イナズマイレブン2 エイリアクライシス!? (ダシマ)
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第1章 プロローグ
第1話「もしもの物語の始まり」






 

「飛鳥。もうお前は必要ありません。消えなさい」

 

 

 

 …私の名前は一丈字飛鳥。さすらいの中学3年生。ひょんな事から、義父に追い出されて途方に暮れてます。

 

 実を言うと、私の義父である吉良星二郎は私のような孤児を引き取って面倒を見ている「お日さま園」の園長で、小さい頃からお世話になってました。ですが、最近ちょっと様子がおかしいんですね。

 

 …ぶっちゃけ話すと、つい最近富士山に落ちてきた隕石の力を使って復讐をしようとしてるんですね。まあ、ついでだからここで話してしまいましょうか。

 

 吉良星二郎には息子がいて、名前はヒロトって言います。とてもサッカーが大好きだった人で、海外にサッカー留学にしてたんですが、少年犯罪に巻き込まれてそのまま帰らぬ人になりました。

 

 吉良星二郎は事件の真相を調べようとしましたが、加害者の一人がヒロトさんが留学していた国の政府要人の1人息子で、事件をもみ消されてしまったんですね。そして怒りと悲しみのやり場がなくなっていた時に、隕石が落ちてきたんですね。

 

 その隕石…今はエイリア石と呼んでるんですけど、そのエイリア石は人間の潜在能力を完全に引きだす力があって、この力があれば…まあ、強力な兵士が作れると言っておきましょうか。とにかくヤバいです。

 

 そして吉良星二郎はエイリア石を使って、ヒロトさんを殺した連中に対して復讐しようとしてるんですね。ただ、吉良星二郎個人で復讐するだけならまだしも、さっきも言った通り、留学先の国の政府がもみ消しているので、吉良星二郎は国ごとぶっ潰そうとしてるんですね。

 

 流石に吉良星二郎だけの力じゃ無理なので、今の総理大臣である財前宗助総理大臣にも脅してまで協力させようって話になってます。もう復讐に完全に取りつかれてますね。

 

 で、ここからが問題です。お日さま園たちの園児たち…つまり私達にも協力しろと言ってきたのです。特に最年長だった私はリーダーとなって子供たちを指示しろと言いだしました。後はお察しの通り、反対して追い出されました。

 

 そして私は今、東京のどこかにいます。で、語りは終わりにします。

 

**********************:

 

飛鳥「ここはどこだ…?」

 

 飛鳥は周りを見渡した。近くには学校がある。傘美野中学校である。原作の展開としては主人公である円堂達が敵であるジェミニストームと戦う為、ある意味フラグは建てられている。

 

飛鳥(まあいいや。金は持ってるし、適当にやり過ごそう…)

 

 と、その時だった。

 

「ひぇええええ!! や、やめてくださぁい!!」

飛鳥「!?」

 

 という男子生徒の情けない声がした。

 

飛鳥「どうしたんだろう」

 

 飛鳥は気になったので行ってみると、11人のおかしな格好をした男女が、サッカー部員らしき男子生徒達11人に対して脅しをしていた。

 

「傘美野中サッカー部。戦わないのであれば、この学校を破壊する」

「そ、そんなぁ…」

飛鳥「!!」

 

 脅しをかけていた黄緑色の少年を見て、飛鳥は驚いていた。

 

「戦わないのだな。それでは…」

 

 と、緑色の髪の宇宙人・レーゼが黒いサッカーボールを蹴ろうとしたその時、

 

「コラァ!!! リュウジ! 何やってんだ!!」

 

 飛鳥が姿を出して怒鳴ると、リュウジ(レーゼ)は飛鳥の顔を見た。すると…。

 

レーゼ「あ、飛鳥さんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!?」

「!!?」

 

 レーゼは目玉を飛び出す勢いで驚いていた。そして他の10人も驚きが隠せなかった。

 

飛鳥「どういうことか説明してもらおうか…大体わかるけどな…」

 

 よそ様に迷惑をかけている身内を見て、飛鳥は青筋を立てていた。その怒りのオーラはすさまじく、レーゼ達を完全に震え上がらせていた。というか怒り過ぎて地響きが鳴っていた。

 

 

 …はい、この世界でもエスパーです。まあ、イナズマイレブンは超次元サッカーなので、皆超能力者みたいなものですけどね。

 

 その時だった。

 

「待てーっ!!!」

「!!?」

 

 本来の主人公である円堂守とその仲間たちがやって来た…。

 

飛鳥「……」

(え、ちょ怖…)

 

 

 これが一丈字飛鳥と雷門イレブンとの運命の出会いだった…!!

 

 

 

 




座長挨拶

 一丈字飛鳥です。「ダシマ式ラブライブ!」「ダシマ式BanG! Dream」でも登場していますが、また別の世界の一丈字飛鳥です。

 またお前かという声もあるでしょうが、どうか暇つぶしとして見てあげてください。

 今回は円堂守たちの敵であるエイリア学園の元メンバーとして登場させていただきます。
父さんと母さんは死に、和哉さん達とは出会っておりません。

 暇つぶしとして見てやってください。ちなみに座長とは主人公の事で…まあ、少々格好つけてますね。


 あと、本編の私…すっごい偉そうですね。


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第2話「いきなり正体がバレました」

 

 

 傘美野中グラウンド

 

飛鳥「…雷門イレブンの皆さん。うちの者がご迷惑をおかけしました」

 

 飛鳥が円堂達に頭を下げたが、円堂達は困っていた。

 

 それもそうだ、レーゼ達は先ほど会っていて、その時は色々偉そうな事を言っていた。そして追いかけてみたら謝っている飛鳥に対して恐れおののいて、今では飛鳥の横で縮こまっている。

 

飛鳥「お前たちも謝れ」

「すいませんでしたぁ!!!」

 

 と、一気に土下座しだした。それを見て円堂達は更に困惑した。

 

飛鳥「傘美野中の皆さんも怖がらせて申し訳ない。私がしっかりこいつ等を見張ってるから、安心してください」

「あ、はい…」

「ありがとうございます…」

 

 その時だった。

 

「あなた、この宇宙人たちの事について何か知ってるの?」

 

 雷門中の生徒会長にして、サッカー部のマネージャーである雷門夏未が飛鳥に話しかけた。

 

飛鳥「ええ。良く知ってますよ」

夏未「全部説明してくださるかしら」

レーゼ「貴様!! 誰に向かってそんな口を…」

飛鳥「黙れ」

レーゼ「…はい」

 

 飛鳥の一言で黙らせるレーゼを見て、円堂達は何とも言えない顔をしていた。

 

飛鳥「…お詫びにならんかもしれませんが、今この国で何が起きているか説明させていただきます。誰が聞いてるか分からないので、屋内でお話しさせて頂ければ有難いです」

 

******************

 

 傘美野中・体育館

 

飛鳥「単刀直入に言えば、エイリア学園は宇宙人ではございません」

「ええっ!!?」

 

 飛鳥の言葉に円堂達は驚いていたが、

 

夏未「…まあ、確かに人間みたいな子もいるから、そうなんじゃないかとは思ってたけど」

飛鳥「『お日さま園』という孤児院の孤児達で、そのバックには吉良財閥がいるんです」

「吉良財閥…」

 

 雷門サッカー部のゲームメイカー・鬼道勇人が反応した。そして飛鳥はそのまま義父である吉良星二郎の野望と、その過去を雷門サッカー部と傘美野サッカー部に説明した。

 

「そんな事が…」

 夏未と同じ雷門サッカー部のマネージャーである木野秋が反応し、円堂は震えていた。

 

飛鳥「そういう訳です。この騒動を止めるには、エイリア学園の最強チーム『ザ・ジェネシス』にサッカーで勝つ必要があるんです」

 

 飛鳥は説明したが、雷門のストライカーである染岡は信じられなさそうにした。

 

染岡「そんな漫画みたいな話、信じられるかよ…」

「そうでやんす。宇宙人じゃないにしても…」

 

 1年生の栗松鉄平も後に続いた。まあ、そうだろうなと言わんばかりに飛鳥も一息ついた。

 

円堂「理由はどうであれ、サッカーを悪事に使うなんて許せない」

秋「円堂くん…!」

 

 円堂が飛鳥を見た。

 

円堂「そのザ・ジェネシスをオレ達が倒せばいいんだ!」

 

 と、円堂の発言に皆が驚いた。

 

染岡「円堂!」

「本気で言ってるのか!?」

 

 染岡に続き、円堂の幼馴染である風丸一郎太も驚いていた。といっても、部員の殆どが驚きを隠せなかったが…。

 

鬼道「フッ。それでこそ円堂守だ」

 

 と、鬼道だけは鼻で笑ってみせた。

 

円堂「そうと決まれば早速特訓だ!!」

レーゼ「バカめ。お前たちが倒せるわけがないだろう…ふげっ!!」

 

 レーゼが悪態をつくと、飛鳥が肘打ちをした。

 

飛鳥「流石フットボール・フロンティアの優勝チームのキャプテンだけありますね」

円堂「ああ!」

飛鳥「けどその前に、怪我をちゃんと直した方が良いんじゃないですか?」

「!!」

 

 飛鳥が部員たちを見た。

 

飛鳥「その様子だとかなり怪我をしてるみたいですね」

秋「あっ…」

夏未「ゼウスの猛攻を受けたままだったからね…」

 

 飛鳥は静かに目を閉じた。

 

飛鳥「まだ時間はありますから、ゆっくり休んで…」

円堂「休んでなんかいられないよ。オレ達がこうしている間に学校が壊されるんだろ!?」

飛鳥「そうですね。こいつ等がオレに捕まった今、他のチームにやらせてるでしょう」

円堂「だったら!!」

鬼道「円堂。こいつの言う通りだ」

「!!」

 

 熱くなる円堂に対し、鬼道が諫めた。

 

鬼道「宇宙人でなかったとはいえ、危険な事をしようとしている事は事実だ。やみくもに戦って勝てる相手ではない。それに今は豪炎寺、土門、一之瀬もいない。万全の態勢で行こう」

円堂「鬼道…」

 

 すると鬼道は飛鳥を見た。

 

鬼道「あんたに一つ聞きたい事がある」

飛鳥「何ですか?」

鬼道「オレ達雷門中とそいつら、どっちが強い?」

 

 鬼道の言葉に飛鳥は目を開かせた。

 

飛鳥「…それは、帰ってくる答えが分かっていて聞いているんですか?」

鬼道「……」

 

 飛鳥が鬼道を見た。

 

飛鳥「こいつらですね。悪いですが」

「!!」

染岡「て、てめぇ! ふざけてんのか!?」

栗松「そうでやんすよ!!」

宍戸「そうだ! オレ達は全国大会優勝チーム…」

飛鳥「そうですね」

「!!」

 

 飛鳥は冷静に言い返した。

 

飛鳥「確かにあなた方はあのゼウスを下して日本一になった。ですがそれはあくまで出場した学校の中ではの話です」

「!!」

 

飛鳥「サッカー協会副会長・影山零治によって出場権を剥奪されたチームや…」

鬼道「!」

飛鳥「元よりフットボール・フロンティアに興味のないチーム…」

円堂「!」

飛鳥「全国にはそんなチームがいっぱいいます。早い話が井の中の蛙ですね」

 

 飛鳥が普通に言い放った。飛鳥の冷静さに円堂達は本気で言っている事が理解できたが、染岡や栗松はどうしても引き下がれなかった。

 

染岡「い、井の中の蛙だと!!?」

栗松「オレ達が弱いって事でやんすか!?」

飛鳥「落ち着いてくださいな。まあ…実際に戦ってみたら分かります」

「!!」

 

 飛鳥は雷門イレブンの方を見て笑みを浮かべた。

 

飛鳥「ですがその前に、ちゃんと怪我を直してください。でないと…入院して、ジェネシスどころじゃなくなりますよ」

「!!」

 

 後日、怪我を直してから正式にレーゼのチームである「ジェミニストーム」に挑むことになった雷門イレブン。果たしてどうなる…。

 

 

つづく

 

 



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第3話「エイリア学園の高い壁!」

第3話

 

 前回までのあらすじ

 

 原作と同じように、レーゼ達ジェミニストームと勝負する事になった雷門イレブン。だが、本家と違って体調は万全だし、豪炎寺や土門や一之瀬も最初からちゃんといる。果たして…。

 

**********************

 

「そ、そんな馬鹿な…」

 

 鬼道、豪炎寺、そして円堂が茫然としていた。というのもジェミニストームのGKであるゴルレオこと五流 玲於があくびをしながら自分たちの合体シュートを片手で止めていた。

 

 それだけではなく、スピード、パワー、テクニック、いずれもジェミニストームの方が遥かに上回っていた。

 

ゴルレオ「…ハァ。貧弱過ぎて言葉に出来ねぇよ」

飛鳥「……」

ゴルレオ「ごめんなさい」

 

 飛鳥が睨みを聞かせると、ゴルレオが滝のような汗を流した。

 

鬼道「よ、予想以上の強さだ…」

豪炎寺「宇宙人じゃないにしろ、あの強さは人の強さを超えている…」

 

 鬼道と豪炎寺は恐れおののいていた。それを見て飛鳥は雷門イレブンを見渡した。

 

飛鳥「さて、これでジェミニストームの力を理解してもらえたかな?」

染岡「!!」

「正直さぁ」

「!?」

 

 と、レーゼが口を開いたが、とても偉そうな口調ではなくフランクだった。

 

レーゼ「一応オレ達、エイリア学園では一番下のランクだよ」

「!!?」

レーゼ「オレ達相手に10点も取られるようじゃ、ジェネシスを倒すなんて夢の夢だよ」

円堂「くっ…」

栗松「ていうか…口調が変わってるでやんす…」

レーゼ「もう宇宙人の役をやる必要がなくなったからね」

飛鳥「これからは住み込みで雷門中の修繕作業を手伝って貰うぞ」

レーゼ「…はい」

 

 と、ジェミニストームの面々は意気消沈していた。

 

飛鳥「さて、試合はここまでだ」

染岡「ま、まだ終わってねぇぞ!!」

鬼道「やめろ染岡」

染岡「鬼道!」

 

 染岡が鬼道の方を見た。染岡はまだ納得できてなさそうだったが、鬼道は素直にジェミニストームの力を認めていた。

 

鬼道「あいつの言う通りだ」

染岡「!」

鬼道「これ以上試合をやっても勝てる見込みはない」

染岡「諦めんのかよ!! お前らしくもねぇ!!」

 

 染岡が鬼道に突っかかると、飛鳥はそれを見つめている。

 

「おいおい、仲間割れし始めたぞ…」

「見てらんないよ…」

 

 染岡の態度を見てジェミニストームは呆れていた。

 

飛鳥「まあ、気のすむまでやらせてあげよう。お前たち、撤収だ」

「はい」

 

 飛鳥の号令でジェミニストームが撤退すると、染岡が反応した。

 

染岡「待て!! まだ試合は終わってねぇぞ!!」

飛鳥「終わりだよ」

染岡「何!?」

飛鳥「その熱さは嫌いじゃないけどね」

 飛鳥が苦笑いして、その場を後にした。

 

染岡「…くそっ!!」

 と、染岡はそっぽを向くと、円堂達もショックを受けていた。

 

秋「円堂くん…」

夏未「……」

春奈「何か、大変な事になっちゃいましたねぇ…」

 

 マネージャー達も心配そうに円堂達を見ていたが、円堂はある事を考えていた。

 

*******************

 

飛鳥「…え?」

 

 飛鳥はジェミニストームと一緒に雷門中の修復作業を手伝っていると、円堂に話しかけられ、ある相談を持ち掛けられた。

 

円堂「オレ達雷門サッカー部のコーチになってくれ!」

 

 その言葉にレーゼ達も染岡たちも驚いていた。

 

「えぇえええええええええええええ!!!?」

飛鳥「……」

 

 飛鳥が苦笑いした。

 

染岡「冗談じゃねぇぞ円堂!! なんでこんな奴をコーチに…」

円堂「染岡。確かにお前の言いたい気持ちは分かる」

染岡「!」

円堂「でも今はジェネシス…エイリア学園を倒す方が先だ」

 

 円堂の言葉に皆が驚いた。

 

風丸「円堂…」

豪炎寺「オレも賛成だ」

風丸・染岡「!!」

 

 豪炎寺が賛成したことで風丸と染岡が驚いた。

 

染岡「豪炎寺お前!」

豪炎寺「イナズマブレイクがあんな形で止められた」

「!」

豪炎寺「ジェネシスを倒すかどうかはさておき、オレ達はもっと強くなる必要がある」

「!」

鬼道「その通りだ」

 

 鬼道も割って入ると、皆が更に驚いた。

 

鬼道「円堂がキャプテンとしての判断を下した。だったらオレ達もそれに従うべきではないのか?」

染岡「くっ…!!」

 

 染岡が視線を逸らして歯ぎしりした。

 

飛鳥「まあ、オレでいいならいいけど…。その前に豪炎寺くん。ちょっといいかな」

豪炎寺「!!」

 

 飛鳥は周りを見渡して問題ない事を確認すると、豪炎寺を見た。

 

飛鳥「もう伝えておくね。君、吉良星二郎に狙われてるから気を付けて」

「!?!」

 

染岡「ど、どう言う事だ!?」

飛鳥「…エイリア学園は、チームの補強も視野に入れてたんだ」

「!!?」

飛鳥「才能のあるサッカープレイヤーを集め、エイリア学園が脅威であり続ける為にね。当時、ザ・ジェネシスのキャプテンを任されてたオレはリストを確認したんだ。そしてそのリストに豪炎寺くん。君が載っていた」

豪炎寺「!」

飛鳥「そして吉良星二郎達は、どんな手を使ってでも仲間にしようとしている…。早めに手は打っておいた方が良い」

豪炎寺「あ、ああ…」

 

 飛鳥の言葉に豪炎寺が俯いた。すると夏未がある事に気づいた。

 

夏未「それだったら、夕香ちゃんが危ないわ」

「!!」

 夏未がそう言うと、皆が夏未を見た。

 

円堂「ど、どうして夕香ちゃんが?」

夏未「忘れたの? 去年のFF、影山は木戸川清修を優勝させないために、夕香ちゃんを事故に遭わせたのよ。十分にあり得るわよ」

豪炎寺「……」

 

 夏未の言葉に豪炎寺が震えた。

 

鬼道「それなら早急に手を打つ必要がある。雷門、豪炎寺の妹を安全に保護できるかどうか確認してみてくれ。オレも知り合いにあたってみる」

夏未「分かったわ」

 

 鬼道と夏未が動いたことで豪炎寺は驚いた。

 

豪炎寺「鬼道…雷門」

鬼道「気にするな。エイリアの仲間になられたら困る」

夏未「そうよ。あなたは雷門のエースストライカー…。雷門中を裏切る事はこの雷門夏未が許さなくってよ」

 

 鬼道と夏未の言葉に豪炎寺は震えて、頭を下げた。

 

豪炎寺「…ありがとう!」

 

 それを見て飛鳥は笑みを浮かべた。

 

 その時だった。

 

 

 パチパチパチ!

 

 と、拍手する音がして、皆音がした方を見た。

 

 

「流石ですね。飛鳥さん」

 

飛鳥「ヒロト!!」

「え!?」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達も驚いていた。

 

レーゼ「ヒロト…」

ヒロト「残念だよレーゼ。お前たちがこうもあっさり裏切るとはね…」

 ヒロトが冷徹に言い放った。

 

栗松「…誰でやんすか?」

飛鳥「あいつもエイリア学園で、名前は基山ヒロトだよ」

レーゼ「マスターランク『ガイア』のキャプテンだ…」

「!!?」

ヒロト「その通りだよ」

 

 ヒロトが笑みを浮かべると、そのまま緊張感が走った。

 

 

つづく

 

 



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第4話「最強」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 豪炎寺の妹・夕香を守る為に鬼道と夏未が立ち上がると、感動してマスターランク「ガイア」のキャプテン。基山ヒロト(グラン)が現れた。

 

*******************:

 

「ど、どこから現れたっスか…」

「吉良財閥の科学技術だよ」

 

 壁山塀吾郎の言葉に対して、飛鳥が解説をした。

 

ヒロト「こんな所にいたんだね。飛鳥さん」

飛鳥「ああ。追い出されたもんでな。それで? ジェミニストームを取り返しに来たのか?」

ヒロト「いいや。ジェミニは用済みだと父さんが言っていたよ」

「!!」

 

 ジェミニストームの面々は青ざめた。

 

円堂「用済み!?」

染岡「ひでぇじゃねぇか!!」

 

 円堂の言葉に対して染岡も便乗してヒロトを責める。

 

ヒロト「オレ達にとって父さんこそが全て。そして飛鳥さん。残念だ…」

飛鳥「後悔はしちゃいない。オレはエイリア学園を辞める」

「!」

 

ヒロト「本当にやめるつもりなの?」

飛鳥「勿論だ。玲名達の事を頼んだぞ」

ヒロト「……」

飛鳥「これからはお前がしっかり、玲名達を」

ヒロト「ごめんなさい。戻ってきてください」

(弱っ!!!)

 

 ヒロトが土下座をしたので、飛鳥以外の全員が驚いた。

 

飛鳥「…その様子だと、暴れてるのか?」

ヒロト「うん…」

飛鳥「はぁ…本当にしょうがねぇ奴らだなぁ…」

 

 ヒロトは涙目になった。レーゼ達は察しがついたのか、皆苦い顔をしていて、なかでも当事者である飛鳥はあきれ果てていた。

 

「あのー…さっきから全然話が見えないんですけど…」

 

 と、雷門サッカー部メンバーの半田真一が挙手した。

 

土門「そもそもマスターランクって何よ」

飛鳥「オレが説明するね。エイリア学園にはランクがあるの」

「!!」

 

飛鳥「一番下がセカンドランク、その上がファーストランク、そして一番上がマスターランク。で、レーゼ達はセカンドランク」

レーゼ「オレ達控え選手みたいなもんなんだよ…」

 

 レーゼが悔しそうにしていた。

 

飛鳥「で、ヒロトは一番上のマスターランク」

円堂「もしかして、こいつがジェネシスなのか…?」

飛鳥「ううん。一応マスターランクは3チームあるんだ」

「3チーム!!?」

 

 飛鳥の発言に皆が驚いた。下が1チームずつしかないのに上が3チームあるとはどういう事なんだろうと誰もが思っていた。

 

栗松「な、何で3チームもあるでやんすか…?」

飛鳥「これは吉良星二郎の方針で、争わせることで3チームとも高めあう事を目的としてるんだ」

土門「一番強いチームが3チームも…」

円堂「……」

 

 土門の言葉に雷門サッカー部は絶望に陥っていた。一番下のジェミニストームでさえ全く歯が立たなかったのに、果たして自分たちは勝てるのかと。

 

飛鳥「…まあ、理由はどうであれ、エイリア学園の強さは分かって貰えたみたいだね。で、どうする?」

円堂「やる!」

 

 円堂の言葉に迷いはなかった。

 

円堂「相手がどんなに強くても、特訓すれば同じように強くなれる! だからオレは戦う!」

壁山「キャプテン…」

 

 皆が円堂を見ると、ヒロトは苦笑いした。

 

ヒロト「君、面白いね」

 

 円堂がヒロトを睨みつける。

 

円堂「だからお前たちにも負けない!!」

ヒロト「それは楽しみにしてるよ。オレも丁度君の事、気に入っちゃった」

「!」

ヒロト「円堂くんだったね」

「!」

ヒロト「改めて自己紹介しよう。オレは基山ヒロト。けど試合をする時は…エイリア学園のグランだ」

 

 と、ヒロトは真剣な表情で言い放つと、円堂も真剣な顔をした。

 

円堂「宜しくな。ヒロト」

ヒロト「ああ」

風丸「って、仲良くしてる場合じゃないだろう!」

染岡「そうだぜ!」

飛鳥「安心して。オレの目が黒いうちは、暴れさせないから」

 

 飛鳥が黒い笑みを浮かべると、ジェミニストームの他に、壁山、栗松、宍戸、少林寺といった1年生たちが震えていた。

 

春奈「そういえば気になったんですけど」

 

 春奈が口を開いた。

 

春奈「玲名さんって誰なんですか?」

飛鳥「ああ…ヒロトのチームメイトだよ」

ヒロト「…ここだけの話、飛鳥さんはエイリア学園の女子からとても人気があったんだ」

「!!?」

 

 ヒロトの発言に皆が驚いた。中には嫉妬するようなまなざしで飛鳥を睨んでいるメンバーもいた。

 

飛鳥「ヒロト。やめとけ」

春奈「いえ! 続けてください!!」

夏未「そうね。何があったのか知っておく必要があるわ」

秋「そ、そうですね…」

飛鳥「どこの学校も女の子って恋バナ好きなんだなぁ…」

 

 マネージャーの食い入りっぷりに飛鳥は苦笑いした。

 

飛鳥「まあ、そんな大した話じゃないんだけどね…」

ヒロト「飛鳥さんはエイリア学園の最強チーム『ザ・ジェネシス』のキャプテンとして内定が決まっていたが、それまではガイア、プロミネンス、ダイヤモンドダストの3チームのうち、どこに行くかで女子達が取り合っていたんだ」

「!!?」

 

栗松「た、確かに一丈字さん。それなりに顔は整ってる気がするでやんすね…」

壁山「神様は不公平っス…」

飛鳥「そう思うでしょう。でもね、世の中そんなに甘くないよ」

「!!?」

春奈「それはどうしてですか!?」

夏未「同じ女性として聞き捨てならないわね」

 

 と、春奈と夏未が更に食いつくと飛鳥が困ったように空を見た。

 

飛鳥「普通に慕ってくれる分には問題ないんだけど、関係ない奴を巻き込んだりするからな…」

 

 飛鳥の言葉に全てを察し、ジェミニストームはつらそうにしていた。

 

飛鳥「ランク分けが決まってからは、マスターランクの女子達がファースト、セカンドの女子に権力を使って牽制したりもしてたからな…」

「うわぁ…」

 

 飛鳥の言葉に雷門イレブン(一部を除く)は察して想像すると、皆ドン引きしていた。

 

半田「そう考えると…あんたも大変だな」

飛鳥「そうでしょう?」

 

 半田の問いに飛鳥は困惑しながら答えていた。

 

飛鳥「やっぱりお嫁さんにするんだったら、中身だよ。自分と合わない人と一緒にいてもしんどいだけだし、ましてや人に迷惑をかけるような人がお嫁さんじゃ愛せないしね」

秋・夏未・春奈「……」

飛鳥「まあ、そういうこったヒロト。もし玲名達が暴れてたらそう伝えといてくれ」

ヒロト「ありがとう」

 

 と、ヒロトは一旦退散していった…。

 

 

つづく

 

 




おまけ ~ 在りし日の飛鳥 ~

「飛鳥はプロミネンスに来るの!」
「ダイヤモンドダストよ」
「ガイア~!!!!」

 と、3人の女子が飛鳥を取り合っていて、とても困っていた。

ヒロト「飛鳥さん。相変わらずモテモテだね…」
「仕方ねーよ…。あの人には流石に敵わねぇ…」
「……」

 と、マスターランクのキャプテン達は苦笑いしていた。


おしまい


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第5話「雷門中サッカー部コーチ・一丈字飛鳥!」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 元エイリア学園の一丈字飛鳥は正式に雷門イレブンのコーチとして、円堂達を鍛える事にした…。

 

********************

 

 傘美野中グラウンド

 

春奈「そういえば飛鳥さんって年齢いくつですか?」

飛鳥「今年で中学3年生」

円堂「っていう事は年上!?」

飛鳥「そう言う事」

 

 飛鳥の年齢を聞いて、雷門イレブンは驚き、沈黙が起きた。

 

円堂「あ、えっと…宜しくお願いします!」

飛鳥「宜しくな」

 

 飛鳥はずっと敬語で喋っていたのにいきなりため口になり、円堂はずっとため口だったのに敬語で喋るようになり、立場が逆転した。

 

染岡「何だあいつ…年上だからって偉そうに…」

少林寺「それは染岡さんもじゃ…」

染岡「ああ!?」

「ひいいいいいいいい!!!」

 

 少林寺の暴言に対して染岡はカッとなり、1年生たちが震えた。

 

飛鳥「あ、そうだ。一応指導方針だけど…」

「?」

飛鳥「一応アドバイスはするけど、それを実施するかどうかは任せるから」

「!?」

飛鳥「人に言われて嫌々やるようじゃ成長しないからね。それから、君達の監督の響木さんからも正式に許可を貰ってるから、宜しく」

染岡「なっ!!」

飛鳥「まあ、染岡くんだっけ。君に関しては…豪炎寺くんはオレに従ってくれるみたいだから…。突き放されないように頑張ってね」

染岡「や、やってやらぁ!!」

 

 飛鳥の挑発に染岡は簡単に乗り、1年生たちは呆れていた。

 

飛鳥「さてと…お前たちは雷門中の修復作業を手伝ってこい」

「はっ!」

飛鳥「駆け足!!」

 

 そう言ってレーゼ達はそそくさと雷門中に向かった。

 

飛鳥「さて、傘美野サッカー部の皆さん。グラウンドお借りします」

「ど、どうぞお構いなく…」

 

 こうして、飛鳥がコーチの元、雷門イレブンは練習が行われた。巨体でディフェンス能力のある壁山は走り込みを行うなどして足腰と体力を培うようにし、円堂に対しては必殺技を出し続け、必殺技自身の強化を試みた。

 

 また、豪炎寺、鬼道、染岡といった主力選手には重りをつけさせて、不利な状態で目金、栗松、土門と紅白戦を行った。

 

 飛鳥に対して疑心暗鬼かつ自信がなかった雷門イレブンも、特訓を繰り返すことで少しずつであるがレベルアップをしていった。

 

 昼

「皆―!! 休憩よー!!」

 と、マネージャーの一声で全員が休憩した。

 

円堂「はぐっ…もぐっ…」

 円堂はおにぎりをがむしゃらに食べていた。

 

秋「円堂くん。調子はどう?」

円堂「何ていうか必殺技を出すことで、どれだけの力量があるか分かったような気がする…」

「!」

円堂「もっともっと特訓しなきゃ!」

 すると…

 

豪炎寺「一丈字さんの訓練をしてみて、足りないものに気づいた」

「!?」

豪炎寺「スピードだ。オレ達は奴らについていける程のスピードがない」

風丸「スピード…」

 

 風丸はジェミニストームと戦った時の事を想いだした。スピードには自信がある方ではあったが、ジェミニストームのスピードは自分の予想よりもはるかに上回っていて、敵わなかった。

 

円堂「スピードか…」

 すると飛鳥がやってきた。

 

春奈「あ、一丈字さん! お疲れ様です!」

飛鳥「うん。音無さんもお疲れ様」

円堂「一丈字さん!」

 

 円堂が飛鳥に話しかけた。

 

飛鳥「どうした?」

円堂「豪炎寺が言ってたんですけど、オレ達…スピードが足りてないような気がするんです」

飛鳥「スピードだけじゃなくて、色々足りないね」

「容赦ない!!」

 

 飛鳥の発言に1年生たちが突っこんだ。

 

飛鳥「それに関しては心配しないで。スピードの件に関しては、ちゃんと考えてるから」

「え!?」

染岡「…こんな時、イナビカリ修練場が使えたら」

 

 FFに参加していた時、雷門サッカー部はイナビカリ修練場という所で特訓を繰り返していたが、レーゼ達が雷門中を破壊した時に入り口が瓦礫に埋まってしまい、入れない状態になってしまったのだ。

 

飛鳥「…そのイナビカリ修練場の事はよく分からないけど、やってて損はないと思うよ」

壁山「どんな事をするんスか?」

飛鳥「それはまだお楽しみ」

「え?」

飛鳥「今は基礎トレーニングをしっかりやる事。スピードはその次だ」

 

 と、飛鳥に言われるがまま雷門イレブンは特訓を繰り返した。

 

 そして夕方…。

 

飛鳥「明日も厳しく行くから、しっかり食べて休め」

「はーい」

 

 と、雷門イレブンとジェミニストームが一緒に食事をしていた(テーブルは別々だが…)

 

栗松「な、何か宇宙人と一緒に食事って不思議な感覚でやんす…」

壁山「そうだな…」

レーゼ「地球にはこんな言葉がある。昨日の敵も今日は友。ってね」

秋「ジェミニストームの皆もお疲れ様…」

 

 秋はレーゼ達に対して労いの言葉をかけると、

 

ジェミニストーム「あざーす!!」

 

 と、気持ちよく返事をした。

 

春奈「一丈字さんも食べてください」

飛鳥「ありがとう」

 

 飛鳥がやってきて、春奈に声をかけられていた。そしてカレーを受け取るとレーゼの隣に座った。レーゼは少しこわばっている。

 

飛鳥「そんなに緊張するな。オレはもうマスターランクでもエイリア学園でもないんだぜ」

レーゼ「そ、そうは言っても…」

飛鳥「おう、悪さをしようとした時は締め上げるけどな」

(怖っ!!!!)

 

 飛鳥の発言に皆が困惑した。そんな中、飛鳥とレーゼの向かい側に座っていた七風理夢(リーム)と近畿希望(パンドラ)が浮かない顔をしていた。

 

飛鳥「どうした?」

リーム「え、えっと…」

パンドラ「その…」

 

 と、言いづらそうにしていると飛鳥はすぐに察した。

 

飛鳥「…ああ、玲名達の事か?」

リーム・パンドラ「!!?」

飛鳥「思えばお前たちも色々苦労したもんなぁ…。オレと喋ってると強制的に引きはがされたりして」

 

 飛鳥が腕を組んで困惑すると、春奈が食いついてきた。

 

春奈「あー…やっぱりアレですか? 女の嫉妬ってやつですかね?」

鬼道「春奈…」

 

 妹のおませな所を見て辟易する鬼道だった。

 

飛鳥「今度会った時が怖いな。そりゃあオレだって同じさ。何言われるか分かったもんじゃないよ」

 

 と、飛鳥が困惑していた。

 

「あなたがフラフラしているからよ」

「!!?」

 

 声がしたので、皆がその方向を見ると黒い髪の女性がいて、飛鳥とジェミニストームは驚いていた。

 

 

つづく

 



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第6話「DAN DAN 心魅かれてく」

 

 

 前回までのあらすじ

 

カレー食べてたら、知らない女性が現れた。

 

**********************

 

飛鳥「瞳子さん!!」

 

 飛鳥が驚いていた。円堂達は飛鳥を見る。

 

春奈「知ってる人なんですか?」

飛鳥「…吉良星二郎の実の娘だよ」

「ええっ!!?」

 

 皆が驚いた。

 

瞳子「…お父さんからあなたを追い出したって聞いて、やってきたの。それと、ジェミニストームを手懐けるなんて流石ね」

飛鳥「いや、まあ…」

 飛鳥の言葉にジェミニストームが苦笑いするが、リームとパンドラは瞳子に対して怯えていた。瞳子もリームとパンドラを見て表情には出さないものの、滅茶苦茶牽制していた。

 

飛鳥「ちょ、瞳子さん。2人とも怯えてるから」

瞳子「瞳子さん!?」

 

 瞳子はとてつもなく驚いていた。元のアニメではポーカーフェイスで常に冷静である為、絶対にありえないシーンだが、この話はもしもの物語なので、こういう事もあり得るのだ。人生に絶対はないのである。ゲーム版の「驚異の侵略者」では結構表情が変わったり、驚異の侵略者のエンディングや最初の映画のエンディングではアニメでは見れない穏やかな表情をしている。

 

 だが、瞳子にとってそんな事はどうでもよく、飛鳥の「瞳子さん」呼びに激しく狼狽えていた。

 

瞳子「ど、どうして姉さん呼びじゃないの?」

飛鳥「いや、オレもうお日さま園じゃないし、父さんとも縁を切られたから…」

瞳子「お父さんの事は気にしなくていいのよ。何か他人行儀で悲しいからやめて頂戴」

飛鳥「オレの家族はもうジェミニストームだけだよ」

レーゼ「飛鳥さんっ…!!」

瞳子「それだったら私も入れて!!」

 

 飛鳥の発言にジェミニストームが感涙し、瞳子は慌てふためいた。それを見て雷門イレブンは困惑していた。

 

飛鳥「それはそうと、雷門中の皆さんが困ってるから」

瞳子「わ、分かったわ…」

飛鳥「ごめんな。騒がしくして」

円堂「あ、いえ…」

飛鳥「それはそうとどうしたの?」

瞳子「お父さんが捕まったのよ」

飛鳥・ジェミニ「は!!?」

 

 瞳子の発言に飛鳥とジェミニストームが驚いた。

 

飛鳥「どうしてって…大体察しはつくけど」

瞳子「その通りよ。玲名達がお父さんをボコボコにしたの。あと、お父さんの秘書をしていた研崎っていたでしょ」

飛鳥「ああ…。やっぱり何かやってた?」

瞳子「ええ。エイリア石を持ち出してた上に、貴方の事をバカにしてたからぶん殴ってやったわ」

飛鳥「あ、姉さんがやったの?」

瞳子「研崎は私がやった」

 

 物騒な会話が繰り広げられていて、雷門サッカー部は辟易としていたが、

 

壁山「き、吉良星二郎が逮捕されたらエイリア学園は…」

飛鳥「事実上崩壊だ。これで学校の破壊は止められたと思うよ…」

栗松「こ、これで良かったでやんすかねぇ…」

 

 と、あまりにもあっけなく終わってしまった為、栗松たちは困惑していた。

 

飛鳥「父さん達が捕まったんなら、目標が無くなっちゃったな…」

円堂「いや、オレ達はあります!」

「!」

円堂「ジェミニストームには負けたままです! そしていつか…ザ・ジェネシスとも戦ってみたいです!」

飛鳥「円堂くん…」

 

 皆が円堂を見た。

 

円堂「ですので、引き続きコーチをしてください! お願いします!」

飛鳥「そりゃいいけど…」

瞳子「ダメよ」

「!?」

 

 瞳子が止めた。

 

円堂「な、何でですか!?」

瞳子「…あなた達には悪いけど、こうなった以上ジェミニストームは警察に身柄を引き渡さないといけなくなるわ」

半田「だけどコーチをすることくらいは…」

春奈「あれですよね。ジェミニストームや他のチームがいなくなれば、自分が一丈字さんを独占できるからですよね?」

瞳子「その通りよ」

「せこっ!!!!」

 

 瞳子が無表情で言い放つが、円堂達は容赦なくツッコミを入れた。

 

瞳子「あとはこの二人がいなくなれば…」

リーム・パンドラ「ひぅ!!!」

 

 瞳子が目を光らせるとリームとパンドラが震え上がったが…。

 

飛鳥「まあまあ姉さん。落ち着いて」

瞳子「これが落ち着いていられないわよ。私がいない間、如何わしい事されてないでしょうね!?」

飛鳥「あ、オレがされる側なんだ…されてないよ。それとジェミニストームの件についてはこっちで事情聴取を済ませたから」

瞳子「!!?」

 

飛鳥「ここで保護観察を受ける事になったから」

瞳子「そ、そう…」

 

 瞳子は目を閉じた。

 

飛鳥「そういう訳だから…父さんの後始末、頑張ってね」

瞳子「だから帰ってきてほしいのよ」

飛鳥「社員の人たちとか…」

瞳子「あなたがいないと何もやる気が出ないわ」

飛鳥「何子供みたいなこと言ってんだ」

 

 と、揉めていると…。

 

「吉良瞳子くんだね」

 

 鬼瓦源五郎が現れた。

 

円堂「鬼瓦刑事!!」

鬼瓦「ああ。悪いが一緒に来てくれるかね。重要参考人として」

瞳子「えっ…」

鬼瓦「連行しろ!」

瞳子「いや、ちょっと飛鳥!! ジェミニストーム!! 離して頂戴!! 離して~!!!」

 

 と、瞳子は警察官に連行されていき、またしても唖然としていた。

 

飛鳥「…本当に迷惑かけてごめんね」

円堂「あ、はい…」

 

 飛鳥がリームとパンドラを見た。

 

飛鳥「大丈夫か?」

リーム「は、はい…」

パンドラ「ありがとうございました…」

飛鳥「まあ…あまり気にすんなよ」

 

 と、リームとパンドラは飛鳥に頭を下げると、飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「ちゃんと守るからさ」

リーム・パンドラ「!!/////」

 

 リームとパンドラがドキッとした。

 

春奈「…一丈字さん。そういう所ですよ」

飛鳥「え?」

 

 春奈の言葉に飛鳥が春奈を見ると、秋と夏未も頬を染めて頷いた。飛鳥が困惑した表情を浮かべていた。

 

飛鳥「そんな事ないよな?」

リーム・パンドラ「……//////」

飛鳥「こっち向いて」

レーゼ「飛鳥さん。地球にはこんな事があります」

飛鳥「?」

 

 飛鳥がレーゼを見た。

 

レーゼ「DAN DAN 心魅かれてく」

飛鳥「ドラゴンボールじゃねーか!!」

栗松「くぅぅぅ~!!! やっぱり神様は不公平でやんすー!!!!」

 

 栗松の悲鳴が傘美野中に響き渡った。

 

 

 その頃…

瞳子(私は諦めないわよ…!!)

鬼瓦(何かやばいのを捕まえちまったな…)

 

 

 

つづく

 



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第2章 SPフィクサーズ編
第7話「驚異の訪問者!」


原作との相違点

・ 半田たちが入院しない。
・ 奈良にはいかない。
・ そもそもイナズマキャラバン自体しない。
・ そして黒幕がもう逮捕された。
・ 試合は主に傘美野中グラウンド。

話の流れとしては最初からダークエンペラーズ戦までであるが、
色々設定が変わっているので、何が起こるかわからない状態になっています。


今更だけど主人公。

一丈字 飛鳥(いちじょうじ あすか)

毎度おなじみ「ダシマ劇場(ダシマが書く小説の総称。いっぱいある)」のキャラクター。色んな事が出来て、喋れるのでこの物語の主人公になった。

<本作の設定>
何らかの理由で、お日さま園に引き取られる。
そこでのちにエイリア学園の選手となるヒロト達と仲良くなるが、
色々頼りになる為、女子達からは好意を寄せられるが、
彼女たちのアプローチがあまりにも過激かつ迷惑極まりなかった為、
完全に恋愛に対して消極的になる。

エイリア学園最強チーム「ザ・ジェネシス」のキャプテンに内定していたが、
義父・吉良星二郎に反発したせいで追放されてしまい、
路頭にさ迷っていた所を雷門中と出会い、なんやかんやでコーチになる。








 

 

 瞳子が現れて翌日。飛鳥とジェミニストームはニュースを確認していたが、確かに吉良星二郎と研崎は逮捕されて、ジェミニストーム以外のエイリア学園の生徒は警察に保護されていた。

 

飛鳥「当面は出られないとの事だ…」

「……」

 

 ここは傘美野中の隅にあるテント。飛鳥と男子ジェミニストームはここで寝泊まりをしていた。女子は夏未の家に寝泊まりをしている。理由は色んな意味で危ないからである。

 

飛鳥「さて、今日も一日働くぞ!」

「はっ!」

 

*******************

 

 そんな矢先だった…。

 

「ねえ、雷門サッカー部ってあんた達?」

 

 傘美野中に青い帽子をかぶったピンク色の髪の少女、財前塔子がやってきた。

 

円堂「そうだけど…君、誰?」

飛鳥「SPフィクサーズ!」

円堂「え?」

宍戸「知ってるんですか?」

 

 皆が飛鳥を見た。

 

飛鳥「ああ。財前総理大臣が信頼しているSPで構成されたサッカーチームで、この人はキャプテンなんだ」

円堂「キャプテン!?」

栗松「女の子でキャプテンでやんすか!?」

塔子「何? 文句ある?」

 

 塔子が栗松を睨みつけるが、

 

円堂「いや、女の子でキャプテンなんて凄いじゃないか!」

塔子「え…」

円堂「いやー。女の子にもサッカー好きがいたなんて嬉しいなぁ」

 

 と、円堂が自分の事のように喜んだ。

 

レーゼ「何か…飛鳥さんを見てる感じがする」

ゴルレオ「ああ…」

飛鳥「何か言ったか?」

レーゼ・ゴルレオ「い、いいえ!! 何もっ!!!」

 

 飛鳥の言葉にレーゼとゴルレオが慌てて否定した。

 

「塔子」

 

 と、後ろから一人の若い男性が現れたが…。

 

円堂「あれ? この人テレビで…」

飛鳥「財前総理大臣だよ」

円堂「そ、総理大臣!?」

栗松「こんな所に総理大臣が!!?」

飛鳥「栗松くん。傘美野中の人たちに失礼だから」

財前「いきなり現れて済まないね」

 

 驚く飛鳥達をよそに、財前が苦笑いした。

 

飛鳥「何か御用でしょうか。やはり我々を…」

財前「そんなに警戒しないでくれ。ただ、君達がここにいると聞いて顔を出しに来たんだ。少し、話をさせてくれないか」

 

*********************

 

 傘美野中・ミーティングルーム

 

財前「一丈字くん。エイリア学園の事件が解決できたのは君が深く関与している。本当にありがとう」

飛鳥「いえ、私は喧嘩別れをしただけなので…。それよりも、義父が多大なご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」

 

 飛鳥が深く頭を下げると、ジェミニストームも頭を下げた。

 

財前「それはもういいんだ。君も、エイリア学園の子供達も苦しい思いをしただろう」

飛鳥「いえ、義父の力があったとはいえ、善悪が分からない年ではございません。今後は何かしらの形で罪を償わせて頂きます」

 

 飛鳥はとことん自分達を責めると、レーゼ達は罪悪感で心配の眼差しで飛鳥を見ていた。財前は飛鳥を見た。

 

財前「そういえば、君は雷門中と傘美野中の生徒にサッカーを教えてるそうだね」

飛鳥「ええ。罪滅ぼしになるかどうかは分かりませんが、雷門サッカー部のキャプテンである円堂くんからお話を頂きまして、サッカーの指導をさせて頂いております」

 

 飛鳥が円堂の方を見た。

 

搭子「で、どれくらい強くなったの?」

円堂「んー…どれくらい強くなったかな。まだ傘美野中以外と練習試合してないから実感がわかないんだよ」

飛鳥「敬語使おうな」

円堂「は、はいっ!」

搭子「いいよいいよ。そういうの堅苦しいし。それよりさ」

「?」

 

搭子「あたしのチームとサッカーしようよ!」

「!!?」

 

 皆が驚いた。

 

壁山「ええええええええええ!!?」

栗松「お、大人のチームと戦うでやんすかぁ!?」

少林寺「そういえば初めてだな…」

 と、驚く1年生たちだったが、

 

染岡「上等だ! やってやろうじゃねぇか!」

鬼道「そうだな。今のオレ達がジェミニストームと渡り合えるか、試してみたい」

飛鳥「……」

 

 やる気十分の2年生たちを見て、飛鳥が笑みを浮かべた。

 

飛鳥「財前総理は如何ですか?」

財前「…君たちが良ければ」

飛鳥「ありがとうございます。是非、お願いします!」

 

 と、急遽雷門イレブンとSPフィクサーズが試合をする事になった。ギャラリーは沢山来ていて、中にはジェミニストームや傘美野中もいた。

 

飛鳥「傘美野サッカー部は、他のチームの試合を見て勉強しな。で、ジェミニストームは雷門がどれだけ成長したか見て貰う」

出前・レーゼ「は、はい!」

 

 そして飛鳥が雷門イレブンの元に来た。

 

飛鳥「さて、今回は響木監督がいないからオレが監督をやるよ。いいね?」

「はい!」

飛鳥「それじゃ早速だけど…。半田、少林寺、宍戸、影野、松野」

「!」

飛鳥「お前達5人はベンチだ。今回はこの10人で試合を行う」

「!!?」

 

 皆が驚いた。

 

宍戸・少林寺「えっ…」

影野「それは分かりますが…」

マックス「10人って…」

半田「何か理由があるんですか!?」

 

飛鳥「ジェミニストームと戦う事を想定して、いつもより不利な状況で戦って貰う。控えがいると安心しきってしまうからな」

鬼道「…確かに」

飛鳥「常にギリギリの状態で戦い、一秒一秒全力を出し切るんだ。そうしなきゃ眠っている力を呼び起こせない。ベンチの5人も悪いが協力してくれ」

半田「は、はい…」

 

 と、半田たちが俯いた。

 

飛鳥「戦力にならないからベンチに下げたんじゃない」

「!」

飛鳥「お前達は人の試合を見て、自分は今何が出来ていて、何が足りないかを見極めるんだ。人の試合を見て学ぶことも強くなる為に必要な事だ」

半田・少林寺・宍戸・マックス・影野「はいっ!」

 

 そして遠くから搭子が見ていた。

 

「搭子様」

「あ、うん。それじゃ作戦はいつも通りね」

 

 と、両チームの準備が整った。

 

古株「それじゃ審判はワシが務めるぞー」

飛鳥「お願いします」

 

 そしてホイッスルが鳴ると、試合が始まった…。

 

 

 

つづく

 



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第8話「女の子とサッカー」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 練習していたらSPフィクサーズという総理大臣直轄のボディーガードで構成されたサッカーチームと練習試合をする事になった。果たして…。

 

*******************

 

染岡「ドラゴン…クラッシュ!!」

 

 染岡がシュート技「ドラゴンクラッシュ」を決めた。ドラゴンクラッシュとは、シュートを撃ったときに青い竜が出てきてそのままゴールに突っ込んでいくシュートだ。

 

「セーフティプロテクト!!」

 

 SPフィクサーズのGK・鉄壁 堅が必殺技を繰り出した。ちなみにこの必殺技は警察が持っている壁を何枚も並べて飛んできたボールをはじき返すというものだった。

 

鉄壁「ぐわああああああああ!!!」

 

 しかし、染岡のシュート力はそれを上回り、突破された。

 

「ゴール!!! 染岡が点数を決めたー!!!」

 

 と、雷門中サッカー部の試合をいつも実況している男子生徒・角馬圭太がアナウンスした。

 

飛鳥「…どなた?」

角馬「あ、小生は雷門サッカー部の試合の実況を担当させていただいている角馬圭太です! お見知りおきを!!」

飛鳥「…あ、はい。宜しく」

 

 ごく自然かつ当たり前のように実況をしていたので、飛鳥も流石に驚いていた。ちなみに父親はフットボール・フロンティア全国大会で実況をしており、一家揃って実況をしている。

 

春奈「そういう家系なのかな…」

 

************************

 

 あっという間に試合が終わった。勝負は12-0で雷門イレブンの勝ち。

 

「そ、そんな…」

「我々が一点も取れないなんて…」

 

 と、SPフィクサーズは冗談抜きで悔しがっていた。それもそうだ。日本一のチームとはいえ、総理大臣直轄のボディーガードが揃いにも揃って中学生相手に12点も取られたなんて恥ずかしくて言える筈がない。監督的ポジションにいた財前総理大臣もこの結果に顔をしかめていた。

 

春奈「練習の成果がちゃんと出てて、私達は良いですけど…」

夏未「総理大臣を守るチームがこんな結果を出したらね…」

秋「アハハハハ…」

 

 雷門サッカー部のマネージャー達も困惑していたが、飛鳥はいつも通りだった。

 

「す、すっげぇ…流石雷門イレブンだ…!」

 

 試合を見ていた傘美野イレブンは素直に感嘆していたが…。

 

レーゼ「どう思う?」

ゴルレオ「まあ…前よりはマシになったんじゃねぇか? オレ達にはまだ勝てないと思うが」

 

 ジェミニストームの面々はそれなりに雷門イレブンを認めていた。

 

塔子「ハァ…ハァ…」

 

 塔子は息を切らしていると、円堂が近づいてきた。

 

円堂「中々強いな! お前ら!」

塔子「…12点も取っといて良く言うよ」

 

 そう言って塔子は拗ねるようにそっぽを向いた。

 

塔子「一体どんな特訓したの!?」

円堂「え?」

塔子「教えて! こんなにサッカーが強いなんて思ってもなかった!!」

円堂「それは…」

 

 円堂が飛鳥の方を見た。

 

円堂「オレ達、学校を壊したジェミニストームと戦う為に、一丈字コーチに特訓をつけて貰ってるんだよ。監督をしてる響木監督が最近忙しくて…」

 

 響木正剛。雷門サッカー部の監督であり、40年前に名を轟かせた史上最強の少年サッカーチーム「イナズマイレブン」の元キャプテンだったのだ。

 

 引退後はラーメン屋「雷雷軒」を開き、ラーメンを振舞っていたが、雷門中がFFで優勝してからは、店も有名になり今や大人気店に。お客さんがいっぱい来るため、練習に参加できなくなったのだ。そして飛鳥の事情を知り、素性を調べたうえで、飛鳥にコーチを依頼したのだった。

 

塔子「そうだったんだ…」

円堂「でもさ。お前の「ザ・タワー」も凄かったぜ! 流石キャプテンやってるだけあって、凄いな!」

塔子「……!」

 

 円堂がにっこり笑うと、塔子が何かを感じ取った。それを見て秋と夏未は嫌な予感がした。

 

春奈「キャプテンも大概ですよね~」

夏未「な、何でこっちを見るの…////」

秋「そ、そうだよ…/////」

 

 そんな中…。

 

染岡「これならあのエイリア学園も倒せそうだぜ!」

一之瀬「そうだな!」

 

 SPフィクサーズに大量得点で勝利し、自信を得た染岡たち。礼をした後…。

 

染岡「ジェミニストームと試合をさせてくれ!」

飛鳥「そう言うと思ったよ」

 

 染岡の言葉に皆が反応した。

 

ゴルレオ「まあ、あれだけ大量得点すれば勝てると思うだろうが…」

グリンゴ「ズイブントナメラレタモノダ」

 

 と、ジェミニストームは冷ややかな反応だった。

 

鬼道「オレからもお願いします。今のオレ達の実力を試したいんです」

飛鳥「そっか。分かった。それじゃあお前達!」

「はっ!!」

 

 そう言って雷門中とジェミニストームが2回目の試合をする事になった。塔子はベンチで見学をしていた。

 

 だが、ジェミニストームの実力にはまだまだ及ばず、失点を繰り返していた。

 

春奈「そ、そんな…」

飛鳥「……」

塔子「ぐ…!!」

 

 塔子が歯ぎしりをしていた。

 

 そんな中、

 

一之瀬「頼むぞ! 豪炎寺!!」

 なんとか一之瀬がボールを奪い、豪炎寺にパスした。

 

豪炎寺「ファイア…トルネード!!」

 

 そのまま必殺技を繰り出すと、ゴルレオは追いつかずに失点した。

 

角馬「ゴール!! 豪炎寺が1点目をもぎ取ったー!!」

「やったやったー!!」

 

 角馬のアナウンスで秋と春奈、塔子が喜んだが、飛鳥は険しい顔をしていた。夏未はそれに気づいて何事かと考えていた。

 

 雷門イレブンは豪炎寺が点を決めた事で士気が上がっていた。

 

円堂「これならいけるぞ!!」

 

 しかし、ハーフタイムで飛鳥はとんでもない指示を出し、円堂達はショックを受けた。

 

「えっ…」

飛鳥「豪炎寺くん。鬼道くん。一之瀬くん。土門くん。君達はベンチに下がってくれ」

 

 なんと、飛鳥は雷門の主力選手をベンチに下げた。

 

飛鳥「FWは…」

染岡「ちょっと待てよ! なんで豪炎寺がベンチに下げるんだ!」

半田「鬼道や一之瀬がいなかったら…」

壁山「そうっすよ。土門さんだって…」

 

 と、染岡たちが文句を言ったが、飛鳥は冷徹な表情を浮かべた。

 

飛鳥「うん。だからだよ」

「!!?」

飛鳥「鬼道くん。オレの言いたいことがわかるかい?」

鬼道「そ、それは…」

 

 飛鳥は静かに目を閉じた。

 

 

つづく

 

 

 

 

 



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第9話「強くなる為に」

第9話

 

 前回までのあらすじ

 

 傘美野中グラウンドでSPフィクサーズと戦い、勝利した雷門イレブン。自信がついてジェミニストームに再戦を挑む。失点はしたものの、豪炎寺が何とか1点を取って雷門イレブンの士気が上がっていたが、飛鳥は豪炎寺をはじめとした主力メンバーをベンチに下げようとしていた…。

 

***************

 

飛鳥「ジェミニストームからボールを取ったり、突破したりしてる子が限られてるんだよ」

 

 飛鳥が豪炎寺たちをベンチに下げる理由を説明すると、雷門イレブンが言葉を失った。

 

飛鳥「そして、それが出来ていたのが今言った4人。後半戦は彼ら無しで戦って貰う」

染岡「そんな事したら勝てねぇじゃねぇか!!」

飛鳥「…悪いけど、前半戦の戦いを見ての判断だ」

「!?」

 

 飛鳥が染岡を見た。

 

飛鳥「確かに君達が言った通り、豪炎寺くん達を最後まで出せれば逆転できるかもしれない。でも、ギリギリの状態で豪炎寺くんがやっと1点。この状態で勝っても、君達の成長につながらない」

半田「だけど…」

飛鳥「勝てばいいってもんじゃないよ」

「!」

 

「その通りだ」

 

 雷門サッカー部監督の響木正剛が現れた。

 

円堂「響木監督!!」

飛鳥「お疲れ様です。お店の方は宜しいのですか?」

響木「ああ。あまりにも人が多すぎるもんでな。臨時休業にしてきた」

(そ、そんな理由で…)

 

 と、困惑していたが響木はいたって真剣だった。

 

響木「話は戻すが、一丈字の言う通りだ」

「!」

響木「今回の試合は、結果が全てのトーナメントとは違う。ただ勝てばいいってものじゃない。サッカープレイヤーとしても、人としてもお前たちが成長するための試合だ」

 

 響木の言葉に雷門イレブンが反応した。

 

円堂「サッカープレイヤーとしての…」

染岡「人としての…」

響木「そうだ。お前たちはジェミニストームに勝つ事にこだわり過ぎて、大事な事を忘れている」

半田「大事な事?」

 半田が聞くと、響木が周りを見渡した。

 

響木「試合は特定の選手だけでやるものではない。チーム全員で戦うのだ」

「!!」

 

染岡「そ、そんな事分かって…」

響木「なら何故豪炎寺に頼る」

染岡「!」

響木「豪炎寺がいなければ試合に勝てないでは意味がないのだ。全員で戦い、全員で成長する。これがサッカーだ」

 

 響木の言葉に円堂達は衝撃を受けた。

 

円堂「そ、そうか…。確かにオレ達、ジェミニストームに勝つ事にこだわり過ぎて…」

豪炎寺「……」

染岡「くっ…。でも、どうするんですか! このままじゃ試合に…」

響木「一丈字に聞け。今回の試合は一丈字に任せている」

「!!」

 

 皆が飛鳥を見た。

 

飛鳥「さて、作戦を聞くになったかい?」

「!」

 すると豪炎寺が前に出て…。

 

豪炎寺「お願いします。一丈字コーチ」

「!!」

 

 豪炎寺が飛鳥に頭を下げた。

 

円堂「豪炎寺…」

染岡「……!!」

 

 飛鳥に頭を下げた豪炎寺を見て、円堂と染岡は驚いていた。そして染岡は今までの事を想いだした。豪炎寺はいざという時にいつも助けてくれていたが、その裏ではずっと努力をしていた。それはもう自分よりも遥かに量が多く、努力を惜しまない男だった。

 

飛鳥「分かった。それじゃオーダーを変更しようかな」

「!?」

 

飛鳥「FWは染岡くんのワントップ」

染岡「!!?」

飛鳥「そしてMFは風丸くん、壁山くん、影野くん、土門くん、栗松くん」

「えっ!!?」

飛鳥「DFは半田くん、少林寺くん、宍戸くん、松野くん。で、キーパーが円堂くん」

半田「MFとDFが逆になってるじゃないですか!」

飛鳥「そういう事。後半戦は少しでもジェミニストームの動きに慣れて貰う事を目的としているから。今回はディフェンダー陣に頑張ってもらおうかな」

 

 と、飛鳥が圧をかけると壁山が震えてた。

 

壁山「ちょ、ちょっとトイレ…」

飛鳥「怖がらせたつもりはないんだけど」

風丸「ごめんなさい。いつもの事なので…」

飛鳥「そう…。ちなみに鬼道くん達はベンチから試合を見てて。で、何か気づいたことがあったら皆に教えて頂戴」

鬼道「分かりました…」

目金「僕までベンチですか…」

 

 と、目金は少し不満そうにしていたが…。

 

飛鳥「目金くん」

目金「?」

飛鳥「君はフィールドプレイヤーよりもブレーン色が強いって聞いてるから、サッカーの知識と頭の回転の速さを駆使して、鬼道くん達と一緒に雷門の課題点やジェミニストームの弱点を分析して頂戴。頼りにしてるぜ」

 

 そんな中、半田たちは不安そうにしていた。

 

響木「何をそんなに不安がっているんだ」

半田「だって…」

宍戸「豪炎寺さんはともかく鬼道さん達もいないから…」

響木「自分の力を信じるんだ」

「!!」

響木「確かに全国大会の途中でレギュラー落ちを経験し、ジェミニストームは遥かに強い。だが、お前たちは40年間無敗だった帝国学園に勝ったんだ。鬼道や一之瀬の力無しでな。お前たちの力をなくして全国大会は成し遂げられなかったんだ。胸を張れ」

 

 響木の言葉に半田たちは感動した。そして塔子も衝撃を受けた。

 

響木「円堂がいつも言っているだろう。勝利の女神は諦めない奴に微笑むんだとな」

 

 すると半田たちはお互いの顔を見合わせて、静かにうなずいた。

 

半田「はい!! ありがとうございました!!」

 半田の言葉に皆が口角を上げた。

 

円堂「さあ! 後半戦も頑張るぞ!!」

「おー!!!」

 

 ジェミニストームはその様子を遠くから見ていた。

 

ゴルレオ「どう見る」

ティアム「顔つきは変わったけどね…」

レーゼ「地球にはこんな言葉がある。七転び八起き。でもまだまだ勝たせやしないよ」

 

 そして後半戦が始まった。主力部隊がベンチに下がり、円堂達の試合を見守っていた。

 

塔子「円堂…!!」

 塔子も目金たちと同じベンチで見ていたが、目金がある事に気づいた。

 

目金「鬼道くん」

鬼道「何だ…」

目金「あの紫色のMFですけど、パスをする時いつも舌なめずりをしてませんか?」

鬼道「なに?」

豪炎寺「……」 

 豪炎寺が飛鳥の背中を見ると…。

 

飛鳥「正解だぜ」

「!!?」

 

飛鳥「全く、あの癖を直せってあれ程言ったのに…」

 飛鳥がパンドラに対して困惑していた。

 

飛鳥「その調子だ。試合が終わった後に教えてやってくれ」

一之瀬「今じゃないんですか?」

目金「恐らく染岡くんたちには試合の中で気づかせたいのでしょう…」

 

 皆が目金を見た。

 

目金「な、何ですか…」

春奈「何か…今日は調子がいいですね」

目金「今日はってどういう意味ですか!! 今日はって!!」

飛鳥「喧嘩は後にしな」

春奈・目金「は、はい!」

 

 飛鳥の言葉に春奈と目金がびくっと反応して、試合に集中した。

 

響木「一秒たりとも試合から目を離すなよ」

「!!」

 

響木が飛鳥の横に立った。

 

響木「いつどこで勝利の鍵が見つかるかわからないからな」

 

 

つづく

 

 



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第10話「反省会」

 

 

 2回目のジェミニストーム戦が終わった。結果は1-6でジェミニストームの勝利。円堂が1失点に抑えたものの、フィールドプレーヤーはジェミニストームに成す術もなかった。

 

 ラストに染岡が「ドラゴンクラッシュ」を撃ったものの、ゴルレオの必殺技である「ブラックホール」に吸い込まれ、試合が終了した。

 

**********************

 

飛鳥「今回も完敗だな」

 

 飛鳥がそう言い放った。

 

飛鳥「お前達」

レーゼ「はいっ!」

飛鳥「ありがとう。今日はもうゆっくり休んでいいぞ」

レーゼ「ありがとうございます!」

 

 そう言ってジェミニストームは去っていった。

 

飛鳥「さて、反省会と行こうか。まずはベンチは試合を見てどうだった?」

 飛鳥の言葉に皆が俯いた。

 

鬼道「やはり一番の課題はオレ達自身の身体能力がまだジェミニストームに追いついていないな」

豪炎寺「ああ。目金が弱点を分析してくれたとはいえ、ついてこれなければ意味がない」

目金「やはりスピードを優先的に鍛える必要がありますね。パスをする時にボールをカットするだけなら、出来るかと思われます」

一之瀬「確かに一丈字コーチや響木監督が言っていた通り、敵の動きを見る洞察力を身に付ける必要がありそうだね…」

 

 と、ベンチにいた4人が話をした。

 

飛鳥「続いてDFはどうだった? 何か掴めそう?」

風丸「はい…」

 風丸が返事をした。

 

円堂「そうなのか?」

風丸「…DFラインにいた時はすぐに抜かれてたから気づけなかったけど、今回の試合は奴らに触れる機会が多かった。何度か繰り返しているうちに、奴らの動きが見えたような気がする」

「!!」

土門「オレもそんな感じなんだよな。風丸程じゃねぇけど」

 と、土門も苦笑いした。

壁山「オ、オレは…」

栗松「オレも全く手も足も出なかったでやんす…」

 影野も頷いた。

 

飛鳥「分かった。それじゃ半田くん達はどうだったかな?」

半田「オレはすぐに抜かれて…」

マックス「なんていうか、本当にスピードを鍛えればって話ですよね」

少林寺「オレは…」

 手も足も出ず、少林寺と宍戸が悔しそうにすると、飛鳥が少林寺を見てあることを考えていた。

 

飛鳥「そっか。で、最後は染岡くん」

「!」

 飛鳥が声をかけると、皆が染岡を見た。

 

飛鳥「どうだった?」

 すると染岡は飛鳥に近づいた。

 

風丸「染岡!」

円堂「何をする気だ!!」

染岡「一丈字コーチ…」

「!」

 

 染岡が飛鳥の名前を呼んだ次の瞬間、頭を下げた。

 

染岡「すみませんでした!」

「!」

 

染岡「オレが間違ってました! オレがつまんねー意地を張ったばっかりに…」

秋「染岡くん…」

 

 染岡の言葉に秋が反応をした。

 

飛鳥「顔を上げてくれ」

染岡「!」

 染岡が顔を上げた。

飛鳥「君のチームを想う気持ちはね、分かるよ。そりゃあポットでの奴に自分のチームの事を色々言われたくないよね」

染岡「……」

飛鳥「…これだけは言っとくね」

 飛鳥が豪炎寺を見た。

 

飛鳥「豪炎寺くんね。君が帰った後も残ってオレから稽古を受けてたんだ」

「!!?」

円堂「そ、そうなのか!?」

飛鳥「ああ」

 豪炎寺が視線を逸らした。

 

飛鳥「オレを受け入れてくれているかどうかは別として、豪炎寺くんはジェミニストームに勝つ為に、チームの為に変わろうとしてくれている。だからジェミニストームから点を取れたんだと思うよ」

「……!」

飛鳥「後半戦、それに気づいたんでしょ?」

 

 飛鳥の言葉に染岡が俯いた。

 

飛鳥「無理に遅くまで練習しろとは言わないけど、今自分たちにとって何が一番大事なのか。もう一度考え直してくれたら嬉しいな」

染岡「勿論です」

「!」

染岡「オレ…もう一度自分のサッカーを見つめなおしてきます。勝つ為に」

半田「染岡…」

 

 染岡の言葉に半田たちが反応した。

 

飛鳥「明日からまた期待してるよ」

染岡「はい!」

飛鳥「それじゃ今日はここまで! 2チームと練習をしたからしっかりクールダウンするように! ちなみに今日は居残り練習は無しだ」

「…はい」

飛鳥「急に返事が元気なくなったな…」

栗松「だって豪炎寺さんがあんなに活躍してたら…」

少林寺「誰だってやりたいですよ」

飛鳥「焦るな。強くなる為に一番やったらいけないのは焦る事だぜ」

「!」

 

飛鳥「結果を出そうとして色々無理をするからな。それで壊れちまったら元も子もないんだぜ」

 

 それを遠くから見ていた大人たち。

 

財前「中々いい少年じゃないか。一丈字飛鳥くん」

響木「ええ。最初は素性が分からず、どうするか迷いましたが、彼の目はとても凛としていて、まるで大介さんを見ているようでした」

財前「…円堂大介か?」

響木「はい。そしてあのバンダナの少年はその孫、円堂守だ。きっと雷門中サッカー部をより成長させてくれるでしょう」

塔子「……」

 

****************

 

 後日、傘美野中のとあるミーティングルーム。

 

「え」

飛鳥「えーと…。いきなりだけど、今日からSPフィクサーズのキャプテンである財前塔子さんが雷門イレブンの練習に参加する事になりました」

塔子「宜しくな!」

「えええええええええええええええええええええ!!!?」

 

 塔子の参入に皆が驚いた。

 

壁山「お、女の子がチームに入るっすか!?」

飛鳥「ちなみに2年生だから敬語を使うようにな」

栗松「は、はいでやんす…」

飛鳥「ちなみにさっきの質問だけど、公式大会とかじゃないから特に問題ないだろ」

栗松「そ、それはそうでやんすが…」

 

 と、皆が複雑そうにした。

 

染岡「ジェミニストームとの戦いは甘くねーぞ」

塔子「そんなの知ってるよ!」

円堂「まあいいじゃないか。オレは大歓迎だぜ!」

塔子「流石円堂! 話分かってる!!」

 

 円堂が歓迎ムードを出したので、塔子はウキウキだった。そして秋と夏未はと言うと…。

 

秋・夏未(とにかく距離が近い)

 

 と、塔子にちょっとだけ嫉妬していて、春奈に余計な心配をかけられていて、後でこっそり頬をつねった。

 

一之瀬(オレだって諦めた訳じゃないよ…)

土門(なんでもいいけど、雷門中結構ドロドロしてんなぁ…。コーチや円堂がモテモテだし)

 

 土門は雷門サッカー部の恋愛関係に対して辟易していたという。

 

 

 

つづく

 



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第11話「モテモテ! キャプテン!」

 

 

 前回までのあらすじ

 

ジェミニストームに2度目の敗北をした雷門イレブン。染岡は自分の間違いを素直に認め、改めてジェミニストームに勝てる選手になる事を誓い、雷門イレブンは団結力を深めた。

 

 そんな中、雷門イレブンに感化されたSPフィクサーズの財前塔子は父親に頼み込んで、雷門イレブンの特訓に参加させて貰う事になったが果たして…。

 

*****************

 

 傘美野中・ミーティングルーム

 

飛鳥「そういう事なので、財前さんにはMFに入って貰おうかな」

 と、飛鳥が紹介をし終えた。

 

栗松「それにしても総理大臣がよく認めたでやんすねぇ…」

飛鳥「あー…その事なんだけどね」

 

 栗松の言葉に飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「財前さんの周りの子、サッカーする人がいなくていつも一人でサッカーしてたんだ」

「!!」

飛鳥「そこで円堂くんに出会って…」

円堂「!」

 

 飛鳥が円堂を見て話すと、円堂も反応した。

 

飛鳥「君に見込んで是非お願いしたいっていう話なんだ」

円堂「そうだったんですか! 大歓迎ですよ!」

 

 円堂が反応する。

 

塔子「これからよろしくな! 円堂!」

円堂「こちらこそ!」

 

 こうして、塔子が正式に雷門イレブンに加わった。

 

春奈「そういやユニフォームは…」

塔子「作ったよ!」

秋「えっ」

 

 と、背番号が28番のユニフォームを勝手に作っていた。

 

秋「い、いつの間に…」

 

 準備の速さに秋たちは辟易していた。ちなみにアニメもいつの間にか雷門ユニフォームを着こんでいたり、ゲーム版でも何故か用意されていた。細かい事は突っ込んだらいけない。

 

******************

 

 そして傘美野中のグラウンドで練習が行われていた。こんな毎日使っていて迷惑じゃないのかというツッコミもあるが、近いうちに別の場所へ移動となる為、それまでならという理由で貸している。だが、生徒達としては、毎日使っていても歓迎ムードだった事は内緒だ。

 

塔子「たあっ!」

「!!」

 

 塔子は機敏な動きでDF陣を突破していた。

 

塔子「ちょっと遅いぞ!」

壁山「す、すみませんっス…」

栗松「……」

 

 いつもの練習に女子が参加している事もあり、皆不思議そうだった。

 

豪炎寺「……」

鬼道「SPフィクサーズのキャプテンをしていたあたり、戦力にはなりそうだ」

豪炎寺「ああ…」

 

 豪炎寺と鬼道が塔子を見つめていたが、

 

鬼道「…だが、女子が加わったことでチームの雰囲気が変わりつつある」

豪炎寺「サッカーに性別は関係ない」

鬼道「そうだな。だが、女子は色々と気を遣うものだ」

豪炎寺「!」

鬼道「お前も妹が大きくなれば嫌でも分かる」

 

 そう言って鬼道は去っていった。

 

飛鳥「……」

 

 飛鳥はじーっと練習を見ていると、夏未達がやってきた。

 

夏未「あの…」

飛鳥「どうしたの?」

夏未「…塔子さんの事なんですけど、本当に良かったんですか?」

飛鳥「響木監督も問題ないって言ってるから大丈夫だよ」

春奈「それにしても、女の子がサッカーやってるなんて珍しいですね」

飛鳥「まあ、それは分かるけどさ…」

 飛鳥が塔子を見つめた。

 

飛鳥「女の子がサッカーをやったらいけないなんてルールはないからね」

「!」

 

 飛鳥の言葉にマネージャー達が反応すると、飛鳥の表情が真剣だという事が分かった。

 

飛鳥「円堂くんは円堂くんでサッカーが大好きだから、一緒に出来る仲間が出来て嬉しいだろうけど、きっと財前さんは円堂くんの存在に救われたんだろうなぁ。とっても嬉しそうだ」

「……!」

 

 マネージャー達は塔子の顔を遠くから見ていると、確かに嬉しそうで、その姿はSPフィクサーズのキャプテンではなく、純粋にサッカーを楽しんでいる一人の女の子だった。

 

飛鳥「…ま、人に迷惑をかけてるわけでもあるめぇし、それは財前さんの個性だ。ちゃんと受け入れてあげてね」

春奈「は、はい!」

 

 そう言って飛鳥は去っていった。

 

 そして休憩時間。

 

塔子「円堂! 一緒に食べようぜ!」

円堂「おう! いいぞ」

 

 塔子はとにかく円堂にベッタリだった。

 

秋「あ、ごめんなさい塔子さん。ちょっといいかな…」

塔子「何だ?」

円堂「じゃあ後でな」

塔子「ああ!」

 

 そう言ってマネージャー達は塔子を連れて行った。

 

******************

 

夏未「ごめんなさいね。急に連れ出したりして」

塔子「別にいいよ。どうしたの?」

夏未「えっと…//////」

 

 夏未が頬を染めた。

 

春奈「塔子さんって、キャプテンの事好きなんですか?」

秋「は、春奈ちゃん!!//////」

夏未「ダイレクトに聞き過ぎよ!!//////」

塔子「好きだよ?」

秋・夏未「!!?//////」

 

 塔子があっさり答えたので、秋と夏未が驚いていたが、春奈は…。

 

春奈「…それって友だちとしてですか? 異性としてですか?」

塔子「友達だけど。異性って何?」

 

 塔子の言葉に秋や夏未がほっとした。

 

塔子「あ、分かった! もしかして円堂の事好きなのか!?」

秋・夏未「!!?//////」

 

 逆に聞き返されて秋と夏未がボンっと顔を真っ赤にした。

 

春奈「そうなんですよー。それなのに2人とも奥手で…いひゃいいひゃいいひゃいれす~!!!」

 

 春奈が喋ると夏未が後ろから頬っぺたをつねった。

 

秋「お願い。忘れて//////」

塔子「えー。どうしよっかなー」

夏未「忘れなさい!! これは理事長の言葉と思ってくれて構いません!///////」

春奈「いや、塔子さん外部の人ですから…」

 

 秋と夏未はとにかく羞恥でパニック状態になっていたが、塔子は面白がっていた。

 

塔子「あははははは! 面白いな夏未達も!」

秋・夏未「面白くない!!//////」

春奈「それにしてもそこまでキャプテンの事が気に入ったんですねぇ」

塔子「そりゃ勿論! だって、あんな事言ってくれたの、円堂が初めてだもん」

 

『女の子でキャプテンなんてすげーな!!』

『オレは大歓迎だぜ!!』

 

塔子「本当に嬉しかった…」

「!」

塔子「パパが総理大臣だから、皆気を遣ってよそよそしかったし、いつも一緒にいるのは大人ばっかりだし、同じくらいの子とサッカーをやっても『女だから』って理由でバカにされたりよそよそしくされてたんだ」

「……!」

塔子「だから本当に円堂の言葉が嬉しかった」

春奈「塔子さん…」

 

 塔子が苦笑いしたが、どこか寂しそうだった。

 

*******************

 

塔子「円堂!」

円堂「塔子。ずいぶん遅かったな」

 

 塔子とマネージャー達が戻ってきた。

 

円堂「オレ、ずっと待ってたんだぞ!」

塔子「食べてて良かったのに」

円堂「いやあ、先に食べるのも悪いし、塔子とおにぎり食べたかったから」

秋・夏未「……」

春奈「ハァー…」

 

 円堂の発言に秋と夏未が表情を曇らせ、春奈がため息をついた。

 

円堂「ん?」

塔子「待っててくれたんだ。ありがとう」

 

 と、塔子だけはにこやかだった。

 

塔子「それじゃ一緒に食べようぜ!」

円堂「ああ! 秋たちも落ち着いたら食べろよ!」

 

 そう言って円堂と塔子は一緒に昼食を取り、マネージャー達が離れた。

 

春奈「…先輩方」

秋「何も言わないで…」

夏未「何でいつもああなのかしら…!!」

 

 秋と夏未が不機嫌だったことは、円堂が知る由もなかった…。

 

春奈「コーチも他人事だと思わないでくださいね」

飛鳥「ああ。そりゃあもう」

秋「春奈ちゃん!!!」

 

 通りかかった飛鳥にくぎを刺すと、秋から叱責を食らう春奈だった。

 

 

つづく

 

 



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第3章 白恋編
第12話「旅立ちは突然に」




雷門背番号コレクション

1番:円堂守
2番:風丸一郎太
3番:壁山塀吾郎
4番:影野仁
5番:栗松鉄平
6番:半田真一
7番:少林寺歩
8番:宍戸佐吉
9番:松野空助
10番:豪炎寺修也
11番:染岡竜吾
12番:目金欠流
13番:土門飛鳥
14番:鬼道勇人
16番:一之瀬一哉
28番:財前塔子

***********************


 

 

 塔子が正式に仲間に加わり…。

 

飛鳥「まあ、次のステップに進む前にお前達に伝えたいことがある」

 

 傘美野中のミーティングルームで雷門中とジェミニストームが集まっていた。

 

飛鳥「えー。そろそろ我々エイリア学園、引っ越します」

「あー…」

 

 今まで飛鳥とジェミニストームの男子選手は傘美野中にテントを張って暮らしていたが、そろそろ迷惑が掛かるので、他の場所に移動となった。

 

飛鳥「SPフィクサーズの皆さんのご厚意で、雷門中から歩いて5分のマンションにジェミニストームと私、財前さんが住むことになりました」

「塔子さんも!?」

塔子「うん。流石に家から遠いし、この方がいいでしょ?」

 

 塔子はあっけらかんと言い放った。

 

壁山「さ、流石総理大臣の娘っス…」

栗松「何か…色々格差を感じたでやんす…」

 

 塔子の態度に壁山と栗松は困惑した態度を見せた。ただでさえ、生徒会長やチームメイトもお金持ちだというのに、更にお金持ちがやってきて、感覚がおかしくなりそうだった。

 

飛鳥「…それでだけど、SPフィクサーズの皆さんも見回りをしてくれるそうなので、ジェミニは安心して仕事するように」

「は、はい…」

 

 SPフィクサーズのメンバーである館野 舞が同席していたが、どうも罰が悪そうだった。

 

春奈「ど、どうしたんですか…?」

飛鳥「聞かないであげて…」

舞「大丈夫よ。あのね、君達に負けた後正式に反省会したのよ。流石にこれはダメだろって」

「!」

 

 舞が自暴自棄気味に事情を説明すると、雷門中とジェミニストームは困った顔をしていた。

 

舞「で、アタシを中心に見回りする事になったんだけど…。もうここに来るの怖いし、恥ずかしい…」

「……」

 

 円堂達は舞の言いたいことが嫌という程理解した。確かに日本一のチームとはいえ、大の大人が中学生にボロ負けするなんて目も当てられない状況だった。

 

舞「しかもスミスさん、アタシにこの仕事を押し付けて逃げたのよ!!? 信じられる!? 体はでかいくせにやる事は小さいんだから!!」

塔子「大丈夫だよ。スミスはパパが叱ってくれるから」

(そういう問題じゃないだろ!!)

