煙を吹き消すキョーコちゃん。

 お見事。パチパチと拍手を送ってやることにする。

 

「くそう、ギャグじゃなかったら危なかったっぜぃ」

「さすがに本気でやるわけないじゃない。ほら、盗撮した写真があるならだしちゃいな」

「そもそもこの世界じゃ現像できないっぜぃ!」

「………それもそうね」

 

 

 ………。よかったね!

 

 

  ☆

 

 

「おかえりタツル。俊平ちゃんも」

「ああ、ただいま。」

「うん。ただいまー」

 

 帰って来たタツルを迎える。

 俊平ちゃんもお疲れ様。一人だけ子守とか大変だっただろうに。

 

「なんか面白いことやってんな」

「うん。みんな自分のアビリティを試しているみたいだからね」

「自分のアビリティかぁ………」

 

 しょんぼりと足元を見つめる俊平ちゃん。

 っと、俊平ちゃんのアビリティって、たしか自爆だったよね。

 

「まあ、俊平はアビリティを使わないに越した事は無い。」

「そうだよね。自爆なんて、縁起でもない………」

 

 とはいえ、俊平ちゃんは勇者でありながら、他のステータスもみんなに比べて一回り弱い。

 その体格のせいでもあるのだろう。内包している魔力も少なく、筋力も少なく、敏捷も少ない。

 

 優っているところと言えば、この世界の謎のオリジナル数値である【通力】というのがずば抜けていることくらい。

 

 そんで、お姫様のお話によると、魔法を使うのは【魔力】、スキルを使うのは【通力】の項目に依存するのだとか。

 

 俊平ちゃんのアビリティの<自爆(ディシンテグレイト)>はスキル扱いということでもあり、それを最大でぶっ放したら、俊平ちゃんは間違いなく粉々になるというのは、自分のアビリティに意識を集中したらすぐにわかったそうだ。

 

「安心しろ、俊平。ある程度は俺たちと佐之助がお前を守ってやる。」

「うん、ありがと」

「だからもし裏ダンジョンRTAとかになっても心だけは折るなよ」

「うん………? え、どういうこと?」

「俊平には胸糞悪くなるような最悪が待っているかもしれないってこと。俺もそんなん見たくないから、極力回避するつもりだけどな」

 

そう。クラス転移において、追放及び裏切りなどによる突き放された主人公は、闇落ちする可能性が極めて高い。

 

 現在、私たちとタナカちゃんに主人公認定されている俊平ちゃんこそ、その胸糞悪い展開に巻き込まれる可能性が高いのだ。

 

 世界の攻略の為には必要なことかもしれない。

 それでも、この俊平ちゃんの無邪気な笑顔は守らないといけない。

 それが私とタツルとタナカちゃんの見解だった。

 

 

「あ、タツル様、ユイ様。シュンペイ様も。お三方はもうアビリティの確認を行いましたか?」

 

 

 決意を新たにしていると、お姫様のミシェルが声を掛けてきた。

 

 みんなのアビリティを確認して回っているって、大変だね。

 

「あー………俺たちは………」

「この場で使えるアビリティじゃないっていうか………」

「僕のは危険だから………」

 

 

 寝ることで発動するアビリティ。

 そして、自爆のアビリティ。

 

 そんなもん迂闊に使えるかよ。

 

 

 それにだ。タツルも私も、この国を信用しているわけではない。

 

 タナカちゃんだって、お姫様には自身が魔法系のアビリティだと誤認させている。

 違う世界から攫ってきた張本人に、己の能力の100%を、誰が明かそうか。

 

「なるほど………ステータスプレートを確認してもよろしいですか?」

 

 と、姫様がおっしゃるので、ほいと渡してあげる

 

 更新前なので、【聖女】のアビリティは無いよ。

 

「【夢幻牢獄(ドリームゲート)】………。あら………スキルも無いですね。タツル様もユイ様も魔法は優秀ですので、魔道系のアビリティなのでしょうか?」

 

「いえ、夢を見る能力です。夢の中に何日か、何週間か、何カ月か、何年かはわかりませんが、その夢に囚われる。昨日見た夢は1週間。別の世界を夢の中で旅をしました。」

「不思議なアビリティですね………。タツル様は?」

 

 返してくれたステータスプレートを受け取り、今度はタツルのステータスプレートを受け取るミシェル

 タツルはレベルとステータスの数値は消した状態でさらっと渡す。

 

 このタツルの演技力。私にはマネできない才能かな。

 

「【無現回廊(ドリームコリダー)】………。ユイ様と似ていますね。」

「はい。基本的には同じ能力だと思ってます。私は昨日、夢の中で1年過ごしました。」

 

「一年も!? そ、それは大変でしたね………」

 

「ええ………。なので現状だと、寝ている時にしか能力を発揮しておりませんし、詳しい能力などはまだ不明なのです。」

 

「そうなのですね………。能力の研鑽を期待いたします。シュンペイ様は………」

 

 

 なんだかんだで、お姫様はみんなの名前を呼んでくれるんだよなー。

 なんだか嬉しい気分になる。

 私たちを召喚した引け目もあったのだろう。

 

 この一日でみんなの顔と名前を覚えて、みんなとコミュニケーションを取ろうとしているの。

 

 俊平ちゃんとはあまり話せてなかったみたいだけど

 

「今日はイルシオとネマのわがままに付き合って頂き、ありがとうございました」

 

 と、俊平に微笑んでいた。

 

 そうだよね。ミシェルの弟妹だもん。

 

「い、いえ! 僕もイルシオやネマと一緒にいるのは楽しいですから!」

 

「ふふっ、イルシオも、年が同じくらいの友達ができて、喜んでおりましたよ♪」

 

 にこり、とほほ笑むミシェル。

 多くの男を虜にするような魅惑の笑みだ。

 これにはさすがの俊平ちゃんも………

 

「あの、僕………樹くんや由依ちゃんと、同い年、です」

 

 そっちかー!

 

 

 

 

 

 




後書き

消吾、稔、カラスの実はノリのいいポンコツトリオ好き


白石響子の歌は、なろうでは規約に引っかかるから、熊はマンモスさん 鳩はスズメに変更してヘンテコな歌詞になってます。

次回予告
【名前呼びイベントはいつも尊い】

お楽しみに


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第13話 樹ー名前呼びイベントはいつも尊い

 

「僕、樹くんや由依ちゃんと同い年、です。」

 

「えっ!?」

 

 目をパチパチさせて俊平を見るお姫様。

 

 

「ほ、本当ですか!?」

 

 と、由依の方を見たお姫様。

 

「本当ですよ。なんなら6歳くらいから一緒の学校に通ってますから。昔からちっちゃいんです。俊平ちゃん。」

 

「そ、それは、申し訳ございません、てっきり10歳くらいかと………」

「いいんです。僕はもう慣れてるんで………うぅ」

 

 しょんぼりと肩を落とす俊平。

 

「き、気を取り直してアビリティの確認を致しましょうか! ステータスプレートをお預かりします!」

 

 と、気分を変えようとステータスプレートを受け取るお姫様。

 すると、ヒュッと息をのむ。

 

「アビリティが、自爆!?」

 

「はい………。」

 

 なにやら恐ろしい物を見る目で俊平を見るお姫様。

 自爆なんてアビリティを持っていても、俊平は俺たちの大事な仲間(マスコット)だ。

 お姫様にもそんな目で見てほしくはない。

 

「おっと、夢を見るしか能のない私たちの方が俊平よりも使えないアビリティですよ。嫌わないであげて下さい。お姫様」

 

 俺がフォローしてやると

 

「あ、いえ………失礼しました。」

 

 お姫様も謝罪ののち、俊平にステータスプレートを返してくれた。

 

「俊平ちゃんには魔法の使い方、教えてあげないとだなー」

 

「なー。まあ俊平がザコ敵を相手に特攻したいってんなら止めはしないが俺たちやイルシオ殿下、ネマ姫殿下、縁子なんかはめっちゃ泣くだろうな。」

 

「やらないよ! 僕だって生きたいんだから!」

 

 なんていつも通りにふるまっていると、お姫様もクスリと笑ってくれた。

 迫害は回避できそうだな。

 

「イルシオやネマも、シュンペイ様のことを気に入っているのです。そんなことはしませんよ」

 

 ふわりとほほ笑んでくれた。

 

「お姫様、俊平はこの通りチビでちんちくりんでちっちゃくてかわいいヤツなんです。迫害されるようなことがあったら、私たちのクラスは黙っちゃいない。この世界に来る直前だって、クラスのみんなで俊平を取り合って大騒ぎしていたんです。こいつは、うちのクラスに必要な人間だ。見守ってやってください」

「ふふっ、みんなに好かれているのですね、シュンペイ様。イルシオとネマが懐くわけです。確かに承りました。お任せください」

 

 お姫様は胸に手を当てて、俺たちの願いを確かに受け取った。

 俺たちを召喚したお姫様っていうからどんなもんかと思えば、面倒見がよく、俺たちのことを名前で呼んで、話やすそうに気遣ってくれる。

 なんだ、いい子じゃないか。

 

「だってさ。よかったね、俊平ちゃん」

「うん。ありがと、由依ちゃん、樹くん」

 

 自分のアビリティにコンプレックスを抱えていた俊平だが、俺たちとお姫様のお陰で明るく顔を上げてくれた。

 

 そうだよ。お前はその無邪気に子供みたいに笑っているのが一番いい。

 

「そんなわけで、私と由依と俊平はアビリティの試し打ちなんかは出来そうにないです、申し訳ございません、お姫様」

「いえ、事情はわかりました。魔法の研鑽とアビリティの研鑽に励んでください」

 

 と、締めくくるお姫様

 

「それと………」

 

「ん?」

 

 俊平と由依も首を捻る。

 

「シュンペイ様も、タツル様もユイ様も。どうかわたくしのことはミシェルとお呼びください。勇者様の皆さまは名前で呼び合っているのに、私だけ「お姫様」、「お姫様」と。………たしかに皆様を召喚してしまった負い目はあります。ですが、どうかおねがいします。不躾だとは承知の上なのですが、皆さんと、お友達になりたいのです。」

 

 ………。自分より年下の子供に、頭を下げるお姫様。

 王族だぞ。軽々しくできる事じゃない。

 

「わかりました! よろしくね、ミシェルちゃん! 様づけなんてかたっ苦しいし、私もユイでいいよ」

 

 こういうノリの良さ、由依のいいところだと思う。

 

「あ、ありがとうございます! ………ユイ。なんだか変な感じです。敬称をつけないのはイルシオとネマだけでしたので………」

 

 ああ、そうか。社交界でもおそらく○○様、○○令嬢、○○さん、○○伯、○○男爵などを使い分けないといけないのだろう。

 社交界なんてものはドロドロのズブズブだ。腹の中で何を考えているのかわからないのだ。

 信用なんて出来る物じゃない。

 

 あと、ミシェルの喋り方などは染みついた教育のせいだろうから、そこを是正するつもりはない。

 個性だもの。

 

「僕はイルシオたちと一緒にいることが多いと思うけど、よろしくね、ミシェルさん」

「さすがに公的な場では敬称はつけることにするよ、ミシェル。俊平ともども弟が出来たとでも思ってよ。」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 と、嬉しそうにほほ笑む

 

「お礼はいらないよ、ミシェルちゃん。」

「え?」

「『ありがとう』の対義語って、なんだと思う?」

「え、えっと………」

 

 と、由依の言葉にに視線をさまよわせるミシェル。

 由依が俺と俊平にウインクして続きを譲った。

 

 臭いセリフだが………。俊平の肩を小突いて続きを促す。

 

「『あたりまえ』………だよ。友達くらい、僕らが、いくらでもなるよ。もちろん、ネマやイルシオも一緒にね。ミシェルさん。」

 

 ガシっとミシェルの手を捕まえた俊平。無邪気ながらも、芯の強さを感じさせる笑みだ。

 よくもまあそんな臭いセリフを吐けるなぁ………。

 ま、俺も人の事言えないムーブをよくやるけどな。

 

「っ~~~~~!!!」

 

 声にならない感激で、ありがとうを言えずに頭を下げた。 

 うんうん。その感激を見れてワイは満足満足ほっこりマンやで。

 

 ………ん?

 

 と思ったとき、由依もあれ? と首をかしげている。

 

 そして思い至った。

 

(( 無意識に主人公ムーブかましてた!! ))

 

 身分の高いお姫様に名前で呼んでもらう、名前を呼ばせる。それは間違いなく主人公の特権

 

 俊平もいることから俊平につられている形にはなるかもしれないが………主にお姫様呼びしていたのは俺だ。

 やべえ、ミシェルには光彦あたりとフラグでもたててもらわないとなーなんて思ってたのに、俊平の主人公補正と由依のイケメンムーブで完全に主人公の一員になっている!

 

 ………いまさらか。

 

 だったら、ガッツリ関わるか? それもありっちゃありだな。

 別に俊平を主人公としながらも、周囲にいる、なんかかっこいいセリフを言う人。それになろう。

 

 この世界で、決まったムーブをしなければならないなんてルールはない。

 能力を十全に使って元の世界に帰るのが最終目標のはずだ。

 主人公にこだわる必要もない。

 

 

「それで、ミシェルはなんで俺たちにそんなことを言ってきたんだ?」

 

 もう一人称を私じゃなく俺にしているよ。友達に対して男の俺が私ってのは壁を感じるだろうからね。

 

「あの、シュンペイは子供っぽくて話しやすそうで………ユイとタツルは、なんというか、いい意味で平凡そうだったので。ちゃんと目を見てくださるから、私も話しかけやすいのです」

 

「平凡? 俺、風魔法で液体窒素とか作ってましたよ?」

 

「いえ、友達を思いやる気持ちとか、そういうのです。みなさん、アビリティを手に入れて少しヤンチャしているところってございませんか? お二人にはそういった感情が見えませんでしたので」

 

「魔法でヤンチャしてたような………」

「私はみんなのアビリティに積極的に巻き込まれに行ってたよ?」

 

「それでもです。他の方に比べて随分と落ち着いていましたから。お二人が勇者さま方の潤滑剤、緩衝材になっていたことは見ていればわかります。」

 

 まあ、光彦でさえあっちの巻き藁で聖剣ドヤをかましている最中だからな

 落ち着き加減で言えば妙子もそうだろうが、妙子は王やミシェルに対してかなり悪態ついてたからな。

 人さらい呼ばわりして、いい感情を持たれていない事はミシェルもわかっているから、必要以上に近づいたりはしていない。

 

 田中は田中だからめっちゃはしゃいでる。

 

「私は友達も大好きだからね。クラスメイトの誰かが不幸になるのは嫌なの。ミシェルちゃんも、クラスメイトのみんなとちゃんと話はできているから、ちゃんと友達になれるはずだよ。うん。私が保証する!」

 

 由依が最後にそう締めくくった。

 

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 その笑顔は、すっきりしたような笑顔だったとか。

 

 

 

 

 




後書き



次回予告
【遠征で『イレギュラー』が起きる確率は100%】

お楽しみに


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第14話 由依ー遠征で『イレギュラー』が起きる確率は100%

 

 

「なんだか嫌な予感がする………」

 

 

 そう漏らしたのはユカリコちゃん。

 

 皆のアビリティの検証が済んで、ミシェルちゃんとお友達になって、早1ヶ月。

 

 あれから、現実の世界に戻る奇妙な夢は一度も見なかった。

 

 あの夢の記憶は今も鮮明に残っている。

 

 今、元の世界は何月何日なのだろうか。

 

 私も、生気の無い返事を繰り返す人形になっているのだろうか。

 

 そんな思いが、不安が、グルグルと私の中をかき乱す。

 

 この1ヶ月で見た夢は、沢山ある。

 

 夢を見なかった日もある。

 

 とはいえ、夢を見た日の方が圧倒的に多い。

 

 剣を携えた聖騎士を目指す夢。武道大会で優勝して目が覚めた。【剣士】のアビリティが生えた。

 

 錬金術で現代日本の便利用品を作る夢。冷蔵庫倉庫を完成させたら目が覚めた。【錬金術師(アルケミスト)】のアビリティが生えた。

 

 回復系聖女の夢を見た。闇市で買った部位欠損の獣人奴隷の結婚を見届けたら目が覚めた。アビリティは生えなかった。

 

 料理系ドヤの夢。肉ジャガで、じゃがいもが国全土で人気になったら目が覚めた。【料理番(コック)】のアビリティが生えた。

 

 どんどんと他のクラスメイトたちと性能がかけ離れていく。

 これは夢幻牢獄の効果なのだろう。

 

 夢で体験した異能をアビリティにして手に入れる。それが私の夢幻牢獄(ドリームゲート)の能力。

 

 みんなとはかかっている年数が違う。

 

 ずるはしていない。牢獄からの脱出ができないと、その能力は手に入らないし、研鑽を積まないと夢のシナリオをクリアできない。

 

軍師転生のシナリオでは、軍隊を操る才能が私にはなかったため、味方に甚大な被害を受けた。バッドエンドだったためか、アビリティは生えなかった。

 

 みんなが一日かけて修練を積んでも、私は夢の中で数日から数年。鍛錬を積める。

 

 隠し通すことはできないだろう。

 

 それはタツルも同じだ。

 

 タツルは私のようにステータスにアビリティが増える事こそなかったが、レベルは確実に上がっている。

 まだタツルの能力には秘密があったが、それはおいおい。といっても、私の能力とそう変わらないけど。

 

 正直、皆のレベルに合わせられる自信がなくなっていた。

 

 私たちと同じように能力がおかしいのはやはり田中ちゃん。

 

 能力の検証のためと王宮が用意できるあらゆる衣装を準備してもらい、怪盗の衣装を気に入り、怪盗衣装を着ているときに限り【大怪盗(ファントムシーフ)】のアビリティを生やした。

 

 大元が【転身願望】とはいえ、私の【夢幻牢獄】と同じく新たなアビリティを生やすことが出来るのだ。

 ミシェルちゃんが言っていた「アビリティを持つものは5人に一人」というのが何だったのかと言わんばかりの意味不明さ。

 まじで意味がわからない。

 

 で、みんなが魔法やアビリティのことを理解できるようになり、剣や槍を使った戦闘訓練、行軍訓練などを行った後に、遠征することになったの。

 

 それが今日。

 

「ついにきたね。」

「ああ。遠征イベントはハプニングが必ず起こるからな。」

 

 そう、なろうのクラス転移において、遠征イベントはほぼ間違いなくハプニングが起き、主人公が取り残される形になる。

 あろうことか、それは追放や裏切りのトリガーになるのだ。

 

 物語における、3つの INGは、くしくも恋のINGと一致する。

 

 フィーリング。事前に嫌な予感を感じること。

 

 タイミング。 奇跡的な巡り合わせで

 

 ハプニング。突発的な出来事が起きる。

 

 起きないわけがないのだ。突発的な、イレギュラーが。

 本来、予想のつかないことが。必ず起こる。

 それが、遠征イベント。

 物語において、イレギュラーはレギュラーなのだ。

 

 

 この一月の訓練で、みんなレベルが上昇している。

モンスターを倒さなくとも経験値自体は経験で稼ぐことができるのだ。

 夢幻牢獄も、そういった経験からレベルをあげているのかな。わかんないけど。

 

 

「みんな朝食は抜いて来たな? ………では、コレより森に入る! くれぐれもはぐれて行動しないしないこと! もし逸れたことに気づいたら動き回らず、その場で待機すること。わかったか!」

 

「「「 はいっ! 」」」

 

ルルディア王国の騎士団長、ダンさん

彼が監督として私たちの行軍を先導、指導してくれる。

 

当然、私とタツルはモブムーブで元気に返事を行う。

 

だが、ここから先は全く油断できない。

 

 

「クラスメイトが主人公と仮定した場合の、正解が分からない」

 

そう。もし、みんなとはぐれるようなことがあれば?

 

捜索するのが最善?

 

放置が最善?

 

阻止が最善?

 

 

物語の二次創作なら、阻止しただろう。

 

主人公が強くなるためのイベントなら放置が安定だ。

 

無難に済まそうとするならば、逸れた後に捜索すればいい。

 

でも、コレはオリジナルだ。

 

何が起こったとしても、誰かが怪我をするのなら………

 

「未然に防いでみせる」

「付き合うよ。」

「田中もいるにゃ!」

 

 

 私の呟きに、タツル、タナカちゃんが追従してくれた。

 

「シナリオを確認するぞ。この遠征、イレギュラーが起こる可能性は100%だ。必ず起こる。それがスタンピードなのか激強魔物かダンジョントラップかはわからん。俊平の警護を優先しつつ、周囲の警戒に当たる」

 

「「 了解|(にゃ) 」」

 

「誰かがはぐれたとおもったら、佐之助の探知の力を借りる。」

 

あのエロガッパに頼るのは癪だけど、能力は間違いなく優秀だ。

頼れる手札、切るカードは選ばないといけない。

生存への選択肢を増やすために。

 

 

「わかってるにゃ。序盤に誰かを殺すことで現実を認識させるなろうはたくさん存在するにゃ。リスクはなるべく早く減らさないとにゃ。」

「ああ。だからこそ、誰も死なない未来を作るんだ」

「うん。テンプレだからこそ、イレギュラーに対応できるようにしないとね!」

 

 

気合を入れ直して、ダン騎士団長に続いて森に足を踏み入れた。

 

 

……………

………

 

 

森の中の、じめっとしたエリア。

 

 

「ここはスライムの温床だ。上からボットリとやられると窒息する恐れがある。頭上と足元に注意するように。」

 

 

ダンさんの助言に、上を見上げるクラスメイトたち。

何人かの生徒はヌメる足元にズルっとなっていた。

 

「ほら、出たぞ。スライムだ。誰が最初にやるか?」

 

ダンの指さした先には、透明なゼリー。中心に核がある典型的な弱点曝け出し型のスライムだった。

人の頭くらいの大きさで、あまり大きくはない。

 

スライムの扱いは作品によってのばらつきがあるものの、核があるタイプは比較的容易に退治できる。

 

核がないタイプはマジでやばい。分裂したり大きくなったりアイテムボックスの代わりにしたりとやりたい放題だ。

かくいう私も、夢のテンプレの世界ではスライムをテイムして世話になったものだ。

 

「じゃあ俺がやってやるぜ!」

 

と、名乗りを上げたのは、生徒会超人メンバーの最速の韋駄天、ドヤマシーン早風瞬。

 

「スライムの弱点は核だ。あの透明なタイプは毒や酸や魔法も持たない。核を潰せばスライムの活動は停止する」

 

ダンさんの助言を受けて二本のナイフを構える

早風瞬の戦闘スタイルは、軽装で速度を生かしたヒットアンドアウェイ。

 

 

「〈俊足〉! 〈縮地〉! 〈十文字斬り〉!」

 

 

明らかにオーバーアクション。

 

スキルを3つも使ってスライムを攻撃し、核を破壊した瞬くんだけど、そんなにスキルは必要ない。

 

ちなみに、〈俊足(バフ)〉〈縮地(アクション)〉〈十文字斬り(こうげき)〉だよ。

 

 

「へっ、余裕だぜ!」

 

そうでしょうよ。感動もないわ。ドヤドヤすんな。

 

 

樹の場合。

 

近くにやってきた、膝くらいまである大きめのスライムだ。

 

タツルはしゃがんで手をこまねいてスライムを呼び寄せている。

俊平ちゃんはタツルの後ろで立ったまま膝に手をついて様子を見守っていた。

 

「るーるるるる、るーるるるる」

「樹くん、なにやってるの?」

「スライムに餌やろうとしてる」

「餌って?」

「ああ!」

 

 

 なんか会話のドッジボールみたいなことを俊平ちゃんとしながらタツルが取り出したのは、両手サイズの袋。

 

「じゃーん。お塩!」

「お塩?」

「スライムって単細胞生物っぽいナメクジだと思えば、塩って効きそうじゃないか? ここに出る魔物調べて、準備しといたんだよね。」

「あー、浸透圧、だっけ。樹くん好きそう」

「あパラパラ〜っとね」

「袋の中全部!? あぁ………スライムがどんどん濁って縮んで………」

「ほい。核だけ抜き出してみた。」

「遊んでるよね」

「なんかぬちゃぬちゃする」

「でしょうね。」

「おーい、稔。これ食ってみろよ。いい塩加減かも知れないぞ」

 

 なんて言いながら団体一名様、ミノルくんに採れたてホヤホヤ(ぬちゃぬちゃ)拳大のスライム核を差し出すと

 

「俺を実験台にするな樹! せめて清水で洗ってニンニクと酒と醤油と香草に漬けて一晩冷蔵庫で冷やした後に焼くか揚げるかしてからにしてくれ!」

 

「「 贅沢に食うんかい! 」」

 

タツルと俊平ちゃんのツッコミが響いた。

 

なんか調理法聞くとスライムの核でも美味しそうに聞こえるから不思議。

同じこと思ってたクラスメイトみんな吹き出してたよ。

 

 

 

 

 




あとがき

タツル、由依、タナカのテンプレバスタートリオ好き。
俊平、佐之助、樹の感情機敏トリオ好き
チンピラ信号機の名前の語感好き


次回予告
【もふもふだぁーーーーー!!!】

お楽しみに


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第15話 樹ーもふもふだぁーーーーー!!!

