世界最悪の邪神の恋物語 (kajoker)
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あの邪神が恋したことがあるってマジ?

ふと、思いついて書き始めました、D様の恋物語。

神になった蜘蛛子さんこと、白さんが地球に転移してDの所へと向かい、そこでDに恋をしたことはあるかと聞くところから今回の話は始まります。

それでは、本編をどうぞ!


これは、あったかもしれない可能性の物語。地球の管理者にして最上位の神、邪神Dがとある人間に恋をした…そんなもしもの物語。

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

「私は、恋をしたことがあるか、ですか?」

 

「ん…」

 

転移の魔法で地球へとやってきた私。若葉姫色こと、邪神Dにそんな質問をする。

 

いや、別に深い意味はないけど。一応、Dも若葉姫色として学校に通ってたわけだし、そういう浮いた話はないのかなーという軽い好奇心だ。

 

私自身は全くもって恋愛に興味ないけど、他人の恋愛事は気になるよね一。わかる?えっ、わからない?…そうですか。

 

まぁ、結果はわかりきってるけどね。ないでしょ、絶対。だってDよ?世界最悪の邪神よ?そんなやつが誰かに恋するとか想像できんわ。

 

まぁ、休憩中の暇つぶしの話題だし、いないですの一言で終われば別の話題にするか、沈黙すれば良いだけだ。

 

私には何の損害もないもんね。

 

そんなことを思いながら、目の前に置かれたオレンジジュースを口にする。

 

「えぇ。1度だけ、たった1度だけですけど。私は恋をしたことがあります…いえ、今も彼に恋をしています」

 

「ブフッ!!」

 

Dの発言に飲みかけのオレンジジュースを吹き出してしまった。

 

「飲み物を吹き出すなんて、漫画みたいなことをしてどうかしたんですか?」

 

「ケホッ、ケホッ…い、今なんて…?」

 

「私は1度だけ、たった1度だけ恋をしたことがあると言いました。そして、今も彼に恋をしているとも」

 

ま、マジ…?Dからそんな発言が出るなんて…!?もしかして、幻聴?そうだ、そうに違いない。神になった副作用かな…こんな幻聴が聞こえるなんてー。

 

Dが恋?ないわ〜ないない。絶対ない!ないったらない!

 

「信じられないといった様子ですね…ですが、本当ですよ」

 

「幻聴…?」

 

「違います」

 

「妄想…?」

 

「違います。試しに、ほっぺたを抓りましょうか?」

 

「遠慮します…」

 

そろそろ本気で命の危機を感じ、現実に向き合う。

 

本当なのか…いや、よもやよもやだよ。Dが誰かに恋をするなんてあり得ないと思い込んでたわ。

 

でも、これってDの片想いだったりするのかな…?100歩、いや100万歩ぐらい譲ってDが誰かに恋をしたとしよう…だけど、その誰かがDのことが好きとは限らないし。

 

「片想い…?」

 

「いいえ。両想いです」

 

「本当…?」

 

「本当ですよ」

 

そう言って、Dは今まで見たことがないような優しい表情をしていた。

 

お、おぉう…私の目の前に居るのってDだよね?Dの姿をした別人じゃないよね?

 

「失礼な、本物ですよ」

 

さりげなく思考を読まないでくれませんかね…私ってそんなに表情に出やすいのかな…まぁ、話す手間が省けるから私的には大分楽だけど。

 

それにしても、Dを好きになるなんて、変わった人も居るもんだね…まぁ、Dも見た目だけなら美少女だし、中身のどす黒さに気づかなかったってパターンなのかな?

 

「いえ、彼は私のどす黒さにも気づいていたようですよ。もちろん、私が世界最悪の邪神だというのも伝えてましたし」

 

もう思考を読まれることにツッコミはしないけど、これはちょっと驚きだ。つまり、Dが恋してる相手はDが邪神であることも、どす黒い中身もすべて知っているということだ。

 

知った上でDのことが好きなんだ。正直に言えば、バカじゃないの?その一言に尽きる。

 

もっと良い人?神?まぁ、どっちでも良いけど…少なくともDよりまともな奴なんて、この世界にめちゃくちゃ居るはず。それなのに何でよりによってDなのか。

 

私には理解できないわ〜…Dの好きな人、今からでも遅くないから考え直しなって。ま、こんなこと言っても通じないけどね。

 

だけど、ちょっと…いや、かなり興味が湧いてきた。あのDが恋をするほどの人間…Dの悪どい部分も全部知った上で好きだと言える変わり者の人間…それがどんな人間なのか、それを知りたいと思った。

 

「…話して」

 

「えぇ、構いませんよ。彼のことを話すのはとても楽しいですから」

 

そう言って、Dは語り始めた。在りし日の恋物語を。

 

//////////////

 

さて、どこから話しましょうか…そうですね。やはり、まずは彼との出会いからでしょうか。

 

彼との出会いは最悪でしたね。何せ敵同士、最初はお互いに殺し合う関係でしたから。

 

意外ですか?考えれば当然ですよ。私は邪神、片や彼は神にしては優しすぎる神でしたから。

 

元々彼は人間でした。それがいくつもの奇跡により神に至った…それ故、彼は普通の神に比べて優しさが残っていたのでしょう。

 

その優しさを利用して、他の神が私の元に彼を送り込んできたのは今思い出しただけでも腹が立ちます。まぁ、そいつらは私が後でしっかりと成敗しましたが。…慈悲?あるわけないでしょう。

 

 

そんなふうに、始まりは最悪だった私達ですが、彼は元々私を倒すつもりはなかったようで、和解に時間は掛かりませんでした。

 

彼に戦うつもりがないなら何故戦いになったのか、ですか?いや〜…あの時の私は彼を警戒してましたから…ついつい攻撃をしてしまいまして。

 

…コホン。まぁ、私も悪いと思いまして。彼にしばらく私の拠点で過ごすように提案しました。

 

すると、彼も私の提案を受けてくれまして、そこから彼との同棲生活が始まったというわけです。

 

///////////////

 

「なるほど…?」

 

いや、待て待て!情報量が多い!えっ?人間って神になれるの?しかも、Dと戦ったってことは、Dとタイマン張れるぐらい強いってこと?黒が天地がひっくり返っても自分に勝ち目はないって言ってたぐらいなのに!?

 

私の知ってる神の代表格と言えば、黒とDだから、詳しい基準はわかんないけど、Dと張り合える神なんてそうそういないと思う。そんなDとやり合える謎の男…そんな奴が居たのか。

 

やっば、勝てる気がしない…あぁ、なるほど。だから、他の神は謎の男を唆して、Dの所に送り込んだわけね。Dの元に送り込んで、そのままDを倒せればそれで良し、最悪共倒れしてくれれば他の神にとっては最も都合が良い。

 

うん。多分、こんな所だと思う。まぁ、こんな浅はかな策略に引っ掛かるほどDが恋する人は甘くなかったのは計算外だったということだろう。

 

…どうやら、彼はただのお人好しってわけでもないみたいだね。

 

それにしても、彼はどうやって神になったんだろう?ただの人間が神になるって相当だよ?私は裏ワザ的な方法で神になったけど…Dに聞いた方が早いか。

 

「彼は、どうやって神に…?」

 

「さぁ?詳しいことは私にもわかりません…彼も詳しいことは私にも話してくれなかったので」

 

「そう…」

 

本人が話したくないなら、しょうがないね…誰にだって秘密にしておきたいことがあるだろうし。

 

「神になった経緯は不明ですが、彼の実力は本物ですよ。彼はいくつもの世界を救ってきたようで、その時の圧倒的な戦闘経験に、救ってきた世界の人々の信仰心も加わり、他の神も容易に手を出せないほどです」

 

なるほど…確かに、神に対する信仰心はそのまま神の強さにも直結する。Dの話しの通りなら、救われた世界の人間達はそりゃあ救ってくれた神を信仰するよね。

 

しかも1つの世界じゃなくて、いくつもの世界を救ってきたっていうなら、信仰する人間達の数は他の神の比じゃないだろうし。

 

うん、納得…素の戦闘能力の高さに、いくつもの世界の人間達の信仰心が合わさったからDともタイマン張れるぐらいになったというのはあり得る気がする。

 

それにしても、こう考えると――――

 

「Dとその人、真逆…」

 

「そうですね…本当に私と彼は真逆の存在です。邪神の私と世界を救う彼、孤高の私と多くの人々の願いを受けて困難に立ち向かう彼…フフッ、ですがそんな真逆な彼だからこそ、ここまで惹かれてしまうのかもしれません」

 

そんな言葉を口にしながら、Dは優しげな表情を浮かべる。その顔はほんのり赤くなっていた。

 

うぉぉ…マジか。今のDの表情、完全に恋する乙女じゃん。Dがこんな顔するなんて…よっぽど彼のことが好きなんだね。

 

何か、ここまで聞いたらとことんまで聞きたくなってくるなぁ…この際、もっと聞いてみる?…よし!時間はまだあるし、ここまで来たらとことんまで聞いてやろう。

 

私はそう決心して、口を開いた。

 

「もっと聞かせて…彼のこと」

 

「構いませんが…まさか、あなたも彼のことを狙っているんですか?」

 

「違う…」

 

Dの厳しい視線に慌てて首を横に振る。

 

怖っ!視線だけで殺されるかと思った…Dってもしかしなくても独占欲強いんじゃね?…これは、下手なことは口にできないわ。

 

「そうですか…まぁ、それなら良いです。さて、彼の話ですね…次は、彼とのどんな思い出を話しましょうか…」

 

そう言うDの表情はどこか嬉しそうで、それだけ彼と呼ぶ人との日々が充実していたのがよくわかる。

 

そういえば、まだ彼と呼ばれている人の名前を聞いていなかった。

 

「そういえば、彼の名前は…?」

 

「あぁ、言い忘れていました…彼の名前は―――――」

 

Dが口にした名前は、不思議と腑に落ちた。…とても彼らしい名前だ、そんなふうに感じた。

 

「…さて、何を話すか決めました…聞きたいですか?」

 

 

「うん…聞かせて」

 

私がそう返すと、Dは再び語り始めた。

 

彼との恋物語の続きを。

 

 




オリキャラ君の名前を出さないのは、その方が面白そうというのもありますが、この小説を読んで下さっている皆様が好きな名前を入れて、楽しんで読んで頂ければ良いなという理由があります。

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!


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きっかけ。それは些細なもので

第2話です。今日はバレンタインデーですね。皆さんはどんなバレンタインデーをお過ごしになられましたか?

私は、まぁ、ぼちぼちですよ…ぼちぼち。

まぁ、それはさておき本編をどうぞ!


彼と奇妙な同棲生活を始めてしばらく経ちましたが、彼は中々働き者です。

 

私の仕事を押し付け……コホン。私の仕事を手伝ってくれますし、私の分のご飯を作ってくれます。

 

それに彼の口から聞かされる他の世界の話しは興味深い話も多くて退屈しません。

 

「おはよう?時間の感覚がわからないから判断しづらいけど、とりあえずおはよう」

 

「えぇ、おはようございます。どうですか?ここの生活には慣れましたか?」

 

「慣れたといえば、慣れたな…お前に仕事を押し付けられること以外は」

 

「はて?何のことでしょうか?私はあなたに仕事を押し付けたことなどありませんよ」

 

「よく言うよ…この邪神め」

 

「フフッ…でも、何だかんだで手伝ってくれるあなたが好きですよ」

 

「はいはい。何の感情もない好きの言葉をどうも…まぁ、俺もお前のことは他の神に比べれば好きだけどな」

 

「えっ…!?」

 

「どうした?何かすごい驚いてるけど」

 

「あっ、いえ…私は邪神ですから、恨み言やら何やらは聞き飽きていますが、好きだという人は初めて見たので…」

 

まぁ、本性を隠して接すれば私はクールビューティーな美女として認識されるでしょうから、好きという言葉も言われると思いますが。

 

ただ、彼の場合は私が邪神であることも、私の本性も知っているはず…その上で、他の神に比べれば私が好きとは一体どういうことなのか?むむむ…わかりません。

 

自慢じゃありませんが、私ほどの邪神はなかなかいないと思います。どう考えても、他の神の方がマシでしょうに…彼は一体何を考えているのか。

 

あ、龍種は例外です、あいつらは宇宙の害虫ですから。あいつらよりは私の方が遥かにマシです。

 

「まぁ、普通なら邪神にこんなことは言わないか…これは、あくまで俺の主観だから、多少…いや、かなりズレてるのかもしれないけど」

 

「何ですか?」

 

「まず、お前の行動原理が明確だからっていうのが1つだな。お前の行動原理は、自分が面白ければいい…要はそういうことだろ?」

 

「えぇ、間違っていませんね」

 

「つまり、何かを救うことがお前にとって面白ければ協力してくれるし、何かを滅ぼすことが面白ければ遠慮なく滅ぼすということだろ?」

 

「そうですね。私にとっては、面白ければどちらでも構いません」

 

「だろうな…だからわかりやすくて良い。お前が何かをやらかす時はお前がそうした方が面白いと考えてる時ってことだろうからな…他の神の場合は腹の内がイマイチ読めないから、そういう意味ではお前とは自然体で話せて心地いいんだ」

 

「私との時間は心地いいのですか?」

 

「あぁ、心地いい…ま、面白ければいいという単純な理由で、世界の命運やら人の人生を狂わせたりするのは、とんでもなくたちが悪いと思うけどな…」

 

「…後半の言葉がなければ、とてもキュンとしたんですけど…私の純情を返してください」

 

えぇ、本当に返してほしいところです…今、ホントに少しだけ、少しだけ心が揺さぶられましたから。

 

こうなったら、もう1度私の心を揺さぶってくれなければ満足できそうにないです。

 

「俺はお前に純情があったことに驚きだよ…」

 