 

 と、雷門イレブンが突っこんだ。だが、舞が涙目でスミスに文句を言っているあたり本当に不満なんだろう。ちなみに一部のメンバーが「かわいい」と思っていたのは内緒だ。

 

舞「しかもあの人ジェットコースター…」

飛鳥「館野さん。落ち着いてください。ジェットコースターの怖さに体のでかさは関係ありませんから」

 

 舞の暴走に飛鳥も流石に宥めたが、舞の気持ちが痛いほど理解できた。周りの人間が無茶苦茶だったのは飛鳥も同じだったからである。

 

飛鳥「…とまあ、雷門中が復興するまでまだ時間はあるので、今後はそういう方向で行きます」

「はーい」

風丸「一丈字コーチ」

 風丸が手を上げた。

 

飛鳥「どうしたの?」

風丸「此間言っていた次のステップですが、どうなりましたか?」

飛鳥「あー…。うん、一応考えてはいるんだよね」

 

 飛鳥が考えていた。

 

鬼道「その様子だと考えてる様子はないように見えますが」

飛鳥「いや、沢山案があるんだよ。一番やりたいのはジェミニストームのスピードに慣れてほしいんだよね」

「!?」

飛鳥「乗馬かウォータースライダーか、さっきの話じゃないけど、遊園地のジェットコースターに乗るか…」

舞「ジェットコースターとかがいいんじゃないかしら?」

飛鳥「……」

 

 飛鳥が舞を見ると、

 

飛鳥「…スミスさんがそんなに憎いですか」

舞「ち、違うわよう!!」

塔子「スミス。あたしが遠い所に行くときはいつも一緒だから…」

 

 そう言って塔子は額を抑えた。

 

壁山「ど、どれも苦手っス…」

飛鳥「まあ、冬だったらスノーボードとかも良さそうだったんだけどな…」

レーゼ「そういや飛鳥さん」

飛鳥「何だ?」

レーゼ「この時期って、北海道まだ雪降ってませんでしたか?」

飛鳥「降ってるかもしれねぇけど、北海道まで行く金があるかよ。しかもオレ達は保護されてる身だし」

塔子「北海道!! あたし行った事ないから行きたい!!」

「え」

 

 そんな訳で…

 

塔子「ついたーっ!!!」

「えええええええええええええええええええ!!!?」

 

 と、雷門イレブンは北海道まで来ていた。

 

 参加メンバー

 

・ 雷門イレブン

・ マネージャー

・ 一丈字飛鳥(コーチ)

・ 角巣英二(監督?)

 

角巣「塔子様。あまり遠くに行かないでください」

塔子「…舞が怒ってたよ?」

 

 角巣の言葉に対し、塔子は嫌そうな顔をしていた。北海道に行くという事になり、舞は上機嫌だったが、塔子が参加するという事が角巣の耳に届き、強制的にシフトを変えられた。

 

 舞は仲間と共に雷門中でジェミニストームの監視をしていた…。

 

舞「もう嫌!!!」

疾風「分かるぞ館野…。あの人結構無茶苦茶だもんな…」

五洋「……」

 

 舞が涙目になり、ともに監視をしていた疾風と五洋に宥められていた。彼らの角巣に結構無茶ぶりをさせられていた。

 

レーゼ「た、大変ですね…」

極火「ああ…。お互い上司には苦労するな…」

レーゼ「ええ!! 飛鳥さんがいてくれて本当に良かった!!」

舞「いいなぁ!! ジェミニストームいいなぁ!!」

極火「お前は落ち着け」

 

 ジェミニストームとSPフィクサーズが何か仲良くなったのは別の話…。

 

円堂「それにしても北海道って初めて来たなぁ…」

豪炎寺「ああ…」

壁山「確か美味しいものが沢山…」

秋「もう。壁山くんったら…」

夏未「遊びに来たんじゃないのよ?」

壁山「うっ…」

宍戸「あ、そういえば雷門先輩は生徒会の仕事って大丈夫なんですか?」

 

 と、宍戸が聞くと夏未はいつも通りに振舞った。

 

夏未「あら、私がいる事が何か問題でも?」

栗松「いや、生徒会長でやんすし…」

少林寺「普通に気になっただけですよ。まさか仕事を持ち込んでるんじゃ…」

円堂「なに!? そうなのか夏未!」

夏未「大丈夫よ。本当は残るつもりだったんだけど、皆に気を遣われて…」

 

 途中から夏未がモジモジしていた。

 

円堂「どうしたんだよ夏未」

 

 円堂の発言に皆が嫌な予感がした。恋愛ごとに関しては滅茶苦茶鈍いのは皆知っていた為、変な事を言いださないか不安になっていた。

 

夏未「な、何でもないわよ…」

円堂「もしかしてお前…寒いのか?」

「え?」

 

 円堂の発言に大半のメンバーの目が点になった。飛鳥は苦笑いし、鬼道と豪炎寺は表情が変わらず、角巣は大人の対応を見せ、塔子は普通に心配していた。

 

円堂「その格好は流石に寒いだろ! ほら! オレのジャージ貸してやるから、これ着とけ!」

 

 円堂は自分の上のジャージを脱いで夏未に渡した。

 

夏未「そ、そこまでしなくていいわよ…」

円堂「体を冷やしたら腹壊すぞ!」

飛鳥「…受け取ってあげなさい。雷門さん」

夏未「!」

 

 夏未は飛鳥にそう言われて素直に受け取った。

 

夏未「…ありがと/////」

円堂「いいっていいって…は、はっくしょい!!」

夏未「ちょ、あなたも寒いんじゃないの!?」 

 すると土門が前に出た。

 

土門「気にすんなよ。こういうのはレディファーストだ」

一之瀬「秋や音無さんも寒くないかい?」

春奈「私は何かついでのような気もしますけど…私は大丈夫ですよ!」

鬼道「無理をするなよ春奈」

春奈「大丈夫だってば!」

 

 と、和気藹々としていた。

 

円堂「よーし! それじゃ北海道で特訓だー!!」

「おー!!!」

 

 そう言って円堂達はやる気になっているのを、陰から誰かが見ていた。

 

 

「あれは…!!」

 

 

 

つづく

 



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第13話「特訓前のひと時」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 スピードを強化するために、飛鳥が色々提案したが、塔子が北海道でウインタースポーツがしたいという話になり、北海道に行く事になった。

 

 それと同時に、雷門イレブンは塔子が改めて金持ちの娘だという事を想い知らされた…。

 

********************

 

 北海道のとある旅館

 

飛鳥「さてと、北海道にいる間はこの旅館に泊まるぞ」

角巣「財前総理大臣御用達の宿だ。正直君達には勿体ないが…」

塔子「スミス!!」

角巣「…しかし、総理の命令となれば仕方があるまい。くれぐれも迷惑のかからないようにな」

飛鳥「さて、部屋割りだけど…」

塔子「あたし、円堂と同じ部屋がいい!」

「!!?」

 

 ほとんどのメンバーが驚いた。

 

飛鳥「分かった。塔子さんと円堂くんは同じ部屋…」

秋・夏未「ちょちょちょちょちょちょ!!!!」

角巣「いけません塔子様!!」

 

 秋と夏未、角巣が慌てて割って入った。

 

塔子「えー。何でさ」

秋「塔子さんは女の子でしょ!」

塔子「どうして一緒に寝たらダメなの?」

秋「そ、それは…//////」

 

 塔子の言葉に秋は頬を染めた。それもそうだ。言えるはずがない。

 

塔子「あ! それだったら秋も一緒に円堂と一緒に寝ようぜ!」

秋「ふぁっ!!?//////」

 

 秋が顔を真っ赤にすると、2年生男子は塔子の天然さに辟易し、春奈は笑いを堪えていた。

 

夏未「と、塔子さん! あなた少しは女性としての恥じらいを…」

塔子「夏未も一緒に寝たいのか?」

夏未「そうじゃなくて!! 着替えとか…」

塔子「トイレや脱衣場ですればいいじゃん」

 

 塔子に正論を言われて秋や夏未は固まった。

 

塔子「意識しすぎだよ。それにスミスだっているんだから、変な事出来ないって」

 塔子の言葉に秋と夏未が顔を真っ赤にして固まった。そして春奈は震えていた。

 

飛鳥「えーと…。一応全部屋4~5人部屋だから、割り振るね。まず第1班。壁山くん、栗松くん、少林寺くん、宍戸くん」

「はーい」

 

飛鳥「第2班。染岡くん、半田くん、松野くん、風丸くん、影野くん」

風丸「は、はい…」

 

飛鳥「第3班。目金くん、土門くん、豪炎寺くん、鬼道くん、一之瀬くん」

土門「あ、はい…」

一之瀬「え、ちょっと待ってください。もしかして…」

 

飛鳥「大丈夫大丈夫。第4班は木野さん、雷門さん、音無さんのマネージャー3人で、一応欠員で塔子さん」

 

 飛鳥が苦笑いすると、一部のメンバーが複雑そうにした。

 

飛鳥「同じくらいの友達が出来て塔子さんも嬉しいんだよ。今日くらいは付き合ってあげて」

「は、はあ…」

飛鳥「第5班は円堂くん、塔子さん、スミスさん、オレ。これで決まり」

塔子「よーし円堂! 一緒にお風呂入ろうぜ!」

飛鳥「それはダメ」

塔子「えー」

飛鳥「君のお父様に殺されるから」

角巣「塔子様。なりません!」

塔子「ちぇー。分かったよ」

 

 と、塔子はぷーたれていた。

 

春奈「塔子さん…強いですね…」

秋「あははははは…」

 

 春奈の言葉に秋は苦笑いし、夏未は額を抑えていた。

 

円堂(た、助かった…)

 

 円堂はサッカーバカであり、恋愛ごとには鈍いものの、FF開催中に敵情視察で入ったメイド喫茶でメイドに言い寄られて赤面したりと、女性に興味がないわけではない。

 

栗松(キャプテン…羨ましいでやんす…!!)

目金(ライトノベルでよくあるシチュエーションを間近で見られるとは…!!)

 

 約二名、変な事を考えてマネージャーに睨まれたのは言うまでもなかった…。

 

 そして食事は全員で取っていたが…。

 

「はむっ…はむっ…」

 

 壁山がものすごい勢いで料理を食べていた。

 

少林寺「おい壁山―」

宍戸「少しは落ち着いて食べろよー」

 

 一緒のテーブルで食事をしていた少林寺、宍戸が困った顔で注意すると、隣にいた栗松は呆れていた。

 

栗松「全く、食い意地になるといつもこれでやんすよ…って、あー!! お前オレが楽しみに取っといた寿司をー!!」

少林寺「オ、オレじゃないよ!」

宍戸「あ、ごめん。オレが食べたけど早い者勝ちだぞ」

栗松「ぬぬぬ~!!! あー!! 壁山―!!」

 

 と、1年生が騒いでいた。

 

夏未「ちょっと栗松くん! 他の人に迷惑でしょ!」

栗松「えー…何でオレだけでやんすか…」

夏未「全くもう…」

 

 夏未が寿司を優雅に食べるが、わさびが大量に入っていて表情を歪ませていた。

 

塔子「あー! それあたしのわさび巻きー!!」

夏未「~~~~~~!!!!」

飛鳥「大丈夫?」

 

 夏未の表情を見て飛鳥が苦笑いした。

 

円堂「お茶ならあるぞ。ほら」

夏未「……///////」

 

 夏未は死にたかった。わさび巻で取り乱している姿を好きな男子に思いっきりみられることなど、正直屈辱以外何物でもなかった。秋はそんな夏未に対して心の底から同情した。

 

 そして円堂に対しては「何でこんな時に限って冷静やねんお前」と思っていた。

 

飛鳥「えーと。明日は早いから早く寝るように」

「はーい」

飛鳥「間違ってもゲームセンターに入り浸らないように」

「…はい」

飛鳥「ちなみに20時には閉まるらしいぞ」

「……」

飛鳥「分かるぜ。旅館にあるゲームセンターって、何か風流があるよね…」

 

 だが、ここは我慢して明日の特訓に備える事にした。

 

 だが、マネージャー達は眠れなかった。

 

春奈「コーチやスミスさんがいるとはいえ、気になりますよね」

夏未「べ、別に…」

秋「……」

 

 夏未と秋は不機嫌だった。

 

春奈「ちょっと見に行きません?」

秋「そ、そこまでしなくても…」

 

 その時だった。

 

「ふぁああっ!! え、円堂ぉ」

 

 塔子の嬌声が聞こえてきた。するとマネージャー達は即座に反応して円堂達の部屋に来た。

 

夏未「コ、コラー!! 何してるのー!!!」

塔子「何ってババ抜きだよ」

円堂「ゴメン。騒がしくして。ちゃんと消灯時間には寝るから」

 

 と、円堂は塔子とババ抜きをしていた。角巣は新聞を読んでいて、飛鳥は畳の上で寝そべっていた。それを見てマネージャー達は唖然とした。

 

春奈「さっき何か変な声がしたので…」

塔子「円堂がババ抜き強いんだよー」

円堂「自分でもビックリしてるんだ」

夏未「そ、そう…」

 

 完全に勘違いだった為、夏未と秋は気まずそうに去っていった。

 

春奈「あ、お邪魔しましたー」

 

 春奈は苦笑いしてその場を後にした。

 

塔子「変なの」

 

 塔子の言葉に飛鳥と角巣が顔を合わせて、飛鳥は苦笑いして角巣はうなだれた。

 

 

つづく

 

 

 



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第14話「熊殺しの吹雪」

 

 

 翌日

 

飛鳥「さて、皆朝ごはんを食べたら、イナズマキャラバンで移動するからな」

 

 朝食の会場で飛鳥がスケジュールについて説明していたが…。

 

壁山「もぐもぐもぐもぐ!!」

 

 壁山は相変わらず食べる事に集中していた。周りで食べていた栗松たちは呆れていた。

 

飛鳥「まあ、食べた分動いて貰うとして…」

円堂「とにかく楽しみだ!」

 

 朝食も食べ終えた後、円堂達はイナズマキャラバンでとある場所に移動していた。そこはウインタースポーツが楽しめるスキー場だった。

 

壁山「ス、スキー場…?」

飛鳥「まあ、折角北海道まで来たんだし、ウインタースポーツでスピードを養ってもらおうかな」

「!?」

 

 飛鳥の発言に皆が反応した。

 

染岡「一丈字さん! ウインタースポーツって、オレ達は遊びに来た訳じゃないんですよ!?」

飛鳥「そうだよ?」

染岡「え?」

飛鳥「これは遊びじゃない。スノーボードやスキーを使ってトレーニングをするんだよ。まあ、ジムにあるトレーニング器具だと思って」

「!?」

 

 飛鳥の言葉に豪炎寺と鬼道が察した。

 

鬼道「確かにスキーやスノーボードのスピードであれば、エイリアのスピードを体感する事が出来る」

豪炎寺「ああ。やってみる価値はあるな」

円堂「よーし! それじゃ早速挑戦だ!」

「おおー!!」

 

 と、その時だった。

 

「もしかしてあの人たち、フットボール・フロンティアで優勝した雷門イレブン!?」

「え?」

 

 円堂達が声がした方を見ると、そこには地元の中学生らしき少年少女がいた。

 

「ホントだ!!」

「テレビで見た事ある人達ばっかりだよ!!」

 

 と、少年少女たちははしゃいでいた。

 

円堂「えっと…」

飛鳥「……」

 

 円堂達が不思議そうに見ていると、

 

飛鳥「何か御用でしょうか」

「あっ…」

 

 飛鳥が話しかけると少年少女たちが緊張した。

 

円堂「もしかして、君達もサッカーやるの?」

 

 と、円堂が気さくに話しかけると、少年少女たちは表情を明るくした。

 

「うん!!」

「私達もサッカーやるんだよ!」

 

 そう話しかけた。

 

円堂「どこの中学校?」

「えっとね。白恋中っていう学校だよ!」

飛鳥「白恋中!?」

 

 飛鳥が驚いた表情を見せると、皆が飛鳥を見た。

 

円堂「し、知ってるんですか!?」

飛鳥「ああ…」

 

 飛鳥が白恋中の生徒を見つめた。白恋中の生徒は飛鳥を見て緊張していた。

 

飛鳥「ちょっと聞きたい事があるんですが、良いですか?」

「は、はい…」

 

 すると飛鳥はこう言った。

 

飛鳥「吹雪士郎って子、サッカー部にいませんか?」

「!!?」

 

「吹雪くん?」

「吹雪くんがどうかしたの?」

 

 白恋中の生徒達は不安そうにしていた。

 

円堂「コーチ…。誰なんですか? 吹雪士郎って」

飛鳥「北海道でかなり有名なエースストライカーだよ。通称『熊殺しの吹雪』と言われてて…」

 

 飛鳥が冷や汗をかいた。

 

飛鳥「…エイリア学園が狙ってた子でもあったんだ。リストには載っててね」

「!!?」

 

 飛鳥の発言に皆が驚いた。

 

円堂「えっ!?」

「嘘!?」

「エイリア学園って確か学校を壊した悪い奴だべ!?」

飛鳥「ま、まあ…そうね…」

 

 白恋中の生徒の言葉に飛鳥は返事に困った。

 

「吹雪くんが連れてかれるなんて嫌だべ!」

「どうしよう~!!」

飛鳥「ああ、一先ずは大丈夫。エイリア学園の親玉は捕まったから」

 

 パニックになる白恋中の生徒に対して、飛鳥が苦笑いしながら宥めた。

 

***************

 

 レストラン

 

「本当にうちの者が怖がらせて悪かったね」

 

 飛鳥は吹雪を除く白恋中メンバーに謝罪をした。雷門イレブンはそんな様子を近くのテーブルで見ていた。

 

飛鳥「それからありがとう。吹雪くんを呼んでくれて」

「うん。だって大事な話だべ。吹雪くんも一緒にいた方が良いよ」

「もうすぐ来るって言ってたから待ってて!」

 

栗松「熊殺しの吹雪ってどんな感じでやんすかね」

少林寺「熊殺しって言うから、やっぱり体が大きいのかな…」

壁山「そ、そうに違いないっす…」

 

 と、雷門中の1年生たちが吹雪について話をして、壁山が震えていると、

 

「あー。皆そう言うんだよ」

宍戸「え?」

 

「吹雪くんは僕たちと同じくらいだよ?」

「しいて言うなら、イケメンで運動神経が抜群なんだ!」

「学校の女の子たちからモテモテなんだべー」

栗松「はぁあああああああ!!?」

 

 栗松が絶叫した。とても大きい声だったので一緒のテーブルだった壁山、少林寺、宍戸は耳をふさいでいた。

 

夏未「ちょっと栗松くん。他の人に迷惑でしょ」

春奈「…まあ、叫びたくなる気持ちも分からなくはないですけどね」

 

 ちなみに他のお客さんは誰もいない。精々お店の人がいるくらいである。

 

染岡「だけど、そんなに凄いプレイヤーならどうしてFFに出なかったんだよ」

「オラたち、そういうの興味ないから」

「うんうん。楽しくサッカー出来ればそれで良いんだべ」

染岡「…なに?」

鬼道「価値観の違いだ。それは仕方あるまい」

飛鳥「まあ、どっちみち影山零治に出場資格を剥奪されてるからね…」

鬼道「…え?」

 

 皆が飛鳥の方を見た。

 

鬼道「今、何て言いました…?」

飛鳥「白恋中はね。FFの出場資格を剥奪されてたんだよ。吹雪くんが強すぎるから…」

「ええっ!!? そうだったの!!?」

「てっきりオラ達が弱いから、出場させて貰えないと思ってたべ!」

 

 出場資格が剥奪されていた事自体知らなかった白恋メンバーは驚いていた。

 

飛鳥「まあ、影山零治も捕まったし、来年から出れると思うから、気が向いたら参加してみてね」

「ん、んだ…」

 

 その時だった。

 

「あ、吹雪くんだ!」

「どうしたの? 僕にお客さんって…」

 

 と、いかにも爽やかなイケメンが現れた。まあ、どちらかといえば優男だった。

 

飛鳥(間違いない。リストに載っていた顔と同じだ…)

春奈「あー。確かに女子達がメロメロになるだけの事はありますね」

塔子「そうか? 何かナヨナヨしてて、頼りなさ…」

 角巣が塔子の口をふさいだ。

 

吹雪「ああ、いいよ。気にしないで。よく言われるんだ…」

 吹雪が苦笑いした。

「最初は皆そう言うけど、プレーを見たら気が変わると思うよ!」

「プレー?」

「聞いて驚くなよ。吹雪くんはストライカーとしてもディフェンダーとしても天下一品なんだべ!」

「!!?」

 

 白恋中のDF、押矢 万部の発言に雷門イレブンは驚いた。

 

 

つづく

 



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第15話「皆で強くなる(前編)」

吹雪の話はやぶのてんや版をベースにしてます。


 

 

 前回までのあらすじ

 

 ウインタースポーツでスピードをあげる特訓をしようとしたが、白恋中メンバーに遭遇し、そこで強力なストライカー『吹雪士郎』と出会う。

 

*****************

 

 押矢の言葉に皆が驚いた。

 

豪炎寺「フォワードとしても…ディフェンダーとしても…?」

一之瀬「攻守ともに出来るプレイヤーか…」

鬼道「それが事実なら、影山が邪魔をするのも一理ある…」

 

 と、皆吹雪の実力に興味津々だった。

 

押矢「そして何と言っても、スピードだべ!」

風丸「!」

押矢「吹雪くんには誰も追いつけないべー」

「って押矢。何自分の事のように話してるべさ」

「こいつ押矢って言うんだけど、いっつも吹雪くんに助けられてるだ」

押矢「そ、それは言わないって約束だべ!!/////」

 

 チームメイトにからかわれて押矢はむきになったが、

 

吹雪「でも、チームの誰よりも努力家なんだ」

「!!」

押矢「吹雪くん…」

 

 吹雪だけは助けてくれて押矢は感動していたが、

 

吹雪「だから助け甲斐があるんだよ」

押矢「吹雪くん!!?」

 

 あまり嬉しくない事を言われて押矢がツッコミを入れると、笑いが生まれた。

 

円堂「すっげー…試合してみたい!!」

 

 円堂がそう言うと、

 

吹雪「それはいいけど…君達、用事があるんじゃなかったの?」

円堂「あっ…」

「あ、そうそう。こんな所まで一体何しに来たんだ?」

飛鳥「えっとね…」

 

 飛鳥が事情を説明した。

 

飛鳥「…という訳で、ジェミニストームに対して実力で勝てるようにスピードを鍛えようとしてるの」

「へー…」

「流石雷門イレブン。意識が高いべー」

 

 学校を壊した宇宙人を捕まえて、それでなお自分たちの実力を高める為に特訓する姿に、白恋イレブンは改めて雷門イレブンを尊敬した。

 

吹雪「それは名案だね! いいと思う!」

 吹雪も好意的だった。

吹雪「それだったらスノーボードが一番お勧めだよ」

「スノーボード?」

吹雪「ついてきて」

 

*********************

 

 そして吹雪はスノーボードを披露したが、それはもう見事だった。

 

春奈「うわあっ! 早いです~!!」

栗松「くぅぅ…!! イケメンは何しても画になるでやんす…」

少林寺「僻むなよ…」

 

 吹雪の姿を見て春奈が黄色い声援を上げると、栗松は絶望に陥っていた。

 

吹雪「ふうっ…」

 吹雪が戻ってきた。

 

吹雪「このように、雪が僕たちを風にしてくれるんだよ」

風丸「風に…」

飛鳥「そういうこと」

「!」

 

飛鳥「スノーボードを通じて、ジェミニストームの速さを体で感じて貰う。そうすることで感覚が研ぎ澄まされるという訳だ」

鬼道「そうなる事で、周りが見えてくる…という訳ですか」

飛鳥「それだけじゃないぜ。パスも出しやすくなるし、相手のパスにも反応してカットも出来る」

円堂「よーし! それじゃやってみようぜ!」

飛鳥「あ、ちょっと待って」

「?」

 

 皆が飛鳥を見た。

 

飛鳥「白恋中の皆は経験者かな?」

「はい!」

飛鳥「それじゃ雷門の皆に教えてくれるかな。初心者が多いんだ」

吹雪「あ、そうだね。スノーボードって見た目以上に難しいから、教えて貰った方が良いかも…」

円堂「わ、分かった…」

飛鳥「吹雪くん。君はちょっと来てくれるかな。話したい事があるんだ」

吹雪「分かりました…」

 飛鳥が吹雪を連れて行こうとすると、

 

「あ、ちょっと待ってほしいべ!」

「?」

 

 MFの荒谷紺子が困った顔で話しかけた。

 

紺子「白恋のメンバーからも数名、参加させてほしいべ…」

飛鳥「OK。それじゃ決めてくれるかな?」

 

 と、紺子、押矢、目深が参加することになった。

 

「それじゃ、目金くんはオラが教えてあげるズラ~」

目金「な、何て僕なんですか…ってか、鼻水が…」

 

 目金はDFの雪野星也に懐かれていたが、彼の鼻水に辟易していた。

 

「あー。雪野くんはね、目金くんのファンなんだよ」

「ええええええ!!?」

目金「あのー。そんなに驚く事はないんじゃないですかね…」

 

 あまりにも驚くチームメイトに目金は口元を引きつらせた。

 

半田「だってお前殆ど試合に出てないし…」

雪野「あー。秋葉名戸学園戦もそうだけど、それ以外でも色々有名になってたよー」

目金「な、何でも良いですけど鼻水を何とかして貰えませんかね…」

雪野「あー。ごめんなさーい」

 

*********************

 

 そして、飛鳥は吹雪達と話をしていた。

 

紺子「あの、監督さん…」

飛鳥「あ、オレ監督じゃなくてコーチね。ちょっと監督は本業が忙しくて…」

 

 飛鳥が苦笑いしていたが、紺子は心配していた。

 

紺子「…吹雪くんを、どうする気なの?」

飛鳥「どうもしないよ。ただ、一点だけ確認したい事があるんだ。エイリア学園の人間だった者として、ケジメをつける為にね」

 

 飛鳥が真剣な顔をして吹雪を見た。

 

飛鳥「吹雪くん」

吹雪「はい…」

 

飛鳥「二重人格だって聞いたんだけど、どうなの?」

吹雪「……」

 

 吹雪も真剣な顔をした。

 

吹雪「…それならもう心配ありませんよ」

飛鳥「?」

 

 吹雪が正面を向いた。

 

吹雪「白恋の皆が…監督が…僕に『一人じゃない』って教えてくれたから」

「!?」

 

 吹雪の言葉に紺子たちは暗い顔をした。

 

紺子「…吹雪くん。前までは弟のアツヤくんの人格があったんです。吹雪くんは元々DFで、アツヤくんはFWだったんです」

飛鳥「……」

紺子「アツヤくんの人格になる事で、強力なシュートが打てるんだべ。それで今まで試合とかでもずっと活躍してたんだ。けど…」

吹雪「ここからは僕が話すよ」

「!」

 吹雪が紺子を見た。

 

吹雪「ありがとう。大丈夫だから」

紺子「吹雪くん…」

 

 吹雪が飛鳥を見た。

 

吹雪「…僕はアツヤの人格になる事で今まで沢山点を取ってきたんですけど、ある日、僕は体調を崩して試合に出れなかったことがあるんです。そのせいで白恋中は大量に点を取られて負けて、白恋サッカー部は僕がいなきゃ弱いチームだと周りからバカにされるようになったんです」

 

 吹雪が俯いた。

 

吹雪「…その時僕は、完璧じゃなかったから体調を崩して、白恋中は負けたんだと自分を責めたんです」

飛鳥「完璧?」

 飛鳥が反応した。

 

吹雪「…今は亡き両親と弟と約束したんです。弟と二人で完璧なサッカー選手になると」

 

 

つづく

 

 

 



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第16話「皆で強くなる(後編)」

 

 

「ふー。スノーボードって難しいや…」

「そうだな」

 

 と、円堂と土門が中で休憩しようとしたが、偶然飛鳥達の話を聞いてしまった。

 

土門「…あの部屋から、コーチの声が聞こえねぇか?」

円堂「え…」

 

 そして部屋の中では話が続けられていた。

 

吹雪「…完璧になる事、家族との約束でもあって、かつての僕の全てでした」

飛鳥「……」

 

吹雪「だけどあの日、僕がいなかったせいで試合で負けて皆が酷い目に逢った時、僕は自分を責めて、どんなに無理をしてでも完璧でいる事にこだわっていたんです。そんな時、無理がただって僕は倒れました」

飛鳥「そうか…」

 

 すると今度は目深が口を開いた。

 

目深「吹雪くんが倒れた後、オレ達は監督に集められました。もう吹雪一人に負担をかけるような事はやめろと」

 

 目深の言葉に飛鳥は反応した。

 

紺子「吹雪くんとアツヤくんがとても強くて頼りになるから、私達は頼りきりにしてました。押矢「だけど、それが結果的に吹雪くんに負担をかけてしまってたんです」

 

 飛鳥は吹雪が押矢は頑張り屋だと言っていた事がようやく理解できた。少しでも吹雪の負担を下げようと頑張っていたのだと。

 

吹雪「僕は倒れてたのでその時はいなかったんですけど、押矢が皆を説得してくれたんです」

押矢「吹雪くん…!」

 押矢が吹雪を見た。

 

吹雪「そして監督からはこう言われました。一人で完璧になるのではなく、チーム全員で完璧になれと」

 

 吹雪は目を閉じた。

 

吹雪「僕は白恋中のキャプテンとして、皆を信頼して、自分の役割を果たし、完璧になっていたつもりでした。でも、完璧ではありませんでした。今は…今まで通り楽しいサッカーをやりつつ、チーム皆で完璧になれるように、白恋サッカー部を立て直しています」

円堂「……!!」

 

 吹雪の言葉に円堂ははっとなり、2回目のジェミニストーム戦の事を想いだした。自分も吹雪と同じように仲間を信じ、キャプテンとしての役割を果たしていたつもりだったが、結果としては一部のメンバーに負担をかけていたのだ。

 

 そして円堂は悔やんだ。キャプテンとして間違った判断をしていたと。土門はそれに気づいて複雑な顔で円堂を見ていた。

 

飛鳥「それじゃ…もう二重人格は…」

吹雪「はい。もう今の僕にアツヤの人格はありません」

円堂・土門「!!」

 

 吹雪がいつくしむ顔をした。

 

吹雪「アツヤは…僕の心の中にいるって分かったので」

飛鳥「そうか…」

 

 吹雪の言葉を聞いて、飛鳥は安心した。

 

飛鳥「…それだったら、君の人格に関しては心配する必要はなさそうだな」

「!」

飛鳥「話してくれてありがとう。吹雪くん」

吹雪「いえ、こちらこそ」

 

 と、二人が喋ると紺子たちもとても嬉しそうな顔をしていた。

 

飛鳥「…そういや、話変わるけど」

「?」

飛鳥「ここ最近、白恋中で怪しい奴とか見かけなかった?」

「!?」

飛鳥「例えばゴーグルをかけてるハゲのおっさんとか」

押矢「あ!! そういや見たべ!!」

飛鳥「…やっぱりか」

 

 飛鳥が困惑した。

 

紺子「皆怖いって話をしてたんだけど、あれもエイリア学園だべ!?」

飛鳥「…というより、エイリア学園と関わっていたチンピラとでも言っとこうかな。恐らく吹雪くんをエイリアの仲間にしようとして、白恋中の周辺をウロウロしてたんだと思うよ」

目深「そういや、見た事ないお巡りさんもいっぱいいたっぺ…」

飛鳥「…そのハゲのおっさん達が絡んでるね」

 

 飛鳥は苦笑いするしかなかった。

 

飛鳥「とにかく、一応エイリア学園は無くなって、とってもお偉いさんが見回りに来てるけど、皆も気を付けてね」

「はい!」

飛鳥「それじゃ戻ろうか…」

 

 飛鳥達はその場を後にして、皆と合流した。

 

*****************

 

塔子「いやっほーい!!」

「塔子ちゃん上手~!!!」

 

 塔子がスノーボードで滑走していた。

 

角巣「塔子様! あまり調子に乗らないように!! こないだも…」

塔子「分かってるってばー」

 

 角巣が注意すると、塔子が諫めた。ちなみに角巣は苦手なので不参加だった。

 

壁山「どわああああああああ!!」

栗松「うわああああ!! こっち来るなでやんすー!!」

宍戸「ひえええええええええ!!」

 

 と、壁山たちは相変わらずドタバタしていた。

 

春奈「…あっちはまるでセンスがありませんねぇ」

栗松「グハァ!!!」

壁山「うう…そこまで言わなくても…」

 

 春奈の容赦ない言葉に栗松と壁山は心が折れそうだった。少林寺と宍戸は心の中で流石鬼道の妹と言わんばかりに辟易していた。

 

雪野「そうそう。上手ズラ~」

目金「あ、ありがとうございます…」

 

 鼻水には辟易しているものの、意外に教えるのが上手で目金は上達していた。

 

 そんなこんなで夕方になった。

 

飛鳥「今日はここまで! やってみてどうだった?」

 

 飛鳥が雷門メンバーに聞いてみたが、皆が飛鳥を見た。

 

飛鳥「…どうしたの?」

春奈「いや、最後の最後でコーチがすごい滑りを見せてたから…」

夏未「経験者なんですか?」

飛鳥「数年前に1回やったくらいだよ。結構やりこんでたから、無意識に覚えてたのかもね」

栗松「くぅ~!! 如何にも天才が言うセリフでやんすよ!!」

飛鳥「それはそうと、明日は練習試合組んだから」

「え?」

 

飛鳥「やっぱり練習前と練習後で試してもらおうと思って」

 

 翌日白恋サッカー部と練習試合をした。グラウンドは旅館の敷地内にあるサッカーグラウンド。

 

飛鳥「今回のテーマは初心に帰る」

「!?」

飛鳥「雷門も白恋もまたゼロからのスタートだ。そういう訳だからスタメンはこれね」

 

FW:目金、染岡

MF:半田、少林寺、宍戸、マックス

DF:風丸、壁山、影野、栗松

GK:円堂

 

「!?」

飛鳥「豪炎寺くん、鬼道くん、土門くん、一之瀬くんは必要に応じて投下する。準備してね」

土門「はい!」

 土門が返事をした。

 

円堂「さあ皆! サッカーやろうぜ!」

 皆が円堂を見た。

 

染岡「どうしたんだよ円堂…」

半田「今日はやけに張り切ってるな」

 

 染岡と半田の問いに飛鳥が苦笑いした。

 

円堂「白恋から凄くやる気が伝わってきてるんだ。早くサッカーがしたいよ」

秋「円堂くん…」

円堂「さて! 皆で勝つぞ!」

「おー!!!」

 

 そう言って雷門中はそのまま白恋中との試合に臨んだ。

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 



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第17話「上には上がいる」

 

 

 白恋中と練習試合をする事になった雷門イレブン。だが、試合の展開は予想だにしない展開となった。

 

『エターナルブリザード!!』

 

 吹雪が強力な氷のシュートを撃つと、円堂は成す術もなく失点した。

 

角馬「ゴール!!! 吹雪が先制点を取ったー!!!」

 

 角馬がごく当たり前のように実況をしたが、皆不思議そうに見ていた。

 

飛鳥「君、どうやってここまで来たの?」

角馬「自転車と船を使ってきました!!」

飛鳥「言ってくれたら乗せたのに」

角馬「…えっ、あ、そうなんですか?」

飛鳥「うん。大変でしょ」

 

*******************

 

円堂「す、すげぇ…!!」

壁山「な、なんなんすかあのスピードは!!」

風丸・染岡「……!!」

 

 吹雪のスピードに円堂以外のスタメンは驚きが隠せなかったが、その中でも一番焦っていたのが染岡と風丸だった。

 

吹雪「さあ、風になろうよ」

「!」

 

 吹雪の言葉に風丸が歯ぎしりした。そして飛鳥はそれを見逃さなかった。

 

 そしてホイッスルが鳴り、雷門ボールで始まったが、

 

風丸「オレにボールを回してくれ!」

円堂「風丸!?」

染岡「クソ…! まだ1点だ! オレがすぐに取り返してやる!」

 染岡が突破しようとすると、吹雪はスケートの要領でクルクル回り、地面に足をつけた。

 

吹雪「アイスグランド!!」

 

 すると氷の衝撃波が発生して染岡は氷漬けになった。

 

半田「染岡!」

目金「皆さん落ち着いてください! 相手のペースに乗せられてます!」

 

 目金が指示を出すと、雪野がうっとりしていた。

 

染岡「くそ…!!」

目金「染岡くん。一人で突っ走るなんて無謀ですよ」

染岡「うるせぇ!」

 

 染岡が吹雪を睨んだ。

 

染岡「このまま負けっぱなしでいられるかよ!」

風丸「……」

 

 飛鳥はただ雷門イレブンを見つめていた。

 

秋「何かいつもの雷門サッカー部らしくないわ…」

夏未「ええ…」

春奈「メンバーは同じはずなのに…。やっぱり吹雪さんが強すぎるから…」

飛鳥「それもそうだけど、やっぱり日本一っていうのがプレッシャーになってるね」

「!?」

 

 皆が飛鳥を見るが、鬼道は正面を向いていた。

 

鬼道「今の雷門中は弱小サッカー部ではなく、フットボール・フロンティア優勝校。だから無様に負ける事は許されない。そのプレッシャーのせいで動きがぎこちなくなっているんだ」

春奈「そうかもしれないけど…」

飛鳥「いつも通りに戦えば勝てると心では分かっていても、吹雪くんがあまりにも強すぎるんだ。自分たちが考えていた以上にね」

秋「!」

飛鳥「予想外の事態が起きた時、人は狼狽え判断力が落ちるんだ。これは新たな課題が発生だな…」

 

 飛鳥が口角を上げた。

 

鬼道「確かに影山が白恋の出場資格を剥奪するのも頷ける…」

一之瀬「それもそうだけど、これほどのプレイヤーがエイリア学園の手に渡ったら、大変な事になる」

豪炎寺「……」

 

 そしてこの後、染岡が何とか1点をもぎ取ったが、試合が終わるまで誰も吹雪を止める事が出来なかったし、吹雪がディフェンスに回ると必ずボールを取られていた。

 

 そんな中…

 

風丸「……!」

 風丸は吹雪のスピードに対し、自信喪失になっていた。

飛鳥「……」

 

**********************

 

紺子「負けちゃったけど、楽しかったー!!」

雪野「目金くんカッコ良かったずらー」

 

 と、結果は雷門の勝ちだったが、一部のメンバーは素直に喜べなかった。

 

鬼道「どう思う」

豪炎寺「ああ。これは完全な勝利とは言えない」

 

 鬼道と豪炎寺がそう会話して、飛鳥を見つめた。

 

飛鳥「…まあ、そんなに見つめるなよ。そうだな。完全な勝利どころか負けと言ってもいい」

「!!?」

 

 飛鳥の発言に話を聞いていたメンバーが驚いた。

 

土門「ま、負けって…」

飛鳥「吹雪くんね。かつてはゴールを決められそうになると、ディフェンスラインまで戻ってきてブロックしてたんだ」

「!!?」

飛鳥「でも、それは結果として吹雪くんに負担をかけるし、他の選手の成長につながらないという事でもうやめてるんだ。ディフェンダーたちが必死に食らいついていただろう」

「あ…」

 

 と、雷門イレブンが試合の事を想いだした。確かに押矢を筆頭に懸命にブロックしようとしていた。

 

飛鳥「あれやられてたらもっと苦戦してただろうね。最悪…負けてたかも」

豪炎寺・鬼道「……」

 

 飛鳥の言葉に豪炎寺と鬼道が言葉を失うと、円堂がやってきた。

 

円堂「吹雪のシュート…とっても凄かった。でも今のままじゃ止められない」

秋「円堂くん…」

円堂「スノーボードをマスターしてスピードを上げて、もう1回挑戦だ!」

 

 と、円堂の前向きな言葉に皆元気が出た。

 

 約2名を除いて…。

 

風丸「……」

少林寺「……」

 

 風丸と少林寺だった。風丸は吹雪のスピードに嫉妬していたが、少林寺はミスを連発してしまった。それを飛鳥は見逃さなかった。

 

 

***********************

 

 その夜

 

少林寺「風丸さん?」

風丸「少林。お前も呼ばれてたのか」

 

 少林寺と風丸がお互い呼ばれていた事に驚いていた。2人は旅館のミーティングルームの前まで来ていた。

 

風丸「コーチ。入ります」

飛鳥「おう」

 

 そこには飛鳥が待っていた。

 

飛鳥「まあ、座れよ」

少林寺「は、はい…」

 

 と、飛鳥は風丸、少林寺を見つめた。

 

風丸「で…何か御用ですか?」

少林寺「や、やっぱりアレですよね。オレ、白恋の試合でミスばっかりしたから…」

飛鳥「まあ、それもあるかな」

 

 飛鳥の言葉に少林寺はショックを受けた。

 

飛鳥「二人に言いたいのはね」

風丸「…もっとスピードを上げろという事ですか?」

飛鳥「違う」

少林寺「じゃあ何でしょうか…」

 

 飛鳥が二人の顔を見た。

 

飛鳥「まだまだ強い奴いただろ」

風丸・少林寺「え?」

 

 予想外の発言に風丸と少林寺はキョトンとした。

 

飛鳥「風丸くん。君、吹雪くんがエターナルブリザード決めた後、やたら力んでたよね?」

風丸「そ、それは…」

飛鳥「陸上やってただけに、あんだけ足早かったら…どう思う?」

風丸「……」

 風丸が俯いた。

 

飛鳥「皆まで言わないけど、それは慢心してた証拠だ」

風丸「!!」

 風丸が飛鳥を見た。

 

飛鳥「お前としてはそんなつもりはないと思っているかもしれないと言うだろう。頭の中ではそう思っていなくても、やはり心のどこかではそう思っていたんだ」

 飛鳥の言葉に風丸は俯いた。

 

飛鳥「で、次は少林寺くんだ。君は吹雪くんのエターナルブリザードもそうだけど、ジェミニに勝ちたいっていう思いから、焦りが生まれてたでしょ。2戦目の時から動き悪かったよ」

少林寺「!」

 

飛鳥「そして今回もそう。チームの為に貢献しなきゃっていう思いが強すぎて、力が入り過ぎて動きがおかしかったんだ。そして吹雪くんの強さを見て、それが更に悪化した。途中からどうすればいいか分からなくなったでしょ?」

 

 飛鳥の言葉に少林寺は俯いた。

 

少林寺「…はい。その通りです」

 

 少林寺は言葉を漏らすと、風丸が少林寺を見た。

少林寺「コーチ…」

 

 円堂が近くまで通りかかったその時、少林寺はこう言った。

 

少林寺「オレ、やっぱりサッカーに向いてないんですかね…」

 

 

つづく

 



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第18話「光明」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 白恋中との試合で吹雪の圧倒的な力を思い知り、自信を無くした風丸と少林寺。少林寺は自分はサッカーには向いてないと飛鳥に伝えるが…。

 

********************

 

少林寺「オレ、サッカーには向いてない気がするんです…」

飛鳥「……」

 

 すると円堂が入ってきた。

 

円堂「そんな事ないぞ少林寺!」

風丸「円堂…」

 

 円堂が入ってきたことで風丸や少林寺が円堂を見るが、少林寺はばつが悪そうにする。

 

円堂「お前はいつも頑張ってるじゃないか!」

飛鳥「円堂くん。気持ちは分かるけど少し静かにしてくれるかな」

円堂「でも!」

飛鳥「今は少林寺くんが話してるんだ」

円堂「!」

 

 円堂が反応をすると、飛鳥が少林寺を見た。

 

飛鳥「少林寺くん。どうしてサッカーに向いてないって思うのか、教えてくれるかい?」

少林寺「だ、だってオレ…体は小さいし、壁山みたいなディフェンスが出来るわけでもないし、鬼道さんみたいに作戦の指示出せないし、豪炎寺さんみたいなシュートだって打てない。ジェミニストームの試合で豪炎寺さん達に頼り過ぎだって、コーチも言ってたじゃないですか!」

飛鳥「言ったね」

 

 飛鳥はあっさり認めたが、不思議そうにしていた。

 

飛鳥「…それで、少林寺くんはどうしたいのかな?」

「!」

飛鳥「言ってごらん。サッカー、上手くなりたくないの?」

少林寺「そ、そりゃあ上手くなりたいですよ!」

飛鳥「それが答えだよ」

「!!」

 

 円堂、風丸、少林寺が驚いた様子で飛鳥を見た。

 

飛鳥「ほんの少しでもサッカーが上手になりたいっていう気持ちがある限りは、サッカーを続けなさい」

少林寺「!」

飛鳥「…けど、どうすればいいか分かんないでしょ? 色々考えてみたけど」

少林寺「う…」

 

 少林寺が俯いた。

 

円堂「少林。そう言う事なら何で言ってくれないんだよ!!」

飛鳥「君とかに頼ると、また人に頼ってるって言われるからだよ」

円堂「!」

少林寺「…コーチ」

飛鳥「ああ。君が一人でスノーボードの特訓をしていて、色々考えてる所を見せて貰ったよ。そこまで考えてるなら、助言をしてもいいかな」

 

 飛鳥の言葉に少林寺ははっとして飛鳥を見つめた。

 

少林寺「教えてください! オレは…どうしたらいいんですか!?」

飛鳥「ジャンプ力を鍛えて」

少林寺「え?」

 

 少林寺の言葉に円堂と風丸も困惑した。

 

飛鳥「体が小さいからって言ってたけど、君、身軽でもあるよね」

風丸「た、確かに少林はそうですね…」

飛鳥「だったら今以上にジャンプ力を上げて」

少林寺「それで…どうするんですか?」

飛鳥「まあ、これ言っちゃうと完全に答えになるけど、必殺技を考えたから、そのためにジャンプ力を鍛えて」

「必殺技!!?」

飛鳥「少林寺くん。君のフットワークの軽さなら出来る技だ」

少林寺「必殺技…」

円堂「どんな技なんですか!?」

飛鳥「そうだね…」

 

 と、飛鳥が持っていた紙に絵を描いて3人に説明した。

 

飛鳥「この技はブロック技で、まず少林寺くんと相手のプレイヤーがいます。少林寺くんが高く飛んでそこから急降下して、地面に衝撃波を与えて、ボールを奪う技だね」

少林寺「か、かっこいい!!」

風丸「FF地区予選で戦った野生中にもジャンプ力が凄い奴がいたから、可能か…」

飛鳥「まあ、どうしても高く飛ぶのが無理なら、イナズマ落としの要領で誰かに踏み台になって貰って高さを稼ぐってのもあるけど、スキルアップの為に1人でやるパターンで行こうか」

少林寺「はい!」

 

 光明が見えて少林寺の表情に輝きが戻った。それを見て円堂は飛鳥の凄さを感じた。

 

飛鳥(まあ、後もう一つ必殺技考えたけど、あれはシュート技だし、ディフェンスがちょっと弱いから、黙っとくか…)

 

飛鳥「さて、話は戻すけど3人とも。世の中にはまだまだ強いプレイヤーが沢山いる」

円堂・風丸・少林寺「!」

飛鳥「君達がこの先どんな道に進むかはわからないけど、サッカーを続けるのであれば、強い心を持って精進する事を心がけてくれ」

風丸「強い心…」

 

 風丸が俯いた。

 

風丸「コーチ」

飛鳥「ああ。少林寺くんだけ答えを教えるのも不公平だね。君も結構色々考えてたね。白恋の試合が終わってからずっと」

円堂「そうだったのか!?」

風丸「……」

 すると飛鳥はある事を言いだした。

 

飛鳥「君はスピードよりも、メンタルを鍛えた方が良いね」

「!!」

 飛鳥が風丸を見た。

 

飛鳥「少林寺くんもそうだけど、君達結構真面目でしょ」

風丸「!」

飛鳥「だから何かあると何とかしなきゃって気持ちが強くなり過ぎて、どうしたらいいか分からなくなるんだ。違う?」

少林寺「は、はい…」

風丸「すみません…」

 

 と、風丸が飛鳥に謝った。

 

飛鳥「まあ、悩むのはいい事だけど、エイリアの件があるから冗談抜きで直してほしいな」

風丸「エイリアの件?」

飛鳥「ああ。前に全国各地から才能のあるサッカー少年少女を仲間にしようって話をしたでしょ?」

円堂「はい…」

飛鳥「奴らは言葉巧みに仲間に引き入れるからね。風丸くんみたいな真面目な子が一番危ないんだよ」

「!?」

 

 円堂と少林寺が衝撃を受けながら風丸の方を見た。風丸もショックを受けて飛鳥を見ていた。

 

飛鳥「人の心の傷につけこむようなやり方をするからな…。あのハゲ共は」

少林寺「ハゲ共って…」

 

 飛鳥のとっさの毒舌に少林寺は困惑した。

 

円堂「そんな事絶対にさせません! 風丸も少林も守ります!」

飛鳥「そりゃあ頼もしいけど、あまり無茶をさせないようにね」

円堂「はい!」

飛鳥「何だかんだ言って人間、どうしても無理なときは無理だからね」

円堂「そんなのやってみなきゃわからないじゃないですか!」

飛鳥「OK。それじゃ明日楽しみにしてな」

「え?」

 

 翌朝

円堂「……」

飛鳥「ピーマン多めにしておいてやったぜ」

 

 朝食は生野菜サラダもあったが、円堂だけピーマンが入っていた。他はにんじんとかキャベツである。

 

半田「円堂。お前ピーマン嫌いなのか?」

円堂「そ、そんな訳ないだろ~?」

夏未「幼稚園生じゃないんだから…」

春奈「いやー。うちのクラスにもピーマン苦手な人いますよ…」

鬼道「春奈も昔は苦手だったな」

春奈「お兄ちゃん!!//////」

飛鳥「ちなみに残してもいいぜ」

「え?」

 

 皆が飛鳥を見ると、飛鳥は円堂にサインを送った。

 

円堂「食う!!」

半田「いや、ドレッシングはかけていいんだぞ…」

円堂「やっぱり苦い…」

染岡「偉いぞ円堂―」

円堂「子ども扱いするなよ!!」

 

 それを見た風丸と少林寺は少し唖然としていたが、いつもの円堂に思わずクスッと笑った。

 

円堂「そ、それじゃ今度のジェミニストーム戦まで、みっちり特訓だー!!」

「おー!!」

夏未「ただし円堂くんはピーマンを全部食べてからです!!」

円堂「」

 

 

おしまい

 

 

 



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第19話「修業完了!」

 

 

 そして北海道滞在最終日まで、雷門イレブンはスノーボードの訓練と、練習試合を繰り返した。

 

円堂「はあっ!!」

 

 円堂は吹雪のエターナルブリザードを遂に止める事が出来た。

 

壁山「やったっす!!」

吹雪「あー…。遂に止められちゃった。うん! 強くなったね円堂くん!」

円堂「ありがとう吹雪! 白恋の皆! マジで感謝だ!!」

 

 と、円堂がにかっと笑った。

 

塔子「やったな円堂!!」

円堂「どわはあ! と、塔子!////」

 

 塔子が後ろから抱き着いてきて、秋と夏未が険しい表情をした。

 

春奈「…先輩方も行かれてみてはどうでしょうか…いたたたたたたた!!!」

 

 春奈がぼそっと呟くと夏未にほっぺをつねられた。

 

飛鳥「……」

角巣「どう思う?」

飛鳥「成長したのは円堂くんだけじゃありませんね。スノーボードの訓練のお陰で、皆スピードが上がっています。課題になっていた吹雪くんへの突破とブロックですが、全員ではないものの合格者もいます。これならばジェミニストームといい勝負が出来るんじゃないでしょうか」

角巣「勝って貰わなきゃ困るんだがね」

飛鳥「まあ、あいつらも簡単に勝たせはしませんよ」

 

 と、飛鳥と角巣はフィールドを見渡した。

 

*******************

 

「お世話になりました!」

 

 円堂達が東京に帰ろうとしているので、吹雪達が見送りをしていた。

 

円堂「本当にありがとな! 吹雪! 白恋の皆!」

吹雪「うん! 僕たちも楽しかったよ」

 

 と、吹雪がスマイルを見せた。

 

栗松「くぅぅぅ…何とかあのモテテクも習得したかったでやんす」

春奈「それなら吹雪さんと同じくらいの練習量をしないと駄目ですね!」

栗松「…やっぱりそうなるでやんすか」

 

 栗松がしょげると笑いが生まれ、白恋の男子生徒数名が栗松に同情した。

 

「オレ、お前のファンになったぜ…」

「頑張って…」

栗松「出来れば女子がいいでやんす!!」

 

 そしてまた染岡と半田が吹雪に話しかけた。

 

染岡「またオレと勝負しようぜ!」

吹雪「うん。勝負もそうだけど、また一緒に風になろうね!」

半田「東京にも機会があったら遊びに来いよ」

吹雪「うん!」

 

飛鳥「それじゃ、お世話になりました」

円堂「またなー」

「さよーならー」

 

 と、雷門イレブンを乗せたイナズマキャラバンは北海道を後にした。

 

角馬「いやー。小生まで載せて貰い、本当にありがとうございます!」

飛鳥「実況の仕事やら色々お疲れ様…」

春奈「いやー。角馬さんが私たちの仕事手伝ってくれて助かりました!」

 

 と、和気藹々としていた。

 

飛鳥「さて、東京につくのは明日だ。青森についたらそこで一回休憩を取って、それからは車中泊だ」

夏未「ちょっと待ってください。男女一緒に寝ろと言うのですか?」

飛鳥「やっぱそうだよな…」

 

 本来であれば雷門イレブンは飛行機で東京に帰る予定だったが、欠航になった為バスで帰る事になったのだ。

 

春奈「飛行機が欠航になってなければ…」

塔子「別に車中泊でもいいじゃん。夜行バスも男女一緒でしょ?」

 

 そう塔子があっけらかんと言い放った。

 

夏未「あなたはそれでもいいかもしれないけど…!」

塔子「狭いのは皆同じなんだから、贅沢言ったらダメだぞ」

夏未「うっ…」

 

 痛い所を突かれて夏未は苦虫を噛んだ。

 

飛鳥「…まあ、席順はちゃんと話し合うように」

塔子「じゃあ円堂! 一緒に寝ようぜ!!」

円堂「えっ」

夏未「こうなるから文句を言ったのに!!」

塔子「じゃあさ。一番後ろの席であたしと円堂と夏未で一緒に寝ようよ。それなら文句ないでしょ?」

夏未「んな…!///////」

 

 夏未が顔を真っ赤にした。

 

栗松「一番後ろはスペースが空いてるから、ゆったり座れるでやんすよ」

目金「そうですね。これなら生徒会長も文句はない筈ですよ」

染岡「そんなに車中泊が嫌なら一人で帰れよ」

夏未(こいつ等内申点下げてやる…!!!)

飛鳥「コラコラ」

秋・春奈「夏未さん!」

 

 言いたい放題言う栗松、目金、染岡に対して夏未が怒りの炎を燃やすと、飛鳥、秋、春奈が宥めた。そして角巣はしかめた。

 

豪炎寺「……」

鬼道「こういう事だ」

豪炎寺「あ、ああ…」

 

 以前、女子はデリケートだから丁重に扱わなきゃいけないという話をしていたが、豪炎寺は夏未と栗松たちのやり取りを見て嫌でも分かった。確かに気を遣う。

 

一之瀬「……」

土門「やめとけ。気持ちは分かるけど、ここはアメリカじゃねーし、もう昔みたいにはいかねぇぞ」

 

 一之瀬が何をしようとしていたかは、ご想像にお任せします。

 

************************

 

 その夜…。

 

円堂「……」

 

 一番後ろの席を円堂と塔子、夏未が陣取っていた。

 

飛鳥「本当に陣取るとは…」

角巣「ああもう…」

 

 角巣は困った顔で頭を抱えた。

 

夏未「か、勘違いしないでください!! 私は円堂くんが塔子さんに如何わしい事をしないか見張る為です!」

円堂「オ、オレがそんな事する訳ないだろ!!」

塔子「そうだよ」

飛鳥「あー円堂くん円堂くん。ちょっといいかい?」

円堂「え?」

 

 円堂が飛鳥の方を見た。

 

飛鳥「大丈夫だよ。口ではこう言ってるけど、雷門さんもちゃんと分かってるから」

円堂「でも…」

飛鳥「オレは信じてるし、塔子さんの自己責任だと思ってるから」

塔子「そうだよ」

飛鳥「オレも前に似たような事あったけど、口だけだから大丈夫」

 

 飛鳥が苦笑いすると円堂も安心した。

 

飛鳥「だからといって、自分からお触りする事はないように」

円堂「しませんよ!!/////」

夏未「そんな事したら抹殺よ」

円堂「えー…」

 

 夏未の理不尽さに円堂はげんなりしていた。

 

飛鳥「まあ、女の子はねお喋りが大好きな子が多いから、付き合ってあげて」

春奈「…一丈字さん。年いくつですか?」

飛鳥「来年の冬で15」

 

栗松「そういや似たような事があったって言ってたでやんすけど、何があったでやんすか?」

壁山「やっぱり女の子たちと…」

飛鳥「話せば長くなる」

栗松「気になるでやんす~!!!」

塔子「そうだよ! 何があったんだよ!」

飛鳥「まあ、円堂くんに助け舟を出すつもりで話そうか。あれはいつ頃だったかな…」

 

 と、飛鳥が昔話をしながらバスは東京へ向かうのだった…。

 

 

つづく

 

 



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第20話「在りし日のエイリア学園」


 前回までのあらすじ

 円堂がウハウハモテモテルートに突入し、飛鳥が昔話を語った…。


 

 

 

飛鳥「あれは数年前だな。吉良星二郎が完全におかしくなる前の話」

「……」

 

飛鳥「エイリア学園の皆で旅行に出かけたんだ」

栗松「な、何か凄いでやんすね…」

飛鳥「まあ、本当は「お日さま園」っていう孤児院なんだけど、エイリア学園の方が説明しやすいし、君達もなじみが深いでしょう」

壁山「そ、それはそうっすね…」

 

飛鳥「で、目的地まではバスで行く事になったんだけど、5台あって…」

春奈「あー。そこでコーチと誰が隣になるか、女の子たちが喧嘩したんですね」

栗松「きぃいいいい!! 何か聞きたくないでやんす!!」

飛鳥「じゃあやめるわ。おやすみなさい」

栗松「嘘です」

 

飛鳥「まあ、こんな感じだったね…」

 

***************************

 

 数年前。飛鳥は当時小学6年生だった。

 

星二郎「それではチームごとに乗り込んで下さい」

 

 吉良星二郎が子供達にバスを乗り込むように言った。

 

飛鳥「父さん」

星二郎「ああ。お前は無所属でしたね。それじゃ…」

 

「飛鳥」

 と、後のマスターランクチーム『ダイヤモンドダスト』のメンバーである倉掛クララが話しかけてきた。

 

飛鳥「おう、どうした?」

クララ「私達のバスに…」

 その時だった。

 

「飛鳥! プロミネンスのバスに乗りましょ!」

 のちのマスターランクチーム『プロミネンス』のメンバーである蓮池杏(レアン)がやってきて、飛鳥の腕を強引につかんだ。

 

クララ「ちょっと。私が先に話しかけたのよ」

レアン「此間後から声をかけて来たくせに何言ってんの?」

 

 と、バチバチ火花を散らしていた。

 

星二郎「おやおや、飛鳥はモテモテのようですねぇ」

飛鳥「いや、笑い事じゃないから…」

星二郎「それでは話し合って好きなチームのバスに乗りなさい。時間が無いから早く決めるんですよ」

飛鳥「逃げやがった…」

 

 そして飛鳥は各男子メンバーを見たが、大半が知らんぷりをした。

 

飛鳥「練習メニュー増やしてる」

「そんな!!」

「飛鳥さんも同じ男ならわかるでしょう!!」

飛鳥「晴矢! 風介!」

ヒロト「あの2人ならもうバスに乗りこんだよ。逃げるように…」

レーゼ(三十六計逃げるに如かず…)

 

飛鳥「OK。それじゃガイアにお邪魔させて貰おうかな」

クララ「ダメに決まってるでしょ」

レアン「ちょっと!! 晴矢引っ張り出してきて!!!」

 

 そして飛鳥はやんわりとレアンを振りほどいた。

 

レアン「!!」

飛鳥「晴矢と風介に伝えといて。キャプテンなんだからもっとしっかりしろって」

 

 飛鳥がそう言うと、ガイアのメンバーであるクィールこと久井ルルが飛鳥の頭の上に乗っかった。

 

クィール「それじゃ出発進行だっポ!」

飛鳥「人の頭の上に乗らないで」

レアン「ちょ、ちょっとぉ!!」

クィール「飛鳥が選んだんだから文句言わないッポ!!」

クララ「……!」

 

 クィールが心の底からバカにしていた顔をしていた為、レアンとが歯ぎしりをし、クララは完全に青筋が立っていた。

 

(じ、地獄だ…)

 プロミネンスとダイヤモンドダストの男子メンバーは心の底からキャプテンを恨んだ。

 

 そしてこうなった。

 

レアン「あんたのせいよ!!」

「いてててて!! お前が回りくどい事するからだろうが!!」

 

 と、レアンはプロミネンスのキャプテン・バーン(南雲晴矢)に八つ当たりしていた。同じ女子メンバーのポニトナとバーラも飛鳥と一緒のバスに乗れなくて残念がっていた。

 

 そしてダイヤモンドダストは…。

 

「私は間違ったことはしていない!」

「そうね」

(笑ってるけど、機嫌悪っ!!)

 

 クララがずっと不機嫌で、同じ女子メンバーのアイシーとリオーネも残念そうにしていた。そしてキャプテンのガゼル(涼野風介)は開き直っていたが、完全に空気が悪くなっていたので、ばつが悪そうにしていた。

 

栗松「…あれ? もうこの時点でチームが決まってたでやんすか?」

飛鳥「えっとね。一応サッカーチーム自体は出来てたんだけど、ランク付けはエイリア学園が本格的に始動してからなんだ。この時は皆同じだったんだよ」

壁山「お、女の子って怖いっす…」

 

 壁山が震えていた。

 

飛鳥「もうね。この年頃から女の子を怒らせたらいけないって分かって来るんだ…」

春奈「凄く苦労されてたんですね…」

飛鳥「お願いだから人に迷惑をかける事だけはしないでね…」

 

 飛鳥はどんよりすると、皆は飛鳥の気苦労を偲んだ。気の強い夏未ですらちょっと気を遣っていた。男がそんな弱音を吐くんじゃないと言えば、確実に批判されるだろう。もうそんな時代じゃないのだ。

 

飛鳥「お互いがお互いを思いやれなきゃ、人間お終いよ」

春奈「コーチ。誰とお話してるんですか?」

栗松「それはそうと、そのガイアっていうチームと一緒になってどうなったでやんすか?」

飛鳥「どうだったかなぁ…」

 

*****************

 

クィール「飛鳥はここっポ!」

飛鳥「分かった分かった」

 飛鳥がクィールに連れられて席に座ると、ガイアの女子メンバーであるキーブ(紀伊布美子)がやってきた。

 

キーブ「飛鳥くん。後ろの席に座らない?」

飛鳥「え?」

クィール「えー」

キーブ「一人だけ不公平よ。それに…玲名が」

「……」

 

 キーブが苦笑いすると、一番後ろの席から八神玲名(のちのウルビダ)が飛鳥を睨みつけていた。

 

クィール「隣に座りたいなら座りたいって言えばいいッポ」

キーブ「それが出来たら苦労しないわよ」

クィール「甘やかしすぎっポ。素直に言えない恥ずかしがり屋さんは剛太の隣で十分だッポ!!」

「いや、なんでだよ!!」

 

 と、羽崎剛太(のちのハウザー)がツッコミを入れたが、玲名がイライラしていた。

 

「あの、そろそろ出発したいんですけど…」

クィール「はーい。出発してくださいっポ~」

ウルビダ「……!!」

(なんだ…この末っ子ばかり可愛がられて拗ねてるお姉ちゃん感は…)

 

 と、他のメンバーは困惑した。

 

 そして道中はクィールがずっと飛鳥を独占していて、ずっと喋っていた。そしてウルビダは涙を流しながらハンカチをかみしめていた。

 

キーブ(そんなに話したいなら素直になればいいのに…)

ヒロト(毎回八つ当たりされるオレの気持ち考えてほしい…)

 

**************************

 

飛鳥「っていう感じだったなぁ…」

栗松「よりどりみどりでやんす…」

少林寺「でも大変そう…」

飛鳥「うん」

 

 飛鳥が遠い顔をすると、円堂がある事を想いだした。

 

円堂「そういえば、ジェミニストーム以外のチームってどうしてるんでしたっけ」

飛鳥「政府指定の特別地域に建造されている施設にいるよ。エイリア学園の騒動がある程度収まるまではそこにいて貰うの。当分出れそうにないけどね…」

壁山「刑務所みたいっス…」

飛鳥「まあ、学校の授業みたいなのはあるけど、サッカーコートとかは遊ぶ施設とかもあるって聞いたことあるよ。確かゲームセンターもあるって言ってたな」

宍戸「それはいいなぁ」

飛鳥「でも施設の外に出れないから、中々しんどいぞ」

宍戸「た、確かに…」

夏未「それで、会ったりはしてるの?」

飛鳥「…会ってないなぁ」

 

 飛鳥が呟くと、円堂達は飛鳥を見た。

 

円堂「会ってきたらどうですか?」

飛鳥「!」

円堂「コーチの顔を見たら、皆元気になるかもしれませんよ!?」

飛鳥「ああ。実はまだ面会が許されてないんだよ…」

春奈「ホントですか?」

飛鳥「本当だよ。SPフィクサーズの人から電話で様子を聞いてるから安心して。相変らずすぎてオレ自身は安心できないけど…」

 

 と、飛鳥が困った顔をした。

 

春奈「次あったら覚悟しといた方が良いですよ」

飛鳥「え?」

春奈「恋する女の子は宇宙人なんか比べ物になりませんから」

飛鳥「あー…」

夏未「ちょっとこっち見ないでくれません!!?//////」

秋「あと、こっちも見ないでください!!//////」

 

飛鳥「さて、そろそろ寝ようか」

「はーい」

夏未(刺されればいいのに…!!)