稔にはスライムを食べてもらいたかったが、まあ仕方ない。

 

消吾にアイテムボックスにしまってもらって、後で厨房の方達に調理を依頼しよう。

 

稔の暴飲暴食は十中八九ラーニング系なので、魔物を食らったり相手を殺したりしたら間違いなく能力を奪うことができるはずだ。

 

スライムの能力はおそらく自己再生か環境適用など、生存能力を会得出来る可能性大。

 

異世界に来てクラスメイトを殺してなんてやるもんですか。

 

とはいえ、だ。

ラーニング能力を持つクラスメイトってのは、裏切り者の可能性が高い。

 

能力にあぐらをかき、高圧的な態度になったりする。

 

わりとボケ気質、というかツッコマセ気質のある稔はぽっちゃり体型でありながら友達は多い。

別に体型をコンプレックスに思っているわけでもない。

なんだったら女の子にもよくお腹を揉まれている。由依とかよく揉む。

 

ストレスフリーなはずだが、何が起こるかはんからんけど、生き残る可能性が高くなるなら、俺はスライムの核を喜んで稔に食べさせるぜ!

 

 

「なんか言ってるけど、ふざけてるだけだろ」

 

「あ、バレた? まあ、本音の部分も確かにあるからさ、暴飲暴食、試してみようぜ。後で。」

 

「………はあ。わかったよ。」

 

 

あとでスライム食わせる約束して、次のエリアに。

 

 

………

……

 

 

 

「このあたりはウルフが多く出現する。奴らは頭がいい。獲物の視線に敏感で、死角から飛び込んでくる」

 

 

 騎士団長、ダンさんの言葉にゴクリと息を飲むクラスメイトたち。

 

「集団で行動するから、はぐれた動物の子供なんかは特に狙われやすい。気をつけてーーー」

「きゃーーーー!! もふもふだーーー!!!」

「チョっ、カナ!?」

 

 ダンさんが注意している最中に、ケモナーの上村加奈がギャルの内山ヒロミの静止を振り切って森の中に一人で爆走突撃した。

 

 

「迷子は俊平じゃないのか!?」

「あんな大暴走、予想できないよ!」

「田中も加奈にゃんのケモナーを甘くみていたにゃん!」

 

 みている場合じゃない!

 

 

「田中は俊平の護衛! 俺と由依はあのケモナーを追う!」

「まかせるにゃ!」

「いくよ、タツル!」

 

 ダッと駆け出す俺と由依

 

「待て! お前たち!!」

 

 と、騎士団長のダンさんが俺たちを止めようとするが、まあ、レベル1の時点で騎士団程度の能力値は持っていたんだ。

 レベルが上がっている俺らにダンさんがついてこられるわけでもない。

 

 そんな俺たちと同時に駆け出したのは

 

「上村!!」

 

 生徒会長。ミスターテンプレ勇者。虹色光彦。

 彼はレベル1の時点で団長と同等のステータスを誇っていた。

 訓練により、レベルやステータスが伸びているため、スピードは瞬につぐ2位だ。

 

「佐藤、鈴木! 君たちまでどうして!?」

「友達心配して悪いか?光彦だって人のこと言えねえじゃねえか」

「ひとりにできないからね!」

「すまん、無粋な質問だった!」

 

 

 そんな俺たちのスピードに、平気で爆走し続けるケモナー。

 あの情熱はどこから来るんだ。

 

 

 俺たちがケモナーに追いつき、そこでみた光景は………………………!

 

「よーしゃよしゃよしゃよしゃ!!!」

「クゥン………! キューン!!」

 

 

 大きな白いウルフを全身でわしゃわしゃやってる

 変態だった。

 

 

「ふへへへへへ、野生だから全身ゴワゴワだけど、もふもふだぁ。夢にまでみたもふもふだぁ! ひゃっほほーい!」

 

 わしゃわしゃわしゃー!

 

「ええい、革鎧邪魔!!」

 

 すぽーん!

 

「ちょ!」

「まじか!」

 

 突然鎧………といっしょに服を脱ぎ始めたケモナー。

 光彦は目をそらし、俺はガン見した。

 

「よーしゃよしゃよしゃ!」

「ちょっと! カナちゃん! 男子! 男子いるから! 服は着て!!」

 

 まあ、キャミとアニマルパンツは履いているからましなんだろう。ガラ? ゴリラだったよ。

 由依がケモナーに急いで駆け寄る。

 

「はぁはぁはぁ………!」

「だめだこりゃ、正気じゃない。目が完全にイっちゃってる。」

「由依、ショック療法(物理)だ。」

「しょうがないなー………。えい」

 

 ポコン! と大きなウルフのお腹に顔を埋めているケモナーの頭をグーで殴る由依。

 

 

「あいたぁ!! 由依!? なにすんの!?」

 

「こっちのセリフだよおバカケモナー! 自分の格好見て! 男の子だっているんだよ?」

「ぎゃ! こっちみるなえっち!」

「あ、ケモナーのまな板には興味ないです。」

「殺せ!!」

「ヴォフ!!」

 

 

 ケモナーのアビリティは【魔獣調教師(ケモナー)】………いや名前どうなってんのそれ。

 

 せめてテイマーかブリーダーにしてよ。性癖晒してるだけじゃん。

 

「ついカッとなってクラスメイト殺さない!」

 

 ゴツン!

 ケモナーの指令により襲いかかってきた巨大白ウルフを、ゲンコツで沈めといた。

 

 ケモナーがケイムした魔獣(ケモノ)なら、勝手に殺しちゃ戦力ダウンだ。

 

 目を離していた光彦は俺のゲンコツは見ていなかったらしい。

 

 女の子が脱いだからって、視線をそらしちゃダメだろ。ウルフと一緒にいるんだぞ。

 もし俺じゃなくて光彦に魔獣が行っていたら、対応できていないぞ。

 

 

「気ィ済んだのなら戻るぞ。ここでお前に何かあったら騎士団長のダンさんの責任になる。お前のせいでダンさんが減給処分や降格、退職なんかになったらいやだろ」

「う………。わかった………。ごめんなさい」

「もう、本当に気をつけてよね………」

 

 俺が殺されかけたこと? ありゃあギャグだ。本気じゃないし怒ってないよ。

 

 由依が白ウルフの頭を撫でて俺の拳骨の腫れを引かせてあげてた。

 こっそり聖女の力使ってるな?

 

 起きた白ウルフに跨ったケモナーと共に、ダンさんのところに戻る。

 

「勝手しちゃってすみませんでした、団長!」

「申し訳ございませんでした。」

 

 頭を下げる俺と由依。

 最敬礼。90度だ。

 

 そんな俺につられて頭を下げる光彦と白ウルフの上から頭を下げるケモナー。降りろ馬鹿。

 

「おまえらよく戻って………リトルフェンリルじゃねえか!!」

 

 

 ああ、はいはい。拾ってきた魔獣は森の主でしたってね。

 

 よくあるよくある。ならそのうちイケメンに人化もあるかもね。

 あれ? そうなったらこのケモナー………逆ケモハーレム系の主人公なのでは!?

 

 

「なあ、このもふもふが擬人化したらどう思う?」

「は? もふもふが減るじゃん。ふざけてんの?」

 

 筋金が入っているようだ。

 

 

 

 




後書き



次回予告
【はじめての殺生イベント】

お楽しみに


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第16話 由依ーはじめての殺生イベント

 

 

 ケモナーのカナちゃんがなんかおっきいウルフを仲間にしたけれど、私は知っている。

 

 大抵の強い生き物は擬人化できるということを。

 

 タツルも同じことを考えていたのか、カナちゃんにウルフが擬人化したらどうするかを聞いていたけれど、カナちゃんはもふもふが減ることに難色を示していた。

 

 だけど、私は知っているのだ。

 カナちゃんが面食いで、光彦君にぞっこんであるということが。

 

 そんななか、自分に絶対服従のイケメン擬人化ケモミミ男子が現れたらどうだろう。

 

 この面食いケモナーは大暴走必至である。先の暴走特急がそれを証明している。

 エロ漫画の世界秒読みだ。

 これ以上主人公が増えることを良しとしない。むしろ許さん。

 中学生だ。みだらな行為も一切許さん!

 

 ………というわけで。

 芽は摘ませてもらいます。

 

 

「………おい、犬。言葉分んだろ、擬人化なんかしやがったら、タツルのゲンコツなんか目じゃないのぶちかますから覚悟しといてね」

 

「キューン………!」

 

 殺気を込めてにらみつければ

 大きな体の大きなしっぽを、股の間に巻き込まれるように入れている。

 

「もふもふを見て大暴走しないように、お前が調整するんだ。そうすれば、カナちゃんはお前が独り占めできる」

 

「わふ!」

 

 よし、調教完了。

 

「っ!? !? ………。」

 

 タツルが殺気に気づいてキョロキョロし、犬っころの丸くなったしっぽをみて何が起こったのかを察してくれた。

 

「くれぐれも! くれぐれも一人での行動は慎むように! それと、はぐれたからと勝手に飛び出すのも控えるように! 引率するこちらの身にもなってほしい」

 

 ごめんなさい。

 

 

………………

………

 

 

 森の主、リトルフェンリルを仲間にしたことで生態系が狂わないか心配だけど、基本放し飼いで、有事には指笛で呼ぶようにカナには言いつけておいた。

 

 

「この辺りはゴブリンの縄張りだ。ゴブリンは知恵を持った生き物だ。他の魔物よりも厄介な時がある。」

 

 

 と、ダン団長が言ったので

 

「例えば、どんな時ですか?」

 

 とすかさずタツルがモブムーブを行う。

 質問役を買って出る。タツルが好むガヤ系のモブムーブだ。

 

 

「人質を取ることがある」

 

 

「んなるほど。」

 

 

 つまり、誰かが人質になるフラグが、今。立った。

 

「それを阻止にゃ」

「うん。」

「………………。」

 

 タナカちゃんと頷きあう。

 タエコちゃんはポケットに手を突っ込んで、視線だけは周囲にむけていた。

 

 人質最有力は、最も力のない俊平ちゃん。

 文学少女 ミオちゃんは魔法が得意だから大丈夫かな?

 ネガティブ雨女の 池田ミカちゃんも候補の一人。おどおどしているので人質になりやすそう。

 陰湿根暗の 坂本浩幸くんは………なんだかんだ強力なアビリティ<影繰り(シャドーダイブ)>だから人質になることは考えにくい。

 

 ぶっとんだパターンとしては、誰かのドジでクラスメイト全員が人質。メインキャラクターの誰かが孤軍奮闘、といったところかな。

 

 こんかいの成長物語としては、いきなり暴走してしてしまったカナの………リトルフェンリルの孤軍奮闘、などもあり得るかもしれない。

 

 現在はちょっと休憩中。

 周囲を警戒しながら、みんなで座り込んでいるところだ。

 

「さくら、作ってもらいたい簡易武器があるんだけど」

 

 タツルが物づくり系女子、サクラに声をかけていた。

 

「いいよ! 図面はあるかな!?」

 

「あー………ごめん、図面はない。構想だけ伝えてもいいか?」

 

「いいよ! ロマン武器で実用性がないやつはね! 実際に使うと脆さが出るからね! シンプルなのがいいかな!」

 

「ああ、大丈夫。シンプルなのは間違いない。卍形の投擲具………まあ手裏剣………というか、もどってこないでぶっささるでかいブーメランかな。形が難しいなら最低限左右対象のH形でも構わない。あとは、木を二つ組み合わせてできたバールやトンカチの釘抜きみたいな形の棒なんだけど………ああ、尖ってたらそれでいいから。」

 

「………………。H形の手裏剣ならすぐに作れるよ! バールとかトンカチみたいな! そんな形の棒はね! 木をくり抜いたり変形させるための熱湯が必要だね! ちょっと時間がたりないかな!」

 

「あー………。全然簡易じゃないな。ごめん」

 

「いいよ! 聞いただけで殴打刺突武器だってことはわかるかな! 相手が武器を持ってても上から叩ける形ってことかな!」

 

「まあ、そうなるな。」

 

「手裏剣も数用意するならH形よりも十字の方がいいかもね!」

 

「あー、ほんとだ。よくよく考えたらH形じゃ美しくねーじゃん。なんでこう、単純な形にできないんだ俺は………。」

 

「ロマン追求理系のサガだね!! 卍形やH形で回転する方向に刺したいって気持ちはわかるかな! 大きさ的にね! 武器の上から叩いたりね! 武器を絡めとったりすることを考えたらね! 確かに理に適ってるかもしれないね! でも投擲具だからね! マキでいくね!」

 

 サクラは雑貨屋で買っていた2本の鉄串の中心にマイナスドライバーで凹みを作り、二つをガッチリと合成。

 そして、木の蔦でぎゅっと固定した。

 蔦の結び目なんかも、空気抵抗を受けにくいようにトンカチで丁寧に潰している。

 

「早いし俺の意図を汲んでもっと簡易に武器を用意するとか、どんだけ………」

 

「脆いけどね! 使い捨てにするには十分かな!!」

 

「十分すぎる」

 

 

 サクラのアビリティは<工作技術職人(クラフトマン)>  工作の勇者。

 物の形を変えたり、中心点や重心がわかったり微調整したりできるアビリティらしいんだけど、アイディア、閃きにも補正がかかっているのかもしれない。

 サクラは魔力も通力も少なめの代わりに器用の数値がずば抜けている。

 俊平ちゃんと似たり寄ったりの一点突破能力値だ。

 

 だから、工夫してあまり能力を使わなくて済むのなら使わないように調整している。

 

 節約上手でもある。

 DIYにめちゃくちゃ便利。

 

「投擲武器でね! 遠距離から切ることに特化させるのがチャクラムでね! 近距離から刺すことに特化させるのが手裏剣だからね! だから手裏剣には毒を塗るといいよ!」

「へえ………。さくらの物づくりに対する知識欲ってすげえな」

「んふー! 私もね! ロマンを追い求める女の子だからね!!」

「ロマンチック乙女(物理)」

 

「「 ぶっ! 」」

 

 

 最後のタツルの呟きに、タナカちゃんと二人で吹き出してしまった。

 サクラのそれは、普通の女の子の求めるロマンじゃなくて武器に求めるロマンだった。

 

 

 

 

 

 

「来たぞ! ゴブリンだ!!」

 

 団長の声に、臨戦態勢に入る私とタツル。

 

 団長の正面に、一匹のゴブリンが。木を乱暴に削った棍棒を持っている。

 

 

「さあ、誰がやる?」

 

 

 との団長の問いかけ。

 

 私もタツルも、一般モブとして行動するなら、一人目の行動は起こせない。

 

 ならば誰がするのか。それはもう当然

 

「………俺がやる!」

 

 テンプレ勇者様なわけでして

 とはいえ、人形の生き物を殺すことに、かなりのストレスを感じているわけでして

 

(カタカタカタカタ!)

 

 と、聖剣を持つ手が震えていることがわかる。

 

 しょうがないよ。動物も殺したことのない中学生だもの。

 

 スライムは生きているって感じのしない訳わからない生き物だけど

 ウルフやゴブリンは違う。明らかに生物といった姿をしているのだ。

 まあ、ウルフはケモナーのおかげで一切それを狩るイベントにはならなかったけれど………。

 

 いまからそれを刈り取ろうという。そういうイベントだ。

 

 ………というところで、ピーン! と閃いた。

 

(ちょんちょん)

 

「………ん?」

 

 私はタツルの肩を叩いた後に、ゴブリンの側面の茂みを指差し、手首で投げるジェスチャーを行う。

 

「………。………!!」

 

 タツルも思い至ったらしく、音を立てないように、サイドステップでさささっと場所を移動し、視界を確保する。

 

 そして、右手には先ほど作ってもらった簡易手裏剣。

 

 しゃがみながらも左手を前に伸ばし、右手に手裏剣を構えて投げる準備を完了させていた。

 

「ぎぎーぃいい!!」

「う、うわあああ!!」

 

 棍棒を振り上げ、光彦くんに襲いかかるゴブリン。

 

 振り下ろした聖剣は、練習のようにはいかず、無意識に生き物を殺すことを躊躇したへっぴり腰。

 日本の平凡な中学生にいきなり殺しを経験させようってのが間違いだ。責められやしない。

 

 空を切った光彦くんの聖剣と、殺す気で振り下ろされた棍棒が交差する。

 当然、聖剣もあたらなければとうということもないわけで。

 

ーーガンッ!

 

 と、振り下ろされた棍棒はちゃんとあたるわけで。

 

 

「ツっ!」

 

 それが光彦の致命傷にはならないけれど、隙を晒してしまうわけで。

 

「ぎぎぃ!」

 

 ゴブリンの腰につけていた獣の牙を首に突きつけられて人質にされてしまうわけで

 

 

 

「そいや!」

「ギィイイイッ!!!」

 

 タツルの投げた簡易手裏剣がゴブリンの肩に深く刺さって人質たりえなくなるわけですよ。

 

 

「殺す覚悟もないくせに前に出るでないわ、この臆病もん。」

 

 光彦くんから離れた瞬間に、妙子ちゃんがゴブリンをうつ伏せに倒して踏みつけ、動きを封じる。

 

「この小鬼は人を攫って孕ませ、食らい、増えてまた人をさらうのじゃろう。光彦、お主が不甲斐ないばかりにのう」

 

 ゴブリンを踏みつけて嘆息するタエコちゃん。

 

「葉隠………、だ、だが………」

「こんな小鬼に情など持つでないわ。責任の取り方も知らん餓鬼が。」

「………。」

「何をしておる。ワシがなんのために小鬼の動きを封じておるのか、わからぬのか?」

 

 

 ゴブリンを踏みつけたまま腕を組んで光彦くんを睨み付けるタエコちゃん。

 光彦くんが聖剣を見つめ、ゴクリと唾を飲んだ。

 

「く、くそお!」

 

 

 ザンッ! とゴブリンの首が撥ねられた。

 

 15禁すら許されていない中学生のクラスメイトたちには、ゴブリンの首が飛ぶ、その光景だけで、今までのハイキング気分がなくなった。

 

 

 茂みで吐瀉物を撒き散らす子もいる。

 

「………。なんじゃ、やればできるではないか。光彦。」

 

 

 光彦にハンカチを差し出して背中をさするタエコちゃん。

 

 

 私が泣いた時もそうだけど、面倒見がいいんだよなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回予告
【俺に見えているもの】

お楽しみに


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第17話 樹ー俺に見えているもの

 

 ゴブリンの頭が刎ねられ、気分を悪くしたクラスメイト達には申し訳ないが

 

「油断するな、ゴブリンは1匹見たら10匹いると思え!」

 

 世のゴブリンはゴキブリンともいわれるほど繁殖力の高い魔物だ。

 団長の声に、俺は首の刎ねられたゴブリンに突き刺さる簡易手裏剣を抜いて構える。

 

 この簡易手裏剣、簡易という割には性能は十分。

 こんなもの、殺傷能力自体は少な目だが、注意をそらすのには十分な働きをする。

 

 一度投げてみて、結び目の方に若干曲がってしまう癖があるが、使い捨ての武器にそこまでの性能はもともと求めていない。

 

「出たぞ!」

 

 との団長の声に、バシュ! と何かを射出する音。

 

 ドサッ、と何かが倒れる音。

 

「拙者の狙いに狂いはないでござる。忍忍。」

 

 

 輪ゴマー忍者の服部ゴンゾウが石かなにかを射出したらしい。

 

 ゴンゾウのアビリティは<輪ゴム忍者(ワゴムニンジャ)> 輪ゴムの勇者

 いやだから名前。しかもこいつ、忍者の勇者じゃなくて輪ゴムの勇者だし。

 ………語呂が悪かったのかな。

 

 輪ゴムの忍者でもいいかもしれないけど、そしたら勇者じゃなくなるし。

 マジでなんなんだこいつ。

 

 <輪ゴム忍者(ワゴムニンジャ)>の効果は、スキルによる輪ゴムの無限生産。

 そして、忍者っぽいスキルを取得できることらしい。

 

 なんで輪ゴムなの?