「失礼ですね。私にだって純情ぐらいありますよ。そういえば、さっきの言動から推察するのに、私を他の神より好きな理由は1つではないのでは?」

 

「お、おぉ…まぁそうだけど…」

 

(何だ?何かすごい期待の眼差しを向けられてるんだけど…)

 

「では、それについても聞かせてください」

 

「わかった…まぁ、他の理由としては、お前は理不尽だけど選択の余地を与えてくれるところだな…お前にとってはどちらでも構わないって感じなんだろうけど、選択肢を与えられるだけまだマシだ…俺の知ってる神は理不尽で、選択肢も、選択の余地すらも与えてくれなかったからな」

 

 

「よほど、嫌な神と出会ってきたようですね」

 

「あぁ、まったくだ…だから、そいつらに比べればお前の方がよほど好感が持てる」

 

「…っ!そ、そうですか…フフッ、もっと私を褒め称えても良いんですよ?」

 

「わぁ、見た目も美人だし、性格も優しい…何てパーフェクトな神なんだー(棒)」

 

「…もうちょっと、心を込めて言ってくれると嬉しいのですが…」

 

「はいはい、わかった。まぁ、お前は邪神だし、性格もアレだけど、俺が心地よい時間を過ごせる、今の所唯一の存在だ。これからも世話になると思うけど、よろしくな」

 

「……えぇ、よろしくお願いしますね。では、私は仕事をしてきますので」

 

「珍しいな…お前が俺に仕事を押し付けないなんて」

 

「まぁ、あなたにばかり任せるのも悪いですからね」

 

「そういうことなら、俺は休ませてもらおうかな」

 

「ゆっくり休んでください」

 

そう言って、私はその場を後にしました。

 

本当なら、彼に仕事を押し付ける所なのですが、今は少しでも気を紛らわせたかったのです。

 

「…顔が熱いです。おかしいですね…特別なことなど何もしていないはずなのですが…」

 

まさか、これが所謂恋というものなのでしょうか?いや〜、まさか私が恋だなんてあるはずが…あるはずが…

 

そんなことを思いながらも、頭の中には彼のことが渦巻いていて、鼓動が高鳴る。

 

これはまさか本当に…!?と、とにかく今は無心で仕事をしましょう。いつもは面倒くさい仕事ですが、今回ばかりは感謝です。

 

「…まったく、本当に面白い人ですね…」

 

///////////////

 

「とまぁ、こんな感じに私と彼は仲を深めていったというわけです。タイトルを付けるなら『彼を意識した日』でしょうか」

 

「……」

 

色々とツッコミたいところだけど、まず一言……リア充爆発しろ!

 

まさか、こんなことをDに対して思うことになろうとは…めっちゃ恋愛してるじゃん…この邪神。

 

何かもうね、驚きすぎて言葉が出ないっす…しかも、これってまだ付き合っているわけじゃないんでしょ?仲良すぎない?

 

まぁ、まだこの時の彼は恋愛感情としての好きというよりは、友情とか親愛みたいな感じっぽいからなぁ…うん?てことは、Dの方が先に恋愛感情を抱いたってこと?…へぇ、これは意外だわ。

 

なんとなく理由はわかるけど…Dからすれば、初めて自分のドス黒いところを知った上で好きと言ってくれた存在だもんね…そりゃあ嬉しさを覚えるわけだよ。Dにそんな感情があったことには驚きだけどね。

 

ま、D相手にそんなことを言えてしまう彼はある意味狂ってるのかもしれないけど。

 

…そういえば、この時の彼はまだ恋愛感情を抱いていないとしたら、どのタイミングで彼はDに恋愛感情を抱いたんだろう?

 

「…彼はいつDのことを好きに…?」

 

「それは彼に聞いてみないことには何とも言えません」

 

「そう…」

 

それは残念。D曰く、彼はいくつもの世界を救ってきた神らしいからもしかしたら今も他の世界を救っているかもだよね……今すぐ聞き出すのは難しいかも。

 

はぁ…いろんな世界を救っているなら、ついでに私達が今居る世界も救ってくれないかな〜…なんてね。

 

「それだけは、絶対に許しませんよ…わざわざ彼の手を煩わせる必要はありません」

 

突如として響く底冷えするような声。それがDから発せられていると理解すると同時に、やっちまったという考えがまず浮かんだ。

 

もしかしなくても、私ってば地雷踏んだ!?ヤバいヤバい…ど、どうにかしてこの状況を何とかしなくては…!

 

「…冗談。本気にしないで」

 

ようやく絞り出した言葉はそんな当たり障りのない言葉だった。

だけど、これは本当だ。元々私は彼の力を借りるつもりは毛頭ない。

 

あの世界の問題は私達の問題だし、まったく関わりのない彼に力を借りるというのはおかしな話だもんね。

 

「…それなら良いです」

 

「良かった…でも、どうしてそこまで?」

 

「…彼は、散々他の世界の都合に振り回されてきましたからね…そろそろゆっくり休んでも罰は当たらないでしょう。他の世界のごたごたなんて、別の奴らに解決させれば良いんです」

 

「なるほど…」

 

つまり、私達が今居る世界は私達でどうにかしろと…まぁ、元々そのつもりだけどさ。

 

というか、元々神ってそういう存在だよね…本来、そこまで世界に干渉したりはしない。まぁ、ほんの気まぐれで干渉をすることはあるだろうけど、基本的に神が干渉するなんてのは、よほどの緊急事態ぐらいだろう。

 

そう考えると、彼の神としての在り方はかなり特殊なのかもしれない。

 

ただ、それだけに苦労が多いんだろう…だって、いろんな世界を救うって口で言うのは簡単だけど実際やるのはかなり骨が折れると思う。私なら、多分途中で嫌になって引きこもるよ?

 

うん…マジで彼は少し休んでも罰は当たらないのでは?

 

にしても、Dが誰かをここまで気に掛けるなんてね…私や他の人達にもその優しさの何分の1か分けてくれませんかね……いや、ないわ。うん、絶対にない。

 

多分、後にも先にも、Dがここまでの感情を抱く存在は出てこないと思う。

 

1度会ってみたいなぁ…ここまで来ると本人をこの目で見たくなる欲が湧いてくるのはしょうがないよね。本当に今どこに居るんだろ?

 

まぁ、Dと話していればその内戻ってくるかもしれないし、今は話の続きを聞こう。

 

私はそう考えて、Dに話の続きをするように促すのだった。

 




以下、ちょっとした短編です。バレンタインデーということで書いてみました。よろしければどうぞ!



「今日はバレンタインデーという日のようですね」

「そういや、今はそんな時期か…随分と久しぶりに聞いた気がするなバレンタインデー」

「バレンタインデーといえば?」

「そりゃあ、チョコレートだろう…まぁ、今の俺には縁遠い話だから関係ないけど」

「フフッ…そんなあなたに私からチョコレートをあげましょう!」

「いや、遠慮しとく…」

「何故?」

「毒とか入ってそうだし…」

「入れませんよ…私を何だと思っているんですか?」

「邪神」

「確かに私は邪神ですが、今回に関しては大丈夫ですよ」

「本当か?まぁ、大丈夫なら食べるけど…」

そう言いながら、彼は私の作ったチョコレートを手に取る。

「見た目は普通だな…特に呪いの類もなしか…よし、それじゃあ戴きます」

「どうですか?」

「…普通に美味い!本当にただのチョコだ…ありがとう。美味いよ!これは、真面目にお返しについて考えないとな…」

「フフッ、喜んでもらえて良かったです。お返し、期待してますよ」

「了解…まぁ、あまり期待しすぎないで待っててくれ」

//////////

「…そういえば、今年も、もうすぐバレンタインの時期ですね…冥土さん、私は今から少々出かけますので留守をお願いします」

「逃がすとお思いですか?」

「仕事なら終わってますよ?」

「はい?…本当ですね…いつもこれぐらいやる気になってくれれば私も楽なんですが」

「今日は特別な日ですからね…仕事に束縛されるわけにもいかないんですよ。では、お願いしますね」

「わかりました」

「さて、彼と過ごすバレンタインの為に私も頑張りましょうか」

―――――――――

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!





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彼はとんでもないものを盗んでいきました…

第3話です。

最近、WEB版の最新話まで読んだのですが、辛い…あれは辛いです。

…とにかく気持ちを切り替えていこうと思います。

それでは本編をどうぞ!


「さて、そろそろ世界を救いに行くか」

 

彼のその言葉に、ついにこの時が来てしまったかと思いました。

 

もちろん理解はしていました。彼はいくつもの世界を救う神ですから、いつかはこんな日が来ると。

 

ですが…少々寂しいですね。いえ、嘘です…とても寂しいです。

 

「…普通の人が言うとイタいセリフですけど、あなたの場合は本当の意味で救いに行くんですよね…」

 

「まぁな」

 

「…ここにはもう戻ってこないんですか?」

 

「いや…実は、お前さえ良ければ本格的にここを拠点にさせてもらいたいんだけど…」

 

「…!」

 

彼の言葉に鼓動が跳ね上がりました。これはつまり、これからも彼と一緒に居られるということに他なりませんから。

 

「えぇ、構いませんよ」

 

「そうか…ありがとう!これからもよろしくな」

 

そう言って、彼は手を差し出す。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

私はそう返して、差し出された彼の手を握った。

 

とても温かい…そういえば、こんな風に誰かの手を握ったのは初めてかもしれませんね。

 

「それじゃあ行ってくる。まぁ、帰って来るまで割と時間掛かると思うけど…」

 

「わかってますよ。あなたが帰ってくるまで、ここで待ってますから安心してください」

 

「了解…それじゃあ今度こそ行ってくる」

 

「はい、行ってらっしゃい…あ、今のやり取り夫婦っぽかったですね」

 

「お前と夫婦ね…想像できないな…だけど、こういう風に誰かに行ってらっしゃいって言われるのは悪くないな」

 

彼は笑顔でそう言って、転移魔法でこの場から別の世界へと向かっていきました。

 

「…彼のあんな笑顔は初めて見ましたね…写真や映像に残しておくべきでした…いえ、私だけ知っていればそれで良いかもしれませんね」

 

他の誰かに見せるのは、少々勿体ないですし。

 

さて、彼が帰ってくるまで、何をして過ごしましょうか?面倒ですが、先に仕事を済ませてしまいましょうか。

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

そうして、彼が帰ってくるまでのプランを考えた私ですが、問題がありました。

 

「退屈です…退屈すぎて死にそうです…まぁ、私は死なないんですけど…」

 

最近は彼と居ることが当たり前だったせいでしょうか?彼が居ないと退屈です。

 

彼が居ないと寂しいです…まだ1週間ほどしか経っていないというのに……会いたいです。いっそのこと彼の行った世界に私が干渉すれば解決するのでは?

 

それです!名案ですよ私!神のルールなんて知ったこっちゃないです。さっさと介入して彼を連れて帰りましょう。

 

そう考えて行動を起こそうとすると、目の前に空間の歪みが出現しました。

 

これは、もしや…!

 

「ふぅ…無事に戻ってこれたな。ただいま」

 

「…お帰りなさい。待ってましたよ…あなたが居ないと退屈で仕方なかったです」

 

「そうだったのか?」

 

「えぇ、退屈で死ぬかと思いました」

 

「いや、お前は死なないんじゃなかったっけ?」

 

「気持ちの問題です。察してください」

 

「わ、わかった…えっと、何かごめんな。お詫びに久しぶりに料理を振るまうよ…俺の感覚で言えば1ヶ月ぶりだし、久しぶりにお前とゆっくり過ごしたいからな」

 

「はい、そうしてください…私の感覚で言えば1週間ぶりですが、あなたが居なくて寂しかったのは本当ですから」

 

「寂しい…?お前が?いや、何でもない。とりあえず準備するから待っててくれ」

 

「えぇ、待ってます」

 

久しぶりに彼と過ごせる。そう考えるだけでさっきまでの退屈が嘘みたいに消えていく。

 

…これはもう疑いようがありませんね。

 

――――――私は彼に恋をしている。

 

彼が好きです。このまま永遠に共に居たいと思うほどに…まさか、私の中に恋愛感情が芽生えるとは思いもよりませんでしたが。

 

こんな感情は初めてです…ですが、邪神である私が誰かを愛することなどできるのでしょうか?

 

私は自分がどんな存在なのか理解しています。おそらく、どれほど時が経とうと、私という存在が変わることはないでしょう。その内、彼を傷つけてしまうこともあると思います。

 

しかし、それでも私は彼と共に居たいと願ってしまう。

 

…まったく、誰かを好きになるというのは中々難儀なものですね…私は彼を愛することができないかもしれない、だけど愛したい。彼を傷つけてしまうかもしれない、だけど共に居たい。

 

どこか矛盾しているこの感情…でも、これこそが誰かを好きになるということならば、この感情はとても尊いのでしょう。

 

「フフッ…まったく、面白いですね」

 

「何か良いことでもあったか?」

 

「えぇ、とても良いことがありました」

 

「そうか…」

 

「…これからも、よろしくお願いしますね」

 

「改まってどうしたんだ?ま、こちらこそよろしくな」

 

//////////////

 

「いや、告白しないんかい!!」

 

「だって、告白するのって結構勇気がいるものでして…あの時の私はその勇気がなかったので…まぁ、最終的には告白をして、彼にも好きだと言ってもらえましたので、問題なしです」

 

思わず、素の口調でツッコミを入れてしまった私の言葉にDはそう返す。

 

というか、マジで真っ当に恋愛してるよね、D…そういえば、気になってたけど、彼は結局今どこに居るんだろ?ちょっと聞いてみようかな?

 

「そういえば、彼は今どこに…?」

 

「……それを聞いてしまいますか」

 

「何か問題…?」

 

ここまで話して、実は作り話だったなんてオチは勘弁してよ?