 

飛鳥「あ、寝る前に一言だけ言っとこうか」

「!」

 

 飛鳥が雷門イレブンを見た。

 

飛鳥「皆。北海道での特訓。本当にお疲れ様。東京に帰って一日休息を取ったら、すぐにジェミニストームの試合だ! 初めてジェミニストームと対峙した時のあの緊張感と、今日までの特訓を思い出して、全力を出し切るように!」

「……!」

飛鳥「返事は?」

「はい!」

 

 雷門イレブンの返事に飛鳥は笑みを浮かべ、バスは東京へと向かうのだった…。

 

 

つづく

 

 



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第21話「決戦前」

 翌朝、東京へ戻ってきた雷門イレブンは一日休息を取る事になった。

 

 そして飛鳥はというと…。

 

飛鳥「よう」

レーゼ「飛鳥さん!!」

 

 飛鳥が現れてジェミニストームの面々が集まってきた。

 

飛鳥「ちゃんと真面目に仕事してたか?」

レーゼ「ええ。そりゃ勿論!」

ゴルレオ「作業も覚えて絶好調ですぜ」

飛鳥「そりゃ良かった」

 

 するとパンドラが飛鳥を見た。

 

パンドラ「どうでしたか? 雷門イレブンは」

飛鳥「スノーボードを使って速さに慣れて貰ったから、動きにはついてこれるんじゃないかな?」

「!」

飛鳥「さて、今回はもう舐めてかかるなよ。成長したぜ」

「……!」

 

 するとレーゼが俯いた。

 

飛鳥「どうしたリュウジ」

レーゼ「その…。もし、負けたら」

飛鳥「気にすんなよ。負けてももう叱責される事も嫌味を言われる事もない。思いっきりサッカーを楽しむんだ」

「!」

 

 飛鳥が笑みを浮かべた。

 

飛鳥「雷門イレブンには勝っては欲しいが、お前達にもまだまだ頑張ってほしい。彼らを成長させる高い壁であってくれ」

 

 飛鳥の言葉にジェミニストームが元気よく返事をした。

 

************************

 

 そして、決戦の時が来た…。場所は雷門イレブンとジェミニストームが初めて出会った傘美野中。観客は稲妻町の人々やFF優勝校と元宇宙人が試合をするという事で見に来たやじ馬でいっぱいだった。

 

 また、テレビ中継もされており、白恋中で吹雪達が見ていた。

 

押矢「傘美野中っていう所でやるみたいだべ」

雪野「目金くん出るかな~」

紺子「楽しみだね。吹雪くん!」

吹雪「うん!」

 

 吹雪は円堂達の活躍を心待ちにしていた。

 

円堂「す、すごい人だなぁ…」

鬼道「それはそうだ。事件は終結したとはいえ、エイリア学園の脅威は凄まじかった。見に来る人物は多いだろう」

 

 円堂達が人の多さに驚いていると、響木がやってきた。

 

円堂「響木監督!」

春奈「あれ? そういえば一丈字コーチは…?」

響木「今回はオレが指揮を執る」

「!!?」

響木「そして一丈字だが…。今回はジェミニストームの監督だ」

 

 響木の言葉に円堂達が横を見ると、確かに相手側のベンチに飛鳥が立っていた。

 

円堂「一丈字コーチ!!」

 

 飛鳥が円堂の声に気づいて近づいてきた。

 

飛鳥「伝えるのを忘れていたな。今回はあっちにいるよ」

染岡「どうして!」

飛鳥「そんなの決まってるさ。本当に成長したかどうかを見極める為にな」

風丸・少林寺「!!」

飛鳥「それでは響木さん。失礼します」

 

 そう言って飛鳥は去っていった。

 

円堂「一丈字コーチ…」

 

 円堂は飛鳥の後姿を見つめていた。

 

********************

 

 その頃…。

 

「早く試合を見せるっポー!!!」

 

 ここは政府指定の特別施設の中のシアタールーム。ジェミニストーム以外のエイリア学園の生徒がいて、このシアタールームで観戦する事になったのだ。

 

キーブ「やっと飛鳥の姿が見れるわね。玲名」

ウルビダ「……」

 

 ウルビダはずっと不機嫌だった。それもそうだ。急にいなくなり、ずっと連絡もなかった上にジェミニストームと一緒にいたからだ。

 

キーブ「…まあ、ジェミニと一緒にいてムカつくのは分かるけどさ」

 

 その時、モニターが表示された。

 

「さあ、全国サッカーファンの皆さん! お待たせしました! これより、雷門イレブン VS エイリア学園ジェミニストームの試合を始めたいと思います! 実況は私、角馬王将がお送りいたします!!」

 

 と、テントから圭太の父・王将が実況していた。

 

角馬「父上! いつ見ても素晴らしい実況です!!」

「ちちうえー」

 

 弟・歩と共に観客席から観戦していた圭太だった。ちなみに弟の歩は10年後の『イナズマイレブンGO』で中学生に成長し、実況を担当する事になる。

 

 

王将「まずは雷門中の紹介だ!!」

 

 と、モニターに円堂達が映ったが…。

 

クィール「こんなザコはどうでもいいっポ!! 飛鳥を映すっポ!!」

バーラ「あら、雑魚って言った事、飛鳥が知ったら怒るわよ」

クィール「う…じ、事実は事実だっポ!」

キーブ「はいはい。喧嘩しないの」

 

 キーブはクィールとバーラの喧嘩を仲裁したが、なんやかんやこれで物腰の柔らかい女性を演じて飛鳥の気を引こうという作戦だ。

 

コーマ「僕たちにはすごく厳しいんだよねー」

ゾーハン「ズズ、ズズズ…」

キーブ「うるさいわよ」

 

王将「対するはジェミニストーム!!」

 

 ジェミニストームが映し出されていたが、飛鳥が下半身しか映っていない。

 

レアン「ジェミニはいいから飛鳥映しなさいよ!!」

クララ「使えないテレビ局ね…」

ガゼル「クララ。言葉を慎め」

 

王将「そして今回ジェミニストームには、元エイリア学園の関係者だった一丈字飛鳥さんが監督に付きます!」

 

 と、飛鳥がモニターに映し出された。

 

クィール「飛鳥っポ!!」

キーブ「元気そうね…」

ウルビダ「……//////」

 

 ウルビダはプイっと横を向いてしまった。なんだかんだ言ってやっぱり好きなのか、照れていた。

 

「でも何でジェミニなんかと一緒にいるのよー」

 

 と、ファーストランクチーム「イプシロン」のメンバー・皇マキがイライラしていた。隣にいたチームメイトの森野留美(モール)が宥めていた。

 

「ぶっ潰す…」

九里風子(クリプト)も続いていた。

 

 そんな中、ジェミニストーム側にゴミが投げられた。

 

「!!」

 

つづく



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第22話「サッカーというスポーツ」

飛鳥「予想した通りだな…」

 飛鳥が振り向くと、そこには一般市民が怒って空き缶などを投げていた。

 

「オレ達の学校壊しやがって!!」

「地球から出ていけ!! このクソ宇宙人!!」

「死んでしまえ!!」

「お前らなんか生まれてこなきゃ良かったんだよ!!」

 

 と、言いたい放題だった。ジェミニストームのメンバーは意気消沈していたが、

 

飛鳥「あー。その節に対しては本当にご迷惑をおかけしました」

「ああ!?」

「迷惑かけたんなら責任取れや!」

飛鳥「それは勿論必ず責任は取らさせて頂きますが、ごみを投げるのはやめて頂けませんかね」

 

 飛鳥は下手に出たが、市民の怒りは収まらない。

 

「あ? ゴミに対してゴミを投げて何が悪いんだよ」

「自分の立場分かってんのか?」

「そもそも、何で宇宙人側に寝返ったんだよこのゴミ野郎!!」

「てめぇも消えろ!!」

 

 と、男が飛鳥に対して石を投げると、頭に当たった。

 

*******************

 

「ああああああああああああああああ!!!!!」

 

 モニタールームで見ていたエイリア学園の生徒達は発狂した。

 

マキュア「マキ、あいつらぶっ殺す!!!」

クリプト「ぶっ潰す…!!!」

モール「お願いだから落ち着いて…」

 

 と、モールが弱弱しい声でマキュアとクリプトを諫めるが、気持ちは二人と同じだった。

 

バーン「あーあ。バカな奴らだ…」

ガゼル「全く、身の程を弁えろと言いた…」

 

 その時、バーンとガゼルがレアンとクララに頭を押さえつけられた。

 

レアン「は? 何してくれちゃってんのあいつら…」

クララ「あいつらの人生を破壊してくれるわ…」

 

*************************

 

レーゼ「飛鳥さん!」

飛鳥「来るな!」

 

 ジェミニストームが飛鳥に近づこうとするが、飛鳥が制止すると、飛鳥が正面を向いた。

 

飛鳥「気持ちは分かりますよ」

「!」

飛鳥「そりゃあ私達のせいで大事な人たちが傷ついて、怖い思いをしたでしょう。あなた方が許せない気持ちは分かりますが、ここでゴミを投げるという事は、人様に迷惑をかけるという点で我々と同じですよ」

「……!」

 飛鳥の気迫に観客たちは押され始めたが、引き下がれなくなったのか

 

「うるせぇ!!」

「加害者が舐めた口利くな!!」

 

 と、飛鳥に対して物を投げ続けたが飛鳥は避けなかった。瓶も投げられて頭に直撃し、額から血が出ていた。

 

円堂「コーチ!!」

染岡「コラァ!!! お前ら何してんだ!!!」

 

 染岡が突っかかろうとするが、響木が止めた。

 

染岡「響木監督!」

響木「オレが行く」

 

 響木が前に出で、飛鳥の横に立った。

 

響木「彼の言う通りだ。怒りに身を任せ、物を投げつける時点であんた達もエイリア学園と同じだ」

「!!」

 

響木「そして我々は真剣にエイリア学園に勝負を挑もうとしている。このような行為は我々に対する『侮辱』だ!」

 

 響木の怒鳴り声に皆が驚いた。

 

響木「そしてこの少年は加害者などではない。身勝手な大人たちに振り回された被害者だ。自分の身を犠牲にしてまでも、血のつながっていない家族を守り抜こうとしている心優しい少年だ!」

 

 響木の言葉に飛鳥が目を大きく開いたが、ジェミニストームの選手たちは目を閉じて、涙を流していた。

 

『本当にうちの者が多大なご迷惑を…』

 

雷門中の修復作業を始めたころ、飛鳥は雷門イレブンのコーチしていた裏で、壊された学校の関係者に対して謝りに行ったり、損害賠償の手続きについていろいろやっていたのだ。そしてジェミニストームに対して陰口や嫌がらせをしてきた市民に対して、何とか許してもらうように説得もしていたのだ。

 

 彼らが泣いていたのは、自分たちが壊した学校のサッカー部の監督が、自分たちを守ってくれる人の頑張りをちゃんと認めてくれていた事、そして自分達の為に今この瞬間も、守ってくれている人がいた事に対して、感謝の気持ちと後悔の気持ちがあふれ出ていた。

 

 

響木「そんな少年とくだらない正義感を振りかざして好き放題やるあんた達。どっちが人間だ! どっちが人の心を持っている!」

 

 響木の言葉に観客たちはばつが悪そうに俯いていた。

 

響木「そんな事も分からない、分かろうともしない輩に選手と監督を侮辱する資格はない! 今すぐこの場から出ていけ!!」

 

 響木の気迫にゴミを投げていた観客たちは逃げ出した。

 

飛鳥「響木さん…」

 

 飛鳥が響木を見つめると、響木は背を向けた。

 

響木「額の怪我、ちゃんと手当てしてから試合を始めるぞ。マネージャー。手当をしてやれ」

秋「は、はい!!」

 

 すると秋が救急箱を持って、飛鳥に近づこうとすると、パンドラとリームが立ちふさがった。だが、邪魔しようとしているわけではない事が秋は理解できた。

 

パンドラ「お願いします! 私達にやらせてください!」

秋「……!」

 

パンドラは涙声で秋に懇願した。それは、自分たちを絶望の淵から救ってくれた恩人に何かしてあげたいという彼女たちの誠意だった。秋は迷わず、2人に救急箱を渡した。

 

秋「任せたわよ」

リーム「…ありがとう!」

 

 そう言ってリームとパンドラが飛鳥の元にやってきた。

 

パンドラ「アスカ様」

リーム「手当をします。こちらに」

飛鳥「……!」

 

 パンドラがエイリア学園の宇宙人を演じていた。もう宇宙人をやる必要などないのだが、元々は宇宙からの侵略者という設定で、サッカーで地球人と戦うつもりでいた為、ジェミニストームは当初の予定通り、宇宙人として雷門イレブンに勝負を挑もうとしていた。飛鳥が言っていた通り、雷門イレブンの壁としてあろうとしていた。

 

 飛鳥はそれを肌で感じていた。

 

飛鳥「パンドラ、リーム」

パンドラ・リーム「!」

 

 そして笑みを浮かべる。

 

飛鳥「ありがとう」

 

 飛鳥も空気を読んで、そう呼ぶとパンドラとリームが目に涙を浮かべて微笑み返した。

 

壁山「良かったっす…良かったっす…」

宍戸「オレ、こういうのダメなんだよ…」

栗松「ここで泣かせてくるなんて反則でやんす…」

 

 雷門イレブンも一部のメンバーが号泣していた。

 

少林寺「……」

 

 少林寺は飛鳥を見つめていた。そして風丸が少林寺に寄り添った。

 

風丸「オレ達も弱音を吐いてられないな」

少林寺「風丸さん…」

 

 少林寺が風丸の顔を見ると、少林寺の表情が晴れやかになった。

 

少林寺「はい!!」

 

 その頃のエイリア学園はというと…。

 

「あああああああああああああああああああああああああ」

「コラァ!! 飛鳥に近いわよ!!!」

 

 と、女子達の大半が騒いでいで、男子達は辟易していた。

 

マキュア「何でジェミニストームなんかに~!!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

モール「……」

 モールは完全にお手上げ状態だった。

 

クララ「何故飛鳥さんはジェミニストームばかり贔屓するのかしら…」

アイシー「それならジェミニストームに入ればいいのよ」

アイキュー「愛。ランクが下がるぞ」

アイシー「飛鳥に構って貰えるなら何でもいい」

リオーネ「その方がマシ」

ガゼル「君らねぇ…」

クララ「ガゼル様をクビにして、代わりにキャプテンになって貰えばいいのよ」

ガゼル「フン。私抜きでダイヤモンドダストが成り立つはずないだろう?」

クララ「別にダイヤモンドダストじゃなくてもいいわよ。飛鳥さんさえいれば」

 

 と、クララの妄信ぶりにダイヤモンドダストが恐怖を感じていた。

 

 

**************

 

 そして試合が始まろうとしていた…。

 

飛鳥「前半戦はお前たちの好きに戦え」

「!」

 

 飛鳥はジェミニストームを見渡していた。

 

飛鳥「お前達も分かっていると思うが、オレ達の為にたくさんの人たちが動いてくれてる」

「!!」

飛鳥「このご恩はこの試合のプレーで返すんだ。いいな!」

「はっ!!」

 

 また、雷門イレブンは…。

 

響木「レベルアップしたからといって油断はするな。最後まで何があるか分からん」

「はいっ!!」

 

 こうして両チームがポジションについた。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 




おまけ <飛鳥の好感度メーター>

<恋愛感情>
マキュア、クリプト、レアン、ポニトナ、バーラ、アイシー、リオーネ、クララ、ウルビダ、キーブ、クィール

<信頼>
リーム、パンドラ、モール

栗松「めちゃくちゃモテモテでやんす!!!」
レーゼ「恋愛感情抱いてない3人は『お互い大変ですね』みたいな感じ」
栗松「えっ…」
レーゼ「でも、飛鳥さんがあの時みたいに傷つけられたら同じようにキレるよ」


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第23話「決戦! ジェミニストーム!(前編)」

 

 

 アクシデントがあったものの、予定通り試合は行われる事になった。ジェミニストームは元々11人しかいない為、ポジションは変わらなかったが…。

 

響木「FWは豪炎寺と染岡、MFは一之瀬、少林寺、マックス、鬼道。DFは風丸、壁山、土門、栗松。そしてGKは円堂だ」

 

 と、いつものスターティングメンバ―だった。ベンチは影野、半田、宍戸、目金、そして塔子だった。一応塔子もメンバーに入っているが、今回は極力元のメンバーでジェミニストームに勝つ事を目標としている。

 

響木「控えに入っている者もいつでも出れる準備をしておけ。強くなったとはいえ、相手はまだ1勝もあげていないジェミニストームだ」

「はいっ!」

 

*******************

 

 そして試合が始まった。パンドラがドリブルで上がっていくが…染岡がブロックした。

 

パンドラ「!」

染岡「ドンピシャだぜ!」

 

 ボールを奪った染岡は次々と突破した。

 

「!!」

飛鳥「……」

 

 ジェミニストームの選手が衝撃を受ける中、飛鳥は冷静に見つめていた。

 

レーゼ「ほ、本当に我々の動きについていけるというのか!!?」

 

 レーゼも狼狽えていた。

 

 施設では…。

マキュア「何やってるのよ!! ボール取られたじゃないのよ!!」

 

 と、マキュアがレーゼ達に対して怒っていた。

 

クララ「私達だったらあんなヘマしないのに…!!」

レアン「ねえ、ジェミニストームが負けたら即刻追放よね?」

クィール「負けたらもう練習相手の勝ちがないっポ」

 

 そう言ってマスターランクの女子達は嫌味を言ったが…。

 

「いや、それをさせないのが飛鳥さんだよ」

 

 と、ヒロトが口を開いた。

 

ヒロト「恐らくだけど、もしジェミニストームが負けたら、雷門にリベンジをする為に鍛え治すんじゃないかな…」

ウルビダ「お前の持論はどうでもいいんだよ。分かったような顔しやがって」

クィール「そうっポ!!」

マキュア「セカンドランクが負けたら次はファーストランクでしょ!! だから次はマキ達よ!!」

 

 そう言っていがみ合うが、

 

「ええい! 狼狽えるな皆の者!!」

 

 高らかに言い放つのはファーストランク『イプシロン』のキャプテン、デザームこと砂木沼治だった。デザームとしては冷静にしているが、本当はエイリア学園一のサッカーバカ。飛鳥とは唯一の同級生である。

 

 だが、誰一人として狼狽えてはいなかった…。

 

「うるさい!!」

「治さんがそう言ってるんだからそうなんだよ!!」

 

 と、デザームを妄信しているイプシロンの戦士がそう叫んだ。

 

デザーム「我が同胞ジェミニストームと、急成長を遂げた雷門イレブンの熱い試合を、この目で見届けようではないか!!」

クィール「そのテンションは寒いっポ」

クララ「その暑苦しい性格は何とかならないの?」

レアン「趣味じゃないわ」

デザーム「ええい! マスターランクといえど、真剣勝負を邪魔する事は…」

「皆」

 

 瞳子が現れた。

 

ヒロト「姉さん!」

瞳子「黙って試合を見なさい。じゃないと飛鳥に会わせないわよ」

 

 瞳子の発言で皆は黙った。

 

マキュア(自分だけ会いに行ったくせに…!!)

クリプト(ぶっ潰す…)

モール(肺じゃなくて胃がやられそう…)

 

 両隣でチームメイトが嫉妬の炎を燃やしていた事で、胃が押しつぶされそうになるモールであった。

 

********************

 

レーゼ「さ、させるかぁああああああああ!!」

 

 と、ボールを必死に追いかけていくが豪炎寺に取られた。

 

レーゼ「あ、あり得ん!!」

豪炎寺「染岡!!」

染岡「任せろ!! ドラゴン…クラーッシュ!」

 

 染岡が必殺技の『ドラゴンクラッシュ』を放つと、シュート力もスピードもはるかに上回り、ゴルレオが対応しきれず失点した。

 

 

王将「ゴール!! 雷門、遂にジェミニストームから点を奪い取ったー!!!」

 

飛鳥「……」

 飛鳥は失点したが冷静に見守っていた。

 

一之瀬「やったな染岡!!」

染岡「見たか!! 成長したオレ達を!!」

鬼道「だが油断するな。今回は一丈字コーチがジェミニの監督だ。何を仕掛けてくるかわからんぞ」

 

 と、鬼道たちが飛鳥の方を見ると、飛鳥も鬼道たちの方を見た。

 

飛鳥(分かってるじゃないか。成長したな)

 

 そして視線をジェミニストームに向けたが、雷門イレブンが強くなり自分たちが押されている事に対して、焦りと自信がなくなっていた。

 

飛鳥(この前半戦、どこまでやれるのか見せて貰おうか)

 

 飛鳥はどっかりとベンチに座った。

 

レーゼ「飛鳥さん…」

 飛鳥がベンチに座り込んだのを見て、レーゼは憔悴していた。そして試合は続いたが雷門イレブンの優勢だった。焦りからいつものプレイが出来ず、失点も起きていた。

 

春奈「これならいけますよ!!」

夏未「ええ。ジェミニストームの方は焦りが出てるわね」

秋「でも、何だろう…この違和感…」

 

 秋だけは違和感を感じていた。

 

 そして、3-0で前半戦が終わった。

 

紺子「やったね! 雷門中、宇宙人に勝ってるよ!」

吹雪「うん…」

 

 白恋中でテレビを見ていた吹雪達。吹雪以外の白恋イレブンが喜んでいたが、吹雪だけ浮かない顔をしていた。

押矢「どうしたんだべ?」

吹雪「いや、確かに強くなったけど、このまま油断しないといいなぁって」

 

 

 傘美野中

 

壁山「オレ達、強くなったっす!」

栗松「ジェミニはミスを連発してるし、このままいけば勝てるでやんすよ!」

 

 両選手がベンチに戻り、壁山と栗松は楽観視していた。

 

円堂「……」

 

 そんな中、円堂はジェミニストームのベンチを見ていたが、飛鳥はジェミニの選手と話をしていた。

 

飛鳥「戦ってどうだった?」

レーゼ「……」

 

 飛鳥の言葉にレーゼは何も言えずにいた。

 

パンドラ「雷門イレブンのパワー、テクニック、スピード。いずれも前と戦った時よりも大幅にパワーアップしています」

飛鳥「そうだろう。スノーボードでお前たちの速さに慣れたからな」

 

 と、飛鳥が楽観視していた。

 

飛鳥「こんな事を言っちゃあアレだが、3点も取られて、あんなプレイをするようじゃ完敗だな」

「!」

飛鳥「もしもこれが本当に宇宙の侵略者として戦っていたら、後半戦も同じだったろう。そしてエイリア学園から追放される」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達は俯いた。

 

飛鳥「だけど今は違う」

「!」

 

 レーゼ達が飛鳥を見ると、飛鳥は真剣な表情をしていた。

 

飛鳥「お前達にはオレがついている」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達は驚いていた。

 

飛鳥「今から監督として指示を伝える。しっかり頭に叩き込め!」

「は、はいっ!!」

 

 と、飛鳥がジェミニストームに作戦の指示を伝えた。

 

円堂「一丈字コーチ…」

「油断するなよ。円堂」

 

 円堂が響木を見た。

 

響木「あいつはお前達とジェミニストーム、お互い切磋琢磨できるようなライバルにしたいんだ。だが、エイリア学園の時とは違ってチーム同士でいがみ合って成長させるのではなく、チーム関係なく、共に競い、共に成長する。そんな関係だ」

円堂「共に競い、共に成長する…」

 

 円堂の言葉に他の雷門イレブンも反応した。

 

響木「お前らも知っていると思うが、ジェミニストームはエイリア学園でも一番下のランク。いわば、かつて弱小サッカー部と呼ばれていたお前達と似たような状況にいる」

「!」

響木「この一戦は、雷門もジェミニストームも、大事な一戦になる。最後まで全力で戦い、力を出し切るのだ。いいな」

「はいっ!!」

 

 雷門イレブンの声を聴いて、飛鳥は笑みを浮かべた。

 

飛鳥「そういう事だお前達」

「!」

飛鳥「さっき作戦は伝えたが、一つだけ加えておく」

 

 飛鳥がジェミニストームの選手を見た。

 

飛鳥「サッカーを楽しんで来い」

「え?」

飛鳥「今までエイリア学園は、勝つ事だけを求めて戦ってきた。でももう違う。それに、勝つ事だけを追い求めても勝てない。心に余裕がなくなり、周りが見えなくなるからだ。楽しむ気持ちがあれば心に余裕が出来て、周りも見える。そして、心も強くなっていく。今回は勝ち負け関係なく、ちゃんとサッカーを楽しんで来い! お前たちのこれからの為にも。分かったな!」

 

 飛鳥の言葉にジェミニストームは力強く返事した。

 

飛鳥「後半戦が始まる。行ってこい!」

 

 

つづく

 



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第24話「決戦! ジェミニストーム!(後編)」

 

 後半戦が始まった。

 

染岡「また点は貰うぜ!!」

 

 と、染岡はドリブルで駆け込むが、ジェミニの選手が染岡の動きを呼んでボールを奪った。

 

染岡「なっ!!」

 

**********

 

飛鳥「雷門イレブンはスピードを重視した戦い方をしている。そこを突くんだ」

「!」

 

 飛鳥がジェミニストームに作戦支持を伝えていた。

 

レーゼ「そこを突くって…」

飛鳥「相手の動きをよく見るんだ。確かにスピードが速ければ追いつく事は出来ないかもしれないが、一瞬の隙を突けばボールを奪う事は出来る。どんな奴にも必ずスキはある。サッカーはそういうスポーツだ」

「!」

 

飛鳥「そんなに心配する事じゃない。雷門イレブンはお前達についてこれるようになっただけで、お前たちが完全に劣っている訳じゃない。自分の力を信じるんだ」

 

***************

 

 レーゼにボールが周り、ドリブルした。鬼道と一之瀬が止めに入る。

 

レーゼ「ワープドライブ!!」

「!!」

 

 レーゼがドリブル技を使った。空間を作り出して鬼道と一之瀬を突破した。

 

鬼道・一之瀬「!!」

 

*******************

 

飛鳥「もう後半戦だが、雷門も油断はしてないだろう。MFは鬼道くんと一之瀬くんが中心になる。タイミングを見てワープドライブを使い、FWに繋げ。そしてグリンゴ、イオ、ギグ、コラルは雷門のディフェンスをマークするんだ。ガニメテとカロンはカウンターが来てもいいように準備しろ。勿論、ゴルレオもな」

 

*******************

 

レーゼ「ティアム!!」

 レーゼがティアムにパスをすると、レーゼも前に出た。ディフェンスラインでは風丸たちとコラル達が競り合いをして、ゴールがガラ空きだった。

 

ティアム「行くぞ!」

レーゼ「おう!」

 

 ティアムとレーゼが合体シュートを放った。

 

ティアム・レーゼ「ユニバースブラスト!!」

 

 強力なシュートが放たれた。

 

染岡「円堂!」

円堂「任せろ!」

 

 円堂は心臓に左手を当てて体をひねらせ、正面を向いて天高く手を上げた。

 

円堂「マジン・ザ・ハンド!!」

 

 円堂がユニバースブラストを受け止める。

 

円堂「ぐ…!! なんてパワーだ…!!」

「いけぇえええええええええ!!!!」

 

 と、ジェミニの選手が叫んだ。

 

円堂「でも、オレ達も負けられない! はぁあああああああああああ!!!!」

 

 円堂はそのまま気合でシュートを止めた。

 

王将「おーっと!! 円堂がジェミニストームの連携シュートを止めたー!!」

 

 王将のアナウンスに観客が沸いた。

 

レーゼ「うぉおおおおおおおおおおおおおお―――――――――――――――――!!!!」

 

 レーゼが咆哮を上げると、飛鳥が冷静に見つめる。

 

ティアム「落ち着いてくださいレーゼ様。飛鳥さんにも言われたでしょう。必殺技ばかりに頼るなと」

レーゼ「!」

 

***************************

 

飛鳥「…で、FWなんだけど、必殺シュートばかりに頼り過ぎないように」

「!」

飛鳥「確かに必殺技は強力だけど、それをやるのにどうしても隙が出来る。ましてやシュートに関してはわざわざ必殺技をやらなくても、キーパーの動きを予測して撃てば案外点が取れるから」

「いや、それが出来るのはあなた位ですよ…」

 飛鳥の言葉にレーゼが困惑すると、

飛鳥「出来ないなら出来るようにしな。それじゃいつまでたっても追いつかないぜ」

「!」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達が反応した。

 

飛鳥「とにかく点を決めるチャンスが出来たら、ボールの動きから目を離すな。ゴールを決めるまでボールに食らいつくんだ」

 

******************

 

レーゼ「…そうだったな」

 

 レーゼがジェミニの選手を見渡した。

 

レーゼ「ジェミニの戦士たちよ!! 地球にはこんな言葉がある!!」

「!!?」

 

レーゼ「七転び八起き!! 最後の一秒まで決して諦めるな!! 我らの持てるすべての力で、雷門イレブンに打ち勝つぞ!!!」

「はっ!!!」

 

 ジェミニストームの選手の瞳に闘志と輝きがともり、飛鳥が安心したように笑った。

 

(それでいい。その気持ちがあれば、お前たちは大丈夫だ)

 

 そしてその様子を雷門のベンチにいた選手とマネージャー、響木は見ていた。

 

秋「コーチ…とっても嬉しそう…」

夏未「そうね…」

 

 秋と夏未が見つめると、

 

宍戸「オレ…やっぱりこういうのダメなんすよ~」

目金「宍戸くん! まだ試合は終わってないんですよ! 敵に同情するのは…」

塔子「お前だって泣いてるじゃん!」

 

 と、宍戸、目金、塔子が号泣していると半田が苦笑いした。

 

 そしてその後も雷門とジェミニストームは互角の戦いを見せた。お互い点を譲らず、白熱した試合を見せていた。観客も応援に熱が入っていた。

 

 

デザーム「ジェミニ!!! もっと熱き魂を見せつけるのだ!!! お前達も何をしておるか!! 全力で応援するのだぁ!!!」

「うるさい!!!」

「落ち着け!!」

 

 …度が過ぎてる者もいたが。

 

 そして試合終了時間で、パンドラにシュートのチャンスが回った。ディフェンスはコラル達でマークしていたが、試合終了時間も無くなっていたのか、今までゴール前で守っていたガニメテとカロンも攻撃に参加していた。

 

円堂「来い!!」

パンドラ「……」

 

 パンドラがシュートを撃ったが、ゴールまで距離が遠かった。

 

染岡「あんな所からシュートを!?」

豪炎寺「違う!! あれはパスだ!!」

 

 パンドラのシュートが横に大きくそれると、レーゼがいた。その展開に飛鳥も驚いた。

 

「レーゼ様!!!」

レーゼ「……!!」

 

 完全にパンドラがシュートを撃ってくるものだと思っていた円堂は反応しようと走ったが、飛鳥がそれに気づいた。

 

飛鳥「今だ!!! 撃てぇ――――――――――――!!!!」

「!!」

レーゼ「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――――――――っ!!!!」

 

 レーゼが渾身のシュートを放つと、円堂は追いつかず、そのままゴールに突き刺さった。そして、会場は静まり返る。

 

王将「ゴ…ゴール!!! ジェミニストーム!! 最後の最後で1点をもぎ取ったー!!!!」

 

 王将がそう宣言すると、会場も沸いた。今までは地球人と敵対する存在だったが、脅威がなくなり、ただのサッカープレイヤーとなったジェミニストームの熱きプレーに誰もが感動した。

 

「やったやったぁ!!!」

 

 応援に来ていたSPフィクサーズの館野舞も感涙して喜んでいた。一緒の他のメンバーはそんな舞を見て苦笑いしていた…。

 

 そんな時、試合終了のホイッスルが鳴った。

 

王将「試合終了―!!! 3-1で雷門の勝利!! ジェミニストームを撃破したー!!!」

 

 

 と、大歓声が響き渡った。

 

紺子「やったやったー!!」

目深「雷門イレブンが勝ったべ!!」

雪野「目金くん出なかったずら~」

 

 白恋イレブンも勝利を喜んでいたが、雪野は目金が出なくてガッカリしていた。

 

吹雪(おめでとう。雷門の皆…!)

 

 吹雪は雷門イレブンが勝って素直に喜んでいた。

 

 

つづく

 



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第25話「これからのイレブン」

 

 

 3回目の試合は、雷門イレブンの勝利で終わった。

 

「負けた…」

レーゼ「ぐっ…」

 

 レーゼ達は膝から崩れ落ちて、レーゼが苦虫を噛む顔をすると、円堂が近づいた。

 

「レーゼ」

レーゼ「!」

 

 レーゼが円堂を見た。

 

円堂「お前達とのサッカー。すごく楽しかった!」

レーゼ「円堂守…」

 

 円堂がにかっと笑った。

 

円堂「また、サッカーしような!」

 そう言うと円堂が手を差し伸べると、レーゼが笑みを浮かべて手を取った。

 

レーゼ「地球にはこんな言葉がある」

円堂「!」

レーゼ「七転び八起き。今度は我々が勝つ!」

 

 円堂とレーゼの握手に会場は盛り上がった。

 

壁山「うおおおおおーん!!! いろんな意味で感無量っす~!!!」

栗松「皆最高でやんす~!!!」

 

 と、壁山と栗松が号泣していた。そして豪炎寺と鬼道が顔を合わせて拳を合わせた。

 

 そしてエイリア学園はというと…。

 

「何よ!! 結局負けたんじゃないの!!」

 マキュアが悪態をついていたが…。

 

マキュア「マキ達だったら絶対負けなかったのに~!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

モール「感動するのか泣くのか、怒るのか、一つにしてよ…」

 

 感動して泣いていた。クリプトも言葉とは裏腹に涙を流していてモールが呆れていた。

 

ヒロト「ジェミニに勝つとはね…」

バーン「ハッ! セカンドランクに勝ったくらいであそこまで喜んでるようじゃたかが知れるぜ!」

ガゼル「雷門イレブンはまだまだ我らの恐ろしさを知らない…」

 

 マスターランクのキャプテン達は冷静だったが…。

 

デザーム「とても素晴らしい試合だった…」

 

 デザームは男泣きをしていた。

 

デザーム「この感動を忘れない為にも、今から特訓をするぞ! イプシロンの戦士たちよ!!」

マキュア「えー」

デザーム「セカンドランクが負けたのでばあれば、次はファーストランクの我々が雷門イレブンと戦う可能性があるのだ」

マキュア「という事は、飛鳥に会えるんですか!?」

瞳子「残念だけどそれは無理よ」

「!!?」

 

 瞳子が口を開いた。

 

マキュア「ど、どうして!?」

瞳子「まだ面会が許されてないもの」

マキュア「そんな事言って、飛鳥を独占したいから、嘘ついてるんじゃないの?」

瞳子「その通りよ」

「その通りなのかよ!!」

「クズ!!」

「ババア!!」

瞳子「勝手に言ってなさい。私に逆らう限りは飛鳥に会えると思わない事ね」

 

 そう言って瞳子は去っていった。

 

マキュア「あのババア~!!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

モール「お願いだから、しばかれる時は二人だけでしばかれて頂戴…」

 

 マキュアとクリプトの暴走っぷりにモールは胃を痛めた。そして一部の男子メンバーはモールに同情した。

 

*******************

 

 傘美野中。雷門イレブンとジェミニストームが雷門側のベンチに集まっていた。

 

飛鳥「ありがとうございました。響木監督、雷門イレブンの皆」

 

 飛鳥が頭を下げると、ジェミニストームの選手も頭を下げた。

 

響木「さて、これからどうするつもりなのかね」

飛鳥「その事なんですが、少し雷門イレブンの皆と話をさせてください」

響木「分かった」

 

 そう言って響木が退くと、飛鳥と円堂達が見つめ合った。

 

飛鳥「雷門イレブン。本当に強くなったね。前半戦でもう勝負はついた」

円堂「コーチ…」

染岡「それはそうと、どうして急にジェミニのベンチに…」

鬼道「決まっている」

 

 鬼道が前に出た。

 

鬼道「試合前、マナーの悪い連中が物を投げていただろう。コーチがオレ達の方に来ていたら、ジェミニを助ける奴がいない上に、ここにいる観客はオレ達が勝利し、ジェミニが敗北する事を望んでいた。そうなると、ジェミニストームの選手が精神的に参るだろう。今はもう地球を脅かすエイリア学園じゃないんだからな」

 

 鬼道の言葉に染岡は納得したように視線を逸らした。

 

夏未「つまり、コーチはジェミニストームの選手を守る為に、急遽監督になった。という訳よ」

飛鳥「…その通り。伝えるのが遅くなって済まなかった。この通りだ」

 

 飛鳥が頭を下げた。

 

円堂「顔を上げてください。そのお陰であんな熱い試合が出来たし、レーゼ達を守れたんじゃないですか」

飛鳥「円堂くん…」

 

 飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「…で、これからの事なんだけど、ちょっと休憩してから話そうか。一時間後にミーティングルームに集合ね」

 

*********************

 

 ミーティングルーム

 

飛鳥「さてと、改めてジェミニストーム撃破おめでとう」

 

 飛鳥が壇上に立っていた。そして正面には雷門イレブン、ジェミニストームといった関係者がいた。

 

飛鳥「で、今後の事なんだけど、君達に伝えておきたい事がある」

円堂「何ですか?」

 

 飛鳥が円堂達を見た。

 

飛鳥「オレのコーチ。必要?」

円堂「そんなのいるに決まってるじゃないですか!」

鬼道「セカンドランクに勝ったとはいえ、後半戦であそこまで苦戦したんです。ここで浮かれてはいられません」

風丸「そうですよ! そもそもオレと少林は面倒を見てくれる約束だったじゃないですか!」

少林寺「そうですよ!」

 

 と、思った以上に必要とされていたので飛鳥は驚いていた。

 

飛鳥「そっか。それは嬉しいな」

夏未「それもそうだし、雷門中を壊した責任は取るんじゃなかったんですか?」

飛鳥「そりゃ勿論だけど、円堂くん達の意思を尊重したかったんだ。必要なかったら、いてもチームの為にならないしね。それじゃ引き続き継続って事でいいかい?」

「お願いします!」

 

 円堂たちが返事をすると、飛鳥が笑みを浮かべた。

 

飛鳥「ありがとう」

 

 

つづく

 



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第26話「新たなるスタート」

 

 

 飛鳥のコーチは引き続き行われる事になった。

 

飛鳥「さて、今後の方針を伝えるね」

「!」

 

 飛鳥が雷門イレブンを見つめた。

 

飛鳥「雷門イレブンの皆」

「!」

飛鳥「悪いんだけど…。暫くの間、風丸くんと少林寺くんを貸してくれないかな」

「!!?」

 

 飛鳥の発言に皆が驚くが、円堂は冷静だった。

 

円堂「次のステップに進むんですね」

飛鳥「ああ。ジェミニストームにも勝ったしね。それだけの実力があれば大丈夫だと判断した」

栗松「で、でもどうして風丸さんと少林でやんすか?」

 

 栗松が聞くと飛鳥が反応した。

 

飛鳥「北海道にいた時に相談を受けたんだよ。色々考えてみたけど、どうすれば良いか分からなくなったって」

「!」

飛鳥「1回目の白恋の試合を覚えてる? 吹雪くんのポテンシャルに成す術がなかったでしょ」

「あっ…」

飛鳥「そこでスピードに自信があった風丸くんは、吹雪くんのスピードを見て自信を無くして、少林寺くんは焦りからミスを連発したんだ。で、自分で打開策を考えたけど、どうにもできなくなって相談したわけだけど、オレもちょっと二人に対して思う所があったから、貸してほしいんだ。理解してもらえたかな?」

栗松「そ、そうだったでやんすか…」

 

 栗松が困った顔で返事すると、

 

壁山「でも、言ってくれればオレ達も協力したっすよ?」

宍戸「そうだよ」

飛鳥「まあそうなんだけどさ。どうしても言いにくい事ってあるんだよ」

 

 飛鳥が少林寺と風丸を擁護した。

 

飛鳥「それでね。風丸くんと少林寺くんにはちょっとメンタルを鍛えてほしいから、ジェミニストームと一緒に京都の漫遊寺で修業をして貰う」

「!!?」

 

少林寺「漫遊寺って、あの漫遊寺中ですか!!?」

 少林寺が目を輝かせる。

 

円堂「え、知ってるのか少林」

目金「逆に何で円堂くんは知らないんですか…?」

円堂「え?」

 

 円堂の言葉に飛鳥が困惑した。

 

飛鳥「えっとね…。漫遊寺はフットボール・フロンティアに出場していない学校の中では一番強いって言われてる学校なんだよ」

円堂「そうなんですか!?」

少林寺「己の心身を鍛える為にサッカーをしているんですけど、その研ぎ澄まされた精神力は常人以上で、出場していれば優勝間違いなしって言われてる「裏の優勝校」なんですよ!」

 

 少林寺が興奮気味に答えると、横にいた宍戸や半田が苦笑いした。

 

少林寺「そんな所で修業できるなんて夢みたいです…!」

飛鳥「需要と供給が合って良かったよ」

目金「だけど、そんな凄い学校がよくOKしてくれましたね…」

 

 目金の言葉に飛鳥が発言するが、

 

飛鳥「エイリア学園の件を話したらOKしてくれたよ。風丸くん、少林寺くん。やる?」

少林寺「やらせてください!!」

風丸「お願いします!」

飛鳥「分かった」

染岡「それはいいとして、一丈字コーチはどうするんですか?」

飛鳥「オレも京都に行くよ。こいつら鍛え直さないといけないし」

「!!?」

半田「それじゃコーチの意味ないじゃないですか!!」

飛鳥「それが大ありなんだな」

「え?」

 

 飛鳥がその事もちゃんと考えてあると言わんばかりの表情をすると鬼道と豪炎寺が気づいた。

 

豪炎寺「まさかあの時の後半戦…!!」

鬼道「間違いないな…」

飛鳥「その通り。次の試合は徹底的に鍛えたジェミニストーム、風丸くん、少林寺くんと戦って貰う」

「!」

 

 飛鳥が不敵な笑みを浮かべた。

 

飛鳥「あの後半戦でまた課題が出来たはずだ。雷門イレブンの皆はそれをクリアするためにどうすれば良いか考えてプレーで示してもらう」

「はいっ!!」

 

飛鳥「話はこれで以上だ。さて…」

 

 飛鳥が気を抜いたかのようにジェミニストームを見た。

 

飛鳥「話変わるけどお前達」

レーゼ「はいっ!」

飛鳥「今日から宿舎に住めるらしいから、これ終わったら荷物を持って移動だ」

「はっ!!」

 

 すると雷門イレブンが反応した。

 

円堂「まだ住んでなかったのか?」

夏未「ええ。色々あってね…」

春奈「私達もついていって良いですか!?」

飛鳥「勿論。寧ろ今夜はそこで打ち上げでもしようかなって思ってたんだ」

「!」

飛鳥「たまにはこういうレクリエーションもないとね」

 

*******************

 

 雷門中から歩いて5分のマンションについた。

 

春奈「お、思った他立派なマンションですね…」

栗松「オレんちよりもピカピカでやんす…」

飛鳥「本当に背中を向けて寝られないな…」

夏未「ええ。これからも雷門イレブンの為に、一生懸命働いてください」

飛鳥「勿論。受けた恩はキッチリ返すよ」

 

 と、部屋を紹介した。

 

飛鳥「一応オレ以外は皆相部屋ね。本当は一人一部屋にしてやりたいけど、そこまで贅沢は言えないから」

「いや、滅相もございません!!」

「こんな立派なお部屋に住めるなら、文句のつけようがございません!!」

 

 ちなみに部屋割り

201号室:飛鳥

202号室:レーゼ、ティアム

203号室:パンドラ、リーム

204号室:ゴルレオ、イオ、グリンゴ

205号室:カロン、ギグ、ガニメテ、コラル

 

飛鳥「何かあったらオレに連絡して。大体いるから」

「はーい」

飛鳥「それじゃ鍵を置いて荷物置いてきな」

 

 と、皆が荷物を置きにいくと、雷門イレブンも部屋を見せて貰った。

 

 そして夜…。

 

目金「それでは皆さん。この目金欠流が乾杯の音頭を取らせて貰います! かんぱ」

「かんぱーい!!!」

目金「って、聞いてくださいよ!!」

 

 マンションのパーティールームで、関係者達が食事をしていた。目金が乾杯の音頭を取ったが、フライングをしていた。

 

飛鳥「あ、そうだ」

 

 飛鳥もジェミニストームの選手たちとご飯を食べていたが、ある事を想いだした。

 

飛鳥「皆、ちょっといいかな」

「?」

 

 円堂達は飛鳥を見た。

 

円堂「どうしたんですか。一丈字コーチ」

飛鳥「突然なんだけど、ジェミニ以外のエイリア学園の皆と顔合わせしようかなって思ってるんだ」

「えええええええええええええ!!?」

 

 皆が驚いていた。

 

レーゼ「デザーム様たちが来てるんですか!?」

飛鳥「いや、テレビ中継。引っ越しですっかり忘れてたぜ」

 

 飛鳥がリモコンを操作してモニターの電源をONにすると…。

 

『あ、映った!!』

『飛鳥はどこ!?』

『おーい!!』

 

 と、エイリア学園のメンバーが映し出されていたが、彼らも宴会場でご飯を食べていた。

 

円堂「あれが…」

鬼道「エイリア学園の全選手か…」

 

『ちょっと飛鳥!!!』

 と、マキがドアップで映っていた。

 

「こらマキ!!」

「飛鳥が見えないでしょうが!!」

 

 そう言って皆がもめ始めた。

 

栗松「コーチ…本当にモテモテでやんすね」

飛鳥「いい事ばかりじゃないけどね…」

 

 栗松の言葉に飛鳥が困惑した。

 

飛鳥「あー…久しぶりだなマキ。元気にしてた?」

マキュア「元気にしてたじゃないわよ!! 突然いなくなって!!」

飛鳥「父さんに追い出されて連絡が取れなかったんだよ。ごめん」

 

 飛鳥が謝ると、マキが泣き始めた。

 

マキュア「飛鳥がいなくなってどんだけ寂しい思いをしたと思ってるのよー!!」

 

 と、マキュアが泣き出すと一部のメンバーも泣き出した。

 

飛鳥「みんな…」

 

 飛鳥がそう呟くと、皆が飛鳥を見た。

 

瞳子「この通り元気にしてるわよ」

飛鳥「姉さん!」

 

 瞳子がモニターに表示すると、飛鳥が驚いた。

 

瞳子「全く。貴方という子は本当に罪…」

マキュア「それはそうとあんた達!! ジェミニストーム!!」

 

 マキュアが瞳子を押しのけて叫んだ。

 

マキュア「雷門なんかに負けてんじゃないわよ!!」

飛鳥「マキ。あんまり変な事言うと通信切るぞ」

マキュア「……!!」

秋「コ、コーチ!!」

春奈「私達は大丈夫ですから!」

 

 飛鳥の言葉にマキュアが涙ぐむと、秋と春奈が慌てて止めた。

 

飛鳥「あ、皆は引き続き飯食ってて」

 

 飛鳥が苦笑いすると、ずいっとデザームが前に出てきた。

 

デザーム「飛鳥。ジェミニストーム。試合を見せて貰ったぞ」

飛鳥「ファーストランクのキャプテンが面白い登場の仕方してるんじゃないよ」

「ええっ!!?」

栗松「この癖が強いのがファーストランクのキャプテンでやんすか!?」

飛鳥「…君も結構言うね」

 

 飛鳥が苦笑いしながら栗松を見ると、夏未に諫められた。

 

デザーム「紹介しよう。私は砂木沼治。エイリア学園ファーストランクチーム『イプシロン』のキャプテンだ」

円堂「砂木沼…」

飛鳥「ちなみにエイリアネームは『デザーム』」

 

 デザームが不敵な笑みを浮かべた。

 

デザーム「雷門イレブンよ。ジェミニストームを倒したその実力、素直に認めてやる。今度は我々イプシロンが相手だ!」

「……!」

飛鳥「その事なんだけど、お前らが雷門イレブンと戦うのは当分先だよ」

デザーム「な、何!?」

飛鳥「何じゃないでしょ。お前ら保護観察受けてるのに…」

デザーム「そ、それじゃこれからどうするのだ!」

飛鳥「ジェミニストームをもう一度鍛え直して、雷門イレブンにリベンジするから」

マキュア「何で?」

 

 マキュアが嫌そうな顔をした。

 

飛鳥「雷門イレブンに負けたし、いつまでもセカンドランクのままでいるわけにはいかないでしょ。成長させるためだよ」

 

 飛鳥があっけらかんと言い放った。

 

マキュア「そんなの納得できない!! ジェミニが負けたら普通イプシロンに交代でしょ!!」

飛鳥「お前達を外に出せないし、ジェミニもこのままじゃダメだからだよ」

クィール「ジェミニばっかり可愛がってずるいっポ~!」

 

 クィールの言葉に女子メンバーの殆どが良く言った!! という顔をしていて、マネージャー達は飛鳥が本当にモテているという事を確信した。

 

マキュア「そうよそうよ!!」

アイシー「平等に面倒を見るべきだと思うわ」

飛鳥「ごめんな愛。お前に関してはお兄ちゃんに釘刺されてたから無理だわ…」

「えっ!!?」

 

 ダイヤモンドダストのメンバー・凍池修児が慌てると、愛が怒りの炎を燃やした。

 

アイシー「お兄ちゃん…」

アイキュー「いや、僕は妹の事を想ってだな!!」

飛鳥「風介。助けてやれ。キャプテンだろ」

ガゼル「何で私が。兄弟間の問題でしょう」

飛鳥「…そうか。これでダイヤモンドダストは候補から外れたな」

「何の!!?」

 

 するとガゼルが露骨に慌てだして、ライバルのレアンが笑みを浮かべていた。

 

ガゼル「一体何の話をされてらっしゃるんですか?」

 

(女こっわ!!!)

 

 ガゼルの慌てぶりから相当女子メンバーから酷い目に遭わされている事を察知した雷門イレブンのメンバーは、心の底からガゼルに同情した。

 

 そしてガゼルを押しのけてアイシー、リオーネ、クララも露骨に慌てた。

 

アイシー「こ、候補って何の!?」

リオーネ「サッカー関係ですよね!? サッカー関係ですよね!?」

クララ「お願い。見捨てないで…」

 

 クララが青ざめて涙目になって懇願しているのを見て、ジェミニストームのメンバーが驚いていた。

 

栗松「どうしたでやんすか…?」

イオ「あの人はクララって言って、マスターランクなんだけど、いつも笑いながらきつい事を言うんだ…」

コラル「でも、そこがいいんだ…」

栗松「まあ、あんなかわいこちゃんに言われるのは悪い気がしないでやんすね…」

 

 いつの間にか仲良くなっていた。

 

飛鳥「うん。サッカー関係だよ」

「良かった…」

「って、ちっとも良くない!!」

 

 レアンは完全に勝ちが確定したと思ったのか、めっちゃ笑っていた。

 

飛鳥「まあ、それはそうと。皆元気そうで何よりだよ」

「!」

 

 飛鳥が笑みを浮かべてそう言うと、エイリアの生徒達は反応した。

 

飛鳥「じゃあ、そろそろ切るね。あんまり長くなると皆飯食べないから」

「ちょ、ちょっと待って!! 通信は切らないで!!」

デザーム「それはそうと飛鳥」

飛鳥「?」

 飛鳥がデザームを見ると、デザームは指をさした。

 

デザーム「貴様との決着はまだついていない! 近いうちにまた果たそう!」

クィール「ついてないもなにも、飛鳥の全戦全勝だっポ」

デザーム「はぐ!!」

ガゼル「すみません! ダイヤモンドダストはどうなるんですか!!」

マキュア「そんな事より、イプシロンと試合しようよ!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

モール「あの…。そろそろ限界なので助けてください…」

「何か一人本当に死にかけてる子がいるんだけど!!」

「大丈夫!?」

 

 皆モールを心配していた。確かにもうマキュアとクリプトの暴走ぶりに目が死んでいた。

 

飛鳥「留美」

モール「!?」

 

 飛鳥がふっと笑った。

 

飛鳥「お前は本当に良い子だ。いつも皆の面倒を見てくれてありがとな」

パンドラ・リーム「お疲れ様です!!」

 

モール「くすっ…ううっ…」

 

 モールは3人の言葉に救われたのか、大粒の涙を流した。それを見た一部のメンバーは「本当に苦労してるんだなぁ…」と思わず貰い泣きした。

 

舞「とってもわかり過ぎる…!!」

角巣「……」

 

マキュア「ちょっと!! 留美だけずるい!!」

ガゼル「ちょっと!! 私を見捨てないで!!」

デザーム「再戦するのだ!!」

瞳子「ちょっと私にも喋らせt」

飛鳥「じゃ、またねー」

「あああああああああああああああああ」

 

 と、通信を切ると、しーんとした。

 

飛鳥「えー。そういう訳なので雷門イレブン、ジェミニストーム」

「は、はい…」

 

 飛鳥が静かに目を閉じた。

 

飛鳥「また明日から、一緒に頑張ろうや…」

「はい…」

 

 いろんな思いが交錯しながら、飛鳥と雷門イレブン、そしてジェミニストームの新しい戦いが始まるのだった。

 

 ちなみにあの後ガゼルはしばかれた。

 

 

第一部 完

 

 



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第4章 漫遊寺編
第27話「仲良くしなさい!」


 

 

 ジェミニストームに勝利した雷門イレブン。だが、そこで満足する事はなく、今日も河川敷で練習を行っていた。

 

染岡「ふっ!!」

円堂「はっ!!」

 

 染岡がゴールに向かってシュートを撃つと、円堂がボールの方に飛び、両手でキャッチをした。

 

 そのほかのメンバーもドリブルの練習をしたり、ブロックの練習をしたりしている。塔子も引き続き雷門イレブンのメンバーとして練習に参加していた。

 

 それを秋と夏未が見ていた。

 

秋「皆。ジェミニストームに勝っても、慢心することなく練習してますね」

夏未「当り前よ。これで調子に乗られたら困るわ」

 

 夏未の発言に秋が苦笑いした。すると、ある事を想いだした。

 

秋「大丈夫かな。風丸くんと少林寺くん」

夏未「……」

 

 実は今朝、風丸と少林寺はさらなるレベルアップの為にジェミニストーム、飛鳥と一緒にイナズマキャラバンで京都の漫遊寺中学まで遠征に行ったのだ。風丸や少林寺のメンタルも心配だったが、それ以上に先日までは敵同士だったジェミニストームとちゃんと馴染めるのかが不安だった。

 

夏未「そうね…。此間までエイリア学園とは敵同士だったものね」

 

 夏未の発言に秋が俯いた。

 

夏未「でもそこまで心配するほどじゃないわよ」

秋「え?」

 

 秋が夏未の方を見ると、夏未は表情を崩さずに円堂を見ていた。

 

夏未「一丈字コーチがいるもの。そして、音無さんもいるんだから」

秋「……!」

 

*****************:

 

 実は春奈もマネージャー要員として飛鳥達についていったのだ。実は飛鳥からマネージャーを一人同行させたいと依頼があり、春奈が立候補したのだ。夏未は生徒会長の仕事もある為、極力雷門中を離れないようにするためと、秋に至ってはマネージャーとしての経験と信頼がある為、それならば春奈が適任ではないかと思った。

 

春奈「まあ、どっちか片方だけ行かせると…フェアじゃないですもんね」

夏未「音無さん?」

 

 春奈が余計な事を言って、夏未に睨まれたのは言うまでもなかった。ちなみに秋も苦笑いしていたが、ちょっと怒っていた。

 

 ****************

 

夏未・秋「……//////」

 

 夏未と秋は春奈にからかわれたのを思い出して、頬を染めていた。

 

夏未「音無さんって…どうしてあんなにおませなのかしら…」

秋「…分かりません」

 

 と、風に吹かれながら2人は雷門イレブンの練習をずっと見ていた。

 

**********************

 

 その頃、飛鳥達を乗せたイナズマキャラバンは高速道路を走っていた。

 

風丸「……」

 

 風丸一郎太は馴染めずにいた。

 

「風丸さん。お菓子食べる?」

風丸「あ、ありがとう…」

 

「風丸さん。ちょっと後ろ倒していい?」

風丸「いいぞ…」

 

「あ、風丸さん。京都って行った事あります?」

風丸「昔、修学旅行で…」

 

「風丸さん」

 

 ジェミニストームの選手たちが滅茶苦茶気さくに話しかけてきたからだった。というのも、エイリア学園の生徒は別のチームの選手とはとにかく仲が悪いと聞いていた為、全然違うので戸惑いを隠しきれなかった。

 

 少林寺も同様に気さくに話しかけていたが、少林寺の方はあまり人を疑う事もなく、素直だった為、すぐに仲良くなった。

 

 ジェミニストームの選手がこんなに気さくに話しかけてくれるのは、飛鳥が裏で手をまわしたんだろうと風丸は思っていたが、違和感しかなかった。

 

「風丸さん。そんなに緊張しないでくださいよ」

「そうですよ。色々ありましたけど、僕たちもう宇宙人じゃないんですから」

風丸「あ、うん。そうだね…」

 

 その時、飛鳥がシートベルトを外して前に立った。

 

飛鳥「皆―。ちょっといいか?」

「!」

飛鳥「もうすぐサービスエリアに着く。そこが最後の休憩だ。昼飯食ってトイレを済ませたら、もうそのまま漫遊寺に向かうからな」

「はーい」

 

 飛鳥から諸注意を受けると、選手たちは返事をした。すると近くの席に座っていた春奈がある事を想いだした。

 

春奈「あ、そういえばコーチ」

飛鳥「どうした?」

春奈「エイリア学園の皆さんからブログの更新をするようにお願いされてましたけど…」

飛鳥「ありがとう。それは休憩時間に写真を撮ってアップする」

「あなたも大変ね…」

飛鳥「いえいえ。無茶されるのが一番困るので…それよりも、引率ありがとうございます。館野さん」

 

 と、飛鳥は隣の席に座っていたSPフィクサーズの館野舞にお礼を言った。実は彼女は飛鳥とジェミニストームの監視役、そして今回の旅の引率者として同行する事になったのだ。

 

まあ、用務員兼イナズマキャラバンの運転手である古株さんもいるのだが、古株さんはイナズマキャラバンに滞在することが多い関係もあるのか、引率者は別の人が担当する事になった。

 

 そして春奈の言っていたブログであるが、先日義姉である瞳子が、デザーム達の為にブログを作って、元気にしてるかどうかを見せて欲しいという依頼があった。

 

 飛鳥はそれくらいならと承諾し、目金の協力も得てブログを作成した。ちなみにこれは今回の騒動に関わった関係者のみが閲覧できるように設定している為、少々過激な内容が投稿されても問題はない…筈だ。

 

 そんなこんなで、飛鳥達は最後のサービスエリアに到着して、食事を取った。

 

飛鳥「そんじゃ写真撮るぞー」

レーゼ「あの、飛鳥さん」

飛鳥「なに?」

 

 飛鳥が食事をしているジェミニストームを取ろうとしたが、レーゼが困惑した。

 

レーゼ「その…僕たちよりも飛鳥さんを載せないと…」

グレンゴ「エンジョウマチガイナシ」

飛鳥「うん。分かってるけど、1回目だから」

「自覚あるの!?!」

 

 自覚があった為、ジェミニストームが突っこんだ。

 

春奈「コーチ…。罪作りもいい加減にしないと刺されますよ?」

飛鳥「もう似たような目には合ってるし、こっちも選ぶ権利がある」

舞「言い切るあたり流石ね…」

 

 春奈が飛鳥を諫めると、飛鳥はやけ気味に突っ込んだ。それに対し、舞は呆れた。

 

飛鳥「さあ、撮るぜー。あ、ちなみにテキストはオレが書いたって分かるようにしておくから安心しな」

 

 と、飛鳥はジェミニストームの写真を撮り、そのままブログを更新した。

 

*******************

 

 エイリア特別施設

 

ヒロト「ブログがアップされたみたいだね」

 

 ヒロトがそう言うと、一気にエイリア女子がブログに見入ったが、ジェミニストームの写真を見て…。

 

マキュア「ジェミニはどうでもいいから、飛鳥映しなさいよ!!」

モール「いや、でもテキストは飛鳥さんが…」

マキュア「写真~!!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

モール「誰に向かって言ってるのよ…」

 

 いつ、どんな時も「ぶっ潰す」しか言わないクリプトに対して、モールの目は完全に死んでいた。

 

ポニトナ「あの人らしいと言ったら…あの人らしいわねぇ」

 

 ポニトナは妖艶に笑ってみせたが、

 

レアン「それにしてもジェミニがどうして飛鳥さんと京都に…」

バーラ「まあ、ジェミニが弱いからじゃないの?」

 

 空気が止まった。そしてダイヤモンドダストの女子選手たちが沈み始めた。

 

クララ「私達が強すぎたからいけないのよ…」

アイシー「手間のかかる子ほどなんとやらって言うものね…」

リオーネ「私たちもジェミニだったら…」

ガゼル「何を言ってるんだ。最初から下を目指す奴なんか相手にする訳…」

「うるさいですよ。中二病」

「逃げ回ってる人にそんな事言われたくありません」

「ホントに懲りないですね。ガゼル様」

 

 チームメイトの容赦のない言葉に、ガゼルは沈んだ…。

 

瞳子「他に女連れ込んでないでしょうね…」

ヒロト「姉さん…」

 

 瞳子の様子を見て、ヒロトはドン引きしていた。一体何が彼女を変えてしまったのか、それは彼女自身以外、誰も知る事はなかった…。

 

 

 

つづく

 



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第28話「漫遊寺中」

 

 

 雷門中へのリベンジとレベルアップの為、数日間京都の漫遊寺で修業する事になったジェミニストーム、風丸、少林寺。果たして…。

 

*****************

 

 イナズマキャラバンは京都の町を走る。

 

少林寺「凄いですよ風丸さん! 教科書に載ってるお寺がいっぱいです!!」

風丸「そうだな。でも、遊びに来た訳じゃないからはしゃぎ過ぎるなよ」

 

 東京とは違う街並みに興奮する少林寺を、風丸は苦笑いして諭していたが、ジェミニストームも割とはしゃいでいた。

 

風丸「……」

飛鳥「いいじゃないか。こういう時くらいはしゃいだって」

舞「あなたも結構年変わらないわよね…?」

 

 飛鳥の発言に舞が困惑しながらツッコミを入れた。年齢が一つも二つも変わらない筈なのに、何故か物凄く達観した老人が言いそうなセリフを言い放ち、そのギャップに困惑したからだ。

 

飛鳥「漫遊寺の修業は厳しいから、今のうちに思いっきりはしゃいどきな」

 

 飛鳥の発言に風丸以外の選手たちはピタッと止まって飛鳥を見た。

 

少林寺「そんなに厳しいんですか?」

飛鳥「そりゃそうさ。特に一番厳しいのは朝がとても早い事だ」

少林寺「た、確かに苦手な人は苦手ですよね…」

 

 少林寺がテンション低めに言うと、ジェミニストームの数名もテンションが低くなった。

 

*******************

 

 暫くして、漫遊寺中へつながる階段の前にたどり着き、飛鳥達はバスから降りた。

 

飛鳥「さて、この階段を上がれば漫遊寺中だ」

「え~!!!!」

飛鳥「はいはい。文句言わない! 行くぞ!」

 

 と、飛鳥達は手を叩いて階段に上らせた。ちなみに最近バリアフリー対策を立てて、階段から離れた場所にエレベーターがあるのだが、それは内緒である…。

 

 そして漫遊寺の門の前に立った。

 

少林寺「こ、ここが漫遊寺中…!!」

 

 少林寺が目を輝かせていた。それを見て風丸は苦笑いした。

 

風丸「そ、そんなに行きたかったのか…」

少林寺「己の心身を鍛えるのがモットーなんですけど、クンフーを営む者としては聖地なんですよ! あ~。夢見たいです~」

飛鳥「喜んでもらえて何よりだよ」

 

 飛鳥も苦笑いすると、一人の老人が出迎えた。

 

「おや…お主たちですかな? 雷門中からの修行体験者は」

舞「はい。本日よりお世話になります」

 

 引率者として舞が挨拶をした。SPフィクサーズとして凛とした表情で老人に挨拶をした。

 

レーゼ「…何か、随分年取ってるなぁ」

ゴルレオ「ああ…」

 

 レーゼとゴルレオがぼそっと話すと、

 

飛鳥「聞こえてるぞ」

レーゼ「ご、ごめんなさい!!」

 

 割と遠い距離にいたはずの飛鳥が低い声で突っ込むと、レーゼとゴルレオがびくっとした。

 

飛鳥「この方は漫遊寺中サッカー部の監督だ」

「えっ!?」

 

 飛鳥の発言にジェミニストームと風丸が驚いた。少林寺は目を輝かせている。

 

飛鳥「うちの者が大変失礼致しました。申し訳ございません」

「気にしないでくれ」

 

 飛鳥が監督に謝罪すると、監督は笑うと、飛鳥が包拳礼(右手をグーにして、左掌で右手を覆う)をした。

 

飛鳥「本日より、お世話になります」

「うむ。漫遊寺は己の心身を鍛える者に協力は惜しまんよ」

 

 と、監督も包拳礼をした。

 

少林寺「か、かっこいい…!!」

 

 飛鳥と監督の包拳礼を見て少林寺がキラキラ目を輝かせると、風丸や舞は苦笑いした。

 

 ちなみに包拳礼だが、左手をグーにして、右掌で包んでやってしまうと、相手に喧嘩に売っているという意味になってしまうので、やらないようにしましょう。

 

 右てが「武」、左手が「文」をあらわしていて、右ては言葉の通り武道、戦いを意味しているが、左手は争わない心を指している。つまり、右手を左の掌で包むという行為は、相手に敬意を表し、武術によって人を傷つけない事を誓う事を意味している。

 

 先ほども言ったが、これを逆にしてしまうと、武術で人を傷つけますと言ってしまい、相手にやろうものなら、ほぼ喧嘩を売っているので、本当にやらないようにしましょう。

 

 ちなみに親指を立てるのもいけないらしい…。

 

********************

 

 そんなこんなで漫遊寺の中に案内された飛鳥達。周りを見渡すが、庭で武道の練習をしている者がいた。

 

風丸「な、何か凄い学校だな…」

少林寺「ストイックって言って欲しいですね!」

 

 雷門中じゃ見られない光景に風丸は困った顔をしていたが、少林寺は漫遊寺の生徒のストイックさに心の底から尊敬していた。ちなみにジェミニストームや春奈、舞に至っては不思議そうに見ていた。

 

 すると先頭を歩いていた飛鳥が後ろを向いて、風丸たちに話しかける。

 

飛鳥「皆。まずはサッカー部の皆さんにご挨拶するからな。ちゃんと挨拶するんだぜ」

「はーい」

 

 と、サッカー部がいるという道場に途中まで案内された。

 

「この先の廊下を歩いた先の道場がサッカー部の道場じゃ」

飛鳥「ありがとうございます」

「それでは、また顔を出す」

 

 そう言って監督はどこかに行ってしまった。どうやら修行に出かけるそうだった。

 

飛鳥「さて、行くぞ」

「はい!」

 

 と、飛鳥達が廊下を歩き、曲がり角を曲がると道場が見えた。漫遊寺サッカー部の道場が見えた事で、少林寺のテンションが高くなっていた。

 

少林寺「早く行きましょうよ!」

 

 そう言って少林寺が踏み出そうとしたが、飛鳥は違和感を感じた。

 

飛鳥「ちょっと待った!」

少林寺「え?」

 

 飛鳥が少林寺の手をつかんで、動きを止めた。

 

春奈「どうしたんですか? コーチ」

舞「虫がいるの? 私そんなに好きじゃないから、何とかしてほしいんだけど…」

 

 春奈と舞が様子を聞くと、飛鳥が床を見た。床は一部だけピカピカになっていた。

 

飛鳥「ワックスがかけられてますね」

「ワックス!?」

 

 飛鳥の言葉に皆が驚いたが、風丸は疑問に思った。

 

風丸「ワックスって一体何のために…」

少林寺「大掃除にしては時期が早すぎませんか?」

飛鳥「悪戯だろうな」

「!!?」

 

 飛鳥が横を向いて、木の陰に隠れている少年を見た。

 

飛鳥「あそこに隠れてる子の仕業かな…。あと、あそこに落とし穴があるね」

「え!?」

 

 飛鳥の言葉に皆が驚くと、少年が出てきた。

 

「くっそー!! 何で分かったんだよ!! 脅かしてやろうと思ったのに!!」

 

 と、茶色い道着を着た少年は面白くなさそうにしていた。青い髪で小柄だった。

 

 この少年との出会いが、飛鳥達の京都での物語の本当の始まりだった…。

 

 

つづく

 



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第29話「漫遊寺の困ったヤツ」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 修業の為、今日との漫遊寺中学校にやってきた飛鳥達。漫遊寺サッカー部の監督の案内の元、サッカー部の選手と顔合わせをする事になったが、その道中でおかしな奴と出会った…。

 

*****************

 

飛鳥「楽しいおもてなしをありがとう。でも、危ないよ」

「うっせー!!」

 

 少年が悪態をつくと、春奈が激怒した。

 

春奈「うるさいじゃないでしょ! 危ないって言ってるのが分からないの!?」

「知るかよ! そんなに文句があるならオレを捕まえてみろー!!」

 

 少年が逃げようとすると、春奈が追いかけた。

 

飛鳥「あっ! 音無さん! そこは…」

春奈「こらー!! 待ちなさ…きゃあああああああ!!!」

 

 春奈が地面に力を入れて踏み込んで少年を追いかけようとしたその時、落とし穴に落ちた。

 

風丸「音無!!」

少林寺「音無さん!!」

 

 風丸と少林寺が声をかけると、飛鳥が額を抑えて首を横に振った。

 

「やーい! やーい!! さっき落とし穴があるって教えて貰ってんのに落ちるなんて間抜け~!!!」

 

 と、少年が春奈に向けて尻を向けると、春奈が激怒した。

 

「こらーっ!! 木暮~!!!」

木暮「やべっ! キャプテンだ!!」

 

 一人の男子生徒が怒鳴ると木暮が慌てて逃げたが、飛鳥はその逃げる時の木暮の運動神経に注目した。

 

 そして男子生徒が飛鳥達の所にやってきて、ため息をつくと春奈を見やった。

 

「申し訳ございません。うちの部員が…」

春奈「部員…?」

「ええ。それよりも、大丈夫ですか?」

春奈「あ、はい。ありがとうございます…」

 

 と、男子生徒が春奈を引っ張り上げた。

 

飛鳥「あなたが、漫遊寺中学サッカー部の垣田大将さんですね?」

垣田「ええ。あなたは…」

飛鳥「今回、漫遊寺の修行体験を申し込んだ雷門中サッカー部コーチの一丈字飛鳥です」

 

 飛鳥が包拳礼をすると、垣田も包拳礼をした。

 

垣田「これはこれは。漫遊寺サッカー部のキャプテン、垣田大将です。お待ちしておりました。こちらにどうぞ」

 

