バトルスピリッツ 王者の鉄華 (バナナ )
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全ての始まり編
第1ターン「その名はバルバトス」


バトルスピリッツ。

 

それはカードとコアが織りなす奇跡のカードゲームであり、それにまつわる幾多もの伝説は、多くの人々の心に刻まれていった。

 

そして今ここに、新しい伝説が幕を開けようとしている。

 

 

 

 

******

 

 

 

「ここがカードショップ「アポローン」……」

 

 

歳はあっても精々15もない程度か、そのくらい小柄で、無造作に伸びた赤い髪が特徴的な少年が、とある街の一角に佇むバトスピ専門店、カードショップ「アポローン」の門前に立つ。

 

無感情とも呼べる仏頂面な表情を、常に浮かべ続ける少年は、何の迷いもなしに店内へと進んで行く。

 

そして自動ドアを通過した途端に、店内のテーブルでバトルをしているカードバトラー達の賑わいの声が耳を通過して行くのを感じて………

 

 

 

「アタック!」

「なんの、ブロック!!」

 

「フラッシュタイミング!!」

「バースト発動!!」

 

「不足コストはブレイドラから確保!」

 

 

 

「………バトルスピリッツ。確か、なんか結構有名なカードゲームだったっけ」

 

 

昼間から確かな賑わいを見せるカードショップ「アポローン」………

 

しかし赤髪の少年はそんなバトルスピリッツを軽視しているのか、興味がなさそうな発言を零す。

 

バトスピ時代と言っても過言ではないこの世において、赤髪の少年のような発言をする者は非常に珍しい。

 

そして飄々とした様子で店内を見渡しているそんな少年の前に、声を掛けて来る人物が1人…………

 

 

「よぉオーカ。待ってたぜ」

「あ、ご無沙汰してます、アニキ」

「固ぇ挨拶はいいって。兎に角、これ着ろよ。今日からオマエはウチの店のスタッフなんだからな」

 

 

店員だろうか、現れたのはエプロンを着用している尖った白髪に褐色肌、高身長の青年。少年は目が合うなり深く頭を下げて挨拶をする。

 

その後、少年は青年に言われるがままエプロンを着用した。どうやら彼はここでバトルスピリッツをするためではなく、働くために訪れたらしい。

 

 

「似合ってんじゃねぇか」

「そうかな?」

「わかってると思うが、ここでのオレはオマエのアニキ分じゃなくてカードショップ「アポローン」の店長だ。優しくするつもりはねぇから、覚悟しとけよ」

「うん、わかった」

 

 

初めから仕事をするためにここに来た少年。仏頂面から放たれる一言返事からは、その熱意が確かに伝わって来た。

 

彼が根は真面目な性格である事を知っている店長たる青年は「ところで」と、言葉を続けると、懐からバトスピのカード束、所謂デッキが収納されたデッキケースを取り出し、それを赤髪の少年に見せつける。

 

 

「せっかくカードショップの店員になったんだ。オマエもバトスピやらないか?……オレにはわかるぜ……オーカ、オマエにはバトスピのセンスがある」

 

 

彼が行ったのはバトスピへの勧誘。

 

店長としては弟分としても可愛がっているこの赤髪の少年「オーカ」をカードバトラーに育てあげたい様子。

 

しかし肝心のオーカの返事は………

 

 

「嫌だ。お金かかるし」

「えぇぇ!?!……いやいや、デッキの1個や2個くらいやるぜ!?…オマエなら絶対ハマると思うから始めようって!」

 

 

答えはまさかのNo。しかも即答。

 

オーカは知らないが、実はこのアニキ。知る人ぞ知る名のあるカードバトラー。そんな彼からバトスピを誘われているにも関わらず、それを断ると言うのはどれ程贅沢な話かは計り知れない………

 

 

「なぁやろうぜバトスピ!…1回やれば楽しさがわかるからよ!」

「そんな事より早く業務を教えてくれ。ここには働きに来たんだ」

 

 

バトスピの素晴らしさを伝えまいと懲りずに何度もオーカをバトスピの道へと誘い続けるアニキ。オーカはその執念に少々呆れ気味。

 

しかしそんな折、店内の自動ドアが開き、とあるお客が来店して来た。

 

 

「こんにちはヨッカさん!」

「おっ…ヒバナか、いらっしゃい!」

 

 

来店したのは中学生くらいの女の子。黒々とした長い後髪を二本に結っているのが特徴的な美少女だ。常連なのか、店長の事を「ヨッカさん」と本名で呼んでいる。

 

 

「今日はどうした」

「バトルの相手お願いします!…今日こそは勝つ!」

「ム、そう来たか!…でも丁度いい、オーカにバトスピの楽しさを教えるチャンスだ。おいオーカ、よく見とけよ!」

「アニキ、仕事はいいのか?」

「お客の相手も仕事の一環、オマエもここで働くならバトルくらいできた方がいいぜ」

 

 

アニキことヨッカに対し、デッキを突きつけバトルを要求する黒髪の少女。その言動からしてかなり強気な正確なのが見て取れる。

 

そしてヨッカもまたそれに応えるように颯爽と己のデッキを取り出してやる気を見せた。

 

 

「ところでヨッカさん、この子は?…見ない顔ですね」

 

 

少女はふとした事で見慣れないオーカの存在に気づいた。無愛想なオーカに代わり、アニキ分であるヨッカが彼を説明していく。

 

 

「あぁ、コイツはオーカ、鉄華オーカミで略して『オーカ』……ここの新入りでオレの弟分だ。まぁ可愛がってやってくれや」

「へ〜…ヨッカさんの弟分か〜」

「どうも」

「私『一木ヒバナ』…よろしくね鉄華」

 

 

ヒバナの挨拶に小さく頷くオーカこと鉄華オーカミ。実はこの2人同じ満14歳なのだが、オーカの背丈が低い事もあり、ヒバナは彼の事を年下であると認識しているようだ。

 

 

「よし、始めるかヒバナ」

「えぇ!…このデッキは自信作、負けませんよ!」

 

 

そこまで言うと、2人は店内のバトル場へと立ち、Bパッドと呼ばれるタブレット状の端末をバトル台として形成。その上にデッキを置き、準備を整える。

 

そして………

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共に2人のバトルが開始される。

 

これこそこの世界のバトルスピリッツ。Bパッドと言う全長30センチにも満たない小さな端末だけでいつでもどこでもバトルスピリッツを楽しむ事ができるのだ。

 

 

「おい、あそこでヨッカ店長と一木ヒバナのバトルが始まったぞ!」

「マジ!?…観に行こうぜ!」

 

 

2人はかなりの有名人。そのためかテーブルでバトルしていた面々や、他の来客達が次々と彼らのバトルを見んと集まっていき、あっという間に大きな人集りを形成してしまった。

 

 

「あっという間にこんな人集りが……あの2人、そんなに有名なのか?」

 

 

無表情だが、オーカはこの人集りができる光景に驚きを隠せないでいた。それは彼がバトルスピリッツと言うカードゲームを何も知らないが故である。

 

 

「ウォーグレイモンを召喚!」

「なんの、オレもモビルスピリット、スサノオを召喚!」

 

 

そんな彼を他所にドンドン進んで行く2人のバトル。ヒバナがBパッド上にカードを叩きつけ、自分の場に黄色い体表に強靭な武装が施されたスピリット、ウォーグレイモンを召喚。それに対抗するべく、ヨッカはまるで侍のような出立の黒い機械兵、スサノオを召喚。

 

2人のエーススピリットと呼べるスピリット達の登場で、バトルは佳境を迎えていって…………

 

 

「行けスサノオ!!…ウォーグレイモンとバトルだ!」

「負けませんよ、立ち向かえウォーグレイモン!!」

 

 

スサノオと呼ばれるヨッカのスピリットが二本の黒い刀を構えてウォーグレイモンに飛びかかる。ウォーグレイモンも負けじとドラモンキラーと呼ばれる鉤爪で迎え撃つ。

 

スピリットとして強力な個体である2体は何度もぶつかり合い、互角の勝負を繰り広げていった。

 

 

「変な話だ………カードを使うだけの遊びに、何で大人のアニキはそんなに熱くなれるんだ」

 

 

正直まだアニキと呼び慕うヨッカがあそこまでバトルスピリッツに熱中する理由がわからないオーカ。

 

こうして、鉄華オーカミことオーカのアルバイト初日は結局バトルスピリッツに興味を惹かれないまま幕を閉じていくのだった…………

 

 

******

 

 

翌日。その早朝、オーカが住むマンションの一室にて………

 

部屋のベッドの上からゆっくりと起き上がるオーカ。今日もまたバイトだ。朝を食べたら直ぐに出勤先のカードショップに向かわなければならない。

 

一緒に暮らしている姉は仕事で早いため、先に出掛けている。ラッピングされた食パンと目玉焼きを軽く平らげると、支度し、直ぐ様自分もマンションを出た。

 

その際に何か届け物等がないか郵便受けを覗き込んで見る。とは言ったものの、新聞代は払っていないし、いつも来るのはスーパーのチラシ程度だったが………

 

今回は違った。

 

 

「ん?……これは……」

 

 

郵便受けに入っていたのは新聞でもチラシでもなく、バトスピのカード。丁度デッキと呼べるくらいの枚数はあるか………

 

しかもそのデッキに包まられた紙には『鉄華オーカミ様へ』と書かれており、誰かからのプレゼントなのは確かな事であった。

 

 

「バトスピのカード………だよな。でもなんでオレ宛……送り主の名前もないし」

 

 

不思議そうにカードを眺めるオーカ。確かに送り主の名前は書いてはおらず、どこか不気味ささえ感じえた。

 

やがてオーカはそのカード達の先頭にあったカードに目が止まった。

 

 

「……ガンダム・バルバトス・第1形態…MS、鉄華団………鉄華?」

 

 

1機の機械兵が描かれているカード。そこに記載されていた、自分の性と同じ名を関する「鉄華団」と言うワードに目を惹かれた。

 

 

「……バトスピのカードはよく知らないしな……取り敢えずアニキに見せたら何かわかるか」

 

 

そう言うと、オーカは郵便受けに入っていたデッキを懐に仕舞うと、ヨッカのいるバイト先、カードショップへと足を急いだ。

 

しかし、このカード達との出会いが運命の始まりであった事を、彼はまだ知らない。

 

 

******

 

 

場所はカードショップ。多くのお客が来店している中で、店長である「九日(ここのか)ヨッカ」は目を丸くして驚いていた。

 

無理もない。何せ、アレだけバトルスピリッツに対して興味がなかった弟分がデッキを持って来たのだから。しかも未知のカード達で構成された物をだ。驚かないわけがない。

 

 

「……お、オーカ……オマエどうしたんだこのカード達、オレでも見た事のない代物ばっかりだぞ!?」

「そっか、アニキでも知らないか」

「MSは兎も角、鉄華団って言う系統は全く知らねぇ……まさかモビルスピリットの使い手であるこのオレも見たことがないモビルスピリットデッキが見つかるなんて……人生長く生きてみるもんだな」

「アニキ、オレと7つしか変わらないだろ」

「7つも変わってるだろ」

 

 

長年バトスピをやっている達人、九日ヨッカ(21歳)でも知らない、オーカのカード達。

 

この時点でバトスピを知らないオーカでもこのカード達がかなり特別な存在である事は容易に理解できた。

 

 

「で、オマエ宛に届いたんだろこのデッキ……どうすんだ?」

「どうするって、別にバトスピやりたいわけじゃないし、普通に売るよ」

「いや普通に売るなよ。そこは使いますだろ、大体売った金で中学生が何するって言うんだ」

「生活費に当てる。姉ちゃんに楽させたいから」

「真面目か!!」

 

 

兎に角真面目な鉄華オーカミ。自分宛に送られて来たデッキを売ってお金にして、あろう事か姉のために生活費に当てようとしている。

 

 

「オーカ……誰かは知らねぇけどな。きっとそれを送りつけた奴はオマエにバトスピをやって欲しいんだと思うぞ。鉄華団って言う名前も、オマエの苗字と一致してるしな」

「そうなのか?」

「普通に考えたらそうなるだろ……そのまま売り飛ばされたんじゃ、送り主とカードが泣くぞ」

 

 

そうヨッカに言われると、ふとデッキを見つめるオーカ。確かにこのまま売り飛ばしたら送り主の気持ちを無下にするに等しいとも思える。

 

 

「それに、ここの仕事を熟すのにバトスピのルールを知っているのは絶対条件だ。自給上げてやるから、そのデッキでバトスピ始めろよ」

「………自給が上がる……」

 

 

兎に角姉を楽させるためにお金が欲しいオーカ。自給が上がると聞いては黙ってはいられない。

 

 

「………ならやるよ、バトスピ」

「よし来た!…ティーチングしてやるから、早速バトル場でスタンバイだ」

 

 

色々と天秤に掛け、成り行きでようやくバトスピをやる気になってくれたオーカ。

 

少なくともほんの少しだけ彼がバトスピに興味を持ってくれた事に対し、ヨッカは喜びの笑みを浮かべると、そのまま彼の首根っこを捕まえて店内のバトル場へと連れ出した。

 

 

「Bパッドは持ってるな」

「あぁ、通話機能以外使った事はないけど」

「それとデッキさえアレばバトルはできる。オマエもBパットの展開の仕方くらいわかるだろ?」

「…………」

 

 

オーカはそう言われると、懐から取り出したBパットのスイッチを押し、バトル台として展開。それを左腕へとはめ込む。

 

 

「よし、次はBパッドの右上にデッキをセットだ」

「……こうか?」

 

 

展開されたBパッドの上にデッキを配置するオーカ。その瞬間にBパッドの面が一瞬光ったかと思うと、その光と共にライフやリザーブにコアと呼ばれる宝石のようなモノが勝手に生成される。

 

 

「……この石ころって勝手に出てくるんだな」

「コアな。結構凄いんだぞ、これを容易に出現させる人様の科学力」

「ふーーん」

「後は初手札となる4枚のカードをデッキの上から取れば準備完了だ」

「………4枚」

 

 

バトルスピリッツと言うカードゲームの最初の手札は4枚だ。オーカはそれを颯爽と引いていく。ヨッカもまたそれと同様にバトルの準備を済ませた。

 

これで準備は万端。いつでも開始ができる状態となった。

 

 

「華々しいオマエのデビュー戦だ、オレも本気のデッキでは行かないでおいてやる。ゲーム開始時の合言葉は、当然知ってるよな?」

「まぁ、なんとなく」

「よし、そんじゃやるか!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

バトスピを知らなくとも、誰もが知っているこの開始の合図。店内のバトル場で向かい合う2人はそれを唱え、バトルスピリッツを開始した。

 

 

「オイ、またヨッカ店長のバトルだぜ!」

「相手は誰だ?」

 

 

人気が高いヨッカ店長。昨日と同様、バトルをするだけで老若男女を問わず店内のカードバトラーが集っていく。

 

2人のバトルが注目されていく中、バトルはヨッカの先攻で開始される。

 

 

「よし、良く見ておけよオーカ。オレのターンだ」

 

 

ようやく可愛い弟分とバトルできると思うと嬉しくて仕方がないヨッカ店長は己のそのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]ヨッカ

 

 

「スタートステップ、ドローステップ、メインステップ………オレは2体のモビルスピリット、ジンを召喚する」

 

 

ー【ジン】LV1(1)BP1000

 

ー【ジン】LV1(1)BP1000

 

 

現れたのはモビルスピリットと呼ばれるスピリット郡の一種ジン。コストとBPは小さいながら、剣や銃などの多彩な武器を有しているのが窺える。

 

初めてのバトルスピリッツ。目の前に敵として現れたスピリットの迫力に、オーカは目を惹かれる。

 

 

「これがバトルスピリッツのスピリット……」

「先攻は最初のターン、コアステップとアタックステップを行えない。オレはこれでターンエンド……さぁオーカ、人生初のターンを進めな」

手札:3

場:【ジン】LV1

【ジン】LV1

バースト:【無】

 

 

そのターンをエンドとするヨッカ。

 

成り行きではあるものの、次はようやくバトスピをやる気になったオーカのターン。朧げだがヨッカの見様見真似でそれを進めていく。

 

 

[ターン02]オーカ

 

 

「……確かスタートステップ………」

「そう。ターンの最初はそう宣言しなければならない。そしてこのターンからはコアステップが入る。宣言すればオマエのリザーブにコアが1つ追加される」

「わかった、コアステップ」

 

 

そう宣言するとヨッカの言う通り、オーカのリザーブにコアが追加された。

 

 

「ドローステップ……は確かこの紙束から1枚引けばいいんだよな………ッ」

「おっ、何かいいモンでも引けたか?」

「いや、別に」

 

 

オーカの初ドローステップで引いたカードは他でもない「ガンダム・バルバトス[第1形態]」のカード。デッキの先頭にあったカードなだけあって彼の頭には凄く印象に残っていた。

 

 

「ドローステップの次のリフレッシュステップはこのターン、回復するスピリットもコアもないからスキップ。メインステップはさっきのオレみたいに左上のコストの数だけリザーブのコアをトラッシュへと支払い、スピリットを召喚できるぞ」

「コスト、あぁこれか」

「おう。スピリットの上に置くコアも忘れんなよ」

 

 

カードのコストを認識するオーカ。

 

リザーブのコアの数は5個。今召喚できる中で一番強いカードを探して行く………

 

 

「今一番強いのは、コイツか………来い、ガンダム・バルバトス・第1形態!!」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

蠢く地中から飛び出し、姿を現したのは白いボディに王者の冠を模したような黄色い角が特徴的なモビルスピリット、ガンダム・バルバトス・第1形態。

 

肩の装甲が外れており、機体としてまだ万全ではないのが見て取れる。

 

誰も見たことがないスピリットのためか、周囲の来客達がざわつき始める。

 

 

「…鉄華団デッキの軸となるスピリットか」

「……これがオレのスピリット………バルバトス」

 

 

一見薄いリアクションを取っているように見えるオーカだが、内心では眼前に聳えるガンダム・バルバトスの勇姿に年相応に感激している。

 

その事を誰よりも理解しているヨッカは嬉しそうに笑みを浮かべると、バトルのティーチングに戻る。

 

 

「フッ……オーカ、スピリットにはそれぞれ多種多様な効果がある。その中でもバルバトスは召喚時、つまり召喚した時に効果を発揮できる、使って見ろ」

「わかった……召喚時効果を発揮」

 

 

言われるがまま効果の発揮を宣言。バルバトス第1形態の効果は召喚時にデッキの上から3枚をオープンし、その中の「鉄華団」カードを回収した後に残りのカードをトラッシュに置く効果。

 

その中で、今回の対象カードは1枚………

 

よって、オーカはそのカードを手札に加える事になった。そしてそのカードは…………

 

 

「鉄華団のカードを加える…………じゃあオレは、これ、鉄華団モビルワーカーを手札に」

「おーおー、結構引きが強いじゃねぇか。スピリットは召喚する時、場のカードの右下にあるシンボルで召喚コストを軽減できる。その鉄華団モビルワーカーは1コストで1軽減のスピリット。今のオマエの場には紫のシンボルを1つ持つバルバトスがいるから………」

「成る程……ならオマエも来い、鉄華団モビルワーカー!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

このタイミングだとノーコストで召喚できるスピリット。オーカは残っていたリザーブのコアを1つ使い、ローラーを備えた車両型マシン、鉄華団モビルワーカーを立て続けに召喚して見せた。

 

 

「これでメインステップでできることは終わった。そしたら次はお待ちかねのアタックステップ……スピリットでアタックすればそのシンボルの数だけ相手のライフを破壊できるぞ。よしオーカ、手始めにさっき召喚したバルバトスでオレのライフを撃ちに来い!」

「あぁ……アタックステップ、バルバトスでアタック」

 

 

オーカの指示を受け緑色に光り輝くバルバトスの眼光。機械兵とは思いもつかない獣のような動きで地を駆け抜ける。

 

狙っているのは当然ヨッカの5つあるライフだ。場のジンではバルバトスには敵わないためか、ヨッカは手を広げ、その攻撃を受け入れる。

 

 

「ライフで受ける………ッ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ヨッカ

 

 

ヨッカの前方に展開される5つのライフバリア。その内の1つをバルバトスの拳が撃ち砕く。

 

このライフバリアを5つ全て砕いた者がこのバトルの勝者となる。

 

 

「次だ。鉄華団モビルワーカー!」

「ッ………それもライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉ヨッカ

 

 

間髪入れずに容赦なく鉄華団モビルワーカーでも攻撃を仕掛けるオーカ。鉄華団モビルワーカーは備え付けられているマシンガンでそのライフバリアをさらに1つ砕いた。

 

 

「確かにライフ全てを破壊したら勝てるのがバトスピだけど、鉄華団モビルワーカーも攻撃に寄越すとは、初めてのバトルにしては随分と強気じゃねぇか……スピリットはアタックしなければ次のターンのブロッカー、つまりライフを守る壁としても機能するんだぜ?」

「守ってどうすんだよ、攻めなきゃ勝てないゲームだろ………オレはこれでターンエンドだ」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

バースト:【無】

 

 

「ハッハッハ、流石はオレの弟分だ。考え方がぶっ飛んでら」

 

 

歯に着せぬ鉄華オーカミの物言い。バルバトスだけでなく、鉄華団モビルワーカーでも攻めたのは彼の性格による影響が大きいようだ。

 

そして次はヨッカのターン。無駄に増えたコアを巧みに使い、メインステップまで急行する。

 

 

[ターン03]ヨッカ

 

 

「オレのメインステップ……ライフ減少により増えたコアを使い、モビルスピリット、ラゴゥを召喚!」

「!」

 

 

ー【ラゴゥ】LV1(1S)BP5000

 

 

薄いオレンジ色、四足歩行のモビルスピリット、ラゴゥがこの場に姿を見せる。ラゴゥは召喚した時やアタック時効果で仲間を呼ぶ事が可能な強力なスピリットであって…………

 

 

「いいかよく覚えとけよオーカ。何の策も無しに相手のライフを減らし過ぎると颯爽と強力なスピリットを相手に用意されちまうんだ。ラゴゥの召喚時効果!…ターンに一度、デッキの上から3枚をオープンし、その中の対象スピリット1枚をノーコストで呼ぶ………よし、現れろバクゥ!」

「ッ………効果でまた別のスピリットが出て来た」

 

 

ー【バクゥ】LV1(1)BP2000

 

 

召喚されるなり口部から咆哮を張り上げるラゴゥ。それに共鳴するかのように今度はまた別の四足歩行のモビルスピリット、群青色のバクゥが姿を見せた。

 

 

「これでオレのスピリットは4体。さぁ、反撃と行かせてもらおうか……アタックステップ、バクゥでアタック!」

「ライフで受ける……ッ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

登場するなり背中に備え付けられたジェット噴射を使い低空飛行でオーカのライフを狙いにいくバクゥ。強烈な体当たりがオーカのライフバリア1つに激突し、そのまま砕け散った。

 

 

「続けラゴゥ!」

「………それもライフで受ける………ッ」

 

 

今度は強力なモビルスピリット、ラゴゥが行く。その背中にあるキャノン砲がオーカのライフバリアをまた1つ打ち砕いた。

 

 

「オレはこれでターンエンド………まっ、バトルの基本的な流れはこんな感じだ。次のターンからはスピリットとコアを回復できるリフレッシュステップと、場のスピリットのレベルアップを忘れんじゃねぇぞ」

手札:3

場:【ラゴゥ】LV1

【バクゥ】LV1

【ジン】LV1

【ジン】LV1

バースト:【無】

 

 

最初に呼び出した2体のジンをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとするヨッカ。次は人生二度目のターンであるオーカ。アニキと呼び慕うヨッカに頼らずとも1人でターンシークエンスを熟していく。

 

 

[ターン04]オーカ

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ……リフレッシュステップ。これでオレのスピリット達とコアは復活」

 

 

トラッシュのコアがリザーブへと舞い戻り、前のターンでアタックした事により、疲労状態となっていたバルバトス第1形態と鉄華団モビルワーカーが回復状態へと立ち上がる。

 

 

「メインステップ……スピリットの召喚とレベルアップを行う………」

「おぉ!…やっぱオマエ物覚えが早いな、もうすっかり覚えてるじゃねぇか!」

「まぁ、それは流石にアニキの教え方が上手いから」

「!!」

 

 

仏頂面で常に何を考えているかわからない弟分にそう言われ、胸の奥がジーンと響き渡り、感動を覚えるこの店の店長九日ヨッカ。そんな彼を感動させた事などつゆ知らず、オーカはメインステップをさらに進めていく。

 

 

「なんだよオマエ、めちゃくちゃ嬉しい事言ってくれるじゃねぇか〜!!」

「このターン中で一気にライフを破壊する……来い、2、3体目の鉄華団モビルワーカー!!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

並んでいくオーカの鉄華団スピリット達。これで合計は4体。対するヨッカのスピリット達と総数が並んだ。

 

 

「バルバトスのLVを3に」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】(1➡︎4)LV1➡︎3

 

 

レベルが跳ね上がり、そのBPを6000と強力なモノに仕上げたオーカ。その後、準備は整ったと言わんばかりにアタックステップへと移行して………

 

 

「アタックステップ……行けバルバトス!!」

 

 

ヨッカの次のターンでの反撃を恐れないオーカ。

 

前のターンと同様、バルバトスは機械兵とは思えない俊敏な動きで地を駆け巡り、ヨッカのライフを狙い行くが………

 

 

「初心者にしては良い攻撃だが、オレも黙って見てるわけにもいかないんでね、ここは防がせてもらうぞオーカ………!」

 

 

そう告げると、ヨッカはこのタイミングで手札から1枚のカードを抜き取り、それを己のBパッドへと叩きつけた。

 

 

「フラッシュマジック、ドリームハンド!」

「!?」

「不足コストは2体のジンより確保。よって消滅するが、発揮したドリームハンドの効果で1コスト以下のスピリットを全て手札に戻す……3体の鉄華団モビルワーカーは全てオマエの手札に返すぜ」

「手札に……?」

 

 

ー【ジン】(1➡︎0)消滅

 

ー【ジン】(1➡︎0)消滅

 

 

最初のターンで召喚された2体いたモビルスピリット、ジンがコア不足により消滅してしまうものの、突如としてオーカの場に冷気で固められた巨大な手が出現し、鉄華団モビルワーカー達を薙ぎ払う。鉄華団モビルワーカーはたちまち粒子と化し、この場より消滅。Bパッド上に置かれていたカード達もオーカの手札へと舞い戻る。

 

この光景はバトルスピリッツと言うゲームではごく当たり前に起こる事であるが、バトスピを始めたばかりのオーカはこの思い掛けない反撃に対し、意味がわからないと告げているかのようにキョトンとした表情を見せており………

 

 

「今のは………」

「マジックカード。使い捨てだが、あらゆるタイミングで様々な効果を発揮できる優れ物だ。バトルスピリッツは何もスピリットだけでやるモノじゃないんだぜ」

「……それ、言いたいだけだろ」

「その通りだ!!……バルバトスのアタックはライフで受けてやる」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉ヨッカ

 

 

使い捨てだが強力な効果を瞬時に使えるマジックカードが炸裂したが、オーカのバルバトスのアタックは継続中。ヨッカはその攻撃をライフで受ける宣言をし、そのバルバトスの拳を甘んじてライフバリアで受けた。

 

残りライフ2までヨッカを追い込むオーカだったが、鉄華団モビルワーカーを失った事で、これ以上ターン中にできる事はなくて………

 

 

「……よぉし、ターンエンドだ」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV3

バースト:【無】

 

 

結局場には疲労したバルバトスのみが残り、そのターンをエンドと言わざるを得なくなったオーカ。彼がアニキと呼び慕うヨッカにそれは明け渡される………

 

相手が初心者であろうと一切の手加減をしない彼は、次のターンも容赦なく襲いかかってくる事は間違いのない事で…………

 

 

[ターン05]ヨッカ

 

 

「メインステップ!!…バルバトスにもご退場願おうか!…マジック、ホワイトストライク!」

「ッ……またマジックカード」

「効果でスピリット2体をデッキの下へ、バルバトスはオマエのデッキ下に眠るぜ」

 

 

メインステップ開始時早々に放たれる白のマジックカード。その効力でオーカのバルバトス第1形態の機体が粒子化し消滅。Bパッド上のカードもデッキの下へと送り込まれてしまう。

 

これでオーカの場のスピリットはゼロ。トドメを刺すには絶好の条件となった。

 

 

「ラゴゥのレベルを2に上げアタックステップ!…ラゴゥでアタック!」

 

 

ー【ラゴゥ】(1S➡︎2S)LV1➡︎2

 

 

スピリット効果でスピリットを呼べる強力な力を持つラゴゥのレベルが上昇。さらにアタックの指示を受けた事により、再びその効果を使用できて………

 

 

「アタック時効果、召喚時と同じ効果を発揮できる……オレはデッキから3枚のカードをオープンし、その中にある2体目のバクゥを召喚する!」

「!!」

 

 

ー【バクゥ】LV1(1)BP2000

 

 

吠えるラゴゥ。その雄叫びに応えるように2体目となるバクゥが場に出現。ヨッカの場はラゴゥ1体とバクゥ2体の合計3体で固められた。

 

そして何より………

 

 

「オマエの残りライフは3。このターン、可能なアタックが全て決まればオレの勝ちだぜ」

「くっ………」

 

 

そう。

 

3体揃った四足歩行のモビルスピリット軍団。それらの攻撃が全て通ってしまえばこのターン中にヨッカの勝利、オーカの敗北が確定してしまうのだ。

 

それはオーカも初心者ながら理解できている。

 

 

「…………」

 

 

自分のライフを撃たんと突撃して来るラゴゥを前に、内心で「ここまで来て負けたくない」と思いながら、真剣な眼差しで手札を見つめるオーカ。

 

前のターン、ヨッカはマジックカードと言うカードで戦況を変えた。ならば自分の手札にもそれはないのかと考えたのだ。

 

そして、それは偶然にも存在していて……

 

 

「これだ………マジック、キャバルリースラッシュ!!…コア3個以下のスピリット2体……つまりバクゥ2体を破壊できる!」

「なに!?」

「斬り裂け!!」

 

 

何もなかったオーカの場から突如として放たれる紫の斬撃。それは最も巨大であるラゴゥを無視し、両サイドに佇んでいたバクゥ2体を斬り裂いた。

 

強力なラゴゥから出て来るスピリットであるバクゥだが、それ自体は非常に貧弱。堪らず爆散してしまった。

 

これで少なくともこのターンでの敗北は免れたオーカ。しかしまだラゴゥの攻撃が残っていて……

 

 

「ラゴゥのアタックはライフで受ける……ッ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉オーカ

 

 

ラゴゥの渾身の体当たりがオーカのライフバリアをさらに砕く。残りライフは少なめの2となるが、ヨッカもオーカの放ったマジックカードの影響でこれ以上のアタックは行えなくて………

 

 

「ターンエンド……驚いたぜ。やるなオーカ、まさかオレの見様見真似でマジックカードを使いやがるとは!」

手札:2

場:【ラゴゥ】LV2

バースト:【無】

 

 

「そんなに驚く事じゃないでしょ」

 

 

アニキのこの様子。どこか余裕がある。

 

さては、まだ奥の手のマジックカードを隠し持ってるな。

 

ヨッカとのやり取りでそう考えるオーカ。事実ヨッカの手札には確かにそれがあった。オーカだけではない周囲の来客達もそれをわかっているからこそ、オーカに勝ち目はないと考えていた。

 

しかし…………

 

 

[ターン06]オーカ

 

 

「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ………ッ」

 

 

もう手慣れ始めているターンシークエンス。その過程の中でドローしたカードに目を奪われる。

 

無理もない。それは紛れもなくこの場を打開できる唯一の策になり得るカードだったのだから…………

 

 

「リフレッシュステップ、メインステップ………先ずはコイツらだ。オレは手札に戻った3体の鉄華団モビルワーカーを召喚!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

ドリームハンドによって手札に戻されていた銃火器を備えた車両、鉄華団モビルワーカーが次々と復活を果たしていく。

 

その中でオーカはこのターンにドローしたカードに手を掛け、それを呼び寄せる…………

 

 

「そしてオレはコイツを召喚する………現れろ、ガンダム・バルバトス第4形態!!」

「ッ……第4!?」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

その姿は正しく荒野の王者。

 

上空から地へと降り立ったのは、前のターンにデッキ下へと戻されたバルバトスの強化形態。不完全だった装甲は完璧に施され、その手にはメイスと呼ばれる黒々とした巨大な戦棍が握られている。

 

 

「成る程、それがオマエのデッキのエースってわけかオーカ。カッコいいじゃねぇか」

「行くぞアニキ。アタックステップ……バルバトス第4形態でアタック、効果でスピリットのコア2個をリザーブに送る!……よってラゴゥは消滅!」

「!!」

 

 

ー【ラゴゥ】(2S➡︎0)消滅

 

 

オーカの宣言に従い、飛び出していくバルバトス第4形態。

 

そのメイスを荒々しく前方に突き出し、ラゴゥの脳天を貫いて見せる。流石のラゴゥにもこれには耐えられなかったか、堪らず力尽き爆散した。

 

 

「ッ………なんつー力だよ」

「そしてこれがバルバトスの本命のアタック!!」

 

 

ラゴゥの爆発による爆煙もまたそのメイスで振り払うバルバトス第4形態。その姿をヨッカに見せつけるが…………

 

彼は、このタイミングで又しても手札から1枚のカードを切り、それをBパットへと叩きつけた。

 

 

「だが、そう簡単に勝利は譲らないぜ、フラッシュマジック、2枚目のドリームハンド!!」

「!!」

「これでもう一度、鉄華団モビルワーカーをまとめて手札に戻す!!」

 

 

前のターンと同じく、ドリームハンドにより、鉄華団モビルワーカー3体が全て薙ぎ払われ粒子化、オーカの手札へと戻ってしまう。

 

 

「どうするオーカ、バルバトス第4形態だけじゃ、オレの残り2つのライフは破壊できねぇぞ!!」

 

 

しかし…………

 

その程度の事、前のターンで学習済みだ。同じ過ちは二度踏まない。

 

そう言わんばかりにオーカはバルバトス第4形態の更なる効果を宣言する。

 

 

「この一撃で勝負を決めれば関係ない……バルバトス第4形態の更なる効果、LV3のアタック中、紫のシンボルを1つ加える!!」

「ッ………ダブルシンボル効果!?」

「アニキは言ったよな、シンボルの数だけライフを破壊できるって」

 

 

紫のシンボルがバルバトス第4形態の内部へと埋め込まれていく。これによりバルバトス第4形態はダブルシンボル。

 

即ち、一撃で2つのライフを破壊できる鬼神と化した…………

 

後はその黒き大剣メイスで眼前のライフバリアを葬り去るのみ………

 

 

「凄ぇ……これが鉄華団デッキのエースカードバルバトス、いや、オーカの力か………!!」

「トドメだ………やれ、バルバトス!!」

「フッ……来い、ライフで受けてやるよ………ッ」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉ヨッカ

 

 

バルバトスの強肩から荒々しく振り下ろされた強靭なメイスは、容易く残り2つだったヨッカのライフバリアを砕いていった。

 

 

………ピー…

 

 

ライフがゼロになった事により、ヨッカのBパットからは彼の敗北を告げるように甲高い機械音が鳴り響く。

 

そしてその音は同時に鉄華オーカミの初陣勝利を告げる音色でもあって………

 

 

「お、おいあのチビ。ヨッカ店長に勝っちまったぞ!?」

「あのバルバトスってスピリット一体なんだよ……見た事ねぇ!」

「でもカッコいい!!」

 

 

名も知れない初心者が有名店長に勝利を収めた事と、未知のスピリットを操った事で、周囲の来客達は大盛り上がり。

 

 

「勝った………のか?」

「あぁ、良いバトルだった、負けたぜオーカ、大したモンだ。予想はしていたが、まさかここまでとはな、才能あるぜオマエ」

「……」

「んでもってようこそ、バトルスピリッツの世界へ」

 

 

そんな中、オーカは初陣での勝利、そしてバトルスピリッツの楽しさを実感。

 

メイスを肩に担ぐバルバトス第4形態を眺めつつ、口角を上げると、その右拳を固く握りしめる。

 

 

「楽しい……これがバトルスピリッツ。カードとコアを使った、手に汗握る、熱い戦い……!!」

 

 

 

 

そしてこれがオレの相棒………

 

ガンダム・バルバトス!!

 

 

 

 

成り行きではあったものの、すっかりバトルスピリッツの虜になっていったオーカ。その様子をアニキ分であるヨッカが微笑みながら見守っている。

 

そしてこの日を境に、オーカの運命は大きく動き出していく事になる…………

 

 




次回、第2ターン「一木ヒバナのウォーグレイモン」


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第2ターン「赤きデジタルスピリット、ウォーグレイモン」

「今日から学校か、面倒だな。勉強わかんないし」

 

 

とある日の朝方。とあるマンションの一室。

 

無造作に伸びた赤い髪が特徴的な少年「鉄華オーカミ」は怠そうに新調したてであろう紺色の学ランを怠そうに着用していた。

 

それは今日から転向する事になった中学の制服。身体が小さいオーカはこれから伸びる事が期待されているのか、その制服のサイズは大きく、少々だぼだぼである。

 

 

「でも学校が終わったらバイトだ………またバトスピができる」

 

 

ふと机にあるバトスピのデッキに目が行くと、それを学ラン裏のポケットに仕舞う。どうやら昨日味わったバトスピをもう一度やりたい様子。

 

アニキ分であるヨッカに言われるがまま成り行きで始めたバトスピ。しかしその存在は既にオーカの中ではより大きなモノになっていて………

 

こうして、オーカは楽しみを心に仕舞い、マンションを出たのだった。

 

 

******

 

 

ここは界放市。ジークフリード区、デスペラード区、キングタウロス区、オーディーン区、ミカファール区、タイタス区の6つの区域に分けられた日本有数のバトスピ都市である。

 

その内の一つジークフリード区にあるとある中学校。時は朝方、その教室の一つにて、長い黒髪を二本に結っているツインテールが特徴的な少女、一木ヒバナは学生カバンの中にある教材を机の中に入れていた。朝のホームルーム前のこの時間帯、学生としては当然の作業だ。

 

そしてそんな彼女に声を掛けて来た人物が一人………

 

 

「おはようヒバナちゃん〜〜…休日はオレっちに会えなくて寂しかっただろ?」

「…………」

「アレ、なにその反応?…お〜いヒバナちゃぁ〜ん!!…オレっちだよ、ヒバナちゃんのファン1号のイチマル君だよ〜!!」

 

 

ヒバナの知り合いなのか、緑色でウェーブの掛かったチャラついた髪が印象的な男子生徒がナンパ紛いな口調で喋り掛けて来た。

 

特に彼には興味がないのか、白々しい目を向ける。

 

 

「はぁ……朝っぱらから元気ねイチマル……一個上の学年のくせに下級生の教室まで来るなんて」

「そりゃもうだってヒバナたんにいち早く会いたくてさ〜!!」

 

 

ヒバナよりも1つ年上のイチマルと呼ばれるチャラついた少年。

 

彼はとにかく美少女であるヒバナの大ファンであるようで、毎度の如く学校では懲りずにヒバナにアピールすべく声を掛けている。

 

そんな彼は「ところで」とヒバナに話題を振ると………

 

 

「聞いたヒバナちゃん!?…この間街のどこかのカードショップで未知のモビルスピリットを使うカードバトラーが出たって!!」

「え、未知のモビルスピリット?……いやまだ何も聞いてないけど」

「そう。その名もガンダム・バルバトス!!…噂では紫属性のモビルスピリットらしいぜ〜!」

 

 

カードショップに現れた未知のモビルスピリット、バルバトス………

 

それは先ず間違いなく鉄華オーカミが持つ鉄華団デッキのガンダム・バルバトスの事であろう。

 

当然ながらオーカ本人は噂になっている事を自覚していないだろうが、その場にいなかったイチマルがバルバトスの存在を知っている所を見る限り、既にそれなりの知名度はあるようだ。

 

 

「で、それが何?」

「よかったら今日そのバルバトスを一緒に探さない??……次いでにデートでも………」

「嫌よ」

「うっ………」

 

 

即答で断るヒバナ。

 

イチマルと言う男はいつもこうだ。ヒバナに話題をふっかけては毎度の如く「デートしよう」に結びつけようとする。

 

正直言ってこんな明らかに自分の顔だけが目当てのような男はヒバナのタイプではない。

 

 

「そう言うのは私にバトルで勝ってから言えっていつも言ってるでしょ?……わかったら早く教室を出て、もう直ぐ授業だし」

「は、はい……わかりました………ねぇ本当にダメ?」

「しつこい!」

 

 

かなりキツめに釘を刺していくヒバナ。彼女に頭の上がらないイチマルはしょんぼりしながら教室を出て行く。

 

その途端にホームルーム開始の鐘が鳴り響く。先生と思わしき女性が教室へと入室して来ると、遊んでいたり話し合ったりしていた生徒は皆、己の机へと着席していく。

 

 

「はーい、おはようございます皆さん。突然ですが今日はホームルームの前にこのクラスに入る事になった新しい転校生を紹介したいと思います!」

 

 

第一声からまさかの報告。5月の時期に転校生と言うまさかのパターンに教室中の誰もが驚く。

 

 

(へーー…この時期に転校生って…相当訳有りな子なんだろうな)

 

 

生徒達が転校生の話題でざわつき始める中、ヒバナが内心でそう考えた。確かに4月ではなく5月と言う中途半端な時期に転校するのは相当な訳有りな人物である事は勘ぐる事ができる。

 

 

「みんな静かに。それじゃあ呼びますね、入って来て〜」

 

 

先生が生徒の皆を鎮め、教室の外で待機している生徒を呼び、教室内へと入室させる。

 

その転校生とは…………

 

 

「あ……あの子アポローンの……!?」

 

 

その姿を見るなり思わず声が漏れ出るヒバナ。無理もない、何せ転校生と言うのがつい先日カードショップ「アポローン」でバイトを始めたと言うあの鉄華オーカミだったのだから…………

 

オーカは特に緊張感も感じていない無愛想な表情のまま、チョークで黒板に自分の名前を記入していく。

 

 

「鉄華オーカミです………まぁ、よろしく」

「あの子……同じ歳だったんだ………」

 

 

クラスメイトに向かって軽くお辞儀をするオーカ。ヒバナはあの小柄なオーカがまさか自分と同じ14歳の中学2年生だった事に驚愕している。

 

 

「よろしくね鉄華君。それじゃあ席は………一番後ろの一木さんの横とかどうかしら?」

「!!」

 

 

まさかのご指名。オーカは先生に言われるがままヒバナの席へと向かう。その道中、当然ながら2人は目が合った。

 

 

「あ、ショップの女の子」

「あっはは……よろしくね〜」

 

 

人の事を大抵は名前で覚えないオーカ。一度カードショップ「アポローン」で名前を名乗ったヒバナの事を「ショップの女の子」と呼んでいるのがその証拠である。

 

ヒバナはヒバナで彼が歳下だと思っていたとは言えない。取り敢えず愛想笑いで誤魔化していく。

 

オーカも性格上故か、それ以上に口を開かず、そのまま空いている席に着席した。

 

その後は滞りなく授業が始まって行ったのだが、ヒバナは彼とは一言も喋れず、遂には放課後になってしまった。

 

 

******

 

 

「……結局あれから一言も喋らなかったな〜…ホント何考えてるかわからない子だわ。ヨッカさんはなんであの子を弟分にしたんだろ?」

 

 

カバンを肩に下げ、帰宅しようとするヒバナ。

 

カードショップ「アポローン」の店長九日ヨッカとは古くからの知り合いであるが、そんな彼に弟分がいた事など聞いた事がなかった。

 

そんな事もあってオーカに少々興味が湧いているのだが………

 

 

「ん?……あれって鉄華?」

 

 

そんな時、ふとあのオーカの姿が確認できた。だがその周囲をガラの悪そうな男子生徒3人が囲んでいて…………

 

 

「オマエが今日転校して来たヤツか」

「うん、そうだけどアンタ達誰?」

「おいおチビちゃんそんな事も知らないのか?…この方はここら辺でも札付きの悪、毒島さんだ!」

「ちゃんと敬語使えよな!!」

「ふーーん」

 

 

ガリガリでヒョロヒョロな取り巻き2人が言うには一番図体の大きい男子生徒は「毒島」と言うらしい。

 

まぁ正直オーカにとってはどうでも良い事だ。

 

 

「で、その札付きの何とかが何の用?」

「あぁ!?…決まってんだろテメェ、先ずは持てるだけの金を置いていきな」

 

 

体の小さいオーカ。カツアゲ常習犯の彼らにとっては格好の獲物であるとして目をつけられていたようだ。

 

如何にも小物くさい連中。オーカは面倒くさそうに………

 

 

「嫌だ。お金は大事にしろって姉ちゃんに言われてる」

「はぁ!?」

「だからあげる理由が無い奴にはあげない」

 

 

これと言って脅しに怯える様子もなく、淡々とした様子でそう告げたオーカ。

 

事実正論である。せっかくバイトで稼いだ金を他の誰かのために使うわけがないのだから………

 

 

「なんて生意気なヤツ!!」

「やっちゃってくださいよ毒島さん!!」

「おうよ!!…目にものを見せてやるぜ!!」

 

 

もちろんこの行為は彼らの沸点となる。毒島はオーカの胸ぐらを掴み上げると、今にも殴りかからんとポージングを取る。

 

絶体絶命のピンチにしか見えないこの状況。しかしオーカは内心では「面倒くさい」としか思っておらず、その冷静とも呼べる無表情を一切崩さない。

 

だがそんな時だ。この騒動に首を突っ込んできた人物が一人………

 

 

「ちょっとやめなさいよ!!」

 

 

ー!!

 

 

「あ、ショップの女の子」

 

 

こう言う状況にはいても立ってもいられなくなったか、正義感の強いヒバナがその手を離せと言わんばかりにしゃしゃり出た。

 

 

「おぉ、あの有名な一木ヒバナか、どうした。今オレ達は大事な取り引きの最中だ……なぁ?」

「決裂したけどね」

「あぁ?…今からたっぷりオレに金を注ぐ事になるんだよ」

「何が取り引きよ、一方的に鉄華から金を取ろうとしていただけじゃない!!」

 

 

オーカの胸ぐらを離しながら毒島がヒバナに言った。強気なヒバナは一切物怖じせずに立ち向かう。

 

しかし………

 

 

「それともなんだ?…オマエが金蔓になってくれるのかよ!!…やれオマエら!!」

「「はい毒島さん!!」」

「キャッ!…何すんのよ、離しなさいよ!!」

 

 

毒島がそう指示すると、2人の取り巻きがヒバナの身動きを止めるべく腕を捕まえる。その後本人はゆっくりと彼女の元へと歩み寄り………

 

 

「プロバトラーの娘だからってあんまいい気になんじゃねぇぞ。どちらが上かって事を今この場でハッキリさせてやる」

「3人がかりでよく言えたわねこの卑怯者!」

 

 

女の子1人相手に3人で掛かってきた毒島達。これが卑怯者と言わずしてなんと言うか………

 

だがそんな事彼らの知った事じゃない。毒島は固めた拳をヒバナの方へ向けると…………

 

 

「なんとでも言え、今からその整った顔、ぐちゃぐちゃにしてやるぜ!!」

「!!」

 

 

全力で頬を殴りつけた…………

 

はずだった。思わず目を閉じてしまったヒバナは痛みを感じない事にその目を開眼させると、そこにはその毒島の腕を片手一本で止めていたオーカの姿が………

 

 

「な……テメェいつの間に……!」

「姉ちゃんが言ってた。女の子に手出しするヤツには容赦するなって………これ以上この子に何かするって言うならオレがアンタをぶっ飛ばす」

「!!」

 

 

その言葉にヒバナは思わず顔が赤くなった。身を呈して自分を庇っているこの鉄華オーカミと言う小さな少年がとてつもなくかっこよく見えたのだ。

 

 

「は!?…テメェ如きチビがこのオレをぶっ飛ばせるわけねぇだろ?…こんなの直ぐ振り解いて……ふんッ!!…ふんッ!!……アレ?」

 

 

何とかオーカの手を振り解き、ヒバナをぶん殴ろうとする毒島だが、まるで万力に挟まれたかの如くその腕はピクリとも動かない。

 

 

「オレも鬼じゃない。直ぐにこんな事やめるって言うならやめておくよ」

「……オマエ、誰に口聞いて………」

「二度は言わない………オレは働いて金を稼いでいる。オマエも金が欲しいんだったらこんな事してないでさっさと働け」

「!!」

 

 

殺気にも似た途方もないオーカの圧力。鋭い眼光は毒島を威嚇するには余りにも十分過ぎるものがあった。

 

彼は力を抜き、ゆっくりと振り上げた手を下ろす。その際にオーカの拘束も外れる。

 

 

「……い、行くぞオマエら………」

「「う、ウッス毒島さん!」」

 

 

コイツにはどう足掻いたところで喧嘩では勝てない。そう本能が悟って見せた毒島は取り巻きの2人を連れてどこかへと去っていく。

 

 

「大丈夫?」

「あ、うんありがとう。ごめんね、助けに来たつもりが逆に助けられちゃった」

「いいよ別に気にしなくて、姉ちゃんの言いつけを守っただけだから」

 

 

先程のオーカの変貌ぶりにヒバナは驚きを隠せない様子だが、助けられた事に感謝の言葉を告げる。

 

 

「じゃ、気をつけて」

「あ……ちょっと待って!!…この後よかったら何かお礼させて欲しいんだけど……」

「いや、だから気にしないでいいって」

「え〜…でもこのままだと私の気持ちがいたたまれないし……私のためだと思ってお願い、何かやらせて」

「………」

 

 

どうしてもお礼をしたいのか合掌をしながら懇願するヒバナ。

 

正直しつこいと思っているオーカ。しかし彼はここでもまた一緒に暮らしている実の姉の言葉を思い出す。

 

その内容は………

 

ー『いいオーカ?…人によるけど、女の子の頼みは絶対に聞く事。それが歳の近い子とかなら尚更よ!』

 

そうだ。そう言っていた。家庭の都合上、自分を養ってくれた姉には逆らえない。

 

 

「わかったよ、そうだな………」

 

 

正直彼女に恩を売ってしまった事は不本意だが、取り敢えずうんと悩んで考えてみる。

 

すると、一つの案が脳裏に浮かんで………

 

 

「あ、じゃあバトスピやろう。アンタ結構強そうだし」

「え……鉄華ってバトスピできたんだ」

「うん。デッキもらったから昨日はじめた」

「昨日って………」

 

 

一昨日の会話からなんとなく鉄華オーカミはバトスピをやっていないと認識していたヒバナ。

 

だがこれは彼女にとっても好都合。何と言ったって意中の相手とバトスピができるのだから………

 

 

「まぁいっか!…よし、そうと決まればアポローンに直行よ。どうせ今日もまたバイトなんでしょ?」

「そうだね。そっちの方が効率がいいし」

 

 

バトルする場所も決まったところで、2人はこの街のカードショップの一つ「アポローン」へと向かった。

 

 

******

 

 

ここはカードショップ「アポローン」………

 

界放市ジークフリード区にあるカードショップの1つであり、若き店長「九日ヨッカ」が切り盛りしている。

 

そしてそんな今日も大勢のカードバトラーで賑わっているアポローン店内にご満悦なヒバナと少々機嫌が悪そうなオーカが来店して来て………

 

 

「こんにちはヨッカさん!」

「おぉいらっしゃいヒバナ………とオーカ?…なんだこの組み合わせは」

「ご無沙汰してますアニキ。なんか新しい学校のクラスメイトだった……それだけ」

「ハッハッハ!!…成る程な、オマエら身長差あるけど一応同い年だからな」

 

 

エプロン姿で出迎えるヨッカ。赤いエプロンであるため、褐色肌と白髪がより際立って見える。

 

 

「私たち、ここのバトル場使いたいんですけど、オッケーですか?」

「ん?…そりゃいいけど、オマエらバトルすんのか?」

「うん。このショップの女の子強そうだから」

「なッ……オーカ、オマエが自分からバトルを申し込むとは!!…もうすっかり立派なカードバトラーじゃねぇかコンチクショー!!」

「アニキ何で涙目になんの」

 

 

オーカが実力者のヒバナにバトルを申し込んだと聞いて感激の余り涙目になるヨッカ。そんな熱苦しい彼にオーカは少々呆れ気味。

 

 

「よしオーカ。オマエが申し込んだバトル、このオレが見届けてやるぞ!」

「仕事は?」

「はは……本当に鉄華の事好きなのねヨッカさん」

 

 

兎に角無愛想を極めた弟分、オーカがかわいいヨッカ。店の仕事を放ったらかしにして2人と共に店内のバトル場へと向かった。

 

 

ー………

 

 

店内のバトル場。今日は平日という事もあり来客は少ない。

 

だが、こうして今2人のカードバトラーが合間見えていた。

 

その名は鉄華オーカミと一木ヒバナ。既にBパッドを展開し、デッキをそこにセットしている。そしてオーカのアニキ分且つここの店長ヨッカが見守る中、それは堂々開始される………

 

 

「いくよ鉄華。一木花火の娘、一木ヒバナのバトルを見せてあげるわ!」

「誰それ。まぁいいや……やろう」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共に遂に幕を開けた2人のバトルスピリッツ。

 

先攻はオーカだ。昨日教わったターンシークエンスの順番を守りながらのスタートである。

 

 

[ターン01]オーカ

 

 

「スタートステップ、ドローステップ、メインステップ………」

「おぉ、昨日がはじめたってだったのに、もう先攻のターンシークエンスを覚えてるんだね!」

「まぁね」

 

 

スピリットを召喚できるメインステップ中。じっくり手札を眺め、オーカはその中で一番強いカードを抜き取り、Bパッドへとセットした………

 

それは………

 

 

「先ずはコイツだ。来い、ガンダム・バルバトス・第1形態!!」

「え……バルバトス!?」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス・第1形態】LV1(1)BP2000

 

 

蠢く地中から飛び出して来たのは鉄華団デッキの象徴ガンダム・バルバトス。その第1形態。肩の装甲が剥き出しになっているため、機体としては不完全であると言える。

 

モビルスピリットじたい対して珍しいモノではない。ただ、それが噂になっていた未知のモビルスピリット、バルバトスなら話は変わる………

 

 

「見た事のないモビルスピリット……まさか鉄華があの噂のモビルスピリット使い!?」

「噂?」

「あぁ、今オマエちょっとした有名人だぞ。なんてったって誰も見た事がないカードを使ってるんだからな」

「そういうもんか」

 

 

それをまさか今日知り合った転校生が所持しているとはヒバナも思ってはいなかった。驚愕してしまうが、反面オーカは自分が少し噂になっていた事を淡々と受け入れる。

 

 

「まさか鉄華が噂のバルバトスを持ってたなんて、これはより燃えて来たわ……!!」

「召喚時効果。3枚オープンして鉄華団カードを加える………じゃあ鉄華団モビルワーカーを手札に加えて残りを破棄」

 

 

よりその闘志を燃やすヒバナ。オーカは良い加減にバトルを進めていき、バルバトス第1形態の召喚時効果を発揮。

 

 

「先攻の1ターン目はアタックステップができない。これでターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

「相手にとって不足無し!…行くよ、私のターン!」

 

 

やる気は十分。

 

初心者であるとは言え手は抜かない………

 

そう言わんばかりの勢いでヒバナは己の最初のターンを進めていく。

 

 

[ターン02]ヒバナ

 

 

「メインステップ……それじゃあ先ずはネクサスカード、勇気の紋章を配置するわ!」

「!?」

 

 

ー【勇気の紋章】LV2(1S)

 

 

そのカードをBパッドに置いた瞬間、ヒバナの背後に太陽を模した巨大な紋章が出現した。

 

そんな中「ネクサスカード」と言う初めて聞くワードにオーカは頭の上にハテナのマークを浮かべていて………

 

 

「って言うかアニキ、ネクサスカードってなに?」

「ネクサスカードってーのは場に配置する事で様々な効果でバトルをサポートするカードの事だ。その代わりBPがなくアタックもブロックもできない」

「ふーん」

 

 

オーカのアニキ分、ヨッカがネクサスカードについてザックリ説明する。

 

 

「これでターンエンド。鉄華のターンだよ!」

手札:4

場:【勇気の紋章】LV2

バースト:【無】

 

 

ネクサスの配置に殆どのコアを費やしたヒバナ。そのターンをエンドとする。

 

ネクサスカードについて一通りは理解したオーカは返って来たそのターンを進めていく。

 

 

[ターン03]オーカ

 

 

「メインステップ……サポートすると言っても、ブロックできないカードならこのターンで一気にライフを叩く。来い、鉄華団モビルワーカー、2体!!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

バルバトス第1形態の横に出現したのは銃火器を装備した2台の車両、鉄華団モビルワーカー。

 

オーカはネクサスカードである勇気の紋章がブロックできない事を知り、このターンでヒバナのライフを一気に破壊する気なようだ。

 

 

「バルバトス第1形態のLVを2に上げてアタックステップ!!……行け、バルバトス!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】(1➡︎3)LV1➡︎2

 

 

レベルが上昇した瞬間、ヒバナのライフを討つべく走り出したバルバトス第1形態。

 

当然な事に、前のターン勇気の紋章を配置した事でスピリットが場に存在しないヒバナはそれをライフで受ける他ない。

 

しかし、その表情はまるでその攻撃を待ち望んでいたかのようなものであり…………

 

 

「ふふ……ライフで受ける!!………ッ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ヒバナ

 

 

俊敏な動きから放たれるバルバトス第1形態の拳。ヒバナのライフは1つ砕け散って行った…………

 

だが、このタイミングでオーカはネクサスカード、勇気の紋章の恐ろしさを知る事となる。

 

 

「待ってたよその攻撃!!……勇気の紋章の効果発揮!!」

「ッ……このタイミングで効果!?」

「私のライフが減った時、BP5000以下のスピリット1体を破壊……よって鉄華団モビルワーカーを1体破壊!」

「!!」

 

 

太陽を模した紋章の中心から放たれる火炎弾。それは瞬く間に2体いる鉄華団モビルワーカーの内の1体に直撃。

 

耐えられるわけもなく呆気なく爆散してしまった。

 

 

「今のは………」

「どう?…これがネクサスカード、勇気の紋章の発揮できる効果。BPの低いスピリット達はこれで返り討ちにできちゃうんだから!」

「……鉄華団モビルワーカーの破壊時効果。他の鉄華団スピリットが存在する場合、デッキからカードを1枚破棄して1枚ドロー」

「へ〜そんな効果あったんだ。でもその程度、雀の涙って感じだね……勇気の紋章の効果は私のライフが減るたびに効果を使える。BP5000以下のスピリットしかいない鉄華はもうこれで攻撃はできない」

 

 

ライフの減少時にBP5000以下と言う弱いスピリットを迎撃できる勇気の紋章。BPを上昇させづらいこの序盤ではこのラインを超えるのは中々難しい………

 

それが故にアタックはやりづらい………

 

序盤はスピリットを失わないようにプレイングしていくのがセオリーであるからだ。

 

しかし、この鉄華オーカミは…………

 

 

「残った鉄華団モビルワーカーでアタック」

「なッ!?」

 

 

この一瞬のタイミングで勇気の紋章の効果を理解していたにもかかわらず、何の迷いもなく鉄華団モビルワーカーで攻撃を仕掛けて来た。

 

その意外な行動にバトスピ上級者であるヒバナも驚きの表情を見せる。だがコアも大してない自分はライフで受ける他ない。

 

 

「仕方ない、ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉ヒバナ

 

 

鉄華団モビルワーカーが備えている銃火器から放たれる弾丸がヒバナのライフバリアをさらに穿つ。

 

そして当然の如くこのタイミングでも勇気の紋章の効果が起動する。

 

 

「勇気の紋章の効果でBP1000の鉄華団モビルワーカーを破壊!」

 

 

全く同じ光景が再び起こる。鉄華団モビルワーカーは勇気の紋章の中心部からから放たれる火炎弾によって爆散した。

 

 

「こっちももう一度鉄華団モビルワーカーの破壊時効果でデッキを1枚トラッシュに破棄して1枚ドロー」

「……何で破壊されるとわかっていてアタックを………」

 

 

高々1枚ドローするためにスピリットを失いに来た理由がわからないヒバナ。

 

本来、バトル序盤において、スピリットとは残すモノ。シンボルを確保し、さらなるスピリットを呼ぶために残しておくのが定石、セオリーなのだ。

 

初心者とは言え、トップカードバトラーと互角に渡り合える程の実力を持つ九日ヨッカにバトルを教えてもらったのなら考えなくともそのくらい理解できる筈………

 

だが、このオーカにも攻撃を仕掛けた理由があって………

 

 

「そりゃまぁ、攻めないと勝てないゲームだから」

「!!」

 

 

それは至って単純明快過ぎる理由。

 

ブロッカーとしてスピリットを残す事が無駄であると考えているオーカらしい考え方である。

 

 

「ハッハッハ……ヒバナ、コイツにバトスピのセオリーは通用しないぞ。何てったってこのオレの弟分なんだからな」

「……成る程、かっこいいじゃん!」

 

 

高笑いしながらヒバナにそう告げるヨッカ。彼女もオーカがどう言ったカードバトラーなのかをあらかた理解を示し始める。

 

 

「これでライフの差はオレの方が上だ。ターンエンド」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV2

バースト:【無】

 

 

前のバトルと同様、オーカはブロッカーを一切残さないフルアタックでそのターンをエンドとする。

 

次は一木ヒバナの番。初心者である鉄華オーカミに自分の実力を見せつけるべく己のターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン04]ヒバナ

 

 

「ドローステップ時、勇気の紋章のLV2効果……ドローステップでドローする枚数を1枚増やし、その後1枚をトラッシュに破棄する」

「……まだそんな効果あったのか」

 

 

勇気の紋章の第二の効果がここで発揮。ヒバナの手札の枚数そのものに変化はないが、その質を確かに向上した。

 

 

「リフレッシュステップ、メインステップ!!……行くよ鉄華、よーく見てよね私のスピリット!!」

「!!」

「来い、デジタルスピリット、完全体、メタルグレイモン!!」

 

 

ー【メタルグレイモン】LV1(1)BP6000

 

 

ヒバナの場で赤いシンボルが砕け散ると、その中から出現して来たのは左半身がサイボーグと化した獰猛な肉食恐竜のようなスピリット、メタルグレイモン。

 

その圧巻のサイズはバルバトスにも負けず劣らず。

 

 

「……ライフを減らしすぎたのが裏目に出たなオーカ。普通はこんな早いターンにメタルグレイモンは召喚できないぞ」

 

 

ヨッカがそう言葉を漏らす。その内容や見た目からして、この眼前のメタルグレイモンがどれだけの強敵なのかをオーカは瞬時に理解する。

 

そしてその予感は的中。ヒバナはメタルグレイモンの効果を早速発揮させて………

 

 

「メタルグレイモンの召喚時効果、BP12000以下のスピリット1体を破壊!!……バルバトスはもらったよ!」

「ッ……バルバトス!!」

 

 

胸部のハッチから一つの巨大なミサイルを発射するメタルグレイモン。それは疲労状態により膝をついているバルバトスに直撃。

 

流石のバルバトスと言えども、これには堪らず爆散してしまった。

 

 

「ふふ……これで鉄華のスピリットはゼロ!!…私もアタックステップに行かせてもらうわ!!…行きなさいメタルグレイモン!!」

「……ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

メタルグレイモンは左腕に備え付けられたアームでオーカのライフバリアを1つ叩き壊した。

 

 

「これで私はターンエンド!」

手札:4

場:【メタルグレイモン】LV1

【勇気の紋章】LV2

バースト:【無】

 

 

堂々と腕を組みながらそのターンをエンドとするヒバナ。余程そのメタルグレイモンに自信があるのだと言える。

 

次は勇気の紋章と合わせてスピリットが0体となってしまったオーカのターン。逆転すべくそのターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン05]オーカ

 

 

「ドローステップ………ッ」

 

 

ドローステップのドローで何か良いカードでも引けたのか、それを視認するなり目の色が変わるオーカ。

 

そのカードとはつい先日、初めてのバトルスピリッツで偶然にも強力なカードバトラーであるヨッカを降したスピリットカード………

 

そしてこのターン、何の迷いも躊躇もなく、オーカは勝ち星を目指してそれを召喚して見せる。

 

 

「メインステップ、今度はこっちの番だ……来い、ガンダム・バルバトス・第4形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2S)BP9000

 

 

メイスと呼ばれる黒くて巨大な鈍器を片手に上空から着地して来たのはガンダム・バルバトス。その第4の形態。第1形態とは異なりしっかりと装甲が施され、機体としては万全の状態である。

 

 

「ッ……さっきのバルバトスが進化した姿?……いや、これが本来の姿って感じか」

「アタックステップ…反撃だ、バルバトス!」

「!!」

 

 

エースカードである第4のバルバトスで攻撃を仕掛けるオーカ。バルバトスはメイスを手にヒバナのライフ目掛けて走り出す。

 

 

「バルバトス第4形態のアタック時効果、相手スピリットのコア2個をリザーブに置く」

「!!」

「メタルグレイモンからコア2個をリザーブに……よって消滅する!」

 

 

その構えは槍投げの如く。

 

メイスを黒い弾丸のようにメタルグレイモンに向けて飛ばすバルバトス第4形態。攻めつつ、敵の強力なスピリットをここで倒す事ができればオーカは一気に優勢に立てる………

 

しかしもちろん倒せたらの話ではあるが…………

 

 

「!!」

 

 

その光景にオーカは目を疑う。

 

無理もない。効果で消滅するはずのメタルグレイモンがバルバトス第4形態のメイスの一撃を弾き返したのだから………

 

 

「作戦は悪くなかったけどね…メタルグレイモンは疲労状態の時、スピリット効果を受けない……よってバルバトス第4形態の効果は無効!」

「効果が通用しないスピリット、そんなのもいるのか……フッ、やっぱりいいなバトスピは……良い感じに思い通りにならない所とか特に」

 

 

生まれて初めて効果耐性のあるスピリットの強さを知るオーカ。一々これでもかと自分に対して壁を用意してくれるバトスピ。オーカは思わず口角を上げる。

 

さらにヒバナはオーカに追い討ちをかけるように手札からカードを1枚切った。そしてそれは彼女の持つ最強のスピリット。父親を真似て使用している自分のマイフェイバリットカード………

 

 

「そしてこの瞬間、フラッシュ、ソウルコアを支払い【煌臨】を発揮!…対象はメタルグレイモン!!」

「!?」

「究極進化!…現れろ、ウォーグレイモン!」

 

 

オーカの理解が追いつかないままありったけの咆哮を張り上げるメタルグレイモン。そのままその体を真っ赤な炎で包まれていき、姿形を大きく変えていく。

 

やがてその中にいるメタルグレイモンだったそれは腕にある鉤爪で周囲にある炎を斬り裂き姿を見せる。

 

それはデジタルスピリットの中でも最上級の究極体スピリット、竜人型のウォーグレイモンだ。

 

 

ー【ウォーグレイモン】LV1(1)BP9000

 

 

「煌臨時効果。BP合計15000まで好きなだけスピリットを破壊!」

「!」

「バルバトス第4形態を破壊よ!」

 

 

登場するなり両掌から身の丈以上の火球を形成していくウォーグレイモン。それを全力で向かってくるバルバトス第4形態へと投げつける。

 

ヨッカのラゴゥをも倒して見せたバルバトス第4形態も流石にそれには耐え切れず、堪らず爆散してしまった。

 

 

「どう鉄華!……これが私のエースカード、ウォーグレイモンよ!」

「……って言うか煌臨って何」

 

 

ヒバナのエースカードの事はどうでもいいが、兎に角今はこの状況に関する理解が欲しいオーカ。

 

そんな弟分にアニキであるヨッカが答える。

 

 

「コアの中に赤くて一際大きいのがあるだろ?…それはソウルコアっつってバトル中に1つ以上増える事がない特別なコアだ」

「赤いコア……あぁこれか」

「煌臨はそのソウルコアを使ってスピリットを更なる姿に進化させる効果。ヒバナのウォーグレイモンはそれを持っていたわけ」

「ふーーん」

 

 

オーカは味気ない様子でウォーグレイモンの煌臨、そしてバトル中に1個しか持つ事が許されないソウルコアにも理解を示す。

 

 

「ソウルコアを使いこなす事がバトル上達の秘訣。鉄華も覚えておくといいよ」

「わかった……使いこなしてみる」

「いや、そんなすぐにはできんだろう………」

 

 

無愛想で感情が読めないバトスピ初心者、オーカに対して少しずつ、それでいて優しくバトスピ のイロハを教えていくヨッカとヒバナの上級者2人。

 

向上心は高い様子のオーカだが、少なくともこのターンはスピリットを全滅させられて何もできないためエンドとなる。

 

 

「じゃあ次は私のターンだね」

 

 

そう言いながらヒバナがターンを進めていく。

 

 

[ターン06]ヒバナ

 

 

「メインステップ!!…勇気の紋章のLVを2に、ウォーグレイモンのLVを3に上げ、コストにソウルコアを支払いグレイモンを召喚!」

「ッ……またソウルコアがコストに……」

 

 

ー【グレイモン】LV1(2)BP4000

 

 

ヒバナのスピリット、ネクサスのレベルが最大なる中、新たに出現したのは立派な三本の頭角を持つ恐竜型のデジタルスピリットグレイモン。

 

一度ソウルコアの強さを知ったオーカはこの召喚のコストにソウルコアが使用された点を警戒しており………

 

 

「さぁアタックステップ!!…ここからがウォーグレイモンの真骨頂よ、行けぇ!!」

 

 

光り輝く強い眼光を放ち、両腕の鉤爪を構えて走り出すウォーグレイモン。

 

前のターンの時点でそんなウォーグレイモンのせいで場のスピリットを空にされたオーカにはそれを防ぐ手立てがなくて………

 

 

「ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉オーカ

 

 

ドラモンキラーと呼ばれるウォーグレイモンの鋭い鉤爪。そこから繰り出される強烈な一撃はオーカのライフを紙切れのように斬り裂いた。

 

だが、ヒバナの言う通り、ここからがウォーグレイモンと言う最上級デジタルスピリットの真骨頂であって………

 

 

「ウォーグレイモンのアタック時効果、トラッシュにあるソウルコアをウォーグレイモン自身に置き、鉄華のライフ1つをボイドに送る!」

「なに……ぐぁっ!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉オーカ

 

 

煌臨時とは比べものにならない程の火球を形成して投げ飛ばすウォーグレイモン。それに直撃したオーカのライフバリア1つは塵一つ残らず消し炭にされてしまう。

 

これがウォーグレイモンの第二の効果。トラッシュにあるソウルコアを自身の上に移動させる事で敵のライフ1つを使用できないボイドへと送るのだ。

 

 

「グレイモンはブロッカーに残してターンエンド……鉄華には悪いけど、このバトル、私の勝ちね!」

手札:3

場:【ウォーグレイモン】LV3

【グレイモン】LV1

【勇気の紋章】LV2

バースト:【無】

 

 

「……強い」

 

 

初心者ながらヒバナの強さをその身に感じるオーカ。思わず感嘆の声が漏れる。

 

しかし諦めたわけではない。初心者なりの意地を見せつけまいと返って来た己のターンを進めていく。

 

 

[ターン07]オーカ

 

 

「ドローステップ!………ッ」

 

 

ドローステップでドローしたカードを思わず見つめるオーカ。直感が強い彼はそのカードに微かな可能性を感じたのか、直後にメインステップまで急行し、そのカードを手札から切る。

 

 

「リフレッシュステップ、メインステップ。マジック、リターンスモーク……効果でコスト4以下のスピリットを召喚」

「コスト4以下?……私の場に勇気の紋章があるのを忘れちゃった?…今更鉄華団モビルワーカーや第1形態を出しても無駄だよ」

 

 

オーカが発揮させたマジックカードはリターンスモーク。コスト4以下のスピリットをトラッシュから復活させると言う代物。

 

だがBP5000以下のスピリットを破壊できる勇気の紋章がある今で弱いスピリットしか復活できないマジックカードを使っても一見無駄に見える………

 

しかし…………

 

 

「いや違う。ここで蘇らせるのは鉄華団モビルワーカーでもバルバトス第1形態でもない………オレが蘇らせるのはバルバトス第4形態だ!!」

「!?」

「鉄の華は決して散らない……今一度大地を揺るがせ、バルバトス第4形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

オーカの場に蔓延する紫の煙。その中よりウォーグレイモンにより破壊されたバルバトス第4形態がメイスを振るってその紫の煙を吹き飛ばしながら復活した姿を見せる。

 

 

「なんでエースカードが復活!?…そのスピリットのコストは確か5だったはず………」

 

 

ヒバナの言う通り、バルバトス第4形態のコストは5。通常ではリターンスモークの効果では蘇る事はできないが………

 

 

「理屈は簡単、オレも使ったんだよ。ソウルコアをな」

「!!」

「リターンスモークのさらなる効果。コストの支払いにソウルコアを使えばコスト4以下ではなくコスト6以下のスピリットを復活させる」

「ウソ……まさかもうソウルコアを使いこなしてるって言うの!?」

 

 

復活の秘訣はソウルコア。つい先までソウルコアの名前すら知らなかったオーカだったらこのリターンスモークの効果は使えなかった事だろう。

 

オーカは今、己の成長の早さと直感の鋭さをヒバナに見せつけたのだ。

 

 

「3体目の鉄華団モビルワーカーを召喚してアタックステップ……行け、バルバトス第4形態!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

本日3体目となる鉄華団モビルワーカーが出現するとほぼ同時にヒバナの残り3つのライフを目掛けて走り出すバルバトス第4形態。その瞬間に再び強力なアタック時効果が発揮される………

 

 

「アタック時効果でグレイモンのコア2つをリザーブに置く……よって消滅!」

「!」

 

 

ー【グレイモン】(2➡︎0)消滅

 

 

バルバトス第4形態は黒々とした巨大なメイスを振り下ろし、グレイモンを撃沈させる。全力で地面に叩き伏せられたグレイモンは堪らず爆散。

 

これでウォーグレイモンが疲労状態である事から、ヒバナのライフを守るスピリットはゼロ。後は3点分のライフを破壊するだけだ。

 

 

「バルバトス第4形態はLV3の時、紫のシンボルを1つ追加する!」

「ダブルシンボル効果まであるの!?……ら、ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉ヒバナ

 

 

再びメイスを横一閃に荒々しく振るうバルバトス第4形態。それによって生み出される強烈な一撃がヒバナのライフバリアを一気に2つ砕いた。

 

しかし………

 

 

「だけど勇気の紋章の効果で3体目の鉄華団モビルワーカーを破壊!」

「………鉄華団モビルワーカーの破壊時効果でデッキを1枚破棄してドロー」

 

 

又しても発揮される勇気の紋章の効果。全体的にBPの低い鉄華団にとってはやはりメタのカードとして機能している。

 

そんな勇気の紋章の中心から放たれる火炎弾が3体目の鉄華団モビルワーカーを容易く焼き尽くした。

 

淡々と鉄華団モビルワーカーの破壊時効果を発揮させるオーカだったが、場のスピリットはアタックを終えたバルバトス第4形態のみ…………

 

そのターンを終え、次のヒバナのターンでウォーグレイモンがバトルの決着をつけに行く…………

 

はずだった………

 

 

「どう鉄華!…これで私の勝ちね!」

「いや、鉄の華は決して散らないと言ったはずだ…………バルバトス第4形態のさらなる効果!!…自分のアタックステップ中、場のスピリットがアタックしたバトルの終了時、コストを1つ支払い、トラッシュの鉄華団スピリットを召喚!!」

「!?」

「蘇れ、ガンダム・バルバトス第1形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV2(3)BP4000

 

 

バルバトス第4形態の緑色の眼光が光り輝くと、まるでそれに呼応するかの如く、オーカの場で紫のシンボルが砕け、その中よりバルバトス第1形態が復活を果たす。

 

 

「そ、そんな……またトラッシュからスピリットを復活!?」

「勇気の紋章はライフを減らした時にスピリットを破壊する。だけど減らした時に既にゼロだったら関係ないだろ………これで終わりだ……決めろ、バルバトス第1形態!!」

 

 

復活早々、最後のライフを砕くべく、野獣の如く地を駆けるバルバトス第1形態。勇気の紋章の破壊効果ではタイミングが遅い、そのためヒバナはこの瞬間に敗北を確信して…………

 

 

「負けたか、良いバトルだったね鉄華……ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉ヒバナ

 

 

最後は潔くその攻撃を受け入れるヒバナ。バルバトス第1形態がトドメと言わんばかりに全力でラスト1つのライフを殴り壊して見せる。

 

 

………ピー……

 

 

とヒバナのBパッドから甲高い音声が鳴り響く。これにより、勝者は鉄華オーカミだ。戦いの中で見事成長を遂げ、バトル上級者である彼女に勝利して見せた。

 

 

「………よし」

 

 

オーカは己の勝利と成長を実感すると、その拳を固く握りしめながら第1、第4形態のバルバトスを見つめる。

 

その後、バトル終了に伴い、2機のバルバトスとウォーグレイモンが消えていく中、オーカとヒバナは互いに詰め寄っていき………

 

 

「悔しい私の負けか〜!!…結構本気だったんだけどな……にしてもすごいね鉄華、とても初心者には見えなかった。最後のターンとか特に!」

「ありがとう。まぁでも正直ラッキーパンチだったと思う」

 

 

カードの効果どころか種類さえをも知らないで勝利してしまったオーカ。

 

自分にはまだまだ知る事が沢山ある事を教えてくれたバトルだったと感じる。

 

 

「ねぇ……その………また私とバトルしてくれる?」

「うんいいよ、楽しかったし、ショップの女の子が良ければだけど、寧ろこれからもお願いしたいくらいだ」

「ッ……本当に!?」

 

 

照れ臭そうにそう聞いたヒバナ。オーカとしてはその答えは当然OK。実力者であるヒバナとたくさんバトル出来ればその分上達すると考えたからだ。

 

喜ぶ表情を見せるヒバナだったが、気掛かりもあり…………

 

 

「でもその『ショップの女の子』って呼び方やめて欲しいな……私一木ヒバナって名前だから、普通にヒバナって呼んでよ」

「ん?…わかった。じゃあそうする。これからもよろしくヒバナ」

 

 

受け入れるのが早いオーカ。速攻でヒバナを変な渾名ではなく名前で呼ぶ。ヒバナはその声を心の記憶に仕舞うと、もう一つオーカに聞いた。

 

 

「次いでにさ、私もヨッカさんみたいに鉄華の事オーカって呼んでも良い?」

「ん?……別にいいけど」

「ありがとう!!…これからもよろしくねオーカ!」

 

 

特に深い意味も理解しないまま、互いを名前で呼び合う関係となったオーカとヒバナ。彼女が差し出して来た右手をオーカは徐に握り返す。

 

 

「オレはなんか尻が痒くなって来たぞ」

 

 

その光景を側から見ているカードショップアポローン店長九日ヨッカ。甘酸っぱいワンシーンに思わず自身の尻を掻いていた…………

 

 

 




次回、第3ターン「VSゼロワン、革命のパイロットブレイヴ」


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第3ターン「VSゼロワン、革命のパイロットブレイヴ」

時は夕暮れ。ひぐらしが鳴く頃………

 

バイト帰りの中学2年生の少年、鉄華オーカミは帰り道道中にあるコンビニに足を運んでいた。立ち寄った理由としては単なる夕食調達のため、少量の冷凍食品を籠に入れ、レジの前に立った。

 

しかし、眼前にいる店員はバーコードを読み取る前にオーカを訪ねて来て………

 

 

「前のお客様から差し出し物だそうです!」

「え……?」

 

 

若い女性のコンビニ店員からオーカへと手渡されたのはなんの変哲もない封筒。しかし、そこに刻まれている「鉄華オーカミ様へ」と言う字には見覚えがあった………

 

 

「これってまさか………やっぱり、バトスピのカード」

 

 

そう。

 

最初に自分の家の郵便受けに入っていたデッキと同じ物。今回の封筒の中にも見た事がない新しい「鉄華団」のカードが封入されていた………

 

 

「あの、これ一体誰が……」

「それではお会計に入りますね〜」

「え……あ、あの………」

 

 

口封じでもされているのか、尋ねるオーカをシカトし、淡々と会計をしていく女性のコンビニ店員。結局自分にカードを渡してくる人物の特定はできなかった。

 

 

******

 

 

翌日。その早朝………

 

通っている中学校へと通学中のオーカ。昨日手に入れた新しい「鉄華団」のカードの1枚をマジマジと見つめながら歩いていた。

 

 

「三日月・オーガス……ブレイヴ………ブレイヴってなんだよ」

 

 

新しい鉄華団カード「三日月・オーガス」…………

 

ブレイヴと言うカードはバトスピバトラーにとっては非常に馴染み深いモノであるが、バトスピを初めてまた数日のオーカにはまだ未知の代物であった。これをどうやって使うのかを昨日一晩考えてみたが一切思いつかなかった。

 

 

「お〜いオーカ!!」

「あ、ヒバナ」

「おはよう!」

「うん、おはよう」

 

 

そんなオーカに声をかけて来たのは今では彼の大事な友人である少女、一木ヒバナ。黒髪のツインテールが印象に残る。

 

 

「どうしたの?…カードなんか見つめちゃって」

「ん?……あぁ、実は……」

 

 

丁度いい。バトスピ上級者のヒバナならこのブレイヴもわかるかもしれない………

 

そう思ってオーカはヒバナにブレイヴ、三日月・オーガスのカードを見せる。

 

 

「これって……パイロットブレイヴカード!?……しかも鉄華団専用の」

「パイロットブレイヴ?」

 

 

ヒバナの口から出た言葉はブレイヴの説明ではなく、ブレイヴの派生系っぽい単語の「パイロットブレイヴ」と言う単語。ただでさえわからなかったのに、よりわからなくなってしまった。

 

しかしそこはバトスピ上級者のヒバナ。抜群に気を使ってオーカに説明していく。

 

 

「パイロットブレイヴって言うのは、モビルスピリット専用のブレイヴカードの事よ……オーカのデッキだとバルバトスが該当するのかしら。簡単に言ったらバルバトスにそのカードを装備して強化できるの」

「おぉ………成る程」

 

 

これでもかと言う程にわかりやすい説明だった。

 

装備カードと言われ、オーカは自分の相棒、バルバトスが強化されるところを想像してみる。きっと今よりももっと強くなっているに違いない。そう思うとバトルするのが楽しみになり………

 

 

「装備カードか……うん。早く試したい。ヒバナ、また放課後バトルしない?」

「ッ……うん、オッケー!…今度は負けないからね!」

 

 

一刻も早くこれを試したい。オーカはバイト前の時間でもう一度ヒバナとのバトルを要求する。ヒバナは少し頬を赤くしながらも元気よくそれを承諾。放課後再びバトルする事が決まった。

 

しかしそんな時だ。ヒバナに声を掛けて来た人物が1人………

 

 

「ヒーバナちゃん!!……おはよう〜今日も天が見惚れる程可愛いね〜!!」

「………」

 

 

緑色のチャラい髪型が特徴的な少年がヒバナに話しかけて来た。その人物の声を聞き、顔を見るなり、せっかくのお楽しみムードが台無しになったヒバナは白々しい目で彼を見つめる。

 

 

「はぁ……朝っぱらから元気ね、イチマル」

「そりゃだって朝からヒバナちゃんの素敵なお顔を見れたなら得も得よ!!」

 

 

愛するヒバナのためならどこへだって現れるお気楽な少年イチマル。

 

そんな彼とオーカは初対面であり、オーカはヒバナに彼の事を聞く。

 

 

「誰コレ、ヒバナの友達?」

「別に友達じゃないわよ、ただの知り合いって感じ」

「ふーーん」

 

 

友達であるヒバナも彼の事に全く興味が無さそうなのが伝わって来たのか、自分もまたイチマルと呼ばれる少年に対しての興味があまり湧かなかった。

 

しかし、オーカがイチマルに興味がなくとも、イチマルにはあった。

 

 

「……つーかヒバナちゃん、横のそのチビ誰??……小学生?」

「鉄華オーカミ、最近ここに越して来たアポローンのバイトさん……こう見えて私と同い歳よ」

「同じ歳!?……14歳って事!?」

「どーも」

 

 

ヒバナに紹介され、軽くお辞儀するオーカ。

 

彼が無愛想なのもあるだろうが、イチマルはそんなオーカをあまり快く思っていないようで…………

 

 

「おいオマエ、ヒバナちゃんとはどう言う関係だ?……まさか彼氏とかじゃないだろうな!?」

「ッ………は、はぁ!?…何言ってんのよイチマル!!…そ、そんなわけないじゃない!!…オーカは友達よ友達!!」

「何ヒバナちゃんのその反応!?……もうヤダァァァー!!!…何なんだよオマエはァァァー!!」

 

(なんか急に喧しくなったな……うるさい…)

 

 

イチマルの言葉に頬を赤らめて否定するヒバナ。その反応を見て発狂するイチマルをオーカは内心で罵倒する。

 

その後、イチマルはすぐさま人差し指を全力でオーカの方へ向けると………

 

 

「よし決めた……オレは決めたぞ!!」

「?……何を?」

「今日の昼休み、オレはオマエに決闘を申し込む!!…無論、バトルスピリッツでな!!」

「決闘?」

 

 

彼に決闘を申し込んだ。何やら急な展開になっている事はオーカとて理解しているが、いまいちイチマルの心境が理解できないため、頭の上のハテナマークが中々取れない。

 

 

「そのバトルに勝ったらオレっちは一日中ヒバナちゃんを好きにできる権利をもらう!!」

「はぁ!?…何言ってんのよアンタ、最低!!」

「いやそれは言葉の綾って言うか、なんて言うか……好きにするって言ってもデートとかそんな感じです、ハイ」

 

 

どこかちゃっかりしているイチマル。このバトルに勝った暁月にヒバナとのデート権利を得ようとする。

 

 

「兎も角、オマエに拒否権は無いぞチビ助!!…昼休み、屋上にて待つ!!」

 

 

最後にそう告げると、デッキを見直して調整したいのか、イチマルは颯爽と先を歩いて行った。

 

 

「なんかごめんねオーカ……別に無理して行かなくてもいいから」

「イヤ一応行くよ、オレ色んなヤツとバトルしたいし」

「おぉ……向上心高………」

 

 

結局何がなんだかわからなかったオーカだが、バトスピをやってくれるなら大歓迎であるようで、なんやかんや決闘には向かうようだ。

 

 

 

 

 

******

 

 

昼休み。その屋上にて…………

 

校舎内と違って外壁のないここは、まるで2人の決闘を催促するかのように風が吹き荒れる。面と向かうオーカとイチマル。それを見守るようにヒバナもまた屋上に来ていた。

 

 

「逃げ出さずに来た事には褒めてやるぜチビ助。名乗ってなかったな、オレっちの名は「鈴木イチマル」!!…こう見えてかなり強いぜ!」

「………なんか普通だな、名前」

「それを言うな!!」

 

 

決闘前と言う事もあってか己のフルネームを名乗るイチマル。一般的過ぎるその名前をどこか気にしている様子。

 

因みに、どこかメジャーリーグとかで耳にする名前に似てると言っては行けない。

 

 

「いいか?…オレっちはこのバトルで勝ったらヒバナちゃんとのデート権利をもらう……鉄華オーカミとか言ったな…万に、いや億に一つオマエが勝ったとして、何をもらう?」

「じゃあオレが買ったら………そうだな………あ、購買の卵パン奢って」

「いいぜ、幾らでも奢ってやる!!」

「え………私の価値って卵パンと同じなの……?」

 

 

花より団子とは正にこの事。

 

オーカはこのバトルに購買の卵パンを賭けた。本人が特に恋愛感を持っていない事が理由であろう。ヒバナはそんなオーカの気持ちを知ってはいるものの、やはりパンと秤に掛けられたのは少しばかりショックな様子。

 

 

「さぁ、デッキとBパッドを抜け、バトルだ!!…けちょんけちょんにしてやる!」

「あぁ。アンタがどんなバトルするのか楽しみだ」

 

 

理由はどうあれ、バトルに対してのやる気は十分な2人。デッキとBパッドを取り出し、バトルの準備を瞬時に行なっていく…………

 

そして………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

屋上にて、ヒバナと卵パンを賭けた2人の男のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はオーカだ。イチマルとは違い、純粋にバトルする事だけが目的である彼は己のターンを躊躇いなく進めていく。

 

 

[ターン01]オーカ

 

 

「メインステップ、来いバルバトス第1形態!!」

「は………バルバトスだって!?」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1S)BP2000

 

 

蠢く地中より姿を現したのはモビルスピリット、ガンダム・バルバトス。その第1形態と言う事もあり、肩のアーマーが剥がれており、不完全な状態であるのが見て取れる。

 

最近巷で噂のバルバトス。その情報を耳に入れていたイチマルが驚愕するのも無理はない。何せ、まさか目の前の恋敵がそれを所持していたのだから………

 

 

「お、オマエがバルバトスの使い手だったのかよ………」

「まぁな。召喚時効果発揮、デッキから3枚オープンしてその中の鉄華団カード1枚を手札に加える………じゃあこれを手札に、残りはトラッシュ……先攻は最初のターン、アタックステップを行えない、ターンエンドだ」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

驚愕を隠せないイチマルを他所に、淡々とした様子で己のターンを進めていくオーカ。バルバトス第1形態の効果で新たなカードを手札に加え、そのターンをエンドとした。

 

次はイチマルのターン。

 

 

「未知のモビルスピリットバルバトス………まさかこんなチビが持ってたなんてな……だけど上等だ。そいつ事オマエのライフをぶっ飛ばしてやるよ!」

「!」

 

 

イチマルの言葉と共に放たれたのは確かなプレッシャー。ヨッカやヒバナ程錬成されたものではないにしろ、彼にもそれなりの実力はあるのだとオーカはこの時点で確信して…………

 

 

[ターン02]イチマル

 

 

「メインステップ!!…先ずはコイツ、ライダースピリット、仮面ライダーゼロワンを召喚!」

「………ライダー……スピリット??」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(2)BP2000

 

 

突如現れた緑のシンボルが破裂。その中より出現したのは卓越された緑の体に赤い複眼を持つライダースピリット、ゼロワン。オーカのバルバトスにも負けず劣らずの強者の雰囲気を漂わせる。

 

そんなオーカは初めて耳にする「ライダースピリット」と言う名前を疑問視しているようであり、それを察したイチマルやヒバナが説明していく。

 

 

「なんだよオマエ、ライダースピリットも知らないでバトスピやってたのかよ………さては初心者だな?」

「あぁ、一応」

「ライダースピリットって言うのは通常のスピリット達よりも強力な効果を多く有した存在の事で、他にも似たような存在に私の使ったデジタルスピリット、そして今目の前にいるバルバトス、つまりモビルスピリットがあるの。そしてそんなライダー、デジタル、モビルスピリットの事を、総じて『世界三大スピリット』って呼ばれてるわ」

「ふーーーん……世界三大スピリット……」

 

 

ヒバナの説明である程度納得したオーカ。

 

この世界においての世界三大スピリット。今この世では多くのカードバトラーがその内のどれかを軸にデッキを組んでいる。それ程までにその三種のスピリット達の力が強いのだ。

 

 

「話の脱線はここまでだ。初心者だからと言って容赦はしないぜ、なんてったって、このバトルにはヒバナちゃんとのデートがかかってるんだからな!!」

「まぁやってあげても精々5分くらいかしらね」

「短い!!……でもまぁ5分でもいいや!!……ゼロワンが召喚された事により、手札にあるネクサスカード、ライズホッパーの効果発揮、このカードを手札からノーコストで配置する!」

「!!」

 

 

ー【ライズホッパー】LV1

 

 

神々しく、眩い天よりの光が差し込んで来ると、そこからバイク型マシーン、ライズホッパーが転送される。効果的にもどうやらゼロワンをサポートするカードのようだ。

 

 

「ライズホッパー配置時効果でボイドからコア1つをトラッシュに追加!」

「ッ……コアが増えた……」

「緑属性のカードの特徴ね、ライフが減らされなくとも着実にコアを増やしていく」

 

 

初めて緑属性のコアブースト効果をその目にかけるオーカ。正直ちょっとズルイと思ってしまったが、まぁカードの効果ならしょうがないかと直ぐに割り切る。

 

 

「さらにここで、召喚した仮面ライダーゼロワンの効果を発揮!!…ボイドからコア1つを自身に置き、オレっちの手札が3枚以下の時、デッキの上から5枚オープンして、その中のライダースピリット1枚を手札に加える!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】(2➡︎3)LV1➡︎2

 

 

「よし、当然効果は成功する!!…オレっちは仮面ライダーバルキリーラッシングチーターを手札に加え、残りはデッキの下に戻す」

「コアと手札を同時に増やした………」

「これでターンエンド!!…さぁさぁどっからでもかかって来いよ初心者チビ!!」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV2

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

目まぐるしくデッキを回転させるイチマル。コアの量、手札の質を向上させ、そのターンをエンド。オーカにターンが巡ってくる。

 

 

[ターン03]オーカ

 

 

「メインステップ……新しいカード、早速使ってみるか……ネクサスカード、オルガ・イツカとビスケット・グリフォンを配置!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

オーカ初めてのネクサスカード。

 

オルガ・イツカは褐色肌でダンディな顔立ちの少年、ビスケット・グリフォンは帽子を被り、小太りした少年のイラストがそれぞれ刻まれている。

 

オーカの場や背後にそれらは姿を見せないが、当然ながらその強力な効果は使用できる。

 

 

「オルガ・イツカは配置した時に神託でデッキからカードを3枚トラッシュし、その中の対象カードの数だけ自身にコアを置く……今回は3枚全て対象のカードなので、コアを3つ追加だ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】(0➡︎3)LV1➡︎2

 

 

特別なネクサスカード、創界神ネクサスであるオルガ・イツカのカード。その上にコアが3つ追加されるが、このコアは前のターンに行われたゼロワンのコアブーストとは違い、オルガ・イツカを対象とした効果でしか動かせないため、オーカの使えるコアが増えたわけではない。

 

 

「さらにビスケット・グリフォンの効果。自身を疲労させる事で、デッキからカードを1枚オープン。それが鉄華団カードなら手札に加える………!」

 

 

鉄華団デッキならば期待値の高い手札増加効果を持つビスケット・グリフォンの効果が適応。この効果でオープンされたのはオーカのデッキのエースカードである『ガンダム・バルバトス[第4形態]』のカード。よってそれが手札へと加えられた。

 

 

「流石オーカ。昨日覚えたネクサスカードをもう使いこなしてる………やっぱりセンスあるな〜〜〜〜」

「ム……オレっちの方がセンスあるぞヒバナちゃん!」

「はいはい」

 

 

オーカの上達の速さを見てヒバナが思わずそう言葉を漏らすと、イチマルが声を荒げる。余程ヒバナに褒められたいのだと推測できるが、当の本人はイチマルにセンスがあろうがなかろうが別にどうでも良さそうだ。

 

そんな2人の会話を耳にも入れず、オーカはさらにターンを進める。

 

 

「バルバトス第1形態じゃあの緑色のヤツには勝てない………ならこれでターンエンドだ」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV2

【ビスケット・グリフォン】LV1

バースト:【無】

 

 

いつもは全力でフルアタックを見せるオーカだが、決して考える頭がないわけではない。ライフを削れないと判断し、このターンは見送った。

 

お互いに盤面が整い始めた所でイチマルにターンが巡る。

 

 

[ターン04]イチマル

 

 

「メインステップ!!……ここから一気に加速させる、仮面ライダーバルカンシューティングウルフとさっき手札に加えた仮面ライダーバルキリーラッシングチーターを召喚するぜ!」

「ッ………別のライダースピリット」

 

 

ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV1(2)BP3000

 

ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】LV1(1)BP3000

 

 

ゼロワンの両脇に出現したのは別種のライダースピリット………

 

青い体を持つのが仮面ライダーバルカン。オレンジ色で女性らしい細いフォルムの方がバルキリーである。どちらも同じマグナムを手に持っている事から、立場的に近しい存在なのが窺える。

 

 

「バルカンの召喚時効果、デッキから4枚オープンし、その中の対象カードを1枚手札に加え、残りはデッキの下へ………さらにバルキリーの召喚時効果でボイドからコア2つを自身とバルカンに、よって2体はLV2へ!!」

 

 

ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】(2➡︎3)LV1➡︎2

 

ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】(1➡︎2)LV1➡︎2

 

 

カードの補充とコアの増加。全く無駄と隙のない動きでカードを捌いていくイチマル。

 

オーカの場にはBPが低めのバルバトス第1形態のみと見て今度はアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!!…ゼロワンもバルカンでアタックするぜ!」

「バルバトス第1形態でブロックしても勝てない……仕方ないか、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉オーカ

 

 

イチマルの指示に従いオーカのライフバリアを殴り蹴りで壊すゼロワンとバルカン。オーカのそのライフを一気に半数近くまで減らしてみせる。

 

先制点をもぎ取ったイチマルだが、オーカもオーカでBPでは勝てないバルバトス第1形態で無理なブロックはせず次に繋いでいるあたり、ナイスなプレイングであると言える。

 

 

「まぁそりゃブロックしないよな。これでターンエンドだ」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV2

【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV2

【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】LV2

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

オレンジ色のバルキリーを守り手のブロッカーとして残し、そのターンを区切るイチマル。オーカにターンが回る事になる………

 

そしてこのターン、前のターンに加えたあのエースカードがようやく召喚できる………

 

 

[ターン05]オーカ

 

 

 

「メインステップ……LV3で来い、ガンダム・バルバトス・第4形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

メイスと呼ばれる黒くて巨大な鈍器を片手に上空から着地して来たのはガンダム・バルバトス。その第4の形態。第1形態とは異なりしっかりと装甲が施され、機体としては万全の状態である。

 

 

「召喚により、創界神ネクサスのオルガ・イツカにコアを1つ神託」

「……どこからどう見てもそれがエースカードって感じだな……」

「あぁ。このターンで一気に追い詰める!!…アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック!…効果でシンボルを1つ追加する」

 

 

メイスを片手に走り出すバルバトス第4形態。LV3の時は一撃でライフを2つ破壊できるダブルシンボルとなる。

 

さらに効果はまだそれだけではない。

 

 

「もう一つのアタック時効果でブロックできる方のライダースピリットからコア2個をリザーブに、よって消滅!!」

「!」

 

 

オレンジ色のライダースピリット、バルキリーに迫るバルバトス第4形態。その黒々とした鈍器、メイスを叩きつけるが…………

 

 

「………??」

 

 

バルキリーはその攻撃を難なく回避してしまう。当然な事に回避されたので消滅もできない。

 

この光景に疑問符を浮かべるオーカにイチマルが解説する。

 

 

「良い効果だけどやっぱ使い手がダメだな!!…バルキリーラッシングチーターの更なる効果、自分のライダースピリット全てのコアは1個より少なくならない!!」

「ッ……!!」

「気づいたか、スピリットのコアを0個にしないと消滅はできない。だからバルキリーがいる限り、そのバルバトスの効果はオレのライダースピリットには効かないんだよ!!」

 

 

紫属性お得意のコアシュート効果。それは相手スピリットの維持コアを0にし、消滅させる事でアドバンテージを得る効果。紫属性であるバルバトスもその例に漏れずそれを所有しているが………

 

イチマルの召喚したこのバルキリーは所謂メタカード。それが存在する限りオーカがバルバトスで有効打を取る事はかなり厳しくて………

 

 

「ダブルシンボルのアタックはライフだ!」

 

 

〈ライフ➡︎5➡︎3〉イチマル

 

 

当然な事に守りの要、バルキリーでブロックするわけにも行かず、バルバトス第4形態の攻撃はライフで受けたイチマル。

 

バルバトス第4形態のメイスが豪快にライフバリアに突き刺さり、それを木っ端微塵に一気に2つも砕いた。

 

 

「そんな防ぎ方もあったのか、やっぱ面白いなバトスピは………ターンエンドだ」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3

【オルガ・イツカ】LV2

【ビスケット・グリフォン】LV1

バースト:【無】

 

 

カード効果の幅広さを知り、オーカはそのターンを終える。

 

効果が通らない事に塞ぎ込む事はなく、寧ろ新鮮だと言わんばかりに薄く口角を上げていた。

 

 

[ターン06]イチマル

 

 

「粋がってんじゃねぇぞチビ!!…オマエのライフはこのターンでゼロだ!!」

「!!」

「メインステップ!!…ゼロワンにコアを追加し、そのままアタックステップ……ゼロワンでアタック!」

 

 

メインステップの開始早々。スピリットにコアを追加するだけでアタックを仕掛けたイチマル。

 

ゼロワンがオーカのライフを再び討たんと拳を構えるが………

 

そのタイミングでイチマルが手札にあるカードを1枚切って………

 

 

「フラッシュチェンジ!!…仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー!!」

「チェンジ!?」

「チェンジはライダースピリット十八番の効果。このシャイニングアサルトホッパーはその効果で相手スピリット3体を疲労、さらにこのターンの間相手は疲労しているスピリットのコアを1個より少なくできない」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】(回復➡︎疲労)

 

 

突如として巻き起こる神風がオーカの場のブロッカーであるバルバトス第1形態に膝をつかせ、疲労させる。

 

………チェンジ。

 

それは主にライダースピリットが所有する特異な効果。一部のデジタルスピリットやモビルスピリットも使える例が存在するが、基本的にはライダースピリットが扱う印象が強い。

 

マジックのような感覚で手札から使えるが、その真価は効果発揮後に発揮される………

 

 

「この効果発揮後、対象としたライダースピリットと回復した状態で入れ替える!!…ゼロワンはこれでオレっちの最強カード、シャイニングアサルトホッパーに進化する!!」

「!!」

 

 

緑色のライダースピリット、仮面ライダーゼロワンがプログライズキーと呼ばれるカセットのようなモノをベルトに装填…………

 

 

……シャイニング!

 

アサルトホッパー!!

 

 

と言う甲高い音声と共に、頭上から降り立った巨大なバッタがゼロワンとリンク。これによりゼロワンは新たな姿、ゼロワンシャイニングアサルトホッパーへと変貌を遂げた。

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】LV3(5)BP14000

 

 

「またフラッシュタイミングで姿が変わった……これがチェンジか」

「それだけじゃないぜ、バトル中のスピリットと入れ替わったチェンジスピリットは回復状態のままバトルを続ける事ができる」

「ッ……じゃあこのアタックと合わせて2回攻撃!?」

「その通りだ。言って来いシャイニングアサルトホッパー!!」

 

 

チェンジの最も優れている点はアタック中のスピリットと入れ替われば二度の攻撃が行えると言う事。シャイニングアサルトホッパーもその例に漏れずオーカのライフを破壊せんと歩みを進めていく。

 

そして、ここでもまたイチマルは効果を適用させて………

 

 

「シャイニングアサルトホッパーのLV2、3のアタック時効果、疲労している相手スピリット1体につき緑のシンボルを1つ追加する!」

「!」

「オマエの疲労しているスピリットはバルバトス第1形態と第4形態の2体、よってシンボルは2つ追加されて………」

「合計3つ……アイツは一撃で3つのライフを破壊できるって事か!?」

「そう。そしてオマエのライフも丁度残り3つ……これで終わりって事だよ!!」

「オーカ!!」

 

 

オーカの身を案じ、彼の名前を叫び、声を荒げるヒバナ。しかしそれで止まるわけもなく、シャイニングアサルトホッパーはオーカの元へと迫る………

 

二度目の攻撃を行うまでもなく、この一撃で終わり。少なくともイチマルの中ではそう言う算段だった…………

 

オーカがこのタイミングでカードを使うまでは…………

 

 

「そう簡単には終わらせない………フラッシュマジック、スネークビジョン!!」

「!!」

「不足コストはバルバトス第4形態をLV1にして確保………この効果でオマエのスピリット全てのコアを1個になるようにリザーブに戻す」

「なッー!?」

「……1個より少なくならないなら、みんな仲良く1個にするまでだ……行け、スネークビジョン!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】(5➡︎1)LV3➡︎1

 

ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】(3➡︎1)LV2➡︎1

 

ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】(2➡︎1)LV2➡︎1

 

 

オーカの放った1枚のマジックカード。それにより、紫色のオーラを纏った不気味で巨大な蛇がフィールド上空にて鳥栖を巻いて出現。その口内から放出される毒ガスがイチマルのライダースピリット全てのコアを消滅間近の1にしてしまう。

 

消滅はできなくとも、LV1にされるのは相当な痛手である。

 

 

「シャイニングアサルトホッパーのシンボルを追加する効果はLV2、3のアタック時効果だけ、つまりこのアタックで減らされるオレのライフは3点じゃなくて1点だ!!……ライフで受ける!」

「ぐっ、コイツ……!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉オーカ

 

 

シャイニングアサルトホッパーは懐から斧のような武器を取り出し、オーカのライフバリアを叩き壊すが、LVを1まで下げられた事により、そのシンボルは1つ。

 

結果的にライフを残してしまうこととなった。

 

だが………

 

 

「だがそんなもんその場凌ぎにしかならねぇよ!!…オマエのスピリットは全て疲労状態、このターンで終わりに違いはねぇ!!……シャイニングアサルトホッパー、もう一度アタックだ!」

 

 

そう。

 

実際は大した問題にはならない。一撃か三撃になるかと言った程度であり、どちらにせよ3体のライダースピリットで攻撃を仕掛ければオーカのライフをこのターンで全て破壊する事が可能…………

 

な、はずだった…………

 

 

「さらにもう一度フラッシュマジック、ライフで減ったコアを使い、革命の乙女を使用!!」

「ッ……今度はなんだ!?」

 

 

オーカの場に長い鮮やかな金髪、赤いドレスが特徴的な可憐な乙女が出現。彼女がその目を見開くと、イチマルの場に紫の波動がその場を広く浸透して行く。

 

可憐な乙女はその後直ぐに消滅してしまうが、置き土産として残したそれはイチマルの場に多大なる影響を与えていて…………

 

 

「革命の乙女の効果……このターンの間、相手はスピリットでアタック、ブロックする時、そのスピリットのコアを1個トラッシュしなければアタック、ブロックできない」

「ッ……アタックにスピリットのコアを要求する効果?……バカかオマエ、コアシュート効果はバルキリーで………」

 

 

このターンのみ、相手のスピリットの行動にコア1個と言うコストを要求する革命の乙女の効果。

 

一見、イチマルの場にはコアシュート効果に対してのメタ効果があるバルキリーが存在するため、この効果は実質無効化され難なくアタックが行えるように見える…………

 

しかし、実際は異なっており…………

 

 

「い、いや違う……この手の効果はスピリットじゃなくてプレイヤー自身に掛かる効果だから、もしかしてイチマルのスピリット全てはもうこのターンアタック宣言すらできなくなってるんじゃ………」

「!?!」

 

 

ヒバナが気づき、イチマルは察した。

 

そう。このターン、革命の乙女の効果で、イチマルはアタックするスピリットのコア1個をトラッシュしなければアタックできないのだ。しかしバルキリーの効果でそのトラッシュ送りを阻害。

 

それが故に、イチマルはこのターン、アタック宣言そのモノが行えない。

 

 

「シャイニングアサルトホッパーの二度目のアタックもライフで受ける……!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉オーカ

 

 

効果が適用される前に既にアタック宣言をしていたシャイニングアサルトホッパーのアタックは有効。手に持つ斧状の武器で再びオーカのライフを破壊した。

 

遂に残り1つまで追い込むも、スネークビジョンと革命の乙女のコンボでイチマルはこれ以上の攻撃ができなくて………

 

 

「ターンエンド………なんだったんだよ今の動きは、カード捌きは………コイツ本当に初心者なのかよ!?」

手札:5

場:【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】LV1

【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV1

【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

「………凄いオーカ……たったの1日でこんなに強くなるなんて……」

 

 

余りにも早過ぎるオーカの成長に戦慄する2人。

 

彼の歯に着せぬ物言いや常に堂々した振る舞いもあり、その印象をより強く際立たせている。

 

 

「行くぞチャラい髪の人……このターンで決める……!」

「!」

 

 

そんなオーカの返しのターン。初心者らしからぬ凄みとオーラがイチマルを怯ませる。

 

そして疲労していた2体のバルバトスが立ち上がり、オーカの反撃が幕を開ける…………

 

 

[ターン07]オーカ

 

 

「メインステップ……バルバトス第4形態のLVを最大に戻す!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】(1➡︎4)LV1➡︎3

 

 

再びLVを最大に引き上げるバルバトス第4形態。もう勝利への道筋は決まっているのか、オーカはその後すぐさまアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ、その開始時に創界神ネクサス、オルガ・イツカの【神技】の効果発揮!」

「ッ……ここで創界神ネクサスを……」

「自身の上に乗ったコアを4つボイドに置き、トラッシュにある鉄華団カード1枚をノーコストで場に呼ぶ!」

「トラッシュからカードを………!?」

 

 

このタイミングで発揮される創界神ネクサスのオルガ・イツカの効果。神託や効果で散々肥やしたトラッシュの中からオーカは1枚のカードを取り上げると、それを己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「ようやくお出ましだ……来いパイロットブレイヴ、三日月・オーガス!!……バルバトス第4形態と合体!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

モビルスピリットを強化するカード、パイロットブレイヴの一種、三日月・オーガスがバルバトスに合体される。見た目は何も変わらないが、バルバトスには別の何かが宿ったかのように緑色の眼光が強く光って………

 

 

「来た、鉄華団の……バルバトスのパイロットブレイヴ……パイロットブレイヴが付けられたモビルスピリットの性能は他のスピリットを軽く凌駕する……」

 

 

ヒバナがそう言葉を漏らすと、オーカは合体したバルバトス第4形態を動かすべくアタックステップを続行させて………

 

 

「アタックステップ続行……行け、バルバトス第4形態!!…効果で紫のシンボルを1つ追加、三日月との合体により、そのシンボルの合計は3つだ!」

「くっ……オマエもトリプルシンボルスピリットを……」

 

 

その性能を引き出されたバルバトスの強さは群を抜いていた。このバトルがブロックされなければ前のターンのゼロワンシャイニングアサルトホッパーと同じく3点のライフを破壊できる。

 

しかし、それを阻む壁は多い………

 

 

「だけどいくらシンボルを増やしてアタックしても、ブロックして仕舞えばなんともない……バルバトスのコアシュート効果はバルキリーで凌げる!」

 

 

そう。どんなに強力なアタックもブロックして仕舞えば意味がない。バルバトスの効果をメタるバルキリーが存在する以上突破するのも難しい………

 

だが、不可能を可能にしてしまうのが鉄華オーカミの鉄華団のカード達であり…………

 

 

「今のバルバトスにその効果は効かない………合体した三日月の効果発揮!!」

「!」

「このターンの間、相手スピリットかネクサス1つのLVコストを1上げる……対象はバルキリーだ!」

「な……LVコストを上げる!?」

 

 

ー【仮面ライダーバルキリーラッシングチーター】(1)消滅

 

 

突如として足元から崩れ去り、消滅してしまうバルキリー。効果では決して消滅しないはずのそれが消えてしまったわけは維持コストの変動。

 

消滅とは維持コアがLV1コストよりも少なくなった場合に行われる処理。

 

通常ならほとんどのスピリットの維持コストは1で、消滅するにはコアを0個にするのが基本だが、今回、三日月の効果でそれが変動。バルキリーのLV1コストは1個から2個に変わり、結果、コアが1個のみのバルキリーはコア不足により消滅してしまったのだ。

 

 

「さらに三日月のさらなる効果で場の鉄華団スピリット1体につき、相手リザーブのコアをトラッシュに送る……オレの場にはバルバトス第1形態と第4形態、2体いる事により、アンタのリザーブ2つをトラッシュに送る!」

 

 

これだけでは終わらないパイロットブレイヴ三日月の効果。コアをトラッシュに送る事でイチマルの使えるコアを減少させた。

 

 

「そして、バルキリーが消えた事で、バルバトスのコアシュート効果は有効!!」

「あ………」

「バルカンとシャイニングアサルトホッパーのコアを1つずつリザーブに置き、消滅させる!」

「ま、マジで言ってんのかよ!?」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングアサルトホッパー】(1➡︎0)消滅

 

ー【仮面ライダーバルカンシューティングウルフ】LV1(1➡︎0)消滅

 

 

水を得た魚の如く、地を駆けるバルバトス。黒い鈍器、メイスを振り回し、バルカンとシャイニングアサルトホッパーを吹き飛ばして行く。

 

2体のライダースピリットはなす術なくコアがなくなり、その場で消滅してしまう………

 

そしてこれでイチマルのブロッカーはゼロ。残った3つのライフを守ってくれる頼もしい存在はもうどこにもいない………

 

後はただただその攻撃を受け止めるのみ…………

 

 

「合体しているバルバトスのシンボルは3つ!!…一撃で3つのライフを破壊できる!」

「う、ウソだろ……まさかオレっちが………ライフで受ける……」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉イチマル

 

 

迫り来るバルバトス第4形態。ライフを討つべくメイスをライフに叩き込む。イチマルの残ったライフは容赦なく消し飛んでいった………

 

 

ピー………

 

 

瞬間。そう言った無機質で甲高い音声がイチマルのBパッドから鳴り響く。それはこのバトルの勝者と敗者を同時に告げるサイレン。そしてこのバトルの勝者は鉄華オーカミ。見事にカード達を使い熟し、勝利して見せた。

 

 

「やったオーカ!!…凄いじゃんホント!…もうデッキを自分の手足のように動かせてるよ!」

「まぁヒバナが今日の授業の合間にカードの事教えてくれたからね。オルガ・イツカとか多分教えてくれなかったらわからなかった」

「えへへ」

 

 

照れるように頬をかくヒバナ。どうやらオルガ・イツカ、三日月・オーガスと言った新しいカードをオーカがある程度スムーズに動かせたのは彼女の教授があってこそのようだ。

 

それにしてもオーカの成長や直感には目を見張るモノがあるが………

 

 

「おいオマエ、鉄華オーカミとか言ったな」

 

 

敗北したイチマル。悔しさからか歯を噛みしめながらただならぬ雰囲気を漂わせながらオーカの元へと歩み寄って行く。

 

 

「ちょっとイチマル!!…アンタまだ懲りてないわけ!?…決闘なら一発勝負に決まってるでしょ、往生際が悪いわよ!!」

「いや、今回の負けはちゃんと認めてるよヒバナちゃん………見事な戦いぶりだった………ただオレっちはだなオーカミ。オマエを我がライバルとして認めたいだけだ」

「?」

「この去年ジュニアクラスベスト8の鈴木イチマルに認められたんだオマエは、光栄に思えよな!」

「ふーーん……まぁいいや、よろしく髪のチャラい人」

「誰が髪のチャラい人だ!!…鈴木イチマルだってちゃんと名乗っただろ!?…こんなわかりやすい名前他にいないよ!?」

 

 

イチマルの圧倒的な開き直りの速さにヒバナも少々呆れ気味………

 

そんな彼に好敵手認定されるオーカ。キョトンとした様子になるが、すぐさまそれを受け入れる。

 

 

「ワハハ!!…見てろよオーカミ!!……オレはいつかオマエにリベンジして、必ずヒバナちゃんとデートして見せるからな!」

「まだ諦めてなかったんかい!!」

「オレっちは生まれてこの方、ヒバナちゃん一筋だぜぇ!」

 

 

 

………どうでもいいけど、早く約束の卵パン奢ってくれないかな………

 

オーカがそう思い馳せ、空腹で腹の音を立てる。

 

これで、一つ歳上でモテたがりのチャラい少年鈴木イチマルによる決闘の騒動は幕を閉じたのだった。

 

 

******

 

 

ほぼ同時刻。こかはオーカがバイトしているカードショップ「アポローン」………

 

平日の昼間と言う事もあり、子供達はおらず、店としてはあまり賑わっていないこの時間帯。店長である青年、九日ヨッカはダンボールに詰められた新品のカードパックを運んでいた。

 

非常に面倒臭い作業ではあるが、中学生のオーカ1人にやらせるわけにもいかないため、こうやってこの時間帯は自分が業務をこなしているのだ。

 

するとそんな時、この時間帯では滅多に開かない自動ドアが音を立てながら開いて行く。お客様がいらっしゃったのだ、ヨッカは気合を入れて挨拶をするが…………

 

 

「いらっしゃい!………ん、君は……確か」

 

 

歳は精々オーカ達よりも僅かに上程度か。縛っていない青々とした鮮やかな長い髪、モデルのようにスマートな体型、総合的に天女のような美少女がこの店に来店して来た。

 

どうやらかなり知名度がある人物なのか、ヨッカも思わず作業の手が止まってしまう。そんなヨッカを見て、青髪の少女は口を開くと………

 

 

「最近ここに、バルバトスと言う未知のモビルスピリットを所有するカードバトラーが現れたと情報を耳にしました」

「!」

「わたくし、是非その方とお会いしたいのです。何か知っていたら教えてくださいね、お兄さん」

 

 

甘いルックスに甘い声色。そんな彼女の口から発したのは他でもないオーカの持つ鉄華団、バルバトスのカード。

 

どうやらここから少々、ちょっとした波乱がオーカを待ち受けているようだ…………

 




次回、第4ターン「バルバトスとダブルオー」


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第4ターン「バルバトスとダブルオー」

鈴木イチマルによって半ば強制的に始められた決闘も一応幕を下ろし、今は放課後の時間。

 

赤髪で小柄な少年、オーカこと鉄華オーカミと黒髪で腰まで伸びた長いツインテールが特徴的な一木ヒバナは下校し、オーカのバイト先であるカードショップ、アポローンを目指して歩みを進めていた。

 

オーカの事が好きなヒバナは基本的に彼の横を歩くのに抵抗はない。しかし、今回のこの状況に限っては少なからず抵抗があって………

 

 

「で、なんでイチマルがついて来てるわけ?」

「そりゃヒバナちゃん、鉄華オーカミに勝って君とのデート権利を勝ち取るために決まってるっしょ!」

「まだそんな事言ってんの!?…それに、オーカはこれからアポローンでバイトなの、アンタなんかの相手なんかしてらんないのよ」

「じゃあヒバナちゃんがオレっちの相手して〜!」

「イヤよ」

 

 

いくらオーカの横を歩けるからとて、チャラついた緑髪の少年イチマルの存在はヒバナにとって何よりも嫌なようで………

 

 

「ま、いいんじゃないバトルするくらい、バイト前に一回くらいはできると思うし」

「えーーー…連れてくのオーカ?」

「よし来た!…見てろよ鉄華オーカミ、今度こそオマエをボコボコにしてやるからな!」

「よく言うわ、昼間のバトルでは逆にボコボコにされたくせに」

 

 

あの決闘以来、打倒鉄華オーカミな鈴木イチマル。

 

忘れてはいけないのが彼も中学生以下のジュニアクラス大会でベスト8を勝ち取れる程の実力者。それに真っ向からバトルして勝利を収め、ライバルだと認められるオーカのバトルセンスは相当なモノである事がこの時点で窺える。

 

そうこうとしている内に3人はカードショップ「アポローン」へと辿り着いた。颯爽と店内へと入っていくが………

 

その中の様子はいつもと少し違っていて………

 

 

「………なんだこの人集り」

「誰か凄い人でも来てるのかしら?」

 

 

いつもこのアポローンに足を運んでいるオーカだが、これ程大きな人集りは見た事がない。その視線が中央に集まって事から誰か有名人が来店して来たと言うのが妥当な理由と言ったところか。

 

 

「あ……どうやら私のお客様がいらしたようです」

 

 

そちらからも誰の顔も見えないと言うのにいったいどうやって気がついたのか、人集りの中心にいる有名人らしき人物はベンチから立ち上がると、オーカ達の元へと歩みを進めた。

 

その途端に人集りが彼女を避け、遠ざかっていく。余程近づき難い人物なのであろう。

 

こうして、高身長で長い青い艶やかな髪が特徴的な美少女が今、鉄華オーカミの目の前に現れて………

 

 

「無造作に伸びた赤い髪に小さな体、それに見合わない大きな瞳………貴方が鉄華オーカミ君ですね?」

「そうだけど……アンタ誰?」

「え……ちょっとこの人って」

「まさか早美アオイ!?…高校生プロバトラーの」

「うっふふ、バレてしまいましたか」

「そりゃ人集りができるわけだわ………」

 

 

バトスピ初心者のオーカは別として、ヒバナとイチマルは目の前の有名な女性の正体に気がつく。

 

 

「高校生プロバトラー?……バトスピってプロとかあるの」

「あるに決まってんだろバカかオマエ!!…その中でも早美アオイっつったら100年に1人の逸材と言われている15歳の最年少プロだぞ!?…有名人だぞ!?」

「ふーーん」

 

 

鼻で納得を示すオーカ。今現在、自分がどれだけ凄まじい場面に出くわしているのかをまるで理解していない様子。

 

 

「で、そのプロバトラーがオレになんかよう?」

「最近、ここあたりでバルバトスと言う未知のモビルスピリットの出現が噂されていましたわ………」

 

 

歳上に対しても敬語を使わないオーカ。そんな彼に対しても丁寧語を抜かないプロバトラーアオイがここに来た経緯を説明しようとしたそんな折、オーカがアニキと呼び慕うカードショップアポローンの店長、九日ヨッカが顔を見せて………

 

 

「それで、気になって調べて行ったらここに辿り着いたんだと」

「あ、アニキ。ご無沙汰してます」

「ありがとうございます店長さん。お陰でこうしてバルバトスの使い手とお会いする事ができました」

「良いって事よ、他でもないプロの頼みだからな」

 

 

どうやら彼女にオーカの鉄華団デッキ、及びバルバトスの事を話したのはこのヨッカであるようだ。

 

 

「あのーー…アオイプロは……」

「アオイでいいですよお嬢さん」

「あ、えっと……アオイさんはひょっとしてオーカとバトルしにここに来たんですか?…状況からして」

「えぇ、おっしゃる通りです。未知のモビルスピリットバルバトス。同じモビルスピリットの使い手である私からしたらこれ程心躍るモノはございません」

 

 

ヒバナがそう質問すると、アオイがそう答えた。

 

同じモビルスピリット使いとして、是非ともバルバトスを使うオーカとバトルして欲しいようだ。バトスピを初めて1週間も経っていないオーカにとって、これは良い経験になる絶好のチャンスである。

 

しかしオーカは…………

 

 

「改めましてオーカミ君。私の挑戦、受けてくれますか?」

「イヤ、やらない」

 

 

ー!!

 

 

まるで当たり前であるかのような表情でそれを断ってしまう。

 

驚愕せざるを得ない周囲。すかさずイチマルがオーカに問い詰める。

 

 

「オマエ、どう言う事だ鉄華オーカミ!!…あのアオイプロとのバトルだぞ!?…なんで断る!?」

「なんでって……そりゃ先にオマエともう一度バトルする約束してたし」

「はぁ!?」

 

 

オーカとて、別にプロのカードバトラーに興味がないわけではない。寧ろ津々であるが、律儀な性格故、イチマルとのバトルを優先しようとしていた。

 

しかし仮にも圧倒的な実力を持つプロのカードバトラーからのバトルの申し出。一生にあるかないかの一大イベント。普通では先ず拒否などと言う選択肢は常人では考えられない。

 

 

「いや、もうオレなんかとのバトルはいいから、さっさとアオイプロとバトルして来いよ」

「イチマルはバトルしなくていいのか?」

「いいったらいいんだよ、ほら」

「……変なヤツだな」

「オマエだよ変なヤツは!!」

 

 

無理矢理アオイとバトルさせようとするイチマルに困惑気味のオーカだが、どちらかと言えばそれは普通の行い。

 

 

「まぁ別にいいや。アイツがあぁ言ってるけど、やる?」

「うっふふ、面白い子ね……でもお心遣い感謝致します。お友達とのバトルもあるでしょうから、手短にやりましょうか」

「………まるで手短で勝てるような言い方だな」

「コラコラオーカ。もうちょっと言葉は慎めよ、オマエももう中二なんだから。しかも相手プロだし、普通に考えたらオマエ瞬殺だぞ?」

 

 

プロ故か、どこか上からな物言いが目立つアオイに対し、少々苛立ちを覚えるオーカ。やや喧嘩腰になるが、ヨッカに言葉で制止させられる。

 

何はともあれ、バトルだ。2人が店内にあるバトル場へと足を運んで行く。高校生でプロのカードバトラーとなった逸材、早美アオイのバトルを一眼見舞いと大勢の来客達もまたそこへと押し寄せて行った。

 

 

「……オーカ勝てるんでしょうか……?」

 

 

アオイとオーカが互いのBパッドを展開してデッキをセット、バトルの準備を徐に進めていく中でそれを眺めているヒバナが心配そうにヨッカに聞いた。

 

それに対してヨッカは大人故の余裕を持ち、笑いながら答える。

 

 

「ハッハッハ!!…まぁさっきも言ったけど瞬殺だろうな。先ず経験の差がありすぎる。いくらアイツにセンスがあろうとも逆立ちしたって勝てんよ………でもオレは信じるぜ……アイツの根性ならプロ相手にも喰らいつけるってな」

 

 

弟分であるオーカのバトスピを信じているヨッカ。心の底から信用しているのが窺える。

 

 

「つーかヨッカさんバイトなんていつ雇ったんですか?…どうせなら鉄華オーカミみたいなチビじゃなくてオレっちを雇ってくださいよ〜!!」

「オマエは仕事そっちのけでヒバナのとこに行くからダメ」

「え〜!!…いいじゃねえっすかヒバナちゃんのとこに行ってもさ〜!!」

「いや来ないでよ」

 

 

イチマルの懇願を軽く受け流しながらも、ヨッカとヒバナはバトル場にいる2人の様子を見届ける。

 

どうやら準備は終えたようだ。アオイがオーカに対して一切曇りのない、しかしそれでいてどこか裏がありそうな笑顔を見せつけると………

 

 

「さぁオーカミ君。始めましょうか、楽しい楽しいバトルスピリッツを」

「あぁ、勝負だ髪の青い人……行くぞバルバトス、バトル開始だ!!」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

遂にコールと共にカードショップアポローンのアルバイト鉄華オーカミと高校生プロバトラー早美アオイのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

大勢の来客達に注目が集まる中、先攻はアオイだ。そのターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン01]アオイ

 

 

「それでは参ります。私のメインステップ……バーストをセット」

「………バースト?」

 

 

アオイのターン開始直後、颯爽と彼女の場にはカードが裏側で伏せられる。

 

これはバーストと呼ばれるカード。一般的にカードバトラーであれば知っているカードであるが、バトスピを初めてからまだ日が浅いオーカにとっては未知のカード。

 

 

「あら、バーストをご存知ないのですか?…初心者と言うのもどうやら本当のようですね………バースト、1枚だけ裏側で伏せる事ができる所謂罠のカード、いつ発動するかは伏せたカードバトラー次第です」

「罠……」

「さぁ、私はこれでターンエンドです。どうぞターンを進めてくださいな」

手札:4

バースト:【有】

 

 

なんとなくバーストを理解するオーカ。このターン、アオイはそのバーストをセットする以外は何もせず、エンドとし、それを丁寧にオーカへと渡した。

 

 

[ターン02]オーカ

 

 

「メインステップ……先ずはコレだ、創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

何かが出現したわけでもなく、オーカの場には特に変化はないが、鉄華団デッキ専用の創界神ネクサス、オルガ・イツカが配置される。

 

 

「配置時の神託………よし、対象カードは3枚、よって3個のコアを追加、LV2にアップ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】(0➡︎3)LV1➡︎2

 

 

トラッシュへと注ぎ込まれる3枚の鉄華団カード。その中には彼のエースカードでもあるバルバトス第4形態のカードも見受けられた。

 

それを見越して、オーカはまた手札のカードを切る。

 

 

「続けて鉄華団モビルワーカーを召喚!……対象スピリットの召喚によりオルガにコアをまた1つ追加」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【オルガ・イツカ】(3➡︎4)

 

 

このバトル初めて呼び出されたスピリットは銃火器を備えた車両、鉄華団モビルワーカー。

 

オルガにもコアがさらに追加され、オーカかはいよいよアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ、その開始時にオルガの【神技】の効果を発揮……コアを4つ支払い、トラッシュの鉄華団スピリットを呼び起こす……!」

「ッ………いきなりトラッシュからスピリットの召喚!」

「地の底より現れろ、ガンダム・バルバトス第4形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1(1S)BP5000

 

 

蠢く地の底より地表を砕きながら出現したのは白いボディに黒く巨大なメイスを装備したモビルスピリットの1体、ガンダム・バルバトス第4形態。

 

オルガの効果により最速のご登場である。

 

 

「後攻の最初のターンからエースの第4形態か。アイツ、ここ数日でさらに腕を上げたな」

「当然ですよ!…だってこの私が色々教えてあげたんだから!」

 

 

最初のターンでのエースカードの召喚にオーカの成長を感じるヨッカ。自分の事ではないが、ヒバナもどこか誇らしげ。

 

そんな折、オーカの対戦相手である高校生プロバトラーアオイはそのバルバトスに魅入られていているのか、どこか興奮気味で…………

 

 

「………おぉ……これがバルバトス、白いボディに細い腰、黒くて巨大な武器、メイスに王者を表現するような頭部のツノ………素敵……完璧なフォルムですわ」

「?」

「あ……ごめんなさい、つい噂のモビルスピリットを前にはしゃいでしまいました。どうぞターンを進めてください」

 

 

余程バルバトス……と言うかモビルスピリットそのモノが好きなのだろうか、うっとりしていたアオイ。

 

召喚するだけでこうなってしまうのなら、バルバトスを必死になって探していたのも納得である。

 

しかし、だからとて容赦はしない。オーカはアタックステップを続行させて…………

 

 

「罠のカードが気になるけど、落ちたらその時はその時だ。アタックステップ続行、行けバルバトス第4形態!!」

 

 

バーストと言う名の罠を全く恐れないオーカの指示を聞き入れるなりメイスを片手に地を駆けるバルバトス第4形態。前のターンでスピリットを召喚しなかったアオイはこの攻撃をライフで受ける他なくて………

 

 

「ライフで受けます!………ッ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉アオイ

 

 

メイスを振るったバルバトス第4形態の渾身の一撃がアオイのライフバリアを1つ粉々に粉砕してみせる。

 

 

「攻撃のモーションも美しいですね、まるで歴戦の武人が乗り移ったかのような豪快さでした」

「次だ……鉄華団モビルワーカーで………」

 

 

そして、まだオーカの場にはアタックが可能な鉄華団モビルワーカーが存在する。勝負に関しては女の子であろうとも一切容赦をしない彼はその鉄華団モビルワーカーにもアタックをさせようとそのカードに手を伸ばすが………

 

その前にアオイが事前に伏せていたバーストカードが勢い良く反転して…………

 

 

「それは少々お待ちくださいな……ライフの減少でバースト発動!!」

「ッ……ここで罠が」

「ネクサスカード、No.26キャピタルキャピタル!!……効果によりノーコストで配置します」

 

 

ー【No.26キャピタルキャピタル】LV1

 

 

バースト発動と共に背後へと飛来して来たのは空に浮かぶ島。ネクサスカードであるキャピタルキャピタルだ。その効果はネクサスの扱いに長けている青属性らしいものであり………

 

 

「注意してくださいね。このカードが場にある限り、オーカミ君のスピリットは皆ソウルコアが置かれていないとリザーブのコアを1コスト支払わなければアタックできませんから」

「ソウルコアを………ッ!」

「あ、気がつかれました?……うっふふ、お可愛いこと」

 

 

ネクサスカード、キャピタルキャピタルの効果を説明され、察するオーカ。

 

ソウルコアが置かれていないスピリットでアタックする際にリザーブからコアの支払いを要求するキャピタルキャピタル。

 

つまり、裏を返して言えばスピリットにソウルコアを置いておけば良い。しかしその肝心なソウルコアはゲーム中1個しか所有できない………

 

それに加え、今現在オーカのソウルコアはちょうど今バトルを終えたバルバトス第4形態のカードの上、リザーブにも支払えるだけのコアは一切ない。それ即ち残った鉄華団モビルワーカーでは攻撃を仕掛ける事は不可能という事であって………

 

 

「ターンエンドだ」

手札:3

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV1

バースト:【無】

 

 

早速出鼻を挫かれたオーカ。結果的に鉄華団モビルワーカーをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとする。

 

次はアオイのターンである。ここからがプロのお手並み拝見と言えるが………

 

 

[ターン03]アオイ

 

 

「メインステップ……何もしません、ターンエンドです」

手札:5

場:【No.26キャピタルキャピタル】LV1

バースト:【無】

 

 

ー!!

 

 

その行動に周囲の誰もが驚きを見せる。

 

無理もない、何せあの有名な高校生プロバトラー早美アオイが貴重な1ターンを無駄に消費してしまったのだから………

 

 

「アンタ、オレの事嘗めてるの?」

「いえいえ、単なる手札事故と言うヤツですよ、何万回もバトルしていれば、一度は訪れる現象です。お気になさらず」

 

 

手を抜かれる事を嫌うオーカは少しだけアオイを疑い、嫌悪感を募らせていく。アオイもアオイでどこか怪しげで落ち着いている様子を見せている。プロ故の余裕か、それとも…………

 

 

[ターン04]オーカ

 

 

「メインステップ………ソウルコアを置いてないスピリットにコストをかけるなら、ソウルコアを置いたスピリットだけでアタックするだけだ……鉄華団モビルワーカーとリザーブのコアを全て取り払い、ありったけのコアをバルバトス第4形態の上に追加!」

「!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】(1➡︎0)消滅

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】(1S➡︎6S)LV1➡︎3

 

 

コア不足により消えていく鉄華団モビルワーカー。それに伴いコアを過剰に追加されるバルバトス第4形態。その上に置かれた合計コア数は6個。最大レベル3の維持コアは4であるため、いくらキャピタルキャピタルの影響下であるとは言え、やり過ぎだと普通は考えるが…………

 

オーカもオーカでただ何も考えていないと言うわけではなくて………

 

 

「アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック!!…そのLV3効果で紫のシンボルを1つ追加、一撃で2点のライフを破壊できるダブルシンボルになる!」

「ダブルシンボル効果………」

「さらに、バルバトス第4形態は自分のアタックステップ中のスピリットのバトル終了時、1コスト支払う事でトラッシュにある鉄華団スピリットを召喚できる」

「ッ……成る程、そう言う事ですか………!」

「え………何々、どう言う事ですかヨッカさん!?」

 

 

バルバトス第4形態の効果を説明するオーカ。そしてその考えを瞬時に理解するブロのカードバトラーアオイ。

 

しかし、この複雑な戦略に観客として観戦しているイチマルは理解できていないようで、オーカのアニキ分、ヨッカに問い詰める。

 

 

「簡単な話だ。バルバトス第4形態は場にある限り、自分のスピリットがバトルした終了時にトラッシュから鉄華団スピリットを呼ぶ………そして今、ソウルコアが置かれていないオーカのスピリットはアタックする際にリザーブからコアを支払わないと行けない。だから要はアタックする時にソウルコアを置いて置けば良いって事だろ?」

「あぁ?……そりゃもちろん。でもソウルコアは1個しかないからリザーブにコアがないとアタックはそのスピリットでしか行えない…………ってまさか!?」

「そう。バルバトス第4形態の効果でトラッシュから鉄華団スピリットを呼び、そのスピリットの維持コアとしてソウルコアを上に置く。そんでもってその呼んだスピリットでアタック、バトルの終わりにまた同じ事を繰り返せば………」

 

 

キャピタルキャピタルの効果でアタック時にコストを払う事なく、ソウルコアが置かれたスピリットで連続アタックを行う事ができる。

 

だがコアの数的にもこれができるのはこのターンでは2回が限度。しかしそれで十分。ダブルシンボルのバルバトス第4形態と呼び出した2体の鉄華団スピリットのアタックでアオイの4つのライフは破壊できる………

 

 

「凄いオーカ……あの一瞬でそんな戦略を考えたの……!?」

「まぁ、アイツは昔から天才肌みたいな所あるからな」

 

 

素直にオーカの初心者離れした適応力を称賛するヒバナとヨッカ。

 

だが…………

 

 

「でも、今回はそれだけで勝てるわけないけどな」

 

 

玄人として威厳を漂わせながら、アニキ分であるヨッカが腕を組みそう呟くと、プロのカードバトラーであるアオイは笑顔を浮かべながら手札のカードを切って見せた………

 

オーカはこれから彼女の底が知れない実力を痛いほど知る事になる………

 

 

「見た目以上に賢い子……ですがそれを素直に通すわけには行きませんね、フラッシュ、【武力介入】を発揮させます!」

「武力介入!?……また知らない効果だ」

「武力介入は私の持つモビルスピリットの専用効果、これを持つスピリットは相手のアタックステップ中に指定されたコストを支払えば召喚が可能。私はその効果を使いこのカード、ダブルオーガンダムを召喚致します!!」

「ダブルオー……!?」

 

 

ー【ダブルオーガンダム】LV1(1)BP5000

 

 

アオイのライフを目掛けて走り行くバルバトス第4形態の行く道を遮るかのように…………

 

そして何よりそれから主人を守護しようとするかのように…………

 

上空から彗星の如く出現する1機の青色のモビルスピリット。その名はダブルオーガンダム。天使のような外観を持つそれは登場するなり、対になる悪魔に近い禍々しさを放つバルバトス第4形態と睨み合いを続けていて………

 

 

「………ソイツがアンタのモビルスピリットか」

「えぇ、美しいでしょう?…自慢のエースカードの1枚です。ダブルオーガンダムはその召喚アタック時効果でこのターンの間、レベルを最大にします。よってそのBPは12000、LV3のバルバトスと全く同じ」

「!」

 

 

ー【ダブルオーガンダム】LV1➡︎3

 

 

アオイの持つデッキの中ではエースカードの部類に入るダブルオーガンダム。この相手のアタックステップと言う稀有なタイミングで召喚できるそれを今ここで呼び出したと言う事は、まず間違いなく…………

 

 

「ダブルオー、バルバトスの攻撃をブロックなさい」

 

 

オーカのバルバトスとバトルさせるためである。

 

睨み合っていた2機の均衡は破られ、バルバトスはメイスを、ダブルオーは剣を握りしめ、互いに衝突していく。

 

火花散る撃ち合いの中、一見互角の勝負に見えたが………

 

バルバトスが今戦っているのは仮にも高校生プロバトラーアオイがデッキに選んだ1枚…………

 

このままただで済むとは思えなくて……………

 

 

「さらにダブルオーがアタック、ブロックした時、このスピリットの【零転醒】を発揮!!……我が愛機ダブルオー、限界を超えて赤々と光り輝きなさい、トランザム!!」

「零転醒!?」

「煌臨と同じ、スピリットを新たな姿へ変化させる効果だ。気をつけろオーカ!」

 

 

ー【ダブルオーガンダム[トランザム]】LV3(1)BP16000

 

 

アオイが叫び、Bパッド上のダブルオーガンダムのカードを裏返す。すると、何もなかった裏側に別のカードが浮き出て来た。

 

直後に転醒カードの説明をヨッカがオーカにすると、互角の勝負を繰り広げていたダブルオーガンダムは突然両肩にある太陽炉と呼ばれる機関から赤い粒子を流し出していく。

 

やがてその赤い粒子は赤い光へ変化。ダブルオーガンダム全身に浸透していき、新たな姿、ダブルオーガンダム・トランザムへと進化を果たした。

 

 

「BPがバルバトス第4形態を超えた……!?」

「ふふ……さぁダブルオートランザム、その赤き剣で悪魔に天罰を!!」

 

 

全くの互角であった勝負はダブルオーガンダムのトランザム化により一変。機械外れの動きでバルバトス第4形態を翻弄し、劇的にダブルオーが有利となる。

 

凄まじい速度に追いつけないバルバトス第4形態は一度メイスを振るうのを止め、一旦立ち止まると、精神統一、ダブルオーの位置を感覚で探る………

 

そして背後に殺気を感じるとそこにメイスで一閃………

 

ダブルオーの迎撃に成功した…………

 

と思われたが叩きつけたそれはトランザム化したダブルオーの目にも止まらない速さで生み出した幻影。本物のダブルオーは既にバルバトスの背後を取っていた。そしてダブルオーはその赤い輝きを放つ剣でバルバトスの胸部を貫通………

 

モビルスピリットにおいて胸部によるダメージは致命傷。流石のバルバトスも力尽きてしまい、大爆発を起こす。

 

 

「くっ……バルバトス」

「ふふ、バトル終了時に生き残っていなければバルバトス第4形態の効果は発揮できない。良い考えでしたけど、今一歩、ダブルオーには届きませんでしたね」

「………でもまだバトルそのモノが終わったわけじゃない……一旦これでエンドだ」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV1

バースト:【無】

 

 

プロのカードバトラーとしての本質を見せ始めてきたアオイ。ダブルオーの【武力介入】による見事なカウンターを決めた。しかしオーカとてまだ諦めたわけではない。

 

次のターンで切り返すべく、一度そのターンを終え、アオイにターンを渡す。

 

 

[ターン05]アオイ

 

 

「メインステップ………パイロットブレイヴ、刹那・F・セイエイを召喚!」

「ッ……パイロットブレイヴ……!」

 

 

ー【刹那・F・セイエイ】LV1(0)BP1000

 

 

モビルスピリットを強化する存在、パイロットブレイヴを召喚するアオイ。場には特に何も出現せず、影響は齎されないが、確かなプレッシャーをオーカは感じていて………

 

 

「召喚時効果、デッキから2枚ドローし、1枚破棄……その後、手札にあるコスト3のCBスピリットを1コストで召喚……現れなさい、ガンダム・エクシア!!」

「なッ………一瞬で合体先のスピリットを揃えた!?」

 

 

ー【ガンダム・エクシア】LV2(2)BP4000

 

 

青い閃光が地上へと降り立つ。それは背中に大きな太陽炉を有したモビルスピリット、ガンダム・エクシア。登場するなりオーカを威嚇するようにクナイ状の短剣を構える。

 

そしてモビルスピリットとパイロットブレイヴ、この2つの存在が出現してやる事はただ1つ、合体だ。

 

 

「エクシアに刹那を合体!!」

 

 

ー【ガンダム・エクシア+刹那・F・セイエイ】LV2(2)BP7000

 

 

見た目には特に影響はないものの、その緑色の眼光が強く光り輝くエクシア。バルバトスが三日月と合体した時同様のパワーアップを果たしたようだ。

 

 

「ダブルオートランザムに残ったリザーブのコアを置き、レベルアップ………そして、お待ちかねのアタックステップです」

「くっ………」

「行きなさいダブルオートランザム!!…その効果で自身とエクシアをこのターンのみ最大レベルに!」

 

 

ー【ダブルオーガンダム[トランザム]】LV1➡︎3

 

ー【ガンダム・エクシア+刹那・F・セイエイ】LV2➡︎3

 

 

コアの数を無視してレベルを上げていくアオイのモビルスピリット達。そしてバルバトス第4形態を失った今のオーカではこの攻撃はブロックできなくて………

 

 

「アタックはライフで受ける!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

ダブルオートランザムはバルバトス第4形態をも真っ向から打ち破ったそのスピードを活かし、オーカのライフバリア1つを剣で粉々に斬り裂く。

 

 

「続きなさいエクシア。刹那の合体時効果で青のダブルシンボルに、さらにエクシアのLV2、3のアタック時効果【強襲:2】……キャピタルキャピタルを疲労させ、エクシアは回復!」

「ッ……ダブルシンボルのスピリットが回復した!?」

 

 

ー【ガンダム・エクシア+刹那・F・セイエイ】(疲労➡︎回復)

 

 

「ヨッカさん、これちょっとヤバいんじゃ………」

「あぁ。下手したらダブルシンボルの2回攻撃でオーカのライフはこのターンでゼロだ」

 

 

ネクサスカードであるキャピタルキャピタルの疲労に合わせて回復したエクシアを見るなり、ヒバナをはじめ、全員がこのターンでオーカは負けてしまうのではないかと察していた。

 

 

「さっきのカウンターと言い、全てが計算し尽くされている、やっぱプロだな……前のターン、何もせずにスキップしたのも、全てはこのターンでの猛攻のためか」

「兎に角頑張れオーカァァァー!!」

 

 

ヤケクソになったヒバナがオーカにエールを送る中、遂に合体したエクシアがオーカに手に持つ刃を向けていた。

 

ブロッカーのいないオーカは当然この攻撃もライフで受ける以外の選択肢はない………

 

 

「ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉オーカ

 

 

短剣で二度ライフバリアを斬り刻むエクシア。それは2つ破壊され、残りのライフも2となる。

 

 

「終わりですか?……もう少し楽しめると思っていたのですが………まぁいいでしょう、やりなさいエクシア」

「!!」

 

 

最後は静かに、お淑やかに命令を下すアオイ。オーカの眼前にいるエクシアが再び短剣を構え、トドメを刺そうとするが…………

 

オーカはまるでこの瞬間を待ち望んでいたかのように手札のカードを1枚切って…………

 

 

「へっ………フラッシュマジック、リミテッドバリア!!」

「ん?」

「効果でこのターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックではオレのライフは減らなくなる……さらにコストにソウルコアを使ったので追加効果!…相手ネクサス1つを手札に戻す」

「ネクサスを………」

「そうだ……当然オレはアンタのキャピタルキャピタルを指定、よってそれを手札に飛ばす!……エクシアのアタックはライフだ!」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉オーカ

 

 

直前に展開されるライフバリアとは別種のバリア。それがエクシアの攻撃を防ぎ続ける。

 

それに加えて粒子となり、場から消え去っていくキャピタルキャピタル。コストが重いため、再配置には時間がかかる事だろう。

 

 

「どうだ。これで次のターン、オレのスピリット達はソウルコアを置かなくてもアタックが可能、オマケにアンタのスピリットは全て疲労状態だ」

「ッ……まさか、それを狙ってわざとこのタイミングでそのマジックカードを切ったのですか!?」

 

 

実力と経験の無さをその場の創意工夫とひらめきで補うオーカ。リミテッドバリア自体は最初のアタックで使う事もできたが、それではアオイが早々にアタックするのを躊躇い、ブロッカーを残してエンドにしてしまう。

 

そう思ったオーカはわざと最初の攻撃をライフで受け、アオイがブロッカーを残さないタイミングでそれを発揮させたのだ。

 

しかし………

 

それでもプロバトラーと言う壁は余りにも遠く、分厚い………

 

 

「で・す・け・ど………エンドステップ、ダブルオートランザムの効果、自身を手札に強制送還。そしてこの時、転醒後スピリットのダブルオートランザムは転醒前の姿、ダブルオーガンダムに戻ります」

「なに……!?」

「あら、もうおわかりいただけました?……そう、こっちの姿に戻った、と言う事はまた【武力介入】での召喚が可能であると言う事……ターンエンド、私のダブルオーはいつでもアナタの攻撃をお待ちしております」

手札:6

場:【ガンダム・エクシア+刹那・F・セイエイ】LV2

バースト:【無】

 

 

この場から消え行くダブルオートランザム。しかしそれは再び主人であるアオイを守護するための準備とも言える行い。

 

これが自分のターンに召喚されるだけで攻めづらくなる事は前のターンで迎撃されたバルバトス第4形態を目の当たりにしたオーカにとっては百も承知。

 

 

「かッ〜〜〜!!…ここまでかよ。でもアイツにしてはよくやったぜ〜」

「ちょっとイチマル!!…なんでもうオーカが負けるって決めつけてるのよ!!」

「だってヒバナちゃん、このライフ差、モビルスピリットの性能差……この後どうやってアイツが勝つって言うんだよ?」

 

 

この時点で諦めムードに入るイチマル。彼だけではない、この場にいる多くの来客がアオイの勝利を確信していた。

 

ヒバナはオーカの勝利を信じてこそが、この場からの大逆転は正直想像がつかないでいた………

 

だが…………

 

 

「ライフかデッキがゼロになるまで、そしてバトラーが諦めない限り、バトルは終わらない………2人ともアイツの顔を見ろ」

 

 

ー!!

 

 

オーカのアニキ分、ヨッカがそう告げると、オーカの表情に視線を移す2人、そこには新しいおもちゃでも見つけてはしゃいでいるような顔をしたオーカがいた。

 

それはこの絶望的な状況においても未だに諦めていないと言う何よりの証拠である。その顔を見るなり、対戦相手であるアオイは小さく微笑むと………

 

 

「ふふ……感情の起伏に乏しい子かと思っていましたが、そんな顔できたんですね」

「あぁ。アンタが最高に強いから、このバトル、やり甲斐がある……姉ちゃんが言ってたんだ、やり甲斐があるモノ程楽しい事はないって」

「それはそれは、素敵なお姉様ですこと」

「だからこのバトル、全力で楽しませてもらう!!……オレのターン!!」

 

 

やり甲斐のある事はとことん楽しむオーカ。一発逆転への兆しを探るべく、己のターンを進めていった…………

 

 

[ターン06]オーカ

 

 

「ドローステップッ!!………ッ!」

 

 

勝機を掴むべくして引いたドローカード。それを見るなり、オーカの口角が思わず上がる。そのカードとは今日のイチマル戦でも活躍したパイロットブレイヴ『三日月・オーガス』のカード………

 

そしてそれはこのターンでの一発逆転を可能にしてみせる奇跡の1枚。

 

 

「メインステップ!!……先ずは鉄華団モビルワーカーを2体、連続召喚だ!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

本日2、3体目となる鉄華団モビルワーカーが場を賑やかせていく。その中でオーカは手札にあるマジックカードをBパッドに叩きつけて…………

 

 

「マジック、リターンスモーク!!…これをソウルコアを支払って使う!!」

「ッ……あれは確かトラッシュからスピリットを復活させるマジックカード……」

「そうだ。本当ならコスト4以下のスピリットしか出せないけど、ソウルコアを支払った事により、その上限は6コスト以下に変更された………つまり、コイツが蘇る……再び大地を揺らせ、バルバトス第4形態!!」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

オーカの場に蔓延する紫の煙。その中よりダブルオーにより破壊されたバルバトス第4形態がメイスを振るってその紫の煙を吹き飛ばしながら復活した姿を見せる。

 

 

「何度倒されても立ち上がって来るその不屈の闘志、お見事です。しかし、そのままだとまた私のダブルオーの餌食になってしまいますよ?」

「あぁ、だからこそそのままにはしない!!……手札からパイロットブレイヴ、三日月・オーガスをバルバトス第4形態に直接合体!」

「ッ……バルバトス専用のパイロットブレイヴ」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

モビルスピリットを強化するカード、パイロットブレイヴの一種、三日月・オーガスがバルバトスに合体される。エクシアと同様に見た目は何も変わらないが、バルバトスにも別の何かが宿ったかのように緑色の眼光が強く光る。

 

これで準備は整った。そう言わんばかりにオーカはメインステップを終え、アタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ!!…バルバトス第4形態!!…アタック時効果で相手のブレイヴ、刹那を破壊し、エクシアのコア2つをリザーブに……よってアンタのブレイヴもスピリットも全て消える!」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・エクシア】(2➡︎0)消滅

 

 

バルバトスの効果でトラッシュへと送られるパイロットブレイヴ「刹那・F・セイエイ」のカード。その損失に伴い、エクシアが弱体化した瞬間、バルバトス第4形態の振るい上げたメイスがエクシアに直撃。

 

エクシアは堪らず爆散し、この場から消滅してしまう。

 

そして、パイロットブレイヴ、三日月の恩恵を受けたバルバトス第4形態の攻撃はまだ終わらなくて…………

 

 

「三日月の合体時効果。バルバトスと合体していたら鉄華団スピリットの数だけ相手のリザーブのコアを使用不可のトラッシュへと送る!!」

「コアをトラッシュに!?」

「今オレの鉄華団スピリットはバルバトス第4形態と鉄華団モビルワーカーが2体、よって3つのコアをトラッシュに叩きつけてやる!!」

「ぐうっ……!!」

 

 

エクシアを倒した直後のバルバトス第4形態が気迫みなぎる様子で紫色の覇気を飛ばすと、それがアオイのリザーブにあるコアを3つもトラッシュに送って見せる。

 

使えるコアの大半を失ってしまったアオイは、いくらこのターンでライフを減らされ、使用できるコアが増えようとも、6コストもかかるダブルオーの【武力介入】による召喚はできなくなって…………

 

 

「これで少なくともこのターン、アンタはダブルオーを出せない!!…バルバトス第4形態のLV3効果、紫のシンボルが1つ増える……三日月のシンボルと合わせてトリプルシンボルでのアタックだ!」

「ライフで受けます…………ぐっ!」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉アオイ

 

 

メイスを振り下ろしたバルバトス第4形態の渾身の一撃。それがプロバトラーであるアオイのライフバリアを一気に3つ破壊した。

 

勢いに乗ったオーカは残った鉄華団モビルワーカーのカードにも手を伸ばし………

 

 

「……成る程、これがバルバトスの力………」

「トドメだ……鉄華団モビルワーカー、行け!!」

 

 

走り行く車両、鉄華団モビルワーカー。狙うは遂に残り1つとなったプロバトラーアオイのライフ。

 

先程までの劣勢を巻き返し、一気に形勢を逆転させたオーカの勝利に皆が期待する中、何を思ったのか、アオイはその瞳を閉じて…………

 

 

「ふふ……思ってたよりもずっと可愛いですね君は………ライフで受けます」

「!?」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉アオイ

 

 

最後に不適に笑うと、受け入れるようにその手を差し出し、鉄華団モビルワーカーの体当たりの直撃を受け入れるアオイ。その最後のライフは無惨にも散って行った………

 

彼女のBパッドから「ピー……」と鳴り響く虚しい機械音。同時にオーカの勝利を告げる音色である事に違いないが、オーカはいつものように勝利を実感できず、違和感だけが心の中に残っていて…………

 

 

…………うおぉぉぉおおお!!!!

 

 

「すげぇアイツ、プロバトラーに、早美アオイに勝ちやがった!!」

「噂のバルバトス使いだったよな!?」

「ここのアルバイトさんなんだって!!」

 

 

そんな彼の感情とは裏腹に大いに盛り上がりを見せる店内の来客達。無理もない、公式戦では絶対的な勝率を誇っていたあの早美アオイに黒星をつけたのが少し物変わりした一介のカードバトラーだったのだから…………

 

 

「すご〜いオーカ!!…あのアオイプロを倒しちゃった!!」

「ま、マジかよ……信じらんねぇ………!?」

「いや、これは………」

 

 

オーカの友達、ヒバナは彼の勝利に喜び、自称ライバルであるイチマルは余りに驚愕過ぎる展開に顎を外す程驚いていた。

 

そんな中、オーカしか感じえなかった違和感に、彼のアニキ分であるヨッカは気が付いていた。

 

 

「ふふ、良いバトルでしたオーカミ君。まさか仮にもプロであるこの私が負けてしまうとは」

「………アンタ、わざとオレに負けたのか?」

「さぁ?……どうでしょう」

 

 

勘の鋭いオーカは、最後の最後でアオイがわざとライフで受ける選択をした事を見抜いていた。違和感の正体も間違いなくそれ。

 

初心者である自分に花を持たせてあげたかったのかどうかは定かではないが、少なくともオーカは手抜きされた事に嫌気を感じていて………

 

 

「では、私もこの後予定がありますので………ごきげんよう、オーカミ君。今度はゆっくりお話し致しましょうね。一木ヒバナさん、アナタとも是非」

「え……私ですか!?」

「えぇ、楽しみにしてます」

 

 

その後は軽い挨拶を済ますと、アオイはすぐさま店内を出て行く。他の誰よりも近寄り難い彼女がいなくなったからか、店内からは緊張感と言うモノが一瞬にしてなくなり…………

 

 

「オーカやったじゃん!!…すごいよ、あのアオイプロを倒しちゃうなんて!」

「ま、まぁジュニアクラスベスト8に入ったオレっち程じゃないけどな!」

「なんでイチマルが偉そうなのよ、つーかもうオーカはアンタより十分すごいと思うけど」

 

 

緊張感がなくなったのを歯切りに駆け寄るオーカの友達2人、ヒバナとイチマル。しかし、手を抜かれていた事を知ったオーカの表情はどこか暗く、不機嫌そうで………

 

 

「ど、どうしたのオーカ……なんかいつもより元気なさそうだけど……」

「別に……」

 

 

女の子のヒバナにもやや冷たく当たってしまうオーカ。そんな彼を見かねてアニキ分であるヨッカが声を掛けて………

 

 

「おいおい。男だったらいつ何時も女の子には優しく接しろよオーカ。ま、バトルで手を抜かれた時のモヤっとした気持ちは痛い程わかるけどな」

「え………アオイプロ、手抜きしてたの?……あんなに強かったのに!?」

 

 

あれだけ敗北する寸前まで終始オーカを片手であしらうようにバトルを続けていたアオイが手抜きをしていたとは思っていなかったヒバナとイチマル。

 

逆に本気を出したらどれくらい強いのかと勘繰ってしまい、イチマルはゾッと背中が震えてしまう。

 

 

「まぁいいや。次はちゃんと本気を出させた上で勝つ……それだけだ」

「おっ……流石オレの弟分だ、よく言った!」

「立ち直り早ーー……オーカらしいけど」

 

 

立ち直るのもまた早いオーカ。どうやらまた1つ強くなる理由を作ったようである。

 

その時、ヨッカは何かを思い出したように「あ……」と言葉を落として………

 

 

「そう言えばもうすぐアイツが帰って来る頃だったな。オーカ含めて働き手3人、また賑やかになりそうだ」

「??」

 

 

ヨッカの呟いた言葉の意味がわからず、頭にハテナのマークを浮かべるオーカ。彼の言う「アイツ」が誰なのかわかるヒバナとイチマルは「あ〜」と納得した様子。

 

どうやらバトルスピリッツと言うカードゲームは、オーカに退屈を与えはしないようだ………

 

 

******

 

 

「♪」

 

 

ここは車が入り乱れる道路。その中の黒い大きな車は他でもない早美アオイが乗る車。オーカとバトルが終わってからと言うモノ、どう言うわけか、凄くごきげんなようだ。

 

車のハンドルを握り、運転しているのは執事らしき黒服を着用した青年。そんな彼は鼻歌混じりでごきげんなようすであるアオイにその理由を聞いて………

 

 

「どうしたエライごきげんだな、何か良い事でもあったかお嬢?」

「えぇフグタ。今日は本当に最高の1日でした………バルバトス使いの鉄華オーカミ君。見た目以上に可愛げのある子でした………バトルの腕は発展途上、勘も鋭過ぎるくらい良い………」

 

 

………ですが、使えるかはまだわかりませんね。

 

 

今回はオーカを試すようなバトルをした高校生プロバトラーアオイ。

 

車内でもまた意味深な事を呟く。彼女の抱えている何かは、オーカが予想していた以上のモノがあるようで…………

 

 

 




次回、第5ターン「進撃のギドラ、バルバトスは4を超える」




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第5ターン「進撃のギドラ、バルバトスは4を超える」

「ねぇアニキ、次は何をすれば良い?」

「よし、じゃあこれを在庫室に運んでくれ」

「わかった」

 

 

カードショップアポローン、その店内。時刻は朝早い開店前。

 

アルバイトの鉄華オーカミは、店長であるヨッカにカードの詰まったダンボールを渡され、両手いっぱいで持ち上げる。

 

高校生プロバトラーアオイとのバトルが終わり早数日。彼女の本気とバトルをすると言う新しい目標を見つけたオーカは、アポローンでアルバイトをこなしつつ、バトルの腕を磨き続ける日々を続けていた。

 

 

「あと少しで開店だからな、急げよ」

「大丈夫」

 

 

相変わらずの無表情でそう言うと、ダンボールを両手に在庫室へと向かうオーカ。

 

しかしそんな折、目の前の自動ドアが音を立てながら開いた。

 

まだお客が来る時間じゃないはず………

 

そう思いながらオーカもヨッカもその方角へと首を向ける………

 

すると、そこにある人物がいて…………

 

 

「ヤッホー!…お久ですセンパイ!」

「お……帰って来たか」

「………誰?」

 

 

現れたのは170以上はある高身長の女性。金髪のショートヘアが特に印象に残る。

 

店長のヨッカとは知り合いであるそうだが、当然オーカは知らない。

 

 

「はいセンパイ、お土産のマトリョーシカ式モアイ像」

「いや要らねぇよそんな不気味なモノ……つーかバトスピ学園の教員免許取りに行ってただけだろうが、どうだったんだ?」

「モチ。合格以外あり得ないし」

「おぉ……マジで受かったんか、オマエが教員とか世も末だな」

 

 

マトリョーシカ式モアイ像と言う奇妙な贈り物を渡す女性。余程天然なのが窺えるが、同時に教員免許を取れる程の頭脳を持ち合わせているようで………

 

 

「フフフ……これで私は来年度からバトスピ学園ジークフリード校の教師。こんな古臭いカドショのバイトともおさらばさ」

「悪かったな、古臭くて」

 

 

何気ない会話を続けるヨッカと女性。その後、彼女は話を切り替えようと両手を合わせながら「あ、そうそう……」と言葉を発すると………

 

 

「そう言えば新しいバイト君って誰?…どの子?……私ひょっとしたらその子の事知ってるかもなんだよね〜」

「あぁ、それなら下を見ればわかるぞ」

「え……下?」

 

 

女性がヨッカにそう言われ、言われるがままに下の方へと目線を向ける。そこにはアポローンの新人アルバイト、鉄華オーカミの姿があり、思わずして目が合った。

 

2人の身長差はおよそ30センチ。女性がオーカの事に気がつかなかったのも無理はない。

 

 

「あ……どうも」

「…………」

 

 

一応挨拶をしておくオーカ。女性は何を思ったのか、オーカの顔を見るなり寡黙になる。

 

しかし、その表情は徐々に天からの贈り物でも受け取ったかの如く喜びに満ち溢れていき…………

 

 

「お………オォォォカァァァー!!!」

「ぐへ!」

 

 

感動の余り半泣きしながらオーカを全力で抱きしめた。豊満なバストの中にオーカの顔が埋まる。

 

 

「うわ〜懐かしいな〜まさかアポローンでバイトしてたなんて…相変わらず小ちゃくてかわいいね〜…マジでもう中学生なの!?……私の事わかる?…わかるよね!?……アンタの姉ちゃんの大親友『雷雷ミツバ』!!」

「いや………誰?」

「えぇ!?…覚えてないの!?…あんなに遊んだのに!!…お風呂も一緒に入ったじゃない!!…まぁでもそりゃそうか、オーカあの時は4歳だったからね」

「小さい頃って、あんまり覚えてないんだよな」

 

 

雷雷ミツバと言う女性から繰り出される止まらないマシンガントーク。

 

オーカはなんとかバストの山から抜け出し言葉を発するが、姉の大親友であると言う彼女の事は一切覚えてない様子。

 

 

「なんだミツバ、オマエオーカの事知ってたのか」

「モチ。この子の姉ちゃんとは同級生、大親友でね〜…2人揃ってよく『美人2人組』なんて呼ばれてたもんよ」

「まっさか〜…オーカの姉ちゃんは兎も角オマエは……」

「なんか言った?」

「いや別に何も……いいな、美人2人組」

 

 

自分に何か言おうとしたヨッカを圧力で黙らせるミツバ。しかし、実際はかなりの美人であり、一般的観点から見ればオーカの姉と揃ってそう言われ続けていたのにも納得はできる。

 

 

「ところでオーカはここで働いてるって事はバトスピ始めたの?」

「まぁ、一応」

「へ〜…アンタの姉ちゃんはバトスピ興味なかったから、アンタも興味ないんだと思ってた」

「最初はなかったけど、給料が上がるって言うから初めたら楽しくてハマった、それだけ」

 

 

名前さえもまだ登場していないが、どうやらオーカの姉もバトスピには興味がなかった模様。オーカが最初バトスピに毛程も興味がなかったのはどうやら彼女によるオーカの教育が影響していたようだ。

 

 

「ねぇねぇ、何のデッキ使ってるの?…お姉さんに教えてくださいな」

「鉄華団」

「て、鉄華団……??」

「まぁそうなるわな。鉄華団ってーのはオーカに送られて来た謎のカードなんだよ」

「何それミステリアスね」

「コイツがバトスピを始めたのはそれのお陰でもあるな」

「ふーーん、鉄華団ね………」

 

 

オーカと鉄華団カード達の出会いの話を聞くなり、ミツバは少し考えるように顎の先に指先を添える。

 

 

「よしオーカ。バトルしようか、私と」

「アンタと?」

「そうそう。このミツバお姉さんと勝負さ」

「コイツを褒めるのは癪だが、日本有数のバトスピ学園で教師の資格を取れるくらいだ。強さは保証するぞ」

「癪ってなんすかセンパイ」

 

 

鉄華団のデッキが気になったのか、オーカにバトルを持ち掛けるミツバ。単純に可愛がっていた親友の弟とバトスピしたいと言うのもあるのだろう。

 

この街、界放市にある各色に分かれた6つのバトスピ学園。所謂高校の部類であるが、バトスピを学べる数少ない学園であるため、その入試の難易度や倍率は非常に高い。その中でも教師を務める事ができるミツバはこれまでとはまた一線を画した強さを誇る事は先ず間違いない事であった。

 

しかし………

 

 

「よし、やるならさっさとやろう。正直、オレも色んな人とバトルやって腕を磨きたかったから丁度良かった」

「へへ、そうこなくては面白くないよな少年よ」

 

 

その返事にNOと言う答えはない。

 

早美アオイに全力を出させるべく、もっと強くなりたいと願っているオーカにとっては、このバトルの申し込みは願ってもない事。

 

今すぐバトルが始まるような雰囲気が漂うが、その前にヨッカがオーカに申し出て………

 

 

「あ、そうそう忘れてた……オーカ、バトルするならこれも試してみろ」

「……これって」

 

 

ヨッカがオーカに差し出したのは1枚の封筒。差出人は不明で、いつも通り「鉄華オーカミ様へ」と達筆な文字が記載されている。

 

紛う事なき、いつも自分に鉄華団のカードをくれる人の字であった。封筒の中身も当然新しいカードなのだろう。

 

 

「……これどこで?」

「この間商品の仕入れ先の問屋から送られてきた商品に貼り付けられてた。悪いがオレも差出人は知らん。まぁ何にせよ、鉄華団はオマエのカードだ、使ってやれ」

「………わかった」

 

 

またしてもカードの差出人はわからずじまい。

 

ただ、わからない事を常々考えても仕方がない。オーカはその封筒を開封すると、中に入っていたカードを躊躇いなくデッキに投入する。これでデッキの総数は50枚を超えたが、新しいカード達を試すのには丁度いい。

 

 

「あら?…そのまま使うの?…時間はあるし、ちゃんとデッキの調整してから挑んで来てもいいよ?」

「あぁ、別にいいよ。こうした方がデッキに要らないカードとかわかってくるし」

「成る程、そりゃそうね……よし、じゃあ始めますか」

 

 

オーカとミツバはそこまで話すと、店内にあるバトル場へと足を運ぶ。オーカのアニキ分であるヨッカもまた開店前の作業を放ったらかしにして赴く。

 

その中でオーカとミツバは懐からパッドを展開、己のデッキをセットし、バトルの準備を万全なモノとする。

 

 

「まさかオーカとバトルする日が来るなんてね、もうお姉さんワクワクして仕方ないよ」

「あぁ、それはオレもだ………行くぞ、バトル開始だ!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

ヨッカが見守る中、アルバイトのオーカと、就職先が決まったため、後1年程度でここのアルバイトを辞めるミツバによるバトルスピリッツがコールと共に幕を開ける。

 

先攻はオーカだ。新しいカードを加えたそのデッキを回して行く。

 

 

[ターン01]オーカ

 

 

「ドローステップ!……ッ」

 

 

ターンシークエンスを進めて行く中、ドローでオーカが出会ったのはついさっき投入したばかりの新たな鉄華団のカード。

 

彼はそれを躊躇いなくBパッドに叩きつける。

 

 

「メインステップ……さっそく試してみるか、来いガンダム・バルバトス第2形態!!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1S)BP3000

 

 

「バルバトス第2形態が場にある限り、鉄華団スピリットは効果で手札デッキに戻らない」

 

 

上空から流星の如く地上に降り立ったのは新たなバルバトス。第1形態でも第4形態でもない第2形態のバルバトスだ。その手に持つ巨大なライフル銃が室内の明かりを反射させる。

 

 

「新しいバルバトスか」

「へ〜これが鉄華団のカード……オーカにしては中々イカすんじゃない?」

「ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

ヨッカや対戦相手のミツバが新しいバルバトスに対して感想を述べて行く中、オーカは一切聞く姿勢を見せずにあっさりターンエンドの宣言。

 

次は難関のバトスピ学園の教師になれる程の実力を持つと言うミツバのターン。オーカのバルバトスを眺めながらゆっくりとそれを進めて行く。

 

 

[ターン02]ミツバ

 

 

「メインステップ。ネクサス、焔竜の城塞都市を配置」

 

 

ー【焔竜の城塞都市】LV1

 

 

ミツバの最初のターン、彼女の背後に巨大な岩山が出現。名前と所々に穴が空いている事から、竜の根城である事が理解できる。

 

 

「赤属性のカードか、ヒバナとのバトル以来だな」

「お、ヒバナちゃんとも知り合い?…でもそりゃそっか、あの子ここの常連だもんね〜……ターンエンドだよ」

手札:4

場:【焔竜の城塞都市】LV1

バースト:【無】

 

 

互いに一木ヒバナの事を頭に思い浮かべながら、ターンがオーカへと巡って来る。

 

 

[ターン03]オーカ

 

 

「メインステップ……バルバトス第1形態を召喚!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

肩の装甲がない最初のバルバトス、バルバトス第1形態が地中より飛び出して来る。第2形態と並び、モビルスピリット2体の場を形成した。

 

 

「召喚時効果、デッキからカードを3枚オープンし、その中の鉄華団カードを1枚手札に加える……オレは創界神ネクサス『オルガ・イツカ』を手札に加え、そのまま配置!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

通常のネクサスとは異なる異質なネクサス、創界神を配置するオーカ。背後には何も出現しないが、強力なバックアップがこのバトルで保証された。

 

 

「配置時の神託を発揮……対象は1個、ボイドからコア1個をオルガに追加」

「専用の創界神ネクサスまであるのか〜…これはうかうかとバトルしてらんないな〜」

「アタックステップ……行くぞ第1形態、第2形態…アタックだ!」

 

 

オルガにコアが溜まる中、未だに呑気な声を漏らすミツバにオーカが攻撃を仕掛ける。第1形態と第2形態はその指示をスムーズに聞き入れ走り出す。

 

前のターン、ネクサスの配置のみに全力を注いだミツバはこの攻撃を防御する手段はなくて………

 

 

「迷いなきフルアタか〜…いいよいいよ、それはライフで受けてせんぜようではないか!」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉ミツバ

 

 

バルバトス第1形態の拳が、第2形態のライフル銃による射撃が………

 

それぞれ軽く巫山戯ているミツバのライフバリアを1つずつ打ち砕き、残り3つまで追い詰める。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス「第2形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

「それじゃあ私のターンだね」

 

 

いつも通り、攻めるだけ攻めていきそのターンを終えるオーカ。

 

ライフ差や場のカード数の差から幸先の良いスタートが切れたと言えるが………

 

ここからがミツバの本名発揮である。彼女は歳上故にできる余裕の笑みはそのままにオーカに自分の実力を見せつけるべく、巡ってきたそのターンを進めて行く。

 

 

[ターン04]ミツバ

 

 

「メインステップ!……ふっふっふ、じゃあそろそろオーカに私の本気見せてあげようかな〜」

「!」

 

 

ミツバが手札にある1枚のカードに手をかける。その言動と行動から、彼女が自分にとってのバルバトスのような、絶対的信頼を置けるカードを呼び出そうとしているのは明白で………

 

 

「天下の轟雷振り翳しちゃえッ!…雷天雷神となりし金色の龍王…!!…宇宙超怪獣キングギドラ・1968を召喚!」

 

 

ー【宇宙超怪獣キングギドラ(1968)】LV3(4S)BP13000

 

 

ミツバの場に鈍い音を立てながら落雷する雷。そしてそれに伴う爆煙が覆う中、それをバルバトスをも凌ぐ巨大な翼で吹き飛ばして見せたのは、黄金の体を持つ三つ首龍。その名は宇宙超怪獣キングギドラ。登場するなり張り裂けるような咆哮でオーカを威嚇して行く。

 

デジタルスピリットでもライダースピリットでも、ましてやモビルスピリットでもないが、強力な効果を持つミツバの絶対的エースカードである。

 

 

「頭が3つある………」

「ね!…可愛いでしょ!」

「そうかな?」

「気にしなくていいぞオーカ、コイツの話にまともに付き合おうとするだけ無駄だ」

「え〜可愛いでしょ!…センパイの目が変なんですよ!」

 

 

巨大で厳ついスピリット、キングギドラを可愛いと評するミツバ。どうやらスピリットの見た目を見る目が感性が普通の人よりも若干ズレているようだ。

 

そんな彼女はいよいよキングギドラで攻撃を仕掛けていき………

 

 

「アタックステップ!…やっちゃいなさいキングギドラ!…アタック時効果でBP10000以下のスピリットを破壊……先ずはバルバトス第1形態!」

「!」

 

 

キングギドラが手始めに目を向けたのはバルバトス第1形態。三つの首から電撃を放ち、その鉄の身体を貫通。バルバトス第1形態は堪らず爆散した。

 

 

「さらにネクサス、焔竜の城塞都市の効果。自分のアタックステップ中にスピリットを破壊したら1枚ドロー……でもってまだまだあるよ〜……フラッシュタイミング!…ギドラはトラッシュにあるコア1個をギドラ自身に追加する事で、ターンに2回まで回復できる」

「な……じゃあ最初の攻撃と合わせて3回まで攻撃できるって事か!?」

「その通り!…先ずは1回目!…ギドラ回復!」

 

 

ー【宇宙超怪獣キングギドラ(1968)】(4S➡︎5S)(疲労➡︎回復)

 

 

強烈なアタック時効果を発揮するキングギドラ。使用済みのコアを再び使用可能にすると同時に回復状態に戻る。

 

オマケにオーカは前のターンによるフルアタックが響き、ここはライフで受けるしかなくて………

 

 

「ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

バルバトス第1形態を貫いた電撃が今度はオーカを襲う。三方向から来るそれは瞬時に彼のライフバリアを砕いた。

 

 

「続きました第二波!…効果でバルバトス第2形態を破壊。焔竜の城塞都市の効果でドローして、さらにフラッシュタイミングの効果でコアを戻し回復!」

 

 

ー【宇宙超怪獣キングギドラ(1968)】(5S➡︎6S)(疲労➡︎回復)

 

 

止まらない、止められないキングギドラの猛攻。バルバトス第2形態もその電撃に仕留められる。

 

 

「これもライフだ!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉オーカ

 

 

繰り返し放たれる電撃がまたしてもオーカのライフバリアを砕いた。

 

これでライフ差だけなら同点。しかし、スピリット、手札の差は圧倒的にオーカの不利にされてしまい…………

 

 

「ふむ。フルアタは控えるか……3度目のアタックは無し。これでターンエンドだよ〜」

手札:6

場:【宇宙超怪獣キングギドラ(1968)】LV3

【焔竜の城塞都市】LV1

バースト:【無】

 

 

「可愛い顔して、相変わらずやる事エゲつねぇな。住む世界が違ったら賞金稼ぎにでもなってたんじゃねぇか?」

「それを言うならセンパイのエースカードの方がやる事エグいでしょ。忘れもしませんよ、面接の時にボコられたの」

「ハッハッハ!…でもオマエもあの時も比べたら随分と立派になったよな!」

 

 

ミツバ、キングギドラのタッグを久しぶりに見せられたヨッカはそう感想を述べる。確かにたった1枚だけで劣勢をひっくり返す力はそうそうあるモノではない。

 

そしてオーカのターンが再び巡って来ようとした直後。3人が聴き慣れた声が店内から聞こえて来て…………

 

 

「お疲れ様でーす!」

「あ、ヒバナ。おはよう」

「おはようオーカ!…バトル頑張ってね〜」

「お…いらっしゃいヒバナ!…あれ、つーかもう店の開店時間回った?…まぁレジが遠いだけで問題ないけど」

「相変わらず適当ですねヨッカさん………」

 

 

現れたのはオーカの同級生の少女、一木ヒバナだった。常連の彼女が足を運んで来た事で、既に店の開店時間を過ぎている事にヨッカは気が付く。だが特に気にしてもいない様子。

 

そんな事よりミツバだ。

 

 

「おぉヒバナちゃァァァーん!!」

「って…ミツバさん!?…なんでオーカとバトルしてんですか!?」

「私がいない間寂しくなかったかい?」

「そりゃもう凄く!……それで?…バトスピ学園の採用試験どうだったんですか?」

「モチ!…受かったよ〜〜ジークフリード校だってさ!…来年から教師よ教師!」

「えぇ!!…凄!…じゃあ私絶対ジークフリード受けますね!」

「ふっふっふ…ヒバナちゃんが私の生徒になる日は近いな」

 

 

アポローンのバイトのミツバとアポローンの常連のヒバナ。同じ女の子同士と言う事もあり、その仲の良さは絶大であったようだ。

 

 

「なんか盛り上がってる所悪いけど、そろそろターン進めても良い?」

「おういいとも!…オーカもバトスピ学園ジークフリード校受ける?」

「なんの高校か知らないけどお金かかるから行かない」

 

 

黄金の三ツ首龍、キングギドラがミツバの場に聳え立つ中、ようやくオーカのターンが開始される。

 

 

[ターン05]オーカ

 

 

「メインステップ……鉄華団モビルワーカー2体を連続召喚。オルガに神託」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

反撃開始の手始めに銃火器を備えた車両、鉄華団モビルワーカーを場へと呼び出すオーカ。

 

そしてさらに手札にある1枚のカードに手を掛け、それをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態!!…LV2で召喚!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

蠢く地の底より、黒い鈍器メイスを片手に飛び出して来たのはガンダム・バルバトス、その第4形態。オーカの持つ最強のカードであり、エースカードも務める。

 

 

「ふむ成る程。ここからが本気だってか?」

「オルガに神託してアタックステップ!…その開始時にトラッシュにあるバルバトス第2形態の効果!…コストを支払いトラッシュから復活を果たす!」

「ッ……破壊されても何度でも場に戻る効果」

「LV1で現れろ!…オルガに神託!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1S)BP3000

 

 

前のターンに破壊されたバルバトス第2形態が再びその姿を見せる。

 

そして、このターンで一気に勝負を決めるつもりなのか、オーカは創界神ネクサス、オルガ・イツカの上に置かれたコアを取り除き、その効果を発揮させる。

 

 

「オルガの【神技】の効果!…コア4個をボイドに置き、トラッシュから鉄華団カードを召喚する!……三日月・オーガスをバルバトス第4形態に直接合体するように召喚!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】(5➡︎1)LV2➡︎1

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV2(2)BP15000

 

 

見た目に変化はないが、パイロットブレイヴのカードが合体した事で、バルバトス第4形態はその性能を格段に上昇させる。

 

 

「今度はパイロットブレイヴ。聞く限り初心者だと思ってたけど、なんだ結構やるじゃんオーカ」

「行くぞバルバトス……アタックステップ続行だ!」

 

 

鉄華団モビルワーカー2体、バルバトス第2形態、第4形態の計4体のスピリットが揃い、アタックステップを本格的に開始するオーカ。

 

最初に飛び出したのは当然三日月と合体し、強力な合体スピリットとなっているバルバトス第4形態だ。

 

 

「バルバトス第4形態でアタック!…効果でキングギドラからコア2つをリザーブに!」

「2つ?…その程度のコア除去じゃ私の可愛いギドラのレベルは下がらないよ〜」

 

 

ー【宇宙超怪獣キングギドラ(1968)】(6➡︎4)

 

 

バルバトス第4形態の黒い鈍器の武器、メイスを振るう一撃がキングギドラを襲い、体内のコアが2つミツバのリザーブへと戻されるが、確かにこの程度では消滅はおろかレベルを下げる事もできない。

 

だが…………

 

 

「フ……狙いはそこじゃない。合体した三日月の効果発揮!…このターンの間相手のスピリット、又はネクサスカード1枚の維持コストをプラス1にする」

「!」

「オレはこの効果でアンタのネクサス、焔竜の城塞都市の維持コストを1つ上げ、消滅させる!」

 

 

ー【焔竜の城塞都市】(消滅)

 

 

場を縦横無尽に駆け巡るバルバトス第4形態が次に目をつけたのはミツバの背後に聳え立つ岩城、焔竜の城塞都市。

 

バルバトス第4形態は自分の体の何倍もの大きさを誇るそれをメイスの一振りで容易く粉々に粉砕して見せた。

 

 

「さらにこの効果発揮後、鉄華団スピリットの数だけリザーブのコアをトラッシュに!」

「くっ………やってる事エグくない?」

「そう言う効果だ」

 

 

現在、オーカの鉄華団スピリットの数は4体だが、今のミツバのリザーブのコアは2つ。よってそれだけがトラッシュへと送られた。

 

 

「バルバトス第4形態のアタックは続いてる。ダブルシンボルのアタックだ!」

「流石に残りライフ3でそれをまともに受けるわけにはいかないね。ギドラよろしく!」

 

 

残りライフが3から1になる事を嫌い、バルバトス第4形態のアタックをエースであるキングギドラでブロックするミツバ。

 

しかし、そのBPは15000と13000。バルバトス第4形態の方が僅かながらに凌駕しており…………

 

 

「やれ、バルバトス!!」

 

 

再びキングギドラに接近して行くバルバトス第4形態。キングギドラがそれを近づかせまいと三つの口からそれぞれ電撃を放つが、バルバトス第4形態はメイスでそれを弾き返しながら前進していき………

 

やがて凄まじい勢いで辿り着いたバルバトス第4形態はメイスを張り上げる一撃でキングギドラの中央の首を刎ねた。首の一つを失ったキングギドラは流石に堪えたか、その場で意気消沈するように倒れ込んでしまう。

 

 

「よし……!」

 

 

バルバトス第4形態の勝利を確信したオーカ。後は残った鉄華団モビルワーカーとバルバトス第2形態でアタックすれば勝てると思っていたが…………

 

この一戦、そうそう甘いモノではなかった………

 

倒したはずのキングギドラの異変に、オーカは気づいて………

 

 

「あれ?……倒したのに消えない……?」

 

 

そう。通常なら破壊されれば爆発するなり粒子化するなりで消え去るのがバトルスピリッツのスピリットであるのだが、バルバトス第4形態の攻撃で倒れたはずのキングギドラは何故かこの場から消えず留まり続けているのだ。

 

 

「残念!…私の可愛いギドラも一度倒れたくらいじゃビクともしない!」

「!!」

 

 

これは何かあると勘づくオーカだが、時既に遅し。ミツバはニヤリと笑みを浮かべると、手札にある1枚のカードを己のBパッドへと叩きつけた。

 

 

「天の雷操りし黄金の龍王、その不動の魂を不屈の鋼へと昇華せよ!!…鋼鉄雷動の最強龍ッ!!…サイボーグ怪獣メカキングギドラ、LV2で機動ッ!」

 

 

ー【サイボーグ怪獣メカキングギドラ】LV2(3)BP15000

 

 

キングギドラは再び起き上がると、その身は白銀の光に包まれ始め、中央の首に鋼鉄のパーツが装着され始めると、キングギドラはメカキングギドラへと生まれ変わる。

 

両サイドの首から放たれる龍の咆哮、そして中心にある鋼鉄の首から発せられる機械混じりの咆哮が不協和音を作り上げる。

 

 

「別のスピリットになって復活した!?」

「メカキングギドラの効果。場のギドラが破壊された時、手札からノーコスト召喚できる……そして召喚時効果、相手スピリット1体をデッキの下に戻す、バルバトス第4形態を下に!」

「ッ………無駄だ、バルバトス第2形態の効果で鉄華団スピリット全ては手札とデッキには戻らない」

 

 

登場するなり中央の機械仕掛けの鋼鉄の首から放たれるレーザー光線。バルバトス第4形態に向けて放たれるが、その装甲にレーザー光線は効かない。難なく弾き返してしまう。

 

だが、こんなモノでは進化したギドラの効果は終わらなくて………

 

 

「本命の効果はここからだよ。その後、BP10000以下のスピリット2体を破壊する」

「!」

鉄華団モビルワーカー1体とバルバトス第2形態を破壊!」

 

 

両サイドの龍の首から放たれる電撃が鉄華団モビルワーカー1体とバルバトス第2形態を貫く。BPの弱いそれらは堪らず爆散してしまう。

 

 

「くっ……鉄華団モビルワーカーの破壊時効果でデッキを1枚破棄して1枚ドロー」

 

 

残りのアタッカーは鉄華団モビルワーカー1体のみ。ミツバの場にもメカキングギドラと言う強力なブロッカーが出現した。

 

八方塞がりに見えるこの状況だが、オーカにもまだ打つ手は残っている。今度はアタックを終了したバルバトス第4形態の効果が適用されて…………

 

 

「だけどまだだ……鉄華団は止まらない!!……バルバトス第4形態の効果、自分のスピリットがアタックしたバトルの終わりに1コストを支払い、トラッシュから鉄華団スピリットを呼ぶ!」

「ッ……まだそんな効果を」

「1コストを支払い、バルバトス第2形態を復活させる!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1)BP3000

 

 

場に現れた紫のシンボルが砕け散ると、中より先程破壊されたバルバトス第2形態が姿を見せる。その際、対象スピリットの登場のより神託でオルガ・イツカにコアが増えた。

 

これでアタックできるオーカのスピリットは2体。まだアタックを行う事ができる。

 

 

「バルバトス第2形態でアタック!」

「フルアタックしか脳がないのかな?…でもいいよ、そのしつこさに感服!!…ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉ミツバ

 

 

バルバトス第2形態のライフル銃による射撃が彼女のライフをまた1つ撃ち砕く。

 

遂に残りライフ2つまでミツバを追い詰めるオーカだったが、これもまた彼女の計算内だったか、又しても彼女は手札からカードを引き抜いていき………

 

 

「私のライフが減った時、手札からマジックカード『覇王爆炎撃』と『シックスブレイズ』を発揮!…この2枚は私のライフが減った時にノーコストで打てる」

「ッ……フラッシュタイミングじゃないタイミングで手札からマジックの効果を発揮……!?」

「先ずは覇王爆炎撃の効果、相手の合体スピリットかBP20000以下のスピリット1体を破壊!…バルバトス第4形態を破壊かな!」

「くっ……三日月は場に残す」

 

 

ー【三日月・オーガス】LV1(0)BP1000

 

 

突如として放たれた爆炎がバルバトス第4形態に襲いかかる。キングギドラを討ち破ったバルバトス第4形態も流石に撃沈。堪らず爆散した。

 

三日月・オーガスのカードはブレイヴの都合上、場に残るが、パイロットブレイヴであるため、その姿は一切見られない。

 

 

「さらにシックスブレイズの効果。BP12000まで好きなだけスピリットを破壊、そしてその後の破壊時効果は全て無効!」

「!!」

「バルバトス第2形態、鉄華団モビルワーカー、三日月・オーガス……兎に角残ったスピリット、ブレイヴは綺麗さっぱり焼き払われる!」

 

 

今度は六つの業火球が鉄華団モビルワーカーとバルバトス第2形態に直撃。二機は焼き尽くされ、パイロットブレイヴ、三日月のカードもトラッシュへと送られた。

 

オマケにバルバトス第4形態もやられてしまっては後続のスピリットを召喚する事もできない………

 

メカキングギドラが場に健在である事を踏まえ、正に絶体絶命である状況に追い込まれてしまったと言えて………

 

 

「………ターンエンド」

手札:3

場:【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

「流石ミツバさん、相変わらずバトルは隙がないですね……」

「性格は隙だらけだけどな」

 

 

バトルを見学するヒバナとヨッカがこのターンの感想を零す。

 

ヨッカは腕を組み、仁王立ちの姿勢で「ミツバくらいに勝たなきゃ早美アオイの本気に勝つ事なんて夢のまた夢だぞ」と内心でオーカに訴えかける。

 

そして迎えるのはミツバのターン。メカキングギドラが咆哮を上げ続ける中、それは行われて行く。

 

 

[ターン06]ミツバ

 

 

「メインステップ!……さてと、私もブレイヴを導入するか…召喚、牙皇ケルベロード!…メカキングギドラと直接合体!」

「ッ……青属性のブレイヴ」

 

 

ー【サイボーグ怪獣メカキングギドラ+牙皇ケルベロード】LV2(3)BP20000

 

 

現れたのは鎧を着けた黒い獣。今すぐにでも噛み付かんと言わんばかりの気迫を見せるそれは、黒い翼となりメカキングギドラに装備される。

 

黄金の翼と合わせて4つの翼を得るメカキングギドラは場のスピリットを全て失ったオーカを威嚇するように気高く咆哮を張り上げる。

 

 

「それじゃあアタックステップ!…ケルベロードと合体したメカキングギドラでアタック!…ケルベロードの合体時効果でデッキを5枚破棄して回復!」

 

 

ー【サイボーグ怪獣メカキングギドラ+牙皇ケルベロード】(疲労➡︎回復)

 

 

「回復した……!」

「メカキングギドラは元からダブルシンボルのスピリット、ケルベロードと合体した事により、トリプルシンボルでのアタックだよ」

「!」

 

 

四つの翼で羽ばたき飛翔するメカキングギドラ。その体に生えた三つの首が狙うのはオーカの残り3つのライフ。

 

この攻撃を一度でもまともに受けて仕舞えば敗北が確定してしまうオーカは咄嗟に手札にあるマジックカードを切って………

 

 

「フラッシュマジック、リミテッドバリア!」

「!」

「この効果でこのターン、オレのライフはコスト4以上のスピリットのアタックでは減らない………その攻撃はライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎3〉オーカ

 

 

直前に展開されるライフバリアとはまた別の強固な半透明なバリア。それがメカキングギドラの三つの首から放たれる電撃、レーザー光線からオーカのライフバリアを守って行く。

 

これで少なくともこのターンでミツバの勝利はない。リミテッドバリアの効力を消すためにはここでターンを終えるしかないからだ。

 

 

「………まぁ1枚くらいは持ってると思ったよ、防御札。これでターンエンド……残り2つの私のライフ、破壊できるモノならやってみな。その前に先ずはこのギドラをどうにかしないといけないけどね」

手札:3

場:【サイボーグ怪獣メカキングギドラ+牙皇ケルベロード】LV2

バースト:【無】

 

 

仕留め損なったものの、メカキングギドラがブロッカーとして残り、かなり余裕な状況でそのターンを終えるミツバ。流石はバトスピ学園の教師になれる程の実力者であると言える。

 

ただ、当然ながらこの鉄華オーカミもまだ諦めてはいない。ここから大逆転を狙うために巡って来たターンを進めて行く…………

 

 

[ターン07]オーカ

 

 

「ドローステップ!!………ッ」

「ん?………何か良いのでも引いたかな?」

 

 

ターンの道中に行うドロー。それはバルバトス第2形態と同様に新たに追加された鉄華団のカード。

 

オーカは引いたそのカードに逆転の可能性を感じ、思わず気分が高揚するが、ミツバにもそれを見抜かれる。

 

ただ、今はドローしたそれを信じてターンを回すしかない。オーカはメインステップまで突き進むと、それをBパッドに向かって全力で叩きつけた。

 

 

「メインステップ!!……行くぞ、4を超えたその先で、未来を掴め!!…ガンダム・バルバトス第6形態…LV1で召喚!!」

「バルバトスの第6形態!?」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV1(1S)BP7000

 

 

上空より地へ降り立ったのは新しいバルバトス。その名もバルバトス第6形態。第4形態をも超えた6の数字を冠するスピリットである。

 

武器であるメイスもレンチメイスと呼ばれる肉食恐竜の顎を象ったような鋼鉄のモノになっており、外装も新たに分厚く白い装甲を与えられている。

 

知っての通り、今までのバルバトスは第4形態が限界点。それを知っていたヨッカやヒバナはその6と言う存在に驚かざるを得ない。

 

 

「対象スピリットの登場でオルガに神託。レベル2にアップ」

「今度は6?…4だったり2だったり1だったり忙しいスピリットだね」

「呑気な事を言ってられるのも今のうちだ。オレはこのターンでアンタに勝つ!……アタックステップ!…トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果、コストを支払い、トラッシュから復活!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1)BP3000

 

 

「またそのスピリットか!…いい加減見飽きたよ!」

「鉄華団は倒れない!…何度打ちのめされてもそれと同じ数だけ立ち上がる!」

 

 

鉄華団は倒れない。その言葉を体現するようにバルバトス第2形態はトラッシュから何度でも甦って来る。

 

そしてオーカもまた倒れない………

 

 

「アタックステップ続行!……バルバトス第2形態でアタック!」

「!」

 

 

ライフル銃を装備している第2形態で攻撃を仕掛けるオーカ。だが、ミツバの場にはブロッカーとしてメカキングギドラが残っている。

 

そのBPは実に20000。第2形態どころか第6形態でも遠く及ばない数値であり…………

 

 

「自爆覚悟の特攻??……いいねその気概、受けて立とうじゃん。ギドラでブロック!」

 

 

ミツバの残り2つのライフを撃つべく、背中のバックパックにあるスラスターで低空を飛行するバルバトス第2形態に立ちはだかるのは最強のメカキングギドラ。

 

圧倒的な力の差。その3つの首から電撃とレーザー光線を放ち、バルバトス第2形態を木っ端微塵に…………

 

する予定だった。横からバルバトス第6形態が邪魔をするようにメカキングギドラの頭部をレンチメイスで叩きつけるまでは………

 

 

「な……バルバトス第6形態!?…ギドラのブロックを邪魔した!?」

「あぁ。鉄華団は止まらないし、止まらせない……このオレとバルバトス第6形態がいる限りな………バルバトス第6形態の効果、鉄華団スピリットのアタック中、相手は自分のスピリット1体を破壊しなければブロックできない」

「!!」

「ブレイヴの合体が仇になったな、スピリットが2体いないアンタはもうブロックできない!!…行け、第2形態!」

 

 

再びバルバトス第2形態を破壊しようと立ち上がるメカキングギドラだが、バルバトス第6形態がそれをさせない。

 

バルバトス第6形態がメカキングギドラを押さえつけているその間に、バルバトス第2形態がライフル銃でミツバのライフを狙う。

 

そしてもう彼女にはそれを防ぐ手段はなくて………

 

 

「ライフで受ける!………ッ」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉ミツバ

 

 

放たれた銃弾が彼女のライフを1つ撃ち抜いた。これで残り1つ。後は未だにメカキングギドラと戦闘を続けているバルバトス第6形態で決めるだけだ。

 

バルバトス第6形態はミツバのライフを撃つべく、メカキングギドラを脚部による蹴りで強引に引き離し、そのレンチメイスを彼女に向けて構える………

 

 

「終わりだ……行け、バルバトス第6形態!!」

「おぉ……これが鉄華団の結束と絆の力……ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉ミツバ

 

 

レンチメイスの顎のような先端を開き、その間にライフバリアを挟みこむバルバトス第6形態。その万力の如き攻撃は、あっという間に彼女の最後のライフバリアをかち割って見せた…………

 

 

……ピー………

 

 

と、甲高い音がミツバのBパッドから鳴り響く。それは彼女の敗北とオーカの勝利を示す音色。

 

よって、バトルはオーカの勝ちだ。最後に残ったバルバトス第6形態、第2形態はバトル終了と共に粒子化して消えて行く中、勇ましく誇らしげに己の武器を天に掲げる。

 

 

「あちゃ〜…負けたか。本気だったんだけどな」

「勝った……なんかこの勝ちはちゃんと勝ったって感じがする」

 

 

勝利を実感すると、この前のアオイとのバトルを思い出したオーカ。やはりあの時の彼女は手加減をしていたのだと改めて感じた。

 

そんな折、勝利したオーカにヒバナとヨッカが言い寄って来て……

 

 

「オーカ凄いね!…バルバトス第6形態!…大活躍だったじゃん!」

「うん。これがあればあの髪の青い人にも勝てるかも」

「いやそれは気が早過ぎるだろ。デッキの調整もしてないのに」

 

 

打倒早美アオイのオーカ。ひょっとすればバルバトス第6形態は彼女の対抗策になり得るカードなのかもしれないが、ヨッカの言う通り、まだ気が早過ぎる。

 

 

「よぉし!…じゃあ今日はバイトサボって1日中オーカのデッキ調整しようか!」

「おい何堂々とサボろうとしたんだミツバ。自給減らされたくなければ働け」

 

 

さり気なくバイトをストライキしてバトル付けの1日を送ろうとするミツバに店長であるヨッカが叱責する。

 

 

「センパイ〜…私は後一年で教師よ教師!…公務員!!…エアーズロックの地盤並みに安定した給料を得られるわけですよ。こんなバイトのしょっぱい給料なんて今更減らされたところで」

「じゃあやめろよバイト」

「それはそれで無理。だって私の可愛い弟分、オーカがいるんだもの〜〜!!…これからは私の事「アネゴ」って呼んでいいからねオーカ!」

「ヤダ」

 

 

バトルが終わってからと言うモノ、かなりテンションが上がっているミツバ。オーカに抱きつきながら名前の呼び方を提案するが、速攻でオーカに却下される。

 

 

「じゃあセンパイ、そう言う事で。私はオーカとヒバナちゃんの3人でデートして来ます」

「待てコラ、この流れでなんでそうなる」

 

 

オーカとヒバナの肩を抱き、彼らと共にこの場から勝手に立ち去ろうとするミツバ。

 

そして直後にオーカとヒバナの関係を単刀直入に聞いて来て………

 

 

「あ、ところでオーカとヒバナちゃんは付き合ってる感じ?」

「な……ち、ちちち違いますよ!!…ただの友達です!」

「?」

 

 

ザックリ過ぎるミツバの質問に思わず顔を赤くしてしまうヒバナ。あまり意味のわかっていないオーカは頭の上にハテナのマークを浮かべる。

 

そんな2人の様子からミツバは驚異的な恋愛脳でそれを分析。不敵な笑みを浮かべながら彼らの恋愛事情を全て把握する。

 

 

「ははーん♪……意外と隅に置けないんだねオーカ」

「何の話?」

「い、イヤ、いいからオーカ!…ミツバさんの話は気にしなくて!」

「そうなの?」

「そうだよ!」

 

 

ミツバの話を理解しようとするオーカ。それを必死にやめさせようとするヒバナ。それを見るだけでミツバにとってはご褒美、「はい、美味しかったです」と言葉を告げると、また2人の肩を抱きしめて………

 

 

「じゃセンパイ。3人で遊んで来るから仕事頑張ってね〜」

「それで逃げれると思ったならオマエは真のバカだよ」

「あ……やっぱダメ?」

 

 

結局は捕まり、その後もオーカ含めて3人で仕事を熟して行くのだが……

 

明る過ぎるミツバが店員に加わり、カードショップ「アポローン」の店内はより一層賑やかになる。そして今日もまた平和な1日が幕を下ろしていくのであった………

 

 

******

 

 

舞台は移り、どこかの場所。どこかの高層ビル。

 

その屋上の端で宙に足を伸ばしながら座っている1人の少年がいた。銀色の髪が特徴的で、年齢はオーカ達とさほど変わらない程度。

 

 

「退屈だ……オマエもそう思うだろ?」

 

 

少年の手にはカードが握られており、余程愛用しているのか、返事が返って来るわけもないそのカードに同意を求めた。

 

そのカードの名は「デスティニーガンダム」……

 

 

「ん?」

 

 

そんな折、舞い上がったビルの隙間風により飛んで来た1枚の新聞記事を手に取る少年。

 

その記事の内容は…………

 

 

「……『高校生プロバトラーアオイを撃破。勝ったのは名も知れないモビルスピリットを使う少年』………」

 

 

オーカがアオイに勝利したと言う内容だった。その日以降、オーカは一躍有名になり、こうしてこの銀髪の少年の目にも留まった。

 

そんなオーカに興味がそそられたのか、少年はニヤリと口角を上げ、不敵に笑うと…………

 

 

「あの早美アオイに勝ったカードバトラー……ソイツならオレのこの渇きを癒やしてくれるのか?」

 

 

デスティニーガンダムと呼ばれるカードをデッキに仕舞い、立ち上がりながらそう呟く少年。

 

どうやらバトルスピリッツはオーカを休ませる気などこれっぽっちもないようだ。

 

 

 




次回、第6ターン「その名はデスティニーガンダム」




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第6ターン「その名はデスティニーガンダム」

とある休日。街のカードショップ「アポローン」にて事件は起こった。

 

 

「おいコラ、ミツバァァァー!!」

 

 

アポローンの店長、九日ヨッカが店内のレジ前でアルバイトのミツバに怒鳴りつける。その周囲には真っ二つに砕けたBパッドが転がっている事から、どうやらミツバがBパッドを破壊したようで………

 

 

「これは大事な店内用のBパッドだって言ったよな!?…何やってんだオマエ!?…コレないと問屋から商品を発注できないんだぞ!?」

「へ〜…じゃあ今度からは歩いて問屋に行く感じになるんすかね?」

「どの口が言ってんだァァァー!!」

 

 

お客が大勢いる中で怒鳴り散らかすヨッカだが、この2人のやり取りにみんな慣れているのか、特に気にする事なく雑談したり、テーブルでバトスピしたりなどしている。

 

 

「つーかBパッドなんかどうやって壊したんだよ!!…一刀両断されてるじゃねぇか!?」

「いや。なんかいつ悪漢に狙われてもいいように空手チョップの練習してたら勝手に壊れててさ〜……なんか人間が作ったモノって意外とすぐ壊れるよね〜」

「異世界から来た魔物みたいな事言うな!!……オマエみたいなイカレた女が悪漢に狙われるわけねぇだろ!」

「センパイひど〜い…可愛い後輩であるこの私が消えてもいいんですか?」

「どうでもいいからさっさとBパッド買い直しに行くぞ。ったく、オーカ!!…店番は任せたぞ」

「わかった」

 

 

少し離れたところで2人の言い争いをどうでもよさそうに見ていたオーカ。ふとした事でアニキ分であるヨッカに店番を言い渡される。

 

 

「別にそのくらい私だけで行きますよ〜」

「……オレが行かなきゃ絶対買わずに逃げるだろオマエ」

「え〜…そんな事しないし、じゃあセンパイだけで行けばいいじゃないですか」

「誰のせいで店内のBパッドがぶっ壊れたと思ってんだ!!」

 

 

怒れるヨッカに首根っこを掴まれながら渋々新しいBパッドを買い直しに向かうミツバ。これで店内には数少ないお客とアルバイトの鉄華オーカミだけとなった。

 

 

「……店番か。と言っても今お客少ないし、別にやる事もないんだよな………これで給料発生してるのちょっと嫌だけど」

 

 

そう言いながらレジ前に腰を下ろすオーカ。特にこれと言ってやる事もないため、少しばかり退屈そうな表情を浮かべている。

 

しかしバトルスピリッツを始めて以降、バトルスピリッツと言うゲームは彼に暇を与えない。

 

店内の自動ドアが開き、1人のお客が現れる。

 

 

「いらっしゃい……あ、ヒバナか」

「やぁオーカ!」

「うん」

 

 

現れたのはオーカの同級生にして大事な友達、一木ヒバナ。

 

 

「アレ……ヨッカさんとミツバさんは?…今オーカ1人なの?」

「うん。アニキとアネゴはさっきなんか壊れたって言ってどっか買いに行った」

「へ〜……仲良いよねあの2人」

 

 

オーカの言う「アネゴ」とは雷雷ミツバの事。彼女からその呼び方を強要され、断り続けていたが、余りにもしつこかったため、結局そう呼ぶ事になったのだ。

 

 

「で。今日はなに?…悪いけど今店はオレ1人だからバトルはできないな」

「あ、うんいいよそれは全然……少しおしゃべりしない?」

「おしゃべり?」

「そう、おしゃべり。なんか喋ろうよ」

「なんかって……別にオレ喋る事なんてないけど」

 

 

自分から話すと言う行為は滅多にしないオーカ。そのくらいの歳であれば普通は何の話題がなくても盛り上がる事が当たり前だがそれができない。

 

しかしそんなオーカの事を好いているヒバナは「うーーん」と唸りを上げながらどうにか話題を考える。すると1つだけそれが出てきて………

 

 

「あ、そうだ。オーカのデッキ見せてよ」

「ん……オレの?」

「うん。そう言えば鉄華団のカードまともに見た事ないなーって思ってさ」

「まぁいいけど」

 

 

そう言われると、オーカは要求されるがまま、自分のデッキである鉄華団のカード達をヒバナに手渡した。

 

この間はミツバとの試合前に新調されたカード達をそのまま入れて使ったため、枚数は40枚を超えてしまっていたが、今ではちゃんと40枚に整えられている。

 

 

「おぉ……なんかこうしてみると意外と纏まってるね。鉄華団デッキと言うよりかはバルバトスデッキみたいな感じだけど」

「いっぱいいるからねバルバトス」

「これ全部知らない人から貰ってるんでしょ?……ぶっちゃけそれって大丈夫?」

「貰ってると言うよりかは送り付けられてるって言った方が妥当かな。まぁ大丈夫なんじゃない?……多分」

「多分って……」

 

 

いったい誰が、何のために、どんな理由で鉄華団のカードを送っているのかは一切わからないが、これと言って多額の金額を要求される事もなく、ただただ渡されているだけであるので、いつの日かオーカはその事を余り気にしなくなっていた。

 

精々出会ったら「ありがとう」と感謝の気持ちを告げようくらいの認識でいる。

 

 

「鉄華団と……バルバトスと出会ってから毎日が楽しいんだ。ヒバナとか、イチマルとかの友達もできたし」

「あっはは……オーカの中ではイチマルも友達の部類なんだね〜…あのお騒がせストーカー……」

「でもまぁ、凄いとは思う。この街の大きな大会でベスト8なんでしょ?」

「あんなのより断然私の方が強いわよ〜!」

 

 

鈴木イチマル。仮面ライダーゼロワンのデッキを使うオーカ達よりも一個上の学年の少年。ヒバナは彼によくストーカー紛いな行為をされるため、余りいい思いはしていない。

 

しかし、ナンパな人間ではあるものの、界放リーグ、ジュニアの部。と言う大会ではベスト8を勝ち取る程の実力者である。

 

 

「ヒバナは何位なの?」

「え?」

「イチマルがベスト8なら、ヒバナは何位なの?」

「あーーー……ごめん。私あんまり大きな大会は出ない事にしてるんだ……」

「ふーーん」

 

 

オーカの抱いた疑問に対して、どこか上の空な様子で返答するヒバナ。何やら少々訳ありのようだが、オーカは特に気にしないし、それ以上踏み込まない。

 

 

「ふふ……でもそっか。オーカは私達と出会えて嬉しいか………私もオーカと出会えて毎日楽しいよ。これからもよろしくね」

「うん」

 

 

感情の起伏に乏しい故か、オーカは全くと言っていい程自覚していないが、ヒバナと凄く良い雰囲気、良いムードになっている。

 

しかし、それを邪魔立てするように店内の自動ドアが開く。新たに来店して来たのはあっても15、6程度の歳の少年。銀色の髪に整った中性的な顔立ち、黒いジャケットが真っ先に印象に残る。

 

そんな彼は目先にある商品として並んだショーケースのカードには目もくれず、真っ直ぐにレジ前にいるオーカとヒバナの所まで向かい…………

 

 

「……見つけたぞ。鉄華オーカミ」

「………誰?」

「この記事を読んだ。オレと戦え。無論、バトルスピリッツでな。早美アオイを倒した力、それをオレにぶつけて来い」

「いや、だから誰?」

「この人……どこかで」

 

 

先日高校生プロバトラー早美アオイにオーカが勝利したと言う新聞記事を突き付けながら、彼に宣戦布告する謎の少年。口角を鋭く上げているその様子から余程彼とのバトルを楽しみにしていた事が窺える。

 

そんな少年の顔にどこか見覚えがあるようなヒバナ。必死に思い出そうとしているが、中々思い出せない。

 

そして、バトスピを挑まれては断れないと思っているオーカだが………

 

 

「ごめん、今は無理。店今オレだけだからさ、やるならアニキとアネゴが帰って来てからにしてくれ」

「なに………せっかくここまで来てやったオレから逃げると言うのか?…オマエに拒否権などない。早くデッキを取れ、そしてオレとデスティニーの渇きを癒せ」

「偉そうだな。つーかデスティニーって誰だよ」

「あ……思い出した。確か獅堂レオン……去年の界放リーグ、ジュニアクラスでぶっちぎりでトップに立った人だよ」

「界放リーグ、ジュニアクラス?……あぁ、イチマルが出た大会の名前か」

 

 

ヒバナが思い出した事でようやくその少年の名が判明する。その名は獅堂レオン。この日本一のバトスピ街、界放市で行われる大会、界放リーグ。そのジュニアクラスの大会でトップを獲得した存在。

 

その情報だけで彼が如何に強いカードバトラーかが理解できる。

 

それを聞くと少しだけやる気になるオーカだが、レオンの目の先は急に眼前に出て来たヒバナに移って………

 

 

「……オマエ、まさか一木ヒバナか?……あの伝説のプロカードバトラー、一木ハナビの娘」

「え………そうだけど」

 

 

レオンはヒバナの正体が超有名なプロバトラー、一木ハナビの娘である事が分かると、またニヤリと口角を鋭く上げて…………

 

 

「成る程。謎のカード鉄華団を持つヤツと一木ハナビの娘がいるカードショップ。良い店だな………鉄華がバトルできないなら仕方ない、先ずはオマエのバトルで腹ごしらえと行こうか、一木ヒバナ」

「!」

 

 

兎に角バトルに飢えている様子のレオン。店の都合でバトルできないオーカに代わり、メインターゲットをヒバナに移す。

 

今まで感じたこともない威圧感を感じるヒバナであったが、一木ハナビの娘として、挑まれたバトルは逃げられなくて………

 

 

「えぇ……わかったわ。じゃあ早速行きましょ、バトル場に」

「フ……話が早くて助かる」

「……なんか毎日変なヤツが来るな、この店」

 

 

張り詰めた緊張感の中、バトルを承諾するヒバナ。その後はオーカと共に店内のバトル場へと移動。Bパッドやデッキなどを取り出し、バトルの準備を進めて行く。

 

 

「……さぁ、来いよ。オマエが噂通りのカードバトラーであるのならば、オマエのバトルでオレとオレのデスティニーの渇きは癒される」

「デスティニー……確かアナタのエースカードだったわね……正直言っている意味は全然わかんないけど……いいわ、見せてあげる。一木ハナビの娘、ヒバナのバトルを!」

「フ………そうこなくては面白くない。準備は終わった……行くぞ」

「えぇ!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

オーカがただ1人見守る中、強い者とのバトルを求め続ける少年レオンと、一木ハナビの娘であるヒバナのバトルがコールと共に幕を開ける。

 

先攻はヒバナだ。颯爽とそれを進めて行く。

 

 

[ターン01]ヒバナ

 

 

「メインステップ……ネクサス、勇気の紋章を配置してターンエンド」

 

 

ー【勇気の紋章】LV1

 

 

「勇気の紋章か。成る程、父親譲りのグレイモンデッキか」

 

 

ヒバナの背後に出現したのは太陽の形を模した巨大な紋章。レオンはこのカードの存在から、彼女が生粋のグレイモン使いである事を悟りながら、己のターンを進めていく。

 

 

[ターン02]レオン

 

 

「メインステップ……モビルスピリット、コアスプレンダーをLV2で召喚!」

「ッ……やっぱり、白のモビルスピリットデッキ」

 

 

ー【コアスプレンダー】LV2(3S)BP3000

 

 

上空舞う戦闘機のようなモビルスピリット、コアスプレンダーがレオンの場に颯爽と飛来して来る。

 

そしてこのカードはレオンのデッキの潤滑油となり得るスピリットであり………

 

 

「召喚時効果、デッキからカードを2枚オープン、その中から対象のカードを1枚を手札に加える」

 

 

オープンされるカード。レオンはその中からカードを選び手札に加え、残りはデッキの一番下へと戻した。

 

 

[ターン03]ヒバナ

 

 

「メインステップ、マジック、双翼乱舞。デッキから2枚ドロー、勇気の紋章のLVを2に上げて、ターンエンド」

手札:6

場:【勇気の紋章】LV2

バースト:【無】

 

 

レオンのモビルスピリットの召喚に対して、ヒバナはドローマジックのみの使用でそのターンをエンド。

 

 

[ターン03]レオン

 

 

「メインステップ、母艦ネクサス、ミネルバをLV2で配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV2(1)

 

 

空に浮かぶ巨大な鉄の飛行船。その名はミネルバ。母艦ネクサスと呼ばれる、パイロットブレイヴと同様、モビルスピリットのデッキをサポートするカードの1種だ。

 

 

「配置時効果でデッキ上から3枚をオープン、その中の対象カード1枚を手札へ。アタックステップ、コアスプレンダー、行け」

「来た……!」

 

 

白き戦闘機コアスプレンダーを発進させるレオン。そして、このコアスプレンダーには召喚時以外にももう1つだけある効果を有していて………

 

 

「フラッシュ、コアスプレンダーの【零転醒】を発揮……!」

「!!」

「1コストを支払う事で、コアスプレンダーは真の姿なる!……その名はインパルスガンダム!!」

 

 

コアスプレンダーの動きに合わせて飛来して来る、機械兵の脚部と上半身。それはコアスプレンダーと言う名のコックピットを間に挟み、合体…………

 

それらはガンダムの姿なり、ヒバナの前に姿を現した………

 

 

ー【インパルスガンダム】LV1(2S)BP4000

 

 

「インパルス………さっき言ってたデスティニーってヤツとは違うのか?」

 

 

そう呟くオーカ。ビーム銃やシールドと言ったモビルスピリットにしてはメジャーな装備をしている白き機械兵、インパルスガンダムだが、それは飽くまでもレオンのデッキの駒と言ったところ…………

 

当然ながらこのスピリットは様子見程度の尖兵なのである。

 

 

「さぁ一木ヒバナ。インパルスの攻撃を受けろ!」

「ッ……ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ヒバナ

 

 

インパルスガンダムの銃から放たれるビーム攻撃がヒバナのライフ1つを華麗に撃ち抜く。

 

だが、ヒバナも負けてはいない。事前に配置していたあのカードの効果を発揮させる。

 

 

「甘いわね!…勇気の紋章の効果、私のライフが減った時にBP5000以下のスピリット1体を破壊する!」

「!」

「インパルスガンダムには悪いけど、早々に退場してもらうわよ!」

 

 

ヒバナの背後で赤々と光り輝く太陽を模した紋章。その中心部より放たれる炎の弾丸がレオンのインパルスガンダムに直撃。

 

呆気なく爆散してしまう…………

 

かに見えたが。

 

 

「!」

 

 

火炎弾直撃による爆発、それに伴う爆煙の中、まるで何事もなかったかのようにインパルスガンダムは姿を見せる。

 

 

「残念だったな。インパルスガンダムの効果、1ターンに一度、効果で場から離れる時、ボイドからコア1つを自身に置く事で場に残る………知っていたさ、勇気の紋章の効果。オレはオマエの父、一木ハナビのバトルビデオを何本も視聴したのだからな」

 

 

ー【インパルスガンダム】(2S➡︎3S)LV1➡︎2

 

 

「ライフを奪っただけじゃなく、勇気の紋章の効果を逆手に取ってコアブーストまでやるなんて」

「オイオイ。この程度で驚かれても困るぞ、オマエにはオレとデスティニーの渇きを癒してもらわないといけないのだ、ターンエンド」

手札:5

場:【インパルスガンダム】LV2

【ミネルバ】LV2

バースト:【無】

 

 

強力な迎撃効果を備えるネクサスカード、勇気の紋章までをも計算の内に入れていたレオン。

 

流石は現ジュニア内で最高、プロにも通じる腕前があると噂されるだけはある。ヒバナも負けじと帰って来たターンを進めていく。

 

 

[ターン05]ヒバナ

 

 

「流石はジュニア最強、でも私も負けない!!…メインステップ!!…グレイモンをLV2で召喚!」

 

 

ー【グレイモン】LV2(3S)BP5000

 

 

ヒバナの場に現れたのは立派な三本の頭角を持つ肉食恐竜型の成熟期デジタルスピリット、グレイモン。颯爽とレオンとインパルスガンダムを威嚇するように咆哮を上げるが、どちらも全く動じない。

 

 

「アタックステップ、グレイモンでアタック!…そしてその効果【超進化:赤】を発揮、グレイモンを完全体、メタルグレイモンに進化!!」

「!」

 

 

ー【メタルグレイモン】LV2(3S)BP9000

 

 

青白い光の中に包まれていくグレイモン。その中で左半身が機械化、背中にはボロボロの翼が新たに生える。そしてその光を解き放ち、改めて現れたのはグレイモンを超えた完全体メタルグレイモン。

 

デジタルスピリット特有の効果【進化】………

 

これを繰り返す事でデジタルスピリットはより強い個体へと変化して行く。

 

 

「メタルグレイモン召喚時効果、BP12000以下のスピリット1体を破壊する!…対象は当然インパルス!」

「だが、インパルスはターンに一度、自身の効果でコアを増やしつつ場に残る」

 

 

ー【インパルスガンダム】(3S➡︎4S)

 

 

胸部のハッチを開き、ミサイルを発射するメタルグレイモン。それはインパルスガンダムに直撃し、爆発するが、前のターンと同様、インパルスガンダムは何事もなかったようにそれを耐えていた。

 

 

「だけどその効果は1ターンに一度だけ、メタルグレイモンでアタックすれば、そのアタック時効果で今度こそインパルスを破壊できる!」

「成る程」

 

 

強力過ぎるが故に、インパルスガンダムの効果にはターンに一度の制限がある。ヒバナはそれを逃さない。このままメタルグレイモンで攻撃し、今度こそインパルスガンダムを破壊する気でいたのだ…………

 

しかし、相手はあの獅堂レオン。ここで何も手を打たないわけがなかった。彼は手札にある1枚のカードを抜き取り………

 

 

「ならばそれを止めるだけだ。フラッシュブラストインパルスガンダムの【換装:シルエットシステム】」

「ッ……専用効果!?」

「この効果でボイドからコア1つをインパルスに追加。そうした時、同じ状態でこのスピリットも入れ替える……!」

 

 

ー【ブラストインパルスガンダム】LV3(4S➡︎5S)BP10000

 

 

インパルスガンダムの黒いバックパックが離れ、そこにまた別の形をした緑色のバックパックが装着。

 

インパルスガンダムの装甲は緑色に変化し、新たな姿、ブラストインパルスガンダムに入れ替わった。

 

 

「ブラストインパルスは入れ替わった時、相手のLV1、2のスピリット2体を手札に戻すか疲労させる。オレは疲労の方を選択し、メタルグレイモンを疲労させる」

「!」

 

 

ー【メタルグレイモン】(回復➡︎疲労)

 

 

新たなバックパックにより装備された大きな2丁の機関銃。ブラストインパルスはそれを撃ち放ち、メタルグレイモンに膝を突かせる。

 

これで、メタルグレイモンはアタックが不可能な状態に陥った。よって、アタック時効果も必然的に不発となって…………

 

 

「………ターンエンド」

手札:5

場:【メタルグレイモン】LV2

【勇気の紋章】LV2

バースト:【無】

 

 

「ヒバナが翻弄されてる、気がする。アイツ、実力は口だけじゃないのか」

 

 

ヒバナとて、一流のプロカードバトラー一木ハナビの娘の名に恥じない実力を有している事は初心者のオーカでも何となくわかる。

 

だからこそ、より鮮明にあのレオンと言うカードバトラーがどれ程強いのかを彼は悟っていた。

 

 

[ターン06]レオン

 

 

「メインステップ……母艦ネクサス、2枚目のミネルバを配置!」

「!」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

「再び配置時効果。デッキからカードを3枚オープンし、対象のカードを手札に加える」

 

 

これにより、レオンは対象となったカードを手札に加え、残りはデッキの下へと戻した。

 

 

「さらにブラストインパルスのLVを下げ、手札に戻ったコアスプレンダーを再召喚。また召喚時効果でカードを手札に加える………む、ハズレか」

 

 

ー【ブラストインパルスガンダム】(5S➡︎2S)LV3➡︎2

 

ー【コアスプレンダー】LV1(1)BP1000

 

 

換装の効果により手札に戻っていたコアスプレンダー。レオンはそれを再召喚し、今一度その効果を発揮させるも、今回は失敗したようだ。

 

しかし、それでもその余裕の表情は揺らぐことは無い。また淡々とターンを進めていき…………

 

 

「バーストを伏せてアタックステップ。コアスプレンダー、ライフを砕いて来い」

 

 

罠とも呼べるカード、バーストが裏向きで伏せられると共に発進するコアスプレンダー。肝心のメタルグレイモンが疲労状態であるため、スピリットを使ってのブロックができないヒバナであったが………

 

ここがエースの出しどころだ。そう思い、手札のカードを1枚切った………

 

 

「ここだ!…フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はメタルグレイモン!」

「ッ……おぉ、来るか!」

 

 

ヒバナが今から何をするのかを瞬時に察したレオン。待ちに待ったそれの登場に喜ぶように目の瞳孔が縮まる。

 

 

「究極進化!…現れろ、ウォーグレイモン!」

 

 

これでもかと言わんばかりにありったけの咆哮を張り上げるメタルグレイモン。そのままその体を真っ赤な炎で包まれていき、姿形を大きく変えていく。

 

やがてその中にいるメタルグレイモンだったそれは腕にある鉤爪で周囲にある炎を斬り裂き姿を見せる。

 

それはデジタルスピリットの中でも最上級の究極体スピリット、竜人型のウォーグレイモンだ。

 

 

ー【ウォーグレイモン】LV1(2)BP8000

 

 

「やはり、ウォーグレイモン。美しい……!」 

「見惚れてる場合じゃないと思うけど?……ウォーグレイモン、煌臨時効果。BP合計15000まで好きなだけスピリットを破壊!」

「!」

「コアスプレンダーとブラストインパルスを破壊!」

 

 

登場するなり両掌から身の丈以上の火球を形成していくウォーグレイモン。それを全力でレオンの場へと投げつける。その場にいたコアスプレンダー、ブラストインパルスガンダムは焼き尽くされ、堪らず爆散してしまう。

 

 

「スピリットは全滅か。あのウォーグレイモンが相手なのだ。これくらいは必要経費と言ったところか……ターンエンド。次のターン、オマエの全力を見届けてやる!」

手札:4

場:【ミネルバ】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【有】

 

 

「何よ、ずっと偉そうに………でもいいわ。見せてあげるわよ、私の全力!」

 

 

常にバトルに刺激を求める獅堂レオンと言う少年。それに応えるべく、ヒバナは回って来たターンを突き進んでいく…………

 

 

[ターン07]ヒバナ

 

 

「メインステップ……燃え上がる爆炎、打ち鳴らせ爆音!!…異魔神ブレイヴ、真・炎魔神!!」

「………!」

 

 

ー【真・炎魔神】LV1(0)BP6000

 

 

炎纏う歯車が轟音を鳴らしながら回転。その中より現れいでるのは赤きブレイヴ、真・炎魔神。一木ハナビの家系の者は皆この炎魔神系のブレイヴを所有しているため、この世界では他のブレイヴよりもかなりの知名度を誇っている。

 

 

「成る程真・炎魔神か。一木ハナビの娘が持つには妥当なブレイヴだな」

「真・炎魔神をウォーグレイモンに合体!…さらにLVを2にアップ!」

 

 

ー【ウォーグレイモン+真・炎魔神】LV2(3)BP18000

 

 

真・炎魔神の右手から放たれる赤の光線がウォーグレイモンと真・炎魔神を繋ぎ、強力な合体スピリットとなる。

 

 

「アタックステップ、ウォーグレイモンで合体アタック!…真・炎魔神の効果でセットされたバーストを破棄!」

「!」

 

 

炎を纏った拳を地面に叩きつける真・炎魔神。纏っていた炎が地面を伝い、レオンのセットしていたバーストカード『ソードインパルスガンダム』を焼き払う。

 

これにより、レオンの防御手段を剥いだも同然。彼はこの攻撃を受ける他がなくなって…………

 

 

「ライフで受ける」

「合体スピリットはダブルシンボル、2点のダメージを食らいなさい!」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉レオン

 

 

ウォーグレイモンの両腕に装備されているドラモンキラーと呼ばれる鉤爪の二撃がレオンのライフを一気に斬り裂く。

 

さらにこれだけでは終わらない。ヒバナは次にウォーグレイモンのアタック時効果を発揮させて…………

 

 

「ウォーグレイモンのアタック時効果、トラッシュにあるソウルコアをウォーグレイモンに置き、相手ライフ1つをボイドに置く!」

「!」

 

 

ー【ウォーグレイモン+真・炎魔神】(3➡︎4S)LV2➡︎3

 

 

〈ライフ3➡︎2〉レオン

 

 

ウォーグレイモンは煌臨時の時よりも遥かに巨大な火球を形成、それをレオンに向けて投擲。レオンのライフバリア1つは一瞬にして燃え尽きてしまい、半数以下となってしまう。

 

 

「真・炎魔神の召喚コストにソウルコアを払っていたか………」

「えぇ!…どう?…これが私の実力!…ターンエンド!」

手札:3

場:【ウォーグレイモン+真・炎魔神】LV3

【勇気の紋章】LV1

バースト:【無】

 

 

ウォーグレイモンと真・炎魔神。2枚の強力な力により開き出して行くヒバナとレオンの戦力差。

 

プロバトラーの一木ハナビの娘として申し分ない力を発揮したと言えるヒバナ。この年齢でこれだけの実力を持つ彼女を、近い年代の者達では先ず敵う事はないだろう…………

 

しかし………

 

 

「『どう?』だと?………そう答えなければならないのなら、正直失望した」

「ッ………え」

 

 

そんな誇らしげで、自信満々なヒバナに苛立ちを覚えるようにレオンは口を開いて…………

 

 

「ウォーグレイモンを持っているならこう使うだろうと言う動きだ。オレの予想の範疇を出ない。この程度の実力でよくあの一木ハナビの娘を名乗れているモノだな」

「なに……!?」

「本当にガッカリしたよ一木ヒバナ。オマエは毎年行われる界放リーグに参加したと言う記録はない。それをオレはオマエが強過ぎるが故だと思っていた。オレと同じ、強さの深みにハマっているからこそ、弱者とのバトルがつまらないのだろうと。だがそれはとんだ勘違いだった」

「何よその勝手な思い込み!!…出るとか出ないとか、そんなの私の勝手でしょ!?」

「オレが思うにオマエは、負ければ一木ハナビの娘なのになどと陰口を叩かれるのが嫌なだけなのだろう?」

「!!」

「………図星か。オマエのような敗北を恐れているだけのただの腰抜けがオレは嫌いだ。こんなバトル、オレとオレの相棒の力でさっさと終わらせてやる」

 

 

一木ヒバナは父である一木ハナビの事を誰よりも尊敬している。しかし、その存在が大き過ぎる事もあり、大きな大会に出れば出る程、敗北した時に蔑まれる言葉が跳ね返って来るのだが…………

 

ヒバナはそれが嫌で、余り大きな大会には出場しない。それがこの街最大のビッグイベント『界放リーグ』なら尚更。

 

そんな彼女を徹底的に潰すべく、遂にレオンが本気を見せる………

 

 

[ターン08]レオン

 

 

「メインステップ………時は満ちた。運命をも覆す我が魂!!…デスティニーガンダムッ!!」

「!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV3(5)BP23000

 

 

蔓延る雷雲。そこから放たれる落雷と共に姿を見せるのは、赤き機翼を羽ばたかせる白きモビルスピリット、デスティニーガンダム。

 

レオンが相棒と呼ぶそれの強さは名前の通り、バトルの運命をも容易く変えてしまう………

 

 

「アイツがデスティニー………アレは、本当にヤバいな」

 

 

そう呟いたのはデスティニーガンダムの効果を一切知らない鉄華オーカミ。存在するだけで迸るデスティニーガンダムの強さを肌で感じ取っているようだ。

 

そしてそれは遂にヒバナとウォーグレイモンに向かって動き出して………

 

 

「アタックステップ。その身で味わえ、デスティニーの強さを!!……アタックだ!」

 

 

躊躇いなく攻撃の指示を送るレオン。デスティニーはそれを聞くなり背後に備え付けられた長めのビーム砲をウォーグレイモンへ向けて取り出し……

 

 

「デスティニーのアタック時効果。自身のBP以下の相手スピリット1体を破壊する!」

「な………ッ!?」

「フッ……七光りの雑魚でも気が付いたか。デスティニーガンダムのLV3BPは23000。いくらウォーグレイモンが真・炎魔神と合体していようが、敵う事はない!………やれ」

 

 

無慈悲に放たれる強力無比なビーム砲。地を抉りながら突き進むそれは、ヒバナのウォーグレイモンをも容易に貫いて見せる。

 

倒れるわけには行くまいと立ち上がろうとするウォーグレイモンであったが、力及ばずか、地に伏せ爆散してしまった。場には合体していた真・炎魔神だけが残ってしまう。

 

 

ー【真・炎魔神】LV1

 

 

「さらに破壊したスピリットのシンボル分、ライフのコアをボイドに置く」

「ッ……キャァァー!!?!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉ヒバナ

 

 

今度はヒバナの方へ向けて再びビーム砲を放つデスティニーガンダム。ライフバリアが彼女を死守するものの、それは一気に2つ溶解。

 

圧倒的過ぎるデスティニーガンダムの強さに、ヒバナは手も足も出せない。

 

 

「フラッシュ。デスティニーガンダム最後のアタック時効果。系統ザフトのネクサスカードを疲労させる事でこのスピリットは回復する」

「!」

「ミネルバを疲労させ、回復」

 

 

ー【デスティニーガンダム】(疲労➡︎回復)

 

 

止まる事を知らない進軍。終わらない進撃。

 

デスティニーガンダムはレオンの場にザフトのネクサスガードがある限り、何度でも起き上がる。もうヒバナのライフを破壊し尽くすまで攻撃を止める事はない。

 

 

「どうしたもう手詰まりか?…だったら素直にデスティニーガンダムの本命のアタックを受けるんだな!」

「ッ……ライフで受ける!……ぐうっ!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉ヒバナ

 

 

今度は巨大なビームソードを取り出し、ヒバナのライフバリアへと向かって一閃。その内の1つを紙切れのように一刀両断して見せる。

 

これで残りライフは1つ…………

 

お終いだ。後はレオンがアタックを宣言するだけで終わる。

 

 

「デスティニーガンダムでアタック!…効果で真・炎魔神を破壊し、そのシンボル分のダメージを与える!!」

「!」

「散れ。敗北の彼方へと!!」

 

 

まるで蝶の羽を連想させるような虹色の光を機翼から噴出させ、上空を華麗に舞うデスティニーガンダム。そしてウォーグレイモンをも容易く撃ち倒したそのビーム砲を、今度は真・炎魔神とヒバナの直線上に向ける。

 

そして、それは又しても無慈悲に放たれる。

 

 

「……そんな………こんな、こんなヤツに………!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉ヒバナ

 

 

悔しさに拳を握り、歯を噛み締めるヒバナ。だが、いくら悔しかろうが、この結果がもう覆る事はない。デスティニーガンダムから放たれたビーム砲は真・炎魔神とヒバナのライフバリアを諸共撃ち抜いた。

 

力尽き爆散する真・炎魔神。その間、ヒバナのライフが0になった事により、勝者はこの街の中学生最強とも呼べる実力者、獅堂レオンとなる。

 

しかし、手応えのないバトルであったからか、勝利しても尚、彼はどこか不服そうな表情を浮かべていて…………

 

 

「一木ヒバナ。とんだ期待ハズレだった………余程、甘やかされて育てられたのだろうな………そうでなければあり得ない。こんなヤツが一木ハナビの娘など………!」

「ッ………!!」

 

 

追い討ちをかけるように言葉を発するレオン。実力があり過ぎて、至高のバトルに飢えているからとて、いくらなんでも言い過ぎなのは間違いない。

 

それに対してもう反論する元気もないか、ヒバナは思わずその場で力尽きたように腰を落としてしまう。それを見るなり、透かさずオーカが寄り添いに向かう。

 

 

「ヒバナ」

「ごめんオーカ………今は1人にさせて………!」

「………そっか」

 

 

立ち上がり、オーカの横を過ぎ去って行くヒバナ。オーカはいつも通りの平然とした無表情で素っ気なく返答するが、彼女の悔しさや悲しさをある程度は理解している。

 

そして、涙を流しているのも見逃しはしてなくて…………

 

 

「…………」

「何をぼんやりしている鉄華オーカミ。次はオマエの番だ………きっと、きっとオマエはオレとデスティニーを癒してくれると信じているぞ」

 

 

完全に興味を失ったヒバナに代わり、レオンが目をつけたのは、当初の目的でもあった鉄華オーカミ。

 

いつも。常に何をしてても、何をやらされても無表情で何を考えているかわからないオーカこと鉄華オーカミ。それは他の者から見れば、ずっとぼんやりしているようにも見える。それはレオンも例外ではなかった。

 

次にオーカが言葉を言い放つまでは…………

 

 

「わかったから早く来いよ。オマエはオレが潰す………!!」

「!!」

 

 

変わらぬ表情。だが明らかな怒りを見せ、変貌を遂げた雰囲気を醸し出すオーカ。

 

無理もない。ヒバナは生まれて初めてできた友達。ヨッカのアニキと一緒に自分にバトスピを教えてくれた恩人でもある。そんなもう自分にとっては欠かせない大事な存在であった彼女を傷つけたレオンが許せるわけもない…………

 

 

「フッ………ようやくその気になってくれたか。見せてくれよ………オレに、オレとデスティニーに………オマエの持つ鉄華団、バルバトスのカードを!!」

 

 

オーカの放つ殺気に思わず半歩後ずさるレオンだったが、やがてそれも闘争本能の一部になり、逆に笑みを浮かべながらそう告げて行く………

 

良くも悪くもバトルに飢えた2人。

 

後に永遠のライバルとなるこの2人の最初の決戦は、まもなくスタートを切る事になる…………

 

 




次回、第7ターン「バルバトスとデスティニー」


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第7ターン「バルバトスとデスティニー」

バトスピが最も栄えてる都市「界放市」…………

 

そしてそこで行われる、世界各国が注目を集める一年に一度のお祭り「界放リーグ」…………

 

その中でも大きく分類は15歳以下の「ジュニアクラス」とそれ以上の「スタンダードクラス」に分けられている。そしてそのジュニアクラスにおいて、獅堂レオンと言う少年は無敵だった。

 

エースカードであるデスティニーガンダムを駆り、一度もそれを破壊される事なく、全ての試合に毎度圧倒的な強さで完勝していた。

 

だが、その強さは同時に彼に孤独と退屈を齎した。それは1人だけ突出した強さを持った者の鉄則とも呼べる現象である。

 

それ故に、彼は常に強者を、バトルに対する強い刺激を誰よりも求めた。後1年経てばジュニアクラスを抜け、上位に存在する「王」の名が付く者達とも戦えるようになるかもしれないと言うのに…………

 

 

******

 

 

バトル場にて向かい合うのは獣の名を関する2人のカードバトラー………

 

 

「待ち侘びたぞ鉄華。あの一木ヒバナなどよりもずっと期待してる!」

「姉ちゃんが言ってた。『女の子に手出しするヤツには容赦するな』って………自分から『バトルしろ』とか言っておきながらソイツが自分よりも弱いと思ったらソレかよ………オレが勝ったら、後でヒバナに頭下げて謝れ」

「わかった。貴様が勝てたらな………!」

 

 

その名は鉄華オーカミと獅堂レオン。

 

カードショップ「アポローン」の中にあるバトル場で、狼と獅子の名を関する2人のカードバトラーがBパッドを構え、合間見えんとしていた。

 

本来であれば店番の関係でバトルする気などなかったオーカだが、友達のヒバナを泣かせたレオンに逆鱗を踏まれ、今こうしてカードを掴み取り、睨み合っている。

 

 

「さぁ余談はここまでだ。始めるぞ」

「あぁ」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

2人にとってこれ以上の会話は無用。有名なコールと共にバトルが幕を開ける。

 

先攻はレオン。一切笑顔を浮かべないオーカに対し、彼は余程このバトルが楽しみだったのか、小さく口角を上げながらターンを進めていく。

 

 

 

[ターン01]レオン

 

 

 

「メインステップ……先ずは母艦ネクサス、ミネルバを配置する!」

 

 

ー【ミネルバ】LV1(1)

 

 

レオンの背後に出現するのは宙に浮かぶ戦艦、ミネルバ。それは強力な配置時効果を有している。

 

 

「配置時効果、デッキから2枚オープン、その中の対象カード1枚を手札に………オレはこのカード、コアスプレンダーを手札に。バーストをセットしてターンエンド」

手札:4

場:【ミネルバ】LV1

バースト:【有】

 

 

一切無駄のない動きで最初のターンを締めるレオン。次は怒りに燃える鉄華オーカミのターン、カードを引き、進行していく。

 

 

[ターン02]オーカ

 

 

「メインステップ、オマエが散々見たがってたモノ、見せてやるよ……ガンダム・バルバトス・第1形態をLV1で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1S)BP2000

 

 

「おぉ……これがバルバトスか!!…しかと見させてもらうぞその強さ!」

 

 

地中を蠢かし、飛び出して来たのはオーカの鉄華団デッキの顔とも呼べるスピリットであるガンダム・バルバトス。その第1形態。肩の装甲が剥がれている不完全な姿である。

 

 

「召喚時効果、デッキの上から3枚オープン、その中の鉄華団カード1枚を手札に加える………よし、鉄華団モビルワーカーを手札に加えて、これをそのまま召喚!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

銃火器を備えた車両のスピリット、鉄華団モビルワーカーが1台バルバトス第1形態の元に配備される。

 

ここまで行くと、オーカは早速アタックステップを宣言して………

 

 

「アタックステップだ………行け、バルバトス第1形態!!」

「来たか!…いいだろう、ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉レオン

 

 

容赦のないオーカの攻撃宣言と容赦のないバルバトス第1形態の拳による攻撃。レオンの身を守るライフバリアは忽ち1つ砕け散って行く。

 

だが………

 

 

「まだ行くぞ、鉄華団モビルワーカーで………」

「だが追撃はさせんぞ!…ライフの減少でバースト発動!」

「!!」

「ソードインパルスガンダム!!」

 

 

初心者故に無警戒であったか、無闇に攻撃した事でレオンのセットしていたバーストカードが反転。その効果を遺憾なく発揮される事となる。

 

 

「効果によりライフ1つを回復!…そしてこれを召喚!」

 

 

〈ライフ4➡︎5〉レオン

 

ー【ソードインパルスガンダム】LV1(1)BP5000

 

 

瞬時にライフが元に戻ると共にレオンの場に飛来して来たのは白属性のモビルスピリット、インパルスガンダム。今回のモードはソードと言う事で上層には赤い装甲がもたらされている。

 

 

「ライフを元に戻した……?」

「それだけじゃない。召喚時、コスト5以下のスピリット1体を手札に戻す……鉄華団モビルワーカー、失せろ!」

「!」

 

 

ソードインパルスガンダムは手に持つ太刀を振い、衝撃波を放つ。それは一瞬にして鉄華団モビルワーカーに直撃。堪らず粒子化してオーカの手札へと帰還してしまう。

 

 

「どうしたそんなモノか?…オマエならまだまだやれるはずだろう?」

「ターンエンド。アンタ、さっきからずっとオレの事買い被り過ぎだろ。オレまだバトスピ初めて2週間も経ってないんだ……まぁそれでも、潰すのに変わりはないけど」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス「第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

「ワッハッハ!…いいな、その度胸。それでこそモビルスピリットの使い手だ!!」

 

 

オーカの攻撃を軽くいなしたレオンのターンが幕を開けて行く。

 

 

[ターン03]レオン

 

 

「メインステップ……コアスプレンダーを召喚!」

 

 

ー【コアスプレンダー】LV2(3S)BP3000

 

 

ヒバナとのバトルでも使用された戦闘機ユニット、コアスプレンダー。それがオーカとバルバトスの目の前にも出現を果たす。

 

レオンはその召喚時効果で対象のカード「フォースインパルスガンダム」を手札に加えた。

 

 

「アタックステップ。ソードインパルスでアタック!…そしてそのフラッシュタイミング、フォースインパルスの【換装:シルエットシステム】を発揮!」

「!」

「ボイドからコア1つを追加し、同じ状態で場のソードインパルスと入れ替える!」

 

 

ー【フォースインパルスガンダム】LV2(1➡︎2)BP7000

 

 

背中のバックパックが赤から黒に変更されるソードインパルスガンダム。手にはシールドとビームサーベルが新たに握られ、赤かった上層の装甲の色は青に輝く。

 

これぞインパルスガンダムにのみ許された効果【換装:シルエットシステム】………

姿や効果を好きに変えられるだけでなく、入れ替えの対象となったスピリットは手札に戻り、コアまで増やせる万能の力だ。

 

 

「さらにコアスプレンダーの【零転醒】……現れろインパルスガンダム!」

「ッ………同じガンダムが2体」

 

 

ー【インパルスガンダム】LV1(2)BP4000

 

 

コアスプレンダーの動きに合わせて飛来して来るドッキングユニット。機械兵の脚部と上半身の姿をしたそれはコアスプレンダーと言う名のコックピットを間に挟み、合体…………

 

ビーム銃とシールドを備えたインパルスガンダムの基本形態が姿を現した。

 

 

「転醒に気を取られるなよ。フォースインパルスの攻撃は続いているぞ!」

「ッ……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

バルバトス第1形態を横切り、接近するフォースインパルスガンダム。その手に持つビームサーベルの一太刀でオーカのライフバリア1つを斬り裂いた。

 

 

「続けインパルスガンダム!」

「それもライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉オーカ

 

 

今度は通常のインパルスガンダムがビーム銃を放ち、またオーカのライフバリアを撃ち抜いた。

 

 

「ターンエンド。ライフは砕いてやった。これでオマエは次のターン、存分に暴れられるはずだ」

手札:5

場:【フォースインパルスガンダム】LV2

【インパルスガンダム】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

「…………」

 

 

僅か数ターン。滲み出てくる戦力の差。

 

言葉から察するに、レオンはオーカに手加減を加えているようにも見える。

 

デスティニーガンダムと言う攻撃なスピリットを主軸に据えている彼のデッキは基本的にデスティニーガンダムが召喚されるまでは必要最低限以上のアタックを行う必要がない。

 

だが、裏を返して言えば、オーカとバルバトスに期待しているとも言える事になる。

 

 

[ターン04]オーカ

 

 

「メインステップ……鉄華団モビルワーカーを再召喚して、創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

前のターンにバーストの力を持つソードインパルスガンダムによって手札に戻された鉄華団モビルワーカーが復活。次いでに鉄華団デッキ専用の創界神、オルガ・イツカを配置。その後の神託でデッキからカードをトラッシュに送り、1つのコアを追加した。

 

巡って来たターンの中、順当にカードを並べて行くオーカ。その後、手札をさらに1枚引き抜き、遂にあのスピリットを召喚する。

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態!!…LV3で召喚!」

「!」

「不足コストは鉄華団モビルワーカーより確保、よって消滅」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】(1➡︎0)消滅

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

復活したての鉄華団モビルワーカーが消滅すると、蠢く地の底より、黒い鈍器メイスを片手に飛び出して来たのはガンダム・バルバトス、その第4形態。オーカの持つ最強のカードであり、エースカードも務める。

 

 

「第4形態。成る程、オマエのモビルスピリットは戦えば戦う程強くなる機体と言う事か」

「アタックステップ。第4形態でアタック!」

 

 

レオンの言葉に耳を傾けることなくアタックステップでアタックを宣言するオーカ。バルバトス第4形態がメイスを片手に地を駆けていく。

 

そしてこの時、強力な効果が逐一発揮されていき………

 

 

「アタック時効果でフィールドのコアを2つリザーブに置く」

「!」

「フォースインパルスからコアを取り除き、消滅させる!」

 

 

素のBPが高いだけでなく、コア除去などの多彩な効果を内包しているバルバトス第4形態。

 

黒々とした鈍器、メイスを横一閃に振い、レオンのフォースインパルスガンダムの顔面を叩きつけて見せるが…………

 

 

「なんだ……手応えがない……!?」

 

 

そう。

 

全くと言っていい程に効き目がなかった。強力を極めたはずであるバルバトス第4形態のメイスによる一撃でもフォースインパルスガンダムには擦り傷一つ与えられなかった。

 

 

「残念だったな。インパルスと名の付くスピリット達はLV2以上の時【VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲:コスト5以下】を持つ。コスト5以下の効果は通用しない」

「!」

 

 

インパルスガンダムとデスティニーガンダムには共通して所持している効果がある。

 

その名も【VPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲】…………

 

それは指定された本来のコスト以下の効果を受けなくすると言う強力なモノ。今回のバルバトス第4形態のコストは惜しくも5。その強力な効果も、インパルスガンダムが持つ【VPS装甲:5以下】の前には無駄に終わる。

 

 

「そして、対象がいないため、バルバトス第4形態の効果はLV1で【VPS装甲】を持たないインパルスガンダムが受ける。このスピリットは相手によって場を離れる時、コア1つをボイドから追加する事で疲労状態で残る」

「くっ………」

 

 

ー【インパルスガンダム】(2➡︎3➡︎1)

 

 

向けられる矛先はLV1であるが故に未だ【VPS装甲】の効果を持たない通常のインパルスガンダム。バルバトス第4形態のメイスによる一撃で吹き飛ばされるも、コアを追加し、生存して見せる。

 

前のヒバナ戦。オーカはこのインパルスガンダムの効果を知っていたからこそ、バルバトス第4形態でフォースインパルスガンダムの方を破壊しに向かわせた。だが、その考えは【VPS装甲】の効果により全て瓦解。結果としてどのスピリットも倒せない結果に終わってしまった。

 

 

「だけどまだだ。バルバトス第4形態のLV3アタック時効果、紫のシンボルを1つ追加する」

「おぉ……単体でダブルシンボルになる力か!……いいだろうその一撃、この身で受ける!」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉レオン

 

 

鬼気迫る勢いで接近して来たバルバトス第4形態が、レオンのライフバリアを一気に2つ、メイスで砕く。

 

これでライフの差は並んだ。ここから追撃し、逆転を狙いたくはあったが………

 

 

「………ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

流石にそこまで何も考えずには攻めたりしない。【VPS装甲】で除去がやり辛い今、スピリットを防御用のブロッカーとして残すのは大事だと考え、バルバトス第1形態をブロッカーに残し、そのターンを終える。

 

 

[ターン05]レオン

 

 

「メインステップ。マジックリカバードコア、ボイドからコア1つずつを白のスピリットとオレのライフに」

「チ……またライフ回復か」

 

 

〈ライフ3➡︎4〉レオン

 

ー【フォースインパルスガンダム】(2➡︎3)

 

 

全く隙を見せないレオン。防御が得意な白属性を使っている故であろうが、好戦的な性格とは裏腹に堅実なプレイングでアドバンテージを稼いでいく。

 

 

「バーストをセット。2体のインパルス、ネクサスのLVを最大に上げ、アタックステップ……フォースインパルス、斬れ」

 

 

ー【インパルスガンダム】(1➡︎4)LV1➡︎3

 

ー【フォースインパルスガンダム】(3➡︎4)LV2➡︎3

 

ー【ミネルバ】(0➡︎1)LV1➡︎2

 

 

「第1形態、ブロックを頼む」

 

 

アタックステップの開始直後、ビームサーベルを手に、オーカのライフへと斬りかかるフォースインパルスガンダム。主人を守るべくバルバトス第1形態が立ち向かうが………

 

 

「フォースインパルスの効果、ブロックされた時、回復する」

「なに!?」

 

 

ー【フォースインパルスガンダム】(疲労➡︎回復)

 

 

再び攻撃が可能な回復状態となり、その防御は全くの無駄に終わる。

 

バトルもフォースインパルスガンダムはビームサーベルでバルバトス第1形態のボディを切断し、爆散させ圧勝。フォースインパルスガンダムの効果を知らなかったとは言え、オーカのこの判断は致命的なミスであったと言える。

 

だが………

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【フォースインパルスガンダム】LV3

【インパルスガンダム】LV3

【ミネルバ】LV2

バースト:【有】

 

 

「ターンエンド?…オマエ、遊んでいるのか」

「フ……勘違いするな。手を抜いているわけではない………オレはもっと見たいのだ、味わいたいのだ。オマエとバルバトスの力をな」

「……どんなドMだよ」

 

 

先のアタックは様子見のつもりだったのか、BP8000と9000、2体のブロッカーを場に残し、そのターンをエンドとするレオン。

 

オーカは唯一場に残ったバルバトス第4形態と共にターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]オーカ

 

 

「メインステップ……バルバトス第2形態を召喚!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000

 

 

上空から流星の如く地上に降り立ったのは新たなバルバトス。第1形態でも第4形態でもない第2形態のバルバトスだ。その手に持つ巨大なライフル銃の光沢が光る。

 

 

「第2……その第4形態とやらよりは幾分かパワーが低そうだが」

「ナメるなよ。バルバトス第2形態がいる限り、鉄華団スピリットは手札とデッキに戻らない……これでオマエがバーストで伏せているソードインパルスの召喚時効果で手札に返される事はなくなった」

 

 

所謂「バウンス」と呼ばれる白属性が得意とする効果。それはインパルスガンダムも例外ではなく、オーカの鉄華団モビルワーカーを手札に戻していた。

 

オーカはそれを見越し、対抗策としてそれらを全面的に封じ込めるバルバトス第2形態を場に投入したのだ。

 

 

「アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック!…効果で紫のダブルシンボル」

「成る程、妥当な策だな。しかし、バルバトス第4形態のアタック時効果が【VPS装甲】に阻まれるのは変わらんぞ」

「今はこれで良い」

 

 

何か考えがあるのか、再びバルバトス第4形態を出陣させるオーカ。

 

しかしレオンとて2体のインパルスガンダムを無駄に失うわけにもいかないか。ブロックをするそぶりを見せず、両手を広げ、それを受け入れる。

 

 

「ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉レオン

 

 

メイスでレオンのライフバリアを2つ叩き壊すバルバトス第4形態。そしてこのタイミングでオーカも予測していたレオンのバーストカードが起動する。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動、ソードインパルスガンダム……ライフ1つを回復し、召喚!」

「やっぱそれか」

 

 

〈ライフ2➡︎3〉レオン

 

 

ー【ソードインパルスガンダム】LV1(1)BP5000

 

 

再び出現する赤い装甲、武器はビーム太刀のソードインパルスガンダム。召喚時のバウンス効果はバルバトス第2形態の効果で無効化されるも、一番厄介なライフ回復は健在、2つ失ったライフを即座に取り戻した。

 

それだけではない。レオンの場には合計して3体のインパルスガンダムが揃ってしまう。

 

 

「バルバトス第4形態アタック時効果。スピリットのバトル終了時にトラッシュからスピリットを1コスト支払って召喚、蘇れ鉄華団モビルワーカー!」

「ッ…蘇生効果」

「不足コストはバルバトス第4形態のLVを下げて確保」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

紫のシンボルが砕け、トラッシュにあった鉄華団モビルワーカーが復活。鉄華団スピリットの登場により、創界神ネクサスであるオルガにコアが溜まって行く。

 

 

「さらにエンドステップ。バルバトス第2形態の効果……このターン、スピリットでアタックしていたならトラッシュからコスト4以下のバルバトスをノーコストで再召喚……オマエも来い、バルバトス第1形態!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「また蘇生。頭数を揃える作戦か」

「どうかな……召喚時効果でカードを3枚オープン。対象のカードを手札に加える………オレはバルバトス第6形態を手札へ」

 

 

今度はバルバトス第2形態の効果で今度はトラッシュからバルバトス第1形態が復活。オルガに神託しつつ、その効果で鉄華団カードを手札に加えた。

 

 

「ターンエンド……」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(6)

バースト:【無】

 

 

鉄華団が得意とする戦法の1つである「蘇生」を活かし、場のスピリットの頭数を全力で増やしたオーカ。何か狙いがあるようだが、そのターンを一度エンドとする。

 

 

「人海戦法でインパルスガンダムとの力の差を埋めようと言うのか?……面白いが、ここまでか」

「………」

 

 

並んでいく鉄華団、バルバトスだが、飽くまでもBPの低いスピリット群。レオンはこの戦略を取ったオーカに少々呆れ気味な様子。

 

だがそれでもあのスピリットは呼ぶ気なのか、冷静な表情で口を固く閉じているオーカを見つめながら己のターンをスタートして行く。

 

 

[ターン07]レオン

 

 

「こんなモノかバルバトス。これではまだ一木ヒバナのウォーグレイモンの方がマシだったぞ」

「そりゃそうだ。ウォーグレイモンは、ヒバナは強いからな」

「口が減らんな。このままインパルス軍団だけで貴様を倒す事は容易い………が、いいだろう。冥土の土産に見せてやる……人生を共にした、オレの相棒をな」

「!」

 

 

来るか………

 

雰囲気からそう勘ぐったオーカ。インパルスガンダム達は強力なスピリットであるが、レオンにとっては飽くまでも前座。

 

遂にあのスピリットを召喚して行く。

 

 

「メインステップ………時は満ちた。運命をも覆す我が魂!!……デスティニーガンダムッ!!」

「!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV3(5)BP23000

 

 

蔓延る雷雲。そこから放たれる落雷と共に姿を見せるのは、赤き機翼を羽ばたかせる白きモビルスピリット、デスティニーガンダム。レオンの相棒たるそれが遂にオーカと鉄華団達の前にも出現した。

 

その莫大な維持費にインパルスガンダム達やネクサスカードのコアが取り除かれ、大きくLVダウンして行く。

 

インパルスガンダムとは比べ物にならない圧を放つデスティニーガンダム。それでも肝が据わっているのか、オーカは常に冷静で、表情を一切崩さない。

 

 

「オマエはまだ弱い。だが有望だ………使うカードの強さ、勘の良さ、運。そして揺るがないメンタル……カードバトラーとして必要な要素を全て持ち合わせているからな」

「そんなのいいからさっさとターン進めてくれる?…こっちはもう耳が痛いんだ」

「フ……野暮だったか。なら精々今はこの敗北を糧にするがいい……アタックステップ!」

 

 

レオンはこの段階でオーカをカードバトラーとして高く評価していた。まだ弱いが、このまま育てば自分のような強さをどこまでも求める存在になれると確信している様子………

 

そしてアタックステップ宣言に伴い、デスティニーガンダムの眼光が強く光り輝き………

 

 

「撃て、デスティニーガンダム!…効果でバルバトス第2形態を破壊し、そのシンボル分のダメージを与える!」

「!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉オーカ

 

 

デスティニーガンダムは翼に備え付けられた長めの機関銃を取り出し、ビームを射出。オーカのライフバリアごとバルバトス第2形態を突破して見せる。

 

 

「これでバウンス耐性はなくなった……フラッシュマジック、ホワイトストライク。鉄華団モビルワーカーとバルバトス第1形態の2体をデッキの下に送る」

「!」

「不足コストはインパルス軍団から確保。よってフォースインパルスとソードインパルスは消滅」

 

 

透かさず引き抜かれるマジックカード。3体いるうちの2体、ビームサーベルを備えた青い装甲のフォースインパルスガンダムと、ビーム太刀を備えた赤い装甲のソードインパルスガンダムが消滅してしまうも、オーカのブロッカーであったバルバトス第1形態と鉄華団モビルワーカーの2体が粒子化してしまい、消え去って行く。

 

 

「さらにフラッシュ、デスティニーガンダムの効果。ザフトを持つネクサスカード、ミネルバを疲労させる事でこのスピリットは回復する」

「!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】(疲労➡︎回復)

 

 

効果により回復状態となるデスティニーガンダム。これで少なくともこのターンでは二度目のアタックが可能となった。

 

どこからどう見ても絶体絶命のピンチ。しかしオーカは慌てない………

 

 

「ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉オーカ

 

 

今回二発目のビームを射出するデスティニーガンダム。それはオーカのライフをさらに貫き、そのライフを風前の灯火とさせた。

 

オーカの場に残ったのは疲労状態のバルバトス第4形態のみ。後はデスティニーガンダムがアタックすればその効果でそれを破壊。シンボル分のダメージを与えて彼の勝ち…………

 

であるが、オーカはそれを止めるべく、手札にあるマジックカードを1枚引き抜いて………

 

 

「ライフが減った事により、手札から絶甲氷盾をノーコストで発揮!」

「ッ……ここで防御用マジック」

「この効果でこのターンのアタックステップを強制終了させる」

 

 

オーカが使用したのは「絶甲氷盾〈R〉」のカード。これは自分のライフが減った時に手札からノーコストで使用できる白のマジック。

 