 

 

「ゴンゾウ、何をやった?」

 

「人差し指と親指に通るよう輪ゴムを複数作り、石を飛ばしたまでのこと」

 

 パチンコね。石さえあればほぼ無限に攻撃可能ってすげえな。マジでぶっ壊れ能力の一つじゃん。

 レベルが上がってステータスが伸びれば、引けるゴムの数も増えて威力もその分増す。

 

 パチンコって本気出せばマジで人死ぬからな。レベル制でパワーが上がるのなら、銃よりも威力が強くなるかもしれない。

 

 現在のぶっ壊れ能力は

俺の夢現回廊(ドリームコリダー)、由依の夢幻牢獄(ドリームゲート)、田中の転身願望(メタモルトリップ)。稔の暴飲暴食(ハングリー)、消吾の次元収納(アイテムボックス)

 

 この五つの能力はSSランクと言えよう。

 

 ゴンゾウの輪ゴム忍者(ワゴムニンジャ)、白石響子の歌詞限界(リミテッドライター)、荒川優子の感染症候群(インフルエンサー)、赤城雄大の博徒雀士(マージャン)

 

 このあたりはSランクかな。

 

 Aランクに光彦の聖剣使い(ソードマスター)やケモナーの魔獣調教師(ケモナー)、縁子の精霊使い(エレメンツ)などが入るってね。

 

 番外だけど、俊平の自爆(ディシンテグレイト)は攻撃力だけで言えばどのアビリティよりも優れているだろう。確実に死ぬだろうが。

 

 

一二三(イー・リャン・サン)(ピン)!」

 

 チンピラ信号機、赤城雄大(チンピラレッド)は武器は使わず、拳のみ。あとはガントレットと脛当てが武器で、ゴブリン相手にガガガッ! と三連打を食らわせていた。

 

一二三(イー・リャン・サン)(ピン)!」

 

 ガガガッ! と、もう一度同じ攻撃を繰り返しゴブリンの顔がはれてみてらんない。

 

「役がそろったぜ………。【一盃口(イーペーコー)】!!」

 

 バチュッ!! 触れてもいないのに、ゴブリンの頭が弾け飛んだ。

 

 チンピラ赤信号、赤城雄大のアビリティ<博徒雀士(マージャン)>は、特定の条件を満たすことで、相手に追加の大ダメージを与える。

 ピーキーではあるが、ハマればマジで強い。

 

 麻雀牌には、萬子(マンズ)索子(ソーズ)筒子(ピンズ)という数字の書かれた牌の種類がある。

 雄大はそれぞれ萬子(掌底)索子(抜き手)筒子()と使い分けてそれぞれの1~9の型を組み合わせて役を作り、手役が完成すると相手に追加ダメージを与えるらしい。

 

 俺は麻雀は詳しくないんだけど………、本人に聞いたらどういうスキルなのか教えてくれた。

 

 拳で巻き藁相手にスキルぶっ放しているのを見たことあるんだけど、『【大車輪(だいしゃりん)】!!』って叫びながら大型の車輪を二つ召喚して巻き藁をすりつぶして粉にしていたのを見たとき、マジでやべー能力だと思ったね。

 あれが役満ってやつだと思う。

 

「タツル、後ろ」

「おけー。」

 

 俺の背後から現れたゴブリンに向かって簡易手裏剣を投げ、悲鳴を上げたゴブリンは腹に刺さったそれを抜こうとしている。

 

 ほほう、なるほど。簡易手裏剣だと思っていたけれど、これに「返し」を付ければかなり凶悪な武器になるのでは?

 

 肉をえぐりぬくのに苦労する形。

 甲殻持ちの昆虫、うろこ持ち、ゴーレム系、ゴースト系、スケルトン系には効かないだろうが、獣タイプや亜人タイプの魔物にはかなりの嫌がらせになりそう。

 あとでさくらと相談しよう。

 

「ワンツー! そいや!」

「ギィィ! ギュガアア!!!?」

 

 手首のスナップ目つぶしで視界を奪った左手を手刀に変えてゴブリンの右腕を折り、右の回し蹴りでゴブリンの左腕をへし折りながら吹っ飛ばす。

 肋骨もおれただろうな。

 

 ………しかし俺も加減がうまくなったもんだな。

 

 とはいえ、蹴った衝撃で簡易手裏剣も抜け、ツタが破れて壊れてしまった。鉄串だけ回収しとこっと。

 

 木にぶつかり、内臓を損傷したのか、血を吐くゴブリン。

 

「俊平! ………トドメを刺せ。」

 

 そして俺は過保護だけど、俊平にトドメを譲る。

 

「おええ………ゲホッ! ゴホッ!! で、できないよ!」

 

 みんな朝食を食っていない為、出てくるのは胃液のみ。

 とはいえ、気分のいいものではないはずだ。

 

「やれ!」

 

「んぐぅっ………!」

 

 やってくる吐き気の波と闘いながら、こちらに歩み寄る俊平

 

 俺はその間に鉄串を強引にU字に捻じ曲げて、ゴブリンの右足を拘束する様に地面に突き刺し、万が一かみつかれないように、もう一つをゴブリン首を拘束する為に木に打った。

 トンカチねえし、蹴りで固定したよ。

 

「ほら、これでもうこいつは一生逃げられない。放っておいても死ぬだろうがいつかはやらないといけない事だ。殺し童貞を捨てるのに、こんなにお膳立てされる状況はそうそうないぞ。心の準備なんか、有事にできるわけがない。」

 

「でも………っ!」

 

「やるかやらないかでもない。できるできないでもない。やるしかないんだよ。お前がやらないんだったら、俺はお前の手に短剣を握らせて、ナイフごとお前の手を握って、そのままゴブリンを殺す。」

 

「な、なんで樹くんは僕にそこまで………」

 

「俊平には強くなってもらいたいからだよ。これから来るであろう受難に耐えてもらうために、な」

 

 俺は、短剣を俊平に握らせた。

 武器もなく森に来るわけないじゃん。背中に剣くらい背負ってるし、腰には短剣がついているよ。

 

「受難………? 樹くんには何が見えているの………?」

 

 その質問に、俺は俊平の持つ短剣ごと俊平の小さな手を握ると

 

 

「テンプレだよ。」

 

 

 ズッ……… と、ゴブリンの心臓に短剣を突き刺した。

 

 

 







あとがき

精神的成長イベントが完了しました。
殺し童貞を捨て、次のイベントへ向かいます。

赤信号の能力解説

筒子(ピンズ)の場合

一筒(イーピン) 右の直突き(正拳突き)
二筒(リャンピン) 右のフック
三筒(サンピン) 右のアッパー
四筒(スーピン) 右の鉤突き
五筒(ウーピン) 山突き(両手突き)
六筒(ローピン) 左の鉤突き
七筒(チーピン) 左のアッパー
八筒(パーピン) 左フック
九筒(チューピン) 左の直突き


 振り下ろしとかボディブローとかヤクザキックとかも平気で混ぜてくるよ。

次回予告
【夢と幻 夢と現】

お楽しみに


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第18話 樹ー夢と幻 夢と現

 

 

みんなの初殺生イベントが終わると、すぐに起こるよイレギュラー。

 

 

「ギャギャッ! ギャギャッ!」

 

 湿地帯でもないのに、トカゲの魔物だ。

 

 ………。

 

「なんで………、リザードマンがこんなところに!?」

 

 

 

 団長のダンさんが驚愕の声をあげる。

 

 俺たちが遠征しているこの森は、冒険者(やはり当然のようにある)とか魔物の間引きとかのために、騎士団とかが巡回している。

 

 そのため、出現する魔物の種類などは完全に把握しているはずなのだ。

 

 それから察するに、まあ当然ながら、本来ならばありえない生態系の魔物が現れている、ということになる。

 

「ひゃははっ! カンケーねーぜ! 倒しちまえばなにも変わらねーよ!!」

 

 と、チンピラ黄信号の黄島蓮が剣を構えてそのリザードマンの首を刎ねる。

 

 黄島蓮(チンピラ黄信号)のアビリティは<双剣闘士>で、ルビはないが、超越級アビリティらしい。

 完全に光彦の下位互換だが、まああれは光彦の方がおかしい。

 

「………リザードマンがいることもそうだが、魔物の数が多いな………。これは、もしかしたら近くで迷宮が発生したのかもしれん。」

 

「迷宮!」

 

 

 でたよ、ダンジョン。

 どういうシステムのダンジョンかはしらないけれど、魔物の無限発生、およびダンジョン内で死んだ魔物の消失がテンプレだろうか。

 

 ダンジョンから出たら魔物はシステムから切り離されて無限発生の輪から弾かれて外では死体が残る………みたいな?

 

 死体は消えていないリザードマンを見るだけで、それだけの可能性が見えてくる。

 

「じゃあさ! みんなで迷宮ってやつの入り口探そうぜ! このまま放置するわけにはいかねーんだろ、ダンさん!」

 

 と、そう提案したのは、チンピラ青信号、青葉徹。アビリティは<魔闘剣士>で剣に魔法を乗せることが得意な超越級アビリティらしい。

漂う三下臭には突っ込まないぞ。

 

 とはいえ、だ。先ほど、初殺生イベントで多大なストレスを受けているところだ。

 すぐに慣れる物ではない。俺や由依は慣れているから問題ないが、他の連中にはちと厳しいんじゃないかと思う。

 すでに帰りたい、と泣いている女の子たちだっているのだ。

 

 

「………。わかった。私としてもこのまま放置はできん。だが、今日はみんな疲れているだろう。1時間だけ調査をして、それでも異常がなければ今日はもう戻ろう。」

 

 そこで、団長さんが出した答えは、時間付きの探索。現在は午後2時程度の時間だ。

 

 みんな、朝食を抜いていたおかげでお腹はぺこぺこのはずだが、あんなグロい戦いを続けて、食欲はない。

 朝食を食べていたら全部吐いていたはずだからな。

 

  キャンプ地まで戻ろうとしたら、それ以上は時間が足りない。みんなの精神もそろそろ限界だ。

 

 

『そんなことしなくても、<ここから迷宮にご招待してあげるよ!!>』

 

 

 そんな声が聞こえた瞬間、足元の地面が崩れた!

 

「なっ!?」

「きゃあああ!」

「足元が!?」

「なにがっ………!」

「俺は誰だ!?」

 

 

 驚愕と悲鳴を上げながら落ちていくクラスメイトたち。

  

「………………<浮遊(フロート)>!」

 

 その瞬間、俺はクラスメイトみんなに浮遊の魔法をかけた。

 これで怪我をしないように、ゆっくりと落ちることだろう。

 

 俺自身は浮かした瓦礫を蹴って即座にその場を離れる。

 浮遊の魔法はRPG風世界の夢を見た時に手に入れていた。

 

 この一月で、アビリティの検証の結果、俺と由依の能力の違いもわかってきた。

 

 

 由依の能力が、夢の能力をこの世界でのアビリティやスキルとして手に入れるなろう御用達チートに対して、俺の能力は、スキルやアビリティはステータスに反映されない、まったく別の能力だった。

 

 まあ、管理がし辛いだけで、由依の能力とあまり差はない。

 

 由依の見た現実世界の夢の影響か俺自身の能力の影響かはわからん。

 

 由依が夢と幻。俺が夢と現。みんなが精神だけこの世界に漂着しているとしたら、まさしくこれは夢と幻の世界だ。

 

 そこに、夢と現の能力を持つ俺は、異端なのだろう。

 

 夢の世界に、現実の肉体を持つ俺。

 夢の世界と現の肉体をごちゃごちゃにした、わけわかんない状態。

 

 それが、俺なんだと思う。

 妙子に確認したところ、妙子の陰陽術というか、化させる妖術などはステータスに反映されていない技術だという。

 おそらく、それはこの世界の理ではなく、妙子自身が持つ異能だからだろう。という結論に至った。

 

 つまり、この世界特有の能力ではないからステータスに反映されていないだけで、俺の肉体に直接能力の継承自体はされているということだ。

 

 この世界に来た特典かなんかでステータスやレベルやアビリティとして覚醒したようだけど、夢と幻のこの世界で、現の存在である俺はバグみたいなものなのかも知れないな。

 

 ま、由依が初日に見た夢を全て鵜呑みにすればの話だけど。

 

 

『へえ、一人避けられる力を持った子がいるよ』

『珍しいわね、新米勇者なのに』

 

 などと好き勝手言ってる、そこの奴ら。

 

 浮遊の魔法をかけたとは言え、大穴に落ちたクラスメイト達が心配だ。

 

 そちらには由依や田中。妙子がついているから余程のことがない限り大丈夫だとは思うんだが………。

 

「何者だ、なんて言うつもりは無いぞ。どうせ魔族の幹部らしきものの突発的襲撃イベントだって検討はついているからな。四天王だとか七つの大罪とか十二星座とかモチーフにした数字×ほにゃららみたいな名前の敵さんだってことはわかるぞ。今回の遠征のイレギュラーさんのお出ましってわけだ。」

 

『勘がいいね、ボク達は魔王様直属の最高幹部。五戒魔帝。妄語のデリュージョン』

『そして私は邪淫のリビディア。その理解力、マルよ。』

 

 

 そう言って、森から姿を表す二人の男女。

 浅黒い褐色肌で、目が赤いあたり、よくありふれた魔人っぽいな。

 頭にツノを生やしている、ポイントが高い。タツル(ポイント)10Pだ。

 100TP(タツルポイント)たまると1YP《ユイポイント》と交換することができるぞ!

 

 あー? あとなんだっけ? ゴカイ? モーセの十戒と共通する事が多そうだな。

 

 神話とか宗教が絡むような作品はあまりよまないから分からん。

 まあ、推測くらいは出来る

 

 

「こりゃどうも。俺は名乗らん。敵に情報渡すなんてアホのする事だ。予想するに、お前らのお仲間は………残りは殺すのが得意そうなやつと盗むのが得意そうなやつがいそうだな。」

 

「よくわかったね! あとはのんべえがいるよ!」

「こら、ジョン。相手に情報を漏らすのはバツよ」

 

 つまり、五戒っていうのは、『殺戮』と『強盗』と『嘘』と『淫行』と『酒乱』がモチーフってことかな。

 

 

 よくもまあわざわざそんな名前をつけたなぁ

 

「どういう事情であれ、ウチのクラスメイトに手ぇだしたんだ。生きて帰れると思わないように。」

 

 俺は両腕を真横に広げて肘を内側に捻ると、ゴキッ! と音が鳴る。そのまま二人組を睨み付けると、

 

「………ちょっとくらい主人公らしいことしたっていいよな」

 

 俺はフリッカースタイルで拳を構えた。

 

「へえ、勝てる気でいるんだ。ねえディア、こいつはボクの獲物だよ!」

「もう、勝手にしなさい。負けるのはバツよ。」

 

 なんていいながらジャレ合っている。

 

「そーいう作り込んだ喋り方で話す暇あるなら、かかってこいよ」

 

「あっははは! 殺す!」

「私は落ちた勇者たちを見にいくわ」

 

 男の子の魔族デリュージョンが俺に向かって突っ込んでくる。

 女の魔族、リビディアがみんなが落ちていった穴にふわりと降りようとしているのが見えた。

 

「行かせるかよばーか。」

 

 突っ込んでくるデリュージョンを受け流し、圧縮した魔力弾をジャブの形でリビディアに放った。

 属性魔法? そんな時間がかかるものよりもバッと打てる遠距離攻撃のやつの方が優秀だろ。

 

「<魔力を通さない壁があるよ!>」

 

 だけど、デリュージョンの一言で俺の魔力弾がかき消された。

 

「援護はハナマルよ。あとで褒めてあげる」

 

「妄言の………………言霊系か。当然といえば当然だが、やっかいな………。」

 

 歌いながら現象を具現化する白石響子より、単純であるがゆえに発動が早く、簡素な命令ができる能力ってところかな。

 

 規模は響子より小さいかもしれないが発動速度は上回る。上位互換ってところか。

 

 そんでもって、奴は「壁」や「壁を作れ」、などではなく、「壁がある」と言ったことに鍵がある。

 それに奴は妄語のデリュージョン。

 奴の言葉(のうりょく)はほとんど妄言(デタラメ)だ。

 

「言葉の言い回しから察するに、お前の能力は嘘を本当に変える言霊使いって事だな」

 

「凄いね! 二回しか見せてないのに、気付いたの!? そうさ、ボクのアビリティは<嘘から出た実(リアリティ・ライアー)> 嘘を真実に変える言霊使いさ!」

 

 おいおい、異能バトルっぽくなってきたじゃねーの。

 

「能力の解説を自らするのは二流だな。」

 

 その能力の真骨頂は相手に能力を誤認させるのが最も強い能力の使い方だろう。もったいない。

 

「とはいえ、テンプレ異世界を幾度となく救ってきた俺の敵じゃないだろうな。向こうには由依と田中と妙子がいるし、どうにかなんだろ。」

 

「あっははははは! もう怒った! シネシネシネ!!」

 

 

 ブンブンと爪を振るうデリュージョン。

 

 嘘を真実に変える能力。その解決方法はすでにある。

 クソほども怖くない。

 

 なんだったら、足元に落ちてるクソの方がよほど怖い。

 

 さて、どうおちょくったものか。

 

 

 







あとがき

次回予告
【クソ野郎の反対語は素敵乙女】

お楽しみに


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第19話 由依ークソ野郎の反対語は素敵乙女

「うわあああ!」

「お、お、お、おちちちち!!!」

「俺は誰だぁぁぁぁあ!?」

「若干浮いてりゅぅう!!」

 

 

 突然裂けた地面に飲み込まれる私たち。

 

 落ちる寸前に、タツルが私たちに魔法をかけてくれたのがわかった。

 落下の速度を遅くしてくれる魔法。

 

 瓦礫を蹴って亀裂から逃れたタツルを見て、私の役目はクラスメイトたちのお守りだと悟る。

 

「ふむ………………。」

 

ふと周囲を見ると、空中だというのにあぐらをかいて顎に指を当てるタエコちゃん。

 

「タエコちゃんは落ちながらも冷静だね。何考えてるの?」

「なに、ワシにキンタマでもついていれば、このような魔法などなくとも滑空して降りられたのじゃが、と思っておっただけじゃ」

「わりとしょーもなかった」

 

 そういや、狸が化ける時、よく、その………あれを何かに変化させたり伸ばしたりするっぽいよね

 

「妙子にゃん、実際のところ、タヌキのちんちんって大きいのかにゃ?」

 

 涙目の俊平ちゃんの首根っこを掴みながら宙をすいすいと泳いでやってきたタナカちゃんが聞き耳を立てていたらしく、落下中の会話に参戦。

 発言に恥じらいすらないあたり、タナカちゃんは田中なんだなぁとしみじみ思う。

 

「銀杏程度じゃよ」

「にゃははー! ちいさいにゃ!」

 

 

 無駄な知識が一つ追加された。

 

「女子トーク………いつもこんな話してるの………?」

 

 

 タナカちゃんに首根っこ掴まれた俊平ちゃんの声は、クラスメイトたちの絶叫に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

 

 

 

地面についた。

 

「さっきの謎の台詞の人の話が本当だとするならば、ここは迷宮の中ってことになるね」

「そうにゃ。多分魔族にゃ。本当に敵か味方かは分からないけど、ここまでされちゃー、流石の田中もぷっつんにゃ。戦闘装備に着替えるにゃ。」

 

近くに男子がいてもしのごのいってられない。

 

タナカちゃんは遠征用に支給された兵隊服(アビリティの効果で兵隊さんが使える技能を使えるよ。剣とかサバイバル術とか)を脱ぎ捨て、決戦衣装、マジカル☆タナカへと変身する。

 

黒くてゴスロリなのに背中がメチャクチャ開いている。とんがり帽を被った女の子。完全にミスマッチだ。

 

ニチアサではなく、ラノベ発の学園魔法少女コスなので、エグい能力を拵えているらしい。

 

キャラクターはマジカル☆アカデミーのラスボスであるマジカル☆エイミー。

魔王と称される彼女は、邪眼を使い、マジカルステッキに跨って空を飛び、記憶を操作して、指先一つで存在を消し去る。

 

まさにチートオブチートのコスプレだ。

 

指パッチンで的の巻藁が消えた時、それを私に打たれたら、私でも間違いなく死ぬ。

 

安心感が半端ねぇ。

 

ちなみに、原作でも倒すには至らず、説得によって眠りにつくことになった。

 

そんな存在だ。

 

タナカちゃんはコスプレ状態だとその能力を発揮することが可能になる。

 

ただし、まだタナカちゃん本人のレベルが低いため強い能力を数は打てない。

 

 

「集合!! 整列!」

 

 

全員が着地をして落ち着いた後

団長のダンさんの宣言に生徒達は決まった並び順で即座に整列。

 

「樹くんが居ません!」

 

と宣言したのは、インテリメガネのカラスくん。

集合整列は叩き込まれた集団行動の基礎。

居なくなった人物がいればすぐに把握できるのだ。

 

「タツルは巻き込まれなかったか、上手く避けたのだろう。アイツは勘と反射能力が高い。もしかしたら、落ちる速度を遅くしたのも、タツルかもしれんな」

 

団長は勘がいいなぁ。

 

「タツルが瓦礫を蹴って亀裂から抜けたのを見ました。多分敵と対峙してます。」

 

と、私が見たことを告げれば

 

「………ならば急いで戻らねばなるまい。」

 

神妙な顔で頷いた。

その瞬間である。

 

『それはバツね。私がさせないもの』

 

 

 突如聞こえた声。

 音源に目を向ければ、瓦礫に腰をかける、歪曲したツノの生えた少女。

 

 赤い瞳に浅黒い肌はYP(ユイポイント)は高得点だ。

3YPね。

 ちなみに、10YP(ユイポイント)集めると、なんと1000TP(タツルポイント)と交換することができるよ。

 

 ふむ、タツルがこの女に気づかないわけがない。

 魔族は二人いたんだ。

 

 

「お前は! 五戒魔帝、邪淫のリビディア!!」

 

 

おっと、敵の幹部だったらしい。

 

 

「あら、私を知っているのね? そこの騎士さまにはハナマルあげちゃう!」

 

 団長さんは相手の名前を知っていたのか、驚愕の表情を浮かべるものの、リビディアは手でハートを作り、団長にウインクで返した。

 

「おい、タツルはどうした?」

 

 だが、そんなことはお構いなしに、団長はタツルの安否の心配をする。

 怒気を孕んだ声でリビディアを威圧する声に、ブルリと肩が震えるタナカちゃん。

 

 

「ああ、この亀裂から抜けられた子? さーね。情報漏らすのはバツだもの。答えてあげないわ。もう死んじゃってたりして」

 

「クソ野郎………!」

 

「バツバツバツ! 野郎じゃないわ。乙女だもの。それに、汚い言葉遣いはバッテンよ。そうね、私のことは素敵乙女、とでも言ってもらおうかしら。」

 

何言ってんだこいつ。

 

 

「それにね………貴方達こそ、無事で帰れると思わないで頂ける?」

 

 

 

ーーーピィイイイーーーーーーー!!!

 

と、指笛を吹くリビディア。

私の目には音に乗せて魔力が散布されるのが見えたので、魔力を全身に纏って相手の魔力を弾く。

 

 

「さて、何時間耐えられるかしら。見ものだわ。」

 

 

 瓦礫に座るリビディアは、愉快そうに嗤う。

 

 次いで聞こえてきたのは、ドドドド、と、地面を伝う振動

 

 

「ジラトールの大迷宮。第一層に住まうはリザードマン。さあ、勇者の力、見せてご覧なさい!」

 

 百を超えるリザードマンの大群が、此方に迫ってきていた。

 

 

 




あとがき

妙子と田中のイメージをぼんやり絵にしたから、誰か清書して!!!!!!

ワイ? ワイにそんな技能あるわけないやろ。
イメージに合うポーズや表情をいろんな絵を参考にしながら模写やで。



【挿絵表示】



【挿絵表示】



自分でも描いてみるけど、ちょっと無理があるよねー。期待せずに待て!!!



次回予告
【ここでまさかのHH】

お楽しみに

読み方? えちえちでいいんじゃないかな。
次回はは絵師さんに無理言ってお願いして書いてもらった絵を乗せます。


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

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☆☆☆☆☆ → ★★★★☆(謙虚かよ)をお願いします。(できれば星5ほしいよ)


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第20話☆由依ーここでまさかのHH

 百を超えるリザードマンの来襲に対し

 

「失敗したにゃ!」

 

 そう漏らしたのは、タナカちゃん。

 瓦礫の上に立つリビディアにたどり着くには、リザードマンを越えてゆかねばならない。

 無数に現れるリザードマン。それを相手にするには、今のタナカちゃんの格好は都合が悪かった。

 

「田中は今、一撃必殺は得意でも軍勢相手にはへっぽこにゃんこにゃ!」

 

 そう。タナカちゃんの今の格好は一対一(サシ)に特化した魔王魔法少女コス。

 

 魔法のステッキを構えて俯くタナカちゃん

 

「田中は、無力にゃ………!」

 

 とか言いつつ、魔法のステッキをベルトに刺して、両手剣を構える

 

「かと言って、魔法少女の技能だけを使うわけじゃないにゃ!」

 

 ギラリと輝く瞳。

 このハイスペックオタクの凄いところは、コスプレして体験したその格好の技能を、生身でも再現できてしまう点にある。

 

 コスプレ特有の能力はなくとも、その際に会得した気配の読み方、肉体の動かし方を、コスプレを脱いだ後も反復して己の血肉に変える。

 

「そうさー漲るちっからーぁで〜♪ 敵をぶっ飛ばしーちゃおーうよー♪」

 

 

 声楽部の響子(キョーコ)ちゃんも、全体に聴こえるように歌い始め、クラスメイト全体にバフが掛かる。

 なんだか力が100%湧きそうな曲だ。でも元の歌詞が一ミリもない!