 

まぁ、今回に関しては本当の話だと思うけど。だって、彼の話をする時のDは柔らかい表情をしていた。愛しい人の話をするように…懐かしい思い出を語るように。

 

Dは、演技であんな表情はできないと思う。だって、演技だったらどう頑張っても作りものの表情にしかならないと思うし。

 

ただ、そうなると嫌な想像が頭をよぎる。もしかして彼はもう…いや、でもDとタイマン張れるぐらい強いって話だし、そんな彼があっさりと…

 

「…まぁ、あなたには見せても大丈夫でしょう…ついてきてください」

 

「…?わかった」

 

Dが立ち上がり、私に着いてくるように手招きする。

 

彼の居る場所に連れて行ってくれるって考えて良いのかな?とりあえずついていこう。

 

そうして、家の中を少し歩いていき、ある部屋の前でDが歩みを止めた。

 

これは、部屋の中まではわからないけど、扉自体はどこにでもあるような部屋の扉だね…パッと見た感じだと、ただの部屋にしか見えないなぁ…もしかして、ここに例の彼が居るのかな?

 

「この部屋です。彼が居るのは」

 

「…ただの部屋にしか見えないけど」

 

「えぇ、そのように細工してますから。一応聞いておきますが、この部屋に入る覚悟はありますか?」

 

Dが真剣な様子でそう問いかける。

 

…Dがこんな風に聞くってことは、私の嫌な想像通りなのかもね…でも、ここまで来たんだから今さら後には引けない。

 

「…うん、大丈夫」

 

「では、開けますね…」

 

そう言って、Dは扉を開いた。

 

扉を開いた先に広がっていたのは、暗闇。周りには何もなく、ただ暗闇が広がっていた。そして、その暗闇の奥には仄かな光を放つ何かが見えた。

 

その光に惹かれて奥に進むと、そこには大きな結晶があった。

 

「これは…?」

 

「彼が眠っている結晶です…彼は今、消耗した魂とエネルギーを回復している最中なんですよ」

 

「消耗?回復…?」

 

言われてみれば、確かに誰かが結晶の中に居る。男の人だ…まぁ、それはわかりきってたことだけど。…結晶の中に居るせいか、詳しい見た目はわからないけど、黒髪のイケメンっぽい?

 

それにしても、魂とエネルギーを回復してるって…一体何があったんだろ?

 

「何があったのか?という顔をしていますね…あれは、ちょうど私と彼が世間一般で言う恋人になって、しばらく経った時でした…5つのとある世界で同時に危機が訪れてしまったんです」

 

「5つの世界で同時に…?」

 

何それ!?絶対あり得ないでしょ!

 

「普通ならあり得ません…私の所に彼を仕向けた神達の仕業です。本当にあいつら、舐めた真似をしてくれたものですよ」

 

「……」

 

怖っ!いつもの平坦な口調なのに、言葉の端々にとんでもない怒りを感じるんだけど!

 

「…そ、それで彼は一体どうしたの?」

 

「5つの世界を同時に救う為に、自分の分身体を出しました。ただ、彼の分身体は全て本体と同等の力を持っていて、エネルギーの消費量が馬鹿になりません。しかし、彼は世界を救う為にそこまでする人なんですよね…まぁ、彼らしいと言えば彼らしいですが」

 

「なるほど…それでどうなったの?」

 

「そこから先は私にも詳しいことはわかりません。ただ、5つの世界は全て救われたようです。それに、しぶとく生き残った5つの世界に居た神は私の手で葬ったので完璧に救われたと言えるでしょう」

 

「じゃあ、それで…?」

 

「いえ、それだけではないでしょう。聞くところによると、ちょうど同じタイミングで龍種も行動を起こしていたようです…おそらく、彼を始末する為に…あの害虫共め…!!」

 

Dがキレてるよ…もう怒りを隠す気ないんですけど!と、とにかく話を進めなくては!私の身の安全の為にも!

 

「…結論を」

 

「おっと、すみません。ついつい怒りが…これは、私の推測ですが、私に彼を仕向けた神達と龍種が手を結び、彼を始末する為にまず、複数の世界で問題を起こして彼を消耗させる…そして、消耗した彼を龍種の領域に引きずり込み、彼を更に消耗させる…もしくは倒そうとしたのだと思います」

 

なるほど…確かに推測としては正しいかも…ただ、龍種に彼を消耗させるという意図があったとしたら、まだ敵が居たってことになるんじゃ…

 

「あなたの考えている通りですよ。私もまだ敵が居たと考えています…そして、彼はその敵すらも打ち倒して私の所に帰ってきてくれたのでしょう。帰ってきたばかりの彼は本当にボロボロでしたし、魂にも損傷を受けてましたから」

 

だから、彼は今眠りについてるってわけね…にしても、すごいなぁ…5つの世界を救い、その世界に居た神達を退け、龍種の領域に引きずりこまれ、消耗している中でも龍種すら退けた。さらにはそのすべてを仕組んだであろう黒幕も倒した。

 

…うん。化け物すぎない?さすがはDとタイマン張っただけはあるわ。

 

「…強い人だね」

 

「えぇ、とても強い人ですよ彼は。単純な強さでも、精神的な強さでも」

 

「そうだね……いつ目覚めそう?」

 

「さぁ?ただ、私はもうすぐではないかと思っています。まぁ、何の確証もありませんが」

 

「そう…早く目覚めると良いね」

 

「えぇ、心からそう願っています……では、そろそろ戻りましょうか」

 

「うん」

 

そうして私達は部屋を後にする。

 

ついに彼の姿を見ることは出来たけど、これはちょっと予想外だったかも…まぁ、死んでしまったわけじゃなかったから良かったけどね。

 

それにしても、Dが彼の思い出を振り返りながら、彼が目覚める時を待っていると考えると、ちょっとDの見方も変わってくる。あの邪神にも、可愛いところがあるもんだ。

 

まぁ、Dのやらかしたことは許さないけどな!

 

そんなふうに、今回の出来事により、私のDの見方がほんの少し変わったのだった。

 




今回の話で出た龍種は本物の龍です。Dの強さがわからないのでこういう感じにしましたが、どうでしょうか?強すぎですかね…それとも弱いでしょうか…Dの具体的な強さがわかると良いんですが…まぁ、とにかく彼は結構な化け物という認識でお願いします。

それでは今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!


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彼、召喚される?

第4話です。今回の展開は個人的にどうなんだろうかと考えてしまいます…まぁ、この小説は元々ifルートのようなものですから今回の展開もそういうものと思って頂ければ…

それでは本編をどうぞ!


夢を見ていた。夢なんて見るのはいつぶりだろうか。

 

ただ、その夢の大半があいつと過ごした日々というのはなかなかに驚きだ…よほど、俺はあいつとの日々が心地よかったらしい。

 

まぁ、そうでなくちゃあいつと恋人になんてならないか…初めて会った時は敵対関係だったはずなんだけど、いつの間にやら恋人か…こう考えると、おかしなものだな。

 

あいつを、Dを意識したのはいつからだったか…多分、あいつの口から寂しかったという言葉を聞いた時だったと思う。

 

あの時の事がきっかけで、俺のDに対する考えが大きく変わった。それまでは単に底の見えないドス黒いなにかを抱えた存在という印象が強かった…まぁ、それでもDと過ごす時間は中々に心地よかったけど。

 

そんな認識が覆ったのがその時だ…あの時のDの表情が本当に寂しそうで、あの時俺は困惑を隠しきれなかった。

 

それ以来、俺はDのことをただの邪神として見ることができなくなってしまった。

 

そうなったら、後はもう、どんどん惹かれていくだけだ。

 

普段は変わらない表情に、僅かばかりの変化が起きた時は思わず目を奪われそうになるし。あいつと色々と話したり、ご飯を食べたりするのも楽しかった。

 

そして、気づけば俺はあいつが好きになっていた。

 

我ながら、邪神に恋愛感情を抱くなんてどうかしていると思わないでもないが、好きになってしまったものはしょうがない。

 

…そういえば、今さらだが俺は何で眠っているんだ…?

 

うーん…確か、何か凄い戦いがあって…あっ!そうだ!思い出した!

 

5つの世界で同時に危機が迫っていて、俺はその世界を救う為に自分の分身体を出して戦いに望んだんだ。そして、5つの世界に居た神達を退けて、他の分身体を俺の所に戻した。

 

そうしてひと息ついたのも束の間、今度はいきなり異空間に連れ去られ、そこに居たのは龍種が10体ほど。そいつらの領域に引きずり込まれ、俺は消耗した状態でそいつらとの戦いに望まなくてはならなかった。

 

まぁ、俺は元々領域を破壊することに特化していたから、本調子だったらそこまで苦戦する要素はないんだけど、なにぶん消耗してたからな…龍種を全員倒すのは中々に骨が折れた。

 

俺は神とか龍が展開するフィールドの脆い部分が視える。そして、その脆い部分を斬ることで展開されたフィールドを破壊できる。イメージとしては、直死の魔眼に近いかもしれない。

 

魔術系の能力じゃないから龍種の結界にも妨害されないチート能力なんだけど、さすがに消耗した状態で龍種10体かがりの結界をあっさり破壊するのは難しい。

 

それでも、どうにか龍種を倒し終えた俺の前にさらなる敵が現れた。それは邪神で、そいつがそれまでの全てを企んだ黒幕だった。

 

俺は見事にその邪神の罠に嵌められたというわけだ…まぁ、罠であることは元々承知の上で行動を起こしていたからあまり驚きはなかったけど。

 

そして、その邪神との死闘に辛くも勝利して、俺はDの所に帰った。…ただ、俺が覚えているのはそこまで…多分、そこで俺は意識を失ったんだ。

 

なるほど…そうして今に至るというわけか。

 

一体どれくらい眠ってたんだ…?数ヶ月?いや、違うな…あの時の俺はエネルギーも結構消耗してたし、魂にもダメージを受けてたからな…最低でも何百年、最悪の場合、何千年ぐらいは経ってるかもしれないな。

 

やれやれ、とんでもなく寝過ごしてしまったな…Dは元気にしてるかな?まぁ、あいつはなんやかんやで元気に過ごしてそうだけど。

 

あれ…?何か光がこっちに迫ってくる!もしかして、俺の意識が覚醒しかかってる?

 

なら、都合が良いや…久しぶりに目を覚ます時がやってきたんだ…さて、さっさと目を覚まそう。

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

「…ん…ここは…?」

 

目を覚ますとそこは見知らぬ天井…まるで、なにかのダンジョンの天井のような…何か嫌な予感がしてきたぞ。

 

よし、とりあえず起き上がろう。

 

『お目覚めですか?星の守護者殿』

 

「星の守護者…?俺が?」

 

まぁ、確かに色んな世界を回ってるし、その世界の為に戦ったりもしてるからそう呼ばれてもおかしくはないんだろうけど……その呼び名は少々恥ずかしいな。

 

というか、俺がこの場に居る理由について大まかに見当がついてしまったぞ。これって、もしかしなくてもこの世界がヤバいから助けてほしいということでは?

 

『突然の事態で混乱しておられるかもしれませんが、聞いてください。今、この世界は危機に陥っています…厚かましいのは重々承知していますが、お願いします。星の守護者たるあなたの力を貸してくださいませんか?』

 

やっぱりな…まぁ、俺が異世界に呼ばれるなんて時は大抵、世界が危機に陥っている時がほとんどだし。

 

本来ならその世界に行くかは俺自身で決められるんだけど、今回は俺がさっきまで眠っていたこともあって、俺の意思に関係なく半ば強制的にこの世界に呼ばれたということか。

 

「なるほどな…ちょっと待っててくれ。星の記憶を読むから」

 

そう伝えて、地面に手を置く。

 

瞬間、この世界の今までの出来事が頭に流れ込んでくる。いくつもの世界を回っていた時に、いつもこの方法で現状を把握していたからな…さすがに、この感覚にも慣れたものだ。

 

そうして、全ての出来事が頭に流れ込んだ後、ため息をついた。

 

…今まで、色んな世界を回ってきたがここまでヤバい事態に陥っている世界は久しぶりだな。

 

それにしても、これってほとんどポティマスとかいう奴のせいでは?もちろん、MAエネルギーを奪ってどこかに逃げた龍種も大概だけどな。

 

しかもD…お前も関わってんのか…ただ、今回に関してはDはむしろ、システムを構築してこの世界を延命させたのだから悪いことは……いや、ポティマスを即刻始末しなかったのは悪いな。

 

その時点で始末していれば、もっとスマートに世界を救えたはずだろうし…どうせ、あいつのことだからその方が面白いとかいう理由だろ。

 

…変わっていないようで何よりだ。もはやここまで来ると安心感すらある。

 

ただ、転生者の人達はDのとばっちりを受けたに過ぎないからちょっと申し訳ない気分になるな…ウチのDのせいですみません。

 

まぁ、やらかしたのは前の勇者と魔王なんだけどな…しかも、結局ポティマスに唆されての行動だからなぁ…やっぱり元凶はポティマスじゃねーか!

 

…よし!何か俺にも責任の一端があるような気がしないでもないし、手助けしよう!