これによりいくら破壊された事のないレオンのデスティニーガンダムと言えどもアタックの宣言ができない以上、追撃はできなくて…………

 

 

「ターンエンド。もう少し粘れるか、流石はオレが見込んだ男だ………」

手札:3

場:【デスティニーガンダム】LV3

【インパルスガンダム】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

誰がどう見ても圧倒的にオーカの劣勢。

 

比較もしようがないカードバトラーとしての実力差。相棒であるモビルスピリットの格差。どこをとってもオーカより獅堂レオンの方が上手だ。

 

 

「オレは師匠にバトルは強さを求めてこそ意味があると常々教えられて来た」

「?」

「だがその強さとやらを求めるには極上のバトルができる相手が必要不可欠………だからこそオレは、オレとデスティニーは常に強者を求めている」

「ふーーん。で?」

「オマエならオレとデスティニーが求める強者になれる!…いつか、必ず!…早くその高みまで登って来い……!」

 

 

昂ったテンションのまま、レオンが叫んだ。師匠の教え、自分が強いカードバトラーを求める理由。オーカにその存在になって欲しい願望を………

 

 

「お望みなら直ぐに登ってやるよ。オマエのその汚いライフ叩き潰してな………」

「ほぉ……それは楽しみだ!」

 

 

デスティニーガンダムの強力な攻撃を毎ターン凌げるわけがない。このターンが実質のラストだ。

 

オーカはヒバナのために全力でターンを進めて行く。

 

 

[ターン08]オーカ

 

 

「メインステップ………行くぞ、4を超えたその先で、未来を掴め!!…ガンダム・バルバトス第6形態…LV3で召喚!!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV3(4)BP12000

 

 

デッキの中核を担うバルバトス第4形態。そのさらに上であるバルバトス第6形態がこの地上に解き放たれる。

 

その身を白き外装に包み込まれており、武器はレンチメイスと呼ばれる大顎のような形をした特殊な鈍器だ。それは登場するなりレオンとデスティニーガンダムを睨みつけるように眼光を輝かせる………

 

 

「アタックステップ!…その開始時にオルガの【神技】を発揮、コア4個をボイドに置き、トラッシュから鉄華団1枚を召喚する!」

「!」

「オレはパイロットブレイヴ、三日月・オーガスを召喚して、そのままバルバトス第6形態と合体!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

ここに来てようやく発揮される創界神ネクサス、オルガ・イツカの効果。

 

モビルスピリットにとっては最高のウェポン、パイロットブレイヴの一種である三日月・オーガスのカードがBパッド上で動き、バルバトス第6形態のカードと重なり合った。

 

見た目の変化は一切ないものの、バルバトス第6形態は劇的にパワーアップを遂げていて………

 

 

「アタックステップ!…行け、バルバトス第6形態!」

 

 

レンチメイスを両手で構え、向かって行くバルバトス第6形態。当然ながら敵の大将であるレオンのライフを狙っているのだが………

 

眼前には自身のスペックを遥かに凌ぐデスティニーガンダムが立ちはだかっていて…………

 

 

「アタック時効果、相手スピリット1体のコア1つをリザーブに置き回復!」

「デスティニーにはインパルスをも凌ぐ【VPS装甲:コスト7以下】を持っている!…本来のコストが7のそいつの効果は受けん!」

「だったら横のインパルスガンダムからコア1つをリザーブに!」

「インパルスは効果で場を離れる時、ターンに一度だけボイドからコア1つを追加し場に残る!」

 

 

ー【インパルスガンダム】(1➡︎2➡︎1)

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]+三日月・オーガス】(疲労➡︎回復)

 

 

背部のスラスターを巧みに使いインパルスガンダムに急接近するバルバトス第6形態。レンチメイスを振い、それを吹き飛ばすも、インパルスガンダムは自身の効果で消滅を免れ、場に残る。

 

 

「今度はパイロットブレイヴ、三日月の効果……スピリットかネクサスカードの維持コアをプラス1。その後、リザーブのコアを鉄華団スピリットの数だけトラッシュに送る!」

「!」

「ミネルバの維持コアを上げ、消滅!…そしてオマエのリザーブのコアを叩く!」

 

 

ー【ミネルバ】(0)消滅

 

 

レオンの背後に聳え立つ母艦、ミネルバの甲板に飛び向かうバルバトス第6形態。甲板に着地後は修羅の如くレンチメイスを突き刺しては叩きつけ、突き刺しては叩きつけるを繰り返していき、ミネルバを爆散、バルバトス第6形態はその爆散による爆風に身を任せ、そのまま場へと着地した。

 

さらにレオンのリザーブのコアが1つ、使用できないトラッシュへと流れ出ていった。

 

縦横無尽にこれでもかと暴れ回り、レオンの場を掻き乱して行くバルバトスであるが、それを自分が止めると主張するように、デスティニーガンダムが眼光を輝かせて…………

 

 

「第6形態のもう1つの効果でこのアタックはスピリット1体を破壊しなければブロックできない!」

「ほう。そのパイロットブレイヴと言い良い効果を持ってるな!…ならインパルスを破壊し、デスティニーでブロックを行おう!」

 

 

果敢に迫り来るバルバトス第6形態に向かって、味方であるはずのインパルスガンダムの頭を掴んで投げ飛ばすデスティニーガンダム。

 

しかし、バルバトスもバルバトスで、飛んで来たそのインパルスガンダムに何の戸惑いも躊躇もなくレンチメイスを振り下ろし、呆気なく爆散させた。

 

だがその攻撃の隙を突いてデスティニーガンダムが猛追。ビーム砲からビームを放ち、バルバトス第6形態の左角を破壊する。

 

 

「デスティニーのBPは23000、対するバルバトス第6形態はパイロットブレイヴによるBP加算を加えても18000!!…勝負あったな!」

「!」

 

 

刃がビーム状となっている太刀を取り出し、バルバトス第6形態を討たんと出陣するデスティニーガンダム。

 

負けじとバルバトス第6形態もレンチメイスを手に持ち、それと真っ向から激しく打ち合って行くが、性能の差か、デスティニーガンダムが徐々に徐々にとバルバトス第6形態を押して行く。

 

そんな劣勢を強いられているバルバトスを見て、オーカは…………

 

 

「どうしたバルバトス、そんなモンじゃないだろオマエは……見せてみろ、オマエの本気………!」

 

 

オーカがそう告げると、緑色の眼光を輝かせるバルバトス第6形態。一度デスティニーガンダムと距離を取り、それに向かってレンチメイスを投擲する。

 

だが、それは虚しくもデスティニーガンダムの拳によって粉々に撃ち砕かれる。

 

 

「人の声、呼び掛けで強くなる程バトルスピリッツは甘くない………終わりだ鉄華オーカミ、バルバトス!!……散れ、敗北の彼方へと!!」

 

 

勝利を確信したレオンが己の決め台詞を口にすると、刃がビーム状の太刀を手に、デスティニーガンダムがバルバトス第6形態の眼前へと迫り来る。レンチメイスと言う名の武器を無くしたバルバトス第6形態には反撃の手段が無い。デスティニーガンダムはトドメだと言わんばかりにそのビーム太刀をバルバトス第6形態へと無慈悲に振り下ろして行く…………

 

しかし、万事休すと言ったこの状況の中、オーカとバルバトス第6形態は………

 

 

「オレと鉄華団は……散らない………散るのは、オマエの方だ!!」

「!!」

「今だ………ぶった斬れ、バルバトス!!」

 

 

オーカがそう叫ぶと、上層に装備されている白き外装を全て一瞬にしてパージして見せるバルバトス。そうした事で、第1形態のような肩部が剥き出しになった状態になるも、バックパックに備え付けられた太刀を手に取り、デスティニーガンダムに向かって構える。その姿は正にもう後がない背水の陣と言えるモノ…………

 

そしてバルバトスは手に持ったその太刀を振い、自分に向かって振り下ろされようとしていたデスティニーガンダムのビーム太刀をその腕ごと斬り裂いて…………

 

 

「なに………!?」

 

 

転がるビーム太刀を手に持ったデスティニーガンダムの腕。その光景をまるで信じられないようにレオンは、ここに来てようやく驚愕の声を上げる。

 

無理もない。これまで一度たりとも破壊されなかったあのデスティニーガンダムの腕が斬り落とされたのだから…………

 

 

「バルバトス第6形態の最後の効果……【零転醒】……相手のライフが減ったかこのスピリットが場を離れる時、裏返す」

「ッ……オマエも転醒を……」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態・太刀装備]+三日月・オーガス】LV2(4)BP19000

 

 

バルバトスがデスティニーガンダムに反撃して見せたのは最後に備えていた転醒の力。バトルで負け、場を離れる代わりに裏側になる事で生き残って見せたのだ………

 

 

「そしてその転醒アタック時効果、相手の場の最もコアが少ないスピリット1体を破壊する……オマエのスピリットはデスティニーだけ、よってそれを破壊するッ!」

「馬鹿か。言っただろう!…デスティニーガンダムは【VPS装甲:コスト7以下】によりその効果を………」

「馬鹿はオマエだ。転醒したバルバトスのコストは8だし、そもそもオルガがいる事を条件に、この効果は装甲系の効果は全て無視できる!」

「なんだと!?」

「……バルバトスッッ!!」

 

 

オーカにその名を叫ばれると、目では追えない程の斬撃をこれでもかと繰り出して行くバルバトス。デスティニーガンダムのもう片方の腕や翼を凄まじい速度で斬り落としていく………

 

 

 

ジュニアクラスの中でも圧倒的に実力が飛び抜けており、プロにも匹敵する力を持っていると囁かれるレオンの実力も相まって、モビルスピリット、デスティニーガンダムは完全無欠、つまり今まで誰もそのスピリットを倒した事がなかったのだ…………

 

だが、ただ今をもってその無敵伝説は終了を迎える…………

 

この鉄華オーカミとバルバトスによって…………

 

 

バルバトスがトドメと言わんばかりに全力で太刀をデスティニーガンダムの胸部に向かって突き刺す。その一撃で致命傷を負ったデスティニーガンダムは遂に身体が悲鳴を上げたか、力尽き、爆散………

 

 

「おぉ……オレの相棒を、デスティニーガンダムを……おぉ、おぉ良いぞ鉄華、そしてバルバトス!!…やはりオレの目に狂いはなかった!!…オマエ達とならオレは至高のバトルを味わえる!!」

「うるさいよ。転醒バルバトスはアタック中にスピリットを破壊した時、相手ライフにダメージを与える!」

「ッ……!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉レオン

 

 

デスティニーガンダムの敗北をきっかけに、求めていた好敵手に出会ったと自覚したレオンは気が狂ったように興奮する。

 

爆発による爆煙、爆風の中よりデスティニーガンダムを倒すと言う快挙を成し遂げたバルバトスがレオンにゆっくりと迫ると、そのデスティニーガンダムをも斬り刻んだ太刀で彼のライフバリア1つも斬り裂いた。

 

 

「これで最後だ……回復している転醒バルバトスでアタック!…合体中の三日月の効果でリザーブのコア2つをトラッシュに送る!」

 

 

転醒バルバトスは三日月との合体でダブルシンボル。レオンの残った2つのライフを破壊する事が可能。さらに三日月の鉄華団スピリットの数だけ相手のリザーブのコアをトラッシュに送ると言うアタック時効果で使えるコアも減少…………

 

しかし、決まったと思えたその直後、レオンは気が狂ったような笑顔を浮かべながら、徐に手札のカードを抜き取り………

 

 

「フラッシュマジック、白晶防壁!!」

「!」

「効果でバルバトス第4形態を手札に。さらにコストの支払いでソウルコアを使った時、このターンの間オレのライフは1しか減らない……ライフで受ける」

「なに!?」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉レオン

 

 

咄嗟に放たれたレオンのマジックカードによってまた戦況が一変。バルバトス第4形態は粒子化してオーカの手札へと強制送還され、転醒バルバトスの一撃はライフバリアとは別に出現した強固なバリアによって緩衝。

 

結果としてレオンのライフを仕留め損なってしまう………

 

 

「惜しかったな。だが見せて貰ったぞ、バルバトスの持つ底力……!」

「………ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第6形態・太刀装備]+三日月・オーガス】LV3

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

完璧な作戦でデスティニーガンダムを破壊し、後もう一歩のとこまでレオンを追い詰めたオーカであったが詰めが甘かった。

 

そしてエースであるデスティニーガンダムを破壊されても尚冷静さを失わず、余裕の笑みを浮かべているレオンのターンが幕を開けていく………

 

 

[ターン09]レオン

 

 

「メインステップ……コアスプレンダーを召喚」

 

 

ー【コアスプレンダー】LV2(12S)BP3000

 

 

現れたのは本日2枚目となる戦闘機型のスピリット、コアスプレンダー。ここまでの戦局からオーカに最早反撃する手段は残っていない事を確信しているレオンはそのままアタックステップへと移行させて………

 

 

「アタックステップ……コアスプレンダー、最後のライフを奪え」

「………」

 

 

オーカの最後のライフを狙い、接近して行くコアスプレンダー。オーカの手札にはレオンの読み通りカウンターで使えるモノはなく、肝心の場もブロックできるスピリットはいない………

 

疲労状態により膝をついたバルバトスの頭上をコアスプレンダーが通り過ぎて行く。終わりだ………オーカは最早最後の宣言をする事しかできない………

 

潔く、その瞼を閉じる………

 

 

「潔いな。すぐさま敗北を認めるか」

「オレが負けて、オマエが勝つ……それだけだろ?」

「フ……それでこそオレが認めたライバル……さぁ、最後のコールを叫べ!」

「………ライフで受ける………ッ」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉オーカ

 

 

刹那。コアスプレンダーがオーカの最後のライフバリアに勢いよく突進していき、打ち砕いた。

 

これにより、鉄華オーカミのライフはゼロ。よって獅堂レオンの勝利だ。健闘虚しく、オーカはバトルに敗北を喫してしまった…………

 

 

「負けた」

「オレのデスティニーを破壊したのはオマエが初めてだ……フフ、鉄華オーカミ、そしてそのモビルスピリットバルバトス。いったいどこまでオレを楽しませればいい」

 

 

敗北直後であると言うにもかかわらず、オーカの表情はいつも通り無であった。確かに悔しさはある。ここで勝ってヒバナに対して頭を下げさせるつもりだったのだから………

 

 

「オレの師匠は言っていた。弱き者にバトルをやる資格はないと……絶対的な力を持つカードバトラーにこそ生きる意味があると……喜べ鉄華。オマエはオレと同類だ。バトルをする意味がある!」

「難しい事は知らないけど、オマエと同類だけは嫌だな」

「何を言う。オレはこのバトルで感じたぞ、オマエの強くなりたいと言う願い、野心を!…これをオレと同類と言わずして何と言う?」

 

 

レオンがずっと求めていたお互いを高め合える好敵手。それが今目の前にいる鉄華オーカミであると悟っていた。

 

これは同類。強さの極みという終わる事のない目標を探究してどこまでも突き進んでいく愚か者であると…………

 

しかしオーカは………

 

 

「みんなそうだろ。強くなりたいって思うの、当たり前だ………でもその中に色んなヤツがいるから、バトスピって面白いんだ」

「それは弱者の戯言だ。バトスピとは面白いの前に勝たねばならない。バトルが面白いと言えるのは強き者の特権、弱者は強くならなければ強者に虐げられる事しかできない。強くなりたかったらその考えは捨てろ」

「捻れてんなオマエ」

「オマエは思ってた以上に真っ直ぐだな。だがそれでこそオレのライバルに相応しい。強くなれ、もっとだ」

 

 

バトスピに対する価値観の違いが相違するオーカとレオン。本当は同じく強さを求める者であるはずなのに、2人はこうも考え方、捉え方が違う………

 

そして次の瞬間、オーカの頭の上に優しく大きな手がポンっと置かれる。それはこの店の店長「九日ヨッカ」のモノであり………

 

 

「アニキ」

「よく言ったな弟分。話は大体聞かせて貰ったぜ……取り敢えず、オマエは出禁だな、界放リーグジュニアクラスの優勝者獅堂レオン」

「ほぉ。オマエが店長………どこかでオレと会ったか?」

「テメェみてぇなクソガキ知らねぇよ……敬語使え。さっさと帰んだな」

 

 

買い物から帰って来て早々。威厳のある風格でレオンにそう宣言するヨッカ。これまでのレオンの行いを考えたら「出禁」は妥当な処理だ。

 

 

「まぁ良い、鉄華オーカミ。オマエと言う存在がこの世にいる事を知った……それだけでも良い収穫だった……次の界放リーグ、必ず出ろ」

「!」

「そこで決着だ。今度こそオレのデスティニーがバルバトスを討ち取る」

 

 

強さとその強さを存分に注ぎ込む事ができる好敵手だけを求めるカードバトラー、獅堂レオンは最後にそう言い残すと、アポローン店内から出て行った。

 

 

「噂には聞いてたが、相当イカれてんなアイツ……負けたみたいだが、あんま気にすんなよ?……相手は界放リーグを常勝するようなヤツだしな」

 

 

落ち込んでいると思い込んで、ヨッカがオーカを励まさんと声を掛けるが…………

 

無表情であるが故に、わかりづらかったが、当の本人はそんな事はなくて………

 

 

「バトスピって不思議だなアニキ」

「?」

「負けても悔しさよりも先に次は勝つって言う思いみたいなのが直ぐにぐわって沢山溢れて来る。オレこんな気持ちになったのなんか生まれて初めてな気がする……!」

「!」

「アイツにまた会うのは嫌だけど、今度その界放リーグってヤツにも出てみたいな」

 

 

悔しい敗北だった事には違いない。かなり腹を立てた相手に敗北を喫してしまったのだから………

 

しかし、それでも前を見ていられるオーカはやはりカードバトラーとしての強い素質を持っているのだとヨッカは改めて思って…………

 

 

「ワッハッハ!!…オマエは大きいヤツだな!」

「?……オレ身長小さいけど?」

「そう言う意味じゃねぇよ」

 

 

これにて、獅堂レオンが巻き起こした小さな騒動は彼の出禁と言う結果で幕を閉じる事になる。まだまだ強くなると誓いを立てるオーカであったが、レオンに心の傷を大きく抉られたヒバナが心残りであって…………

 

 

 

 

 




次回、第8ターン「スサノオ、武士道、Mr.ケンドー」


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第8ターン「スサノオ、武士道、Mr.ケンドー」

獅堂レオン、アイツは決して口だけではなく、強かった。

 

あのバトル、本当だったらデスティニーを出さずともインパルスだけで勝ててたはずなんだ。最後のターンの防御マジックだって、もっと早いタイミングで使えたはずだ。

 

全てはアイツの掌の上だった。

 

つまり、オレはまだまだ弱い…………

 

楽しかった上に悔しい。こんな経験をしたのは生まれて初めてだ。

 

 

******

 

 

「…………」

 

 

獅堂レオンとのバトルから2日が経った。オーカはカードショップアポローンでのバイトを続けながらもあの日のバトルの事を思い返していた。

 

獅堂レオンは強かった。オーカとバルバトスの本気を見るためにわざと手を抜き、実力を合わせていたのだ。しかし、初心者ながらそれに気が付いたオーカもまたバトルに関して優れた才能を持っていると言えて………

 

 

「………ヒバナ、今頃どうしてるかな?」

 

 

ふと思い出したのは友達の一木ヒバナ。オーカがこの街に転校して来て初めて友達になった少女だ。そもそもオーカに友達がいなかったため、彼女が生まれて初めての友達である。

 

そんな彼女は獅堂レオンとのバトルにコンプレックスを掘り出され、その日以来学校を休んでいる。オーカとしては当然心配になる。

 

だが、そんな様子を見計らってか、彼の兄貴分、ヨッカが彼の肩に優しく手を置くと…………

 

 

「ヒバナの事が心配か?」

「まぁ、最近学校休んでるし」

「別に気にする事ねぇよ、その内ケロっと戻って来る………アイツが強いカードバトラーなのはオマエも知ってるだろ?」

「………そっか、アニキがそう言うならそうする」

「おう。そうしろそうしろ」

 

 

兄貴分であるヨッカに全幅の信頼を置いているオーカ。彼の言葉1つで簡単に納得し、ヒバナの事を忘れる。

 

一見すると素っ気ない感じもするが、それ程までにオーカがヨッカを慕っている証拠、彼の言葉はオーカにとってほぼ絶対に等しいのだ。

 

 

「それはそうと明日、オマエに会わせたいヤツがいる」

「会わせたいヤツ?」

「そう。明日はバイト休みだが、ちゃんと店に来るんだぞ……ソイツがきっとオマエの力になってくれる」

「?」

 

 

言っている意味がさっぱりだが、ヨッカの妙に自信に溢れている様子から余程凄い人物が明日このアポローンに来店する事が想像できる。

 

そしてヨッカの言う誰かをわかっているのか、もう1人のアルバイト、雷雷ミツバはその横でクスクスと笑っていて…………

 

 

******

 

 

その翌日。学校の放課後にて………

 

オーカが下校しようと鞄に教材を詰めていたその時に、1個上の学年である少年、鈴木イチマルが勢い良く彼の机の方へと飛び出して来た。

 

 

「鉄華オーカミ!!」

「あぁ、なんだイチマルか」

「なんだとはなんだ!!…相変わらずリアクション薄いな!?」

「オマエは相変わらず喧しいな」

 

 

オーカのライバルの1人、イチマルは「そんな事より」と言葉を続けると………

 

 

「そんな事より行くぞ!!」

「どこに?」

「ヒバナちゃん家に決まってるだろ!!…聞いたぜ、最近あの獅堂レオンに負けて酷く落ち込んでるって!!…こうしちゃいられないだろうよ!!…デッカイ花束買って来て盛大に励ましてやろうぜ!!」

「それはそれで結構迷惑な気がするけど」

「迷惑なもんか〜…オレっちが来たらきっと喜ぶさ!!…んでもって、そこからデートして、遂には結婚もあり得る」

「ふーーん」

 

 

どこまでも一木ヒバナLOVEなイチマル。獅堂レオンに負けて以来不登校になりつつある彼女をどうにか自分なりに励まそうとしているようだ。

 

しかしオーカは………

 

 

「まぁでも、行くなら1人で行けよ。オレ今日アニキにアポローンに呼び出されてるから」

「えぇ!?…おいオマエ、ヒバナちゃんが心配じゃないのかよ!?」

「心配ではあるけど、ヒバナなら大丈夫だってアニキが言ってたし、大丈夫だろ。じゃあな」

「おい!」

 

 

オーカはいつもの素っ気ない態度でイチマルの横を通り過ぎ、教室を後にした。

 

彼が兄貴分であるヨッカの事を敬っているのはわかるが、言葉一つだけでそこまでケロッとできるのはいくらなんでもあり得ないとイチマルは思い………

 

 

「信じられん……マジかよアイツ、仕方ねぇ、オレっちだけでも行くか」

 

 

オーカとてヒバナを心配する気持ちはある。だがそれ以上にヨッカの言葉は絶対。常識人であるイチマルにとって、それは理解し難いモノであった。

 

 

******

 

 

時は数十分程流れ、鉄華オーカミはバイト先でもあるカードショップ、アポローンの前にいた。

 

だが、いつもと様子が違くて………

 

 

「本日貸し切り……?」

 

 

店の扉にはそう言った看板が立てられていた。よくよく建物を見てみると人の気配をあまり感じない。

 

ヨッカは自分を呼びつける際に「会わせたいヤツがいる」「ソイツがきっとオマエの力になってくれる」などと口にしていた。それとも何か関係があるのだろうか………

 

 

「ま、何でもいいか」

 

 

兄貴分であるヨッカに呼び出されたのは変わりはない。取り敢えずオーカは貸し切りの看板を無視して入店していく。

 

入店した直後、いつもと変わりない風景が目に映るが、その中にはとある人物がいて…………

 

 

「よぉ、待ってたぜ……!」

「?」

 

 

そこにいたのは妙な深い赤の仮面で顔を隠している金髪の男性。身長はかなり高く、ヨッカ程度、およそ190はあると思われる。

 

 

「オレの名前はMr.ケンドー……三王の1人で、現モビル王だ!!」

「三王?……モビル王?……つーかその変な仮面なに?」

 

 

Mr.ケンドーと言う少々風変わりな男性。しかし実は相当有名な人物である。その事を説明するために暗がりの店内からひょっこりとアネゴことミツバが現れ、オーカに説明する。

 

 

「ヤッホーオーカ」

「あ、アネゴ」

「三王って言うのはね……この世界の三大スピリット、デジタル、ライダー、モビル、その三つの内どちらかのトップに君臨するカードバトラーの事、この人意外と有名なんだから、結構今凄い状況だよ」

「ワッハッハッハ!!……意外は余計だぞミツバ君」

「ふーーん、三王ね……」

 

 

デジタルスピリット、ライダースピリット、モビルスピリット、それらいずれかのトップに君臨するプロのカードバトラーに送られる名誉ある称号は『三王』と呼ばれている。

 

今、オーカの目の前にいるMr.ケンドーは正しくその中のモビル王と呼ばれる三王の1人に違いない………

 

しかし………

 

 

「じゃあアニキはバルバトスと同じモビルスピリットを使ったトップカードバトラーって事か」

「そうそう、オレこう見えて結構………え?」

「ぷっ!!?!」

 

 

その正体を一瞬にして看破していたオーカ。その様子を見たミツバは思わず吹き出す。

 

そう。モビル王、Mr.ケンドーの正体は何を隠そうあの九日ヨッカなのだ。何が理由かは知らないが、彼は素性を隠しながらプロのカードバトラーとして活躍している凄い人物なのだ。

 

 

「い、いやいや何を言うかなオーカミ君。オレは親友のヨッカ君に君の指導を任されてここに来たんだ!……断じて彼がオレ、オレが彼ではない!!…まぁヨッカ君は訳あって今日は席を外しているがね」

「ふーーん、そうなんだ」

 

(必死に正体隠すセンパイ面白〜〜!!…録画しておけばよかった)

 

 

変装そのモノは完璧であった。今までヨッカはすぐ横で笑いを堪えているミツバ意外に正体を明かした事はなかったし、何よりその変装で見破られた事はなかった………

 

オーカの観察眼が鋭過ぎるだけだ。無意識ではあるものの、息づかいや仕草だけでMr.ケンドーが兄貴分であるヨッカだと見破って見せたのだから………

 

 

「つーか指導って何、バトルでもやるの?」

「あぁもちろん。そのために遥々やって来たんだ!!…今日はオレがみっちりバトルを教えてやるぞ!」

「………なんかちょっと不安だ」

「よし、あーだこーだと言う前にバトル場に行った行った!!」

 

 

オーカの背中を押し、半ば強引に店内のバトル場へと足を運ばせるMr.ケンドー。

 

 

「いや〜〜…センパイって本当不器用な人だよな〜」

 

 

その様子を見届けているミツバは昨日の夜の事を思い出していた。

 

 

ー………

 

 

昨日、閉店後のアポローンにて、店長のヨッカとミツバは明日の予定について話し合っていた。

 

 

「えぇ!?…オーカの特訓相手になるためにMr.ケンドーになる!?」

「あぁ、単純に最近Mr.ケンドーになってなかったし、ちょうどいい肩慣らしにもなる。オマエ絶対オーカ達にオレの正体バラすなよ?」

「別にバラさないっすけど、多分オーカが相手だとバレますよ、あの子なんか軽く常軌を逸してる部分があるし」

「常軌を逸してるってオマエが言う?…お土産にマトリョーシカ式モアイ像とか持って来たオマエが言う?」

 

 

この世界においての三王、その内の現モビル王であるMr.ケンドー、もとい九日ヨッカ。どうやら弟分であるオーカの更なる成長のため、本気で彼とバトルをする気でいるようだが、妹分のミツバからはやや否定され気味。

 

 

「まぁ最悪バレても構わねぇ、本気でバトルをやる事がコイツの送り主からの依頼だからな」

「ッ……モビルスピリット!?…しかも鉄華団!?」

「あぁ、何者かは知らねぇがオレをMr.ケンドーと知ってのご依頼だ。今のオーカがコイツに見あっているか試して欲しいんだとよ」

 

 

………『ガンダム・グシオンリベイク』……

 

その名が刻まれたカードをミツバに見せつけるヨッカ。それはバルバトスではない、ガンダムの名を持つ鉄華団の第二のモビルスピリット。

 

 

「それに、アイツの兄貴分として偶にはカッコいいところを見せておかないとな」

「あぁ出た出た、それが本音だ」

「へっ……アイツの前ではオレは最高にカッコいい男でいたいだけだよ」

「………じゃあそんなカッコ悪い仮面つけて正体隠す必要なくない?」

「それとこれとは別だ。本気を出す時はMr.ケンドーになる。それがオレのポリシーだ」

「………やっぱセンパイってバカだよね?」

「だからオマエが言うなっての!!」

 

 

ー………

 

 

時は戻り現在、そう言ったやり取りがあって、今Mr.ケンドー、もとい九日ヨッカは鉄華オーカミの前にモビル王として立っている。

 

 

「よ〜〜し、頑張れオーカ!!…あんなヘンテコ仮面なんてボコしちゃえ〜〜!」

「おいコラミツバ!!…誰がヘンテコ仮面だ、最高にイカすだろうがァァァー!!」

「おやおや〜〜…なんだかキレ方がどこかの私のセンパイみたいだな〜〜…そもそもMr.ケンドーってこれしきの事で怒る人でしたっけ〜??」

「ぐっ………ん、んんッ!!……すまんすまん、これは失敬、つい取り乱してしまった」

 

 

十中八九程バレているようなモノだが、オーカの前では正体を明かさないMr.ケンドー。それをいい事にこれでもかとメチャクチャ彼を揶揄うミツバ。

 

……『よし、アイツは後で殺す』

 

内心でそう呟くMr.ケンドー。2人きりになったらミツバにはまたしてもキツイお仕置きが待っている事だろう。

 

 

「ねぇもういい?……やるならさっさとやろうよ、アニ……じゃなかった、Mr.ジュードー?」

「ケンドーだ!!……よし行くぞオーカミ君!!…今の君の実力を見させてもらう!!」

 

 

Bパッドとデッキをセットした両者。準備は万端………

 

そして………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共に鉄華団と言う謎のカード群を扱う少年、鉄華オーカミとこの世界のトップカードバトラー、モビル王の称号を持つMr.ケンドーのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はオーカだ。相手の正体が兄貴分であるヨッカであるとわかった上でターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]オーカ

 

 

「メインステップ……創界神ネクサス、オルガ・イツカ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

初手に配置したのは創界神ネクサスの一種、オルガ・イツカ。場には誰も出現しないが、鉄華団デッキの彼にとっては莫大な恩恵を齎す。その後の神託により2つのコアが追加された。

 

 

「ターンエンド。じゃあ見せてくれよ、モビルスピリット使いの、一番上ってヤツを」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

「良い煽りだ!!……それじゃお望み通り、オレのターン!」

 

 

ターンを仰ぐオーカ。今度は世界に君臨するトップカードバトラー「三王」その内のモビル王であるMr.ケンドーのターンが幕を開ける。

 

 

[ターン02]Mr.ケンドー

 

 

「メインステップ……それでは先ず、ネクサスカード最後の優勝旗を配置しよう!」

 

 

ー【最後の優勝旗】LV1

 

 

Mr.ケンドーの扱う色属性は青。青属性のネクサスカード、最後の優勝旗が配置された。それに伴い彼の背後に巨大で尚且つ栄誉ある旗が出現した。

 

 

「配置時効果でボイドからコア1つをこのネクサスに追加。そしてこの効果を使って手札にあるユニオンフラッグの【トップガン】の効果を発揮!」

「??……トップガン?」

 

 

増えるコア。それを糧に効果を発揮させるMr.ケンドー、オーカは聞いた事がないその効果に疑問符を浮かべる。

 

 

「トップガンは自分の場にブレイヴ以外のスピリットがいない時、指定されたコストで召喚ができる効果だ。このユニオンフラッグは本来コスト2のスピリットだが、トップガンにより今回はコスト1として召喚される!」

 

 

ー【ユニオンフラッグ】LV1(1)BP2000

 

 

コストが変更され、呼び出されたのは戦闘機の羽のような翼を持つ青属性のモビルスピリットユニオンフラッグ。

 

 

「2コストのスピリットが1コストで出て来た………!」

「これがトップガン、オレのデッキのメイン効果さ。続いてアタックステップ、ユニオンフラッグよ、ライフを叩け!」

「ッ……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

飛び出すユニオンフラッグ。手に持つライフルを発砲し、オーカのライフバリアを1つ砕いた。

 

 

「ユニオンフラッグのバトル終了時の効果、デッキからカードを2枚ドローし、その後1枚捨てる……オレはこのグラハム・エーカーをトラッシュに捨て、そのままターンエンドだ」

手札:4

場:【ユニオンフラッグ】LV1

【最後の優勝旗】LV1

バースト:【無】

 

 

結果的にトップガンを見せつけ、軽くオーカのライフを小突いただけでそのターンを終えたMr.ケンドー。次は一周回りオーカのターン。逆襲すべくそのターンを進めて行く…………

 

 

[ターン03]オーカ

 

 

「メインステップ……行くぞ、大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV2で召喚!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

「ほぉ、これが噂のバルバトス。君のエースカードか」

「何言ってんだよ、知ってるくせに」

 

 

地の底を叩き割りながら出現したのは黒々とした巨大な鈍器、メイスを携える白い装甲のモビルスピリット、バルバトス。その第4形態。

 

 

「鉄華団召喚により、オルガにコアを追加……アタックステップ、行け、バルバトス第4形態!!」

 

 

オーカのエースカード、バルバトス第4形態。世界に君臨する最強カードバトラー、モビル王を討つべく、メイスを手に背部のスラスターで地上を走る。

 

 

「アタック時効果、相手スピリットのコア2個をリザーブに叩きつける!!……ユニオンフラッグを叩け!!」

「!!」

 

 

ー【ユニオンフラッグ】(1➡︎0)消滅

 

 

バルバトス第4形態はユニオンフラッグに向けてメイスを振り下ろし、そのコックピットごと粉々に粉砕。一瞬にして爆散に追い込む。

 

 

「アタックは継続中……さらに、オルガの【神域】の効果でデッキからカードを3枚破棄して1枚ドロー!」

「よし来い、ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉Mr.ケンドー

 

 

今度は横一線にそれを振い、Mr.ケンドーのライフバリアを玉砕。それだけではない。オーカはスピリットの破壊に加え、挙げ句の果てにはドローをして見せ、このバトルにおいての大きなアドバンテージを獲得して見せた。

 

 

「………ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]LV2

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

「成る程、実に良い攻撃だった。噂になるだけの力はある」

「そりゃどうも」

「だが………その程度ではこのバトル、これ以上オレのライフは減らせないかもな」

「ッ……なに?」

 

 

口角を上げ、笑みを浮かべると、まさかのノーダメージ宣言を行うMr.ケンドー。余程己の実力に自信があるように思えるが、発言からして、このバトルの流れを見据えているようにも聞こえる。

 

そしてここからオーカはより己の実力が如何に最強の男に程遠いかを実感して行く事になる…………

 

 

[ターン04]Mr.ケンドー

 

 

「メインステップ……先ずは【トップガン】の効果を使い、ユニオンフラッグを召喚!」

 

 

ー【ユニオンフラッグ】LV1(1)BP2000

 

 

前のターンバルバトス第4形態によって葬られたユニオンフラッグ、その2機目が場に出現。

 

そして………

 

 

「それじゃ、ちょっとだけ本気を見せようかな」

「!!」

 

 

オーカはMr.ケンドーが手札にある1枚のカードを手に掛けたその瞬間、多大なるプレッシャーを感じる。

 

直感的に悟ったのだ。Mr.ケンドーこと九日ヨッカの本気を………

 

 

「その剣技、大地をも斬り裂く!!……モビルスピリット、マスラオをLV2で召喚!!」

「!!」

「不足コストはユニオンフラッグから確保、よって消滅させる」

 

 

ー【ユニオンフラッグ】(1➡︎0)消滅

 

ー【マスラオ】LV2(3)BP10000

 

 

出たばかりのユニオンフラッグが消滅すると、上空より黒い外装、角を備えたモビルスピリットが飛来して来る。

 

その名はマスラオ。ガンダムの名前こそ持たないが、現モビル王のMr.ケンドーのカードとして名を馳せている強者。その存在感に空気が張り詰めていく。

 

 

「マスラオか。センパイのヤツ、それはちょっとやり過ぎなんじゃない?」

 

 

マスラオが刀状のビームサーベルを取り出すと、このバトルを観戦しているミツバがポツリと独り言を呟く。

 

その言動からしてもやはりこのマスラオは強力なようで…………

 

 

「BP10000……今のバルバトスより上か………」

「バーストをセット。さぁ拝ませやろうかオーカ君、オレのもう一つの十八番を………」

「十八番……?」

 

 

モビル王Mr.ケンドー。

 

彼のデッキの核を担うマスラオには彼が王者たる所以、またはその証とも呼べる効果を備えている。

 

そして今回、それを全くわかっていないオーカに突き刺さっていく………

 

 

「アタックステップ……そしてこの開始時、マスラオの【武士道】を発揮!!」

「武士道!?」

「あぁ、この効果でオレは君のバルバトス第4形態を指定……マスラオは指定したスピリットとBP勝負を行う!」

「!?」

「果たし合いは所望した。受けてたってもらおうかバルバトス!!」

 

 

マスラオがバルバトス第4形態に向かって刀状のビームサーベルを向けると、バルバトス第4形態もまたそれに合わせてメイスを構える。

 

決戦前だと言わんばかりに白けた空風が通り過ぎると、2機は一斉に己が武器を振るう。

 

その勝負は正しく一瞬だった。暫く沈黙が続くが、バルバトス第4形態の武器メイスは矛先から砕け散り、本体にもまた胸部が斬り裂かれて爆散。生き残ったマスラオがこの一瞬を制して見せた。

 

 

「バルバトス!!……アイツ、アタックもしてないのにスピリットとバトルできるのか……!」

「それだけじゃない。マスラオの本領発揮はここからだぜ。【武士道】の効果で相手スピリットだけを破壊した時、相手の手札が5枚以上なら、相手は手札が3枚になるようにトラッシュへ破棄しなければならない」

「ッ……手札を」

 

 

マスラオがオーカから奪うのはスピリットだけにあらず。

 

青の光がオーカの手札を取り上げると、そのまま破棄を要求。致し方なくオーカが内2枚を選択してトラッシュへと破棄すると、残った3枚は元に戻った。

 

 

「アタックはなしだ。ターンエンド」

手札:2

場:【マスラオ】LV2

【最後の優勝旗】LV1

バースト:【有】

 

 

マスラオの【武士道】の効果により場を支配し始めるMr.ケンドーこと九日ヨッカ。

 

モビル王たる実力を知らしめる中、負けじとオーカがターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]オーカ

 

 

「メインステップ……武士道だかなんだか知らないけど、オレのバルバトスは、鉄華団は何度でも立ち上がる!!……鉄華団モビルワーカー2体を連続召喚!!……オルガに神託」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

銃火器を備え付けた車両、鉄華団モビルワーカーが場へと出現。創界神ネクサスであるオルガ・イツカにもコアが5つ溜まり、反撃の狼煙が上がる………

 

 

「アタックステップの開始時にオルガの【神技】を発揮、コア4個をボイドに置き、トラッシュから鉄華団スピリットをノーコストで復活させる!!……今度はレベル3で大地を揺らせ、バルバトス第4形態!!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

鉄華団スピリットをトラッシュより引っ張り出すオルガの【神技】………

 

それにより前のターン、マスラオとの一騎討ちに敗れたバルバトス第4形態が地中より飛び出し、復活を果たす。

 

 

「アタックステップ続行、行くぞバルバトス第4形態………その効果でマスラオからコア2個をリザーブに置く、よってレベルが下がる」

「!」

 

 

ー【マスラオ】(3➡︎1)LV2➡︎1

 

 

良く言えば先手必勝。悪く言えば不意打ち。

 

バルバトス第4形態は何の合図もなく、不意に武器であるメイスをマスラオに投擲。マスラオは咄嗟に二本のビームサーベルでガードし、それを弾き返すも、ビームサーベルは耐久が持たずに爆散。

 

 

「マスラオのLV1 BPは7000、バルバトス第4形態の方が上………さらにLV3効果で紫のダブルシンボル!!」

「2点の攻撃か!!……だったら迎え撃ってもらうぞ、マスラオ!!」

 

 

弾き返されたメイスを手に、マスラオへと直行するバルバトス第4形態。眼前まで距離を詰めると、それを横一閃に振るう。武器を失ったマスラオにこの攻撃を受け止める術はない。吹き飛ばされ、最後は呆気なく爆散してしまった。

 

 

「よし、これで………」

「これで……なんだ?」

「!?」

 

 

……『これで勝てる』とオーカが言いかけた途端。爆発による爆煙の中より一機のスピリットの姿が垣間見える。

 

誠に信じられない光景だが、その正体はさっきバルバトス第4形態が破壊したばかりのマスラオ。何故か爆散したにも関わらず生き残っていた。

 

 

「なんで……」

「バーストカード、愛と憎しみを超えた宿命………これによりトラッシュから破壊されたてのマスラオを蘇生。さらにそうした時、コスト7以下のスピリット1体を破壊する」

「!!」

「鉄華団モビルワーカー1体を破壊!」

 

 

復活したマスラオがビームサーベルを振い斬撃を放つ。鉄華団モビルワーカー1体はそれに引き裂かれ爆散。

 

 

「……モビルワーカーの破壊時効果、デッキの上から1枚を破棄して1枚ドロー」

「まだだぜ。愛と憎しみを超えた宿命の更なる効果、コストを支払う事でトラッシュからグラハムの名を含むスピリットかブレイブ1枚をノーコスト召喚……来い、パイロットブレイヴ、グラハム・エーカー!!」

「ッ……パイロットブレイヴ……!」

 

 

ー【グラハム・エーカー】LV1(0)BP1000

 

 

場には特に影響はなく、何も出現はしないが、Mr.ケンドーのBパッド上にはモビルスピリットを強化するパイロットブレイヴの一種、グラハム・エーカーのカードが置かれる。

 

このグラハムこそ、彼のデッキの真骨頂であって………

 

 

「バーストマジック、愛と憎しみを超えた宿命の最後の効果、このカードの効果で召喚したグラハムを転醒させる!!」

「ソイツ、裏返せるのか……!?」

「あぁ、彼は真の力を解き放つ………来い、ミスター・ブシドー!!」

 

 

ー【ミスター・ブシドー】LV1(0)BP1000

 

 

転醒の力を持つグラハム・エーカー。仮面を付けた金髪の青年、ミスター・ブシドーのイラストが描かれた裏側に切り替わる。

 

 

「ミスター・ブシドー転醒時効果、手札にある【トップガン】か【武士道】を持つスピリット1体をノーコストで召喚し、自身と合体させる!」

「ッ……またノーコストでカードを………」

 

 

発揮されるミスター・ブシドーの強力な転醒時効果。その効果により手札にある1枚のカードに手を掛けるMr.ケンドー。

 

そのカードこそ、彼のデッキの象徴。モビル王たる彼が誇る無敵のモビルスピリット…………

 

 

「その剣技、天空をも斬り裂く!!……モビルスピリット、スサノオを召喚!!」

 

 

ー【スサノオ+ミスター・ブシドー】LV3(1)BP21000

 

 

場へと飛来して来たのはマスラオに似たフォルムのモビルスピリット。その名もスサノオ。一見マスラオと対して変わらないように見えるが、それから放たれるプレッシャーは比ではなく、オーカの感覚だとあのデスティニーガンダムにも劣らない。

 

 

「これがアニキのエースカードか………」

「ミスター・ブシドーの合体中効果、アタックステップ中はLVを最大にする」

「バルバトス第4形態の効果、バトルの終了時に1コストを支払い、トラッシュからスピリット1体をノーコスト召喚する……来い、バルバトス第1形態!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「オルガに神託して、召喚時効果を発揮……オレはパイロットブレイヴ、三日月・オーガスを手札に加える」

 

 

圧倒的なプレッシャーを放つスサノオを前に一歩も怯まないオーカ。第4形態の効果でトラッシュから武器もなく、肩の装甲が剥がれた第1形態を蘇生。その効果でバルバトスと相性が抜群である鉄華団パイロット、三日月・オーガスのカードを手札へと加えた。

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

「フ……そりゃ、そうするよな」

「次のターン、オーカは三日月とバルバトスのコンボで一気に勝負を決めるつもりね。あの攻撃を止められるデッキはそうそうない………次のターンで勝たないと後はないですよセンパイ」

 

 

バルバトスと三日月。鉄華団デッキにおけるこの2枚のコンボは非常に強力であり、オーカも常にこの強力なコンボを意識してバトルを行なっている。

 

三日月が手札に来た今、ライフなど幾らでももぎ取れると考え、オーカは一度ターンエンドとし、次のターンを全力で凌ぎに向かったのだ。

 

紙一重で効果が噛み合って行く中、ようやく一区切りし、Mr.ケンドーのターンが幕を開けて行く。現在、オーカのブロッカーは2体、ライフは4と、とてもではないが一度のターンで破壊し切れる量ではない。次のターンになればバルバトスと三日月のコンボが襲いかかって来る…………

 

スサノオと言うおそらく強力であろうスピリットがいるにしても、現状だと彼の方が圧倒的に不利なのだ。

 

しかし、彼は世界に君臨する三王の一人………

 

不利と言う言葉が通じるような相手ではない…………

 

 

[ターン06]Mr.ケンドー

 

 

「メインステップ……スサノオのLVを最大に!」

 

 

ー【スサノオ+ミスター・ブシドー】(1➡︎5)LV1➡︎3

 

 

エースカードであるスサノオにコアを追加して行くMr.ケンドー。アタックステップになればミスター・ブシドーの効果でLV1であろうとLV3に変更されるが、この行為は紫のデッキである鉄華団に対する対策に違いない。

 

そして、それ以外の行いは何もせず、彼はアタックステップへと身を置いて行く…………

 

 

「アタックステップ!!……スサノオの【武士道】の効果!!…バルバトス第4形態に果たし合いを所望する!!」

「やっぱ持ってたか」

 

 

開幕と同時に行われるスサノオとバルバトス第4形態の一騎討ち。バルバトス第4形態がメイスを振り下ろすがスサノオはそれを難なくかわし、バルバトス第4形態の右肩に短刀を突き刺して装甲を破壊する。

 

これに怯んだバルバトス第4形態を、スサノオは逃さない。今度は長刀でバルバトス第4形態の胸部を一閃。メイスを握る力もなくしてしまったバルバトス第4形態はゆっくりと膝を突き、爆散した。

 

 

「くっ……!」

「マスラオ同様、スサノオにも【武士道】でスピリットを破壊した時に使える効果がある……それはライフの破壊!」

「!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉オーカ

 

 

バルバトス第4形態を倒したのも束の間、スサノオは二本の実体剣で飛ぶ斬撃を放ち、オーカのライフ1つを斬り裂いて見せる。

 

 

「今のは余興だ。本番はここから、アタックステップは続行……スサノオで攻撃する!……そのシンボルは3つ!……この一撃を受ければ君の負けだ!」

「どんな攻撃もブロックすれば問題ない……!」

 

 

ミスター・ブシドーとのコンボで3点のライフを破壊できるスサノオ。しかしそれはオーカがライブで受ければの話。

 

ブロッカーが2体もいる今、一回の攻撃など他愛もない。

 

だが………

 

 

「その常識を覆すのが三王というカードバトラー達さ!!……フラッシュマジック、愛執!!」

「!」

「この効果でコスト合計6まで相手スピリットを破壊し、【トップガン】か【武士道】を持つスピリット1体を回復させる!」

「なに……!?」

「バルバトス第1形態と鉄華団モビルワーカーを破壊し、スサノオを回復状態にする!」

 

 

ー【スサノオ+ミスター・ブシドー】(疲労➡︎回復)

 

 

青き光がバルバトス第1形態と鉄華団モビルワーカーを包み込み、それらを爆散させ、スサノオは二度の攻撃権利を得る。

 

これでオーカには自身を守る盾は何も存在しなくなってしまった………

 

 

「スピリットがダメなら、マジックカードで守るだけだ……フラッシュ、リミテッドバリア!」

「!」

「このターン、コスト4以上のスピリットのアタックじゃオレのライフは減らない。さらにコストの支払いにソウルコアを使った事により、相手のネクサス、最後の優勝旗を手札に戻す!……ソイツの攻撃はライフだ」

 

 

〈ライフ3➡︎3〉オーカ

 

 

全てを破壊し尽くしたスサノオがオーカの眼前へと迫り、二本の実体剣でそのライフバリアを斬り裂こうと試みるも、オーカが咄嗟に放った1枚のマジックカードにより巨大な光の壁が出現し、攻撃は失敗に終わる。

 

 

「これでアンタはこのターン、もう何もできない」

「フ……オーカ、オレが言った10秒前の言葉、覚えているか?」

「?」

「常識を覆すのが三王というカードバトラーだ……スサノオのアタック時効果、このターンのエンドステップ時、もう一度アタックステップとエンドステップを繰り返す!!……そしてこの時、発動中の白マジックは最初のエンドステップでその効力を失う」

「!!」

 

 

モビルスピリット、スサノオに………いや、モビル王Mr.ケンドーにバトルスピリッツの常識は通用しない。一度エンドステップを跨いだ事でリミテッドバリアによる巨大な光の壁は消失………

 

視界がクリアになった事で、スサノオは今一度二本の剣を構えて………

 

 

「中々骨のある良いバトルだった!!……スサノオでラストアタック!」

「……強い、強過ぎる……これがアニキの、いや、Mr.ケンドーのバトルか………ライフで受ける……!」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉オーカ

 

 

二本の剣でオーカのライフバリアを一気に3つ砕くスサノオ。

 

オーカは己の兄貴分がどれだけの大きな力量を持ったカードバトラーなのかという事を強く理解しながら散って行ったのだった…………

 

 

******

 

 

「………また負けた。今のオレとバルバトスじゃ足元にも及ばないって感じだったな」

「ま、気にする事ないんじゃない?……腐っても相手はこの間の獅堂レオンよりも遥かに強い三王だったんだから、逆にオーカは良く頑張ったよ」

 

 

バトル後、店内でデッキのカード眺めながらそう残念そうに呟くオーカにミツバが励ましの言葉を送る。

 

そしてMr.ケンドーもオーカの横に来て………

 

 

「さっきも言ったが、良いバトルだったよ。強いな、鉄華団も君も」

「………アニキ、もういいからそのキャラやめてくれない?…なんか腹立つんだけど」

「…………」

「ぶふぅッー!!」

 

 

オーカがそう言うと、またもや笑いを堪え切れずに吹き出してしまうミツバ。無理もない。いつも小馬鹿にしているセンパイのカッコつかないシーンが彼女にとっては何よりも面白過ぎるのだから………

 

Mr.ケンドーは暫く沈黙すると、軽く溜息をこぼしながら要求通り徐に仮面を取って…………

 

 

「全く、初見で見抜きやがったのはオマエが初めてだぞ」

「うん。やっぱりそっちの喋り方の方がアニキらしくて落ち着く」

 

 

元の九日ヨッカに戻った。オーカにとってはやはりMr.ケンドーの紳士みたいな態度よりも、少々荒っぽい喋り方の方が落ち着くようだ。

 

 

「にしても、強くなったなオーカ。大したもんだよ、バトスピ初めてまだ1ヶ月も経ってねぇっつーのによ………だがまだだ。まだ強くなれ、いつか三王のオレとタメ張れるくらいにな」

「おうっす」

「よし。そんじゃオマエにはコイツをプレゼントだ」

「!!」

 

 

ヨッカがそう言ってオーカに手渡したのは鉄華団の新しいモビルスピリットカード『ガンダム・グシオンリベイク』………

 

バルバトスでもない鉄華団のモビルスピリットに思わず目が惹かれる。

 

 

「アニキこれどこで……」

「また店に届いたんだよ、もちろん匿名でな。中学生のガキが一々誰が届けたとか気にすんなよ、貰えるモンは貰っとけ、ソイツには今のオマエに必要なモノが全て詰め込んである」

「……今のオレに、必要なモノ……!?」

 

 

匿名の送り主との約束を果たすヨッカ。今のオーカにそれは相応しい、いや、必要不可欠であると感じ、そのカードを手渡した。更に強くなれるヒントと共に…………

 

ガンダム・グシオンリベイク。そのモビルスピリットの存在が、これからのオーカのバトルに大きな影響を及ぼす事は間違いない事であって…………

 

 

「……アニキ、これを入れたデッキでもう一度バトルしないか?……早く試したいんだ」

「あぁ、わぁってるよ。何のために今日店を閉めてると思ってんだ」

 

 

表情には出ていないが、グシオンリベイクを入れてのバトルにウズウズして仕方ないオーカ。それを見越しているヨッカは再び店内のバトル場へと移動しようとするが、ミツバが彼の袖を掴んで制止させる。

 

 

「ねぇセンパイ。オーカの事はもう良いとして、ヒバナちゃんの事はどうすんの?……まさか本当に何もしないなんて事……」

「あぁ?……馬鹿言え、ちゃんと手を打ってるに決まってるだろ。多分今日、依頼したヤツがヒバナのとこに行くはずだ。オレを誰だと心得ている」

「変態仮面クソ店長」

「…………」

 

 

ヒバナの事は気にするなと言っておきながら、しっかりとヒバナの事も考えているようである九日ヨッカ。

 

彼がヒバナの元へ送り込んだ人物とはいったい…………

 

 

 

 

 




次回、第9ターン「ダブルオーの呼ぶ風」


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第9ターン「ダブルオーの呼ぶ風」

鉄華オーカミが世界最強のカードバトラーである三王の一人、モビル王の「Mr.ケンドー」とあいまみえていたその時…………

 

自称鉄華オーカミのライバル、鈴木イチマルは予定していた通り、大きな花束を手に、一木ヒバナの家へと足を運んでいた。どうやら今はその玄関前でヒバナの母親らしき人物と会話をしているようで…………

 

 

「ごめんねイっちゃん〜…あの子ちょうど気分転換に外に出たのよ〜」

「そ、そうなんですか!?…ナナコさん、ヒバナちゃんがどこに行ったかわかります?」

「そうね〜……アポローンか、それともタピれる場所とかだと思うけど……」

 

 

イチマルの事を「イっちゃん」と言う呼称で呼ぶこの長い黒髪の女性こそ一木ヒバナの母「一木ナナコ」……14になる娘を持つにしては凄まじくスタイリッシュで若々しい印象を受ける。

 

そんな彼女の証言から、ヒバナがどこかへと出掛けてしまった事が判明した。

 

 

「う〜〜む、状況的にアポローンはなさそうだな………よし、じゃあタピれる場所探して来ます!!」

「うん、心配してくれてありがとうね。じゃあ頑張って!」

「ハイっす!…うぉぉぉお!!……今行くぜヒバナちゃァァァーん!!」

「あの子結構気が短いから、あんまりしつこく言い寄ると逆効果だからね〜〜!!」

 

 

それを知るや否や近場のタピオカショップを目掛けて全力で走って向かうイチマル。ナナコはアドバイスを叫ぶと、その走り行く背中に笑顔を浮かべ、軽く手を振りながら見送った。

 

 

「イっちゃん大丈夫かな?…多分あの子花束なんか渡されても立ち直らないと思うんだけどな〜」

 

 

 

 

******

 

 

「…………」

 

 

一方その頃ヒバナはと言うと………

 

カードショップ「アポローン」に立ち寄っているわけでも、近場でタピっているわけでもなく、ただただ河川敷を横断する橋の上で空や河を眺め、この間の出来事を思い出しながら黄昏ていた………

 

 

 

ー『ウォーグレイモンを持っているならこう使うだろうと言う動きだ。オレの予想の範疇を出ない。この程度の実力でよくあの一木ハナビの娘を名乗れているモノだな』

 

ー『一木ヒバナ。とんだ期待ハズレだった………余程、甘やかされて育てられたのだろうな………そうでなければあり得ない。こんなヤツが一木ハナビの娘など………!』

 

 

獅堂レオン。世界中が注目する大きなバトルの祭典「界放リーグ」……そのジュニアクラスにおいて常に勝利を重ね続けた圧倒的な強者。

 

そんな彼に言われた言葉を思い出していた。言い方こそトゲがあるものの、ほぼ事実だ。

 

 

「なんで………なんで私のお父さんは一木花火なんだろう……?」

 

 

河を眺めながら思わずして呟くヒバナ。当然父が嫌いと言うわけではない。

 

ただ、彼の娘だからと期待だけされて期待通りのバトルができなかったら期待外れと称されるのが単に嫌いだった…………

 

それが故にヒバナは毎年この界放市で行われる界放リーグには参加しない。そんな大きな大会に参加して仕舞えば間違いなく「一木ハナビの娘」として注目されるからだ。そんな状況下に置かれて楽しくバトルなんてできるわけがない。

 

窮屈過ぎて気が狂いそうになる。

 

 

「はぁ……取り敢えずこんな理由で何日も学校休めないし、明日からちゃんと行かないとなぁ……」

 

 

兎にも角にもこんな事をしている場合ではない事は理解しているヒバナ。明日からは無理矢理にでも調子を取り戻そうと心に決めるが…………

 

そんな時だった。自分のすぐ真横から柔らかい女性の声が聞こえて来たのは…………

 

 

「こんにちわ♡」

「わぁッ……!?!」

 

 

何の脈絡もなく耳元で囁かれた声に驚くヒバナ。その声の主は余程のサゾ気質なのか、彼女の様子を見て楽しそうにニコニコと微笑んでいる。

 

 

「うっふふ、ごめんなさいね。驚かせる気はなかったんですが」

「あぁ、いえいえ………ってアオイさん!?」

「はい。偶然見かけたので、お話に来ちゃいました」

 

 

その声の正体は青くて長い髪を靡かせる高校生プロバトラーの早美アオイ。大のモビルスピリット好きであり、鉄華オーカミのバルバトスを拝見するためにアポローンに現れたのは記憶にも新しい。

 

そしてそのすぐ後ろには黒服とサングラスを着用した男性も確認できる。

 

 

「お、お久しぶりです……えっと後ろの男の人は……」

「あ、後ろのヤツはただの執事ですので、気にしなくて大丈夫ですよ〜」

「執事のフグタです。先程はウチのお嬢がご迷惑をおかけしました」

「ちょっとフグタ!!……貴方は自己紹介する必要ないでしょ!?…後ろにいなさいよ!!」

「うるさいぞお嬢」

「なんですって〜!?……それが主人に対する態度ですの!?」

 

 

執事とは思えない程に失礼な態度を取るフグタには珍しく無邪気な様子を見せるアオイ。だがそれは本当は仲が良好であるが故の事だとヒバナは感じていて………

 

 

「あっはは……執事さんと仲が良いんですね……」

「良くないですわ。今度給料を引いておかないと………そうそう、今日は貴女とお話がしたくて参りましたの!……是非ウチの車に乗ってくださいまし!」

「え、あ……はい、喜んで!……ん?ウチの車?」

「はい!…ドライブしましょ!」

 

 

以前会った時に『ヒバナともお話ししたい』的な事を言っていたアオイ。プロバトラーである彼女からそう言われるのは凄く光栄な事なので、ヒバナも断る理由がなくお言葉に甘えるが…………

 

その車がヤバかった………

 

 

******

 

 

 

………どうしよう、何で乗ってしまったんだ、凄く降りたい。

 

ヒバナはそう思っていた。

 

 

「どうですかヒバナさん!…ウチの車の乗り心地は!!」

「は、はい。凄く良い感じです……」

「それは良かったです!…お手洗いは後ろにありますので近くなったら遠慮なくご利用くださいね!」

「後ろにトイレ!?」

 

 

アオイの執事フグタが運転する高級そうな黒い車に乗ることになったヒバナ。後部座席のさらに後ろにある便器に驚愕する。

 

それはさておき、ハッキリ言ってこの車の乗り心地は良好、ソファは最高にふわふわしていてお尻が沈んでいくし、窓も透き通るくらい綺麗で外の眺めが凄まじくいい。

 

だがこんな金持ちの特権のような豪華過ぎる車。緊張して逆に車酔いしそうだ………

 

 

「さて、一息ついた所で、少しお話ししましょうかヒバナさん!」

「あ、はい!…なんでしょう?」

 

 

全然一息もつけないんだけど………

 

などと思いながらもヒバナはアオイの方に顔を向ける。

 

 

「貴女のお父様、一木ハナビ様についてですわ!」

「ッ……ウチのお父さん!?」

「はい!…実はワタクシ、昔から花火様の大ファンでして、是非その娘さんとお話がしたかったんですの!」

「そ、そうだったんだ……なんかちょっと意外」

「カッコいいですよね!!……ワタクシもあんなプロを目指しております!」

 

 

実は一木花火の大ファンだった早美アオイ。彼女がプロになったのも、どうやら彼の影響もあるようだ。

 

 

「この世界にデジタルスピリットを流行らせた先駆者!…そのエースたるウォーグレイモンは最早デジタルスピリット全体の顔と言っても過言ではない!…正にワタクシにとって憧れの的です!……しかし、折角プロになっても今は妹弟子さんと世界を放浪中の身であるとお聞きしております。それがちょっと残念ですわね」

「妹弟子……あぁ、椎名さんの事か」

 

 

止まらないアオイのマシンガントーク。彼女が如何に一木ハナビを推しているのかが窺える。

 

屈指のデジタルスピリットの使い手である彼だが、実はプロバトラーとしての活動を今は半ば休業しており、三王でもない。現在は世界を2度も救った英雄である芽座椎名と共に世界各国に蔓延る強いカードバトラーを求めて旅を続けているのだ。

 

 

「それにしてもヒバナさんが羨ましいですわ〜…尊敬できるお方が肉親にいらっしゃるのですから」

「え、えぇ……そうですね。だから私もウォーグレイモン使ってますし……全然強くはないんですけど……」

「………」

 

 

そう言われ、少し難しそうな表情をするヒバナ。

 

確かに尊敬はしている。だからこそ自分もウォーグレイモンを使っている。しかしそのせいで散々期待外れだと蔑まれた経験もあり、あまり素直に喜べない………

 

早美アオイは、そんな彼女の様子でそれを全て悟ったように黙り込み………

 

 

「ふむ………フグタ、ちょっと次の公園前で止まりなさい」

「給料上げたら止まってやる」

「なんて図々しい!!……でもまぁいいでしょう!」

「じゃあ了解した」

「??」

 

 

2人のやり取りにハテナの疑問符を浮かべるヒバナ。そしてその後何の説明もなく、車は近場の緑が広がる人気の少ない公園に泊まり、3人は表へと出て行った………

 

 

ー………

 

 

「ここは空気が美味しいですわね……」

「あの……どうしたんですか急に」

「よしヒバナさん!!…今すぐこのフグタとバトルを行ってください!!」

「え!?」

 

 

アオイからの突然の提案にヒバナは戸惑う。

 

 

「な、なんでそんな急に………」

「自信がなくなってしまったのでしょう?」

「!!」

「ふふ、だったらバトルでスカっとしませんと!……日頃からムカつくこのチンピラ執事をぶっ飛ばしてやってくださいまし!」

「えぇ……そんな強引な……って言うかそれスカッとするのアオイさんだし」

「ヒバナさんのバトル、見てみたいと思いまして!!……ダメですか?」

「!」

 

 

アオイがメチャクチャ無邪気で無垢を極めたキラキラした目でコチラを見て来る。こうなったらもう断る理由はない。

 

と言うか断れない。ヒバナはそのバトルを承諾する………

 

 

「わ、わかりました……やります、バトル!……任せてください!」

「やったー!!…ありがとうございます!!」

「ちょっと待てお嬢。バトルするにはまたオレの給料を上げてもらわねぇと」

「わかったわかった。勝ったら上げておくからバトルしてちょうだい」

「御意。その言葉、忘れんじゃねぇぞ」

 

 

給料が上がると言う事で執事のフグタはヒバナとのバトルを承諾する。その途端に彼はBパッドを懐から取り出し、左腕に装着、デッキをそこに装填し、バトルの準備を瞬時に行った…………

 

そしてヒバナもまだ少しだけ戸惑いつつも同じようにBパッドとデッキを取り出そうとしたが…………

 

 

「あ、ちょっと待って……これを」

「ッ………これって……赤のデジタルスピリット!?」

 

 

アオイが手渡してきたのは赤のデジタルスピリットのカード。しかも自分が使うアグモン系譜の新規カードだ。それもおそらく彼の父親である一木ハナビも使ってはいないカード………

 

 

「はい!…それは私からの細やかなプレゼントですわ!……是非使ってください!」

「えぇ……でもなんかコレ凄く高価そうだし……」

「遠慮は入りませんから!」

 

 

半ば強引にそのカードを受け取ったヒバナ。適当にデッキに投入すると、それをBパッドに装填した。これで両者共にバトルの準備は万端となる。

 

 

「あ、えっと……一木ヒバナです。よろしくお願いします、フグタさん」

「お客人には悪いが、給料がかかっているんでな……手加減はしないぜ……!」

「は、はは……お手柔らかに……」

 

 

揺るがない表情から感じる給料に対しての確かな熱意。この執事フグタ、かなり本気でヒバナに勝って給料を上げたい様子だ。

 

 

そして………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

アオイの唐突な提案から始まった一木ヒバナと執事フグタのバトルスピリッツ。

 

先攻はヒバナだ。あまり気乗りはしないが、徐にターンを進めていく。

 

 

[ターン01]ヒバナ

 

 

「メインステップ……グレイモンの原初の姿、アグモンを召喚!」

 

 

ー【アグモン】LV1(1)BP3000

 

 

手始めにヒバナが呼び出したのは肉食恐竜をこれでもかとデフォルメした赤属性の成長期スピリット、アグモン。これが進化を重ねていく事で彼女のエースカード、ウォーグレイモンに繋がっていくのはこの世界では常識。

 

 

「召喚時効果で2枚オープン………赤の成熟期スピリット、バードラモンを手札に加えてターンエンドです」

手札:5

場:【アグモン】LV1

バースト:【無】

 

 

先行でできる限りの事をやり終え、そのターンをエンドとするヒバナ。次はデッキが未知数である早美アオイの辛口執事フグタ。

 

給料を上げるために彼は働く。

 

 

[ターン02]フグタ

 

 

「メインステップ……守護神獣モスラを召喚」

 

 

ー【守護神獣モスラ】LV1(2S)BP3000

 

 

「ッ……綺麗なスピリットですね……」

「フグタにはちょっと似合わないと思いますけどね」

 

 

フグタが召喚したのは巨大な蛾のスピリットモスラ。煌めくその羽は見る者を魅了する程に美しい。

 

 

「アタックステップ……モスラでアタック。効果でボイドからコア1つを自身に追加、LVをアップさせ、ソウルコアが上に置かれている事によりさらにBPを3000アップ」

 

 

ー【守護神獣モスラ】(2S➡︎3S)LV1➡︎2

 

 

早速攻勢に回るフグタ。効果で合計BP8000となった守護神獣モスラがヒバナのライフバリア目掛けて飛翔する。

 

BPでは圧倒的に不利なアグモンでそれを防ぐわけにもいかない。となれば彼女の選択肢は一つ………

 

 

「ライフで受けます!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ヒバナ

 

 

モスラの羽で打つ攻撃がヒバナのライフバリアを1つ砕いた。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【守護神獣モスラ】LV2

バースト:【無】

 

 

こちらもできる事を全てやり終え、そのターンをエンドとする。

 

次はヒバナのターンだ。やり返された分の反撃をせんとターンを進めていく。

 

 

[ターン03]ヒバナ

 

 

「メインステップ……ピヨモンをLV2で召喚!」

 

 

ー【ピヨモン】LV2(2)BP4000

 

 

「……2種目の赤の成長期スピリットか。グレイモンデッキと言うよりかは赤デジタルデッキと言ったところか」

 

 

ヒバナがアグモンの横に召喚したのは桃色の小さな鳥型の成長期スピリット、ピヨモン。友達同士であるアグモンに手を振りながら地へと着地する。

 

そして当然ながらこのピヨモンもアグモンと同様に進化を行う事ができて………

 

 

「アタックステップ行きます!…ピヨモンの【進化:赤】により、自身を手札に戻し、成熟期スピリット、バードラモンを召喚!」

 

 

ー【バードラモン】LV2(2)BP5000

 

 

ピヨモンが青白い光に包まれて行き、その姿を大きく変化させていく。やがてその光を弾き飛ばして行くと、中より炎の翼羽ばたかせる巨鳥バードラモンが姿を現した…………

 

 

「おぉ!…これは見事な進化ですね!」

「あっはは……ありがとうございます」

 

 

【進化】の効果を使うだけで子供のようにはしゃぐ早美アオイ。そんな彼女にヒバナは苦笑い。

 

しかしその間にフグタは手札からカウンターのカードを引き抜き、Bパッドに叩きつける………

 

 

「進化させた所悪いが、攻撃はさせない………オレは手札にあるソーンプリズンの【ゼロカウンター】を発揮!」

「え……ゼロカウンター!?」

「相手がノーコストでスピリットを召喚した時に使える。その効果は現在のステップの強制終了!…よってこのターンのアタックステップは終了!…ソーンプリズンは2コストを支払い手札に戻る」

「な……アタックステップを終了!?」

 

 

………【ゼロカウンター】

 

それは相手がスピリットのコストを支払わずに召喚した時に使える文字通りのカウンター。その効果は様々だが、今回フグタが使用した緑マジック、ソーンプリズン〈R〉の効果はその時点のステップを強制的に終了させる効果。

 

【進化】によりアタックステップ中にノーコスト召喚を行うデジタルスピリットのデッキには余りにも部が悪すぎるカードなのだ。

 

 

「せっかくの進化スピリットもアタックできなければ宝の持ち腐れだな」

「くっ……まさかそんなカードを使ってくるなんて……ターンエンド」

手札:6

場:【アグモン】LV1

【バードラモン】LV2

バースト:【無】

 

 

「フグタのヤツ、なにヒバナさんの目の前でドヤ顔してゼロカウンターだなんて使ってるのよ!………まぁでも、カードバトラーの真の実力が試される時はメタカードを使われた直後………彼女がここからどう切り返すのか、実物ですわね」

 

 

ぷんぷんと頬を膨らませながら怒りを見せるアオイだが、プロのカードバトラーらしく冷静にバトルの状況も分析している。

 

そんな中、ドヤ顔でゼロカウンターを決めたフグタがターンを進めて行く。

 

 

[ターン04]フグタ

 

 

「メインステップ……2体目の守護神獣モスラを召喚」

 

 

ー【守護神獣モスラ】LV1(2)BP3000

 

 

羽ばたき舞い降りたのは2匹目となるモスラ。最初の一匹目と合わせて踊るように空を舞う。

 

 

「最初のモスラのLVを2に戻してアタックステップ……最初に召喚したモスラでアタック、効果でコアを1つ追加し、BP8000となる」

 

 

すかさず攻撃を繰り出して行くフグタ。一匹目のモスラが再びヒバナのライフバリアに目をつけ、飛翔する………

 

 

「ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉ヒバナ

 

 

BPで勝てるスピリットもいない。ヒバナはこれをまたライフで受けるが………

 

同じ手は二度も食わないか、手札にあるカウンターのカードをこのタイミングで引き抜いて………

 

 

「私のライフが減って3以下の時、このマジックカード、シックスブレイズはコストを支払わずに発揮できる!」

「!」

「BP12000まで好きなだけスピリットを破壊!…よって2体のモスラを破壊です!」

 

 

彼女の背後より放たれた6つの火炎弾がそれぞれ3つずつ2体のモスラに命中。その体を焼き尽くし、爆散させた。

 

 

「手痛い反撃だな……ターンエンド」

手札:4

バースト:【無】

 

 

スピリットが全滅しても特にリアクションはせず、冷静にこのターンを切るフグタ。ヒバナにターンが渡る。

 

 

[ターン05]ヒバナ

 

 

「メインステップ!…ゼロカウンターに対する唯一の対抗手段は私が【進化】の効果を使わない事!!…ピヨモンを召喚してアタックステップ、3体のデジタルスピリットで総攻撃!!」

 

 

ー【ピヨモン】LV2(2)BP4000

 

 

前のターンの進化で手札に戻っていたピヨモンを再度召喚、直後にアグモン、バードラモンと共にアタックを行うヒバナ。

 

この時、バードラモンのLV2アタック時効果でヒバナはデッキから1枚のカードをドローした。

 

そしてフグタはこの3体の攻撃をブロックできるスピリットがいなくて………

 

 

「3体ともライフでもらおうか」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3➡︎2〉フグタ

 

 

アグモンの鋭い爪、ピヨモンの嘴、バードラモンの口内から放たれる火炎放射がそれぞれ1つずつフグタのライフバリアを粉砕して行く。

 

 

「デジタルスピリットの天敵とも呼べるゼロカウンターをくらわないよう、上手くカードを操ってますね。流石あのハナビ様の娘さんですわ。うんうん………よし、さっさとあんなダメ執事叩きのめしちゃってくださ〜い!!」

「誰がダメ執事だ。今日の夕飯にピーマンでもぶちこまれてぇか?」

「あっはは……とりあえずこれでターンエンドです!」

手札:7

場:【アグモン】LV1

【バードラモン】LV2

【ピヨモン】LV2

バースト:【無】

 

 

アオイとフグタが漫才のように会話を繰り広げる中、ヒバナの快進撃とも呼べるターンが過ぎ去り、再びフグタのターンが幕を開けた………

 

 

[ターン06]フグタ

 

 

「メインステップ………このまますんなりと勝たせてあげたい気もするが、それだとオレの給料が上がらないんでな。残念だが本気で行かせてもらう………マジック、モスラの羽化」

「!?」

「ライフが2以下の時、手札からモスラをノーコストで召喚する………銀を纏う巨蛾、鎧モスラをここに呼ぶ!」

「よ、鎧モスラ!?」

 

 

ー【鎧モスラ】LV2(3)BP15000

 

 

フグタの背後に巨大な繭が現れる。その繭の糸が次第にはち切れていくと、中より銀の外骨格を見に纏い、守護神獣モスラよりもさらに巨大な体躯を持つモスラ最強のスピリット、鎧モスラが銀の鱗粉を撒き散らしながら出現した。

 

状況からしておそらくこれがフグタのエースカードなのであろう。

 

 

「び、BP15000……成長期成熟期どころか完全体でも勝てない……」

「手札からマジック、真空爪破斬。疲労しているスピリット2体をデッキの下に戻す。ピヨモンとバードラモンが対象だ」

「!!」

 

 

究極体、ウォーグレイモンを呼ぶ以外に勝ち筋はない。

 

ヒバナがそう思考を過らせていた直後、フグタのマジックカード、真空爪破斬が炸裂。緑色の斬撃が風を纏いてピヨモンとバードラモンを引き裂き、粒子化。ヒバナのデッキの下へと送り込んだ。

 

 

「アタックステップ、鎧モスラでアタック!……フラッシュマジック、モスラの歌。この効果で鎧モスラを回復。さらにダブルシンボルにより一撃で2つのライフを破壊する!」

「!!」

 

 

ー【鎧モスラ】(疲労➡︎回復)

 

 

ヒバナのライフバリアを撃つべく本格的に羽ばたき飛翔する鎧モスラ。ダブルシンボルによる二度の攻撃を受けて仕舞えばヒバナの負けは確定………

 

だがそれでも耐えられないわけではなくて………

 

 

「まだ負けません!…フラッシュマジック、リアクティブバリア!」

「!」

「鎧モスラのアタックはライフで受けます!………ッ」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉ヒバナ

 

 

鎧モスラの巨大な羽の一撃がヒバナのライフバリアを残り1つ、風前の灯になるまで追い込む。

 

しかし、このままもう一撃とはいかず、先程ヒバナが手札より切ったマジックカード、リアクティブバリアによりその動きは止められて………

 

 

「リアクティブバリアの効果でこのターンのアタックステップを終了させます!」

「………ん。フィニッシュはお預けか、ターンエンド」

手札:1

場:【鎧モスラ】LV2

バースト:【無】

 

 

致し方なくこのターンをエンドとするフグタだが、手札のラスト1枚は【ゼロカウンター】を持つソーンプリズン〈R〉のカード。このカードは【ゼロカウンター】だけでなく、純粋な疲労効果も持ち合わせているため、ライフが残り2つとはいえ、防御は盤石であると言える………

 

対するヒバナとしてはとても攻めづらい状況になっていて………

 

 

[ターン07]ヒバナ

 

 

「メインステップ………」

 

 

その時、ヒバナの手は止まった。

 

無理もない。おそらく残されたターンは残り1ターン。鎧モスラを倒せるのは他ならぬウォーグレイモンしかいない。

 

だが唯一場に残ったアグモンからウォーグレイモンに繋がるためには進化を重ねる事は必須条件。しかしそれだとゼロカウンターで止められる。どう進んでも八方塞がりであった………

 

 

 

 

………やっぱり無理だよお父さん。私じゃウォーグレイモンを使えない……

 

………お父さんじゃないとウォーグレイモンは………

 

 

 

 

獅堂レオンに植え付けられたトラウマが蘇るヒバナ。やはり自分にウォーグレイモンは相応しくないと思い、自己嫌悪に陥ってしまう………

 

だが、そんな彼女に声を掛けてあげたのは他でもない早美アオイだった。

 

 

「デッキとは、40枚以上のカードで構成されたカードバトラーの分身である。それ故にカードバトラーはカード1枚1枚に平等の愛を注がなければならない」

「!?」

「これは誰もが知っているカードバトラーの教訓です。ですがヒバナさん、貴女は今、ウォーグレイモンだけに固執し過ぎてるんじゃありませんか?」

「ウォーグレイモンだけに………」

 

 

この世界におけるカードバトラーの教訓を口にする早美アオイ。この言葉は常識として浸透しており、ヒバナもよく知っている………

 

 

「貴女のデッキはウォーグレイモンだけじゃない。一木ハナビが己のデッキのカードとして選んでいないカード達があるはず………それはもう何モノにも変え難い貴女の分身。私にはわかります、そのデッキが更なる飛躍を望んでいる事を………」

「飛躍を………!!」

 

 

アオイがヒバナにそう告げると、ヒバナはとある1枚のカードに目をつけた。それはバトルが始まる前にアオイ本人から手渡された高額そうなカード………

 

そうだ。ウォーグレイモンだけが一木ヒバナのデッキじゃない。このバトルは一木ヒバナのバトルであって、彼女の父親、一木ハナビのバトルじゃない………

 

自分だけにしかできないバトルをやるんだ…………

 

そう思うと、深呼吸し、自然とターンが進んでいく………

 

 

「行きます!!……アグモンのLVを3に上げてアタックステップ!!……行くよ、アグモン!!…アタック!」

 

 

ー【アグモン】(1➡︎5)LV1➡︎3

 

 

「ッ……BP15000の鎧モスラを前にして成長期のデジタルスピリットでアタックだと?」

 

 

ヒバナの指示を聞くなり元気よく地を駆けていくアグモン。彼女が取ったプレイングは一見無謀とも取れるものである。

 

しかし、これこそ勝利への方程式が導き出した答え。ヒバナはこのタイミングで手札にあるカードを1枚引き抜いて………

 

 

「アオイさんからいただいたこのカード、使わせてもらいます!!……フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はアグモン!」

「!」

「このカードは自分のライフが3以下の時、アグモンに条件を無視、ソウルコアを使わずに煌臨できる!」

 

 

灼熱の炎にその身を包んでいくアグモン。その中でこれまでとは比較の仕様もない進化を遂げていく………

 

 

「アグモン究極進化!!……勇気の想いは、世界を変える!!」

「………!」

「アグモン……勇気の絆!!」

 

 

やがてその灼熱の炎を弾け飛ばしながら現れたのは、新たなるアグモン。グレイモンの頭角、人形の姿、どこまでも伸びそうな三つの尾を持つ究極体、アグモン・勇気の絆がその姿を見せる………

 

 

ー【アグモン・勇気の絆】LV3(5)BP20000

 

 

「成熟期と完全体を介さず、成長期単体で進化した………!?」

「これが……ウォーグレイモンじゃない、アグモンのもう一つの進化の形………煌臨アタック時効果、BP15000以下のスピリット1体を破壊、さらにもう一つのアタック時効果と連動してライフ1つも破壊!!」

「!」

「鎧モスラとライフ1つを貰います!!……超灼熱砲…レッドリーマー!!」

 

 

登場するなり、勇気の絆は両拳を前方に突き出し、螺旋状に炎を放つ。狙う先は当然鎧モスラ。

 

その螺旋炎は鎧モスラを貫き焼き尽くし、さらにはフグタのライフバリアにまで到達し、破壊して見せる。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉フグタ

 

 

「煌臨スピリットはその煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ!!……だからアタック中のアグモンに煌臨した勇気の絆もアタック中です!!!」

「まったく……なんつー強烈なカードを渡しやがったんだよお嬢のヤツ、これでオレの給料アップ計画が台無しじゃねぇか…………フ…まぁいいや。来いよお客人、ライフで受けてやる………ッ」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉フグタ

 

 

接近してきた勇気の絆が空を切り裂くようなカラテチョップでフグタの最後のライフバリアを破壊して見せる。

 

彼のライフが0になった事により勝者は一木ヒバナだ。フグタのBパッドからは彼の敗北を告げるように「ピー……」と無機質な音が流れる。

 

 

******

 

 

「今日は本当にありがとうございました!!……お陰様で色々と吹っ切れました!!」

「ふふ……いえいえ、吹っ切れたのはヒバナさんの心の強さ故です」

 

 

バトルも終わり、時は橙色の日差しが差し込んで来る夕暮れ。ヒバナは今一度アオイにフグタの運転する車に搭乗し、街のカードショップ「アポローン」まで運んでもらっていた。

 

車から出たヒバナは助手席から顔を覗かせるアオイに大きく頭を下げながら今日彼女が自分にしてくれた事に感謝を告げる。

 

 

「応援していますよ。プロカードバトラー一木ハナビの娘ではなく、一木ヒバナさん個人を。今日差し上げたカードも大事に使ってくださいね」

「はい!……あ、フグタさんもバトルしてくださってありがとうございました!」

 

 

ヒバナにそう言われ、運転席から軽くお辞儀するスーパー執事フグタ。その間に、カードショップ「アポローン」の自動ドアが開き、店長の九日ヨッカが姿を見せて………

 

 

「あ、ヨッカさん!」

「おぉヒバナ、元気そうじゃねぇか。何かいい事でもあったか?」

「はい!…とっても!」

「よかったな、オーカとミツバも店ん中いるぞ。顔合わせて来な」

「わかりました〜!…じゃあアオイさん、フグタさん、ありがとうございました!!」

「えぇ、またどこかでお会いしましょ」

 

 

ヒバナがヨッカとやり取りを終えると、ヒバナは鉄華オーカミ、雷雷ミツバのいる店内へと向かっていった。

 

その後、九日ヨッカと早美アオイはお互いに顔を見合わせ………

 

 

「今日は世話になったな、高校生プロバトラー早美アオイさん。お陰でアイツも悩みを振り切れたようだ」

「さん付けはよしてください店長さん。貴方にはこの間鉄華オーカミ君の事を教えてもらった恩がありますし、それに、ワタクシ自身も個人的にヒバナさんとお話がしたかったので」

 

 

2人の会話から読み取れる事は、アオイ自身がヒバナに会ったのは偶然ではなく、彼女自身が望んだ事であるという事。

 

ヒバナの行きそうな場所は、またヨッカから聞いたのだろう。

 

 

「オーカミ君は元気ですか?」

「はっは、アイツに元気なんて言葉は似合わないですよ。日中ずっと仏頂面だし」

「ふふ、そうでしたね」

 

 

オーカの話題になるが、直後に運転席のフグタが「お嬢、もうそろそろ」と耳打ち。アオイもお別れの時間かと言わんばかりに一旦瞳を閉じると………

 

 

「ではワタクシ、もう帰りますね……特訓の時間ですので」

「特訓?」

 

 

清楚で可憐な表情から放たれた言葉は、決して似つかわしいとは言えない「特訓」と言う言葉。これにはヨッカも疑問に感じるが…………

 

 

「えぇ……ワタクシ、目標がありますの………それは、現モビル王「Mr.ケンドー」を倒して私がモビル王になると言う事」

「!!」

 

 

思わずそのセリフに目を見開いたヨッカ。確かにタイトルマッチを三王に挑み、勝利、さらにそれに該当するデッキであれば晴れて三王になる事ができるのだが………

 

まさかプロとは言え、満16歳と言った年齢の少女からそんな言葉が出て来るとは思ってもいなかった。

 

 

「では、ご機嫌よう………Mr.ケンドーさん……」

「あぁ………ん?」

「ふふ、お可愛い事、やっぱり貴方がMr.ケンドーの正体だったのですね………フグタ、車を出して」

「御意」

 

 

既にMr.ケンドーの正体が九日ヨッカである事も知っていたアオイ。どうやら先程のセリフは宣戦布告も兼ねていたようだ。ヨッカは静かにアオイが乗る車を見送った…………

 

 

「………オレの変装ってバレバレなのか…………」

 

 

………まぁいい

 

………来るなら受けてたとうじゃねぇか!!

 

 

今日は弟分のオーカにも正体がバレた事もあり、自分の変装に自信を無くしつつあるヨッカだったが、それはそれ、これはこれ。

 

いずれ来るであろう早美アオイとのタイトルマッチに、同じモビルスピリットを扱うカードバトラーとして胸を躍らせていた………

 

 

******

 

 

一方ここはアポローンの店内。不登校になっていたヒバナが久し振りに店に顔を出した事で、バイトの雷雷ミツバは彼女に泣きながら抱きついていた。その近くには鉄華オーカミもいる。

 

 

「うわぁぁん!!…ヒバナちゃァァァーん!!…元気になって良かったよォォォー!!!……つーか久し振りにヒバナちゃんに抱きついたらめちゃくちゃ良い匂いする!!!……ここは天国か!?……えぇ!?…天国なんですか!?」

「アネゴうるさい」

「あっはは……ホント、ご迷惑おかけしました」

「まぁでも元気そうで良かった」

 

 

なんだかんだで心配ではあったのか、オーカがヒバナにそう言った直後に、ヒバナはミツバの抱擁を掻い潜り、オーカの方へと顔を向けると………

 

 

「ねぇオーカ……私ってどんなイメージ?」

「何その質問」

「いいからいいから」

 

 

えらく抽象的な問いかけをする。ただ、ヒバナがこのような問いかけをすると大抵の人物は「一木ハナビの娘で凄い」だの必ずと言って良いほど彼の父親である一木ハナビの名が出て来る。

 

だがオーカは………

 

 

「どんなイメージって言われても、ヒバナはヒバナだしな………なんか普通の女の子って感じ?」

「ッ………ふふ、そっか!!……普通の女の子か〜!!」

「??……なんで嬉しそうなの?」

「なんでもない〜!!」

 

 

一切自分の父の名を出さず、自分を普通の女の子だと称してくれたオーカにニッコリと笑うヒバナ。きっとオーカが自分の父親であるハナビについての知識が全くないのも理由の一つなのだろうが、それでも凄まじく嬉しかった。

 

そんな2人の様子を見ていた4つ年上のお姉さん、雷雷ミツバも和むように笑顔を浮かべると…………

 

 

「よし!!…今日は寿司だ、寿司行くぞ寿司!!……もちろん、センパイの奢りで!!」

「え?……それ大丈夫なんですか?」

 

 

ミツバのセンパイであるヨッカのお金で寿司を食べに行くと言い張る彼女にヒバナが心配そうにツッコミを入れる。

 

 

「大丈夫大丈夫〜…あの人の口座、ウミガメの卵みたいにお金詰まってるから、寿司くらい余裕よ余裕〜」

「アネゴ、そんな事言ってまたアニキに怒られても知らないぞ」

 

 

その後、寿司屋に行きはしたものの、ミツバが調子に乗りすぎて4人分の自腹を切らされたのはまた別のお話…………

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「ヒバナちゃァァァんーー!!!……どこだァァァー!!!……どこにいるんだァァァー!!!!」

 

 

時は夕暮れを過ぎて日の光も当たらない夜まっしぐら。ヒバナを元気付けようと大きな花束をプレゼントしようとしていた鈴木イチマルは彼女を探すためにジークフリード区中をその足で駆け回っていた…………

 

 

 

 

 




次回、第10ターン「守護神グシオンリベイク」


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第10ターン「守護神グシオンリベイク」

床は木製、壁はコンクリートで固められた素朴な部屋。その一室に九日ヨッカとその弟分、鉄華オーカミはいた。

 

 

「へぇ、ここが今のオマエの拠点か。案外いいとこ住んでんじゃねぇか」

「姉ちゃんが仕事頑張ってるからね」

「そう言うオマエも、ウチでしっかり働いてるだろ?…大したもんだよオマエは」

 

 

ここは鉄華オーカミの家。その一室、バイト先のカードショップ「アポローン」が本日定休日と言う事もあり、オーカは店長且つ兄貴分である九日ヨッカを自宅に招いていた。

 

その家は3LDのそれなりに良いマンションである。オーカは4つ上の姉とここで暮らしているのだが、様子を見る限りではその姉は外出しているようだ。

 

 

「それはそうと、この間渡した鉄華団のモビルスピリットカードは上手くデッキに組み込めたか?」

「あぁグシオンリベイク。うん、まぁぼちぼち」

「ぼちぼちって……オマエなぁ」

 

 

ヨッカがオーカに聞いたのは現状彼しか手にしていない珍しいデッキ、鉄華団のバルバトスに次ぐ新たなるモビルスピリットカード「グシオンリベイク」………

 

間違いなくバルバトスと並んでデッキの双璧となるであろうスピリットカード。それを加えるため、オーカは一晩中初心者でありながらデッキレシピを独自で考え、ようやく新しいデッキが完成した。

 

 

「よし。じゃあ早速今年の界放リーグに向けてオレと特訓………と言いたいところだが、今日は折角のオフだ。息抜き用に、オレがオマエにあるプレゼントを用意した」

「プレゼント?………美味しい奴?」

「そんな生半可なモンじゃねぇぞ」

 

 

ここ界放市で行われる界放リーグと言うお祭り騒ぎの大会。その中の夏に行われる中学生以下、即ちジュニアクラスに出場予定の鉄華オーカミ。当然最近はバイトに通いながらそれに向けて特訓の日々が続いていた。

 

しかし、オフの日まで根を詰めては身が持たないと考え、ヨッカが気を利かせてある物を買って来ていた。それを背中のリュックから取り出して………

 

 

「さぁ見ろオーカ!!…近頃品薄で手に入らない最新ゲーム機『全天堂シュワッチ』とそのゲームカセット『ムエ太郎カート31』だ!!」

 

 

それはゲーム機とそれを使ってプレイできるゲームカセットだった。

『全天堂シュワッチ』とはテレビでできる高性能、高燃費、高画質三拍子揃った優れ物の最新ゲーム機であり、

『ムエ太郎カート31』は『ムエ』と言うオレンジ色の犬みたいな愛らしい小動物が他の変な生き物達と一緒にカーレースを行うと言う内容の大人気シリーズ『ムエ太郎カート』の最新作。

 

巷でこのセットは大変流行を極めており、その総額は計り知れない。きっとヨッカの財布にも相当なダメージが蓄積された事であろう…………

 

それでも彼は日頃頑張っている弟分のためにと思い、大奮発したのだ。

 

しかし、受け取る側である当の本人は…………

 

 

「………何それ、パソコン?」

「え……何って巷で話題のゲーム機だよ!!…オマエだって聞いた事くらいあるだろ?」

「あー…そんなに有名だったら聞いた事はあるんだろうけど、オレ興味なかったらすぐ忘れるしな」

 

 

全くもってその存在を知らなかった。一度くらいその名を耳にしたことはあるのだろうが、いかんせん興味がない事にはさっぱり忘れるタチであるため、いざそのゲーム機を見せつけられてもわからずにキョトンとしていた。

 

 

「……オマエゲームとかやった事ないな?」

「うん。お金の無駄だし」

「そこざっくり言っちゃう?」

 

 

仮にもプレゼントで渡そうとしたゲーム機をヨッカの気も知らず、素っ気ない感じであっさり無駄だと口にするオーカ。余程ゲーム機には興味がなかったのだと理解できる。

 

 

「モノは試せ。食わず嫌いはオマエの悪い所だ、テレビ借りるぞ」

 

 

兎にも角にも、溜まりつつあるであろう日頃のストレスを発散させるにはゲームの力に頼るしかない。

 

ぶっちゃけオーカにストレスなど微塵もないが、お節介故にそう考えているヨッカはオーカに勝って来たゲームをやらせようと部屋のテレビの方へと向かうが…………

 

 

「あ、気をつけてアニキ………そこ、偶に爆発するから」

 

 

「………え?」

 

 

オーカの突拍子もない忠告。現実離れもしているその忠告を聞くなり、ヨッカは「どう言う事!?」と聞く前に………

 

部屋の壁が爆発した。そこに無闇に近づいてしまっていたヨッカはテレビとゲーム機ごとその爆発に巻き込まれしまう。何を思っているのか、オーカはその爆発によって巻き上がった爆煙を冷たい無表情で見つめていた………

 

いや、正確にはその爆煙の中を歩いてくる1人の人物にその顔を向けていた………

 

 

「またアンタか、いい加減にしろよ………」

「おはよう少年!…今日は親戚からヤモリを貰ったらから一緒に食しようじゃないか!!」

「いらないし。つーか普通に玄関から来いよ」

 

 

後髪を一本に纏めたポニーテールにぐるぐる目。オマケに白衣。明らかに科学者ですよと言った見た目の若い女性。親戚からヤモリを貰って食しようとするだけでなく、玄関から入らずに人の家の壁を爆破するあたりが普通の人間とは常軌を逸している。

 

 

「少年は塩焼き派?…それとも醤油焼き派?……それとも意外と茹でる派?」

「だからいらないって。どんだけヤモリ推すんだよ」

 

 

ヤモリを推し続ける科学者的な女性に流石のオーカも顔が引き攣る。いつも冷静で表情が全く変わらない彼であるが、どうやら彼女には苦手意識がある様子。

 

そんな折、爆発に巻き込まれたヨッカは頭がアフロヘアになりながらも復活して………

 

 

「オイィィィイ!!!……何なんだオマエは!!!……隣人だからって普通人の家の壁爆発する!?」

「おっ…少年誰?…この良い顔面の青年は?」

「良い顔面の青年って何!?……普通にイケメンって言えよ!!」

 

 

怒りに満ちた様子で女性に詰め寄るヨッカ。彼女が繰り出す訳のわからない言語にまたはらわたを煮えくり返す。

 

 

「九日ヨッカ。オレのアニキ分だよ」

「お〜〜貴方が九日氏!…名前は存じ上げてた気がしますよ!!」

「気がするだけかい!」

 

 

オーカからヨッカを紹介される。そしてどこまでもマイペースな女性もまた己の名を名乗っていき………

 

 

「申し遅れました!!…アタシの名前は天下メメ!!…誰が呼んだかスーパー美少女マッドサイエンチストとはこのアタシの事です!!」

 

 

イタイ自己紹介に冷たい風が通り過ぎた気がした。そうこの女性こそオーカの家の隣人にして謎の科学者、天下メメ。

 

今回のようにしょっちゅう家の壁を壊してはオーカの前に出現するのだ。

 

 

「……どうでもいいけど、取り敢えず壊れたゲーム機を弁償してくれ」

「ゲーム機?」

「おう。全天堂シュワッチとムエ太郎カート31。さっきの爆発で木っ端微塵になっちまったんだよ」

 

 

先程の爆発で壊れたゲーム機。ヨッカはその弁償を彼女に求める。オーカはこの時「そんなモンより壁を直してくれないかなー」と思ったが、野暮であるとも考えたので敢えて黙った。

 

 

「成る程成る程〜…それで九日氏はそんなにムキになっていたのですね」

「いや、それだけじゃないけど」

 

 

頷くメメにツッコミを入れるヨッカ。もう正直相手にするのが疲れて来たからさっさと終わってくれないかと思っている。

 

 

「それだったらアタシが修理しますよ。こう見えてその手のブツも精通してるんでね」

 

 

メメはそう告げながら爆破により空いた穴から自分の部屋を見せつける。鉄屑やシリンダー、その他諸々のガラクタだらけの部屋はとてもではないが年頃の女性の部屋だとは思えない。

 

 

「おう、それなら話が早い。さっさと直してくれ………」

「いや。その前に条件があります」

「あ?…条件?」

 

 

無料では修理をしないと言い出すメメ。自分から勝手に爆発しておいて図々しいとは思うヨッカだが、一応その条件を聞く姿勢を見せる。

 

 

「そう。その条件とは………このアタシにバトルスピリッツで勝つ事!!」

「………なんでバトスピする必要があんだよ。オマエが100悪いじゃねぇか」

「まぁ本当はアタシも無料で直してあげたい所だけど、そろそろバトスピしないとダメって言うご通知がさっき作者から届いたんだよね」

「それは口にしたらダメなヤツだろ!!!」

 

 

そう。そろそろバトスピをやらないといけないのである。

 

だってこれはバトスピ小説なのだから!!

 

 

「と、言うわけでアタシとバトスピやるぞ九日氏。久し振りに科学者たる力を見せつけてあげようじゃないか」

「いや、アンタの実力は知らんけども………まぁでも、そうだな……オーカ、オマエがやれ」

「!」

 

 

話に興味が無さ過ぎて欠伸をしていたオーカ。ヨッカに突然呼ばれてようやく意識をそちらへと向ける。

 

 

「この間散々つけてやった修行の成果。今ここで見せてくれ」

「あぁ、バトルね。はいはい、わかったよ」

 

 

頼み事がアニキであれば大体は言う事を聞くオーカ。今回もあっさりと承諾する。

 

 

「アレ……少年バトスピやってたんだ。てっきり興味がないもんだと」

「うん。最近始めた」

「……そっか……ふふ。よし、それじゃあこのマンションの屋上でレッツバトスピと行きますかね〜」

「うん」

 

 

メメはオーカがバトスピを始めた事を今ここで初めて知った様子。どこか趣のある笑顔を浮かべる。

 

その後、3人はバトスピをやるため見るためにこのマンションの屋上へと足を運んだ………

 

 

******

 

 

「うーーーん!!!…久し振りのナチュラルエアーは美味しいですな〜」

 

 

場所は8階建マンションの屋上。界放市ジークフリード区の一部を眺められる程に絶景が見えるこの場所にて、オーカとメメのバトルスピリッツが幕を開けようとしていた。

 

因みにメメの言う「ナチュラルエアー」とは自然な外の空気と言う事だ。この言葉から研究詰めで外出は殆どしていなかった様子。

 

 

「よし、やろうか爆弾の人」

「いやアタシの覚え方!!」

「頑張れよオーカ!!…何たってこのバトルは全天堂シュワッチとムエ太郎カート31が掛かってるんだからな!」

「まぁそれは正直どうでもいいかな」

 

 

ある程度会話を交えた所で、オーカとメメは己のBパッドを取り出し、展開して腕にセット。デッキも置いてバトルの準備を整える…………

 

 

「よし。では少年にしかと見せてしんぜよう。このスーパー美少女サイエンティスト天下メメのバトルを!!」

「行くぞバルバトス……バトル開始だ……!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

ヨッカが見守る中、マンションの屋上にて鉄華オーカミとその隣人の通称爆弾の人メメ。2人のバトルスピリッツがコールと共に幕を開ける………

 

先攻はメメだ。テンションが高いのか、何故かドヤ顔を華麗に決めながら己のターンを進めていく………

 

 

[ターン01]メメ

 

 

「メインステップ!!……そいじゃ行きますか、アタシの可愛い可愛いデジタルスピリット、幼年期のクラモンちゃん、いらっしゃ〜い!!」

「!」

 

 

ー【クラモン】LV1(1)BP1000

 

 

メメが召喚したのは余りにも小さなスピリット。一つ目のクラゲのようなデジタルスピリットで、確かに可愛いと呼ばれるだけの愛嬌はある。

 

因みに幼年期とはデジタルスピリットにおいて成長期よりも前の形態。このクラモンそのもののパワーは見た目通り低いと考えられる。

 

 

「ちっさ」

「むっふっふ……少年、バトルはスピリットの大きさで測れるものじゃないぞ!!…このスーパー天才美少女科学者であるアタシが導き出した最強のスピリットに死角はないのだ!!……ターンエンド!」

手札:4

【クラモン】LV1

バースト:【無】

 

 

自身に満ち溢れた笑顔を浮かべながらそのターンをエンドとするメメ。オーカのターンが幕を開けて行く。

 

 

[ターン02]オーカ

 

 

「メインステップ……行くよ、鉄華団モビルワーカー…!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV2(3S)BP3000

 

 

オーカが呼び出したのは銃火器を備えた車両型のスピリット、鉄華団モビルワーカー。いつものように1コストと言う軽いコストでのご登場だ。

 

 

「アタックステップ……鉄華団モビルワーカーでアタック」

 

 

一切の迷いなく淡々とアタックを宣言。鉄華団モビルワーカーがメメのライフを狙い走り出した。

 

 

「その程度、このクラモンが受け止めてしまおう!!」

「だけどBPはこっちの方が上だ」

 

 

そのライフバリアを守らんと小さなクラモンが鉄華団モビルワーカーの前に立ちはだかるが、あっさりと轢かれて爆散してしまう。

 

序盤のアタックは無理なブロックをせずにライフで受けるのが一般的な定石。一見無駄なブロックに見えるが、このクラモンはここからが真骨頂、対戦相手であるオーカにとって一番厄介な効果を発揮させて………

 

 

「クラモンの破壊消滅時、デッキを1枚オープンして、それが同名のカード、つまり同じクラモンなら召喚できる」

「!?」

「聞くより見ろだ!…効果でオープン!!……よし、クラモンなのでこれを召喚!」

 

 

ー【クラモン】LV1(1)BP1000

 

 

「ッ……復活した?」

 

 

メメの場にデジタルの粒子が集まると、それは先程破壊された幼年期のデジタルスピリット、クラモンとなる。

 

 

「これがクラモンの能力、破壊されようが消滅されようがデッキの上がクラモンだったら何度でも蘇る事ができるのさ!」

「………偶々同じカードが捲れただけだろ、ターンエンドだ」

手札:4

場:【鉄華団モビルワーカー】LV2

バースト:【無】

 

 

メメがクラモンの効果を説明、それを理解すると今のは単なるまぐれで、次は失敗すると考えながらそのターンをエンドとするオーカ。

 

だが、彼はまだクラモンの本当に恐ろしい効果を知らない………

 

 

[ターン03]メメ

 

 

「メインステップ!……それでは本日3体目となるクラモンを召喚しようじゃないか」

 

 

ー【クラモン】LV1(1)BP1000

 

 

「3体目……」

 

 

今回のバトルで3体目となるクラモンが姿を見せる。バトルスピリッツにおけるルールとして、同名のスピリットは3枚まで、これでクラモンの復活効果は必ず成功しないはずだとオーカは考える。

 

 

「アタックステップ!……召喚したてのクラモンでアタック!」

「ライフだ……!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

クラモンの体当たりがオーカのライフバリアを砕き割る。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【クラモン】LV1

【クラモン】LV1

バースト:【無】

 

 

1体のクラモンをブロッカーとして残しそのターンを終了するメメ。オーカにターンが巡って来る。

 

そしてこのターンから勝負がより大きく動き出す事になる………

 

 

[ターン04]オーカ

 

 

「メインステップ……大地を揺らせ、未来へ導け……ガンダム・バルバトス・第4形態……LV1で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1(1)BP5000

 

 

「不足コストは鉄華団モビルワーカーのLVを1に下げて確保する」

 

 

地上に降り立ったのはメイスと呼ばれる黒い鈍器を武器とした白いモビルスピリットバルバトス。その基本となる第4形態。

 

 

「この早いタイミングで第4形態……オーカのヤツ、一気に行く気か!……ただ」

 

 

バトルを見守るヨッカがバルバトス第4形態を召喚したオーカを視界に入れながらそう呟く。それはメメの場のスピリットであるクラモンの効果を知っているからこそ言えるものであり………

 

 

「アタックステップ……行け、バルバトス!!」

 

 

オーカの指示を聞き、やる気を見せるように瞳部の眼光が緑色に輝くバルバトス。背部のスラスターを噴射させ、低空で地を駆け抜ける。

 

 

「アタック時効果!…スピリットのコア2つをリザーブに……よってクラモン2体は消滅」

「!」

 

 

ー【クラモン】(1➡︎0)消滅

 

ー【クラモン】(1➡︎0)消滅

 

 

メイスを振い、その空に伝わる衝撃だけでクラモンを吹き飛ばし消滅させるバルバトス。

 

だが、ここでもクラモンの効果は発揮されて………

 

 

「クラモンの破壊消滅時効果!!…デッキを1枚オープンして、それが同名だったら召喚できる。2体消滅したから効果も2回使うよ」

「でも、もうクラモンは3枚揃った……同じカードが捲れる事はない」

「ふっふっふ……甘いな少年」

「!?」

 

 

ー【クラモン】LV1(1)BP1000

 

ー【クラモン】LV1(1)BP1000

 

 

「ッ……4枚目と5枚目のクラモン……??……バトスピって同じカードは3枚しかデッキに入れられないんじゃなかったっけ?」

 

 

普通ではあり得ない現象が起こる。本来なら同名カードは3枚しかデッキに入れられないバトルスピリッツ。

 

だがメメは4体目と5体目のクラモンをこの場に呼び出して見せた。この光景にオーカも思わず目を丸くする。

 

 

「確かに基本はそうだが、アイツのクラモンみたいに何枚でもデッキに投入できるって言うカードもある。まぁ星の数ほどあるデッキタイプの中でもレア中のレア効果だけど」

「なにそれ、インチキじゃん」

「NO NO!!……インチキじゃない、これがクラモンデッキの実力って事さ!……バルバトスのアタックはライフで受けるよ!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉メメ

 

 

アニキ分であるヨッカがクラモンのルールをも変えてしまう特殊な効果を説明。思惑が外れたオーカは少し不機嫌になるが、彼の使役するバルバトスは今一度メイスを振い、メメのライフバリアを1つ破壊した。

 

 

「………ターンエンド」

手札:4

場:【鉄華団モビルワーカー】LV1

【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

未だクラモンの効果に動揺しているのか、一度ターンを終了するオーカ。そんなクラモンを操るメメにターンが移り変わって行く。

 

 

[ターン05]メメ

 

 

「メインステップ、青マジック、ストロングドローを使ってみよう。デッキから3枚引いて、その後2枚をトラッシュに破棄」

「……クラモン以外のカードも入ってるのか」

 

 

メメは手札入れ替えとしてはかなり強力なカードであるストロングドローを使い、その質を向上させる。

 

 

「それじゃあ手札が良い感じになったところでアタックステップ、クラモン2体でアタック!」

「………ライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3➡︎2〉オーカ

 

 

クラモンの攻撃をライフで受けようかブロックしようか悩むオーカだったが、また復活してしまう可能性を考慮し、ここはライフで受けた。

 

風船のようにふわふわと飛んで来た2体のクラモンが彼のライフバリアをまたしても砕いた。

 

 

「ターンエンド!!…さぁ、スーパー天才美少女科学者メメが操るクラモンを突破できるかな?」

手札:5

場:【クラモン】LV1

【クラモン】LV1

バースト:【無】

 

 

クラモンと言う小さな幼年期のデジタルスピリットのみを操りオーカを追い詰めるメメ。しかしオーカも黙ってやられ続けるわけがない。

 

 

[ターン06]オーカ

 

 

「ドローステップ……ッ」

 

 

このターンのドローステップ、引いたカードを目にするなりオーカの堅い表情が一瞬綻ぶ。その様子に彼のアニキ分であるヨッカはあのカードを引けたのだと推測して………

 

 

「引いたかオーカ。今のオマエに足りないモノを補うあのスピリットを……」

 

 

ヨッカが仁王立ちで腕を組みながらそう呟くと、オーカも淡々とターンを進めて行く。

 

 

「メインステップ……2体目の鉄華団モビルワーカーを召喚、バルバトス第4形態のLVを3に上げる」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】(1➡︎4)LV1➡︎3

 

 

小型スピリットの追加召喚に加え、エースのバルバトス第4形態のLVの増強。攻撃の準備は一見整ったかに見えたが、ここでオーカはさらにスパイスを加える………

 

 

「さらにバーストをセットだ……!」

「ッ……ふむ、バーストか」

 

 

バトスピにおける罠カードであるバーストを裏向きでセットするオーカ。彼がこれを伏せるのは今までのバトル内容には一切存在しない。

 

 

「行くぞ爆弾の人、アタックステップ……鉄華団モビルワーカー1体でアタック!」

「それはライフで受けよう!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉メメ

 

 

初撃は2体いる鉄華団モビルワーカーの内1体が勤める。両脇に備え付けられた銃火器から弾丸を放ち、メメのライフバリアを1つ砕いた。

 

そして次だと言わんばかりにバルバトスがメイスを両手で強く握りしめ、構える。

 

 

「バルバトス第4形態!!……効果でクラモン2体からコア1つずつをリザーブに置き、消滅させる!」

 

 

ー【クラモン】(0➡︎1)消滅

 

ー【クラモン】(0➡︎1)消滅

 

 

薙ぎ払うように振るったメイスが空を切り裂き、クラモン2体を吹き飛ばして消滅させる。

 

当然このままでは終わらないわけだが………

 

 

「クラモンの破壊消滅時効果!……おっと、今回は1体だけか〜……まぁでもOKでしょう!」

 

 

ー【クラモン】LV1(1)BP1000

 

 

流石にそう何度も上手くはいかないか。2体いたクラモンは1体だけ復活を果たしたが、残り1体は失敗してしまった。

 

 

「バルバトス第4形態のLV3アタック時効果で紫のシンボルを1つ追加!…ライフを2つ破壊できる!」

「なるほど!!…良い効果だ!!……けど、それくらいでへこたれていたら受け継いだDNAが騒ぐと言うものだよ!!」

 

 

言っている意味はさっぱりわからないが、ニュアンスは反撃してみせようと気概そのモノ。

 

メメは手札から1枚のカードを取り出し、その効果を発揮させる。

 

 

「アタシは手札にあるアーマゲモンの効果を発揮!」

「ッ……別のスピリット効果??」

「このスピリットはトラッシュにあるクラモンを好きな数手札に戻し、戻した数1枚につきコストを3つ下げ召喚できる!!……今回は4枚手札に戻して、そのコストをマイナス12、つまり0コストで召喚する!」

「!!」

 

 

彼女は4枚戻して召喚だと口にしていたが、実際の場には数多くのクラモンが召喚、密集を繰り返して行く。その夥しい光景はまるで悪夢でも描いているかのよう…………

 

そして、完全に一体となって完成したそのスピリットはこの地上へと降り立った…………

 

 

「コトワリを覆す魔神の使い、アーマゲモンをLV2で召喚!」

 

 

ー【アーマゲモン】LV2(3)BP15000

 

 

出現したのは禍々しさと異端さで固められたような黒い竜。マンションの屋上にピッタリ収まってしまうほどの大きさに、今までのスピリットとのスケールの違いをオーカに印象付けさせる。

 

 

「今度のはヤケにデカいな」

「デカいのは見た目だけじゃないぞ!!……効果ももう派手の中の派手!!……召喚アタック時効果、シンボル2つ以上のスピリット1体を破壊!」

「!!」

「察したかな?……バルバトス第4形態には消えてもらう!」

 

 

登場するなり咆哮を張り上げると、アーマゲモンは漆黒の雨のように背中からミサイルを投下させる。

 

バルバトス第4形態はそれを回避できずに全弾命中。堪らずオーカの目の前で爆散してしまった。

 

 

「くっ……ターンエンドだ」

手札:3

場:【鉄華団モビルワーカー】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

バースト:【有】

 

 

手痛いカウンターを貰ってしまったオーカ。鉄華団モビルワーカーを1体をブロッカーとして残す形でターンを終えた。

 

次は見事にアーマゲモンと言う特大級の大型デジタルスピリットを着地させたメメのターン。既に勝ち誇ったようにターンを進めて行く。

 

 

[ターン07]メメ

 

 

「メインステップ……クラモンを追加で1体召喚して、アーマゲモンのLVを最大に」

 

 

ー【クラモン】LV1(1)BP1000

 

ー【アーマゲモン】(3➡︎5)LV2➡︎3

 

 

前のターンに手札に戻していたクラモンが追加で1体召喚され計2体になる。アーマゲモンもLVが上がり、その数値は22000といよいよ手がつけられない値まで上昇する。

 

 

「その鉄華団とか言うデッキ、攻撃は得意みたいだけど防御はイマイチみたいだね〜」

「!」

「このターンでフィニッシュ決めちゃおうかな!!……アタックステップ、攻撃だアーマゲモン!!」

 

 

互いにターンを交わして行く中でオーカの持つ鉄華団デッキの特徴を把握したメメ。確かに鉄華団デッキはバルバトスと言う圧倒的な力の存在から攻撃は得意だが、逆の受け身は弱い。

 

防御力があるとすればそれは汎用性の高い白の防御マジック程度。そう認識し、メメは自身の持つ最強のスピリットであるアーマゲモンに攻撃を命じた。

 

 

「アーマゲモンの更なる効果でこのアタックは相手が相手のスピリット1体を破壊しなければブロックできないよ〜」

「………疲労している鉄華団モビルワーカーを破壊して、回復状態の鉄華団モビルワーカーでブロック。破壊時効果でデッキから1枚を破棄して1枚ドローだ」

 

 

逃げ惑う道もスペースもなく、アーマゲモンのまるで蜘蛛のような脚で串刺しにされ爆散してしまう1体の鉄華団モビルワーカー。

 

そしてもう1体も全く同じ手法で瞬殺。一気にオーカの場はガラ空きとなってしまう。ここにさらにクラモン2体のアタックが飛んで来たらひとたまりもないだろう………

 

だが…………

 

 

「フ………!」

「ん?……何笑ってるのさ少年。やられ過ぎて脳細胞がイカれたのかい?」

「人の部屋の壁爆発させる人にイカれたは言われたくないな」

 

 

秘策があるのか、オーカは薄く笑みを浮かべる。

 

 

「アンタはさっき、鉄華団デッキは防御がイマイチと言った」

「うん」

「でもあるんだ。オレの鉄華団にも、頼れる守護神が………スピリットの破壊によりバースト発動!!」

「ッ……ここでバースト!?」

 

 

その秘策とは前のターンにさり気なく伏せて置いたバーストカードの事。オーカはそれを全力で反転させ、効果を発揮させる………

 

それこそ、そのカードこそ………

 

バルバトスと双璧を成す新たなモビルスピリット…………

 

 

「轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイク!!……LV3で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV3(5)BP12000

 

 

上空から降り立ったのは薄茶色の分厚い装甲を持つ一機のモビルスピリット。

 

その名はグシオンリベイク。オーカのデッキにおける第二のガンダムの名を持つモビルスピリットである。

 

左手に持つシールドと右手に持つハルバードは正しく守護神としての存在を顕著に表しているかのよう………

 

 

「来たか、グシオンリベイク……!」

「まさか2体目のモビルスピリットを隠し持っていたとは……」

「グシオンリベイクのバースト効果。このターンの間、コア2個以下のスピリットのアタックじゃオレのライフは減らない」

「!!」

 

 

早速発揮される守護神たる効果。これにより、このターンの間はコア1個しか置かれていないクラモンによるアタックではオーカは負けない。

 

そしてそれだけではなく………

 

 

「さらに召喚時効果、相手フィールドのコア2個をリザーブに!!」

「む、又してもコア除去!?」

「クラモン2体を消滅させる!」

 

 

ー【クラモン】(1➡︎0)消滅

 

ー【クラモン】(1➡︎0)消滅

 

 

肩部に存在するサブアームを展開し、そのアームで背部にマウンティングされた滑空砲を握るグシオンリベイク。そのままその滑空砲を2体のクラモンに向けて連射。見事命中させて爆散させる…………

 

だがしかし、ここからが本番であって………

 

 

「クラモンの破壊消滅時効果………デッキから1枚をオープン、ケラモンなら召喚できる!」

 

 

今回もまた発揮される。2体やられたのでその効果は2回使える…………

 

勝負の命運を分けるであろうこのカードオープン。だが、勝利の女神は鉄華オーカミに微笑む…………

 

 

「ッ………2回ともハズレた!?」

「よし。運がこっちにも回って来た。これでクラモンはもう復活できない……!!」

「むむ……仕方ない、ターンエンドだ」

手札:6

場:【アーマゲモン】LV3

バースト:【無】

 

 

まさかの2回ともハズレ。いや、鉄華オーカミの勝利を捥ぎ取るような強烈な運命力によってハズされたと言うべきか…………

 

どちらにせよ彼にとっては好機。ここぞとばかりにターンを進めて行く………

 

 

[ターン08]オーカ

 

 

「メインステップ!!……バルバトス第1形態を召喚!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

地中から地響きと共に飛び出して来たのはバルバトスの最初期の姿であるバルバトス第1形態。肩のアーマーが無く、剥き出しになっている事から、それが不完全であると確信できる。

 

だがそんな不完全な状態であってもバルバトスはバルバトス。これで鉄華団デッキの双璧たるモビルスピリット2体が揃った。

 

 

「アタックステップ!!……グシオンリベイクでアタック、その効果で疲労状態のアーマゲモンを破壊!」

「なんですと!?」

 

 

背部のスラスターで上空に飛び立つグシオンリベイク。そのまま急降下、右手に持つハルバードを振り下ろし、アーマゲモンを上から斬り裂いた。

 

堪らず爆散するアーマゲモン。そしてそれにより視界が良好。アーマゲモンを倒したグシオンリベイクはメメのライフを狙い地をゆっくりと歩き出した。

 

 

「グシオンのアタックは続いてるぞ!」

「ッ……ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉メメ

 

 

グシオンリベイクはメメの目前まで迫ると、再びハルバードを縦に振り下ろし、ライフバリアを砕く。その数は遂に残り1つ………

 

トドメはやはりあのモビルスピリットが持っていく。オーカはラストのアタックをコールして………

 

 

「これで終わりだ………バルバトス第1形態でアタック!!」

 

 

背部のスラスターで低空を走るように駆け抜けるバルバトス第1形態。その拳を構え、メメの元へと急接近して行く………

 

そしてここで敗北を確信したか、メメはその瞳をゆっくりと閉じると………

 

 

「負けたか、意外とやるじゃないか少年。ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉メメ

 

 

バルバトス第1形態の拳の一撃がスーパー天才美少女科学者を自称する彼女の最後のライフバリアを砕いていった…………

 

これにより、勝者は鉄華オーカミだ。新たなモビルスピリット、グシオンリベイクを使いこなし、見事勝利を収めて見せた。

 

 

「ん、オレの勝ちだな。取り敢えずアニキとの約束は守ってもらうぞ」

「了解。直して置くよ、ゲーム機」

「………正直家の壁から直してほしいんだけど」

 

 

勝利したにもかかわらず淡々とした口調で話し出すオーカ。年頃の少年のように喜んだり笑ったりしないのが彼の特徴と言えば特徴である。

 

 

「勝ったよアニキ。これでいいんだろ?」

「あぁ、また腕を上げたな」

「グシオンリベイクのお陰だよ」

「何事も経験が大事だ。それがオマエの血となり肉となり支えて行くんだぞ」

「ふーーん。まぁ取りあえず腹減ったから部屋に戻るよ」

「……オマエってヤツは本当にどこまでも野生的と言うか本能的と言うか……」

 

 

勝利に驕らず、減った腹を満たすべく階段を降りて行くオーカ。アニキ分であるヨッカとしては、感情の起伏が乏しい彼の事が将来的に少し心配になる。

 

そんな折、メメが口角を大きく上げた笑みを浮かべながらヨッカの元まで歩み寄って来て………

 

 

「少年、バトスピやってからちょっと変わったかもね。ちょっと前、ここに来たばかりの時は一切笑った顔なんて見せなかったし………って言っても今でも笑う姿が見れるのはバトルしてる時だけみたいだけど」

 

 

数ヶ月前、オーカとその姉がこのマンションの自分の部屋の隣に越して来て、初対面した時の事を思い出していたメメ。普段のオーカとバトルをしている時のオーカとではかなり違うと感じていた。

 

 

「これも多分、九日氏のお陰なのかな?」

 

 

メメにそう言われ、ヨッカは手を顎に当て「う〜〜ん」考え込み………

 

 

「いや、オレの出会いよりも多分「鉄華団」との出会いの方が影響は大きいだろうな………アイツと鉄華団の出会いは何か大きな運命を感じるんだ」

「………どうしたの九日氏、ちょっとキモイぞ。ポエマーっぽくて」

「オマエが言わせたんだろ!!」

 

 

マンションの屋上、だだっ広い大空に向かってヨッカの叫び声がコダマした。こうしてまた平和な1日が過ぎ去って行く…………

 

 

 

******

 

 

後日、オーカとヨッカは無事に修復されたムエ太郎カート31を壁の直ったオーカの家で遊んでいた。テレビ画面に映るチンチクリンなキャラクター達を彼らは操ってレースを繰り広げている。

 

 

「………アニキ、これのどこが楽しいの?」

「楽しいって!!…オレの家ではマジで大流行してんだぞ!!……度々バグってるからそう感じるだけだ!!」

 

 

イマイチ面白さを理解できないオーカ。ヨッカは自信満々にこのゲームを持って来たばかりにどうにも引き下がれない。どうしてもオーカにこのゲームの素晴らしさを伝えたい………

 

はずなのだが、何故か所々起きてしまう画面が止まると言うバグのせいで確かに面白味に欠けるのかもしれないとも考えていて………

 

 

「あのグルグル目の女!!……本当に完璧に直したんだろうな!?……ったく」

 

 

怒るヨッカが立ち上がり、ゲームを直そうとテレビ画面に近づくが………

 

ここでもまた事件は起こった…………

 

直ったはずの壁が又しても大爆発。その爆煙にヨッカは吹き飛ばされてしまう。そして犯人は当然あの人………

 

 

「おっは〜!!…スーパー天才美少女科学者のメメです!!……少年、親戚から貰ったイモリいる?」

「………いらない。早く壁直せよ」

 

 

また壁を壊された怒りからか、オーカはこれでもかと言わんばかりの冷たい目をメメに向けるのだった………

 

 

 




次回、第11ターン「剣帝、赤羽カレン」


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第11ターン「剣帝、赤羽カレン」

喉かな夏がやって来た。

 

照りつける日差しが肌に刺さり、暑さを感じさせる。そしてそこら中で鳴り響く蝉のオーケストラが、その暑さをさらにグレードアップさせる。

 

そんな猛暑となった街の中、鉄華オーカミとその兄貴分、ヨッカは自分達が働くカードショップ「アポローン」までの道のりをぐだぐだと歩いていた。

 

 

「暑い…………おいオーカ。水筒取ってくれ」

「良いけど、もう水ないよ」

「………マジかよ………つーかなんでオマエこんな暑い中平気な顔してられるの?……なに、まさかマサイなの?……おい、マサイなのか?」

「何言ってんのアニキ」

 

 

買い出しに向かったのが運の尽き。お陰様で2人は焼けたアスファルトの上を歩く事になったのだ。

 

弟分のオーカは何故か平気そうな顔をしているが…………

 

 

「お、そう言えばオマエに伝えないといけない事があったんだった」

「?」

 

 

ヨッカは暑さを紛らわせるためにも一度話題を切り替える。

 

 

「今度、あの早美アオイとタイトルマッチをやる事になったよ。もちろんMr.ケンドーとしてな」

「ふーーん」

 

 

それはヨッカがモビル王としての顔、Mr.ケンドーとして高校生プロバトラーは闇アオイとモビル王の座を賭けてタイトルマッチを行うと言う内容だった。

 

早美アオイはダブルオーをエースとして活躍する少女で、オーカとも一度バトルした事がある因縁の相手だ。

 

 

「ふーーんってオマエ、そんなどうでもよさそうに」

「別にどうでもよくはないけど、バトルするのがオレじゃないから」

「オレ一応このバトルで負けたらモビル王から降ろされるんだが」

「応援はするよ、頑張れアニキ」

「おう。オマエも今度の界放リーグ頑張れよ」

「うん」

 

 

小さく笑い合いながらお互いに拳を合わせる。この行動は2人の絆の象徴とも呼べるモノ。ヨッカは俄然、今度の試合でのモチベーションを上げる。

 

 

「界放リーグか。最近ヒバナとイチマルが店に来ないのもその大会の準備に忙しいから………なのかな?」

「だろうな。街で1番の大きな大会だし、気合入ってんだろ………なんだオマエ、寂しいのか?」

「いや、別に」

 

 

界放市一のビックイベント「界放リーグ」…………

 

その中でもオーカは中学生以下の大会であるジュニアリーグに参加する。バトスピを通じて友人となった一木ヒバナ、鈴木イチマルはそこに向けてデッキのチューンアップに勤しんでいる。

 

 

「フ……今度のオレの試合を応援する時に観戦を誘ったらどうだ?……オマエと一緒ならヒバナも来るだろうし、ヒバナが行くならイチマルのヤツも来るだろうしな」

「うん。そうする」

 

 

起伏に乏しい表情だが、少しだけ嬉しそうに頷く。

 

 

「あ、やべ………」

「ん?」

「やばいぞオーカ、買い忘れだ。オレは今すぐ店に戻るからオマエはそこの公園の日陰で休んでろ、直ぐ戻っから!」

「わかった」

 

 

買い忘れを思い出したヨッカは道を逆走。オーカを置いてスーパーへと直行した。オーカは言われた通りに大木の存在で木漏れ日が全く刺してこない公園へと涼しみに向かった。

 

 

「…………」

 

 

******

 

 

とある事務所。空調の効いた一室にて、高校生プロバトラー、早美アオイはデスクに向かってBパッドを眺めていた。

 

その画面からは現モビル王であるMr.ケンドーのバトルが映し出されている。どうやら彼女は今度の彼との試合に向けて猛勉強している様子。

 

 

「……ほい紅茶」

「あら、気が効くのねフグタ」

 

 

彼女の召使いの青年、フグタがカップ一杯の紅茶をデスクの上にそっと置いた。

 

 

「最近寝てねぇんじゃねぇか?……寝ないと身体に毒だぜ」

「どうしたの急に。いつもは悪態しか吐かない癖に」

「お嬢は旦那さんから貰った生涯の宝物だからな。そりゃ心配になるんだわ」

「フグタ………」

 

 

珍しくイケメンなセリフを吐くフグタにアオイは少しキュンとする。

 

 

「なんてのは建前で、本当は心配したら給料上がるかな〜って思っただけです」

「ぶち殺されたいんですの!?」

 

 

一瞬だけキュンとした自分が馬鹿だった。やはりこの男、給料の事しか頭に入ってない。

 

 

「だけど、どうせオレが止めようとしても無茶するんだろ?」

「………」

 

 

急に真面目な表情を見せるフグタ。アオイはカップ一杯の紅茶を啜ると、返答する。

 

 

「えぇ……だってモビル王にならなければ私の計画は始まる事もないのだから…………」

 

 

静かにそう答える。アオイの深い計画を知るモノは未だ殆ど存在しない…………

 

 

******

 

 

 

「…………アニキ遅いな」

 

 

遊具もない簡素な自動公園。その中にある木漏れ日さえ差し込んで来ない程の大木の根本。オーカはそこにあるベンチに腰を下ろしていた。

 

どこか道草でも食っているのかは知らないが、待ち始めてから15分。もうそろそろ帰って来ても良い頃なのに未だにヨッカが帰って来ない。

 

 

「よぉ、チビ助」

「ん?」

 

 

そんな待ちぼうけていたオーカに高圧的な声色で声をかけて来たのは太めの体型であるあの男…………

 

オーカが難航して来た初日に彼から金を集ろうとしたあの人物だ………

 

 

「あぁなんだ、フクシマか」

「誰だそれ!!!……ブスジマだよ!!……校舎裏でオマエから金奪おうとしたろ!?」

「自覚あったの」

 

 

ガラの悪いドクロマークのTシャツを着た少年の名はブスジマ。オーカの一学年上で、学校一の性悪で有名だ。

 

 

「で、そのブスジマがまたオレになんの用?」

「ブハハハ!!……よくぞ聞いた。オマエ、最近あの早美アオイにバトスピで勝ったそうじゃねぇか。しかも誰も見た事がないスピリットで」

「うん。それが?」

 

 

随分前に出版された新聞記事をオーカに見せつける。これは以前オーカが早美アオイに勝利して取り上げられたモノ。

 

これがキッカケで界放市の現ジュニアトップの獅堂レオンと諍いに巻き込まれたのは未だに腹立たしいものの、今となってはそれも良い思い出だ。

 

 

「ブハハハ!!!…そうか、やっぱそうなのか!!……じゃあオレ様がオマエとのバトルに勝ったら、その誰も見た事がないカードはオレ様のモノになると言う事だな!!」

「なんでそうなんの。相変わらず自分勝手なヤツだな。そんなんじゃ、いつまで経っても名前、覚えてもらえないぞ」

「それはオマエのせいだろ!!」

 

 

理不尽な事を言い放つブスジマ。どうやら彼はオーカの鉄華団のカードを奪うのが目的でこんな猛暑日に彼を探し回っていたらしい。

 

 

「噂で聞いたぜ、オマエバトスピ初心者なんだろ?……どうせ早美アオイに勝ったのも何かの間違いか、運が良かっただけに違いない」

「は?」

「さぁさぁ、さっさとBパッドを構えろよ。でもって無様に負けてオレにそのカードをよこしな」

 

 

懐から取り出した己のBパッドを腕にはめ、構えながらオーカを煽るブスジマ。流石に腹を立てたか、オーカは静かに怒りを燃やしながら立ち上がると、自分もまたBパッドを構えようとするが…………

 

その時だった。

 

 

「そこで何をやっている?」

 

 

ー!!

 

 

「………誰?」

 

 

剣のように鋭く、気高い声色。その声の方へと2人が振り向くと、そこには金色の髪を一本に結ったポニーテールの少女がいた。

 

かなりの美人だが、オーカは知らない。頭にハテナのマークを浮かべるが、その横にいるブスジマの反応は違った…………

 

 

「う、ウソだろ……あ、赤羽カレン!?!」

「?」

 

 

いつもの無表情を見せるオーカとは違い、ブスジマは彼女に怯えていた。その事と、名前を知っている事から、彼女がそれなりに有名な人物である事は理解できる。

 

 

「だから誰?……オマエの知り合い?」

「オマエ、赤羽カレンを知らねぇのかよ!?……この街のジュニアNo.2……その剣のように鋭い性格とバトルスタイルから「剣帝」とまで呼ばれてるんだぞ!?」

「ふーーん」

 

 

その名は「剣帝」赤羽カレン。界放市では獅堂レオンに次ぐ強さを持つ有望なジュニアの1人。それが今、こうして2人の前に聳え立っている事は正に奇跡の出来事と言える。

 

自分から聞いておいてどうでも良さそうに返答するオーカ。ブスジマが弱腰になっているのを見る限り、彼女が相当恐れられている事は間違いなさそうだ。

 

 

「そこで何をやっているのかと聞いている。さっき小耳に挟んでしまったが、まさかオマエ、賭けバトルをやるつもりじゃないだろうな?」

「!!」

「賭けバトルは法律で禁止されている。バトルで何かを賭けるなら、己のプライドだけを賭けろ………さもなくば、私のデッキという名の剣が黙ってないぞ?」

「ヒ………ヒ、ァァァァァァァァァー!!!?!」

「あ、オイ………帰っちゃった」

 

 

完全に見通されているブスジマ。彼女の鋭い視線から放たれるプレッシャーに臆し、大きな背中を見せつけながら一目散に逃げ去っていく。

 

 

「……界放リーグが近くなるとあぁいう奴が増えてくるんだ。大丈夫だったか?」

「ん?……うん、まぁね。別に助けてもらわなくてもよかったけど」

 

 

オーカを上背から見下ろして来るカレン。彼女はオーカを庇おうとしていた様子なので、どうやら噂通りの怖いだけの人物ではないらしい。

 

しかし、話はそれだけでは終わらず、カレンはさらに口を開いて………

 

 

「………そうか。助けは不要だったか、流石はあの早美アオイを下した男、鉄華オーカミだな」

「ッ………オレの名前知ってんの?」

「そりゃもちろん。今界放市中で有名だからな、君と、君のモビルスピリットは」

「そーなんだ」

 

 

獅堂レオンやブスジマだけではない。今や鉄華オーカミの名前は界放市中で話題を呼んでいる。このカレンも例外ではない。

 

知っててオーカを助けたのだ。

 

 

「じゃあ尚更何でオレを庇ったんだよ。アイツくらい軽く捻り潰せたのに」

「君は見た目のイメージよりもずっと言葉遣いが物騒だな」

 

 

カレンは腕を組みながらオーカの質問に答えていく。

 

 

「実は、風の噂で聞いたあの話が本当かどうか知りたくてね。本人を目の前にして、居ても立っても居られなくなったんだ」

「風の噂?……なにそれ」

「それはコレの中で話そう……君も正直私とバトルしたくて疼いているんじゃないか?」

「…………」

 

 

バトスピ用端末、Bパッドを見せつけながらオーカにそう告げるカレン。正直な話、彼女が界放市で2位と聞いてオーカもバトルがしたくてたまらない………

 

どちらにせよ、バトルを振られて逃げると言う選択肢は彼にはなくて………

 

 

「わかった。受けるよそのバトル」

「あぁ、感謝する」

 

 

バトルは当然承諾。2人とも間隔を空け、Bパッドを腕に装着し、展開。そこにデッキをセットし、バトルの準備を瞬時に終える………

 

そして…………

 

 

「行くぞバルバトス。バトル開始だ………」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

木漏れ日さえも遮る大きな大木が特徴的な自動公園の中、いつものコールと共に鉄華オーカミと剣帝、赤羽カレンのバトルが開始される。

 

先攻はカレン。剣のように真っ直ぐで鋭い視線をオーカに向けながらそれを進めていく。

 

 

[ターン01]カレン

 

 

「メインステップ………私はネクサス、ワンダーワールドをLV1で配置」

「ッ……なんだ?」

 

 

ー【ワンダーワールド】LV1

 

 

カレンの配置したネクサスカード。その影響で周囲に巨大な本が出現。ページが開いていくと、そこから空に浮かぶ小島、龍やグリフォンなどの架空な生き物が闊歩するファンタジーな世界が出現。飛び交う無数のシャボン玉がよりそれを顕著に感じさせる。

 

 

「ターンエンド。バトスピとは互いのプライドを賭けてやるものだ。私も全力で行く、だからオマエも全力で戦え」

手札:4

場:【ワンダーワールド】LV1

バースト:【無】

 

 

「一々固いな……まぁ言われなくても全力で行くけど」

 

 

真面目な性格のようで、言動がつくづく固いカレン。オーカはそんな彼女に少々呆れながらも己のターンを始めていく。

 

 

[ターン02]オーカ

 

 

「メインステップ……オレもネクサスカード、ビスケット・グリフォンのカードを配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

フィールドにコレと言った変化は見受けられないが、オーカもネクサスカードであるビスケットを配置。早速その効果を使っていく。

 

 

「ビスケットの効果。疲労させる事でデッキの一番上にある鉄華団カードを手札に加える……よし、オルガ・イツカ。よってこれを手札に加え、そのまま配置!」

「………!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

流れるような展開で創界神ネクサスであるオルガを配置。その神託の効果でデッキの上からカードを3枚トラッシュ、今回の対象カードは2枚であったため、オルガに2つのコアを置いた。

 

 

「……鉄華団。やはり聞いた事がないカード達でデッキが構成されているのか」

「ターンエンド。アンタの番だよ」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV1(2)

【ビスケット・グリフォン】LV1

バースト:【無】

 

 

ネクサス2枚を並べ、幸先の良いスタートを切ったオーカ。そのままターンをカレンへと返す。

 

 

[ターン03]カレン

 

 

「メインステップ………出し惜しみは無しだ。このターンから行くぞ」

「!」

 

 

そう言い放ちながら手札に手を掛ける。オーカは空気が変わり、こここら何か厄介なスピリットが呼び出される事を察した………

 

 

「召喚。龍を纏いしその衣、仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン!」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】LV2(3)BP5000

 

 

「ッ……ライダースピリット。イチマルのとはまた違うヤツか」

 

 

カレンの前方に出現した真っ赤な炎。その中を気迫で振り払い、姿を見せたのは右肩に龍を宿すスピリット、仮面ライダーセイバー。

 

イチマルの使ったライダースピリット、ゼロワンとはまた違ったライダースピリットだ。

 

 

「召喚時効果。カードを3枚オープンし、対象となるカードを加えていく………私はオープンされたソードブレイヴ、火炎剣烈火を新たに手札へと加える」

 

 

効果でカードを1枚手札に加えるカレン。直後に「アタックステップ……!」と静かに宣言し………

 

 

「アタックだ、セイバー!」

 

 

攻撃して来た。そしてこの時、セイバーにはまだもう1つの効果を発揮できて………

 

 

「フラッシュ、セイバーブレイブドラゴンのアタック時効果。手札にあるソードブレイヴをこのスピリットに合体させる事で召喚時効果をもう一度発揮させる」

「なに……?」

「私は先程加えたソードブレイヴ、火炎剣烈火をセイバーブレイブドラゴンに合体!…召喚時効果で仮面ライダーエスパーダを手札に加える」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]+火炎剣烈火】LV2(3)BP9000

 

 

ベルトに差し込んである赤い剣を引き抜くセイバー。合体スピリットとなり、強化される。このように、仮面ライダーセイバーのデッキは所謂ソードブレイヴと呼ばれる系統、剣刃を持つカード達を操り、戦っていく。

 

セイバーブレイブドラゴンは手札にあるソードブレイヴとノーコストで合体しつつ、手札の増加も狙える良質な効果だが、カレンの狙いはそこだけではなくて…………

 

 

「火炎剣烈火の召喚時効果。相手のネクサス1つを破壊し、その破壊時効果を無効にする!」

「ッ………ネクサスを破壊?」

「ビスケット・グリフォンのカードを破壊!」

「!」

 

 

登場直後の火炎剣烈火が刀身から赤い光を放つと、オーカのBパッド上にあるネクサスカードであるビスケットが勝手に場を離れてトラッシュへと送られた。

 

 

「アタックは継続中!!」

「………ライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

セイバーブレイブドラゴンが火炎剣烈火を振るう。そこから放たれた炎の斬撃がオーカのライフバリアを1つ焼き裂いた。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]+火炎剣烈火】LV2

【ワンダーワールド】LV1

バースト:【無】

 

 

前のターンで幸先の良いスタートを切れたはずだったオーカのフィールド。しかしそれは世界三大スピリットであるライダースピリットの一種、セイバーブレイブドラゴンと火炎剣烈火によって一瞬にして半壊。

 

圧倒的なコントロール力を見せつけ、赤羽カレンはそのターンを終える。

 

 

[ターン04]オーカ

 

 

「メインステップ……」

「ネクサスカードが1つ消え、思うように動けまい」

「いや、ネクサスがなくてもシンボルを稼ぐ方法はある………1コストの1軽減、0コストで鉄華団モビルワーカーを2体、連続召喚だ!」

「!?」

「対象スピリットの召喚により、オルガにコアを2つ追加」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

オーカが呼び出したのは銃火器を備えた車両型のスピリット、鉄華団モビルワーカー。1つでもシンボルがあればノーコストで召喚できるこのスピリット達でオーカはシンボル数を稼ぐ。

 

そして、手札にあるカードに手を掛け………

 

 

「行くぞ、大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!」

「!」

「不足コストはモビルワーカー1体から確保、よって消滅する」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

2体いるモビルワーカーの内1体が消滅させられた直後。上空から地上へと降り立ったのは、黒々とした鈍器、メイスを手に持つ白き外装のモビルスピリット、バルバトス。その基本となる第4形態だ。

 

 

「0コストで召喚できるスピリットで軽減シンボルを稼ぎ、無理矢理エースカードを召喚………そしてコレがバルバトスか」

「オレの鉄華団は止まらない。バーストをセットして、アタックステップ、その開始時にオルガの【神技】の効果を発揮!」

「ッ……今度はなんだ?」

「トラッシュから鉄華団カードをノーコスト召喚する。鉄華団のパイロットブレイヴ、三日月・オーガスをトラッシュからバルバトス第4形態に直接合体!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

流れるような展開でバルバトス第4形態にパイロットブレイヴを合体させる。そしてオーカは反撃開始だと言わんばかりにアタックステップを続けていき…………

 

 

「行くぞバルバトス……アタックだ。効果で火炎剣烈火を破壊して、セイバーブレイブドラゴンからコアを2個リザーブに置く」

「ソードブレイヴを問答無用で破壊!?」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】(3➡︎1)LV2➡︎1

 

 

凄まじい速度で一瞬にしてセイバーブレイブドラゴンとの距離を詰めるバルバトス第4形態。そのままメイスで一撃、セイバーブレイブドラゴンは火炎剣烈火で受け身を取るが、火炎剣烈火は耐え切れず破裂するように消滅。

 

さらにバルバトス第4形態はもう一撃メイスを振い、今度こそセイバーブレイブドラゴンにダメージを与えていく。

 

 

「さらに三日月の合体時効果。相手スピリットかネクサスの維持コアを1増やして、リザーブのコア2つトラッシュに置く!」

「!!」

「セイバーブレイブドラゴンの維持コアを1つ増やして消滅させる!!」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】(1)消滅

 

 

二度目の追撃。三度目の攻撃がセイバーブレイブドラゴンにクリーンヒット。遂に撃破に成功する。

 

何より恐ろしい点は、これだけ一方的に蹂躙しておきながら、未だにアタックが終わっていないと言う事であって…………

 

 

「バルバトスのアタックは継続中……LV3効果でシンボル1つ追加、トリプルシンボルのアタックだ!」

「ソードブレイヴ、セイバー、リザーブのコアだけに飽き足らずライフまで捥ぎ取る気か。いいだろう、その攻撃、私のライフが受ける!!」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉カレン

 

 

再びメイスを横一線に振い、カレンのライフバリアを一気に3つも叩き壊すバルバトス第4形態。オーカは勝機を逃すまいと次の行動に出ようとするが………

 

それよりももっと速く、カレンの手が動いていて…………

 

 

「だがそれ以上の攻撃は認めん!!……私のライフが減った事により、手札の絶甲氷盾の効果!」

「!」

「このターンのアタックステップを強制的に終了させる」

 

 

バルバトス第4形態を中心に始まった猛追もここまで。カレンの放った白のマジックカード、『絶甲氷盾〈R〉』の効果でオーカはアタックステップそのモノを強制的に終了させられてしまった。

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:1

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV1

バースト:【有】

 

 

迎えたのはエンドステップ。そのターンは致し方なく切るしかなかった。

 

 

「………それがバルバトスか。良いカードだな」

 

 

カレンは敵ながら天晴れであると言いたげな表情でオーカのモビルスピリット、バルバトスを見つめる。

 

 

「………バトルを始める前に風の噂がどうって言ってたけど、それってなんなの?」

「あぁ、そう言えばバトル中に話す約束だったな。いいだろう、今ここで話そう」

 

 

剣帝、赤羽カレンがオーカを前にして居ても立っても居られなくなる程の理由。それを淡々と説明していく。

 

 

「君は以前、界放市の現ジュニアクラストップ、獅堂レオンとバトルしたのだろう」

「!」

「しかもそのバトル中であのデスティニーをそこのバルバトスで破壊した………それが真実か知りたかった。ヤツのデスティニーを倒す事が私の宿命だからな」

 

 

獅堂レオン…………

 

最早そこら辺のプロバトラーよりも遥かに強いと言われる程の実力を誇る、ジュニアクラスNo. 1の天才カードバトラー。カレンはNo.2と言う事もあり、そんな彼をライバル視していた。

 

そして彼の操るデスティニーガンダムは今まで破壊された事が一度もないとされていたスピリット。それをオーカのバルバトスが破壊したと言う情報を密かに彼女は掴んでいたのだ。

 

 

「どうだ。真か、それとも嘘か」

「………本当だ。でもバトルには負けたし、アイツはデスティニーが破壊されるよりももっと早くオレを倒せたと思う」

「フ……謙虚だな君は。レオンのデスティニーを破壊しただけでも相当名誉ある事だと言うのに」

「謙虚とかじゃない、アイツはオレの倒すべき目標なんだ。でも、その前にアンタがいるって言うなら、アンタごと叩き壊してやる………この、バルバトスで……!!」

「向上心が高いのはいい事だ。だが、私もヤツに勝つ事を目標としている………甘く見るなよ」

「………」

 

 

そこら辺にいるカードバトラーならば間違いなく卒倒してしまうようなプレッシャーを放つカレン。

 

しかしそれに対してオーカは畏怖の念を抱く事はなく、いつもの無表情。バルバトスを始めたとした鉄華団スピリット達と共に彼女のターンを待ち構える………

 

 

[ターン05]カレン

 

 

「メインステップ……新たなスピリット、仮面ライダーエスパーダランプドアランジーナ!!……LV3で召喚!」

 

 

ー【仮面ライダーエスパーダランプドアランジーナ】LV3(6)BP12000

 

 

「………さっきとはまた別のライダースピリットか」

 

 

フィールドの地へと降り立つ光球。そしてその中より出現したのはセイバーとはまた違う剣士のライダースピリット、エスパーダ。

 

 

「召喚時効果。手札にあるソードブレイヴをノーコスト召喚する……来い、黄色のソードブレイヴ、雷鳴剣黄雷!!…エスパーダと直接合体!」

 

 

ー【仮面ライダーエスパーダランプドアランジーナ+雷鳴剣黄雷】LV3(6)BP15000

 

 

天空より地に突き刺さったのは稲妻の力を宿し剣。エスパーダはそれを引き抜き、強力な合体スピリットとなる。

 

 

「私もバーストをセットして、アタックステップと行こう……エスパーダ、アタックだ」

 

 

バーストが伏せる共にアタックステップを宣言。エスパーダは手に持つ剣、雷鳴剣黄雷の切先をオーカに向け、戦闘態勢に入る。

 

そしてこの瞬間、発揮できる力がエスパーダにはあって………

 

 

「エスパーダの合体時LV2、3のアタック時効果、BP12000以下のスピリット1体を破壊する」

「!」

「BP1000しかないモビルワーカーには消えてもらおうか」

 

 

剣の切先を地面に突き立てるエスパーダ。そこから電流を流し込み、モビルワーカーを感電、爆散させる。

 

 

「モビルワーカーの破壊時効果。デッキから1枚破棄して1枚ドロー………でもって、この瞬間を待ってた……!」

「ッ……!」

 

 

破壊時の効果を処理して、オーカが次に向けたのは前のターン、自分が伏せたバーストカード。

 

前までの鉄華団デッキだったらこの程度の猛攻だけで耐えるのが精一杯だった。だが、今は違う………

 

絶対的な守護神がそこにいるからだ…………

 

 

「破壊後のバースト発動!!……ガンダム・グシオンリベイク!!」

「なに、バルバトスとは違う、ガンダムの名を持つ2種目のモビルスピリット!?」

「効果により自身を召喚する………轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイク!!……LV2で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV2(3)BP9000

 

 

「不足コストはバルバトス第4形態のLVを2にして確保」

 

 

上空から降り立ったのは薄茶色の分厚い装甲を持つ一機のモビルスピリット。

 

その名はグシオンリベイク。オーカのデッキにおける第二のガンダム。左手に持つシールドと右手に持つハルバードは正しく守護神としての存在を顕著に表している。

 

 

「2種目のガンダムは聞いた事がないな。なんだコイツは……」

「バースト効果はまだ続く。このターンの間、コア2個以下のスピリットのアタックではオレのライフは減らない。さらに召喚時効果でエスパーダのコアを2つリザーブに送る!」

「!」

 

 

ー【仮面ライダーエスパーダランプドアランジーナ+雷鳴剣黄雷】(6➡︎4)LV3➡︎2

 

 

肩部に存在するサブアームを展開し、そのアームで背部にマウンティングされた滑空砲を握るグシオンリベイク。そのままその滑空砲をエスパーダに向けて連射。見事命中させ、その体内に眠るコアを2つばかり弾き飛ばす。

 

しかし………

 

 

「良い効果だ。だが、エスパーダのコアはまだ4つ……LV2でもそのモビルスピリットに負ける事はない!」

 

 

そう。LVが1下がったとは言え、エスパーダのコアはまだ4つもある。グシオンのバースト効果では防げないし、ブロックしてもグシオンはBPで負ける。

 

だが、そんな状況下においても、オーカは薄く笑顔を浮かべる………

 

 

「ふ……グシオンでブロックだ」

「ッ……血迷ったか!?……BPはこちらが上だぞ!?」

 

 

エスパーダの行く道をグシオンが遮る。モビルスピリットとして、全長はグシオンの方が3倍以上上回る。しかし、BPはソードブレイヴと合体しているエスパーダの方が遥かに上。

 

だがこの瞬間…………

 

グシオンのもう一つの効果が起動する………

 

 

「血迷ってなんかないさ。グシオンのアタックブロック時効果!!」

「!」

「疲労状態の相手スピリット1体を破壊する………今のエスパーダはアタック中につき疲労状態、よって破壊する!」

「なに!?……エスパーダ!!」

 

 

右手に持つハルバードをエスパーダに向けて振り下ろすグシオン。エスパーダは咄嗟に雷鳴剣黄雷でガードするも、グシオンはそれさえをも突破して見せ、エスパーダに一太刀浴びせる。

 

流石に力尽きたか、エスパーダは地に足を突きながら爆散して行った。

 

 

「……よし」

 

 

爆散による爆煙を眺めながら、安堵する意味合いを込めてそう呟くオーカ。次のターンまでに何事もなければ、間違いなく鉄華団の双璧、バルバトスとグシオンが彼に勝利を齎す事だろう………

 

ただし、それはカレンが何もしなければの話ではあるが………

 

 

「成る程。これは一杯食わされたな………でも、これで終わり、自分の勝ちだと思ったら大間違いだぞ」

「………」

 

 

緊張感高まる場面の中、今度はカレンが自分の伏せたバーストカードに目線を送り…………

 

 

「スピリットの破壊後によるバースト発動!!」

「なに………アンタも破壊後のバーストを、しかも自分のターン中に使うのか……!?」

 

 

バーストにはバーストで返すカレン。その勢いよく反転されたカードの鮮烈な効果を次々と発揮していく…………

 

 

「先ずは召喚だ、来い……仮面ライダーセイバードラゴニックナイト!!……LV3だ!」

「!!」

 

 

ー【仮面ライダーセイバードラゴニックナイト】LV3(6)BP14000

 

 

荒ぶる火球が地を熱するように出現。中よりそれを振り払いながら現れたのは、仮面ライダーセイバーの強化形態、ドラゴニックナイト。重厚感のある白銀の鎧がオーカの目に焼き付けられる。

 

そして悟らせる、コイツはヤバいと…………

 

 

「バースト効果には続きがある。その後、手札にあるソードブレイヴをノーコストで召喚する」

「!」

「2枚目の火炎剣烈火を召喚し、ドラゴニックナイトに直接合体!!」

 

 

ー【仮面ライダーセイバードラゴニックナイト+火炎剣烈火】LV3(6)BP18000

 

 

炎纏いしソードブレイヴ、火炎剣烈火が天空より降り注ぐ。セイバードラゴニックナイトは跳び上がり、それを掴み取る。

 

さらにタイミング良く赤きドラゴンが出現、その背中の上にセイバードラゴニックナイトを搭乗させる。

 

 

「この効果でソードブレイヴの召喚に成功した時、BP12000以下の相手スピリット1体を破壊する……!」

「ッ………!」

「BP9000のグシオンリベイクを破壊させてもらう!!」

 

 

赤きドラゴンと共に天空を舞うセイバードラゴニックナイト。攻撃の指示を出すように火炎剣烈火の切先をグシオンへと向けると、赤きドラゴンはそれに従い、口内から超高熱の炎を放出。

 

グシオンはその炎を浴び、たちまち焼き尽くされてしまう。

 

 

「………グシオン………」

「中々堅牢な守護神だったぞ。だがこの私の前では紙切れも同然!!……アタックだ、ドラゴニックナイト!!」

 

 

ここまでが一連のバースト効果の処理。ドラゴニックナイトの本当の攻撃はここから始まる…………

 

カレンから攻撃の指示を受け、ドラゴニックナイトが真っ先に目を向けたのはオーカの相棒であるモビルスピリット、バルバトス……………

 

 

「ドラゴニックナイトの【合体時】アタック時効果。このスピリットのBP以下のスピリット1体を破壊し、1枚ドローする」

「………今のそいつはBP18000。オレのバルバトスはLV2で15000………」

「察しがいいな。デスティニーを討ち取ったその首、私とセイバーが貰い受ける!!」

 

 

グシオンを葬った時と同様、ドラゴニックナイトは赤きドラゴンに炎のブレスを指示。バルバトスを焼き尽くさんと再び超高熱の炎を放出するが、バルバトスも負けじとメイスを振い、風圧でそれを吹き飛ばし、回避する。

 

だが、炎を吹き飛ばし、視界を確保した直後、バルバトスの眼前には既にドラゴニックナイトの姿があって…………

 

 

「貰ったァァァー!!!」

 

 

ドラゴニックナイトは火炎剣烈火を振い、バルバトスの首を撥ねた…………

 

かに思えた。まるでバルバトスを守るように現れた1体のモビルスピリットが出現するまでは……………

 

 

「!!」

「………このスピリット」

 

 

刀でドラゴニックナイトの斬撃を受け止めたモビルスピリットの名は2人とも知っている。

 

その名はスサノオ。この街のトップカードバトラーが持つカードであるため、それは余りにも有名なのだ。だが、オーカが召喚したわけではない。これは明らかに第三者によるバトルの乱入。

 

そして、オーカにとって、誰が乱入したのかは一目瞭然だ。背後の方へと振り向く。

 

 

「………アニキ」

「よ、オーカ。待たせたな」

「この方は………」

 

 

そこにいるのは当然九日ヨッカ。買い忘れからようやく戻って来た。その左腕にはスサノオを呼び出したBパッドがはめられている。

 

 

「剣帝の赤羽カレンだよな?……悪い、ウチの弟分がなんかしたか?」

「………いえ、何も。勝負を振ったのは私です」

「このバトルの決着を見届けてやってもよかったんだが、生憎、もうすぐ界放リーグだ。決着ならこんな寂しい公園じゃなくて、そこで着けないか?……コイツは絶対オマエのとこまで勝ち上がって来る、そっちの方が燃えるだろ?」

「…………」

 

 

モビルスピリット、スサノオの使い手。

 

細身で高身長の褐色肌の青年。

 

そして何よりも滲み出る強者感。

 

まさかこの方は…………

 

 

「フ………わかりました。貴方のお言葉に免じて、今日のバトルは以上とします。決着は界放リーグで」

「………逃げるのかよ」

「あぁ、今日は逃げる事にする。レオン以外にも勝たなくてはいけない相手が増えてしまったな………必ず上がって来いよ、鉄華オーカミ」

「………」

 

 

目の前にいる青年が何者なのかを悟るカレン。Bパッドの電源を落とし、フィールドのカード達を消滅させると、そのまま2人に別れを告げ、去って行く。

 

これにより、バトルは引き分けという形で幕を下ろした。

 

 

「……全く、オマエってヤツは放っとくといつも何かしらのトラブルに巻き込まれやがって」

「………別に止めなくてよかった」

「拗ねんなって!!……悪かったよ!」

 

 

中断されずに、最後までやり遂げたかった様子のオーカ。言葉の内容から本当に若干拗ねているのがわかる。

 

そしてひょっとしたら、あの後から勝ち筋があったのかもしれない………

 

 

「で、なんで遅くなったの?」

「いや、ちょっと知り合いとバッタリ会ってな。つい長話を………まぁなんにせよ、暑い中待たせてすまなかった。何か奢るぜ」

 

 

この後、オーカはヨッカに大量のアイスクリームを奢って貰い、無事に機嫌を直した。

 

そして今日この日、彼にまた負けられない人物のラインナップが刻まれたのだった。バトルスピリッツ発展都市、界放市の祭典、界放リーグ。それが開催される日は近い…………

 

 




次回、第12ターン「新世代系女子」


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第12ターン「新世代系女子」

モビル王。

 

世界三大スピリットの1つ「モビルスピリット」の使い手の中でトップクラスの実力を誇るカードバトラーの事で、俗に言うモビルスピリット使いの中でのチャンピオンだ。

 

そして、その現モビル王はMr.ケンドー。その正体は鉄華オーカミの兄貴分、九日ヨッカ。そんな彼はある人物に挑戦状を叩きつけられた………

 

それは高校生にしてプロバトラーになった天才少女、早美アオイだ。彼女はモビル王の座を狙っている。今日、この2人による篤かりしバトルスピリッツが幕を開けようとしていた…………

 

 

******

 

 

早朝。鳩の鳴き声が聞こえるこの時間帯に、鉄華オーカミは界放市の街を歩いていた。

 

目的地は界放市の中央に存在する中央スタジアム。街の中で最も大きなバトルスタジアムで有名…………

 

そこを舞台とし、本日、自分の兄貴分であるヨッカ、もといMr.ケンドーの試合があの早美アオイとモビル王の座を賭けたタイトルマッチを行うのだ。オーカはその応援に、友人である一木ヒバナと鈴木イチマルと共に向かう予定。2人とは現地で落ち合う約束をしている。

 

そのため、遅れるわけにはいかないので、少し早めのこの時間帯を歩いているのだ。

 

 

「………まだ余裕あるし、コンビニでも寄ってくか」

 

 

ふと目に入ったのは24時間営業のコンビニエンストア。飲み物でも買って来ようと思い、オーカはその中に足を踏み入れる。

 

 

「おっ……鉄華じゃないか!!……久方ぶりだな!!」

「…げっ……獅堂レオン……」

 

 

入った途端に目が合ったのはあの界放市No. 1の実力者『獅堂レオン』だった。

 

しかも店の制服を着用している事から、ここでアルバイトしている様子。この状況の処理に頭が追いつかず、一目散に背を向けて逃げようと試みるオーカであったが…………

 

 

「おい、何故逃げようとする。逃がさんぞ?……少しオレと話していけ」

「…………だる。つーかオマエ、エプロン似合わないね」

「安心しろ、自覚している」

 

 

肩に手を置かれ、制止させられる。その後、レオンはエプロンについた埃を軽くはたき落としながらオーカに質問する。

 

 

「どうだ、アレ以来強くなれたか?」

「………まぁ、一応」

 

 

相変わらずの上から目線。オーカは適当に返答する。

 

 

「フ………あの時の貴様はカードの強さも己のプレイングも何もかもが稚拙だったからな。よし、今ここでもう一度、このオレが試してやる」

「…………は?」

 

 

藪から棒にバトルを振るレオン。最初は冗談かと思ったが、Bパッドを展開し、己の左腕にセットしたあたり、どうやら本気のようだ。

 

 

「さぁ、貴様もBパッドにデッキをセットしろ!!」

「………いや、遠慮しとく」

「なに、何故だ!?」

「オマエ、仕事中だろ?……しかもここ狭いコンビニの中だし」

 

 

至極真っ当過ぎる理由でバトルを断る。オーカとて、レオンにリベンジしたい気持ちはあるが、こんな状況ではやる気も失せる。

 

 

「宿命のバトルに舞台も何も関係あるまい。今日こそはこのオレに本気を出させろ!!」

「………オレの話聞いてた?」

 

 

ガン無視してこの場でバトルを行おうとするレオン。最初に会った時はそこまで思わなかったが、オーカは今この瞬間、あることに気が付いた………

 

獅堂レオンはバカだ。

 

 

「ちょっと君ぃ、何やってるの!!……すみませんお客様」

 

 

店員らしき男性がこちらに全力で走りながらやって来ると、すぐさまオーカに頭を下げる。オーカもそれに合わせて一応軽く頭を下げておく。

 

 

「ちょっととはなんだ。オレはコイツとバトルをしようとしていただけだが?」

「お客様と、しかも店の中でバトルしていいわけないでしょ!?……何なの君、お金無いって言うから雇ってあげたのに全然働いてくれないじゃないか!?」

 

 

その場で言い争いになるレオンと店員。

 

因みに、どう考えてもレオンが100%悪い。

 

 

******

 

 

あれからほんの少しだけ時間が経ち、先程までいたコンビニの外。駐車場と大きなゴミ箱が目立つこの場所にて、鉄華オーカミと獅堂レオンは購入した飲み物を片手に対峙していた…………

 

 

「と、言うわけで、オレは貴様のせいでバイトをクビになったわけだが」

「オマエの自業自得だろ。つーかオレ何もやってないし」

 

 

バイトを始めて以降問題しか起こさなかったレオン。先の一件で遂にクビを切られる。偉そうな態度もここまで来ると筋金入りだ。

 

 

「………出るのか、今年の界放リーグ」

「まぁな。一応、オマエをぶっ潰しに」

「はは、そりゃおっかない」

 

 

オーカに今年の界放リーグに出場するか否かを問うレオン。YESの答えを聞くなり飲み干した空き缶を握り潰し、ゴミ箱に放り投げる。

 

 

「今日はオマエの今の実力をと思っていたのだが、界放リーグに出ると言うのなら、今はまだその必要はないな」

「いや、何様だよオマエ」

「オレ様だ。必ず勝ち上がれ鉄華、そして次こそはオレのデスティニーが貴様のバルバトスを倒す」

「次も勝つのはオレのバルバトスだ。そして今度はバトルもオレが勝つ……!」

 

 

目線の先から火花を散らす好敵手2人。レオンはその後、オーカに背中を向けて………

 

 

「じゃあな。手を洗って待ってろ」

「…………」

 

 

その場から立ち去っていく。オーカはそんな彼の背中が見えなくなるまで、真剣な眼差しで眺めていたが………

 

 

「………洗うとこ、手じゃなくて首じゃね?……コロナ対策?」

 

 

レオンの言い間違えに気がつく。彼はオーカが思っている以上にかなりのポンコツなようだ…………

 

まぁ何はともあれ、面倒な奴は去っていった。これでようやく中央スタジアムに行けると思っていたオーカだったが…………

 

ここでBパッドから着信音が鳴り響く。

 

 

「………アニキ?」

 

 

オーカに電話を掛けたのは彼のアニキ分である九日ヨッカ。本日試合が控えている彼は今頃中央スタジアムで準備をしている頃だが、どう言うわけか………

 

まぁ別に拒否する理由もないので速攻で出る。

 

 

「はいもしもし、アニキ?」

《あ、オーカ?……急で悪いんだけどよ、今からお使い頼まれてくれるか?》

「うん、いいよ」

 

 

電話の内容はまさかのお使い。これがそこら辺の人間なら面倒くさがって拒否するオーカだが、それがアニキのヨッカなら話は別だ。

 

 

《流石オーカ。ここ一番で必ず頼りになるぜ》

「世辞はいいから、早く内容教えろよ」

《悪りぃ悪りぃ!…このジークフリード市にあるアポローンと並ぶもう一つの大きなカードショップ『ゼウス』………そこで売ってる『ブレイドラパン』を1つ買って来てくれ。あのパン、朝イチで行かないと売り切れるんだよな。いつもは同居人に頼んで買って来て貰うんだが………》

「わかった。ブレイドラパンね」

 

 

ヨッカの希望の商品は凄く栄養と言う名の不足コストにされてしまいそうなネーミングのパン。この街に来て日が浅いオーカはあまりピンとは来てない様子。

 

 

《ゼウスのURLはメッセージに貼っておくから、それを買って中央スタジアムのオレの控室まで来てくれ、話は通してるから》

「はいはい。わかったよ」

《おう、頼りにしてるぜ弟分!》

 

 

電話はここで切れる。オーカは面倒くさそうに欠伸をしながらも「アニキの頼みならしょうがないか」と口にし、メッセージに貼り付けられたURL、纏いカードショップ『ゼウス』までの地図を頼りに、また歩みを進めるのであった…………

 

 

******

 

 

ここは界放市中央スタジアム。界放市中最も大きなこのスタジアムは今、過去最大級の数を占める観客達によって熱気に包み込まれている。

 

無理もない。何せ数時間にここで行われる試合はあのモビル王、Mr.ケンドーに、麗若きチャレンジャー早美アオイの2人なのだから………

 

待ちきれないと歓声を上げ続ける観客達、Mr.ケンドー、もとい九日ヨッカはそんな轟音のような歓声が聞こえない地下にある控室にて休息を取っているようで………

 

 

「危ねぇ危ねぇ、これでブレイドラパンが食える。最近アレがないと調子上がんねぇんだよな。ゼウスにはあんまり行きたくないけど」

 

 

オーカと連絡を取った直後のようで、通話用で取り出したBパッドを懐に仕舞いながらそう呟くヨッカ。深い赤色の仮面を着用しているため、今は聖人君子なMr.ケンドーなのだが、キャラを忘れている様子。

 

 

「オイオイ、天下のMr.ケンドーともあろうお方がそんな嬉しそうな声出して、何事だ?……女か?」

「………出たなお邪魔虫」

「誰がお邪魔虫だ」

 

 

知らぬ間にヨッカの控室に入り込んでいた人物が1人…………

 

ヨッカと同じくらいの高身長で筋肉質なワイルドな見た目の男性。トサカ頭や、目つきの悪さから彼よりもガラの悪さが目立つ。

 

 

「はぁ……いい加減人の控室に勝手に入るのやめろって言っただろ、レイジ」

「別にいいだろ、なんてったって、オレはオマエと肩を並べる三王の1人、ライダー王のレイジ様なんだからな」

 

 

男性の名は『レイジ』…………

 

Mr.ケンドーと同じく界放市を代表するカードバトラーの三王の1人、彼はその内のライダーを担当する。

 

 

「………オマエ、そうやって自分の栄誉を棚に上げるのやめた方がいいぞ。いい事ねぇって」

「オマエが隠しすぎなだけだ。変な仮面なんざ付けやがって」

「え、別に変じゃなくね?」

 

 

雑談になりゆく中で、レイジは「ところで」と話題を切り替えて………

 

 

「今日のタイトルマッチ、あの早美アオイとか言う小娘、モビルスピリットを扱うだけでなく、オマエと同じ青属性の使い手でもあるな」

「それがどうかしたか?」

「いや、負けたら屈辱だと思ってな」

「性格悪。これでも一応同じ師匠を持つ仲間だろ?……後、オレは負けないよ?…今日は大事な弟分も試合を観に来てくれるんでな」

 

 

彼の言う弟分とはもちろん「鉄華オーカミ」の事だ。彼が観ている中では最高にカッコいい「九日ヨッカ」でいると決めているヨッカは、この早美アオイとの試合で負けるわけにはいかないのだ。

 

 

「ちょいとトイレ行って来るわ」

「はいよ」

 

 

ヨッカが席を立ち、トイレへと向かう。その背中を見届けるなり、レイジは不敵な笑みを浮かべて…………

 

 

「ヒャハ……期待しているぞ早美アオイ。奴を三王から引き摺り下ろしてくれるとな……!」

 

 

同じ師匠を持ち、同じ三王の称号を持つ九日ヨッカが本当は気に食わないのか、何の悪びれもなく悪言を吐くレイジ。

 

Mr.ケンドーと早美アオイによるモビル王を賭けたタイトルマッチまで、残り1時間を切った…………

 

 

 

******

 

 

 

一方、ヨッカに頼まれてジークフリード市にあるカードショップの1つ「ゼウス」に足を運んだ鉄華オーカミ。

 

カードショップ兼喫茶店としても名を馳せるこの店、店内を見渡せば雑談混じりに食事を楽しむ人々が団欒としており、耳をすませば奥のバトル場からスピリット達がぶつかり合うバトルの音が聞こえて来る。

 

そんなミスマッチな空間に鉄華オーカミは立っていた。そしてその目の前にはさらにミスマッチな存在がいて…………

 

 

「あらあらいらっしゃい〜〜……可愛いお客様ね、僕、何年生?」

「………なんか変なのいる」

 

 

早々に絡まれたのは筋骨隆々なオカマな店員。身長が150もないオーカの事を小学生かなんかだと思っている様子。

 

彼、いや、彼女の名は「ランスロット・武井」………

 

一応ジークフリード市の一角を担うカードショップ「ゼウス」の店長にあたるお方である。

 

 

「ブレイドラパン買いたいんだけど」

「あ、ブレイドラパンね〜…じゃああちらのレジにお越し下さい。初めてのお使い?」

「違う」

 

 

どうにか買えそうで一安心。オーカはランスロット・武井と共にレジへと向かうが…………

 

 

「あ、ママさん、ブレイドラパンある?」

「あら、ライちゃん!!…いらっしゃい〜」

「ども〜!」

 

 

そこに割り込むように現れたのは癖毛で、黄色みがかった白髪のショートヘアの少女。虎の刺繍の入ったスカジャンがやんちゃな印象を与える。

 

 

「最近よくブレイドラパン買ってくれるわよね〜」

「だってアレ美味しいですもん!…フウちゃんに感謝すね」

「うふふ、ちょっと待っててね。今2人の分取ってくるから」

「………2人?」

「…………」

 

 

白髪の少女がランスロット・武井との会話の中でオーカに気がつく。目が合うものの、初対面であるため、これと言って何も話さず、お互いブレイドラパンを取りに行ったランスロット・武井を待ち続けた。

 

だが、ここで事件は起こる…………

 

ランスロット・武井が2人に対して申し訳なさそうにレジ前に戻って来て…………

 

 

「ご、ごめんねお二人さん、今日のブレイドラパン、残り1つしかなかったの」

「え」

「ふーーん」

 

 

本日のブレイドラパンは残り1つ…………

 

それ即ち、オーカと白髪の少女、どちらか1人しかそれを手にする事ができないという事……………

 

先に手を打とうとしたのはオーカだ。

 

 

「じゃあオレが買うよ」

「な!?」

「だってオレの方が先だったし」

 

 

オーカはそう言いながらランスロット・武井が手に持つブレイドラパンを取ろうとする。さりげなくこの場を乗り越えるつもりだ。

 

彼にしては意外な行動だが、アニキ分であるヨッカの頼みだからという事もあるのだろう。そしてその手を制止させるように止めたのはもちろん白髪の少女だ。

 

 

「ちょいちょいちょい、待ちなさいよアンタ!……私だってブレイドラパン欲しいんだけど!!」

「……これはオレの分じゃない、アニキの分だ」

「アンタのお兄ちゃんなんて知るか!!……いいから私によこしなさいよ!」

「わがままなヤツだなぁ……」

「人の事言えないでしょうが!!」

 

 

険悪な雰囲気になって来る。一人の大人としてこの状況をどうにかしなければと何か策を考えるランスロット・武井。

 

そしてこの街らしい考え方が閃いて…………

 

 

「店内での喧嘩は控えな、少年少女。そんなにこのブレイドラパンが欲しければ、男らしくバトルで決めるんだね」

「………アンタ、なんかキャラ変わってない?」

「私女なんですけど」

 

 

ランスロット・武井が男らしい口調でそう告げる。

 

物事の大半はバトルスピリッツで解決する街界放市。今回もバトルスピリッツがこの揉め事を解決へと導く事だろう。

 

 

「まぁでもバトルは大賛成。私負けないし」

「………仕方ない、やるか」

「けちょんけちょんにしてやるわよ、この赤チビ!」

「……そっちとあんまり身長変わらないと思うけど」

「男と女の身長比べんな!!……やると決まったらすぐ行く!!」

「お、おい!」

 

 

どうやら白髪の少女もバトルの腕には大いに自信がある様子。了承後、彼女に手を引っ張られ、オーカはゼウスの中にあるバトル場へと赴く。

 

そこで2人はBパッドを腕にセット、バトルの準備を進めた。

 

 

「あ、そう言えば、今デッキ持ってないんだった……忘れた」

「ライちゃん、これ使いな」

「わ!?」

 

 

デッキを忘れた少女に、ランスロット・武井が1つのデッキケースを投げ渡す。少女はそれを転ばせながらもキャッチする。

 

 

「全く、カードバトラーの命を家に置いてくるなんておっちょこちょいね。お店の貸し出し用のデッキよ。好きに使って」

「おぉ、ありがとうママさん!!」

「………借りたてのデッキで大丈夫かよオマエ」

 

 

オーカが少女にそう告げた。確かにたった今借りたデッキでバトルに勝とうとするのは、無謀且つ無策にも程があると言うモノ…………

 

 

「気にする必要なし。私、天才だから」

「………自分で言うのか」

 

 

自信満々な言動と表情を見せる少女。余程バトルスピッツに自信がある様子。

 

 

「……って言うか、アニキの試合時間までには終わらせないとな」

「アンタこそ、何ごちゃごちゃ言ってんのよ」

「ん、いや、こっちの話」

「あっそ。じゃあ行くわよ、ブレイドラパンは絶対私が貰うから!」

「……オレも負けるつもりはない。バトル開始だ……!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

カードショップゼウス、オススメの一品「ブレイドラパン」を賭けて、鉄華オーカミと白髪の少女によるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は白髪の少女だ。賭けに勝つべく己のターンを進めていく。

 

 

[ターン01]白髪の少女

 

 

「メインステップ……先ずは創界神ネクサス、ウルトラマンNo.6ウルトラマンタロウを配置!」

「!」

 

 

ー【ウルトラマンNo.6ウルトラマンタロウ】LV1

 

 

彼女の背後に早速出現したのは二本の頭角を持つ赤き巨人、ウルトラマンタロウ。スピリットに見えるが、カテゴリは創界神ネクサスであるため、アタックとブロックは行えないものの、それでもかなりのプレッシャーを感じさせる。

 

 

「神託の対象は1枚、タロウにコアを1つ追加してターンエンド。アンタのターンよ」

手札:4

【ウルトラマンNo.6ウルトラマンタロウ】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

「モビル、デジタル、ライダー………どっちでもなさそうだな」

「はぁ?…アンタウルトラマンのカードも知らないわけ!?…めっちゃトーシロじゃん」

「これから強くなるんだよ、オレのターン……!」

 

 

世界三大スピリットには属さないが、強力な効果を多く有するウルトラマンのカード。

 

オーカとて、カードショップでバイトしているだけあって勉強はしているものの、いかんせんまだまだそれらを熟知するまで時間がかかるようだ。

 

 

[ターン02]オーカ

 

 

「メインステップ!!……パイロットブレイヴ、三日月・オーガスを召喚だ」

「……パイロットブレイヴ……モビルスピリットのデッキか」

 

 

ー【三日月・オーガス】LV1(0)BP1000

 

 

フィールドには何も姿を見せないが、オーカは鉄華団のエースパイロット、三日月・オーガスのカードを確かに召喚した。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【三日月・オーガス】LV1

バースト:【無】

 

 

全てのコアを使い切り、そのターンをエンドとするオーカ。次は少女のターンだ。

 

 

[ターン03]白髪の少女

 

 

「メインステップ………行くわよ!!」

「!」

「星空に輝け、新世代ウルトラマンギンガ!!…LV2で召喚!」

 

 

ー【新世代ウルトラマンギンガ】LV2(2S)BP6000

 

 

激しく発光する神秘的な光。その中より現れいでたのは赤と銀で彩られた光の戦士。その名もウルトラマンギンガ。

 

赤属性のウルトラマンの名を持つスピリットである。

 

 

「対象スピリットの召喚により、タロウにコアを神託。アタックステップ、行くよギンガ、アタックだ!!」

 

 

白髪の少女の声に合わせ、地を踏み走り出すギンガ。その目指す先は当然鉄華オーカミのライフ。

 

そしてこの瞬間に発揮できる効果があって………

 

 

「ギンガのアタック時効果、デッキの上から3枚オープン、その中のウルトラマンカードを1枚手札に加える………よし、私はこのカード「新世代ウルトラマンジード」を手札に」

「パイロットブレイヴは合体していないとアタックとブロックができない。そのアタックはライフで受ける……!」

 

 

少女の手札を増加させつつ、ギンガはその硬く握った拳の一撃でオーカのライフバリアを砕いて見せ、彼女にこのバトルの先制点をもたらす。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【新世代ウルトラマンギンガ】LV2

【ウルトラマンNo.6ウルトラマンタロウ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

「………言ってた割に、大した事ないんだな」

「ふふ、これからに決まってるじゃない。ギンガはこのデッキの力の、ほんの一部なんだから」

 

 

ウルトラマンのカードを巧みに使い、手札の増加とライフの破壊。順調にバトルを進めていく少女。とても借りた直後のデッキを使っているとは思えない。

 

オーカも負けじとターンを重ねていく。

 

 

[ターン04]オーカ

 

 

「………へっくしょん!!」

 

 

ターン開始早々、オーカは鼻が急にむずむずし、くしゃみが出て来た。そしてその直後にある事に気がつく…………

 

 

「あ、どうしよ………」

「何ボサっとしてんのよ、さっさとしなさい」

「………まぁいっか、ごめんごめん。改めてメインステップ……鉄華団モビルワーカーを召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

気を改めて、呼び出されたのは銃火器を備えた車両型のスピリット、鉄華団モビルワーカー。

 

その後、オーカは「ここからだ」と静かに告げながら、手札から1枚のカードを切る………

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV2で召喚!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

上空から地上へと降り立ったのは、鉄華オーカミのエースカード。

 

黒々とした鈍器、メイスを手に持つ白き外装のモビルスピリット、バルバトス。その基本となる第4形態だ。

 

 

「……成る程、それがアンタのエースってわけね」

「三日月・オーガスをバルバトス第4形態に合体……!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV2(2)BP15000

 

 

前のターンに召喚していたパイロットブレイヴのカードをバルバトスのカードと重ね合わせる。

 

これで準備は整った。オーカは進撃を開始する。

 

 

「アタックステップ………行け、バルバトス!!…効果でウルトラマンギンガからコア2つをリザーブに!」

「!」

 

 

ー【新世代ウルトラマンギンガ】(2➡︎0)消滅

 

 

メイスを構えてから一瞬。バルバトスは凄まじい速度でギンガとの間合いを詰める。

 

そしてギンガが守りの姿勢を取る隙すら与えずにそのメイスを振り下ろし、叩き伏せた。ダメージの限界により、ギンガは光の粒子となり、この場から消滅してしまう。

 

 

「さらに三日月の効果でリザーブのコア2つをトラッシュに」

「ッ……使えるコアを消滅させる効果!?」

 

 

ギンガがバルバトスに完全敗北した瞬間、彼女のリザーブにあるコアがトラッシュへと移動する。

 

これこそバルバトスと三日月・オーガスのコンボ。スピリットだけにあらず使えるコアまでもを潰す。

 

 

「ダブルシンボルのアタックだ……!」

「ライフで受ける………ぐっ」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉白髪の少女

 

 

止まらないバルバトス。少女のライフバリアもまたそのメイスを振い、容易く粉々に粉砕して行く。

 

 

「続け、モビルワーカー!!」

「それもライフ!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉白髪の少女

 

 

モビルワーカーも動く。両脇に備え付けられた銃火器から弾丸を放ち、少女のライフバリアを1つ砕いた。

 

 

「………ターンエンド」

手札:2

場:【鉄華団モビルワーカー】LV1

【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV2

バースト:【無】

 

 

主にバルバトスと三日月の力でフィールドとライフに大きな差を与え、オーカはそのターンを終える。

 

次は少女のターン。彼女にとっては明らかにピンチと言えるこの状況だが、一体何が手札にあるのか、その表情は未だ余裕であり…………

 

 

[ターン05]白髪の少女

 

 

「メインステップ……紫属性のモビルスピリット、初めて見たけど、まぁまぁって所ね」

 

 

バルバトスに「まぁまぁ」の評価を与える少女。直後に手札からカードを引き抜き、それをBパッドへと叩きつける。

 

パンなんかを賭けているバトルとは思えない程重圧な緊張感から、オーカはそれが強いスピリットであると言う事を直ぐに理解して…………

 

 

「ヒアウィーゴー!!……覚悟、決めるよ……このデッキのエースカード、新世代ウルトラマンジード!!…LV2で召喚!!」

 

 

ー【新世代ウルトラマンジードプリミティブ】LV2(4S)BP8000

 

 

他のウルトラマンとは一線を画した鋭い目つき、さらに赤と黒のラインの入ったボディが真っ先に印象に残る。

 

その新世代ウルトラマンの名は『ウルトラマンジード』………

 

 

「………目つきヤバ」

 

 

確かにまるで悪人のような人相をしているジード。だが、その青く輝く瞳の奥には確かな正義の心を宿している。

 

オーカがそんなジードの目つきに対してリアクションを取った所で、少女はその効果を発揮して行く。

 

 

「そんな余裕でいられるのも今のうちなんだから!!…ジードの召喚時効果!!…BP7000以下のスピリット1体を破壊、成功したらトラッシュにあるコアを2つ回収!」

「!」

「鉄華団モビルワーカーを破壊して、召喚に使ったコアを戻させてもらうわ!」

 

 

ー【新世代ウルトラマンジードプリミティブ】(4S➡︎6S)

 

 

「モビルワーカーの破壊時効果、デッキから1枚破棄して、1枚ドロー」

 

 

鉤爪の付いた専用の武器「ジードクロー」を握り締め、モビルワーカーを打ち砕く。さらにBパッド上では使用済みのトラッシュのコアがリザーブへと移動、コアの数に余裕が生まれる。

 

 

「アタックステップ!!……ジードでアタック!」

 

 

すぐさまアタックステップへと移行。そしてこの時、新世代ウルトラマンジードにある第二の効果が発揮されて………

 

 

「新世代のスピリットのアタック時、ジードの【転醒】発揮!!」

「ッ……転醒か」

「つなごうよ願い!!……ウルトラマンジード ウルティメイトファイナル!!」

「!」

 

 

ー【新世代ウルトラマンジードウルティメイトファイナル】LV3(6S)BP12000

 

 

少女の叫びと共に、眩い光がジードを包み込んでいき、その中で赤、銀、黒で彩られた姿へと変わっていく………

 

そして、赤き鋼と称される棍棒型の武器『ギガファイナライザー』を手に握るジードの強化形態、ジードウルティメイトファイナルが遂に光の中からその姿を現した………

 

 

「ジードの真の姿、ウルティメイトファイナル!……その転醒アタック時効果、スピリットのコア2つをリザーブに!!」

「なに、赤属性でコア除去!?」

「フ……当然、バルバトスを対象、よって消滅!……ギガスラストッッ!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】(2➡︎0)消滅

 

 

赤き鋼、ギガファイナライザーの先端から強力な斬撃波を放つ。それはバルバトスに直撃、体内に眠るコアを弾かれ、この場より消滅してしまう。

 

 

「さらにフラッシュ、ジードウルティメイトファイナルのもう1つの効果、BP10000以下のスピリット1体を破壊する事で、ターンに一度回復する!」

「!」

「ブレイヴとして場に残った三日月・オーガスを破壊」

 

 

ー【新世代ウルトラマンジードウルティメイトファイナル】(疲労➡︎回復)

 

 

オーカのBパッド上にある三日月・オーガスのカードが、赤みの光を帯びながらトラッシュへと破棄される。それに合わせ、ジードウルティメイトファイナルは回復状態となり、二度目の行動を可能とした。

 

 

「アタックは続行よ、食らいなさい!!」

「くっ……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉オーカ

 

 

「それ、もう一撃!!」

「そいつもライフだ!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉オーカ

 

 

赤き鋼の一振り二振りがオーカのライフバリアを砕いて行く。残りライフは2つとなり、フィールドの状況と合わせ、少女が再び優勢に立って見せた。

 

 

「さすがママさんのデッキ、良い感じ良い感じ〜〜ターンエンド。もうお終いね、これでブレイドラパンは私の物よ」

手札:5

場:【新世代ウルトラマンジードウルティメイトファイナル】LV2

【ウルトラマンNo.6ウルトラマンタロウ】LV1(3)

バースト:【無】

 

 

「………そう言えばそんなもん賭けてたな」

 

 

少女の猛追もここまで、そのターンをエンドは一度エンドとなる。余りにも激し過ぎる攻防にオーカはパンをバトルに賭けていた事を忘れていた様子。

 

 

「お終いじゃないよ」

「ん?」

「鉄華団は……オレのバルバトスは何度でも蘇る」

 

 

何を賭けていようが、バトルはバトル。オーカは鉄華団、バルバトスを信じ、己のターンを進めていく。

 

 

[ターン06]オーカ

 

 

「メインステップ……先ずはオマエだ、鉄華団の団長、オルガ・イツカ!」

「……アンタも創界神を……!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

フィールドには何も出現しないが、鉄華団の力を最大限に引き出すカード、オルガ・イツカのカードを場に配置するオーカ。

 

創界神ネクサスらしく神託も発揮され、合計3つのコアがその上に置かれた。

 

 

「さらに2体目のモビルワーカーを召喚!…オルガに神託」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV2(3)BP3000

 

ー【オルガ・イツカ】(3➡︎4)

 

 

2体目のモビルワーカーが出現。対象スピリットの登場により、オルガに4つ目のコアが追加される。

 

 

「アタックステップ、その開始時にオルガ・イツカの【神技】の効果発揮!!……コアを4つ支払い、トラッシュにある鉄華団スピリットをノーコストで復活させる」

「!」

「オレが呼ぶのは当然、バルバトス第4形態だ!!……今一度大地を揺らし、未来へ導け!!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】(4➡︎0)

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4S)BP12000

 

 

モビルスピリット、バルバトスが地表を砕きながら姿を現し、地上へと復活を果たす。緑に輝くその冷たい瞳が映すのは少女のライフのみであり………

 

 

「このサイズのスピリットをトラッシュからノーコスト召喚!?」

「アタックステップ、行くぞバルバトス!!……アタック時効果でジードのコア2つをリザーブに」

 

 

ー【新世代ウルトラマンジードウルティメイトファイナル】(6S➡︎4S)

 

 

オーカの指示を聞き入れ、バルバトス第4形態が動く。背部のスラスターで対空を駆け抜け、ジードウルティメイトファイナルにそのメイスを叩きつける。

 

ただ、一撃だけで倒せる相手ではないか、ジードウルティメイトファイナルは消滅するどころかLVでさえも下がらない。

 

しかし、今大事な事は敵のエースを下す事ではない。プレイヤーのライフを全て破壊する事にあって…………

 

 

「アイツは倒せなくていい、狙うはライフのみ………バルバトス第4形態のLV3アタック時効果、紫のシンボルを1つ追加、ダブルシンボルになる!」

「…………」

 

 

バルバトス第4形態は効果でダブルシンボル、即ち一撃でライフを2つ破壊できる力を得る。

 

そして今彼女の場は疲労状態につきブロックできないジードのみ、残りライフもたったの2つ…………

 

つまり…………

 

 

「つまりこれで決まる!!……叩き込め、バルバトス!!」

 

 

バルバトスのメイスが空を切り、少女のライフバリアへと振り下ろされる。

 

その一撃はそれを一つ残らず叩き壊す…………

 

 

「な訳ないでしょ。フラッシュマジック、スクランブルブースター」

「!?」

「この効果でこのバトル中、ジードウルティメイトファイナルは疲労状態でブロックできる。バルバトスをブロックしなさい!」

 

 

そんな訳がなかった。攻撃がヒットする直前、少女が咄嗟に放った1枚のマジックカードにより、ジードウルティメイトファイナルが動き、バルバトス第4形態の一撃をギガファイナライザーで食い止める。

 

 

「マズイ、2体のBPは………」

「共に12000、よって相打ちよ!!」

 

 

互いに武器を振い、激戦を繰り広げていくバルバトス第4形態とジードウルティメイトファイナル。余りに拮抗し過ぎた勝負に、メイスとギガファイナライザーはほぼ同時に砕け散る。

 

武器はなくなっても、その闘志だけでぶつかり合う2体。渾身の右ストレートが互いの顔面に炸裂。これまた同時に力尽き、爆散した。

 

しかし、エース同士のバトルは引き分けても、試合そのものの読み合いはオーカよりも少女の方が上だった。オーカは残ったモビルワーカーだけではこのターン中に勝つ事は不可能……………

 

 

「………ターンエンド」

手札:2

場:【鉄華団モビルワーカー】LV2

【オルガ・イツカ】LV1(0)

バースト:【無】

 

 

エース同士の爆発による爆煙の中、オーカはターンエンドを宣言。

 

そして、その爆煙が晴れる頃、このターンを凌いで、ドヤ顔の少女が目に映った…………

 

 

「これで勝利の条件は全て揃った………」

 

 

さぁ、ラストターンの時間です!!

 

 

「!!」

 

 

指パッチンをしながら告げたのは、このターンでの勝利宣言。これは彼女の決めゼリフ的なモノであろう。

 

言葉通り、有言実行すべく、ターンを開始していく…………

 

 

[ターン07]白髪の少女

 

 

「メインステップ………先ずはロケッドラを召喚」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

 

手始めに呼び出されたのはロケットを背負い込んだ小さなドラゴン。0コストスピリットであるため、シンボル確保用で召喚した事が見て取れる。

 

 

「アンタさっき『バルバトスは何度でも蘇る』………とかなんとか言ってたわよね」

「……それがなに?」

「ふふ………私は、新世代ウルトラマンフーマをLV2で召喚!」

「!」

 

 

ー【新世代ウルトラマンフーマ】LV2(2)BP6000

 

 

包み込むような優しい風と共に姿を現したのは、青い体表を持つ新世代ウルトラマン、ウルトラマンフーマ。

 

少女はその効果を遺憾なく発揮させていく…………

 

 

「フーマの召喚時効果、トラッシュにあるウルトラマンのカードを手札に戻す」

「………」

「私は当然、ジードを選択!!……そして、再召喚!!」

 

 

ー【新世代ウルトラマンジードプリミティブ】LV1(2S)BP5000

 

 

登場したフーマの効果で手札へと戻り、再度呼び出されたエースカードであるジード。

 

彼女の使用している新世代と呼ばれるカード達もまた、鉄華団と同様、不屈の闘志で何度でも復活できるようだ。

 

 

「ジードの召喚時、モビルワーカーを破壊してトラッシュのコア2つを戻す!」

「ッ……モビルワーカーの破壊時効果でドロー」

 

 

ー【新世代ウルトラマンジードプリミティブ】(2S➡︎4S)LV1➡︎2

 

 

鉤爪付きのジードの専用武器、ジードクローで今一度モビルワーカーを切り裂き、破壊して見せる。

 

これでオーカの場は創界神を除いて0。

 

少女が一気に決着をつけに行く…………

 

 

「アタックステップ、フーマ!!」

「くっ………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉オーカ

 

 

最初はフーマだ。目にも止まらない速さで地を駆け抜け、チョップの一撃でオーカのライフバリアを1つ砕く。

 

そしてその数は遂に残り1つ…………

 

 

「これで決める………行け、ウルトラマンジード………レッキングバーストッッ!!」

 

 

トドメだと言わんばかりに、ジードは腕を十字にクロスさせ、そこから赤き稲妻を含んだ高出力のエネルギー波を放つ。

 

この攻撃に対し、何か手を打ちたいオーカだったが、いくら手に握るカードを見つめても打開策が見つからなくて……………

 

 

「………ダメだったか、ライフで受ける……!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉オーカ

 

 

最後は潔くライフで受ける宣言。レッキングバーストが彼の残ったライフバリアを完膚なきまでに消し飛ばした。ライフが0になった事に伴い、彼のBパッドからはそれを告げるかのように「ピー……」と言う無機質な音が流れる。

 

これにより、バトルに勝ったのは桃色髪の少女。見事バルバトスを退け、ブレイドラパンの購入権を確保してみせた…………

 

 

「〜〜〜よし!!」

 

 

勝利に拳を固めてガッツポーズをする少女。余程嬉しかったらしい。

 

 

「どうよ赤チビ、これでブレイドラパンは私の物なんだから」

「あぁ、そうだな。仕方ないから今回はオマエに譲るよ」

「ッ………意外と潔いのね」

 

 

生真面目な性格故に、己の敗北をすんなり受け入れるオーカ。何を考えているか分からないと思っていたが、少女の中で彼に対する評価が少しだけ上がる。

 

 

「しょうがない。アニキには悪いけど、我慢してもらうか………試合時間にも間に合うか怪しいし。イチマルとか時間守らなかったら怒りそう」

 

 

Mr.ケンドーと早美アオイのタイトルマッチ開始までの時間も残り少ない。オーカは急ぎめにカードを片付けるが…………

 

その途中で地面に落ちたカードを1枚拾う…………

 

桃色髪の少女は彼のその行動を不思議に思い…………

 

 

「アンタ、そのカードなに?」

「ん、あぁ……試合の途中で手が滑って落とした」

「はぁ!?……いつ!?」

「くしゃみした時」

「あ………」

 

 

思い返す第4ターン。オーカは途中でくしゃみをしていた。

 

あの時、あの瞬間、オーカは手元を滑らせてしまい、試合中ずっと使えなかった1枚のカードがあったのだ。

 

 

「なんですぐ拾わなかったのよ!?」

「いや、なんか悪い気がして。悪いのオレだし」

「普通取りに行くでしょ、真面目過ぎよアンタ………で、その落ちたカードってなんなわけ?」

「コレ」

「…………ん?」

 

 

オーカが見せつけたのは紫のマジックカード「キャバルリースラッシュ」…………

 

その効果はフラッシュタイミングで「コア3個以下のスピリット2体を破壊する」と言うモノ…………

 

 

「ウソ……それがあったらさっきの最後のターン、まだ凌げたじゃない!?」

「ん?……あぁ……そうかもね」

「そうかもねって……マジ!?……何でそんなリアクション薄いわけ!?……信じらんない」

 

 

この効果を使えばあの局面、少なくともフーマとロケッドラを破壊する事が可能であり、オーカの生存率が跳ね上がるのは間違いなかった…………

 

 

「まぁ負けは負けだ。今度会ったらリベンジするだけだよ。じゃあオレ急ぐから」

「……ちょっと待ちなさい!!」

「?」

 

 

このままでは中央スタジアムでの試合に間に合わないため、急いでこの場を後にしようとするオーカであったが、少女が怒り混じりの声でそれを制止させる。

 

 

「やるなら今ここでリベンジしなさいよ」

「はぁ?……なんで?」

「私のあのターンで決められないなんて信じられない!!……だからもう一度私とバトルしなさいって言ってんのよ!……今度は私の、本気のデッキで!!」

「え……いや、だからオレ急ぐから」

「問題無用!!」

「!!」

 

 

もう一度勝負をしろと必要以上に追いかけてくる少女に、オーカは走って逃げる。

 

追いかけっこが始まった。

 

 

「コラァァァー!!……なんで逃げるのよ!!」

「この街って、ホントめんどくさいヤツ多い……」

 

 

目指すはMr.ケンドーと早美アオイが『モビル王』の座を賭けて戦う界放市中央スタジアム。

 

白髪の少女に追いかけ回されながら、オーカはそこを目指して走り出した……………

 

 

 

 

 




次回、第13ターン「王を賭けた戦い、ダブルオーVSスサノオ」


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第13ターン「王を賭けた戦い、ダブルオーVSスサノオ」

「鉄華オーカミのヤツ、何やってんだ、遅刻だぞ?」

「珍しいよね〜…オーカが遅刻なんて………」

「自分から誘って来たクセに。さっさと来いってんだ」

 

 

間もなくMr.ケンドーと早美アオイがモビル王の座を賭けてバトルを繰り広げる界放市中央スタジアム。

 

その門前で鉄華オーカミを待っていたのは友人の「一木ヒバナ」と「鈴木イチマル」…………

 

 

「………もういっそ2人で入っちゃう?……いっその事デートしに行く?」

「行かなーい」

「ぬっ……相変わらずガードが固い」

「私にバトルで勝ってから言いなさいっていつも言ってるでしょ?」

 

 

待っている間、2人にとってはいつものやり取りが繰り広げられる。どこまでもヒバナLOVEなイチマルはどうしても彼女に目を向けられたいらしい………

 

 

「……って言うか、アンタもよく私なんかをずっと追いかけられるわね……こんなに振られ続けたら普通百年の恋も冷めるもんでしょ」

「いやいや、ヒバナちゃんはオレっちにとって特別ですから。なんて言うかな〜……詳しくは言いづらいんだけど、ヒバナちゃんカッコいいんだよね〜………後可愛いし」

「結局顔かい」

 

 

最早漫才とも取れる会話を繰り広げる2人。その間に、こちらを走って来る人影が見えて来た…………

 

 

「あ、オーカ!……お〜い、こっちだよ〜」

「ちぇっ、もうちょっと遅く来いよな鉄華オーカミ、折角ヒバナちゃんと2人っきりでお話ししてたのに」

「さっき「さっさと来いってんだ」とか言ってたクセに………でもなんか変ね、オーカ、『急いでこっちに向かっている』って言うよりかは『何かに追いかけられてるから逃げてる』って感じがするんだけど………」

 

 

オーカが何者かに追われている事を察するヒバナ。やがてその背後に存在している別の人物にも気が付いて…………

 

 

「いい加減止まって私ともう一戦しなさいよ!!…今度こそぶっ飛ばしてやるんだから!!」

「オレはこの後用事があるんだよ、って言うかさっきぶっ飛ばしただろ」

「あんな手抜きバトル許せるわけないでしょ!?……私がちゃんとやって勝つまでやってもらうわ!!」

「そんな無茶な」

 

 

赤髪の少年、鉄華オーカミは絶賛同じくらいの背格好の癖毛で桃色の髪の少女に追いかけられていた。理由としては、前回のバトルが原因である…………

 

 

「な、何やってんだ鉄華オーカミのヤツ……」

「女の子に追いかけられてる?」

 

 

この非常にコミカルな出来事にやや困惑気味の待ち合わせ組2人。そんな彼らにオーカが気づいて………

 

 

「あ、ヒバナ、イチマル………ごめん、先にスタジアムの中入ってて、オレまだちょっと寄るとこあるから」

「えぇ、ちょっとオーカ!?」

 

 

白髪の少女から逃げながらそう告げるオーカ。そのままヒバナとイチマルをおいてまた別の所へと走り去って行った…………

 

 

「……な、何だったの?」

「あの結構可愛い子、ひょっとして鉄華オーカミの彼女?」

「ッ……な、な訳ないでしょ!?…あのオーカよ!?」

 

 

イチマルの予想に、ヒバナは激しく動揺する。

 

 

「いや、ある!!……鉄華オーカミがさっきの子とカップリングになって、このイチマルがヒバナちゃんとカップリングになる展開!!……絶対にあると思います〜!!……ウヒャヒャヒャー!!」

「笑い方キモ!!」

 

 

オーカと白髪の少女との関係が気になる2人。実際には追いかけられていた事から、多分そんな事はないとは思われるが、ヒバナとしてはちょっと不安で、イチマルにとっては期待の塊でしかなかった。

 

 

「どっちにせよ、オレはヒバナちゃんと2人っきりならそれでいいけど!!」

「私はちょっと最悪。なんでアンタと2人っきりなのよ?」

「まぁまぁ、ここは鉄華オーカミの言ってた通り、2人で先にスタジアム行こうよ。良い席がなくなるかもしれないし」

「…………はぁ、仕方ないわね」

「よっしゃ!!…さぁ、行こ行こ!!」

 

 

オーカが来るからと言う理由で来たヒバナにとっては最悪の展開だが、この状況では致し方ない、オーカの言う通り、イチマルと共に界放市中央スタジアムの中へと足を踏み入れたのだった…………

 

 

******

 

 

「………遅ぇなオーカのヤツ、もうすぐ試合始まっちまうんだけど」

 

 

中央スタジアムの選手控室。その扉前で、Mr.ケンドーこと九日ヨッカは弟分であるオーカを待ち続けていた。

 

この世の誰よりも頼りにしている弟分。彼ならきっと念願のブレイドラパンを購入して来てくれると思っていたが…………

 

 

「あ、アニキいた」

「ッ……オーカ!!…サンキュー、よく来てくれた」

「ごめん、色々あってなんとかパンって言うのは買えなかった」

「え、そうなの………マジ?」

「マジ」

 

 

ようやく到着したオーカ。だが買えなかったと言う悲報にヨッカはショックを受ける。お腹も残念がるように音が鳴る。

 

それを聞くとオーカは申し訳なさが内心で加速する。

 

 

「ごめんアニキ」

「気にすんな!!…腹ペコだろうがオレは勝つさ。後ここではMr.ケンドーって呼んでくれ。正体バレるから」

「実はもう少しで買えてたんだけど、変なのに絡まれてさ」

「変なの?」

「うん、桃色髪でスカジャンの女」

「…………」

 

 

白髪でスカジャンの女…………!?

 

なんか、めっちゃ知ってる気がする………

 

 

「お、おいオーカ……ソイツ、ひょっとし………」

「あ!!……見つけたわよ、赤チビ!!」

「ゲッ……!」

 

 

特徴を耳にするなり何かを悟ったヨッカ。しかしその直後にオーカを追いかけ回し続ける白髪のショートヘアでスカジャンを羽織る女の子が姿を見せて…………

 

 

「や、やっぱり………ライ」

「今度こそ逃さないわよ、観念して私に負けなさいよ!!」

「なんでオレが負ける前提なんだよ……つーことだからアニキ、こんな状況だから試合もちゃんと観れるかわかんない」

「あ、おい、オーカ!」

「コラ待てぇ!!」

 

 

少女を見るなり一目散に逃げ出すオーカ。そしてそれを追いかける少女。

 

だが少女は赤い仮面を被ったMr.ケンドーの姿をしたヨッカを目にするなり一度足を止めて…………

 

 

「………どっかで会いました?」

「い、いや……君みたいな美しいレディは見た事ないなー……はっはっは」

「………そっか、ごめんなさいね!!」

 

 

驚き、思わず片言で言葉を返す。なんとか誤魔化せたか、少女はそう言うとまた逃げるオーカに向かって走り出した。

 

難を逃れたヨッカは重たい肩をホッと撫で下ろす。

 

 

「はぁ………変装しててよかった………マジか、まさかオーカとライがな」

 

 

オーカを追いかけ回している少女の事を知っている様子であるヨッカ。どうやらかなり深い関わりがあるみたいだ。

 

 

「……よし、ライも楽しそうだったし、まぁ良いだろ!…………んじゃ、行くかね、挑戦者の所に!!」

 

 

気合を入れ直すヨッカ。こうやってすぐさま切り替えができるのもまた彼が王たる故である。

 

服装や仮面に不備がないか確認すると、中央スタジアムのバトル場へと足を進めた…………

 

 

******

 

 

Mr.ケンドーが立ちはだかるスタジアムのバトル場、その入り口にて、挑戦者である早美アオイとその側近、フグタは………

 

 

「お相手さんが来やがったな。三王なだけあって風格が全然違ぇな」

「………彼のプレイングは散々研究して来ました。後は勝つだけです」

 

 

高校1年生にしてプロのカードバトラーである早美アオイ。同じモビルスピリットのデッキを使うモビル王、Mr.ケンドーを目前にしてそう意気込みを見せる。

 

しかし、それだけではなくて…………

 

 

「必ず勝てお嬢。じゃないと、ここで計画が終わる」

 

 

掛けているサングラスの位置を戻しながら、意味深にそう呟くフグタ。

 

 

「えぇ……わかってますわ。これは飽くまでも『STEP1』……必ず遂行して見せます」

「………あぁ、行って来い」

 

 

単語だけでは決して理解できない会話を繰り広げる2人。やがて早美アオイは緊張を吐き出すように深呼吸をすると、己のBパッドを左腕にセットし、界放市最大級の大きさを誇るスタジアム、中央スタジアムへと足を運んで行った…………

 

遂に揃う役者に、大盛り上がりする観客席。轟音の歓声が響く中、Mr.ケンドーこと九日ヨッカと早美アオイが対面した…………

 

 

「………結局オーカ間に合わなかったね……」

「きっとさっきの可愛い女の子とデートにでも行ったんでしょ?」

「………」

「ごめんてヒバナちゃん、そんな怖い顔しないで」

 

 

観客席の中にはヒバナとイチマルもいる。オーカは結局『ライ』と呼ばれる桃色髪の少女に追いかけられて、試合開始までに間に合わなかった様子。

 

ヒバナが残念そうに「折角席も空けたのになー……」と呟くと、バトル場にいる役者、早美アオイとMr.ケンドーが互いの健闘を称え、握手を交わした。

 

 

「……ようやく、この場でお会いする事ができましたね、Mr.ケンドーさん。そのモビル王と言う名の玉座、明け渡してもらいますよ?」

「強気なレディーだな。いいだろう、このMr.ケンドーが相手になってやる」

「………仮面被ると性格が変わるのは本当なんですね」

 

 

まるでイタイ人を見るかの如く目を向けるアオイ。それでもMr.ケンドーはお構いなしで、そのキャラを止める様子はない。

 

この一見イタイ人に見えるナルシストキャラこそが、九日ヨッカではない、Mr.ケンドーと言う人格なのだ。ギャラリーや自分のファンがいる中で、それを崩す事は決して許されない。

 

 

「後、君には色々と聞きたい事もある」

「………?」

「まぁ、それはおいおい話そう」

 

 

試合前にMr.ケンドーがそう告げる。「何かお話しする事でもあったか?」そう思うアオイだが、今は気にしていても仕方がない。セットしているBパッドにデッキを置き、バトルの準備を終える。

 

そしてMr.ケンドーもまたそれを終えて…………

 

 

「じゃあ、準備はいいかい?」

「はい、いつでも」

「うん。じゃあ、やろうか……!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

大歓声の中、中央スタジアムでMr.ケンドーと早美アオイによるモビル王の称号を賭けたバトルスピリッツが開始される。

 

カードバトラーとして、モビルスピリットの使い手として、互いのプライドを賭けたこの一戦、先攻は挑戦者側の早美アオイ。颯爽とターンを進めていく…………

 

 

[ターン01]アオイ

 

 

「メインステップ、私は母艦ネクサス、プトレマイオスを配置……!」

 

 

ー【プトレマイオス】LV1

 

 

シャトルのような形状をした青属性の母艦、プトレマイオスが彼女の背後に出現した。先ずはモビルスピリットならではの母艦ネクサスで足場を固める。

 

 

「ターンエンド……ですわ」

手札:4

場:【プトレマイオス】LV1

バースト:【無】

 

 

手堅い戦法で初ターンを終えるアオイ。次は現モビル王であるMr.ケンドー…………

 

 

[ターン02]Mr.ケンドー

 

 

「メインステップ……ネクサス、最後の優勝旗。配置時効果でコアブースト」

 

 

ー【最後の優勝旗】LV2(1)

 

 

Mr.ケンドーの背後に古びた巨大な旗が出現。その効果で彼の使用できるコアを1つ増加させた。

 

 

「バーストを伏せ、ターンエンドだ」

手札:3

場:【最後の優勝旗】LV2

バースト:【有】

 

 

「……バースト、ですか」

 

 

次にバーストをセットすると、そのターンを終える。アオイは彼の伏せたそれを警戒しながら己のターンを再び開始する。

 

 

[ターン03]アオイ

 

 

「メインステップ……青のモビルスピリット、ガンダムキュリオスを召喚しますわ」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

 

上空に現れた戦闘機が、この場へと向かって高速で急降下して来る。その間にそれは人型の姿へと変形を遂げ、着地してみせる。

 

そのスピリット、ガンダムキュリオス。系統「CB」を持つ早美アオイの所有するスピリットの1体だ。

 

 

「召喚アタック時効果、ターンに一度、ボイドからコア1つを自身に追加」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】(1➡︎2)

 

 

その効果は至ってシンプルなコアブースト能力。Mr.ケンドー同様に使用できるコア数を増加させる。

 

 

「さらにネクサス、プトレマイオスの効果。系統「CB」を持つスピリットが存在する時、ターンに一度、1コストを支払い、デッキから2枚ドローし、その後1枚捨てます。私はこのカード「ガンダムキュリオス[トランザム]」を破棄」

 

 

ここで前のターンに配置していた母艦ネクサス、プトレマイオスが光る。青特有の手札交換能力も発揮させ、彼女は手札の質をより向上させる。

 

 

「アタックステップ、キュリオスでアタック……そしてこの瞬間【トランザム】の効果発揮」

「!!」

「自身を手札に戻し、トラッシュから同名のトランザムスピリットを召喚………先程トラッシュに破棄したキュリオストランザムをこの場に!!」

 

 

ー【ガンダムキュリオス[トランザム]】LV2(2)BP4000

 

 

キュリオスの装甲が赤みを帯びていく。溢れる赤き光はそれをトランザム体の姿として格段にパワーアップさせた。

 

 

「トランザム……CBのデッキではお家芸の戦法だな」

「召喚時、自身とプトレマイオスにコアを1つずつ追加致します!」

 

 

さらに加速するコアブースト。まだまだ序盤だと言うのに、手札とコアのアドバンテージに大きく差をつけていく。

 

 

「………召喚時、手札の増加、アタック。それらにそのバーストカードが反応しないと言う事は、ライフ減少時のバーストなのでしょう……スピリットがいないのに破壊後のバーストなんて普通しませんものね」

「ふふ、さぁ、どうだろうね」

 

 

ここまでの一連の動きに微動だにとしなかったMr.ケンドーのバースト。その事から、アオイは何が伏せられているのかを予測する………

 

そして…………

 

 

「貴方のバトルは研究済み、ここでそのバーストは開かせて貰います………アタック、キュリオストランザム!」

「………いいだろう、来たまえ。ライフで受ける……!」

 

 

まるでジェット機のような勢いで被弾するキュリオストランザムの弾丸がMr.ケンドーのライフを1つ貫く。

 

それに反応し、彼のバーストが勢い良く反転して…………

 

 

「ライフ減少後のバースト、選ばれし探索者アレックス」

「………やはりそれでしたか」

「この効果で自身を召喚、LV2だ。不足コストは最後の優勝旗から確保、よってLVダウン」

 

 

ー【最後の優勝旗】(1➡︎0)LV2➡︎1

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2(2S)BP6000

 

 

「その効果でこのターンのアタックステップは終了となる」

 

 

反転するバーストカードと共に現れたのは紫色のフードを深く被った人型のスピリット、アレックス。その効果でアオイのアタックステップが強制的に終了となり、エンドステップへと無理矢理移行される…………

 

 

「読み通り………エンドステップ時、キュリオストランザムの効果で自身をトラッシュに戻す」

「………成る程ね」

「えぇ、武士道の的にはさせません、ターンエンドです」

手札:6

場:【プトレマイオス】LV1

バースト:【無】

 

 

このアレックスは完全にアオイの予測通りだった様子。エンドステップに伴い、トランザムで強化されたキュリオスは粒子と化し、この場から消滅した…………

 

それに伴い、Mr.ケンドー側にはある不利益が発生していて…………

 

 

「……上手い、流石アオイさん」

「うん。エンドステップにはトラッシュに戻さないといけないトランザムスピリットの特徴を活かして、次のターンの武士道によるBP破壊の当て駒にされないようにしたんだ」

 

 

観客席にいるヒバナとイチマルがそう語り合った。特にイチマルは意外と戦況を隅々まで把握しているようで…………

 

 

「………イチマル、アンタ意外と考えるのね……ちょっと凄いかも」

「え、あ、そう!?……オレっちこう見えても結構努力型なんだよね〜……一応去年の界放リーグベスト8だったし」

「自分で言ったら台無しなんだよね」

 

 

手札とコアを多く稼ぎ、殆ど百点満点のプレイングを見せつけそのターンを終えた早美アオイ。

 

だが、アタックして敢えてアレックスをバースト発動させたのは覚悟の上、Mr.ケンドーの大反撃が彼女を待ち受ける………

 

 

[ターン04]Mr.ケンドー

 

 

「メインステップ………成る程、ガラ空きのフィールド。如何にもアタックしてくださいと言っているようなモノだ………アレックスの効果、自身を疲労させてコアブーストか1枚ドロー……今回はコアブーストを選択」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】(回復➡︎疲労)(2S➡︎3S)

 

 

アオイが敢えてアタックをし、自分にコアを与えさせ、強力な攻撃を待っているのは明白。

 

普通ならば、そんな見え見えの罠にかかりにいく訳にはいかないが………

 

 

「でも、折角の挑戦者の挑発だ。かかりにいかない訳にはいかないよな?」

「………」

 

 

罠であるとわかっていても、敢えて攻勢に回る。それこそがモビル王、エンターテイナー…………

 

今までもそうやって数多の挑戦者達を蹴散らしてきた無双のモビルスピリット使い、Mr.ケンドーのやり方なのだ。

 

手札にある1枚のカードを切り、それをBパッドへと勢い良く叩きつけた…………

 

 

「その剣技、天空をも斬り裂く!!……モビルスピリット、スサノオをLV1で召喚!!」

「!」

 

 

ー【スサノオ】LV1(1)BP10000

 

 

黒い外装に甲冑を思わせる角を施したモビルスピリット、スサノオがこの場より飛来して来る。手に持つ薙刀が日光に反射すると、それと同時に観客の人々がまた轟音のような歓声を沸かせた…………

 

無理もない、このモビルスピリットはモビル王たる彼の象徴。言わばヒーロー的な扱いを受けている存在なのだから…………

 

しかし………

 

 

「………来ましたねスサノオ。ですが私のスピリットがいない中では【武士道】の効果は無意味」

 

 

余裕の表情を見せるアオイ。

 

そう、スサノオの効果はアタックステップの開始時に相手スピリットとバトルする【武士道】の効果があってこそ…………

 

だが、それを想定していないMr.ケンドーではない。

 

 

「確かに効果は無意味だ。でも、スサノオの存在自体が無駄になっているわけではないぞ」

「!?」

「アレックスのLVを1に下げ、オレはブレイヴカード、GNビームサーベルをスサノオに直接合体!」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】(2S➡︎1S)LV2➡︎1

 

ー【スサノオ+GNビームサーベル】LV1(1)BP13000

 

 

天空より落下し、地に突き刺さる一本のエネルギー剣。スサノオは空いている左手でそれを引き抜き、合体スピリットとなった。

 

 

「ついでにまたバーストを伏せて置こう………GNビームサーベル、青のモビルスピリット使いの君なら理解しているだろう?」

 

 

Mr.ケンドーがアオイに聞いた。

 

 

「………GNビームサーベル、青のモビルスピリットとの合体では、その合体上限として数えない。「ガンダム」の名を持つか持たないかで効果が変わる特殊なブレイヴ………」

「そう。オレのスサノオは「ガンダム」の名を冠さないモビルスピリット、GNビームサーベルは「ガンダム」の名を持たないスピリットとの合体中は青のシンボルを1つ追加する………故に、今のスサノオは………」

「………トリプルシンボル、さらに武士道で敵を倒せば追加でライフも取れる……バケモノ……!!」

 

 

アオイは、スサノオの【武士道】を意識し、スピリットを残さない動きをして、尚の事正解だったと言える。

 

ここまでの一連の流れは、まだ4ターンしか経っていないのだ。僅か4ターンでこれ程強力なスピリットを爆誕させてしまうMr.ケンドーこそ、まさにバケモノだ。

 

彼女が一切研究せずに挑めば、きっともう負けていたに違いない………

 

だがそれでも、致死量にならない程度の強烈な一撃はやって来るのだが…………

 

 

「アタックステップ………合体アタックだ、スサノオ!!」

「ッ……ライフで受ける………ぐっ…ぐぅっ!?」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉アオイ

 

 

元から持っている実体剣の薙刀とビームサーベル、2つの業物による二振りが、アオイのライフバリアを一気に3つも砕いていく…………

 

それにより、ライフは残り半分にも満たない、たったの2つのみ…………

 

 

「ターンエンド……オレのライフを中途半端に破壊して、中途半端にコアを増やさせて、中途半端な攻撃をさせる………そして増えたコアで自分が最高の攻撃を行う。君の筋書きは大方そんなとこだろう?………お望み通りそうしてやった。さぁ、このオレに全力で挑んで来い………!!」

手札:1

場:【スサノオ+GNビームサーベル】LV1

【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1

【最後の優勝旗】LV1

バースト:【有】

 

 

「……今のが、中途半端……ですか、予想はしてましたが、やはり恐ろしいお方ですね」

 

 

アオイの行動を全て読み切った上での攻撃。敢えて誘いに乗り、予想以上の攻撃で大きなダメージを与えると共に、Mr.ケンドーはそのターンをエンドとする。

 

 

「おぉ、やっぱ強ぇな、Mr.ケンドー!!……クソカッコいいぜ!!…ヒバナちゃんもそう思うでしょ?」

「そうね………仮面はちょっとダサいけど」

「え、そう?……そんなにダサくなくない?……寧ろよりかっこよさが増してると思うんだけど?」

「多分だけどセンスないよ」

 

 

観客席のヒバナとイチマルは、Mr.ケンドーの赤い仮面について話題にする。どうやら見る人によってかなり偏った評価に分かれる様子…………

 

 

「謎の仮面バトラーMr.ケンドー、その素顔は誰も知らない武士道戦士………くうーーッ!!…いつかオレっちもバトルしてみてぇ!!…つーかお話ししてぇ!!」

「昔から好きよね、Mr.ケンドー……でもなんかあの人って、どっかで見た事ある気がするんだよね………」

 

 

2人は、実はよく通っているカードショップ「アポローン」の店長「九日ヨッカ」こそがMr.ケンドーの正体である事は知る由もない…………

 

次はアオイのターン、強烈な一撃で溜まったコアを使い、予定通り反撃に転ずる…………

 

 

[ターン05]アオイ

 

 

「メインステップ………先程手札に戻ったガンダムキュリオスを再召喚。効果でコアを増やします」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(2)BP2000

 

 

前のターンと全く同じ。アオイはオレンジ色の装甲を持つキュリオスを再び召喚、コアブーストに繋げる。

 

ただ、その行いが、Mr.ケンドーのバーストを開かせる………

 

 

「バーストをもらおう、相手のスピリットの召喚時発揮後………」

「キングスコマンド………ですわね?」

「ご名答。オレのデッキを研究しているだけの事はある………効果で3枚引いて、1枚捨てる」

 

 

アオイも予想していた通り、ここは汎用性の高い青のバーストマジック、キングスコマンド。その効果でMr.ケンドーは手札を1枚から3枚に増やした。

 

その後、本来であればキングスコマンドのフラッシュで使えるアタック抑制効果を発揮したいところではあったが、今回はコアがカツカツであり、使用するには全てのスピリットからコアを弾かないといけないため、彼はそれを使わずにそのまま破棄した。

 

アオイはそれを見越した上でターンを進めていく…………

 

 

「もう1体、キュリオスを召喚、コアブースト!」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV2(2)BP2000

 

 

合計2体のキュリオスが彼女の場へと並ぶ。加速していくコアブースト、彼女はそれを利用し、手札からあるカードをさらに引き抜く…………

 

 

「行きます……」

「来るか」

 

 

それはオーカ、鉄華団との戦いでは見せることのなかった己の切札………

 

 

「舞いなさい、天高く!!…ガンダムをも超越する戦士、ダブルオーライザー!!」

 

 

ー【ダブルオーライザー】LV2(3)BP11000

 

 

その輝きはまるで流星の如し………

 

上空から一線の光と共に地上へと出現したのは、ガンダムの名を持たない、いや、ガンダムを超越したからこそ、その名を持たないモビルスピリット、ダブルオーライザー。

 

手に持つ二振りのブレードを宣戦布告するようにMr.ケンドーへと向けた。

 

 

「………これが噂に聞くダブルオーライザーか………良いモビルスピリットだな」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます。ダブルオーライザーは私のデッキの真のエースカード………このターンで勝ちます!!」

 

 

アオイはそう意気込むと、召喚したダブルオーライザーの効果を発揮させる…………

 

 

「ダブルオーライザーの召喚時効果、系統「CB 」を持つスピリット全てにコアを1つずつ追加します」

「!」

 

 

ダブルオーライザーの両肩に備え付けられたブースターが青い光を放出。それらが彼女のスピリットに力を与えるかのように、コアをまた新しく追加させた………

 

さらにそれだけでは終わらなくて…………

 

 

「さらにガンダムの名を持つスピリットが2体以上いる時、相手の手札を全て手元に置く!」

「む」

「ガンダムキュリオスが2体いますので、この効果も適用。今の貴方の手札は3枚、よってそれら全てを手元に!!」

「ッ……!」

 

 

ダブルオーライザーが二振りのブレードを振い、光の斬撃波を放つ。それらは一直線にMr.ケンドーの方へと向かっていき、直撃………

 

彼の持つ手札を弾き飛ばした。

 

バトルスピリッツにおける【手元】とは、基本的には『公開されただけの手札』と言ったところで、基本的には同じだが、一部のカードは手元では使用できなくなる場合がある。アオイは彼のデッキにそれらのカードがある事を見越してこの効果を発揮させたのだが…………

 

弾かれた手札の内1枚はMr.ケンドーがキャッチして…………

 

 

「残念だが、このカード「絶甲氷盾〈R〉」は手札にある間相手の効果を受けない」

「な……耐性持ちの防御マジック!?」

「よって、手札に残る」

 

 

残った2枚は「選ばれし探索者アレックス〈R〉」と「アヘッド近接戦闘型[サキガケ]」のカード。手札では特に効果はないこの2枚は手元に置かれるが、防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」のカードは効果により彼の手札に戻った。

 

このカードは意外だったが、アオイは愕然とする。

 

 

「対策をしているのが君だけかと思ったか?」

「!」

「オレも忙しいけど、ある程度勉強はしてるんだぜ」

 

 

………「絶甲氷盾〈R〉」のカードがある限り、ライフ減少に合わせてアタックステップを終了させられる。

 

つまりこのタイミングではどうやっても決められない。詰めが甘かった。なんでこっち側を対策される事を考えなかったのか…………

 

アオイはやや焦りを覚え始める。

 

 

「……若いな」

「………なんでしょうか急に」

「君は若い。確かにそこら辺の学生と比べたら踏んだ場数は違うんだろうけど…………試合開始前に聞きたい事があると言ったのを覚えているか?」

「えぇ」

 

 

彼女のメインステップ中。Mr.ケンドーは彼女を呼び止め、質問をする。

 

 

「君は強い。しかも家柄も富豪でとても裕福だ。ただ、オレの経験上、それだけでプロになれるとは思えないんだ」

「凄く失礼ですわね」

「それはごめんよ」

 

 

失礼は承知の上、Mr.ケンドーは質問を続ける。

 

 

「ダブルオーと言うモビルスピリットは君が有名になるまで、オレでさえも知らなかった。そのカードはどこで手に入れたんだ?」

「………」

 

 

質問に対しての沈黙。ダブルオーの秘密に対しては答えられない様子…………

 

 

「答えられないか?……オレの勝手な予想なんだが、それはとんでもない悪い奴から譲り受けた物なんじゃないのか?……それはそれは君が答えられない程の、大悪党さ」

「…………」

「オレは知っている。人間の進化の力を利用して、最強のデッキを創造した男を……君の背後には、ソイツがいるんじゃないのか!?……脅されて、何かをさせられているんじゃないのか!?」

 

 

アオイの背後にいる何者かを探るMr.ケンドー、いや、九日ヨッカ。

 

彼の言う通り、かつて、人間の進化の力を利用し、最強のデッキを形成、界放市を中心に、世界を滅亡させようとした存在がいた。ある1人の英雄によってそれは免れ、その存在も死したはずだが…………

 

早い話『「ダブルオー」のカードはその存在が完成させたカードではないのか?』と言う事だ。

 

 

「………ぷ、あはははは!!!!」

「!」

 

 

アオイは何を言い返すのかと思えば、今度は腹を抱えて笑い出した。

 

 

「し、失礼しました。そんな訳ないじゃないですか!!……私は普通に頑張って、普通にプロになったただのカードバトラーですよ?」

「…………じゃあダブルオーはなんだ?」

「この世界には幾千幾億ものカードが存在する、三王の貴方でも知らないカードがまだあっただけですよ〜」

「………」

 

 

ヨッカは彼女のその笑顔の裏に、何かが隠れている気がしてならなかった。笑い飛ばしているだけで、何かが中で蠢いている気がしてならなかった…………

 

 

「それに、私のダブルオーより、鉄華オーカミ君の鉄華団、バルバトスの方がよっぽどそれらしく見えますけどね」

「………」

「さぁ、話はここまでです。バトルを再開しましょう。余り長く立ち話をしていては、折角足を運んでいただいたお客様に失礼ですからね………ダブルオーライザーのLVを3にアップ」

 

 

ー【ダブルオーライザー】(3➡︎5)LV2➡︎3

 

 

やや強引に話を切り、バトルを再開する。ダブルオーライザーのLVが最大の3へと上がり、そのBPは16000まで上昇。

 

 

「プトレマイオスの効果で1コスト支払い、2枚ドロー、その後1枚破棄………アタックステップ、目標を駆逐なさい、ダブルオーライザー!!……アタック時効果でフィールドと手元のアレックスを1枚ずつ破壊……!」

「!」

 

 

ダブルオーライザーがフィールドにいるアレックスを睨み付けると、アレックスは粒子となり消滅。同時に手元に置かれてい同名のカードもトラッシュへと送られる。

 

 

「………アタックはライフで受ける」

「ダブルオーライザーはダブルシンボル、ライフを2つ破壊します……!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉Mr.ケンドー

 

 

光速で迫り来るダブルオーライザー。二振りのブレードでMr.ケンドーのライフバリアを斬り裂く………

 

 

「ライフ減少時、絶甲氷盾の効果を発揮、このターンのアタックステップを終了させる」

 

 

直後に使用されるのは彼の手札で唯一残った「絶甲氷盾〈R〉」………

 

その効果により、このターンのアオイのアタックステップが又しても強制的に終了。ターンをエンドとせざるを得なくなってしまう。

 

 

「ターンエンドです」

手札:5

場:【ダブルオーライザー】LV3

【ガンダムキュリオス】LV1

【ガンダムキュリオス】LV1

【プトレマイオス】LV1

バースト:【無】

 

 

何も話す事はない…………

 

そう言いたげにも聞こえるエンド宣言。何かを隠している事に確信を抱きながら、Mr.ケンドーがターンを迎える。

 

 

[ターン06]Mr.ケンドー

 

 

「メインステップ……手元より、モビルスピリット、サキガケを召喚!」

 

 

ー【アヘッド近接戦闘型[サキガケ]】LV2(2)BP8000

 

 

前のターンにダブルオーライザーによって手元に送られたカードを召喚。フィールドに新たなモビルスピリット、紫がかった桃色の装甲を持つサキガケが大型のビームサーベルを片手に姿を見せる。

 

 

「まだ行くぞ、手札からブレイヴカード、牙皇ケルベロードを召喚し、スサノオと直接合体!!」

「ッ……ここに来て通常のブレイヴ!?」

「あぁ、さらにスサノオをLV3にアップ………これがスサノオの真の姿!!」

 

 

ー【スサノオ+牙皇ケルベロード+GNビームサーベル】LV3(5)BP24000

 

 

現れたのは鎧を着けた黒い獣。今すぐにでも噛み付かんと言わんばかりの咆哮を上げると、それは黒い翼となりスサノオの背部へと装着される。スサノオの装甲にも青い筋が入り、より強力な合体スピリットとなる。

 

 

「アタックステップ……その開始時、ようやく発揮できるな。サキガケとスサノオ、それぞれの【武士道】を発揮!」

「!」

「先ずはサキガケの【武士道】でBP2000のガンダムキュリオスを指定し、強制バトル!」

 

 

ここに来て発揮される【武士道】の効果。サキガケが大型のビームサーベルの切先を向け、キュリオスへと向かっていく。

 

銃撃で迎撃するキュリオスだったが、その弾丸はサキガケに擦りもせず、遂には懐に潜り込まれ、胸部を串刺しにされて力尽き、爆散した。

 

 

「サキガケの武士道で勝利時、デッキから3枚引いて、2枚捨てる」

 

 

この効果で0となっていた手札を1枚に増やすMr.ケンドー。そして次は本命のスサノオの武士道…………

 

 

「今度はスサノオの武士道!!……一騎打ちを所望する相手は当然、ダブルオーライザー……!!」

「くっ……BPは圧倒的にスサノオの方が上……」

 

 

両者エーススピリットが激突。先手必勝と言わんばかりにスサノオが薙刀をダブルオーライザーに向かって投擲するが、ダブルオーライザーはブレードでそれを叩き返す。

 

スサノオはその隙をついて距離を詰め、GNビームサーベルで近接戦闘に持ち込む。何度も刃を交えていく中、遂にダブルオーライザーの二振りのブレードが弾かれ、トドメの横一線の一撃を喰らい、爆散。

 

モビル王、Mr.ケンドーのモビルスピリットであるスサノオの勝利に終わる。

 

 

「………私のダブルオーライザーをこうも容易く斬り伏せるなんて………」

「スサノオの武士道勝利時、相手ライフ1つを破壊する」

「!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉アオイ

 

 

ダブルオーライザーを撃破した束の間、スサノオはGNビームサーベルを振い、飛ぶ斬撃を放つ。それは真っ直ぐ飛び行き、アオイのライフバリアを1つ斬り裂いた。

 

 

「………強い………!」

「あぁ強いさ、なんて言ったってオレはモビル王。全てのモビルスピリット使いの頂点に立つ男なんだからな……!」

 

 

スサノオの活躍に沸き上がる歓声、止まらぬケンドーコール。アタックせずにスピリットとライフを奪い抜く【武士道】の戦術で、これこそがモビル王であると見せつけていく…………

 

そして、ここからが本当のアタックステップだ…………

 

 

「目標を殲滅せよスサノオ………アタックだ!」

「!」

「牙皇ケルベロードのアタック時効果、デッキの上から5枚を破棄、そうした時ターンに一度だけ回復する」

 

 

ー【スサノオ+牙皇ケルベロード+GNビームサーベル】(疲労➡︎回復)

 

 

黒き翼を翻らせ、上空へと飛翔するスサノオ。その瞬間、合体している牙皇ケルベロードの効果が発揮。彼のデッキの一部のカードを犠牲にし、回復状態となった。

 

 

「GNビームサーベルの効果で青のシンボルを1つ追加、合計シンボル4点、クアドラプルシンボルのアタック……!」

「……2体目のキュリオスでブロックします」

 

 

残り1つしかないアオイのライフ。守護すべく、キュリオスが迫り来るスサノオの前に立ちはだかるが、その銃撃は強固な装甲の前では全く意味をなさず、あっさり斬り裂かれ、爆散してしまう。

 

これでアオイのスピリットは0。ブロックさえもできない状況に陥る。

 

 

「続けサキガケ!!」

「………」

 

 

今度はサキガケが行く。その鉄の眼光に映されるのは早美アオイの最後のライフバリア…………

 

これを受けて仕舞えば敗北は必至の彼女は、そうはさせまいと手札のカードを1枚引き抜く…………

 

 

「フラッシュマジック、リミテッドバリア!」

「………!」

「効果により、このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックではライフは減りません。さらにコストの支払いにソウルコアを使用したので、ネクサス、最後の優勝旗を手札に………アタックはライフで受けます!」

 

 

〈ライフ1➡︎1〉アオイ

 

 

彼女の前方に展開されるのは半透明で強固なバリア。それが出現すると同時に、最後の優勝旗が粒子化してMr.ケンドーの手札に戻る。

 

サキガケが大型のビームサーベルで何度かそのバリアを斬りつけるが、ビクともしない。

 

 

「リミテッドバリアとはまた良いカードを仕込んでいたな……だが、オレのスサノオの前では無意味………エンドステップ、ここでスサノオのアタック時効果発揮」

「!!」

「アタックステップとエンドステップを一度だけ繰り返す。リミテッドバリアの効力は最初のエンドステップで尽きるため、この攻撃は有効となる………トドメを刺せ、スサノオ!!」

 

 

ここでスサノオの第二の効果が起動。アオイの前方に出現していたリミテッドバリアは消え失せ、再び丸裸になる。

 

そこにスサノオが飛び込んで行き…………

 

手に持つビームサーベルで荒々しく、豪快に…………

 

フィニッシュを決めるはずだった。少なくとも、Mr.ケンドーと観客達はこの一撃で決まると思っていた…………

 

 

「【武力介入】………エクシア!!」

「………なに?」

「スサノオの攻撃を、ブロックなさい……!」

 

 

ー【ガンダムエクシア】LV2(2)BP4000

 

 

攻撃が決まる直前、身代わりになるかの如く天空から舞い降りて来たのは、青と白の装甲で彩られたスマートなガンダム、エクシア。

 

スサノオの一撃で一瞬にして儚く散っていくも、主人であるアオイのライフを守り抜いた。

 

 

「……まだ武力介入効果を持つスピリットを隠し持っていたとはな……これでターンエンド」

手札:1

場:【スサノオ+牙皇ケルベロード+GNビームサーベル】LV3

【アヘッド近接戦闘型[サキガケ]】LV2

バースト:【無】

 

 

「……ハァッ……ハァッ……!」

 

 

息つく間もなく続いた激しい攻撃。アオイは防御マジックと【武力介入】の効果でそれを辛うじて凌ぎ切るも、場の状況から、誰がどう見てもMr.ケンドーの優勢…………

 

あれだけの策を考えて来たと言うのに、その全てを無に返され、今こうして崖っぷちに立たされている…………

 

 

(………STEP1は私がこの人に勝ち、モビル王になる事………)

 

 

薄くなった勝ち筋。敗北が脳裏に過ぎる直後、すぐさま思い出したのは言い渡された計画の一部…………

 

そしてその計画遂行の果てに存在する1人の少年の笑顔を…………

 

それを頭に思い浮かべただけで彼女はその闘志を強く燃え上がらせる…………

 

 

(………実力差があり過ぎるのはわかってる。モビルスピリットの使い手として到底及ばない事もわかっている………でも私は負けられないんです………あの子のために………!!)

 

「…………」

 

 

そのために努力をして来たのだと目で訴えるように気迫を飛ばすアオイ。負けられないと言う強い想いがMr.ケンドーにも伝わって来る…………

 

そして、息を吹き返したアオイの逆襲のターンが幕を開けていく………

 

 

[ターン07]アオイ

 

 

「メインステップ………マジック、ストロングドロー……デッキから3枚引いて、その後2枚破棄します」

 

 

ターン開始早々、アオイは青属性を代表する手札入れ替えマジック、ストロングドローの効果を発揮させ、手札を大きく入れ替えて行く。

 

 

「さらに、追加で2枚のプトレマイオスを配置……」

 

 

ー【プトレマイオス】LV1

 

ー【プトレマイオス】LV1

 

 

2隻、3隻目のプトレマイオスが彼女の背後に出現。合計3つのネクサスカードが並ぶ盤面を作り上げた…………

 

そして、動き出す。

 

 

「鳴動せし伝説の巨兵、機動要塞キャッスル・ゴレム……LV1で召喚」

「ッ………なに!?……このタイミングでキャスゴ!?」

 

 

ー【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1(1)BP6000

 

 

地響きと共に地中から顕現したのは文字通り要塞の如く姿をした巨兵…………

 

その名はキャッスル・ゴレム………

 

世界三大スピリットに数えられる「デジタル」「ライダー」「モビル」そのどちらにも当てはまらない通常のスピリットではあるが、内包された驚異的な効果は世界的にも有名…………

 

それを今、早美アオイは使用する。

 

 

「召喚時効果、配置されたネクサス1枚につき5枚のデッキを破棄。今は3枚のプトレマイオスが存在するので合計15枚のデッキを破棄致します!」

「ッ………!!」

 

 

キャッスル・ゴレムの眼光が青く光ると、それと同じ色の波動がその鉄の身体から拡散していき、Mr.ケンドーのデッキのカードをトラッシュへと送って行く…………

 

サキガケや牙皇ケルベロードなどでデッキを元から少なくしていた彼にとって、これは大きな痛手であり、デッキの枚数は既に10枚を切ってしまった。

 

 

「………2体目のキャッスル・ゴレムを召喚」

「な……2体目、だと!?」

 

 

ー【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1(1)BP6000

 

 

Mr.ケンドーが愕然する暇も無く、再び地響きが唸り、地中から2体目となるキャッスル・ゴレムが姿を見せる。

 

並び立つ2つの巨兵。当然ながら、2体目も全く同じ召喚時効果を有していて…………

 

 

「………これでお終いです。沈みなさい、歴戦の王よ………召喚時効果!!」

「!!」

 

 

2体目のキャッスル・ゴレムから放たれた青き波動が、Mr.ケンドーのデッキのカードを全てトラッシュへと送り飛ばした…………

 

バトルスピリッツにおける2つの勝利条件。1つは『相手のライフを0にする』事。そしてもう1つは『相手のデッキを0にする』事…………

 

その内の後者をアオイはたった今満たして見せた。余りにも意外過ぎる出来事に、観客はケンドーコールを止め、会場全体が静まり返る…………

 

 

「………ターンエンド。モビルスピリット同士の戦いでは貴方に部があり過ぎる………だからとっておきを仕込ませていただきました。ダブルオーを貰うまで、本当はこの勝ち方が好きだったんですよ?」

手札:0

【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1

【機動要塞キャッスル・ゴレム】LV1

【プトレマイオス】LV1

【プトレマイオス】LV1

【プトレマイオス】LV1

バースト:【無】

 

 

「………フ、成る程。それは意外だったな」

 

 

アタックする意味は消え失せたため、アタックステップでのアタックを行わず、すぐさまそのターンを切るアオイ。

 

己の敗北を悟ったMr.ケンドーは、潔く、己の最後のターンを進めていった…………

 

 

[ターン08]Mr.ケンドー

 

 

「………スタートステップ。デッキ0でドローできるカードがないため、オレの負けだ………おめでとう、早美アオイ」

 

 

ターンを進め、あっさりと己の敗北を認めるMr.ケンドー。

 

最初は何も理解できなかった観客達だったが、次第にこの状況が歴史が動き出した決定的瞬間であると理解し出して行き、アオイの勝利、そして新たな麗若き三王の誕生を祝うかの如く、爆音のような大きな歓声を上げていった。

 

 

「か、勝った………勝てた。本当に……あのモビル王に、あのMr.ケンドーに………やった」

 

 

試合前や試合中はあんなに落ち着いていたと言うのに、今ようやく己が成してしまった事に自覚を持つアオイ。周りの轟音よりも心臓の鼓動の方がよっぽどうるさくなっているのを感じる。

 

そして、足が震えてしまって動けない彼女の前に、敗北し、今ここより『モビル王』ではなく『元モビル王』となったMr.ケンドーが姿を見せて………

 

 

「良いバトルだった!……これからモビル王の称号は君のモノだ。負けたオレが言うのもアレなんだが、モビルスピリット使いの手本となる良いバトラーになってくれ!」

「は、はぁ……」

 

 

握手を求められながらそう告げられ、困惑するアオイ。一応その握手には応答するが、自分の計画の事に関して一切触れようとしない事に疑問を抱いて…………

 

 

「じゃあ、これからお互い記者会見で忙しくなるだろうし」

「ちょ、ちょっと待ってください…………何も訊かなくて、良いんですか?」

 

 

さっさと帰ろうとするMr.ケンドーを呼び止め、その事をアオイは質問する。

 

それに対し、彼は大人の余裕とも言える、笑顔を浮かべながら答える。

 

 

「敗者に口なしさ。女の子に無理矢理聞き出すってのも、趣味じゃないしな!…………でも、君がオレ達が追っているヤツと深い関わりがあるって言うのなら、その時は全力で止めるかもな」

「…………」

 

 

真剣な眼差しを向け、そう言い残すと、Mr.ケンドーはバトル場を去って行く。彼の敗北を嘆き悲しむ声が多数聞こえて来る中、アオイもまた無言で、ようやく震えが収まってきた足を動かして、バトル場を出て行った…………

 

役者が消えたと言うのに、観客達の歓声と言う名の轟音は、しばらくの間途絶える事はなかった………

 

 

******

 

 

 

「……良くやったお嬢」

「なんで上からモノを言うのよフグタ。執事のくせに」

「いつもの事だろ?……逆に敬語バリバリ使いながら頭下げてるとこ想像してみろよ」

「………確かに、それはそれでキモいわね」

 

 

中央スタジアムの踊り場にて、生意気な執事フグタと言葉を交える。外では多くのマスコミ達がスタンバイしており、今か今かと彼女を待ち構えている。

 

 

「何にせよ、これに勝ったのはデカいな。おめでとうお嬢………いや、新モビル王と言うべきか?」

「ありがとう………でも、その名は正直今の私には荷が重いと思う」

「………なんで?」

「彼はモビルスピリットのスサノオだけで戦い抜いた。でも私はモビルスピリット同士の戦いに負け、結果スサノオも倒せず、最後は何も関係ないスピリットで勝ってしまった………そんな私がモビル王を名乗っても良いのでしょうか?」

 

 

最後はキャッスル・ゴレムのデッキ破棄効果によるデッキアウトで勝利を掴んだアオイ、どこか複雑な心境の様子。

 

その事を告げられたフグタは軽く笑みを浮かべながら、タバコに火を付ける。

 

 

「フ、何も気にする事じゃねぇだろ。内容がどうあれ、Mr.ケンドーが負けて、アンタが勝った。それでアンタが新しいモビル王になった………ただ、それだけの事だ。モビルスピリットがどうのこうのなんて関係ねぇんだよ」

「………良い感じに語ってるとこ悪いけど、多分関係なくはないと思うわよ」

「はい、マジレス禁止ね」

 

 

自分の日常が帰って来た感じがして落ち着きを取り戻して行くアオイ。だが、直後に彼女のBパッドから一通の電話が届く…………

 

その通話主の名前を確認するなり、いつもの優しく温かい表情から、冷酷そうで冷たい表情に変わり、それに応じる。

 

 

「………何でしょう?………はい。えぇ貴方の言う『STEP1』はこれでクリアしました…………次は何をすれば良いのでしょうか…………」

 

 

 

………Dr.A

 

 

 

アオイが口にしたその名前は、かつてこの界放市を中心に世界を滅ぼそうとしていた悪魔そのモノの名であった…………

 

 

 

 

 

 




次回、第14ターン「大会前夜」


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界放リーグ編
第14ターン「大会前夜」


モビル王、Mr.ケンドーが負けた。そして、ここに新たなモビル王、早美アオイが誕生する。

 

一部では「モビルスピリット同士の戦いには勝利してない」「デッキアウト」での勝利が起因となって炎上していたものの、数日経った今ではそれも鳴りを潜め、時代が動き、彼女がモビル王となったのだと言う認識が広まり、定着していった…………

 

そんな中、日本におけるバトスピ最大都市、界放市。そこで行われる世界的にも注目される大会『界放リーグ』…………

 

その中でも中学生が競い合う『界放リーグジュニア』の開催が翌日に迫っていて………

 

 

******

 

 

「…………」

 

 

部屋の中、ベッドの上で胡座をかき、誰も見たことがない「鉄華団」のカード達を並べているのは、小柄で無造作に伸びた赤髪が特徴的な少年、鉄華オーカミ。

 

明日の大会に向けてデッキを練り直しているようだ。彼にとっては初めての公式戦であるため、気合が入っているのだろう。

 

だがそんな折、家のインターホンが鳴り響く。少々面倒くさいと思いながらも、オーカは家のドアを開けに行く…………

 

 

「………はい」

「どーも!!……出前です、ラーメン一丁お届けに参りました!!」

「…………頼んでないんだけど」

 

 

来訪者はまさかの熱々のラーメンが入ったおぼんを手に持つラーメン屋の店員。しかも頼んだ覚えもない出前に来たのだと言う…………

 

 

「え?……確かに鉄華オーカミ様に届けるよう言われたんですがね〜……ここじゃありませんですかい?」

「…………あ」

 

 

ふとラーメンの置かれたおぼんに目をやると、よく見たらまたしても「鉄華オーカミ様へ」と書かれた封筒が存在していた…………

 

つまりまた新しい鉄華団のカードだ。誰かがオーカ宛にラーメン事それを送ったのだ…………

 

 

「………鉄華オーカミはオレです。ラーメン、貰います」

「毎度!!」

 

 

こうして、オーカは頼んだ覚えのないラーメンと、新しい鉄華団のカード達を手に入れた。

 

結局、送り主はわからずじまいなのが少々歯痒いが、大会前にカードを貰えるのは正直ありがたいと思っていて……………

 

 

******

 

 

「………よし」

 

 

出前でやって来たラーメンを食しながら引き続きデッキの調整を行っていたオーカ。新しいカードも加えられ、ようやく満足のいく構築ができた様子。

 

そしてその直後に、彼のBパッドへと一通のメールが届く。

 

 

「………アニキ?」

 

 

またアニキ、九日ヨッカだ。しばらくバイトも入ってなかったため、彼がMr.ケンドーとして敗北してからはまだ一度も会っていない。

 

そんな彼からのメッセージの内容は「今すぐアポローンに来い!」との事。

 

わざわざバイト先に来るよう要求すると言う事は、それだけ今仕事が忙しいのか…………

 

一応そう思って、オーカは早々に支度し、カードショップ「アポローン」へと向かって歩みを進めた。

 

 

******

 

 

「………アレ、閉まってる………」

 

 

十数分後、ようやくアポローンに到着。しかし、その自動ドアは開かず、中にも余り人はいないように感じた。

 

ヨッカがここに来いと言ったのは間違いないので、オーカは表出入り口であるここではなく、狭い場所にある裏の出入り口を使ってアポローンの店内へと入っていく…………

 

ようやくいつとのカードが陳列している風景に辿り着いたかと思えば………

 

 

「あ、オーカ来ましたよヨッカさん」

「おっ…やっと来たかオーカ」

「待ちくたびれたぞ、鉄華オーカミ!!…さぁ、オマエも準備を手伝え!!」

「………何、これ?」

 

 

中にいたのは、ヨッカだけではない。黒髪でツインテールの女の子、一木ヒバナと緑色の髪でチャラい印象が強い少年鈴木イチマル。

 

何やらみんなで飾り付けやら机やらお菓子やらを準備しているが…………

 

 

「オーカ、ヒバナちゃん、イチマルの3人が明日の界放リーグに出るから、今日はそのために激励会を開くんだよ」

「あ、アネゴ」

 

 

同じくバイトのお姉さん、「アネゴ」こと雷雷ミツバがオーカにそう説明する。

 

そう、オーカは知らされてなかったが、今日は界放リーグに出場する3人のための激励会。

 

 

「いやーーー長かった、ここまで実に長かった。まさかあのオーカが……何事にも興味を示さなかったアイツが、こうしてバトスピやって、界放リーグまで出るなんて………感激だ」

「……キモいですよセンパイ」

「ミツバうるさい」

「はは、ヨッカさんって本当オーカ好きですよね………」

 

 

オーカのこれまでを振り返り、軽く感涙するヨッカ。ヒバナやイチマルはそれを見て苦笑い。

 

 

「そう言う訳だ。オマエも手伝え、鉄華オーカミ!」

「………まぁ、仕方ない……か」

 

 

イチマルが両手いっぱいにお菓子の袋を持ちながら、オーカに告げた。

 

こう言った催しはあんまり気乗りしないが、せっかくアニキ達が企画した激励会。背中を向けて逃げるわけにも行かず、オーカは段ボールに多量に詰め込まれたお菓子の袋を手に持った。

 

 

ー………

 

 

数分後、料理やお菓子の袋も綺麗に並べられ、ようやく準備万端。皆紙コップに好きな飲み物を入れると、開会の挨拶的なヤツを、と言う事で、我らが九日ヨッカが立ち上がる。

 

 

「オーカ、ヒバナ、イチマル……もう一回オーカ、言うまでもないと思うが、明日は頑張れよ!!……特にオーカ!!」

「めっちゃ鉄華オーカミの名前だけ呼ぶじゃないですか!!」

「贔屓はダメすよセンパイ!!」

 

 

オーカだけが何度も名前を呼ばれる。やはり彼から最も情熱を注ぎ込まれているのは彼なのだろう。

 

そんな彼は話そっちのけで既にお菓子を齧っているが…………

 

 

「はい、じゃあ取り敢えず、明日の3人の健闘を祝って……乾杯!!」

 

 

………乾杯!!