 と、垣田に連れられてサッカー部の道場まで移動した。

 

風丸「大丈夫か音無…」

春奈「全く、何て子なの!?」

少林寺「漫遊寺サッカー部にあんな奴がいるなんて…」

 

 風丸が声をかけると、春奈と少林寺は木暮に対して怒っていて、ジェミニストームも苦笑いしていた。

 

垣田「本当に申し訳ございません…」

飛鳥「彼、一体何者なんですか?」

垣田「道場に着いてからお話しします。他の部員たちの話を聞いていただければ、十分に理解して頂けるかと…」

「?」

 

 垣田の発言を聞いて、大半は頭の上に「?」マークが表示されていたが、飛鳥は垣田の声色と表情を見て、苦労している事を感じ取り、困惑した表情を浮かべていた。

 

******************

 

 サッカー部の道場。そこには漫遊寺イレブンが待っていて、飛鳥達と垣田達が向かい合うように座っていた。

 

垣田「こちらが、漫遊寺サッカー部のレギュラーです。あなたがたの修業相手を務めさせていただきます」

飛鳥「本日よりお世話になります」

 

 飛鳥が頭を下げると、ジェミニストームも頭を下げた。そして風丸達も遅れて頭を下げる。

 

飛鳥「…さて、先ほどの彼の事について何ですが」

垣田「彼は木暮夕弥と言って、うちの漫遊寺サッカー部の補欠部員です」

飛鳥「そうですか…」

春奈「いっつもあんな事をしてるんですか?」

 

 春奈の言葉に垣田だけではなく、漫遊寺イレブン全員が困った顔をしていた。

 

垣田「ええ。少々性格が歪んでいまして…」

「とにかく人を困らせるのが好きみたいで、此間も突然頭からペンキをかけられて取るのが大変だった。のう、兄者」

「そうだな。弟者よ」

 

 FWの阿太郎、吽助兄弟がそれぞれ顔を合わせた。

 

「漫遊寺の食事にも香辛料を忍ばせて…」

「此間はわさびが大量に入れられていて、食事をした気にならんかった…」

 

 と、木暮の悪戯に対する愚痴をこぼしあっていて、飛鳥達は困っていた。それに対して春奈と少林寺は木暮に対して怒りがわいていた。

 

 すると垣田は飛鳥の顔を見た。

 

垣田「…あんな奴でも、サッカーの実力は我々正規メンバーにも引けを取らない程の実力を持ってるんです」

飛鳥「…と、言いますと?」

垣田「奴は結構捻くれていて、少しでも自分の思い通りにならないと、難癖をつけるんですよ。誰だろうがお構いなしに…」

 

 と、垣田が木暮が練習に参加していた頃の事を想いだしたが、レギュラーとよくケンカをして自分が木暮を取り押さえている光景を思い浮かべて、困惑していた。

 

垣田「そこで、心身ともに鍛え治す事からやり直させたほうが良いと、グラウンドの整備、廊下の雑巾がけ等をさせていたのですが、このような有様で…申し訳ございません」

飛鳥「……」

 

 垣田の言葉に対し、飛鳥は険しい表情をした。

 

垣田「…そちらの音無さんにしてしまった事につきましては、必ずお詫びを致します」

春奈「いえいえ! そんなに気を遣わないでください! 悪いのは木暮くんですし…」

飛鳥「それでしたら、一つ私の方からご相談がございます」

「え?」

 

 皆が驚いたように飛鳥を見た。

 

垣田「相談…?」

飛鳥「その前にひとつ質問があるのですが、木暮くんのご両親はどうされてるんですか? もし差支えが無ければ、教えて頂けますか?」

 

 飛鳥の言葉に垣田は俯いた。

 

垣田「…木暮の両親は、木暮が小さい頃に蒸発したんです」

「!」

垣田「ただ蒸発をしただけなら良かったのですが、弁当を買いに行く、すぐに戻ってくると母親に言われてずっと待っていたのですが、帰ってこなかったんです」

飛鳥「そんな事が…」

春奈「で、でももしかしたら事故に遭ったとかじゃ!!」

 

 春奈が慌てて木暮の両親を擁護しようとしたが、垣田が静かに目を閉じた。それはとても苦しそうに…。

 

垣田「私もそうであって欲しかった。ですが、暫くして木暮の親が逮捕されたんです。育児放棄で」

「!!」

 

 垣田の言葉に皆が驚いたが、飛鳥が真剣な表情をした。

 

垣田「最初から木暮を置き去りして逃げるつもりだったのです。そして、開き直った木暮の親は木暮を突き放したんです。信じる方が悪いと」

 

 垣田の言葉に春奈はショックを受けた。

 

飛鳥「…それが、今の木暮くんを作ってしまったと」

垣田「ええ…」

 

 垣田が目を閉じたが、冷静さを取り戻した。

 

春奈「そ、それだったら…」

垣田「恐らく木暮は私たちの事を敵だと思っているでしょう」

「!」

垣田「グラウンド整備をさせるのも、雑巾がけをさせるのも、心身を鍛える為じゃない。自分を仲間外れにして、サッカーをさせない為だと。奴はそう思い込んでいるのです」

春奈「それが分かってるならどうして…」

 

 すると垣田は春奈を見た。

 

垣田「確かに傍から見れば我々が木暮にしている事は酷に見えるでしょう。ですが、ここにいる漫遊寺の生徒は、皆木暮のように親から捨てられ、身寄りのない者達が集まっている学校なのです。木暮一人を特別扱いするわけにはいきません」

 

 垣田の言葉にジェミニストームはショックを受けた。そう、自分たちと同じだったからである。親から見捨てられ、身寄りのないという点に。そして木暮の気持ちが痛いほど分かった。木暮みたいにはならないなんて言いきれないからだ。

 

垣田「それに、この学校は己の心身を鍛えるがモットー。どんなに辛い状況でも強い心で立ち向かう。いつまでもあのままでは困るのですよ」

春奈「でも!!」

飛鳥「音無さん」

「!」

 

 春奈が反論しようとするが、飛鳥がやんわりと止めた。春奈は飛鳥の顔をじっと見ると、飛鳥は「それ以上は言ってはいけない」と言わんばかりに冷静な表情で春奈を見つめた。そして垣田を見つめる。

 

飛鳥「分かりました。漫遊寺中の理念はしっかりと伝わりました。こちらとしても、漫遊寺のやり方を否定したり、首を突っ込んだり致しません。話を戻させていただきます」

「?」

 

 飛鳥が真剣なまなざしで垣田を見つめてこう言った。

 

 

飛鳥「この修業期間、木暮くんをお借りしても宜しいでしょうか?」

 

 

つづく

 



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第30話「裏切り」

 

 

 その夜…。

 

飛鳥「男子はこっちの部屋、女子はあっちの部屋だ。間違えるなよ」

「はーい」

 

 就寝の準備に入った。男子は大部屋を使い、女子は小部屋で寝る事になった。

 

少林寺「明日からの修業、楽しみです!」

風丸「そうだな」

 

 少林寺や風丸が気合を入れる中、春奈だけは浮かない顔をしていた。そして男子達が寝ようとすると…。

 

春奈「コーチ」

 

 春奈が飛鳥を呼び止めた。飛鳥も寝る気満々だったが、春奈に呼び止められて、春奈の方を向いた。

 

飛鳥「木暮くんの事で話があるんだろ?」

春奈「!」

 

 飛鳥の言葉に春奈が驚いた。

 

飛鳥「夜も遅いし、少しだけなら付き合うぜ」

春奈「あ、ありがとうございます!」

 

 そう言って飛鳥と春奈が移動しようとすると、飛鳥が舞を見た。

 

飛鳥「すぐに戻ります」

舞「OK。でも、変な事しないようにね」

飛鳥「大丈夫ですよ。東京にいるお兄さんにブチ殺されますので」

春奈「コ、コーチ!////」

 

 飛鳥のジョークに対し、春奈が頬を染めて突っ込んだ。

 

リーム・パンドラ「……」

舞「あなた達は寝なさい。明日は早いわよ」

リーム・パンドラ「は、はい…」

 

 そして、飛鳥と春奈は部屋の近くの池まで来て、そこにあるベンチに腰を掛けた。暫く黙っていた二人だったが…。

 

飛鳥「そんなに気になるかい? 木暮くんの事が」

春奈「それもそうですけど、どうしてあの時、木暮くんを貸してほしいって言ったんですか?」

飛鳥「そりゃあオレも気になったからさ。木暮くんの事が」

 

 春奈の言葉に飛鳥が苦笑いして答えると、すると春奈は少し驚いた顔をしていた。そして飛鳥は正面を見つめて、月を見つめた。

 

飛鳥「エイリア学園…お日さま園も似たような子が集まっててさ。あいつ等の面倒を見ていた頃を思い出したんだよ」

春奈「お日さま園…」

飛鳥「そういや話したっけ。お日さま園の事」

春奈「す、少しだけ…」

 

 飛鳥の言葉に春奈はお日さま園の事を想いだした。飛鳥とジェミニストームは元々お日さま園という孤児院の出身だったのだが、経営していた吉良星二郎が復讐の為に飛鳥達を『エイリア学園』の生徒として、利用しようとしていたのだ。

 

飛鳥「オレ、こう見ても最年長なんだよね」

春奈「そうなんですか!?」

飛鳥「そう。もう一人いるんだよね。砂木沼治って此間テレビ通話で紹介したでしょ?」

春奈「あっ…」

 

 今度はデザームの顔を思い出す春奈だった。

 

飛鳥「で、話は戻すけどお日さま園の園児たちも色んな子がいた訳よ。親に捨てられて人間不信になった子、裏切られて捻くれてしまった子、気を引きたくて我儘になった子とかね」

春奈「……」

 

 飛鳥の言葉に春奈は縮こまった。

 

春奈「…辛いですよね。私も施設出身なんですよ」

飛鳥「知ってるよ。お兄さんから聞いた。苦労してるんだね」

春奈「今は里親が見つかって幸せに暮らしてるけど…」

飛鳥「オレ達だって幸せだったよ。エイリア石の件が無かったら、今でも幸せだったと思う」

 

 春奈が飛鳥を見た。

 

飛鳥「エイリア石に手を出して暴走したとはいえ、オレ達にとって吉良星二郎は今でも大事な父親だ。そして、エイリア石に手を出す前は本当に神様のような人だった」

春奈「……!」

飛鳥「皆、本当に父親のように慕っていて、大好きだったんだ。だから木暮くんの気持ちが痛いほどわかる。大好きだった人に裏切られるって本当に辛いよな」

 

 飛鳥がそう言うと、春奈の目から涙があふれ出ていた。

 

 春奈もかつて両親を事故で亡くしていたが、当時は幼くて死んだ事がよく分からず、自分の誕生日には帰ってくると兄から話されていたが、帰ってこなくて兄にあたり、親に裏切られたと思っていた。

 

 だけど、13になって親に裏切られたとは思わなくなったが、飛鳥の言葉を聞いて、飛鳥や木暮がかつての自分の姿と重なったのだ。

 

飛鳥「…おっといけない。話が反れちまった」

 

 飛鳥が誤魔化すように話を戻したが、春奈が泣いていたので気まずそうにしながら、ハンカチを差し出した。

 

飛鳥「拭きな。女の子がそんな顔してたらダメだよ」

春奈「…ありがとうございます」

 

 飛鳥からハンカチを受け取ると、春奈は涙を拭いた。

 

飛鳥「まあ、なんだかんだ言って父さんも反省してるみたいだし、皆元気だし、今もそれなりに幸せだよ」

春奈「!」

飛鳥「今すぐには無理だけどまたいつか…ね」

 

 飛鳥の言葉に春奈はまた感極まった。

 

飛鳥「おっといけないいけない。そういうつもりじゃなかったんだ」

春奈「…洗って返しますね」

飛鳥「OK。待ってるぜ」

 

 こうして、ある程度話し終えた飛鳥と春奈は寝室に戻ろうとした。

 

飛鳥「あ、そうだ音無さん。最後にこれだけ」

春奈「?」

 

 飛鳥が呼び止めると春奈が飛鳥の顔を見た。飛鳥も春奈の顔を見る。

 

飛鳥「無理に何とかしようとするな」

春奈「え?」

飛鳥「こういうのは時間をかけてやるもんだから。リュウジじゃないけど、急いては事を仕損じる。だ」

春奈「……!」

 

 春奈が反応すると、飛鳥が笑みを浮かべた。

 

飛鳥「信じる事と見守る事。これが出来れば大体大丈夫だから。それじゃ、おやすみなさい」

春奈「お、おやすみなさい!!」

 

 そう言って春奈が女子部屋に入っていくのを確認した。飛鳥が暫く見つめていると、フッと笑って男子部屋の襖を開けた。すると、皆布団に籠っていたが一部のメンバーからすすり泣きが聞こえていた。

 

 それを聞いて飛鳥は呆れた。

 

飛鳥「寝ろよお前ら…。ってか、よく聞こえたな…」

 

 ちなみに女子部屋は春奈が舞の胸に飛び込んで声を出さずに泣いていた。舞は苦笑いしながらよしよしと優しく春奈の頭をなでると、リームとパンドラも貰い泣きしていた。

 

舞「寝れない…!!!」

 

 そして…。

 

木暮「……」

 

 木暮は一人、自室で考え事をしていた。それは飛鳥と春奈の話を聞いていたからで、迷いが生まれていた。

 

木暮「何だよ。分かったような面しやがって…」

 

 すると木暮は昔の事を想いだした。

 

『信じる方が悪いのよ!! あんたなんか産まなきゃ良かった!!』

 

 母親から言われた言葉に、木暮はそのまま塞ぎこんだ。

 

 

つづく

 



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第31話「修業開始!」

 

 夜が明けて、ジェミニストーム、風丸、少林寺の修業が始まった。

 

飛鳥「さあ、お前らもうすぐ修業の時間が始まるぞ!!」

 

 飛鳥が襖を開けると、日差しが降り注いでいた。風丸と少林寺は起きていたが、ジェミニの選手はまだ寝ていた。

 

飛鳥「起きないと寝坊した奴の事を今日のブログに書くぞ」

 

 するとジェミニストームが一気に起きた。というのも、名前を書かれようものなら、他のエイリアメンバーから何を言われるか分かったものではない。特にイプシロンのマキュアや、プロミネンスのレアン、ダイヤモンドダストのクララとかが怖いのだ。

 

レーゼ「おはようございます!! 飛鳥さん!!」

 

 ジェミニ男子メンバーが二列で正座して、布団もキッチリそろえ、レーゼが元気よくあいさつした。それを見て少林寺と風丸は驚きを隠せなかった。

 

飛鳥「おう、おはよう。もうすぐ漫遊寺の方が迎えに来るから、元気よくあいさつしな」

 

 飛鳥がそう言うと、漫遊寺の男子生徒がやってきた。

 

「おはようございます。皆さん」

ジェミニ男子「おはようございます!!! 今日一日宜しくお願いします!!」

 

 ジェミニ男子の礼儀正しさに風丸と少林寺は言葉を失っていた。そりゃそうだ。ついこないだまでは宇宙からの侵略者として、中学校を破壊しようとしていたのに、今じゃこの有様だ。

 

飛鳥「風丸くん、少林寺くん。驚く気持ちは分かるけど挨拶」

風丸「お、おはようございます!」

少林寺「今日一日宜しくお願いします!」

飛鳥「お世話になりますー」

「あ、はい…。皆さんお元気そうで何よりです…」

 

 少林寺、風丸、飛鳥が続けて挨拶をすると、漫遊寺の男子生徒は苦笑いしていた。

 

 ちなみに女子は普通だった。

 

*********************

 

 そして朝からランニングをさせられていた。

 

「ひぃ…ひぃ…」

「きついぜ…」

 

 と、ジェミニストームの一部の選手はきつそうにしていた。

 

少林寺「流石漫遊寺中。ストイックですね…」

風丸「そうだな」

少林寺「風丸さんは陸上部だっただけあって、フォームが崩れませんね」

風丸「まあな」

 

 風丸と少林寺はいつも通りに走っていて、ジェミニストームの選手は素直に2人を凄いと思っていた。

 

*****************

 

 その頃飛鳥達はというと、朝食作りを手伝っていたが、飛鳥が器用に野菜を切っていて、漫遊寺の生徒達を驚かせていた。

 

春奈「コ、コーチ…。凄く料理上手ですね…」

飛鳥「料理は割と好きだからやってたんだ。あと、どうしても野菜食べない奴とかがいてその関係で…」

春奈「あ、あはは…」

舞(…この子うちのチームに欲しいわ)

 

 飛鳥の発言に春奈が苦笑いし、舞が飛鳥をじっと見ていた。

 

 

飛鳥「真仮名井さん。野菜を切り終わりました。これでよろしいでしょうか」

真仮名井「ありがとうございます」

 

 飛鳥が料理番をしている漫遊寺のディフェンダー・真仮名井に報告をすると、真仮名井はお礼を言った。

 

真仮名井「それにしてもお手伝いさせてしまってすみません。本来は木暮が当番だったんですが…」

飛鳥「気にしないでください」

 

 飛鳥の発言に春奈が険しい表情をした。

 

春奈「私、木暮くんを探してきます!」

飛鳥「今はやめときなさい」

春奈「でも…」

 

 春奈が飛鳥を見ると、飛鳥は冷静だった。

 

飛鳥「今は我慢だよ。多分相手も来るだろうと思うから」

春奈「コーチ…」

 飛鳥が真仮名井たちを見た。

 

飛鳥「すみませんが、本日は叱らないでやってくれませんか?」

真仮名井「し、しかし…」

飛鳥「ちゃんと考えがあります。どうか…」

真仮名井「わ、分かりました…」

 

 飛鳥が頭を下げると、真仮名井たちも何も言えなくなった。そして春奈はそんな飛鳥の後姿をじっと見つめていた。

 

*********************

 

 そして朝食の時間。腹を空かせていたのか、ギグが物凄い勢いで食べていた。

 

飛鳥「おいおい、そんなに慌てて食べるなよ章介」

ギグ「いやあ! だって飯が美味いんですもん!!! ごはんとみそ汁が!! こんなに美味いなんて思わなかった!!」

飛鳥「…かみしめてるようで何よりだよ」

 

 飛鳥が苦笑いした。

 

真仮名井「皆さん安心して食べられてるようで安心しました…」

飛鳥「…あー」

 

 真仮名井の発言に飛鳥は苦笑いした。

 

真仮名井「皆さんももうご存じかと思いますが、体験者の皆さんの夕食は、我々が食べているものと同じものを食べて貰うのですが、初日と最終日は腕によりをかけて作るのです」

春奈「昨日の京料理、とっても美味しかったです!」

真仮名井「ありがとうございます。…ですが、木暮の奴がたまに厨房に忍び込んでつまみ食いをしようとして」

 

 真仮名井の発言に「この人も苦労してるんだなぁ…」と、真仮名井に同情の視線を送っていた。

 

******************

 

 そして食事が終わると…。

 

レーゼ「皿洗いも自分でやるのか…」

 

 レーゼが仲間と共に台所で皿洗いをし、

 

ティアム「しかも掃除も…」

 

 ティアムが食事をしていた場所を箒ではいていた。ゴルレオ、リーム、パンドラが別の所を掃除していた。

 

飛鳥「当たり前だろ。今はお客さんじゃねェんだから」

 

 飛鳥、春奈、舞は隅っこでくつろいでいた。

 

飛鳥「先に行っておくが、これが終わったら9時にグラウンドで漫遊寺と練習試合だ」

「れ、練習試合!!?」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達が驚いた。

 

少林寺「漫遊寺は己の心身を鍛える為に練習試合はしない学校ですよ!?」

飛鳥「ああ。一応漫遊寺の皆さんの前では『手合わせ』って呼んでるんだけど、練習試合の方が分かりやすいかなって…」

 

 少林寺の指摘に飛鳥が苦笑いした。

 

 

飛鳥「お前達の今回の課題は、予想外の状況に柔軟に応じる事。前の雷門中との練習試合を想いだせ」

「あっ…」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達は前の試合の事を想いだした。その光景には自分たちの予想をはるかに超え、スピードを身に付けて動揺した自分たちがいた。

 

飛鳥「あれで前半戦ペースが崩れて、後半で何とか巻き返そうとしたけど、1点を返すのが限界だった。そうだろう?」

レーゼ「は、はい…」

飛鳥「そういう訳だ。短い時間だが、それまでに万全のコンディションにしておけ。勝ち負けよりも心身を鍛える事を重点的に置くんだ。いいな!」

「はい!」

 

 飛鳥の言葉にジェミニストームの選手は反応すると、風丸と少林寺はあっけに取られていた。

 

飛鳥「あ、それから風丸くんと少林寺くんも今回はうちのチームに入って貰うから」

風丸「ジェミニストームに…?」

少林寺「あのユニフォームを着るのかな…。あまり趣味じゃないんだけど…」

 

 そう言うと、飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「安心しな。今回は雷門のユニフォームをジェミニカラーにしたものを着て貰うから。あれ、一着作るだけでも結構金と時間かかるんだよ…」

レーゼ「だが、通気性はいいんだぞ!?」

パンドラ「あの、リュウジさん…/////」

リーム「あれ結構恥ずかしい…//////」

レーゼ「え、そうなの?」

 

 

 レーゼのあっけらかんとした言葉はともかく、漫遊寺との試合が急に決まったジェミニストーム! 果たしてどうなる!?

 

 

 つづく

 



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第32話「焦り」

 

 ジェミニストーム、風丸、少林寺が身の回りの掃除をしている頃、木暮は一人でグラウンド整備をさせられていた。

 

木暮「チッ。なんでオレ一人でグラウンド整備しなきゃなんねーんだよ…」

「当たり前だ!! 朝食作りをサボりおって!」

「これが終わったら、次は廊下の雑巾がけだからな!!」

木暮「うっせーな!!」

 

 監視をしている漫遊寺イレブンのメンバーが怒鳴ると、木暮も逆切れをした。

 

垣田「……」

 

 垣田はそんな様子を遠くから見ていたが、あまり良い印象ではなかった。

 

「キャプテン。あいつのせいでどんどんチームの雰囲気が悪くなってます!」

「もう限界では…」

 

 と、部員達が垣田に対して文句を言うと、垣田は静かに目を閉じた。

 

****************

 

 そんなこんなで朝の9時になり、飛鳥達は漫遊寺イレブンが待っているグラウンドに来た。

 

飛鳥「あれ? 木暮くんはどうされたんですか?」

垣田「…あいつなら、今雑巾がけをさせています」

飛鳥「そうですか」

 

 飛鳥が普通にしていると、春奈が心配そうにしていた。そんな中、漫遊寺の監督がやってきた。

 

「か、監督!!」

「いつお帰りになられたんですか!?」

「えっ?」

 

 漫遊寺イレブンの発言にジェミニストームたちは困惑していた。すると飛鳥が彼らの顔を見た。

 

飛鳥「ああ。漫遊寺の監督さんは普段は近くで修業をされてるんだ。だから普段はいないんだよ」

監督「その通りじゃ。お手合わせ、宜しく頼みます」

飛鳥「こちらこそ。お手合わせ願います」

 

 監督と飛鳥がそう挨拶すると、ジェミニストームと漫遊寺の選手がポジションに付き、風丸と少林寺はベンチに座り、ベンチから漫遊寺とジェミニストームの試合を見ようとしていた。

 

「さあ!! ジェミニストームと漫遊寺の試合…いや、手合わせが始まろうとしています!!」

「!!?」

 

 角馬王将が当たり前のように実況をしていた。ご丁寧にマイクと机とネームプレートも用意されていた。

 

飛鳥「角間さんあんた…」

王将「いやあ、手合わせとはいえ、やはり実況は大事かと思いましてなぁ」

飛鳥「いや、お仕事どうされたんですか?」

王将「実は家族旅行に来ているのだ」

春奈「奥さんに怒られますよ」

王将「家内なら買い物に夢中になっているので、心配はない! さあ! キックオフです!!」

角馬「父上!! 輝いてます!!」

歩「ちちうえー」

 

 息子2人も来ており、兄の圭太は父の雄姿を見て号泣し、弟の歩は圭太の膝の上にいた。実況の為なら自由過ぎる角馬一家にベンチ陣は辟易していた。

 

 前半が始まって間もない頃、漫遊寺のFW・吽助がリームからボールを奪い、兄の阿太郎と共にジェミニのMF、DFを突破していった。そしてGKのゴルレオの元へ駆ける。

 

ゴルレオ「決めさせるかよ!! ブラックホー…」

阿太郎「ふっ!! はっ!!」

 

 阿太郎がクンフーの型を決め出すと、

 

ゴルレオ「な、何やってんだコイツ?」

 

 と、ゴルレオが気を抜いてしまった。

 

飛鳥「来るぞ!!」

阿太郎「クンフー…アタック!!」

 

 阿太郎が肩にボールをぶつけると、そのまま物凄い勢いで、ゴールに向かって飛んだ。

 

ゴルレオ「だがオレの敵じゃねぇ!! ブラックホー…」

 

 ゴルレオが右手を突き出して黒い空間を作り出し、ボールを右手に吸い寄せようとしたが、シュートの勢いが止まらず、そのまま失点した。

 

ゴルレオ「な…!!」

 

 ゴルレオは冷や汗をかいた。

 

飛鳥「玲於! 気を抜くな!」

ゴルレオ「す、すみません!!」

 

 飛鳥が怒鳴るとゴルレオが慌てて頭を下げた。風丸は阿太郎のシュートを見て驚いていた。

 

風丸「な、何てパワーだ…。油断してたとはいえ、あのジェミニストームから1点を取るなんて…」

少林寺「流石漫遊寺の皆さんです!!」

 

 風丸とは対照的に少林寺は目をキラキラさせていた。

 

飛鳥「余さずしっかり見とくんだぞ」

風丸・少林寺「!!」

 

 飛鳥の言葉に風丸と少林寺は反応して、飛鳥の方を見た。飛鳥は正面を向いたまま笑みを浮かべる。

 

飛鳥「何が飛び出してくるかわかんねェからな」

 

 その後も漫遊寺のペースで試合が進んでいった。

 

レーゼ「アストロ…」

 

 レーゼにボールが周り、ゴールからそう近くもない距離から自身の必殺技である「アストロブレイク」を放とうとしていた。ボールを黒いオーラが包んでレーゼがそのボールを蹴った。ボールは地面を這うようにゴールに向かう。

 

 するとGKをしていた垣田は大きく息を吸い込んで、上半身を膨れ上がらせた。

 

風丸「な、何だ!?」

少林寺「あの必殺技はもしかして!!」

 

垣田「火炎放射!!!!」

 

 垣田がボールに向かって火を噴きだした。ボールは火炎放射によって威力がどんどん弱まっていき、垣田にキャッチをされた。

 

レーゼ「そ、そんな馬鹿な…」

 

 渾身のシュートを止められてしまい、ショックを隠せないレーゼ。

 

垣田「あなたの心には焦りが見えます。余裕を持ちなさい」

レーゼ「!!」

垣田「そしてあなただけではない。他の方々もだ」

「……!!」

 

 そして前半戦、ジェミニストームは成す術もないまま、1-0で終わった。

 

春奈「皆さん…」

舞「流石『裏の優勝校』と呼ばれているだけあって、強いわね…」

 

 舞が漫遊寺の生徒達を見つめた。

 

飛鳥「…どうよ。漫遊寺中」

レーゼ「必殺技を止められた上に、失点までされて…。強いなんてものじゃない…」

 

 と、レーゼが呟くと飛鳥が口角を下げた。

 

レーゼ「やはり…エイリア石がなければオレ達なんて…」

飛鳥「だからここに来たんじゃないか。エイリア石が無くても強くなれるように」

 

 飛鳥がそう言うが、レーゼはまだ納得していなさそうだった。

 

レーゼ「だけど飛鳥さん。マスターランクの奴らはエイリア石を使わなくても…」

飛鳥「あいつらが出来たんだ。お前達だって出来るさ」

レーゼ「飛鳥さん達とオレ達は違う!」

ティアム「リュウジ…」

ギグ「お、おい。やめろよ…」

 

 レーゼの叫びにティアムとギグをはじめ、ジェミニのメンバーが困惑し始めた。

 

春奈「……!」

 

 そんな中、春奈が険しい顔をした。

 

 

つづく

 



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第33話「それぞれの試練!」

 

 

 前回までのあらすじ

 

ジェミニストームと漫遊寺がサッカーを通じての修業をしていたが、ジェミニストームは苦戦を強いられてしまう。というのも、宇宙人として学校を破壊していた時は『エイリア石』という意思を使って肉体的にパワーアップさせていたが、現在はエイリア石が使えなくなり弱体化していたのだ。

 

漫遊寺に自分のサッカーが完全に通用しなくなり始めた事で、レーゼは自暴自棄を起こしてしまう。果たして…。

 

*******************

 

 その時だった。

 

春奈「何よ!! まだ試合は終わってないのよ!?!」

 

 春奈がレーゼに対して激怒した。

 

風丸「音無…」

春奈「ちょっと勝てなくなったからって、そうやってヤケを起こしてんじゃないわよ!」

レーゼ「うるさい! サッカーをしてないお前に何が分かるんだ!!」

 

 と、二人が揉めると他のメンバーが諫めようとするが、飛鳥はいたって冷静だった。

 

飛鳥「はい、ストップ。2人とも落ち着いて。オレの話はまだ終わってないよ」

 

 飛鳥がストップをかけると、注目が飛鳥に集まった。そして飛鳥はレーゼを見つめる。

 

飛鳥「リュウジ。お前は今までどんな気持ちでサッカーをしてたんだ?」

レーゼ「えっ…」

飛鳥「エイリア学園のレーゼとしてサッカーをしてたのか? それとも、緑川リュウジっていう一人のサッカープレイヤーとしてサッカーをしてるのか?」

 

 飛鳥の言葉にレーゼは言葉を困らせていた。

 

飛鳥「エイリア学園としてサッカーをしてたんなら、もうここで終わりにしろ。父さんの為に勝つだけのサッカーは終わりなんだ。お前たちは変わらなきゃいけないんだよ」

レーゼ「そんな事分かってる!! でも!!」

飛鳥「頭ではわかっていても、どうしたらいいかわからないんだろ? そりゃそうだよな。マスターランクに至ってはエイリア石が無くても十分に強い」

 

 飛鳥が静かに目を閉じた。

 

飛鳥「でもなリュウジ」

レーゼ「……」

飛鳥「オレ達だって最初から強かったわけじゃない。練習に練習を重ねてあそこまで強くなったんだぜ。皆、お前の知らない所で努力してたんだよ」

風丸「……!」

 

 飛鳥の言葉に風丸が反応して、飛鳥を見つめた。

 

飛鳥「お前、そんな事言ってるけどサッカー好きなんだろ?」

レーゼ「それは…」

飛鳥「だったら出来るまで努力するしかないよ。漫遊寺の人たちだってそう。皆同じだよ。努力をすれば報われるんじゃない。報われるためには努力をしないといけないんだ」

レーゼ「!!」

飛鳥「それがいつになるかは分からないけど、何もしなけりゃ絶対に報われない。初心に戻って、緑川リュウジという一人のサッカープレイヤーとして、お前のサッカーを見つけろ。いいな」

レーゼ「……!!」

 

 レーゼの目の輝きが戻ると、飛鳥は春奈を見た。

 

飛鳥「次は音無さんだ」

春奈「えっ…」

 

 怒られるとは思っていなかった春奈は少し驚いた。

 

飛鳥「怒ってくれてありがとう。でもね、もう少し言い方を考えて。リュウジだってちゃんと分かってるんだよ。でも、どうしたらいいか分からなくて悩んでるんだ。マネージャーが一番やったらいけないのは、選手を追い詰めて、士気を下げる事だ」

春奈「お、追い詰めてなんか…!」

飛鳥「音無さんにそんなつもりがないのは分かってる。でも、それが結果的に喧嘩になっちゃったろ? それじゃ意味がないんだ」

 

 飛鳥の言葉に春奈ははっと気づいた。

 

飛鳥「音無さん。何とかしてあげたいのは分かる。でも、どうしても自分の力で解決しなきゃいけない時もあるんだ。もどかしいでしょう。でも、そういう時こそ選手を信じるしかないんだよ」

春奈「!」

飛鳥「いけない事を無理やり直させるんじゃない。どんなに時間がかかっても、相手の事をよく見て、適切な言葉をかけて背中を押してあげる。そこから信頼関係が生まれるんだよ」

 

 飛鳥の言葉に春奈は申し訳なさそうに俯いた。

 

春奈「そうですよね…」

 

 春奈がレーゼを見た。

 

春奈「ごめんなさい緑川さん。言い過ぎました」

レーゼ「……」

 

 春奈が頭を下げると、レーゼは静かに目を閉じて頭を下げた。

 

レーゼ「こっちこそごめん! オレも言い過ぎた! オレ、どうしても勝たなきゃいけないと思って、焦って周りが見えてなかった!!」

春奈「そ、それなら私だって…」

飛鳥「昨日も言ったでしょ。急いては事を仕損じる。時間はまだたっぷりあるんだ。焦らずゆっくり成長していこう!」

 

 飛鳥がそう言うと、レーゼと春奈が元気よく返事をすると、他のメンバーも笑みを浮かべる。

 

飛鳥「さて、後半戦だが風丸くんと少林寺くんも出て貰おうかな」

「!」

飛鳥「章介、駿太郎と交代だ。風丸くんは章介のポジション、少林寺くんは駿太郎のポジションに入って」

少林寺「はい!」

風丸「分かりました」

飛鳥「ちなみに少林寺くんは新しい必殺技の試しうちはしてもいいけど、ちゃんと周りの選手を見てから判断するように! 分かったね?」

少林寺「はい!」

 

 飛鳥が正面を見つめた。

 

飛鳥「さあ! 後半戦が始まる!! 逆転するぞ!!」

「おお!!!」

 

 風丸は飛鳥を見ると、円堂の姿と重なって見えた。

 

風丸(そうだよな。出来ないからって腐ってたらダメだよな。皆それぞれ頑張ってるんだ。オレだって!!)

 

 そして後半戦が始まった。風丸と少林寺が入ったことで少しは戦力が上がり始めたものの…。

 

レーゼ「風丸! こっちだ!」

風丸「ああ!」

 

 風丸がレーゼにパスをしようとしたが、漫遊寺の選手にカットされてしまった。

 

風丸「は、早いっ!!」

 

 そしてあっという間に攻め込まれ、GKの元へ。

 

ゴルレオ「もう1点もやらん!!」

阿太郎「行くぞ吽助!!」

吽助「おう! 兄者!!」

 

 すると今度は吽助がシュートを放つと、赤い龍が出た。

 

少林寺「あれはドラゴンキャノン!!!」

ゴルレオ「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ゴルレオが力業で止めようとしたが、ドラゴンキャノンの威力は思った以上に強く、そのまま失点した。

 

王将「ゴール!! これで漫遊寺が2点目を先取したー!! ジェミニストーム、このまま終わってしまうのかー!!?」

 

飛鳥「……」

 

 

 そして、試合が終了した。結果は2-0で漫遊寺の勝利だった。レーゼ達は悔しそうに表情を歪ませていた。

 

飛鳥「完敗です。流石ですね」

監督「うむ。だが、後半戦で見せた気迫は良かった。この数日間の修行でしっかり心身を鍛えなさい」

飛鳥「ありがとうございます」

 

 飛鳥が包拳礼をすると、監督も包拳礼をした。

 

木暮「……」

 

 その様子を陰で木暮が見ていた。

 

木暮「何が信じるだよ。結局負けてんじゃねーか」

 

 そう言って木暮はどこかに行ってしまった…。

 

 

つづく

 



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第34話「そして修行へ…」

 

 その頃、雷門イレブンは河川敷で特訓をしていた…。

 

秋「皆―! 休憩!」

 

 秋がそう呼ぶと、選手たちは休憩をした。手を洗って秋と夏未が作ったおにぎりを食べている。

 

円堂「そういや風丸達、今頃どうしてるかな…」

染岡「漫遊寺で扱かれてるんじゃねぇか?」

 

 円堂の言葉に染岡が返事をすると、壁山が困った顔をする。

 

壁山「漫遊寺はお菓子やジュースがダメなんすよね。オレ、耐えられないっス…」

栗松「しかし、少林はどうしてるでやんすかねぇ」

宍戸「寝れないくらい楽しみにしてたみたいだけど…」

 

 と、壁山たちが話していると秋がやって来た。

 

秋「皆。ブログが更新されてるわよ」

円堂「ブログ?」

染岡「どうした。元気ねーじゃねぇか」

 

 秋が困った顔をしていると染岡が反応したので、秋が苦笑いした。

 

秋「漫遊寺とジェミニストームが試合をしたみたいなんだけど、ジェミニストーム…負けちゃったみたいなの」

「えっ!?」

 

 秋の言葉に円堂達は驚きを隠せなかった。1回目、自分たちが全く歯が立たなかったジェミニストームに漫遊寺が勝ったのだ。

 

半田「ま、漫遊寺ってそんなに強いんだ…」

目金「そりゃそうですよ。裏の優勝校って言われてるんですから!」

マックス「そんなの皆知ってるよ。知ったかぶっちゃって」

目金「し、知ったかぶりって僕は本当の事言っただけじゃないですか!!」

 

 目金がマックスに突っかかると、円堂はブログの内容を見た。前半戦はオリジナルメンバーで、後半戦は少林寺と風丸が入ったが、それでも漫遊寺が強かったと書かれていた。

 

鬼道「流石裏の優勝校と呼ばれているだけはあるな…」

豪炎寺「あいつらが負けるあたり、本物だろう…」

円堂「オレ達も漫遊寺と戦いたかったなー」

 

 と、円堂が漫遊寺に思いをはせていた。

 

鬼道「まあ、それはいいが円堂…」

円堂「え?」

夏未「そろそろ学業の方にも専念して貰わないとねぇ?」

 

 夏未が宿題のプリントらしき紙を持っていた。

 

円堂「それを全部やれと!!?」

夏未「…流石に全部じゃないわよ。それとも全部がいい?」

円堂「いや、もうこれはどうせ全部なんだ。オレにはわかる」

 

 円堂は悟ったが、夏未は何か面白くなさそうだった。

 

夏未「…少しは私の事を信頼しなさいよ」

円堂「そりゃあ夏未の事は信じてるよ?」

夏未「!!」

円堂「マネージャーの仕事はしてくれるし、おにぎりだって美味くなったし、事務の掃除はしてくれるし、いつもありがとな!!」

 

 円堂がほほ笑むと、夏未が頬を染めた。

 

夏未「な、何よ急に!! そんな事言ったって勉強はさせるんだから!!」

円堂「それは仕方ないよ。母ちゃんもうるさいんだ」

夏未「…そ、そうなの/////」

 

 そんな夏未と円堂の様子を秋、土門、一之瀬が見ていた。

 

土門「いやー。流石というかなんというか…」

一之瀬「流石円堂。と言った所だね」

秋「う、うん…」

 

 秋が表情を引きつらせていた。

 

一之瀬「今度オレと一緒に勉強しない?」

秋「えっ…。あ、土門くんと3人で?」

土門「ごゆっくりー」

秋「さ、3人でやりましょ!?」

 

 秋が土門の手を強く引っ張っていたので、土門は口元を引きつらせていた。

 

***********************

 

 戻って漫遊寺中。手合わせを終えた飛鳥達は昼食を取っていたが、こちらも自炊だった。

 

ギグ「うまい!! うまい!!」

イオ「だから食い過ぎだっての」

 

 ギグが一心不乱に食べていると、イオが呆れた。

 

飛鳥「……」

 

少林寺「昼食が終わったら本格的に漫遊寺の修業が始まるんですね!」

風丸「凄く張り切ってるな」

少林寺「はい!」

 

 どこまでも張り切っている少林寺に風丸は苦笑いしたが、漫遊寺との試合で自分も更にレベルアップする必要があると確信した。

 

飛鳥「あ、皆ちょっといい?」

 

 飛鳥が声をかけると、皆が反応した。

 

飛鳥「今後の事だけど、これから3日目までは漫遊寺の練習メニューをこなしてもらう。で、4日目から6日目は午前が漫遊寺の修業で午後は本格的にサッカーの特訓だ。で、最終日には漫遊寺とまた練習試合…という名の手合わせをする!」

「!!」

 

飛鳥「この1週間、どれだけ真剣にやるかが勝利の鍵になる! 気張っていけ!」

「はい!!」

 

 すると風丸がある事に気づいた。

 

風丸「そういえばコーチはその間、どうするんですか?」

飛鳥「あー。オレはちょっと用事が出来たから」

春奈「木暮くんの事ですね?」

飛鳥「うん」

 

 飛鳥があっさり認めると、ジェミニストームの面々は苦笑いした。

 

春奈「だったら私も同行させてください!」

飛鳥「あ、ごめん。その事なんだけど…」

春奈「もうあんな失敗はしませんからお願いします!!」

飛鳥「そうじゃなくて、今日の夕ご飯の買い出し手伝ってほしいって漫遊寺の人たちが言ってたから」

春奈「……」

 

 飛鳥の発言に春奈がジト目で見つめると、

 

飛鳥「言ったでしょ。慌てるなって。2日目と3日目もあるから。ね?」

春奈「…分かりました」

飛鳥「ありがとう。助かるよ」

 

 と、渋々春奈は買い出しを手伝う事にした。

 

*********************

 

 そして…。

 

木暮「チッ。雑巾がけの次は何だよ…」

 

 木暮がぶつくさ言いながら監督のもとに向かった。

 

監督「おお、木暮か」

木暮「何でしょう監督―」

監督「お前にはこれから3日間。サッカーを教えて貰う」

木暮「は?」

 

 監督の言葉に木暮が疑問を抱いていた。

 

木暮「何でオレなんですか。試合に出てないのに」

監督「試合には出なくても、サッカーを教えることくらいは出来るだろう。河川敷にその男を待たせておるから、頼んだぞ。その間は雑巾がけもグラウンド整備もなしだ」

木暮「え、マジかよ」

 

 監督の言葉に木暮は心を躍らせた。そりゃそうだ。やりたくもない雑用をやらずに済むうえに、上手く行けば自由にサッカーが出来るのだから、そりゃもう浮かれていた。

 

木暮(いよっしゃラッキ~!! うしし~!!)

 

 と、内心喜びながら、河川敷に向かっていたが…。

 

飛鳥「やあ、待ってたよ」

木暮「げぇええええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 飛鳥だった事に、木暮は絶叫した。

 

 

つづく

 



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第35話「二人きりのサッカー」

第35話

 

 前回までのあらすじ

 

 木暮にサッカーを教わりたいという人物がいたので、木暮は仕方なしに待ち合わせ場所の河川敷に向かったが、そこには飛鳥がいた…。

 

*******************

 

木暮「!!」

飛鳥「こんにちは」

木暮「な、何でてめーがここに!!」

 

 漫遊寺の生徒かもしくは近所の小学生だと思っていた木暮は驚いていたが、飛鳥はいたってマイペースだった。

 

飛鳥「いやあ、サッカー出来なくて困ってたって聞いたから、ちょっと練習相手になってくれないかな」

木暮「教えて貰うんじゃないのかよ!」

飛鳥「いやあ、こうでもしないと来ないと思ってね。で、どうする?」

木暮「え…」

 

 飛鳥の言葉に木暮が反応した。

 

飛鳥「引き受けなくてもいいけど、その時はまたいつも通り雑巾がけとグラウンド整備といった雑用をやらせるって」

木暮「ふ、ふん! 折角あんなつまんねー事をやらずに済むんだ! いいぜ! 相手になってやる! どっからでも来いよ!!」

飛鳥「OK。それじゃオレからボールを奪ってみな!」

 

 と、木暮をやる気にさせて飛鳥と二人でサッカーをした。

 

******************

 

「え~~~~~~~~~~っ!!!!?」

 

 春奈は漫遊寺の女子生徒達と食事の買い出しを手伝っていたが、その道中で女子生徒達が飛鳥から足止めをお願いされていた事をうっかり漏らしてしまったのだ。そして春奈は信じられなさそうに絶叫していた。

 

「ご、ごめんなさい…」

「実は一丈字様からあなたを足止めしてほしいとお願いされてまして…」

春奈「……!!」

 

 春奈はわなわなと怒りに震えていて、漫遊寺の女子生徒はお互いを抱き合って震えていた。

 

春奈「それで…?」

「はい…?」

春奈「それでコーチはどこに行ったんですか…!?」

「か、河川敷のコートです!!」

「そこで2,3日木暮と付きっきりで練習すると…」

 

 と、春奈の鬼の形相を見た女子生徒は全部バラしてしまった。

 

******************

 

 そして夕方…。

 

木暮「ハァ…ハァ…」

飛鳥「……」

 

 木暮は大の字になってあおむけになっていた。飛鳥は汗をかいているものの、まだ立ち上がっていた。

 

 木暮はずっと飛鳥からボールを奪おうとしたが、動きを全部読まれてボールが奪えなかった。何度失敗しても立ち上がり、喰らいついたが、飛鳥も集中力を切らすことなく、木暮にボールを取られないように突破していた。

 

 それを数時間もぶっ通してやり続けていて、流石の木暮も立てなくなる程疲れ切っていた。

 

飛鳥「さて、タイムアップだな」

木暮「ま、待て…!! オレはまだやれる…!!」

 

 と、木暮が起き上がろうとしたが、体勢を崩した。

 

飛鳥「無理すんな。まだ明日と明後日もある。しっかり体を休めないと、余計にオレからボールを奪うのは無理だぜ」

 

 そう言うと、飛鳥が木暮を背負った。

 

飛鳥「漫遊寺まで送ってってやるよ」

木暮「う、うるせぇ…! 離しやがれ…」

 

 木暮が悪態をついていたが、疲れたのかそのまま眠ってしまった。飛鳥はそんな木暮を見て、フッと笑ったが…。

 

 黒い笑みを浮かべてコートの外から自分を睨んでいる春奈を見て、苦笑いした。

 

*********************

 

飛鳥「流石音無さん。オレが足止めした事、良く突き止めたね」

春奈「……」

飛鳥「ごめんて」

 

 春奈と一緒に漫遊寺に帰ろうとしていたが、仲間外れにした事に対して謝罪していた。春奈はずっと膨れていた。

 

春奈「私、信用ないですか?」

飛鳥「信用してない訳じゃないけど、喧嘩するだろうなーとは思ってた」

春奈「それを信用がないって言うんですよ!! ちゃんと反省してます!!」

 

 飛鳥の言い訳に対して春奈が激怒した。

 

飛鳥「まあまあ。そんなに怒りなさんな。木暮くんと二人で会話をしたかったんだよ。女の子がいるとつまらない意地を張るもんだからね」

春奈「……」

飛鳥「信用しなくてもいいけど、オレは事実を言ったからね」

 

 飛鳥の余裕を見せた態度に春奈は更に不機嫌になった。

 

飛鳥「木暮くんやっぱり凄いよ」

春奈「え?」

 飛鳥が自分におぶわれて寝ている木暮を見た。

 

飛鳥「数時間ぶっ通しでサッカーやってたけど、全く息が上がらないんだ。おまけにスピードも落ちないし、やればやる程どんどん動きが良くなってるんだ。垣田さんが言っていただけの事はあるよ」

春奈「……!」

 

 飛鳥の言葉に春奈は驚いた顔で木暮を見ていた。

 

飛鳥「しかも、結構呑み込みが早いんだ。補欠とはいえ、漫遊寺サッカー部のメンバー名だけあるね」

春奈「そ、そうですか…」

 

 春奈が俯いた。

 

春奈「それなら猶更見たかったですよ」

飛鳥「そう…」

春奈「そうって!! 次やったらある事ない事ブログに書き込みますからね!!」

飛鳥「その時はお兄ちゃんを呼び出して説教だな」

春奈「もう!! 反省してください!!」

 

 と、春奈は漫遊寺に帰るまで飛鳥に思いの丈をぶつけまくっていた。飛鳥は苦笑いしながらはいはいと聞いており、まるで兄妹のようだった。本当のお兄ちゃんが嫉妬するくらいに…。

 

******************

 

 そして漫遊寺に帰ってくると、そこにはクタクタになった風丸、ジェミニストーム、少林寺の姿があった。皆漫遊寺の道着を着ている。

 

飛鳥「よう。お疲れさん。修業はどうだい?」

レーゼ「も、もうクタクタですよ…」

 

 レーゼが弱音を吐くと、

 

春奈「お疲れ様です」

「!」

 

 皆が春奈を見ると、春奈がほほ笑んだ。

 

春奈「明日も明後日もこの調子で頑張りましょう!!」

レーゼ「言い方柔らかくなっただけで、言ってる事変わんないじゃん!!」

春奈「だってコーチが言い方を変えなさいって言ったんですもん。文句言わないでください!」

飛鳥「まあ、お前ら。よく聞け」

「!」

 

 今度は飛鳥に注目が集まった。

 

飛鳥「漫遊寺の皆さんはこれを毎日やってるけど、お前たちはおよそ1週間やるだけでいいんだ。そう考えたら楽だろ?」

「そ、それは…」

 

 飛鳥の言葉にジェミニストームは困ったように視線を逸らした。

 

飛鳥「ま、今は食らいつくようにしてやってみな。じゃ、オレはちょっとこの子を送らないといけないから」

 

 と、少林寺が木暮に気づいた。

 

少林寺「そ、そいつ…!!」

飛鳥「ああ。お前たちが漫遊寺の修業をしてる間、オレがこの子の面倒を見る事になったから」

「!!?」

 

 飛鳥の言葉に選手たちは驚きを隠せなかった。

 

飛鳥「昔のお前達を見てるようで、面倒見がいがあるよ。じゃあな」

 

 そう言って飛鳥は笑って去っていくと、春奈もついていった。

 

レーゼ「あ、飛鳥さんの…」

ティアム「気絶してるのか…」

ゴルレオ「あいつも運も悪かったな…」

飛鳥「聞こえてるぞ」

ゴルレオ「ひぃいいいい!! すいません!!」

 

 飛鳥が遠くから話しかけると、ゴルレオが怯えた。

 

 

つづく

 

 

 




**********************

 おまけ ~ 今日のブログ ~

『一丈字コーチが私に内緒で、木暮くんっていう子の練習を付きっ切りで見てました! 私も誘ってくれればいいのに酷いです!!』

 と、書きこみ、写真は飛鳥のジャージ姿を撮っていたが、意外にノリノリだった。

 そしてブログの反応。

マキュア「その木暮ってガキまじウザい!! マキも飛鳥とサッカーした~い!!! あと、あんたはずっとすっこんでなさい」

ポニトナ「あら、ジャージ姿の飛鳥さん。セクシーね♪」

デザーム「まるで共にサッカーをしていた頃を思い出すぞ! 次戦う時が楽しみだ!!」

レアン「誘わなくていいし、飛鳥に近づかないで」

壁山「そういえば一丈字コーチがサッカーしてる所見た事ないっス…」

栗松「…エイリアのコメントが何か怖いでやんす」


おしまい


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第36話「木暮とサッカー!」

 

 

 1日目の修業が終わり、自室で食事を取っていた飛鳥一行。食事は精進料理だった。

 

 精進料理とは、仏教の戒律に基づき、動物性の食品を使わず、野菜(ネギやニンニクといった辛味のあるものは対象外)や穀物などの植物性の食品のみを使って調理したものである。

 

「……」

 

 ジェミニストームの選手たちは味気なさそうに食べている。そりゃそうだ。育ち盛りな彼らにとって、動物性の食品は欲しい所だった。

 

飛鳥「お前達。もうちょっと美味しそうに食べろ。失礼だろ」

 

 飛鳥がそんな様子を見て、苦笑いしながら注意した。彼らの言いたい気持ちも分かっている為、あまり厳しくは言わなかった。

 

少林寺「流石漫遊寺。盛り付けも綺麗に彩られています!」

風丸「そ、そうなのか…?」

 

 少林寺だけは漫遊寺の料理に満足していて、隣で座っていた風丸は苦笑いしていた。すると少林寺は何かを思い出したかのように飛鳥を見た。

 

少林寺「そういえばコーチ」

飛鳥「何だ?」

少林寺「明日もあの木暮って奴とサッカーするんですか?」

飛鳥「ああ」

 

 飛鳥の言葉に少林寺が険しい顔をした。

 

飛鳥「何か不満でもあるか?」

少林寺「いえ、そういう訳じゃないんですけど…」

 

 少林寺が困ったように俯くと、風丸も心配そうに見つめる。そして風丸は少林寺の意思をくみ取るかのように飛鳥を見た。

 

風丸「木暮の実力はどれほどなんですか?」

飛鳥「そうだね。サッカーの実力はまだそれ程じゃないけど、体力と負けん気が強くて、数時間ぶっ続けでやってもぴんぴんしてたね」

「!!」

 

 飛鳥の言葉に少林寺達が驚いていた。特に少林寺は木暮に対して否定的で、漫遊寺の足を引っ張っていると思っていなかった為、飛鳥が褒めている事に驚いた。

 

飛鳥「それでね。木暮くんとサッカーをしてて一つ分かったことがある」

「?」

 

 飛鳥が諭すように少林寺を見た。

 

飛鳥「木暮くんは木暮くんなりにちゃんと真剣にサッカーと向き合ってたんだ。確かにレギュラーと練習をしてていさこさを起こしたかもしれない。でもそれは、自分の思い通りにならなかったからだけじゃない。彼は彼なりに強くなろうとしてたんだよ。じゃなきゃ、めんどくさいって言ってる筈の雑用なんかやらないだろ? 普通だったら逃げ出してるさ」

 

 飛鳥の言葉に皆が驚いたように飛鳥を見つめていた。

 

飛鳥「彼もやる気になってくれている。今がチャンスだ」

春奈「コーチ…」

 

 飛鳥の真剣な表情に春奈も感心すると、飛鳥がいつもの穏やかな表情に戻った。

 

飛鳥「まあ、彼の事はオレに任せて、お前たちは明日も漫遊寺の修業をきっちりこなすんだ。分かったな!」

「はい!」

少林寺「……」

 

 飛鳥の言葉に選手たちが返事をしたが、少林寺は一人だけ不服そうにしていた。

 

**************************

 

 その夜。

 

少林寺「……」

 

 寝室でずっと少林寺はもやもやしていた。何故飛鳥はあんなにひねくれ者の木暮の面倒を見るのか。修業が始まる前に、自分達も木暮と似たような状況にあったからというのは聞いていたが、あそこまで付きっ切りで面倒見ているとなれば、他にも理由があるんじゃないかと思い始めた。

 

 そんな少林寺を隣の布団から見ていた風丸は話しかける。

 

風丸「少林」

少林寺「?」

風丸「どうしたんだよ。そんな顔して。そんなに木暮が気になるか?」

少林寺「そんなにって訳じゃないんですけど、コーチは木暮に凄く期待してるみたいなんです。オレはそんな事なくて…」

風丸「…そうだな」

 

 風丸が正面を向いた。

 

風丸「なあ少林」

少林寺「何ですか?」

風丸「木暮に嫉妬してるのか?」

少林寺「し、嫉妬なんて!」

 

 風丸の言葉に少林寺は強がるように否定したが、風丸は苦笑いした。

 

風丸「オレはもう素直に言える。吹雪に嫉妬してた」

少林寺「え?」

 

 風丸の言葉に少林寺が風丸を見た。

 

風丸「オレ、元々陸上部だったろ。それもあってスピードにはそれなりに自信があるつもりだった。でも、吹雪のスピードを見て自分より上がいるんだって分かって、悔しくて仕方なかった。もっと強くならなきゃって思ったんだ」

少林寺「……」

風丸「なあ、少林」

少林寺「……」

 

 風丸は少林寺を見て、優しく微笑んだ。

 

風丸「お前と木暮。もしかしたら物凄いライバルになるかもしれないぞ。オレも吹雪の事をライバルだって思ってる」

少林寺「ライバル…」

 

 風丸が正面を見上げた。

 

風丸「今も北海道で風になってるんだろうな」

 

 風丸がそう言うと、ジェミニストームの面々が風丸を見ていた。

 

風丸「あ、ごめん。うるさくしすぎたな」

「いや、感動しました」

風丸「え」

 

 ジェミニストームの言葉に風丸が固まった。

 

「流石フットボール・フロンティア優勝校のメンバーなだけあって、ちゃんと素直に嫉妬してるって認められるなんて…」

「オレ達なんかまだまだだよ…」

「今でも他のチームが怖いし…」

風丸「お前ら…」

 

 と、弱気になっているジェミニメンバーに対し、風丸が困っていると。

 

「地球にはこんな言葉がある」

「!」

 

 レーゼが口を開いた。

 

レーゼ「雨垂れ石を穿つ。確かにファーストランクやマスターランクチームは強敵だが、オレ達だっていつまでも下のままでいい訳じゃない」

ティアム「リュウジ…」

レーゼ「今は修業に集中だ。この修業で上のランクチームに勝つ為の鍵をつかむぞ!」

「おお!!」

 

 と、レーゼの言葉に男子ジェミニストームの士気が上がった。

 

 そしてそれを飛鳥が外で聞いていて、レーゼ達の成長を嬉しく思っていた。

 

********************

 

 そして翌日…。

 

飛鳥「ふぁあ…よく寝た」

 

 午前4時。飛鳥が一足早く起床して、身支度を済ませると…。

 

「おい! いつまで寝てんだよ!」

 

 と、木暮が現れて声を上げた。

 

飛鳥「早いね」

木暮「夕方寝ちまったせいで元気が有り余ってんだよ! 早く河川敷行くぞ!」

飛鳥「分かった分かった。5分だけ待ってくれ…」

 

 飛鳥がそう言うと、少林寺達が起きた。

 

少林寺「何だようるさいなぁ…」

 

 少林寺が木暮の方を見るが、飛鳥がリュックを背負った。

 

飛鳥「お待たせ。それじゃいこっか…あ、そういや音無さんどうしよう」

木暮「音無? あのうるさい女か? やかましの間違いだろ」

飛鳥「そう言わないの」

「だれがやかましだって?」

飛鳥・木暮「!?」

 

 飛鳥と木暮が女子部屋の方を見ると、寝間着姿の春奈が現れた。

 

木暮「ゲゲ!! 練習を邪魔されてたまるか!! さっさと行くぞ!!」

飛鳥「って、おわっ!!」

 

 木暮が飛鳥の手を引っ張ってそのまま逃げていった。

 

春奈「あ! こらー!! 待ちなさーい!!!」

舞「…何よ。うるさいわね」

 

 舞が目をこすって女子部屋から出てきた。さあ、果たして木暮の修業はどうなる!?

 

 

つづく

 



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第37話「ひたすら練習!!」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 修業2日目。木暮は朝早くから飛鳥に練習に付き合うようにせがみ、そのまま連れ出した…。

 

*****************

 

飛鳥「河川敷はそっちじゃないぞ!」

木暮「河川敷に行くとあいつが来るだろ! こっちに来い!」

 

 と、木暮は飛鳥を河川敷と違う場所に連れて行った。誰もいない原っぱだった。

 

飛鳥「こんな所があったのか…」

木暮「ドリブルを止めるだけなら、ここでも出来るだろ。さあ! やるぞ!」

飛鳥「と、その前に今日の練習は逆だ。君がドリブルをしてオレが止める」

木暮「はあ! なんでだよ!!」

 

 飛鳥の提案に木暮が激怒した。

 

飛鳥「ちゃんと理由がある。君、今頭の中ではブロックすることで頭がいっぱいでしょ」

木暮「そりゃそうだ! 1回もボール奪えてねーんだから!」

飛鳥「今日は予想外の状況を想定してやって貰う。それが出来たら昨日の続きをしよう」

木暮「くっそー…」

 

 木暮が悪態をついていると、飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「そりゃあまあ、惜しい所まで行ってたからな。気持ちは分かるぜ。けどな」

 

 木暮が飛鳥を見ると、飛鳥は笑みを浮かべた。

 

飛鳥「これが出来れば、ブロックだって止めれるはずだ。上手にやるコツは昨日言った事とほぼ一緒だ。さあ、始めるぜ! 10秒以上キープできればお前の勝ちだ!」

 

 そう言って飛鳥は木暮と練習をした。

 

木暮「くそっ!!」

飛鳥「もう一度だ」

 

 飛鳥が木暮からボールを奪うと、木暮にパスした。

 

飛鳥「時間はたっぷりある。焦らずに行こうぜ」

木暮「い、言われなくたって分かってらあ!」

飛鳥「その意気だ!」

 

 そう言って飛鳥と木暮は練習を続けていたが、その様子はまさに兄弟のようだった。

 

飛鳥「どうしたどうした!」

木暮「くそーっ!!」

 

 そんな様子を漫遊寺の監督と垣田が遠くから見守っていた。

 

監督「…垣田よ」

垣田「ええ。監督。分かっております…」

 

 垣田が木暮を見つめていたが、自分たちの前では見せない木暮の姿に複雑な気持ちを抱いていた。

 

垣田「木暮の目に輝きがともっています。我ら漫遊寺レギュラーと鍛錬をしている時には見せなかった表情をしております」

監督「うむ、あやつの生き生きとした顔。わしも初めて見た。あれも、一丈字殿の人柄によるものだろう」

 

 監督の言葉に垣田は落ち込んだ。

 

垣田「監督…」

監督「何じゃ」

垣田「…私のやり方は、間違っていたのでしょうか」

監督「間違ってはおらぬ」

垣田「しかし…」

 

 監督は垣田の顔をじっと見た。

 

監督「お前の指示があったから、木暮はあそこまでの身体能力を得る事が出来た。ただ、お前や漫遊寺の指導ではどうしても与える事が出来なかったものを、彼が与えてくれているのだ」

垣田「!」

 

 監督の言葉に垣田は目を大きく開き、そのまま飛鳥を見た。

 

監督「お前の話を聞いた上で木暮を貸してほしいと申し出たのは、お前たちの顔を潰さないで、木暮を本当の意味で心身を鍛えさせる方法を知っておったからじゃ」

垣田「……!」

監督「同じ痛みを知っているからこそ、本気で木暮を何とかしようとしてくれている。有難い話じゃ」

 

 監督が背を向けた。

 

監督「木暮の事は一丈字殿に任せ、お前は日々の鍛錬に戻るのだ。そして数日後に控えている手合わせ(練習試合)で、木暮の成長をしっかり見届けるのだ」

垣田「は、はっ!!」

監督「行くぞ」

 

 そう言って垣田と監督は去っていった。飛鳥が木暮を変えてくれると信じて…。

 

 その頃春奈はというと、木暮の読み通り河川敷に来ていた。

 

春奈「いなーいっ!!」

 

 飛鳥も木暮もいないどころか、ボールや整備もされていない事に対し、自分から逃げた事に怒っていた。

 

春奈「逃げたわね…!!」

 

 そして練習開始から二時間…。

 

木暮「ハァ…ハァ…」

飛鳥「……」

 

 木暮が険しい表情でドリブルをしたが…。

 

木暮「よっしゃ!! 10秒経ったー!!!」

飛鳥「あー…」

 

 ボールをキープしてから10秒が経ち、歓喜の声を上げた。それに対して、飛鳥は一息ついた。もう2時間もやっていたせいで汗だくでクタクタだった。

 

木暮「ど、どうだ。参ったか…。オレ様の本気、見たら…」

飛鳥「ああ…。見事だとしか言いようがねェな…」

 

 木暮が横になると、飛鳥も座り込んだ。

 

飛鳥「粘りに粘っての勝利か…。長期戦には向いてそうだ…」

木暮「へ、へへ…。この調子でボールを奪ってやんよ…」

飛鳥「だが休憩だ。万全な状態でやんなきゃ意味ないからな…」

 

 飛鳥がそう言って、二人が岩陰に移動しようとすると…。

 

「あ――――――――――――――っ!!! こんな所にいた―――――――――っ!!!」

 

 春奈が大声を上げた。

 

飛鳥「あ、音無さん…」

木暮「チッ…しつこい奴だなぁ…」

 

 そして春奈が2人に近づいた。

 

春奈「河川敷に行ってもいないから、どこで練習してるかと思ったら!」

木暮「うるせーな…。お前みたいにうるさい奴がいたら、気が散るんだよ」

春奈「何ですって!!?」

飛鳥「落ち着け2人とも」

 

 飛鳥が息を切らしながら仲裁した。

 

春奈「コーチ…。随分汗だくじゃないですか! それにクタクタになってるし…」

飛鳥「かれこれ数時間もぶっ続けでやってたらね…」

春奈「ちなみに練習の成果は?」

飛鳥「10秒以上オレからボールをキープできるようになったよ」

春奈「!!?」

 

 飛鳥の発言に春奈が信じられなさそうな顔をしていた。

 

飛鳥「…相手のプレイヤーをギリギリまで疲れさせた上でだけどね」

春奈「凄いじゃない木暮くん!!」

木暮「へっ…オレの手にかかれば…これくらいどうって事ねーんだよ…」

飛鳥「数時間かかったじゃないか…。ああ、疲れたぜ」

 

 飛鳥が本当にクタクタになっていると、春奈が困った顔をしていた。

 

春奈「も、もしかして朝から何も食べてないんですか?」

飛鳥「ああそうだった。こんな事もあろうかと、軽食作ったんだった。木暮くん、これでも食べな」

 

 と、飛鳥がリュックからおにぎりを取り出した。

 

春奈「コーチ、いつの間に…!!」

飛鳥「真仮名井さんに頼んで、昨日厨房を使わせて貰ったんだ…」

春奈「言ってくれたら私だって手伝いましたのに!!」

飛鳥「おいおい。マネージャーなんだから、風丸くん達を見てやってくれよ…。オレのはほんのちょっとした副業みたいなもんだ」

春奈「そ、それはそうですけど…」

 

 春奈が不服そうにしたが、そのまま食事を取る事にした。

 

飛鳥「音無さんも良かったら一つどうぞ」

春奈「あ、ありがとうございます…」

 

 と、春奈も飛鳥からおにぎりを受け取った。

 

春奈「美味しい!」

木暮「おい! これ食べたらすぐボール奪う奴やるからな!!」

飛鳥「あ、そうだ。折角だから音無さんちょっとやってみる?」

春奈「え?」

飛鳥「オレ、ちょっと休憩したいし…。たまにはプレイヤーの気持ちになって、練習に参加してみるのもいいと思うよ」

 

 飛鳥の言葉に春奈が迷うが…。

 

木暮「えー。こいつよりお前がやってくれよ!」

春奈「こ、こいつって何よ! これでも私、運動にはちょっと自信があるんだからね!」

木暮「ちょっとでオレの相手が務まるかよ!」

春奈「言ったわね!」

木暮「言ったさ!!」

 

 と、このまま木暮と春奈がミニゲームをする流れになり、飛鳥は横になって休憩した。

 

飛鳥「ああ…。風が気持ちいい…」

 

 

つづく

 

 



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第38話「漫遊寺の修業、終了!」

 前回までのあらすじ

 

 ミニゲームで飛鳥から10秒以上ボールをキープすることに成功した木暮。次のステップに進もうとした所、春奈が現れてそのまま小競り合いに。その間飛鳥は休養を取っていた…。

 

*******************

 

 一方、風丸達は林の中で坂道を走っていた…。

 

「ひぃ…ひぃ…」

「あと3本です!!」

 

 1日目の疲れが完全に取れていないまま走り続けていた為、ジェミニのメンバーはクタクタになっていた…。体力に自信があった風丸や少林寺でさえも、疲れ気味になっている…。漫遊寺の生徒が声をかけるが、正直頑張れる自信がなかった。

 

レーゼ「皆、あともう少しだ!!」

「お、おおおお!!!」

 

 キャプテンであるレーゼの掛け声でジェミニストームは返事をした。

 

 そして練習が終わり、大半のメンバーは座り込んだり横になったりしていた。

 

少林寺「はぁ…はぁ…。雷門ではこんな練習してないから、参考になったなぁ…」

風丸「熱心なのはいいが、夕方まで持つか…?」

少林寺「そ、そういう風丸さんこそ…」

 

 風丸と少林寺が顔を合わせるが、お互いクタクタだった。

 

 そしてあっという間に夕方。風丸達はまたしてもクタクタになっていた。

 

飛鳥「おーす。お疲れさん」

「!」

 

 飛鳥、春奈、木暮が現れた。

 

風丸「コーチ! それに音無も!」

少林寺「お前…」

木暮「……」

 

 少林寺が木暮と初めて会話をしたが、木暮は少林寺を無視した。

 

木暮「それはそうと明日はお前がオレの練習に付き合えよな!」

飛鳥「はいはい」

「お、お前!?」

 

 木暮が飛鳥に対して「お前」呼ばわりしていた事にジェミニストームが驚いていた。

 

レーゼ「コ、コラァ!! お前誰に向かってそんな口を利いてるんだ!!」

飛鳥「リュウジ落ち着け。今は良いんだよ」

「!?」

 

 飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「それよりも早く風呂に入ってきな。しっかり体を休めてこい」

「……」

 

 飛鳥の言葉に少林寺が反応した。

 

少林寺「そ、そういえば今日もそいつと練習してたんですか?」

飛鳥「その予定だったんだけど…」

木暮「あいつがオレとこいつの練習を邪魔してきたんだ!」

春奈「じゃ、邪魔って人聞きの悪い!!」

 

 木暮のひねくれっぷりに春奈がムカッとした。

 

春奈「それになによ! 私にボールを取られたくせに!!」

木暮「フン! 手加減してやったのが分かんねーのかよ!」

春奈「それはありがとう。でも、派手に転ばなくても良かったのよ?」

木暮「お前こそ、空振りしてたの必死で言い訳してたけど、オレは優しいから気にしなくていいからな?」

春奈「何よ!!」

木暮「何だよ!!」

 

 と、木暮と春奈がいがみ合うと、風丸達が困惑していた。

 

飛鳥「やめときな二人とも」

春奈「だって!」

木暮「こいつが!!」

 

 春奈と木暮が飛鳥を見ると、飛鳥が腕を組んで困惑していた。

 

飛鳥「夫婦漫才だと思われるぞ」

 

 飛鳥の発言に空気が止まった。春奈と木暮も固まっている。

 

飛鳥「漫遊寺の子もお年頃だったりするからね。こういう喧嘩とかしてると特に…」

春奈「へ、変な事言わないで下さいよ!!//////」

木暮「誰がこんな奴と!!」

春奈「誰がこんな奴ですって!? こっちから願い下げよ!!」

木暮「それだったら明日絶対くんなよ!!」

春奈「べーだ!! 誰があなたの言う事なんか聞くもんですか!!」

飛鳥「ハイハイ。悪かったから木暮くんは早く自分の所に帰りな」

木暮「バーカバーカ!!」

春奈「馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!! バーカ!!!」

 

 小学生のような喧嘩をしている木暮と春奈に皆が呆れ、木暮はそのまま帰っていった。

 

少林寺「…本当にアレが漫遊寺のメンバーなんですか? 今でも信じられません…」

風丸「…元気出せ。少林」

 

 少林寺が肩を落とすと、風丸が肩を抱いて慰めた。

 

 そして3日目も同じことを繰り返して、その夕方。

 

飛鳥「よーし。皆お疲れさん! これで漫遊寺の修業はこれで終わりだ!」

 

 飛鳥一行が漫遊寺の門の前にいた。やっぱり風丸達はクタクタになっていた。

 

風丸「ハァ…ハァ…」

少林寺「やりました…!!」

春奈「皆お疲れ様。ごめんね、練習にあんまり行けなくて…」

舞「もう私が代わりに行ってたのよ?」

春奈「すみません…」

舞「しかもどういう訳か私も体験させられて…角巣め…!!!」

飛鳥「舞さん。落ち着いてください」

 

 そう。本日舞はジェミニストームの修業を見学していたのだが、角巣の差し金で舞も漫遊寺の修業を体験させられたのだ。しかも大人という事もあって、風丸達よりも多くさせられた。

 

 怒りに震える舞に飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「まあ、話は戻して明日だけど…」

「……」

 

飛鳥「一日オフな」

「…え?」

 

飛鳥「お前ら結構クタクタみたいだし、このままぶっ続けで体を動かしたら、手合わせ前に故障しちまう。だから練習禁止だ。しっかり体を休めて、我慢することも心身を鍛える為に必要な事だ」

少林寺「コーチ…」

 

 飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「…まあ、オレもこれ以上やったら身体がぶっ壊れそうだからな。結局一日中やり続けてたし。あの子本当に凄いよ」

 

 飛鳥の言葉に少林寺が反応した。

 

飛鳥「そういう訳だ。さあ、早く風呂に入ってきな! オレも入ってくる」

 

 そう言って3日目も無事に終わり、4日目は文字通りオフ…の筈だったが、

 

 

木暮「起きろ一丈字! 練習やるぞ!!」

 木暮が飛鳥を起こしにやって来た。飛鳥以外にもメンバーが起きた。

 

飛鳥「…何だい? 随分やる気になったじゃないか」

 

 飛鳥の言葉に少林寺が反応して、木暮を睨んだ。

 

少林寺「ちょ、お前コーチは疲れてるんだぞ! 少しは遠慮しろよ!」

木暮「うるせぇ! お前には関係ねーだろ!」

少林寺「なに~!!?」

 

 少林寺が注意をすると木暮が逆切れしたため、少林寺がいがんだ。

 

飛鳥「やめろ少林寺くん。木暮くんも言い方を考えな」

 

 飛鳥が木暮を注意すると、ばつが悪そうになった。

 

飛鳥「あ、そういえば今日の事聞いてる?」

木暮「オレも完全に休みを貰ったよ。お前がオレの面倒見るっていうから、一緒の方が良いだろうって監督が」

飛鳥「そっか」

木暮「けど、そんなの関係ねぇ! 勝負しろって言ったら勝負しろ!」

少林寺「お前なぁ!」

飛鳥「だから落ち着けよ」

 

 少林寺が怒鳴ると、飛鳥が諫めた。

 

飛鳥「いいぜ。昨日みたいにずっとは出来ないけど相手してやるぜ」

「!」

少林寺「コーチ!」

飛鳥「今日は漫遊寺の外に出ること以外は何をしても自由だ。お前達も好きにしな」

 

 飛鳥が立ち上がった。

 

飛鳥「あ、でも今日は朝飯作ってねぇんだよな…」

木暮「そんなのいいよ」

飛鳥「そうはいくかよ。食べる事も心身を鍛えるのに大事な事だ。どっかで何か買ってくか…」

 

 と、飛鳥が立ち上がって、支度を始めた。

 

 

つづく

 




おまけ

『今日の一枚。木暮くんという漫遊寺サッカー部の子と一緒にサッカーをしている音無さん」

 ブログに、河川敷で言い争いをしてる春奈と木暮の写真をアップして、テキストは飛鳥が打っていた。

******************

ブログの反応

鬼道「春奈、そいつは一体誰だ…」

栗松「ちょ、鬼道さん…」

壁山「怖いっス…」

春奈「コーチ!! 誤解です!!///////」

夏未「あら、中々お似合いよ?」

秋「そうだね」

半田「ちょ、マネージャーwwwww」

マックス「仕返しされちゃってるねー」

鬼道「春奈、そいつは一体誰なんだ…」

染岡「こえーよ」


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第39話「休息」

 

 4日目。ジェミニストームは休息を取ろうとしたが、木暮が強引に飛鳥を練習に誘った…。

 

「チッ、余計なのまで付いてきやがって…」

「何だと!?」

「言わせておけ」

 

 木暮に敵対意識を持っている少林寺や、飛鳥の特訓に興味を持った風丸、そして心配して見に来た男子ジェミニストームもいた。

 

飛鳥「さて、今回は人数も多いし、時間制限を設けようか」

木暮「いいよ。こいつらの事なんか気にしなくたって」

飛鳥「ゴメン。言い方が悪かったな。普通に時間制限をつける。5分以内にオレからボールを奪えたら、お前の勝ちだ。誰か審判やってくれ」

レーゼ「そ、それじゃオレが…」

 

 と、レーゼが率先して笛を吹き、ミニゲームが始まった。

 

木暮「このぉ!!」

飛鳥「前よりかは動きが良くなったじゃないか」

 

 飛鳥と木暮がボールの奪い合いをしていたが、飛鳥が軽々とボールをキープしている姿に風丸達が驚愕していた。

 

風丸「は、早い!!」

少林寺「コーチもサッカーがあんなに…」

 

木暮「にゃろぉ!!」

 

 木暮がスライディングタックルを仕掛けたが、飛鳥がはじき返した。

 

木暮「うわあっ!!」

 

 木暮がぶっ飛ばされると、飛鳥がボールを右足で抑えた。

 

飛鳥「どうした? もう終わりか?」

木暮「まだまだぁ!!」

 

 と、木暮は隙をついては飛鳥からボールを奪おうとするが、飛鳥も木暮の動きを呼んで、ボールをかわしていた。ジェミニストームのメンバーは飛鳥の動きを絶句しながら見つめていた…。

 

レーゼ「じ、次元が違う…」

風丸「そ、そうなのか?」

レーゼ「ああ。オレ達もあの人の相手になったから分かる。束になってもあの人に敵わなかった…」

 

 少林寺が木暮を見た。

 

少林寺「そんな凄い人を…あいつが…」

 

 すると少林寺の中で木暮に対する嫉妬心が生まれた。

 

少林寺(いや、何を嫉妬してるんだ!! この3日間で…)

 

 と、必死にする少林寺だったが、風丸の言葉を思い出した。

 

『オレは吹雪に嫉妬した。だから今はライバルだと思ってる』

 

 言葉を思い出した少林寺は悟った。木暮にただ嫉妬するのではなく、木暮よりも努力して実力を身に付ける必要があると。

 

 そして少林寺は真剣な顔つきで、飛鳥と木暮のミニゲームを見つめた。

 

 そして5分が立ち、ボールをキープした飛鳥の勝利で終わった。

 

レーゼ「そこまで!」

木暮「くそー!」

 

 木暮は地べたに座り込んで悔しがった。以前のように自分の都合の悪い事があると難癖をつけていたが、飛鳥とミニゲームを繰り返すうちにどんどん素直になってきたのだ。そして心の成長に気づいた飛鳥は満足そうにした。

 

飛鳥「体力が元に戻れば、簡単に負けやしないさ。精進しなよ」

木暮「も…もう1」

 

 木暮がそう言いかけたその時だった。

 

少林寺「コーチ!!」

 

 少林寺が割って入った。

 

飛鳥「どうした?」

少林寺「オレにもミニゲームをお願いします!」

木暮「ちょ、てめぇ割り込むなよ!! ていうか、気を遣ってたんじゃなかったのかよ!」

 

 と、木暮が少林寺にいちゃもんをつけてきたが、少林寺が冷静に木暮を見た。

 

少林寺「ああゴメン。お前の後でいいから」

飛鳥「さ、やるのか。やらないのかどっちだ?」

木暮「やる! 今度こそ!!」

 

 飛鳥の発破に木暮は応えて再びミニゲームを始めるが、飛鳥の圧勝だった。やっぱりなという顔をする周囲。木暮は悔しがったが切り替えて飛鳥の顔を見た。

 

木暮「も、もう1回だ!」

飛鳥「少林寺くんの後ね。あ、そうだ。課題を出してあげる」

「!?」

飛鳥「オレと少林寺くんの試合を見ときな。相手の動きを見て学ぶのも、ボールを奪うコツだぜ」

 

 何とか木暮を大人しくさせる口実を作った飛鳥は、少林寺とのミニゲームに臨んだ。木暮程の身体能力を持っていなかった少林寺は、軽々とかわされていった。

 

木暮「ふん。オレですら取れないのに取れるわけないだろ」

 

 木暮が悪態をつくが、少林寺は冷静さを取り戻した。というのも、風丸の言葉を思い出して、嫉妬を集中力に変えて飛鳥のボールに必死に食らいついた。

 

飛鳥(木暮くんほどの身体能力はないけど、気迫が違う。オレの動きを読んでボールを奪おうとしてる。いいぞ。その調子だ!)