 

「…女神サリエル、あんたの願い、聞き入れるよ」

 

『ありがとう御座います』

 

「ただし、1つ条件」

 

『条件とは?』

 

「あんた自身がちゃんと救われることを願うこと。そうじゃないとあんたを助ける為に頑張っている彼女達が報われないからな」

 

『…それは私には難しいことです…ですが、わかりました。そうなれるように努力します』

 

「それなら良い…それじゃあ、またな。今度会う時はちゃんとした状態で会えると良いな」

 

それだけ言い残して、俺は転移の魔法を発動する。

 

さて、白って子と魔王に会いに行くとするか…ちょうど大きな戦いが終わった後だから、色々と忙しいかもしれないけど。

 

俺はそんなことを考えながら、転移魔法で彼女達の元へ移動するのだった。

 

//////////////

 

「…!これは!彼が目を覚ましたんですね…こうしてはいられません。彼の元へと行かなければ!」

 

「どこに行くつもりですか?仕事はまだまだ残っていますよ」

 

「私の恋人が長い眠りからついに目覚めたんです!行かせてください!」

 

「またその話ですか…あなたのことを好きになるような酔狂な人が居るわけないでしょう」

 

「いや、居ますよ!本当ですよ?」

 

「はぁ、そうですか…で、一体どこのどなたですか?」

 

「その顔はまったく信じていない顔ですね…まぁ、良いでしょう。私の恋人はあの星の守護者様ですよ」

 

「は?今なんと?」

 

「だから、あの星の守護者様です。あなたも名前ぐらいは聞いたことがあるでしょう?」

 

「それはもちろん聞いたことがあります。一戦交えてこともありましたし…よりによって、あの星の守護者様を恋人と言うなんて正気ですか?嘘にしてはあまりにもお粗末です」

 

「いやいや本当ですってば。信じてくださいよ」

 

「信じられるとでも?私の知る限り、あなたとあの人はまったく正反対でしょうに…そんな嘘をついている暇があるなら、ちゃっちゃと仕事してください」

 

「本当なのに…しくしく」

 

拝啓 愛しのあなたへ

 

どうやら、あなたに会えるのはもう少し先になりそうです。ですがご安心を、この地獄(仕事)を切り抜けて必ず会いに行きます。ですからそれまで待っていてください。

 

あなたの恋人Dより♡

 

…まぁ、こんなものでしょう。後はこれをさりげなく彼の所に送りましょう。

 

会話しながらこっそり手紙を書くのはなかなか大変でしたよ…ですが、これで彼に私の現状を伝えることはできるはず。

 

はぁ…できれば、早く彼の元に行ってお帰りなさいの一言を言いたいですし、色々と話したいこともあるのですが、しばらく動けそうにありませんからね。

 

ないわー…本当にないわー。まぁ、さっさと仕事を終わらせれば良いだけですし、久しぶりに本気を出しましょう。

 

…それにしても、まさかあの世界に彼が呼ばれてしまうとは…あの世界の現状を考えれば仕方がないことなのかもしれませんが、納得いきませんね。

 

ま、その原因の一端である私が言えたことではありませんが……ただ、それとは別に彼がどのように行動するのかは非常に興味深いです。

 

私は彼が世界を救う所を直接見たことがありません。だからこそ彼がどのように世界を救うのか見てみたい…そういう気持ちがあるのも事実です。

 

…まったく、ここまで私の感情を昂ぶらせるとは…さすがは私の恋人です。

 

これはますますさっさと仕事を片付けなくてはなりませんね!

 

そう決意し直し、私は仕事を始めるのでした。

 




オリキャラ君は色んな世界を救っているせいか、神々の間では星の守護者と呼ばれています。ただ、世界を救う時に神やら龍種やらと戦う時もあり、一部の神や龍種からは快く思われてません。

天使は神とあらば無差別に攻撃を仕掛けますが、彼のことは味方だと認識しています。理由としては天使は世界の防衛機構という説があるので、世界を救っている彼に攻撃を仕掛ける理由がないからです。

サリエルさんが彼について知っていたのもそういった背景があります。

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!


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星の守護者、蜘蛛と魔王に出会う!

第5話です!タイトル通り、オリキャラ君が白と魔王に会いにいく話です。

今回の話で世界を救う方法について話したりもするのですが、実際、その方法が正しいのかはわかりませんが、なるほど!そういう方法もありか!という風に捉えて頂ければ幸いです。

それでは本編をどうぞ!


さーて、今日はどうしよっかなぁ…エルフの里に侵攻する準備はだいぶ進んでるし、正直やることないんだよね〜。

 

よーし!今日は1日中ダラダラして過ごそ!やっぱ人間、時には休まないとダメなんよ。まぁ、私ってば神なんだけど。

 

身体的な問題じゃなくて、精神的な問題というやつよ。

 

…そういえば、Dの彼氏さんの目は覚めたのかな?

 

地球に転移した時にちょこちょこ様子は見てたんだけど、結局私が見ていた限りでは目を覚ましてなかったんだよね。

 

Dから彼の話を聞かされて以来、ちょっと気になって様子を見ることにしたんだけど、あの人やべーわ…眠っているのに凄い力を感じるんよ。もうすぐ目が覚める兆候なのかもしれないけど、あれにはビックリしたわ。

 

多分、そこいらの神より遙かに強いと思う…あぁ〜、Dには止められたけど、あの人に力を貸してもらえばもうちょっと楽になるんだけどな〜。

 

ま、ないものねだりしてもしょうがない。私は私の計画通りに事を進めるだけだ。

 

「お邪魔します〜…あぁ居た居た。君が白って娘だよな?おぉ、こうして見るとマジでDにそっくりだな…」

 

「はぇっ…!?」

 

突然の来訪者に変な声を上げてしまった…えっ、マジで気づかなかったんだけど!?

 

なんて空間魔法の使い手…!一切気配を感じなかったし、空間の揺らぎすらわからなかった。しかも、この人…!

 

「Dの恋人!」

 

「…あいつから聞いたのか。まぁ、そうだな…じゃあ自己紹介は大丈夫かな?とりあえずよろしくな。白」

 

そう言って、手を差し伸べてくる彼。

 

おおお、落ち着け私!色々と聞きたいことがありすぎるけど!あかん、ちょっと色々と急すぎて落ち着けない!

 

「あ、ごめんな。いきなりで状況を呑み込めないよな…順を追って説明するから、深呼吸して落ち着いて」

 

「ヒッ、ヒッ、フー」

 

「それは出産の時のやつでは…?なんというか、愉快な娘だな…」

 

うるさいわ!こちとらかなりの混乱状態なんだよー!

 

「そうだよな…ごめん。いきなり来たくせに何の説明もなしとか、普通に混乱するよな…本当にごめん。俺もちょっと焦ってたみたいだ」

 

そう言って頭を下げる彼。

 

…こんな素直に謝られちゃ、怒るのも悪い気がしてくるなぁ。

 

「…大丈夫。今は落ち着いた」

 

「そっか、落ち着いてくれたなら良いんだけど…それじゃあ、話を聞いてくれるか?」

 

「うん、聞く」

 

「実は……」

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

「というわけなんだ」

 

「なるほど」

 

彼の話をまとめると、どうやら彼はついさっき目覚めたばかりで気づけばこの世界に召喚されていたらしい…女神サリエルによって。

 

そして、星の記憶?というものを読み、この世界で起きたことを大まかに把握して私達に会いにきたらしい。多分、私のやろうとしていることについても知っていると考えるべきだろう。

 

つまり、彼は今までこの世界で起きた全ての事象を知ったうえで私と魔王に会いにきたということだ。

 

それが意味するのは――――

 

「…私の計画に賛同するってこと?」

 

「まぁ、そうなるかな?より正確に言うなら君の計画の最大のデメリットを無くすことに尽力するつもりだ」

 

「そんなことができるの?」

 

「できる」

 

即答!?言い切ったよ!この人!

 

マジか…それは素直にありがたい。私の計画の最大のデメリットであるシステム崩壊によるこの世界の人間の半数の死…そのデメリットがなくなるのであれば、私の計画に粗はなくなるし、上手くいけば黒と戦う必要もなくなる。

 

「具体的にはどんな風に?」

 

「それについては魔王も交えて話したい。呼んできてもらえるか?できればラースとソフィア、他の魔王軍には知られないように頼む」

 

ふむ…他の魔王軍はまだわかるけど、鬼くんと吸血っ子にも知られないようにしなきゃいけないのか…何故に?

 

「特に深い意味はないよ。ただ、ソフィアさんはつい口がすべって他の奴らに作戦をバラしてしまうかもしれないし、ラース君に関しては最近ようやく吹っ切れたばかりなのに余計な負担を増やすというのも申し訳ないからな」

 

なるほど…確かに吸血っ子は口をすべらすかもしんない。さすがに他の魔王軍には話さないにしても転生者にはついつい口をすべらす可能性はある。

 

鬼くんについても同感だ。なら、ここは彼の言う通り魔王だけを連れてくるべきだね。

 

「わかった。連れてくるから待ってて」

 

「ありがとう」

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

「連れてきた」

 

「どうも〜、白ちゃんに呼ばれてやって来たよ〜」

 

「初めまして、魔王アリエル…俺は、そうだな…アストロとでも呼んでくれ」

 

「アストロ君?ねぇねぇ白ちゃん、この人一体何者?ただ者じゃないのはわかるけどさ」

 

「Dの恋人」

 

「へぇ、D様の……えっ?白ちゃん、私の聞き間違いかな?D様の恋人だって聞こえたんだけど…」

 

「聞き間違いじゃない」

 

「あはは…白ちゃんってばそんな冗談を…」

 

「本当」

 

「…えっ、本当に?」

 

未だに驚きを隠せていない魔王の言葉に頷く。

 

わかる、わかるぞ魔王!私も初めて聞いた時は耳を疑ったからね!正直、未だにちょっと信じられないし。

 

ただ、今はそういうものと理解してもらうしかない。このままじゃ話が進まないし。

 

「お、オッケー。とりあえず今はそういうものと受け止めておくよ…それで話っていうのは?」

 

「ここじゃ、誰かに聞かれるかもしれないから、俺についてきてくれ」

 

そう言って、アストロは手をかざし、空間魔法を発動させる。

 

そして、まるでチャックを開けたみたいに広がっている空間に向かって歩き始めた。

 

「これって、付いていって大丈夫なの?」

 

「それは大丈夫。私が保証する」

 

「白ちゃんがそこまで言うなら大丈夫だね。それじゃあ行こうか」

 

「うん」

 

そうして、私と魔王は彼の後に続いた。

 

/////////////////

 

「わざわざごめんな…改めて、俺はアストロ…他の神からは星の守護者と呼ばれているらしい」

 

「星の守護者…?何か聞いたことがあるような…」

 

「意外と有名なのか?この呼び名…まぁ、それはさておき俺がこうして2人を呼んだのは他でもない…君達の計画の最大のデメリットを無くす方法を話すためだ」

 

自己紹介もそこそこに、本題に入る。

 

魔王は俺の言葉に驚きを隠せないようだ。それはデメリットを無くすことなんてできるのかという驚きか、はたまた自分達の計画を知っていることに対する驚きか。

 

まぁ、多分両方なんだろうけど。

 

「…驚いたよ。まさかそこまで知っているなんて…どこで知ったのかな?」

 

「星の記憶を読んだだけだよ。だから、大まかにこの世界の出来事は把握してるし、君達の計画についても知ってる」

 

「星の記憶…?ちょっとスケールが大きすぎて理解できないよ…」

 

「大丈夫。私も理解できてない」

 

うん、まぁそうなるよな…俺も2人の立場ならそういう反応になるだろうし。

 

「…コホン。さて、まぁそれは一旦置いておいて方法について話そう」

 

そう口にして、俺は球状の物体を異空間から取り出す。

 

「それは?」

 

「これは俺のエネルギーをストックしてある宝玉だ。エネルギーの量としては神5柱分くらいかな?もしもの為の保険だったんだけど、俺が眠りにつく前の戦いでは結局使う暇がなくてさ…」

 

あの時の戦いは連戦で、エネルギーを回復する余裕がなかったからな…それに、最後の邪神との戦いでは俺は魂にダメージを受けてしまった。

 

このストックはエネルギーを回復することは出来ても魂まではさすがに復活出来ないからな…まぁ、そんなこんなで結局これを使うことは出来なかった。

 

「これのエネルギーを使えば、この世界に生きるすべての人々の魂を保護することも可能になるんじゃないか?」

 

そう言いながら白の手に宝玉を乗せる。白は神だからおそらくこの宝玉に大量のエネルギーがあることにも気づくはずだ。

 

「これ…!本当に大量のエネルギーが…!」

 

「つまり、アストロ君の言葉は真実ってわけだ…じゃあ、本当に誰の犠牲も出さずに済むんじゃない?朗報だよ、これは」

 

「あぁ、多分なんとかなると思う。あ、そうそうエルフの里侵攻作戦はそのまま進めてくれて構わない。2人にはポティマスとの因縁もあるだろうから…それに、エルフはこの世界の害になるだろうし、災いの芽は早めに摘んでおいた方が良い。もちろん、転生してきたエルフの人は例外だ…俺としてもあの人のことは助けたい」

 

そう言うと、2人は当然だろうといった様子で頷いた。

 

…この様子ならわざわざ言う必要はなかったかも知れないな。

 

「…アリエル、1つ聞きたいことがある」

 

「何かな?」

 

「女神サリエルの命を助けたいか?」

 

「できるの?とか聞くまでもないか…君はきっとできちゃうもんね」

 

「あぁ、できる…ただ、サリエルの場合は必ずしも命を救うことが救いになるとは限らない…もし、サリエルが蘇ったら危機に陥った人間達はまたサリエルを生け贄にして自分達だけ助かろうとするかもしれない。それでも、君はサリエルの命を助けたいか?」

 

俺の言葉にアリエルは考える素振りを見せる。

 

そうして、しばらくして彼女は口を開いた。

 

「…そうだね、出来れば助けたいかな…アストロ君の言う通り、人間達がサリエル様に何かする可能性はあるけどね」

 

「わかった…そういうことなら任せてくれ!じゃあさっそく方法について説明する」

 

「あれ?アストロ君、もしかして最初からサリエル様を救うつもりだった?」

 

「まぁな。ただ、実際サリエルの命を救うことが正しいのかは俺にもわからないからさ。アリエルの考えを聞いておきたかったんだ」

 