 

 

ようやく始まった。皆談笑しながら好きな料理やお菓子やらを少しずつ口にしていく。

 

 

「うむ。ではでは、本日の主役である御三方に、明日の界放リーグの抱負や目標をお聞かせ願おうかな?」

「……どうしたんだミツバ、急に」

「こう言うのを聞くのは激励会ではお決まりなんすよ先輩」

 

 

突然ミツバがそう告げる。大会前における激励会では確かにそれらの話を聞いておくのは一般的かもしれない。

 

 

「はい、先ずはヒバナちゃん!!」

「え、私からですか!?……そうですね………」

 

 

ミツバが指を刺したのはヒバナ。彼女は少しだけ考え、それを答えていく……………

 

 

「………この間まで大会に出ようなんて思ってもいませんでした。面倒だし、活躍してもどうせお父さんの名前を盾にされるだけだって………」

 

 

彼女の父親の名前は「一木ハナビ」………

 

超一流のプロバトラーであり、娘であるヒバナも憧れの存在。しかし、周りからはどうしても比較されがちであり、七光り呼ばわりされるのが嫌で、あまり表舞台でバトルはしなかった。

 

 

「でも、ある人にウォーグレイモンに固執しすぎじゃないかって言われて気づいたんです。私だけの、私にしかできないデッキを作って、一木ハナビじゃない、一木ヒバナのバトスピを見せてやろうって!!…大会でそれができたらいいなって、思ってます!!」

 

 

彼女にそう告げたのは新モビル王となった早美アオイ。人生の先輩として告げた彼女の言葉は、ヒバナに相当な影響を与えている様子。

 

皆が微笑ましくその話を聞く中で、鈴木イチマルは1人スタンディングオベーション、つまり立ち上がって拍手して…………

 

 

「……凄い、素晴らしい!!……流石はオレっちの嫁」

「嫁じゃない」

「じゃあ彼女」

「ランク下げてもダメ」

 

 

どうしてもヒバナと結婚したいイチマル。さりげなく認めさせる作戦に出るが失敗。

 

そんなイチマルにミツバがビシッと指を刺す。

 

 

「ほい!!……じゃあ次イチマルね」

「お任せくださいよミツバさん。このイチマル、バシっと決めちゃいます!!」

「………なんかイチマル、テンション高いな」

「きっと夜間のせいで上がってるんだと思います」

 

 

ヨッカとヒバナがイチマルのテンションの高さを気にする中、イチマルが界放リーグへの抱負や意気込みを語る…………

 

 

「去年オレ、ベスト8だったんすよね。予選は突破したけど、1回戦落ち」

 

 

界放リーグジュニアクラスの本戦に出場できるのは8名。予選を突破できるだけでも十分凄いが、イチマルはそれだけでは満足できていないみたいで…………

 

 

「だから今年は最低でも2回戦進出!!……でもって優勝したら一木ヒバナちゃんと結婚します!!」

「結局それかアンタは。するわけないでしょ?」

「まぁ、絶対言うと思ったよな」

「右に同じ」

 

 

ヨッカもミツバもイチマルの最後の一文は容易に想像がついた。ぶっちゃけこれを言わないとイチマルではない。

 

鈴木イチマルと言う人物はいつもそうだ。ヒバナがそばにいれば必ずと言っていいほどに彼女に対する求愛を挟んでくる。まぁ、彼らしいと言えば、らしいが。

 

 

「………あぁ後、鉄華オーカミには勝ちます」

「……………ん、なんか言った?」

「あれ、ウソだろオマエ、聞いてなかったの!?」

 

 

イチマルがオーカの名前を出すと、皆オーカの方へと首を向けるが、彼は話を何も聞かずにお菓子を食べまくっているようで…………

 

 

「よし、じゃあ最後はオーカだ。明日の界放リーグでの抱負とか、目標とかある?」

「目標?……そうだな………」

 

 

お菓子を食べるのをやめ、一度改めて界放リーグへの目標を考えてみるオーカ。すると、色んな想いが浮かんでくるが、1番デカく、尚且つ真っ先に出て来た顔はアイツ…………

 

 

「………色々あるけど、1番はアイツ、獅堂レオン。アイツにだけは勝ちたい」

「え、獅堂レオンってあのジュニアNo. 1の!?……え、知り合いなのかよ鉄華オーカミ!?」

「あぁ、オーカは一度アイツとバトルして、エースのデスティニーを倒したんだ」

「なァァァァー!?!……ウソだろ!?……凄すぎんだろそれ」

 

 

オーカとレオンの関係を初めて聞いたイチマル。あの無敵のデスティニーを葬ったと耳にするなり驚嘆の声を上げる。

 

 

「けどバトルは負けた。ずっとアイツの手の平で転がされてたんだ……アイツの性格は凄く気に入らないけど、なんか不思議と、アイツに勝てたらきっともっと凄い自分になれる気がするんだ」

 

 

胸の内を、オーカは語る。彼が不本意ながら感じているのは己の向上心そのモノ。

 

不思議か、心の中ではアレ程嫌っている獅堂レオンの事を、彼は無自覚ながらライバルとして、超えるべき相手として強く認識しているのだ。

 

 

「うん。できるよ、オーカなら、絶対獅堂レオンにも勝てる」

「うん、ありがとう」

 

 

ヒバナが優しい口調でオーカに告げた。

 

 

「バトスピ初めて3ヶ月だってーのに、濃ゆいよなオマエのバトスピライフは」

「そう?」

 

 

イチマルが明るい口調でオーカに言った。オーカは相変わらずの仏頂面で愛想が全くないが、彼を長年見て来たヨッカにはわかる。

 

今の弟分は凄く楽しそうであると…………

 

やはりあの日、バトスピを無理矢理やらせて正解であったと自分の内心で納得した。こうして、界放リーグの激励会は、もう少しだけ話が盛り上がったのち、静かに幕を閉じていくのだった…………

 

 

******

 

 

時、ほぼ同じくして、界放市ジークフリード区にある、古臭い印象を受ける雑居ビルやこじんまりとした商店が方を寄せ合いひしめく一角。

 

13歳の少女、春神ライの住む家も、そんな街を構成する雑居ビルの中にある。

 

ちょうど、女の子の友達と鍋パをやっているようだ。鍋に火を通し、頃合いになった頃に具を次々と投入していく。

 

 

「フウちゃんイトコン好き?」

「好き!!」

「オッケー」

 

 

このもう1人の少女、春神ライの親友「夏恋フウ」………

 

黒髪ロング系、清楚系美少女で、ライとは似ても似つかない大人しい印象を受ける彼女、頭脳明晰でしかも容姿端麗、ライも絶大な信頼を寄せるが、唯一の欠点はバトルが弱い事。

 

 

「でも良いのかな〜……私たち、ここ数日毎日鍋パしてない?」

「良いよ美味しいし、それにヨッカさん、最近あんまり帰って来ないから、フウちゃんいないと寂しいし……団子入れる?」

「入れる!!」

「オッケー」

 

 

次々と具を追加しながら淡々と談笑していく2人。

 

この家はあのオーカの兄貴分「九日ヨッカ」の住まいでもあり、春神ライは彼と同居人の関係にあるのだ。

 

 

「ところでライちゃん」

「んーーなに?」

「ライちゃんは明日の界放リーグジュニアクラスに出るの?」

 

 

鍋の具を混ぜる事に集中していたライに、フウが訊いた。

 

 

「界放リーグ……あー、世界的にも有名なアレ……出たくないわけじゃないけど、私ヨッカさんに公式戦禁止されてるんだよね。界放リーグなんかどっぷり放送されそうだから絶対ダメって言われる」

「あーー……そうだったね、ごめん」

「それに学校にも通ってないしね〜〜」

 

 

ライの年齢は13歳。一般的には中学1年生に相当する年齢だが、彼女はある理由から学校には通っていない。明日からの界放リーグは、飽くまで中学生らの祭典。ライはその資格を持ってはいない。

 

それに資格があったとしても、やはり九日ヨッカが許す事はなかっただろう。彼は彼女に常々「バトスピの公式大会の参加」を禁止させていた。その深い理由は、天才であるライにも知る由はない。

 

 

「じゃあさ、明日の界放リーグ本戦、一緒に観に行かない?」

「!」

「観るだけなら、きっといいよね?」

 

 

確かに。飽くまで禁止されているのは自分がバトルする事のみ、人のバトルくらい遠い場所だったら全然観戦しても良いはず…………

 

 

「いいねフウちゃん、ベリーベリー賛成!!……行こう、明日の界放リーグ!!」

 

 

こうして、春神ライも明日の界放リーグへ向かう事になる。出場はしないものの、親友とのお出かけは非常に楽しみであった………

 

だが、彼女はまだ知らない。その界放リーグに、自分が散々追いかけ回した存在、鉄華オーカミが出場する事を…………

 

 

******

 

 

日はすっかり沈んだ。激励会も終わり、鈴木イチマルは1人帰路を歩いていた。もう間もなく自分の家に帰り着くだろう…………

 

 

「……『獅堂レオン。アイツにだけは勝ちたい』………か。オレっちは眼中にないって感じだったな………いや、本当はそんな事ないんだろうけど」

 

 

激励会でのオーカの言葉を思い返すイチマル。せっかく同じ大会に出場すると言うのに、自分は好敵手として見られてない気がして若干萎え気味のようだ。

 

 

「まぁ、別にあんな奴に忘れられようとどうでもいいんだけど、どうせ勝つのはオレっちだし…………後、どうせヒバナちゃんと結婚するのもオレっちだし」

 

 

凄まじく私的な感情を口にするイチマル。甘く見積もっても半分くらいは下心ありきで大会に出場してそうだ。

 

それでも彼の界放リーグに臨む気持ちは本物。もちろんガチで優勝しに行くし、鉄華オーカミにも、獅堂レオンにも、最愛の一木ヒバナにだって負けるつもりはない。

 

 

「よし、明日……頑張ろ」

 

 

そう強く意気込み、まもなく家に到着すると言うタイミング…………

 

イチマルはある人物とバッタリ顔を合わせる事となり…………

 

 

「あ………」

「あぁん?」

 

 

ガラの悪そうな筋肉質な男性。夜間にも一眼でわかるトサカ頭が目に残る。

 

この人物、なんと三王の1人、ライダー王の「レイジ」…………

 

ついこの前引退したMr.ケンドーと同期であり、今尚現役のライダー王として生きる伝説を作り続けている存在…………

 

だが、このライダー王のレイジ、実は…………

 

 

「……今帰り?……家に帰るのは久し振りじゃないか兄ィ?」

 

 

そう。

 

ライダー王のレイジの本名は「鈴木レイジ」………

 

実はイチマルの実の兄。血を分けた本物の兄貴なのだ。

 

 

「………オマエみたいな弱い奴はオレの弟じゃねぇ、失せろ雑魚」

「ご、ごめんごめん!!……怒らないでくれよ!!」

 

 

険悪な雰囲気を醸し出すレイジ。どうやら兄弟仲は最悪な様子。

 

 

「界放リーグ、また出るんだってな」

「ッ……う、うん。優勝目指して頑張るよ……!!」

「それ以外ありえねぇだろ。あんなレベルの低い………テメェ、オレとの関係、誰にも言うんじゃねぇぞ。テメェみたいな弱い奴と兄弟なんて知られたら、オレ様の人生終わりだ」

「言わない言わない!!……オレっちが口硬いの、知ってるっしょ!」

 

 

そう告げ、イチマルの気楽な態度が気に障ったのか、最後に舌打ちをすると、その場を去り、家へと向かっていくレイジ。

 

そんな彼の背中を見ながら、イチマルは強く拳を固めて………

 

 

「……ごめん兄ィ……オレっち絶対、兄ィが胸張ってオレの弟だって言えるくらい、強いバトラーになるからよ」

 

 

最後に出たのはガチの本音。

 

イチマルがバトルスピリッツを続ける理由………

 

界放リーグへと出場し続ける理由であった…………

 

 

******

 

 

時同じくしてカードショップアポローン。その屋上にて、光り輝く星々を眺めながら、鉄華オーカミは兄貴分である九日ヨッカと2人で男と男の話し合いをしていた。

 

 

「………この間の試合、負けたんだってね」

 

 

ド直球にオーカが言った。

 

 

「あぁ、負けたよ。完璧な戦術だった……オマエもデッキアウトには気をつけろよ」

「うん」

「何にせよ、これでMr.ケンドーも引退だ。これからは本職であるこっちを優先させてもらうよ」

「辞めちゃうんだ」

「なんだ、ダメか?」

「いや、アニキがそう決めたならそれでいい」

 

 

まだ公表こそしていないが、Mr.ケンドーとしての活動を引退するヨッカ。本職であるカードショップの店長に専念する様子…………

 

オーカとしては早美アオイにリベンジして欲しい気もあったが、彼自身が決めた事ならしょうがないと直ぐに割り切る。

 

 

「…………オマエは勝てよオーカ。応援しに行くぜ、赤羽カレンに獅堂レオンをぶっ倒して「鉄華団使いの鉄華オーカミここにあり!」ってーのを世に知らしめてやれ」

「あぁ」

 

 

淡々と返事をするオーカだが、その表情には珍しく笑みが溢れる。

 

だが、この後直ぐに「あ、そう言えば」と、何かを思い出したように言葉を吐くと…………

 

 

「あの新世代系女子、出るのかな?」

「…………」

「アイツにもリベンジはしたいな」

 

 

………『新世代系女子』………

 

ヨッカはその呼称を聞いて絶対にそれが自分の同居人、春神ライの事だなと勘づく。オーカはまだ彼と彼女の間柄を知らないのだ。

 

 

「はは、まぁ……強い相手だったらその内対戦する機会もあるんじゃないかな〜〜……なっはっは」

「?」

 

 

ライには公式戦を禁止させているため、出ないのは知っている。

 

こんな立派な成人男性が中学生くらいの女子と同居しているのは流石にちょっと知られたくないからか、棒読みで適当な事を言って誤魔化す。

 

 

「……何にせよ明日は頑張れよ兄弟………今までやって来た事を信じて、胸張ってやり切れ!!……まぁ、オマエには言うまでもないだろうがな」

「あぁ、最後はバルバトスで決める………観ててくれよ、アニキ」

 

 

最後にはそう告げ合いながら拳を合わせる2人。血は繋がっていないものの、こちらの兄弟の方が、鈴木家の兄弟よりも固い絆で結ばれているみたいだ……………

 

 

 

******

 

 

 

鳩の鳴き声が始まりを告げる朝。

 

今日は遂に界放リーグジュニアクラスの開催日だ。鉄華オーカミは自宅の自室で着替え、支度をする。最後にはデッキをズボンのポケットに入れ、いざ会場に向かわんとするが…………

 

部屋を出るなり、玄関前で倒れている女性の姿があって………

 

艶やかで長いブロンドヘアの髪型、ぶかぶかなパーカーにショートパンツなどの洒落た格好、手提げカバンからはみ出ている水着などから察するに、職業はモデル。

 

 

「…………お帰り、姉ちゃん」

「ん……あーーー……寝ちゃってたか、おはようオーカ」

「モデルの仕事してる人があんまり床で寝ない方がいいぞ」

「いや〜、もう疲れに疲れてね〜」

 

 

オーカの一声で起きる女性。彼女こそ、たびたび話に出ていた彼の実の姉、名前は「鉄華ヒメ」…………

 

13歳の頃からモデルの仕事でオーカを養っている、この年18歳の女性だ。どうやら仕事明けで疲れが溜まっている様子。

 

 

「朝飯、作って置いてあるから、食べていいよ」

「ん、ありがと。優しいねオーカは…………一緒に食べないの?」

 

 

ヒメがオーカに訊いた。

 

 

「食べない。今日は友達と待ち合わせしてるんだ」

「へ!?……オーカ友達できたの!?」

「そんな驚く?」

 

 

あの淡々としている一匹狼である弟から「友達と待ち合わせ」なんてフレーズを耳にするとは思っていなかった実姉。興奮で疲れも吹っ飛ぶ。

 

 

「え〜〜ウソ!!…あのオーカに友達なんて嬉しいな〜…界放市まで越してきた甲斐があったわね!!…女の子の友達もいるの?」

「いる」

「キャーーー!!…凄いじゃないオーカ!!…女の子の友達は大事にしなさいよ、いつかあなたの大事なパートナーになるかもしれないんだから!」

「うん」

「あ、でもパートナーにする前に、絶対私にも紹介するのよ!!…これは社会の常識だから覚えてなさい!」

「うん」

 

 

兎に角オーカの交友関係、もとい恋愛関係が気になってしょうがない鉄華ヒメ。これまでどれだけオーカを大事に育てて来たのかが容易に理解できる。

 

 

「オレ時間ないから、もう行くよ姉ちゃん」

「あ、ちょっと待って!…お友達とは何して遊ぶの?」

 

 

ヒメにそう訊かれ、オーカはポケットからデッキを取り出して、それを見せる。

 

 

「バトスピ。今日は友達とコイツの大会に出るんだ」

「え、バトスピ………!?」

「じゃあ、行ってきます」

「へ……あ、うん。いってらっしゃい」

 

 

オーカのバトスピカードを目に映した途端、愕然とした様子を見せるヒメ。流れるままにオーカを見送ったが……………

 

 

「………なんで、あの子がバトスピを………?」

 

 

1人になった直後、不穏になる言葉を吐いた。

 

その真意は、まだ誰にも分からなくて……………

 

 

 

 

 

 




次回、第15ターン「予選開幕、昂るゴモラ」


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第15ターン「予選開幕、昂るゴモラ」

界放リーグ…………

 

それはバトスピ技術の最先端が迸る街『界放市』で年に2度行われるビッグイベント。1度目は夏、中学生の学生達がジュニアクラスとして凌ぎを削り、2度目は冬、バトスピ学園に通う高校生達がプロになるために激戦を繰り広げる。

 

そして今宵の季節は夏。鉄華オーカミなどの中学生達が熱かりしバトルスピリッツを求め、今年の会場である、界放市ジークフリード区の『ジークフリードスタジアム』へと足を運ぶ。

 

全ては界放市ジュニアの頂点の座を得るために…………

 

 

******

 

 

「おぉ〜…これが界放リーグ……予選の参加者だけでも凄い数」

「ざっと見て200人はいそうだね」

 

 

界放リーグジュニアクラスの今年の会場『ジークフリードスタジアム』………

 

その地下にある予選会場にて、鉄華オーカミ、一木ヒバナ、鈴木イチマルの3人はいた。無論理由は、界放リーグに参加するためだ。特に初めて参加するヒバナとオーカは大きな会場に新鮮味を感じずにはいられないようで…………

 

 

「どうだ、凄いだろヒバナちゃん」

「なんでアンタがちょっと誇らしげなのよ?」

 

 

イチマルが上機嫌な様子で語りかけて来た。

 

 

「ここで一応歳が一個上のオレっちから豆知識を1つ。この会場地下で行われる予選には、AからHの全部で8つのブロックが存在する。その各ブロックでの勝者8名が晴れてお客さんがわんさかいる本戦に出場できるわけだ」

「………イチマルが歳上なの完全に忘れてたわ」

「酷くないヒバナちゃん!?」

「その手の初期設定って段々忘れがちになっていくよね」

「オマエは初期設定とか言うなよ!?…今もちゃんと続いてるからね!?」

 

 

オーカとヒバナよりも歳上だが、どうにもカッコつかないイチマル。しかし彼の言っている事は本当で、200名以上参加するバトラーの中で、本戦に出場できるのは僅か8名しかいない。

 

ハッキリ言ってかなりの激戦区となる事が予想される。それ程までにこの界放リーグでのバトルは苛烈なのだ。

 

 

「………でもやっぱ、公式戦は緊張するな」

「大丈夫大丈夫!!……ヒバナちゃんなら余裕さ、愛してる!!」

「最後の一言が余りにも余計なのよね、アンタは…………オーカはどう?…緊張しない?」

 

 

会話の所々に求愛をして来るイチマルからそっぽを向き、オーカの方へと振り向くヒバナ。

 

オーカは至って普通で、至って平常と言った顔つきで、緊張は全くしていない様子であり…………

 

 

「いや、別にそう言うのはないかな。普通にバトルするだけだし」

「おぉ、流石オーカ……大物だ」

「オマエ、その激強メンタルでバトスピ初めて3ヶ月はウソだろ?」

 

 

ヒバナとイチマルがオーカの常人離れした感性に感心、驚愕した後に、オーカの華奢な方に大きな手が添えられて…………

 

 

「……よう鉄華。会いたかったぜ」

 

 

ー!!

 

 

「ゲッ……獅堂」

「『ゲッ』とはなんだ」

「獅堂レオン………」

「界放リーグジュニアの現トップ………鉄華オーカミの奴、マジで知り合いだったのかよ」

 

 

オーカ達の前に現れたのはツンツンした銀髪、長身の少年、獅堂レオン。最早ジュニアの王者として相棒のデスティニーと共に名前と顔が知れ渡っている彼が声を発した事で、突如周囲から視線が集まって来る。

 

 

「オマエの鉄華団デッキ、バルバトスとまたやり合えるこの日を待ち侘びたぞ」

「………あぁ、それはオレもだ。今度こそ、バトルにも勝って、勝負にも勝つ」

 

 

以前の2人のバトルは、エース同士であるバルバトスとデスティニーの対決ではバルバトスが勝利こそしたが、結果はオーカの負けで終わっている。

 

そんな因縁のライバル2人がこうして顔を合わせたが、レオンは気に食わぬ顔でオーカの横にいるヒバナへと目線を移し…………

 

 

「貴様もいたのか一木ヒバナ。父親の七光り程度の者ではこの戦場を勝ち上がれんぞ」

「…………」

「何をォォォ!!!……オマエ、オレのヒバナちゃんになんて事言うんだァァァー!!!」

「…………貴様は誰だ?」

「えぇぇぇぇ!?……オレ去年ベスト8だったんだけど!?……まさか覚えられてない!?」

 

 

ヒバナを庇おうとイチマルが割り込んで来るが、彼はイチマルの事など眼中にないのか、去年同じ大会に出場し、本戦に残った彼の事をすっかり忘れていた。

 

ヒバナは、そんなイチマルに「もういいから」と告げ、手でどかすと………

 

 

「………あの日とは違うから」

 

 

口角を上げ、レオンに向かってそう言った。その嘘偽りとない真っ直ぐな眼差しを見、レオンは「そうか、それが嘘でない事を願おう」と言葉を返した。

 

そして、その直後………

 

 

「………楽しそうじゃないか。私もその輪に入れてもらおうか」

 

 

ー!!

 

 

また別の人物の声が聞こえた。女の声だ。

 

皆その方へと振り向く。そこにいたのは金髪のポニーテールが特徴的で、非常に大人びた少女。

 

 

「………あ、アンタ確か、剣の人」

「赤羽カレンか」

「あぁ、久しいなレオン。そしてオーカミ」

 

 

オーカが「剣の人」と称するその人物の名は「赤羽カレン」…………

 

レオンに次いでジュニア2位の実力者である。また「剣帝」の異名でもよく知られている。この界放リーグと言う場にいるのは当然であるが、オーカが彼女とも知り合いだったと言う点に、ヒバナとイチマルは驚きを隠せなくて…………

 

 

「ちょっと待てェェェー!!!……どう言う事だ鉄華オーカミ!!……オマエ、まさか剣帝とも顔見知りだったのか!?」

「うん。最近知り合った。バトルした」

「バトルもしたァァァーー!?……やっぱオマエのバトスピ人生濃ゆすぎだろ!!」

「オーカ凄い………」

 

 

オーカの肩を揺らしながら質問するイチマル。やはりこの男の持っている豪快な運にはただならぬものを改めて感じ取る。

 

 

「………そこにいるのは君のご友人か、オーカミ?」

「そしてこっちにも覚えられてねぇーーー!!!……オレ去年ベスト8なのに!!!」

 

 

獅堂レオンだけでなく、剣帝のカレンにまで存在を忘れ去られているイチマル。ここまで来るとちょっと気の毒だ。

 

 

「………で、何の用だ赤羽カレン」

 

 

レオンがカレンに訊いた。

 

 

「いや別に、ただの挨拶さ………今日こそ、君をこの大舞台で倒すとね」

「…………」

「なんか今私達凄い場面に遭遇してない?」

「どっちも圧が凄すぎだろ、流石現界放市ジュニアのツートップ………迫力が違えよ」

「………早く始まらないかな」

 

 

界放市ジュニアのツートップ2人による、この場にいるだけで息苦しくなるような凄まじい貫禄と言う名の圧の押し合い。会場のバトラー全体がそれに呑まれ掛かる中、オーカはたった1人だけ場違いな発言をする。

 

そして、そんな彼の願いを叶えるように、会場中にアナウンスの音声が流れて来て…………

 

 

《ただいまより、界放リーグ予選を始めていきます。参加されるバトラーの皆様は、指定された各ブロックのバトル場へとお進みください。尚、どのブロックかわからない方は、各自Bパッドでご確認をお願い致します…………》

 

 

柔らかい声質の女性によるアナウンス。それだけで全バトラーの身が引き締まる。いよいよ待ちに待った界放リーグ、その予選の幕開けだ。

 

 

「私はAブロックか、オーカとイチマルは?」

「オレっちはF」

「オレはC。みんなバラバラだ」

 

 

3人はBパッドに示されたブロックを確認。3人ともそれぞれ別の場所のようだ。赤羽カレンや獅堂レオンのブロックも聞きたいところであったが、流石は有力カードバトラー、いつ確認したのか、もうこの場にはいなくて。

 

 

「まぁバラバラでちょうどよかったよ。鉄華オーカミ、オレっちは必ず本戦でオマエを倒すからな。それまで負けんじゃねぇぞ」

「言われなくても」

「はいはい、じゃあそこら辺にして、一旦解散!!」

 

 

鉄華オーカミは『C』

 

一木ヒバナは『A』

 

鈴木イチマルは『F』

 

互いの健闘を祈り、それぞれがそれぞれのブロックへと歩みを進めていった。

 

 

******

 

 

「ここが予選会場、やけに薄暗いわね。地下ってのもあるんでしょうけど」

 

 

一木ヒバナがそう言葉を落とした。ここはAブロックとBブロックの予選会場、あちこちにバトル場とも言えるスペースを確認でき、既に何人かはバトルを開始している。

 

ヒバナも、そんな初戦の相手を待っていたのだが…………

 

 

「お?……ブハハハ!!!……まさかこのオレ様の初戦の相手がオマエなんてな、一木ヒバナ!!……一木ハナビの劣化コピー!!」

「ん」

 

 

向かい側からとんでもなく失礼な事を言って来たのは、おそらく対戦相手であろう太っている少年。Tシャツのドクロマークがまたクソガキ感が増して見える。

 

そんな彼の事を、ヒバナは前々から知っている。

 

 

「…………なんか久しぶりね、今日は取り巻きはいないの?………モスジマ」

「誰がモスジマだ!!……ブスジマだよブスジマ!!…確かに今日の朝モスバーガー食って来たけども!!」

 

 

そう。このガラの悪い少年はブスジマ。ヒバナ達の通う学校の言わば番長的な存在だが、何故かみんなによく名前を間違えられる。

 

 

「ブハハハ!!……オマエみたいな雑魚が相手なら予選1回戦はオレの勝ちで確定だな、さぁ、さっさとオレに負けて無様な姿を晒せよ七光り!!」

 

 

いつもなら父である一木ハナビを話に出された事で、冷静さを欠いていたかもしれない。だが今は違う、ヒバナは口角を上げて…………

 

 

「………そう言うセリフ、負けフラグをよく作る奴のセリフだけど、大丈夫?」

「ブハハハ!!……知ってんだぜ、オマエが弱過ぎて大会に出ない事をな………良いカモになってくれよ!!」

「えぇ、アンタがね」

 

 

そう言い合い、互いにBパッドとデッキをセット。バトルの準備を終え…………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共に一木ヒバナとブスジマによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はブスジマだ。何を勘違いしているのか、ヒバナの事を弱いと思っている彼は、淡々とターンを進めていく…………

 

 

[ターン01]ブスジマ

 

 

「ブハハハ!!……オレ様のメインステップ、先ずはテントモンを召喚。効果でボイドからコア1つを自身に置く」

 

 

ー【テントモン】LV1(2S)BP2000

 

 

「緑のデジタルスピリット………!」

 

 

ブスジマが意気揚々と召喚して見せたのはてんとう虫型の成長期デジタルスピリット、テントモン。その効果で早速コアを増加させる。

 

 

「オマエも父親と同じくデジタルスピリットの使い手だったな!!……このバトルでオレ様がオマエなんかよりも遥かに優れたデジタルスピリット使いである事を思い知らせてやるぜ、ターンエンド!!」

手札:4

場:【テントモン】LV1

バースト:【無】

 

 

またしてもヒバナを煽りに煽り、そのターンをエンドとするブスジマ。そんな彼の煽りなど、全く意に介さず、ヒバナは巡って来た己のターンを進めていく…………

 

これが界放リーグの初めてのターンだ。

 

 

[ターン01]ヒバナ

 

 

「すぅーーーッはぁ〜〜〜!!!………よし、行きます。メインステップ!!」

 

 

緊張を吐き出すように深呼吸をすると、ヒバナは手札にある1枚のカードを手に取り、それを己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「ネクサス、破壊された城!!……LV2で配置」

「!」

 

 

ー【破壊された城】LV2(2S)

 

 

ヒバナの背後に配置されたネクサスカードは、かの有名な大阪城の姿に限りなく近い城。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【破壊された城】LV2

バースト:【無】

 

 

ヒバナの界放リーグ最初のターンは早々に幕を下ろし、再びブスジマのターンが始まる。

 

 

[ターン03]ブスジマ

 

 

「メインステップ………ネクサスで足場を固めるか、生意気な。オレ様もネクサスカード、旅団の摩天楼を2枚連続配置!!」

 

 

ー【旅団の摩天楼】LV1

 

ー【旅団の摩天楼】LV1

 

 

「配置時効果をそれぞれ発揮させ、デッキから2枚ドローだ………お?」

 

 

そう抜かしつつ、ブスジマが自身の背後に配置したのは、呆れる程に高い摩天楼。しかも2棟。

 

その効果でカードを引く彼だったが、どうやらお目当てのカードを引き当てる事ができたのか、今までよりもさらに上機嫌になって…………

 

 

「ブハハハ!!!……マジか、今日のオレ様めちゃくちゃ引き強ぇじゃねぇか!!……運がなかったな一木ヒバナ、これでターンエンドだ!!」

手札:5

場:【テントモン】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

バースト:【無】

 

 

そう自信満々な様子でこのターンをエンドとするブスジマだったが…………

 

 

「こ、コイツ………わかりやすすぎ。よく界放リーグに出ようと思ったわね………」

 

 

ヒバナはそんな彼に辛辣な評価。普通は良いドローをしても、相手に悟られないよう、ポーカーフェイスで隠すのがセオリーだからだ。

 

ここまであからさまに笑顔になるのはおそらくブスジマくらいであろう………

 

 

[ターン04]ヒバナ

 

 

「ドローステップ時、破壊された城の効果でドロー枚数を1枚増やす」

 

 

つまりは2枚だ。通常なら1枚しか引けないドローステップで、ヒバナは2枚のカードをドローした。

 

 

「メインステップ……ダークディノニクソー2体をLV1で連続召喚!」

 

 

ー【ダークディノニクソー】LV1(1)BP2000

 

ー【ダークディノニクソー】LV1(1)BP2000

 

 

黒いボディの小さい恐竜のスピリットで、腹部にチェーンソーのようなものを仕込んでいるダークディノニクソーがこの場に2体召喚される。

 

 

「そのままアタックステップ!!……ダークディノニクソー!」

「ライフで受けてやる!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ブスジマ

 

 

「続けてもう1発!!」

「それもだ!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉ブスジマ

 

 

問答無用のフルアタック。2体のダークディノニクソーが体当たりでブスジマのライフバリアを破壊していく。

 

 

「………ターンエンド」

手札:4

場:【ダークディノニクソー】LV1

【ダークディノニクソー】LV1

【破壊された城】LV2

バースト:【無】

 

 

できる事を可能な限り全て終え、ヒバナはそのターンをエンドとする。次は自信に満ち溢れているブスジマのターンだ。

 

 

[ターン05]ブスジマ

 

 

「メインステップ、先ずは2体目のテントモンを召喚。コアブースト」

 

 

ー【テントモン】LV1(2)BP2000

 

 

ブスジマの場に2体目のテントモンが出現。またコアを増やす。

 

そして彼はニタニタと笑いながら手札のカードをさらに引き抜いて………

 

 

「ブハハ、行くぞ七光り。オレ様はこのカード、アルケニモンを召喚!」

「!」

 

 

ブスジマの場に紫色の煙が立ち上がる。その中から勢い良く飛び出してきたのは、下半身がクモのような姿をした完全体のデジタルスピリット、アルケニモンだ。

 

 

ー【アルケニモン】LV3(4)BP9000

 

 

「アルケニモン、完全体のスピリットね」

「アタックステップ!!…ブハ、行ってこいアルケニモン!!」

 

 

エースたるスピリット、アルケニモンが颯爽と彼の指示を受け入れ、ヒバナの場へと突き進む。そしてこの時、いくつか発揮できる効果があって………

 

 

「アタック時効果、疲労状態のスピリット1体を破壊してコアブースト!」

「!」

「ダークディノニクソーを1体破壊だ!!」

 

 

アルケニモンが上半身にある手から闇のエネルギー弾を生み出し、それを疲労しているダークディノニクソー1体に向かって投げつけた。避ける術がなかったダークディノニクソーはそれに被弾し、爆発してしまう。

 

スピリットの破壊とコアブースト。これだけでもかなり強力なアルケニモンだが、それだけでは終わらなくて…………

 

 

「もう1つのアタック時効果!!…デッキから2枚オープンし、その中の完全体か究極体のデジタルスピリット1体をノーコスト召喚する!」

「追加でスピリットを召喚する効果!?」

 

 

デッキからカードがオープンされ、その中にある1枚のカードを見てブスジマはまた笑みを浮かべる。

 

当てたのだ。ノーコスト召喚の対処となるデジタルスピリットのカードを………

 

 

「聞いて驚け、見て叫べ!!……紫の完全体スピリット、マミーモンを召喚!!」

 

 

ー【マミーモン】LV2(3)BP7000

 

 

上空に渦巻くデジタルホールが出現し、その中より機関銃を携えた包帯まみれのミイラのようなデジタルスピリット、マミーモンが姿を現した。

 

 

「マミーモンはアルケニモンが場にいる時、BPが5000上がり、ダブルシンボルスピリットになる!!」

「!」

 

 

ー【マミーモン】BP7000➡︎12000

 

 

相棒であるアルケニモンの存在が、マミーモンを強くする。紫のオーラをその身に纏い、高BP複数シンボルというハイスペックなスピリットとなる。

 

 

「………アルケニモンのアタックはライフで受ける!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ヒバナ

 

 

スピリットの破壊や召喚など、アタック中に様々な事をやっていたが、今はあくまでアルケニモンと言うスピリットのアタック中。

 

鋭い爪がヒバナのライフバリアを1つ引き裂いた。

 

 

「続け続けマミーモン!!…アタック時効果でダークディノニクソーのコア2つをリザーブに置き消滅!!」

「!」

 

 

止まらないブスジマ。マミーモンが機関銃を連射し、ダークディノニクソーを撃ち抜く。コアのなくなってしまったダークディノニクソーはたちまち消滅し、ヒバナのスピリットはこれで0となってしまう。

 

 

「さぁダブルシンボルの一撃だ!!」

「……ライフで受ける………きゃっ!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉ヒバナ

 

 

ヒバナのライフバリアもまたその機関銃に砕かれ、その数は2つとなってしまう。しかもブスジマの場のスピリットに、まだアタック可能なテントモンが2体存在する事から、このターンでの決着が予想されるが…………

 

 

「ライフが減った時、手札にあるマジックカード、シックスブレイズの効果を発揮!!」

「なに!?」

「ライフが3以下になった時に、手札からノーコストで使える!!…BP12000まで好きなだけスピリットを破壊させてもらうわ!!……破壊するのは当然テントモン2体!!」

 

 

ヒバナのカウンターマジックが発動。彼女の背後から6つの炎の弾丸が飛び交い、ブスジマのテントモン2体に直撃、爆散させる。

 

これでブスジマに攻撃する術は残っていなくて…………

 

 

「チッ……雑魚が、めんどくせぇカード握りやがって。ターンエンドだ」

手札:4

場:【アルケニモン】LV3

【マミーモン】LV2

【旅団の摩天楼】LV1

【旅団の摩天楼】LV1

バースト:【無】

 

 

予想外のカウンターマジックに腹を立てながら、ブスジマはそのターンを終える。次はヒバナのターンだ。依然ブスジマの有利には変わり得ないため、ここでなんとか巻き返したい所…………

 

 

[ターン06]ヒバナ

 

 

「ドローステップ時、破壊された城のLV2効果で1枚の代わりに2枚ドロー」

 

 

ヒバナは赤のネクサス、破壊された城により、このターンもより多くの枚数をドローする。

 

 

「メインステップ………先ずはディノニクソーを召喚!」

 

 

ー【ディノニクソー】LV1(1)BP1000

 

 

このターンの初めに召喚されたのは、色が黒くない普通のディノニクソー。そして直後にまた手札へと手を掛け、あるカードを1枚引き抜く…………

 

 

「行くわよ。これが私の新たなエースカード、古代怪獣ゴモラ!!…LV2!!」

「ッ……ゴモラ!?」

 

 

ー【古代怪獣ゴモラ】LV2(3)BP9000

 

 

地中を砕きながら出現した巨大な赤のシンボル。それが砕かれると、中より三日月のような形をしたツノを持つ大怪獣、ゴモラが出現した。

 

これは、ヒバナが己なりの考えで投入した、ウォーグレイモンに次ぐエースカードであって…………

 

 

「実戦では初陣だね、お願いねゴモラ!!」

 

 

ヒバナの言葉に応えるように、ゴモラは高らかと咆哮を張り上げる。

 

 

「ゴモラ………どうやら三大スピリットには属してないみたいだな。そんなスピリットでこのオレ様に勝つ気なのかよ」

「バーストをセットしてアタックステップ!!…ゴモラでアタック!」

 

 

このターンのアタックステップへと突入。ゴモラがやる気を見せるように両拳を叩きつける。そしてこの時、ゴモラもアルケニモンと同様に複数のアタック時効果を所有していて…………

 

 

「アタック時効果、先ずはマミーモンに指定アタック!!」

「バカか!!…やっぱり父親が凄いだけの雑魚だな。今のマミーモンのBPは12000!!…ブハハハ、9000しかないそのトカゲ野郎は返り討ちだぜ!!」

 

 

確かにこのままではゴモラは無駄に破壊されるだけで終わるが、わざわざそんな事をするわけがない。ヒバナはゴモラのもう1つの効果を発揮させる………

 

 

「ゴモラのもう1つのアタック時効果、ネクサス1つを破壊して1枚ドロー!」

「ッ……オレの旅団の摩天楼を破壊する気か!?」

「いや、私が破壊するのは、私の場にある破壊された城!!」

「はぁ!?」

 

 

ゴモラは突如ヒバナの方向へと振り向き、その背後にある巨大な城を破壊していく。自分のカードを自分のカード効果で破壊しているため、一見すると大損に見えるこの行為だが、実は違くて…………

 

 

「破壊された城の効果。破壊された時、BP10000以下のスピリット1体を破壊する!」

「!」

「BP9000のマミーモンを破壊!!」

 

 

破壊した城の天守閣を鷲掴みにし、マミーモンへとぶん投げるゴモラ。それは見事命中し、アルケニモンは天守閣の下敷きになって爆発してしまった。

 

 

「クソが、これが狙いか」

「名前に城を含むスピリットを破壊した事で、ゴモラは回復。さらにアルケニモンが消えた事でマミーモンのBPがダウン!!…BPは7000となり、BP9000のゴモラが上回ったわ!!」

 

 

疲労状態から回復状態になり、二度目の攻撃が可能となったゴモラ。しかもアルケニモンの喪失でマミーモンがパワーダウン。

 

負けじと機関銃をゴモラに連射するマミーモンであったが、全く通じず、尻尾で軽く薙ぎ払われ、爆散した。

 

 

「くっ……雑魚のくせにオレ様のアルケニモンとマミーモンを破壊しやがって………!!」

「アンタホントみみっちいわね!!……ゴモラで再アタック!!…効果で旅団の摩天楼を破壊して1枚ドロー!」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉ブスジマ

 

 

追い討ちを掛けるヒバナ。ゴモラは三日月状のツノから超振動波を放ち、旅団の摩天楼とブスジマのライフバリア1つを破壊した。

 

 

「私はこれで、ターンエンド!!……どう?…これが新しい私の、一木ヒバナのバトル!!」

手札:4

場:【古代怪獣ゴモラ】LV2

【ディノニクソー】LV1

バースト:【有】

 

 

ゴモラを軸に一気に形勢を逆転させたヒバナ。ディノニクソーをブロッカーに残し、そのターンをエンドとする。

 

次は再びブスジマのターンだが、中々上手い具合にやられてくれないヒバナにイラついているようで…………

 

 

[ターン07]ブスジマ

 

 

「メインステップ………このクソ雑魚野郎が、このオレ様を本気で怒らせたみたいだな」

「なんの実績もないくせによく言うわね」

「うるせぇ!!…オマエ如きがオレのスピリットをぶっ倒すなんて生意気なんだよ!!……金に物を言わせたこの最強カードで、今からぶっ倒してやる!!」

 

 

勝手にキレ散らかすと、ブスジマは手札に手を掛け、スピリットを展開していく。

 

 

「先ずはカッチュウムシを3体連続召喚」

 

 

ー【カッチュウムシ】

 

ー【カッチュウムシ】

 

ー【カッチュウムシ】

 

 

甲冑装着した小型の甲虫、カッチュウムシがブスジマの場に一気に3体も呼び出される。

 

 

「そしてこれがこのブスジマ様の最強スピリット!!……仮面ライダーシャドームーン!!」

「ッ……ライダースピリット!?」

 

 

ー【50th仮面ライダーシャドームーン】LV3(6)BP18000

 

 

空間を割るような音を立てながら、フィールドに稲妻が落ちる。その落ちた先に出現していたのは緑属性と紫属性の色を持つ、白銀のライダースピリット、シャドームーン。

 

ブスジマが全ての小遣いを注ぎ込んで手に入れた超一品のレアカードだ。

 

 

「どうだ驚いたか!!……オレ様はデジタルだけじゃなくてライダーも使う事ができるんだぜ!!……コイツの強さに、今更泣き出すんじゃらねぇぞ!!……召喚時効果、相手スピリット全てを疲労させ、その後疲労しているスピリットがいたら2枚ドロー!!」

「!」

「ブハハハ、ダークディノニクソーを疲労させて2枚のカードを引くぜ」

 

 

激レアライダースピリット、シャドームーンの眼光が光り輝き、そこから衝撃波が放たれ、唯一のブロッカーとして残っていたディノニクソーが疲労状態となり、フィールドに横たわる。

 

 

「アタックステップ!!……シャドームーンでアタック!!…その効果で疲労状態のスピリット1体を破壊する事で、相手ライフ1つをボイドに置く!!」

「!」

「ブハハ、そこの怪獣野郎にはくたばってもらうぜ!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉ヒバナ

 

 

ライトセイバーのような武器を十字に振い、斬撃波を発生させるシャドームーン。ゴモラはそれに直撃してしまい、堪らず爆発四散する。

 

そして、その十字の斬撃波はゴモラを倒しても尚止まる事を知らず、ヒバナのライフバリアまでをも破壊。遂にその数は1つとなる。

 

 

「その後、自分のスピリット1体を破壊する事で回復。3体いるカッチュウムシ1体を破壊してシャドームーン回復!!」

 

 

複数且つ強力な効果を持つのは流石レアカードと言った所か。コストとなったカッチュウムシが1体粒子となり消え失せ、シャドームーンが回復、つまりこのアタックの後でも攻撃が可能となる。

 

もっとも、ヒバナの残りライフは1。このまま行けば回復させた必要もないのだが…………

 

それはあくまでも「このまま行けば」の話であって…………

 

 

「ブハハハ!!!……やっぱりオマエはとんだ出来損ないだよな!!…そんな弱っちぃから誰からも認められないんだよ!!……決めちまえシャドームーン!!」

「………」

 

 

シャドームーンがゆっくりと近づいて来る中、少しだけ静寂が横切ると、ヒバナはその口を開き、笑ってみせる…………

 

 

「はは、確かに。私はお父さん「一木ハナビ」みたいにどんな人にも認められる、最高のカードバトラーにはなれないかもしれない」

「あぁ?…んだよ急に」

「でも、気がついたんだ、私は私。お父さんは、私じゃない。私の存在価値は周りじゃなくて私だけが決めるモノ………そして、そんな周りなんかよりも、もっと凄い人達に、私はもう認められた」

 

 

ヒバナはオーカやヨッカ、ミツバ、アオイ、フグタ、後一応イチマル。これまでバトスピで巡り会ってきた仲間たちの顔を思い出していく。

 

みんなが認めてくれて、励ましてくれたからこそ、今の自分がいる事をブスジマに主張していくと、その伏せていたバーストカードを発動させる。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!」

「!?」

「ドラグーンシュート!!……効果でトラッシュからコスト6以下の赤か紫のスピリットを復活させる!!……甦れ、ゴモラ!!」

 

 

ー【古代怪獣ゴモラ】LV3(5S)BP12000

 

 

勢い良く反転したバーストカードの効果により、古代怪獣ゴモラが大地を砕き、咆哮を張り上げながら復活を果たす。

 

 

「ブハ、今更そんなスピリットで何ができる??……BP12000じゃシャドームーンには敵わないし、そもそも1回ブロックできたとしても、オレにはまだまだ攻撃できるスピリットが残っているんだぜ!!」

 

 

ゴモラが回復状態で再召喚されるも、スピリットの数とヒバナの残りライフから逆算して己の勝利を確信するブスジマ。

 

だが、その確信はヒバナが手札から引き抜いた1枚のカードで揺らぐ事となる…………

 

 

「フラッシュ煌臨発揮!!……対象は復活したゴモラ!!」

「な、このタイミングで煌臨だと!?」

 

 

ソウルコアをトラッシュに置き、スピリットを更なる姿へと成長させる効果煌臨。

 

まさかまさかのスピリットが復活したこのタイミングだが、一木ハナビの娘、一木ヒバナが煌臨で呼び出すスピリットと言ったら、アレしかいない…………

 

 

「赤の究極体スピリット、ウォーグレイモン!!」

 

 

ー【ウォーグレイモン】LV3(4)BP16000

 

 

爆炎に包まれるゴモラ。その中で姿形を大きく変えていく。

 

そして、炎を鉤爪で切り裂きながら現れたのは、ヒバナのエーススピリットであるデジタルスピリットの最上位「究極体」のウォーグレイモン。

 

 

「ウォーグレイモンの煌臨時効果、BP15000までスピリットを好きなだけ破壊する!!……カッチュウムシを全滅!!」

「!!」

「大玉ガイアフォース!!」

 

 

ウォーグレイモンは登場するなり両掌に力を集中させ、太陽を模した炎の塊を生成。それをブスジマの場に投げつけ、2体のカッチュウムシを焼却した。

 

これでブスジマの場に存在するスピリットは、今現在アタック中のシャドームーンのみとなる。

 

 

「シャドームーンのアタックはこのウォーグレイモンがブロック!!」

 

 

ヒバナの指示を受け、ウォーグレイモンがシャドームーンを迎え撃つ。体格差を活かして肉弾戦に持ち込むも、シャドームーンはウォーグレイモンの一撃一撃を難なくかわしていき、その都度カウンターを決めていく。

 

 

「ブハハハ!!……シャドームーンのBPは18000、ウォーグレイモンは16000!!……勝負あったな!!」

「アンタ、本当負けフラグ立てるの好きね!!……フラッシュマジック、ダイナパワー!!」

「なぁ!?」

「この効果でウォーグレイモンのBPは合計19000!!…シャドームーンを上回る!!」

 

 

ー【ウォーグレイモン】BP16000➡︎19000

 

 

BPを3000上昇させる赤のマジックカードダイナパワー。その効果を受けて赤いオーラを身に纏ったウォーグレイモンがシャドームーンに反撃………

 

鉤爪の一撃でその手に持つライトセイバーを弾き飛ばす。思わず飛んでいった武器に意識を向けてしまったシャドームーン。ウォーグレイモンはその隙を突いてトドメの一撃を腹部にお見舞いする。

 

最後は呆気なく力尽き、シャドームーンは大爆発を起こした。

 

 

「う、う、う、ウソだァァァー!!?!……このオレ様のスピリットが、一木ヒバナのウォーグレイモン如きに全滅させられただと!?」

「ウォーグレイモンだけのお陰じゃない。このターンでのカウンターはゴモラが前のターンで場を荒らし回ってくれたからできた事。私のデッキは、もうウォーグレイモンだけに頼るようなデッキじゃない」

「くっ……クソが、ターンエンドだ」

手札:3

バースト:【無】

 

 

完璧なカウンターにより、完全な敗北を悟るブスジマ。苦渋の表情を浮かべながらそのターンをエンドとする………

 

 

[ターン08]ヒバナ

 

 

次はヒバナのターン。リフレッシュステップが巡って来ると、疲労していたディノニクソーとウォーグレイモンが回復状態となり、立ち上がる。

 

 

「アタックステップ!!……行け、ディノニクソー!!」

「ライフだ!…ライフをもらいやがれぇぇぇぇえ!!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉ブスジマ

 

 

メインステップはすっ飛ばし、そのままアタックステップへと移行する。ディノニクソーが走り出し、お腹のチェーンソーでブスジマのライフバリアを1つ砕いた。

 

これで残り1つ。締めは当然あのスピリットだ。

 

 

「ウォーグレイモン!!」

 

 

ウォーグレイモンが鉤爪を構え、走り出した。狙うはもちろんブスジマの最後のライフだ。スピリットをカウンターにより失ってしまった彼にはもう反撃の術は残っていなくて…………

 

 

「クソがァァァ!!……ライフで受けてやる!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉ブスジマ

 

 

ウォーグレイモンの鋭い鉤爪による強烈な一撃が、ブスジマの最後の砦を撃破。

 

よってこのバトル、一木ヒバナの勝利だ。彼女の勝利を知らせるかの如く、ブスジマのBパッドからは「ピー……」と寂しげな機械音が鳴り響く。

 

 

「………クソが、このデッキ、使えねぇ」

「…………」

 

 

敗北が認められず、自分のデッキのカード達に横暴な発言をするブスジマ。ヒバナはそんな彼を憐れんだような目で見つめる。デッキのカード達が可哀想、とでも言いたげだ。

 

 

「……私はもう、後ろは見ない。好きなカードと一緒に、バトスピを楽しむんだ。オーカみたいに」

 

 

一緒に戦ってくれたデッキのカード達を固く握りしめながら感謝の言葉を口にするヒバナ。

 

きっとそう言ったブスジマとの想いの差が、勝敗を分けたに違いない。

 

彼女はその後も試合もゴモラとウォーグレイモン、2体のエースを使い分け、8人しか抜けられない予選と言う名の関門を突破したのは、言うまでもない。

 

今日は界放リーグジュニアクラス。今はその予選の時間帯、ジークフリード区にあるジークフリードスタジアムの地下では、この他にも、中学生達による熱い試合が展開されていて…………

 

 

 




次回、第16ターン「荒波呼ぶズドモン、脅威のデッキアウト」


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第16ターン「荒波呼ぶズドモン、脅威のデッキアウト」

界放リーグジュニアクラス、その予選がジークフリード区のジークフリードスタジアムの地下で行われている。皆今日という日のために作り上げたデッキを信じ、激闘へと臨む。

 

予選Cブロックの鉄華オーカミもまたその1人。初参戦だからとて緊張しているわけではないが、そわそわしているのか、予選が始まる前にデッキを取り出し、気を紛らすように全集中で中身を再確認する。

 

しかし、そんな彼の集中を崩してしまう存在が1人…………

 

 

「試合前に己のデッキを再確認するか。初歩的だが、いい心掛けだな」

「………邪魔」

 

 

獅堂レオンがその横で常に口を開いていた。どこに逃げても彼から寄ってくるので既にオーカは諦めている。

 

 

「まぁそう言うな。オマエのCブロックとオレのDブロックは同じゾーンで行われるのだからしょうがない所もある」

「1人でいろよ」

 

 

飄々とした態度で淡々と核心を突くオーカ。腕を組み、偉そうにほくそ笑みながら「1人は嫌だ」とレオン。

 

オーカは最後に何もかもが面倒くさくなったので「そっか」と一言。

 

 

「………負けたな。Mr.ケンドー」

「ん?」

「あの時一眼見てわかった。奴の正体はオマエが働いているアポローンの店長なんだろ?」

 

 

唐突に元モビル王である赤い仮面のカードバトラー「Mr.ケンドー」の話題を振るレオン。以前のオーカと同様、一眼見ただけで彼が九日ヨッカである事を看破していた様子。

 

オーカもこれと言って特に慌てる様子もなく「うん、合ってる」と薄いリアクションで返す。

 

 

「業者撥水の理、猛き者もついには滅びぬと言うが、奴が三王でいた期間は特に短かったな。オマエも、デッキアウトには気をつけろよ。油断していると寝首をかかれるぞ」

「…………オマエ「首を洗って待ってろ」の事は「手を洗って待ってろ」とか言ってたクセに、そんなよくわからない言葉は言えるんだ」

「フ……オレの脳は極端なんだ」

「なんで偉そうなんだよ」

 

 

こんなやり取りをしていく内に、予選の試合開始のアナウンスが耳に入って来る。

 

レオンは最後にオーカと互いに健闘を祈り合おうとするも、オーカはそれをフルでシカト。こうしてそれぞれの予選ブロックでの戦いが幕を開けたのだった。

 

 

******

 

 

「行け、バルバトス第4形態!!……アタック時効果でダブルシンボル!!」

「ら、ライフで受ける………う、うわァァァァー!?!」

 

 

あれから暫く時間が経ち、これは予選の3試合目。

 

黒々とした鈍器メイスを武器に持つバルバトス第4形態がそれを振い、対戦相手の残ったライフバリアを全て打ち砕き、彼に勝利を齎した。

 

 

「なんだよあのモビルスピリットとそれを使うチビ、強すぎんだろ」

「………聞いた事がある。ジークフリード区には紫属性のモビルスピリットを操る赤い悪魔がいるって………まさかアイツの事なんじゃ」

 

 

オーカが勝ち星を上げた直後。周囲からそんな声が囁かれる。最初は無名だったオーカも、今ではすっかり有名人になってしまっている様子。

 

 

「よし、次で最後か」

 

 

しかしそんな事、本人は全く持ってどうでも良さそうにしている。彼としてはバトスピを楽しみたいだけなのだろう。

 

そんな予選ブロック決勝まで勝ち残った鉄華オーカミ。その決勝を争う対戦相手が、バトル場に立つ彼の前に現れて…………

 

 

「どーもでーす!」

「……?」

「あら、挨拶もまともにできないくらいコミ障な奴が、この僕の予選ブロック決勝の相手かよ」

「あぁ、ごめん。よろしく」

 

 

その少年は凄まじくチャラかった。チャラい割には挨拶のするしないを気にしている。オーカも彼のテンションがよくわからず、遅れて挨拶を返した。

 

 

「僕の名前は「南川ミチル」………まぁ気軽にミッチーって呼びなよおチビちゃん」

「嫌だ」

「あぁ?…生意気だな、テメ歳上に対する礼儀も知らないのかよ。オレが「呼びなよ」って言ったら、それはもうオマエは「YES」と答えるしかないんだよ普通」

「めんどくさ」

 

 

おそらく3年であろうこの南川ミチルと言う少年。先程から上から目線で高飛車な態度が目立つ。が、このくらいは全然平気だ。何せオーカはもっと上から目線な奴(レオン)で慣れているのだから………

 

 

「まぁいい!…どうせこのバトルが終わったら君の事なんて早々に忘れているだろうからね。今年こそは必ず界放リーグで優勝して、可愛い女の子達からキャーキャー言われるぞ!!」

「負けられないのはオレも同じだ。約束は守る」

 

 

ミチルの動機はかなり不純なものだが、この大会に賭ける想いはどうやら本気なようだ。Bパッドを取り出してバトルの準備を終わらせる。

 

オーカもまた負けられない理由がある。ヒバナ、イチマルとの約束を思い出しつつ、自身もまたBパッドを展開、バトルの準備を行った。

 

 

「じゃあ始めるか。ピーピー泣いても後悔しないようにね、おチビちゃん」

「泣くのはどっちだろうな。行くぞバルバトス、バトル開始だ!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

鉄華オーカミと南川ミチルによるCブロック決勝戦が、コールと共に幕を開ける。

 

先攻はオーカ、緊張を一切感じさせない様子でターンを進めていく。

 

 

[ターン01]オーカ

 

 

「メインステップ………創界神ネクサス、鉄華団の団長オルガ・イツカを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

オーカが早々に配置したネクサスカードは鉄華団の団長オルガ。背後には何も出現しないものの、これがあるだけでオーカの鉄華団デッキは戦いの幅が広がる。

 

配置時の神託も行ったが、今回の対象カードは0枚。従って、その上に乗るコア数も0からのスタートだ。

 

 

「ターンエンド。オマエの番だ」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV1

バースト:【無】

 

 

「ふ〜〜ん。紫のデッキか」

 

 

創界神ネクサスで足場を固めると言う、先行の第1ターン目としてはかなり幸先の良いスタートを切ったオーカ。一度ミチルへとターンを渡す。

 

そんな彼はオーカとはまた違った余裕を見せつけながらターンを開始した。

 

 

[ターン02]ミチル

 

 

「メインステップ。緑のスピリット、ヤン・オーガをLV1で召喚」

 

 

ー【ヤン・オーガ】LV1(1)BP3000

 

 

緑のシンボルが砕け、中より蜻蛉人間と呼べる姿をしたスピリット、ヤン・オーガが出現。

 

 

「次いでにバーストを伏せて、ターンエンドだ」

手札:3

場:【ヤン・オーガ】LV1

バースト:【有】

 

 

罠のカード、バーストカードを裏側で伏せると、ミチルはそのターンを終了とする。再びオーカにターンが巡ってくる。

 

 

[ターン03]オーカ

 

 

「メインステップ……鉄華団モビルワーカーを2体、それぞれLV1と2で召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV2(3)BP3000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

銃火器を備えた小型の車両、モビルワーカーが2機出現。創界神であるオルガに神託でコアも追加されていく。

 

 

「アタックステップ……早速いくぞ、LV2のモビルワーカーでアタック」

 

 

伏せられるバーストなど一切警戒しない迷いなき攻撃宣言。モビルワーカーの1体が地を駆け抜けていく。

 

 

「ヤン・オーガでブロックはしない。ここは華麗にライフで受けよう!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ミチル

 

 

モビルワーカーの渾身の体当たりがミチルのライフバリア1つに炸裂。先制点を与えるが、その先制点こそ、ミチルの伏せていたバーストカードの条件であって…………

 

 

「ライフ減少後のバースト発動、選ばれし探索者アレックス!」

「!!」

「効果で自身をノーコストで召喚。そしてその後アタックステップを強制終了させる」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1(1)BP4000

 

 

バーストカードが反転すると共に紫色のフードを深く被った紫髪の人型スピリットが出現。その効果により、オーカはこのターンにこれ以上のアタックは不可能となって…………

 

 

「………ターンエンド」

手札:3

場:【鉄華団モビルワーカー】LV2

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

普段なら序盤から速攻を仕掛ける鉄華団デッキのオーカ。しかし今回は汎用性の高い防御カード、アレックスに道を阻まれる。

 

そして帰って来たミチルの3ターン目、彼のデッキはここで加速する。

 

 

[ターン04]ミチル

 

 

「メインステップ……アレックスの効果、自身を疲労させて1枚ドロー」

 

 

早々にアレックスの効果を使用するミチル。アレックスは膝を突くと、彼に1枚ドローの権限を与え、ドローさせる。

 

そのドローを視認するが、余程良いカードだったのか、ニヤケが取れなくて……………

 

 

「この手札、完璧過ぎる。やはり、今年の界放リーグで優勝するのはこの僕、超絶イケメンバトラーの南川ミチル!!」

「いいから早くしろよ」

 

 

デッキの回転率に感動するミチルは、その後もニヤケが取れないままターンを進めていく。

 

 

「ヤン・オーガをLV3にアップ!!…さらに緑マジック、ライフチャージを発揮。効果でヤン・オーガを破壊」

「ッ!?……自分のスピリットを破壊!?」

 

 

せっかくLVを上げたヤン・オーガを、マジックカードの効果によって強制的に自爆させる。

 

しかし当然そこにも狙いはあって…………

 

 

「ライフチャージはその後、リザーブにコアを3つ追加。でもってヤン・オーガLV3破壊時効果でさらに3つのコアをリザーブに追加!!」

「ッ………コアが6個も」

 

 

ヤン・オーガとライフチャージ。ここから繰り出されるコンボは合計6個のコアブースト。

 

バトルスピリッツのゲームにおいて、一度に6つのコアを生み出すこのコンボはあまりにも異端である。

 

 

「そして増えたコアを使って、僕はコイツを呼ぶ」

「…………」

 

 

もちろん、そのコアを使用しなければコアブーストした意味がない。

 

これだけのコアブースト量、生半可なスピリットは出て来ないだろう。ミチルがさらに手札からカードを切ると、それだけで緊張感が走り出した。

 

 

「そのハンマーは最強の印!!……青の完全体スピリット、ズドモンをLV2で召喚!!…アレックスは消滅だ」

「!」

 

 

ー【ズドモン】LV2(4)BP11000

 

 

アレックスが消滅し、この場から消え去るも、ミチルの背後から荒波が打ち寄せ、そこから新たなるスピリットが地上へとダイブする。

 

出現したのは、まるで雷を呼ぶ神であるトールが所持しているようなハンマーを手に持つ、甲羅を背負った怪獣。

 

その名はズドモン。青属性のデジタルスピリットで、最強とは一歩手前の完全体である。

 

 

「デジタルスピリット………今度は青か」

「僕のデッキに色は関係ない。入れてるのはズドモンと、コアブーストとただひたすらに耐え抜くカード達のみ。僕はさらにバーストを再びセットする」

 

 

このズドモンに余程自信がある様子のミチル。そのカードに手を掛けると、アタックステップを宣言する。

 

 

「アタックステップ!!……ズドモン、やっちゃいなよ」

 

 

ズドモンはミチルの指示を受け入れ、雄叫びを上げると、ハンマーを構えて攻撃の姿勢に移る。

 

 

「アタック時効果【大粉砕】!!……ズドモンのLV×5枚のカードを破棄!!」

「ッ……デッキ破壊系」

「今のズドモンのLVは2。よって10枚のカードを蹴散らせ!!」

 

 

ズドモンの効果はかの有名なMr.ケンドーもやられたデッキ破壊効果。ハンマーを勢いよく地面に叩きつけると、それだけで稲妻が迸ってオーカのデッキを襲い、上から10枚をトラッシュへと追いやった。

 

まだまだ序盤だが、ここでミチルの狙いはライフではなく、デッキである事を理解する。

 

 

「さらにその破棄したカードの中にバーストカードがあれば、相手スピリット1体を問答無用で破壊する!!」

「!」

「LV2のモビルワーカーを破壊!!……ハンマースパーク!」

 

 

かなり速いと言える速度で走り出すズドモン。モビルワーカーに接近し、ハンマーに稲妻を纏わせ叩きつける。弱小スピリットであるモビルワーカーがその一撃に耐えられるわけもなく、無惨にもこの場で爆散してしまう。

 

 

「………そいつの攻撃はライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

今度はオーカのライフバリアにそのハンマーを打ち付ける。残り4つと、まだまだ多いが、ミチルが見ているのはオーカのライフではなくデッキであるため、この行為自体に大きな意味を持つわけではない。

 

 

「ターンエンド。さぁ、デッキがなくなる恐怖に打ち震えろ!!」

手札:2

場:【ズドモン】LV2

バースト:【有】

 

 

「………」

 

 

相手のライフではなく、デッキを狙う戦法、デッキアウトの存在は知っていたが、実際に対面するのは初めてだ。

 

そう考えるオーカだったが、直ぐにその思考が鈍る事となる。

 

アイツの顔が見えたからだ。

 

 

「よぉ鉄華。早速予選を突破して来たぞ、全くつまらんバトルをする奴ばかりだった。そっちはどうだ?」

「見て別れよ獅堂、絶賛バトル中だ。邪魔だからどっか行ってろよ」

 

 

いち早く予選を突破して来たレオン。バトル場の横からオーカに声を掛けた。相変わらず偉そうだ。

 

 

「アイツ、確か現ジュニアNo. 1の獅堂レオン?……あのおチビちゃん、奴と知り合いだったのか」

「鉄華。そんな小物なんぞ、さっさと倒してしまえ、貴様はこのオレと熱いバトルを本戦でしなければ行けないのだからな」

「こ、小物だと!?……獅堂レオン、オマエはこの僕の事を小物だと言うのか!!」

 

 

さり気なく侮辱されたミチル。バトル場から身を乗り出し、レオンに物申す。

 

 

「それはそうだろう。何せ、貴様のそのスピリットからは貴様の魂も想いも何も感じないのだからな!!」

「はぁ!?」

 

 

またまた偉そうな態度で、今度はズドモンを指で指しながらそう告げた。

 

 

「バトルスピリッツとは、謂わば魂と魂のぶつかり合い。バトラーの想いと魂を全てスピリットに捧げた者が勝利を手にする。いくら強者であろうとも、ただ勝つためだけにスピリットを使う奴なぞ論外!!」

「なんだとぉ!?」

 

 

煽りに煽られ、キレ気味になるミチル。反応すると言う事は図星であると言う事でもある。どうやらズドモンにはこれと言った思い入れはない模様。

 

そんな2人に「コイツらさっきからうるさいな」とオーカ。

 

正直レオンは横にいるだけでうるさくて面倒だが、バトルはこのまま続行するしかない。

 

 

「はい。言う事は散々言ったろ、じゃあオレのターンな」

「見とけよ獅堂レオン!!……今から僕がこのチビをぶっ飛ばして、僕の方が正しいと言う事を証明してやる!!」

「ああやってみるが良い。鉄華はこのオレがライバルと認めた唯一無二の男。倒せるものならやってみろ」

 

 

めちゃくちゃにハードルを上げられながらも、鉄華オーカミは己の巡って来たターンを開始していく。

 

 

[ターン05]オーカ

 

 

「メインステップ、先ずは3体目のモビルワーカーを召喚。オルガにコア1つを神託……さらにバーストをセット」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

3体目となるモビルワーカーが出現。これでオーカの場には2体のモビルワーカーとオルガ。紫シンボルは合計で3つだ。

 

つまりフル軽減でアイツを呼び出せる…………

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け……ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!!」

「!?」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4S)BP12000

 

 

「不足コストはモビルワーカー1体から全てのコアを取り除いて確保、よって消滅する」

 

 

2体いる内の1体のモビルワーカーが消滅してしまうが、その代償として上空から白い装甲と黄色い二角なツノを持つ紫属性のモビルスピリット、バルバトス、その第4形態が姿を現した。

 

 

「……今現在、モビルスピリットは赤、青、白にしか存在しない。まさかおチビちゃんが噂の紫属性のモビルスピリット使い……!?」

 

 

まるで本当にいたのかとでも言いたげな様子で驚愕するミチル。そんな彼に合わせる事なく、オーカはバルバトスと共にアタックステップを駆け抜ける…………

 

 

「アタックステップ、その開始時にオルガの【神技】を発揮!!…コアを4つ取り除き、トラッシュから鉄華団カードを召喚する」

「!」

「デッキ破壊をしてもらってちょっと助かったよ。コイツはそれがなければ落ちなかったから、来い、鉄華団のエースパイロット、三日月・オーガス!!…バルバトス第4形態に直接合体!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4S)BP18000

 

 

ここで鉄華団デッキの伝家の宝刀が決まる。オーカのエース、第4形態がパイロットの三日月と合体し、その力を数段アップさせる。

 

これで準備は整った。第4形態は武器である黒い鈍器、メイスを手に構える。

 

 

「アタックだ、バルバトス!!」

 

 

背部のスラスターを逆噴射させ、低空で地を駆け抜けるバルバトス第4形態。この瞬間に発揮できる効果がいくつかあって………

 

 

「アタック時効果でズドモンからコア2つをリザーブに置き、そのコアを三日月の効果でトラッシュに送る!!」

「!」

 

 

ー【ズドモン】(4➡︎2)LV2➡︎1

 

 

バルバトス第4形態によるメイスの一撃がズドモンに襲いかかる。ズドモンはハンマーを盾にそれをガード、それなりのダメージは受けたものの、消滅は免れた。

 

 

「前のターン、アレックスごと消滅させて全てのコアをズドモンに置いたのが功を奏したか」

 

 

レオンもここは冷静に解釈する。腐っても彼は予選を勝ち上がる実力者、紫属性を相手するに当たって、やはりそれなりに考えていた様子。

 

 

「生き残っても、このターンでライフを全て砕けば関係ない。バルバトス第4形態はLV3の時、シンボルを1つ増やす!……三日月のシンボルと合わせて3つのシンボルだ」

「ッ……トリプルシンボルか」

 

 

今のバルバトス第4形態は一撃で3つのライフを砕く事ができる。ズドモンが疲労状態である今、ミチルはこれをライフで受ける他なくて………

 

 

「ライフで受けよう!!………ぐっ」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉ミチル

 

 

 

バルバトス第4形態のメイスによる強烈な一撃が、今度は彼を襲う。そのライフは一気に3つ砕け散り、遂に残り1つまで追い詰められた。

 

オーカとしては、後は場に残っている最後のモビルワーカーで攻撃するだけだったが…………

 

 

「だけど全ては計算通り、狂いはしない!!……バースト発動、選ばれし探索者アレックス!!」

「!」

「効果で召喚し、このバトルの終了がアタックステップの終了となる!!」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2(2)BP6000

 

 

ここに来て再びバースト、再びアレックス。紫のフードを深く被った少女が、又してもオーカのアタックステップを強制終了。何をしても、もうオーカはこのターンでのアタックはできない。

 

 

「………バトル終了時、第4形態の効果でトラッシュから第1形態を召喚。不足コストは第4形態のLVを2に下げて確保………オルガに神託してターンエンド」

手札:1

場:【鉄華団モビルワーカー】LV1

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV2

【オルガ・イツカ】LV1(1)

バースト:【有】

 

 

紫のシンボルが砕け散り、肩装甲や武器を持たない、バルバトス始まりの形態、第1形態が出現するが、それを出したところでアレックスはどうにもできない。

 

オーカはそのターンを終了する。

 

 

「調子に乗りやがって。紫のモビルスピリットだろうがなんだろうが、この僕のズドモンの敵じゃないって事を思い知らせてやる」

 

 

実際、残りライフが1とは言え、ズドモンを仕留められずにミチルへとターンが返って来るこの状況はオーカにとってかなり不味い。

 

 

「僕のターンだ!!」

 

 

しかし、最早どうしたってこの結果は覆らない。ミチルのターンが再び幕を開けていく…………

 

 

[ターン06]ミチル

 

 

「メインステップ……アレックスの効果、疲労させてドロー。戦竜エルギニアスをLV1で召喚」

 

 

ー【戦竜エルギニアス】LV1(1)BP1000

 

 

青い牛のようなスピリット、エルギニアスがその姿を見せる。青のスピリットだが、赤としても扱える得意なスピリットだ。

 

 

「マジック、グリードサンダー!!…コスト5以下まで好きなだけスピリットを破壊、散りなよ、モビルワーカー、バルバトス第1形態!!」

「!」

 

 

メインステップ中に発揮されるマジックカード。迸る電撃がモビルワーカーとバルバトス第1形態に直撃、それらを爆散させる。

 

 

「さらにマジック、双光気弾!!…バルバトス第4形態の付いているパイロットブレイヴを破壊!」

「………」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

 

 

ミチルが使った2枚目のマジックの効果により、オーカのBパッド上から三日月・オーガスのカードがトラッシュへと送られる。それによりバルバトス第4形態は弱体化。

 

 

「最後にズドモンをLV3にアップ!!……これで【大粉砕】によって破棄できる枚数は3×5で15枚だ!!」

 

 

ー【ズドモン】(2➡︎6)LV2➡︎3

 

 

LVアップによって力が増幅。それをアピールするかのようにズドモンは雄叫びを上げる。オーカのデッキの残り枚数は精々20枚程度。一撃でほぼ全てのデッキが飛ぶことになる。

 

 

「今更後悔しても知らないぞ、全部オマエが弱いのが悪いんだからな!!……アタックステップ!!……ズドモンでアタック、【大粉砕】で15枚破棄だ!!」

「ッ……デッキが」

 

 

力強くハンマーを地面に叩きつけ、稲妻を発生させるズドモン。それがまたオーカのデッキを破棄。残り10枚を切った。

 

さらに、破棄されたカードの中にはバーストカードも確認できて…………

 

 

「バーストカード確認!!……追加効果でバルバトス第4形態を問答無用で破壊だ!!」

「ぐっ……バルバトス!」

 

 

さっきのお返しと言わんばかりに、ハンマーをバルバトス第4形態に叩きつけるズドモン。バルバトス第4形態は武器であるメイスでガードするも、その一撃はより強力なものだったが、それごとバルバトス第4形態の装甲を打ち砕き、吹き飛ばして爆散させた。

 

これでオーカの場のスピリットは0。カードもオルガのみだ。

 

 

「そして、ここで君に絶望を与える!!…次のターンはない、フラッシュマジック、爆砕轟神掌!!」

「!」

「効果でズドモンを回復!!……つまりこのターン、もう一度大粉砕が使えるってことだァァァァァァー!!」

「そっか」

 

 

オーカのリアクションはとても薄いが、これはとてつもなくヤバい状況だ。

 

つまり、このバトル中にアタック中のズドモンを処理しなければ、二度目の大粉砕で今度こそオーカのデッキは完全に消し飛ぶ。オーカもその事は理解しているのだろうが、慌てる事はなく、いつものように冷静な表情を見せている。

 

 

「アタックはライフで受ける………ッ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉オーカ

 

 

場のスピリットがいない今、オーカはそれをライフで受ける他選択肢がなかった。ズドモンの強烈なハンマーの一撃がそのライフを3にする。

 

そしてここでオーカの頼みの綱であるバーストが発動して………

 

 

「ライフ減少後のバースト発動!!」

「なに、おチビちゃんもライフ減少後のバースト!?」

「あぁ、初陣だ。バルバトス第3形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第3形態]】LV2(3)BP6000

 

 

バーストカードが勢い良く反転、そここら姿を現したのは新しいバルバトス、その与えられた数字は3。右手のライフル銃と左腕のワイヤーアームが印象に残る。

 

 

「バルバトス第3形態の効果、召喚後、手札かトラッシュにある鉄華団ブレイヴ、鉄華団ネクサスを1コスト支払って召喚、配置する」

「!」

「散々増やしてもらったからな………異次元の底より現れろ、鉄華団の母艦、イサリビ!!」

 

 

ー【イサリビ】LV1

 

 

下に伸びた異次元の渦が現れると、バルバトス第3形態はその中に自身のワイヤーアームを伸ばす。そして何かを引っ掛けると、釣りの要領でそれを引っ張り上げる…………

 

そしてその中から現れたのは濃ゆい紫色をした母艦、イサリビ。オーカの背後へと配置される。

 

 

「さらに、鉄華団ネクサスが配置された時、トラッシュにあるマジックカード、革命の乙女の効果発揮!」

「なに、トラッシュから効果を発揮だと?」

「このカードを手札に戻す」

 

 

デッキ破壊で散々増えたトラッシュのカードを巧みに使い、複雑な戦術を披露するオーカ。しかし、ここまでの連続効果発揮は確かに見事であると言えたが…………

 

 

「フ……実に見事だ。だが、それだけだろ?」

「…………」

「ハッハッハ!!……言い返す言葉もないか!!……終わりだ、回復したズドモンで再アタック!!……【大粉砕】!!」

 

 

見応え抜群の連続効果発揮も、デッキ破棄対策ができなければ意味を成さない。ズドモンが今一度ハンマーで地面を叩きつけ、稲妻を発生させる………

 

そしてその稲妻はオーカのデッキを捉え……………

 

その残ったデッキのカード全てをトラッシュへと追いやった。彼のデッキは遂に力尽きて0枚となってしまったのだ…………

 

 

「ハッハッハ!!……そうだよな、オマエみたいな奴が僕に勝てるわけないよな!!」

 

 

完全に勝ちを確信。高笑いするミチル。

 

しかし、オーカの表情は何故か至って冷静。その後もフラッシュタイミングでマジックカードを切る。

 

 

「まだバトルは終わってないぞ。フラッシュマジック、革命の乙女」

「あ?」

「このターンの間、オマエのスピリット全てはアタックかブロックする時、その上のコア1つをトラッシュに置かなければならない」

「なんだよその効果!!……エルギニアスが殴れなくなっただけで意味ないじゃん!!……最後の悪足掻きってか!!」

「この攻撃は、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉オーカ

 

 

さっき手札に戻したマジックカード、革命の乙女の効果を発揮させるが、フラッシュ効果ではエルギニアスの攻撃を封じる程度しかない。

 

ズドモンが三度オーカのライフバリアを砕く。2つ残ったが、このライフもデッキアウトで敗北して仕舞えば0にも等しくなる。

 

 

「ターンエンド。ドローするカードがないバトラーはその時点で負け。さぁ敗北者、絶望のスタートステップを宣言しろよ」

手札:0

場:【ズドモン】LV3

【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2

【戦竜エルギニアス】LV1

バースト:【無】

 

 

オーカのデッキは0。そう思い、このターンのエンドを宣言するミチル。

 

これで間違いなく自分の勝ちだ。そう確信していた。

 

だが…………

 

 

「弱いカードバトラーは皆決まって視野が狭い」

「なに?」

「鉄華のデッキをよく見てみろ」

「は?」

 

 

そう言ったのはオーカ最大のライバルであるレオン。彼にそう言われ、ミチルはオーカのBパッドにセットされたデッキゾーンへと目を向ける………

 

するとそこには信じられない光景が見えて…………

 

 

「なんだと………何故デッキのカードが存在しているんだ。しかもたった1枚だけ……!?!」

 

 

そう。このターン、確かにデッキのカード全てを吹き飛ばしたはずだったが、何故かオーカのBパッドにはデッキのカードが1枚だけ残されていたのだ。

 

唖然とするミチルに、オーカが説明する。

 

 

「革命の乙女の更なる効果だ。このカードは使用した後、トラッシュではなく、デッキの下に戻る」

「!?!」

「もっとも、デッキが0枚じゃあ上も下も関係ないけど」

「………さ、さっきのフラッシュマジックはそれが目的だったのか!?」

 

 

オーカが最後に使ったマジックカード「革命の乙女」…………

 

そのカード効果により、革命の乙女のカード自身がオーカの最後のデッキのカードとなったのだ。これにより、デッキアウトは免れた。

 

とどのつまり、オーカに再びターンが巡って来る…………

 

 

「ドローするカードさえあれば、文句ないだろ。オレのターンだ」

「!!」

 

 

相手の手札は0。ブロッカーはエルギニアスの1体のみ、この奇跡的に生まれた絶好の機会を逃すまいと、オーカはターンを進めて行った。

 

このターンのドローカードは当然、革命の乙女だ。

 

 

[ターン09]オーカ

 

 

「アタックステップ!!……行け、バルバトス!!」

 

 

速攻でアタックステップまで移行させ、オーカはバルバトス第3形態でアタック宣言を行う。

 

 

「倒されてたまるか、エルギニアスでブロッ………」

「フラッシュマジック、革命の乙女!!……コアが1個しかないエルギニアスはアタック、ブロックできない!!」

「なぁッ!?」

 

 

ここでも発揮されるマジック「革命の乙女」…………

 

エルギニアスは動こうにも動けば維持コアがなくなるため身動きが取れなくなる。

 

終わりだ。後はラストコールをするのみ…………

 

 

「そ、そんなこの僕のパーフェクトなデッキが負けるなんて………ら、ライフで受ける……うァァァァーー!?!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉ミチル

 

 

バルバトス第3形態がワイヤーアームを鞭のようにしならせ、ミチルのライフバリアを彼の叫びと共に打ち砕いた。

 

これにより、勝者は鉄華オーカミだ。ミチルのBパッドから「ピー……」という甲高い機械音が、まるで彼の勝利、ミチルの敗北を告げるように流れ出す。

 

 

「流石だ鉄華、それでこそオレのライバルに相応しい」

「そりゃどーも」

「だが、オレならデッキが0になる前に勝ってたな」

「勝ちは勝ちだろ」

 

 

兎に角さっきから横にいる獅堂レオンがうるさい。そう思うオーカだが、直後に敗北した南川ミチルが前へと立ちはだかって…………

 

 

「…………なに?」

「………まぁ、負けたもんはしょうがないか。この僕に勝ったんだから、必ず優勝しろよな」

「うん、そのつもりだ」

 

 

最後は意外と潔かった彼。オーカは差し出された手を一応握っておく。

 

これにて、予選Cブロックは鉄華オーカミの勝ち上がりで幕を閉じる。次なる目標はレオンもいる本戦だ。

 

そして、鉄華オーカミが予選を勝ち上がったこの瞬間から、続々と各予選ブロックの通過者が決まっていった。その中には一木ヒバナや鈴木イチマル、赤羽カレンも確認できて…………

 

数多の強者を跳ね除けて勝ち上がった上位8名による波乱の本戦が、まもなくスタートする。

 

 

 

******

 

 

 

全ての予選が終わりを迎えた頃、開催地であるジークフリードスタジアムの裏口に1台の車が停車する。黒く磨かれた美しい車体から姿を現したのは、高校生にしてプロバトラーとなり、さらにはMr.ケンドーをも下してモビル王の座にも着くと言う偉業を成し遂げた麗しい少女、早美アオイ。

 

彼女の執事である青年、フグタももちろん一緒だ。

 

 

「……今日はいよいよSTEP2だな、お嬢」

 

 

薄暗く、人気もない通行口を歩きながら、フグタがアオイにそう告げた。彼女は静かに頷く。

 

 

「えぇ、今日中には必ず見極めなければなりません」

 

 

 

運命をも覆す戦士、デスティニーを持つ獅堂レオン君

 

天地をも砕く悪魔、バルバトスを持つ鉄華オーカミ君

 

私と手を組むのは、どっち?

 

 

 

 




次回、第17ターン「クロスセイバー聖剣無双」


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第17ターン「クロスセイバー聖剣無双」

ここはバトスピが最も発展している大都市、界放市のジークフリード区にある最も有名なバトルスタジアム『ジークフリードスタジアム』………

 

今宵この場で年に一度行われる界放リーグ、そのジュニアの部、本戦が開催される。激戦区である予算を勝ち上がった猛者達の戦いを一眼観ようと、大勢の観客達が席を温めていた。

 

ぶかぶかのスカジャンを着用した中学生くらいの少女「春神ライ」とその友人「夏恋フウ」もその1人………

 

 

「…思ってたよりずっと広いね」

 

 

フウがお淑やかな声色でライに聞いた。

 

 

「まぁ、界放リーグって言ったら、世界的にも注目されるビッグイベントだからね。私も初めて来たけど」

「………ライちゃんも本当は出たかったんじゃない?」

「まぁね〜……でもオジさんとヨッカさんに公式戦は出るなって固く言われてるし、それに学校も行ってない私が界放リーグに出場は結局無理だったんじゃないかな?」

 

 

この少女「春神ライ」……

 

どういうわけかこの歳で学校にも通っていない様子。かなり深いわけがありそうだ。

 

 

「まぁ、出れたらもちろん私の優勝だけどね」

「流石天才カードバトラー!」

 

 

自信家のライに煽上手な親友のフウ。2人は性格こそ「元気系」「清楚系」と言った正反対の性質を持っているが、どうやらかなり良いコンビな様子。

 

そしてそんな春神ライ、ふと別の席に座っているある人物が目に入ってくる…………

 

 

「あ………お〜い、ヨッカさん!!」

「ッ……!!」

 

 

前の席に座っていた褐色肌で長身の男性の背筋がピクッと反射的に動く。その男性の正体はカードショップ「アポローン」の店長にして鉄華オーカミの兄貴分、九日ヨッカだ。

 

彼が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには元気なライと、こちらに向かって頭を下げる友人のフウが見えた。

 

 

「ライ……と、フウちゃん。何でここに」

「ヨッカさんこそどうしたんすか、最近はオジさん共々家に帰ってなかったし」

 

 

ライがフウと共にヨッカの隣に座りながら聞いた。

 

 

「オマエも知ってるだろ?……行方不明になったオマエの父親を捜索してたんだよ。でもってオマエには悪いが、今日は一旦休止。大事な大事な弟分がこの界放リーグの本戦に出場するかもしれねぇんだよ」

「弟分?……ヨッカさんに弟分なんかいるんすか?」

「………さてはオマエ、バカにしてるな?」

 

 

九日ヨッカはどういうわけか、この春神ライの父親を捜索している。故に2人は仲が良く、宛ら『兄妹』と言った仲である。

 

そんな中、会場の明かりが僅かに消えると、何かが始まる予感がする。人一倍今回の界放リーグを楽しみにしてきたフウは「あ、やっと始まるね」と一言。

 

 

「ご来場の皆様!!…アナウンサーの『紫治ヤヨイ』です!…これより、今年度の界放リーグジュニアクラスを行って行きたいと思います!!」

 

 

会場の端にスポットライトが当てられる、そこにはマイクを手に持つ、紫色の長い髪が特徴的な女性が1人。彼女の名前は『紫治夜宵』…………

 

界放市を代表とする超人気の若手アナウンサーだ。

 

 

「さぁそれでは早速、本日の主役、本選出場者の皆様にご登場していただきましょう!!……ゲートオープン、界放!!」

 

 

アナウンサーの夜宵が空いている手で指を鳴らすと、広大なバトル場の入り口から、激戦区だった予選を勝ち上がって来た8人のカードバトラー達が入場する。それと同時に、会場の巨大なモニターに出場者の年齢や顔写真などが映された。

 

その中には今年三連覇が掛かっている「獅堂レオン」や剣帝の異名を持つ「赤羽カレン」はもちろんの事、「一木ヒバナ」「鈴木イチマル」………

 

そして「鉄華オーカミ」の姿もあって…………

 

 

「ッ……なんでアイツがいるのよ!?……しかも私より1つ歳上!?」

「おぉ、オーカの奴しっかりと残ってんじゃねぇか!…やはりオレの目に狂いはなかったな」

 

 

ライとヨッカはほぼ同時に、それぞれ別々の意味で声を荒げる。この言葉でヨッカがムカつくアイツと知り合いだとわかったライは、凄まじい速度で首を彼の方へと向ける…………

 

Mr.ケンドーに扮していた際に、オーカとライの関係性を知ってしまっていたヨッカはその姿を見て「あ、ヤバ」と言葉を落とし、汗を流す…………

 

 

「……なんでヨッカさんがアイツの事知ってんのよ、どういう関係?」

「あぁ………うん。アイツはオレの弟分で、オレが営んでいるカードショップ「アポローン」のバイトなんだ」

「アイツが、ヨッカさんの弟分!?」

 

 

致し方なしか、ここは正直に言う。よくよく考えてみたら、別に隠す事でもなかった。

 

 

「あぁ、ひょっとして、この間ライちゃんが気になるって言ってた人って…………」

「だからそんなんじゃないわよ!!」

 

 

ライのブレイドラパンの一件を全て聞いていたフウ。オーカこそがその人物である事を見抜く。次いでにライの本心さえも…………

 

そして一方舞台では…………

 

 

「お、やっぱ生き残ったか鉄華オーカミ!!…この本戦でオマエをぶっ倒してやるぜ!!……そしてヒバナちゃんと結ばれる!!」

「結ばれないわよ。て言うか静かにしてよ、恥ずかしいから」

「まぁ取り敢えず、みんな通過できてよかった」

 

 

舞台では二列四組でならんでいる本戦の通過者達、オーカ、ヒバナ、イチマルは、身内という事もあって、他の通過者よりも会話をしているのが目立っていた。

 

 

「コラコラ君達、一応正式な舞台なのだから、静かにしてなさい」

「あ、すみません剣帝さん」

 

 

そんな彼らを見兼ねて、剣帝こと赤羽カレンが注意を促す。それに一番反応を示したのはヒバナ。

 

 

「カレンでいいよ。元々「剣帝」はどこの誰が付けたかもわからないあだ名だからね。別に気に入ってもないし」

「あ、じゃあ私の事もヒバナって呼んでください!」

「あぁ、了解した」

 

 

1つ歳上という事もあり、余裕のある笑みを浮かべるカレン。ヒバナとのやり取りを見て、オーカも改めて彼女は相当強いのだろうなと確信する。

 

そんな折、またアナウンサー夜宵がマイクを片手に声を上げて………

 

 

「この総勢8名のカードバトラーの中から、今年度ジュニア最強が決定致します!!……彼らの熱きバトルスピリッツをどうぞご堪能ください!!……そして本日、私、紫治ヤヨイと共に実況をしてくれるビッグゲストをご紹介致します!!」

 

 

ー!!

 

 

アナウンサー夜宵がそう告げると、舞台中央から白い煙が音を立てながら噴き上がる。やがてその煙が流されていくと、皆の目線はそこにいた人物に釘付けとなる…………

 

その人物は…………

 

 

「若干16歳にしてプロとなり、さらにはあのMr.ケンドーをも下してモビル王にもまだ登り詰めた究極の才女………」

 

 

早美アオイさんです!!

 

 

そう。そこにいたのは早美アオイ。元々注目を浴びていた彼女だが、16歳でモビル王に輝いた事で、より一層人気が高まる事となった。そのため、今回こうして実況席に座ると言う大役を務める事になったのだろう。

 

青くすらりと伸びた髪が、彼女の美しさをより際立たせる。沸き上がる歓声に、素敵な笑顔を振り撒きながらも、その視線を偶に鉄華オーカミと獅堂レオンへと向けていた……

 

 

「早美アオイ………」

 

 

そんな彼女に対して難しい顔を見せたのは、観客席にいる九日ヨッカ。

 

彼女が何かを企んでいるのは、あの時のバトルで確信したため、何かを仕掛けてくるのではないかと言う警戒心からである。

 

 

「うわ〜〜……やっぱ綺麗な人だよねアオイさん」

「そう?……オレっちはヒバナちゃんの方が綺麗で可愛いと思います!」

「イチマルに言われても嬉しくないんだよね」

「オレはどっちも可愛いし綺麗だと思う」

「え?……ちょっとオーカもう一回同じ事言って見て?」

「ん?…だからどっちも……」

「だから私語は慎みなさい」

 

 

良くも悪くもアオイに会場中の視線が集まる中、無駄話をしてしまうオーカ、ヒバナ、イチマルの3人に、それを真面目なカレンが止めると言う流れがまた起きる。

 

 

「さぁさぁ只今絶賛話題沸騰中の早美アオイさん!!……今大会について、何かコメントをお願いします!!」

 

 

夜宵がアオイのいる舞台まで駆け出し、マイクの先を彼女に向ける。アオイはそのマイクを手に取り、変わらぬ笑顔のまま、口を開いた………

 

 

「皆さまごきげんよう、早美アオイです。今年も何事もなく、伝統ある界放リーグが開催できた事を、心から嬉しく思います。私は、界放市の学生ではなかったので、界放リーグはテレビでしか観る事が出来なかったのですが、今年は間近で堪能できると言う事で、本当に楽しみにしておりました。是非本選出場者の皆様、是非優勝を目指して頑張ってください!!」

「はい、モビル王の早美アオイさんでした!!」

 

 

妥当と言う言葉が似合うコメントでその場を繋ぐアオイ。会場はそれでも拍手喝采だ。

 

 

「それでは、選手達が待ちに待ったであろうトーナメントの発表を致します!!……一気に行きますよ、ドン!!」

 

 

夜宵がそう言うと、巨大モニターにトーナメント表が映し出される。最初に注目されるのは当然第一試合、そこには赤羽カレンの名前が記載されていて…………

 

 

「お、第一試合は私か」

「頑張ってくださいカレンさん!」

「あぁ、って言うか君は見かけに寄らず人懐っこいな。別にいいけど」

 

 

グイグイ距離を縮めて来るヒバナに少したじろぐカレン。

 

そして、この1回戦。気になる対戦カードがもう一枚あって…………

 

 

「……1回戦二試合目は、オレとイチマルか」

「ふふ、やはりオマエとオレっちは戦う運命らしい」

 

 

カレンのバトルが終わってすぐに始まるであろう二試合目は、なんと早くもオーカとイチマルの対決。オーカをライバル視するイチマルにとっては、凄く嬉しい対戦カードであったに違いない。

 

 

「……私は、2回戦で獅堂レオンと」

 

 

ヒバナは三試合目、レオンは四試合目だ。勝ち上がれば必然的にレオンと対戦する事になるのを悟る。あの時のようにはいかない。そう胸に刻む………

 

しかしレオンはそんなヒバナは眼中にないようで…………

 

 

「鉄華、オレとオマエが当たるのは決勝戦。必ず勝ち上がって来い」

「………オマエこそ、余裕ぶっこいてると、後ろから刺されるぞ」

 

 

ヒバナもまた妥当レオンな事を知っているオーカ。ここで言う刺してくる相手とは間違いなくヒバナの事だろう。

 

 

「バチバチやり合うのは良いが、先ずは私の試合だ。部外者は退いてもらおうか」

 

 

赤羽カレンがレオンの肩に手を置きながらそう皆に告げた。彼女のやる気に満ち満ちた表情を見て、レオンは鼻で笑うと、大人しく会場の舞台から去っていった。

 

 

「私達も控室に行こうか」

「うん」

「え、ちょっとヒバナちゃんそれってオレっちと控室デートしたいとかそんな感じ!?」

「何よ控室デートって」

 

 

オーカ、ヒバナ、イチマルの3人や他の参加者もカレンとその対戦相手を置いて舞台から立ち去って行く。

 

皆の姿がなくなったのを確認すると、カレンは共に残った、己の1回戦の対戦相手を改めて視認する。

 

 

「………で、君が私の初戦の相手と言う事だな。確か名は『白金フブキ』……だったか」

「おぉ、光栄ですね。まさかあの『剣帝』に名前を覚えて貰えてるだなんて。僕も今まで頑張って来た甲斐がありました」

「ここ最近の強者の名くらいなら一応熟知している」

 

 

赤羽カレンの初戦の相手は、その名の通り白髪で、抽象的な顔立ちの少年『白金フブキ』………黒い帽子がトレードマークだ。その顔つきや声色から、礼儀正しく、物静かで大人しい性格であるのが伺える。

 

2年生であり、ここ最近頭角を表して来た、生粋の実力者だ。

 

 

「さぁ、1回戦第一試合、赤羽カレンさんと白金フブキ君の対戦です!!……両者、激しく熱かりしバトルスピリッツを開始してください!!」

 

 

実況席でアナウンサー夜宵がバトルの開始を促す。その横では早美アオイが解説席でお茶を嗜んでいる。

 

 

「あら、お話しする時間もあんまり無さそうですね………」

「まぁ夜宵お姉義さんがそう言うなら仕方ない。観客達を待たせるのも失礼だしな………じゃあ早速始めようか、白金フブキ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、赤羽カレンさん………無課金でクリアして見せますよ」

 

 

互いに己のBパッドを左腕に装着し、デッキをセットする。そして、観客達の期待感が高まっていく中、それは遂に開始される…………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

いつものコールと共に、赤羽カレンと白金フブキによる、界放リーグ本戦最初のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は白金フブキだ。トレードマークの黒い帽子を被り直すと、それを開始して行く。

 

 

[ターン01]白金フブキ

 

 

「僕のメインステップ、白のネクサス、凍れる火山を配置」

「ッ……凍れる火山か」

 

 

ー【凍れる火山】LV1

 

 

早速フブキが背後へと配置したのは凍てつく山岳、凍れる火山。白属性の汎用的なカードの1つであり、その効果は余りにも有名。

 

 

「知ってると思いますけど、凍れる火山は相手ターンで相手が手札を増加させた時、その数1枚につき1枚手札を捨てさせます。僕はこれでターンエンドです」

手札:4

場:【凍れる火山】LV1

バースト:【無】

 

 

要は手札が増えないと言う事だ。これを加味したカレンのターンが始まる。

 

 

[ターン02]カレン

 

 

「メインステップ。中々厄介なカードを使って来てくれるな………ならばこちらもネクサスを投入しよう、赤のネクサス、聖剣連山!!」

 

 

ー【聖剣連山】LV1

 

 

数多の聖剣が突き刺さっている山々がカレンの背後に出現。

 

 

「聖剣連山………貴女がそんなカードを使ったと言う記録はない。デッキを改めたんですか?」

「まぁな。私は妥当獅堂レオンのデスティニーガンダム。これは奴を攻略するためのカードでもある………ターンエンドだ」

手札:4

場:【聖剣連山】LV1

バースト:【無】

 

 

カレンはそのままターンを終える。互いに最初のターンはネクサス1枚配置のみと言う静かな滑り出しとなった。

 

 

[ターン03]フブキ

 

 

「メインステップ……ここでライダースピリット、エグゼイド・アクションゲーマーレベル2をLV1で召喚!」

「!」

 

 

ー【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1(1)BP2000

 

 

フブキの前方に出現した緑色の土管の中より飛び出して来たのは、ピンクの身体と愛らしい目つきをした、なんとも愉快な姿のライダースピリット、その名は仮面ライダーエグゼイド。

 

フブキの相棒となるライダースピリットだ。

 

 

「………これがエグゼイドか。やはり少し見た目が独特だな」

「見た目に油断していると痛い目見ますよ。召喚時効果でコア1つをトラッシュに………さらにもう2体アクションゲーマーを召喚!」

「ッ……同じスピリットを3体」

 

 

ー【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1(1)BP2000

 

ー【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でコア2つをトラッシュに!」

 

 

土管から飛び出て来ると言う、先程と全く同じやり方で2、3体目のエグゼイドアクションゲーマーが召喚される。その効果でフブキのトラッシュに次々とコアが溜まっていく。

 

 

「さぁ、ゲームを楽しもうエグゼイド。アタックだ」

 

 

直後にアタックステップに入る。3体いるアクションゲーマーの内1体が小槌のような武器を手に地を駆け抜ける。

 

 

「ライフで受けよう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉カレン

 

 

カレンのライフバリアは小槌を打ちつけられ、1つ砕け散った。先制点はフブキに譲ることとなる。

 

 

「ターンエンドです」

手札:2

場:【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1

【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1

【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1

【凍れる火山】LV1

バースト:【無】

 

 

2体のアクションゲーマーをブロッカーとして残し、フブキはそのターンを終える。

 

 

[ターン04]カレン

 

 

「メインステップ……仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン、仮面ライダーブレイズライオン戦記をそれぞれLV1で召喚」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】LV1(1)BP3000

 

ー【仮面ライダーブレイズライオン戦記[2]】LV1(1)BP2000

 

 

赤き龍を纏いし剣士、仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン。青き獣を纏いし剣士、仮面ライダーブレイズライオン戦記がカレンの場より出現。それぞれが持つ召喚時効果も余す事なく使用して行く………

 

 

「ブレイブドラゴンの召喚時効果。3枚見て対象のカードを手札に加える」

「ですが、僕の配置している凍れる火山により、加えた枚数と同じ数だけ手札を破棄してもらいます」

「知っている。続けてライオン戦記の召喚時効果、ブレイブドラゴンと殆ど同じだな、3枚見て対象のカードを手札に加える」

「では僕もまた凍れる火山!!」

 

 

欲しいカードは手札に加えられるも、その数だけ手札の破棄を要求される。あれだけサーチ効果を使用したと言うのに、カレンの手札は僅か3枚止まりだ。

 

だが見え見えの手であるためか、特に臆する事なく、淡々とした様子でターンを続けていき…………

 

 

「バーストをセット、聖剣連山のLVを2に上げてアタックステップ。行って来いブレイブドラゴン、ライオン戦記!!」

「2つともライフでもらいます!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉フブキ

 

 

赤い剣士と青い剣士。2人の卓越されたコンビネーションがフブキのライフを容易く斬り裂いて行く。

 

 

「まぁ、初撃はこんなものか、ターンエンド」

手札:2

場:【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】LV1

【仮面ライダーブレイズライオン戦記[2]】LV1

【聖剣連山】LV2

バースト:【有】

 

 

2体のスピリットでアタックを行ったカレン、できる事を全てやり終え、そのターンをエンドとする。

 

 

「さぁ盛り上がって来ました界放リーグ1回戦第一試合!!……ここまでの展開、アオイさんはどう思いますか?」

 

 

実況席にいるアナウンサー、紫治ヤヨイが解説席にいる高校生プロバトラー早美アオイに聞いた。彼女は笑顔で対応する。

 

 

「そうですね。互いにフィールドが暖まって来た所ですので、おそらく次の白金さんのターンから激化していくと思われます。特に赤羽カレンさんは『芽座椎名』に並ぶ界放市の英雄『赤羽司』の実の妹だとお聞きしてます。期待が高まりますね」

 

 

間もなくフブキのターンだ。アオイの言う通り、このターンから2人のバトルは激しく激化して行く…………

 

 

[ターン05]フブキ

 

 

「メインステップ……ここからが僕の本気、クリアして見せますよこのバトル」

「ほぉ、それは楽しみだ」

「アクションゲーマー1体のLVを最大に!」

 

 

ー【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】(1➡︎5)LV1➡︎3

 

 

「そしてアタックだ!」

 

 

再び攻撃を仕掛けるフブキ。

 

口振りからしておそらくこのターンで大きく試合を動かそうとしているに違いない。カレンがそう考えた直後に彼は手札から1枚のカードを引き抜いて……………

 

 

「フラッシュチェンジ!!……仮面ライダーエグゼイドマキシマムゲーマーレベル99!!」

「!」

「効果により、相手スピリット1体を手札に。この時、場にエグゼイドスピリットがいれば、手札ではなく代わりに相手スピリット1体をデッキの下に戻します。ライオン戦記をデッキ下に!」

 

 

フブキの手札から放たれた1枚のカード。その効力によって、カレンのブレイズライオン戦記が粒子化してこの場より消滅した。

 

そしてチェンジの本領はこの後に行われる入れ替えだ。

 

 

「この効果発揮後、アタック中のアクションゲーマーとこのマキシマムゲーマーを入れ替える!!」

 

 

ー【仮面ライダーエグゼイドマキシマムゲーマーレベル99】LV3(5)BP15000

 

 

場にエグゼイドの目が胸部に全身に映し出された巨大な強化アーマーが出現。アクションゲーマーはその中へと格納され、レベル99の姿、マキシマムゲーマーへと強化を遂げる。

 

 

「レベル99。他のライダースピリットとは逸脱した姿、それが君のエースか?」

「いいや、僕のエグゼイドはここからさらに限界を越える事ができる。煌臨発揮、対象はマキシマムゲーマー!!」

「!」

 

 

マキシマムゲーマーが金色に光輝き、その強化アーマーからアクションゲーマーが射出される。アクションゲーマーはその金色の輝きの中、更なる進化を遂げていく…………

 

 

「輝け、流星の如く!!……黄金の最強ゲーマー!!……ハイパー大変身、仮面ライダーエグゼイドムテキゲーマーッ!」

 

 

ー【仮面ライダーエグゼイドムテキゲーマー[2]】LV3(5)BP18000

 

 

着地し、その姿を見せたのはアクションゲーマーではなく無敵のエグゼイド。その名も「エグゼイドムテキゲーマー」…………

 

金色に輝く長い髪がこれまでのエグゼイドよりもさらに濃ゆい印象を与える。

 

 

「これがエースか!」

「そう、僕はこのスピリットでこのバトルをクリアして見せる!!……ムテキゲーマーは相手の効果を一切受けない、さらに煌臨アタック時効果、相手のバースト1つを破棄!」

「!」

 

 

登場するなり天空高く飛び上がるムテキゲーマー。そこから最高打点で跳び蹴りを放ち、カレンの場に伏せられていたバーストカード「仮面ライダーセイバードラゴニックナイト」を消し去って見せる。

 

 

「さらに煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットから全ての状態を引き継ぐ、チェンジ後のマキシマムゲーマーから煌臨した今のムテキゲーマーは回復状態でのアタック、しかもダブルシンボル!!」

「そうか、ならばライフだ!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉カレン

 

 

堂々とライフで受ける宣言、エグゼイドデッキ最強のスピリット、ムテキゲーマーの拳による一撃をカレンは己のライフバリアで受け止める。

 

そしてそれらがガラス細工のように砕け散って行く中、手札にあるカウンターカードを切る。

 

 

「ライフが減った事により、手札から絶甲氷盾の効果発揮」

「!」

「このバトルで君のアタックステップを強制的に終了だ」

 

 

彼女が使用したのはデッキ採用率もかなり高い防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』…………

 

これにより、アタックステップは強制的に終了。

 

いくら無敵のムテキゲーマーといえどもそれは止められない。フブキがこのターン中にゲームをクリアする事は不可能となる。

 

 

「……ターンエンド。まさかたった2枚の手札の内1枚が防御札だったとは、流石剣帝、引きの強さも一級品ですか………ですが、いくら貴女といえどもこの状況をたったの1ターンでひっくり返すのは不可能なはず」

手札:2

場:【仮面ライダーエグゼイドムテキゲーマー[2]】LV3

【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1

【仮面ライダーエグゼイドアクションゲーマーレベル2[2]】LV1

【凍れる火山】LV1

バースト:【無】

 

 

「……不可能……か」

 

 

倒せはしなかったものの、冷静さは失っていない。白金フブキは帽子を被り直し、バトルに対する意識をより研ぎ澄ませながらそのターンをエンドとする。

 

迎えるは獅堂レオンに次いで現界放市ジュニアNo.2の少女、剣帝こと赤羽カレン。

 

 

[ターン06]カレン

 

 

「メインステップ………君は『アスラ物語』と言う小説を読んだ事があるか?」

 

 

メインステップ開始直後、唐突にカレンがフブキに聞いた。

 

 

「読んだ事はありませんが、有名ですよね。確かソウルコアを生まれながらに使う事ができない少年「アスラ」がライバルや強敵、仲間達と共に切磋琢磨して最強カードバトラーの証「頂点王」を目指す話でしたっけ」

「あぁ、概ねそんな感じだな」

 

 

『アスラ物語』…………

 

だいぶ昔にかなり話題になった小説であり、映像化もされた程。

 

 

「主人公のアスラは兎に角諦めないんだ。例えソウルコアがなくとも、どんな状況下に立たされても、もがいてもがいて、最後は築き上げて来た仲間の絆の力で勝利を掴む………笑われるかもしれないが、私はそんなカードバトラーになりたいと昔から思っている」

「………」

「詰まる話、私はどんな状況下に置かれても諦めないと言う事だ。鉄華オーカミとの再戦に勝利し、その先に来るであろう獅堂レオンとの戦いにも勝つまで、不可能を可能にし続けて見せる」

「……不可能を、可能に………」

 

 

小説内の架空の人物である「アスラ」と言う少年に憧れを抱いているカレン。言葉通り不可能を可能にして行くため、己のメインステップを再開して行く…………

 

 

「私はソードブレイヴカード火炎剣烈火を召喚し、場のブレイブドラゴンに直接合体!…そのままLVも2へとアップだ」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]+火炎剣烈火】LV2(5)BP9000

 

 

セイバーブレイブドラゴンは己のベルトに差し込まれている赤き剣を引き抜く。その剣の名は火炎剣烈火。赤々と燃え滾る赤のソードブレイヴ。

 

 

「召喚時効果、ネクサス1つを破壊。厄介が過ぎる凍れる火山にはさよならしてもらおうか」

「!」

 

 

火炎剣を振い、セイバーブレイブドラゴンが赤い斬撃を飛ばす。凍れる火山はそれを受けて真っ二つ。堪らずその場から粒子化して消滅する。

 

 

「これで心置きなくドローができる。アタックステップ、ここで聖剣連山の効果を発揮、ソードブレイヴと合体中のスピリットのBPをプラス3000」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]+火炎剣烈火】BP9000➡︎12000

 

 

カレンの背後に聳え立つ聖剣連山。突き刺さった剣達が赤々と輝くと、ブレイブドラゴンの持つ火炎剣もまた同じように輝きを放つ。

 

 

「ブレイブドラゴンでアタック!!……火炎剣の合体アタック時効果により、アクションゲーマー1体を破壊し、1枚ドロー!」

 

 

アタックステップに突入。セイバーブレイブドラゴンは再び火炎剣を振い、今度はアクションゲーマーを斬り裂く。

 

 

「くっ……だけどこの程度のスピリット、僕のムテキゲーマーの敵じゃない」

「フッ………この私が無策で突撃して来ると思ったか?」

「!?」

「見せてやろう。これが最強のセイバーだ!!……煌臨発揮、対象はアタック中のブレイブドラゴン……!」

 

 

カレンも煌臨の発揮宣言。セイバーブレイブドラゴンは青く光り、まるで宇宙創造、ビッグバンのような衝撃波をその身から解き放つ。それまさしく進化の兆しであり…………

 

 

「銀河を交えしその衣、聖剣と共に世界を救う……仮面ライダークロスセイバー……可憐に煌臨!!」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー+火炎剣烈火】LV3(5)BP23000

 

 

銀河を交えしその鎧を身に纏うのは仮面ライダーセイバーが進化した姿、仮面ライダークロスセイバー。その身体には、ソードブレイヴと言う概念の叡智そのものが詰まっている…………

 

 

「く、クロス!?……なんだこれは、見た事がない」

「それはそうだ。何せこのカードは今年こそ獅堂レオンのデスティニーガンダムを打ち破るために投入した秘策なのだから……煌臨時効果、手札又はトラッシュからコスト5以下のソードブレイヴカードを10枚までノーコストで召喚できる」

「10枚!?」

 

 

赤羽カレンの秘密兵器クロスセイバー。ソードブレイヴを多量に呼び寄せるその効果は豪快極まりない。

 

 

「フッ……慌てるな、そんなに召喚はしない。今回は1枚だ。トラッシュから刃王剣十聖刃をノーコストで召喚、クロスセイバーと直接合体する」

「馬鹿な!?…クロスセイバーは既にブレイブドラゴンから引き継いだ火炎剣と合体しているはず………」

「クロスセイバーは通常では不可能な、ブレイヴ2つと合体できるダブルブレイヴ効果を可能にする力を持っている……!」

「なッ!?!」

「握ろ、刃王の剣……これがダブルソードブレイヴスピリット!」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー+火炎剣烈火+刃王剣十聖刃】LV3(5)BP31000

 

 

片手を天に翳すクロスセイバー。その先に現れたのはこれまた銀河を交えし剣、その名も刃王剣十聖刃。クロスセイバーは火炎剣と共にそれを強く握り締め、通常のスピリットには不可能とされる、強力無比なダブルブレイヴスピリットとなった。

 

 

「不可能が、可能に……」

「刃王剣の効果、召喚時、BP7000以下の相手スピリット1体を破壊、効果で召喚されていればカードを2枚引く」

「!!」

「2体目のアクションゲーマーを破壊する」

 

 

刃王剣を軽く振い、青い斬撃を放つクロスセイバー。軽く振るったにもかかわらずその威力は凄まじく、アクションゲーマーはそれに直撃して一撃でノックダウン、堪らず爆散する。

 

これにより、フブキの場のスピリットは自身の最強スピリット、ムテキゲーマーを残すところとなった。

 

 

「火炎剣はコスト6以上のスピリットとの合体中、赤のシンボルを1つ追加する。さらにフラッシュ、クロスセイバーの更なる効果、ターンに一度だけ回復する」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー+火炎剣烈火+刃王剣十聖刃】(疲労➡︎回復)

 

 

「トリプルシンボルの2回攻撃………だけどそれくらいじゃ僕のムテキゲーマーは止められない、ブロックだ!」

「ッ……やけに余裕だな」

 

 

クロスセイバーはダブル合体につき現在のシンボル数はトリプル。一度に3つのライフを破壊できるため、残りライフが同じく3のフブキは嫌でもそれをムテキゲーマーでブロックしなければならない。

 

ムテキゲーマーのBPは18000。カレンのクロスセイバーのそれを大きく下回ってしまっている。だがそれでもムテキゲーマーにはフブキが信用するに足り得る力を隠し持っていて…………

 

 

「ムテキゲーマーの更なる効果、このスピリットがブロックされたかした時、そのバトルしている相手スピリット1体を強制的にデッキの一番下に戻す」

「!」

「そのクロスセイバーが如何に強力だろうと関係ない、僕のムテキゲーマーの方が1枚上手だ!!」

 

 

ムテキゲーマーに二本の聖剣で斬りかかるクロスセイバー。しかしムテキゲーマーは目にも止まらない速さでそれを回避し、その後も翻弄して行く。

 

そしてクロスセイバーの一瞬の隙を突き、黄金の光纏った拳の一撃を入れようと急接近…………

 

しかし………

 

 

「甘いな。バトスピは強力無比なスピリットだけで戦うモノじゃないぞ………この瞬間、聖剣連山LV2の効果を発揮!」

「!?」

「コスト13以上の合体スピリットが相手スピリット、マジックの効果の対象となる時、自分の手札1枚を破棄する事でその効果を受けなくする」

「な、なに!?」

「クロスセイバー!!」

 

 

ムテキゲーマーの動きを読んでいたクロスセイバー。二本の聖剣を振い、殴りかかって来たそれに強烈なカウンター攻撃をお見舞いする。

 

そしてその威力に大きなダメージを受け、怯むムテキゲーマーにトドメの一閃。ムテキゲーマーはその場で大爆発を起こし、クロスセイバーの勝利に終わる。

 

 

「……そんな、僕のムテキゲーマーが」

「………中々見ものだったぞ。トドメのアタックだ、クロスセイバー!!……火炎剣の効果で1枚ドローし、刃王剣の効果でその効果をもう一度発揮」

「!」

 

 

息つく間もなくクロスセイバーで再度攻撃を仕掛けるカレン。2つのソードブレイヴの効果を巧みに使いこなし、あれだけ消費させられた手札を回復させて行く。

 

このトリプルシンボルの攻撃、ムテキゲーマーを失ってしまった今、フブキはこれを受け切る手段はなくて…………

 

 

「………ゲームオーバーですか……ライフで受けます」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉フブキ

 

 

火炎剣と刃王剣を振り下ろしたクロスセイバーの一撃が、フブキのライフバリアにクリーンヒット、残っていたそれを全て粉々に粉砕する。

 

これにより、勝者は赤羽カレンだ。会場のモニターに彼女の顔写真とwinnerのロゴが映ると、会場は爆音のような歓声を上げ、それを讃えた。

 

 

「うわ〜〜…私剣帝さんのバトル初めて生で観ちゃった、やっぱりカッコいいな〜」

「あのお姉さんはまぁまぁって感じかな。私の方が遥かに強いし」

「流石ライちゃん!」

 

 

観客席にいるフウとライがそう会話する中、ライは今大会のトーナメント表を確認し、次の試合があの時の赤い髪の少年、オーカである事を認識すると、席を立ち上がる。

 

 

「どうしたライ、トイレか?」

 

 

ヨッカがライに聞いた。

 

 

「な訳ないでしょ。次はあのバカの試合だからちょっと揶揄って来るだけよ」

「………やっぱり気になるんだ」

「気になってない!」

 

 

フウにそう言われて顔を赤くするが、言葉では全否定。正直側から見たらただの『ツンデレ』…………感情を全く隠しきれていない。

 

 

「取り敢えず私ちょっと席出るから、空けててよね」

「は〜い」

「あんまり目立つ行動は控えろよライ、後でお師匠に大目玉食らうのはオレなんだから」

「わかってるわよ」

 

 

春神ライが観客席を立つ。行き先は、ちょっと気になる男の子…………

 

 

「……太刀筋は悪くなかったぞ。特に最初の凍れる火山は厄介だった」

 

 

歓声が集まってくる中、舞台に立つカレンがフブキに告げた。今の自分ではどう足掻いても彼女に勝つ事はできない事を理解したフブキは悔しさを押し殺しながら笑顔を作り………

 

 

「………いつか、貴女のバトルも攻略して見せますよ」

「1回戦の一試合目に相応しい熱いバトルでした!!……ご来場の皆様、2人に盛大な拍手を!!」

 

 

フブキが言い返すと、アナウンサーの紫治夜宵がマイクを片手に拍手を促す。2人が舞台から降り、いなくなるまでその拍手喝采は続いた…………

 

そして…………

 

 

「さぁ、続きまして第二試合は、鉄華オーカミ君と鈴木イチマル君です!!」

 

 

夜宵がそうコールすると、会場の巨大なモニターにオーカとイチマルの顔写真が映し出される。

 

 

「………やっとこの時が来た。待っていろ鉄華オーカミ、あの時のようにはいかないぜ………この界放リーグ、絶対優勝して、絶対兄ィに認められるんだ」

 

 

控室にて、己の兄『鈴木レイジ』の顔を浮かべながらそう呟くイチマル。オーカの数少ない友人である彼は、密かにオーカへのリベンジに燃えていて…………

 

 

 




次回、第18ターン「リベンジマッチ、バルバトスVSゼロワン」


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第18ターン「リベンジマッチ、バルバトスVSゼロワン」

クロスセイバーと言う、通常では不可能とされる『ダブルブレイヴ』を可能とする強力なスピリットで人々を魅了した赤羽カレンの1回戦第一試合。

 

次は二試合目、鉄華オーカミと鈴木イチマルの友人同士の対決だ。

 

会場の観客達が今か今かと待ち侘びている中、オーカはその歓声がうっすらと聞こえて来る舞台までの通路を緊張している感じもなく、ゆっくりと歩んでいた。

 

 

「ちょっと待ちなさい!!」

「!」

 

 

背後から声をかけられ、そちらを振り向く。そこには以前バトルした事がある少女『春神ライ』がいて…………

 

 

「あぁ、新世代系女子か」

「なにそのあだ名!?……私は春神ライ!!…新世代系女子じゃない!!」

「そっか」

「ちょいちょい、何でそんなどうでもよさそうなわけ!?」

 

 

妙なあだ名で呼ぶオーカに対し、ライは反射的に自分の名前を名乗る。

 

 

「で、何の用?」

「無視すんなし!!…………何の用って………そうね」

「………まさか何も考えずに、ただオレに会いに来ただけ?」

「そ、それはだけはない!!」

 

 

少し顔を赤くしながら、オーカの言葉を全力で否定する。

 

 

「あ、そうだ。そう言えばアンタ、ヨッカさんの弟分なんですってね」

「アニキの事知ってるの?」

「もちろんよ。だって私あの人の家に居候してるし」

「ふーーん」

 

 

ライとヨッカの関係性をここで初めて知る事となったオーカだが、対して気にも停めず、寧ろどうでも良さそうな反応を見せる。

 

 

「じゃあオレ、試合あるから」

「ちょいちょいちょい、待ちなさいって!!……この界放リーグが終わったら、私との決着を着ける事を、この場で約束しなさい!」

「何急に思い出したように………」

 

 

やっぱりオーカとの決着を着けたいライ。何度もバトルを申し込まられるオーカは流石にめんどくさそうな表情を見せる。

 

 

「まぁ別にいいけど。て言うかバトルの決着なら、この間オレの負けで終わっただろ?」

「アクシデントで落ちた手札のカードがあったら、まだわからなかったじゃない!!……私の勝利の未来を覆せるヤツはいないって事を証明したいのよ!」

「勝利の未来ってなんだよ………」

 

 

ライの発する意味不明な単語。オーカは全くもって理解ができないが、どうやらそれが彼女にとっては凄く大事な事らしい…………

 

 

「言っておくけど私、その気になればヨッカさんより強いし、あの時のバトルだって、本気のデッキじゃなかったんだから!!」

「はいはい、わかったから早く試合に行かせてくれ、イチマルが待ってる」

 

 

こんな所で何分も道草を食っていられない。ライから逃げ出すように舞台への一本道を進もうとしたその直後…………

 

また別の人物からの声が耳に入る。今度は若く、太い男性の声だ。

 

 

「よぉ……」

「!」

「オマエがヨッカの可愛がってるっつー弟分か?」

 

 

体格の良い体つき、トサカのような頭が特徴的なガラの悪そうな男性。その人物は実は今をときめく有名な人物なのだが…………

 

 

「そうだけど……誰?」

「……は?」

 

 

男性は怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「知ってる?」

「知らないわよ。ヨッカさんの知り合いじゃない?」

 

 

世間の話には極端に疎いオーカとライはその人物について何も知らなかった。絶対に自分の存在に驚かれると思っていた男性は今にもキレそうな程、額から青筋を浮かばせる。

 

 

「………このオレを認知してない奴がまだこの世にいるとはな………いいぜ教えてやる。オレの名はレイジ。ライダースピリット使いのトップ『ライダー王』だ」

「ふーーん」

「あ〜…なんかフウちゃんから聞いた事あるかも」

 

 

彼の名はレイジ。自らをライダー王だと真っ先に名乗る点や、態度などから、かなりの野心家であるのが窺える。最も、オーカとライにとっては何も関係のない事だが…………

 

 

「テメェの兄貴分、Mr.ケンドーこと九日ヨッカとは兄弟弟子の関係なんだよ。オレが弟弟子で、奴が兄弟子だ。オレの方が強いがな」

「そっか」

「Mr.ケンドーって……確かモビル王、とか言う人だったっけ??……ヨッカさんだったんだ〜…納得、どっかで見た事あると思ってたのよね〜」

 

 

ライはレイジの言葉から、Mr.ケンドーの正体がヨッカである事をはじめて知る。そんな彼女に、レイジは笑いながら「『元』だがな」と強く訂正を入れた。

 

 

「……で、結局アンタはオレに何の用があって来たんだ?」

 

 

オーカがレイジに聞いた。彼は口角を上げ、答える。

 

 

「いや何、ヨッカは昔から超ムカつく奴だから、その弟分がどんな奴かどうか見に来ただけだ。まぁ結果は案の定、オマエは3つの要素でオレを腹立たせた…………」

 

 

 

1つ『オレ様の存在を知らなかった』

 

2つ『目上のオレ様に敬語を使わなかった』

 

3つ『可愛い彼女持ち』

 

 

「………え?」

 

 

1本ずつ指を折りながら、3つの腹立った理由を述べていくレイジ。その3つ目の理由にライが顔を真っ赤にする。

 

 

「ちょ、ちょいちょいちょい、待ちなさいよ!!……私はコイツの彼女なんかじゃ……」

「いいかクソチビ、よく聞け」

「私の話を聞きなさいよ!!」

 

 

ライを無視して、レイジがオーカに顔を向ける。大抵のカードバトラーなら卒倒してしまうような、三王らしい王者たるオーラもまた一緒に向けられるが、オーカは普通に平常心を保っている。

 

 

「テメェはいつかオレが潰す。二度とバトスピできねぇようにな」

「……そっか。頑張れ」

「オマエが恐怖でバトスピができなくなった時、テメェの兄貴分がどんな顔をするか楽しみだぜ……!」

 

 

そう告げると、自己満足したレイジはこの場を去って行った。

 

残ったオーカとライは結局そんなことのためにこんな所に来たのかとでもお互い言いたげな表情で顔を見合わせた。

 

 

「………アンタも結構難儀よね」

「て言うか、早く試合に行かないと」

「…………アイツみたいに再起不能になるまで、とかじゃないけど、私もアンタをバトスピでぶっ倒したい!!……でも、私以外に負けるのは絶対許さないんだから」

「要は勝てって事だろ。応援ありがと」

「ッ!!……ち、違う!!……これは、その……何て言うか、言葉のあや的なヤツ?……でも何か違うような……激励……は絶対ありえないし………え、私今何考えてんだろ……

「………何て?」

うっさいわね!!…もういいからさっさと行きなさいよ!!

「急に声デカ……」

 

 

ライに止められ、ライダー王のレイジに何故か宣戦布告される事態に陥っていたオーカだったが、ここに来てようやくジークフリードスタジアムの大きなバトル場へと足を運ぶ事ができた…………

 

その先には、今回の対戦者であるイチマルが今か今かとオーカを待ち侘びていて…………

 

 

「よぉ、随分遅かったじゃねぇか鉄華オーカミ」

 

 

大歓声の中、イチマルがオーカにそう告げる。腕を組んでいて、如何にも自信満々と言った感じだ。

 

 

「ごめん、新世代系女子とライダー王とか言う奴に絡まれてた」

「!!」

 

 

新世代系女子は誰かわからないが、ライダー王の肩書きを持つ者は直ぐに誰かわかった。おそらくイチマルはその人物の事を他の誰よりも知っている…………

 

 

「……あぁ、悪い……それオレっちの兄ィだ」

「イチマルの兄ちゃん?」

 

 

頷くイチマル。普通ならば誰もが驚愕する事実であるが、オーカは特に驚いてもいない様子。

 

 

「何を言われたのかは知らないけど、悪気はなかったと思うんだ、許してやってくれ。あんなんでも、意外と良い所もあるんだぜ?」

「………」

 

 

ライダー王レイジの発言を思い返して見るオーカ。どう考えても悪気しかなさそうだと思ったが、流石に空気は読むか、敢えて何も言い返さなかった。

 

 

「あっ……これは他の人には内緒な!!……オレっちが兄ィの弟だって知られたら、兄ィに何て言われるか……」

 

 

そう言われ、オーカは頭の上に疑問符を浮かべる。

 

 

「?……何で、別にいいだろ兄弟なんだし。オレも姉ちゃんがいる事を隠した事ないよ」

「バカヤロー、それとこれとは話が違うんだよ。ほら、三王の1人、ライダー王だろ?…その弟がこの程度だって知られると、色々不味いんだよ。兎に角、黙っててくれよな」

「…………そっか」

 

 

兄弟関係はその家庭によって色々と変わって来るのだなと言った程度に考えておくオーカ。一旦この話は忘れる。

 

 

「さぁ、役者が揃いました1回戦第二試合!!……鉄華オーカミVS鈴木イチマル!!……早速始めちゃってください!!」

「!!」

 

 

解説席に座っている女性アナウンサー紫治夜宵がマイクを片手にそう告げる。そして、2人は盛り上がって来る歓声の中、遂に互いのBパッドとデッキを取り出し、それをセットした。

 

 

「まぁ固い話はやめにしようぜ」

「あぁ」

「鉄華オーカミ!!……この時を楽しみにしてたぜ!!……今回、オレっちはオマエに絶対リベンジを果たしてみせる!!」

 

 

この時を待っていたのだとでも言いたげな様子で、イチマルは人差し指でオーカを指差す。それに対し、オーカもまた軽く笑みを浮かべて…………

 

 

「あぁ、オレもこのバトルを楽しみにしてた。でも勝ちは譲らない………行くぞ、バトル開始だ!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

観客達の盛り上がりが最高潮に達した中、鉄華オーカミと鈴木イチマル、2人のバトルスピリッツが幕を開ける…………

 

先攻はイチマルだ。初のベスト4に向けてターンシークエンスを進める。

 

 

[ターン01]イチマル

 

 

「メインステップ……先ずはやっぱりコイツ、仮面ライダーゼロワンだ!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(1)BP3000

 

 

突如現れた緑のシンボルが破裂。その中より出現したのは卓越された緑の体に赤い複眼を持つライダースピリットの強者、仮面ライダーゼロワン。イチマルのデッキの主軸となるスピリットだ。

 

 

「早速来たか」

「召喚時効果の前に手札にあるコイツ、ネクサスのライズホッパー!…ノーコストで配置、さらにトラッシュに1つコアブースト!」

 

 

ー【ライズホッパー】LV1

 

 

一筋の光が天より降り注ぎ、バイク型マシーンであるライズホッパーがイチマルの横に出現。

 

 

「そしてここでゼロワンの召喚時。ボイドからコア1つを自身に追加し、オレっちの手札が3枚以下なら5枚オープンしてその中のカードを1枚手札に加える…………よし、ゼロワンフライングファルコンを手札に加えて、残りはデッキの下に戻すぜ。ターンエンド」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

「………」

「オマエの対策は万全だ。さぁ、どっからでも来やがれ!」

 

 

盤面のシンボルと手札を整えそのターンをエンドとするイチマル。次は鉄華オーカミの最初のターンが始まる。

 

 

[ターン02]オーカ

 

 

「メインステップ………バルバトス第1形態!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

地中より飛び出して来たのは、ガンダムの名を持つ白い装甲のモビルスピリット、バルバトス。その最初となる1形態。

 

ゼロワンと同じく召喚時効果を持つ。

 

 

「召喚時効果、3枚オープンして鉄華団カードを1枚手札に加える………オルガを手札に加えて、残りは破棄」

「ッ……早いな、もうソイツが手札に入っちまったか」

「バーストをセットして、ターンエンドだ」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【有】

 

 

鉄華団の強力な創界神ネクサスカードである『オルガ・イツカ』のカードを早々に手札へと加えたオーカ。

 

緊張感が走る中、バトルは最初の折り返しである第3ターン目へと向かう。

 

 

[ターン03]イチマル

 

 

「メインステップ……さっき加えたコイツ、フライングファルコンを召喚するぜ!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンフライングファルコン】LV2(4)BP6000

 

 

「召喚時効果、ボイドからトラッシュに1コアブーストし、他のライダースピリットにも1コア追加する」

 

 

ハヤブサの如く飛翔し、地に降り立つのは、朱色のゼロワン、フライングファルコン。イチマルはその効果でさらにコアブーストを加速させて行く。

 

しかしその召喚時はオーカのバーストを誘発させるもので………

 

 

「召喚時効果発揮後のバースト、もらった!」

「!」

「イサリビ!!…効果でフライングファルコンからコアを1つリザーブに置き、その効果発揮後に配置する」

 

 

ー【イサリビ】LV1

 

 

伏せられたバーストが勢い良く反転、オーカの背後に現れたのはモビルスピリットも収める事ができる程の大きな戦艦。

 

フライングファルコンは消滅こそしないものの、コアが取り除かれ、LVダウンしてしまう。

 

 

「イサリビの配置時効果、手札を1枚破棄する事で、1枚ドロー……オレは三日月を破棄する」

「!!」

 

 

イサリビの召喚時効果を活かし、オーカは鉄華団のエースブレイヴ『三日月・オーガス』のカードを手札より破棄。

 

イチマルはそのカードを『オルガ・イツカ』の効果でノーコスト召喚し、場のバルバトスにそれを合体させるのが彼の必勝パターンである事を知っている。それが早いターンで来た場合、対処する手段は限られすぎていると言う事も…………

 

だが…………

 

 

「仕方ねぇ、ちょっと早いが見せてやるぜ鉄華オーカミ。オマエへの対策カードをな!!」

「!!」

「緑ネクサス、緑に飲まれた寺院をLV2で配置!!……不足コストはゼロワンとフライングファルコンから確保。よってフライングファルコンは消滅する!」

 

 

ー【緑に飲まれた寺院】LV2(3)

 

 

「………綺麗だ」

 

 

フライングファルコンは維持コアの損失により消滅してしまうものの、入れ替わるようにイチマルの背後には植物で包まれた寺院が出現。おそらくこれが鉄華オーカミへの対策のカードだろう。

 

 

「綺麗なだけじゃない。コイツはエゲツないぜ!!……ターンエンドだ」

手札:3

場:【仮面ライダーゼロワン】LV1

【緑に飲まれた寺院】LV2

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

「………対策だろうが何だろうが、次のターン、オレがやる事は変わらない。行くぞイチマル」

 

 

お互いにアタックのない中、オーカの二度目のターンが巡って来る。鉄華団と言う速攻タイプのデッキの都合上、このタイミングでバトルが苛烈になる事は先ず間違いのない事で………

 

 

[ターン04]オーカ

 

 

「メインステップ……オルガを配置。配置時の神託で、デッキの上からカードを3枚トラッシュに送り、その中にある対象カード1枚につき、ボイドからコア1つを自身に追加。今回は3つ、フルカウントで3つのコアをオルガに置く」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV2(3)

 

 

フィールドには何も変化はないものの、オーカの場には鉄華団の団長オルガ・イツカのカードが配置される。

 

そしてオーカは溜まったシンボルとコアを使い、いつものあのスピリットを手札から呼ぶ。

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け……バルバトス第4形態!!……LV2で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

上空から白い装甲と黄色い二角なツノを持つ紫属性のモビルスピリット、バルバトス、その第4形態が姿を現した。手に持つメイスを振り回し、早速戦闘態勢に入る。

 

 

「4形態……いよいよか」

「鉄華団の召喚により、オルガにコアを1つ追加。これでコア4つ、トラッシュには三日月だ」

 

 

攻撃の準備は最大限に整った。オーカはアタックステップへと突入し、締めのオルガの効果を発揮させる。

 

 

「アタックステップ!!……その開始時にオルガの効果を発揮、自身のコアを4つ取り除く事で、トラッシュから鉄華団カードを召喚する。オレは三日月のカードを…………」

 

 

オルガの効果を適用し、オーカがBパッド上にあるトラッシュへと手を掛けた、その時だった。

 

イチマルが効果の発揮を宣言したのは…………

 

 

「そうはさせないぜ!!……緑に飲まれた寺院、LV2効果!!……永続的に、オマエのトラッシュのスピリット、ブレイヴカードはオマエのカード効果を受けず、その効果を使えない」

「ッ……!!」

「つまり、このネクサスがオレっちの場にある限り、オルガの効果で三日月をトラッシュから召喚する事はできないって事だ!!」

 

 

突如、オーカのトラッシュが緑色に光る。それはトラッシュにあるスピリットカードとブレイヴカードには一切触れる事はできないと言う警告。

 

緑に飲まれた寺院。トラッシュを操る鉄華団のデッキにとって、ここまで厄介なカードはないだろう。

 

 

「イチマルの奴、わかりやすく鉄華団を対策して来たな」

「………これって凄い事なんですか?」

 

 

観客席で1人呟く九日ヨッカに、その横に着席している春神ライの親友、夏恋フウが聞いた。因みに彼女はカードショップ「ゼウス」でアルバイトをしているが、バトスピの知識は全くない。

 

 

「まぁ、大体の紫デッキは死ぬわね」

「あ、ライちゃん。おかえり」

 

 

それに答えたのはヨッカではなく、戻って来たライだった。フウの横の座席に着席して、オーカとイチマルの試合を傍観する。

 

 

「……全く、負けたら承知しないんだから」

 

 

******

 

 

舞台は変わって界放市ジークフリード区にあるカードショップ「アポローン」………

 

アルバイトのオーカは界放リーグに出場。店長であるヨッカはその応援で非番なため、今日はもう1人のアルバイト、雷雷ミツバが店番を担当している。

 

とは言っても来客のほとんどは店の巨大モニターで放送されている界放リーグを観戦するためで、業務はそれほど忙しくはない。レジ前でのんびりと過ごしていた。

 

 

「……イチマルも結構やるじゃない」

 

 

長い金髪をぐるぐると指で回しながらそう呟く。余程暇なのがわかる。

 

だがその時、店の自動ドアが開いて…………

 

 

「いらっしゃい…………あ」

「久し振りだねミツバ。中学の卒業以来?」

「ヒメェェェ!!」

 

 

そこにら艶やかで長いブロンドヘアの女性。名前は『鉄華ヒメ』………

 

ミツバの中学までの同窓生であり、鉄華オーカミの4つ離れた実の姉である。

 

 

「……あ、鉄華ヒメだ!」

「マジだ、スゲェ美人!!」

「この間買った写真集にサインしてもらおうかな〜!!」

 

 

彼女の登場に、周囲の人達、特に男子は大盛り上がり。何を隠そうこの鉄華ヒメ。今をときめくモデルさんなのだ。

 

 

「おぉ、凄い人気っぷり。流石は現役モデル。モテるんだね〜」

「あっはは……そんな事……」

「ある!!……謙遜しないで、私が悲しくなるから!!」

 

 

18年間彼氏無しのミツバが涙ぐみながら己の拳を固める。彼氏がいないのはヒメも同じだが、ミツバは告白された事さえないのだ。

 

当然主な理由は破天荒過ぎる性格だからだろう。

 

 

「………て言うか、本当にカードショップでバイトやってたんだ。バトスピ強かったもんね」

「まぁね。言うても後半年で卒業だから辞めるけど…………ねぇ」

「ん?」

「オーカがここでバイトしてるの知ってる?」

「…………え?」

 

 

そう言われ、ヒメは困惑する。彼女の反応を見て「あ〜やっぱりか〜」とミツバ。

 

 

「あの子性格的に黙ってバイトやってそうだなって思ったんだよね。アンタもあんまり家に帰らないでしょ?」

「……どうりで最近「お小遣いは要らない」って言って来たわけだ」

「いや、少しは怪しめよ」

 

 

やや天然気味なヒメに、ミツバがビシッとツッコミ。大親友の2人ではよくある光景だ。

 

 

「……ウチの店長がオーカをどっかで見つけて、その才能に目をつけてさ。今ではすっかりあの子もバトスピの虜だよ。ほら、今日は大きな大会で絶賛大暴れ中さ」

「………大会って、界放リーグの事だったの」

 

 

ふとモニターに目をやると、そこには界放リーグ1回戦を戦う弟の姿。バトスピをやるその仕草に、姉は心配そうに胸元に手を寄せる……………

 

 

 

******

 

 

舞台は戻って再びジークフリードスタジアム。イチマルのネクサスカード『緑に飲まれた寺院』の効果で、オーカはトラッシュから三日月はおろかスピリットも蘇生できなくなってしまう…………

 

 

「強力な合体スピリットで一気に攻勢に回ろうとした鉄華オーカミ選手でしたが、鈴木イチマル選手の一手でその召喚を封じられました!!……ここまでの状況、アオイさんはプロの目線でどう思われましたか?」

 

 

実況席のアナウンサー紫治夜宵が、解説席にいる早美アオイに聞いた。アオイはプロらしく落ち着いた様子で答える。

 

 

「スピリットを犠牲にしてまでネクサスを配置したのは正解でしたね。鉄華団、バルバトスが特殊なモビルスピリットである事は間違いありませんが、やはり属性は紫。トラッシュをここで制限されると大きなテンポロスになる事は間違いない事ですから。地味にコアシュートをされてもいいように、維持コアを多く置いているのもGOODと言った所でしょうか。何にせよ、バトルはこれからですね」

 

 

この時、アオイは内心で「あなたには勝ってもらわないと困るんですけどね」とも呟く。

 

そんな彼女から謎の期待が向けられている中で、鉄華オーカミはバトルを続行する。

 

 

「鉄華オーカミ!!……オマエなら先ず最初に三日月のカードをトラッシュに送ると思ってたぜ」

「………仕方ない、アタックステップは継続だ。行け、4形態!!……効果でゼロワンとネクサスのコアを1つずつリザーブに送る!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】(1➡︎0)消滅

 

ー【緑に飲まれた寺院】(3➡︎2)

 

 

「緑に飲まれた寺院には維持コアを余分に2つ置いてる、4形態の効果じゃLVは下がらないぜ!」

「くっ……オルガの【神域】の効果、デッキから3枚破棄して、1枚ドロー」

 

 

バルバトス第4形態がメイスを振るい、そこから発生する衝撃波でゼロワンと緑に飲まれた寺院からコアを取り除く。ゼロワンは消滅してしまうが、緑に飲まれた寺院はLVさえも下がらない。

 

 

「アタックはライフで受けてやるよ!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉イチマル

 

 

バルバトス第4形態が次に狙ったのはイチマルのライフバリア。メイスでそれを1つ木っ端微塵に粉砕する。

 

 

「緑に飲まれた寺院の更なる効果!!…オレっちのライフが減らされた時、その数1つにつき1枚ドロー!」

「ッ………ドロー効果まであるのか」

 

 

緑のネクサスにありがちな受け身のドロー効果まで備えた緑に飲まれた寺院。イチマルはその効果でデッキからカードを1枚引いた。

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【イサリビ】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

ライフが減るたびにドローもされるのであれば、攻撃は控えないと行けない。そう考えたオーカは1形態でのアタックは行わずにそのターンをエンド。イチマルへとターンを譲った。

 

 

[ターン05]イチマル

 

 

「メインステップ!!……緑に飲まれた寺院に再び3つ目のコアを追加する!…これでまた4形態のコアシュートも効かない」

 

 

ー【緑に飲まれた寺院】(2➡︎3)

 

 

「続けて行くぜ、ゼロワンシャイニングホッパーをLV1で召喚!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングホッパー】LV1(1)BP7000

 

 

通常のゼロワンが出現すると、光り輝くバッタと一体化、眩い光の中で強化形態、より刺々しいデザインのシャイニングホッパーへと進化を遂げる。

 

 

「アタックステップ……シャイニングホッパーでアタック!…煌臨アタック時効果で、ボイドからコア2つをトラッシュに追加。その後トラッシュのコアの数3つにつき相手スピリット1体を疲労させる………1形態を疲労!」

「!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】(回復➡︎疲労)

 

 

シャイニングホッパーから放たれる光の刃がバルバトス第1形態に直撃。たちまち膝を突き、疲労状態となってしまう。

 

 

「さらにマジック、ライジングインパクト!!」

「!」

「効果により、疲労状態の相手スピリット1体をデッキの下に戻してシャイニングホッパーを回復させる!!……4形態を倒せ!!」

 

 

イチマルの指示を聞くと、上空高く飛び上がるシャイニングホッパー。右足にエネルギーを溜め、そのままバルバトス第4形態へと突っ込んで行き…………

 

 

 

           『ラ』

           『イ』

           『ジ』

           『ン』

           『グ』

           『イ』

           『ン』

           『パ』

           『ク』

           『ト』

          

 

空間に文字が浮かび上がる中、強烈なライダーキックでバルバトス第4形態の装甲を貫通させるシャイニングホッパー。第4形態は耐えられず、力尽きて爆散してしまう。

 

それによりオーカはこの攻撃をライフで受ける他なくなって………

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉オーカ

 

 

光の速さでオーカのライフに飛びついて来たシャイニングホッパー。強烈なパンチを繰り出し、そのライフバリアを1つ砕いた。

 

 

「よぉし、オレっちはこれでターンエンドだ!!……どうだ鉄華オーカミ、オレっちの戦法に手も足も出まい!!」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワンシャイニングホッパー】LV1

【緑に飲まれた寺院】LV2

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

シャイニングホッパーをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとするイチマル。ライフの差こそ同じであるものの、緑に飲まれた寺院によって、優勢に立っているのは誰がどう見ても彼。

 

オーカはなんとかこの状況を打破せんとターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]オーカ

 

 

「メインステップ………バトスピってやっぱ面白いな。こう言う戦い方もあるのか」

「!?……何笑ってんだよ」

 

 

オーカもただ黙ってメタられるわけにはいかない。このターンから反撃開始だ。

 

 

「轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイク!!……LV1で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV1(1S)BP6000

 

 

「に、2体目のモビルスピリット!?」

 

 

上空から降り立ったのは薄茶色の分厚い装甲を持つ一機のモビルスピリット。

 

その名はグシオンリベイク。オーカのデッキにおける第二のガンダムの名を持つモビルスピリットである。イチマルはバルバトスではない鉄華団のモビルスピリットに驚愕する。

 

 

「召喚時効果、フィールドのコア2つをリザーブに」

「!?」

「緑に飲まれた寺院からコアを取り除く!」

 

 

ー【緑に飲まれた寺院】(3➡︎1)

 

 

右手に持つハルバードを豪快に振るって衝撃波を発生させるグシオン。それはイチマルの背後にある緑に飲まれた寺院を揺らし、そこに眠るコアを2つ取り除く。

 

だが………

 

 

「甘いぜ鉄華オーカミ!!……緑に飲まれた寺院のLV2維持コストは『1』……3つ置いてたから、ギリギリまだ効果は適用されている!」

 

 

そう。

 

コアが減らされた今でも、緑に飲まれた寺院はLV2を保っている。グシオンだけでは決定的なダメージを与えられないため、オーカとしてはどうしてもこのメインステップ中にはLVを下げたい所なのだ…………

 

だからこそ、オーカは手札からもう1枚のカードを使用する。

 

 

「マジック『もっとよこせ』を使う!!」

「ッ……今度はなんた!?」

「オレのデッキの上から3枚を破棄………」

「今更トラッシュを肥やしたって無駄だぜ、オマエにトラッシュは使えな………」

「こうしてトラッシュに送った鉄華団のカード1枚につき、相手のスピリット、ネクサスのコアを1つリザーブに置く」

「え、なんだって!?」

 

 

イチマルが思わず聞き直してしまうような効果を持つマジック『もっとよこせ』………

 

要するに今から破棄するカードの中に鉄華団カードが1枚でもあれば、オーカは緑に飲まれた寺院を突破する事が可能であるという事。

 

 

「オレは『もっとよこせ』の効果でカードを3枚トラッシュ………鉄華団カードは2枚。よってシャイニングホッパーから1個、緑に飲まれた寺院から1個ずつをリザーブに置く!」

「マジかよ!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンシャイニングホッパー】(1➡︎0)消滅

 

ー【緑に飲まれた寺院】(1➡︎0)LV2➡︎1

 

 

イチマルのフィールド全体が紫色に包み込まれる。それが晴れる頃には、シャイニングホッパーは消滅し、緑に飲まれた寺院は遂にLV1となった。

 

 

「これで、オレのトラッシュは緑の呪縛から解放された」

「くっ……」

「アタックステップ!!……その開始時にオルガの【神技】!!……コアを4つ支払い、トラッシュから三日月をバルバトス第1形態に合体!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]+三日月・オーガス】LV1(1)BP8000

 

 

すかさずオルガの効果を発揮させ、バルバトス第1形態にトラッシュの三日月を合体させる。普段はサーチ効果しか持たない第1形態も、これで強力な合体スピリットへと一変。

 

 

「アタックだ、バルバトス!!……合体した三日月の効果で、ネクサス、緑に飲まれた寺院の維持コアを1つ上げて消滅!!」

「!!」

「追加でリザーブのコアを2つトラッシュへ!!」

 

 

ー【緑に飲まれた寺院】(消滅)

 

 

背中のブースターで勢い良く宙を翔けるバルバトス第1形態。その突き出した拳はイチマルの緑に飲まれた寺院を捉えて貫く。

 

そしてその攻撃はここからが本番…………

 

 

「ライフだ、来いよ!!………ッ」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉イチマル

 

 

上空からの飛び蹴りでイチマルのライフを一気に2つ掻っ攫って行くバルバトス第1形態。そのライフ数は遂に半分を下回った。

 

 

「………ターンエンド」

手札:2

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]+三日月・オーガス】LV1

【ガンダム・グシオンリベイク】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

【イサリビ】LV1

バースト:【無】

 

 

ライフをこれ以上減らしても意味はない事を悟るオーカ。ここは一度ターンを終了する。

 

 

「つ、強ぇ……オレが時間を掛けて対策して来たってのに、オマエはそれをたったの1ターンで超えて来んのかよ。天才すぎだろ」

「………」

「オマエに比べたらオレっちなんて平凡もいいとこよ。でもなぁ、平凡も平凡なりに意地ってもんがある………このターン、見てろよ」

 

 

見事にオーカに全てをひっくり返されたイチマル。逆襲に燃えながら迎えたターンを進めて行く。

 

 

[ターン07]イチマル

 

 

「ドローステップ……ッ!!」

 

 

このターンのドローステップ。イチマルは引いたカードを見てニヤつく。その反応は、誰がどう見てもこの状況に適したカード、逆転を狙えるのに十分な強さを持つカードだ…………

 

 

「メインステップ!!……オレっちの諦めない心にデッキが応えてくれたぜ、先ずはゼロワン、フライングファルコンを召喚!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンフライングファルコン】LV1(1)BP3000

 

 

今回2体目となるフライングファルコンが登場。その召喚時効果でさり気なくイチマルのトラッシュにコアが新たに追加される。

 

そしてイチマルの大反撃が始まるのはここからだ。

 

 

「続けてチェンジ発揮!!……見よ鉄華オーカミ、オレっちの引きの強さを!!……ゼロワンフレイミングタイガー!!」

「!」

「チェンジ効果、オマエのトラッシュのカードは全てゲームから除外する!!」

「なに、除外!?………ッ」

 

 

燃え上がる熱き炎が吹き荒れ、オーカのBパッド上にあるトラッシュを襲う。するとそこに眠っていたカード達は全て焼却、跡形もなく消え去ってしまう。

 

これではトラッシュのカードを使おうにも使う事ができない。

 

 

「この効果発揮後、フライングファルコンと入れ替える!!……来いよゼロワン、フレイミングタイガー!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンフレイミングタイガー】LV1(1)BP4000

 

 

フライングファルコンは腰部にあるゼロワンドライバーに別のプログライズキーをセット。機械仕掛けの赤い虎が出現し、それと一体化、フレイミングタイガーへとチェンジする。

 

 

「さらに今手札に戻ったフライングファルコンを再度召喚!……効果でフレイミングタイガーとトラッシュにコアを1つずつ追加!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンフライングファルコン】LV2(4)BP6000

 

 

フィールドには2体のゼロワンが並ぶ。さらにイチマルはこのターンでオーカを倒すべく、もう1枚のカードを手札から使用する…………

 

 

「もういっちょチェンジを発揮!!……対象はまたまたフライングファルコン!!」

「……!!」

「効果により、自分の手札を全て破棄、その後相手の手札の数だけドロー!」

 

 

今のイチマルの手札は2枚、対するオーカも2枚。そのため、結果として手札の枚数は変わらないが、それでもこの後に発揮されるチェンジ特有の入れ替える効果は使用可能で…………

 

 

「この効果発揮後、対象となったフライングファルコンと入れ替える!!……来いよゼロワンメタルクラスタホッパー!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンメタルクラスタホッパー】LV2(4)BP10000

 

 

その光景はまさに白銀の嵐と言った所か、無数の鋼のバッタの群れが宙を飛び交い、フライングファルコンに纏わりつく。

 

こうして新たに誕生したのはゼロワンのさらなる進化の形、ゼロワンメタルクラスタホッパー。

 

文字通り、鋼鉄のゼロワンだ…………

 

 

「手札に戻ったフライングファルコンを召喚。効果でコアブースト………ブレイヴカード、アタッシュカリバーを召喚し、メタルクラスタホッパーと合体!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンフライングファルコン】LV1(1)BP3000

 

ー【仮面ライダーゼロワンメタルクラスタホッパー+アタッシュカリバー】LV2(4)BP13000

 

 

天空から空を切りながら突き刺さったのは、ゼロワン専用の剣。メタルクラスタホッパーはそれを引っこ抜き、合体する。

 

フィールドには3体のゼロワン。イチマルはこの錚々たるメンバーでオーカに攻撃を仕掛けて行く。

 

 

「行くぞ鉄華オーカミ、これで最後だ!!……アタックステップ、行って来いよ、メタルクラスタホッパー!!」

 

 

その攻撃の要となるのはやはりメタルクラスタホッパー。その手に持つブレイヴ、アタックカリバーの効果から解決して行く。

 

 

「アタッシュカリバーの効果、オマエのグシオンリベイクを疲労させる事で、コアを1つトラッシュに追加」

「グシオン……!?」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】(回復➡︎疲労)

 

 

アタッシュカリバーを振るい、飛ぶ斬撃を放つメタルクラスタホッパー。それはグシオンの駆動部へと命中。堪らず膝を突いた。

 

 

「さらにさらに!!……マジック、2枚目のライジングインパクト!!」

「ッ……またか」

「効果でグシオンリベイクをデッキの下に戻し、メタルクラスタホッパーは回復!!……くらいやがれ!!」

 

 

 

 

           『ラ』

           『イ』

           『ジ』

           『ン』

           『グ』

           『イ』

           『ン』

           『パ』

           『ク』

           『ト』

 

 

 

前のターンと全く同じだ。メタルクラスタホッパーは足にエネルギーを極限まで跳ね上げると、跳び上がり、グシオンの強固な装甲をライダーキックで蹴り飛ばす。

 

いくら守護神グシオンリベイクと言えどもこの一撃は流石に効いたか、堪らず爆散してしまう。

 

 

「メタルクラスタホッパーはアタック時、このスピリットのコアの数以下のスピリットからはブロックされない………でもって、2点のアタック!!」

「………ライフで受ける………くっ」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉オーカ

 

 

メタルクラスタホッパーはアタッシュカリバーでオーカのライフバリアを斬り裂く。その数は残り半数以下、イチマルと同じになる。

 

そして、次の攻撃をまともに受けてしまったら最後、オーカの敗北だ。

 

 

「メタルクラスタホッパーで再度アタック!!……通れ!!」

 

 

ここまで来たらと無我夢中になって突き進むイチマル。目標に向かって突き進むその姿は圧巻だが…………

 

それをたったワンモーションで突き崩すのが、この鉄華団使い、鉄華オーカミだ。

 

 

「フラッシュマジック、白晶防壁」

「なッ!?」

「不足コストはバルバトス第1形態から確保。よって消滅………フライングファルコンを手札に戻し、メタルクラスタホッパーのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉オーカ

 

 

バルバトス第1形態は消滅。しかしこれで白属性の強力なマジックカード『白晶防壁』は使用できた。

 

フライングファルコンはイチマルの手札へと戻り、メタルクラスタホッパーの攻撃を受けても、オーカのライフバリアはたったの1つしか砕けない。

 

 

「コストの支払いにソウルコアを使った時、このターンの間、オレのライフは1つしか減らない」

「………しぶといな。だけどこの盤面、オレっちの有利に変わりはない!!……ターンエンド!!」

手札:0

場:【仮面ライダーゼロワンフレイミングタイガー】LV1

【仮面ライダーゼロワンメタルクラスタホッパー+アタッシュカリバー】LV2

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

結果的に2体のブロッカーが残り、そのターンをエンドにせざるを得なくなったイチマル。再びオーカへとターンが巡って来る。

 

 

[ターン08]オーカ

 

 

「メインステップ!!……4を超えたその先で、未来を掴め!!……バルバトス第6形態をLV3で召喚!!」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV3(4)BP12000

 

 

オーカの背後で眼光を輝かせ、飛翔し、地上に降り立ったのは、バルバトスの中で最も大きな数字を持つ第6形態。

 

大型肉食恐竜の大顎のような形をしたレンチメイスと言う武装と、動きにくそうな重装甲が他のバルバトス達との主な差別点。イチマルは知らないが、ジュニアクラストップのあの獅堂レオンが操るデスティニーガンダムでさえも突破して見せた実力の持ち主だ。

 

 

「場に残った三日月と合体。そのままアタックステップだ………バルバトス第6形態、いくよ」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス第6形態+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

これで準備は完了。オーカはバルバトス第6形態で攻撃を仕掛ける。

 

そしてこの瞬間、幾つものアタック時効果が解決されて行く。

 

 

「バルバトス第6形態のアタック時効果、相手スピリットのコア1つをリザーブに置き、ターンに一度回復する……フレイミングタイガーのコアを取り除き、回復」

「!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンフレイミングタイガー】(2➡︎1)

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]+三日月・オーガス】(疲労➡︎回復)

 

 

「さらに三日月の効果。フレイミングタイガーの維持コアを1つ上げて消滅………叩け、バルバトス!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワンフレイミングタイガー】(消滅)

 

 

重装甲とは思えない程の俊敏さを見せるバルバトス第6形態。一瞬にしてフレイミングタイガーの背後を取り、レンチメイスを叩きつけた。

 

フレイミングタイガーはその一撃に耐えられず、あっさり爆散。イチマルの場は、メタルクラスタホッパーのみとなる…………

 

 

「バルバトス第6形態の更なる効果。鉄華団スピリットがアタックしている時、相手は相手のスピリット1体を破壊しなければブロックができない」

「ッ………オレの場はメタルクラスタホッパーだけ………」

「バルバトス第6形態は合体によりダブルシンボル……一撃で2つのライフを破壊する………!!」

「くっ………」

 

 

イチマルへと迫り来るバルバトス第6形態をどかさんとアタッシュカリバーで斬りかかるメタルクラスタホッパーだが、全く通用しない。

 

敗北を悟ったイチマルは悔しさよりも先に認められたい人物達の姿が脳裏に浮かんで来た。

 

それは心から敬愛している一木ヒバナと、粗暴だが、強くて尊敬している、ライダー王である兄レイジ……………

 

 

「ち、ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉおおお」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉イチマル

 

 

最後に込み上げて来た悔しさを叩き潰すかの如く、バルバトス第6形態はレンチメイスで残ったライフバリアを全て叩き壊した…………

 

 

「1回戦第二試合終了!!!……返し返されの激闘の中、勝利をその手にしたのは、鉄華団使い、今大会の超絶ダークホース、鉄華オーカミだァァァ!!!………見事二回戦進出です!!」

 

 

アナウンサーの紫治夜宵がマイクを片手にそう叫ぶと、会場の観客達は一斉に轟音のような歓声を上げる。

 

鉄華オーカミ、界放リーグ本戦で堂々の初勝利を飾った。

 

 

 




次回、第19ターン「Aの復活、デスティニーガンダム進撃」


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第19ターン「Aの復活、デスティニーガンダム進撃」

界放リーグ1回戦第二試合『鉄華オーカミVS鈴木イチマル』…………

 

鉄華オーカミのバルバトス第6形態がレンチメイスを手に、背部のスラスターで地上を駆け抜ける。目指す先は当然、敵であるイチマルのライフ一択………

 

 

「バルバトス第6形態の更なる効果。鉄華団スピリットがアタックしている時、相手は相手のスピリット1体を破壊しなければブロックができない」

「ッ………オレの場はメタルクラスタホッパーだけ………」

「バルバトス第6形態は合体によりダブルシンボル……一撃で2つのライフを破壊する………!!」

「くっ………」

 

 

イチマルへと迫り来るバルバトス第6形態をどかさんとアタッシュカリバーで斬りかかるメタルクラスタホッパーだが、全く通用しない。

 

敗北を悟ったイチマルは悔しさよりも先に認められたい人物達の姿が脳裏に浮かんで来た。

 

それは心から敬愛している一木ヒバナと、粗暴だが、強くて尊敬している、ライダー王である兄レイジ……………

 

 

「ち、ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉおおお」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉イチマル

 

 

最後に込み上げて来た悔しさを叩き潰すかの如く、バルバトス第6形態はレンチメイスで残ったライフバリアを全て叩き壊した…………

 

 

「1回戦第二試合終了!!!……返し返されの激闘の中、勝利をその手にしたのは、鉄華団使い、今大会の超絶ダークホース、鉄華オーカミだァァァ!!!………見事二回戦進出です!!」

 

 

アナウンサーの紫治夜宵がマイクを片手にそう叫ぶと、会場の観客達は一斉に轟音のような歓声を上げる。

 

 

「………手に汗握る、熱い試合だったな、2人とも」

 

 

会場で見守っていたヨッカが拍手で2人のバトルを讃える。その横で着席している夏恋フウもまたそのバトルに感動しているようであり…………

 

 

「わぁ!!……本当に凄いバトルだったね、ライちゃん!!」

「ま、このくらいは勝ってもらわないとね」

 

 

座席で腕を組み、足を組み、ツンケンしてるが、ライもオーカの勝利を心のどこかで喜んでいる様子。

 

 

「………よし」

 

 

勝利を決めたオーカ。1回戦を突破し、次は準決勝で【剣帝】の異名を持つ赤羽カレンと凌ぎを削る事になる。

 

普段は冷静な彼も、初めての大きな大会の本戦と言う事もあってか、今回ばかりは拳を固め、軽くサムズアップした。

 

 

「………オレっちの負けだぜ鉄華オーカミ。今日の所はマジで完敗だ」

「イチマル……」

 

 

イチマルがオーカの元まで歩み寄り、そう告げて来た。悔しそうな表情こそ残っているものの、どこか満足気な感じも漂っている。

 

今の彼の表情を一言で表すのであれば【やり切った顔】と言った所か。

 

 

「でも次はこうはいかねぇ!!……もっともっと強くなって、絶対兄ィに認められるんだ」

「……あぁ、イチマルならできるよ」

 

 

2人はそう言い合いながら握手を交わす。凌ぎを削り合った両者のカードバトラーシップに、会場の誰もが声援と拍手喝采を届けて…………

 

 

******

 

 

「………よりにもよってヨッカの弟分なんざに負けやがって、クソ雑魚が」

 

 

スタジアムの裏側。誰もいないその場で、イチマルの兄であり、界放市最強カードバトラー集団『三王』の1人、ライダー王の称号を持つ鈴木レイジがそう呟く。

 

彼に認められんと一所懸命にバトルを取り組んだイチマルであったが、彼の思いは何一つ届いてはいない様子。

 

 

「……にしてもあのチビ。オレと同じ紫デッキかよ、これは下位互換確定だな。痛ぶり甲斐があるってもんだぜ」

 

 

レイジは最後にそう呟き、その場から立ち去っていった…………

 

 

******

 

 

「………結局オレっちってば、またベスト8止まりなんだな」

 

 

選手のみが通過できるスタジアムから控室までの通路。今イチマルは呆けながらそこを歩いている。

 

なんやかんやあったが、やはり負けた悔しさは直ぐには拭えない様子。

 

そんな折、彼に話しかけてきた人物が1人…………

 

 

「あ、イチマル」

「ッ……ヒバナちゃん」

 

 

それは自分の想い人である一木ヒバナだった。次の1回戦第三試合目が彼女だからだろう、こうして二試合目のイチマルとすれ違って…………

 

 

「あっはは……負けちまったよ。やっぱオレっちにはベスト8がお似合いみたいだぜ」

「…………」

 

 

イチマルの今の気持ちをなんとなく察したヒバナ。少しだけ間を空けると、口を開く。

 

 

「………落ち込むなんてらしくないわね」

「お、落ち込んでないよ!!……ただ……」

 

 

思い浮かぶのは兄であるレイジの顔。自分は精一杯バトルをしたが、おそらく彼は自分のことを認めてくれてはいないだろう。

 

単純に敗北した悔しさだけではない。そう言った複雑な兄弟事情が、イチマルをより苦しめていた。

 

今の所、身内の中で自分の兄の事を知っているのは鉄華オーカミだけ、流石にヒバナにまで余計な心配はさせられない。

 

 

「………まぁいいよ。イチマルはよくやったと思う」

「ッ……!」

 

 

珍しく罵倒ではない想い人からの言葉に、イチマルは思わず目を見開く。

 

 

「途中までは凄く惜しかったのにね。まぁ相手がオーカだったのもあるんだろうけど」

「ヒ、ヒバナちゃあぁぁぁん!!!……そんなにオレっちの事褒めてくれるなんて、やっぱ本当はオレっちのこと………」

「好きじゃありません」

 

 

イチマルのいつものノリを華麗にかわすヒバナ。だがその後、彼に笑顔を向けながら「でもまぁ、イチマルの分まで頑張るよ」と一言。

 

イチマルもそう言ってもらえて嬉しかったか、手を振りながら、スタジアムのバトル場へと向かう彼女を見送った。

 

 

******

 

 

「打ち鳴らせ、ウォーグレイモンッッ!!」

 

 

あれから数十分が経過し、1回戦第三試合。一木ヒバナが緊張感の中、自身のエースカードであるウォーグレイモンに最後のアタックを命ずる。

 

ウォーグレイモンはドラモンキラーと呼ばれる鉤爪で、対戦相手の最後のライフを切り裂き、撃破する。

 

 

「決まったァァァー!!!……1回戦第三試合、勝ったのは一木ヒバナ選手ッッ!!……ウォーグレイモンを使っての華麗なる勝利です!!」

 

 

実況席でアナウンサーの紫治夜宵がマイクを片手にそう叫んだ。会場がさらに盛り上がって行く中、ヒバナは勝利できた事に一安心。

 

それと同時に、次はほぼ確実に獅堂レオンとの因縁の再戦である事を理解する。

 

 

「……もうあの時の弱い私じゃない。勝つんだ、このウォーグレイモンで」

 

 

ウォーグレイモンのカードをBパッドから手に取り、そう呟くヒバナ。バトルの舞台に立っているウォーグレイモンもまたその感情を理解しているような表情を見せつつ、この場からゆっくりと粒子化して消滅していった。

 

 

******

 

 

「さぁさぁ、今年の界放リーグの1回戦も残すところ後1試合となりました!!……最後の四試合目を飾るのは、負け知らずの無敵の孤高の獅子、獅堂レオン!!」

 

 

本戦の1回戦も遂にラスト試合を迎える。紫治夜宵がそう告げると、銀髪の少年、獅堂レオンが舞台に上がる。その威風堂々たる姿はまさに界放市ジュニアのトップに君臨する王。

 

 

「対するは界放リーグ初出場の五味フメツ!!」

 

 

獅堂レオンの初戦の相手。同じく紫治夜宵にアナウンスされると、レオンと同じ舞台に立つ。

 

やや小柄な体格、紫がかった髪先に、猫背、根暗な目つきなど、その少年はとにかく陰湿な印象を受ける。

 

 

「………貴様がオレの相手か」

「ヒッヒッ……獅堂レオン、現在界放リーグ二連覇中の猛者か。相手にとって不足はないね。ところで君、レアカードは好きかい?」

「?」

 

 

五味フメツは見た目通りの陰湿な笑い声を上げ、レオンにそう聞いた。

 

 

「僕ちゃんは好きだよ。こう見えてカードコレクターでね、最近はモビルスピリット集めにも勤しんでいるんだ。そして、是非是非君の『デスティニーガンダム』もそのコレクションに加えたいと思っている」

「ほぉ」

 

 

五味フメツは明らかにジュニアどころか界放市の中でも指折りの実力を持つレオンに喧嘩を売っている。何せ遠回しとは言え、レオンに「デスティニーを寄越せ」と言っているようなものなのだから。

 

 

「我が魂、デスティニーガンダムを奪うと言うのか」

「人聞きの悪い言い方だな〜〜……僕はただ僕のコレクションに追加したいだけって言ってるのに」

 

 

意地汚い笑顔とコミュニケーションを見せる五味フメツ。それに対してもレオンは気高く口角を上げ…………

 

 

「いいだろう。オマエがこのバトルに勝てばデスティニーは譲ってやる」

「ホントに!!……ラッキー」

 

 

あっさりとアンティバトルを承諾。通常ではアンティバトルなどご法度なのだが、会話が舞台に立っているものにしか届かないため、結果的にデスティニーガンダムなカードがバトルに賭けられた。

 

 

「ヒッヒッ。じゃあもう御託はいらないね、さっさと始めようか」

「…………」

 

 

互いにBパッドを展開し、そこにデッキをセット。バトルの準備を終える。

 

そして…………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

デスティニーガンダムのカードが賭けられた、界放リーグ1回戦、最後の四試合目が幕を開ける。

 

先攻は獅堂レオンだ。自分が必ず勝つと心の底から思っているからか、大事なカードであるはずのデスティニーガンダムを賭けられていても堂々とした態度でターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]獅堂レオン

 

 

「……メインステップ。オレは母艦ネクサス、ミネルバを配置する」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

レオンが配置したのは銀色で、細部が赤で彩られた母艦。名をミネルバ。

 

いわゆる「母艦ネクサス」を自在に操る事でも有名なモビルスピリットだが、彼のデッキにおいては他のモビルスピリットデッキよりもさらに重要度は高い。

 

 

「配置時効果。デッキから3枚オープンし、その中の対象カードを1枚手札に加える。オレは『ザクウォーリア』のカードを1枚手札に加え、残りはデッキの下に戻す。ターンエンドだ」

手札:5

場:【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

「ヒッヒッ……次は僕ちゃんのターンだね」

 

 

無難な第1ターン目を終えるレオン。次は五味フメツのターン。

 

このバトルに勝てばデスティニーガンダムを貰える事からか、そのモチベーションの高さが伺える。

 

 

[ターン02]五味フメツ

 

 

「メインステップ……こっちも先ずはネクサスで様子を見ようかな。ネクサス、英雄皇の神剣」

 

 

ー【英雄皇の神剣】LV1

 

 

五味フメツの背後に配備されたのは、剣先を下に向けながら宙に浮かんでいる巨大な剣。

 

シンプルな効果を持っているが、それ故にバトスピ界では有名な1枚。

 

 

「さらにバーストをセット、英雄皇の神剣の効果で1枚ドロー………うん、まぁ悪くないかな。これでターンエンドにしよう」

手札:4

場:【英雄皇の神剣】LV1

バースト:【有】

 

 

最初のターンは互いに1体もスピリットを召喚しないという、静かな滑り出しとなった。

 

次は一周回り、レオンのターン。巡って来たターンシークエンスを淡々と進めて行く。

 

 

[ターン03]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……オレは2枚目のミネルバを配置する」

「!!」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

「配置時効果で再びザクウォーリアを1枚手札に」

 

 

レオンの背後には2隻目となるミネルバが出現。第1ターン目と全く同じようにカードを1枚手札に加える。

 

だが…………

 

まるでそれを待ち望んでいたかのように、五味フメツが目を光らせ、ニヤリと笑って…………

 

 

「待っていたよその効果。相手の手札増加時のバースト発動!!」

「む」

「デジタルスピリット、キメラモン!!」

 

 

勢い良く反転した五味フメツのバーストカード。それはこの状況から自分を一気に優位にしてくれる1枚で尚且つ、レオンのデッキには武が悪いカード…………

 

 

「バースト効果、ネクサス2つを破壊し、ボイドからコア1つをリザーブに」

「!!」

「ヒッヒッ、気づいたみたいだね。この効果でミネルバは2つとも破壊される!!」

 

 

彼の反転したバーストカードより放たれる、禍々しい2つの魔弾が、レオンのミネルバ2隻を貫き撃墜させる。

 

その後、五味フメツは発動させたカードを手に取り、再びカード名を叫ぶ。

 

 

「この効果発揮後、自身をノーコスト召喚する………現れよ異端なる完全体デジタルスピリット、キメラモンッッ!!」

 

 

ー【キメラモン】LV2(3)BP9000

 

 

突如蠢き出す地中。そこから咆哮を張り上げながら姿を現したのは、グレイモンのボディやガルルモンの毛皮、カブテリモンの甲殻など、さまざまなデジタルスピリット達が合成されて作り出された異形のデジタルスピリット。

 

その名はキメラモン。4本の腕と4枚の翼を広げ、強い存在感を示す。

 

 

「フン。爽快だな」

「こう見えて僕ちゃん賢いからさ、今までの君のバトルを研究してたんだよね。そしてそれで分かった事は、君のデッキは『ネクサス破壊』に弱いと言う事」

「…………」

「デスティニーガンダムは確かに強力なモビルスピリットだ。アタック時や【VPS装甲:コスト7以下】もそうだけど、1番は対象のネクサスを疲労させて回復する効果。アレで何度もデスティニーガンダムにアタックされるのは流石にヤバすぎ。そう思って今回、キメラモンを採用したのさ……コイツも中々良いレアカードだろ?」

 

 

長々と語る五味フメツ。だが言っている事は確かな話ではあるのだ。レオンもそれは自覚している…………

 

 

「お喋りが好きなようだな。ザクウォーリアを1体召喚してターンエンドだ」

手札:5

場:【ザクウォーリア】LV1

バースト:【無】

 

 

己のデッキの弱点を喰らいはしたものの、動揺は一切せず、次の一手を繰り出す獅堂レオン。その場には緑色で1つ目のモビルスピリットが召喚された。

 

彼の実力をとやかく言ってくる者達も大勢いるが、この動きが取れるだけでもわかる者には彼に相応な実力を所持しているのが直ぐに理解できる。

 

 

[ターン04]五味フメツ

 

 

「メインステップ………もう一度バーストをセット、英雄皇の神剣で1枚ドロー。さらにマジック、ストロングドローでデッキから3枚引き、2枚を捨てる」

 

 

メインステップの開始早々、止まらないドローコンボ。

 

五味フメツは手札の質をより高みへと向上させると「アタックステップ」を宣言して……………

 

 

「アタックステップ!……さぁキメラモン。奴のライフを八つ裂きにして来い!!……アタック時効果でザクウォーリアを破壊して1枚ドローだ」

「!」

 

 

キメラモンの4本の腕から放たれる熱線が、レオンのザクウォーリアの見るも無惨な姿へと変形させ、爆散させる。

 

しかしレオンもただ黙って見ておくだけではない。

 

 

「ザクウォーリアの破壊時効果。ボイドからコア1つを白属性のザクかトラッシュに追加。その後手元へ移動する」

 

 

コア1つがトラッシュへと追加される。破壊されたネクサスのシンボル分には及ばないが、返しの自分のターン、これで少しは楽に動けるだろう。

 

 

「本命のアタックはライフで受けてやろう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

獰猛に襲い掛かってくるキメラモン。その鋭い顎が、牙がレオンのライフバリアを捉え、粉々に粉砕する。

 

 

「僕ちゃんはこれでターンエンド。デッキの相性差、多分とんでもないけど、精々頑張って。後、負けたら君のデスティニーを僕ちゃんに上げる約束、忘れないでよね」

手札:5

場:【キメラモン】LV2

【英雄皇の神剣】LV1

バースト:【有】

 

 

レオンの場を再びガラ空きにし、余裕の表情でそのターンをエンドとする五味フメツ。

 

かなり劣勢だが、それを感じさせない飄々とした表情をみせながら、レオンの返しのターンが幕を開けて行く…………

 

 

[ターン05]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。3枚目のミネルバを配置する」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

3隻目のミネルバがレオンの背後に配備される。そしてその効果もフルで発揮させていく…………

 

 

「配置時効果。オレは我が魂、デスティニーガンダムを手札に加える」

「!」

 

 

3枚目のミネルバの配置時効果、ここでようやくデスティニーガンダムを手札に引き込む事に成功するレオン。このまま次のターンにでも召喚できれば劣勢を覆す事ができるが…………

 

五味フメツはここで彼がデスティニーガンダムを手札に引き込む事さえも読んでいて…………

 

 

「バースト発動、再びキメラモン!!」

「!」

「もう一度ミネルバを破壊してコアブースト、そしてLV1で召喚」

 

 

ー【キメラモン】LV1(1)BP7000

 

 

1つ前のターンと全く同じだ。勢いよく反転したバーストカードから放たれた魔弾がレオンのミネルバを貫き撃墜させ、五味フメツの場には2体目のキメラモンが地獄の咆哮と共に姿を現した。

 

 

「残念だったね。ネクサスは絶対に使わせないよ」

「フン。このオレがデスティニーだけで芸のない奴に見えるか?……まぁ良い、貴様がそこまで言うのであれば、このデスティニーガンダムで勝ってやろうではないか………オレは手札と手元からザクウォーリアを連続召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

ここまでデスティニーガンダムの対策をされているのであれば、逆にそのデスティニーガンダムを使って勝ってやろうと心に誓うレオン。そんな彼の場には2体のザクウォーリアが展開される。

 

 

「ターンエンド。さぁ、オマエの実力、このオレに見せて見るがいい」

手札:5

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

バースト:【無】

 

 

「こ、これは凄い。あの王者獅堂レオンが、界放リーグ初参加の五味フメツに圧倒的劣勢を強いられております」

 

 

実況席にいるアナウンサー紫治夜宵がマイクを片手にそう言葉を落とす。隣の解説席に座っているモビル王早美アオイは「これに合わせて私も何か喋らないと」と思い、自分も徐にマイクを手に取る。

 

 

「ネクサスは今のバトルスピリッツにとっては欠かせないモノ。デスティニーガンダムだけでなく、他のデッキ達に対しても、キメラモンは有効なカードであると言えますね。彼の今大会に対する強い熱意も感じ取れます」

 

 

一見、ただのレアカードが好きなだけの陰湿なコレクターに見えるが、実際のデッキは大会の環境をメタった構築となっている。

 

アオイの言う通り、理由はどうあれ、実は彼は相当な強い熱意があって界放リーグに望んでいたのかもしれない。

 

 

[ターン06]五味フメツ

 

 

「僕ちゃんのメインステップ。2体目のキメラモンをLV3にアップ」

 

 

メインステップ開始直後。1つ前のターンに召喚されたキメラモンのLVが1から3へと飛躍的に跳ね上がる。

 

 

「アタックステップ、最初に召喚した、LV2のキメラモンでアタック!!……その効果でザクウォーリア1体を破壊し、1枚ドロー」

「………ザクウォーリアの破壊時効果、ボイドからコア1つをトラッシュへ。その後手元へ移動」

 

 

再び4本の腕から放たれるキメラモンの熱線。2体いる内の1体に命中し、それを爆散させる。

 

対するレオンも破壊時効果でコアブーストを行うものの、どちらがより大きなアドバンテージを得ているのかは明白。そしてその差をさらに広げるべく、五味フメツは手札にある1枚のカードを切る…………

 

 

「ここからさらに君を追い詰める!!……フラッシュ煌臨、対象はアタック中のキメラモン」

「!」

 

 

スピリットカードにスピリットカードを重ねる事で行われる煌臨の効果。そのエフェクトにより、キメラモンの足元から儀式でも始まるかのように赤いルビーの紋章が浮かび上がる…………

 

 

「その炎は全てを焼き焦がす………現れろ、合体魔王獣ゼッパンドン!!」

 

 

ー【合体魔王獣ゼッパンドン[ウルトラ怪獣2020]】LV2(3)BP10000

 

 

赤いルビーの紋章がキメラモンの足下からそれを包み込むように天空へと移動、その後消滅したかと思えば、キメラモンは一瞬にして黒い鱗、赤い衣を持つ魔王獣ゼッパンドンへと姿を変えていた。

 

 

「これもかなりのレアカードなんだ。3枚揃えるのに苦労したよ」

「そうか。ならばそのカード、強いんだろうな」

「もちろんさ………召喚煌臨時効果、BP7000以下のスピリットかネクサス1つを破壊、そして破壊したカード効果を発揮させない」

「………」

「当然、ザクウォーリアだ。破壊時のコアブースト効果は無効だよ」

 

 

ゼッパンドンの口部から放たれる火炎弾がレオンのザクウォーリアに被弾。ザクウォーリアは跡形もなく消し飛ぶ。

 

しかも今回は破壊時効果も発揮させてもらえないため、コアブーストさえも不発に終わる。

 

 

「さらに煌臨していた場合、デッキから2枚ドロー……これで僕ちゃんの手札は合計8枚、対する君は4枚。2倍の差が開いちゃったね〜〜」

「………ゼッパンドンのアタックはライフで受けよう」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉獅堂レオン

 

 

ゼッパンドンの爪による引き裂く攻撃がレオンのライフバリア1つをあっという間に切り裂く。

 

そしてそのバックには既にキメラモンが待機していて…………

 

 

「ゼッパンドンはバトル終了時、自らの効果で回復。そして2体目のキメラモンでアタック!!…効果で1枚ドローだ!!」

「それもライフで受けよう」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉獅堂レオン

 

 

今度はキメラモンがレオンのライフバリアへと飛び込み、それを1つ、豪快に噛み砕く。

 

 

「ヒッヒッ……油断は禁物、ゼッパンドンは一応ブロッカーとして残しておこうか、僕ちゃんはこれでターンエンド!」

手札:9

場:【キメラモン】LV3

【合体魔王獣ゼッパンドン[ウルトラ怪獣2020]】LV2

【英雄皇の神剣】LV1

バースト:【無】

 

 

「す、凄すぎる五味フメツ!!……あの誰も敵わないと言われた絶対王者、獅堂レオンを相手にここまで一方的な優位を保っています!!…信じられません!!」

 

 

絶対王者の地位が揺らぎかねないこの状況、アナウンサーの紫治夜宵が篤く実況する。手札と場、ここまでアドバンテージに差が開いた会場の皆も流石にここからの逆転は無理なのではと感じ始めている……………

 

そんな折、獅堂レオン本人が自分のターンを前にして口を開く。

 

 

「………1つだけわかった事がある」

「ん?」

「貴様の使うそのカード達、そいつらからは全く持って魂を感じん」

「………は?」

 

 

何を偉そうに言い出すかと思えば、意味のわからん事を…………

 

レオンの言っている意味のわからなかった五味フメツ。内心では「さっさとデスティニーガンダムを寄越してくれないかな」とも思っている。

 

 

「……一応聞くけど、どう言う意味?」

「貴様のそのスピリット達は貴様の仲間ではない、ただの道具になっている………と言えばわかりやすいか?」

「…………」

 

 

レオンにそう言われ、ゆっくりと意味を確認する五味フメツ。そしたら段々と笑えて来て…………

 

 

「プッ……ヒッヒッ、ヒャァッハッハッハッ!!……スピリットは仲間?…なにそれ本気で言ってんの!?…そんなわけないだろ、スピリットはバトルに勝つための道具だ、コレクション品だ!!……じゃあ何、君は鉛筆とか消しゴムとかにも仲間って呼んでるの?……滑稽極まり無しだね」

「成る程、これは重症だな」

「重症は君だろ!!」

 

 

中々噛み合わない2人、その後レオンは「ならば見せてやろう、我が魂を……!!」と告げ、王者らしい迫力を見せつけ、巡って来た己のターンを開始していく…………

 

 

[ターン07]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……運命をも覆す我が魂!!……デスティニーガンダムをLV2で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

蔓延る雷雲。そこから放たれる落雷と共に姿を見せるのは、赤き機翼を羽ばたかせる白きモビルスピリット、レオンの魂、デスティニーガンダム。

 

 

「おぉ!!……これがデスティニーガンダム!!……欲しい、必ず手に入れてやる。そして君の後は、鉄華オーカミの持っているバルバトスだ」

「アタックステップ、翔け抜けろデスティニー……!!」

 

 

五味フメツの言葉を無視し、速攻でアタックステップへと移行してデスティニーガンダムで攻撃を仕掛けるレオン。

 

そしてその強力なアタック時効果が繰り出される………

 

 

「アタック時効果、ゼッパンドンを破壊して、そのシンボル分のダメージを貴様のライフに与える」

「ッ……!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉五味フメツ

 

 

デスティニーガンダムの巨大なビームライフルで撃ち抜かれるゼッパンドン。堪らず地面に伏せ、大爆散を起こした。

 

そしてそのビームライフルの勢いは止まる事を知らず、そのまま五味フメツのライフバリアをも貫通して見せた。

 

 

「くっ………流石の破壊力だ。でもネクサスがないから、その力は100%ではないよね!!……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉五味フメツ

 

 

二発目のビームライフルが五味フメツのライフバリアを襲い、その数をさらに減らしてしまうが、ネクサスがレオンの場にない関係上、回復と、それに伴うこれ以上のアタックは不可能で…………

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:5

場:【デスティニーガンダム】LV2

バースト:【無】

 

 

デスティニーガンダムで強烈な一打を浴びせるも、このターンのみでは決め切れず、致し方なしと言った様子で、レオンはそのターンをエンドとする。

 

次は未だ圧倒的優位に立っている五味フメツのターンだ。

 

 

[ターン08]五味フメツ

 

 

「メインステップ……2体目のゼッパンドンを召喚する」

「!」

「キメラモンのLVを2まで下げ、LV3だ」

 

 

ー【合体魔王獣ゼッパンドン[ウルトラ怪獣2020]】LV3(4)BP16000

 

 

これまたキメラモンと同じく2体目。強力無比なスピリット、ゼッパンドンが再びその場に姿を現す…………

 

 

「アタックステップ!!……やはり君と僕のデッキの相性差は最悪のようだね、ゼッパンドンでアタックッ!!……このターンで終わりだ!!」

 

 

レオンのライフが0になる算段のついた五味フメツ。2体目のゼッパンドンで攻撃を仕掛ける。

 

前のターンに唯一のスピリットであるデスティニーガンダムでアタックを行なってしまったレオンはこれをライフで受けるしない。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉獅堂レオン

 

 

ゼッパンドンの鋭い爪の一撃が、今一度レオンのライフバリアを切り裂く。誰もが終わったと思ったその瞬間、レオンは冷静に手札にあるカードを1枚、Bパッドへと叩きつけた…………

 

 

「ライフが減った事により、手札にある絶甲氷盾の効果を発揮!!」

「!?」

「このバトルの終了時、貴様のアタックステップを終了する」

 

 

レオンが放ったマジックカードは『絶甲氷盾〈R〉』………

 

ライフが減少した際にノーコストで使用できる特別なマジックカードである。これを放たれた今、五味フメツはキメラモンでもゼッパンドンでもアタックを行えなくなり…………

 

 

「………バトル終了時、ゼッパンドンは回復する………ターンエンド」

手札:9

場:【キメラモン】LV2

【合体魔王獣ゼッパンドン[ウルトラ怪獣2020]】LV3

【英雄皇の神剣】LV1

バースト:【無】

 

 

2体のブロッカーを残し、そのターンをエンドとせざるを得なくなった五味フメツ。

 

しかし手札にまだ何かあるのか、その表情は未だに余裕を感じさせる。

 

レオンはその余裕を崩すべく、己の魂を込め、本気でターンを進めていく…………

 

 

[ターン09]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……モビルスピリットの武器は母艦ネクサスだけではない、オレはパイロットブレイヴ、シン・アスカをデスティニーガンダムに合体!!……そしてデスティニーガンダムをLV3にアップ」

「ッ……ここでパイロットブレイヴ!?」

 

 

ー【デスティニーガンダム+シン・アスカ】LV3(5)BP28000

 

 

獅堂レオンのデッキのパイロットブレイヴがここに来て登場。デスティニーガンダムの見た目こそ変化はないものの、確かなパワーアップを果たす。

 

 

「ヒッヒッ……だがいくら強くなろうと一度のアタックじゃ僕ちゃんのライフには届かない!!」

「………それはどうかな?」

「!?」

「アタックステップ」

 

 

キメラモンとゼッパンドン。2体の強力なブロッカーを前に、レオンはパイロットブレイヴ、シン・アスカと合体したデスティニーガンダムで勝負を仕掛ける。

 

 

「デスティニーでアタック!……そのアタック時効果で再びゼッパンドンを破壊し、そのシンボル分、貴様にダメージを与える」

「!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉五味フメツ

 

 

上空からゼッパンドンに接近するデスティニーガンダム。身の丈ほどはある巨大なビームサーベルを手に取り、ゼッパンドンへと一閃…………

 

ゼッパンドンは堪らず力尽き、爆散してしまう。そしてそれに伴う爆風が、五味フメツのライフバリア1つを消し飛ばした。

 

さらにこの瞬間、レオンの召喚したパイロットブレイヴ、シン・アスカの効果を遺憾無く発揮させる。

 

 

「ここで合体中のシン・アスカの効果を発揮。デッキの上から1枚をオープンし、系統『ザフト』『FAITH』を持つカードならば、召喚、配置、使用する事ができる」

「なに、それじゃあネクサスを引けば………」

「デスティニーは自身の効果で効果で回復し、このオレが勝利する」

 

 

シン・アスカの効果でデッキトップに手を添えるレオン。確かにこのタイミングでネクサスカードをドロー、そのまま配置できれば、デスティニーは自身の効果で回復して勝利を捥ぎ取る事ができる…………

 

だが………

 

 

「ヒッヒッ……だけど僕の手札には3枚目のゼッパンドンがある。ネクサスが来ても直後に煌臨、効果でそのネクサスを破壊できる」

「…………カードをオープン」

「何が来てもお終いだ!!」

 

 

勢い良く引いたオープンカード。レオンはそれを視認する。

 

それを見るなり、口角を上げて…………

 

 

「オレは『ザフト』を持つ創界神ネクサス、ギルバート・デュランダルを配置!!」

「ッ……創界神!?」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV1

 

 

レオンが配置したのはオーカの鉄華団で言う所の『オルガ・イツカ』にあたるカード『ギルバート・デュランダル』…………

 

このカードはネクサスであっても、その中で希少な存在創界神ネクサス。その特性を知っている五味フメツは唖然とした様子で、開いた方が塞がらない。

 

 

「創界神ネクサスは通常のネクサスを対象にした効果を受けない………」

「その通りだ。そして我が魂デスティニーガンダムの回復効果は、創界神ネクサスをも対象にしている」

「ッ……!?」

「よって、このギルバート・デュランダルを疲労させ、回復させる!!……起き上がれ、我が魂!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム+シン・アスカ】(疲労➡︎回復)

 

 

ゼッパンドンは飽くまでネクサスを破壊するだけで創界神ネクサスまでは対象に取れない。

 

それ故にレオンの創界神ネクサスは破壊できないのだが、デスティニーガンダムは違う、創界神ネクサスをも対象に取り入れたその効果で回復状態となり、このターン二度目のアタック権限を得る。

 

シン・アスカ。そして創界神ネクサスの登場は、五味フメツの計算は完全に瓦解させた。

 

 

「ク、クソッ!!……なんでここに来てこんな……ブロック、ブロックだキメラモン!!」

 

 

デスティニーガンダムの行く道をキメラモンが阻む。長い4本の腕でデスティニーガンダムを捕らえようとするも、デスティニーガンダムの気迫に弾き飛ばされ、地に叩き伏せられる。

 

 

「フラッシュ、煌臨発揮!!……キメラモンを対象にゼッパンドンを煌臨する」

 

 

ー【合体魔王獣ゼッパンドン[ウルトラ怪獣2020]】LV2(3)BP10000

 

 

キメラモンが立ち上がり、咆哮を張り上げると、再び地面から赤いルビーの紋章がキメラモンの身体をくぐり抜け、その姿を本日3体目となるゼッパンドンへと変化させる…………

 

 

「煌臨時効果。デッキから2枚ドロー……」

 

 

回復したデスティニーガンダムを止めるためのカードをドローすべく、五味フメツは煌臨したゼッパンドンの効果を発揮させるが…………

 

 

「くっ………何故何もカウンターのカードをドローできない!?……僕ちゃんの対策は万全だったはずだ」

 

 

その手札の合計は10枚。普通にバトルを行っただけでは到達しえない領域まで手札を増やした五味フメツであったが、カウンターカードなどを何も引けず…………

 

デスティニーガンダムの攻撃をただ受け入れるしかなくなって………

 

 

「それは貴様のカード達に、デッキに魂が込められていないからだ」

「!?」

「そんな奴がここ1番で最高のドローなど、できるわけがなかろう!!……やれ、デスティニーッ!」

 

 

巨大なビームライフルから極太のビームを照射するデスティニーガンダム。その先には当然煌臨したゼッパンドンがいる。

 

ゼッパンドンは身を守ろうと周囲にバリアを展開するが、それは意味を成さず、あっさりと砕かれ、その身体を貫かれる。最後には力尽き、横に倒れて爆散して行った。

 

 

「オレもバトルに勝利するのは好きだ。勝つためにカード1枚1枚を吟味し、デッキの完成度を高めるのは大いに結構!!……だが自分のスピリットを道具などとほざく奴は論外だ!!……ラストアタックだ、デスティニーッッ!!」

「そ、そんな馬鹿なァァァーー!?!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉五味フメツ

 

 

この勝因は、魂の有無の差である。

 

そう言わんばかりのデスティニーガンダムの一撃。強烈なビームが五味フメツのライフバリアを包み込み、残ったそれを全て破壊…………

 

いつものように、獅堂レオンの魂はそれを勝利へと導いた。

 

 

「勝者、獅堂レオンッッ!!……鮮やか過ぎる華麗な大逆転劇で勝利を収めましたァァァー!!」

 

 

アナウンサーの紫治夜宵がマイクを手にそう叫ぶと、会場の観客達の多くも大興奮してレオンとデスティニーガンダムに対して拍手喝采。

 

 

「………今年で一番つまらんバトルだった。やはりオレを楽しくさせてくれるのは、奴だけか」

 

 

勝利の余韻も干渉もなく、Bパッドを閉じてこの場からさっさと立ち去っていくレオン。

 

彼の言う「奴」とはおそらく、唯一ライバルとして認めた鉄華オーカミの事だろう。

 

 

「………カードに魂………か。フ……僕ちゃんも今度大量のコレクションからお気に入りの1枚を見つけてみるとするか」

 

 

負けはしたものの、意外と清々しい様子を見せる五味フメツ。デッキをアップデートし、獅堂レオンにリベンジを誓うと、彼もまたすぐさまこの場から去って行った……………

 

 

「以上で1回戦、全ての試合が終了いたしました!!……続く2回戦はこの後1時間のインターバルを置いてからのスタートとなります。気になる第一試合は『鉄華オーカミ』と『赤羽カレン』!!……乞うご期待ください!!」

 

 

最も対戦数の多い1回戦の全てのプログラムが終了した。会場の観客達は与えられた1時間の休憩時間、購買でパンなどの食べ物を購入してり、トイレに行ったりなどをしている。

 

 

「………私ちょっとお手洗いに行ってくるね」

「うん。いってらっしゃい」

「人混むだろうから気をつけて」

「大丈夫ですよヨッカさん。子供じゃないんですから」

 

 

春神ライの友人、夏恋フウがそう告げると、会場のあちこちにあるトイレへと向かって行った。

 

 

「……で、界放リーグはどうだライ。一応みんなオマエと年齢は同じくらいだぞ」

 

 

2人っきりになった所で、九日ヨッカがライに聞いた。ライは口を尖らせ「むぅ〜」と唸り声を発する。

 

 

「なんか普通って感じ。私の方が100倍強そう」

「ワッハッハ!!……そりゃそっか。オマエはオレより強いもんな。このくらいの大会、どうって事ないか」

 

 

ライは直後に「ただ……」と、言葉を付け足す。

 

 

「あのバカチビ。アイツだけはどうも引っ掛かるのよね」

「ん?……あぁ、オーカか。確かにアイツは不思議だよな」

「…………」

 

 

ライが気になるのはやはり『鉄華オーカミ』…………

 

バトル中に『自分がバトルに勝利する未来が視える』と言うライの謎めいた力。それは殆どの相手には発揮される。

 

だがあの時、鉄華オーカミとバトルしたあのバトルは、生まれて初めてその未来が覆されかけたバトル。だからこそ、ライはもう一度彼とバトルをし、本当に決まった未来を覆す力があるのかを確かめたいのだ。

 

 

 

******

 

 

 

「ふぅ………実況解説も、これでひと段落ですね。早美さん、今から昼食を一緒にどうですか?」

 

 

マイクの音源を一旦消し、一息ついたアナウンサーの紫治夜宵と、解説役で呼ばれた高校生プロバトラーにして界放市を代表する三王と呼ばれるカードバトラーの1人、早美アオイ。

 

紫治夜宵は、歳上のお姉さんらしく、優しくフレンドリーな感じでアオイに接する。

 

 

「………ありがとうございます。ですが今日は遠慮しておきます。今からお仕事やそのスケジュールに関するレスポンスをしなければいけませんので」

「あら、そうですか。それは残念」

 

 

そう言うと、礼儀正しく頭を下げ、この場から立ち去っていくアオイ。その背中を見た紫治夜宵は「大人びてるな〜…椎名ちゃんが同じ年齢だった時はもっと騒がしかったぞ」とコメントを残した。

 

 

 

******

 

 

 

界放リーグが行われているジークフリード区のスタジアム『ジークフリードスタジアム』…………

 

その舞台の地下には数多くのバトル場が存在しており、ここで界放リーグが行われる際は、その予選をここで行うのだ。鉄華オーカミ達も早朝、ここで予選のバトルを行っていた。

 

ただ今は本戦の真っ只中、簡単に言えば今年の役目は終わったのだ。故に人1人いない……………

 

早美アオイを除いては…………

 

 

「………言われた通り、1人で来ましたよ」

 

 

反響する彼女の勇んだ声。だがその中には恐怖や不安も感じ取れる。

 

無理もない、何せ、今から彼女が邂逅を果たそうとしているのは…………

 

一度世界を滅ぼしかけた、伝説の悪魔なのだから。

 

 

「ヌッフフ、お待ちしておりましたよ、早美アオイさん」

「ッ……!」

 

 

やや左から、喉が焼け焦げたような声が聞こえて来た。アオイはその方へ身体ごと首を向ける。

 

そこにいたのは、自動で動く車椅子に乗った、包帯だらけの男。その不自由な姿は見ているだけで痛々しい…………

 

見ただけではとてもではないが誰かは特定できない。しかしアオイにはわかっていた、彼は間違いなく…………

 

 

「………貴方が、Dr.A……!?」

「そうですとも。こうしてお会いするのは初めてですね」

 

 

6年前、界放市どころか世界全体を破滅へと追いやろうとした未曾有の大事件『A事変』…………

 

それを起こした全ての元凶である悪魔の科学者『Dr.A』…………

 

この界放リーグ真っ只中の今、彼とアオイの関係性が明らかになる。

 

 

 

 




次回、第20ターン「聖剣を砕け」


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第20ターン「聖剣を砕け」

今年の界放リーグが行われているジークフリードスタジアム。その地下にて、早美アオイは自身の協力者であるDr.Aと初めて対面した。

 

Dr.Aとは、界放市で起きたA事変と呼ばれる事件を起こした張本人。芽座椎名と言う少女が倒したとされていたが、何故かこうして生存していた。最早自分では歩けないのか、自動で動く車椅子に乗り、その全身は顔を含めて包帯で包み込まれていた。

 

一見すると、本当にあのDr.Aなのかはわからない。ただ、その雰囲気や漂わせる悪のオーラが、彼が本物であると、アオイを確信へと導く。

 

 

「ヌッフフ、こんな不恰好な姿で申し訳ないね。まだ身体が完全に修復できてないのさ」

「………それよりも、なんでわざわざ界放リーグ中に私を呼び出したんですか?」

 

 

アオイがDr.Aに聞いた。目の前にいるのが決して協定を結んでは行けない悪魔なのはわかっている。

 

だが彼女は彼女なりの理由で彼に協力しなければならなくて………

 

 

「いや、用という用はない。ただこの機会に顔を合わせようと思ってね。いつも電話越しでしか話していなかったし………どうだい、今の私の姿は?」

「………痛々しいご老体………としか言えませんけど」

「ヌッフフ、辛辣だね。でもそう言う所、結構好きですよ」

 

 

こんな他愛もない会話をさせるために呼び出したのなら、早く帰して欲しいと思うアオイ。言葉まで辛辣になる。

 

 

「君は本当に優秀だ。私の与えたカードを巧みに使い、プロとなり、モビル王にまで登り詰めた。今後もその優秀な腕前を私のために奮ってくれたまえ」

「………ところで、あなたは私との約束を本当に果たしてくれるのでしょうか?」

 

 

今度はアオイがDr.Aに聞いた。一応対等な契約は交わしているようで、Dr.Aも何かしらアオイにとってメリットのある事をしなければならないらしい。

 

 

「安心しなさい。私はこう見えて、約束は守る男さ。計画の全てをクリアしてくれたら君の要求を飲む。そう言う約束だったね」

 

 

約束をしっかり覚えているのを確認し、頷くアオイ。そして、それを物陰から聞いている人物が1人…………

 

 

「……今の話、全部聞かせてもらったぜ」

「!!」

「ヌッフフ………ネズミが一匹潜んでいましたか」

 

 

ここに来て第三者の声がスタジアム地下に響き渡る。声色的に男性だ。

 

その者は九日ヨッカ。鉄華オーカミの兄貴分にして、とある理由から、Dr.Aを追っている青年だ。

 

 

「こ、九日ヨッカ!?……何故貴方がこんな所に」

「早美アオイ。悪いが後をつけさせてもらったぜ………そんでもって、オマエがDr.Aか。まさか伝説のバケモノが本当に生きてたなんてな」

「あぁ、君は確かMr.ケンドー。いやはや名前を覚えてもらってるだなんて光栄だ………ウチのアオイ君がお世話になってるね」

 

 

焼け焦げた声で流暢に話すDr.A。そんな彼の話を、ヨッカは激昂した様子で「そんな事はどうでも良い」と遮って…………

 

 

「先生は………」

「?」

「春神イナズマ先生をどこへやった……ッ!!」

 

 

怒れるヨッカ。それに対し、Dr.Aは鼻で笑うと、返答していく。

 

 

「ヌッフフ、成る程、確か君はイナズマ君にバトルを教えてもらったんだったね。懐かしいな、彼ともう1人は私の部下の中で最も優秀な存在だったよ………まぁ、最終的には裏切られたわけだけど」

「惚けるな!!……オマエがまた何かを企んでるのは明白!!……その計画のために先生を攫ったんだろ!?」

 

 

…………「いったい、何の話をしているの………」

 

ヨッカとDr.Aの温度差のある会話の中、早美アオイはそう思った。話の内容から出てくる主語の1つでさえわからなかった。

 

 

「………君が私を追っていたのは知っていたよ。でも無意味だ…………何せ相手はこの私、Dr.Aなのだから。じゃあ早美アオイ君、手はず通りに頼むよ」

「わかりました」

「おい、話はまだ………!!」

 

 

Dr.Aは最後にそう言葉を残すと、車椅子にあるボタンを押し、空間を裂くようにワームホールを出現させ、その中へと消えていった。

 

突然目の前に現れた予想外過ぎるとんでもない科学力に、ヨッカは戸惑いを見せる。

 

 

「クソッ……何でもありかよ、もうちょっとだったってーのに」

「………」

「………早美アオイ。約束って言ってたな、Dr.Aとどんな約束を………」

 

 

逃げられた悔しさはあるが、今はどうしようもない。ヨッカは次に早美アオイへと目をつける。

 

早美アオイはそんな彼から目を背け、地下への入り口に向かいながら言葉を発する……………

 

 

「貴方には関係ありません。どんな事情があるのかはわかりませんが、これ以上は関わらないでください」

「…………それはこっちのセリフだぞ。アイツがどんなに危険な存在かわかってるのか!?……この界放市どころか、全世界を支配しようとした悪魔の科学者だぞ!?」

「…………」

 

 

知っている。Dr.Aは界放市が生み出した怪物。関わってはいけない事など、幼子でもわかる。

 

でも後には引けない、あの子のために…………

 

 

「………私の邪魔はしないでください」

「…………」

 

 

早美アオイが心の底から悪人ではない事は、バトルを通してわかっている。

 

ヨッカとしては、早美アオイという1人の少女が、Dr.Aに唆され、利用されているのではないかと心配だった。おそらくこの予想は、大方的中している事だろう。

 

しかし、彼女の決意は固い。ヨッカを横切り、スタジアムの地下を後にした。

 

 

******

 

 

一方でジークフリードスタジアム。間もなく2回戦が始まる事から、会場の盛り上がりは再びピーク寸前に達していた。

 

 

「さぁさぁ界放リーグ2回戦!!……開始まで残す所後1分となりました!!……第一試合で凌ぎを削る、鉄華オーカミと赤羽カレンは既にこうしてBパッドを展開し、今か今かと待機しております!!」

「遂にこの時が来たなオーカミ。今度こそ、バルバトスの首はもらうぞ」

「別にいいよ。バトルには勝つし」

 

 

スタジアムの舞台では既に鉄華オーカミと赤羽カレンがスタンバイ。

 

お互いを煽りながら、もうすぐ始まる2回戦を待ち侘びていた。

 

 

「しかし何故だ、何故解説席の早美アオイさんが帰って来ないんだァァァー!!!!……ちょっとディレクターさん連携取れてます!?」

「………うるさいな、あの女の人」

「許せオーカミ、夜宵お義姉さんは仕事熱心なだけだ」

 

 

実況席で慌ただしく発狂しているアナウンサー紫治夜宵。

 

本当ならば自分もどこかへ消えた早美アオイを探しに行きたいが、自分もこの席を離れるわけにはいかないため、こうしてマイクを片手に叫ぶ事しかできない。

 

しかし、その甲斐あってか…………

 

 

「す、すみません!!…遅くなりました!!」

「ッ……おぉ早美アオイさん!!……よかった〜〜ひょっとしたら悪漢に襲われてトラックに運ばれて誰も知らない場所に生き埋めにされてしまったのではないかと心配になってたんですよ!!」

「ふふ、凄い妄想ですね」

 

 

早美アオイが到着する。

 

これでバトルを始められない理由はなくなるのと同時に、2回戦第一試合の始まりの時間を迎えて…………

 

 

「ご来場の皆様、大変長らくお待たせ致しました!!……界放リーグ2回戦第一試合、鉄華オーカミと赤羽カレン!!……2人の熱いバトルを是非ご堪能ください!!」

 

 

紫治夜宵がマイクを片手にそう告げると、会場の盛り上がりは絶頂に達する。

 

そして、試合の頃合いだと見た両者は再び互いに目を見合わして………

 

 

「お、もう始めてもいいみたいだね」

「そうだな、待たせるのも悪い、早く始めるとするか………鉄華オーカミ、今日こそは誰にも邪魔されない、楽しいバトルをしよう」

「あぁ、臨む所だ」

 

 

会場全体の熱気が舞台にも伝わって来る中、2人はBパッドを構え、デッキをセット。互いに意識を集中させながらカードを4枚引き、バトルの準備を終える。

 

 

「お、間に合ったか」

「あ!!……遅いよヨッカさん!」

「どこに行ってたんですか?」

 

 

スタジアムの観客席では九日ヨッカが春神ライと夏恋フウの2人と合流する。

 

ヨッカは今まで早美アオイと、そのバックに潜むDr.Aに会っていたのだが、そんな事をこんな所で、しかも春神ライのところで言えるわけもなく「ちょっとトイレにな」とだけ言うと、ライの横の座席に、えらく疲れた様子で着席する。

 

とても本当とは思えないその状況に、ライとフウは顔を見合わせるが、その答えはわからずじまいだった。

 

 

「行くぞ剣の人、バトル開始だ!!」

「あぁ!!」

 

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

 

一方舞台では遂に鉄華オーカミと赤羽カレンの試合がコールと共に開始される。

 

何度も言うがお互いに待ち望んでいたこのバトル。先攻は鉄華オーカミ、この会場の裏で、兄貴分であるヨッカが何をしていたのかも知らぬまま、ターンを進めていく………

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……ネクサス、ビスケット・グリフォンを配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

場には何も出現しないが、オーカのBパッドにはネクサスカード『ビスケット・グリフォン』が配置される。

 

 

「効果発揮、自身を疲労させ、デッキの上から1枚オープン、それが鉄華団のカードなら手札に加える…………オープンされたのは『バルバトス第1形態』……これを手札に………ターンエンド」

手札:5

場:【ビスケット・グリフォン】LV1

バースト:【無】

 

 

先行の第1ターン目を終了する鉄華オーカミ。

 

疲労させる事で鉄華団カードをドローできるネクサスカード『ビスケット・グリフォン』を先行で配置できたのは、彼にとって幸先の良いスタートのはずだ。

 

 

[ターン02]赤羽カレン

 

 

「……メインステップ、龍を纏いしその衣、仮面ライダーセイバーブレイブドラゴンをLV1で召喚する」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】LV1(1)BP3000

 

 

燃えさかる炎と共に出現するのは、赤き龍の鎧を見に纏う剣士、仮面ライダーセイバー、その最も基本的なスタイルであるブレイブドラゴン。

 

 

「早速お出ましか」

「召喚時効果で対象のカードを手札に、これでターンエンドだ」

手札:5

場:【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】LV1

バースト:【無】

 

 

赤羽カレンもまた幸先の良いスタートを切る。鉄華オーカミのリザーブが増えるからか、このターンでのアタックは控え、そのターンを譲った。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……もう一度ビスケットの効果を発揮、デッキから1枚オープン……よし、オルガ・イツカ。よってこれを手札に加える」

「ッ………流石、引きが強いな」

「そのまま配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

鉄華団デッキの重要な役割を担う創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置する鉄華オーカミ。その後の神託も行い、デッキのカードを3枚トラッシュ、今回の対象カードは3枚、よってその上に3つのコアが追加された。

 

 

「続けて来い、バルバトス第1形態……!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

地中から飛び出して来たのは、鉄華オーカミの相棒バルバトス、その第1形態。武器は持たず、肩の装甲もなくなっている。

 

 

「召喚時効果発揮、デッキから3枚オープンしてその中の鉄華団カードを1枚手札に加える………オレはバルバトス第4形態を手札に加えて、残りは破棄」

 

 

バルバトス第1形態の持ち味はその召喚時効果。その効果でエースカードであるバルバトス第4形態を鉄華オーカミの手札へと誘う。

 

 

「………ターンエンド」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

バルバトス第1形態のBPでは赤羽カレンのセイバーブレイブドラゴンに劣るのもあってか、鉄華オーカミはそのターンをエンド。

 

バトルの序盤、互いに大きく動かぬまま第4ターンを迎える。

 

 

[ターン04]赤羽カレン

 

 

「メインステップ……歯を食いしばるんだなオーカミ。油断していると、このターンでライフが飛ぶぞ」

「ッ!?」

「おおっと赤羽カレン、ここで怒涛の宣言!!……これは試合が動く予感がするぞォォォ!!!」

 

 

赤羽カレンの突然の宣言に、鉄華オーカミは思わず身構える。実況席のアナウンサー紫治夜宵はマイクを片手にそう叫ぶと、それに合わせて観客達も湧いた。

 

 

「ブレイブドラゴンのLVを2にアップしてアタックステップ……アタックだ、ブレイブドラゴン!!」

 

 

宣言後に颯爽とLVの上がったブレイブドラゴンで攻撃を仕掛ける赤羽カレン。そしてこの時、ブレイブドラゴンには発揮できる効果が1つあって…………

 

 

「フラッシュ、ブレイブドラゴンの効果発揮。手札にあるこのスピリットに合体可能なソードブレイヴを1枚、合体して召喚する事で、このスピリットの召喚時効果をもう一度だけ発揮できる…………私は、手札にある赤のソードブレイヴ、火炎剣烈火をブレイブドラゴンに合体!!」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]+火炎剣烈火】LV2(5)BP9000

 

 

「これにより、ブレイブドラゴンの召喚時効果を発揮。3枚オープンして対象のカードを手札に加える」

 

 

突如出現し、ブレイブドラゴンの手に握り締められるのは赤いソードブレイヴ火炎剣烈火。

 

 

「さらに火炎剣烈火の召喚時効果、相手ネクサス1つを破壊する………ビスケット・グリフォンを焼却!!」

「!!」

 

 

立て続けに発揮されるソードブレイヴの召喚時効果。それにより、鉄華オーカミのBパッド上からビスケット・グリフォンのカードがトラッシュへと送られた。

 

そしてさらに、赤羽カレンはここからが本番だと言わんばかりの表情を見せ、手札からさらなる1枚を引き抜いた。

 

 

「煌臨発揮、対象はアタック中のブレイブドラゴン!!」

「ッ………煌臨、てことは」

「そう、コイツが来るのさ。銀河を交えしその衣、聖剣と共に世界を救う……仮面ライダークロスセイバー……可憐に煌臨!!」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー+火炎剣烈火】LV3(5)BP20000

 

 

ブレイブドラゴンは青く光り、まるで宇宙創造、ビッグバンのような衝撃波をその身から解き放つ。

 

こうして爆誕したのは、銀河を交えしその鎧を身に纏う仮面ライダークロスセイバー。その身体には、ソードブレイヴと言う概念の叡智そのものが詰まっている…………

 

 

「……1回戦で見せた奴」

「あぁ、私の最強エースさ!!……煌臨時効果発揮、手札又はトラッシュからソードブレイヴカードを10枚までノーコスト召喚する。これにより私は手札から刃王剣十聖刃をノーコスト召喚!!……ブレイヴ2つまでと合体できるクロスセイバーに直接合体する!!」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー+火炎剣烈火+刃王剣十聖刃】LV3(5)BP28000

 

 

片手を天に翳すクロスセイバー。その先に現れたのはこれまた銀河を交えし剣、その名も刃王剣十聖刃。クロスセイバーは火炎剣と共にそれを強く握り締め、通常のスピリットには不可能とされる、強力無比なダブルブレイヴスピリットとなった。

 

 

「刃王剣十聖刃の召喚時効果でバルバトス第1形態を破壊、追加効果でデッキから2枚ドロー」

「!」

 

 

手に握り締める刃王剣十聖刃を振るうクロスセイバー。その剣先から放たれる青い斬撃がバルバトス第1形態を斬り裂き、爆散させる。

 

これにより、鉄華オーカミの場はガラ空きとなって…………

 

 

「クロスセイバーは1ターンに一度回復できる、さらに今はダブルブレイヴにつきトリプルシンボル!!………二撃必殺の攻撃で私の勝ちだ!!」

「…………」

 

 

前のターンの静けさとは打って変わって疾風迅雷の如く畳み掛けてきた赤羽カレン。僅か4ターンでこれだけ強いスピリットを呼び、ライフを全て持っていけるプランを用意できるデッキなど、そうはいないだろう。

 

だがしかし、鉄華オーカミも負けてはいない。

 

 

「オレの鉄華団スピリットが相手によってフィールドから離れた時、手札にある流星号の効果を発揮!!」

「なに!?……このタイミングで手札からスピリット効果!?」

「効果により、このスピリットを手札からノーコスト召喚。召喚時効果で1枚ドローし、オルガに神託」

 

 

ー【流星号[グレイズ改弍]】LV2(3)BP3000

 

 

バルバトス第1形態が散った直後に上空から鉄華オーカミの場に出現するスピリットが1体、やや赤みがかった桃色のモビルスピリット、流星号だ。

 

スペック自体はバルバトスやグシオンリベイクに劣るものの、即席の戦略として今出陣する。

 

 

「そのままクロスセイバーをブロックだ、流星号」

 

 

斧を手にクロスセイバーの迎撃に向かう流星号。しかしクロスセイバーとのBP差は明白、一瞬のうちに火炎剣と刃王剣、二振りの聖剣の二撃を受け、堪らず爆散した。

 

しかし役には立った。これで赤羽カレンは鉄華オーカミのライフを少なくともこのターン中に0にはできない。

 

 

「…………即席のブロッカーでこの場を凌いだか。やるな、流石今まで勝ち上がって来ただけはある。ターンエンドだ」

手札:6

場:【仮面ライダークロスセイバー+火炎剣烈火+刃王剣十聖刃】LV3

バースト:【無】

 

 

手札を増やし、場を荒らし、ライフまで掻っ攫おうとした赤羽カレンのこのターン。中途半端にライフを破壊する事はせず、そのままターンを鉄華オーカミへと譲る。

 

鉄華オーカミはこんな圧倒的劣勢な状況でも冷静でいるようで、いつもの無表情のままターンを進めていく。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……先ずはモビルワーカー2体を連続召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

最軽量の鉄華団スピリット、モビルワーカーが2体出現。神託によりオルガにもコアが溜まった所で、鉄華オーカミはさらに手札を切る。

 

 

「行くぞ、大地を揺らせ、未来へ導け………バルバトス第4形態、LV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

「来たか、エースカードのバルバトス」

 

 

上空から襲来したのは白き装甲を身に纏う鉄華オーカミのエースカード、バルバトス第4形態。黒く巨大な鈍器、メイスを両手で構えて戦闘態勢に入る。

 

 

「さらにアタックステップの開始時、オルガの【神技】を発揮、トラッシュにある鉄華団カード………2枚目のバルバトス第4形態をノーコストで召喚する」

「ッ……2体目のバルバトス第4形態!?」

「不足コストは2体のモビルワーカーを消滅させて確保」

 

 

ー【オルガ・イツカ】(7➡︎3)

 

ー【鉄華団モビルワーカー】(1➡︎0)消滅

 

ー【鉄華団モビルワーカー】(1➡︎0)消滅

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

発揮されるのは創界神ネクサス、オルガ・イツカの神技。鉄華団モビルワーカー2体を犠牲に、トラッシュから2体目となるバルバトス第4形態が姿を見せる。

 

界放市ジュニアのNo.2を誇る赤羽カレンも、1体は兎も角、2体もこれが並ぶのは想定外だった様子。

 

 

「アタックステップ続行、1体目のバルバトス第4形態でアタック!!……アタック時効果でソードブレイヴ、刃王剣十聖刃を破壊して、クロスセイバーのコア2つをリザーブに!!」

「ッ……!」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー+火炎剣烈火】(5➡︎3)LV3➡︎2

 

 

1体目のバルバトス第4形態が武器であるメイスをクロスセイバーに向かって投擲する。

 

クロスセイバーはそれを刃王剣で咄嗟にガードするも、完全には防ぎ切れず、刃王剣は砕け散って自身もまたダメージを負ってしまう。

 

 

「だが1体はここで確実に斬る!!……ブロックだ、クロスセイバー!!」

 

 

刃王剣は失ったものの、その強さは未だバルバトス第4形態を上回っている。

 

クロスセイバーはメイスを投げ飛ばしたバルバトス第4形態に向かって走り出し、燃えさかる炎をその刀身に纏う火炎剣で一閃、鋼鉄のボディを真っ二つに焼け切り、爆散させた。

 

 

「………他愛もないな」

「いや、まだだ」

「??」

 

 

1体目のバルバトス第4形態が破壊され、爆散したこのタイミング。鉄華オーカミはまるでこの時を待ち侘びていたとでも言いたげな様子で、カード効果の発揮を宣言する。

 

 

「フィールドにいる、2体目のバルバトス第4形態のLV2、3の効果を発揮!!……各バトルの終了時、トラッシュから鉄華団スピリットを1コスト支払って召喚する」

「!!」

「オレはこの効果で、今破壊されたバルバトス第4形態を再召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1(1)BP5000

 

 

「なに!?……まさかこれのために敢えてアタックを……!?」

 

 

場に残ったバルバトス第4形態の眼光が緑色に発光すると、フィールドに紫のシンボルが出現、瞬時に砕け散り、破壊されたばかりのバルバトス第4形態が復活を果たす。

 

再召喚であるため、当然回復状態、アタックが可能な状態での復活である。

 

 

「復活したバルバトス第4形態でアタック!!……効果で火炎剣を破壊して、クロスセイバーのコア2つをリザーブに……!!」

「くっ……!」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー】(3➡︎1)LV2➡︎1

 

 

復活したバルバトス第4形態が再びメイスを投擲。クロスセイバーはそれを火炎剣でガードするも、先程の刃王剣と同様砕け散ってしまう。

 

 

「……アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉赤羽カレン

 

 

フィールドを駆け巡りながら投げ飛ばしたメイスをキャッチし、バルバトス第4形態は赤羽カレンの元へと辿り着く。

 

そしてそのメイスを縦一線に振い、彼女のライフバリアを1つ撃破した。

 

 

「続けて2体目のバルバトス第4形態でアタックだ!!……効果でクロスセイバーは消滅ッ!!」

「ッ………たったの1ターンでクロスセイバーを突破しただと!?」

 

 

ー【仮面ライダークロスセイバー】(1➡︎0)消滅

 

 

2体目のバルバトス第4形態がクロスセイバーに接近。武器を全て破壊されてしまったクロスセイバーは、なすすべなくメイスによる一撃を受け、遂に爆散してしまう…………

 

 

「フラッシュタイミングでオルガの【神域】………デッキから3枚破棄して1枚ドロー」

「………そのアタックもライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉赤羽カレン

 

 

自身の最強スピリットであるクロスセイバーが、意外な方法によってたったの1ターンで倒された事に困惑する赤羽カレンだが、バトルの中で驚愕などしている暇もない。

 

平常を装いつつ、メイスを横一線に振るうバルバトス第4形態の攻撃を受け入れた。

 

 

「……ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

通常では不可能なダブルブレイヴを可能とする強力なライダースピリット『クロスセイバー』の早期召喚によって赤羽カレンのワンマンゲームになりかねない戦況だったこのバトル。

 

しかし僅か1ターンでそれは一変。鉄華オーカミのバルバトスの独占場となってしまった。

 

 

[ターン06]赤羽カレン

 

 

「メインステップ………驚いたよ、まさかクロスセイバーが1ターンで倒されるなんてね」

「まぁ、一回見たし」

「見ただけで対策を練ったのか?……やっぱり、面白い奴だな君は。これでバトスピを始めて3ヶ月なのが信じられん」

「………そっか」

「でも私もこの大舞台で早々勝ちは譲らないぞ」

 

 

赤羽カレンがそう告げると、「そう来ないとな」と鉄華オーカミも小さく笑みを浮かべる。

 

 

「私は、2体目となるセイバーブレイブドラゴンを召喚……!!」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]】LV2(4)BP5000

 

 

このバトルでは2体目となるブレイブドラゴンが召喚される。その後の召喚時効果を発揮させ、赤羽カレンはその中の1枚のカードを手札に加える。

 

 

「アタックステップ………行くぞ、ブレイブドラゴン!!……そしてこのフラッシュタイミングでLV2効果を発揮、手札から合体可能なソードブレイヴカード、雷鳴剣黄雷をノーコストで召喚し、ダイレクト合体!!」

 

 

ー【仮面ライダーセイバーブレイブドラゴン[2]+雷鳴剣黄雷】LV2(4)BP8000

 

 

「追加効果で再び召喚時効果を発揮。私は火炎剣烈火を手札に加える」

 

 

雷雲より放たれし落雷。その先に現れていたのは雷鳴剣黄雷。ブレイブドラゴンはそれを引き抜き、合体スピリットとなる。

 

赤羽カレンはここで再び戦況をひっくり返すべく、手札のカードをさらに引き抜く。

 

 

「フラッシュ煌臨を発揮、対象はブレイブドラゴン!!」

「ッ……またクロスセイバーか……!?」

「いや違う。クロスセイバーがエースと言うなら、今度の奴は裏エースとでも言っておこうか」

 

 

煌臨の刹那、ブレイブドラゴンが赤と黒の炎に包み込まれていく。ブレイブドラゴンはその中で姿形を大きく変え、クロスセイバーとは違う、新たな姿へと昇華していく……………

 

 

「邪悪を纏いしその衣、聖剣と共に敵を祓わん!!……煌臨、仮面ライダーカリバージャオウドラゴン……ッ!!」

 

 

ー【仮面ライダーカリバージャオウドラゴン+雷鳴剣黄雷】LV3(4)BP17000

 

 

「………これが裏エース、不気味だ」

 

 

新たに誕生したのは禍々しい龍の仮面を被り、黒いマントを靡かせる1体のライダースピリット、その名はジャオウドラゴン。悪魔のようなモビルスピリットであるバルバトスを使う鉄華オーカミを持ってしても、その存在を『不気味だ』と称する。

 

そして、赤羽カレンが『裏エース』だと呼称する程、このスピリットは強力な効果を複数有していて………

 

 

「煌臨時効果、BP20000までスピリットを破壊し、そのスピリット効果を発揮させない!!」

「!!」

「バルバトス第4形態2体を破壊だ!!」

 

 

手に持つ雷鳴剣を豪快に地面に突き刺すジャオウドラゴン。その設置面から龍の形を象った黒い炎の塊が出現、それは咆哮を上げながらバルバトス第4形態達に突撃していき、次々と焼き払って見せる。

 

 

「くっ………!」

「奥の手は隠しておくものさ。さぁこのアタックはどうする?」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

スピリットがいない今、ライフで受けるしかない。雷鳴剣を縦一線に振い、ジャオウドラゴンが彼のライフ2つを一気に斬り裂く。

 

 

「まだあるぞ、ジャオウドラゴンのLV3効果ッ!……アタックしたバトルの終了時、相手ライフ1つを追加でトラッシュに置く」

「!!」

「これで君のライフは、残り2つだ!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ………」

 

 

攻撃が終わったかと思った束の間、ライフバリア1つが闇に侵食され、溶けて行く。

 

これで鉄華オーカミの残りライフは2。赤羽カレンが又しても優勢に立った。

 

 

「私はこれで、ターンエンド」

手札:6

場:【仮面ライダーカリバージャオウドラゴン+雷鳴剣黄雷】LV3

バースト:【無】

 

 

「赤羽カレン、ここに来て遂に本気を出した!!……剣帝の名は伊達じゃない!!」

「互いに場が温まって来ましたね。返しの鉄華オーカミ君のターンに期待です」

 

 

実況席の紫治夜宵がそう叫び、解説席の高校生プロバトラー早美アオイが静かにそう告げた。

 

期待が高まる中、鉄華オーカミのターンが開始される。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「ドローステップ…………」

 

 

このターンのドローステップ、鉄華オーカミはカードをドローするも、余り良い引きではなかったか、ほんの少しだけ眉を顰める。

 

劣勢のこの状況、どうにか打開策を見出さなければならないのだが、相手はあの剣帝。一筋縄の打開策ではどうにもできないのは明白……………

 

そんな折、手札にある2枚目の『ビスケット・グリフォン』に目が行って……………

 

 

「これに賭けてみるか。メインステップ………モビルワーカーを召喚し、ビスケットを配置する」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

本日3体目となる鉄華団モビルワーカーがエンジン音を鳴らしながら場に出現し、2枚目となるビスケット・グリフォンのカードが、鉄華オーカミのBパッド場に配置される。

 

 

「ビスケットの効果、デッキから1枚オープンし、それが鉄華団カードなら手札に加える…………よし、オレはバルバトス第3形態を手札に加える」

 

 

今回もビスケットの効果は成功。鉄華オーカミはさらなる鉄華団カードを手札へと加えた。

 

 

「続けて、バルバトス第2形態と第3形態をそれぞれLV2で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第3形態]】LV2(3)BP6000

 

 

機関銃を装備したバルバトス第2形態と、左腕にワイヤーアームを装備したバルバトス第3形態がこの場に召喚される。対象スピリットの召喚により、創界神であるオルガにコアが溜まる、その数、合計6個。

 

 

「このままアタックステップだ。バルバトス第2形態でアタック……!」

 

 

オルガの【神技】の効果は使用せず、バルバトス第2形態を突撃させる鉄華オーカミ。

 

対する赤羽カレンの場のブロッカーは0。合計3体のスピリットのアタックがフルで通れば彼の勝ちとなる…………

 

 

「フラッシュ、オルガの【神技】の効果、デッキから3枚破棄して1枚ドロー」

「………アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉赤羽カレン

 

 

バルバトス第2形態の機関銃から放たれる銃弾が、赤羽カレンのライフバリアを粉砕する。

 

続けて攻撃しようとする姿勢を見せる鉄華オーカミだったが、それが行われるよりも前に、赤羽カレンが手札よりカードを引き抜く。

 

 

「このタイミングでマジックカード、シックスブレイズの効果を発揮!!」

「!!」

「このカードはライフが3以下の時、ライフ減少時にノーコストで効果を発揮できる………BP12000まで好きなだけ相手スピリットを破壊し、その効果を発揮させない。バルバトス第3形態と鉄華団モビルワーカーを焼き払う!!」

 

 

この局面でカウンターカードが発揮される。赤羽カレンの背後より、6つの火の玉が轟音と共に解き放たれる。

 

それは瞬く間にバルバトス第3形態とモビルワーカーに直撃し、焼き払って見せた。

 

 

「………エンドステップ。バルバトス第2形態の効果、このターン、自分のスピリットがアタックしていた場合、トラッシュからバルバトス第1形態をノーコストで復活させる………バルバトス第1形態の召喚時効果でデッキから3枚オープンし、鉄華団カードを回収、オレは三日月・オーガスのカードを手札に加える。これでターンエンドだ」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV3

【ガンダム・バルバトス[第2形態]LV2

【オルガ・イツカ】LV2(7)

バースト:【無】

 

 

攻撃の根が潰えた今、アフターケアをするしかない。鉄華オーカミはトラッシュからバルバトス第1形態を復活させ、手札を補充し、そのターンをエンドとする。

 

次は赤羽カレンのターンだ、疲労により膝をついていた強力なライダースピリット、ジャオウドラゴンが立ち上がる。

 

 

[ターン08]赤羽カレン

 

 

「メインステップ………慢心はしない、確実に勝利を掴ませてもらう。疾風纏いしその衣、仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝をLV2で召喚!!……不足のコストはジャオウドラゴンをLV2にして確保」

「!」

 

 

ー【仮面ライダーカリバージャオウドラゴン+雷鳴剣黄雷】(4➡︎3)LV3➡︎2

 

ー【仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝[2]】LV2(3)BP7000

 

 

場に出現する疾風の竜巻。それを内側より斬り裂いて見参したのは、風のように軽やかな緑色の装甲を見に纏うライダースピリット、剣斬。

 

 

「剣斬の召喚時効果、BP7000以下のスピリット2体を破壊する。私は君のバルバトス第1形態と第2形態の2体を破壊させてもらう!!」

「!!」

 

 

剣斬は手を翳し、大竜巻を発生させる。バルバトス第1形態と第2形態はそれに巻き込まれ、爆散してしまう。

 

 

「そして破壊に成功した時、トラッシュのコア2つを自身に追加する……そして次は、ネクサスだ」

「………」

「戻した2つのコアを使い、2枚目の火炎剣烈火を召喚し、剣斬とダイレクト合体!!」

 

 

ー【仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝+火炎剣烈火】LV2(3)BP11000

 

 

剣斬がその右手に握るのは、赤い炎を纏う聖剣、火炎剣烈火。その召喚時効果は、ネクサス1つを破壊すると言うモノ…………

 

 

「召喚時効果でビスケット・グリフォンのカードを破壊!」

「ッ……!」

 

 

鉄華オーカミのBパッド上から『ビスケット・グリフォン』のカードがトラッシュへと送られる。

 

これで彼の場は再び創界神ネクサスの『オルガ・イツカ』のみ。対する赤羽カレンの場は強力な合体ライダースピリットが2体…………

 

バトスピ初心者でもわかる絶望的な状況、会場のほとんどの者達がもう彼に勝ち目はないと思った……………

 

だが…………

 

 

「フッ………やっぱりそう来たか」

「??」

 

 

この状況の中、予想通りだと言わんばかりに鼻で笑って見せた。

 

そして彼は手札から1枚のカードを引き抜いて…………

 

 

「オレのブレイヴかネクサスが破壊された時、手札にあるバルバトス第5形態の効果を発揮!!」

「ッ………なに、第5形態!?」

「このカードを1コスト支払って召喚する……LV2で来い!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第5形態 地上戦使用]】LV2(3)BP10000

 

 

ビスケットの破壊に反応するように、上空から飛来して来たモビルスピリットが1体、ガンダム・バルバトス第5形態。

 

その姿は第6形態の武器である大型肉食恐竜のような武器、レンチメイスを装備した第4形態と言った所。だがスペックはそのどちらとも異なる。

 

 

「召喚時効果、デッキから3枚破棄して、その中の鉄華団カード1枚につき相手スピリットのコア1つをリザーブに置く」

「なに!?」

 

 

破竹の勢いで効果を発揮。鉄華オーカミのデッキからカードが3枚破棄される。

 

そしてその中のカードは全て鉄華団カード…………

 

 

「3枚とも鉄華団のカード、よってジャオウドラゴンから3つのコアを取り除く」

「!!」

「行け、バルバトスッ!!」

 

 

ー【仮面ライダーカリバージャオウドラゴン+雷鳴剣黄雷】(3➡︎0)消滅

 

 

背中のブースターで飛翔し、ジャオウドラゴンに向かっていくバルバトス第5形態。そしてレンチメイスでその肉体ごと挟み、会場の壁に叩きつける。

 

ジャオウドラゴンはそれにより全てのコアが弾け飛んで消滅してしまった。

 

手に握っていたソードブレイヴ、雷鳴剣は、主人の消失によって地面に突き刺さる。

 

全く警戒していなかった意外過ぎるタイミングでカウンターを受けた剣帝、赤羽カレン。流石に開いた口が塞がらない。

 

 

「………ま、まさか君はこうなることを予想していたのか!?」

 

 

赤羽カレンが鉄華オーカミに聞いた。

 

 

「あぁ、前のバトルの時も思ったけど、アンタは確実に勝つために、先ずは相手のカードをできる限り破壊しようとする癖がある。だから決めきれなかった時のために、敢えてビスケットを配置したんだ」

「………」

「普通にバトルするなら、それが正解の動きなんだろうな。でも今回はそれが仇になった」

 

 

 

赤羽カレンのデッキは赤属性。バトスピの6つの属性のうち、破壊と言う行いが最も得意な色属性である。

 

それ故に、彼女にはできる限り破壊してバトルを有利に進めようとする思考があった。鉄華オーカミは僅か二度のバトルでそれを見抜き、逆手にまで取って見せたのだ。

 

 

「くっ……だがまだ終わってないぞ。リザーブに叩きつけられたコア2つをそのまま剣斬に追加、LV3にアップ」

 

 

ー【仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝[2]+火炎剣烈火】(3➡︎5)LV2➡︎3

 

 

「アタックステップ、剣斬で…………」

「その前に、オルガの【神技】の効果を発揮。コアを4つ取り除いてトラッシュから鉄華団カードを召喚する」

「ッ……私のターンでも使えたのか」

「轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイク!!……LV2で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV2(3)BP9000

 

 

「ここでグシオンリベイク……」

 

 

オルガの効果で上空から降り立ったのは薄茶色の分厚い装甲を持つ一機のモビルスピリット。

 

その名はグシオンリベイク。バルバトスとは双璧を成すガンダムの名を持つモビルスピリットであり、鉄華団デッキの守護神。

 

 

「召喚時効果、剣斬のコア2つをリザーブに」

「くっ……又してもコアシュート」

 

 

ー【仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝[2]+火炎剣烈火】(5➡︎3)LV3➡︎2

 

 

グシオンリベイクは登場するなり、手に持つハルバードを横一線に振るい、紫の斬撃波を発生させる。剣斬はそれに被弾し、LVが降格してしまう。

 

BPが大幅にダウンしてしまうが…………

 

 

「だが止まるわけにはいかない。アタックステップは継続、剣斬でアタック、火炎剣の効果でドロー………さらにLV2、3のアタック時効果で1ターンに一度回復する!!」

 

 

ー【仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝[2]+火炎剣烈火】(疲労➡︎回復)

 

 

果敢に攻める赤羽カレン。火炎剣のもう1つの効果でダブルシンボルとなっているため、鉄華オーカミとしてはここはブロックするしかない。

 

 

「バルバトス第5形態でブロックだ」

 

 

剣斬の行手を阻むのはバルバトス第5形態。レンチメイスを横に振るうが、剣斬をそよ風のようにそれを回避、背後に回って火炎剣で一線…………

 

バルバトス第5形態を一刀両断し、爆散させた。

 

 

「………ターンエンド」

手札:5

場:【仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝[2]+火炎剣烈火】LV2

バースト:【無】

 

 

グシオンリベイクはアタックブロック時に疲労状態のスピリット1体を破壊すると言うモノ。

 

赤羽カレンは前のバトルでグシオンリベイクのその効果を知っている。そのため、このターンは攻めあぐね、致し方なくエンドとする。

 

次は意外な方法でカウンターをして見せた鉄華オーカミのターン。ここで勝つべく、巡って来たターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン09]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………三日月を召喚し、グシオンリベイクと合体!!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク+三日月・オーガス】LV2(3)BP15000

 

 

「さらにアタックステップの開始時、もう一度オルガの【神技】の効果、トラッシュからバルバトス第4形態をLV3で復活させる!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

三度目となるオルガの【神技】の効果。メイスを片手に、地中からエースカードであるバルバトス第4形態が復活を果たす。

 

 

「ッ……倒しても倒してもスピリットが蘇って行く」

「あぁ、鉄華団は倒れないッ!!……アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック……!!」

 

 

メイスを構え、背中のブースターで飛翔するバルバトス第4形態。その目指す先は当然、赤羽カレン。

 

 

「アタック時効果でブレイヴ1つを破壊し、相手スピリットのコア2つをリザーブに置く」

「………」

「スピリット状態として残った雷鳴剣を破壊し、剣斬のコア2つをリザーブに……!!」

 

 

ー【仮面ライダー剣斬 猿飛忍者伝[2]+火炎剣烈火】(3➡︎1)LV2➡︎1

 

 

通りすがり、地に突き刺さった雷鳴剣を手に取り、剣斬に向かって投げつけるバルバトス第4形態。剣斬は火炎剣烈火で咄嗟にそれを斬り裂く。

 

しかしそれも束の間、バルバトス第4形態が急接近、蹴りを喰らい、大きく後退してしまう。

 

 

「バルバトス第4形態は効果でダブルシンボル………くそ、剣斬でブロックだ」

 

 

残るブロッカーは剣斬のみ。残りのライフ的にもブロックしないわけにもいかない。

 

場ではバルバトス第4形態が蹴り飛ばした剣斬に対してメイスを構え、狙いを定める。そして再び急接近してメイスを叩きつけ、地に叩きつけて見せた。

 

流石にこの連撃には耐えられなかったか、剣斬は力及ばず爆散、握られていた火炎剣は地面へと突き刺さる。

 

 

「………続けて行け、グシオンリベイク!!……効果で残った火炎剣を破壊」

 

 

鉄華団のパイロットブレイヴ『三日月・オーガス』と合体したグシオンリベイクで容赦なくアタックを継続する鉄華オーカミ。

 

グシオンリベイクは赤羽カレンの最後のライフバリアを破壊するべく、ゆっくりと歩き出す。その間に突き刺さった火炎剣をハルバードで斬り伏せる。

 

 

「三日月と合体している今、グシオンリベイクもダブルシンボル、ライフを2つ破壊する」

「………」

 

 

迫り来るグシオンリベイク。赤羽カレンはまだ何かないかと手札を見つめるが、もうこれに対抗できるほどのカードは残っていなくて…………

 

悔しいが、今の自分にできることと言ったら、ただただやって来る目の前の敗北を受け入れるのみ……………

 

 

「…………負けたか、ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉赤羽カレン

 

 

一瞬。

 

悔しさで手札のカードに指圧を掛けてしまうが、すぐにやめて敗北を受け入れる赤羽カレン。

 

そんな彼女の最後のライフバリアを、グシオンリベイクは手に持つハルバードで容赦なく、且つ豪快に斬り裂いた。

 

 

 

 




次回、第21ターン「赤ゴモラと緑ゴモラと勇気の絆」


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第21ターン「赤ゴモラと緑ゴモラと勇気の絆」

「………続けて行け、グシオンリベイク!!……効果で残った火炎剣を破壊」

 

 

鉄華団のパイロットブレイヴ『三日月・オーガス』と合体したグシオンリベイクで容赦なくアタックを継続する鉄華オーカミ。

 

グシオンリベイクは赤羽カレンの最後のライフバリアを破壊するべく、ゆっくりと歩き出す。その間に突き刺さった火炎剣をハルバードで斬り伏せる。

 

 

「三日月と合体している今、グシオンリベイクもダブルシンボル、ライフを2つ破壊する」

「………」

 

 

迫り来るグシオンリベイク。赤羽カレンはまだ何かないかと手札を見つめるが、もうこれに対抗できるほどのカードは残っていなくて…………

 

悔しいが、今の自分にできることと言ったら、ただただやって来る目の前の敗北を受け入れるのみ……………

 

 

「…………負けたか、ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉赤羽カレン

 

 

一瞬。

 

悔しさで手札のカードに指圧を掛けてしまうが、すぐにやめて敗北を受け入れる赤羽カレン。

 

そんな彼女の最後のライフバリアを、グシオンリベイクは手に持つハルバードで容赦なく、且つ豪快に斬り裂いた。

 

 

「き、決まったァァァー!!……界放リーグ、準決勝第一試合、勝者は鉄華オーカミ!!!……剣帝赤羽カレンを下し、まさかまさかの大金星だァァァー!!!」

 

 

実況席の紫治夜宵がマイクを片手に叫ぶと、会場の観客達もまた大きな歓声でそれに応える。

 

剣帝赤羽カレンといえば、現在のジュニアで獅堂レオンの次に強いと言われているカードバトラー、それを今年が初参加の少年が下したのだ。この歓声は必然と言った所か…………

 

 

「おぉ!!!……すげぇぞオーカ、アイツ初出場で決勝まで進出しやがった!!」

 

 

会場にいる鉄華オーカミの兄貴分九日ヨッカ。席から立ち上がり、まるで自分のことのように彼の勝利に歓喜する。

 

 

「ヨッカさんめっちゃ喜ぶじゃん。そんな凄い事なの?」

 

 

春神ライが横にいる親友、夏恋フウに聞いた。

 

 

「凄いに決まってるよライちゃん!!……だってあの剣帝を倒して決勝だよ、しかも界放リーグの!!」

 

 

バトルの腕前が元三王である九日ヨッカよりも強い春神ライ。彼女にとってはあの程度の局面、勝てて当たり前だと思っているのか、鉄華オーカミが成し遂げた偉業に対して余り感心を示さない。

 

 

「………まぁ、私と決着つける前に負けても困るからね。これくらいは勝ってもらわないと」

「またツンデレする、素直に好きな子が勝って嬉しいって言えばいいのに」

「だ、だからそんなんじゃないって!!」

 

 

顔を赤くしながらも否定する春神ライ。だがその図星と言われたような表情でバレバレである。

 

 

「………まさか獅堂レオンと戦う前に負けてしまうとはな。ここまで強くなっているとは思はなかったよ」

「………良いバトルだったな」

「あぁ、またやろう」

 

 

舞台では、鉄華オーカミと赤羽カレンが互いを称え合う。

 

あれだけ熱狂させた2人のカードバトラー、最後はあっさりと舞台の方を降りる。勝ち上がった鉄華オーカミ、次は決勝戦だ。

 

 

「…………」

 

 

会場の裏を歩く赤羽カレン。バトルの敗者はもう舞台に戻ってくる事はない。

 

ただ、ふとバトルの内容を思い返し、思わず壁に拳を殴りつけた。自分に対しての怒りは、音となって飛んで行く………

 

 

「………自分のせいとは言え、やはり許せないものだな、敗北は」

 

 

あのバトル、無理にネクサスカードを破壊しようとしなければ勝っていたのは間違いなく彼女だった。

 

たった一手のミスで勝機を逃してしまったのだ、悔しくてしょうがなかったに違いない。しかも彼女は三年、もう界放リーグジュニアには参加できなくなる。

 

 

「そんな事では赤羽司の妹の名が泣くな、赤羽カレン」

「ッ………獅堂レオン」

 

 

そんな折、彼女の前に現れたのは、次の試合を行う予定の獅堂レオン。同年代だと言うのに、相も変わらず偉そうだ。

 

赤羽カレンは好敵手である獅堂レオンの登場により、一層表情が険しくなる。

 

 

「私をその名で呼ぶな。それに、私は全力でバトルした……」

「悔いはないとでも言うつもりか?」

「!!」

「敗者が出るのは必然。悔しさが出るのも必然。だが、自分の気持ちに嘘をつく奴はただの強がりだ。強がりとは弱者が背伸びしているだけで、強さとは言わん」

 

 

どこまでも王者らしく、一見偉そうに見える程、堂々と語る獅堂レオン。

 

彼の嘘偽りない真っ直ぐな言葉に、自然と赤羽カレンは笑いが込み上げる。

 

 

「………フ、あっはは!!……君は本当に可笑しいな、でもそういう所がきっと君の強さなんだろう」

「………」

「あぁ、悔しいさ。いつもみたいに決勝でまた君とバトルしたかった………でも負けたのは仕方ない、また来年、今度はバトスピ学園の本物の界放リーグであいまみえよう。その時はきっとまた私は強くなっているだろう」

「フン……それはオレも同じ事だ。オレは誰にも負けない、王者なのだからな」

 

 

獅堂レオンは最後にそう告げると、赤羽カレンを置いていき、舞台の方へと歩み進んでいく…………

 

赤羽カレンはその逞しい背中をただ微笑まながら見守るだけだった。

 

 

「あ、ヒバナ」

「おぉオーカ!!……お疲れ様、凄いよ!!…あの剣帝、カレンさんに勝ったんだよ!?」

「うん、ありがとう」

 

 

一方反対側のゲート前では鉄華オーカミと、次の対戦者である一木ヒバナが鉢合わせていた。

 

鉄華オーカミが成し遂げた偉業に、友人として大いに喜ぶ一木ヒバナだが、鉄華オーカミはそれでも飄々としている。

 

 

「もう初心者なんて誰も言えないね」

「まぁ………次はヒバナだな。頑張って」

「うん。決勝は私たち2人でワンツーフィニッシュを決めよう」

 

 

一木ヒバナも最後にそう告げると、鉄華オーカミを後に、舞台へと歩み進んで行った。

 

次が直ぐに決勝戦と言う事もあって、鉄華オーカミは控室には戻ろうとせず、この場に留まり、バトルを直に観戦したい様子。

 

そして、遂に獅堂レオンと一木ヒバナ、因縁のある2人が界放リーグの準決勝と言う大舞台で顔を合わせて…………

 

 

「まさか、オマエがここまで勝ち上がって来るとは思ってなかったな」

「どう?…私だってその気になればこれくらい行けるのよ。認めてくれた?」

「………認めるかは否かはこのバトル次第だ」

 

 

会場から迸る大歓声の中、2人は会話を繰り広げる。

 

 

「正直、私には一木花火の娘だからとかじゃなくて、私自身を見て、ちゃんと認めてくれる人達が他に沢山いるから、貴方に認めて欲しいとは思わない………でも性分からして負けっぱなしは嫌!!……だからこのバトル、絶対に勝つ。勝って私もオーカ見たいに決勝に上がる」

「………残念だがそれは叶わぬ夢だ。決勝で我が好敵手、鉄華オーカミと戦うのはこの王者獅堂レオンだからな」

 

 

互いにBパッドを構え、デッキをセットする。手札を引き終えてバトルの準備は完全に完了した。

 

それを視認した解説席の女性アナウンサー紫治夜宵は再びマイクを手に取る。

 

 

「それでは準決勝第二試合、スタートしてください!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

同時に声を上げ、いつもの界放のコール。轟音のような歓声の中、一木ヒバナと絶対王者獅堂レオンのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は一木ヒバナだ。決勝への片道切符を手にするべく、己のターンを進めていく。

 

 

[ターン01]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ……ネクサス、破壊された城を配置」

 

 

ー【破壊された城】LV1

 

 

早速、一木ヒバナの背後にネクサスカード、破壊された城、もとい大阪城が配置される。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【破壊された城】LV1

バースト:【無】

 

 

先行の第1ターン目ではできる事が極端に少ない。一木ヒバナはネクサスの配置のみでそのターンをエンドとした。

 

次なるは絶対王者、獅堂レオンのターンである。

 

 

[ターン02]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………オレはコアスプレンダーをLV2で召喚する」

 

 

ー【コアスプレンダー】LV2(3S)BP3000

 

 

「召喚時効果でデッキから2枚オープン、ザクウォーリアを1枚手札に加える」

 

 

マッハの速度で獅堂レオンの場に出現したのは、戦闘機型のスピリット、コアスプレンダー。

 

 

「アタックステップ、コアスプレンダーでアタックする」

 

 

さらにアタックステップにてアタックを仕掛ける。だが、彼の狙いら一木ヒバナのライフを破壊する事だけではなくて………

 

 

「フラッシュ、コアスプレンダーの【零転醒】……1コストを支払い、このコアスプレンダーを、白きモビルスピリット、インパルスガンダムへと転醒させる……!!」

 

 

ー【インパルスガンダム】LV1(2S)BP4000

 

 

何処からともなく現れたモビルスピリットの上半身と下半身がコアスプレンダーを中心に合体。

 

新たに現れたのは、ビームライフルを装備した白きモビルスピリット、インパルスガンダムだ。

 

 

「早速お出ましね」

「当然アタックは継続中、ライフを撃て、インパルス!!」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉一木ヒバナ

 

 

先制点は獅堂レオン。インパルスガンダムが手に持つビームライフルで一木ヒバナのライフバリアを1つ撃ち抜いて見せた。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【インパルスガンダム】LV1

バースト:【無】

 

 

ガンダムの名を持つモビルスピリット、インパルスガンダムを早々に繰り出し、幸先の良いスタートを切ったと言える獅堂レオン。

 

バトルは一周回って一木ヒバナのターンとなる。

 

 

[ターン03]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ……破壊された城をLV2にアップ。ダーク・ディノニクソーをLV2で召喚」

 

 

ー【ダーク・ディノニクソー】LV2(2)BP4000

 

 

一木ヒバナの場には腹部にチェーンソーを仕込んだ小さな恐竜、ダーク・ディノニクソーが出現。その効果は自身を赤だけでなく緑としても扱うと言うモノ。

 

 

「………ターンエンド」

手札:4

場:【ダーク・ディノニクソー】LV2

【破壊された城】LV2

バースト:【無】

 

 

手札を見て、じっくりと作戦を吟味した一木ヒバナ。このターンのアタックはせず、ターンを獅堂レオンへと譲った。

 

 

[ターン04]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……母艦ネクサス、ミネルバを配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

獅堂レオンの背後に、母艦ネクサス、ミネルバが配置される。先の1回戦でも語られた通り、このカードは彼のデッキにとって、ある意味デスティニーよりも重要度が高いカードであり…………

 

 

「配置時効果でデッキから3枚オープン、ザクウォーリアを手札に加える。そして手札より創界神ネクサス、ギルバート・デュランダル!!」

「ッ……1回戦で使っていた創界神ネクサスカード」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV1

 

 

フィールドへの変化は一切ないものの、獅堂レオンのBパッドには創界神ネクサス『ギルバート・デュランダル』のカードが配置されていた。

 

その後の神託も行われ、デッキの上から3枚のカードがトラッシュへと送られるものの、今回は全て対象外のカード、上に乗るコアは0のままとなる。

 

 

「インパルスのLVを2に上げ、ターンエンド」

手札:5

場:【インパルスガンダム】LV2

【ギルバート・デュランダル】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

彼もまた動かず、フィールドを固めてのターンエンド。

 

一木ヒバナの第5ターン目が開始される。

 

 

[ターン06]一木ヒバナ

 

 

「ドローステップ時、破壊された城のLV2効果。ドローする枚数を1枚増やす」

 

 

つまりは2枚。一木ヒバナは2枚のカードをこのターンのドローステップにドローした。

 

 

「メインステップ……もう1体ダーク・ディノニクソーをLV1で召喚。破壊された城と最初のダーク・ディノニクソーのLVを1にダウン」

「…………」

 

 

ー【ダーク・ディノニクソー】LV1(1)BP2000

 

 

コアをリザーブへと貯めていく一木ヒバナ。この行為に、獅堂レオンは彼女がこのターンから動き出す事を理解して…………

 

 

「そして、ダーク・ディノニクソー1体を消滅させて不足コストを確保…………召喚、古代怪獣ゴモラ!!」

 

 

ー【古代怪獣ゴモラ】LV2(3)BP9000

 

 

2体いるダーク・ディノニクソーの内1体がコア不足により消滅してしまうが、それにより、新たなる生命が爆誕する。

 

地中を砕きながら出現した巨大な赤のシンボル。それが砕かれると、中より三日月のような形をしたツノを持つ大怪獣、ゴモラが出現した。

 

 

「………1回戦の時も思ったが、そのカード達、オレと前バトルした時にはなかったな」

「えぇ、これは私の自分なりを詰め込んで作り上げた最高のデッキ!!……貴方に倒せるかな?……アタックステップ、ゴモラ!!」

 

 

颯爽とアタックステップへと突入し、ゴモラで攻撃を仕掛ける一木ヒバナ。

 

さらに、この瞬間に発揮できる効果がゴモラにはあり…………

 

 

「ゴモラのアタック時効果、ネクサス1つを破壊して、デッキから1枚ドロー」

「!!」

「ミネルバを破壊!!」

 

 

高く飛び上がるゴモラ。上空にて身体を捻り、その長い尾をミネルバへと叩きつける。ミネルバは地へと叩き伏せられ、呆気なく爆散してしまった。

 

 

「さらにもう1つのアタック時効果で、インパルスガンダムを指定アタック!!」

「…………」

 

 

ミネルバの次はインパルスガンダムだ。ゴモラはその三日月の形をした大きな角から超震動波を発射。インパルスガンダムの装甲を粉々に粉砕し、爆散させた。

 

 

「………インパルスの【VPS装甲:コスト5以下】ではゴモラの効果は防げない。さらに相手の効果によってフィールドを離れる時の効果も指定アタックなら意味がない」

「……成る程、流石に少しは考えて来ているか」

 

 

インパルスガンダムには【VPS装甲】以外にも『このスピリットが相手の効果によってフィールド離れる時、ボイドからコア1つをこのスピリットに置く事でフィールドに残る』効果がある。

 

ただ今回に限ってはそれが発揮されなかった。一木ヒバナのゴモラは効果ではなく、バトルでインパルスガンダムを破壊したからだ。オマケのようにネクサスも破壊しているため、この行動が彼女にとってどれだけ旨味が出ているかは計り知れない。

 

 

「………よし、私はこれでターンエンド」

手札:5

場:【古代怪獣ゴモラ】LV2

【ダーク・ディノニクソー】LV1

【破壊された城】LV1

バースト:【無】

 

 

バトルは第5ターン目が終了。一木ヒバナがゴモラで先に乗り出し、優勢に立った。

 

 

「流石は今大会2人目のダークホース一木ヒバナ選手!!……早くも赤のエース級のスピリットでフィールドをコントロールし始めました!!」

「デスティニーガンダムと言う強力なモビルスピリットを扱う獅堂レオン君がここからどう反撃に転ずるのかに期待が高まりますね〜」

 

 

マイクを片手に声を荒げる女性アナウンサー紫治夜宵。それに対して適当にコメントする若きモビル王、早美アオイ。

 

何はともあれ、獅堂レオンの第6ターン目が始まる。

 

 

[ターン06]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………ザクウォーリア2体を連続召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

緑色の装甲を持った小型のモビルスピリット、ザクウォーリアが2体展開される。それに合わせるように、創界神であるギルバート・デュランダルに2つのコアが追加。

 

 

「……ターンエンド」

手札:4

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【ギルバート・デュランダル】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

このターンは守りを優先したのか、獅堂レオンはスピリットを横に展開してブロッカーを固めた状態で一度そのターンをエンドとする。

 

完全にバトルの流れは一木ヒバナが掴んでいる。その追い風に乗るように、彼女はターンを進めていく。

 

 

[ターン07]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ……ダーク・ディノニクソーを再びLV2へ」

 

 

ダーク・ディノニクソーのLVがアップする。これでダーク・ディノニクソーは赤としても緑しても扱えるハイブリッドスピリットへと変化を遂げた。

 

 

「そしてこれが、ゴモラの第二陣………緑属性の古代怪獣ゴモラをLV1で召喚!!」

「む………」

「不足コストは赤ゴモラとダーク・ディノニクソーのLVを1にして確保」

 

 

ー【古代怪獣ゴモラ[初代ウルトラ怪獣]】LV1(1)BP7000

 

 

大地がひび割れ、中より緑のエメラルドのシンボルが出現。それはただちに砕け散ると、2体目の古代怪獣ゴモラが地に脚を付け、咆哮を張り上げる。

 

全く同じ姿をしているこの2体。しかし、このゴモラ達は属性もスペックも全くの別物であって……………

 

 

「これが私の赤ゴモラ、そして緑ゴモラ」

「………成る程、いずれも強力なスピリットには違いないな」

 

 

2体のゴモラを眺める獅堂レオン。強力な効果を持っているのは重々承知しているが、2体のコストは共に6。【VPS装甲:コスト7以下】と言う本来のコストが7以下の効果を受けない、我が魂、デスティニーガンダムの敵ではないとも内心では考えている。

 

だがそれは、一木ヒバナもまた承知の上であって………

 

 

「アタックステップ、緑ゴモラでアタック!!…効果でボイドからコア2つを自身に追加……LVアップ」

 

 

ー【古代怪獣ゴモラ[初代ウルトラ怪獣]】(1➡︎3)LV1➡︎2

 

 

「さらに2つ目のアタック時効果、相手スピリット1体を疲労させて、自身を回復させる!!」

「!」

「ザクウォーリア1体を疲労させて、緑ゴモラを回復」

 

 

ー【ザクウォーリア】(回復➡︎疲労)

 

ー【古代怪獣ゴモラ[初代ウルトラ怪獣]】(疲労➡︎回復)

 

 

2つのコアをブーストし、巨大な尻尾でザクウォーリア1体を振り払う緑ゴモラ。さらには回復状態となり、このターン、二度目の攻撃権利を得た。

 

コアブースト、疲労に回復。一般的に緑属性が得意とされる技の殆どを発揮している事から、このゴモラのスペック高さが窺える。

 

 

「さらにここから、私の勝利は加速する!!……フラッシュ、煌臨発揮!!……対象は赤ゴモラ!!」

「……ここで煌臨?」

「ソウルコアはダーク・ディノニクソーから確保、よって消滅………現れよ赤の究極体、ウォーグレイモン!!」

 

 

ー【ウォーグレイモン】LV1(1)BP8000

 

 

ダーク・ディノニクソーがコア不足によって消滅した直後、赤ゴモラの周囲に、赤々と燃えたぎる炎の渦が発生、赤ゴモラはその中で姿を大きく変化させていく…………

 

やがてその炎の渦を斬り裂き、中より出現したのは、デジタルスピリット、ウォーグレイモン。腕の武器、ドラモンキラーを構えて戦闘態勢に入る。

 

 

「まだウォーグレイモンを使っていたか。アレは一木花火だからこその………」

「その話は聞き飽きた!!……ウォーグレイモンの煌臨時効果、BP15000まで好きなだけスピリットを破壊する。ザクウォーリア2体を破壊!!」

 

 

ウォーグレイモンは現れるなり両掌から巨大な炎の球を生成、それを獅堂レオンのフィールドへと投擲する。

 

彼のフィールドにいるザクウォーリアはたちまち焼き尽くされ、散って行った。

 

 

「ザクウォーリアの破壊時効果、ボイドからコア1つをトラッシュへ、その後手元へ移動する。2体破壊されたため、これを二度行う」

「コアは増えても、緑ゴモラのアタックは止められない!!」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

ザクウォーリアの破壊時効果が発揮されるも、緑ゴモラは止まらず、そのまま三日月の角を活かした突進攻撃でライフバリア1つを粉砕する。

 

 

「もう一度、緑ゴモラでアタック!!……効果でコアを増やしてLV3にアップ」

 

 

ー【古代怪獣ゴモラ[初代ウルトラ怪獣]】(3➡︎5)LV2➡︎3

 

 

再び咆哮を上げて攻撃を仕掛ける緑ゴモラ。その前方には獅堂レオンのスピリットは一体もいない…………

 

 

「それもライフで受けよう」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉獅堂レオン

 

 

突進攻撃で又しても獅堂レオンのライフバリアが1つ粉砕される。そしてこの瞬間、緑ゴモラには発揮できる第3の効果があって…………

 

 

「緑ゴモラLV3の効果、1ターンに一度、コスト6以上の自分のスピリットが相手ライフを減らした時、さらに1つのライフを破壊する!!」

「!!」

「緑ゴモラはコスト6!!……行け、メガトンテール!!」

「ぐっ………!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉獅堂レオン

 

 

突進からの尻尾を横に払う二連続攻撃。獅堂レオンのライフは一気に半数を切った。

 

 

「ターンエンド!!……どうだ、これが新生一木ヒバナデッキ。私なりに考えて考え抜いた最強のデッキ」

手札:4

場:【古代怪獣ゴモラ[初代ウルトラ怪獣]】LV3

【ウォーグレイモン】LV1

【破壊された城】LV1

バースト:【無】

 

 

ウォーグレイモンをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとした一木ヒバナ。

 

彼女の優勢が終始続いていく中、ターンが絶対王者の獅堂レオンへと渡る。

 

 

[ターン08]獅堂レオン

 

 

「考え抜いてこの程度、やはり貴様のバトルは緩い。さっさと終わらせてやろう、この我が魂で………」

「来る………!」

 

 

空気が変わったのを察した。『我が魂』と言う事は、今から登場するスピリットはやはりアレで間違いないだろう……………

 

 

「メインステップ……手元に戻ったザクウォーリア2体を召喚。ギルバートにコアを2つ神託」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

効果により彼の手元へと戻っていた2体のザクウォーリア。再びフィールドへと帰還する。ギルバート・デュランダルは神託により、そのコアは4つとなる。

 

そして………

 

 

運命をも覆す我が魂!!……デスティニーガンダムをLV2で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

蔓延る雷雲。そこから放たれる落雷と共に姿を見せるのは、赤き機翼を羽ばたかせる白きモビルスピリット、レオンの魂、デスティニーガンダム。

 

 

「来た、デスティニーガンダム………」

「来ましたァァァー!!!……獅堂レオンの無敗を誇る最強エースカード、デスティニーガンダムだァァァー!!……この強大なモビルスピリットを倒せるカードバトラーは果たしてこの大会に出場しているカードバトラーにいるのかァァァー!?!」

 

 

アナウンサーの紫治夜宵がそう仰ぎ、会場全体がデスティニーガンダムに歓声を送る。

 

確かに世間一般では絶対王者の絶対的なエースカード。誰も倒す事ができない無敵のカード。と言った印象だが、最近、非公式の試合ではあるが、そんなデスティニーガンダムを地に付けたモビルスピリットの名を、一部の者達は知っている…………

 

 

「オレとデスティニーは強者との戦いに飢えている。この渇きを癒せるのは、このジュニア内だと鉄華と、奴の操るバルバトスのみ………強くなったであろう奴との再戦をするのに貴様は邪魔だ、一木花火の娘、一木ヒバナ」

「そんなに早く私を倒したいならさっさとアタックステップに入ればいいじゃない」

 

 

一木ヒバナにそう煽られると、獅堂レオンは「ならばお望み通りさっさと蹴散らしてくれる」と、彼女に告げてアタックステップへと移行し…………

 

 

「アタックステップ、デスティニー……出撃しろ」

 

 

強者との戦いを常に求める獅堂レオン、その相棒であるデスティニーガンダムが空を翔け抜ける。向かう先は当然一木ヒバナのライフだ。

 

 

「アタック時効果、このスピリットのBP以下のスピリット1体を破壊し、そのシンボル分、相手ライフのコアをボイドに置く」

「………」

「緑ゴモラを破壊、貴様には1点のダメージを与える」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉一木ヒバナ

 

 

デスティニーガンダムの持つ極太のビームライフル。そこから放たれたビームが無慈悲にも緑ゴモラへと突き刺さる。

 

緑ゴモラは堪らず激しい断末魔を上げながら爆発四散して行った。その爆発の余波が一木ヒバナのライフバリアに衝撃を与えて破壊する。

 

彼女のフィールドのスピリットはウォーグレイモンのみ。だが何もせずに指を咥えて見ているだけではない。この瞬間で使えるカードを手札から引き抜いて…………

 

 

「私のライフが減った事により、手札からシックスブレイズを発揮!!」

「!!」

「効果でBP12000まで、相手スピリットを好きなだけ破壊。この効果で破壊したスピリット効果は発揮されない………私は2体のザクウォーリアを破壊するわ」

 

 

一木ヒバナの背後より放たれる6つの火の弾丸。それは瞬く間に獅堂レオンのザクウォーリア2体にヒット。コアブーストし、手元に移動する効果を無効にしつつ、爆散させる。

 

これで彼もまた場にはデスティニーガンダムのみだが、全くもって焦ってはいない様子。

 

 

「フラッシュ、デスティニーのLV2、3効果。ギルバートを疲労させて自身を回復」

 

 

ー【デスティニーガンダム】(疲労➡︎回復)

 

 

デスティニーガンダムの眼光が光り輝く。創界神ネクサスカードであるギルバート・デュランダルのカードが疲労し、デスティニーガンダムはこのターン、二度目の攻撃権利を得た。

 

 

「ザクウォーリアは始末できても、まだデスティニーの本命のアタックは残っているぞ」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉一木ヒバナ

 

 

ビーム状の刃を持つ、巨大な大剣を展開するデスティニーガンダム。それを振い、一木ヒバナのライフを一刀両断、その数を残り2とした。

 

大剣と共に猛威を振るうデスティニーガンダムであるが、止められないと言うわけでもない。一木ヒバナはもう一度手札からカードを1枚引き抜く。

 

 

「ライフが減った事により、マジック絶甲氷盾!!」

「む……」

「このバトルの終了が、このターンのアタックステップの終了となる」

 

 

デッキへの採用率の高い、白属性の汎用防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』……………

 

一木ヒバナもまたそのカードをデッキへと忍ばせていた。これにより、獅堂レオンのデスティニーガンダムがいくら無敗を誇る最強エースカードであっても、これ以上の攻撃は行えなくなって…………

 

 

「……首の皮一枚、と言った所か。ターンエンド」

手札:4

場:【デスティニーガンダム】LV2

「ギルバート・デュランダル】LV1(5)

バースト:【無】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする獅堂レオン。

 

彼のエースカードであるデスティニーガンダムがブロッカーとしてフィールドに残ったこの状態、圧倒的な重圧が一木ヒバナの前方から押し寄せて来るが……………

 

彼女はこんな時でも笑って見せて…………

 

 

「ふふ、首の皮一枚??……それはこっちのセリフよ獅堂レオン」

「………なに?」

「私は、貴方がデスティニーガンダムを召喚してくれる、この時を待っていた!!……次の私のターンでフィニッシュよ!!」

 

 

まるでこのバトルは全て自分の計算の中だった。そう言わんばかりに一木ヒバナが告げると、巡って来た己のターンを開始していく。

 

 

[ターン09]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ………ウォーグレイモンのLVを3にアップ」

 

 

ー【ウォーグレイモン】(1➡︎5)LV1➡︎3

 

 

ウォーグレイモンのLVが上昇。そのBPはLV2のデスティニーガンダムを超えた16000となる。

 

 

「アタックステップ……ウォーグレイモンでアタック!!」

 

 

フィールドにいる唯一のスピリット、ウォーグレイモンで攻撃を仕掛ける一木ヒバナ。BPではデスティニーガンダムを上回っているとは言え、単騎でそれを突破しつつ、獅堂レオンの2つのライフを破壊する事は不可能…………

 

だが、そんな事彼女もお見通し、手札から更なる1枚を引き抜き………

 

 

「フラッシュ、煌臨発揮!!……対象はアタック中のウォーグレイモン!!」

「ッ……ウォーグレイモンからさらに煌臨だと?」

 

 

煌臨スピリットであるウォーグレイモンを対象とした、更なる煌臨。流石の獅堂レオンも想定外だったか、目の色を変える。

 

灼熱の炎にその身を包んでいくウォーグレイモン。その中でこれまでとは比較の仕様もない進化を遂げていく………

 

 

「勇気の想いは、世界を変える!!……アグモン・勇気の絆!!」

 

 

やがてその灼熱の炎を弾け飛ばしながら現れたのは、グレイモンの頭角、人形の姿、どこまでも伸びそうな三つの尾を持つ究極体、アグモン・勇気の絆がその姿を見せる………

 

 

ー【アグモン-勇気の絆-】LV3(5)BP20000

 

 

「なんだコイツは、デジタルスピリットなのか……!?」

「アオイさんから貰った私のもう1つの切札!!……絶対にこのターンで勝つ!!」

 

 

以前、早美アオイから貰い受けた『勇気の絆』のカード。一木ヒバナにとって、今となってはとても良い思い出だ。

 

しかし…………

 

その光景を舞台のすぐ近くで眺めていた鉄華オーカミは、そのスピリットから何やらただならぬ、不穏な何かを感じて……………

 

 

「ッ………なんだあのスピリット。変な感じだ」

 

 

鉄華オーカミや獅堂レオン、一木ヒバナなどの子供達はまだ知らないが、早美アオイがあの『A事変』の首謀者『Dr.A』と繋がっていた。

 

そんな早美アオイのカードであった勇気の絆は、ひょっとしたら、ひょっとするのかもしれない…………

 

 

「勇気の絆の煌臨時効果、相手のBP15000以下のスピリット1体を破壊!!」

「………ソイツのコストは9か」

「そう。つまりデスティニーガンダムの【VPS装甲:コスト7以下】も貫ける!!……行け、超灼熱砲レッドリーマー!!」

 

 

勇気の絆は、燃え上がる両手を前方のデスティニーガンダムへと向け、その先から超灼熱砲を繰り出す。

 

デスティニーガンダムは逃げる間もなくそれに直撃。重厚なる白き装甲を砕かれ溶かされ、爆散してしまった…………

 

 

「お、おぉぉぉお!!!!……何という事かァァァー!!!……一木ヒバナが獅堂レオンのデスティニーガンダムを破壊!!!……誰も勝てないと言われていたデスティニーガンダム、遂に地に堕ちる!!!」

 

 

現ジュニアの絶対王者である獅堂レオン。そのエースたるデスティニーガンダムの破壊は実況席の紫治夜宵を初め、誰もが驚愕した。

 

 

「……本当はオーカのバルバトスが最初なんだけどね。勇気の絆のLV2、3のアタック時効果!!……このスピリットのアタック中に相手スピリットが破壊された時、相手ライフに1点のダメージを与える!!」

「くっ………」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉獅堂レオン

 

 

デスティニーガンダムの爆発の余波が、爆煙と共に獅堂レオンのライフバリアへと覆い被さる。その数は遂にデッドゾーンの『1』となる。

 

 

「煌臨スピリットは煌臨元となったスピリットの全ての情報を引き継ぐ、つまりアタック中のウォーグレイモンに煌臨した勇気の絆はアタック中!!……そして、貴方のライフは残り1つ!!」

 

 

これで終わりだとでも言いたげな一木ヒバナ。勇気の絆が最後のライフを討つべく、獅堂レオンへと向かって走って行く。

 

ライフを破壊されるわけにはいかない彼は、当然ここで使えるカードを切って来る。

 

 

「それで勝ったつもりか?……フラッシュ、オレは手札にあるフォースインパルスガンダムの効果、自身を召喚する」

「!!」

「このカードは系統『ザフト』を持つネクサスカードがある時、手札から召喚できる」

 

 

ー【フォースインパルスガンダム】LV1(1)BP5000

 

 

「召喚により、ギルバートに神託」

 

 

勇気の絆の行手を阻まんと、上空から音速をも超える速度で飛来するモビルスピリット、フォースインパルスガンダム。

 

 

「奴の勝利の道を阻め、フォースインパルス!!」

 

 

フォースインパルスガンダムは、獅堂レオンがこのターンを凌ぐために召喚された急拵えのブロッカー。

 

彼のライフを守るため、格上であろう勇気の絆に戦いを挑む…………

 

だが、このターンを凌がれて劣勢になるのは一木ヒバナの方だと言うのに、彼女はこの瞬間でも口角を上げて、笑みを浮かべる。

 

 

「ふふ……当然、これで勝ったつもりよ。言ったでしょ?…勇気の絆はアタック中に相手スピリットを破壊した時に1点のダメージを与える」

「………そうか」

「えぇ、勇気の絆のライフを破壊するLV2、3の効果は、要はアタック中に何でもいいから相手スピリットを破壊すればいいの。だからいくらスピリットを召喚しても無駄………勇気の絆は貴方のスピリットごと、貴方のライフを砕く!!」

 

 

勇気の絆の相手のライフを破壊するLV2、3効果は、アタック中に相手スピリットを破壊した時が条件。

 

それは、効果破壊だけでなく、BPバトルで破壊した時にも誘発する。つまり、いくら獅堂レオンがスピリットを並べようとも、勇気の絆以下のBPを持つスピリットでは意味がないという事…………

 

フィールドでは勇気の絆を倒そうと、フォースインパルスガンダムがビームライフルを構える。だがその発泡よりも前に、勇気の絆の3本の尾が機体の装甲を貫く。そして、勇気の絆は捕らえたフォースインパルスガンダムを振り回し、地面へと叩きつけた。

 

 

「これで終わりよ。打ち鳴らせ勇気の絆!!……超灼熱砲レッドリーマー!!」

 

 

今にも砕け散りそうなフォースインパルスガンダムに向かって、勇気の紋章は無慈悲にも両拳から再び超灼熱砲を放つ…………

 

そしてその直線上には獅堂レオンもいる。破壊するつもりなのだ、フォースインパルスガンダムごと彼のライフを…………

 

やがて超灼熱砲は瀕死のフォースインパルスガンダムと獅堂レオンのライフバリアを飲み込んでいき、大爆発を起こした。

 

 

「………や、やった。勝てた………」

 

 

爆発による爆煙の中、一木ヒバナは勝利を確信した。

 

自分なりのバトルで王者である獅堂レオンを倒せた、決勝で待っているオーカともバトルができる。そう思い、感涙しそうになった。

 

この一連のバトルの流れを解説席で見ていたモビル王、早美アオイ。一木ヒバナの勝利を喜ぼうとする様子はなく、寧ろ獅堂レオンの敗北が信じられないとでも言いたげな様子を見せている。

その横にいる紫治夜宵は、最初こそ唖然としていたが、我に帰り、マイクを片手に実況へと戻る…………

 

 

「………お、王者獅堂レオン、地に堕ちる!!!……勝ったのは一木ヒバナ!!……見事決勝進しゅ………」

「待て………!」

「!!」

 

 

爆煙の中、アナウンサーの声を遮り、響き渡る声色は獅堂レオンのモノ…………

 

 

「何勝手にバトルを締めようとしている。まだ終わっていないぞ?」

「………え?」

 

 

〈ライフ1〉獅堂レオン

 

 

「な、なんで……!?」

 

 

爆煙が晴れ、改めて顔を見せる獅堂レオン。そして彼のライフバリア。表示されているそれは、残り1つのまま、揺らいでいなくて…………

 

絶対王者の生存に湧き上がる歓声の中、対戦相手でえる一木ヒバナは他の誰よりも驚愕していた。そして、そんな彼女に、獅堂レオンはあの瞬間、何が起こっていたのかを告げる………

 

 

「貴様のスピリット、勇気の絆と言ったか?……ソイツをよく見てみるんだな」

「よく見てみろって…………え?」

 

 

そう言われ、彼女はフィールドにいる勇気の絆を視認する。すると、衝撃的な事実が発覚して…………

 

 

ー【アグモン-勇気の絆-】LV1(5)BP10000

 

 

「LVが3から1になってる……なんで!?……確かにコアは置いてるのに!?」

 

 

そう。勇気の絆のLVが下降していた。LVが1だったらLV2、3効果は発揮しない。だから彼のフォースインパルスガンダムを破壊してもライフまで破壊できなかったのだ…………

 

 

「オレの場にある創界神『ギルバート・デュランダル』のLV2効果だ。コイツはLV2の維持コアが6と重い代わりに、相手スピリット全てのLVを強制的に1にすると言う稀有な効果を発揮できる」

「!!」

「気が付いたか。オレはあの時、単にブロックのためだけにフォースインパルスを召喚したのではない。ギルバートのコアを6個にするために召喚したのだ」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV2(6)

 

 

「だからあの瞬間、勇気の絆の効果は発揮しなかった。故に、オレのライフは残った」

「そ、そんな………」

 

 

まさか過ぎる大逆転劇に、一木ヒバナは自身の頭から血が引いて行くのがわかった。無理もない、寸前の勝利を意外な方法で止められてしまったのだから…………

 

 

「………これは、勝負あったわね」

 

 

観客席にいる春神ライは、もう誰が勝ったのかを悟り、1人そう呟く。

 

 

「………ターンエンド」

手札:2

場:【アグモン-勇気の絆-】LV1

【破壊された城】LV1

バースト:【無】

 

 

勝利への確信、からの絶望、からのターンエンド。

 

次はギリギリの所で彼女の攻撃を凌いだ獅堂レオンのターン。それを感じさせない程、もしくはそれくらいの攻撃、凌げて当たり前だと言わんばかりに堂々とした様子で、巡って来たターンを進めていく…………

 

 

[ターン10]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………再び震えよ我が魂!!……デスティニーガンダムをLV3で召喚!!」

「ッ……2体目のデスティニー!?」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV3(5)BP23000

 

 

ここに来て2体目のデスティニーガンダムが召喚される。

 

一瞬にして復活したようにも見えるその様は、まるで獅堂レオンと一木ヒバナの力の差を著しているかのよう…………

 

 

「アタックステップ、デスティニーでアタック!!……効果で勇気の絆を破壊し、そのシンボル分、貴様のライフにダメージを与える」

「ッ……キャァァ!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉一木ヒバナ

 

 

デスティニーガンダムはビームライフルから極太のレーザー光線を発射し、今度は勇気の絆と一木ヒバナのライフバリアごと貫く。

 

流石に耐えられなかったか、勇気の絆は堪らず大爆発を起こした。これで、デスティニーガンダムのアタックを凌げるスピリットはいなくなる。

 

 

「決勝前の、良い余興だった」

 

 

デスティニーガンダムが一木ヒバナのライフバリアを破壊せんと彼女の目前まで降り立った直後。獅堂レオンはそう呟く。

 

そして、試合が終わる。

 

 

「デスティニー、トドメの一撃を食らわせてやれ!!」

「………!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉一木ヒバナ

 

 

デスティニーガンダムは脚の格納部から小型の剣を取り出し、手にすると、それを一木ヒバナの最後のライフバリアへと突き刺す。

 

彼女の最後のライフバリアは、瞬く間にそれに貫かれ、ガラス玉のような音を立てながら、静かに砕け散って行った…………

 

 

 




次回、第22ターン「決勝戦、バルバトスVSデスティニー再び」


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第22ターン「決勝戦、バルバトスVSデスティニー再び」

界放リーグ準決勝第二試合、獅堂レオンVS一木ヒバナ。

 

バトルは終始一木ヒバナが優勢だったものの、最後の最後で獅堂レオンが戦術を読み勝ち、デスティニーガンダムで決勝戦へと駒を進めたのだった………

 

 

******

 

 

「ま、負けた………」

 

 

この試合で全ての体力を使い果たしたか、一木ヒバナは体中の力が抜け、その場で座り込んでしまう。

 

 

「ヒバナ………!」

 

 

それを間近で見ていた鉄華オーカミは彼女に寄り添おうと走り出すが、それよりも先に彼女の眼前に現れたのは、まさかの獅堂レオンの方………

 

彼はそのまま彼女へ向けて手を差し伸べると………

 

 

「見せて貰ったぞ、貴様の本気」

「………え?」

 

 

そんな獅堂レオンが彼女に掛けた言葉は意外なモノだった。まるで認めたかのような口ぶりに、一木ヒバナは戸惑いが隠せない。

 

 

「………こんなこと言うのもアレなんだけど、どうしたの急に……なんか気持ち悪いんですけど」

「ハッハッハ!!……オレは強い奴には敬意を表す!!……大人しくオレの手を取るがいい」

「なんて偉そうな奴」

 

 

獅堂レオンの高飛車なセリフに対してそう告げたのは丁度舞台に上がって来た鉄華オーカミだった。

 

一木ヒバナはそのまま言われるがままに獅堂レオンの手を取って、立ち上がった。

 

 

「中々良いバトルだった。認めよう、貴様の実力」

「………あ、ありがとう」

「だがオレの好敵手と呼ぶにはまだまだ程遠い、やはり好敵手は貴様でないとな、鉄華オーカミ!!」

「はいはい」

 

 

鉄華オーカミは『勝手に言ってろ』と言わんばかりに聞き流す。

 

 

「……ごめんオーカ、負けちゃった」

 

 

一緒に決勝へ行くと約束していた一木ヒバナ。寂しそうな表情を見せながら、彼にそう告げる。鉄華オーカミは少し考えると、口を開く。

 

 

「………獅堂じゃないけど、ヒバナらしくて、良いバトルだったと思う」

「ッ…ありがとう!!」

「…………後、あの勇気の絆ってカード………」

「あぁ、アレ。アオイさんから貰ったの!!……カッコいいでしょ?」

 

 

バトルの中、鉄華オーカミが気になった存在。一際目立っていたあの勇気の絆と言うカード。誰も何とも思っていなかったみたいだが、彼は不思議とあのカードから悪寒を感じ取っていて…………

 

 

「……あぁ、強かったな」

 

 

折角の貰ったカードなのに、ケチをつけるような言い方はできないと思い、結局勇気の絆は自分の思い過ごしであろうと判断する。

 

そんな事よりも、今は切り替えて決勝戦だ…………

 

 

「でしょ!!……今度オーカともまたバトスピしないとね!!………それじゃ、後は任せた!!……優勝を掻っ攫って来て!!」

「あぁ……!!」

 

 

バトンタッチするようにハイタッチをする鉄華オーカミと一木ヒバナ。一木ヒバナは舞台を降り、最も高いスタジアムの端から彼のバトルを見守る…………

 

遂に2人だけとなった舞台。鉄華オーカミ、獅堂レオンは互いに鋭い目線を合わせて…………

 

 

「先ずはよくここまで来た。褒めてやる」

「そうか」

「だがオレはオマエならあの敗北からさらに強くなり、こうしてまたオレとあいまみえる事になると思っていたぞ」

「そんなのどうでもいいから、さっさとBパッドを構え直せよ。オレとのバトルを楽しみにしていたんだろ?……じゃあ早く来い、今度こそ叩き潰してやる」

 

 

現在のジュニア最強、そのままプロになってもトップになれると言われるだけの実力を持つと言われている獅堂レオンに対して、堂々と実質勝利宣言を行いつつ、Bパッドを構える鉄華オーカミ。

 

そんな彼を見て、獅堂レオンは小さく口角上げて………

 

 

「フ……そうだったな。オマエはそう言う男だ。確かにオレ達のバトルに御託など必要ない、そこにあるのは勝つか負けるか、それだけだな」

「そう言うのが要らないんだよ」

 

 

獅堂レオンもまたBパッドを構える。

 

互いにデッキをセットし、バトルの準備を完璧に終えた。

 

 

「皆さま、大変長らくお待たせ致しました。長きに渡り続いた熱かりし界放リーグも、間もなく決勝戦を迎えます」

 

 

マイクを手に取り、大勢の観客達の歓声を仰ぐように、苛烈を極めた界放リーグを勝ち抜き、決勝戦の舞台に立った両者を紹介していく。

 

 

「そんな決勝戦を駆け抜ける1人目は獅堂レオン。去年一昨年と界放リーグをニ連覇している絶対王者。相棒たるデスティニーガンダムの一撃は、今まで多くの強豪達を薙ぎ払って来ました…………それに挑むのは今大会最強のダークホース、鉄華オーカミ。誰も見た事がない未知のカード、鉄華団を巧みに使い、これまた多くの強豪達を蹴散らして来ました。さぁ、この最後を締めるに相応しい2人のバトルスピリッツ………勝つのはどちらか」

 

 

真面目に紹介した所で「では、続きまして解説の早美アオイさん、よろしくお願いします!」と告げ、彼女に番を回した。

 

早美アオイは落ち着き、手慣れた様子でコメントしていく。

 

 

「先ずは決勝戦まで勝ち上がって来た御二方、本当に素晴らしいバトルでした。同じモビルスピリット使いとして、何だか私も誇らしい気分です。しかし忘れないで欲しい。あなた方は惜しくも敗北してしまった方々の上に立っていると言うことを…………その無念を背負い、誇り高きカードバトラーとして、締めのバトル、大いに盛り上げてください」

 

 

建前は告げた。早美アオイは一度わざと咳き込み、区切りを付けると、自身が言う予定であったセリフを吐いていく。

 

 

「それと、皆様の熱いバトルを間近で観ていたら、なんだか私もバトルしたくなって来ちゃいました。と言う訳で、決勝で勝った方がエキシビジョンマッチとしてこのモビル王である私、早美アオイとバトルしましょう!!」

 

 

ー!!