 

少林寺「そこだ!!」

 少林寺が一瞬の隙をついて飛鳥からボールを奪おうとしたが、飛鳥も足で止めた。

 

飛鳥「そうだ。それでいい…!」

少林寺「……!」

飛鳥「だが!!」

 

 飛鳥が強力なキックをお見舞いすると、少林寺が弾き飛ばされた。そして飛鳥が少林寺をキャッチした。

 

飛鳥「ごめんよ。今のはやり過ぎた」

少林寺「ううう…」

 

 飛鳥の瞬発力に風丸は驚きを隠せなかった。飛鳥は心配そうに風丸をちらっと見つめた。

 

飛鳥(しまった。自信をつけさせようとしたのに、これじゃ…)

 

 飛鳥の困った様子を見て、風丸は苦笑いしながら一息ついた。

 

風丸「ふぅ…」

飛鳥「?」

少林寺「風丸さん?」

 

 風丸の様子を見て、飛鳥と少林寺が困惑すると、風丸は飛鳥に近づいた。

 

風丸「コーチ。ちょっといいですか」

飛鳥「どうした?」

 

 すると風丸は横を向いて、向こうのゴールポストを見た。

 

風丸「ちょっとオレと、あそこまで一緒に走って貰えませんか? 本気で」

飛鳥「え?」

 

 風丸の発言に飛鳥は驚いた。今までずっと公にしてこなかった飛鳥の実力の片りんを見て、試したくなったのか、風丸は挑戦状をたたきつけた。

 

 しかし、それを良しとしなかったのが木暮で…。

 

木暮「おい! 次はオレだぞ!」

風丸「お前のあとでいい」

木暮「!」

 

 木暮の機嫌を損ねないように、風丸は大人の対応を取った。そして木暮がまたミニゲームで飛鳥に負けると、風丸と徒競走をする事にした。

 

レーゼ「位置について! よーい…ドン!」

 

 と、走ると飛鳥が風丸よりも速く走り、そのままゴールした。

 

少林寺「は、早い…!!」

コラル「…ぶっちゃけ飛鳥さん、お日さま園でも足が速かったんだ」

少林寺「そうなの?」

ギグ「そうそう。悪戯してた奴らを次々と捕まえてたんだ…」

 

 ギグとコラルの言葉に少林寺は何があったのか大体察して苦笑いした。

 

木暮「は、早ぇ…」

 

 飛鳥の脚の速さに流石の木暮も驚きを隠せなかった。そして飛鳥と風丸が戻ってきた。

 

風丸「完敗です。コーチ」

飛鳥「ありがとう。でも、清々しい顔をしてるね」

風丸「ええ」

 

 風丸が苦笑いした。

 

風丸「コーチや吹雪と出会って、まだまだ上には上がいるって教わったので、これからは慢心せず謙虚に速さを求めていきます」

飛鳥「うん。いい顔つきになったね」

 

 飛鳥と風丸が仲良くしてると、木暮が面白くなさそうにした。

 

木暮「おい! もう1回だ!」

飛鳥「分かったよ。そんなに寂しいか?」

木暮「ち、ちがわい!!!」

 

 そう木暮が強がったその時…。

 

「コーチー!!! 皆さーん!!!」

 

 春奈を筆頭に女性陣がやってきた。

 

春奈「朝ごはん作ってきましたよー!!!」

「朝ごはん!!」

木暮「その前に勝負だ!」

飛鳥「OK。これが終わったら手を洗って朝飯な」

 

 と、4日目もずっとサッカーをしていたが、とても楽しそうにしていましたとさ。

 

春奈「それはそうとコーチ。ブログの事なんですけど…」

飛鳥「ごめんて」

春奈「ごめんじゃないですよもう!!///////」

 

 春奈は顔を真っ赤にして怒っていた…。

 

 

つづく

おまけ ~ ブログ ~

 

春奈『今日は一日オフでしたが、木暮くんがコーチを河川敷に連れて行ったせいで、今日は半ば練習でした。ですが、皆さんとても楽しそうにサッカーをしていて、私も思わず参加しちゃいました! 明日からは漫遊寺の皆さんとの手合わせに向けて本格的に練習です!

※ ちなみに昨日コーチが私と木暮くんの写真を勝手にあげていましたが、お付き合いしてませんから!!!』

 

と、春奈がブログを書いていて、そこには楽しそうにサッカーをしている飛鳥一行の写真がアップされていた。

 

 

マキュア「マキも飛鳥とサッカーやりたい…」

 

クララ「やっぱりジェミニストームだけズルいと思うわ」

 

レアン「飛鳥がサッカーやるたびに、砂木沼がうるさいの。来て」

 

デザーム「雷門イレブンと飛鳥の再戦に向けて、私は一人で特訓しているぞ!!」

 

ヒロト「とっても楽しそうだね。オレも一緒にやりたいな」

 

鬼道「コーチ。帰ったらお話があります」

 

壁山「こ、今度は鬼道さんが怖いっス…」

 

栗松「『春奈、その男は誰だ』っていうあたりがガチでやんす…」

 

 

おしまい

 



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第40話「決戦! ジェミニストーム VS 漫遊寺!(前編)」

誤字報告ありがとうございます。


 4日目の休息が終わり、5日目からは本格的に練習が始まった。飛鳥と付きっ切りで練習して貰った木暮も、飛鳥がジェミニストームの監督に戻るにあたって、再び雑用をやる事になった。

 

木暮「つまんねぇ!!!」

 

 と、木暮は叫びながら雑巾で廊下を拭いていた。

 

木暮「そうだ…」

 

 木暮が悪戯を仕掛けようとすると…。

 

「木暮」

木暮「な、何でしょうか監督!」

 

 監督が急に現れて木暮がびくっとなり、監督の方を見るなり愛想笑いをした。

 

木暮「この通りちゃんと掃除はしてますよ!?」

監督「そうだな。掃除『は』ちゃんとしておるな」

木暮「……」

 

 悪戯をしようとしていた事がバレて、木暮は滝のような汗をかいていた。

 

監督「だが、今のお主を見るなり、悪戯をする理由も変わってきたようだな」

木暮「…え?」

 

 木暮が監督を見ると、監督は木暮に背を向けた。

 

監督「今までのお前は、垣田達に対して仕返しをする事で、自分の強さを示す為に悪戯をしていた。だが、今のお前には垣田達に対する逆恨みの心が無くなりかけてきている。その証拠にお前は垣田達の事を忘れて、一丈字殿からボールを奪い、突破する事で一丈字殿を驚かせる事に重点を置いていた。お主にとっては良い成長の兆しになっておる」

木暮「監督…」

 

 監督から言われた言葉に木暮はつぶやいた。確かに今までは垣田達が偉そうに自分に命令ばっかりして大好きなサッカーをさせない為、その憂さ晴らしと虚勢を張る為に悪戯を繰り返していた。

 

 だけど、飛鳥とサッカーをしていた時は違う。命令はするけど、何故そう言う命令をするのか理由を説明してくれるし、サッカーをさせてくれる。そして何よりも自分の事を見てくれる。

 

 それが木暮が抱えていたわだかまりを解消させたのだ。

 

監督「これもきっと一丈字殿のお陰だろう。本当の意味でお主の事を見てくれていた」

木暮「……」

 

監督「この2日間。黙って鍛錬に勤しめ。そうすれば…」

 

********************

 

 一方、飛鳥達は河川敷で本格的に練習していた。

 

飛鳥「という訳で、練習試合…じゃなかった、手合わせは二日後だ。各自それぞれ調整するように!」

「はい!」

 

 飛鳥が選手たちに指示を出していたが…。

 

飛鳥「さて、今回の課題は3点。まず1点目が少林寺くんのブロック技の完成だ」

少林寺「はい!」

飛鳥「これはチーム全体で協力して完成させるように」

「はい!」

 

 飛鳥が少林寺の方を見て指示を出すと、少林寺が反応して更に飛鳥がチーム全員で協力するように促すと、選手全員が返事をした。

 

飛鳥「そして2つ目は風丸くん」

風丸「はい!」

 

 飛鳥が風丸の方を見た。

 

飛鳥「この3日間の修業で足も速くなったろう」

風丸「そうですね…」

飛鳥「今の君ならアレが出来るんじゃないかな」

風丸「あれ?」

飛鳥「オレが昔使ってたディフェンス技。それを教えてあげる」

風丸「本当ですか!?」

 

 飛鳥の言葉に風丸が反応した。

 

飛鳥「ああ。君のスピードなら出来ると思うよ。で、3つ目なんだけど…」

 

 飛鳥が3つ目の指示を出すと、風丸と少林寺が驚き、ジェミニストームがキョトンとした。

 

舞「相変わらず大胆な事考えるわね…」

春奈「……」

 

 ***********************

 

 そしてついに漫遊寺との手合わせが行われる時が来た。場所は漫遊寺サッカー部がいつも使っているグラウンドだった。

 

 漫遊寺とジェミニストームが本格的な手合わせをするという事で、生徒達もたくさん見に来ていた。

 

飛鳥「漫遊寺の皆さん。本日はお手合わせ、お願いいたします」

監督「うむ。こちらこそよろしく頼むぞ」

 

 と、飛鳥と少林寺が包拳礼をすると漫遊寺側も包拳礼をした。

 

 だが、そこに木暮の姿はなかった…。

 

春奈「あの、漫遊寺の監督さん」

監督「何ですかな?」

春奈「…木暮くんは」

 

 春奈の言葉に監督は俯いた。

 

監督「残念じゃが、あやつは今回は来ん。別件でな」

春奈「そ、そうですか…」

 

 監督の言葉に春奈が残念そうにした。

 

少林寺「どっかで悪戯してなきゃいいけど…」

春奈「少林寺くん!!」

 

 少林寺の一言に春奈がムキになると、少林寺は萎縮して飛鳥と風丸が苦笑いした。

 

 そんなこんなで試合が始まる。

 

飛鳥「前半戦はジェミニストームね。どれだけ強くなったか試してこい」

「はいっ!!」

 

 レーゼ達はこの数日間。雑巾がけや坂道のランニングといった、体力づくりを徹底的に行った。そして食事にも気を付けて健康的な肉体を手に入れた。

 

 厳しい修行をクリアし、練習でも好調だった為、自信がついていた。

 

飛鳥「オレはお前たちを信じてる。さあ、行ってこい!」

「はいっ!!」

 

 こうして前半戦が始まった。

 

「さあ! ジェミニストームと漫遊寺の手合わせが始まりました!! 果たして、ジェミニストームがどれだけレベルアップをしたのか、楽しみです!!」

 

 と、当たり前のように角馬王将がいた。

 

飛鳥「…角間さん。お仕事はどうされたんですか?」

王将「休暇を取ってきた」

春奈「…奥さんに何か言われませんでした?」

角馬「呆れられたよ。子供達もすっかり私にそっくりになったって嘆かれてね。ハハハハ」

 

 飛鳥と春奈に突っ込まれながらも王将の実況で、試合が始まった。

 

阿太郎・吽助「!!」

 

 FWの阿太郎、吽助兄弟はジェミニストームの顔つきを見て、成長を感じていたが、あっさり突破されたことに驚きを隠せなかった。

 

パンドラ「リュウジ様!」

レーゼ「ああ!」

 

 パンドラからのパスをレーゼが受け取った。そしてレーゼの前には真仮名井がいて、片足を大きく踏み上げた。

 

真仮名井「しこふみ!」

 

 真仮名井が踏み上げた足を降ろそうとすると、レーゼがボールを上げてジャンプした。

 

真仮名井「!!」

レーゼ「大夢!!」

 

 レーゼがティアムにパスすると、ティアムも同じタイミングでジャンプをしていた。

 

垣田「真仮名井のしこふみを攻略したのか!?」

 

 前回、真仮名井のしこふみで足場を揺らされてパスが出来なかったジェミニストーム。数日前の練習で、飛鳥から対策を教えられていた。

 

***************

 

飛鳥「チームでの課題はパスを繋げる事だ」

「パス?」

 

 飛鳥がジェミニストームの選手を集めて会議を開いていた。

 

飛鳥「お前達も気づいていると思うが、漫遊寺の選手はレベルが高い。特にFWの天神兄弟のコンビネーションは抜群だし、ディフェンスも侮れない。ましてや地響きでボールがすぐに取られてたからな。その対策をする必要がある」

 

 飛鳥が真剣に説明すると、レーゼが手を上げた。

 

飛鳥「どうした? リュウジ」

レーゼ「その、前に真仮名井さんのしこふみでボールを奪われたんですが、振り上げたのを確認してパスを出す形でしょうか」

飛鳥「そうだな」

 

 レーゼの問いに飛鳥が上を見ながら返事をすると、レーゼを見つめた。

 

飛鳥「そうなると、問題なのはパスを受け取る時だ。受け取った時に地響きで足場を揺らされて取れなかったら意味ないからな。しこふみをされる場合は、ジャンプしてパスをしてジャンプでパスを受け取るんだ。しこふみによる地響きの影響を受けない為にな」

レーゼ「成程…」

パンドラ「空中でなら、あまり考える必要がありませんね」

 

 飛鳥の言葉にレーゼが納得すると、パンドラも続いた。そして飛鳥は正面を見つめる。

 

飛鳥「今回の試合で大事なのは、パスを途絶えさせない事。だから今回はパスを重点的にやるぞ。パスはサッカーにおけるコミュニケーションみたいなもんだからな」

「はいっ!!」

 

 そしてそれを木暮が陰で聞いていた。ジェミニストームの練習が気になって練習をサボってきたのだろう。だが、聞いている時の彼は真剣な表情をしていた。

 

木暮「……」

 

 

つづく

 



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第41話「決戦! ジェミニストーム VS 漫遊寺!(中編)」

 しこふみをかわして、ティアムは必殺シュートを放った。

 

ティアム「アストロブレイク…改!!」

 

 黒いオーラを包んだボールを漫遊寺のゴールに向けてシュートするが、前よりも威力が高まっていた。そして漫遊寺のGKである垣田が、大きく息を吸い込んで、火を噴いた。

 

垣田「火炎放射!!!」

 

 垣田の火はボールの勢いを消そうとしたが、アストロブレイクの威力が強まって垣田は押され始めた。

 

垣田「!!?」

 

 そしてボールはそのまま垣田の顔に激突して、そのまま失点した。

 

王将「ゴール!!! ジェミニストーム! 先制点を取ったー!!!」

 

ティアム「や、やった…!」

 

 漫遊寺から先制点を取ったことでティアムが喜んでいた。

 

春奈「やりましたよ!」

飛鳥「ああ。修業の成果が出てるな」

 

 春奈がはしゃぐと飛鳥も反応し、風丸と少林寺も先制点を取ったことを喜んでいた。ちなみに背番号は風丸が12番で、少林寺が13番である。

 

垣田「…なんということ」

 

 垣田がボールを見つめた。

 

垣田「ですが、修行の成果が出たという事か」

 

 垣田が正面を向いて漫遊寺の選手を見渡した。

 

垣田「皆の者! 彼らの健闘を称え、全力を持ってお相手するのだ!」

「はっ!!」

 

 漫遊寺の選手たちにも闘志が宿り、試合は白熱していった。

 

阿太郎「くっ!!」

 

 阿太郎と吽助の2人を数人がかりでマークして攻撃を防ぎ、そのままMF、DFを突破していった。

 

ティアム「リュウジ!」

 

 今度はレーゼにボールが回った。

 

レーゼ「決める!! アストロブレイク…改!!」

 

 レーゼも同じようにアストロブレイクを強化させて、そのまま2点目を奪った。

 

王将「ゴール!! ジェミニストーム2点目を奪ったー!!!」

 

レーゼ「や、やった…!!」

春奈「いいですよー!! 緑川さーん!!」

 

 と、レーゼが春奈を見ると、春奈がにこやかに自分に対して微笑みかけた。1回目の漫遊寺の試合のハーフタイムで喧嘩をした事を想いだし、レーゼは微笑み返した。

 

レーゼ「地球にはこんな言葉がある」

「!」

 

 レーゼが凛とした顔して正面を向いた。

 

レーゼ「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」

 

 レーゼがジェミニの選手を見つめた。

 

レーゼ「試合は優勢だが油断はするな! 相手も戦いの中で進化する! 最後まで気を引き締めて行け!」

「おう!!」

 

 レーゼの言葉にジェミニストームに闘志が宿った。

 

飛鳥(キャプテンらしくなったな。リュウジ…)

 

 飛鳥が嬉しそうにレーゼを見つめていた。セカンドランクという事もあり、自信を無くしかけていたリュウジだったが、漫遊寺の厳しい修行を仲間と共に乗り越え、改めてキャプテンとしての使命を思い出したのだ。

 

 それだけでなく、ずっと昔から彼の面倒を見ていたという事もあり、レーゼの成長に飛鳥は感無量だった。

 

飛鳥(そしてリュウジだけじゃない。他の子も顔つきが昔とはもう違う。これなら、マスターランクとまではいかないけど、イプシロンにだって負けない筈だ)

 

 飛鳥の横顔を春奈達がじーっと見ていた。

 

春奈(監督…。凄く嬉しそう…)

風丸(やっぱりジェミニストームが成長したのが嬉しいんだな…)

少林寺(オレも頑張らなくちゃ!)

 

 そして、あっという間に前半戦が終わった。

 

王将『ここで前半戦終了だー!! 試合はジェミニストームが2点リード! 漫遊寺の怒涛の反撃に耐える事が出来るかー!!?』

 

漫遊寺も反撃をしたが、漫遊寺の動きを研究したジェミニストームに攻撃を阻止されて、点数をもぎ取る事が出来なかった。

 

ゴルレオ「ふー。2点もリード出来たぜ!」

レーゼ「油断するなよ。何が来るか分からないんだから」

 

 と、ゴルレオが余裕ムードになっていると、レーゼが諫めた。

 

飛鳥「ああ。本当に何が来るか分からないぜ…」

「え?」

 

 その時だった。漫遊寺のユニフォームを着た木暮が現れた。

 

春奈「木暮くん!?」

飛鳥「……」

 

 驚く春奈をよそに、飛鳥が笑みを浮かべた。

 

*******************

 

 それは試合前日の事…。

 

「木暮。明日の手合わせじゃが、後半戦から出て貰う」

「えっ!?」

 

 とある蔵の中で、監督、木暮、飛鳥の3人が話をしていた。

 

監督「ジェミニストームの皆さんの成長の手伝いをせい」

木暮「……」

 

 監督の言葉に木暮が迷っていた。

 

飛鳥「何を迷ってるの?」

 

 迷っている木暮に飛鳥が言葉をだした。

 

木暮「べ、別に迷ってなんか…」

飛鳥「オレが監督さんにお願いしたんだ。次の試合に木暮くんを出してほしいって」

木暮「え?」

 

 木暮が飛鳥を見つめた。

 

飛鳥「どうしてだと思う?」

木暮「な、何でだよ。どうして敵チームである筈のオレを…」

 

 木暮の言葉に飛鳥が横を向いた。

 

飛鳥「信じてるからだよ。木暮くんの事」

「!!」

 

 飛鳥の言葉に木暮が目を大きく開いた。それと同時に母親から言われた『信じる方が悪い』という言葉が脳裏によみがえったが、今は飛鳥の言葉が強く響いていた。

 

木暮「オレを…信じてる…?」

飛鳥「勿論出まかせじゃないぞ。だいぶ時間がかかったとはいえ、オレからボールを奪ったり、10秒以上キープ出来たじゃないか。あんなにいがみあってた音無さんや少林寺くんともなんだかんだ言って一緒にサッカーしてたしね。そして何よりも…」

木暮「!」

 

 飛鳥が真剣かつ、温かいまなざしで木暮を見つめた。

 

飛鳥「この数日間、一番近くで君の事を見てきた。だからこそ、今の君なら垣田さん達と一緒にサッカーが出来るって信じられるんだよ」

 

 この時、木暮の中で何かが変わった。今までは厳しい事から目を背け、悪戯で人を困らせて自分は強いつもりでいた。だが、飛鳥や春奈たちと出会って、思う存分『仲間』とサッカーを楽しんだことで、彼の中でわだかまりは消えていった。

 

 信じてくれる人達の為に報いたい。そう思うようになったのだ…。

 

**********************

 

 そして木暮は監督と垣田達を見つめ、頭を下げた。

 

木暮「今まで迷惑をかけてすみませんでした」

「!!」

 

 真剣に木暮が謝ったので漫遊寺の選手たちは驚いたが、監督はいつも通りだった。

 

木暮「この通り反省しています。ですので、もう一度オレを試合に出してください」

垣田「木暮…」

 

 垣田が驚いていると、監督が笑みを浮かべた。

 

監督「よかろう。一時的であるが試合に出してやる。真仮名井、交代だ」

真仮名井「本当に良いのですか!?」

監督「木暮の言葉ではなく、プレーを見るのじゃ」

「!!」

 

 監督が飛鳥を見た。それは飛鳥もきっと同じことを言うと確信をしていた。監督の言葉を聞いて垣田は俯いた。

 

垣田「…そうですね。監督の仰る通りです」

 

 そう言うと垣田は、木暮を見つめた。

 

垣田「木暮」

木暮「……」

 

 垣田が真剣な顔で木暮に話しかけると、木暮は少し驚いていた。

 

垣田「今まで私がお前にしてきたことは、お前の為だと思っていた。己の心身を鍛える為に、グラウンドの整備や雑巾がけ、あらゆる雑用をさせた。それは今でも間違っていないと考えている」

 

 垣田の言葉を木暮だけじゃなくて、飛鳥一行も観戦しに来た漫遊寺の生徒達も聞いていた。

 

垣田「だが…」

木暮「!」

 

 垣田が悲しそうな顔をした。

 

垣田「一丈字さんとお前の練習風景を見て、お前の事を見ているようで見ていなかったと気付かされた。今日まで下手に出るとお前が調子に乗ると考えていたが、そういう事を考えていた時点で心身が鍛えられていなかった事を痛感した。漫遊寺サッカー部のこれからの為にも、私とお前自身の為にも、私はここで過ちを認める。本当にすまなかった」

 

 垣田が木暮に頭を下げると、木暮が驚いた顔をした。

 

木暮「キャプテン…」

 木暮がそう呟くと、歯ぎしりをした。

 

 

つづく

 



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第42話「決戦! ジェミニストーム VS 漫遊寺!(後編)」

 

 

木暮「…なげぇんだよ!!!」

「!!」

 

 垣田の長すぎる謝罪に木暮がツッコミを入れた。

 

木暮「そこは「済まなかった」だけでいいだろうが!! 長くていい訳に聞こえるんだよ!」

垣田「なっ…!!」

 

 木暮の言葉に垣田がムッとし、漫遊寺メンバーは「またやっちまったよコイツ…」と言わんばかりに呆れていた。

 

春奈「ちょっと木暮くん!!」

 

 春奈も割って入ろうとしたが、飛鳥が止めた。木暮がキャプテンとしての顔を潰さない為に、わざと悪態をついて垣田を守ろうとしていた事を確信していたからだった。

 

春奈「コーチ…」

飛鳥「垣田さん」

「!」

 

 飛鳥が垣田の方を見て話しかけた。

 

飛鳥「すみません。なんだかんだ言って出しゃばっちまいまして」

垣田「いえ。木暮がここまで変わったのはあなたのお陰です。本当にありがとうござい」

飛鳥「垣田さん」

 

 垣田が包拳礼をしようとしたが、飛鳥が止めた。それに対して春奈達が驚いた。

 

飛鳥「礼なら試合が終わった後でお願いします」

垣田「……!」

 

 飛鳥が笑みを浮かべた。

 

飛鳥「後ろから見てあげてください。木暮くんの成長した姿を」

垣田「……」

飛鳥「お願いします」

 

 飛鳥が目を閉じて頭を下げた。暫くして顔を上げると、飛鳥がジェミニの選手たちを見た。

 

飛鳥「後半戦だが、駿太郎、章介。悪いがお前たちはまた交代だ」

ギグ「分かりました」

イオ「頑張って!」

少林寺「ありがとう」

風丸「行ってくるぜ!」

 

 駿太郎の声援を受けて、風丸と少林寺がピッチに立つと、飛鳥はギグとイオに一言「お疲れさん」とねぎらいの言葉をかけた。

 

飛鳥「さあ! これで総仕上げだ! 全力を出し切れ!」

「了解!!」

 

「……」

 

 ジェミニの返事を聞いた漫遊寺イレブンは言葉を失った。

 

監督「あの者達が来てくれて本当によかった」

「監督…」

 

 漫遊寺イレブンが監督を見つめた。

 

監督「さあお主たち。このまま諦めてはなるまい。あの者達と同じ、全力を出し切るのだ!」

「はっ!!」

 

 そして両チームピッチについた。少林寺、風丸と木暮が向かい合っていた。

 

春奈(木暮くん…)

 

 春奈が心配そうに木暮を見つめていたが、飛鳥は木暮の真剣な表情を見て安心していた。

 

 

王将『さあ! いよいよ後半戦です! 漫遊寺のボールから始まりました!!』

 

後半戦が始まると、またジェミニストームが攻撃を封じ込めた。ティアムがドリブルで相手の陣内に攻め込んでくると、

 

「来るぞ! 木暮!!」

「分かってらあ!!」

 

 隣にいたDFの福見が声をかけると、木暮が反応した。福見がブロックを仕掛けるが、かわされた。その時だった。

 

ティアム「!!」

 

 木暮が一瞬の隙をついて、ボールを奪取した。これには皆が驚いた。

 

木暮「学舎!」

 

 木暮がMFの学舎にパスをしてドリブルをすると、レーゼと少林寺が立ちはだかった。

 

王将『おーっと! 木暮がMFの学舎にパスをつないだが、レーゼと少林寺が2人がかりでブロックにかかるー!!』

 

レーゼ「行くぞ!」

少林寺「おう!」

 

 するとレーゼが後ろを向いて両掌をクロスして前を出すと、少林寺がその掌の上に乗り、レーゼが上に押し上げてハイジャンプした。

 

「!!」

 

 ハイジャンプした少林寺を見て学舎や春奈が驚いていた。

 

少林寺「シューティングスター!!!!」

 

 少林寺が学舎の目の前の地面にめがけて力強くキックすると、衝撃波が生まれて学舎を吹き飛ばした。

 

王将『な、なんとー!! 新必殺技がさく裂したー!!!』

 

春奈「遂に完成ですね!」

飛鳥「ああ…」

 

 春奈の言葉に飛鳥が笑みを浮かべた。

 

********************

 

 それは練習前。少林寺が一人でジャンプの練習をしていたが、中々自分の納得する結果にはならなかった。

 

風丸「少林。まだやっていたのか」

少林寺「風丸さん…」

 

 少林寺が風丸を見つめた。

 

少林寺「一人でやってるんですけど、なかなか上手く行かなくて…」

風丸「……」

 

 少林寺の言葉に風丸が考えた。

 

風丸「それなら、やっぱり誰かに踏み台になって貰おう」

少林寺「!」

風丸「二人なら、高く飛べるだろ? イナズマ落としもそうだった」

少林寺「……!」

風丸「今はそれでやってみろよ。それで慣れてきたら一人でやればいい」

少林寺「はい!」

 

 それを陰で飛鳥が見ていた。

 

****************

 

飛鳥「おめでとう。少林寺くん…」

 

 飛鳥がそう呟くと、ギグとイオが感動して号泣していた。

 

ギグ「良かったなぁ…!」

イオ「頑張った甲斐があったなぁ…」

飛鳥「お前ら、泣くのは試合が終わってからだ」

 

 思った他感涙していたので、飛鳥が苦笑いして突っ込むと、春奈と舞が突っこんだ。

 

少林寺「理夢!!」

 

 少林寺がリームにパスをつなぎ、ドリブルをした。

 

木暮「くそっ!」

垣田「ディフェンス!!」

 

 すると漫遊寺のDFである悟里と宝玉が2人がかりでブロックをすると、レーゼにバックパスを出した。そしてレーゼの横には風丸がいた。

 

「!」

 

風丸「今度はオレとだ! 緑川!」

 

 風丸がそう叫ぶと、レーゼと共に同じ距離、同じ速度でボールを蹴り上げた。

 

春奈「あれは…!!」

 

 そしてボールが赤い鳥に包まれた。

 

木暮「な、何だあれは!!」

 

 そして風丸がサッカーシュート、レーゼがオーバーヘッドキックを同時にかました。

 

風丸・レーゼ「炎の…風見鶏!!!」

 

 風丸と豪炎寺の合体技である「炎の風見鶏」を放った。

 

*********************

 

飛鳥「3つ目なんだけど風丸くん」

風丸「はい…」

 

 5日目の練習で飛鳥はとんでもない事を言いだした。

 

飛鳥「炎の風見鶏、リュウジと一緒にやってくれる?」

風丸「え?」

レーゼ「炎の…風見鶏?」

 

 飛鳥の言葉に風丸とレーゼがキョトンとした。風丸としては予想だにしない言葉で、レーゼに至っては炎の風見鶏自体知らなかった。

 

飛鳥「ジェミニストームの一番強力なシュートってユニバースブラストなんだけど、出来る技をちょっと増やしておきたくてね。お願いできるかな?」

風丸「わ、わかりました…」

 

 雷門の技を使う事になり、驚きが隠せないジェミニストームだったが、飛鳥は堂々としていた。

 

飛鳥「そんな顔するんじゃないよ。今回は雷門もジェミニストームも関係なく、このチームで勝利をつかむんだ! 元のチームが違っても、同じユニフォームを着れば仲間なんだぜ」

「!」

 

飛鳥「そしてこの技が出来れば、本当の意味で雷門とジェミニストームは分かりあえた事になる。頼んだぞ。リュウジ」

レーゼ「は、はい!」

 

*********************

 

垣田「な、何だあの強力なシュートは!!」

 

 と、垣田達が驚いていると、

「どけぇ!! オレが止めてやる!!」

 

 木暮がボールに向かって突っ走っていった。

 

 

つづく



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第43話「決着、そして次の道へ」

 

真仮名井「木暮!!」

ギグ「無茶だぜ!」

 

 強力なシュートを単身で止めようとする木暮の行動を誰もが無茶だと思っていた。数名を除いて…。

 

春奈「いっけー!! 木暮くーん!!」

 

 春奈が声援を送ると皆が春奈を見た。木暮も気を取られてよそ見をすると、転びかけた。

 

春奈「ああっ…!!」

イオ「よそ見なんてするから!」

 

 誰もが木暮の失敗を確信する中、飛鳥は黙って木暮を見つめていた。そして木暮もまた、諦めちゃいなかった。

 

木暮(何としてでも止めてみせる!! いちかばちかだ!!! 竜巻でも起これ!!!)

 

 木暮は転んだ勢いで逆立ちをし、開脚をして左手を軸にグルグル回った。すると巨大な風が巻き起こった。

 

「!!」

 

 そして炎の風見鶏の勢いが弱まり、そのまま木暮の脚にボールが吸い寄せられて、そのままボトっと音を立てて転がった。

 

 その光景に皆が言葉を失っていたが、王将は我に返り、

 

王将「な、なんとー!! 後半戦から投入された木暮が、炎の風見鶏を止めたー!! 雷門の強力シュートを止めるという大番狂わせに、私も思わず興奮が止まりませんー!!」

 

 と、王将の言葉に観客たちも沸いた。

 

 そして木暮が体勢を崩して横になったが、ボールが見えた。

 

木暮「止めた…?」

 

 木暮が驚いていると、

 

「木暮!!」

 

 と、漫遊寺イレブンが駆け寄ってきて、木暮が起き上がった。

 

垣田「大丈夫か!?」

木暮「キャプテン…」

 

 木暮が周りを見渡すと、そこには漫遊寺のレギュラーたちがいた。

 

木暮「あ、ああ。オレは大丈夫だぜ」

 

 木暮はそう言ってパンパンと、服についた汚れを手でふいた。

 

春奈「すごーい!! 木暮くん!!」

 

 春奈も興奮気味だったが、イオとギグは顔を合わせた。

 

ギグ「…なんか、転んでたような気もしたけど」

イオ「そうだな…」

 

 そう話していると、レーゼが2人を見てきた。

 

レーゼ「地球にはこんな言葉がある」

「!!?」

 

 レーゼが口角を上げる。

 

飛鳥「運も実力のうち。だろ?」

レーゼ「ちょ、言わないでくださいよ飛鳥さん!!」

 

 飛鳥が諺を先に言うと、レーゼが突っこんだ。慌てて突っ込むレーゼに対し、チーム内で笑いが生まれた。

 

飛鳥「まあ、人間最後まで諦めちゃいけねぇってこった」

ギグ・イオ「!」

 

 飛鳥が木暮を見ながら言うと、ギグとイオを見た。木暮は垣田達に囲まれてねぎらいの言葉をかけられている。

 

飛鳥「転んでも何とか止めようとした結果がアレだ。あの姿勢はしっかり見習え」

ギグ・イオ「はいっ!」

 

 そして風丸とレーゼはというと…。

 

風丸「惜しかったな」

レーゼ「ああ。もうちょっと精度を上げていこう」

風丸「勿論。それから、三浦とのユニバースブラストもいつでも打てるようにしておけよ」

レーゼ「勿論!」

 

 と、そのまま試合は続いていった。

 

吽助「木暮がつないでくれたボール、無駄にはせん! のう兄者!」

阿太郎「勿論だ弟者よ!!」

 

 ジェミニのマークをくぐりぬけ、天神兄弟が前に出た。漫遊寺の生徒達の声援にも力が入る。

 

阿太郎「進化をしているのは貴殿らだけではない! クンフーアタック改!!」

 

 と、阿太郎はカンフーの構えをしなからボールにショルダーアタックをしかけてシュートする「クンフーアタック」を繰り出した。以前よりもパワーが増している。そしてゴールにはゴルレオがいた。

 

ゴルレオ「オレだって点をやる訳にはいかねぇ!! ブラックホール改!!」

 

 ゴルレオが両手を使って黒い空間を作り出した。すると、空間は以前よりも大きくなりボールはゴルレオの掌の中に吸い込まれていった。

 

 ちなみに原作では改になっても片手で止めるのだが…。彼の真剣さを見てあげてください。

 

春奈「やった止めたぁー!!!」

舞「中々いい試合じゃない」

飛鳥「……」

 

 漫遊寺では己の心身を鍛える事がモットーであり、対外試合はおろか練習試合は一切しない学校だが、それを忘れかける程選手も観客も熱狂していた。

 

 そして、選手も生き生きとしていた…。

 

風丸「分身ディフェンス!!」

 

 風丸が飛鳥から教えて貰った必殺技で、阿太郎、吽助兄弟からボールを奪った。その顔にもう迷いはなかった…。

 

監督「うむ。よい面構えじゃ!!」

 

 風丸の顔を見て、漫遊寺の監督も満足そうだった。

 

*************************

 

 そして試合が終了した。結果は2-1。天神兄弟の執念のシュートでゴルレオが失点し、そのまま同点に持ち込もうとしたが、必死のディフェンスで何とか逃げ切った。

 

阿太郎「天晴じゃ! のう! 弟者!」

吽助「勿論だとも。兄者!」

 

 天神兄弟もジェミニストームの実力を素直に認めていた。

 

木暮「……」

 

 木暮は試合に負けたのが悔しいのか、俯いていた。

 

垣田「木暮…」

 

 垣田が様子を見ていたが、

 

木暮「あーあ。オレが最初から試合に出てたら勝てたのになー」

 

 と、わざと悪態をついてみた。いつもなら怒る所だが、今回の試合では木暮の活躍がなければ更に点を取られていた可能性があり、誰も言い返せなかった。

 

木暮「な、何だよ。いつもみたいに言い返さないのかよ…」

 

 木暮は調子が狂いそうになったがその時、木暮への歓声が聞こえて、木暮が観客たちを見た。

 

「凄かったぞ木暮―!!」

「見直したぞー!!」

「もうこれを機に悪戯やめろよー!!」

「そうだぞ! 勿体ないぞー!!」

 

 と、皆笑顔で木暮を褒めていた。それに対して木暮は涙ぐんだ。

 

木暮「うるせぇ!! オレ様が本気出せばこれくらい出来てたんだバカヤロー!!!」

 

 そう叫んだ。

 

春奈「木暮くん!!」

飛鳥「まあまあ音無さん」

 

 春奈が悪口を言っていた事に対して憤慨したが、飛鳥が止めに入った。

 

春奈「コーチ…」

飛鳥「もう木暮くんは大丈夫だよ。こういう時こそ信じてあげなきゃ」

春奈「……」

 

 春奈が飛鳥の顔をじっと見つめると、優しく微笑んだ。

 

春奈「…そうですね」

 

****************

 

 その夜、明日東京に帰るという事で、飛鳥一行にご馳走が振舞われていた。

 

「ふっ!! はっ!!」

 

 漫遊寺イレブンが舞台で演武を見せていた。

 

少林寺「わーっ!! 流石漫遊寺!!」

風丸「これが演武か…」

春奈「カッコイイです!!」

 

 と、少林寺達は演武を楽しんでいた。

 

木暮「…くそう、なんでオレ達はご馳走食べられないんだよ」

垣田「馬鹿者。これは客人用だ」

 

 はじっこのテーブルで木暮と垣田は一緒にいたが、木暮はご馳走が食べられない事に不満を抱いていたが、垣田に諫められていた。そして飛鳥もいた。

 

飛鳥「もっと頑張れば食べさせて貰えるかもよ?」

木暮「ちぇっ。他人事だと思いやがって…」

 

 と、木暮がつぶやくと垣田が拳骨した。木暮は頭を押さえた。

 

木暮「て~~~~…」

垣田「一丈字様。この度は木暮がお世話になりました」

飛鳥「いえいえ」

 

 垣田と飛鳥が見つめ合った。

 

垣田「そして、私にキャプテンとしての道を示して戴き、ありがとうございます」

飛鳥「そんな大袈裟な」

 

 垣田の言葉に飛鳥が苦笑いした。

 

垣田「今後は木暮への鍛錬ですが、私が監視して声がけをする事にします」

飛鳥「そ、そうですか…」

木暮「…その前に少しは優しくしろよバカ」

垣田「聞こえてるぞ!」

 

 と、垣田と木暮の会話を聞いて苦笑いしていた。

 

飛鳥「…木暮くん」

木暮「何だよ」

飛鳥「オレ達、明日帰るけどちゃんとやっていけるよな」

木暮「当り前だ! オレを誰だと思ってんだよ!」

垣田「木暮!」

 

 調子に乗る木暮に対して垣田が呆れると、春奈が振り向いた。

 

飛鳥「それが聞けて安心した」

 

 そう言って飛鳥が微笑むと、木暮と垣田が驚いた。

 

飛鳥「いつか東京に遊びに来な。京都とはまた違ってて良い所だぜ」

木暮「お、おう…」

 

*********************

 

 そして翌朝。

 

舞「一週間お世話になりました」

監督「ええ。貴殿らの健闘を祈っておるよ」

 

 飛鳥一行はバスに乗ろうとしており、漫遊寺イレブンが見送りをしていた。

 

春奈「木暮くん。またね」

木暮「おう」

 

 春奈と木暮が話していて、少林寺もやってきた。

 

少林寺「またな」

木暮「ああ」

 

 そう言って春奈や少林寺と握手をしたが…。事件は起こった。

 

春奈「ん?」

少林寺「何か変な感触が…」

 

 春奈と少林寺が掌を開くと、何か気持ち悪い虫がうねうね動いていた。

 

春奈・少林寺「ぎゃ――――――――――――――――――――っ!!!!」

 

 と、春奈と少林寺が逃げ回っていて、飛鳥と風丸が困惑していた。

 

風丸「…本当にしょうがない奴ですね」

飛鳥「ああ。でも、最後まで期待を裏切らなくて安心した自分がいるよ…」

垣田「木暮―――――――――――――――!!!!!」

 

 とまあ、最後の最後で木暮がやらかしたが、京都の旅はこれにておしまい。漫遊寺での経験を胸に、ジェミニストーム、風丸、少林寺は次へのステップに進んだ。

 

 

春奈「あのクソチビ…」

少林寺「オレ…やっぱりあいつキライです」

風丸「音無。女の子がそんな事を言ったらいけません」

飛鳥「……」

 

 キャラバン内で、春奈と少林寺が終始不機嫌だったのは内緒だ。

 

 

つづく

 



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第5.1章 帝国編
第44話「一難去ってまた一難」


 

 

 京都・漫遊寺での修業を終えた飛鳥一行は東京に帰ってきた。そしてすぐさま、雷門中と傘美野中で練習試合を行う事になった。

 

 ちなみに何故傘美野中でやるのかというと…最近は傘美野から『ぜひうちで練習試合をしてほしい』とラブコールを受けていた為である。早い話、学校の宣伝でもあるのだ。

 

 風丸、少林寺もジェミニストーム側について勝負をしていたが…。

 

風丸・レーゼ「炎の風見鶏!!」

円堂「えっ!!?」

 

 風丸とレーゼが炎の風見鶏を披露すると、円堂が驚いて対応が遅れてしまい、失点してしまった。

 

角馬「ゴール!! 先制点はジェミニストームだー!!!」

飛鳥「円堂くん。気を抜かないよ!」

円堂「す、すみません!!」

 

 角馬がアナウンスをすると、飛鳥は円堂に対して注意をした。そして円堂は飛鳥の顔を見て謝罪した。円堂だけではなく、他の雷門イレブンも驚きを隠せなかった。

 

 ちなみに炎の風見鶏はゲーム版ではパートナーが火属性(イナズマイレブンでは選手は風・林・火・山の4つの属性に分かれている)でないと覚えさせることが出来ず、風丸は風属性、レーゼは林属性なのでゲームでは覚える事は出来ないが…。本作では属性を気にしない世界でお願いします。

 

染岡「炎の風見鶏を習得させるなんて…」

豪炎寺「戦術の幅を広げてきたという事だ。気を引き締めていくぞ!」

染岡「おうよ!!」

 

 と、このまま試合が続いた。結果は2-1でジェミニストームの勝利となった。

 

宍戸「少林もレベルアップしてるし…」

栗松「風丸さんの戦術の幅が広まってるでやんす…」

壁山「漫遊寺…一体どんな所だったんだろうな…」

 

 壁山、宍戸、栗松の3人が息を切らしながら、向こう側のコートにいて、ジェミニの選手とハイタッチをしている風丸や少林寺を見ていた。

 

*******************

 

飛鳥「さて、合同で反省会と行こうか」

 

 飛鳥が雷門とジェミニストームの選手を集めていた。

 

飛鳥「雷門の皆はどうだった? 漫遊寺で修業したジェミニストーム、風丸くん、少林寺くんと戦って」

円堂「そりゃあもうとても強くなってましたよ…」

染岡「こんなに強くなるなら、オレも行きたかったぜ…」

飛鳥「そりゃそうだろうな。まあ、今回君達には、漫遊寺で修業した者の強さを体感してほしかったんだ。前回とは逆の立場でね。でも染岡くん」

染岡「?」

 

 飛鳥が染岡の顔を見ると、染岡の飛鳥の顔を見た。

 

飛鳥「ドラゴンクラッシュの進化系の『ワイバーンクラッシュ』。いい技だったよ。よく頑張ったね」

染岡「…ありがとうございます!」

 

 飛鳥達が漫遊寺へ出かけた後、染岡は特訓に特訓を重ね、ドラゴンクラッシュの進化系である『ワイバーンクラッシュ』を完成させた。そして、炎の風見鶏で失点した後、自分にボールが回り、そのままシュートで点を入れたのだった。

 

 最初はエイリア学園の関係者で上から物を言う飛鳥に反感を抱いていた染岡も、今ではすっかり素直に言う事を聞くようになった。きっとそれも『ワイバーンクラッシュ』の完成に繋がったのだろうと雷門イレブンは確信していた。

 

飛鳥「さて、今日の練習はここまでだ! しっかり休めるように!」

「ありがとうございました!」

 

 飛鳥の号令で皆が一礼をした。

 

********************

 

 練習が終わり、飛鳥は雷門中の前まで来ると…。

 

飛鳥「あれ? あの制服は…」

 

 飛鳥の目の前には雷門のライバルチームである帝国学園の生徒が数名いたが、なにやらもめている様子だった。

 

飛鳥「どうしたんだろう…」

 

 すると、帝国学園の生徒達は飛鳥の顔を見ると、

 

「あっ! あなたは…」

飛鳥「?」

 

 帝国学園の生徒の一人が飛鳥に近づいた。

 

飛鳥「どうされました?」

「あの、鬼道さんはどこですか!?」

「おい、お前よせって!!」

「鬼道さんに迷惑だろ! 行くぞ!!」

 

 そう言って帝国学園の生徒2人は飛鳥に相談しようとした生徒を連れ去っていった。

 

飛鳥「……」

 

 飛鳥は超能力を使って、帝国学園の生徒の脳内を覗き、帝国学園で何が起きているかを感知した。この超能力は飛鳥が幼少時代にある事がきっかけで使えるようになったのだが、これはまた別の話…。

 

 ちなみに飛鳥が超能力を使える事は、エイリア学園の関係者以外誰も知らない。

 

飛鳥(…これは大ごとになる前に手を打った方が良さそうだな)

 

********************

 

 翌日、雷門イレブンはいつも通り練習に励もうとしたが…。

 

飛鳥「練習を始めるけど、鬼道くんはちょっと話があるからおいで」

「?」

 

 飛鳥は鬼道を呼び出すと、円堂達が不思議そうな顔をした。呼ばれた鬼道も不思議そうにしながら、飛鳥についていった。

 

 傘美野中のとある一室

 

飛鳥「ごめんね。急に呼び出したりして。君に聞きたい事があるんだ」

鬼道「…ここに連れ出した理由は?」

飛鳥「ちょっとデリケートな問題だからだよ。座りな」

 

 飛鳥に言われて鬼道が椅子に座ると、飛鳥は鬼道と向かい合うように座った。

 

飛鳥「帝国学園の皆から何か連絡は来てない?」

鬼道「……?」

 

 飛鳥の言葉に鬼道は嫌な胸騒ぎがした。

 

鬼道「…どういう意味ですか」

飛鳥「いや、昨日帝国の子がオレの所に来て、鬼道さんはいないかって聞かれたんだ。サッカー部に何かあったのかなと思ってね」

鬼道「オレを…?」

 

 飛鳥が鬼道を見た。

 

飛鳥「鬼道くん。そういえば君は佐久間君たちの仇を討つ為に雷門に来たんだよね?」

鬼道「ええ…。それもそうですが、影山を倒す為にも」

飛鳥「戻らなくていいの?」

鬼道「……!!」

 

 飛鳥の言葉に鬼道ははっと気づいた。飛鳥が言っていた通り、自分はゼウス、そして影山を倒す為に雷門に転入した。その目的を果たした今、もう自分はこの学校にいる理由がなくなったのだ。

 

飛鳥「…って言っても、それは君が決める事だけどね」

鬼道「!」

飛鳥「まあいいや。ありがとう」

鬼道「待ってください。その話を詳しく…」

 

 鬼道が食い入るように飛鳥に話しかけた。

 

飛鳥「まず、雷門に残るのか帝国に帰るのか決めてからだな。じゃなきゃ何の力にもなれやしないよ」

鬼道「力…!!?」

飛鳥「今はそれだけ言っとくよ」

 

 そう言って飛鳥は去っていくと、鬼道は一人考え込んだ。

 

 

つづく

 



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第45話「鬼道の葛藤」



 前回までのあらすじ

 飛鳥から不可解な話を聞かされた鬼道。話の真意を聞こうとしたが、雷門に残るのか帝国に帰るのか答えるまでは続けないとした。




 

 

 鬼道は練習に戻ったが、やはり飛鳥の話が頭の中を埋め尽くしてしまい、試合に集中できなくなっていた。

 

飛鳥(露骨に悩みすぎだろ…)

 

 悩んでいる飛鳥が額を抑えて首を横に振った。そして横にいたマネージャーも鬼道を不思議そうに見ていた。

 

秋「鬼道くん…。何か今日は動きが悪いですね…」

夏未「どうしたのかしら…」

 

 秋と夏未がそんな話をしていると、春奈が飛鳥の顔を見た。

 

春奈「コーチ…。お兄ちゃんに何を言ったんですか?」

飛鳥「今は言えない。練習どころじゃなくなるから」

春奈「ど、どういう事ですか!? 練習どころじゃなくなるって!!」

 

 春奈の叫び声に円堂達が振り向いた。ちなみにジェミニストームは今まで通り、雷門中で復興工事を手伝っている。鬼道も流石に気づいた。

 

飛鳥「えっとね…」

春奈「コーチ!!」

 

 春奈が飛鳥に詰め寄っている姿を見て、鬼道が慌てて止めに入った。

 

鬼道「春奈!」

春奈「!」

 

 鬼道が春奈と飛鳥に割って入った。

 

春奈「お兄ちゃん…」

鬼道「これはオレの問題だ。気にしないでくれ」

春奈「で、でも!!」

 

 春奈と鬼道の会話を聞いて、飛鳥は静かに目を閉じた。

 

飛鳥「…こんなに集中できないなら、ちゃんと話した方が良さそうだね」

「!?」

 

******************

 

 円堂の号令で皆が集まっていた。

 

飛鳥「そういう訳で、鬼道くんには雷門に残るか帝国に帰って貰うか話をしてたんだ」

円堂「そ、そうだったんですか…」

 

 飛鳥の言葉に円堂達は納得していたが、春奈は納得してなさそうにしていた。

 

染岡「そういや随分時間が経ったっけなぁ…」

半田「優勝した日にジェミニストームが来て学校壊して、それ所じゃ無かったもんなー」

 

 と、染岡たちも理由が分かっていつもの雰囲気になった。

 

壁山「鬼道さんが帝国に戻るのは…」

栗松「戦力が大きく減るでやんす…」

宍戸「そうだな…」

 

 と、壁山・栗松・宍戸が憂いていると…。

 

少林寺「オレ達がしっかりしないでどうするんだよ」

「!」

 

 少林寺の言葉に皆が驚いた。

 

少林寺「確かに鬼道さんがいなくなるのは戦力としては痛いけど、卒業したら鬼道さんだけじゃなくて、キャプテン達もいなくなるんだ。その時にオレ達がしっかりしてなきゃダメだろ」

円堂「少林…」

 

 少林寺の言葉に皆が驚いたが、飛鳥、風丸が笑みを浮かべた。円堂も嬉しそうにしている。

 

風丸「よく言った少林。漫遊寺で鍛えたんだ。そうこなきゃな」

飛鳥「壁山くん達の気持ちも分かるけどね。でも、少林寺くんの言う通りだよ」

 

 飛鳥がそう言うと、壁山、栗松、宍戸が俯いた。

 

飛鳥「そうだ。漫遊寺で鍛えたノウハウを皆に教えてあげてよ」

少林寺「!?」

飛鳥「教える事もまた『鍛錬』だ。分かったな?」

少林寺「はい!」

飛鳥「風丸くん。フォロー頼んでもいいかな?」

風丸「分かりました」

 

 飛鳥の言葉に風丸が返事をすると、円堂が風丸の顔を見て嬉しそうにしていた。そう、白恋の時に見せた元気のない姿はもうどこにもなく、今は頼もしく見えたのだった。

 

飛鳥「さて、話は戻すけど鬼道くん」

鬼道「……」

 

 飛鳥が鬼道の顔を見るが、鬼道は浮かない顔をしていた。

 

飛鳥「悩む気持ちは分かるけど、それを決めない事には前には進めないよ」

「!?」

一之瀬「シビアだけど…確かにそうだね」

 

 と、何とか険悪な空気にならないままミーティングは終了した。

 

***************

 

 そして会議が終わると…。

 

春奈「コーチ」

 

 春奈は一人、飛鳥の所に向かった。

 

飛鳥「……」

春奈「まだ隠してる事がありますよね?」

 

 春奈の言葉に飛鳥は春奈の方を振り向いた。だが、その振り向いた時の顔は穏やかな顔で春奈は少し面食らった。

 

飛鳥「流石だね。君も漫遊寺で鍛えられたかな?」

春奈「や、やっぱり…。何があったんですか!?」

飛鳥「……」

 

 飛鳥がキョロキョロ見渡した。鬼道たちや秋たちは外で練習をしたり、マネージャーの仕事をしていた。

 

飛鳥「今はこの話はあまり人に聞かれたくない。色々調査をしないといけないし、何よりも…」

春奈「!」

飛鳥「君のお兄さん、結構無茶するタイプでしょ」

春奈「…た、確かに」

飛鳥「兄妹そっくりだね。無茶するのもそうだし、人を煽るときのどや顔とか」

春奈「そんな事ないです//////」

 

 飛鳥の言葉に春奈は頬を染めてムキになった。特にどや顔に対してムキになっていた。

 

飛鳥「まあ、お兄さんが無茶をする前に、こちらとしては何とか手を打ちたいんだけど…」

春奈「一体何ですか!? 教えてください!!」

飛鳥「その前にコーチの仕事をしてからだな」

春奈「コーチ!」

飛鳥「焦らないの。急いては事を仕損じるって前にも言ったでしょ」

「!」

 

 飛鳥が春奈を見て、困ったように笑みを浮かべる。

 

飛鳥「大事にしたくないっていう帝国の生徒達の気持ちもね、分かるのよ。だから今日の練習が終わるまで待ってて」

 

 そして飛鳥達はそのまま練習や指導に励んだ。飛鳥はいつも通りだったが、鬼道はまだキレが戻っていなかった。その様子を染岡たちは不審に思っていたが…。

 

豪炎寺「鬼道。今日はもう休め」

鬼道「豪炎寺…」

 

 豪炎寺から練習を辞めるように言われ、皆がハラハラした。

 

豪炎寺「何があったかは分からないが、そんな状態で練習をしても無駄だ。お前も分かっているだろう」

鬼道「……」

 

 豪炎寺の言葉に鬼道が俯いた。

 

鬼道「そうだな…」

春奈「!!」

鬼道「済まないがオレは先に上がらせて貰う。悪かったな」

染岡「あ、ああ…」

 

 染岡の言葉に対し、鬼道はとぼとぼと去っていった。

 

円堂「鬼道…」

 

 選手たちやマネージャーは一斉に飛鳥を見たが、飛鳥は普通にしていた。

 

 そして練習が終わった。

 

飛鳥「今日の練習はここまで…」

「ありがとうございました…」

 

 と、選手たちの言葉に覇気がなかった。それに対して飛鳥は何も言わず、去ろうとすると…。

 

円堂「待ってくださいコーチ!」

 

 円堂が飛鳥を呼び止めた。

 

円堂「鬼道…一体何があったんですか? やっぱりおかしいです!」

春奈「キャプテン…」

 

 円堂も鬼道の異変に気付いて、春奈が反応した。

 

染岡「そうだぜ!」

豪炎寺「……」

 

 染岡が円堂の言葉に乗ったが、豪炎寺は何も言わなかった。

 

飛鳥「雷門に残るか帝国に帰るか」

「!」

飛鳥「それを鬼道くんが決めるまでは教えられない。悪いな」

 

 そう言って飛鳥は去っていった。

 

 

つづく

 



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第46話「帝国で起きた現実」


 前回までのあらすじ

 飛鳥からの話を聞いた鬼道は練習に全く試合に集中できず、豪炎寺に追い出されてしまった。そして鬼道は帝国のメンバーに何があったか聞き出そうとしたのだが…。




 

鬼道「…どうして誰も電話に出ないんだ」

 

 夕方、自宅で帝国のメンバーに電話をかけたが、誰も自分の電話に出ず、ますます不安に感じていた。そして鬼道はある事を決意した。

 

*********************

 

「成程。一先ずは雷門に残ると」

 

 その夜、鬼道は飛鳥に電話をして、雷門に残る事を伝えた。

 

飛鳥「声色から嘘はないとみられる」

鬼道「約束です。何があったか教えてください」

飛鳥「うん。約束だから教えるね。オレも気になったから調べたんだけど、落ち着いて聞いてほしい」

 

 飛鳥の言葉に鬼道は嫌な予感がした。

 

飛鳥「佐久間くん達…。サッカー部を追い出されたみたいなんだ」

鬼道「……!!!」

 

 飛鳥の言葉に鬼道が目を大きく開いて慄然としていた。

 

鬼道「ど、どういう事なんですか!!? 佐久間達がサッカー部を追い出されたって…。一体誰から!!」

飛鳥「実は今日の夕方ね。また同じ子がオレの所に来たんだ。一緒にいた子たちを撒いてね。その子から聞いたの」

鬼道「それで、佐久間達はどうなったんですか!?」

飛鳥「落ち着いて。順番に話すから。あ、時間大丈夫?」

鬼道「…すみません。続けてください。時間なら大丈夫です」

 

 鬼道は冷静さを取り戻して、飛鳥の話を聞く事にした。

 

********************

 

飛鳥「…君がいなくなった後、不動明王って子が帝国学園に転入してきて、サッカー部に入ったんだ。だけど、その子は中々言う事聞かなくてトラブルを起こしまくってたんだって」

鬼道「不動明王…」

飛鳥「しかも追い打ちをかけるかのように、湿川陰っていう子が入ってきたんだけど、その子も中々癖があってね。そういや鬼道重工って君のお父さんの会社でしょ?」

鬼道「ええ。うちのグループで、今は帝国のスポンサーでもあります」

飛鳥「その子ね、鬼道重工の重役の子なんだ。それを盾に好き勝手やってるみたいだよ」

鬼道「何ですって!?」

 

 飛鳥の言葉に鬼道が強く反応した。

 

飛鳥「で、その不動くんと湿川くんが手を組んで帝国サッカー部を乗っ取ってしまったの。前から帝国のやり方に不満を抱いていたメンバーや、レギュラーを狙っていたメンバーを集めてね。で、試合もしたんだけど勝負は不動くんたちの勝ち。試合に負けた方はサッカー部を出ていく話になったみたいで、佐久間くんたちは約束通り退部だ」

鬼道「そ、それじゃオレからの電話に出なかったのは…」

 

 鬼道はわなわなと震えていた。自分のいない所でかつてのチームメイトが緊急事態を迎えていて、自分は何も出来なかったのだから。

 

 かつて、フットボール・フロンティア1回戦で世宇子中に大敗した時もそう。自分は何も出来ずに仲間が傷ついて倒れていく姿を見る事しかできなかった。

 

飛鳥「多分君が考えてる通りだと思うよ」

鬼道「!!」

飛鳥「心配をかけたくなかったのと、不動くんたちに負けて…情けなくて合わせる顔がなかったからだと思うよ」

 

 飛鳥の言葉に鬼道は発狂したい気持ちを抑えていた。

 

鬼道「コーチ…!!」

飛鳥「……」

鬼道「オレに帝国に戻らないのかって聞いたのは…佐久間達の事を知っていたからですか…!!?」

飛鳥「オレがそう聞いた時にはもう退部してみたいたよ。君には気の毒だけど…」

 

 佐久間達が帝国学園サッカー部からいなくなった今、鬼道は一体何のために雷門に転校してきた意味がなくなってしまい、鬼道はどうしたら良いか分からなくなった。帝国に帰ろうにももう自分の帰る場所なんてない。そして円堂達にこの事を話したところで、今回円堂達は全く関係がない為、巻き込むわけにはいかなかった。

 

 何とも言えない絶望に、鬼道は押しつぶされそうだった。鬼道の堪える声を聴いて飛鳥も何とも言えない顔をし、そのまま目を閉じた。

 

飛鳥「鬼道くん。最後にこれだけ言っとくね」

鬼道「!!」

飛鳥「佐久間くん達ね。雷門中でサッカーをしてる君を見て、とても楽しそうにサッカーしてるって言ってたみたいだよ」

鬼道「…どういう意味ですか」

飛鳥「君には雷門中でサッカーをして貰いたいんだと思うよ。ビデオを何回も見て、とても嬉しそうにしてたって、話してくれた子が言ってた」

鬼道「……!!」

 

 飛鳥の言葉に鬼道の目が大きく開いた。

 

飛鳥「そして、いつか鬼道くんがいる雷門中と戦いたいって言ってたんだって。本当に幸せ者だね」

 

 飛鳥の言葉に鬼道は震えた。そんな事を言っていた彼らがサッカー部を追い出される最後の時まで自分に気を遣っていた事を知り、胸が張り裂けそうだった。そして今、とても佐久間達に会いたいと感じていた。

 

飛鳥「鬼道くん。君は数日間休みなさい。練習にも来なくていい」

鬼道「!!」

飛鳥「豪炎寺くんが言っていた通り、今のままじゃ練習もままならない。残酷だけど、佐久間くん達が選んだ道をちゃんと受け入れてあげなさい。分かったね?」

鬼道「…はい」

飛鳥「じゃあね。負けるなよ」

 

 そう言って飛鳥は電話を切ると、鬼道はゴーグルを外した。そしてこらえきれなくなり、持っていたゴーグルとスマホをベッドに投げつけて、そのまま泣き崩れた。

 

**********************:

 

飛鳥「……」

 

 鬼道の電話を切った後、飛鳥はマンションの一室で険しい顔をしていた。

 

飛鳥「大丈夫かな…。あの子結構真面目だから…」

 

 飛鳥がそう考えていたその時、インターホンが鳴り、飛鳥が玄関に出た。そこにはコンシェルジュの女性がいた。

 

飛鳥「どうされました?」

「実は…」

 

 コンシェルジュから用件を聞かれて、飛鳥はぎょっとした。

 

 

飛鳥「そ、そうですか…分かりました…(マジかよ…)」

 

 と、飛鳥は驚きが隠せなかった。

 

 

つづく

 




さて、今回は「アレスの天秤」のキャラが出ています。

 原作の相違点。

・ 不動たち真・帝国メンバーは帝国学園のサッカー部の生徒。
・ 湿川が登場していて、1年生。
・ 真・帝国に影山は関与していない(現在も投獄中)。


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第47話「帝国が来た!」



 前回までのあらすじ

 鬼道に事情を説明した飛鳥。予想通り激しく動揺する鬼道に飛鳥は後ろ髪をひかれる思いをしながらも、電話を切った。その後どうするべきか考えていた所を、コンシェルジュに呼び出され、用件を聞くと驚きを隠せなかった。




 

 

 飛鳥がコンシェルジュに案内されてエントランスホールに向かうと、そこには強制退部になった帝国イレブンの姿があった。

 

飛鳥「君達は…」

「夜分遅くにすみません。雷門サッカー部コーチの一丈字飛鳥さんですね?」

飛鳥「…佐久間次郎くんだね?」

 

 飛鳥は目の前にいた銀髪の少年に話しかけた。彼は佐久間次郎。帝国学園のFWで、鬼道が去った後の帝国学園サッカー部のキャプテンだった。

 

佐久間「先ほど、うちの学園の1年があなたにお話をしたと聞きまして…」

飛鳥「そう…」

佐久間「ご迷惑をおかけして、すみませんでした」

 

 佐久間が頭を下げると、帝国イレブンも続いて頭を下げた。

 

飛鳥「まあ、それは構わないけど…。こんな時間に出歩いてて大丈夫?」

佐久間「ええ。皆で話し合ったので」

飛鳥「そっか。それで、わざわざここに来たって事は…」

 

 飛鳥の言葉に佐久間が真剣な顔をした。

 

飛鳥「談話室があるからさ。そこでゆっくり話をしようよ」

 

 飛鳥は佐久間達を談話室に連れて行くと、パンドラとリームがそれに気づいて、何か慌てていた。

 

********************

 

パンドラ「お茶です」

佐久間「ありがとう」

 

 パンドラとリームはお茶くみに徹していた。もう女性がお茶くみをするという時代ではないが、客が来たときにはおもてなしをするという習性がついていたのだった。パンドラからお茶を受け取った佐久間はお礼を言った。

 

飛鳥「済まないな」

リーム「いえ、また何かあったらお申し付けください」

飛鳥「ありがとう。じゃあそれまでは好きなようにしてて」

 

 と、飛鳥がリームとパンドラを談話室の外に出した。

 

洞面「何か凄いよね~。社長と秘書みたいで」

辺見「そんな事言ってる場合じゃねーだろ」

 

 マイペースな洞面秀一郎に対して、辺見渡がツッコミを入れた。

 

飛鳥「それで用件って言うのは…」

佐久間「はい」

 

 佐久間が飛鳥を見つめた。

 

佐久間「無茶な事を言っているのは承知の上です。ですが、不動たちに勝つ為に、オレ達を強くしてほしいんです」

飛鳥「…オレが雷門のコーチをしていると言う事は承知の上で言ってるのかい?」

源田「練習には参加しなくて大丈夫です」

 

 帝国のGKである源田幸次郎が口を開いた。

 

源田「オレ達が練習している姿を映像に送ります。その中で、どこがおかしいかを見て頂けますか?」

飛鳥「成程。オレが時間を取れない場合の事も考えてるのか」

 

 源田の言葉に飛鳥は帝国イレブンの頭のよさに感心した。

 

飛鳥「そこまで不動くんのチームに勝ちたいって言うのはよく分かったけど…一体何があったの?」

 

 飛鳥の言葉に帝国イレブンが表情を歪ませた。

 

佐久間「不動はFFが終わった直後に帝国に転校してきて、サッカー部に入部したんです。当初は入ったばかりなので雑用をさせていたんですが、人にさせてばかりで、自分では全くしなかったんです」

源田「おまけにオレ達1軍の練習に勝手に入ってきては言いたい放題。チームの士気を下げる奴だったんです」

寺門「おまけに不動の後に入ってきたあの湿川って奴も…。ハァ…」

 

 FWの寺門がため息をつくと、帝国イレブンはどんよりとしていた。

 

佐久間「最初はどんなに言う事を聞かなくても雑用をさせてたんですが、ある日監督がオレ達のチームと不動のチームで練習試合をして、負けた方をサッカー部から追い出すって言ってきたんです」