「なるほどね…私を呼んだのもそれが理由かな?」

 

「その通りだよ…さて、それじゃあアリエルの考えも聞けた所で、さっそく方法を話していくぞ。まず、俺の力でサリエルとシステムを切り離す。そして、サリエルに生命活動ができるよう俺がエネルギーを補充する」

 

「システムが破壊される前にサリエル様とシステムを切り離しちゃおうってわけね…確かにそれならサリエル様がシステム崩壊に巻き込まれることはないね」

 

「そういうこと。ただ、サリエルという核を失ったことによりこの星が滅びてしまう可能性もある。だから、サリエルの代わりにさっきの宝玉をシステムの核にする」

 

「これを?」

 

「そうだ。この世界に生きる人々の魂の保護にこの宝玉を使ってもエネルギーはまだまだ残る。残ったエネルギーは星の再生に使用して、システム破壊までの間、一時的にシステムの核として使えば良い。そうすれば、この世界の人々も助けられるし、星も再生できる…更に女神だって助けられる。しかも、システムを破壊しても失うものは俺のエネルギーをストックしている宝玉のみ、ほとんど失うものもない」

 

「なるほど…私達にとって本当に得しかないね。ここまでくると何か裏があるんじゃないかと疑うレベルだよ」

 

「いや、ないから」

 

「だろうね〜、知ってる」

 

「はいはい、そいつはどうも…それじゃあ、そういう感じで頼んだ。決行するのはエルフの里での戦いが終わってからで大丈夫か?」

 

「もちろん!そもそもそれを片付けてからじゃないと私達も動けないしね」

 

「それもそうだな…よし、それで決定!それじゃあまたな。健闘を祈る…俺も協力するけど主体となって動くのはお前達だからな」

 

「わかった、こっちは任せて。そうだ、アストロ君に最後に1つだけ聞いても良いかな?」

 

「何だ?」

 

「どうして私達に協力してくれるの?」

 

「その事か…まぁ、理由は単純にアリエルと白の心意気が気に入ったからだ。それに俺は元々サリエルを救うつもりだったから、2人にはちゃんと話すべきだと思ったことも理由の1つだ」

 

正直、俺はこの世界の人間をそこまで必死こいて守ろうとしているわけじゃない。ただ、Dのとばっちりで巻き込まれてしまった転生者達を救うことが、たまたまこの世界の人間を救うことに繋がるというだけのこと。

 

だが、この世界にも心惹かれる存在が居た。それがアリエルと白だ。アリエルは世界を敵に回してでも、自身が敬愛する女神の意思に背いてでも女神を救うために戦い続けている。

 

その心意気が俺はとても気に入った。

 

白はおそらくDの帳尻合わせで生み出された存在なんだろう…だけど、そこから生き抜き最後には神に至った。これは本当に凄いことだ。

 

Dが気に入るわけだ…まぁ、巻き込まれた白からすればたまったものではないだろうけど。

 

もちろん、俺が白を気に入った理由はそれだけではない。

 

俺が白を気に入ったのは何より、ただ純粋に生きる為に足掻き続けた、その姿勢だ。生きたいという純粋な想いは誰もが持ち合わせているもので、それはとても強い輝きを放つ。

 

白の生き様は、俺が人間だった時のことを思い出させてくれるもので、柄にもなく感傷に浸った。

 

ポティマス?あいつはただの害悪だから含めないよ。

 

それはさておき、他に白が気に入った理由としては多分本人に自覚はないだろうけど、意外とお人好しな所だ。

 

だからこそ、俺は2人に手を貸したいと思った。ま、それを話すのは少々恥ずかしいので口にはしないが。

 

「そっか…改めてありがとね、アストロ君」

 

「どういたしまして。…この結末がお前にとっても良いものになると良いな」

 

俺の言葉にアリエルは1度笑みを浮かべてから、白と共に俺の空間から魔王城へと戻っていった。

 

「…さて、俺も俺で下準備を進める必要がありそうだな」

 

そう口にして、俺も異空間から出ていく。全てを救う下準備を進める為に。

 




という感じの第5話でした!以下、ちょっとした短編です。


「くっ…なかなか仕事が終わりませんね…早く彼に会いに行きたいのにー!」

「いいからキリキリ働いてください」

「しくしく…あら?これはもしや…」

拝啓 Dへ

久しぶりだな、D。まさか、お前が手紙なんて送ってくるとは思わなかった…まぁ、結構嬉しいものだな。

そっちはそっちで大変そうだな。俺もいきなり異世界に召喚されて、その世界を救う為に色々と準備をしている最中だ。

ま、お互いに大変だろうけど頑張ろうぜ。…全部終わったら、久しぶりにお前と過ごしたいな…俺がいない間に何があったのかも知りたいしな。

それじゃあまたな。久しぶりに帰ったらご飯でも作るよ。

お前の恋人、星の守護者より

「フフフ…!やはり良いですね、こういうやり取りは…ますます彼に会いたくなってきました♪では、もっとペースを上げましょう!」

「…!またスペースが上がりましたね。普段からこれぐらいやる気になってくれないものでしょうか…」

―――――

―――

――

「ちゃんとDに届いただろうか?まさか、あいつが手紙を送ってくるとはな…ま、届いたと信じて俺は準備を進めよう」

////////////////

といった感じの短編でした!

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます。


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お伽話と邪神のデート

第6話です!

今回はアストロの過去にちょっと触れます。

それでは本編をどうぞ!


「さて、まずは何から始めるべきか…」

 

エルロー大迷宮の最下層、女神サリエルが眠る場所で俺は1人思考する。

 

システムの破壊に関しては白に任せておけば大丈夫だろうし、俺がやることはサリエルをシステムから切り離して、エネルギーを補充することぐらいしかないんだよな。

 

ただ、それをするのはエルフの里での戦いが終わってからだし、俺が今すぐにやらなければならないことなんてあるか?

 

俺の最終目標は星と人、そして神をも救うことだ…正直、このまま上手くいけばその目的を達成することができるだろう。

 

このまま白達が暗躍し、誰にも知られないまま世界が救われればそれで問題はないしな。

 

ただ、Dがそんなことを認めるとは思えない。絶対に、何かしらの形で干渉してくるだろう…例えば白達の企みをこの世界の人間達に知らせるとかな。

 

うわ〜、有り得そう…あいつならやりかねない…というか絶対やるな。

 

そうなると、俺がすべきことは不測の事態に備えて白達を見守ることだな。

 

そう考えて、俺は自分の分身を作り出し、白達の様子を見ることにした。この分身は以前の戦いの分身のように俺と同じ戦闘能力を持っているわけではないが、隠密行動に長けた分身だ。

 

「白達を見守ってくれ。そして、何かあればすぐに俺に報告してほしい」

 

「了解!任せてくれ!」

 

「あぁ、頼んだ」

 

そうして、俺の分身は姿を消した。

 

とりあえずはこれで大丈夫かな?後はDの行動に対する作戦でも考えておこう。

 

一応、あいつのやりそうなことは想像できる。多分、あいつは……うん?誰か近づいてくる。

 

Dの行動について考え込んでいると、ふと気配を感じた。

 

そして、その気配のする方に視線を移すと、そこには――――

 

「D!?お前、ここに来たのか?」

 

「はい、来てしまいました♪」

 

邪神であり、俺の恋人でもあるDが居た。

 

さすがにこれはちょっと想定外だな。

 

――――――

 

――――

 

――

 

「何でここに?」

 

「あなたに会いたかったので」

 

「俺としてもお前に久しぶりに会いたかったけどな…まぁ、まさかこんなに早く会えるとは思わなかったけど」

 

「えぇ、とても頑張りましたから…褒めてください」

 

「うん、お疲れ様…良く頑張ったな。後、遅くなったけど、ただいま…」

 

「はい。お帰りなさい…」

 

Dのその言葉を聞いて、俺はDを抱きしめる。そして、Dもそれに応えるように抱き返してくる。

 

久しぶりだな、こういうの…俺は大分長い間眠りについてたっぽいし。

 

「…久しぶりにあなたとこうして抱き合えるなんて私は幸せ者ですね…このまま連れ帰りたいものです…」

 

「いやいや、まだやることがあるからその後でだ」

 

「そうですか…なら、仕方ありませんね。私も一緒に行動してあげましょう!」

 

「えっ?正気か!?」

 

「えぇ、もちろんです。久しぶりの再会なのに、デートの1つもしないで帰るなんて勿体ないじゃありませんか」

 

「デート?デートなのか?…でも、お前が居たら色々ややこしいことになるんじゃないか?」

 

白についてとか、その他諸々…いや、知り合いに会わなければ何とかなるか…?

 

うーん、ちょっと無理があるな…だけど、Dは言い出したら聞かないよな〜多分。

 

「…はぁ、わかったよ。一緒に行こう…ただし、姿はちゃんと隠せよ?じゃないと、俺が大変だ」

 

「あなたが慌てふためく姿を見るのは、なかなか面白そうですが」

 

「やめろよ、マジで…じゃないと、お前を無理やりにでも元の場所に帰すからな」

 

「冗談ですよ…さ、行きましょう♪」

 

「はいはい…わかったよ」

 

そう言って、俺はDの手を引きエルロー大迷宮から出るのだった。

 

///////////////

 

アストロの話を聞いてから、しばらく日を跨いだ今日、私は彼から託された宝玉を鑑賞していた。

 

…何回見てもすんごいエネルギー量だね。これがあれば世界の1つや2つ簡単に救えるよ…それをポンと渡すアストロ…マジパネェっすわ。

 

これをシステム破壊と同時に砕くなんて勿体なくない?どうにか、システムが崩壊する前に回収できないもんかね?

 

まぁ、アストロはこの膨大なエネルギーを悪用されないようにする為に砕くことにしたのかもしれないけど。

 

「白ちゃん、入って良い?」

 

うん?魔王?何の用だろ…ま、良いか。

 

「どうぞ」

 

「じゃ、お邪魔しま~す」

 

そうして、魔王が部屋に入ってくる。

 

「それって、アストロ君の宝玉?」

 

「そう。何回も調べてるけどすさまじいエネルギー量だね…これだけあれば計画通りにできると思う」

 

「そか、それなら安心だね。そうそう、ちょうど私もアストロ君のことで話があって来たんだよ」

 

「アストロのことで?」

 

「うん。アストロ君の言ってた星の守護者って言葉、どっかで聞いたことがあるなって思ってたんだけどね……思い出したよ。昔、サリエル様から星の守護者のお伽話を聞かされてたことがあったんだ」

 

「星の守護者のお伽話…?」

 

何それすごく気になるんですけど…もしかして、アストロの過去についてわかるかもしれない。

 

「聞かせて」

 

「おぉ、意外と好感触だね。アストロ君のこと結構気になるの?」

 

「うん。Dの所で彼の話を聞かされてたから、結構興味がある」

 

「そういえば、アストロ君ってD様の恋人だったね…いや〜、正直未だに信じられないよ」

 

「同じく……それで、星の守護者のお伽話って何?」

 

「そうだね、それじゃあ本題に入ろっか。といっても私はサリエル様から聞いただけだから、詳しくはわからないんだけど」

 

そう言って、魔王は星の守護者のお伽話について話し始めた。

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

大分昔のことなんだけど、ある星に1人の少年が転生してきたんだって。

 

そう、転生者。元々、彼は白ちゃん達と同じ転生者だったんだよ。その時の私は転生とか、転生者とかよくわかってなかったから、あんまり深く考えてはなかったんだろうね…今の今まで忘れてたぐらいだし。

 

それで、もうアストロ君って呼んじゃうけど…アストロ君が転生した世界は龍と神が争っていた世界だったらしくてね、そんな世界で人族と魔族は互いに手を取り合って生きてたみたい。

 

こっちの世界では争ってる人族と魔族だけど、別の世界では手を取り合っていたって思うと、ちょっと複雑だね……ま、それは置いておいて、そこでアストロ君は仲間達と冒険者をやってたみたい。

 

そして、いくつもの困難を乗り越えて、アストロ君はついに龍と神を打ち倒し、その世界に生きる人々に自由をもたらした…最後にはアストロ君自身が神になって。

 

ただ、神になったのは龍と神を倒した後みたい。どうやって神になったのかはわからないけどね。

 

その後、アストロ君はその世界のことを、その世界に生きる人達に託してその世界から去って行ったとさ…おしまい。

 

これが星の守護者の始まりの物語だってサリエル様は言ってた。

 

多分、そこに至るまでの過程はもっと過酷だったんだろうけど、誰かに聞かせるには長すぎるから端折られた部分もあると思う。

 

どう?参考になったかな?

 

//////////////

 

「なるほど…」

 

魔王の話は割と参考になった。今まで謎だったアストロのことが少しわかってきたし。

 

にしても、アストロが元々私達と同じ転生者だったとはね…ちょっと意外かもしれない。

 

でも、そうなるとアストロってチートすぎない?いくら転生者といえど強さは人間の域を出ないはずなのに、龍と神を倒すとか…そりゃあ神になれてもおかしくないよ。

 

まぁ、本物の龍と神を相手にしたんだから、勝つのは相当難しかったはずだけど…というか、そうじゃないと私と黒の立つ瀬がない。

 

ただ、Dはアストロが神になった経緯について詳しくは知らないって言ってたのにサリエルは知ってたことになるけど、それは何でなんだろ?

 

Dが嘘をついたか…もしくはサリエルとアストロには何らかの関係があるのか……個人的には後者の可能性が高いかなと思ってるけど。

 

そういえば、今さらだけど私ってば何でこんなにアストロのことが気になるんだろ?

 

もちろん個人的な興味はあるけど、ここまで気にするほどじゃない気がするし。

 

…まぁ、良いかな。実際、アストロのことを知るのは無駄じゃないし。

 

「魔王、サリエルは何か他に言ってた?」

 

「うーん、そうだね……あ、そういえば星の守護者は自分の親みたいなものだって言ってたような…」

 

「親みたいなもの?」

 

何かすごい重要な情報をさらっと口にしてない!?サリエルにとってアストロは親みたいなものってどういうこと?