 

「漲ってきたああ!! っしゃおらああああ!!!」

 

 テンション担当、早風俊が短剣を二本構えてリザードマンを屠る。

 違う。優先順位を間違えるな!

 

 屠るべきはあの魔族の女!

 

 やみくもにリザードマンに突っ込んでどうにかなるものじゃない!

 

 

「瞬! 軍勢を相手にお前の脚じゃ不利だ! 戻れ!」

 

 密集地帯ではいくら足が速かろうと、足が止まってしまう。

 活かせるものではない。

 

 早風俊もまた、1対1で能力を発揮するタイプなのだから。

 

「うぉおおおお!!!」

 

 ザン! ザッシュ!! とリザードマンをまとめて斬り倒す団長。

 響子(キョーコ)のバフが効いているのか、複数のリザードマンを同時に相手取っている。

 

 

「個別に対応するな! 魔法で相手を屠れ! リザードマンの弱点は!」

 

「低温!!」

 

 団長の声に、魔法系のアビリティを持つミオちゃん、シノちゃんが氷の魔法の詠唱を始める。

 それに便乗して鉄太も詠唱を開始。

 ユカリコも水の精霊にお願いして氷を生成していた。

 所詮爬虫類。

 変温動物の性。温度の変化には弱い。

 

「この吹雪♪ 足がとられる♪ トカゲーさんー♪ う・ご・か・な・いーでねー♪ 」

 

 そして、呪文の詠唱なんかよりも早く、歌詞限界(リミテッドライター)による言霊でステージを変えることでトカゲの行動を抑制するキョーコ。

 言霊による動くなとの指令も加わり、百を超える数のほとんどが動けなくなってしまった。

 

 やはり歌詞限界の具現化能力はすさまじい。

 

「今だ! 畳みかけろ!」

 

 団長の命令により、剣で、拳で、魔法でリザードマンを屠ってゆく。

 動けないリザードマンなど、ただの的だった。

 先程、先に魔物を殺す予行練習を行っていなければ、こんなにスムーズに敵を屠ることなどできなかっただろう。

 

 

「へえ、あの子も言霊を使うんだ。しかも景色まで変えちゃうなんて。やっぱり一番危ないのはあの言霊使いかしら」

 

 

 と、感心しているところだけど、言霊使いはうちのクラスに一人だけじゃない。

 

 

「俺は蝙蝠(bat)、お前はダメ(bad)、コレは棍棒(バット)、お前死ね(デッド)。YEAR!」

 

 サングラスをかけたオールバックのヒップホッパー、佐久間太郎。

 リザードマンが動きを止めたその瞬間に、ヒップホップ開始。

 リズムに乗って歌いながら蝙蝠に変身し、相手を罵倒したかと思えば、瓦礫の頂上にいたリビディアの上に羽ばたき、人の形に戻ったかと思えば、右手には金属バット。

 最後に死を宣告しながらリビディアの脳天に向かってバットを振り下ろす

 

「キャッ! やるわね! マルよ!」 

 

 棍棒を腕で受けるリビディア。

 

 タロウのアビリティは<有言自(フリースタイル)由変化(ヒップホップ)

 韻を踏んで変化、具現化、デバフなどを行うアビリティ。

 歌いながら考えるキョーコの<歌詞限界(リミテッドライター)>とは違い、タロウのヒップホップは直感で、語感で韻を踏んで繰り広げる即興ヒップホップ。

 語感さえあえば何でもするので、本人にさえ予想がつかないことがある。

 そんな能力の為キョーコの下位互換だと思っていた。

 

 私としても、タロウが敵幹部に一撃を入れた事に驚愕している。

 タロウは私たちと同じ、賑やかし系のモブだとおもっていたからね。

 

 とはいえ今の殺し童貞を捨てたばかりのレベルの低いタロウに、敵幹部を倒せるわけがない。

 そう思っていたんだけど、考えを改めないとだなー。

 

 

 予想外の攻撃に距離を取るため、タロウから目を逸らさず後ろ向きに瓦礫から飛び降りるリビディア。

 しかし、それに追い打ちをかけるように太郎は瓦礫の上で手をチェケラする。

 

「あっと驚くこの空間、俺が逃がさぬこの時間、見れば現実……実感。お前を撃ち抜くこの銃弾ほらっ、飛べば散らばるあの散弾。これが貴様の最期の瞬間、祈れお前の仏壇にぃあ、YEAR!!」

 

 空間指定して落下途中のリビディアの周囲の時が止まる。

 驚愕に目を見張るリビディアに向かって、タロウは具現化した銃を撃つ。

 ドウン! という音と共にタロウは一発だけ打った銃を人差し指で一回転させた後に用無しとばかりに捨てる。

 銃は溶けるように宙に消えた。

 

 弾は散弾となり、リビディアの腹に風穴を開け、そして――

 時が動き出した瞬間。最後に仏壇が彼女の頭上から降ってきてトドメを刺した。

 

「ぐがぁああああ!!!」

 

 絶叫のリビディア。

 わかってはいたけど、言霊系の異能はやはり強い。

 物理や現象を捻じ曲げて現実を創り出す。

 

 反則級だ。

 複数のアビリティを持つ私が言うのもなんだが、私でも対処ができない部分がある。

 時を止められて銃で撃たれたら、私でも死ぬわ。

 

 

「センキュー、リッスントゥマイヒップホップ!」

 

 ………しかし、光彦くんでもタナカちゃんでもなく、

 決めポーズに両手をクロスさせてチェケラするタロウが、あんなにかっこいいとは思わなかったな。

 

 頭上の亀裂から地下の迷宮に差し込む光が、まるでステージライトのようだった。

 

 

 




あとがき

予告したイラスト。


【挿絵表示】


たっさ
「お題、クロスしたチェケラ オールバック グラサン」


「帽子は?」

たっさ
「いいねそれ!」


 絵師さん、女性描くの苦手だから男描かせろボケカスシネっていうから(いってない)、太郎だよ。
 久しぶりに絵を描くからなんか下手になってたって言ってたけど、私には上手い以外の感想がないです。
 ワイが描くより断然いい


次回予告
【自己言及のパラドックス】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は

評価をお願いします。(できれば星5はほしいよ)

絵を描いてみたいって人がいたら大歓迎です。
なんだったら前作で書いてもらったファンアートが今の待ち受けです。


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第21話☆樹ー自己言及のパラドックス

 

 

「<ボクの手には炎の魔剣があるよ!>」

 

 

 そのセリフと同時に、デリュージョンの手の中に紅い魔剣が握られた。

 

 妄語のデリュージョン。やつの能力は<嘘から出た実(リアリティ・ライアー)

 嘘を現実に変える能力だ。

 

 お前はもう死んでいる、と嘘をつかないあたり、直接死なせることはできない制限か消費する通力に限りがあるのだろう。

 

 

 迷宮上部に穴開けるのなんて、大分チカラ使いそうじゃないか?

 

 そんな舐めた事しても俺には勝てんぞ。

 

 

「シネェーーー!!!」

 

「死なんって。」

 

 単純思考の癖に、持った能力が勿体無い。

 流石に魔剣相手に素手じゃ分が悪いので、コチラも背負っていた剣を抜いて相手してやる。

 

 大量生産の鋳造(ちゅうぞう)品だ。研いではあるが切るより殴る使い方になる。

 

 魔剣相手にはこれも力不足だから、打ち合ったりは出来ない。

 

「<ボクは剣術の天才なんだよね!>」

 

「つまりお前の剣術はポンコツだってこと? 穴掘り楽しいね。」

 

嘘つくたびにコイツ穴掘ってることに気づけ。

 

 

「っ〜〜〜〜!! 死ね!」

 

褐色の顔を真っ赤にして剣を振るう。

流石天才の剣。太刀筋が見えない。

 

「緑竜剣術・(やなぎ)

 

 コレは孤児転生の世界で拾われた緑竜に叩き込まれた剣術。

 0歳スタートだったからマジ大変だった。

 竜の言語と魔法と武術を教えてもらう、俺、何かやっちゃいました? 系の物語だ。

 

 あの頃の俺は厨二病患者だったから、こんなことでもドヤドヤしない俺カッケーなんて思っていたけど。

 完全にドヤってたわ。今となっては恥ずかしい。

 

 しかも、一般人にも広く門戸を広げている有名道場だから、俺はただのイキリボーイだった、というオチまでつく。

 

 まあ、師範代じゃなく緑竜本人に直接教えてもらったから、あの爺さん以外には負けなしだったけども。

 

 

 柳は受け流しの技術。

 流して、流して、隙をつく。

 

 そんな剣術だ。

 

 歩法で距離をとりつつ、ガムシャラに振られる剣をバックステップで避ける、流す、逆らわず。

 俺は大振りの袈裟斬りに合わせて距離を詰め、やつの剣が空ぶると同時に左の肺に剣を突き刺した。

 

「<傷なんか負ってない!>」

「ほお、強引だなぁ。次は喉を潰せばいいのかな?」

 

 

 傷は一瞬で癒え、剣を振るう。

 こいつも剣術を習っていたのだろう。

 ごめんな、年季が違うんだ。

 

 眼が鍛えられ、反射神経を鍛えられ、魔法を鍛えられ、鍛錬方法まで知っている俺がおかしいんだ。

 

「<ボクは傷つかない!>」

 

「なるほど、嘘で塗り固めたその肉体、どこまで耐えられるのか、見せてもらおうか」

 

 いじめているみたいで嫌になる。

 とはいえ、まだこちらも決定打がないってのもあるけどね。ちゃんと強いよ。この魔族くん。

 

 俺は距離をとって魔力弾を放つが、魔剣に切り裂かれた。

 

「後ろからナイフが飛んでくるよ!」

 

「その能力、そこまでくると、ただの正直者………いやブラフだな。」

 

 後ろなんか見ない。ここで視線を逸らすような指示は俺の思考誘導だろう。

 引っかからんぞ、俺は。

 

 俺が距離をつめると、驚愕に目を見開くデリュージョンの首に突進しながら剣を突き入れた。

 ガギン! と音が鳴る。

 

 なるほど。傷つかないな。

 

 

 しかも、視界の誘導を行うブラフまで混ぜられると、やはり戦いづらい。

 

「<ほら、魔物の大群が押し寄せてくるよ>」

「ほーら、きたきた、そういうの! さすがだよ言霊使い!」

 

 ドドドド! とウルフやゴブリン、オーガ、オークなど多種多様な魔物がこちらにやってくるではないか

 

「上から目線でぶつぶつと、オマエ何様だよぉ!」

「勇者様に決まってんだろたわけが。」

 

 デリュージョンが炎の魔剣を振って大きな炎の刃を飛ばす。

 

 

 俺はそれをサイドステップで躱した。

 後ろの木が縦に裂け、炎上する

 

「おいおい、森林での火災は勘弁してくれよ………。こんな時にミカがいれば………なんていってもしょうがないか。【風喰い(エアブロック)】!!」

 

 ネガティブ雨女。池田美香。彼女のアビリティは<局所的雨女(スコール)

 雨を降らせることができる、天候操作のアビリティ。

 

 ないもんを妬んでも仕方ないが、森が焼ければデリュージョンもただではすまんというのに。

 

 しょうがないので、燃えるものがないように、木の周囲を真空にして鎮火しといた。

 

「うげえ、魔物の大群もうざったいな………………!」

 

 こちらを目掛けて大行進する魔物が到着してしまったので、魔力弾で頭を潰し、剣で首を刎ね飛ばし、死体を蹴り飛ばして、密集してきたのなら

 

「【ウインド・ボム】!!」

 

 敵の中心地で圧縮空気を爆発させる。

 おっと、いいこと思いついた。

 

「よくやるなあ、じゃあこれならどうだい!? <ボクは無色透明だ!>」

 

 感心したように頷きながら魔剣を振るうデリュージョンが、次第に透けて、見えなくなる。

 想定外の方向からやってくる斬撃に、肌を刺す殺気を頼りに、剣に魔力を通して受ける。

 

 さすがになまくら鋳造剣では受けきれないので、簡易強化をさせてもらう。

 

 しかし、剣まで見えなくなるのか。マジ厄介。ウケる。

 

「お、やるやん? 言霊系の能力特有の複数の能力を使うその感じ。逃げるか奇襲するか、魔物に紛れるか。やれるもんならやってみろよ」

 

「笑っていられるのも今のうちだだよ、<お前はボクのことを忘れてしまったんだからな!>」

 

「………。っと、魔物マジじゃまだな。水素と酸素を2:1で混ぜて水素爆鳴気を作り圧縮した【ウィンド・ボム】を………」

 

 ドン! と打ち出し、右手の指先にに火属性の魔力を集めて魔法の設定を行う。

 時限式の魔法、2秒後に灯火(トーチ)の魔法発動で、ウインドボムの場所に射撃。

 

 即座に俺は自分の周囲にドーム状の真空の壁を産み出すと

 

ーーーッドォオオオン!!!

 

 と、爆発したみたいだけど、真空の壁を作っているから振動が地面からしか伝わってこない。

 

 これは水素と酸素の結合による水の発生。

 2:1の割合で混合した水素()酸素()の結合によって生まれるのが、H2O つまり水だ。

 その反応に必要のは熱で、点火すれば爆発を起こす。そりゃあもうめちゃでかい音で。

 この実験を行う時には耳栓が必須だぞ。覚えといて。

 

「炎が燃えるのかと思ったけど、案外湯気っぽいな。反応が一瞬だったからかな」

 

 とはいえ、爆発の衝撃で大半の魔物は処分できた。

 亀裂に落ちた魔物もいたが、地下のみんなでどうにか対処してくれ。

 

「おーい、無色透明だとむしろ目立ってるぞ。デリュージョン」

 

 爆煙が避けている部分。無色透明なだけだから、そこだけくっきりはっきりしている。

 

「なんで!? お前はボクのことを忘れたはずじゃ!?」

「教えねーっつってんだろ。正直者やろう」

 

 言霊系を相手にするのに気をつけないといけないのが、自分にデバフをかけられること。

 

 アビリティってのが大体がスキルを使う【通力】の項目に依存している。

 魔法攻撃を受ける場合、魔力を纏うことによってある程度防御できる。

 普段何気なく纏っている魔力が魔力障壁。

 

 俊平が見つけてくれた【通魔活性】は、まぁ俺からすれば既に他の世界で知ってた強化技術みたいなもんだったんだけど、それのおかげで魔力と通力を同時に体に纏わせ、相手の魔力や通力が俺に通る前に、シャットアウトできる。貫通できるだけの力量があれば、流石にデバフ食らうが、まぁ今回は問題はない。

 

「お前、妄語とかいうくせに、やることなすこと正直すぎんだよ。正直者のデリュージョンに二つ名変えてみろよ」

 

「なんだと!? 嘘つきのボクが正直者!? 馬鹿にするのも大概にしなよ!」

 

「妄語のくせに、能力も嘘を全部本当にするからお前、全然嘘ついてねーじゃん。本当のことになるならそれは嘘じゃねえよ。嘘を本当に変える!? 嘘が本当になってるんだからもうそれ本当じゃねえかよ、嘘言ってんじゃねえぞ!」

 

「嘘じゃない! ボク本当に嘘つきで………え? え? あれれ? 嘘、本当? む、難しいこと言って煙に巻こうとしてもだめだかんな! ボクは本当に嘘つきだ!」

 

 なるほど、妄語のデリュージョンは、確かにその能力は強力だろう。勇者の中でも2人しかいない言霊系を持つ敵幹部だ。

 相当いろんなことをやってきたということもわかる。

 

 いかんせん、使用者の頭がよろしくない。

 

「お前が本当に嘘つきならば、能力を使って宣言してみろ。嘘を本当にするのならできるはずだ。復唱しろ!『ボクは嘘つきだ』」

「ふん!<ボクは嘘つきだ!>」

 

 

 <嘘から出た実(リアリティ・ライアー)>の封印完了。

 

 

「あれ? あれれ!? 姿が………魔剣も………!?」

 

 能力の全てのリソースがその復唱に費やされたのか、魔剣も透明も解除され、魔物は散り散りに去る。

 

 こいつ、基本正直者だから嘘つきが本当になる

 嘘つきになったので、嘘つきと言ったのは嘘で本当になる。

 

 本当になると嘘つきと言ったことも嘘になるわけで………………まさに無限ループ。

 

 自己言及のパラドックスでwikiっといて。 嘘つきの攻略法だ。

 

 

「さーあて。てこずらせてくれたな坊ちゃん。煽って対話させんのマジ苦労したわ。」

「ちょ、ちょっとまって!」

「おしりぺんぺんしたるわボケ!!」

 

 

 

 まあ、とうぜんおしりだけじゃなくて顔面もグーでぺんぺんして妙子にプレゼントしてあげるんだけどね。

 

 

 

 

 

 





あとがき

次回予告
【ふーん、なんだかえっちにゃ】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は

評価をお願いします。(できれば星5はほしいよ)


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第22話☆由依ーふーん、なんだかえっちにゃ

 

 瓦礫の上でチェケらするヒップホッパーの佐久間太郎

 

 彼の尽力により、腹に風穴の開いたリビディアだが、このくらいでくたばるならば魔王んとこの幹部になんかなれるわけがない。

 

「やってくれたわね………予想外の強さ。マルよ。勇者たち」

 

 腹に散弾食らったのに生きている。

 そのタフネスが、魔人族たる由縁なのかもしれない。

 

 リザードマンの死体で溢れるこの吹雪の戦場で、地に降りたリビディアは

 

 リビディアは息を吸い、指を咥えた。

 また指笛で魔物を呼ぶつもりか! 私が魔力弾をぶん投げてやろうと左足を上げセットポジションで構えた瞬間

 

「させないにゃ! 田中がやっつけてやるにゃ!!」

 

 魔法少女マジカル☆タナカちゃんが魔法のステッキに跨がり、リビディアに接近。

 指をパチンと鳴らしてリビディアの存在自体を消滅させようとするものの

 

「あら、抵抗くらいするわよ。」

 

 足元のリザードマンの死体をタナカちゃんに投げつける。

 

「にゃ!? 」

 

 タナカちゃんが消滅させたのは、リザードマンの死体。

 パチンと鳴った瞬間には、タナカちゃん視界にはリザードマンしか映らず、マジカル☆タナカの邪眼で消したのはそのリザードマンが対象となってしまった。

 

「もう一度………!」

 

 ピィーーー!!!

 

 

 タナカちゃんがもう一度リビディアの存在を消そうとするも、リビディアの指笛の方が早く響いてしまった。

 

 吹雪で動けなくなっていたリザードマンたちが興奮して動き出す。

 

「もう一度やってもいいけど、この子たちがすぐに盾になってくれるわ」

 

「ぐぬぬにゃ!」

 

 と、タナカちゃんがぐぬぬ顔をしていると、私たちが落ちてきた迷宮の亀裂の方から

 

ーードォオオオオン!!

 

 と爆音が聞こえてきた。

 

「タツル………………!」

 

「向こうもそろそろ終わったかしら。」

 

「あなたの仲間がやられた音かもしれないよ。タツルは強いからね」

 

 爆発の衝撃か何かで降ってきた魔物たち。

 ゴブリン、オーク、オーガやウルフ。タツルもこれだけの相手を一人で対峙していたってこと?

 無茶するよ!

 

 降ってきた魔物たちは、落下の衝撃に耐えきれずに息絶えている者がほとんどだが、オーガの息が残っていた。

 キョーコの歌のバフも消え、吹雪いていた景色も元に戻る。

 言霊系の弱点としては、歌が終わってしまえば、そう長く効果が残る物でもないのだ。

 吹雪もリザードマンに意味をなさなくなった現在、私たちの動きにも支障が出るであろう

 

「勇者数人がかりで私にかかってきているくせに、若い子一人でジョンに勝てるとでも?」

 

「樹にゃんは負けないにゃ。確定事項にゃ。心配はこれっぽっちもしていないにゃ」

 

「その信頼、ハナマルね。それがいつまで持つか! 試してあげるわ! あなたたちの命で!」

 

 リビディアは、腹に空いた風穴から流れる血を掴み、空気中に散布する

 

「私のアビリティは<女王様の興奮作用(リビドー)>………人間も魔物も、私の放つ音、香り、視覚情報から興奮を得る。魔物なんかは、元気に働いてくれるわよ」

 

 血の香り、指笛の音に誘われて興奮した魔物が大行進する。

 理性を失った魔物はそれだけで厄介だ。

 血の香りを浴びたオーガが、ギギギ! と震えながら立ち上がる。

 頭に浮いた血管が、今にもはち切れそうだ。

 

「ふーん、なんだかえっちにゃ」

「ええ。そんなえっちに大興奮した魔物たちに、あなたたちは蹂躙されるの」

 

 グォオオオオオ!!!

 

 興奮したオーガが一匹、雄叫びをあげた。

 

「私を倒さないとこの興奮は消えないわ。そして、私自身に戦闘能力はほとんどない。でもね、私は五戒魔帝、邪淫のリビディア。伊達で幹部になっているわけではないわ!!」

 

 ピィイイイイ!!!

 

 さらなる指笛で軍勢を呼ぶ。

 

「迷宮第二層はジュエルタランチュラ。魔法耐性。物理も当然、ハナマルよ。」

 

 カサカサカサカサ!!!

 それは、直径1ミリから50cmまで様々な大きさの、クモの群れ。

 

「いやあああ!! ムシ! ムシィーーーー!!!」

「ああ、死ぬのよ、死ぬの、私。やってられないわ本当………」

 

 巨乳水泳部の岡野マスミちゃんは大の虫嫌い。

 というか、女の子は大体虫が嫌いだし、男の子だって虫が嫌いな人は嫌いだ。

 雨女の池田ミカちゃんはもう諦念してどんよりと頭上に雲が浮かんでいる。

 

「うぉおおおあああ!!? す、すまん雄大! 俺、足が8本以上ある生き物全部無理なんだ!」

 

 そんで、一番情けない声をあげているのが、チンピラ青信号。青葉徹。

 

「俺はカニもムカデも、ましてやクモなんて、直視さえできないんだよおお!!」

 

 ひぃいいい! と情けない声をあげながら赤信号の背に飛び乗る青信号

 

「邪魔だ! んなもん踏みつぶせばいいだろタコ!」

「タコなんていうなよ! 8本足の代表じゃないか! あんなの踏み潰した感触が残るなんて俺、耐えられねえよ!」

「くっそ面倒臭え!」

 

 情けない。私を含め、女子たちが冷めた目で青信号を見たが、まぁ、確かに好き好んで踏み潰したいとは思わないし、見たいとも思わないから、気持ちはわからんでもない。

 

 

「このジュエルタランチュラは、小さい隙間を通って、一層にも現れちゃうの。どこかにこの子たちにしか知らない隠し通路でもあるのかしら?」

 

「ひぃいいい!!!」

 

 なんか女子よりも怖がってるチンピラがいたけど、リビディアはそれを気にせず、身体中にクモを這わせていた。

 

「うふふ、傷を縫ってくれるの? やさしいわね。ハナマルあげちゃうわ。」

 

 

 それどころか、腹に空いた傷口に進入して、体内に残る散弾の摘出。及び傷口の縫合を行っていた。

 身体中を蹂躙される激痛のはずだが、眉を寄せて、それでも笑顔でクモをねぎらうリビディア。

 

 よくよく考えたらクモの糸って、タンパク性だから体内で分解されるのかな。

 だとしたらよくできたクモだ。ちょっと研究してみたいかも。

 

 

「魔獣の使役っていうのは、こうするのよ。そこの(さんかく)テイマーさん」

 

「なにおう! 私のもふもふ、二郎三郎(ジロウサブロウ)ちゃんだって負けてないんだから!! やっちゃって! 二郎三郎ちゃん!」

 

「ガオォオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 カナのリトルフェンリルが咆哮すると、その正面にいたクモたちがまさにクモの子を散らすように散開する。

 巻き込まれた小型中型のクモはその咆哮に巻き込まれて消め………ちょっとまって、そのリトルフェンリルの名前って二郎三郎なの!?