飛鳥「…それは、湿川くんが監督を脅迫したのかな?」

寺門「それしか考えられません。不動は何とか抑え込めても、湿川は我ら帝国のスポンサーである鬼道重工の重役の息子。下手な事をしたらサッカー部もただじゃすみません。不動は湿川に接触して取り入ったんだと思います」

飛鳥「だろうね…」

 

 寺門の言葉を聞いて、結構厄介な事になってきたなと、飛鳥は困った表情を浮かべていた。

 

佐久間「そして結果はお察しの通り。不動のチームに負けたオレ達はサッカー部を去る事になりました」

 

 佐久間の言葉を聞いて、飛鳥はある事に気づいたが、聞いても無駄かと思い迷った。だが、念のために聞く事にした。

 

飛鳥「他の人たちは何も言わなかったの? 大体察しはつくけど」

寺門「察しの通りですよ。本当は不動や湿川のやり方に不満を抱いてる。だけど、湿川が鬼道重工の重役の息子だからどうにもできないんですよ」

飛鳥「やっぱりか…」

 

 当然だと言わんばかりに飛鳥が苦笑いした。

 

佐久間「それに、もし仮に湿川を何とかできたとしても、オレ達が不動のチームに負けた事は事実。鬼道の力を使って不動達を何とか出来ても…」

飛鳥「結局鬼道くんに頼る事しか出来ないって事だね。そしてそれはこれからの帝国の為にはならないから、鬼道くんには頼らないでオレの所に来た。そうでしょ?」

佐久間「…はい」

 

 飛鳥の言葉に佐久間が頷いた。

 

飛鳥「オレもちょっとしかコーチやってないけど、鬼道くんって結構責任感強いよね」

寺門「ええ…。なので、この事を知ったら絶対無茶すると思うんです」

源田「鬼道にはちゃんとサッカーを楽しんで欲しい。雷門中のサッカーをそう感じました。このメンバーで話し合った結果です」

佐久間「勿論鬼道はこういうでしょう。何で黙ってたんだって。だけど、オレ達もいつまでも鬼道に頼るわけにはいきません」

 

 佐久間は飛鳥を見つめた。

 

佐久間「一丈字さん。恥を承知の上です。どうしても不動たちに勝って、帝国のサッカーを取り戻したいんです。力を貸してください。お願いします!」

「お願いします!!」

 

 と、佐久間達は一斉に飛鳥に頭を下げた。飛鳥は少々困った事になり、どうすればよいか考えていた。そしてその様子をパンドラとリームが心配そうに見つめていた。

 

飛鳥「条件がある」

「!?」

 

飛鳥「この条件をのめるなら、協力しよう」

佐久間「オレ達はもう覚悟が出来てます。何でも言ってください」

源田「ただ、鬼道には…」

飛鳥「オレのやり方に一切口答えしない事」

「!!」

飛鳥「悪いけど、そういう話ならあまり時間はないと思う。だから君達も死ぬ気でやってくれ。あ、ちなみに鬼道くんには何とか誤魔化しとくから。てか、寧ろそうした方が良いかもしれない…」

 

 飛鳥が苦笑いしながらそう言うと、佐久間達は頭を下げた。

 

「ありがとうございます!!」

飛鳥「じゃあこれから作戦を考えようか」

「はい!」

 

 

つづく

 



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第48話「明かされる帝国の現状」

第48話

 

 前回までのあらすじ

 

 飛鳥の元に帝国イレブンが現れ、不動たちにリベンジをする為に鍛えてほしいという依頼があった。鬼道がいる手前、どうすれば良いか悩んだ飛鳥だったが、交換条件をのむという佐久間達の言葉に、飛鳥は自分の言う事をちゃんと聞くという条件で、鍛える事にした。

果たして…。

 

***********************

 

 翌日、飛鳥はいつも通り雷門イレブンのコーチをしようとしたが…。

 

「鬼道!!」

「鬼道さん!!」

 

 鬼道が練習にやって来たのだ。

 

飛鳥「数日間休めって言ったのに…」

 

 飛鳥がそう呟くと、鬼道はそれを無視するかのように飛鳥の元にやって来た。

 

鬼道「ご迷惑をおかけしました」

飛鳥「……!」

 

 鬼道が頭を下げた。

 

鬼道「オレはもう大丈夫です。練習に参加させてください」

飛鳥「……」

 

 このまま腐っていても何も進まないと言う事を理解したのか、鬼道の表情に迷いはなかった。

 

飛鳥(流石元帝国学園のキャプテンなだけあって、しっかりしてるなぁ…)

 

飛鳥「…そう。でも、昨日みたいなことをしてたらまた彼に怒られるよ」

鬼道「!」

 

 鬼道は豪炎寺の方を見た。豪炎寺は鬼道の顔を見ていたものの、特に何も言わなかった。すると円堂達が集まってきた。

 

半田「そういえば雷門と帝国のどっちに行くかって話はどうなったんだよ」

鬼道「雷門に残る」

「!」

 

 鬼道がそう決断すると、皆が驚いたが安心した表情を見せた。

 

円堂「そっかぁ…」

豪炎寺「……」

 

 ただ、豪炎寺をはじめ、一部のメンバーは怪しんでいた。本当にそれが本心なのかと。

 

飛鳥「さあ、今日も練習だ!」

「はい!!」

 

 飛鳥の号令で雷門イレブンは特訓を続けようとしたが、

 

目金「ちょっと待ってください。帝国と雷門のどっちに行くか決めたら、鬼道くんに何があったかをお話するんじゃありませんでしたか?」

 

 という目金の言葉に皆がはっとした。

 

飛鳥「流石だぜ目金くん」

目金「皆の目は誤魔化せても、僕の目は誤魔化せませんよ?」

 

 と、目金は眼鏡を逆行させてどや顔をした。

 

壁山「全く調子が良いんだから…」

栗松「その活躍をもうちょっと試合の方に回してほしいでやんす…」

目金「何か言いましたか?」

円堂「そうだった。コーチ、鬼道に一体何があったんですか!?」

鬼道「円堂」

 

 円堂が飛鳥から話を聞こうとすると、鬼道が円堂に呼びかけた。

 

鬼道「もういいんだ」

飛鳥「いや、それじゃ円堂くん達が納得しないよ。仕方ない。話が聞きたい子はミーティングルームにおいで」

 

 と、飛鳥がそう言うが全員が来た。

 

飛鳥「ですよね」

夏未「当り前です」

土門「あの状況で練習なんて続けたら、空気読めない奴だと思われますし…」

鬼道「……」

 

 鬼道の面もちは暗く、円堂や春奈は心配そうにしていた。

 

飛鳥「まあいいや。鬼道くんがなんでおかしかったか話すね」

鬼道「……」

飛鳥「簡単に話すとね。雷門サッカー部にいる理由がなくなって、どうするか迷ってたんだ」

「え?」

 

 飛鳥の言葉に皆が驚いた。

 

飛鳥「ほら、鬼道くんって元々佐久間くん達の仇を取るために雷門中に入った訳じゃん。そして仇だった世宇子中を倒して、フットボール・フロンティアで日本一になった。で、これからどうするかって話だよ」

栗松「そ、そうだったでやんすか…」

壁山「確かにそうっスよね…」

 

 栗松、壁山をはじめ大半のメンバーが納得をすると、春奈は鬼道を見た。だが、鬼道の異変に気付いていた。

 

半田「まあ、鬼道が雷門に残るならそれでいいけどさ」

マックス「またあの帝国イレブンと戦うってのもいいよね」

鬼道「!!」

 

 マックスの発言に鬼道が強く反応すると、飛鳥がまずそうな顔をした。

 

染岡「…どうした? 鬼道」

鬼道「す、すまない…」

豪炎寺「……」

 

 その時だった。

 

夏未「コーチ。もう隠す必要なんてありませんわ」

「!?」

 夏未が飛鳥を見た。

 

夏未「本当の事を話してくださる?」

飛鳥「もしかして、帝国の事調べた?」

夏未「ええ」

飛鳥「……」

 

 飛鳥と夏未が見つめ合うと、円堂がキョロキョロ見渡した。

 

円堂「ど、どういう事だよ」

飛鳥「まあいいか。えっとね、佐久間くん達、サッカー部から追い出されたんだよ」

 

 飛鳥の言葉に一瞬間が空くと、雷門イレブンは傘美野中に響き渡る程の絶叫した。

 

夏未「ちょっと!! 傘美野中の皆さんに迷惑でしょ!!」

飛鳥「雷門さん。こうなるから黙ってたのに…」

 

 飛鳥の言葉に夏未がきっと飛鳥を睨んだ。

 

円堂「さ、佐久間達が追い出されたって…!!」

風丸「どういう事ですか!?」

飛鳥「えっとね。クーデターにあったんだよ。佐久間君たちのやり方が気に入らないっていう子たちからの」

一之瀬「クーデター?」

土門「そんな事する奴がいるなんて…」

 

 土門はかつて帝国学園のサッカー部に所属していて、どういう部だったかを知っていたので辟易していた。

 

飛鳥「佐久間くん達現レギュラーとそのクーデター軍がサッカーで勝負をして、負けた方がサッカー部を強制退部だったんだけど、結果はクーデター軍の勝ち。負けた佐久間君たちは追い出されたって訳」

 

 飛鳥の言葉に円堂達は激しいショックを受けると、鬼道は歯ぎしりをして震えていた。

 

秋「…もしかして、コーチはこの事を知ってて、鬼道くんに帝国に戻るかどうかを聞いたんですか!?」

飛鳥「いや、オレはこの事を知った時は、すでに佐久間くんたちは…」

春奈「そ、そんな…!!」

 

 皆が鬼道を見ると、鬼道は佐久間達の事を想いだして、悔しさで震えあがっていた。

 

鬼道「…コーチ」

飛鳥「……」

鬼道「一つ聞き忘れていた事があります。佐久間達と連絡が取れない件について…。何か知っているでしょう」

飛鳥「知ってるよ。だって昨晩、佐久間くん達うちに来たもん」

「!!?」

 

 飛鳥がそう言うと、鬼道は激しく動揺した。

 

鬼道「ど、どういう事ですか!? 佐久間達がコーチのもとに来たって!!」

飛鳥「…まあ、簡単に話すとね。鬼道くんには今まで頼ってばかりいたから、今回は鬼道くんの力なしで今回の騒動を解決したいって言ってたんだ。特にキャプテンになった佐久間くんがね」

鬼道「佐久間…」

 

 鬼道の脳裏には佐久間が思い浮かぶと、円堂が鬼道の事を心配そうに見ていた。

 

鬼道「それで…佐久間達とどんな話をしたんですか?」

飛鳥「……」

鬼道「教えてください!!」

 

 鬼道の問いに飛鳥は正面を向いて、答えを返した。

 

 

つづく

 



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第49話「キャプテンとして」

 

 

 

飛鳥「その前に鬼道くん。ちょっと君にお願いしたい事があるんだ」

「!!?」

 

 飛鳥の言葉に皆が反応した。

 

飛鳥「それが出来たら、どんな話をしたか教えてあげる」

鬼道「…何をすればいいんですか」

飛鳥「お父さんにこう伝えて。鬼道重工の湿川さんの息子さんが好き勝手やってるから何とかしてって」

「!!?」

 

 飛鳥の言葉に円堂達が驚いた。

 

円堂「鬼道重工…?」

塔子「確か鬼道の会社のグループ会社だよな?」

鬼道「湿川の息子…?」

飛鳥「その子が、今回の騒動の元凶だよ。お父さんの地位を盾に好き勝手やって、サッカー部を滅茶苦茶にしてるんだ」

 

 飛鳥の言葉に円堂達が反応すると、一部の雷門メンバーが夏未を見た。

 

夏未「…何でこっちを見るわけ?」

染岡「いや、そういう奴昔ここにもいたなーって思って」

夏未「好き勝手やってないわよ! その子と一緒にしないで!」

 

 夏未が悪態をつくと、染岡たちは「同じだバーカ!!」と心の中でそう思っていた。

 

飛鳥「…話、戻してもいいかな?」

夏未「どうぞ」

鬼道「湿川…!!」

飛鳥「その子をどうにかすれば、帝国サッカー部は一先ず何とかなる。お願いできるかい?」

鬼道「……」

 

 飛鳥の言葉に鬼道が俯いた。

 

目金「けど、その湿川って奴を何とか出来ても不動くん達はどうするんですか? 彼らも一緒に追い出した方が…」

飛鳥「不動くん達には一旦残って貰う」

目金「どういう事ですか?」

鬼道「まさか…」

 

 飛鳥の言葉に鬼道が反応した。

 

鬼道「…コーチの指導で強くなって、不動たちにリベンジをするつもりじゃ」

 

 鬼道の言葉に対し、飛鳥は困ったように息を吐いた。

 

飛鳥「目金くん。推理力は中々のものだけど、今回は余計だったね」

目金「な、何でですか!!」

 

 飛鳥の言葉に目金が憤慨すると、栗松がため息をついた。

 

栗松「空気を読めって事でやんすよ」

少林寺「鬼道さんが無茶するって言ったばかりじゃないですか…」

宍戸「そうですよ。興奮させるような事を言ってどうするんですか」

目金「ぐぬぬぬぬ…!!」

半田「まあまあ」

 

 1年生たちにも痛い所を突かれて目金が歯ぎしりすると、半田が宥めた。

 

飛鳥「その通り、昨日佐久間くん達が来たのは、鬼道くんが言ってた通り、自分たちを鍛えてほしいって事だったんだ。皆、湿川くんの言いなりになって、頼れる大人が誰もいなくなっちゃったからね。きっと、あの様子じゃ肩身の狭い思いをしてると思うよ。実力でも負けてるからね」

鬼道「……」

 

 飛鳥の言葉に鬼道が俯いた。

 

飛鳥「で、その事についてなんだけど、オレはこう話したよ」

 

************************

 

飛鳥「鍛えるのはいいけど、それは湿川くんを何とかしてからだ」

「!?」

飛鳥「手っ取り早く、鬼道くんに相談してお父さんに…」

寺門「アンタ、人の話聞いてなかったのか!? オレ達は鬼道に…」

佐久間「やめろ寺門!!」

 

 寺門が突っかかろうとすると佐久間が止めた。

 

佐久間「…申し訳ございません。続けてください」

飛鳥「ありがとう。寺門くん、君の気持ちも分かるよ」

寺門「……」

 

 飛鳥の言葉に寺門は視線を逸らした。

 

飛鳥「でもこれは、君達だけの問題じゃないでしょ?」

「!」

飛鳥「少なくとも佐久間くん。今は君が帝国学園のキャプテンだ。この言葉の意味が分かるかい?」

佐久間「……?」

 

 飛鳥の言葉に佐久間が驚いた。

 

飛鳥「今は分からなくてもいい。でも、キャプテンになったからにはチーム全体の事を見なきゃいけない。今ここにいるメンバー以外の事も。やり方に不満を抱いているメンバーがいるから、その人の話も聞かなきゃいけない筈だ」

 

 飛鳥は更に真剣な顔をして言葉を続ける。

 

飛鳥「それに、親の権力を使ってやりたい放題してるなら、どんな手を使ってでも即刻止めるべきだ。自分たちのプライドなんて後だよ」

辺見「て、てめぇ! 黙って聞いてれば…」

咲山「うちらも負けっぱなしという訳には…」

飛鳥「鬼道くんはどうしてた?」

「!!?」

 

 飛鳥の言葉に佐久間達が反応した。

 

「そうですね…」

 

 帝国DFの五条勝が口を開いた。

 

五条「鬼道さんは我々の為に恥を捨ててまで雷門に転入し、仇を取ってくれました」

佐久間「!!」

 

 五条の言葉に佐久間ははっと気づいた。

 

飛鳥「そうでしょ。40年間無敗だった学校のキャプテンが、他の学校に転入してフットボール・フロンティアを戦い続けるなんて、普通に考えたら批判される事は間違いない。ましてや一生後ろ指をさされるかもしれない状況の中で、君達帝国の為に決断をしたんだ。だったら君達も帝国を守る為に、自分たちの事は後回しをするべきじゃないかな」

五条「そうですね…」

 

 飛鳥の言葉に五条が反応をすると、文句を言っていた辺見や咲山、寺門はばつが悪そうにした。そして佐久間が目を閉じて表情を歪ませた。

 

飛鳥「…君達の気持ちは分かるけど、今は」

佐久間「すみませんでした!!」

 

 佐久間が飛鳥に頭を下げて謝った。

 

佐久間「オレ達は鬼道に頼らずに自分たちの力で何とかしようと思ってたばかりに、周りが見えてませんでした。これじゃ不動たちとやってる事と変わらない…!!」

源田「佐久間…」

 

 佐久間の姿勢を見て飛鳥は苦笑いした。

 

飛鳥「君も結構苦労したんだね」

佐久間「すみません…」

飛鳥「気にしないで。鬼道くんにはオレから話をつけとくから、君達は練習を続けて。多分そうなってるって分かったら、すぐに力を貸してくれるよ」

洞面「貸してくれるどころか、僕たちの所に来ちゃうかもね」

飛鳥「…そうかもね。本当に頑固だよね。鬼道くんって」

寺門「全くだ」

 

 と、そのまま笑い話になって終了した。

 

***********************

 

飛鳥「という訳なので、お願いね」

鬼道「分かりましたが、頑固は余計です」

飛鳥「ごめん」

 

 飛鳥達のジョークに鬼道は元気を取り戻したが、円堂達は帝国イレブンを心配していた。

 

飛鳥「あ、そうそう。帝国イレブンには湿川くんの悪事の証拠を集めて、オレの所に送るように伝えてあるから。君はお父さんと話をするだけでいいよ」

鬼道「ありがとうございます…」

 

 飛鳥の言葉に鬼道が頭を下げると、鬼道はすぐに父親に連絡を取った…。

 

 

つづく

 



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第50話「衝突! 鬼道VS不動」

 

 不動たちにリベンジをする為に鍛え直す事を決意した帝国イレブン。

 

 

 後日、帝国学園では…。

 

「お前ら分かってるよな? この鬼道重工の重役の息子の僕に逆らえば、即刻クビ。出てってもらうよ」

「くっ…!!」

 

 湿川陰がサッカー部のミーティングルームで、自分に逆らった部員達を見せしめのように公開説教にした。

 

湿川「もう佐久間達はいなくて、帝国学園サッカー部は僕たちのものになったんだ。文句があるなら出ていけ。まあ、そんな事したら帝国学園にもいられなくなるでつよ?」

 

 と、湿川は嫌みったらしく公開説教をし、モヒカン頭が特徴でイナズマのペイントをしている男子生徒もバカにするように笑っていた。彼こそが現在の帝国学園のキャプテンである不動明王である。

 

 そんな時、監督の安西が現れたが険しい顔をしていた。

 

「あ、監督―。こいつら僕に逆らったんでつよ。だからいつも通りに…」

安西「湿川。貴様は本日をもってサッカー部を退部してもらう」

湿川「…は?」

 

 安西の言葉に湿川は信じられなさそうにした後、憤慨して安西にたてついた。

 

湿川「な、なんだと!! 貴様誰に向かってそんな事を言ってるでつか!! 僕を誰だと…!!!」

「消えろと言ったんだ」

「!!」

 

 すると、そこには鬼道がいた。後ろには飛鳥、響木もいる。

 

「き、鬼道さん!!!」

「鬼道だ!!!」

 

 鬼道の姿に帝国サッカー部員たちは驚いて、湿川は焦り始めた。だが、不動は焦る事はなかった。

 

湿川「き、鬼道勇人!! 何でお前がこんな所にいるでつか!!」

鬼道「今は雷門にいるとはいえ、オレも元帝国学園のキャプテンだ。いても不思議じゃないだろう。それはそうと…」

 

 鬼道が湿川を睨みつけた。

 

鬼道「由緒正しき帝国学園サッカー部をよくも滅茶苦茶にしてくれたな。貴様の父にはオレの父から話をつけて貰う。ただで済むと思うなよ」

湿川「う…!!」

 

 鬼道の言葉に湿川が罰が悪そうにすると、不動の方を見た。だが、不動は助ける様子はない。不動だけではなく、他の1軍も助けず無視していた。

 

湿川「お、おい!! なんで助けないんだ!! 僕がピンチになったら助けるって話だったでつよ!!」

不動「そうだったな」

湿川「それなら早く助けろこの役立たず!! 僕は鬼道重工の…」

不動「パパが首になりそうで、力を失いかけてる奴を誰が助けるかよ。ていうか、役立たずなら、猶更助けられるわけねーだろ?」

 

 不動が席から立ち上がって、湿川に近づいた。不動の見た目もそうだったが、目つきも完全に湿川に対して食って掛かりそうだったため、湿川は何も言えずにいた。

 

不動「佐久間達にも勝ち、こいつらにもオレ達の強さを示すことが出来た。オレ達としてもお前はもう用済みなんだよ」

 

 不動が鬼道を見た。

 

不動「そういう訳だから鬼道クン。この七光りは好きにしてくれもいいぜ」

鬼道「貴様が不動明王か…」

不動「そう。オレが帝国学園サッカー部の現キャプテン・不動明王様って訳」

 

 と、不動がそう言うとサッカー部の部員たちが騒いだ。

 

「ふざけるな!!」

「オレ達はお前を認めちゃいない!!」

「鬼道さん! こいつらも追い出してくれ!!」

 

 そう騒ぐが、不動は萎縮するどころか更に馬鹿にするように笑った。

 

不動「ハッハッハッハ! 本当に鬼道クンがいないと何も出来ねーんだなぁ」

湿川「そうでつよ!! こいつらも僕と同じでつよ!! 弱いくせに威張り倒して、強い奴には媚びる! こいつらも追放するべきでつよ!!」

鬼道「黙れ」

 

 鬼道の言葉に湿川はビビったが、不動は動じなかった。

 

不動「で? 鬼道クンはかつてのお仲間の為に戻ってきたって訳? でももう遅いぜぇ?」

鬼道「ああ。お前達と真剣勝負して敗北した。それはちゃんと受け入れよう」

不動「まあ、さしずめこの七光りを片付けてくれるなら、オレ達としても有難いぜ。昔の恩をいつまでも盾にして、ごちゃごちゃうるせぇからな」

湿川「なっ!! だ、誰のお陰で佐久間達と試合をできると思ってるんでつか!! お前は少しは感謝というものを…」

不動「あーうぜぇ。連れて行くならさっさと連れてけよ」

飛鳥「OK」

 

 飛鳥が前に出ると、湿川が飛鳥の顔を見て青ざめた。

 

湿川「あーっ!!! お前確か吉良財閥の…」

飛鳥「久しぶり湿川くん。ちっとも反省してなくて残念だよ」

 

 飛鳥は湿川の顔を見て青筋を立てた。実は数年前にパーティで一度湿川と会ったことがあるのだが、一緒に参加していたエイリア女子にセクハラを仕掛け、怒ったマキュアやレアンとトラブルを起こし、飛鳥が仲裁したが、湿川はとにかく威張り散らした為、飛鳥が激怒して黙らせたのだ。

 

湿川「ふ、ふん! 吉良星二郎はもう逮捕されたんだ! 没落した負け犬なんかこわくないでつよ!!」

飛鳥「負け犬は負け犬でも、完全に力を失った訳じゃないんだぜ。ていうか…」

「!!」

 

 飛鳥が怒気を放った。

 

飛鳥「数年前にお前がオレにやった事、忘れた訳じゃねーだろ…」

 

 飛鳥が怒気を放つと、鬼道と不動も冷や汗をかいて、帝国の部員達も震え上がっていた。

 

響木「その辺にしておけ一丈字。そいつチビっちまったぞ」

飛鳥「あ、いっけない」

 

 響木の言葉に湿川は涙を流して崩れ落ち、天を仰ぎながら失禁していた。飛鳥は響木の言葉に我に返った。

 

「し、神聖なるミーティングルームで何という痴態を!!」

「ええい! つまみだせ!!」

「えっ、今のコイツをですか…?」

「ごちゃごちゃ言うな!!」

 

 と、湿川は一番下っ端の連中につまみ出され、後始末も一番下っ端がやった。

 

飛鳥「ゴメン。やり過ぎちゃった」

鬼道「それは構いませんが…」

不動「……」

 

 不動は罰が悪そうにしたが、

 

不動「…で? 湿川を追い出して、オレ達も1軍の座から追い出そうって訳か。ハッ! プライドを捨ててまで帝国サッカー部を元に戻したいんだろうが、それは流石にねーんじゃねぇの? こっちはズルをしたわけでもねーのに」

 

 不動が弱い所は見せまいと、再び息巻いたが、帝国サッカー部部員たちは「余計な事すんな」と思っていた。だが、一部でも不動のメンタルの強さを評価をしている者もいた…。

 

飛鳥「いや、君達はそのまま1軍でいいよ」

「!!?」

飛鳥「そしてそれは鬼道くんも承諾してる」

「ええっ!?」

「そ、そんな鬼道さん!!」

 

 と、部員たちが騒いだが…。

 

鬼道「佐久間達が実力で負けたのであれば、きちんと受け入れるべきだ。情けで1軍に復帰できるほど帝国のサッカーは甘くない事をお前たちも知っている筈だ」

 

 鬼道の言葉に部員たちが罰が悪そうにした。

 

飛鳥「オレは外部の人間だからあまり知らないんだけど、佐久間くん達がリベンジをしようと思ったら、引き受けるんだよね?」

不動「ああ。あんな無様に負けても尚戦うって言うなら、やってやってもいいぜ? 何なら鬼道クンやアンタも入っていいんだぜ?」

鬼道「随分自信があるようだな」

 

 鬼道が割って入った。

 

鬼道「佐久間達が負けたのはまだ良しとしよう。だが、帝国サッカー部の秩序を乱すのは元キャプテンとしてはいただけない」

不動「ハッ! 帝国を辞めた奴がイキるなよ。今はこのオレがルールだ!」

飛鳥「はいはい。そこまでにしな」

 

 飛鳥が割って入った。

 

飛鳥「不動くん。来週どっか空いているかい?」

不動「ああ。いつでもいいぜ。何度やっても同じだからな」

飛鳥「そうか。それじゃ来週の土曜日、練習試合をしようか。それで勝った方が1軍。これでどう?」

不動「いいぜ。ただし、オレ達が勝ったらもう誰にも文句は言わせねぇ。オレの命令に従ってもらう」

鬼道「いいだろう。お前達に負けるようなら、もうそうするしかあるまい」

 

 と、鬼道チームと不動チームで試合をする事になった。

 

 帝国学園を出て…。

 

飛鳥「しかし、鬼道くんも人が悪いね。お父さんに頼み込んだのはいいけど、ほぼ自分で解決しちゃうんだから」

鬼道「佐久間達には一秒でも多く練習に励んで貰いたいので」

 

 そう、本来は鬼道には父親に電話で湿川を何とかするように頼むだけだったのだが、三奈に気づかれないように一人で帝国学園に乗り込んで、話をつけようと思っていたのだった。だが、それを予測していた飛鳥と響木によって3人で行く事となった。

 

響木「来週の土曜日までそんなに時間はない。徹底的に鍛えろ」

飛鳥「承知しました」

鬼道「そのつもりです」

 

 

 果たして、帝国学園の運命は!!

 

 

つづく

 



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第51話「帝国の抜けた穴」

 前回までのあらすじ

 不動率いる「クーデター軍」との戦いに敗れ、帝国サッカー部を追い出されてしまった佐久間達帝国イレブン。リベンジをする為に飛鳥に稽古をつけて貰うように依頼するが、帝国学園元キャプテンの鬼道勇人にバレてしまう。

 結果的に鬼道の号令で合流することを命じられ、鬼道は飛鳥、響木と共に帝国学園に乗り込み、不動と再戦の約束を取り付ける。

 勝った方が帝国学園サッカー部の1軍だが、佐久間達に2度の敗北は許されなかった。果たして、約束の日まで佐久間達はレベルアップし、リベンジ達成なるか!?



 

 

 

 

 約束を取り付けた後の河川敷。そこには雷門イレブンと帝国イレブンが集結していたが、佐久間達は鬼道に正座させられていた。雷門イレブンや飛鳥は何とも言えない表情で鬼道たちを見ていた。

 

鬼道「お前達、なぜ黙っていた」

佐久間「す、済まない…」

源田「お前には、雷門のサッカーに集中してほしかったんだ…」

 

 佐久間や源田だけじゃなくて他のメンバーも罰が悪そうに視線を除いた。五条以外は…。

 

春奈「お、お兄ちゃん。佐久間さん達はお兄ちゃんに気を遣ってたんだよ…」

 

 鬼道の妹の春奈がフォローに入ると、鬼道は仕方ないと言わんばかりに視線をそらすと、飛鳥の方を見た。

 

鬼道「一丈字コーチ。うちの者がご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」

飛鳥「いや、それはいいよ。ジェミニ以外の練習相手もそろそろ必要かなと思ってた所だし、帝国学園がやってくれるなら、こちらとしても有難いよ」

鬼道「コーチ…」

 

 飛鳥の言葉に鬼道が反応した。

 

飛鳥「鬼道くんの言いたい事も分かるけど、今は佐久間くん達のレベルアップが先だ。さあ、皆立った立った! 早速だけど練習試合を始めるぜ!」

 

 飛鳥の号令で急遽、雷門イレブンと帝国イレブンの練習試合が行われる事になった。

 

辺見「まさかオレ達がこんな所で練習試合をする事になるとはなぁ…」

佐久間「文句を言うな。今のオレ達はもう帝国イレブンじゃないんだ」

 

 今までの高待遇とは真逆の対象に辺見がぶつくさ言うと、佐久間が諫めた。

 

 雷門イレブンはというと、会議が行われていた。

 

飛鳥「スタメンはいつも通りね」

「はーい」

一之瀬「40年も無敗だったNo.1チームとの試合、一度やってみたかったんだ…」

 

 FF地区予選決勝で帝国学園と戦ったが、その時一之瀬はまだいなかった。その為、帝国と戦うのを楽しみにしていた。

 

飛鳥「鬼道くんが抜けてるとはいえ、全ての選手がトップレベル。油断は禁物だよ」

「はい!」

 

 そして練習試合が行われた。

 

角馬「さあ! 帝国学園の1軍をかけた戦いに備えての練習試合! 果たして勝敗はどちらの手に!!」

 

 角馬もぶれずに実況をしていて、飛鳥達が苦笑いした。

 

 試合はそれなりに白熱した試合を見せていたが、鬼道が抜けた穴が大きく、試合は雷門が押していた。

 

飛鳥「……」

 

 試合の様子を見て、飛鳥は険しい顔をしていた。

 

夏美「やはり…鬼道くんが抜けた穴が大きいわね。チームにまとまりがないわ」

秋「うん…」

 

 マネージャー達も帝国イレブンのチグハグした動きに気付いており、帝国学園のベンチの選手も気まずそうにしていた。

 

 鬼道に至っては、表情を歪めていた。もし自分があの時いれば不動たちに勝てたかもしれなかったが、自分がいないだけでこんなにも戦力が大幅に落ちる事にショックが隠せなかった。

 

 そして…

 

染岡「ワイバーンクラッシュ!!」

 

 染岡のシュートで源田はついに失点してしまい、前半戦が終了した。

 

栗松「はぁ…はぁ…」

壁山「やっぱり帝国は強いっす…」

 

 壁山と栗松は疲れた様子を見せていた次の瞬間、鬼道が佐久間達に近づいた。

 

鬼道「お前達! なんだそのサマは!!」

「!!」

 

鬼道「それでも帝国学園のサッカー部を背負っていた選手か! オレがいなくなっただけで何故こんなにも弱い!」

辺見「き、鬼道さん…」

 

 鬼道の声に辺見をはじめ、帝国イレブンは何にも言えなくなり、佐久間が悔しそうにした。

 

飛鳥「お取込み中失礼するよ」

 

 飛鳥が割って入ってきた。

 

飛鳥「後半の支持を伝えるね。鬼道くん、帝国側に入って」

鬼道「!?」

飛鳥「半田くん。代わりに入ってくれる?」

半田「は、はい!」

 

 飛鳥の指示に皆が驚いた。

 

佐久間「ど、どうして…」

飛鳥「えっとね。まず前半戦なんだけど、オレは君達の実力を純粋に見させて貰って、君達は今の君達がどれだけなのかを雷門イレブンで試して欲しかったんだ。で、それをしっかり踏まえた上で、後半戦は鬼道くんの指示のもとで戦って貰う。そこでまた学習してもらうよ」

 

 飛鳥の言葉に佐久間達は驚きが隠せなかった。

 

飛鳥「この練習試合は君達の弱点をあぶりだす為にやってる。後半戦はそれで頼むよ」

 

 そして後半戦、鬼道はユニフォームを雷門から帝国学園のものに着替えた。

 

壁山「き、鬼道さんが敵になったっス…」

栗松「油断できないでやんすね…」

少林寺「鬼道さんが相手だなんて…。どこまで通用するか試してみるチャンスだ!!」

半田「…少林。なんか変わったな」

 

 壁山と栗松が逃げ腰になっているのに対し、少林寺はやる気になっていて半田が困惑していた。

 

風丸「少林寺の言う通りだ」

半田「風丸…」

 

 半田が後ろにいる風丸に話しかけると、風丸も頼もしい顔つきになっていた。

 

風丸「オレ達の力、見せてやろうぜ!」

半田「……!」

円堂「半田―! 風丸の言う通りだ!」

半田「…おう!!」

 

 こうして、後半戦が行われた。鬼道が入り、指示を出すことで帝国学園の動きの切れが戻った。先ほどまでは雷門イレブンの優勢だったが、互角に戦っていた。

 

一之瀬「鬼道! 君とは本気で戦ってみたかったんだ!!」

鬼道「望むところだ」

 

 鬼道と一之瀬の天才同士の対決は特にみもので、いつの間にか集まっていた見物客たちは大歓声を上げていた。

 

 そして鬼道が突破をすると、前にいる佐久間と寺門に合図を送った。

 

鬼道「佐久間! 寺門、あれをやるぞ!」

佐久間・寺門「おう!」

 

 すると鬼道が指笛を吹いた。すると地面から数羽のペンギンが現れた。鬼道が前方にパスを送ると、ペンギンも空を飛び、そして寺門と佐久間が同時にシュートをした。

 

鬼道「皇帝ペンギン…」

寺門・佐久間「2号!!」

 

 シュートはゴールキーパーの円堂の元に飛んでいった。

 

壁山「通さないっス!! ザ・ウォール!!」

 

 壁山が円堂の前に立ちはだかり、力を入れた。後ろには大きな壁が現れて皇帝ペンギン2号を防ごうとした。

 

壁山「ぐぐぐぐぐぐ…!!!」

 

 壁山が踏ん張ったが、シュートの威力が強まり、壁山は吹き飛ばされた。だが、そのお陰でシュートの威力は弱まり、円堂は普通にキャッチをした。

 

円堂「ナイスだ壁山!!」

壁山「へへへへ…」

 

 円堂と壁山の様子を見て、鬼道はとても険しい表情をしたまま2人を見つめた。

 

 

つづく

 



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第52話「帝国イレブンの反省会!」

 

 

 不動たちへのリベンジを果すために雷門イレブンと練習試合を行う事になった帝国イレブン。だが、雷門イレブンのレベルアップと、鬼道が抜けた穴を埋めきれず、結果的に敗北してしまった…。

 

*********************

 

 試合が終わり、飛鳥達は集まった。

 

飛鳥「さて、鬼道くん。感想を聞かせて貰おうかな。勝てる?」

鬼道「…間違いなく無理です」

 

 鬼道は声を震わせてそう告げると、佐久間達はばつが悪そうにした。すると飛鳥は冷静に言葉を続ける。

 

飛鳥「鬼道くんが抜けたのもあるけど、やっぱり纏まりがないのよ。決定打にも欠ける。今までは鬼道くんがいる事で帝国イレブンは安定してたと思うんだよね」

 

 飛鳥の言葉に佐久間達は表情を歪めると、円堂達も心配そうに見ていた。

 

洞面「…やっぱり、鬼道さんがいないと駄目ってことなの?」

飛鳥「戦力だけを考えればそうなるけど、もうそういう考え方はやめな」

「!?」

 

 帝国イレブンは飛鳥を見つめると、飛鳥は真剣な顔をした。

 

飛鳥「雷門イレブンにはもう伝えたんだけどね、特定の選手だけに頼ってるとチームの為にならないよ」

辺見「そ、それは…」

寺門「そんなの分かってます!!」

飛鳥「だけど心のどこかで思ってなかった? こういう時、鬼道くんがいてくれたらって」

「!!」

 

 飛鳥の言葉に寺門達は目を大きく開いてうろたえた。

 

飛鳥「どっちみち、鬼道くんだっていつかは卒業してチームを離れないといけない。その時に鬼道くんがいなくても、いた時と同じように強いチームでないといけないんじゃないの? 洞面くん、成神くん、椋本くん」

 

成神「た、確かに…」

洞面「鬼道さん達2年生が卒業したら、僕たちが引っ張らないといけないよね…」

椋本「その時はもう鬼道さんだけじゃなくて殆んどの先輩たちが…」

飛鳥「そういう事」

 

 飛鳥が腕を組むと、鬼道が飛鳥の方を見た。

 

鬼道「一丈字コーチ」

飛鳥「どうしたの?」

 

 鬼道が真剣な表情をした。

 

鬼道「本当にご迷惑をおかけしますが、試合の日まで帝国イレブンを鍛えてください。お願いします」

 

 鬼道が頭を下げると、佐久間達は驚いてすぐに頭を下げた。

 

飛鳥「それはいいよ。元々佐久間くん達から依頼されてたし。だけど…」

「!」

 

 飛鳥が真剣な表情で鬼道を睨んだ。

 

飛鳥「やるからには、オレの指示に従って貰う。口答えは許さないよ?」

鬼道「…分かりました」

 

 鬼道の言葉に円堂は飛鳥の方を見て、

 

円堂「オレ達も協力させてください! コーチ!!」

鬼道「円堂…」

 

 円堂の言葉に皆が円堂を見た。

 

飛鳥「まあ、練習相手になって貰うつもりだから、宜しく」

円堂「はい!」

 

 円堂が返事をすると、

 

栗松「帝国学園が歯が立たないチームだなんて、今でも信じられないでやんす…」

宍戸「想像がつかないなぁ…」

 

 栗松と宍戸がぼそっと呟くと、帝国イレブンが2人を睨みつけた。

 

壁山「やっぱり…染岡さんみたいに必殺技を進化させるとかっスかね…」

鬼道「!」

飛鳥「壁山くん」

壁山「は、はいっ!」

 

 飛鳥の言葉に壁山が反応した。

 

飛鳥「丁度それを言おうと思ってたんだ。やるじゃないか」

 

 飛鳥の発言に皆が驚いた。喋った壁山が一番驚いていたが…。

 

佐久間「必殺技を強化…?」

飛鳥「ポテンシャルにおいては特に言う事はない。前に見せて貰った不動くんチームもほぼ互角だったしね。だけど試合を見てて思ったのは、必殺技が弱いのよ。パンチが足りないというか…。円堂くんはシュートを受け止めてみてどう思った?」

円堂「そ、それは変わらず凄いシュートだったと思いますよ?」

鬼道「いや、依然戦った時よりも簡単に止められている」

 

 円堂の言葉に対し、鬼道はすぐに反論した。

 

鬼道「確かに壁山の言う通り、やってみる価値はありそうだ。例を言う」

壁山「は、はいっす…」

目金「言ってみるものですね」

 

 目金が逆行をさせると、壁山が驚いたように壁山を見た。

 

飛鳥「ぶっちゃけ、今から新しい必殺技を作るにもそんなに時間はないから、今ある必殺技を強化していこう」

万丈「強化って、具体的にどうすれば…」

飛鳥「例えば君のサイクロンを、もう一人にもやって貰って「ダブルサイクロン」ってやってみたらどうかな? 一人より二人の方が強力でしょ」

「!!?」

 

 飛鳥の言葉に帝国イレブンが反応した。

 

円堂「そうか! その手がありますね!」

目金「うちでもドラゴントルネードといった、必殺技同士の合体技がありますからね。良い手かと思います。それからキラースライドも二人でやって、ダブルスライドをやってみてはいかがでしょう?」

土門「な、何か急にノリノリになったな目金…」

 

 目金のテンションに土門と一之瀬が辟易していた。ちなみにダブルスライドという技は原作にはない。すると半田がある事に気づいた。

 

半田「そういや思ったんだけどさ。皇帝ペンギン2号ってあるじゃん」

「!」

半田「1号ってないの?」

 

 半田の言葉に鬼道たち帝国イレブンが気まずそうにした。

 

半田「あ、あれ? オレなんか変な事言っちゃった…?」

鬼道「いや、お前の言う事は間違ってはいない。ただ、あれは禁断の技だ…」

円堂「禁断の技?」

 

 円堂がそう返事をすると、佐久間が言葉を続けた。

 

佐久間「影山がまだ総帥だったころに開発された技だが、あれは体の負担が激しい技だ。シュートを撃つたびに全身に痛みが走り、オレですら精々2回が限界だった…」

秋「そ、そんなに体に負担のかかるシュートなの…?」

 

 佐久間の発言にマネージャーは表情を歪めた。

 

鬼道「ああ…。あまりにも危険すぎるシュート技だから、使う事を禁止した…」

佐久間「だが、不動たちに勝つ為には皇帝ペンギン1号を…」

鬼道「やめろ! それで体が壊れたら元も子もないんだぞ! どんな理由があろうとその技を使う事は許さん!」

 

 鬼道が怒鳴ると、皆が困惑した。すると目金がある事に気づいた。

 

目金「鬼道くん」

鬼道「何だ…」

目金「そのシュート技って、影山が考案したシュート技なんですよね?」

鬼道「それがどうしたんだ…」

目金「…そのシュート技、鬼道くんたち以外で知ってる人っているんですか? もし円堂くんのお爺さんみたいにノートに残していて、何らかの理由で不動くん達の手に渡ったら大変な事になりますよ?」

 

 目金の言葉に鬼道や帝国イレブンは慄然とした。

 

鬼道「それはまずい!! あの書物はどうなった!?」

佐久間「影山が捕まってから一応オレの方でも整理はしたが、そんなものはなかったぞ…」

目金「だとしたら、佐久間くんが来る前に盗んだとか…」

影野「ありえるかも…」

秋「もう!! 縁起でもない事言わないで!!」

 

 目金と影野の言葉に秋が突っこむと、佐久間が目金の方を見た。

 

佐久間「それは安心してくれ。身辺整理をしたのは不動が入部してくる前だ」

影野「それなら安心だね…」

 

 佐久間の言葉に影野が安心すると、目金はまだ警戒していた。

 

目金「けど油断しない方が良いですよ。ああいうタイプってのは何をしてくるか分かりませんからね」

辺見「何だぁ? オレ達との練習試合で逃げ出した奴が随分でかい顔をしやがって」

目金「うっ…」

鬼道「辺見!」

 

 目金の発言に辺見が嫌味を言うと、鬼道に諫められた。

 

辺見「す、すみません…」

飛鳥「まあ、そういう事だから今日から必殺技の強化頑張ってね」

「はーい!」

飛鳥「そうだ。一応あいつらにも連絡しとこ」

 

 

 こうして、帝国イレブンの本格的な特訓が始まろうとしていた…。

 

 

つづく

 



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第53話「レギュラーに懸ける想い」

 

 

 帝国学園サッカー部

 

「不動さん!」

 

 不動たち現1軍が練習をしていると、不動派の帝国学園サッカー部員がやってきた。

 

不動「あ? 何だよ」

「佐久間達が…」

 

 と、佐久間達がリベンジに向けて特訓をしている事を告げた。

 

不動「そうかよ。教えてくれてありがとう」

「どうします? 妨害を…」

不動「やめろ。そんな事をしたら言いがかりをつけられて降ろされちまうし、それに…」

 

 不動が不敵な笑みを浮かべた。

 

不動「お前も見ただろう。オレ達は実力で佐久間達を打ち負かした。リベンジ戦とやらも同じように叩きのめしてやらなきゃ、また立ち上がってしまうだろう。完膚なきまでに叩き潰して、二度とオレ達に逆らわないようにすればいいんだよ」

「は、はっ! 失礼しました!」

不動「それが分かったらグラウンドから出ろ。練習の邪魔だ」

「はっ!!」

 

 そう言って部員は去っていくと、チームメイトの小鳥遊忍が悪態をついた。

 

小鳥遊「湿川の力を使ってまで、佐久間達からレギュラーの座を奪った割には、結構真面目ね」

不動「ヘッ。あいつはオレ達の実力をあいつらに見せつける為の捨て駒さ。佐久間達からレギュラーの座を奪った今、オレ達を止めるものは何もねぇ。次のフットボール・フロンティアではオレ達が日本一になるんだよ」

小鳥遊「…まあ、アタシはフットボール・フロンティアには参加できないからアレだけど、女だってバカにしてたあいつらの顔は今でも笑えるわ」

「へっへっへっへ。そしてあいつらは惨めに河川敷で練習してるそうだ。いい気味だぜ!!」

「不動さんについてきて正解だったぜ!」

 

 不動チームは、今の帝国学園サッカー部のやり方に不満を抱いている者、不動にスカウトされた者、元々レギュラーを狙っていた者、不動たちに便乗してあやかろうとしていたならず者たちで構成されていた。

 

不動「それに加え、いざとなれば『アレ』がある」

「!」

 

 不動の言葉に皆が不動を見ると、不動はまた不敵な笑みを浮かべた。

 

不動「帝国サッカー部が完全にオレ達の味方になれば、完璧だ。好きなだけかかってくるがいいさ」

 

*********************

 

 その頃、帝国イレブンは河川敷で雷門中と特訓をしていたが…。

 

鬼道「早速だが、お前達にはデスゾーンを強化してもらう」

 

 鬼道が佐久間、寺門、洞面に指示を出すと、佐久間達が驚いた。

 

佐久間「デスゾーンを…?」

寺門「一体どうやって…」

鬼道「お前達には自分で考えて貰う。佐久間がキャプテンとして成長する為にもな」

 

 鬼道の言葉に佐久間達は驚いた。

 

鬼道「寺門、洞面。フォローを頼むぞ」

寺門「あ、ああ…」

洞面「分かりました…」

 

 そう言って鬼道は去っていくと、今度は万丈と成神を呼び寄せた。

 

鬼道「万丈。成神にサイクロンのやり方を教えろ」

万丈「えっ…成神にですか?」

成神「どういう意味ですか万丈さん」

鬼道「お前のサイクロンは強力なブロック技。それを2人同時にやる事で威力を高める事が出来る。大野や五条より成神の方が適任だ。いいな」

万丈「わ、分かりました…」

成神「だからそんな心配そうにしないでくださいよー。オレ、やれますって」

万丈「お前は軽いから不安なんだよ…」

 

 マイペースな成神に対して、万丈はため息をついた。よっぽど苦労させられているのだろう…。

 

 そんな時、五条が鬼道の元にやって来た。

 

五条「鬼道くん。少し良いですか」

鬼道「五条…」

五条「私もブロック技を考えたので、辺見くんと咲山くん、大野くんをお借りしたいのです」

鬼道「どんな技だ」

 

 鬼道が五条の話を聞くと、鬼道が感心したようにうなずいた。

 

五条「ちなみにですが、考えた必殺技は帝国イレブンで共有するようにしましょう。戦術の幅が広まります。恐らく一丈字さんも同じことを考えているでしょう…」

鬼道「五条…」

 

 鬼道が五条を見ると、五条は不敵な笑みを浮かべていた。

 

鬼道「そのブロック技はお前に任せる。頼んだぞ」

五条「畏まりました。それでは失礼します」

 

 そう言って五条が去っていくと、辺見、咲山、大野を呼び出して練習を始めた。

 

 そしてその様子を飛鳥と春奈がベンチから見ていた。ちなみに雷門イレブンはというと、夏未の家で勉強させられている。円堂はサッカーがしたいと嘆いていた。春奈は心配なので夏未に許可を取って抜け出してきた。ちなみに円堂、壁山、栗松も抜け出そうとしたが、取り押さえられた。

 

春奈「お兄ちゃん…」

飛鳥「……」

 

 春奈がつぶやくと、飛鳥が反応した。

 

春奈「コーチ…」

飛鳥「何?」

春奈「佐久間さん達、大丈夫ですよね…?」

飛鳥「さあね」

春奈「さ、さあねって!!」

 

 飛鳥の言葉に春奈が憤慨した。

 

飛鳥「帝国の子から不動くん達の映像を見せて貰ったけど、不動くん…中々の切れ者だよ。佐久間くん達が負けたのも納得できる」

春奈「?」

飛鳥「佐久間くんのチームも不動くんのチームもポテンシャルはほぼ互角だったけど、チームにまとまりがあって、頭の回転の速さは不動くんチームが一枚も二枚も上手だ。鬼道くん抜きで勝つには、不動くん達の戦略をどう攻略するかだ…」

春奈「……」

飛鳥「それにあの様子じゃ、まだ何か隠してるみたいだしな」

春奈「隠してるって…」

 

 すると春奈がある事に気づいた。

 

春奈「ま、まさか!! 皇帝ペンギン1号!!?」

 

 春奈の言葉に鬼道たちが反応し、鬼道がすぐに駆け付け、他のメンバーもやって来た。

 

鬼道「春奈どうした!? 皇帝ペンギン1号がどうした!?」

春奈「お兄ちゃん…」

飛鳥「こっちの話。練習に集中して」

鬼道「あの必殺技はどうしても使ったらいけない技です! 教えてください!」

飛鳥「……」

 

佐久間「一丈字コーチ。皇帝ペンギン1号に関する書物ならとっくに…」

飛鳥「そうなんだけどね、油断はしない方が良いよって。不動くん達みたいなタイプって何しかけてくるか分からないから」

洞面「あー。確かに言われてみれば…」

成神「いきなりクーデターを仕掛けてくるもんだからあり得るなぁ」

万丈「お前ら!!」

 

 暢気に言う洞面と成神に対して万丈が突っこむと、鬼道が俯いた。

 

飛鳥「もしそれが事実なら、彼らもそれだけ必死だってことだよ」

「!!?」

 

 皆が飛鳥を見ると、飛鳥は真剣な顔をした。

 

 

飛鳥「そして君達は、彼らの思いを受け止める義務がある。帝国のレギュラー、そしてキャプテンとしてね」

 

 果たして、帝国の運命や如何に!!

 

 その頃円堂達はというと…

 

夏未「次逃げ出したら、練習禁止にするわよ?」

円堂「ひ~ん!!!」

レーゼ「な、何故我らまで…」

 

 ジェミニストームがいつもの復旧作業を終えると、円堂達と一緒に勉強させられていた。

 

夏未「勉強は学生の本分、一丈字コーチから勉強を見るように言われてるのよ?」

レーゼ「ひ~ん!!!」

 

 

つづく

 



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第54話「激突! 鬼道 VS 不動!」

 

 不動たちにリベンジするために、本格的に練習を始める事になった帝国イレブン。各自が必殺技の強化や、新必殺技の特訓をしていた。鬼道や雷門イレブン、ジェミニストームもそんな彼らを時には見守り、競い合っては共に成長していった…。

 

********************

 

 そして、不動チームとの決戦の日がやってきた。部隊の会場となっている帝国学園グラウンドの観客は満員だった。そりゃそうだ。この一戦で帝国学園の運命が大きく変わっているのだから…。

 

円堂「もうすぐ始まるな…」

秋「うん…」

 

 雷門イレブンも観客席から観戦をしていた。ジェミニストームは仕事がある為、不参加だったが、現場から佐久間たちの勝利を願っていた。

 

飛鳥「さて、準備は出来たかい?」

 

 飛鳥はというと、ジャージに着替えて佐久間チームの監督を務めていた。飛鳥の目の前には一回り成長した帝国イレブンがいた。そしてその中には帝国のユニフォームを身にまとった鬼道もいた。そして、春奈がマネージャーについていた。

 

飛鳥「今回は鬼道くんもいるけど、キャプテンは佐久間くん。君にやって貰うよ」

佐久間「分かりました」

飛鳥「フォーメーションは説明した通りね」

 

FW: 寺門 佐久間

MF 咲山 恵那 洞面

     辺見

DF 万丈     五条

    大野 成神

GK    源田

 

飛鳥「相手の状況を見て鬼道くんを投入するけど、極力佐久間くん達で頑張って」

「はい!!」

 

 一方、不動チームはというと、監督の安西は何も言えずにいた。

 

 

FW   比得 相馬

MF 日柄 不動  小鳥遊

      目座

DF 弥谷     竺和

    帯屋  郷院

GK    片倉

 

 

 

不動「お前ら。今回はあの鬼道もいる。油断はするんじゃねーぞ」

「おう!!」

 

 そして両チームが整列し、キャプテンである不動と佐久間、そして佐久間の隣にいる鬼道が向き合う。

 

不動「何だ。キャプテンは鬼道じゃねーのかよ。ガッカリだぜ」

鬼道「オレとしては佐久間に任せたいと思っているんだ。悪いな」

佐久間「此間のようにはいかないぞ」

不動「ヘッ。何度やっても同じだという事を教えてやるよ。観客含めてな!」

 

 こうして戦いの火ぶたが切られた。

 

王将「さあ! いよいよ始まりました! 帝国学園の1軍の座をかけた真剣勝負! この1戦に帝国学園の未来もかかっております!! そしてその試合の実況は私、角馬王将がお送りいたします!!」

 

 帝国学園のアナウンス室から角馬王将が実況をしていた。

 

飛鳥「どこにでも現れるな。あの人…」

春奈「そうですね…」

 

 そんな王将を見て飛鳥と春奈は困惑していた。

 

 

身体能力はそれぞれ互角だった。

 

不動「こっちにボールを渡せ!」

 と、DFの弥谷からボールを受け取った不動はドリブルで攻めていくと、万丈と成神が攻めてきた。

 

不動「2人がかりか…」

 不動がFWの比得にパスしようとしたが、

 

成神「渡すかよ!!」

万丈「行くぞ!」

 

 すると万丈と成神が同時に足を振り上げて、竜巻を起こした。

 

万丈・成神「ダブルサイクロン!!!」

不動「ぐわあっ!!」

 

 不動は吹き飛ばされて、成神がボールを受け取り、万丈にパスをし、前にいた咲山に送った。その華麗なパス回しに観客は感心していた。

 

栗松「パスがつながったでやんす!!」

壁山「これならいけるっすよ!!」

 

 そして咲山のパスは寺門に渡った。

 

寺門「佐久間! 洞面! 行くぞ!!」

佐久間・洞面「おう!!」

不動「デスゾーンか…」

 

 寺門がボールを高く蹴り上げて、2人に合図を送ると、デスゾーンだと察知した不動だったが、流石に同じ手は使わないだろうと思い、デスゾーンの構えとは違い、3人が一旦しゃがみこんでいた事に今までとは違う事を察知した。

 

不動「ディフェンス!! 固めろ!!」

 

 不動が守備陣に指示を出すと、佐久間・寺門・洞面がしゃがんでからハイジャンプをすると、そのままデスゾーンの要領で3人とも回り始めた。ボールの周りには紫色のオーラがまとわり、そして3人が同時にシュートを撃った。

 

佐久間・寺門・洞面「デスゾーン…2!!!」

 

 完成した「デスゾーン2」はあっという間にディフェンス陣を超えて、真帝国側のゴールキーパーの片倉に襲い掛かった。

 

片倉「前と同じように止めてやる。フルパワーシールド!!」

 

 片倉はジャンプして右の拳を地面につけて、強力なシールドを張ったが、すぐに突破された。

片倉「な、なにぃ!? ぐわあああああ!!」

王将「ゴール!!! 佐久間チームが先制点を決めたー!! 河川敷で練習したデスゾーンの進化系、デスゾーン2で華々しく決めたー!!」

 

 王将がアナウンスをすると、帝国学園の観客席が大いににぎわっていた。

 

春奈「やったぁ!!」

飛鳥「……」

 

 技が決まり、春奈が喜んでいると、飛鳥が練習の時を思い出していた。

 

*********

 

「ハァ…ハァ…」

 

 日が暮れてまで、佐久間・寺門・洞面が練習をしていたが、中々上手く行かなかった。

 

寺門「なにがいけねぇんだ!」

洞面「デスゾーンの進化系なんて…本当に出来るのかな…」

佐久間「何が何でもやるんだ!!」

 

 そう言っていると、飛鳥と鬼道がやってきて、佐久間達も飛鳥達に気づいた。

 

佐久間「コーチ!」

飛鳥「中々苦戦してるみたいだね」

鬼道「出来そうか?」

 

 鬼道の言葉に3人が俯いた。

 

飛鳥「色々考えてはみたんだ」

佐久間「はい…。でも、どうやっても技の威力が大きくなるとは…」

飛鳥「タイミングとかずらしてみた?」

「えっ?」

 

 飛鳥の言葉に佐久間達は反応した。

 

飛鳥「デスゾーンって、いつもやっている通りにしてる?」

佐久間「は、はい…」

洞面「少しでもずれると、技が上手く行かないから…」

飛鳥「じゃあ、同時に回る奴のスピードとか変えてみたらどう? オレの経験上、それでも十分に違うと思うんだけど」

佐久間「えっ…」

鬼道「やってみる価値はある。明日またやってみるんだ」

寺門「そ、それだったら今からでも…」

鬼道「もう休め。無理をして体を壊されては困る。万全の態勢でやらなければ意味がない」

 

 鬼道にそう言われて、明日飛鳥の言った通りタイミングを少しずらしてみると…。少しだけ威力が高まった気がしたという。

 

佐久間「この感じだ!!」

洞面「何かいつもより大きくなった感じがするよ!!」

寺門「この調子でやってみようぜ!!」

 

 

*****************

 

寺門「やったな佐久間!」

洞面「上手く行ったね~」

佐久間「ああ。威力も確かに高まっている!」

 

 技の完成に佐久間達は喜び合った。

 

洞面「鬼道さんが言っていた通り、ちゃんと掛け算になったね~」

佐久間「そうだな…」

 

 鬼道からは今までのデスゾーンが足し算なら、デスゾーン2は掛け算で行うように指示を出されていたのだった。

 

寺門「これなら不動たちに勝てるぜ!!」

 

 そう寺門が言っていたのを不動が遠くから聞くと、無表情で片倉に近づいた。

 

 

片倉「そ、そんな馬鹿な…。此間は止められたのに…」

 

 片倉はデスゾーンを止めた自信があったのか、今回止められなかったことにうろついていた。すると不動が近づいた。

 

片倉「ふ、不動さ…」

 

 すると不動が片倉の胸ぐらをつかんだ。それに対し、円堂達が驚いた。

 

不動「油断するなって言っただろうがバカが! 次やったらここにてめぇの居場所はないと思え!!」

 

 不動の言葉に他のメンバーも片倉を睨みつけた。

 

 そして試合が継続されたが、佐久間チームのペースで試合が進んでいった。佐久間チームの新技だけではなく、飛鳥の練習の元で強化されたフィジカルは、時間が経つにつれて発揮された。不動チームの選手の動きが悪くなる中、佐久間チームは試合当初のポテンシャルをキープし続けていた。

 

春奈「特訓の成果が出てますね」

飛鳥「ああ。相手の動きをよく見て、無駄な動きは一切しないようトレーニングで矯正をしておいた。これなら時間をかけて体力をのばすトレーニングをしなくても、渡り合えるはずだ」

 

 佐久間チームに押されている事で、不動も内心焦っていた。

 

不動(オレはこのまま終わる訳にはいかねぇんだよ…!!)

 

 そして不動の脳裏にある事がよみがえった。

 

『弱者に言い分などない。強い奴だけが生き残るんだよ』

 

『明王。あなたはお父さんのようにならないで、偉くなって人を見返してやりなさい…』

 

 そしてボールは不動に渡った。

 

佐久間「させるかよ!!」

 

 寺門がブロックを仕掛けようとしたその時、不動は佐久間の胸にボールを当てた。

 

佐久間「なっ!!」

不動「ジャッジスルー2!!!」

 

 審判の見えない所で不動は佐久間に対して、十数回蹴りを入れ、そのまま佐久間を蹴り倒した。

 

「!!」

佐久間「ぐわああああーっ!!」

鬼道「佐久間!!!」

 

 蹴り倒された佐久間はそのままうずくまっていた。

佐久間「うっ…ううっ…!!」

不動「おいおい。ぼさっと突っ立ってるのが悪いんだぜ?」

 

 不動が悪態をついたが、途中で気づいた審判も流石にまずいと判断したのかファールとして笛を吹いた。

 

 

つづく

 



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第55話「禁断の技・皇帝ペンギン1号!」


 前回までのあらすじ

帝国学園サッカー部のレギュラーの座をかけて、佐久間チームと不動チームが激突。練習の成果を発揮した佐久間チームはデスゾーンの進化系「デスゾーン2」を佐久間、寺門、洞面の3人が発揮し、不動チームから先制点を奪取。

そんな中不動は連携技に対して危機感を感じ、佐久間にラフプレーを仕掛けた…。







 

 佐久間がグラウンドにうずくまって、一旦試合が止まった。

 

不動「おいおい。この程度でうずくまって同情を誘おってか? いつからそんな汚い手を使うようになったんだよ」

 

 不動が悪態をつくと寺門が不動に突っかかった。

 

寺門「てめぇ!! 今のわざとだろ!!」

佐久間「やめろ寺門!!」

 

 佐久間が止めると寺門が佐久間を見た。佐久間は少し辛そうにしていたが、何とか立ち上がった。

 

佐久間「手を出したらお前が退場になる。オレは大丈夫だ…」

寺門「…チッ」

 

 寺門が視線をそらすと、不動は悪びれた様子はなかった。

 

不動「流石元帝国のキャプテン。ちゃんとチームメイトを制する事ができて偉い偉い」

佐久間「……」

 

 不動の挑発を佐久間は無視すると、不動はチームメイトの方を見た。

 

不動「おいお前ら」

「!」

不動「本気で勝ちに行くぞ。アレを使って良いぜ」

佐久間「!!?」

 

 不動の言葉に佐久間が反応すると、真帝国のFW陣が不敵な笑みを浮かべた。

 

佐久間(まさか…本当に…!!)