 

…うーん、これは私が思った通りアストロとサリエルには何かしらの関係があると考えて良いね。

 

でも、一体どんな関係なんだろ?もしかして、アストロはある種族の始祖で、サリエルはその種族の1人だったりして……なんてね!そもそもアストロは元々人間だったんだから、何かの始祖になるとか考えられないし。

 

とりあえず、一旦このことは保留にしておこう。今すぐ解決しなきゃならない問題でもないし。

 

さて、ちょうど今は魔王も居るし、ついでに進捗状況でも報告してもらおうかな。

 

そう切り替えて、私は魔王に報告を求めることにした。

 

////////////////

 

「これ、食べるか?」

 

「はい、頂きます」

 

エルロー大迷宮から脱出し、市街地を観光しにきた俺は露店に売っていた食べ物を買ってきた。

 

見た目は串焼きみたいな感じだけど、どうだろうか?

 

「お、意外と美味いな…」

 

「そうですね…あなたと一緒だからでしょうか?」

 

「そうかもな。そういや、俺ってどれくらい眠ってたんだ?」

 

「ざっと数百年ほどですね。あなたが目覚めるのをどれほど待ちわびていたか…本当に目覚めてくれて良かったです」

 

「それに関しては本当に悪かった…俺もこんなに眠ることになるとは思ってなかった」

 

もしかしたら、俺は無意識の内に驕っていたのかもしれない…自分ならどんな罠があってもなんとかなる、そんな驕りが俺にあったのかも。

 

その結果がこれじゃあ笑えない…神になってから敗北というものや生死の境を彷徨うことがなかったことも原因か。

 

まったく、人間だった時の俺は油断や驕りとはほど遠かったのにな…よし、ここは人間だった時の気持ちを思い出そうか。

 

「…大丈夫、もう2度と同じ失敗はしない」

 

「それなら良いのですが…」

 

「うん、大丈夫だ」

 

「そうですか…なら、私はその言葉を信じましょう」

 

「ありがとう」

 

「いえいえ。あ、食べますか?せっかくですから、恋人らしくお互いに食べさせ合いましょう」

 

「本気か?」

 

「えぇ、もちろん」

 

そう言って、Dは自分の串焼きを俺の口元に近づけてくる。

 

「刺したりしないだろうな?」

 

「しませんよ」

 

「わかってる、冗談だよ…」

 

そう言って、Dの串焼きを口に入れる。

 

うん。やっぱり美味いな…心なしかさっきより美味しく感じる。

 

「はい、Dも食べたら?」

 

「では遠慮なく」

 

そうして、Dに俺の串焼きを食べさせる。

 

まるで、普通のデートみたいだ。いや、まるでじゃなくてまさにそうなんだけど…そういえば、Dとデートするのって初めてでは?一緒に暮らしては居たけど、こんな普通にデートするのは今までなかった。

 

「美味しいです!やはり、良いものですね…こういうものは…あなたはどうですか?」

 

「あぁ、悪くないな…いや、かなり良いと思う」

 

「フフッ!それは良かったです。1度、あなたとこうしてデートをしてみたかったんですよ…なかなか私達はそういう機会に恵まれなかったでしょう?」

 

「確かにな…よし!それじゃあもっと色々と回ろうか!せっかくの機会だからな」

 

「はい、喜んで♪ここまで来たらとことん楽しみましょう!」

 

「あぁ、そうだな」

 

今の所、分身からは特に何の報告もないから順調に事は運んでいると見て良いだろうし、色々と回るのも悪くないだろう。

 

俺としてもDとのデートを楽しみたい気持ちがあるからな。

 

そんなことを思いながら、俺はDと共に次の街へと向かうのだった。

 

 




といった感じの第6話でした!

アニメの方はついに地龍アラバ戦に入りますね!個人的にあの戦いはかなりの名勝負なのでアニメで見るのがとても楽しみです!

それでは今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!


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神々の邂逅

第7話です。ついに、アニメの2クール目が始まりましたね!アニメが原作のどこまでやるのかはわかりませんが、毎週楽しみにしたいと思います!

それでは本編をどうぞ!


「すごい盛り上がりですね」

 

「そうだな」

 

色々と街を回り、レングザント帝国にやってきた俺とDは、まるで軍事パレードのように行進している大軍を見ながら、そんな会話を交わす。

 

どうやら、白達の計画は上手くいってるみたいだな。

 

誰もこの状況を怪しんでないし、ダスティンの奴が色々と根回しをしたってことか。

 

まったく、とんでもない影響力だな…あいつ相手に駆け引きするのはなかなか骨が折れそうだ。

 

「白織達の計画は上手くいっているようですね」

 

「みたいだな…って、やっぱり知ってたのか」

 

「えぇ、知ってましたよ」

 

「そっか…一応、聞いておくけど邪魔するつもりか?」

 

「いえいえ、そんなつもりはありませんよ。ただ、ちょっとした演出をするだけです」

 

「やっぱそういうことはするんだな…まぁ、分かりきってたことだけどさ」

 

Dがこのまま観ているだけとは考えられないし…ん?もしかして俺の行動とかも読まれている?

 

…それならそれで良いか…多分、Dは俺がどういう行動を取るのかを理解していたとしても、理解した上で乗ってくれると思うし。

 

まぁ、こればっかりはDを信じるしかないけどな。

 

「よし、そろそろ行くか」

 

「エルフの里に行くんですか?」

 

「まぁな。そろそろ本格的に作戦が始まるだろうし」

 

「それなら私もついていきます」

 

「それは良いけどさ…バレる可能性が高まりそう」

 

「それはそれで面白そうじゃありませんか?」

 

「マジでやめような」

 

エルフの里には転生者の皆が居るだろうし、白とDが姿を見せたら間違いなく混乱する。

 

そうなると説明が面倒くさいし、Dと白の正体についても言及されるだろう。

 

うん。どう転んでも碌なことにならない。

 

まぁ、それがわからないDじゃないから冗談だろうけどさ。

 

「冗談ですよ」

 

「うん、知ってた。というか、前にも似たようなやりとりをしたな…ま、それはさておき、どうしたものかな…」

 

このままDを一緒に連れて行くのはリスクが高すぎる…かといって、分身にあっちのことを全部丸投げってわけにもいかないしな。

 

Dがおとなしく帰ってくれるはずもないし…うーん、マジでどうしよう。

 

「こんな所に居たんですね」

 

「あ、冥土さんじゃありませんか、一体どういったご用件ですか?見ての通り、私は彼とのデート中なので邪魔をしないでほしいのですが」

 

俺がDをどうしようか考えていると、大和撫子風な黒髪の女性が姿を現した。

 

一応、なんとなく誰かが接近しているのは感じていたけど、これまたすごいやつが来たな…というか、この神とどこがで会ったことがあるような…

 

「あっ!思い出した!確か、神を辻斬りしてた…」

 

「それは言わないでください…昔のことです」

 

「それもそうか…ごめん、何年も眠ってたからつい最近のことに思えてな」

 

「いえ、お気になさらず…改めて、お久しぶりです。星の守護者様」

 

「うん、久しぶりだな…一応、今はアストロって名乗っているから、そっちの名前で呼んでくれ」

 

「では、アストロ様と…まさか、こうして再びあなた様に出会えるとは思いもよりませんでした」

 

冥土はどこか畏まった様子で、そう口にする。

 

彼女とは以前戦ったことがあるが、こんな畏まるタイプではなかった気がする…まぁ、年月が経っているからこれぐらい変わっていても不思議はないか。

 

彼女は純粋な戦闘能力でいえばDより上だ。だから、彼女と戦った時はかなり苦戦した…それこそ、ほとんど使ったことがないフィールド展開を使わざるを得ないほどに。

 

「それで結局、何のご用でしょうか?冥土さん」

 

「あなたが星の守護者様と恋人などと口にしていたのが気になりまして。まさか、本当に恋人とは思いませんでしたが」

 

「だから、本当だって言ったじゃありませんか」

 

「はぁ〜…アストロ様、悪いことは言いません。早々に別れることをオススメします」

 

「あはは…まぁ、Dにも良い所はあるからさ…そうでなきゃ、ここまでDのことを好きになったりはしないさ」

 

「あなたが、それで良いなら構いませんが…」

 

「フフフ、冥土さん…私と彼の仲を引き裂こうとしたって、そうはいきませんよ」

 

「はいはい、わかりました…さ、帰りますよ。あなたがここに来てから、仕事がまた溜まっていますから」

 

「そんなご無体な〜…というか、私かなり仕事をこなしたはずなのですが…それこそ、まだ遊べるぐらいには。まさか、私を彼から引き離す為に…」

 

「何かよくわからないけど、とりあえずDが帰るってことか…少し寂しくなるな。まぁ、でも仕事ならしょうがないな。それじゃあ、また今度な」

 

「しくしく…こうして愛し合う2人は引き裂かれてしまうのですね…ですが、私は挫けません!必ずやあなたと再会して――――」

 

「わけのわからないことを言ってないで早く帰りますよ」

 

そうして、Dは冥土に引きずられながら帰って行ってしまった。

 

その時に冥土がこちらにアイコンタクトを送っているのが目に入った。

 

Dのことは任せろということだろうか?それは、正直ありがたい…Dのことをどうしようかすごい悩んでたからな。

 

最悪の場合、Dに認識阻害の魔術を掛けて他の人達の目を誤魔化そうと思っていたぐらいだ。

 

ただ、それはそれとしてやはり寂しい気持ちになるな…ここ最近、Dと色々な所を回ったのは結構楽しかったし。

 

ま、冥土は、俺のことを気遣ってDを連れ帰ってくれたんだろうしその厚意を無碍にするのも悪いよな…うん。ありがとうな、冥土。

 

俺は心の中で彼女に礼を言いながら、エルフの里へ向けて歩き始めた。

 

///////////////

 

「そっちはどうだ?」

 

『今の所、問題なし…いや、今白がどこかに転移した』

 

「勇者達に何かあったのかもな…よし、とりあえずそっちはそのまま魔族軍の様子を観察してくれ。俺は白の様子を見てくる」

 

『了解』

 

そうして、俺は白の向かった所に転移した。

 

―――――

 

―――

 

というわけで白の所へとやってきたわけだけど、ここは王城か。

 

あっ、白だ。何かの様子を見ているのか…俺の気配には気づいていないみたいだけど。

 

俺も見てみるか…ふむ、あれはロナントって人じゃないか?

 

俺の見た星の記憶の中でも、かなり変わった人だったから強く記憶に残っている。あれは間違いなくロナントだろう。

 

というか、あの人すげーな…あんな遠くに居る勇者君に魔法が届いている…あれは相当魔法への理解がないとできない技だ。

 

さすがに勇者君の魔法に相殺されたけど…というか、仮にも勇者の魔法と相殺って…あの人、ちょっとおかしい。

 

俺の人間時代の師匠には及ばないにしても、良い勝負をしそうだ。

 

それにしても…このままじゃ、勇者君倒されちゃったりしないか?大丈夫か?

 

まぁ、そんな事態に陥る前に助けるつもりだけどな。

 

そんなことを思いながら戦いを見ていると、突如としてロナントが弟子と共に転移魔法でどこかへ消えてしまった。

 

一瞬、何故撤退したのかわからなかったが、すぐにその理由についてわかった。

 

それは考えれば当たり前の理由。ロナントは自分の弟子の弟が死ぬ所を見たくなかったんだと思う。

 

確かにあのまま戦えばロナントは勝っていたかもしれない、だけどそれは自分の弟子の弟を殺すということだ…そりゃあ誰だってそんなことはしたくないだろう。

 

彼の弟子、ユリウスは白によって殺された…短い期間とはいえ弟子は弟子、もしかしたら自分がもっと色々なことを教えることができれば、ユリウスは死ななかったかもしれない…そんな後悔もあったのかもしれない。

 

まぁ、これは俺の推測でしかないし、実際の所ロナントの気持ちはロナント自身にしかわからないだろうけど。

 

そんなことを思っていると、勇者君が人質となっていた人達を蘇生させていた。

 

にしても、勇者君ことシュン君の慈悲のスキルは反則級だな…こんなポンポンと人を生き返らせるなんて、ド○ゴンボールかよ…この世界限定とはいえ、本当にとんでもないな。

 

いや、本当にとんでもないのはこんなスキルをシステムに組み込んだDか…やっぱあいつすごいわ。

 

俺も死者蘇生はできるが、Dほど生死を操れたりはしないからな。

 

…さて、とりあえず勇者一行には何の異常もなかったし、そろそろ戻ろうか?いや、そういえば1人挨拶しておきたい奴が居たな。

 

――――――

 

――――

 

――

 

「お邪魔しまーす…」

 

「…!誰だ!?どうやってここに…」

 

「初めましてだな。管理者ギュリエディストディエス…って、名前長っ、とりあえず黒って呼ぶよ」

 

王城から黒の分身であるハイリンスの気配を覚え、それと類似する気配を探って本体の元へと転移した。

 

そうやって辿り着いた場所は謎の空間、多分黒が作った空間なんだろう。さすがに、ここに来るとは思っていなかったのか黒の奴は心底驚いた顔でこちらを見ている。

 

「お前は一体何者だ?」

 

「俺はアストロ。星の守護者って言った方が君には伝わるかな?」

 

「なっ!あの星の守護者か?」

 

「そうだ…あっ、バレないように気配を消してたから気づかなかったのか。待っててくれ、今気配遮断を解くから」

 

そうして、気配遮断を解き、神としての力を一時的に開放する。

 

「これで、信じてくれたか?」

 