 

 

「ふふ、期待してますよ、若きチャレンジャー」

 

 

途端に爆発したような歓声が響き渡る。無理もない、ただでさえ今年の界放リーグは神試合の連発であったと言うのに、この後に及んで界放市トップのカードバトラーのバトルまで拝めるのだから、会場にいる者達の殆どが興奮し、喝采を上げたに違いない。

 

ただ、彼女があのDr.Aと関連のある人物である事を知っている九日ヨッカは、それを懸念して…………

 

 

「…………」

 

 

黙り込んでいるが、内心では「何を企んでいる!?」と深く考え込んでいる。このままではDr.A関連の事件に弟分である鉄華オーカミまで巻き込んでしまう事になるかもしれない。

 

だが、全世界が注目するバトルの祭典、界放リーグ。この大きな大会で無理矢理バトルを止める事はできない。寧ろそんな事をしたら不利になるのは自分の方………

 

つまり、彼はこの状況、非常に歯痒いが、指を咥えて観戦する事しか出来なかった。

 

 

「……成る程、鉄華との決着もつけれて、尚且つモビル王の称号も貰えるのか、悪くないな」

「………これに勝ったらあの青い髪の人ともう一度バトルできるのか………今度こそ本気でバトルしてくれたらいいけど」

 

 

そんな事もつゆ知らず、鉄華オーカミと獅堂レオンの2人は俄然バトルへのモチベーションを高めていく。

 

 

「なんとなんとまさかの現モビル王である早美アオイさんからの挑戦状だ!!!……急に予定外の事をぶち込んで来るのはいただけませんが…………なんか皆さんが大丈夫ならそれでOKです!!」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 

アナウンサー夜宵の哀愁を僅かに感じさせる口ぶりからして、早美アオイは、やはり少々無茶な事は言っていた様子。

 

しかしなんやかんやでそれも成立した。本当に決勝で勝った方が彼女とモビル王を賭けたバトルスピリッツを行う事になる。

 

 

「ではではではでは、お待たせ致しました!!!………界放リーグ決勝戦、獅堂レオンVS鉄華オーカミ!!……試合、始められてください!!」

 

 

最後にアナウンサー夜宵が対戦者である2人に試合を仰ぐ。2人は改めて顔を見合わせ、Bパッドに差し込まれたデッキから4枚のカードを引き抜いて…………

 

 

「全くもって長い余興だった。始めるぞ鉄華、強者に飢えたオレとデスティニーの渇きを癒せ」

「…………行くぞ」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

轟音のような大歓声に包まれながら、これまで出会って来た多くの仲間達が見守ってくれている中、鉄華オーカミと獅堂レオンによる決勝戦がコールと共に開幕する…………

 

 

「始まりましたね、ヨッカさん」

「あぁ何事もなければいいが………ってイチマル!?……オマエいつの間に」

「いや〜〜…会場にいるかなと思って探してたらいたので」

 

 

知らぬ間にヨッカの横の席に座っていたのは鈴木イチマル。彼は決勝戦くらい選手控え室にあるモニター越しではなく、直に観戦しようと思い、こうして会場の観客席にいるであろう九日ヨッカを探していたのだ。

 

 

「1回戦、ご苦労だったな。良いバトルだったぞ」

「あざっす!!……にしてもアイツ、鉄華オーカミ。ヤバいすね」

「あぁ、バトスピ初めて3ヶ月でジュニアの界放リーグの決勝戦だぜ。やはりオレの目に狂いはなかった」

「剣帝倒しての決勝だもんな〜〜……あぁ、クソ。オレっちも決勝行きて〜」

 

 

珍しくヒバナの事ではない、純粋な会話を繰り広げる鈴木イチマル。1回戦で鉄華オーカミに負けた事が相当悔しかったのだと見て取れる。

 

 

「安心しろってイチマル、オマエも十分強ぇよ。来年、本物の界放リーグでのオマエの活躍、期待して待っとくぜ」

「誰、ヨッカさん??……誰と話してんの??」

 

 

今現在、九日ヨッカの右側に鈴木イチマルは着席している。

 

反対の、つまり九日ヨッカの左側には春神ライ、夏恋フウがいた。九日ヨッカと言う共通の知り合いはいるものの、全く面識のない鈴木イチマルと春神ライの両者、その瞬間に互いは目を合わせた。

 

 

「あ、ど、どうも〜」

「………ヨッカさんの知り合い??」

「えぇウソでしょライちゃん!?……1回戦であの赤髪の子と死闘を繰り広げた鈴木イチマル選手じゃん!!……凄いですヨッカさん、知り合いだったんですね」

「い、いや〜〜照れますな〜〜」

 

 

春神ライは鈴木イチマルを忘れている様子。どうやら彼女の目には鉄華オーカミしか映っていなかったみたいだ。

 

対して彼女の親友の夏恋フウからは好印象なようで、べた褒めされた。女の子に、しかもこんな可愛い子からは滅多に褒められない鈴木イチマルは、本命がいるとは言え、流石にデレデレした。

 

 

「…………ってアレ??……君どっかで」

「ん??……なに?」

 

 

春神ライの事をどこかで見たような気がする鈴木イチマル。まるで考える人のようにうんと悩んで思い出してみる。

 

すると、本当に思い出す事ができて……………

 

 

「あ、そうだ君あの時の!!!」

「???」

「この間鉄華オーカミを追いかけ回してただろ!?……見てたぜ、オマエ達仲良いんだな」

「………は、はぁ!?」

 

 

まさかこのタイミングで地雷が飛んで来るとは思ってもいなかった。春神ライは思わず戸惑い、頬を赤く染める。

 

 

「へぇぇ〜……もうそう言う仲なんだ?」

「ち、違うよフウちゃん!!……アレはアイツが私とのバトルを断って逃げたからで………って、アンタはもうどっか行きなさいよ!!」

「えぇ!?……オレっちのせい!?!」

 

 

ここぞとばかりに春神ライを揶揄いに来る夏恋フウ。恥ずかしさのボルテージが募って来た彼女はイチマルに「アンタのせいだ」と言わんばかりに人差し指を向ける。

 

そんな彼らに、ヨッカは「もう何でもいいから、黙って試合観とけよ」と一言。そんな彼に対してライは「どうでも良くない!!」と強く言い放った。

 

 

ー…………

 

 

鉄華オーカミの応援団が増えた所で、視点は変わり、スタジアムの舞台。

 

遂に界放リーグ決勝戦が始まる。誰もが待ちに待ったこの一戦、先攻は獅堂レオンで開幕して行く。

 

 

[ターン01]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………早速行くか、創界神ネクサス、ギルバート・デュランダル」

「!!」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV1

 

 

「神託の効果を発揮………今回の対象カードは2枚、よってギルバートにコア2つを追加する」

「相手スピリットをLV1に固定する強力な創界神ネクサス、まさかこんなに早く配置されるなんて………オーカ」

 

 

フィールドには何も現れないが、獅堂レオンのBパッド上には強力な創界神ネクサス、ギルバート・デュランダルのカードが配置された。

 

そのカードに対して誰よりも早く、強く反応を示したのは他でもない、前のバトルでその効果の前に敗北を喫した一木ヒバナ。

 

 

「効果は言わなくてもわかるな?」

「あぁ、そいつにコアが6個置かれたらオレのスピリットは全てLV1になるんだろ?」

「フ……ターンエンドだ」

手札:4

場:【ギルバート・デュランダル】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

間違いなく幸先の良いスタートを切った獅堂レオン。鉄華オーカミがギルバートの効果を覚えているのを確認すると、鼻で笑ってそのターンをエンドとした。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………パイロットブレイヴ、三日月・オーガスをLV1で召喚」

 

 

ー【三日月・オーガス】LV1(0)BP1000

 

 

フィールドには何も出現はしないが、鉄華オーカミのBパッド上には鉄華団のパイロットブレイヴ『三日月・オーガス』のカードが配置される。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【三日月・オーガス】LV1

バースト:【無】

 

 

それ以外は何もせず、ターンをエンド。再び獅堂レオンへとターンが巡って来る。

 

 

[ターン03]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……ザクウォーリア2体を連続召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

「対象スピリットの登場により、ギルバートにさらに2つのコアを追加する。これで後1つでLV2だ」

 

 

彼のデッキの歩兵とも呼べる、緑色の小型モビルスピリット、ザクウォーリアが2体フィールドへと降り立つ。

 

それに合わせ、ギルバートのカードにコアが追加。後1個のコアの追加で強力な【神域】が発揮できるようになった。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:3

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【ギルバート・デュランダル】LV1(4)

バースト:【無】

 

 

このターンもアタックは行わず、エンドとする獅堂レオン。再びターンが鉄華オーカミへと移った。

 

 

「………え、何でアタックしないの?」

 

 

観客席にいるバトスピに詳しくない夏恋フウ。横にいる彼女の親友、春神ライに質問するように、頭に疑問符を浮かべた。

 

 

「アタックしないんじゃなくて、する必要がないのよ」

「え、そうなの……??」

「これまでの試合を観ていると、獅堂レオンだっけ、あのデカイ奴、アイツのデッキは『デスティニーガンダム』って言う強力なスピリットが軸になっている。大抵のスピリットはアイツ単体で薙ぎ倒せると思う」

「うんうん、私も思う!!……強くて、カッコいいよね!!」

 

 

夏恋フウは春神ライの言葉に首を縦に振り、激しく同意。

 

 

「で、あの赤チビのデッキだけど、多分単体でデスティニーガンダムに勝てるスピリットは殆どいない………ただでさえパワーで劣っているのに、そこからさらにLVが上げられないなんて状況、フウちゃんはどう思う?」

「………無理無理!!!……そんなの勝てっこないよ!?!」

「でしょ?……だから獅堂はコアを与えてしまうような無駄なアタックはせず、じっくり創界神にコアを貯めようとしているのよ」

 

 

これまた納得のいく説明に激しく同意。

 

春神ライの説明をざっくり纏めると『獅堂レオンはギルバートのコアを貯めれば勝ちが確定になるので、早く攻める必要が全くない』という事。

 

ただでさえデスティニーとはパワーで劣っているバルバトス。その上にギルバートのLVを強制的に1にする効果が上から被されば、まさに泣きっ面に蜂。

バトルはまだまだ序盤だが、実はその時点で鉄華オーカミの敗北が決まってしまうのだ。

 

 

「アイツ、あれで感は鋭いから気づいてそうだけど………これはちょっとヤバいかもね」

 

 

春神ライが鉄華オーカミが戦う後ろ姿をその目に入れながらそう呟いた。

 

そんな視線を向けられてる事もつゆ知らず、鉄華オーカミは巡って来た己のターンを進めていく。隠されたピンチには気がついているみたいだが、相変わらずの無表情だ。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………鉄華団モビルワーカー、バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV2(3)BP3000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

鉄華オーカミの場に召喚されるスピリットは、鉄華団モビルワーカーとバルバトスの第1形態。彼の序盤の展開を支える、いつものメンバーだ。

 

 

「バルバトス第1形態の召喚時効果、デッキから3枚オープン、その中の鉄華団カード1枚を手札に加える………」

 

 

鉄華オーカミのデッキから3枚のカードがオープンされていく。彼はその中の1枚を手札へと新たに加えた。

 

 

「よし。これなら行けるか」

「!?」

 

 

その1枚を加えた直後にそう呟く鉄華オーカミ。どうやらその1枚が、この状況を打破する唯一のカードであるようで…………

 

 

「パイロットブレイヴ、昭弘・アルトランドを召喚!!」

「ッ……三日月ではない、2種目のパイロットブレイヴ」

 

 

ー【昭弘・アルトランド】LV1(0)BP1000

 

 

Bパッドに置いたのは、三日月とはまた別の、2種目の鉄華団パイロットブレイヴ『昭弘・アルトランド』………

 

このカードが、彼の不利なこの状況を一変させるキーカードとなる。

 

 

「1形態に三日月を、モビルワーカーに昭弘をそれぞれ合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]+三日月・オーガス】LV1(1)BP8000

 

ー【鉄華団モビルワーカー+昭弘・アルトランド】LV2(3)BP6000

 

 

それぞれのパイロットブレイヴに、それぞれのスピリットと合体させる鉄華オーカミ。勢いのまま、アタックステップへと突入して行く。

 

 

「アタックステップ……モビルワーカーでアタック」

 

 

轟音と共に車輪が回転し、走り出すモビルワーカー。そしてこの瞬間、合体している昭弘の効果も発揮されて…………

 

 

「合体している昭弘の効果、コア2個以下の相手スピリット1体を破壊し、BPを3000アップ。破壊対象はザクウォーリアだ」

「…………ザクウォーリアの破壊時効果でコア1つをもう1体のザクウォーリアに追加し、手元に戻る」

 

 

凄まじい速度でザクウォーリアに激突するモビルワーカー。ザクウォーリアは吹き飛ばされて爆散してしまうが、破壊時の効果でコアブーストを行い、そのカードは再召喚が可能な手元へと送られる。

 

獅堂レオンにコアが集まっていくが、オーカミもただそうさせるためにアタックを行ったわけではない。新ブレイヴの真価はここからだ。

 

 

「さらに他のパイロットブレイヴがいる時、相手の創界神ネクサスのコアを3つ減らす」

「なに、創界神のコアを消すだと!?」

「あぁ、散々貯めた所悪いけど、ギルバートのコアには消えてもらう」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】(4➡︎1)

 

 

「フ……これくらい、対処できないわけないか」

 

 

獅堂レオンのギルバートからコアが外される。

 

2種目の鉄華団パイロットブレイヴカード、昭弘が所持していた効果は創界神メタとも言える効果。これでギルバートの【神託】の効果まで遠のいた。

 

ただ、唯一自分が好敵手と認めた鉄華オーカミが、自分の戦略を攻略したからか、当の本人は少し笑っている。

 

 

「凄いオーカ。一度見ただけでもう対策を立てたんだ………」

 

 

このバトルを最も近くで観戦している一木ヒバナ。純粋に彼の対応力に感心する。

 

 

「モビルワーカーのアタックは続いてるぞ」

「ブロックせよ、ザクウォーリア!」

 

 

突き進むモビルワーカーの道を阻むザクウォーリア。だが今のモビルワーカーのBPは9000。敵うはずもなく、こちらもあっさり轢かれて爆散してしまう。

 

 

「ザクウォーリアの破壊時効果、ボイドからコア1つをトラッシュに置き、自身は手元へ行く」

「ターンエンド」

手札:3

場:【鉄華団モビルワーカー+昭弘・アルトランド】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]+三日月・オーガス】LV1

バースト:【無】

 

 

無駄にアタックはせず、そのターンをエンドとした鉄華オーカミ。獅堂レオンのターンが幕を開ける。

 

 

[ターン05]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……母艦ネクサス、ミネルバを配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

獅堂レオンの背後へと出現した鋼の母艦、名をミネルバ。彼のデッキにおいて、強力な足場のカードの1つ。

 

 

「配置時効果、デッキから3枚オープンし、その中の対象カードを1枚手札に加える。オレはこの効果でザクウォーリアを手札に加え、そのまま手元に置かれたもう2枚のザクウォーリアと共に召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

「ギルバートに神託」

 

 

3体のザクウォーリアが一斉に召喚され、彼のフィールドを埋め尽くす。

 

 

「アタックステップ………は、何もしない。だがこのアタックステップ終了時に、創界神ネクサス、ギルバート・デュランダルの更なる効果【神技】を発揮させる」

「!?」

「このカードのコアを3つボイドに置く事で『コアステップ』『ドローステップ』『リフレッシュステップ』のいずれかを発揮できる………オレはこの効果でコアステップを行い、コアを増やす」

 

 

刹那、獅堂レオンのBパッド上にあるリザーブには、新たにコアが追加される。前のターンのザクウォーリアの効果と合わせ、後攻の鉄華オーカミとのコアの総数に差を広げてみせた。

 

 

「【神域】の効果が使えないと見て、コアを消費して発揮する【神技】の使用に切り替えたか」

「コア増やしてもまた取り除かれるだけですもんね」

 

 

会場では九日ヨッカとイチマルがそう話す。微細な動きが勝負を分ける序盤、獅堂レオンは全く無駄のない動きでそのターンを終えていく………

 

 

「ターンエンド。そろそろお互いにフィールドが温まって来たな」

手札:3

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【ミネルバ】LV1

【ギルバート・デュランダル】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

鉄華オーカミへとターンが巡って行く。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態をLV2で召喚!!」

「………来たか」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

鉄華オーカミのフィールドへと参上したのは、黒々とした鈍器、メイスを手に持つ彼の相棒、バルバトス。その第4形態。

 

 

「三日月を1形態から4形態へ!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV2(2)BP15000

 

 

バルバトス第1形態から三日月のカードを離し、それを新たな合体先として、バルバトス第4形態に付ける。

 

 

「アタックステップ……バルバトス第4形態でアタック、効果でザクウォーリア2体からコア1つずつをリザーブへ!!……よって消滅する」

「!!」

 

 

ー【ザクウォーリア】(1➡︎0)消滅

 

ー【ザクウォーリア】(1➡︎0)消滅

 

 

アタックステップへと突入し、獣の如く獅堂レオンのフィールドを駆け抜けるバルバトス第4形態。そのメイスを振い、3体いる内2体のザクウォーリアを木っ端微塵に粉砕して見せる。

 

 

「ザクウォーリアのコアブースト効果は破壊時効果。消滅時には使えない」

「くっ………」

「さらに三日月の合体時効果で、母艦ネクサス、ミネルバの維持コアを上昇させて消滅!!……リザーブのコアもトラッシュに送る!!」

 

 

ー【ミネルバ】(0)消滅

 

 

地上から天高く飛び上がるバルバトス第4形態。そのままメイスを母艦ネクサスのミネルバへと向けて急降下、鋼鉄の外装を貫き、爆散させた。

 

 

「………アタックは3体目のザクウォーリアでブロック」

「当然BPはこっちのが上だ」

 

 

再びフィールドへと降り立つバルバトス第4形態。三度メイスを振い、最後のザクウォーリアの胸部を砕き、貫く。そしてそれは膝から崩れ落ち、爆散して行った。

 

 

「ザクウォーリアの破壊時効果。ボイドからコア1つをトラッシュへ、その後自身は手元に」

「続けてアタックだ、モビルワーカー!!……昭弘の合体時効果でギルバートのコアをボイドに」

 

 

ザクウォーリアの破壊時効果をものともせず、モビルワーカーで追撃を仕掛ける鉄華オーカミ。その効果でギルバートの上に乗っているコアの数は遂に0となる。

 

 

「アタックはライフで受けよう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

第6ターン目。ここに来てようやくライフが変動した。モビルワーカーの車体を活かした体当たりが、獅堂レオンのライフバリアへと刺さる。

 

 

「………ターンエンド」

手札:3

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV2

【鉄華団モビルワーカー+昭弘・アルトランド】LV1

バースト:【無】

 

 

鉄華オーカミはバルバトス第1形態をブロッカーとして残し、そのターンをエンドとする。以前の彼なら、バルバトス第1形態でもアタックを行なっていた事だろう。

 

やはり、あの時よりもかなり成長しているのが伺える。

 

 

[ターン07]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………手元に置かれたザクウォーリアを再召喚し、コアスプレンダーをLV2で召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【コアスプレンダー】LV2(3)BP3000

 

 

ザクウォーリアと共に飛来して来たのは、戦闘機型のスピリット、コアスプレンダー。転醒によってモビルスピリット、インパルスガンダムになる、獅堂レオンの主力の1体だ。

 

 

「召喚時効果、デッキから2枚オープンし、その中にある対象カード1枚を手札に加える…………フ」

「!!」

「オレはこのカード、デスティニーガンダムのカードを手札へ加える!!」

 

 

コアスプレンダーの召喚時効果、このタイミングで、獅堂レオンは最高の引きを見せる。相棒であるモビルスピリット、デスティニーガンダムが彼の手札へと加えられたのだ。

 

しかも、それだけではないようで…………

 

 

「さらにオープンされたこのマジックカード『終末の光』はオープンされた時、手札に加えられる」

 

 

デスティニーガンダムだけでなく、捲れたもう1枚のカードも手札へと加えて行く獅堂レオン。

 

そして、それを使用して行く………

 

 

「マジック、終末の光を発揮!!……このカードのコストは9だが、トラッシュにあるザフトのカード1枚につきコストを1下げる」

「………」

「今、オレのトラッシュにあるザフトのカードは6枚。よってコスト3で発揮!!……ブレイヴを全てデッキの下に戻し、効果発揮後にBP15000以下のスピリットも全てデッキの下に戻す!!」

「……なに!?……ッ」

 

 

それは言うなれば眩い光の嵐。

 

とてもではないが目を開けている状況ではない。鉄華オーカミは思わず目を閉じ、腕を顔に覆い被せるが…………

 

彼の場のスピリット達はその間に光の嵐に巻き込まれ、次々と粉塵と化していく。彼が目を開ける頃には、それらは全てこの場より消え失せていて…………

 

 

「おおっと!!……劣勢だと思われていた獅堂レオン!!……たった1枚のカード効果でエースのデスティニーガンダムを含めた2枚を回収しつつ、鉄華オーカミのフィールドを蹂躙してしまったァァァー!!!……何という勝負強さ、これこそまさに決勝戦に相応しいバトルだァァァー!!!」

 

 

実況席のアナウンサー紫治夜宵がマイクを片手にそう声を荒げると、会場の者達もまた大いに歓声を上げる。

 

だが、確かに彼は一気に劣勢から巻き返したが、鉄華オーカミも負けてはいない。リカバリーの一手を手札より繰り出す。

 

 

「………鉄華団スピリットが相手によってフィールドを離れた時、手札から流星号の効果を発揮!!」

「!」

「このカードを手札からノーコストで召喚する」

 

 

ー【流星号[グレイズ改弍]】LV2(3)BP3000

 

 

負けじと効果を発揮させ、Bパッドにカードを置くと、フィールドには赤みがかった桃色のモビルスピリット、流星号が出陣する。

 

 

「召喚時効果でデッキから1枚ドロー……」

「フ……だがその程度のスピリット、話にならんわ!!……アタックステップ、コアスプレンダーでアタックする」

 

 

流星号の存在などお構い無し。獅堂レオンはアタックステップへと突入し、召喚したてのコアスプレンダーでアタック宣言する。

 

そしてこのフラッシュタイミング、コアスプレンダーには発揮できる力があって…………

 

 

「フラッシュ、コアスプレンダーの【零転醒】を発揮!!……出でよ、インパルスガンダム!!」

 

 

ー【インパルスガンダム】LV2(3)BP6000

 

 

コアスプレンダーを文字通りコアとし、そこからモビルスピリットのパーツが組み合わさって行く。こうして現れたのはモビルスピリット、インパルスガンダム。

 

シールドとビーム銃を装備した白のモビルスピリットの1体だ。

 

 

「……インパルスのアタックは流星号でブロック」

「だがこちらの方がBPは上だ!!……インパルスよ、捻り潰してしまえ!!」

 

 

斧を振い、インパルスガンダムに襲い掛かる流星号。だがインパルスガンダムはシールドでそれを防ぎ、ビーム銃で流星号にカウンター………

 

流星号はそれに頭部を撃ち抜かれ、無惨にも爆散して行った。

 

 

「………ターンエンド」

手札:4

場:【インパルスガンダム】LV2

【ザクウォーリア】LV1

【ギルバート・デュランダル】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

このターンのアタックはインパルスガンダムのみ。ザクウォーリアをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとする獅堂レオン。

 

だが、既に彼の手札にはエースたるデスティニーガンダムが加えられている。その1枚の存在は、このバトルに於いて、余りにも強大で…………

 

 

「ライフなど守っても無駄だ。デスティニーガンダムが召喚された瞬間、オマエの負けは確定する」

「………オレのターンだ」

 

 

獅堂レオンを無視し、鉄華オーカミはいつもの仏頂面のまま、巡って来たターンを進めて行く。

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

鉄華団専用の創界神ネクサス、オルガ・イツカ。

 

神託によりデッキのカードが3枚破棄、その中の対象カードが2枚であるため、その上にコアが2つ追加された。

 

そして、鉄華オーカミは再び手札の中から1枚のカードを引き抜いて…………

 

 

「もう一度行くぞ………再び大地を揺らせ、バルバトス第4形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1(1S)BP5000

 

 

本日2枚目となるバルバトス第4形態が再び地響きと共に彼のフィールドへと姿を表した。その瞬間に、対象スピリットの登場でオルガにコアが1つ追加、LVが2となる。

 

 

「最後にバーストをセットしてアタックステップ!!……駆け抜けろ、バルバトス!!」

 

 

バーストカードがセットされると同時に、バルバトス第4形態はメイスを構え、フィールドを駆け抜ける。

 

その効果も同時に発揮されて…………

 

 

「アタック時効果でザクウォーリアのコアをリザーブに置き、消滅!!」

「む………」

 

 

ー【ザクウォーリア】(1➡︎0)消滅

 

 

急接近して来たバルバトス第4形態がメイスを振るってザクウォーリアの頭部を吹き飛ばす。機能を停止したザクウォーリアは堪らずこの場から消滅して行った。

 

これでようやく、厄介な効果を持つ3体のザクウォーリアがトラッシュへと送られた。

 

 

「さらにフラッシュ、オルガの【神域】……デッキからカードを3枚破棄して、1枚ドロー」

「バルバトス第4形態のアタックはライフで受けよう」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉獅堂レオン

 

 

バルバトス第4形態のメイスが、今度は獅堂レオンのライフバリアを捉える。それは1つ、ガラス玉のように砕け散り、彼にダメージを与えた。

 

 

「………ターンエンド」

手札:2

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【有】

 

 

できることを全てやり終え、そのターンをエンドとする鉄華オーカミ。

 

熾烈を極めるバトル、会場全体に緊張感が走る中、遂にデスティニーガンダムを手札に加えた獅堂レオンのターンが巡って来た。

 

 

[ターン10]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………やはりオマエとの決着はこのスピリットでつけなければな」

「…………」

 

 

…………『来る』

 

そう思い、身構える。そして直後、獅堂レオンは誰もが予想していたあのスピットを召喚する。

 

 

「運命をも覆す、我が魂!!……デスティニーガンダムをLV3で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV3(5)BP23000

 

 

暗雲、落雷と共に現れたのは、獅堂レオンの絶対的エーススピリット、白き装甲、黒と赤の機翼を持つ天下無双のモビルスピリット、デスティニーガンダム。

 

遂に鉄華オーカミのバルバトスと再びあいまみえる。

 

 

「この時をどれ程待ち侘びていたか………今日こそ、我が魂デスティニーガンダムでオマエのバルバトスを討ち砕き、完全勝利を成し遂げて見せる」

「…………それはこっちのセリフだ」

「フ………インパルスのLVを2に上げてアタックステップ!!……翔けろ、デスティニー!!」

 

 

獅堂レオンの指示を聞くなり、デスティニーガンダムは機翼から薄紫色のエネルギー粒子で固められた翼を展開し、飛翔する。

 

その標的はもちろん、バルバトスと鉄華オーカミだ。

 

 

「アタック時効果、このスピリットのBP以下のスピリットを1体破壊、そのシンボル分、相手ライフのコアをボイドに置く」

「!!」

「オレはこの効果でバルバトス第4形態を破壊し、オマエにそのシンボル分、1点のダメージを与える!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

手に持つ巨大なビームライフルから極太のエネルギー砲を放ち、バルバトス第4形態を貫く。

 

バルバトス第4形態は堪らず撃沈し、大爆発。そしてその爆発の余波は鉄華オーカミのライフバリアをも砕いた。

 

 

「まだだ……破壊後のバースト、ガンダム・グシオンリベイク!!」

「!!」

「効果により、先ずはコイツを召喚………轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……グシオンリベイクをLV1で召喚」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV1(1)BP6000

 

 

勢い良く反転するバーストカード共に上空から降り立ったのは、薄茶色の分厚い装甲を持つ一機のモビルスピリット。

 

その名はグシオンリベイク。バルバトスとは双璧を成すガンダムの名を持つモビルスピリットであり、鉄華団デッキの守護神。

 

 

「バースト効果はまだ続く、トラッシュにブレイヴカードがある時、相手スピリット1体からコアを1個になるようにリザーブに置く」

「フン………だが、ソイツのコストは6。デスティニーを対象にはできない!!」

「わかってる。だからオレが選ぶのは、インパルスだ」

 

 

ー【インパルスガンダム】(3➡︎1)LV2➡︎1

 

 

グシオンリベイクの登場は大地を揺らす。その衝撃に、インパルスガンダムはその中に眠るコアを失い、LVダウンしてしまった。

 

 

「さらに召喚時効果、フィールドのコアを2つリザーブに!!……これもインパルスが対象だ」

「………甘いぞ。インパルスの効果、相手によってフィールドを離れる時、ボイドからコア1つを自身に追加する事で疲労状態で残る」

 

 

ー【インパルスガンダム】(1➡︎0➡︎1)

 

 

武器であるハルバードを手に、インパルスガンダムへと斬りかかるグシオンリベイク。その攻撃はインパルスガンダムにヒットするも、破壊される事はなく、片膝をつき、フィールドへと残ってしまう。

 

 

「インパルスを止めても、デスティニーが止められなければ意味はないぞ!!……フラッシュ、デスティニーの効果、ギルバートを疲労させる事で回復」

 

 

ー【デスティニーガンダム】(疲労➡︎回復)

 

 

「くっ………」

 

 

鉄華団の守護神の効果と言えども、デスティニーガンダムは止められない。

 

獅堂レオンは創界神ネクサスの疲労をコストにその効果を起動させ、デスティニーガンダムを回復状態にする。

 

 

「グシオンリベイク、ブロックだ」

 

 

この局面下において、鉄華オーカミがグシオンリベイクに命じたのはデスティニーガンダムのアタックのブロック。

 

命じられた通り、グシオンリベイクは背中のブースターで上空にいるデスティニーガンダムへと戦いを挑みに行く。

 

デスティニーガンダムはそれを撃ち落とさんと、再びビームライフルからエネルギー砲を放つが、グシオンリベイクはシールドを犠牲にそれを回避。急接近し、遂にデスティニーガンダムを捉える。

 

 

「目障りだ、返り討ちにしろデスティニー!!」

 

 

ハルバードでデスティニーの首を狙うグシオンリベイクだったが、デスティニーガンダムは咄嗟にそれを素手で抑え込む。そして余った手でグシオンリベイクの首元を掴み、地面へと急降下………

 

落下による衝撃でグシオンリベイクを木っ端微塵に粉砕。大爆発を起こさせる。

 

 

「ターンエンド。どうした、オレはわざわざこんなバトルをするために界放リーグを勝ち上がって来たわけではないぞ?」

手札:4

場:【デスティニーガンダム】LV3

【インパルスガンダム】LV1

【ギルバート・デュランダル】LV1(3)

バースト:【無】

 

 

デスティニーガンダムをブロッカーとして温存。獅堂レオンはそのターンをエンドとする。ライフの数では僅かばかり劣っているものの、デスティニーガンダムの存在が彼に絶対的な優勢をもたらしている。

 

 

「…………」

「流星号にグシオンリベイク。あれ以降、だいぶ色んなスピリットを手にしたようだが、やはりオレの中でオマエの最強スピリットはバルバトスだ………奴の最大火力をこのオレとデスティニーにぶつけて来い。そうでなければ、それを超えなければ、このバトルに意味などない」

 

 

デスティニーを召喚されてから「ただ単純に強い」という感想が頭から離れない。だがそれは、デスティニーに対してではなく、獅堂レオン自身に対してだ…………

 

奴は強い。だけどきっとこれを乗り越えたら、もっとオレのバトスピの世界は広がって、繋がる。そう思うと、ワクワクしてしょうがなかった。

 

 

「へ………オレのターンだ」

 

 

絶体絶命なこの状況に軽い笑顔を浮かべながら、鉄華オーカミは超えるべき壁を前に、ターンを進めて行く…………

 

 

[ターン10]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………鉄華団モビルワーカーを召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1S)BP1000

 

 

本日2枚目となる鉄華団モビルワーカーがフィールドに出現。対象スピリットの登場により、オルガにコアが追加される。

 

 

「………獅堂、オレも同じ事を考えてた」

「??」

「オレも、デスティニーを超えて、オマエも超えないと意味がないって思ってた」

「ほお?……ならばオレが望むスピリットも理解できているわけだな?」

 

 

獅堂レオンの言葉に対し「当然だ……」と告げる鉄華オーカミ。

 

勝負を決める時だと言わんばかりに、残り2枚しかない手札にある内の1枚を引き抜き、Bパッドへと叩きつけた。

 

 

「4を超えた先で、未来を掴め………ガンダム・バルバトス第6形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV2(3)BP10000

 

 

オーカの背後で眼光を輝かせ、飛翔し、地上に降り立ったのは、バルバトスの中で最も大きな数字を持つ、第6形態。

 

デスティニーガンダムとはあの時激突した因縁を持つ………

 

 

「フ………ここからが本番だ。わかっているよな?」

「そう言うの要らないって言ったろ?……言われなくても、かかって来てやるよ。アニキと約束したからな、最後はバルバトスで決めるって………!」

 

 

鉄華オーカミと獅堂レオン、界放リーグ決勝戦の大舞台で行われている2人のライバル対決も、いよいよ終盤を迎えて行く…………

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

暗く、狭く、息苦しい謎の部屋。物はそこら中に散らばり、とてもではないが、人が住んでいるとは思えないこの場所にて…………

 

6年前に死していたと思われていた悪魔の科学者「Dr.A」は1人、そこにいた。机にはBパッドが置かれており、どうやらそのモニター機能を使い、界放リーグにて行われている鉄華オーカミと獅堂レオンのバトルを観戦している様子………

 

 

「やはり良いな界放市は。若く、強く、才能に満ち満ち溢れたカードバトラーが大勢いる…………非常にエクセレントだ」

 

 

さて、見極めるとしようか…………

 

誰がどのゼノンザードスピリットに、相応しいかを…………

 

 

 

不穏なセリフ、単語。発言。

 

界放市でまた、悪魔の科学者が密かに暗躍を始めた。

 

 

 




次回、第23ターン「王者の鉄華」


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第23ターン「王者の鉄華」

長く続いた界放リーグも遂に決勝戦。

 

この舞台で競い、戦うのは未知のカード群、鉄華団を操る鉄華オーカミと、天下無双のモビルスピリット、デスティニーガンダムを所持する絶対王者、獅堂レオン。

 

互いに一進一退の攻防を続け、バトルは終盤。鉄華オーカミは巡って来たこの自分のターンで決着をつけるべく、最強のバルバトス、第6形態を召喚したのであった…………

 

 

******

 

 

「アタックステップ!!……この瞬間、オルガの【神託】の効果、コアを4つボイドに置く事で、トラッシュから鉄華団カードを召喚する………オレは三日月を召喚し、6形態と直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]+三日月・オーガス】LV2(3)BP16000

 

 

決着をつけるとでも言いたげな勢いで、鉄華オーカミはオルガのコアを使用し、トラッシュから三日月をバルバトス第6形態に合体させる。

 

 

「行くぞ、獅堂」

「フ………来い鉄華」

 

 

熱く鋭い視線をぶつけ合う鉄華オーカミと獅堂レオン。そしてフィールドのバルバトス第6形態とデスティニーガンダム。

 

決戦の火蓋が切って落とされる。

 

 

「アタックだ、バルバトス第6形態!!」

 

 

大型恐竜の大顎のような形をした巨大武器、レンチメイスを手にフィールドを駆けて行くバルバトス第6形態。その狙いは当然獅堂レオンの残り3つのライフ………

 

だが、その前にいくつか発揮される効果があって………

 

 

「バルバトス第6形態のアタック時効果、相手スピリット1体のコアを1個リザーブに置き、ターンに一度だけ回復する」

「……無駄だ、デスティニーは【VPSシフト装甲:コスト7以下】でその効果は受けん」

「それは知ってる。オレが狙うのは、インパルスだ」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]+三日月・オーガス】(疲労➡︎回復]

 

 

散々睨み合っていたデスティニーガンダムではなく、その横にいるインパルスガンダムに攻撃を仕掛けるバルバトス第6形態。

 

上から振りかぶってレンチメイスを叩きつける。

 

 

「インパルスの効果、ターンに一度、相手によってフィールドを離れる時、ボイドからコア1つを自身に置く事でフィールドに留まる」

 

 

ー【インパルスガンダム】(1➡︎0➡︎1)

 

 

「まだだ、今度は三日月の効果でインパルスの維持コアを1つ上昇、消滅させる」

「………」

「追加効果でオマエのリザーブのコア2つをトラッシュへ送る」

 

 

ー【インパルスガンダム】(1)消滅

 

 

フィールドに留まった束の間、インパルスガンダムにもう一度バルバトス第6形態のレンチメイスが襲い掛かる。大顎に挟まれ、噛み砕かれてしまう。

 

 

「バルバトス第6形態の更なる効果で、鉄華団スピリットのアタック中、オマエは自分のスピリット1体を破壊しなければブロックできない………要するに、デスティニーしか場にいないオマエは、コイツのアタックをライフで受けるしかない」

 

 

バルバトス第6形態はインパルスガンダム撃破後、今度は獅堂レオン目掛けて走り出す。

 

 

「よし!!……ここでライフを破壊できれば、6形態の転醒条件を満たせる、転醒さえできれば転醒時効果でデスティニーガンダムを破壊、そのままオーカは勝てる!!」

 

 

獅堂レオンに6形態が近づいて行く中、そう告げたのはこのバトルを誰よりも1番近くで観ている一木ヒバナ。

 

彼女の言う通り、鉄華オーカミの狙いは6形態の転醒、それに伴う転醒時効果でデスティニーガンダムを破壊、そのままフィニッシュしようと言うモノ………

 

確かに、これが決まれば勝負はもう決まったようなモノ…………

 

だが、相手はジュニアには対等に渡り合える者が存在しないとまで言われているあの絶対王者、獅堂レオン。

 

鉄華オーカミのこの一手を、読めていないわけがなくて………

 

 

「フ………フラッシュマジック、リミテッドバリア」

「!?」

「不足コストはデスティニーから確保。よってLV2にダウン………これにより、このターンの間、コスト4以上のスピリットではライフは減らない」

 

 

咄嗟に放たれた1枚のマジックカード。

 

バルバトス第6形態の前方に、まるで獅堂レオンのライフを守るべく、半透明の薄いバリアが展開される。バルバトス第6形態はレンチメイスでそれを何度も砕こうと試みるが、結局は砕けず、一度自陣のフィールドへと帰還する。

 

 

「成る程、考えたな」

「え、なになにどゆことすか!?」

 

 

獅堂レオンのリミテッドバリア。数多くある防御マジックの中で、何故獅堂レオンがそれを選択したのかを察した九日ヨッカ。彼はそれを横にいる鈴木イチマルに説明する。

 

 

「バルバトス第6形態は『相手によってフィールドを離れる時』と『相手のライフが減った時』に転醒できる。そして、その転醒ができれば、デスティニーガンダムも倒せたんだが………」

「ッ………獅堂レオンはそれを阻止するためにリミテッドバリアでライフを減らないようにした!?」

「そう言う事。思っているよりずっとやばい状況だぞこれ」

 

 

相手のライフが減った時に転醒できるバルバトス第6形態。獅堂レオンはそれを見越した上でリミテッドバリアを使い、自身のライフが減少しないようにした。

 

つまり、今のバルバトス第6形態ではデスティニーガンダムを倒す事はできない…………

 

 

「………けど、オレにはまだリミテッドバリアの対象圏外のモビルワーカーがいる。アタックだ………コイツのアタックが通ってもバルバトス第6形態は転醒できる……!!」

「………」

 

 

負けじとアタックを試みる鉄華オーカミ。コスト1のモビルワーカーが車輪を回転させて地を駆け抜けて行く。

 

バルバトス第6形態の効果により、獅堂レオンはこのアタックもデスティニーガンダムでブロックする事はできないが………

 

 

「フラッシュマジック、ドリームハンド」

「!!」

「不足コストはデスティニーから確保。よってLV1にダウン。効果により、コスト3以下の相手スピリットを全て手札に戻す…………散れ、モビルワーカー!!」

「くっ………!!」

 

 

冷気で固められた巨大な腕がフィールドを走るモビルワーカーを薙ぎ払い、それを粒子に変換。鉄華オーカミの手札へと強制的に戻す。

 

 

「絶対王者であるこのオレが、一度見たカードの対策をしないとでも思ったか?」

「………ターンエンドだ」

手札:2

場:【ガンダム・バルバトス[第6形態]+三日月・オーガス】LV2

【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

当然悔しさはあるものの、獅堂レオンの言葉には耳を貸さず、そのままターンを終える鉄華オーカミ。ブロッカーとしてバルバトス第6形態が待機する形となった。

 

次は今一度獅堂レオンのターン。リフレッシュステップでデスティニーガンダムは回復状態となり、眼光を輝かせ立ち上がる。

 

 

[ターン11]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………さぁ、悪魔退治と行こうか」

「………」

「白のパイロットブレイヴ、シン・アスカを、我が魂デスティニーガンダムへと直接合体!!……そのままLV3にアップさせる」

 

 

ー【デスティニーガンダム+シン・アスカ】LV3(5)BP28000

 

 

「BP……28000………!」

 

 

ここを勝負所と見た獅堂レオンはこのタイミングでパイロットブレイヴを導入。ただでさえ単体で殆ど敵うスピリットがいないデスティニーガンダムをさらに強化する。

 

 

「アタックステップ………出陣せよ、デスティニー!!」

 

 

続け様にアタックステップへと突入。シン・アスカと合体しているデスティニーガンダムはこのタイミングでいくつか発揮できる効果があり…………

 

 

「先ずはシン・アスカのアタック破壊時効果。デッキからカードを1枚オープン、それが対象カードならば召喚、使用、配置できる」

 

 

これはデスティニーガンダム自身の効果ではなく、合体しているシン・アスカの効果。それにより、獅堂レオンは『コアスプレンダー』のカードをデッキからドローして見せる。

 

 

「オープンカードはコアスプレンダー……よってこれを召喚する!!」

 

 

ー【コアスプレンダー】LV2(3)BP3000

 

 

インパルスガンダムの中心、コアを担う重要な戦闘機、コアスプレンダーが再びこのバトルで姿を見せる。

 

 

「ギルバートに神託し、召喚時効果。デッキから2枚オープンし、その中の対象カード1枚を手札に加える………オレはこの効果でフォースインパルスガンダムを手札へと加える」

 

 

コアスプレンダーは獅堂レオンに手札と言う名の恵みを与える。

 

そして当然ながら、デスティニーガンダムのアタック破壊時はからだけではない。本領発揮は自身がLV1から持つあの効果…………

 

 

「デスティニーガンダムのアタック時効果、このスピリットのBP以下のスピリット1体を破壊して、その破壊したスピリットのシンボル分のダメージをオマエに与える」

「くっ………」

「対象は当然合体しているバルバトス第6形態………破壊し、2点のダメージを喰らうがいい!!」

「ッ………!!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

デスティニーガンダムの持つ巨大な機関銃から極太のレーザー砲が放たれる。それは瞬く間にバルバトス第6形態と鉄華オーカミのライフバリアを飲み込んで行った……………

 

 

「相手によってフィールドを離れる時、バルバトス第6形態は【零転醒】でフィールドに残る!!……断ち切れ、バルバトス第6形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態・太刀装備]+三日月・オーガス】LV2(3)BP19000

 

 

ライフバリアとバルバトス第6形態の装甲が砕け散って行く中、バルバトス第6形態が装甲をパージし、武器をレンチメイスから太刀に切り替える。

 

そしてその鋭い一閃でデスティニーガンダムのレーザー砲を断ち切った。

 

 

「転醒アタック時効果、最もコアの少ない相手スピリット1体を破壊………今オマエの場で一番コアが乗ってないのは………」

「フ……コアスプレンダーだ」

 

 

転醒を果たしたバルバトス第6形態の一太刀はデスティニーガンダムではなく、召喚されたばかりのコアスプレンダーへと向けられる。

 

コアスプレンダーは一刀両断され、撃墜してしまうものの、これにより、この状況で鉄華オーカミが最も破壊したかったであろうデスティニーガンダムは健在となって………

 

 

「フラッシュ、デスティニーガンダムの効果、ギルバートを疲労させる事で自身を回復!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】(疲労➡︎回復)

 

 

デスティニーガンダムの最も厄介とされる回復効果もここで再び発揮。もう一度行動できる権利を与えられた。

 

残りライフ2つでこの状況、鉄華オーカミはライフで受けるわけにはいかなくて…………

 

 

「ブロックだ、バルバトス第6形態……」

 

 

転醒したばかりのバルバトス第6形態でブロックするしかなかった。

 

バルバトス第6形態は身の丈程はある長い太刀でデスティニーガンダムに立ち向かって行くが、前とは違い、その動きは全て見切られ、回避されてしまう。

 

そしてデスティニーガンダムはバルバトス第6形態の動きの一瞬の隙を突き、機関銃そのものを胸部の装甲へと突き刺して、ゼロ距離でレーザー砲を放とうとする…………

 

 

「………フラッシュマジック、白晶防壁」

「!!」

「不足コストはバルバトス第6形態から確保……合体している三日月ごと消滅させ、トラッシュに送る」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態・太刀装備]+三日月・オーガス】(3➡︎0)消滅

 

 

危機的状況に陥ったバルバトス第6形態。だがその直前にマジックの不足コストとなった事で消滅し、難を逃れる。

 

 

「白晶防壁の効果、相手スピリット1体を手札に戻す」

「デスティニーにその効果は効かんぞ」

「………知ってるよ。白晶防壁の追加効果、ソウルコアを払った事により、このターン、オレのライフは1つしか減らない……こっちの方はデスティニーでも防げないだろ?」

 

 

獅堂レオンとて、カードショップ『アポローン』でバトルした際にそれを使用したのだ、白晶防壁の効果を忘れているわけがない。

 

デスティニーガンダムが如何に強力なスピリットであっても、このターン、鉄華オーカミのライフはもう1つしか減らされない。

 

 

「………ならその1つをいただいて行くぞ。デスティニーで再アタック!!」

 

 

バルバトス第6形態との戦闘は不発に終わったデスティニーガンダム。今度は鉄華オーカミの方へと目をつける。

 

この瞬間に合体しているシンの効果が発揮されるも、今回デッキからオープンされたカードは対象外、そのまま獅堂レオンのデッキの一番下へと送られた。

 

 

「ライフで受ける………ぐっ、ぐおぉぉぉ……!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

接近して来たデスティニーガンダムが拳で鉄華オーカミのライフバリアを砕く。白晶防壁によって貼られた結界によって1つは残るものの、その数は遂に残り1つとなってしまった…………

 

 

「……奇しくも白晶防壁で凌いだか。だが、エンドステップ、ギルバートの【神技】を発揮!!」

「!!」

「コアを3つ支払う事で、『コアステップ』『ドローステップ』『リフレッシュステップ』のいずれか1つを行う。今回は『リフレッシュステップ』を行い、トラッシュのコアをリザーブに戻し、デスティニーとギルバートを回復させる」

「なに!?」

 

 

アタックステップは乗り越えたものの、創界神ネクサス『ギルバート・デュランダル』の効果により、獅堂レオンのコアとスピリット、ネクサスが全て回復。返しのターンの防御を万全なモノとして見せる。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【デスティニーガンダム+シン・アスカ】LV3

【ギルバート・デュランダル】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

「…………」

 

 

デスティニーのカードパワーの高さ、高度なプレイング、2つの力を見せつけ、獅堂レオンはそのターンをエンドとする。

 

それに伴って湧き上がる歓声の中、鉄華オーカミは頭の中を『絶望』の二文字で固めてしまう。

 

 

「よ、ヨッカさん。これ、大丈夫すよね!?……鉄華オーカミの奴、勝てますよね!?」

 

 

会場にいる鉄華オーカミの友達、鈴木イチマル。彼の勝利を信じている彼は、不安を取り払おうと、隣にいるヨッカに聞いた。

 

だが、返答は彼が望んでいたものではなくて…………

 

 

「………正直厳しいな」

「!!」

「オーカの手札は1枚だ。しかもそれは効果によって戻った『モビルワーカー』で確定………強力なデスティニーガンダムがブロッカーとして立ちはだかる事を考えると、次のドローステップの1枚でこれをひっくり返せる確率はほぼ0に等しい」

「そ、そんな……ここまで来て」

 

 

この状況、どう足掻いても鉄華オーカミに勝ち目がない事は、イチマルとてわかっている事ではあった。

 

だが、自分を認めてくれている数少ない友人である彼の勝利を願わずにはいられない。

 

 

「………負けんなよ、鉄華オーカミ………勝てよ」

 

 

鈴木イチマルは鉄華オーカミを想い、悔しさに歯を噛み締めながら苦しそうに重たい声援を送る。そんな彼の肩に九日ヨッカは手をそっと置いて…………

 

 

「慌てんなイチマル、確率はほぼ0に等しいとは言ったが、まだ0になったとは言ってない………オーカを信じろ、何てったって、アイツはオレの弟分なんだからな、この土壇場で絶対何かするに違いないぜ」

「何で自信満々でそんな事言えるんですか」

 

 

九日ヨッカの堂々とした宣言に、春神ライがひとツッコミ。

 

しかし、そんな彼の期待とは裏腹に、鉄華オーカミはこのバトルを諦めかけていて……………

 

 

「獅堂レオン君。まさかここまで強いなんて、正直ジュニアどころかそこら辺のプロにも勝てるレベルだわ………流石は、あのカードバトラーを師に持つだけはあると言った所かしら?」

 

 

解説席にいる早美アオイ。ここまでの獅堂レオンのバトルを自分なりに頭の中で分析し、やはり彼がジュニアの中では頭が何個分も突き抜けている事を再確認する。

 

そして、一番こちら側に引き入れたい人材であると言う事も…………

 

 

「ここまで戦った事は褒めてやる。確かにオマエは強くなった、このオレとデスティニーの渇きを癒すくらいにはな………だがそれ止まりだ。オマエに勝利と言う名の道は決して開かれない、諦めろ」

「…………」

「………オーカ」

 

 

絶望的な状況でターンが回って来る中、獅堂レオンが鉄華オーカミにそう告げた。

 

一木ヒバナはそんな鉄華オーカミの哀愁漂う背中を、後ろからただ心配そうに見つめる事しかできない。何の力にもなってやれない事が歯痒かった…………

 

 

「………オレの、負け……!?」

「そうだ、オマエの負けだ、鉄華オーカミ。オレと、オレのデスティニーの前に散るがいい」

「ッ…………」

 

 

鉄華オーカミは、手札に残った唯一のカード『モビルワーカー』と、場に残っている『オルガ・イツカ』のカードを眺め、瞬時にこれまでの事を、まるで走馬灯のように脳裏へと浮かび上がって来た。

 

 

自分の家にデッキが送られて来たあの日の事…………

 

一木ヒバナをはじめとした、友人ができた日の事…………

 

それに伴う事で生まれた、楽しい日々の事…………

 

このかけがえのないモノは、全てバトスピが自分にくれたモノだ。これからも大事にしていきたい、勝ち負けに拘らず、純粋に楽しんでいたい。

 

 

だが、今この瞬間だけはこう強く願った……………

 

 

このバトルに、獅堂レオンに『勝ちたい』と…………

 

力の差があり過ぎて、今の自分では何をしても通用しない相手なのはわかっている。理解も納得もしている。だが勝ちたい、どうしようもなく勝ちたい…………

 

このバトルに勝って、カードバトラーとして一歩前進したい。喉から手が出る程勝利が欲しい。

 

そう言った彼の早まった気持ちが実を結んでしまうかのように…………

 

 

偶然か、それとも必然か………

 

それを叶えられるだけの力が、与えられてしまう。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

ー!!

 

 

 

極限まで追い詰められた鉄華オーカミ。突然、そんな彼の右目が血のような赤い輝きを放つ。

 

それに真っ先に気づいたのは他でもない、彼の対面者である獅堂レオン。

 

 

「………鉄華?」

「…………」

「オマエ、その目は………」

 

 

一声かけて見るが、返事はない。そして今一度その目を注意深く見てみると、その右目には鉄華団のあの赤い華のマークが刻まれている。

 

ただならぬ気配、まるで野獣にでも睨まれた感覚に陥った獅堂レオンは、手札のカードを強く握り、身を固めた…………

 

 

「オレはオマエには絶対負けない…………行くぞバルバトス、オレにもっと、力をよこせ」

 

 

明らかな異変に戸惑う様子もなく、まるでこれがさぞかし当たり前であったかのように、鉄華オーカミはデッキのカード達にそう告げる。その右目から血の涙が流れ出ていた。

 

そして、まるで流れる血を糧にするかの如く、鉄華団のカードで固められたそのデッキは淡い赤色に包み込まれて行った………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界には、一部地域にしか伝わらない、こんな言い伝えがある。

 

 

『カードバトラーとデッキ、決して離れる事のない二つの存在が一つになる時、血を代償に勝利への道を約束する』

 

 

そして人々は、その領域に到達したカードバトラーを、絶対的な力と言う意味合いを込めて、王者(レクス)と呼び、恐れた。

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

「お、おおおおおおおおおおおお!!!!………これは王者(レクス)の力だ、間違いない」

 

 

どこにあるのかもわからない程薄暗く、不気味な部屋でBパッドのモニターを通してこの試合を観戦していたDr.Aは獅堂レオンに次いで鉄華オーカミに起こった異変と変貌に気がつく。

 

どうやら、それが何なのかも理解している模様。

 

 

「エクセレントエクセレントエクセレントエクセレントエクセレントエクセレントエクセレント!!!!………これは豊作だ。最高じゃないか鉄華オーカミ」

 

 

焼け焦げた声で無駄にテンションを跳ね上げるDr.A。よっぽど鉄華オーカミが目覚めた謎の力が珍しかったに違いない。

 

 

「ふふ……『王者(レクス)』が発動したと言う事は、もう獅堂レオンに勝ち目はないね。これはこれで、面白い展開だ…………どっちも、使えるかもしれない」

 

 

また怪しげな発言、セリフを吐き捨てるDr.A。彼がいったいこの界放市でまた何を企んでいるのかは、神のみぞ知る……………

 

 

 

******

 

 

 

[ターン12]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ!!……鉄華団モビルワーカーを召喚し、ネクサスカード、ビスケット・グリフォンを配置」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

右目に鉄華団のマークである赤い華が刻まれた鉄華オーカミ。右目から流れる流血による痛みなど気にする事なく、手札からスピリットとネクサスを展開。

 

元から場にいる創界神オルガにコアが置かれていく。

 

 

「ビスケットの効果、このネクサスを疲労させる事でデッキから1枚オープン、それが鉄華団カードなら手札に加える」

「ッ………」

「オレがオープンするのはバルバトス第4形態!!……よってこれを手札に加えて、召喚する」

「なに!?!」

 

 

大地を揺らせ、未来へ導け…………

 

ガンダム・バルバトス第4形態………

 

LV3で召喚!!!

 

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

 

この土壇場でカードがカードを呼び、繋がっていく。不屈の闘志でバルバトス第4形態、その3枚目がフィールドへと参上する。

 

だが、獅堂レオンが驚愕しているのは、ここ一番で発揮される鉄華オーカミの引きの強さではない。

 

 

「赤チビ………今アイツ、カード効果でカードをオープンする前に捲れるカードを言い当ててた」

「え、マジ!?」

「本当なのライちゃん!?!」

 

 

会場の観客席にいる春神ライがそう言った。

 

そうだ。鉄華オーカミはデッキトップにあるカードの名前をズバリ言い当てたのだ。裏側のカードを言い当てるなど、自分のデッキとは言え、未来を予知する能力でもない限りは不可能な事である。

 

 

「て、鉄華オーカミの奴、まさか占い師だったのか!?」

「いやイチマル、占い師でも多分無理だぞ………でも妙ださっきから、オーカオマエ、どうしちまったんだ」

 

 

九日ヨッカも弟分に起きている妙な異変に気がつく。思わず質問を投げかけるが、当然それに返事が返って来るわけはない。早美アオイとDr.Aの件の事もあって、少しだけ不安と言う文字が彼の頭の中を泳いだ。

 

 

「アイツ、ひょっとして未来が見えてるの??……私と同じで」

 

 

ここまで劇的な変化はしないが、春神ライもまたバトルの未来を見る事ができる。それだからか、彼女は今の鉄華オーカミに釘付けになり、妙なシンパシーを感じ取っていて…………

 

そして、会場中の誰もが鉄華オーカミに起きた異変に気がついていく中、バトルは続いていく…………

 

 

「デッキトップのカードを言い当てただと…………!?!」

「アタックステップ、その開始時にオルガの【神技】を再び発揮!!……コアを4つ支払い、トラッシュから三日月を再召喚し、バルバトス第4形態に直接合体!!」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

束の間、オルガの効果で三日月も復活。バルバトス第4形態が強化され、鋼鉄のボディが擦れるような音が、まるで悪魔の咆哮のように響き渡る。

 

 

「モビルワーカー、アタックだ」

 

 

車輪を回転させ、モビルワーカーが大地を駆け抜ける。その狙いは当然獅堂レオンのライフバリアだ。

 

 

「………オマエのそれが何なのかは知らんが、いいだろう!!……真っ向から向かって来るのであれば、迎え撃ってくれる!!……フラッシュ、フォースインパルスの効果発揮、自身を召喚する」

 

 

ー【フォースインパルスガンダム】LV2(2)BP7000

 

 

デスティニーガンダムの横に出現したもう一機のモビルスピリット、フォースインパルスガンダムが登場。向かって来るモビルワーカーをその両拳で押さえ込む…………

 

 

「ブロック時【零転醒】!!……ソードインパルスガンダム!!」

 

 

ー【ソードインパルスガンダム】LV2(2)BP9000

 

 

「転醒時効果で回復」

 

 

瞬時にその色を青から赤へと切り替えるインパルスガンダム。今のこの姿はソードインパルスガンダムだ。捕まえたモビルワーカーを天空高く飛ばすと、巨大な剣で一刀両断、木っ端微塵に爆散させて見せる。

 

 

「モビルワーカーは破壊時、自分のデッキから1枚破棄して1枚ドローする」

 

 

ソードインパルスガンダムにモビルワーカーが破壊され、鉄華オーカミは一旦モビルワーカーの破壊時効果を発揮させるが…………

 

真の狙いはそこではなくて…………

 

 

「ここで、バルバトス第4形態の効果!!」

「!!」

「自分のアタックステップ中、各バトルの終了時、トラッシュから鉄華団スピリットを1コスト支払って召喚する…………再び現れろ、バルバトス第6形態!!」

「………」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV2(3)BP10000

 

 

バルバトス第4形態がメイスを天に翳すと、それに共鳴するように地中からバルバトス第6形態が飛び出し、復活を果たす。

 

 

「な、なんかさっきから変。この感じ、いつものオーカじゃない………なんか、嫌」

 

 

バルバトス第4形態と第6形態が互いに鋼鉄の歯車が擦れ合うような咆哮を上げる様子を眺めながら、一木ヒバナがそう呟く。

 

鉄華オーカミのバトルに人情味を感じなくなったのだ。言い例えるのであれば、バトルに勝つためだけに作られた戦闘マシーンにでもなった感じだろうか。

 

何となくそれを肌で感じ取った一木ヒバナは、それに嫌悪感を抱かずにはいられなかった。鉄華オーカミが心の底からバトルを楽しんでいた事を知っているからだ。

 

 

「復活した第6形態でアタック!!……アタック時効果でソードインパルスのコア1つをリザーブに置き、回復」

 

 

ー【ソードインパルスガンダム】(2➡︎1)LV2➡︎1

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】(疲労➡︎回復)

 

 

バルバトス第6形態が駆ける。前のターンから格段にパワーアップしているのか、低姿勢になり、野獣のような動きでソードインパルスガンダムに近づき、レンチメイスの一撃で叩き潰す。

 

ソードインパルスガンダムは辛うじて生き残るものの、そのLVは1へとダウンしてしまう。

 

 

「効果で鉄華団スピリットのアタック中、オマエはスピリット1体を犠牲にしないとブロックできない」

「ぐっ………それはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉獅堂レオン

 

 

バルバトス第6形態のレンチメイスによる一撃が獅堂レオンのライフバリアにも突き刺さる。その総数は遂に下半数を下回り、2となった。

 

そして、この行為はバルバトス第6形態の持つ転醒のトリガーともなって…………

 

 

「バルバトス第6形態の【零転醒】!!……転醒アタック時効果で最もコアの少ないソードインパルスを破壊!!」

「チィッ……!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態・太刀装備]】LV2(3)BP13000

 

 

自身の重厚な装甲をパージするバルバトス第6形態。その飛び散った装甲がソードインパルスガンダムを押し潰し、それを爆散へと追いやる。

 

 

「第6形態でもう一度アタック!!……その効果で今度こそデスティニーを破壊だ」

「………!!」

 

 

目でも追いつけない速度で駆け抜けるバルバトス第6形態。デスティニーガンダムへと襲い掛かり、その両手に握る太刀で何度もその鋼鉄の身体を切り刻んで行く。

 

この猛攻に流石のデスティニーガンダムも堪えたか、力付き、無惨にも大爆発を起こす。

 

これにより、獅堂レオンのフィールドは壊滅。ブロックできるスピリットは誰もいない。

 

だが、これで終わる絶対王者ではない。

 

 

「シンのアタック破壊時効果、デッキから1枚オープンし、それが対象のカードならば召喚、配置、使用ができる」

「………」

「鉄華、オマエがカードを断言できると言うのでアレば、オレもやってやろう!!………ズバリ、オレが今からドローするカードは、我が魂、デスティニーガンダムだ!!」

 

 

負けじと、カードバトラーとしてのプライドを賭けて………

 

獅堂レオンはデッキの上から1枚をドロー、そしてそのカードを視認するなり、その口角を上げた。

 

 

「フ………やはり勝利の女神はオレに味方するようだ。再び降臨せよ我が魂!!……デスティニーガンダム!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV3(5)BP23000

 

 

「…………」

 

 

揺るがないプライドと執念が実を結んだ。獅堂レオンは2枚目となるデスティニーガンダムのカードを見事引き当て、シン・アスカの効果で召喚して見せる。

 

もちろん、彼は鉄華オーカミと違って、Dr.Aが『王者』と呼称していた力はない。己の運命力を信じ、手繰り寄せ、見事自力で引き当てたのだ。

 

 

「デスティニーガンダムよ、その手で奴を、バルバトス第6形態を叩き潰せ!!」

 

 

再び出現したデスティニーガンダムに刃を向けるバルバトス第6形態。野獣の如く勢いで襲い掛かるが、デスティニーガンダムはその刃を真剣白刃取りで受け止め、その刃をへし折る。

 

動きを見切られている事を悟るバルバトス第6形態。次の動きに転じようとするも、その間にデスティニーガンダムの拳が顔面にクリーンヒット。頭部を吹き飛ばされ、爆散してしまう…………

 

 

「ハァッ………ハァッ………どうだ鉄華、デスティニーはまだギルバートを疲労させる事で回復もできる」

「………」

「このバトル、オレの勝ちだ!!」

 

 

全身全霊を持って鉄華オーカミ、バルバトス第6形態の猛攻を受け止めた獅堂レオン。息を切らしながらも、己の勝利を確信する。

 

だが…………

 

鉄華オーカミは唯一フィールドに残ったスピリット、バルバトス第4形態を指差して…………

 

 

「バルバトス第4形態の効果、自分のアタックステップ中、各バトル終了時、トラッシュから1コストで鉄華団スピリットを召喚する」

「…………なに!?」

「もう一度来い、バルバトス第6形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV1(1)BP7000

 

 

絶望の効果発揮宣言。バルバトス第4形態がメイスを天に翳すと、地中から再びバルバトス第6形態が飛び出して来る。

 

戦いの中、迫り来る猛攻の中、獅堂レオンはこの効果を完全に失念していた。

 

 

「………オマエがあそこでブロックして来るのはわかってた」

「ッ………鉄華、オマエまさか本当に未来が見えているとでも言うのか!?」

 

 

今の自分は未来が見えている。そう言う意味合いを含んだ事を話す鉄華オーカミ。

 

そうだ。自分が勝利する未来が見え、必ず勝てるようになる。それがDr.Aの言っていた『王者』の力なのだ。

 

だからもう、獅堂レオンは決して彼には勝てない…………

 

 

「バルバトス第4形態でアタック!!……効果で残ったシン・アスカを破壊。さらに第6形態の効果で、このアタックはスピリット1体を破壊しなければブロックできない………そして、今のオマエのフィールドはデスティニーガンダムだけだ」

「!!」

 

 

前のターンまでとは比較しようもないほどの速度で動き回るバルバトス第4形態。デスティニーガンダムがそれをどうにか止めようとするも、速さ故に形成された残像から飛び出して来るメイスの嵐によって機体に深刻なダメージを受け、片膝を突いてしまう…………

 

この光景を見た獅堂レオンは、ようやく自分がこのバトルに敗北してしまう事に気がつく…………

 

 

「………馬鹿な、負けるのかこのオレが。師匠からバトルを教わった、このオレが」

「行け………バルバトス!!」

 

 

デスティニーガンダムを軽くあしらったバルバトス第4形態は、メイスを構え直し、獅堂レオンのライフバリア目掛けて一直線に走り出す。

 

当然、彼にもうそれを防ぐ手段はない。

 

 

「鉄華………鉄華オーカミィィィィィィィィィ!!!!」

 

 

悔しさに歯を噛み締め、叫び、拳を握る獅堂レオン。

 

鉄華オーカミの勝ちだ。誰もがそう確信した。

 

 

だが…………

 

 

 

「………なに………!?」

 

 

 

バルバトス第4形態が獅堂レオンのライフバリアへと迫った次の瞬間、メイスを握っている右手が、その腕ごと爆散した。そして次々と各部位が内部爆発を起こしていき、バルバトス第4形態は完全に機能を停止、その場に倒れ込んでしまう…………

 

 

、これで………オレの勝ち………だ」

 

 

鉄華オーカミは自分の意識が段々と遠のいていくのを感じた。そして、やがて完全に力尽きた彼は、右目や鼻から多量の血を流しながら、バルバトス第4形態と同じくその場に倒れ込んでしまう…………

 

この光景に誰もが息を詰まらせた。ざわつき、空気が殺伐とした。

 

 

「オーカァァァァァァー!!!」

 

 

思わず飛び出したのは九日ヨッカ。会場の観客席から舞台へと飛び降りてオーカの元まで駆け寄っていく。

 

 

「だ、誰か支給担架を用意してください!!」

 

 

実況席にいるアナウンサー、紫治夜宵がそう声を荒げて周囲の大会スタッフやテレビのディレクターを仰ぐ。

 

そして、解説席にいる早美アオイは、戸惑いつつも、冷静な表情を装い、マイクを片手にそう宣言するのであった。

 

 

鉄華オーカミは獅堂レオンのライフを破壊する前に倒れました。

 

よって、鉄華オーカミは負傷退場として扱い、このバトル、勝者は獅堂レオンとします。

 

 

 

 

「………は?」

 

 

獅堂レオンはそのアナウンスに耳を疑った。しかし、今は抗議する気力もなく、何故かその場で倒れ、Mr.ケンドーに介抱されている鉄華オーカミを、ただただ漠然と眺める事しかできなかった。

 

界放市の界放リーグとは、世界的にも注目が集まる、バトルの祭典。

 

だが、未だかつて、ここまで盛り下がってしまった決勝戦は、他になかった事だろう…………

 

 




次回、第24ターン「トランザムライザー」


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第24ターン「トランザムライザー」

真夏の日差しが照り付ける中行われた今年の界放リーグジュニア。例年よりもレベルの高い試合が連発した今大会であったが、最後の決勝戦、鉄華オーカミVS獅堂レオンで問題が発生する。

 

バトル中、鉄華オーカミが目から多量の血を流し、倒れてしまったのだ。しかもバトルの勝敗が彼の勝利で終わる、その瞬間にだ。その後、彼は倒れた直後に慌てて駆け寄って来た、九日ヨッカと一木ヒバナ、鈴木イチマルらも同伴の上で病院へと搬送された。

 

バトル中に人が倒れると言う、界放リーグどころか全バトルスピリッツの中でも類を見ない前代未聞の問題が勃発した中、麗若きモビル王、早美アオイが困惑する観客達へ『今年の界放リーグは、獅堂レオンの優勝だ』と告げて……………

 

 

******

 

 

鉄華オーカミが倒れ、病院へ搬送されてから、およそ5分程経ったか。いい加減観客達も落ち着きを取り戻しつつある中、獅堂レオンは漠然と舞台に立ち続けた。

 

その背中はまるで「結果が認められない」「この行き場のない力はどこへぶつければいい」のだと言わんばかりだ。

 

 

「………え、え〜〜っと……搬送された鉄華オーカミ君ですが、救急班の方によりますと、意識はあるようで、命に別状はなさそうとの事ですので、会場の皆さんはご安心ください」

 

 

実況席にいるアナウンサー、紫治夜宵がマイクを片手にそう補足する。その後彼女は一旦マイクを口元から離し、隣の解説席にいる早美アオイに声を掛ける。

 

 

「どうしましょうかアオイさん」

「何をです?」

「何って、この後直ぐ行う予定になった、優勝者と貴女によるエキシビジョンマッチですよ。結果的に今年の優勝も獅堂レオン君になりましたけど、なんかもう雰囲気がバトルって感じじゃないじゃないですか」

 

 

夜宵の率直な質問に、早美アオイは軽く笑みを浮かべる。

 

 

「ふふ、そんな事ですか。雰囲気なんかどうでもいいです。私はただ優勝者とバトルできればそれでいいのです」

「えぇ、そんな勝手な。これ全国生中継なんですよ?」

「では私は舞台に向かいますわね」

「あぁちょっとぉ!?」

 

 

解説席から立ち上がり、舞台へと登っていく早美アオイ。夜宵はその様子に「今時の若い子達って勝手な子ばっかり」と小声で毒吐く。

 

そして、早美アオイは、1人舞台で突っ立っている獅堂レオンと対面した。

 

 

「どうもご機嫌よう、レオン君。先ずは優勝おめでとう…………知ってると思うけど、私は早美アオイ………貴方と同じくモビルスピリットの使い手です」

「…………何の用だ」

 

 

獅堂レオンは冷たい目で彼女を見る。

 

 

「歳上相手に不躾ですわね。決勝戦前にも申し上げたではないですか、あなた方のどちらか勝った方が私とバトルをすると」

「…………オレは、勝っていない」

 

 

その瞳は縄張りを守る野獣の如く。どうやら、獅堂レオンは鉄華オーカミとのバトルに納得ができていない様子。

 

 

「いいえ、貴方は勝ちました。そして優勝したんです、この界放リーグで見事三連覇を成し遂げたんです、おめでとう」

「何が三連覇だ、オレは認めない………アイツのバトルスピリッツが、オレを上回ってはダメなんだ。もう一度鉄華とバトルするまで、ここを離れるつもりはない。早く去れ、名ばかりの王が」

 

 

頑なに、頑固に、我儘に。

 

獅堂レオンは鉄華オーカミとのバトルを求める。自分のバトルスピリッツが奴のバトルスピリッツに負けるわけがないと、今度こそ見せつけるために…………

 

だが…………

 

 

「………あのまま行くと、貴方は負けてました」

「!!!」

 

 

現実と言う名の厳しさを、早美アオイはぶつける。

 

 

「オーカミ君の目が赤く輝いた時、全てが変わった。アレが何なのかは残念ながら私にもわかりません………ですが、これだけは言える。貴方のバトルスピリッツは、彼のバトルスピリッツには敵わなかった」

「ッ………ふざけるな!!」

 

 

王者の怒号によって、会場は再び険悪な雰囲気に包まれていく。

 

 

「ふざけてなどいませんよ、正直に告げただけです。どちらにせよ、オーカミ君には、私たちにも理解できない、何か特別な力があるのかも知れませんね…………貴方はそんな力、欲しくありませんか?」

「!!」

「私達と共にくれば、貴方はあの力に、強さに必ず手が届く……そう約束しましょう」

 

 

唐突な勧誘。獅堂レオンは咄嗟に早美アオイの狙いは最初からコレであったのと、彼女の背後には不穏な何かが存在するのを察知した。

 

そしてその答えは…………

 

 

「強さとは、己で磨き続けるモノ………誰が貴様の怪しげな手など取るか」

 

 

当然「No」だ。

 

今は精神的に相当辛い状況にある獅堂レオンだが、己の感性を見失う程ではない。彼女からの勧誘にキッパリと断りを示した。

 

その返事を聞くなり、早美アオイは「……ふうっ」と肩の力を抜き、ため息をすると、流れるように懐から己のBパッドを取り出した。

 

 

「ではこうしましょう。私がバトルに勝ったら貴方は私達に協力する………逆に貴方が勝てばオーカミ君との再戦の舞台を整えてあげる。どうです、悪い気はしないでしょう?」

「鉄華との……再戦」

 

 

納得が行かなかったバトル。その相手との再戦が迫るのを感じた獅堂レオン、自ずとその手は、Bパッドを展開させていた………

 

 

「ふふ、ようやくやる気になってくれましたか」

 

 

彼のやる気を焚きつけた早美アオイ。自分のデッキをBパッドへとセットし、バトルの準備を終える。

 

それを見ていたアナウンサー紫治夜宵は、マイクを片手に声を荒げる。

 

 

「おおっと遂にバトルが始まるみたいですね!!……色々ありましたが、見事三連覇を成し遂げた運命をも変える荒ぶる獅子王、レオン!!………対するは16と言う若さでプロになり、界放市最強の称号「三王」も獲得した、天才すぎる美少女早美アオイ!!……同じモビルスピリット使いと言うのもあって、このバトル、一つも目が離せない予感がしてなりません!!」

 

 

あの有名な新モビル王、早美アオイのバトルと言う事も幸いし、決勝戦でサイレントモードになってしまった観客達は燻られ、次第にいつものような轟音という名の大歓声を張り上げていく…………

 

 

「なんか飽きた。帰ろっかフウちゃん」

「え!?……帰るの!?」

 

 

2人会場に残された春神ライと夏恋フウ。唐突にライがフウに提案した。

 

 

「もうちょっとバトル見て行こうよ〜〜折角来たんだし」

「でもなぁ、アイツも何故かぶっ倒れちゃったし………って言うか、アイツが搬送された病院に行かないと」

「お?……それはつまりやっぱり脈アリって事?」

「ち、違うわよ!!……ただ私はアイツとの決着をつけたいだけ!!」

「うん、取り敢えず病院でバトルはまずいんじゃないかな」

 

 

なんだかんだで搬送された鉄華オーカミが心配な春神ライ。

 

彼女がどうしてもと言うので、夏恋フウはそれに賛同、2人共々このジークフリード・スタジアムから去って行った。

 

そして場面は変わり再びスタジアム内の舞台、獅堂レオンと早美アオイのバトルの準備は既に整っている。

 

 

「では始めましょうかレオン君。貴方は挑戦者、故にこのバトル、先攻を与えましょう」

「黙れ。施しは受けん、寧ろ貴様が先攻で来い」

「あら強情なのね………じゃあお言葉に甘えましょうか」

 

 

手札を構える両者。そして、会場中の誰もが彼らに期待する中、それは遂に幕を開ける…………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

エキシビジョンマッチがスタートする。先攻は先程の会話通り、早美アオイだ。会場中の期待が彼女に集まって行く中、場慣れした涼しい表情で彼女はターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]早美アオイ

 

 

「メインステップ………私は母艦ネクサス、プトレマイオス2を配置します」

「!」

 

 

ー【プトレマイオス2】LV1

 

 

早美アオイの母艦ネクサスと言えばプトレマイオス、しかし今回はその後継機にあたる第二のプトレマイオス。その効果は最初のプトレマイオスとは全くの別物であり…………

 

 

「配置時効果、デッキから4枚オープン、その中の対象カードを手札へ……」

 

 

合計4枚、オープンされて行く彼女のデッキのカード。その中にある1枚へ手を差し伸ばす。

 

 

「それでは私はこの『ダブルオーライザー』を手札に加えて、残りはトラッシュに破棄………ターンエンドです」

手札:5

場:【プトレマイオス2】LV1

バースト:【無】

 

 

「…………」

「どうしましたレオン君、貴方のターンですよ?………ひょっとして、この私に臆しましたか?」

「な訳ないだろう。オレのターンだ」

 

 

早美アオイは獅堂レオンの意識がややバトルから逸れているのを感じた。理由は明白、前のバトルが忘れられないのだろう…………

 

 

[ターン02]獅堂レオン

 

 

「メインステップ…………界放市のモビルスピリット使いモビル王………相手にとって不足はない。ネクサス、侵されざる聖域を配置」

 

 

ー【侵されざる聖域】LV1

 

 

獅堂レオンの背後に配置されるのはこの世の聖を表現したかのような楽園。このネクサスカードはバトスピのルールにおいて制限1、つまりデッキに1枚しかいられない強力なカードである。

 

 

「侵されざる聖域はコスト8以上のスピリット全てに赤以外の【装甲】を与える効果を持つ。これで我が魂デスティニーは貴様自慢の効果は通用しなくなった」

「ふふ、初手から制限カードをドローするなんて、引きが強いのね」

「さらに母艦ネクサス、ミネルバを配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

立て続けに配置されるのは純白の母艦、ミネルバ。獅堂レオンのデッキの中でも重要な役割を担う存在である。

 

 

「配置時効果でコアスプレンダーを手札に加える………これでターンエンドだ」

手札:4

場:【侵されざる聖域】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

初手に万全の対策を整え、そのターンをエンドとする。モビル王である早美アオイが如何にしてこれをさらに対策していくかが気になる所である。

 

 

[ターン03]早美アオイ

 

 

「メインステップ………ガンダムキュリオスを召喚します」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

 

オレンジ色を基準とした低コストのモビルスピリット、ガンダムキュリオスが彼女の場に出現する。

 

 

「召喚時効果でコア1つをブースト、さらにそのコアを使いもう1体のキュリオスを召喚します」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

 

並び立つ2体のキュリオス。2体目の効果でまたさり気なくコアが1つブーストする。そしてスムーズな動きでそのコアを使い、カードを使用して行く………

 

 

「マジック、ストロングドロー。デッキからカードを3枚引いて2枚捨てます…………捨てるのは『ガンダムキュリオス[トランザム]』2枚」

「ッ………進化系か」

 

 

早美アオイのデッキ「CB」のデッキの特徴を理解している獅堂レオン。彼女のトラッシュに送られたカードに警戒心を抱く。

 

ただ、警戒したからとて、ではあるが。

 

 

「アタックステップ!!……キュリオスでアタック、その効果【トランザム】で自身を手札に戻し、今トラッシュにあるキュリオストランザムを召喚します」

「やはりそう来るか……」

 

 

ー【ガンダムキュリオス[トランザム]】LV1(1)BP3000

 

 

2体いるキュリオスのうち1体が赤い粒子をその身に纏い、光輝く。これでキュリオスは一時的に高BPのスピリットとなったが、早美アオイの狙いはそこではなくて…………

 

 

「キュリオストランザムの召喚時効果、ボイドからコア1ずつを自身とプトレマイオス2に追加」

「…………」

「続けてもう1体のキュリオスも【トランザム】………その召喚時効果で再び同じ効果を発揮させます」

「このターンで合計6コアもブーストか……」

 

 

キュリオス2体がトランザム化。結果的に彼女は合計6コアものコアを追加させた。

 

 

「アタックステップは終了、エンドステップ。このタイミングでキュリオストランザム2体は場を離れ、トラッシュへと戻ります。ターンエンド」

手札:6

場:【プトレマイオス2】LV2

バースト:【無】

 

 

キュリオストランザムの寿命は短い、コアを加速させると言う役目を終え、この場から粒子と化して消滅する。

 

 

[ターン04]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………コアスプレンダーをLV2で召喚」

 

 

ー【コアスプレンダー】LV2(3S)BP3000

 

 

「召喚時効果でデッキから2枚オープン、その中の対象カードを手札に加える…………今回は対象はない、だがオープンされたこのカード『終末の光』は自身の効果で手札へ加わる」

「オーカミ君との試合でも見せたあのマジックですか」

 

 

見た目は戦闘機、転醒する事でモビルスピリット、インパルスガンダムになる獅堂レオンの軸となるスピリットの1体、コアスプレンダーがジェット音を鳴らしながら彼の場に出現。

 

その効果で決勝戦でも見せた強力な除去マジックカード『終末の光』が手札へと加わった。

 

 

「バーストをセットしてアタックステップ………コアスプレンダーでアタック!!……そしてこのフラッシュタイミングで【零転醒】を発揮、1コストを支払って転醒させる!!……来い、インパルスガンダム!!」

 

 

ー【インパルスガンダム】LV2(3S)BP6000

 

 

コアスプレンダーを中心に鋼鉄の装甲が装着、モビルスピリット、インパルスガンダムがここに爆誕する。

 

 

「インパルスガンダム、良いですね!!……真正面で見るとよりカッコいい」

「一々御託を並べるな………インパルスのアタックは継続中だ!!」

「ふふ……ライフで受けます」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉早美アオイ

 

 

インパルスガンダムはビームライフルの銃口を早美アオイに向け、エネルギー弾を射出。彼女のライフバリア1つを撃ち抜いた。

 

 

「ターンエンド………」

手札:4

場:【インパルスガンダム】LV2

【侵されざる聖域】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【有】

 

 

できる限りの行動を行い、そのターンをエンドとする獅堂レオン。デスティニーガンダム召喚への準備が進んでいく中、ターンは早美アオイへと移り変わる。

 

 

[ターン05]早美アオイ

 

 

「メインステップ………キュリオス2体を再び召喚します。効果でコアブースト」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(2)BP2000

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(2)BP2000

 

 

メインステップの開始直後、早々にキュリオスが復活。コアがさらに増加して行く。

 

 

「レオン君、私には貴方の気持ちは手に取るようにわかります」

「なんだ急に、御託は要らないと言って………」

「貴方、オーカミ君が怖いんでしょう、恐ろしいんでしょう?」

「………なに!?」

 

 

動揺する獅堂レオン。彼はそんな事はあり得ないと心中で叫ぶが、その隙に早美アオイは手札から最初のターンに加えていた自身のエースを呼び出して…………

 

 

「舞いなさい、天高く!!…ガンダムをも超越する戦士、ダブルオーライザー!!」

 

 

ー【ダブルオーライザー】LV3(6)BP16000

 

 

その輝きはまるで流星の如し………

 

上空から一線の光と共に地上へと出現したのは、ガンダムの名を持たない、いや、ガンダムを超越したからこそ、その名を持たないモビルスピリット、ダブルオーライザー。

 

手に持つ二振りのブレードを宣戦布告するように獅堂レオンへと向けた。

 

 

「召喚時効果、CBスピリット全てに1つずつコアブースト致します」

 

 

今の早美アオイのフィールドにはダブルオーライザーを含めて3体。それぞれにコアが追加された。

 

 

「さらにガンダムスピリットが2体以上いる時、相手の手札を全てオープンして手元に置きます」

「ッ………手札を!?………ぐっ」

 

 

獅堂レオンのBパッドが青く点滅し、手札を引き寄せる。その合計4枚のカードはBパットに貼り付けられ、早美アオイもそれを確認できるようになった。

 

バトルスピリッツはカードゲーム。カードゲームにとって手札を全て公開しなければならないと言う状況はその時点で情報アドバンテージをドブに捨てるも同義。獅堂レオンはそんな行いを早美アオイのエース、ダブルオーライザーに強制的にさせられてしまったのだ

 

 

「公開された4枚のカードは『終末の光』『ミネルバ』『コアスプレンダー』『リミテッドバリア』………まだデスティニーガンダムは引き込んではいませんでしたか」

「そんな事より、このオレが鉄華を恐れているとはどう言う事だ、オレは絶対王者、獅堂レオンだぞ!!………そんな訳がなかろう!!」

「いえ、貴方はオーカミ君を恐れています。正確には、あの子に眠る、不思議な力に」

「………!!」

「貴方は悟ってしまったんです。あの力の前には敵わないと………本当は再戦がしたくて会場に立っていたんじゃない。なすすべなく敗北しかけた事による恐怖から足が動かなくなっただけなんですよ」

「!!!」

 

 

彼女の言葉に怒り心頭。獅堂レオンは遂に声を荒げて…………

 

 

「ふざけるな、対して歳も変わらん分際で!!!………オレが、誰にバトルの教えを乞うてもらったと思っている!!」

「芽座葉月」

「ッ……!?」

 

 

獅堂レオンは、彼女の口から突然出てきた名前に困惑する。

 

 

「知ってますとも、貴方に一からバトルスピリッツを叩き込んだのは他でもない、伝説のカードバトラーの1人『芽座葉月』…………」

 

 

やがて、頭の中に登ってきた怒りは疑問に変わる。

 

………「この女は何者なのだ」と「何故そんな事まで知っているのか」と……………

 

そう。獅堂レオンが度々「師匠」と呼称していた人物、それが芽座葉月。知名度も高い伝説のカードバトラーである。

 

 

「そんなに驚かないでください。私、元々貴方かオーカミ君のどちらかに協力を要請する予定でしたから、事前に調べさせてもらいましたのよ…………もっとも、オーカミ君の過去は全く調べられませんでしたが」

「…………」

「悪名高いでも有名な芽座葉月………貴方と彼がいったいどのような関係を築いていたのかは謎でしたが、確か芽座葉月の最後は妹である芽座椎名に敗北して死…………」

「死んでなどいない!!!」

 

 

その言葉を言い切る前に、獅堂レオンはそれを否定する。

 

 

「師匠がオレを残して死ぬ訳がない。いつか必ず帰って来る………それまでに、芽座椎名のような楽しむだけのバトルではなく、師匠が教えてくれた勝利のみに意味がある事を証明し続けなければならないのだ!!……師匠の弟子である、このオレが!!」

「…………成る程、それが貴方のプライドと言う事ですか」

 

 

初めて胸の内を誰かに話した獅堂レオン。何を言っているのかは余り理解できないが、どうやら彼のあの異常なまでにバトルの勝利に執着する理由は、過去に大きく起因しているらしい……………

 

 

「ですが、もうこれ以上勝つ事なんてできませんよ?………何てったって相手はこの私なのですからね」

 

 

直後に彼女は「アタックステップ」と静かに宣言して、いよいよ召喚したスピリット達を動かして行く。

 

 

「アタックステップ…………行きなさい、ダブルオーライザー!!」

 

 

アタック宣言を受けるダブルオーライザー。その眼光が光輝く。

 

 

「アタック時効果、相手の手元のカードを1枚破棄し、コスト8以下のスピリット1体を破壊………私は「終末の光」を破棄してコスト5のインパルスガンダムを破壊します」

「ッ………だがインパルスは1ターンに一度、相手の効果によってフィールドを離れる時、ボイドからコア1つを自身に置く事で残る」

 

 

ダブルオーライザーがインパルスガンダムに襲い掛かる。

 

背中のジェットで一瞬にして間合いを詰めると、二振りのブレードでインパルスガンダムを斬り裂いた。ように見えたが、インパルスガンダムはそれを紙一重でかわしていた。

 

 

「やりますね。ではこのアタックはどう受けます?」

「ライフで受けてやる………!」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉獅堂レオン

 

 

狙いはインパルスガンダムから獅堂レオンへ。ダブルオーライザーは再び二振りのブレードを振い、彼のライフを一気に2つ斬り落とした。

 

だが、それは彼の伏せていたバーストカードの発動条件でもあり…………

 

 

「ライフ減少後のバースト発動!!………ソードインパルスガンダム!!」

「!!」

「効果によりオレのライフを1つ回復。この効果発揮後、召喚する!!」

 

 

〈ライフ3➡︎4〉獅堂レオン

 

 

彼のバーストが勢い良く反転した直後、2つ失ったライフバリアが1つ復活。

 

そしてその束の間に出現したのは、赤い装甲、身の丈程はある大型の剣を装備したインパルス、ソードインパルスガンダム。

 

 

ー【ソードインパルスガンダム】LV2(2)BP8000

 

 

「召喚時効果で貴様のキュリオス1体を手札に戻す」

「………」

 

 

巨大な剣を振るう事で発生した斬撃波がキュリオス1体を斬り裂く。それは消滅してしまい、早美アオイの手札へと帰還する。

 

 

「ならば残ったキュリオスでアタック……【トランザム】の効果で自身を手札に戻し、トランザム化。召喚時効果でコアを1つずつ自身とプトレマイオス2に追加」

 

 

ー【ガンダムキュリオス[トランザム]】LV2(2)BP4000

 

 

再び赤い粒子を纏いてトランザム化するキュリオス。その効果で一気に2つのコアをブーストさせた。

 

 

「エンドステップ、キュリオストランザムはトラッシュへと戻ります。上手く凌ぎましたね………私はこれでターンエンドです」

手札:6

場:【ダブルオーライザー】LV3

【プトレマイオス2】LV2

バースト:【無】

 

 

歳上としてもプロとしても余裕を見せながらそのターンをエンドとする早美アオイ。場には疲労状態につき片膝を突いたダブルオーライザーが1体のみ。

 

そして会場の観客達の期待を一心に背負わされながら、獅堂レオンのターンが幕を開けて行く。

 

 

[ターン06]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………インパルスのLVを1に下げる」

 

 

ターン開始の早々、リザーブにコアを溜める獅堂レオン。そして直後にこのターンのドローステップで引き込んだあのスピリットカードをBパッドへと叩きつける…………

 

 

「運命をも覆す、我が魂!!!………デスティニーガンダムをLV2で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

「来ましたかデスティニーガンダム………やっぱりカッコいいですね」

 

 

暗雲、落雷と共に現れたのは、獅堂レオンの絶対的エーススピリット、白き装甲、黒と赤の機翼を持つ天下無双のモビルスピリット、デスティニーガンダム。

 

遂に早美アオイのエースであるダブルオーライザーとあいまみえる。会場の誰もがその2体による激突を心待ちにしていたが…………

 

 

「………オレはこれでターンエンドだ」

手札:0

場:【デスティニーガンダム】LV2

【インパルスガンダム】LV1

【ソードインパルスガンダム】LV2

【侵されざる聖域】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

そんな期待を蹴り飛ばすように、獅堂レオンはそのターンをエンドとした。

 

 

「おおっと獅堂レオン、これはどう言う事だ!?……折角のデスティニーガンダムでアタックを行わずしてそのターンを終えてしまったァァァ!!!」

 

 

実況席の紫治夜宵がマイクを片手に声を荒げる。無理もない、この場面は誰がどう見てもデスティニーガンダムでアタックを行い、圧を掛けるべき状況だったからだ。

 

この行動には流石に納得がいかなかったか、会場中の殆どの者達は獅堂レオンへとやじや中傷的な言葉を飛ばし、浴びせた。

 

 

「………いいんですか?」

「構わん。返しのターンで必ず勝利する」

「…………」

 

 

このミスは、散々揺さぶられた精神が限界を迎えつつあるからなのか、決勝まで戦い続けて疲弊しているからなのかは定かではない。

 

だが、そんな彼に対しても早美アオイは容赦など一切なくて…………

 

 

「いえ、貴方に返しのターンなんてありません。このターンで終わらせます」

「………!!」

 

 

凍りつくような声色で獅堂レオンにそう告げると、彼女は迎えた己のターンを開始して行く…………

 

 

[ターン07]早美アオイ

 

 

「メインステップ………は、もう必要ありませんかね。このままアタックステップへと移行させていただきます………行きなさい、ダブルオーライザー」

 

 

開始早々にダブルオーライザーが天空を飛翔する。

 

 

「アタック時効果、貴方の手元にある『リミテッドバリア』のカードを破棄、インパルスガンダムを破壊します」

「………インパルスガンダムは自身の効果で1ターンに一度だけ疲労状態でフィールドに残る」

 

 

宙に止まるダブルオーライザーは、そのままブレード1本を地上にいるインパルスガンダムに投下。片腕を斬り落としてみせるが、爆散までには至らなかった。

 

そして、早美アオイはまるでそれを見越していたと言わんばかりに、手札からあるカードを1枚手に取って…………

 

 

「フラッシュチェンジ発揮!!……対象はダブルオーライザー!!」

「ッ……モビルスピリットがチェンジだと!?」

「その効果でコスト合計10まで相手スピリットを好きなだけ破壊………消え失せない、2体のインパルスよ!!」

「くっ……!!」

 

 

ダブルオーライザーの両肩を中心に赤い高エネルギー粒子が円を描くように放出され、獅堂レオンの全スピリットを飲み込んで行く。

 

デスティニーガンダムは辛うじて生き残るも、インパルスとソードインパルスは忽ち粉塵と化してこの場から消滅して行った…………

 

この光景を目の当たりにして、とてもではないが普通の【チェンジ】の効果とは思えない。これから、何かとんでもないスピリットが来るのだと、獅堂レオンは流れ出て来る冷や汗と共に感じた。

 

 

「そしてこの効果発揮後、対象のスピリットと回復状態で入れ替わる…………顕現なさい、全てを超越する赤き流星…………トランザムライザーッッ!!」

 

 

ー【トランザムライザー】LV3(7)BP25000

 

 

放出した赤い高エネルギー粒子を身に纏い、己が力としたダブルオーライザーの姿、トランザムライザーが遂にそのベールを脱ぐ。

 

デスティニーガンダムが霞んで見えてしまうようなその存在感に、獅堂レオンは度肝を抜かれた。

 

 

「………トランザムライザー………なんだ、このスピリットは!?」

「知らないのも無理はないです。これは私の協力者に最近開発してもらったダブルオーライザーの進化系なのですから………」

「協力者……?」

「えぇ、貴方もこちら側に来たらこう言うのがもらえるかもしれませんね。活躍次第だけど………」

 

 

この時の獅堂レオンには知る由もなかっただろうが、早美アオイのここで言う『協力者』とは、おそらく『Dr.A』の事で間違いないだろう…………

 

 

「トランザムライザーの効果………自分のターンのフラッシュタイミングに互いの手札を全て手元に置く」

「なに、オレの手札は既に0枚、置く意味などないぞ」

 

 

トランザムライザーの発揮できる効果は、ダブルオーライザーのフラッシュタイミング版と言った所。

 

一見、獅堂レオンの現在の手札が無い関係上、全くもってメリットがないように思える。

 

だが、そんな事はなくて…………

 

 

「この効果で私も合計7枚の手札を全て手元に………その後、自分の手元が5枚以上ある時、このスピリットのシンボルを青の5つにする……」

「ッ………クインテットシンボルだと!?」

 

 

つまり5点だ。トランザムライザーは一撃で初期ライフを全て駆逐できる怪物と化す。

 

 

「く、クソ………ブロックだデスティニー!!」

「無駄よ。目標を駆逐しなさい、トランザムライザー!!」

 

 

咄嗟にデスティニーガンダムにブロックを支持するが、全く持って相手にならない。デスティニーガンダムの砲撃、斬撃は全て光の速さでかわされ擦りもせず、終いにはブレードで胸部を貫かれてしまう…………

 

獅堂レオンは、忽ち爆散してしまう哀れなデスティニーガンダムをただ眺める事しかできず…………

 

 

「トランザムライザーはチェンジにより回復状態、もう一度アタックできる…………行きなさい」

「!!」

 

 

今度こそ本当に負ける。そう確信した。

 

今まで師である芽座葉月のために最強であり続けた。どんなに強力なカードバトラーやスピリットが相手でも、デスティニーとならば超えられると思っていた…………

 

だが、気がついた。

 

どんなに苦労しても、血の滲むような努力をしても届かない存在がこの世にはある事を…………

 

 

「フラッシュ効果でこのバトル中、トランザムライザーをクインテットシンボル化…………どう、私強いですよね?……一緒に来る気になれましたか?」

 

 

早美アオイの最後の問いに、獅堂レオンは…………

 

 

「………黙れ、ブス」

 

 

力の差と言うものに震えながらも、その口は抵抗の意のある言葉を告げた。

 

 

「そ………残念ね」

「…………ッ!!!」

 

 

〈ライフ4➡︎0〉獅堂レオン

 

 

ガンダムを超えたダブルオーライザー、それをさらに超えたトランザムライザーが、ブレードを振い、獅堂レオンの残り4つもあったライフバリアを全て串刺しにした……………

 

 

 

ー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

早美アオイの圧倒的な勝利に、会場中の一人一人が声を荒げ、轟音のような歓声を形成した。

 

精神的、肉体的にも疲労し切っていた獅堂レオンは久し振りに敗北と言う名の悔しさを感じつつ、その場で片膝を突いた。そんな彼に、早美アオイは近づいていき…………

 

 

「………これは私の連絡先です。興味があったらそこに連絡をください………来れば必ず、Dr.Aが貴方を強くしてくれます」

「ッ………Dr.A……だと!?」

 

 

早美アオイがBパッドを使い、自身の連絡先を送信する中、獅堂レオンは途中で聞こえてきた『Dr.A』の名に思わず耳を疑った。

 

 

「馬鹿な………奴は芽座椎名が倒したはずじゃ」

「信じるか信じないかは貴方次第です。個人的には信じる事をオススメします…………貴方ももう負けたくはないでしょう?」

「…………」

「後、この事は他言せぬよう、お願いします…………」

 

 

どこか掴み所のない、と言うか意味のわからない早美アオイの言葉。獅堂レオンがその全てを理解できまま、彼女はジークフリードスタジアムの舞台を後にした。牙の抜かれた百獣の王を残して…………

 

 

 

 

後に今日の界放リーグの関する情報が掲載された新聞の一面には「モビル王 早美アオイ、界放リーグに飛び入り参加で人気が大爆発!!」と記載されていたものの、対照的に決勝戦を盛り上げた筈の鉄華オーカミと獅堂レオンの事は全く触れられてはいなかった。

 

今年の界放リーグは、世間的には結果として、カードバトラーとしての彼女の人気が飛躍的に上がっただけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヌッフフ…………さぁもうすぐ出番だね、私が開発した、6枚のゼノンザードスピリット達」

 

 

 

 

私が神となる礎を築き上げて来てくれたまえ………!!

 

 

 

 

 

 




次回、ゼノンザード編開幕………

第25ターン「未来読み解く新世紀」………


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ゼノンザード編
第25ターン「未来読み解く新世紀」


「……………どこ?………暗い」

 

 

気が付けば鉄華オーカミは闇の中にいた。四方八方を見渡しても目の前は真っ暗で冷ややかな闇ばかりである。

 

 

「さっきまでバトルしてなかったっけ……………あの後どうなったんだ」

 

 

界放リーグの決勝戦最中に起こったあの現象の事は覚えている。その力のせいで最終的に気を失ってしまった事も……………

 

 

「…………バルバトス………?」

 

 

物音を感じたと思えば、そこにはバルバトスがいた。姿はおそらく第4形態、武器は持たず、オーカミの方を真っ直ぐ見つめていた。

 

その機械の眼はまるで彼に何かを無言で訴え掛けているように見える。

 

 

「…………」

 

 

なんとなくそれに気づいたオーカミはバルバトスへと近づき、そこに手を伸ばす。バルバトスもまた手を伸ばし、互いに触れ合う……………

 

そしてそこから眩い光が溢れ出て、闇を振り払っていき…………

 

 

******

 

 

 

「…………ッ……んん?」

 

 

朧げに目を覚ます。オーカミは自分がベッドの上で眠っていた事を理解した。その周囲に自分の良く知る人物達が大勢いる事も…………

 

 

「オーカ!!」

「………姉ちゃん?」

「オーカ、良かった………」

「やっと目を覚ましやがったか〜〜」

 

 

自分の姉『鉄華ヒメ』が感極まった様子で優しく抱き締めた。周囲のヒバナやイチマルの言葉と反応、今自分が着せられている服、ベッドやカーテン、匂いなどから、ここは病院である事を察した。

 

 

「オマエ、試合中にぶっ倒れて搬送されたんだぜ………大丈夫か?」

「アニキ………うん、大丈夫」

 

 

周囲にいるのは「九日ヨッカ」「一木ヒバナ」「鈴木イチマル」「鉄華ヒメ」…………

 

皆自分を心配でここにいる事は理解しているため、彼は申し訳なさそうに顔をすくめる。

 

 

「なんかごめん、心配掛けて」

「本当よオーカ、生中継で急に倒れるから、姉ちゃん心臓が持たなかったよ」

「ごめん」

 

 

出て来る言葉が常々「ごめん」しか思い浮かばない。

 

 

「………ねぇアニキ、決勝はどうなったの?」

 

 

オーカミがヨッカに聞いた。彼は静かに頷き、答える。

 

 

「……あの後、ライフを破壊する直前で倒れたから、オマエは負け扱いになって、結果レオンが優勝したよ」

「………そっか」

「そう落ち込むな、実質オマエの勝ちだったろ?……誇りを持てよ」

「途中凄かったもんねオーカ!!……めっちゃ集中してたって言うか」

「ホントだぜ、あのレオンを追い詰めたんだもんな!!……マジすげぇよ!!」

 

 

イチマルもヒバナをみんな口を揃えてオーカミを褒めてくれるが、彼自身はそんなに嬉しそうな表情もせず、寧ろ苛立ったような表情さえ見せて……

 

 

「………なんかよくわかんないけど、アレはもう来ないで欲しいな、気持ち悪いし、インチキしてる感じがある」

「インチキ?」

 

 

この時、オーカミはまだ皆にバトル中にそのバトルの未来が見え続けた事を言ってはいない。そのため、皆は彼のその言葉に疑問符を浮かべる。

 

自分もどうやって使ったのかもわからないあの力。しかし、どうやらオーカミ的にアレは邪道であると感じている様子。

 

 

「兎に角、無事でよかった………じゃあオーカ、姉ちゃん仕事に戻るから。終わったらまた来るね。何か食べたい物とかある?」

「別にいらないよ」

「あ、さよならヒメさん!!」

「お疲れ様ですヒメ姐さん!!」

「ふふ、これからも弟をよろしくね、ヒバナちゃん、イチマル君」

「………なんかもう仲良くなってる」

「あ、ヨッカさんも、弟をよろしくお願いします」

「あぁ、任せてください。コイツの面倒はオレが見ます」

 

 

そう言って病室を抜け出していく鉄華ヒメ。おそらくモデルの仕事が入っていたのだろう。

 

そしておそらくオーカミが寝ている間、彼女は初対面であるはずのヒバナ、イチマルとも仲良くなっていた。彼女のコミニケーションの高さが一目瞭然である。

 

 

「………って言うか、オーカのお姉さん、最近有名になった超凄いモデルさんじゃん!!……いいなぁ、羨ましい」

「そんなに凄いの?」

「凄いよ!?」

 

 

ヒバナが眺望の眼差しを向けながらオーカミにそう言った。

 

 

「はいはい2人とも、オーカの事はオレに任せて、今日の所はもう帰りな」

「えぇ、折角オーカが目を覚ましたのに!?」

「そうだぜヨッカさん、オレっちなんてまだ1ミリも喋っちゃいませんよ?……鉄華オーカミとオレっちによる激しく熱かりし第1回戦を語り合いたいんですけど?」

 

 

ヨッカがヒバナとイチマルに帰宅するよう促す。少々強引な気もするが、時刻はとっくに夜の時間帯を回っているため、まだ中学生である彼らを帰宅させる行為は至極妥当な考え方でもある。

 

 

「どうせ明日までは様子見で入院って話だから、また明日来ればいい」

「………それもそうですね、じゃあねオーカ、また明日来るから〜」

「うん、ありがとう」

「……んんん!?……待てよこれはヒバナちゃんと夜のデートを楽しめる絶好のチャンスなのでは!?」

「行くわけないでしょ?」

「だから早く帰れって」

 

 

やがて、ヒバナもイチマルも病室を後にする。

 

結果的にオーカミの病室は、彼とその兄貴分であるヨッカのみとなった。

 

 

「………オーカ、オマエあの試合、バトルの未来が見え続けたんだろ?」

「!!」

 

 

2人きりになって、ヨッカが初めて振った話題は決勝戦のあの謎めいた現象の話。まだ誰にも相談していなかったこの話をドンピシャで言い当てて来た彼に、オーカは僅かに眉を顰める。

 

 

「………なんでわかったの?」

「試合中、ライの奴が多分そうだと言ってた、アイツも似たような力があるから、きっと過敏に反応してたんだろう」

「…………バトルの未来が見える力。そう言えばそんな事言ってたな………じゃあアレは新世代系女子と同じ力なのか?」

「実際の所はよくわかんねぇ。アイツは未来を見ても倒れたりはしないしな」

「…………」

 

 

以前春神ライから聞いた、バトルの未来が見えると言う話。決勝戦でオーカミに起こったあの出来事も、ひょっとしたらその力と同類のモノなのかもしれない。

 

 

「『一瞬だけ未来が見える』と『見え続ける』とでは負担が変わって来るのかもな」

「………でもオレ、あの力嫌いだ。インチキで勝ってるみたいで」

「…………」

「あの時は勝つのに無我夢中で知らない間に使ってたけど、できればもう二度と使いたくないな。使い方わからないけど」

「…………そうだな。オレもオマエが怪我して病院に搬送される所なんてもう見たくねぇわ」

 

 

オーカミは、あの力を使えば、どこまでもバトルの勝ちに拘る獅堂レオンと同じだと考えているのだろう。そして、アレは自分が勝ちに拘った結果発動した力なのだとも……………

 

だからもう二度と、使いたくなかった。勝ちに拘る自分など、見たくないから……………

 

 

「………誰?……さっきから喧しいな、ゆっくりと本も読めないじゃないか」

「!!」

 

 

突然カーテンが開き、隣のベッドの患者が顔を覗かせる。青水色の髪色に中生的な顔立ちの少年で、背格好はオーカミと殆ど変わらない程だと思われる。

 

 

「あぁすまんすまん!!……オレもそろそろ帰ろうかな」

「………アレ、君ひょっとして鉄華オーカミ?……今日の界放リーグに出てた、鉄華団の使い手」

「そうだけど、誰?」

 

 

詫びるヨッカを他所に、少年の眼にはオーカミの顔が映っていた。そして、彼が鉄華オーカミ本人である事を確認すると……………

 

 

「マジ!?……まさか昼間の界放リーグに出てた凄い人が僕と同じ病院、しかも同じ病室に入院して来るなんて!!」

「あんまりめでたくはないけどね」

「めでたいさ、準優勝おめでとう!!」

 

 

手を取り、興奮を露わにする。どうやら彼もバトルスピッツが好きな、界放市の1人のカードバトラーではあるようだ。

 

 

「あ、申し遅れたね、僕の名前はソラ!!……『早美ソラ』です、よろしく!!」

「よろしく」

「わぁ嬉しいな〜〜!!……バトルの話ができる入院患者なんて久し振りだよ〜〜!!……今日は夜通し、僕とバトルの話をしようね、オーカミ!!」

「うざい」

「ガーーーン!!」

 

 

軽くオーカミに一蹴されて落ち込むソラ。『バトルの話ができる入院患者なんて久し振り』と言う一文から、病院生活はかなり長いモノと思われる。

 

そんな彼の名前を知ったヨッカは、ひょっとしてと思い…………

 

 

「………早美ソラって………もしかして」

「あぁ、おじさんは勘が良いですね」

「おじさん………おじさんか」

「そうです。僕はあの美しすぎるモビル王、早美アオイ姉さんの実の弟です!!」

 

 

ー!!!

 

 

2人して衝撃が走った。しかしそれも致し方ない、何せ今目の前にいる明るい少年は、あの早美アオイの実の弟なのだから…………

 

 

「今日の姉さんの試合は凄かったな〜〜……進化したダブルオーで優勝者の獅堂レオンをボコボコにしたんだから!!……やっぱり姉さんのバトルは最高だ」

「獅堂の奴、負けたのか」

「早美アオイの弟…………」

 

 

自分の姉の話を誇らしげ且つ自慢気に話すソラ。少々シスコン気味みたいだが、どうやら姉弟仲は良好な様子。

 

そんな彼を見ながら、ヨッカは思い返していた。あの時、会場裏で盗み聞きした、彼女と悪魔の科学者『Dr.A』の会話を…………

 

 

…………『君は本当に優秀だ。私の与えたカードを巧みに使い、プロとなり、モビル王にまで登り詰めた。今後もその優秀な腕前を私のために振るってくれたまえ』

…………『ところで、私との約束はいつ果たしてくれるのでしょうか?』

…………『安心しなさい。私はこう見えて、約束は守る男さ。計画の全てをクリアしてくれたら君の要求を飲む。そう言う約束だったね』

 

 

約束。病弱の弟。さらにDr.Aはどんな厄病も完治できると言われている………………

 

まさか約束って言うのはこの子の病を治す事なんじゃ!?

 

 

「アニキ、どうかした?」

「ッ………いや、なんでもねぇ」

 

 

オーカミに声をかけられ、ヨッカは思わずハッとする。

 

早美アオイ、彼女のルーツを見た気がした。確証はないものの、彼女はおそらく弟である早美ソラの病を完治させるために、Dr.Aと手を組んでいると考えられる。

 

 

「…………だとしたら、一刻も早く止めてやらねぇとな」

「え、何を??」

「あ、悪りぃ、気にすんな」

 

 

オーカミもソラもヨッカの言葉に疑問符を浮かべるが、ヨッカの心の内など、理解できる訳もない。

 

 

******

 

 

同時刻、春神ライは鉄華オーカミがいるであろう病室の前まで来ていた。何度も何度もそこに入室しようとするものの、彼との会話の切り口を考えると、中々その手が伸びなかった。

 

 

「………来たはいいものの、仮に起きてたらなんて言って入ろう…………『負けた無様な姿を見に来てやったわ』………は、ちょっとかわいそうか。『……アンタが心配だったから様子を見に来ただけよ』………いや、そもそも私はアイツの心配なんて………」

 

 

入口の近辺をうろちょろして独り言を呟いていくライ。周囲の看護師達からもあまり良くない方向性で注目を集めつつある。

 

そんな折、彼女に話しかけて来る人物が1人……………

 

 

「君、私の担当の患者様の友人か何かかい?」

「!!」

「タイミング的に鉄華オーカミ君かな?………先程起きたと言う知らせが入った。もうきっと大丈夫だろう」

 

 

声を掛けて来たのは、整った顔立ちに加えメガネを掛けている誠実そうなお医者様。セリフから、オーカミの担当をしている人だろう。

 

見た目は結構若い。若いがどこか若づくりしてる感があるため、ライは年齢的には自分が居候させてもらっている探偵事務所の探偵『弾田ギン』とそんなに変わらない、50手前くらいの年齢ではないかと予想する。

 

 

「友人………ってわけじゃないんですけど、まぁ成り行きでって言うか………でも起きたならもう安心ですね」

 

 

ライがそう言うと、お医者様は顎に手を当て「うむ……」と声を漏らし、少し考える。

 

 

「ふーむ成る程、つまり君は彼に愛情があってここに来たと」

「…………は、はぁ!?」

 

 

突拍子もないセリフにライは思わず顔を赤面させる。

 

 

「愛しい彼が界放リーグで倒れ、こうして病院まで心配で駆けつけて来たんだね…………あぁなんと愛情の深い少女なのだろうか。実にエクセレントだ」

「ち、違う!!……私はアイツを………えーーーっと、あ、そうだ」

「そうだ?」

「アイツをバトルでぶっ倒すためにここに来たんです!!」

「え、でもさっき『起きたならもう安心ですね』って言ってなかった?」

「それは言葉の綾ってやつです、忘れてください」

 

 

ライはこんな事を言ってはいるが、大体はウソ。本当はオーカミがめちゃくちゃ心配でここまで来た。何故かはわからないが、ライは彼に何かあると胸がざわつくらしい。

 

 

「………むぅ、でも患者さんとバトルするって言うのはちょっといただけないな。折角具合も良くなって来てるみたいだし」

「うぐっ………それを言われたら言い返す言葉がないんですけど」

 

 

お医者様はまた顎に手を当てながら考えると、軽く笑みを浮かべながら「なら………」と言葉を続ける…………

 

 

「なら………代わりに私とバトルしようか」

「…………はい?」

「バトルがしたかったんだろう?……だから彼の代わりにこの私が相手を務めよう、こう見えて少しは腕が立つんだよ?」

「あぁいや、そう言うわけじゃ………」

「よし!!……そうと決まったら屋上にレッツゴーです。ここら辺は他の患者様にご迷惑だからね」

「えぇちょいちょいちょい!?」

 

 

聞く耳を持たれず、少々強引に引っ張られ、ライはお医者様に先導されていく。

 

今更「アレはウソです」とも言い辛いため、結局ライは抵抗をやめて一緒に屋上へと向かった。

 

 

******

 

 

病院の屋上、干された白い毛布や布団が干されているこの場所にて、春神ライと医者は互いにBパッドを展開、デッキをセットしてバトルの準備を進めた。

 

いくらここが総人口の9割がカードバトラーの界放市とは言え、そしてここが病院とは言え、まさか医者とバトスピする事になるとは、春神ライも思ってもいなかっただろう。

 

 

「いや〜〜楽しみですね。こう見えて腕は立つとは言いましたが、結構久し振りなんですよね。若い頃を思い出します」

「………この人、本当は自分がバトルやりたいだけなんじゃ」

「む、何か?」

「あぁいや、なんでもないです」

 

 

小声で思わず出て来た悪口を誤魔化すライ。

 

医者自身が『若い頃』と言及している事から、やはり彼女の見立て通り若くてスマートな見た目の割に、それなりに歳を食らっているみたいだ。

 

 

「申し遅れましたね。私の名前は『嵐マコト』………マコト先生と呼んでください」

「は、はぁ………私は『春神ライ』です」

「春神ライ、ですか…………ふむ、良い名前ですね。実にエクセレントだ」

 

 

その割には妙な間があったなと心の中でツッコむ。その後、こんなバトル、さっさと終わらせるかとも思い、彼女はBパッドを嵐マコトに向かって構える。

 

 

「……それじゃ始めますかお医者様」

「え、マコト先生と呼んでと言ったのに…………まぁいいでしょう。手加減はしませんよ!!」

「それはこっちのセリフ!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

人の命を守護するホワイトタワーの頂上にて、13歳の少女春神ライと、ドクターである嵐マコトによるバトルスピッツが開始される。

 

先攻は春神ライだ。そのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ………ネクサス、ドラゴンズミラージュを配置」

 

 

ー【ドラゴンズミラージュ】LV1

 

 

ライの背後に竜が刻み込まれた紋章が出現。このカードはミラージュと言う効果を持つネクサスカードで、バーストゾーンでミラージュとして使うか、フィールドでネクサスとして配置するかを選ぶ事ができる。

 

今回は後者、ライはこれをネクサスとしてフィールドに配置している。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ドラゴンズミラージュ】LV1

バースト:【無】

 

 

「ふむ、赤デッキですか」

 

 

次は嵐マコトのターン。彼は指先でメガネを定位置に戻しながら、そのターンを進めていく。

 

 

[ターン02]嵐マコト

 

 

「では私のメインステップ…………私は、赤のメダル『タカ・クジャク・コンドルコアメダル』を配置します」

「ッ………!!」

 

 

ー【タカ・クジャク・コンドルコアメダル】LV1

 

 

「配置時効果で2枚オープン……緑のメダル『クワガタ・カマキリ・バッタコアメダル』を手札に加えて、残りは破棄」

 

 

フィールドには特に何も出現しない。だがマコトのBパッドには確かにそのカードは配置されていた。

 

………『タカ・クジャク・コンドルコアメダル』

 

ライは思う。自分の勘が正しければ、このデッキは間違いなくアレだと。

 

 

「そのデッキ………まさかライダースピリットオーズ??……具利度王国の」

「その解答、非常にエクセレント!!………そう、このデッキは具利度王国のオーズ一族が使用する伝説のライダースピリットオーズデッキ!!」

 

 

具利度王国…………

 

王国と呼ばれてはいるが、日本に存在する街の名前の1つである。ただそこにいるオーズ一族の操るオーズは、この世界の人々にとっては余りにも有名な存在である。

 

 

「これはオーズ一族の本物のオーズデッキじゃなくて、全てレプリカカードさ………色んな伝説のカード達が私みたいな庶民のデッキにも入ってくれるんだ、良き時代だよね。それにしてもライちゃん、よくメダルのカードだけでデッキがわかったね」

「まぁ、具利度王国にはお父さんと一度行った事がありましたから」

「…………へぇ〜〜そうなのか」

 

 

また会話に妙な間があった。そんなに具利度王国に行った事が羨ましかったのだろうか。

 

 

「私、1年くらい前までお父さんと2人で世界中を旅してたんで」

「ほぉ………君のお父さんとはなんだか気が合いそうな気がするね。じゃあ今はお父さんとこの界放市にいるのかな?」

「………あーごめんなさい、今お父さん行方不明で………」

「…………そうか、それはすまないね」

 

 

春神ライの父親は今現在行方不明。ライは彼を探すためにこの界放市を訪れているのだ。

 

 

「………なかなかにKY。エクセレントな質問じゃなかったね」

「いや、別に!!……全く気にしてないです!!」

「ふふ、話が逸れてしまったが、折角のバトル、楽しもう………私はこれでターンエンドだ」

手札:5

場:【タカ・クジャク・コンドルコアメダル】LV1

バースト:【無】

 

 

脱線してしまった話を半ば強引に引き戻しつつ、そのターンをエンドとした嵐マコト。

 

次は春神ライのターンだ。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「ドローステップ、配置されたドラゴンズミラージュの効果でドロー枚数を1枚増やして、その後1枚捨てる」

 

 

配置されているドラゴンズミラージュの効果がここで起動。ライの手札の質はより向上していくが…………

 

 

「………メインステップ、アタックステップは共に無し。ターンエンド」

手札:5

場:【ドラゴンズミラージュ】LV1

バースト:【無】

 

 

そのままターンを終了とする。1ターン1ターンの動きが重要となっていく現代バトルスピッツにおいて、このドローゴーは致命的な戦術と言えて………

 

 

「むむ……手札事故かな?」

「はは、そりゃどうでしょう?……次のターンから怒涛の攻撃が待ってるかもね」

 

 

なんて口でブラフを立ててみるが、実際はマジで手札事故である。ライは内心で「もうちょっと新デッキの構築錬らないとなぁ」と呟きつつ、次のターンへと意識を向けた。

 

 

[ターン04]嵐マコト

 

 

「メインステップ………手札事故だとしても、容赦はしませんよ。緑のメダル『クワガタ・カマキリ・バッタコアメダル』を配置」

 

 

ー【クワガタ・カマキリ・バッタコアメダル】LV1

 

 

「配置時効果でボイドからコア1つを赤のメダルへ」

 

 

赤に続き、今度は緑のメダル。その効果で赤のメダルにコアが追加された。

 

 

「続けて黄のメダル『ライオン・トラ・チーターコアメダル』を配置」

 

 

ー【ライオン・トラ・チーターコアメダル】LV1

 

 

ライダースピリットオーズ関連の3枚目。今度はネコ科の動物達の力を宿した黄色のコアメダルカードだ。

 

 

「これでターンエンド」

手札:4

場:【タカ・クジャク・コンドルコアメダル】LV1

【クワガタ・カマキリ・バッタコアメダル】LV1

【ライオン・トラ・チーターコアメダル】LV1

バースト:【無】

 

 

ライとは違い順調に己のデッキを回していく嵐マコト。コアブーストとシンボルの配置両方を行い、そのターンをエンドとした。

 

次は春神ライのターン。手札事故を脱却すべく、巡って来たターンを進めていく。

 

 

[ターン05]春神ライ

 

 

「ドローステップ……もう一度ドラゴンズミラージュの効果、ドロー枚数を1枚増やして1枚破棄する…………」

 

 

………「よし、なんとかなりそうね」と内心で呟くと、彼女はそのままメインステップへと移行していく。

 

 

「メインステップ!!……ロケッドラを召喚」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

 

ライの場に現れたのは、可愛らしい姿をした小さなドラゴン。背中に小型ロケットを背負い込んでいるのが印象的である。

 

 

「手札事故は脱却したのかな?」

「そんなモン、最初っからなってないわよ!!………来なさい、宙征竜エスパシオン!!」

「!!」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV2(2S)BP7000

 

 

赤のシンボルが砕け散ると共に出現したのは、鋼鉄の装備をその身に纏う赤きドラゴン。その名も宙征竜エスパシオン。

 

 

「エスパシオン………良いカードをお持ちで」

「アタックステップ開始時、エスパシオンのLV2、3の効果を発揮!!……トラッシュにあるソウルコア以外のコアを機竜スピリットかネクサスに置く。この時、自分の手札が4枚以下なら、デッキから2枚のカードをドローする………私はトラッシュにある3つのコアをロケッドラに追加、LVを上げつつ2枚ドロー!!」

 

 

ー【ロケッドラ】(1➡︎4)LV1➡︎2

 

 

アタックステップの開始をトリガーに、エスパシオンの持つ強力な効果が起動。機械音混じりの咆哮を張り上げると、ライのトラッシュにあるコアは忽ちフィールドへと移動。さらに手札も大きく増加させる。

 

 

「よし、そのまま行けエスパシオン!!」

 

 

すかさずエスパシオンに攻撃の指示を送るライ。エスパシオンが機翼を羽ばたかせ、嵐マコトのライフバリアへと飛び掛かっていく。

 

 

「………ライフで受けましょう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉嵐マコト

 

 

エスパシオンが嵐マコトのライフバリアを勢い良く噛み砕き、ここに来てようやくライフが変動する。

 

しかし彼はこの攻撃に汗一つかかず、涼しい顔のまま、あるカードの効果発揮を宣言して…………

 

 

「今のアタックはいささか早計でしたね〜〜……私のライフが減った事により、赤のメダルの【零転醒】の効果を発揮します」

「ッ………ネクサスカードの転醒」

「リザーブのコア1つを自身に置き、現れなさい仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ!!」

 

 

タカ!!

 

クジャク!!

 

コンドル!!

 

♪タ〜〜ジャ〜〜ドルゥゥ〜〜!!

 

 

ー【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ】LV1(1)BP6000

 

 

妙に陽気な音楽と共に3枚の赤いメダルが合体。

 

フィールドには炎が吹き荒れ、それを吹き飛ばす形で伝説のライダースピリットオーズ、その赤で統一された姿であるタジャドルコンボが雄々しい姿を見せる。

 

 

「オーズ………」

「タジャドルの転醒アタック時効果、相手のコスト6以下のスピリット1体を破壊します」

「!!」

「私は君のロケッドラを破壊!!」

 

 

タジャドルは登場するなり左手から炎の弾丸を打ち飛ばす。それはライの場にいるロケッドラに命中、ひとたまりもなく爆散していった。

 

 

「破壊したタイミングがアタックステップならボイドからコア1つを自身に追加」

「くっ……メダルのネクサスがそのままオーズに変身するのか………ターンエンド」

手札:6

場:【宙征竜エスパシオン】LV2

【ドラゴンズミラージュ】LV1

バースト:【無】

 

 

効果を知らなかったとは言え、手痛いカウンターを食らってしまった春神ライ。致し方なくここはターンエンドを宣言。

 

互いに場が温まって来た中、嵐マコトのターンが開始されていく。

 

 

[ターン06]嵐マコト

 

 

「メインステップ………ここでスピリット導入、オーズの基礎、仮面ライダーオーズ タトバコンボ!!」

「!!」

 

 

タカ!!

 

トラ!!

 

バッタ!!

 

♪タ・ト・バ!!……タトバタ・ト・バ!!

 

 

ー【仮面ライダーオーズ タトバコンボ[3]】LV2(3)BP8000

 

 

上から赤、黄、緑のメダルが光を放ちながら重なり合い、合体していく。そしてその光の中より現れたのは、仮面ライダーオーズの原点、仮面ライダーオーズタトバコンボ。

 

 

「召喚時効果で2枚ドローして、その後2枚捨てます。さらに緑のメダルにコアを3つ追加」

 

 

前のターンと同じく手札とコアをフル回転させていく嵐マコト。直後に「アタックステップ」を宣言して…………

 

 

「アタックステップ!!……お行きなさいタトバコンボ、その効果でトラッシュにある青のメダル『シャチ・電気ウナギ・タココアメダル』をノーコストで配置します」

 

 

ー【シャチ・電気ウナギ・タココアメダル】LV1

 

 

タトバコンボが腕のトラクローと呼ばれる武器を構えると、嵐マコトのBパッド上に青のメダルカード『シャチ・電気ウナギ・タココアメダル』のカードが配置される。

 

そして、フィールドに疲労しているエスパシオンしか存在しないライは、この攻撃をライフで受ける他なくて…………

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

タトバコンボがライのライフバリアに急接近。腕に装着されたトラクローでそれを1つ切り裂いた。

 

さらに、タトバコンボの効果はまだ終わってはおらず…………

 

 

「タトバコンボのアタック時効果、バトル終了時、このスピリットを手札に戻す事で、フィールドにあるコアメダルネクサス1つを裏返す」

「!!」

「私はタトバコンボを手札に戻し、緑のメダルを転醒させる………現れなさい、ガタキリバコンボ!!」

 

 

クワガタ!!

 

カマキリ!!

 

バッタ!!

 

♪ガ!ガタガタキリッバ!ガタキリバ!!

 

 

タトバコンボは腰部にあるドライバーに別のメダルを装填し、スキャニング。またまた謎めいた音声と共に、オール緑色のコンボガタキリバコンボへと姿を変えた。

 

 

「転醒時効果、ボイドからコア1つずつを自身とネクサスに追加します………私はガタキリバと青のメダルにコアを追加」

 

 

ー【仮面ライダーオーズ ガタキリバコンボ】LV2(4)BP10000

 

 

「赤に続いて、今度は緑のコンボか………緑だからコアブするってわけね」

「まだまだ、ガタキリバの効果はこんなモノではないよ。LV2の効果、オーズスピリット全てに青のシンボルを1つずつ追加する」

「!!」

「よって、タジャドルとガタキリバは今現在、一撃で2つのライフを砕ける、ダブルシンボルスピリット!!………飛び立て、タジャドルでアタック!!」

 

 

ガタキリバは自身と全く同じ姿をした分身を3体作り出し、内1体はメダルをスキャンし直し、2体目のタジャドルへとチェンジする。

 

これでタジャドル、ガタキリバ、それぞれ2体ずつ。ガタキリバの効果によるダブルシンボルを表現しているモノだと思われる。

 

 

「タジャドルの転醒アタック時効果、コスト6以下のスピリット1体を破壊してコアブースト!!……今度はエスパシオンを破壊しましょう!!」

「ぐっ……!!」

 

 

炎を纏いて突撃する2体のタジャドル。エスパシオンはそれらに焼かれ、打ち砕かれ爆散。

 

 

「オーズはまだ増えますよ。オーズのアタックをトリガーに、黄のメダルの【零転醒】を発揮。現れなさいラトラーターコンボ!!」

 

 

ライオン!!

 

トラ!!

 

チーター!!

 

♪ラタ、ラタ、ラトラァータァー!!

 

 

ー【仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ】LV1(1)BP5000

 

 

「今度は黄色」

「転醒時効果で2枚引き、2枚捨てます」

 

 

タジャドルのアタックをトリガーに現れたのは、ネコ科の動物達で構成された黄のメダルで変身した仮面ライダーオーズ、ラトラーターコンボ。その黄金の輝きが嵐マコトのBパッドに力を与え、彼にドローをさせる。

 

 

「さぁタジャドルのアタックは続いてますよ!!」

「ッ……ライフで受ける」

「では2点のダメージを受けなさい!!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉春神ライ

 

 

2体のタジャドルがライの眼前に現れ、炎を纏ったその拳で1つずつそのライフバリアを砕いて行く。

 

 

「ふむ、残りライフ2。ならこの攻撃で終わりかな?……ラトラーター!!……ガタキリバの効果でそのシンボルは2つ!!」

「………」

 

 

ガタキリバが分身を生み出し、2体目のラトラーターへとチェンジ。2体となったラトラーターはトラクローを展開し、瞬足の足でフィールドを駆け抜けていく。全ては春神ライのライフバリアを破壊し尽くすために……………

 

ここまでは完全に嵐マコトのペース。伝説と呼ばれるライダースピリットオーズのカード達を巧みに操り、ライを翻弄した。

 

だが、まるでその流れが大切断されるかの如く、春神ライが口角を上げ、手札にある1枚のカードを切った。

 

 

「フラッシュアクセル!!……天馬機獣ペガスペース!!」

「!!」

「効果によりこのターン、私のライフはコスト4以上のスピリットからは減らされない。ラトラーターのアタックはライフで受けるわ!」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉春神ライ

 

 

ラトラーターの鉤爪がライのライフバリアに突き刺さろうとした瞬間、半透明のバリアが前方に展開され、その攻撃を弾き返して見せる。

 

これによりこのターンは少なくともオーズ達では彼女のライフを破壊する事はできなくなって…………

 

 

「ふむ。まぁ手札事故していたのなら、防御札の1枚は握っていて当然でしょう…………私はこれでターンエンドです。次のターンで必ず決着をつけて見せますよ〜〜!」

手札:4

場:【仮面ライダーオーズ タジャドルコンボ】LV2

【仮面ライダーオーズ ガタキリバコンボ】LV2

【仮面ライダーオーズ ラトラーターコンボ】LV1

【シャチ・電気ウナギ・タココアメダル】LV1

バースト:【無】

 

 

このターンでの決着は不可能と見た嵐マコトはエンドステップを迎えてターンを終了。次のターンで決着をつけると、歳不相応に張り切っているが…………

 

 

「フ………残念だけど、もう貴方に次のターンは回って来ない」

「え?」

「既に勝利の未来は見えてる………」

 

 

さぁ、ラストターンの時間です!!

 

 

指パッチンし、その勢いで人差し指を嵐マコトへと向けながら、いつものセリフを決める春神ライ。

 

嵐マコトが彼女の言葉に疑問を抱きながらも、そのままターンが開始されていく。

 

 

[ターン07]春神ライ

 

 

「メインステップ………先ずはロケッドラ2体を連続召喚」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

 

本日2、3体目のロケッドラがライのフィールドに出現。軽減シンボルを確保する。

 

そして直後に手札から更なるカードを引き抜いて…………

 

 

「そして、弾丸の嵐と共に、戦禍を鎮めよ!!………エヴァンゲリオン新2号機αをLV2で召喚!!」

「!?」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α】LV2(3)BP10000

 

 

上空からライのフィールドに降り立ったのは、顔と胸部、右腕が赤、それ以外が灰緑色と言ったアンメトリーな外観のスーパーロボット。

 

そのサイズ感からも、一見モビルスピリットのようにも見えるが、実はそうではなくて…………

 

 

「え、エヴァンゲリオンスピリット……世界三大スピリット『デジタル』『ライダー』『モビル』をも超越すると言われる伝説のスピリット………」

「そう。最近私が得た、新しい力だ!!」

「………君を過小評価していたよ。実にエクセレントだ」

「過小評価されてたのか」

 

 

………『エヴァンゲリオンスピリット』

 

彼の言う通り、世界にその名を轟かす世界三大スピリットである3つのカードをも凌ぐ、その存在自体が最早伝説級とされるスピリット。

 

今までの春神ライのデッキと言えば『新世代』であったが、どう言うわけか今はこの赤属性のエヴァンゲリオンスピリットを使用しているようだ。

 

 

「アタックステップ!!……行くわよ新2号機!!」

 

 

早速。新たな力だと称する新2号機αにアタックの指示を送る。新2号機αはその指示を聞き入れるなり巨大なマシンガンを両手に構える。

 

 

「アタック時効果、BPをプラス10000してデッキから2枚ドロー」

 

 

赤属性のエヴァンゲリオンスピリット。そのエースたる新2号機αには、赤属性らしい攻撃的な効果が敷き詰まっている。先ずはBPが一気に跳ね上がり、ライにデッキから2枚のカードをドローさせた。

 

もちろん、これだけで終わるわけがない。

 

 

「そして、このフラッシュタイミング……新2号機の更なる効果を発揮、自分の手札1枚を破棄する事で、相手のBP10000以下のスピリット1体を破壊するか、新2号機に赤のシンボルを1つ追加する」

「!!」

「気づいたようね。この効果にターンに一度のような制約はない!!……アンタにフラッシュが無いって言うなら、問答無用でこの効果を連打させてもらうわ!!」

 

 

自身の手札を破棄する事で強力な効果を発揮できるエヴァンゲリオンスピリット、新2号機。その効果が今、嵐マコトとその操るオーズ達に牙を向ける…………

 

 

「先ずは手札を3枚破棄!!……フィールドにいるタジャドル、ガタキリバ、ラトラーターを殲滅!!」

「なんと!!」

 

 

マシンガンと背中に装備された多重ミサイルをフルバースト。ありったけの火力がオーズ達を襲い、爆散と言う名の轟音が鳴り響いた。

 

 

「追加で手札2枚を破棄。今度はシンボルを2つ追加…………この時、トラッシュに送られた赤のパイロットブレイヴ『式波・アスラ・ラングレー-WILLE-』は1コスト支払う事で召喚できる………ロケッドラ1体からコアを貰って、新2号機に直接合体!!」

「エクセレント!!……パイロットブレイヴまで使い熟す事ができるのですね」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α+式波・アスカ・ラングレー-WILLE-】LV2(3)BP25000

 

 

モビルスピリット同様パイロットブレイヴまで扱えるエヴァンゲリオンスピリット。ロケッドラ1体は消滅してしまうものの、式波・アスカ・ラングレー-WILLE-が合体した事により、新2号機αのシンボルは、自身の効果で追加した分と合わせて…………

 

 

「シンボル4点、クアドラプルシンボル!!!……貰ったわ!!」

 

 

指で4を表し、そのまま新2号機に行けと言わんばかりに拳を握って前に突き出す。

 

それに応えるように新2号機は武器をライフルに取り換え、構えると、その銃口に真っ赤に燃えるエネルギーを装填していく。

 

 

「フ………面白いバトルをしますね、ライフで受けます」

 

 

嵐マコトが敗北を認め、少しだけ笑みを浮かべながらそう宣言すると、新2号機はライフルから赤い極太のレーザー光線を発射。

 

それは難なく彼のライフバリアを、彼がと飲み込んでいき、破壊して見せる……………

 

 

〈ライフ4➡︎0〉嵐マコト

 

 

全てのライフが破壊され、彼のBパッドからは敗北を告げるように「ピー……」と言う無機質な音が流れ出した。

 

その音を自身の勝利の音色だとも理解している春神ライは、それを聞くなり又しても握り拳を固め「よし」とガッツポーズして見せる。

 

 

「………まさかあの状況から一気に逆転されるとは思ってもいませんでしたよ。エクセレントガール」

「エクセレントガール…………」

 

 

嵐マコトからの妙な呼び方に、春神ライは微妙な反応。

 

 

「ところで、なんで自分のターンが回って来る前に勝利宣言なんてしたんだい?……アレで負けたら恥ずかしいでしょうに」

「あぁ、大丈夫ですよ。勝利宣言した私は絶対に負けませんので」

「………凄い自信だね」

 

 

一瞬だけだが、勝利の未来を見る事ができるとは言わなかった。

 

そんな事言ったらこのお医者様は食いついてきて、一生その事について質問攻めされそうだったからだ。

 

 

「それじゃ、私帰るんで。またバトルしましょう、嵐マコト先生」

「じゃあね。恋路、実るといいね」

「だ、だから恋とかじゃないですって!!……誰があんな赤チビ」

 

 

………『誰も鉄華オーカミ君の事とは言ってないんだよな〜〜』と思いつつ、嵐マコトは手を軽く振りながら、屋上から去っていく春神ライを見届ける。

 

因みに春神ライに帰る気はなく、この後鉄華オーカミに会うつもりだ。

 

 

「…………アレが春神ライ…………か」

 

 

嵐マコトは小さくなっていく春神ライの背中を見届けながら、最後にそう呟いた。その声を聞いた者は誰もいない。

 

 

******

 

 

 

一方でここは鉄華オーカミと早美ソラのいる病室。2人は2つのベッドの間にテーブルを置き、その上にカードとコアを置き、バトスピをしているようである。

 

何をするにしてもBパッドが必要になってくるこの時代に、この古参なやり方でバトルするのは非常に珍しい。

 

 

「オレのアタックステップ………バルバトス第1形態でアタック」

「む………むむむ………フラッシュは何もない」

「オレもない」

「ライフで受ける!!………ぐぁぁ負けたァァァ……これで5連敗だ。やっぱり界放リーグ準優勝者は格が違うや」

 

 

どうやら2人のバトルは鉄華オーカミが連戦連勝している様子。

 

 

「テーブルでのバトル、ちょっと新鮮だ」

「病院内はBパッドを使ったバトルは禁止だからね…………まぁ最も、体の弱い僕じゃBパッドを使った激しいバトルなんてできないんだけど」

「…………」

 

 

ソラのその表情は少し悲しそうだった。やはりここでの生活はかなり長いモノだと思われる。普通にバトルする事を夢見ているのだろう。

 

 

「オーカミ、恥ずかしい話、今の僕は姉さんに生かされてるだけなんだ。何の役にも立たない、寝ているだけの棒切れ同然。唯一の家族で、誰よりも愛している姉さんのために、何もしてやれないんだ」

 

 

出会った時の明るさとは打って代わって悲観的になるソラ。しかし、この歳でそれだけ長い病院生活を送っていれば、そう言う考えに至らない方がおかしいとも言える。

 

そんな彼に対し、オーカミは…………

 

 

「オレも同じだよ。姉ちゃんに生かされてるだけ………姉ちゃんの稼いだ金で飯を食ってる最低な奴だ」

 

 

同情していた。姉という大きな存在に養われ、それに罪悪感と不満を感じている点が、彼らは共通していた。

 

 

「でもオーカミはバイトしてるんだろ?……僕なんかより全然マシじゃないか」

「あんなはした金じゃ対して変わらないよ。もっと稼げるようになって、姉ちゃんを楽させてあげたいんだ……………あ、そっか、そのためにバイトしてたんだ。バトスピも、その給料が上がるからって言う理由で始めたんだった…………」

「??」

 

 

話している途中で、オーカミは自分がバトスピを始めたルーツを思い出した。ソラは突然独り言を呟き始める彼に対して疑問符を浮かべる。

 

だが、確かな事は、自分達2人は似た境遇にいるという事。

 

 

「はは……何はともあれ、僕達似た者同士って事だね。僕の目標も姉さんを楽させてあげる事なんだ」

「………そっか」

「うん。病気治したらバトスピのプロになって、絶対にお金を稼ぐんだ…………よし、何ならオーカミも一緒にバトスピのプロを目指そうそうしよう!!」

「何でそうなる」

「そうならない方が不思議だって!!………僕の病気が治るその日まで、待っててね!!」

 

 

ソラは前向きな少年だった。自分を養うために苦労しているであろう姉のために生きようと必死だった。

 

そんな彼と、オーカミは僅か一夜にして親睦を深め、友となって行った。一方、病室の扉の向こう側にいるライはその会話を聞くなり、扉を開けるのを止めて、大人しく去っていった…………

 

 

 






次回、第26ターン「アイカツ☆オンステージ」


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第26ターン「アイカツ☆オンステージ」

界放市ミカファール区。界放市にある6つの区の中でも、特に娯楽に特化しているこの区では、所謂「バトスピアイドル」なる職業が存在し、今となっては世界でも大きな話題を生み出す程となっていた。

 

 

「会場のみんな〜〜今日も来てくれてありがとう!!!………青葉(あおば)アカリ、オンステージ!!」

 

 

舞台のスポットライトを一点に浴び、今日もミカファール区でバトスピアイドルのトップに君臨する15歳の少女「青葉アカリ」が雅やかな衣装を身に纏って、会場の誰もを虜にして行く…………

 

 

******

 

 

毎年夏に開催される、界放リーグジュニアも終わり1日が経った。

 

場所は病院。鉄華オーカミは今正に退院しようとしていた。すぐそばには多忙な彼の姉に代わって、保護者代理の『九日ヨッカ』、診てくれた先生『嵐マコト』、同僚の早美ソラがいる。

 

 

「本当にもう大丈夫なのか?」

「まぁ別に、元から大した怪我じゃなかったし」

「よく言うぜ、目から血が出てたんだぞ」

 

 

ヨッカがそう言うと、オーカミが答える。

 

 

「念のために眼科の方にも診てもらいましたが、一時的に出血していただけらしく、特に問題ないとの事でしたよ。でも、くれぐれも無茶はしないでくださいね、オーカミ君」

「いや〜〜すみませんね先生、コイツがお世話になりやした」

 

 

主治医の嵐マコトが、落ち着きのある、優しい口調でヨッカとオーカミにそう告げた。ヨッカが聞いた所によると、彼は相当な腕前の医者らしく、かなり診療性も高い。本当にオーカミは無事なのだろう。

 

 

「またねオーカミ」

「ソラ」

「僕もいつか病気を治してここを出るよ。そしたら今度は外でバトルしよう、もちろんBパッドを使ってね」

「あぁ、もちろんだ。待ってるよ」

 

 

互いに握手を交わしながら約束する2人。あのあまり言葉に感情が籠らないオーカミに、心なしか感情が篭っているように感じる。

 

ただそれ程までに仲が良くなったのだとヨッカは思い…………

 

 

「よし、行くかオーカ」

「うん」

 

 

やや誇らしげにそう告げたヨッカ、オーカと共に病院を後にした。

 

 

******

 

 

界放リーグが終了してから3日が経過した昼の出来事。

 

鉄華オーカミがアルバイトとして働く界放市ジークフリード区にあるカードショップ「アポローン」に、ある変化が起こっていた。

 

 

「な、なんだこの客の数は………」

「せ、センパイ。私目が回りそうなんですけど」

「頑張れミツバ」

「………おつり200円です」

 

 

九日ヨッカ、雷雷ミツバ、鉄華オーカミのアポローンスタッフの3人は次々にやって来る無数のお客様に接客していた。

 

お店が繁盛しているのは大変素晴らしい事なのだが、ここまで来ると流石に目を回してしまう。

 

ここまで人気が出たのは間違いなく鉄華オーカミが界放リーグで準優勝したと言う輝かしい成績を収めたからだろう。鉄華団と言う、誰も見たことがない特異なデッキを使用していた事もおそらく理由の1つ。

 

 

「オーカミさん、是非オレとバトルしてください!!」

「いやいやオレと!!」

「私と!!」

「鉄華団のカードってどこに売ってるんですか!?」

 

 

などと言われながら、次々と詰め寄ってくる客の数々。オーカミは内心では「めんどくさ」と思いながらも、時間をかけ、少しずつお客様の相手をして行った…………

 

勝率はもちろん全戦全勝。

 

そして、時刻は夕方。お客様もだいぶ少なくなったこの時間帯。散々バトルさせられたオーカミは流石に疲れたか、ショップ内にあるベンチで腰を下ろしていた。

 

そんな折、ある人物たちが彼に声を掛ける。

 

 

「よお鉄華オーカミ」

「お疲れオーカ」

「あぁヒバナ、イチマル」

「界放リーグの準優勝者さんは忙しいな…………ほれ、オレっちからの奢りだ。ありがたく受け取れよ」

「ありがとう」

 

 

ヒバナとイチマルだ。オーカミはイチマルからスポーツドリンクを貰い、それをグイッと勢いよく飲んだ。余程水分を欲していたらしい。

 

 

「病み上がりであんなにバトルして大丈夫?」

 

 

ヒバナがオーカミに聞いた。

 

 

「別に大丈夫だよ。これも仕事だし、それに今はいっぱいバトルしたいんだ。もうあんな負け方したくないから」

「…………そう」

 

 

界放リーグで後一歩の所まで獅堂レオンを追い詰めたオーカミ。だが結局は負けた。

 

普段はあまり感情を見せない彼だが、そんな負け方をして悔しくないわけがない。その心意気はもっと強くなりたいで埋まり、満たされていた。

 

 

「でも偶には休息しないとね」

「?」

 

 

ヒバナはそう言いながら懐からある物を取り出した。どうやら、何かのチケットみたいだ。

 

 

「じゃーん!!……ミカファール区のバトドル『青葉アカリ』ちゃん、縮めて『アカリン』のライブチケットよ!!」

「………誰」

「えぇ、オーカ知らないの!?」

「だから言ったろヒバナちゃん。鉄華オーカミがバトドルに興味あるわけないって」

 

 

見せつけたのはバトスピアイドルのライブチケット。合計で3枚確認できる。バトスピアイドルの事を全く知らないオーカミは思わず素っ気ない反応をしてしまう。

 

 

「ごめん。で、何それ」

「バトスピアイドル。通称『バトドル』だな。歌って踊ってバトルもできるスーパーアイドル」

 

 

イチマルがオーカに説明して行く。

 

 

「その中でも「青葉アカリ」ちゃんはこの界放市のバトドルの中でもトップに君臨するバトドルなんだ」

「ふーーん」

 

 

界放市の中でもトップの人気を誇るバトドル「青葉アカリ」………

 

一見範囲の狭いトップに聞こえるが、この界放市は日本の中で最もバトスピが栄えている大都市。青葉アカリの知名度もまたそれに比例して高いのだ。

 

 

「で、なんとそのライブチケットが3枚も当たったから、3人で行かない??……って事だったんだけど」

「あぁ……うん、別にいいよ」

「やった!……じゃあ明日1時にジークフリードスタジアムに集合ね」

「え、明日なの。まぁ行くけど」

 

 

アイドルというのはイマイチよくわからないが、バトスピをすると言うなら話は別だ。興味の湧いたオーカミはあっさりそれを承諾。

 

だがイチマルは…………

 

 

「ごめんヒバナちゃん、オレっちはやっぱやめとくわ」

「え……どうしたのイチマル、アンタらしくない」

「珍しい、ヒバナが行くとこは大体行きたがるのに」

 

 

オーカミの言うように本当に珍しい。ヒバナの事を一途に想う彼は常にヒバナと共に行動するようにしていたが、今回は自らそこを離れようと言うのだ。

 

 

「はは、オレっちはこう見えて一応3年生だしな。そろそろバトスピ学園の受験勉強始めないと」

「べ、勉強って……アンタ本当にイチマルなの!?」

「酷いヒバナちゃん!!……オレっちだって勉強するよ!?……優秀な成績を収めてるよ!?」

 

 

そう言えばそうだった。鈴木イチマルは2人より1つ上の中学3年生。後半年もすればバトスピ学園、もとい高校の入試試験が訪れる。それに向けて勉強しなければならないと言うのは至極当たり前の理由だ。

 

まぁ、それがイチマルの口から出てくる事自体が意外だったのだが…………

 

 

「んじゃオレっちは今日はこれで、2人とも楽しんで来いよ」

「う、うん」

「…………」

 

 

背中を向けてアポローンを後にしようとするイチマル。その背中で何とも言えない不穏なものを感じ取ってしまったオーカミは思わず口が開く。

 

 

「なぁイチマル」

「ん?」

「何かあったら相談しろよ。オレ達友達だろ?」

「…………あぁ、わかってるよ」

 

 

笑顔を向け、去って行くが、2人にはその背中がどこか哀愁を漂わせているようにも見えて…………

 

 

「イチマルの奴、どうしたんだろ。珍しく元気なかったね」

「……まぁ大丈夫だろ。イチマルだし」

「うん、そうだね……そうだと、いいんだけど………」

 

 

いつもは彼の事を鬱陶しく思っているが、こればかりは心配にならざるを得ないヒバナ。だが今はオーカと共にイチマルを信じるしかなかった。

 

 

「でも結局、ライブチケット1枚余っちゃったね……ミツバさんかヨッカさんあたりでも誘おうか」

「アネゴはうるさいからいいや、アニキが良い」

 

 

そんな理由でライブチケットの最後の1枚はヨッカの手に渡った。

 

 

******

 

 

ライブ当日。基本的にミカファール区で活動する青葉アカリだが、今回は何故かここジークフリード区のジークフリードスタジアムでライブを行うとの事。

 

鉄華オーカミ、一木ヒバナはそんな彼女のライブを観ようと、チケットを握り、スタジアム前まで来ていた………が。

 

 

「で、なんで新世代女子がここにいんの?」

「なんでって、ヨッカさんが行けなくなったからその代理で…………つーかアンタ、いつまで私の事新世代女子って呼ぶつもりよ!!……私には春神ライって言う立派な名前があるの!!」

「この子って確かあの時の………」

 

 

ヨッカに手渡されたライブチケットは黄色がかった白髪でショートヘアの少女、春神ライの手に渡り、結果的に彼女が3人目としてここに来ていた。

 

 

「あ、えぇっと……一木ヒバナさんですね」

「!!………あ、はいそうです、一木ヒバナです!!」

 

 

オーカと話している時と態度が全然違うと思い、戸惑いながらもライに対して返答するヒバナ。

 

 

「急な話で変わっちゃってホントごめんなさい。私は春神ライ、訳あって今はヨッカさんの家に居候してるんだ」

「そうだったんだ。うん、私は全然気にしてないよ。そんなに固くならなくていいから、今日は一緒に楽しもう!!」

「!!」

 

 

ヒバナにそう言われると、ライは嬉しそうな表情を見せる。

 

 

「じゃあ私達友達って事!?」

「え、うん。そうだね!!……よろしく、ライちゃん」

「おぉ、フウちゃんに続いて2人目のジャパニーズフレンド!!……こちらこそよろしく、ヒバナちゃん!!」

 

 

なんか急に仲良くなったな。肩身が狭いんだけど。

 

そんな事を思うオーカミの横で、一木ヒバナと春神ライは急激な速度で仲良くなった。女の子って凄い。

 

 

「よし、じゃあ今日は私とライちゃんとオーカの3人でアカリンのライブを楽しむぞ!!」

「おぉ!!………アンタもノリに合わせて『おぉ!』って言いなさいよ」

「なんで」

「こう言うのは合わせるもんでしょ?……相変わらず協調性がないわね。今日こそはアンタと決着つけてやるって思ってたけど、折角のライブだしね、また今度にしてやるわ」

「ふふ、それじゃそろそろ中に入ってようか」

「おぉ!!」

「…………」

 

 

笑顔を向け合い、仲良く腕を組みながら会場に入って行く2人。

 

彼女らを見て、内心で「女の子ってよくわかんないな」と思いながらも、オーカミはそんな2人の後ろについて行った。

 

 

******

 

 

会場内。ジークフリード区にもその名が知れ渡っている青葉アカリの影響力は凄まじいようで、あの界放リーグと同等、もしくはそれ以上の観客たちが彼女のライブを観ようと集まっていた。

 

そんな大勢の人々の中に、鉄華オーカミ、春神ライ、一木ヒバナはいた。

 

 

「ねぇ、ライちゃんはアカリンのどう言うとこが好きなの?」

「え?………あぁ、えぇっと………」

 

 

ヒバナがライにそう聞いた。ライは直後に困った顔を見せる。

 

無理もない。本当は全くの知識もなく、とある事情があってここまでやって来たのだから…………

 

 

「………笑顔が素敵な所」

 

 

困り果てたライは、ありふれた返答で誤魔化す作戦に出る。

 

 

「わかる!!……バトドルだから絶対仕事が忙しくて辛いはずなのに、私たちファンには絶対素敵な笑顔を振る舞ってくれるって考えたら本当泣けるよね!!」

「う、うん」

 

 

誤魔化せたが何故か感涙された。余程彼女の事を語りたかったのだろう。オーカミはバトドルには全く興味がなさそうだし、無理もないか。

 

 

「ヒバナって、意外とテレビの人とか好きだよな」

 

 

今度はオーカミがヒバナに聞いた。彼の言うテレビの人とは、おそらく「芸能人」と言う言葉が出てこなかったからだと思われる。

 

それはさておき、彼の言う通り、確かにヒバナは他にも早美アオイなどの所謂有名人に憧れるなど、ミーハー気質を持っているようにも思える。

 

 

「いやほら、私って一木花火の娘だけど、なんか全体的に普通だから、やっぱり憧れちゃうって言うか」

「界放リーグでベスト4に入った人が普通なわけないでしょ」

 

 

この間の界放リーグの試合のほとんどを観戦したライ。軽く笑いながら返答した。

 

 

「あっはは、確かに界放リーグでベスト4に入れたのは嬉しかったし、自信はついたんだけどね………でも最近たまに思うんだ。私がここまで勝ち残れたのは、一木花火の娘だからなんじゃないかって」

「一木花火??」

「知らないの?……ヒバナの父さん、プロのカードバトラーなんだって」

「へぇ〜」

 

 

今年の界放リーグにおいて、優秀な成績を収めたヒバナ。初参加にしてこの成績は実際かなりのモノであり、誇らしく思ってもいいだろう。

 

しかし、ややそれに迷いが生じているみたいだ。

 

 

「アオイさんやアカリンは、多分私と違って何もない所からのスタートのはずだったのに、並々ならぬ努力で、今となっては誰からも尊敬される凄い存在になってる。そう考えたら、本当に凄いなって思ってて、だからそう言う人達って尊敬してるんだ」

「…………」

 

 

ヒバナがそこまで言い切ると、少し考えたら、オーカミが口を開く。

 

 

「………なんかよくわかんないけど、誰の親だからとか、そう言うの関係ないと思う」

「!!」

「て言うか、コレをオレに教えてくれたのは多分ヒバナだ」

 

 

ヒバナのこれまでのバトルスピリッツに対する姿勢、向き合い方から、オーカミはヒバナの強さが父親のお陰ではない事は直感的に理解していた。

 

その旨を伝えると、ヒバナは自然と笑みが溢れて………

 

 

「えっへへ……そうだね。そうだったよ………一木花火の娘だからって言われるのが嫌だったけど、私自身がこう言う考え方だから、きっと嫌だって感じてたんだ…………よし、もう気にしない。私は私だ!!」

「うん。それでこそヒバナだ」

「よぉし、手始めにプロのカードバトラーになって、ついでにバトドルにもなってあげますか………夢はでっかく」

 

 

界放リーグを経てから、嫌、正確には獅堂レオンとのバトルに負けて、復帰した時から、ヒバナは凄く自信がついた、もしくは前向きになっていた。

 

前向きな人間は成長し続ける者だ。きっと、ヒバナはこれからもまだまだ強くなる事だろう…………

 

 

「プロとバトドルはやばくない??……なんて言うか、スケジュール的に」

「じゃあライちゃんもバトドルになろうよ!!」

「え、私がバトドル??」

 

 

ヒバナにそう言われると、ライは頭の中で自分がアイドルになってフリフリな衣装で歌って踊る所を妄想してみる。

 

自分でこんな事を思うモノではないとわかってはいるが、我ながら可愛いではないか。そう思い至る。

 

 

「ふ……そうなったらヒバナちゃんどころかアカリンも目じゃないかもね」

「じ、自信が凄い!?」

「新世代女子がアイドル………?」

 

 

今度はオーカミがライがアイドルになった所を想像してみる。そこにはマイクを片手に持ったライを前に、倒れていく数々のカードバトラー達の屍が聳え立っていた……………

 

 

「あ……フウちゃんから電話だ。ごめんヒバナちゃん、私ちょっと電話出てくる」

「え、今!?……もうすぐライブ始まっちゃうよ!?」

「大丈夫、すぐ戻るし、別に途中から観ても問題ないでしょ」

 

 

最後にそう言うと、ライは席を立ち、一度会場から離れた。そしてその約数秒後と言ったタイミングで会場から明かりが消え、真っ暗になる。

 

ライブが間も無く始まると言う合図だ。

 

 

「あーーライブ始まっちゃう。ライちゃんにはライブの最初から観て欲しかったな」

「なに、停電?」

「違うよオーカ、今から始まるんだよ」

 

 

ヒバナが軽くドルオタなのを発揮した所で、会場の舞台から一点の光が刺す。そしてその先には会場内の誰もが待ち望んでいたバトドル界のトップ、青葉アカリの姿が…………

 

 

「会場のみんな〜〜今日も来てくれてありがとう!!!………青葉アカリ、オンステージ!!」

 

 

スポットライトを一点に浴びた彼女のからの甘い声に、観客たちは産声を上げるような歓声を張り上げてしまう。

 

 

「わぁぁ来た来たアカリンだぁ!!……オーカァァァー!!!」

「うん、わかった、わかったから落ち着け」

 

 

ヒバナもその例外ではない。興奮の余り両手で横にいるオーカミの肩を全力で頭ごと揺らす。

 

やがて軽やかな音楽と共に、彼女は歌い、踊り出す。その神がかった美声は、会場にいる誰もを興奮の渦に巻き込んだ。鉄華オーカミ以外は…………

 

 

「わぁ〜〜感動………オーカ、やっぱりこういうのそんなに好きじゃない?」

 

 

ペンライトを振りながら感動するヒバナ。だがオーカミの相変わらずの無表情を見て少し気が変わる。楽しくもないのに無理矢理連れてきてしまったのではないかと、罪悪感的な何かを感じたのだろう。

 

 

「ん……いや、そんな事はないんだけど。なんか、慣れないんだ。昔は友達いなかったし」

「な、なんかごめん………」

「なんで?」

 

 

鉄華オーカミは昔から感情の起伏が乏しい。正直、楽しいと言えば楽しいし、それがヒバナという名の友達といるなら尚更である。だが昔は友達がいなかったからと言う理由が余りにも悲壮感が漂う。

 

そんなこんなあり、オープニングソングは終了。会場は拍手喝采を青葉アカリに浴びせる。そして彼女はマイクを片手に取り、挨拶を行う。

 

 

「改めまして、バトスピアイドルの『青葉アカリ』です!!………ご存知の通り、いつも私はミカファールで活動させてもらってるんですけど、ジークフリードでもこんなに沢山のファンの皆様が集まってくださって、ホントに嬉しいです!!」

 

 

またもや拍手喝采、そして指笛まで聴こえて来る。ジークフリード区でも彼女の人気が高い証拠ではあるのだろうが、きっとおそらくミカファール区や他の区から追っかけて来たファンも大勢いるのであろう。

 

 

「本日は新曲を披露!!……と行きたい所なんですけど、先ず最初は皆様の中から代表で1人、この私とバトルスピリッツをして貰います!!」

 

 

またまたまた大喝采。会場はかなりの冷房をこしらえていると言うのにも関わらず、凄まじい熱量に包まれて行く。

 

無理もない、現役のバトドル、しかもその中でもトップクラスの人気を誇るあの「青葉アカリ」とサプライズ的にバトルスピリッツを行えるのだ。ファンからしたら堪らない至福の時になる事は先ず間違いないだろう。

 

 

「ではでは選出方法〜〜!!……この光る3つのスポットライトが重なった先にいる方が私の対戦相手です!!!………それでは参ります〜〜!!」

 

 

3つのスポットライトがドラム音と共に会場をぐるぐると回って行く。会場の殆どはそれらが自分に止まることを願っている…………

 

そしてドラム音が止まり、3つのスポットライトが同時に同じ場所へと焦点を当てる。その先にいた人物は…………

 

 

「あ?………何、眩しい」

「決まりました!!……そこの赤い髪の男の子!!」

 

 

まさかの鉄華オーカミだった。無自覚だが、相変わらずの豪運っぷりである。

 

 

「何?」

「お、オーカ凄い、凄いよホントに!!……アカリンとバトルができるなんて!!!」

「あぁ、スポットライトってこれの事」

「では赤い髪の君!!……私と同じ舞台へ、レッツ、オンステージ!!」

 

 

急展開に頭が追いつかないオーカミ。戸惑いながらも席を立ち、青葉アカリと同じステージへと立つ。

 

 

「舞台に上がってくれてありがとう。2人でもっと楽しい時間を作ろうね!!」

「え、あぁ……うん、はい」

 

 

オーカミは多分歳上であろう彼女に、取り敢えずおぼつかない敬語を使って見る。

 

 

「君の事は何て呼べば良いかな?」

「あぁ……別になんでも良いけど、じゃあオーカミで」

「オーカミ君!!……よろしくね!!……私の事はアカリンでいいよ!!」

 

 

アイドルと言うものが特段苦手なわけではないが、青葉アカリの言葉の節々から感じ取られる、アイドル然たるキャラクター感に違和感を感じずにはいられない。

 

 

「おい、アレって鉄華オーカミじゃねぇか?……今年の界放リーグ準優勝した」

「あの鉄華団とか言うカードの使い手か!!………獅堂レオンも追い詰めたって言う」

「マジかスゲェ!!……これは世紀の一戦だ!!」

 

 

ここらで会場の観客達の殆どがオーカミが誰なのかに気がつく。今年の界放リーグが終了してからまだ日が浅いので、必然ではある。

 

 

「では観客の皆様!!……この私、青葉アカリと……オーカミ君によるバトルスピリッツをご堪能ください!!」

「バトルするならアイドルだろうと手は抜かない………行くぞ、バトル開始だ……!!」

 

 

そう言うと、互いにBパッドを展開し、デッキをセット。そして、会場全体の期待値が上昇して行く中、それは始まる。

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

いつものコールと歓声と共に、鉄華オーカミと界放市トップのバトドル青葉アカリによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は鉄華オーカミだ。そのターンシークエンスを進めて行く………

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………ガンダム・バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

オーカミのフィールドに姿を見せるモビルスピリットは、相棒であるバルバトスの最初の姿である第1形態。

 

バルバトスの早速の登場に、またもや観客が沸く。

 

 

「へ〜〜これがバルバトス」

「召喚時効果、3枚オープンして鉄華団カードを手札に加える………オルガ・イツカを手札に加えて、ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

第1形態の効果で創界神ネクサスカードである『オルガ・イツカ』を手札に加え、そのターンをエンドとするオーカミ。

 

次は界放市中から愛されるトップバトドル、青葉アカリのターン。

 

 

「いっきま〜〜す!!……私のターン!!」

 

 

会場の期待とスポットライトの光を一身に背負い、巡って来たそれを進めて行く…………

 

 

[ターン02]青葉アカリ

 

 

「メインステップ!!……アイカツスピリット!!……シルキーラブデビルコーデ・大地ののをLV2で舞台へ!!」

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]大地のの】LV2(2S)BP3000

 

 

「アイカツスピリット……?」

「その名の通り、アイドルのスピリットです……可愛いでしょ?」

 

 

青葉アカリが召喚したスピリット、いやアイドルは紫の衣装に身を包んだツインテールの少女、大地のの。

 

バトルスピリッツにおいて、メインとなるスピリットは所謂モンスター。ドラゴンやロボット、勇敢なる戦士から異形まで幅広く存在するが…………

 

『アイカツスピリット』…………

 

そのバトドル専用のスピリット群は、どこからどう見ても何も武装を施していない、ただの人間である。

 

 

「そしてこの召喚がキーとなり、手札にあるシルキーラブデビルコーデ・白樺リサの効果!!……この子も舞台へ招待しゃいまーす!!」

「!!」

「この効果でボイドからコア1つを追加、LVは2だよ♡」

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]白樺リサ】LV2(2)BP3000

 

 

軽やかに舞台へ呼び出されたのは、大地ののと同じ衣装をその身に纏う黒髪ロングでクールそうな少女、白樺リサ。その効果で青葉アカリの使用コア数を増やす。

 

 

「アタックステップ!!……行きます、先ずはののちゃんでアタック〜〜!!……そしてその効果【フィーバーアピール】を発揮しちゃいま〜す!!」

「!!」

「このスピリットのコアをトラッシュに置く事で、ボイドからコア1つを追加。そうした時、トラッシュにあるソウルコアはリサちゃんに渡りま〜す!!」

 

 

アイカツスピリット特有の効果【アピール】が発揮される。大地ののは手にソウルコアを出現させ、そのまま歌やダンスを披露。およそ10秒程度でそれを終えると、その手に持つソウルコアを白樺リサへと華麗に投げ渡す。

 

 

「またコアを増やした………アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

大地ののは高い脚力で跳び上がり、そのままライダースピリット顔負けの跳び蹴りを披露。鉄華オーカミのライフバリアを1つ粉砕した。

 

 

「続けてリサちゃんでアタック!!……【フィーバーアピール】でソウルコアをトラッシュに置く事で1枚ドロー!!……ソウルコアはののちゃんの上に移動!!」

「ソウルコアの移動量凄いな………」

 

 

今度は白樺リサの【フィーバーアピール】…………

 

その効果で青葉アカリは1枚ドロー、そして白樺リサは大地のの同様に歌って踊り、ソウルコアと言う名のバトンを彼女に手渡した。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

ライダースピリット顔負けのライダーパンチを披露する白樺リサ。オーカミのライフバリアがまた1つ損壊する。

 

 

「アイドルのスピリットって言ってたけど、結構武闘派揃いじゃん」

「まっ……ライフは壊さないとバトルが進まないからね〜〜そこら辺はしょうがないと言う事で!!……ターンエンド!!」

手札:4

場:【[シルキーラブデビルコーデ]大地のの】LV3

【シルキーラブデビルコーデ]白樺リサ】LV2

バースト:【無】

 

 

所々でスピリットとしてのパワーが見え隠れするアイカツスピリット達。ただそれもアイカツスピリットの人気の高さの理由の一つと言えよう。

 

未知なるスピリットとの遭遇に少しワクワクしながらも、それを全く顔に出さないまま、鉄華オーカミは巡って来たターンを進めて行く………

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーを召喚して、このカード、オルガ・イツカを配置する」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

オーカミが召喚、配置したのはいつものメンバー。武装を施した車両モビルワーカーと、創界神ネクサスのオルガ・イツカだ。

 

オルガはフィールドにこそ出現しないが、そのシンボルと効果は発揮される。神託も当然発揮され、その上にコアが3つ追加された。

 

 

「そしてコイツだ………大地を揺らせ、未来へ導け……バルバトス第4形態……LV2で召喚!!」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

 

上空から降り立ったのは、オーカミのエースカード、バルバトス第4形態。黒い鈍器、メイスを手に握り、堂々の登場だ。召喚につき、創界神であるオルガにコアが+1される。

 

 

「姉ちゃんが言ってたな『女の子には優しくしろ』って……でもバトスピのスピリットなら話は別だよな………アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック」

 

 

アタックステップへと直行するオーカミ。バルバトス第4形態の効果を存分に振るう。

 

 

「アタック時効果、相手スピリットのコア2つをリザーブに!!」

「!!」

「2体で連携するなら、先ずはその連携を潰す………白樺リサからコア2つをリザーブに、よって消滅する」

 

 

バトルならば、スピリットならば、例え相手が女の子でも容赦はしないオーカミ。バルバトス第4形態が命令通りメイスを白樺リサに対してメイスを振るう……………

 

が。

 

 

「ん?」

 

 

直撃したかと思った攻撃。だがそれは白樺リサを包み込むように出現した、半透明の頑丈そうなバリアによって防がれており、本人には傷ひとつなかった。

 

そしてその後、白樺リサは「バイバイ〜〜」とでも言うようにバルバトス第4形態に対して手を振りながらバリアと共にゆっくりと消滅して行った。バルバトス第4形態もそれに合わせて軽く手を振る。

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]白樺リサ】(2➡︎0)消滅

 

 

余りにシュールする絵面に、流石のオーカミもドン引く。

 

 

「え………なに?」

「ふふ、面白いでしょ、私のアイカツスピリット」

「面白いって言うか、なんか怖いな…………オルガの【神域】の効果でデッキから3枚破棄して1枚ドロー」

「バルバトス第4形態のアタックはライフで受けちゃいます!!………あいた」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉青葉アカリ

 

 

気を取り直したバルバトス第4形態。メイスを横一線に振るい、今度は青葉アカリのライフバリアを1つ砕いた。

 

 

「ターンエンド。なんか、調子狂うな」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

バースト:【有】

 

 

青葉アカリのアイカツスピリットの快活さと特殊な仕様にバトルのテンポがイマイチ掴めないオーカミ。念のためブロッカーを2体残し、そのターンをエンドとした。

 

次は青葉アカリのターンだ。

 

 

[ターン04]青葉アカリ

 

 

「メインステップ〜〜!!……先ずはののちゃんのLVを1に下げまして、今度はこの子、マーガレットプリズムコーデ・新条ひなきをLV1で舞台へ!!」

 

 

ー【[マーガレットプリズムコーデ]新条ひなき】LV1(1)BP4000

 

 

また別のアイカツスピリットが姿を見せる。それは夏を感じさせるような白を基調としたデザインの衣装に身を包む金髪ショートヘアの少女、新条ひなきだ。

 

 

「この子の見せ場は召喚時効果!!……手札から友達を連れて来ます!!」

「つまり召喚するって事か」

「YES!!……現れて、本日の主役!!……ホワイトスカイヴェールコーデ・大空あかり!!」

 

 

ー【[ホワイトスカイヴェールコーデ]大空あかり】LV2(4S)BP10000

 

 

新条ひなきに続けて舞台へと華麗に降り立つアイカツスピリットが1人…………

 

その名は大空あかり。使用者である青葉アカリと同じ名前のアイカツスピリットだ。青い空と白い雲と笑顔のドレスで、今日も観客達を感動の渦へと巻き込む。

 

 

「同じ名前……アンタのエースか」

「察しがいいね!!……あかりちゃんの召喚煌臨時効果、私の手札全てをあなたに見せちゃいます!!」

「!?」

 

 

召喚時効果を発揮したかと思えば、いきなり手札を見せつけられるオーカミ。手札の内容だけが相手に知れ渡るだけのこの行動になんの意味があると思った彼だったが…………

 

 

「その中にある系統「衣装」を持つカード1枚につき相手のスピリット1体をデッキの下に戻しちゃいま〜〜す!!」

「!?」

「私の手札は3枚中3枚が系統「衣装」を持つカード………よってバルバトス第1形態、第4形態、鉄華団モビルワーカーの全てをデッキの下へ!!……バイバーイ!!」

 

 

どこからともなく3つの斧を取り出した大空あかり。それを順番よく鉄華団のスピリット達に向かって投擲。

 

3体のスピリット達は、機械なのに目を丸くして困惑しながらも、それをモロに受け、たちまち爆散していった。

 

 

「ッ……さっきから攻撃方法ヤバすぎだろ」

「これであなたのスピリットは0、対する私のスピリットは3体、そしてあなたのライフも3………これで決まりね、アタックステップ!!」

 

 

その華奢な女の子が繰り出すとは思えない攻撃方法に戸惑うのはスピリットだけではなく、オーカミも同じ。

 

だが冷静さは失わないか、このタイミングで発揮できる効果を発揮させて行く…………

 

 

「互いのアタックステップ開始時………オルガの【神技】を使用」

「!!」

「コアを4つ払い、トラッシュから鉄華団スピリットをノーコストで召喚する………轟音打ち鳴らし、過去を焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイクをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV2(3)BP9000

 

 

全滅したオーカミの場に新たに巨漢のモビルスピリットが出現。その名はガンダム・グシオンリベイク、鉄華団デッキの守護神だ。

 

 

「召喚時効果、相手フィールドのコア2つをリザーブに置く……よって、大地ののと新条ひなきのコアを1つずつ外し、消滅させる!!」

「ッ……このタイミングで除去効果」

 

 

ー【[シルキーラブデビルコーデ]大地のの】(1➡︎0)消滅

 

ー【[マーガレットプリズムコーデ]新条ひなき】(1➡︎0)消滅

 

 

グシオンリベイクが武器であるハルバードを横一線に振るう。それから生まれた斬撃の衝撃波が大地ののと新条ひなきの2体を消滅させる。

 

もちろん、衝撃波との衝突は全て突然展開された謎バリアが防いだ。グシオンリベイクに向かって「バイバーイ」と言いながら帰って行く彼女らに、グシオンリベイクは僅かながらに頬を赤く染める。

 

 

「これでスピリットは1体ずつだ」

「やるね、流石は界放リーグの準優勝者………でもこれだけで私の可愛いアイカツスピリット達を止められると思ったら大間違い」

「!!」

「アタックステップは続行、行きます、エースカード大空あかりちゃんでアタック!!………その効果【フィーバーアピール】を発揮!!」

「ッ……またその効果か」

 

 

ソウルコアをトラッシュに置く事で発揮できる【フィーバーアピール】………

 

唯一場に残ったアイカツスピリット、大空あかりもまたその効果を使える存在であった。

 

 

「その効果により、あかりちゃんは回復し、次の私のスタートステップまで黄のシンボルを1つ追加、さらに相手の効果を受けない!!」

「マ、マジか……効果多過ぎだろ」

 

 

大空あかりが発揮した効果は『回復』と『シンボルの追加』『完全耐性』…………

 

バトルスピリッツと言うゲームにおいて、強い効果がこれでもかと敷き詰まっている。

 

 

「最初の攻撃はライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

大空あかりは、大地ののや白樺リサ同様、ライダースピリット顔負けのライダーキックを披露し、鉄華オーカミのライフバリアを一気に2つも破壊する。

 

 

「回復につきもう一度アタック!!」

「くっ………グシオンリベイク、ブロック頼む」

 

 

二度目のアタックは堪らずグシオンリベイクでブロック宣言する。グシオンリベイクにはアタックブロック時に疲労状態の相手スピリット1体を破壊する効果があるが、大空あかりの完全耐性の力により、それは無効化。

 

 

「あかりちゃん、やっちゃえぇぇ!!」

 

 

青葉アカリがそう叫ぶと、それに合わせるように、大空あかりは何故かロケットバズーカを構え、放つ。

 

グシオンリベイクは戸惑いながらそれに直撃、爆散。あっさり敗北してしまった。

 

 

「コイツら、何でもありかよ」

「うんうん、それもアイカツスピリットだよね!!……ターンエンド」

手札:3

場:【[ホワイトスカイヴェールコーデ]大空あかり】LV2

バースト:【無】

 

 

好き放題暴れ回ったアイカツスピリット達の攻撃はこれで終わり、再びオーカミへとターンが回って来た。彼は増えたコアを巧みに使い、怒涛の大反撃を始める。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ!!……このターンで決める、モビルワーカー2体を連続召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

本日2、3体目となるモビルワーカー。それらの召喚直後に、オーカミは手札のカードをさらに1枚抜き取った。

 

 

「そして、4を超えた先で、未来を掴め!!……バルバトス第6形態をLV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV3(4)BP12000

 

 

オーカミのフィールドに現れる最強のバルバトス、第6形態。重厚感のある白き重装甲が会場のスポットライトに照らされる。

 

 

「アタックステップ!!……鉄華団モビルワーカーでアタック!!……オルガの【神域】でデッキから3枚破棄して1枚ドロー……さらにこのターン、アンタはオレのアタックステップを止められない」

「………ライフで受けます」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉青葉アカリ

 

 

「もう1体のモビルワーカーでアタック!!」

「それもライフ!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉青葉アカリ

 

 

2体のモビルワーカーが走り出し、体当たりで青葉アカリのライフバリアを1つずつ粉砕して行く。

 

これで彼女の残りライフは2つ、満を辞してバルバトス第6形態が動き出す。

 

 

「バルバトス第6形態でアタック!!……その効果で一度だけ回復」

「えぇ、そんな効果あるの!?」

 

 

緑の眼光を強く輝かせ、レンチメイスを構えるバルバトス第6形態。その効果は大空あかりと同じく1ターンに二度の戦闘を可能にする回復効果。

 

 

「あ、アタックはライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉青葉アカリ

 

 

「ラストアタックだ、バルバトスッ!!」

「………あちゃ〜〜ここまでだったか……でも最後まで笑顔は忘れない!!………ライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉青葉アカリ

 

 

バルバトス第6形態による怒涛の二連続攻撃。それにより青葉アカリのライフバリアは全て粉砕。

 

よってこのバトル、勝ったのは鉄華オーカミだ。はじめてのアイカツスピリットに翻弄されながらも、見事に勝利して見せた。

 

 

「見事、私に勝利したオーカミ君に盛大な拍手を!!」

 

 

青葉アカリがそう言うと、会場は彼らに向かって盛大な拍手を送った。中には敬意を込め過ぎてスタンディングオベーションまでしている者もいる。

 

 

「ありがとう。良いバトルだったね」

「あぁ、こちらこそ」

「バトルに勝ったオーカミ君には、こちらの私のグッズセットをプレゼント致します!!」

「え?」

 

 

どこからともなく並び出す青葉アカリのグッズセット。彼女が映っている抱き枕や目覚まし時計、クッション、さらにはファン専用のペンライトなど、それらは豊満な種類を備えていた。

 

どれもファンなら喉から手が出る程欲してしまうものだ。ただ別にアイドルに興味があるわけではないオーカミは微妙そうな顔をする。

 

 

「それじゃあ次は新曲を披露ですね!!……オーカミ君もなんか歌う?」

「いや、いい」

 

 

この後、ライブは小一時間ほど続いた。新曲の披露等もあり、会場はバトルの時以上に大きな盛り上がりを見せ、ヒバナも大満足な様子であった。

 

途中で長い電話から戻って来たライも無事ライブを観ることができ、少なくとも3人にとってはかなり充実した1日となった事だろう…………

 

 

******

 

 

 

ライブ後、楽屋裏にて。

 

スポンサーやディレクターに一通り挨拶を終えた超人気バトドル、青葉アカリは、1人ベンチで一息着くように腰を下ろした。

 

そして、懐からある1枚のカードを取り出し、うっとりと眺めながら、このような事を1人呟くのだった…………

 

 

「………アレが、Dr.Aの言ってた鉄華オーカミ君か。今度会ったらこのゼノンザードスピリット『アオバ』様で傷つける事ができるんだね…………あぁ、待ち遠しい」

 

 

その手に持つカードの名は『「双龍頭領」アオバ』…………

 

おそらく、Dr.Aが裏で密かに呟いていたゼノンザードスピリットの1体で先ず間違いないだろう。つまり、彼女はそちら側の人間。

 

いつか必ず、本当の牙を剥ける事だろう…………

 

 

 

******

 

 

時は夕暮れ。

 

青葉アカリの正体などつゆ知らず、鉄華オーカミはヒバナ、ライと別れ、1人帰路に着いていた。少し2人に分けたとは言え、その両手にはバトルの景品である、大量の青葉アカリグッズが握られている…………

 

 

「………色んな奴がバトスピやってんだな。これだから、バトスピはオレを飽きさせてくれない」

 

 

今日のバトルを思い返しながらそう呟いた。界放リーグで負けた悔しさも、今回の一件でどうやら晴れたらしい。

 

そして、彼は住まいであるマンションに辿り着くのだが…………

 

 

「ん?……鍵開いてる」

 

 

珍しく家の鍵が開いていた。オーカミは何の疑いもなく扉を開け、入室する。

 

 

「おかえり、オーカ」

「姉ちゃん。今日は早いんだな、珍しい」

「はは、そりゃそう言う日もあるよ」

 

 

オーカミの姉であり、現役のモデル、鉄華ヒメがそこにいた。まるでオーカミの帰りを待っていたかのように、玄関で…………

 

 

「てか、それ何持ってるの?」

「あぁ、なんかアイドルグッズだって、いっぱい貰ったから、クッションとか、使えそうな奴だけ持って帰って来た」

「そう」

「?」

 

 

何やら不思議な感じだ。気まずいと言うか、不穏な空気と言うか…………

 

オーカミがそんな事を感じ取っていると、ヒメは突然打ち明けた。

 

 

「単刀直入に言うわオーカ…………バトスピを、やめて欲しい」

「………え?」

 

 

切羽詰まったような姉の表情を見るに、どうやら本気らしい。

 

バトスピをはじめて早3ヶ月。鉄華オーカミにとって、ある意味最大の障壁とも呼べる試練が幕を開けた…………

 

 

 

 




次回、第27ターン「黒い鎧のデジタルスピリット」


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第27ターン「黒い鎧のデジタルスピリット」

「アニキ……オレ、バトスピ辞めます」

「…………は!?」

 

 

そんな言葉から、その1日は始まった。

 

ヨッカにとっては、平凡な、何気ない日常に爆弾でも投下されてしまったような気分であったに違いない。

 

ただ無理もない。何せ、あの可愛がってた弟分、鉄華オーカミ。彼が、あの界放リーグをバトスピ初めて3ヶ月で準優勝と言う偉業を成し遂げた彼が、『バトスピを辞める』と突然告げて来たのだから…………

 

 

「これ、オレのデッキです。売ろうと思います」

「待て待て待て待て!!!………勝手に話を進めんな、何で急に辞めるなんて」

 

 

今いる場所はカードショップのアポローン。2人はスタッフだが、まだ時間は朝方なので客足は無い。それを見越して、オーカミは自分の鉄華団のデッキを、レジ前のヨッカの目の前に置いた。

 

もうこれはいらない。遊び終わったおもちゃは売ろう。

 

まるでそう告げるように…………

 

 

「何でって………あきたし」

「嘘つけ、なんだ今の間は………あらかた予想はついてるぞ、指図め、あの過保護な姉ちゃんにそう言われたからってとこだろ?」

「…………」

 

 

無言は肯定を表す。

 

ヨッカにそう言われると、オーカミは昨日の夕方に起こった出来事を思い出して…………

 

 

******

 

 

「単刀直入に言うわオーカ…………バトスピを、やめて欲しい」

「………え?」

 

 

前日、自分の家にて、不穏な空気の中、オーカミは、姉である鉄華ヒメからそう告げられた。

 

唐突であったためか、もしくは意外だと思ったためか、オーカミにしては珍しく困惑した様子を見せる。

 

 

「な、何で………ダメなのか、バトスピするの……!?」

「………」

 

 

ヒメは黙って首を縦に振る。

 

 

「………昔ね。言われたんだ、死んだお父さんに…………『オーカミのバトスピには気をつけろ』って」

「……オレの、父さん?」

 

 

彼女の口から出て来たのは、彼ら姉弟の父親の話。

 

父親はオーカミが生まれてまだ間もない頃に亡くなっている。だからオーカミはその父親の事を全く知らないのだ。

 

 

「仕事で忙しくてわからなかった。貴方がバトスピをはじめてて、しかもそのショップでバイトしてたなんて…………ずっと興味を持たなかったから勝手に安心してた」

「バイト黙ってたのはごめん………忙しい姉ちゃんを、少しでも楽させたくて………」

「私なんかに余計な気遣いはしなくていい………好きな事をやって遊ぶのは全然いい………でも、でも………」

 

 

ヒメは拳を硬く握り締め、声を震わせる。その頭の中には界放リーグ決勝で目から血を流しながら倒れる弟の姿。

 

 

「お願いだから、バトスピだけは辞めて………!!」

「………姉ちゃん」

 

 

普段のお淑やかな姉からは、考えもつかない言動に切羽詰まった様子。理由は全くもってわからないが、オーカミはこれがただ事ではない事を理解した…………

 

そして思い至った。「姉ちゃんを困らせるくらいなら、もうバトスピは辞めよう」と…………

 

 

******

 

 

「大会中にぶっ倒れたからだろ!?……確かにあん時はビビったけど、あんなのただのアクシデントだ。オレからもオマエの姉ちゃんに説明してやるから、バトスピは辞めるな」

 

 

バトスピをはじめてからと言うもの、精神的な何かが良い方向に変化して来たオーカミに、ヨッカは辞めさせるもんかと、どうにか説得しようとするが…………

 

 

「………アニキがなんて言ってもダメだ。オレは今日限りでバトスピを辞める」

「オマエ、姉ちゃんの言う事を何でもかんでも鵜呑みにすんじゃねぇよ。偶には逆らって、自分はこうしたいって言う意思を伝えたらどうだ……どうせちゃんと話し合ってもないんだろ?」

「………」

 

 

オーカミは姉であるヒメに逆らった事はなく、ましてやワガママな気持ちなど伝えたこともない。それは、彼が自分の体1つでお金を稼いでいる姉の事を知っているからである。

 

寧ろ忙しい姉に迷惑をかけないようにしたい、何か力になってあげたいと常々思っている。その一環として、バトスピを辞める事が姉にとっていい事ならば、辞める以外の選択肢はない…………………

 

 

「なんで最初っからオレが本当はバトスピを辞めたくない前提みたいで話を進めんだよ。辞めるのはオレの勝手だろ、別に姉ちゃんのせいじゃないよ」

「だってオマエ、あんなに楽しそうにバトルしてたじゃねぇか」

「…………」

 

 

そんな折、店内の自動ドアが開き出す。

 

慌てて「いらっしゃいませ」と口にするヨッカ。そして、その人物を目に入れるなり、さらに畏まる。

 

 

「え、アルファベットさん!?」

「九日か。そう言えばカドショの店長が本職だったな」

「いや〜〜そうなんすよ。こっちの方の仕事も、中々忙しくて………」

 

 

ツンツンした茶髪の髪に、サングラスを掛けている「アルファベット」と呼ばれる謎の男。ヨッカとは知り合いみたいだ。

 

 

「………そんなに忙しそうには見えないが?」

 

 

アルファベットが、少しズレたサングラスを指先で定位置に戻すと、ガラガラの店内を見渡しながら、ヨッカにそう言った。

 

 

「いや、今からですよ。今日は今からどっと忙しくなる予定なんす」

「そうか」

「………誰」

 

 

今度はオーカミがヨッカに聞いた。

 

 

「あぁ、この人は界放警察の警視、アルファベットさんだよ。ちょっと顔見知りなんだ」

「警察………」

「アルファベットの名前はコードネームで、本名は秘密にしないと行けないらしい」

 

 

界放警察。その名の通り、界放市の警察である。

 

彼、アルファベットはその警視であり、様々な事件を調査する権限を持っている。

 

 

「で、アルファベットさん。今日は何の用があってここに?……事件の聞き込みかなんかすか?」

「今日はオマエに用はない」

「いや言い方」

「オレが用があるのは……オマエだ、鉄華オーカミ」

「え………オレ?」

「オーカに?」

 

 

界放警察の警視、アルファベットが用があるのは、ヨッカではなく、オーカミだった。オーカミは「何か逮捕されるような悪い事したっけな」と考えてみるが、特に思い当たる節がない。

 

 

「あの……オレ別に何も逮捕されるような事してないですけど」

「バカか。正確には、オマエのバトルスピリッツに用がある」

「!!」

「ジュニアとは言え、界放リーグで準優勝したあの力………オレにも見せてみろ」

「…………」

 

 

アルファベットの興味が唆られるのは、オーカミのバトルスピリッツ。是非、彼と一度バトルしたい。そう言う要望なのだろう。

 

だが、もうオーカミは…………

 

 

「オレはもう、今日限りでバトスピを辞めるんだ。デッキももうすぐ売り払う」

「………なに?」

「悪いけど、バトスピやるなら、他を当たってくれ」

 

 

そう。もうバトスピは辞めるのだ。

 

唯一の肉親で、且つ、自分の中では絶対的な存在である姉のヒメに、そう言われたのだから……………

 

 

「あ、あ〜〜すんませんアルファベットさん、コイツ、なんか色々あったみたいで…………まぁでも1週間、いや今日中にオレが、またバトスピの魅力を教えて…………」

「いや九日、その必要はないぞ」

「え?」

 

 

どうにかしますと言ってくるヨッカを、言葉一つで一蹴すると、アルファベットは自身のデッキを、彼、鉄華オーカミへと突き付ける。

 

 

「鉄華オーカミ。オマエが今日限りでバトスピを辞めると言うのならそれでもいいだろう。だが、このオレの挑戦を断る事は許さない」

「??」

「オマエには、今すぐこのオレとバトルしてもらう。オマエの、華々しい引退試合としてな」

「………!!」

 

 

強引な誘いを受ける。確かに『今日限りで辞める』と言っているだけで、現時点で辞めた訳ではないが…………

 

 

「………オーカ」

「アニキ」

「オレもオマエに、このアルファベットさんとバトルして欲しい。それをやり終えてからじゃないと、このデッキを売るなんて真似、させないからな」

「………わかった」

 

 

ヨッカはオーカミの手にそっと鉄華団のデッキを握らせる。

 

 

「よし、ならば場所を変えるぞ。こんなチンケな店では、引退試合は務まらんからな」

「チンケって………まぁいいや、頑張れよオーカ!!」

「………うん」

 

 

正直、オーカにとっては気乗りしないが、こんな状況になってしまったのなら仕方ない。大人しくバトルして、ヨッカとアルファベットを納得させる、最短距離でバトスピを辞めるには、それしかない。

 

 

「じゃあコイツを借りて行くぞ」

「はい、アルファベットさん。そいつの事、よろしく頼みます」

「あぁ」

 

 

アルファベットはオーカミを連れ、一度アポローンを後にする。本日店は1人しかいないため、店番しないといけないヨッカだったが…………

 

 

「……やっぱ気になるし、店番サボって………と言うか今日はもう店閉めて、オレも行くか」

 

 

どうしてもオーカミのバトルが気になる彼は、店を閉めてでもオーカミのバトルを見に行こうと決意するが…………

 

 

「ん?……え、あれ」

 

 

お客さんが来た。しかも大勢。老若男女問わず、途端に客足が伸びてしまう。これでは店は閉められない上にオーカミのバトルも見届けられない。

 

どうにかしてお客さんを退かそうと考えるヨッカだったが………

 

 

「ちょっ、ちょっと………あぁ、うん。いらっしゃいませ〜」

 

 

諦めた。数が余りにも多過ぎる。今回の件、一度全てこの街の警視、アルファベットに託す事にした。オーカミの事が心配ではあるが、ハードボイルドな彼なら、必ずオーカミにバトスピ魂を再燃させてくれると信じて、今日は業務に明け暮れる。

 

 

******

 

 

一方でアルファベットとオーカミは、アポローンのある市街地からやや外れた場所にある、路地裏にまで足を運んでいた。

 

少し暗い上、妙に薄気味悪い所で、とてもではないが気持ち良く引退試合ができる場所とは思えない。少なくともオーカミはそう感じていた。

 

 

「………アンタ、さっきアポローンを『チンケな店』って言ってたけど、ここの方がよっぽどチンケな場所だろ」

「マジレスが好きなようだな。オレのバトルは、極力周囲には見せたくない。それだけだ」

「??………見られたくない理由でもあんの?」

「………」

 

 

アルファベットは「そんな事より」と、オーカミの質問を一蹴し、半ば強引に話題を切り替える。

 

 

「このバトル、賭けをしようじゃないか」

「賭け?……アンタ警察だろ。そんな事していいのかよ」

「良い。オレがルールブックだ」

「………な、なんて無茶苦茶な奴」

 

 

仮にも警察の、しかも警視が、まだ中学生のオーカミ相手に賭けを仕込んで来た。普通に、常識的に考えて、これは犯罪。

 

だが全ては許される。何せその相手があの優秀過ぎる警視、アルファベットなのだから…………

 

 

「オマエがオレに勝った時は、好きにしろ。だが、オレが勝った時は、オマエの鉄華団のデッキを貰うぞ」

「なッ!?!」

「何を驚いている。今しがた、売ろうとしていたではないか。それとも何だ、金か?……安心しろ、その時はたんまりとお小遣いをくれてやる」

「いや………そう言うのじゃ………」

 

 

アルファベットが賭けて来たのは、まさかの自分のデッキ。確かに、誰も見た事がないと言われているカードだらけの不思議なデッキなのだから、当然と言えば当然なのかもしれないが…………

 

 

「…………わかった。それでもいいから、やろう」

「ふむ。判断は早い方か」

 

 

オーカミはこの息が詰まりそうな展開から、早く脱出したい余り、彼の要求を飲み込む。

 

どちらにせよ、関係はない。もうすぐバトスピは辞めるのだから、デッキなんてあったって、無駄なだけだ。そう考えていた…………

 

 

「ならば直ぐに始めよう。そして見せてみろ、界放リーグでレオン相手に見せた、オマエの強さを」

「………一々うっさい奴………もういいから、さっさとやるよ」

 

 

互いに距離を取り、Bパッドを展開し、デッキをそこにセット。バトルの準備を瞬時に完了させる。

 

そして始まる。鉄華団のカード達の運命を決めるバトルスピリッツが…………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

いつものコールで、鉄華オーカミの引退試合が幕を開ける。

 

先攻はアルファベットだ。鉄華オーカミとその使用カード、鉄華団の実力を見るべく、己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]アルファベット

 

 

「メインステップ……犀ボーグを召喚。召喚時効果でコアブーストし、LV2へ」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(2)BP5000

 

 

アルファベットが呼び出したのは、サイの見た目をしたサイボーグ。その名前もなんの捻りもなく、犀ボーグだ。先行はコアステップを行えないが、彼はこの犀ボーグの効果でコアを増やす。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【犀ボーグ〈R〉】LV2

バースト:【無】

 

 

アルファベットはターンエンドの宣言。オーカミへとターンが巡って来る。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……ネクサス、イサリビを配置」

 

 

ー【イサリビ】LV1

 

 

初手でオーカミが呼び出したのはネクサスカード。鉄華団の赤い花のマークが刻まれた母艦、イサリビが、彼の背後へと現れた。

 

 

「配置時効果、手札のカード1枚を破棄する事で、1枚ドロー………ターンエンド」

手札:4

場:【イサリビ】LV1

バースト:【無】

 

 

オーカミはイサリビの配置時効果で手札の質を向上させ、一旦ターンを終了する。

 

互いに緩やかなスタートを切り、バトルはアルファベットの第3ターン目へと移行する。

 

 

[ターン03]アルファベット

 

 

「メインステップ………2体目の犀ボーグを召喚。効果でコアブースト」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(2)BP5000

 

 

現れたのは2体目となる犀ボーグ。その効果でまたコアが増えて行くのを見届けると、アルファベットは手札にある1枚のカードを切り、己のBパッドへと叩きつけた…………

 

 

「マジック、ソウルドロー……不足コストは2体の犀ボーグをLV1にして確保。コストにソウルコアも使用する………その効果により、デッキから合計3枚のカードをドロー」

 

 

2体の犀ボーグのLVが下がる。しかし、それらから抜き取られたコアは、ドローマジックの礎となる。

 

ソウルドロー。コストの支払いにソウルコアを含めれば、デッキから3枚のカードをドローできる、優れた赤マジックだ。

 

そして、それにより殆どのコアを使い切った彼だが、まだ止まる気配はなく…………

 

 

「白の成長期デジタルスピリット、ハックモンをLV1で召喚」

「ッ……デジタルスピリット」

「不足コストは2の犀ボーグから確保、よって2体は消滅する」

 

 

ー【ハックモン】LV1(1)BP2000

 

 

アルファベットの場に召喚されたのは、ホワイトカラーの小竜。ランクの低い、成長期のデジタルスピリットだが、纏っている赤い布や、そこから覗ける鋭い眼光が、そのスピリットをただ者ではないと錯覚させる。

 

 

「ハックモン、召喚時効果発揮………デッキから5枚のカードをオープンし、その中の対象カードを手札へ加える。オレは、このカード、ジエスモンを手札に加え、残ったカードはデッキの下へ」

「………」

 

 

一度に5枚ものカードをデッキからオープンするハックモン。アルファベットはその中から「ジエスモン」と呼ばれる1枚のカードを手札に加えた。

 

オーカミは、そのカードが何なのかはわからないが、チラッと見えたイラストから、かなり強力なスピリットだと認識して………

 

 

「ジエスモン………それがアンタのエースか、サングラスの人」

「………ターンエンドだ」

手札:6

場:【ハックモン】LV1

バースト:【無】

 

 

犀ボーグとソウルドローを巧みに使い、自分のデッキとコアを大いに回転させたアルファベット。一度そのターンをエンドとし、オーカミの第4ターン目が始まる。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーを1体、LV1で召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

このターン、オーカミが最初に呼び出したのは、鉄華団のカード達の中では最もコストの軽い、車両型のスピリット、モビルワーカー。

 

 

「デッキのカードをオープンして、その中にある特定のカードを手札に加える力………それができるのは、アンタだけじゃない」

「………そうか」

「来い、バルバトス第1形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

地中から飛び出して来たのは、鉄華団の象徴たるモビルスピリット、バルバトス、その第1形態。肩の装甲もなく、BPも低いが、有能なのは、その召喚時効果にある…………

 

 

「召喚時効果、デッキから3枚オープンし、その中にある鉄華団カードを1枚手札に加える…………オレはグシオンリベイクを手札に加えて、残りは破棄」

 

 

鉄華団の守護神「ガンダム・グシオンリベイク」のカードが、オーカミの手札へと加えられる。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップ。その開始時に、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果……トラッシュから召喚」

「!」

「コストは第1形態から確保、よって消滅」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000

 

 

バルバトス第1形態が消滅するが、代わりに、機関銃を装備したバルバトス、バルバトス第2形態が召喚される。このカードは、特定のタイミングで、トラッシュから何度でも蘇る事が可能な優れ者だ。

 

 

「………そのカード、前のターンにイサリビの効果でトラッシュに送った物か」

「ふ……アタックだ、第2形態!!」

「…………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉アルファベット

 

 

バルバトス第2形態が、手に持つ機関銃を発泡し、アルファベットのライフバリア1つを撃ち抜く。

 

 

「エンドステップ。バルバトス第2形態の効果を発揮!!」

「………」

「このターン、アタックしていた時、トラッシュからコスト4以下のバルバトスをノーコストで復活させる………もう一度来い、バルバトス第1形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

アタックステップは終了しても、オーカミのターンはまだ終わらない。ついさっきトラッシュへと送ったバルバトス第1形態を、バルバトス第2形態の効果で再召喚する。

 

そして、当然ながらその効果も発揮できて…………

 

 

「召喚時効果……デッキから3枚オープンし、その中の鉄華団カードを1枚加える………よし、オレは、オレのエースカード……バルバトス第4形態を手札に加えて、残りを破棄する。ターンエンドだ」

手札:4

場:【鉄華団モビルワーカー】LV1

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第2形態]LV2

【イサリビ】LV1

バースト:【有】

 

 

オーカミはエースカードを手札に加え、勢いのままそのターンをエンドとする。

 

そんな彼を見て、アルファベットは軽く口角を上げて…………

 

 

「フ………楽しそうにバトスピするんだな」

「!!」

 

 

…………『そうだ。バトスピは辞めるのに、なんで楽しんでるんだ』

 

オーカミはアルファベットの言葉を受け、そう思った。確かに、今自分は心の底から身体の表面まで、バトルを楽しんでいた。これが終わったらバトスピを辞めると言うのに…………

 

オーカミが自分の気持ちに困惑を見せる中、アルファベットは己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]アルファベット

 

 

「メインステップ………3体目の犀ボーグを召喚。効果でコアブースト……ハックモンのLVを2へアップ」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(2)BP5000

 

 

アルファベットは開始早々に、本日3体目となる犀ボーグを召喚。元々場にいるハックモンのLVも2へと上昇させる。

 

そして、直後に手札から新たなるカードを抜き取る。それは、前のターンに、場のハックモンの効果で加えていた1枚…………

 

 

「【煌臨】発揮!!……対象はハックモン」

「!!」

「ハックモンはこの【煌臨】の対象となる時、自身にコアを3つブーストする…………現れよ、白きロイヤルナイツ、ジエスモン!!」

 

 

ー【ジエスモン】LV3(5)BP14000

 

 

ハックモンが聖なる白き光の力を受け、究極進化を果たす。

 

こうして新たに現れたのは、究極体デジタルスピリットのジエスモン。触れる者全て切り裂く様な尖った外見だが、その姿はスマートとも言え、美しい。

 

 

「ジエスモン………これもデジタルスピリットだったのか」

「ただのデジタルスピリットではない。ジエスモンは伝説のロイヤルナイツの一柱に数えられる存在だ」

「ロイヤルナイツ?」

 

 

アルファベットの口から発された「ロイヤルナイツ」と言う聞きなれない単語に、オーカミは頭にハテナのマークを浮かべる。

 

 

「ロイヤルナイツとは、この世に13種1枚ずつしか存在しない、特別なデジタルスピリットカードの事だ………それを得た者には絶対的な力が与えられる」

「ッ……世界でたった1枚のカード………」

 

 

正直、世界にたった1枚しか存在しないカードと聞いて、オーカミは凄まじくワクワクした。

 

それと、それの所有者とバトスピできてる事に、無表情ながら感動を覚えてしまった。バトスピは今日限りで引退だと、決心したはずなのに…………

 

 

「ジエスモンの煌臨時効果、相手スピリット、ネクサスを3枚まで手札に戻す」

「!!」

 

 

ロイヤルナイツと言うロマン溢れるカード達の存在を知ったのも束の間。そのロイヤルナイツの1体であるスピリットの効果発揮を宣言される。

 

 

「バルバトス第2形態の効果!!……オレの鉄華団スピリットは手札デッキに戻らない」

「ならばネクサスのイサリビにだけ消えてもらおう」

 

 

ジエスモンの周囲に、浮遊する橙色の3つのオーラが出現。その内の1つが、オーカミの背後にあるイサリビに突撃、衝突し、それを粒子化。

 

イサリビのカードを、彼の手札へと強制送還させる。

 

 

「バルバトス第2形態……バウンス耐性を全体付与する力か、中々厄介だ。だが、耐性はバウンスだけなら脅威とまではいかんな………異魔神ブレイヴ『真・炎魔神』を召喚」

「!!」

「そのままジエスモンに合体させる」

 

 

ー【ジエスモン+真・炎魔神】LV3(5)BP20000

 

 

フィールドに現れた逆巻く炎を振り払い、出陣するのは、巨大な竜人。異魔神ブレイヴの真・炎魔神。

 

真・炎魔神は、現れるなり、右手からジエスモンへと光線を放ち、自身とジエスモンを繋げ、合体スピリットとなる。

 

 

「最後にバーストを伏せ、アタックステップ………ジエスモンでアタック!!……先ずはその効果で相手のバーストを1つを破棄」

「!!」

 

 

再び3つのオーラを飛ばすジエスモン。それはオーカミの伏せているバーストカードへと飛び行き、焼き尽くして行く…………

 

そのカードは、前のターンに手札へ加えていた「ガンダム・グシオンリベイク」のカード。

 

 

「さらに真・炎魔神の効果、BP10000以下のスピリット2体を破壊し、その効果を発揮させない」

「くっ………」

「2体のバルバトスを破壊する」

 

 

真・炎魔神は両腕に炎を纏い、そのまま地面を殴りつける。すると、纏っていた炎は踊る様にフィールドを駆け巡り、オーカミの場に存在する2体のバルバトスを焼き払った。

 

 

「………これで、バルバトス第2形態のバウンス耐性付与効果は消えた。ジエスモンの更なる効果、ロイヤルナイツがアタックした時、相手スピリット1体を手札に戻す。消え去れ、モビルワーカー!!」

「ッ………たった1体のスピリットの効果で、オレの場のカードが全滅………!?」

 

 

モビルワーカーに直接接近したジエスモンが、その剣技を振るう。モビルワーカーは切り裂かれ、粒子化。オーカミの手札へと戻ってしまう。

 

 

「くっ……負けるかよ、鉄華団スピリットが相手によってフィールドを離れた時、手札から流星号の効果を発揮!!」

「………」

「このカードをコストを支払わずに召喚する。そして召喚時効果でドロー………」

 

 

ー【流星号】LV1(1)BP2000

 

 

殲滅されたフィールドに現れるのは、ピンク色をした、一筋の希望。

 

鉄華団のモビルスピリット、流星号の効果で、オーカミはデッキから1枚のカードをドロー。辛うじて戦線は維持できた。

 

 

「だが、ジエスモンのアタックを止めれてはいないぞ」

「………アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

ジエスモンはオーカミのライフバリアへ到達すると、目では追えない速度でそれを連続で斬りつける。これにより、彼のライフバリアは一気に2つ砕け散った。

 

 

「続け、犀ボーグ」

 

 

追い討ちを掛けるように、続け様に犀ボーグでアタック宣言。だが、オーカミはまるでそのアタックを待ち望んでいたかの様に、緩やかに口角を上げて…………

 

 

「フラッシュマジック、スネークビジョン!!」

「!!」

「効果により、相手スピリット全てのコアを、1つずつになるようにリザーブへと送る………これで、アンタのスピリットはみんなLV1だ」

 

 

毒蛇が巻きつくかの如く、紫のオーラが犀ボーグとジエスモンを襲う。2体とも消滅とまではいかなかったものの、最低LVの1にまで弱体化させられた。

 

 

「犀ボーグのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

スネークビジョンを張り切り、オーカミのライフバリアへと突撃する犀ボーグ。突進攻撃でそのライフバリアを1つ破壊した。

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:3

場:【犀ボーグ〈R〉】LV1

【ジエスモン+真・炎魔神】LV1

バースト:【有】

 

 

紫マジック、スネークビジョンの影響こそ受けてしまったものの、オーカミの場とライフの大半を奪い去ったアルファベット。

 

余裕のある表情は崩さず、そのままターンをエンドとした。流星号を場に残したオーカミのターンが幕を開ける。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカー、イサリビを再召喚、再配置」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【イサリビ】LV1

 

 

「イサリビの配置時効果、手札1枚を破棄する事で、1枚ドロー………オレは、バルバトス第4形態を破棄」

 

 

ジエスモンによって手札に戻されていたカード達を再展開。そしてオーカミはイサリビで引いたカードをさらに場へと登場させて行く…………

 

 

「創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置………神託を発揮させ、デッキから3枚のカードをトラッシュへ………対象カードは3枚、よってコアを3つ追加する」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV2(3)

 

 

 

鉄華団専用の創界神、オルガ・イツカ。フィールドには何も影響を及ぼさないが、バトルの影響は別。

 

それと、それらとの強力な連携を可能にするカード達が、アルファベットに軽くないプレッシャーを与える。しかし、彼はそんなプレッシャーをモノともしていないが…………

 

 

「アタックステップ開始時、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果!!……自身を復活させる」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)

 

 

前のターンに真・炎魔神によって破壊され、トラッシュへと送られたバルバトス第2形態。だがそれはアタックステップ開始時と言うタイミングで何度でも復活が可能。再びオーカミのフィールドへと現れる。

 

 

「鉄華団スピリットの召喚により、神託でオルガにコアを1つ追加………そして【神技】を発揮させ、トラッシュに送った、コイツを蘇らせる」

「…………来るか」

 

 

4つに溜まったオルガのコアを全て取り外し、オーカミはその【神技】を発揮。その効果でトラッシュから召喚するのは、もちろんこのターンにイサリビでトラッシュ送りにしていたあのスピリット。アルファベットもそれが何なのかを直ぐに察する…………

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!………ガンダム・バルバトス第4形態!!……LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

「不足コストはモビルワーカーと流星号から確保、よって消滅する」

 

 

モビルワーカーと流星号が維持コア不足で消滅してしまうが、オーカミの場には、エースたる存在、バルバトス第4形態が最大LVで登場。

 

バルバトス第4形態は黒々とした鈍器、メイスを手に、構え、敵であるアルファベットに、鋭い眼光を送る。

 

 

「やるな。まさか1ターンでここまでフィールドを様変わりさせるとは」

「アタックステップは続行だ。行け、バルバトス第4形態!!」

 

 

颯爽とバルバトス第4形態でアタック宣言を行うオーカミ。この時、バルバトス第4形態は発揮できる効果が幾つもあり…………

 

 

「ブレイヴ1つを破壊。この効果発揮後、相手スピリットのコア2つをリザーブに送る!!」

「む……」

「真・炎魔神を破壊し、ジエスモンと犀ボーグを消滅させる」

 

 

ー【ジエスモン+真・炎魔神】(1➡︎0)消滅

 

ー【犀ボーグ〈R〉】(1➡︎0)消滅

 

 

バルバトス第4形態は、メイスを振り翳し、勢い良く地面に叩きつけ、その接地面から岩の破片を連らせる。ジエスモンは紙一重で避けるものの、背後にいた真・炎魔神にはヒット。力及ばす爆散してしまう。

 

 

「ロイヤルナイツを蹴散らせ、バルバトス!!」

 

 

バルバトス第4形態はオーカミの呼び声に応える様に、瞬間的に緑色の眼光を輝かせると、背部のスラスターで跳び上がり、そのまま犀ボーグを踏みつけにし、破壊する。

 

そして手に持つメイスを投げ、それをジエスモンの胸部に命中させた。それにより、胸部を砕かれ、貫かれたジエスモンは倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「よし、エースは倒した………バルバトスのアタックは続行中。LV3効果で、今は紫のダブルシンボルだ」

「…………ライフで受けよう」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉アルファベット

 

 

メイスを回収したバルバトス第4形態が次に目をつけたのは、アルファベットのライフバリア。勢い良く襲い掛かり、メイスを横一線に振るって、それを2つ破壊した。

 

 

「………行けるぞ。次は第2形態で………」

 

 

前のターンの仕返しと言わんばかりに、アルファベットの場のカードを全て除去したオーカミ。勝ちに急ぐ手がバルバトス第2形態のカードへと手を伸ばした…………

 

その直後だ。アルファベットが伏せていたバーストカードを開いたのは…………

 

 

「追撃は待ってもらおう。ライフ減少により、バースト発動」

「ッ……バースト」

「この効果により、手札が4枚になるまでドロー、相手スピリット1体をデッキの下へ戻す」

「なんだその効果………でも、バルバトス第2形態の効果で、オレのスピリットはその効果を受けない」

 

 

開いたアルファベットのバースト効果は、手札が4枚になるまでドローする効果と、相手スピリット1体をデッキの下戻す効果。

 

これにより、彼の手札は3枚から4枚となるが、デッキの下へ送る方の効果はそうはいかない。バルバトス第2形態が又しても彼の効果を阻む。

 

だが、彼の狙いは、始めからスピリットの除去ではなくて…………

 

 

「この効果発揮後、このスピリットカードをノーコストで召喚する…………現れよ、黒きロイヤルナイツ、アルファモン!!」

「なッ!?」

 

 

ー【アルファモン】LV3(8)BP20000

 

 

アルファベットのフィールド上空から出現する、丸いデジタルゲート。そこから煌びやかな光と共に姿を現すのは、黒き鎧をその身に纏う、伝説のロイヤルナイツの1体、アルファモン。

 

 

「………オマエはジエスモンの事をオレのエースだと言ったな。残念だが、オレの本当の切札はコイツ、アルファモンだ」

「2種目のロイヤルナイツのデジタルスピリット………この人いったいなんなんだ!?」

 

 

先程この世界に13種1枚ずつしか存在しないと聞かされたロイヤルナイツ。

 

何億何兆枚と言うカードが刷られているこの世界で、まさかたった1日で、しかも1回のバトルで、それを2種類も目にする事になるとは、思ってもいなかった事だろう…………

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:3

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3

【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2

【オルガ・イツカ】LV1

【イサリビ】LV1

バースト:【無】

 

 

アルファモンと言う、圧倒的存在感を持つデジタルスピリットを前にして、そのターンをエンドとするオーカミ。鉄華団のスピリットには基本的にアレに勝てるスピリットはいないため、英断だったと言える。

 

そして迎えるはアルファベットのターン。エース、アルファモンが本格的に動き出して行く事だろう…………

 

 

[ターン07]アルファベット

 

 

「メインステップ………1つ聞こう鉄華オーカミ」

「ん?」

「何故オマエはバトスピを辞める」

「何故って………姉ちゃんにそう言われたからだよ」

「………」

 

 

唐突な質問。アルファベットのサングラス越しから感じる圧に負け、オーカミは思わず本当の事を口走ってしまう。

 

 

「変だろ?………でも、オレにとって姉ちゃんは全部なんだ………これ以上、迷惑は掛けたくない」

「…………」

 

 

姉である鉄華ヒメは、具体的な内容は何も話してはくれなかった。ただ、自分達の父親が関係しているとだけ…………

 

しかし、仮に納得はできなくても、言う事は聞かないといけない。だって姉は、いつも、いつもいつも、いつも。自分のために汗水を流して働いてくれているのだから…………

 

 

「………もう1つ質問しよう。オマエは、バトスピを辞めたいのか?」

「ッ………な訳ないだろ!?」

 

 

アルファベットの2つ目の質問。オーカミはらしくもなく、思わず声を荒げて反発した。

 

その様子を見たアルファベットは、軽く笑みを浮かべる。

 

 

「フ………なんだ、素直になれるじゃねぇかクソガキ。つまりそう言う事だろ」

「………そう言う事って」

「オマエはバトスピを辞めたくない。それでいいじゃねぇか」

「!!」

「もっと素直になれ、大人になったら無駄なプライドが邪魔をして、それを口にできる機会は減っていくもんなんだ。子供の時くらい、ワガママの1つや2つ、口にしていいんだ」

「オレは…………」

 

 

………『そうかオレは、バトスピを辞めたくないんだ。続けたいんだ』

 

………『オレにとってバトスピは、初めて姉ちゃん以外にできた繋がり。それを姉ちゃんに否定されるような気がして、嫌なだけだったんだ』

 

思い出していくバトスピと、それに関係する大事な人達との想い出。こう言った繋がりの想起が、鉄華オーカミの心の中の何かを変えていく…………

 

 

「アタックステップ!!……アルファモンでアタック、アタック時効果発揮、バルバトス第2形態からコア2つを取り除き消滅。さらにアタックブロック時効果、2コストを支払い回復」

「!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】(2➡︎0)消滅

 

 

質問は終えたのか、アルファモンでアタックを仕掛けるアルファベット。

 

アルファモンは手を前方に翳すと、その周囲に幾千ものデジタルゲートが開き、そこから無数の波動弾が撃ち放たれる。バルバトス第2形態は避けることも出来ず、殆どが被弾。無惨にも爆散してしまう。

 

 

「アルファモンの回復効果に回数の制限はない。オレのコアが続く限り、攻撃は続くぞ!!」

「フラッシュマジック、オラクルⅦオーバーチャリオット!!」

「………白のマジックか」

「不足コストは、バルバトス第4形態をLV2に下げて確保。これにより、このターンの間、オレのライフはコスト4以上のスピリットと効果では0にされない………そのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

ゆっくりとオーカミの元へ歩み寄るアルファモン。その黒き拳が、そのライフバリアを1つ粉砕して見せるが…………

 

オーカミの使用した白のマジック、オラクルⅦオーバーチャリオットの効果により、少なくともこのターンではライフを0にできなくなってしまう。

 

 

………『アタックステップが終わったわけではない。アルファモンでアタックを継続して、効果でバルバトス第4形態を消滅させるのも悪くないないが…………』

 

 

「いいだろう。返しのターン、全力でオレを討ちに来るがいい………ターンエンドだ」

手札:5

場:【アルファモン】LV3

バースト:【無】

 

 

バルバトス第4形態を倒してからエンドとする選択肢もあったアルファベットだが、オーカミの全力を体験したいと思ったのか、これ以上のアタックは行わず、そのターンをエンドとした。

 

 

「オレ、本当に腹の底からバトスピを楽しんでたんだな……………行くぞ、力を貸してくれ、鉄華団のスピリット達!!」

 

 

熱き闘志を燃やし、鉄華オーカミは迎えた第8ターン目を進めていく。

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………バルバトス第4形態を再びLV3に、そしてネクサス、イサリビのLVも2へ上昇!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

ー【イサリビ】(0➡︎6)LV1➡︎2

 

 

場に残ったスピリットとネクサスのLVを最大まで上昇させる。

 

そしてターンは、手札を切る事なく、アタックステップへ…………

 

 

「アタックステップ!!……その開始時、トラッシュのバルバトス第2形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1)BP3000

 

 

トラッシュから三度現れるバルバトス第2形態。それにより、オーカミの場に存在する、全ての鉄華団スピリットにバウンス耐性が付与された。

 

 

「これで準備は整った………行くぞ、バルバトス第4形態!!」

 

 

オーカミの指示を受け、バルバトス第4形態がメイスを構え直す。その鉄の眼が映すのは、アルファモンと、それを使役するアルファベットのみ………

 

 

「アタック時効果でアルファモンからコアを2つリザーブへ!!」

「だが、その程度のコア除去では、オレのアルファモンは倒せないぞ」

 

 

バルバトス第4形態は、メイスを地面に叩きつけ、岩の破片を連らせる。いわゆるストーンエッジとなったそれは、アルファモンに命中するが、ビクともせず…………

 

だが、オーカミの真の狙いはアルファモンを倒す事ではなくて…………

 

 

「知ってるさ。オレの勝利条件は、アンタのアルファモンを倒す事じゃない………アンタのライフを0にする事だ」

「………」

「フラッシュ!!……イサリビのLV2効果を発揮!!……このネクサスのコア全てを鉄華団スピリットに置き、このバトルの間、そのスピリットはブロックされない!!」

「なんだと!?……そんな懐刀を隠し持っていたか」

「対象はアタック中のバルバトス第4形態!!……これにより、アルファモンはこのアタックをブロックできない!!」

 

 

イサリビのコア6個全てが、バルバトス第4形態のカード上に置かれる。

 

フィールドではバルバトス第4形態が跳び上がり、そのままイサリビの上に着地。威風堂々とした態度で肩を組み、イサリビが発進した。

 

やがてイサリビは、アルファモンの頭上を飛び越え、それを従えるプレイヤー、アルファベットの元まで辿り着いた。バルバトス第4形態はそのままそこから飛び降り、メイスを振り翳す…………

 

その狙いはもちろん、アルファベットの残り2つのライフバリアだ。

 

 

「バルバトス第4形態は効果でダブルシンボル………これで決まりだ、叩きつけてやれ!!」

 

 

目の前にある使える物を全て使い、アルファベット相手に勝利目前まで来たオーカミ。

 

だが、彼のバトルスピリッツは、オーカミが思っている程、甘くはなかった。

 

 

「フラッシュマジック、シーズグローリー」

「!?」

「バルバトス第2形態のBPをマイナス7000。0になった時破壊する」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】BP3000➡︎0(破壊)

 

 

アルファベットのライフバリアが叩きつけられる直前、稲妻迸る槍が、フィールドで待機中の、バルバトス第2形態の胸部に直撃。呆気なく爆発してしまう。

 

そして、シーズグローリーの真骨頂はここからだ。

 

 

「この効果でスピリットを破壊した時、転醒する………来い、天醒槍ロンゴ・ミニアス」

 

 

ー【アルファモン+天醒槍ロンゴ・ミニアス】LV3(6)BP25000

 

 

バルバトス第2形態を倒し、そのまま地面へと突き刺さったシーズグローリーは、アルファモンの手に吸い寄せられるように、飛び出し、神をも貫く槍、ロンゴ・ミニアスへと姿を変え、アルファモンの手に握られる。

 

 

「転醒時効果、このターンの間、相手のスピリットのアタックでは、自分のライフは1しか減らない」

「ッ!?」

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉アルファベット

 

 

バルバトス第4形態の起死回生の一撃が、シーズグローリーが転醒した、ロンゴ・ミニアスの転醒時効果により遮られる。

 

本来減るはずだった2つのライフを1つ残す形で、そのターンをエンドとせざるを得なくなってしまった。まさに今のオーカミにとっては、このアルファベットが取った一手は、絶望の一手だったに違いない。

 

 

「クソ………届かなかった。ターンエンド」

手札:3

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3

【オルガ・イツカ】LV1(1)

【イサリビ】LV1

バースト:【無】

 

 

悔しさに表情を歪ませ、オーカミはそのターンを終える。

 

全身全霊を込めた、起死回生の一撃。これを凌がれてしまったオーカミに、もうなすすべはない…………

 

 

[ターン09]アルファベット

 

 

「最後の一手はなかなか実物だったぞ………行け、アルファモン!!」

 

 

天醒槍ロンゴ・ミニアスを手にしたアルファモンがゆっくりと動き出す。疲労により片膝をついたバルバトスをスルーし、それは一直線にオーカミのライフバリアへと迫る。

 

ブロックも何もできないため、オーカミはそれをライフで受ける宣言しかできない…………

 

 

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉鉄華オーカミ

 

 

天に掲げたロンゴ・ミニアスを振り下ろし、オーカミの最後のライフバリアを木っ端微塵に粉砕するアルファモン。

 

これで勝負は決した、勝者はアルファベット。バトルの内容とは裏腹に、オーカミとの実力差を感じさせてしまう一戦であった。

 

 

「…………」

 

 

バトルに負け、言葉を失うオーカミ。

 

無理もない、このバトルには「鉄華団のデッキ」が賭けられていたのだから……………

 

 

「バトルはオレの勝ち………約束通り、鉄華団のデッキはオレがいただく」

「…………」

「と、言いたい所だが、気が変わった」

「………え?」

 

 

アルファベットから掛けられた意外な言葉に、オーカミは戸惑う。

 

 

「アレはオマエがバトスピを辞める前提で行ったアンティルールだ。バトスピを続けたいと思った今、フェアじゃない」

「………じゃあ」

「あぁ、そのデッキは、まだまだオマエの物だ。そんな事より、行く所があんじゃねぇのか?」

「!!」

 

 

自分が行くべき場所。それはたった1つしかない………

 

アルファベットにそう告げられたオーカミは、彼を置いて、1人走り出した。

 

 

 

******

 

 

その日の夜。鉄華オーカミが住う住宅、その一室にて、彼の姉である鉄華ヒメは深く考えていた。

 

その理由は、今日、喧騒を変えて帰って来た弟、オーカミからの言葉…………

 

 

………『バトスピを、続けさせてください!!』

 

………『バトスピは、オレに色んな大切な物をくれた、かけがえのないモノなんだ!!………お願いだから、続けさせてください!!』

 

 

あの仏頂面で、ワガママ1つとして言わなかったオーカミが、頭を深々と下げ、自分にお願い事をして来たのだ。当然戸惑い、その言葉に対して何の返答もできなかった……………

 

 

「………バトスピが、あの子を変えてくれたのか………」

 

 

少し見ない間に、いつの間にかオーカミが成長していた事に関しては、とても嬉しく思う。それがバトスピのお陰だと思うと、少し複雑だが…………

 

本当は、やらせてあげたい。しかしどうしても父から言われた「オーカミのバトスピには気をつけろ」と言う言葉が頭を離れない。このままバトスピを続けさせてしまったら、両親だけでなく、オーカミまで失ってしまうのではないかと考えたら、怖くて夜も眠れない………

 

 

「………私はどうしたらいいと思う?……お父さん」

 

 

ヒメは、その日の晩、悩みに悩み続けていた…………

 

 

******

 

 

朝が来た。鉄華オーカミはバイトがある日。そのため、支度し、家を後にしようとする。

 

ドアノブに手を掛けようとしたその時、頭には昨日初めて姉に反抗した言葉が蘇ってくる。「姉ちゃんに嫌われてないだろうか」と、心底心配になってしまうが…………」

 

 

「なぁにそんな所でボーッとしてんの?」

「ッ……姉ちゃん」

「そんな暗い顔ばっかり見せるようだったら、バトスピはやらせないよ」

「!!!」

 

 

オーカミを見届けようと玄関先まで来たヒメの言葉に、オーカミの表情は一転、明るいモノとなる。

 

 

「じゃ、じゃあ……!!」

「うん。やってもいいよ、バトスピ。バイトもね」

「あ、ありがとう姉ちゃん!!」

「ヨッカさんには、迷惑を掛けないようにね」

 

 

直後に「行って来ます」と声を張り、家を後にアポローンへのバイトへ向かうオーカミ。その表情は年相応に明るかった。おそらく、彼の今までの人生の中で1番、嬉しい瞬間だったのだろう…………

 

 

「………これでいいんだよね、お父さん」

 

 

オーカミを見届けた後、ヒメが亡き父に対してポツリと呟いた。

 

不安を完全に取り除けたわけではない。彼女なりに、大きな覚悟が必要だった事だろう。だが決心した、仏頂面で、孤独なあの子を変えてくれたのは、他でもない「バトルスピリッツ」だったのだから…………

 

 

 

 




次回、第28ターン「デスティニーVS赤いエヴァンゲリオン」



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第28ターン「デスティニーVS赤いエヴァンゲリオン」

辺り一面が黒く染まった謎の空間。

 

ここに立つ獅堂レオンにも、ここがどこだがわからない。だが関係のない事だ。彼にとっては、鉄華オーカミと、そのエース、バルバトスを倒すことさえできれば、それでいいのだから………

 

 

「オマエの甘いバトルスピリッツではオレを倒せないと、ここで証明してやるぞ………鉄華!!」

「…………」

 

 

レオンと相対するのは当然鉄華オーカミ。彼は無言でレオンとのバトルを承諾するかのように、Bパッドを展開し、カードをセット。バルバトス第4形態を召喚した。

 

 

「そう来なくてはな………行くぞ、デスティニー!!」

 

 

レオンも負けじと、自分の魂とも呼べるエーススピリット、デスティニーガンダムを召喚。オーカミのバルバトスとの戦いの火蓋が切って落とされる。

 

バルバトスでは到達する事のできない高さで飛行するデスティニーは、その利を活かし、長大な機関銃を、地に足をつけるバルバトスへ向けて何度も掃射する。

 

 

「いいか鉄華、バトルとは楽しむ者が勝つのではない!!……勝つ者が楽しいモノなのだ!!……そして、オレはこれからもオマエに勝ち続ける、絶対王者として!!」

 

 

バルバトスは黒々とした鈍器、メイスを盾代わりにそれを凌ぐが、それでも微かな隙間を通り抜けて弾丸は命中し、少しずつその装甲に穴が空いていく。早くも防戦一方となった対決に、オーカミは…………

 

 

「おいバルバトス………いつまでソイツに手こずってる………早く、倒せよ………!!」

「ッ………オマエ、その赤い目は………あの時の」

 

 

バルバトスに対し、激昂とも鼓舞とも呼べる言葉を投げ掛けると、オーカミのその瞳は赤く光り出し、薄らと鉄華団の赤い花のマークが刻まれる。そしてバルバトスもまた、それに応えるように機眼を緑から血のような赤へと変色させ、その内に眠る力を全て解放した…………

 

誰が見ても不可思議だと言えるこの現象。ただ、あの界放リーグ決勝戦を彼と争ったレオンならば知っている。その力も、その先に何が起こるのかも…………

 

 

「くっ……怯むなデスティニー!!……奴を、奴を蹴散らせ!!」

 

 

オーカミの中に宿る不思議な力を思い出し、怯えるレオン。早くバルバトスを倒すように指示を出す。それを受け、デスティニーは再び機関銃を手に取り掃射するが、バルバトスは目では追えないような速度で地上を駆け抜け、それら全てを回避する。

 

レオンはそのモビルスピリットらしからぬ、獣じみた動きに困惑する。

 

 

「な、なんだその動きは………!?」

 

 

途端、上空から鉄がぶつかり合う豪快な金属音が聞こえて来た。レオンがふと見上げると、そこにはバルバトスのメイスが胸部に突き刺さったデスティニーの姿が。

 

バルバトスが投擲したのだろう。そして隙を突き、バルバトスは上空にいるデスティニーの背中へ飛び乗ると、その機翼を両手で引きちぎる。飛行能力を失ったデスティニーはそのまま撃墜、地面へと落下、大爆発を起こす…………

 

獅堂レオンのデスティニーガンダムの完全敗北だ。このバトル、最早勝者は鉄華オーカミとバルバトスも同然…………

 

爆発による爆炎と爆煙の中、バルバトスは次の標的として、レオンを視界に捉えて…………

 

 

「ば、馬鹿な………何故負ける。このオレが、貴様なんぞに………!!」

「そりゃそうでしょ」

「!!」

「ただ芽座葉月の真似事がしたいだけの奴に、オレとバルバトスが負けるかよ」

「なん………だとォォォ!!!」

「やれ、バルバトス」

 

 

彼の無慈悲な宣言。バルバトスは再び手に取ったメイスを振り翳し…………

 

 

「それのなにが悪い!!……強い者に憧れて、何が悪い!!………貴様に、オレの何がわかる!!!!!」

 

 

それを、叫ぶ彼に向けて振り下ろした。

 

 

******

 

 

 

「ッ………!!」

 

 

横たわっている場所は、自室のベッドの上。雀が囀り合う音が耳に入り、差し込んでくる朝日が眩しい。

 

エアコンの効いた部屋で、レオンは1人目覚めた。

 

 

「夢………か」

 

 

レオンは寝癖で捻じ曲がった髪を頭ごと掻きながら、さっきまでの出来事が全て自分の見ていた夢である事を自覚する。今思えば、鉄華オーカミが自分の師匠の名前など、知っているわけがない。

 

そんなわけが、ないのだが…………

 

 

………『ただ芽座葉月の真似事がしたいだけの奴に、オレとバルバトスが負けるかよ』

 

 

「くっ………目覚めの悪い朝だ」

 

 

オーカミに言われたその言葉が頭を離れない。ふとする度に、頭の中を針で刺されたような感覚や苛立ちが彼を襲い続ける。

 

師匠、芽座葉月は死した後も確かに自分の憧れだ。圧倒的な強者に惹かれ魅力され、影響され、今の自分がいる。当然そうなりたいと言う自分もいるだろう、理解している。

 

だが、そのせいで勝てないと言われるのは、不服以外の何モノでもない…………

 

 

「…………はよーーー」

「あ、坊ちゃん、おはようございます」

 

 

早々にキッチンに行くと、そこにはメガネと長い青髪が特徴的な女性、同居人である「ティア」がいる。エプロンを着ている事から、おそらく今日の飯当番は彼女なのだろう…………

 

 

「レオン!!……夏休みだからってダラダラし過ぎじゃねぇか!?……よし、今日はアタシ様と一緒にROUND1でも行くか!!」

「行かねぇよ、バカかテメェは」

「誰がバカだ!!……バカって言う方がバカなんだぞ!?」

「やめなさいよルージュ、大人気ない」

「ちぇ、昔はしょっちゅう行ってたのになぁ」

 

 

ティアに宥められている、頭の悪そうな赤い短髪の女性「ルージュ」………

 

レオンと共に暮らしている2人目の同居人だ。

 

 

「坊ちゃん。朝食はできてますよ、早く食べてくださいね」

「………なぁティア、いい加減坊ちゃん呼びはやめてくれ。もうそんな年齢じゃない」

「何言ってんですか〜〜……坊ちゃんはいつまで経っても坊ちゃんですよ」

「………」

 

 

まぁいいや。そう思って取り敢えずテーブル前に腰掛ける。そこには何とも美味しそうな目玉焼きと、チーズがオンした食パンが置かれている。

 

ティアが飯当番の日は当たりだ。対してルージュの日はハズレだ。全て丸焦げにするから、何も美味しくない。

 

 

「………おや、やっと起きて来ましたか。おはようございます、坊っちゃま」

「おう、スイート。今日も早いのな」

「仕事ですから」

 

 

部屋に入って来たのはスーツを着た、金髪のセミロングの女性。彼女は3人目の同居人の「スイート・サンダーボルト」だ。獅堂レオンはこの血筋も顔もバラバラの3人の若い女性達と共に暮らしている。

 

 

「そう言えば聞いてくださいスイート。ルージュったら、またバイトの面接落ちたって」

「おい、それ言うなよティア!!……恥じいだろが!!」

 

 

3人の中では姉のような存在のスイートに、ティアが告発。言われたくなかったのか、ルージュが少し赤面しながら声を荒げる。

 

 

「はぁ、ルージュ。私たち3人の中で、働けてないのは貴女だけですよ?」

「うっせぇ、このアタシ様に合う職場がねぇんだ。恨むならこの界放市を恨むんだな」

「別に恨んでなんていませんよ。貴女も今年で18なのですから、社会の経験は今のうちに積んでおきなさいと言ってるのです」

「そうそう。どこでも良いからさっさと入っときなさいよ」

 

 

ルージュは3人の中でも1番知性がなく、1番気性が荒く、1番子供っぽい上に、1番プライドが高い。真面目なティア。学のあるスイートと違って、多分働くと言う行いそのものが向かないのだろう。

 

と言うのが3人と共に暮らして来たレオンの考え。

 

 

「ったくなんだよ2人して仕事だの社会経験だのって!!……わぁったよ、仕事探せば良いんだろ、探せば!!」

「あ、ちょっとルージュ…………行っちゃった」

「Bパッドで検索もせずに、歩いて仕事を探す気なのか…………はぁ、これは先が思いやられるな」

 

 

ルージュは仕事をするしないの以前の問題かも知れない。

 

と、レオンは1人、食パンを口にしながら、朝で回らない頭をフルに活かし、考えた。

 

 

「あ、そうそう。坊ちゃん!!」

「あぁ?……何」

「今日お遣いお願いね!!」

「……………は?」

 

 

急にニッコニコの笑顔で何を言い出すのかと思えば、ティアはいきなりテーブルに買い物カゴを置き、レオンにお遣いの要求をして来た。

 

界放リーグを三連覇した少年も、この場ではただの子供なのだ。

 

 

「買い物リストはカゴの中に入ってるから、よろしくね」

「おい、勝手に話を進めんな。誰が買い物なんぞ…………」

「ルージュみたいな事言わないの。今日はスイートも私も仕事だし、ルージュもあんな調子だから、ね?」

「ぬぅ………」

「うんうん。そうだぞ坊っちゃま、偶には家族に貢献しなさい」

「…………ぬうっ………」

 

 

日頃から、コイツらには世話になっている。そう思うと、レオンはティアからのお願いが妙に断り辛くて…………

 

 

******

 

 

「………で、結局パシリに遣わされたと。何やってんだオレは………」

 

 

結局断る事はなく、レオンは買い物カゴを片手に、品揃え満点、安いでお馴染みの駅前スーパーに来た。

 

いくら身長が彼女らを超えても、立場までは超えられないと言う事だろう。

 

 

「まぁいい。サクッと終わらせて、サクッと帰ってやる…………先ずは大根か」

 

 

そう言って野菜コーナーへと足を運び、そこの大根がある方へと目をやる。

 

そして、1本だけ残っているそれへと手を伸ばすが…………

 

 

「………あぁ?」

「………むぅ?」

 

 

自分とは違う、もう1人、肩まで掛かった黄色味のある白髪の少女の手が、そこへと伸びているのを確認する。

 

その少女は、春神ライだ。

 

 

「………これ、私が先にとったわよね?」

 

 

ライがレオンにそう告げた。

 

 

「フ……な訳ないだろ。どう考えても、この大根はオレの物だ」

「なにぃ!?……いいからその手どかしなさいよ」

「指図するな、モブめ」

「誰がモブよ!!!………って、アレ。アンタどっかで………」

 

 

口論になり、周囲から痛々しい目が向けられていく中で、ライはレオンがどこかで見覚えのある人物である事に気がつく。

 

そんな折、彼女の親友、夏恋フウがご機嫌な様子で、現場に到着する。

 

 

「ライちゃ〜ん。鍋キューブあったよ〜〜……3割引だって、すごくない??」

「あ、フウちゃん」

「またモブが増えたか」

「ん………え、えぇぇ!?!……獅堂レオン!?!……何でぇ!?!」

 

 

その顔を完全に把握しているフウは、ライと言い争っている人物に驚く。あの世界的にも有名な界放市の界放リーグで三連覇をした少年なのだ、どちらかと言えば、彼女の反応の方が、ライよりも普通である。

 

『獅堂レオン』の名を聞いたライも、ようやくそこで目の前にいるのがその本人である事に気がつく。

 

 

「あ、そっか。獅堂レオン………界放リーグで優勝した奴か」

「ッ………オレは、界放リーグで優勝してなどいない!!」

「?」

 

 

ライの何気ない一言に反応し、突然激昂するレオン。その強い圧に、フウは恐怖と共に、周りの空気が一気に硬直したのを感じた。

 

それを一番間近で受けているはずのライは、何故か平気そうな顔をしているが………

 

 

「………なんか知らないけど、悪かったわね。そうだ、この大根賭けて、私とバトルしない?」

「なに?」

「私、ちょっと家の事情があって界放リーグに出れなかったからさ〜〜あの赤チビと良い勝負したアンタとは、一度バトルしてみたいって思ってたんだよね」

 

 

ライの言う「赤チビ」とは、鉄華オーカミの事。レオンはそれにいち早く気がつく。

 

 

「貴様、鉄華を知ってるのか?」

「まぁね」

「………いいだろう。丁度憂さ晴らしがしたかった所だ………相手になってやるぞ、モブ女1号」

「誰がモブ女1号よ!?!」

「………アレ、ひょっとして私はモブ女2号って事!?……キャーーー獅堂レオンさんに渾名つけてもらえた!!」

「わぁ、フウちゃんってば物好き………」

 

 

別に呼ばれてもない渾名で感動するフウ。彼女はバトルが下手と言うか全くできないので、レオンのような強いカードバトラーと絡めただけで光栄だと思っているのだろう。

 

何にせよ、ライからの挑戦状は承諾だ。3人は大根を割り勘で購入したのち、スーパー前にある広場へと足を運んで…………

 

 

******

 

 

駅前のスーパー付近にある公共の広場。公園と呼ぶには遊具やベンチなどはなく、非常に見窄らしい。

 

上を見上げれば電車が走っている橋が見える。偶に電車が走行する音が聞こえて来て喧しい。いいところの全くない広場だが、唯一のいいところは、広すぎてバトルするにはもってこいのスペースであると言う事だ。

 

今、そんな場所で、獅堂レオンと春神ライは対峙している。

 

 

「頑張って、ライちゃ〜ん!!……ぶっちゃけ負けても別のスーパーで大根買えばいいと思うけど頑張って〜!!」

「えぇ、フウちゃんちょっとキツくない??」

 

 

夏恋フウは単純に応援しているのか、心の奥底では面倒臭いと思っているのかわからない発言をする。その手には先程購入した大根が握られている。

 

 

「フン……大根ごと叩き潰してくれる」

「いや、大根潰したらダメでしょ。アンタ欲しくないの??………まぁいいわ、私の名前は春神ライ。そんじゃ、始めるわよ」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

Bパッドを展開し、いつものコールで獅堂レオンと春神ライによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はレオン。

 

 

[ターン01]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………創界神ネクサス、ギルバート・デュランダルを配置」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV1

 

 

「………こっちのスピリットを強制的にLV1にする奴か」

「配置時の神託により、コアを1つ追加する」

 

 

レオンが早々に配置したのは、彼のデッキの創界神ネクサス。フィールドには何も出現しないが、ライはその内に秘める強力な効果を想起させる。

 

 

「ターンエンド。貴様の番だ」

手札:4

場:【ギルバート・デュランダル】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

レオンの第1ターン目が終了し、ライのターンへと移り変わる。

 

 

[ターン02]春神ライ

 

 

「メインステップ………そうだな、じゃあ母艦ネクサス、AAAヴンダーをLV1で配置」

「ッ……母艦ネクサス」

 

 

ー【AAAヴンダー】LV1

 

 

ライの背後に出現するのは、機翼を持つ巨大な飛行船。

 

通常『母艦ネクサス』とは、世界三大スピリットの1つである「モビルスピリット」をサポートするネクサスの事を指すが…………

 

 

「……貴様もモビルスピリット使いか?」

「ふふ……それはどうかな?………さらに私は、ミラージュとして、ドラゴンズミラージュをセット!!」

 

 

ライのフィールドの、バーストゾーンに当たる場所に、赤いドラゴンの紋章が出現する。

 

『ミラージュ』とは、バーストゾーンに指定されたコストを支払い、表向きでセットする事ができるカード。セットさえできればそのカードの【セット中】の効果を発揮できるようになる。

 

 

「ミラージュか。珍しいカードを使うな」

「………まぁ、こんなもんか。ターンエンド」

手札:3

場:【AAAヴンダー】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

ミラージュはセットしたものの、それ以外のアクションはせず、ライは一度ターンをエンドとする。

 

 

[ターン03]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……ザクウォーリア2体を連続召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

「対象スピリット2体の召喚により、ギルバートにコアプラス2」

 

 

レオンのフィールドに現れたのは、緑色の装甲を持つ、小型のモビルスピリット、ザクウォーリア。彼のデッキの歩兵のような存在である。

 

 

「アタックステップ……は、何もしない。だがギルバートの【神技】を発揮、オレはもう一度ドローステップを行い、ドロー!!……ターンエンドだ」

手札:4

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【ギルバート・デュランダル】LV1

バースト:【無】

 

 

『ギルバート・デュランダル』の、自身のコア3つをコストに、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップをもう一度行えると言う効果を使用するレオン。

 

ドローステップで手札を増やし、アタックは無し。このターンをエンドとした。互いにバトルのないまま、バトルは第4ターン目へと進む。

 

 

[ターン04]春神ライ

 

 

「メインステップ……それじゃあ、いっちょ動いてみますか!」

「………」

「先ずはロケッドラを召喚………そして、宙征竜エスパシオンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV2(2S)BP7000

 

 

「エスパシオン………見慣れないカードだ」

 

 

ライが動き出す。背中に小型のロケットを背負った小型のドラゴン、ロケッドラと、雷雲落雷と共に、サイボーグドラゴン、エスパシオンが場へと出現した。

 

 

「エスパシオンの召喚アタック時効果。相手のBP7000以下のスピリット1体を破壊し、自分のミラージュがあれば、そのスピリット効果は発揮されない」

「なに……?」

「ザクウォーリア1体を破壊!!……ミラージュにドラゴンズミラージュがあるため、その効果は無効!!」

 

 

エスパシオンは登場するなり、口内から電撃弾を放つ。ザクウォーリア1体はそれに被弾し、大爆発を起こす。

 

本来であれば、ザクウォーリアは破壊時にボイドからコア1つを増やし、自身をトラッシュではなく、手元に置くと言う強力な効果を発揮するのだが、エスパシオンによって今回それは無効となった。

 

 

「そしてこの瞬間、ロケッドラの効果。自分のターン中、相手のスピリット、ネクサスを破壊した時、デッキから1枚ドローする。さらにAAAヴンダーの効果、1ターンに一度、相手のスピリット、ネクサスを破壊した時、同じくデッキから1枚ドローする。よって、私は計2枚のカードをドロー!!」

「ッ………こっちの破壊に反応し、ドローする効果」

 

 

ライの使用する『ロケッドラ』と『AAAヴンダー』は、いずれも相手のカードを破壊した時に、ドローを行うという代物。今回はエスパシオンでの破壊がトリガーとなり、彼女に2枚の手札をもたらす。

 

そして、これはまだ序の口、終わりではない。

 

 

「まだ終わらないわ!!……アタックステップ、その開始時にエスパシオンのLV2、3の効果を発揮。トラッシュにあるコアを5個まで機竜スピリットかネクサスに置く。私はトラッシュにある3つのコアの内2つをロケッドラに、1つをAAAヴンダーに追加。それぞれLV2にアップ!!」

「………」

「この時、私の手札が4枚以下の時、追加で2枚のカードをドローできる!!………今の私の手札は丁度4枚、また2枚ドローさせてもらうわ」

 

 

トラッシュのコアを回収しつつ、手札まで補強すると言う、至り尽せりな効果を発揮するエスパシオン。さっきまで2枚しかなかったライの手札が、今では6枚にまで回復した。

 

 

「アタックステップ続行!!……エスパシオンでアタック、もう一度その効果を発揮し、残ったザクウォーリアを破壊!!」

「くっ……」

「その破壊時効果は当然発揮されない。ロケッドラの効果で1枚ドロー」

 

 

二発目の電撃弾を放つエスパシオン。それは残りのザクウォーリアへと命中、瞬時に爆散させる。これでレオンの場に残ったのは、創界神ネクサスのギルバート・デュランダルのみとなるが………

 

 

「さらにフラッシュ。ドラゴンズミラージュのセット中効果。手札からコスト4以上の機竜カードを破棄する事で、相手のネクサス、創界神ネクサス1つを破壊し、その効果を発揮させない」

「!?」

「2枚目のエスパシオンを破棄して、ギルバート・デュランダルを破壊する」

 

 

止まらないライの破壊とドローの嵐。レオンのBパッド上に置かれている、ギルバート・デュランダルのカードが謎の浮力で浮かび上がり、トラッシュへと移動。

 

これで彼の場は真の意味で全滅、振り出しへ戻されてしまって………

 

 

「ロケッドラの効果でドロー……エスパシオンのアタックは継続中!!」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

レオンの元へ急接近するエスパシオン。電撃を纏った鋭利な爪の攻撃で、それを1つ引き裂いた。

 

 

「ロケッドラでアタック!!」

「………それもライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉獅堂レオン

 

 

背中のロケットの逆噴射を利用して突撃するロケッドラ。所謂ロケット頭突きで、そのライフバリア1つを砕いた。

 

 

「………まぁこんなもんか、ターンエンド」

手札:7

場:【宙征竜エスパシオン】LV2

【ロケッドラ】LV2

【AAAヴンダー】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

…………『この女、モブだと思っていたが………強い、何者だ』

 

 

レオンの場のカードを全滅させつつ、自分はスピリットの展開とドローまで一度のターンにこなしたライ。その卓越された技術を目の当たりにしたレオンは、初めてライが普通のカードバトラーではない事を認識して…………

 

 

「凄いライちゃん!!……あの獅堂レオンに善戦してるよ!!」

「ブイ。そりゃもちろんよフウちゃん。私は天才だからね〜」

「………オレのターンだ」

 

 

お調子者のライは、応援してくれるフウにブイの字のサインを送る。レオンはそんなライを警戒しつつ、ターンを開始した。

 

 

[ターン05]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………」

「どう?……カードを出したくても、軽減シンボルが場にないから、出しづらいんじゃない?」

 

 

バトルスピリッツと言うゲームの定石は、場にスピリットやネクサスを出し、軽減シンボルを確保、その後にエース級のスピリットを召喚すると言うケースが殆ど。獅堂レオンも例に溺れず、その定石に基づいてプレイしている。

 

故に、前のターンにカードを全滅させられた事によって、彼は今、かなり苦しい状況に立たされているのだ。

 

だが、彼は仮にも界放市のジュニア最強。既にそこら辺のプロよりも強いと言われる腕前、劣勢時の切り替えや起点の速さは他の群を抜いていて………

 

 

「……この程度、どうと言う事はない。全滅させられたなら、また立て直すだけだ………母艦ネクサス、ミネルバをLV2で配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV2

 

 

「配置時効果、デッキから3枚オープンし、その中にある対象カード1枚を手札に加える………」

 

 

彼の背後に配置される白銀の母艦ネクサス、ミネルバ。その配置時効果でレオンのデッキから3枚のカードがオープンされるが、彼はそれを目に入れるなり、口角を上げて………

 

 

「フ……オレはこのカード、我が魂デスティニーガンダムを手札へ加え、残りをデッキの下に戻す」

「おぉ、デスティニーか」

 

 

レオンの絶対的なエースカード、デスティニーガンダムのカードがその手へと渡る。

 

それにより、今度は一転してライの方が難しい状況になるが、彼女の表情は依然として涼しいままだ。

 

 

「もう1枚ミネルバを、LV2で配置………配置時効果でコアスプレンダーを手札へ、ターンエンドだ」

手札:5

場:【ミネルバ】LV2

【ミネルバ】LV2

バースト:【無】

 

 

「へぇ、頑張るじゃん」

「フ………このオレに対して上から目線のそのデカい態度、ムカつくな。だが、ミネルバには【弾幕:コスト4以下】の効果がある。もうドラゴンズミラージュで貴様の好きなようにはできんぞ」

「…………」

 

 

母艦ネクサス特有の効果【弾幕】…………

 

これにより指定されたコスト以下のカード効果を受け付けないのだが、それにより、ライのドラゴンズミラージュも、実質的に効力を失う事となる。

 

 

「まぁ、だからなんだって話よね………私のターン」

 

 

己の才能を見せつけるべく、ライは巡って来たそのターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン06]春神ライ

 

 

「メインステップ………2体目のロケッドラをLV1で召喚」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

 

ライの場に、2体目のロケッドラが召喚される。2体目のロケッドラは、登場するなり、1体目のロケッドラと囀り合うように甲高い鳴き声で吠える。

 

 

「アタックステップ!!……アンタの残りライフは3。このまま一気に決めるわよ、エスパシオン!!」

「!!」

 

 

短いメインステップを終え、アタックステップへと突入。エスパシオンが咆哮を張り上げながら、低空飛行で地を翔ける。

 

2体のロケッドラと合わせ、フルアタックが通ればその時点でライの勝利となる。が、ここで粘れなければ絶対王者ではない。

 

 

「甘い、フラッシュ!!……ミネルバのLV2効果」

「!!」

「1ターンに一度、2コストを支払う事で、相手のコスト6以下のスピリット1体か、コスト3以下のスピリット全てを手札に戻す!!……今回は後者だ、ロケッドラ2体を貴様の手札へ!!」

「………」

 

 

母艦ミネルバに備え付けられる銃火器がライの場に火を吹く。ロケッドラ2体はそれに吹き飛ばされ、たちまち粒子化。彼女の手札へと戻ってしまう。

 

 

「………だけど、エスパシオンのアタックは継続だ」

「それはライフだ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉獅堂レオン

 

 

エスパシオンは、再び電撃纏った爪の一撃で、レオンのライフバリアを切り裂く。

 

これで彼の残りライフは僅か2。無傷の5を維持するライとは、かなりの差がついてしまったと言える。

 

 

「やるじゃん。その効果は界放リーグでは使ってなかったから、わからなかったよ」

「…………」

「ターンエンドだ」

手札:7

場:【宙征竜エスパシオン】LV2

【ロケッドラ】LV2

【ロケッドラ】LV1

【AAAヴンダー】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

動揺するそぶりは一切見せないものの、ミネルバの効果に一杯食わされたライ。致し方なくそのターンはエンドとする。

 

次は、既にあのカードを手札に加えているレオンのターン。逆襲を開始すべく、そのターンシークエンスを進めていく…………

 

 

[ターン07]獅堂レオン

 

 

「メインステップ………時は満ちた。行くぞ、モブ女1号」

「…………」

 

 

そう告げ、レオンは手札にある1枚のカードを引き抜いた。

 

そのカードとは、彼と言うカードバトラーを知っているのであれば、誰もが想像できる物であり…………

 

 

「運命をも覆す、我が魂!!………デスティニーガンダム、LV2で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

暗雲、落雷と共に現れたのは、獅堂レオンの絶対的エーススピリット、白き装甲、黒と赤の機翼を持つ天下無双のモビルスピリット、デスティニーガンダム。

 

 

「おぉ、デスティニーガンダム!!……間近で見ると、よりカッコいいなぁ」

 

 

そう声を荒げたのは、バトルをしている2人ではなく、賭けられている大根を手にしている、夏恋フウだ。忘れずにBパッドでしっかり写メも撮っていく。

 

 

「はは、フウちゃんってば………マイペースだなぁ」

「よそ見してる場合じゃないぞ………アタックステップだ」

「!!」

「出撃せよ、デスティニー!!」

 

 

レオンの言葉に応じるように、デスティニーガンダムは機翼から紫の光を放出し、上空へと飛び上がる。

 

 

「デスティニーのアタック時効果、BP以下の相手スピリット1体を破壊し、そのシンボル分、相手ライフをボイドに置く」

「…………」

「対象は当然、エスパシオン!!」

 

 

背部にマウントしていた長大な機関銃から極太のレーザー砲を掃射するデスティニーガンダム。見事にエスパシオンの機械の肉体を貫き、爆散させた。

 

そして、その爆発による余波は、ライのライフバリアをも破壊して…………

 

 

「ッ………!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

「アタックは継続中!!」

「………それもライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉春神ライ

 

 

地上に降り立ち、ライの眼前へと現れるデスティニーガンダム。太腿にあたる部分から小型のナイフを取り出し、それをライのライフバリアへと突き刺して、1つ破壊した。

 

 

「フ………ターンエンド。貴様の召喚するスピリットなど、この我が魂デスティニーガンダムが全て打ちのめしてくれる」

手札:5

場:【デスティニーガンダム】LV2

【ミネルバ】LV2

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

…………『オレの手札には絶甲氷盾がある。デスティニーの回復効果、ミネルバのLV2効果と合わせ、次のターンを耐え抜き、必ず勝利する』

 

 

ターンを終えたレオンの目線の先には、己の手札、その中の1枚『絶甲氷盾〈R〉』が確認できる。おそらく、デスティニーガンダムの回復する効果を使用しても、まだライのライフを全て破壊できない事を見越しての選択なのだろう…………

 

普通のカードバトラーでは、この布陣を突破するのはおろか、デスティニーガンダムさえ倒す事などできないだろう。

 

だが…………

 

 

「ふふ………やっぱ、アンタはそのデスティニーガンダムに、絶対的な自信があんのね」

「………だからなんだ」

「いや、何でも。ただそれくらい強い奴とのバトルを望んでたから………『運命をも覆す』って言うなら、私がこれから見るであろう未来も、覆して見なさいよ」

「!?」

 

 

さぁ、ラストターンの時間です!!