 

 そして、試合が開始した。

 

佐久間「奴らにシュートを撃たせるな!!!」

 

 佐久間が指示を出すと、佐久間チームは不動チームの選手を徹底的にマークをしたが、

 

不動「遅いんだよ!!」

 

 不動が切り抜けて、ガラ空きだった日柄にパスが渡った。そして不動が笑みを浮かべる。

 

不動「やれ!! さっさとあの技だ!!」

日柄「ああ…」

 

 すると日柄が指笛を吹くと、赤いペンギンが出てきた。

 

鬼道「あれは…!!!」

 

 赤いペンギンが出て来た事で鬼道も焦り始めた。日柄が右足を後ろに振り上げると、複数の赤いペンギンが足に刺さった。

 

日柄「皇帝ペンギン…1号!!!」

 

 そしてそのまま蹴り上げると、強力なシュートが放たれた。源田は皇帝ペンギン1号に驚くあまり、反応が遅れてそのまま失点してしまった。

 

王将「ゴール!! 日柄が1点を決めたー!!!」

 

 王将がそうアナウンスし、佐久間チームが驚きを隠せなかった次の瞬間、日柄に異変が起きた。

 

日柄「ぐ…ぐあああああああああああああああああ!!!!!」

 

 沢山の汗を流して悲鳴を上げた。

 

「!!?」

 

春奈「な、何が起きてるの!? お兄ちゃん!!」

 

 春奈が鬼道の方を見て話しかけた。

 

鬼道「前にも話したが、皇帝ペンギン1号の副作用だ」

「!」

鬼道「どういうことだ!? 書物は佐久間達が処分した筈じゃなかったのか…!?」

 

 そして不動は日柄の所にやって来た。

 

日柄「ふ、不動さん…」

不動「上出来だ日柄。次も頼むぜ」

日柄「は、はい…」

 

 不動は容赦なく皇帝ペンギン1号を撃たせようとした為、佐久間が突っかかった。

 

佐久間「待て!!」

「!?」

佐久間「どうしてお前が皇帝ペンギン1号の事を知っている!? あれに関する資料はオレ達が処分した筈だ!!」

不動「敵に教える義理はねェよ。だが…」

 

 不動が馬鹿にしたように笑いながら佐久間の方を見た。

 

不動「オレ達に勝ったら教えてやっても良いぜ?」

「!」

不動「まあ、出来ればの話だけどな。ハッハッハッハッハ!!」

 

 そう言って不動は笑いながら仲間と共に去っていった。

 

壁山「何なんすかあいつ! あったま来るっす!」

塔子「あたし、あいつ嫌い!」

 

 不動のふるまいを観客席から見ていた壁山と塔子が激怒していた。そして不動のふるまいを快く思っていなかったのは、他のメンバーも同様だった。

 

豪炎寺「皇帝ペンギン1号…なんて威力だ…」

円堂「鬼道…」

 

 豪炎寺と円堂も真剣な様子で試合を見ていた。

 

 そしてベンチでは…。

 

鬼道「一丈字コーチ」

飛鳥「出たい?」

「!」

 

 鬼道の言葉に飛鳥はすぐに察知した。

 

飛鳥「でも後半戦まで待って」

鬼道「そんな事言ってる場合じゃありません! おそらくMFが使えるという事は、皇帝ペンギンは…」

飛鳥「恐らく不動くん以外は覚えてるだろうね。皇帝ペンギン1号」

「!!?」

 

 飛鳥の言葉に鬼道や春奈、帝国のベンチ選手は驚いた。

 

鬼道「だったら!!」

飛鳥「頭を冷やしな鬼道くん」

「!」

 

 飛鳥が厳しい態度で鬼道を見つめた。

 

飛鳥「そりゃあキャプテンとして心配なのは分かるけど、恐らくこれも不動くんの作戦だと思うよ。今の君が出ても足手まといになるだけだ」

鬼道「!!」

飛鳥「それに、佐久間くん達の様子を見てごらん」

 

 鬼道が佐久間達を見つめると、不動に突っかかっていたが、冷静さを取り戻して作戦を考えている。

 

飛鳥「今の帝国のキャプテンはもう君じゃない。佐久間くんだ。彼を信じるんだ」

鬼道「佐久間…」

 

 飛鳥はベンチの選手を見つめた。

 

飛鳥「君達もいつでも出れるように準備してね」

「はい!」

 

************************

 

 そして試合が再開されたが、勝負はほぼ互角であるが、佐久間達は極力ボールを取られないようにしていた。

 

佐久間「皇帝ペンギン1号ばかりに気を取られるな!!」

「おう!!」

 

 佐久間が声掛けをした事で、チームメイト達も目の前のディフェンスなどに集中していた。

 

不動「チッ…!!」

 

 自分の想定していた通りにならず、不動は悪態をついていた。

 

春奈「佐久間さん達の動きが良くなりましたよ!」

鬼道「ああ…」

飛鳥「……」

 

 鬼道と春奈が安心したようだったが、飛鳥は険しい様子で見ていた。

 

春奈「…コーチ?」

飛鳥「いや、不動くんなんだけど…彼、本当に才能があるよ」

 

 飛鳥がそう呟くと、悲しそうにしていた。というのも、サッカーの技術だけではなく、皇帝ペンギン1号をちらつかせることで佐久間達を動揺させて、連携を乱す作戦を考えていたと踏んでいた為だった。

 

春奈「…どうしたんですか?」

飛鳥「何でもないよ。本当に勿体ないって思っただけ」

 

 そして前半終了目前、佐久間にボールが渡り、そのままドリブルを仕掛けた。

 

佐久間「行くぞ!!」

 

 佐久間がシュートを決めようとしたその時だった。不動がスライディングタックルを仕掛けてきて、佐久間が転倒した。

 

鬼道「佐久間!!!」

 

 

 審判の笛が鳴り響き、不動にイエローカードが出された。

 

 

 

 

 

 

つづく

 





ファールがあった後はフリーキックをするのではないかというご指摘があった為、
文章を一部修正しております。


誠に申し訳ございません。


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第56話「不動明王という男」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 帝国学園1軍の座をかけた戦いは白熱していたが、不動の悪質なスライディングタックルにより、佐久間は負傷してしまう。

 

 不動にイエローカードが出され、帝国からのフリーキックで試合が再開されたが、佐久間は完全に足を痛めてしまった…。

 

*******************

 

王将「ここで前半戦終了―!!! 1-1で同点!! 果たして帝国学園1軍の座はどちらの手に!!」

 

 王将のアナウンスでハーフタイムがとられ、佐久間チームでは春奈が佐久間にアイシングをして、飛鳥が怪我の具合を見ていたが、佐久間の脚は腫れあがっていた。

 

飛鳥「こりゃあ後半戦を出るのは無理だな」

佐久間「そ、そんな…!! オレはまだやれます!!」

飛鳥「ダメだ」

 

 佐久間は後半戦も出ようとしていたが、飛鳥は首を縦には降らなかった。

 

飛鳥「気持ちは分かるけど、さっきもまともに動けなかっただろう。それに皆も君に気を遣って満足なプレーが出来ない。チームの為に外れてくれ」

佐久間「……」

鬼道「佐久間…」

 

 悔しそうに表情を歪める佐久間に対して、鬼道が呟くと、鬼道が表情を歪めた。すると春奈がある事に気づいた。

 

春奈「コーチ」

飛鳥「?」

 

 飛鳥がコーチの方を見た。

 

春奈「あの不動っていう人、一体何があったんですか?」

「!?」

鬼道「春奈…?」

春奈「コーチ言ってたじゃないですか! 勿体ないって…。もしかして、何かあったんじゃないですか?」

 

 春奈の言葉に飛鳥が口角を下げた。

 

飛鳥「何かあったことは間違いないけど、他人のプライバシーにやたら首を突っ込むものじゃないよ」

春奈「でも!!」

飛鳥「…まあいいや。ここまでやられちゃ、隠す必要もないな」

「!」

 

 飛鳥が鬼道たちを見渡した。

 

飛鳥「不動くんも元々はサッカーを愛するごく普通の少年だった」

「!」

飛鳥「だけどある日の事、彼のお父さんは会社の上司に濡れ衣を着せられたんだよ。そして多額の借金も負わされて、生活が一変してしまった」

「……!」

 

飛鳥「毎日借金取りが押し掛けては、お父さんが土下座をして殴られる日々。そしてそんなお父さんに愛想をつかしたお母さんは彼にこう言ったんだ。「偉くなって人を見返せ」と」

春奈「そ、そんな事が…!!」

 

 不動の過去に春奈や帝国イレブンが驚いた。

 

飛鳥「それからというもの、彼はお母さんの言いつけ通り、偉くなって人を見返す努力をした。だけど、お父さんの事があって学校でも同級生とトラブルが連発して、いつしか人を見返す為に手段を選ばなくなった。そしてつい最近だ、帝国学園に転入をしてきたという訳だ」

「おいおい、随分べらべら喋ってくれてるじゃねぇか」

「!!」

 

 不動が現れた。過去をバラされて怒っているかと思われたが、いつも通りだった。

 

寺門「てめぇ…」

不動「どうしたよ。佐久間にスライディングタックルを仕掛けたんだぜ。さっきみたいにキレてみろよ」

佐久間「……」

 

 不動が悪態をついたが、誰も何も言わずにいると、不動は苛立った。

 

不動「そんなにオレが可哀想か?」

飛鳥「ああ、可哀想だし、悲しい奴だな」

 

 飛鳥が言葉を吐くと不動が青筋を立てた。

 

飛鳥「聞きたい事がある。皇帝ペンギン1号。あれ、君以外使えるよね?」

 

 飛鳥の言葉に不動が冷静さを取り戻し、不気味な笑みを浮かべた。

 

不動「…ああ、そうだぜ。オレが教えたんだ」

 

 不動の言葉に鬼道が激昂して、不動の胸ぐらをつかんだ。

 

鬼道「なぜあの技を教えたんだ!! あの技は禁断の技だったんだ!! あれを使えばお前たちの身体は…」

 

 鬼道の言葉に不動は笑みを浮かべて、

 

不動「クククク…ハーッハッハッハッハッハ!!!」

 

そう不動が高笑いすると、一変して怒りを込めた表情になり、鬼道を突き飛ばした。

 

鬼道「ぐわあっ!!」

春奈「お兄ちゃん!!」

不動「てめーに何が分かる!! 裕福な生活を送って、影山に気に入られて言いなりになってたてめーなんかに!」

 

 不動の激昂した様子に、遠くから見ていた不動チームも困惑した表情を見せていた。

 

円堂「鬼道!!」

染岡「あいつ…!!!」

 

 観客席から見ていた円堂達も鬼道が突き飛ばされているのを見て反応した。

 

不動「皇帝ペンギン1号だけどな、お前らに不満を持っていた所謂「反鬼道派」がオレ達の為に用意してくれたんだよ」

佐久間「そ、そんな馬鹿な!! 資料は確かに…」

不動「てめぇらが練習してる間に、資料を盗み出したんだとよ。ハッハッハッハ!! お前らも相当嫌われてるみてぇだな!!」

 

 そう言って不動はまたいつものように上機嫌になると、鬼道に笑みをぶつけてきた。

 

不動「あそこにいるあいつらもオレと同じさ。憎くて憎くて仕方ない相手をぶちのめす為に皇帝ペンギン1号を覚える道を選んだんだ。あのシュートがあれば誰も打ち返す事なんて出来やしねぇ!! そこにいる源田も次喰らったら完全に腕が壊れるだろうぜ!!」

 

 不動の狂気満ちた表情に帝国イレブンの大半怯え、春奈は涙目で怯えていた。不動の過去を聞いた後で、ここまで人を悪い方向に変えてしまった事を実感していたからだった。

 

不動「後半戦は積極的に皇帝ペンギン1号を打っていく」

「!!」

不動「けが人を出さないうちにさっさと棄権するんだな!!」

鬼道「誰が棄権などするか!!」

不動「元キャプテンらしくねぇな。仲間に怪我を負わせたいのか?」

鬼道「お前の好きにさせるわけにはいかない」

不動「だが、コーチとやらが試合に出さなければ意味がないぜ。まあ、何ならコーチも出ても良いぜ? オレ達の勝ちは決まってるだろうからな!!」

 

 そう言って不動が高笑いすると、飛鳥はいつも通りだった。

 

飛鳥「あ、そう?」

 

 

********************

 

 そして後半戦…。

 

王将「さあ、後半戦が始まりました…って、えーっ!!? これは一体どういうことだーっ!!!?」

「!!?」

 

 なんと、佐久間チームのゴールポストには、帝国のユニフォームを着た飛鳥が立っていた。背番号は21番である。飛鳥は自信満々にグローブをはめている。

 

王将「帝国学園の監督を務めている一丈字飛鳥監督自らが試合に出ているーっ!!」

 

 

 監督の自らの出場に帝国イレブン以外は誰もが驚いた。

 

 

 

つづく

 



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第57話「GK・一丈字飛鳥!」

 

 後半戦が始まろうとしていたが、飛鳥が佐久間チーム側のゴールポストに立っていて、観客たちが騒然としていた。

 

秋「一丈字コーチ!!?」

円堂「え!?」

 

 雷門イレブンも驚いていた。

 

王将「お待ちください…。な、なんと選手登録もされています! 控えのGKである兵藤と交代した模様!!」

 

 背番号12番の兵藤は一応ベンチにはいたが、試合には参加しなかったのだ。

 

**************

 

飛鳥「兵藤くん。申し訳ないんだけど、今回はちょっとオレに試合を出させて貰えないかな」

兵藤「えっ!?」

 

 源田とGKの練習をしていると、飛鳥から交代の申し出があった。

 

飛鳥「勿論戦力にならないからじゃないぜ。不動くんの事でね…」

兵藤「分かりました…」

 

 兵藤は悔しそうにしていたが、すぐに飛鳥を見た。

 

兵藤「鬼道さんも帰ってきて、黒星をつけさせるわけにはいきません。お願いします!」

飛鳥「ありがとう」

源田「兵藤…」

 

 源田は兵藤の内情を察知しつつも、彼の分まで頑張る事を決意した。

 

飛鳥「で、君達にはもう事前に作戦を伝えておく…」

 

 源田と兵藤は事前に飛鳥が試合に出る事を伝えられていたが、それ以外の帝国イレブンは全く知らなかった為、動揺を隠せなかった。ちなみに内緒にしていたのは不動チームのスパイがいる可能性があった為、極力話したくなかったのだ。

 

***************

 

飛鳥「皆! 思いっきりサッカーやっちゃって!!」

 

 飛鳥が後ろから声をかけると、成神と万丈が困惑した。

 

成神「…まさかコーチ自身が参加するとは」

万丈「全く、ぶっ飛んでやがる…」

五条「面白いじゃないですか」

「!!?」

 

 五条が笑みを浮かべながら話すと、成神と万丈が五条を見た。

 

五条「そして前には鬼道さんがいる。これ程安心できるものはございませんよ」

成神「た、確かにそうだけど…」

五条「私達もリラックスしていきましょう。新必殺技のお披露目はまだ終わってないんですからね。ヒーッヒッヒッヒッヒッヒ」

 

 五条は笑いながら自分の持ち場についたが、万丈と成神は唖然としていた。

 

成神「…相変わらず何考えてるか分かんないっスね。五条さん」

万丈「ああ…。鬼道さんですら分かんねぇって言ってたからな…」

 

 佐久間チーム・ポジション

 

  寺門・恵那

 咲山・鬼道・洞面

    辺見

成神       五条

  大野  万丈

    飛鳥

 

 

源田(お願いしますよ。一丈字コーチ…)

佐久間(鬼道…)

 

 佐久間と源田はベンチから飛鳥達を見つめていた。春奈は心配そうに帝国イレブンを見つめる。

 

 そしてホイッスルが鳴ると、真帝国ボールから始まった。

 

不動「やれ!!」

比得「ああ!!」

 

 すると比得が指笛を吹きだした。

 

鬼道「!!?」

比得「死にたくなかったらどきなァ!! 皇帝ペンギン…1号!!!」

 

 比得が日柄と同じように足を後ろに上げると、赤いペンギンが足に刺さった。

 

比得「ヒェエエエエエエエエエエア!!!!」

 

 比得の強力シュートがFW、MF、DFをすり抜けていった。

 

大野「しまった!!」

万丈「一丈字コーチ!!」

 

 ボールは飛鳥の所まで来ていたが…。必殺技を使わずに片手であっさり止めてしまった。

 

「!!?」

王将「な、なんとー!! 一丈字が必殺技を使わず皇帝ペンギン1号を止めてしまったー!!!」

 

飛鳥「いってぇ…ちょっとカッコつけすぎたな」

 

 ボールを受け止めた飛鳥はグローブの掌を見たが、少し焦げていた。そしてシュートを撃った比得を見ると、

 

 

比得「ひっ…ヒェエエエエエエエエエエエエア!!!!」

 

 シュートの副作用で体に激痛が走った。

 

鬼道「不動!! これ以上皇帝ペンギン1号を使わせるな!!」

不動「知るかよ。こいつが勝手にやった事だ」

 

 とはいえ、必殺技を使わず、片手で受け止めた事にショックを隠し切れなかった。距離も確かにあっただろうが、比得のキック力ならそれなりに行けた筈だった。

 

飛鳥「皆! 後半はボールを回さないでしっきりキープすることを心掛けろよ!」

「はい!!」

 

 ちなみにキャプテンマークを付けているのは鬼道である。

 

飛鳥「万丈くん!」

 

 飛鳥が万丈にパスを回すと、そのままドリブルをして、五条にパスを回した。その時だった。

 

飛鳥「こっちだ!」

 

 飛鳥がゴールラインから上がっていたのだった。

 

成神「ええっ!!?」

万丈「マジかよ!!」

 

 飛鳥の行動に成神、万丈、大野は驚きが隠せず、

 

円堂「コ、コーチ!!?」

夏未「まるで誰かさんを見てるようね」

 

 円堂も驚いていたが、夏未の一言で円堂以外の雷門イレブンが苦笑いしていた。

 

五条「頼みますよ。ヘェア!!」

 

 五条からパスを受け取った。

 

日柄「行かせるか!!」

 日柄のブロックを簡単にかわすと、飛鳥はボールをあげてそのままシュートを放った。するとボールはあっという間に片倉の横を通過してそのまま入った。

 

片倉「え…」

不動「な…!!」

 

王将「ゴ、ゴール!!! 一丈字!! まさかのロングシュートで2点目を先取した~!!!」

 

 王将がアナウンスをすると、観客はざわついていた。

 

豪炎寺「あんな所からロングシュートを…!!?」

一之瀬「エイリア学園最強チームの元キャプテンっていうのは、嘘じゃなさそうだね…」

 

 豪炎寺と一之瀬も飛鳥の実力を見て驚きを隠せず、

 

壁山「あわわわわ…あんな凄い人が敵だったら勝てる気しないっす…」

栗松「エイリアを裏切ってくれて良かったでやんす…」

 

 壁山と栗松は恐れて抱き合っていた。少林寺と風丸は飛鳥の試合を息をのみながら見ていた。すると土門が話しかけてきた。

 

土門「…そういや、漫遊寺でコーチが練習してる所とか見てたんだよな?」

風丸「ああ…。あの人は足がとても速い。オレよりも遥かにな…」

少林寺「スタミナだって滅茶苦茶ありますよ。もしかしたら、ジェミニ以外のチームってオレ達が考えてる以上に強いと思います…」

 

 すると飛鳥の元に帝国イレブンが寄ってきた。

 

飛鳥「ごめんね。好き勝手やっちゃって」

成神「もういきなりゴールから飛び出すからビビったぜー」

万丈「帝国のサッカーじゃあり得ねぇよ…」

 

 成神と万丈が悪態をつくと、鬼道は飛鳥に出た。

 

鬼道「ちゃんとした理由があるんでしょうね?」

飛鳥「あるよ。今の不動くん達の顔が答えだ」

 

 そう言って飛鳥達が不動を見ると、不動は少し動揺が隠せない表情をして、他のメンバーは恐れおののいていた。

 

飛鳥「皇帝ペンギン1号を破られると思ってもいなかったんだ。ゆさぶりをかけ返したのさ。どっかのドラマでも言ってたでしょ。やられたらやりかえす」

洞面「倍返し~ってね!」

飛鳥「そういう事。それじゃ、次の作戦に行こうか」

 

 そう言って飛鳥達は準備をするのだった…。

 

 

つづく

 



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第58話「決着! 帝国学園!」

 

 

 飛鳥がGKになり、比得の皇帝ペンギン1号を片手で止め、ロングシュートで2点目を制した。

 

 この事実に不動は焦りを感じ始めた。

 

小鳥遊「不動! 完全に押されてるじゃないのよ!!」

日柄「ちゃんと考えてるんでしょうね!?」

不動「とにかくお前らは隙を狙って皇帝ペンギン1号を撃て。オレがボールを奪ってやるよ」

 

 不動がそう言うと、飛鳥は手を上げた。

 

飛鳥「ポジションチェンジ!」

「えっ!?」

 

 そして…。

 

FW  寺門 飛鳥

MF 咲山 鬼道 洞面

      辺見

DF 成神     五条

    大野 万丈

GK    源田

 

秋「今度はFW!?」

 

 飛鳥がフィールドプレイヤーのユニフォームを着てFWの位置にいた。

 

少林寺「前にポジションは全部出来るって聞いてましたけど…」

「えっ!!?」

 

 皆が少林寺を見つめた。

 

風丸「あのスピードとキック力なら、FWにも向いてるかもな…」

豪炎寺・染岡「……」

 

**************

 

 そして笛が鳴ると、比得が相馬にパスをすると、

不動「オレにボールを渡せ!!」

相馬「!!」

 

 相馬が不動にパスを渡そうとしたが、飛鳥が瞬時にカットした。

 

「!!?」

飛鳥「悪いな。3点目もすぐに貰う事にするよ」

 

 そう言って飛鳥はMF、DFを軽々とかわして、ゴール前に来た。

 

片倉「こ、来い! さっきみたいには…」

 

 飛鳥がシュートを放つと、片倉が構えだした。すると源田は構えに見覚えがあったのか、焦っていた。

 

源田「あの技は…!!」

片倉「ビーストファ…」

 

 片倉が技を出そうとした瞬間、ゴールを割られてしまった。飛鳥のシュートが早すぎて、ついていけなかったのだ。

 

王将「ゴール!!! 一丈字が3点目を奪取したー!!!」

 

 王将のアナウンスに今度は観客も大歓声を上げた。

 

円堂「す、すげぇ!! 一丈字コーチ!!」

目金「流石エイリア学園最強チームの元キャプテンというだけあって…。脱帽せざるを得ませんね」

 

 円堂達も興奮し、円堂や塔子は席から立ち上がっていた。

 

飛鳥「このままハットトリックも達成しちゃおうかな?」

 

 飛鳥が能天気な事を言っていると、鬼道、寺門が言葉を失っていた。

 

鬼道「エイリア学園のトッププレイヤーの実力がこんなものとはな…」

寺門「とてもじゃねぇがついていけない。本当に何者なんだ? あのコーチ…」

鬼道「分からない。だが、これからもオレ達がレベルアップをするのに不足はない」

 

 鬼道と寺門の所にもどってきた飛鳥は、作戦の指示を傳えた。

 

飛鳥「オレがハットトリックを決めたら、あとはあっちにシュートを撃たせないようにボールをキープして。難しそうならドリブル技使っていいから」

鬼道「分かりました」

寺門「ああ…」

 

 そして更に飛鳥はまたボールを奪取した。

 

不動「させるかァアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 不動が飛鳥を追いかけて何としてても、ボールを奪おうとしたが追いつけず、そのまままたゴールを奪い、ハットトリックを達成した。

 

「そ、そんな…」

 

 不動チームは飛鳥の圧倒的な実力に絶望していた。

 

飛鳥「さて、ここまでだな…」

「!?」

 

 飛鳥が手を上げた。

 

飛鳥「選手交代!! 私と恵那くんを交代します!!」

不動「!!?」

 

 飛鳥は恵那と交代をする事を宣言した。

 

飛鳥「じゃ、後は宜しくね。鬼道くん」

鬼道「はい」

 

 飛鳥がベンチに下がろうとすると、不動が突っかかった。

 

不動「待て!!」

 

 不動の言葉に飛鳥が振り向いた。

 

飛鳥「話は試合が終わってから聞くよ。じゃあね」

 

 そう言って飛鳥はその場を去って恵那と交代した。

 

春奈「コ、コーチ…」

飛鳥「今頃後悔してるだろう。コーチを出しても良いなんて大口を叩いた事」

 

 飛鳥が笑みを浮かべた。

 

飛鳥「まあ、本当に出る奴があるかって話だけど、皇帝ペンギン1号を撃たせる訳にはいかないからね。最初GKになって止めた事で、彼らの中ではもう勝ち目はないと思ってるんじゃないかな」

「!」

飛鳥「人が完全に調子が崩れる時ってどんな時か分かるかい?」

春奈「わ、分かりません…」

飛鳥「予想外の事態が起きた時だ。デスゾーンだってそう。前の試合では止めれたのに、今回の試合は止められなかった。おまけにハットトリックも達成されて、残りのメンバーも何を仕掛けてくるか分からない。多分不動くん達は鬼道くん達の事を得体のしれない何かだと思ってると思うよ。君達が雷門中で最初にジェミニストームと見た時と同じようにね」

 

 飛鳥の言葉に春奈も佐久間もそのほかの選手も驚きを隠せなかった。

 

 そして笛が鳴って試合が始まった。比得が相馬にパスを渡したが、完全にあきらめムードだった。

 

不動「こっちにボールをよこせ!! オレが…」

 

 その時、寺門が相馬からボールを奪った。

 

不動「チッ!! このバカが!!!」

 

 不動はボールを奪おうとしたが、帝国は奇麗なパスで不動たちにボールをわたらせないようにした。すると、五条は辺見、万丈に合図を送った。

 

五条「こっちにパスを!」

辺見「おう!」

 

 辺見は五条にパスを渡すと、不動がボールを奪いに来た。すると五条は笑みを浮かべて不動にボールを渡した。

 

春奈「えっ!? なんで!?」

飛鳥「……」

 

 五条の行動に春奈は驚いたが、飛鳥と佐久間は確信した。

 

不動「馬鹿な奴だ」

辺見「馬鹿なのはどっちだ?」

「!?」

 

 不動は五条、辺見、万丈に囲まれて、そのまま突進させる。

 

五条・辺見・万丈「シグマゾーン!!!」

 

 不動はぶっ飛ばされて、辺見がボールを奪った。

 

辺見「洞面」

 

 辺見が洞面にパスを渡すと、不動が立ち上がった。

 

不動「させるかァアアアアアアアアア!!!」

 

 不動が猛追をすると、小鳥遊が洞面の前に立ちはだかった。

 

洞面「!」

小鳥遊「サイクロン!!」

 

 小鳥遊が足を後ろに揚げて振り上げると、竜巻が起きて、洞面が吹き飛ばされた。

 

鬼道「洞面!」

小鳥遊「不動!!」

 

 小鳥遊が不動にパスを送ると、鬼道が防いでそのままボールの小競り合いが行われた。

 

不動「チッ…!」

鬼道「この試合はオレ達が勝つ。帝国学園サッカー部の為にもな」

不動「うざってぇんだよ!!」

 

 そう言って不動は強引に鬼道を突破しようとするが、鬼道は食らいついた。

 

不動「オレは勝たなきゃいけねぇんだよ!!」

鬼道「仲間を犠牲にしてまで得る勝利に一体何の価値がある!! それではまるで…」

不動「影山のようだ。だろ? てめぇには分かんねぇつってんだろ!!」

 

 不動が鬼道に対してラフプレーを仕掛けるが、鬼道も屈することなく、不動を足止めしていた。

 

鬼道「お前のチームメイト…比得達が今の帝国サッカー部に不満を抱いている事、お前の昔の事、オレがお前達の為に全部はしてやれない」

不動「だったら首突っこむんじゃねぇよ!」

鬼道「だが、皇帝ペンギン1号を使っていい理由にはならないし、帝国サッカー部はお前達だけのものじゃない! 何としてでもオレはお前たちをここで止める!」

不動「帝国を見捨てたお前が言える口か!!」

鬼道「オレは見捨てた訳じゃない!! 影山によって傷つけられた佐久間達の仇を討つ為に雷門に入ったんだ!」

不動「ほざけよ!!」

 

 鬼道と不動の激しい競り合いに、皆は心を打たれた。飛鳥も鬼道と不動の戦いを見守っている。

 

鬼道「そして今も…佐久間達や…お前達のに戦っている!!」

 

 鬼道が突破すると、

 

鬼道「寺門!! 洞面!! デスゾーン2だ!!」

寺門・洞面「!!」

 

 鬼道の号令で寺門と洞面が動いた。

 

不動「させるかァアアアア!!!」

 

 不動が猛追して、後ろから鬼道にスライディングタックルを仕掛けようとした。

 

秋「ああっ!!」

円堂「鬼道!!」

 

 だが、スライディングタックルを鬼道はジャンプして、先に飛んでいた寺門と洞面にタイミングを合わせて飛んだ。

 

春奈「お兄ちゃんもデスゾーン2を!!?」

飛鳥「……」

 

*****************

 

 回想

 

飛鳥「何とかものにしてきたな」

佐久間「ハァッ…ハアッ…ありがとうございます」

 

 試合前、飛鳥は鬼道と共にデスゾーン2の様子を見ていた。

 

飛鳥「どうだい?」

鬼道「ええ。間違いなく進化できています」

洞面「鬼道さんが言うなら、間違いないね…」

寺門「ああ…」

 

 鬼道の言葉に寺門と洞面は安心をしていた。

 

飛鳥「あ、でも当日までに3人の誰かが打てなくなるなんて事を考えられるから…鬼道くんもデスゾーン2使えるようにしといてね」

寺門・洞面「ええっ!!?」

鬼道「戦略の幅を広げる点ではオレも賛成です。不動たちが何を仕掛けてくるのかは分かりません。タイミングはオレの方で執ります」

飛鳥「頼むよ」

 

********************

 

鬼道・寺門・洞面「デスゾーン…2!!!」

 

 鬼道・寺門・洞面がデスゾーン2を繰り出した。またしても不動チームのMF、DF陣をかわしてゴールキーパーの片倉に向かおうとしていたが、片倉の前に不動が立ちはだかった。

 

佐久間「不動!!?」

不動「させるかよ!!」

 

 不動はシュートを蹴り返そうとした。

 

不動「ぐうっ…ううっ…!!」

小鳥遊「やめな不動!!! そんな事したらあんたの脚が!!」

不動「…うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 不動が一思いに叫んだが、シュートの威力は弱まらず、そのままボールと一緒にゴールネットに叩きつけられた。片倉は不動ごと受け止めようとしたがそれも敵わなかった。

 

王将「ゴール!! 鬼道・寺門・洞面がデスゾーン2を繰り出し、追加点を入れたー!!!」

 

 王将がアナウンスをすると、試合終了のホイッスルが鳴った。

 

 

つづく

 



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第59話「帝国のこれから」

 

 

 1軍をかけた試合は佐久間チームの勝利で終わった。

 

「やったやったー!!!」

 

 観客席で見ていた雷門イレブンも喜んでいた。

 

寺門「いよっしゃあ!!」

洞面「これでレギュラー復活だね!! ちょっとズルい気もするけど」

 

 帝国イレブンも喜んでいると、鬼道もそんな彼らを見て笑みを浮かべていた。

 

 

不動「……」

 

 試合終了のホイッスルを聞いて、無表情で天井を見上げていた。

 

片倉「ふ、不動さん…」

 

 片倉が不動に声をかけると、不動は何も言わずに起き上がり、そのまま中央に向かって歩き出した。

 

不動「整列するぞ。お前も来い」

 

 こうして両チームが互いに礼をして、試合は完全に終わった。

 

**********************

 

不動「勝負は完全にオレ達の負けだ」

「……」

 

 佐久間チームと不動チームが向き合っていた。不動は今までのような悪態を見せず、無表情で言い放った。

 

不動「皇帝ペンギン1号のデータもお前達に返してやるよ。負けたんじゃもう必要が無いからな」

 

 不動の言葉に鬼道たちが反応した。

 

佐久間「不動…」

不動「そんな面するなよ。キャプテン」

「!」

 

 不動は佐久間を見た。

 

不動「勝負はお前たちが勝ったから、帝国サッカーの1軍はお前達だ。試合に負けた負け犬はサッカー部を去る事にするよ。じゃあな」

 

 不動が背を向けて去ろうとしたが、

 

佐久間「不動」

 

 佐久間が不動を呼び止めて、不動が佐久間を見た。

 

佐久間「その前に帝国学園サッカー部全体で、これからの方針を話し合う。その後に退部をするなり好きにしてくれ。お前には…洗いざらい聞きたい事がある」

不動「…フン」

 

 不動が笑み浮かべると、そのまま佐久間の誘いを承諾した。

 

**************************

 

佐久間「鬼道、一丈字コーチ。本当にご迷惑をおかけしました」

飛鳥「良いって事よ。オレも久しぶりに試合に出れて楽しかったし」

 

 帝国学園前。雷門イレブン、その関係者、帝国イレブン、が集まっていて、佐久間の言葉に飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「…まあ、色々好き勝手やったけど」

洞面「流石エイリア学園最強チームのキャプテンに内定してただけあって、違うね~」

飛鳥「もうネタバラシするけど、マスターランク皆こんな感じだよ」

鬼道「!!?」

 

 鬼道が飛鳥の方を見ると、飛鳥は平然としていた。

 

飛鳥「まあ、それは置いといて。皆今日までご苦労さん。帝国サッカー部の再建は…」

佐久間「ここからはオレ達だけでやります。オレがキャプテンとしてしっかりしないと」

飛鳥「…そっか」

 

 佐久間の言葉に飛鳥と鬼道、春奈が笑みを浮かべた。

 

源田「オレ達は更に修業を積みなおして、雷門中にまた挑む。それまで待っているがいい!」

洞面「そんな事言って、今日の試合全然良い所なかったじゃないですか~」

源田「うっ…」

 

 洞面の言葉に源田が困惑すると、帝国イレブンが笑い、飛鳥が申し訳なさそうにした。

 

佐久間「そうだ。礼と言っては何だけど、。オレ達が使っていた「デスゾーン2」、ぜひ雷門でも使ってくれ」

鬼道「いいのか?」

佐久間「ああ。鬼道、お前がいればモノに出来る筈だ」

鬼道「佐久間…」

 

 すると鬼道と佐久間が握手した。

 

鬼道「ありがとう」

 

**********************

 

 帝国学園のとある場所

 

不動「……」

 

 不動は一人で佇んでいた。脳裏には飛鳥が今日の試合でハットトリックを決めた事と、ベンチに下がろうとしていた時の事がよみがえっていた。

 

 それを思い出して、不動が歯ぎしりをしていた。

 

「ここにいたの。不動」

不動「……」

 

 不動の後ろには小鳥遊達がいた。小鳥遊はいつも通りにしていたが、他のメンバーは申し訳なさそうにしていた。

 

不動「オレは負けた」

「!」

不動「後はもう好きにしろ」

 

 不動がそう言うと、小鳥遊が一息ついた。

 

小鳥遊「だからここにいるんじゃないか」

不動「…なに?」

 

 不動が小鳥遊の方を見た。小鳥遊は目を閉じた。

 

小鳥遊「あんたの考えてる事は分かってた。アタシらの事を自分がのし上がる為の捨て駒だって考えてたこともね。だから皇帝ペンギン1号は自分だけは覚えず、アタシらにさせた。違う?」

不動「…で? そんなあぶねー奴になんでついてくるんだ? ドMなのか?」

小鳥遊「あんたこそ、1回負けたからって逃げるの? それだったら考えなきゃいけないけど」

不動「逃げる? このオレが? はっはっはっはっはっは!!」

 

 不動が高笑いした。

 

不動「寧ろオレの心に火が付いたんだ。今よりも鍛えこんで必ずあのカマ野郎に一泡吹かせてやるんだよ」

 

 不動の態度に小鳥遊は呆れた。

 

小鳥遊「…どこまでも仲間と一緒にやる気はないのね」

不動「お前らじゃどうせついてこれねーよ。簡単にボールを取られやがって」

小鳥遊「だったらあんたがアタシらを鍛えてよ。あのコーチが出来る事を出来ないんじゃ、夢のまた夢だよ」

不動「言うねぇ…。流石オレに声をかけて来ただけの事はある」

 

 小鳥遊の挑発に不動は笑みを浮かべた。

 

郷院「オレもやるぜ不動!! あのままでかい顔させてられねぇ!!」

比得「ヒエッヒエッヒエッ」

「オレもやるぜ!!」

「オレも!!」

「オレも!!」

 

 不動チームが一丸となったが、日柄がある事に気づいた。

 

日柄「そういえばキャプテン。あの一丈字飛鳥になんでベンチに下がったのか聞かなくて良かったんですか?」

不動「…お前に教える義理はねぇよ」

 

 そう言って不動はその場を後にしようとした。

 

 不動はもう分かっていた。何故飛鳥があの時ベンチに下がったのか。それは自分の役目を終えたからだった。自分たちの最大の必殺技である「皇帝ペンギン1号」を簡単に止めてみせ、圧倒的な力で3点も奪取し、自分たちに大きなプレッシャーを与える。そしてなおかつ、当事者である鬼道たちに後を任せる事で、鬼道たちの成長と、華を持たせようとしていたのだった。

 

 そして自分が最後デスゾーン2を必死になって止めようとした時、ふと飛鳥の方を見ると、飛鳥は「それでいい」という表情で自分を見つめていたのを思い出した。

 

 

不動(気に食わねぇぜ…。どこまでも透かした顔をしやがって…!!)

 

 

 不動は空を見上げた。

 

 

不動(必ずギャフンと言わせてやるぜ。一丈字飛鳥!!)

 

 

 

つづく

 



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第60話「お日さま園のこれから」

 

 

 不動たちとの試合を終えて、飛鳥一行はイナズマキャラバンで帰路についていたが、

 

円堂「今日の試合、とても凄かったです!!」

飛鳥「あ、ありがとう…」

 

 円堂がキラキラした目で隣に座っていた飛鳥に話しかけたが、飛鳥は苦笑いした。

 

半田「まさかあんなに強いなんて…」

栗松「道理でジェミニの奴らがビビる筈でやんす…」

壁山「正直勝てる気がしないっス…」

飛鳥「言っとくけど、マスターランクチームのスピードはあんな感じだからね」

「!!!?」

 

 飛鳥の発言に壁山たちは絶句した。

 

鬼道「コーチ」

飛鳥「なに?」

鬼道「一体今までどんな鍛錬を…」

飛鳥「そうだなぁ…。まあ、普通に練習してたって言っても、納得しないよね」

マックス「普通の域を超えてますもん」

 

 飛鳥の言葉にマックスが困ったように突っ込んだ。

 

飛鳥「まあ、吉良財閥が所有してたトレーニングルームとかで鍛えてた。って言ったらいいかな?」

栗松「や、やっぱり財力でやんすか…」

飛鳥「そんな事はないさ。考えればいくらでも鍛えようがあるよ。白恋のスノーボードみたいにね」

 

 飛鳥の言葉に確かに…という顔で、一之瀬や土門は納得した。

 

飛鳥「まあ、また明日から練習だ」

「はーい」

 

*********************

 

飛鳥「ただいまー」

 

 飛鳥がマンションに帰ってきた。ちなみに名前は『永世マンション』である。

 

「あ、お帰りなさーい」

 

 エントランスにはイオ、ギグ、コラルがいて飛鳥に声をかけた。

 

イオ「帝国の試合どうでした?」

飛鳥「勝ったぜ」

ギグ「そうですかー」

コラル「良かった良かった」

 

 ジェミニストームも佐久間達の勝利を喜んで、すっかりいい奴らになっていた。そんな時、飛鳥のスマホに着信が鳴った。

 

飛鳥「あ、悪い。ちょっと電話に出るわ」

 

 飛鳥が電話に出た。

 

飛鳥「もしもし」

「もしもし飛鳥? 私よ」

飛鳥「姉さん!」

 

 電話の相手は吉良瞳子で、イオ達も反応した。

 

飛鳥「どうしたの?」

瞳子「どうしたもこうしたもないわ。なんで連絡をくれないの」

飛鳥「あー…ごめん。最近忙しくてさ」

瞳子「私と仕事どっちが大事なの?」

飛鳥「それ言いたいだけでしょ。いつの時代の決まり文句なの?」

 

 瞳子の言葉に飛鳥は呆れていた。瞳子は無表情でドライだったが、少なくともこんなジョークを言うような人ではなかった。

 

瞳子「冗談よ」

飛鳥「まあ、冗談を言えるだけ余裕が出てきて何よりだけど、用件は何?」

瞳子「ジェミニ以外の子たちとの面会が許されるようになったわ」

飛鳥「本当ですか!? それじゃあそっちに行っても…」

瞳子「問題ないけど、私としては一回個人であなたに二人で話がしたいわ」

飛鳥「何かドアを叩く音が聞こえるんですけど、大丈夫ですか?」

瞳子「大丈夫よ、問題ないわ」

飛鳥「大丈夫じゃない、問題だ!!」

 

 瞳子がキリっと言うと、飛鳥がツッコミを入れた。

 

飛鳥「まあ、何はどうであれ近いうちに顔を出しに行くね…。何とか金は調達して…」

瞳子「そうね。絶対に喜ぶわ」

飛鳥「それじゃあね」

瞳子「待ちなさい。久々に電話をかけたというのに、もう切るつもりなの?」

飛鳥「姉さん。アンタはいつからそんな人間になってしまったんだ…」

 

 お察しの通りかと思うが、吉良星二郎の娘、吉良瞳子は飛鳥にぞっこんだった。前から読者は疑問に思っていただろう。なんでこんな奴がエイリア学園の女子メンバーにモテるんだと。それは次の章で明らかにします。

 

飛鳥(なんかもう本当にごめんなさい)

 

 飛鳥は何とかうまい事を言って電話を切った。

 

飛鳥「おう、お前ら聞いてたな」

ギグ・イオ・コラル「は、はい…」

飛鳥「近いうちに会いに行くから、予定空けとけ」

 

*************************

 

 そして数日たったころ、雷門イレブンのコーチをしていた。円堂達は一生懸命練習に励んでいる。飛鳥と春奈はベンチに座っていた。

 

春奈「良かったですね。佐久間さん達。無事に仲直り出来て」

飛鳥「そうだね」

 

 先日、佐久間から鬼道あてにメールが来たのだ。

 

内容は帝国のこれからの方針についてで、試合の次の日、佐久間は帝国学園サッカー部部員全員を集めて、話し合いを行った。そして全部員を対象に1軍の座をかけたサバイバルが行われた。

 

結果としては帝国学園現1軍が全員合格し、残りの1人は不動だった。だが、不動は1軍を辞退して、小鳥遊達チーム不動を率いる事を宣言すると、佐久間は温情としてそれを承諾した。

 

飛鳥「結構大きく出たねぇ。どっちも」

春奈「お互い良い刺激になっているそうですよ」

飛鳥「そうだな」

 

 飛鳥が不動の顔を思い浮かべると、笑みを浮かべた。

 

飛鳥「それなら、試合に出た甲斐があったな。色々出しゃばっちゃったっけど」

春奈「そういえばコーチはプレイヤーに戻らないんですか?」

飛鳥「今はお休みだ。コーチをするのも楽しいからね」

 

 飛鳥が練習をしている雷門イレブンを見つめた。

 

飛鳥「お日さま園たちはまた違う輝きを見せてくれて、育て甲斐があるよ」

 

**********************

 

 そして夕方…。

 

飛鳥「今日の練習はここまで!」

「ありがとうございました!」

 

 今日もいつもと同じように練習が終わると…。

 

「飛鳥さん」

 

 レーゼが現れた。

 

飛鳥「リュウジ!」

円堂「緑川!?」

レーゼ「もう練習は終わりですか?」

飛鳥「ああ。どうした?」

レーゼ「迎えに来ました!」

飛鳥「あ、ああ…。そういやそんな事言ってたな…」

円堂「どういうことですか?」

飛鳥「ああ。今日は雷雷軒で食事をする約束をしてたんだ。じゃ、また明日!」

 

 レーゼにそう言われて、飛鳥はレーゼと共に雷雷軒に向かった。

 

 

 そして飛鳥が雷雷軒に入ると…。

 

「あっ! 来た!」

「お疲れ様でーす!」

 

 ジェミニストームのメンバーがいて、飛鳥にねぎらいの言葉をかけた。

 

飛鳥「お前らもお疲れさん」

響木「来たか」

 

 飛鳥がカウンターに立っている響木を見た。

 

響木「今日はこいつ等のおごりだ。好きなだけ食っていけ」

飛鳥「えっ?」

響木「いつも頑張っているお前に何かしてやろうと、内緒でな」

 

 響木の言葉にレーゼ達ははにかんだ。

 

レーゼ「その…今のオレ達がいるのは飛鳥さんが裏で頑張ってくれてるお陰です。最初はオレ達の代わりに、壊された学校の人たちに謝りに行ったり、オレ達が仕事をしている時も、ちょくちょく顔を出して声をかけてくれたりしてましたね。バイト代も貰えるようになって、皆で考えたんです。でも、オレ達の金じゃこれくらいしかできなくて…」

飛鳥「リュウジ…」

 

 飛鳥が真剣な顔をしてレーゼを見つめていた。

 

飛鳥「そこまで気を遣わなくて良かったんだぜ? でも…ありがとう」

 

 飛鳥が穏やかな笑みを浮かべて、レーゼ達を見た。レーゼ達はその顔を見て少し感極まった。

 

飛鳥「ここまでやってくれて、オレは本当に幸せ者だ。あんだけ世話を焼いてたお前達にこんな事をされる日が来るなんて、やっぱり頑張ってみるもんだなぁ」

 

 そう言って飛鳥は苦笑いすると、飛鳥は目を閉じた。

 

飛鳥「…うん。決めた」

レーゼ「?」

 

 飛鳥がレーゼ達をまた見つめる。

 

飛鳥「お前達。今度の休みは空いてるか?」

「え、ええ…」

「まあ…」

飛鳥「愛媛に行くぞ」

「え?」

 

 ジェミニストームのメンバーの言葉に飛鳥は凛とした顔でこう言った。

 

飛鳥「あいつらに会いに行こう。面会がやっとできるようになったんだ」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達は一瞬驚いた顔をすると、何かちょっと気まずそうだった。

 

飛鳥「分かるぜ。あいつらの横暴ぶりはオレも見てたからな。だからこそ見て欲しいんだよ。今のお前達を」

「!」

飛鳥「此間の帝国の試合を見て思ったんだ。お前達もまた一歩踏み出す時だって」

レーゼ「飛鳥さん…」

飛鳥「分かったな?」

「は、はい!」

飛鳥「良い返事だ。それじゃ、腹ごしらえと行くか!」

 

 こうして、飛鳥は雷雷軒でジェミニストームと一緒に食事にありついた。

 

飛鳥「じゃあこれを1つ」

レーゼ「えっ、これめっちゃ高い奴…」

飛鳥「冗談だよ。いざって時は自分で払うさ」

 

 それはそれはとても大賑わいだったという。

 

 

 

つづく

 



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第5.2章 お日さま園編
第61話「再会! お日さま園!」


 

 

 一丈字飛鳥です。私は今、イナズマキャラバンにいます。

 

 宣言通り、私達は保護されているヒロト達に会いに行くために愛媛まで向かっています。あいつら今愛媛にいるんですね。

 

 私の自費でジェミニストームを連れていこうとしたのですが、響木さんが気を利かしてくれてイナズマキャラバンを出してくれました。

 

 万が一のためにと2台あるそうなので、雷門イレブンの皆も誘いました。顔合わせをしていて損もないし、雷門中の復興までまだまだ時間はあるし、合同合宿と考えればいいだろう。ちなみに響木さんはお店があるので不参加です。

 

 ここで私の語りは終わります。

 

 

 1号車:雷門イレブン、マネージャー、舞、角馬

 2号車:飛鳥、ジェミニストーム

 

春奈「今回は行かせて貰えたんですね…」

舞「ええ…。すっごい小言付きで、報告書書けって言われてるけどね…」

 

 春奈の横には上司である角巣に対して文句がありそうなSPフィクサーズの館野舞がいた。本来は角巣が行く予定だったが、財前総理大臣が大事な仕事がある為、やむなく舞に譲る事にした。だが、滅茶苦茶釘を刺されている。

 

秋「角馬くんは今回は最初から来てるんだね…」

角馬「はい! 一丈字コーチからお誘いを受けたので!」

 

 

 その頃2号車では…。

 

飛鳥「そういえば久しぶりに会うなぁ…」

レーゼ「そ、そうですね…」

 

 飛鳥とレーゼの言葉に皆がどんよりした。

 

古株「何じゃお前さんら、もう少し元気出したらどうじゃ?」

飛鳥「で、ですよねー…」

レーゼ「ていうか古株さんって三つ子だったんだ…」

 

 そう、イナズマキャラバンの運転手は古株さんなのだが、実は三つ子なのだ。アニメでは一人だけだったが、ゲーム2では三つ子である事が確認されている。

 

 そんな話をしているうちに、2台のキャラバンは愛媛に到着して、高速道路を降りた。

 

飛鳥「そうだ。瞳子姉さんに電話しとこ」

 

 飛鳥が瞳子に電話をかけた。

 

飛鳥「あ、もしもし? 瞳子姉さ…」

「飛鳥ッポ! ルルッポー!!!」

 

 電話に出たのは瞳子ではなく、マスターランクチーム「ガイア」のクィールこと九井ルルだった。

 

飛鳥「ルル!? 姉さんはどうしたんだ?」

クィール「スマホを奪ったッポ」

『こらルル! 返しなさい!!』

 

 瞳子の声が聞こえたが、クィールがぴょんぴょん逃げ回っているのが聞こえた。

 

飛鳥「あー…。今愛媛についたから、もうすぐそっちにこれるって皆に言っといて」

クィール「分かったっポー。あ、こっちに来たら遊んでほしいっポー」

飛鳥「前向きに検討するけど、あんまり無茶すんなよ。あと、ジェミニストームも来てるから」

クィール「ご苦労様だっポー」

「何か扱いが雑!!!」

 

 クィールの辛らつな発言にジェミニストームが突っこんだ。

 

飛鳥「…おう、あんま変な事言うとオレ帰るからな」

クィール「嫌だっポ~!! それならせめてルルを東京に連れてほしいっポ~!!」

 

 クィールがそう言うと、また何か喧騒が聞こえてきて飛鳥はげんなりしていた。

 

飛鳥「…そう言う事だから。じゃあな」

 

 飛鳥が電話を切った。

 

飛鳥「多分昔と変わってねぇわ」

レーゼ「で、でしょうね…」

 

 飛鳥の言葉にレーゼ達はどんよりしていた。

 

飛鳥「特に理夢と希望が心配だな…」

パンドラ「お手数をおかけしてすみません…」

リーム「……」

飛鳥「いざとなったらオレが守ってやるから安心しな」

 

 飛鳥の言葉にパンドラとリームがちょっと照れた。

 

レーゼ「飛鳥さん!! 大変お手数をお掛けしますが、僕たち男子9人も守ってください!!」

飛鳥「お、おう…。こういう時男だろって言うとアレだもんね…」

 

*************************

 

 そんなこんなで、エイリア保護施設にたどり着いた2台のイナズマキャラバン。

 

円堂「ここが…」

 

 円堂達が合流すると、雷門イレブンがキョロキョロ見渡した。すると、入り口から瞳子が出てきて、出迎えた。

 

飛鳥「あ、姉さん!!」

瞳子「飛鳥! こっちよ!!」

 

 瞳子が飛鳥の名前を呼んで手を上げると、染岡たちは困惑していた。

 

染岡「オレ達完全に蚊帳の外じゃねぇか…」

土門「本当にモテモテだな…。あのコーチ」

壁山「神様は不公平っス…」

栗松「…でやんす」

春奈「はいはい! そんな弱気な事言ってないで私達も行きますよ!」

 

 そして飛鳥達と瞳子が鉢合わせした。

 

瞳子「ジェミニストームも久しぶりね。元気にしてた?」

レーゼ「は、はい…」

瞳子「それから、よく来てくれたわね。雷門イレブンの皆」

円堂「今日から数日間、お世話になります!」

瞳子「ついてきて」

 

 瞳子に言われて飛鳥達は中に入った。中は結構いろんな建物があった。

 

飛鳥「そういえばヒロト達は寮に住んでるって聞いたけど…」

瞳子「そうよ。一応男子と女子に分けてね。これからはもうエイリアのチーム関係なしでちゃんと仲良くするように言ってるんだけど、お父さんの影響もあってか、中々上手く行かなかったのよ。あなたに来てもらって丁度良かったわ。ちなみにあなたの部屋は私と一緒よ」

飛鳥「最後さらっと凄い事言わなかった?」

 

 瞳子の言葉に飛鳥が困惑すると、壁山、栗松、染岡が赤面した。

 

飛鳥「はい、そこ照れない!」

目金「まさにライトノベルですねぇ…」

飛鳥「眼鏡を光らせないで目金くん」

 

 目金が興味津々にしていると、飛鳥が困ったように突っ込んだ。ジェミニストームは苦笑いしている。

 

 その時だった。

 

「飛鳥~~~~~~!!!!!」

「!!?」

 

 女子達(約一名のぞく)が一斉に走ってきて、クィールが飛鳥の胸に飛び込んだ。

 

飛鳥「急に飛び込んでくるんじゃないよ。危ないだろ」

クィール「急にいなくなる飛鳥が悪いんだっポー!!」

飛鳥「それはそうと元気にしてた?」

クィール「元気だっポー」

 

 すると、他の女子達も詰め寄った。

 

飛鳥「お前達も久しぶり…」

マキュア「久しぶりじゃないわよ!! それからルル! そこどきなさいよ! 飛鳥に抱き着けないじゃない!」

クララ「そうよ!」

クィール「雷門イレブンが来てるのに、失礼だっポ」

飛鳥「お前が言うな」

 

 飛鳥が呆れたようにクィールを下した。

 

飛鳥「元気そうで何よりだよ。ヒロト達は中にいるのか?」

ウルビダ「……」

 

 ウルビダは飛鳥を睨みつけていた。

 

栗松「エ、エイリアの女子ってレベルが高いでやんす…!!」

イオ「…顔だけはな」

マキュア「何か言った?」

イオ「い、いえ!!」

マキュア「…ジェミニも遠い所からご苦労様」

(全く歓迎されてない!!!)

 

 マキュアは飛鳥に嫌われないために一応ねぎらいの言葉をかけたが、全く歓迎されていなかった。

 

 さあ、果たしてどうなる!?

 

 

飛鳥「ちなみに少しでも粗相をしたら、オレは退場します」

「え~!!!!」

 

 

つづく

 



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第62話「少しずつ縮まる距離」

 

 

 愛媛の保護施設にいるヒロト達に会いに、飛鳥一行は愛媛まで会いに行く事にした。クィールをはじめとするエイリア女子達が出迎えて、飛鳥は歓迎されていたが…。他は全く歓迎されていなかった。

 

*******************

 

 そして、ヒロト達とも顔合わせをした。

 

飛鳥「改めて紹介する。今年のフットボール・フロンティアの優勝校の雷門中の皆さんだ」

円堂「キャプテンの円堂守です! お招きいただいてありがとうございます!」

 

 大講堂で皆が集まり、飛鳥と円堂が壇上に立っていた。円堂が挨拶をしたが、エイリアの選手たちは反応が薄かった。

 

壁山「な、何か反応が薄いっす…」

目金「完全に興味なしですね」

 

 壁山と目金がそう言うと、デザームが立ち上がった。

 

円堂「え!?」

デザーム「私はエイリア学園ファーストランク「イプシロン」のキャプテン・デザームにして、本名は砂木沼治だ。これまでの雷門イレブンの試合、見せて貰ったぞ。ジェミニストームを打ち破ったその実力を是非見せて貰いたい」

円堂「勿論! 大歓迎だよ!」

飛鳥「治。落ち着け」

 

 治が暴走したので、飛鳥がツッコミを入れた。

 

飛鳥「…まあ、一応オレ達の里帰りもそうだけど、雷門中とお日さま園の交流を深めるという意味でも、有意義のある時間になってくれたら嬉しいな」

 

 こうして、お日さま園の生徒との交流会を兼ねた合宿が始まった。

 

 

瞳子「あなた達はこの建物を使って頂戴。お客様用だから」

「おおーっ!!」

 

 瞳子の紹介の元、円堂達は宿を紹介された。まるでホテルのような建物だった。

 

秋「あ、そうだ。部屋割りは…」

瞳子「相談して決めて頂戴。ちなみに飛鳥は私の部屋に来なさい」

飛鳥「え、ジョークだと思ってたんだけど」

瞳子「ジョークじゃないわ」

飛鳥「ヒロトがいる手前、もうちょっと気を遣いなさいよ。弟なんだけど…」

円堂「え? 弟?」

 

 飛鳥の言葉に円堂が反応すると、

 

飛鳥「ああ。後でちゃんと顔合わせするけど、マスターランクチーム「ガイア」のキャプテンをしているヒロトっていう奴はね、吉良星二郎の養子なんだよ。皆とは違ってね」

円堂「そ、そうなんですか…」

飛鳥「その前に荷物置いといで。オレも置くから」

瞳子「だからあなたは私と同じ部屋よ」

飛鳥「本当にジョークじゃないの?」

 

 飛鳥が中に入ろうとするたびに瞳子が止めていた。すると…。

 

「瞳子ちゃん。飛鳥が困ってるっポ~」

 

 クィールが割って入った。

 

瞳子「ル、ルル…」

クララ「そうよ。第一大人が中学生に手を出すなんて犯罪だわ」

アイシー「そうです」

リオーネ「ふさわしくありません!」

 

 他の女子選手も割って入った。

 

クィール「飛鳥も同じ寮に泊るべきだっポ~」

瞳子「…そんな事言って、どさくさに紛れて飛鳥の部屋に侵入するつもりじゃないでしょうね?」

クィール「そんな事やったら嫌われるだけだっポ~。忘れたっポ~?」

 

 クィールが若干バカにするような顔で言うと、瞳子の表情が少しこわばった。

 

壁山「お、女の戦いがさく裂してるっす…」

宍戸「早く部屋行こうぜ…。巻き込まれたら大変だ…」

 

 1年生たちは退場した。

 

クィール「それにお昼寝ならリフレッシュルームで出来るっポ~」

 

 クィールの言葉に瞳子は何も言えなかった。

 

クィール「そういう訳だから部屋に荷物を置いてくるっポ~」

飛鳥「あ、ああ…。ありがとよ…」

 

 そう言って飛鳥が移動すると、クィールもついていったが、女子達もゾロゾロついていった。瞳子は慌てて追いかけていった。

 

半田「す、すげぇな…コーチ」

土門「円堂もああなるのかな…」

円堂「え? オレがどうしたんだよ」

土門「何でもない…」

 

 円堂の言葉に土門は静かに視線を逸らすと、そそくさと移動した。

 

 ちなみに部屋だが、個室だったり2人部屋だったり、大人数部屋だったりした。

 

飛鳥「何この多様性!!!」

 

 その結果…。

 

大人数部屋:雷門2年生、雷門1年生、女子、飛鳥&ジェミニ男子

 

塔子「えー。あたしも円堂と一緒がいいー」

舞「ダメです。角巣さんからのご命令なので…」

夏未「…あなたはもう少し恥じらいを覚えた方が良さそうね」

 

 塔子は円堂と一緒に寝ようとしたが、夏未や舞に阻止された

 

飛鳥「さて、荷物も置いた事だし、今日は疲れたろう。自由時間にする」

「はーい!」

 

 そう言って飛鳥はそれぞれに自由時間を与えたが…。

 

クィール「それじゃ早速遊ぶっポ~!!」

飛鳥「……」

 

 クィールに早速捕まって、頭にしがみつかれていた。

 

マキュア「今まで時間空いてたぶん、たっぷり付き合って貰うからね」

クリプト「……」

レアン「早速サッカーするわよ!」

ポニトナ「杏。疲れてるのよ? よかったら私の膝でお休みする?」

バーラ「色仕掛けはダメ」

 

 早速言い寄られているのを春奈と栗松と壁山が見ていた。

 

栗松「実物で見るとやっぱり羨ましいでやんす…!!」

壁山「ていうか、普通にモテモテっす…」

 

 すると、ウルビダ達が春奈に気づいて、マキュアが突っかかった。

 

マキュア「そう言えばあんた、京都で飛鳥と一緒にいた子よね?」

春奈「え、ええ。そうですけど…」

マキュア「言っとくけど、ポッと出のアンタに、飛鳥は渡さないから!!」

春奈「いや、私はそういう関係じゃないですよ!」

飛鳥「そうだよ」

マキュア「あ、そっか。あの木暮っていうチビが相手だったのね」

春奈「違いますから//////」

 

 マキュアの冷やかしに春奈がムキになると、

 

栗松「前々から気になってたでやんすがコーチ!! どうしてそんなにモテるでやんすか~!!?」

飛鳥「あー。それ聞いちゃう?」

 

 栗松の疑問に飛鳥が困惑した。

 

飛鳥「オレは普通に最年長として面倒を見てただけなんだけど…」

マキュア「マキと飛鳥のなれそめを聞きたいなんて、中々見どころあるわね。栗くん」

栗松「栗松でやんす」

マキュア「しかたないわね。それじゃ教えてあげるわ」

 

 するとマキュアが皆の集めた。

 

マキュア「これを聞けば、マキがメインヒロインに昇格になると思うわ」

クィール「それないっポ」

クララ「あからさまに負けヒロインの台詞ね」

マキュア「あ、そんな事言う子飛鳥嫌いだっての忘れてない?」

クララ「飛鳥さん。違うの。これは…」

春奈(めちゃくちゃ焦ってる!!)

栗松(一体何があったでやんすか…?)

 

 春奈、栗松、壁山の3人はなれそめ話に期待するのだった!

 

 

つづく

 



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第63話「マキュアとの過去(前編)」

 愛媛の保護施設で雷門中の合宿が行われる事になった。そんな中、イプシロンのメンバーであるマキュアが飛鳥との馴れ初めを打ち明ける事にした。

 

 だが…。

 

瞳子「飛鳥。ちょっといいかしら」

飛鳥「姉さん」

 

 瞳子が現れると、マキュアが嫌な顔をした。

 

瞳子「前に頼まれてた件で、話があるわ」

飛鳥「ありがとう」

マキュア「一体何を頼んだの!? どうして瞳子さんに!?」

飛鳥「吉良財閥が所有してた施設の確認をしてて、雷門イレブンの強化に役に立ちそうなところがないか調べてたんだ」

壁山・栗松・春奈「え!?」

飛鳥「まあ、今回の合宿で嫌でもレベルアップしたくなると思うよ。心が折れなければね」

 

 飛鳥が黒い笑みを浮かべると、壁山と栗松が怯えた。

 

栗松「一体何の訓練をするでやんすか…?」

飛鳥「まあ、少なくとも治たちに君達の練習を見て貰うのは入ってる」

瞳子「行くわよ」

飛鳥「おっとっとっと…」

 

 そう言って瞳子は飛鳥を連れて行った。

 

マキュア「何よあのババア!!」

栗松「バ、ババアって…」

マキュア「ババアはババアよ!!」

 

 そう言ってマキュアが憤慨すると、

 

クララ「…そうやってキレてると、飛鳥さんに嫌われるわよ」

マキュア「分かってるわよもー!!」

 

 そんなこんなで夜。合同で食事会をしていた。70名以上もいるので、出される食事の量も凄かった。

 

飛鳥「1チーム5人ずつなー」

「はーい」

 

 飛鳥がそう号令をかけると、

 

マキュア「飛鳥! 一緒に食べるわよ!」

飛鳥「分かった分かった」

 

 マキュアが飛鳥を引っ張っていくと、春奈、栗松、壁山と共に座った。

 

鬼道「春奈…?」

円堂「珍しい組み合わせだなぁ」

 

 円堂と鬼道が一緒に行動していると、

 

「円堂くん」

 

 後ろから誰かが話しかけてきた。

 

円堂「あ、えっと…」

「あ、いきなりだったね。オレは基山ヒロト。エイリア学園マスターランクチーム「ガイア」のキャプテンだよ」

円堂「マスターランクチーム!?」

鬼道「……」

 

 円堂と鬼道が驚いた。

 

ヒロト「ご一緒してもいいかな。前々から君に興味持ってさ」

円堂「お、おう!!」

デザーム「私もご一緒させて貰おうか」

 

 こうして円堂は豪炎寺も誘って、ヒロト、デザームと一緒に食事を取る事になった。

 

 そして飛鳥達のテーブルの横にはエイリア女子と瞳子で固められていた。

 

Aグループ:飛鳥、マキュア、栗松、壁山、春奈

Bグループ:リーム、パンドラ、レアン、ポニトナ、バーラ

Cグループ:モール、クリプト、クララ、リオーネ、アイシー

Dグループ:瞳子、ウルビダ、キーブ、クィール

 

 そんな光景を不思議そうに雷門イレブンは見ていて、エイリア男子は懐かしいなぁこの光景と懐かしんでいた。

 

壁山「な、何か凄く見られてるっす…」

栗松「ええい! ここで逃げたら男が廃るでやんすよ壁山!! さあ! 話でも聞きながら聞かせて貰うでやんす!!」

マキュア「マキ、そういうの…」

クィール「あ、悪口言ったっポ。交代っポ」

マキュア「好きだなぁ~。うふっ♥」

(め、滅茶苦茶わざとらしい!!)

 

 そんなこんなで乾杯の音頭を取り、皆がそれぞれ食事をした。今日のメニューは鍋である。

 

壁山「鍋もだけど、お刺身も美味しいっす…」

栗松「壁山。もうちょっと自重するでやんすよ」

 

 壁山ががつがつ食べると、栗松が自重するように促した。

 

飛鳥「元気があっていい証拠じゃないか。けど、ちゃんと良く噛まないと太るぜ」

 

 飛鳥は弟を見るかのように笑いながら話しかけた。そんな顔をマキュアはポーっと見ていて、そんなマキュアを春奈が見ていた。

 

春奈(あぁ…やっぱり好きなんだな。コーチの事が…)

 

 それは他のグループにいた女子も同じだった。そして、円堂達はというと…。

 

デザーム「まず、初戦の戦国伊賀島戦だが…」

円堂・豪炎寺・鬼道「……!」

ヒロト「ごめん。円堂くん達と語り合うのを楽しみにしてたから…」

 

 砂木沼が熱く語り始め、円堂達は困惑していると、ヒロトが苦笑いしながらフォローをしていた。

 

春奈「そ、そう言えば…えっと、皇さん?」

マキュア「マキでいいよ。何?」

春奈「コーチとの馴れ初め」

飛鳥「馴れ初めって…」

マキュア「ああ、忘れてた。話すねー!」

 

 マキュアが上機嫌で話をしていた。

 

マキュア「マキって超かわいいじゃん?」

栗松「いきなり凄い始まり方でやんすね…。合ってるでやんすけど」

マキュア「だから何でもかんでも自分の思い通りになると思ってて、そうならないとすぐにキレてたの。だからあの手この手を使って自分の思い通りにしてたわけ」

春奈「そ、そうですか…。コーチ…」

飛鳥「…合ってるよ。中々言う事聞かなくて困ったなぁ。そういえば…」

 

 そう言って飛鳥は当時の事を想いだした。

 

*****************

 

「うわーん!!」

 

 ある日のお日さま園。喧嘩をしていて、ジェミニストームのギグが泣かされていた。ギグの鳴き声を聞いて飛鳥がやってきた。

 

飛鳥「どうした?」

マキュア「こいつがマキのおやつとった!」

ギグ「ちがう! マキがとった!!」

マキュア(フン。みんなマキのことをしんじるにきまってるじゃん。バカじゃないの?)

 

 マキュアが内心ギグをバカにしていたが、

 

飛鳥「マキ。口元にお菓子のたべかすがついてるぞ」

マキュア「えっ!? ちゃんとけしたのに!!」

飛鳥「これでどっちがお菓子を取ったか分かったな」

マキュア「う…な、なによなによ!! よけいなことして!」

飛鳥「余計で結構。章介に謝るんだ」

 

 飛鳥がマキュアを睨みつけると、マキュアが罰が悪そうにした。

 

マキュア「マ…マキはわるくないもん!! 飛鳥なんてきらい!!」

 

 そう言ってマキは泣きながら走り去っていった。

 

飛鳥「全くしょうがない奴だな…。章介。オレのおやつあげるからもう泣くな」

 

 そしてマキは飛鳥に泣かされた事を皆に言いつけたが…。

 

「は? 飛鳥さんがそんなことするわけないだろ」

「どうかんがえてもおまえがわるい」

「はやく飛鳥さんにあやまってこいよ」

「あんまりしつこいと、おとうさんにいいつけるぞ」

 

 彼女の我儘ぶりを知っていたお日さま園の園児たちは誰もマキュアを庇ったりしなかった。

 

マキュア「な、なによなによ! みんなして!! もういい!!」

 

 そう叫んで、マキュアがどこかにいってしまった。

 

 

 

つづく

 



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第64話「マキュアとの過去(後編)」

 その夜…。

 

飛鳥「なあ、誰かマキをみかけなかったか?」

 

 食事の時間になってもマキュアが来ないので、飛鳥が困惑しながら当時から園児だったバーンとガゼルに聞いた。

 

バーン「は? しらねーよ」

ガゼル「わたしがしるわけないだろう」

飛鳥「そうか…。ちょっと探してくる」

 

 飛鳥が探しに行こうとすると、

 

「いいよ。あんなやつさがさなくても!」

「だいたい章介をなかしたあいつがわるいんじゃん」

「そうだよ! はんせいさせるべきだよ!」

 

 そう言ってマキュアを探しに行くのを反対したが、

 

飛鳥「確かにマキは我儘だけど、そういう訳にはいかないよ。同じお日さま園の『仲間』なんだから。ここに来たら、ここにいるように言っといて。じゃ」

「あっ!!」

 

 飛鳥はそのまま食堂を飛び出して、お日さま園内の目立たない所にあるブランコに向かった。マキュアがブランコに乗って揺れていた。

 

飛鳥「やっぱりここにいたんだな。マキ」

マキュア「……」

 

 飛鳥がマキュアに話しかけるが、マキュアは何も答えなかった。

 

飛鳥「皆心配してるぜ」

マキュア「うそばっかり。マキがあやまらないから、みんなおこってる」

飛鳥「…自覚はあるんだな」

 

 マキュアの言葉に飛鳥が困惑した。

 

マキュア「つれもどしにきたならあっちいって。マキはひとりになりたいの」

飛鳥「あっそう。じゃああっちにいってるわ」

 

 そう言って飛鳥は本当にどこかに行こうとすると、マキュアはブランコから降りて、泣きながら飛鳥を追いかけた。

 

マキュア「マキをひとりにしちゃダメ~!!!! え~ん!!」

飛鳥「…ホントしょうがねぇ奴だな」

 

 泣きわめくマキュアに対して困惑していた飛鳥。

 

飛鳥「章介にちゃんと謝るなら一緒にいてやる」

マキュア「……」

飛鳥「嫌ならもうずっと一人でいろ。お前が謝らないなら、オレも助けてやることはできない」

マキュア「やだ~!! ちゃんとあやまるからマキをひとりにしないで~!! え~ん!!!」

 

 

*******************

 

飛鳥「…って言う事があったなぁ」

マキュア「そ、そんなに泣いてないもん!!/////// ちょーっとだもん!!//////」

 

 飛鳥が春奈達に説明すると、マキュアが恥ずかしがっていた。壁山、栗松、春奈はそんなマキュアに対して可愛いと思っていたが、栗松が我に返った。

 

栗松「で、結局ギグにはちゃんと謝ったでやんすか?」

飛鳥「謝ったよ。何とかね…」

マキュア「…でも、それが恋の始まりだったの」

「え?」

 

 マキュアが頬を染めて春奈達を見た。

 

マキュア「マキ。お日さま園に来るまではずっとわがまま放題だったから、皆に見放されて一人になった時、すごく心細かったの。でも、飛鳥がずっとそばにいてくれて…」

春奈「あー。心細い時に手を差し伸べてくれる男の人に女の子は弱いですよねー」

 

 春奈の言葉に栗松がメモを取っていて、壁山が呆れていた。

 

飛鳥「そういやあの後、オレによくくっついてたっけ…」

マキュア「だって好きになったんだもん」

飛鳥「そう…」

 

 マキュアの言葉に対して、飛鳥が困惑しながら突っ込むと、他のテーブルから嫉妬の眼差しが送られていた。

 

飛鳥「さあ! 皆食べよう食べよう!!」

 

 飛鳥が現実逃避をしようとすると、

 

ポニトナ「本当に飛鳥さんはその頃から、皆の事を大事に思ってたのよねぇ」

 

 ポニトナこと仁藤穂香が話しかけてきた。

 

飛鳥「穂香…」

ポニトナ「私はそういう一生懸命な所に魅かれちゃったわ」

飛鳥「そ、そう…」

ポニトナ「たまに無理をし過ぎて、倒れるんじゃないかっていうくらい」

飛鳥「ありがとう。じゃあ今度からはお前が止めてくれ。こいつらの喧嘩」

春奈「なんか、便利屋みたいに使ってません!?」

 

 飛鳥の言葉に春奈がツッコミを入れると、夏未と秋も食って掛かった。

 

夏未「レディーの扱いがなっていないんじゃなくて?」

秋「わ、私もそう思います!」

飛鳥「ですよね」

 

 マネージャー達からの攻撃に飛鳥が困惑していたが、

 

ポニトナ「いいのよ。それでお役に立てるなら」

春奈「あ、えっと…」

ポニトナ「仁藤穂香よ。所属は「プロミネンス」。宜しくね」

秋(な、何か色気のある人だなぁ…)

 

 ポニトナが妖艶な笑みを浮かべると、秋が辟易した。

 

ポニトナ「正直。女同士の喧嘩に男が首を突っ込むものじゃないわ。それはあなた達も分かる筈よ?」

秋「た、確かに…」

ポニトナ「この人は皆の為に無理をする人だから、少しでも頼ってくれたら嬉しいわ」

 

 ポニトナの言葉に飛鳥は感心していた。

 

春奈「で、どうですか? コーチ」

飛鳥「ここまで気づかいが出来るとポイント高いね」

マキュア「マ、マキだって出来るもん!!」

飛鳥「音無さん。男だろうと女だろうと大事なのは『思いやり』だぜ。さっきけんかを止めてくれって頼んだけど、勿論便利屋として使う訳じゃない。もしそれで傷ついたら穂香の為に怒るぜ」

春奈「コーチ。そういう事を言うからモテるんだと思いますよ」

飛鳥「当然の事だろう」

春奈「何て言うんでしょうねぇ。優しくて頼りになりますよね。コーチって」

マキュア「それ!!」

 

 春奈の言葉にマキが感心すると、栗松が更にメモを取った。すると、

 

レアン「あ、飛鳥!」

飛鳥「なに? 杏」

レアン「しょ、食事が終わったら私と勝負しなさい! 今日こそ勝つわ!!」

飛鳥「明日まで取っといて」

ポニトナ「ちなみに杏は将来サッカー選手になるのが夢なんだけど、元からサッカーが得意だった飛鳥さんに対抗意識を燃やしてるうちに…」

レアン「へ、変な事言わないでよ!!!/////」

 

 そう叫んで顔を真っ赤にした。

 

円堂「何かあっちは盛り上がってるな」

豪炎寺「そ、そうだな…」

鬼道「春奈に変な事を教えないで欲しい…」

円堂「だ、大丈夫だってばよ…」

ヒロト「ごめん。うちの者が…」

 

 マキュアの話は円堂達にも聞こえていて、マキュアと春奈が仲良くなりだして、変な事を教えないか不安で仕方がない鬼道だった。

 

デザーム「それだけ飛鳥は皆に慕われていると言う事だ」

円堂「や、やっぱりそうなの…?」

デザーム「私の唯一の同窓生にして、最強の好敵手と呼ぶべき男だ! さて、次は千羽山中だ…」

円堂「まだやるの!!?」

 

 

 と、楽しい食事会はしばらく続いた…。

 

 

つづく

 



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第65話「特訓開始!」

 

 

 お日さま園の生徒達に会うために、愛媛までやってきた飛鳥達。1日目で交流を深め、2日目の朝を迎えた…。

 

円堂「ふぁあ…」

壁山「今日の朝ごはん何スかねぇ…」

 

 円堂達が食堂に集まると、飛鳥が割烹着を着て厨房で料理を作っていた。それを見て円堂達が驚いていた。

 

円堂「コ、コーチ!!」

飛鳥「おーす。もうすぐ出来るから並びな」

秋「コーチがお料理されてたんですか!?」

飛鳥「まあ、お日さま園の子供たちが、久々にオレの料理を食べたいっていうもんだから、朝からずっと仕込みをしてたんだ」

春奈「言ってくれたら手伝いましたのに!!」

飛鳥「いやー…それをやると、色々面倒な事に。なあ?」

「えへへへへへ…」

 

 飛鳥の言葉に手伝っていたジェミニ男子が苦笑いすると、円堂達が唖然としていた。

 

飛鳥「さあ、並んだ並んだ! 朝飯をしっかり食べて今日の練習、しっかり励めよ!!」

 

 そして雷門イレブンが食事を受け取ってそれぞれテーブルで座った。

 

円堂「あれ? そういえばヒロト達は?」

飛鳥「今日は休みだから、まだ寝てるんじゃないかな」

 

 その時、マキュア達がやってきた。

 

マキュア「あー!! 飛鳥―!!」

飛鳥「おはよう」

 

 驚くマキュア達をよそに、飛鳥は普通に挨拶した。

 

レアン「道理でいないと思ったら…」

クララ「どうして厨房に…?」

飛鳥「徹(※ダイヤモンドダストのドロル)達からオレが作った朝飯を食べたいってリクエストがあってな。それで作ってたって訳」

キーブ「言ってくれたら手伝ったのに」

ポニトナ「そうですわ」

飛鳥「ありがとう」

 

 不満そうにするキーブとポニトナに対し、飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「でも、お前達にも手料理を食べて貰いたくてな」

クィール「そんな事言って、杏達が厨房で喧嘩すると、作業がスムーズに進まないからだっポ」

飛鳥「それは…まあ、お前達も食べていくか?」

マキュア「いや、否定してよ!!」

レアン「そこはそんな事ないよっていうもんでしょうが!!」

 

 レアン達がギャンギャン騒ぎながらも、食事は無事に行われた。

 

飛鳥「それじゃオレとジェミニは後片付けがあるから、お前たちは昨日教えた練習場に行っといてくれ」

「分かりました!」

 

 飛鳥はそう言って円堂達を先に練習場に行かせた。

 

バーラ「飛鳥さん。手伝うわ」

飛鳥「え、そう?」

ポニトナ「皆でやった方が早く終わりますわ」

レアン「そうそう。コーチの仕事もあるんでしょ?」

飛鳥「ありがとう」

 

 すると、リームとパンドラ、モール以外の女子が一斉に押し掛けてきた。

 

パンドラ「…本当に大人気ね」

リーム「そうね…」

モール「本当に困るわよ。ストッパーが私しかいないから…」

パンドラ・リーム「お疲れ様です…」

 

**********************

 

 スタジアムに向かった雷門イレブン。

 

円堂「す、すっげぇ…!!」

染岡「こんなでかい所で練習してるのかよ!!」

 

 とても広いサッカーグラウンドが何か所もあった。

 

「吉良星二郎の暴走を止めた功績として作られた練習場よ。ここでお日さま園の生徒達は思い思いに練習しているわ」

 

 瞳子が案内をしていた。

 

瞳子「あなた達はこのグラウンドを使って頂戴。一番上等のAグラウンドよ」

円堂「あ、ありがとうございます…」

 

 そして雷門イレブンが練習に励んでいて、お日さま園の生徒達が外から様子を見ていた。

 

壁山「な、何かジロジロ見られてるっス…」

栗松「気が散るでやんすねぇ…」

 

 あまりにも見られる為、壁山と栗松は困惑していた。

 

宍戸「しょうがないよ。フットボール・フロンティアで優勝してるんだから」

 

 宍戸がそう呟くと、

 

「ケッ! 勘違いするな」

「!?」

 

 赤い髪の少年・南雲晴矢(バーン)が話しかけた。

 

バーン「お前ら雷門中のレベルがどれくらいか見てやってるだけだ。オレの方が強ぇ」

栗松「な、何でやんすと!!?」

バーン「そりゃそうさ。オレはマスターランク。お前たちはセカンドランクのジェミニストームと互角なんだ。そりゃあ強いに決まってるだろ」

 

 バーンの挑発に他のメンバーも反応し、その中でも染岡が突っかかろうとした。

 

染岡「んだとォ!!?」

半田「やめろ染岡!」

 

 染岡を半田と影野が抑えていたその時、

 

「やめぬか南雲!!」

 

 デザームが割って入った。

 

バーン「んだよ砂木沼」

デザーム「雷門イレブンは客人。無礼な発言をするんじゃない!」

バーン「事実を言ったまでさ。大体、ファーストランクのお前にそんな事を言われる筋合いはねーよ」

デザーム「なら、飛鳥の顔を潰すというのだな?」

 

 デザームの言葉にバーンは罰が悪そうにした。

 

デザーム「済まない。まだエイリア学園での立場と今の立場が混在したままなのだ」

円堂「あ、ああ…。でも、お前達とサッカーしてみたい!」

「!!」

 

 円堂の言葉に皆が驚いた。

 

バーン「ハッ! お前らじゃ無理だよ。やめときな」

円堂「そんなのやってみなきゃ、分かんねーだろ!」

バーン「分かるさ。だったら…」

 

 その時だった。

 

「晴矢! 何やってるんだ!」

 

 飛鳥の声がした為、バーンがビクッとなって、後ろを振り返った。飛鳥はマキュア達と一緒にやってきたが、呆れていた。

 

飛鳥「…ったく、あれ程お客さんに喧嘩を売るなって言っただろ」

バーン「……」

飛鳥「とにかく、練習の邪魔をするんじゃないよ」

 

 飛鳥が雷門イレブンを見た。

 

飛鳥「ちゃんと謝りな」

バーン「悪かったよ…」

円堂「い、いや。それはいいんだ」

 

 さっきまでいきがっていたバーンが飛鳥の言う事を素直に聞いているのを見て、不動たちとの試合を思い出していた。

 

鬼道(やはりこの人は只者じゃない…。マスターランクの選手をここまで手懐けられるのも素直に納得がいく…)

 

 飛鳥が鬼道の方を見て笑みを浮かべた。

 

飛鳥「…さて、オレの強さを分かって貰えたところで、コーチとして指示を出すね」

「はい!」

 

 飛鳥が円堂達を見た。

 

飛鳥「午後から、イプシロンと試合をして貰うから」

「ええ!!?」

 

 飛鳥の言葉に円堂達が驚くと、デザームも笑みを浮かべた。

 

 

 

つづく

 



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第66話「VSイプシロン!」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 お日さま園の園児たちに会うために愛媛までやってきた飛鳥達。1泊して翌日、早速練習に励もうとしたが、マスターランク「プロミネンス」のキャプテンであるバーンが喧嘩を吹っ掛ける。飛鳥が仲裁に入ったものの、飛鳥は雷門イレブンに練習試合を告げるのだった…。

 

 

*****************

 

飛鳥「今日の午後、イプシロンと練習試合をして貰うから」

「ええっ!!?」

 

 練習場で飛鳥が雷門イレブンにそう言い放ち、皆が驚いた。

 

飛鳥「あ、でも待った」

「?」

飛鳥「ジェミニストームと先に戦わせよう。それで勝ったチームと戦わせる。ゴメン、忘れて」

「ええええええ!!?」

 

 飛鳥のマイペースぶりに円堂達は困惑していた。

 

「あ、飛鳥さん…」

「きゅ、急すぎるぜィ…」

飛鳥「何だ蜂郎(スオーム)、虎彦(ファドラ)。随分自信ないな」

ファドラ「ち、違いますぜ! ジェミニストーム相手に負ける筈がないぜィ!」

スオーム「そうですよ!」

飛鳥「だったらいいけど」

 

 何か焦っているスオームやファドラに対して、飛鳥は何かを見透かしたかのように言い放った。

 

飛鳥「ちなみに全員が無理だったら、いるメンバーだけでいいから。声かけといて」

クリプト「分かりました」

(初めて「ぶっ潰す」以外喋った!!!)