「あ、あぁ…信じるしかあるまい。お前が…いえ、あなたがあの星の守護者なのか」

 

「やっぱり、星の守護者って結構有名なんだな…俺の知らない所で神々の間でめちゃくちゃ広まっていて、ちょっとびっくりだ」

 

「星の守護者の存在は我々龍の間でも有名ですので…あなたの話もよく聞かされていました」

 

「まぁ、龍とも何度か戦ってるからな。あいつらからしたら、俺は因縁の相手だろうさ…というか、一部の神々以外、神も龍も俺の事を敵視しているのでは?」

 

「…ところで、どういった御用向きでここに?」

 

少しバツが悪そうな顔で話題を変える黒の様子から、やっぱりそうなのかと納得する。

 

「気遣いどうも…後、そんな畏まらなくて良い。もっと楽にしてくれ」

 

「わ、わかり…わかった。不躾ではあるがそうさせてもらう」

 

「ありがとう。さて、何でここに来たのかだったな…まぁ、そんな深い理由があるわけじゃない、単純にお前に挨拶しにきただけだよ。一応、俺も白の協力者だからな…お前に挨拶しないわけにもいかないからさ」

 

「あなたが、白の計画の協力者だと…!」

 

「まぁな。実は、サリエルにこの世界に呼ばれてな…それで、白達の計画に協力することにした」

 

「サリエルが?…なるほど、あなたが呼ばれたのも当然か…」

 

「そうだな、サリエルと俺は無関係ではないし…俺は彼女を見て初めて知ったけど…多分、俺とサリエルの関係、いやサリエル達か?とにかくそれを知ってるのは彼女達と、彼女達の誰かから話しを聞いた奴ぐらいだろうけど」

 

「そうだろうな。あなたとサリエルの関係は他の龍達も知らなかった…推測ぐらいは立てているものは居たかもしれないが」

 

「ま、今はそれは良いよ。とりあえず、短い間だけかもしれないけどよろしくな、黒」

 

「…こちらこそ、よろしく頼む」

 

そうして、俺と黒は握手をした。

 

「それじゃあ、またな。そろそろ戻るよ」

 

「あぁ、また…」

 

そんな黒の返事を聞きながら俺は転移魔法で元の場所へと帰って行った。

 

///////////////

 

星の守護者を見送り、私はようやく少し緊張を解くことができた。

 

まったくなんという威圧感だ…本人はまったく意識していないようだが。

 

それも当然ではある…そもそも星の守護者と私では神として生きてきた年月も、実戦経験にも圧倒的な差がある。言ってしまえば、神としての格が違う。

 

あちらからすれば、普通に接しているにすぎないのだろうが、私のような神からすれば、十分恐怖の対象と言えるだろう。

 

ただ、星の守護者自身は至って善性の神だ。時に冷酷な判断を下すことこそあれど、基本的には星と人を救う為に力を尽くす。

 

それこそがあの方が星の守護者たる所以。

 

そして、原初の天使たる所以なのだろう。

 

サリエル達、天使は星の守護者から生まれたのだとサリエルから聞かされた。

 

あの方の様子から見て、自分から生み出したわけではなさそうだが…もしかしたら、天使はあの方が認知していない所で、星の守護者のデータを基に世界が生み出した存在なのかもしれんな。

 

…とにかく、今は心強い味方が増えたと考えよう。あの方が味方に居るのであれば、これ以上ないほど頼りになる。

 

私はそう考えて、未だに緊張しきっていた身体の力を抜くのだった。

 




察していた人も居たかもしれませんが、アストロは天使の始祖です。ただ、彼自身が生み出したわけではなく、人の身で神を打ち倒した彼の戦闘データ等を基に世界が神へのカウンターとして生み出したのが天使、という感じです。

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!


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分身の戦闘能力はそこまで高くないんです、勘弁してください

第8話です!タイトルはあれですが、本編としてはエルフの里での戦いになります。

それでは本編をどうぞ!


『ようやく白達もエルフの里に到着したぞ』

 

「まぁ、予定通りと言えば予定通りだな…勇者一行はシュン君の持つ天の加護なんてチートスキルのおかげで早めに着いたみたいだけど」

 

黒と挨拶した後、白達のことは分身体に任せ、俺は勇者一行の方を担当することにした。

 

そしたら、まぁ勇者一行は都合よく事が運ぶ運ぶ…天の加護のおかげもあったろうが、案内人も良くエルロー大迷宮をあっさりと抜け出して、帝国の軍よりも早くエルフの里に辿り着いた。

 

いくらスキル補正が掛かっているとはいえ、案内人自体が優秀じゃなきゃならないし、それ以前に出発の判断が少しでも遅れてたらダメだ…そんな綱渡りみたいな状況で最善の結果に辿り着くとか…これはなかなかすごいことだ。

 

まぁ、途中で白の子供?の蜘蛛達が意味深なことを言ったりはしたけど、妨害ってほどではないし。

 

「…白達が到着したってことは、いよいよ戦いが始まるな」

 

『そうだな…どうする?』

 

「とりあえず、お前は勇者側を頼む。俺は白達側を担当する」

 

『なるほど、確かに白達側は激戦になりそうだもんな…隠密行動に力を割いている俺よりは本体の方が適任か』

 

「そういうことだ。頼めるか?」

 

『もちろん、任せとけ!』

 

「あぁ、頼んだ!」

 

そう言って、俺は白達の居る場所に転移した。

 

///////////////

 

「さて、白達の所に来たわけだけど…何やら揉めているみたいだな」

 

それにしてもすごい緊迫感だな…お供のパペットタラテクトもすごい恐がってるし。

 

会話の内容から察するに、どっちがポティマスにトドメをさすかで揉めているみたいだけど…正直、どっちの言い分もわかる。

 

どっちもポティマスと因縁があるしな…個人的にはアリエルの方にポティマスとの決着は譲りたいけど、ポティマスの有している兵器はアリエルにとっては結構厄介なものが多いだろう。

 

特にグローリアタイプΩと呼ばれている兵器は、黒を相手にすることを想定したものらしい…おそらくポティマスはそれをアリエルにぶつけてくるだろう。

 

最悪、死んでしまうかもしれない…そういう意味では、白がポティマスと戦った方が良いかもしれない。

 

…まぁ、これは俺がどうこう言うことでもないか…2人が決めることだ。

 

そうこうしている内に、2人の話は終わったらしい。

 

そろそろ姿を見せても良いかな。

 

「2人共、話は終わったのか?」

 

「あっ、アストロ君…もしかしてずっと聞いてたの?趣味悪いよ?」

 

「そんなつもりはなかったんだが、割り込める感じじゃなかったしな…それで本当に大丈夫なのか?」

 

「大丈夫、死ぬつもりはないよ…白ちゃんに無責任なことをさせるわけにもいかないしね」

 

「そっか…それなら安心だ。よし、ポティマスとの戦い頑張れよ!」

 

そう言いながら、アリエルの肩に手を置く。

 

あっ、そうだ。万が一に備えて一応ちょっとした術式を施しておこう。あくまで万が一の為の術式だし、これぐらいの助けは許されるだろう。

 

そうして、俺達は結界に向けて歩を進めるのだった。

 

――――――

 

――――

 

――

 

「さて、そろそろ始めるか」

 

「うん」

 

そう言って、白が取り出したのは黄金の禍々しいバット…というか、これ絶対Dの所にあったやつだ。

 

「白、やめておいた方が良い…それDの所にあったやつだろ?使ったらどんなデメリットがあるかわからないぞ」

 

「大丈夫。呪いの類はなさそうだよ」

 

「まぁ、確かにそうみたいだけどさ…一応、念には念をってことで、俺がこの結界を破壊するよ」

 

「それじゃあ任せる」

 

白の返事を聞き、結界に手を触れる。

 

…うん、これぐらいなら簡単に壊せそうだ。

 

そうして、結界に俺の術式を組み込み、主導権を奪う。後は帝国軍の大魔法と同時にこの結界を自爆させれば良い。

 

そして、その時は来た。

 

魔法が放たれると同時に結界を自爆させる。そうして、ついに結界が壊れた。

 

「さ、行くとしよう」

 

///////////////

 

「お、ついに始まったか…さて、あっちは本体に任せて俺は勇者達を助けるとしよう」

 

にしても、戦いが始まったってことはユーゴーも来るってことか…これは参った。

 

俺達、というか本体は転生者達を救うことが目的だが、ユーゴーに関しては救う必要があるのかはぶっちゃけ疑問だ。

 

いくら白達に操られていた部分があるとはいえ、あいつは許されないことをした。それに多分、白達に操られていなかったとしても結局あいつは今と同じことをしていたと思う。

 

まぁ、あいつの境遇には多少なりとも同情するけどさ。

 

多分、本体はそれでもあいつを助けるとか言うんだろうけど。

 

まったく甘っちょろい奴だぜ…だけど、それが本体の良い所だ。それに、本体はあぁ見えて悪人をただで許すようなタチではないから、何かしらの対策はするだろう。

 

なら、俺は本体の目的達成の為に力を尽くすだけだ。

 

そんな風に考えていると、戦闘中のユーゴーとフィリメスの姿が目に入った。

 

ちょっと、フィリメスが不利な感じか…このままじゃ、不味いかもしれないな。

 

「本体、ユーゴーとフィリメスの戦闘が目に入った。若干フィリメスが不利っぽい」

 

『なるほどな……よし、ユーゴーの奴にお灸を据えてやれ。俺もこっちが片付いたらすぐに行く。一応、言っとくけど殺すなよ?』

 

「わかってる。殺さない程度でお灸を据えてくる」

 

『あぁ、やってやれ』

 

「ありがとな」

 

『ま、気持ちはわかるしな…それじゃあ後でな』

 

「了解」

 

そうして本体との連絡を終え、フィリメス達に視線を移す。

 

「さて、勇者達には申し訳ないけど、乱入させてもらうか」

 

――――――

 

――――

 

――

 

「何かあったの?」

 

「いや分身体がフィリメス…オカさんとユーゴーが戦ってるところに出くわしたって言ってたからちょっとな…問題はないだろうけど、ここのロボット達を片付けてさっさと合流した方が良いかもだ」

 

「わかった」

 

魔王を送り届けた俺と白はロボット軍団を破壊する為に行動を開始する。

 

と、その瞬間、地面が次から次へとパカッと開いてロボット軍団がワラワラと湧いてくる。

 

多いな…軽く万はいるぞ…あのSFチックならロボットは量産型だったわけか。

 

一応、星の記憶を読んだ時に大まかにポティマスの兵器については把握したが、詳しい数とかはわからなかったからな…ま、今はそれは良い。

 

「ん?あれは…」

 

「どれどれ…あれって、ロナントじゃないか?」

 

「襲われてる」

 

「だな」

 

白が指差す方に視線を移すと、ロボット軍団に襲われているロナントが目に入った。

 

流石にあんなのが何体も居たら、ロナントも無事では済まないだろう…実際、一体のロボットと相討ちみたいな形になってボロボロになってるし。

 

「助けるか?」

 

「そうだね、助けよう」

 

「了解。それじゃあまとめて片付けるか」

 

そう言いながら、ロナントの周囲に居るロボット軍団に俺の術式を仕込み、主導権を奪い取る。

 

この能力は付与魔法の応用で、能力としては対象に俺の術式を付与し、その主導権を奪う…イメージとしてはハッキングに近いかもしれない。

 

これは、俺が持つ概念干渉能力の1つだ。俺はどうやら概念への干渉が得意らしく、龍や神のフィールドを破壊する眼の力もその一部だ。

 

さて、主導権は奪ったけど、どうするか…さっきの結界みたく自爆させても良いんだけど……せっかくだし白にこのロボットのエネルギーを渡すか。

 

そう考えて、ロボットのエネルギーを吸収する。そうしてエネルギーを吸収されたロボット軍団はバタバタと機能を停止していく。そして、ロボット軍団の残骸を異空間に放り込み、スクラップにしていく。

 

「よし、掃討完了」

 

////////////////

 

「これで良しっと…」

 

フィリメスとユーゴーの戦いに乱入した俺は、ユーゴーに渾身の右ストレートを喰らわせ、ユーリ共々気絶させた。

 

一応、殴る時にユーゴー達に防御魔法を掛けたから死にはしないだろう。

 

そして、2人を俺の魔力を組み込んだ特製のロープで縛りつけて今に至る。

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい…あなたのおかげで助かりました。あなたは一体…」

 

「俺は…」

 

何て名乗るべきだろうか?星の守護者の分身体?それだと星の守護者って誰だよって話になるよな。

 

しょうがない、ここは通りすがりの一般人で通そう。

 

「通りすがりの一般人だ。名乗るほどのものじゃない」

 

「いや、流石にそれは無理があるかと…」

 

「あっ、あなたの知り合いが駆けつけてくれたみたいだよ。早く無事を知らせてあげると良い」

 

そうして、俺が視線を移した先には心配そうにこちらに向かってくる4人の人影。

 

勇者シュン君に、盾役ハイリンス、そしてシュン君の奥さん感がすごい赤髪の美少女カティアとハーフエルフの少女、アナ。

 

「先生、無事ですか!?」

 

「はい。この方のおかげで助かりました」

 

フィリメスの言葉に全員が俺の方を見る。

 

「まぁね、本当は君達に彼らとの決着をつけさせるべきだったんだろうけど、彼女が危なかったから、ついな」

 

そう伝えながら、ロープで縛られているユーゴー達を指差す。

 

「ユーゴー!それにユーリも」

 

「…まぁ、この通り無力化してあるから彼らの処遇に関してはそっちに任せる…どうする?」

 

「…私達が決着をつけられなかったことが残念ではありますが、仕方ありませんわね…ともかくユーリはそのまま助けましょう。彼女はユーゴーの被害者ですから」

 

俺の言葉にカティアがそう答える。

 