 

 

「ッ………!?」

 

 

ライのいつもの決めゼリフ。勝利を確信、及び勝利の未来が見えた瞬間に、指パッチンと共に使う言葉だ。

 

そこら辺に転がっているカードバトラーであれば、その程度の言葉は、単なる煽りにしか聞こえない。

 

だが、獅堂レオンは違った。見えた、確かにその目が一瞬だけ赤く光るのが………それと同時に震え上がった、何せそれは、あの時、界放リーグの決勝で見た、鉄華オーカミのモノと酷似していたからだ。

 

 

「き、貴様は………いったい……!?」

 

 

[ターン08]春神ライ

 

 

「メインステップ………凄く強いアンタを評して、見せてあげるわ、私のエーススピリット……!!」

「!!」

 

 

ライはそう告げると、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

全ては一瞬だけ脳裏によぎった、勝利の未来に従って…………

 

 

「エヴァンゲリオン新2号機α・ヤマト作戦!!……LV1で召喚!!」

「!?」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α-ヤマト作戦-】LV1(1S)BP8000

 

 

「え、エヴァンゲリオン!?………そいつは、あの伝説と呼ばれるエヴァンゲリオンスピリットだと言うのか!?!」

「えぇ、そうらしいわね」

 

 

ライのフィールドに、豪快な落雷と共に飛来したのは、伝説のエヴァンゲリオンスピリットの1体、新2号機α・ヤマト作戦。

 

赤と深緑の上下アンバランスな装甲に加え、全身凶器とも呼ばる程の武装を内装、まさに攻撃的なバトルを得意とするライのエースらしいスピリットである。

 

 

「何故こんな奴が、そんな大層な物を………」

「さぁ行くわよ、新2号機α・ヤマト作戦!!……アタックステップ、アタック!!」

 

 

開始されるラストターンのアタック。この瞬間に、新2号機α・ヤマト作戦には、いくつか発揮できる効果があり…………

 

 

「新2号機α・ヤマト作戦のアタック時効果!!……トラッシュにある全てのコアを、このスピリットへ」

「なに、全て!?」

「これでLV3、BP16000までアップ!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α-ヤマト作戦-】(1S➡︎8S)LV1➡︎3

 

 

新2号機α・ヤマト作戦は、己の覇気を飛ばすと、召喚に使用した全てのコアを巻き上げ、自身の体内へ吸収。その強さは限界値を迎え、新たなる効果も獲得する…………

 

 

「LVアップにつき、LV2、3の効果も解放!!……BP20000まで、相手のスピリットを好きなだけ破壊する」

「!!」

「気づいた?……新2号機α・ヤマト作戦のコストは8。デスティニーガンダムの【VPSシフト装甲:コスト7以下】を突破できる」

 

 

美しいフォルムで、縦横無尽にフィールドを駆け抜ける新2号機α・ヤマト作戦。

 

高く跳び上がり、地上で戦闘に備えているデスティニーガンダムへ向けて短剣やクナイを次々と投げ、それの逃げ場をなくすと、巨大な電磁砲をそこに放射。デスティニーガンダムの強固な装甲を安易と貫き、爆発へと追い込んだ…………

 

 

「AAAヴンダーの効果で1枚ドロー………」

「くっ……馬鹿な、オレのデスティニーが負けるだと!?」

「アンタも今から負けるのよ。その後、手札2枚を破棄する事で、相手ライフ1つをリザーブに置く」

「なッ……ぐぉっ!?!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉獅堂レオン

 

 

デスティニーガンダム撃破後、新2号機α・ヤマト作戦は、余ったクナイを無駄のない動きでレオンのライフバリア1つを破壊する。

 

これで残りライフは1つ。新2号機α・ヤマト作戦がアタック中のため、今このタイミングで『絶甲氷盾〈R〉』の効果を発揮しても意味がない。

 

 

「これで絶甲氷盾は使えないでしょ?」

「ッ………貴様、それを知ってて………」

「トドメよ、新2号機α・ヤマト作戦!!」

「!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉獅堂レオン

 

 

レオンにゆっくりと距離を詰めた、新2号機α・ヤマト作戦が、彼の最後のライフバリアを拳で砕いた。

 

ライフ0に伴い、彼のBパッドからは、敗北を告げるように「ピー……」と言う甲高い機械音が流れ出す。これにより、勝者は春神ライだ。見事、界放リーグを三連覇した少年を倒してみせた。

 

 

「………負けた。このオレが………また、赤い目の奴に」

「ん……まぁ、こんなもんか」

「凄いライちゃん!!……あの獅堂レオンさんに勝つなんて!!」

「わ、フウちゃん!?……距離近!!」

「凄すぎるよ〜〜!!」

 

 

勝利直後に、テンションのハイになったフウが、ライの方へと駆け寄る。ライは軽く彼女を制止させつつ、その手に握られた大根を見て、賭け事をしていた事を思い出す…………

 

 

「あ、大根忘れてた………ねぇ獅堂……って呼べばいいのかな??……私とフウちゃんだけじゃ、こんなデッカい大根食べきれないし、折角だからアンタにも半分………って、アレ??」

 

 

正直、大根は今回のバトルのキッカケ作りに過ぎなかった。折角だからと振り返ってみるが、そこにはもう獅堂レオンはいなくて…………

 

 

「どこ行ったのよ」

「あぁ!!……獅堂レオンからサイン貰うの忘れてた………」

「フウちゃんはマイペースだねぇ……」

 

 

ライは親友と何気ない平凡な会話を繰り広げるが、あのバトルで、獅堂レオンの心の傷を広げてしまった事を、理解していなくて…………

 

 

 

******

 

 

 

「ハァッ………ハァッ!!」

 

 

実質的に三度目の敗北を喫したレオンは、ジークフリード区の市街地をひたすらに走り込んでいた。悔しさと虚しさと無力感を、抑制したいからであろう。

 

ただ自分は弱くない。自分は無力ではないと、言い聞かせるために………

 

 

「何故だ………何故負ける、何なんだあの赤い目は!?………何故何故何故何故!!!………ッ」

 

 

………『貴方、オーカミ君が怖いんでしょう、恐ろしいんでしょう?』

 

 

「……違う!!」

 

 

界放リーグで早美アオイに言われた言葉をふと思い出す。レオンは唇を噛みながら、必死にそれを否定するが、彼女の言葉がまた脳裏に浮かぶ…………

 

 

………『貴方は悟ってしまったんです。あの力の前には敵わないと………本当は再戦がしたくて会場に立っていたんじゃない。なすすべなく敗北しかけた事による恐怖から足が動かなくなっただけなんですよ』

 

 

「黙れ!!」

 

 

脳内の早美アオイは黙るが、今度は鉄華オーカミの言葉が聞こえて来る。

 

 

………『ただ芽座葉月の真似事がしたいだけの奴に、オレとバルバトスが負けるかよ』

 

 

「黙れ黙れ黙れ!!……貴様らに何がわかる。何かしらの才能に恵まれた、貴様らなどに!!………ッ」

 

 

直後にもう1つだけ思い出した。界放リーグでの戦いを全て終えたあの時、早美アオイの、悪魔からの囁きを…………

 

 

………『………これは私の連絡先です。興味があったらそこに連絡をください………来れば必ず、Dr.Aが貴方を強くしてくれます』

 

 

「………Dr.A」

 

 

その名は誰もが知る悪魔の科学者。昔『芽座椎名』と言う英雄がそれを討ち倒し、今は死したと言うのが常識。だが、早美アオイは、それがまだ生きているのだと言う………

 

俄には信じられないが、レオンは藁にもすがる思いで、Bパッドで早美アオイに連絡を取り始めた。そしてその時、彼の心情を表すかのように、にわか雨が降り始める。

 

 

《はい、もしもし。早美です》

「早美アオイ………」

《………あらレオン君。ごきげんよう、何の用かしら?》

 

 

レオンは雨に打たれながら、濡れながらも、それを意に介さず、口を進める。

 

 

「………貴様なら、オレが何を言いたいか、もうわかってるんじゃないのか?」

《………そんなに欲しいですか、強さが?》

「欲しい」

 

 

即答だった。今までの負けが、余程応えたのだと言う事が、その一言でよくわかる。

 

 

「寄越せ。Dr.Aの力でも何でもいい………オレに、あの赤い目を使う奴らにも勝てる力を………寄越せ!!」

 

 

彼の言う『赤い目』とは、おそらく鉄華オーカミと春神ライの事を指しているのだろう…………

 

今、レオンは悔しさから『自分も同様の力さえあれば負けない」と言う一点の考えに凝り固まってしまっている。そして、その考え方は、早美アオイにも好都合で…………

 

 

《………いいでしょう。では今から言うポイントまで来てください。そこでお渡ししますよ………悪魔の科学者Dr.Aが、貴方のために開発した、ゼノンザードスピリット『百獣・ヴァイスレーベ』を》

 

 

人知れず、闇の中で、少年少女の美しくも脆い心を利用した、悪魔の計画が進行していく………………

 

 

 




次回、第29ターン「ブスジマ・ブラザーズ」


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第29ターン「ブスジマ・ブラザーズ」

8月も中旬。

 

日本のバトスピ最大都市、界放市の中学生らが激闘を繰り広げる、界放リーグの熱りは冷めて来たものの、夏場の暑さはまだまだ健在な今日この頃。

 

少年、鉄華オーカミは、お金を稼ぐため、今日もカードショップ「アポローン」で働き続ける。

 

 

******

 

 

「あの〜〜〜すみません」

「?」

 

 

昼下がり。おそらくアポローンのお客様であろう女性が、丁度モップで床を拭こうとしていたオーカミに声を掛ける。

 

 

「黄色のカードって、どこら辺にありますか?」

「あぁ、それならあっちのケースに」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

軽く指を指して教えると、床磨きに戻る。その様子をレジで見ていたのは、店長で、彼の兄貴分「九日ヨッカ」と同じくバイトで、4つ上のお姉さん「アネゴ」こと「雷雷ミツバ」…………

 

 

「………なんかオーカ、最近ちょっと接客上手くなった??」

「あぁ?……どうしたミツバ、急に」

 

 

さっきのオーカミの対応を見て、ミツバがヨッカにそう告げた。

 

 

「別に何も変わってねぇだろ。相変わらず敬語は全く使わねぇし、笑わねぇし」

「う〜〜ん、そう言う事じゃないんすよね。なんかこう、言語化がむずいな………雰囲気が柔らかくなった、的な?」

「まぁオマエが言わんとしてる事もわからなくはねぇよ。ここ最近、色々あったからな」

「色々?」

「あぁ、色々な」

 

 

ヨッカの言う通り、ここ最近は色々あった。

 

界放リーグ決勝での、目から流血しながら倒れ、病院に搬送されたのもそうだし、姉である「鉄華ヒメ」にバトスピだけはやめて欲しいと言われ、本当にバトスピを辞めようとしていた直後に、界放警察の警視「アルファベット」にバトルを挑まれるなど、普通のカードバトラーでは全く経験できないほどの体験を積んだに違いない。

 

そして今は、悩みだったヒメとの関係も元通りになり、今の彼は、周囲から見たら、いつもよりやや清々しさを感じるのだろう。

 

 

「まぁ別に、オマエが気にするような事じゃねぇよ」

「なんすかそれ、めっちゃ気になるじゃないですか!!」

 

 

何にせよ、バトスピを辞めずに続けてくれるのだ。彼の事を誰よりも気にかけているヨッカにとって、これ程嬉しい事はない。

 

 

「おいオーカ、床はもういい。今からちょっと買い出しに行って来て来んねぇか?」

「うん、いいよ」

 

 

相変わらずの無表情、二つ返事であっさりそれを承諾。短い間で買い物カゴを持ち、街中のスーパーへと歩みを進めるのであった。

 

 

******

 

 

「………」

 

 

オーカミが買い出しに出てから、およそ数十分。トイレットペーパーやペン、用紙などの備品を買い揃えたオーカミは、買い物カゴにそれを詰め、今にもスーパーを後にしようとしていた。

 

無表情のため、全く感情が読めない彼だが、今日は店じまいの後に、兄貴分のヨッカに、バトルの稽古をつけてもらう約束をしているので、実は今、結構機嫌が良い。

 

だがそんな時だ。聞き馴染みのある叫びが、彼の耳を通過して来たのは…………

 

 

「ゼロワン シャイニングアサルトホッパー!!!」

「ッ………この声」

 

 

聞いたことのある声、スピリット名。オーカミはすぐにその声の発声元が、スーパーの一部となっているバトル場からだと言う事を突き止めると、本能的にそこへ足が動いた。

 

ラバー製の床で敷き詰められた広いバトル場。そこにいたのは他でもない…………

 

 

「イチマル………」

 

 

そう。受験勉強があるからと、界放リーグ後から全く絡みのなかった1学年上の友「鈴木イチマル」だ。

 

今なお絶賛バトル中の様子。

 

 

「シャイニングアサルトホッパーの効果!!……相手の疲労しているスピリット1体につき、シンボルを1つ追加!!」

「な、なにぃぃ!?!」

「今のオマエのスピリットは『アルケニモン』『マミーモン』の2体、いずれも疲労状態!!……よって合計2シンボルを追加、トリプルシンボルのアタック!!……決めろ、シャイニングアサルトホッパー!!」

 

 

魔女と毒蜘蛛を合成したような完全体デジタルスピリット「アルケニモン」

 

ミイラのように、包帯で身を包んだ完全体デジタルスピリット「マミーモン」

 

それらを素早く通り抜け、緑のライダースピリット「ゼロワン シャイニングアサルトホッパー」は、対戦相手のライフバリアへと突撃し、それらを1つ残らず殴り、砕き割る。

 

 

「ぐっ………うおぉぉお!!?」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉ブスジマ

 

 

その一撃が決定打となり、このバトルはイチマルが制した。

 

因みに、言うまでもないが、やられたのは同じくオーカミから見て1学年上の「ブスジマ」だ。

 

 

「く、くそ……もう1回だ鈴木!!」

 

 

立ち上がるブスジマ。普段は素行と意地汚さから、嫌われ者となっている彼だが、今回はやけに必死な様子。言い方を変えると、余裕がないとも言えるか。

 

 

「………やだね」

「!!」

「オマエなんかとやっても、オレっち自身のスキルアップにはなんねぇよ」

「何でそんなこと言うんだよ!!……ダチ公じゃねぇか!!」

「ゲェ引っ付くなよ気持ち悪いな、ダチっつーか、どっちかっつーと悪友だろうが!!」

「それでもダチじゃねぇか!!」

 

 

何か訳ありでイチマルとバトルしていた様子。2人はどうやら同じ学年、同じ学校と言う事もあってか、仲は良いらしい。

 

見た目はチャラ男のイチマルと、ガキ大将感のあるブスジマ。確かにどこか似合う気もする。

 

 

「………バトルくらい、いいんじゃない、イチマル?」

「ッ……鉄華オーカミ」

「お、オマエ!!」

 

 

折角なので、オーカミは取り敢えずイチマルに声を掛ける。だが、いち早く彼に飛びついて来たのはブスジマの方で………

 

 

「オマエ、いったいどんなコネ使って界放リーグ準優勝になりやがった!?」

「あ?」

「バトスピはじめてたったの3ヶ月で界放リーグ準優勝なんてなれる訳ねぇだろ!!……いいから教えろ、いったいどんなカラクリだ。金か、金なのか!?……どこに行けばいい!?」

「急にどうしたんだよ………モスジマ」

「オレはブスジマだ!!!……何回名前間違える気だよ!!」

 

 

これは思ってた以上に余裕がないなと感じるオーカミ。いったい何でこんな事になっているのかを、イチマルが説明する。

 

 

「なんか、コイツ、急にバトスピ学園に入るとか言い出してな。実技試験を突破するために、バトルの腕を磨きたいんだと」

「ふーーん」

「そうなんだよ………オレ、今まで弱い者イジメしかしてなかったからよ………弱いんだ、バトスピ」

「自業自得じゃん」

 

 

界放市を代表する6つのバトスピ学園に入学したいブスジマ。だが、今の実力では到底入学は無理だと判断、焦りを覚え、悪友であるイチマルに無理を言って、バトルの稽古をつけてもらっていたのだ。

 

 

「なぁ頼むよ!?……オレのバトスピの腕をスキルアップさせてくれ!!」

「鉄華オーカミにまで泣きつくか………」

「うーーん。とは言われても……オレ、誰かにバトスピを教えた事はないしな」

 

 

余りにも必死過ぎるブスジマに呆れ掛けるオーカミとイチマル。

 

だがそんな時、2人には聞き慣れないが、逆にブスジマには聞き慣れた太い声が、バトル場に響き渡る。

 

 

「トウヤァァァァ!!!!」

「!!」

「…………誰?」

 

 

その声を耳にするなり、反射的に背中が反り上がるブスジマ。オーカミとイチマルが、その声のする方へと体ごと首を向けると……………

 

そこには、二回りくらい大きな…………ブスジマがいた。

 

 

「え………ブスジマが2人?」

「い、いや……違うぞ鉄華オーカミ。この人は………」

 

 

身体の大きさ以外は瓜二つの2人。オーカミは混乱仕掛けるが、イチマルはその正体に気づく。

 

 

「見つけたぞトウヤ。母ちゃんから事情は聞いた………稽古なら、このオレ様が付けてやろう!!」

「に、兄ちゃん………!!」

「兄ちゃん!?」

 

 

目の前にいるデカいブスジマは、歳の近いブスジマと兄弟関係にあるよう。確かにそれだと瓜二つなのも説明がつく。

 

 

「やっぱり、ブスジマの兄………て事は」

「おぉ、トウヤの同級生か。オレは「毒島富雄」……コイツの兄だ」

「!!」

 

 

………『毒島富雄』

 

その名前にイチマルが強く反応を示す。

 

 

「いつも弟がお世話になってるな、ガハハハハ!!!」

「いや、オレは1つ下だけど」

「何にせよ、ありがとうな。こんな捻くれ者」

「お、おい鉄華オーカミ!!……まさかオマエ、毒島富雄を知らねぇのかよ!!」

「え、ブスジマの兄ちゃんじゃないの?」

「違う、そう言う意味じゃない」

 

 

ブスジマの兄「毒島富雄」について知らないオーカミに、イチマルが軽く説明する。

 

 

「いいか、目の前のこの毒島さんはな。あの世界を二度救った英雄「芽座椎名」さんの2つ上の先輩に当たるお方なんだ!!」

「…………なにそれ、凄いの?」

「凄えよ!?」

 

 

世界を二度も救った英雄「芽座椎名」と言う少女が存在する。彼女もまた、バトスピ学園出身の者なのだが、ブスジマの兄、毒島富雄は、そんな彼女の2個上の先輩に当たり、彼女と共に切磋琢磨したと言う記録が残っているのだ。

 

 

「フ………芽座椎名か。懐かしいぜ、奴を倒すために思考を練りに練りまくった日々をな………」

「か、カッケェ………!!」

「ガハハハハ、ガハハハハ!!!……そうだろそうだろう!?……もっとオレ様を褒めてくれ少年!!……ガハハハハ!!」

「………なんか、合わない。この人のキャラと、周りの空気が………」

 

 

イチマルに褒め称えられ、鼻高く笑い出す毒島富雄。オーカミはその様子に強い違和感を覚える。

 

 

「兄ちゃん。それでわざわざ界放市まで帰って来てくれたのかよ」

「おぉ!!……弟のピンチはほっとけないからな!!」

「に、兄ちゃん……!!」

「さ、流石レジェンドカードバトラーの1人、毒島富雄さん。気さくで優しくて、良い人なんだな………!!」

「…………」

 

 

気さくで良い人なのは伝わって来るけど、オーカミには、どうもアレが強いとは思えない。

 

 

「むむ、赤髪の君はこのオレのレジェンドさが、あんまり伝わってねぇみたいだな」

「レジェンドさってなんだよ」

「ガハハハハ、いいだろう!!……特別に、このオレ様のレジェンドさを堪能させてやる、Bパッドを抜きな!!」

「いや、だからレジェンドさってなに」

 

 

訳を理解できぬまま、強引にバトルを挑まれる。

 

 

「いいな〜鉄華オーカミ、あの毒島富雄さんとバトルできるなんて」

「………そんなに羨ましがられる事なの?」

 

 

わからない。

 

なんでブスジマの兄がここまで絶大な支持を得ているのかを…………

 

 

「トウヤ!!」

「!!」

「兄ちゃんの戦う背中から学べ。よおく見とけよ」

「お、おう!!……頑張れ、兄ちゃん!!」

 

 

弟にもメチャクチャカッコつけた所で、毒島富雄もまた己のBパッドを取り出し、左腕にセット。デッキを装填してバトルの準備を進める。

 

 

「………イチマル、買い物カゴ頼む」

「おう、わかったぜ」

 

 

乗り気にはなれないものの、バトルから逃げる事はできない。

 

オーカミは買い物カゴをイチマルに渡し、同じようにBパッドを左腕にセットし、デッキを装填。バトルの準備を完了させた。

 

 

「ガハハハハ!!!……見せてやるぜ、このオレ様のレジェンドっぷりをな!!」

「………もうなんでもいいや、行くぞ、バトル開始だ……!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

急な展開だったが、鉄華オーカミとブスジマの兄、毒島富雄によるバトルスピリッツが、ジークフリード区にあるスーパーマーケット内に設立されたバトル場で、コールと共に開始される。

 

先攻は鉄華オーカミ。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……バルバトス第1形態をLV1で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

地響きと共に、地中から、ガンダムと悪魔の名を持つモビルスピリット、バルバトス、その第1形態が出現する。

 

 

「バルバトス………そうか、オマエが今年の界放リーグジュニアの部で準優勝した鉄華オーカミか」

「あぁ、召喚時効果発揮………『鉄華団モビルワーカー』を手札に加えて、残りは破棄」

 

 

バルバトスの登場により、毒島もまた、対戦している、目の前の人物が誰なのかを認識する。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

「ガハハハハ!!!……成る程な、全力で殴りかかって良い相手なのは理解したぜ!!……まさか弟の、トウヤの友達がジュニアの部で準優勝する程の奴とはな!!」

「いや、別に友達じゃないけど」

 

 

オーカミの第1ターンが終了。レジェンドカードバトラーの1人、毒島富雄の第2ターンへと移る。

 

 

[ターン02]毒島富雄

 

 

「メインステップ………先ずはネクサス、ダークタワーだ!!」

「!!」

 

 

ー【ダークタワー】LV1

 

 

毒島の背後に、無機質で黒ずんだ一柱の塔、ダークタワーが配置される。塔を名乗る割には、人が入るスペースはなさそうだ。

 

 

「毒島家は、皆初手に紫のネクサスを配置するのがお決まりだぜ!!……このダークタワーがある間、お互い少年のターンの間、バースト効果以外でスピリットをノーコスト召喚できず、煌臨もできない!!」

「……ノーコスト召喚のメタカードか」

「ガハハハハ!!!……そのリアクション、少しは刺さっているようだな。オレ様はこれでターンエンドだ!!」

手札:4

場:【ダークタワー】LV1

バースト:【無】

 

 

オーカミのデッキ『鉄華団』のカード達には、いくつかノーコスト召喚を行うカード達も存在する。それらにとっては、毒島富雄のダークタワーは天敵とも言える。

 

 

「ダークタワーか、いきなりきちぃネクサスを配置されたな…………鉄華オーカミの奴、勝てんのかよ」

「勝てるわけねぇだろ!!……兄ちゃんはあの芽座椎名と肩を並べる実力があるんだぞ!?」

「あぁ、そっか……そう、だよな………」

 

 

このバトルを見届けているイチマルとブスジマが、そう言葉を交える。

 

確かに、相手はレジェンドカードバトラーの1人。側から見れば勝つのは毒島富雄の方だ。だがイチマルは、不思議と、知らず知らずのうちに、勝つのは鉄華オーカミの方だと錯覚していて……………

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーを召喚して、創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置!!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「神託の対象は1枚、よってオルガにコアを1つ追加する」

 

 

鉄華団スピリットの中で最もコストの軽量な車両型スピリット、モビルワーカーがバルバトス第1形態の横に並ぶのと同時に、場には何も出現しないが、創界神ネクサスのオルガ・イツカが配置される。

 

 

「バルバトス第1形態のLVを2にアップして、アタックステップ………いけ、バルバトス!!」

 

 

バルバトス第1形態のLVを上げると、すぐさまアタックステップへと移行して、攻撃を仕掛ける。バルバトス第1形態は背部に備え付けられたスラスターを稼働させ、低空飛行で駆け抜けていく。

 

 

「ライフだ、くれてやる!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉毒島富雄

 

 

勢いのまま鉄の拳で毒島のライフバリアを殴りつける。それは1つ砕け散り、残り4つとなる。

 

 

「良い攻撃じゃねぇか少年!!……どうした、もう1体でも来いよ!!」

「…………ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV2

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

安い挑発には乗らず、そのままターンをエンドとする。

 

次は毒島富雄のターン。ここから、彼のデッキが牙を剥き始める……………

 

 

[ターン04]毒島富雄

 

 

「メインステップ………このオレ様、毒島富雄と言えばこのスピリットだよなぁ!!……アルケニモンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【アルケニモン】LV2(3)BP7000

 

 

宛ら、蜘蛛の女王と言った姿をした、魔獣型の完全体デジタルスピリット、アルケニモンが召喚される。

 

このスピリットは、毒島家が皆愛用するスピリットの1体である。毒島富雄もまた、これを多用し、芽座椎名と何度もバトルを繰り広げては負けていた。

 

 

「アタックステップだ。アルケニモンでアタック、その効果で疲労状態のスピリット、バルバトス第1形態を破壊する事で、ボイドからコア1つを自身に追加!!」

「!!」

 

 

アルケニモンは手から蜘蛛の糸を伸ばし、バルバトス第1形態の鋼鉄のボディを切り刻む。やがて耐えられなくなったバルバトス第1形態は片膝を突き、直後に爆発した。

 

これだけでも十分に強力なアルケニモンだが、効果はそれだけではなくて………………

 

 

「アルケニモンの更なる効果!!……紫のネクサスがある時、デッキから2枚オープンし、その中にある完全体、究極体のデジタルスピリットカード1枚をノーコスト召喚する!!」

「ッ……デジタルスピリットをノーコスト召喚!?」

「ガハハハハ!!……オレ様のターンなら、ダークタワーの影響は受けねぇのさ。ほれ、カードオープン!!」

 

 

アルケニモンの効果で、毒島のデッキから2枚のカードがオープンされていく。

 

その中には……………

 

 

「いつもならここでアルケニモンの背景世界での相棒『マミーモン』を召喚するのが鉄板なんだが…………今回のオレ様は一味も二味も違うぜぇ!!……アルケニモンのLVを1に下げ、完全体デジタルスピリット、パイルドラモンをLV2で召喚!!」

「えぇ!?!」

 

 

ー【パイルドラモン】LV2(3)BP10000

 

 

そのスピリットの登場に誰よりも驚きを見せたのは、バトルを見ているイチマルの方だった。

 

無理もない。毒島が今召喚した、甲殻に覆われた竜戦士は、一般的に知られている、彼の使用カードではないのだから……………

 

 

「……今度はドラゴン」

「召喚時効果、コスト7以下のスピリット1体を破壊!!……モビルワーカーだ!!」

「くっ……!」

 

 

パイルドラモンは召喚されるなり、その効果を発揮。腰に備え付けられた二丁の機関銃を掃射し、モビルワーカーを爆散に追い込む。

 

これでオーカミのスピリットは0。アルケニモンのアタックも尚継続中である。

 

 

「モビルワーカーの破壊時、自分のデッキの上から1枚を破棄して、1枚ドロー………アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

接近して来たアルケニモンが、鋭い爪による引っ掻く攻撃で、そのライフバリア1つを引き裂く。

 

 

「ガハハハハ!!!……まだまだ行くぜ、今度はパイルドラモンでアタック、LV2、3のアタック時効果で、ボイドからコア2つを自身に追加し、さらにターンに一度回復!!」

「なに………コアブしながら回復まで」

 

 

パイルドラモンは自身にコアを追加しながら、一度だけ回復状態になると言う、単純明快且つ強力な効果を持つ。

 

毒島はそれを遺憾なく発揮している。毒島なのに。

 

 

「アタックはライフで受ける!!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

「もう一度だ、このタイミングでもコアブースト!!」

「…………それもライフで受けだ………ぐっ!?」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

パイルドラモンが、拳で怒涛の二連撃を叩き込み、オーカミのライフバリアは一気に残り2つまで追い込まれてしまう。

 

 

「ガハハハハ!!!……オレ様はこれでターンエンドだ」

手札:4

場:【パイルドラモン】LV3

【アルケニモン】LV1

【ダークタワー】LV1

バースト:【無】

 

 

アルケニモンとパイルドラモンの2体で怒涛のコンボを決め、コアを5つ追加し、オーカミのスピリットを全滅させた挙句、ライフまで大きく削った毒島。

 

大満足でそのターンを終える。

 

 

「この人、思ったより強い…………面白くなって来た」

 

 

一方で毒島の強さを認識させられ、鉄華オーカミにもようやく火がついた。

 

逆襲の狼煙を上げるべく、己のターンを開始していく。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………鉄華団モビルワーカーを2体連続召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

このバトルでは2、3体目となるモビルワーカーを召喚。さらに手札へ手をかけ、あのスピリットも呼び出す…………

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態!!……LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

上空から降り立ったのは、オーカミのエースカード、バルバトス第4形態。黒い槌矛、メイスを手に握り、堂々の登場を果たす。

 

 

「ほぉ、どうやらそれが少年のエースみたいだな」

「アタックステップ!!……第4形態!!」

 

 

エースの登場に勢いづき、早速アタックステップへと突入するオーカミ。バルバトス第4形態がメイスを手に、地上を駆け出す。

 

 

「アタック時効果、相手スピリットからコア2つをリザーブへ」

「!!」

「パイルドラモンとアルケニモンから、コアを1つずつ取り除く………アルケニモンは消滅だ」

 

 

ー【パイルドラモン】(7➡︎6)

 

ー【アルケニモン】(1➡︎0)消滅

 

 

バルバトス第4形態は、メイスを大地に叩きつけ、いわゆるストーンエッジを形成。連なる大地の破片は、アルケニモンとパイルドラモンを襲い、その内アルケニモンを消滅へと追い込んだ。

 

 

「さらにLV3のアタック時効果でダブルシンボル………ライフを2つもらう」

 

 

残ったパイルドラモンは疲労しているため、ブロックに参加できない。

 

バルバトス第4形態の攻撃が刺さり、鉄華オーカミが一気に形成逆転かと思われたその直後、毒島富雄は徐に手札から1枚のカードを引き抜く……………

 

 

「言ったはずだぜ、今日のオレ様は一味も二味も違うとな!!……BP8000以上の相手スピリットがアタックしている時、手札からこのブラックウォーグレイモンを1コストで召喚できる」

「は……ウォーグレイモン!?」

「パイルドラモンのLVを2まで落とし、このブラックウォーグレイモンをLV3で召喚するぜ!!」

 

 

ー【ブラックウォーグレイモン】LV3(4)BP15000

 

 

毒島の場に現れる、闇の力が込められた黒い球体。それを斬り裂き、中より姿を見せたのは、その名の通り黒いウォーグレイモン、ブラックウォーグレイモン。

 

ヒバナのモノとはまた違うウォーグレイモンに、オーカミは驚きを隠せない。

 

 

「ブラックウォーグレイモンの召喚時効果、BP12000以下の相手スピリット1体を破壊する」

「!!」

「対象は丁度いいのがいるな、バルバトス第4形態を破壊するぜ!!」

「くっ………」

 

 

ブラックウォーグレイモンは、登場するなり、両手で巨大な黒炎の火球を形成。それを向かって来るバルバトス第4形態へと投げ飛ばし、直撃させる。

 

バルバトス第4形態はそれに吹き飛ばされ、呆気なく爆散してしまった。

 

 

「BP12000。エースにしては低いパワーだな少年よ」

「それ、カッコつけて言う事じゃないだろ…………フラッシュ、オルガの【神域】でデッキから3枚破棄して、1枚ドロー…………ターンエンドだ」

手札:4

場:【鉄華団モビルワーカー】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

大量にスピリットを展開した事でLVの上昇していた、オルガの効果を発揮させ、ドローを行うが、攻めの起点となるバルバトス第4形態が破壊されては、攻めようにも攻められない。

 

致し方なく、オーカミは一度ターンをエンドとする。次は完全体パイルドラモンと、究極体ブラックウォーグレイモンをフィールドに並べた毒島富雄のターンだ。

 

 

[ターン06]毒島富雄

 

 

「メインステップ………弟の前で恥はかけねぇ、そろそろ締めにしてやるか。パイルドラモンのLVを再び3に上げてアタックステップ!!」

 

 

パイルドラモンとブラックウォーグレイモン。2体の強力なデジタルスピリットのLVを最大にまで整え、締めのアタックステップへと突入した毒島富雄。

 

だが、そのスピリットらでアタックを行うよりも早く、オーカミは効果の発揮を宣言して…………

 

 

「待った………お互いのアタックステップ開始時、オルガ・イツカの【神技】を発揮!!」

「!?」

「トラッシュから鉄華団スピリットを、ノーコストで復活させる………再び大地を揺らせ、バルバトス第4形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

創界神ネクサスであるオルガの効果が発揮され、前のターンに破壊された、バルバトス第4形態が、大地を砕き、地の底より復活を果たす。

 

 

「ダークタワーのノーコスト召喚を封じる効果は、オレのターンだけ、アンタのターンなら、ノーコスト召喚は可能だ」

「考えたな少年よ。だが、そのタイミングでそれを復活させても意味はないぜ、このブラックウォーグレイモンが全てを蹴散らす………アタックステップ続行、アタックだ、ブラックウォーグレイモン!!」

 

 

ダークタワーの効果の穴を掻い潜り、早々に復活を果たしたバルバトス第4形態。しかし毒島はそれに目もくれず、アタックステップを続行、ブラックウォーグレイモンで攻撃を仕掛ける。

 

 

「ブラックウォーグレイモンのアタック時効果!!……相手スピリット1体を指定アタックできる」

「!!」

「オレ様は、バルバトス第4形態を指定するぜ。そしてこの時、最もBPの高いスピリットを指定した時、ブラックウォーグレイモンは回復する!!」

「ッ………じゃあ、オレのスピリットがいる限り、無限にアタックできるのか」

「当たりだ、少年!!」

 

 

バルバトス第4形態目掛けて突撃して来るブラックウォーグレイモン。鉤爪ドラモンキラーで鋭く、速い攻撃を何度も繰り返していき、バルバトス第4形態の装甲に少しずつ傷をつけていく。

 

バルバトス第4形態も負けじと戦棍、メイスを横に振るうも、ブラックウォーグレイモンは素早い身のこなしでそれさえをも回避、すぐさま攻撃に戻り、バルバトス第4形態を防戦一方の状況に陥れる。

 

 

「ガハハハハ!!!……良い腕だが、まだまだだな少年、今はこのオレ様のレジェンドっぷりを糧に成長するんだな!!」

 

 

意味不明な事を叫ぶ毒島。

 

だが、その光景を見ていたイチマルもブスジマも、この時点では100%彼が勝つのだろうと思っていた。

 

鉄華オーカミが、手札から1枚のカードをBパッドに叩きつけるまでは……………

 

 

「うん。そうさせてもらうよ………フラッシュマジック、スネークビジョン!!」

「…………あれ」

「不足コストは2体のモビルワーカーから確保。よって消滅する…………効果でアンタのスピリット全てのコアを、1個になるようにリザーブに送る………これでブラックウォーグレイモンも、パイルドラモンも、LV1に弱体化する」

 

 

ー【ブラックウォーグレイモン】(4➡︎1)LV3➡︎1

 

ー【パイルドラモン】(5➡︎1)LV3➡︎1

 

 

不足コストで2体のモビルワーカーが消滅。

 

しかし直後に突如、フィールド全体で発光する紫の光。それは毒島の操る全てのスピリット達の体内に眠るコアを取り除き、大きく弱体化させていく。

 

そして、この時で一番大事な事は、弱体化させられたブラックウォーグレイモンは、今なおも、バルバトス第4形態とのバトルの真っ最中であると言う事で……………

 

 

「ブラックウォーグレイモンのLV1BPは………9000!?」

「バルバトス第4形態のBPが低いなら、他のカードで補ってやればいい…………これでバルバトス第4形態の方が強くなった」

「おいおい冗談だろ!?」

「いけ、バルバトス!!」

 

 

スネークビジョンにより、攻撃の手が緩まった瞬間を、バルバトス第4形態は見逃さない。メイスを強く握り、ブラックウォーグレイモン目掛けてそれを縦一閃に振るう。

 

その渾身の一撃は、ブラックウォーグレイモンの強固な鎧ごと、打ち砕き、爆散させた。

 

 

「くっ……パイルドラモンはLV1じゃ効果を使えねぇ…………ターンエンドだ」

手札:4

場:【パイルドラモン】LV1

【ダークタワー】LV1

バースト:【無】

 

 

「う、ウソだろ!?……兄ちゃんのあの攻撃を」

「すげぇ………鉄華オーカミの奴、あの毒島富雄の攻撃を止めるどころか返り討ちにしやがった」

 

 

 

…………『オレっちの知らないところで、また強くなってる………なのに、オレっちは………』

 

 

完璧な読みからの鋭いカウンター。今の一連の流れを見て、鈴木イチマルは、鉄華オーカミが界放リーグ後から、また一段と強くなっているのを確認するが……………

 

その事実を、どうしても今の自分と比べてしまい、劣等感でとても悔しくて、悲しくて、切なくなった。今はただ、黙って拳を固く握ることしかできなくて………

 

 

「………オレのターンだな」

 

 

そんなイチマルの気持ちなど、知るよしもなく、鉄華オーカミは巡って来た己のターンを開始していく。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………パイロットブレイヴ、三日月・オーガスを、バルバトス第4形態に直接合体!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

鉄華団の専用ブレイヴ『三日月・オーガス』のカードを、バルバトス第4形態に合体させる。パイロットブレイヴであるため、見た目の変化は一切ないものの、その強さは先程までとは比べ物にならない…………

 

 

「アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック!!……その効果で残ったパイルドラモンを消滅!!」

「ぬうっ……!!」

 

 

ー【パイルドラモン】(1➡︎0)消滅

 

 

突撃するバルバトス第4形態。横一閃に振るったメイスの一撃が、パイルドラモンにクリーンヒットし、それを消滅させる。

 

 

「さらに三日月の合体時効果で、ダークタワーの維持コアを上げて消滅。リザーブのコアを1つトラッシュに」

「!?」

 

 

ー【ダークタワー】(消滅)

 

 

今度はメイスを投擲し、ダークタワーを中心から砕く。投げたメイスは地に落ちる前にキャッチすると、そのまま毒島富雄のライフバリア目掛けて駆け出した。

 

 

「アタック時効果、合体と合わせて、トリプルシンボルのアタック」

「ッ………ライフで受ける………ぐうぉ!?!」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉毒島富雄

 

 

大地をも砕く、メイスを叩きつける一撃が、毒島富雄のライフバリアを一気に半数以上、3つも破壊する。

 

これで残り1つ。その残り1つを破壊しなければ、鉄華オーカミに勝利はないが、その算段も、既に整っていて……………

 

 

「バトル終了時、バルバトス第4形態の更なる効果………トラッシュから1コストで鉄華団スピリットを召喚する」

「なにぃぃー!?」

「1コストで戻って来い、バルバトス第1形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

アタックしたバトルの終了直後、バルバトス第4形態が、その緑の眼光を、瞬間的に強く輝かせると、それに共鳴するかの如く、地中よりバルバトスの最初の姿、第1形態が飛び出して来る。

 

バルバトス第4形態を起点に、更なる鉄華団を次々と呼び出していく。それが鉄華オーカミの鉄華団デッキの必勝パターンだ。

 

 

「同じデジタルスピリットの使い手なら、アイツ(アルファベット)の方が百倍強い…………トドメのアタックだ、バルバトス第1形態!!」

 

 

背部のスラスターで猪突猛進。目指すのは、毒島富雄の最後のライフバリア。そして、彼にはもう、コレをどうにかする手札は残っていなくて…………

 

 

「うおぉぉお!!?……やっぱオレ様はいつも最後こうなるのね〜〜〜!!!!……ライフで受ける!!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉毒島富雄

 

 

自虐ネタを披露しながらも、バルバトス第1形態のラストナックルを甘んじて受ける。

 

その最後のライフバリアは、全て砕け散り、彼のBパッドからは「ピー………」と言う、敗北を知らせる無機質な音声が流れ出した。

 

そして、それは同時に鉄華オーカミの勝利を表しているのと同義。見事レジェンドカードバトラーの1人、毒島富雄に勝利して見せた。だが、その表情は不思議と余り嬉しそうではなくて…………

 

 

「………単体じゃパワー不足………か」

 

 

バトルの終了直後、オーカミが見つめたのは、フィールドに最後まで残ったエースカード『バルバトス第4形態』…………

 

除去から、スピリットの展開、バトルのフィニッシュまで多種多様な活躍をして来た、バトルには欠かせない存在で、バトスピを始めた時から愛用している大事なカードではあるが、今回のバトルで、それに大きな弱点がある事を明確に痛感させられた。

 

それは、単体での力不足。今後の課題が見つかった事は、彼にとっては大きな収穫なのかもしれない。

 

 

「ガハハハハ!!!……負けた負けた、流石は界放リーグ準優勝と言ったところか」

「あぁ、うん」

「ナイスバトルだったぜ、またやろう」

「こっちこそ、ありがとう」

 

 

最初は見た目と雰囲気だけでなんか弱そうと、今思えば失礼極まりない事を考えていたオーカミだったが、このバトルを経て、その誤解は解かれた。

 

2人は互いのナイスバトルに感謝し合い、固い握手を交わす。

 

だが、それを見たイチマルは…………

 

 

「なんで、そこにいるのがオレっちじゃないんだ」

 

 

小声でそう呟くと、オーカミから手渡された買い物カゴをそっと地に置き、誰にも気づかれないまま、この場から立ち去ってしまう。

 

 

「兄ちゃん!!……オレ、感動したよ。いつか絶対、兄ちゃんみたいなカードバトラーになるよ!!」

「おぉ、そうかトウヤ!!……オレは嬉しいぞ!!……それじゃあ早速やるか、目指せバトスピ学園合格だぜ」

「おぉ!!」

 

 

仲睦まじい毒島兄弟。その和気藹々とした声が、立ち去ろうとしていたイチマルの耳を通過し、強い印象を残した。

 

 

「………なぁイチマル、勉強が忙しいのはわかるけど、折角だから、今日は一緒にバトスピしないか………アレ、イチマル??」

 

 

その場にいたと思ったイチマルに声をかけたつもりが、既にそこに彼はおらず、空振りに終わってしまう。

 

そしてこの日、もっとイチマルに気を向けてやればよかったと、後悔する事になる……………

 

 

 

******

 

 

夜の暗い帰り道。人通りの少ない裏通りを歩き、イチマルは想起していた。

 

鉄華オーカミと言う天才的なカードバトラーが現れてからの出来事を……………

 

 

………『オーカは、小さいけど……強くて、クールで、カッコいいんだ』

 

 

脳内にいる一木ヒバナが言った。自分が好意を寄せる彼女に好意を寄せられている鉄華オーカミが妬ましかった。

 

 

………『なんてったって、オーカはオレの弟分だからな!!』

 

 

脳内にいる九日ヨッカが、そう自慢気に口にした。正直、鉄華オーカミと出会う前から知り合いだったのに、何故こっちが弟分じゃないんだ…………

 

バトルスピリッツの才能に満ち満ち溢れている、鉄華オーカミが憎い。

 

 

『鉄華オーカミは凄い』     『鉄華オーカミは素晴らしい』

『鉄華オーカミは天才だ』    『オーカミ君なら、いつかこの界放市のモビル王にだってなれる』   『鉄華オーカミなら』    『鉄華オーカミは強い』   『鉄華オーカミが強い』     『鉄華オーカミの方が強い』

 

 

……………『イチマルよりも、オーカミの方が強い』

 

 

頭の中はそれでいっぱいだった。自分の才能のなさを思い知らされるのが、苦しくて苦しくて、仕方なかった……………

 

 

「こんばんわ」

「!?」

 

 

そんな折、自分のどうしようもない思考を遮るかの如く、帰路に立ち塞がる1人の深いフードを被った女性。

 

その女性は、すぐさまそのフードを脱ぎ捨て、正体を見せる。

 

 

「この間の界放リーグ、ベスト8。おめでとうございます」

「は、早美あお、アオイ…………さん???」

「えぇそうです。私の名は早美アオイ」

「な、なんでこんな所に………!?」

 

 

イチマルの前に突然現れたのは、16という若さでプロのカードバトラーとなり、界放市の王者の1人『モビル王』にまで輝いた、若き秀才少女『早美アオイ』……………

 

その声に熱は篭っていない。氷のような冷たく、冷徹な囁きに、イチマルは怯えて震える。直感的に、彼女がヤバい人間なのだと、悟った。

 

 

「界放リーグベスト8。確かに優秀な成績でしたが、貴方はおそらくそこ止まりだと思われます」

「!!」

「何を驚いてるんですか。それはそうでしょう、だってバトスピを始めて、たったの3ヶ月足らずのオーカミ君に、貴方は負けたのですから………それ以上の成長なんて、見込めませんよ」

「…………」

 

 

早美アオイに掛けられた言葉は、まるで自分を試すような、挑発するような、意外なモノだった。

 

イチマルは一瞬固まるが、直後に恐怖を振り切り、発言する。

 

 

「どうやったら………」

「?」

「どうやったら、勝てますか。鉄華オーカミに!!………わかるんでしょ、貴女なら!!……オレっちがここからさらに強くなる方法!!……だからオレっちなんか待ち伏せしたんでしょ!?」

 

 

藁にもすがる思いで、イチマルは叫んだ。

 

自分を『強くしてくれ』…………と。

 

それを耳にするなり、早美アオイは不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「フフ………では、貴方にこれを差し上げます」

「!?」

「これは、悪魔の魔道具『ゼノンザードスピリット』………その一柱『「千年杉」ヤクーツォーク』………必ず、貴方のお役に立ちますよ。オーカミ君なんて、目じゃありません」

「………!!」

 

 

そう言いつつ、イチマルに手渡したのはおそらく悪魔の科学者『Dr.A』が開発したと思われるカード。

 

それを迷わずに、何の躊躇いもなく手に取るや否や、イチマルの温かみのある瞳は、まるでそれに侵食されたように青く、冷めたモノとなって……………

 

 

「………これがあれば、オレは鉄華オーカミを超えられる程強く…………いや、鉄華オーカミだけじゃない、他の誰よりも強くなって、ライダー王の兄ィにも認められる!!」

 

 

イチマルの変わり果てた様子を見るなり、早美アオイは小さく口角を上げながら「6枚のゼノンザードスピリットは全てばら撒いた。これで、STEP3は完了」と口にする。

 

早美アオイとDr.Aによる、大いなる計画が、また一歩前進した。

 

 

 




次回、第30ターン「激進のゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク鳴動」





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第30ターン「激震のゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク鳴動」

「お疲れ様です!!……お届け物に参りました!!」

「………どうも」

 

 

夏休みも終了間近のとある日。鉄華オーカミが働くカードショップ「アポローン」にて、赤いエプロンを着用した、明るく元気な女の子の声が響き渡る。

 

艶やかで黒髪ロングが特徴的な女の子。清楚で大人びた印象を受けるが、年齢は目の前のオーカミと何ら変わらないように見える。その手には小さめのダンボールが収められているため、おそらくどこかから送られて来た小包を届けに来てくれたのだろう。

 

 

「どこかに何か書けばいいかな?」

「………」

「…………なに」

 

 

オーカミが、濃ゆい赤色のエプロンの袖口からペンを取り出しながら、そう彼女に問い掛けるが…………

 

彼女はオーカミをその目に入れるなり、唇を震わせていて………

 

 

「て、鉄華オーカミだ!!!」

「は?」

「凄い、ホントにいたんだ!!……わ、わわ私、夏恋フウって言います!!……カードショップ「ゼウス」でアルバイトしてます!!」

「あぁ、あのオカマの人の所」

「界放リーグの活躍見ました!!……とっても強かったです!!………よ、よろろよろしくお願いします!!」

「………うん、よろしく」

 

 

緊張しながら話す少女の名前は夏恋フウ。カードショップ「ゼウス」とは、厳ついオカマな店長「ランスロット・武井」が経営するジークフリード区のカードショップの1つだ。

 

以前、オーカミも色々あって一度だけお邪魔した事がある。

 

 

「私、アレなんです。あの、えっと………ライちゃん。春神ライちゃんのお友達なんです!!」

「…………誰」

「えぇ!?……この間、バトスピアイドルの青葉アカリさんのライブを一緒に観にいったんじゃないんですか!?!」

「………あぁ、新世代系女子の事。アイツと知り合いなんだ」

 

 

夏恋フウは、春神ライの大親友。

 

フウは、変な渾名で呼ばれて覚えられているライが気の毒に感じた。

 

 

「あ、そうそう!!……今日のお荷物凄いんですよ〜〜このダンボールの裏っ側見てください!!」

「…………」

 

 

………『喧しい女の子だなぁ』

 

と、思いつつも、オーカミはフウからダンボールを受け取って、その裏側を視認する。

 

するとそこには達筆な文字で『鉄華オーカミ様へ』と記載された封筒が貼り付けてあって…………

 

 

「ッ………これ、どこで」

「それが、私も店長もわからないんです。アポローン用のダンボールに、知らない内に貼り付けられてて……」

「…………」

 

 

割と久し振りに来たこの封筒。中にはおそらく鉄華団の新しいカードが封入されているに違いない。

 

 

「うん。まぁ取り敢えず貰っとくよ、ありがとう。外暑いし、お茶でも飲んでく?」

「え……や、優しい!?!………うんうん、こりゃ惚れるのわかるわ〜〜」

「………飲まないの?」

 

 

オーカミの素朴な優しさに胸が苦しくなるフウ。ライが彼の事を好きになってしまう理由がよくわかった。

 

そしてそんな折、またお店の自動ドアが開き、1人の人物が来店して来る。

 

一木ヒバナだ。

 

 

「ヤッホーオーカ、遊びに来たよ〜」

「………ん、お疲れ」

「わぁ!!!……一木ヒバナさんだァァァ!!!」

「えぇ!?……なになに」

 

 

一木ヒバナの登場に、フウの落ち着きつつあったテンションがまた上昇する。

 

 

「凄い、凄いよこのお店!!……界放リーグ準優勝者がアルバイトしてて、ベスト4の1人が常連さんだなんて!!!……流石はヨッカさんの経営するお店!!」

「………えと、オーカ、この子は??」

 

 

ヒバナがオーカミに訊いた。

 

 

「新世代系女子の友達だってさ」

「え、そうなの?……ライちゃんの友達!?」

「そうなんです!!……私、夏恋フウって言います!!……ライちゃんとは、親友オブ親友の関係なんですよ〜〜!!」

「私もこの間、ライちゃんとはアカリンのライブ一緒に行って、仲良くなったんだ〜〜!!……よろしくね、フウちゃん!!」

「こちらこそ、よろしくお願いします!!……あ、お二人とも、よろしければサインをいただけないでしょうか?」

 

 

フウは、まるで狙っていたかのように色紙とペンを取り出して、2人に差し出して来た。

 

 

「え、サイン!?……私達の!?」

「ですです!!」

「こ、困ったな、私そう言うのは書いた事なくて………」

「まぁ、適当に名前だけ書いてあげればいいんじゃない?」

 

 

無下にもできないため、2人は交互にペンで色紙にフウの名前を記入した。ヒバナはそれだけでは申し訳ないと思ったのか、一応ハートマークも添えている。

 

 

「わぁ!!……ありがとうございます、ありがとうございます!!……一生の宝物にします!!……ありがとうライちゃん、私に広い交友関係を築かせてくれてありがとう!!」

「情緒の忙しい奴だな………」

「あっはは………」

「それではまだお仕事がありますので、これで失礼致します!!……ありがとうございました!!」

 

 

合計5回のありがとうを告げると、フウはサイン入り色紙を大事そうに鞄へしまい、ようやく2人へ元気よく手を振って、アポローンを後にした。

 

まるで嵐が過ぎ去った後のように、店内は静まり返る。

 

 

「夏恋フウちゃん……ライちゃんの友達、なんか納得かも。そういえばオーカ、今日ヨッカさんとミツバさんは?」

「あぁ、アニキもアネゴも今日は非番だよ。人も少ないだろうし、1人でやれるだろーって」

「えぇ……大変だね」

「慣れたよ」

 

 

オーカミとヒバナは2人でたわいもない話題で会話していると、ヒバナの目にオーカミの手に持つ封筒が目に飛び込んで来る。

 

 

「……あ、それって噂の支給品??」

「ん?……あぁコレ、うん。さっきの子が届けてくれた。そう言えば、届くのは結構久し振りだったな」

「へ〜〜……綺麗な字」

 

 

鉄華オーカミに届く、鉄華団のカードが入った封筒。宛名もなく、未だに誰が何のために送りつけてくるのかも不明だ。

 

そんな封筒に、ヒバナは興味津々な様子で…………

 

 

「ねぇ、今開けてみようよ」

「今?」

「うん。私も新しい鉄華団のカードみたいし」

「………まぁ、いっか」

 

 

正直、まだバイト中なので、家に帰ってから開封しようと思っていたが、まぁ楽しみじゃないかと言われたら普通に楽しみなので、オーカミは、表情からは読み取り辛いが、少しワクワクした気分でそれを開封。中身のカードをヒバナと確認する。

 

そのカードは…………

 

 

「………ガンダム・バルバトスルプス………??」

 

 

そう名の刻まれたカードだった。系統はもちろん「鉄華団」………

 

 

「これってひょっとして、バルバトスが進化した姿なんじゃ!?」

「…………」

 

 

カードのイラスト枠には、いつもの相棒「バルバトス」がより逞しい姿で剣のような武器を構えている絵が描かれている。

 

ヒバナの言う通り、名前からして先ず間違いなく、バルバトスの進化形態であろう。

 

 

「………」

「………オーカ?」

 

 

今までも何度かあった「鉄華団」カード達との邂逅。最初こそ興味などなかったものの、バトスピを通し、鉄華団達を知れば知るほど、愛着が湧いていった。

 

そして、今回の新しい鉄華団「ガンダム・バルバトスルプス」…………

 

愛着のあるデッキの中でも、特に自分が相棒とも呼んでいる「バルバトス」の新しい姿に、今、彼は夢中になり、視線はそれに釘付けにされていたのだ。

 

 

「………ねぇヒバナ。やっぱバトスピって良いな。オレ多分一生飽きないと思う」

「ふふ………私もだよ」

 

 

新しいカード達との出会いに、薄く口角を上げて、全力で喜ぶオーカミに、ヒバナがそれを見て優しい笑顔で微笑む。

 

早く新しいカードをデッキに入れて試したい。

 

そんな気持ちを込めて、オーカミがヒバナにバトルを懇願しようとした直後、再びアポローンの自動ドアが開いた。

 

 

「………よぉ。鉄華オーカミ」

「!!」

 

 

2人がそこへと視線を向けると、そこには自分達より1つ歳上の中学3年で、もうすぐ受験だからと、界放リーグ後は全く一緒にいられなかった、鈴木イチマル。

 

そんな彼を見るなり、真っ先に声を掛けたのは、彼が好意を持つヒバナだった。

 

 

「イチマル!!……久し振りね、どうしたの今日は?……わかった、勉強の息抜きでしょ?」

 

 

彼女もなんやかんやイチマルの事を心配していたのか、思いの外明るく彼に接するが…………

 

 

「どけ」

「…………え?」

 

 

その口から放たれた意外な一言に、この場の空気は静まり返り、ヒバナの思考が停止する。

 

そしてイチマルは、片手でヒバナを軽く押し出すと、その先にいるオーカミの前へと立った。

 

 

「どうしたのイチマル。なんか今日は変じゃない?」

「………別に変じゃないさ。オレはな…………」

 

 

オーカミがいつもの飄々とした顔つきでそう質問する。

 

一人称が「オレっち」ではなく「オレ」と言うようになったイチマル。醸し出す妙な雰囲気と合わせて、やはり何かが変だ。

 

 

「オレのコンディションなんてどうでもいい事さ。鉄華オーカミ、明日オマエにバトスピの決闘を所望する」

「!!」

「早朝、ヴルムヶ丘公園のバトル場にて待つ」

 

 

そんなイチマルがオーカミに提案して来たのは、バトスピによる決闘。

 

彼とは、最初に出会った時にも学校の屋上で決闘をした事があるため、オーカミは今のイチマルの不気味さと同時に、懐かしさも感じた。

 

 

「………今じゃダメなのか?」

「あぁ、急にけしかけて勝っても、ちゃんと調整したオマエのデッキじゃないと、意味がないからな」

 

 

イチマルは直後に、オーカミの肩に手を置きながら「逃げんじゃねぇぞ」とだけ告げると、アポローンを後にした。

 

先程とは打って変わって白けた店内、オーカミとヒバナは互いに顔を見合わせる。

 

 

「………イチマル、どうしちゃったんだろ」

「さぁね」

「もしかして、最近何かあったんじゃ………!?」

「…………」

 

 

ヒバナにそう言われ、オーカミはこの間、スーパーのバトル場にて、イチマルとブスジマとその兄に会った事、そしてブスジマの兄とのバトル直後に、突然イチマルが姿を眩ました事を思い出す。

 

自分が知る限りだと、そのタイミングしかないが…………

 

 

「…………ま、明日になればわかるでしょ」

 

 

あまり深く物事を考えないオーカミ。イチマルとの決闘は一応引き受けるようだが、彼の口調や態度が一変した事について全く関心を示さない。

 

しかし、彼のそう言う、人との関わり方がやや不器用で、淡白な面が、イチマルの不満をさらに掻き立てていた事を、まだ知らなくて…………

 

 

******

 

 

翌日、その早朝。

 

鳩のなんとも言えない呑気な鳴き声がこだまする、ジークフリード区にある広い敷地を有する公園、ヴルムヶ丘公園。普段の休日であれば、多くの人々が使用するこの場所だが、早朝と言う事もあり、今はランニングや犬の散歩をしている人が偶に通るくらいだ。

 

そんなヴルムヶ丘公園のバトル場にて、鉄華オーカミと鈴木イチマルは、決闘の約束を果たすべく、Bパッドを構え、対面していた。その直ぐ側にはイチマルが心配で様子を見に来た一木ヒバナも確認できる。

 

 

「よく逃げずに来たな、鉄華オーカミ」

 

 

イチマルがオーカミに告げた。

 

 

「当然だ。バトルからは逃げない。それに、オマエとのバトルは楽しいからな」

「………そりゃ、ずっと勝ってれば楽しいだろうよ」

「?」

 

 

怨念含んだ言葉を言い放つイチマル。

 

それを聞いたヒバナが「……やっぱり今のイチマル、なんか変」と呟く。

 

 

「お喋りはもういいだろ。やろうぜ、バトルスピリッツをな」

「………あぁ、バトル開始だ」

「今日こそオマエを、ぶっ潰す!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

夏の日差しが差し込んでくる中、鉄華オーカミと鈴木イチマルのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はイチマルだ。打倒オーカミに燃え、そのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]イチマル

 

 

「メインステップ………仮面ライダーゼロワンを召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(1)BP3000

 

 

イチマルの場に現れたのは、緑のライダースピリット、ゼロワン。

 

 

「ゼロワンの召喚に合わせ、手札にあるネクサス、ライズホッパーの効果が発揮。自身をノーコストで配置し、配置時効果でトラッシュに1つコアブースト」

 

 

ー【ライズホッパー】LV1

 

 

天空より差し込んで来た光より、イチマルの横へ出現したのは、バイク型マシーン「ライズホッパー」…………

 

その効果で緑属性十八番のコアブーストを披露する。

 

 

「さらにゼロワンの召喚時効果。ボイドからコア1つを自身に置き、手札が3枚以下ならデッキの上から5枚オープン。その中にあるライダースピリット1枚を手札に加える」

 

 

今のイチマルの手札は3枚。よって彼のデッキから5枚のカードがオープンされる。

 

 

「………オレは「ゼロワン フライングファルコン」を手札に加えて、残りはデッキの下に戻す」

「召喚時にコアブする奴か」

「最後にバーストをセットして、ターンエンド」

手札:3

場:【仮面ライダーゼロワン】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【有】

 

 

合計2コアのブーストに加え、手札の補強からバーストまで備えたイチマルの第1ターン。

 

過去最高の滑り出しとも言える好調でスタートを切り、彼はターンをオーカミへと譲った。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「配置時の神託で、デッキの上から3枚をトラッシュ………対象カードは3枚、オルガにコア+3だ」

 

 

オーカミの初動は鉄華団デッキにおいて重要な役割を担う創界神ネクサス「オルガ・イツカ」…………

 

 

「………ターンエンドだ」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

今はそれ以外で使えるカードがなかったか、オーカミはそのターンをエンドとする。

 

 

「フ……なんだ、それだけかよ」

「………」

 

 

短いターンを終えたオーカミを軽く煽ると、イチマルは再び巡って来た自身のターンを進めていく。

 

 

[ターン03]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ………フライングファルコンをLV2で召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV2(4)BP6000

 

 

イチマルの2体目は、前のターンに効果で手札に加えた、ゼロワンの亜種形態「フライングファルコン」…………

 

装甲の色が薄い緑の通常形態とは異なり、マゼンタのカラーが色濃く目立つ。

 

 

「さらにゼロワンの召喚に合わせ、2枚目のライズホッパーの効果を発揮だ」

「!!」

「これをノーコストで配置し、トラッシュに1つコアブースト」

 

 

ー【ライズホッパー】LV1

 

 

2機目のライズホッパーがイチマルの横に配備される。

 

それの効果でコアが増えると共に、フライングファルコンの召喚時効果も発揮されて…………

 

 

「フライングファルコンの召喚時効果、トラッシュとゼロワンに1つずつコアブースト。この勢いでゼロワンのLVは2となる」

 

 

一気に2つものコアが増加する。前のターンで合わせてこれで5個目。

 

第3ターンにして、コアの総数は「10」となる。

 

 

「………今日はやたらコアとシンボルを稼ぎたがるな」

「そりゃ、バトスピはコアとシンボルが要だからなぁ………アタックステップ、フライングファルコンでアタックする」

 

 

腕を翼のように広げ、上空へと飛び立つフライングファルコン。その狙う先は当然オーカミのライフバリア。

 

前のターンにネクサスの配置のみでターンを終わらせた彼は、この攻撃をライフで受ける他ない。

 

しかし、それは茨の道であり…………

 

 

「ライフで受ける…………ぐっ!?」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

「ッァァァァ!?!」

 

 

上空から放った、フライングファルコンの飛び蹴りが、オーカミのライフバリアを襲い、1つ砕く。

 

だが、その際に、まるで連動するかのように、オーカミの身体へ激痛が駆け抜けて…………

 

 

「オーカ!?……どうしたの、オーカ!?」

「………なんだ、今のは。身体が、痛い」

 

 

予想だにしなかった激痛に、オーカミは思わず片膝を突く。

 

通常、Bパッドで召喚したカード達は皆飽くまで立体的な「映像」であるため、先ずバトルダメージで痛みなど発生しない。

 

だが、さっきのフライングファルコンの一撃は、確かにライフバリアの破壊と共に、オーカミに激しい痛みを与えた。嘘のような信じられない話だが、現実にオーカミは虚を突かれ、片膝を突いている。

 

 

「イチマル、何したのアンタ!!」

 

 

このバトル、何かがおかしいと感じたヒバナが、イチマルに問い掛けた。

 

 

「何って、ただライフを破壊しただけだよ、ヒバナちゃん」

「ライフを破壊しただけでオーカがあんなに痛がるわけないでしょ!?」

「さぁ立てよ鉄華オーカミ。オマエがライフ1つを破壊された程度で、諦めるわけないよな?」

 

 

ヒバナに対して、イチマルは、部外者は引っ込んでろと言わんばかりにオーカミを煽る。

 

そして、そんな彼に呼応するかのように、オーカミは膝をゆっくりと地面から離し、身体を揺らしながらも立ち上がる。

 

 

「当然だ。もっと来いよ」

「ちょっとオーカ!!……もうやめよう、このバトル、なんか普通じゃない!!」

 

 

それでもイチマルとのバトルを続行しようとするオーカミに対し、ヒバナが制止を呼びかけるが…………

 

 

「でも、一度受けたバトルからは逃げられない。その相手がイチマルなら、尚更だ」

「………オーカ」

 

 

文字通り命が削られるようなバトルダメージを受けても尚、立ち上がってバトルをしようとするオーカミ。

 

剥き出しなった闘争本能は、もうバトルが終わるまでは誰にも止められない。

 

 

「フ………それでこそ鉄華オーカミだ。これ以上のアタックはしない、ターンエンド」

手札:2

場:【仮面ライダーゼロワン】LV2

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV2

【ライズホッパー】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【有】

 

 

追撃は行わず、イチマルはそのターンをエンド。

 

オーカミへとターンが巡っていく…………

 

 

 

******

 

 

 

同時刻。

 

朝の日差しさえも届かない影の空間、ジークフリード区の広大な路地裏にて…………

 

高身長、白髪、褐色肌のオーカミの兄貴分「九日ヨッカ」と、サングラスをかけた、界放警察の警視、コードネーム「アルファベット」…………

 

この2人のナイスガイが対面していて…………

 

 

「アルファベットさん。もう十分だろ、オレはこの目で早美アオイと包帯巻きになったDr.Aが接触しているのを確認したんだ」

「…………」

「オレとアンタの2人で、早美邸へ乗り込もう。アンタだって、Dr.Aを捕らえたいはずだ」

 

 

早美アオイとDr.A。

 

Dr.Aとは、6年前に界放市を中心に世界を滅ぼそうとした、後の『A事変』と呼ばれる大きな事件を引き起こした狂気の科学者。

 

英雄となった少女『芽座椎名』によって倒されたはずだが、なぜか今でも生きながらえており、早美アオイと手を組んでいる。

 

故に、今の彼は『早美邸』と言う彼女が住む豪邸に匿われている可能性が極めて高いのだ。だからこそ、ヨッカは一刻も早く乗り出し、問題を解決したかったのだが……………

 

 

「………ダメだ」

「なんでだよ。アイツを野放しにすると、また界放市がとんでもない事になっちまうかもしれないんですよ!?」

「オマエの証言だけでは逮捕状は出ない。つまり、オレが自ら動く事もできないと言う事だ」

 

 

威厳のある顔付き、声色で淡々と自分が動けない理由を説明するアルファベット。

 

理屈はわかるが、ヨッカは納得ができない。

 

 

「警察の都合の問題じゃないでしょ……早くどうにかしてください」

「焦っても、何も始まらないぞ九日。オマエにバトスピを教えた師である「春神イナズマ」が気掛かりなのもわかる。元々Dr.Aの部下だった彼は、今はDr.Aに誘拐されている可能性が高いからな」

「…………」

「今は待て、もうすぐ必ず確固たる証拠を見つけて見せる」

 

 

春神イナズマ。

 

それは、九日ヨッカにバトスピを教えた師であり、Dr.Aの元部下。

 

今はこれしか伝えられない。

 

 

「それに、オレとオマエだけで早美邸へ乗り込んだところで、勝てる保証はない」

「………界放警察の人で他に強い奴はいないんですか」

「いないな。少なくとも早美アオイに対抗できる奴は…………」

 

 

アルファベットは「だが………」と、言葉を続ける。

 

 

「助っ人を考えている」

「助っ人?……誰ですか、早美アオイと並ぶ実力者なんて早々いやしないですよ」

「オマエもよく知っている2人………「鉄華オーカミ」と「春神ライ」だ」

「!?!」

 

 

アルファベットが早美邸へ乗り込む際に共に行動する助っ人として考えている人物は弟分の「鉄華オーカミ」と、同居人である少女「春神ライ」の2人であった。

 

2人の名前を聞いた途端、ヨッカは直ぐに頭へ血が昇って…………

 

 

「馬鹿なのかアンタ!?!……あの2人はまだ13と14の子供だぞ!?」

「だからなんだと言うのだ。カードを持つ以上、彼らは立派なカードバトラーだ」

「それ以前の問題なんだよ!!……第一、ライをDr.Aに合わせるわけには…………」

 

 

合わせられる戦力は、子供であっても強引に全て合わせたい考え方を持つアルファベットと意見が分かれる。

 

これに関してはアルファベット側が明らかにおかしい。何故市民の安全を守る側に立つ警察の人間が市民を、しかも子供を巻き込んでまで事件を解決させようとしているのか…………

 

 

「兎に角ダメだ。2人は巻き込めねぇ………乗り込む時はアンタとオレとで十分だ」

「…………」

 

 

最後にそれだけ言い残すと、ヨッカは苛立ったように振り向き、この場から去って行った。

 

アルファベットは、彼の背中が小さくなっていくのを見届ける。

 

 

「まだ子供か………」

 

 

思い出したようにそう呟くと、彼の脳内で、界放リーグ決勝でのオーカミのバトルと、ライのバトルの2つが同時に流れ出す…………

 

それはいずれも、未来を見据えた、勝利へ誘われるバトル。

 

 

「オレには、王者(レクス)の力を持つ2人が、ただの子供には見えんぞ、九日」

 

 

 

******

 

 

再び視点は戻り、鉄華オーカミと鈴木イチマルのバトルスピリッツ。

 

ライフダメージによる激痛に耐えたオーカミが、反撃の狼煙を上げる。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーを召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

「対象スピリットの召喚により、オルガにコア+1」

 

 

このバトルでオーカミがはじめて召喚したスピリットは、車両型のスピリットで、鉄華団の中では最軽量のモビルワーカー。

 

 

「これで、オルガに乗っているコアは4つだ」

「………」

 

 

前のターンの神託でトラッシュに送られているカードを把握しているイチマルは、次にオーカミがやろうとしている一手を瞬時に理解する。

 

そして、オーカミはメインステップから、アタックステップへと移行し…………

 

 

「アタックステップ。その開始時に、オルガの【神技】を発揮、コア4つを取り除き、トラッシュから鉄華団カードをノーコスト召喚する」

「…………来いよ」

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態!!……LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

上空から、大地を震撼させる程の勢いで着地したのは、白い装甲、黄色いツノを持つ、鉄華団スピリットのバルバトス、その第4形態。

 

黒き戦棍メイスを手に握り、イチマルの方へと構える。

 

 

「………待ってたぜ、バルバトス第4形態。オマエごと鉄華オーカミをぶっ潰してやんよ」

「アタックステップ続行だ。行け、バルバトス第4形態!!」

 

 

登場して早々、オーカミの指示でフィールドを駆け抜けるバルバトス第4形態。

 

その狙いは突然の如く、イチマルのライフバリアだ。

 

 

「アタック時効果、相手のスピリットのコア2つをリザーブへ!!……対象はゼロワンだ」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】(3➡︎1)LV2➡︎1

 

 

「フ……2つ程度のコア除去で消えるゼロワンじゃないぞ」

 

 

バルバトス第4形態はメイスを大地へ叩きつけ、いわゆるストーンエッジと呼ばれる岩の破片を連らせ、ゼロワンを攻撃する。

 

だが、イチマルのコアブーストが幸いしたか、LVこそダウンしてしまうものの、消滅までは至らなかった。

 

 

「本命の効果はここからだ。バルバトス第4形態は、LV3のアタック時、紫のシンボルを1つ追加し、ダブルシンボルになる!!」

 

 

バルバトス第4形態はこの効果でダブルシンボルとなり、一撃で2つのライフバリアを粉砕できる力を得る。

 

イチマルはこれをゼロワンでブロックするか、ライフで受けるかの二択を迫られるが…………

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鈴木イチマル

 

 

躊躇なく、ライフで受けるを宣言。バルバトス第4形態のメイスによる一撃が、彼のライフバリアを一気に2つ破壊した。

 

前のターンでオーカミのライフバリアが破壊された時と違い、彼は痛がるそぶりすら見せない。

 

さらにその直後、このタイミングで使える、手札の1枚のカードを使用して…………

 

 

「オレのライフが減少した事で、手札の絶甲氷盾の効果を発揮」

「!!」

「手札からノーコストでこれを使用。効果により、このバトル終了時、鉄華オーカミ、オマエのアタックステップは終了となる」

「…………」

 

 

放たれたのは汎用性の高い白の防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」…………

 

これにより、オーカミはこれ以上の追撃を、行いたくても行えない状況となってしまう。

 

 

「………バルバトス第4形態のLV2、3の効果。自分のアタックステップ中、各バトル終了時、トラッシュにある鉄華団スピリットカードを、1コストで召喚する」

「………」

「来い、漏影!!」

 

 

ー【漏影】LV1(1)BP3000

 

 

バルバトス第4形態の効果により、アタックステップが完全に終了する間際に呼び寄せたのは、鉄華団スピリットの漏影。鎧騎士のような外観に、バスターソードのような形状をした武器が特徴的だ。

 

 

「召喚により、オルガにコア+1。さらに漏影の召喚時効果、デッキの上から3枚を破棄、その後トラッシュにある鉄華団カード1枚を手札に戻す」

「へぇ、トラッシュからカードを回収するのか、紫らしいな」

「………オレはこの効果で『鉄華団モビルワーカー』を手札に戻す」

 

 

アタックステップが終わる前に、場と手札の補強を行うオーカミ。

 

こう言った状況では、漏影は限りなく適任に近かっただろう。

 

だが、それがイチマルのバーストを発動させてしまう…………

 

 

「だけどその召喚時、もらったぜ。バースト発動、双翼乱舞」

「!!」

「デッキから2枚ドローし、その後コストを支払ってもう2枚ドロー!!」

 

 

つまり合計で4枚のカードをドローする事になる。イチマルは勢いよく反転させたそのバースト効果により、手札を1から5へと一気に回復させた。

 

 

「そして絶甲氷盾により、オマエのアタックステップは終わる!!」

「くっ………ターンエンドだ」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【漏影】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

追撃を行えぬまま、致し方なくそのターンをエンドとするオーカミ。

 

次は再びイチマルのターンだ。コアだけでなく、手札も増やした、彼の取る戦法とは…………

 

 

[ターン05]鈴木イチマル

 

 

「ドローステップ………ッ!!」

「?」

 

 

このターンのドローステップ。イチマルはドローカードを視認するなり、その口角を不気味な角度へ上げる。

 

それをしっかりと見ていたオーカミは、今一度身構え、彼の繰り出す次の一手を警戒する。

 

 

「メインステップ………オマエはさ、いいよな」

「ん?」

 

 

メインステップの開始直後、イチマルは手札を動かすよりも先ず、オーカミに囁いた。

 

 

「バトスピ初めてたったの3ヶ月だってーのに、界放リーグを準優勝できて、みんなからも認められて…………」

「イチマル??」

「それなのにオレは昔からバトスピやってるってーのに、良い成績を残せないどころか、身内にまで認めてもらえねぇ………なんなんだよこの差はよ」

 

 

イチマルが晒し出す、劣等感と言う名の本音、もとい深い闇に、流石のオーカミも困惑する。

 

 

「なぁイチマル。どうしたんだよ、昨日といい、やっぱりオマエ、なんか変だぞ」

「変なのはテメェだろうが!!!」

「!!」

 

 

心配したオーカミに対して怒りの叫びを吐露し、彼を黙らせる。

 

 

「フ、フフ……フハハハハハハハ!!!!…だからよ、手に入れたんだ。悪魔が作り出した、最高の魔道具をな」

「魔道具……!?」

「あぁ、今にわかる。行くぜ………」

 

 

イチマルはそう告げると、手札にある1枚のカードを、己のBパッドへと叩きつける。

 

それは、あの早美アオイから授かった『悪魔の魔道具』…………

 

 

「司るは緑。その身に大樹を宿す、生命の根源!!………ゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク!!……LV3で召喚!!」

 

 

彼の背後から、凄まじい速度で生い茂る木々。それらはやがて日光さえも遮ってしまう程の、巨大な大樹を形成。

 

さらに根から溢れ出る緑のエネルギーが、それ全体を包み込み、伝説の妖怪、ダイダラボッチのような圧巻な姿となって、今、鉄華オーカミと鉄華団スピリットたちの前に立ちはだかる……………

 

その名はゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク。

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】LV1(3)BP13000

 

 

「………で、デカい。それになんだ、この邪悪な感じ………!?」

「さぁ第二ラウンドだぜ鉄華オーカミ!!……今日こそオレはオマエをぶっ倒してやるぜぇぇぇぇえ!!!」

 

 

全長5、6メートルはあるモビルスピリットでさえ、霞んで見えてしまう程の驚異的な巨躯を有するゼノンザードスピリット、ヤクーツォーク。

 

その圧倒的フィジカルが、効果が、鉄華オーカミを踏み潰そうとしていた………………

 

 

 







次回、第31ターン「ルプスの鼓動」……………


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第31ターン「ルプスの鼓動」

この世の緑を、大自然を全て敵にしているかのような、圧倒的且つ壮大な存在感を放つ、ゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」…………

 

大地に根を張るように、黒く澄んだ闇のオーラを体内から放出し、イチマルを、フィールドを、支配する。

 

 

「ゼノンザードスピリットって何………イチマル、どこでそんなカード手に入れたのよ!?」

 

 

ヒバナが声を荒げながら、イチマルに問い掛ける。

 

すると、彼は不気味な笑顔を浮かべながら答えた。

 

 

「フフ………早美アオイさんだよ」

「え………!?」

「………!!」

 

 

イチマルの声から聞こえたその名に、ヒバナもオーカミも驚きが隠せない。彼女から「勇気の紋章」をもらったヒバナは特に…………

 

 

「う、嘘よ。なんでアオイさんがそんなカードをアンタに………」

「これは『悪魔の魔道具』………あの人はそう言っていた。これがあればオレは、みんなからも、ライダー王のレイジ兄ィにも認められる!!」

「れ、レイジ!?……ライダー王の!?」

 

 

ヤクーツォーク召喚後からと言うモノ、それが放つ邪悪な闇のオーラに連動するかの如く、イチマルの負の感情はさらに昂る。

 

抑えられない衝動が、秘密であった「ライダー王レイジの弟」である事実をこの場で露呈させてしまう。

 

オーカミは元々知っていたが、ヒバナは今初めてそれを知り、またも驚愕する。

 

 

「イチマル……アンタ、ライダー王レイジの弟だったの……!?」

「あぁ、そうさ、オレは界放市最強のライダースピリット使いの弟………ずっと、ずっとオレはあの人に認められるためにバトルに励んだ。努力した。だけどあの人は一切振り向いてさえくれない!!……それはオレが、オレが弱過ぎるからだ。才能が欠片だってないからだ。界放リーグの本戦だって1回戦も勝ち上がれないクソ雑魚野郎だからさ」

「何言ってんの、アンタはもう十分強いじゃない!!」

「嘘つけ、ヒバナちゃんだって、本音ではオレの事を見下してんだろ!!」

「そんな事ない!!」

「そんな事あるさ!!……見てろ、このゼノンザードスピリット、ヤクーツォークで二度と見下せないようにしてやる!!」

「……!!」

 

 

ヒバナとの言い合いに区切りを入れると、イチマルは再びバトルへと意識を戻す。

 

必ず仕掛けて来ると確信したオーカミは、今一度Bパッドを構え直した。

 

 

「まだアタックステップにはいかねぇ。ゼロワンとフライングファルコンから全てのコアを取り外し、ヤクーツォークのLVを最大にまで引き上げる」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(3➡︎8)LV1➡︎3

 

 

「雑魚スピリットは大人しく、ゼノンザードスピリットの礎になるんだな」

「………ひょっとして、あのスピリットのせいでイチマルはおかしくなってるのか………?」

 

 

明らかに異常すぎるゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」と、それを召喚するなり、さらに荒れていったイチマル。

 

それを見て、オーカミはそれ自体に何かがあると察する。

よく理解できるモノではないが、きっと、自分の理解の範疇を超えた何かがそこにはあるのだろうと。

 

 

「アタックステップ!!……待たせたな、ヤクーツォークでアタックだ!!……その効果発揮、このスピリットの緑のシンボルを4点、クアドラプルシンボルに固定する!!」

「ッ………なんだって」

「シンボルを4点に固定!?……今のオーカのライフは4。この一撃を受けたら終わっちゃう………」

 

 

イチマルの指示を聞くなり、緑の生命に満ちたエネルギーで構成された口を大きく開き、空間を震撼させてしまう程の咆哮を張り上げるヤクーツォーク。

 

そのシンボルは緑の4点。残りライフが4つしかないオーカミは、この攻撃を受けたらひとたまりもない。当然、ブロック以外の選択肢はなくて…………

 

 

「ブロック頼む、モビルワーカー」

 

 

サイズもBPも凄まじい程に劣っている車両型のスピリット、モビルワーカーにブロックを任せるオーカミ。

 

だが、その程度ではヤクーツォークを止められない。

 

 

「フフハハハハ!!!……そんなんでヤクーツォークが止められるとでも思ったのかよ??……ヤクーツォークの更なる効果。バトルで相手のスピリットを破壊した時、このスピリットのシンボル分のダメージを与える!!」

「!!」

「気づいたか。今のオマエのライフは4。対するヤクーツォークのシンボルも4。モビルワーカーのBPじゃ足元にも及ばない。終わりだ、オレの成長の糧となれ!!」

「オーカ!!」

 

 

ライフ貫通効果まで併せ持つヤクーツォーク。このままだとモビルワーカーごと、オーカミのライフバリアは全て消し炭にされてしまうだろう…………

 

そんな彼のピンチに、ヒバナが声を荒げる。

 

だが、ただ手をこまねいてみているだけでは終わらないし、終わらせるわけにはいかない。オーカミはこの一撃で負けないために、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「フラッシュマジック、オラクルⅦオーバーチャリオット!!」

「!!」

「不足コストはバルバトス第4形態のLVを1に下げて確保。これにより、このターンの間、オレのライフはコスト4以上のスピリットによるアタック、効果によるダメージで、0にならない」

 

 

オーカミが発揮した白のマジックのカードにより、少なくとも、このターンでの敗北は回避できるようになった。

 

しかし、それでも完全にダメージを回避できるようになったわけではなくて…………

 

 

「………構うなヤクーツォーク。モビルワーカーを捻り潰せ!!」

「!!」

 

 

大樹で覆われた巨大な拳を、モビルワーカーへ向けて振り下ろすヤクーツォーク。モビルワーカーはそれを受け、ひとたまりもなく爆散していった。

 

 

「バトル勝利時、ヤクーツォークの効果!!……4点分のダメージを受けろ!!」

「オーバーチャリオットの効果で、オレのライフは0にならない」

「だが、1になるまでダメージは受けてもらう!!」

 

 

今度はオーカミに向けて振り下ろされるヤクーツォークの鉄槌。

 

彼に、この一撃を完全に回避する手段はなくて…………

 

 

「ぐっ………ぐァァァァァァッ!!」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

「オーカ!!」

 

 

4層もあったライフバリアが、1枚になるまで一気に砕け散る。

 

オーカミの悲痛な叫びが、天空に響き渡った。

 

このバトルが始まって以降、彼にのみ、ライフが破壊された際に激痛が走っているが、それもおそらくゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」の影響と見て違いないだろう。

 

 

「ぐっ………モビルワーカーの破壊時効果、デッキの上から1枚破棄して、1枚ドロー………」

「………踏みとどまったか。だけどたった1つのライフ、風前の灯とはまさにこの事だな」

「…………どうした。オレのライフはまだ1つも残ってるぞ」

「1つしかねぇんだろバカが。ターンエンド!!」

手札:5

場:【「千年杉」ヤクーツォーク】LV3

【ライズホッパー】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

唯一のスピリット、ヤクーツォークでアタックを行い、イチマルはそのターンをエンドとする。

 

 

「オーカ、やっぱりもうやめようこんなバトル。もう私、見てられないよ」

「………ヒバナ」

 

 

イチマルが豹変し、オーカミが傷ついていくこのバトルを、ただ見守る事しかできないヒバナがそう告げて来た。

 

オーカミはそれに対し、ほんの少しだけ間を置き、返答する。

 

 

「……それはダメだ」

「な、なんで………」

「確かにこのバトル、楽しくない。でも、今ここでオレが逃げたら、イチマルも一生逃げたままになる。イチマルを元に戻すためには、このバトルしかないんだ」

「!!」

「だからこのバトル、オレは絶対に背中は向けない。逃げずに戦う」

「………」

 

 

ボロボロになりながらも、決してイチマルのためにその闘志は失わないオーカミ。痛みで身体が揺れながらも、巡って来た己のターンを進めていく…………

 

その後ろ姿をただ見守ってあげる事しかできないヒバナ。悔しさで歯を噛み締める。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………」

「フ……オレが逃げてる?……調子乗るのもいい加減にしろよオマエ」

「そっちこそいい加減にしろよイチマル。あんなデカいだけのスピリット従えて、強くなった気でいるのかよ」

「んだと……!!」

 

 

まるでイチマルの虚勢の塊であるとでも言わんばかりに、ヤクーツォークを指差しながらそう告げるオーカミ。

 

その後はイチマルを取り戻すべく、メインステップを進めて行く…………

 

 

「2体目のモビルワーカーを召喚し、バルバトス第4形態、漏影のLVをそれぞれ3にアップ」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】(1➡︎4)LV1➡︎3

 

ー【漏影】(1➡︎5)LV1➡︎LV3

 

 

2体目のモビルワーカーが呼び出され、バルバトス第4形態と漏影のLVが最大にまで引き上げられる。

 

 

「アタックステップ!!……バルバトス第4形態でアタック、その効果でヤクーツォークからコア2つをリザーブへ」

「だが、ヤクーツォークの本来のLV3維持コアは6。2つ取り除かれたくらいじゃLVダウンはしないぜ!!」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(8➡︎6)

 

 

バルバトス第4形態のアタック時効果が発揮され、その眼光が強く輝くと共に、ヤクーツォークの体内から2つのコアが取除かれるものの、未だにLVは3を維持している。

 

おそらく、イチマルはこれを見越してヤクーツォークに多くコアを乗せていたのだろう。

 

 

「………バルバトス第4形態、LV3のアタック時効果で、ダブルシンボルのアタック。一撃で2つのライフを破壊する!!」

「バカの一つ覚えのバルバトス第4形態。そんなの、もう見切ってんだよ、ライフで受ける!!」

 

 

残り3つのイチマルのライフバリア。このターンでそれら全てを破壊する勢いで、オーカミのバルバトス第4形態が地を駆け抜け、メイスをそれに向けて縦一閃に振るうが………

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鈴木イチマル

 

 

「フフ……」

「ッ………1つしか破壊できない!?」

「驚いたか。これがヤクーツォークの最大の効果、このスピリットがいる限り、自分が受けるアタックダメージはー1される。つまり、2点のダメージは1点に、1点のダメージは0点に抑えられる」

「!!」

 

 

イチマルのライフバリアやフィールドを朧げにただよう、神秘的な光の粉。

それはヤクーツォークから常に降り注いで来る物であり、これがある限り、イチマルへのダメージは減少する。

 

ダブルシンボルになる力を持つ、バルバトス第4形態だからこそ1点だけライフを破壊できたが、シンボルが1つしかない他のスピリットたちはそうはいかない。実質、彼のアタックステップはこの効果だけで止められたに等しい。

 

 

「そして、ちょっとばかし仕返ししてやる。オレのライフが減った時、手札からシックスブレイズの効果を発揮」

「!!」

「BP12000になるまで、相手のスピリットを好きなだけ破壊する………これを、2枚使うぜ!!」

「なに……!!」

 

 

追い討ちを掛けるように、イチマルの手札からカウンターのマジックが発揮される。

 

 

「1枚目はモビルワーカーと漏影。2枚目はバルバトス第4形態を焼き払え!!」

 

 

イチマルの背後から放たれる12の火炎弾。それらは内6個がバルバトス第4形態に、残り3個ずつがモビルワーカーと漏影に命中。

 

その鋼のボディごと焼却され、爆散してしまった。

 

 

「これでオマエのスピリットは0体だ」

「………そうはさせない。鉄華団スピリットがフィールドを離れた時、手札にあるグレイズ・流星号の効果。手札からノーコストで召喚する」

「!」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]】LV2(3)BP3000

 

 

「召喚により、オルガにコア+1。効果でデッキから1枚ドローだ」

 

 

オーカミのフィールドに救援が参上する。マゼンタのカラーに身を包んだ小型のモビルスピリット、グレイズ・流星号だ。

 

しかし…………

 

 

「バカがよ。その程度のスピリットのアタックじゃ、ヤクーツォークの効果でダメージは0。いる意味なんてねぇ」

「………ターンエンドだ」

手札:5

場:【グレイズ改弍[流星号]】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

イチマルの言う通り、ヤクーツォークの支配するこのフィールドでは、グレイズ・流星号のアタックは無力に等しい。

 

オーカミもそれを理解しているからか、召喚後は何も仕掛ける事はなく、そのターンをエンドとした。

 

 

[ターン07]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ………リザーブのコアを有りっ丈ヤクーツォークへ追加する」

「………」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(6➡︎15S)

 

 

リザーブにある有りっ丈のコアがヤクーツォークに追加される。

鉄華団デッキなどの紫デッキにおいて、大量のコアを置く行為は、除去耐性を付与する感覚に近い。

 

これにより、ちょっとやそっとでは、ヤクーツォークを倒せなくなってしまう。

 

 

「アタックステップ。今度こそそいつを捻り潰せ、ヤクーツォーク!!」

「!!」

 

 

イチマルが再びヤクーツォークにアタックの指示を送る。

 

その効果により、シンボルは緑の4点。一度に4つものライフを粉砕できる。残りライフが1つしかないオーカミにとってはかなりのオーバーキルだ。

 

 

「………ブロックだ、グレイズ・流星号」

「BP3000に何ができる!!」

「フラッシュマジック、革命の乙女!!」

「!?」

 

 

唯一のスピリットであるグレイズ・流星号でブロック宣言を行った直後、オーカミが使用した1枚のマジックカードは「革命の乙女」…………

 

鉄華団に関する効果を持ったマジックカードであり、イチマルと最初にバトルを行った際にも使った事がある。

 

 

「革命の乙女??……フフ、自暴自棄になったか鉄華オーカミ。そのカードをこのタイミングで使用しても意味はない!!」

 

 

革命の乙女は、このターンの間、相手のスピリットがアタック、ブロックする際に、それらスピリットからコア1つをトラッシュに置かなければならないと言う制約を課す効果だが、肝心のヤクーツォークは既にアタック中…………

 

そう。その効果には、全く意味がない。

 

だが、意味があるのは効果ではなく、そのコストであり………

 

 

「不足コストはブロックしたグレイズ・流星号から全て確保。よって消滅する」

「!?」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]】(3➡︎0)消滅

 

 

大樹で覆われた巨大な拳でグレイズ・流星号を殴りつけようとしたヤクーツォークだったが、直前でそれが維持コア不足で消滅してしまった事により、その拳は空を切り、大地と激突する。

 

 

「くっ………ヤクーツォークは、バトルで相手のスピリットを破壊しないと、ライフ貫通効果を発揮できない……!!」

「あぁ、消滅させれば使えないだろ」

 

 

これにより、ヤクーツォークはただただ疲労状態となっただけのような扱いとなる。

 

オーカミのマジックカード無駄打ちはこれが目的だった。カードは多く消費したものの、見事にヤクーツォークの重たい一撃を回避して見せた。

 

 

「……だけどそんな強引な回避、一時凌ぎにしかならねぇ上に、そう何度も出来る事じゃねぇ………次のターンで必ず仕留める。ターンエンドだ」

手札:4

場:【「千年杉」ヤクーツォーク】LV3

【ライズホッパー】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

なんとかこの場を凌ぐものの、イチマルの言う通り、そう何度も今のような回避が行えるわけがない。

 

劣勢には変わりないこの状況、打破すべく、カードをドローしていく…………

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……3体目のモビルワーカー、ガンダム・バルバトス第1形態を召喚!!」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV2(3)BP3000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV3(5)BP6000

 

 

オーカミの場に召喚されるのは、モビルワーカーと、肩の装甲がなく、フレームが剥き出しになっている不完全なバルバトス、第1形態。

 

 

「バルバトス第1形態の召喚時効果発揮……3枚オープンして、その中から鉄華団カード1枚を手札に加える………」

 

 

デッキの上から3枚のカードが浮かび上がり、オーカミはその内1枚を選択、それを手札へと加え、残りはトラッシュへと破棄した。その中には鉄華団のパイロットブレイヴ「三日月・オーガス」も確認できる。

 

 

「………アタックはしない。ターンエンドだ」

手札:4

場:【鉄華団モビルワーカー】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV3

【オルガ・イツカ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

「アタックもなし、遂に諦めたか」

「…………」

「覚悟しろよ、オレのこのターンで決着をつけてやるぜ!!」

 

 

ヤクーツォークの効果を考慮してか、前のターン以上に何もできずにそのターンをエンドとしてしまうオーカミ。

 

勝利を確信し、イチマルは幽玄な笑みを浮かべながら、巡って来たそのターンを進めて行く…………

 

 

[ターン09]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ………ヤクーツォークからコアを使い、ゼロワン シャイニングホッパーを2体連続召喚」

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(15S➡︎7)

 

ー【仮面ライダーゼロワン シャイニングホッパー】LV1(1)BP7000

 

ー【仮面ライダーゼロワン シャイニングホッパー】LV1(1)BP7000

 

 

イチマルの場に、ゼロワンが1段階強化を受けた姿、ゼロワン シャイニングホッパーが2体出現する。

 

 

「前のターンのようにはいかねぇ、この数なら捌き切れねぇだろ」

「………イチマル。今のオマエに、何を言っても無駄なんだろうけど………なんとなく、これだけはわかる」

 

 

スピリットを並べたイチマルがアタックステップに入る直前。オーカミがその思っている事を伝えるために口を開く…………

 

その脳裏に浮かんでくるのは、界放リーグの際に見たイチマルの兄、ライダー王レイジの傲慢さと器の小ささ。

 

 

「オマエの兄ちゃんよりも、オマエの方が強い。絶対に…………アタックステップ開始時、オルガの【神技】を発揮。トラッシュから鉄華団ブレイヴ、三日月をバルバトス第1形態に直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]+三日月・オーガス】LV3(5)BP12000

 

 

ずっと疑問だった。イチマルがなんであんな奴に認められたいのかを…………

 

きっと、本当に血の繋がった兄弟故に、自分では分かり得ない何かがその胸の内にはあるのだろう。

しかし、これだけはわかった、誰よりも優しく、バトルの努力を欠かさないイチマルの方が、遥かに強い。あんな奴に、認められる必要なんてない。

それだけは、この場で伝えないといけないと悟った…………

 

 

「第1形態を強くしてどうする!!!……オマエはこれで終わりだ、ヤクーツォークゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 

オーカミの言葉にとうとう耳も貸さず、イチマルはヤクーツォークに三度目のアタックの指示。

 

ヤクーツォークは地球の産声のような太い咆哮を張り上げ、雲を、大地を震撼させる…………

 

 

「だけど、今のオマエじゃダメだ。そのままじゃ本当にみんなから認められなくなる………そうなる前に止める。オレと、オレのバルバトスが……!!」

 

 

そこまで告げると、元の優しいイチマルを取り戻すために、オーカミは手札にある1枚をBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュ【煌臨】発揮、対象はバルバトス第1形態」

「なッ!?……オマエが、鉄華団デッキで煌臨だと!?」

 

 

ソウルコアをコストに、場のスピリットを進化させる効果【煌臨】…………

 

強力な効果故に様々なカードバトラーが愛用している効果だが、オーカミの持つ鉄華団にはそれが今まで存在していなかった。

 

だが、遂に来たのだ。煌臨、つまり進化を果たせるスピリットが。

 

 

「来る、新しい鉄華団の………進化した、ガンダム・バルバトス」

 

 

そのカードの存在を知っているヒバナがそう口にすると、フィールドのバルバトス第1形態は、背中のブースターで飛翔し、天空を一直線に翔け上がる。

 

そして、衝撃波でクレーターができる程の勢いで、日光を遮る巨大な雲へ飛び込んで行った……………

 

今、鉄華オーカミの相棒、バルバトスが、新たな姿となって顕現する。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ!!………ガンダム・バルバトスルプス、LV3で煌臨ッッ!!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV3(5)BP19000

 

 

バスターソード状の戦棍メイスを振い、雲を斬り裂き、太陽の輝きによる暁光と共に姿を見せたのは、進化した新たなバルバトス、バルバトスルプス。

 

鉄華団の花のマークが刻まれた赤き肩の装甲に加え、頭部の黄色の角も肥大化。顔つきもより鋭利となり、まさに悪魔の強化形態に相応しい…………

 

 

「が、ガンダム・バルバトスルプス!?……なんだそのバルバトスは、知らない。このオレでも………」

「鼓動を感じる。オレと、バルバトスルプスの…………行くか相棒、取り戻すぞ、友達(イチマル)!!」

 

 

高なる鼓動を刻み、進化したバルバトス、バルバトスルプスが、その効果のベールを脱ぐ…………

 

 

「バルバトスルプスの煌臨アタック時効果、自分のデッキを上から2枚破棄」

 

 

オーカミのデッキの上から2枚のカードが破棄され、トラッシュへと送られる。

 

そのカードは「ガンダム・バルバトス[第6形態]」と「ガンダム・バルバトス[第2形態]」の2枚、いずれも鉄華団のカードだ。

 

 

「この効果で破棄した鉄華団カード1枚につき、相手のコア3個以下のスピリット1体を破壊する!!」

「!!」

「破棄したカードはどっちも鉄華団。2体のシャイニングホッパーを破壊してやれ」

 

 

バルバトスルプスは、上空から地上へと降り立つと、すぐさま地を駆け抜け、イチマルの2体のシャイニングホッパーに接近する。

 

そして新武器、ソードメイスで弧を描くように瞬く間に叩きつけ、斬り裂き、爆散させる。

 

 

「………だ、だが、進化したところで、ヤクーツォークのアタックは止められねぇ!!……潰しちまえ!!」

「ブロックだ、バルバトスルプス!!」

 

 

シャイニングホッパーを瞬殺したのも束の間、バルバトスルプスへ向けて、ヤクーツォークが大樹で覆われた拳を振り下ろして来た。バルバトスルプスはソードメイスを盾代わりに、なんとかその攻撃を防ぐ。

 

ヤクーツォークのBPは25000。対するバルバトスルプスのBPは三日月との合体を合わせても19000。

 

一見覆しようもない差があるようにも思えるが……………

 

進化したバルバトスの効果は、その程度では終わらなかった。

 

 

「バルバトスルプス、合体中のアタックブロック時効果!!……相手のフィールドのコア2つをリザーブに送る」

「な、なに!?……ブロック時にもコア除去を!?!」

「バルバトスルプス!!」

 

 

盾にしたソードメイスを全力で握り振い、大樹の拳を薙ぎ払うバルバトスルプス。直後に左腕から滑空砲を展開、それをヤクーツォーク本体へ向けて発泡。

 

鉛玉の詰まった弾丸は、ヤクーツォークの体内に眠る力の根源、千年杉を打ち抜き、傷つける。

 

 

ー【「千年杉」ヤクーツォーク】(7➡︎5)LV3➡︎2

 

 

突如として走り抜けて行く身体への激痛に、ヤクーツォークは地震を錯覚させるような、悲痛で、大きな喘ぎ声を上げる。

 

 

「ヤクーツォークのLV2BPは15000、バルバトスルプスは19000。これで、バルバトスルプスの方が上回った」

「!?!」

「あのデカブツに、オマエの強さを叩きつけてやれ、バルバトスルプス!!」

 

 

バックパックのブースターで飛翔し、ヤクーツォークの元まで翔け上がるバルバトスルプス。

 

そのままヤクーツォークの動力源とも呼べる千年杉を、ソードメイスで一刀両断。緑のエネルギーと、大樹で固められた巨大な身体に大きな風穴を開ける。

 

この強烈な一撃には流石のヤクーツォークとて堪えたか、爆音のような喘ぎ声を張り上げ、大爆発を起こし、フィールドから散っていった。

それに伴う爆煙、爆炎の中より姿見せるのは、バルバトスルプスのみ。

 

 

「ヤクーツォークが、オレのゼノンザードスピリットが負けた………なんでだ、なんでだよォォォォォォ!!」

「イチマル………」

「なんでオレは、オマエに勝てない!!……なんでゼノンザードを持たないオマエが、オレよりも強いんだ!!」

 

 

ヤクーツォークが破壊され、敗北を悟ったイチマルが叫んだ。それをヒバナが心配そうに見守る中、オーカミが口を開く。

 

 

「さっきのアタックステップ。アタック時に相手のスピリットを疲労できる、シャイニングホッパーからアタックされてたら、ルプスがブロックできなくて、オレの負けになってた」

「!?」

「でもイチマルは、ヤクーツォークの力を過信しすぎた。オマエはオレに負けたんじゃない、自分自身に負けたんだ」

「…………オレは」

 

 

イチマルは何もできなくなったためターンエンド。結果的に、ネクサスであるライズホッパー2枚のみが場に残った状態となる。

 

オーカミの言う通り、シャイニングホッパーからアタックしていれば、この結果は変えられたに違いない。

 

 

[ターン10]鉄華オーカミ

 

 

「アタックステップ……翔け抜けろ、ルプス!!」

 

 

メインステップをすっ飛ばし、残ったルプスとモビルワーカーのみでアタックステップへと早々に突入する。

 

オーカミからの指示を受け、バルバトスルプスは再び背中のブースターで飛翔する。

 

 

「三日月の効果でライズホッパーを1枚消滅。この効果発揮後、リザーブのコア2つをトラッシュへ」

「!!」

 

 

イチマルの眼前で着地したバルバトスルプス。ソードメイスをライズホッパー1つに突き立て、消滅させる。

 

そして、今のバルバトスルプスは合体によりダブルシンボル。対するイチマルの残りライフも2。

 

 

「バルバトスルプスはダブルシンボル、ライフを2つ破壊する」

「お、オレは…………オレっちは………」

 

 

ヤクーツォークが常に放っていた闇のオーラ、その残滓が消え失せて行く中、イチマルは徐々に正気を取り戻して行く。

 

今までの苦悩や誤ちをを全て思い出し、理解する。その表情は後悔の気持ちと、申し訳なさで満ち溢れ…………

 

 

「ライフで………受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉鈴木イチマル

 

 

バルバトスルプスはソードメイスを縦一閃に振い、イチマルの僅かに残ったゼノンザードスピリットによる邪念ごと、残ったライフバリアを全て叩き壊す。

 

これにより、彼のライフは0。Bパッドからは敗北を告げる「ピー………」と言う甲高い機械音が鳴り響く。

 

鉄華オーカミは、新しいバルバトス、ルプスを使い、強敵だったゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」を退け、勝利して見せた。

 

 

「………イチマル」

「鉄華オーカミ……オーカミ、オレっちは……オレっちは………!!」

「………よかった。ようやく元に戻ってくれた」

 

 

バトルが終わり、ルプスとモビルワーカーが消えゆく中、我にかえり、これまでの事を後悔するイチマル。その瞳は涙で潤う。

 

本当は、ただオーカミが羨ましかっただけだったのに、その羨望はいつの間にか嫉妬に変わり、追いつきたいと願い、焦り、背伸びがしたいがために、悪から差し伸べられた手を取っていた。

 

 

「オレは最低だ………なんて、オマエに謝れば」

「謝るも何も、もういいんじゃない。過ぎた事だし」

「!」

「そんな事より、もう一度バトルしないか?……今度は普通に」

「…………」

 

 

イチマルが元に戻ったのなら、後はどうでもいいやと言わんばかりに、気持ちの切り替えが早いオーカミ。本気でイチマルが元に戻ってくれれば、それだけでよかったのだろう。

 

鉄華オーカミの器の大きさを感じ「やっぱり、まだまだ届かないな」と、内心で心を掴まれると、今回のバトルをずっと傍観していたヒバナが寄って来て…………

 

 

「ヒバナちゃ」

「バカ!!」

「!!」

 

 

ヒバナはイチマルを全力で平手打ちした後に、抱き締める。仄かな甘い香りがイチマルの花を通る。

 

 

「信じらんない。アンタって本当にバカ!!……誰がいつアンタを見下したの。いつ雑魚だなんて罵ったのよ」

「………」

 

 

ヒバナは、涙声になりながらも必死に伝える。

 

 

「ライダー王のお兄さんとどんな関係だったかは知らないけど、これ以上もう絶対バカな真似しないでよね。次こんな事したら、ただじゃおかない」

 

 

ー『オレっちは大馬鹿者だ』

 

イチマルは泣きながらそう思った。こんなにも優しい友達がたくさんいたのに、いったい何を焦っていたんだ。高め合っていけばよかったじゃないか、ずっと、これからも…………

 

本当に、馬鹿すぎる。

 

 

「ごめん。ごめんよ、ヒバナちゃん………オーカミ」

「よし、じゃあ許す………オーカも、いいよね?」

「うん。もちろん」

「はい、じゃあこの話はもう終わりね………もうすぐ夏休みも終わるんだし、今から3人でどっかでかける?」

 

 

ヒバナが手を合わせ、半ば強引にこの話を終わりにする。その表情は非常に明るく、イチマルが元に戻って安心した事が窺える。

 

 

「オーカ、どこか行きたい所ある?」

「アポローンかな、アニキがいるし、バトル場あるし」

「そればっかだね………イチマルは?」

「………」

 

 

イチマルは涙を腕で拭うと、爽やかな笑顔で答える。

 

 

「………オレっちは、ヒバナちゃんが行く所ならどこへだって着いていってやるぜ〜〜!!!」

「キモ」

「何で!?」

 

 

綻びかけた3人の絆は、結果的として、より強固に、よりかけがえのないモノへと進化を果たす。未来永劫、ここに亀裂は生じない…………

 

はずだった。

 

 

 

ー…………

 

 

「鈴木イチマルは負けたか。まぁ、そうだろうな」

「彼はよくやってくれたわ。Bパッドを通して、ヤクーツォークに莫大な戦闘データを蓄積してくれたのだから」

「そのヤクーツォークはどうするつもりだ、回収するのか?」

「大丈夫よ、いずれ必ず帰って来るから」

 

 

オーカミら3人が、ヴルムヶ丘公園を後にした直後、今日のバトルをもっと離れた所で傍観していた2人組みの男女がそう話し合う。

 

獅堂レオンと、早美アオイだ。

 

 

「………では、今日は解散しましょうか」

「待て………オレはいつ、鉄華と戦えばいい?」

 

 

レオンがアオイに訊いた。

 

 

「その時が来るまで………としか、今は言えませんね。あの子はこれから、あのモビルスピリットと共にきっともっと強くなる。ゼノンザードスピリットの戦闘データを得るには、うってつけすぎる存在ですから」

「…………そうか」

 

 

早美アオイが欲するモノは、Bパッドを通して得られる、ゼノンザードスピリットの戦闘データ。

 

それが具体的にどう言ったモノなのかはわかった事ではないが、おそらくDr.Aのためだと思われるので、ろくな事には使われないに違いない。

 

 

「………そろそろ植えた種も発芽する頃です。なので今はまだ、様子を見ましょう」

「植えた種?」

「えぇ………きっと、バルバトスルプスと戦ってくれる事でしょう」

 

 

植えた種が発芽すると発言する早美アオイ。これもまた、どう言ったモノなのかは、まだ判明せず。

 

 

「バルバトスルプス………まさかまだ進化を重ねられるとはな、やはりアイツは、鉄華はオレの好敵手に相応しい男だ。いずれ、必ず見せつけてやる。オレと、オレのゼノンザードスピリット「ヴァイスレーベ」の力をな」

「うっふふ……期待していますよ、レオン君」

 

 

レオンの手の中には白いカードが握られている。それが白属性のゼノンザードスピリットのカードであるという事は、言うまでもない。






次回、第32ターン「超・激突、爆走番長!!」


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第32ターン「超・激突、爆走番長」

残暑が残る9月1日。鳩のなんとも言えない呑気な鳴き声が響き渡る朝方。

 

制服を着用している鉄華オーカミは、眠そうに欠伸をしながら中学校の校門を潜る。今日から2学期が幕を開けるのだ。

 

そんな彼に声を掛けるのは、同じ歳の少女、一木ヒバナ。

 

 

「ヤッホーオーカ」

「うん、おはよう」

「今日から2学期だね」

「まぁ、これと言って何か変わるわけじゃないと思うけど」

「そんな事言わないの。夏休みの宿題はちゃんとやった?」

「…………ギリギリ」

 

 

この様子だと、昨日の夜は相当遅くまで机に齧り付いてたに違いない。下手をすれば朝方までやっていて、寝ていない、なんて事もあり得るだろう。

 

 

「もう、オーカはホント、いつも好きな事優先しちゃうんだから〜」

「………なんかヒバナ、姉ちゃんみたいになって来たな」

 

 

と言いつつ、オーカミがまた欠伸をする。

 

2人は校舎の中に入ると、それぞれの上履きを取るために靴箱の方へ歩み寄る。そして、土足を直して、上履きを履いた直後、オーカミはまた誰かに声を掛けられる。

 

 

「鉄華オーカミ君、ですよね?」

「………誰、あんたら」

 

 

合計で10人くらいの女子生徒らに囲まれる。

 

 

「界放リーグでの試合、全部観てました!!」

「獅堂レオン様との試合に、とても感激して!!」

「私達、あなたのファンになっちゃいました!!!」

「は?」

 

 

界放リーグ後、かなり知名度が上がってしまった鉄華オーカミと鉄華団。

 

特に決勝戦でのレオンとの試合が、彼に多くのファンを作ってしまっていた事を、まだ知らなくて…………

 

 

「テレビで観るよりずっと小さいんだね、可愛い〜〜」

「カドショでバイトしてるってホント??」

「…………うざい」

 

 

あまりこう言うのは好きではないオーカミ。彼女らに対してめんどくさそうな態度で一蹴するも…………

 

 

「鉄華団のカードって、どこで売ってるんですか??」

「オーカミ君とお揃いのデッキ組みたい!!」

「組みたい!!」

「…………」

 

 

代わる代わる質問攻めして来る女子生徒たち。昨日徹夜した事もあって、流石にちょっと疲れて来た。

 

 

「うわ〜〜人気だなオーカ………ちょっとなんか、妬けるかも」

 

 

校舎に入ってから、ファンの女子生徒たちの渦に巻き込まれてしまったオーカミを見ながら、そう呟くヒバナ。

 

彼の凄さを理解してくれる人が増えるのは嬉しい事なのだが、いかんせん嫉妬してしまう。

 

 

「そう嘆く事はないさヒバナちゃん………なんてったって、ヒバナちゃんにはこの鈴木イチマルがいるのだから!!」

「ゲッ……イチマル」

「『ゲッ』って何!?」

 

 

彼らよりも1学年上の鈴木イチマルが現れる。ゼノンザードスピリットと言うカードのせいで色々と揉めてしまっていた事は記憶にも新しい。

 

だが、今ではすっかりその関係に生じていた亀裂は元通りだ。

 

 

「オーカミは今年の界放リーグ準優勝者だからな〜〜しかもあの獅堂レオンを後少しのところまで追い詰めたし。そりゃ人気出るよね」

「私も一応ベスト4なんだけどな〜〜」

「オレっちもベスト8なんだけどな〜〜」

 

 

2人して人気に差が出ている事を嘆く。この街、引いてはこの世界はつくづくバトルスピリッツとその結果こそが全てなのだと痛感させられる。

 

まぁ、その程度のこと、本当は2人にとってどうでもいい事ではあるのだが。

 

 

「ところでさ。今日放課後、アポローンでオレっちと久しぶりにバトスピしない?」

「あら、ホントに久しぶりね。また勝ったらデート?」

 

 

イチマルがヒバナにそう告げる。因みに彼らの戦績はヒバナの全勝でイチマルの全敗である。

 

 

「はは、まぁそれもあるっちゃああるんだけどさ。シンプルに新しいデッキ組んだから試したいんだ」

「へぇ〜〜新しいデッキ」

「もちろん、ヤクーツォークは抜いたぜ!!……正々堂々勝負だぜ、ヒバナちゃん!!」

「うん、わかったわ。臨むところよ!!」

 

 

オーカミが多くの女子生徒たちに囲まれてしまっている中、ヒバナとイチマルは放課後、バトスピの約束を取り付けた。

 

 

「ねぇねぇいいでしょオーカミ君〜〜Bパッドのアドレス教えてよ〜〜」

「嫌だ」

「そう言うクールなところも素敵〜〜!!」

「なんかやばいな、コイツら」

 

 

女子生徒たちからなかなか逃げられないオーカミ。正直鬱陶しくて困り果てている。

 

そして、そんな彼に視線を送る人物がもう1人、物陰にいて…………

 

 

******

 

 

 

チャイムが鳴り響き、始まる放課後。

 

そう言っても、まだまだ昼間だ。今日は始業式であるため、まともな授業はまだ始まらない。同じクラスのオーカミとヒバナは、荷物を整え、教室を後にする所だ。

 

 

「ねぇオーカ。この後イチマルとアポローンでバトスピする約束してるんだけどさ、一緒に来る?……今日はバイト休みなんでしょ?」

「あぁ、ごめん。今日はちょっと寄るところがあって」

「そうなんだ。じゃあ気が向いたら来てね」

「うん」

 

 

ヒバナからの誘いをキッパリと断る。彼にとっても、ヒバナとイチマルのバトルは是非見て行きたいが、今日はそれ以上に行きたい場所があった。

 

 

「それじゃ、私イチマルのところに行って来るね、お疲れ様!」

「うん、お疲れ」

 

 

イチマルを呼びに、上級生のいる上階へと向かうヒバナ。オーカミも切り替えて「よし、行くか」と呟き、校舎を後にしようとしたものの…………

 

 

「オーカミ君〜〜!!!」

「ゲッ……さっきの人達」

 

 

また物好きな連中に声を掛けられる。朝の事もあって、オーカミは背中に寒気が走るのを感じた。

 

 

「放課後はどこに行くの?」

「決まってるでしょ、バイト先のカードショップだよね?」

「ねぇねぇ着いていきましょ!!」

「いいねそれ!!」

「そうしよそうしよ〜〜!!」

「………うざい」

 

 

またまた困った事になる。

 

まともに話を聞いてくれる連中じゃないのは重々承知してるし、バトスピで薙ぎ払ってもどうせまたついて来るのも目に見えている。「いい加減にしろ」と、殴り飛ばす事もできるが、姉であるヒメから「女の子を傷つけてはダメ」だと教えられているからそれも敵わない。

 

完全に八方塞がりだ。どう考えてもこの状況は詰み。

 

 

「あ、そう言えばオーカミ君のお家ってどこにあるの??」

「ね、それめっちゃ聞きたい!!」

「聞きたい聞きたい!!」

「………教えるわけないだろ」

 

 

めちゃくちゃ詰め寄られる。このままだと本当に根負けして色々と個人情報が露呈しそうだ。

 

しかし、そんな困り果てた彼にも助け舟が現れる。

 

 

「おい、鉄華!!」

「!」

「よお久し振りじゃねぇか、探したぜ」

 

 

中学生にしてはヤケに図太い声が脳に響く。

 

だがこれは結構聞き慣れている声の1つ。

 

 

「あぁ、モスジマ」

「違ぇよ、ブスジマだよ!!……ふざけんなよオマエ、いつになったらオレの名前覚える気だ。どんだけオレをモスに行かせたいんだよ!!」

「ごめんごめん…………コスジマ?」

「だからブスジマだっつってんだろ!!……何、何かのコスプレでもすんの!?」

 

 

この中学では札付きの3年、ブスジマだ。彼の兄など、なんやかんやで色々あってこんな感じの関係に落ち着いている。因みに彼の本名は「毒島トウヤ」………

 

そんな彼の登場により、オーカミを好いてここに来ていた周囲の女子生徒らに、ある変化が生じる。

 

 

「え………」

「オーカミ君って、ブスジマなんかと仲良いんだ」

「へ〜…………」

「帰ろっか」

「うん、そうだね。帰ろ帰ろ」

 

 

好感度と言うものは、意外とすぐに下がる。オーカミが素行的にも見た目的にも全く人気のないブスジマと仲が良いものと勘違いされたために、彼を取り巻こうとしていた女子生徒らは興が冷め、次々とこの場を後にしていく…………

 

 

「おぉ、なんだなんだ、あの女子生徒たち。オレ様のファンか何かか??……ガハハハ!!……有名になったもんだな、まぁ、あの毒島富雄の弟だから当然っちゃあ当然だが」

「………オマエってアレだな。なんか悲しいな」

 

 

とにかく、この場はそんな不人気極まりないブスジマのお陰様で助かった。

 

これで何も問題なくあそこに行ける。

 

そう思っていたが、ブスジマが突然思い出したように声を荒げ…………

 

 

「あっ……そうだそうだ、オマエを探してたんだよ。ちょっと来い!!」

「え……いや、悪いけどオレこれから寄るところが」

「んなもん後にしやがれ、さっさと行くぞ」

「は?……おい!」

 

 

一難去ってまた一難とはまさにこの事だ。

 

急ぎの用事なのか、ブスジマはオーカミの手を引っ張り、半ば強引に校舎外へと連れ出した。

 

 

ー…………

 

 

 

あれから数分が経過した。ブスジマがオーカミを連れて来た場所は、彼のような不良人間が蔓延るにはうってつけで、一切日の当たらない体育館裏。

 

 

「………で、オレをこんなところに呼び出して何のようなの?」

 

 

オーカミがブスジマに聞いた。

 

 

「オレ様だってオマエにようはねぇよ。でもあの人がな………」

「あの人?」

 

 

ブスジマがそう言って、オーカミではない誰かに指を差し向けた。その先には、彼を待ち受けているかの如く、背中を向け、仁王立ちで構えている男が1人いて…………

 

 

「番長!!……連れて来ましたぜ」

「……番長?」

 

 

聞き慣れないその単語に耳を疑う。まさかここまで科学が発達して時代に番長とは…………

 

その番長と呼ばれる男子生徒は、ブスジマの声に反応し、振り向く。その際にはだけた学ランと下駄、腰に備え付けられた木刀など、いかにもと言った身だしなみを見せる。身長は180はありそうで、中学生にしてはかなりデカい方だろう。

 

 

「よぉ待ってたぜ、鉄華オーカミ」

 

 

ブスジマよりもさらに低い声で、尚且つ豪快な声色をしている番長の少年が、そう告げる。顔は声の割には凄まじくイケメンであり、はだけだ学ランから覗かせる上半身はとても筋肉質である。

 

 

「………誰だあんた」

「おい馬鹿、なんだその口の聞き方は!?!」

「なに」

「なにじゃねぇ!!……うちの学校の番長ぞアホ!!……あんま舐めた口聞くとしばかれるぞ!?」

「ふーーん。そんな凄いのか、番長って」

 

 

ブスジマに言葉遣いを注意される。

 

オーカミは「番長」と言う呼び方にあまり大きな価値観を見出せないが、目の前のそう呼ばれている男は、どうやらそれ程の男らしい。いや「男」と言うよりかは「漢」と称するべきなのだろうか。

 

 

「そんな事気にすんじゃねぇよブスジマ。喋り方なんて人それぞれだ、好きに喋らせろ」

「ヘイ……すんません」

 

 

あの頑固なブスジマが深々と頭を下げながら謝罪する。

 

 

「悪りぃな。自己紹介がまだだったぜ、オレ様の名は「(とどろき)レッド」………この学校の3年で、番長を張らせてもらってる男だ」

「鉄華オーカミ………です」

「ダァァハッハッハ!!……舎弟の言葉通り、無理に敬語なんて使おうとすんなよ、好きに話せ」

 

 

番長である男の名前は「轟レッド」………

 

言われるまでもなく、この学校の番長であり、喧嘩もバトスピも一流の男。

 

因みにブスジマを1年くらい前にしばき倒して舎弟にした経緯がある。故に同じ中3だと言うにもかかわらず、ブスジマは彼に頭が上がらない。

 

 

「………で、その番長がオレになんのようだ」

 

 

早速タメ口で、オーカミがレッドに聞いた。彼はそんなオーカミにまた笑わされながらも答える。

 

 

「ダァァハッハッハ!!……言ったそばからホントにタメ口聞くのかよ、噂通り最高だなテメェ!!……いやなに、界放リーグで準優勝したとか言うテメェの実力を、是非ともこの身で味わいたくてな」

「はぁ」

「どうだ一戦、このオレと交えねぇか」

 

 

オーカミが界放リーグで準優勝したと言う事を耳にした番長のレッドは、その好戦的な性格から、興味が沸き上がり、今に至る。

 

自分から挑んで来るあたり、彼もおそらくかなりの実力者なのだろう…………

 

だが。

 

 

「嫌だ」

「そうかそうか、快く引き受けてくれるか……………って、えぇぇ!?!……なんでだァァァァァァ!!!」

「番長からのバトルの誘いをキッパリ断るとかどう言う神経してんだテメェェェェ!!!」

 

 

即答で断るオーカミに、2人して声を荒げるレッドとブスジマ。

 

そんな騒々しい2人に対して、オーカミは「うるさいな」と、辛辣な感想を口にする。

 

 

「おい待て、なんでだ!?……どう考えてもバトルする流れだったろ、今、ここで!!」

 

 

狼狽え、焦りを見せながら、レッドがオーカミに聞いた。

 

 

「いや、でもオレ、今日行く所あって………また今度じゃダメか?」

「ダメだ。オレ様は今日、今ここでテメェとバトルがやりテェんだよ」

「…………」

 

 

切羽詰まったレッドにそう言われ、オーカミは少しの間だけ、指先を顎に当てながら思考してみる…………

 

そして。

 

 

「そっか………じゃあ、また今度な」

「オレの話聞いてた!?」

 

 

諦め、レッドとブスジマに背を向けて帰ろうとする。

 

どうしても彼とバトスピがしたいレッドは、怒りに歯軋りしながら、最終手段を口にして………

 

 

「………逃げるのかよ」

「!」

 

 

それだけでオーカミの動きは制止した。

 

 

「界放リーグ準優勝者に輝けるような奴が、一介のカードバトラーに背を向けるなんざ、情けねぇ…………オレだったら、なりふり構わずバトルを受けるぜ。それが自分より強い奴なら尚更な」

「…………」

 

 

ヤケに逃げづらい状況が出来上がってしまった。カードバトラーと言うのは、なんとも不憫な生き物だ、この手の言葉を投げ掛けられてしまうと、バトルの誘いを断らずにはいられなくなってしまう……………

 

 

「………はぁ、仕方ないな」

「よぉし、そう来なくちゃな!!」

 

 

内心では「めんどくさいな」と思いながら、頭を掻きつつも、致し方なくそのバトルの誘いを受けるオーカミ。

 

ようやくその気になってくれた彼に、レッドは勢いよく懐からBパッドを取り出し、左腕にセット、最後に己のデッキをそこに装填し、準備を終える。

 

 

「………何回も言うけど、今日は寄るところがあるんだ。さっさと終わらせるよ」

 

 

オーカミがめんどくさそうにBパッドを取り出し、同様にバトルの準備を完了させながら、レッドに告げた。

 

 

「ダァァハッハッハ!!……このオレ様を相手に『さっさと終わらせる』と来たか。やっぱり面白い男だなテメェは。だがよ、さっさと終わるのはテメェの方になるかもしれねぇぜ」

「!」

 

 

学校の名を背負う「番長」と言う大きい器の存在なのもあってか、界放リーグ準優勝者のオーカミを相手にヤケに大きく出るレッド。

 

そんな彼から滲み出るように溢れ出る気迫は、オーカミに軽いプレッシャーを与えるには十分だった。

 

だがまぁ、その程度で狼狽えるようなオーカミではないが…………

 

 

「だったらそうしてみろよ。行くぞ、バトル開始だ」

「おうよ、来やがれ!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

オーカミの通う中学校、その『体育館裏』と言う、不良やヤンキー、ガラの悪い生徒と絡むテンプレのような場所にて、鉄華オーカミと、この学校の番長轟レッドによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はオーカミだ。早く終わらせるために第1ターンを進めていく。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………ガンダム・バルバトス第1形態をLV1で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でデッキから3枚オープン……モビルワーカーを手札に加えて、残りは破棄」

 

 

オーカミの場に呼び出される最初のスピリットは、相棒であるガンダム・バルバトス、その第1形態。

 

効果により、1コストの軽量スピリット「鉄華団モビルワーカー」のカードを1枚回収させた。

 

 

「それが噂のバルバトスか。カッコいいじゃねぇか」

「………ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

オーカミによる先攻の第1ターンが終わり、次は番長レッドのターンへと移る。

 

 

[ターン02]轟レッド

 

 

「メインステップ!!」

「番長、あんな奴、コテンパンにのしちゃってくださいよ!!」

「おうよブスジマぁ、先ずはブレイドラXを召喚だ」

 

 

ー【ブレイドラX】LV1(1)BP1000

 

 

ブスジマからの声援に応えるように召喚した最初のスピリットは、オレンジの体色を持つ小型のドラゴン。

なのだが、ひよこに見える愛らしいスピリット、ブレイドラX。

 

 

「続けて、仮面ライダードライブ タイプスピードをLV2で召喚するぜ!!」

「!」

「不足コストはブレイドラXから確保だ」

 

 

ー【ブレイドラX】(1➡︎0)消滅

 

ー【仮面ライダードライブ タイプスピード】LV2(3)BP5000

 

 

レッドのフィールドに、爆音を立てながら、爆速で参上したのは、赤い装甲を持つライダースピリット「仮面ライダードライブ タイプスピード」………

 

胸部にタイヤが挟まっているのが、とても特徴的だ。そのスピリットの召喚の不足コストの確保により、ブレイドラXは僅か数秒で消滅してしまう。

 

 

「……ライダースピリット」

「おうよ。オマエの相棒がバルバトスなら、オレ様の相棒はドライブだぜ………召喚時効果、3枚オープンし、その中の対象カードを加える………オレはこの「ドライブ タイプワイルド」を手札に加えて、残りを破棄だ」

 

 

ドライブタイプスピードが発揮できる効果は、オーカミのバルバトス第1形態と全く同じ。轟レッドはその効果で手札を増やした。

 

 

「アタックステップ……タイプスピード、一発かまして来いや!!」

 

 

直後にアタックステップへと突入し、タイプスピードで攻撃を仕掛ける。

 

そのBPは5000。オーカミの場にいるバルバトス第1形態はBP2000であるため、ここはまだ5つもあるライフで受けるのが定石であるが…………

 

 

「タイプスピードのもう1つの効果【超・激突】を発揮!!」

「超激突?」

「なんだ知らねぇのか、なら説明してやる……【超・激突】を持つスピリットのアタックは、可能なら必ずスピリットでブロックしなければならない」

「!!」

「察したか!!……さぁ、バルバトス第1形態でブロックしな!!」

「………バルバトス第1形態でブロックだ」

 

 

相手にブロックを強制させる【超・激突】の効果を発揮するタイプスピード。

 

致し方なくブロックに駆り出されたバルバトス第1形態をスピード翻弄、最終的には胸部に強烈なライダーキックをヒットさせ、爆散させた。

 

 

「くっ………」

「どうだ、これがオレ様のドライブが持つ十八番【超・激突】よぉ!!……ターンエンド」

手札:4

場:【仮面ライダードライブ タイプスピード】LV2

バースト:【無】

 

 

ライフではなく、スピリットだけを破壊する【超・激突】の効果。

 

それを活かして早速出鼻を挫かれたオーカミだが、まだバトルは始まったばかり、負けじと巡って来たターンを進めていく。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーを2体と、ランドマン・ロディを召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2S)BP3000

 

 

車両型の支援機「モビルワーカー」が2体と、白と橙色を基調とした、全体的に丸みを帯びている小型のモビルスピリット「ランドマン・ロディ」が新たに召喚される。

 

 

「アタックステップ……必ずブロックしないといけなくなるなら、フルアタックしてブロックできない状況を作るだけだ。モビルワーカー!!」

 

 

そう告げると、モビルワーカー1体にアタックの指示を送るオーカミ。セリフからして、その狙いは、回復状態で残っていればブロックしないといけなくなる【超・激突】を回避するために、全てのスピリットでアタックし、疲労させるためと見ていいだろう。

 

 

「その攻撃、ライフで受け止めてやる!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉轟レッド

 

 

突撃するモビルワーカーの体当たりが、レッドのライフバリアを1つ砕く。

 

幸先の良い1点。オーカミは更なるアタックを行うべく、次のスピリットへと手を伸ばすが…………

 

その前にレッドは口角を上げ、このタイミングで使用できるカードを、己のBパッドへと叩きつけた。

 

 

「オレのライフが減った事により、手札から絶甲氷盾の効果を発揮!!」

「!!」

「これでテメェのアタックステップは終了する!!」

 

 

使用したのは汎用性の高い白属性の防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』………

 

その効果により、オーカミのアタックステップは強制的に終了して、エンドステップとなる。

 

さらに、ただアタックステップが終わっただけでなく、初撃で使用されたため、オーカミの場にはまだ回復状態の2体のスピリットが残っている事が厄介で…………

 

 

「ダァァハッハッハ!!……【超・激突】の弱点をオレ様が知らないとでも思ったか。この手の対策は万全だぜ」

「………ターンエンド」

手札:3

場:【ランドマン・ロディ】LV2

【鉄華団モビルワーカー】LV1

【鉄華団モビルワーカー】LV1

バースト:【無】

 

 

結果的に【超・激突】の当て馬にされるスピリットが2体も残り、オーカミはそのターンをエンドとせざるを得なくなった。

 

次は【超・激突】をする気満々のレッドのターン。勢いよくそのターンシークエンスを進めていく。

 

 

[ターン04]轟レッド

 

 

「メインステップ。先ずはブレイドラXを召喚」

 

 

ー【ブレイドラX】LV1(1)BP1000

 

 

レッドのフィールドに、合計で2体目となるブレイドラXが召喚される。

 

そしてその直後に、また手札からカードを引き抜く。

 

 

「そんでもって、次はコイツだ。仮面ライダードライブ タイプワイルド、LV2で召喚!!」

 

 

ー【仮面ライダードライブ タイプワイルド】LV2(3)BP5000

 

 

「不足コストはタイプスピードをLV1に下げて確保するぜ」

 

 

タイプスピードの横に並び立つ、新たな銀色のライダースピリット。その名もドライブ・タイプワイルド。

 

タイプスピードとは異なり、胸部ではなく右肩にタイヤがあるのが特徴的。そのせいか、ワイルドの名の通り、かなり厳つく見える。

 

 

「アタックステップ!!……タイプワイルドでアタック、その効果で1枚ドローし【超・激突】だ!!」

「ッ……そいつも【超・激突】持ってるのか」

「当然……【超・激突】はオレのドライブの伝統芸だからな」

 

 

フィールドを爆走するタイプワイルド。その【超・激突】の効果により、オーカミはモビルワーカーかランドマン・ロディでのブロックを強要される。

 

 

「ランドマン・ロディでブロック」

 

 

取っ組み合いを始めるタイプワイルドとランドマン・ロディ。モビルスピリットと言うこともあって、小型でもライダースピリットよりかは幾分か巨体なランドマン・ロディが僅かに押すが、タイプワイルドも負けてはいない。

 

 

「このブロックされたタイミング、手札から赤のブレイヴ「トライドロン」の効果を発揮するぜ!!」

「なに……このタイミングでブレイヴ効果!?」

「手札からこのカードをノーコストで召喚する。この効果で、バトル中のタイプワイルドに直接合体!!」

 

 

ー【仮面ライダードライブ タイプワイルド+トライドロン】LV2(3)BP11000

 

 

突如として現れ、戦闘に乱入する赤き車両トライドロン。

 

それはランドマン・ロディを撥ね上げると、隙を見てタイプワイルドがその中へと入り、運転する。そしてそのまま上空へと跳び上がり、宙に上がったランドマン・ロディを貫き、爆散させた。

 

 

「ダァァハッハッハ!!……まるで手応えがねぇな!!」

 

 

圧倒的すぎるタイプワイルドの勝利に高笑いするレッド。だが、オーカミもただでは転ばない。

 

 

「この瞬間、ランドマン・ロディの破壊時効果!!」

「!!」

「相手の疲労状態のスピリット1体を破壊し、デッキから1枚ドロー………オレは、タイプワイルドを破壊する」

「な、なんだと!?」

 

 

上手く着地したトライドロン。だが、その中には既にランドマン・ロディが仕掛けた爆弾があり…………

 

気づいた頃には遅かった。爆弾は起爆し、トライドロンは中のタイプワイルドごと吹き飛ばされ、爆散していった。

 

 

「ふぅ……なんとか1体は潰せたか」

 

 

最近新しくデッキに投入した「ランドマン・ロディ」を大いに活かし、強烈なカウンターを炸裂させたオーカミ。

 

対するレッドは攻め手を失い、このターンは大人しくエンドと宣言…………

 

するわけがなく。

 

 

「ダァァハッハッハ!!」

「!?」

 

 

突然劣勢になったと言うにもかかわらず、まるでこの状況が面白いと言わんばかりに、口を大きく開けて笑い出した。

 

 

「鉄華オーカミ。テメェはやっぱオレ様の見込んだ通り、面白い奴だ………信じてたぜ、テメェがドライブの【超・激突】に合わせて、手痛いカウンターを仕掛けて来るのをな」

「………どう言う意味」

「それを今から教えてやる!!」

 

 

そう告げると、レッドは再び手札から1枚のカードを引き抜き、Bパッドへと叩きつけた。

 

 

「手札にある仮面ライダードライブ タイプトライドロンの効果を発揮、自身をノーコスト召喚する!!」

「!?」

「爆走、爆速、爆裂!!………オレ様の赤き最強ライダースピリット、仮面ライダードライブ タイプトライドロン、LV2で召喚!!」

 

 

ー【仮面ライダードライブ タイプトライドロン】LV2(3)BP12000

 

 

トライドロンの爆発による爆炎と爆煙のエネルギーを体内へと吸収していく、何かがいた。

 

その何かは完全にそれらを吸い尽くすと、偉大なる赤き姿を見せる。名はタイプトライドロン。仮面ライダードライブの最強の姿だ。

 

 

「破壊をトリガーに、別のライダースピリットを召喚した……!?」

「おうよ。これこそがタイプトライドロンの効果、トライドロンと合体したスピリットがフィールドを離れる時、手札からノーコスト召喚できる」

 

 

レッドはオーカミが【超・激突】にカウンターを仕込める程のカードバトラーだと見込んでいたので、それを逆手に取った。

 

そして、その逆手に取って召喚したタイプトライドロンが、オーカミへと牙を剥く。

 

 

「そして、オレのアタックステップはまだ終了していないぜ。アタックだ、タイプトライドロン!!……コイツも当然【超・激突】だ!!」

「ッ………モビルワーカーでブロック」

 

 

タイプトライドロンのアタック、ライフでは受けれないため、オーカミはこれを残ったモビルワーカーでブロックする。

 

フィールドでは、特攻を仕掛けるモビルワーカーを、タイプトライドロンが受け止めて、そのまま軽々と持ち上げる。

 

 

「タイプトライドロンの更なる効果、ブロックされた時に回復する」

「!!」

「つまりもう一度アタックできるようになる。流石は番長のエースカードだぜ!!」

 

 

ブスジマがそう反応すると、フィールドにいるタイプトライドロンは回復状態となり、このターン中は更なる追撃が可能となった。

 

さらに、軽々と持ち上げたモビルワーカーを勢いよく地面へと叩き落とし、爆散させる。

 

 

「まだまだあるぜ、タイプトライドロンをブロックしたスピリットが破壊された時、相手ライフを2つ破壊する!!」

「ぐっ………」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

取り出した青い砲手を構え、タイプトライドロンはそこから真っ赤に光るエネルギー砲を放つ。

 

オーカミのライフバリアは、それに被弾し、あっという間に2つも砕け散った。

 

 

「………モビルワーカーの破壊時効果、デッキの上から1枚を破棄して1枚ドロー………」

「続け、ブレイドラX!!」

「………それもライフだ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

ブレイドラXが小さい口から放つ小さい炎、それがオーカミのライフバリア1つを焼き払う。

 

これで残り2つ。僅か4ターン目だと言うにもかかわらず、そのライフはもうこのターンだけで尽きようとしていた。

 

 

「『さっさと終わる』のはやっぱテメェの方だったな!!……最後のアタックだ、ダブルシンボルを持つ、タイプトライドロンでアタック!!」

「………」

 

 

トドメだと言わんばかりのアタック宣言。タイプトライドロンは、再び青い砲手を構える。

 

これを受けて仕舞えば、ライフが尽き、オーカミの敗北が確定する。

 

だが、寧ろここからが彼の逆襲の始まりであった。

 

 

「フラッシュマジック、ネクロブライト!!」

「!」

「効果により、トラッシュからコスト3以下の紫のスピリットを復活させる………戻って来い、バルバトス第1形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(2)BP2000

 

 

放ったマジックカードは、地の底よりバルバトス第1形態を蘇らせる。

 

 

「バカが、今更そんなスピリットを出したところで結果は変えられねぇ、【超・激突】の餌食になるだけだぞ!!」

「………」

 

 

レッドの言う通り、バルバトス第1形態では、タイプトライドロンの前だと壁にさえならない。

 

だが、オーカミの狙いは単なる壁要因ではなくて………

 

 

「召喚時効果、デッキを上から3枚オープン」

 

 

バルバトス第1形態の効果でオープンされていく3枚のカードたち。その中にはついこの間手に入れた新たなるエース「ガンダム・バルバトスルプス」も確認できて…………

 

 

「よし……オレは「バルバトスルプス」を手札に加えて、残りは破棄。そしてこれは【煌臨】を持つカード」

「ッ………まさかテメェ」

「そのまさかだ……【煌臨】発揮、対象はバルバトス第1形態!!」

 

 

オーカミは口角を上げ、ルプスのカードをBパッドへと叩きつける。

 

フィールドではバルバトス第1形態が背中のブースターで一直線に飛翔し、上空にある雲へと勢いよく衝突する。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ!!……ガンダム・バルバトスルプス、LV2で煌臨!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

鉄華団の華のマークが刻まれた赤い肩の装甲、肥大化した黄色い角に、バスターソード状のメイス、ソードメイスを持つ新たなバルバトス、バルバトスルプスが、雲を斬り裂き、フィールドへ降り立つ。

 

 

「………成る程、それがテメェのエースか。だけどよ、そいつのBPじゃオレのタイプトライドロンは斬り裂けねぇぜ」

「斬り裂けるさ、オレのバルバトスルプスなら………煌臨アタック時効果発揮、自分のデッキを上から2枚破棄」

 

 

バルバトスルプスの緑色の眼光が輝くと共に、オーカミのデッキが上から2枚破棄される。そのカードは「オルガ・イツカ」と「ビスケット・グリフォン」…………

 

いずれも鉄華団のカードだ。

 

 

「こうして破棄された鉄華団1枚につき、相手のコア3個以下のスピリット1体を破壊する」

「なに!?」

「破棄された鉄華団カードは2枚、よってコア3個以下のタイプトライドロンとタイプスピードを破壊!!」

 

 

バルバトスルプスは、左腕から滑空砲を展開し、それを発砲。タイプスピードを撃ち抜き爆散させる。

 

さらにその爆発の瞬間にソードメイスを構え、タイプトライドロンに向かって飛び込んでいく。弧を描くような横一閃の一太刀は、瞬く間にタイプトライドロンに大きなダメージを与え、これも爆散させる。

 

 

「ま、マジか………番長のエースカードが一瞬で」

「…………」

 

 

この光景を見るなり、そう呟いたのは舎弟のブスジマだった。

 

当のレッドもこれには驚きが隠せないでいるが、それと同時に鉄華オーカミと言う強いカードバトラーと出会えた事に感動もしていた。

 

 

「………へっ、やるじゃねぇか。だがよ、オレ様は番長だ。相手が強ければ強い程、俄然燃えて来るんだよな……」

「あぁ、それはオレも同じだよ」

「ターンエンド。勝ち確とか思ってんじゃねぇぞ。最後まで全力で来やがれ!!」

手札:1

場:【ブレイドラX】LV1

バースト:【無】

 

 

カウンターに次ぐカウンター、それさえをもさらにカウンターして見せたオーカミと鉄華団のカード達。

 

レッドをエンドステップへと追い込み、巡って来たラストターンを全力で進めていく。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………モビルワーカーをもう1体召喚」

 

 

ー【鉄華団モビルワーカー】LV1(1)BP1000

 

 

本日3体目となるモビルワーカーが出現。フィールドには生き残った1体と合わせて2体となる。

 

 

「さらに、パイロットブレイヴ三日月・オーガスを召喚し、バルバトスルプスに直接合体!!……LV3にアップさせる」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV3(5)BP19000

 

 

鉄華団のパイロットブレイヴ「三日月・オーガス」がバルバトスルプスと合体する。見た目に変化はないが、その力量は先ほどまでとは比べ物にならない。

 

 

「アタックステップ、モビルワーカー2体で連続アタック!!」

 

 

メインステップが終わり、アタックステップへと突入。2体のモビルワーカーが大地を駆け抜け、レッドのライフを目指す。

 

前のターンの超速攻に全てを注ぎ込んだ彼に、もうそれを跳ね除ける手段は残っていなくて…………

 

 

「2体ともライフで受け止めてやる!!」

 

 

〈ライフ4➡︎3➡︎2〉轟レッド

 

 

2体のモビルワーカーによる体当たりが、レッドのライフバリアを一気に砕いていく。

 

そしてこのバトルの締めはもちろん、進化したバルバトス、バルバトスルプス。

 

 

「バルバトスルプスでアタック!!……合体した三日月の効果でブレイドラXのLVコストを1つ上げて消滅、リザーブのコア3個をトラッシュに」

「………」

 

 

ー【ブレイドラX】(1)消滅

 

 

ゆっくりとレッドの元へと迫るバルバトスルプス。主人を守らんとブレイドラXは立ち向かうが、ソードメイスを突き立てられただけで消滅してしまう。

 

 

「今のバルバトスルプスは合体によりダブルシンボル、ライフを2つ破壊する」

「………はっ、まさか本当にさっさと終わらせちまうとはな。ライフで受け止めてやるぜ、全力で来い!!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉轟レッド

 

 

負けを認め、ライフで受ける宣言をしたレッドに、無慈悲の一撃。バルバトスルプスはソードメイスを振り下ろし、一撃で2つのライフバリアを破壊する。

 

これにより、彼のライフは0。Bパッドからは「ピー……」と言う敗北を告げるような無機質な機械音が流れる。

 

鉄華オーカミは見事、バルバトスルプスと共に、速攻でこのバトルを終わらせて見せた。

 

 

「ば、番長………」

 

 

敗北したレッドに、ブスジマが声を掛ける。一見すると下を見ていて、落ち込んでいるようにも見えたが…………

 

 

「ダァァハッハッハ!!!……案外、噂も宛になるもんだな、オレが思っている以上だったぜ、鉄華オーカミ!!」

「ば、番長!!」

 

 

全然そんな事はなかった。寧ろより熱苦しくなっている。これにはブスジマも一安心。

 

 

「バトルを承諾してくれてあんがとよ、またやろうぜ」

「うん、アンタとのバトル、結構楽しかったよ。凄いんだな、番長って」

「おうよ。だが、オレはもう番長じゃねぇ」

「?」

 

 

レッドの言葉に、オーカミは首を傾ける。

 

 

「これからはオレを倒したテメェが、この学校を張る新しい番長だ」

「いや、やらないけど」

 

 

自分にバトルで勝ったからと言う理由だけで、レッドに新しい番長に任命されるが、オーカミはそれを即答で拒否する。

 

そしてその直後に、オーカミは思い出したかのように「あっ……」と呟くと…………

 

 

「そう言えば、今日行く所あるんだった」

「オマエ、あの短期間で忘れたのかよ………」

 

 

オーカミの物忘れの速さにリアクションしたのはブスジマの方だった。

 

 

「………そういやよ、行く所ってどこだ?」

 

 

レッドがオーカミに聞いた。特に教えない理由はないので、返答する。

 

 

「病院」

 

 

今日の放課後、オーカミは病院にいる、ある友達に会いに行く予定があった。

 

 

******

 

 

場所は変わり、ジークフリード区に構えるカードショップの1つ「アポローン」…………

 

そのバトル場にて、1人の少年と少女がBパッドを構え合い、対峙していた。

 

 

「………なんか今日はヤケに人が少ないね」

「まぁ一応平日の昼間だしね」

 

 

その少年少女は、鈴木イチマルと一木ヒバナ。2人がバトルを行うのは実に数ヶ月ぶりであり、オーカミが来てから一度もしていなかった。

 

 

「そんじゃま、やりますかヒバナちゃん。今日こそはオレっちが勝ってやるぜ!!」

「ふふ、連敗記録を伸ばしてやるわよ」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

やる気に満ち溢れる2人のコールが響き渡り、バトルが開始される。

 

何の変哲もない、平凡で平和なバトルスピリッツ。このバトルがある悲劇に繋がってしまう事など、誰が予想できただろうか…………

 

 

 







次回、第33ターン「悲劇のアロンダイ」………





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第33ターン「悲劇のアロンダイ」

 

 

 

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

平日の昼間と言う事もあり、全く客のいないカードショップ「アポローン」…………

 

その中にあるバトル場にて、ややはねっけのある緑髪の少年、イチマルと、長い黒髪のツインテールを束ねる少女、一木ヒバナが、コールと共にバトルを開始する。

 

先攻はイチマルだ。オーカミ戦後に新しく練り直したデッキを回すべく、そのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ、先ずはいつものだ。仮面ライダーゼロワンを召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(1)BP2000

 

 

デッキを新しく練り直そうとも、彼の操るアーキタイプは変わらない。緑の戦士、ライダースピリットのゼロワンがその場へと姿を現す。

 

 

「手堅く来たわね」

「召喚時効果でコアブースト、ターンエンド」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV1

バースト:【無】

 

 

いつもの初動で手堅い先攻の1ターン目を終了したイチマル。そのターンをヒバナへと譲る。

 

 

[ターン02]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ……ネクサス、黄昏の暗黒銀河を配置」

 

 

ー【黄昏の暗黒銀河】LV1

 

 

ヒバナの初動はネクサス。彼女の背後で逆巻く銀河が、暗黒の中で輝く。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【黄昏の暗黒銀河】LV1

バースト:【無】

 

 

お互いに最初のターンを終え、第3ターンに突入する。

 

 

[ターン03]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ………オレっちは、ゼロワン フライングファルコンを召喚するぜ」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1(1)BP3000

 

 

上空から降り立ったのは、マゼンタカラーのゼロワン、フライングファルコン。その効果は3コストのスピリットにしては破格の効果を持ち…………

 

 

「召喚時効果でコアを1つずつ、トラッシュとゼロワンに追加。ゼロワンはこの勢いでLV2にアップだ!!」

 

 

イチマルは一気に2つのコアをブーストし、コアアドバンテージを大きく稼ぐ。

 

 

「………このターンも動かない、最後にバーストをセットして、ターンエンド」

手札:3

場:【仮面ライダーゼロワン】LV2

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1

バースト:【有】

 

 

ここまではいつもとなんら変わらない動きを披露するイチマル。このターンもエンドとし、ヒバナへとそれを譲った。

 

ヒバナは彼がいつ新しい動きをするのかを思考に入れつつ、ターンを開始する。

 

 

[ターン04]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ………引きも結構強いし、そろそろ動くわよ」

「え、早くない??」

 

 

このターンのドローステップでなかなか良いカードを引けた彼女。戸惑うイチマルを他所に、そのカードをBパッドへと叩きつけ、呼び出す。

 

 

「緑ゴモラをLV1で召喚!!」

 

 

ー【古代怪獣ゴモラ[初代ウルトラ怪獣]】LV1(1)BP7000

 

 

地中から飛び出して来たのは、三日月状の角を持つ大怪獣ゴモラ。赤属性と緑属性の2種類があるが、今回はその中でも汎用性の高い緑ゴモラが出陣だ。

 

 

「み、緑ゴモラ最速着地かよ……ヒバナちゃん容赦ねぇ」

「あったり前でしょ!!……一気に行くわよイチマル、アタックステップ、緑ゴモラでアタック!!」

 

 

勢いに乗ってアタックステップ、ヒバナは緑ゴモラにアタック宣言を送る。

 

そしてこの時、緑ゴモラには発揮できる効果がいくつか存在し………

 

 

「アタック時効果、ゼロワンを疲労させ、そうした時、ターンに一度回復する」

「!!」

 

 

走り出すゴモラ、その瞬間に張り上げる咆哮と共に吹き荒れる緑の風。それがイチマルのゼロワンの力を削ぎ、片足をつかせる。

 

 

「そしてもう1つの効果で、イチマルのバースト効果は発揮できず、コアを2つブースト、LV2にアップ!!」

 

 

緑の風はゴモラに力を与え、そのLVを上昇させる。BPは黄昏の暗黒銀河の効果と合わせて13000まで強化されており、とてもではないが、今のイチマルのスピリット達では太刀打ちができない。

 

 

「………フライングファルコン、ブロック頼む」

 

 

しかしここは敢えてブロックを宣言。両腕を翼に変え、フライングファルコンは緑ゴモラを迎え撃つが、3秒も経たずに尾を振るう攻撃で撃墜され、爆散してしまう。

 

 

「ま、そう来るよね。回復している緑ゴモラで再度アタック!!……その効果でコアを2つブーストし、LV3にアップ!!」

 

 

バトルに勝利した緑ゴモラが再びイチマルを襲う。

 

因みに前のアタックをライフで受けていれば、フライングファルコンは疲労効果の餌食となり、結果的により多くのライフ減少の損害を招く事となっていた。

 

 

「それはライフだ!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鈴木イチマル

 

 

「緑ゴモラのLV3の効果、コスト6以上のスピリットが相手ライフを減らす時、さらに1つのライフを破壊!!」

「!!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鈴木イチマル

 

 

緑ゴモラの角で突く攻撃と尾を振るう攻撃の二連続攻撃が、イチマルのライフバリアにヒット。合計2つが破壊され、残りは3つとなってしまう。

 

 

「ターンエンド。ほらほらどうしたイチマル、新デッキ組んで来たんでしょ?」

手札:4

場:【古代怪獣ゴモラ[初代ウルトラ怪獣]】LV3

【黄昏の暗黒銀河】LV1

バースト:【無】

 

 

「やっぱめっちゃ強ぇ、流石だぜヒバナちゃん………でもオレっちだって負けられない。強くなったとこ、見せちゃうもんね!!」

 

 

イチマルに己のエース、緑ゴモラの力を見せつけ、そのターンをエンドとするヒバナ。

 

だが、イチマルもずっと劣勢続けではいられない。状況を打破すべく、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ、ここらで新カードのお出ましと行きますかね……来い、仮面ライダーバルカン アサルトウルフ!!」

「!!」

 

 

ー【仮面ライダーバルカン アサルトウルフ】LV2(4)BP10000

 

 

遠吠えが聞こえて来る。狼のアギトの形をした緑のオーラが空を噛み砕き消滅すると、その中より群青の装甲を纏うライダースピリット、バルカン アサルトウルフが出現する。

 

それこそ、イチマルの新しい力の1つだ。

 

 

「これがイチマルの新しいライダースピリット!?」

「そうともヒバナちゃん、オレっちのデッキは常に進化し続ける、でもって、いつかヒバナちゃんの心を鷲掴みしてみせるぜ!!」

「キモッ!!」

 

 

ヒバナの反応に、イチマルは「酷い!!」とリアクションしながらも、直後にアタックステップへと移行する。

 

 

「気を取り直してアタックステップ。アサルトウルフでアタック、その煌臨アタック時効果を発揮!!」

「来た……」

「相手のスピリット2体を重疲労、緑ゴモラを寝かせてやれ」

「……!」

 

 

アタックステップの開始直後、アサルトウルフの胸部で輝く赤いコアのようなものが、より一層その輝きを増すと、それに合わせるように、ゴモラの周囲の重力だけが強くなり、ゴモラは地面に磔にされるように倒れ込んだ。

 

これこそ、アサルトウルフの効果。煌臨、アタックするたびに相手のスピリット2体を重疲労、つまり、二度の回復でようやく回復状態となる状態にする事ができる。

 

さらに、それだけではなくて…………

 

 

「まだまだ続くぜ、フラッシュ、アサルトウルフのLV2、3のアタックブロック時効果、ターンに一度、疲労状態の相手スピリット1体をデッキの下に戻す!!」

「え!?」

「と言うわけでヒバナちゃん、今重疲労させた緑ゴモラはデッキの下にさよならしてもらうよ!!」

 

 

倒れ込んだ緑ゴモラに、手に持つライフルで強烈な弾丸を放つアサルトウルフ。その弾丸の猛襲は、ゴモラの頑丈な皮膚を難なく貫き、粒子化へと追い込んだ。

 

ゴモラのカードは、ゲーム上戻って来づらいデッキの下へと送られる。

 

 

「………アサルトウルフのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉一木ヒバナ

 

 

ゴモラが消えた事で一気にヒバナとの距離を詰めたアサルトウルフ。今度はライフルではなく、堅固なその拳で、彼女のライフ1つを木っ端微塵に粉砕する。

 

 

「よっしゃぁ!!……一番厄介な緑ゴモラは倒せた、よくやったアサルトウルフ、ターンエンドだぜ」

手札:3

場:【仮面ライダーバルカン アサルトウルフ】LV2

【仮面ライダーゼロワン】LV2

バースト:【無】

 

 

劣勢からの立て直しに大きく貢献した新カード、アサルトウルフ。イチマルはそのスピリットに大きく感謝し、ターンを終える。

 

そして次は逆に劣勢に立たされることとなったヒバナのターンであるが…………

 

 

「あっはは、やるなイチマルのくせに。でも面白くなって来た………」

 

 

…………『このバトル、このカードで決める』

 

そう思い、ヒバナが目をやったのは、自分の手札にある「アグモン-勇気の絆-」のカード。

 

 

 

 

******

 

 

 

一方その頃、ここは界放市ジークフリード区にある病院の中で最も大きいとされる病院。

 

その病室の一室にいるのは、ここに1日だけ入院した経験のある、赤髪で小柄の少年「鉄華オーカミ」と、早美アオイの弟で、もう何年もここに入院している空色の髪色をした少年「早美ソラ」の2人…………

 

 

「わぁぁ!!……これがバルバトスルプスのカード、めちゃくちゃカッコいいね、効果も強い!!」

「うん」

 

 

ベッドに横たわるソラが手に持っているのは、オーカミの新しいエースカード「バルバトスルプス」…………

 

オーカミが入院して以来、仲良くなった2人。偶に連絡を取り合っていたのだが、最近、オーカミがバルバトスルプスを手にしたと話したら、ソラは『是非生で見たい!!』と言い出し、今のこの時間がある。

 

 

「そんな事より、体の調子はどう?」

 

 

オーカミがソラに聞いた。ソラはオーカミに「バルバトスルプス」のカードを返却しながら答える。

 

 

「それがさ、最近結構体軽いんだよね」

「軽い?」

「うん。このまま空まで飛べそうなくらい軽いよ、不思議だよね、今まで一度もそんな感覚になった事ないのに………オーカミと外でBパッドを使ってバトスピできる日も近いかもね」

 

 

誇張表現だろうが、取り敢えず、ソラが元気そうでよかった。オーカミはそう思考を過らせる。

 

ソラの病気がなんなのかはわからないが、担当医である「嵐マコト」から聞く限りだと、かなり重たい病なのは知っている。健康に向かってくれてるのならなによりだ。

 

 

「あ、そう言えば聞いてよ、今日ひょっとしたら…………」

 

 

ソラが思い出したように言いかけると、直後に病室の扉が開き、青く麗しい長い髪を持つ少女、モビル王の早美アオイが入室して来た。

 

その手には大きな花束を持っている事から、弟であるソラのお見舞いに来たのだろう。彼女のすぐ横には側近である黒スーツの青年「フグタ」も確認できる。

 

 

「姉さん!!」

「ソラ、久しぶりですね。いい子にしてましたか?」

「うん、もちろんさ。今日姉さんが来るって言うから、ずっと楽しみにしてたんだよ、またプロのバトルのお話をたくさん聞かせてよ」

「えぇ、もちろんです」

 

 

………『今日ひょっとしたら姉さんが来るかもしれない』

 

先程ソラが言いかけた言葉はこれだろう。

 

そんな彼とのやり取りを見る限り、大抵の人物は早美アオイの事を『弟思いの良き姉』だと称するに違いない。

 

だが、オーカミは知っている、彼女が自分の友達であるイチマルに、何をしたのかを……………

 

 

「そうそう、メールしたからわかるとは思うんだけど、最近界放リーグ準優勝者のオーカミと仲良くなったんだ!!」

 

 

オーカミとアオイ、おそらくどちらの事情も知らないソラ。何の躊躇も躊躇いなく、友達となったオーカミを姉に紹介する。

 

 

「あなたとも、界放リーグ以来ですわね、オーカミ君」

「…………どーも」

「うっふふ……不思議な縁ですね。まさかあなたがソラとお友達になるなんて」

「…………」

 

 

オーカミに対しても優しい笑顔を振り撒くアオイだが、オーカミはその優しそうな表情の裏側に、黒い何かがあると感じる。

 

 

「おいおい、何ダンマリしてるのさオーカミ。ひょっとして姉さんが美し過ぎて緊張してるな〜〜」

「してない」

 

 

何も知らないソラが、オーカミを茶化す。

 

正直、今すぐにでも早美アオイに飛び掛かって、イチマルに与えた「ゼノンザードスピリット」の事を問いただしたい所だが、ソラがいると話しづらい。

 

 

「ソラ君、今から定期健診の時間だよ〜〜って、アオイさんにオーカミ君も来ていましたか」

 

 

そんな折、病室に入室して来るのは、早美ソラの担当医の男性「嵐マコト」………

 

若々しい顔をしているが、こう見えて40越えの中年男性だ。

 

 

「ご無沙汰しております、先生。ほらソラ、先生が呼んでますよ」

「うん。お話は後で聞かせてね」

「もちろんです。いってらっしゃい」

「じゃあオーカミ、ちょっと行って来るよ」

「あぁ、頑張れ」

 

 

最後にそう告げると、ソラは担当医の嵐マコトと共にこの病室を去っていった。

 

残されたのは鉄華オーカミと早美アオイ、その側近であるフグタのみ。オーカミとアオイはお互いに言いたい事があるのか、顔を見合わせる。

 

 

「…………ゼノンザードスピリット」

「!!」

「あなたが私に問い詰めたいのはこれの事でしょう?」

 

 

ソラに見せていた優しい仮面を外し、アオイはその黒い本性を表す。

 

どうやらオーカミが「ゼノンザードスピリット」に対してある程度知っている事もわかっている様子。

 

 

「イチマルの言ってた通り、やっぱりあのカードはアンタが」

「えぇ、そうです。ゼノンザードスピリットはその強力な力の代償として、憎悪や憎しみを増幅、暴走させてしまう特性がある。イチマル君も大方それに当てられたのでしょう」

「ふざけんな、当てられるのを知っててアンタが渡したんだろ」

 

 

まるでイチマルに与えたのは「ゼノンザードスピリット」と言う名の力だけで、そのリスクに陥る事は想定していなかったかのような言い方に腹を立て、オーカミは静かにその胸の内側にある怒りをぶつける。

 

 

「………まぁいいや、アンタが裏で何をやっていようと、オレには関係ない。でも、二度とオレの仲間や友達に関わるな」

 

 

鋭い眼光でアオイを睨みつけるオーカミ。だが、アオイはそんな彼の言葉を嘲笑うかのように…………

 

 

「うっふふ、怖い怖い。でも、それはできない相談ですね」

「ッ……なに!?」

 

 

そう告げた。それはつまり、これからも、オーカミやその身の回りの人物達に危害を加えると意味、宣言に等しい。

 

 

「あの一木花火の娘、一木ヒバナさん。あの子が持っている「アグモン-勇気の絆-」って言うカード…………アレ、あげたの私なんですよね」

「勇気の絆を、アンタが………ッ」

 

 

事実を教えられ、ヒバナの持つ勇気の絆のカードを思い出す。

 

あの時、準決勝でレオンとヒバナがバトルした時に一度見た時だ。確かに不気味な気配をそのカードから感じた。

 

そして、それが早美アオイからのカードと言うのなら…………

 

 

「相変わらず勘が良いですね。そう、ヤクーツォークだけじゃない、既に種は植えてあります、後は発芽を待つのみ」

「オマエ………!!」

 

 

イチマルだけじゃない。既にヒバナにも手を出していた事実を知り、オーカミの怒りは頂点に達する。

 

姉であるヒメに「女の子を傷つけてはダメ」だと教わっていたが、あまりの卑劣さに思わず拳を振るう。しかし、アオイの側近であるフグタがそれを掌で受け止めた。

 

 

「………いけませんわね。カードバトラーなら拳じゃなくてカードで語らないと」

「黙れ。なら今ここで、オマエはオレが潰す」

「私を倒しても意味なんてありませんよ。そんな事よりいいんですか?……私の情報源によれば、今頃ヒバナさんはイチマル君とアポローンでバトスピしている頃かと」

「!!」

「うっふふ、早く行かないと大変な事になるかもしれませんね〜〜」

 

 

思慮深さと不気味さを感じさせる笑顔を見せながらそう告げる早美アオイ。悔しいが、少なくとも今は彼女の言う通りである。

 

オーカミが一刻も早くやらないといけない事は、彼女を倒す事ではなく、ヒバナに「勇気の絆のカードは危ない」と伝える事だ。

 

 

「…………」

 

 

それを瞬時に理解したオーカミは、すぐさま病室を抜け出し、走り去って行く。

 

 

「フグタ、これで間違いなく最後の赤のゼノンザードスピリットが覚醒する。もうすぐ、もうすぐで6枚全てが揃う…………」

 

 

アオイが側近であるフグタに告げた。その笑みからはまた不気味さを感じさせるが、同時に余裕の無さも感じられて………

 

フグタは少し間を置き、彼女に返答する。

 

 

「………なぁお嬢。ここまで来て言うのもなんだがよ…………本当にこれでいいのか?」

「は?……何を今更、なんでそんな逃げ越し言うのよ。全てはあの子のため、6体のゼノンザードスピリットの戦闘データさえ手に入れば、Dr.Aがあの子の病気を治してくれるのよ!?」

「…………」

「そしたらまた3人で一緒に暮らせる。それだけが私の願いなの。そのためなら、他の人なんてどうなったっていい」

「………あぁ、そうだな」

 

 

目標が目前にまで到達したこの頃。主人であるアオイがやや暴走気味になっている事に、彼女を最も近くで見ているフグタが気づかないわけがない。

 

自分ではもうどうしようもない所まで来てしまった罪悪感と、止めれる立場にいながらアオイを止めてあげられなかった後悔の気持ちが交差し、彼はただ、その場で拳を固く握り締めた。

 

 

******

 

 

舞台は戻り、アポローンのバトル場にて、イチマルとヒバナのバトルスピリッツが続く。

 

イチマルの猛反撃により、緑ゴモラを失ってしまったヒバナだが、彼女の手にはまだエースの1体である「勇気の絆」のカードがあって…………

 

 

[ターン06]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ………緑ゴモラを倒したからって調子に乗らないでよねイチマル!!……私のデッキにはまだまだたくさん強いスピリットがいるんだから!!」

「よし、どこからでもかかって来いヒバナちゃん!!」

 

 

どこまでも平和的で、どこまでも普通の、何気ないバトルスピリッツ。

 

だが、そんな平凡は唐突に終わりを迎える…………

 

 

「!!」

 

 

突如、ヒバナの手に持つカードが赤い輝きを放った。そのカードの名は「アグモン-勇気の絆-」……………

 

 

「え、ヒバナちゃんのカードが光った!?」

「こ、これって………!?」

 

 

突然カードやデッキが発光し、進化する現象「オーバーエヴォリューション」…………

 

一瞬だけそれではないかと頭を過ぎるヒバナだったが…………

 

実際には、そんな奇跡的なモノではなくて。

 

 

「ッ………き、キャァァァァァ!?!」

「ヒバナちゃん!?……どうした、ヒバナちゃん!!」

 

 

赤い光はやがて赤い稲妻となり、ヒバナを襲い始めた。

 

もがき苦しむ彼女を他所に、勇気の絆のカードはみるみるうちに変化を成していく……………

 

そして、合計はほんの十数秒だったか、赤い稲妻の迸りは収まり、ヒバナは無言で自分のBパッドの盤面と手札、もとい変化したカードを見つめる。

 

 

「ひ、ヒバナちゃん………おい、ヒバナちゃん!?」

 

 

見た事もない現象に戸惑い、怯えた声を震わせながら、イチマルがヒバナの名を叫んだ。

 

すると、ヒバナは虚な眼光を彼へと向けて…………

 

 

「………ヒバナ………そう、私は一木ヒバナ。あの『一木花火』の一人娘。誰にも負ける事は許されない」

「………え」

「そうだ。私はもう、鉄華オーカミにも、獅堂レオンにも、誰にも負ける訳にはいかないんだァァァァァァァ!!!」

 

 

バトル場に響き渡るのは、まだ中学生の少女が放つとは思えない程の怒号。

 

状況が飲み込めないイチマルは、ただその場で唖然とする事しかできない。

 

 

「な、なな何を言ってんだよヒバナちゃん………いったいどうしたって」

「私は、勇気の絆が変化したこのカードを召喚する!!」

「!?」

 

 

唐突にバトルへと戻り、ヒバナは何かに向ける怒りのままに、勇気の絆が変化したそのカードを己のBパッドへと叩きつける。

 

すると、上空から赤い稲妻が唸り、フィールドへと落雷する。

 

 

「司るは赤。全てを砕く、鳴動の要塞………ゼノンザードスピリット「オリジンズ02」アロンダイ………LV2で召喚!!」

「ッ……ゼ、ゼノンザードスピリット!?」

 

 

ー【「オリジンズ02」アロンダイ】LV2(3)BP12000

 

 

落雷した赤き稲妻の先に出現したのは、要塞を思わせる形容をした、ゴーレム。赤のゼノンザードスピリット「アロンダイ」…………

 

緑のゼノンザードスピリットであるヤクーツォーク程ではないが、ライダースピリットであるゼロワンやバルカンを見下ろす程度にはそのサイズは巨大である。

 

さらにその身体の節々から零れ溢れる闇のエネルギーが、ヒバナの周囲にまとわりつく。イチマルの時と同様、まるでゼノンザードスピリットに心を支配されているかのように見える。

 

 

「ヒバナちゃんがゼノンザードスピリットを!?……なななんで、どう言う事だ!?!」

 

 

ヒバナなの豹変ぶりと赤のゼノンザードスピリットの登場。

 

イチマルを驚愕させ、困惑させ、怯えさせるにはあまりにも十分すぎる内容であった。

 

 

「アロンダイの召喚時効果、自分のデッキを上から2枚を裏向きでフィールドへ、さらにトラッシュのコア1つずつをそれに置き、永続的にBP1000、赤シンボルが1つのスピリットとして扱う」

「ッ……スピリット展開効果!?」

「来なさい、オリジンズ!!」

 

 

ー【オリジンズ】LV1(1)BP1000

 

ー【オリジンズ】LV1(1)BP1000

 

 

アロンダイはその両手を大地へと伸ばし、体内に眠るマグマの力をそこへと注ぎ込む。

 

すると、熱された大地の中よりアロンダイによく似た小型ユニットが一気に2体展開される。

 

 

「アタックステップ………消し炭になりなさい。アロンダイでアタック、その効果でこのターンの間、自分のスピリット全ては相手にブロックされた時、相手ライフ1つを破壊する」

「な………じゃあアロンダイだけじゃなくて、呼び出された小型のスピリットをブロックしてもライフが飛ぶのかよ!?」

 

 

困惑するイチマルを他所にアタックステップへと移行するヒバナ。最初にアタックの指示を受けたのは、ゼノンザードスピリット、アロンダイ。その効果により、このターンの間、イチマルはブロックした瞬間にそのライフが1つ破壊される事となる。

 

つまり、少なくともアロンダイがアタックするターン、ほぼ全てのブロックは無駄になると言う意味に等しい。

 

 

「フラッシュマジック、ファイナルエリシオン」

「!!」

「シンボル1つのスピリット、アサルトウルフを破壊」

 

 

追い討ちを掛けるように赤の除去マジック。聖なる盾より放たれる一筋の光線がアサルトウルフを貫き、爆散させる。

 

そしてアロンダイのアタックは尚も続き…………

 

 

「………ブロックはしない。そのアタックはライフで受ける」

 

 

ブロック宣言などができるわけもない、困惑しつつもライフで受ける宣言をするイチマル。これは間違いなく最善の一手である。

 

だがしかし…………

 

 

「ぐっ…………ぐっ、ぐぁぁあ!?!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鈴木イチマル

 

 

アロンダイが両手でイチマルのライフバリア1つを豪快に握り潰すと共に、イチマルに激痛が走り出す。

 

神経が抉れてしまうような感覚に、彼は思わずその場で片膝を曲げた。

 

 

「い、いてぇ………これがゼノンザードスピリットの一撃!?」

 

 

………『オレっちはこんな痛みをオーカミに与えてたって言うのかよ………!!』

 

立ち上がると同時に、自分がオーカミにしてしまった事への罪悪感が募って行く。

 

 

「ライフ減少後のバースト、絶甲氷盾!!」

「!!」

「効果でライフ1つを回復し、コストを支払ってこのターンのアタックステップを終了させる!!」

 

 

〈ライフ2➡︎3〉鈴木イチマル

 

 

イチマルがセットしていたバーストを勢いよく反転させる。

 

そのカードは最も汎用性の高い白の防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」…………

 

それにより、イチマルのライフバリアは1つ回復し、ヒバナのこのターンのアタックステップを強制的に終了させた。ブロックされようが問答無用でライフを破壊するアロンダイの効果も、アタックステップそのものがなくなって仕舞えば怖くない。

 

 

「………ターンエンド」

手札:3

場:【「オリジンズ02」アロンダイ】LV2

【オリジンズ】LV1

【オリジンズ】LV1

 

 

「なんでヒバナちゃんがゼノンザードスピリットを手にしたのかは全然わかんねぇけど、やる事は1つ。オーカミがオレっちにしてくれた時みたいに、バトルで勝つだけだぜ!!」

 

 

与えてしまった痛みを知り、己の感情に渦巻いていた困惑と恐怖を断ち切ったイチマル。

 

デッキを試すバトルとは打って変わり、勝って取り戻すためのバトルへと身を投じる。

 

 

[ターン07]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ………先ずはスピリットを展開しない事には話にならねぇ、オレっちは2体目のゼロワンを召喚!!」

 

 

イチマルのフィールドには3コストでBPも低いライダースピリット「ゼロワン」しか存在しない。

 

心許ないフィールドに更なる仲間を呼び出そうと、手札のカードをBパッドへと叩きつけるが……………

 

彼のBパッドは反応せず、フィールドには何も召喚されなかった。

 

 

「はぁ!?……え、なになに、なんなですか、まさか故障!?!……嘘だろこんな時に!?」

 

 

また慌てるイチマル。

 

だが、この現象は決して彼のBパッドが故障したからと言う理由ではなくて…………

 

 

「赤のマジック「ファイナルエリシオン」は、破壊に成功した時、次の私のスタートステップまで、あなたはコスト3、4、5のスピリットカードを手札から召喚できない」

「ッ………マジかよ」

 

 

………『オレのデッキは大半がコスト3と4。これじゃこのターンは何もできねぇ………!?』

 

ヒバナが「ファイナルエリシオン」の隠された効果を告げる。基本的に【チェンジ】を軸としたライダースピリットのデッキを使用するイチマルにとって、入れ替えの起点となるコスト3、4、5のスピリットらを展開できなくなるのは、かなり辛い。

 

 

「くっ………ちっくしょう…………ゼロワンにコアを追加して、ターンエンド」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV2

バースト:【無】

 

 

結局何もできず、苦渋のエンド宣言。殆どターンスキップのような扱いとなる。

 

ターンは再びアロンダイに意識を飲み込まれたヒバナへと巡り、さらに絶望的な状況が重なっていく…………

 

 

[ターン08]一木ヒバナ

 

 

「メインステップ………マジック、ファイナルエリシオン」

「な、2枚目!?!」

「効果でゼロワンを破壊し、もう一度手札に同じ規制を掛ける」

 

 

まさかの2枚目となるファイナルエリシオン。

 

出現した聖なる盾の中心部より放たれる一筋の光線が、今度はゼロワンを撃ち抜き、爆発させる。

 

 

「くっ………でも、ゼロワンは相手の効果によってフィールドを離れる時、コアブーストしながら疲労状態で残る」

 

 

爆発はしたものの、爆散はしない。ゼロワンは片膝を地面に置きながらも、ファイナルエリシオンの光線を耐え抜いて見せた。

 

 

「だけど、召喚制限効果は適応される。これで次のターンもあなたは召喚ができない」

「……!」

「もっとも、このターンで終わるけど」

 

 

その声にはもう以前のような温かみなど残ってはいない。ヒバナは何者をも凍てつかせてしまうような冷たい声色でラストターンを宣言する。

 

 

「アタックステップ……アロンダイでアタック、その効果でこのターンもブロックされた瞬間にライフ1つを破壊する」

「ぐっ………!!」

 

 

再びアロンダイが突き進む。この瞬間に、ヒバナのスピリット全てはまたしても効果を獲得。

 

イチマルがどうにかしてブロックしようとも、最低でも合計3回のアタックでゲームセットとなる。

 

 

「このアタックはライフで受ける…………ぐっ、ぐぁぁあ!?!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鈴木イチマル

 

 

アロンダイがその岩でできた大きな両拳でイチマルのライフバリアを粉々に握り潰す。

 

イチマルはそれに伴ってやってくる激痛に、悲痛な叫びを上げながらもなんとか耐え抜く。

 

 

「続け、オリジンズ」

 

 

容赦のないヒバナの第二撃。今度はアロンダイの効果で呼び出された分身「オリジンズ」…………

 

2体いる内の1体がアロンダイの轍を踏み、イチマルの元へと突き進む。

 

 

「うぉぉぉぉ……耐えろ耐えろ、今1番キツいのはオレっちじゃない、ヒバナちゃんだろうが…………ここで廃れるなら男じゃねぇ!!」

 

 

負け時と全力で己を鼓舞し、立ち上がれた言い聞かせるイチマル。直後に手札から1枚のカードを抜き取り、それをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「フラッシュチェンジ!!……ゼロワン フライングファルコン!!」

「!」

「チェンジ効果により、アタックしていないオリジンズを疲労させ、効果発揮後にゼロワンと回復状態で入れ替える!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン[2]]】LV2(7)BP6000

 

 

吹き荒れる突風が、アタックしていない方のオリジンズを疲労させる。

 

さらにイチマルのフィールドでは、片膝を地につけたゼロワンが、プログライズキーと呼ばれる長方形のアイテムをベルトに装填。

 

緑色の通常のゼロワンから、マゼンタカラーのフライングファルコンとなり、さらに回復状態となり、立ち上がった。

 

 

「これで頭数は足りねぇ!!……ブロックしろ、フライングファルコン」

「だけどアロンダイの効果は顕在。ブロックした瞬間、ライフ1つを破壊する」

「ぐっ………!?」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鈴木イチマル

 

 

「だけど、BPはこっちが上だぜ!!」

 

 

イチマルのブロック宣言の瞬間にライフバリアが1つ砕けるが、彼はその痛みになんとか耐える。

 

フィールドではフライングファルコンとオリジンズが取っ組み合い、やがてフライングファルコンがオリジンズを抱き抱えながら飛翔。そのまま地面へと叩き落とし、爆散させる。

 

 

「ターンエンド。しぶとい………早くそこを退きなさいよ。私はこれからももっと多くの勝利を掴み取らないといけないの、勝たないといけないの、一木花火の一人娘として」

手札:3

場:【「オリジンズ02」アロンダイ】LV2

【オリジンズ】LV1

バースト:【無】

 

 

イチマルの時と同じ、ゼノンザードスピリットの影響によってかは定かではないが、己の内側にある心の闇を吐露するヒバナ。

 

自分とは比べ物にならない程に、大きな劣等感を抱えて生きていた彼女の事を知っているイチマルは…………

 

 

「………オレっちの知ってるヒバナちゃんは、もっと強くてかっこいいぞ。おいデカブツ野郎、いい加減ヒバナちゃんから離れねぇとこのイチマル様が黙ってねぇぞ!!………必ずヒバナちゃんを取り戻す!!」

 

 

ヒバナではなく、アロンダイへと怒りをぶつける。

 

心の弱さがあるのはヒバナとて同じである事は理解している。当然、今のヒバナが告げた事が本心である事もだ……………

 

だが、何の脈略もなく出て来て、勝手に人の心を晒し出し、挙げ句の果てには傷つけ合わせる。そんな鬼畜の所業に、イチマルはブチ切れる。

 

 

「オレっちのターン!!」

 

 

自分の知っている、一木花火の一人娘だからと言う大きなプレッシャーにも押しつぶされない、強いヒバナを取り戻すべく、イチマルはそのターンを進めていった…………

 

 

[ターン09]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ………」

「ファイナルエリシオンの効果により、あなたはこのターンも、コスト3、4、5のスピリットカードを手札から召喚できない」

「そんなの言われるまでもないぜ。今の手札に対抗策がないなら、引き直すまでだ…………オレっちは仮面ライダーゼロワン メタルクラスタホッパーのチェンジ効果を発揮!!」

 

 

イチマルが使用したのは、大型スピリットの【チェンジ】効果。

 

【チェンジ】は入れ替える効果なので、ファイナルエリシオンの「召喚できない効果」に引っかからない。

 

 

「効果により今ある手札を全て破棄。そうしたとき、相手の手札1枚つき1枚を引き直す………今のヒバナちゃんの手札は3枚。よって3枚のカードをドローするぜ!!」

 

 

手札にある4枚のカードを破棄し、デッキから新たに3枚のカードをドローしていく…………

 

イチマルは恐る恐るそのカードらを視認していき…………

 

 

「よ、よし!!………この効果発揮後、入れ替えだ」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン メタルクラスタホッパー】LV3(7)BP16000

 

 

その光景はまさに白銀の嵐と言った所か、無数の鋼のバッタの群れが宙を飛び交い、フライングファルコンに装着されていく。

 

こうして新たに誕生したのは、ゼロワンの強化形態、ゼロワンメタルクラスタホッパー。その名の通り、鋼鉄のゼロワン。

 

 

「んでもって行くぜ!!………オレっちが手にした、オレっちだけの新しいエースカードを!!」

「!」

「【煌臨】発揮!!対象はメタルクラスタホッパー!!」

 

 

メタルクラスタホッパーのチェンジ効果で引き込んだカードは煌臨の効果を持つカード。それも、イチマルが新たなエースカードとしてデッキに投入した1枚。

 

フィールドにいるメタルクラスタホッパーは、己の身を眩い光へと包み込み、その中で姿形を大きく変化させて行く…………

 

 

「今こそ自分自身を変える、超える!!………仮面ライダーゼロツーをLV3で煌臨!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロツー】LV3(7)BP20000

 

 

やがて完全に形を整えると、メタルクラスタホッパーだったそれは、その身の眩い光を振り払い、ゼロワンの進化形態ゼロツーの姿を顕にする。

 

これこそまさに、イチマルの新たなエースカードにして、切り札。

 

 

「ゼロツー……ゼロワンじゃない……!?」

「あぁ、でもゼロワンとして扱う効果を持ってる。最高の相棒は、限界を超えて最強の進化を遂げてくれた。オレっちも絶対にこのバトルで自分の限界を超えて見せる!!……アタックステップだ!!」

 

 

ヒバナはゼロワンではなく、ゼロツーと言う新たなエースカードの登場に戸惑う。

 

そんな彼女を救うべく、イチマルはアタックステップへと突入する。

 

 

「ゼロツーでアタック!!……その効果でアロンダイを重疲労させることで回復!!」

「ッ……スピリットを重疲労させつつ回復!?」

 

 

イチマルの指示で動き出し、攻撃を仕掛けるライダースピリットゼロツー。高く跳び上がり、アロンダイを踏みつけにし、そのまま踏み台の要領でさらに高く大ジャンプする。その様はまさに大サーカス顔負けの曲芸。

 

踏みつけられたアロンダイは重疲労状態となり、地面へと這いつくばった。

 

 

「さらにゼロツーはダブルシンボル、ライフを2つ破壊する!!」

「………ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉一木ヒバナ

 

 

跳び上がったゼロツーの飛び蹴り攻撃がヒバナなのライフバリアに突き刺さる。それらは一気に2つ破壊され、残りの数もそれと同等になる。

 

 

「追撃だゼロツー!!……その効果で今度はオリジンズを重疲労させて回復!!」

「くっ………なぜ」

 

 

再び跳び上がるゼロツー。アロンダイの分身であるオリジンズが踏み台となり、それをさらに高く舞い上がらせる。

 

そして、このダブルシンボルのアタックに、ヒバナは打つ手が残っていなくて……………

 

 

「なぜ………なんで………私は、一木花火の娘なのに、なんで勝てない」

 

 

おそらく心の奥深くに眠っていたであろうヒバナの可能と悩みの根源。

 

ゼノンザードスピリットのせいで剥き出しになってしまったその感情ごと、イチマルのライダースピリット、ゼロツーが蹴り壊す……………

 

 

「うぉぉお!!……ゼロツービックバン!!!」

「!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉一木ヒバナ

 

 

ゼロツーは爆発のエネルギーを右足に溜め込み、ライフバリアを蹴り壊す際に、それを一気に放出する。

 

これまでのイチマルのバトルスピリッツが全て詰まったその一撃に、ヒバナなのライフバリアは耐えられず、粉砕。その数は遂に0となる。

 

彼女のBパッドから敗北を告げるように「ピー……」と言う機械音が鳴り響くと共に、フィールドに最後まで残ったアロンダイは、分身であるオリジンズ共々、もがき苦しみながら消え去って行く…………

 

 

「か、勝った………勝てた」

 

 

己が夢にまで見たヒバナへの勝利を実感していき、その身に高揚感が込み上げて来るが、視界に倒れるヒバナを目にした途端、ハッとなって彼女の元へと慌てて駆け出した。

 

 

「ひ、ヒバナちゃん!!」

「い……イチマル?」

「おうそうだオレっちだ!!……見たかよ、今日遂に勝ったぜヒバナちゃんに!!」

 

 

立つ力も残ってないヒバナ、イチマルの腕に抱かれながら、掠れた弱々しい声を上げる。

 

対してイチマルは心配ないよと言わんばかりに、大きな声で虚勢を張る。

 

 

「はは、まさかあんたに負けちゃう日が来るなんてね……………仕方ない、約束通り、今度デートしてあげるわよ」

「おぉよっしゃ!!……念願成就したぜ、どこに行こっか」

 

 

イチマルがヒバナに聞いた。本当はどこでもいいし、正直今はデートなんかよりヒバナなの体調の方が心配だったが、ここで笑ってやらねば男が廃ると言う思いから、涙を堪えて彼女に話を合わせる。

 

そしてヒバナは今にも消えそうな声で…………

 

 

「そう………ね。また今度………決め、ましょ………」

 

 

最後にそう告げると、ヒバナは瞳を閉じ、ゆっくりと深い眠りについた。

 

まるで死んだように動かなくなってしまった彼女を見るなり、イチマルは血相を変える。

 

 

「おいヒバナちゃん??……おい、なぁおいって!?……ヒバナちゃん!?!」

 

 

軽く肩を揺らし、必死に何度も呼び掛けるが、一向に目を覚ます気配を見せない。

 

 

「どうなってんだよおい、バトルには勝ったじゃねぇか!?……なんでだ、なんでだよォォォォォォォォォォォォオ!!!!」

 

 

直後、その悲しい叫びに反応するかのように、オーカミと、彼から話を聞いたヨッカがアポローンのバトル場へとようやく足を踏み入れるが、時すでに遅し…………

 

おそらく「勇気の絆」のカードから変化したゼノンザードスピリット「アロンダイ」の影響により、一木ヒバナは深い眠りについてしまっていた。

 

ヒバナと親しい者ならば、誰もが悲しみに暮れるであろうその悲劇。だが、それはまだ始まったばかりである……………

 

 






次回、第34ターン「激昂の武士道、白き荒獅子ヴァイスレーベ」


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第34ターン「激昂の武士道、白き荒獅子ヴァイスレーベ」

デジタルスピリットカード「勇気の絆」

 

早美アオイが一木ヒバナへと与えたそのカードの正体は「ゼノンザードスピリット・アロンダイ」と言う、絶大な力を得る代わりに、憎悪などの負の感情を昂らせる悍ましい悪魔の魔道具であった。

 

それを使用した一木ヒバナは、イチマルとのバトル後に意識を失い、病院へと搬送される事となった。

 

 

******

 

 

 

ここは界放市ジークフリード区の中で最も大きな病院。そこにある医務室にて、みんなの兄貴分である青年「九日ヨッカ」と、医者で、年齢の割に容姿が若々しい「嵐マコト」が、神妙な面持ちで対面していた。

 

その内容は、突然意識不明の重体に陥ってしまったヒバナについてであり……

 

 

「それでマコト先生、ヒバナは今、具体的にどう言う状況に陥っているんですか」

 

 

ヨッカの素朴な質問に対し、嵐マコトが答える。

 

 

「ヒバナさんは今、所謂植物人間、わかりやすく言うと『眠り続けている状態』と言った所でしょう」

「植物、人間」

「余程辛い事があったのでしょう。肉体的、精神的双方で辛い目に遭わない限り、持病持ちでもない彼女がこれに陥る事など、先ずあり得ませんから」

「……治るんですか?」

「わかりません。力不足で大変申し訳ないのですが、こればかりは彼女自身の生命力に委ねるしかありません」

「そう、ですか」

 

 

ヨッカは何もできない悔しさと、早美アオイ、Dr.Aとのいざこざにヒバナを巻き込んでしまった事に対する嫌悪感と罪悪感、どうしようもなく込み上げてくる己に対する怒りを飲み込むかの如く、その拳を固く握りしめる。

 

 

******

 

 

舞台は少しだけ変わり、同病院の入院室。差し込んで来る夕方のオレンジの日差しが、ベッドで横たわるヒバナの顔を照らし出す。

 

そして、そのすぐそばには、涙を流すイチマルと、こんな状況だと言うにもかかわらず、無表情で黙って突っ立っているオーカミがいて………

 

 

「ぐっ、ぐっぉぉぉお……なんで、なんでこんな事になってんだよ。ヒバナちゃん、頼むから目を開けてくれよ!!」

「………」

 

 

今日行われたイチマルとヒバナのバトル。あの中でヒバナの持つ「勇気の絆」のカードが何故かゼノンザードスピリットへと変貌し、彼女の性格も豹変。

 

ゼロツーの力もあり、辛うじてイチマルが勝利するものの、ヤクーツォークの時とは違い、ヒバナはまるで死んでしまったように意識を失ってしまった。

 

ただ泣く事しかできないイチマルを他所に、全ての元凶を知っているオーカミは、眉を顰め、険しい顔つきを見せる。

 

 

「イチマルのせいじゃないよ」

「でも、でもよぉ」

「ここで泣くのは多分、ヒバナに失礼だ」

 

 

バトルに勝ったイチマルがしていい表情ではない。そう思い、オーカミがイチマルに告げる。

 

だが、イチマルの涙はそれでも止まらないし、止められない。

 

 

「よぉ、オマエら」

「アニキ」

 

 

病室の扉を開けたのは、他でもないヨッカ。ついさっき、この病院のドクターである「嵐マコト」にヒバナの容態に関する事を聞いて来た所だ。

 

 

「アニキ、ヒバナはどうなんだ、治るの?」

 

 

オーカミがヒバナの事についてヨッカに訊いた。彼は軽く首を横に振り、答える。

 

 

「残念だが、天下のお医者様でも、それはわかんねぇみたいだ」

「………」

「そ、そんな……ヒバナちゃん」

 

 

追い討ちを掛けるような通告。増していく悲しさと切なさの中、ヨッカは「だがよ」と告げて…………

 

 

「きっとヒバナなら大丈夫だ。そう簡単にくたばるような奴じゃねぇ。それはオレも、オマエらもよく知っているはずだぜ」

 

 

元気付けようと、今尚も戦い続けているヒバナを信頼してもらおうと、優しく語り掛ける。

 

一見普通の好青年に見えるが、ヨッカとは不思議な男で、彼の言葉には何故か安心感を得られる物がある。さっきまで泣いてばかりだったイチマルも、今では知らずのうちに落ち着きを取り戻している。

 

これも元モビル王・Mr.ケンドーが持つカリスマ性といった所か。

 

 

「そういやイチマル。オーカからだいたいの事情は聞いたぜ。ゼノンザードスピリットだったっけか?………大変だったな」

「あぁ、いや、そんな事ないっすよ」

 

 

ヨッカが話題を少し逸らし、イチマル、ヒバナに危害を加えたゼノンザードスピリットの話とする。

 

同時に、ヨッカは着用している店用の赤いエプロンのポケットの中からある1枚のカードを取り出す。それこそ、元凶である赤のゼノンザードスピリット「アロンダイ」であり………

 

 

「これはヒバナのゼノンザードスピリット。イチマル、悪いがオマエが持ってるって奴もオレに貸してくれないか?」

「え、あ、はいっす」

 

 

イチマルはその言葉に戸惑いながらも、デッキケースに入っているヤクーツォークを取り出し、ヨッカに手渡した。

 

 

「ありがとよ、イチマル」

「何に使うの?」

 

 

オーカミがヨッカに訊いた。それに対し、ヨッカは病室を退室しようと、病室の扉の前まで歩むと、答える。

 

 

「状況から考えて、原因はどう考えてもこのカード達だからな。なぁに、ちょいと調べて来るだけさ、心配すんな」

「………」

 

 

ヨッカは最後にそれだけ告げると、ヒバナなの病室を後にした。

 

 

ー………

 

 

その後彼は急足で病院からも出ると、Bパッドを取り出した誰かの電話を繋げる。

 

 

《九日か、どうしたこんな遅くに》

「アルファベットさん」

 

 

通話の相手は、界放警察の警視「アルファベット」

 

サングラスを掛けた茶髪の青年であり、その殆どが謎に包まれている事でも有名。そんな彼と知人であるヨッカは、意を決して、ある事を告げる。

 

 

「悪いけど、オレは1人で早美邸に乗り込みます」

《なに?》

 

 

2人の追っている人物、悪魔の科学者「Dr.A」

 

その彼が早美アオイの住居である早美邸に潜んでいるのではないかと言う推測の下、2人で早美邸へ乗り込むと言う計画を少しずつ進めていたのだが、アルファベット側が未だその準備を完了できていないと言うにもかかわらず、ヨッカは今から自分1人だけでそこへ行くと告げたのだ。

 

Dr.Aがいるかもしれない以上、どんな危険が待ち伏せしているのかもわからない、1人で乗り込むのは、余りにも無謀が過ぎる。

 

 

《何か策でもあるのか》

「そんなものはないです」

《………無策か、ならやめとけ。何が起こるかわからんぞ》

「何が起こるかわからない??………知らないですよそんな事、こっちは身内が巻き添えになってんだ。もう黙って見過ごす事なんてできねぇ……!!」

《………九日、オマエ何があった》

 

 

オーカやイチマルの前では平然と振る舞っていたが、本当は早美アオイやDr.Aに対して怒り心頭だったヨッカ。

 

この煮え繰り返ったはらわたは、もう彼らを倒さなければ抑えられない。

 

 

「ゼノンザードスピリット」

《……なんだそれは》

「オレも知りません。でも多分、アイツが、Dr.Aが作ったものです」

《!!》

「一応、調べといてください。それじゃ」

《おい待て九日、まだ話は終わって》

 

 

終わってないぞと言い切る前に通話を切る。そしてヨッカは2枚のゼノンザードスピリットを握り締め、諸悪の根源が蔓延っているであろう拠点『早美邸』へと歩みを進めるのであった…………

 

 

 

******

 

 

 

陽の光が完全に消え去った夜。残暑が散り、やや涼しくなって来る時間帯。

 

直径で言うと、大体200メートル程か、それ程にまで広大で雅やかな庭園を持つ豪邸『早美邸』…………

 

その中にある一室にて、早美アオイはただ1人、高そうな座椅子に腰を下ろし、高貴な紅茶を啜っていた。その頭の中にあるのは、常に「ゼノンザードスピリット」と、弟である「早美ソラ」のみ………

 

そんな折、部屋の扉からノックされる音が聞こえて来る。アオイはノックのリズムやテンポで、扉の前にいるのが誰かわかった。

 

 

「なにフグタ、紅茶はまだ枯れてませんわよ?」

 

 

ノックをしたのは、アオイの側近である青年「フグタ」だ。

 

 

「こんな時間だが、お嬢に来客だ。対応してくれ」

「………成る程、そう言う事ね」

 

 

アオイはフグタのその言葉だけで全てを察すると、すぐさまBパッドとデッキだけを持ち、部屋を出た。

 

 

ー………

 

 

ここは早美邸修練場。

 

早美邸の地下に存在し、主に早美アオイがバトルの修練を行うために作られた。もっとも、モビル王となった今では余り使われてはいないが…………

 

 

「早美邸へようこそ、九日ヨッカさん」

「……よう」

 

 

反響しやすいこの場で対面しているのは、早美アオイと九日ヨッカ。フグタが言っていた「来客」とは、ヨッカの事で違いないのだろう。

 

いつもは女性相手なら笑顔を絶やさない彼だが、今日はそんなそぶりすら見せず、終始仏頂面である。

 

 

「いえ、この場ではMr.ケンドーとお呼びした方がよろしいのでしょうか。こんな遅くに、いったいどうななさったんですか?」

「…………」

 

 

その向けられる笑顔、丁寧な口調の全てが、ヨッカにとっては煽りのようにしか思えない。

 

既にその整った顔立ちが崩れるまでぶん殴ってしまいたい所だが、彼ははやる気持ちを抑え、僅かに震える手で2枚のゼノンザードスピリット「ヤクーツォーク」と「アロンダイ」を取り出し、彼女へと投げ渡した。

 

 

「ッ……おやおや、これはイチマル君にあげたヤクーツォークのカード。そしてこっち方は………うっふふ、わざわざ返却しに来てくれたのですね、ありがとうございます」

 

 

アロンダイのカードを見るなり、アオイは計算通りだと言わんばかりに、先程よりもさらに不気味な笑顔を浮かべる。

 

 

「Dr.Aはどこだ?」

「それはお答えできません。ごめんなさいね」

「だったら今すぐここに呼べ!!!」

「…………」

 

 

ヨッカの怒りが遂に爆発する。

 

 

「全く関係のない奴らまで巻き込んで、何のつもりだ!!」

「アレは必要な犠牲です。しょうがないでしょう?」

「な訳あるか!!……君の目的はだいたいわかってる、Dr.Aの言う事を聞き、病気の弟、早美ソラを治してもらおうってんだろ!?」

「!!」

 

 

真実を言い当てられ、早美アオイの顔色は変わる。そのいかにも図星だと告げるような彼女の表情で、ヨッカは自分の予想が真実であると確信。

 

 

「その顔、ホントっぽいな。馬鹿かよ、相手は界放市どころか世界を滅ぼし掛けた最凶最悪のマッドサイエンティストだぞ。素直に言う事聞いて治してもらえるわけねぇだろ。そのせいでイチマルとヒバナは」

「うるさいですね」

「!!」

「あなたのお節介にはもううんざりです」

 

 

ヨッカの言葉を強引に遮ると、アオイは落ち着きを取り戻すために一度深呼吸。そして、また直ぐに猫を被り、笑顔を向ける。

 

 

「失礼しました。最近は忙しくてついつい怒りっぽく…………あ、そうそう、今宵はあなたに是非、お会いしたいと言う方々もいらっしゃってるんですよ」

「オレに、会いたい……方々?」

「えぇ、どうぞお入りください」

 

 

アオイの声が修練場内に反響する。それが耳に入ったのか、扉を開け、この修練場に足を踏み込む人物が2人。

 

1人は界放リーグで三度の優勝を果たした銀髪の少年「獅堂レオン」

 

もう1人は、界放市に君臨する最強のライダースピリット使い「ライダー王」にして、ヨッカとは兄弟弟子の関係にある青年「レイジ」

 

 

「獅堂レオン!?……れ、レイジ!?!……なんでオマエらがこんな所に」

「んだよヨッカ、この状況を見てもまだわかんねぇのか。相も変わらず察しの悪い奴だ。そんなんだから『モビル王』から『元モビル王』になっちまったんだよ、オマエは」

 

 

正直、言われるまでもなく、この早美邸で出会した時点で、なんとなく察しがついていた。

 

だが、信じたくなかった。昔から嫌がらせして来るウザい弟弟子であったが、同じ師匠の元で共にバトルの修行に励み、切磋琢磨し合った仲。

 

心の奥底では熱く、固い絆で結ばれているものだと、思っていたのだから。

 

 

「ニブチン野郎に教えてやる、オレと早美アオイ、そしてDr.Aは初めからグルだったのさ」

「……!!」

 

 

突然の告白に、裏切りの事実に、ヨッカは喪失感を感じ、その表情は悲しみに歪む。

 

 

「ヒャハ、ヒャァッハッハッハ!!……そうだぜヨッカ、オレはオマエのそう言う顔が見たかったんだァァァ!!!」

「………趣味の悪い方ね」

 

 

落ち込むヨッカを大きな声で嘲笑うレイジ。そんな彼を気味悪く思っているのは、アオイだけでなく、獅堂レオンも同じだ。

 

本当に趣味が悪い。

 

 

「オレはこの小娘よりも前にDr.Aと繋がっていた。アイツをプロに推薦したのも、テメェとのタイトルマッチを勝手に取り行ったのもオレ!!」

「な、なんでそんな事を」

「全部オレよりも弱ぇクセに粋がるテメェを失脚させるために決まってんだろ」

「!!」

 

 

つまり、ヨッカ、もといモビル王Mr.ケンドー失脚の原因を間接的に作ったのは彼、ライダー王レイジであると言う事。

 

Dr.Aとの利害が一致したために協力関係となり、早美アオイをプロにし、彼と戦わせるよう裏で取引をしたのだ。

 

 

「オマエ、Dr.Aがオレらの師匠、春神イナズマ先生を誘拐したかもしれない事は知ってんのかよ、知っててここにいるのかよ!?」

「あぁ!?……イナズマなんて知るか、オレの知ったこっちゃねぇ」

 

 

2人にバトルや、もっと大事な事を教えてくれた恩師「春神イナズマ」

 

ヨッカはDr.Aの元部下でもある彼が、今現在、そのDr.Aに計画遂行のために誘拐されているのではないかと推測しているが、少なくともレイジはその事は詳しく知らない様子。

 

 

「オレはずっとオマエが気に食わなかった。強くもねぇクセに粋がり、人気だけは集め、挙げ句の果てにはオレに兄貴面すらして来る。だからオマエを三王から引き摺り下ろしてやりたかったんだよ」

「Dr.Aがどれだけ危険な奴かは、この界放市で暮らしてる奴なら誰でもわかるだろ!?」

「だからテメェのそう言う所が気に食わねぇつってんだろが。オレ様の思い通りにしてくれるなら、悪魔との相乗りなんていくらでもしてやんよ」

 

 

ヨッカを失脚させるため。そんなくだらない動機でDr.Aに協力していたレイジ。

 

ヨッカは彼との付き合いは長いが、まさか彼からそこまで恨まれていたとは思ってもいなかった。イチマルやヒバナの事と言い、予想だにしない衝撃の展開の連続で、その背中からは悲壮感が漂う。

 

 

「オーカから、弟分から聞いた。イチマルは、オマエの弟だったんだろ。なんで危険な目に遭わせた!?」

「ヒャァッハッハッハ!!……あんなゴミ、オレの弟な訳ねぇだろ。ゴミはゴミらしく、リサイクルしようと思ってな!!」

「なん、だと……!!」

 

 

自分の実の弟でさえも、人として認識しないレイジに、ヨッカはまたたちまち頭に血が昇る。

 

 

「レイジ、今すぐオレと戦え、オマエをぶっ倒して、もう一度イナズマ先生との修行の日々を思い出させてやる………!!」

 

 

怒りに身を任せ、ヨッカは懐から取り出した己のデッキを、レイジへと突きつける。

 

 

「やだね」

「なに!?」

 

 

だが、レイジは小指で鼻をいじりながら、それを拒否。

 

 

「勘違いすんなよ。オレだって相手はしてやりてぇ、身内がやられたからとか言うわけわからん理由でのこのこ敵地に乗り込んで来たオマエをわからせてやりてぇさ。だがよ、オマエとやりてぇつって聞かねぇ奴がいんだよ。なぁ、獅堂レオン」

「!!」

 

 

そうだ。

 

すっかり目の前のレイジに夢中になってしまっていたが、ここには何故か界放リーグで優勝を果たした獅堂レオンもいた。

 

 

「同じモビルスピリット使い、年齢は早美アオイよりもさらに下、プロでもない。これに負けたら、もうオマエは恥ずかしくて街も歩けなくなるなぁ」

「レイジ」

「ヒャハ、まぁオマエはバトル中にダッセェ仮面つける小心者だったから関係ねぇか………ヒャァッハッハッハ!!!」

「黙って下がれ、下衆が。ここからはオレの出番だ」

「あぁ?……んだと、このガキ」

 

 

レイジを差し置いて前に出るレオン。その生意気な口調に、レイジはイラつきを見せるも、結局は従い、舌打ちしながら後ろへと下がっていった。

 

 

「九日ヨッカ、もといMr.ケンドー。鉄華とやる前の模擬戦としては悪くない相手だな」

「………」

 

 

向けられる戦意に、ヨッカの怒りは自然に沈静化していく。そして今になって、オーカミから言われた、ゼノンザードスピリットの事を思い出す。

 

 

「ゼノンザードスピリットは、所有者の怒り、憎悪を暴走させるかもしれないって、オーカが言ってたな。オマエも………いや、まさかレイジもそれに当てられてるのか!?」

「さぁ来い。今のオレの力を、オマエにたっぷりと味わってもらう!!」

「…………」

 

 

兎に角今はやるしかない。

 

ヨッカはそう思い、Bパッドを取り出すと、自身の左腕にセット、その後デッキを装填し、バトルの準備を早々に完了させる。それに合わせ、レオンもまた同様の手順で戦闘態勢に入った。

 

 

「そこで見てろよレイジ、これの次はオマエだ」

「ヒャァッハッハッハ!!!………強がるじゃねぇか、やれるもんならやってみろよヨッカ!!」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

怒りや憎悪、憎しみ、微かな希望、純粋な戦闘欲が飛び交う中、ヨッカとレオンによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はヨッカだ。その背中から悲壮感を漂わせながらも、己のターンを進めていく…………

 

 

[ターン01]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ。ネクサス、ヘファイトスの鍛治神殿をLV1で配置」

 

 

ー【ヘファイトスの鍛治神殿】LV1

 

 

ヨッカの背後より、神に与えられし神殿の1つ、背景に溶岩流れる火山が添えられた、ヘファイトスの鍛治神殿が配置される。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【ヘファイトスの鍛治神殿】LV1

バースト:【無】

 

 

絶賛怒りが心頭中とは言え、バトルでは至って冷静なヨッカ。このターンはネクサスカードの配置のみでターンを終える。

 

次はおそらくゼノンザードスピリットを得たであろう獅堂レオンのターンだ。

 

 

[ターン02]獅堂レオン

 

 

「メインステップ、オレはザクウォーリア2体を連続召喚する」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

レオンのデッキの歩兵とも呼べる、低コストモビルスピリット、緑の装甲を持つザクウォーリアが2体出現する。

 

 

「バーストをセットし、アタックステップ。今召喚した2体でアタックする」

「なに、アタック!?」

 

 

最初のターンから、これまでの彼とは全く違うプレイングに困惑するヨッカ。

 

獅堂レオンのデッキは白、守りが得意な属性。だと言うにもかかわらず、最初からフルアタックを仕掛けて来るのは側から見れば愚策にも等しい。

 

 

「何を驚く必要がある。貴様が答えるのは2つに1つ、ライフで受けるのか、受けないのか?」

「………そんなの、当たり前体操だな、ライフで受ける」

 

 

困惑こそしたものの、愚策には変わりない。増えたコアを活かしてカウンターを決めてやろうと思考をよぎらせるヨッカ。

 

ザクウォーリアのアタックを全てライフで受けるが………

 

 

「ぐっ、ぐァァァッ!?」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉九日ヨッカ

 

 

2体のザクウォーリアがヨッカのライフバリアを殴りつけ粉砕。それと同時に、ヨッカの身には内側から抉れるような鋭い痛みが襲い掛かる。

 

 

「な、なんだ今のは!?……いてぇ」

「これは鉄華から聞いていなかったのか?……ゼノンザードスピリットを持つ者が与えるバトルダメージは現実となる」

「ッ……バトルダメージを現実に!?」

 

 

俄かには信じ難い現象だが、あのDr.Aが作ったカードだと言うのであれば納得はできる。が、この痛みをオーカミやイチマルが受けていたのだと思うと、静まっていた怒りがまた沸々と湧き上がって来る。

 

 

「気に食わねぇ顔だな。少しは怖気づけってんだ」

「怒るなら見なければいいんじゃないでしょうか?」

 

 

ヨッカの勇敢な振る舞い、毅然とした表情に苛立ちを覚えるレイジ。それに対してやや辛辣な言葉をぶつけるアオイにも舌打ちを送る。

 

 

「ターンエンドだ。今度は貴様の攻撃をオレに見せてみろ」

手札:2

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

バースト:【有】

 

 

「全く、偉そうな歳下だな」

 

 

ゼノンザードスピリットが与える痛みにも負けず、ヨッカは自分を慕ってくれる仲間たちのため、勇敢に立ち向かう。

 

 

[ターン03]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、少しお灸を据えてやる、オレはユニオンフラッグカスタムを【トップガン】の効果で3コストで召喚する」

「!」

 

 

ー【グラハム専用ユニオンフラッグカスタム】LV3(4)BP10000

 

 

ヨッカの場に飛来して来たのは、群青色に輝く装甲を持つモビルスピリットの1体「ユニオンフラッグカスタム」

 

このスピリットには、彼のデッキを大きく回転させる役割があり………

 

 

「ユニオンフラッグカスタムの召喚時効果、手札にあるこのブレイヴ、グラハム・エーカーをノーコストで召喚、そのままブレイヴだ」

 

 

ー【グラハム専用ユニオンフラッグカスタム+グラハム・エーカー】LV3(4)BP15000

 

 

彼のデッキの中核を担うパイロットブレイヴ、グラハム・エーカーがユニオンフラッグカスタムとコスト無しで合体。見た目に変化はないが、その性能は飛躍的に上昇している。

 

 

「だが相手スピリットの召喚時効果発揮により、オレのバーストを発動」

「ここで開くか」

「王者の威光、キングスコマンド。その効果でデッキから3枚ドローし、1枚捨てる」

 

 

レオンがユニオンフラッグカスタムの効果に合わせて発動したバーストカードは、青属性の汎用性の高いバーストマジック「キングスコマンド」

 

効果により、手札を増やが、ヨッカはそんなものお構いなしだと言わんばかりに自分のターンを進めていく。

 

 

「ヘファイトスの鍛治神殿のLVを2にアップ。これでオマエはコスト3以下のスピリットでアタックする時、リザーブのコア1つをトラッシュに置かないといけなくなった」

「ザクウォーリアへの対策か」

 

 

3コスト以下のスピリットのアタックに制限を掛ける効果を発揮するネクサスカード、ヘファイトスの鍛治神殿。

 

これにより、レオンはザクウォーリアによるアタックを考えさせられることとなる。

 

 

「アタックステップ、ユニオンフラッグカスタムでアタック、この瞬間合体したグラハムの効果で自身を回復させる」

 

 

このターンからヨッカも攻める。ユニオンフラッグカスタムが腰に備え付けられたビームサーベルを引き抜き、背中のスラスターでレオン目掛けて飛翔する。

 

 

「フラッシュタイミング、今度はユニオンフラッグカスタムの効果でコスト5以下のザクウォーリアを破壊、そうした時、ボイドからコア1つを自身に追加する」

「ほぉ、破壊とコアブーストの両方をやって来るか」

 

 

地面スレスレを飛翔するユニオンフラッグカスタムがザクウォーリア1体にビームサーベルで一閃。その装甲を真っ二つに斬り裂き、爆散させた。

 

だが、ザクウォーリアもただでは転ばない。

 

 

「ザクウォーリアの破壊時、ボイドからコア1つをトラッシュか他のザクに追加。もう1体のザクウォーリアにコアを置くぞ」

 

 

負けじとコアブーストするレオン。しかし、コアが増えたからとて、ヨッカの攻撃を止められると決まったわけではない。

 

 

「そのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

ユニオンフラッグカスタムの華麗なるビームサーベル捌きが、今度はレオンのライフバリアを襲う。それも1つ両断され、残りは4つとなる。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【グラハム専用ユニオンフラッグカスタム+グラハム・エーカー】LV3

【ヘファイトスの鍛治神殿】LV2

バースト:【無】

 

 

強力な合体スピリットを展開しつつ、レオンのスピリットとライフを破壊し、大きくアドバンテージを得たヨッカ。

 

合体の効果により回復したユニオンフラッグカスタムをブロッカーとして残し、そのターンをエンドとする。

 

 

「フン、お灸を据えると言っておきながら、この程度か」

「馬鹿言え……『少し』って言ったろ。オマエさては自分が置かれている状況を理解していないな?」

 

 

ヨッカの発言からして、より強力な攻撃を想定していたレオン。不満という名の愚痴を溢す。

 

 

「パイロットブレイヴ、グラハム・エーカー。合体中、相手のエンドステップ時かフィールドを離れる時【零転醒】でミスター・ブシドーに転醒、その転醒時効果で、九日ヨッカは手札に備えているであろうエースカード「スサノオ」を召喚できる」

「御名答だぜ早美アオイ。流石オレのデッキを調べ尽くしただけの事はあるな」

 

 

バトルを傍観している早美アオイが、レオンに助言するように告げる。彼女の言う通り、このターン、ヨッカは己のエースカードであるモビルスピリット「スサノオ」召喚の準備を進めたのだ。

 

しかし、レオンはそれを聞いてもなお「だからなんなのだ」とでも言いたげな表情を見せ…………

 

 

「オレのターンだ」

 

 

[ターン04]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。先ずは手元に送られたザクウォーリアを再びフィールドへと呼び出す」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

前のターンに破壊されたザクウォーリアが復活。

 

低コスト故にヘファイトスの鍛治神殿の効果でアタックがしづらいものの、その何度でも復活できる可能性を秘めた破壊時効果は、主なスピリットの除去手段が破壊に偏っているヨッカのデッキにとって非常に厄介な存在であろう。

 

 

「行くぞ。ネクサス、要塞都市ナウマンシティーをLV1で配置」

 

 

ー【要塞都市ナウマンシティー】LV1

 

 

「ッ……ザフトのネクサスじゃない?」

 

 

ザクウォーリアに続けてレオンが呼び寄せたのはネクサスカード。彼の背後に機械仕掛けの巨大な像が身を置く、霧掛かった都市が出現する。

 

その効果は、元モビル王たるヨッカを驚愕させるには十分過ぎる効果であり………

 

 

「ナウマンシティー配置時効果。手札にある白のスピリットカードをノーコストで召喚する」

「なに!?」

「この効果により、オレは手札からデスティニーガンダムをLV2でノーコスト召喚する」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

「4ターン目でデスティニーガンダムだと!?」

 

 

ナウマンシティーから警告を促すようなサイレンが鳴り響くと、そこからレオンのフィールドへと飛び出して来たスピリットが1体、彼のエーススピリットである「デスティニーガンダム」だ。

 

彼のデッキからそれが出て来る事自体、当たり前であり、なんの不思議ではない。しかし、全モビルスピリットの中でも五本の指に入るスペックを所有する、コスト9の超大型のスピリットが、僅か4ターンで登場するのは計算違いである。

 

 

「アタックステップ。エンドステップとは悠長だな、早々に貴様のエースを引き摺り出してやるぞ。デスティニーガンダムでアタック、その効果でBP15000以下のユニオンフラッグカスタムを破壊」

「!!」

 

 

アタックステップの開始早々、デスティニーガンダムは上空に飛び立ち、手に持つ巨大なランチャーをユニオンフラッグカスタムへと向け、そこから極太のレーザー光線を放つ。

 

ユニオンフラッグカスタムは胸部を撃ち抜かれ、爆発四散する。

 

そしてそれだけでは終わらない。

 

 

「さらに、破壊したユニオンフラッグカスタムのシンボル分、つまり1つ、貴様のライフをボイドに置く」

「ッ……ぐ、ぐォォォォ!?」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉九日ヨッカ

 

 

デスティニーガンダムの極太のレーザーは、ヨッカのライフバリアをも撃ち抜き、内1つを跡形もなく粉砕する。これで残り2つだ。

 

しかし、彼も負けてはいない。身体の細胞が爆発するような痛みに耐え抜き、破壊されたブレイヴの効果を発揮する。

 

 

「くっ………グラハムの効果【零転醒】………自身を裏返し、ミスター・ブシドーに転醒。そしてその効果で、手札からコイツを呼び、合体させる」

「あぁ、さっさと呼ぶがいい」

 

 

ミスター・ブシドーへの転醒を果たすグラハム。その効果で、ヨッカは己の手札にある1枚のカードを、Bパッドへと叩きつけた。

 

 

「その剣技、天空をも斬り裂く!!……モビルスピリット、スサノオを召喚!!」

 

 

ー【スサノオ+ミスター・ブシドー】LV3(5)BP21000

 

 

黒い外装に甲冑を思わせる角を施したモビルスピリット、スサノオがこの場に参上。ミスター・ブシドーとの合体により、デスティニーガンダムよりも強力な存在として、君臨する。

 

 

「待っていたぞスサノオ。さぁデスティニーガンダムはアタック中、これをどう受ける?」

 

 

レオンからの問い掛けに、ヨッカは互いのフィールドと自分の手札を見つめ、答える。

 

 

「スサノオでブロックはしない、ライフで受ける」

「だろうな」

「ぐっ……ぐァァァァァァッ!?」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉九日ヨッカ

 

 

デスティニーガンダムは頭部に備え付けられたバルカン砲を掃射。ヨッカのライフバリアを砕き、遂に残り1つまで追い詰める。

 

 

「当然ね。スサノオでデスティニーをブロックすれば、破壊されたデスティニーのコア2つがリザーブに送られる」

「ヒャハ。そうなればヘファイトスの鍛治神殿のコストを満たせるようになり、残った2体のザクウォーリアがアタックして来る。しぶといなヨッカ、だがオレには聞こえて来るぜ、テメェの敗北の鼓動がな」

 

 

スサノオが場に残り、どちらかと言えばヨッカの方が有利な状況であるにも関わらず、早美アオイも、ライダー王レイジも、誰もヨッカが勝つとは思っていない。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:3

場:【デスティニーガンダム】LV2

【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【要塞都市ナウマンシティー】LV1

バースト:【無】

 

 

彼らがそう思う理由として、間違いなく知っているからであろう。

 

獅堂レオンに与えられた、Dr.Aの魔道具「ゼノンザードスピリット」を…………

 

 

[ターン05]九日ヨッカ

 

 

「メインステップはすっ飛ばして、アタックステップだ。その開始時に、スサノオの【武士道】の効果を発揮、デスティニーガンダムに一騎打ちを所望し、強制バトル」

「お家芸のテキストだな。迎え撃て、デスティニー」

 

 

第5ターンは早々にアタックステップへと突入し、スサノオの【武士道】の効果により、デスティニーと強制バトル。

 

スサノオは薙刀を手に、デスティニーへと斬り掛かる。デスティニーもそれに対抗すべく、長大なビームサーベルを手に取る。

 

地上から上空を何度も行き来し、激突していく両者。だが次第にデスティニーが押され始め、やがてスサノオの振るう薙刀に、その機翼ごとビームサーベルを切断、最後に胸部も両断されて無惨にも爆散する。

 

 

「スサノオが【武士道】でスピリットを倒した時、相手ライフ1つをリザーブに置く」

「!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉獅堂レオン

 

 

デスティニーの爆発の余波は、レオンのライフバリアに二次被害を齎す。

 

さらに、スサノオの攻撃自体は、まだ始まってもいなくて…………

 

 

「スサノオでアタック。合体によりトリプルシンボルだ」

「………ザクウォーリアでブロック」

 

 

デスティニーをも軽々突破して見せるスサノオに、ザクウォーリアごときで相手が務まるわけがない。

 

瞬く間に薙刀で斬り裂かれ、爆散してしまう。

 

 

「破壊時に2体目のザクウォーリアにコアを追加し、自身を手元へ」

「エンドステップ。スサノオの効果でもう一度アタックステップを行う、その時に再び【武士道】を発揮、残ったザクウォーリアを倒し、ライフももらう!!」

「!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉獅堂レオン

 

 

スサノオの効果により、再び【武士道】が発揮。目にも止まらぬ早業で、残ったザクウォーリアと、レオンのライフバリア1つを斬り裂く。

 

これでレオンの場にスピリットは0。ネクサスのナウマンシティーのみとなる。

 

 

「破壊時でトラッシュにコアを1つ追加。ザクウォーリアのカードを手元へ」

「………ターンエンドだ」

手札:3

場:【スサノオ+ミスター・ブシドー】LV3

【ヘファイトスの鍛治神殿】LV2

バースト:【無】

 

 

スサノオが獅子奮迅の如く活躍を見せ、一気にレオンを追い詰める。

 

だが、レオンのその表情に、一切の焦りも感じられなくて…………

 

 

[ターン06]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。ザクウォーリア2体を手元より復活させる」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

「クソ、またそいつらかよ」

 

 

スサノオに容易く蹴散らされようが、ザクウォーリアは幾度となくフィールドへと蘇って来る。

 

召喚直後、レオンは、それらから生み出されるシンボルを糧に、手札より1枚のカードを己のBパッドへと叩きつけた。

 

 

「続けてネクサス、要塞都市ナウマンシティー」

「なッ……2枚目!?」

 

 

ー【要塞都市ナウマンシティー】LV1

 

 

レオンの背後に配置される2枚目のナウマンシティー。そうしたと言う事は、それ即ち、もう一度強大な白のスピリットを呼び出すと言うサインであり………

 

 

「配置時効果発揮。オレはコイツを呼ぶ……!!」

「またデスティニーを!?」

「そんな生温いモノではない」

 

 

突如としてフィールドを襲う猛吹雪。周囲の者の視界が遮られる中、レオンはそのスピリットを呼び出す。

 

 

「司るは白。運命をも噛み砕く、我が牙!!……ゼノンザードスピリット、百獣・ヴァイスレーベ!!……LV3で召喚!!」

 

 

ー【「百獣」ヴァイスレーベ】LV3(6)BP18000

 

 

吹雪の中、レオンのフィールドへと降り立つ、機械仕掛けの白銀の獅子。

 

その名は白のゼノンザードスピリット「ヴァイスレーベ」………

 

それは現れるなり、気高くも猛々しい雄叫び一つで吹雪を掻き消す。

 

 

「こ、これがゼノンザードスピリット……」

「オレが得た、力だ!!」

 

 

初めてゼノンザードスピリットを目の当たりにするヨッカ。

 

今まで感じた事ない、圧倒的迫力に思わず呑まれ掛けるが「自分は負けられないのだ」と強く意思を保つ。

 

 

「………そう言えばよ。なんでオマエはゼノンザードスピリットなんか手にしたんだ。それがなくても十分強いだろ」

 

 

ゼノンザードスピリットの登場により、再び境地に立たされたヨッカが、レオンに訊いた。

 

 

「無論、鉄華オーカミに勝つためだ」

「オーカに?」

「あぁ、オレは今度こそあの赤い目の力を超える!!……そして証明してやる、楽しむためのバトルスピリッツではなく、師匠に教えてもらった、勝つためのバトルスピリッツこそが至高である事を!!」

 

 

高らかに宣言するレオン。それに合わせてヴァイスレーベもまた雄叫びを上げるが…………

 

それを見て聞いたヨッカは、恐怖を忘れ、笑みが溢れた。

 

 

「ぷっ、ワッハッハッハ!!」

「………何がおかしい」

 

 

今度はレオンがヨッカに訊いた。笑われたような気がして、良い気分にはならなかったのだろう。

 

 

「いや、おかしいさ。だって、楽しむためにバトスピする、勝つためにバトスピをする。どっちも当たり前の事だろ?」

「!!」

「そこに優劣はない。そりゃ個人によって優先度は違うだろうけど」

 

 

幼き頃から12の歳まで「芽座葉月」と言う、世間では極悪人扱いされている人物を師匠としていたレオン。

 

彼のバトルに憧れ続けたが故に、彼の価値観こそが全てであった。しかし、ヨッカのその言葉は、今までの考え方を完全に論破するものであり………

 

 

「黙れ!!」

「!」

「貴様とはやはりソリが合わないな。このターンで終わりにしてくれる」

 

 

ヨッカの言葉を煽りとして認識し、怒り心頭のレオン。Bパッドにあるゼノンザードスピリット「ヴァイスレーベ」のカードへと手を掛ける。

 

 

「アタックステップ、ヴァイスレーベよ、奴を噛み砕け!!」

「!」

「ヴァイスレーベの効果、相手は可能ならブロックしなければならない。もっとも、今の貴様にブロックできるスピリットはいないがな」

 

 

ヴァイスレーベで無慈悲のアタック宣言。残りライフが1つのヨッカはこのアタックが通って仕舞えば敗北となってしまうが…………

 

 

「ならブロックしてやろうじゃねぇか。フラッシュマジック、光翼之太刀」

「!」

「その効果により、このターンの間、スサノオのBPを+3000し、疲労状態でのブロックを可能とする、迎え撃て!!」

 

 

白の防御マジックで対処していく。スサノオはその効果を受け、BP24000となり、このターンは疲労状態でのブロックが可能となる。つまり、バトルにさえ勝つ事ができれば全てのアタックを1体で防ぐ事ができるのだ。

 

 

「ヴァイスレーベのBPは18000。対するスサノオのBPは24000……大きいBP差ですね」

「ヒャハ……だがよ、超えるぜ、あのガキは」

 

 

悲しい事に、ライダー王レイジの予測は的中する事となる。

 

 

「フラッシュマジック、双光気弾」

「ッ……!!」

「この効果でパイロットブレイヴ、ミスター・ブシドーを破壊」

 

 

レオンの放った赤属性のマジック「双光気弾」により、ヨッカのBパッド上にある「ミスター・ブシドー」のカードがトラッシュへと誘われる。

 

これによりスサノオのBPは19000まで減少。

 

 

「さらにマジック、アルティメットパワー。ヴァイスレーベのBPを3000上昇」

「なに!?」

 

 

ー【「百獣」ヴァイスレーベ】BP18000➡︎21000

 

 

追い討ちのマジック。遂にヴァイスレーベがスサノオのBPを超える。

 

フィールドではヴァイスレーベが背中に備え付けられたガトリング砲を連射。スサノオはそれを薙刀で弾きながら接近していくが、その動きを完全に見切ったヴァイスレーベが薙刀に噛みつき、その凄まじい咬合力で砕いて見せる。

 

武器を失ったスサノオは一度距離を取ろうと後退しようとするが、ヴァイスレーベはその隙を逃さず、ガトリング砲を再び連射。スサノオの装甲を撃ち抜き、爆散へと追い込む。

 

 

「ヴァイスレーベのLV2、3の効果。バトルで相手スピリットを破壊した時、相手のライフ1つとネクサス全てを消し飛ばす」

「!!」

「終わりだ。歴戦の王、Mr.ケンドー」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉九日ヨッカ

 

 

「ぐっ………ぐァァァァァァァァァ!!!」

 

 

スサノオに勝利したヴァイスレーベの雄叫びが、ヨッカのヘファイトスの鍛治神殿と最後のライフバリアを粉々に粉砕する。

 

これにより、勝者は獅堂レオンだ。白のヴァイスレーベを完璧に操り、元三王、元モビル王のヨッカことMr.ケンドーを超えてみせた。

 

 

「ぐっ……イチマル、ヒバナ………ライ、オーカ………」

 

 

体中が焼けるような痛みに意識が朦朧とする中、親しい人物達の顔がヨッカの脳裏に浮かぶ。

 

皆を守るため、負けるわけにはいかない、倒れるわけにはいかない。その意思を持ちながらも、彼は遂に気を失い、その場に倒れ込んでしまう。

 

 

「ヒャハ、ヒャーハッハッハッハ!!!……ざまぁねぇぜヨッカァァァァァァ!!!」

 

 

その光景を見て、誰よりも喜んだのは他でもない、ライダー王のレイジだ。彼の奇妙で汚い笑い声が、この早美邸修練場に響き渡る。

 

 

「よくやった。褒めて使わすぜ獅堂レオン、お礼にジュースでも奢ってやろうかぁ、うん?」

「黙れ、下衆が」

 

 

レイジを軽くスルーすると、レオンは修練場を去ろうと歩みを進める。

 

 

「どこに行くのですか、レオン君」

「オレは、次に訪れるであろう鉄華とのバトルに備え、デッキを練り直す」

「……そうですか」

 

 

バトルの最終局面の際、ヨッカに言われた言葉を意識してしまっていると察するアオイ。彼を止めてケアしようとはせず、敢えて野放しにした。

 

 

「………あぁ、フグタ?……ネズミを捕らえたから牢屋に入れててちょうだい」

 

 

レオンがいなくなった直後、アオイはBパッドの通話機能で側近であるフグタに、倒れたヨッカの処理の命令を言い渡す。

 

 

「ヒャハ、無様無様」

「………ホント、性格の悪いお方ですね貴方は。これで満足なんですか?」

 

 

レイジの性格の悪さに呆れるアオイ。そんな彼に、これ以上はもういいのかと一応問い掛けるが…………

 

 

「はぁ?……なわけねぇだろ。コイツにはとことん絶望を拝ませてやる。そうだな、今度はオレ様の完全下位互換のデッキを持つ、奴の弟分を痛みつけて来るとするか」

「オーカミ君を……?」

「あぁ、獅堂レオンにゃ悪いが、あのチビが傷ついたと知った時のコイツの顔を見るのが、今から楽しみだぜ」

 

 

そう告げると、高笑いしながら、レイジもまたどこかへと去っていった。

 

彼の票的は、憎き九日ヨッカの弟分にして、鉄華団と言う誰も見た事がなかったカード群を操る少年「鉄華オーカミ」……………

 

 

******

 

 

翌朝。朝の日差しがカーテン越しでも感じられるようなら時間に、ヨッカと共に暮らす少女、春神ライは目覚める。

 

 

「ふぁ〜〜あ………ヨッカさん?」

 

 

まだ眠たそうに欠伸をした直後、自分が起きる頃には朝食から昼食までを作ってくれるヨッカの気配を全く感じない事に気がつく。

 

ライはすぐさま家のあちこちを探ってヨッカを探すが、出てきたのは彼の部屋のベッドの下にある18禁の本程度だった。

 

 

「ヨッカさんまたどっか行ってるな。朝まで帰って来ないのは結構久し振りだけど」

 

 

ヨッカとは1年前程から同居しているライ。

 

行方不明になっている彼女の父親を探してくれているヨッカは、それ関連なのか、度々家からいなくなる事があった。故に、彼女にとっては、何の不思議でもなくて…………

 

 

「全く、いつもこのライちゃんを置いて行くとは、良い度胸してるな。仕方ない、今日は私が飛び切りに美味しい物をご馳走様してせんぜよう」

 

 

だが、そのライの料理を、ヨッカが食することはなかった。

 

何せ、彼の身柄は、早美邸にて拘束されてしまったのだから…………

 

 

 






次回、第35ターン「戦慄の滅亡迅雷」


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第35ターン「戦慄の滅亡迅雷」

九日ヨッカはいなくなって2日が経過。

 

オーカミに病院で「ゼノンザードスピリットの事を調べて来る」と言ったっきり、彼は一向に姿を現さなくなった。

 

その理由は至って単純。早美邸に1人で乗り込み、返り討ちにあって囚われの身となってしまったからだ。

 

ただし、それを知る者は未だごく少数に限られており…………

 

 

******

 

 

界放市ジークフリード区にあるカードショップ「アポローン」………

 

いつもは多くの客で賑わいを見せる人気のカードショップの1つだが、ここ数日、店長の「九日ヨッカ」が姿を見せない事で、その活気は尻すぼみとなっていた。

 

 

「センパイまたサボリか。全く、連絡もつかないし、これはストライキ確定だな〜」

 

 

アポローンのバイトの女性の1人、雷雷ミツバがそう呟く。

 

ヨッカ自体、仕事をサボったりする事は日常茶飯事なためか、現時点では特に心配はしていない様子。

 

 

「よしオーカ、お客もセンパイも来ないし、今日は店閉めてパーっと遊ぶか」

「………」

 

 

ミツバが同じくバイトのオーカミにそう告げるが、その話題に一切の興味を示さない。

 

彼女としては、いつも以上に気分が暗めな弟分を励ましたつもりだったのだが………

 

 

「あぁ、よしイチマル。店閉めるの手伝おうか。今日はとびっきりのお菓子を買って来てるのだ、みんなで食べるぞ」

「………」

「もう、2人ともいつまでそうしてるつもり??……センパイがいなくなるなんていつもの事じゃん」

 

 

オーカミもイチマルも、どこか上の空だ。ヨッカの事もだが、未だに意識を取り戻さないヒバナの事も気掛かりなのだろう。

 

ミツバは、そんな彼らに痺れを切らし、本音を告げる。

 

 

「すんませんミツバさん。正直、ヒバナちゃんがあんなになって、ヨッカさんもここ2日どっか行ってて、なんて言うか、どう気持ちを持って居ればいいかわかんなくて」

「そんなの、2人を信じる。その一択でしょうよ。何があったかわからないけど、ヒバナちゃんの意識は戻るし、センパイも何食わぬ顔で戻って来る。これは当然の摂理ってやつよ」

「…………」

 

 

イチマルとミツバが会話のやり取りをしている中、オーカミは2日前にヨッカから感じた違和感の事を考えていた。

 

まるで自分らを避けて行くような感覚は、未だに染み付いている。

 

ゼノンザードスピリットに関する事のほとんどは彼に伝えた。早美アオイが全ての元凶である事も…………

 

だとしたら。

 

 

「………アニキ」

「何オーカまであんなカッコつけ気にしてんのよ。暇だから、今からバトル場の掃除に行くよ」

「え、だる」

「だるいとか言わない。こうなったらうんと店を綺麗にして帰って来たセンパイを驚かせるわよ〜〜……イチマルはレジよろしくね」

「オレっちレジ担当!?……バイトでもないのに!?」

「つべこべ言わない。終わったら遊びに行くよ」

 

 

オーカミの首根っこを捕まえ、強引に広大なバトル場の清掃に参加させるミツバ。彼女も彼女なりに気を使ってくれているのであろう。

 

そして、彼らが店内のバトル場に赴くと、イチマルはバイトでもないのにレジ前へと立つ。

 

 

「まぁ、きっとミツバさんの言う通りだよな。その内元通りになる、全部」

 

 

ミツバの心遣いは、少なからずイチマルには響いていたようで、彼はその重たい心が、少しだけ軽くなるのを感じた。

 

 

そうだ。

 

きっともうすぐで何もかもが元通りになる。ヒバナも目覚めるし、ヨッカも何食わぬ顔でひょっこり顔を出す。

 

そうに違いない。

 

 

「!」

 

 

そんな折、アポローンの固定電話に一通の着信が入る。

 

しかしそれは至極当たり前の事。ここはカードショップ、お店なのだから。

 

何かわからない事があったら一度保留にしてオーカミらに聞こう。そう思い、イチマルは固定電話から子機を取り出した。

 

 

「はい、もしも」

《おう、ヨッカの弟分か》

「!!」

《久し振りだな、頭の悪そうなテメェにもう一度自己紹介してやる、オレはライダー王のレイジ。界放市の中でも指折りの実力者だ》

 

 

その声を聞くなり、途端に声を詰まらせる。

 

無理もない、何せ通話して来たのは、紛れもない自分の実の兄「鈴木レイジ」だったのだから…………

 

 

《ヒャハ、驚き過ぎて声も出ないか》

 

 

ー『なんで兄ィがアポローンに』

 

心の中はそれで一杯一杯だ。ただ、友好的な態度でない事は、声色からしてなんとなく察しがつく。

 

 

《いいか、今から大事な事を話す。よく聞けよ》

「…………」

《テメェのアニキ、九日ヨッカは預かった》

「!!」

《返して欲しけりゃ、今からFAXに届く指定のポイントまで、1人で来い………来なかったら、愛しのアニキがどうなっても知らないぜ………ヒャハ、ヒャーハッハッハ!!!》

 

 

通話はここで途切れる。すると直後に、FAXに位置情報が届く。

 

 

「兄ィがヨッカさんを誘拐した!?……そんな、馬鹿な」

 

 

信じられない事実に、身も心も震え上がる。

 

だが、それらは直後に「決意」と言う名の2文字で固まり…………

 

 

「何がどうなってんのかさっぱりだけど、止めなきゃ、オーカミじゃなくて、このオレっちが……!!」

 

 

これは自分のやるべき使命だと決意した彼は、位置情報を視認し、覚えると、すぐさまアポローンから走り去っていった。

 

当然、バトル場の清掃をしていたオーカミとミツバはこの事を知らなくて………

 

 

******

 

 

とある場所にある、とある一室。明かりもない暗がりのこの部屋に、サングラスの男はいた。

 

その名は「アルファベット」…………

 

この界放市の警察官の1人、警視である。彼は、床に散りばめられた有象無象の資料を拾っては読み漁り、見当違いの物ならば、また床に捨てるを繰り返していた。

 

 

「九日の残した「ゼノンザードスピリット」と言う言葉。7年前、Dr.Aが使っていたアジトの跡地ならば、何かわかると思ったが………」

 

 

そう。ここはかつて、悪魔の科学者である「Dr.A」が、A事変を起こす際の拠点として使用していた場所。今でもこのアルファベットのみが知る叡智の塊。

 

彼が蘇ったと言う情報を得た時より、この場所を警戒し、盗聴器まで仕掛けていたが、自分の叡智が集っていると言うにもかかわらず、何故か彼は未だにここへ姿を現さなかった。

 

警戒するより前からここに来ていたと言う線も考えられるが、調べた所、そのような形跡は微塵も見られない。

 

 

「ゼノンザードスピリットの情報は、あの被害者共に直接聞くしかないか。そしてDr.A、一度もここに姿を見せないと言う事は、やはり早美邸が奴の今の拠点か、いや、それとも………」

 

 

………『今のDr.Aは、オレが知っているあのDr.Aとは別人なのか?』

 

 

******

 

 

界放市は、日本最大のバトスピ都市であるが、世間一般的に見ても、十分立派な大都市である。

 

大都市であるが故に、ビル影に隠れた広大な裏路地もまた、それに比例するように多い。

 

………『鈴木レイジ』

 

界放市を代表する『三王』の1人『ライダー王』である彼は、目の上のたんこぶであったヨッカの弟分「鉄華オーカミ」を容赦なく痛ぶり、叩き潰すべく、その広大な裏路地の1つで、今か今かと待ち侘びていたのだが……………

 

 

「どう言う事だ」

「………」

「なんでテメェがいるんだよクソゴミ。赤髪のチビはどうした」

「………オーカミなら来ないよ兄ィ。さっき電話に出たのは、オレっちだからね」

 

 

結果的に現れたのはオーカミではなく、実弟であるイチマル。

 

期待してた通りの展開にならず、レイジは額から青筋を浮かび上がらせる。

 

 

「兄ィ、ヨッカさんはどこだ!!」

「知らん」

「なんでヨッカさんを攫ったんだよ。ヨッカさんが何したってんだよ!!」

「知るか」

 

 

いくら辺りを見渡してもヨッカは見当たらない。イチマルはレイジを問い詰めるが、当然ながら質問の答えは返って来ない。

 

 

「兄ィは、そんな事するような人じゃないって信じてたのに、どうしてだ!!」

「黙れカス。テメェごときが偉そうにオレ様の前に立つんじゃねぇ、いいからさっさと赤髪チビを呼んで来い」

「………」

 

 

昔から素行こそ悪かったものの、バトルの実力や、それに対する向上心が強く、イチマルはとても尊敬していた。

 

だがいつしか悪い面が目立つようになり、遂には犯行に走っている。イチマルは、これを止めれるのは、弟の自分しかいないと、悟って…………

 

 

「バトルだ兄ィ」

「あぁ?」

「オレっちがバトルに勝ったら、ヨッカさんを解放して、もうこんな事やめるんだ」

 

 

イチマルは展開されたBパッドを左腕にセットしながら、レイジに告げた。

 

彼のその行為に、レイジはまた額に大きな青筋を浮かび上がらせる。

 

 

「誰にモノ言ってやがる、身の程わきまえろや」

「自分の兄貴にバトスピ挑むのが、そんなにダメなのかよ」

「あぁ?」

 

 

イチマルの煽りに対し、レイジは静かに怒りの炎を燃やす。

 

 

「雑魚の分際で偉そうに………まぁいい、ちょうど良い機会だ、二度と逆らえねぇようにしてやる」

 

 

イチマルに対する怒りのまま、レイジもBパッドを展開し、左腕にセット。そして互いに己のデッキをそこへ装填し、バトルの準備を終える。

 

 

「行くぞ、兄ィ」

「滅亡させてやる、迅雷の如くな」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

日向の当たらないジークフリード区の広大な路地裏にて、ライダー王レイジと、その弟イチマルによるバトルスピリッツがコールと共に幕を開ける。

 

先攻はイチマルだ。狂ってしまった兄、レイジを正気に戻すべく、己のターンを進めていく。

 

 

[ターン01]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ……仮面ライダーゼロワンをLV1で召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】LV2(1)BP2000

 

 

イチマルの初手は、彼のデッキの中で最も召喚の優先度が高い、緑の色のライダースピリット、ゼロワン。

 

 

「その召喚に合わせて、手札にあるネクサスカード、ライズホッパーの効果を発揮。ノーコストで配置し、効果でトラッシュに1コアブースト」

 

 

ー【ライズホッパー】LV1

 

 

天空より差し込んでくる一条の光より、ゼロワン専用のバイク型マシーン、ライズホッパーが出現。その効果によりコアが増加。

 

 

「そんでもってゼロワンの召喚時効果。自身に1コアブーストし、オレっちの手札が3枚以下なら、デッキ上から5枚オープン、その中にあるライダースピリットカード1枚を手札に加える」

 

 

現在のイチマルの手札は3枚。よってこの効果は全て適応。

 

合計5枚のカードがイチマルのデッキトップからオープンされ、彼はその中にある1枚のカードに目を向ける。

 

 

「フライングファルコンを手札に加え、残りはデッキの下へ。ターンエンドだ」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

ゼロワンデッキの中でも1位2位を争う程に強い動きを行い、多くのシンボルとコアを稼ぐ事に成功したイチマル。

 

幸先の良いスタートを切り、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン02]レイジ

 

 

「メインステップ………性懲りもなくライダースピリットか、オレの真似すんじゃねぇって何度言やわかる」

 

 

メインステップ開始早々に、レイジはイチマルのライダースピリットデッキに対して指摘する。

 

その口振りからして、どうやら何度も口煩く言っていた様子。

 

 

「最初は兄ィの真似だったさ。兄ィのバトルに、ライダースピリットの勇姿に憧れた。でも今は違う、ゼロワンと一緒に、オレっちは兄ィを超える!」

「………」

 

 

レイジの怒りのボルテージが溜まる。

 

 

「テメェ、無能のゴミかと思ったら、どうやらオレを怒らせる才能だけはあるみたいだなぁ」

 

 

直後、レイジは己の手札を引き抜き、メインステップを再開する。

 

 

「創界神ネクサス、アークの秘書・アズを配置」

 

 

ー【アークの秘書・アズ】LV1

 

 

「出た、兄ィのデッキの創界神……」

「オレの女だ」

 

 

レイジが初手で配置したのは、鉄華団のオルガと同様の創界神ネクサスカード。

 

彼の側に、黒く長い髪の少女を模したアンドロイドが出現。赤く光る瞳孔と、妖艶に微笑むその表情には、紫属性らしい邪悪さを感じさせる。

 

 

「配置時の神託。対象は2枚、アズにコア+2」

 

 

アズにコアが2つ追加されたところで、レイジは手札から更なるカードを己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「さらに仮面ライダー雷をLV1で召喚」

 

 

ー【仮面ライダー雷[2]】LV1(1)BP2000

 

 

「アズにコア+1、召喚時効果で1枚ドロー」

 

 

レイジが呼び出したのは、全体的に赤みを帯びている紫属性のライダースピリット、雷。

 

その効果で彼はデッキから1枚のカードをドローする。

 

 

「雷……滅亡迅雷の「雷」のスピリット」

「ターンエンドだ。さっさと来い」

手札:4

場:【仮面ライダー雷[2]】LV1

【アークの秘書・アズ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

スピリット、創界神ネクサスとの2枚で2つのシンボルを作り上げたレイジ。このターンを一度エンドとする。

 

 

[ターン03]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ、さっき手札に加えたフライングファルコンをLV2で召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV2(4)BP6000

 

 

「召喚時効果でゼロワンとトラッシュに1つずつコアブースト」

 

 

イチマルのフィールドに呼び出されるのは、2体目のゼロワン、マゼンタカラーのフライングファルコンだ。

 

その効果で2つのコアが追加される。

 

 

ー『兄ィのデッキは「滅亡迅雷」……「滅」「亡」「迅」「雷」それぞれの名を関するライダースピリットが揃った時に真価を発揮する。だったら揃う前に決着をつける』

 

 

レイジのデッキは、あまり速度は速くないが、その分終盤のパワーはかなり高い。

 

それを知っているイチマルは、なるべく早期に決着をつけるため、このターンのアタックステップへと移行する。

 

 

「アタックステップ、フライングファルコンでアタック!!……その効果で3コストを支払って回復する」

 

 

アタックステップの開始早々に、フライングファルコンが両手を翼のように広げて飛び立つ。

 

その際に回復状態となるが、維持コア不足のため、LVは2から1へとダウンする。

 

 

「ライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉レイジ

 

 

フライングファルコンの上空からの飛び蹴りが炸裂し、レイジのライフバリアを1つ砕く。

 

 

「もう一度フライングファルコンだ!!」

「ライフ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉レイジ

 

 

直後に二撃目も直撃。再びライフバリアが砕け散るが、イチマルの怒涛の連続アタックはまだ終わらず…………

 

 

「最後、ゼロワンでアタックだ!!」

「ライフ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉レイジ

 

 

通常のゼロワンでもアタック。跳躍からの、拳を叩き込む一撃が、レイジのライフバリアをさらに1つ砕き、残り半数以下へと追い込む。

 

 

「よし、これで兄ィのライフは残りたったの2つ、ターンエンド!!」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV1

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1

【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

「…………」

 

 

怒涛の連続攻撃により、一気にライフ差で優位に立ったイチマル。

 

一方でレイジは、イチマルが本当に優位に立っていると思っている事に対し、また怒りのボルテージが溜まって…………

 

 

[ターン04]レイジ

 

 

「メインステップ、フライングファルコン2体を召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1(1)BP3000

 

ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1(1)BP3000

 

 

「兄ィもフライングファルコンを!?」

「アズにコア+2。効果でコアを4つブースト」

 

 

ターン開始早々に呼び出されたのは、イチマルと同じくゼロワンスピリットのフライングファルコン。

 

確かに、ライダースピリットの中でもかなり汎用性に富んだカードではあるが、あの兄が、自分と同じカードをデッキに仕込んでいた事に驚きを隠せない。

 

 

「1ターンだ」

「?」

「1ターンだけ待ってやる。テメェが本当にオレを超えるんなら、その1ターンでどうにかして見せろや、ターンエンド」

手札:3

場:【仮面ライダー雷[2]】LV1

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1

【アークの秘書・アズ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

残りライフが半数を下回っているにもかかわらず、意味深にイチマルに1ターンの猶予を与えるレイジ。

 

強者故に重圧の掛かる言動だが、事実かハッタリか定かではない。

 

しかしイチマルには、これが紛れもない事実である事を理解していた。何せ今の自分の相手は、兄、ライダー王レイジなのだから…………

 

 

「兄ィに言われるまでもねぇ、このターンで決める。オレっちの全力をぶつける!!」

 

 

どちらにせよ、イチマルに挑む以外の選択肢はない。

 

囚われの身となってしまったヨッカのために、己のデッキを、ゼロワンを信じ、巡って来たターンを進めていく。

 

 

[ターン05]鈴木イチマル

 

 

「メインステップ、ゼロワン メタルクラスタホッパーのチェンジを発揮」

「!」

「効果により今ある手札を全て破棄。そうしたとき、兄ィの手札1枚つき1枚を引き直す。兄ィの手札は3枚。よって3枚のカードをドローする!!」

 

 

手札にある4枚のカードを破棄し、デッキから新たに3枚のカードをドローする。そしてその中に有力なカードを発見したか、イチマルは「よし」と呟き、その喜びを表す。

 

 

「この効果発揮後、対象のスピリットと入れ替える。オレっちは、ゼロワンをメタルクラスタホッパーと入れ替え、その後LV3にアップさせる!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン メタルクラスタホッパー】LV3(7)BP16000

 

 