 

 ネーミングセンスすごいなそれ!!

 

  

 

 

 

 

 

 

 







あとがき


次回予告
【魔物を操る者の末路はだいたい同じ。】

お楽しみに


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第23話☆由依ー魔物を操る者の末路はだいたい同じ。

 リトルフェンリル、二郎三郎の咆哮でクモの子を散らすように散るクモたち。

 

 ………二郎三郎の咆哮で消滅したクモも多い。

 それに、このリトルフェンリルがほぼ一撃で確実にリザードマンたちの息の根を止めてくれるから、戦場に余裕ができる。

 

 勇者である光彦くんは、操者であるリビディアではなく、目覚めたオーガでもなく、リザードマンの対応に追われている。

 それは適材適所でもある。

 

 技、スキルの威力、範囲ともに優秀な光彦くんは、ボスと戦うよりも、大勢を相手取り殲滅していく方が向いている。

 さらには、なんだかんだで優しい彼に、ゴブリンとも違う、人の姿をして、人と言葉を交わせるリビディアを討つことは不可能だろう。

 

「グ、グギ、グギゴォオオオ!!!」

 

 五戒魔帝、邪淫のリビディアの能力(アビリティ)、<女王様の興奮作用(リビドー)

 彼女の血の匂い、音、視覚。味覚、触覚

 彼女の散布する魔力に触れると、魔獣が凶暴化して大興奮する。

 

 

 突如上から降ってきたこのツノの生えた赤い肌の巨大な鬼。オーガも。

 理性をなくし、凶暴化したも物なのだ。

 

「うぉおおお!! 四五六索(シゴロッソー)!!」

 

 そんなオーガに果敢にも挑まんとするのが、チンピラ赤信号。赤城雄大。

 背中に張り付いていた青信号はさっきどっかにぶん投げてたよ。あとはしらない。

 

 そんな彼は抜き手で素早くオーガの左右の脇腹を刺し、身長差のあるため、金的と鳩尾に抜き手をねじ込む。

 

「グギガァアア!!」

 

 振り払われた腕をバックステップでかわす赤信号。

 

四五六萬(シゴローマン)対子(トイツ)!!」

 

 そしてもう一度距離を詰める。今度は一撃一撃がすこし重い、左右掌打レバー打ちと両手突き。赤く光ったその掌打が、敵にクリティカルヒットを与えたのか

 

「ギゴォオオオ!!!」

 

 絶叫をあげながら赤信号に両の拳を振り下ろした!!

 

「がぁあああああ!!!!?」

 

 直撃! 腕をかち上げて潰されるのだけは防いだものの、オーガの膂力で振り下ろされる拳は物量の兵器だ。

 受けた腕はボロボロだし、爆心地の地面は完全に爆ぜている。

 

 ゴン、ゴロゴロ!! と転がる赤信号に私が駆け寄った

 

「平気!?」

「あぁ………邪魔すんな………!」

 

 頭から顔から腕から血を流しながら立ち上がるあんたにそんなこと言われても信じられるわけがないでしょうが

 

 

「【ヒール】。痛みは取れた?」

 

「………。あぁ、だいぶな。………助かる。」

 

 流石に傷つくクラスメイトを見ていられるわけがないので、聖女の回復魔法を唱えることに躊躇はない。

 素直にお礼を言われてことに面食らいつつ、完全に痛みが取れたわけじゃないことに、やはりかなりの重症だったかと息を漏らした。

 

「ちょっと雄大! 無事!?」

 

 私に少し遅れてギャルの内山ヒロミが寄ってきたので、私はリザードマンの殲滅に戻ることにした。

 内山ヒロミ。

 

 彼女のアビリティは<治療法士(セラピスト)

 ギャルでありながら、彼女の将来の夢は看護師さん。

 聖女である私の次に優秀な回復術師だ。まあ、つまり私がいなければ一番の治癒士だ。

 あとは彼女に任せておけば問題ないだろう。

 

 オーガは………。タエコちゃんが背中から手拭いで首を締めながら後ろに思い切り体重をかけている。

 足でオーガの背中を押し、全力で首を締めているのがわかる。

 オーガは苦しそうに手拭いを剥がそうと首に爪を立てているが………

 やることがえぐい。

 タエコちゃんって、本当にすごいな。

 

「【エクストラヒール】! これで大丈夫?」

 

 ヒロミの治療のおかげで完治した赤信号。

 

「おう。………すぐにいく。ありがとな、ヒロミ。」

「いいっていいって。行ってこい! 怪我したらまたアタシが直してやんよ。」

 

 バシッと背中を叩いて送り出す様は、まるで弟を見送る姉のよう。

 

 タエコちゃんとタメをはる面倒見の良さかもしれない。

 

「葉隠っち、この状況だ。セクハラとか言わないで欲しいっぜぃ!」

「言うわけがなかろう。佐之助! 全体重をかけるのじゃ!!」

 

 タエコちゃんがオーガに対して全体重をかけてオーガの体を後ろにそらそうとしていたところ、探知による空間把握で必要なところに現れたエロガッパの佐之助が、タエコちゃんの腰に飛びついて全体重をかける。

 

 

 

「御膳立てありがとよ。うぉおおお!!」

 

 赤信号は上体のそれたオーガの膝を踏み台にして拳を握り締めた

 

 

七筒(チーピン)対子(トイツ)!!」

 

 

 そして、渾身の左アッパーカットが炸裂。

 

 重心が後ろに傾いたオーガは、その勢いに抗いきれず、仰向けに倒れる。

 

 タエコちゃんと佐之助がすかさずその場から離れ、リザードマンの討伐とジュエルタランチュラの討伐に移る。

 

 赤信号はというと………

 

四五筒(スーウーピン)

 

 倒れたオーガの右脇腹と、顎と心臓を拳で撃ち抜く赤信号。

 

「はぁ、はぁ、まだ………こんなんじゃくたばんねえだろ。いーもんくれてやるよ………!」

 

 肩で息をした彼が、オーガから離れると、両の拳をガン! と打ち付け

 

立ーー直(リーーーチ)!!」

 

 

 と宣言すると、青いオーラを全身に纏った。スキだらけのその行動になんの意味があるのかはわからない。

 わからないが、今、あの赤信号に力が満ちているのはわかる。

 

 

「グギ、グギゴゴォオオオ!!」

 

 その隙だらけの行動の間に、オーガは今までの痛みなど、なかったかのように立ち上がる。

 あれだけやっても全然効いていない。

 

 だが、オーガが立ち上がっている間に赤信号も準備を整えていた。

 

 その立ち上る青いオーラに、先ほどまでの戦闘のダメージなどなかったかのように立ち上がったにもかかわらず、オーガが青いオーラに動揺しているのだ

 赤信号に対し、なんとも言えない恐怖を覚えたオーガが、身を翻して逃亡しようとする。

 

 矮小な人間に何故怯えているのかわからないオーガに、赤城が静かに告げる。

 

「ツモ。」

 

 踏み込んだ赤城の左の鉤突きがズドム! と突き刺さる たしか、左の鉤突きは六筒(ローピン)だったっけ。

 

「イッパァアアアアツ!!」

 

 

 その鉤突きを振り抜き、叫んだ。

 

「<立直(メン)断么中(タン)平和(ピン)三色同順(サンショク)ー盃口(イーペーコー)一発(イッパツ)自摸(ツモ)> 赤ドラ一………9飜、倍満(バイマン)だ。喰らっとけ。」

 

 

 バムッ!! ともバチュッ!! ともつかない音を残し、オーガの身体が爆散した。

 

 いや、オーガだけではなく、周囲にいたリザードマンやジュエルタランチュラまでも粉々に粉砕されていくではないか

 

「おー、雄大のそれ、すげーな。ツモったら周囲の敵も爆散かよ」

「ああ………佐藤と葉隠、あとヒロミの助けがなかったら死んでただろうけどな」

 

 チンピラ信号機3人が集まり出した。カラフルで目がチカチカする。

 黄信号、黄島徹の質問に、こちらへの感謝を伝える赤信号。

 

「カウンターでロン。自らぶっ殺しに行きゃツモだっけ、ピーキーすぎんぜ。」

「くそしんどい。ってかてめよくも俺をクモの盾にしやがったな」

「ごめんって。マジで8本足無理なんだから!」

 

 ドゲシと青信号の尻に蹴りを入れる赤信号。怯えてただけだもんな。

 火力のある赤信号を主軸にヒットアンドアウェイできるように信号機共で調整しとけばいいのに。

 

 

「さて、あとはテメーだよ、素敵乙女(くそやろう)。お高く止まってんじゃねーぞ。」

 

 中指立てる赤信号の活躍により、敵が一掃された

 

 

 自分の周囲に侍らせたリザードマンやジュエルタランチュラを除く全ての魔物を一掃したのだ。

 

 

「すごいわねあなた。ほとんど一人で私が興奮させたオーガを倒しちゃうなんて! ハナマルあげるわ」

 

「あー? いらねーよ。自分の心配しやがれ」

 

「ふふっ、自分の心配? たかが新米勇者に遅れなんかとるわけがないじゃない。」

 

 不適に笑うリビディア。

 

「なにいって………っ! なんだ、胸が熱い………!」

 

「ふふっ、最初に言ったでしょ。私の能力は、魔獣や人間を、興奮させるって。心臓が痛いくらいに早く動くでしょう? 目の前が真っ赤になって、暴れ出したくなるでしょう? 女の子に、襲いかかりたくなっちゃうでしょう? いいのよ、素直になっても。人間の本能だもの。私の血の匂い。指笛の音。ずーっと浴び続けていたんだもの。戦闘の興奮とごちゃごちゃになってても、ちゃーんと効いてくるものよ」

 

 

 

 ドッ と膝をつく赤信号。心臓を抑えて苦しそうだ。

 同時に、複数で膝をつく音が聞こえる。

 

 騎士団長のダンさんまでも、胸を抑えて苦しんでいる。

 

 幹部の名に恥じない、その外道の能力。

 魔獣を興奮させ、下僕にして操るだけじゃない。

 敵である人間にもその作用はあり、同士討ちなどを誘う。

 

 本人の戦闘力はいまいちでも、その能力はやはり凄まじい。

 

「ヒロミ! ユカリコ! 浄化と聖域出して!!!」

 

 私は、リビディアが指笛と共に放つ魔力を己が纏う魔力で弾いていたため、その効果は受けていない。

 

「わかったわ! <精霊(エレメント)聖域(サンクチュアリ)>!」

「みんな………【浄化(ピュリフィケーション)】」

 

 

 比較的魔力やスキルに対する防御力の高いヒーラー系のアビリティであるヒロミに一帯を浄化してもらい、ユカリコの精霊の結界で守ってもらえればすぐに前線復帰できるはずだ。

 

 俊平ちゃんは………? よかった。ユカリコのそばにいる。問題なさそうだ

 

「新米じゃなければ、いいんだね。」

 

 私はそう言って、リビディアに距離を詰めた。

 

 もう、キョーコもタロウも燃料切れだ。

 言霊系の異能は力を多く使う。

 

 乱発はできない。100を超える魔物との連続戦闘に、みんなの疲弊も限界を超えている。

 

「なに? あなた。何もしてないくせに粋がるのはバツよ。」

 

「観察していたって言って欲しいかなー。ま、イキってるのは否定しないけどね。理由は説明しないけど。」

 

「………。」

 

「私はね。私じゃなくて、主人公が幸せになる物語を見るが好きなの。」

 

「何言っているの? 理解不能はバツよ。」

 

 近衛として残っていたリザードマンが爪を振り回してくるが、剣を抜いた私はリザードマンの首を刎ねる。

 

 これでも<剣士>のアビリティを持っているからね。リザードマン程度ならサクサクだよ。

 

「理解してもらおうなんて思っていないよ。ただ、みんなの幸せのためにはあなたみたいなのが邪魔なの。【ホーリーチェーンバインド】」

 

 

 リビディアの手を掴み、魔法を発動する。

 彼女の手足に聖なる鎖を絡ませる。

 

「な!? 早っ」

 

 

 レベルのゴリ押しなんて好みじゃないんだけどさ。茶番に付き合うのもうんざりなわけ。

 とはいえ、敵も魔王様直属の幹部。

 夢でレベルのドーピングをしている私と、同程度のステータスは保有しているのだろう。

 

 

「あなた、私の能力が効いてないの!?」

 

「デバフに対する対策はバッチリだよ。指笛と一緒に魔力を飛ばしているから、それを弾けばいいだけ。」

 

「なら直接触れれば問題ないわ。さっき私に触った時に」

 

「【浄化(ピュリフィケーション)】」

 

 私は全身を浄化する。

 

「なぁ!?」

 

 曲がりなりにも聖女だもの。

 夢幻牢獄で手に入れた聖女のアビリティ。

 そして、夢のパワーレベリングの効果もあって、大抵の攻撃は食らわない。

 

 相手がデバフ特化だからこそ、私には相性のいい相手なんだよね。

 

「指笛は吹かせないよ。魔物なんて呼ばれても困るし」

 

「くっ!」

 

 手足を鎖で縛ってあるので、指笛は吹かせられない。

 私は剣を彼女の首に添えて

 

「質問に答えて欲しいのだけど、あなたたち魔人は、どうしてこの地を侵略してくるの?」

 

「あ、あら。土地を奪うのに理由が必要かしら」

「そ。ならもういいよ。」

 

 

 土地を奪うのに理由があるのならそれを知りたいが、理由もなく暴れるのこ戦闘種族にはもはや意味がない。

 

「さよなら」

 

 剣を振りかぶり、リビディアの頸に剣を振り下ろす!

 

 ーーガギン! と、宝石のような体から8本の手足が生えているクモの魔物、ジュエルタランチュラ。

 彼がその宝石のような腹で私の剣を受け止めた。

 

 50cmはある大物のタランチュラだ。

 

 クモの中でも、タランチュラはたしか、糸を張って罠を作るのではなく、待ち伏せを得意とする虫の世界のハンターだ。

 

 その宝石のような見た目から、勘違いをした人間を捕食するための擬態なのだろう。

 

 そして、いわゆるスパイダーとの違いとして、タランチュラ系はお尻からではなく、足の先から糸を出す。

 

 待ちのハンターであることから、糸を伝った振動で獲物を感知して、瞬発力で獲物を捕らえにくる。

 つまり、クモというのは、素早いんだよ。

 

「ふっふふ、私は五戒魔帝。そんな簡単に死んでやるものですか! そんなの美しくない、バッテンよ! ガァアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 やはり魔王直属の幹部というのは伊達ではなく、私でも倒すのに苦労するレベル。

 大量の魔物には足を止められるし、本人の魔物を使役する能力も高い。

 

「自らに興奮作用を!? よくやるなぁ………。そして、まあよくあるなぁ!」

 

 私の聖なる鎖を引きちぎって大絶叫するリビディア

 

 

 その絶叫にも、当然魔物を興奮させる効果もあるわけで………

 

 

「第三階層、クリスタルモンキー。第五階層、リトルドラゴン、第十階層守護者、漆黒竜(ブラック・ドラゴン)

 

ーーードドドドド!!!

 

 と、地響きが続いてくる

 

 

「ねえ、魔族領土出身の私たちが、どうしてこの国にきたと思う? どうして、迷宮に誘ったと思う? どうして、この迷宮の名前がジラトール大迷宮なんだと思う?」

 

 迷宮の名前?

 

 人間の住う、ジラーダ大陸、そして魔人の住うトール大陸。そういうことね。

 

「この迷宮は通り道。あなたたち人間族の住うこの地を魔人の領土に変えるためのね! ここにくる間、ずいぶんと手懐けてきたわ。」

 

 

 つまり、もう魔人の侵攻は始まっているってことね。

 

 

 バゴォオオオオン!!! と、地面が爆ぜる。

 巻き込まれたクラスメイトたちはいないみたいだが、その穴は深く、その穴からジュエルタランチュラやリザードマンが蠢いているのがわかる。

 

 それだけではない。ムカデのような魔物や蜥蜴のような魔物。バッタのような魔物もいる。

 

 バサバサとその穴から翼を広げて現れたのが、漆黒の体を持つ竜。

 それが興奮した紅い瞳でこちらを睨み付けていた。

 

「うふふ、階層をぶち抜くブレス。漆黒竜(ブラックドラゴン)のおでましよ。満身創痍の勇者たちに、相手ができるかしら?」

 

 なんて、余裕ぶっていたリビディアだが

 

 

 漆黒竜(ブラックドラゴン)がリビディアを視認した瞬間、漆黒竜(ブラックドラゴン)がブレスを放った。

 

「っ!? <聖域(サンクチュアリ)>」

「っ!! 魔力障壁!」

 

 突然の攻撃に晒され、私はスキルで自分の身を守る聖域を展開するも、あまりの威力に私の聖域はあっさりと弾け飛び、後方の壁に激突する。

 ガラガラと崩れ落ちる瓦礫に埋もれてしまった

 

「佐藤!!」

「由依にゃん!!」

 

 みんなの叫ぶ声が聞こえる。

 マジかぁ、この竜、今の私より強い………。

 みんな、逃げて………

 

 かすれる意識で瓦礫の隙間から見える景色には

 私のような結界を展開しきれなかったリビディアが、そのブレスに巻き込まれ、焼け焦げながら吹き飛ばされる姿が映る

 

 身の丈に合わない魔物を操ろうとした奴の末路だった。

 

 興奮作用の能力で、漆黒竜(ブラックドラゴン)の怒りを買っていたのだろう。

 魔物全てを操れるわけではないらしい。

 

「ぐ、ぅ………【継続回復(リジェネレーション)】………」

 

 

 せめてもの抵抗で、私は意識を失う寸前に、自分に継続回復魔法をかけたーーー

 

 

 

 

 





あとがき


【挿絵表示】


自分で描いてみた田中。
 学生時代、美術の成績マジで1だったのに、無意味に1日1枚模写続けたら、一月である程度できるようになるもんだな。
 ちなみにワシ、靴の書き方と服の書き方、指と足の描き方全然わからん。

次回予告
【 ◆◆◆ 】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は

評価をお願いします。(できれば星5はほしいよ)

こんなヘタクソな絵でも田中ちゃんが可愛いと思ってくださった変態は『田中ちゃんかわ〜』とコメントを。

自分の方が上手く描けるわヘタクソ。と思ってくださった方はFAをお願いします。


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第24話 ◆◆◆

 

 

「撤退だ!! みんな、全力で撤退しろ!!! あれはまだお前らが全力で戦っても敵う相手じゃない!!」 

 

 みんなをまとめてきた騎士団長のダンが声を張り上げて全員に伝わるように叫ぶ。

 自分を散々苦しめた魔王の幹部を一瞬で吹き飛ばした『それ』は咆哮をあげて彼らを睨んだ。

 

 

「にゃ! うにゃにゃ!!」

 

 コスプレ衣装の魔法のステッキに跨った田中は、しきりに指を鳴らして魔法少女の能力でその存在を消そうとしていたが、田中に対して、その存在の格が桁違いだったのか、消滅させる能力が発揮していない。

 

「タナカ! できないことを無理にしようとするな!! 飛べるお前は上に行って 上からロープをたらせ!!」

 

「っ〜〜〜〜〜〜!!! わかったにゃ!!! 消吾にゃん!! 田中の後ろに乗るにゃ!!」

「ああ!」

 

「優子はしたから迷宮の外に木を伸ばせ!!」

 

 脱出を最優先とするならば、物資の運搬のために、そしていざという時のためにロープを準備している消吾。

 ステッキの後ろに跨った消吾が田中の腹に腕を回すと、一気に迷宮の亀裂の上まで飛んだ。

 

 園芸好きの裏番長、花咲萌は、地面に手をつき、タネを植えると、その木が急速に成長し始める。

 

「真澄、美香、加奈、ヒロミ、美緒、木につかまって!! 上まで送るわ!!」

 

 成長する木だが、その上へのスピードは田中の上昇スピードに比べれば微々たるもの。

 だが、確実に複数人を上へと逃れることができる。

 

(はやくはやくはやく!!! 由依にゃんも心配にゃ! 樹にゃんにもはやく知らせないとにゃ!)

 

 焦りながらも迅速に、消吾を上まで運ぶ田中。

 

 

「ついたにゃ!! ってなんにゃこれ!?」

「うわ、どうなってんだここ!」

 

 消吾と田中が見た光景は、魔物たちが死屍累々している様。

 

 上から落ちてきた魔物は、ここから落ちてきたのだと田中にはすぐにわかった。

 まだ動いている魔物も居る。

 

 地下の迷宮から抜けたからと言って、地上も安全とは言い難かった。

 

 

「樹にゃん! 樹にゃん! どこにゃ!! 消吾にゃんはロープをありったけ出しておくにゃん! 田中は樹にゃんを探すにゃ!」

 

「おう、まかせろ!! <次元収納(アイテムボックス)>」

 

 消吾は異空間に仕舞っていたロープを出し、厳重に木にくくりつける。

 

 

「樹にゃん!!! どこにゃ!!」

「こっち」

「そこにゃ!!」

 

 

 田中が声の聞こえた方に全力で向かうと

 

「にゃにゃ!!? そいつは誰にゃ!?」

 

「幹部の妄語のデリュージョン。わりとガチ目に強かったけど、どうにかなったぞ。」

 

 バチーン!!

 

 田中が見たものは、尻を剥き出しにされ、真っ赤に腫れ上がった女の子のお尻

 膝の上に女の子のお腹を乗せて、思い切り引っ叩いていた。

 顔面はボコボコに腫れ上がって原型の止めていない泣き腫らした顔。

 

「ごべ、ごべんなざ………」

 

 バチーン!!!