まぁ、それはそうだろうな。問題はユーゴーの方か…処遇は任せるとは言ったものの、ユーゴーを殺すってことになれば俺はユーゴーを守らざるを得ない。

 

まぁ、シュン君の今までの行動を考えれば殺す可能性は低そうだが…一応、聞いておくか。

 

「ユーゴーの方はどうするつもりだ?」

 

「…ユーゴーにもトドメは差さない、生きて、死ぬまで罪を償わせる」

 

そう言うと思ったよ…良かった、俺の予想通りだ。

 

だが、この甘ちゃん発言にカティアは怒りを隠せないようだ。

 

うん、その怒りは正しい。むしろ、シュン君の方が異常だ…うちの本体がユーゴーを助けようとする理由はまだわかる。

 

自分の恋人のとばっちりに巻き込まれて、この世界に転生させられ、しかもその結果、不幸になった転生者も結構居る…ユーゴーもその1人だ。

 

それに対して責任を感じているからこそ、とんでもないことをやらかしたユーゴーも助けようとするのだろう。

 

だが、シュン君の場合は怒りの方が先にこないとおかしい…だって、妹は洗脳されて父親を殺すことになるわ、最終的にクーデターを起こした犯人として濡れ衣を着せられ国を出ていくことになるわで、大惨事だったろうに。

 

それに、洗脳された友人と戦わされるし、慈悲のスキルがあったとはいえ親しい人を洗脳されて人質に取られ、挙げ句の果てに目の前で自決させられたりもしたはずだ。

 

それなのに、殺してやるとかいう気持ちが真っ先に出てこないとか…甘いを通り越して、もはや異常だ。

 

「イヤ。さすがに甘ちゃん過ぎるでしょ」

 

そんな声が響き、咄嗟にユーゴーを引っ張り退避する。

 

危なっ!急になんだってんだ?しかも地面に何かクレーターみたいな穴が開いているし…俺達の知っている中で、こんなことができる奴は限られている。

 

そして、今のこの状況から推察するに、おそらく奴の正体はラース…転生前の名は笹島京也、今ここに居るシュン君とカティアの前世の親友だ。

 

そうしてしばらくして、徐々に奴の姿が見えると、俺の予想を裏付けるように額に2本の角を持つ鬼人の姿が目に映る。

 

ちょっと面倒なことになったな、これは…まぁ、やれるだけやるさ。

 

俺はそう思いながら、目の前の鬼人に視線を移すのだった。

 




といった感じの第8話でした!

以下ちょっとした短編です。


「そういえば、アストロ様とどこへデートに行かれたんですか?」

「気になりますか?そうですかそうですか」

「そのニヤついた顔がとてもムカつきますね…それでどこへ?」

「あの世界の街を色々と回ったり、後エルロー大迷宮にも行きましたね」

「デートでエルロー大迷宮とはあなたはどういうセンスをしてるんですか?」

「これにもちゃんと理由があるんですよ。彼は長い眠りから覚めたばかりでしたから、そのリハビリも兼ねてです。まぁ、エルロー大迷宮の敵では準備運動ぐらいにしかならなかったかもしれませんが」

「まぁ、あの方ならよほどのことがない限り問題はないでしょう」

「随分彼のことを信頼しているんですね」

「えぇ、とても信頼してますよ」

「むむむ…何だか気に入りませんね…まぁ、良いです。今は彼の様子を見てみましょう」

「それぐらいなら構いません。というか私にも見せてください」

「仕方ありませんね。では、一緒に見ましょうか」

/////////////

といった感じの短編でした!

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!



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罪と罰

第9話です!気づけばこの小説のお気に入りの数が100を超えていて、テンションが上がっている今日この頃です!

この小説を読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ!


「さすがだな白、ロボット軍団がどんどん吸い込まれていく…それにしてもすごいな…空間魔法の精度がかなり高い」

 

ロボット軍団に襲われていたロナントを助け、引き続きロボット軍団を倒しながら俺と白は歩を進めていた。

 

やっぱり情報として知っていても、実物を見てみた方がより白の空間魔法の凄さがよくわかる。

 

大したものだ。多分、空間魔法だけでなら黒以上の使い手だと思う。

 

「アストロ、さっきのってどういう仕組み?」

 

「うん?ロボット軍団を自爆させたやつのことか?」

 

俺の問いに白は頷く。

 

「俺は概念干渉系の能力が得意でさ。さっきのも、その能力の一部だ。仕組みとしてはロボットの概念に干渉して俺の術式を仕込む、そしてその主導権を奪う…イメージとしては、ハッキングとかに近いな。一応、これは相手の魔法なんかにも応用できる。相手の使った魔法に干渉し俺の術式を仕込む、そして相手の魔法を奪ってコントロール下に置いたりとかな」

 

「反則すぎない?」

 

「これでもまだ序の口だよ。この能力はまだまだ色んな使い方ができる」

 

「人を洗脳したりとか?」

 

「それは無理。仮に出来たとしても使いたいとは思わないけど」

 

そんな会話を交わしながら、ロボット軍団を倒していく。途中、ロボットに襲われていたサジン、前世の名前は草間忍だったか?まぁ、とにかくそいつを助けたりもした。

 

そうして歩を進めていると、何やらヘトヘトな様子の分身体の姿が目に入った。

 

大丈夫ではなさそうだな…見た感じ、ラース君もソフィアさんも居るみたいだし理由を聞いてみるか。

 

「行こう」

 

「うん」

 

そうして、俺と白はラース君達の元に向かった。

 

////////////////

 

――――時間は少し遡る。

 

 

 

「だぁーっ!クソっ!何でこうなるかな!」

 

ラース、お前さっきまで和やかな感じでシュン達と話してたじゃん!いや、和やかではなかったかもしれんけど!

 

さっきの俺はラースと戦うことになったらどう対処するかで頭がいっぱいで、ほとんど話を聞いてなかったからわからないけど!

 

しかもソフィアも居るし、状況としては決して良くない。

 

「おとなしくユーゴーを渡してくれたら、僕も君と戦わずに済むんだけどね」

 

「いや、渡したら殺すだろ…それはこっちとしては喜ばしくないからな」

 

「じゃあ力づくで渡してもらうしかないね」

 

ラースの攻撃を捌きながら、辺りの様子を伺う。

 

辺りにはソフィアのスキルによってゾンビ達が徘徊していて、勇者達にも襲い掛かっている。

 

正直、ラースの対処に追われていて、あっちまでカバーできる余裕はないな…向こうには自力で頑張ってもらうしかない。

 

うちの本体ならこれぐらい屁でもないんだろうけど、俺はあくまで隠密特化の分身体、ステータスでいうならラースと互角ではあるが、ユーゴーを守りながら戦う分こっちの方が不利だ。

 

やばいな、このままじゃジリ貧だ…仕方ない、少々乱暴だが死にはしないだろう。

 

「悪いな、ちょっと上空に行ってくれ!」

 

「なっ!?」

 

ラースがまさに剣を振り下ろそうとしているタイミングに合わせてユーゴーを上空に向けて蹴り飛ばす。さすがにこの行動は予想外だったのか、ラースの動きが鈍くなる。

 

そこですかさず魔法を構築。氷の剣と地の剣を創り出して斬り掛かる。それをラースは異空間から魔剣を2本出して防いでくる。

 

そうして互いの剣がぶつかり合い、剣戟の音が響く。

 

(やっぱり、ステータス的には互角だから押し切るのはなかなか難しいか…!なら!)

 

剣をぶつけ合いながら、身体の力を一瞬抜いてラースの攻撃を回避し、すぐさま体勢を立て直してラースを蹴り飛ばす。

 

よし、このまま…!って、そうだユーゴーのことすっかり忘れてたぜ。

 

空中に蹴り飛ばしたユーゴーのことを思い出し、地面に氷の剣を突き刺しユーゴーの落下地点にクッション代わりの氷のソファを創りあげる。

 

この氷のソファには弾力性やら、衝撃を和らげる付与魔法を掛けてあるから、ユーゴーはほとんどダメージを受けないだろう。

 

「どうしてそこまでユーゴーを庇うんだい?彼は許されないことをした、それ相応の報いは受けさせるべきだろう?」

 

「それに関しては同感だ。だけど、うちの本体は今生きてる転生者達を救う為にわざわざこんな世界まで救おうとしてるんだ…その思いにはちゃんと応えないといけないだろ?」

 

「本体?ということは君は分身体みたいなものなのかな?」

 

「あぁ、そうだよ…なんか文句あるか?俺は本体の隠密特化の分身体、αだ…そこまで戦闘能力は高くない」

 

「いや、文句はないよ。ただ、君の本体は僕の想像を遥かに超えた存在みたいで驚いただけだよ…そういえば、白さんが新しい協力者ができたって言ってたっけ…じゃあ、彼の本体がもしかして…これはちょっと不味いことをしたかな…」

 

そう言うと、ラースはソフィアの元へと瞬時に移動した。

 

これはユーゴーを殺すのを諦めてくれたと思って良いのか?いや、というより俺の本体が白の協力者だと悟って、手を出すべきじゃないと判断した可能性が高いか。

 

まぁ、何であれ戦わずに済むならありがたい。正直、分身体のこの身には少々厳しい相手だったし。

 

「さて、とりあえず勇者達の所へ―――「グガァァァァ!!」な、何だ!?今の叫び声!?勇者達の所か!」

 

そうして、声が聞こえた所に縄で縛ったユーゴーを引きずりながら勇者達の所へと向かう。

 

そして、勇者達の所に辿り着くと、何故かぶっ倒れているシュンに、シュンを守るようにゾンビ達と奮戦しているカティア達の姿。

 

「若葉さん…」

 

白を視認して、その言葉を口にしたのを最後にシュンは意識を失ったようだ。

 

「状況がいまいちわかんないんだけど、α、いったい何があったんだ?」

 

本体にそう聞かれ、俺は今までの経緯を説明した。

 

/////////////////

 

「なるほどな…お疲れ様、ゆっくり休んでくれ」

 

「あぁ、それはありがたい…すまん本体、後は任せた」

 

そう言って、αは光となって俺の中へと還っていった。

 

さて、αの話だけではわからないこてもあるし、ラース君とソフィアさんにもっと詳しく話を聞いた方が良さそうだ。

 

って、ソフィアさんが白に責めるような目を向けられているな…いや、白は眼を開けてないけど雰囲気で。

 

「白、ソフィアさんが犯人なのか?」

 

「違うわよ!ていうか貴方誰!?何でご主人様と一緒に居るの?」

 

「おっと、これは失礼。俺の名前はアストロ、周りからは星の守護者なんて大層な異名で呼ばれている。わけあって、白とは協力関係にあるんだ、よろしくな…それで、何でこんなことに?αが着いた時はすでにこうなっていたみたいなんだが…」

 

そう俺が尋ねると、ラース君が状況の説明を始めてくれた。

 

そして、その話を聞くにつれてこの状況について理解できた。

 

簡単にまとめるとこうだ。

 

ソフィアのスキルにより現れたゾンビ達により勇者達が苦戦。

ソンビの弓矢がアナに突き刺さり、致命傷を負う。

シュン君が慈悲のスキルを使用してアナを蘇生させる。

禁忌レベルがカンストして、シュン君が意識を失う。

 

まぁ、大体こんな感じだ。どうやら原因としてはシュン君の禁忌レベルを上げる為にわざと死人を増やした白と、ゾンビを出したソフィアさんのようだ。

 

…とにかく、命に関わるような事態じゃなくて良かった…さて、この場はラース君とソフィアさんに任せても良さそうだな。

 

おっと、肝心なことを忘れていた。

 

ユーゴーに対して罰を与えておかないとな。

 

「今から、俺なりに彼に罰を与えるよ…言っておくけど、邪魔はするなよ?」

 

ま、先に邪魔をしたのはこちらの方だけど、彼らが余計なことをしないように一応念を押しておく。

 

さて、始めるか。

 

ユーゴーのステータスに干渉し、わかりやすく実体化する。

 

そして、実体化したステータスを剣で斬る。すると、ステータスが砕け散り、スキルと共に光となって消えていった。

 

「一体何をしたんだ?」

 

ラース君からそんな驚きの声が漏れる。

 

「今、彼のステータスを破壊した。これで2度とスキルは使えないし、スキルを得ることもできない。ステータスの恩恵を受けることもできないから、ただの人間と変わらない」

 

これが俺なりの彼への罰、白達からすればこれはむしろ救っているとになるかもしれないが、他の人達からすればステータスを破壊されるというのは十分な罰に見えるはずだ。

 

この世界でステータスを破壊されるということは魔物や、他のこの世界の人達に対抗する手段を失うということ、そうなった人物がどんな目に合うのか、瞬時に思いつくだけでも悲惨な状況になるものばかりだ。

 

まぁ、何にせよ長期的に見れば救い、短期的に見れば十分な罰だ…もし、これでも改心しないのであればもう見込みはないかもしれない…そうなってしまえば、ユーゴーを始末するという選択肢も出てきてしまう。

 

俺としては、出来れば転生者を殺したくはないんだけど。

 

…まぁ、マイナスに考えていても仕方ないか、やれるだけやろう。

 

「白、俺はちょっとここに残るから、他の所に先に行っててくれ」

 

「わかった」

 

短く返事をして、白はそこから去って行った。

 

「さて、ユーゴーにちゃんと説明してあげないとな…そこからどうするかは本人次第だけど、上手くいけばここからやり直すことができるかもしれない」

 

そうして、俺はユーゴーを目覚めさせ、今の彼の現状に説明することにするのだった。

 




といった感じの第9話でした!

今回の話のように同時に物語を進めるのはなかなか大変ですね…複数の視点で物語を展開している方々は本当にすごいと思います。

それでは、今回はここまで!ここまでの拝読ありがとうございます!


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