その光景はまさに白銀の嵐と言った所か、無数の鋼のバッタの群れが宙を飛び交い、ゼロワンに装着されていく。

 

こうして新たに誕生したのは、ゼロワンの強化形態、ゼロワンメタルクラスタホッパー。その名の通り、鋼のゼロワン。

 

 

「んでもって【煌臨】発揮、対象はメタルクラスタホッパー!!」

 

 

立て続けにスピリットを進化させる効果『煌臨』を発揮。フィールドにいるメタルクラスタホッパーは、己の身を眩い光へと包み込み、その中で姿形を大きく変化させて行く…………

 

 

「今こそ自分自身を変える、超える!!………仮面ライダーゼロツーをLV3で煌臨!!」

 

 

ー【仮面ライダーゼロツー】LV3(7)BP20000

 

 

やがて完全に形を整えると、メタルクラスタホッパーだったそれは、その身の眩い光を振り払い、ゼロワンの最強進化形態ゼロツーの姿を顕にする。

 

これこそまさに、イチマルのエースカードにして、切り札。

 

 

「兄ィ、これがオレっちの新しいエースカード、ゼロワンを超えた、ゼロツーだ!!」

「喧しい、吠えるな雑魚が」

 

 

仮にも強者か。レイジはゼロツーから溢れ出る、強力なスピリットのオーラを物ともしていない。

 

 

「アタックステップ、ゼロツーでアタック。その効果で雷を重疲労させて回復だ!!」

 

 

アタックステップ突入直後、ゼロツーはレイジの場にいるライダースピリット、雷に強力な覇気を飛ばし、それを跪かせる。

 

さらに自身を回復状態にし、このターン、2度目のアタックが可能となる。

 

 

「このアタック時効果にターンに一度の制限はない。残ったスピリットも重疲労させて、必ず兄ィのライフ2つを破壊する!!」

 

 

勝利は目前。勢いに乗るイチマルだったが、ライダー王レイジは、それを遇らうように鼻で笑った。

 

 

「………テメェ、この程度で息巻いてたのか。やっぱ雑魚はどう努力しても、雑魚のままか」

「え?」

「余興は終いだ。このオレ様にたてついた事を、今から死ぬ程後悔させてやる」

 

 

イチマルの強さが己に満たない事を再確認したレイジ。完膚なきまでに叩き潰すべく、手札にあるカードを1枚、Bパッドへとセットした。

 

 

「フラッシュマジック、アークの意志」

「!」

「効果により、先ずはゼロツーのコアを1個にする」

 

 

ー【仮面ライダーゼロツー】(7➡︎1)LV3➡︎1

 

 

「なに!?」

 

 

発揮されたマジックカードの効果により、ゼロツーに紫の光が纏わりつく。それはゼロツーの力を最大限に奪い去り、弱体化させる。

 

 

「くっ……だけどゼロツーのさっきの効果はLV1から発揮できる。コアが1個でも残っていれば、オレっちの勝ちだ」

 

 

これだけでも十分に強力なマジック「アークの意志」

 

だが、その本領発揮は、その後の効果であり…………

 

 

「だから雑魚なんだよテメェは。このオレ様が、このタイミングでそんな意味のないマジックカードを使うわけねぇだろが。その後、トラッシュから「滅亡迅雷ライダースピリット」を1体、ノーコストで召喚する」

「蘇生効果!?!」

 

 

紫属性特有の蘇生効果。マジックカード「アークの意志」は、コア除去効果だけでなく、その効果まで内包していた。

 

レイジは直後に「オレはコイツを出す」と告げ、トラッシュからカードを選び、それをBパッドへと叩きつける。

 

 

「その名の元に、全てを滅せよ………仮面ライダー滅 スティングスコーピオン、LV2で召喚!!」

 

 

ー【仮面ライダー滅 スティングスコーピオン[2]】LV2(2)BP10000

 

 

「不足コストは2体のフライングファルコンより確保、消滅させる」

 

 

2体のフライングファルコンがコア不足により消滅する中、レイジのフィールドを覆い尽くす紫の霞。

 

それが徐々に晴れていくと、アークの意志により導かれし紫の邪悪なライダースピリット、滅が顕現していた。

 

 

「ま、マジックカードの効果でスピリットをノーコスト召喚するなんて………」

「テメェには真似できねぇだろ、弱ぇからな。滅の召喚時効果、コア3個以下のスピリット4体を破壊する」

「!!」

 

 

両端に刃が備えられた武器を手に、イチマルのフィールドへと駆けていく滅。瞬きする間もなく、フライングファルコンを斬り裂き破壊する。

 

そして、さらにはゼロツーさえも…………

 

 

「ゼロツー!!!!」

 

 

イチマルの叫びも虚しく、ゼロツーは滅により一刀両断され、爆散。

 

これにより、彼のスピリットは全滅。追撃をする事も、返しのターンの防御を行う事も叶わなくなってしまった。

 

 

「ターン……エンド」

手札:3

場:【ライズホッパー】LV1

バースト:【無】

 

 

絶望のターンエンド。たった1枚、たった1つのマジックとスピリットにより、イチマルの優勢は全てひっくり返された。

 

一見、ただ単に運良くスピリットがトラッシュに落ちていて、マジックが偶然手札に来ていて、奇跡的にそれらが1番強く使えるタイミングがやって来ただけのように見える。

 

だが、それをさも当然の如くやってのけるのは、紛れもない強者の証。

 

イチマルはこのターン、改めて実感した。どんなに性格が捻じ曲がっていても、どんなに人として最低でも………

 

自分の兄、レイジの実力は本物なのだと。

 

 

[ターン06]レイジ

 

 

「メインステップ、仮面ライダー亡を召喚」

 

 

ー【仮面ライダー亡[2]】LV2(2)BP5000

 

 

「召喚時効果、トラッシュにあるライダースピリット「迅」を手札に戻す」

 

 

レイジの場に、鋭い鉤爪を持つライダースピリット、亡が召喚される。

 

彼はそのカード効果で、戻したカードを立て続けて召喚して行く。

 

 

「仮面ライダー迅を召喚」

 

 

ー【仮面ライダー迅[2]】LV1(1)BP2000

 

 

銀の翼、マゼンタの体色を持つライダースピリット迅が召喚される。

 

これにより、レイジの場には4体のライダースピリット。それらは属性以外に共通点はなく、統一感などカケラもないように思えるが………

 

イチマルは知っている。それらが揃えば、自分の負けを意味する事を。

 

 

「兄ィの場に「滅」「亡」「迅」「雷」の名を関する4体のスピリットが揃った………」

「アタックステップ………テメェの力、あの雑魚に思い知らせて来い、滅」

 

 

4体揃った瞬間にアタックステップへと急行するレイジ。手始めに4体の中で最も強いスピリットである滅にアタックの指示を送る。

 

そしてこの時、その真価が発揮されて…………

 

 

「滅のアタック時効果。滅亡迅雷が揃っている時、テメェのライフを2個、ボイドに置く」

「!!」

 

 

亡、迅、雷の3体のスピリットらが、その力を、オーラとして滅1体に注ぎ込む。滅亡迅雷4体のスピリット全ての力を集約させた滅は、手より螺旋状のエネルギー弾を放出する。

 

それは空間を抉り取る勢いでイチマルのライフバリアへと迫っていき…………

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鈴木イチマル

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

直撃。接触したライフバリアは塵芥となり、イチマルのリザーブにも残らない。

 

さらにこの通常のバトルでは感じられない痛み。この体中に強い電流が迸るような痛みを、イチマルは以前にも感じた事があるし、与えてしまった事もある。

 

 

「こ、これは……」

「滅の本命のアタックだ」

「ッ……ら、ライフで受ける!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鈴木イチマル

 

 

「ぐぁ!?!」

 

 

間髪入れずに、滅の本命のアタック。その拳による一撃が、彼のライフバリアを砕き、また痛みを与えた。

 

 

「い、痛ぇ………まさか、嘘だろ。兄ィ、兄ィもゼノンザードスピリットを!?!」

「続け、迅!!」

「兄ィ!!」

 

 

イチマルの声に聞く耳を持たず、そのまま迅でアタックを仕掛けるレイジ。

 

迅は指示を受けるなり、銀の翼で上空へと飛び立ち、大きめのショットガンから紫色のエネルギー弾を放った。

 

 

「ぐッ……ァァァァ!?!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鈴木イチマル

 

 

エネルギー弾はイチマルのライフバリアを砕き、遂にその数を残り1にまで追い詰める。

 

そしてもう、イチマルの3枚の手札に、これをひっくり返せるようなカードは存在しなくて……………

 

 

「ヒャハ、これで終いだ。滅亡させてやれ亡。迅雷の如くなぁ!!」

「うぉぉぉぉ兄ィィィィィィィ!!!!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉鈴木イチマル

 

 

イチマルの叫びを鎮静させるように、亡がその鋭い鉤爪でトドメの一撃。彼の最後のライフバリアは無惨にも斬り裂かれ、散って行った。

 

これにより、勝者はライダー王レイジ。まるで赤子の手を捻るような、圧倒的なまでの力の差を見せつけた。

 

 

「ガッ………ァァァァ」

 

 

ゼノンザードスピリット所有者がもたらす、実体化されるバトルダメージ。

 

体が焼けるような痛みに耐え切れず、イチマルは悲痛な叫びを上げながらその場で転がり込んでしまう。

 

 

「ヒャハ、どうだクソ雑魚。テメェごときじゃオレ様に勝てない事を思い知ったか」

「………ッ」

「大人しくあの赤髪チビを呼んで来いや。アイツと約束したんだよ、再起不能になるまで傷みつけてやるってな」

「!!」

 

 

痛みに悶えながらも、イチマルの脳裏に浮かぶのは友人の鉄華オーカミ。

 

一度、ゼノンザードスピリットを使い、バトルで彼を傷みつけてしまった事に罪悪感を覚えているイチマルは………

 

 

「だ、ダメだ………」

「あぁ?」

「オーカミは呼ばねぇ。今の兄ィに絶対に会わせてたまるか………アイツはオレっちを救ってくれた、今度はオレっちが、アイツを守る番なんだ………!!」

 

 

痛みを堪えながらも立ち上がり、ふらつきながらも歩み、制止させるべく、レイジの肩に手を置くイチマル。

 

オーカミはかけがえのない友人。もう二度と傷つけさせやしない。

 

その強い意志が、彼を突き動かした。

 

 

「生意気なんだよ、このゴミクズがァァァァ!!!」

「ガッ!?!」

 

 

負けても尚、己にたてつくイチマルに、レイジの怒りのボルテージは頂点に達し、遂に直接拳で暴力を振るい、イチマルを地に叩き伏せる。

 

その直後も、先のバトルで弱り、何も抵抗ができないイチマルを、殴っては蹴り、殴っては蹴りと言った暴行を繰り返し、執拗なまでに傷みつけていく。

 

 

「いいかよく聞け、テメェは負けたんだよ、このオレ様に!!……負けた奴が勝った奴にベラベラと口を聞くんじゃねぇぞコラァァァァ!!」

 

 

暴力と共に独自の自論を叩き込むレイジ。その自論の言葉一つ一つの節々に、如何に彼が歪んだ性格の持ち主であるのかが容易に想像できる。

 

 

「出しゃばりやがって。バトルの才能なんて一欠片もねぇ癖によぉ!!」

「ガァッ……うァァァァァァァ!!?!!」

 

 

イチマルの右腕を取り、背中の方向に全力で引っ張るレイジ。腕と肩の骨や筋肉が軋み、折れた音が聞こえたと同時に、これまでとはまた違う激痛が走り、イチマルは喘ぎ声を荒げる。

 

 

「……ァァァ!?!」

「ヒャーハッハッハ!!!……その腕じゃあもうろくにバトルはできんなぁ。そうだそうだ、テメェは初めからバトスピなんてする資格すらねぇんだよ」

 

 

左腕で折れたであろう右腕を押さえるイチマル。顔や身体は瘤や痣だらけになり、至る所から流血も見られる。

 

胸の内から勢い良く込み上げる恐怖。身体が、本能が、今すぐにでも逃げるのだとざわついているのがわかる。だが、オーカミやヨッカのため、逃げられないし、逃げるわけにもいかない。

 

小刻みに震えながらも立ち上がり、レイジを睨む。

 

 

「………」

「んだよ、その目は」

「確かに、オレっちはオーカミや兄ィと違って、バトルの才能なんかない。けど、兄ィが人として間違ってる事をやってるのだけは、断言できる!!」

「は?」

「どんなにバトルが強かろうと、センスがあろうと、他人を貶めたり蔑んだりしたらダメに決まってるだろ。そんな事を笑いながら平然とやる兄ィはカードバトラー以前の問題だ!!」

「………」

 

 

だからその目はなんだ。いっちょ前にカッコつけてんじゃねぇぞゴミカスが。

 

力の差はたった今教えてやっただろうが、なんで歯向かう。なんで立ち向かおうとする。さっさと諦めて、このオレに恐れ慄いて無様に逃げ恥を晒せや。

 

昔からそうだ。

 

なんで、テメェはオレよりも強くあろうとする。

 

 

「………もう一本の腕もへし折られてぇみてぇだなぁ!!」

「ぐあっ!?」

 

 

そう告げると、またイチマルを殴りつけ、今一度地面へ叩き伏せる。

 

そしてもう一本の腕もへし折るべく、彼の左腕へと手を伸ばす。

 

ここは界放市ジークフリード区の街の裏側にある広大な路地裏。窮地に陥ったイチマルを助けに来る者など、どこにもいないし、来れるわけもない………

 

はずだった。

 

 

「………おい」

「!!」

 

 

少年の声が聞こえた。レイジは手を止め、その方へと目を向ける。イチマルも同じだ、満身創痍の状態で震えながらも、そこへと視線を移す。

 

 

「な、なんで………」

「ヒャハ。やっとお出ましか、鉄屑野郎」

「オーカミ……!!」

 

 

そこにいたのは鉄華オーカミ。息遣いがやや荒い事から、ここまで走って来たのが窺えるのと同時に、今のこの状況を察して、怒りが堪えられなくなっているのがわかる。

 

 

「………何やってんだよ、オマエ!!」

 

 

いつもクールで冷静な彼らしくない怒声が響き渡る。

 

鉄華団VS滅亡迅雷の幕が切って落される時は、刻一刻と迫っていた。

 

 

 






次回、第36ターン「上位互換、バルバトスルプスVS滅」


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第36ターン「上位互換、バルバトスルプスVS滅」

オーカミのためヨッカのため、自分の兄であるライダー王レイジに挑むイチマルだったが、彼の圧倒的な力の前に惨敗。

 

怒りを買った事もあって酷い暴行に見舞われてしまう中、オーカミがそこへと駆けつける。駆けつけたオーカミの表情は、普段の彼からは想像ができないほど、怒りに満ち溢れていた。

 

 

******

 

 

「よぉ、ヨッカの弟分、界放リーグで会った時以来だな。約束通りテメェを叩き潰しに来てやったぜ」

「…………」

 

 

界放市ジークフリード区にある広大な路地裏。

 

日向も当たらないこの空間にて、界放市を代表するカードバトラー「三王」の一角を担う「ライダー王」のレイジと、今年の界放リーグジュニアで準優勝を果たし、一躍有名人となった鉄華オーカミが相対する。

 

 

「お、オーカミ。なんで、ここに……」

 

 

レイジの暴行により、顔や身体に瘤や痣だらけになってしまったイチマルが、オーカミに訊いた。

 

 

「ウチの店のFAXから位置情報だけがプリントされた紙が届いてたし、なんかイチマルもいなくなってたから、ちょっと変だと思って」

「あ………」

 

 

イチマルは店のFAXに送られた、この場所の位置情報がプリントされた紙の存在を失念していた。あの時は無我夢中だったのだろう。

 

 

「ハァッ……ハァッ………ちょっとオーカ、速すぎ、アネゴを置いてかないで」

「あ、やっと来た」

「って、イチマル!?……どうしたのその怪我、腕大丈夫なの!?……え、ライダー王レイジ!?!……えぇ、何がどうなってんの!?!」

 

 

そんな折、息を切らしながらも遅れて登場して来たのは、アポローンのもう1人のバイトにして、みんなの姉御、雷雷ミツバ。

 

現れるなり、この意味深な状況に困惑する。

 

 

「アネゴ、イチマルを病院に連れて行ってやって」

「え、そりゃそうするけど………オーカは?」

「オレは、アイツと話がある」

「アイツって、ライダー王レイジの事………!?」

「うん」

 

 

オーカミがレイジの方を指差しながら、ミツバにそう告げる。

 

彼女は直後に、ライダー王レイジから発せられる強者且つ負を連想させる邪悪なオーラを感じ、彼こそが、今のこの状況を作り上げた張本人である事を確信する。

 

なら、その頼みを承諾するわけにはいかなくて………

 

 

「だ、ダメよ。一緒に来なさい」

「行かない。多分大丈夫だから、気にしないで」

「気にするよ!!……センパイに続いてオーカまでいなくなるなんて、私は耐え切れない」

 

 

これまではあまり表には出してこなかったが、少なからず、ヨッカの行方がわからなくなった事に対して心配していたミツバ。ここで自分がどこかに行けば、今度はオーカミが自分の前から姿を消してしまうのではないかと、恐れる。

 

 

「本当に大丈夫だから、頼む。イチマルを早く病院に連れて行ってくれ」

「ダメ。アンタになんかあったら、ヒメに顔向けできない」

「頼む」

「………」

 

 

顔を見れば、流れて来る怒りの感情が抑え切れなくなっているのがよくわかる。

 

このまま放置して仕舞えば、オーカミはきっと危険な行動に出る。それは彼の姉貴分として、止めなければならないなの事だが…………

 

 

「………わかった。でもこれだけは約束して、要が済んだら、必ず電話する事、そうじゃなくても直ぐに戻って来るから」

「うん。ありがとう」

 

 

やめろと言っても聞かない事は明白。ミツバは折れ、致し方なくオーカミの頼みを承諾する。

 

 

「ほら、行くよイチマル、立てる?」

「オーカミ………」

 

 

怪我をし、倒れるイチマルに肩を貸すミツバ。イチマルはされるがままに立ち上がるが、その視線はミツバではなく、オーカミへ向いていて…………

 

 

「イチマル、無理するな」

「頼むオーカミ、兄ィを……救ってやってくれ」

「!」

 

 

右腕が折られ、身体が瘤や痣だらけになっても尚、イチマルが気に掛けているのは自分ではなく、他の誰か。

 

 

「本当は自分でやらないといけないのに、ごめん、ごめんなぁ……オマエを守りたかったはずなのに、オレっちはバカで、間抜けで、ドジだからよ………結局お荷物になっちまって、ごめんなぁぁ……!!」

「イチマル……」

 

 

その目からは涙がこぼれ落ちている。自分の弱さを妬み、苦しんでいるのが痛い程伝わって来る。

 

 

「大丈夫、後は任せろ」

 

 

オーカミがそう返答すると、イチマルは事切れたように気を失い、肩を貸していたミツバがそのまま彼を背負う。

 

 

「アネゴ、イチマルの事頼む………アイツは、オレが潰す」

「オーカ………すぐに戻るから、無茶はしないでよ」

 

 

込み上げ続けて来る怒り故か「レイジを救って欲しい」と言っていた、イチマルの言葉を無下にするようなオーカミの発言に不安を感じるミツバ。だが、今は信じるしかない。

 

気を失ったイチマルを重たそうに背負いながら、この場を後にした。

 

こうして、このジークフリード区の広大な路地裏に、鉄華オーカミと、ライダー王レイジのみが残り………

 

 

「感動の茶番劇はもういいのかよ、鉄屑野郎」

「………」

「おぉおぉ、怖い怖い」

 

 

オーカミは鋭い剣幕でレイジを睨みつける。

 

 

「オマエは、何のためにイチマルを傷つけたんだ」

「おいおい、勘違いしてんじゃねぇぞ。オレも好きでやったわけじゃねぇ、テメェを呼び出そうとしたら、あのゴミが勝手にやって来たってだけの話よ」

「………理由になってないだろ」

「なってんだよ。アイツは生意気な上にオレ様と違って頭の出来が悪い。ゴミはゴミらしく処分しねぇとなぁ………ヒャーハッハッハ!!」

「オマエ……!!」

 

 

下劣極まりないレイジの発言に、オーカミは更なる怒りを覚え、その剣幕は鋭さを増し、開いていた拳は硬く、力強く握り締められる。

 

 

「潰してやるよ鉄屑野郎、二度とバトスピできねぇようにな。そしてヨッカの奴をさらに絶望させてやる」

「……アニキが今どこにいるのか知ってるのか」

「あぁ、無事とは言い難いがなぁ」

「………」

 

 

レイジはヨッカが今どこにいるのかを知っている。元々それを餌にオーカミにバトルをさせる計画であったが、イチマルが傷つけられた事で憤怒している今の様子を見るに、それを使って煽る必要もなかっただろう。

 

 

「オレが勝ったら、アニキの居場所を教えてもらう。後、イチマルに謝れ」

「ヒャハ、テメェが勝てたらな」

 

 

互いにBパッドを展開し、左腕にセット。そこにデッキを装填し、バトルの準備を終える。

 

 

「………バトル、開始だ」

「待ってたぜ、この時をよぉ………滅亡させてやる、迅雷の如くなぁ」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

弱者を虐め、苦しめる事に快楽を感じる男レイジと、彼に激怒するオーカミ、2人のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は鉄華オーカミだ。イチマルとヨッカのため、全力でそのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でデッキの上から3枚オープン、その中の鉄華団カード1枚を手札に加える………よし、オレは『オルガ・イツカ』のカードを手札に加え、残りは破棄」

 

 

オーカミの初手は、相棒であるモビルスピリット「バルバトス」の第1形態。地中からそれが勢い良く飛び出し、姿を見せる。

 

さらにその召喚時効果により、彼はカードを1枚、新たに加えた。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

「ヒャハ。バルバトス、悪魔の名を冠するスピリットにしちゃあ貧相なスピリットだな」

「いいから早く来いよ」

「おいおいそう焦んな。折角のバトルだ、もっとゆっくり楽しもうぜ」

 

 

第1ターンが終わり、次はどう言った戦術でオーカミを傷みつけようかと考えているレイジのターン。

 

お目当てだったオーカミが登場し、自分の嫌いな弟であるイチマルが退場したからか、その心にはどこか余裕が生まれている様子。

 

 

[ターン02]レイジ

 

 

「メインステップ………先ずは創界神ネクサス、アークの秘書・アズを配置」

「紫の創界神……?」

 

 

ー【アークの秘書・アズ】LV1

 

 

「そうだ。オレのデッキはテメェの鉄屑団と同じ紫属性なんだよ、気が合いそうだな」

「合うわけないだろ」

「釣れねぇな。配置時の神託でデッキトップ3枚をトラッシュに………今回の対象は3枚、よってフルカウントでアズにコア+3」

 

 

バトスピが盛んな大都市である界放市。その中でもトップに君臨する三王の1人、ライダー王のレイジの使用する色は紫。

 

ライダー王であるため、ライダースピリットを使わせれば右に出る者がいない彼だが、それは紫に関しても同じ事が言えて…………

 

 

「さらにライダースピリット、仮面ライダー雷をLV1で召喚」

 

 

ー【仮面ライダー雷[2]】LV1(1)BP2000

 

 

レイジの場に、稲妻型の双剣を手に持つ紫属性のライダースピリット、雷が召喚される。

 

 

「召喚時効果で1枚ドロー、アズにコア+1。ターンエンドだ」

手札:4

場:【仮面ライダー雷[2]】LV1

【アークの秘書・アズ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

ほとんどのコアを使い切り、レイジはターンをオーカミへと譲る。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、オルガ・イツカ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「配置時の神託を発揮………オレも全て対象のカード、よってオルガにコア+3」

 

 

当然、オーカミの次の手は、前のターンに効果で手札へと加えた「オルガ・イツカ」…………

 

その効果でトラッシュのカードがさらに肥える。

 

 

「1形態のLVを2にアップして、アタックステップ」

「あぁ?」

「行け、1形態、アタックだ」

 

 

場にいた1形態のLVを2へと上昇させると、オーカミは早くもアタックの指示。

 

1形態は背部ののスラスターで低空を飛行する。

 

 

「フラッシュタイミングでオルガの【神域】の効果、デッキ上から3枚破棄する事で1枚ドロー」

「ヒャハ、馬鹿が。頭に血が昇って脳死で殴って来やがった………ライフで受けてやる」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉レイジ

 

 

1形態の鉄拳が、レイジのライフバリアに炸裂。それを1つ砕き、オーカミに先制点を齎した。

 

一見すると、ただ単に頭に血が昇った彼が、早々に考え無しのアタックを行っただけのようにも見えるが、実はそうではなくて…………

 

 

「これで次のターン、ライフ減少により増えたコアで、オレはより多くのカードを使える。バトスピ初心者かよ、笑わせるぜ」

「エンドステップ時、バルバトス第1形態の効果を発揮」

「!」

「自分がアタックしていたら、トラッシュからコスト4以下のバルバトスをノーコストで呼ぶ。来い、2体目の1形態!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「スピリットを増やしただと」

「召喚時効果で3枚オープンし、グレイズ改弍を手札に加え、残りを破棄。ターンエンド」

手札:7

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

1形態が1形態を呼ぶ。オーカミは何も考えずにアタックをしたのではなく、1形態のLV2からの効果を誘発させるためにわざとアタックを行ったのだ。

 

そのお陰で、オルガの効果を含め、オーカミの手札は7枚と、かなり潤沢になった。彼は今、確かに怒りに満ちた剣幕を見せているが、その判断は至って冷静の一言に尽きる。

 

 

「テメェ、まさか手札を増やすためにわざとアタックを」

「オレのデッキはそう言うデッキだからな。いいからその増えたコアとやらでかかって来いよ、何が来てもオレのバルバトスで潰してやる……!!」

「気持ち悪りぃ………」

 

 

どんなに怒り狂っていようが、異常なまでの冷静さ、ひいては冷酷さとも取れる判断力を持つオーカミに、レイジはドン引きした。

 

まるで生き残るために本能をフル活用する、血生臭い野生の獣でも相手にしているような、気持ち悪い感覚に見舞われながらも、巡って来たそのターンを進めて行く。

 

 

[ターン04]レイジ

 

 

「メインステップ、ゼロワン フライングファルコンを2体連続召喚」

 

 

ー【ゼロワン フライングファルコン】LV1(1)BP3000

 

ー【ゼロワン フライングファルコン】LV1(1)BP3000

 

 

「ゼロワン………」

「それぞれの召喚時効果で、トラッシュと雷にコアを2つずつ追加。それにより雷はLV2にアップ」

 

 

イチマルも使用していた汎用性の高いゼロワンのライダースピリット、マゼンタのボディ持つフライングファルコンが2体、レイジの場に出現し、計4つのコアをブーストする。

 

 

「対象スピリットの召喚により、アズにコアを+。ターンエンドだ」

手札:3

場:【仮面ライダー雷[2]】LV2

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1

【アークの秘書・アズ】LV2(6)

バースト:【無】

 

 

「そんな悠長な事やってていいのかよ」

 

 

そのエンド宣言直後、オーカミがレイジに告げた。

 

 

「煽るじゃねぇか鉄屑獣野郎。速攻だけが紫じゃないんだぜ」

 

 

手札を増やしたオーカミとは対象的に、レイジはこのターン、緑のカードでコアを増やした。強力なスピリットを展開するためのした準備であろう。

 

さらにイチマル戦とは違い、オーカミの軽い煽りに苛立ちを覚えていないあたり、やはり心にどこか余裕を感じられる。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「ここで一気に畳み掛ける、アタックステップの開始時、オルガの【神技】の効果を発揮!!」

「そいつは知ってるぜ。創界神のコアを4つ払って、トラッシュから鉄屑スピリットをノーコス召喚するんだろ」

 

 

ターン開始の早々、オーカミはターンシークエンスをすぐさまアタックステップへと切り替える。

 

鉄華団の団長オルガが発揮する、鉄華団スピリットの展開効果。この効果で呼び出すスピリットは、鉄華団デッキのエース。

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4S)BP12000

 

 

上空から、大地を震撼させる程の勢いで着地したのは、白い装甲、黄色いツノを持つ、鉄華オーカミのエースカード、バルバトス、その第4形態。

 

黒き戦棍メイスを固く握り、レイジの方へと構える。

 

 

「エースのご登場か」

「4形態、アタックだ!!」

 

 

オーカミの怒りを糧に、バルバトス第4形態が走り出す。

 

 

「その効果でフライングファルコン2体のコアを1つずつリザーブに置き、消滅!!」

 

 

4形態がレイジ側のフィールドに辿り着くと、そこにいる2体のフライングファルコンに対し、横一線でメイスを振るう。

 

諸にその攻撃を受けた2体はたちまち消滅した。

 

 

「さらにLV3効果で、ダブルシンボル!!」

「いいぜ、そこまではライフで受けてやる」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉レイジ

 

 

4形態が次に目をつけたのはレイジのライフバリア。今度はメイスを縦一線に振い、それを2つ粉砕する。

 

 

「手札からマジック、絶甲氷盾を発揮」

「!」

「効果によりノーコス使用。テメェのアタックステップは終わりだ」

 

 

デッキの採用率が高い白属性の防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」がここで発揮。

 

このターンのオーカミの攻撃は、ここで強制的に中断となる。

 

 

「………ターンエンド」

手札:8

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV1

バースト:【無】

 

 

先に攻撃を仕掛け、大きなアドバンテージを確保した事には違いないこのターン。4形態の力で優勢に立つオーカミだが、界放市最強のカードバトラーの1人であるライダー王「レイジ」は、まだその真の実力を見せていなくて…………

 

 

[ターン06]レイジ

 

 

「メインステップ。仮面ライダー亡を召喚」

 

 

ー【仮面ライダー亡[2]】LV2(2)BP5000

 

 

「アズにコア+。召喚時効果により、トラッシュから仮面ライダー迅を手札に、そしてそれも召喚」

 

 

ー【仮面ライダー迅 フライングファルコン[2]】LV1(1)BP2000

 

 

アズにコアを乗せつつ、2体の新たなライダースピリット、白く麗しい鉤爪を持つ亡と、マゼンタのボディに、銀の翼を持つ迅を召喚する。

 

さらに亡だけでなく、迅にも召喚時効果があり………

 

 

「迅の召喚時効果。デッキ上から3枚オープン、その中にある対象カードを加える………ヒャハ、オレはこの仮面ライダー滅を手札に加えるぜ」

 

 

効果によりオープンされたカードを視認するなり笑みが溢れる。

 

加えたカードは余程強いカードに違いない。と、オーカミは警戒するが…………

 

その直後に、圧倒的な力の差を思い知る事となる。

 

 

「その名の元に、全てを滅せよ………仮面ライダー滅 スティングスコーピオン、LV2で召喚!!」

 

 

ー【仮面ライダー滅 スティングスコーピオン[2]】LV2(2)BP10000

 

 

レイジのフィールドに出現する、透き通るような透明感を持つ、紫の結晶。それを砕き、中より姿を現すスピリットが1体。

 

それはライダースピリットの滅。レイジのエースにして、滅亡迅雷を総べる王。

 

 

「コイツは………」

「ヒャハ。今からテメェに絶望を与えるスピリットだ」

 

 

レイジは不気味な笑みを浮かべ、召喚したエースカード、滅の効果を発揮して行く…………

 

 

「滅の召喚時効果、コア3個以下のスピリットを4体破壊する」

「!!」

「2体の1形態を破壊だ」

 

 

滅の眼光から放たれる紫の波動が、オーカミのフィールドの1形態2体を粉塵に変え、爆散させる。

 

そして、ただでさえ強力なこの効果にはまだ続きがあり…………

 

 

「さらに、オレの場に「アーク」があれば、相手創界神1つを破壊する」

「ッ……創界神を!?」

「消えろ、オルガ・イツカ!!」

 

 

オーカミのBパッド上にある「オルガ・イツカ」のカードがトラッシュへと誘われる。

 

 

「オルガが、創界神が破壊された……」

 

 

初めての創界神の破壊に、少なからず戸惑いを見せるオーカミ。

 

鉄華団専用の創界神「オルガ・イツカ」…………

 

これまで幾度となく鉄華団スピリット達を、オーカミを全力でサポートして来た強カードだが、創界神とて無敵ではない。レイジの滅のように、ごく稀にそれさえ粉砕してしまう力を持ったカードも存在する。

 

 

「ヒャハ。お待ちかねのアタックステップだ。全てを滅ぼして来い、滅亡迅雷スピリット、滅!!」

 

 

オーカミの動揺が収まる間もなく、レイジが滅で攻撃を仕掛けて来る。

 

さらに、滅の持つ効果は召喚時だけではなくて…………

 

 

「滅のアタック時効果を発揮、コア4個以上のスピリット1体を破壊」

「ッ………!?」

「ヒャハ。良い顔するようになったな、ようやくオレとの力の差を理解し始めたか、そんじゃあバルバトス第4形態を破壊」

 

 

滅はアーチェリー型の武器を手に持ち、そこから無慈悲に紫電を纏った矢を放つ。バルバトス第4形態はそれに射抜かれ大爆発を起こした。

 

 

「まだ続くぜ。オレの場に「滅」「亡」「迅」「雷」の名を持つライダースピリットが揃っていれば、テメェのライフ2つをボイドに送る」

「なに、ライフをボイド!?」

 

 

亡、迅、雷の3体のスピリットらが、その力を、オーラとして滅1体に注ぎ込む。滅亡迅雷4体のスピリット全ての力を集約させた滅は、手より螺旋状のエネルギー弾を放出する。

 

それは空間を抉り取りながら、オーカミのライフバリアへと迫って行き…………

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ、ぐァァァァッ!?!」

 

 

直撃。2つのライフバリアが木っ端微塵に粉砕され、塵芥と化し、身体の内側が破裂するような凄まじい激痛に襲われる。

 

 

「て、手札からグレイズ改弍の効果を発揮」

「あぁ?」

「鉄華団スピリットが相手によってフィールドから離れた時、これを手札からノーコスト召喚する」

 

 

ー【流星号[グレイズ改弍]】LV2(3S)BP3000

 

 

「召喚時効果で1枚ドロー………」

 

 

完全に更地となってしまったオーカミの場に飛来して来たのは、マゼンタのボディに身を包んだ鉄華団モビルスピリット「グレイズ改弍」………

 

 

「ヒャハ。苦し紛れの一手だな。そいつも直ぐに地獄に行くことになるぜ」

 

 

スピリットが突然召喚されたと言っても、所詮は低コストの下級スピリット。自分の滅には勝てないと息巻いてるレイジだが…………

 

オーカミの手札には、それを覆す更なる一手が存在していて。

 

 

「【煌臨】発揮、対象はグレイズ改弍!!」

「……煌臨だと?」

 

 

界放リーグでオーカミの試合を観戦していたレイジは、一部の効果を除き、彼のカードをある程度は知っていたが、ここに来て全く聞き覚えのない「煌臨」の宣言。

 

そう。彼はまだ知らないのだ、オーカミが界放リーグ後に入手した、新たな切り札を…………

 

故に、それだけがこの状況を変える起死回生の一手となり得る。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ!!………ガンダム・バルバトスルプス、LV2で煌臨!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

オーカミの背後から飛び立つのは、実態を持たないモビルスピリットの影。それは同じく飛び立ったグレイズ改弍と重なり合い、その誠の姿を披露する。

 

名はバルバトスルプス。

 

バスターソード状の武器、ソードメイスを振るう、バルバトスの新たな未来、新たな可能性。

 

 

「………なんだコイツは、さっきまでのとは何か違うな」

 

 

これまでもかと言わんばかりに性格の捻じ曲がったレイジだが、仮にも強者。

 

それ故の嗅覚ですぐさまルプスが強力なスピリットである事を見抜く。なりふりかまっていられないオーカミは、一刻も早くこの状況を打破すべく、ルプスの効果を発揮させて行く…………

 

 

「ルプスの煌臨アタック時効果、オレのデッキを上から2枚破棄」

 

 

オーカミのデッキの上から2枚のカード「三日月・オーガス」と「ガンダム・バルバトス[第1形態]」が破棄される。

 

そして、それらはいずれも鉄華団のカード。

 

 

「こうして破棄した鉄華団カード1枚につき、コア3個以下のスピリット1体を破壊する」

「ほぉ、意趣返しか」

「オレは、アタック中の滅と、亡を破壊!!」

 

 

ルプスは登場するなり、背部のスラスターで低空を凄まじい速度で飛行し、レイジのフィールドへと侵攻。弧を描くようにソードメイスを振い、滅と亡を瞬殺する。

 

 

「よし」

「ヒャハ。鉄屑なりに足掻きはするか、ターンエンド」

手札:2

場:【仮面ライダー迅 フライングファルコン[2]】LV1

【仮面ライダー雷】LV2

【アークの秘書・アズ】LV2(9)

バースト:【無】

 

 

ターンが進み、ここに来てようやくライダー王としての本当の実力を晒し出し始めたレイジ。

 

彼の放つ並大抵のカードバトラーならば失神してしまう程の重圧なオーラは、怖いもの知らずのオーカミでさえプレッシャーを感じている。

 

だがオーカミとて、それに屈する訳にはいかない。それを一身に受けながらも、震える指先に力を入れ、ようやく巡って来た自分のターンを進めて行く。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディをLV2で2体連続召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

丸みを帯びた体格で、濁った白のボディを持つ小型鉄華団スピリット、ランドマン・ロディが2体、オーカミのフィールドへと新たに参上する。

 

 

「アタックステップ。バルバトスルプス!!」

 

 

ルプス含め、3体のスピリットが揃った所で、オーカミはアタックステップへ、バルバトスルプスでアタックを行う。

 

当然、そのアタック時効果もまた発揮される。

 

 

「煌臨アタック時効果、デッキ上から2枚破棄」

 

 

破棄されたのは「ガンダム・バルバトス[第2形態]」と「ガンダム・グシオンリベイク」…………

 

いずれも鉄華団カードだ。

 

 

「よし、コア3個以下の迅と雷を破壊!!」

 

 

煌臨されて以降、バルバトスルプスの勢いが止まらない。今一度ソードメイスを振い、残った迅と雷を撃破する。

 

前のターンにオーカミがレイジにスピリットを全滅させられたのに対し、今度はオーカミがレイジのスピリットを全滅させて見せた。

 

 

「次はアイツのライフだ、叩きつけてやれ、バルバトスルプス!!」

 

 

一気に形成が逆転。ルプスがソードメイスの剣先をレイジへと向ける。

 

残り2つの彼のライフ。オーカミらアタック中のルプスと、残った2体のランドマン・ロディで、それを全て破壊するつもりなのだろう。

 

だが、まるでその単調な戦法を嘲笑うかの如く、レイジは手札から1枚のカードをBパッドへと叩きつけて…………

 

 

「ヒャハ。まさかテメェ、このオレに勝った気でいるんじゃねぇだろうなぁ?」

「!?」

「フラッシュマジック、アークの意志」

 

 

イチマルとのバトルでも使用したマジックカード。その時点で居合わせていなかったオーカミはその効果を知らない。

 

 

「効果によりバルバトスルプスのコアを1個になるようにリザーブへ」

 

 

フィールド全域に広がる紫の霞。それはルプスの機体内に存在するコアを1つ弾け飛ばし、LVを最低の1へとダウンさせる。

 

 

「その後、トラッシュから「滅亡迅雷ライダースピリット」1体をノーコスト召喚する」

「なに!?」

「ヒャハ。再び全てを滅せよ、仮面ライダー滅をもう一度召喚だ」

 

 

ー【仮面ライダー滅 スティングスコーピオン[2]】LV1(1)BP7000

 

 

フィールドに広がっていた紫の霞が晴れると、レイジ側のフィールドにはルプスが倒したはずのライダースピリット、滅が蘇っていた。

 

 

「トラッシュにある雷の効果、滅亡迅雷ライダースピリットが召喚された時、トラッシュから手札に戻る。さらに滅の召喚時効果、コア3個以下のスピリット4体を破壊、ほらさっさと散りやがれ鉄屑どもォォォ!!!」

 

 

再び滅の眼光から紫の波動が放たれる。オーカミのフィールドにいる2体のランドマン・ロディ、さらにはルプスさえも粉塵に変えられ、爆散してしまう。

 

 

「ルプス………!?」

 

 

ゼノンザードスピリットさえも倒す鉄華団の新たなエース「バルバトスルプス」…………

 

それを持ってしても、ライダー王レイジとの力の差を埋める事はできない。

 

 

「くっ、2体のランドマン・ロディの破壊時効果で2枚ドロー」

「1つ良い事を教えてやる」

「……?」

 

 

なんとか破壊のリカバリーをしようと、オーカミはランドマン・ロディの破壊時効果でドロー。その直後にレイジがニタニタと笑みを浮かべながら、ある事を告げる。

 

 

「テメェとオレは同じ紫のデッキだが、除去力や展開力などなど、その性能にはかなりの差がある」

「………」

「つまり何が言いてぇのかって???……オレのデッキはテメェのデッキの完全上位互換だって事よぉぉお!!」

「………」

「オマケにプロとガキのプレイング力の差もある。テメェじゃ逆立ちしたってオレには勝てねぇ」

 

 

バトスピで勝つための最も重要な要素である『カードの力』と『技術』

 

今までのオーカミのバトルにおいて『技術』が負けている時こそ多々あれど、どこからか送られて来る鉄華団の『カードの力』で戦い抜ける事ができた。

 

だが、今回の相手はそのどちらも通用しない。

 

紫属性使いにして、ライダー王レイジのバトルは、少なくとも今の鉄華オーカミのバトルの『完全上位互換』のような存在だったのだ。

 

 

「言いたい事はそんだけかよ、ターンエンド」

手札:8

バースト:【無】

 

 

レイジとの計り知れない力の差を感じながらも、そのターンをエンドとする。

 

ただし、まだ勝負を諦めたわけではない。鉄華団のデッキが滅亡迅雷の完全下位互換であろうとも、技術で劣ろうとも、ヨッカのため、イチマルのため、このバトルで負けるわけにはいかないのだから…………

 

 

「ヒャーハッハッハ!!!……威勢だけは百点満点だな鉄屑野郎。そのままテメェをボロ雑巾にしてヨッカの前に叩きつけてやる」

 

 

これでもかとオーカミとの力の差を見せつけるレイジ。彼にさらなる追い討ちを掛けるべく、巡って来た自分のターンを進めて行く。

 

 

[ターン08]レイジ

 

 

「メインステップ。ここまで楽しませてくれたお礼だ。テメェには最高のフィナーレを用意してやる」

 

 

メインステップの開始直後にそう告げると、レイジは手札にある1枚のカードを引き抜き、それをBパッドへと叩きつけた。

 

そのカードは、彼がある人物から譲渡された『悪魔の魔道具』であり…………

 

 

「司るは紫。その身に地獄を宿す、魔王の根源………ゼノンザードスピリット、憂鬱の魔王・ベールフェゴル!!……LV3で召喚」

「!」

 

 

ー【「憂鬱の魔王」ベールフェゴル】LV3(5)BP12000

 

 

地底より噴き出てくる闇の息吹。それらは空間を震撼させながら、密集していき、やがて悍ましい悪魔の姿を形成する。

 

その名は憂鬱の魔王・ベールフェゴル。ライダー王レイジの所有する、紫のゼノンザードスピリット。

 

 

「ゼノンザードスピリット………」

「そうだ。Dr.Aより授かりし無敵の力だ、ヒャーハッハッハ!!」

「誰」

 

 

ベールフェゴルを見るなり、思い出すのはイチマルの「ヤクーツォーク」と、早美アオイの『ゼノンザードスピリットはその強力な力の代償として、憎悪や憎しみを増幅、やがて暴走させてしまう特性がある』と言う言葉。

 

ほんの一瞬「目の前のアイツも、ゼノンザードスピリットさえなければ、本当はイチマルみたいに優しい奴なんじゃないか」と勘繰るが、彼がイチマルにやった仕置きが想起し「やっぱ許せないな」と早々に考え直す。

 

 

「オマエは早美アオイの仲間かなんかか?」

 

 

オーカミがレイジに訊いた。

 

 

「な訳。利害関係が一致してるだけだ。オレはもうちょっと身体の小せぇ女が好みなんだよ。テメェの彼女みたいなのが丁度いいサイズだ」

「あっそ」

 

 

直後、召喚されたベールフェゴルが会話を遮断するように雄叫びを上げると、その効果が適応されて行く。

 

 

「ベールフェゴルの効果、テメェの手札にあるスピリットカードのコストは+3される」

「なに………!?」

 

 

すぐさま手札を確認する。その中にある全てのスピリットカードは宣言された通りコストが3上昇、とてもではないが気兼ねなく召喚できるモノではなくなってしまっていた。

 

 

「ヒャハ。テメェのライフ2つはボイドに送られていて、増えるはずのコアも増えていねぇ、これでスピリットはほぼ召喚できなくなったなぁ」

「くっ……」

「さらにアタックステップ、ベールフェゴルでアタック」

 

 

一手を終えるたびにオーカミを追い詰めていくレイジ。遂にトドメのためにアタックステップへと突入し、呼び出した悪魔の魔道具、ゼノンザードスピリット、ベールフェゴルでアタックの宣言。

 

その第二の効果が解放される。

 

 

「ベールフェゴルのアタック時効果、トラッシュから紫一色のスピリット1体を、2コスト支払って召喚できる」

「ッ………また蘇生効果!?」

「ヒャーハッハッハ!!……オレはトラッシュにある、2枚目の滅を召喚!!」

 

 

ー【仮面ライダー滅 スティングスコーピオン[2]】LV1(1)BP7000

 

 

空間がヒビ割れるのではないかと思ってしまう程の、ベールフェゴルの雄叫び。

 

それは地底奥深くまで鳴り響き、地の底からライダースピリット滅を蘇らせる。

 

 

「大型のライダースピリットが2体………」

「狼狽えるにゃあまだ早いぜ、ベールフェゴルのアタックは継続中だ……!!」

「!」

 

 

気づけばオーカミの眼前に存在するベールフェゴル。悪魔らしい、血の気のない荒んだ両手を合わせ、その狭間から黒いエネルギー弾を形成し、それをオーカミのライフバリアへと向かって叩きつける。

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

「う、うァァァ……!!!」

 

 

強力なゼノンザードスピリットの一撃により、ライフバリアは粉々に砕け散る。

 

先程とは比べ物にならない激痛に、オーカミは悲痛な叫びを上げ、思わず片膝をついてしまう。

 

 

「ヒャハ。愉快愉快、後は2体の滅がテメェの息の根を止めるぜ………」

 

 

そう告げ、Bパッド上にある滅のカードを横にしようとするが、その前に痛みを堪え、歯を食いしばって立ち上がったオーカミが動く。

 

 

「ラ、ライフの減少により、手札にある絶甲氷盾の効果を発揮……!!」

「あぁ?」

「このターンのアタックステップを終了させる」

 

 

オーカミも握っていた、汎用性が最も高い白の防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』…………

 

その効果により、レイジのアタックステップは強制終了。強力無比な紫のゼノンザードスピリット、ベールフェゴルであっても、この効果を無力化する事はできない。

 

 

「チッ……テメェも持ってたか。まぁそんだけ手札がありゃおかしくもねぇか、ターンエンド」

手札:2

場:【「憂鬱の魔王」ベールフェゴル】LV3

【仮面ライダー滅 スティングスコーピオン[2]】LV1

【仮面ライダー滅 スティングスコーピオン[2]】LV1

【アークの秘書・アズ】LV2(11)

バースト:【無】

 

 

舌打ちしながらそのターンを終える。

 

だが、オーカミのフィールドにはスピリットどころかネクサスもない事、手札のスピリットカードはベールフェゴルによりコストが3上昇し、気兼ねなく召喚できなくなっている事を知っている彼は、即座に余裕を取り戻し、また弱者を虐げ、嘲笑う表情を見せるようになる。

 

 

「ヒャハ、満身創痍だなぁ鉄屑野郎。オレと言う名の上位互換と戦った感想はどうだ?」

「………」

「悔しいだろう悔しいだろう、世知辛い世の中だよなぁ、神様は与える力を平等にゃしてくれねぇんだ」

「………」

 

 

ー『うるさいな、早く黙れよ』………

 

オーカミは痛みにより意識が朦朧とし始める中、内心でそう思った。しかし、それとは裏腹に、実際の口では、彼と戦った感想を告げる。

 

 

「感想……か。イチマルの方がよっぽど強いって思ったくらいかな」

「………あ?」

 

 

引き合いに出されたのは自分の弟。いや、弟とも呼べない、ゴミで雑魚。

 

しかもそれよりも自分が劣ると口にした。

 

 

「あぁ?」

 

 

イチマルの名を口に出された途端、レイジの表情から僅かに余裕が消え、キレ気味な態度を取るようになる。

 

 

「テメェ、感性死んでんじゃねぇのか。あのゴミ雑魚より何でライダー王のオレが弱ぇと思えんだよ」

「逆に聞くけど、何でオマエはイチマルより強いと思ってるんだ」

「………」

 

 

それが当然だと言わんばかりに主張するオーカミに、レイジは額に青筋を浮かび上がらせる。

 

 

「この後に及んでオレを侮辱するとは良い度胸してんじゃねぇか鉄屑野郎」

「侮辱も何も、本当の事を言っただけだろ。オマエは何もわかっちゃいない」

「………テメェは腕1本だけじゃ済ませねぇ、体中の骨をバキバキにへし折ってやるよ」

「やれるもんなら、やって見ろよ」

 

 

上位互換とも呼べる存在であるレイジに対し、オーカミは肉体的に限界が近づいているにもかかわらず、恐れる事なく堂々と啖呵を切る。

 

 

「オレのターンだ……!!」

 

 

そして、ターンが巡り回って彼のターンへ…………

 

それを開始しようと、己のBパッドに手を置くが、その間に、界放リーグの際にイチマルに言われた事が脳裏に蘇る。

 

 

ー『……あぁ、悪い……それオレっちの兄ィだ』

 

ー『何を言われたのかは知らないけど、悪気はなかったと思うんだ、許してやってくれ。あんなんでも、意外と良い所もあるんだぜ?』

 

 

イチマルは兄の事を尊敬している。そう思っているのがオーカミの胸にひしひしと伝わっていた。

 

だが、当のレイジは…………

 

 

ー『アイツは生意気な上にオレ様と違って頭の出来が悪い。ゴミはゴミらしく処分しねぇとなぁ………ヒャーハッハッハ!!』

 

 

こんな事を平然と口にする奴だ。とてもではないが尊敬に値する人物とは思えない。イチマルはそんな彼でも自分に『救ってやって欲しい』と告げて来たが…………

 

ー『一度、この手で叩き潰したい。救けるのはその後からでも間に合うだろ』

 

オーカミの考え方はこれで帰結していた。イチマル本人やヨッカがいない今、もう彼は止まらない。ただ、自分の持つ本能に忠実に進み続けるのみ…………

 

 

「おい、バルバトス………」

 

 

窮地に立たされているとは思いない程、オーカミは落ち着いた物言いで、己のデッキの相棒であるバルバトスへ問い掛ける。

 

 

「オレはこのバトル、絶対に負けられない。オマエもそう思うだろ?」

 

 

じゃあよこせよ、オマエの力……!!

 

 

次の瞬間、オーカミの右眼の瞳孔が赤い輝きを放ち、そこから血の涙が頬を伝う。それに呼応するかの如く、彼のデッキもまた淡い赤色で点滅し始める。

 

 

「なんだ……?」

 

 

その異変に気づき始めるレイジ。

 

だが、気づいたとて、このバトルの結果は変えられない。間違いなく、彼は敗北する。

 

 

……行くぞ、バルバトス………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界には、一部地域にしか伝わらない、こんな言い伝えがある。

 

 

『カードバトラーとデッキ、決して離れる事のない二つの存在が一つになる時、血を代償に勝利への道を約束する』

 

 

そして人々は、その領域に到達したカードバトラーを、絶対的な力と言う意味合いを込めて、王者(レクス)と呼び、恐れた。

 

 

 







次回、ゼノンザード編最終話。

第37ターン「レイジ・オブ・ダスト」




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第37ターン「レイジ・オブ・ダスト」

赤色に輝く右眼の瞳孔、頬を伝う血の涙。

 

バトルに勝ちたい。負けられない。その想いが、オーカミの王者(レクス)の力を再び目覚めさせる。

 

 

 

 

******

 

 

「なんだコイツ、雰囲気が………」

 

 

さっきまで常に見せていた剣幕は息を潜め、人間味を感じさせない冷ややかな表情を見せるようになったオーカミ。

 

それは紛れもなく王者(レクス)の力が発動している証。今ここに、鉄華団の反撃の狼煙が上がる。

 

 

[ターン09]鉄華オーカミ・王者

 

 

「ドローステップ」

 

 

オーカミはドローステップでデッキからドローしたカードを視認する事はなく、そのままメインステップまでターンを進め、Bパッドにそれを叩きつける。

 

 

「メインステップ、ネクサス、ビスケット・グリフォンを配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

オーカミの場には何も出現しないが、鉄華団デッキのネクサスカードの1種、ビスケット・グリフォンが配置される。

 

レイジの場に存在する紫のゼノンザードスピリット、憂鬱の魔王・ベールフェゴルがいる限り、スピリットカードのコストは3上がるが、ネクサスカードならその影響を受けない。

 

 

「効果発揮、自身を疲労、デッキから1枚オープンして、それが鉄華団なら手札に加える。この効果で加わるのは2枚目のオルガ・イツカ、よってこれをそのまま配置する……!!」

「……!?」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「配置時の神託発揮。オルガにコア+3」

 

 

デッキ上から捲れるカードを視認するまでもなく言い当て、淡々と進めていく。

 

界放市最強のカードバトラーの1人であるレイジも、こればかりは驚愕せざるを得ない。

 

 

「テメェなんだ、何のイカサマをやってやがる……!!」

「アタックステップ」

 

 

行動の一つ一つに全く無駄がないオーカミ。レイジにイカサマを疑われようとも一切聞く耳を持たず、己のターンを進めて行く。

 

 

「その開始時にトラッシュにあるバルバトス第2形態の効果発揮」

「!」

「これをトラッシュから召喚する、来い」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1)BP3000

 

 

アタックステップの開始早々にオーカミの場へと飛来して来たのは、機関銃を備えたバルバトス第2形態。低コストのスピリットではあるが、全ての鉄華団スピリットにバウンス耐性を与える優秀な効果を備えている。

 

 

「トラッシュからスピリットの召喚だと………?」

「ベールフェゴルはスピリットカードのコストを上げる。でもその効果はトラッシュまでは及ばない」

「くっ……」

 

 

今のオーカミはベールフェゴルの効果で手札にあるスピリットカード全てのコストを上昇させられていたため、普通に召喚するのは困難を極めていたが、トラッシュからなら話は別だ。

 

 

「さらに今の召喚でオルガにコア+1。合計で4つ、これで【神技】を発揮できるようになる」

「………テメェ」

「オルガの【神技】を発揮、トラッシュから鉄華団スピリット1体をノーコスト召喚する」

 

 

今一度発揮されるオルガの【神技】…………

 

オーカミがフィールドへと呼び出すのは、自分のデッキの中で最も強力な力を持つ、あのスピリット。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス……LV2で再召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

上空より凄まじい勢いでオーカミの場へと着地し、大地と大空を震撼させるのは、バルバトスの強化形態、バルバトスルプス。

 

再びバスターソード状のメイス、ソードメイスを手に、オーカミと共に戦う。

 

 

「アタックステップを続行、バルバトスルプスでアタック」

 

 

再召喚したバルバトスルプスでアタックを仕掛けるオーカミ。その効果も発揮させる。

 

 

「アタック時効果発揮、破棄されるのはどっちも鉄華団カード。よって2体の滅を破壊する」

「くっ……またカードを見ずに言い当てやがる」

 

 

バルバトスルプスの効果により、オーカミのデッキ上から2枚のカードが破棄される。それはいずれも鉄華団カードであるため、コア3個以下のスピリット2体を破壊する。

 

ソードメイスを1体目の滅に向かって投擲し、その身体を貫く。さらに地面に突き刺さったソードメイスを手に取り、流れるように2体目を斬り裂く。

 

倒れる滅の爆発による爆炎の中、バルバトスルプスの目線の先には、残り2つとなっているレイジのライフバリア…………

 

 

「これでオマエのブロッカーは消えた。後はその小汚いライフをぶっ壊すだけだ」

「………」

 

 

レイジの場のスピリットは、疲労しているベールフェゴルのみ。

 

いくらゼノンザードスピリットと言えども、疲労状態では何もできない。バルバトスルプスと第2形態のアタックで、オーカミの大逆転勝利は目前に迫っていた。

 

だが、彼は仮にも界放市最強のカードバトラーの1人「ライダー王」…………

 

抵抗する手段を何も残さずに自分のターンを終えるわけがなくて。

 

 

「甘ぇぇんだよ鉄屑野郎!!……オレは創界神ネクサス、アークの秘書・アズの【神技】を発揮」

「……」

「コアを4つ取り除き、相手スピリットのコア2つをリザーブに置く。第2形態とルプスからそれぞれ1つずつだ……!!」

 

 

ここに来て更なる隠し球を投げて来たレイジ。彼の側にいる黒髪ロングの美少女秘書アズがその手をオーカミのフィールドに向かって翳すと、2体のバルバトスが紫のオーラを纏ったリングに拘束される。

 

その影響により、第2形態は即座に消滅。ルプスはLVが1に低下し、パワーダウン。

 

 

「ヒャハ。さらにこの効果は………」

「ターンに1回の制限はない、だろ?」

「ッ……気持ち悪りぃんだよテメェ!!……アズの【神技】をもう一度発揮し、ルプスのコアをリザーブに送り、消滅!!」

 

 

初見であるはずのアズの【神技】のテキストを言い当てるオーカミに再び気味の悪さを感じ、恐怖の痩せ我慢とも呼べる雄叫びを張り上げながら、二度目の効果発揮の宣言。

 

紫のオーラを纏ったリングの力が強まり、ルプスも2形態の後を追うように消滅して行った。

 

 

「ヒャハ。ヒャーハッハッハ!!!……どうだ鉄屑野郎、テメェは所詮オレ様の完全下位互換。どう足掻いたって勝てるわきゃねぇんだよぉ!!!」

 

 

勝利を確信し、レイジは腹の底から大笑いする。

 

 

「ヒャーハッハッハ!!!……無様無様ァァァ!!……己の無力さに泣けよ、絶望しろよさっさとォォォ!!!」

 

 

そう、勝てる要素などあるわけがない。あの光る右目も、そこから流れる血の涙も、突然未来を言い当てるようになったのも、何かの間違い、虚仮威し。

 

この界放市において、しかも紫のデッキで、自分に勝てるカードバトラーなど、いるわけがないのだ。

 

 

「手札にあるガンダム・フラウロスの効果を発揮」

「!」

 

 

少なくとも今までは、ずっとそう思っていた。

 

 

「鉄華団スピリットが相手によってフィールドを離れた時、手札からコレをノーコストで召喚できる。来い、ガンダム・フラウロス!!」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]】LV2(3)BP10000

 

 

流星の如くオーカミの場へと飛来するのは、マゼンタのカラーをした「ガンダム」の名を持つ鉄華団のモビルスピリット「フラウロス」………

 

 

「フラウロスは、名前に流星号を持つスピリット。よってさらに手札からパイロットブレイヴ「ノルバ・シノ」の効果。これもノーコストで召喚し、フラウロスと直接合体させる………!!」

「な、なんだと……!?」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]+ノルバ・シノ】LV2(3)BP14000

 

 

立て続けに、流れるように、淡々と。

 

オーカミは手札から2枚の鉄華団カードを呼び出し、この土壇場で新たな合体スピリットを誕生させた。

 

 

「フラウロスの召喚時効果、コア5個以上のスピリット1体を破壊。砕けろ、ベールフェゴル!!」

「!?」

 

 

新たな鉄華団スピリット、フラウロスは、自身の背面に備え付けられた2つの大きなレールガンから砲撃を放つ。

 

ベールフェゴルはその砲撃によって身体に大きな風穴を空けられてしまい、激しい断末魔を張り上げながら爆散して行った。

 

 

「ゼノンザードスピリットを効果で破壊だと!?」

「アタックだ、フラウロス!!」

 

 

オーカミの指示を受けると、フラウロスは四脚形態に変化。備えられていた2つのレールガンは1つとなり、より強力な砲撃を放てるようになった。

 

 

「今のフラウロスは合体によりダブルシンボル。オマエのライフ2つを破壊する!!」

「この、なんでテメェ如きがオレ様に勝とうとする!?!……雑魚同士で群れ合う事しかできねぇ、テメェ如きが!!!」

「だからオマエは何もわかってないんだ。仲間がいるから、1人じゃないから支え合えるんだろ。倒れても、一緒に立ち上がってまた強くなれるんだろ」

「ッ………」

 

 

オーカミの言葉を耳にするなり、彼の脳裏に浮かび上がって来た人物は、兄弟子であり、鬱陶しい存在だった「九日ヨッカ」と、実の弟で「雑魚」と呼称する「鈴木イチマル」…………

 

いずれも、出会い方や接し方によっては、互いに切磋琢磨し合える良好な関係を築けて来た人物たちだ。

 

そう、切磋琢磨し合えたはずなのだ。だが彼が選んだ道は、否定と拒絶と嘲笑。後悔しても遅い、ここまで来たら、後戻りはできない。今はただ、己が否定したモノに敗北するだけ。

 

 

「ふざけるな、ふざけるな。ふざけるなぁァァァ!!!」

「ぶち抜き破れ、フラウロス!!」

 

 

間近に迫った己の敗北を否定するように声を荒げるレイジに、オーカミは無慈悲の宣言。

 

フラウロスのレールガンから放たれた強力な砲撃は、容易くレイジの残った2つのライフバリアを撃ち抜き、砕く。

 

 

〈ライフ2➡︎0〉レイジ

 

 

「ぐっ……ァァァァァァァァ!?!」

 

 

ライフバリアが砕かれた衝撃により、レイジは吹き飛ばされ、背後にあった建築物と言う名の壁に頭部と背部を強くぶつける。

 

そのBパッドからは「ピー……」と言う甲高い機械音が鳴り響き、彼の敗北、オーカミの勝利を知らせる。

 

そうだ、鉄華オーカミは勝ったのだ、ライダー王であるあのレイジに、それも同じ紫属性のデッキを用いて、勝利して見せたのだ。

 

 

、オレの勝ち……だ。くア、アニキの居場所を………イチル、に、謝………れ」

 

 

バトルが終わった事による影響か、界放リーグ決勝の時と同様、力を使い果たしたオーカミは気を失い、その場に倒れ込んでしまう。

 

 

「ハァッ……ハァッ………ハァッ……!!」

 

 

壁に強く頭をぶつけ、共に倒れたと思われたレイジ。見た目通りタフな彼がその程度で気を失うわけがなく、オーカミに対する激しい怒りを胸に、再び立ち上がった。

 

 

「この……鉄屑野郎が。よくも、よくもこのオレ様をコケにしてくれたなァァァァァァァ!!!!」

 

 

すでに満身創痍の身体だが、溢れ出てくる怒りが彼に動く力を与える。

 

片腕と片足を引き摺りながらも、倒れているオーカミの元へとゆっくり歩み寄って行く。

 

 

「テメェみてぇな気持ち悪りぃ奴なんざバトスピする資格もねぇ、この手でテメェのゴミクズカードを破り捨ててやる。ヒャハ、今に見てろ、テメェの泣き顔が、絶望する顔が目に浮かぶぜ………!!」

 

 

あろう事かカードバトラーの命とも呼べるデッキのカードを破り捨てようと考えているレイジ。

 

ゼノンザードスピリットと共に敗北して尚このような行為をしようとするのだ。ゼノンザードスピリットの悪質な特性がなくとも、元からこの歪んだ性格の持ち主だったと言う事だろう。

 

そして、彼がオーカミのBパッドへ手を伸ばしたその時だ。それを制止させるべく、割って入った人物が1人…………

 

 

「テメェ、何邪魔してんだよ………Dr.A!!!」

「ヌッフフ」

 

 

今から7年前、この界放市を中心に、世界を新たな世界へ進化させると言う名目の元、滅ぼそうとした悪魔の科学者「Dr.A」………

 

顔を含め全身に包帯が巻かれ、自動で動く車椅子に腰を下ろしている状態だが、その存在感は顕在。さらにそのすぐ側には、彼と契約を交わしている少女、早美アオイも確認できる。

 

 

「久し振りですね、鈴木君」

「オレをその名で呼ぶな!!」

「おおっとこれは失敬」

 

 

苗字で呼ばれるのを嫌うレイジ。相手があのDr.Aであっても、臆する事なく怒りを向ける。

 

もっとも、今の彼に怒りを制御する程の冷静さなどないわけだが。

 

 

「レイジ君。君には感謝していますよ、このアオイさんを三王に推薦してくれた事や、紫のゼノンザードスピリットでバトルしてくれた事とかね。お陰で私の計画も順風満帆さ」

「だからなんだ、早くそこをどけ、ソイツのデッキを破り捨ててやるんだ、さっさとどっか行きやがれ!!」

 

 

オーカミに復讐する事しか考えていないレイジ。そんな彼を見てアオイは「哀れね」とキツイ一言。

 

 

「だけどレイジ君。君は勝手な行動をし過ぎた、無関係の人を傷みつけ、さらには負けた相手のカードを破り捨てようとしてる。控えめに言って、屑だよね?」

「黙れぇぇぇぇえ!!!」

「………ふむ、頭も下げられませんか。ヌッフフ、残念残念。君はもうちょっと賢い男だと思ってたんだけどね」

 

 

そう告げると、Dr.Aは車椅子に施されているBパッドの画面をタップすると、何もない空間から突然ブラックホールのような黒い渦が形成。

 

 

「な、何を……!?」

「君はもう用済みと言う事さ。今までありがとう………あぁ、ベールフェゴルは返してもらうよ。ゼノンザードスピリットはまだ必要だからね」

 

 

レイジのBパッド上にあるベールフェゴルのカードが吸い寄せられるようにDr.Aの手に渡る。

 

 

「あ、あ、ぁぁぁ……ぁぁぁ、助けてくれ、助けてくれぇぇ!!」

 

 

ブラックホールの吸引力に足を奪われ、宙を舞うレイジ。怒りはすぐさま恐怖に変わり、情けない声で命乞いをする。

 

だが時既に遅し。後は消えるのみ…………

 

 

「助けてくれ、助けてくれよヨッカ……イナズマ先生………イチ……」

 

 

レイジは涙を流し、最後は自分の中でもっとも近しい人物達に助けを求めながら、ブラックホールの中へと散って行った。

 

彼を吸い込み、目的を達成したブラックホールは消滅。簡単に人を消してしまうDr.Aの力、科学力を間近で見たアオイは冷や汗を流し、愕然とする。

 

 

「ど、Dr.A。彼は……死んだのでしょうか………?」

 

 

アオイが震えた声でDr.Aに訊いた。

 

 

「いや、そんな野蛮な事はしないよ。ただまぁ、ヌッフフ………ゴミはリサイクルしないとね」

「………」

 

 

イチマルやオーカミを散々「屑」「ゴミ」などと蔑んでいたレイジ。何の皮肉か、最後は自身がそれとなってしまった。

 

 

「まぁでもそんなゴミでも少しは役に立ったかな。鉄華オーカミの王者(レクス)をこの目で見る事ができたのだから」

「………その王者(レクス)とは、いったい何なのですか」

「ヌッフフ……本来半分も使えない脳の力を最大限に発揮させ、使用者を必ず勝利へ誘う、言うなれば天下無双の力さ。バトルの未来が見えると言う説もあるらしい」

 

 

アオイに王者(レクス)の力を軽く説明する。

 

正直言って半信半疑の話であるが、界放リーグ決勝戦やさっきのバトルを見る限り、信じざるを得ない。

 

 

「天下無双の力………なら今のうちに鉄華オーカミを処分しなくいいのですか。この少年は必ず私達の計画の妨げになる」

「いや、まだそれをする必要はないよ………王者を使える者は数が少なくて、貴重だからね、きっと彼のバトルからは良いデータが沢山取れる」

「しかし」

「安心したまえ、意図的には使えまいよ。それに、代償もあるからね」

「代償……?」

「そう、代償さ。ヌッフフ」

 

 

その言葉を最後に、Dr.Aはこの場を後にする。それを追うように早美アオイをこの場から去って行く。

 

残されたのは王者(レクス)の影響で目から血の涙を流し、気絶しているオーカミだけだった。

 

 

******

 

 

「………暇だ。余りにも暇すぎる」

 

 

ここは九日ヨッカの自宅。彼の家に、かれこれ1年は居候している少女、春神ライは、自室のベッドに寝転がりながらそう呟く。

 

いつも一緒に遊んでいる親友の夏恋フウはバイト。最近友達になった一木ヒバナには何故か既読スルーされるし、ヨッカも全く家に帰って来ない。暇を持て余すどころか最早極めていた。

 

 

「新しいゲームでも買いに行くかなぁ、でもお金ないしなぁ………なら新しい漫画でも買いに行くかぁ、お金ないんだった」

 

 

自慢の黄色がかった白髪のショートヘアを指先でクルクル回しながら悶々とした時間を過ごす。

 

 

「ヨッカさん。今この時もお父さんを探しているのかな」

 

 

行方不明になっている自分の父「春神イナズマ」………

 

ヨッカはそんな彼の弟子だったと言う。そう言う繋がりもあり、今はここに居させてくれている。

 

 

「………お父さん」

 

 

12年も過ごして来た父が忽然と姿を消してしまった、あの日の出来事が脳裏に浮かぶ。1人でいると、どうしても嫌な事を思い出してしまう。

 

 

「いかんいかん。何か楽しい事を考えよう………楽しい事」

 

 

そう思ったライの脳裏にすぐさま浮かんできたのは、鉄華オーカミのめんどくさそうな表情。

 

 

「ちょッ……なんでアイツが出て来んのよ!!」

 

 

赤面しながら、自分で自分を怒るライ。収まり切れない怒りは手元にあった枕を部屋の壁に向かって投げる事で解消する。

 

 

「意味わかんない。なんで楽しい事でアイツの顔が浮かんで来んのよ。今度会ったら絶対バトルで懲らしめてやるんだから」

 

 

オーカミにトバッチリが飛んだ所で、家のインターホンが鳴り響く。暇を極めていたライは、これを聞いた途端思わずベッドから飛び出した。

 

 

「誰か来た!!……来た、来た、来た〜〜〜♪」

 

 

変な歌を歌いながら、自分を暇から救ってくれる救世主の元へと駆け出し、そのドアを開ける。

 

 

「はいは〜い。ライが出ますよ〜〜っと」

「……久しいな、春神」

「うわっ……アルファベットさん」

「うわ?」

 

 

そこにいたのは界放警察の警視にして、ヨッカの知人でもある、サングラスを掛けた青年アルファベット。てっきりバイトの終わったフウか、ヒバナだと予測していたライは少しだけ彼に驚く。

 

 

「何か事件的な奴ですか?……生憎なんですけど、今日、て言うか2日くらい前からヨッカさん家に居なくて」

「あぁ、知っている。今日はオマエに用があって来た」

「え、私に?」

 

 

いつもは聞き込み調査やら犯人の現行犯逮捕のためにヨッカを引っ張り出すアルファベット。

 

だが、今回に限っては、その引っ張り出す対象は春神ライであり…………

 

 

「九日が捕えられた。オマエの力を貸してほしい」

「は?」

 

 

ライは一瞬、アルファベットの言っている意味を全く理解できなかった。

 

 

 

 

 




次回、新章『早美邸編』開幕。

第38ターン「王者の力を持つ者達」






******


今回はだいぶ短くなってしまったので、王者の鉄華に登場するメインキャラ達のプロフィールを掲載する事にしました。
少しでも楽しんでいただけましたら幸いです( ̄∀ ̄)


******

【鉄華オーカミ】
性別:男
年齢:13歳
身長:149cm
誕生日:01月23日
特徴:無造作に伸びた赤い髪
漢字表記:【鉄華王神】
使用デッキ:【鉄華団】
エースカード:【バルバトス第4形態】【バルバトスルプス】
名前の由来:鉄華団の鉄華とバルバトスの強化形態ルプスレクス。ラテン語でルプスは狼、レクスは王と言う意味なので、掛け合わせてそのままオーカミと言う名前に。


【九日ヨッカ】
性別:男
年齢:21歳
身長:181cm
誕生日:9月4日
特徴:褐色肌、白髪のツンツン頭
漢字表記:【九日四日】
使用デッキ:【青MS(スサノオ)】
エースカード:【スサノオ】
名前の由来:9と4を引き算すると5。オルガ・イツカの5日(いつか)になるから。


【春神ライ】
性別:女
年齢:13歳
身長:152cm
誕生日:7月1日
特徴:黄色がかった白髪のショートヘア
漢字表記:【春神来】
使用デッキ:【赤グッドスタッフ】
エースカード:【エヴァ新2号機α・ヤマト作戦】
名前の由来:遥か未来を見通すから。


【一木ヒバナ】
性別:女
年齢:14歳
身長:154cm
誕生日:8月7日
特徴:黒髪ツインテール
漢字表記:【一木日華】
使用デッキ:【赤緑地竜】
エースカード:【ウォーグレイモン】【赤ゴモラ】【緑ゴモラ】
名前の由来:花火の娘と言う事で、実際の花火より小さいイメージのある火花から。


【鈴木イチマル】
性別:男
年齢:14歳
身長:172cm
誕生日:10月10日
特徴:先だけ緑色。チャラついた癖毛。
漢字表記:【鈴木一丸】
使用デッキ:【ゼロワン】
エースカード:【ゼロツー】
名前の由来:TVをつけたら偶然「鈴木一郎さん」が映っていたから。


【獅堂レオン】
性別:男
年齢:15歳
身長:175cm
誕生日:4月4日
特徴:銀髪
漢字表記:【無し】
使用デッキ:【ザフト】
エースカード:【デスティニーガンダム】
名前の由来:主役が狼なので、ライバルは獅子にしようってなり、今の感じに。関係ないけど遊戯王にデスティニーレオン(うろ覚え)て言う名前のモンスターが存在する。


【早美アオイ】
性別:女
年齢:16歳
身長:160cm
誕生日:5月27日
特徴:青髪ロング
漢字表記:【早美葵】
使用デッキ:【CB】
エースカード:【ダブルオーライザー】【トランザムライザー】
名前の由来:当時ダブルオーがすこぶる強かったので、その速くて青い印象から。






******






【鉄華団カード入手順】

『第1ターン』
「バルバトス第1形態」「バルバトス第4形態」「鉄華団モビルワーカー」「革命の乙女」

『第3ターン』
「三日月・オーガス」「オルガ・イツカ」「ビスケット・グリフォン」「もっとよこせ」

『第5ターン』
「バルバトス第2形態」「バルバトス第3形態」「バルバトス第5形態」「バルバトス第6形態」

『第8ターン』
「グシオンリベイク」

『第14ターン』
「グレイズ改弍」「漏影」「昭弘・アルトランド」「イサリビ」

『第30ターン』
「バルバトスルプス」「フラウロス」「ランドマン・ロディ」「ノルバ・シノ」


******


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早美邸編
第38ターン「王者の力を持つ者達」


鉄華オーカミは、退屈な人生を過ごしていた。

 

好きな物や興味がある物など何もないし、友達と遊んだりもしない。そもそも友達なんて1人もいなかった。

 

その内に秘めていたのは、早く自立して、仕事に追われる姉を楽させてあげたいと言う想いだけ…………

 

 

「ハッハッハ。つまんなそうな顔してるな、オマエ」

 

 

界放市と言う街に引っ越して来て間もない頃。自分よりも遥かに背が高い、白髪のツンツン頭の青年が声をかけて来た。

 

 

「………誰だアンタ」

「悪りぃ、職業柄、つまんなそうにしてる奴には声掛けたくなる性分でね。どうだ、オマエオレと一緒にバトルスピリッツ、通称バトスピをやってみねぇか?……楽しいぞ!!」

「…………ヤダ」

 

 

言うまでもなく、これが鉄華オーカミと、九日ヨッカ、2人の出会いである。

 

 

 

******

 

 

 

「………アニキ」

 

 

早朝。自分の部屋で、今も行方知らずとなってしまったヨッカに想いを馳せながら、鉄華オーカミは目を覚ます。

 

 

「夢………か」

 

 

起床時の癖になっている郵便ポストの確認へと向かう。ドアを開け、外の肌寒さを感じながらも、付近のポストの中を確認する。

 

そしてその中には、又しても達筆な字で「鉄華オーカミ様へ」と書かれた封筒が届いており…………

 

 

「………」

 

 

良い加減慣れて来たオーカミは、無言でそれをポケットへとしまった。

 

 

******

 

 

それから少し時間が経過し、日差しが強くなる昼間。オーカミは待ち合わせ場所である、ヴルムヶ丘公園まで足を運んでいた。

 

ゼノンザードスピリットを得て、正気ではなくなっていたイチマルとのバトルをここでしたのは記憶に新しい。

 

 

「よっ!…オーカミ」

「イチマル」

 

 

ベンチに座っているオーカミに声を掛けたのは、他でもない鈴木イチマル。右腕の巻かれている包帯が痛々しい。

 

 

「……右腕」

「はは、気にすんなよ、オレっちの自業自得だ。直ぐに治るし」

 

 

本人はこれと言って特に気にしてはいないみたいだが、この様子だと、しばらくバトルをするのは不可能だろう。

 

『あの時もう少し早く気づいていたら』と言う後悔の感情が、オーカミの心中に渦巻く。

 

 

「そんな事よりオーカミ、兄ィは、昨日兄ィはどうなったんだ……!?」

 

 

イチマルは、自分の右腕そっちのけで、レイジの事をオーカミに訊く。

 

 

「昨日、オレはバトルの後気を失ってて、気づいたらアネゴと一緒に病室にいた。アネゴが言うには、オレ以外は誰もいなかったって」

「……つまり、何もわかんねぇって事だな」

「うん、ごめん」

「謝るこたぁねって!……一先ずオマエが無事で良かったよ。まぁ兄ィもその内お腹空かせて帰って来んだろ」

 

 

オーカミもイチマルも、もちろん昨日オーカミのためにあの場へと戻って来たミツバも、ライダー王レイジはDr.Aの反感を買ったばかりに処分されてしまった事を知らない。

 

残酷な事に、レイジはもはや改心する余地さえ残されていないのだ。

 

 

「………アイツは、アニキの居場所を知っていた」

 

 

結局のところ聞かずじまいとなってしまっていたが、何故かレイジは行方不明となったヨッカの居場所を知っていた。

 

 

「聞いた感じだと、どこかに捕えられてるみたいなんだ。でも、そのどこかわからないと助けには行けない」

「クソ、もどかしいな。こうしてる間にも、ヨッカさんが苦しんでるのかもしれねぇのに何もできないなんて。おいオーカミ、オレっち達だけでもヨッカさんを捜索した方がいいんじゃ」

「闇雲に探してもダメだ、多分見つからない」

「じゃあどうすんだよ、このまま指咥えたまま何もしないなんて」

 

 

シビアだが、どこに捕えられているのかもわからないため、助けようがない。

 

自分の無力さに拳を握り締めるオーカミだが、そんな彼に助け舟とも呼べる助言を口にする人物が1人…………

 

 

「早美邸」

「!」

「九日はそこにいる」

「え、誰?」

 

 

サングラスを掛けた大柄で茶髪の青年。突然自分達の前に現れたこの人物を、オーカミは知っている。

 

 

「何でいんの、警察の人」

「え、警察!?」

「久しいな、鉄華」

 

 

彼は界放市が誇る界放警察の1人「アルファベット」………

 

その若さと短いスパンの間で、数々の難事件を解決に導いている正真正銘の名刑事だ。

 

 

「早美邸、知らないか?……早美アオイの住居だ。九日はそこに幽閉されている可能性が極めて高い」

「!」

 

 

早美アオイの住居と聞いて、その情報がより有益なモノだと言うことを理解する。

 

早美アオイはDr.Aと契約を結んだ悪女。これまでも危険な特性を持つゼノンザードスピリットを、イチマルを始めとした多くの者達に手渡して来た。彼女なら、ヨッカを幽閉していても何ら不思議ではない。

 

 

「ありがとう。じゃあそこに行けばアニキを助けられるのか」

「え、今から行くのか、1人で!?」

「うん。取り敢えず」

「バカ、取り敢えずじゃねぇよ!!……それって要は敵の本陣って事だろ、そんな所に1人で突っ込んで行く奴がいるか」

 

 

聞いて間もなくそこへと向かおうとするオーカミ。イチマルがそれを言葉で制止させる。

 

 

「そいつの言う通りだ鉄華。仮に我々界放警察が束になっても勝てる保証がない場所に、1人で飛び込んで行くのは余りにも愚行」

「じゃあどうすんの。どうにかできるから、オレみたいな子供に情報を教えたんだろ?」

 

 

オーカミの言う通りだ。確かに、仮にも警察が一般人にそんな危険な情報を安易と流すとは考えづらい。

 

 

「フ……相変わらず勘が鋭いな。そう、だから少数精鋭で乗り込む。メンバーはオレとオマエと、後1人だ」

「後1人?」

「あぁ、そろそろ出て来てもいいんじゃないか?」

 

 

アルファベットが誰もいないはずの草むらに向かって問い掛けると、そこから黄色がかった白髪のショートヘアの少女、春神ライが姿を見せる。

 

 

「え、この子確か、界放リーグの時に一緒に試合観戦した……」

「………新世代系女子」

「誰が新世代系女子よ!!……私には春神ライって言うちゃんとした名前があるって言ってんでしょうが!!」

「オマエだってオレの事赤チビって呼ぶだろ」

「だって赤くてチビじゃない」

「それよりオマエ、ずっとそこに隠れてたのか」

「ふふ、主役登場!!……って感じがしてカッコよかったでしょ?」

「………」

「ちょい!!……何とか言いなさいよ!!」

 

 

出会い頭に、いつも通りの口論がはじまるオーカミとライ。その傍ら、イチマルは彼女が界放リーグの決勝戦で一緒にオーカミを応援した少女である事に気がつく。

 

 

「ちょ、ちょっと待って、ひょっとしてこの子が3人目!?」

 

 

驚いた様子で、イチマルがアルファベットに訊いた。自分よりも年下に見える華奢な女の子が、危険な場所に飛び込んでバトルできるようには見えなかったのだろう。

 

 

「そうだ。早美邸には、この春神と、オレと鉄華で乗り込む」

「マジか。オ、オレっちは一緒に行っちゃダメですか……女の子が一緒に行けて、オレっちが行けないなんて」

 

 

自分だって戦力になると言わんばかりにアピールするイチマルだが。

 

 

「その右腕で何ができる。オマエは戦力外だ」

「………」

 

 

右腕が骨折している今、カードをドローする事すらままならない。手厳しいがアルファベットの言う通り、イチマルは戦力外だ。

 

 

「気にしなくていいよ、イチマル」

「オーカミ………でも、またオマエが危険なバトルを」

「大丈夫。警察の人も新世代系女子もまぁまぁ強いし。アニキの事はオレに任せて欲しい」

「………わかった」

 

 

完全に納得こそできないが、今の自分が戦力外なのは理解できる。イチマルは大人しく引き下がった。

 

 

「何がまぁまぁ強いよ。この3人の中で1番弱いクセに」

「弱くない。オレもアレから強くなった」

 

 

ライがオーカミの言葉に反応し、絡んで来る。

 

 

「へ〜〜だったら今ここで決着を着ける?……界放リーグ後にバトルするとか言って、なんだかんだできなかったもんね」

「うん。いいよ、着けよう、決着」

 

 

自然な流れでバトルする事になる2人。

 

以前はカードショップ「ゼウス」にて一戦交え、ライの勝利で終わったが、オーカミがうっかり受け札を試合中に落としてしまっていたので、ライ自身はまだ彼に勝った気になってはいなかった。故に彼女にとってはずっと待ち望んでいた再戦である。

 

それに、確かめたい事もあって………

 

 

「なんか急にバトル始めようとしてるんすけど、アルファベットさんでしたっけ?……止めなくていいんすか」

 

 

2人がBパッドを展開し、バトルの準備を進めていく中、イチマルがアルファベットに訊いた。

 

 

「構わん。これから共に戦うのだ、互いの実力を知っておくに越した事はない。それに………」

「それに?」

 

 

………『王者の力を持つ者同士の衝突が見られるかもしれないしな』

 

アルファベットはそう言い掛けるが、今、王者の事を教える必要はないと判断し、言葉を呑み込む。

 

 

「ほい。じゃあ本当に強くなったのか、この私に見せてみなさいよ」

「あぁ、バトル開始だ。オマエこそ、今度こそ本気のデッキなんだろうな?」

「もち」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

知らぬ間にBパッドを構え合い、バトルの準備を終えていた2人。アルファベットとイチマルが見守る中、2人のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は春神ライだ。今度こそ本気のデッキで、鉄華オーカミにバトルを仕掛ける。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ、赤の母艦ネクサス、AAAヴンダーを配置」

 

 

ー【AAAヴンダー】LV1

 

 

ライの背後に出現するのは、機翼を持つ巨大な飛行船。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【AAAヴンダー】LV1

バースト:【無】

 

 

ー『アイツは唯一、私の見た勝利の未来を覆し掛けた。このバトルでその力が本物かどうか、そんでもって私には敵わないって事を証明してやる』

 

彼女の心の内側では、己のバトルに対するプライドが渦巻いている。そんな事はつゆ知らず、オーカミは巡って来たターンを進めて行く。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「ドローステップ………ッ!?」

 

 

Bパッドからカードをドローするオーカミ。しかしその途端、突然右目が疼き、右手の指先に痺れが迸る。ドローしたカードは手を離れ、そのまま地に落ちた。

 

 

「ちょいちょい、何やってんの、カード落ちたなら、今度こそちゃんと拾いなさいよ」

「………わかってるよ」

 

 

何事もなかったかのように、オーカミは落としたドローカードを拾い、またターンシークエンスを進めて行った。

 

 

「メインステップ、ネクサス、ビスケット・グリフォンとオルガ・イツカを配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「オルガの神託。対象カードは1枚、よってコア1つをオルガに追加する」

 

 

オーカミも負けじと足場となる、鉄華団のネクサスカード、ビスケットとオルガを配置して行く。通常のネクサスとは違い、この手のカードはフィールドに出現しない。

 

 

「ビスケットの効果で自身を疲労、デッキ上1枚をオープンし、それが鉄華団なら手札に加える………グレイズ改弍は鉄華団、手札だ。ターンエンド」

手札:4

場:【ビスケット・グリフォン】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

考えうる限り最高の初動を行ったオーカミ。次のターンで更なる展開をすべく、一度そのターンを終える。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「メインステップ。先ずはドラゴンズミラージュをミラージュとして、バーストゾーンにセット」

「……ミラージュ?」

 

 

ライのフィールドにあるバーストゾーン上に、赤いドラゴンの紋章が刻まれる。

 

 

「うっしし、ミラージュも知らないのか〜〜」

「……いいから早くしろよ」

 

 

初めて見るミラージュに疑問符を浮かべるオーカミ。だがその直後、それの恐ろしさを知る事となる。

 

 

「ほい、じゃあドラゴンズミラージュの【セット中】効果。手札にあるコスト4以上の機竜カードを破棄する事で、相手のネクサス、創界神ネクサス1つを破壊する」

「なに……!?」

「手札にあるコスト5の宙征竜エスパシオンを破棄して、創界神ネクサス、オルガ・イツカを破壊」

 

 

ライのミラージュ、ドラゴンズミラージュの効果が発揮。オーカミのBパッド上にあるオルガのカードが早くもトラッシュへと誘われる。

 

 

「くっ……またかよ」

「AAAヴンダーの効果、1ターンに一度、赤の効果で相手のスピリットかネクサスを破壊した時、デッキから1枚ドロー。さらにドラゴンズミラージュの効果に制限はない、2枚目のエスパシオンを破棄して、今度はビスケット・グリフォンを破壊」

「!」

 

 

立て続けに二度目のドラゴンズミラージュ。ビスケットのカードまでもが、オーカミのトラッシュへと落とされる。これでフィールドは0。次ターンに大きなアクションを取る事が困難な状況へと陥ってしまう。

 

 

「ターンエンド。私とのバトルで、シンボルを残せると思うなよ」

手札:3

場:【AAAヴンダー】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

「つ、強い。オーカミが押されてる……あの子、ライちゃんってあんなに強かったのか」

 

 

ライのターンが終わると同時に、そう言葉を落としたのは、イチマルだった。

 

 

「あぁ、普段はあぁだが、奴は強い。少なくとも、この界放市最強と謳われる三王程度なら軽く凌駕しているかもな」

「えぇ!?……そんなに強いのに、何で界放リーグに出なかったんだ」

「色々あるんだ、色々な」

 

 

アルファベットがライの強さの尺度をイチマルに教えたところで、バトルはフィールドを更地にされてしまったオーカミへとターンが巡る。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……オレはランドマン・ロディ2体をLV1で連続召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

丸みを帯びた小型のモビルスピリット、ランドマン・ロディが2体、オーカミのフィールドに出現する。

 

 

「アタックステップ。ランドマン・ロディ1体でアタックだ」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

先にアタックステップを本格的に行ったのはオーカミ。ランドマン・ロディは手に持つマシンガンを掃射し、ライのライフバリア1つを撃ち抜く。

 

 

「……ターンエンド」

手札:3

場:【ランドマン・ロディ】LV1

【ランドマン・ロディ】LV1

バースト:【無】

 

 

先制点は与えたものの、ネクサスが破壊されたがために苦しい状況が続く。オーカミはそのターンを終え、次のライのターンに備えた。

 

 

「ふふん、随分苦しそうね」

「何笑ってんだよ。オマエがそうしたんだろ」

「そりゃ相手の強いカードは先に潰しておくのが鉄則っしょ、創界神ネクサスなら尚更。特にアンタのデッキは見る限り、アレへの依存度が高いしね」

 

 

界放リーグで散々バトルを見られたのもあってか、ライはオーカミの鉄華団デッキに対する理解度が高い。単純なデッキ相性だけでなく、そういった点も、オーカミはこのバトルで不利を取っていると言える。

 

 

[ターン05]春神ライ

 

 

「メインステップ……先ずはロケッドラと、ブレイヴカード、アームストロンガー」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

ー【アームストロンガー】LV1(1)BP3000

 

 

ライのフィールドに出現するのは、背部に小型ロケットを背負った小さなドラゴン、ロケッドラと、赤い装甲、強靭な腕を持つブレイヴのドラゴン、アームストロンガー。

 

 

「さらに手札から、3枚目のエスパシオンを召喚。不足コストはロケッドラから確保」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV1(1S)BP5000

 

 

ロケッドラはすぐさま消滅してしまうものの、その代償として、雷雲落雷と共に、機械仕掛けのドラゴン、エスパシオンが現れる。

 

 

「……なんか、強そうだな」

「そう。コイツは強い、と言うよりヤバイ!!……召喚アタック時効果で、BP7000以下のスピリット、ランドマン・ロディ1体を破壊」

 

 

登場するなり、口内から電撃弾を放つエスパシオン。それはオーカミのランドマン・ロディ1体に被弾し、爆散にまで追い込んだ。

 

 

「破壊に成功した事で、AAAヴンダーの効果で1枚ドロー」

「ランドマン・ロディの破壊時効果、オレもデッキから1枚………」

 

 

破壊されてもただでは転ばないのが、鉄華団デッキの特徴。オーカミはランドマン・ロディの破壊時効果でドローを行おうとするが………

 

 

「残念、それは使えない」

「!」

「エスパシオンのこの効果は自分のミラージュがあれば、破壊したスピリット効果を発揮させなくする」

 

 

フィールド荒らしだけでなく、ライはそれに対するリカバリーさえも完全に完封。

 

さらに今、ブレイヴと、それの合体条件に見合うスピリットが1体ずつ揃った。当然次に行うのは、それらの合体だ。

 

 

「エスパシオンとアームストロンガーを合体、さらにLV2へアップ」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン+アームストロンガー】LV2(2)BP10000

 

 

アームストロンガーは自身の姿をアーマーへと変化させると、エスパシオンはそれと合体。赤き装甲、手に膨大なエネルギーを宿す、強力な合体スピリットへと変貌した。

 

 

「アタックステップ。その開始時にエスパシオンのLV2からの効果を発揮、トラッシュにあるコアを5個、エスパシオンの上に追加し、LV3にアップ」

 

 

ライのBパッド上にあるトラッシュにあたる場所から、コアがエスパシオンのカードの上へと移動する。

 

 

「これだけじゃない。この時、私の手札が4枚以下なら2枚ドローする」

「ドローまでできるのか」

 

 

コアを戻すだけにあらず、手札まで補い、赤属性のエースカードらしいオールラウンダーぶりを発揮するライのエスパシオン。

 

彼女の手札は2枚であったため、この効果で4枚まで回復した。これは今のオーカミの手札よりも1枚多い枚数。

 

ここまでカードを切り、相手のフィールドを荒らしておいて、手札まで多く抱えられるのは、彼女の言葉を借りると、確かにヤバイと言える。

 

 

「アタックステップ続行、エスパシオンでアタック!!……アームストロンガーの【合体中】効果でトラッシュにあるバースト効果を持たない赤のスピリットカード、エスパシオンを手札に回収」

「!」

「うっしし、流石のアンタも気づいたか、これでまたドラゴンズミラージュの効果を使える、ネクサスを出しても、また破壊されるだけって事よ」

 

 

前の彼女のターンにドラゴンズミラージュのコストとなってトラッシュへと破棄されていた別のエスパシオンのカードが手札へと舞い戻る。

 

 

「召喚アタック時効果で2体目のランドマン・ロディを破壊」

「……」

「当然その効果は無効、ドローはできない」

 

 

再びエスパシオンの口内から電撃弾が放たれ、2体目のランドマン・ロディもそれによって爆散されてしまう。

 

これにより、オーカミのフィールドは又しても更地。だが、彼も何もできないと言うわけではなくて………

 

 

「鉄華団スピリットがフィールドを離れる時、手札にあるグレイズ改弍の効果、自身をノーコスト召喚」

 

 

ー【流星号[グレイズ改弍]】LV2(3)BP3000

 

 

「召喚時効果で1枚ドロー……破壊されたカードじゃなくて、別のカードなら効果は使えるだろ」

 

 

ランドマン・ロディの破壊に反応し、上空より姿を見せるマゼンタカラーのモビルスピリット、グレイズ改弍。その効果により、オーカミは念願のドロー。

 

 

「いいぞオーカミ!……これでエスパシオンのアタックをライフで受ければ、グレイズ改弍をフィールドに残せる!」

 

 

イチマルが叫ぶ。鉄華団のデッキから、フィールドにシンボルが1つでも残れば、そこから大量展開を狙える。

 

これにはライも予想外だと言わんばかりの反応を見せる…………

 

かと思われたが。

 

 

「それは知ってた。フラッシュマジック、レーザーボレー」

「なに?」

「不足コストはエスパシオンから確保、LVは2に下がるけど、その効果でグレイズ改弍を破壊」

 

 

ここでまさかのマジック。天空から照射される赤いレーザー光線が、グレイズ改弍の装甲に風穴を開け、爆散させる。

 

それにより、オーカミのフィールドは今一度更地へ逆戻り。

 

 

「ビスケットでめくれてたカードだし、対策しないわけがないでしょ」

「………」

「さぁ、エスパシオンの本命のアタック!!」

 

 

機翼を広げ、宙を舞うエスパシオン。そしてオーカミのライフバリア目掛けて急降下して行く。

 

 

「ライフで受ける」

「合体によりダブルシンボル、2つ破壊する」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

エスパシオンは、アームストロンガーとの合体により強度を増したその右腕を振い、オーカミのライフバリアを一気に2つ削り取る。

 

破壊の限りを尽くしたエスパシオンだが、その役目はここで一時終了となる。

 

 

「ターンエンド。さ、どっからでも来なさいよ」

手札:4

場:【宙征竜エスパシオン+アームストロンガー】LV2

【AAAヴンダー】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

 

 

赤属性の選りすぐりのカード達を巧みに使いこなし、自分にはアドバンテージを、オーカミにはディスアドバンテージを与え続けるライ。

 

仮にも界放リーグ準優勝者であるオーカミが、ここまで一方的に追い詰められるなど、少なくとも彼とイチマルは思ってもいなかった。

 

 

「流石だな春神、攻防共に隙がない」

「マジかよ、これじゃあ一生逆転できない………オーカミ」

 

 

アルファベットやイチマルが、このバトルに対して思った事、感じた事を告げる中、オーカミは…………

 

 

「………」

「どしたの急にダンマリして、アンタのターンでしょ。それとももう諦める?…サレする?…うっしし」

 

 

本当に諦めてしまったのか、なかなかターンを進めないオーカミ。そんな彼を煽りに煽りまくるライ。

 

 

「フ……」

 

 

だが、オーカミは決して諦めたわけではない。寧ろこの状況下の中で笑って見せた。いつものクールな表情が崩れない程度に。

 

 

「………何笑ってんのよ」

「オマエとのバトル、オレ好きだな」

「え?……は?」

 

 

おそらく恋愛的な意味合いは全くないのだろうが、オーカミの「好きだな」と言う曇り一つない真っ直ぐな感情をぶつけられ、ライの顔は真っ赤になり、頭の先からは湯気が上る。

 

 

「ちょ、ちょいちょいちょい、それどう言う……」

「オレのターンだ」

「話を聞けぇ!!」

 

 

困惑するライを他所に、オーカミは巡って来た己のターンを進めていく。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ。フィールドにシンボルはないけど、ライフが減った事でコアは増えた、行くぞ」

 

 

ここからが勝負だ。そう言わんばかりに、オーカミは手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス・第4形態をLV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4S)BP12000

 

 

上空から、大地を震撼させる程の勢いで着地したのは、白い装甲、黄色いツノを持つ、鉄華オーカミのエースカード、バルバトス、その第4形態。

 

フィールドのシンボル不足により、5コストをそのまま支払っての召喚だったが、なんとかそのLV3を維持している。

 

 

「……出たわね、バカの一つ覚えのスピリット」

「アタックステップ、4形態でアタック!!」

 

 

オーカミはここでターンをアタックステップへの移行。彼の不意の言葉で動揺していたライも、ここらで冷静さを取り戻す。

 

 

「4形態のアタック時効果で、ブレイヴのアームストロンガーを破壊、この効果発揮後、エスパシオンのコアを2つリザーブに置く」

「!」

 

 

黒き戦棍メイスを、エスパシオンに向かって投擲する4形態。それはエスパシオンの胸部に直撃し、体内にあるコアを、4つの内2つを弾き飛ばす。

 

さらにはその衝撃により、合体していたアームストロンガーが、エスパシオンの元を離れ、飛び出す。4形態はそれを見逃さず、廃部から滑腔砲を取り出し、それを狙撃。見事に命中させ、爆散させる。

 

 

「くっ……」

「さらにLV3効果でダブルシンボルのアタックだ」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉春神ライ

 

 

投げたメイスを拾いながら、ライの元へと駆け抜ける4形態。メイスによる横一線の一撃が、彼女のライフバリアを一気に2つ砕く。

 

 

「まだ終わらない。バルバトス第4形態は、自分のターン中、各バトル終了時、トラッシュから1コストで鉄華団スピリットを召喚できる」

「……」

「オマエも来い、ガンダム・グシオンリベイク!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV1(1)BP6000

 

 

バトルを終えた4形態が、その眼光を輝かせると、地中より、薄茶色の分厚い装甲を持つ、ガンダムの名を持つ鉄華団のモビルスピリット、グシオンリベイクが出現する。

 

 

「召喚時効果で、エスパシオンのコア2つをリザーブへ、よって消滅する」

「!」

 

 

グシオンリベイクは武器である剣斧ハルバードでエスパシオンを一刀両断。エスパシオンはコア不足によりようやくフィールドから消滅した。

 

 

「……ターンエンドだ」

手札:3

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

【ガンダム・グシオンリベイク】LV1

バースト:【無】

 

 

バルバトス第4形態とグシオンリベイクがフィールドに揃った所で、オーカミはそのターンをエンド。盤面差からライフ差まで覆した事から、状況を逆転したと言える。

 

 

「よし!!……4形態とグシオンで形成逆転だ!!……厄介なエスパシオンは倒したし、これで次のターンでオーカミの勝ちだ」

 

 

オーカミの勝利を確信するイチマルだが。

 

 

「……次のターンがあればな」

「え?」

 

 

アルファベットがそう返答する。彼がこのような事を言うのは、春神ライが劣勢時、必ず王者の力を発揮させ、ラストターンを告げる事を知っているからである。

 

 

[ターン07]春神ライ

 

 

「ドローステップ………!」

 

 

左腕に装着しているBパッドに装填されたデッキから、1枚のカードをドローするライ。その際に、ほんの数秒、脳裏に己の勝利の未来、勝利への道筋が浮かび上がった。

 

 

「この未来、覆せるもんなら、覆して見なさいよ」

「ん?」

 

 

さぁ、ラストターンの時間です!!

 

 

指パッチンをしながら、いつもの決めゼリフ。これを聞いて生き延びたカードバトラーは1人もいない。

 

 

「メインステップ。ロケッドラを召喚」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

 

本日2体目となるロケッドラが、ライのフィールドへと出現。さらに彼女は続けて1枚の手札をBパッドへと叩きつける。

 

 

「来い、私のエーススピリット!!……エヴァンゲリオン新2号機α・ヤマト作戦!!」

「!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α-ヤマト作戦】LV1(1S)BP8000

 

 

ライのフィールドに、豪快な落雷と共に飛来したのは、伝説のエヴァンゲリオンスピリットの1体、新2号機α・ヤマト作戦。

 

赤と深緑の上下アンバランスな装甲に加え、全身凶器とも呼ばる程の武装を内装、まさに攻撃的なバトルを得意とするライのエースらしいスピリットである。

 

 

「え、あれってエヴァンゲリオンスピリット!?……なんでそのカードをあの子が……まさか実在するなんて」

 

 

そう反応を示したのは、バトルしている2人ではなく、それを見ているイチマルだった。

 

一種の都市伝説のようなエヴァンゲリオンスピリットが、いきなり間近に出現したのだから、無理もない。

 

 

「エヴァンゲリオンスピリット。初めて聞いたな、これも強そうだ」

「世界三大スピリットをも超えるその力を見せてあげるわ!!……アタックステップ、新2号機αでアタック!!」

 

 

エースの登場と共にアタックステップへと移行。ライは早速新2号機αのカードを横に捻り、アタック宣言。

 

この時、新2号機αには発揮できる効果がいくつも存在していて………

 

 

「新2号機αの効果、先ずはトラッシュのコア全てを自身に追加」

「全て!?」

「そう、よってLV3にアップ!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン 正規実用型 新2号機α-ヤマト作戦】(1S➡︎7S)LV1➡︎3

 

 

新2号機α・ヤマト作戦は、己の覇気を飛ばすと、召喚に使用した全てのコアを巻き上げ、自身の体内へ吸収。その強さは限界値を迎え、新たなる効果も獲得する…………

 

 

「続けてLV2、3の効果。合計BP20000までスピリットを破壊する」

「ッ………!」

「BP9000のバルバトス第4形態、B6000のグシオンリベイクを纏めて爆散!!」

 

 

巨大な銃火器を手に、それを掃射。瞬く間にバルバトス第4形態とグシオンリベイクは撃ち抜かれて行き、倒れ、爆散へと追い込まれた。

 

 

「そして手札を2枚破棄する事で、相手ライフ1つを破壊」

「!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

新2号機αは、鉄華団の強力なスピリット達を一掃するばかりか、どこからか取り出したクナイを投げ、オーカミのライフバリアも1つ砕く。

 

 

「アンタの手札に、もうカウンターのカードがないのはわかってる。これで私の勝ちぃ」

「………」

 

 

ライは一瞬だけだが、バトルの未来が見える。

 

それを見逃しはしない、一瞬だけ脳裏に浮かび上がって来る勝利へのルートを、必ず把握する。だからこそこのターン、新2号機αが決め手となり、自分が勝利する事を確信していた。

 

だが。

 

 

「オレは鉄華団スピリットがフィールドを離れた時、手札にあるガンダム・フラウロスの効果を発揮!!」

「………は?」

「これをノーコストで召喚する」

 

 

何もないはずのカウンターが、オーカミの手札にはあった。

 

これは、こここらは、自分が見ていない未来。

 

 

「………その効果の処理前に、破壊をトリガーにロケッドラとAAAヴンダーの効果、それぞれ1枚ずつドロー」

「来い、フラウロス!!」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]】LV2(3S)BP10000

 

 

流星の如く、オーカミの場へと飛来するのは、マゼンタのカラーをした、バルバトス、グシオンに次ぐ、第3の鉄華団ガンダム、フラウロス。

 

近接戦闘を得意とする2体とは違い、その武装のほとんどが遠距離用の銃火器である。

 

 

「召喚時効果、相手のコア5個以上のスピリット1体を破壊」

「な……にぃ!?」

「コア回収効果が仇になったな………ぶち抜け、フラウロス!!」

 

 

フラウロスは現れるなり、新2号機αへ向け、背部に備え付けられた、2つのレールガンより鉛玉を発射する。

 

新2号機αは咄嗟に片手で半透明のバリアを形成するが、レールガンより撃ち出された鉛玉はそれを容易く貫通し、新2号機αをも貫く。

 

流石の伝説のエヴァンゲリオンスピリットと言えども、これには撃沈。大爆発を下ろし、早々に退場して行った。

 

 

「………やっぱり、そうなの。コイツには」

 

 

ー『コイツには、私の未来を見る力が通用しない。捻じ曲げられる』

 

新2号機αの爆発による爆風を肌で感じながら、ライは内心でそう考える。

 

自分が見る勝利の未来は決定事項。その導き出された手を、効果の順番をミスしなければ、必ず自分を勝利へ導いてくれた。だが、この目の前の赤チビとのバトルはどうだ、それを当然の如く凌いで来るではないか。

 

 

「私も、アンタとのバトル、好きかも」

 

 

思わずそう口にしてしまった。生まれて初めて自分と対等にバトスピできる存在を前に、かつてない程にモチベーションが昂っている証拠だろう。

 

 

「どうした。来いよ、ラストターンなんだろ」

「………そう。このターンでラスト、勝つのは、この春神ライ様だ」

 

 

オーカミの煽りに応えようと、ライは自分のフラッシュタイミングで更なるカードを引き、Bパッドへと叩きつける。

 

しかし、その直後だった。

 

 

「もう十分だろう。その辺にしておけ」

「………警察の人」

 

 

言葉で2人のバトルを制止させたのは、アルファベット。

 

その声でライの手はピタリと止まり、フィールドではフラウロスが「え、終わるの?」と言わんばかりに彼の方へと頭部を向けた。

 

 

「なんで止めるのアルファベットさん。今ちょっと最高に楽しい所なんだけど」

「なら、そのモチベーションは明日に持って行け。鉄華もだ、明日までに今の春神を超えれるような最強のデッキを完成させて来い」

「………」

 

 

そう告げられると、オーカミはBパッドを閉じ、そこに装填されていたデッキを取り出す。すると自動的にバトルが終わり、フィールドに残っていたロケッドラとフラウロスは足元からゆっくりと粒子となり、消滅していく。

 

 

「え、ちょいちょい!!……なんで素直にやめちゃうの!?」

「なんでって……まぁ、明日アニキを助けたいし、そのためなら」

「むぅ……じゃあ決着はまた今度か」

 

 

ライとて、ヨッカを助けたい気持ちは同じ。展開されたBパッドを閉じ、昂っていた心を無理矢理落ち着かせる。

 

 

「では明日、追って連絡を入れる。オマエたち、今日はさっさと家に帰れ」

「どしたのアルファベットさん、なんか急に家に帰そうとして来るじゃん」

「まぁ別にいいだろ」

「サッパリしてんのね、アンタ。じゃあ明日はよろしくお願いしますね、アルファベットさん」

 

 

何を思っているのか、やけに帰宅を催促させて来るアルファベット。別に断る理由もないため、オーカミ、ライ、イチマルの3人は大人しくヴルムヶ丘公園を後にする。

 

そして、アルファベット以外は誰もいなくなったと思った、その時だった。

 

 

「………オレが気づかないとでも思ったか。いい加減姿を見せろ、Dr.A」

 

 

アルファベットは、最早伝説となっている悪魔の科学者の名を口にした。

 

すると、物陰から自動で動く車椅子に腰を下ろしている高齢の男性が1人姿を見せる。包帯が全身にぐるぐる巻きで顔は認識できないが、アルファベットはそれがDr.Aである事を確信する。

 

 

「流石だねアルファベット。いや、芽座葉月と言うべきかな?」

「………その名は捨てた。今のオレは、アルファベットだ」

「ヌッフフ……まさかこうして再開するとは、懐かしいね。7年前、私と君は協力し、もう一歩の所で世界を滅ぼす所まで来たと言うのに、芽座椎名、エニーズさえいなければ」

「………オマエに協力してやった覚えはない」

「またまた、惚けちゃって」

 

 

これは、彼らにしかわからない話である。

 

簡単に説明するのであれば、アルファベットとDr.Aは、元から知人であると言う事。

 

 

「さっきの会話、聞いたよ。アオイ君の所へ行くんだろ?……九日ヨッカを助けに」

「………まるでオマエはそこにいないみたいなセリフだな」

「さぁ、どうでしょう」

「いるのだとしたら、首を洗って待っていろ。オマエはオレが牢獄にぶち込んでやる」

「ヌッフフ……可笑しい可笑しい、本来君もしゃばに居ていい存在ではないと言うのに」

 

 

直後、Dr.Aは「そんな事より」と口にし、話を変える。

 

 

「今日は良いモノを見た。どうやら、王者を持つ者同士が戦うと、その力を打ち消し合って勝利への道筋が不安定になるらしいね」

「………」

 

 

おそらく、先程のライとオーカミのバトルを見ていたのだろう。

 

詰まる話、王者を持つ者同士のバトルは、互いの力を打ち消し合ってしまい、通常のバトルと何ら変わらなくなってしまうのだ。と言う推測を彼は語っている。

 

 

「やはり、王者は素晴らしい。実にエクセレント」

「オマエは、進化の研究をしていたんじゃないのか。王者は進化とは無関係のはずだ」

「ヌッフフ……飽くなき探究心こそが、科学者の心意義さ。さぁ明日、どこからでも掛かって来ると言い、ただし、アオイ君含め、残ったゼノンザードスピリット使いは強いぞ」

 

 

最後にそう告げると、Dr.Aは車椅子に内蔵されたBパッドをタップし、何もない空間からワームホールを出現させると、そこへ向かって行き、やがて姿を眩ました。

 

 

「………奴は、やはり」

 

 

終わってみれば一瞬だった邂逅。だが、そんな中でも冷静だったアルファベットは、今のDr.Aの何かを悟って…………

 

 

******

 

 

場面は変わり、ジークフリード区の市街地。ライとも別れ、今はオーカミとイチマルのみ。その2人も、丁度今からお互いの帰路に着く頃だ。

 

 

「今日のバトル見て思った。オマエはやっぱ天才だ、凄い奴だ。多分、腕が折れてなくても、今のオレっちは戦力外だったと思う」

「ん?……そんな事ないだろ」

 

 

己の弱さを疎んでしまうイチマル。確かに、今日のオーカミとライのバトルを見て仕舞えば、誰もがそう思っても仕方がないと言える。

 

 

「そんな事あるさ。でも、どうしても、ヨッカさんがピンチなのに何もしてやれないのは嫌すぎる。身体がムズムズする」

「そっか」

「だからオマエにコイツを、オレっちの想いを託す」

「!」

 

 

折れていない左手で、イチマルはオーカミにカードを渡し、託す。

 

そのカードは、自身の相棒と呼べる存在「仮面ライダーゼロワン」………

 

 

「いいのか?」

「あぁ、コイツと一緒に、ヨッカさんを救って来てくれ。待ってるかんな」

「うん、わかった」

 

 

イチマルとの友情を胸に、オーカミは明日、ヨッカを助け出すために、春神ライ、アルファベットと共に、早美邸へと赴く。

 

 

 

 




次回、第39ターン「宿命の対決、オーカミVSレオン」


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第39ターン「宿命の対決、オーカミVSレオン」

「気分はどうですか、九日ヨッカさん?」

「まぁ、牢屋にしては居心地いいかな。飯も美味いし、ベッドも家のよりふかふかだ」

 

 

早美アオイの住う豪邸、早美邸。その地下、さらにそこにある牢屋。鉄でできた柵の向こう側に、九日ヨッカがいる。

 

早美アオイは、何の用があるのか、そんな彼と面会していた。

 

 

「随分と余裕ですね。捕まる前はあんなに怒り狂ってたと言うのに」

「ずっと怒ってたってしょうがないだろ?……取り敢えず今は助けが来るのを待つ、生きるのが先決だ」

「………誰か来ると思っているのですか?」

「来るさ。オレはその人を信用してる………ただ」

「ただ?」

「他の奴らを巻き添えにしないか心配だな。結構人使いが荒いから」

 

 

ヨッカの言う人物とは、おそらく界放警察の警視「アルファベット」だろう。

 

彼はある事件からDr.Aを追っているヨッカに協力しているからである。元から早美邸に突入する計画も立てていた事もあって、そもそも来るとしたら彼ぐらいしかいない。

 

他の誰かを引き連れて来なければ、話は別だが。

 

 

「……オーカミが界放リーグでぶっ倒れた時なんだけどさ」

「はい」

「そん時に行った病院で君の弟、ソラに会ったんだ」

「ッ……ソラに」

「姉弟仲がいいんだな。口を開けば二言目にはほとんど君の事ばっかり話してたよ」

 

 

早美アオイには早美ソラと言う、オーカミ達と何ら変わらない年齢の弟がいる。元は元気な子であったが、現在は重篤な病気を患っており、闘病生活を送っている。

 

彼女はそんなソラの病気を治すために………

 

 

「………だけどソラは早くて後1年で死ぬ」

「!」

「だから私は……」

「Dr.Aに力を貸してるってか」

「………」

 

 

アオイは黙ったまま頷く。

 

 

「いい加減にしろ、Dr.Aがそんな約束を守るわけないだろ」

 

 

遂に自分の口から本心を吐き出す。今ここには彼女とヨッカ以外誰もいない。きっと誰かにそれを聞いて欲しかったのだろう。

 

 

「そうだとしても、私は彼に頼る他ない。何を犠牲にしても私はソラを助ける」

「………ソラはそんな事望んでないと思うぞ」

「望まれてなくても、助けたい。貴方ならわかるでしょ」

「………」

 

 

そう言い返されると、彼は何も言えなくなる。ヨッカもまた春神イナズマと言う自分の師を助けようとしているからだ。

 

だが、何も言えなかったのはほんの数秒。やはりそれとこれとでは話が違う事に気づく。

 

 

「オレは違う。何も犠牲にしないで助ける」

「……それは、ただの我儘です」

 

 

そこまで告げると、アオイはとあるカードをヨッカへと向ける。そのカードは淡い青色に光り輝いている。

 

その不気味さから、ヨッカはそれがただのカードではなく、ゼノンザードスピリットのカードである事を察して………

 

 

「そいつは……!!」

「この世はギブアンドテイク。何かを成し遂げるためには、何かを犠牲にしないといけないんですよ。貴方も間もなく身をもってそれを知る事になる」

「!」

 

 

そのカードを見つめていくうちに、ヨッカの瞳孔はその光と全く同じ色となり、喜怒哀楽全ての感情を吸い尽くされたかの如く、その表情は無となり、目線は虚空を見つめるようになる。

 

 

「……これが貴方の新しいエースカード「深海の主・アレシャンド」です、受け取りなさい。そして倒すんです、今から私達の牙城を落としに来る不届者を」

「………」

 

 

何かの力による影響か、ヨッカは何も聞かず、無言でそのカードを受け取る。

 

それは、青属性のゼノンザードスピリット。Dr.Aが開発した魔道具の1つであった。

 

 

******

 

 

夏の残暑が消え失せ、少しだけ肌寒くなって来た、界放市ジークフリード区の朝。ヴルムヶ丘公園にて。

 

鉄華オーカミは、着用している、ぶかぶかで薄い緑のジャケットのポケットに手を突っ込みながら、ある人物達を待ち侘びていた。

 

それは、今から共に死闘を潜り抜けていく事になる仲間達であり………

 

 

「よっ!」

「ん、おはよう」

「ちょい、テンション低ッ……まぁいつもこんなんだったか」

 

 

1人目は春神ライ。朝の寒さを凌ぐためか、背部に虎の刺繍が入ったスカジャンを羽織っているが、下の方は健康的な脚を覗かせる黄色いショートパンツ1つのみと、かなり寒そうだ。

 

 

「デッキ組めた?……アルファベットさんに最強のデッキを組んで来いって言われてたでしょ」

「まぁ一応」

「へぇ〜〜ちょっと見せなさいよ」

「おい、勝手に触んな」

「いいじゃんいいじゃん。紫のモビルスピリットデッキ、実際ちょっと見てみたかったのよね」

 

 

己の好奇心に負け、ライはオーカミのジャケットの裏側を探り、彼のデッキを取り上げる。

 

 

「ふ〜〜ん、鉄華団。コスト低めのスピリットが多い速攻デッキかと思ったけど、こうして見るとそうでもないのね」

「最近色々増えたんだよ」

「増えたって、アンタこれどこで買ってんのよ。どう見ても市販のカードじゃないでしょ」

「なんか、偶に知らない人から封筒で送られて来る」

「はぁ!?……何それ羨ま!!」

 

 

今更だが、鉄華オーカミのカードは他の誰かから彼の元へ送られて来ているのだ。

 

その送り主が未だに誰なのかは特定できていない。わかっている事と言えば、字が達筆で綺麗な事ぐらいか。

 

 

「実は私が昨日召喚した新2号機α、お父さんがくれたカードなんだよね、多分アレも世界に1枚だけかも」

「そっか」

「少しは驚きなさいよ。あれ、何で紫のデッキに1枚だけ緑のカードなんて刺してんの、しかも汎用じゃないし」

 

 

会話の中、ライはオーカミのデッキの中に1枚だけ存在する緑のカードに目が止まる。

 

 

「お守りみたいなもんだよ」

「……意外とお茶目なとこあんのね」

「いいから、早く返せ」

 

 

オーカミはライから自分のデッキを取り上げる。

 

そこから少し間を置いて、ライはまた口を開き、別の話題を振る。

 

 

「………そう言えばさ、界放リーグの決勝、ヨッカさん達と見たんだけど、アンタも見えるの?……勝利の未来」

 

 

話題に上がったのは「勝利の未来」………

 

Dr.Aやアルファベットが「王者」と呼ぶ力である。彼らは未だその正式な名称を聞かされていないのだ。

 

 

「あぁ、アレ。うん、偶に」

「リアクション薄ッ……もうちょっと乗っかって来なさいよ」

「いや、なんかアレ好きになれないんだよ、インチキっぽくて」

「勝ちは勝ちだからよくない?」

「よくない。勝利は自分の手で掴みたい」

「うわ、男の子の考え方ダル」

「そもそも使い方もわからないし」

「うぅむ、そう言えば私も使い方はわからないな、なんとなく毎回見えるんだけど」

 

 

鉄華オーカミ、春神ライ。

 

この2人は己の勝利の未来を覗ける絶対的な力「王者」を使用できるが、「ライが一瞬だけ見える」のに対し、「オーカミはずっと見続ける事が可能だが、右目から流血し、身体への負担が大きい」など、その性質は全く異なる。

 

考えれば考える程、王者の力には謎が残るばかりだ。

 

そんな折、サングラスをした長身で茶髪の青年、アルファベットが現れる。

 

 

「待たせたな、2人とも」

「あぁおはようございますアルファベットさん!!……今日は晴れてて救出日和ですね」

「なんだその日本語」

「揃ったし、早く行こう。アニキが待ってる」

 

 

3人が揃うなり、オーカミが一刻も早く向かおうとする中、そんなはやる気持ちを抑えるように、アルファベットが口を開く。

 

 

「まぁ待て鉄華。向かうよりも前に、先ずは今回の協力者を紹介する」

「協力者、他に誰か助っ人でも呼んだんですか?……バトル要因だったらぶっちゃけ私だけでも」

「いや、そう言うわけではない。広大な敷地を誇る早美邸への潜入だ、ガイドが必要と思ってな………」

 

 

アルファベットがそう告げると、オーカミとライの2人の視線を誘導させるように、顔を逸らす。

 

そして、その視線の先に居たのは他でもない、早美アオイの側近として務める黒服の青年「フグタ」…………

 

 

「……誰、SPかなんかですか」

「早美アオイの羊みたいな人だろ」

「名乗るのは初めてだな。オレは「フグタ」……お嬢、早美アオイに仕える執事だ、羊じゃないぞ」

 

 

チンピラみたいな見た目の彼。話し方も執事らしからぬタメ口だ。

 

だがそんな事2人が気に留める訳ない。大事なのは名前や話し方ではなく、何故ここにいるのかだ。

 

 

「名前は別にいいよ。何でアンタがここにいるの、敵じゃないの?」

「いや言い方キツ」

「まぁ、そう言う認識になってもおかしくはないだろうな」

 

 

さっさと説明しろと言わんばかりに、喧嘩腰の発言をするオーカミ。ヒバナやイチマル、さらには兄貴分のヨッカまで傷つけた早美アオイに対する怒りあっての事だろう。

 

 

「オレから説明しよう。昨晩、オレが潜入のための作戦を考えていた頃、コイツから電話があってな。何でも、早美アオイを助けて欲しいらしい」

「早美アオイを助ける……?」

「あぁ、コイツは早美邸の内部事情にも詳しい。九日の救出に一役買ってくれるだろう」

 

 

怒るオーカミを宥めるように割って入ったのはアルファベット。どうやらフグタ自らが志願したらしい。

 

だが、オーカミとライは、敵である早美アオイを助けると言うワードに、違和感を覚える。

 

 

「早美アオイってヨッカさんを捕らえてる悪者じゃないの?」

 

 

ライがそう呟いた。背後にまだDr.Aと言う巨悪の事を知らないのも理由だと思われるが、オーカミとライ、少なくとも2人の中で、早美アオイと言う人物は、完璧な悪女なのだ。

 

 

「……今更こんな事、信じて貰えないかもしれない。だけどお嬢は悪くないんだ。お嬢はただ、病気になっている弟のソラ坊ちゃんを助けたい、その一心で」

「ッ……ソラを?」

 

 

早美アオイの弟、ソラの名前に反応したのは他でもない友達のオーカミ。

 

フグタはそんなオーカミの反応に、相槌を打つように首を縦に振ると、言葉を続ける。

 

 

「3年前までは平凡な暮らしをしていた。だけどある日、突然坊ちゃんが原因不明の病に侵され、過酷な闘病生活が始まった」

「………」

「それは何となく察しがつくと思う。だが問題だったのはそれからだ。一向に治らない病気と闘い続け、衰弱していく坊ちゃん、心が折れかけたお嬢の前に現れたのは………A事変で死亡したはずの悪魔の科学者、Dr.Aだった」

 

 

フグタが口にしたその名は、口にするだけでも震え上がってしまう程の恐ろしく、悍ましく、邪悪な人物。

 

もはや伝説となった悪魔の科学者、Dr.A。

 

その名が遂にオーカミとライの耳に入る。

 

 

「誰。なんか聞いた事あるようなないような」

「え、アンタDr.Aも知らないの。アレだよアレ、なんか6年か7年くらい前に界放市で暴れ回ったバケモノ的な?」

「オマエもよくわかってないじゃん。まぁ、とにかくなんかヤバそうな奴って認識で大丈夫?」

 

 

世界中の誰もがその情報を聞いた時点で、恐怖によって震え上がると言うのに、オーカミとライはマイペースで楽観的だ。

 

常識人のイチマルがこの場にいたら、きっと腰を抜かしていた事だろう。

 

 

「あぁ、今はその認識で問題ない。それでソイツが、お嬢にこう言ったんだ」

 

 

ー『願いがあるのなら、先ずは私の願いを叶えてください、さすれば私があなたの望みを叶えてあげますよ、絶対にね。ヌッフフ』

 

フグタがそう聞いたわけではない。この言葉はあの日、アオイが電話越しで聞いたのだ。そこから全てが始まり、今に至る。

 

 

「お嬢はそれを真に受け、奴の指示に従って来た。坊ちゃんの病気を治すためにな。そのためにプロにまで登り詰め、さらにはモビル王にまで輝いた。オレも最初は坊ちゃんの病気を治せるならそれで良いと思ってた。だけど命令は次第にエスカレートしていき、やがて関係のない他人にまで大きな被害を及ぼすまでになった」

「ゼノンザードスピリットか」

「そうだ。それのせいでお嬢も段々気が狂い始めてしまった。今更許してくれだなんておこがましいのはわかってる、だけど頼む、頼れるのはもうアンタらしかいないんだ。お嬢に取り返しのつかない事をさせる前に、助け出してやってくれ………この通りだ」

 

 

そう告げると、オーカミ達の前に頭を深々と下げるフグタ。

 

オーカミは正直今までの話全てがピンと来ているわけではないが、フグタのアオイを助けたいと言う真っ直ぐな気持ちだけは完全に伝わって来て………

 

 

「……オレ、難しい事はよくわかんないんだけど、何、そのDr.Aって奴をぶっ飛ばせばいいの?」

「そう簡単な話ではないと思うがな」

「ふ〜〜ん」

 

 

オーカミがそう言うと、アルファベットが返答する。

 

確かにそんなに簡単な事ではない。少なくともオーカミは、Dr.Aと言う男を知らなさ過ぎる。だが、だからと言ってそこで怯えて立ち止まる理由もなくて………

 

 

「まぁ別にオレはアニキを助けれたらそれで良いし、アンタがそれを手伝ってくれるって言うなら、オレもアンタを手伝うよ」

「ッ……じゃあ助けてくれるのか、お嬢を!?……君の友達に危害を加えたあの子を許してくれるのか」

「そう言う訳じゃない。でも、姉ちゃんが言ってたんだ『例え自分の嫌いな相手でも、困った時はお互い様だ』って」

「!」

「それに、ソラとは友達なんだ」

 

 

フグタが話した話をどこまで理解しているのかは定かではないが、少なくとも早美アオイだけが悪い訳ではない事を知ったオーカミ。言動からして、おそらく多少は許したのだろう。

 

 

「はは、素敵なお姉さんだな。ありがとう、本当に」

「うん。そう言うのいいから、早く行こう」

「ハッハッハ!!……君は面白い男だな」

 

 

急に馴れ馴れしくなったフグタに、オーカミは「うざい」と一蹴する一言。

 

その傍ら、アルファベットとライが口を開く。

 

 

「……アイツ、偶に優しいよね」

「それは少し解釈違いな気もするが………なんだ春神、惚れたのか?」

「ッ!!……ななな、な訳ないでしょ、こんなんで惚れるとか星1のギャルゲーかよ」

「どう言う日本語だ」

 

 

間もなくして、鉄華オーカミ、春神ライ、アルファベット、フグタの4人は、決戦の地である早美邸へと向かったのだった。

 

 

******

 

 

時は少し流れ早美邸、その正門前。軍馬に跨る騎士の形を模られた木製の巨大な扉が4人の視界に入る。

 

 

「アイツの家、デカいな」

「そりゃあ早美家と言えば、その昔、最も名の馳せた大富豪だからな」

 

 

そう呟くオーカミに、アルファベットが答える。

 

その情報だけでは有り余る程のお金をどうやって稼ぎ、何に使っていたのかはわからないが、少なくとも彼女が由緒正しき家柄で産まれたことだけは理解できる。

 

 

「もっとも、奴の両親が亡くなって以降、すっかり衰退してしまったそうだが」

「……あの人も、居ないんだ、お母さんとお父さん。だから弟君の病気を必死になって治そうとしてるのかな………独りにならないために」

 

 

アルファベットによって暴露される早美アオイの家族事情。父が行方不明になり、母に至っては顔すら知らないライは、少しばかり彼女に同情する。

 

 

「で、どこから入るの。流石に正門から堂々とは入れないでしょ」

 

 

オーカミがフグタに訊いた。

 

 

「あぁ、正門を入って直ぐの庭には警備員がゴロゴロいる。だからここじゃない裏口を使って侵入するぞ」

「裏口……まぁあるとは思うけどさ、普通そこにも何人か警備が張り付いてるもんじゃないの?」

 

 

今度はライがフグタに質問する。

 

 

「案ずるなよお嬢さん。今日は警備員に裏口はオレに任せてくれと頼んでいる。今日一日は誰も通ろうとしないはずだ」

「ワオ賢い」

「こう見えて何年もこの家に使わせてもらってるんでね。よし、オレに着いてきてくれ」

 

 

フグタがそう告げると、4人はフグタを先頭に、早美邸の外壁沿いを歩み始めた。

 

そしておよそ5分程か、遂に裏口らしき扉が見えた。先程の正門と比べると、小さくて古臭く、貧相なものだが、逆に侵入するにはこれくらいの入り口が丁度良いとも言える。

 

 

「………うん、誰もいないな。いいぞ、入って来てくれ」

 

 

フグタが先に入り、安全を確認すると、他の3人も後を追うように裏口から早美邸へと侵入する。

 

その中は廊下であっても問題なくBパッドを使ってのバトルが出来そうなくらいには、縦幅横幅共に広大である。

 

 

「ここのどこかにアニキが」

「にしても広い豪邸ね、ヨッカさん家とは大違い。ねぇ、ハリセンボンさん、ヨッカさんどこにいんの?」

「フグタだ。何その異次元な言い間違い。フグとハリセンボンって似てるようで全然違うからね?……九日ヨッカはおそらく今はお嬢と一緒に中央ルームにいるはずだ」

 

 

フグタの発言に疑問を持ったのは、アルファベットだった。

 

 

「……オレが調べた限りだと、ここには使われていない牢屋があったはずだ。九日はそこに入れられてないのか?」

「家に牢屋があるって凄いな。獄中ごっこできるじゃん」

「何それ」

「赤チビもお父さんとかとやった事ない?」

「多分ない」

 

 

元々ヨッカと共に潜入する予定だったのもあり、何度も何度も早美邸を調べていたアルファベット。

 

ヨッカが捕えられた事を確信した際に、必ずその牢屋に入れられていると考えていたのだが。

 

 

「それが、オレにもわからなくて、確かに最初は牢屋だったんだけど。兎に角先を急ごう」

「あぁ、しかしそうなると早美アオイとの衝突は避けられないな」

 

 

4人が早美邸の中央へ向かって歩みを進めようとした、その時だった。

 

進行方向から声が聞こえて来たのは………

 

 

「やはりな。来るならここしかないと思ってたぞ……鉄華」

「ッ……獅堂?」

 

 

その声の主は、獅堂レオン。今年の界放リーグの決勝戦でオーカミと激闘を繰り広げ、三連覇を成し遂げた少年。

 

 

「獅堂レオン。何故ここに………」

 

 

フグタがレオンに訊いた。

 

 

「今日この早美邸に鉄華が来ると、匿名でメッセージが来たもんでな。でもまさか貴様が早美アオイを裏切るとは思ってなかったぞ、チンピラ執事。まぁお陰でオレはこうして鉄華と対面できたわけだが」

 

 

元々知っていたフグタは兎も角、意外な登場人物の登場に、オーカミとライは首を傾げる。さらに、アルファベットは………

 

 

ー『何故だ。何故あの子がこんな所に………まさか』

 

額から冷や汗を流す程に動揺していた。冷静沈着で、今まで何件もの難事件を解決して来た凄腕の敏腕刑事が、この程度の事でだ。

 

 

「アンタ、なんでそっち側にいんのよ」

 

 

ライがレオンに訊いた。

 

 

「モブ女1号もいたか。貴様へのリベンジは後回しにしてやる……今のオレの獲物は鉄華、オマエだ」

「オレ?」

「あぁ、貴様を倒すために、オレは悪魔との契約を交わした」

「ッ……それは、まさか白のゼノンザードスピリットか!?」

「そうなの?」

 

 

レオンが「百獣・ヴァイスレーベ」のカードを見せつけながらそう告げる。

 

その行為と事実に一番驚き、一番傷ついたのは他でもないアルファベット。

 

 

「獅堂オマエ、それがどう言うカードかわかってるの?」

「知ってるさ鉄華。これは力、何物にも変え難い、我が牙だ」

「………」

 

 

レオンの様子が、今までとは何かが違う事を察したオーカミ。

 

このまま話してるだけでは時間の無駄だと感じた彼は、懐からBパッドを取り出すと、左腕にセット。バトルの構えだ。

 

 

「みんなは先に行っててくれ、アイツの狙いはオレみたいだし」

「そ、じゃあ任せるわ。行こうアルファベットさん」

「あ、あぁ」

「アルファベットさん?」

 

 

皆を先行させようとするオーカミ、それを聞き入れるライ。

 

その際のアルファベットの返答により、ライは彼が動揺している事に気がつく。

 

 

「何かありました?……さっきも珍しく驚いてたし」

「……いや、何でもない。確かにここは鉄華に任せるのが得策だな、オレ達は先を急ぐとしよう」

 

 

ゼノンザードスピリット使いが多数集結している可能性は考えていたが、その1人がまさかあのレオンだとは知らなかったアルファベット。

 

だがここで本来の目的を忘れて冷静さを欠くのはもってのほか。自分の左胸に手を当て、ざわめく心を落ち着かせる。

 

 

「鉄華」

「ん、何」

「……あの子を頼む」

「あの子、獅堂の事か」

「あぁ、レオンをゼノンザードスピリットの、Dr.Aの呪縛から解き放ってやってくれ。今はオマエにしかできない」

「要はアイツを倒せって事だろ。わかった、アニキの方は任せるよ」

 

 

オーカミに懇願するアルファベット。彼から了承の意のある言葉を耳にすると、口角を上げる。

 

 

「赤チビ、私との決着着ける前に負けんじゃないぞ」

「うん、そっちもな」

 

 

その後フグタを先頭に、オーカミを除いた3人はこの場を後にし、早美邸の中央ルームへと進んで行った。

 

取り残されたのは、好敵手の関係である鉄華オーカミと獅堂レオンのみで………

 

 

「これで、邪魔立てする者はいなくなったな。来いよ鉄華、今日こそバトルは楽しむものだと言う甘い考えを変えさせてやる」

「勝手にしろ。オレの邪魔をするなら、潰すだけだ」

「ハッハッハ!!……貴様を倒すために手に入れた白のゼノンザードスピリットの力、とくと味わうがいい!!」

「………バトル開始だ」

 

 

言い合いの中、互いにBパッドを展開し、バトルの準備を進める2人。

 

そして、装填されたデッキから初手の4枚カードをドローした直後………

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

間髪入れずにいつものコールでバトルを開始する。

 

鉄華オーカミと獅堂レオン、好敵手同士の三度目の対戦。今回の先攻は、鉄華オーカミだ。兄貴分であるヨッカのために、早々にターンを進めていく。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……初陣だ。創界神ネクサス、クーデリア&アトラ」

 

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

「ッ……新しい創界神ネクサス」

「配置時の神託。今回の対象カードは1枚、よってコア1つ追加だ」

 

 

オーカミの初動は、オルガに次ぐ新たな創界神ネクサス「クーデリア&アトラ」………

 

例の如く、フィールドには何も影響を及ぼさないが、イラストには金髪の女性と小柄な少女の、仲睦まじい様子が描かれている。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【クーデリア&アトラ】LV2(1)

バースト:【無】

 

 

鉄華団の新戦力を披露し、その第一ターンをエンドとするオーカミ。

 

次は彼を倒すために白のゼノンザードスピリットを獲得したレオンのターン。

 

 

[ターン02]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……新しい鉄華団のカードか、面白い。それでこそ倒し甲斐があると言うモノ。マジック、双翼乱舞、この効果で2枚ドロー、バーストをセットしてターンエンドだ」

手札:5

バースト:【有】

 

 

マジックの使用と、バーストのセットのみでターンをエンドとするレオン。

 

フィールドに何も置いていない分、バーストへの警戒が集まる。しかし、それが罠だとわかっていたとしても、オーカミは前へ突き進む。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ………よし、行くかイチマル」

 

 

オーカミはそう告げると、手札から1枚のカードを引き抜き、それをBパッドへと叩きつける。

 

それは、友人であるイチマルの想いが詰まったカードであって………

 

 

「仮面ライダーゼロワンを召喚」

「なに!?」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン】LV1(2S)BP2000

 

 

「召喚時効果で1つコアブースト。LVが2に上がる」

 

 

薄い緑色の装甲を持つ、スマートなライダースピリット、ゼロワン。

 

イチマルの相棒でもあるそれは、オーカミにコアの恵みを与える。

 

 

「何故貴様が緑の、しかもライダースピリットなんぞデッキに入れてるんだ」

「イチマルから託された」

「誰だ」

 

 

ゼロワンのカードを間近で見ても、同じ界放リーグに、しかも2年連続で同じ舞台に立ったはずのイチマルの事を思い出さない。

 

レオンは自分が興味のないカードバトラーの名前は一切記憶しない。きっと眼中にもいなかったのだろう。

 

 

「オマエが知る必要はない。アタックステップ、頼むぞゼロワン」

 

 

オーカミが最初のアタックステップへと突入。レオンの前方に展開されるライフバリアへと、ゼロワンが飛び出す。

 

 

「ライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

ゼロワンの強烈な回し蹴りが炸裂。レオンのライフバリアは1つ砕け散り、先制点を許してしまう。

 

だが、それは想定内だと言わんばかりに、彼は伏せていたバーストカードの発動を宣言して………

 

 

「ライフ減少によりバースト発動、選ばれし探索者アレックス」

「!」

「効果でこれを召喚、その後アタックステップが強制終了」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1(1)BP4000

 

 

裏側で伏せられていたバーストが勢い良く反転し、フィールドに現れたのはフードを深く被った、紫髪の人型スピリット。

 

その効果により、オーカミのアタックステップは、彼の宣言を待たずして強制終了となる。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV2

【クーデリア&アトラ】LV2(1)

バースト:【無】

 

 

イチマルのゼロワンと共に戦うオーカミ。そのターンをエンドとし、レオンへターンを渡す。

 

ただ、レオンは彼が鉄華団以外のカードを召喚したからか、やや不機嫌になっていて………

 

 

[ターン04]獅堂レオン

 

 

「メインステップ……アレックスの効果、自身を疲労させる事で、コアブースト」

 

 

ターン開始早々、レオンは選ばれし探索者アレックスの効果でコア1つを捻出。

 

 

「そんなどこの馬の骨とも知らない雑魚のカードで、このオレに勝てると思うなよ、鉄華」

「………」

「フォースインパルスガンダムをLV2で召喚!!」

 

 

ー【フォースインパルスガンダム】LV2(2)BP7000

 

 

レオンの場に飛来して来るのは、ガンダムの名を持つ白いモビルスピリット。

 

その名はフォースインパルスガンダム。デスティニーの前座とも呼ばれる、彼の持つモビルスピリットカードだ。

 

 

「再びバーストをセットし、アタックステップ。フォースインパルスガンダムでアタック。そしてLV2効果【零転醒】!!」

「……転醒か」

「フォースインパルスを、裏側のソードインパルスに、転醒!!」

 

 

ー【ソードインパルスガンダム】LV2(2)BP9000

 

 

次の瞬間、青と黒色の配色だった、フォースインパルスの胸部と肩部が深い赤色に変更。武装も一新され、巨大なビームブレードを両手で握る。

 

 

「転醒時効果で自身を回復。さらにアタックは続行だ」

「……ライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ……!!」

 

 

ビームブレードを大きく振い、オーカミのライフバリアを一刀両断するソードインパルス。

 

オーカミは、なんとかゼノンザードスピリットが持つ者が与える痛みに堪える。

 

 

「回復したソードインパルスで再度アタック!!……その効果でゼロワンを手札に戻す。そのカードは面白くない、失せろ」

 

 

ソードインパルスが、そのビームサーベルの剣先を向けたのは、イチマルのゼロワン。

 

それで斬りつけるが、ゼロワンはオーカミのフィールドを離れる事はなく、片膝をつきながらも生き長らえる。

 

 

「なに?」

「ゼロワンの効果だ、相手によってフィールドを離れる時、ボイドからコア1つを自身に追加して、代わりに疲労状態で残る」

「チッ……ちょこざいな。だがアタックそのものは終わってないぞ」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

イチマルのゼロワンのお陰でかなりコアが増えたものの、ソードインパルスの二撃目により早くも残りライフが3となってしまう。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【ソードインパルスガンダム】LV2

【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2

バースト:【有】

 

 

待ちに待ったオーカミとのバトル故か、早くも荒々しい攻撃を展開し始めるレオン。

 

ターンは一度エンドとし、次のオーカミの動きを伺う。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……ゼロワンをLV1にダウン」

 

 

ゼロワンのLVを下げ、リザーブにコアを貯める。

 

そのコアを使い、オーカミは手札から新たなカードをフィールドへと送り出す。

 

 

「大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(5S)BP12000

 

 

「対象スピリットの召喚で、クーデリア&アトラに神託」

 

 

上空から、大地を震撼させる程の勢いで着地したのは、白い装甲、黄色いツノを持つ、鉄華オーカミのエースカード、バルバトス、その第4形態。

 

 

「そうだ鉄華団だ、バルバトスだ。貴様はそれで来なければ困る」

「ごちゃごちゃとうるさいな、アタックステップ。行くぞ、バルバトス第4形態!!」

 

 

オーカミの命を受け、バルバトス第4形態が黒き戦棍メイスを手に、地を駆ける。目指すのは当然獅堂レオンのライフバリア。

 

 

「アタック時効果、アレックスからコア2つをリザーブに置き、消滅」

 

 

道中、バルバトス第4形態はアレックスを捉え、それにメイスを横一線で振るう。アレックスは強い衝撃に吹き飛ばされ、爆散に追い込まれる。

 

 

「さらに効果で紫シンボルを1つ追加、2つのライフを破壊できる」

「いいだろう、ライフだ!!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉獅堂レオン

 

 

レオンのライフバリア直前まで迫るバルバトス第4形態。今度はメイスを盾に振い、それを一気に2つ砕く。

 

強者でないカードバトラーであるのなら、この段階でほぼ負けが確定してしまうが、仮にも相手はあの獅堂レオン。ガラス細工のように砕け散っていくライフバリアの音をその胸に刻み、口角を上げ、伏せていたバーストカードを裏返す。

 

 

「ライフ減少後のバースト、アレックス」

「………2枚目か」

「効果により、これを召喚する」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV2(2)BP6000

 

 

「そして効果により、貴様のアタックステップは再び強制終了となる」

 

 

このターン中に、バルバトス第4形態が消滅させた選ばれし探索者アレックス。

 

それの2体目がレオンのフィールドへと出現する。このターンで勝利できるほどの猛攻を仕掛けたオーカミだったが、その効果により勝利を妨げられる。

 

しかし、だからとて何もできなくなったと言うのは早計であって………

 

 

「バルバトス第4形態の効果、各バトル終了時、トラッシュから鉄華団スピリット1体を1コストで召喚できる」

 

 

バルバトス第4形態のアタック終了時、オーカミはトラッシュのカードたちを手に取り、その中にある1枚をBパッドへと叩きつける。

 

 

「LV2で来い、バルバトス第6形態……!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV2(3)BP10000

 

 

バルバトス第4形態の緑色の眼光が輝く時、それと呼応するかの如く、上空より空を切る音と共に現れたのは、白き重厚なる装甲に、大型肉食恐竜の大顎を模した形状をした戦棍、レンチメイスを携えた、バルバトス第6形態。

 

バルバトス第4形態と並び、何度もデスティニーガンダムと戦って来た、鉄華団スピリットの重鎮とも言える存在だ。

 

 

「4形態に6形態、揃って来たな。だがその程度では、もはやオレの渇きは癒せない事を教えてやるぞ、鉄華」

「今日のオマエ、一段とうざいな」

 

 

やがて終盤を迎えて行く鉄華オーカミと獅堂レオン。

 

果たして勝利を手にするのは鉄華団か、それとも白のゼノンザードスピリットか…………

 

 

 




次回、第40ターン「穿つ、グシオンリベイクフルシティ」


******


「バトルスピリッツ 王者の鉄華」は、今月11日にて、遂に2周年を迎える事ができました。

ここまでやって来れたのは、いつもお読みになってくださる全ての読者の皆様方のお陰です。中には感想やTwitterでのコメントなどを送ってくださる方々もいらっしゃってて、とても励みになってます。

最近は本当に周囲の方々に恵まれたなぁと実感する毎日です。
本当に、本当にありがとうございます。
これからもオーカミと共に完結まで歩んで参りますので、今後も王者の鉄華を、何卒よろしくお願いします。



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第40ターン「穿つ、グシオンリベイクフルシティ」

オレ、獅堂レオンは、幼き日の記憶を全く覚えていない。

 

人はどうでも良い記憶は直ぐに忘れてしまうと聞く。幼き日の記憶など、所詮はその程度だったのだろう。

 

故にオレにとっての記憶は、師匠である「芽座葉月」と言う青年に拾われてからが始まりだ。彼はオレに生活を与え、バトルスピリッツを教えてくれた。

 

こんな年齢にもなって幼稚なのもわかるが、正直大好きだった。心の底から彼のバトルスピリッツに憧れていた。

 

しかし、オレが12の時、師匠は死んだ。妹である「芽座椎名」との決戦によって。

 

オレは芽座椎名を恨んだ。恨んで恨んで恨み続けた。だから否定し続けるんだ、あの女が言っていた「楽しいバトル」を……………

 

 

******

 

 

広大な早美邸内部にて、オーカミとレオンのバトルスピリッツが続く。

 

現在はオーカミのターン。レオンのバーストカード、選ばれし探索者アレックスによってアタックステップが終了してしまうものの、バルバトス第4形態の効果により、バルバトス第6形態の召喚に成功。

 

フィールドアドバンテージで、レオンに大きく差をつける。

 

 

「ターンエンド。オマエのライフ、残り2つだな」

手札:4

場:【仮面ライダーゼロワン】LV1

【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第6形態]】LV2

【クーデリア&アトラ】LV1(3)

バースト:【無】

 

 

「フン、知らないのか鉄華よ。バトルスピリッツとは、全てのライフを消し飛ばすまで、勝敗は決さない」

「別にまだオマエが負けたとか言ってないけど」

「余裕でいられるのも今の内だけだ。そろそろ見せてやろう、貴様を倒すために手に入れた、我が牙を」

「……」

 

 

[ターン06]獅堂レオン

 

 

レオンのターンを迎える。リフレッシュステップに入ると、フィールドにいるソードインパルスガンダムが疲労状態から回復状態になり、立ち上がる。

 

 

「メインステップ、アレックスの効果、自身を疲労させる事で、コアブースト」

 

 

次のターンまで、自身の行動を封じる代わりに、1コアをブースト、もしくは1枚手札を増やすかの二択を選ぶ事ができる、アレックスの効果。

 

レオンはその効果でコアを選択。より増えたコアを使い、手札を切る。

 

 

「続けてネクサス、要塞都市ナウマンシティーを配置」

 

 

ー【要塞都市ナウマンシティー】LV1

 

 

早美邸の中より轟く重機の轟音。レオンの背後に、要塞都市ナウマンシティーが配置される。

 

フィールドにいる限り、強い影響力を発揮するネクサスカードだが、このナウマンシティーが1番強い影響力を発揮するのは、その召喚直後だ。

 

 

「配置時効果、手札から白のスピリットカード1枚をノーコストで召喚する。無論、コストの制限はない、あらゆる白のスピリットをオレは呼ぶ事ができる」

「ッ……来るのか」

「あぁ、来るのさ」

 

 

レオンはナウマンシティーの効果により、再び1枚の手札をBパッドへと叩きつける。

 

それは、早美アオイを通して手にした、悪魔の魔道具、彼の新たな牙。

 

 

「司るは白。運命を噛み砕く、我が牙!!……ゼノンザードスピリット、百獣・ヴァイスレーベ!!……LV1で召喚」

 

 

ー【「百獣」ヴァイスレーベ】LV1(2)BP10000

 

 

突如襲い来る猛吹雪の中、レオンのフィールドへと降り立つ、機械仕掛けの白銀の獅子。

 

その名は白のゼノンザードスピリット「ヴァイスレーベ」………

 

それは現れるなり、気高くも猛々しい雄叫び一つで猛吹雪を掻き消す。

 

 

「どうだ鉄華、これがオレの得たゼノンザードスピリットだ。気高く、美しいだろう」

「いいから早く来いよ。ソイツごと、オマエを叩き潰す」

「フン……そうだ、貴様はそう言う奴だったな。だが叩き潰されるのは貴様の方だ、転醒ブレイヴ、輝きの聖剣シャイニング・ソードXを召喚、不足コストはアレックスを消滅させて確保」

 

 

ー【輝きの聖剣シャイニング・ソードX】LV1(1S)BP5000

 

 

天空から差し込んで来る一条の光。それに沿って地上へと突き刺さったのは、伝説の赤属性の聖剣、シャイニング・ソードX。

 

 

「召喚時効果だ、BP7000以下のスピリットである、バルバトス第4形態とゼロワンを破壊、さらに破壊時効果は発揮させず、無効となる」

「!」

 

 

シャイニング・ソードXの束から放たれる聖なる火炎放射。それがオーカミのフィールドに佇むゼロワンとバルバトス第4形態を焼き尽くしていく。

 

 

「ようやく目障りなライダースピリットが消えたな。鉄華よ、ここからが真のバトルだ!!……輝きの聖剣シャイニング・ソードXを、ヴァイスレーベに合体、極上の雄叫びを上げよ」

 

 

ー【「百獣」ヴァイスレーベ+輝きの聖剣シャイニング・ソードX】LV2(3S)BP17000

 

 

ヴァイスレーベが地に突き刺さっているシャイニング・ソードXを咥えて合体。白属性と赤属性の強力な合体スピリットとなる。

 

ゼノンザードスピリットを使って来た者達は、それらの性能を十二分に発揮して来たが、ブレイヴとの合体までやってのけたのはレオンが初。その力は未知数である。

 

 

「アタックステップだ。ヴァイスレーベよ、砕け!!」

 

 

レオンはアタックステップへと移行。ヴァイスレーベが力強く地を駆け抜けて行く。

 

 

「効果により、貴様は必ずオレのスピリットのアタックをブロックしなければならん」

「……バルバトス第6形態、頼む」

 

 

ヴァイスレーベの行手を、バルバトス第6形態が阻む。シャイニング・ソードXとレンチメイスが衝突し合い、火花を散らし合う。

 

だが、拮抗していたのもほんの一瞬。すぐさまヴァイスレーベが押し返し、背部に備わっているガトリング砲を掃射し、バルバトス第6形態の装甲を砕いて優位に立つ。

 

 

「バルバトス第6形態には【零転醒】がある。フィールドを離れる時、裏返って場に残る」

「甘いな。シャイニングソード・Xと合体したスピリットが破壊したスピリット効果は発揮されない」

「なに!?」

「故に転醒はできん。我が牙よ、ソイツを鉄屑にしてやれ!!」

 

 

装甲とレンチメイスが砕け散り、劣勢に立たされたバルバトス第6形態は、新たな武器として、背部にマウントした太刀を握ろうとするが、ヴァイスレーベはその隙さえ与えず、バルバトス第6形態の胸部を噛み砕き、爆散へと追い込んだ。

 

 

「さらにアタック時効果だ。ヴァイスレーベはバトルに勝った時、オマエのライフ1つを砕く」

「ッ……ぐぁっ!?」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

猛吹雪をも吹き飛ばして見せるヴァイスレーベの雄叫び。その爆音波がオーカミのライフバリアを1つ砕き、激痛を与える。

 

 

「まだ終わらんぞ、ソードインパルス!!」

「……それもライフだ」

 

 

飛び立ち、全滅したオーカミのフィールドへと着地するソードインパルス。自慢の巨大なビームブレードを大きく振りかぶり、オーカミのライフバリア1つを一刀両断して見せる。

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐぅっ!!」

 

 

遂に残りライフは1つ。オーカミは絶体絶命の窮地に立たされる。

 

 

「ターンエンド。どうだ、見たか鉄華。これが我が牙、ヴァイスレーベの力だ!!」

手札:2

場:【「百獣」ヴァイスレーベ+輝きの聖剣シャイニング・ソードX】LV2

【ソードインパルスガンダム】LV2

【要塞都市ナウマンシティー】LV1

バースト:【無】

 

 

己が新たに得た力を見せつけた事に満足し、レオンは余裕綽々でそのターンを終える。

 

 

「……オレの、ターンだな」

「フン、どうした鉄華、足元がふらついてるぞ。これで思い知ったか、バトルは楽しめばいいモノじゃない、勝たなければならないモノなのだ。バトルを楽しむのは、勝者、即ち強き者の特権なのだ」

 

 

己が考え、理念を謳うレオン。会う度に何度も何度も聞かされたそれだが、昔と今とでは説得力に雲泥の差がある事を、オーカミは悟り………

 

 

「オレは残念だよ獅堂」

「なに?」

「出会った時からずっとムカつく奴だと思ってたけど、相手の搦手なんて一切考えない、真っ直ぐ自分のエースを信じて戦い抜く、そんなオマエのバトルだけは好きだった」

「………」

「だけど今のオマエからはもう何も感じない。ただの抜け殻だ」

 

 

界放リーグで戦った時まで、その抜け殻には身が、勝手な事を言うだけの実力が確かに詰まっていたのだ。

 

しかし今となっては、その身は取られ、ただの操り人形と化している。そんなカードバトラーが何を謳っても、説得力などあるわけがない。

 

 

「ならば貴様に勝って示そう。あの時の赤い目の力を出せ」

「!」

「アレを発現させた貴様に勝たねば意味はない。そのためにオレはこの力を得たのだから」

 

 

直後にレオンが要求して来たのは、おそらく「バトルの未来が見える」力。

 

 

「悪いけど、アレはオレもどうやって使っていいかわからないんだ。だけど多分、今のオマエには使うまでもない」

「ならば無理矢理引きずり出すまで。さぁ貴様のターンだ!!」

 

 

オーカミのターンが始まる。彼は劣勢を覆すべく、それを進めて行った。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、先ずはオルガ・イツカだ」

「……2種の創界神を揃えたか」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「配置時の神託でコア2つをオルガに追加」

 

 

常にオーカミのバトルを支え続けて来た創界神ネクサス「オルガ・イツカ」………

 

このバトルの中で、2種目の創界神ネクサス「クーデリア&アトラ」と邂逅を果たす。

 

 

「ランドマン・ロディをLV2で召喚。対象スピリットの召喚により、2種の創界神にそれぞれ神託」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

オーカミの場に、濁った白と橙色を基調とした、丸っこい小型モビルスピリット、ランドマン・ロディが召喚され、それに合わせ、創界神ネクサス達にコアが1つずつ追加された。

 

 

「アタックステップの開始時、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果を発揮。これをトラッシュから召喚する」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000

 

 

「召喚により、2種の創界神に神託」

 

 

機関銃を装備したバルバトス、第2形態が新たに召喚される。

 

これでオーカミのフィールドのスピリットは2体。レオンの残りライフも2つだ。

 

 

「アタックステップ続行、バルバトス第2形態でアタック!!」

 

 

勝ちを取りに行くべく、オーカミはバルバトス第2形態でアタック宣言。

 

バルバトス第2形態は、その命令を受けるなり、背中のスラスターで上空へと飛び立つ。

 

 

「単調な攻撃でオレを倒せると思うな、フラッシュマジック、スクランブルブースター」

「!」

「ヴァイスレーベを指定。このバトル中、ヴァイスレーベは疲労状態でのブロックを可能にする。相手をしてやれ、我が牙よ」

 

 

白のマジックカードにより、疲労状態のままブロックを行うヴァイスレーベ。上空に佇むバルバトス第2形態に向けて、背中のガトリング砲を掃射する。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】……デッキ上から3枚破棄して1枚ドロー。さらにこの瞬間、クーデリア&アトラの【神域】も発揮」

「!」

「鉄華団のカード効果でデッキが破棄された時、トラッシュにある紫1色のカード1枚をデッキ下に戻して、1枚ドロー。オレはビスケットのカードを戻して、1枚ドローする」

 

 

バトル中に行われるフラッシュタイミング。オーカミは2種の創界神ネクサスのコンボにより、トラッシュを肥やしつつ、手札を2枚増やす。

 

しかし、このコンボはスピリットと同士のバトルには一切関与しない。バルバトス第2形態は、連射されたガトリング砲になす術なく被弾し、撃墜。地に落ちる衝撃と共に爆散した。

 

 

「スクランブルブースターの追加効果。指定したスピリットがバトルに勝った時、デッキから2枚ドローする」

「ターンエンドだ」

手札:5

場:【ランドマン・ロディ】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(4)

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

残ったランドマン・ロディでまだライフを破壊しに行く事はできるものの、それだけでは打点が足りない。

 

オーカミは大人しくそのターンをエンドとした。

 

次はレオンのターン。残り1つしかないオーカミのライフを、容赦なく、全力で噛み砕きに向かう。

 

 

[ターン08]獅堂レオン

 

 

「メインステップ、全てのスピリットのLVを最大にアップ」

 

 

レオンのフィールドに存在するソードインパルスガンダムと、ゼノンザードスピリットのヴァイスレーベのLVが最大の3に上昇。

 

ソードインパルスのBPは9000、ヴァイスレーベに至ってはブレイヴとの合体を含め、23000。この数値は、現在の鉄華団のスピリットたちでは、到底及ばないステータスであり………

 

 

「このターンで、オレはもう貴様を倒せるぞ。折角なら貴様の新エース、バルバトスルプスを拝んでおきたかったが………まぁ、それ程までにオレと貴様とで実力の差が開いたのだろうな」

「ベラベラ喋ってないで、早く来いよ」

「フン……最後まで口の減らない奴だ。アタックステップ、奴の喉笛を噛み砕いてしまえ、我が牙よ!!」

 

 

ヴァイスレーベのアタック時効果のライフ貫通効果で決着をつけようと、それにアタックを命じるレオン。

 

だが、それが完全に成立する前に、オーカミの叫びが轟く。

 

 

「そのアタックの前に、アタックステップ開始時、オルガの【神技】を発揮!!……オルガのコアを4つボイドに送り、トラッシュから鉄華団を呼ぶ!!」

 

 

何度もオーカミの窮地を凌いで来た、オルガの【神技】の効果がここに来て発揮される。

 

これにより、ヴァイスレーベのアタックの前に、トラッシュから好きな鉄華団カードを呼び出す事ができる。

 

ただ………

 

 

「ヴァイスレーベを倒せる鉄華団スピリットなど、存在しない。何を呼んでも、オレの勝ちは揺るぎない!!」

 

 

そう。

 

現存する鉄華団スピリットの中では、ゼノンザードスピリットであるヴァイスレーベを超えるBPを持つスピリットは存在しない。

 

しかし、それは飽くまでもBPのみの話であり………

 

 

「いや、コイツなら、オマエの勝ちは揺らぐ。来い、ガンダム・フラウロス!!」

「!?」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]】LV3(5)BP12000

 

 

流星の如く、凄まじい速度で地上へと降り立ったのは、マゼンタのカラーをした、ガンダムの名を持つモビルスピリット、フラウロス。

 

 

「……新たなモビルスピリット、しかもガンダムの名を持っているだと?」

「コイツは知らないみたいだな。その召喚時効果発揮の前に、手札のパイロットブレイヴ、シノの効果を発揮」

 

 

レオンが知っている鉄華団の情報は、ルプスを初めて呼び出したイチマル戦のみ。それ以降に呼び出したカード達は知る由がなかった。

 

未知のカード達のオンパレードで多少は困惑するも、絶対にこの牙城は崩されないと自信があったのか、直ぐに余裕のある表情へと戻る。

 

 

「フン……ならばそのパイロットブレイヴの効果から先に解決しろ」

「あぁ、オレはシノを召喚し、直接フラウロスに合体だ」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]+ノルバ・シノ】LV3(5)BP16000

 

 

フラウロスが、鉄華団のパイロットブレイヴにより強化。

 

さらにその直後に、今度はフラウロスの効果が発揮される。

 

その効果は、ゼノンザードスピリットさえも穿つ凶弾。

 

 

「続けてフラウロスの召喚時効果、相手のコア5個以上のスピリット1体を破壊する」

「!」

「対象はもちろん、コアが6個も乗っているヴァイスレーベ。打ち砕け、フラウロス!!」

 

 

フラウロスが背部に備わっている2つのレールガンの砲身をヴァイスレーベに向け、それを放つ。

 

レールガンにより放たれた2つの鉛玉は、一直線にヴァイスレーベに直撃し、爆散。

 

 

「……よし」

 

 

爆発による爆煙の中、オーカミがそう呟く。

 

だが、その爆煙が晴れる時、破壊したはずのヴァイスレーベが気高い雄叫びを張り上げて…………

 

 

「あれ」

「残念だったな。あの瞬間、オレは手札から機巧獣ショウエンの【影武者】の効果を発揮させていた」

 

 

ー【機巧獣ショウエン】LV1(1)BP1000

 

 

ふとヴァイスレーベの横を見ると、そこには猿型の小さな機獣がいた。

 

おそらくそのスピリットが、フラウロスの弾丸からヴァイスレーベを守ったのだろう。

 

 

「【影武者】は、ソウルコアが置かれているスピリットが効果の対象となった時、手札から召喚する事でそれを肩代わりする。そして、ショウエンのコアは1つ。フラウロスのコア5個以上を破壊する効果では破壊できん」

「へぇ」

 

 

要するに、ヴァイスレーベは生き残った。

 

薄いリアクションを取っているが、オーカミにとっては非常に危険な状況だ。

 

 

「コレが貴様の奥の手か鉄華よ。興醒めだな、オレはこんな奴のために躍起になっていたのか………今度こそアタックだ、我が牙よ!!」

 

 

ヴァイスレーベが動き出す。

 

その口内から発せられる爆音のような雄叫びは、スピリット達の脚を怯ませ、逃げ道を塞ぐ。

 

 

「効果により貴様は必ずブロックしなくてはならない」

「……フラウロスでブロック。その効果で機巧獣ショウエンを破壊だ」

 

 

ヴァイスレーベを迎え撃つべく、フラウロスは両手に持つ二丁のマシンガンを連射。

 

だが、ヴァイスレーベには全く通用せず、直撃した弾は全て弾き返されてしまう。しかし、外れた流れ弾の1つがショウエンに被弾、ヴァイスレーベと比べて貧弱なショウエンは立ち所に爆散して行く。

 

 

「雑魚を消しても無駄だ。ヴァイスレーベのBPは23000、対して貴様のフラウロスは16000。オレと貴様の力関係と同様に、覆しようもない差がある」

「慌てるなよ、まだ終わってない。シノの【合体中】アタックブロック時効果、ターンに1回、手札1枚を破棄する事で、2枚ドローする」

 

 

フィールドではヴァイスレーベがフラウロスに迫る中、オーカミはもう1つの効果を発揮。

 

手札にある「オルガ・イツカ」のカード1枚をトラッシュへ破棄し、デッキから2枚のカードをドローする。

 

 

「ッ………ふ」

「何を笑っている」

 

 

勝敗を分けるであろう運命のデスティニードロー。

 

オーカミはそのドローカードの内1枚を見るなり、思わず小さな笑みが溢れた。

 

このタイミングで「笑える」と言う事はそう言う事。間違いなく引いたのだ、この状況を打開する、強烈な一手が

 

 

「フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はバトル中のフラウロスだ」

「煌臨……ルプスか、だが今更奴を呼び出しても形成は変わらん。最後の足掻きか」

「いいや違う。進化したのがバルバトスだけだと思うなよ」

 

 

オーカミの背後から現れ、飛び立つ巨大なモビルスピリットの幻影。それがフィールドのフラウロスを依代として、この世に顕現する。

 

 

「轟音唸る、過去をも穿つ……ガンダム・グシオンリベイクフルシティ、LV3で煌臨!!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+ノルバ・シノ】LV3(5)BP17000

 

 

「な、なに……バルバトスではなく、グシオンリベイクの進化系だと!?」

 

 

フラウロスに煌臨し、フィールドへと現れたのは、鉄華団の守護神、グシオンリベイクの未来の姿、グシオンリベイクフルシティ。

 

薄茶色の装甲や、見た目には大きな変化は見られないものの、腕部や背部の翼がより肥大化しており、ルプスと同様にいつも以上の頼もしさを感じさせる。

 

 

「だ……だが、所詮BPは17000。我が牙の敵ではない……!!」

 

 

未知のモビルスピリットの登場に怯む事なく襲い掛かる白きゼノンザードスピリット、ヴァイスレーベ。強靭な顎で咥えたシャイニング・ソードXによる一太刀が、グシオンリベイクフルシティを斬りつける。

 

 

「だから慌てるなって……グシオンリベイクフルシティの煌臨アタック時の効果。自分のデッキ上から2枚を破棄」

 

 

斬りつけられるも、重厚な装甲を持つグシオンリベイクフルシティには全く通じない。さらにここで煌臨時の効果が発揮。

 

オーカミのデッキ上から2枚のカードがトラッシュへと破棄される。

 

そのカードは「ネクロブライト」と「ガンダム・バルバトス[第1形態]」………

 

 

「こうして破棄した紫1色のカード1枚につき、相手フィールドのコア2つをリザーブに置く」

「!!?」

「破棄したカードはどっちも紫1色、ヴァイスレーベからコア4つを取り除き、LV1までダウンさせる」

「なんだと……!?」

 

 

ー【「百獣」ヴァイスレーベ+輝きの聖剣シャイニング・ソードX】(6➡︎2)LV3➡︎1

 

 

グシオンリベイクフルシティの背部の機翼より展開される、第三、第四の腕。

 

合計4本の腕でマシンガンを手に持ち、連射。至近距離で集中砲火を受けたヴァイスレーベはたちまち体内からコアが飛び出し、LV1まで弱体化させられてしまう。

 

 

「クーデリア&アトラの【神域】の効果、トラッシュのカード1枚をデッキ下へ、1枚ドロー」

「くっ……合体しているヴァイスレーベ、LV1のBPは15000」

「オレの勝ちだ、グシオンリベイクフルシティは、オマエの牙を穿つ……!!」

 

 

激しい弾幕でヴァイスレーベを大きく後退させたグシオンリベイクフルシティ。マシンガンを仕舞うと、背部にマウントした剣斧ハルバートを新たに手に取ると、トドメだと言わんばかりに縦一直線にそれを振るう。

 

抵抗する間もなく直撃したヴァイスレーベは、悲痛な雄叫びを張り上げると、遂に限界を迎え、大爆発を起こした。

 

 

「ば、馬鹿な……破壊されただと、ゼノンザードスピリットが、ヴァイスレーベが……我が牙が!?」

 

 

勝敗が決するであろうBPバトル。それを制したのは鉄華オーカミの鉄華団スピリット、グシオンリベイクフルシティ。

 

その結果に最も納得していないのは、当然獅堂レオン。

 

 

「なぜ、オマエはまだルプスも使っていない、赤い目の力も………」

「だから言ったろ、使うまでもないって」

「ッ………いや、まだだ、我が牙が折れようとも、オレの負けは認めん」

 

 

直後、レオンは声を荒げ、カード効果の発揮を宣言する。

 

 

「輝きの聖剣シャイニング・ソードXの【合体中】効果、【転醒】!!……合体スピリットがフィールドを離れた時、自身を裏返して場に残す。現れよ、転醒化身!!」

 

 

ー【輝きの聖剣シャイニング・ソードX-転醒化身-】LV1(1)BP5000

 

 

ヴァイスレーベと言う名の主人を失い、虚しく地に突き刺さっていた聖剣シャイニング・ソードX。

 

それを再び握り、構えるのは、雄々しい翼を持つ、赤いドラゴン。

 

 

「転醒時の効果により、相手のBP10000以下のスピリット全てを破壊し、破壊した数だけドロー。BP3000のランドマン・ロディを消し去り、オレは1枚ドローする」

「オレのランドマン・ロディには、疲労状態の相手スピリット1体を破壊して、1枚ドローする破壊時効果がある。転醒化身は道連れだ」

 

 

聖剣を握る赤いドラゴンと、ランドマン・ロディが互いにぶつかり合い、対消滅。

 

さらにそれぞれのプレイヤーが1枚ずつドローし、このバトルは痛み分けと言った結果に終わる。

 

 

「これで貴様の場には疲労しているグシオンリベイクフルシティのみ。対してオレにはまだアタックが可能なソードインパルスが残っている」

「……」

「故にオレの勝ちだ。これで師匠の教えこそが正しい事は証明される!!」

 

 

レオンの脳裏に浮かぶのは、オレンジの髪色に、触覚のような長い一本のアホ毛のある女性。

 

ソードインパルスが残り1つのオーカミのライフを砕くべく、走り出す。だが、疲労状態でブロックできないはずのグシオンリベイクフルシティがそれを阻み………

 

 

「なッ……何故グシオンリベイクフルシティが!?」

「証明したいなら勝手にやってろ。でもオレはその間に、もっと前に進む………創界神ネクサス、クーデリア&アトラの【神技】の効果、この創界神のコア5個をボイド、トラッシュにある鉄華団カード1枚をデッキ下に置き、鉄華団スピリット1体を回復させる。再び唸れ、グシオンリベイクフルシティ!!」

「まだそんな効果を……」

「ソードインパルスをブロックだ」

 

 

鉄華オーカミは、クーデリア&アトラの効果により、グシオンリベイクフルシティをもっと前へと進めさせる。

 

 

「フルシティの【合体中】アタックブロック時効果、コア4個以下の相手スピリット1体を破壊して、トラッシュにある紫1色のカード1枚を手札に加える」

「!」

「ソードインパルスを破壊、トラッシュにある『バルバトスルプス』を手札へ」

 

 

腰部にマウントした大きな盾。それを大きなハサミのような武器に変形させ、ソードインパルスを万力の如く挟み込む。

物理的な圧力に屈したソードインパルスは、呆気なく爆散。

 

フラッシュタイミングや効果の競り合いの中、勝ち残ったのは、鉄華オーカミのグシオンリベイクフルシティだ。

 

 

「ターン、エンド………なんだ、この惨劇は。今はオレのターンのはずだぞ」

手札:4

場:【要塞都市ナウマンシティー】LV1

バースト:【無】

 

 

圧倒的優先に立ち、攻め込んでいたはずのレオン。

 

僅か1ターンで見るも無惨な姿となった自分のフィールドにショックを受ける。

 

そんな彼に構う事なく、オーカミはよくやく巡って来た自分のターンを進めていく。

 

 

[ターン09]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディ2体を連続召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

このバトルでは2、3体目となるランドマン・ロディが呼び出される。

 

それの召喚に合わせ、再び2種の創界神にコアが追加されていく。前のターンの煌臨や召喚もあり、そのコア数は、共に4つ。

 

 

「アタックステップの開始時、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果、復活する」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1)BP3000

 

 

機関銃を備えたバルバトス、第2形態が復活。これでオーカミのフィールドには計4体の鉄華団スピリットが揃う。

 

 

「フルシティでアタック、効果でデッキ上を2枚破棄、クーデリア&アトラの効果で1枚をデッキ下に置き、1枚ドロー。さらにシノの効果で手札1枚を破棄、2枚ドロー」

「……」

 

 

前のターンから一転して窮地に立たされるレオンだが、その4枚の手札には、まだチャンスを掴み取れるだけの可能性があり………

 

 

「フラッシュマジック、白晶防壁」

「!」

「相手のスピリット1体を手札に戻す」

「その効果は、バルバトス第2形態の効果で受けない」

「だが、ソウルコアを使った時の効果は防げない。このターン、オレのライフは1つしか減らんぞ」

 

 

レオンが使用したのは絶対防御を誇る白のマジック『白晶防壁』……

 

一度成立して仕舞えば、このターン、彼のライフはたったの1つしか削られない。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】でデッキ上を3枚破棄し、1枚ドロー。それに合わせてクーデリア&アトラの【神域】でトラッシュのカード1枚をデッキ下へ、1枚ドロー」

「……そのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉獅堂レオン

 

 

グシオンリベイクフルシティが、4本の腕でマシンガンを持ち、連射。白のゼノンザードスピリットであるヴァイスレーベですら後退させた集中砲火だが、白晶防壁の効果により、破壊したライフバリアは1つで終わる。

 

 

「ターンエンド」

手札:9

場:【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+ノルバ・シノ】LV3

【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1

【ランドマン・ロディ】LV1

【ランドマン・ロディ】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(5)

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

白晶防壁で凌がれたものの、4体のスピリット、9枚もの手札。これでもかと優位に立ったオーカミ。今はターンをエンドとし、白のゼノンザードスピリットと、我が牙と言う名の切り札を失ったレオンのターンを見届ける。

 

 

「………」

 

 

本当に滲み出ていたのは、己の強さではなく、敵の強さだった。

 

このどうしようもないくらい不利な状況、レオンがそれをひっくり返すためには、あのスピリットをドローするしかない。

 

己が最も信頼をおいていた、あの魂のスピリットを………

 

 

「デスティニーガンダム」

「!!」

「そんなの、未来が見えなくたってわかる。オマエの魂のエースカード、まだデッキにいるんだろ?……それが召喚されたら、オレは逆転されて、負ける」

 

 

そう。

 

数あるモビルスピリット達の中でも最高峰のパワーを持つデスティニーガンダムだ。今は手札にないが、アレさえ来てくれれば、勝つのはレオン。

 

 

「界放リーグの決勝戦、オマエは宣言してデスティニーガンダムをドローして見せた」

「……!」

「もう一度やって見ろよ。それだけでわかるはずだ、今のオマエが進んでいるのか、それとも止まっているのか」

 

 

身体の小さいオーカミによる、大きく重たいプレッシャー。

 

だがレオンとて、それに屈するわけにはいかない。このバトルは勝たないといけないのだ、亡き師匠である「芽座葉月」のため………

 

 

「そうだ、引けると決まっている。オレは獅堂レオン、あの芽座葉月の唯一無二の弟子だ。次のターン、このオレがドローするカードは当然、我が魂、デスティニーガンダム!!」

 

 

レオンは勝利するべく、己のターンを開始した。

 

 

[ターン10]獅堂レオン

 

 

「スタートステップ、コアステップ」

 

 

ターンシークエンスが進み、次は命運を分けるドローステップ。

 

 

「ドローステップ!!」

 

 

緊張感が迸って行く中、胸の高鳴りを沈ませ、レオンはBパッドに装填されたデッキの上から1枚のカードを全力でドローした………

 

そのカードは。

 

 

「ッ……!?」

 

 

引いたカードは『ザクウォーリア』……

 

残念だが、デスティニーガンダムでもなければ、この状況を打開できるようなカードでもない。

 

 

「ば、馬鹿な。デスティニーが、我が魂がこのオレを見放すだと……」

「……」

「負けるのか、このオレが。バトルは楽しむモノなどとほざく奴に。いや、そんな事あってはならん。バトルは、勝利してこそだ……勝利を貪欲に追い求める者が、そんな奴に負けるわけにはいかない。オレこそが、師匠こそが……」

 

 

このレオンのターンは結局何もせずにターンエンド。

 

すぐさまオーカミのターンへと移行する。

 

 

[ターン11]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……フルシティのLVを1にダウン。オマエが見たがってた奴だ、天空斬り裂け、未来を照らせ!!……ガンダムバルバトスルプスをLV2で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

上空より、オーカミのフィールドへと降り立つ5体目の鉄華団スピリットは、バルバトスが進化した未来の姿、バルバトスルプス。

 

 

「さらに三日月・オーガスを召喚し、ルプスと合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV2(2)BP14000

 

 

「今日はコアがたくさんあるから、いっぱい並ぶな」

 

 

追い討ちをかけるオーカミ。ルプスに三日月を合体させ、より強力な合体スピリットへと強化させる。

 

 

「なぁ獅堂、勝たないといけないバトルって、確かにある。オレも最近、散々経験したよ………そう言うバトルは、全然楽しくなかった」

「………」

 

 

オーカミの脳裏に浮かんで来たのは、ゼノンザードスピリットを操っていた鈴木兄弟とのバトル。

 

苛烈で、尚且つ心苦しく、時に怒り任せになる事もあった。

 

 

「今日みたいに、これからもそう言うバトルはあるのかもしれないし、そのたびにオレ達は嫌な思いをするかもしれない。でも、それ以上にバトスピはたくさん大事な事を教えてくれるんだ。勝てないと楽しめないなんて、そんな寂しい事言うなよ。オレはもっと、オマエと楽しくバトスピしたいぞ」

「……!」

「アタックステップ、ルプスでアタック!!」

 

 

もう何も邪魔立てする物はない。ルプスがソードメイスを構え、ガラ空きとなったレオンのフィールドへと攻め込んでいく。

 

そして1つ目の効果でオーカミのデッキが2枚破棄、その内の1枚はクーデリア&アトラの効果でデッキの下へと戻った。

 

 

「三日月の効果、ナウマンシティーのLVコストを+1して消滅。そしてリザーブのコアを5個トラッシュへ」

 

 

ルプスは腕部から機関銃を展開し、それを掃射。唯一残っていた、ネクサスのナウマンシティーを一撃の元で粉砕する。

 

 

「オレが貴様と、楽しくバトルだと……できるものか、そんな事今更、オレは自分の勝利でしか、楽しさを見出せない」

「だったら勝てるようにもっと強くなれよ、そんな意味のわからないカードなんか、さっさと捨てろ」

「………オレは」

 

 

ルプスが遂にレオンの眼前に迫り、ソードメイスを天に掲げて振り下ろす構えを取る。

 

その間に、忘れかけていたレオンのある記憶、言葉が、フラッシュバックして蘇る。

 

 

ー『レオン、バトルは勝利してこそだ。貪欲に強さを追い求め、勝利する者に、初めてバトルを楽しむと言う権利が与えられる』

 

 

レオンの師匠である伝説のカードバトラー「芽座葉月」の言葉だ。

 

だがそんな葉月は、逆に「バトルは楽しむモノ」だと言い張っていた妹「芽座椎名」との激闘の末に死亡した。

 

当然、その裏には別の何かの陰謀も働いていたのだが、それ故に、彼は芽座椎名を逆恨みし、彼女のように、バトルを勝っても負けても楽しもうとする人間を嫌った。

 

しかし、今、この瞬間、同時にこのような事を口にしていた事を思い出して………

 

 

ー『だが、オマエはオレのようにはなるな』

ー『どうしてだよ、オレはアンタみたいに、もっと強くなりたいのに』

ー『強き者は、強さを追い求め過ぎると、やがて孤独になる。1人は虚しく、切ない……オレはもう後戻りはできない。だがオマエには、オマエなりの生き方があるはずだ。探し出せ、きっとオマエは強くなる』

ー『……難しい事はよくわからないけど、少なくとも師匠は孤独じゃないだろ、スイート、ティア、ルージュに、オレもいるじゃん』

 

 

子供の頃のレオンの、純粋無垢な言葉に、思い詰めていたであろう葉月の表情は和らぎ「そうだな」と、当時のレオンに優しく告げる。

 

 

「師匠の言う通りだった。オレは、デスティニーにさえ見放され、孤独になった………虚しく、切ない……か」

 

 

ルプスの振り下ろしたソードメイスが迫る中、レオンがそう告げる。

 

師匠である葉月に、いったい何があったのかはわからない。だが、少なくとも彼はレオンに、自分と同じような孤独を味わって欲しくなかったに違いない。

 

 

「……何やってんだ、オレ」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉獅堂レオン

 

 

自分の考え方が如何に愚かだったのかを悟るレオン。ルプスの攻撃を受け入れ、遂に残りのライフバリアが全て砕け散った。

 

これにより、勝者は鉄華オーカミ。見事レオンからゼノンザードスピリットの、Dr.Aの呪いを浄化して見せた。その証拠に、バトル後、ヴァイスレーベのカードから黒い闇のようなモノが抜け落ち、消滅する。

 

 

「鉄華、貴様は何故ここまで強くなれた」

「……」

「いつの間にオレと貴様にここまでの差が生じたと言うのだ」

 

 

フィールドに残った鉄華団のスピリット達が消滅して行く中、レオンがオーカミに訊いた。

 

 

「オレが強くなれたって言うか、オマエが勝手に止まっただけだろ。それ以外の理由なんてないよ」

「………」

 

 

オーカミがそう返答すると、レオンの表情はこれまでだと信じられない程に柔和になる。

 

 

「あぁ、そうだな。そうだった、だがまたこれから動きだす。オレはもっと強くなるぞ鉄華オーカミ、与えられた牙ではなく、我が魂と共にな。今度はオレが貴様を追い越す番だ」

「そう、勝手にしろよ。でもバトルなら、いつでも受けて立つ、オレとオレのバルバトスが」

 

 

己の過ちを認め、再び前へと進む決意をしたレオン。

 

対してオーカミは、これから物理的に前へと進まなければならないのだが………

 

 

「じゃあな、時間が惜しい、オレはアニキの所に行くよ」

「待てオーカミ」

「なんか、オマエから名前呼びされるとウザイな」

「貴様、この広大な早美邸から九日ヨッカを1人で探し出せるのか?」

「………」

「無理だろう。貴様の仲間も先に向かったしな。そこでオレの出番だ、不本意ながら、この豪邸は隅々まで把握している、共に行くぞ」

「………」

 

 

オーカミはこれでもかと言わんばかりの嫌そうな顔をした。

 




次回、第41ターン「天才カードバトラー、春神ライ」




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第41ターン「天才カードバトラー、春神ライ」

鉄華オーカミと獅堂レオン。2人の好敵手同士が激しくバトルを繰り広げていた頃。

 

春神ライ、アルファベット、フグタの一行が向かう先は、囚われた九日ヨッカがいるであろう、中央ルームだ。監視の目を欺くため、フグタを先頭に、慎重に進んで行く。

 

 

「ねぇアルファベットさん」

「なんだ、春神」

「オヤツ食べてもいい?」

「……」

「あれ、聞こえなかった?……オーヤーツ、食べてもいい?」

「……」

 

 

懐からチョコのお菓子が入った小箱を取り出したライが、アルファベットに向けて目を輝かせながら訊いた。

 

その緊張感の無さに、アルファベットは呆れて声も出ない様子。

 

 

「……あのね、お嬢さん。オレ達今、九日ヨッカを助けるためにここにいるんだけど、そこんとこ、ちゃんと理解してるのかな?」

 

 

フグタがライに告げる。

 

彼女は箱からキノコの形をしたチョコを頬張ると、返答する。

 

 

「わかってますわかってます。でもほら、腹が減っては、良いバトルもできないでしょ?」

「そりゃまぁそうだけど。もうちょっとこう、緊張感をだね」

「正直ヨッカさんってタフって言うか、打たれ強いって言うか、悪運強いって言うか、兎に角生命力溢れてるイメージあるから、意外と危機感ってないんですよね」

 

 

ライの言葉を聞くなり、アルファベットは九日ヨッカの人当たりの良さ、コミニケーション能力の高さを感じた。

 

彼女が彼と共に暮らし始めたのは、今からちょうど1年くらい前の事。その短い期間の中で、これだけ強い関係性を結ぶ事ができたのは、九日ヨッカだったからだろう。

 

鉄華オーカミに関しても同様だ。彼に至ってはまだ九日ヨッカと親しくなってから半年程度しか経っていない。

 

 

「そう言えばさ、なんで獅堂は私達がここに来るってわかったんだろ。メールが来たとか言ってたけどさ」

「確かに」

「まさかハリセンボンさん、こっち側に来る時、誰かにバレたんじゃ」

「な訳ないだろう。オレの計画は完璧だったし、実際今日の監視の数は薄い。後、ハリセンボンじゃなくてフグタね」

 

 

ライが疑問を口にする。

 

 

「アルファベットさんは、どう思います?」

「………」

「アルファベットさん?」

「………」

「あ、絶対コレなんか知ってるヤツだ。なんかミスったんでしょアルファベットさん。ねぇねぇ絶対そうでしょ!!」

「黙れ、早く行くぞ」

 

 

アルファベットは覚えている。昨日、Dr.Aに早美邸へ行く旨を伝えてしまった事を。

 

おそらくそれのせいで、少なくともレオンや早美アオイ。Dr.Aに関連した人物は、この計画の事を知っているに違いない。

 

彼は正直、内心で「やってしまった」と思っている。顔の表情は飄々としていて、冷静そのものだが、手や額からは冷や汗がドバドバ出ていた。

 

 

「全く、自分が不利になると直ぐ逃げるんだから………ん?」

 

 

歩いている中、ライは進行路とは別の道に、ある物が置いてある事に気づく。

 

 

「あ、アレって……ウソ、ムエ太郎カート32じゃん!?……まだ発売日未定なのに、なんで!?」

 

 

ライの視界に飛び込んで来たのは『全天堂シュワッチ』と言う会社が開発したゲームソフト『ムエ太郎カート32』………

 

オレンジ色の犬みたいな愛らしい生物、ムエなど、様々な奇怪な生き物達が車やバイクに乗って速さを競い合う、ムエ太郎カートシリーズの新作である。

 

ライはそのムエ太郎シリーズの大ファンであり、その新作であるムエ太郎カート32の発売を楽しみにしていたのだ。

 

 

「流石大金持ち、まさか全天堂シュワッチの本社ってここだったりする?」

「違うぞ」

 

 

喉から手が出る程に欲しいゲームソフトに飛びつくライ。

 

だが、その不自然さに、フグタが気づいて………

 

 

「お嬢さん待て、オレらが廊下にそんなもん置くわけ……」

「え?……うわっ!?」

「ッ……春神」

 

 

時既に遅し。ライの足元にある床が横に開き、そのまま彼女は奈落へと堕ちていった。

 

 

「お嬢さん!!……クソ、迂闊だった、オレ達もこの下に……」

「いや、構うな。先に行くぞ」

「え!?」

 

 

下に落ちたライを助けようと、自らもそこに落ちようとするフグタだが、アルファベットがそれを言葉で制止させる。

 

 

「なんで!?……女の子1人が下に落ちたんだぞ!?」

「奴をただの少女だと侮るな。奴はオレの妹よりも天才性のあるカードバトラーだ、いざとなれば自力でどうにかする。そもそもその程度でくたばるようなカードバトラーを呼んではいない」

「いや、アンタの妹さんは知らんけども」

 

 

アルファベットはこの計画に、自らが信頼できるカードバトラーしか呼んでいない。春神ライも、当然それに値する存在。

 

 

「おい春神。オレ達は先に向かう。オマエは自力でさっさと追いついて来い」

 

 

アルファベットが床に開いた穴の先にいるであろうライに向かって、そう告げると、フグタと共に先へ進んだ。

 

常人では計り知れない価値観だが、それが彼なりの信頼なのだろう。

 

 

******

 

 

「あぁはいはい、わかりましたよ、相変わらず人の扱いが適当なんだから。つーかいったた……お尻から落ちちゃったし、ゲームソフトもよく見たら単なるパチモンだし、最悪」

 

 

アルファベットの言葉を受け取ったライ。痛いお尻を持ち上げて立ち上がると、そこは………

 

 

「おぉこれって……全部カードパック??……色んなのあるな。うわコレなっつ」

 

 

様々なカードパックが陳列し、所狭しと並んでいた。その種類、約100種以上。そんじょそこらのカードショップよりもはるかに品揃えが良い。

 

ヨッカの経営するカードショップ「アポローン」など、足元にも及ばないだろう。

 

 

「驚いた?……ここに昔住んでいた方の趣味なんですって」

「ッ……誰」

 

 

自分以外の存在に気づくライ。反射的に声のする方へと体を向ける。

 

 

「「誰」は失礼極まりないわね。まさかこの私、界放市のトップバトドル「青葉アカリ」を知らないなんて言わせないわよ」

「青葉アカリ……あぁ、あのヒバナちゃんの好きな奴。1回ライブ観に行ったっけ」

「ふふ……ありがとう」

 

 

そこにいたのは、バトスピアイドル、通称「バトドル」

 

その中でも界放市でトップに君臨する少女、青葉アカリだった。アイドルで活動している時では見せない、軽視するような冷ややかな目線をライへ向ける。

 

 

「まさかあんな単純な罠に引っ掛かる人がいるなんてね。余程ゲームが好きみたいね」

「あの罠作ったのアンタかい。なんて巧妙な」

「アハ、貴女可愛い顔してるわね、私には劣るけど。そんなにゲームが好きなら、私と一緒にバトスピしましょ。もうね、私の黄なるゼノンザードスピリット様が早く戦いたいって言って聞かないの」

 

 

アカリは懐からゼノンザードスピリットの一種『「双龍頭領」アオバ』のカードを見せつけながらそう告げる。

 

カードに対して「様」とつけるあたり、相当それに心酔しているのが見て取れる。

 

 

「そりゃそっち側にいるなら持ってるよね。いいよ、正直ちょっと期待してたんだよね、ゼノンザードスピリット使い」

「アハハ、さぁ私に貴女を傷つけさせて」

 

 

Bパッドをセットし、展開。さらにデッキをそこへ装填し、バトルの準備を完了させた。

 

青葉アカリのみ。

 

 

「あ、アレ……デッキ、どこ?」

 

 

羽織ってるスカジャンから下に履いてるショートパンツまで、あらゆる服にあるポケットを探るが、ライは自分のデッキが見つけられなかった。

 

どこにもいつも使っているデッキがない事に気づいた彼女は、頭の血の気が引いていくのを感じて。

 

 

「……デッキ、忘れた」

「は?」

「デッキ、忘れちゃった………」

 

 

バトルをやる上で最も大事な存在、と言うかあって当たり前のモノであるデッキを忘れてしまったライ。

 

余りのショックに意気消沈する。対戦相手であるアカリも、彼女の天然さに目が点になり、ついていけない様子。

 

 

「な、なんでデッキを忘れたのよ私………ッ」

 

 

瞬間、ライは昨夜の事を思い出す。

 

その時ライは、自分の家(ヨッカの家)に、親友である黒髪ロングの清楚系美少女、夏恋フウを招き、一緒に決戦用のデッキを組んでいた。

 

 

ー『珍しいね、ライちゃんが自分のデッキを調整なんて』

ー『まぁね。明日はちょいと野暮用でさ、流石に手抜きはできないんだよね』

ー『……まさか、また鉄華オーカミさん?』

ー『な、なんでそこであのバカの名前が出て来るかな』

 

 

デッキを真剣に組んでいる途中、フウにそう言われ、少なからずオーカミの事を意識しているライは、仄かに顔を赤くする。

 

 

ー『だって、ライちゃんが真剣な時って、だいたいあの子の事かなって思ったからさ』

ー『んぅ、まぁ全く関係なくはないけど』

ー『あ、やっぱり愛?……愛故の、的な理由なの!?』

ー『違う違う!!……フウちゃん期待しすぎでしょ、誰があんな赤チビ』

 

 

フウに『明日ヨッカさんを助けるために危険な場所へ向かう』など、口が裂けても言えない。

 

ライは親友を危険な目に遭わせたくないのだ。

 

 

ー『もう、ライちゃんってば照れ屋さんだなぁ』

ー『照れてないって』

ー『でも、そんな一途なライちゃんに朗報です』

ー『朗報?』

ー『じゃ〜ん!!……ライちゃんへのプレゼントです!!』

ー『おぉありがとう!!……カード?』

 

 

ライはフウから1枚のカードを受け取る。

 

それは『サザビー[ロング・ライフル]』と言う、強力な赤属性のモビルスピリットのカードであって………

 

 

ー『おぉレアカード!!……マジ、マジで貰っていいの!?』

ー『うんもちろん。私じゃ宝の持ち腐れだしね』

ー『うわぁ、ありがとうフウちゃん!!……持つべき物はやっぱり友達だね』

ー『あっはは、もう苦しいよ〜〜』

 

 

嬉しさの余りフウを抱きしめるライ。

 

その後は譲り受けた『サザビー[ロング・ライフル』をデッキに組み込み、彼女史上最強のデッキが完成した。完成したのだが。

 

今日、家を出る際、ライはそのデッキを自身の懐ではなく、テーブルの上に置き去りにしていて…………

 

どんなに強いデッキを作っても、どんなにプレイが上手くても、デッキが手元になければ、そのカードバトラーは無価値。

 

 

「わ、私最低過ぎる。フウちゃんごめん」

「呆れたわ。カードバトラーの命とも呼べるデッキを忘れるなんて、貴女それでもカードバトラーなの?」

「カードバトラーだよ。いや、朝早すぎて眠かったんだよね」

 

 

そんな言い訳をしている場合ではない。

 

一刻も早くデッキ、カードをどうにかしなければ。

 

 

「う、う〜ん。どうしよ、どうすれば…………あ」

 

 

ふと、何かに気がつき、周囲を見渡すライ。するとそこには無限の可能性が広がっていて…………

 

 

「あるじゃん、カード」

「は?」

「この部屋にあるカードパックだよ、1パック6枚入りだから7パックでデッキが組める」

「!?」

 

 

そう。この部屋は、早美アオイの亡き父がカードパックのコレクションを貯蔵していた場所。

 

それらのカードパックに封入されているカードを束ねれば、バトルを行う事ができる。

 

 

「ラッキー。じゃあどのパックにしようかな〜っと」

「あ、貴女バカなんじゃないの!?」

「お金なら後でちゃんと払うよ、ヨッカさんが」

「そう言う問題じゃない、カードパックに入っているカードは完全にランダム。適当に選んだパックだけじゃまともなデッキなんて組めるわけない!!」

「んぅ、まぁちょうど良いハンデだろ」

「!!」

「おぉ早速Xレアげっちゅ〜〜!!」

 

 

ライがパック開封を楽しむ中、アカリは密かに怒りの炎を燃やす。

 

 

「……ちょうど良いハンデ??……舐められたモノね、この薄汚い鼠娘が」

「竈門禰豆子って呼んでもいいよ。おぉコレ、このパックに入ってたのか」

 

 

最後のパックを剥き終わり、ライは当てたカード達を束ね、それを左腕に装着しているBパッドに装填。ようやくバトルの準備を完全に完了させる。

 

 

「ごめんごめん、待たせたね。じゃあ始めようか」

「ッ……コイツ本当にパックのカードだけでデッキを………この界放市バトドルの頂点、青葉アカリを怒らせた罪は重いわよ!!」

「おうよ、かかってきんしゃい」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

周囲に様々な種類のカードパックが所狭しと並ぶ広大な部屋にて、適当なカード達でデッキを構成した春神ライと、ゼノンザードスピリット使いである青葉アカリによるバトルスピリッツが、コールと共に幕を開ける。

 

先攻は春神ライ。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ、先ずは紫の成長期デジタルスピリット、ガジモンを召喚」

 

 

ー【ガジモン】LV1(1)BP1000

 

 

ライのフィールドに、薄い紫の体毛、長い耳を持つ小型のスピリット、ガジモンが召喚される。

 

 

「召喚時効果でデッキ上から2枚オープン、その中にある系統「道化」「夜族」を持つスピリットカード1枚を手札に加える」

 

 

ライのデッキの上から2枚のカードがオープンされるが、対象のカードは無し。

 

彼女のデッキは無作為に手に取ったパックのカードのみで構成されているのだから、至極当然である。

 

 

「対象カードはナッシング。よって2枚ともトラッシュに破棄、ターンエンド」

手札:4

場:【ガジモン】LV1

バースト:【無】

 

 

第1ターンが終了し、黄のゼノンザードスピリットを持つ青葉アカリの第2ターンへと移行する。

 

 

[ターン02]青葉アカリ

 

 

「メインステップ、黄色の異魔神ブレイヴ、黄魔神を召喚」

「おぉ異魔神、珍しいの持ってんね」

 

 

ー【黄魔神】LV1

 

 

歪み、ひび割れる空間の中より、丸みを帯びた体格に加え、黄金の輝きを持つ、異魔神ブレイヴ、黄魔神が出現する。

 

 

「バーストをセットして、ターンエンド。寄せ集めのカードだけでどこまで戦えるか、見届けてあげるわ」

手札:3

場:【黄魔神】LV1

バースト:【有】

 

 

バーストカードを仕込み、アカリはそのターンをエンド。

 

ターンは一周し、再びライのターンが巡って来る。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「メインステップ、緑のモビルスピリット、グスタフ・カール00型を召喚」

 

 

ー【グスタフ・カール00型】LV1(1)BP2000

 

 

ライの場に呼び出される2体目のスピリットは、モビルスピリット。群青色に身を包んだ量産機、グスタフ・カール。

 

 

「召喚時効果でコア1つを自身に追加」

「ふふ、緑のスピリット。やっぱり色の統一は皆無のようね」

「そりゃね。バーストをセット」

 

 

アカリとは違い、パックを最低限開封して作っただけのデッキを使用しているライは、当然ながら、デッキの色は統一できない。

 

それにより、僅か3ターン目にして、やや窮屈な展開が始まる。

 

 

「アタックステップ。さぁそのバースト、最初のターンにブレイヴを出したって事は、差し詰め、合体する用のスピリット、若しくはそれを召喚するためのカードって所かな」

「!!」

「ふっ……顔に出過ぎですな。バトル中はポーカーフェイス、大事にね」

「だ、黙れ」

 

 

ライの予測に、アカリは思わず図星だと言わんばかりの表情を見せてしまう。

 

 

「まぁでも、今日は敢えて乗ってやるよ、グスタフ・カールでアタック」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉青葉アカリ

 

 

グスタフ・カールは、手に持つマシンガンを連射し、アカリのライフバリア1つを粉砕する。

 

そしてその攻撃は、アカリの仕込んだバーストカードの発動条件だ。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動、イマジナリーゲート」

 

 

勢い良く反転したバーストカードは、黄色のマジックカード。

 

ライの予測通り、強力なスピリットを手札から呼び出せる代物である。

 

 

「この効果により、私は手札からあのお方をお呼びする」

「お、早くも登場かな」

 

 

イマジナリーゲートの効果により、スピリットカード1枚をBパッドへと叩きつける。そのカードは予想するまでもなく、当然黄なるゼノンザードスピリット。

 

 

「司るは黄。偉大なる翼広げ顕現せよ、双龍頭領・アオバ!!」

 

 

ー【「双龍頭領」アオバ】LV1(1)BP9000

 

 

天空より迸る稲光と共に光来したのは、白銀の鱗を持つ、ニ首の龍。橙の翼を広げ、空間全域が振動するほどの咆哮を張り上げる。

 

これが黄なるゼノンザードスピリット、双龍頭領・アオバ。

 

 

「あぁ、黄なるゼノンザードスピリット、アオバ様。今日もご機嫌麗しゅうございます」

 

 

アオバに心酔しているアカリ。それが出てくるなり、やや頬を赤らめ、うっとりとした表情を見せる。

 

 

「へへ、良いね。ターンエンド」

手札:3

場:【グスタフ・カール00型】LV1

【ガジモン】LV1

バースト:【有】

 

 

黄なるゼノンザードスピリットの召喚を待ち望んでいたライ。彼女のモチベーションも上がった所で、ターンはそれを召喚して見せたアカリへと移る。

 

 

[ターン04]青葉アカリ

 

 

「メインステップ、先ずはバーストを再びセットして、黄魔神をアオバ様に合体、さらにLV3へ」

 

 

ー【「双龍頭領」アオバ+黄魔神】LV3(3)BP20000

 

 

黄魔神が右手の先から光線を放ち、それでアオバと自身を繋げ、BP20000にも及ぶ強大な合体スピリットへと変貌する。

 

 

「アタックステップ、さぁアオバ様、小生意気な鼠娘に天罰を!!」

 

 

アカリの指示を受け、アオバはライのライフバリア目掛け、飛行する。

 

さらに、その際に発揮できる効果があり……

 

 

「黄魔神の効果、トラッシュにある黄色のマジック、イマジナリーゲートを回収」

「へぇ、マジック回収効果か」

 

 

前のターンに使用したバーストマジック、イマジナリーゲートが、アカリの手札へと舞い戻る。これで次のターンにセットすれば、再びその効果が発揮できる状態となった。

 

 

「さらにフラッシュ、アオバ様の効果、手札にある黄1色のスピリットカードを召喚する事で回復する」

「おぉ、強」

「私はガトーブレパスを召喚、アオバ様は回復」

 

 

ー【ガトーブレパス】LV1(1)BP1000

 

 

二つの首を持つアオバが猛々しく咆哮を張り上げると、フィールドに突如唸る落雷。その先にいたのは、黒い牛のような姿に、小さな羽が生えた珍獣、ガトーブレパス。

 

低コストの弱小スピリットだが、アタックでライフを減らした際に自分のライフを回復する強力な効果【聖命】の持ち主。

 

それの登場により、アオバは回復し、このターン二度目のアタックを可能とする。

 

 

「合体により、アオバ様はトリプルシンボル!!」

「トリプルシンボルが回復するのか、ガジモンでブロック」

 

 

ライの身を守らんと、小さい身体ながら勇猛果敢にゼノンザードスピリットであるアオバに立ち向かうガジモンだったが、常に身体に稲妻を迸らせるアオバの鱗に触れた瞬間に蒸発し、爆散していった。

 

 

「だけどこの破壊は、私のバースト発動条件だ」

「!」

「バースト発動、アトロスバースト」

 

 

ガジモンの破壊をトリガーに、今度はライの伏せたバーストカードが火を吹く。

 

 

「効果により、トラッシュにある「怪獣」の名を持つスピリットカード1枚をノーコスト召喚する。墓地より顕現せよ、磁力怪獣アントラー!!」

 

 

ー【磁力怪獣アントラー[初代ウルトラ怪獣]】LV1(1)BP5000

 

 

地中より飛び出して来たのは、クワガタ虫のような大きな二角の顎を持つ怪獣シリーズのスピリット、アントラー。

 

 

「召喚時効果でボイドからコア2つを自身に追加、LV2にアップ」

「ちょ、ちょっと待って、そんなカードいつトラッシュに!?」

「いつって、ガジモンの召喚時効果の時だよ。トラッシュに行くって言ったじゃん」

「偶然トラッシュに落ちてたのか、運の良い子。だけどその程度のスピリットで私のアオバ様は止められないわ、アオバ様、もう一度お願いします!!」

 

 

アントラーが登場してもお構い無しにアタックステップを継続するアカリ。アオバが再びライのライフバリアを狙って飛翔する。

 

 

「フラッシュ、もう一度アオバ様の効果を使うわ。手札にある2枚目のガトーブレパスを召喚して、アオバ様は回復」

 

 

ー【ガトーブレパス】LV1(1)BP1000

 

 

「おお、まだ回復すんの」

 

 

落雷と共に出現する2体目のガトーブレパス。合体によりトリプルシンボルとなっているアオバが二度目の回復を果たす。

 

一度に3つものライフを砕くトリプルシンボルの連続アタックの重圧は計り知れないが、それを軽くいなすかのように、ライは手札のカード1枚を切る。

 

 

「フラッシュマジック、シャットアウト」

「!」

「黄のゼノンザードスピリットのアタックは、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉春神ライ

 

 

「あ、あぁっ……!!」

 

 

アオバの2つの口内から放たれる、深紅と蒼白の雷撃が、ライのライフバリアを一気に3つ砕く。

 

直後にゼノンザードスピリット使いが与える痛みが、ライの身体へ襲い掛かった。

 

 

「へぇなるほど、これが噂のヤツか、思ったより効くね」

 

 

ライは激痛に耐えつつ、余裕のある笑みを浮かべる。痛みが伴うバトルは初めてのようだが、恐怖以上に、強いスピリットと戦える楽しさが勝っている様子。

 

 

「シャットアウトの効果で、アンタのターンは終わる」

 

 

ここでライの発揮していた白のマジックカード、シャットアウトの効果が適応。否応を問われず、アカリのターンは強制的にエンドとなる。

 

 

「ターンエンド。どう、これが黄なるゼノンザードスピリット、アオバ様と私の真の実力!!」

手札:2

場:【「双龍頭領」アオバ+黄魔神】LV3

【ガトーブレパス】LV1

【ガトーブレパス】LV1

バースト:【有】

 

 

「そう言えばアイカツスピリットは使わないの?……バトスピアイドルと言ったらやっぱりアレでしょ」

「ふふ、アオバ様のデッキは神聖でなければならない。あんなキャピキャピしただけのカード達じゃアオバ様の美しさを穢してしまうわ」

「え、そうなの?」

 

 

ライはよくわかっていないが、きっとアカリなりのポリシーがあって、アイカツスピリットは今のデッキに入れていないのだろう。

 

 

「へへ、まぁバトルが面白ければ何でもいいや」

 

 

何はどうあれ、シャットアウトの効果でターンはライへと回って来る。

 

彼女は震えていた指先を粉砕するかの如く、拳を握り締め、己のターンを進めていく。

 

 

[ターン05]春神ライ

 

 

「ドローステップ………ッ」

 

 

ドローステップのドローの瞬間、その刹那。ライの脳内に直接流れ出てくるのは、彼女が勝つまでの道のり。

 

要するにこのターン、確実にライはアカリに勝利する事ができると言う事だ。

 

 

「ふ……ちょっぴり早すぎる気がするけど、別いいや。さぁ、ラストターンの………」

 

 

ー『なんかアレ好きになれないんだよ、インチキっぽくて』

 

ー『勝利は自分の手で掴みたい』

 

 

「ッ……」

 

 

自分の勝利の未来が見えた直後にやる、いつもの決めゼリフ。それを言い切る前に脳裏を横切るのは、早美邸へ乗り込む前に言われた、鉄華オーカミの言葉。

 

 

「インチキねぇ、オッケーいいじゃない、偶には探してみますか、別ルート」

「は?……さっきから何言ってんのよ鼠娘。さっさとターンを進めなさい」

 

 

通称「王者」と呼ばれる、バトルの未来が見える力。ライは生まれて初めてそれを無視し、バトルを進行する。

 

未知なる勝利を追い求めて………

 

 

「言われなくてもそのつもりだ。さぁ、楽しい楽しいバトスピタイムの始まりだよ!!」

「ッ……なんなのコイツ。寄せ集めのデッキのくせに」

 

 

荒々しくなるライの言動。その勢いに、アカリは気圧され始める。

 

 

「メインステップ、先ずは赤のマジック、フェイタルドロー。私のライフが3以下だから、デッキから3枚のカードを引く」

 

 

真っ先に使用したのは赤属性の汎用マジック。ライはこの効果でカードを引き、手札を5枚まで増やす。

 

 

「白の成熟期デジタルスピリット、サンダーボールモンを召喚。不足コストはアントラーのLVを1に下げて確保」

 

 

ー【サンダーボールモン】LV1(1)BP4000

 

 

ライがフィールドに呼び出したのは、ボール体型の可愛らしいスピリット。

 

しかし、その見た目に反して効果は強力であり………

 

 

「召喚時効果、相手のスピリット1体を手札に戻して、コア1つを自身に置く。対象はもちろんアオバだ」

「ッ……私のアオバ様を、生意気な」

 

 

サンダーボールモンが高く跳躍し、自身の何倍も体格差があるアオバを殴りつける。

 

アオバはピクリとも動かないが、直後に身体が粒子化。アカリの手札へと戻っていく。

 

 

「よし、そんじゃ最後にバーストをセットして、アタックステップだ。アントラー、いってらっしゃい」

 

 

前のターンにバースト効果でトラッシュから召喚された大顎を持つ怪獣、アントラーが、ライの命令を受けて動き出す。

 

今のアカリのフィールドには合体先をなくしてバトルができない黄魔神と、2体のガトーブレパス。到底太刀打ちする事はできない。

 

 

「ライフよ、貰いなさい」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉青葉アカリ

 

 

よってこの攻撃は、まだ余裕のある自分のライフへと寄越す。アントラー自慢の大顎が彼女のライフバリア1つを挟み込み、破壊。

 

そして、それが引き金となる。

 

 

「ライフの減少により、バースト発動!!」

「!」

「砲天使カノン!!」

 

 

このターンのバーストも、ライフ減少がトリガー。アカリは勢いよく反転させたそれの効果を存分に発揮させる。

 

 

「その効果で、貴女のスピリット全てのBPをマイナス10000、0になれば破壊するわ」

「マイナス10000、しかも対象は全て」

「鼠娘の割には察しがいいわね、そう、今いる3体のスピリットは全て木っ端微塵よ!!」

 

 

天罰の如く、天空より降り注ぐ無数の光弾。それらはライのフィールドに存在するサンダーボールモン、アントラー、グスタフ3体のスピリット全てに直撃し、爆散へと追い込む。

 

 

「さらにこの効果発揮後に、自身をノーコスト召喚。現れなさい、砲天使カノン!!」

 

 

ー【砲天使カノン】LV1(1)BP6000

 

 

ライのフィールドがまっさらとなった直後に天空から降り立ったのは、巨大な2つの砲手を備えた勇ましき天使、カノン。

 

 

「アーッハッハッハ!!…これでスピリットは全滅、このターンはもう動けないでしょ」

「ま、そうなるよね。ターンエンド」

手札:3

バースト:【有】

 

 

砲天使カノンによる手痛いカウンターを食らい、全滅となってしまったライのスピリット達。

 

アカリのスピリットの数も相まって絶体絶命の状況に陥るライだが、その余裕は未だ絶えない。

 

 

[ターン06]青葉アカリ

 

 

「メインステップ、手札に戻ったアオバ様をLV2で再召喚よ!!」

 

 

ー【「双龍頭領」アオバ】LV2(2)BP10000

 

 

前のターンにサンダーボールモンの効果で手札に戻った黄なるゼノンザードスピリットのアオバ。

 

雪辱を晴らさんと言わんばかりに、再びフィールドへと君臨。

 

 

「アオバ様の召喚時効果、デッキ上から4枚オープンし、その中にある黄1色のスピリットカード2枚を手札に加えるわ」

「!」

「オープンされた4枚の中から「ガトーブレパス」と「砲天使カノン」を手札に」

 

 

召喚時効果を発揮させない代わりに、ノーコストでスピリットを召喚する黄のマジック「イマジナリーゲート」で召喚された一度目の召喚とは違い、二度目はしっかりと召喚時効果を発揮。

 

その効果でアカリは新たなカードを2枚手札へと加える。その中には厄介なバースト効果を持つ「砲天使カノン」も確認できて………

 

 

「ふふ、もう一度バーストをセットして、黄魔神を砲天使カノンとアオバ様に合体」

 

 

ー【砲天使カノン+黄魔神】LV1(1)BP12000

 

ー【「双龍頭領」アオバ+黄魔神】LV2(2)BP16000

 

 

黄魔神は手の先から光線を放ち、砲天使カノン、アオバと自身を繋げ、2体をトリプルシンボルを持つ強力な合体スピリットへと変貌させる。

 

 

「これで私の合計スピリットは4体、内2体はトリプルシンボル。対する貴女のスピリットは0、勝負あったようね」

「ふ、この程度で勝ち確って、バトスピ初心者かよ」

「なんですって!?」

「いいから来なさいな。今から格の違いってヤツを見せてやるからさ」

 

 

手招きし、軽くアカリを挑発するライ。

 

アカリはそんなライを粉砕すべく、並べたスピリット達と共にアタックステップへと突入する。

 

 

「ほんっとにムカつく鼠娘。一般人とトップバトドルの差を思い知るがいい!!……アタックステップ、アオバ様!!」

 

 

アカリの逆鱗に触れたライ。今一度トリプルシンボルとなったアオバが、残り2つのライフを砕くべく飛翔する。

 

誰がどう見ても勝てるわけがないこの状況だが、まるでそれを待ち望んでいたかのように、ライは白く綺麗な歯並びが見える程、笑みを浮かべて………

 

 

「フラッシュ、私は海賊宇宙人バロッサ星人の効果を発揮」

「ッ……フラッシュで手札からスピリット効果!?」

「相手にブレイヴがある時、コレを召喚できる。おいでませ、バロッサ星人!!」

 

 

ー【海賊宇宙人バロッサ星人(二代目)[ウルトラ怪獣2020]】LV1(1)BP3000

 

 

どこからともなくライのフィールドへと見参するのは、渦巻き状の線が入った顔を持つ宇宙人、バロッサ星人。

 

 

「バロッサ星人の召喚時効果、相手のブレイヴを破壊する」

「な、なんですって!?」

「ダブルシンボルを持つブレイヴ、黄魔神には、ここで退場してもらう」

 

 

バロッサ星人は登場するなり、その特徴的な頭部から念力のようなモノを放出。それで黄魔神の身体を捻じ曲げ、爆散。

 

これにより、アオバと砲天使カノンは合体スピリットではなくなる。

 

 

「これぞ起死回生ってね。さらに効果で召喚していた場合、デッキから1枚ドローする」

「くっ……だけどまだよ、シンボルが1つになっても、スピリットが4体いる事に変わりはない。お願いします、アオバ様、あの鼠娘に激しい痛みを、痛がる姿を私に見させて!!」

 

 

黄魔神との合体がなくなったとは言え、バロッサ星人自身のBPは低い。ゼノンザードスピリットであるアオバの足元にも及ばない。

 

 

「アオバのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉春神ライ

 

 

「ぐっ……うあっ!?」

 

 

アオバの2つの口から放たれる深紅と蒼白の電撃が、ライのライフバリアを1つ砕く。

 

黄魔神の損失により致命傷は避けられたが、その残りライフは僅か1となってしまう。

 

 

「アーッハッハッハ!!……そうだよそういう顔よ、もっともっと私に見せて!!」

「見せるかっての、ライフ減少によりバースト発動、紫の完全体デジタルスピリット、パンプモン」

「え」

 

 

前のターンに唯一残った、ライのバースト。その発動条件は、ライフの減少。

 

更なる起死回生の一手を、ここで繰り出す。

 

 

「パンプモンの効果、相手のスピリット全てのコアを、それぞれ1個になるようにリザーブへ送る」

「ッ……アオバ様のLVが1に!?」

 

 

発動されたバーストカードの効果により、アオバのコアが移動。LVは2から1へと降格。

 

スピリットの数には影響しないが、先程のバロッサ星人と言い、確実にアカリはライのカード達に戦力を削がれている。

 

 

「んでもってぇ、このターンの間、コア1個の相手のスピリットのアタックじゃ私のライフは減らせない」

「な……!?」

「効果発揮後、パンプモンをノーコスト召喚する」

 

 

ー【パンプモン】LV1(1)BP4000

 

 

バロッサ星人に続いて現れたのは、頭部がパンプキンとなっている紫の完全体デジタルスピリット、パンプモン。

 

 

「私の全てのスピリットのコアはたったの1個ずつ。これじゃあこのターンでライフを破壊し切れない……!?」

「その通り。アンタはもう、ターンを終えるしかない」

「ッ……」

 

 

人差し指を向けるライに、アカリは言葉を失い、苛立ちの余り歯軋りする。

 

絶対的な力を持つ悪魔の魔道具、ゼノンザードスピリットを持ちながら、その辺のパックから適当に作ったデッキ如きに何度も攻撃を凌がれる事が、どうしようもなく腹が立つのだろう。

 

 

「だけど、私のバーストは砲天使カノン。次のターンで負けはない、ターンエンド」

手札:4

場:【「双龍頭領」アオバ】LV1

【砲天使カノン】LV1

【ガトーブレパス】LV1

【ガトーブレパス】LV1

バースト:【有】

 

 

「あーあ、バースト教えちゃったよ。まぁ関係ないけど」

 

 

結果的に、4体ものスピリットを並べ、強力なバーストカードまでもを備えてのエンドとなったアカリ。

 

十分すぎる堅牢な防御だが………

 

 

「さぁ今度こそ、ラストターンの時間だ」

 

 

それは春神ライの敵ではない。

 

 

[ターン07]春神ライ

 

 

「メインステップ、全てのスピリットのLVを最大に上げる」

 

 

ターンの開始早々に、ライは今いる2体のスピリット「パンプモン」と「バロッサ星人」に、コアを5個ずつ追加。そのLVを最大に上昇させる。

 

 

「そんなスピリット達のLVを上げて何になるって言うの。私のアオバ様の敵じゃないわ」

「それだけな訳ないでしょ。【煌臨】を発揮、対象はパンプモン」

「ッ……メインステップ中に煌臨!?」

 

 

ここで発揮したのは、スピリットを進化させる力【煌臨】………

 

ライの背後から現れた、強靭な肉体を持つ、赤い戦士の影が、眩い光と共に、フィールドのパンプモンの身体へ重なって行く。

 

 

「現れよ、仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム!!」

 

 

ー【仮面ライダーファイズ ブラスターフォーム】LV3(6)BP16000

 

 

パンプモンを依代として、新たにライのフィールドへと顕現したのは、黄色い眼光を輝かせる、赤きライダースピリット、ファイズ ブラスターフォーム。

 

強力な効果を備えた、Xレアカードだ。ゼノンザードスピリットにも負けず劣らずの強きオーラを放つ。

 

 

「こ、ここに来てライダースピリットのXレアカード。でも、どんなに強いスピリットだろうと、この状況はひっくり返せないでしょう」

「ふ、一発逆転があるから、バトスピは面白いんだよなぁ、アタックステップ……ブラスターフォームでアタック」

 

 

呼び出したブラスターフォームでアタックを仕掛けるライ。

 

この時、ブラスターフォームのアタック時効果が起動する。

 

 

「LV2からのアタック時効果、赤シンボル1つを追加。さらに他に紫のスピリットが1体でもいれば、紫シンボルも1つ追加。紫属性のバロッサ星人がいるから、この条件は達成している」

「単体トリプルシンボル!?」

「もう1つのアタック時効果で、相手は可能なら必ずブロックしなければならない」

 

 

ブラスターフォームのアタック時効果が発揮。ブレイヴとの合体抜きで、単体トリプルシンボルを達成する。

 

しかし、折角のトリプルシンボルだが、もう1つの効果はそれが無駄に終わってしまうブロック強制効果であり………

 

 

「そんなアタック、言われなくてもブロックしてあげるわ。守りなさい、ガトーブレパス」

 

 

アカリの指示を受け、犠牲になるべく2体いるガトーブレパスの内1体が地を駆ける。

 

そしてこの瞬間、狙い通りだと言わんばかりに、ライの口角が上がり………

 

 

「この瞬間、ブラスターフォームの最後の効果を発揮」

「!」

「ブロックされた時、このスピリットのシンボル分、相手ライフをリザーブに送る」

「な、なんですってぇぇ!?」

 

 

ガトーブレパスを無視して天高く跳躍するブラスターフォーム。そのまま飛び蹴りの構え。向けられた右脚を軸に赤いエネルギーが集い、槍の形を形成すると、アカリのライフバリアへと向かっていく。

 

 

「ブラスターフォームのシンボルは3。アンタの残りライフも3。チェックメイトだ」

「なんなの、何者なのよ貴女。カードパックから開封したカードだけでこんなコンボを完成させるなんて………」

「私の名前は春神ライ。以後、お見知り置きを」

 

 

ライがそう告げると、赤い槍を形成したブラスターフォームが遂にアカリのライフバリアへと到達。

 

 

〈ライフ3➡︎0〉青葉アカリ

 

 

「あ、ぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

勢い乗り、容易く残りのライフバリア全てを砕き切った。

 

これにより、アカリのBパッドから「ピー……」と無機質な機械音が流れ、ライの勝利を告げる。自分のデッキを忘れてしまった時は一体どうなってしまうと思われたが、見事適当なカードパックのカードのみで勝利して見せた。

 

 

「そ、そんな……私のアオバ様に全てを捧げる愛のデッキが負ける……なんて」

「わ。ちょいちょい、大丈夫!?」

 

 

敗北のショック、そしてゼノンザードスピリットを使用し続けた代償なのか、アカリはバトルの敗北直後に気を失い、横に倒れる。

 

 

「……んぅ、まぁ大丈夫そうかな。息はしてるし」

 

 

慌ててアカリの元へと駆け寄るライ。彼女の無事を確認すると、取り敢えず一安心。

 

 

「生まれて初めて未来が見える力に頼らずバトルしたな。結構やれるじゃん私」

 

 

いつもは確実に勝つために無意識の内に「王者」を使用して来たライ。だが今回初めてそれを無視してバトルをした事で、己の実力は本物であると理解する。

 

 

「さて。さっさとこんなとこ出て、アルファベットさん達に追いつきますかね。悪いけど、このカードはヤバいから私が持っていくよ」

 

 

ライはその後、アカリのBパッドから黄なるゼノンザードスピリット「アオバ」のカードを取り上げると、カードパックのコレクション部屋を後にする。

 

バトルスピリッツの各6属性に存在するゼノンザードスピリット、その内5体がオーカミ達によって敗れた。遅かれ早かれ、早美邸を舞台にした決戦は、間もなく終止符を迎える。

 

 

「今行くよ、ヨッカさん」

 




次回、第42ターン「呼び起こせ、アルファモン激闘」



******


今回はオマケとして主人公、鉄華オーカミのデッキレシピを公開致します。第39、第40ターンでのバトルでは、ここに「仮面ライダーゼロワン」が1枚追加されてました。


「鉄華オーカミ」使用デッキ(40ターン時点)


ランドマン・ロディ×3
ガンダム・バルバトス[第1形態]×3
ガンダム・バルバトス[第2形態]×1
流星号[グレイズ改弍]×3
辟邪×2
ガンダム・バルバトス[第4形態]×3
ガンダム・バルバトスルプス×1
ガンダム・グシオンリベイク×1
ガンダム・グシオンリベイクフルシティ×1
ガンダム・フラウロス[流星号]×1
ガンダム・バルバトス[第6形態]/ガンダム・バルバトス[第6形態 太刀装備]×1
魔界霧竜ミストヴルム×1

昭弘・アルトランド×1
三日月・オーガス×2
ノルバ・シノ×3

ビスケット・グリフォン×3
オルガ・イツカ×3
クーデリア&アトラ×3

ネクロブライト×1
スネークビジョン×1
絶甲氷盾〈R〉×2




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第42ターン「呼び起こせ、アルファモン激闘」

「姉さん!!」

 

 

およそ7年くらい前か、まだ早美アオイと、その弟である早美ソラが幼かった日の頃。両親も亡くなってはおらず、もちろんソラも原因不明の病にかかっていない幸せの時間を探していた頃。

 

ソラの無邪気で元気な声が、アオイの耳に心地良く響く。

 

 

「どうしたの、ソラ?」

「僕、いつか絶対絶対、ぜーったい!!……プロのカードバトラーになるよ。界放リーグに出てた人達と絶対バトスピしたいんだ!」

「あっはは、彼らはまだ高校生で、プロではないですよ?」

 

 

テレビでやっていた当時の界放リーグのバトルを観てからと言うモノ、ソラはバトスピに夢中だった。

 

芽座椎名や赤羽司、現代ではレジェンド級のカードバトラー達の若かりし頃の熱いバトルに、ソラは触発されていた。いや、夢を与えられた、とでも言うべきか。

 

 

「そうなの?……でも僕、絶対強い人達とバトスピしたい!!…そのために、プロになるんだ」

「うっふふ、ソラならできますよ。でも先ずは私に勝つ所からスタートしなきゃですね」

「よぉし、今日こそは負けないよ、姉さん!!」

 

 

この時はまだ、そんな平和で楽しい、笑顔が溢れる日々がずっと、永遠に続くのだと、本気で思っていた。

 

 

******

 

 

「あと少し、あと少しであの時のソラの笑顔に手が届く」

 

 

早美邸。豪華絢爛な凄まじい豪邸の中でも最も広大なスペースを有する中央ルームにて、早美アオイはそう呟いた。

 

その手には白紙のバトスピカードが1枚握られており、すぐそばには九日ヨッカが無表情且つ無言で立ち尽くしている。

 

 

「待っててねソラ。もうすぐ姉さんが貴方の患った病気を治してあげますから、このカードの力で」

 

 

ソラを救うためとは言え、ヒバナやイチマル、レオン、多くの人達を犠牲にして来たアオイ。ストレスのせいか、目の下には隈ができ、その美しい顔もやつれ、疲弊し切っているのが窺える。

 

だがそれでも彼女は止まることはできない。弟、ソラとまた一緒に笑いあうために。

 

 

「お嬢……!!」

「フグタ」

 

 

そんな折、勢いよく扉を開け、この空間に土足で踏み入る者が2人。

 

早美家の執事である青年フグタと、界放警察の警視アルファベットだ。

 

 

「……九日、助けに来たぞ」

「………」

「九日?」

 

 

入室するなりアルファベットがヨッカに向かってそう告げるが、ヨッカはそれを無視。いや、聞いてすらいないと言ったところか。

 

 

「フグタ、まさか何年も早美家に仕えてきた貴方が、この私を裏切るなんてね。そこの殿方はどなた?…助っ人?…そんなの呼んで来ても無意味よ。今の私には誰も敵わない」

「お嬢、もうやめようこんな事。お嬢が命張って坊ちゃんの病気を治しても、坊ちゃんは絶対に喜ばない」

「だから何だと言うの。例えこの先恨まれても、何としてでもソラの命は私が救ってみせる」

「まだわからないのかよ。坊ちゃんの病気が治っても、お嬢がそこに居なければ意味ないんだよ」

「………」

 

 

フグタの決死の説得に言い返す言葉がないか黙り込むアオイ。そんな彼女を守護するように、ヨッカが彼女の前に出る。

 

 

「九日、オマエまさか」

「そのまさかです。この方は今、青のゼノンザードスピリットの力により、洗脳を受けています。1人でノコノコとやって来て、捕まって、傀儡に成り下がって………ホント、お笑いですわよね」

「……なるほど、Dr.Aが使って来そうな手口だ」

 

 

アルファベットはここまでの状況を軽く理解すると、懐から己のBパッドを取り出し、左腕にセットする。

 

 

「ならばバトルだ九日。先ずはオマエの目を醒させてやる」

「………」

「フン……この方の正体は元モビル王「Mr.ケンドー」ですのよ、どこの馬の骨とも知らないカードバトラー風情が勝てるものですか」

 

 

洗脳されているとは言え、カードバトラーとしての本能は残っているのか、ヨッカは無言でBパッドを取り出し、左腕にセット。アルファベットに合わせて構える。

 

 

「お、おいアンタ、ホントに九日ヨッカに勝てるのか!?」

 

 

慌ててフグタがアルファベットに訊いた。この場にいる誰も、アルファベットの正体を知らないのだ。

 

 

「勝てるか、勝てないかの問題ではない、目を醒させてやると言っているのだ。来い九日、貴様に宿る情熱を再び焚き付けてやる」

「………」

 

 

………ゲートオープン、界放!!

 

 

バトルの準備が終わり、アルファベットのコールでヨッカとのバトルスピリッツが幕を開ける。

 

早美アオイとフグタが見守る中、バトルの先攻はアルファベットで始まって行く。

 

 

[ターン01]アルファベット

 

 

「メインステップ、英雄皇の神剣を配置する」

 

 

ー【英雄皇の神剣〈R〉】LV1

 

 

早々にアルファベットの背後で地面に突き刺さるのは、巨大な神剣。

 

赤のネクサス『英雄皇の神剣〈R〉』

 

いわゆる「罠カード」であるバーストを多用するデッキではよく見受けられるカードである。

 

 

「バーストをセット、英雄皇の神剣の効果で1枚ドロー」

「バーストデッキ。果たしてかのMr.ケンドーを突破できるようなカードはあるのかしら」

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【英雄皇の神剣〈R〉】LV1

バースト:【有】

 

 

アルファベットのデッキがバーストデッキであると、皆に認識されて行く中、洗脳されている九日ヨッカにターンが巡って来る。

 

 

[ターン02]九日ヨッカ

 

 

「ドローステップ」

 

 

ようやく初めて言葉を発したが、その内にいつもの熱量は含まれていない。マシーンの如く冷徹にターンを進めていく。

 

 

「メインステップ、最後の優勝旗。配置時効果」

 

 

ー【最後の優勝旗】LV2(1)

 

 

「ネクサス効果でコアブーストか、小癪だな」

 

 

ヨッカもネクサスカードを配置する。その名は『最後の優勝旗』

 

配置時効果でコアが1つ増加する。

 

 

「バーストセット、ターンエンド」

手札:3

場:【最後の優勝旗】LV2

バースト:【有】

 

 

「もうターンエンドか。いつものお喋りはどうした、オレはオマエ程喧しいカードバトラーを知らないぞ」

「………」

 

 

ヨッカの心を揺さぶろうとしているのか、アルファベットがその旨がある発言をするが、ヨッカは無反応。

 

バトルのターンはまた巡り回って、アルファベットの番となる。

 

 

[ターン03]アルファベット

 

 

「メインステップ、さまよう甲冑を召喚」

 

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1S)BP2000

 

 

「召喚時効果で1枚ドロー」

 

 

アルファベットが呼び出したのは、紫色の甲冑を着用した赤い一つ目のスピリット、さまよう甲冑。

 

彼はその効果でデッキから1枚ドローするが、それにより前のターンにヨッカがセットしたバーストカードが蠢き………

 

 

「手札増加時、バースト。阿弥陀如来像」

「バーストのネクサスか」

「効果で配置、1コア追加」

 

 

ー【阿弥陀如来像】LV1(1)

 

 

勢いよくバーストカードが反転したかと思えば、ヨッカの背後に神々しくも威厳のある仏像が出現する。

 

その配置時効果は最後の優勝旗と同様、ヨッカはまた1コアをブーストさせた。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【さまよう甲冑】LV1

【英雄皇の神剣】LV1

バースト:【有】

 

 

アルファベットはガラ空きのフィールドに向かってアタックはせず、一度そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン04]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ。最後の優勝旗、2枚」

 

 

ー【最後の優勝旗】LV1

 

ー【最後の優勝旗】LV1

 

 

「配置時効果」

 

 

ターン開始の早々、ヨッカは2、3枚目の最後の優勝旗を並べ、その効果でさらにコアを2つ追加する。

 

 

「フォースブライトドロー」

「赤のマジック、手札を増やすか」

 

 

増えたコアで使用しするのは赤のマジック。手札が4枚になるまでドローする効果により、ヨッカは新たに3枚のカードをデッキから手札へ加えた。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【阿弥陀如来像】LV1

【最後の優勝旗】LV1

【最後の優勝旗】LV1

【最後の優勝旗】LV1

バースト:【無】

 

 

互いに大きな動きを見せぬまま、バトルは中盤へと差し掛かって行く。次はアルファベットのターンだ。

 

 

 

******

 

 

「時にオーカミよ」

「何」

「貴様らと共に行動していた、あのサングラスの男についてだが」

「あぁ、アルファベットの事」

 

 

鉄華オーカミと獅堂レオン。2人が中央ルームへと向かう道中、レオンがオーカミに訊いた。

 

 

「奴は何者だ?」

「何者って、ただの警察の人だよ」

「……奴は貴様やモブ女を苗字で呼んでいたのに対し、オレだけは下の名前で呼んでいた」

「だから?」

「変だとは思わないか?」

「いや別に、そう言う時もあるんじゃない?」

 

 

アルファベットの言動、引いては呼び方がどうも引っ掛かっていたレオン。その点をオーカミに質問するが、彼はさっぱりだ。

 

 

「あ」

「あ」

 

 

そんな折、突き当たりの曲がり角にて、オーカミは春神ライとバッタリ再開する。2人とも一瞬、敵にバレたと思い込み、思わずヤバいの意味がある声が漏れる。

 

 

「なんだ新世代女子か、アルファベットと羊の人はどうしたの」

「なんだとは何。アルファベットさん達とは敵の巧妙な罠によって分断されちゃった」

「そ、じゃあ一緒に行く?」

「行く」

 

 

安心すると、ライはコレまでのことをざっくり説明する。オーカミも限りなくツーカーに近い会話で話をまとめ上げる。

 

 

「つか、アンタ達ここ地下だけど、まさか迷子?」

「さぁ、どうなんだよ獅堂」

「フン、任せろ。監視から逃れるために安全なルートを利用しているだけだ」

「ホントかな」

 

 

道案内役が獅堂レオンと言う事で、かなりの不安が漂うが、今は彼を信じてついて行くしかない。

 

 

「ま、しゃーなしか。アンタ達の問題はもう解決したの?」

「もちろんだ。オレとオーカミの熱かりしバトルスピリッツの話を聞くか?」

「聞かない」

 

 

レオンの一件もどうやら決着がついた事を何となく理解し、取り敢えず安心するライ。

 

こうして、3人は肩を並べ、アルファベットとヨッカのいる中央ルームへと歩みを進めた。

 

 

******

 

 

舞台は中央ルームに戻り、アルファベットとヨッカのバトルが続く。

 

お互いに序盤はアタックを行わなかったが、このターンからアルファベットが動き出す。

 

 

[ターン05]アルファベット

 

 

「メインステップ、さまよう甲冑2体を召喚」

 

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

 

「それぞれの召喚時効果により、デッキから2枚ドロー」

 

 

これで合計3体のさまよう甲冑が、アルファベットのフィールドに並ぶ。

 

 

「アタックステップ、1体目のさまよう甲冑でアタック」

 

 

効果によりデッキからドローしたカードを確認する間もなく、アルファベットはアタックステップへと突入。最初に召喚されたさまよう甲冑が刀を手に、フィールドを駆け出す。

 

 

「今この時も、オマエを慕う春神は、オマエのために戦ってくれているぞ」

「春神……春神、ライ……?」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉九日ヨッカ

 

 

さまよう甲冑が刀でヨッカのライフバリアを斬り裂いた瞬間、洗脳されているヨッカの脳裏に、春神ライと出会った時の過去のビジョンが映る。

 

それはおよそ1年、ライが行方不明になった父「春神イナズマ」を探すために界放市にやって直後の出来事だ。己の師匠の娘と言う事もあって、2人はいつの間にか兄妹のような関係を築いて行った。

 

 

「2体目のさまよう甲冑でアタック。春神だけではない、鉄華もまたオマエのために奮闘している」

「鉄華、オーカ……ッ!?」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉九日ヨッカ

 

 

2体目のさまよう甲冑も、手に持つ刀でライフバリアを斬り裂く。脳裏にオーカミとの出会いや、その後起きた濃ゆ過ぎて面白い毎日がフラッシュバックし、頭部に激痛が走る。

 

 

「皆オマエのためにここまで来たと言うのに、とうのオマエがこの有様でどうする!!……3体目のさまよう甲冑でアタック」

「くっ……オレは」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉九日ヨッカ

 

 

3体目のさまよう甲冑の一撃も同様にヒットし、その残りライフは2となる。

 

 

「ターンエンド。容赦はしない、次のターンで終わりだ、覚悟しろ」

手札:6

場:【さまよう甲冑】LV1

【さまよう甲冑】LV1

【さまよう甲冑】LV1

【英雄皇の神剣〈R〉】LV1

バースト:【有】

 

 

「オレは、オレは……誰だ」

「洗脳が解けかけてる、アルファベットさんの攻撃が効いているのか?」

 

 

必要最低限の言葉しか吐かなかったヨッカが、ここに来て動揺の意味を含む言葉を吐き散らす。

 

アルファベットの攻撃、もとい口撃がヒットした事で、フグタの言う通り洗脳が解け掛けて来ているのだろう。

 

 

「何をしているのですMr.ケンドー。貴方は一介のカードバトラー程度に遅れをとるような方ではない、目の前の敵を、徹底的に潰しなさい」

「目の前の敵……オレの、敵」

 

 

焦り狂った表情、充血した目をアルファベットに向けるヨッカ。アオイから「敵」と言う単語を聞くなり、アルファベットの姿を、自分から師である春神イナズマを奪った悪魔の科学者「Dr.A」と重ね合わせる。

 

 

「敵、オレの敵……そうだ、オレは、必ず取り返すんだ」

「フ……そうだその意気だ九日。向かって来い、その熱量のまま」

 

 

完全に洗脳が解けたわけではない。ただヨッカは本能のまま、記憶に刻まれた敵を倒すために、己のターンを進めていく。

 

 

「妙ですね。あの男、何故6ターンも発動できないバーストを張り替えない。場には英雄皇の神剣もあると言うのに」

 

 

ここまでのアルファベットのバトルを見たアオイがそう言葉を落とす。

 

彼女の言う通り、確かになかなか発動できないバーストは破棄し、新しいバーストを伏せるのが定石。それはバーストをセットする度にドローができる英雄皇の神剣があるなら尚更の話。

 

 

「不気味な男。ふふ、だけどそれがどんなカードであっても、Mr.ケンドーの勝利は揺るがない、何せ、次のターンには必ずあのスピリットが着地するのだから」

 

 

[ターン06]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ……」

「………」

 

 

ヨッカが手札にある1枚に手を掛けると、アルファベットはその瞬間に空気が張り付くのを感じる。

 

その感触は、間違いなくエースカードが呼び出される瞬間であり………

 

 

「司るは青。深海をも統べる、海原の覇者!!……ゼノンザードスピリット、深海の主・アレシャンドをLV2で召喚」

 

 

ー【「深海の主」アレシャンド】LV2(3)BP13000

 

 

フィールド全体を青く染め上げる津波。それら全てをその身に纏ってこの場に立つのは、青き逆鱗を持つ深海の龍。深海の主・アレシャンド。

 

ヨッカの手に渡された、青属性のゼノンザードスピリットである。

 

 

「こ、九日ヨッカが青のゼノンザードスピリット!?」

「やはりな」

 

 

驚くフグタとは違い、アルファベットは初めからそうだと予想していた様子。

 

 

「アレシャンドの召喚時効果。フィールドかリザーブのコア3つまでボイドに送る事で、送った数1つにつき、手札からスピリット1体をノーコストで召喚する」

「!」

「リザーブのコア3つをボイドに送り、スサノオ3体を手札からノーコスト召喚!!」

 

 

ー【スサノオ】LV2(2)BP12000

 

ー【スサノオ】LV2(2)BP12000

 

ー【スサノオ】LV1(1S)BP10000

 

 

登場するなり、手に持つ巨大な杖を大地に打ち付け、大きな渦潮を呼び起こすアレシャンド。その渦の中から、侍の甲冑を思わせる黒い装甲を見に纏ったモビルスピリット、スサノオが3体も繰り出される。

 

自身も含め、一度に4体もの強力スピリットを呼び出す、大技だ。

 

 

「スサノオ3体はマズイ、アルファベットさん!!」

「安心しろ。オレを誰だと思っている」

「いや、知らんが!?」

 

 

フグタと漫才などしている場合ではない。ヨッカのアタックステップの開始時、3体のスサノオがアルファベットを葬るべく、その内に眠る力を解き放つ。

 

 

「アタックステップ。開始時にスサノオ3体の【武士道】発揮。さまよう甲冑3体と強制バトル、スサノオが勝てばライフを3つ破壊する」

「……」

 

 

スサノオの持つ効果【武士道】

 

その力により、さまよう甲冑3体がスサノオに惹かれ合うに戦闘を開始する。だがそのBP差は歴然、3体のスサノオは鉄製の鉈を振い、さまよう甲冑を全滅させる。

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3➡︎2〉アルファベット

 

 

「………効かんな」

 

 

始動するヨッカの猛攻。スサノオ3体が飛び掛かり、流れるような鉈捌きでアルファベットのライフを1つずつ粉砕する。

 

この時、ゼノンザードスピリット使いが齎すリアルダメージも同時に発生しているはずだが、アルファベットは寧ろ仁王立ちで構えながら煽って来る程の余裕っぷりを見せつける。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動」

 

 

さらにここで、第1ターンから不動を極めていたアルファベットのバーストカードが遂に発動。待ち侘びたと言わんばかりに、それは勢い良く反転する。

 

 

「効果により、相手スピリット1体をデッキ下へ。目障りだ、失せろ青のゼノンザードスピリット」

「!」

「ッ……アレシャンドを一瞬で蹴散らした!?」

 

 

一番驚いたのは、Dr.Aの力を誰よりも信じる早美アオイだった。アレシャンドの足元から、その巨大を埋め尽くす程大きなデジタルゲートが出現、アレシャンドはそこへと自由落下していき、やがて粒子化、消えていってしまう。

 

さらにアルファベットのバースト効果はまだ続く。発動したバーストカードはスピリットカード。よってその後に行われるのは、それの召喚である。

 

 

「この効果発揮後、コレをノーコスト召喚する。現れよ、黒きロイヤルナイツ、アルファモン!!」

 

 

ー【アルファモン】LV3(6S)BP20000

 

 

「え」

「は?」

 

 

アルファベット側にも出現するデジタルゲート。その中より出でるのは、黒く気高い鎧を持つ、究極体にして伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの一柱、アルファモン。

 

世界に13種1枚ずつしか存在しない伝説のスピリットの登場に、早美アオイもフグタも、驚愕の余り一瞬言葉が詰まり、思考が停止する。

 

 

「あの男、なんで伝説のロイヤルナイツのカードを!?」

「オレは、オマエに勝つ。スサノオでアタック!!」

 

 

アオイの戸惑いが消えぬまま、ヨッカが1体目のスサノオでアタックの宣言。鉈を構え、アルファモンのいるアルファベットのフィールドへと駆け抜けて行く。

 

 

「愚か者、アルファモンの効果を忘れたか。アルファモンでブロック、そのアタックブロック時効果で2体目のスサノオから2コアリザーブへ、よって消滅する」

「!」

「そしてBPはアルファモンが上だ」

 

 

スサノオの猛々しい鉈捌きを片手で受け止めるアルファモン。余った片手を天に掲げると、2体目のスサノオの周囲にデジタルゲートが出現、そこから無数の波動弾が飛び出す。なす術なく被弾し、爆散させられる。

 

アルファモンはその光景を見届けると、天に掲げた拳を握り締め、目の前のスサノオを殴り付ける。余りの威力に装甲が砕け、吹き飛ばされるスサノオ、こちらも呆気なく爆散した。

 

 

「うぉぉぉぉ3体目のスサノオでアタック!!」

 

 

ダブルシンボルのスサノオのアタック。残りライフが2つしかないアルファベットはこの一撃を受けて仕舞えば敗北となってしまう。

 

だが、その程度で終わってしまうわけもなく………

 

 

「フラッシュマジック、天下烈刀斬」

「!」

「不足コストはアルファモンのLVを2に下げて確保する。効果で阿弥陀如来像を破壊、ソウルコアをコストとして支払った事で、ダブルシンボル以上のスピリット、最後のスサノオも破壊する」

 

 

アルファベットの放つ1枚の赤マジック。フィールドからブイの字の炎が唸り、最後のライフを貰い受けんとしていた最後のスサノオと、ヨッカの背後に佇む神々しい仏像、阿弥陀如来像を焼き払って行く。

 

 

「どうした九日、もうアタックできるスピリットがいないようだが。こんなものか?」

「………ターン、エンド」

手札:1

場:【最後の優勝旗】LV1

【最後の優勝旗】LV1

【最後の優勝旗】LV1

バースト:【無】

 

 

スピリットがいなくなって仕舞えば、最早アタックする事はできない。洗脳されているヨッカは、ここで致し方なくターンエンドの宣言。

 

次はアルファモンを従えたアルファベットのターンだ。

 

 

「あ、アルファベットさん、何て人だ。アレだけのスピリットの猛攻を凌ぎ切るどころか、ものの1ターンで壊滅させるなんて」

 

 

仮にも元モビル王である九日ヨッカ。それを軽く遇らうアルファベットのその強さに感嘆するフグタ。

 

対してアオイはこの状況が不服か、歯軋りする。

 

 

「あの男、何者なの」

 

 

[ターン07]アルファベット

 

 

「メインステップ。アルファモンのLVを3に戻し、白の成長期デジタルスピリット、ハックモンを召喚」

 

 

ー【ハックモン】LV2(2S)BP4000

 

 

アルファベットのフィールドに、赤いマントを羽織った、小型の白い竜、ハックモンが呼び出される。

 

 

「そのハックモンを対象に【煌臨】を発揮。ハックモンの効果により、自身にコアを3つ増やす」

 

 

ソウルコアをコストに、スピリットを進化させる【煌臨】の効果が発揮。ハックモンは白いオーラに身を包み込み、その中で姿形を大きく変化させて行く。

 

 

「現れよ、剣纏いしロイヤルナイツ、ジエスモン!!」

 

 

ー【ジエスモン】LV3(4)BP14000

 

 

「こ、今度はジエスモン!?」

「いったい何体のロイヤルナイツを従えていると言うの……」

 

 

ハックモンを煌臨元に現れたのは、全身が剣でできた白き竜型のロイヤルナイツ、ジエスモン。

 

 

「ジエスモン煌臨時効果。最後の優勝旗3枚を手札に戻す」

 

 

ジエスモンの周囲を浮遊する3つの橙色のオーラ。それが飛び交い、ヨッカの背後にある最後の優勝旗と接触、粒子化させる。

 

これでヨッカのフィールドは、スピリットどころかネクサスまでもが消えていなくなってしまう。

 

 

「アタックステップ、ジエスモン!!」

 

 

3つのオーラが自身の周囲に帰還したのを確認すると、ジエスモンは宙を舞い、ヨッカのライフバリアが目掛けて飛行する。

 

 

「アルファモンにジエスモン、この2枚のロイヤルナイツを操るカードバトラー……まさか、いやでも」

 

 

その間、アオイはアルファベットの正体に勘づく。だが、仮にそうだとしたら自分達が得た情報とは食い違いが発生してしまい。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉九日ヨッカ

 

 

ジエスモンの目では追えない剣技が、ヨッカのライフバリア1つを紙切れのように斬り裂く。

 

 

「トドメだ、さっさと戻って来い九日。アルファモンでアタック!!」

「オレは九日………そうか、九日、ヨッカ」

 

 

アルファモンが徐に足を進める。その進行方向は当然ヨッカの最後のライフバリア。

 

これまで何度も受けて来たアルファベットの呼び掛けに、ヨッカは遂に自身の名前を思い出す。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉九日ヨッカ

 

 

アルファモンの拳が、ヨッカの最後のライフバリアを容赦なく打ち砕く。

 

直後、彼のBパッドから「ピー…」と言う無機質な機械音が流れ、アルファベットの勝利を奏でる。

 

 

「九日!」

「………」

 

 

バトル終了に伴い、2体のロイヤルナイツが姿を消す中、アルファベットは倒れるヨッカの元へと駆け出す。

 

そしてその間に、あの3人もようやくこの中央ルームへと顔を出して。

 

 

「アニキ……!」

「ヨッカさん、アルファベットさん」

 

 

鉄華オーカミ、春神ライ、そして獅堂レオンの3人が到着。オーカミとライは真っ先にヨッカの方へと顔を向ける。

 

 

「案ずるな。生きている、直に起きるだろう」

「なんだ、よかった」

 

 

アルファベットはそう告げながらヨッカを抱えて3人の方へ向かい、ヨッカをライに託す。ヨッカ程の大男を抱き抱えてられないライは、大人しく彼を自身の膝に寝かせる。

 

 

「鉄華、オマエ達のバトルは終わったのか?」

「見てわかんない?……終わったよ、獅堂も元に戻った」

「そうか、よかった」

「何故貴様はオレの心配などする。誰だ?」

「………」

 

 

レオンが白のゼノンザードスピリットから解放された事を知り、安堵するアルファベットだったが、その点で彼に疑問を抱かれる。

 

無論、アルファベットの正体は彼の師である「芽座葉月」だからなのだが、アルファベット側からしたらそれを教える訳にはいかない。少しだけ考えると、レオンに返答する。

 

 

「オレは界放警察の警視アルファベット。この街の市民の安全を守る義務がある」

「私らは雑に扱うクセに」

 

 

下手な演技をするアルファベットに、ライがツッコミを入れる。そのツッコミに同意するように、オーカミが首を縦に振る。

 

 

「ま、そんな事より、残ってるのアンタだけみたいだけど、青い髪の人」

「……」

「お嬢」

 

 

オーカミがそう告げると、皆の視線は早美アオイへと向けられる。この場に於いて、彼女の思想目標のために手を貸してくれる人物はもう誰もいない。

 

だが。

 

 

「うっふふ。あっはは、アーッハッハッハ!!!」

 

 

その状況下であっても、早美アオイは口角を不気味な角度で上げ、高笑いする。

 

一見追い詰めれて気が狂ってしまった様にも見えるが、決してそう言う訳ではない。来たのだ、自分が心待ちにしていたパーツが、自らやって来たのだ。

 

 

「残ったのは私だけ?……面白い事言うんですねオーカミ君。私にはまだコレがある」

「アレは」

「白紙のカード?」

 

 

アオイが天に掲げたのは何も描かれていない白紙のカード。誰もがそのカードについて疑問を抱く中、彼女は高らかに吠える。

 

 

「待ち焦がれましたよ、全てのゼノンザードスピリット達よ。さぁ今こそ集うのです、己の戦いの記憶を、このカードに宿しなさい!!」

「!」

 

 

すると、彼女の手元から赤紫緑3枚のゼノンザードスピリットカードが浮遊し、離れて行く。同様に、レオン、ライ、ヨッカの懐からも白黄青3枚のゼノンザードスピリットカードが飛び去って行き、天に掲げられた白紙のカード周辺に集う。

 

集結した6枚のゼノンザードスピリットは、それぞれの色に発光し、アオイが手に持つ白紙のカードに力を与える。

 

そしてその白紙のカードは、徐々に絵と色とテキストを得て行き………

 

 

「なんて幻想的なカード。そう、これがソラを救うための、奇跡の1枚」

 

 

運命の図柄を描く者・ラケシス……!!