 

 クリプトが普通に喋ったので皆が驚いたが、それを感じたクリプトは不機嫌になった。

 

クリプト「ぶっ潰す…」

飛鳥「潰さないで。雷門イレブンは練習を続けて」

 

******************

 

 そしてあっという間に昼になり、昼食を取った後、ジェミニストームとイプシロンで試合をする事になった。ジェミニストームはジェミニカラーの雷門ユニフォーム、イプシロンは宇宙服だった。

 

飛鳥「わざわざメイクもしたんだな…」

デザーム「この方が熱い試合をしやすいだろう」

 

 飛鳥とデザームが話をしていると、

 

マキュア「飛鳥! マキの事、しっかり見ててね!」

飛鳥「前向きに検討します」

クリプト「……」

飛鳥「あ、うん。まず活躍しようか」

 

 そしてジェミニストームはというと、イプシロン相手に緊張していた。

 

レーゼ「……」

イオ「相変わらずファドラやスオームはバカにしてますね…」

レーゼ「プレーで見返せばいい」

 

 レーゼがジェミニストームのメンバーを見た。

 

レーゼ「皆! もう今までのオレ達とは違うという事をイプシロンに証明するんだ!」

「おう!!」

 

ファドラ「…ケッ、ジェミニストームが粋がってるぜィ」

ケイソン「此間戦った時は相手にならなかったが…果たして強くなったのかねぃ?」

ケンビル「またぶちのめしてやるだけよ!」

飛鳥「……」

 

************

 

角馬「さあ、ジェミニストームとイプシロンの試合が始まろうとしています!」

 

 スタジアムで試合が始まろうとしていて、角馬が実況席で実況をしていた。雷門イレブンや他のチームが観客席から見学をしていた。

 

円堂「イプシロン…。どんなサッカーをするんだ…」

 

 飛鳥が笛を吹くと、ジェミニボールから試合が始まった。

 

「行かせん!」

 

 ゼルとマキュアがブロックをしようとしたが、ボールを持っていたリームがレーゼにバックパスを出した。

 

レーゼ「行くぞ! 大夢!」

ティアム「ああ!!」

 

 レーゼとティアムが『炎の風見鶏』を披露した。レーゼとティアムが同じタイミングでボールを振りあげ、レーゼが普通に、ティアムがオーバーヘッドキックで同時に打ち込んだ。するとボールは火の鳥になってイプシロンのゴールへ飛んでいく。ちなみにゲームではパートナーの属性が火でないと使えないが、本作では属性には触れない。

 

「なっ!?」

 

 レーゼとティアムの新技にゼル達が驚くが、

 

デザーム「狼狽えるな!」

 

 デザームが両手を回して広げると、緑色の網が現れて炎の風見鶏と激突した。ワームホールはボールを吸い込もうとしているが、ボールはワームホールを破ろうと動き続けている。皆それを見守っていた。

 

 そして炎の風見鶏がワームホールを打ち破った。

 

ジェミニ「やった!!」

 

 だが、破ったと同時にシュートの威力は弱まり、ボールはデザームの手に渡った。

 

角馬「あーっと!! ジェミニストーム!! 炎の風見鶏で先制点を決めようとしたが、止められたー!!!」

 

レーゼ「くそ!!」

ティアム「新技で奇襲をかけようとしたけど、失敗か…」

 

 レーゼとティアムが悔しそうにした。

 

ファドラ「チッ! ジェミニの分際で舐めた真似しやがって!」

デザーム「舐めているのは貴様の方だ! 虎彦!」

ファドラ「なっ!」

 

 ファドラがデザームの方を見るが、デザームは憤っていた。

 

デザーム「敵を侮るなとあれ程言っただろう! もう以前のジェミニストームとは違うのだ!」

ファドラ「……!」

 

 デザームの一喝にファドラが罰が悪そうにすると、デザームがレーゼとティアムを見つめた。

 

デザーム「それに比べ、お前たちはよくここまで鍛えたものだ。どんどん打ってくるがいい。私をもっと熱くさせろ!!」

 

 デザームの言葉にレーゼとティアムが顔を合わせると、口角を上げた。

 

 

 そしてこの後も試合は続いた…。

 

マキュア「メテオシャワー!!」

 

 マキュアがドリブル技で上空から複数の隕石を落とすが、ジェミニストームの選手は怯むことなく、ボールを奪った。

 

マキュア「えっ!!?」

 

メトロン「こんな筈は…!!」

 イプシロンのメトロン、スオームがブロックをするが、グリンゴがワープドライブを使って突破した。

 

 デザームから点数は取れないものの、試合はジェミニストームのペースで試合が進んでいた。

 

円堂「レーゼ達、勝ってるぞ!」

秋「うん!!」

 

 レーゼ達が上のチームに有利になっている事から、円堂達も喜んでいた。

 

 だが…。

 

バーン「ケッ、なんだよ。イプシロンの奴ら、ジェミニ相手に何苦戦してんだよ」

ガゼル「無様だね」

 

 マスターランクチームの選手は冷ややかな目で見ていた。そして飛鳥もイプシロンのプレーに困惑を隠せなかった。

 

 

飛鳥(…エイリア学園がなくなって、サッカーをやる必要がなくなったからな。チームが何かバラバラになってるな)

 

 

 イプシロンから新たな課題が見つかったことで、飛鳥は更に頭を悩ませる事になった。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 



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第67話「雷門 VS イプシロン!」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 お日様園の選手と顔合わせをするために、愛媛にやってきた雷門イレブン。飛鳥はジェミニストーム以外のチームとも戦わせようとしたが、ジェミニストームがどれだけ成長したか確認するために、イプシロンと練習試合を組むことにした。

 

 格下だと思って一部のイプシロンメンバーはなめてかかっていたが、レーゼ達の成長に驚きを隠せなかった。

 

**********************

 

 あっという間に試合は終わった。イプシロンが無失点で勝ったものの、イプシロンの選手たちは浮かない顔をしていた。そして飛鳥も難しい顔をしていた。

 

飛鳥「百歩譲って遊んでたのはいい。エイリア学園がなくなってから、無理にサッカーをする必要はなくなったからな」

ファドラ・スオーム・ケイソン「……」

 

 飛鳥がそういうと、ファドラ達はバツが悪そうにしていた。

 

飛鳥「だけど試合前にあれだけ大口叩いといて、この結果は凄く恥ずかしいぞ」

デザーム「全く…」

マキュア「あんた達ねぇ!!」

飛鳥「マキ。言いたいことは分かるけど、人のせいにするんじゃない」

 

 ファドラ達がミスを連発したせいで、イプシロンのチームが乱れてしまい、飛鳥にいいところを見せられず、マキュアは不機嫌だった。他のメンバーも気まずそうにしていた。

 

 そして雷門イレブンも試合を見ていた。

 

豪炎寺「どう思う」

鬼道「ああ…。他の選手があまり大したことはないとはいえ、あのジェミニストームからゴールを守り抜いた砂木沼(デザーム)という男は中々の実力者だ」

少林寺「緑川たちが1点も取れないなんて…」

風丸「腐ってもファーストランク」

円堂「……!!」

 

 少林寺と風丸がしゃべる中、円堂は興奮気味だった。

 

*********************:

 

飛鳥「まあ、そういう訳でジェミニとイプシロンの練習試合は終わりだ。午後からイプシロンと試合をしてもらうよ」

 

 飛鳥は雷門イレブンに指示を伝えた。

 

鬼道「コーチ。作戦は?」

飛鳥「今回オレは指示を出さない」

「!!?」

 

 飛鳥の発言に皆が驚いたが、鬼道、豪炎寺、風丸、少林寺は冷静だった。

 

飛鳥「今回は初めて戦う相手だから、戦いの中で相手の動きとかを研究してもらいたいからね。好きにやっちゃって」

 

鬼道「…分かりました」

 

 鬼道の言葉に壁山と栗松が不安そうにしたが、

 

円堂「とっても楽しみだ!」

 

 円堂だけとても楽観的だった。

 

半田「円堂…」

染岡「どこまでも前向きだな…。まあ、ゴールはオレがこじあけてやる!!」

 

 そう意気込む雷門イレブンを、イプシロンの選手たちは不満そうに陰から見ていた。

 

**********************:

 

 そして試合になった。スタジアムのベンチには雷門イレブンとイプシロンが、観客席には関係者がいた。

 

 雷門ベンチ

 

鬼道「今回のフォーメーションはこうだ」

 

 鬼道がホワイトボードに指示を書き足した。

 

<雷門>

 

FW   豪炎寺 染岡

MF 半田 鬼道 マックス

       少林寺

DF  風丸     栗松

      壁山   塔子

GK       円堂

 

控え:影野、宍戸、目金、土門、一之瀬

 

鬼道「イプシロンの実力は午前に見たが、GKの砂木沼はまだ余力を残しているとみていい。一之瀬と土門は後半戦に備え、極力円堂に余力を残してくれ」

土門「りょーかい!」

一之瀬「分かった」

 

 そしてイプシロンもベンチ前にいたが…。

 

デザーム「分かっているな。2度も醜態をさらすわけにはいかない」

ファドラ・ケイソン・スオーム「……!」

マキュア「へましたらセカンドチームに降格よ降格!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

 

 バツが悪そうにしているファドラ、ケイソン、スオームに対し、マキュアとクリプトが激を入れた

 

デザーム「だが、私はもうあのような醜態がない事を信じている」

「!!」

デザーム「ファーストランクの実力を見せてやろうではないか!!」

ゼル「デ、デザーム様…!!」

 

 こうして、試合が始まった。

 

角馬「さー始まりました!! 雷門イレブンは本日、愛媛のエイリアスタジアムでエイリア学園ファーストランク「イプシロン」との戦いが行われます!!」

 

 角馬がマイクを持って実況すると、

 

バーン「なんだあいつ…うるせーな」

クィール「そういや声が晴矢に似てるッポ」

バーン「あ?」

 

 クィールの言葉にバーンが反応した。

 

<イプシロン>

 

FW ゼル マキュア

MF  スオーム クリプト

メトロン ファドラ

DF モール ケンビル

ネイソン タイタン

GK デザーム

 

 

飛鳥「……」

 

 飛鳥は雷門側のベンチの端っこで見守っていた。

 

 笛が鳴り、雷門ボールで始まると豪炎寺がドリブルで攻めていった。

 

マキュア「はぁああああああ!!!」

 

 マキュアがボールを強引に奪おうとしたが、豪炎寺は後ろにいた鬼道にパスして、そこからパスを回した。

 

スオーム「させるかよ!!」

半田「少林!!」

 

 スオームが両手に力を入れようとすると、半田がそれに気づいて少林寺にパスを出した。そして少林寺がファドラの前に立った。

 

ファドラ「よこせやぁ!!」

 

 ファドラの隙を見抜いて、そのまま突破した。

 

ファドラ「なっ!!?」

少林寺「鬼道さん!!」

 

 少林寺が鬼道にパスすると、マークがなかった染岡にボールが渡った。

 

染岡「よし!! 行くぞ!!」

デザーム「来い! 染岡竜吾!!」

 

 染岡がボールを高く上げると、青い龍が出てきて、ボールに力が込められた。

 

染岡「ワイバーンクラッシュ!!」

 

 染岡のシュートが放たれるが、デザームは一歩も動かなかった。

 

円堂「えっ!?」

染岡「何っ!!?」

 

 するとデザームは右腕を時計回り、左腕を時計回りに回して両手を広げた。すると緑色の網が放たれた、網の真ん中に黒い空間が発生した。

 

デザーム「ワームホール!!!」

 

 ワイバーンクラッシュを黒い空間が吸い込むと、デザームの横からまた別のワームホールが現れ、そこからボールが落ちた。

 

染岡「何っ!!?」

 

角馬「止められたー!!! 染岡の渾身のシュートであるワイバーンクラッシュを一歩も動かずに止めたー!!!」

円堂「これが…ファーストランク…!!」

 

 デザームの強さを目の当たりにした円堂は衝撃を受けていた。

 

飛鳥(さて、治のディフェンスをどうやって突破して見せる?)

 

 飛鳥は試すかのような笑みを浮かべ、そのまま試合を見守った。

 

 

つづく

 



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第68話「イプシロンの弱点!」

誤字指摘ありがとうございます。


 

 前回までのあらすじ

 

 お日さま園の園児たちと顔合わせをする為に、彼らがいる愛媛までやってきた雷門イレブンとジェミニストーム。そこでジェミニストームよりもワンランク上のイプシロンと試合を行う事になった雷門イレブン。

 

 染岡が渾身の『ワイバーンクラッシュ』を放ったが、イプシロンのゴールキーパーであるデザームに簡単に止められてしまった…。

 

***********************:

 

染岡「くそっ!!」

角馬「染岡のワイバーンクラッシュが決まらず、デザームが圧倒的な実力を見せたー!!!」

 

 角馬のアナウンスが響き渡ると、雷門サイドは動揺を隠せなかった。

 

バーン「ハッ! まああれくらいは止めて貰わねぇとな」

ガゼル「これで失点なんてしようものなら…ね」

 

 観客席にいたバーンとガゼルがヤジを飛ばす中、ヒロトは円堂を見つめていた。

 

染岡「くそっ!!」

豪炎寺「やはり簡単には崩せそうにないな…」

 

 染岡が憤慨すると、豪炎寺が話しかけてきた。

 

染岡「ああ…。だが、ジェミニとは違っていい経験になりそうだぜ!」

鬼道「焦らず行こう。敵もオレたちの動きを知り尽くしているだろうが、必ず勝算はあるはずだ」

 

 そして試合は続行したが、イプシロンが有利に試合を進めていて、飛鳥は腕を組みながら様子を見ていた。

 

メトロン「それっ!!」

 

 メトロンがロングシュートを放つと、塔子が前に出た。

 

塔子「ザ・タワー!!」

 

 塔子が必殺技を繰り出してボールを止めようとしたが、シュートの威力に押され気味だった。

 

 何とか止めたものの…。

 

マキュア「邪魔!!!」

 

 マキュアにボールを強奪されてしまった。

 

マキュア「飛鳥に良い所見せるんだから!!」

 

 するとマキュアはシュートを繰り出し、円堂に向かって放たれた。

 

壁山・栗松「キャプテン!」

円堂「任せろ!!」

 

 円堂がゴッドハンドを繰り出して止めた。

 

マキュア「んもー!! シュート決めさせてよ!!」

 

 シュートが決まらずマキュアが地団駄を踏むと、マキュアの意図が分かったのか、飛鳥は呆れていた。

 

 そんなこんなで前半戦が終了した。0-0である。

 

*********************

 

飛鳥「どう? イプシロンなかなかでしょ」

 

 飛鳥が円堂たちに話しかけた。

 

鬼道「ジェミニストームとは違って、今度はパワーもけた違いだ…」

飛鳥「そうだね」

「!」

 

 皆が飛鳥を見た。

 

飛鳥「試合を見てて思ったのは、パワーが決定的に不足してる」

染岡「や、やっぱり…。オレのシュートが弱いから…」

飛鳥「いや、全体的にだね」

「!」

 

 容赦のない言葉に皆が驚いた。

 

飛鳥「ジェミニストームはスピード重視で、相手の隙を見抜けばそれでよかったかもだけど、イプシロンはパワーも兼ね備えてる。今倒すにはそれなりに根気がいるよ」

染岡「粘り強さなら…」

鬼道「いや、奴らはまだ本気を出していない筈だ」

「!」

飛鳥「まあ、本気っていうよりちゃんとやってないね」

「!?」

染岡「まさかなめられてるのか!?」

飛鳥「まあ、相手の実力を見極めて体力を温存してるんだろうけど、内心舐めてるな」

「!!」

 

 飛鳥の発言に皆が困惑した。飛鳥の一言で空気がピリッとしたからだった。

 

飛鳥「まあ、作戦はあるんだけど、聞くかい?」

鬼道「お願いします」

飛鳥「OK」

 

 そして飛鳥は指示を伝えた。選手たちは驚いて色々質問していたが、飛鳥が理由を説明したのに、色々熱く語っていた。

 

 それをイプシロンメンバーが自分たちのベンチから見ていた。

 

マキュア「う~!!! マキもあっちのチームに行きた~い!!」

ゼル「おいおい…」

メトロン「まさかとは思いますが…飛鳥さんがフィールドに入るなんて事は…」

クリプト「ぶっ潰…せない」

メトロン「ですよね!」

マキュア「は? 飛鳥ぶっ潰そうとしたら、ケツにシュートぶち込むからね?」

「女の子がそんな事言ったらいけません!!!」

 

 イプシロンが内輪もめをしていて、飛鳥は何とも言えない顔で見つめていた。

 

春奈「コ、コーチ…」

飛鳥「いいか。どんな奴にも必ず弱点がある。勝ちたいならオレの言うとおりにしておくれ」

「お、おー…」

 

***********************

 

 そして後半戦が始まった。イプシロンは相変わらずだが、半田がいた場所に風丸が入り、風丸がいた場所に土門、そしてマックスがいた場所に一之瀬が入った。

 

 染岡と豪炎寺が相手のFWを見つめるが、特に染岡は闘志を燃やしていた。

 

飛鳥『後半戦でやる事は『パスのカット』と『マーク』ね』

「!」

 

 飛鳥が後半戦の指示を出した。

 

飛鳥「特にMFはスピードとテクニックのある子を中心にして、カットとマークをしてもらうから」

鬼道「自分の思い通りにならないプレイをさせる事で、相手の集中をそぐ作戦ですか…」

飛鳥「そんな所かな」

染岡「けど…そんなの雷門らしくは…」

飛鳥「まあ、そうなんだけど染岡くん。君も分かってるでしょ?」

染岡「!?」

 

 染岡が飛鳥を見た。

 

飛鳥「イプシロンのポテンシャルは君らよりもはるかに上。これが負けることが許されない試合だったら、自分たちのプライドやこだわりを捨ててでも戦わなきゃいけない。違うかい?」

 

 飛鳥の言葉に染岡は視線をそらして、何も言えなかった。

 

飛鳥「悔しいだろう。そうしなきゃいけない事に」

春奈「コーチ…」

飛鳥「そうならないようにするためにも、この試合で沢山の事を学んで帰るんだ。戦い方も、イプシロンの事も」

「!」

 

 飛鳥が周りを見渡した。

 

飛鳥「今は試合で学ぶ。これが終わったら…もうそんな思いをしない為にも特訓して力をつけろ。これが指示だ」

染岡「……」

 

 染岡が俯くと、円堂が声をかけた。

 

円堂「染岡」

染岡「!」

円堂「まだ試合は終わってない。学びながら最後まであきらめずに勝つぞ!」

 

 円堂の言葉に皆が口角を上げた。

 

染岡「そうだな…!」

豪炎寺「……」

 

飛鳥「自分たちのこだわりや、正々堂々と戦う事は大事だが、それ以上に勝負は勝たなきゃいけない。この試合、ベストを尽くせ!」

「はい!」

 

 

染岡(やってやる…! 今よりも…誰よりも!!)

 

 そしてホイッスルが鳴ると後半戦が始まった。イプシロンボールからである。

 

マキュア「このままゴールを決める!」

 

 マキュアにボールが渡ってドリブルをすると豪炎寺が立ちはだかった。。

 

マキュア「邪魔! どいて!!」

 

 マキュアがそう言い放つと、豪炎寺は本当にどいた。

 

マキュア「本当にどく奴が…」

 

 その時、後ろにいた一之瀬がボールを奪った。

 

一之瀬「ボールは貰うよ」

マキュア「……!!」

 

 

つづく

 



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第69話「チームで戦うこと」

 

 愛媛にあるエイリア保護施設でファーストランクチーム『イプシロン』とサッカーをすることになった雷門イレブン。パワー不足とキャプテンでGKのデザームの鉄壁のディフェンスに苦戦する。

 

 飛鳥の助言を受けて後半戦に臨んだが、果たして…。

 

*************************

 

角馬「雷門イレブン! 前半戦とは打って変わって相手の心理を突く作戦に出たーっ!!」

 

 相手を見て攪乱させる作戦に出た雷門イレブン。前半とは違う作戦であるものそうだが、ボールを取ろうとするも、パスのカットをしようとする場所も計算されて、イプシロンは調子を崩された。

 

マキュア「何なのもー!!」

ファドラ「ちょこまかとうざってぇんだよ!!」

 

 自分の思うようにプレイが出来ず、イプシロンの一部のメンバーはイライラしていた。

 

 そしてクリプトが取ろうとしていたボールを鬼道がカットして、染岡にパスすると…。

 

ファドラ「てめぇちゃんと取れよ!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

タイタン「お、おい…」

 

 イプシロンはどんどん仲たがいをするようになり、独断的なプレーをするようになった。

 

 

秋「イプシロンの動きがどんどん悪くなってる…」

飛鳥「……」

 

 秋の言葉に夏未と春奈も驚きを隠せずにいるが、飛鳥は無表情だった。

 

春奈「コ、コーチ…」

飛鳥「…ここまで連携が乱れるとは思ってなかった」

秋・夏未「え」

 

 飛鳥は困惑しながら言い放つと、秋と夏未が困惑した。

 

飛鳥「いやね…。元々我の強い連中ばっかりで、吉良星二郎が計画してた『ジェネシス計画』が始まってからは、もっと酷くなったんだ。上下関係や敵対関係が顕著でね…」

 

 飛鳥の言葉に秋と夏未は飛鳥も結構苦労してると確信した。

 

飛鳥「そしてイプシロンはそれに加えて、オレが私がってやつが多いから…」

 

 飛鳥が呆れていると、デザームもそれに気づいた。

 

 そしてボールがカットされ、試合がいったん止まったその時だった。

 

「お前たち!!」

 

 デザームが叫ぶと、皆がデザームを見た。

 

デザーム「なんだそのザマは!! 貴様らはそれでもイプシロンの戦士か!!」

ゼル「お、治さん…」

「……!」

 

 そしてデザームは飛鳥の方を指さした。

 

デザーム「これ以上飛鳥を失望させるんじゃない!!」

 

 そう言って皆飛鳥の方を見たが、露骨に両手で顔を覆ってうずくまっていた。まるで自分が教えた事を全然活かせてないダメ生徒を見る教師のように…。

 

土門「コーチ…」

 

 完全にわざとだと理解した土門は困惑気味だったが、イプシロンのメンバーが露骨に慌てだし始めた。デザームも「そこまでしなくても…」と少し困惑気味だった。

 

土門「え」

 

メトロン「あ、あの! 飛鳥さん!! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!!」

スオーム「オレ達ちゃんとまじめにやります!!」

 

 マキュアとクリプトに至っては完全に嫌われたと青ざめ、モールは完全にわざとやっていると気づいて困惑気味だった。

 

ヒロト「飛鳥さん…」

 

 観客席で見ていたマスターランクの選手たちも困り顔だった。

 

レアン「あいつら後で全員説教ね」

クララ「そうね…」

キーブ「怖いわよ」

 

 レアンとクララの目のハイライトが消えて、キーブが突っ込んだ。

 

デザーム「絵に描いたように連携を崩してしまっては、ジェミニストームにも立つ瀬がない! 頭を冷やし、もう一度引き締めるのだ!」

「は、はい!」

 

 こうしてデザームの一喝と飛鳥の芝居(?)により、イプシロンは立ち直った。

 

栗松「…コーチって本当に何者でヤンスかねぇ」

少林寺「うーん…」

 

 こうして試合は再開されたが、イプシロンの動きが良くなり、ゼルがボールを奪った。

 

飛鳥「……」

 

 飛鳥も立ち直ったが、それを見てマネージャーとベンチメンバーは困った顔をしていた。

 

 そしてゼルがDF陣を抜いて円堂と1対1になった。

 

ゼル「オレが点を取ってやる!」

円堂「来い!!」

 

 そしてゼルが必殺技の体制をとって、手でボールを浮かせた。

 

ゼル「ガニメデ…プロトン!!」

 

 と必殺技を放ったが、

 

栗松「かめはめ波でやんす!!」

壁山「かめはめ波っす!!」

少林寺「かめはめ波だ!!」

 

 モーションがどう見てもあのメガヒット漫画の代表的な必殺技だったので、栗松たちが抑えきれずツッコミをした。

 

円堂「止める! マジン・ザ・ハンド!!」

 

 円堂が必殺技を繰り出して、ボールをキャッチしたが、円堂が苦しそうな顔をした。それを見て飛鳥が真剣な顔をする。

 

 気合を入れたお陰で何とか受け止めることが出来たが、円堂は息を切らしていた。

 

 そしてこの後も試合は続いたが、調子を取り戻したイプシロンにボールを奪われ…

 

ゼル「行くぞ!」

メトロン「ええ!」

マキュア「名誉挽回してやるんだから!!」

 

 3人が横1列に並んだ。

 

鬼道「必殺技か!?」

染岡「円堂!!」

ゼル「これで完膚なきまでに叩き潰してやるぜ!!」

 

 3人が力を入れると、ボールに岩の塊がまとい、その塊を3人同時にけった。

 

ゼル・マキュア・メトロン「ガイアブレイク!!」

 

 シュートはすさまじい勢いでゴールの方に飛んでいき、塔子と壁山が必殺技を使って止めようとしたが、見事に突破されて、円堂がもう一度マジン・ザ・ハンドを使ったが、先ほどのガニメデプロトンで力を使い果たしてしまい、簡単にゴールを割られてしまった。

 

目金「あああ…!!」

 

 そして試合の笛が鳴った。

 

角馬『試合終了―!!! 1-0でイプシロンの勝利だー!!!!』

 

 角馬のアナウンスで試合が終了した。

 

 

つづく

 



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第70話「雷門イレブンの新たなる課題!」

 

 

 勝負はイプシロンの勝利で終わった。

 

飛鳥「さて、反省会と行こうか」

 

 試合が終わって、飛鳥達は定例の反省会を行った。

 

飛鳥「何か言いたい事はあるかい?」

「……」

 

 選手たちは飛鳥をじっと見ていた。そう、飛鳥のあの下手な芝居は一体何だったんだと。

 

飛鳥「分かるぜ。オレが一番反省しろと言いたいんだろ」

目金「いえ、あの下手な芝居は一体何なんですか」

飛鳥「ああ。イプシロンのケツをぶったたいただけよ」

夏未「ケッ…下品です!」

秋「あははは…」

 

 お嬢様の夏未は「ケツ」という言葉に頬を染めた。

 

飛鳥「まあ、それを抜いたとしてもだ。実際にイプシロンと戦ってみてどうだった?」

「それは…」

 

 飛鳥の言葉に選手たちはどう説明しようか考えていた。

 

飛鳥「ジェミニとはまた違うでしょ」

鬼道「そうですね…。とにかくパワーが圧倒的でした」

飛鳥「そうだね。円堂くんが特にそうでしょ」

円堂「!」

 

 飛鳥が円堂を見つめた。

 

飛鳥「試合終盤で隆一郎から必殺シュートを受けた時点で、完全に押されてたでしょ」

円堂「そ、そうですね…。とにかくシュートの威力が…」

鬼道「そしてダメ押しの合体技…。完全に完敗です」

飛鳥「まあ、オレがあいつらに助け舟を出したから、完敗ではないかな」

 

 飛鳥がイプシロンの方を見ると、デザーム以外の選手はばつが悪そうにしていた。

 

飛鳥「まあ、一言でいうなら今度はパワーが足りない。特に必殺技ね」

「!」

飛鳥「今後はパワーを重点的にあげようと思うんだけど、練習メニューはまた伝えるから、今はしっかり休んでね」

「はいっ!」

 

 こうして反省会は終了し、飛鳥はイプシロンの所にやってきた。

 

デザーム「すまぬ飛鳥…。お前に余計な手間をかけさせてしまった…」

飛鳥「別にいいよ。オレがあんなことしなくてもお前の一喝で皆目を覚まして、似たような結果になってたさ」

 

 飛鳥がイプシロンメンバーを見つめると、皆ばつが悪そうにしていた。

 

飛鳥「さて、直さなきゃいけない点は…もうオレが言わなくても分かるな?」

「はい…」

マキュア「飛鳥…」

 

 マキュアが前に出た。

 

飛鳥「何だいマキ」

マキュア「…マキの事、嫌いになった?」

飛鳥「嫌いにはなってないよ」

「!」

 

 飛鳥がそう言うと、皆が嫌な予感になった。

 

飛鳥「嫌いにはね…」

マキュア「嫌いに「は」って何!? 嫌いにはってぇ!!」

 

 飛鳥の言葉にマキュアが涙目になって迫った。

 

飛鳥「でもね…」

「!」

飛鳥「後半のあの連携の崩れっぷりは、ちょっとね…」

マキュア「うえぇえええええええええええええええん」

 

 飛鳥の言葉にマキュアが泣き崩れた。クリプトもちょっと涙目になって、モールは静かに目を閉じた。

 

飛鳥「ジェミニでもああならんかったよ…」

マキュア「もうやめてぇええええええええええええええええ」

モール「飛鳥さん。しわよせこっちにくるんでやめてください…」

飛鳥「大丈夫。そんな事やろうもんなら、今度は確実に負けるしそれに…」

 

 飛鳥が困惑した。

 

飛鳥「…雷門のマネージャーたちに怒られるからね」

 

*********************

 

 こうして最終日前夜。送別会が行われたわけだが…。

 

マキュア「なんでー!!」

レアン「あんな醜態さらして、よく飛鳥と一緒のテーブルで食べれると思ったわね」

クララ「反省して頂戴」

 

 誰が飛鳥と同じテーブルで食事をするかという問題で、完全にマスターランクの女子たちが独占していた。

 

栗松「コーチも色々大変でやんす…」

壁山「そうっスね…」

 

 壁山たちは1年生で食事をとっていた。

 

ヒロト「本当にうちに来てくれてありがとう。円堂くん」

円堂「イプシロンとサッカーが出来てよかったよ」

 

 円堂は初日と同じようにヒロト、デザームと食事をとっていた。

 

デザーム「試合には勝ったが、完全な勝利ではない」

円堂「……」

デザーム「今度は生まれ変わったイプシロンで引き続き雷門イレブンに勝負を挑もう!」

円堂「ああ! こっちももっともっと強くなって絶対に勝つ!!」

 

 円堂とデザームは仲良くなって、飛鳥は一安心した。

 

 ところが数十分後…。

 

レアン「ところでまだジェミニが東京にいるの?」

飛鳥「雷門中の修復が終わるまではな…」

 

 飛鳥達が東京に帰るという事で、レアン達は一緒に入れないことに対する不満を抱いていた。

 

ポニトナ「お仕事大変でしょう」

飛鳥「まあ、ジェミニも手伝ってくれるから助かってるよ。理夢や希望には秘書業をしてもらってるし」

 

 飛鳥がほかの女子に頼っていることを話すと、空気が止まった。

 

レアン「ひ、秘書…」

クララ「それはどういう事かしら…?」

 

 一気に嫉妬のオーラを話すマスターランク女子。

 

少林寺・宍戸「ひぃぃぃぃ~!!!」

壁山「な、なんか嫌な予感がするっす…」

栗松「でやんす…」

目金「漫画でよく見る修羅場展開…。まさか生で見れるなんて…!」

春奈「そんな事言ってる場合じゃないですよ…!!」

 

 だが、飛鳥は全く動じなかった。

 

飛鳥「安心しな。2人とも真面目にやってるよ」

リオーネ「そういう問題じゃありません」

レアン「やっぱり納得いかない! どうしてジェミニばっかり!!」

飛鳥「学校壊したのあいつらで、オレはその教育係だから」

 

 飛鳥がきっぱり言い放った。

 

ポニトナ「ふふっ。ちゃんと仕事してるならひとまずはいいでしょう」

 

 ポニトナは冷静に言い放つと、飛鳥はポニトナを見つめた。

 

ポニトナ「それなら私はいつでも代われるように準備しておきましょうか」

飛鳥「穂香…」

 

 リームとパンドラはとってもプレッシャーを感じていると、モールは無言で彼女たちに同情した。

 

***********************

 

 そして翌朝…。

 

円堂「お世話になりました」

瞳子「ええ」

 

 雷門イレブンは東京に帰ろうとしていて、施設の前でエイリア学園の面々に見送りされていた。

 

ヒロト「機会があれば一緒にサッカーしよう。円堂くん」

円堂「ああ! でもその前にイプシロンを倒さないとな」

デザーム「我々は逃げも隠れもせん! いつでもかかってくるがいい!」

 

 と、円堂はデザームやヒロトと試合の約束をしていた。

 

飛鳥「さて、オレ達はもう帰るけど、ちゃんと真面目にやるんだぜ」

 

 飛鳥がエイリア学園のメンバーにそう声をかけるが、皆悲しそうにしていた。

 

飛鳥「…そんな顔するなよ。またいつか会えるさ」

マキュア「それもそうだけど…」

飛鳥「……」

 

 マキュアがジェミニストームをにらみつけた。

 

マキュア「やっぱりジェミニだけ一緒にいられるの納得できない!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

飛鳥「潰すな」

 

 マキュアが喚くと、ジェミニストームは罰が悪そうに視線をそらした。

 

飛鳥「ヒロト。頼んだぜ」

ヒロト「は、はい…」

バーン「いや、飛鳥さん! なんでグランだけなんですか!!」

ガゼル「そうですよ」

飛鳥「いや、だってお前らはさぁ…」

 

 バーンとガゼルの問いに飛鳥は何か根に持ったように返答した。

 

バーン「分かったよ!! ちゃんと杏たちを纏めればいいんだろ!」

ガゼル「…全く、誰のせいだと思ってるんですか」

飛鳥「おう。お前らちゃんと晴矢と風介がやってるか見張っといてくれ」

「は、はい…」

瞳子「さて、そろそろ行くわよ」

「ちょいちょいちょいちょいちょいちょい」

 

 瞳子が自分も行こうとしていたので、皆がツッコミを入れた。

 

瞳子「引率者は必要でしょう?」

飛鳥「すみません。間に合ってますので、こいつらの傍にいてやってください」

瞳子「飛鳥も私がいないと不安でしょう?」

飛鳥「もうそんな年じゃないですよ…」

瞳子「あなたはまだ子供なのよ!? ちゃんと大人に頼りなさい!」

飛鳥「こいつらはオレよりも年下だから、猶更いてやってください!!」

 

 するとポニトナが瞳子を取り押さえた。

 

ポニトナ「飛鳥さん。瞳子姉さんは私が取り押さえておきますので」

飛鳥「ありがとう穂香。流石だぜ」

 

 飛鳥がポニトナだけ褒めたので、ほかの女子たちも瞳子をがっちりガードした。

 

飛鳥「お、おう…。お前らもありがとな…」

瞳子「離しなさい!! こんな事していいと思ってるの!?」

飛鳥(鬼瓦刑事からお前も大変だなって前に言われたんだけど、これが原因だったんだ…)

 

 以前鬼瓦に取り押さえられた時の事を思い出した飛鳥だったが、取り調べが終わった直後に鬼瓦から疲れ切った顔でそういわれた時の事を思い出した。

 

 そんなこんなで飛鳥達を乗せたイナズマキャラバンは旅立ち、愛媛を後にした。

 

「行っちゃった…」

 

 イナズマキャラバンが完全に見えなくなり、エイリア女子たちが元気なさそうにしていた。

 

デザーム「さて、イプシロンの戦士たちよ!」

「!」

デザーム「落ち込んでいる暇はないぞ! 雷門イレブンとの再戦に向けて特訓だ!!」

一部メンバー「えええ…」

 

 その時だった。

 

マキュア「やるわよ。やるの!!」

クリプト「ぶっ潰す…」

モール「…諦めなさい」

 

 そう言ってイプシロンは再戦に向けて訓練をし直すのだった。

 

ヒロト「…あれ? ところでルルは?」

「え?」

 

**********************

 

 イナズマキャラバン・2号車

 

飛鳥「まあ、あいつらも元気そうで何よりだったんだけど…」

 

 飛鳥が口元をひきつらせながらそう言った。というのも…。

 

クィール「ついてきたッポ!」

「ルル~~~~~~~~~!!!!?」

 

 なんという事だろう。ルルがついてきてしまったのだ…。

 

飛鳥「もう今更引き返すのも面倒だし、相談するか…」

 

 今頃マキュアたちはすごく騒いでいて、この後すごく面倒なことになるだろうと、飛鳥は肩を落とすのだった。

 

 

つづく

 



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第6章 大阪編
第71話「テコ入れ?」


 

 一丈字飛鳥です。雷門イレブンとお日さま園の顔合わせが無事に終わって、一安心できるかと思ったのですが、世の中そんなに甘くないですね。

 

「それが人生だっポー」

飛鳥「お前のせいだよ」

 

 はい。前の話を見て頂けたら分かるのですが、エイリア学園マスターランクチーム「ガイア」のメンバーの一人であるクィールこと九井ルルが…イナズマキャラバンに密航してました。完全に私の落ち度です。穂香たちが瞳子姉さんを取り押さえているときに気づかなかったなんて、一生の不覚でございます。

 

クィール「背が低くて良かったって思ったの久しぶりだッポー」

飛鳥「言っとくが、こっちに来たからにはお前もジェミニの一員として働いてもらうからな」

クィール「承知の上だッポ」

 

 さて、問題はここからですね。今私はイナズマキャラバンで東京に帰る途中なのですが、もし次に愛媛と通信を取るようなことがあったら、どんな顔をして会えばよいのでしょう。

 

********************

 

飛鳥「えーそういう訳で、クィールさんはこっちでこき使う事になりました」

「……」

 

 はい。東京に帰って一応報告はしてみたのですが、全然ダメでした。皆怖い顔をしていて、リュウジ達はビビッて身を寄せ合ってるし、ヒロトや瑠美は申し訳なさそうに頭下げてるし、晴矢と風介は…うん。今回は褒めてやるよ。ボコボコにされてまで止めてくれたんだな。

 

マキュア「そんなん聞いてないんだけど…」

飛鳥「ごめんて」

クリプト「ぶっ潰す…」

飛鳥「ほう…?」

 

 クリプトの言葉に飛鳥が圧をかけると、皆が困惑した。

 

クリプト「ご、ごめんなさい…」

飛鳥「気持ちは分かるが、言っていい事と悪い事があるから気を付けような」

 

レアン「なんでクィールだけ許されるのよ!!」

バーラ「そーよそーよ!!」

飛鳥「許されたわけじゃないんだけどね」

クララ「じゃあすぐに愛媛に強制送還すべきよ」

リオーネ「そうするべきだわ」

クィール「テコ入れだッポ」

「お前は黙ってろ!!」

 

 クィールに関しては全く反省なしで、皆が突っ込んだ。

 

クィール「という訳で新章開始だッポ!」

「強引に始めた!!」

キーブ「コラー!! ルル~!!!」

ウルビダ「私も行きたかった…」

 

************************

 

 そしてまたいつもの日常に戻っていた。雷門イレブンは傘美野中でサッカーの練習をして、飛鳥はそのコーチをしていて、ジェミニストームは奉仕活動をしていた。勿論クィールもその中にいる。

 

「お手伝いして偉いねー」

クィール「ポ」

 

 小柄で可愛いというのを活かして、すっかり町の中に溶け込んでいた。それを見てジェミニのメンバーは辟易していた。

 

クィール「見てないで働くっポ」

「は、はい…」

 

 クィールは元々口も悪いし、腹黒いので本性を知っているジェミニメンバーは何とも言えない気持ちになった。

 

*************************

 

 そしてその夜、飛鳥とクィール、ジェミニメンバーは寮にいたが…。

 

アイシー「クィール。飛鳥に変なことしてないでしょうね?」

 

 談話室のモニターで愛媛にいるメンバーと通話していた。というのもクィールが来たことにより、毎日通話することを義務付けたのだ。飛鳥としては「通話できれば」としていたが、一応落ち着いてきたので、何とか彼女たちの希望に沿う事にしたのだった。

 

飛鳥「オレが変なことされる立場かいな」

クィール「変なことってなんだっポ?」

アイシー「××××」

飛鳥「おーい。お兄ちゃん悲しむぞー」

 

 アイシーの兄であるアイキューの眼鏡が割れていた。

 

「おにいちゃあああああああああああああああああああん!!!!」

 

 そんなこんなで数日はこんな調子だった。

 

**********************

 

 そしてある日の事。

 

飛鳥「さて、ナニワ修練場の使用許可が下りたから、今度の土日に大阪に行くよ」

 

 飛鳥は雷門イレブンとミーティングをしていて、大阪に行く話をしていた。

 

壁山「大阪っすか…うまいものが沢山あるんスよねぇ」

少林寺「…遊びに行くんじゃないんだから」

飛鳥「まあ、練習がスムーズにいけばどっかで飯食うのもいいな」

壁山「頑張るッス!」

飛鳥「その意気だ」

 

 飛鳥が1年生と軽く談笑して、士気を盛り上げようとする中、豪炎寺は思い詰めていて、飛鳥はそれに気づいていた。

 

飛鳥「ほかの皆も今度のイプシロン戦に向けて、しっかり練習するように!」

「はい!」

 

 こうして、大阪への遠征に向けて雷門イレブンは調整をするのだった。

 

**************************:

 

 その夜飛鳥はジェミニストームとクィールにも声をかけた。

 

飛鳥「お前たちも練習相手として、一緒に大阪に来てくれ」

レーゼ「分かりました…」

クィール「ナニワ修練場…懐かしいッポ」

飛鳥「そうだなぁ…。だけど、あそこ暫く使ってなかったからな…。今どうなってんだろ」

 

 飛鳥がそう考えていると、モニターの通信が鳴った。

 

飛鳥「またあいつらかな…」

 

 飛鳥がスイッチを押すと、マキュアたちが映った。

 

マキュア「飛鳥聞いたわよ!! 大阪に行くんだって!?」

飛鳥「ああ。ナニワ修練場にね」

レアン「それでジェミニとクィールも連れてくの!?」

飛鳥「雷門イレブンの練習相手としてね」

クララ「くっ…!」

マキュア「今度だってぜったいぜーったい負けないんだから!」

飛鳥「そりゃあ頼もしいけど、あんま無茶させんなよ」

クィール「飛鳥はルルが見てるから安心するッポ」

「きぃ~~~~~~~~~~~~~!!!!」

 

 クィールが勝ち誇ったように言い放つと、マキュアたちは涙目でハンカチをかみしめる勢いで悔しがった。

 

飛鳥「マウント取りはマナー悪いよ」

クィール「これもテコ入れだッポ」

「もうええわ!!」

 

 

 

 

つづく

 



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第72話「いざ大阪へ」

 

 

 大阪遠征当日。雷門イレブンは1号車、エイリア学園組は2号車に乗って、大阪まで向かっていった。

 

クィール「新幹線の方が早いッポ」

飛鳥「そう思うだろう。でも荷物とかあるから車の方が楽なんよ」

 

 2号車で飛鳥とクィールが隣同士で座っていた。これを見たらマキュアたちは怒り狂うだろう。

 

レーゼ「なんて言うかもうやりたい放題…」

クィール「そんなの特権だッポ」

飛鳥「ルル。分かってるとは思うけど、もうマスターもセカンドもないからな?」

クィール「承知だッポ」

 

 そんな会話をする一方で、1号車では1年生たちがはしゃいでいて、先輩たちに怒られていた。

 

 そんな中、豪炎寺は前のイプシロン戦の事を思い出していた。自身のシュートがデザームに簡単に止められてしまい、ストライカーとして機能していないことを飛鳥に指摘され、危機感を覚えていた。

 

「どうしたんだよ豪炎寺」

 

 隣にいた円堂が声をかけてきた。

 

豪炎寺「円堂…」

円堂「ナニワ修練場ってどんなところなのかな」

豪炎寺「?」

円堂「イナビカリ修練場と同じくらい、いや…それ以上にすげーのかな?」

 

 そう言って前向きな姿勢を見せる円堂を見て、豪炎寺の気持ちが少し安らいだ。

 

豪炎寺「……」

円堂「…豪炎寺?」

 

 豪炎寺の様子を見て円堂は異変に気付いて名前を呼んだが、豪炎寺はふっと笑った。

 

豪炎寺「…いいや。お前は本当に変わらないと思ってな」

円堂「変わらないって…」

豪炎寺「こっちの話だ。とにかく大阪に着いたら、イプシロンに勝つことだけを考えよう」

円堂「豪炎寺…」

 

 豪炎寺の様子を見て、円堂も何かを察したのか何も言わないことにした。

 

**********************

 

 そして大阪にたどり着いたが…。

 

円堂「こ、ここは…?」

 

 イナズマキャラバンが下りた場所は遊園地『ナニワランド』だった。

 

飛鳥「実はナニワ修練場ね。このナニワランドの中にあるんだ」

「ええーっ!!?」

 

 飛鳥の言葉に皆が驚いた。

 

飛鳥「さ、ついといで」

 

 そういって飛鳥が先頭になって皆が歩き出した。

 

壁山「なんだか楽しそうっす…」

栗松「練習がひと段落したら、遊べないでやんすかねぇ…」

宍戸「そうだといいけどなぁ…」

 

 1年生たちは遊びたそうにしていたが、前を歩いていた豪炎寺が何やらピリピリしていたので、あまり大声では言えなかった。

 

半田「…豪炎寺の奴、どうしたんだ?」

鬼道「すぐに分かる」

半田「え?」

 

 そしてナニワ修練場の近くまで来たが、何やら喧嘩が起きていた。

 

飛鳥「なんだ?」

春奈「喧嘩ですか?」

 

 10数人の女の子たちと、黒服の男たちが言い争っていた。

 

壁山「も、ももも! もしかして喧嘩っすか?!」

少林寺「さっき音無さんが言っただろ…」

宍戸「大変だぁ~!!」

飛鳥「落ち着いて。あの黒服の人たちは吉良財閥の人たちだよ」

「え?」

 

 そういって飛鳥が黒服の人たちに近づくと、クィールもついていった。

 

飛鳥「どうかされましたか?」

「あっ! 一丈字様!」

「一丈字様ぁ?」

 

 飛鳥が顔を出すなり、黒服が驚き、女の子たちのリーダー格は悪態をついていた。

 

黒服「それが…」

 

 黒服が事情を説明した。

 

飛鳥「成程…」

「けど、うちらかてこの中掃除したねんで!! 使わせてくれたってえーやろ!!」

「せやせや!!」

「とっても広すぎて、めちゃくちゃ大変やったんやで!!」

 

 経緯はこの通りである。ある日女の子達がナニワ修練場を発見して、そのまま中に入って掃除などをして秘密基地として使っていたのを、突然吉良財閥がやってきて女の子たちを追い出したのだ。何の見返りもなしに追い返すのはおかしいと女の子たちは騒いでいたのだ。

 

少林寺「不法侵入で訴えられないだけ、有難いと思った方がいいと思うけどなぁ」

春奈「確かに…」

「やかましいわ! このチビ!!」

少林寺「チ、チビィ!?」

 

 そう怒鳴るのはまたもリーダー格である浦部リカ。見た目は水色の髪のガングロギャルだが、中身は絵にかいたような関西人だった。

 

リカ「とにかくタダで帰そうってのは納得がいかへん!!」

飛鳥「……」

 

 リカたちの言い分に飛鳥は困った顔をしていたが、

 

飛鳥「…掃除をされてた証明とかってできます?」

「そういうやろうと思って、ちゃーんと用意したで!」

 

 そういってメンバーの一人が証拠の資料を飛鳥に手渡した。

 

飛鳥「確かにウソはついてなさそうですね…」

リカ「ていうかあんた誰なん!? いきなり現れてきて!!」

 

 リカの言葉にジェミニストームが困惑したが、クィールが不機嫌そうにした。

 

飛鳥「あ、吉良財閥の者です」

リカ「吉良財閥ぅ?」

「き、吉良財閥ってまさか…」

 

 リカのチームメイトの御堂玲華が反応した。

 

飛鳥「あ、そのまさかです」

クィール「良い根性してるッポ」

飛鳥「お前は黙ってろ」

 

 クィールが余計なことを言いそうだったので、飛鳥が止めた。

 

リカ「吉良財閥だがなんだか知らんけど、とにかくうちらをどかしたいんやったら、それなりの見返りは貰わんとあかんわ!」

クィール「現行犯で訴えるっポ」

飛鳥「訴えはしないけど、親御さんを挟んで話し合う必要が…」

リカ「ちょ、親出すの卑怯やで!!」

 

 飛鳥とクィールの発言にリカが慌てだした。

 

リカ「いや、ちょい待ってーや。ホンマにアレやねんって。あんた達が本当に吉良財閥の関係者やったら、あの中の事も分かっとうやろ?」

飛鳥「ええ。もしかしてこのメンバーだけで掃除されたんですか?」

「せやで」

「1日じゃ無理やったわ…」

 

 女の子たちの言い分を聞いた飛鳥はふと考えた。

 

飛鳥「うーん…」

円堂「コーチ?」

 

 すると飛鳥がリカたちを見た。

 

飛鳥「言いたい事は良く分かった」

リカ「何してくれるん?」

飛鳥「条件付きになるけど、これからもこの修練場使っていいよ」

「!!?」

 

 

 

つづく

 

 



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第73話「大阪CCC」

 

 

 前回までのあらすじ

 

 イプシロンの再戦に向けて、大阪のナニワ修練場で特訓することになった円堂たち。ところが、修練場前でギャルたちが吉良財閥の黒服たちと揉めていて、飛鳥が仲裁に入った…。

 

********************

 

「条件付きってなんやねん」

 

 飛鳥の提示にリカがそうツッコミを入れた。

 

「い、一丈字様!!」

飛鳥「掃除をしてくれたことに関しては噓をついてなさそうですので」

リカ「で、条件付きってなんや?」

飛鳥「君たちの分の入館証を作りたいんだ」

「入館証?」

飛鳥「元々ナニワ修練場は吉良財閥が所有してる建物だし、危ないからあまり一般の人は入れなくないんだ。これ以上無断で入られると警備の人たちも仕事が増えて大変だからね。今後はこの修練場を使う時は入館証を持って入ってね。失くしたら再発行するから」

 

 飛鳥の言葉にリカたちも驚いた。

 

飛鳥「これでいいかな?」

リカ「……」

クィール「これ以上は負けないっポ。負ければ…」

 

 クィールがそう言い切る前に、リカはふっと笑った。

 

リカ「あんた、なかなか話分かるやん」

飛鳥「……」

 

 リカの言葉に飛鳥が反応すると、雷門イレブンも困惑しながら見つめていた。

 

飛鳥「まあ、今からは我々が使うから」

リカ「使うって…」

飛鳥「そう。強化合宿って奴かね」

 

 するとリカたちは円堂たちに気づいた。

 

リカ「あっ!! 雷門中や!!」

「ホンマや!! 雷門中!!」

「全然気づかんかった!!」

 

 リカたちのマイペースぶりに円堂たちは困惑した。

 

染岡「な、なんなんだこいつら…」

マックス「今時の女の子って感じだよね…」

影野「だけど存在感がある…」

 

リカ「ら、雷門中って事は…」

 

 雷門中がいる事が分かり、リカが胸を高鳴らせながらある人物を探していた。そしてすぐにある人物を見つけた。

 

「…え?」

 

 その人物とは、一之瀬一哉だった。

 

リカ「おったわ…うちの王子様~♡♡♡」

 

 リカの言葉に雷門イレブンが驚いた。

 

栗松「お、王子様ぁ!?」

春奈「まあ、確かに王子様と言われれば、そのような気も…」

一之瀬「え? え?」

 

 一之瀬は何が何だかわからなかった。

 

飛鳥「大ファンなの?」

玲華「あー…。此間のFFで一之瀬くんを映像で見て、ひとめぼれしたんですわ」

万里「惚れっぽいからすぐに冷める思うとったんですけど、今回はガチですね…」

飛鳥「あー…」

 

 飛鳥はリカと一之瀬を見て困惑していた。

 

リカ「これはもう何かの運命や…」

一之瀬「ごめんなさい」

リカ「いや、振るの早っ!!!」

 

 一之瀬が即座に謝ったので、リカが突っ込んだ。

 

玲華「あー振られてもうたかー」

万里「そりゃそうやろな。なんでもアメリカの天才プレーヤーやもんな。リカには勿体ないわ」

リカ「やかましいわそこ!!」

 

 玲華と万里の茶々にリカが突っ込むと、豪炎寺は苛立ち始め、飛鳥がそれを感知した。

 

飛鳥「まあ、そう言う事だから…」

リカ「ちょい待ち。それやったらうちらと勝負や」

「はぁ?」

 

 リカの言葉に皆が驚いた。

 

リカ「うちらもあのへんてこりんな機械でめちゃくちゃ強くなったんやで」

玲華「あ、うちらもサッカーチームなんですよ」

「サッカーチーム?」

目金「ただのギャル集団にしか…」

リカ「いいか? うちらのチームは…」

 

 目金の言葉をさえぎってリカがチーム紹介をした。

 

玲華「cute!」

リカ「chic!」

万里「cool!」

 

「大阪CCC(トリプルシー)!!」

 

 と、3人同時に決めポーズをしながら言い放った。

 

飛鳥「なんか癖強そうだなぁ…」

リカ「いや、あんたが一番強いで。そういう事言うとる奴が一番癖強いって相場は決まっとんねん。うん」

 

 飛鳥の言葉にリカがツッコミを入れた。

 

リカ「そういう訳や雷門イレブン! うちらと勝負せぇ! それでうちらが勝ったら…」

飛鳥「勝ったら?」

 

 飛鳥の言葉にリカがモジモジした。

 

リカ「ダーリンのサインください♡」

 

 リカの発言に飛鳥と大阪CCCのメンバーがずっこけた。吉本新喜劇ばりにずっこけた。

 

宍戸「テレビで見たことある!!」

壁山「本物の新喜劇見たいッス!!」

春奈「ていうかコーチ…」

クィール「飛鳥は大阪出身っポ」

「そうだったの!!?」

 

 クィールの言葉に皆が驚いた。

 

リカ「あ、あんた同郷だったんかいな…」

飛鳥「まあね…。まあ、勝負なんだけどちょっと待ってくれないかな」

リカ「何や? 負けるのが怖いんか?」

染岡「何だと!?」

飛鳥「いや、豪炎寺くんが早くナニワ地下修練場で練習したそうにしてるから…」

豪炎寺「オレは構いませんよ」

飛鳥「え、いいの?」

 

 飛鳥が豪炎寺の方を見た。

 

円堂「豪炎寺…」

豪炎寺「…イプシロンの事ばかりに気を取られてばかりだったから、コーチはあえてオレの名前を出したんだろう」

 

 豪炎寺が飛鳥を見ると、飛鳥はそのまま豪炎寺を見た。

 

飛鳥「そんなに慌てなくてもイプシロンは逃げないよ」

リカ「これはアレやな。そんなこと言うとるけど、結局気になってうちらを全然見ないパターンやで」

飛鳥「で、最終的にうちらを見ろ…って、ダメだ。完全に関西のノリになってしまってる」

 

 同郷だからなのか、完全に意気投合している飛鳥と大阪CCC。結果的に豪炎寺のOKも出たので、ナニワランドの中にあるサッカー場を急遽貸し切って、試合をすることになった。

 

******

 

飛鳥「あ、そういや実況どうしよう」

 

 試合を始めようとする飛鳥が突如実況の話をした。

 

春奈「あ、そういえば今日角馬さんいないんですよね…。色々あって」

飛鳥「かといって、お父さんがいるわけでもないしな…」

リカ「実況なんておらんでもいっしょやん。ちゃっちゃとやろか」

 

 リカの言葉に飛鳥が嫌な予感がした。

 

「それは聞き捨てなりませんな。お嬢さん」

 

 どこからか声がしたので、飛鳥達がある方向を見ると、そこには角間王将がいた。

 

飛鳥「…お仕事はどうされたんですか?」

王将「丁度休憩に入って、どうしようか迷っていたところ君たちを見かけたんだ。さて、試合を始めようじゃないか」

リカ「いや、なんであんたがしきっとんねん!!」

 

 ボケとツッコミだらけの中、雷門イレブンと大阪CCCの試合が始まろうとしていた…。

 

 

つづく

 



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第74話「雷門中 VS 大阪CCC!」

 

 

 ナニワランド近くのサッカーグラウンドで大阪CCCとの練習試合が行われた。

 

飛鳥「今回のスタメンを発表するよ」

 

FW:染岡 豪炎寺

MF:少林寺 一之瀬 マックス 宍戸

DF:風丸 壁山 影野 栗松

GK:円堂

 

控え:目金、土門、鬼道、半田、塔子

 

半田「あれ? オレだけ交代ですか…?」

飛鳥「まあ、本来なら初期のメンバーで行こうと思ったんだけど、一之瀬くんを出してくれっていうリクエストがあってね」

「!」

 

 飛鳥の言葉に雷門イレブンは大阪CCCの方を見ると、リカが一之瀬に対してウインクしてきたので、一之瀬は苦笑いしていた。

 

目金「まあ、相手が女子だけのチームなのでこれくらいが丁度いいでしょう」

飛鳥「甘いよ目金くん」

「!?」

 

 目金の言葉に飛鳥が待ったをかけると、皆が飛鳥を見た。

 

飛鳥「確かに体格や力では男に敵わないけど、頭の方は女の子の方が優れてるからね。おまけに…」

 

 飛鳥が困惑しながら大阪CCCの方を見ると、大阪CCCはにんまりと笑っていた。

 

飛鳥「関西の女は滅茶苦茶押しが強いからね。一歩間違えたらエイリア学園なんて比べ物にならないよ」

玲華「いや、それは言い過ぎですわ…」

 

 飛鳥の言葉に玲華が苦笑いすると、

 

リカ「まあ、少なくともそこのメガネは一発でいてこましたるわ」

「い、いてこます!?」

飛鳥「関西でやっつけるって意味だね。もしくはしばく」

マックス「そういやよく使ってるよね…」

 

 そんなこんなで試合が始まった。目金程ではないが他のメンバーも結構軽く見ていたが、思った他自分たちについてこれていて驚いていた。

 

半田「つ、ついてこれてる!?」

飛鳥「まあ、あの修練場をクリアしてるなら…」

 

 飛鳥は特に驚いた様子はなかった。

 

飛鳥「でも彼女達の持ち味はそこじゃないと思うよ」

「え?」

 

 するとCCCの選手が次々と雷門イレブンを翻弄するかのように…喋りまくってペースを乱していた。

 

飛鳥「ああいうタイプと戦った事ある?」

半田「…そういやフットボール・フロンティアの準決勝で戦った秋葉名戸があんな感じだったなぁ」

飛鳥「ましてや相手は全員女子だからな…。あんまり強引なプレイをしても…」

 

 次の瞬間だった。ボールを受け取った豪炎寺が強引に突破した。

 

飛鳥「…言ってる傍から」

 

 そしてそのままファイアトルネードを決めて1点を先取した。

 

角間「ゴール!!! 豪炎寺が1点先取したー!!!」

 

 と、角間がアナウンスをしたが大阪CCCのディフェンス陣が不満そうにしていた。

 

「ちょっとアンタ!! 今の強引すぎるやろ!」

「女子相手なんやからもうちょっと手加減せえや!!」

「ブーブー!!!」

 

 ディフェンス陣が豪炎寺にブーイングして、円堂達が困惑していると豪炎寺はキッと睨みつけた。ディフェンス陣は睨まれて怯んでいる。

 

豪炎寺「フィールドに立ったからには男も女も関係ない。勝ちたいなら全力で止めに来るんだな」

 

 そう言って豪炎寺は去っていくと、ディフェンス陣は困惑した。

 

「な、何やあいつ…」

「かーっ!! イキっとるわー」

「でもちょっとカッコええな…」

 

 すると雷門ベンチ陣が飛鳥を見た。

 

春奈「…コーチ。イキっとるってどういう意味ですか?」

飛鳥「カッコつけてるって意味だよ。結構苛立ってるな…」

 

 飛鳥は豪炎寺を見た。

 

飛鳥「豪炎寺くーん!!!」

「!?」

 

 飛鳥が豪炎寺に指示を出そうとした。

 

飛鳥「その調子であと4点ね!!!」

「コーチ!!?」

 

 いつもは出さないような指示に皆が困惑していた。豪炎寺も流石に困惑していた。

 

飛鳥「それくらい出来なきゃ、あいつからゴール割るの厳しいよ!」

豪炎寺「……!」

 

 飛鳥の言葉に豪炎寺は飛鳥の言いたい事を理解して試合に集中した。

 

 そして大阪CCCボールで始まる。

 

リカ「ふん! あいつか誰か知らんけど、勝ったつもりでいるのは早…」

 

 リカが喋りながらドリブルするも豪炎寺にボールを奪われていた。

 

リカ「あれ…?」

玲華「ボール取られるの早いわ!! ディフェンス!!!」

 

 するとディフェンス陣が豪炎寺をブロックしようとすると、隙間を見つけて染岡にパスした。

 

染岡「豪炎寺!!」

 

 そしてパスを繋いでいって、豪炎寺が2点目を先取した。

 

土州「う、嘘やん…!」

 

 大阪CCCのゴールキーパーである土州恋はあっけなく点を取られて唖然としていた。

 

 この後も雷門のペースで試合が続き、豪炎寺が大量得点を取った。

 

「アカン! 全然追いつけへん!!」

「うちらも強うなったのに!!」

 

 そして極めつけは一之瀬の『スパイラルショット』でゲームセットとなった。

 

王将「試合終了―!! 6-1で雷門イレブンの勝利だー!!!」

「はぁ…」

 

 負けた大阪CCCの面々は力が抜けたように座り込んだ。

 

「こんなに強いなんて…」

「腐ってもFF優勝校…。簡単にはいかへんもんやなぁ…」

 

円堂「一之瀬! ナイスシュート!」

 

 円堂が決勝点を決めた一之瀬に声をかけると、一之瀬はいつもの人差し指と中指をくっつけてサインを送った。

 

リカ「ダーリン♡♡♡」

玲華「ホンマに元気やなあ…」

万里「ホンマ…」

 

 リカの惚れっぽさにメンバーはあきれ果てていた。

 

*****

 

リカ「アンタら強いな」

目金「ま、負けたのに偉そう…」

栗松「でやんす…」

リカ「やかましいわ! ホンマにしばいたろか!!」

目金・栗松「ひぃいい!!!」

 

 負けたのに偉そうにするリカに目金や栗松が困惑すると逆切れした。

 

飛鳥「そういう訳だから、修練場は使わせて貰うよ」

「はーい」

玲華「お手数おかけしてすんません…」

 

 そんな時だった…。

 

「リカ!!!」

 

 リカにそっくりなおばちゃんが現れたが何やら起こっていた。

 

リカ「オカン!!!」

リカママ「聞いたで!! アンタ人様に迷惑かけて…」

 

 リカママがリカを叱ろうとしたが、偶然飛鳥の顔が目に映った。そして飛鳥の顔を見てリカママは慄然としていた。

 

 

リカママ「…笑子?」

 

 

 

つづく

 



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第75話「ナニワ修練場!」

 

 前回までのあらすじ

 

 大阪CCCとのエキシビションマッチに勝利し、いよいよナニワ修練場での特訓に入ろうかと思われたその時、リカの母親が現れて飛鳥の顔を見ては慄然としていた。

 

****

 

リカママ「笑子…?」

飛鳥「え?」

 

 リカママは飛鳥の顔を見るなり、慄然としていた。

 

リカ「え、オカンどないしたん? エミコって誰やねん」

飛鳥「……」

 

 飛鳥はリカママの様子がおかしかったので、超能力で探ってみると、するとリカママが学生時代の笑子と遭遇していたことが判明し、飛鳥も驚いていた。すると…

 

飛鳥「…リュウジ。円堂くん達を連れて先に行っててくれ」

レーゼ「え!?」

飛鳥「…ちょっとこの人と話をしなきゃいけねぇんだ。頼む」

レーゼ「わ、分かりました…」

 

 そう言ってレーゼは雷門イレブンとエイリアメンバーを誘導した。

 

リカ「ちょ、ちょい待ちぃ! アンタとオカンって…」

万里「リカ!」

玲華「ちょっとは空気読んだり!」

 

 リカが空気を読まずに突っかかるが、チームメイトに止められてそのまま連行されていった。飛鳥とリカママ2人だけになった。

 

飛鳥「…母のお知合いですか?」

リカママ「…せや。君、飛鳥くんやろ。笑子の…息子の」

 

 リカママの目から涙があふれていると、飛鳥は俯いた。

 

飛鳥「ええ。神楽笑子の息子です」

 

 するとリカママは飛鳥を抱きしめた。

 

飛鳥「!」

リカママ「…今日まで生きててくれてありがとうなぁ。おばちゃんめっちゃ嬉しいわ…!」

 

 リカママの言葉に飛鳥は驚いていたが、恐らく母親と親交が深かったのだろうとリカママに申し訳なさそうにしていた。そしてリカママは飛鳥から離れた。

 

リカママ「…ほんで、ここには何しに来たん?」

飛鳥「それがですね…」

 

 飛鳥が気まずそうに事情を説明した…。

 

*************

 

 ガンッ!!!

 

リカママ「飛鳥くん。雷門中のみんな。うちのバカ娘が迷惑かけてゴメンなぁ」

 

 事情を知ったリカママがすぐさまリカに拳骨して皆に謝罪した。飛鳥達は何とも言えない顔をしていた。

 

リカ「ぶつことないやんか!!」

リカママ「やかましい!! アンタも謝らんかい!! 小遣いなしにすんで!!!」

リカ「う…ご、ごめんなさい…」

飛鳥「まあ、修練場を勝手に使った事は本当はアウトなんですけど、こんなでっかい所を一生懸命掃除してくれたんで、もうええですわ…」

 

 リカママの圧が凄すぎてもうそろそろ止めないとリカが死ぬと思ったのか、飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「さて、そろそろ選手たちを待たせてるんで、私達はもう行きます」

リカママ「そうかいな…。ここにはどれくらいおるん?」

飛鳥「まあ、数日はいますけど…」

リカママ「それやったら連絡先交換しよ! おばちゃん力になるで!」

 

 そう言ってリカママは飛鳥に強引に連絡先を交換した。

 

リカ「オカン! いい年して何年下の男口説こうとしとんねん!!」

リカママ「ちゃうし、アンタに男の女の何が分かるんや!」

飛鳥「あー…。死んだ母の知り合いなんですよ」

 

 飛鳥の言葉に皆が驚いた。

 

飛鳥「生前母が世話になったみたいなんですわ…」

リカ「……」

飛鳥「だから心配いりませんよ」

 

 飛鳥が苦笑いすると、リカも流石に申し訳なさそうにしていた。

 

リカ「す、すまん…」

飛鳥「いやあ、空気を重くしたのはこっちなんで気にしなくて大丈夫ですよ。もし母が生きてたら、いらん事言うなって私が拳骨されてたかもしれないですね。さて、そんな事よりも修練場に行こう! それでは、私達はもう行きます」

リカママ「うちの娘がバカやっとったらまた言うてな」

リカ「オカン!!!」

 

 こうして修練場にたどり着いたのだが、修練場の器具のコーディングが何やら可愛らしくなっていた。

 

飛鳥「な、なんかコーディングされてる…」

玲華「すんません。調子に乗ってコーディングしてしまいました…」

飛鳥「まあ、使えたらいいんですけどね…」

 

 リカ以外のCCCメンバーはすっかり大人しくなっていた。

 

目金「なんかどこにでもある普通のスポーツ器具のように見えますが…」

 

 目金がそう言うと飛鳥は困惑した。

 

リカ「ふふん。そう思うやろ? まあでもアンタ体力なさそうやから、どうせすぐにバテると思うで」

目金「バ、バカにしないでください! 僕だって雷門イレブンの一員ですよ!?」

飛鳥「目金くん。それ死亡フラグ…」

目金「やってやろうじゃ~ないですかぁ!!」

 

 そう言って目金はランニングマシンの上に乗った。

 

飛鳥「おいおい…」

クィール「まあ、やりたければ勝手にやらせればいいッポ」

リカ「ほな早速いくでー。甲子!」

 

 甲子が機械を動かすと、いきなり物凄いスピードで走らされる目金。

 

目金「ちょ! いきなり飛ばし過ぎじゃないですかぁ!?」

リカ「それでまだレベル1やでー。気張りやー」

飛鳥「やめといた方が良かったのに…」

 

 飛鳥がそう呟くと、本当にまずかったことが判明して目金は青ざめた。

 

目金「ちょ、もう無理ぃ!! 止めてくださいぃ!!」

半田「はえーよ!!」

土門「もうちょっと頑張れよ!!」

 

 すぐにバテ始めたので半田と土門がツッコミを入れた。

 

リカ「舐めてかかった罰や。もっとスピードあげぇ」

飛鳥「お、おい!」

 

 甲子が更にレベルを上げていくと、坂になったりでこぼこになったりしていた。雷門イレブンはそれを見て驚き、目金は半泣き状態だった。

 

飛鳥「…あそこまで行けるなら結構大したもんだけどな」

目金「止めてください~!!」

飛鳥「あ、そういやもうそろそろ走るだけじゃなくなるから気を付け…」

 

 飛鳥がそう言いかけた次の瞬間、障害物が目金の足元にめがけて飛び、見事に的中して目金は吹き飛ばされた。

 

飛鳥「あちゃー…」

 

 飛鳥とリカ、甲子が駆け寄った。

 

飛鳥「大丈夫かい。目金くん」

目金「うううう…」

リカ「見かけで判断すると痛い目に遭うっちゅうことを分かって帰りやぁ!」

 

 目金のプライドがズタボロになった。

 

飛鳥「にしても、きちんと動いてるようで何よりだよ…」

クィール「飛鳥も久しぶりにやってみるッポ」

飛鳥「え? オレ?」

 

 クィールに言われて飛鳥は苦笑いした。

 

飛鳥「いいけど、オレも数年ぶりだから最後まで行けるか分かんないよ?」

クィール「それでもいいッポ。飛鳥が走ってる所を見たいッポ」

 

 クィールの言葉に飛鳥は苦笑いした。

 

円堂「オレも見たいです!!」

飛鳥「円堂くん…」

 

 雷門イレブンも同じ気持ちで、速く練習したそうにしていた豪炎寺も手本を見せて欲しいとばかりに飛鳥を見ていた。

 

飛鳥「…そっか。じゃあちょっと着替えてくるわ。流石に私服のままじゃアレだからな」

 

 そして飛鳥が私服のジャージに着替えた。

 

飛鳥「ルル。手本を見せたいからレベル1から頼んだぜ」

クィール「分かったッポ」

 

 そう言ってクィールはレベル1から始めた。すると目金が苦戦していたランニングマシンに対して飛鳥は余裕そうにしていた。

 

飛鳥「うん、練習してた時の感覚が戻ってきた…」

 

 そう言って飛鳥は正面を向いて走った。

 

飛鳥「慣れてきたから次のレベルにしてくれ!」

クィール「ポ!」

 

 クィールがレベルを上げると傾いたり波になったりしていたが、すっかり慣れ切っていた。

 

飛鳥「いざとなったらジャンプを使うのもいいよ!」

 

 飛鳥がそう説明しながら走ると、円堂たちは驚いていた。

 

飛鳥「よし、次!」

クィール「ポ!」

 

 次のレベルになると、目金が脱落した障害物ゾーンになったが、飛鳥は軽々とかわす。

 

飛鳥「この辺はもう障害物がいつ飛んでくるのか予測しておくんだ。次!」

 

 そんなこんなで最高レベルまで達した。もう色々無茶苦茶な感じになっていたが、飛鳥は好戦的な笑みを浮かべて難なくクリアしていった。それを見て殆どの選手が絶句していた。

 

リカ「う、うちらもあそこまで行かへんかったで…」

レーゼ「めっちゃ強いだろ…。あの人…」

 

 そして飛鳥が立ち止まって吹き飛ばされそうになった次の瞬間、バク転して見事に着地した。

 

飛鳥「うん。案外まだ行けるもんだな…」

クィール「思った通りだッポ」

 

 汗だくになっていたものの、ランニングマシンを難なくこなした飛鳥を見て、円堂たちは改めてマスターランクの恐ろしさを痛感するのだった…。

 

 

つづく

 



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