 

「びゃぐぅうう!!!! 」

 

 泣きながらボロボロの顔で謝る褐色の魔人。

 

「生きて帰さんっつったろ。あやまったら許されると思うなよ。俺たちを殺そうとしたんだ。お前らは殺されても文句を言う資格はない。」

 

「<ボクは、………まおうじょう、に、いる>」

 

「もう能力は使えねーよ。ループした指令を自分で出してしまってるんだからな」

 

「ん、なん………ぐぞ、ぐぞぅ!!」

 

 泣きじゃくる魔人と、ゴミでも見るような目でそれを見下ろし、尻を叩く樹に、田中はドン引きだった。

 

「田中、急ぎの用事ならすぐにいくが」

「急ぎにゃ」

「わかった」

 

 樹は、魔人の首に腕を回し、首を絞めた。

 

「ぐぎゅぅうう!!!」

 

 

 と、苦しそうに呻き声をあげると、パタリと動かなくなる。

 

「殺したのかにゃ?」

「いや、気を失わせただけだ。」

 

「女の子にも容赦ないにゃ」

「おう。まさか俺もボクっ娘だとはおもわんかったけど、容赦して死ぬような状況で余裕ぶっこいてらんないからな。顔には出さんけど。」

「ふーん、ボクっ娘のお尻をぺんぺんして興奮したかにゃ?」

 

 

 との田中の質問に対し、樹は目を細めて親指と人差し指の間に少しだけ隙間を開けて見せた

 

「樹にゃんはえっちにゃ! 田中はそんな樹にゃんが嫌いじゃないにゃ!」

 

  両手で樹を指差す田中

 

「えっちだよ。みんなの状況は?」

 

 そんな風に答えながら、樹は田中のステッキに捕まると、田中は森のなかで宙を翔ける。

 一応、デリュージョンの首根っこも掴んで一緒に連れて行ってやる。

 

「最悪にゃ。魔人が呼んだドラゴンにぶっ飛ばされた由依にゃんと、それから逃げるために、空飛べる田中がみんなを引っ張り上げるために先行してロープを準備しているところにゃ」

 

「そりゃあ助かるな。由依は………。うん。多分生きてる。幼なじみの勘だが、死ぬとは考えづらい。」

 

「由依にゃんへの信頼度がすごいにゃ」

 

「まぁ、死ぬほど心配なのは変わりないが、ここで慌てて騒いでも何にもならん。頭使って次を考えるだけだ。」

 

「その考え方、田中は好きにゃん」

 

「最悪ロープ取りに俺だけ一時撤退を覚悟したくらいだぞ。いろいろ想定しないといけないからな」

 

「樹にゃんの覚えている魔法でどうにかならんかにゃ?」

 

「………土魔法使えるやつが壁から土を出しながら歩けば階段みたいにできるかも? 迷宮の壁に使えるかはしらんが、【通魔活性】できない奴が詠唱の破棄もできないだろうし難しいか。一段作るのに20秒もかけてたら日が暮れちまう」

 

と樹が思ったところで

 

 

ーーードゴォオオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

と、樹の水素と酸素の結合による爆発の比じゃない爆音が響いた

 

 

「おい、今のまさか!」

 

「俊平にゃんの自爆にゃ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 赤城雄大。チンピラ信号機とも一部で呼ばれる不良のリーダー。

 意外なことに、彼は数学のテストでは学年1位をとっている。

 

 自頭は良い方なのだ。

 

 経験と統計と書物による確率論を自分で調べ、麻雀における次に何を切るを地道に計算した結果である。

 そのおかげか、麻雀の点数計算を、点数早見表を使うことなくすぐに答えることもできる。

 

 ネット麻雀の段位も、中学生にして7段と、まぁそこそこに強い方だった。

 

 リスクをとってリターンを得るならば、彼は期待値を計算の上で、物事を実行する。

 

 100%の確率で現状維持と言う選択肢と

 30%死ぬが、70%で打開できるかもしれないのならば、間違いなく彼は後者を選ぶ。

 

 彼の頭が導き出した答えは、田中が上からロープを垂らし、それをひとりひとり登って脱出するよりも、『それ』に全滅させられる方が確実に早い。

 という計算結果。

 

 先ほど『それ』に吹き飛ばされた佐藤由依が生きているか死んでいるかもわからない現状。

 もはや全員無事で切り抜けることは不可能だと結論づけた。

 

 できるだけ多くのクラスメイトたちの命を助けるためには、誰かの命を犠牲にしなければならない、という鬼畜の選択肢。

 

 自分はこれから、全員の罵倒を一身に受けるだろう。

 勇者として、いや、人としての尊厳などない。

 悪魔の所業を行う。

 

 だが、切れるカードは限られている中、そのジョーカーの切り時を見誤ってはいけない。

 

 彼は、己の心に蓋をして、小動物のように小さく震えるそれを組み伏せた。

 そんな選択肢しか選べなかった自分の弱さを恥じながら。

 

 

 

「いやだ! やだやだやだ!! 死にたくない!! 誰か、誰か助けてよ!!」

 

 幼い少年の声が迷宮の奥から響く。

 少年は後ろ手に腕を組まされ、地面にうつ伏せに倒れながらも必死な抵抗を示していた

 

 

「ッるっせんだよお荷物野郎!! 助かりたいのはみんな同じなんだよ!! テメェだけが特別だなんて思うなよ! 黙ってテメェはテメェの役目を果たせボゲ!! <(トン)対子(トイツ)>!」

 

 

「あぐぅっ!! ゲホッ、ゴボッ」

 

 そして、何かを蹴りつける音と、血の混じった湿った咳と苦痛の声。

 蹴った拍子に内蔵を傷つけたのか、はたまた肋骨が折れたのか

 

 それとも両方なのか。

 

 だが、その苦痛の声も、周囲の恐怖にまみれた絶叫に紛れて誰にも届かない

 

 

「<|南(ナン)・刻子(コーツ)>! ぉらああぃッ!!」

 

 ズドム!

 

「ッがぁああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 さらに蹴りつけられ、絶叫と血をまき散らしながら、幼い少年はボールのように奥に吹き飛んで行った。

 圧倒的なステータスの差であった。

 幼い少年では、どうあがいてもその蹴りを防ぐことはできないのだから。

 

 迷宮の地面を何度もバウンドし、少年は『ナニカ(・・・)』にぶつかって静止する

 

「やめてぇ―――!! 俊平君をいじめないで!!」

 

「もうおっせーんだよ縁子! お前も死にたくなかったらさっさと逃げるか<精霊聖域(エレメントサンクチュアリ)>の発動をしやがれ! チッ! そっちに行くんじゃねェ! 死ぬぞ!!」

 

 縁子と呼ばれた少女が俊平という先ほどの蹴り飛ばされた少年の方に走り出そうとしたのを、とっさに縁子の襟首を掴んで引き留める

 襟首を掴む少年を恨みがましく睨みつける縁子

 

 

「でもっでも! 俊平くんが! 赤城くん、なんであんなことを! あぁ、ぁぁ………いや、いやぁああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 地面に泣き崩れる。

 その視線の先にあるのは、俊平が蹴り飛ばされた拍子にぶつかった『ナニカ(・・・)』―――

 

―――『漆黒竜(ブラックドラゴン)』がその大きな(アギト)でボロボロになった俊平を丸のみしようと口を開けていたからだ

 

 

「うわああああ!! 助けてくれええ―――!!」

「きゃー! どいて! 逃げられないじゃない!!」

 

 しかし、縁子の悲鳴も、周囲でも同じような絶叫を上げている少年少女の喧騒にかき消される

 

 

 大きな咢に咥えられる寸前。

 

「くくく食われて、たたまるか………っ! ぅああああああああああああああ!!!」

 

 俊平は痛む身体にさらに鞭を打ち、血を吐きながら地面を転がってなんとかやり過ごす

 

 しかし、それでも、俊平は己の死期を悟っていた

 

 

(………さっきので肋骨が折れて肺に刺さったかも………内臓も、もうダメだろうなぁ)

 

 自分の命はもう長くない。意識も遠のいてきて、なんだか眠たくなってきている。

 なんでこんなことを、と赤城を睨むが、その瞳が苦痛に満ちていたこと悟り、彼を恨みきれなくなった。

 

 俊平は優しい子だ。

 赤城雄大にパシリにされても、俊平は彼のことを名前で呼んでいた。

 というか、クラスメイトみんなを名前で呼ぶ。(田中は除く)

 それは自分が名前で呼ばれたら嬉しいから。

 

 クラスメイトたちがみんな名前で呼び合うようになったのは、俊平がみんなのことを名前で呼ぶからだ。

 こんな小さな子にできて自分たちにできないわけがない、と。俊平と同じようにほとんどのクラスメイトを名前で呼び合うようになった。

 

 クラスメイトたちの結束を強めてくれるのは、なんだかんだで俊平の心配りなのだから。

 

 俊平は赤城のことを雄大くんと呼ぶ。

 しかし、別に友達というわけではない。パシリにはされても、彼のことが嫌い、というわけではなかった。

 

 そんな彼が俊平を死に導こうとしているのをみても、優しい俊平は瞳の奥のその意図を読み取り、やはり嫌いになりきれない。彼が苦渋の決断をしたことがわかってしまったから。

 

 それに、もしこの怪我で命を落とさなかったとしても、漆黒竜(ブラックドラゴン)から逃げおおせられることなど、最弱の俊平ができるはずがなかった

 

「ゆかり、こ………よく、聞いて」

 

 

 俊平は紙風船から空気が漏れるようなかすれた声で、縁子を呼ぶ

 

「なに、なに!? 俊平くん! 死なないで、いやだよ! 早くこっちにきてよぉ!!」

 

 俊平の声を聞いて顔を上げる縁子。

 求めるように俊平の下に駆け寄ろうとするのを、赤城と呼ばれた少年が羽交い絞めにして止める

 

「僕は、もうダメだ。ここから生きて地上に戻れるとは思えない………」

 

「そんなことないよ! わたしが! わたしが俊平君を治すから! だからっ! 早くこっちに来てよぉ!!」

 

 縁子の持つアビリティは<精霊術師>

 火、水、風、土、雷、氷、光、闇属性の精霊を操り、精霊結界を張ったり、仲間に属性の加護を掛け、ステータス上昇させたり、攻撃、防御、支援のすべてに優れたアビリティだ。

 たしかに、縁子ならば光属性の精霊や水属性の精霊の回復魔法を唱えれば今負っている俊平の怪我も治せるだろう。

 だが―――

 

「団長の、ダンさんには、お世話になったって、伝えておいて………」

 

 ズルズルと身体を引きずって、少しでも漆黒竜(ブラックドラゴン)から距離を取ろうとする俊平だが、どういうわけか、前に進めない。

 それもそのはず、漆黒竜(ブラックドラゴン)が俊平の身体を足で押さえているのだ

 

 つまり、縁子が回復魔法を唱えられる射程に、俊平は居ないのだ。

 

「イルシオと………ネマにも、僕と仲良くしてくれて、ありがとうって、兄妹………ゴホッ……ッ仲良く………するんだよって………」

 

「いやだいやだ! いやぁ! そんな最後の言葉みたいなのなんか聞きたくないよぉ!!」

 

「僕が………最後にみんなを、守る………から。うぐっ ぅあああああああああああ!!」

 

 突如足に走る激痛。

 視線を向ければ、漆黒竜(ブラックドラゴン)は俊平の枝のように細い右足を腕で踏み潰し、勢い余ってその細い足を切断していた

 

「いや、いや! いやぁあああああああああああああああ!!!!!」

 

 吹き出す鮮血。迷宮内を紅く彩るそれは致死量の出血だと物語っていた

 縁子の悲鳴と周囲の悲鳴が大きくなる

 

『緑川―――!!』

『俊平――! うそだろぉ!!』

 

 地面に押さえつけられていた俊平が漆黒竜につまむように持ち上げられ、その口の中に放り投げられる。

 口の中で弄ばれているのをクラスメイト達も視認しているのだ

 

「いぎぃいいあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 牙が食い込み、足を潰され、肺も機能しない。

 この世の終わりを悟らせる絶叫が漆黒竜(ブラックドラゴン)の口内に囚われた俊平から放たれる。

 

 漆黒竜(ブラックドラゴン)に対して大きな火球や氷弾、はたまた風の弾までもが殺到するも、まるで効果をなした様子を見せない

 

 

「ぐぅ、ぅあぁ………つよく………いきて」

 

 

 ボロボロと涙を零しながら、俊平はそう言い残し、漆黒竜(ブラックドラゴン)はそれをあざ笑うかのように、俊平を丸ごと飲み込んだ。

 

 

「俊平くん!! いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 縁子も、涙と鼻水を飛ばしながらなりふり構わず漆黒竜(ブラックドラゴン)に駆け寄ろうとするが、それを赤城が縁子の首筋に手刀を打ち込み、気絶させることで押しとどめた

 

「チッ! 」

 

 赤城は舌打ちをしながら気絶した縁子を肩にかつぐと、漆黒竜(ブラックドラゴン)に背を向けて走り出す

 

「きゃああああああああああああああああ!!!」

「俊平が食われたぞ!! はやく、早く後退しろ!! あいつが来る!!」

「俊平っ………く、嘆いている暇はないぞい! 結界の魔法が使える奴は魔力を全部使ってでもあヤツを止るのじゃ!!」

「くそぉ!! 俺達もいずれああなるんだ! もう嫌だ! 地球に返してくれ!! もうたくさんだ!!」

 

 

 周囲では、クラスメイトの死というものをありありと見せつけられ、恐慌状態に陥ったことにより、生徒会長らの奮闘もむなしく漆黒竜(ブラックドラゴン)からの避難が完了しそうになかった

 

 

「よくも緑川を! 大事なクラスメイトを! 決して許さんぞ!! <リミッター解除> <縮地> <破斬>!!」

 

 

 <聖剣使い>のアビリティを持つ生徒会長、虹色光彦の渾身の一撃が漆黒竜(ブラックドラゴン)を襲い、漆黒竜(ブラックドラゴン)はその攻撃に怯み、鮮血が舞う。さすがは勇者と言ったところだろう、多少の効果はあったようだ。

 

 だが、それでも時間稼ぎとしては不十分だったようで、生徒たちのほとんどがまだ漆黒竜(ブラックドラゴン)の視界の外に逃げ出すには至らなかった。

 

 充分な成果を得られないことに歯噛みする光彦

 

 

 そんなときである。

 突如、漆黒竜(ブラックドラゴン)の腹が赤く光り出したのだ!

 

「これは………まさか緑川の! 全員、結界を張れ!! 全力でだ!!」

 

 生徒会長の叫びに呼応するように、生徒たちが一斉に結界を張ると、漆黒竜(ブラックドラゴン)は、赤く光る腹から急激に膨れはじめる

 

 

『グルル………GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 

 

 なぜか胸を掻き毟りながらもがき苦しむ漆黒竜(ブラックドラゴン)

 だが、無慈悲にも、その腹の中から大爆発が起きる。

 

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

 

 という爆音が鼓膜を激しく揺らす

 

 爆心地に居た漆黒竜(ブラックドラゴン)の身体は、当然のごとく爆発四散した

 

 爆発の衝撃は、みんなで張った結界をたやすく打ち破り、その衝撃を受けた者たちは例外なく、抗うこともできずにあっさりと吹き飛ばされた

 

 

「ぐうっ………なんて威力だ………コレが緑川の………」

 

 地面に伏せて爆風と爆炎をやり過ごそうとした光彦は、想像を絶する威力の大爆発に思わず息をのむ。

 迷宮の天井は崩壊し、青空が姿を表す。

 

 爆発の影響で、光彦自身も数十メートルほど後ろに流されていたのだ。

 爆風が吹き荒れる中。びちゃり、と光彦のすぐ近くに小さな何かが落ちた。

 

 

「………? なんだ………うっ!?」

 

 落ちてきたそれは、とある生徒の右腕だった。

 くしくもそれは、この世界に来るつい数分前に、クラスメイトでじゃれあって取り合った生徒の体の一部。

 

 その小さな右腕には、焼けて溶けた、キャラクターの腕時計が張りついており、つい数ヶ月前に、彼が縁子に自慢していた物と同種のものであった。

 

 緑川俊平(みどりかわしゅんぺい)

 すべてのステータスで最弱を誇る彼のアビリティは<自爆(ディシンテグレイト)

 

 自らの身体を犠牲にし、相手を確実に屠る一度限りのアビリティである。

 

 その時計は15時25分を指したまま、もう二度と動くことは無かった

 







あとがき



みんなは、どんな物語を見るのが好きかな?
主人公が俺TUEEEするやつ?
歯を食いしばりながら頑張るやつ?

俺はね、主人公がボロボロのゴミクズになった上で泣きっ面踏んだり蹴ったり蜂だったりして地獄に突き落とされる絶望の物語が大好物なんだ。

みんなも好きでしょ? そういうの。
だからこそ、追放系なんてものが流行るのだから。

頂き物の田中


【挿絵表示】


ワイの絵って完全に下位互換やんけ! 
ハラチラ素敵やしアホ毛キュートやしなんなん! こんなん大好きになってまうやろ!

次回予告
【 ■■■ 】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は

☆☆☆☆☆ → ★★★★☆(謙虚かよ)をお願いします。(できれば星5ほしいよ)


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第25話 ■■■

 

 

 俊平を飲み込んだ漆黒竜(ブラックドラゴン)だが、飲み込まれた俊平によるアビリティ<自爆(ディシンテグレイト)>により、内部から爆発。

 

 その威力は凄まじく、漆黒竜(ブラックドラゴン)の爆散だけには止まらず、迷宮の壁、地面をも巻き込んで崩壊した。

 

「緑川………」

 

 運良く、光彦の近くに落ちてきたその腕を拾い上げる。

 つい先ほどまで生きていた学友。

 

 腕を拾い上げても、その死に実感が沸かない。

 

「ぅおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 ズズン!! と、両の拳を地面に叩きつけるのは、光彦の幼なじみである、松擦(リキ)

 

 

 無口な彼が、涙を流し、叫びながら地面を叩いている。

 

 彼が地に伏しながら睨み付けるのは

 

「………………………!!!!」

 

 肩に縁子をかついでその場からの離脱を試みていた、赤城雄大。

 

 

「あん? ぐべぇあ!!?」

 

 その巨体で、その膂力で、思い切り殴りつけた。

 

「おい、何やってんだよリキ!!」

 

「………! ………!!」

 

 ふーっ、ふーっ! と荒い息を漏らす力。

 雄大が振り落としてしまった縁子を、早風瞬がスライディングで滑り込み抱きとめる。

 

「あ? こいつが俊平を………? マジかよ、最低だな、雄大。」

「けっ、なんとでも言え。全員無事で切り抜けようなんて、虫のいい話だったんだ。」

「だからって、てめぇ、俊平を!!」

「切れるカードを切れる時に切る。それが今回、チビ介だったってだけだ。」

「………っ!!!!」

 

 ドガン!! と、再び雄大を殴るリキ。

 

「………。ゴホッ! 気ぃ済むまで殴ればいいだろ。抵抗はしねえ。田中の異能も効かず、あのクソ野郎と、佐藤を一撃でぶっ飛ばした相手だぞ。俺が役満ぶち当てても勝てる保証はなかった。」

 

「だからと言って、味方を犠牲にするのか!」

 

 そう叫んだのは、光彦であった。

 

 彼の手の中にある、小さな腕を見つけた雄大は、目を逸らす。

 

「これが、君がやった結果だ。君が望んだことだ。満足かい?」

「………うるせぇ」

 

 

 しゅるる、と、遠くの方で上からロープが落ちてきた。

 複数のロープを本結びで固定した、極長のロープだ。

 

「この大穴だ。あんだけのロープを上からたらすのに、こんだけ時間がかかるんだ。あのドラゴンの攻撃を、ずっと防いで、無傷で帰還できると、本気で思っているのかよ?」

「それは………。」

「あのブレスは防げるのか? 爪は、牙は?」

「………。」

「俺は、それを天秤にかけた。チビ介の能力なら、時間を稼げるかもしれない。そう思ったからな。俺がやったことは、許されるとは思っていない。………。悪者は、俺一人でいい。」

 

「………俺は、赤城、君を許せない。」

「そうかよ。勝手にしろ。」

「おい! 喧嘩なんかしてる暇はないぞ! 登れ!!」

 

 団長の言葉に雄大は肩をすくめ、ロープに捕まり、登っていく。

 

 漆黒竜(ブラックドラゴン)が階層を破壊しながらやってきた大穴。

 そして、俊平が自爆したことにより生じた大穴。

 

 そこかしこから、魔物が押し寄せてくる。

 リビディアの置き土産。興奮した魔物たちが、そこで餌を求めてひしめいていた。

 

 クリスタルモンキー、リトルドラゴン、マジックコックローチ。

 ジュエルタランチュラやリザードマンも、新たにこちらに向かってきている

 

 女子は萌の作り出す木につかまって。男子はロープを伝って迷宮からの脱出をしていた。

 そんな時である。

 

 

 ーーーピィイイイイ!!!!

 

 

 突如、不吉な音が再び響く

 

「嘘だろ、まだあいつ生きてんのか!?」

「しぶとすぎだろ!!」

 

 反響する指笛の音は、どこから聞こえるのか、まるでわからない。

 

 光彦と瞬、リキ。雄大は登るのを取りやめて手を離し、地面に着地すると拳を握りしめて構える。

 

『限界よ、限界。もう無理。無理、バツだけど………』

 

「くそ、どこにいやがる!!」

 

 尋ねても、姿を現さないリビディア。

 

『最後に一人くらい、道連れにしてあげるわ』

 

 

 その声と同時に

 

「ぐぶっ!!!?」

「うわあああ!! 響子! 響子、しっかりしろ!!! くそっ! 貴様、何をする!!」

 

 

 空手部大将、光彦の幼なじみである百地瑠々の叫ぶ声。

 

 

「うふふ、あはははは!! 言霊使いは厄介だもの。せめて地獄には一緒に落ちてあげる!!」

 

 トカゲのような魔物の背に跨がり、全身が焼けただれたリビディア。左腕は炭化し、彼女の足はひしゃげている。

 右の目ははとうに光を失い、左の目には執念のみを灯していた。

 彼女の、その爛れた右腕が突き刺すのは、此度のリザードマンの掃討に多大なる尽力をした、白石響子の背。

 

 彼女の胸の中央を貫通し、完全に息の根を止めていた。

 

 魔人は、勇者と同等のステータスを持っている。

 本人の戦闘力は低くとも、魔人というだけで、新米の勇者など一捻りにできるものなのだ。

 

 勇者を一人を道連れにするなど、勇者たちが迷宮からの脱出に向かい、数が減った今、彼女にとってそれはできて当たり前のことだったのかもしれない。

 

 

「貴様、響子から離れろ!!」

 

 瑠々の回し蹴りを避けることもできず、その回し蹴りを側頭部にくらい、魔物の背から転がり落ちるリビディア。

 多少の怪我ならば、言霊使いの仲間であるデリュ―ジョンに癒してもらえたかもしれない。

 だが、いつまでたっても現れない仲間に、リビディアはもう、己の生存はあきらめた。

 デリュ―ジョンも、唯一迷宮に落ちなかった、あの余裕ぶった男に、苦戦しているのかもしれない。そう思った。

 

「あと一人の言霊使いは、無理そうね………!」

 

 もはやうつ伏せに倒れ込んだリビディアには、己の力で立ち上がる気力は残っていなかった。

 明滅する視界。彼女がその視界に映すものは………

 

「<纏気> <剛気> <剛脚>!! うぉおおおおお!!!」

「魔王様………。」

 

 

 ゴギン!! と、骨の砕ける音が聞こえる。

 瑠々が気を纏い、漲らせ、高火力のかかと落としをその頸椎にお見舞いして、リビディアの灯は消えた。

 

 

 

 





あとがき

次回予告
【 有能な人材は早くどっかいくにゃ 】

お楽しみに


読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった

と思ってくださる方は

評価をお願いします。(できれば星5はほしいよ)


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第26話 樹ー有能な人材ははやくどっかいくにゃ

 地下迷宮の爆発も気になるところだが、俺がいる場所からは地下の様子はうかがえない。

 ほとんど真っ暗だ。

 

「泣き言は全部後で聞く。今はロープとロープを組み合わせてどれだけ長く作れるかだけ考えよう」

「そ………、そうにゃ。手を動かすことが最善にゃ!」

 

 田中も、泣きそうな顔で強がった。

 田中のマジカルステッキに掴まって移動しながらだと詳しいことは聞けないが、だいたいのことは把握する。

 

 俺だってみんなが心配だ。

 俊平が自爆したのではないか、先の大爆発に由衣が巻き込まれているのではないか。心配でたまらない。

 

「消吾!」

「樹か!お前が無事でよかった! そいつは?」

 

 みんなが落ちた場所と、田中たちが上がってきた場所はだいぶ離れていたようだ。

 俺の無事に安心した消吾が俺が雑に運んでいたデリュ―ジョンを見て首をかしげる

 

「こいつは妄語のデリュ―ジョン。敵の幹部だが、なんかうまいことわーってやって倒した」

「雑だがすごくナイスな事をやったんだと思う。このロープでそいつふん縛っておけ」

「りょ」

 

 投げられたテント用のロープを受け取り、ひとまずデリュ―ジョンを、その、なんだ。

 エロい縛り方をネットで調べたことがあったから、手首と足首をそれぞれ縛った。

 

 別に亀甲縛りとかじゃないぞ。手足の縛り方が書いてあったから参考にしただけだ!