 

 

白紙だったカードは、新たな7枚目のゼノンザードスピリットへと変貌を遂げる。果たしてそれはアオイにとっての「希望」となるのか、オーカミ達にとっての「絶望」になるのか………

 

 

 

 




次回、第43ターン「運命をも覆す、我が魂」


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第43ターン「運命をも覆す、我が魂」

「さぁアオイ君、遂に明日、私達の計画のファイナルステップだよ」

「ッ……!」

 

 

早美邸での決戦の幕開け前日。この世界の人間なら知らぬ者はいない、悪魔の科学者Dr.Aがアオイにそう告げた。

 

アオイにとっては待ちに待ったであろうその言葉。遂にDr.Aとの約束が完遂され、弟であるソラの病を治してくれる時が来たのだ。

 

 

「私は、何をすれば……!」

「ヌッフフ、簡単さ。カードバトラー達の戦闘データが蓄積された6枚全てのゼノンザードスピリットカードが集結した時に、これを翳すだけでいい」

「……白紙のカード?」

 

 

Dr.Aがアオイに手渡したのは、何も描かれていない真っ白なカード。裏面からバトスピカードであると言う事は容易に判別できるが、それ以外は謎だった。

 

 

「全てのゼノンザードスピリットの力をそれに結集させ、奇跡のカードを手にしなさい。さすれば君は、弟君の病を救う力を手にできる」

「!!」

「そう。僕は優しいからね。最初から君の弟君を助けるために、ゼノンザードスピリットを作り、君と言うカードバトラーを育てていたのさ。大丈夫、君ならできる」

「……私なら、できる」

 

 

アオイは、何の躊躇いもなく、その白紙のカードを受け取った。

 

Dr.Aのその言葉に、嘘偽りがない事を信じて………

 

 

 

******

 

 

早美邸で繰り広げられる決戦。最後の1人となった早美アオイは、手に握る白紙のカードの力を使い、周囲にいた6枚のゼノンザードスピリットを巻き上げ、その力を集結。

 

白紙のカードを7枚目のゼノンザードスピリット『「運命を描く者」ラケシス』へと変貌させたのだった。

 

 

「お、お嬢、そのカードは……!」

 

 

得体の知れないカードの正体について、早美家に長く仕える執事、フグタが震える声で、現在の主人であるアオイに訊いた。

 

 

「病にかかったソラを救うための力。ようやくこの私の手の中に収まったのよ、これでソラは助かる……!」

「そんなカードなんかで坊ちゃんの病気が治るわけ」

「治るわよ、Dr.Aがそう言ってたのだから!!……あの方の科学力は本物、信用に値するわ」

 

 

目が血走り、焦点が合ってないように見える。今のアオイは、自分で冷静な判断ができなくなってしまっているようだ。

 

無理もない、ようやく手にした弟を救うための力。非常な事をしてまで手に入れたそれの重みが、彼女の精神を蝕んでいるのだろう。

 

 

「へぇ、7枚目のゼノンザードスピリット、ちょっと面白そうじゃない。ちょっと赤チビ、ヨッカさんの膝枕役変わりなさいよ」

 

 

7枚目のゼノンザードスピリットとバトルしたいのか、ライが目をギラギラ輝かせながらオーカミにそう告げる。その膝の上には気を失ってしまっている九日ヨッカが確認できる。

 

 

「嫌だ」

「は?」

「アイツはオレが倒す」

「バカじゃないの、アンタじゃアレには勝てないっつーの。せめてアルファベットさん並みの実力はないと無理」

「やってみないとわからないだろ」

 

 

軽く口論になるオーカミとライ。ライはこの場にいる誰よりもバトルの実力が高いため、誰が誰よりも強いと言った強さのランクが瞬時にわかってしまうのだ。

 

 

「ならば、オレが行く」

「!」

 

 

そんな折、2人の前に出るのは、白のゼノンザードスピリットから解放されたばかりのジュニアクラス絶対王者、銀髪の少年獅堂レオン。

 

 

「ちょいちょい、アンタはもっと無理でしょ。大人しく私に譲りなって」

「この状況になってしまったのは、オレにも責任がある。白のゼノンザードスピリットを駆っていたのだからな」

「せめてもの罪滅ぼしのつもり?」

「理由の一つに過ぎないがな。悪いがこのバトルだけは譲れない」

 

 

ライと言い合いながらも、デッキとBパッドを取り出すレオン。

 

彼は以前、界放リーグ制覇後に早美アオイに敗北を喫している上に、今の鉄華オーカミより弱い。故に彼ではどう足掻いても彼女に勝てるわけがない。それはライがそう言わなくとも周知の事実。

 

 

「やめろ」

 

 

そんな無謀と言えるレオンの行動を制止させようとしたのは、サングラスを掛けている界放警察の警視、アルファベット。

 

 

「何故止める」

「死にに行くようなモノだ。今は下がれ」

「下がらん。これはこのオレ、かのレジェンドカードバトラー、芽座葉月を師に持つ、獅堂レオンの物語。どこの誰かは知らんが、貴様の言いなりにはならん」

「………」

 

 

止めても無駄だと察してしまったのか、アルファベットはそれ以上何も言わず、引き下がる。

 

そしてレオンはBパッドを左腕にセットし、早美アオイの方へとそれを構える。

 

 

「うっふふ。最初はてっきりオーカミ君が挑んで来るかと思ったけど、まさかレオン君が私に歯向かうなんてね。白のゼノンザードスピリットが恋しい?」

「……」

「今は私の手の中にあるわ。このバトルのみ、一時的にまた君のデッキに入れてもいいわよ。強かったでしょう、勝てて楽しかったでしょう、ゼノンザードスピリットは本当に素晴らしい」

 

 

アオイがBパッドを左腕にセットしながら、レオンにそう告げる。

 

力の誘惑。以前の彼はそれに負け、悪魔の科学者Dr.Aが作り出した魔道具、ゼノンザードスピリットに手を染めてしまった。

 

 

「あぁ、確かに心地よかった。使っている時は負ける気がしなかった。だが、それだけではダメだと気付かされた。オレはもう、力の誘惑には屈しない。貴様に勝ち、本当のオレを取り戻す」

「……フン、芽座葉月の弟子を名乗り、カッコをつけているだけの小物が、モビル王であるこの私を相手に、生意気ね」

 

 

Bパッドを構え合う2人。互いに己のデッキをそこへと装填し、バトルの準備を完了させる。

 

 

「ここにいる全員、生きて帰さない。全てこの7枚目のゼノンザードスピリットの餌にしてあげるわ」

「言いたい事はそれだけか?……ならば、行くぞ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

オーカミ、ライ、アルファベット、フグタが見守る中、レオンとアオイの二度目のバトルスピリッツがコールと共に幕を開ける。

 

先攻は早美アオイだ。目の前の歯向かって来た愚か者を排除すべく、7枚目のゼノンザードスピリットが入ったデッキからカードを引いて行く。

 

 

[ターン01]早美アオイ

 

 

「メインステップ、青の母艦ネクサス、プトレマイオス2を配置します」

 

 

ー【プトレマイオス2】LV1

 

 

モビルスピリットを大きくサポートするカードで名の知れる母艦ネクサス。その1つ、蒼き空船プトレマイオス2が、アオイの背後に配備される。

 

 

「配置時効果、デッキ上から4枚オープン。その中のダブルオーライザーを手札に加えて、残りはトラッシュに破棄」

 

 

プトレマイオス2の効果でアオイの手札に加えられたのは、彼女のデッキのエースカード「ダブルオーライザー」………

 

 

「これで私のターン、エンドです」

手札:5

場:【プトレマイオス2】LV1

バースト:【無】

 

 

レオンへとターンが渡る。

 

 

[ターン02]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。オレもネクサス、凍れる火山とミネルバを配置する」

 

 

ー【凍れる火山】LV1

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

レオンもネクサス。背後に見てるだけで寒気がする程に氷で覆われた山と、母艦ネクサス、ミネルバが出現する。

 

 

「ミネルバの配置時効果。デッキ上から3枚オープン、ザクウォーリアを1枚手札に加え、残りはデッキ下に送る」

 

 

ミネルバの効果が発揮。レオンは己のデッキの歩兵的存在、ザクウォーリアのカードを1枚手札へと加える。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【凍れる火山】LV1

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

レオンのターンも早々に終了。バトルは一周回り、再びアオイのターンとなる。

 

 

[ターン03]早美アオイ

 

 

「メインステップ。ガンダムキュリオスをLV1で召喚」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果で自身に1つコアブースト」

 

 

今回初めて登場するスピリット。オレンジを基準とした装甲を持つ青の低コストモビルスピリット、キュリオスが飛行形態から人型となり、地上へと降り立つ。

 

 

「さらにアタックステップ、キュリオスでアタック。その効果【トランザム】を使い、トラッシュにあるキュリオス・トランザムをLV2で召喚」

 

 

ー【ガンダムキュリオス[トランザム]】LV2(3)BP8000

 

 

「その召喚時効果により、自身とプトレマイオス2に1つずつコアブースト」

 

 

キュリオスの全身が赤く光り輝き、トランザム化する。その効果によって、アオイのフィールドにコアが貯まっていく。

 

1ターンに累計3つものコアをブーストする強力なコンボだが、レオンもただ手をこまねいているだけではなくて。

 

 

「キュリオスが手札に戻り、貴様の手札が増えたこの瞬間、オレはネクサス、凍れる火山の効果を発揮させる」

「!」

「貴様のターン中に増えた手札1枚につき、貴様は自分の手札を破棄しなければならない」

 

 

ここでレオンの配置したネクサス、凍れる火山の効果が発揮。アオイは手札を1枚増やしたので、同じ枚数1枚を、手札からトラッシュに捨てなければならない。

 

 

「フン、小細工ね」

 

 

アオイは即決で捨てるカードを決め、トラッシュへと破棄する。

 

余裕のある表情を見せているが、これから自分のターンで【トランザム】の効果を使用するたびに手札を捨てなければならないので、凍れる火山自体は、彼女にとってはかなり厄介な存在である事は間違いないだろう。

 

 

「エンドステップ、トランザムしたキュリオスはトラッシュに戻します。ターンエンド」

手札:5

場:【プトレマイオス2】LV1

バースト:【無】

 

 

トランザム化したキュリオスが消滅し、そのターンはアオイからレオンへと渡って行く。

 

 

[ターン04]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。ここから仕掛けるぞ、ザクウォーリア2体、連続召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

緑色の装甲を持つ、白属性の低コストモビルスピリット、ザクウォーリアがレオンの場に2体呼び出される。

 

 

「ミネルバのLVを2に上げ、アタックステップ。2体のザクウォーリアでアタックだ」

 

 

レオンの指示を受け、2体のザクウォーリアが颯爽とアオイのライフバリアを破壊すべく動き出す。

 

 

「愚直なアタックね。全てライフで受けましょう」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉早美アオイ

 

 

2体のザクウォーリアが連携し、アオイのライフバリアを拳を殴りつけ、それを2つ粉砕する。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【凍れる火山】LV1

【ミネルバ】LV2

バースト:【無】

 

 

迷いのないフルアタックを行い、レオンはそのターンをエンド。アオイのターンへと移って行く。

 

 

「今はレオンの優勢だが、次のターン、早美アオイは十中八九ダブルオーライザーを出して来るだろうな」

 

 

ここまでの展開を見て、アルファベットが呟く。さらにその言葉に疑問を抱いたライが口を開き………

 

 

「アルファベットさんさ。なんで私らの事は大体苗字で呼ぶのに、獅堂の事は名前で呼ぶの?」

「……」

「あぁ、なんか聞いちゃダメな事だったらごめんなさい」

「いや、問題ない。理由は単純、昔からそう呼んでいるんだ」

「昔から……旧知の仲って事?」

「まぁな」

 

 

アルファベットとレオンの関係に関して疑問を抱くライ。旧知の仲と言っても、レオンはアルファベットの事を何も知らなかったし、わからない事だらけである。

 

 

[ターン05]早美アオイ

 

 

「メインステップ。キュリオスを2体召喚」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でコアブースト」

 

 

今度は2体のキュリオスがアオイのフィールドへ。さらにコアブーストを重ねると、彼女は手札からもう1枚、カードを引き抜く。

 

 

「舞いなさい、天高く!!…ガンダムをも超越する戦士、ダブルオーライザー!!」

 

 

ー【ダブルオーライザー】LV2(3)BP11000

 

 

青き一筋の流星が、粉塵と共にアオイのフィールドへと降り立つ。

 

その名はダブルオーライザー。

 

二振りのブレードを手に取り構え、即座に戦闘態勢に入る。

 

 

「来たか、ダブルオーライザー」

「召喚時効果発揮。CBスピリット全てにコアを1つずつブースト、さらに貴方の手札を全て手元に」

「……!」

 

 

2体のキュリオスとダブルオーライザーにコアが1つずつ追加。さらにレオンの3枚の手札は、Bパッドに表側で貼り付けにされてしまう。

 

その3枚のカードは「アルテミックシールド」「ミネルバ」「輝きの聖剣シャイニング・ソードX」

 

 

「増えたコアを使い、ダブルオーライザーのLVを3にアップ」

「来い、返り討ちにしてやる」

「……その貧相な手札で何を言ってるの貴方。ターンエンドよ」

手札:3

場:【ダブルオーライザー】LV3

【ガンダムキュリオス】LV1

【ガンダムキュリオス】LV1

【プトレマイオス2】LV1

バースト:【無】

 

 

「え、あの布陣でアタックしないのか?」

 

 

攻撃性能の高いダブルオーライザーを召喚しても尚、レオンのライフを破壊しに行かないアオイ。

 

フグタはその行動を不審に思う。

 

 

「待ってるんだろうね。多分、7枚目のゼノンザードスピリット」

 

 

しかし、その不審なプレイングの理由は、春神ライには筒抜けの模様。

 

覚醒した7枚目のゼノンザードスピリットの存在が、よりこの場を不穏にさせる中、バトルは再びレオンのターンへ。

 

 

[ターン06]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。オレは手元にある、2枚目のミネルバを配置する」

 

 

ー【ミネルバ】LV2

 

 

「配置時効果、3枚オープンし、オレはその中にある「レジェンドガンダム」を手札に加え、残りをデッキの下に」

 

 

2隻目のミネルバが、レオンの背後に出現。彼はその効果で新たなカードを手札へと加えるが、その手の中には、未だに己の魂である「デスティニーガンダム」は見えず………

 

 

「どうやら、我が魂が引けないみたいですね」

「……」

「貴方はもう強者ではない。力に溺れ、過信し、己の魂までもを失った、哀れで愚かな元絶対王者」

 

 

レオンがデスティニーガンダムを手札に加えようとしている事、今それを手札に抱えていない事を悟るアオイは、不気味な角度で口角を上げ、彼を煽り始める。

 

先のオーカミとのバトルで、レオンは我が魂であるデスティニーガンダムを肝心な時にドローできなかった。今も尚、それを引きずっているのかもしれない。

 

 

「フ……力に過信してる奴はどっちだか」

「なんですって?」

「貴様が力に過信していないと言うのであれば、Dr.Aの力などに頼らずとも、己の力のみで弟の病気と向き合ってみたらどうだ」

「!」

「オレは、この戦いの中で改めて理解した。力とは、与えられるモノではない、他の誰かと高め合っていくモノだ。故に、それを知らない貴様に、オレは負けない。デスティニーも、再び必ず我が手中に収めて見せる。ターンエンドだ」

手札:2

場:【ザクウォーリア】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【凍れる火山】LV1

【ミネルバ】LV2

【ミネルバ】LV2

バースト:【無】

手元:【アルテミックシールド】【輝きの聖剣シャイニング・ソードX】

 

 

レオンの意志は固い。もう己の強さに迷わない彼は、ここでターンエンドの宣言。

 

だが、ライフで勝っているとは言え、アオイの場には、強力なダブルオーライザーが存在することに変わりなく、心の余裕は兎も角として、バトル的には厳しい状況が続いている。

 

 

[ターン07]早美アオイ

 

 

「メインステップ、ダブルオーライザーのLVを2にダウン。何が高め合って行くモノよ、向き合ってみろよ。それなら散々やった、でもダメだった、どこに行っても、何をしても……!!」

「お嬢……」

 

 

己に課された悲惨な境遇を嘆くアオイ。それを唯一目の前で見て来た執事、フグタは苦い表情を見せる。

 

 

「だからもうこれに頼るしかないのよ、ソラを救うためには、ゼノンザードスピリットしか、Dr.Aの力しか!!」

 

 

悲痛な想いを唸らせ、叫ぶ。

 

拗れに拗れ、募った負の感情が爆発したアオイは、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

そのカードこそ、悪魔の科学者の知恵の結晶。早美ソラを未知の病から救うために造られた、運命をも捻じ曲げる、奇跡の1枚。

 

 

「司るは全てのゼノンザード。運命をも捻じ曲げる、奇跡の秘術……運命の図柄を描く者・ラケシス……!!」

 

 

ー【「運命の図柄を描く者」ラケシス】LV2(3)BP12000

 

 

眩い光輪が何重にも重なり、光の速さで回り出す。

 

そしてそれはやがて砕け、弾け飛び散り、中にいる存在がフィールドへと姿を見せる。

 

そのスピリットの名はラケシス。黒服を身に纏い、銀色の長い髪を靡かせる、凛とした女性型のゼノンザードスピリット。

 

 

「アレが7枚目のゼノンザードスピリット、6色のスピリットなのか」

「アンタのエースカードと同じだな」

 

 

オーカミが言っているのは、アルファベットのアルファモンの事だろう。アレも6色のスピリットで、尚且つ「ロイヤルナイツ」と呼ばれる特別なカード群だ。

 

 

「6色のカードって、大体壊れカードだよね。アレ絶対強いよ」

「楽しそうだな、春神」

 

 

本当は自分がバトルしたかったライ。こんな状況だが、7枚目のゼノンザードの効果を楽しみにしているようだ。

 

そしてそれは、直ぐに知る事になる。

 

 

「7枚目のゼノンザードスピリット、ラケシスは、私の思うがままの運命を描く。このバトル、もう貴方の運命は決したわ、敗北と言う名の、ね」

「オレの前で運命を語るとは、良い度胸をしてるな」

「我が魂にさえ見放された貴方に、それを言う資格はないですよ。ラケシスの召喚時効果、相手のトラッシュとライフのコアを入れ替える」

「………は?」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉獅堂レオン

 

 

「なに!?」

 

 

ラケシスが手に持つ針のような短剣を天に掲げると、レオンの周囲にあるライフバリアが3枚も消え去る。

 

いや、正確には入れ替わってしまったのだ、ライフバリア5枚と、それに変わる、レオンのトラッシュにある2つのコアが。

 

余りにも摩訶不思議、奇天烈な効果に、レオン始め、バトルを見ている他の者達も驚きが隠せない様子。

 

 

「凄い、召喚しただけでライフが5から2に。やはりこれは、そうなんですね、如何なる運命も思いのままに書き換えてくれる。これさえアレばソラは、ソラは助かる……!!」

「……貴様」

「そのために、貴方達をさっさとぶっ潰しますよ。やっちゃいなさい、ダブルオーライザー!!」

 

 

このターンのアタックステップに突入。ラケシスの効果で大きく減少させられたレオンのライフバリアを斬り裂くべく、ダブルオーライザーが二振りのブレードを構え、飛翔。

 

前のターンはお預けとなったアタック時効果も、ここで発揮される。

 

 

「ダブルオーライザーのアタック時効果、相手の手元にあるカード1枚を破棄し、コスト8以下のスピリット1体を破壊します。手元のアルテミックシールドを破棄して、ザクウォーリアを1体破壊」

 

 

レオンの手元から、白の防御マジック「アルテミックシールド」のカードが破棄され、トラッシュに。さらにフィールドではダブルオーライザーが、ザクウォーリアを1体、ブレードで串刺しにし、爆散へと追い込む。

 

 

「……ザクウォーリアの破壊時効果、ボイドからコア1つをもう1体のザクウォーリアに追加し、カードをオレの手元に」

「そんな効果無意味!!……ダブルシンボルのダブルオーライザーが、貴方の残り2つのライフを砕く」

 

 

ラケシスとダブルオーライザーの強力な連携により、一気に窮地へと立たされるレオン。

 

だが、何も打つ手がないわけではないのか、冷静に1枚のカードを、Bパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュ、手札にあるレジェンドガンダムの効果を発揮」

「!」

「コストを5にし、このスピリットを召喚できる。来い、伝説呼び覚ましモビルスピリット、レジェンドガンダム!!」

 

 

ー【レジェンドガンダム】LV2(3)BP12000

 

 

レオンのライフバリアを狙わんとするダブルオーライザーの前に立ちはだかるのは、白銀のモビルスピリット、レジェンドガンダム。

 

彼のデッキにおいては、デスティニーガンダムに次ぐ実力を有している強力なスピリットだ。

 

 

「そうした時、相手のBP10000以下のスピリット全てを手札に戻す。失せろ、キュリオス」

 

 

レジェンドガンダムは登場するなり、手の甲からビームを放射。その斜線上に入った2体のキュリオスは瞬く間に粒子化してしまい、アオイの手札へと強制送還されてしまった。

 

 

「よし、これでダブルオーライザーを返り討ちにできるぞ」

 

 

フグタがそう呟く。

 

確かに、今のダブルオーライザーのLVは2。BPは11000。BP12000のレジェンドガンダムなら返り討ちにできる。

 

しかしそれは、アオイがこのタイミングで何もしなければの話であって……

 

 

「その程度で私を超えれると思って?……フラッシュチェンジ、トランザムライザーを発揮……!!」

「!」

「その効果でザクウォーリアとレジェンドガンダムの2体を破壊」

「くっ……ザクウォーリアの破壊時効果で、コアを1つ追加し、自身を手元に」

 

 

ダブルオーライザーの両肩から赤い粒子が、球体を描くように勢い良く放出。それに包み込まれてしまったザクウォーリアとレジェンドガンダムは、対抗する間もなく塵芥となってしまう。

 

 

「そしてこの効果発揮後、ダブルオーライザーと回復状態で入れ替える。顕現なさい、全てを超越する赤き流星…………トランザムライザーッッ!!」

 

 

ー【トランザムライザー】LV2(2)BP16000

 

 

ダブルオーライザーは自身から放出した赤い粒子をその身に纏い、更なる強化形態、トランザムライザーへと進化を果たす。

 

デスティニーガンダムをも凌駕するその気迫に、レオンは半歩後退り、頬からは冷や汗が伝うのを感じた。

 

 

「これで貴方のスピリットは0。ライフも残り2つ。さぁトランザムライザー、愚かな未熟者に制裁を!!」

「レオン……!!」

 

 

その時レオンの名前を張り上げたのは、他でもないアルファベット。

 

彼の事情など知る由もないレオンだが、不思議とそのタイミングで、手札にある最後の1枚を引き抜き、即座にBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、リミテッドバリア」

「!」

「効果により、このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックでは、オレのライフは減らされない。ライフで受けるぞ」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉獅堂レオン

 

 

レオンの前方に展開される半透明のバリアが、トランザムライザーが持つ、二振りのブレードによる剣撃から、彼を守護する。

 

 

「ターンエンド。しぶとい、でも次のターンでお終いです」

手札:5

場:【トランザムライザー】LV2

【「運命を描く者」ラケシス】LV2

【プトレマイオス2】LV1

バースト:【無】

 

 

7枚目のゼノンザードスピリットに加えて、ダブルオーの最終進化形態トランザムライザー。

 

驚異的な力を見せつけ、後一歩の所までレオンを追い詰めたアオイは、ようやくそのターンをエンドとする。

 

 

「手札0。場のスピリットも0。こんな状況から巻き返せる可能性は……」

「あるよ」

 

 

レオンが勝利する可能性の低さに落胆仕掛けるフグタだったが、それを否定して見せたのは、レオンから勝手にライバル認定されている鉄華オーカミだった。

 

 

「アイツが勝つって言ったんだ。そんなモン、捻じ曲げてでも引っ張って来るだろ」

 

 

正念場と言う言葉が似合う局面は、まさしく今だろう。皆の期待が一心に集う中、レオンの最後のターンが幕を開けて行く。

 

 

[ターン08]獅堂レオン

 

 

「スタートステップ、コアステップ」

 

 

順調にターンシークエンスを重ねて行くレオン。

 

次はいよいよ彼の運命を左右するドローステップ。狙うカードは………

 

 

「デスティニーガンダム」

「!」

「数あるモビルスピリットの中でも特に力に秀でた、貴方の魂。アレを引けたらこの状況を覆せるかもしれないわね。でも不可能よ、貴方はもう、カードの信頼を失っている」

 

 

アオイも、レオンがこのドローステップで狙っているカードが何かを完全に理解していた。

 

そう。これはオーカミ戦の時と同様、デスティニーガンダムさえドローできれば、勝利に近づく事ができる状況なのだ。

 

 

「確かに、オレは一度ゼノンザードスピリットと言う邪な力に手を染め、デスティニーの信頼を失った。今更虫の良い話なのもわかる。だが、この瞬間のみ、オレは貴様の見る運命を捻じ曲げ、覆す」

「言ってる事、意味不明ね」

 

 

Bパッドに装填されているデッキに、指先を当てるレオン。いよいよ運命のドローステップが開始される。

 

 

「ドローステップ………!!」

 

 

ようやくカードをドローするレオン。緊張感が走る中、引いたそのカードを視認して行く。

 

 

「ドローカードは、デスティニーではない」

「うっふふ、とうぜ……」

「だが、マジック、双翼乱舞」

「!」

「効果により、デッキからさらに2枚のカードをドローする」

 

 

ここで引いたのは、赤属性のドローマジック「双翼乱舞」…………

 

これにより、またデスティニーをドローするチャンスが発生。レオンは颯爽とメインステップへと乗り出し、そのカードを使用、己のデッキの上から、さらに2枚のカードをドローして見せた。

 

そして、そのカードの中には…………

 

 

「フ……引き寄せたぞ、我が魂を」

「ッ………まさか」

 

 

双翼乱舞の2枚目のドローで「デスティニーガンダム」のカードを見事に引き当てたレオン。

 

敗北と言う名の運命が捻じ曲がり、世界が変わったこの瞬間に、アルファベットは口角を上げる。

 

 

「行け、レオン」

「オレはマジック「アンタは俺が討つんだ! 今日! ここで!!」を使用。相手のスピリット1体をデッキの下に戻す、消えろ、トランザムライザー!!」

「なに、効果でトランザムライザーを!?」

 

 

反撃の狼煙が上がる。レオンは、デスティニーガンダムと共にドローしたマジックカードを使用し、アオイのフィールドに存在するトランザムライザーを粒子化、デッキの下へと送り付ける。

 

 

「この効果でBP11000以上のスピリットを戻した時、手札からFAITHスピリット1体をノーコスト召喚する。運命をも覆す、我が魂!!……デスティニーガンダムをLV2で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

「9コストのデスティニーガンダムをノーコスト召喚ですって!?」

 

 

上空より、腕を組み、フィールドへと降り立つのは、光の翼を持つ白いモビルスピリット。

 

その名はデスティニーガンダム。獅堂レオンの魂である。

 

 

「さらに手元に置かれた、ザクウォーリアを2体連続召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

前のターンに破壊されたザクウォーリアがこのタイミングで復活。デスティニーと共にフィールドで肩を並べる。

 

 

「アタックステップだ。進撃せよ、デスティニー!!」

 

 

布陣を整えたレオンは、勝利を手にすべくアタックステップへと突入。

 

彼との信頼を取り戻したデスティニーが先陣を切る。

 

 

「アタック時効果、このスピリットのBP以下の相手スピリット1体を破壊する。ゼノンザードスピリット、ラケシスを破壊!!」

「ッ……私のゼノンザードスピリットが!?」

 

 

飛翔したデスティニーが、ビームランチャーをラケシスへと向け、そこから極太のレーザー光線を放出。

 

回避する間もなく、ラケシスはそれに直撃。その麗しい肉体は消滅し、やがて爆散していった。

 

 

「この効果で破壊したスピリットのシンボルの数分、貴様のライフを砕く」

「くっ……!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉早美アオイ

 

 

ラケシスの凄まじい爆散は、アオイのライフバリアをも巻き込み、それを1つ砕く。

 

 

「デスティニーのアタックは継続中だ」

「負けない、負けられない……キュリオスの【武力介入】を発揮。自身を召喚する」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でコアブースト。デスティニーをブロックなさい!!」

 

 

アオイは、前のターンでレジェンドガンダムによって手札に戻されたキュリオスを【武力介入】の効果により召喚する。

 

自身のライフを守護すべく、デスティニーへと投げつける。

 

 

「フラッシュ、デスティニーの更なる効果。ミネルバを疲労させる事で回復する」

 

 

効果によりデスティニーが回復。このターン二度目のアタックを可能にした直後、決死の覚悟でキュリオスが懐へと飛び込んで来るが、デスティニーはそれを軽く遇らい、頭部を掴み上げ、それを地面へと叩きつける。

 

凄まじい衝撃に耐えられなかったキュリオスは、ここで爆散した。

 

 

「デスティニー、二度目のアタック!!」

「まだよ、フラッシュで2体目のキュリオスを召喚」

 

 

ー【ガンダムキュリオス】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でコアブーストし、もう一度デスティニーをブロック!!」

「無駄だ。2枚目のミネルバを疲労させ、デスティニーは再び回復する」

 

 

2体目のキュリオスは、登場した瞬間にデスティニーに胸部を鷲掴みにされ、掴まれた掌からエネルギー弾を放たれ、呆気なく爆散して行った。

 

 

「これで貴様を守るスピリットは全て消えた」

「……何の、間違いですか、これは」

「ザクウォーリアでアタック」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉早美アオイ

 

 

1体のザクウォーリアがアオイのライフバリア1つを砕き、レオンは遂に彼女を追い詰める。

 

 

「ゼノンザードスピリットによって見せられていた悪夢から、オレは目覚めた。今度は貴様が目を覚ます番だ。これ以上、弟を悲しませるな……デスティニー!!」

「………ら、ライフで、受ける」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉早美アオイ

 

 

アオイの眼前へと着地したデスティニーが、その拳で最後のライフバリアを砕く。

 

彼女のBパッドからは、敗北を告げるように「ピー……」と言った機械音が流れ出す。これにより、勝者は獅堂レオンだ。見事デスティニーとの絆を取り戻し、敗北する運命を捻じ曲げて見せた。

 

 

「ウソ、本当に勝っちゃった」

「だから言ったろ。アイツは勝つ、ちょっと腹立つけど」

「どうだ、捻じ曲げて見せたぞ早美アオイ。オレは、オレのまま、強くなって見せる」

 

 

レオンが勝つとは思っていなかったライに、オーカミがそう告げる。

 

最後にレオンがそう宣言すると、バトルは完全に終了となり、フィールドに残ったスピリットやネクサス達が徐々に消滅して行く。

 

 

「お、お嬢」

 

 

バトルに敗北し、片膝を曲げるアオイに寄り添おうとするのは、執事のフグタ。

 

これで終わったのだ。ゼノンザードスピリットによって、悪魔の科学者Dr.Aによって穢されたお嬢の心は浄化される。

 

そう信じていた。

 

だが………

 

 

「あ、ァァァァぁぁぁ!!!……ゼノンザードスピリットが、ゼノンザードスピリットがぁ!?」

「お、お嬢!?」

 

 

奇声を発するアオイ。

 

それには理由がある。アレだけ入念に計画を進め、力を蓄えさせた、7枚のゼノンザードスピリットのカード達が、端から灰となり、今にも消えようとしていたからだ。

 

 

「待って、待ってください。これがなければソラは、ソラは………!!」

 

 

アオイの声も虚しく、ゼノンザードスピリットは1枚残らず、完全に消滅してしまった。

 

 

「嫌だ。嫌だ。あ、ァァァァぁぁぁあ!!!」

「お嬢、お嬢!?!」

「おい、早美アオイ!!」

 

 

最後の希望を失ってしまったアオイ。現実逃避するように、発狂しながら、Bパッドをタッチし、ワームホールを形成。

 

どこに繋がっているのかもわからないその空間に、アオイは足を踏み入れてしまう。助けようとフグタとアルファベットが走るが、時既に遅く、それは完全に閉じてしまった。

 

 

「お嬢、お嬢ォォォオ!!」

 

 

彼女を助けられなかったフグタの叫びが、早美邸に響き渡る。

 

ヨッカ誘拐から始まった、早美邸での決戦。ヨッカの救出には成功したものの、どこか心に蟠りが残ってしまったまま、幕を下ろす事になった。

 

 

 

******

 

 

 

舞台は変わり、ここは界放市ジークフリード区が誇る中央病院。

 

今も尚、植物状態となってしまった一木ヒバナが眠り続けている場所だ。彼女を想う少年、鈴木イチマルは、病室で花瓶の水を変えていた。右腕が骨折していふため、非常にやりづらそうだ。

 

そして、どうにか水を変え終わると、その直後に奇跡が起こる。

 

 

「……あ、イチ……マル……?」

「!?」

 

 

一瞬、耳を疑った。だが、同時にこの時を待ち侘びていた。

 

イチマルの目線の先には、しっかりと目を開け、震えた声で自分の名前を呼ぶ、ヒバナの姿がそこにいて………

 

 

「ヒ、ヒバナちゃん……うぉぉぉぉ!!…ヒバナちゃァァァァん!!」

「ふふ、どーした、のよ……相、変わらず、うるさい、わね」

 

 

泣き崩れながら大いに喜ぶイチマル。その騒々しい様子を見て笑顔になるヒバナ。

 

ゼノンザードスピリットによって、不幸な事件が続いていたが、今この時より、ほんの少しずつ、平和な日常が戻り始める。

 

 

 





次回、第44ターン「悪魔嘲笑、悪夢のゼノンザードデッキ」


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第44ターン「悪魔嘲笑、悪夢のゼノンザードデッキ」

激闘に激闘を重ねた、早美邸での決戦。

 

囚われた九日ヨッカの救出には成功したものの、ゼノンザードスピリットが消滅してしまったショックにより、早美アオイの感情は崩壊、どこかへ姿を眩ましてしまう。

 

不穏な空気を残したまま、決戦は幕を閉じ、それから1日が経過した。

 

 

******

 

 

「で、ヒバナ。もう身体の調子はいいの?」

「うん。言うて寝たきりになってたの1週間もなかったしね」

 

 

ここは界放市ジークフリード区が誇る中央病室。その数多くある病室の内の一部屋に、つい先日、植物状態から回復した少女、一木ヒバナと、彼女のためにりんごの皮を包丁で器用に剥いて上げている鉄華オーカミの姿があった。

 

 

「よかった。あんまり無理はしないで」

「ありがとう。でもオーカに言われると説得力ないな」

 

 

オーカミはそう告げながら、綺麗に仕上がったりんごを皿に乗せる。

 

 

「オーカ、結構器用だよね」

「そう?」

「所で今日イチマルは?……オーカも来るなら、てっきり一緒かと」

「あぁ、イチマルはヒバナ復活祭をやるとか何とか言って、その準備を」

「相変わらずだなアイツ。嬉しいけどさ」

「コレ言うなって言われてるんだった」

 

 

言葉を交わしながら、ヒバナはオーカミが剥いてくれたりんご1つに手を伸ばし、それを一口。

 

 

「そう言えばイチマルさ。右腕骨折してたんだけど、何かあった?」

「……」

「昨日聞いたんだけど「戦士の古傷が疼いた」とか何だとか言って、全然教えてくれなくて」

 

 

イチマルの骨折は、彼の兄である鈴木レイジによるものだ。

 

きっと、意味のわからない理由でお茶を濁したのは、彼の優しさによるものだ。ヒバナをもうこれ以上ゼノンザードスピリットと関わらせないための。

 

 

「実は」

「実は?」

「アイツ、学校の階段で転んだんだ」

「なんだ〜〜そんな理由か、全くいつもカッコつけたがるんだから」

 

 

それなら、自分も嘘をつくしかない。

 

空気を読んだオーカミは、咄嗟に思いついた嘘をついた。普段から嘘をつかない彼は、その時だけ、ヒバナの目線から視線を逸らす。

 

気遣いのできるイチマルの優しさ、それを知っていて、ひょっとしてと思ったヒバナ。それも全部知っているオーカミは、内心で彼女に対して「ごめん」と呟いた。

 

 

******

 

 

「テメェッ!!」

「!!」

 

 

ジークフリード区の暗く、広い路地裏で響く鈍い音。

 

九日ヨッカとアルファベットだ。ヨッカがアルファベットの頬を、腰の入ったパンチで殴りつけたのだ。

 

 

「……呼び出しておいて早々に殴りつけるとは、一体なんの了見だ九日」

「オレは言ったよな、他の奴らを、オーカとライは巻き込むなって!!」

「奴らが必要な戦力だったから連れて来たまでだ」

「ふざけんなよ、なんだよその理由!!」

 

 

募っていた憤りが爆発するヨッカ。

 

思い出したくもない昨日。知らぬ間にライの膝の上で寝ていた自分。

 

自分もゼノンザードスピリットと戦ったと楽しそうに話すライ。「よかった」と安堵するオーカミ。2人の身体や服装は、汚れていて、傷だらけだった。

 

それからと言う物、それを思い出す度に、心が締め付けられる。

 

 

「頭に血が昇り、むざむざと敵陣に乗り込み、敗北し、洗脳されたオマエに、オレの文句を言う資格などないぞ」

「……!!」

 

 

鼻息荒くアルファベットの胸ぐらを掴みに掛かるヨッカだが、彼の言う事もまた正論。大人しくその手を離した。

 

 

「そんな事より、早美アオイとDr.Aだ。早美邸に、Dr.Aの姿はなかった。逃げた早美アオイが奴とコンタクトを取る前に見つけ出すぞ」

「わかった。だけど次オーカを巻き込む事があったら、オレはアンタの正体が「芽座葉月」である事を告発する」

「好きにしろ。オレが警察官でいられなくなるだけだ。そうなれば、困るのはオマエの方だぞ」

「………!」

 

 

ぐうの音も出ない。やるせない気持ちが、ヨッカの心の中を渦巻いていく。

 

 

「フグタが早美アオイの場所には心当たりがあるそうだ。バトルになる可能性もある、さっさと合流するぞ」

「……あぁ」

 

 

どこまでも、誰が相手でもゴーイングマイウェイを貫くアルファベット。

 

ヨッカは渋々、その目的のためならば手段を問わない、破天荒な警官の後をついて行った。

 

 

******

 

 

「………」

 

 

引いては満ちを繰り返す、波の音が静かに響く。

 

ここは、ジークフリード区にある海岸「アビス海岸」だ。ゼノンザードスピリットと言う名の希望を失った早美アオイは、ただ1人、波風に晒されながらそこに立ち尽くしていた。

 

 

「……ソラ」

 

 

たった1人の肉親、ソラの名を呟く。

 

再びゼノンザードスピリットを得るため、もしくは彼が生き残る方法を聞き直すためか、今のアオイの手にはBパッドが握られており、おそらくその通話機能で、Dr.Aと連絡を取ろうとしていたのだと思われる。

 

落胆した様子からして、それは叶わなかったのだろうが。

 

 

「お嬢、昔からここ、好きだったよな。坊ちゃんと一緒によく来たっけ」

「……」

 

 

早美家に長く仕えている青年、フグタが、ようやくアオイを見つけ出す。目の下に隈がある事から、きっとあれから寝ずに彼女を捜索していたに違いない。

 

 

「さ、一緒に帰……」

「私から希望を奪っておいて、今更どの顔下げて来たのよ!!」

「!」

「アンタが、アンタがあんな連中さえ連れて来なければ、こんな事には……!!」

 

 

内に収まりかけていた憤りが、フグタを視界に映した事で爆発。

 

別にフグタが寝返ろうがそうでなかろうが、結局いつかは戦わなければいけなかったのはわかってはいたものの、その怒りを当たり散らす。

 

 

「夢を見る時間は終わったんだお嬢、オレ達の負けだよ」

「ソラは死んでも良いって言うの!?……見殺しにしろって言うの!?」

「……」

「負けなんて認められない、認めたら、ソラは一緒病気のままなの!!……私だけでも味方でいないと、あの子は死んじゃうのよ」

 

 

フグタの話に、全く聞く耳を傾けようとしないアオイ。

 

きっと、弟が死んだ後、自分だけがのうのうと生きていくのが、辛く、我慢できないものだと、悟っているからであろう。

 

 

「ヌッフフ、味方なら、他にもいますよ」

「!」

「Dr.A………!」

 

 

そんな折、姿を見せるのは、自動車椅子で動き、全身が包帯巻きになっている、伝説のマッドサイエンティスト、Dr.A。

 

明らかに畏怖たる存在である彼だが、2人が目を奪われたのは、それだけではない。

 

 

「ソラ……!?」

「坊ちゃん、どうして」

「姉さん、フグタ」

 

 

そう。ソラがいたのだ、病弱で、外に出る事さえ禁じられていた、あのソラが、元気そうな笑顔で、逞しく大地に足をつけていたのだ。

 

 

「どうして?……とは、愚問ですね執事さん。そんなの、私がソラ君の病気を治したからに決まっているではありませんか」

「え」

「アオイ君には、ゼノンザードスピリットの研究を頑張って貰いましたからね。そのご褒美にと思いまして、少し骨が折れましたが、どうにかこうにか」

 

 

相手は仮にも悪魔と呼ばれた科学者。ほぼ無償でソラの病気を治してもらった事に、フグタは違和感を覚える。

 

ただアオイは、そんな事は二の次であって………

 

 

「ソラ、本当にソラ……なの?」

「あっはは、何言ってるの姉さん。僕は僕だよ。この通り、やっと治ったんだ」

「ソラ、ソラァァァー!!!」

 

 

嬉しさの余り、ソラを抱き締めるアオイ。

 

その目からは大粒の涙が零れ落ち、これまでの彼女の苦悩と苦痛の戦いの過酷さを物語っていた。

 

 

「ごめんね、姉さん。今まで苦労させて。でも僕は大丈夫、もう大丈夫なんだよ」

「………知らない間に、大きくなりましたね」

「そりゃそう。病院ではずっと横になってたからね、もう姉さんの背も超えちゃった」

 

 

久し振りの姉弟水入らずの会話。ソラの病気が完治した事により、アオイの表情はかつてないほどに悦びに満ち溢れていた。

 

次の瞬間までは…………

 

 

「ところで」

「?」

「昨日、姉さんを虐めた奴がいるって本当?」

「え」

「Dr.A先生が教えてくれたんだ。僕、そいつを見つけてボコボコにしてやりたいんだよね、この世から消滅させてやりたいんだよね」

「え、いや……」

 

 

その瞳はまるで無邪気な悪魔。殺戮を殺戮と思わない、無垢なる怪物。ソラは間違いなく、昨日の早美邸での決戦の話をしている。

 

アオイの涙はその瞬間に枯れ果てた。

 

ソラのためにと思って動いていたこの数年だが、命を賭けてソラを救おうとしていた事は、悟られてはならないと感じていた。故にそれ関しては、何も教えていないのだ。

 

 

「な、何言ってるのソラ、私は別に虐めなんて」

「もう心配しないで、姉さん。今の僕には力がある……!!」

「ッ……」

「坊ちゃん、それは!?」

 

 

ソラが懐から取り出し、広げてみせたデッキのカード達。

 

それを見るなり、アオイは思わず口を押さえる。無理もない、その中には昨日消滅したばかりの7枚のゼノンザードスピリットが全て揃っていたのだから。

 

しかもゼノンザードスピリットは、その1枚だけでも、長く使えば精神の崩壊を招きかねない代物だ。それを全てデッキに入れている今のソラが尋常ではない何かになっているのは、一目瞭然だった。

 

 

「ソラ、どうやってそのカードを!?……どう言う事なのですかDr.A!!」

 

 

当然ながらその視線はDr.Aへと向けられる。

 

こんな芸当ができるのは、状況的に見ても彼しかいないからだ。

 

 

「ヌッフフ……フフ、ア、アーアッアッアッア!!!」

「!?」

 

 

彼は突然大声で笑い出す。まるでこの状況全てが滑稽だと言わんばかりに。

 

 

「それは実に、エクセレントではない質問だね、早美アオイ君」

「Dr.……A?」

 

 

さらには車椅子から立ち上がる。

 

おかしい。

 

何かがおかしい。

 

Dr.Aは、7年前の芽座椎名との戦いによって傷つき、まともに動ける身体ではなかったはずだと言うのに………

 

 

「君は本当に才女だったよ。だがその反面、心が弱くて、脆くて、扱い易かったなぁ〜」

「何を、言ってるの……!?」

「ずっと……君はエクセレントな僕の掌の上だった、と言う事さ」

「!?」

 

 

Dr.Aは、徐に、己に巻いていた包帯を解く。

 

解かれた包帯の先にあった素顔は、火傷の傷跡など一切残っていない、綺麗な肌だった。そして、その正体は………

 

 

「嘘………嵐、マコト…先生??」

「一体、どう言う」

 

 

そう。ソラが病に侵されて以降、何度も世話になっていた、担当医「嵐マコト」だった。

 

意味と理屈を理解できない現実に、アオイもフグタも混乱する。

 

 

「な、なんでマコト先生が……なんで、なんで……!?」

「う〜ん、君にしては察しが悪いなぁ」

「待て、なら本物のDr.Aはどこに行ったんだ」

 

 

鋭い剣幕で睨みつけながら、フグタがDr.A、いや、嵐マコトに訊いた。

 

 

「史実通りですよ、執事さん。本物のDr.Aはとっくに死んでます、最初からこのエクセレントな僕、嵐マコトが、Dr.Aに扮していたのです」

「何のために!?」

「宝物を、手に入れるためです」

「宝物……まさか、坊ちゃん!?」

「おや、君の方が察しがいいのですか、意外ですね。そう、僕はずっとソラ君が欲しかった、何せあの子は、王者(レクス)の力に溢れているからね」

「ソラが、王者(レクス)を?」

 

 

……『王者(レクス)

 

バトル中、使用者を必ず勝利に導く力。嵐マコトは、ソラにはその才能があるのだと言う。

 

 

「そうだ、ソラ君こそ、僕が求めていた宝物、至高の器、最高のモルモット。そのためにここまで手の込んだ計画を練ったのさ、ゼノンザードスピリットもその一貫」

「じゃあ待って、今のソラは……」

「うん、ゼノンザードスピリットを扱うにあたって最高の改造が施された、僕のエクセレントな傀儡♡」

「そん、な……」

「今までゼノンザードスピリットを使ってバトルをしてくれてありがとうね、アオイ君。お陰で良いデータがたくさん取れましたよ。本当に感謝してもし尽くし切れない」

 

 

絶望から膝をつくアオイ。

 

自分がやって来た事は何一つとして無駄な事だった。全て、その感情を利用されて来たのだと、ようやく気づいてしまったのだ。

 

 

「姉さん、どうしてそんな悲しそうな顔するの?……せっかく僕は元気になったのに」

「ダメよソラ、早くそんなカード捨てて……お願い」

「姉さんこそダメだよ。このカード達の力が身体中から湧き上がって来るんだ。こんなに気持ちいい気分は生まれて初めてなんだ、捨てられないよ」

 

 

アオイが何とかソラを説得させ、ゼノンザードスピリットを捨てさせようとするが、既にそれを必要な身体へと改造されてしまったソラに、その話は通じない。

 

 

「坊ちゃんを、坊ちゃんを元に戻せ!!」

「おおっと、野蛮ですね。流石は元ヤンキー」

 

 

余りにも非人道的な行いに怒り、殴りかかるフグタを、嵐マコトは嘲笑いながら華麗にいなす。

 

 

「お願いです、ソラを……弟を、元に戻してください」

「お嬢……」

 

 

頭を砂浜に擦り付ける程深く下げ、土下座するアオイ。

 

だが、嵐マコトは、その必死の懇願を見るなり嘲笑し………

 

 

「アッアッア……お願いなら、もう聞いたじゃありませんか。ソラ君はこの通り元気だよ」

「違う、こんなの、私のソラじゃない」

「そう、君の捻くれた心がソラ君をそうさせたんだ」

 

 

土下座して顔を上げないアオイに、嵐マコトが耳元で囁く。

 

 

「今までたくさん悪い事して来たよね、善人のふりをして、人を陥れ、騙し、1人はショックから植物状態にまで追い詰められた」

「……!?」

 

 

やめて、それ以上、何も、言わないで………

 

 

「君は根っからのクソ女ですよ。これからその悪業を胸に刻んで生きて行きなさい、人格の変わった弟君と共にね」

「いや……いや、いやァァァァァァぁぁぁー!!」

 

 

これまでの非道に対する後悔が重く重なり、アオイの精神を押し潰す。流れ出す涙が、砂浜に色を塗った。

 

 

「汚い顔で泣くなぁ」

「あ、あぁ、いやだ……ソラァァァ!!」

「泣かないで姉さん。何で泣くの、僕はここにいるのに、せっかく病気を治してもらったのに、何で?……やっぱり昨日、虐められたから?」

「そうですよ、ソラ君。お姉さんが泣くのは、昨日虐められたからです………ねぇ、物陰に隠れている獅堂レオン君」

「!!」

「ッ……」

 

 

嵐マコトがそう告げると、少し離れた茂みから、銀髪の少年、獅堂レオンが姿を見せる。その険しい表情からして、これまでの話は全て聞いていたのだろう。

 

 

「獅堂レオン、何故ここに」

「貴様の後をつけていれば、早美アオイに会えると思ってな。だがまさか、こんな状況になるとは」

 

 

レオンは、ゼノンザードスピリットを使っていた事に対する責任から、アオイを捜索していた。

 

しかし、よもやこんな場面に遭遇してしまうもは、思ってもいなかった事だろう。

 

 

「やぁ獅堂レオン君。お初にお目にかかるね。私がDr.Aこと、嵐マコトだよ。一度メールした事があったかな?」

「……」

「君にも感謝しているよ、白のゼノンザードスピリットを使ってくれたからね」

「黙れ、下衆が」

「oh、手厳しい」

 

 

今まで自分はこんな奴のために戦わされていたのだと思うと、胸糞悪いが過ぎる。

 

物陰に隠れていた時は恐怖から指先が震えていたが、今こうして対面すると、それが怒りへと変換されて行くのが伝わって来て………

 

 

「オレが、早美アオイを虐めた奴だ。かかって来いよ、改造人間」

「獅堂レオン、君が……」

 

 

レオンは己のBパッドを取り出し、それを左腕にセットした。その構えた先には、ソラがいる。

 

 

「そんなに界放リーグで負けた事を根に持っていたのか、陰湿な奴め。僕の姉さんを虐めた罪は重い、死を待って償ってもらう」

「上等だ」

「エクセレント。面白くなって来ましたね」

 

 

ソラもまたBパッドを取り出し、それを左腕にセット。さらには全てのゼノンザードスピリットが詰め込まれた己のデッキを、そこへと装填。

 

恐ろしさを助長するかの如く、途方もない闇のエネルギーが辺り一体に散らばり始める。

 

 

「何故オレ達のために戦ってくれるのだ獅堂レオン!?」

「勘違いするな。これはオレ自身のため、オレがオーカミを超えるために戦うのだ、大人しくそこで見ていろ」

 

 

レオンもまた、デッキをBパッドへと装填する。

 

そして見向きもせず、口を開き………

 

 

「早美アオイ」

「!」

「貴様の罪は確かに重い。だが、周りをよく見ろ、まだ貴様の仲間でいてくれる奴はいるぞ」

「………レオン君」

 

 

レオンがアオイに対し、そう告げると、フグタがアオイに寄り添う。

 

暖かいその温もりに、彼女はまた一筋の涙を溢した。

 

 

「もう準備はできたろ、早く来いよ、なけなしの絶対王者。僕はオマエを、絶対に殺す」

「あぁ、やれるものならやってみるがいい。傀儡に見せつけてやる、我が魂をな」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

「アッアッア、これはまた良いデータが取れそうだ」

 

 

アオイとフグタ、そして今までずっとDr.Aに扮していた嵐マコトが見守る中、獅堂レオンと早美ソラ、2人のバトルスピリッツがコールと共に幕を開ける。

 

先攻はソラ。ゼノンザードスピリットを操るための傀儡となった、彼のターンだ。

 

 

[ターン01]早美ソラ

 

 

「メインステップ。創界神ネクサス2枚「アイリエッタ・ラッシュ」と「アッシュ・クロード」を配置」

 

 

ー【アイリエッタ・ラッシュ】LV1

 

ー【アッシュ・クロード】LV1

 

 

「……なんだ、あの創界神」

「僕だけの特注品さ。配置時の神託をそれぞれ発揮、2種の創界神にコアを1つずつ追加。ターンエンドだ」

手札:3

場:【アイリエッタ・ラッシュ】LV1(1)

【アッシュ・クロード】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

ソラは未知なる2枚の創界神ネクサスを配置し、そのターンをエンド。

 

勝利し、少しでもオーカミに追いつくため、レオンのターンが始まる。

 

 

******

 

 

場面は変わり、ジークフリード区の線路を走る電車の中。

 

その座席に座るのは、アルファベットとヨッカ。向かう先は当然アビス海岸。

 

 

「……それは本当なのかよ、アルファベットさん」

「あぁ、先ず間違いないだろう。今のDr.Aは、奴の名を語るだけの別人だ」

「信じられねぇ、確かに包帯ぐるぐる巻きで顔は全くわからなかったけど」

 

 

アルファベットが、ヨッカにDr.Aの正体について話す。

 

Dr.Aもとい徳川暗利と言うマッドサイエンティストだが、今暗躍しているDr.Aは、その徳川暗利とは別の人物であると言う。

 

 

「つか、何でそんな事わかったんすか」

「少し前に、7年前に奴が使っていた研究所を漁った」

「え、何そんな場所知ってたんなら早く教えてくださいよ」

「教える必要はないと判断した。そこに奴はいなかったからな、それどころか埃まみれで、人が出入りしているようにも見えなかった」

「……成る程、頻繁に出入りするなら、部屋は埃っぽくならない。今のDr.Aは、昔のDr.Aとは別人だから、その研究所の場所がわからない、もしくはそもそも知らなかったって事か」

「あぁ、それにオマエが捕らえられた日、救出に向かう前日に一度、奴と接触した事がある」

「!」

「その時奴は『もう一歩の所で世界を滅ぼす所まで来たと言うのに』と語った」

「……何かおかしいんですか?」

「史実において、奴は世界を滅ぼしかけた怪物として語られている。しかし本来の目的は『オーバーエヴォリューション、進化の力によって、世界を進化させ救う』事だ。この考え方の相違が決定打となった。今の奴は間違いなく別人だ」

「………」

 

 

ここまでがアルファベットの推理。と言うよりも推測に近い。

 

電車が小刻みに揺れる中『Dr.A=徳川暗利』と言うヨッカの固定概念が崩れ去る。もしそれが本当なのであれば、師匠である春神イナズマを誘拐したのもそのDr.Aを名乗る人物と言う事になるからだ。

 

 

「でも一体誰がDr.Aの名を語ってまで、何の目的で!?……どうしてイナズマ先生を」

「残念だが、目的まではわからない。だが、正体はおそらく奴だ」

「奴って……!?」

 

 

今のDr.Aの正体を朧げに断定しているアルファベット。

 

ヨッカに少しずつヒントをあげながら、その正体に迫っていく。

 

 

「考えても見ろ。奴は早美アオイに接触した、そして早美アオイの目的は弟であるソラの病気を完治する事だ」

「お、おう……何もわからん」

「これは飽くまで勘だが、奴は相当な卑劣漢だ。早美アオイを裏切り、最後には絶望感を与えるために、身内事情や心の内の情報を得るべく、先ずは彼女にとって、身近な場所へ身を置くに違いない」

「……?」

「ここまで言ってまだわからんのか」

「あぁ、いやオレはアルファベットさんとかライとかと違ってそう言うのは……何、まさかオレも知ってる人なんすか?」

 

 

ヒントを与え続けても正体に気付かないヨッカに、飽くまで推測だが、アルファベットは遂にDr.Aに扮している人物を明かす。

 

 

「嵐マコト」

「!!」

「推測だが、奴が今のDr.Aだ。そしてこの推測は、十中八九的中している」

「マコト先生、なんで!?……あの人まだ40そこらって、Dr.Aはどう見ても70越えの老体だったぞ」

「それを隠すための包帯だろう。声もおそらく加工していた」

 

 

頭の中に直接雷が落ちて来る程の衝撃的な内容だった。

 

オーカミやヒバナの件などで、少し仲良くなっていたヨッカにとっては辛いに違いない。

 

 

「昨日わかった事だが、奴は昔、春神イナズマと同様、Dr.Aの助手をしていた」

「ッ……!?」

「細かな詳細は判明していないが、理由はおそらくそこにある」

「だったら病院に行って、直接事情を聞いた方がいいんじゃ」

「とっくにそうしたさ。しかし既にもぬけの殻。しかも早美ソラ事消えていると言うオマケ付きだ」

「!!」

「故に先ずは早美アオイと接触する。気を引き締めて行け、この事件、一筋縄では行かないぞ」

 

 

電車が途中の駅に停まり、扉が開く。

 

この時、アルファベットの推理がほぼ全て的中していて、アビス海岸が大いに荒れていた事を、まだ2人は知らなくて………

 

 

******

 

 

「ヒバナちゃァァァァん!!…よかったよ無事でぇ、よかったよかったよ〜〜!!」

「あっはは、ありがとうライちゃん」

 

 

ヒバナのいる病院。オーカミとの会話中、いきなり病室の扉が開いたと思ったら、涙目のライがヒバナの胸元に勢いよく飛び込んで来た。

 

ヒバナはライの頭の上に手を置き、そっと撫でる。

 

 

「まさか意識不明の重体になってたなんてビックリだよ、いや〜ホントよかったよかった」

「オマエ、さっきからそれしか言ってないな」

 

 

バトスピアイドルのライブ以降、歳の近い女子同士と言う事もあって仲良くなっていたヒバナとライ。

 

ヒバナが、ゼノンザードスピリットによって病院送りになってしまったのは知らないが、少なくとも心配する気持ちは本当だ。

 

 

「で、何か用があって来たんじゃないの」

 

 

オーカミがライに訊いた。そもそもライがここに来たのは、オーカミのBパッドに連絡を入れたからだ。

 

 

「あぁそうだった。ごめんヒバナちゃん、ちょっとこの赤チビ借りてくわね」

「あ、うん。いいよ」

「おい、袖引っ張んな」

 

 

ライがヒバナにそう告げると、オーカミの深緑色のパーカーの袖を引っ張りながら病室を出る。その様子を見届けたヒバナは「最近あの2人仲良いな〜」と内心で呟く。

 

 

「アルファベットさんからメール、来たんだよね」

「あ?」

 

 

西陽差し込んで来る病院の通路。ライが自分のBパッドに来たアルファベットのメールをオーカミに見せる。

 

そのメールには『今回の事件について話したい事がある、今から鉄華と共にアビス海岸に来い』と書かれていた。

 

 

「アルファベットからメール………アビス海岸に来いって、ここから結構近いけど、なんか急だな」

「それなぁ。でもそれっきりメール返信来ないし、無視するわけにも行かないから、取り敢えず行かない?」

「……」

「どったの」

「いや、何にも。じゃあ行くか」

 

 

アルファベットからの突然のメール。

 

オーカミはそのメールに微々たる違和感を感じるが、それの答えを考えていてもしょうがないと割り切り、ライと共にアビス海岸へと向かう事にした。

 

 

******

 

 

一方、レオンとソラがバトルしているアビス海岸。

 

曇天が蔓延り、波が打ち寄せ、飛沫を上げる中、レオンの第2ターンが始まる。

 

 

[ターン02]獅堂レオン

 

 

「メインステップ、コアスプレンダーをLV2で召喚」

 

 

ー【コアスプレンダー】LV2(3)BP3000

 

 

「召喚時効果、2枚オープンし、その中の対象カードを加える。オレはザクウォーリアを手札へ」

 

 

レオンのフィールドに出現するのは、戦闘機型のスピリット、コアスプレンダー。その召喚時効果でレオンは手札を増やす。

 

 

「アタックステップだ、コアスプレンダーでアタック。フラッシュタイミングで【零転醒】を発揮。1コストを支払い、裏側のインパルスガンダムへと転醒!!」

 

 

ー【インパルスガンダム】LV1(2)BP4000

 

 

アタックステップに突入し、コアスプレンダーでアタックの宣言を行うレオン。

 

コアスプレンダーを核とし、モビルスピリットのパーツが次々と装着。ガンダムの名を持つ強力なモビルスピリットの1種、インパルスガンダムへと姿を変える。

 

 

「インパルスとなっても、アタックは継続だ」

「受けるよ、ライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉早美ソラ

 

 

インパルスガンダムは手に持つビームガンからビームを照射。ソラのライフバリア1つを貫く。

 

 

「ターンエンド。後4つ、直ぐに砕いてやる」

手札:5

場:【インパルスガンダム】LV1

バースト:【無】

 

 

「生意気だね、界放リーグでオーカミに負けそうになったくせにさ」

 

 

最初のターンで2種の創界神を配置したソラに対し、レオンは手札増加とアタック。

 

互いにアドバンテージを一通り取りつつ、バトルは一周し、3ターン目。再びソラのターンへと移って行く。

 

 

「……フグタ、私は間違っていたのでしょうか。いや、間違っていましたね。Dr.A、嵐マコトから誘いを受けた、あの日から」

「お嬢」

 

 

バトルが進んで行く中、心に暗い闇が蔓延するアオイが、執事であるフグタに訊いた。

 

きっと、自分の思っている事を言葉にしないと辛いのだろう。誰かの前で本心を口にしないと、身体の震えが止まらないのだろう。

 

 

「そりゃそうだ、オレ達はやり過ぎた。もう一回頭を下げただけじゃ、取り返しがつかない所まで来ちまった」

「……」

「でも獅堂レオンも言ってたろ。まだお嬢の味方でいてくれる人もいる、オレはその1人だ」

「……フグタ」

「やり直そうお嬢。坊ちゃんを取り戻したら、必ず責任の取り方を一緒に考えるぞ」

 

 

止められなかった自分にも責任があると感じているフグタ。窄んだアオイの肩にそっと手を置き、寄り添う。

 

 

[ターン03]早美ソラ

 

 

「メインステップ。緑のスピリット、エイプウィップをLV1で召喚」

 

 

ー【エイプウィップ〈R〉】LV1(1)BP1000

 

 

「先ずは2種の創界神に神託。そして召喚時効果でコア1つをリザーブへブースト、さらに召喚コストにソウルコアを使用していたなら、追加でコア2つをトラッシュへブースト」

「ッ……一気に3つもコアブーストだと」

 

 

ソラは、その身に木々の力を宿す4本腕の猿型のスピリット、エイプウィップを召喚。

 

効果により累計3つものコアを増やした。

 

 

「その程度で驚くようじゃ、この先持たないよ。バーストをセットし、緑マジック、ネオ・ハンドリバースを発揮。コスト確保のため、エイプウィップは消滅。効果により、残った1枚の手札を破棄、新たに3枚のカードをドロー」

 

 

維持コア不足により、エイプウィップが消滅したものの、その見返りは大きい。

 

ソラは新たに3枚のカードをデッキからドローした。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【アイリエッタ・ラッシュ】LV1(2)

【アッシュ・クロード】LV1(2)

バースト:【有】

 

 

「………」

 

 

コアと手札を増やし、盤面を整える。

 

この戦法から繰り出される戦略の答えは、間違いなく強力なスピリットの召喚。しかもそれはほぼゼノンザードスピリットで確定。レオンはそれを理解した上で巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン04]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。母艦ネクサス、ミネルバをLV2で配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV2(1)

 

 

「配置時効果、3枚オープンし、今度はシン・アスカを手札に加える」

 

 

レオンの背後に配置される母艦、ミネルバ。レオンのデッキカテゴリである「FAITH」のカードを回収できるその効果で、今回はパイロットブレイヴである「シン・アスカ」が彼の手札へと加えられた。

 

 

「さらにザクウォーリアをLV1で召喚」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

「アタックステップ、再びインパルスでアタックする」

 

 

2体目のモビルスピリット、歩兵的存在のザクウォーリアが召喚すると、アタックステップへと直行。インパルスがビームガンをソラに向ける。

 

 

「ライフだよ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉早美ソラ

 

 

ビームによりまたソラのライフバリアが貫かれる。

 

バトルは順調にレオンが優勢となって行くが、それを妨げるかの如く、ソラは前のターンに伏せていたバーストカードを反転させる。

 

 

「ライフ減少によるバースト、選ばれし探索者アレックス」

「!」

「効果によりこれを召喚。さらに君のこのターンのアタックステップは、終了になる」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1(1)BP4000

 

 

「ついでに創界神達の神託も発揮させてもらうよ。これでそれぞれ3個ずつ、LV2にアップだ」

 

 

フードを深く被った人型のスピリット、アレックスがバースト効果によりソラのフィールドへと召喚される。

 

さらに、その手に持つ杖の先から波動を飛ばし、レオンのアタックステップを強制終了へと追い込む。

 

 

「……ターンエンドだ」

手札:5

場:【インパルスガンダム】LV1

【ザクウォーリア】LV1

【ミネルバ】LV2(1)

バースト:【無】

 

 

致し方なくそのターンはエンドの宣言で見送るレオン。

 

互いに場と手札が温まり、バトルは中盤へと差し掛かる。

 

 

[ターン05]早美ソラ

 

 

「メインステップ。先ずはアレックスの効果だ、疲労させて1枚ドロー」

 

 

ターンの開始早々、ソラはアレックスの第二の効果を発揮。アレックスを疲労させ、アタックもブロックもできなくなった代わりに、追加で1枚のカードをドローする。

 

 

「おい、どう言う状況だよ、コレ」

「!」

「来ましたか、九日ヨッカ……め、アルファベット」

「嵐マコト……やはりオマエが主犯か。しかし何故レオンが早美ソラとバトルを……?」

 

 

遅れてヨッカとアルファベットが、アビス海岸に到着。

 

嵐マコトが主犯である事は予想できていたものの、今行われているバトルは想定外だった様で、レオンの存在が、アルファベットの思考を鈍らせる。

 

 

「九日、アルファベットさん。奴はソラ坊ちゃんを改造して、全てのゼノンザードスピリットを操らせてるんだ」

「全てのゼノンザードスピリット!?……どう言う事なんだよマコト先生、どうしてアンタがこんな事を」

 

 

フグタがこの状況を説明し、抽象的にも現状を理解したヨッカは、切羽詰まった様子で嵐マコトに問うた。

 

 

「アッアッア。わからないだろうね、君みたいな超がつく程の凡人には」

「……アンタはホントにDr.Aだったのか、なら何でイナズマ先生を……!!」

「そう。私はDr.Aだった、そしてもうすぐ、私は奴をも超越する、エクセレントな存在となるのだ」

「……!?」

 

 

嵐マコトは不気味な笑みを浮かべる。

 

掴みどころのないその言葉と表情が、ヨッカを黙らせた。

 

 

「九日ヨッカ、それにアルファベット。この件はオレがバトルで勝てば問題のない話だ。大人しくそこで見ていろ」

「……レオン」

「さぁ続けるぞ早美ソラ。そろそろ奴らを出して来る頃合いだろ?」

 

 

レオンはそう告げ、皆の意識を自分らのバトルへと向けさせた。

 

そしてソラのメインステップ。増えた手札とコアを使い、レオンの予測通り、あのスピリット達を展開して行く。

 

 

「何勝手に、僕に勝つ気でいるんだ。ムカつく奴、オマエみたいな奴がいるから、姉さんみたいな優しい人達が虐げられるんだ!!」

「なら、オレを虐げてみろ」

「言われなくても!!……創界神ネクサス、アイリエッタのLV2【神域】の効果。自身を疲労させ、ゼノンザードスピリットを召喚するコストを2下げる」

「なに!?」

「さらにもう1つ、アッシュも同様の効果を発揮する、これでゼノンザードスピリットを召喚するコストは、4下がる!!」

 

 

ソラの配置した2枚の創界神ネクサスは、ゼノンザードスピリットの召喚をサポートするためのカードだった。

 

これを活かし、ソラは手札にあるゼノンザードスピリット1枚を己のBパッドへと叩きつけた。

 

 

「司るは赤。ゼノンザードスピリット、オリジンズ02・アロンダイをLV2で召喚!!」

 

 

ー【「オリジンズ02」アロンダイ】LV2(3)BP12000

 

 

落雷した赤き稲妻の先に出現したのは、要塞を思わせる形容をした、ゴーレム。赤のゼノンザードスピリット「アロンダイ」…………

 

2種の創界神ネクサスの効果と軽減シンボルにより、僅か4コストでの召喚だ。

 

 

「赤のゼノンザードスピリット、ヒバナを苦しめたカードを、今度は早美ソラが」

「あぁ、懐かしいね。疑われないために適当な赤のデジタルスピリットに擬態させてたっけ」

 

 

ヨッカと嵐マコトが、それぞれ赤のゼノンザードスピリットであるアロンダイに対して感想を溢す中、ソラはそれの召喚時効果を発揮させる。

 

 

「アロンダイの召喚時効果、デッキ上2枚のカードを、コスト1、BP1000、シンボル赤1つのスピリット、オリジンズとし、僕のフィールドに呼ぶ」

 

 

ー【オリジンズ】LV1(1)BP1000

 

ー【オリジンズ】LV1(1)BP1000

 

 

アロンダイはその剛腕を大地へと伸ばし、体内に眠るマグマの力をそこへ注ぎ込む。すると、熱された大地の中よりアロンダイによく似た小型ユニットが一気に2体展開される。

 

 

「赤のゼノンザードスピリット、追加でスピリットを2枚も展開する力を備えているのか」

「そうだよ。そして、それだけじゃない……アタックステップ、アロンダイでアタック」

 

 

アタックステップに突入するソラ。このタイミングでアロンダイの第二の効果が発揮される。

 

 

「アロンダイの更なる効果。このターンの間、僕のスピリットがブロックされた時、君のライフ1つを砕く」

「ッ……ライフ貫通効果か!?」

 

 

レオンのライフバリア目掛けて突き進むアロンダイ。その力により、レオンは必ずライフを破壊される状況に追い込まれる。

 

 

「この効果は僕のスピリット全域に広がる。展開された2体のオリジンズと合わせて3つのライフを貰うよ」

「……いや、そうはいかない。ここはザクウォーリアでブロックする」

「?」

 

 

アロンダイの進撃を、ザクウォーリアが受け止める。

 

だがその瞬間、アロンダイの発揮していた効果が、ブロックの宣言をしたレオンを襲う。

 

 

「聞いてなかったの?……ブロックしたら、ライフは破壊されるんだって」

「あぁ、わかってる……ッ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉獅堂レオン

 

 

「ぐっ……ぉぉぉお」

「レオン!!」

 

 

アロンダイの溶岩のような身体から発せられる熱が飽和し、レオンのライフバリア1つを焼き尽くす。

 

ゼノンザードスピリット使いが与える痛みが、レオンを苦しませ、アルファベットを叫ばせる。

 

 

「この程度、どうと言う事はない。母艦ネクサス、ミネルバのLV2効果。2コストを支払い、相手のコスト3以下のスピリット全てを手札に戻す」

「!」

「オリジンズのコストは1。全滅してもらうぞ」

 

 

ミネルバの上から1つと、ライフで受けて増えたリザーブのコア1つずつを使い、ミネルバのLV2の効果が発揮。

 

ミネルバのあらゆる箇所から無数のホーミングミサイルが射出。アロンダイから展開された2体のオリジンズは、それに被弾し、粒子化。たちまちこの場から消滅した。

 

 

「チッ……オリジンズは手札に戻る時、破棄される。だけどまだ終わってないよ、アロンダイとザクウォーリアのバトルは、当然アロンダイの圧勝だ」

 

 

フィールドで取っ組み合っているアロンダイとザクウォーリア。

 

奮闘するザクウォーリアだが、それも虚しく、アロンダイの剛腕に捻り潰される。

 

 

「ザクウォーリアの破壊時効果、トラッシュにコア1つを追加し、カードは手元に移動する」

「……ターンエンド」

手札:4

場:【「オリジンズ02」アロンダイ】LV2

【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1

【アイリエッタ・ラッシュ】LV2(4)

【アッシュ・クロード】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

母艦ネクサス、ミネルバの効果により、攻め手を失ったソラ。

 

レオンに対する怒りを、静かに募らせながら、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン06]獅堂レオン

 

 

「ドローステップ……ここで来てくれるか、我が魂よ」

「アッアッア、どうやら良いカードを引けたようだ」

 

 

このターンのドローステップ。レオンはドローカードを視認するなり目の色を変える。彼に「我が魂」とまで呼ばせるカードは、この世でたった1枚しか存在しない。

 

 

「メインステップ、手元にいったザクウォーリアを再度召喚する」

 

 

ー【ザクウォーリア】LV1(1)BP2000

 

 

ザクウォーリアは破壊されても何度でも蘇る。再びレオンのフィールドへと帰って来た。

 

 

「そして、マジック「アンタは俺が討つんだ! 今日! ここで!!」を使用。赤のゼノンザードスピリットをデッキの下へ」

「ッ……アロンダイがデッキの下!?」

 

 

レオンの放った1枚のマジックカードにより、ソラのフィールドに佇むアロンダイが粒子化。そのまま消滅し、カードがデッキの下へと戻された。

 

白デッキにおいて、今のようにスピリットを一撃でデッキ下に沈めるカウンター除去カードは多数存在するが、レオンのこのマジックに関して言えば、更なる追加効果が存在して………

 

 

「この効果でBP11000以上のスピリットをデッキ下に送った時、手札にある系統「FAITH」を持つカード1枚をノーコストで召喚、配置、使用する。運命をも覆す、我が魂!!……デスティニーガンダムをノーコスト召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV2(2)BP15000

 

 

「これが、デスティニーガンダム」

 

 

光の翼を持つ、超大型のモビルスピリットにして、レオンの魂、デスティニーガンダムが、腕を組み、彼のフィールドへと降り立つ。

 

界放リーグなどの大きな大会に憧れがあったソラ。レオンとこんな形でバトルさえしていなければ、鋭い剣幕など見せず、大いに喜んでいた事だろう。

 

 

「凄いな、ゼノンザードスピリットを倒しつつ、デスティニーを召喚したぞ」

「フ……そりゃそうだ。何せ、レオンなのだからな」

「いや、アルファベットさん、何で誇らしげなんすか」

 

 

ヨッカが何故か鼻の高いアルファベットにツッコミを1つ入れると、バトルはレオンのアタックステップへと移行して行く。

 

 

「アタックステップ。デスティニーでアタック、その効果で貴様の場のアレックスを破壊し、そのシンボル分ライフを破壊する」

「……!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉早美ソラ

 

 

上空に飛び立つデスティニー、手に持つビームランチャーから極太のビームを照射し、地上にいるアレックスを爆散させる。

 

さらに、その爆発の余波は、ソラのライフバリア1つを砕いた。

 

 

「流石に強い効果だね、だけど好きにはさせない。僕のライフが減った時、その数が3以下なら、このマジック、シックスブレイズはノーコストで使用できる」

「!」

「効果によりBP12000まで好きなだけ破壊。インパルスとザクウォーリアを破壊し、さらにその効果は発揮されない」

 

 

ライフの減少に反応し、ソラは1枚のマジックカードをBパッドへと叩きつける。

 

彼の背後から飛び出して来る6つの火炎弾が、レオンのフィールドに存在するインパルスガンダムとザクウォーリアを焼き尽くす。本来、破壊されれば、2体の効果が発揮されるのだが、今回はマジックの効果により、それは叶わなかった。

 

 

「ハハッ……これで残ったのはデスティニーだけだね」

「フン、デスティニーさえ残れば十分だ。フラッシュ、ミネルバを疲労させ、デスティニーの効果を発揮、自身を回復させる」

 

 

負け時とデスティニーガンダムの効果を発揮させるレオン。

 

これにより、デスティニーガンダムはこのターン中、二度目のアタックが可能となり、残り2つとなったソラのライフバリア全てを砕ける状況が完成した。

 

 

「それも無駄だ。フラッシュアクセル、己械人シェパードール」

「!?」

「これにより、このターンの間、僕のライフはコスト4以上のスピリットのアタックでは減らされない。デスティニーのアタックはライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉早美ソラ

 

 

ソラのライフバリア前方に展開される、半透明のシールドが、デスティニーの砲撃や斬撃などの全攻撃を遮断する。

 

 

「どう?……これでこのターンは決め切れないでしょ」

「くっ……オレのターン、エンドだ」

手札:4

場:【デスティニーガンダム】LV2

【ミネルバ】LV1

バースト:【無】

 

 

そのターン中は残り続ける、厄介極まりないシェパードールのシールドを前に、レオンは致し方なくそのターンをエンドとする。

 

次は再びソラのターン。握っている2枚の手札の中には、既に新たなゼノンザードスピリットが確認でき………

 

 

[ターン07]早美ソラ

 

 

「メインステップ、アイリエッタとアッシュの【神域】を再び発揮。召喚するゼノンザードスピリットのコストを4下げる」

「またそれか」

「司るは白。百獣ヴァイスレーベをLV3で召喚!!」

「!?」

 

 

ー【「百獣」ヴァイスレーベ】LV3(6)BP18000

 

 

突如として立ち込める猛吹雪、それを一度の雄叫びで掻き消す、気高き機獣、白のゼノンザードスピリット、ヴァイスレーベがソラのフィールドへと足を踏み入れ、レオンと対峙する。

 

 

「……ヴァイスレーベ」

「アッアッア、君にとっては、かなり思い入れのある1枚だろレオン君」

 

 

嵐マコトがレオンにそう告げて来た。

 

レオン自身、こうなる事は覚悟の上でのバトルではあった。だが、今こうして対面していると、指先の震えが止まらない。

 

ヴァイスレーベから流れ出る黒いオーラを見る度に、如何に自分が愚か者であったのかを痛感させられる。

 

 

「あぁ、そうだな。オレの黒歴史の1つだ、だが、オレは今からそれを倒し、過去を乗り越える」

「アッアッア、カッコいい事言うね」

 

 

震える指先を抑え、堂々の宣言をするレオン。

 

そして彼を、その宣言ごと噛み砕かんと、ヴァイスレーベを操るソラのアタックステップが幕を開ける。

 

 

「アタックステップ、ヴァイスレーベでアタック!!……このアタックは可能ならブロックしなければならない」

「……」

「君のデスティニーはBP15000、対して僕のヴァイスレーベは18000。この勝負は貰った!!」

 

 

雄叫びを上げながら、デスティニーの元へと駆け抜けていくヴァイスレーベ。このまま放っておけば、デスティニーはヴァイスレーベによって破壊され、さらにレオンはライフとミネルバをも失ってしまう。

 

当然、そんな状況下に身を置く訳にはいかない。レオンは過去の異物であるヴァイスレーベを屠るべく、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック「アンタは俺が討つんだ! 今日! ここで!!」を使用!!」

「ッ……2枚目!?」

「コレにより、白のゼノンザードスピリット、ヴァイスレーベをデッキ下へ」

 

 

まさかの2枚目の除去カード。ヴァイスレーベはたちまち粒子化してしまい、先のアロンダイと同様にデッキの下へと送られる。

 

 

「さらに追加効果だ。BP11000以上のスピリットを戻した時、手札にある系統「FAITH」を持つカード1枚をノーコストで召喚、配置、使用する。パイロットブレイヴ、シン・アスカをノーコスト召喚し、デスティニーと直接合体!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム+シン・アスカ】LV2(2)BP20000

 

 

デスティニーガンダムは、モビルスピリット専用のブレイヴ、パイロットブレイヴと合体し、その力をさらに増加させる。

 

 

「……ターンエンドだよ」

手札:2

場:【アイリエッタ・ラッシュ】LV2(5)

【アッシュ・クロード】LV2(5)

手元:【己械人シェパードール】

バースト:【無】

 

 

レオンの強烈なカウンターカードにより、攻め手を失ったソラは、すぐさまそのターンをエンド。残りライフ2の状態でターンを明け渡す。

 

 

「なんて子なの、この局面でゼノンザードスピリットを糧にして、デスティニーガンダムを強化させるなんて」

「これならあるぜお嬢。獅堂レオンなら、今の坊ちゃんにも絶対勝てる!!」

 

 

オーカミと三度目の激突をした直後から止まらぬ、獅堂レオンの急成長。

 

今の彼の強さなら、必ず坊ちゃんを救ってくれると、フグタは微かな希望を抱きながら、そんなレオンのターンが巡って来る。

 

 

[ターン08]獅堂レオン

 

 

「メインステップ、デスティニーとミネルバのLVを最大までアップ。そしてアタックステップ、我が魂、デスティニーでアタック!!」

 

 

LVが最大の3まで上昇し、ブレイヴとの合体と合わせてBP28000にまで及ぶデスティニー。

 

さらにこの瞬間、合体したシンの効果も発揮されて………

 

 

「シンの【合体中】アタック破壊時効果、デッキ上1枚をオープンし、それが系統「ザフト」「FAITH」を持つカードなら、召喚、配置、使用できる」

 

 

アタック直後に、一筋の閃光と共にカードを引くレオン。そのカードを視認するなり、それをBパッドへ叩きつける。

 

 

「オレが引いたのは、創界神ネクサス、ギルバート・デュランダル。よってこれを配置する!!」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV1

 

 

「配置時の神託。対象カードは3枚、よってコアを3つ追加する」

 

 

止まらない豪運、止まない轟音。

 

この圧倒的優勢な状況から、さらに追い討ちをかけるように、レオンは絶対王者だと言わしめた、かつての引きの強さを取り戻して行く。

 

 

「貴様のライフは残り2つ。それに対し、我が魂のシンボルもブレイヴとの合体により2つ……コレで決める!!」

「……」

 

 

ダブルシンボルとなったデスティニーガンダムの手に持つビームランチャーから、再び極太のビーム攻撃が照射される。

 

ソラがこれを諸に食らえば、そのライフは0となり、レオンの勝利となるが、果たして…………

 

 

 






次回、第45ターン「最凶のゼノンザードスピリット」



******


今回、文字数の関係で途中で話を切らざるを得ず、やむなくサブタイトルを変更致しました。


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第45ターン「最凶のゼノンザードスピリット」

曇天蔓延り、波が打ち寄せ合う、ジークフリード区、アビス海岸。

 

Dr.Aに扮していた嵐マコト、早美アオイにフグタ、さらには九日ヨッカ、アルファベットが見守る中、獅堂レオンと早美ソラのバトルスピリッツが続く。

 

 

******

 

 

「貴様のライフは残り2つ。それに対し、我が魂のシンボルもブレイヴとの合体により2つ……コレで決める!!」

「……」

 

 

ダブルシンボルとなったデスティニーガンダムの手に持つビームランチャーから、再び極太のビーム攻撃が照射される。

 

ソラのフィールドのスピリットは0。この一撃が通れば、レオンの勝利となるが………

 

 

「フラッシュアクセル、己械人シェパードール」

「ッ……2枚目!?」

「このターンの間、コスト4以上のスピリットのアタックではライフは減らない。デスティニーのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉早美ソラ

 

 

ソラのライフバリアの前方に展開される半透明のシールドが、デスティニーのビーム攻撃を弾き返す。

 

 

「アイツ、まだ手札に防御札を……!?」

「だが、レオンのフィールドは盤石だ。返しのターンで敗北する事は先ずないだろう」

 

 

ヨッカとアルファベットがそう言葉を溢す。

 

アルファベットの言う通り、レオンのフィールドはパイロットブレイヴとの合体で最大限のパフォーマンスを見せるデスティニーガンダムに加えて、それの回復の元になるネクサスが2枚、オマケにライフは残り4もある。これを盤石を期していると言わずして、何と呼ぶか。

 

 

「アタックステップの終了時、ギルバートの【神技】……ギルバートのコア3つを消費し、オレはドローステップを行い、カードをドロー。ターンエンドだ」

手札:4

場:【デスティニーガンダム+シン・アスカ】LV3

【ギルバート・デュランダル】LV1(0)

【ミネルバ】LV2

バースト:【無】

 

 

このバトルでは2枚目となるシェパードールのシールドに阻まれ、レオンは無念のターンエンド。

 

だが、誰が見ても自分が優勢なのは明らか。その眼差しは勝利への眺望に満ちている。

 

 

「ソラ?」

「ちょいちょい、コレどう言う状況なわけ?」

「ッ……ライ!?……それにオーカ、なんで!?」

 

 

ターンが切り替わる直前、鉄華オーカミと春神ライもようやくこのアビス海岸に到着した。

 

彼らの登場に、一番驚いたのは他でもない、2人を危険な目に遭わせたくないヨッカ。

 

 

「なんでオマエ達がここにいる」

 

 

アルファベットがオーカミとライに訊いた。

 

 

「え、アルファベットさんがメールでここに来いって言ったんじゃん」

「なに?」

「テメェ、もう2人を巻き込むなって言ったそばから」

「……」

 

 

情報の食い違いが発生する。オーカミとライは、アルファベットのメールのメッセージによりこのアビス海岸へと赴いたのだが、当の本人はそんなメールは心当たりがなさそうだ。

 

 

「あぁ、そのメール。私が偽装した物ですよ。よくできてるでしょ?」

「え……病院の先生?」

「やぁ春神ライちゃん。この間のバトルは楽しかったね」

「はぁ!?……ライオマエ、アイツとバトルしたのか!?」

「えと、うん、ちょこっと」

「大丈夫だったのか、何もされてないか!?」

「何もないって、バトルしただけなんだから」

 

 

界放リーグの直後に嵐マコトと言う医者と、病院の屋上でバトルした事を思い出すライ。彼の口振りや、ヨッカの慌て様から直感的に、この状況で最も危険な人物である事を理解した。

 

そしてそれは、オーカミも同じであり………

 

 

「獅堂とソラ……」

「早美ソラ、奴は今、そこにいるDr.A、嵐マコトによって全てのゼノンザードスピリットを操る肉体に改造されてしまった、怪物だ」

「!」

「だがオレが勝ち、本物の奴を取り戻す。そしてもっとオマエに追いついて見せるぞ」

 

 

オーカミとレオンがそう会話する。

 

要所要所でわからない事があるものの、オーカミは、ソラが目の前の医者のせいで何かに巻き込まれている事だけは完全に理解して………

 

 

「一度のバトルで防御札を3枚も引き込むとは、運の強い奴だ。だが次はない、圧倒的王者の轟音を、貴様の耳に響かせてやる」

「なに、まさかもう勝った気でいるの?」

「ソラ君、そろそろ君の本気、彼に見せてあげたらどうかな?」

 

 

嵐マコトがソラにそう告げると、彼はそれに頷き、一度瞼を閉じる。

 

 

「はい、先生」

「!?」

 

 

次に開眼させると、その瞳孔は赤く輝き、血の涙が頬を伝うかのように、赤い線が浮かび上がる。

 

 

「こ、コレは……」

「うむ、実にエクセレント」

 

 

目の前で雰囲気が変わるソラに、レオンは驚愕するが、その赤い輝きは誰よりも知っている。

 

それはバトルスピリッツの未来を見透す、神秘の力だ。

 

 

「王者……奴は自らの意思でその領域に踏み込む事ができるのか?」

「レクス?」

 

 

アルファベットの口から出た「王者」と言う聞き慣れない単語に、ヨッカが疑問符を浮かべる。

 

そう、これは「王者」………

 

鉄華オーカミや春神ライが偶発的に使用できる、使用者を必ずバトルに勝利させる天下無敵の能力。肉体を嵐マコトに改造されたからか、今のソラは、この力を偶発的ではなく、意図的に使用できるようだ。

 

 

「君の敗北の未来は見えた。懺悔の用意をするなら、今のうちだよ」

「決めゼリフはそれだけか?」

「……」

「貴様がオレの敗北を見たと言うなら、オレはその未来ごと、撃ち砕くまでだ」

「砕けるかよ、クズが」

 

 

今まで二度、その力に完敗を続けて来たレオン。

 

だが、己の弱さを知った今の自分なら、必ず乗り越えられる。そう信じ、彼はソラのターンに構え、手札を強く握る。

 

 

[ターン08]早美ソラ・王者

 

 

「メインステップ、アイリエッタとアッシュ、2枚の創界神ネクサスを疲労させ、次に召喚するゼノンザードスピリットのコストを4軽減。僕はコレを召喚する」

 

 

ソラが2枚になった手札の中から1枚を引き抜き、Bパッドへと叩きつける。

 

そのカードこそ、ソラの真の切り札。全てのゼノンザードスピリットをも凌駕する、王者。

 

 

「司るは闘。この世の全ての争いを統べる、闘いの荒神!!……九神龍アラバスター!!……LV3で召喚」

 

 

ー【九神龍「闘」アラバスター】LV3(6)BP30000

 

 

眼前の大海を蒸発せんとする程のマグマの一柱が立ち上がると、その中より1体の巨龍が爆音の咆哮を張り上げ、飛び出す。

 

その名は九神龍アラバスター。全てのゼノンザードスピリットの頂点に君臨する、絶対王者。それが今、ソラのフィールドへと羽を休め、4本の脚で大地を踏みしめる。

 

 

「コイツは、なんだ!?……BP30000、合体したデスティニーをも凌駕するだと」

「これが僕のゼノンザードスピリット、最凶のアラバスターさ。アタックステップ、アラバスターでアタックする!!……この時、アラバスターは一度だけ疲労しない」

「!!」

 

 

召喚した最凶のゼノンザードスピリット、アラバスターで攻撃を仕掛けるソラ。アラバスターはその効果で一度だけ疲労せずにアタックを行える。つまりこのターンだけで二度のアタックが可能なのだ。

 

 

「さぁソラ君、やってしまいなさい。君の全力を、あの歯向かう愚か者に知らしめるのです!!」

 

 

アラバスターの登場に興奮し、声を荒げる嵐マコト。ソラはその声に応えるように、アラバスターの効果をさらに宣言する。

 

 

「アラバスターはアタックしたバトル終了時、相手ライフ3つを破壊する」

「なに!?」

「ライフ3点バーン!?……なんてデタラメな効果」

 

 

アラバスターの脅威的な効果に、皆どころか流石の春神ライも驚愕する。

 

バトルスピリッツとは、5つのライフを破壊するゲーム。その内半数以上を一撃で粉砕する効果を持つアラバスターは、まさに闘いの荒神であると言える。

 

 

「そう、アラバスターは全てがデタラメ。全てが規格外!!」

「くっ……デスティニーの効果、ミネルバを疲労させる事で自身を回復。そしてアラバスターをブロックだ」

 

 

レオンはスピリット効果を発揮させ、デスティニーを回復。アラバスター迎撃へと向かわせるが………

 

 

「そんな事しても無駄だァァァァ!!!……君の敗北の未来は見えたと言っただろう!!……喰らい尽くせ、アラバスター!!」

 

 

ビーム砲やビームブレードで攻撃するデスティニーだが、その内1つ足りたとも、アラバスターの鋼鉄の鱗に傷をつける事は叶わない。

 

そして、迫り来るアラバスターは、それの首を噛みちぎり、難なく爆散へと追い込んだ。

 

 

「デスティニー……だが、パイロットブレイヴ、シンのアタック破壊時効果。デッキ上1枚をオープン、それが系統「ザフト」「FAITH」なら使える」

「オープンカードはリミテッドバリア」

「!」

「君に勝ちの目なんてないんだよ。ザフトもFAITHも持たないそのカードは、デッキの下へ」

 

 

発揮されるパイロットブレイヴ、シン・アスカの効果。しかし、レオンはデッキ上から1枚をドローするが、そのカードを視認する前に、ソラがそのカードを言い当てる。

 

王者により、バトルの未来の見える彼に、死角はない。レオンは大人しくカードをデッキの下に戻した。

 

 

「アラバスターの効果、君のライフ3つを破壊する!!」

「ッ……」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉獅堂レオン

 

 

「ぐっ……ぐぉぉぉぉぉぉッッッ!?!」

「レオン!?」

 

 

アラバスターの口内から放たれる爆炎のブレスが、レオンのライフバリアを焼き尽くし、激痛による苦しみが、彼を襲う。

 

レオンの事を昔から知っているアルファベットは、思わず彼の名を叫ぶ。

 

 

「ぐっ……ッ」

「その目、まさかまだ諦めてないの?……これだけ力の差を見せつけられながら、また立ち上がるつもり?」

 

 

片膝をつくレオンに、冷たい目線を向けながら、ソラが訊いた。

 

 

「とう、ぜんだ。オレはもう、己の弱さのせいで止まる事はできない。止まれば今度こそ鉄華オーカミに追いつけなくなるからな」

「そ、アラバスターでアタック」

「ッ……獅堂」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉獅堂レオン

 

 

自分で訊いておきながら、レオンの言葉をあっさり切り捨てると、アラバスターで最後の攻撃宣言をするソラ。

 

命令を受けたアラバスターは、その激爪で、レオンの最後のライフバリアを無慈悲に切り裂く。

 

これにより、勝者は早美ソラ。最凶のゼノンザードスピリットであるアラバスターを、天下無双の王者の力で操り、圧倒的勝利を納めて見せた。

 

 

「おい、獅堂!」

 

 

倒れるレオンを抱き抱えるのは、彼が勝手に好敵手認定をした、鉄華オーカミ。

 

 

「お、オーカミ。オレは、貴様に、少しでも、追いつけた……か?」

「………」

 

 

オーカミが意識朦朧とするレオンの言葉の返答を考える中、ソラが口を開く。

 

 

「その程度で楽になれると思うなよ獅堂レオン。僕は言ったよね、死をもって償ってもらうって」

「ッ……これ以上何をする気だ、ソラ」

「大丈夫だよオーカミ、消えるのは、ソイツだけだから」

 

 

ソラがアラバスターのカードをレオンへと翳す。すると、レオンの身体は粒子化し、その中へと吸収されて行った。

 

 

「!?」

「レオン、レオン!!?」

「ソ、ラ?」

 

 

突如自分の腕の中から、獅堂レオンと言う名の重みが消え、驚愕するオーカミ。

 

彼の名を悲痛に叫ぶアルファベット。「どうなってんだ」と困惑するヨッカ。弟であるソラが、人を消した事に対してまた大きなショックを受ける早美アオイ、そして執事のフグタ。

 

 

「獅堂が消えた、なんで!?」

「人をデータ化する力だよ、鉄華オーカミ君。たった今、彼の肉体と精神はデータとなり、ソラ君の持つアラバスターのカードに吸収されたんだ。ようやく僕の長年の研究が実った、コレがあれば」

 

 

……『コレがあれば、あのお方の目的も達成できる』

 

春神ライもこの意味不明な現象に困惑してしまう中、嵐マコトが内心でそう密かに呟いた。

 

 

「データ化……ソラ、何でこんな事」

「何でって……気に入らないから」

「ッ……そんな理由で」

「アイツは僕の姉さんを虐めたんだ。このくらいの罰は当然なんだよ、オーカミ」

「……」

 

 

頭の血の気が下がり、開いた方が震えて塞がらないオーカミ。今のソラは、無邪気な怪物になってしまっているのだと、ようやく自覚する。

 

 

「アッアッア!!……いいよ、いいよソラ君。その考え方、実にエクセレント。これからもその力は、アオイ君を守るために役立ててくれたまえ」

「うん、本当にありがとう先生。僕に素晴らしい力を授けてくれて」

「ソラ………」

 

 

Dr.Aに扮して来た嵐マコトに、感謝の意を伝えるソラ。その純真無垢な笑顔が、この場の誰もに、彼の異質さ、異常さを教える。

 

弟が完全な怪物に仕上がってしまったと知ったアオイは、また砂浜に向かって項垂れる。その表情は、絶望感に溢れていた。

 

 

「下がれ鉄華、奴は、奴らはオレが始末する……!!」

「!?」

 

 

オーカミにそう告げたのは、他でもない界放警察の警視アルファベット。

 

普段はあまり感情を出さない彼だが、レオンの消滅が影響なのか、サングラス越しでもわかる程の怒りを露わにしていた。

 

 

「アルファベットさんがあんなに怒るの、初めて見た」

「……アルファベットさん」

 

 

その感じたこともない強烈な圧に、オーカミをはじめ、彼を知っているヨッカとライも驚愕する。

 

だが、そんな息が詰まる重圧の中でも、オーカミは立ち上がり、アルファベットへと顔を向けて。

 

 

「いや、下がるのはアルファベットの方だ。次はオレがやる」

「なに」

「ッ……何言ってんだオーカ!?」

 

 

オーカミのその発言に、一番強い反応を示したのは、彼の兄貴分であるヨッカだ。

 

 

「ソラは友達だ、オレが助ける。始末なら、オレが負けた後でいつでもやれよ。まぁ負けないけど」

「……」

 

 

バトスピのお陰で繋がった友達の1人であるソラ。オーカミは彼を助けたいのだ。元のお気楽で優しい彼に、戻してあげたいのだ。

 

その想いが伝わったアルファベットは、今一度冷静さを取り戻し………

 

 

「……わかった」

「おい、アルファベットさん!?」

「この状況をどうにかできると言うのなら、やってみろ」

「うん、ありがとう」

 

 

早美ソラとのバトルを容認する。オーカミがソラと対面し、己のBパッドを左腕にセットする中、彼の兄貴分である九日ヨッカが、荒げた声で声を掛ける。

 

 

「おいオーカ!!……やめろって、オマエがそんな危険なバトルをする必要はねぇ、見ただろ、負けたら獅堂レオンみたいに消えるんだぞ!?」

「そうかもね」

「そうなんだよ!!……なんでオマエはいつも、ずっとそんな涼しい顔してられるんだ」

「そう言われてもな」

「オレがオマエに教えたかったバトルは、こんな殺し合いみたいな戦いじゃない、みんなで笑い合って、心の底から楽しむための」

「うん、知ってる」

「!」

「だから行くんだよアニキ。またみんなで楽しめるように、笑い合えるように、奪われたモノを取り返す」

 

 

時々、オーカの事が怖くなる。

 

なんで少しでも「恐い」とか「逃げたい」とか言わないんだ。これは勇敢ってレベルじゃない、異常だ。まるでそう言った感情が死んでいるような………

 

 

「お嬢、次は鉄華オーカミが……」

「もう無理よ、誰が何をやっても、ソラは私の元に帰っては来ない。あぁ、ごめんなさい、ごめんなさいソラ。私があんな事しなければ、あんな事さえしなければ………」

「お嬢……」

 

 

絶望に暮れるアオイ。

 

そんな彼女に接近し、胸倉を勢い良く掴み上げたのは、春神ライだった。

 

 

「アンタ、何勝手に泣きじゃくってんだよ」

「……」

「アンタの弟のために、戦おうとしてくれる奴がまだいる。アンタはアイツを応援しないといけないんじゃないの!?」

「……」

「狡いんだよアンタ。せめて、自分の願いを叶えようとしてる奴の背中くらい、押してあげろ」

「……!」

 

 

ライにそう言われ、何かに気づかされたか、目の色を変えるアオイ。

 

さらにその目線を、すぐさまオーカミへの向けて………

 

 

「オーカミ君」

「ん?」

「ごめんなさい、今までの事、本当にごめんなさい。私に、こんな事を言う権利なんてないかもしれない……でも、でももし、赦してくれるのなら………お願い、ソラを救けて」

「うん、そのつもり」

 

 

涙ながらに鉄華オーカミに願いを告げるアオイ。オーカミはあんまり深い事はわかっていないようだが、それでも頷き、彼女の想いを引き継ぐ。

 

 

「ソラ、今度はオレとバトルしよう」

「姉さん、また泣いてる。なんで?」

「Bパッドを使って、外でバトルしようって約束したのに、まさかこんな形で果たすなんてな、残念だ」

「誰が泣かした?……まさかオーカミ?」

 

 

話が噛み合わないまま、2人はBパッドを互いに向かい合わせ、バトルの準備を完全に完了させる。

 

 

「でも、オレは絶対に……」

「なら、僕は絶対に……」

 

 

オマエを救ける。

 

君を赦さない。

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

互いに強い感情を胸に、鉄華オーカミと早美ソラによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は早美ソラ。

 

 

[ターン01]早美ソラ

 

 

「メインステップ、2種の創界神ネクサス、アイリエッタ・ラッシュとアッシュ・クロードを配置」

 

 

ー【アイリエッタ・ラッシュ】LV1

 

ー【アッシュ・クロード】LV1

 

 

前のバトルと全く同じ展開を行うソラ。フィールドには何も出現しないが、ゼノンザードスピリットをサポートする2種類の創界神ネクサスが、確かに配置された。

 

 

「2枚の神託を発揮、コアを1つずつ追加、さらにバーストをセットして、ターンエンド」

手札:2

場:【アイリエッタ・ラッシュ】LV2(1)

【アッシュ・クロード】LV2(1)

バースト:【有】

 

 

バーストのセットと共に、ソラのターンはエンド。周囲の皆が見守る中、鉄華オーカミのターンが始まる。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ネクサス、ビスケット・グリフォンを配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

オーカミの初動は、鉄華団専用のネクサスカードであるビスケット。

 

その効果は手札を増加する事に長けている紫ならでは。

 

 

「効果発揮、疲労させる事でデッキ上1枚をオープン、それが鉄華団なら手札に加える。オレはオープンされた『オルガ・イツカ』のカードを手札へ」

 

 

オープンされたカードは運が良く、鉄華団のデッキにおいて、動きの根幹を支える最重要カード『オルガ・イツカ』………

 

ビスケットのシンボルで軽減すれば、最速このターンで配置できるが。

 

 

「オルガか。良い物を引いたね、でもこのターンでの配置はさせないよ、手札増加時のバースト、キメラモン」

「!」

「効果によりネクサスのビスケットを破壊し、コア1つをリザーブへ」

「シンボルが……」

 

 

オーカミの手札増加時に反応し、勢い良く反転するソラのバーストカード。その効果により、オーカミのネクサスは破壊、トラッシュに落とされる。

 

 

「効果発揮後、ノーコスト召喚する。完全体のデジタルスピリット、キメラモンをLV1で召喚」

 

 

ー【キメラモン】LV1(1)BP7000

 

 

強固な甲殻、鋭い頭角、気高き毛皮。様々な生物の長所を併せ持つ、異形のデジタルスピリット。

 

その名はキメラモン。4本の腕、4枚の翼を広げ、強い存在感を示す。

 

 

「どう?……君のリザーブのコアは2つ、これじゃ軽減無しでオルガは配置できないでしょ」

「……ターンエンド」

手札:5

バースト:【無】

 

 

オルガのコストは3。オーカミのリザーブのコアは2つ。ビスケットの紫シンボルで軽減しなければ、このターンでの配置は不可能。

 

オーカミのバトルはコレにより、ワンテンポ遅れる事となる。

 

 

[ターン03]早美ソラ

 

 

「メインステップ、ソウルコアをコストに含み、エイプウィップを召喚」

 

 

ー【エイプウィップ〈R〉】LV1(1)BP1000

 

 

「効果によりコア1つをリザーブに。ソウルコアを使って召喚していた場合、追加でコア2つをトラッシュに」

 

 

ソラは、その身に木々の力を宿す4本腕の猿型のスピリット、エイプウィップを召喚。効果により累計3つのコアを増やした。

 

 

「僕のこのターン、エンドだ」

手札:2

場:【キメラモン】LV1

【エイプウィップ〈R〉】LV1

【アイリエッタ・ラッシュ】LV2(3)

【アッシュ・クロード】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

ソラのターンが終わり、再びオーカミのターンとなるが、今の彼のフィールドのカードは0枚、対してソラは4枚。序盤にどれだけのカードを並べられるかが肝となるバトルスピリッツにおいて、この差は痛恨で。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、オレも創界神ネクサス2枚、オルガ・イツカとクーデリア&アトラ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

「配置時の神託を発揮。オルガに2つ、クーデリア&アトラに3つのコアを追加」

 

 

いつも通り、フィールドには何も出現しないが、オーカミは鉄華団に大きな恩恵を与える2種の創界神を配置する。

 

 

「バーストをセットして、ターンエンドだ」

手札:3

場:【オルガ・イツカ】LV1(2)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【有】

 

 

「フ……前のターンに1枚でも配置できたら、もうちょっとは動けたのかもしれないのに、残念だったね」

「鉄華団を嘗めるなよソラ。オレ達はここからいくらでも巻き返せる」

 

 

このターン、オーカミが場に残せたカードはたったの2枚。今のソラの半分しか満たない。

 

オーカミが埋められない差をさらに広げるべく、今度はソラのターンが始まる。

 

 

「へぇ、じゃあ巻き返しようがない程、さらに追い詰めてやろうかな!!」

 

 

圧倒的なフィールドアドバンテージを得た今、ソラが次に狙うアドバンテージは、当然勝利に直結するライフなのは明白であり………

 

 

[ターン05]早美ソラ

 

 

「メインステップ、もう一度ソウルコアをコストに、2体目のエイプウィップを召喚」

 

 

ー【エイプウィップ〈R〉】LV1(1)BP1000

 

 

「効果でまた3つのコアをブーストだ」

 

 

ソラのフィールドには2体目のエイプウィップ。召喚時効果により、オーカミとの総合コア数をまた大きく引き離す。

 

 

「バーストをセット、キメラモンのLVを3に上げてアタックステップだ。僕にオーカミの敗北を聞かせてくれ、キメラモン、アタック時効果で1枚ドロー」

 

 

咆哮を張り上げ、敵のライフバリア目掛けて走り出すキメラモン。前のターンにネクサスしか残せなかったオーカミは、これをライフで受ける以外の選択肢がなくて………

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ……うぁぁっ!?」

「オーカ!?!」

 

 

色も形も違う4本の腕で押さえ付け、オーカミのライフバリア1つを圧壊するキメラモン。ゼノンザードスピリット使いが齎す痛みが、破壊されたライフバリアを伝い、彼を襲う。

 

心配で声を荒げるヨッカに対し、オーカミは痛みに歪ませた表情を瞬時に戻し「大丈夫」と呟くと、伏せていたバースト反転させる。

 

 

「ライフ減少後のバースト、絶甲氷盾」

「!」

「効果でライフ1つを回復」

 

 

〈ライフ4➡︎5〉鉄華オーカミ

 

 

勢い良く反転されたオーカミのバーストカードは、最も汎用性が高いとされる、白属性の防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』……

 

その効果により、オーカミは破壊されたライフバリアを瞬時に元に戻した。

 

 

「今の攻撃、差し引き0になったな。ゼノンザードスピリットを全て得たって言うオマエのバトルスピリッツは、こんなもんかよ」

「………は?」

 

 

突然の煽りに苛立ちを覚えるソラ。フィールド状況的にこれだけ劣勢を強いられていると言うのに、途方もないオーカミの自信が、彼の鼻についた。

 

 

「こんなもんなわけないだろ!!……今の僕は、先生のお陰で誰よりも強いカードバトラーになったんだ!!……コア不足で絶甲のアタステ終了効果は発揮されない。やれ、エイプウィップ」

「よし、そのまま来い」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

相手のアタックステップを強制終了させる事でお馴染みの「絶甲氷盾〈R〉」だが、今回に限ってはオーカミのコア不足で発揮できず。

 

その隙を突き、ソラは2体のエイプウィップで追撃。そのライフを追加で2つ奪って見せる。

 

ライフの破壊と共に激痛がまたオーカミを襲うが、その表情は僅かばかり口角が上がっていて………

 

 

「ターンエンド。どうだ、これが今の君と僕との実力差。さっさと諦めて、姉さんに懺悔しろ」

手札:2

場:【キメラモン】LV3

【エイプウィップ〈R〉】LV1

【エイプウィップ〈R〉】LV1

【アイリエッタ・ラッシュ】LV2(4)

【アッシュ・クロード】LV2(4)

バースト:【有】

 

 

「マズイ、このターンでさらに坊ちゃんが有利になっちまった。勝てるのかよ、鉄華オーカミ」

 

 

ソラがライフ差でもオーカミに優勢を取り、ターンをエンドとする中、劣勢となるオーカミに、フグタがぼやく。

 

だが、他の人物の反応は違っていて………

 

 

「コレは……」

「ハリセンボンさん、バトルスピリッツって言うのはね、コアと手札と戦術さえ有れば、いくらでも巻き返せるゲームなんだよ」

「……フグタだよ、いい加減覚えて」

 

 

アオイも遅くで気がつき、ライがフグタにそう告げた。

 

フグタ以外の誰もが気づいていた。オーカミはこのソラのターン、わざと彼を煽り、アタックを仕掛けさせた事を。そして、ライフを減らし、自分のコアを増やした事を。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、先ずはランドマン・ロディ2体を連続召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

オーカミの場に、濁った白と橙色を基調とした、丸っこい小型モビルスピリット、ランドマン・ロディが2体現れる。

 

その召喚に反応し、2種の創界神がそれぞれ2個ずつコアを増やす中、オーカミは、さらに1枚のカードをフィールドへと放った。

 

 

「轟音唸る、過去をも穿つ!!……ガンダム・グシオンリベイクフルシティ、LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ】LV3(5S)BP13000

 

 

「なに、グシオンリベイクフルシティ!?」

 

 

召喚されたのは、鉄華オーカミのデッキにおいて、バルバトスと並び双璧を成す、鉄華団デッキの重鎮、ガンダム・グシオンリベイクフルシティ。自慢の武器であるハルバートを片手で握り、豪快に構える。

 

コレだけ大型のスピリットを普通に召喚できたのは、前のターン、ライフ減少によってコアが増加したからである。

 

 

「しまった、このためにオーカミは敢えて前のターン、アタックを誘っていたのか」

「そう言う事」

 

 

ようやくソラも気がつくが、時は既に遅い。オーカミは残った最後の手札も、フィールドへと召喚する。

 

 

「パイロットブレイヴ、昭弘・アルトランド。召喚して、フルシティと合体」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+昭弘・アルトランド】LV3(5S)BP16000

 

 

結果的に持ちうる全ての手札を投げ、3体のスピリットを展開するオーカミ。

 

彼と鉄華団スピリット達による逆襲が幕を開ける。

 

 

「アタックステップ、フルシティでアタックだ!!」

 

 

オーカミの反撃。フルシティは、このタイミングで強力なアタック時効果を発揮させて行く。

 

 

「フルシティの煌臨アタック時効果、デッキ上から2枚を破棄。その中にある紫1色のカード1枚につき、相手フィールドのコア2個をリザーブに置く」

 

 

この効果でオーカミのデッキ上から2枚が破棄。そのカードは「ガンダム・バルバトスルプス」と「ガンダム・バルバトス[第2形態]」………

 

いずれも紫1色のカードである。

 

 

「どっちも紫1色、合計コア4つをリザーブへ!!……エイプウィップ2体から1個ずつ、キメラモンから2個だ」

「!」

 

 

紫のオーラをハルバートに込めた、フルシティの横一線の一撃。それは飛ぶ斬撃となり、ソラの全てのスピリットを斬り裂いて行く。

 

2体のエイプウィップは耐えられず消滅してしまうが、キメラモンは残りコア4つとなり、LV2のダウンで踏み止まる。

 

 

「ここで、クーデリア&アトラの【神域】……鉄華団の効果で自分のデッキが破棄された時、オレのトラッシュから紫1色のカード1枚をデッキの下に置き、1枚ドロー」

 

 

オルガではない、2種類目の創界神、クーデリア&アトラの効果が発揮され、オーカミは0となった手札を1枚だけ取り戻す。

 

 

「さらにもう1つ、フルシティの【合体中】アタックブロック時効果、相手のコア4個以下のスピリット1体を破壊できる」

「なに!?」

「キメラモンを破壊だ」

 

 

腰部にマウントした大きな盾。それを大きなハサミのような武器に変形させ、キメラモンを万力の如く挟み込む。物理的な圧力に屈したキメラモンは、堪らず爆散して行く。

 

 

「この効果で破壊した時、トラッシュからカードを手札に戻す。来い、バルバトスルプス!!」

 

 

トラッシュにあるカードまで回収できるフルシティ。オーカミはこの効果でエースである「ガンダム・バルバトスルプス」のカードを手札へ加えた。

 

 

「うっしし、やるじゃん、赤チビ」

「あんな劣勢から……オーカの奴、いつの間にこんなに強く」

「知らなかったか九日。奴はこの数日で大きくレベルアップしたぞ、オマエに護られる必要がない程にな」

「………!」

 

 

一気に劣勢をひっくり返したオーカミに、ライとヨッカとアルファベットがそう言葉を交わした。

 

特に彼の兄貴分であるヨッカは、この状況と言う事もあり、やや複雑な気持ちのよう。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】……自分のデッキを3枚破棄して1枚ドロー、クーデリア&アトラの効果でさらにドロー」

「ッ……手札まで増やすのか」

「フルシティのアタックは続いてるぞ、合体によりダブルシンボルだ!!」

「……ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉早美ソラ

 

 

アタック時効果の解決とフラッシュタイミングが全て完了し、フルシティの本命のアタック。一度大きな盾を腰部にマウントし直し、ハルバートで豪快に振るってソラのライフバリアを一気に2つ玉砕。

 

わざとライフを砕かせ、コアを増やしたオーカミの戦略は、ここまでハマりにハマったが、ソラの手札にある1枚のカードが、その勢いを堰き止める。

 

 

「ライフが減少し、3以下になった時、この赤マジック「シックスブレイズ」はノーコストで使用できる」

「!」

「BP12000まで好きなだけスピリットを破壊し、その効果を発揮させない。2体のランドマン・ロディを除去させて貰う」

 

 

ソラのはなった1枚のマジック。彼の背後から6つの火の玉が飛び出し、オーカミのフィールドで待機していた2体のランドマン・ロディに直撃。それらを焼き尽くして行く。

 

 

「さらにライフ減少のバースト、選ばれし探索者アレックス。ノーコスト召喚だ」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1(1)BP4000

 

 

誰も居なくなったソラのフィールドに、紫のフードを深く被った、秘めたる力を持つ杖を携えた人型のスピリット、アレックスが出現。

 

 

「アレックスのアタックステップ強制終了効果は、オルガの【神域】で無効化されてるけど、アタックできるスピリットがいないから、どちらにしろだよね」

「……ターンエンドだ」

手札:4

場:【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+昭弘・アルトランド】LV3

【オルガ・イツカ】LV2(6)

【クーデリア&アトラ】LV2(7)

バースト:【無】

 

 

アタックできるスピリットが消えてしまった事で、オーカミはそのターンをエンド。だが、その0枚だった手札は知らぬ間に4枚へ。

 

フィールドの状況も鑑みると、このターンのみでかなり巻き返したと言える。

 

しかし、今のソラは、全てのゼノンザードスピリットを操らせるために、嵐マコトに改造されている。次の彼のターンで呼び出されるのは当然………

 

 

[ターン07]早美ソラ

 

 

「メインステップ、アレックスの効果、疲労させる事でコアブースト。さらにマジック、ネオ・ハンドリバース。残った1枚の手札を破棄して、デッキから3枚ドロー」

 

 

連続して効果を発揮するソラ、またコアを増やし、手札も3枚まで回復。

 

さらにその3枚の手札を視認するなり、口角が僅かに上がって………

 

 

「ここからだよオーカミ。僕は姉さんの幸せのため、君を倒す。この王者の力で」

「!」

「君の敗北の未来は見えた。懺悔の用意をするなら、今のうちだよ」

 

 

先のレオン戦と同様、ソラは瞳孔を赤く輝かせ、その頬には同じ輝きを持つ赤い線が伝う。

 

 

「ッ……ここで早美ソラの王者か」

「なぁアルファベットさん、さっきから言ってる、その王者ってなんなんだ」

 

 

早美ソラが自身の王者を自発的に発動させ、不穏な空気がどよめく中、そもそも「王者」についての知識がないヨッカが、アルファベットに訊いた。

 

 

「王者とは、使用者に勝つための未来を見せ、必ず勝利に導かせる、カードバトラーにとっての天下無双の力だ」

「え、ちょいちょい、それってまさか私が良く見るヤツ!?」

「あぁ、同じだ」

「ワオ初めて知った、そんな名前だったんだ。もうちょいカッコいい名前つけてあげろよ、最初に発見した人」

「バトルの未来……待て、そう言やオーカも」

「そうだ。鉄華にも、その才能がある」

 

 

元々、王者が使えると言う理由だけで2人を早美邸に連れて行った事を話し掛けるアルファベットだが、これを言ったらまたヨッカに殴られそうだと思い、口を慎む。

 

 

「行くよオーカミ、僕は2種の創界神ネクサスの【神域】の効果を発揮、疲労させ、召喚するゼノンザードスピリットのコストを4支払った物として扱う

「!」

「司るは青。深海の主・アレシャンドをLV2で召喚!!」

 

 

ー【「深海の主」アレシャンド】LV2(3)BP13000

 

 

フィールド全体を青く染め上げる津波。それら全てをその身に纏ってこの場に立つのは、青き逆鱗を持つ深海の龍。青のゼノンザードスピリットにして、深海の主・アレシャンド。

 

 

「召喚時効果、コア2つをボイドに置き、手札から2枚のスピリットをノーコスト召喚する!!……現れよ、道化竜メルトドラゴン」

 

 

ー【道化竜メルトドラゴン】LV3(4)BP5000

 

 

アレシャンドの効果を活用するソラ。追加でフィールドに、仮面を付けた小型で人型のドラゴン、メルトドラゴンを呼ぶ。

 

さらに最後の手札にも手を掛けて………

 

 

「さらに、司るは紫。憂鬱の魔王・ベールフェゴルをLV1で召喚!!」

 

 

ー【「憂鬱の魔王」ベールフェゴル】LV1(1)BP8000

 

 

地底深くより、噴き出てくる闇の息吹。それらは空間を震撼させながら、密集していき、やがて悍ましい悪魔の姿を形成する。

 

そのスピリットの名は憂鬱の魔王・ベールフェゴル。紫のゼノンザードスピリットだ。

 

 

「2体のゼノンザードスピリットを僅か1ターンで呼び出すとは、流石このエクセレントな私が見込んだ男だよ、ソラ君」

 

 

フィールドに君臨した青と紫のゼノンザードスピリットを見るなり、嵐マコトはまた嘲笑する。

 

 

「アタックステップだ、アレシャンドでアタック、そのLV2アタック時効果により、グシオンリベイクフルシティをオーカミ、君の手元へ」

「ッ……手元?」

 

 

咆哮を張り上げるアレシャンド、その瞬間に巨大な水玉がフルシティを包み込み、それを消滅、そのカードをオーカミの手元へと送った。

 

 

「さらにフラッシュタイミング、アッシュ・クロードの【神技】を発揮、残った昭弘・アルトランドをデッキ下へ」

「……!」

「まだ行くよ、今度はアイリエッタ・ラッシュの【神技】を発揮、トラッシュのコア1つを僕のライフへ」

 

 

〈ライフ3➡︎4〉早美ソラ

 

 

ゼノンザードスピリットの召喚をサポートするだけが、ソラの創界神ではない。オーカミの場に残ったパイロットブレイヴをデッキ下に送るだけではなく、ライフの回復までもを行って見せた。

 

 

「アレシャンドのアタックは継続している!!」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ……うぅっ!!」

 

 

アレシャンドは口内から激流の如く水流を放出。それによって、オーカミのライフバリア1つを貫き砕いた。

 

再び状況を一変され、オーカミのフィールドのスピリットは0。フルアタックを受けて仕舞えば、敗北は免れない状況にまで追い詰められてしまうが、それでも諦めまいと、歯を食い縛り、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつけた。

 

 

「手札の絶甲氷盾の効果を発揮。アタックステップを強制終了させる」

 

 

オーカミが放ったマジックカードは、このバトルでは2枚目となる「絶甲氷盾〈R〉」………

 

その効果により、ゼノンザードスピリット2体を従えているとは言え、ソラのアタックステップは強制的に終了となる。

 

 

「エンドステップ時、メルトドラゴンの効果、デッキから手札が4枚になるまでドローする」

 

 

アタックステップが終了しても、ソラのターンが完全に終わったわけではない。アレシャンドの効果でベールフェゴルと共に呼び出されたメルトドラゴンの効果が発揮され、ソラは0枚だった手札を4枚まで増加させる。

 

 

「ターンエンド、それは知ってたよ。でも次の僕のターン、君はどう足掻いても生き残る事はできない」

手札:4

場:【「深海の主」アレシャンド】LV2

【「憂鬱の魔王」ベールフェゴル】LV1

【道化竜メルトドラゴン】LV3

【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1

【アイリエッタ・ラッシュ】LV1(2)

【アッシュ・クロード】LV1

バースト:【無】

 

 

王者の放つ輝きはそのままに、余裕綽々でそのターンをエンドとするソラ。『もうすぐ大好きな姉さんを虐めた者を殺害できると思うと、楽しくてしょうがない』そう言った表情を見せる。

 

嵐マコトによって、必ずそう言う考え方に至るよう、改造されてしまっているのだ。

 

 

「プロになりたいって言ったよな、ソラ」

「?」

「そんなになってもまだ、プロになりたいって思ってるのか?」

 

 

ダメージを受けた身体を奮い立たせ、オーカミがソラに訊いた。

 

 

「バトスピのプロになってお金稼いで、姉さんを楽させたいんじゃなかったのか」

「何だよ急に、説教のつもりかオーカミ。負けそうになったからって、遅延はやめてくれよ」

「オマエだって本当はわかってるはずだ。このままじゃいけない事、本当の意味では姉ちゃんのためにならないって事」

「な訳ない、やめてくれよホント、鬱陶しい!!」

 

 

オーカミの言葉に徐々にペースを乱されて行くソラ。

 

その間に、オーカミのBパッドにあるデッキのカード達が、彼の血潮に染まって行くかの如く、淡い赤色に輝き出す。

 

 

「君は僕の何だ、大好きな姉さんを虐めるクズの分際で……何を偉そうにしてんだ!!」

 

 

ソラは震えた右手の拳を握り締め、声を荒げる。

 

そしてその直後、オーカミの右目の瞳孔が、デッキのカード達と同様の赤色に輝きを放ち………

 

 

「何って、友達だよ。だから救けたくて、一緒にいたくて、抗ってんだ」

 

 

ソラを救けたいと言う強い想いが募った影響か、意図せずして、オーカミもソラと同様に、天下無双の「王者」が発動。

 

バトルは間もなく終盤。2人の王者を持つ者の衝突が、よりそれを激化させて行く事は、目に見えていて………

 

 






次回、第46ターン「天空斬り裂け、未来を照らせ」


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第46ターン「天空斬り裂け、未来を照らせ」

 

「君は僕の何だ、大好きな姉さんを虐めるクズの分際で……何を偉そうにしてんだ!!」

「何って、友達だよ。だから救けたくて、一緒にいたくて、抗ってんだ」

 

 

全てのゼノンザードスピリットを操り、さらには使用者を勝利に導く王者の力まで発揮するソラ。劣勢を強いられ続けたオーカミだったが、彼も遅れて王者を発動させる。

 

目が赤く輝くのみのソラとは違い、オーカミの王者は、目から血が流れ、とても痛々しく見える。

 

 

「来たか、王者の鉄華」

 

 

アルファベットがそう呟いた。かつてない程に緊張感が昂る中、オーカミの第8ターン目が始まる。

 

青と紫の2体のゼノンザードスピリットを操るソラに対抗すべく、カードをドローして行く。

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ……」

「そう言えば君も使えるんだっけ王者、でもそれを使っても、僕には勝てないよ、絶対に……憂鬱の魔王・ベールフェゴルの効果、君の手札と手元にあるスピリットカード全てのコストは+3される」

「………」

 

 

以前、鈴木レイジに使用された時と全く同じだ。紫のゼノンザードスピリットの影響により、オーカミの手札にあるスピリットカードのコストは全て3上昇。自ずとコアが増えて来る終盤であっても、これはかなりの足枷となる。

 

だが、今のオーカミはこれをモノともせず、突き進む。

 

 

「オレの鉄華団に、そんな効果は通用しない」

「だろうね」

「アタックステップの開始時、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果、トラッシュから自身を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000

 

 

オーカミのアタックステップの開始時。トラッシュより、機関銃を備えた小型のバルバトス、バルバトス第2形態を呼び出す。

 

手札と手元のカードに影響を与えるベールフェゴルだが、トラッシュにまでは及ばない。故にその召喚は、僅か1コストで完了した。

 

 

「さらにオルガの【神技】……コアを4つ払い、トラッシュから鉄華団スピリットをノーコストで呼ぶ。大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

トラッシュから鉄華団を呼び出す事のできる、オルガの【神技】………

 

これにより呼び出されるのは、黒き戦棍メイスを装備した、鉄華オーカミのエースカード、バルバトス第4形態。

 

 

「バルバトス第4形態でアタック、その効果でベールフェゴルとアレックスのコアを1つずつリザーブに置き、消滅させる」

 

 

戦場に立つや否や、高速でソラのフィールドへと駆け抜けて行くバルバトス第4形態。黒き戦棍メイスを横一線に振い、アレックスと、紫のゼノンザードスピリットであるベールフェゴルを討ち倒し、爆散させる。

 

 

「フラッシュでオルガの【神域】を発揮、デッキ上3枚を破棄、1枚ドロー、クーデリア&アトラの【神域】で、トラッシュの紫1色のカード1枚をデッキ下に戻し、もう1枚ドロー」

 

 

このターンも流れるように発揮される、オルガとクーデリア&アトラのコンボ。手札とトラッシュ、取れる戦術を増やして行く。

 

 

「無駄だよ、いくら手札とトラッシュを増やそうと、君に逆転のチャンスは訪れない」

「バルバトス第4形態LV3の効果、紫シンボル1つを得て、ダブルシンボルになる」

「ブロックはしないよ、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉早美ソラ・王者

 

 

2体を倒しても尚、止まらないバルバトス第4形態。ソラのライフバリア直前まで辿り着くと、手に持つメイスを、今度は縦一線に振い、それを一気に2つ砕く。

 

だが、ここでソラも反撃に出る。このタイミングで使える1枚のカードを、手札から切り……

 

 

「僕のライフが減った事により、手札から赤マジック、覇王爆炎撃の効果を発揮」

「……」

「コレをノーコストで使用する。BP20000以下のバルバトス第4形態を破壊」

 

 

ソラの放った赤マジックにより、バルバトス第4形態は燃え盛る爆炎に襲われ、その身を隅々まで焼き尽くされ、爆散に追い込まれる。

 

バルバトス第4形態の最大の武器は、バトルが終了する度に、トラッシュから鉄華団スピリットを次々と蘇生させられる事。それが封じられたとあれば、この先の展開はかなり厳しくなる。

 

 

「バルバトス第2形態でアタック」

 

 

しかし、この状況になっても、王者に入っているオーカミは、己が見続ける勝利の未来を信じ、迷わず残ったバルバトス第2形態で突き進む。

 

そしてこのフラッシュタイミング、手札にある1枚のカードを、Bパッドへ叩きつけて……

 

 

「フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はアタック中のバルバトス第2形態」

 

 

リザーブのソウルコアをコストに、スピリットを更なる高みへと昇華させる『煌臨』の効果を発揮。

 

フィールドでは、バルバトス第2形態が背中のスラスターで飛翔、天空に蔓延る曇天へと突き進む。

 

 

天空(ソラ)を斬り裂け、未来を照らせ!!

 

ガンダム・バルバトスルプス!!

 

LV2で煌臨!!

 

 

やがて曇天を斬り裂き、青空と太陽の光と共に姿を見せたのは、バルバトス第2形態ではなく、バルバトスが更なる進化を遂げた、新たなる姿、バルバトスルプス。

 

バスターソード状のメイス、ソードメイスを手に、オーカミのフィールドへと降り立つ。

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

「出たか、最強のバルバトス、バルバトスルプス。ただし、最強は最強でも、現段階で……だがな」

 

 

ルプスが現れるなり、戦況の空気がガラリと変わる。その時、アルファベットがそう呟いた。

 

 

「ルプスの煌臨時効果を発揮、デッキ上2枚を破棄して、その中の鉄華団カード1枚につき、コア3個以下のスピリット1体を破壊」

 

 

発揮されるルプスの効果。それにより破棄された2枚のカードは、いずれも系統に鉄華団を持つカード。

 

 

「青のゼノンザードスピリット、アレシャンドを叩き潰せ」

 

 

ソードメイスを構え、アレシャンドの元へと突き進んでいくルプス。アレシャンドは迫り来る一撃を回避せんと、海原の海水を操り、ルプスをその中へと閉じ込める。

 

だが、ルプスは瞬きする間もなくそれを気迫だけで弾き飛ばす。直後にソードメイスによる縦一線の強烈な一撃を叩き込み、アレシャンドと大地を衝突させ、爆散へと追い込んだ。

 

 

「ルプスの効果発揮により、もう一度クーデリア&アトラの【神域】が誘発する。トラッシュ1枚をデッキ下、デッキ上から1枚ドロー」

 

 

第4形態とルプスの効果により、ソラの残りライフは2、さらにフィールドは、仮面を付けた赤い竜、メルトドラゴンのみ。

 

オーカミがここで一気に攻めない理由はない。

 

 

「フラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】……コア5個を払い、トラッシュの鉄華団1枚をデッキ下に戻し、ルプスを回復させる……!!」

 

 

ドローにスピリットの回復と、全面的に鉄華団デッキをサポートを行える、創界神クーデリア&アトラ。オーカミはその効果を完全に使いこなし、エースたるルプスに、二度目の攻撃権利を与えた。

 

怒涛の反撃で優勢に立つオーカミ。しかし、ソラは嘲笑に顔を歪め………

 

 

「面白い、面白いよオーカミ。君は本当に惨めで滑稽だ」

「……」

「この程度の攻撃で、今の僕が負ける訳ないだろ。フラッシュアクセル、己械人シェパードール」

 

 

瞬間、ソラのライフバリアの前方に、半透明で、それとはまた別のバリアが出現する。

 

これは、ある意味でレオンが敗北を喫した理由となったと言っても過言ではないモノであり………

 

 

「これにより、このターンの間、僕のライフはコスト4以上のスピリットのアタックでは減らない。ルプスの攻撃は当然ライフだ」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉早美ソラ・王者

 

 

半透明のバリアに、ルプスのソードメイスによる一撃が阻まれる。

 

オーカミを嘲笑うように放ったソラの一手は、少なくともこのターンのオーカミには超えられない、文字通りの壁である。

 

 

「ターンエンド」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトスルプス】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(4)

【クーデリア&アトラ】LV2(4)

バースト:【無】

手元:【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ】

 

 

このターン中常時展開される、己械人シェパードールのバリアを前に、オーカミはルプスをブロッカーとして残し、ターンを終了。

 

 

「ハハ、やっぱりそうなんだ」

「何が」

「先生が教えてくれたんだ、君みたいに片目しか輝かない王者は、不完全な王者。不完全だから、両目が輝き、完全な王者を持つ僕には、絶対に勝てない」

「そっか、じゃあさっさと来いよ。オマエがオレに絶対に勝てるって大口を叩けるなら、全力でオレを、オレとバルバトスを潰しに来い」

 

 

片目しか輝かない王者は不完全、ソラはそれをオーカミに告げる。

 

しかし、オーカミはそれを告げられても尚、モチベーションを下げず、次のソラのターンに備え、手札を構える。

 

 

「アッアッア……そうだ、さぁ見せてやりなさいソラ君、そして私の目に焼き付けさせてくれたまえ、不完全ではない、完全な王者の力を!!」

「もちろんですよ、先生……!」

 

 

嵐マコトがそう叫ぶと、ソラはオーカミの残り2つのライフを粉砕するべく、己のターンを開始する。

 

 

[ターン09]早美ソラ・王者

 

 

「メインステップ、先ずはメルトドラゴンのLVを1に下げ、辛速の勇者ソニックワスプ・Aを召喚する」

 

 

ー【辛速の勇者ソニックワスプ・A】LV1(1)BP3000

 

 

「ソニックワスプの召喚時効果、カードの種類を1つ指定。僕はスピリットカードを指定、相手は指定されたカードを、トラッシュから全て除外する」

「……」

 

 

スマートな昆虫戦士、ソニックワスプが召喚される。

 

それはソラのフィールドに現れるなり、複眼を怪しげに青く輝かせると、オーカミのトラッシュにある全てのスピリットカードは浮遊し、除外ゾーンへと離れていく。

 

除外ゾーンに送られたカードには、このバトル中、その持ち主であっても一切の使用を許されない。

 

 

「トラッシュを操るアイツのデッキにとっては、相当キツイ一手ね」

「オーカミ君……」

 

 

ライとアオイ、2人がそう呟く。

 

ライの言う通り、トラッシュを自在に操る鉄華団デッキにとって、トラッシュのスピリットを失う事は、バトルの根幹に関わってくる。

 

 

「さらに僕はここでコレを呼ぶ。覚えているよねオーカミ。獅堂レオンを屠った、あのスピリットを」

「……」

「フ……ゼノンザードスピリットを召喚する時、アイリエッタの【神域】により、2コスト支払ったモノとして扱う」

 

 

さらに追い討ちを掛けるように、ソラは手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつけた。

 

そのカードは、当然あのゼノンザードスピリットであり……

 

 

「司るは闘。この世の全ての争いを統べる、闘いの荒神!!……九神龍アラバスター!!……LV3で召喚」

 

 

ー【九神龍「闘」アラバスター】LV3(6)BP30000

 

 

眼前の大海を蒸発せんとする程のマグマの一柱が立ち上がると、その中より1体の巨龍が爆音の咆哮を張り上げ、飛び出す。

 

その名はアラバスター。ソラのエースカードにして、全てのゼノンザードスピリットの頂点に君臨する、最強最凶のゼノンザードスピリット。

 

 

「遂に出て来やがった、オーカ……!!」

「大丈夫だよアニキ。あんなデカブツ、オレとバルバトスの敵じゃない」

 

 

ヨッカがオーカミの身を案じ、声を荒げる。それに反し、オーカミはとても落ち着いていて……

 

 

「大口を叩いてるのはどっちだよオーカミ。君はもうすぐ僕に敗北する、今のうちに懺悔の用意をしておくんだね」

「……」

 

 

迎えた終盤、2人の王者の使い手。バルバトスルプスと最凶のゼノンザードスピリット。

 

かつてない程に緊張感が高まる中、ソラのアタックステップが開始される。

 

 

「オマエのアタックステップ開始時、もう一度、オルガの【神技】を発揮」

「また蘇生か、でもソニックワスプの効果で、トラッシュにスピリットはいないよ」

「オルガで呼べるのは、スピリットだけじゃない。パイロットブレイヴ、三日月・オーガスを召喚し、バルバトスルプスに直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV2(2)BP14000

 

 

創界神ネクサスであるオルガの効果で呼び出したのは、パイロットブレイヴ、三日月・オーガス。

 

それと合体したバルバトスルプスの眼光は赤く輝き、両肩からは蒼炎が燃え盛る。

 

 

「ハハ、合体した所で、アラバスターのBPを超えられなければ何も意味はない!!……アラバスターでアタック、その効果を発揮、一度だけ疲労しない。さらにフラッシュ、アイリエッタ・ラッシュの【神技】で、トラッシュのコア1つを、僕のライフへ」

 

 

〈ライフ2➡︎3〉早美ソラ・王者

 

 

強化されたバルバトスルプスに怯む事なく、一気呵成に攻撃を仕掛けてくるソラ。アラバスターは海原をも掻き消す咆哮を張り上げると、翼を広げ、オーカミのフィールドへと飛翔する。

 

 

「姉さんは僕を守ってくれた、だから今度は僕が姉さんを守る番。君は僕の姉さんを虐めた、絶対に赦さない!!……必ず獅堂レオンと同じ目に遭わせてやるんだ」

「ソラ、それが本当に、姉ちゃんのためになるって思ってるのか?……フラッシュマジック、抱擁……オレのデッキ上1枚を破棄、それが鉄華団なら、トラッシュのソウルコアをスピリットに置く」

 

 

迫り来るアラバスター。ブロック前のフラッシュタイミングで、オーカミは頬に流れて来た血を舌で舐め取ると、手札にある1枚のマジックカードを発揮させる。

 

その効果で彼のデッキの上から1枚がトラッシュへと破棄されるのだが………

 

 

「残念だけど、それは鉄華団カードじゃないよ、僕にはわかる、王者があるからね」

「……」

 

 

それは鉄華団のカードではなかった。これにより、トラッシュのソウルコアは、オーカミのフィールドに戻らない。

 

 

「……ソラ、今のオマエは、ただ自分が気に入らない奴を倒したいだけだ。そんな事しても、オマエの姉ちゃんのためにはならない」

「ッ……なんだって」

「オマエの姉ちゃんは、オマエにそんな事をさせたいから、頑張ったんじゃない。オレも姉ちゃんと2人で暮らしてたから、わかる。オマエの姉ちゃんは、オマエとまた一緒に笑っていたいから、一緒に居たいから、頑張ってたんだぞ」

「……姉さん」

 

 

オーカミの言葉に、早美ソラの姉である、アオイが一筋の涙を流す。

 

自分の気持ちを代弁してくれて、わかっていてくれて、自分の弟の事を本気で心配してくれて、嬉しかったのだ。

 

 

「言葉に惑わされてはいけませんよ、ソラ君。所詮他人は他人、涅槃に沈めてあげなさい」

「そ、そうだ。勝つ、僕は君に勝つぞオーカミ。勝って、僕の行動は正しい事を証明して見せる……全てを噛み砕き、焼き尽くせ、アラバスター!!」

 

 

迷うソラだったが、嵐マコトの一言により、また元に戻ってしまう。

 

フィールドの状況は、圧倒的にオーカミの劣勢。このままアラバスターのアタックが通れば、確実にソラの勝利となる。

 

しかし、それは飽くまで、今のオーカミが何もしなければの話ではあるが……

 

 

「抱擁の効果で破棄された、スネークビジョンの効果を発揮」

「!?」

「このカードをトラッシュから手札に加え、オルガにコア+1」

 

 

オーカミの手札に、新たなマジックカードが手札に加えられる。

 

その効果の発揮に、ソラは戸惑う。無理もない、その効果の発揮は、自分の王者の力で見た未来にはなかったモーションなのだから………

 

 

「フラッシュマジック、スネークビジョン。効果でオマエの全てのスピリットのコアを1個になるようにリザーブに置く」

「!!」

「これでアラバスターのLVは、3から1になる。その後、クーデリア&アトラのコア1個を支払い、メルトドラゴンのコア1個を追加でリザーブに置き、消滅させる」

 

 

たった今手札に加えたマジックカードを使用するオーカミ。その力により、最凶のゼノンザードスピリットであるアラバスターですら、LVが最低ラインの1となり、弱体化。メルトドラゴンは耐えられず消滅してしまう。

 

 

「コレだけじゃ終わらないぞ。バルバトスルプスでブロック、その【合体中】アタックブロック時効果で、ソニックワスプとアラバスターのコアを1個ずつリザーブへ、置き、消滅」

「ッ……またコア除去!?」

 

 

直後、オーカミはバルバトスルプスでアラバスターのアタックをブロックする。

 

フィールドでは、バルバトスルプスが手に持つソードメイスを投げ、ソニックワスプを貫き、消滅させる。

 

だが、勝利の余韻に浸る間もなく、アラバスターがバルバトスルプスを喰らわんと襲い掛かってくる。武器を投げてしまったルプスは、その襲撃を両手で抑え込み、やがて受け流しながら跳び上がると、アラバスターの顔面をぶん殴り、地に叩き伏せた。

 

 

「うん、これで殺し切れる」

 

 

オーカミがそう呟くと、バルバトスルプスは、目にも止まらぬ速さでフィールドを駆け巡り、投げたソードメイスを回収。剣先を向けながら、やっとの思いで立ち上がったアラバスターへと飛び込んでいく。

 

アラバスターは火炎放射を放ち、それを止めようとするも、その勢いは止まる事を知らず、遂に突破され、ソードメイスの先端が、胸部へと突き刺さる。

 

悲鳴のような悲痛な咆哮を張り上げながら、爆散していくアラバスター。オーカミのエースであるバルバトスルプスが、最凶のゼノンザードスピリットを易々と討ち取って見せた。

 

 

「そ、そんな……僕のスピリットが、アラバスターが負けた、こんなの、僕の見た未来じゃない」

「なんだ、鉄華オーカミのこの違和感。まさか奴の王者は、ソラ君のそれを超えるとでも言うのか、何故だ、右目しか輝かない、不完全な王者だと言うのに」

 

 

同じ王者同士の激闘。勝敗を決する最後の分かれ目。

 

誰がここまで圧倒的な展開を予想しただろうか、鉄華オーカミのバトルスピリッツは、王者は、ソラとソラのゼノンザードスピリットをも超越しているのだ。

 

 

「私の時と同じだ。未来が、描き変えられてる?」

 

 

ライがそう呟く。同じく王者の力を使い、自分の見た未来が覆される経験のある彼女だからこその言葉だった。

 

 

「オマエのスピリットは0。これでもう何もできないだろ」

「くっ……ターン、エンド」

手札:1

場:【アイリエッタ・ラッシュ】LV1(1)

【アッシュ・クロード】LV1(2)

バースト:【無】

手元:【己械人シェパードール】

 

 

スネークビジョンとバルバトスルプスのコンボにより、スピリットが全て倒されたソラ。悔しさに歯を噛み締めながら、そのターンをエンドとする。

 

そして次はオーカミのターンだ、全てに決着を着けるべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン10]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ、手元からグシオンリベイクフルシティ、手札からランドマン・ロディ、バルバトス第1形態を召喚する」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ】LV2(3)BP10000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

オーカミは、手札と手元から3体のスピリットを展開し、圧巻のフィールドを作り上げると、最後のアタックステップへと突入する。

 

 

「アタックステップ、ルプスでアタック、合体している三日月の効果で、オマエのリザーブのコア、4つトラッシュに置くぞ」

「!?」

 

 

ルプスが血のような赤色に輝く眼光をソラへ向けると、そのBパッド上にあるリザーブのコアが、使用不可ゾーンであるトラッシュへと送られた。

 

その瞬間、ソラの視線は己の手札にある最後の1枚、防御札の1種である「己械人シェパードール」へと向けられる。今の使えるコアは4つ、対してそれのコストは5、奇しくも僅差で使用できなくなってしまった。

 

 

「シェパードールはもう使わせない」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉早美ソラ・王者

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

ソードメイスを横一線に振るう、ルプスの豪快な一撃が、ソラのライフバリアを、一気に2つ奪う。

 

いよいよ残りライフは1つ。オーカミはシェパードールに阻まれない、低コストのスピリットである、バルバトス第1形態のカードへと、手を伸ばす。

 

 

「ソラ、オマエは姉ちゃん想いの良い奴だ。姉ちゃんを護るのに、そんなカードは必要ない……バルバトス第1形態、ラストアタックだ!」

「オーカミ、僕は……」

 

 

渾身のラストアタック。バルバトス第1形態がソラの最後のライフバリアを優しく抱き締める。

 

そしてそれは、ゆっくりとひび割れていき………

 

 

〈ライフ1➡︎0〉早美ソラ・王者

 

 

「……ありがとう」

 

 

完全に砕け散って行った。ソラのBパッドから「ピー……」と流れる無機質な機械音が、ソラの敗北、オーカミの勝利を告げる。

 

 

「オレの勝ちだ、ソラ。今度はもっと楽しくバトルしよう、命も何も、賭けずに」

 

 

オーカミがそう呟くと、フィールドに残った4体の鉄華団スピリットが凱歌を謳うように、音のない咆哮を張り上げる。

 

さらにその直後、ソラのBパッドから「アラバスター」のカードが謎の力で浮遊すると、そこから吐き出すように、粒子を放出して………

 

 

「……」

「ッ……レオン!!」

 

 

粒子が密集し、凝固すると、それは獅堂レオンであった。オーカミがソラに勝利した事で、元に戻る事ができたのだろう。

 

声を荒げ、アルファベットが真っ先に砂浜に横たわる彼の元へ走り出した。

 

 

「ソラ!!」

「坊ちゃん!!」

 

 

バトルに負け、片膝を突くソラに、アオイとフグタが駆け寄る。

 

 

「姉さん、僕は……ッ」

 

 

何かを言いかけるソラを黙らせるように、アオイは彼を抱き締める。

 

 

「よかった、よかったです。もう何も言わないで、何もしないで………私が、私が全部悪かったから……!!」

「姉さん……ごめんよ」

 

 

抱き締める手が震えているのを感じる。今更、自分のせいで大好きな姉さんを泣かせていた事に気がついた。

 

僕もまた姉さんと一緒に、笑い合って一緒に暮らしたい。そう思いながらソラはアオイを抱き締め返すと、彼の体中から黒いオーラが飛び散り、消滅して行った。

 

 

「オーカ!!」

「赤チビ!!」

 

 

バトルが終わり、フィールドに残った鉄華団スピリット達がゆっくりと消えて行く中、王者の力の影響のせいで足元がふらつくオーカミに、ヨッカとライが駆け寄る。

 

 

「全く、大した奴だぜオーカ、オマエはよ」

「アニキ、ライ……どうだ、勝ったぞ、オ…レ」

「わ、ちょいちょい」

 

 

2人の顔を見るなり安心し、力尽き、気を失いながらライの胸元へと倒れ込むオーカミ。

 

ライは一瞬戸惑うが、直ぐに笑顔に切り替えると、自分の服にオーカミの血痕が付着するのも厭わず、彼を優しく抱き止める。

 

 

「君は凄い奴だ、赤チビ……オーカミ」

 

 

オーカミの勝利でバトルが終わり、コレまで起こった不幸と悲劇が全て払拭されて行く中………

 

ただ1人、諸悪の根源である嵐マコトは、この状況に高笑いし、拍手喝采。

 

 

「アッアッア……いや〜〜実にエクセレントなバトルでしたよ、オーカミ君、ソラ君。しかし至高の素材とは言え、モルモットはモルモット、ソラ君ではこの程度が限界でしたか」

 

 

嵐マコトが手を天に翳すと、ソラのデッキから全てのゼノンザードスピリットが浮遊し、飛び出し、その手に集まって行く。

 

 

「嵐マコト、アンタの負けだ。大人しくお縄につけ、そして……」

「フフ、そして……なんだい、九日ヨッカ。その続きを聞いてみたいなぁ」

「……」

 

 

……『そして、イナズマ先生を解放しろ』

 

ヨッカはそう告げようとしたが、言えなかった。目の前にその娘であるライがいるからである。ライも危険に巻き込んでしまう可能性がある限り、イナズマの名は口に出せない。

 

しかし、その事情を知っている嵐マコトは………

 

 

「ところで、春神ライちゃん」

「ッ……おい、やめろ!!」

「君のお父さん、今私が預かってるんですよね」

「……え」

 

 

ヨッカの制止も虚しく、嵐マコトはライに真実を告げる。

 

突然の言葉に頭の中が真っ白になるライ。ヨッカに関しては頭の血の気が下がり、生きた心地すら失う。

 

 

「ちょ、ちょっと待って、私のお父さんは今行方不明で、どこにいるのかもわからなくて、それでヨッカさんが探してくれてて」

「そう、その原因を作ったのが私と言う事さ。君のお父さんとは旧知の中でね、どうしても彼の頭脳が必要だったんだ」

「ッ……いったい私のお父さんに何させてんだよ!!」

 

 

1年前、突然失踪してしまった自分の父、春神イナズマ。

 

その原因を作った人物を目の前に、ライは声を荒げ、鋭い剣幕を見せる。

 

 

「アッアッア、落ち着きたまえ、君が抱いているオーカミ君が起きてしまっては、気の毒だからね」

「………」

「君のお父さんは、界放市中に多数存在する、私の隠れ研究所のどこかにいるよ」

「!」

「隠れ研究所は、それぞれ1人ずつガードマンが守ってくれていてね、イナズマ先生のいる研究所は、そのガードマンの中でもトップクラスの実力を誇る「エニーズ02」と呼ばれる人造人間が付いている」

「エニーズだと!?」

 

 

嘘か真か、やや抽象的ではあるが、嵐マコトは、はじめて春神イナズマの所在を吐く。

 

端的に言うと、彼が所有している隠れ研究所。その中でも「エニーズ02」言うガードマンが守護している研究所が当たりと言う事だ。

 

そして、その「エニーズ02」と言う名前に、アルファベットが強い反応を示す。

 

 

「嵐マコト、オマエと春神イナズマがDr.Aの元部下だった事は、調べがついている」

「え、お父さんがDr.Aの元部下!?」

「おい、余計な事言うなアルファベットさん!!」

「エニーズ02とは何だ、オマエは一体何を企んでいる」

 

 

決してライの前では言ってはいけない禁句を言ってしまうアルファベット。だが、それを思わず言ってしまう程に、彼にとって「エニーズ」の名前は重たく響くのだ。

 

 

「アッアッア……アルファベット。完全な部外者である君が、それを知る必要はない。ではねライちゃん、是非イナズマ先生を助けるために、私の隠れ研究所を探してくれたまえ」

「あ、ちょい、まだ話は……!!」

「アッアッア……アーッアッアッ!!!」

 

 

ライに挑戦状を叩きつけるかの如く高笑いする嵐マコト。Bパッドを操作し、ワームホールを作り出すと、すぐさまそこへ飛び込み、姿を眩ましてしまう。

 

ジークフリード区のアビス海岸で行われた決戦。最後は嵐マコトが意味深な言葉を残し、この場を後にする形で幕を下ろしたものの、王者の力を発揮させたオーカミの勝利により、無事全ては元通り、その問題の殆どは解決したのだと………

 

誰もがそう思っていた。

 

 

「ん……」

「あ、オーカミ」

「ライ……何でオレ、オマエのとこで寝てんだ」

「ッ……ボーナスタイムは終わり!!……目が覚めたんなら、さっさと自分で立ちなさいよ!!」

「えぇ」

 

 

ほんの数分で、オーカミが目を覚ます。今更自分が何をしていたのかに気づいたライは、顔を赤らめ、彼から手を離す。

 

そんなオーカミは、2本の足で立ち、辺りを見渡そうとするが………

 

その時、ある異変に気がつく。

 

 

「……アレ、なんか右目……右腕、変だな」

 

 

その右目は暗闇に閉ざされ、右腕は骨でも抜かれてしまったかのように垂れていた。おそらく、先のバトルで王者を酷使し過ぎた結果であろう。

 

背筋を凍らせる程に恐ろしい事態だが、もっとも恐ろしいのは、それを全く意に介さず、乏しい反応しか見せないオーカミ自身であった。

 

 




次回、第47ターン「王者、バルバトスルプスレクス」


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第47ターン「王者、バルバトスルプスレクス」

黒い翼を羽ばたかせるカラスの群れが、まるで間もなく訪れる夜を知らせるかのように鳴き続ける。

 

界放市の警視、アルファベットと、カードショップアポローンの店長、九日ヨッカは、そんな音が絶え間なく聞こえ続ける、夕暮れのヴルムヶ丘公園のベンチに腰を据えていた。

 

 

「あれから1週間、鉄華の容態はどうなった」

 

 

どんよりとした空気が続く中、アルファベットがヨッカに訊いた。

 

ヨッカの反応は、あまり良いモノではなく……

 

 

「変わらずだ。右目は失明、右腕も神経麻痺で動かせないまま」

「そうか。周囲にはなんと話している」

「右目の事は何も、右腕は骨折したと説明してます」

 

 

鉄華オーカミ。

 

友である早美ソラの暴走を止めるため、彼と同じ王者の力を使ったが、その代償に右目と右腕を失ってしまった。

 

弟分に課せられた、無慈悲且つ重すぎる天罰に、ヨッカはただ拳を握る事しかできなくて………

 

 

「……」

「オマエのせいではない。王者を使った者を倒せるのは、同じく王者を使える者しかいない。遅かれ早かれ、奴は早美ソラとバトルしていただろう」

「そう言う問題じゃねぇ……!!」

「!」

「アイツをバトスピに誘ったのはオレだ。オレが、アイツを……あんなにしちまったんだ、このオレが」

 

 

拳を握るだけでは足らず、行き場のない怒りは、口元にまで伝播し、強く歯を噛み締める。

 

鉄華オーカミをバトルスピリッツの道に誘った張本人である九日ヨッカ。あの場にいた誰よりも大きな責任を感じているに違いなかった。

 

 

「……九日、気に病む必要はない。何せ、オマエが鉄華をバトスピに誘わなくとも、鉄華はバトスピをしていたからだ」

「……え?」

「明日、オレは最後のバルバトスを、奴に託す。オマエも来い、九日」

「アルファベットさん、アンタ」

 

 

意味深な言葉を言い放つアルファベット。そんな彼の手には「ガンダム・バルバトスルプスレクス」と言う名前のカードが握られており………

 

 

******

 

 

 

「そんじゃ、ヒバナちゃんの大復活を祝しまして……乾杯!!」

「なんか、恥ずかしいな」

 

 

鈴木イチマルが、ジュースの入った紙コップを、骨折していない左手で掲げながら乾杯の音頭を取る。

 

場所はいつも通りカードショップアポローン。鉄華オーカミ、一木ヒバナ、雷雷ミツバも、それに合わせて紙コップを手に取り、乾杯する。

 

 

「つーかオーカミ、折角ヒバナちゃんが復活してくれたのに、オマエも右腕骨折って、まさか過ぎるだろ、縁起悪いよな」

「あぁ、まぁ別に片手使えれば今までと対して変わらないから」

「いや、変わりはするだろ」

 

 

早美邸での決戦から1週間が経過した。その翌日に起こったアビス海岸での闘いは、あの場に居合わせた者達以外には話していない。

 

故に、今この場にいる誰もが、オーカミが右腕を三角巾で固定している、本当の理由を知らない。

 

 

「ねぇオーカ、さっきからずっと気になってたんだけど、何で今日ずっとBパッド付けてるの?」

「気分」

「気分って……」

 

 

ヒバナがそうオーカミに質問する。この世界では老若男女、貧富の差に関わらず、誰もが所持できるアイテムであるBパッドだが、確かに常時左腕に装着しているのは明らかに変である。

 

 

「オレの骨折とかは別に気にしなくていいよ、今日はヒバナのために集まったんだし」

「それもそっか、オレっちも骨折したし……よぉし、めっちゃお菓子食うぞ〜!!」

 

 

張り切るイチマル。アポローンの経費で大量に購入したお菓子をバリバリ貪り始める。

 

その様子は、どこか痩せ我慢しているようにも見えて……

 

 

「ねぇ、オーカ……イチマル、やっぱりお兄さんの事気にしてるんじゃ」

「うん、多分」

 

 

ヒバナがオーカミに小声で伝える。

 

イチマルの実の兄である、鈴木レイジ。オーカミとバトルして以降、彼は行方不明になってしまっていた。故に今のイチマルは、その心配の気持ちを押し殺しているに違いない。

 

だからと言って、こちらから何かをしてあげれるわけではない。今は見つかる事を信じて、ただ待つのみである。

 

 

「オーカ、ヒバナちゃん、何こそこそイチャイチャしてんだい?……イチマルがお菓子全部食べちゃうよ〜」

「い、イチャイチャはしてないですよミツバさん、今から食べます。太らない程度に」

「あっはは、今まで寝たきりだったんだから、たくさん食べても罰当たんないって」

 

 

ミツバがヒバナを揶揄って来ると、ヒバナもお菓子を食べにそこへ向かおうと、一歩前に出る。

 

 

「どうしたのオーカ、行こ」

「……うん」

「あ、そう言えば今日、ライちゃん達もくるんだって」

「ライ?」

「うん、ライちゃんと、お友達のフウちゃん」

 

 

今日は、どこか上の空寄りと言ったオーカミだったが、ヒバナの口からライの名前を聞くなり、彼女との出会いや思い出が想起し……

 

 

「……あぁ、そっか。オレ嬉しいんだ」

「え」

「なんか今日、胸の辺りがぐしゃってなってて、ずっと変な感じがしたんだ。でもやっとわかった。みんながこの店に戻って来てくれて、また一緒にいられて、オレは嬉しいんだ」

「……」

「うん、やっぱりそう。オレは嬉しい、行こうヒバナ。オレも食べたい、お菓子」

 

 

オーカミはそう告げると、イチマルとミツバがいる所へ向かって歩いて行く。

 

 

「それは、いいんだけど、私も嬉しいんだけど、何で」

 

 

……『何でライちゃんの名前でそれがわかったの?』

 

直後、自分の横を通過するオーカミに、ヒバナの頭の中は、その疑問でいっぱいになった。

 

 

 

******

 

 

翌日。ここは日本で最もバトルスピリッツが盛んな界放市、そこと他県や他国を繋ぐ有数の空港、界放空港。

 

鉄華オーカミと春神ライは、ある人物達を見送るべく、そこへ足を運んでいた。

 

 

「鉄華オーカミ、春神ライちゃん。今回の件、本当にありがとう。お陰で、オレ達はまた絆を取り戻す事ができた」

「いやいや、そんな固い挨拶はいいですって、ハリセンボンさん」

「だからフグタだって」

「本当になんと、お礼を申し上げればいいのか」

「別に気にしなくていいと思うけど。結果的にソラは助かって戻って来たんだし、それにヒバナとイチマルにはもう誤ったんだろ?」

「えぇ、レオン君にも」

 

 

早美ソラ、アオイ、フグタの3人は、間もなくソラの病気完治のため、アメリカへと旅立つのだ。

 

長年苦しめられて来たソラの病気。オーカミも、それが具体的にどんな病気なのかは詳しく聞かされてはいないが、早美姉弟が嵐マコトによって縛られて来たおよそ3年の間に、その病を治せる方法が、アメリカにできた事を知り、一先ず安心している。

 

 

「オーカミ、君のその右目と右腕は、僕が……」

「ソラ」

 

 

苦しい表情を見せながら、相応の重たい言葉を発するソラ。

 

自分を助けようと命懸けで闘ってくれたオーカミに、殺意を向けていた事への罪悪感が、今の彼を苦しませていた。

 

 

「競争だな」

「へ?」

「オマエの病気と、オレのコレ。どっちが早く治せるか競争しよう。勝った方が、ジュースを奢る」

「オーカミ……」

「それでその後は、バトルだ。今度こそ、普通にバトスピしよう」

 

 

無表情で、言葉も淡々としていて、非常にわかりづらいが、これはオーカミなりの気遣い、優しさである事を、ソラは知っていて……

 

彼はその目に涙を浮かべながら、オーカミの左手を取る。

 

 

「うん、うん……絶対しよう、バトスピ、約束だ」

「あぁ、絶対だ」

 

 

その手を離すと、アメリカ行きへのアナウンスが流れる。一時の別れがやって来た。オーカミとライは、軽く手を振り、ソラ達を見送る。

 

 

「じゃあ、九日ヨッカと、アルファベットさんにもよろしく伝えておいてくれ」

「うん」

 

 

フグタの言葉を最後に聞き取ると、オーカミとライは空港の屋上へと移り、数分後に、そのアメリカ行きの飛行機が飛び立つのを見届けた。

 

 

「行っちゃったね」

「うん」

「ヨッカさんとアルファベットさん。誘ったのに結局来なかったな〜あの2人、最近付き合い悪いんだよね」

「うん」

「そうそう、この後ヒバナちゃんとフウちゃんとお出掛けデートするんだぜ、いいだろ〜」

「うん」

「さっきから「うんうん」ばっかり。何黄昏てんだか」

「うん」

 

 

オーカミはまたどこか上の空だった。ソラがアメリカへと旅立ち、物寂しい気持ちもあるのだろう。

 

交友経験が少ない彼にとって、友達がどこか違う所へ行くと言うのは、初めてなのだ。

 

 

「アンタ、その目と腕、大丈夫なの」

 

 

ライがそうオーカミに訊いた。側から見ればただの五体不満足の少年だが、その過程を見てしまったライは、よりそれが痛々しく感じて仕方なかった。

 

 

「うん、まぁ別に前と対して変わらないし、いいんじゃない」

「いいんじゃないって、アンタねぇ、なんでそんな楽観的なの、対して変わるだろ」

「動くモノは動く。動かないモノは動かない。それだけわかればいいよ」

「極端な奴……その腕じゃ、しばらくバトルも……」

 

 

どこまでもクールで淡々と答えるオーカミ。ライは、何で不幸な不自由を手にしてしまった彼が、ここまで平然としていられるのかが不思議でならなかった。

 

普通ならば、戸惑い、苦しみ、悩んでもおかしくはないと言うのに。

 

 

「早美姉弟は経ったか、鉄華、春神」

「あ、アルファベット」

「と、ヨッカさん。今更登場なんて遅過ぎますよ、どこ行ってたんですか」

「あぁ悪りぃ、ちょっと色々な」

 

 

飛行機が飛んだ影響で、ちょうど人影が減って行く中、タイミング良く、アルファベットとヨッカが姿を見せる。

 

さらにアルファベットは、オーカミへと己のデッキを突きつける。

 

 

「鉄華」

「なに」

「オレとバトルしろ」

 

 

バトルを申し込むアルファベット。その申し出に一番驚いたのは、オーカミではなく、ライだった。

 

 

「え、ちょいちょいちょいちょい、アルファベットさん、今オーカミは右腕が動かないんですよ、そんな状態でバトルなんてできるわけ」

「あぁ、それなら心配しなくてもいいよ、できるから」

「……は?」

 

 

そう告げながら、オーカミは左腕に装着している左腕を、アルファベットへ向けて構える。

 

 

「バトルは受けてくれるようだな。だが、オレはこのバトルで、オマエの鉄華団のカードを賭けるぞ」

「!」

「は、なんでアンティルール!?……アルファベットさん警察でしょ!?」

 

 

声を荒げたのはライの方だった。

 

法でも禁止されているバトルのアンティルール。アルファベットは警察であるにもかかわらず、オーカミにそれを振り掛けて来た。にわかには信じられない事である。

 

 

「それと先に、コイツを渡して置く、デッキに入れておけ」

「コレは……」

「『ガンダム・バルバトスルプスレクス』……モビルスピリット、バルバトスの最終進化形態だ」

「!?」

 

 

アルファベットがオーカミに投げ渡した1枚は、新たなる鉄華団のカードであった。

 

その名も「ガンダム・バルバトスルプスレクス』………

 

名前やイラストからして、おそらくバルバトスルプスから更なる進化を遂げたバルバトスであると思われる。

 

その存在自体も驚愕に値するモノだが、それ以上の驚きは、何故かアルファベットがそれを所持していたと言う点であり………

 

 

「何でアルファベットがコレを?」

「簡単な話だ。今まで鉄華団のカードをオマエに与えていたのは、このオレだからな」

「!!」

 

 

サラリと衝撃的な事実を告白するアルファベット。

 

今まで封筒に入れて、様々な方法で鉄華団カードを届けていた張本人は、このアルファベットだったのだ。

 

 

「アルファベットが、オレに鉄華団を……?」

「あぁ」

「何でオレなんかに」

「気になるなら、オレにバトルで勝ってから聞く事だ」

「……」

 

 

アルファベットは己のBパッドを展開し、そこへデッキを装填する。

 

 

「……ライ、このカード、オレのBパッドに入ってるデッキに差してくれ」

「え、あぁうん」

 

 

右腕が動かせないオーカミは、ライに『バルバトスルプスレクス』のカードをBパッドに装填しているデッキに入れてもらう。

 

カードがデッキに入ると、オートシャッフル機能が誘発し、ランダムにシャッフルされる。

 

 

「よし、ありがとう」

「いえいえ〜〜どういたしまして〜〜……じゃない、ちょいちょい、アンタどうやってバトルする気なわけ!?」

「いや、普通に」

「その腕でどうやってドローするのよ」

「始めよう、アルファベット」

「人の話を聞けぇ!!」

 

 

Bパッドをバトルモードに切り替え、互いに構え合わせたオーカミとアルファベット。

 

その間に、オーカミの右腕は血が通い出したかのように、息を吹き返したかのように、動き出して………

 

 

「うん、動く」

 

 

オーカミは動くようになった右手を硬く握り締めながら、そう呟く。その様子に、ライは唖然とする。

 

 

「ウソ、右腕が……右目も見えるの?」

「今のオーカは、バトルする時だけ、不自由になった右目と右腕の神経が戻るんだ」

「何それ、そんなのおかしいじゃん。普通じゃないよ」

「そうだ、普通じゃない」

 

 

初めてその光景を見たライに、ヨッカがそう説明した。

 

バトルをする時だけ、右目が見え、右腕が動かせるようになるオーカミ。確かにコレならバトルだけならできるが、真っ当な人間の考え方だと、それは尋常ではなく、異常だ。

 

 

「鉄華団なのか、鉄華団のカード達が、オーカに闘う力を与えているのか?」

 

 

オーカミのBパッドに装填された鉄華団のカード達に対して、そう考えを呟くヨッカ。

 

バトルをする時のみ、身体が自由になる仕組みを考える際、外的要因が、それ以外存在しないからであろう。

 

 

「何度も言うが、オレが勝てば、鉄華団のカードは返してもらうぞ」

「いいよ。逆にオレが勝ったら、コイツらの事教えてくれるんでしょ」

「もちろんだ」

「それに、アンタにはあの時からずっとリベンジしたかったんだ、一石二鳥でちょうどいい」

「フ……始めるぞ、鉄華」

「あぁ、バトル開始だ!!」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

鉄華団のカードと、それの秘密を賭け、オーカミとアルファベット、2人によるバトルスピリッツが幕を開けた。

 

先攻はオーカミ。ライとヨッカが見守る中、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、オルガ・イツカ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

流石の引きの強さと言った所か、オーカミは初手に鉄華団デッキの展開の起点となる創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置。

 

その神託の効果により、3枚のカードがデッキ上からトラッシュへと落ち、3つのコアがそこへ追加される。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

幸先の良いスタートを切り、オーカミはそのターンをエンドとする。動くようになった右腕も好調のようだ。

 

そして次は、彼の鉄華団のカードを取り上げんとする、アルファベットのターン。

 

 

[ターン02]アルファベット

 

 

「まさかここで、またバトルをする事になるとはな」

 

 

自分のターンを迎えた直後、アルファベットがそう呟いた。何年も前、同じ場所で妹とバトルした事を想起したのだ。

 

 

「メインステップ、残念だが鉄華」

「?」

「オレもオレのデッキも、オマエに容赦できないみたいだ。白のネクサス、凍れる火山、コレを2枚配置する」

 

 

ー【凍れる火山】LV1

 

ー【凍れる火山】LV1

 

 

アルファベットの最初の一手。彼の背後に、凍りついた山々が出現。

 

それを見た瞬間、バトルを観戦している春神ライは「エグ」と、感想を一言。彼女がそういった事を吐いてしまつのにも、理由があり………

 

 

「凍れる火山、コレがある限り、相手は自分のターン中、効果で手札を増やした時、その増やした数分手札を破棄しなければならない」

「それが2枚か」

「あぁ、これでオマエは効果で手札を増やす度、倍のカードを捨てる事になった。手札を増やす事に長けているオマエのデッキには、厄介極まりないだろう……ターンエンドだ」

手札:3

場:【凍れる火山】LV1

【凍れる火山】LV1

バースト:【無】

 

 

簡潔に説明すると、オーカミは自分のターン中、効果で手札を増やしても、その倍の数を即座に捨てなければならないと言う事だ。

 

最早手札を増やす効果を使用できなくなったと言っても過言ではない状況で、ターンが巡って来る。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、2枚目の創界神ネクサス、クーデリア&アトラを配置する」

 

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

オーカミはここで鉄華団をサポートする2種類目の創界神ネクサス「クーデリア&アトラ」を配置。その神託により、デッキ上から、対象のカードが3枚トラッシュ、3つのコアが追加された。

 

 

「続けてランドマン・ロディをLV2で召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

丸みを帯びた、小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディがオーカミのフィールドへ姿を見せる。

 

対象となるスピリットの召喚により、2種の創界神にそれぞれ1つずつコアが追加された。

 

 

「アタックステップ、ランドマン・ロディでアタックだ」

「来い、ライフで受けてやろう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉アルファベット

 

 

ランドマン・ロディはマシンガンを掃射し、アルファベットのライフバリア1つを撃ち抜く。

 

この間、オーカミはランドマン・ロディとオルガ、クーデリア&アトラの効果を合わせ、3枚ものカードをドローする事ができたのだが、そうして仕舞えば、2枚の凍れる火山により、手札が全てなくなると言う本末転倒な状況に陥ってしまうため、使用を見送っていた。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【ランドマン・ロディ】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(4)

【クーデリア&アトラ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

オーカミはエンドの宣言をし、ターンをアルファベットへと譲渡する。

 

アタックこそ行ったものの、速攻を得意とする鉄華団のデッキにおいては、かなり消極的と言える1ターンであったに違いない。

 

 

[ターン04]アルファベット

 

 

「動きづらそうだな、だが容赦はしないと言った。メインステップ、英雄皇の神剣を配置、バーストをセットし、効果で1枚ドロー」

 

 

ー【英雄皇の神剣〈R〉】LV1

 

 

問答無用で更なるネクサスカードを展開するアルファベット。その背後に巨大な神剣が配置される。

 

英雄皇の神剣。バーストを多く扱うデッキならば、どのデッキでも採用圏内に入る強力なネクサスだ。彼はその効果で1枚のカードをドローする。

 

 

「さらに犀ボーグ、さまよう甲冑」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(2)BP5000

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

 

「犀ボーグの効果で1つコアブースト、さまよう甲冑の効果で1枚ドローする」

 

 

アルファベットのフィールドに初めて呼び出されるスピリットは、犀ボーグとさまよう甲冑。

 

ロイヤルナイツのカード達を除くと、よく愛用されているこのスピリット達の効果により、アルファベットは更なるドローを重ね、コアも増やす。

 

 

「コアと手札、両方増やして行くのか」

「本来オレは、欲張りな性格だからな……アタックステップ」

 

 

スピリットを並べ、ガラ空きとなっているオーカミのフィールドへ攻撃を仕掛けようとするアルファベット。

 

だが、その開始直後、オーカミの声が響く。

 

 

「アンタのアタックステップ開始時、オルガの【神技】の効果を発揮」

「!」

「オルガのコア4つをボイドへ支払い、トラッシュに眠る鉄華団を呼び起こす……来い、漏影」

 

 

ー【漏影】LV1(1)BP3000

 

 

トラッシュの鉄華団をノーコストで召喚する事ができる、創界神ネクサス、オルガ・イツカの【神技】の効果。

 

それにより、アルファベットのアタックステップだと言うにもかかわらず、オーカミのフィールドに、バスターソードを片手に持つ鉄華団モビルスピリット、漏影が出現する。

 

 

「漏影には、デッキ上から3枚破棄して、トラッシュの鉄華団カードを手札に戻す召喚時効果がある。さらにこの時、鉄華団の効果でオレのデッキが破棄されるから、クーデリア&アトラの【神域】の効果で1枚ドローできる」

「考えたなオーカ、アルファベットさんのターンなら、凍れる火山の効果は発揮されねぇ」

 

 

ヨッカが頷く。これは、オーカミの手札を増やすための秘策。

 

漏影とクーデリア&アトラのコンボにより、手札を一気に2枚増やす事が可能な上に、アルファベットのターンなら、凍れる火山の効果は発揮されない。

 

増えた手札を使い、次のターンで一気に形成を逆転させる。それがオーカミの作戦であったが………

 

 

「オマエがスピリットをノーコスト召喚した事により、オレは手札からマジックカード、零ノ障壁の【ゼロカウンター】の効果をただちに発揮させる」

「!?」

 

 

アルファベットの壁は余りにも分厚い。

 

生半可な戦術はすぐさま淘汰される。

 

 

「【ゼロカウンター】は、相手がバースト効果以外でスピリットかブレイヴをノーコスト召喚した時に発揮できる効果。その中でも、零ノ障壁は【ゼロカウンター】時に相手スピリット1体を破壊できる。それにより、漏影を破壊」

「なに」

 

 

その召喚時効果が発揮される直前、漏影の頭上から渦状のエネルギー波が襲い掛かり、爆散に追い込む。

 

 

「召喚時効果が発揮されなければ、クーデリア&アトラの【神域】も発揮されないだろう」

「くっ……」

「この効果発揮後、零ノ障壁は1コスト支払う事で手札に戻る」

「ッ……今の効果をまた使えるって事か」

 

 

僅か1コストでも支払う事ができれば、何度でも使用する事ができる【ゼロカウンター】の効果を持つ零ノ障壁。

 

オルガをはじめ、多くのノーコスト召喚効果を有する鉄華団にとっては、文字通り『零』の名を持つ『障壁』………

 

 

「この状況でまだ手札増加を狙って来るとは、油断のならない奴だ。このターンのアタックは無し、ターンエンドだ」

手札:2

場:【さまよう甲冑】LV1

【犀ボーグ】LV2

【凍れる火山】LV1

【凍れる火山】LV1

【英雄皇の神剣】LV1

バースト:【無】

 

 

ライフを減らさずとも、圧倒的と言える実力差を見せつけて行くアルファベット。ターンはオーカミへと移るが、凍れる火山と零ノ障壁を構えられているこの状況では……

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディをもう1体召喚。バーストをセットして、ターンエンド」

手札:2

場:【ランドマン・ロディ】LV2

【ランドマン・ロディ】LV2

【オルガ・イツカ】LV1(1)

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【有】

 

 

この程度の事しかできない。

 

オーカミは精一杯守りを固め、巡って来たターンを早々にエンドとした。

 

 

「次のターン、来る、アルファベットさんのロイヤルナイツスピリットが」

 

 

ライがそう呟く。バトルの流れを読んでの発言だろう。

 

 

[ターン06]アルファベット

 

 

「メインステップ、白の成長期デジタルスピリット、ハックモンをLV2で召喚」

 

 

ー【ハックモン】LV2(2)BP4000

 

 

「召喚時効果により5枚オープン、その中のロイヤルナイツスピリット、ジエスモンを手札に加える」

 

 

白き小型のドラゴン、ハックモンがアルファベットのフィールドに呼び出される。その効果により、いつも通り伝説のロイヤルナイツの1体であるジエスモンのカードが、彼の手札へと加えられた。

 

 

「そして、そのまま【煌臨】を発揮。ハックモンを剣纏いしロイヤルナイツ、ジエスモンへ究極進化」

 

 

ー【ジエスモン】LV3(5)BP14000

 

 

白き光に包み込まれ、進化を遂げるハックモン。新たに出現したのは、全身が剣で構成された、白き竜型のロイヤルナイツ、ジエスモン。

 

ハックモンの効果により、その上に置かれているコアは3つも増加している。

 

 

「煌臨時効果により、2体のランドマン・ロディを手札へ戻す」

「!」

 

 

ジエスモンの周囲を漂う、橙色の3つのオーラ。それらは宙を飛び交い、オーカミのフィールドのランドマン・ロディを薙ぎ払い、粒子化、手札へと強制送還させる。

 

スピリットを全て失うオーカミだが、このタイミングで使えるカードが、彼の手札の中に有り………

 

 

「鉄華団スピリットがフィールドを離れた時、手札からグレイズ改弍の効果を発揮」

「……」

「コイツをノーコスト召喚する」

 

 

ー【流星号[グレイズ改弍]】LV2(3)BP3000

 

 

「召喚時効果で1枚ドローする」

 

 

ガラ空きとなったオーカミの場に、流星の如く現れたのは、マゼンタのカラーを持つ一つ目の鉄華団モビルスピリット、グレイズ改弍。

 

その召喚時効果により、オーカミはデッキから1枚ドローできるが………

 

 

「無駄だ、ドローはさせん。零ノ障壁の【ゼロカウンター】を発揮、グレイズ改弍を破壊」

 

 

前のターンの漏影と同様に、グレイズ改弍の頭上へ、渦状のエネルギー波が降り注ぎ、それを爆散へと追い込む。

 

 

「この効果発揮後、1コスト支払い、零ノ障壁は手札に戻る」

 

 

何度やっても、零ノ障壁がアルファベットの手札にある限り、ノーコスト召喚はできない。

 

だが、不思議とオーカミはこの状況で小さな笑みを浮かべていて………

 

 

「ふ……それを待ってた」

「?」

「オレのスピリットの破壊後により、バースト発動、ガンダム・グシオンリベイク!!」

 

 

グレイズ改弍の破壊に反応し、オーカミはここで伏せていたバーストカードを勢いよく反転させる。

 

それは、この状況を打開させる、数少ない一手であり………

 

 

「効果により、先ずはコレを召喚、轟音打ち鳴らせ、過去をも焼き切れ!!……ガンダム・グシオンリベイク!!……LV3で召喚!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV3(5S)BP12000

 

 

上空から降り立ったのは、薄茶色の分厚い装甲を持つ鉄華団のモビルスピリット、グシオンリベイク。

 

これまで何度もオーカミを守って来た、鉄華団デッキの守護神である。

 

 

「バースト効果は続くぞ、トラッシュにブレイヴカードがある事により、ジエスモンのコアを1個になるようにリザーブへ送る」

「!」

 

 

オーカミのトラッシュにはブレイヴカードである「ノルバ・シノ」が存在する事により、ジエスモンのカードに乗っている5個のコアは、一瞬にして1個まで減少し、LVは1へとダウンする。

 

 

「さらに召喚時効果だ、フィールドのコア2つ、ジエスモンとさまよう甲冑から取り除き、消滅させる」

「成る程、オレの零ノ障壁を逆手に取るか」

 

 

グシオンリベイクは現れるなり、手に持つハルバードをブーメランのように投げ、さまよう甲冑とジエスモンへ命中させて行く。

 

その攻撃で全てのコアを失ってしまった2体はこの場から消滅。

 

 

「確か【ゼロカウンター】は、バースト効果による召喚は使えないんだよな」

「すげぇぜオーカ、アルファベットさん相手にこんなカウンターを仕掛けるなんて、ホント、強くなったな……」

「ヨッカさん?」

 

 

オーカミが強くなった事に対する喜びと、王者の反動により、彼がどんな危険な目に遭ってしまうかわからない恐怖が、ヨッカの心を複雑に交差していく。

 

 

「やるな、だがまだオレのターンである事を忘れるな。2体目の犀ボーグを召喚」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV2(2)BP5000

 

 

「効果によりコアブースト」

 

 

カウンターから立て直すべく、アルファベットのフィールドへ2体目の犀ボーグが投下される。

 

フィールドに揃った2体の犀ボーグは、今すぐ走り出さんと、片方の前足で地面を蹴り始める。

 

 

「アタックステップ、犀ボーグでアタックする」

 

 

何故かBPで劣る犀ボーグでアタックを仕掛けるアルファベット。オーカミとしては、ブロックしない手はない。

 

 

「グシオンリベイクでブロック。その効果でアタックした犀ボーグを、そのまま破壊」

 

 

グシオンリベイクは、犀ボーグの突進を盾で防ぎ、そのまま踏み潰して爆散させる。

 

 

「続け、犀ボーグ」

「またアタック?」

 

 

アルファベットの二度目のアタックに疑問符を浮かべたのは、春神ライだった。おそらく、いつも冷静沈着である、彼らしくない選択をしたからであろう。

 

 

「クーデリア&アトラの【神技】……コア5個をボイドに支払い、グシオンリベイクを回復、ブロックして破壊だ」

 

 

2体目の犀ボーグも、強固な盾で受け止めるグシオンリベイク。今度は逆手で待ったハルバードを振い、それを斬り裂いて破壊した。

 

 

「創界神のコアを消費し、無理矢理ライフを守護したか、ターンエンド」

手札:2

場:【凍れる火山】LV1

【凍れる火山】LV1

【英雄皇の神剣〈R〉】LV1

バースト:【有】

 

 

「このタイミングでらしくないフルアタック……アルファベットさん、まさかオーカの攻撃を誘っているのか」

「そうだとしたら、あのバーストは……」

 

 

一見無駄に見えた、このターンのアルファベットのアタック。だが、創界神のコアを消費させつつ、オーカミに敢えてアタックするチャンスを作らせたと捉える事もできる。

 

そう、これは明らかな罠。

 

オーカミがそれを理解しているのかは定かではないが、彼にとっては、どちらにせよアルファベットのライフを奪うチャンスに違いなくて。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、グシオンリベイクのLVを2に下げて、ランドマン・ロディ2体をLV2で連続召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

前のターンで手札に戻ったランドマン・ロディ2体が復活、グシオンリベイクと肩を並べる。

 

 

「アタックステップ、グシオンリベイクでアタック」

 

 

オーカミの指示を受けると、グシオンリベイクが背部のスラスターで低空を飛行。手に持つハルバードの矛先をアルファベットへ向ける。

 

 

「ライフで受けよう」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉アルファベット

 

 

グシオンリベイクの重たい一撃が、アルファベットのライフバリア1つを木っ端微塵に粉砕。

 

オーカミはここに来て、フィールド的にもライフ的にも優勢に立つが………

 

アルファベットの伏せていたバーストカードが、それを良しとしない。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動」

「!」

「効果により、グシオンリベイクをデッキ下に戻し、デッキから手札が4枚になるまでドロー」

 

 

アルファベットのライフバリアを粉砕したのも束の間、グシオンリベイクは、突如足元に開いた巨大なデジタルゲートに吸い込まれ、この場から消滅してしまう。

 

しかも、それだけでは終わらず、アルファベットは2枚ある手札を、4枚になるようにデッキからドロー。

 

 

「この効果発揮後、コイツをノーコストで召喚する……現れよ、黒きロイヤルナイツ、アルファモン!!」

 

 

ー【アルファモン】LV3(6)BP20000

 

 

上空にも出現する巨大なデジタルゲート。その中より出現し、地上へ降り立つのは、黒に輝く鎧を持つ、伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの一柱にして、アルファベットのデッキのエースカード、アルファモン。

 

 

「ふ、出やがったな。やっぱソイツを出してくれないと、リベンジのしようがないよな、ターンエンド」

手札:2

場:【ランドマン・ロディ】LV2

【ランドマン・ロディ】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(3)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

アルファモンのいるフィールドに、ランドマン・ロディだけでは太刀打ちできない。オーカミはそれらをブロッカーとして残し、ターンをエンドとする。

 

その時の表情は、バトルを楽しんでいる少年そのものであった。

 

 

[ターン08]アルファベット

 

 

「メインステップ、異魔神ブレイヴ、鳳凰竜フェニック・キャノンを召喚」

 

 

ー【鳳凰竜フェニック・キャノン〈R〉】LV1(0)BP3000

 

 

アルファモンの登場により、再びバトルの主導権を握ったアルファベット。このターン最初に呼び出したのは、2体のスピリットと合体できる特殊なブレイヴ、異魔神ブレイヴ。

 

赤き翼を持つ機竜、フェニック・キャノンが飛翔する。

 

 

「召喚時効果、ランドマン・ロディ1体を破壊する」

 

 

フェニック・キャノンは登場するなり、装備している砲台から砲弾を放ち、オーカミのフィールドにいるランドマン・ロディ1体を撃ち砕く。

 

ランドマン・ロディ1体は堪らず爆散してしまうが、ただでやられるわけではなくて。

 

 

「ランドマン・ロディの破壊時効果、デッキから1枚ドロー」

「フ……今更ドローの1枚や2枚、くれてやるさ」

 

 

ランドマン・ロディの効果により、ここに来てようやく効果による手札増強を行ったオーカミ。その手札は2枚から3枚となる。

 

 

「さらに、2体のさまよう甲冑を召喚。効果により2枚ドロー」

 

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

 

このバトルで2、3体目となるさまよう甲冑。2体分の召喚時効果により、アルファベットはデッキから2枚のカードをドローする。

 

 

「そして、フェニック・キャノンを、さまよう甲冑とアルファモンの2体に合体」

 

 

ー【さまよう甲冑+鳳凰竜フェニック・キャノン〈R〉】LV1(1)BP5000

 

ー【アルファモン+鳳凰竜フェニック・キャノン〈R〉】LV3(6)BP23000

 

 

吠えるフェニック・キャノン。その機械の身体を赤く発光させると、その光はさまよう甲冑とアルファモンの2体へと伸び、繋がり、リンク。己の力を2体に力を与えた。

 

これにより2体のBPは3000ずつ上昇し、赤のシンボルが1つずつ追加された合体スピリットとなる。

 

 

「アタックステップ、アルファモンでアタック」

 

 

メインステップを終え、アルファベットはアタックステップへ。伝説のロイヤルナイツであるアルファモンが動き出す。

 

この時、内に秘めた強力なアタック時効果が発揮される。

 

 

「アタック時効果、2コストを支払い回復。さらに残ったランドマン・ロディのコア2つをリザーブへ置き、消滅」

「!」

 

 

オーカミのフィールドへ手を翳すアルファモン。すると、その周囲に無数のデジタルゲートが開き、そこから幾千もの波動弾が放出、全弾ランドマン・ロディに命中し、それを爆散へと追い込んだ。

 

 

「これでオマエのフィールドは0。アルファモンはコア2つを支払い続ける限り、何度もアタックができる。終わりか?」

「……アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

アルファモンの黒き鋼鉄の拳が、オーカミのライフバリアを一気に2つ砕く。

 

終盤に来て初めて変動するオーカミのライフバリアだが、アタックを繰り返す事が可能なアルファモンの存在により、それは最早あってないモノに等しい。

 

 

「合体しているさまよう甲冑でアタック」

「それもライフだ」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

異魔神ブレイヴ、フェニック・キャノンとの合体により、低コストスピリットであるにもかかわらず、ダブルシンボルとなっているさまよう甲冑。錆びた刀を振い、オーカミのライフバリア2つを切捨御免。

 

 

「残りライフ1つ。だけどオレはここで、絶甲氷盾の効果を発揮」

「今か」

「効果により、アルファベット、アンタのアタックステップは終了する」

 

 

オーカミがこのタイミングで放ったのは、最も汎用性の高い白の防御マジックカード「絶甲氷盾〈R〉」………

 

ロイヤルナイツのアルファモンと言う強力なスピリットを従えていようと、その効果には抗えない。アルファベットのアタックステップは強制終了となる。

 

 

「ターンエンド。コアを増やすために、敢えて絶甲氷盾を二度目のアタックで使ったのか」

手札:4

場:【アルファモン+鳳凰竜フェニック・キャノン】LV3

【さまよう甲冑+鳳凰竜フェニック・キャノン】LV1

【さまよう甲冑】LV1

【凍れる火山】LV1

【凍れる火山】LV1

【英雄皇の神剣〈R〉】LV1

バースト:【無】

 

 

致し方なく、そのターンをエンドとするアルファベット。

 

バトルは終盤を迎え、圧倒的劣勢に立たされたオーカミのターンへと移行して行く。

 

 

「面白い、やっぱバトスピはそう来ないとな」

「……何を笑っている鉄華。忘れたか、このバトルで負ければ、オマエは鉄華団を失うんだぞ」

 

 

絶体絶命の盤面、負ければデッキを失うってしまうと言う状況下であると言うのにもかかわらず、小さく笑みを浮かべるオーカミに、アルファベットがそう告げる。

 

だが決して、オーカミがおかしくなった訳ではない。

 

 

「忘れてないよ。でもそんな事より、オレは楽しくてしょうがない、次のターン、このオレに何ができるのかを考えたら、凄くワクワクするんだ」

「……」

「行くぞアルファベット、行こう鉄華団のスピリット達、オレは絶対に、オマエ達に応えて見せる……!!」

 

 

およそ半年前、アルファベットの仕込みにより、鉄華団のカード達と出会ったオーカミ。

 

きっと、あの出会いは運命だった。そう内に想いを秘め、絶え間なく燃え盛り続ける闘志を胸に、巡って来た己のターンを開始して行く。

 

 

[ターン09]鉄華オーカミ

 

 

「ドローステップ……!!」

 

 

このターンのドローステップ。右手で勢い良くドローしたそのカードを視認するや否や、オーカミは目の色を変える。

 

そして思う「やっぱりバトスピは面白い」と。

 

 

「メインステップ、先ずはオマエだ、天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV3で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV3(6)BP13000

 

 

天空から凄まじい勢いでフィールドに降り立つのは、モビルスピリット、バルバドスの強化形態、ガンダム・バルバトスルプス。

 

入手以降、数々の勝利をオーカミに齎して見せた、紛う事なき最高のエースカードである。

 

ただ……

 

 

「今更ルプスか。だがその程度では、オレのアルファモンは突破できんぞ」

「……」

 

 

そうだ。このバルバトスルプスを持ってしても、ロイヤルナイツであるアルファモンを淘汰する事は叶わない。

 

それ程の力の差が、2体には存在するのだ。

 

 

「確かに、ルプスじゃアルファモンは倒せない。けど、ルプスをも超えるコイツなら、可能性はある」

「ッ……あのカードを引いたか」

「あぁ、アンタがくれた。見せてやる、これがオレの鉄華団デッキの集大成だ」

 

 

しかし、オーカミはその差を覆す可能性があるカードを、このターンのドローステップで既に引いていた。

 

彼は一筋の希望をそのカードに託し、効果の発揮を、高らかに宣言する。

 

 

「煌臨発揮、対象はバルバトスルプス」

 

 

メインステップに使用できるタイプの【煌臨】を発揮させるオーカミ。対象に取ったルプスを、更に上の存在へと進化させるつもりなのだ。

 

それこそ、そのカードこそ。

 

最強の鉄華団スピリットにして、数々の変化と進化を繰り返して来た、バルバトスの最終形態。

 

 

天地を揺るがせ、未来へ響け!!

 

ガンダム・バルバトスルプスレクス!!

 

LV3で煌臨!!

 

 

ルプスの上に様々な装甲やパーツが装備装着されて行く。

 

その過程の中、腕部はより巨大化し、頭部の黄色い角は4つに分かれ、王者の王冠を彷彿とさせるモノに変貌する。

 

こうして新たに現れたのは「ガンダム・バルバトスルプスレクス」………

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス】LV3(6)BP16000

 

 

ルプスレクスは、身の丈程はある戦棍、超大型メイスを地に叩きつけ、己の存在をこのフィールド全体に知らしめる。

 

その風貌、風格はまさしく、鉄華団の王。バルバトスの最終形態。

 

それが今、伝説のロイヤルナイツ、アルファモンと合間みえる。

 




次回、早美邸編最終回、第48ターン「ルプスレクスVSアルファモン」




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第48ターン「ルプスレクスVSアルファモン」

「天地を揺るがせ、未来へ響け!!…ガンダム・バルバトスルプスレクス!!…LV3で煌臨!!」

 

 

度々強風が吹き荒れる、界放空港の屋上にて、鉄華団のカードを賭けた、オーカミとアルファベットのバトルが続く。

 

オーカミは劣勢を強いられる中、新たなるエースカード「ガンダム・バルバトスルプスレクス」を呼び出す事に成功。今、それと共に、伝説のロイヤルナイツであるアルファモンを操る、アルファベットへ挑む。

 

 

「アレがオーカミの新しいバルバトス……デカ」

「デカいっつーか、デカく見えるだけだなありゃ、腕が太い」

 

 

巨腕と巨大なメイスを持つバルバトスルプスレクスに、ライとヨッカがそう言葉を落とす。

 

 

「アイツ、また王者になったりしねぇよな」

 

 

ヨッカが僅かばかりに震えた声でそう呟いた。

 

使用者に絶対的な力を与える王者の力。その反動で右目と右腕が機能しなくなったオーカミが心配で堪らないのだろう。

 

 

「心配するだけ無駄ですよ、同じ奴使える私にはわかります。今のアイツは、大丈夫だ」

 

 

ライがヨッカにそう告げると、バルバトスルプスレクス煌臨の余韻が終わり、バトルが再開して行く。

 

 

「オレは、紫のパイロットブレイヴ、三日月・オーガスを、ルプスレクスに合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3(6)BP22000

 

 

「最後の手札を使い、ルプスレクスを極限まで強化して来たか」

 

 

今まで数多くの鉄華団スピリットと合体して来た、鉄華団専用のブレイヴ「三日月・オーガス」………

 

それが新たなるバルバトス、バルバトスルプスレクスにも合体。オーカミは全ての手札を失ったものの、ルプスレクスはアルファモンにも負けず劣らずのパワーを誇る合体スピリットへと変貌した。

 

 

「アタックステップ、ルプスレクスでアタック!!」

 

 

オーカミはアタックステップへ突入。ルプスレクスは緑色の眼光を輝かせると、超大型メイスを構え、内包された強力なアタック時効果を発揮させて行く。

 

 

「ルプスレクスには、オレのトラッシュが10枚以上の時のみ、発揮できる効果がある。このターンの間、相手のスピリット、ネクサス全てのLVコストを+1。維持コアを満たされないスピリットとネクサス全ては消滅する!!」

「!」

 

 

ルプスレクスは、背部に備え付けられたテイルブレードを伸ばし、本物の尾のように展開。身体を半回転させ、遠心力でそれを動かし、アルファベットの背後に存在する凍れる火山2枚と、英雄皇の神剣を切り裂き、消滅へと追い込む。

 

さらに身体元の位置に戻すように逆回転させ、再びテイルブレードを逆方向から切り付ける。切り付けられたのは、フィールドにいるアルファモンと2体のさまよう甲冑。2体のさまよう甲冑は真っ二つに裂かれ、瞬く間に消滅したが、アルファモンはLVダウンこそしたものの、生き残る。

 

 

「なんて効果、一度のアタックでアルファモン以外の全てのカードを消滅に追い込むなんて」

 

 

ライが驚き、そう言葉を落とす。一度にフィールド全体のLVコストを上昇させるカードと言うのは、確かにかなり稀有な存在なのだ。彼女程の実力者のリアクションから、それがよく伝わる。

 

 

「これで、厄介な凍れる火山はなくなった。ルプスレクスの更なる効果、デッキ上2枚を破棄し、その中に鉄華団カードがあれば、紫シンボルを1つ追加する」

 

 

ルプスレクスのもう1つのアタック時効果が発揮。オーカミのデッキから2枚のカードが破棄される。

 

その中には、当然鉄華団のカードがあって。

 

 

「破棄されたバルバトス第4形態は、鉄華団。よってルプスレクスに紫シンボルを1つ追加。さらにクーデリア&アトラの【神域】の効果で、トラッシュの紫1色のカードをデッキ下に置き、1枚ドロー」

 

 

効果により、ルプスレクスは一度に3つものライフを破壊できるトリプルシンボルと化す。

 

アルファベットのライフは3。この一撃が通れば、彼の勝利へと繋がる。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】を発揮、デッキ上3枚を破棄、1枚ドロー、クーデリア&アトラの効果でさらにドロー」

 

 

2枚の凍れる火山の消失が、ここに来てオーカミに怒涛のドローを齎す。彼の手札は、0枚から一気に3枚まで回復した。

 

 

「まだだ、クーデリア&アトラの【神技】……クーデリア&アトラのコア5個と、トラッシュの鉄華団1枚をコストに、ルプスレクスを回復させる!!」

 

 

オーカミのコンボはまだ続く。クーデリア&アトラの【神技】の効果により、ルプスレクスは回復。トリプルシンボルで二度目の攻撃権利を得た。

 

これで、アルファモンを倒しつつ、アルファベットの3つのライフを砕く算段が整った。後はこれが通るだけ………

 

 

「すげぇぜオーカ、流石はオレの弟分だ。これでアルファベットさんを倒せるか!?」

「いや、多分まだ」

 

 

ヨッカがそう言い、ライが否定する。

 

そうだ。仮にも彼は、伝説のロイヤルナイツを従える、レジェンドカードバトラーの1人、芽座葉月なのだ。

 

この程度の事で、終わる訳がなくて………

 

 

「ライフで受ける」

「よし、オレの勝……」

「だが、ここで手札にある白のマジックカード『フェイタルダメージコントロール』の効果を発揮させる」

「!?」

「一度に自分のライフが3つ以上減少する時、手札にあるこのカードのフラッシュ効果をノーコストで発揮させる。このターン、オレのライフが減る時、そのダメージを1に抑える」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉アルファベット

 

 

ルプスレクスの持つ超大型メイスが、アルファベットのライフバリアへ猛威を振るう直前に展開される半透明のバリア。それが緩衝材となり、彼のライフの減少を3ではなく、1に止まらせる。

 

 

「忘れたか鉄華、オマエに鉄華団を渡したのはこのオレだ。当然熟知しているさ、全ての鉄華団の効果をな」

「……ターンエンド」

手札:3

場:【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3

【オルガ・イツカ】LV2(6)

【クーデリア&アトラ】LV2(1)

バースト:【無】

 

 

まるで、ルプスレクスの猛攻までもを計算に入れていたかのような発言をするアルファベット。

 

それが嘘か真実かは定かではないが、どちらにせよオーカミはこのターンをエンドとせざるを得なくなった。生き残ったアルファモンを操り、反撃に出て来る事は確実で。

 

 

[ターン10]アルファベット

 

 

「メインステップ、既にオマエのライフは1。風前の灯だが、もちろん容赦はしないぞ、徹底的に潰してやる」

「来いよ」

「その威勢や良し、異魔神ブレイヴ、騎士王蛇ペンドラゴンを召喚」

 

 

ー【騎士王蛇ペンドラゴン〈R〉】LV1(0)BP4000

 

 

「その召喚時効果でルプスレクスのコア2つをリザーブへ」

 

 

天を舞い、フィールドへと降り立ったのは、紫のドラゴンにして異魔神ブレイヴ、騎士王蛇ペンドラゴン。

 

召喚時効果により、ルプスレクスのコアが2個、オーカミのリザーブへと移動し、そのLVは2までダウン。

 

 

「オレのターンを迎えた事で、LVコストを上昇させるオマエのルプスレクスの効果は終了している。が故に、アルファモンのLVは3だ」

 

 

ー【アルファモン+鳳凰竜フェニック・キャノン〈R〉】LV3(6)BP23000

 

 

アルファベットは、今のルプスレクスでは、アルファモンには到底敵わない事を主張すると、バトルを終わらせるべく、アタックステップへと突入する。

 

 

「アタックステップ、全てを砕け、アルファモン。アタック時効果で2コストを支払い回復、さらにまたルプスレクスのコア2個をリザーブへ、LVは2から1となる」

「!」

 

 

アルファモンはアタックした直後、回復状態になると共に、ルプスレクスへと手を翳し、無数のデジタルゲートを形成すると、そこから幾千もの波動弾を放出。

 

ルプスレクスは超大型メイスを盾にそれを何度か打ち返し、防ぐものの、全弾は回避できずに数発被弾。コアが2個取り除かれ、LVは1。BPは14000までダウンしてしまう。

 

 

「最強のバルバトスとは言え、所詮はただのスピリット。伝説のロイヤルナイツの中でもトップの強さを持つ、アルファモンの敵ではない」

「……それは倒してから言うセリフだろ。ブロックだ、ルプスレクス!!」

 

 

アルファモンとルプスレクスのバトル。アルファモンが回復状態となっているため、このバトルが勝負の行方を左右していると言っても過言ではないが………

 

 

「アルファモンのBPは23000、対するルプスレクスのBPは14000。オーカの負けか!?」

 

 

ヨッカがそう叫ぶ。オーカミの勝利を信じている彼だが、肝心のルプスレクスのBPではアルファモンに遠く及ばない。今の状況だと確実にオーカミの敗北となってしまうのだ。

 

フィールドではルプスレクスが超大型メイスで先制攻撃を仕掛けるが、アルファモンの鋼鉄の鎧には亀裂一つ生じない。それどころか振るった超大型メイスの方が粉々に砕け散る。

 

それでも攻撃の手を緩めないルプスレクスは、持ち手だけとなった超大型メイスを投げ、アルファモンを怯ませようとするが、それさえ通じず、ぶん殴られて吹き飛ばされ、大地に叩き伏せられる。

 

 

「終わりだ。オマエにそのカード達は相応しくない、返してもらうぞ、鉄華オーカミ!!」

 

 

アルファベットがそう叫ぶと、アルファモンはトドメだと言わんばかりに、天空に手を翳し、再び無数のデジタルゲートを形成。そこから地に伏せるルプスレクスへ向けて大量の波動弾を発射し………

 

 

「このまま負けるのは面白くないよね、オーカミ」

 

 

絶体絶命の状況の中、ライがそう呟くと、オーカミは「当然だ」と鼻で笑い、起死回生の一手を己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、火星の王へ」

「!?」

「効果により、デッキ上1枚を破棄、それが鉄華団なら、このターンの間、ルプスレクスのBPを、トラッシュにある鉄華団1枚につき1000上げる」

 

 

このマジックカードの効果により、オーカミのデッキ上1枚が破棄。それはもちろん鉄華団のカード、この効果は有効となる。

 

 

「落ちたのは鉄華団カード、バルバトス第1形態。よってルプスレクスのBPは上昇、合計BPは27000になる」

「なに、BP27000!?」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】BP14000➡︎27000

 

 

放たれた大量の波動弾をテイルブレードで切り裂き、再びフィールドに立ち上がるルプスレクス。

 

血肉に飢えた狼の如く、アルファモンへと襲い掛かる。

 

 

「この勝ち方、思い出すな、妹を」

「行けルプスレクス。アルファモンを、ロイヤルナイツをぶっ壊せ」

 

 

この瞬間、アルファベットの脳裏に思い浮かんだのは、同じ場所で妹とバトルした、あの日の出来事。

 

フィールドでは、荒々しく突き出した、ルプスレクスの強靭な激爪が、アルファモンの鋼鉄の鎧を貫く。伝説と謳われる流石のアルファモンでも、この一撃には耐えられなかったか、ゆっくりと力付き、前のめりで地に倒れ、大爆発を起こした。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:3

場:【鳳凰竜フェニック・キャノン〈R〉】LV1

【騎士王蛇ペンドラゴン〈R〉】LV1

バースト:【無】

 

 

アルファモンの敗北は、アルファベットの敗北も同然。彼はアタックもブロックもできない異魔神ブレイヴを残し、そのターンをエンドとする。

 

強烈なカウンターを見せ、遂に強敵、アルファモンを見事に倒して見せた、オーカミのターンへと移行する。

 

 

[ターン11]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ルプスレクスのLVを再び3にアップ」

 

 

アルファモンとペンドラゴンによって減らされたコアを取り戻し、バルバトスルプスレクスは、再びLV3にアップ。

 

いよいよ正真正銘、最後のアタックステップへと身を委ねる。

 

 

「アタックステップ、ルプスレクスでアタック。効果でフェニック・キャノンとペンドラゴン2体のLVコストを上げて消滅」

 

 

ルプスレクスがアルファベットのフィールドへと攻め込む。その道中でアルファモンをも屠った激爪を振い、フェニック・キャノンとペンドラゴンを切り裂き、消滅させる。

 

2体を倒しても尚止まらないルプスレクスの進行に、アルファベットは何故か鼻で笑い……

 

 

「フ……オマエの戦い方は、本当にアイツによく似ている」

「ありがとう、アルファベット。アンタがオレと鉄華団を出会わせてくれたお陰で、オレは今、こんなに楽しい」

 

 

オーカミは、鉄華団と出会わせてくれた事に感謝の言葉を告げると、ルプスレクスが、アルファベットの眼前へと到着。最後のライフを砕かんと、その右手の甲を天に上げ、構える。

 

 

「見事だったぞ、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉アルファベット

 

 

ルプスレクスの激爪は、アルファベットの残ったライフバリアをも、紙切れの如く容易に切り裂いて見せた。

 

これにより、彼のライフは0。それを全て掻っ攫った、鉄華オーカミの勝利となる。

 

 

「フフフ、フハハハ!!!」

「アルファベットさんが、笑ってる」

「あんな感じで笑うんだ」

 

 

敗北したと言うにもかかわらず、大きな声で高笑いするアルファベット。その光景が珍しいと、ヨッカとライは目を丸くしながらそれを眺める。

 

 

「楽しかった、またやろう」

「強くなったな。それでこそ、オマエをずっと見て来た甲斐があったと言うものだ」

「そうなの」

 

 

バトルが終わり、残ったルプスレクスは消滅。その途端に、オーカミの右腕は骨抜きにでもされたように垂れ、右目は再び視力を失ってしまう。

 

 

「あぁ、オレはある人物に依頼され、鉄華団のカードをオマエに渡していた。オマエの成長を見届けるのも、その一貫だ」

「ある人物って誰」

「それは教えられんな」

「何で、勝ったら教えるんじゃなかったの」

「誰も『全部教えてやる』とまでは言ってないだろ」

「うざ」

「それに、オレも鉄華団カードの細かな詳細は聞かされていない。ただそのお方から定期的に預かっているだけだからな」

 

 

オーカミがバトルに勝利した事により、アルファベットは約束通り鉄華団の秘密を少しだけ話す。

 

どうやら、その背後にはまだ何者かが一枚噛んでいる様子。

 

 

「今言える事はただ1つ。鉄華団と共にバトスピを楽しめ、それがそのお方の願いでもある」

「願い?」

「あぁ、今日の気持ちを忘れるな。ではさらばだ、オレは次の事件現場に行く、こう見えて忙しいからな」

 

 

そこまで言い切ると、アルファベットはこの場を後にしようとするが、ある事をふと思い出し、その足を止める。

 

 

「それと春神」

「ん?」

「オマエはもう、嵐マコトには手を出すな」

「!!」

「オマエの父親は、オレと九日で救出する。この間の奴の挑発に踊らされるなよ」

「……わかってますよ」

 

 

この間はアレだけ危険な目に遭わせておいて、今度は手を出すなと強く釘を刺して来るアルファベット。ここで言う「挑発」とは、ライの父親である「春神イナズマ」をどこかの研究者へ誘拐していると断言した、嵐マコトの発言の事だろう。

 

どこか矛盾を感じ、腹立たしく思うライだったが、ここは大人しく首を縦に振っておく。

 

その様子を見たアルファベットは、何かもっと言いたげな様子だったが、敢えて無言無表情でこの場を後にする。彼の背中が見えなくなった直後、バトル後のオーカミの元へ歩み寄ったのは、彼の兄貴分である九日ヨッカだ。

 

 

「おいオーカ、腕と目、大丈夫か。どこも痛くねぇか」

「別に心配しなくていいって、痛くないから。相変わらず動かないけど」

「お、そっか」

 

 

また異常がないか確認したヨッカだったが、余計なお世話だったようだ。オーカミは普段と何ら変わらない。

 

そんなオーカミは、さっきのアルファベットの声がまだ胸の内に響いているライの方へと首を向けて………

 

 

「おいライ」

「!」

「勝ったぞ、オレ。見てた?」

「お、おうよもちろんだぜい、オメーデトサン。うっしっし、次はいよいよ私との決着だな」

「ライ……」

 

 

彼女のどこかぎこちない喋り方に、彼女を本物の妹のように想っているヨッカは、不安と焦りを感じていて………

 

 

******

 

 

ここは界放空港のホール。飛行機に乗らんと、多くの乗客員が闊歩するこの空間を、アルファベットは歩いていた。飛行機に乗るつもりはない。ここの屋上でオーカミとバトルした、その帰り道だ。

 

 

「おい」

「!」

 

 

そんな折、後ろから声を掛けられる。彼にとっては、懐かしい声だ。

 

 

「レオンか」

 

 

その人物は、鉄華オーカミの好敵手、獅堂レオン。アルファベットがまだ「芽座葉月」であった頃の弟子だ。

 

彼はサングラスを掛け、今も尚、自分の正体を隠し続けている。

 

 

「見たぞ、貴様とオーカミのバトルを」

「そうか」

「ジエスモンにアルファモン。その2枚を持っているカードバトラーは、この世にただ1人しか存在しない」

「……」

 

 

バレている。どう考えても。

 

どうやらレオンはかなりガッツリ彼のバトルを観ていたようだ。その中で伝説のアルファモンを視認して仕舞えば、当然そうなる。

 

 

「貴様は、いや、貴方はオレの……」

「レオン」

「!」

「三度目は言わんぞ、オレみたいになるな。オマエはまだ、孤独ではない、素晴らしいバトル人生を歩む事ができる。デスティニーと共に、それを楽しめ」

「師匠……!」

「オレはオマエの師匠ではない。界放警察の警視『アルファベット』だ」

 

 

レオンにとっては、死んだと思っていた師匠との再会。その目に涙を浮かべない理由はない。

 

対するアルファベットは、そんな彼を横切り、この場を去っていく。共に居たくないわけではない、ただ、レオンに自分は必要ないと感じているのだ。

 

 

「スイート、ティア、ルージュを頼むぞ」

 

 

去り際、アルファベットは心残りだった家族の名を口にした。彼女らは皆女性、レオンが護って上げろと言う意味だろう。

 

 

「オレ、また貴方が戻って来てくれるの、信じてますから!!……いつか絶対、また家族5人で、食卓囲んで、飯食いましょう!!……だって、貴方も孤独じゃないから!!」

 

 

レオンがアルファベットに向けてそう叫んだが、彼はその全てを背中で受け止めるのみ。こうして、アルファベットとレオン、2人の師弟物語は、一時幕を下ろしたのであった。

 

 

 

 

******

 

 

「いや〜〜ここ半年は、実に充実した日々を過ごしました。それはもうもう飛び切りに嬉しい事楽しい事ばかりでしたよ」

 

 

どこかの場所、どこかの空間。

 

怪しげで、いるだけで不安感を煽るような、そんな不気味な雰囲気を漂わせるこの場所は、悪魔の科学者Dr.Aの元部下、嵐マコトの所有する研究所の1つ。

 

 

「アッアッア、早美姉弟に目を付けたのは正解でした。2人とも、扱い易くて、素敵な駒でしたよ。特に弟のソラ君、王者の才能があった彼は、私の作ったゼノンザードスピリットを操らせるのに最適だったんですよ〜〜そのお陰で、人体をデータ化する技術を作ると言う、私の目的は達成されました」

 

 

どこに向けて喋っているのか、やたら響き、耳障りな声色で、これまでの計画を語り出していく。

 

彼の言う『人体をデータ化する技術』と言うのは、ゼノンザードスピリットのアラバスターが、バトルで負かしたレオンを粒子化させ、吸収した事を指しているのだろう。

 

 

「鉄華団とか言うカードを使う邪魔者さえいなければ、もっと多くのサンプルを獲得できたんですがね。いやしかし、それで十分。間もなく私達は己の夢に向かって走り出していくのです。何をしても止める事なんてできません、最早抵抗なんて無意味なんですよ。だから早く私にエニーズ02の量産方法を教えてください、イナズマさん」

「………」

 

 

その声の先にいるのは、手枷を嵌められた、細身で40から50歳程度の男性。顎髭がそこそこ伸びている事から、かなり不憫な生活を強いられてしまっている事が確認できる。

 

そう、この人物こそ、春神ライの父親にして、かつてDr.Aの右腕とも呼ばれたもう1人の部下『春神イナズマ』………

 

 

「何度も言わせるな、教える気はない。人は心のない怪物になる事はできても、全能の神になる事はできんぞ、マコト」

 

 

所謂監禁をされている、絶望的な状況の中、イナズマのその目は、未だ希望を失ってはいなかった。

 

たった1人の娘の世話を任せた、この世で最も信頼できる教え子が、きっと活躍してくれると信じているからだ。

 

 

「貴方こそ、何度そのロマンチックな常套句を押し付けるつもりですか。なるか、なれないかではない、なるんですよ。この私が、あのDr.Aでさえ成し遂げられなかった、この世の常識を塗り替える支配者、創造主、神に……!!」

「……」

「それに、その為にDr.Aが行っていた進化、オーバーエヴォリューションの研究を参考にして作り上げたカードもある」

 

 

そう告げると、嵐マコトは、懐から1枚のカードを取り出し、イナズマに見せびらかすように突きつける。

 

 

「っ……これは」

「アッアッア、その名も『仮面ライダークローズエボル』………これが、Dr.Aの求めていた完成系、神の証」

 

 

故に、これを手にした私は、間もなくこの世の神になるんです。

 

誰が、何をしても、ね。

 

 

彼がなろうとしているのは、心のない怪物。世界を変えるだけ変え、他者を踏みに弄る、真の怪物。

 

鉄華団と言う特別なカードを手にした少年、鉄華オーカミは、やがてその怪物と対峙する事になる。そして、その「やがて」は、もうすぐそこまで来ていて………

 

 

 




次回、新章『魔女の覚醒編』開幕。

第49ターン「デジタル王」



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魔女の覚醒編
第49ターン「デジタル王」


 

 

「まさかこのオレが、男に会いに行く事があるなんてな。珍しい事もあるもんや。鉄華オーカミ、オモロイ野郎だとええな」

 

 

民衆で満ちた界放市の街中を歩くのは、関西弁訛りで、やや褐色の肌色の青年。鉄華オーカミの名を口にする彼の正体はいったい………

 

 

******

 

 

早美邸での激闘から、およそ1ヶ月が経過した。その戦いで皆を勝利に導いた立役者、鉄華オーカミは、右目右腕の機能を失いながらも、今も尚、カードショップ「アポローン」でアルバイトをしていて………

 

 

「で、何でいるの」

「え、ホントに今更ですね」

 

 

今の所お客さんが1人足りたとも来店していないガラガラのお店。オーカミはふと横にいる事に気づいた、夏恋フウに疑問を抱く。

 

夏恋フウとは、春神ライの親友の少女。色々ガサツなライとは違い、黒髪ロングで、どこか清楚な印象を与えてくれる。

 

 

「オーカミさんが右腕骨折してるから、お手伝いしてくれないかとヨッカさんに頼まれたんですよ」

「そ、アニキが」

「はい、兎に角今日は2人で頑張りましょう!!」

「うん、よろしく」

 

 

骨折と言うのは嘘だ。本当はもうバトルする時以外動かない。

 

今の所はそれで問題ないが、アレから1ヶ月、ここからさらにもう1ヶ月程経過すれば、周囲から不審がられてもおかしくない頃合いになって来るだろう。

 

 

「ところでオーカミさん、今日ってデッキ持って来てますよね。そうですよね、だってカードバトラーなんですから!!」

「え、うん。Bパッドに刺さってる」

「鉄華団のデッキ、見てもいいですか〜!!」

 

 

フウが目をギラギラと輝かせながらオーカミに訊いた。彼女はバトルこそ下手くそらしいが、実は大のバトスピオタク。珍しいカードの塊である、オーカミの鉄華団デッキが気になって仕方ないのだ。

 

 

「まぁいいけど」

「やったー!!…ありがとうございます!!…大事に見ます、傷もつけません」

「当たり前だろ」

 

 

オーカミはBパッドを装着している左腕をフウに突きつけ、そこに装填されている鉄華団のデッキを抜き取ってもらう。

 

 

「うわ、これが新しいバルバトスルプスレクスですか〜!!…カッコいいですね〜!!」

「……掃除して来る」

 

 

フウが鉄華団のデッキのカード達、引いては「バルバトスルプスレクス」に見惚れている中、オーカミはそっちのけで掃除のためにモップを取ろうと、掃除用具がある店の事務所へ向かった。

 

 

「ボロボロだな、そろそろ新しいモップ買うか」

 

 

オーカミは汚れ塗れでボロボロのモップを手に、売り場に戻る。

 

 

「それは鉄華団のカード、え、まさか鉄華オーカミって、女の子やったんか、しかもゴッツかわえぇやん!!」

「え、えっと……」

 

 

オーカミが戻ると、関西弁訛りで、茶髪の青年が売り場にいた。茶髪で、どこかイチマル以上に軟派な印象を受ける彼。フウが鉄華団のカードを預かっていたが故に、彼女が鉄華オーカミだと勘違いしている様子。

 

 

「歳は、中学生くらいやな。アオイちゃんよりか歳下やろ。えぇでえぇで惚れても、オレは懐が広い、ストライクゾーンももちろん広いんや!!」

「えっと、あの……」

「鉄華オーカミはオレだけど、後、このデッキもオレのだ」

「!」

 

 

困り果ててたフウの前に、オーカミが出る。その間に、貸してた鉄華団のデッキを回収した。

 

 

「え、ほなこっちの子は?」

「ごめんなさい、ただのアルバイトなんです」

「えぇ、オレこっちがよかった」

 

 

残念そうにする青年。中学生程度の女の子相手には、ギリギリ犯罪な気がしないでもないが、この言葉だけで、彼が如何に女好きかがよくわかる。

 

 

「あの、ひょっとして、ヘラクレス、緑坂冬真さんですか?」

「ヘラク、何それ」

「おぉ、お嬢さん、オレの事知っとんたんかいな!!」

「わぁやっぱり、そうじゃないかと思ってたんですよ、大ファンなんです!!」

 

 

フウが青年にそう訊くと、彼は嬉しくなり、声を荒げる。

 

オーカミはあまりピンとはきていないみたいだが、彼が何かしらの有名人である事だけは理解した。

 

 

「おぉそうかいそうかい、それは光栄やな、こんな美少女のファンがいるなんて、まぁオレはイケメンやから当然やがな!!」

「なんかコイツ、うざいな」

「オーカミさん知らないんですか、ヘラクレスさんですよ、あの、デジタル王の!!」

「デジタル……あぁ、三王って奴」

 

 

自己肯定感の塊みたいな青年の名は、緑坂冬真。ヘラクレスの異名を持つ、プロのカードバトラーにして、界放市のスリートップである『三王』の1人、デジタル王の称号も持つ者だ。

 

 

「凄い、凄すぎます、こんなお店でヘラクレスさんにお会いできるなんて!!」

「こんなお店って……え、お嬢さんここでアルバイトしてるんだよね?」

「サインください!!」

「ハハ、まぁ可愛ければなんでもよかね。お安いご用や」

「わぁ、ありがとうございます!!…大事にします、傷もつけません」

 

 

偶に毒を吐くフウ。どこからか取り出した色紙に、ヘラクレスのサインを貰う。

 

フウは喜びの余り、サイン入り色紙を抱きしめながら大騒ぎする中、今度はオーカミがヘラクレスに質問する。

 

 

「で、そのデジタル王が、オレに何の用なの」

「オマエは、オレのファンやなさそうやな」

「答えになってない」

「せっかちな奴やな、急かさんくても、今から説明しちゃるって」

 

 

どこか警戒気味のオーカミ。普段はここまでではないが、これまで出会って来た三王と呼ばれる存在の中に、ヨッカ以外でまともな人間はいなかった事が原因だと思われる。

 

 

「知っての通り、モビル王のアオイちゃんがプロを引退、海外へ赴き、ライダー王のレイジは行方不明。三王の内2人が急にいなくなってもーたから、三王制度は消失、オレはもうデジタル王じゃなくなった」

「そうなの」

 

 

実はそうなのだ。彼の言う通り、三王の3人の内2人が突如として姿を消したため、これ以上の継続は不可能だと界放市の市長に判断されて、三王制度は消滅。

 

 

「つまり、オレはもうただのプロのカードバトラーっちゅうこっちゃ。もう界放市に留まる理由もなくなってもーたし、ここを経つ前に、最後に一戦、誰か強いカードバトラーの胸を借りたろって思たんや」

「戦闘狂かよ」

「まだまだ続くで。そこで目をつけたんがオマエや、鉄華オーカミ。アオイちゃんから聞いたで、アオイちゃんだけやなく、ライダー王のレイジにも勝ったんやってな」

「うん」

 

 

ライダー王、いや、元ライダー王のレイジ。かつて、オーカミは友であるイチマルを侮辱した彼に憤慨し、バトルを挑んだ事がある。

 

その際にそれを隠れて見ていたアオイは、どこまで話したのかは定かではないが、その事を伝えたようだ。

 

 

「レイジはな。性格こそゴミやったが、仮にもライダースピリット使いの模範たる存在、ライダー王や。それに勝つ奴、気にならんわけないよな」

「要するに、オレとバトスピしに来たんだろ。じゃあさっさとやろうよ」

「フン、オマエも十分戦闘狂やないかい」

 

 

まどろっこしい事は苦手で嫌いなオーカミ。ヘラクレスの言った事を要約すると、1人彼に背中を向けて、アポローンのバトル場へと向かった。

 

それの後を追うように、ヘラクレスも歩みを進め………

 

 

「つか、オマエその腕でバトルなんてできるんかいな?」

 

 

バトル場に立ち、対面する中、ヘラクレスがオーカミに訊いた。Bパッドを使ったバトルは、基本的に左腕にBパッドを装着し、右腕で操作する。両腕がなければできないのだ。

 

 

「あぁいいよ、始まったら動くから」

「はあ?」

 

 

オーカミの妙な内容の返答に、ヘラクレスは疑問符を浮かべる。三角巾で固定されている右腕が見えるなら、当然の反応だ。

 

 

「オーカミさん、頑張ってくださいね!!」

「うわオマエ、何美少女に応援されてんねん、狡いぞ!!」

「ズルイの?」

 

 

だがそんな疑問は、突然現れたフウに応援されたオーカミを見るなり、どこかへ飛んで行った。その心は怒りへと満ち溢れる。懐の広さはどこへ行ったのだろうか………

 

 

「まぁえぇ、見せたるで、このヘラクレス様の実力をな」

「行くぞ、バトル開始だ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共に、アポローンのバトル場にて、未だ未知なるカード、鉄華団を操る鉄華オーカミと、ヘラクレスの異名を持つ緑坂冬真によるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は鉄華オーカミだ。動くようになった右腕で、つけていた三角巾を取り外し、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディをLV2で召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2S)BP3000

 

 

オーカミが繰り出したのはスピリットカード。濁った橙色に、丸みを帯びたボディが特徴的な鉄華団のモビルスピリット、ランドマン・ロディが召喚される。

 

 

「ターンエンド。アンタとのバトル、楽しみだ」

手札:4

場:【ランドマン・ロディ】LV2

バースト:【無】

 

 

「ホンマに腕動くんかい、三角巾は飾りかいな」

 

 

なぜか動くようになったオーカミの腕に気を取られたのはほんの一瞬。すぐさま気にしなくなり、ヘラクレスは己のターンを開始する。

 

 

[ターン02]緑坂冬真

 

 

「メインステップ、緑の成長期デジタルスピリット、テントモンを召喚」

 

 

ー【テントモン】LV1(2S)BP2000

 

 

「やっぱりデジタルスピリット、緑のカードか」

「せや、召喚時、テントモンの上にコア1つをブーストし、LV2にアップ」

 

 

ヘラクレスが召喚したのは、てんとう虫型の小さなデジタルスピリット、テントモン。その召喚時効果により、コアが1つ増える。

 

 

「早速行くでぇ、テントモンの【進化:緑】……テントモンを手札に戻し、成熟期、カブテリモンをノーコスト召喚や!!」

 

 

ー【カブテリモン】LV2(3S)BP8000

 

 

テントモンの身体に、0と1で構成されたデジタルコードが巻き付けられて行く。テントモンはその中で肉体を大きく変化させて行き、緑の成熟期スピリット、甲殻を持つカブテリモンへと進化を果たす。

 

 

「カブテリモンの召喚アタック時効果、ランドマン・ロディは疲労や」

「!」

 

 

登場したカブテリモンの羽ばたきが、オーカミのフィールドにいるランドマン・ロディに片膝を突かせる。

 

 

「アタックステップ続行、カブテリモンでアタック、もう1つのアタック時効果により、疲労状態のランドマン・ロディを手札へ!!」

 

 

カブテリモンは小さな一本の頭角から電撃を放ち、それをランドマン・ロディへと直撃。そのまま粒子化し、手札へと強制送還されてしまった。

 

だが、やられても、ただでは転ばないのが、鉄華オーカミの鉄華団スピリットだ。

 

 

「鉄華団スピリットが、相手によってフィールドを離れる時、手札にあるグレイズ改弍の効果を発揮」

「!」

「自身をノーコスト召喚」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]】LV1(1)BP2000

 

 

「さらに召喚時に合わせて、パイロットブレイヴ、ノルバ・シノを提示、ノーコスト召喚してグレイズ改弍に直接合体。グレイズ改弍の召喚時効果で1枚ドローだ」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]+ノルバ・シノ】LV1(1)BP6000

 

 

消え去ったランドマン・ロディと入れ替わりになるように、流星の如く、オーカミのフィールドへと飛来して来たのは、マゼンタのカラーが施された、一つ目のモビルスピリット、グレイズ改弍。

 

さらにパイロットブレイブを合わせて効果で召喚し、即座に合体スピリットを作り上げる。

 

 

「知っとったで、鉄華団は手札とトラッシュからスピリットを大量展開し、カウンターも得意とするデッキっちゅう事をな」

「!」

「だけどな、その程度のカウンター、このヘラクレス様には通じんねん、カブテリモンの【超進化:緑】を発揮、自身を手札に戻し、緑の完全体デジタルスピリット、アトラーカブテリモンを召喚」

 

 

ー【アトラーカブテリモン】LV2(3)BP13000

 

 

ここでさらに進化を重ねるヘラクレス。カブテリモンはテントモンと同様に、デジタルコードが巻きつき、その中で進化を果たす。

 

こうして、新たに現れたのは、巨大な一角の頭角を持つ、甲虫型の完全体デジタルスピリット、アトラーカブテリモン。

 

 

「召喚アタック時効果、スピリット2体を疲労させるか、疲労しているスピリット2体を手札に戻す。今回はもちろん前者、グレイズ改弍は疲労や」

 

 

アトラーカブテリモンの巨大な一角から放たれし電撃が、オーカミのグレイズ改弍に直撃。片膝を突かされ、疲労状態となってしまう。

 

 

「まだ終わらん。アトラーカブテリモンでアタック、今度は後者の方を選択し、グレイズ改弍を手札へ戻す」

「ッ……シノはフィールドに残す」

 

 

直撃後も頭角から絶え間なく放たれる電撃。グレイズ改弍はそれに何度も被弾してしまい、遂に粒子化。オーカミの手札へと強制送還されてしまう。

 

見たままでは、オーカミのフィールドは全滅だが、姿形がないだけで、パイロットブレイブであるノルバ・シノのみが残った状態となった。

 

 

「折角の鉄華団とのバトル、出し惜しみは無しや、最後に【煌臨】を発揮、対象はアタック中のアトラーカブテリモン」

「完全体に煌臨、って事は」

「察しがえぇな。そう、オレが今から呼ぶのはデジタルスピリットの頂点、究極体や!!……アトラーカブテリモン、究極進化!!」

 

 

ヘラクレスの宣言と共に吹き荒れる暴風壁が、アトラーカブテリモンの巨大な身体を包み込んで行く。

 

 

 

「赤き甲虫よ、今こそ黄金の甲虫王者となり、眼前の敵をひねり潰せ……究極進化、ヘラクルカブテリモン!!」

 

 

ー【ヘラクルカブテリモン】LV1(2)BP12000

 

 

包み込まれた暴風壁を弾き飛ばしたのは、アトラーカブテリモンではなく、さらに進化を果たした、黄金の甲殻、三本の巨大な頭角を持つ緑属性の究極体デジタルスピリット、ヘラクルカブテリモン。

 

 

「緑属性の究極体デジタルスピリット、初めて見た、楽しみだ」

「へっ…余裕ぶっこいてられるのも今のうちやで、ヘラクルカブテリモンの煌臨時効果、煌臨元のアトラーカブテリモンを手札に戻す事で、コア3個をブースト」

「!」

 

 

アトラーカブテリモンのカードが手札に戻り、ヘラクルカブテリモンにコアが追加。そのLVは2となり、BPは18000にまで到達した。

 

 

「わぁ〜〜凄いです、これがデジタル王のデジタルスピリット、究極体のエースカード、生で見れて感激です!!」

 

 

このバトルを唯一目撃しているフウが、声に感動を混じらせる。

 

そんな中でも、ヘラクルカブテリモンのアタックは継続中。今のオーカミに、これを凌ぐ手段はなくて………

 

 

「そいつの攻撃は、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

突進して来たヘラクルカブテリモンが、三本の巨大な頭角で、オーカミのライフバリアを1つ貫き、砕いた。

 

 

「ターンエンド。オレ自慢のヘラクルカブテリモン、突破できるもんならやってみろや」

手札:4

場:【ヘラクルカブテリモン】LV2

バースト:【無】

 

 

僅か2ターン目で凄まじい展開と突破力を見せつけたヘラクレス。己のエースカードであるヘラクルカブテリモンをフィールドに残し、このターンをエンドとした。

 

次は、久しぶりの強敵に胸が高鳴る、オーカミのターンだ。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、創界神、オルガ・イツカ、クーデリア&アトラを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

オーカミが配置したのは、鉄華団のサポートを行う、お馴染みの創界神ネクサス2枚。その配置時の神託により、計6枚のカードがトラッシュへ落ち、オルガに3つ、クーデリア&アトラに2つのコアが追加された。

 

 

「ランドマン・ロディ2体をLV1と2で召喚し、1体にシノを合体する」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

ー【ランドマン・ロディ+ノルバシノ】LV2(2S)BP7000

 

 

フィールドに召喚される2体のランドマン・ロディ。その内1体はシノと合体を果たし、合体スピリットとなる。

 

 

「アタックステップだ。合体したランドマン・ロディでアタック、その効果でオレのデッキ上から1枚を破棄、それがトリガーとなって、クーデリア&アトラの【神域】の効果が発揮、1枚ドロー、さらにシノの【合体中】アタック時効果、手札1枚を破棄して、2枚ドロー」

 

 

ランドマン・ロディで攻撃を仕掛ける。

 

その効果を使い、オーカミの手札は2枚から4枚へと増加。さらにこれだけでは終わらない。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】を発揮、オレのデッキ上3枚を破棄、1枚ドロー、クーデリア&アトラの【神域】で、さらにドロー」

「おぉ、この僅かなターンで、手札とトラッシュの数をここまで伸ばすか」

 

 

鉄華団の効果で自分のデッキが破棄された時に、デッキからドローできる、クーデリア&アトラの【神域】を軸に、大きく手札とトラッシュを増やして行くオーカミ。

 

その上で、合体の影響でダブルシンボルとなっているランドマン・ロディのアタックは継続中である。

 

 

「えぇで、ライフで受けたるわ」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉緑坂冬真

 

 

ランドマン・ロディは、アックスでヘラクレスのライフバリアを叩きつけ、それを一気に2つ破壊する。

 

 

「ターンエンド」

手札:6

場:【ランドマン・ロディ+ノルバ・シノ】LV2

【ランドマン・ロディ】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(5)

【クーデリア&アトラ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

合体していない、LV1のランドマン・ロディ1体をブロッカーとして残し、そのターンをエンドとするオーカミ。

 

得意の手札とトラッシュを大量に増やす戦法が決まったこのターンだが、強大なデジタルスピリット、ヘラクルカブテリモンは未だヘラクレスのフィールドに存在しており………

 

 

「どんなに手札とトラッシュ増やしても、ヘラクルカブテリモンをこのターンで処理できひんかった時点でオマエの負けや。行くで、オレのターン」

 

 

大エース、ヘラクルカブテリモンに絶対の自信があるプロバトラー、デジタル王ヘラクレス。

 

オーカミにトドメを刺すべく、巡って来た自分のターンを開始して行く。

 

 

[ターン04]緑坂冬真

 

 

「メインステップ、先ずはバーストをセット、カブテリモンを再召喚」

 

 

ー【カブテリモン】LV1(1)BP5000

 

 

「召喚時効果でランドマン・ロディを疲労」

 

 

【超進化】の効果により手札に戻っていた緑の成熟期スピリット、カブテリモンが再びフィールドへ、その召喚時効果により、4本の腕から電撃を放ち、オーカミのランドマン・ロディ1体に片膝を突かせる。

 

 

「続けて、青のブレイヴ、コノハガニンを召喚し、ヘラクルカブテリモンに合体や」

 

 

ー【ヘラクルカブテリモン+コノハガニン】LV1(3)BP15000

 

 

青属性の異形のブレイヴ、コノハガニンがフィールドに出現し、ヘラクルカブテリモンの背部に装着。BPが3000上昇し、緑と青、2つのシンボルを併せ持つ合体スピリットとなる。

 

 

「メインステップは終了、ここからアタックステップに入るで」

「その開始時のタイミング、貰うぞ」

「!」

「創界神ネクサス、オルガの【神技】の効果、オルガの上からコアを4つ、ボイドに払い、トラッシュにある鉄華団スピリットを呼び覚ます……来い、バルバトス第4形態」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1(1)BP5000

 

 

ヘラクレスのアタックステップ開始時。オーカミの創界神ネクサス、オルガ・イツカの効果が発揮。地中より、白き装甲に黒き戦棍メイスを携え、ガンダム・バルバトス第4形態が飛び出して来る。

 

 

「凄いです、またヘラクレスさんのターンにブロッカーを呼び出した!」

 

 

ヘラクレスのターン中でのスピリット召喚に、バトルを観戦しているフウがそう言葉を発する。

 

しかし、デジタル王であるヘラクレスにとっては、その程度はたかが知れており………

 

 

「だから意味ないっちゅうねん。このオレのヘラクルカブテリモンを前に、ブロッカーは紙切れ同然や。ヘラクルカブテリモンでアタック、合体しているコノハガニンの効果により、LVを1つ上のものとして扱い、【連鎖:緑】により、コア1つをヘラクルカブテリモンに追加」

 

 

バルバトス第4形態が召喚されても尚突き進むヘラクレス。コノハガニンの効果により、ヘラクルカブテリモンのLVは最大の2へ、BPは21000にまで及ぶ。

 

 

「フラッシュ、ヘラクルカブテリモンの効果を発揮」

「ッ……フラッシュで使える効果」

「このスピリットのコアを3つ支払い、バルバトス第4形態を疲労、逆にヘラクルカブテリモンは回復する」

「!」

 

 

鋼鉄が擦れるような咆哮を張り上げるヘラクルカブテリモン。それに合わせて強風が吹き荒れ、それがバルバトス第4形態に片膝を突かせ、反対にヘラクルカブテリモンには力を与え、回復状態となり、このターン中に二度目のアタックが可能な状態となった。

 

 

「いくらブロッカーを並べようとも、このヘラクレス様相手には壁にもならんで、さっさとダブルシンボルのアタックを受けな」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

羽音を鳴らし飛び立つヘラクルカブテリモン。そのままオーカミのライフバリアに突撃し、それを2つ貫き、粉砕。

 

これにより、残り総数はたったの2。回復したヘラクルカブテリモンで再度アタックされて仕舞えば、一溜まりもないレッドゾーンと化してしまう。

 

 

「これでトドメや、ヘラクルカブテリモンで……」

「な訳ないだろ。オレのライフが減った事で、手札にある絶甲氷盾の効果を発揮」

「ッ……なんや、ちゃんとしぶといやないか」

「効果により、アンタのアタックステップを強制終了させる」

 

 

オーカミが発揮したのは、最も汎用性が高いと言われている、白のマジックカード『絶甲氷盾〈R〉』………

 

その効果により、ヘラクレスのアタックステップは強制的に終了となった。肝心のヘラクルカブテリモンも、アタックステップが終わって仕舞えばアタックはできない。

 

 

「ターンエンド。やるやないか、前のターンの大量ドローも無駄やなかったみたいやな」

手札:2

場:【カブテリモン】LV1

【ヘラクルカブテリモン+コノハガニン】LV1

バースト:【有】

 

 

「あぁ、オレのデッキも、ようやく温まって来た」

「抜かしおる、次はオマエのターンや、凄いの期待しとるで」

 

 

この僅かなターンの間に、互いの実力を認め合った2人。強い相手と戦えてご満悦な様子。

 

次はオーカミのターンだ。疲労させられ、回復状態となろうとしている3体のスピリットと共に、それを迎える。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、先ずはパイロットブレイヴ、三日月・オーガスを召喚し、バルバトス第4形態に合体、さらにLV3へアップ」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(5)BP18000

 

 

ブレイヴとの合体とLVアップにより強化されるバルバトス第4形態。

 

この時点でもかなり強力なスピリットへ仕上がっているが、ここから、さらなる進化を遂げて行く。

 

 

「【煌臨】発揮、対象はバルバトス第4形態」

「おぉ、メインステップ中に煌臨か」

 

 

ソウルコアをコストに発揮される【煌臨】の効果。ヘラクレスのヘラクルカブテリモンと違い、オーカミはそれをメインステップ中で使用する。

 

フィールドでは、バルバトス第4形態に強固な装甲が装着。頭部の黄色い角は、まるで王の冠と言える大きさまで変化を遂げる。

 

 

「天地を揺るがせ、未来へ響け……ガンダム・バルバトスルプスレクス!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3(5)BP22000

 

 

こうして誕生したのは、鉄華団の力、バルバトスの最終進化形態、バルバトスルプスレクス。

 

超大型となったメイスの矛先を下に構え、無音の咆哮を張り上げ、己の存在感をより強く示して行く。

 

 

「アレが、オーカミさんの新しいバルバトス、ルプスレクス!!」

「コスト8の超大型鉄華団スピリット、なるほどな、コイツを煌臨させるためにわざわざオレのターンに第4形態を復活させたんか」

「そう言う事だ」

 

 

フウがオーカミのバルバトスルプスレクスの存在に、感動で声を震え上がらせる。

 

そして、互いのエースであるルプスレクスと、ヘラクルカブテリモンの睨み合いが続く中、その競り合いが幕を開ける。

 

 

「ルプスレクスでアタック、1つ目のアタック時効果、オレのデッキ上2枚を破棄して、鉄華団カードがあれば、ルプスレクスに紫シンボルを1つ追加」

 

 

発揮される、ルプスレクス1つ目の効果。オーカミのデッキは大半が鉄華団カードで固められているため、当然それがトラッシュに送られる。

 

 

「効果成功、さらにルプスレクスには、LV2、3の時【合体中】で、尚且つオレのトラッシュが10枚以上ある時しか、使えない効果がある。それにより、このターンの間、アンタのスピリットとネクサス全てのLVコストを+1」

「なんやと!?」

 

 

相手のフィールドにある全てのスピリットとネクサスのLVコストを上昇させ、LVダウンと消滅を誘発させる、ルプスレクスの2つ目の効果。

 

残念な事に、今のヘラクレスの場にいるカブテリモンとヘラクルカブテリモンは、どちらもコア1つしか乗っていないLV1。この効果の恰好の獲物となる。

 

 

「虫を蹴散らせ、ルプスレクス!!」

 

 

ルプスレクスは背部に装備しているテイルブレードを伸ばし、手始めにカブテリモンを串刺しにし、消滅へと追い込む。

 

それを間近で見たヘラクルカブテリモンは激昂し、ルプスレクスへと襲いかかる。だが、ルプスレクスは、走り迫るヘラクルカブテリモンに巨大メイスを叩きつけ、一撃の元で粉砕、カブテリモンと同様、難なく瞬殺して見せる。

 

 

「くっ……合体していたコノハガニンはスピリット状態で残す」

「そいつも逃さない、三日月の効果でLVコストを+1にして消滅、追加でリザーブのコア2つをトラッシュへ」

 

 

瞬殺され、爆散したヘラクルカブテリモンから逃げるように飛び出したコノハガニン。

 

しかし、ルプスレクスはそれさえも逃さない。腕部からバルカンを展開、連射し、撃ち抜いて爆散させる。

 

 

「バケモンみたいな効果しとるな。アタック後のバースト、覇王爆炎撃、ランドマン・ロディ2体を破壊するで」

 

 

セットしていたヘラクレスのバーストカードが反転、3つの火炎弾が、オーカミのフィールドにいる3体のスピリットを襲う。

 

ランドマン・ロディ2体はそれに耐え切れず爆散してしまうが、ルプスレクスはメイスで軽く振り払い、生き残る。強力な破壊効果を持つバーストカードも、結局はルプスレクスが生き残って仕舞えば無意味に等しい。

 

 

「ランドマン・ロディの破壊時効果で1枚ずつドロー………アタックしているルプスレクスはトリプルシンボル、ライフを3つ破壊する」

「フ……他の三王が負けるわけやな。ライフで受けたるわ」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉緑坂冬真

 

 

ルプスレクスは超大型メイスを振り下ろし、ヘラクレスのライフバリア3つを一気に粉砕。鉄華オーカミを勝利へと導いた。

 

 

******

 

 

「ありがとうな、えぇバトルやったで。まさか、このオレが負かされるとは」

「またやろう。次もオレが勝つよ」

「抜かしおるわ、このクソガキ。次はオレが勝つっちゅーねん」

 

 

バトルが終わり、談笑タイム。

 

今回のバトルで、オーカミは三王全員に勝った事になる。本人に自覚はないが、バトスピをはじめて半年程度でこの偉業は異常である。

 

 

「にしてもオマエのバトル、知り合いにごっつ似とったな。芽座椎名って知っとるか?」

「知らない」

「だと思うたわ」

 

 

ヘラクレスの口から出た名前は、この世で最も有名なカードバトラーの名前。しかし、著名人に疎いオーカミは、当然それが誰かわからない。

 

 

「えぇ、オーカミさん、芽座椎名様もわからないんですか!?」

「様?」

「芽座椎名様は、世界を何度も救って来た伝説のカードバトラー、そのバトルの才能は一級品どころか神級品。バトルスピリッツの申し子とも呼ばれてるんですよ〜!!」

「ふ〜ん」

 

 

テンションの上がったフウが、オーカミにそう説明する。いつもの事だが、有名人に興味のないオーカミは、とてもどうでもよさそうなリアクションを見せる。

 

 

「で、そいつとオレが似てるの?」

「バトルの仕方がな。引きもアホみたいに強いし、オマエがフウちゃんみたいな可愛い女の子やったら完璧やった」

「そっか」

「でねでね、その椎名様なんですけど」

「まだ話すの」

 

 

芽座椎名のファンなのか、フウはまだまだ彼女の事を話そうとする。余程好きなのだろう。

 

しかしそんな折、ショップの自動ドアがまた開いて………

 

 

「おっす〜〜ライが来ました〜〜」

「あ、ライちゃん!!」

 

 

天真爛漫な声を発しながらアポローンに来たのは、黄色がかった白髪のショートヘアの少女、春神ライ。

 

オーカミとは、空港にて行われた、アルファベットとのバトル以来の再会である。

 

 

「フウちゃんホントにヨッカさんの店でバイト始めたんだ」

「始めたって言うか、ゼウスから移転的な感じなんだけどね」

「コイツ、ちゃんと仕事してる?」

 

 

ライは肘でオーカミをつつきながら、そう告げる。

 

 

「そうオーカミさん、凄いんです!!……さっきデジタル王のこのヘラクレスさんに勝っちゃったんだよ!!」

「デジタル王?…あぁ三王の、確かもうすぐ普通のプロに戻るんじゃなかったっけ」

 

 

またテンションの上がったフウが、目の前のヘラクレスをライに紹介する。

 

だが、何故か当のヘラクレスは何も言わず呆然と立ち尽くしていた。この状況、いつもならライと言う美少女に猛アピールをすると言うのに。

 

 

「ん、どうしたのヘラクレス、静かだね」

「あ、あぁ、いや、天女みたいに可愛い子やったから、つい言葉を失ってもうた、すまんな」

 

 

オーカミの言葉で我を取り戻したヘラクレス、慌ててこの場を取り繕う。

 

顔に出てる冷や汗からして、どう見ても何か別の事を考えていたのは明白だったが、ライは「可愛い」と言われたのが、兎に角嬉しい様子。

 

 

「マジすか、流石私、バトルも強ければ顔も良い!!」

「はは、いや〜〜今日はこんな可愛い女の子2人に巡り会えて、幸せな1日やったな〜……ほんじゃオレはここで、またテレビ越しで会おうな」

「はい、これからの活躍、期待してます!!」

「ありがとうな、フウちゃん」

 

 

ヘラクレスは最後にそう告げると、この場からそそくさと退場する。

 

その直後、今まで何も気にしていなかったライの顔が、オーカミの目にふと入いる。彼が直感的に感じ取った事だが、今のライはどこか………

 

 

「ライ、なんかオマエ疲れてないか」

「ん、疲れ?……な訳ないだろ、私は春神ライ様だぞ」

「……そっか」

 

 

疲労が溜まり、疲弊しているように見えたのだ。

 

一見無尽蔵の体力を持ち、ピンチになる事など想像もできないようなライだが、この時ばかりは、オーカミも少しだけ心配になった。

 

 

******

 

 

一方でヘラクレス。早々にアポローンから立ち去った後、大きな街に繋がる人気の少ない道を歩いていた。

 

 

「……驚いた、ヨッカの店に来たあの娘、どことなく雰囲気がめざっち、芽座椎名に似とった。考え過ぎはあかんか、きっと他人の空似かなんかやろ、Dr.Aはもう死んだんや」

 

 

意味深な言葉を残すヘラクレス。そんな彼は、プロとしてさらなる活躍をするために、明日、海外へと経つ。

 

 

******

 

 

今は夜。この間まで少しだけ残っていた残暑も消え去り、やや肌寒くなって来た、僅かな光と暗闇の時間。

 

大抵の市民が寝静まるこの深夜の時間帯に、春神ライは外出していた。しかも、黒の帽子と黒猫のマークが入った半袖、黄色のショートパンツと、かなりの軽装である。

 

 

「……嵐マコトの隠れ研究所、良い加減数えるのも面倒くさくなって来たわ」

 

 

目の前にあるのはカードの製造工場。しかし、それは名ばかりで、本当は父である春神イナズマを誘拐した張本人、嵐マコトの隠れ研究所。

 

 

「待っててね、お父さん。今救けるから」

 

 

以前嵐マコトに言われた言葉を気に、それが罠だとわかっていながらも、この1ヶ月で数多の隠れ研究所を調べ上げ、その中にいる「ガードマン」と呼ばれる存在と、バトルと言う名の死闘を何度も潜り抜けて来た春神ライ。

 

そんな彼女の願いは、父との再会、ただ1つだ。

 

 




次回、第50ターン「エニーズ02を探せ」


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第50ターン「エニーズ02を探せ」

ー『君のお父さんは、界放市中に多数存在する、私の隠れ研究所のどこかにいるよ』

 

ー『隠れ研究所は、それぞれ1人ずつガードマンが守ってくれていてね、イナズマ先生のいる研究所は、そのガードマンの中でもトップクラスの実力を誇る「エニーズ02」と呼ばれる人造人間が付いている』

 

ー『ではね、ライちゃん。是非イナズマ先生を助けるために、私の隠れ研究所を探してくれたまえ』

 

 

春神ライは、嵐マコトの放った、この言葉を決して忘れない。

 

罠じゃない訳がない。人造人間とか言われても現実味がない。

 

しかしそれでも、大好きな父が、ほんの僅かな可能性でも帰って来てくれるのであれば、ライはその馬鹿げた挑戦に乗る以外の選択肢がなかった。

 

 

******

 

 

この数ヶ月、何度も孤独な戦いに身を置いて来たライ。

 

嵐マコトの隠れ研究所を探しては、そこにいるガードマンと呼ばれる存在とバトルを繰り広げ、勝利し、人造人間エニーズ02ではない事を確認すると、また隠れ研究所を探す行為を幾度となく繰り返して来た。そのせいか、表情や歩き方には、やや疲れが見えて来ている。

 

だがそれでも、父を救けたいと言う気持ちが、彼女の身体を突き動かしていた。

 

 

「み〜つけた」

「……」

「アンタでしょ、ここの、ガードマン。見た目怪し過ぎだし」

「……」

「ダンマリかよ、返事がないのは肯定のサインだぜ、まぁ、今ここにいるのはアンタと私だけだから、他に選択肢はないんだけどさ」

 

 

時間帯は深夜、とある嵐マコトの隠れ研究所。その深層にて、潜入した春神ライが、暗闇の中、そこを守護するガードマンらしき風貌の人物を見つけ出した。

 

黒い布切れを、フードのように深く被っているが、風貌から男性である事がわかる。

 

 

「人造人間って事はロボットなのかな、じゃあずっとダンマリしてるこの人が……」

 

 

人造人間、エニーズ02かもしれない。

 

ライはようやくそれらしい人物との遭遇に対しそう思い、胸が高鳴る。

 

 

「よし、バトルしよう。私が勝ったら、お父さんの居場所を教えてね」

「……」

 

 

うんともすんとも言わない男性だが、バトルをすると言う言葉は伝わったのか、無言のままBパッドを左腕に装着し、展開、己のデッキを装填する。

 

 

「よかった、バトルはわかるんだ。そりゃそうだよね、そんじゃま、ミッションスタート、と言う事で」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

同じくBパッドを左腕に装着したライ、ガードマンとのバトルスピリッツを開始する。その直後、おあつらえ向きに、暗闇を照らすスポットライトが2人に当てられる。

 

先攻は春神ライだ。目の前のガードマンが、本当にエニーズ02なのかを確かめるべく、そのターンを進めていく。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ、マジック、双翼乱舞。デッキから2枚ドロー、バーストをセットして、ターンエンド」

手札:5

バースト:【有】

 

 

手札増加用のマジックの使用と、バーストのセットのみで最初のターンを終えるライ。その表情は、自分がバトルで負ける訳がないと言う自信に満ち溢れている。

 

 

[ターン02]ガードマン

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、アークの秘書・アズを配置」

 

 

ー【アークの秘書・アズ】LV1

 

 

「配置時の神託、アズにコア+3」

「なんだ、ちゃんと喋れるじゃん」

 

 

彼の側に、黒く長い髪の少女を模したアンドロイドが出現。赤く光る瞳孔と、妖艶に微笑むその表情には、紫属性らしい邪悪さを感じさせる。

 

 

「続けてネクサス、衛星アークを配置」

 

 

ー【衛星アーク】LV1

 

 

「配置時効果で3枚オープン、その中の対象カードを手札に加える。対象カード無し、3枚を全てトラッシュへ」

 

 

次に配置したのは、地に堕ちた黒い衛星、アーク。その配置時効果が発揮されるが、対象のカードは無し。全てトラッシュへと捨てられた。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【アークの秘書・アズ】LV2(3)

【衛星アーク】LV1

バースト:【無】

 

 

終始無機質な声で淡々とプレイしていくガードマン。2枚のネクサスを配置し、最初のターンを終了する。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「メインステップ、なんかコンピュータとでもバトルしてるみたいだな。パイロットブレイヴ、式波・アスカ・ラングレーを召喚」

 

 

ー【式波・アスカ・ラングレー-テストスーツ-】LV1(0)BP1000

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【式波・アスカ・ラングレー-テストスーツ-】LV1

バースト:【有】

 

 

フィールドには何も出現しないが、ライは赤属性のパイロットブレイヴ、式波・アスカ・ラングレーを召喚。

 

強力なブレイヴだが、それだけでは何もできないため、このターンはそのままエンドの宣言。早々にガードマンへとターンを渡す。

 

 

[ターン04]ガードマン

 

 

「メインステップ、紫のライダースピリット、雷をLV1で召喚」

 

 

ー【仮面ライダー雷[2]】LV1(1)BP2000

 

 

「ライダースピリットのデッキか」

「召喚時効果でデッキ上から1枚ドロー」

 

 

ガードマンが召喚したのは、赤みを帯びた装甲を持つライダースピリット、雷。その召喚時効果により、彼はデッキから1枚のカードをドロー。

 

着実にアドバンテージを得て行く優れた効果であるが、春神ライは、そのタイミングで発揮できる、カウンターカードを忘れずに挿し込んで行く。

 

 

「相手のスピリット召喚時発揮により、バースト発動。赤のモビルスピリット、サザビー・ロング・ライフル」

「……」

「効果により、召喚」

 

 

ー【サザビー[ロング・ライフル]】LV1(1)BP8000

 

 

ライのフィールドへと飛来して来たのは、深紅の装甲を持つ機械兵、モビルスピリット、サザビー。

 

以前、ライの親友であるフウからプレゼントされたカードだ。冷ややかな1つ目が、ガードマンを視界に入れる。

 

 

「召喚時効果を発揮、ネクサス、衛星アークを破壊」

「……」

「破壊した時、トラッシュのコア3つをサザビーに移動、LV2にアップ」

 

 

サザビーは登場するなり、両手に持つロングライフルで、ガードマンの背後にある衛星アークの中心を撃ち抜き、爆発に追い込む。

 

 

「流石フウちゃんの選んでくれたカード、センス良い」

「……ライダースピリットゼロワン、フライングファルコンを召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果によりトラッシュと雷にそれぞれ1つずつコアブースト」

 

 

ライのカウンター、バーストカードに怯む事なく、ガードマンは、マゼンタのカラーと機翼を持つライダースピリット、ゼロワン フライングファルコンを召喚し、コアの総数を2つ増加させる。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【仮面ライダー雷[2]】LV1

【仮面ライダーゼロワン フライングファルコン】LV1

【アークの秘書・アズ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

不利な状況に陥っても、ガードマンの感情のない無機質な声が、全くそれを感じさせない。

 

しかし、それは天才カードバトラーの春神ライにとっては関係のない事、ただ勝利を目掛けてカードを操るだけだ。

 

 

[ターン05]春神ライ

 

 

「メインステップ、ロケッドラをLV1で召喚」

 

 

ー【ロケッドラ】LV1(1)BP1000

 

 

「さらに、アスカをサザビーに合体」

 

 

ー【サザビー[ロング・ライフル]+式波・アスカ・ラングレー-テストスーツ-】LV2(4)BP18000

 

 

背中にロケットを背負った小型ドラゴン、ロケッドラが召喚。サザビーはパイロットブレイヴであるアスカと合体を果たし、強力な合体スピリットと化す。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップ。さっさと終わらせるよ、サザビーでアタック」

 

 

アタックステップに突入するライ。

 

勝負を早々に決めるべく、アタックしたサザビーの効果を発揮させて行く。

 

 

「フラッシュ、サザビーの【ファンネル:12000】を発揮、BP12000まで、相手のスピリットを好きなだけ破壊し、1コストを支払う事で1枚ドロー」

「……」

「雷とフライングファルコンを破壊」

 

 

サザビーの背部に備え付けられた6つの遠隔機、ファンネルが飛翔。それらは宙を飛び交い、フライングファルコンと雷に向けてレーザーを照射、爆散へと追い込む。

 

 

「さらに合体しているアスカの効果、赤の効果でスピリットを破壊した時、自身を回復させる」

「……」

「つまり、このターン、サザビーは二度目のアタックが可能。ダブルシンボル2回のアタックと、ロケッドラのアタックでジ・エンドだ」

 

 

合体したアスカの効果で回復状態となるサザビー。こればかりは流石と言うべきか、ライは僅か5ターンで、相手のライフ5つ全てを破壊し切るリーサルラインを形成していたのだ。

 

 

「さぁ、先ずはサザビー1回目のアタック」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉ガードマン

 

 

「もう一度だ」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎1〉ガードマン

 

 

ファンネルを巧みに操り、特攻させ、ガードマンのライフバリアを一度に4つ撃破するサザビー。

 

ロケッドラもアタックするのを今か今かと待ち侘びているのか、クラウチングでスタンバイしている。

 

 

「1つさ、聞きたい事あるんだけど、いいかな」

「……」

「貴方は本当に私が探している人造人間、エニーズ02なの?」

 

 

更なるアタックを仕掛け、勝負を決めようとした直前、ライはカードに触れる手を止め、ガードマンにそう問いただした。

 

ここ数ヶ月で何度もこの質問をしたが、その答えは全てNO。それどころか誰もこの名前すら知らなかったし、何故自分らが雇われ、何のために何を守護しているのかも知らされていなかった。

 

そして、今回のガードマンの反応は………

 

 

「エニーズ02……ゼロ、ツー…?」

 

 

男の脳裏に浮かび上がって来たのは、緑色の戦士。さらにその背後でBパッドを構えているのは………

 

 

「ッ……イ、イチ……あ、あぁぁぁぁぁぁあ!!?!?」

「え、何、どうしたの急に、1じゃなくて2ですけど!?」

「違う、ただ、ただ羨ましくて、ただそれだけだったんだ、最初は……ぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

何か嫌な想い出でも想起してしまったのか、これまでの無機質からは信じられない程の声量で発狂するガードマン。

 

天才を自称するライも、彼の原因はさっぱりわからない。

 

 

「……なんだか知らないけど、もういいや、さっさと終わらせるぞ、ロケッドラでアタック!!」

 

 

苦しみもがくガードマンにトドメを刺すべく、背部のロケットで飛翔するロケッドラが突撃して行く。

 

このまま行けばライの勝利で幕を下ろす事になる。だが、ガードマンのカードバトラーとしての本能が、それを許さなくて………

 

 

「う、うぅぅ、フラッシュマジック、アークの意志」

「!」

「効果でサザビーのコアを1つのみにし、トラッシュから滅亡迅雷ライダースピリットを復活させる」

 

 

ここに来てフラッシュタイミングでマジックカード。それにより出現した紫の霞が、サザビーを覆い尽くし、そのコアをLV1になるようにリザーブへと弾き飛ばす。

 

さらに、オマケのように発揮される蘇生効果。ガードマンがトラッシュから蘇らせるスピリットは、破壊された雷ではなく、アズの神託でトラッシュに送られた1枚。

 

 

「全てを滅せよ、ライダースピリット、滅・アークスコーピオン!!」

 

 

ー【仮面ライダー滅 アークスコーピオン】LV2(2)BP10000

 

 

ガードマンのフィールドにも現れる紫の霞。それを振り払い、中より出現していたのは、黒く歪で、継ぎ接ぎだらけのライダースピリット、滅・アークスコーピオン。

 

その内に秘める闇のエネルギーは、このフィールド内で最も強い存在感を示す。

 

 

「対象スピリットの召喚により、トラッシュの雷の効果、自身を手札に戻す。さらに召喚時効果、相手スピリット全てのコアを3個ずつリザーブに置く」

「3個ずつ!?」

「オマエの全てのスピリットを滅する」

 

 

飛び込んで来たロケッドラを片手で押さえ込み、その手の先から闇の衝撃波を飛ばすアークスコーピオン。

 

零距離で受けたロケッドラは、当然一瞬にして塵芥と化すが、それはサザビーにも被弾し、爆散へと追い込んだ。

 

 

「この効果で消滅させた時、トラッシュにある滅亡迅雷スピリットを復活させる。来い、ライダースピリット、迅・フライングファルコン」

 

 

ー【仮面ライダー迅 フライングファルコン[2]】LV1(1)BP2000

 

 

敵を滅し、さらにトラッシュから家族を呼び寄せる、アークスコーピオンの効果。鉄の翼を持つ、マゼンタカラーのライダースピリット、迅が召喚される。

 

 

「ターンエンド。私のターンでスピリット全滅させただけじゃなくて、2体もトラッシュから召喚するなんて」

手札:5

場:【式波・アスカ・ラングレー-テストスーツ-】LV1

バースト:【有】

 

 

突然過ぎる発狂に、唐突過ぎる強烈なカウンター。流石のライもここは返せる手がなく、一度そのターンをエンドとする。

 

次はフィールド的に優勢にはなっても、未だに微かに蘇った記憶に、もがき苦しむガードマンのターンだ。

 

 

[ターン06]ガードマン

 

 

「雷を再召喚。効果で1枚ドロー、ライダースピリット、亡を召喚。効果で衛星アークをトラッシュから回収」

 

 

ー【仮面ライダー雷[2]】LV1(1)BP2000

 

ー【仮面ライダー亡[2]】LV1(1)BP3000

 

 

トラッシュから手札に戻った雷が、再びフィールドへと投下される。その次に召喚されたのは、長い鉤爪と純白のボディを持つライダースピリット、亡。召喚時効果により、サザビーによって破壊された衛星アークのカードを手札へと回収させた。

 

 

「アタックステップ。アークスコーピオンの効果、自身以外の滅亡迅雷スピリット1体につき、紫シンボル1つを追加する」

「ッ……じゃあこの状況だとシンボルが3つ追加されて、4点、クアドラプルシンボルになるって事!?」

 

 

滅亡迅雷ライダースピリットの結束の力がオーラとなり可視化され、アークスコーピオンへ集結。

 

これにより今のアークスコーピオンは、アタック時に相手ライフを4つ破壊できる、見た目通りの怪物となる。

 

 

「あぁ、ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん、オレが悪かったァァァァ!!!……アークスコーピオンでアタック!!」

 

 

本能でバトルを続けるガードマン。蘇ってくる何かの記憶が、彼の心を常に痛めつける。

 

そして、彼の呼び出したスピリットは、ライのライフを痛めつける。

 

 

「……ライフで、受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎1〉春神ライ

 

 

「ぐっ……ぁぁぁぁぁあ!!?」

 

 

アークスコーピオンの固い拳が、ライのライフバリアを砕き、残り1枚にまで追い詰める。

 

その際に発生した激しい激痛が、ライの表情を歪ませ、片膝を付かせる。

 

 

「……ハァッ、ハァッ……ライフ減少により、バースト、絶甲氷盾。ライフを回復、コストを支払って、このターンのアタックステップを強制終了」

 

 

〈ライフ1➡︎2〉春神ライ

 

 

息を切らしながら、辛うじて立ち上がり、震えた指でバーストカードを反転させるライ。

 

それは最も汎用性の高い白の防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』

 

その効果により、ライフを1つ回復させ、ガードマンのアタックステップを強制的に終了させる。

 

 

「ターン、エンド……」

手札:4

場:【仮面ライダー滅 アークスコーピオン】LV2

【仮面ライダー迅 フライングファルコン[2]】LV1

【仮面ライダー雷[2]】LV1

【仮面ライダー亡[2]】LV1

【アークの秘書・アズ】LV2(9)

バースト:【無】

 

 

4体のスピリットを並べ、多くのライフを減らし、一気に優勢に立ったガードマン。結果的に3体のスピリットをブロッカーを残し、そのターンをエンドとする。

 

次は意味もわからず追い詰められてしまったライのターン。負けられない想いを胸に、それを進めて行く。

 

 

[ターン07]春神ライ

 

 

「やるな、でも私も負けられない。メインステップ、エヴァンゲリオン新2号機αを召喚し、アスカと合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン新2号機α-ヤマト作戦-+式波・アスカ・ラングレー-テストスーツ-】LV1(1)BP14000

 

 

ライのフィールドに、豪快な落雷と共に飛来したのは、伝説のエヴァンゲリオンスピリットの1体、新2号機α・ヤマト作戦。

 

赤と深緑の上下アンバランスな装甲に加え、全身凶器とも呼ばる程の武装を内装する、ライのエースカードだ。

 

 

「既に勝利の未来は見えている、さぁ、ラストターンの時間です」

 

 

ライの目が一瞬赤く発光する。それはその身に宿る天下無双の力、王者を発動した証拠。

 

ラストターンを宣言したライの前に、敵はいない。

 

 

「アタックステップ、新2号機αでアタック、効果により、先ずはトラッシュのコア全てを自身に追加、LV3にアップ」

 

 

トラッシュのコアを巻き上げ、LV1から3に上昇する新2号機α。

 

そしてこれにより、発揮できるようになる効果が1つ存在し………

 

 

「LV2からの効果、BP20000まで、相手スピリットを全て破壊。これで滅亡迅雷スピリットは全滅」

 

 

手に持つ巨大なレールガンを掃射する新2号機α。ガードマンのフィールドに存在する4体の滅亡迅雷スピリットを粉塵に変える。

 

 

「……オレは、ゴミだ」

「アンタに何があったのか知らないけどさ。そうやって自分を悲観する前に、先ずはその悪い事したっぽい相手にさ、頭下げなよ、そうじゃないと、きっと前に進めない」

「!」

「新2号機αの最後の効果、私の手札を2枚破棄し、相手ライフ1つを破壊」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉ガードマン

 

 

新2号機αの放ったレールガンは、滅亡迅雷スピリットを屠るだけに止まらず、ガードマンの最後のライフバリアまでもを貫いて見せる。

 

これにより、このバトルの勝者は春神ライだ。ライフを多く欠損してしまったものの、圧巻の勝利を収めて見せる。

 

 

******

 

 

深夜。鉄華オーカミらの兄貴分、白髪で長身の青年、九日ヨッカ。

 

嵐マコトを追い続け、ここ最近では滅多に自分の家にも帰宅しない彼だったが、今日は珍しく自分の家で体を休めていた。風呂上がりでちょっぴり湿ったタオルを片手に持っている彼の視線の先は、おそらく就寝しているであろう、ライの部屋。

 

2人しか暮らしていないにもかかわらず『男子禁制』と言う張り紙がデカデカと張ってある。これは何度か誤ってライの着替えを見てしまったがために張られたモノだ。彼女が来てからおよそ1年と半年、今となっては良い思い出だ。

 

 

「ライ……すまねぇ」

 

 

ヨッカは自分の不甲斐なさを嘆く。嵐マコトとのあの一件以降、ライとはまともに口を聞けていない。そもそもそう言った時間がなかったのもあるが、最も大きな理由は、今までずっと「春神イナズマが、Dr.Aのかつての部下だった」事を隠していたせいだろう。

 

ヨッカはきっとショックを受けてしまうだろうと思い、直向きにその事を隠し通そうとしていたが、知られてしまった今は、かえってそれが仇となった。今のライとどう接すればいいわからなくなり、それは知らぬ間に彼の大きな苦悩となっていた。

 

 

「……アルファベットさん?」

 

 

そんな折、Bパッドに着信。彼が信頼を置く、界放警察の警視、コードネーム「アルファベット」からだ。

 

 

「はい、なんすかアルファベットさん」

《九日、嵐マコトの隠れ研究の1つを見つけた》

「ッ……!」

 

 

気怠そうに電話に応答するが、その内容で表情は一変して真剣な顔つきになる。

 

 