 

 とはいえ、こいつが目が覚めたら、今度こそテレポートか縛られてないとか言って縄抜けしそうなんだよな。

 さすがに気絶までさせりゃ能力も解除させられるだろうし、力が尽きれば能力も使用できない。

 出来る限り目を離さないでおきたい。

 というわけで

 

「木にロープ括り付けるんだろ。こいつに地獄見せたいから、木と一緒にこいつも括り付けとこうぜ。」

「うわ、みんなそれをつかんで登るにゃ。樹にゃんはやっぱり鬼畜にゃ!」

 

 消吾が次元収納(アイテムボックス)から木にふた結びでロープを括り付けようとしていたし、それ使って縛ればロープの節約も出来る。

 一石二鳥だ。

 

 木に括り付けるやり方は、遠征の前に騎士団の講習で教わっていた。

 これが出来るようになるまで、数十回は練習したから、問題ない。

 

 正直、ロープの括り付け方なんて初めて習ったが、バカにならんほど為になる情報だった。

 

 ロープをちゃんと木の根元に括り付けるんだが、そこにデリュ―ジョンを配置。

 上の方に括り付けられたら、てこの原理で木の根元からごっそり抜けちまうからな。

 とはいえ、デリュ―ジョンがつぶれてしまうかもしれないが、もうどうでもいいか

 

「樹はよく死ななかったな」

「死なねえよ、俺は。無敵だからな。消吾、田中。地下までの目算距離は?」

「だいたい300m超えないくらいにゃ!」

「俺もそれくらいだったと思う。」

 

 めっちゃ深いな。落とし穴ってレベルじゃねーぞ

 消吾が次元収納(アイテムボックス)から出したロープを複合し、長いロープを作成する。

 

 クラスメイト全員の、テント作成用と消吾が持っていたロープで、合計2本くらいは地下までおろせるかも知らないが、時間が足りないな。

 俊平が自爆した可能性が高い今、俺だって本当は飛び込みたい気持ちを抑えて、それでもみんなが助かるために、ロープの合成に励んでいるのだから。

 全体を地下から持ち上げるような能力を持っていないことが、こうももどかしいとは。

 

 俊平のおかげでドラゴンを倒したとしても、デリュージョンの仲間の、邪淫の方、名前忘れたが、あいつが呼び寄せた魔物が押し寄せている現在、急いでロープを作らないといけないんだ。

 

 田中は兵士コスの時に結び方を体感して手に入れていたのか、スイスイとロープを組み合わせていく。

 技能をいただくって、本当にすごいよな。ステータスに含まれない項目をバシバシ増やせる田中って、マジやばい能力だと思う。

 

 30mのロープを10個も組み合わせれば、だいたい300mくらいのロープにはなる。

 消吾を荷物置きがわりにしていてよかった。

 そうじゃないと、こんなに物資が揃っているわけがないもんな。

 

 なんとか完成したそのロープを、迷宮に向かって放り投げる。もう一個くらい作れそうだな。

 

 急いで次のロープの端と端を本結びでつないで300mものロングなロープを作成していると、大きな木が迷宮の方から現れた。

 

「おーい、田中ー、消吾ー! あ、樹もいるじゃん おひさー!」

 

 それに乗って現れたのが、

 

「おひさーヒロミ。真澄と美香とケモナーと美緒も一緒か。こりゃあ助かる」

 

 おそらく園芸好きの裏番長。花咲萌の能力で成長させられた木に乗ってここまできたのだと思う。

 花咲萌のアビリティ<緑の支配者(グリーンルーラー)> 緑の勇者。

 それは植物を操り支配する能力。

 スキルと魔力による急速成長で、迷宮から300mも高いこの場所まで木を伸ばしたのだろう。

 飛べる田中よりは脱出速度が落ちるが、複数を運べるとなるとそれはもう一長一短だ。

 

「ロープ作ってるの? 手伝いますぅ! ね、美香ちゃん!」

「………うん、作る。みんなを助けないと」

「二郎三郎、みんなを守って………! あとで迎えにいくからね………! って、樹は私のこと名前で呼ばないよね!」

「気兼ねなく本を読むためにはみんなが助からないといけないもの」

 

 

 どうやらロープ作りを手伝ってもらえそうだ。

 

「樹にゃんはさっさと行くにゃ。人手が足りるなら、ここは田中がまとめるから、有能な人材はさっさと動かすにかぎるにゃ」

「助かる。」

 

 登るのはダルイが降りるのは一瞬だ。田中の計らいにより、俺はこの場からの離脱をして、迷宮に飛び込むことにする。

 

 俺が迷宮にダイブすると、後ろの方で悲鳴が上がったが、そんなことを気にしている余裕が今の俺には全くない。

 

 

 

          ☆

 

 

 俺が地の底で見た光景は、 背中から胸を貫かれる声楽部の白石響子。

 

 

 貫いていたそれをかかと落としで粉砕していた百地瑠々の姿。

 

 

 先の大爆発の影響か、魔物の姿は少ないものの、押し寄せてきていることはわかる。

 

「【浮遊(フロート)】」

 

 落下速度をギリギリで落としてザンッ!! と着地をすると

 

 

「タツル! 無事だったのか!」

 

 団長のダンさんが声を弾ませた。

 だが、それにかまっていられる暇はなさそうだ。

 

 

「佐之助!」

「おう! 佐藤はあっちだっぜぃ!」

 

 俺が佐之助を呼べば、なんか宝石みたいなクモにハンマーを叩きつけてかち割っていた佐之助が、瓦礫を指差していた。

 

 ブレスが壁に当たって崩れたのだろう。

 

「助かる、あと、念のため、探知は切らすな。俊平につけてたマーキングはどうなっている?」

 

 佐之助のアビリティ<探知(サーチ)>は、周囲一帯の地形の把握と、特定の個人のマーキング。

 

 マーキングした相手は、どこにいるのか、わかるようになる。

 

 以前、佐之助が中庭でおままごとをしている俊平を見つけたのも、この能力だったそうだ

 

「………反応は弱いが、俊平はギリギリ生きている。たぶん、俊平が禁書庫で見つけた【通魔活性】のおかげだっぜぃ」

 

 通魔活性は、魔力を血液やリンパの流れに乗せて、通力の流れを自由に操作できるようになる技術。

 

 全身から爆発するところを、おそらく、体の一部に限定して自爆したのかもしれない。

 

「どこにいるか、わかるか?」

「………。壁の中を移動中。周囲にジュエルスパイダーが周囲に大量にいる。食料として連れて行かれているのかもしれない」

 

 それもまた、ちいさな俊平にしか通れないルートなのかもしれないな。

 

 俊平が本当にギリギリで生きていることがわかった。

 しかし、自爆の能力を使ったのだから、それなりの被害を自らに被っているはずだ。

 

 生きてはいるかもしれないが、無事ではない。

 

 そういうことなのだろう。俺は息を深く吐いた。

 

 

「青竜剣術・流星(りゅうせい)

 

 俺は緑竜に叩き込まれた剣術で、ぬるりと相手の急所を撫でるように切る。

 

 斬りながら移動する。軍勢と移動に特化した剣術だ。

 

 

 襲いくるリザードマンを切り殺し、宝石みたいなタランチュラを剣の柄で叩き割り、手が水晶みたいになっている猿の首を刎ねた。

 

「由依!!」

 

 

瓦礫にたどり着くと、敵を切り飛ばしながら【浮遊】の魔法をかけて瓦礫をどかしていく。

 

 

「………手伝うぞい」

「妙子………」

「俺っちも。………」

 

 妙子と佐之助が瓦礫の撤去を手伝ってくれた。

 

 

「何をしている! 魔物が大量に押し寄せてきているのだぞ!みんな撤退しているんだ、お前たちも戻れ! それに、ブレスの直撃を受けたユイはもう………!」

「あんたが由依の最期を決めんな!! 由依は生きてる!!」 

 

 思わず、団長に怒鳴ってしまう。

 

「………タッチ」

「………? どうした、ユウコ」

 

 

 感染系女子である荒川優子が、団長の肩に触れた。

 

「………。由依を助けたい気持ち。伝染(うつ)したわ」

 

 粋なことをしてくれる。

 

 

「………。響子はもう戻らないけど、由依が生きてる可能性もあるんでしょう?」

 

「………、わかった。この場に残る全員に告げる! あの瓦礫の撤去が終わるまで魔物たちを食い止めろ!!」

 

「「「 はい!! 」」」

 

 この場に残る生徒は少ない。

 

 それでも、地下の迷宮に残った男子生徒たちは、魔物を食い止め、瓦礫の撤去を手伝ってくれた。

 

 

 

 そして、しばらく撤去が続くと、細い指が見えた。

 

 指の次は手首。ひじと見えてくる。

 

「大丈夫。脈はあるぞい」

 

 

 

 その手首に指を当てて脈を測った妙子。

 

 

「よかった………」

 

 生きているとわかってほっとし、俺は思わず由依の手を掴んだ。

 

 

 

 その瞬間。俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 




次回予告
【 夢幻牢獄2 前編 】

お楽しみに


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第27話 由依ー夢幻牢獄2 前編

 

ぺけぽこぽんぽん♪ ぺけぽこぽんぽん♪

 

 

ガシッ!

 

 

「………また、この夢か。いや、現実?」

 

 

 目が覚めると、早速違和感に気付いた。

 

 私は、先程まで異世界で戦っていた。

 瓦礫に埋まって気絶したと思う。

 

 その状態でここにいる。

 本体だか精神体だかはわからないが、向こうの私はまだがれきに埋まっているのだとしたら、危険な状態だと思う。

 もしくは、死んだ? 私が気絶している間に死んだから戻ってこれた?

 現状は不明だ。

 

 あのドラゴンをどうにかできるのは、現状だと可能性があるのはチンピラ赤信号かなんか素敵な友情の力とかで限界を超える光彦くんか、自滅覚悟の俊平ちゃん。言霊使いのキョーコやタロウ。

 もしくは存在を消滅できるタナカちゃんだろうか。

 

 とはいえ、私を一撃でぶっ飛ばせるレベルともなると、存在の恪が違いすぎる。

 まだ、私自身の能力がけた外れにインフレしているわけではない、というのもあるが、あれをどうにかできる能力を持っていない、というのもある。

 瞬時には発動できないけど強力な結界を張れば大丈夫だったかもしれないなぁ。

 

 異世界転移した初日に見た夢。

 あの日に見た異様な現実の光景。

 

 タツルやタナカちゃん、タエコちゃんと打ち合わせを行い、次にこの世界に来た時にしないといけない事は頭に入れてある。

 

 第一。

 

「今日の日付………転移してから2日目。向こうで過ごした時間は関係なく、この世界にくると1日過ぎるってことかな。むしろこの辺はいつも通りだなー。」

 

 第二。

 

『お掛けになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為』

 

 タツルに電話を掛けてみるもつながらず

 

 第三。

 

『もしもしにゃー』

 

「おはようカノンちゃん』

 

『由衣にゃんから田中に電話とは珍しいにゃん♪ 今日は槍がふるにゃん!』

 

 会話終了。

 

 田中押しが弱い。

 

 

 第四。

 

 髪を梳かして制服に着替えると、お母さんから「ごはーん!」との呼び声。

 

「おはよう、お母さん」

「おはよう由衣。」

 

 リビングに入ると、焼き鮭と納豆ご飯と目玉ベーコン焼き。あと味噌汁だ。

 足りないビタミンと食物繊維はサプリで勝手に取ってという、いたって普通のいつも通りの朝ごはん。

 

「お母さん、昨日の私、何してた?」

 

「昨日って、そうねぇ………。なんか朝はすっごく慌ててお隣のかよちゃん(タツルのお母さん)の家に突撃してたけど………ああ、帰ってからはいつもより口数が少なかったかしら? うん。とか、わかった。とか、そう。とかしか言わないの。ちょっと不気味だったわね。どこか上の空ってかんじ?」

 

 やっぱり、私も他の子たちと同じように、学校生活を普段通りに送るだけの人形になっているんだ。

 じゃあ、私の意識がない間に、私の肉体を動かしているのは、誰なんだろう?

 

「なるほど、ありがとう。多分、今日もそんな風になって帰ってくると思う」

 

「なに、いじめられてるの? そうだったら今夜、お母さんが矢沢先生の所に日本酒持って突撃するけど?」

 

「いいよ。そんなことしないでも。モンペじゃん。納得できる状況だけどさ。今、私たちのクラス、不思議な出来事に巻き込まれてるから、皆上の空なんだ」

 

「ああ、いつだったか由衣が見たっていう、冒険の夢とか? みんなも同じの見ちゃってるとか!」

 

「………すごいね、当たってる」

 

「やだうっそ! 本当に? みんなが同じ夢見てるってすごいわね!」

 

 まさかお母さんが適当言ったことがズバリ的中しているとは。

 

「まぁ別に隠してるわけじゃないから言うんだけど、日付的に一昨日の朝? HR中にクラスメイト達皆異世界に召喚されちゃったわけ」

「ほむほむ。 あ、ちょっと待って。ボイレコボイレコ」

 

 スマホの録音機能で録音を開始するお母さん。

 なんだかお母さんは興味津々といった顔で両肘をテーブルについて両手を組み、そこに顎を乗せる。

 私がほむほむ言うのって、お母さんの遺伝なんだろうね。

 

「それで? HRの最中に異世界に召喚されて、どうなったの?」

「召喚された日の夜、異世界で寝たら、昨日の朝ここで目が覚めたの。でも、おそらくみんな登校してて、みんな上の空なの。」

 

「ふーん。その話に矛盾点があるんだけど、クラスメイト全員が異世界に召喚されて、じゃあどうして由衣はこんな話ができるの? どうしてここにいるの? 今の話は妄想?」

 

 お母さんは、俗にいうアニメオタク。

 わたしはお母さんの影響で漫画やアニメやなろうを読むようになったといえる。

 だから、一緒に見たアニメの設定なんかで盛り上がる事が出来る。

 

 だからこそ、今私が言っていることに自分の推測と考察をまぜて、矛盾点などを指摘してくれるの。

 

「召喚されたってのも精神だけで、私が夢の中でで世界を渡る能力だからだと思う。それで、向こうにいる友達と推測したんだけど、昨日の朝、私が一度この世界に戻ってきたときに、皆が上の空だという事を話して、そしたら………みんな、夢を見ている状態なんじゃないかってなったの。」

 

「なるほど。みんな夢を見ている状態だから、上の空で、精神だけ異世界を旅しているのかもしれない、と。」

 

 お母さんはワクワクしながら指を組んでニコニコと私を見つめる。

 

「そう。それで今は私だけが戻ってきてる状態かな? いま、その世界で私、気絶してるか死んでるか分からない状態だから。いつも異世界に行く夢を見るのと、逆の状態で、まさに今、夢を見ている状態なんだと思う」

 

「なるほど。次の矛盾点は、皆が夢を見ている間に、体を動かしているのはだれ?」

 

 ピッと指を立てるお母さん。

 

「それは、わからない」

 

 私がそう答えると、立てた指をシュっと私に向け

 

「はいガバー。設定が緩いんだよ由衣。本当に今はまだ分からないだけかもしれないけれど、その世界の世界観がまだ全然つかめないから何とも言えないね。ただ、その世界に神様らしきものがいるなら、それが操ってあげているのかもしれないわね。そういう作品死ぬほど見たし。」

 

 設定のガバを指摘された。

 そのガバを埋める設定も一緒に言われたけど………。 

 

「………。神様が住まう空中大陸があるらしい。私たちを召還したのも現地人が神様の力を借りて私たちを召還したらしいし」

 

「………それじゃん。召喚された目的はあるだろうけれど、最終目標はその空中大陸だね。ごめん、ガバってなかったわ。………とはいえ娘の身体を弄ばれるのは良い気がしないな」

 

「だから、もしかしたら帰ってくる頃にはまた私が上の空になっているか、今日布団に入ったらまた異世界に行くかも。みんな学校生活を送る最低限度の返事とかしかしないから、そろそろ噂になっててもおかしくないかも。」

 

「なるほどね。ママ友ネットでお母さんも調べてみる事にするわ」

 

「………ありがとう」

 

「あ、帰ってくる頃にはその世界の設定と、魔法と、クラスメイト皆の能力を書き出しといて」

「あ、はい」

 

 能力の考察を行うつもりだな?

 

「他、確かめたい事は?」

 

 確かめたい事、あ、そうだ。

 

「お母さん、タツルって覚えてる? 隣の鈴木さんちの一人息子。」

 

「あら、タツルって………誰だったかしら」

 

 やはりお母さんもタツルの記憶が抜け落ちている。

 子供のころは互いの部屋でよくお泊り会とかしていたというのに。

 

「私の幼馴染のタツルも一緒に異世界に行っている。お母さんもミーム汚染に巻き込まれているよ。昨日朝は、それで慌てて隣の家に行ったんだから」

 

「………由衣の妄想の友達じゃ?」

「………。部屋はそのまま残っているのに、存在とみんなの記憶だけ抜け落ちるのが妄想?」

「………ごめん、今のは忘れて」

 

 

 異世界に皆が行っている中、現実世界にも心強い協力者が………いや、楽しんでるだけかもしれない。

 それでも、相談には乗ってもらおう。

 

 

 




次回予告
【 夢幻牢獄2 後編 】

お楽しみに


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第28話 由依ー夢幻牢獄2 後編

 

教室に到着した。

 

「おはよー由依ちゃん。」

 

 

「おはよー、シノちゃん」

 

 

 予想通り、無機質な挨拶。

 この世界がおかしいのではなく、現実にいるみんながおかしい。

 

「全然話し声が聞こえない………」

 

 自分の教室の人間は本当に最低限度の挨拶をするだけ。

 

「ええっと、タエコちゃんは………………?」

 

 

 またこの世界にきた時にするべきこと。

 

 タエコちゃんの存在の確認。

 

 教室を見渡しても、タツルはいないし、タエコちゃんもいない。

 

 

「タエコちゃんの言った通りだ」

 

 

 タエコちゃんは、精神だけこの世界にきている状態であれば、学校に姿を見せないのではないか? と推測を立てていた。

 

 学校生活を普通に送るようにプログラムされた人形ではなく、

 精神だけ抜き取られたタエコちゃんは、複雑な技術を要する妖術で人に化けることができない。

 

 NPCのような人間を作るプログラムだか操作だかは知らないが、人に化けているタヌキであるタエコちゃんにはそれだけでは足りないのだろう。

 

「おはよー! おはよー! おはよーさーん! みんなどんな夢見た? あたしはみんなとひと月以上異世界に行く夢をみたよー?」

 

 と、そこで現れたのは他のみんなとは違うテンションで現れた白石響子(キョーコ)

 

「おはYO響子」

 

「あれあれ? どうした太郎、なんだかキレが悪いぞ太郎。お前さんはあたしの夢の中でもキレキレのラップを披露してカッコよくチェケラしていたぞ太郎!」

 

「おはYO響子」

 

「どうしたんだよ太郎、貴様壊れたラジオか?」

 

「俺も俺も」

 

「おっと、鉄太! 貴様は今何に便乗しているんだい?」

 

「俺も俺も」

 

「なんか言ってよ………鉄太………」

 

「俺は誰だ?」

 

「いつもと変わらないお前は誰なんだよぉ………………! いつもと変わらない俺は誰だにちょっとホッとした自分がいるよぉ………! 帰ってこれたんじゃないのかよ………………! なんでみんな、そんな変な感じなんだよ………!」

 

 

 クラスメイトに話しかけては絶望する響子

 

「あたしはいったい、どこに迷い込んだんだ………?」

 

 

 

 明らかにおかしい。

 このクラスメイトみんなの自我がないような世界で、キョーコが初めて自我を持っている。

 

 

 私がキョーコに話しかけようとしたところで、私のスマホがテンテケテケテケ♪と音を鳴らした。

 

 

 画面に表示された名前を見て、私は慌てて電話に出る。

 

 

「タツル!!」

『おー、由依。今どの辺?』

「学校! すぐに来て!」

『り。待ってろ。超特急で向かう。』

 

 

 タツルだ、タツルがこの世界にいる!!

 私が目覚めた時にはいなかったけど、おそらく時差がある。

 

 タツルが気絶したのか眠っているのかはわからないけれど、タツルが来てくれた。

 

 この、気持ちの悪い世界に。

 

 

「由依!? 由依はフツーだ。いつもの由依だ! ねえ、ねえ! みんなどうしたの? みんなはなんで上の空なの!? あたしがおかしくなっちゃったの!?」

 

 

 私の電話を聞いた響子が私に話しかけてくる

 

 

「キョーコ。キョーコは昨日何してたかわかる?」

「昨日、昨日は確か、えっと、修学旅行の自由時間の班決めで、たしか俊平ちゃんを取り合って………そしたら」

「よく聞いて、それこの世界だとおとといの話だよ。記憶が混濁するのもわかる。夢から覚めたんだよ。みんなが異世界に召喚されてから2日目。 異世界に召喚されてからしばらくたったけど、時間の進み方がめちゃくちゃで向こうで何日過ごしても、こっちでは数日だけしか動いてない」

 

「由依、なんで、あたしの夢の話がわかるの?」

 

 不安そうに聞く響子。

 

「みんな一緒に異世界に行ったからだよ。」

 

 

 安心させるようにそう答えた。

 その時だ。

 

「待たせた、由依!!」

 

 タツルが廊下から走ってこの教室に飛び込んできた。

 いくらなんでも早すぎる。

 近くにいたのかな?

 

「おはよー樹」

「おはよー」

 

 佐之助が無機質な挨拶を行ってタツルを迎え入れるが

 

「なるほど、たしかにみんな人形みたいだな。挨拶を返すプログラミングされた生き物だ。」

 

「樹!? 樹も普通だ、よかった………みんながおかしくなっていたわけじゃないんだ………!」

 

「響子か。お前があの世界で見た最後の光景ってどんなだ?」

 

「えっと、樹も同じ夢を見たってことだよね………? 迷宮から脱出するために瑠々やさくらと固まってたんだけど、突然背中から胸に激痛が走って、胸から手が生えてた気がする………」

 

「リビディアに殺された時のものだな。となるとやはり、向こうの世界からの脱出に必要なのは、向こうの世界で死ぬこと。」

 

「えええええ!!? キョーコ死んじゃったの!? 私が気絶している間にいったいなにがあったの!?」

 

「ええー! やっぱりあの時、私死んだんだ! 最悪だ、きっと著作権となろう規約に殺されたんだ! 替え歌なんか歌ってるからだ! うぁーーーーーん!!!」

 

 泣くところそこなんだ!

 

「こんなことなら雛祭りの歌とか正月の歌とかでドカンと一発アフロ頭にしたり餅喉に詰まらせてオンボロ救急車でピーポーさせてやったりすればよかった!」

 

 後悔するところもそこなんだ!!

 

「由依、響子。説明してくれ。みんなが亀裂に落ちてから、何があった?」

 

 

 

 

 

          ☆

 

 

「なるほどね、それで由依はドラゴンに吹き飛ばされて気絶を」

 

「うん。だから私が覚えているのはここまで。」

 

「なるほど。安心しろ。由依はまだ生きている。たぶん、由依は夢を見ている状態なんだと思う。みんなで瓦礫から由依を発掘したところだ。」

「発掘て」

 

 タツルらしい表現に、クスリと笑みが漏れる。

 絶望的にならないような配慮だったんだと思う。

 

「響子、続きを」

 

「うん。赤城くんに蹴り飛ばされた俊平ちゃんが漆黒竜に食べられちゃって、そしたら急にあの竜が爆発して………………ねえ、あれって………………?」

「ああ、俊平のアビリティである<自爆(ディシンテグレイト)>だろうな」

「やっぱり………。そのあと、押し寄せてきた魔物から逃げようとしてたら、後ろからこう、ぐっさりと」

 

 胸を抑えるキョーコ。

 

「ぐっさりと言う割には貫通していたけどな」

「痛かったなぁ………。」

 

 ひとまず、タツルがいない間に何があったのかは把握してくれた。

 

 

「樹はなにしてたの? 一人だけ亀裂から避けたみたいだけど」

 

「ああ。お前らが邪淫のリビディアと戦っていたのと同じで、俺は俺で妄語のデリュージョンってのと戦ってた。響子と同じ言霊使いの厄介なやつ。頭が弱かったから倒せたけど、傷つけてもすぐに治されたし、剣でも魔法でも音でも傷がつかんくなるし、アビリティの封印のしかたがわからなかったら詰んでたまである。」

 

「うへぇ、タツルよく倒せたねそれ。やっぱり言霊使いって反則級だわ」

 

「そんで、みんなを逃すために先行した田中と合流して、ロープを垂らした後、人員も揃ってきたところで俺が迷宮に飛び込んで由依を助けに来たってところだ」

 

「うっは、イケメンムーブかよー」

 

 なんてタツルを笑い飛ばしてやるが、顔が熱いぜ………ああ、熱い熱い。

 

「イケメンだろ?」

「自惚れんなし」

 

 ゴスっと肘打ちしてやった。

 

 

「ところで、あたしは死んだからこの世界に戻ってこれたんでしょ?」

「ああ。そうなるな」

「竜の中で自爆した俊平ちゃんは?」

「俊平は………あそこだな」

 

 

「おはよー雄大くん」

「ああ」

「おはよー光彦くん」

「ああ、おはよう緑川」

 

 

 登校してきたクラスメイトたちに挨拶を繰り返すマシーンになっている。

 

「不気味なまんまだね。ってことは、俊平ちゃんはまだ向こうの世界で生きているってこと? あの爆発で!? あたしが死亡者の第一村人ってこと?」

 

「まあ、そういうことになるな。」

 

「まじかー! あれ? だったら、由依と樹はどうしてここにいいるの? 二人とも死んだってわけじゃないんでしょ? 話ぶりから察するにさ」

 

 ショックを受けつつも冷静な思考で私とタツルを見たキョーコ。

 

「キョーコ、私と樹のアビリティって覚えてる?」

 

「ええ? 確か夢を見る能力だって言ってたよね?」 

 

「うん。だから、私は向こうの世界で夢を見ている状態だと思う。そう長くは話せないかも」

 

「そう、なんだ………。あたし一人だけのクラスなんて、ちょっと耐えられないな………。」

 

 

「俺の方は、瓦礫に埋もれた由依の捜索をしていたところで、ゆいに触れた瞬間にこの世界にきていた。なんか俺の夢現回廊と由依の夢幻牢獄との回路がうまいことつながったのかもしれない。同じ系統の能力だし。」

 

「そんなことがあったんだ………。でも二人が戻ってこれたのって、やっぱり夢だからでしょ? 他の子たちはあの世界で死んじゃったりしたら、戻れるってことにならない?」

 

「そうだね。死んじゃったりしたら、たぶん、この世界に戻ってこれると思う。」

 

 と、推測ではあるがそう答えた。

 キョーコが死んで、この世界での意識を取り戻した、ということは、つまりそう言うことだと思う。

 

「だったら、向こうの世界でクラスメイトと先生を皆殺しにすれば!」

 

「こっちで目が覚めた時にめちゃくちゃ険悪になりそうだな………」

 

「うがぁあああああ!!! ごめん、私最低なこと言ってる! 死んでこの世界で目を覚ました私からすれば、みんな早く死んでよと言いたい。でも、ぅううううう!!!!」

 

 あの夢幻牢獄からの脱出条件は、死ぬこと。

 だからといって、それが本当だと今異世界で生きているみんなが信じる訳が無い。

 全力で抵抗されるだろう。

 

 死ねば解放されるというこのクラス転移の条件が加わっても、当事者にとっては状況は最悪であることは変わりない。

 

 私ならば、そんな話は到底受け入れられないし、信じられない。

 説得は不可能だろう。

 

 タエコちゃんも、話せば判断の材料にはするだろうが、信じることは絶対にない。

 それが情報屋だから。

 

 死ねば解放………。それをどうやって信じさせるか………。

 

 

 

 

 





次回予告
【 夢現回廊1 前編 】

お楽しみに


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第29話 樹ー夢現回廊1 前編

 

 数分前。

 異世界で結衣の手を握った瞬間に、俺の意識が途切れた。

 

 

「………は?」

 

 

そして、俺が『出現』したのは、自室だった。

服は兵隊服。向こうの世界に生身で行ったから、向こうの世界の服でこっちに出現したってことか。

 

いつものような寝起きではなく、漫画や筋トレ器具にかこまれた、いつもの自室に立っていた。

俺は、あの世界で由依が埋まっている瓦礫をどかしていて、由依に手を触れたら急に意識が………。

 

「ってことは、ここは由依の夢か。もしかして由依が初日に見たっていう例の夢ってことかな。」

 

 

日付は、俺たちが転移してから2日目。

 

間の1日の記憶がないってのは初めてのパターンだな。

 

由依の話からすれば、その間、俺は存在しなかったことになる。

 

 

「スマホの充電が切れてる………。向こうでずっと使ってたからか………。」

 

 ひとまず、少しだけでも充電してみるか。

 

目覚まし時計をみると、時間帯は、学校には普通に歩いて行ったら遅刻するくらいの時間だな。

 

きっと、由依が気絶したタイミングと時差があるからだろう。

 

ひとまず制服に着替えてリビングに行くことにする。

 

 

「おはよう、母さん」

 

「おはって………あ、あ、樹!! そうだ樹だ!! なんで母さんあんたのことを忘れて………」

 

「昨日の朝、由依が来たんだろう?」

 

「来たよ。あんたの部屋にズカズカと。あの時は非常識なって思ったけど、息子の存在を忘れていた母さんの方がよほど非常識じゃないか! 樹、何があった? 昨日はどうしていた? なんで母さんは樹のことを忘れてしまったんだ?」

 

 

「………話せば長くなるけど、今、俺のクラスで奇妙なことが起きている。みんな異世界に召喚されたんだ。昨日は一時的に由依がこの世界に戻ってきたけど、俺がいなくなっている間、みんなから俺の記憶が無くなってしまうみたいだ。」

 

「なんだって!? じゃあ、赤城さんちの雄大くんとか、青葉さんちの徹くんとか、黄島さんちの蓮くんとかもって、そっちはわすれてないわね………どうなってるの?」

 

なんでチンピラ信号機なんだとツッコミしたいがまあいいや。

 

 

「俺もわかんない。わかんないけど、俺が異世界に行ってる間、みんなの記憶から俺の存在がなくなってしまうみたいなんだ」

「でも、もう帰ってきたから大丈夫ってことでいいんだよね?」

「いや、たぶんまた異世界に行くことになる。俺の意思とは関係なしに」

「マジかー………。そんなのってある? 息子のこと忘れるとか、母親失格だよ………」

 

 ちょいちょいと俺を手招きしたかと思うと、そのまま母さんに抱きしめられた。

 

「ひとまず息子のことは忘れないようにいま魂に刻んでおいたから。」

 

 何言ってんだ。

 

「だったら冷蔵庫にでも俺の子供の頃の写真でも貼っといてくれよ。母さんと一緒に写ってるやつ。息子って付箋でも貼ってさ。忘れないようにさ」

「………。そうするよ。また異世界に行くことになるんでしょ。今日はここで何しにきたの?」

「………由依を助けに来た。」

「よし、男だ。行ってこい! 朝食は作ってないけど、食パンでも咥えていって由依ちゃんとぶつかってこい!」

「いつの時代の少女漫画だよ。ってか俺がパン食べてんのね」

 

 バシッと背中を押されてトーストされていないパンを渡され、そのまま家を出る。

 

 

 

 家を出るとすぐに隣の家に。

時間帯的には由依はいないだろうが、念のため。

 

ーピンポーン

 

「はーい、って樹じゃん! はー、噂をすれば。さっき由依から聞いてたけど、確かに私ミーム汚染に侵されていたわ」

「おばさん、気づいてたんだ。」

 

 どうやら由依も自分の母親に自分たちの現状を知らせていたらしい。

 

「由依に樹のこと忘れられてマジギレされたからね。妄想の幼なじみなんてひどいことを言ったボイレコも残ってる。こりゃあマジだわ。樹と由依はいま異世界でクラスメイトたちとなんかやってるんだろ? 由依はもう学校に向かったよ。行ってきな。あたしもそろそろパートに行かないと遅刻だから。由依を元気付けてやってくれ」

「はい。行ってきます」

 

 おばさんには由依の現状の説明は不要みたいだな。

 

 ならば、あとは由依に追いつくのみ。

 由依の話だと、夢の中とはいえ、この世界では魔法やスキルが使えないって聞いたけど、どうなっているのかな

 

 

「………。は? 火が出るやん」

 

 ボッと指先にライター程度の灯した。

 

 今までは、現実世界でこんなことはなかった。

 

 いや、夢の中だからか? それとも、あの異世界召喚で俺の肉体自体に変化が生じて、夢と現がごっちゃになって、現実世界の方でも魔法とか使えるようになっちゃったってえことか?

 

 あっちの世界………名前、なんだっけ? あ、あ、あら、あり、ある、アルカディアか。聞き流してたから忘れてたわ。でも夢の能力の引継ぎはあったし、引き継がれてもステータスへの引継ぎはレベル以外はいっさいなかった。

 これは………俺の体がバグり始めている、と考えた方がいいか?

 

 試してみたが、異世界転移以前の能力は使えそうにないな。

 

 ひとまずはこっちの世界でもなんかいろいろできそうって程度だと思っておこう。

 

「とりあえず、優先は由依だな。」

 

 俺は由依に電話しながら、中学校までの直線ルートをダッシュで駆け抜けた。

 多分、時間にして30秒から1分くらいだったと思う。

 肉体の強化も入ってるのか。やばたん。

 

 

 

          ☆

 

 

 由依と合流し情報の交換を終えた。

 

 異世界転移して、由依が見た初日の夢から推測し、できうる世界からの脱出で、最も楽観的な脱出タイプだったと思う。

 脱出条件は死ぬこと。

 

 そう難しいことはないが、本人にとっては補償のない自殺などやりたくないのは当然だ。

 

 響子は自殺したわけではないが、敵の幹部に不意打ちで殺されてしまった。

 夢と幻のアルカディアで殺されると、現実の世界に戻ってくる。

 

 

 みんなに俺たちが見た夢を説明しても、信じてもらえるとは到底思えない。

 

 だが、伝えないという選択肢もない。

 希望くらいはあったっていいと思う。

 

 みんなの精神衛生上も、すこしはマシになるかもしれないからな。

 

 

 

「さて、次はどうする? この世界に黒幕がいると思う?」

 

 俺がそう問えば

 

「いや、うちのお母さんとも情報の考察を行ったんだけど、黒幕は向こうの世界の神様だと思う」

 

「だよな。じゃあやっぱり、魔王とやらを倒して、神様にお願いして元の世界に帰してもらうか、向こうの世界で殺されるかの二択。死ねばこの世界に戻れるとしても俺はいやだし、多分俺は(うつつ)の肉体で、生身で向こうの世界にいるから、俺だけはどうしても魔王を倒す必要があると思う。俺が死ぬのはバツだ。」

 

「バツって………なんか女魔人リビディアの喋り方みたい」

「確かに」

 

 ふふっ、と共通の夢の話題で響子と由依も笑い合う。

 

「でも、そう考えると、やっぱりタツルが主人公だよね?」

「夢幻の世界と現実を行き来するのは主人公の特権だ。たぶん、俺も主人公なんだろう。」

「ふーん。じゃあ樹が主人公だとしたら、ヒロインは誰よって話は………。無意味ね」

 

 下唇に手を当てて砂糖でも吐きそうな顔をする響子。

 

「だろうな。由依一択だろ」

「ふはー! 恥ずかしげもなくいいおるわこのタツル!」

 

 ゲシゲシと恥ずかしそうに笑いながら肘鉄食らわせられる。いて、いてて。

 

「………。でも、物語としてみるならば、やはり主人公は俊平だと思う」

 

 俺がそういうと

 

「………ほぇ? 俊平ちゃんが? 光彦くんじゃないの?」

 

 響子はキョトンと首を捻った。

 

「自爆という明らかにヤバイ能力。初日に王子と友達になるコミュ力。」

「禁書庫に忍び込むイベント力。それに、私は見ていないけれど、自爆をしても生きていられるご都合主義的なまでの豪運。どれをとってしても、主人公としての素質があるのは俊平という結果になる」

「次点で俺だな。敵幹部撃破してるし。」

「ほえー、なんか私らが必死こいて異世界で生活してたのに、由依と樹はそんなこと考えて異世界にで過ごしてたんだー。」

 

 白い目で響子に見られたが、こればっかりはな。

 

「俺たちの能力は夢の異世界で冒険したり物語進めたりする能力だって言ったろ。癖になってんだよ。主人公を設定するのが」

 

 

 なんて言ったところで、矢沢先生が教室に入ってきた。

 

「席につけー、ジャリ共。」

 

 気怠げでいつも通りの先生だ。

 いつも通りでありながら、目に光がない。

 

「ホームルームを始めるぞ。連絡事項は特になし。以上。」

 

 出席すら取らない。確認すらない。

 

 

「………。」

「………。」

「………。」

 

 

 無音だった。

 

 不気味なほどに無音だった。

 

 やはり精神が入っていないみんなの肉体は必要以上の行動は起こさないようになっている。

 この状態でヤンキーに絡まれたりおかしなDQNに絡まれでもしてみろ。抵抗すらできねえぞ。

 

 やはり、早いところみんなの意識を戻さないといけないな。

 

 俺は前の席にいるインテリメガネの肩にツンツンと触れてみるも、なんだい?と聞かれるだけで意識が戻るわけじゃない。

 

 この状態じゃ、この学校にいる意味もない。

 

「あいたたた、急にお腹が………先生、トイレに行ってきます!」

「あ、私が付き添います!」「私も!」

 

「ああ。行ってこい」

 

 

 こうして、俺と由依と響子は、学校を抜け出すことに成功する。

 今のクラスメイトで、欠席者が1名。妙子がいなかった。

 

 探しに行かなければならない。

 

 

 

 

 

 








次回予告
【 夢現回廊1 後編 】

お楽しみに


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第30話 樹ー夢現回廊1 後編

 

 

「ね、ねえ? 学校を抜け出したけど、どこに行くの?」

 

 響子が問う。

 学校を抜け出した俺たちが向かう場所は、もし、この世界に来た時に行くべきだと妙子に言われた場所。

 

 

「妙子のアパートだ。」

「妙子の?」

 

 妙子は化け狸だ。

 前々から狸だろうと思っていたが、転移初日に由依がこの世界に来る夢を見たとき、妙子が慰めてくれたと言っていた。

 その時、妙子はしっぽと耳を生やしていたんだと。

 直接は見ていないからしらんが、わざわざ由依が嘘をつく理由もないし、むしろ妙子が狸だってことに納得をしたくらいだ。

 

 そんな妙子だが、当然、住所や戸籍がないと生活ができない。

 

 だからこそ、妙子に与えられたアパートに突撃するのだ。

 妙子にもしこの世界に来るとするならば、様子を見てきてほしいと頼まれているからな。

 

「たしかここを曲がって………あれだ」

 

 そこにあったのは、ボロアパート。

 

「ここが妙子の家?」

「そうみたいだねー。」

「ポストの中にダイヤル式バンカーが入ってる。番号は………」

 

 妙子に教えてもらった4桁の暗証番号をクルクルすると、バンカーが開いて、中からアパートの鍵が出て………こないな。

 

 

「ないぞ。妙子のヤツ嘘ついてんじゃねーだろーな」

「まってタツル! 家の中にタエコちゃんがいるとしたら、鍵は使った後だよ。家の中じゃないかな」

「………たしかに。」

 

 葉隠苑の201号室。ここが妙子の家だ。 

 

 葉隠苑って………ここのアパートタエコの持ち家か? すげーな。

 情報使って金儲けって、不動産もやってるのかよ。

 

 

「妙子、邪魔するぞ」

 

 ノブを捻ってみれば、かぎはかかっておらず、簡単に侵入することが出来た。

 

「うわ、すごいなこの部屋………」

 

 壁には神隠しやら怪死事件やら、不可思議な事件を見出しにした新聞の切り抜きが貼られている。

 これらは、俺らにはわからない妙子の物語だ。深くは掘り下げないほうがいいな。

 

「妙子!」

 

 部屋の隅に丸まっているこげ茶色の毛玉を見つけた。妙子の髪の色にそっくりだ。

 化け狸のことはわからんが、妙子の精神があの異世界に行っている状態では狸である妙子はまともに生活ができないのであろう。

 

 妙子を保護しておかないと、もしみんなが元の世界に戻っても、妙子だけ戻れない可能性がある。

 それはつぶしておかないといけない。

 

「それが、妙子なの?」

「ああ。おそらく間違いないだろう」

「あの世界の夢を見た後だと、妙子ちゃんが狸だと知っても驚きは全くないね」

「あれが特殊なんだろ」

 

 俺が抱き上げたこげ茶色の狸は、浅く呼吸をしている。生きている。

 だが、必要以上に動かない。

 

「たぶん、家に帰ってから外に出られず、何も食べてないよ。」

「狸が食うもんなんて俺知らねえぞ」

「あ、見て見て! 妙子ちゃんの連絡手帳発見! 今時手帳に連絡先って珍しいねー」

 

 若干衰弱しているタエコをどうしたものかと考えていたら、響子が部屋の中を物色して妙子の手帳を発見していた。

 妙子の手帳とか、脅迫手帳とか弱み手帳とかそんなことが書いてありそうでめっちゃ怖いんだけど

 

「とりあえず、一番最初の欄に書いてある分福さんって電話番号に連絡してみる? 市外局番的にも近所みたいだし」

「………かけてみるか。分福って苗字がいかにも狸の親戚っぽいし。」

 

 

 俺はスマホを取り出して、手帳に書いてある番号にかけてスピーカーにしてちゃぶ台に置いた。

 

 

『はい、分福です。』

 

 3コールで電話に出たのは若い女性? だった。

 

「あ、お世話になっております。わたくし、鈴木と申しますが」

 

 

「ぶっ!!」

 

 笑うな由依。

 

『はい、鈴木さん? どういったご用件でしょうか?』

 

「葉隠妙子さんについてお伺いしたいことがございまして」

 

『妙子おばーちゃんのこと、ですか? 』

 

 

 おばあちゃん! やはり化け狸としての年齢は俺たちよりも相当上か。

 

「ええ。単刀直入に聞きますと、分福さんは狸ですよね?」

『ああ、まあそうですけど………』

 

 そこまでわかられていたら否定の仕様がないのか。

 

「葉隠妙子さんが諸事情により人化できない状態でして、意識も混濁しており、まともに行動できる状態ではございません。わたくしはそういった件では少々不慣れでして、妙子さんの手帳に書かれていたお電話番号を頼りにご連絡させて頂きました。」

 

『あー、そういうことですか。でしたらウチで引き取りますよ。今どこですか?』

 

「妙子さんのアパートです。住所は………」

 

『ああ、そこですね。すぐ向かいます。』

 

 そういって電話を切られた。

 

 

「………。妙子のことはなんとかなりそうだな」

「タエコちゃんがその人と絶縁とかしてたらものすごく余計な事しているかもしれないけれど」

「四の五の言っている時間がないもんね。」

 

 家に帰りついたはいいが、そのあとに人化が解けて家の中に閉じ込められてしまったんだろうな。

 妙子が早めに気付いて想定してくれて本当によかった。

 

 しばらくすると、ドルンドルンとスクーターの爆音が近づいて来た。

 スクーターを止めてヘルメットを外すと、妙子とよく似たこげ茶色の髪。妙子と違って腰まで伸びている。

 

 ライダースースを来た女の人だけど、体型は妙子よりもナイスバディ。

 大学生か?

 

「いやー、おまたせしました。これが妙子おばーちゃん? めっちゃ衰弱してんじゃないですか。あなたたちが連絡してくれたのですね?」

 

 そんで、頭の上にはクヌギの葉っぱが乗ってた。

 葉っぱ乗せてないといけないの?

 

「はい。妙子のクラスメイトの鈴木樹と申します。」

「佐藤由依です。」

「白石響子です………。」

 

 と自己紹介。

 

「私は分福ヱリカです。大学2年生。妙子おばーちゃんのクラスメイトってことは中学生ですか? 今授業中ですよね。何があったのですか? 狸であることも知ってるみたいですし。」

 

「会う人会う人に同じ説明するのは面倒ですが、かくかくしかじか………。」

 

 

………

……

 

 

「………なるほど。おとといからそんなことに巻き込まれていたんですね。まさかクラスメイト全員が異世界召喚に巻き込まれるとは………。それなんてラノベですか?」

 

 

 どうやら妙子とは違ってアニメ文化には詳しい狸さんらしい。

 

「ヱリカさんは信じてくれるのですか?」

 

「ええ。妙子おばーちゃんが死ぬところなんて想像できないですし、こんな風になってるのはその異世界召喚のせいってことでしょ。信じますよ。そんな緊急事態だからこそ、おばーちゃんも狸であることや住所を教えてあげたんだと思いますから。」

 

「なるほど………?」

 

「樹さんと由依さんの推察だと、いま、皆が夢を見ている状態なんですよね?」

 

「はい………」

 

「ちょっとおばーちゃんが今、どんな夢を見ているのか、見て見よっか。」

 

 

「「「 ………え? 」」」

 

 

 

 

 

 

 







あとがき


次回予告
【 夢映しの鏡 】

お楽しみに



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