「さ、流石っすね。早く行きましょう、そこにイナズマ先生がいるかもしれねぇんだし」

《……興奮させてしまってすまないが、オレが下調べをした所、そこにはもうガードマンと呼ばれる存在は確認できなかった》

「な、またですか!?」

 

 

嵐マコトの隠れ研究所は、ガードマンと呼ばれるカードバトラーが1人ずつ守護している。

 

だが、アルファベットが折角見つけたそこには既にその存在はいなかったのだと言う。しかも、ヨッカの発言から、これが一度目ではない事が伺えて………

 

 

《見つけたのは、奴の研究資料のフェイクだけ、行くだけ無駄だ》

「これで3回目ですよ。あの時の嵐マコトの言葉は、やっぱりオレらを揶揄ってただけなんじゃ」

《それにしては作り込まれた嘘だ。しかもしっかりとフェイクまで用意している。春神イナズマがそこにいると言う言葉に嘘はあっても、隠れ研究所とガードマンの話に嘘はないだろう》

「なら、なんでガードマンがいないんだよ」

《………》

 

 

ヨッカの問い掛けに対し、一瞬間を置き、悩んでしまうアルファベット。

 

だが、今ヨッカが自分の家にいるのもわかっている。確認をさせるなら、今しかないのも事実。聞くしかない。

 

 

《九日、今オマエの家に、春神はいるか?》

「ライ?……部屋で寝てると思うけど。ってまさか、ライが!?」

《あぁ、オレの推察だと、春神は、オレ達よりも先に隠れ研究所を見つけ出し、ガードマンを倒して回っている》

「……」

《あの時、嵐マコトに発破を掛けられたのはアイツだ。天才とは言え、まだ13の子供、父親が捕らわれていると聞いて、いても立ってもいられなくなったのだろう》

「ちょ、ちょっと待てよアルファベットさん。まだ断定できないだろそんだけじゃ、あんだけ行くなって忠告したのによ」

《なら、アイツの部屋に入って、確認してみろ。本当にガードマンと戦い続けているのなら、そのタイミングは夜、人目のない深夜しかあり得ない》

「………」

 

 

疑われたのは、春神ライ。隠れ研究所には、彼女の父親であるイナズマがいるかもしれないので、真っ先に疑われてもおかしくない人物だが………

 

 

「おい、ライ。起きてるならちょっとこっちに来てくれないか?」

 

 

返事はない。不安になる。

 

それでもきっと大丈夫だと謎の自信で壁を張り、ヨッカは恐る恐るライの部屋のドアノブを握った。

 

 

「入るぞ……」

 

 

ライの部屋に入室するヨッカ。きっとライは部屋にいる。ベッドの上で安らかな表情で寝ているんだと、そう信じて………

 

 

「ライ……!?」

 

 

だが、アルファベットの悪い予想の方が的中してしまっていた。ベッドの上どころか部屋中どこにもライは存在せず、ただ夜灯が窓越しからそれを哀しく照らし出しているだけ。

 

ヨッカはこの瞬間、頭から血の気が引いて行くのを感じた。

 

 

******

 

 

「ふぅ、今までのよりかは、ずっと強かったかな」

 

 

一方、ガードマンとのバトルに勝利した春神ライ。

 

ヨッカらに夜な夜な出歩いている事がバレてしまった事などつゆ知らず、取り敢えず、今日も勝利できた事に安堵する。

 

 

「さて、倒れてる場合じゃないですよガードマンさん。本当にエニーズ02なら、私のお父さんの居場所を吐いてもらわないと」

 

 

そう告げながら、気を失い、倒れたガードマンのフードに手を出し、無理矢理起き上がらせるライ。

 

その際、深く身につけていたフードが乱れ、彼の素顔が、ライの目に飛び込んで来た。

 

 

「……え」

 

 

言葉を詰まらせるライ。

 

無理もない、不本意で目に焼きついてしまったその顔は………

 

 

「確かこの人、ライダー王……レイジ?」

 

 

もう廃止されてしまったが、かつての三王制度でライダー王の座に腰を下ろしていた、ライダースピリットの使い手、鈴木レイジその人だったのだ。

 

これにより、ライは脳内に衝撃が迸ると共に、彼がエニーズ02ではない事、他にまだエニーズ02の候補となるガードマンが存在する事を瞬時に理解して………

 

 

******

 

 

この広大な界放市のどこかに存在する、嵐マコトの隠れ研究所。

 

その内の1つ。ガードマンと思わしき男性が、床の上で足を組み、寝そべっていた。いつ敵が襲って来るのかもわからない状況でこの態度、単純に怠惰なだけなのか、自分の実力に相当な自信があるのか、あるいはその両方なのか。

 

 

「へい、もしもし」

 

 

男のBパッドに着信が入る。彼は己のBパッドに耳を当て、面倒くさそうに応答する。

 

 

「あぁ?…ガードマンは残りオレ1人?…他は全滅させられた?…輩にも程があるだろうよ」

 

 

男は、自分の見た目の方がよっぽど「輩」足り得る存在だと言う事に気づいていない。

 

 

「ゲゲゲ……まぁいい、おもしれぇじゃねぇか。こっちにも来るって言うなら、受けて立ってやるぜ、この最強ガードマン「エニーズ02」様がよぉ」

 

 

男が口にしたその名は、春神イナズマを追い求める者達の誰もが探しているモノ。

 

 

「さぁ、祭りの始まりだ」

 

 

口角を上げ、不気味に笑う男。エニーズ02を探している春神ライは、その内、必ずこの男とも対面しなくてはならなくて………

 

 




次回、第51ターン「暗闇のバトル」


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第51ターン「暗闇のバトル」

「兄ィ!!」

 

 

ここは界放市中央病院。界放市の中で最も大きな病院である。その病室の引き戸を、余裕のない血相で勢いよく開けるのは、緑色の髪に、やや天パ気味の少年、鈴木イチマル。そのすぐ後ろには、皆の兄貴分、九日ヨッカも確認できる。

 

イチマルがここまで余裕がないのも無理はない。何せ、今朝、約1ヶ月も行方不明になっていた兄、元ライダー王のレイジがこの病院に搬入されたと連絡が入ったからだ。

 

 

「兄ィ、兄ィ……!!」

「騒ぐなイチマル。担当医に聞いた所、命に別状はない。もう意識もあるそうだ」

「兄ィ……よかった、よかったよホント」

 

 

安堵するイチマル。レイジに折られた、完治したての右手で、眠っている彼の手を握り締める。

 

 

「……」

「あれ、どうしたんすかヨッカさん。折角兄ィが見つかったのに黙り込んじゃって、元同僚だったんすよね?」

「ッ……あ、あぁ、もちろん嬉しいさ。ただ……」

「ただ?」

 

 

レイジが戻って来てくれて、本当に嬉しいとは思っている。

 

しかし、それ以上に気掛かりなのは、レイジを担いで来たのは「中学生くらいの華奢な女の子」だったと言う、担当医の証言だ。

 

レイジの身長はおよそ180cm。体格も良い。そんな大男を担いで来れる華奢な女の子なんて先ず存在しない。存在なんてするわけないのだが、この世でただ1人、自分だけは、そんな事ができる女の子を知っている。

 

 

「いや、やっぱなんでもねぇ。見舞いの花でも買ってくるか」

「おぉ良いっすね、オトモしますよ!!」

 

 

イチマルに気を遣わせまいと、どうにかこの場を取り繕うヨッカ。

 

しかしこの瞬間、窓越しからあるモノがその目に焼きついて………

 

 

「ッ……イチマル、悪りぃ、金は後でオレが出すから、花屋でなんか買って来い」

「え、ヨッカさんは?」

「直ぐ戻る」

 

 

慌てて飛び出すヨッカ。目指すその先は、窓越しから見えた、顔見知りの女の子。

 

 

******

 

 

「おい、待てよ、ライ!!」

「……」

 

 

中央病院の中庭。ここから駐車場を通り過ぎ、その向こうの正門から出る事ができる。ヨッカが慌てて見つけて飛び出した理由は、その中庭を歩くライの姿が見えたからだ。

 

 

「お、奇遇だねヨッカさん。散歩の途中でバッタリなんてさ」

「……どこの誰が散歩でこんなバカデカい病院に来るんだよ」

 

 

取り敢えずふざけて誤魔化そうとするライ。慌てて駆け寄って来たヨッカの血相から、自分が裏で何をやって来たのか大方察せられてしまったと、直感的に理解してしまったからだ。

 

 

「ライ、オマエ、昨日家に帰ってなかったよな」

「あぁ、昨日フウちゃん家行ってたんだよね。あの子一人暮らしだから、料理できる人来て欲しいって聞かなくてさ」

「……フウちゃんに直接訊いてもいいんだぞ」

「………なんで、そんなめんどくさい事するの」

 

 

しつこいヨッカに、苛立ちを覚えるライ。思わず自分の口からフウの家に行っていないと言う意味のある言葉を吐いてしまう。

 

 

「やっぱり……嵐マコトの隠れ研究所か、ガードマンを倒して回ってるのはオマエなんだろ、なんでそんな無茶を」

「……」

「あんなのどう考えても罠だ。せめてオレに相談してから」

「それだと遅いんだよ!!」

「!!」

「それだと遅いよ、こうしてる今でも、お父さんは絶対苦しんでる。それにこれは私が売られた喧嘩。ヨッカさんには関係ない、私だけで買ってやるんだ」

 

 

ライに鋭い剣幕を向けられ、拒絶されるヨッカ。信頼の無さを感じてしまい、割と大きなショックを受ける。

 

 

「……イナズマ先生がDr.Aの元部下だったのを黙ってた事、怒っているのか?」

「別にそれはどうでも、ただもう私には関わらないで。今ヨッカさんと話す事は、それだけだ」

「いや、そう言うわけには、おいライ!!」

 

 

ヨッカの言葉を待たずして走り去って行くライ。ヨッカもまた追いかけようとするが、彼女はそこら辺の大人よりも身体能力が高い。背中が小さくなって行くのを、ただ見届けるのみの結果となってしまった。

 

 

「クソ……オマエに何かあると、オレが先生に顔向けできねぇんだよ、ライ!!」

 

 

頼むからもっと自分の身体を大事にしてくれ。ヨッカはライにそう願うばかりであった。

 

そんな折、彼の懐にあるBパッドが着信を受信し、震え出す。電話を掛けてきたのは、お馴染み界放警察のアルファベット。

 

 

「なんすかアルファベットさん。今忙しい」

《どうやら、本当に春神がガードマンを倒していたらしいな》

「え、なんでそれを」

 

 

春神ライが隠れ研究所を探し出し、ガードマンを蹴散らし続けていた事を推理していたアルファベットだが、まだヨッカはその旨を伝えてはいなかった。

 

つまり、アルファベットが独自の方法で確定事項だと判断した事になるが……

 

 

《そりゃ、オマエのBパッドをハッキングさせてもらったからな》

「は?」

《さっきの会話は全て聴かせてもらった》

「え、ちょっと待ってください。アンタ警察、ポリースメーンっすよね?…人の個人情報……」

《ついでに、口封じのため、オマエが春神に隠れながら観ていたであろうエッチなビデオも確認済みだ》

「はぁ!?!……マジで何やってんだテメェ!!」

 

 

民間人のBパッドをハッキングすると言う、とても警察の身分を持つ者とは思えない最低な行いをするアルファベット。流石のヨッカも声を荒げて怒鳴りつける。

 

 

《せかせかするな。春神のBパッドもハッキングしておいた、これでアイツがどこに行くのかがわかるぞ》

「……ライが隠れ研究所に向かえば、直ぐにオレらもそこに向かえるって事かよ」

《そうだ。この状況をどうにかしたいのだろう、ならば共に行くぞ》

 

 

******

 

 

それから時は経過し、再び深夜。春神ライは、カード製造業社とは名ばかりの「嵐マコトの隠れ研究所」へと赴き、侵入していた。

 

今朝のヨッカとの一件や、いくらガードマンを倒しても、なかなか「エニーズ02」が見つからない事などが重なり、その表情はどこか重く、疲弊しているように見える。

 

 

「……ここが最後の研究所。絶対にここに、エニーズ02が、お父さんがいる」

 

 

ライが重たい身体を引きづり回してでも歩き続ける理由がコレだ。

 

飽くまでも彼女が下調べした中での範疇ではあるが、この場所が最後の研究所。彼女の推察通りならば、100%ここにエニーズ02、引いては自分の父「春神イナズマ」がいる。

 

彼のためならばライは、身体の疲れなど幾らでも忘れる事ができた。

 

 

「後1回、後1回バトルに勝つだけでいいんだ、後1回……」

 

 

『僕は反対だな。これ以上、君の身体が傷つくのを、見たくない』

「ッ……誰!?」

 

 

男性とも女性とも言える中性的な声が、ライの頭の中に響いて来た。驚いた彼女は辺り一面を見渡してみるが、暗がりの床と窓が見えるだけで、それ以外は何も存在していなかった。

 

 

「……気のせい、疲れてんのかな」

 

 

今の声がなんだったのかは定かではない。だが、その程度の事で足を止めるわけにはいかないライは、今の声は単なる幻聴程度と認識、その忠告を無視し、先を急ぐ。

 

 

******

 

 

隠れ研究所の地下4階。決まってここにいつもバトル場と実験室があり、ガードマンがいる。

 

今回の隠れ研究所で、それに値する場所に到達した春神ライは、その体育館程度に広いバトル場へと足を踏み入れる。そして、そこの中央にポツンと青年が1人………

 

 

「アンタが、ここのガードマン?……いや、それはもう聞くまでもないか」

「……」

「質問変えるよ、アンタが……エニーズ02?」

 

 

ここが最後の研究所。ライは癖毛で橙色の髪の青年に、直接エニーズ02なのかと質問を問う。

 

すると、青年の口角は少しずつ上がっていき………

 

 

「ケケケ……ゲッーゲゲゲ!!!」

「!」

「テメェが、ガードマンを倒して回ってるとか言う輩か。こりゃ傑作だ、どんな屈強な大男かと思ったら、こんなメスガキとはな」

「笑い声ヤバすぎだろ」

 

 

耳障りな笑い声を上げる青年。余程ライのような少女が、ガードマンらを相手に無双し続けて来た事実がツボだったのだろう。

 

因みに、ライよりも、彼の方がよっぽど「輩」のような容姿をしている。

 

 

「ゲゲゲ、そう怖い顔すんな、エニーズ02はオレだ」

「ッ……やっぱり」

 

 

青年が人造人間であるエニーズ02だと判明した途端、ライは「やっと見つけた」と言わんばかりの勢いで、懐から己のBパッドを取り出して左腕に装着し、バトルの構え。

 

 

「何、もうバトルすんのか?……折角だから少し腰下ろしてけよ、ここは退屈でよ」

「うっさい、さっさとアンタも構えなさいよ!!」

「藪から棒だな。喧しい女はモテないぜ」

 

 

人造人間という割にはヤケに話し方と言葉選びが人間臭いエニーズ02。飄々としていて、どこか掴み所がない。

 

だが、父親を誘拐した嵐マコトとの繋がりがあるのは確実。ライは、いつもの快活さを感じさせない、憎しみと怒りの籠った鋭い剣幕を彼へと向ける。

 

 

「ゲゲゲ、まぁいい、そこまで言うならちょいと遊んでやるよ。このオレに喧嘩売った事を後悔させてやる」

 

 

エニーズ02もライと同様に己のBパッドを左腕に装着し、バトルの構えを取る。

 

この瞬間、2人のバトルを承認したかのように、バトル場の高い天井にあるスポットライトが辺りを照らした。

 

 

「さぁ、バトスピタイムの始まりだ!!」

「ゲゲゲ……祭りを始めようか」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

そしてコールと共に、2人のバトルスピリッツがスタートする。

 

先攻は春神ライだ。父親であるイナズマを取り戻すべく、無我夢中でターンを進行して行く。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ、ネクサス、溶岩海のエデラ砦を配置」

 

 

ー【溶岩海のエデラ砦】LV2(1)

 

 

「配置時効果でカウントを+1する」

 

 

ライの背後に、溶岩に浮かぶ要塞都市が配置される。その効果によりカウントが1増加する。

 

 

「ターンエンド。後1回、後1回勝つだけでいい」

手札:4

場:【溶岩海のエデラ砦】LV2

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

これまで何度もガードマンとバトルを行って来たライ。その疲れが表情に少し表れる中、ターンは未知数の実力を持つエニーズ02へと移る。

 

 

[ターン02]エニーズ02

 

 

「メインステップ、おいおいメスガキ、まさかそんな疲れ切った状態でこのオレ様に勝つ気か?」

「うっさい。誰がメスガキだ、私は春神ライ。超美少女天才カードバトラーだっつーの」

「ゲゲゲ、威勢だけは100点満点。魂鬼をLV1で召喚」

 

 

ー【魂鬼】LV1(1S)BP1000

 

 

「魂鬼、また紫か」

 

 

エニーズ02が召喚したのは、コスト0の紫のスピリット、鬼の顔をした言霊、魂鬼。

 

 

「続けてネクサス、No.3ロックハンドを配置」

 

 

ー【No.3ロックハンド】LV1

 

 

手の形をした巨岩、ロックハンドが、エニーズ02の背後に配置。魂鬼の非にならない程の圧をライに感じさせる。

 

 

「アタックステップ。破壊して来い、魂鬼」

 

 

このバトル最初のアタックステップ。エニーズ02の指示を聞き、魂鬼がライのライフバリア目掛け、フィールドを浮遊する。

 

前のターンに殆どのコアを消費したライに、これを回避する手段はない。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

「ぐっ……ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

魂鬼の体当たりが、ライのライフバリア1つを粉砕。その瞬間、彼女の身体中へ痛みが迸る。

 

ガードマンとのバトルは常に命懸け。ライフ減少による痛みなど当たり前だったのだが、その最後の砦、エニーズ02が与えて来る痛みは別格であり………

 

 

「ターンエンド。この程度でくたばんなよメスガキ、まだバトルは始まったばっかりじゃねぇか、もっとオレ様を楽しませろよ」

手札:3

場:【魂鬼】LV1

【No.3ロックハンド】LV1

バースト:【無】

 

 

「くっ……私の、ターンだ」

 

 

エニーズ02がライに向ける視線は、獲物を狩る狩人其の者。

 

疲弊し、体力が限界を迎えつつあるライのターンが再び開始される。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「ドローステップ時、エデラ砦LV2の効果、ドローする枚数を1枚増やして、1枚破棄」

 

 

メインステップの直前、ドローステップにて、エデラ砦の効果が発揮。ライの手札の質がより向上する。

 

 

「メインステップ、宙征竜エスパシオンをLV2で召喚」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン】LV2(2S)BP7000

 

 

ライのフィールドに出現する機械時掛けの赤いドラゴン、エスパシオン。身体中から溢れんばかりの電力を帯電させ、力強い咆哮を張り上げる。

 

 

「召喚時効果でBP7000以下の魂鬼を破壊」

「ゲゲゲ、魂鬼の破壊時効果、上にソウルコアが置かれていれば、1枚ドローする」

 

 

エスパシオンの口内から放たれる電撃が、エニーズ02の魂鬼を薙ぎ払い、爆散へ追い込む。

 

しかし、魂鬼もただでは転ばない、ソウルコアの力により、エニーズ02の手札を1枚増やした。

 

 

「アタックステップ開始時。エスパシオンの効果、トラッシュのコアを5個までエスパシオンに追加、手札が4枚以下の時、2枚ドロー」

 

 

このタイミングでエスパシオンの強力な効果が発揮。エスパシオンのLVは3まで上昇し、ライの手札は6枚まで増加した。

 

 

「エスパシオン、そのままアイツのライフも砕け!!」

「ライフを受け取りな」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉エニーズ02

 

 

エニーズ02のライフバリアに飛びつくエスパシオン。そのまま鋭い鉄の爪と牙で荒々しくそれ1つを粉砕した。

 

 

「ハッ、効かねぇな」

「……ターンエンド」

手札:6

場:【宙征竜エスパシオン】LV3

【溶岩海のエデラ砦】LV1

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

ライの得意とするドローと破壊により、フィールドをコントロールしていく戦法。このターンはその第一歩、エニーズ02を相手に大きくアドバンテージの差をつけた。

 

疲れを感じさせない見事なターンであったと言えるが、これを受けたエニーズ02は何故か余裕綽々な表情を見せており………

 

 

[ターン04]エニーズ02

 

 

「ドローステップ時、ネクサス、ロックハンドの効果、手札にある呪鬼のスピリットカードを破棄する事で、ドロー枚数を3枚にする」

 

 

エニーズ02の配置した紫のネクサス、ロックハンドもまたエデラ砦と同様にドローステップ時に発揮する効果がある。

 

これにより、彼は手札1枚をトラッシュに捨て、1枚ではなく、3枚のカードをドロー。紫のデッキらしく、手札を潤していく。

 

 

「メインステップ、2体目の魂鬼とオーガモンを召喚する」

 

 

ー【魂鬼】LV1(1S)BP1000

 

ー【オーガモン】LV2(3)BP10000

 

 

「デジタルスピリットか」

 

 

増やした手札でエニーズ02が召喚したのは、2体目の魂鬼と、緑色の体色と2本の尖った角を持つ紫属性の成熟期デジタルスピリット、オーガモン。

 

この時点で彼が紫属性のデジタルスピリットの使い手である事が判明する。

 

 

「最強を謳う割には、強そうじゃないスピリットを出すんだね」

「ゲゲゲ、スピリットを見た目で判断するのは良くねぇな。オレのスピリットが泣いたらどうすんだ」

「今からアンタも泣かせてやるよ」

「怖すぎて草だな。だが、今から泣くのはオマエの方だぜ?」

「なに?」

 

 

エニーズ02はそう告げると、Bパッドの端末の画面をタップ、何かのスイッチを押す。

 

すると、バトル場の端、四角から薄紫色のスモークが放出されて………

 

 

「!!」

「ゲゲゲ……」

 

 

エニーズ02は、この薄紫色のスモークが何なのかを理解しているのか、服の裏に隠し持っていた、顔全体を覆い尽くす程のガスマスクを装着する。

 

何も持っていないライは、そのままその吹き出して来たスモークを浴びてしまい………

 

 

「え、ちょなに急に、臭!?……臭い終わってない!?」

「ゲゲゲ……臭いだけじゃねぇ、オマエも終わるのさ」

 

 

薄紫色のスモークが消え去る頃、ライは鼻を刺激するような悪臭とは別に、ある事に気がつく。

 

 

「アレ、なんか真っ暗。何も見えない、あの一瞬で電灯が消えた?」

 

 

そう。視界が暗闇の中に誘われたかのように真っ黒であった。この状況ではライは、己の手札やフィールド、その他自分の管理するカードや敵のカードテキストさえ確認する事ができない。

 

これがただ、地下の電灯が消えているだけなら良かったのだが………

 

 

「ゲゲゲ、な訳ねぇだろカス。教えてやんよ、電灯は消えちゃいねぇ、オマエの目が見えなくなっただけだ」

「ッ……な、なに!?」

 

 

その瞬間、ライの背筋が凍りつく。

 

基本的に怖い物知らずの彼女であるが、流石にこの一瞬ばかりは「恐怖」と言う感情が心の中を渦巻いた。

 

 

「詳しくは知らねぇがよ、あのスモークにはそう言う効果あんだ。でも安心しな、一時的なもんで1日経てば治る。だがこのバトルは……ゲゲゲ」

「汚いぞ、アンタ、最強とか名乗ってた癖に、こんな姑息な手でバトルを穢すのか!!」

「このバトルはオマエがいつもやっているような、お子様の娯楽じゃねぇんだよ。これは、命を賭けた戦い、どんなに汚い事をしても、最後に生き残った奴が勝つ。オレは自分が勝つための最善の選択をしただけだ」

「理由になってない、私とちゃんとバトルしろよ!!」

「ゲゲゲ、どこ見て喋ってんだアホ。精々足掻くんだな」

 

 

この男、エニーズ02。

 

己が勝つためならば手段を選ばず、どんなに汚いやり方にも手を染める。例えそれが、神聖なるバトルスピリッツを穢す事になろうとも、一切の躊躇を見せない。

 

 

「アタックステップだ。ライフをぶち壊して来い、オーガモン」

 

 

エニーズ02は、スモークが晴れたのを確認し、装着したガスマスクを軽く投げ捨てると、目の見えないライにオーガモンをけしかける。

 

 

「チクショウ、手札に何のカードがあるかわからない。負けてたまるか、あんな奴に、後1回、後1回勝つだけでお父さんが帰って来るのに……!!」

 

 

オーガモンが迫り来る中、ライの頭の中を駆け巡るのは、怒りと苦しみと渇望に加え、いつライフが砕けるかわからない恐怖。

 

それらが彼女の動揺を生み出していた。天才と自負するに相応しい実力を持つ彼女だが、まだ若過ぎるが故に、こう言った精神を擦り減らす状況下にはかなり脆いのだろう。

 

 

******

 

 

一方、ライが戦っている隠れ研究所の外。九日ヨッカとアルファベットは、ハッキングしたライのBパッドの信号を追い、同様の隠れ研究所を発見していた。

 

 

「ここですかアルファベットさん」

「あぁ間違いないな。信号がここで止まっている、おそらく地下だろう。どうやら誰かとバトルをしているようだ」

「ッ……絶対ガードマンだ。急ぐぜアルファベットさん、ライにこれ以上、この件に関わらせちゃいけない」

 

 

ライが戦っている事を知り、先を急ごうとするヨッカ。

 

そんな彼を、アルファベットは声一つで呼び止める。

 

 

「待て九日」

「何すか、急ぐって言ったじゃないすか。行きますよ」

「待てとも言っている。春神のBパッドをハッキングして、少しわかった事がある」

「わかった事?」

 

 

アルファベットは「あぁ」と言葉を足し、続ける。

 

 

「春神ライ、アイツのBパッドには、膨大なカードのデータがあった」

「カードのデータ?」

「あぁそうだ。調べれば復元し実際のカードとしても使う事もできるだろう。しかし、それが何なのかまではわからなかった。こちらから調べようとすれば、必ずエラーを吐いてしまうからな」

「……それとこれに何の関係が」

「AERIAL……エアリアル」

「!?」

 

 

………『エアリアル』

 

その名を耳にした途端、ヨッカは言葉を詰まらせてしまう。それは、彼がその言葉の意味を知っている証。

 

 

「それがエラーコードの名前だった。オマエは、コレが何なのかわかるんじゃないのか?」

「………」

「黙るなよ。オマエは頑なに春神をDr. A、引いてはこの事件に関わらせようとしなかった。それはこの『エアリアル』と言う名前が、春神イナズマと奴に関連しているからではないのか?」

 

 

少々強引な推理だが、辻褄は合っている。アルファベットはヨッカが「エアリアル」と言う名を知っているとほぼ確信し、今彼を問い詰めているのだ。

 

 

「九日、オレは今までオマエに何度も協力して来た。知る必要があるはずだ。オマエのみが知る真実をな」

「………」

 

 

口を閉じていたヨッカだったが、沈黙に耐えられなくなり、遂に、アルファベットにのみ話した。

 

春神イナズマ。エアリアル。

 

そして、春神ライの真実を…………

 

 

 

******

 

 

舞台は戻り、地下でのバトル。目が見えなくなってしまったライに、オーガモンが棍棒を振り回し、迫り来る。

 

 

 

落ち着け、今ある手札は目が見えなくなる前まで見ていた。この6枚の手札の中に、何があるのかはわかる。わからないのはカードの順番だ。

 

 

 

このままでは勝てない事、負ける事を悟り、ライは一度心を落ち着かせ、目が見えていた時の情報を頭の中で整理し始める。

 

何度も言うが、彼女はバトルの天才。フィールドの状況、手札の枚数、手札とトラッシュに何があるのかを瞬時に思い出して………

 

 

 

よし、わかる。どこに何のカードがあるのかわかるぞ。フィールドにはエスパシオン、敵スピリットが2体。

 

こここら私が勝つ方法は………

 

 

 

冷静さを取り戻したライは、己の頭の中で擬似的なフィールドを形成。

 

さらに、限られた6枚の手札で、この状況を覆すどころか、一気に勝利する方法を導き出して………

 

 

「オラオラどうした、BP10000のオーガモンが、オマエのライフを砕いちまうぞ!!」

「ッ……フラッシュ、手札にある、仮面ライダービルド ラビットラビットフォームの効果を発揮!!」

「!」

「互いのアタックステップ中、フラッシュタイミングで召喚できる。現れなさい、赤のライダースピリット!!」

 

 

ー【仮面ライダービルド ラビットラビットフォーム[2]】LV1(1)BP5000

 

 

「なに、迷いなくスピリットを召喚しただと!?」

「よし、感触あり。エラーも吐いてない、行ける」

 

 

ライに迫り来るオーガモンの行手を遮るかのようにフィールドへと降り立ったのは、バスターソードを片手に持つ赤きライダースピリット。

 

その名も仮面ライダービルド ラビットラビットフォーム。

 

 

「ラビットラビットがこの効果で召喚された時、相手のBP10000以下のスピリット1体を破壊し、破壊したらデッキから2枚ドローする。蹴散らすのはオーガモンだ」

「チッ」

 

 

ラビットラビットフォームは、バスターソードに膨大なエネルギーを溜め、そのまま迫り来るオーガモンに刺突をお見舞いする。

 

それにより、強靭な肉体が貫通してしまったオーガモンは、悲鳴を上げながら呆気なく撃沈、爆発で最後を迎える。

 

 

「ターンエンド。コイツ、まさか手札の何枚目にどのカードがあったのかを把握してんのか?」

手札:4

場:【魂鬼】LV1

【No.3ロックハンド】LV1

バースト:【無】

 

 

魂鬼だけで、ライダースピリットの立った今のライのフィールドへ攻め込むのは愚策と考えたか、エニーズ02はそのターンをエンドとする。

 

彼が最も驚いたのは、ラビットラビットの相手ターン中でも召喚可能なカウンター効果ではなく、ライのその記憶力の高さだ。

 

一見手札のどこに何のカードがあるのかを把握する事は簡単そうに見えるが、それは飽くまで予め覚えようとしていた時の話。今回のように、突然見えなくなった場合、先ず6枚ものカードの位置を全て想起する事は不可能に等しい。

 

 

「伊達にガードマン相手に連勝してませんってか。おもしれぇ、実質6枚の手札でどれだけ抗えるか、見届けてやろうじゃねぇか」

 

 

ライの実力を知るエニーズ02は、口角を不気味な角度に上げる。予想だにしない強敵の登場に胸が高鳴っているのだろう。

 

そんな彼の表情も見えないライ。限られたカードだけで勝利を目指す。

 

 

[ターン05]春神ライ

 

 

「メインステップ、赤のパイロットブレイヴ、式波・アスカ・ラングレーを召喚し、エスパシオンに直接合体、LV2にアップ」

 

 

ー【宙征竜エスパシオン+式波・アスカ・ラングレー-テストスーツ-】LV2(2)BP13000

 

 

エスパシオンの見た目に全く変化はないが、ライは赤属性のパイロットブレイヴ、式波・アスカ・ラングレーを、それに合体。強力な合体スピリットへと変貌を遂げた。

 

 

「さらにネクサスカード、ドラゴンズミラージュを、ミラージュとしてセット」

 

 

立て続けにライはミラージュのセット。バーストゾーンに赤い龍の紋章が浮かび上がる。

 

 

「効果発揮。手札にあるコスト4以上の機竜のカード、鳳凰竜フェニック・キャノンを破棄し、相手のネクサスカードを破壊」

「!」

「ロックハンドとはお別れだ」

 

 

ライがコストを払った事により、ドラゴンズミラージュの紋章が、より赤く点滅。

 

するとエニーズ02の背後にある大岩、ロックハンドが崩壊。この場から塵芥となり消滅する。

 

 

「アタックステップ、その開始時にエスパシオンの効果を発揮、トラッシュのコア4つを自身の上に置き、LV3にアップ、ついでに2枚ドロー」

 

 

エスパシオンの効果により、使用済みのコアを回収。LVは3、BPは合体込みで18000まで上昇。

 

オマケのように2ドローも行ったが、視界を失った今のライにとって、それは死札も同然である。

 

 

「合体したエスパシオンでアタック、その効果で魂鬼を破壊、ミラージュをセットしている事により、破壊時効果は発揮されない」

「……」

 

 

機械音混じりの咆哮を張り上げながらフィールドを飛び立つエスパシオン。口内から電撃を放ち、魂鬼を爆散へと導く。

 

さらにこのタイミングで、今度は合体している、アスカの効果が発揮されて………

 

 

「アスカの効果、相手のスピリットを効果で破壊した時、自身を回復」

 

 

つまりはエスパシオンが回復する。これにより、少なくともこのターンは二度目のアタックが行えるようになった。

 

 

「赤のダブルシンボルアタック、それが2回。合計4点のダメージで、私の勝ちだ!!」

 

 

吠えるライだが、それを「甘い」と言わんばかりに、エニーズ02は、己の手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、ネクロブライト」

「!」

「効果により、トラッシュにあるコスト3以下の紫スピリットをノーコスト召喚できる」

 

 

使用したのは、ネクロブライト。紫属性らしい、トラッシュからスピリットを展開する効果を持つ。マジックが低コストであるが故に、同様に低コストのスピリットしか召喚できないが、それでも十分に強力な制限カードだ。

 

 

「コスト3以下、また魂鬼か」

「ゲゲゲ……オレはトラッシュから紫の成長期スピリット、インプモンをノーコスト召喚」

「ッ……!?」

 

 

ー【インプモン】LV1(1)BP2000

 

 

今までの戦いから、ライは召喚されるスピリットは魂鬼だと推理したが、それはハズレ。

 

召喚されたのは、黒い、小さな子供の悪魔。紫属性の成長期スピリット、インプモンだ。召喚されるなり、イタズラな笑みを浮かべながら、指先に火を灯す。

 

 

「成長期スピリット、そんなカード、いつトラッシュに……あ、ロックハンドか」

「御名答。コイツは系統に成長期と呪鬼を持つスピリット、ロックハンドの効果でコストにしていたのさ。召喚時効果を発揮、デッキ上から3枚オープンし、その中にある対象カード1枚を手札に加える」

 

 

インプモンの効果が発揮。デッキ上からオープンされた3枚のカードは『デスタメント』『ベヒーモス』『ベルゼブモン』………

 

この中で手札に回収できるカードは1枚だ。よってエニーズ02はそれを強制的に加える事となる。

 

 

「ゲゲゲ……来やがったな。オレはベルゼブモンのカードを手札に加え、残りを破棄する」

「ベルゼブモン??……聞いた事ないカードだ」

 

 

名前からしてデジタルスピリットではあるのだろうが、その名前に疑問符を浮かべるライ。

 

しかし、今は目が見えない。目が見えないと言う事は、カードテキストの確認もできないと言う事。普通なら聞けば済む話だが、目の前の奴がそんな事をしてくれる相手な訳がない。

 

今できる事は、それをガン無視して、このまま勝利を目指し、突き進む事だけだ。

 

 

「さぁ、BP2000、インプモンの壁をどう攻略する」

「んな貧弱な壁で防げる訳ないでしょ、フラッシュマジック、レーザーボレー」

「!」

「エスパシオンのLVを2に下げて使用コストを確保。効果でBP15000以下のインプモンを破壊!!」

 

 

天より照射された、赤いレーザー光線が、エニーズ02のインプモンに直撃し、爆散させる。

 

これにより、彼のフィールドは再び0。敗北一直線コースに元通りとなるが………

 

 

「成る程、ここまでは計算通りって事か」

「……」

「今のオマエが使えるカードは、実質目が見えるまで手札にあった6枚のカードのみ……『ラビットラビット』『式波・アスカ・ラングレー』『ドラゴンズミラージュ』『鳳凰竜フェニック・キャノン』『レーザーボレー』……と、オマエはここまで5枚のカードを使った。つまりまともに使える手札のカードは、あと1枚ってこった」

「だからなんだよ」

「だから、オレに勝てないって言いたいのさ。手札にあるベルゼブモンの効果を発揮」

「ッ……このタイミングでスピリット効果!?」

 

 

完全に意識外からの効果発揮の宣言。

 

エニーズ02が手札に加えた『ベルゼブモン』とは、そう言うカード。突如フィールドに舞い降り、敵を絶望の淵に追いやる、悪魔のスピリット。

 

 

「このスピリットカードは、自分のコスト3以下の紫のスピリットが破壊された時、1コスト支払って召喚できる。孤高なる魔王よ、今こそこの世に調和を齎せ!!……紫の究極体、ベルゼブモンをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ベルゼブモン】LV2(3)BP11000

 

 

禍々しいオーラと共にフィールドへ降り立ったのは、黒いレザージャケットに、二丁の拳銃を装備した、どこか退廃的なスピリット。

 

その名はベルゼブモン。孤高の魔王の名を持つ、究極体のデジタルスピリットだ。

 

 

「召喚アタック時効果、相手スピリット1体から、コア2個をリザーブに置く」

「コア除去効果か……」

「ゲゲゲ……そして、この効果はトラッシュにあるデジタルスピリットの数だけ強化される。ラビットラビットは消滅!!」

 

 

ベルゼブモンは二丁の拳銃を構え、連射。狙った先は、アタック中のエスパシオンではなく、待機していたラビットラビット。

 

油断していたラビットラビットは、それに全弾被弾してしまい、爆散してしまう。

 

 

「この効果で消滅した時、1枚ドロー」

「くっ……だけどまだエスパシオンのアタックは継続中だ」

 

 

飛翔し、上空に佇むエスパシオン。エニーズ02の残り4つのライフバリアを全て砕くべく、急降下する。

 

 

「ベルゼブモンが召喚された事により、トラッシュにある紫のブレイヴ、ベヒーモスの効果が発揮」

「なに、今度はトラッシュで効果の誘発!?」

「自身をトラッシュからノーコスト召喚。ベルゼブモンに直接合体させるぜ」

 

 

ー【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2(3)BP17000

 

 

ベルゼブモンが地に向かって手を翳し、その先に邪悪なオーラを送り込むと、黒々としたバイク型のマシーン、ベヒーモスが登場。

 

ベルゼブモンはベヒーモスに跨り、合体スピリットとなる。

 

 

「エスパシオンは合体したベルゼブモンでブロック。負ける訳ないよなぁ?」

 

 

急降下して来たエスパシオンの機翼に、ベルゼブモンは己の拳銃で弾丸を撃ち込む。

 

撃ち込まれた弾丸により、機翼が貫通してしまったエスパシオンは地上に落下。再び立ち上がる間もなく、ベヒーモスを乗りこなしたベルゼブモンに轢かれ、無残にも爆散してしまった。

 

 

「クッソ……」

「どうしたよ、まだ使えるカードが手札に1枚あるんだろ。もっと足掻いて見せろよ」

「……ターンエンド」

手札:6

場:【式波・アスカ・ラングレー】LV1

【溶岩海のエデラ砦】LV1

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

カウント:【1】

 

 

ライのフィールドには、取り残された赤のパイロットブレイヴカードのみ。このターンでの勝利はほぼ不可能どころか、目が見えず、残りの手札は本当に何があるのかわからないため、このバトルの勝利も危ぶまれる。

 

 

「ケッ……何だよ、もう戦意喪失かよ、つまんねぇな」

 

 

次は、超人的な引きの強さでライの猛攻を返り討ちにして見せた男、エニーズ02のターン。

 

ライの弱々しいターンエンド宣言に少女呆れながら、それを進行していく。

 

 

[ターン06]エニーズ02

 

 

「メインステップ、3体目の魂鬼、2体目のオーガモンを召喚」

 

 

ー【魂鬼】LV1(1S)BP1000

 

ー【オーガモン】LV1(1)BP8000

 

 

「さらにマジック、デスタメント。残った式波・アスカ・ラングレーを破壊だ」

 

 

圧倒的優勢に立っても一切気を緩めないエニーズ02。追い討ちをかけるように手札から2体のスピリットを展開するばかりか、次なる合体を未然に防ぐために、マジックカードでアスカまでもを除去していく。

 

 

「アタックステップ、ベルゼブモンでアタック。ベヒーモスとの合体により、ダブルシンボルのアタックだぞ」

「……ら、ライフで受け……ぐ、ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉春神ライ

 

 

ベヒーモスに跨っているベルゼブモン。再び二丁の拳銃を連射し、今度はライのライフバリアを一気に2つ撃ち抜く。

 

ライフが減少した際に砕け散る強い衝撃が、ライの身体に痛みとなって反映される。

 

 

「て、手札にある絶甲氷盾の効果を発揮」

「!」

「コレをノーコストで使用して、このターンのアタックステップを終了させる」

 

 

目の見えないライが使ったのは、最も汎用性の高い防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』………

 

これにより、少なくともこのターンに敗北する事はないが。

 

 

「絶甲氷盾。それが6枚目のカードか、これでわかるカードは全部使い切っちまったなぁ」

「………」

「ターンエンド」

手札:2

場:【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV2

【オーガモン】LV1

【魂鬼】LV1

バースト:【無】

 

 

そう、このカードの使用により、ライは手札にある知り得るカード全て使い切ってしまった。

 

判明しているカードと言えば、トラッシュのカードと、フィールドのエデラ砦とミラージュのドラゴンズミラージュのみ。しかし、それだけではどうしようもできないだろう。

 

 

「私の、ターンだ」

 

 

目が見えないとは言え、折角繋ぎ、巡って来たターン。ライは絶体絶命の状況の中、最後の戦意を振り絞り、それを進めていく。

 

 

[ターン07]春神ライ

 

 

「メインステップ……負けられない、私は負けられないんだ」

 

 

勝つための考えを止める訳には行かない。負ける訳にはいかない。その想いを胸に、ライは、見えない瞳で、6枚もある手札を見つめながら、その思考を回していく。

 

 

 

手札は6枚。相手のスピリットは3体、内1体は究極体のデジタルスピリット。

 

当てずっぽうでカードを使うか?

 

ダメだ。

 

仮にそれがカウンター用のマジックカードだった場合、無駄にコストを浪費するだけになる。スピリットだったとしても、何のスピリットかわからない以上、作戦を立てる事ができない。

 

 

 

ダメだ。

 

ダメだ。ダメだ。

 

ダメだ。ダメだ。ダメだ。

 

 

 

何をやるにしても、手札のカードが見えないと、どうしようもない。

 

 

私は、負ける。

 

 

 

「エデラ砦のLVを2に上げて……ターン、エンド」

手札:6

場:【溶岩海のエデラ砦】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ドラゴンズミラージュ】

カウント:【1】

 

 

考えれば考える程、結末は敗北、若しくは絶望。

 

ライは生まれて初めて、バトルスピリッツで敗北を確信。完全に戦意を喪失させてしまった。

 

 

「残念だよオレは、おもしれぇ奴だと思ったんだがな」

 

 

ここまで来たら、エニーズ02にとってはただの作業だ。ライの残り2つのライフを破壊すべく、再び巡って来た己のターンを進行させていく。

 

 

[ターン08]エニーズ02

 

 

「メインステップ、ベルゼブモンのLVを3に上げ、アタックステップ、もう一度、このベルゼブモンでアタックする」

 

 

メインステップはLV上げのみに止まり、エニーズ02は、ベヒーモスとの合体によりダブルシンボルとなっているベルゼブモンで再度アタックを仕掛ける。

 

 

「ごめん、お父さん……ごめん」

 

 

ベルゼブモンが二丁の拳銃をライに向ける。先程と同じように、またライフバリアを2つ破壊するつもりなのだ。

 

そして、負けを確信し、己の不甲斐なさに涙を流すライに、無慈悲の発泡。

 

 

「あばよ、ガキ」

 

 

その言葉を最後に、このバトルはライの残り2つのライフを砕いたベルゼブモンのアタックにより終了。

 

エニーズ02が、完全に勝利を収めた………

 

はずだった。

 

 

『手札、右から2番目のカード、白晶防壁だ、ライ』

「!!」

 

 

ここに来た直後と同じ、幻聴かと思われた中性的な声が、突如としてまたライの頭の中に直接響いて来る。

 

 

「フラッシュマジック、白晶防壁!!」

「なに!?」

「このターンの間、カウントが1以上なら、私のライフは1しか減らない。ベルゼブモンのアタックはライフで受ける……あ、ぁぁぁぁぁあ!!?」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉春神ライ

 

 

謎の声の導きにより、藁にもすがる思いで、ライが咄嗟に使用したのは、白の防御マジック『白晶防壁〈R〉』………

 

ライの前方に展開される半透明のバリアが、ベルゼブモンの銃撃を緩和、ダメージを2から1に抑える。さらにターン中は、如何なる手段であってもライフは減少しなくなるため、エニーズ02は、このターンをエンドにせざるを得ない状況に追い込まれてしまう。

 

 

「ターンエンド。馬鹿な、見えなくなるまでの6枚の手札は全て使い切ったはずだ。何でカードの位置がわかった」

手札:3

場:【ベルゼブモン+ベヒーモス】LV3

【オーガモン】LV1

【魂鬼】LV1

バースト:【無】

 

 

白晶防壁の効果を終了させるために、一度自分のターンをエンドとするエニーズ02。

 

今一度ライにターンが回って来るが………

 

 

『もう黙って見ている事はできない。僕も一緒に戦うよライ。安心して、僕がいる限り、君に負けはない』

 

 

ライの頭の中に響き続ける声。その声が徐々に大きくなると共に、ライのBパッドは青白く光り輝き、彼女の目から頬にかけて、それと同じ色の線が刻み込まれていく。

 

 

『僕の名はエアリアル、君の相棒だ』

 

 

眩い輝きが、謎の声が、今、ライに眠る真の力を呼び覚ます。

 

 




次回、第52ターン「覚醒の核、その名はエアリアル」


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第52ターン「覚醒の核、その名はエアリアル」

契約スピリット。

 

それは、自我と意思を持ち、時代ごとに使用者を定めると言われている、カード達の総称。

 

それに「相棒」と認められた者は、その先絶対的な力を手にすると言われている。

 

 

******

 

 

複数のスポットライトで照らされる、暗がりのバトル場。ここはそれを内包する、嵐マコトの隠れ研究所。

 

その守護を依頼されただけの最強ガードマンである青年は、生まれて初めて、背筋が震え上がる程の恐怖を感じていた。

 

 

「……テメェ、その光、何だ」

「………」

 

 

しかし、そう感じるのも無理はない。さっきまで散々虐めて来た少女、それの雰囲気が突然変化し、目尻から顎に掛けて青白い刻印が真っ直ぐに刻まれたのだから。

 

極め付けはそれと同じ色に光るBパッド。どう見ても、どう考えてもただ事ではない。

 

 

「私の目には、既に勝利の未来は見えている」

 

 

さぁ、ラストターンの時間です

 

 

少女、春神ライ。突如目覚めた、内なる真の力を操り、巡って来てくれた己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン09]春神ライ・王者

 

 

「ドローステップ時、ネクサス、エデラ砦のLV2効果。ドロー枚数を1枚増やし、その後1枚破棄する」

 

 

ライのフィールドに唯一残ったネクサスカード、エデラ砦。その効果で6枚の手札の質をより向上させる。

 

 

「メインステップ……初陣だ、私の相棒、ガンダム・エアリアルをLV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル】LV2(2)BP7000

 

 

「ッ……モビルスピリット、しかも黄属性だと!?」

 

 

フィールドに出現するのは、風に包まれた球体。それを振り払い、中より全体的に白いビジュアルのモビルスピリット、春神ライの新たな相棒、エアリアルが登場した。

 

 

「さらに黄のパイロットブレイヴ、スレッタ・マーキュリーを召喚し、エアリアルに直接合体」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP11000

 

 

「くっ……確かに奴の目は見えなくなっているはず、何故だ、何故奴はカードを召喚できる」

「見えてはない。ただわかる。教えてくれる、どこに何があって、どうすれば勝てるのかを」

 

 

その殆どがモビルスピリット専用のブレイヴカード、パイロットブレイヴの一瞬であるスレッタ・マーキュリーを追加で召喚。見た目に変化こそないものの、これによりエアリアルは強力な合体スピリットとなる。

 

 

「アタックステップ、エアリアルでアタック。その効果でカウント+1、デッキ下から1枚ドロー」

 

 

アタックステップに突入するライ。魂鬼、オーガモン、ベルゼブモンと言った3体のスピリット達を従えるエニーズ02へと攻撃を仕掛ける。

 

この瞬間、エアリアルの効果により、カウントは1から2へと増加した。

 

 

「だがよぉ、合体しても所詮はシンボル1つ、BP11000のスピリット。その程度じゃオレの4つのライフを掻っ攫うなんて先ず不可能だ」

「今からそれを可能にさせるんだよ」

「なに!?」

「フラッシュ【契約煌臨】を発揮、対象はアタック中のエアリアルだ」

「契約、煌臨……!?」

 

 

ライはBパッドに1枚のカードを叩きつけ、新たなるカードの使用を宣言。

 

その名も【契約煌臨】………

 

未知なる効果の発揮に、余裕綽々だったエニーズ02は、初めて大きな狼狽えを見せる。

 

 

「遙か未来を駆け抜ける、私の相棒!!……ガンダム・エアリアル・ガンビット、LV2で煌臨!!」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル[ガンビット]+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP22000

 

 

スピリットを新たな姿へと昇華させるのが煌臨の効果。

 

しかし、エアリアルの煌臨にその変化は見られない。ただ、シールドが複数のビット、ユニットとして展開。それらは踊るように宙を舞い、エアリアルの周囲で円を描く。

 

 

「ガンビットの煌臨アタック時効果、LV1と2の相手スピリットを1体ずつデッキ下に戻す」

「!」

「先ずは魂鬼を消す」

 

 

エアリアルがガンビットに指示を出すように腕を伸ばすと、ガンビットはエニーズ02のフィールドへ急行、宙に漂う魂鬼をレーザー光線で浄化、粒子化させデッキ下へと追いやった。

 

 

「追加効果で黄色のシンボルを1つ追加し、ダブルシンボルに。さらにスレッタの効果、エアリアルが相手のスピリットを倒した時、デッキ下から1枚ドローし、トラッシュのソウルコアをリザーブへ」

 

 

一撃で二度のライフを破壊できる、ダブルシンボルとなるエアリアル・ガンビット。さらに合体しているスレッタの効果により、またドローを重ねる。

 

さらに、効果はそれだけではなくて………

 

 

「フラッシュ、エアリアル・ガンビットの【OC】効果……手札にある系統「学園」を持つカード全ては「エアリアル」1体を回復させるマジックカードになる」

「!」

「この効果で手札にある『ミオリネ・レンブラン』をマジックカードとして使用。アタック中のエアリアル・ガンビットを回復」

「手札のカードをマジックカードに変えるだと!?」

 

 

エアリアル・ガンビットが内包していた、さらなる効果は、手札のカードをマジックカードに変更させると言うモノ。

 

これにより自身は回復し、このターン、二度目のアタックが可能となった。

 

 

「チィッ……防げ、オーガモン」

「エアリアル・ガンビットのBPは22000。蹴散らせ」

 

 

不動を極めるエアリアル・ガンビットの代わりに、その武装である複数のガンビットが、修羅の如く、エニーズ02のライフバリアへ突撃。

 

その進行方向をオーガモンが遮るが、凄まじい速度で飛んで来たガンビットの体当たりで吹き飛ばされ、宙を舞った瞬間に複数のレーザー光線がその肉体を貫き、一瞬で爆発四散。

 

 

「エアリアルが相手スピリットを倒した事で、スレッタの効果。デッキ下から1枚ドロー。再度アタック、煌臨元のエアリアルの効果でカウント+1、デッキ下から1枚ドロー」

「どんだけドローすれば気が済みやがる」

 

 

エアリアル・ガンビットの二度目のアタック。エニーズ02のスピリットの中で、そのBPに対抗できるのは、同値のベルゼブモンのみだが、肝心のそれは戦闘に参加できない疲労状態。

 

故に今のエアリアルを止める事はできなくて………

 

 

「フラッシュ、エアリアル・ガンビットの効果により、手札にあるニカ・ナナウラを、エアリアルを回復させるマジックカードとして使用。エアリアル・ガンビットを回復」

「くっ……!!」

 

 

二度目の回復。三度目のアタックを可能とするエアリアル・ガンビット。

 

これより、ブロックできるスピリットを失ったエニーズ02に待ち受けるのは、ただの覆しようのない敗北。

 

 

「アンタにはもうブロックできるスピリットはいない。手札に使えるカードもない。なら宣言は1つだけだろ?」

「ライフだ、ライフで受けてやる……ぐおっ!?」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉エニーズ02

 

 

美しく宙を舞う複数のガンビットから繰り出されるレーザー光線が、エニーズ02のライフバリア2つを砕いていき、残り2つまで追い込む。

 

間もなく敗北を迎えるエニーズ02が行う宣言はただ1つ。それと同様に、春神ライが行う宣言も、ただ1つだ。

 

 

「これで最後だ、エアリアル・ガンビットで、ラストアタック」

 

 

散々暴れさせたガンビットらをシールドに変え、己の左腕に装備するエアリアル・ガンビット。今度は自身が最後のライフバリアを砕くため、背部のビームサーベルを右手に構え、動き出す。

 

 

「……ライフで、ぐっがァァァァ!?!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉エニーズ02

 

 

エアリアル・ガンビットの振るったビームサーベルによる一撃が、エニーズ02の最後のライフバリアを紙切れのように斬り裂く。抑えきれないバトルダメージの衝撃が、エニーズ02を彼の抱いた恐怖の感情と共にバトル場の壁へ叩きつけた。

 

これにより、勝者は春神ライだ。視界を奪われながらも、突如目覚めた謎の声の導きにより、見事勝利を収めてみせた。そして、役目を終えたのか、彼女のBパッドから放出されていた青白い光と、目尻から顎に掛けて伸びていたそれと同じ色の刻印が、このタイミングで消滅する。

 

さらに丁度この瞬間、扉が開き、ライを追って来た九日ヨッカとアルファベットが到着する。

 

 

「ライ!!……おいライ、無事……!?」

 

 

やや放心気味だが、バトル場に立っているライを視界に入れ、ほんの僅かな時間安堵するヨッカだったが、次に視界に入って来たエアリアルを見るなり、頭の血の気が下がっていった。

 

ヨッカは、それが何かを知っていたのだ。ライを居候として受け入れる前より、師匠である春神イナズマから聞いていたからである。

 

 

「モビルスピリット………え、エアリアル……!?」

「なに、アレが……」

 

 

ヨッカが思わずそう呟くと、アルファベットが察する。彼もまた直前にヨッカのみが知る秘密、引いてはエアリアルの事、春神ライの事を聞いていたため、全て知っているのだ。

 

 

「おいアンタ。倒れるにはまだ早いぞ」

「………」

 

 

ヨッカ達が到着した事を知りつつも、ライはそれをシカトし、Bパッドの電源を切ると、目が見えるようになったのか、エアリアルのいなくなったフィールドを走り、勢いよく壁際で倒れるエニーズ02の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 

彼女が、敗北した彼に望む事はただ1つ。

 

 

「私のお父さんはどこだ。嵐マコトは、エニーズ02がいる所にいるって言ってた。早く出せよ、いるんだろ、ここに、さっさと解放しろよ、おい!!」

「待てライ落ち着け、そいつもう気を失って……」

 

 

我に帰ったヨッカが慌ててライを止めようとするが、その前に、気を失っているはずのエニーズ02の目が開眼して………

 

 

「ゲゲ、ゲッーゲッゲゲ!!!」

「!?」

 

 

突然笑い出すエニーズ02。その笑い声、笑う表情は狂気を極めており、怒りで感情を満たし、我を忘れていたライを一瞬恐怖させる程だ。

 

 

「キャアッ!?」

 

 

その一瞬の隙を突き、エニーズ02はライの足を払い、彼女を押し倒す。逆に胸ぐらを掴まれたライは、何とかそれを振り払おうとするも、彼の力は強く、反撃の隙もなかった。

 

 

「おいおいおいおい、何者だよテメェは。最高だ、今までにない最高の祭りだったぜなぁ?」

「はぁ!?…なんだよ急に」

「もう一度、もう一度だ、オレとバトルしようぜ、今度は卑怯な手なんざ使わねぇ、本気のデッキで、本気のオレと戦え、オマエの本気は見たんだ、オレの本気を見せないとバランスが悪いよな。なぁ?」

「うっさい、いいからお父さんを出せ!!」

「お父さん?……何の事だ」

「ッ……春神イナズマ、私のお父さんの事よ!!」

「あぁ?……知らねぇな。ここにはオレしかいねぇ」

「!?」

 

 

話の食い違いに気がつくライ。嵐マコトの言葉をそのまま受け取るなら、春神イナズマの事を、この男が知らないはずがない。

 

 

「ライから離れやがれ、この変態野郎!!」

「おっと」

 

 

ヨッカがエニーズ02に蹴り掛かるも、彼はそれを華麗に回避。だが、それによりライは解放され、その肩はヨッカの手に収まった。

 

 

「ヨッカ……さん」

「悪りぃなライ、遅れちまった。助けに来たぜ」

 

 

ヨッカにそう告げられると、なんやかんやで彼を心の底から信頼しているライは、怒りを沈め、心を落ち着かせる。

 

 

「オマエが、エニーズ02か」

 

 

アルファベットがエニーズ02に問う。彼はまたケラケラと笑みを浮かべながら答える。

 

 

「ゲゲゲ……あぁそうさ。オレはエニーズ02、最強のガードマンだ」

「オマエの名前の由来はなんだ」

 

 

アルファベットの2つ目の質問に、エニーズ02は笑うのをやめ、頭の上に疑問符を浮かべる。

 

 

「由来?……んなもん知らねえが、依頼者はこう言ってたぜ、オレらガードマンの最強の称号だとな」

「最強の称号?」

「……やはりな」

 

 

その名は最強の称号であると告げるエニーズ02。

 

ヨッカが緊張感に唾を呑み、アルファベットは彼より得た情報から確信を持つ中、唯一ライだけが疑問を抱える事になる。

 

 

「ちょ、ちょっと待って。じゃあアンタは人造人間じゃないの?」

「あぁ?……人造人間?……何寝ぼけた事言ってんだ、アニメの見過ぎだろ。んな事より、早くバトルしようぜ」

「そんなわけない。絶対ここに人造人間エニーズ02がいて、お父さんが幽閉されてるんだ」

「何の妄言だ。オレはレッキとした人間、ただガードマンとしてここの防衛の依頼を受けていただけだ」

「……依頼?」

 

 

話を合わせると、エニーズ02とは単なる最強の称号。目の前にいる彼は人造人間ではなく、ただの人間。

 

別の誰かから依頼を受け、この隠れ研究所に身を潜めていたのだ。

 

そして、その依頼をした人物の候補は、ただ1人しかいなくて………

 

 

「アッアッア……ブラボーブラボー、最強ガードマンである彼を倒すとは、流石は春神ライちゃん。実にエクセレントだ」

「!」

「嵐マコト!!」

 

 

黒髪のポニーテールに眼鏡。白衣を着用した男性、嵐マコトが、手を叩きながらこの場に居合わせる。

 

 

「依頼主じゃねぇか、今日はヤケに賑やかだな」

「嵐マコト、どう言う事だ、何でお父さんはここに居ないんだ、何でだ!!」

 

 

嵐マコトに怒りを露わにするライ。当然だ。

 

 

「アッアッア……ごめんごめん、君を本気にさせたくてね、くだらない嘘をついてしまった」

「嵐マコト、今度は何を企んでいる」

「アルファベット。君との決着はまた今度で頼むよ、今はただ、ライちゃんに真実を告げたい気分なんだ」

「!!」

 

 

嵐マコトのその言葉に最も強く反応したのは、九日ヨッカ。

 

おそらく今から嵐マコトがライに告げる真実は、彼女を悲しませるモノ、言ってはならない禁句。そう思うと、身体が勝手に動き出す。

 

 

「何を言う気だ、やめろ、嵐マコト!!」

「アッアッア」

 

 

自分に向かって殴り掛かってくる九日ヨッカを視界に入れるなり、指パッチンする嵐マコト。

 

すると不思議な事に、今ある風景が真っ白な空間に一変され、瞬間的に嵐マコトと春神ライ以外の人物はこの場から消え去ってしまった。

 

 

「え、ヨッカさん、アルファベットさん!?」

「驚いたかい。本来僕はあらゆるモノをデータ化する研究をしていてね。このくらい朝飯前なのさ。安心したまえ、あの2人は無事さ、時間が経てば元に戻る」

 

 

言っている意味が余りわからない。口振りからして、以前データ化され、カードに取り込まれた獅堂レオンよりはマシなようだが。

 

ただ、どちらにせよしばらくの間、2人はライを助けようとする事はできないみたいだ。

 

 

「さて、邪魔者は消えた。真実を告げようかライちゃん」

「……真実って、何の真実だよ」

「無論。エニーズ02の事だ」

「それならさっきの奴から聞いた、ただの最強の称号なんでしょ、人造人間とか大そびれた嘘つきやがって」

 

 

ライがエニーズ02を名乗っていた男から得た情報を告げる。彼らの依頼主であった嵐マコトは、その名付け親で間違いないだろう。

 

しかし、事はそれだけでは終わっていなくて………

 

 

「アッアッア。いや、正確には全てが嘘なわけじゃない。エニーズ02と言う人造人間は実在するんだよ」

「!!」

「そうだね、先ずは僕と君のお父さん、イナズマ先生の事を話そうか。僕らが本来、Dr.Aの助手をしていた事は知っているよね」

 

 

嵐マコトは、自身と春神イナズマの事を話す。そう、彼らは昔、あの6年前に『A事変』と呼ばれる世紀の大事件を起こした、悪魔の科学者として名高いDr.Aこと徳川暗利の助手を務めていた。そんな事だけなら、ライでも知っている。

 

 

「初めは生き物の持つ進化の力の研究をしていた。しかし徳川先生、Dr.Aはそれに没頭する余り、次第に狂気に走ってしまってね。ついていけなくなった僕とイナズマ先生は、今から25年前、逃げるように彼の研究所を去った」

「……」

「まぁその間にも色々あったんだけどね。今回は割愛しよう。で、エニーズだ。本来アレは、Dr.Aの研究の賜物。カードやデッキの進化、オーバーエヴォリューションを何度でも繰り返す事ができる人造人間、怪物だ」

「Dr.Aが、エニーズを……」

「そう。これは史実では教えてくれない真実さ」

 

 

エニーズと言う人造人間を造ったのは、誰もが知る悪魔の科学者、Dr.Aだった。

 

その真実を知る者は、おそらく両手の指で数えられる程度しかいないだろう。

 

 

「それが伝えたい真実?……だからなんだよ、私に何の関係が」

「ノンノン。まだ話は終わってないよ、ここからが本題だ」

 

 

嵐マコトは人差し指を軽く振ると、話を続ける。

 

 

「今のは『エニーズ』の話。ここからは『エニーズ02』の話だ。Dr. Aから逃げた僕とイナズマ先生。だけどこのままDr.Aを放っておくと、世界は必ず滅亡の一途を辿る。そう考え、僕達はある作戦を決意した」

「作戦?」

「それが、エニーズ02だ」

「!」

「僕とイナズマ先生は、Dr.Aに対抗するために、エニーズを超える人造人間、エニーズ02を開発する事にしたんだ」

「そんな、お父さんがエニーズ02を……」

 

 

いくら悪魔の科学者に対抗するためとは言え、命を造り出すと言う非人道的な行いを、自分の父親がやっていたと言う事実に、ライは大きなショックを受ける。

 

 

「だけど大変だったよ。エニーズを作成するノウハウこそあれど、進化の力を宿らせる事ができたのは、他でもないDr.Aだけだったし、ましてやそれよりも強い存在を造るなんて、不可能の極みだった」

「………」

「でもね、今からおよそ13年前、たった1体だけ完成したんだ。使用者を必ず勝利に導くと言われている天下無双の力『王者』を宿らせる事でね」

「ッ……王者」

 

 

ライをはじめ、鉄華オーカミなどが持つ謎の力「王者」………

 

嵐マコトの言うエニーズ02には、進化の力の代わりに、その力が備わっているのだと言う。

 

 

「完成したエニーズ02の力は凄まじかった。コレさえあれば、Dr.Aに対抗できる、コレさえあれば、僕が代わりに世界を征服できる。そう思った」

「ッ……!!」

 

 

その笑みに、背筋が凍りついた。基本的に仏のような表情を見せ、表向きは善人に見える嵐マコト。その内に秘めていた闇を、ライは垣間見た。

 

 

「だが、それを察知したイナズマ先生が、まだ幼体だったエニーズ02を連れ去ってしまった。何故、何故だ。何故私達の計画を台無しにしたのだ春神イナズマ!!」

 

 

話しながら、その闇は肥大化していく。吐き続ける言葉は、元同僚だった春神イナズマへの恨みばかり。

 

それに対して声を荒げるのは、その娘である春神ライだ。

 

 

「そりゃそうだろ!!……折角悪に対抗するために造ったのに、利用されたら嫌に決まってる」

「………」

「私にはわかる。お父さんはきっと、エニーズ02を造りたくなかったんだ。コレじゃあDr.Aと同じだって、気づいてたんだ」

 

 

きっとそうなんだ。そう思っていたんだ。そう考えてくれていたんだ。

 

ライの心の中はその気持ちでいっぱいだった。

 

自分の信じる父親、春神イナズマは、優しい人。本当はエニーズ02なんて怪物を造る事を嫌悪していたが、Dr.Aに対抗するために仕方なくそうしたのだと、信じていたかったのだ。

 

 

「……なんてノットエクセレントな言葉だ。似てしまったんだね、あの愚か者に」

「私のお父さんは愚か者なんかじゃない、愚か者はアンタだ、嵐マコト!!」

「愚か者さ。そしてその愚か者に育てられた君も愚かだ。君は自分でも気づかない内に、自分の存在を否定しているんだよ」

「……!?」

 

 

最初は、言っている意味がわからなかった。

 

だが、ライは「王者」「13年前」………

 

嵐マコトの話の中で出て来たそう言ったワードから、意味を瞬時に理解する。

 

そうだ、わかってしまったのだ。嵐マコトが何を自分に伝えようとしていたのか、何故自分にだけ話そうとしていたのかを。

 

それは知りたくなかった真実。王者の力を内に内包する、13歳の人間は、たった1人しかいない。

 

 

「頭の良い君ならもう気づいただろう」

 

 

 

 

 

君の本当の名前はエニーズ02。

 

Dr.Aを倒すためだけに造られた……

 

王者の力を持つ、怪物だ。

 

 

 

 

理不尽に突きつけられた残酷な真実に、ライは、いや、エニーズ02は言葉を失った。

 

 

 




次回、第53ターン「本当の黒幕」




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第53ターン「本当の黒幕」

エニーズ。

 

かつて悪魔と呼ばれた科学者「Dr.A」が造り上げた怪物。彼はこれを大量に造り上げ、後の「A事変」と呼ばれる世紀の大事件を引き起こした。

 

 

そしてエニーズ02。

 

それは、Dr.Aの助手であった「春神イナズマ」と「嵐マコト」が、Dr.Aに対抗するために造り上げた怪物。

 

しかし、誕生直後、それを使い、Dr.A同様の狂気へ走ろうとした嵐マコトを察知し、春神イナズマがその幼体を連れ、再び逃走した。

 

 

そのエニーズ02は、今は春神ライと言う名前で、単なる人間として、平凡に暮らしていた。

 

 

******

 

 

「私が、エニーズ02……!?」

「そう。君は僕とイナズマ先生が丹精込めて造り上げた最高傑作、生まれた直後に「エアリアル」と言う契約カードにも選ばれた、まさにバトルスピリッツの申し子だ」

 

 

何もない、どこまで続いているのかもわからない真っ白な空間。

 

今ここにいるのは春神ライと嵐マコトのみ。無慈悲にも告げられた、衝撃の真実に、ライは足の力が抜け、その場に尻を地につけ、座り込んでしまう。

 

 

「イナズマ先生は用心深い人でね。僕らに捕えられた後も、君の情報は一切吐かなかった。だけどこうしてようやく見つけた、見つかってくれた。君のピンチに突如現れた、エアリアルがその証拠だ」

「……だから私をガードマンと戦わせたのか」

「アッアッア……随分と弱々しく返事するじゃないか、でもそうだよ。君のお父さんは君の正体がバレないよう、エアリアルを君のBパッドに閉じ込めた。君に危険が及ぶ際は復活できるようプログラムしてね。それは、九日ヨッカも知ってたんじゃないかな」

「!!」

「彼はイナズマ先生の協力者だからね。現に今、君は彼の家で寝泊まりしているだろう?」

 

 

九日ヨッカ。

 

春神イナズマの元教え子の1人である彼。一緒に住む事1年だが、ライは彼を実の兄のように慕うようになっていた。

 

だが、ヤケに自分をこの件に関わらせないようにしようとする気持ちは本気だった。きっと、知っていたのだろう。ライが本物の人間ではない事、そのBパッドの中には、彼女に宿る契約カードが眠っている事を………

 

つまり、彼はずっと、ライに嘘をついていた事になる。

 

嫌だ、嫌だ嫌だ。もう誰も信じられない、信じたくない。そう言ったネガティブな感情が、ライの心に渦巻いていく。

 

 

「何にせよ、ここで巡り会えたのは奇跡に等しい事だよ。さぁ、僕の所に来たまえよライちゃん、いやエニーズ02。そこにイナズマ先生もいる。君にしか、できない事があるんだ、さぁ」

「……私を使って、世界征服する気……?」

 

 

微かな拒絶の声、弱々しい声でそう言い返すライ。

 

心身共に疲労し切っているのがよく伝わる。無理もない、毎晩毎晩命懸けでバトルを行い、最後には自分が人間ではない、怪物だと真実を告げられたのだから………

 

 

「世界征服。確かに僕は君にわかりやすく伝えるためにその言葉を選んだが、厳密には少し違う。僕はDr.Aのようになりたいんだよ。圧倒的な力、誰も到達しえない頂きからの景色を見てみたいだけさ」

「……」

「もう抵抗する元気もないか」

 

 

さっさと連れ帰ろう。

 

そう思い、嵐マコトはライへ手を伸ばそうとした……

 

その直後だった。謎の叫びと共に真っ白な空間に黒い亀裂が生じはじめたのは。

 

 

「イ、ライ!!……ライ!!!」

「ッ……九日ヨッカ、まさかこんなに早くここに辿り着くとは」

 

 

亀裂を砕き、真っ白な空間に大穴を開けたのは他でもないヨッカ。

 

少なくとも、彼を見くびっていた嵐マコトだが、大なり小なり、彼の到着する速さに驚かされる。

 

 

「オラァァァ!!」

「ぐっふ!?」

 

 

その驚いた隙を突き、ヨッカは嵐マコトの頬を固めた右の拳でぶん殴る。

 

 

「ここは引くぞ、ライ」

「くっ……待ちなさい」

 

 

逃がすものかとヨッカとライに向かって手を伸ばす嵐マコトだが、おそらくアルファベットだろう、直後に空いた大穴から煙玉が投下され、視界を遮断される。

 

そして、その煙が晴れた頃には、真っ白な空間は元のバトル場に戻り、嵐マコトのみが取り残されていて………

 

 

「九日ヨッカ、アルファベット、もうちょっとの所で………く、クソがァァァァァァ!!!」

 

 

嵐マコトは、普段の柔和な態度とはとてもかけ離れた下品な叫び声で怒りを露わにし、それは冷え切ったバトル場に響き渡った。

 

 

******

 

 

夜が明け、鳩が羽ばたき鳴く時間帯。隠れ研究所からかなり離れた河川敷、コンクリートでできた橋の下。

 

春神ライ、九日ヨッカ、アルファベットの3人は、逃げるようにその橋の下に身を置いた。その3人の空気感は、ライを中心にかなりギスギスしていて……

 

 

「一先ず、ここまで来ればもう安全だな。これからどうする、九日?」

「……取り敢えず、ライをもっと安全な所に避難させましょう、話はそれから……」

「触らないで!!」

「!」

 

 

ライを安心させようと、その肩にさり気なく手を置こうとしたヨッカ。しかし、ライはその手を振り払い、強く拒絶する。

 

 

「私は、エニーズ02って言う名前の怪物だった」

「ライ、それは違う。オマエは人間だ。春神ライって言う先生が付けてくれた名前もある」

「嘘だ。知ってたんでしょヨッカさん。知っててずっと私を怪物だと思ってたんでしょ」

「な訳ねぇだろ、落ち着け」

「突然あなたは怪物ですって言われて、落ち着くもクソもないでしょ、何でだよ、何でずっと黙ってたんだよヨッカさん、何で嘘ついてたんだよ、信じてたのに」

「ライ!?」

 

 

酷く精神的に追い詰められているライ。今まで共にして来た時間の中で、ヨッカがそんな事を思う訳がないとわかっているはずなのに、彼の言葉を何も信用できなくなってしまっている…………

 

 

「チクショウ……チクショウ、何でだよ、何で何で何で何で何で!!!」

「おいライ!?」

 

 

耐えられなくなり、ヨッカから逃げ出すライ。橋の下から約10メートルはある橋の上まで軽く飛び上がる。通常の人間では先ず不可能な動きだ、これも彼女がエニーズ02であるが故。

 

当然、ただの人間であるヨッカが追いつける訳がない。すぐにその背中は遠くへ行き、消えて行く。

 

 

「ライ。何でこうなっちまうんだ。追いかけるぞアルファベットさん、さっきの会話で、敵の狙いがライなのがわかった。1人にはできねぇ、アイツのBパッドハッキングしてんだろ」

「いや、それは無理だ」

「なんで!?」

「エアリアルが奴のBパッドから解き放たれた影響で完全に解除されてしまった」

「はぁ!?……全く、肝心な時にはいつも役に立たねぇんだから」

「面目ない」

 

 

逃げ出したライを見つけ出し、追跡する手段を持たない2人。

 

だが、ヨッカにはそれを可能にする、最終手段があり………

 

 

「まぁいいさ、こうなりゃ人海戦術よ。意地でもライを見つけ出してやる」

 

 

そう呟くと、ヨッカは徐に己のBパッドを取り出す。

 

 

「もしもしヒバナ?……そっちにライ行ってねぇか?……うん、わかった、見つけ次第連絡くれ」

 

「おいイチマル、そっちにライ行ってねぇか?……おうわかった、見つけたらオレに連絡くれ」

 

「おいミツバ、そっちにライ行ってねぇか?……あぁ?…んな事より給料くれ?……バカ言ってんじゃねぇ一大事だ、必ずライを探し出せ」

 

「あぁ、ランスロットさん、ご無沙汰しておりますヨッカです。朝早くにすんません、そちらにライは来てないでしょうか?……え、そんな事よりデート?……いや、あのそれはまた今度で、取り敢えずライを見つけたらオレにご連絡ください。はい、失礼しやす」

 

「おいオーカ、起きてるか?……ライが行方不明になっちまった、探してくれ。あぁ頼む」

 

 

十数分掛け、ヨッカは取り敢えず信用できる知り合いに、片っ端からライの捜索を申し込む。

 

 

「人海戦術と言う割には、人が足りてないようだが」

「うるせぇ、信用できねぇ知り合いが多いんだよ。あ、待て待てもう1人いた、1番信用できる……えっとフウちゃんの番号は……」

 

 

ヨッカはライの親友であるフウの存在を思い出し、ダメ元で彼女にも電話を掛ける。

 

 

「あ、もしもしフウちゃん?……ヨッカだけど、そっちにライ来てないか?……そっか、悪りぃ、来たらオレに連絡くれ。うん、ありがとう、じゃあね」

 

 

ライが界放市に来て1年。ヨッカを除いて最も強い信頼関係を築いたであろう少女、夏恋フウの元にも来ていないようだ。

 

ヨッカとアルファベットはそれを知ると、自分達もまた、ライ捜索のために橋の下を離れた。

 

 

******

 

 

ここは界放市ジークフリード区にある最も大きな公園、その名もヴルムヶ丘公園。その中には、暑さを凌ぐ為に企画及び作成された、高さ10メートル、道のり100メートルの大きな湧水トンネルがある。

 

水路から水が流れるて来る音が聞こえて来るこの湧水トンネルの気温は、通年で16℃。それ故に、猛暑がこれでもかと続く夏場には非常にありがたい憩いの場ではあるが、逆にそれ以外の季節では余り盛んにはならず、必然的に客足は遠のく。

 

今の季節は秋。夏の残暑も消え去った今、当然の如く人影は微塵もない。たった2人を除いては………

 

 

「はい、私も探してみます。わかりました、はい、失礼します」

 

 

Bパッドで誰かと通話をしているのは、黒髪ロングで、清楚な美少女、夏恋フウ。その相手はヨッカ、ライが出て行ってしまったから探して欲しいとの事だ。

 

彼女の親友でもあるフウは、もちろんそれを快く引き受けるが、すでに彼女のすぐそばには、座り込んでうずくまる春神ライの姿があって………

 

 

「いきなり呼び出すから何かと思えば、ヨッカさん、心配してたよ、戻らなくていいの?」

 

 

悲しそうに背中を丸めるライに、フウが訊いた。ライとヨッカの喧嘩は何度も経験している彼女、その仲を取り持つ事など、朝飯前だ。

 

しかし、今回は少し勝手が違くて………

 

 

「いい。今日1日は、私とここにいてよ、フウちゃん」

「もう、わがままなんだから」

 

 

界放市に来てから1年。ライにとって最も親しい友人となったフウ。今のライの唯一の心の拠り所なのだろう。

 

フウもそれをわかっているのだろう、黙ってライのすぐ横に座り、悲壮感漂う彼女の肩に手を回した。

 

 

******

 

 

場面は変わり、九日ヨッカとアルファベットサイド。どこに逃げたかわからないライを見つけ出すため、ジークフリード区の街を走り回っていた。

 

 

「時に九日よ」

「なんすか」

「敵は何故春神を狙うと思う?……できる事があると言っていたが」

 

 

走りながら、アルファベットがヨッカに訊いた。純粋な疑問だ。ことの経緯をおおよそ把握しているヨッカならばわかることもあると考えたのだろう。

 

しかし、その答えは彼の求めていたモノではなくて……

 

 

「いや、正直それはオレもさっぱり……でもよ、オレからしたら、戦う理由は十分だ。ライを守って、イナズマ先生を助ける。わかりやすいぜ」

「……熱くなりすぎるなよ、熱されやすいのが、オマエの長所であり短所だ」

「んだよ、この後に及んで説教か」

「まぁだが、その考え方は正しい。オレにとっても、戦う理由なんぞ、それだけで十分だ」

 

 

アルファベットの言葉に、ヨッカは小さく微笑む。

 

どこか冷徹で、暖かさを見せないアルファベットだが、その内にはちゃんと温もりがあるのを見抜いているヨッカは、その彼の一旦を垣間見る事ができて、少しだけ嬉しいのだ。

 

 

「ところで、オマエはいつ春神の秘密を知っていた。知っていた上で、これまで行動して来たのだろう?」

「あぁ知ったのは、ライと出会った直後です。ホント、最初は衝撃的過ぎて、突然変な異世界にでも転生したのかと思いましたよ」

 

 

アルファベットにそう訊かれると、ヨッカは約1年と半年前、春神ライと初めて出会った日のことを想起する。

 

 

******

 

 

「ダルイ。余りにもダルイ。そして眠たいのになんか疲れ過ぎてお目目がパッチリ……なんの独り言だよ。バカかオレは」

 

 

春の季節、1年と半年前。九日ヨッカは自宅のソファに寝っ転がりながらそう呟く。

 

当時の彼はアポローンの営業開始直後、三王就任直後、アルファベットからの事件解決の協力依頼多数などなどで兎に角多忙を極めており、疲弊に疲弊しまくっていた。今日のように休みが1日あるだけで奇跡と言える。

 

そんな日に限ってやって来たのが、春神ライだった。

 

 

ピンボーン。

 

 

と、ヨッカの家のインターホンが鳴り響く。彼はその音を耳にするなり「ゲッ」と呟き、嫌な顔をする。こう言う時は大体アルファベットが面倒くさい事件を引っ提げてやって来るのを知っているからだ。

 

 

「絶対アルファベットさんだ」

 

 

ピンボーン、ピンポーン。

 

 

「は〜い、直ぐ行きますよアルファベットさん」

 

 

ピンボーン、ピンポーン。

 

ピンピンピンピンピンピンポーン。

 

 

「喧しいわ!!……直ぐ行くっつってんだろ!!」

 

 

喧しいインターホンの音に、ヨッカが声を荒げる。

 

 

「今度は何の事件だ全く、勘弁してくれ。毛布から出たくねぇよ」

 

 

毛布から出たくない余り、毛布にくるまりながらソファを離れ、芋虫の如く這いつくばり、玄関前へ赴くヨッカ。

 

しかし、このままではどうしても玄関を開ける事ができない。そう思った矢先だった、勝手にドアが開いたのは………

 

 

「……!」

「え」

 

 

ドアの向こう側に居たのは、当時12歳の春神ライ。まだ黄色がかった白髪が長く、1年の間に成長期が来たのか、今よりも身長が低く、身体つきや顔も幼く見える。

 

ライとヨッカは、少なくとも最悪の出会いだった。

 

それもそのはず、どうせアルファベットだと思って布団にくるまりながら玄関前に来たヨッカは、不本意とは言え、結果的にローアングルからライの丈の短いスカートの中にある白いモノを覗き込んでしまったのだから………

 

 

「あぁ、えっと……その、なんだ。取り敢えず、ご馳走様です」

 

 

ヨッカはこの気まずくなった空気をどうにかしようと、取り敢えず誤魔化すように例を言う。勿論、こんな事で許されるわけがないのだが………

 

 

「天誅!!」

「ぬおォォォ!?」

 

 

本能的に身の危険を感じたライは、いきなりヨッカを蹴りに掛かる。12歳の少女とは思えない強烈な蹴りだったが、同じく直感的に身の危険を感じたヨッカは毛布を犠牲にその攻撃を緊急回避する。

 

 

「いきなり何すんだ、危うく顔面陥没する所だったぞ!?」

「陥没するかぁ!!……後、いきなり何すんだはこっちのセリフじゃあ!!……今、私のパンツ覗きに掛かってましたよね……!?」

「いやそりゃ、まぁ見たけどさ。わざとじゃねぇよ、結構渋い理由がね?」

「知らん。女の敵は潰す、表出ろや」

「物騒!!……女の子が『天誅』とか『潰す』とか言っちゃダメだろ。つか、君誰?」

 

 

ライは、この時から行動の1つ1つがエネルギッシュ。

 

ヨッカは困りながらも、彼女の事を訊いた。名前もそうだが、何の用事があって来たのかもその言葉には含まれている。

 

 

「あ、すんませんすっかり忘れてた。私、春神ライって言います、5年ぶりに日本の界放市にやって来たんです!!」

 

 

さっきまでの極道みたいな表情とは一変、天使のような微笑みで自己紹介するライ。

 

彼女の「春神」と言う名字に、ヨッカが反応しないわけがない。

 

 

「春神ライ……え、春神って、もしかして春神イナズマ先生の……!?」

「はい、娘です」

「えぇ娘えぇ!?!……先生結婚してたの!?」

 

 

昔、自分にバトスピのイロハを叩き込んでくれた恩人にして師匠「春神イナズマ」………

 

目の前の少女が、その娘だと知る。

 

 

「先生に最後にあったの13年前だからな。確かにその間に結婚して、これくらいの子ができててもおかしくない……か?」

「ところで、お兄さんがお父さんの一番弟子の九日ヨッカ?」

「ん、あぁ、そうだけど」

「……なんか、思ったよりイケメンじゃなくてちょっとショック」

「何だとぉ!?……こう見えてオレ結構顔良いって言われるよ!?」

「そうやってギャーギャー喚いて否定して来る所もなんか嫌。私、目線が自分と同じくらいで、クールで、友達想いで、髪はできるだけ赤みがかってる人が好き」

「ストライクゾーン狭。最近の子はませてるなぁ」

 

 

出会ってまだ5分も経ってない女の子に、そこそこ自信のあった顔をディスられ、そこそこ大きなショックを受けるヨッカ。

 

これも時代の変化かと感じながらも、ライにイナズマの事を聞く。

 

 

「まぁんな事よりよ。先生はどうなんだ、元気にしてるのか?……ひょっとして、君と一緒に界放市に帰って来てたり!?」

 

 

だったら久し振りにお会いしたいな。

 

そう思い、ヨッカは心を躍らせる。しかし、それに対してライは、ほんの少しだけ表情を暗くして………

 

 

「お父さん、行方不明です」

「!?」

 

 

その言葉に、ヨッカは一瞬言葉を詰まらせる。

 

 

「1ヶ月前、インドにいたんですけど、少し出張して来るって行ったっきり戻って来なくて」

「……」

「それで、お父さんが言ってた言葉を思い出したんです。もしもお父さんに何かあったら、日本の界放市にいる九日ヨッカを頼れって、それでこっちに来て……」

「こっちに来てって……え、君オレの家泊まる気なの?」

「はい!!」

「え」

 

 

曇りなき真っ直ぐな瞳。この子は本気だとヨッカは悟る。

 

しかし、今はそんな事より恩師である春神イナズマ先生だ。

 

 

「まぁそれは一旦置いといて、ライちゃんだっけ、イナズマ先生の事は警察には言った……?」

「言ってないけど?」

「えぇ!?……まじか、今度アルファベットさんに相談してみるか。大丈夫かな先生」

「大丈夫ですよ、お父さん、絶対帰って来るって私に約束したから、その内何事もなかったかのように戻って来ます。なので私は、お父さんが戻って来るまで、ここで衣食住するって決めたんです」

「いや、まだ君を泊めるとは一言も……大丈夫なのか、PTA的に」

 

 

三王の事やカドショの事など、ただでさえ忙しいこの時期。ライがやって来た事によって、最悪のタイミングでヨッカの悩みが2つも増えた。

 

 

「実は日本観光、楽しみにしてたんですよね〜〜私、たこ焼きってヤツ食べたいです!!」

「大阪行け」

 

 

居候を断られる事など選択肢に入れてないライ。既に泊まる気満々でいるし、いつの間にか背負っていたリュックをソファの上に置いている。

 

 

「よし、じゃあヨッカさん。界放市のオススメスポット教えてくださいよ」

「いや、だからまだ泊めるとは」

「観光、観光〜!!」

「おい!!」

 

 

イナズマが行方不明になった事を告げる時とは打って変わり、明るいテンションで話すライ。

 

ウキウキな気分のままスキップをし、扉から外に出る。

 

 

「………このまま放っておいたら勝手に帰ってくれるかな」

「早く支度して来てくださいよ、ヨッカさん」

 

 

そんなわけはなく、扉の隙間からひょっこりと顔を見せるライに外出を要求される。

 

 

「わかったわかった。一緒に行ってやるから、ちょっと外で待ってろ」

「わ〜い」

 

 

なんて自由奔放な奴。

 

ヨッカがライに対してそう思いながらも、彼女のために外出の準備をしようとした直後だ。

 

彼のBパッドからコール音が鳴り響いたのは………

 

 

「知らねぇ番号。誰だ……もしもし?」

 

 

取り敢えず応答してみる。Bパッド越しに聞こえて来た、その声は………

 

 

《ヨッカ……すっかり男の声になったな》

「え………」

 

 

渋く、男らしく、芯のある声。

 

この声を、ヨッカは何年経っても忘れてはいなかった。

 

 

「せ、先生……なのか?」

《あぁ、久し振りだな》

 

 

声の主は、他でもない、己の恩師、春神イナズマだった。

 

ヨッカはそれを知った時、嬉しさよりも、先ず驚きの感情の方が上回った。十数年ぶりに言葉を交わしたのもそうだが、ついさっき彼の娘であるライから「行方不明」だと聞いていた事が、よりそれを助長させたのだ。

 

 

「先生、今アンタの娘から訊いた、行方不明だって……今どこに!?」

《ライの事だろ。悪いが、ライには私の事は話さないでくれ》

「なんで、ライちゃんはアンタの事を心配してるぞ」

《巨悪が動き出した》

「は?」

《私は今、彼らに誘拐されている》

「何……!?」

 

 

いきなり飛んで来た『巨悪』『誘拐』と言う単語に、ヨッカはまた驚愕させられる。

 

まだ何も話が見えて来ないが、何かとんでもない事件が背後に潜んでいる事だけは、即座に理解できた。

 

 

《もう話す時間はない。要点だけ話す、ライを守ってくれ》

「!!」

《今、頼れるのは、君しかいない》

「ちょっと待て、先生!!」

《頼んだぞ、ヨッカ》

 

 

その言葉を最後に、イナズマからの通話は途絶えた。メッセージボックスに送られた、URLと、おそらくそれ専用のパスワードを残して………

 

やがてヨッカは、そのURLから知る事になる。ライが人間ではなく、100%人工的に造られた人造人間、エニーズ02であると言う事、そのBパッドに契約スピリット、エアリアルが封印されている事。ライのピンチに反応し、そのエアリアルの封印が解かれる事を。

 

そして、ライのこの秘密は、誰にも話してはならない、と言う事を………

 

 

 

******

 

 

 

時は戻り、現代。ヨッカは走りながら、アルファベットに事の経緯を話し終えた。

 

 

「あの時から、オレはイナズマ先生を捜索する事を決心したんだ。探せとか、助けてくれ、とは言われなかったけど、何もしないなんて、オレらしくないからな」

「そうか」

「今思えば、アルファベットさんには最初から話しておくべきでした。ホントすんません」

「気にするな。事情を何も話さないのは、オレも同じだからな」

 

 

頭を下げるヨッカ。ただ、アルファベットは特に気にしてはいない。

 

 

「二手に分かれるぞ。オレはこっちを、九日は反対側から春神を探せ」

「ああ、見つけたら連絡くれ」

「当然だ。もうお互い、秘密と隠し事は無しだ」

 

 

ヨッカは頷き、アルファベットとは違う方向へと向かって走って行く。

 

この戦いの中で、幾度となく行動を共にして来たヨッカとアルファベット。最初こそ単なるビジネスパートナーのようなモノであったが、知らぬ間に、2人の間には友情のような感情が芽生えていたようで………

 

 

******

 

 

「………」

 

 

小柄で、無造作に伸びた赤髪の少年、鉄華オーカミ。今は右腕が動かないため、それを三角巾で固定している。

 

彼は広大な界放市ジークフリード区をただひたすらに歩き回っていた。兄貴分である九日ヨッカ、彼からの頼みにより、春神ライを捜索しているのだ。

 

朝早かったせいで寝起きだったのか、その顔はいつものクールさを感じさせない程に眠たそうであった。

 

 

「ライ、家出か。家出って事は、金がないって事、金がないって事は、何も買えないって事、何も買えないって事は………腹、減ってんのかな」

 

 

そう呟いたオーカミの視界には、コンビニが映っていた。彼は真っ直ぐ、吸い込まれるように、そのコンビニへと足を運ぶ。

 

 

ー………

 

 

数分後、コンビニの自動ドアから出て来るオーカミ。その左手には、クリームパンが2つ握られていた。

 

1つは開封済みで自分で食べる分。もう1つは………

 

 

「朝はやっぱりパンだよな、ライに会ったら食わしてやろう」

 

 

ライに食べさせてあげる分だった。

 

素朴な優しさを見せるオーカミ。コンビニから出た彼が次に視界に入れたのは、ジークフリード区では最も広大な公園、ヴルムヶ丘公園。

 

 

「ヴルムヶ丘公園。流石にこんな広いだけで原っぱしかない公園には隠れないよな………ん?」

 

 

その時、オーカミは気づいた。ヴルムヶ丘公園にある噴水。その下にある水路、さらにその先にある湧水トンネルに………

 

 

「一応行ってみるか」

 

 

隠れるなら最適だし、ワンチャンあるかもしれない。

 

そう思い、オーカミはヴルムヶ丘公園の湧水トンネルへと進む。

 

実際、その道は正解であり………

 

 

******

 

 

湧水トンネルの最新部。水が流れる音が鳴り響く中、春神ライはまだ悲しさに暮れていた。

 

その横に、付近の自販機で購入したのか、ペットボトルを片手に、彼女の親友である、夏恋フウが座り込む。

 

 

「はい、お水」

「ありがとう」

 

 

ライは、フウから受け取ったペットボトルの開け口に口を付け、中の水を飲む。

 

 

「……で、ヨッカさんと何かあったの?」

 

 

フウがライに訊いた。

 

弱々しい声、最低限の笑顔で接するライに、良い加減痺れを切らしたのだろう。

 

 

「んー……ごめん、今は言えない、かな」

「そんなに話すの嫌なの?」

「嫌……じゃないんだけど、なんて言うか、話がぶっ飛びすぎてて、信用してもらえるかわからないって言うか」

 

 

無論、教えて仕舞えば、フウを巻き込んでしまう事にもなる。自分がエニーズ02と言う、本来はDr.Aを倒すために造られた存在である、などと教えられるわけがない。

 

 

「そんな、友達だと思ってたのに」

「……ごめん」

「もっと私を頼ってよ、ライちゃん」

 

 

落ち込むフウに、少しだけ心がまた傷つくライ。

 

だが無理だ。ただでさえ自分が生まれたせいで、ヨッカやアルファベットなどの人間に迷惑を掛けているのだ。もうこれ以上、迷惑を掛ける人は増やせない。

 

 

「ねぇフウちゃん、バトスピしない?」

「え?」

「こう言う時って、バトルしないと落ち着かないんだよね。お父さんから教わったバトルが、やっぱり1番好きだから」

 

 

ライからの提案。まだまだ心配になる程弱々しい声だが、フウとしては、断る理由もない。

 

 

「いいけど、私、めっちゃ弱いよ、知ってるでしょ?」

「いや、そんな事ないよ、フウちゃんは強い。それは私が保証する」

「……ふふ、ライちゃんにそう言われると、なんか自信湧いて来るな。よぉ〜し、今日こそは本気出しますか!!」

 

 

頭は良い方だが、実はバトスピが下手くそなフウ。ライにお墨付きと自信をもらうと、左腕に己のBパッドを装着。右腕を回し、そのやる気を見せる。

 

 

「よし、負けないよ、フウちゃん……」

 

 

ライも少しだけ元気になったか、立ち上がり、同様にBパッドを装着しようとした直後だった。

 

彼女の身体に異変が起こったのは………

 

 

「ッ……!?」

 

 

突如、目眩がし、指先が痙攣、立ち上がったのも束の間、その場で倒れ込んでしまう。いったい何がどうなったのかもよく分からない状況に、その表情は困惑を極める。

 

 

「ニッヒッヒ………ニィッヒッヒッヒッ!!」

 

 

そんな折、1つの笑い声が、この湧水トンネルに響き渡る。

 

その声は、狂気に満ちているが、やや高めで、とても聞き覚えのあるモノだった。

 

そして、その声と声の主が一致した時、ライは戦慄する。

 

 

「……フウ、ちゃん……!?」

「あぁ、最高、面白い。ニッヒッヒ」

 

 

眼前で倒れるライに手を差し伸べず、不気味な笑い声を上げていたのは、数秒前まで彼女と仲睦まじく会話していた親友、夏恋フウだった。

 

その時、考えたくもない、残酷な真実が脳裏を過ぎる。

 

 

「さっき飲ませた水。あの中には象も3秒で眠らせてしまう程の、強烈な睡眠薬を混ぜてたんだけどな〜……大体3分くらいは効いてなかったよね、流石はエニーズ02」

「……!!」

 

 

フウの口から「エニーズ02」と言う単語が出て来た。

 

これで間違いない。ライの考えた、最悪の真実は証明されてしまう。

 

 

「凄いよねエニーズ02は、身体も頑丈で、頭脳も高くて………オマケに顔も可愛い♡」

 

 

そうだ。間違いない。

 

嘘だと思っても、信じても、この真実はもう決して覆る事はない。

 

1年間。今まで沢山楽しく過ごして来た思い出を思い出し、涙が出て来る。

 

 

「ヨッカさん達が探していた、かつてこの界放市に厄災を齎した悪魔の科学者『Dr.A』……本名『徳川暗利』……アレ、私のお祖父様なの」

「!?」

 

 

 

 

ニィッヒッヒッヒッ……

 

そう。

 

私の本当の名前は徳川フウ。

 

Dr.Aの孫で、貴女の敵。

 

 

 

 

受け入れたくない、残酷過ぎる真実。

 

それは『フウが敵である』と言う事。

 

そうだ。彼女は今まで、親友と言う名の上辺を装い、何食わぬ顔でライのそばにいた。そして今は、ライの目の前で小悪魔の如く、愉快に裏切りの嘲笑を浮かべている。

 

彼女の本当の名は『徳川フウ』………

 

この物語の、本当の黒幕である。

 

 

「マコト先生」

「はい、フウ様」

 

 

フウが呼ぶと、突然何もない空間に、黒々としたワームホールが開き、嵐マコトが現れる。

 

 

「ライちゃんを運んでちょうだい」

「かしこまりました」

「遂にこの時が来た、私と貴方の夢が叶う」

「ここまで長かったですね、とても楽しみです」

 

 

彼らの言葉遣いからして、関係性はフウ有利の主従関係のようだ。

 

嵐マコトは、全身が痺れ、意識がどんどん遠のいて行くライを担ぎ、どこかへ運ぼうとする。

 

そして、また移動しようとBパッドの機能でワームホールを開いた、その直後だ。

 

 

「おい、待てよ」

「!」

 

 

少年の声が響く。

 

鉄華オーカミだ。ここに来るまでに、これまでの会話を多少なり聞いていたのか、彼の表情は怒りを示していて………

 

 

「ライをどこに連れて行く気だ……!!」

「オー、カミ……」

 

 

遂に明かされた真の黒幕。

 

ライを守るため、オーカミの本当の戦いが幕を開ける。

 




次回、第54ターン「原初のエヴァンゲリオン」


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第54ターン「原初のエヴァンゲリオン」

赤髪の少年の目の前にいる、長い黒髪の少女は笑う。

 

「不気味」と言う言葉がピッタリと当てハマるように。

 

赤髪の少年は悟る。「コイツの闇は深い」と。

 

 

******

 

 

「鉄華オーカミ、よくここがわかったな」

「ニィッヒッヒッ……どうしたんですかオーカミさん、こんな所まで来て」

「質問の答えになってない、ライをどこに連れて行くつもりだ」

 

 

遂に本性を表した、伝説の悪魔の科学者「Dr.A」と血を継いだ孫、徳川フウ。それに従うDr.Aの元部下の男性、嵐マコト。彼の肩には、催眠薬を投与され、脱力し、意識がどんどん遠のいて行く春神ライが担がれている。

 

どこからどう見ても誘拐拉致しようとしているこの状況、オーカミが許さない訳がない。

 

 

「話、聞いちゃってましたか。トンネルの中って結構音響きますもんね」

「オマエ、アイツの親友じゃなかったのかよ……!!」

 

 

静かな怒りと、鋭い剣幕を向けながら、オーカミがフウに訊いた。

 

ライの親友として、僅かながら彼女との接点があったオーカミ。ライを裏切り、拉致しようとしているのが許せないのだろう。

 

 

「親友?……な訳ないでしょ」

「!!」

「いいですかオーカミさん、アレはかつてDr.Aに対抗するために造られた人造人間、エニーズ02。育成方法によっては恐ろしい兵器にもなる、怪物なのよ」

 

 

フウから帰って来た返答は、まるで良心をドブに捨てたような、驚くべきモノだった。それを訊いたライは、また深く心を傷つけられる。

 

オーカミは思う。真の怪物は、目の前で喋るコイツだと。

 

 

「オーカミさん、貴方ひょっとしてこの怪物を助ける気なの?……ならサッサと諦めて、お仲間さん達とお遊戯のバトルスピリッツを楽しむといいわ。だって、コイツに道具以外の価値はないんですもの」

「オマエ……!!」

「あ、そうそう。ごめんライちゃん、この間プレゼントしたカード、やっぱり回収させてもらうね。私との友情ごっこを楽しんだから、もう必要ないでしょ♡」

 

 

そう告げると、抵抗できないライの懐を探り、赤のモビルスピリットカード「サザビー」を抜き取り回収する。

 

これは、ライがガードマンとの戦いの中、中途半端なタイミングで負けないためにあげたフウのカード。友達へのプレゼントと評して手渡していた、悪意の詰まったカードだ。

 

 

「訂正しろ、ライは怪物じゃない」

「?」

「一緒に泣いて、怒って、苦しんで、笑ってくれる奴が怪物な訳ない。本当の怪物はオマエだ」

「へぇ」

 

 

オーカミの言葉を軽く聞き流すフウだが、ライにはその言葉が響いたのか、嵐マコトに担がれ、催眠薬の影響で脱力し、意識が遠のきながらも、涙を流していた。

 

 

「何足を止めてるのマコト先生。早くライちゃんをあの場所へ運んでちょうだい」

「ッ……これは失礼しました。ただちに運びます」

「おい、待て……!!」

 

 

嵐マコトは、Bパッドを操作し、黒々としたワームホールを出現させると、担いでいるライ事、そこを潜り抜けようとする。

 

それを良しとしないオーカミは、当然阻止しようとするが、その眼前に立ちはだかるのは、他でもない徳川フウであった。

 

 

「召喚……!!」

「!?」

 

 

フウが己の左腕に装備したBパッドにカードを1枚叩きつけると、オーカミの眼前に、紫色で緑色の筋が入ったスピリットが召喚される。

 

大きさはおよそモビルスピリットと同等程度。見た目の邪悪さもそうだが、オーカミはもっと感じる違和感があって………

 

 

「なんだコイツ、まるで本当にいるみたいだ」

 

 

Bパッドで召喚したスピリットはあくまで精巧に映し出された映像。現実に呼び出している訳ではない。

 

だが、今フウが呼び出したこのスピリットは違う。存在感と質量が、余りにも現実的過ぎる。どこからどう見ても、本物のスピリットだ。

 

 

「残念ですけれど、貴方のお相手は、この私がお勤めさせていただきます」

「ッ……オマエ、確かバトル弱かったろ」

「そんなの嘘に決まってるじゃないですか。私はあのDr.Aの孫ですからね」

 

 

Bパッドからカードを離し、呼び出したスピリットをこの場から消滅させると、既にそこには嵐マコトとライは存在せず、オーカミとフウのみとなってしまっていた。

 

 

「わかった、オレが勝ったら、ライを解放しろ」

「ニッヒヒ……勝てたらね」

 

 

オーカミは左腕に装着しているBパッドを構え、いつものように、三角巾で固定している、神経のない右腕の感覚を取り戻す。

 

 

「面白いですよねその身体。バトルする時だけ、右腕が動くようになるなんて。いったい何の力が働いているんですかね」

「どうでもいいから、早くやるぞ」

「はいはい。本当にせっかちなお人ですこと」

 

 

互いにBパッドに己のデッキを装填し、バトルの準備を終える2人。

 

そして………

 

 

「バトル開始だ!!」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共に、水路で夏の暑さを凌ぐために造られた湧水トンネルにて、鉄華オーカミと、徳川フウによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は鉄華オーカミ。ライを救出すべく、Bパッドからデッキのカードをドローする。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ネクサス、ビスケット・グリフォンを配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

フィールドには何も出現しないが、オーカミのBパッド上に、鉄華団専用のネクサスカードである『ビスケット・グリフォン』が配置される。

 

 

「効果発揮、このネクサスを疲労させ、デッキ上1枚をオープン、それが鉄華団カードなら手札に加える」

 

 

効果でオープンされたのは、これまた鉄華団専用のネクサスカード『オルガ・イツカ』………

 

よってオーカミはそれを手札に加える。

 

 

「よし」

「オルガ・イツカ。トラッシュを利用するのに長けた鉄華団の戦術を支える創界神ネクサスですね。それを早速手札に引き込むなんて、相変わらず引きがお強い」

「ターンエンド」

手札:5

場:【ビスケット・グリフォン】LV1

バースト:【無】

 

 

オーカミの最初のターンは、ビスケットによるオープン回収効果のみで終了。

 

次はデッキが未知数なフウのターン。Dr.Aの孫とは、いったいどのようなバトルを繰り広げるのか………

 

 

[ターン02]徳川フウ

 

 

「メインステップ、バーストをセットして、ターンエンド」

手札:4

バースト:【有】

 

 

まさかのスピリットの召喚もネクサスの配置も無し。罠のカードであるバーストのセットのみでのターンエンド。

 

手札が事故り気味なのか、はたまたそう言った作戦なのかは未知ではあるが、彼女の余裕な表情からして、どちらかと言えば後者なように思える。

 

 

「それだけかよ」

「それだけですよ。急がば回れ、と言うことわざがあります。何でもかんでも速ければいいと言うモノじゃありませんよ。歳上のクセに、そんな事も知らないんですか?」

 

 

しかしながら、早々にターンが帰って来たのは決して悪いことではない。オーカミは、あのバーストから何が来ても、自分の戦術と鉄華団のカード達があれば、必ず勝てる事を信じ、己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ビスケットの効果をもう一度発揮……今度はバルバトス第1形態のカードを手札に加える」

 

 

ターン開始早々。オーカミは回復したビスケットの効果を再び発揮。その効果でモビルスピリット『バルバトス第1形態』のカードを手札へと加えた。

 

 

「さらにオルガ・イツカを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「配置時の神託。オルガにコアを2つ追加」

 

 

前のターンに手札に加えていたオルガのカードをここで配置。神託の効果により、オーカミのデッキから3枚のカードがトラッシュへと落ち、その上にコアが2つ追加された。

 

 

「そしてバルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果、デッキ上3枚をオープン、その中の鉄華団1枚を手札に……オレは『クーデリア&アトラ』のカードを手札に加えて、残ったカードはトラッシュへ破棄」

 

 

地中から飛び出して来たのは、オーカミの相棒、モビルスピリットバルバトス。その第1形態。

 

召喚時効果により、オーカミは2種目の創界神ネクサス『クーデリア&アトラ』のカードを手札へ加えた。

 

鉄華団と言うデッキにおいて、ここまでの動きは、限りなく100点満点に近い。が、その最高の動きに合わせて、フウの伏せていたバーストカードが赤い輝きを放ち………

 

 

「!」

「このフィールドでバーストを警戒しないなんて愚かですね。相手のスピリット召喚時発揮後のバースト、サザビー・ロング・ライフル」

 

 

ー【サザビー[ロング・ライフル]】LV1(1)BP8000

 

 

フウのフィールドへと飛来して来たのは、ライから回収したカード。深紅の装甲を持つ機械兵、モビルスピリット、サザビー。

 

それが着陸した衝撃で、湧水トンネルのコンクリートでできた外壁に亀裂が生じる。Bパッドで召喚したスピリットはあくまで映像。例えそれが大地を砕こうとも、実際の代物が破損、破壊される事はない。

 

だがこれは違う。明らかに本物の亀裂が生じている。

 

 

「やっぱり、スピリットが実体化してる?」

「ニッヒヒ、そうです。私のBパッドはマコト先生お手製のモノでね、羨ましいでしょ、これさえアレばいつでもスピリットに触れる事ができるんだから」

 

 

どう言う原理なのか、フウのBパッドから繰り出されるスピリットは実体化し、現実にこの世に召喚されている。

 

普通の人からすれば驚愕極まりない事だが、流石はオーカミか、全く動じていない。

 

 

「気を取り直して、サザビーの召喚時効果、ネクサスのビスケット・グリフォンを破壊して、トラッシュのコア3つをサザビーの上に」

「!」

 

 

サザビーの1つ目の眼光が緑に輝くと、オーカミのBパッド上にあるビスケットのカードが浮遊し、トラッシュへと誘われる。

 

 

「これで貴方は毎ターン手札を増やす事はできなくなった」

「……クーデリア&アトラを配置、神託でコア3つを追加し、ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

スピリットの召喚時効果の発揮により、フウの大型スピリットの召喚を許してしまったオーカミ。しかし、同時に強力な2種の創界神を並べる事には成功、次のターンから強力な鉄華団スピリットを展開し、攻撃に本腰を入れる準備は整えた。

 

次はそれを何となく察しているフウのターン。バトルが下手くそだと偽って来た彼女は、このターンでその本領を発揮する。

 

 

[ターン04]徳川フウ

 

 

「メインステップ、ここからが私のデッキの真骨頂ですよ」

 

 

そう告げると、彼女は手札にある1枚のカードをBパッドへと置く。

 

 

「ネクサス、鈴原トウジを配置」

 

 

ー【鈴原トウジ】LV1

 

 

「配置時効果により、手札から相田ケンスケをノーコスト配置する事で1枚ドロー」

 

 

ー【相田ケンスケ】LV1

 

 

「相田ケンスケの配置時効果により、手札にある紫のパイロットブレイヴ、碇シンジ・シンクロ率∞をノーコスト召喚する事で1枚ドロー」

 

 

ー【碇シンジ-シンクロ率∞-】LV1(0)BP1000

 

 

「碇シンジ・シンクロ率∞の召喚時効果、デッキから2枚ドローし、相手の創界神ネクサスのコアを6個ボイドへ」

「!?」

 

 

フィールドには何も出現しないが、1枚のネクサスの配置を起点に、ネクサス2枚、ブレイヴ1体を呼び出すフウ。

 

さらには召喚したパイロットブレイヴの効果により、オーカミの2種の創界神ネクサスのコアが粒子化し、消滅。合計4枚の大量ドローと合わせて大きなアドバンテージを得る。

 

 

「その創界神ネクサス達はコアがないと本領を発揮できませんからね」

「くっ……」

「続けて、サザビーにシンジ・シンクロ率∞を合体」

 

 

ー【サザビー[ロング・ライフル]+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2(2)BP18000

 

 

合体による見た目の変化はないが、パイロットブレイヴを得た事で、サザビーは、赤と紫のより強力な合体スピリットとなる。

 

 

「再びバーストをセットして、アタックステップ。合体したサザビーでアタック」

 

 

今一度バーストを伏せ、このバトルでは初めてのアタックステップに突入するフウ。オーカミのフラッシュがない事を確認すると、即座に己のフラッシュタイミングを宣言する。

 

 

「フラッシュ、サザビーの【ファンネル12000】」

「!」

「効果によりBP12000まで好きなだけスピリットを破壊します。対象はバルバトス第1形態」

 

 

遠隔兵器ファンネルをオーカミのフィールドへと飛ばすサザビー。ファンネルはレーザー光線を照射し、バルバトス第1形態を貫き、爆散させる。

 

 

「……アタックはライフで受ける」

 

 

ファンネルを戻し、今度はサザビー自身が、オーカミのライフを討つべく発進する。

 

ブロッカーを潰されたオーカミは、ライフで受ける以外の宣言はできなかったのだが………

 

 

「本当にそれでいいんですか?」

「なに?」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐはっ……!?!」

 

 

サザビーのロング・ライフルによる一撃。実体を帯びたその重厚な一撃は、オーカミのライフバリアを粉々に粉砕する衝撃と共に、彼の小さな身体がごと、コンクリートの外壁まで吹き飛ばし、叩きつける。

 

これまでのバトルダメージとは比較しようのない純粋な暴力に、オーカミは立ち上がれず、倒れ込んでしまう。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

何をされたのかも理解できない。ただ痛みだけが、オーカミの表情を苦痛で歪ませる。

 

そんな彼の額から流れる血が、このバトルの異常さを物語り、これは最早バトルスピリッツではなく、ただの戦い。悪意と暴力の嵐であると気づかせる。

 

 

「ニッヒヒ、人はね、本当はもうとっくの昔にBパッドを通してスピリットを実体化させる技術を獲得しているの。でも何でそれを一般的に流通させないと思う?」

「……」

「人を簡単に殺せるからだよ。流通すれば、必ず争いと言う名の暴力の嵐が始まってしまう。だからまだ厳重に管理された、ごく一部の地域でしか使用を認められていないの。愚かですよね、じゃあはじめから造らなければいいのに。まるで、エニーズ02みたい」

「……!!」

 

 

ライの事だ。オーカミの内側から底知れない怒りが込み上げて来る。

 

 

「さて、このままやったら貴方の命が危険になるわけだけど、どうでしょう、ここ辺りでサレンダーしたら?」

 

 

猟奇的な笑みを浮かべるフウが提案して来たのは、このバトルのサレンダー。

 

自分と言う名の敵の格の違いを見せつけ、完全に勝ち誇っている。

 

 

「な訳、ないだろ」

「……」

 

 

当然、あの鉄華オーカミがこの程度の事で折れる訳がない。ヨロヨロになりながらも立ち上がり、手札を強く握り、Bパッドを構え直す。

 

 

「……何でそんな直ぐに立ち上がるの。そこまであの憐れな怪物が欲しい訳?」

「さっきからずっと……ライの事かよ、アイツを道具みたいに言うな……!」

 

 

怒りにより鋭い剣幕を見せるオーカミ。彼のその必死さに、フウも次第に内に秘めていた怒りが、言葉と表情にも表れて来て………

 

 

「腹立たしい、何であんなバケモノが他の誰かから寵愛を受けないといけない。私は、Dr.Aの孫とか言う理由だけで、常に周りから迫害を受けて来たと言うのに……!!」

 

 

彼女の怒りは、オーカミのように、他の誰かのために見せる怒りではなく、己の過去から来る、嫉妬、眺望によるモノ。

 

はらわたが煮えくり返ってしょうがないのだろう。Dr.Aを倒すためだけに造られた人造人間のライ、エニーズ02如きが、他の誰かから愛され、大事にされている事が………

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【サザビー[ロング・ライフル]+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【有】

 

 

どのような理由があれど、フウの中にある怒りや妬みは、オーカミにとって知った事ではない。

 

彼女のバトルスピリッツを打ち破るべく、痛みに怯む身体を奮い立たせ、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ここからが勝負だ、大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4S)BP12000

 

 

「来ましたか、エースカードの1枚」

 

 

反撃を開始するオーカミのフィールドへ着陸したのは、黒々とした戦棍メイスを持つモビルスピリット、バルバトス第4形態。

 

さらにオーカミは、それに強化を施すべく、手札をもう1枚Bパッドへと叩きつける。

 

 

「パイロットブレイヴ、昭弘・アルトランドを召喚し、バルバトス第4形態に直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+昭弘・アルトランド】LV3(4S)BP15000

 

 

オーカミも負けじと鉄華団のパイロットブレイヴ。バルバトス第4形態は紫シンボル2つの強力な合体スピリットへと昇格する。

 

 

「アタックステップだ、行くぞ、バルバトス第4形態でアタック!!……その効果でブレイヴ1つを破壊、その発揮後、サザビーのコア2つをリザーブへ置き、消滅させる」

「ブレイヴキラー効果。厄介ですね」

 

 

突撃するバルバトス第4形態。サザビーは、それを討たんと再びファンネルを飛ばす。だが、バルバトス第4形態は、走りながらメイスを振るい、それら全てを容易く撃墜。

 

最後にはサザビーの懐に飛び込み、その巨大を蹴り飛ばして爆散へと追い込む。

 

 

「昭弘の効果でBP+3000。さらにバルバトス第4形態のLV3効果により、紫シンボルを1つ追加」

 

 

つまりはトリプルシンボルだ。今のバルバトス第4形態は、フウのライフを一度に3つ破壊できる。サザビーを失った今、フウはそのアタックをライフで受けるしかない。

 

 

「ライフで受けます」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉夏恋フウ

 

 

バルバトス第4形態は、もう一度メイスを振るい、今度はフウのライフバリアを粉砕。一気に3つ破壊する。

 

バトルの風向きを変える程の大きなダメージを与える事に成功したが、そのライフの減少により、またフウの伏せていたバーストカードが光を放ち………

 

 

「ライフ減少により、バーストを発動。絶甲氷盾」

「ッ……今度は減少時か」

「効果で私のライフ1つを回復、その後コストを支払い、このバトルの終了後に、アタックステップが終了します」

 

 

〈ライフ2➡︎3〉徳川フウ

 

 

反撃が始まったのも束の間、最も汎用性の高い白のマジックカード『絶甲氷盾〈R〉』により、早々にそれは終了。

 

このターンのオーカミのアタックステップ強制終了が約束されるが……

 

 

「バルバトス第4形態の効果、各バトルの終了時、トラッシュから1コストで鉄華団スピリットを召喚する。来い、漏影」

 

 

ー【漏影】LV1(1)BP3000

 

 

攻撃を終えたバルバトス第4形態の機械の眼が緑色に輝く。すると地底より、バスターソードを携えた一つ目の鉄華団スピリット、漏影が飛び出して来る。

 

 

「召喚時効果、デッキ上から3枚を破棄、その後トラッシュから鉄華団カードを1枚手札に戻す………オレはトラッシュにある『バルバトスルプスレクス』を手札に加える。さらにクーデリア&アトラの【神域】の効果で、トラッシュの紫1色のカード1枚をデッキ下に戻して1枚ドロー」

 

 

漏影の効果により、トラッシュから最強の鉄華団スピリット『バルバトスルプスレクス』のカードを回収するオーカミ。クーデリア&アトラの効果と合わせ、その手札は潤沢に増えた。

 

 

「ニッヒヒ、そんな事をしても、結局アタックステップが終わる事には変わりありませんよ」

「……ターンエンド」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]+昭弘・アルトランド】LV2

【漏影】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

完全にアタックステップが終了する前に、これからの試合展開を優位に進めるべく、できるだけ多くの手札を抱え込みに行ったオーカミ。

 

結果的に大エースを含めた6枚の手札を持ちながらのターンエンド。敵の唯一のスピリットであったサザビーを倒した事からも、彼がこのバトルの主導権を握って来ていると言っても過言ではない状況となった。

 

だが………

 

 

「まさか、サザビーを倒しただけで勝ったと思ってます?」

「……」

「ニッヒヒ、それが本当ならとんだお調子者ですね。なら今からお見せいたしますよ、決して凡人には埋められない実力の差、私の……本気♡」

「ッ……!?」

 

 

その猟奇的な眼光は赤みを帯び、目尻から口元まで、それと同じ色に光り輝く。

 

この何の脈絡もなく、突然バトルの流れが変わる感覚を、オーカミは知っている。

 

王者(レクス)だ。間違いない。徳川フウもその使い手なのだ。しかも早美ソラと同じ、オーカミのモノと違って、自発的に発動できるタイプの。

 

 

[ターン06]徳川フウ・王者

 

 

「メインステップ。先ずは他のカードを展開、2枚目の鈴原トウジを配置し、その効果で2枚目の相田ケンスケを配置して1枚ドロー、さらにその効果で2枚目の碇シンジ・シンクロ率∞を召喚して1枚ドロー、そして碇シンジ・シンクロ率∞の召喚時効果で2枚ドローし、オーカミさんの創界神のコアを6つボイドへ」

「くっ……」

 

 

ー【鈴原トウジ】LV1

 

ー【相田ケンスケ】LV2(2)

 

ー【碇シンジ-シンクロ率∞-】LV1

 

 

前のターンと全く同じ展開を見せる。これによりフウはシンボルを並べつつ、合計4枚のドローをし、オーカミの創界神達のコアを0にした。

 

さらにこのターンは当然それだけでは終わらない。

 

悪魔をも滅ぼす、災厄がやって来る。

 

 

「さぁお見せしましょう、紹介しましょう………これが私の最高のエースカード」

 

 

そう告げ、満面の笑みを浮かべながら、フウは手札から引き抜いた1枚のカードを己のBパッドへ置く。

 

 

「私は今、神話になる。エヴァンゲリオン初号機!!……LV2で召喚」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-】LV2(3)BP9000

 

 

黒々としたワームホールのような渦が開くと、それを咆哮を張り上げながら荒々しくこじ開け、フィールドへ飛び出して来る何か。

 

それは、紫色の体色と一角を持つエヴァンゲリオンスピリット、初号機。フウのエースカードにして、災厄そのモノ。

 

 

「エヴァンゲリオンスピリット、しかも紫?」

「そうです、名は初号機。原点にして頂点に立つ、最凶のエヴァンゲリオンスピリット!!……碇シンジ・シンクロ率∞と合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2(3)BP15000

 

 

登場して早々、その身にパイロットブレイヴの力を宿す初号機。より強力な合体スピリットへと変化を遂げる。

 

 

「アタックステップ、初号機でアタックします。その効果で漏影に指定アタック」

「ッ……漏影でブロック」

 

 

初号機の持っていた効果は、紫属性にしては極めて稀有な指定アタック効果。

 

その効果により、漏影と強制バトル。漏影が果敢に初号機へ立ち向かうも、初号機は上背を利用し、迫って来たそれを鉄拳で下す。

 

そして、地面に叩きつけられた漏影を他所に、ここで初号機の更なる効果が発揮されて……

 

 

「初号機のもう1つの効果【転醒】を発揮、ブロックされた時、そのバトルをただちに終了。そうする事で、初号機にコア1つを追加し、転醒します」

「!」

 

 

初号機のもう1つの効果は、バルバトス第6形態と同じ【転醒】の効果。

 

倒れた漏影を踏みつけ、地獄の咆哮とも呼べる雄叫びを上げながら、更なる進化を遂げて行く。

 

 

「転醒せよ、シン化第1覚醒形態!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2(4)BP19000

 

 

緑だった装飾は赤く発光し、より残忍性が増した事を告げるように、口が大きく開口する。

 

これがシン化第1覚醒形態。エヴァンゲリオン初号機が更なる力を得た姿だ。

 

 

「転醒によりカウント+1。さらに転醒アタック時効果で回復」

「……転醒した事で別のスピリットになったのか」

「ニッヒヒ、そして再度アタック。その効果により相手スピリットのコア2つをリザーブへ、消え失せてください、バルバトス第4形態」

「くっ……第4形態」

 

 

転醒した初号機・シン化第1覚醒形態は、踏みつけた漏影をオーカミのフィールドへ蹴り飛ばすと、バルバトス第4形態の元へ急接近。目にも止まらぬ速さでその装甲を素手で切り裂き、爆散させる。

 

さらに効果はこれだけでは終わらない。

 

 

「この効果で消滅させた時、相手ライフ1つを破壊します」

「ッ……ぐっ、ぐぁぁあ!?!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

次にオーカミに目を付けた初号機・擬似シン化第1覚醒形態は、左手から念力のようなモノを放出し、彼のライフバリアを1つ砕く。

 

現実に存在しているスピリットから受けるダメージは尋常ではない。あの打たれ強い鉄華オーカミでさえも、その痛みの余り、唸り声を上げた。

 

 

「初号機・シン化第1覚醒形態は、合体によりダブルブレイヴ。ライフを2つ破壊しますよ」

「まだだ、オレは手札から」

「グレイズ改弍の効果を発揮、ですよね?」

「!」

 

 

初号機・シン化第1覚醒形態が、オーカミの残り2つのライフバリアを砕こうとした直後、それを阻止しようと、オーカミが手札のカードを構えた瞬間、フウが使用しようとしたカードの名前をズバリ言い当てる。

 

普通ならば考えられないが、王者を使用しているのならば話は別だ。

 

 

「王者を使ってるんですから、もちろん知ってますよ。貴方はそれを使い、初号機・シン化第1覚醒形態のアタックをブロックする」

「………鉄華団スピリットがフィールド離れた時、これをノーコスト召喚」

 

 

ー【流星号[グレイズ改弍]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でデッキ上から1枚ドロー、ブロックだ」

 

 

不本意ながら、今はそれが最善の選択だ。初号機・シン化第1覚醒形態の進行路に割って入るように、マゼンタのカラーをした1つ目の鉄華団モビルスピリット、グレイズ改弍が現れる。

 

しかしアタックは防いだものの、その力の差は歴然。グレイズ改弍は、初号機・シン化第1覚醒形態に胸部の装甲を噛み砕かれ、呆気なく爆散してしまう。

 

 

「そしてこのタイミングで、今度はフラウロスを効果で召喚」

「ッ……クソ、鉄華団スピリットがフィールドを離れた事で、手札からフラウロスをノーコスト召喚」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス】LV1(1)BP5000

 

 

またもや先読みされ、使うカードを言い当てられる。

 

だがこれを発揮しておかないと、次に繋がらない。オーカミは仕方なく、手札にあるガンダムの名を持つマゼンタカラーの鉄華団スピリット、フラウロスを召喚する。

 

 

「エンドステップ、相田ケンスケのLV2の効果、自身のコア1つをトラッシュに置き、トラッシュにある碇シンジ・シンクロ率∞を手札に戻します。ターンエンド。フラウロスを生き残らせるような受け方をしたのは、次のターン、トラッシュから手札に戻したルプスレクスを煌臨で呼ぶため、そうですよね?」

手札:7

場:【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2

【鈴原トウジ】LV1

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

「………」

「図星ですよね、黙ってても無駄ですよ。どっちらにせよ、初号機に対抗するため、貴方はルプスレクスを呼ぶしかない」

 

 

バトルの未来が見え、使用者に必然の勝利を齎すと言われている天下無双の力『王者』………

 

それをフルに発揮し、バトルの主導権を再び握り返す徳川フウ。オーカミは彼女の予言を覆し、勝利を手にすべく、巡って来た己のターンを開始する。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ……フラウロスのLVを3にアップ」

 

 

オーカミの王者は未だ起動しない。このまま行けば逆に起動させたフウに押し切られ、敗北する事は明白。

 

しかし、当然諦める事はできない。オーカミは1枚の手札に望みを託し、決戦に臨む。

 

 

「【煌臨】発揮、対象はフラウロス」

 

 

ソウルコアをコストに、煌臨の効果を発揮するオーカミ。フィールドでは、彼の背後から突然現れた、巨腕を持つ白いモビルスピリットの影が、フラウロスと重なり合い、1つの存在となって行く。

 

 

「天地を揺るがせ、未来へ響け……ガンダム・バルバトスルプスレクス、LV3で煌臨」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス】LV3(5)BP16000

 

 

こうして誕生したのは、身の丈程はある超大型メイスを握る、最強の鉄華団スピリットにして、バルバトスの最終形態、バルバトスルプスレクス。

 

登場するなり、無音の咆哮を張り上げ、フウのフィールドにいる初号機・シン化第1覚醒形態と睨み合いを繰り広げる。

 

 

「さらにパイロットブレイヴ、三日月・オーガス。召喚して、ルプスレクスに直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3(5)BP22000

 

 

最も長く使用して来た、鉄華団のパイロットブレイヴ、三日月・オーガスをここで召喚。バルバトスルプスレクスと合体し、それに強大な力を与える。

 

 

「残った漏影に、昭弘・アルトランドを合体」

 

 

ー【漏影+昭弘・アルトランド】LV1(1)BP6000

 

 

さらにフィールドに残った者同士で合体し、攻撃の準備を万全に整えたオーカミ。

 

これより、反撃の狼煙が上がる。

 

 

「オマエの見た未来は、オレとルプスレクスが打ち破る。アタックステップ、ルプスレクスでアタック!!……効果でデッキ上から2枚を破棄、鉄華団カードがあるから、ルプスレクスに紫シンボルを1つ追加する。ここでクーデリア&アトラの【神域】が誘発、トラッシュのカードをデッキ下に戻して、1枚ドロー」

 

 

これにより、ルプスレクスはトリプルシンボル。フウの残りライフ全てを破壊できる力を手に入れた。

 

さらに効果はこれだけでは終わらず………

 

 

「そして、ルプスレクスには、合体中で、尚且つオレのトラッシュが10枚以上ある時にしか使えない効果がある。行くぞルプスレクス、このターンの間、相手のスピリット、ネクサス全てのLVコストを+1に!!」

 

 

ルプスレクスが機械の眼を緑色に輝かせると、フウのBパッド上にあるネクサスがLVコスト不足により次々と消滅していく。

 

唯一、相田ケンスケ1枚が、コアが1つ乗っていたために難を逃れたが………

 

 

「今度は三日月の効果、残った相田ケンスケのLVコストをさらに+1にし、消滅。リザーブのコアをトラッシュへ」

「流石は最強の鉄華団スピリット、バルバトスルプスレクス。これで私のネクサスは全滅ですね」

 

 

合体しているパイロットブレイヴ、三日月の効果によりそれも消滅。リザーブに残ったコアもトラッシュへ送り、フウを追い詰める。

 

しかし、これを受けても尚、フウは余裕綽々な態度を取っており………

 

 

「ですがそれも、私には届きませんよ。フラッシュマジック、サイレントウォールLT」

「!」

「不足コストは初号機・シン化第1覚醒形態から確保、ルプスレクスによりLVコストが変化しているため消滅。最後のコアを、合体していた碇シンジ・シンクロ率∞の上に置き、フィールドに残します」

 

 

フウは、エースカードである初号機・シン化第1覚醒形態のコアさえも容易く切り捨て、手札にある白のマジックカード『サイレントウォールLT』を使用。

 

その効果は、ルプスレクスの攻撃であっても容易に凌ぐ事ができる効果であって………

 

 

「その効果により、このバトルの間、私のライフは減らなくなります。例えそれがルプスレクスのアタックでも、ね」

「ッ……ならオレのフラッシュ、オルガ・イツカの【神域】により、デッキ上3枚を破棄してドロー、これによりクーデリア&アトラの【神域】が誘発、トラッシュのカードをデッキ下に戻してドロー」

 

 

オルガとクーデリア&アトラの【神域】コンボにより、手札とトラッシュを増やしていくが、所詮は無駄な足掻き、このバトル中、ライフが減少しない事実は変わらない。

 

 

「ライフで受けます」

 

 

〈ライフ3➡︎3〉徳川フウ・王者

 

 

ルプスレクスが、超大型メイスを縦一線に振い、フウのライフバリアを破壊しようと試みるも、サイレントウォールLTにより出現した真空のバリアがそれを弾き返す。

 

 

「……ターンエンドだ」

手札:7

場:【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3

【漏影+昭弘・アルトランド】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

【クーデリア&アトラ】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

漏影だけでは全てのライフは砕けない。

 

そのためオーカミはここで苦渋のターンエンドの宣言。結果的に、フウの予言通りの展開となってしまった。

 

 

「ニッヒヒ、お終いですね。結構楽しかったですよ」

「……まだ終わってないだろ」

 

 

高笑いするフウを他所に、オーカミは己の手札にある『絶甲氷盾〈R〉』のカードを視界に入れる。

 

次のフウのターンをこのカードで凌ぎ、帰って来た己のターンで必ず勝利し、ライを救け出して見せると心に誓う。

 

 

[ターン08]徳川フウ・王者

 

 

「メインステップ、ソウルコアをコストに、マジック、リターンスモークを使用。このカードは、ソウルコアをコストにして使用した時、トラッシュからコスト6以下のスピリットをノーコストで召喚できます」

「!」

「もうわかりますよね、この効果で前のターンにトラッシュへ送られたエヴァンゲリオン初号機を復活」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-】LV2(3)BP9000

 

 

ターン開始早々、フウは紫のマジックカードを使用し、トラッシュから初号機を蘇生。

 

蘇った初号機の咆哮は、前のターンで発したモノよりも強く、この湧水トンネルのコンクリートの外壁全体に大きな亀裂を生じさせる。

 

 

「続けてマジック『行きなさい!シンジ君』を使用、効果により初号機を裏返す」

「なに、マジック効果で転醒後にできるのか」

「再び現れなさい、シン化第1覚醒形態」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態】LV2(3)BP13000

 

 

アタックを経由せず、マジックカードの効果により、初号機をシン化第1覚醒形態へと転醒させるフウ。

 

転醒したそれは、変化したその赤い眼光で、オーカミとルプスレクスを視界に捉える。

 

 

「碇シンジ・シンクロ率∞を合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2(4)BP19000

 

 

前のターンと全く同じ布陣を整えるフウ。ここでバトルの決着をつけるべく、アタックステップに突入しようとするが………

 

 

「アタックステップ」

「待て、オマエのアタックステップ開始時、オルガの【神技】を発揮」

「ニッヒヒ、トラッシュからグシオンリベイクを召喚、でしょ?」

 

 

鉄華団の創界神ネクサス、オルガの【神技】の効果がここに来て発揮。

 

王者を使っているフウには見抜かれているようだが、ここで止まるわけには行かない。オーカミはトラッシュにある守護神を呼び覚ます。

 

 

「トラッシュから来い、ガンダム・グシオンリベイク。リザーブ、ルプスレクス、漏影から1つずつコアを確保し、LV2で召喚。漏影は消滅する」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV2(3)BP9000

 

 

LVコスト不足により、漏影は消滅してしまうものの、大地を穿ち、淡い麦色の装甲を持つ、鉄華団の守護神、グシオンリベイクがフィールドへ飛び出して来る。

 

このターンを凌ぐべく、オーカミは容赦なくその召喚時効果を発揮させる。

 

 

「グシオンリベイクの召喚時効果、相手フィールドのコア2つをリザーブへ、これで初号機・シン化第1覚醒形態のLVを下げる」

 

 

グシオンリベイクが武器である剣斧ハルバートを手に、初号機・シン化第1覚醒形態へ斬りかかる。

 

それによりLVが下がれば、少しでも勝つ可能性が浮上して来るのだが………

 

 

「初号機・シン化第1覚醒形態の【A.T.フィールド】の効果、自分のターン中、ソウルコアが置かれているスピリットの効果しか受けない。よってその効果は無効です」

「!」

 

 

手を翳し、前方にA.T.フィールドと呼ばれる半透明のバリアを展開する初号機・シン化第1覚醒形態。

 

それでグシオンリベイクの攻撃を受け止め、弾き返す。

 

 

「残念でしたね」

「くっ……」

「アタックステップは継続、初号機・シン化第1覚醒形態でアタックします。転醒アタック時効果により回復」

 

 

グシオンリベイクの攻撃をいなした後、初号機・シン化第1覚醒形態はすぐさまオーカミに対して攻撃を仕掛ける。

 

効果により回復して、このターン、二度目のアタックを可能にする。

 

 

「もう1つのアタック時効果により、ルプスレクスからコア2つをリザーブに置きます」

 

 

フィールドを縦横無尽に駆け回る初号機・第1覚醒形態。その間にルプスレクスの胸部の装甲を殴り、中に眠るコア2つを弾き飛ばし、LVを1にダウンさせる。

 

 

「グシオンリベイクでブロックだ」

 

 

オーカミのライフバリアを狙いに来た初号機・シン化第1覚醒形態の前に、グシオンリベイクが立ちはだかる。

 

グシオンリベイクはハルバートで斬りかかるが、初号機・シン化第1覚醒形態にとっては相手にもならないのか、微動だにせず片手で受け止められる。

 

 

「グシオンリベイクのアタックブロック時効果、疲労状態のスピリット1体を破壊する」

「それも【A.T.フィールド】で無効ですよ」

 

 

最凶のエヴァンゲリオンスピリットである初号機の前では、守護神たるグシオンリベイクと言えども何も成す事はできない。

 

「ならこれならどうだ」と言わんばかりに、オーカミは手札にあるカードをBパッドに叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、絶甲氷盾」

「……」

「効果により、このバトルの終わりが、アタックステップの終了になる」

 

 

大量のドローで得ていた白の防御マジックをここで消費するオーカミ。初号機・シン化第1覚醒形態とグシオンリベイクのバトルで、フウのアタックステップを終了させ、そのターンをエンドにしようとする。

 

だが………

 

 

「だから勝てないって言ってるじゃないですか。碇シンジ・シンクロ率∞の効果。手札にある「エヴァンゲリオン」のカードを除外する事で、発揮中の絶甲氷盾の効果を無効にします」

「なに!?」

 

 

初号機ではなく、パイロットブレイヴの持っていた効果により、マジックカードの効果を打ち消される。

 

頼みの綱を失った、最早オーカミに打てる手は残っていない。敗北だ。

 

フィールドでは、初号機・シン化第1覚醒形態は、グシオンリベイクのハルバートを受け止めている手とは逆の手で、A.T.フィールドの刃を形成。それをグシオンリベイクの首と胸部の装甲の隙間に突き刺し、致命傷を与えて爆散へと追い込む。

 

 

「ニッヒヒ、鉄華団、思ったより大した事なかったですね。回復した初号機・シン化第1覚醒形態でアタック。その効果でルプスレクスのコア2つをリザーブに置き、消滅、ライフを1つリザーブに」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐぁっ!?……ッ、ルプスレクス」

 

 

初号機・シン化第1覚醒形態は、ルプスレクスの頭部を持ち上げ、余った手で胸部の装甲を貫き、爆散させる。

 

その爆散の余波は、オーカミのライフバリア1つを砕き、遂に残り1つにまで追い詰められた。

 

 

「クソ……クソ、オレはまだ終われない……!!」

「終わるんですよ。あの世で怪物と仲良くなった事を後悔しなさい」

「……ライフで、受ける……」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉鉄華オーカミ

 

 

「ッッ……ッァァァァア!?!」

 

 

初号機・シン化第1覚醒形態のトドメの正拳突きが、オーカミの最後のライフバリアを砕く。

 

これにより、勝者は裏切り者の徳川フウだ。常人では昇天してしまう程の一撃に、オーカミは、遂にその場で倒れ込んでしまう。

 

 

「割と粘った事は評価してあげましょう。さて、本拠地に戻って……」

「おい、ま、待てよ」

「!!」

 

 

バトルは終わり、フウが王者の力を解き、帰路に着こうとした直後、即座に立ち上がったオーカミがそれを声で制止させる。

 

普通ならば死ぬ衝撃を受けていながら、立ち上がって来る彼に、流石のフウも驚愕する表情を隠せない。

 

 

「信じられない、アレを受けて尚立ち上がって来るなんて」

「もう一度、オレと、バトルしろ、次は負けない……!!」

「……虫の息って感じですね。立っているのもやっとでしょう?」

「………」

「ふふ、仕方ありませんね」

 

 

そう告げると、フウは立ち上がって来たオーカミと再びバトルを……

 

するかと思われたが。

 

 

「敗者に口無しです。初号機!!」

「!?」

 

 

フウが始めたのは、バトルではなく、破壊行動。前のバトルで残った初号機に、湧水トンネルの破壊を指示。

 

初号機は咆哮を張り上げ、己が消滅するまで、その外壁たるコンクリートを破壊し続けた。散々暴れ回った事で、地盤が揺らぎ、湧水トンネルの崩壊が始まる。

 

このまま行けば、間違いなく潰されて死亡するレベルだ。今すぐ逃げなくてはならないが、オーカミはさっきのバトルによるダメージが深過ぎて、それができない。

 

 

「おい、何やってんだ、もう一度バトルしろよ」

「今言いましたよね、敗者に口無しって。いいから、早く死んでくださいよ」

 

 

己の死の場面に直面しても、オーカミのモチベーションは変わらない。フウにバトルを要求する。

 

が、もうフウはその気にはならない。ただ嘲笑と言う名の笑みを浮かべ続けるだけ………

 

 

「ニッヒヒ、さよならオーカミさん」

「待てよふざけるな、ライを返せ!!」

「貴方が死んだ事をライちゃんに教えるのが今から楽しみで仕方ないです♡」

 

 

フウは己のBパッドを操作し、ワームホールを生成。それを使い、生き埋めになる直前で、この場から逃走する。

 

 

「逃げるな、逃げるなァァァァァァァァ!!!!」

 

 

残されたオーカミは、頭上から降って来たコンクリートの塊の雨に晒され、下敷きとなった。

 

その怒りと果てなき闘争心から来る咆哮を受け止める者は、もう誰もいなくて…………

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、第55ターン「クローズエボル、全ての進化の頂点に立つ者」

******

UA3万、PV10万を突破致しました!!
沢山のご愛読、誠にありがとうございます!!


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第55ターン「クローズエボル、全ての進化の頂点に立つ者」

かつて、この界放市はおろか、世界さえ滅亡させんとした悪魔の科学者、Dr.A。

 

彼は頭脳だけでなく、バトルスピリッツの腕前も一級品であった、エースカードであるライダースピリット「エボル」を中心に、デジタルスピリットなどその他多数の強力なスピリット達を従え、巧みに使い、当時の戦士達を大いに苦しめた。

 

さらに、そのエースカードたる「エボル」には、進化を超越した『最終進化系』が存在していた。

 

その名も………

 

 

 

******

 

 

昼。最も日差しが強い時間帯。

 

現実を受け入れ切れず、逃げ出してしまった春神ライを捜索していた界放市の警視、コードネーム『アルファベット』は、広大な界放市ジークフリード区の先端にある、アビス海岸と呼ばれる場所に足を運んでいた。

 

白い砂浜に、静かな波の音がこだまする。ここで暴走していた早美ソラを、鉄華オーカミが止めた話は、まだ記憶にも新しい。

 

 

「ここなら誰も来ない、姿を見せろ、嵐マコト」

 

 

突然立ち止まったアルファベットが、何も存在しない空間にそう告げる。

 

すると、その空間から、黒々としたワームホールが出現して……

 

 

「アッアッア……バレてましたか、相変わらず勘が鋭いようで」

 

 

ワームホールから姿を見せたのは嵐マコト。

 

アルファベットは、捜索中に彼の存在に気づき、人気の少ないアビス海岸へと身を置いていたのだ。おそらく、彼との決着をつけるためだろう。

 

 

「出歯亀趣味は相変わらずだな、嵐マコト。オマエの狙いは春神ライではなかったのか?」

「頭がお悪い。とっくの昔に確保したから、こうして貴方の前に姿を見せたのですよ」

「!」

 

 

嵐マコトの口から、既にライが敵の手に捕えられてしまった事を知るアルファベット。思っている以上に、これは呑気に油を売っている場合ではない。

 

 

「捕らえた直後に鉄華オーカミが現れた時は驚きましたが、フウ様がいて助かりました」

「フウ?……夏恋フウの事か?」

「えぇ、ただ夏恋フウは偽りの名前、その正体はDr.Aと血を分けた実の孫、徳川フウなのです」

「ッ……夏恋が、Dr.Aの孫、敵だったのか……?」

 

 

フウの正体を告げる嵐マコト。あの悪魔の科学者の実の孫と言う、余りにも衝撃的過ぎる事実に、アルファベットでさえも驚愕する。

 

 

「そんな事も知らずに今まで彼女と接して来たのですか、刑事失格ですね」

「……」

「まぁ元々、貴方は悪を裁けるような立場じゃありませんがね、芽座葉月」

「その名は捨てたと言った」

 

 

そう言い放つと、アルファベットは己のBパッドを左腕に装着し、展開。そこにデッキを装填する。

 

 

「バトルだ、決着をつけるぞ。オレが勝ったら、春神ライと春神イナズマを解放してもらう」

「アッアッア、脳筋な貴方なら、そう来ると思ってましたよ。潰してあげますよ、フウ様の前に無様に散っていった、鉄華オーカミのように」

「オマエら、鉄華を……!!」

 

 

嵐マコトもまた、Bパッドを展開し、バトルの準備を行う。その間にオーカミに何があったのかを抽象的に告げられ、アルファベットはさらに怒りの闘志を滾らせる。

 

 

「先に言っておきますが、私のデッキは既に神の領域に達しています。貴方如きでは決して倒せない」

「寝言は寝て言え」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

波が優しく打ち寄せるアビス海岸にて、アルファベットと嵐マコトによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はアルファベットだ。春神ライと春神イナズマを取り戻すべく、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]アルファベット

 

 

「メインステップ、犀ボーグを召喚」

 

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果で1コアブースト、LV2にアップ」

 

 

アルファベットが初手で召喚したのは、動物のサイと同じ形をしたマシーン、犀ボーグ。その効果でコアが1つ追加される。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【犀ボーグ〈R〉】LV2

バースト:【無】

 

 

行動はその1つのみ。アルファベットはターンをエンドとし、デッキが未知数である嵐マコトの様子を伺う。

 

 

[ターン02]嵐マコト

 

 

「さぁ久し振りのバトル、久し振りのメインステップ。そして初めてのデッキ。心が躍りますね」

「……」

「では先ず、緑のデジタルスピリット、テントモンを召喚します」

 

 

ー【テントモン】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果で、僕もコア1つをブーストしますよ」

 

 

嵐マコトが召喚したスピリットは、成長期のデジタルスピリット。てんとう虫型のテントモンだ。

 

犀ボーグとほぼ同様の召喚時効果により、コアが1つ追加される。

 

 

「……実体化してるな。スピリットアイランドの技術か?」

「おぉよくおわかりになりましたね。実にエクセレント、しかしコレは僕が独自で開発したモノ。データ化の技術を応用すれば、この程度はお茶の子さいさいなのです」

 

 

そのテントモンを見るなり、アルファベットはそれが実体を持つスピリットである事を見抜く。

 

そして、それらが齎す痛みも、彼は当然知っている。

 

 

「アッアッア、ではテンポ良く行きますよ、このデッキには貴方にお見せしたいカードが幾つも眠っているのでね」

 

 

そう告げると、嵐マコトは手札にある1枚のカードを取り出し、それを己のBパッドへと叩きつける。

 

そのカードは、アルファベットを驚かせるには、十分なカードであり………

 

 

「フィールドのテントモンを対象に【アーマー進化】を発揮します」

「!!」

「テントモンを手札に戻し、1コストを支払い、燃え上がる勇気、アーマー体デジタルスピリット、フレイドラモンを召喚します」

 

 

ー【フレイドラモン[2]】LV2(2)BP8000

 

 

「フレイドラモンだと!?」

 

 

テントモンがデジタル粒子に変換され、カードとなり嵐マコトの手札に戻る。

 

そしてその代わりに出現したのは、青き身体に炎模様のアーマーを纏うスマートな竜戦士、アーマー体デジタルスピリット、フレイドラモン。

 

アーマー体とは、デジタルスピリットの本来の進化ラインには属さないカード。それ以上進化できないデメリットこそあれど、成長期を好きなタイミングで成熟期以上、完全体以下程度のパワーへ強化できる、デジタルスピリットの希少種。

 

だが、アルファベットが驚愕したのは、それが理由ではない。

 

 

「オマエ、そのデッキ」

「おわかりいただけましたか、このデッキは、Dr.Aと貴方の妹にしてDr.Aを打ち破った英雄、芽座椎名を意識して作成したデッキなんです」

 

 

アルファベット、本名芽座葉月には、血を分けていない妹がいる。

 

名は芽座椎名。Dr.Aから世界を救った英雄にして、元祖エニーズの1人。

 

彼女が使うカードには、今アルファベットと敵対している、フレイドラモンも含まれているのだ。

 

 

「フレイドラモンの召喚アタック時効果、BP10000まで好きなだけ破壊します」

「……」

「消え去りなさい、犀ボーグ」

 

 

爆炎の拳で空を殴り、炎を弾丸のように飛ばすフレイドラモン。犀ボーグはそれに直撃し、爆散して行った。

 

 

「バーストをセットし、アタックステップ、フレイドラモンでアタックします。そのもう1つの効果により、アーマー体がアタックした事により、デッキ上から1枚ドローします」

 

 

スピリットの破壊に加え、手札を補う効果も併せ持つフレイドラモン。敵であるアルファベットにはディスアドバンテージを、使用者である嵐マコトに大きなアドバンテージを齎して行く。

 

 

「……アタックはライフで受ける」

「その身でお受けになりなさい、実体化したスピリットの力を!!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉アルファベット

 

 

「ぐっ……ぐぉぉぉぉぉ!?!」

 

 

軽やかに突撃してきたフレイドラモンの拳による一撃に、アルファベットのライフバリアは1つ破壊される。

 

ただ、その際に伴うバトルダメージは、通常のモノとは比較しようがない、暴力の塊。尋常ではない痛みが、アルファベットに片膝をつかせた。

 

 

「ターンエンドです。困りますね、もう少しエクセレントでなければ、折角作ったこのデッキの実験台にもなりませんよ」

手札:4

場:【フレイドラモン[2]】LV2

バースト:【有】

 

 

「くっ……自分にだけ有利な状況にしておいて、よく言う。妹のデッキを愚弄した罪は重いぞ、嵐マコト」

「アッアッア、カードをデッキに入れただけで罪とは、可笑しい話だ」

 

 

負けられない理由がもう1つできた。

 

アルファベットは立ち上がり、自分にとっての2ターン目、第3ターンへと突入して行く。

 

 

[ターン03]アルファベット

 

 

「メインステップ、白の成長期デジタルスピリット、ハックモンをLV2で召喚」

 

 

ー【ハックモン】LV2(3)BP4000

 

 

赤いマントを羽織る、小さな白竜、成長期デジタルスピリットのハックモンが、アルファベットのフィールドへと呼び出される。

 

さらに彼は即座に新たなカードを手札から引き抜く。それは、誰もが知る伝説のデジタルスピリット………

 

 

「ハックモンを対象に【煌臨】を発揮。この時、ハックモン自身の効果でコア3個を自身にブーストする」

「来ますか」

 

 

ハックモンは眩い白銀の光に包み込まれ、その中で大きく姿形を変えて進化して行く。

 

 

「剣纏いしロイヤルナイツ、ジエスモン……!!」

 

 

ー【ジエスモン】LV3(6)BP14000

 

 

白銀の光を吹き飛ばし、中より現れたのは、伝説のデジタルスピリット、ロイヤルナイツの1体、ジエスモン。

 

波風と共に赤いマントを静かに靡かせる。

 

 

「煌臨時効果。フレイドラモンを手札に戻す」

 

 

ジエスモンは周囲に燃え盛る3つのオーラを出現させると、それをフレイドラモンへ向けて放つ。

 

放たれた3つのオーラに押し飛ばされ、フレイドラモンは粒子化し、嵐マコトの手札へと強制送還された。

 

 

「特異なアーマー体と言えど、所詮はデジタルスピリットの中の1種、その頂点に立つ、ロイヤルナイツの敵ではない」

「ふむ、そうですか」

「バーストをセットし、アタックステップ。翔けろ、ジエスモン」

 

 

アタックステップへと突入するアルファベット。さらにジエスモンには、この時にも発揮できる効果があり………

 

 

「ジエスモンのアタック時効果、オマエのバーストを破棄する」

「!」

 

 

アタック直後、ジエスモンは空を斬りつけ、斬撃波を飛ばす。その斬撃波は、嵐マコトのフィールドに伏せられていたバーストを一刀両断。それにより『絶甲氷盾』のカードが破棄されトラッシュへと送られた。

 

 

「そう言えばそんな効果もありましたね。アタックはライフで受けますよ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉嵐マコト

 

 

ジエスモンが瞬く間に嵐マコトの眼前まで急接近、彼のライフバリア1つを斬り裂く。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【ジエスモン】LV3

バースト:【有】

 

 

ロイヤルナイツのデジタルスピリット、ジエスモンの登場により、アルファベットが一気に有利な状況となる。

 

次は劣勢に立たされた嵐マコトのターンだが、彼は不思議と余裕のある笑みを見せていて………

 

 

[ターン04]嵐マコト

 

 

「メインステップ、もう一度テントモンを召喚。効果でコアブースト」

 

 

ー【テントモン】LV1(2)BP2000

 

 

前のターンにフレイドラモンの【アーマー進化】の効果で手札に戻っていたテントモンが再召喚。今一度コアブーストを行う。

 

 

「先程貴方は『アーマー体など、ロイヤルナイツの敵でない』……そう申し上げましたね」

「だからなんだ」

「いや、可笑しな話だと思いましてね。確かにロイヤルナイツは、その殆どがデジタルスピリットの最高位、究極体に属しています。けれどいるではないですか、1体だけ、アーマー体のロイヤルナイツが」

「ッ……まさか」

 

 

何かを察したアルファベット。ただ、それと同時にそんなわけがないと、否定の言葉が頭の中を泳ぐ。

 

嵐マコトは、また笑いながら「そのまさかです」と言い放ち、手札にあるカード1枚を引き抜く。

 

 

「【アーマー進化】を発揮、対象はテントモン」

「……」

 

 

そんなわけがない。

 

あるわけがない。

 

奴がロイヤルナイツに、選ばれるわけがない。

 

 

「ロイヤルナイツ、黄金の守護竜マグナモン、LV1で召喚」

 

 

ー【マグナモン】LV1(1)BP6000

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

 

テントモンがデジタル化し、嵐マコトの手札に帰還すると、代わりに現れたのは、黄金の太陽。

 

それを中より爆散させ姿を見せるのは、堅牢な黄金の鎧を身に纏う青き竜、マグナモン。ロイヤルナイツの中では唯一無二、究極体ではなくアーマー体のスピリットだ。

 

 

「召喚時効果、相手の最もコストの低いスピリット1体を破壊」

「!」

「もうおわかりですね。貴方のフィールドにいるのは1体、ジエスモンを破壊します」

 

 

マグナモンは現れるなり、その内に秘めている黄金の波動を解き放つ。それはアルファベットのフィールドにいるジエスモンを飲み込み、爆散へと追い込む。

 

 

「くっ……そいつは、レプリカか」

「エクセレント。流石ですね、このマグナモンはレプリカ。本物のロイヤルナイツと同じ力は何も持ち合わせてはいません。効果はもちろん同じですが」

「だろうな。オマエが椎名に変わり、マグナモンに選ばれるわけがない」

「うむ、辛辣なお言葉」

 

 

カードが偽造品、レプリカである事を一瞬で見抜くアルファベット。

 

マグナモンもまた、彼の妹である芽座椎名の持つカード。さらにそれは己にとっても特別なロイヤルナイツと来た、嵐マコトに対して内包していたその怒りは、より強まって行く。

 

 

「【アーマー進化】で戻ったテントモンをまたまた召喚します」

 

 

ー【テントモン】LV1(1S)BP2000

 

 

「召喚時効果でコアブーストし、その増えたコアを使い、マグナモンをLV2にアップです」

 

 

三度目の登場となるテントモン。嵐マコトがこのカードでコアを増やした数も3個目だ。

 

 

「アタックステップ、マグナモンでアタックします。実体化したロイヤルナイツの一撃、その身で味わいなさい」

 

 

マグナモンがアルファベットのライフバリアを砕くべく、低空を駈け抜ける。

 

ブロックできるスピリットがフィールドに1体もいない彼は、その攻撃を素直にライフで受けるしかなくて………

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉アルファベット

 

 

「ご、ぐふぁ?!」

 

 

黄金の光を纏った、マグナモンの拳の一撃は、アルファベットのライフバリア1つを粉砕し、彼に軽く吐血させる程の大きな痛みを与える。

 

 

「アッアッア、痛いでしょう痛いでしょう、今日が貴方の命日ですよ。精々楽しく最後のバトルを楽しんでくださいね」

「……ふざけるなよ」

 

 

だが、アルファベットも背負っているモノがある。責任から逃げぬように、歯を食い縛り、伏せていたバーストカードの発動を宣言して行く。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動」

「!」

「その効果により、オレは手札が4枚になるまでドローし、相手スピリット1体をデッキ下に送る」

「フ……マグナモンは相手のスピリット効果を受けませんよ」

「無論だ。テントモンをデッキ下に送る」

 

 

バースト効果により、アルファベットは2枚の手札を4枚になるようにドロー。さらにフィールドでは、テントモンの足元にデジタルゲートが開き、そこへ吸い込まれる。

 

手札の増強とスピリットの除去を熟せる強力なバースト効果。それだけで、そのバーストカードがなんなのかを理解できる。特にアルファベットのデッキを調べ尽くした嵐マコトは………

 

 

「アッアッア、来るのですね。貴方の最も信頼するロイヤルナイツが」

「あぁ、バースト効果発揮後、この黒きロイヤルナイツ、アルファモンをノーコストで召喚する」

 

 

ー【アルファモン】LV3(6)BP20000

 

 

アルファベットのフィールドにも同様のデジタルゲートが開き、そこから黒き鎧のロイヤルナイツ、アルファモンが舞い降りる。

 

 

「ターンエンドです。その足掻き方、やはりエクセレントだ。きっと貴方は良いモルモットになる」

手札:5

場:【マグナモン】LV2

バースト:【無】

 

 

「ほざけ。オマエとの戯れも、次のオレのターンで終いだ」

 

 

アタックできるスピリットを失い、そのターンをエンドとする嵐マコト。

 

アルファベットとしてはチャンス到来だ。呼び出したエースたるロイヤルナイツ、アルファモンで逆転を狙う。

 

 

[ターン05]アルファベット

 

 

「メインステップでバーストをセットし、そのままアタックステップに直行する」

「ほぉ、強気ですね」

「行け、アルファモン!!」

 

 

メインステップはバーストのセットのみ。アルファベットはLV3のアルファモンで攻撃を仕掛ける。

 

この時、アルファモンには発揮できる効果があり………

 

 

「LV2、3のアタック時効果を発揮、2コストを支払い、アルファモンを回復。そしてこれは、コアがある限り、何度でも使用できる」

「!」

「オレのコアの総数は12個。アルファモンのLVコストを加味しても、最大5回は回復できる」

「成る程、それでは疲労ブロック効果があるマグナモンでブロックしたとしても、私の4つのライフは守り切れそうにありませんね」

 

 

2コストを支払うたびに、再度アタックを可能にする効果を持つアルファモン。

 

これこそ、アルファベットの逆転の一手。疲労状態でのブロックを可能とする効果を持つとは言え、アルファモンよりBPの下回るマグナモンでは防御にすらならない。

 

 

「そのアタックはライフで受けましょう」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉嵐マコト

 

 

アルファモンが右手を翳すと、嵐マコトの眼前にデジタルゲートが開き、そこから無数の波動弾が彼のライフバリアを襲撃。それを1つ粉砕する。

 

 

「……」

「手札から効果の発揮もないか、詰みだな。アルファモンでもう一度アタックする、効果で2コストを支払い、回復」

 

 

再びアルファモンでアタック宣言するアルファベット。二度目の回復、三度目のアタックの可能。

 

最早誰にもアルファモンは止められない。このままパワーで嵐マコトをねじ伏せ、アルファベットに勝利を齎す。

 

はずだった。嵐マコトが、嘲笑いながら1枚のカードをBパッドへ叩きつけるまでは………

 

 

「アッアッア」

「!」

「やはり貴方は最高のモルモットだ。感激だよ、このカードを僕に使わせてくれるんだからね」

「なに」

「【煌臨】を発揮、対象はマグナモンだ」

「ッ……ロイヤルナイツを対象に煌臨だと!?」

 

 

発揮されるのは、ソウルコアをコストに使い、スピリットを更なる姿へと昇華させる【煌臨】の効果。

 

その元がロイヤルナイツであるマグナモンとなった事で、場は静まり返る。

 

 

「アッアッア、何が煌臨されるか気になりますか?……ではバトルの序盤で私が話した事を思い出してください」

「バトルの序盤………」

 

 

ー『おわかりいただけましたか、このデッキは、Dr.Aと貴方の妹にしてDr.Aを打ち破った英雄、芽座椎名を意識して作成したデッキなんです』

 

 

「Dr.Aと、椎名のデッキ……まさか!?」

「そうです!!……アーマー体共は芽座椎名の力、そしてこちらはもう一方の力。Dr.Aでさえ到達できなかった、あのスピリットの最終進化系」

 

 

アルファベットが察した事を理解すると、嵐マコトは、その最凶最悪の名を告げる。

 

 

「全ての進化の頂点に立つ、破壊の化身。仮面ライダークローズエボル!!……ロイヤルナイツを贄とし、いざ来たれり!!」

 

 

ー【仮面ライダークローズエボル】LV2(2)BP15000

 

 

突如嵐マコトのフィールドに現れる1つの幻影。それはマグナモンと重なり合い、1体のスピリットへと変化を遂げる。

 

それは、悪魔の科学者Dr.Aのエースカード、エボルの最終進化系。この世の全てをクローズさせる、最凶最悪のライダースピリット………

 

その名はクローズエボル。圧倒的王者の風格を纏い、今、この場に顕現する。

 

 

「クローズ、エボル……!?」

 

 

クローズエボル。その存在感はまさに畏怖の具現化そのモノであった。

 

歴戦の戦士たるアルファベットであっても、そのライダースピリットらしい青く大きな眼光で睨みつけられると、カードを持つ指先が思わず恐怖で震え出し、足は半歩後退してしまう。

 

 

「おぉ、そうだこの感覚、Bパッドから伝わるカードの力……これが、当時徳川先生が受けていた進化の力なのだ!!」

「嵐マコト……?」

「負ける気がしねぇ、負ける気がしねぇぇぇぞォォォォオ!!!」

「!」

 

 

クローズエボルが登場するなり、それの使用者たる嵐マコトにも異変が起こる。

 

クローズエボルのカードからBパッドを通し、彼の身体へと流れ込んで来る黒いオーラ。余程強大な力だったのだろう。それを浴びた嵐マコトの瞳は赤黒い邪悪色に染まり、高揚からか、大きな雄叫びを上げる。

 

その叫びは界放市のほぼ全域に響き渡る軽い衝撃波となり、アビス海岸の砂を巻き上げ、静かだった波は嵐でも来たかのように荒々しくなる。

 

 

「この感じ、まるでかつてのDr.Aのような……」

 

 

最早人とは言い難い進化を遂げる嵐マコトに、アルファベットはかつてのDr.Aに面影を重ねる。

 

 

******

 

 

「ッ……今のは」

 

 

視点は変わり、同じく春神ライを捜索していた九日ヨッカ。

 

遠くから感じ取った、謎の衝撃波に、違和感と嫌な予感を覚える。

 

 

「あの方向ってアビス海岸……アルファベットさん、まさか何かあったんじゃ」

 

 

何かあってからじゃ遅い。

 

そう思うと、ヨッカは衝撃波の中心部を目指し、走り出した。

 

 

******

 

 

視点はすぐさま戻り、アビス海岸でのアルファベットと嵐マコトによるバトル。

 

クローズエボルが、未だかつて体験した事のないプレッシャーをアルファベットに与える中、意を決して、彼はアルファモンに指示を送る。

 

 

「……新たなエボルが登場しようとも関係ない、これで決めさせてもらう。やれ、アルファモン!!」

 

 

しかしその直後、嵐マコトはアルファベットを嘲笑うかのように、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「クローズエボルの煌臨アタック時効果。コスト8以下のスピリット1体を破壊するか、相手スピリット1体のコア3つをリザーブに置く」

「ッ……なに」

「この効果により、アタック中で、コスト8のアルファモンを破壊します!!」

 

 

クローズエボルは、龍の形を模った青色に紫の混ざったオーラを拳に乗せ、空を殴り、それをアルファモンへと放つ。

 

その龍のオーラは、忽ちアルファモンの屈強な黒き装甲を砕き、爆散へ追い込む。ロイヤルナイツ最強の一角と言えども、エボルの最終到達点であるクローズエボルにとっては全く相手にならない事が、一瞬で理解できる光景だった。

 

 

「アルファモン……!!」

「この効果で破壊、消滅させた時2枚ドロー。さらにもう1つの効果でアルファモンはトラッシュには行かず、ゲームから除外されます」

「!」

 

 

アルファモンのカードは、バトル中回収不可となるゾーンである除外ゾーンへと移動される。

 

これでアルファベットは、目の前のあのバケモノに対し、対抗できる術さえ失った。

 

 

「さぁ、貴方にもうアタックできるスピリットはいない。ターンエンドの宣言をするのです」

「………ターンエンドだ」

手札:4

バースト:【有】

 

 

絶望の象徴たるスピリットが、希望たるスピリットを砕く。

 

そんなターンだった。最早アルファベットに勝ちの目は残されてはいない。

 

だが、アルファベットのそのサングラス越しに覗かせる瞳は、まだ諦めてはいなくて………

 

 

[ターン07]嵐マコト

 

 

「メインステップ。バーストをセット。クローズエボルのLVを3へ、そのBPは20000に到達します」

 

 

嵐マコトは、再びバーストをセットすると、クローズエボルのLVを最大の3まで上昇させる。その直後にすぐさまアタックステップへと移行し……

 

 

「アタックステップ、クローズエボル。貴方の力で奴を潰すのです」

 

 

クローズエボルでアタックの宣言。さらにそのフラッシュタイミングで手札にある1枚のカードをBパッドへ叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、ストームアタック。効果によりクローズエボルを回復させます」

「くっ……」

 

 

使用したのは緑マジック。クローズエボルの身体がほんの僅か緑色に発光し、回復状態となる。

 

 

「クローズエボルはダブルシンボル。一度のアタックでライフ2つを破壊します」

「……ライフで受ける」

 

 

フィールドにスピリットはいない。アルファベットは覚悟を決め、実体化しているクローズエボルの攻撃を受ける宣言。

 

そして、彼の眼前まで迫って来たそれは、右手に青、左手に紫のオーラを纏わせ、ライフバリアを2つ殴りつけ、玉砕する。

 

 

〈ライフ3➡︎1〉アルファベット

 

 

「がっ……はぁ!!」

 

 

身体中からマグマでも吹き出たかのような痛みが迸る。

 

常人ならば即死であろう一撃に、アルファベットはなんとか耐え抜くが、その掛けていたサングラスは砕け、残骸が砂浜に落ちると、彼の素顔が露わにする。

 

 

「ぐっ……おぉッ……!!」

「フ……良い悶えっぷりですね。さぁ、これで最後のアタックですよ」

 

 

痛みに悶えるアルファベットを見て、己の勝利を確信した嵐マコト。トドメの一撃を与えるべく、Bパッド上にあるクローズエボルのカードを捻ろうとするが………

 

 

「う、うぉぉぉぉ!!……ライフ減少により、バースト発動!!」

「!」

 

 

そんな彼の最後の一撃を防ぐべく、アルファベットは遠のいていく意識を、気合いと根性で無理やり呼び戻し、伏せていたバーストカードを反転させて行く。

 

 

「エクスティンクションウォール、効果により減った分のライフを回復」

 

 

〈ライフ1➡︎3〉アルファベット

 

 

「その後コストを支払い、フラッシュ効果を発揮。オマエのアタックステップは強制終了となる」

 

 

発揮したのは白属性のバーストマジック。減った分のライフを取り戻し、嵐マコトのアタックステップを強制的に終了させる。

 

いくら強力極まりないクローズエボルとは言え、この効果には無力。嵐マコトは、大人しくターンをエンドとせざるを得なくなり……

 

 

「首の皮一枚繋がりましたか、ターンエンドです」

手札:5

場:【仮面ライダークローズエボル】LV3

バースト:【有】

 

 

致し方なくそのターンをエンドとする嵐マコト。だが、圧倒的優位な立場にいるからか、その表情は余裕に満ち溢れている。

 

 

「嵐マコト、オマエはかつてのDr.Aと全く同じ力を使っているのか?」

 

 

己のターンの開始前、アルファベットが嵐マコトに訊いた。全身の激痛のせいで、その声色は、あのアルファベットにしてはどこか弱々しい。

 

 

「アッアッア……そうですとも。これはDr.Aが使った進化の力。今、それが私の全身で縦横無尽に駆け巡っているのです。故に、このクローズエボルも難なく扱える」

「……」

「最高の力です。まさに神にも等しい」

 

 

Dr.Aがかつて内包した進化の力。彼は昔それで若返りまで果たしているが、見たところ嵐マコトにその作用は出ていない。

 

だが、限りなくあのDr.Aに近づいている事は確実である。

 

 

「その力を得たDr.Aの末路を、オマエは知ってるのか?」

「は?」

「進化の力を増幅させ過ぎたDr.Aは、椎名にバトルで敗北した直後、その負荷に耐えられなくなり、消滅した」

「……」

「このままだとオマエ、バトルに負けた瞬間死ぬぞ」

 

 

昔のDr.Aの話をするアルファベット。

 

話を簡潔にまとめると、要するに死への忠告である。バトルで負ければ、Dr.Aと同じ轍を踏む事になるのだと………

 

 

「アッアッア、知っていますよそんな事。ですが、今の私が負けるわけがないじゃないですか」

「……」

「話で少しでも生きる時間を伸ばそうとしているのですか?……ムシケラの分際で延命など、欲張りな生物だ。さっさとターンを進めなさい」

 

 

当然ながら、今の自分に絶対的な自信を誇っている嵐マコトに、その程度の忠告では何も影響を与えられない。

 

 

「オレのターン……」

 

 

クローズエボルの猛攻を、満身創痍になりながらも凌いだアルファベット。どうにか繋いだ己のターンを進めようとするが………

 

 

「アルファベットさん!!」

「……九日」

「どうしたんだよ、そんなにボロボロになっちまって………ッ」

 

 

ヨッカがここで現れる。彼は満身創痍になったアルファベットと、不気味なオーラを纏う嵐マコト、そのフィールドで異常な存在感を放つライダースピリット、クローズエボルを視認する。

 

その余りにも畏怖たる光景に、思わず言葉を詰まらせ、唾を飲み込んだ。

 

 

「こ、コレは……」

「九日ヨッカ。隠れ研究所でのパンチは効いてましたよ、痛かったです。まぁでも許してあげます、僕は寛大ですからね」

「アレはクローズエボル。Dr.Aのエースカードだったライダースピリット、エボルの最終進化系だそうだ」

「ッ……それを、嵐マコトが使ってんのかよ。つーか、アイツが身に纏っているあの黒いオーラはいったい……」

 

 

一瞬で状況を把握できないヨッカだが、それが不利で劣悪極まりない事だけはわかる。

 

 

「いいからそこで黙って見ていろ九日、今からオレが、サクッと勝利してやる」

「何がサクっとだ。サクっとやられてんじゃねぇか。いいから逃げるぞアルファベットさん、Bパッドの電源を落とせ」

「……昔、死んだジジイから教わった。目の前のバトルから逃げる事だけは絶対にするなとな。何でも、カードバトラーとしての人生に、傷をつけるそうだ」

「今そんな事はどうでも……」

「オレを信じろ、仲間だろ?」

 

 

ヨッカの制止を振り切り、アルファベットは傷だらけになりながらも、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン08]アルファベット

 

 

「メインステップ、アルマジトカゲをLV3で2体、犀ボーグをLV1で1体召喚」

 

 

ー【アルマジトカゲ】LV3(3)BP4000

 

ー【アルマジトカゲ】LV3(3)BP4000

 

ー【犀ボーグ〈R〉】LV1(1)BP2000

 

 

「犀ボーグの召喚時効果、自身にコア1つを追加、LV2へアップする」

 

 

黒く、丸みを帯びた背中が特徴的なトカゲ型の低コストスピリット、アルマジトカゲが2体と、本日2体目となる犀ボーグが、アルファベットのフィールドへと召喚される。

 

さらに立て続けに、彼は手札のカードを引き抜き……

 

 

「まだ行くぞ、さまよう甲冑2体をLV1で召喚」

 

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

ー【さまよう甲冑】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果が二度発揮され、デッキ上から2枚のカードをドロー」

 

 

甲冑を着用している亡霊、さまよう甲冑も2体召喚。アルファベットは0枚となった手札を、その効果で2枚まで回復させる。

 

 

「さらに引いたカードの中から、アルマジトカゲをもう1体、LV2で召喚」

 

 

ー【アルマジトカゲ】LV2(2)BP3000

 

 

コアブーストとドローを活かした、低コストスピリット達の召喚連鎖。これにより、アルファベットのフィールドには6体ものスピリットが並んだ。

 

 

「いくら雑魚を並べた所で、このクローズエボルには敵いませんよ」

「フ……だが、クローズエボルの煌臨アタック時に発揮される、破壊効果の対象となるスピリットは1体のみ。これだけ並べれば全て破壊するのも容易ではないだろう」

 

 

大量のスピリットを並べたアルファベットは、直後、強気にアタックステップの宣言をして……

 

 

「アタックステップ、先ずは犀ボーグでアタック」

「アルファベットさんのスピリットは6体、対して嵐マコトのブロッカーは1体、ライフは4。6体中5体のアタックが通れば、アルファベットさんの勝ちだ……!!」

 

 

6体ものスピリットの内、先ずは犀ボーグでのアタック。

 

ヨッカの言う通り、軍団でフルアタックを仕掛ければ、理論上はアルファベットの勝利となるが………

 

嵐マコトの作った英雄と魔王のデッキは、そう甘くはなくて。

 

 

「その程度の想定を僕がしていないとでも?」

「!」

「アタック後のバースト、トライアングルバーストを発動します」

 

 

嵐マコトは、前のターンに伏せていたバーストカードを勢い良く反転。

 

それの効果によるものなのか、彼の手札にある1枚が緑色に発光する。

 

 

「効果により、手札にあるコスト4以下のスピリットカード1枚をノーコスト召喚。来なさい、ピコデビモン」

 

 

ー【ピコデビモン】LV1(1)BP1000

 

 

嵐マコトが、緑色に発光したカードをBパッド上に叩きつけると、フィールドに継ぎ接ぎだらけで、丸い蝙蝠のような見た目のデジタルスピリット、ピコデビモンが召喚される。

 

 

「さらにこのピコデビモンは、成長期のデジタルスピリットです」

「……」

「この意味、貴方ならもうおわかりですよね。フラッシュ【アーマー進化】を発揮、対象はピコデビモン」

 

 

三度目の発揮となる【アーマー進化】の効果。

 

何のアーマー体が召喚されるのかを、アルファベットは大方見当がついている。おそらく、ジエスモンの効果で手札に戻した、アイツだ。

 

 

「1コストを支払い、燃え上がる勇気、フレイドラモンをLV2で召喚します」

 

 

ー【フレイドラモン[2]】LV2(2)BP8000

 

 

コストによりピコデビモンがデジタル化し、嵐マコトの手札へ即帰還すると、代わりに炎の紋様が描かれた装甲を纏いし竜戦士、フレイドラモンが出現する。

 

 

「フレイドラモンの召喚アタック時効果、BP10000まで好きなだけ相手スピリットを破壊。LV3のアルマジトカゲ2体、さまよう甲冑、消えなさい」

「複数体を除去するスピリット!?……そんな」

 

 

そう声を荒げたのは、アルファベット本人ではなく、その勇姿を見届けている九日ヨッカだった。

 

フィールドでは、フレイドラモンが両拳から火炎放射を放出。アルファベットのフィールドにいるアルマジトカゲ2体、さまよう甲冑1体、実に半数ものスピリット達が焼き尽くされた。

 

 

「犀ボーグのアタックは、クローズエボルでブロックしましょう」

 

 

嵐マコトのライフバリアを破壊してやろうと、背中の砲台から弾丸を射出する犀ボーグ。だが、その弾道に突然クローズエボルが割って入る。

 

クローズエボルは、その弾丸を拳1つで砕くと、瞬く間に犀ボーグの眼前へと迫り、顔面を蹴り上げ、それを爆散させる。

 

 

「……ターンエンドだ」

手札:1

場:【さまよう甲冑】LV1

【アルマジトカゲ】LV2

バースト:【無】

 

 

そのターンをエンドとするアルファベット。敗北を受け入れる覚悟を決めたいのか、その表情はどこか安らかであった。

 

次は最早人智を超えた存在となってしまった嵐マコトのターン。己の強さをアルファベットに見せつけるべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン09]嵐マコト

 

 

「メインステップ、フレイドラモンのLVを3にして、アタックステップへ移行します」

「アルファベットさん」

「……」

「フレイドラモン、行きなさい。その効果でアルファベットの残りのスピリットを全て焼却。さらに1枚ドロー」

 

 

ターン回早々に、フレイドラモンのLVを最大まで上昇させて攻撃を仕掛ける嵐マコト。

 

フレイドラモンの両手から放たれる業火が、またアルファベットのフィールドを焼き尽くし、残った全てのスピリット達が焼き払われた。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉アルファベット

 

 

「ぐっ……うおっ!?」

「アルファベットさん!!」

 

 

フレイドラモンの炎を纏った拳の一撃が、アルファベットのライフバリア1つを砕き、彼に大きなバトルダメージを与える。

 

 

「アッアッア!!……どうだアルファベット、どうだDr.A!!……この僕こそが、頂点に立つカードバトラーだ、世界を統べる覇者だ!!……アッアッア、アーアッアッア!!」

 

 

勝敗は決した。後は嵐マコトがクローズエボルのカードを横にするだけで、このバトルは終わりを迎える。

 

アルファベットでさえ一捻りしてしまう程の圧倒的な力を実感し、彼は大いに高笑い。

 

 

「最後に何か言い残す事はおありですか?……命乞いから仲間への遺言まで、幅広く耳に入れて差し上げましょう」

「……」

 

 

遺言を聞いてやろうと告げて来る嵐マコト。

 

アルファベットはほんの少しだけ考えると、話し出す。

 

 

「孤独だな、オマエは」

「……は?」

「強さだけを追い求める者は、必ず孤独になる。いくら強くなっても、その周りには誰もついてこない」

 

 

話した内容は、命乞いでも、ましてや仲間への遺言でもなく、まさかの「煽り」………

 

彼の「孤独」と言う単語に、嵐マコトは僅かに腹を立てたのか「何が言いたいのです」と、キレ気味に反応する。

 

 

「オレも元は孤独だったが、今では多くの仲間に恵まれた。そのお陰か、毎日幸せだ。オマエにもそれを分け与えてやりたいと、思えるくらいにな」

「……だから結局、何が言いたいのです!!」

「オマエが模倣しているのは、英雄芽座椎名でも、悪のカリスマ、Dr.Aでもなく、昔のオレ、芽座葉月と言う事だ。故にオマエは、頂点に立つカードバトラーにも、世界を統べる覇者にもなれん。ただ己の欲求を満たしたいだけの、自惚れ野郎だ」

「だ、黙れぇぇぇぇえ!!!……クローズエボルで、ラストアタックゥゥゥ!!」

 

 

自分より弱いクセに上から目線だった事に腹を立てたのか、はたまた大型図星だったのかは定かではないが、怒りが頂点に達した嵐マコトは、クローズエボルでラストアタック。

 

フィールドでは、クローズエボルがアルファベットの眼前まで赴き、その拳を構える。

 

 

「アルファベットさん!!」

「九日、後は任せた」

 

 

敗北を迎える間際、アルファベットは望みをヨッカへと託す。その表情は彼にしては珍しく、優しい笑みを浮かべていた。

 

 

〈ライフ2➡︎0〉アルファベット

 

 

「アルファベットさァァァァん!!!」

 

 

ヨッカの叫びも虚しく、クローズエボルは、右拳に龍を模った青と紫のオーラを纏わせ、それをそのまま、アルファベットのライフバリアへとぶつける。

 

他の何にも例えられない痛みが、アルファベットを襲い、遂に彼は気を失ってその場で倒れ込んでしまう。

 

 

「勝者は我、伝説となるカードバトラーだ!!」

 

 

これにより、勝者は嵐マコト。勝利の雄叫びを上げると、フィールドに残ったスピリット達も咆哮する。

 

 

「アルファベットさん!!」

 

 

倒れたアルファベットに駆け寄ろうと走り出すヨッカだが、彼が到達する前に、嵐マコトがアルファベットにその手を翳して………

 

 

「アーアッアッア!!……データの藻屑となりなさい、伝説のカードバトラー、芽座葉月!!!」

「!?」

 

 

そう叫ぶと、ヨッカの眼前で、アルファベットの身体がデジタル粒子となり、この地上から消滅した。

 

 

「………」

 

 

突然迎えた、仲間との別れ、死別に、ヨッカは何が起こったのかを理解できず、言葉を失った………

 

そして次第に、アルファベットが消滅した事実を理解し始める。

 

 

「う…うァァァァァァァァあ!?!!?!」

 

 

理解しても、ただ悲しみを乗せて叫ぶ事しかできなかった。

 

 

「アルファベットさん、どこ行ったんだよ、アルファベットさん!!」

「消えましたよ、彼は、安らかにね」

「……!」

 

 

困惑するヨッカに、嵐マコトがそう告げた。

 

アルファベットを消滅させた張本人である嵐マコトに、ヨッカは怒りの眼を向ける。

 

 

「実にノットエクセレント。彼は昔、ロイヤルナイツのカードを集めるためだけに、多くの罪を背負ったのだ、死して当然」

「うるせぇぇ!!……アルファベットさんを、返しやがれぇぇぇぇえ!!!」

 

 

怒りが収まらないヨッカは、嵐マコトに殴り掛かる。だが、その前に、嵐マコトはBパッドを操作し、いつもの黒々としたワームホールを空間に生成する。

 

 

「春神ライも既に我が手中に収めている。もうすぐ、あのお方の夢も叶う」

「ッ……ライに何しやがった!!」

「さらばです九日ヨッカ。もう二度とお会いする事はないでしょう」

「おい、待ちやがれ……アルファベットさんを、ライを、イナズマ先生を……返せぇぇぇぇえ!!!」

 

 

事態はヨッカ達にとっては最悪な状況、嵐マコトらにとっては最高な状況に向かっている事を告げられる。

 

嵐マコトは、自身で生成したワームホールの中に逃げ、ヨッカはただ1人、アビス海岸に残された。

 

 

「……ちくしょう」

 

 

優しい波の音、さざなみが聞こえて来る。

 

しかし、それだけだ。ヨッカの手の中には何もない。何も守れなかった。己の不甲斐なさに怒りが募って行く。

 

 

「チクショォォォォォォ!!!!」

 

 

ヨッカの怒りと悲しみを乗せた叫びが、アビス海岸に虚しく響いた。それを聞き届ける者は、もう誰もいない。

 

 

 

******

 

 

界放市ジークフリード区にある大きな公園、ヴルムヶ丘公園。

 

その中にある夏を涼むために造られた、水路が敷かれたトンネル、湧水トンネル。それが徳川フウと、彼女の操るエヴァンゲリオンスピリット初号機により崩壊。

 

鉄華オーカミは、実体化したスピリットのダメージに傷を負い、さらにはその崩壊崩落に巻き込まれてしまったが………

 

 

「オーカミ……起きなさい、鉄華オーカミ」

「……」

 

 

誰かの声に呼ばれ、ヴルムヶ丘公園の原っぱで横たわっていたオーカミの意識が戻る。

 

決して無事とは言えない、血が滲んだ包帯巻きの身体。オーカミは何故、己がそうなったのかを思い出そうとする。

 

 

「……!!」

 

 

思い出した。

 

徳川フウ。ライを裏切り、何が理由なのかは定かではないが、ライを連れ去った。

 

彼女の心を深く傷つけたアイツだけは許せない。また怒りに心を支配されたオーカミは、己の身体の痛みを顧みず、動き出そうとする。

 

 

「おやめなさい。無理に動こうとすれば、今度こそ本当に死んでしまいますよ」

「……」

「大丈夫、私の見立て通りなら、後1時間で血は止まり、身体の痛みも少しは楽になるでしょう」

 

 

声の主が、震えながら上半身を起こしたオーカミにそう告げた。

 

声の主は、ヨッカでもアルファベットでもない大人の男性で、彼がオーカミをあの崩壊から救出してくれた事だけはわかる。きっと、オーカミの手当をしてくれたのも、彼なのだろう。

 

ただ、オーカミは全身に迸る痛みのせいで目を開けられず、その顔を見る事はおろか、口を開けて会話する事すらままならない。

 

 

「アルファベットが倒れました。今、この事態に終止符を打てるのは、貴方しかいない」

「……」

「少し早いですが、コレを使いなさい」

 

 

オーカミを救出したであろう男性は、そう告げると、上着の懐から1体のカードを取り出し、それを包帯巻になったオーカミの左手へ握らせる。

 

 

「鉄華団に負けは許されません。次は必ず倒しなさい、完膚なきまでにね」

「……」

 

 

声の主が去って行く。

 

何を言っているのか、どう言う意図あっての行動なのか、何故そこまで色々と詳しいのか、不思議であったが………

 

今は正直どうでもいい。オーカミは内心で「当然だ」と、声の主に言い返し、左手にあるカードをより強く握った。

 

そのカードに、赤い目のバルバトスが描かれている事を知るのは、およそ1時間後の事である。

 

 






次回、第56ターン「特別編!! 鉄華団VS仇敵軍団」


******


次回は特別編、ちょっぴり寄り道します。


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第56ターン「特別編!! 鉄華団VS仇敵軍団」

遂に巨悪「徳川フウ」が、その悪しき本性を見せる。

 

彼女は、かつて世界を混沌へ導いた、伝説の悪魔の科学者「Dr.A」の孫であり、その元助手である嵐マコトに手を貸していた。

 

界放市ジークフリード区が、またしても風雲急を告げるが、今回は少しだけ時を遡り、とある休日のお話。

 

 

******

 

 

暗闇の世界で輝く、無数に広がる星々。その星々の1つ1つが、バトルスピリッツで繋がっている全ての世界。

 

本来であれば、誰であっても行き来することはできない。たった1人を除いては………

 

 

「ふぁ〜〜あ。こうやって1人で世界を渡るってのも退屈ね」

 

 

この左目に眼帯を付けた黒髪ロングの女性。

 

名を「ラ・ヴィ」…………

 

彼女は自身で開発した、現代で言う所のコピー機程度のサイズの装置に跨り、今日も様々なバトルスピリッツの世界を渡る。

 

 

「さて、次の行き先はっと……」

 

 

彼女がそう呟き、世界を行き来する装置に手を伸ばした時だった。

 

その装置から、危険を示すようなアラームが鳴り響いたのは。

 

 

「は?……え、何、待って、エンスト!?……嘘でしょ燃料不足!?!」

 

 

唯一の移動手段である装置が燃料不足でエンスト。このままでは後5分もしない内に完全に機能を停止してしまう事だろう。

 

 

「あぁもう仕方ない、一番近い世界に不時着するしかないわ。頼むから平和な世界でありなさいよね、もう悪役は勘弁なんだから!!」

 

 

彼女はそう叫ぶと、行き先を急遽変更、エンストした装置と共に、一番近い世界へと渡った。

 

その世界とは、我らが鉄華オーカミがいる、あの世界だ。

 

 

******

 

 

「………」

 

 

ラ・ヴィが目を開けると、そこは何の変哲もない、普通の街とも呼べる場所だった。

 

周囲には住宅街やマンション、スーパーなどの店舗やレストランが立ち並び、朝方なのか、広場から鳩の呑気な鳴き声も聴こえて来る。

 

 

「平和だ、凄く呆れ返る程に。なんか逆に腹立って来たわ」

 

 

もうちょっとまともではない、野蛮な世界をイメージしていたラ・ヴィ。呆れ返るほどまともな世界に拍子抜けのようだ。

 

また、コピー機程度のサイズの装置と共にここへ来たため、周囲の人々からの視線も熱い。

 

 

「目立ってるわね、とんでもないくらいに。うん、一旦歩こう」

 

 

ラ・ヴィは重たそうな装置を片手で軽く持ち上げると、そのまま街中を歩き始める。

 

そして、それはそれでまた視線を集めた。

 

 

「取り敢えず装置のエネルギーを溜めないとね。こんな平和ボケの塊みたいな世界に、強いカードバトラーなんているか怪しいけど………ん?」

 

 

今、ラ・ヴィの目の前に聳え立つのは、「カードショップ・アポローン」…………

 

カードショップがある、と言う事は当然この世界にもやはりバトルスピリッツがある。さらには強いカードバトラーもそこにいるかもしれない。

 

 

「しめた、ここなら強いカードバトラーがいるかもしれない。さっきはめちゃくちゃ運が悪かったから、その帳尻合わせが来たわね、やはり運は平等院鳳凰堂」

 

 

意味のわからない言葉を吐きつつ、彼女は目の前のカードショップ、アポローンへと入って行った。

 

 

「貧相な内装ね。アタシが知ってるカドショより三分の一は狭そう、こんな所に本当に強いカードバトラーなんているのかしら」

 

 

入るなりその内装にケチをつける。

 

一応この店はこう見えてこの街を代表するカードショップの一角なのだが、余程己の知っているショップが凄かったのだろう。

 

 

「あの」

「ん?」

「今日はまだ開店作業中だから、悪いけど販売とか転売とかは後にしてくれない、くれません?」

 

 

おぼつかない敬語でラ・ヴィに声を掛けたのは、無造作に伸びた赤い髪の少年。骨折でもしているのか、三角巾で右腕を固定している。

 

ラ・ヴィが抱いた彼の第一印象は「何このガキ、態度腹立つ」だ。

 

 

「誰が転売ヤーよクソガキ。そもそもアタシは客じゃねっつーの」

「アレ、そうなの」

「強いカードバトラーよ。兎に角強いカードバトラーとバトルさせなさい、この装置のエネルギーを溜めるために」

「装置、その無駄にデカい奴の事?」

「無駄じゃねぇっつーの!!」

 

 

言い方は少々チンピラ臭いし、イマイチその理由もパッとは理解できないが、赤い髪の少年は取り敢えず彼女が強いカードバトラーを欲しているのを理解する。

 

 

「あぁ、じゃあオレとやる?」

「はぁ!?……アンタみたいなクソガキの坊やに、アタシの相手が務まるわけ」

「そう言うのは、見た目じゃ判断できないもんだろ」

「……」

 

 

ヤケに自信満々な少年。

 

その透き通った真っ直ぐな眼は、言葉に説得力を乗せ、ラ・ヴィをその気にさせる。

 

 

「まぁいいか。少しでも装置のエネルギーの足しになれば、それはそれで構わないし。いいじゃないかクソガキの坊や、かかって来なさいよ」

「よし、じゃあウチのバトル場でバトルしよう」

「おうよ………待って、バトル場って何?」

 

 

その気になったのも束の間。今度は自分のわからない名称に疑問符を抱く。

 

 

「何って、バトル場はバトル場だろ。そこでBパッドを使ってバトルするんだよ」

「び、ピーパッドってなんだ、異世界人に優しく説明しなさいよ」

「BパッドはBパッドだろ、まさかおばさん知らないのか」

「誰がおばさんよ、このクソガキ!!」

 

 

 

******

 

 

それから少しだけ時が経過した。

 

赤い髪の少年は、ラ・ヴィに軽くBパッドの説明をし、店の貸し出し用のBパッドを与え、ようやくバトル場にて事を構えていた。

 

 

「そう言えば名前言ってなかったね、オレは鉄華オーカミ。おばさんは?」

「だからおばさんじゃねえって!!……この美貌を見てお姉さんだとわからんのか。後、アタシはラ・ヴィだよ」

「……なんか、変な名前だな」

「アンタに言われたかねぇよ、オーカミって!!」

 

 

自己紹介している内に、ラ・ヴィは自身の左腕に借りたBパッドをセットし、展開。そこに己のデッキを装填し、バトルの準備を進める。

 

 

「そういやアンタ、右腕骨折してるみたいだけど、そんな状態でバトルなんてできるのかい?」

「あぁコレね、問題ないよ。始まったら動くから」

「は?」

 

 

今までで1番言っている意味がわからなかった。

 

言葉の通りなら、バトルが始まれば、その怪我が治る事になる。そんな医術、世界中探索しても見つかるわけない。

 

 

「行くぞ、バトル開始だ」

 

 

オーカミがそう告げると、左腕に元々装着していたBパッドが展開、さらに右腕に血が通い、自由になる。

 

三角巾を外し、オーカミは予めBパッドに装填していた己のデッキから4枚のカードを、その右手でドローした。

 

 

「うん、良い調子だ」

「え………な、何なのアンタ、ホントに右腕が動くようになって、今までのは演技?」

「オレ、バトルする時だけ、動かない右腕と、見えない右目が治るんだよね」

「ッ……盲目でもあるのか、前言撤回、物騒過ぎだろ、この世界」

 

 

ある事件から右目と右腕が見えず動かずとなってしまったオーカミ。今ではどう言うわけか、バトルする時のみ、再び自由に見え、動かす事ができるようになる。

 

 

「ふ、ふざけるな。ふざけるなよ、盲目キャラは左目に眼帯つけてるアタシだけで十分だろうが!!」

「じゃあ対戦よろしく、ラッキー」

「アタシはラ・ヴィだ!!」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

カードショップ、アポローンにて、鉄華オーカミと、異世界からの来訪者ラ・ヴィによるバトルスピリッツが開始される。

 

先攻はラ・ヴィだ。自身の横に置いてある、各世界を行き来する装置のため、ターンを進めていく。

 

 

[ターン01]ラ・ヴィ

 

 

「メインステップ、初めの始めの第一歩、アタシはウルフ・デッドマンを召喚だよ」

 

 

ー【ウルフ・デッドマン】LV1(1)BP2000

 

 

「紫のスピリットか」

 

 

ガンマンのような衣装を纏った異形の怪人、ウルフ・デッドマンがラ・ヴィのフィールドへと呼び出される。

 

 

「召喚時効果、デッキから4枚オープンして、その中の対象カードを手札に加える。アタシはこの効果で『悪の女王アギレラ』を手札へ」

 

 

そのスピリットが持つ効果は、多くの3コストスピリットが保有しているサーチ効果。ラ・ヴィはその効果でお目当てのカードを手札へと加えられた様子。

 

 

「ターンエンド。さぁ、アンタのターンだよ」

手札:5

場:【ウルフ・デッドマン】LV1

バースト:【無】

 

 

1ターン目から幸先の良いスタートを展開したラ・ヴィ。

 

一度そのターンをエンドとし、次のオーカミのターンを伺う。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、オレはネクサスだ。オルガ・イツカ、クーデリア&アトラ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

「配置時の神託によって、デッキのカードをトラッシュして、コアを追加」

 

 

オーカミが配置したのは、鉄華団の二大創界神「オルガ・イツカ」「クーデリア&アトラ」

 

神託の効果により、それぞれ3つずつコアが追加された。

 

 

「アタックステップは何もしない、ターンエンド。てか、バトルするだけで、その装置とか言うヤツ、エネルギー溜まるの?」

手札:3

場:【オルガ・イツカ】LV2(3)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

「そりゃ溜まるさ。アンタが強ければね」

 

 

ネクサスで足場を固めたオーカミのターンが終わり、再びラ・ヴィへとターンが移り変わる。

 

 

[ターン03]ラ・ヴィ

 

 

「メインステップ。先ずは前のターンに加えた悪の女王アギレラを配置だよ、2枚ね」

「ッ……同じ創界神が2枚」

 

 

ー【悪の女王アギレラ】LV1

 

ー【悪の女王アギレラ】LV1

 

 

「1枚目は神託を使える。今回はフルチャージ、コアを3つ追加」

 

 

鉄華団のオルガやクーデリア&アトラなどと同様、フィールドには何も出現しないが、ラ・ヴィのデッキで最も重要な創界神「悪の女王アギレラ」が配置される。

 

 

「さらに手札にある、このクイーンビー・デッドマン フェーズ3を召喚する時、アギレラのコアを3つまでボイドに置く事で、送った1つにつき、コストを−1する。アタシはアギレラから3つのコアをボイドに送り、軽減と合わせて0コストでコレを召喚するよ」

 

 

ー【クイーンビー・デッドマン フェーズ3】LV1(1)BP5000

 

 

「6コストのスピリットをノーコストで召喚……?」

「どうだい、坊やにはあまり聞き馴染みのない言葉だろう。召喚時効果でデッキから2枚ドローするよ」

 

 

巫女のような白服を纏う、異形の怪人、クイーンビー・デッドマンがこの場に登場する。

 

 

「2枚のアギレラに神託し、アタックステップに入ろうか。アタシは、2体のデッドマンでアタック」

 

 

先にアタックステップでアタックを仕掛けて来たのはラ・ヴィだった。

 

召喚された2体の怪人が、その命令を聞くなり、オーカミの元まで走り行く。

 

 

「2つともライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

ウルフ・デッドマンのライフルから放たれるエネルギー弾と、クイーンビー・デッドマンの蜂の針のような鋭い爪による刺突が、オーカミのライフバリアを一気に2つ破壊する。

 

 

「ターンエンド。どうしたんだい坊や、さっきから口ばっかりじゃないか、この程度じゃ装置のエネルギーは溜まんないよ」

手札:5

場:【クイーンビー・デッドマン フェーズ3】LV1

【ウルフ・デッドマン】LV1

【悪の女王アギレラ】LV1(1)

【悪の女王アギレラ】LV1(1)

バースト:【無】

 

 

「なんか、テレビの悪役みたいだ」

「もう悪役はやめてるっつーの!!」

 

 

遂に本格的に動き始めた2人のバトル。次はオーカミの鉄華団の逆襲だ。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディをLV1で召喚。オルガとクーデリア&アトラに神託」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

オーカミの場に、濁った白と橙色を基調とした、丸っこい小型モビルスピリット、ランドマン・ロディが召喚される。

 

さらに、オーカミはここからだと言わんばかりに、更なるカードを手札から引き抜き、Bパッドへと叩きつけて。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ!!……ガンダム・バルバトスルプス!!……LV3で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV3(5)BP13000

 

 

上空より、空を豪快に斬り裂きながら地上へと降り立ったのは、鉄華団最強のモビルスピリットにして、オーカミの相棒バルバトス。

 

その進化系統の一種、ガンダム・バルバトスルプス。

 

 

「オルガとクーデリア&アトラに神託」

「それがアンタのエースかい。悪役臭い見た目だねぇ」

「スピリットは見た目じゃないだろ?……アタックステップの開始時、オルガ・イツカの【神技】を発揮」

「!」

「コアを4つボイドに置き、トラッシュにある鉄華団をノーコスト召喚。来い、パイロットブレイヴ三日月・オーガス。バルバトスルプスに直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV3(5)BP19000

 

 

オルガの【神技】の効果により、トラッシュよりパイロットブレイヴ「三日月・オーガス」が蘇生。

 

見た目は変わらないが、ルプスはより強力な合体スピリットとなる。

 

 

「アタックステップ続行、ルプスでアタック、その効果でデッキ上から2枚のカードを破棄」

 

 

オーカミのデッキから破棄されたカードは「ランドマン・ロディ」と「ガンダム・フラウロス」………

 

いずれも鉄華団のカードだ。

 

 

「この効果で破棄した鉄華団カード1枚につき、コア3個以下のスピリット1体を破壊する。2体とも破壊だ」

 

 

背部のスラスターで飛行するバルバトスルプス。ウルフ・デッドマンとクイーンビー・デッドマンの2体に接近し、弧を描くように、バスターソード状のメイス、ソードメイスを振るう。

 

強烈な一撃を浴びた2体はたちまち爆散。その爆炎と爆煙の中、バルバトスルプスは次の狙いであるラ・ヴィのライフバリアへ向け、緑の眼光を輝かせる。

 

 

「鉄華団の効果でデッキが破棄された事により、クーデリア&アトラの【神域】の効果、トラッシュにある紫1色のカードをデッキ下に戻して1枚ドロー」

 

 

オーカミはトラッシュにある要らないカードをデッキの1番下へと戻し、それをドローへと繋げる。

 

クーデリア&アトラの効果だ。これでより手札とトラッシュの質が向上して行く。

 

 

「三日月の【合体中】効果、リザーブのコア2つをトラッシュへ送る」

 

 

オマケにリザーブに残っていたコアが、全てトラッシュへと弾き出される。

 

コレに加えて、迫り来るダブルシンボルの圧は相当なモノだが、この程度のピンチなど慣れているのか、ラ・ヴィは未だ涼しい表情を見せている。

 

 

「そのアタックはライフで受けてあげようじゃないか」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉ラ・ヴィ

 

 

ルプスはソードメイスを縦一線に振い、ラ・ヴィのライフバリアを2つ破壊する。

 

ガラス細工のようにそれが砕け散って行く中、彼女はこのタイミングで使えるカードを手札から引き抜き、使用する。

 

 

「ライフが減った事により、手札から絶甲氷盾をノーコストで使用」

「!」

「残念だけど、アンタのアタックステップは強制終了だよ」

 

 

最も汎用性の高い白の防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」………

 

その効果により、オーカミのアタックステップは強制的に終わりを迎える事となる。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:3

場:【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV3

【ランドマン・ロディ】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

「成る程、言うだけの事はあるようだね。だが、数々のヒーローを駆逐して来た、アタシの敵じゃないよ」

 

 

オーカミの実力をある程度認めるも、次のターンをラストターンにするべく、ラ・ヴィが巡って来た己のターンを進めて行った。

 

 

[ターン05]ラ・ヴィ

 

 

「メインステップ、悪の女王アギレラからコアを2つボイドに送り、4コストでクイーンビー・デッドマンを召喚」

「2体目……」

 

 

ー【クイーンビー・デッドマン フェーズ3】LV2(3S)BP8000

 

 

「召喚時で2枚ドロー。さらに対象スピリットの召喚により、またまたアギレラにコアが1つずつ追加されるよ」

 

 

2体目となるクイーンビー・デッドマンが参上。

 

その効果により、手札を潤すばかりか、コストに使ったコアさえ創界神に帰って来る。

 

 

「これと同じ事をもう一度行い、アタシは3体目のクイーンビー・デッドマンを召喚するよ」

「!!」

 

 

ー【クイーンビー・デッドマン フェーズ3】LV1(2)BP5000

 

 

「召喚時効果で2枚ドローと、アギレラに神託」

 

 

フィールドに3体目となるクイーンビー・デッドマンが召喚される。

 

その召喚時のドロー効果により、ラ・ヴィの手札は遂に7枚目へと突入。

 

 

「さぁお待ちかねのアタックステップだよ。LV2のクイーンビー・デッドマンでアタック」

 

 

強力なクイーンビー・デッドマン2体を並べ、手札を大きく増やしたラ・ヴィ。

 

今度はアタックステップへと移行し、LV2のクイーンビー・デッドマンでアタックを仕掛ける。

 

 

「その効果で、スピリット2体からコアを2個ずつリザーブに送る」

「へぇ」

「ランドマン・ロディとルプスからコアを奪い、ランドマン・ロディは消滅」

 

 

クイーンビー・デッドマンが、掌をオーカミのフィールドへ翳すと、地底より闇のエネルギーが噴き上がり、ルプスとランドマン・ロディを襲う。

 

ルプスはLV3から2へとダウンした程度で済むも、ランドマン・ロディは耐え切れず、塵芥となりこの場から消滅して行った。

 

 

「さらにここでフラッシュタイミング【煌臨】!!……対象はアタックしていないクイーンビー・デッドマン」

「ッ……今度は煌臨か」

「これによりアタシのデッキは更なる進化を遂げる。邪神メガロゾーア・第2形態!!」

 

 

ー【邪神メガロゾーア(第2形態)】LV2(2)BP14000

 

 

足元より湧いて出て来た闇の瘴気が、アタックしていないクイーンビー・デッドマンを取り込んで行く。

 

闇の瘴気は徐々に形を形成していき、モビルスピリットであるルプスさえも凌ぐ程の巨大な怪物へと変貌する。

 

その名は「邪神メガロゾーア」………

 

悪役……を演じられて来た、ラ・ヴィの切り札である。

 

 

「煌臨アタック時効果、ルプスのコア2つをトラッシュへ、よってLV1へダウン」

 

 

タコのような触手を伸ばし、ルプスを縛り上げるメガロゾーア。

 

ルプスは背部のスラスターを全力で稼働させ、なんとかそこから脱出するも、その力の大半を奪われてしまった。

 

 

「その後、トラッシュからコスト8以下の仇敵スピリットをノーコスト召喚」

「なに、そんな効果まであるのか」

「クソガキの坊やに教えてあげるわ、悪役わね、正義がそこにある限り不死身なのよ。トラッシュにある最初のクイーンビー・デッドマンを召喚!!」

 

 

ー【クイーンビー・デッドマン フェーズ3】LV1(1)BP5000

 

 

メガロゾーアはルプスから奪った力、エネルギーを使い、前のターンに破壊された1体目のクイーンビー・デッドマンを蘇生。

 

ラ・ヴィのフィールドにはメガロゾーアと2体のクイーンビー・デッドマン、合計3体の強力な仇敵スピリットが並ぶ。

 

 

「召喚時で2枚ドロー。これでアタシの手札は8枚!!」

 

 

自慢するように、ラ・ヴィは自分の手札をオーカミに見せつける。

 

 

「良い加減、そのロボットには消えて貰わないとね。アギレラの【神技】の効果、手札を1枚破棄する事で、コア2個以下のスピリット、即ちルプスを破壊!!」

「くっ……」

 

 

天空から巨大な針のようなモノがルプスに突き刺さる。

 

これまで二度もラ・ヴィのカード効果から耐え抜いて来たルプスだったが、流石にコレには撃沈。大爆発を起こしてしまう。

 

 

「クイーンビー・デッドマンのアタックは継続中よ」

「……そのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

クイーンビー・デッドマンの針のような鋭い爪が、オーカミのライフバリアへと突き刺さり、それを破壊。

 

彼の残りライフは2となり、追い込まれる。残りのスピリットで総攻撃を仕掛けられて仕舞えばひとたまりもないが………

 

その程度でやられるオーカミではない。

 

 

「ライフが減った事により、オレもマジック、絶甲氷盾だ」

「うん?」

「このアタックでアンタのアタックステップは終わる」

 

 

オーカミも同じく「絶甲氷盾〈R〉」で耐え抜く。

 

ラ・ヴィのアタックステップは強制的に終了となり、エンドステップへと移行する。

 

 

「その少ない手札で絶甲握ってたのかい、主役みたいな引きするねアンタ。でももうお終いさ、アタシの仇敵軍団が、次のターンで完全に征服する。ターンエンド」

手札:7

場:【邪神メガロゾーア(第2形態)】LV2

【クイーンビー・デッドマン フェーズ3】LV1

【クイーンビー・デッドマン フェーズ3】LV1

【悪の女王アギレラ】LV1(1)

【悪の女王アギレラ】LV1(3)

バースト:【無】

 

 

「……面白いバトルするんだな、ミッフィ」

「ラ・ヴィだっつってんだろ。卯年だからって何言ってもいいってわけじゃないぞ!!」

「そう吠えるなよ。今度はオレの番だ、見せてやる、鉄華団の、勝利の道をな……!!」

 

 

ここまでの試合展開で、お互いの実力を認め合うようになった2人。

 

バトルは最終局面。オーカミの第6ターン目へと移って行く。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ。大地を揺らせ、未来へ導け、ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(5)BP12000

 

 

上空より飛来して来たのは、白き装甲を見に纏う、鉄華オーカミの最初のエースカード、バルバトス第4形態。

 

 

「さらに手札から【煌臨】を発揮、対象は、今召喚したバルバトス第4形態」

「メインステップ中に煌臨!?」

「あぁ、コイツは、自分のターン中なら、いつでも煌臨できる」

 

 

オーカミは【煌臨】を発揮した1枚のカードを、バルバトス第4形態のカードの上へと叩きつける。

 

それこそ、そのカードこそ。

 

最強の鉄華団スピリットにして、数々の変化と進化を繰り返して来た、バルバトスの最終形態。

 

 

「天地を砕け、未来へ響け!!……ガンダム・バルバトスルプスレクス!!……LV3で煌臨」

 

 

バルバトス第4形態に様々な装甲やパーツが装備装着されて行く。

 

その過程の中、腕部はより巨大化し、頭部の黄色い角は4つに分かれ、王者の王冠を彷彿とさせるモノに変貌する。

 

こうして新たに現れたのは「ガンダム・バルバトスルプスレクス」………

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス】LV3(5)BP16000

 

 

ルプスレクスは、身の丈ほどはある武器、超大型メイスを地に叩きつけ、己の存在をこのフィールド全体に知らしめる。

 

その風貌、風格はまさしく、鉄華団の王。バルバトスの最終形態。

 

 

「三日月をルプスレクスに合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3(5)BP22000

 

 

破壊されずに生き残った三日月の新たな合体先としてルプスレクスを選択。より強力な合体スピリットへと変貌する。

 

こうなってしまっては、もう誰も手がつけられない。

 

 

「アタックステップ。バルバトスルプスレクスでアタック、そのLV1からの効果を発揮」

「!」

「デッキ上から2枚を破棄、その中に鉄華団カードがあれば、シンボル1つを追加」

「なに!?」

 

 

オーカミのデッキはほとんどが鉄華団。当然トラッシュにそれが落ち、ルプスレクスのシンボルが追加。三日月と合わせてトリプルシンボルとなる。

 

 

「鉄華団の効果でデッキが破棄された事により、クーデリア&アトラの【神域】が誘発。トラッシュのカード1枚をデッキ下に戻して1枚ドロー」

「トリプルシンボルのアタックはヤバい。だが、ブロックして仕舞えばどうとでも……」

「ブロックなんて、させると思うか?」

「ッ……!!」

「ルプスレクスはLV2以上で【合体中】、さらにオレのトラッシュにカードが10枚以上ないと使えない効果がある。そして今、その全ての条件を満たした」

 

 

このタイミング、オーカミは条件に厳しい指定がある、ルプスレクスのもう1つの効果を発揮させる。

 

 

「行くぞバルバトスルプスレクス!!……効果により、このターンの間、相手のスピリットとネクサス全てのLVコストを+1する」

「なッ……全てのLVコストを!?」

「よってコアが1個ずつしかない、クイーンビー・デッドマン2体は消滅」

 

 

ルプスレクスの背部に備わったテイルブレードと呼ばれる鉄の尾。

 

それが悪魔の嘲笑の如く音を上げながら、2体のクイーンビー・デッドマンへと伸びて行き、それらを串刺しにする。

 

2体は呆気なく力尽き、やがて爆散へと追い込まれた。さらにテイルブレードは、邪神メガロゾーアへと伸びていき、その触手を1つ残らず切り裂いた。

 

 

「最後に三日月の効果。メガロゾーアのLVコストを+1にする。ルプスレクスの効果と合わせて、消滅させる」

 

 

触手が無くなった隙を狙い、ルプスレクスが超大型メイスを構え、メガロゾーアの懐へと飛び込んで来た。

 

体格差などものともせず、超大型メイスを上から叩きつけ、それを爆散させる。

 

 

「追加効果でリザーブのコア1つをトラッシュへ。これでルプスレクスのアタックを邪魔する奴は誰もいない」

「アタシの仇敵軍団が全滅」

 

 

ふとフィールドを見渡して見れば、さっきまで団欒としていた場が、今では敵陣の修羅のみ。

 

 

「い、いやまだだ。このターンさえ凌げばまだ勝ちの目はある」

 

 

気持ちを切り替え、このターンを兎に角耐え凌ぐ事のみを考えるラ・ヴィ。

 

その答えとなる1枚のカードを、手札からBパッドへ叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、氷刃血解」

「!」

「このバトルの間、私のライフは減らない。どうだ、このターンはこれで終わりだ。生き残りさえすれば、仇敵軍団は何度でも蘇る」

 

 

一度のバトルのみ。ライフダメージを受けなくする白のマジックカード「氷刃血解」………

 

バルバトスの最終形態であるルプスレクスと言えども、これの影響下ではライフを減らす事はできないが。

 

それは飽くまで一度のバトルのみであって………

 

 

「フラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】」

「!」

「トラッシュのカード1枚をデッキ下に戻し、ルプスレクスを回復!!」

「そ、そんな効果まで使えるのか」

「これで氷刃血解を超えて、トリプルシンボルを叩き込める」

 

 

超大型メイスを横一線に振るうルプスレクス。それは氷刃血解が発生させた半透明のバリアで防がれるも、二度の攻撃権利を得ているため、もう一度、今度は縦にそれを振るう。

 

それは直撃し、ラ・ヴィのライフバリアに亀裂が生じて行く。

 

 

「効果発揮、シンボルを1つ追加。クーデリア&アトラの効果でドロー………これで最後だ、叩き込め、ルプスレクス!!」

「……負けか。こんな坊やに負けるなんて、アタシもまだまだだねぇ」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉ラ・ヴィ

 

 

最後は勢いのまま、豪快に残った3枚のライフバリア全てを砕く。

 

これにより、勝者は鉄華オーカミだ。バルバトスルプスレクスで、見事紫ミラーを制して見せた。

 

 

「……オレの、勝ちだ」

 

 

オーカミが拳を天に突き上げると、バルバトスルプスレクスも、それに呼応するかのように、天を仰いだ。

 

 

******

 

 

「エネルギーどう、溜まった?」

 

 

激しいバトルが終わった直後。アポローンのバトル場にて、オーカミがラ・ヴィに訊いた。

 

バトルが終わったためか、右目は再び盲目となり、右腕はまた動かなくなり、三角巾で固定している。

 

 

「そうだった、それのためにバトルしてたんだった。どれどれエネルギーは………」

 

 

大事な事を忘れてしまう程に、バトルに奮闘していたラ・ヴィ。

 

ずっと横に置いていた装置へと顔を覗かせるが、その装置から、途端にヤカンでも沸騰したのかと錯覚してしまう程の熱を帯びた甲高い音が流れ出して………

 

 

「え、何。充電5、500%!?!……や、ヤバい、逃げろクソガキ!!」

「え、なん」

 

 

オーカミが「なんで」と言い切る前に、装置は大爆発。

 

2人は無事ではあったが、頭がチリチリのクルクルになる。それと同じくらい、装置も見るに耐えない姿と成り果てていた。

 

 

「………一度のバトルで500%充電させるって、アンタマジ何者なのよ。つーか、どうしてくれるんだい、折角苦労して造った装置が壊れたじゃないか!!……直せ、弁償しろ!!」

「え、そう言われてもな………あ」

 

 

チリチリのクルクルになった髪を触りながら、オーカミは閃く。

 

 

「機械の事はあんまり詳しくないんだけど、それを直せる人、いるかも」

 

 

そう。オーカミは自分の身内の中で唯一、機械弄りが得意な人物の存在を思い出したのだ。

 

 

******

 

 

ガラクタが散らばる暗がりの部屋。無数に広がる失敗作の数々。

 

ここは、鉄華オーカミの住まうマンションの部屋のお隣さん「天下メメ」の部屋だ。

 

忘れてしまった貴方は『第10ターン「守護神グシオンリベイク」』を読んでみよう。

 

 

「少年からこのスーパー美少女マッドサイエンティスト天下メメの所に来るとは珍しいなぁ、何かまた直して欲しいのかな?」

「あぁ、うん。この人の何だけど、これを直して欲しいんだよね」

 

 

オーカミは20歳前後程度、美人だが、どこか異端さを感じさせるグルグル目の女性、天下メメに、ボロボロになった装置を見せる。

 

 

「おぉ〜これはこれは、また大層年季の入ったコピー機だね」

「コピー機じゃなぁい!!……世界を渡る装置だよ」

 

 

メメにコピー機と間違えられると、ラ・ヴィが思わずツッコミを入れる。

 

 

「世界を渡る?……へぇ、タイムマシンは造った事あるけど、平行世界に行くマシンは造った事ないんですよね。興味深い」

「今なんかサラっととんでもない事言わなかったかい?」

「この人なら直せそうでしょ?」

 

 

自分にそう告げて来るオーカミに、ラ・ヴィは「いやいやいや」と、否定の意味を込めて手を振る。

 

 

「あの装置は私の血と汗と努力の結晶。どこの馬の骨とも知らないジャリガールがそう簡単に直せるわけ」

「直りました〜〜」

「えぇぇぇぇ!?」

 

 

知らぬ間に溶接メガネを掛けたメメが装置を完璧に修理していた。しかも眩しい程ピカピカになるまで。

 

 

「い、いったいこの一瞬でどうやって治したって言うんだい。つか本当に直ってんの?」

「直ってますよ、過剰充電によってイカれてたバッテリーは提灯アンコウの頭部で代用してます」

「何してくれてんだァァァ!!!……ちゃんと直せこの天然女!!」

「え〜ちゃんと直ってますよ、ちょっとイジってみてください」

「………」

 

 

な訳ないだろと思いつつも、ラ・ヴィは渋々装置へと手を伸ばす。

 

するとどういう事か、行き先の指定やエンジンの残量表示など、これまでなかった新しい機能が沢山付け足されており、格段に使いやすくなっていた。

 

 

「え、ウソ。使いやす」

「でしょ〜〜」

 

 

誠に信じ難いが、本当に直っていたのだ。

 

 

「因みに壊れた銅線には魚の背骨を代用してますよ」

「やっぱちゃんと直してないだろ!!」

 

 

さっきの提灯アンコウと言い、ちょいちょい中身がイカれてるようだ。

 

 

「……ツッコむの疲れた。もういい、この場から立ち去れるなら何でもいいわ」

「帰るの?」

 

 

装置に手を置き、この世界を去ろうとするラ・ヴィに、オーカミが訊いた。

 

 

「帰るって言うか、当てのない旅よ」

「そっか」

「え、何、どうしたんだい坊や。ふふ、まさか寂しいとか言うんじゃないでしょうね……一緒に来るかい?」

 

 

ラ・ヴィは最後にオーカミを揶揄うようにそう告げるが………

 

 

「え、ヤダ」

「このクソガキ、二度と来るかこんな世界!!」

 

 

真顔で言い返されると、キレ気味に装置のスイッチを押し、その装置と共に、この場、この世界から去って行った。

 

この場に残されたのはオーカミとメメのみ。

 

 

「グル目の人、よくあんなの直せるよね」

「なんか賑やかな人だったね〜〜また来るかな?」

「さっき二度と来ないって言ってたけど」

「今度会ったら私特製、タランチュラカレーをご馳走してあげようそうしよう♪」

「それは、多分やめた方がいいかも」

 

 

******

 

 

オーカミらの世界を離れたラ・ヴィは、装置を使い、次元間と呼ばれる、世界間を繋ぐ空間を通っていた。

 

 

「全く、酷い目にあったわ。アレね、あの世界はギャグに全振りしてるタイプの世界ね。登場人物が全員バカだもの」

 

 

愚痴を愚痴愚痴呟くラ・ヴィ。話せば二言目にはツッコミをしないといけなかったので、辛かったのだろう。

 

そんなこんなで、間もなく次元間を出る。ここを出て仕舞えば、また次の世界へ彼女は向かう事になる。

 

 

「さぁもう直ぐ次の世界。今度こそ、私の探す理想の世界でありなさいよね」

 

 

白く、眩い光に包み込まれたゲートを潜り、ラ・ヴィは新たな世界へ………

 

 

ー……

 

 

「………アレ」

 

 

新たな世界へ到着したラ・ヴィ。だが、その世界は先程のモノと変わり映えしない。

 

スーパーやショッピングモールなどが建ち並ぶ、なんら変哲もない、普通の世界だ。

 

 

「ミスったか私、また同じ世界に来るなんて。でもなんか変な感じ」

 

 

しかし、違和感もあった。

 

どこか街並みや技術などが僅かにグレートダウンしているかのような………

 

 

「よし行くぞ司。フレイドラモンとデュークモンを召喚!!」

「来い、めざし。今度こそオレの方が強いと言う事を教えてやるぜ」

 

 

直ぐ横で、高校生くらいの少年少女が、Bパッドと言う端末を使ってバトルをしている。

 

その事から、似た世界、もしくは同じ世界である事が推察できるが………

 

 

「そこのシャリボーイ&ジャリガール、ちょっといいかい」

「……え、今丁度いいとこなんだけど」

「めざし、オマエの知り合いか、このおばさん」

「おばさんじゃねっつーの!!……私は絶世の元悪役、ラ・ヴィ様だ!!」

 

 

彼女はまだ知らない。

 

世界の次元間を移動する装置が、実は天下メメの手違いによって「タイムマシン」に変えられてしまった事を………

 

それに気づき、再び次元間を旅するのは、また別のお話。

 

 

 




次回、第57ターン「ファイター」


******


今回はリアルでも僕と仲の良いバトスピ小説家の置き物さん(https://syosetu.org/user/237512/)とのコラボ回でした。
たくさんオモローな小説を執筆されておりますので、是非この後ご覧になってみてください!!


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第57ターン「ファイター」

時刻は午後。日は間もなく暗くなる事を示すように沈んで行き、青空が琥珀色に染まり始める時間帯。

 

青年、九日ヨッカは、自分の店「アポローン」の中で1人、対戦テーブルの椅子に腰掛け、途方に暮れていた。

 

ライもイナズマと同様に捕らえられ、アルファベットが嵐マコトの手に落ち、データとなって消滅。2人のためにも嵐マコトを追跡、倒さなければならない。

 

だが、肝心の嵐マコトがどこにいるのかがわからなかった。そもそも、アルファベットでさえ勝てなかった敵に、自分如きで太刀打ちできる訳がない。

 

山のように積み上がった難関。ヨッカは、それを1人で到底解決できない事を、理解していて………

 

 

「クソ……!!」

 

 

己の不甲斐なさに腹を立てたヨッカは、テーブルに拳を打ち付ける。

 

 

「何でオレは何もしてやれない。みんな大変だって時にオレは、何してんだよ!!」

 

 

怒りが募った彼は、その鬱憤を晴らすように、立ち上がりながらテーブルをひっくり返す。

 

 

「……!」

 

 

その直後、ヨッカはアルファベットを完膚なきまでに叩きのめした、嵐マコトとクローズエボルのヴィジョンが脳裏を過ぎる。その途端に、指先が震え出す。

 

 

「何震えてんだよ馬鹿野郎。アルファベットさんから託されたんだろ。どうにかして見せろよ、何のためにオレは今まで戦って来たんだ」

 

 

震えた指先を拳として握り締め、己に文句を言いつけても、結局何も答えは出ず、虚しさだけが心に残り続ける。

 

そんな時だ、アポローンの自動ドアが音を立て開いたのは………

 

 

「ゲゲゲ……よぉ、えらくご機嫌斜めじゃねぇか」

「ッ……オマエ、エニーズ02!?……何でここに」

 

 

ヨッカの前に現れたのは、嵐マコトの隠れ研究所でガードマンを勤めていた男。橙色で、チリチリしている髪型が特徴的。

 

彼は数あるガードマンの中でも最強の称号「エニーズ02」が、嵐マコトによって与えられており、カモフラージュとして、ライと戦い、追い詰めた。

 

 

「おいおい、エニーズ02って言うのは、あのガキの事じゃねぇのかよ」

「……」

「オレのはただの称号。雇い主がカモフラージュのためにそうつけたんだろうな。ちな、オレの本当の名前は「蛇澤マツリ」ってんだ。ゲゲゲ、よろしくな」

 

 

エニーズ02、もとい蛇澤マツリは、そう告げながら、アポローンの卓に腰掛ける。

 

 

「で、その蛇澤さんがオレに何の用だよ」

 

 

ヨッカが、怒りと警戒心を併せ持つ表情で、蛇澤にそう言い返した。

 

雇われていたとは言え、相手は大事なライを傷つけた存在。それに、彼の戦闘狂な面も知っているため、何をしでかすかわからないためだ。

 

 

「いや何、ただ教えてやろうと思ってな、雇い主、嵐マコトの居場所を」

「!」

「ゲゲゲ、児雷也森林。その奥地に、奴らはいる」

 

 

どう言う風の吹き回しなのか、蛇澤は、ヨッカに嵐マコトらのいる場所を伝える。

 

 

「正確には、そこに本拠地があるって言った方がいいか。霧深くて見えづらいが、馬鹿デカいぜ」

「……なんでオレにそれを、アンタは嵐マコトに雇われてんじゃないのか?」

「金はもう十分貰った。それに、バランスは取ってやらねぇとな。テメェとアイツらとじゃ、戦いにもなりやしねぇ」

 

 

ニタニタと笑みを浮かべながらそう答える蛇澤マツリ。

 

その行動や言動は、つくづく奇怪で、謎めいている。

 

 

「ふざけるなチリチリ頭、何がバランスだ。そんな事言って、オレを騙そうとしてんだろ」

「この期に及んでまだオレを警戒してんのか。後コレはチリチリじゃねぇ、天パだ。銀魂の銀さんみたいな髪型なんだよ」

「似たようなもんだろ」

 

 

直後、蛇澤マツリは己の天パの中から写真1枚を取り出し、それをヨッカに見せつけるように、テーブルへ置いた。

 

 

「コレは、フウちゃん?……なんでアンタがフウちゃんの写真を、って、横にいるのは嵐マコト!?……いったいどうなってんだ」

 

 

その写真には、春神ライの親友である夏恋フウと、敵である嵐マコトが共に写り込んでいた。

 

まだフウの本性を知らないヨッカは、その異質な写真に困惑を見せる。

 

 

「ゲゲゲ……やっぱコイツと知り合いだったか。これはオレが奴らの本拠地で隠し撮りした写真さ。少なくとも、このメスガキよりかは、オレを信用した方がいい」

「……どう言う事だよ」

 

 

冷や汗が己の顎から雫となって床に落ちる。

 

一瞬、写真の中のフウを見て、嵐マコトに人質に取られたのかと思った。しかし、とてもではないが、そう言う雰囲気ではないし、既に春神イナズマ、春神ライと言う存在を連れ去った今、嵐マコトには、そんな事をする理由がない。

 

しかし、その答えは簡単なモノだ。ただ、ヨッカがそれを受け入れたくないだけであり………

 

 

「コイツは敵。何食わぬ顔で、今までテメェらの横で良い奴を装ってた、悪女だ」

「ッ……!!」

 

 

蛇澤が、ヨッカにその真実を告げる。

 

 

「う、嘘だ。な訳ねぇだろ、フウちゃんはオレらを騙すような事は……」

「奴はあのDr.Aの孫だ」

「!?」

 

 

今までのフウを知っているため、途端に焦燥感に駆られるヨッカだが、蛇澤が間髪入れずに告げて来た更なる真実に、言葉を詰まらせる。

 

 

「ゲゲゲ、結局、何がしたいのかまではわからねぇか、きっと碌な事考えてねぇんだろうな」

「ッ……フウちゃんを悪く言うな、誰が何と言おうと、例え本当にDr.Aの孫だろうと、フウちゃんはフウちゃんだ。オレ達を騙すような子じゃない!!」

「馬鹿が、どんだけお人好しなんだよ。テメェがそんなんだから、この事態を招いてるんじゃねぇのか?」

「なに!?」

 

 

必死に蛇澤の言葉を否定するヨッカ。

 

しかし、それはどこまで行っても感情論に過ぎず、根拠にもならない。事実、フウは度が付くほどの悪女、蛇澤の言葉は全て正しい。

 

それを証明するように、もう1人、アポローンへと現れる。

 

 

「残念だけど、そいつの言ってる事は正しいよ、アニキ」

「ッ……オーカ!?」

「アイツの本性は、平気で他人を貶める、悪魔だ」

 

 

そのもう1人は、ヨッカの弟分である鉄華オーカミ。

 

ヨッカはオーカミがここに来た事よりも、彼の全身に血の滲んでいる包帯が巻かれている事に驚いてしまう。

 

 

「おいオーカ、オマエどうしたんだよその怪我!?……誰がこんな」

「そこのモジャモジャ。あの2人が児雷也森林にいるなら、ライもそこにいるんだな」

「あぁ、おそらくな。森に入ったら兎に角北東の方角へ進め」

「ん、ありがとう」

 

 

そこまで淡々と話を進めると、オーカミはアポローンを後にしようとするが、当然、ヨッカはそれをよしとしない。

 

 

「ちょ、待てよオーカ、オマエどこに行く気だ!?」

「どこって、決まってるでしょ、ライのとこ」

「馬鹿野郎!!……そんな怪我で、やめろ、もう動くな」

 

 

ヨッカは直後に、蛇澤に向かって「アンタからも何とか言えよ」と声を荒げるが、当の彼は興味なさそうに両掌を上げる。

 

 

「そのガキがどうしようと、そいつの勝手だろ。行きてぇって言うなら好きにさせればいいじゃねぇか」

「好きにさせれる訳ねぇだろ。オレはもう、これ以上……これ以上」

 

 

ヨッカの脳裏に浮かび上がるのは、目の前でデータ化し、消え去ってしまったアルファベットの顔。

 

彼は、これ以上仲間を失いたくないのだ。あんな恐ろしい瞬間を、二度と迎えたくないのだ。

 

 

「……アニキ、オレとバトルしないか?」

「!」

「オレが勝ったら通すって事で。それなら文句はないでしょ」

 

 

突然、オーカミがBパッドを構えながらそうヨッカに告げてくる。

 

本気の目だ。本気でヨッカに勝ち、ライを助けに行く気なのだ。

 

どの道何も言っても言う事を聞かないオーカミには、最も効果的な行いだ。ヨッカもそれに乗っかる他ない。

 

 

「あぁ、わかったぜオーカ。受けてやるよ、そのバトル。この先、オマエに最悪の未来が訪れるって言うならな、今ここで、このオレが引導を渡してやる……!!」

 

 

ヨッカもまた、Bパッドを左腕に装着し、それを展開。彼の目もまた本気である。

 

 

「フ……じゃあオレはここいらでトンズラするわ。生きてたらあのメスガキによろしく伝えといてくれや」

 

 

2人のバトルには興味が余りないのか、今にもバトルが始まりそうな光景に、蛇澤マツリは鼻で笑うと、この場を後にする。

 

 

「店のバトル場でやるぞ」

「あぁ」

 

 

ヨッカの提案により、オーカミは彼と共に目と鼻の先にある、アポローンのバトル場へと赴く。

 

赴くと、2人は颯爽とバトルの準備を整え………

 

 

「アニキとのバトルは、これで何回目だっけ」

「52回目だ。因みにオマエは最初のバトルしか、オレに勝った事がない」

「ふ……それは知ってるよ」

「笑っていられるのも今の内だけだ。行くぞ、オーカ」

「あぁ、アニキ。バトル開始だ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

いつものみんなの居場所、カードショップ「アポローン」のバトル場にて、九日ヨッカと鉄華オーカミによる兄弟分対決が幕を開ける。

 

先攻は九日ヨッカだ。オーカミを止めるため、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、青のネクサス、ビリー・カタギリを配置する」

 

 

ー【ビリー・カタギリ】LV1

 

 

「配置時効果でデッキ上から4枚をオープン、その中にある対象のカード「グラハム・エーカー」と「サキガケ」を手札に加え、残りをトラッシュへ破棄」

 

 

フィールドには何も出現しないが、ヨッカは青属性のネクサスカードを配置。その効果でデッキから2枚のカードを新たに手札へ加えた。

 

 

「バーストをセットして、ターンエンドだ」

手札:5

場:【ビリー・カタギリ】LV1

バースト:【有】

 

 

ヨッカの第1ターンはこれで終了。

 

次は痛々しい程包帯だらけになってしまっても尚、前に進もうとするオーカミのターンだ。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、クーデリア&アトラ」

 

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

オーカミも同様にフィールドには何も出現しないネクサスカード。配置時の神託の効果により、彼のデッキの上から3枚がトラッシュへ、今回は3枚全てが対象のカードであったため、ネクサスに3つのコアが追加された。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

「オルガは無しか、幸先悪いな」

「……」

 

 

オーカミを除けば、おそらく誰よりも鉄華団デッキに詳しいヨッカ。僅か一度のターンで、それが100%回っていない事を理解する。

 

 

[ターン03]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、マジック、ストロングドロー、デッキ上から3枚をドローし、その後2枚をトラッシュへ破棄する。ターンエンドだ」

手札:6

場:【ビリー・カタギリ】LV1

バースト:【有】

 

 

このターン、ヨッカは青属性でお馴染みの手札交換効果を持つマジックカードの使用のみでターンエンドの宣言。

 

 

「アニキも、幸先悪そうに見えるけど」

「オレはいいんだよ。オマエのスピリットが出て来た時が本番だからな、オマエも知ってるだろ」

 

 

ヨッカのデッキは【武士道】と言う効果を持つ、青のモビルスピリット達が軸となるデッキ。

 

【武士道】を持つスピリットは、自分のアタックステップ開始時に、相手スピリット1体と強制バトルでき、勝利した時に追加で様々な効果を発揮できる。

 

その特徴故に、ヨッカのデッキを100%発揮するためには、相手スピリットの召喚が必要不可欠なのだ。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、なら出してやるよ、スピリット。バルバトス第1形態」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でデッキ上から3枚オープン、その中にある鉄華団カードを手札へ。オレはランドマン・ロディを加える」

 

 

地中から飛び出して来たのは、始まりの鉄華団、バルバトス第1形態。他のバルバトスと比べ、武装が一切施されていない、初期状態だ。

 

 

「それを待ってたぜ、相手の手札が増えた事によりバーストを発動」

「!」

「青のネクサスカード、阿弥陀如来像。効果でコイツをノーコストで配置だ」

 

 

ー【阿弥陀如来像】LV1

 

 

「配置時効果でボイドからコア1つを追加」

 

 

バルバトス第1形態の効果でオーカミの手札が増えた事により、ヨッカの伏せていたバーストが発動。背後に巨大な仏像が配備されると共に、コアブーストまで行われる。

 

 

「今手札に加えた、ランドマン・ロディをLV2で召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

しかしその程度でオーカミは怯まない。丸みを帯びた小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディを召喚し、さらにそのカードへ手を掛ける。

 

 

「アタックステップ、ランドマン・ロディでアタック。その効果でデッキ上1枚を破棄。これにより、クーデリア&アトラの【神域】が誘発、トラッシュにある紫1色のカードをデッキ下に戻し、1枚ドロー」

 

 

ランドマン・ロディのアタック時効果を、クーデリア&アトラの【神域】によりドローに変換。

 

手札を潤しつつ、ランドマン・ロディでヨッカのライフに攻撃を仕掛ける。

 

 

「ランドマン・ロディのアタックはライフで受けるぞ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉九日ヨッカ

 

 

ランドマン・ロディは、小型の斧を振り下ろし、ヨッカのライフバリア1つを破壊。オーカミに先制点を齎した。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【ランドマン・ロディ】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

バルバトス第1形態をブロッカーとして残し、オーカミはそのターンをエンド。オルガ無しでデッキが100%の力を発揮していないとは言え、かなり強力な盤面に仕上がりつつある。

 

 

「オレのターンだな。手は抜かねぇ、オレはもうオマエには戦わせたくねぇんだよ、オーカ」

「……」

 

 

次はヨッカのターン。目の前の弟分、オーカミを倒すべく、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、青のモビルスピリット、サキガケを召喚」

 

 

【アヘッド近接戦闘型[サキガケ]】LV2(6S)BP8000

 

 

ヨッカが呼び出したのは、マゼンタカラーのモビルスピリット、サキガケ。手には竹刀のような形をしたビームサーベルを構えている。

 

 

「もう一度バーストをセットして、アタックステップだ。その開始時にサキガケの【武士道】を発揮」

「ッ……来たか、アニキの十八番」

「一騎討ちを所望するのは、バルバトス第1形態。サキガケと強制バトルだ」

 

 

アタックステップに突入した直後、サキガケの【武士道】が発揮され、バルバトス第1形態が指定される。

 

バルバトス第1形態で先手必勝と言わんばかりに飛び出し、殴り掛かるが、サキガケはそれを紙一重で回避すると同時に、竹刀の形をしたビームサーベルでその腹部を貫く。

 

それにより、バルバトス第1形態は堪らず爆散した。

 

 

「サキガケの【武士道】勝利時、ストロングドロー効果だ。デッキ上から3枚を引き、その後2枚を破棄。さらにLV2から発揮できる、もう1つの効果。【武士道】で破壊したスピリットを疲労状態でフィールドに残す事により、オマエの創界神、クーデリア&アトラのコアを5個ボイドに置く」

「!」

 

 

爆散したバルバトス第1形態であったが、まるで何事もなかったかのように、オーカミのフィールドに帰還していた。

 

その代わりに、オーカミの創界神ネクサスであるクーデリア&アトラのコアが全て消滅。その強力な効果を発揮できない状態となる。

 

 

「ターンエンド。さぁ来いよオーカ、オマエのターンだぜ」

手札:6

場:【アヘッド近接戦闘型[サキガケ]】LV2

【ビリー・カタギリ】LV1

【阿弥陀如来像】LV1

バースト:【有】

 

 

「………」

 

 

オーカミのライフは砕かず、【武士道】の効果で破壊したスピリットも場に残し、己の手札だけを回していくヨッカ。

 

オーカミはこれまでの経験から、彼が何かを企んでいる事を勘付く。

 

 

「いいぜアニキ。今日オレは、アンタを超えるよ」

 

 

敢えてそれに乗っかるような勢いで、オーカミは巡って来たターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、コイツで勝負だ。ガンダム・フラウロスをLV1で召喚」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]】LV1(1)BP5000

 

 

オーカミのフィールドに呼びだされる3体目の鉄華団モビルスピリット、ガンダムの名を持ち、マゼンタカラーの装甲と、数々の銃火器を備えたフラウロスだ。

 

 

「召喚時効果、コア5個以上のスピリット、サキガケを破壊する」

「!」

 

 

フラウロスは、登場するなり、廃部に備えた二丁のレールガンをサキガケに向け、そこから強力な電撃を放つ。

 

放たれたそれは、地を抉りながらフィールドを駆け抜け、サキガケを瞬く間に貫き、爆散へと追い込む。

 

 

「よし」

「この程度でオレに勝ったと思ったら大間違いだぜ」

「?」

「破壊後により、バースト発動、青マジック、愛と憎しみを超えた宿命」

 

 

オーカミが優勢に立ったと思われた直後、またしてもヨッカのバーストが唸る。

 

発動されたのは、青のマジックカード「愛と憎しみを超えた宿命」………

 

 

「バースト効果により、先ずはトラッシュから、【トップガン】【武士道】を持つスピリット1体をノーコストで復活させる」

「またサキガケ……いや、違うか」

「流石にわかるよな。オレがこの効果で呼ぶのはコイツ、天空をも斬り裂く剣技、青のモビルスピリット、スサノオをLV1で召喚だ」

 

 

ー【スサノオ】LV1(1)BP10000

 

 

効果により、ヨッカがトラッシュから召喚したのは、薙刀を武器とし、黒々とした装甲に、和の甲冑を思わせる頭部を持った、青属性のモビルスピリット、スサノオ。

 

誰もが知る、彼の、Mr.ケンドーのエースカードだ。

 

彼はこのカードをバースト効果で召喚するために、サキガケやストロングドローで手札を入れ替え、トラッシュにコレを破棄していた。

 

 

「来たかスサノオ」

「意気込む前に、先ずは身構えろ、愛と憎しみを超えた宿命の効果により、コスト7以下のスピリット、フラウロスを破壊する」

 

 

スサノオが登場すると、フラウロスは青の光に包まれていき、苦しみながら爆散。

 

さらにまだ、バースト効果は続き………

 

 

「その後、コストを支払いフラッシュ効果を発揮。トラッシュから今度はパイロットブレイヴ、グラハム・エーカーを召喚し、スサノオに直接合体。そして、グラハム・エーカーは転醒し、ミスター・ブシドーとなる」

 

 

ー【スサノオ+ミスター・ブシドー】LV1(1)BP15000

 

 

大型のモビルスピリットだけでなく、それの力を最大限に発揮できるパイロットブレイヴまでもをトラッシュから召喚。

 

バースト効果を持つマジックカード1枚で、強力な合体スピリットを誕生させる。

 

 

「ミスター・ブシドーの転醒時効果により、手札から2体目のスサノオをノーコストで、LV2で召喚する」

「くっ……2体目か」

 

 

ー【スサノオ】LV2(3)BP12000

 

 

パイロットブレイヴの効果により、2体目のスサノオが呼び出される。

 

これにより、ヨッカのフィールドには大型のエースカードが2体。対してオーカミのフィールドには低コストスピリット2体のみ。

 

アレだけオーカミ優勢だったフィールドが束の間、一気に不利な状況へと陥る。

 

 

「流石だな、アニキ。だけどこの程度じゃ、オレの鉄華団は散らない、バーストをセット」

「……バーストか」

 

 

自分のターン中に劣勢になるオーカミだが、冷静さは失わない。迷わず手札にあるバーストカードをセット。

 

 

「バルバトス第1形態のLVを3にアップ。アタックステップに入っても、アタックは無し、ターンエンドだ」

手札:4

場:【ランドマン・ロディ】LV2

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV3

【クーデリア&アトラ】LV2(1)

バースト:【有】

 

 

……『あのバースト、おそらくこの状況だとグシオンリベイク。だが、今オーカのトラッシュにはブレイヴカードがない。グシオンリベイクはトラッシュにブレイヴカードがないと、その力を十分に発揮できない』

 

ヨッカは頭の中で、オーカミのバーストを予測する。

 

そして、出た結論は、あのバーストでは、自分の攻撃を止められないと言う事。スサノオ2体の制圧力を持ってすれば、次のターン、オーカミは必ず敗北を喫する。

 

 

「オレのターン」

 

 

オーカミのデッキをよく理解しているヨッカ。

 

最後のターンを行うべく、Bパッドに差し込まれているデッキから、カードを引く。

 

 

[ターン07]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、合体しているスサノオのLVを3にアップさせる」

 

 

メインステップに入り、ヨッカはミスター・ブシドーと合体している方のスサノオに4つのコアを追加。そのLVを3に上昇させる。

 

ここから、フィールドに揃った2体で攻撃を仕掛け、トドメを刺しに行く。

 

そう思われたが、ヨッカは肩に籠っていた力を抜き………

 

 

「なぁオーカよ、もうやめようぜ。本当の所、今はオレらでバトルしてる暇なんてない、こんなの時間の無駄だ」

 

 

そう話し出した。

 

今ここでその話を始めた理由はただ1つ。オーカミを諭し、諦めさせるためだ。

 

 

「無駄なんかじゃないよ。オレはただ、仲間のためにできる事をやっているだけだ」

 

 

しかし、オーカミがここでそう簡単に引き下がる訳がない。

 

諦めるどころか、この状況から勝つ気さえいる。

 

 

「……だからってな、オマエがそんな身体になってまでやる事じゃねぇんだよ。ライとイナズマ先生を助けて、みんなでまた元気に暮らす。そう、それがオレの役目で、使命なんだよ」

「……」

「だから大人しく引き下がってくれよオーカ、なぁ!?」

 

 

必死に訴え掛けるヨッカだが、オーカミはそんな彼の言葉を聞いても、眉一つ微動だにさせない。

 

 

「震えてる奴1人には、任せられない」

「!?」

「オレの今の居場所は、アニキに貰ったモノ。なら、アニキの使命は、アニキに恩があるオレの使命でもある」

「い、いやそうはならねぇだろ!?」

 

 

ヨッカは気づく。また己の指先が震えていた事を。

 

これをキッカケにオーカミとの間に心の蟠りができてしまう事を恐れたのか、はたまたこれから戦う事になる嵐マコトのクローズエボルを怖れたのかは定かではないが、ヨッカは確かに心からの訴えの中、震えていた。

 

 

「大丈夫だよアニキ、オレは死なない」

 

 

どこまでも真っ直ぐを見つめて来るオーカミの眼光。それは、ヨッカにとって「畏れ」そのモノだった。

 

本当はわかっている。もうオーカミは弱くない事。自分が必ずしも守ってあげる存在ではなくなっている事。

 

 

「ダメだ。行かせられねぇ」

 

 

だが、アルファベットを失ってしまった瞬間の記憶と、その経験が、ヨッカに「仲間を失う」と言う恐怖を常に与え続ける。

 

それ故に、これ以上の無茶をしようとするオーカミを放って置くわけにはいかなかった。

 

 

「アニキ、バトルを続けよう。オレは勝つよ、このバトルにも、これからのバトルにも。オレを信じてくれ」

「……」

 

 

………『オレは兄貴分失格だ。弟分を信じてやれなくて、何が兄貴分だ』

 

ヨッカはそう思った。オーカミを信じてやれない自分がどんどん嫌いになってしまう。だが、恐いに決まっている、アルファベットに続き、オーカミまで失う可能性がある判断など、彼にはできない。

 

 

「ならここから、勝ってみろよ。アタックステップ、その開始時にスサノオ2体の【武士道】を発揮。バルバトス第1形態、ランドマン・ロディと強制バトル」

 

 

心を鬼にし、バトルへ戻る。2体のスサノオがオーカミのフィールドへと踏み込み、そこにいるバルバトス第1形態とランドマン・ロディを、手に持つ薙刀でXの字を描くように斬り裂き、爆散へと追い込む。

 

 

「2体のスサノオの【武士道】により、オマエのライフに2点のダメージを与えるぞ」

「……」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

スピリットだけでなく、オーカミのライフバリアも斬り裂いて行く2体のスサノオ。

 

これにより、オーカミのライフは残り3。合体したスサノオのアタック一撃で沈むラインに入ってしまう。

 

 

「スピリット破壊後のバースト」

「来るか、グシオンリベイク」

 

 

やはりヨッカの予想通り、このタイミングでバーストカードに手を当てるオーカミ。

 

破壊後のバースト、それは間違いなく鉄華団の守護神グシオンリベイク。

 

そう思われたが………

 

 

「紫のブレイヴ、天冥銃アーミラリー・スフィア……!!」

「なに、グシオンリベイクじゃないだと!?」

「本日のハイライトカードだ。オレだって日々、前を見て成長しているのさ。この効果で合体しているスサノオからコア2つをリザーブへ置き、この効果発揮後、コイツをノーコストで召喚する」

 

 

ー【天冥銃アーミラリー・スフィア】LV1(3)BP3000

 

 

オーカミが発動したのは、グシオンリベイクでも、鉄華団のカードでもない、紫のバーストカード。

 

合体しているスサノオがほんの僅かな時間紫のオーラに包み込まれると、その体内にあるコア2つを弾き飛ばす。これにより、残りコアは3個だ。

 

その後、誰もいなくなったオーカミのフィールドに、紫色の紋章が浮かび上がると、冥府の力纏いし銃、天冥銃アーミラリー・スフィアが出現する。

 

 

「紫のバーストブレイヴ、驚かされたが、それだけならグシオンリベイクの方がまだマシだぜ、アタックステップは継続、合体したスサノオでアタック。そのアタック時効果により、このターン、オレは追加のアタックステップを獲得する」

 

 

意表を突かれた事は間違いないが、ここまで来て、その程度の事で昼間はしない。ヨッカは合体したスサノオで、ブレイヴしか存在しないオーカミのフィールドへと攻め込んで行く。

 

だが、それを見るなり、オーカミは鼻で笑い………

 

 

「ふ……確かにそれだけならマシだよな」

「!?」

「フラッシュ【煌臨】を発揮、対象は【装填(リロード)】の効果を持つ、天冥銃アーミラリー・スフィアだ」

 

 

オーカミが発揮したのは、スピリットを更なる姿へと昇華させる【煌臨】の効果。

 

本来ならばスピリットにしか対象にできないこの効果だが、今召喚したこの天冥銃アーミラリー・スフィアは違う。【装填(リロード)】の効果により、スピリット状態のこのブレイヴも【煌臨】の対象となる事ができるのだ。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV2で煌臨!!……【装填】のその後の効果により、煌臨元からアーミラリー・スフィアを合体だ」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+天冥銃アーミラリー・スフィア】LV2(3)BP11000

 

 

「このタイミングで、バルバトスルプスだと!?」

 

 

アーミラリー・スフィアを呼び出した紫の紋章は、消滅間際に新たな存在を、このフィールドへと呼び寄せる。

 

それは鉄華団のモビルスピリットにして、オーカミのエースカードの1枚、バルバトスルプス。右手にソードメイス、左手にアーミラリー・スフィアを装備し、強力な合体スピリットとなって登場した。

 

 

「バルバトスルプスの煌臨時効果、デッキ上2枚を破棄し、その中の鉄華団カード1枚につき、コア3個以下のスピリット1体を破壊」

 

 

破棄されたのは、当然どちらも鉄華団のカード。

 

これにより、コア3個以下のスピリット2体を破壊できる。そして、ヨッカのフィールドにいる2体のスサノオのコアは、どちらも3個だ。

 

 

「破棄されたのは「バルバトス第4形態」と「バルバトスルプスレクス」……よって2体のスサノオを破壊する!!」

「くっ……!?」

 

 

バルバトスルプスは、左手に持つアーミラリー・スフィアから闇の弾丸を連射し、合体していないスサノオに全弾被弾させ、爆散へ追い込む。

 

合体しているスサノオにもまた闇の弾丸を連射するが、合体しているスサノオは、薙刀を回転させ、それら全てを弾き返す。だがその隙に間合いを詰めたバルバトスルプスのソードメイスの一撃の前に沈み、1体目と同様、爆散する運命を辿る事となった。

 

 

「クーデリア&アトラの【神域】によりドロー。これでスピリットは消えた、アタックステップを追加しても、アタックするスピリットがいなかったら、意味ないだろ」

「……あぁ、その通りだ。ターンエンド」

手札:6

場:【ミスター・ブシドー】LV1

【ビリー・カタギリ】LV1

【阿弥陀如来像】LV1

バースト:【無】

 

 

前のターンより強烈なカウンターを受け、ヨッカがこのターンで勝ちを取る事は不可能となる。

 

強くなった弟分に、彼は瞳を閉じながらそれを実感。そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、2体のランドマン・ロディをLV2で召喚し、バルバトスルプスのLVを3にアップ」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

2体のランドマン・ロディが呼び出され、バルバトスルプスが最高LVに到達。そのBPは16000まで上り詰める。

 

 

「アタックステップ、ランドマン・ロディ2体でアタック。その効果でデッキを破棄、それが鉄華団カードなら、コア1個以下のスピリットを破壊。残ったパイロットブレイヴを破壊だ」

 

 

2体のランドマン・ロディが攻撃を開始する。その過程でヨッカの残っていたパイロットブレイヴのカードがトラッシュへと誘われ、クーデリア&アトラの【神域】の効果で、デッキ上から2枚のカードが、新たにオーカミの手札へと加えられる。

 

 

「2体ともライフで受けるぜ」

 

 

〈ライフ4➡︎3➡︎2〉九日ヨッカ

 

 

2体のランドマン・ロディは、小型の斧を振り下ろし、ヨッカのライフバリアを1つずつ破壊。

 

遂に残り2つ。そして、そのトドメには、バルバトスルプスが赴く。

 

 

「アニキ」

「!」

「ありがとう。オレにバトスピを教えてくれて、アニキがいたからオレ、大事なモノができたし、それを守る事ができる」

「……来いよ」

「あぁ、バルバトスルプスで、ラストアタック」

 

 

オーカミが、ヨッカにこれまでの感謝を言葉にすると、バルバトスルプスがヨッカの眼前へと到着。

 

アーミラリー・スフィアの銃口を、彼へと向ける。

 

 

「見事だぜ兄弟。ライフで、受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉九日ヨッカ

 

 

全てを受け入れ、トドメの一撃を受ける宣言をするヨッカ。

 

バルバトスルプスの持つ、アーミラリー・スフィアの銃口から放たれた闇の弾丸が、彼の最後のライフバリアを打ち砕いた。

 

その瞬間「ピー……」と言う甲高い機械音が、ヨッカのBパッドから響き渡り、オーカミの勝利を告げる。

 

そうだ、勝ったのだ。この瞬間、鉄華オーカミは、己のバトスピを教えてくれた師匠である九日ヨッカを、超えた。

 

 

「アニキに、勝った……!!」

 

 

その事実に実感が湧いて来たのか、オーカミは珍しくわかりやすい喜び方を見せる。

 

この光景に、ヨッカは遂に根負けして………

 

 

「オレの負けだオーカ、オマエ、ホント強くなったな……!!」

「……うん、アニキのお陰だ」

「負けちまったもんは仕方ねぇ、許可してやるよ」

「あぁ、ありがとう」

「だがオレも行くぞ。オマエとのバトルに、勇気をもらった。ビビってるなんてオレらしくねぇ、もう一度、嵐マコトをこの手でぶん殴ってやるんだ」

「それでこそアニキだ」

 

 

オーカミのライを救けに向かう行為を許すヨッカ。

 

震えていた指先を拳として固く握り締め、決意を新たにする。

 

 

「よし、じゃあさっさとライを救けに行こう、そう言えばアニキ」

「ん、なんだ」

「児雷也森林ってどこ?」

「オマ、何もわからずに行こうとしてたのかよ!!」

「はは、ごめん、あの時は気が立ってたから」

 

 

そこから少し、可笑しな状況に、2人は笑い合う。

 

ヨッカは、きっとコイツはオレの最高の相棒なのだろうと思い、この日々を守るために、戦い抜いて見せようと、静かに誓った。

 

 

「行こうぜオーカ、オレら2人なら、どんな奴にも負けねぇ」

「あぁ、待ってろ嵐マコト、徳川フウ。ライは、返してもらう」

 

 

2人は間もなく、春神ライと春神イナズマを救出すべく、徳川フウと嵐マコトが潜んでいるであろう児雷也森林へ向かう。

 

これから始まるのは、楽しさとは縁のない、命と隣り合わせの、本当の戦いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、新章『悪魔と魔女編』開幕

 

第58ターン「鉄華団VS鉄華団」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イ、ライ……ライ』

「!」

 

 

ふと、目が開いた。

 

春神ライの意識が戻る。

 

 

『よかった、やっと気がついた』

「エア、リアル……?」

『そう。僕はエアリアル。君の1番の相棒さ』

 

 

気がつくと、無限に広がる、電子的な青い空間に居た。ライを蛇澤マツリから助けてくれた謎のモビルスピリット、エアリアルもそこの宙を漂っている。

 

 

「そう、さっきはありがとう、助けてくれて」

『……元気がないね。やっぱり気にしてる?……自分がエニーズ02だった事と、後徳川フウの事』

「………」

『気にしてそうだね』

 

 

それはそうだろう。13年も生きて来て、いきなり怪物を倒すために造られた怪物だと言われ、さらには親友だと思っていた人物が、実は敵だったのだから。

 

今でも、思い出そうとするだけで、動悸が早まってショック死してしまいそうだ。気にならない訳がない。

 

 

『気にするなとは言はないよ。内容が衝撃的過ぎて、そんなの無理だと思うし、でも忘れないで、君は確かに普通の人間とは違うけど、君の事を大事に想っている仲間や友達が、まだ沢山いる事を』

「……」

『もちろん、僕もその1人さ』

「仲間、友達……ヨッカさん」

 

 

自分の事を大事に想ってくれている仲間や友達。

 

ライが真っ先に思い浮かんだのは、他でもない九日ヨッカだ。

 

そして、それと同時に、彼に放ってしまった悪言の数々も想起してしまい………

 

 

ー『触らないで!!』

 

ー『嘘だ。知ってたんでしょヨッカさん。知っててずっと私を怪物だと思ってたんでしょ』

 

ー『突然あなたは怪物ですって言われて、落ち着くもクソもないでしょ、何でだよ、何でずっと黙ってたんだよヨッカさん、何で嘘ついてたんだよ、信じてたのに』

 

 

「私、ヨッカさんに酷い事言っちゃった。そんなつもりなかったのに。黙っててくれてたのも優しさだってわかってたのに………わだし、あんなひどいごといっで……!!」

 

 

ライの目から大粒の涙がポロポロ零れ落ち、後悔と懺悔の気持ちが、その表情を歪ませる。

 

 

「ヨッガざん、おごっでるがなぁ……わだしのごと、もういいやとが、おもっでるのがなぁ……!!」

『泣かないで。大丈夫、九日ヨッカは優しい男だ。ライを見捨てたりしないよ』

 

 

うずくまるライを、エアリアルがその鉄の腕で優しく抱き止める。

 

それによって少しだけ落ち着きを取り戻したか、ライは溢れ出た涙を上着で拭う。

 

 

『よく聞いて、ライ。君も、優しい子だ。本当の怪物はね、そう言った心や感情は持ち合わせてないんだよ、鉄華オーカミも『一緒に泣いて、怒って、苦しんで、笑ってくれる奴が怪物な訳ない』と言ってくれていたね』

「ッ……オーカミ、そうだオーカミはどうしたの、アイツ、フウちゃんとバトルして……」

 

 

エアリアルの言葉で、オーカミの事を思い出すライ。自分のために強大な敵に啖呵を切ってくれていたのは覚えているが、それ以降は記憶がないのだ。

 

 

『そんなに彼が心配?』

「え、まぁ」

 

 

質問を質問で返すエアリアル。その直後にため息をつき………

 

 

『はぁ、やっぱりそうなのか、僕アイツはやめといた方がいいと思うな。ぶっきらぼうだし』

「や、やめといた方がいいって、何を……?」

『好きなんでしょ、彼の事?』

「!!」

 

 

エアリアルの核心をついた言葉に、一瞬にしてライの顔は、耳まで真っ赤っかに染め上げられる。

 

 

「ち、ち、ち、違う!!……そう言うのじゃじゃ……!!」

『フフ、やっぱりライは怪物なんかじゃないよ。僕はバトルの中でしか君を守れないけど、大丈夫、ライならきっと、素晴らしい未来を掴み取る事ができるよ……』

「エ、エアリアル!?」

 

 

突如、青く電子的な空間が、白い光に包み込まれて行く。

 

エアリアルと春神ライもまた、その眩い光に飲み込まれた。

 

 

******

 

 

 

「!」

 

 

ライの目が本当に覚める。

 

おそらく、さっきのは夢で、どう言う原理なのかは定かではないが、エアリアルがその中に入って来ていたのだろう。ライを励ますために。

 

 

「ッ……手枷と足枷、そうか私、捕まったんだっけ」

 

 

入っていた場所は鉄の牢屋。真っ白な囚人服を着せられ、鎖付きで繋がれた、手枷と足枷を嵌められていた。

 

 

「気がついたか、ライ」

「!?」

 

 

すぐ向かいの、別の牢屋。

 

知っている声だった。

 

ずっと求めていた声が、そこにはあった。

 

ライは急いで不自由な足枷を引き摺りながら、向かい側の牢屋まで、できる限り近づいた。

 

 

「……お父さん」

「1年、見ない間に、また大きくなったな、ライ」

 

 

向かい側の牢屋にいたのは、ライの父親、いや、育ての親『春神イナズマ』……

 

彼は、ライと同じく真っ白な囚人服と、手枷足枷を嵌められていた。

 

2人の親子の予期せぬ再会。これを機に、間もなく最悪の最終決戦の火蓋が切って落とされる。

 

 

 

 



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悪魔と魔女編
第58ターン「鉄華団VS鉄華団」


徳川フウ、嵐マコトに捕えられてしまったライ。

 

鉄の牢屋にて、ずっと探していた己の父親、春神イナズマと再会を果たす。ほんの少し前なら諸手を挙げて喜んでいたに違いない。

 

だが、エニーズ02として、彼と嵐マコトによって造られたと言う事情を知ってしまった今、複雑な感情を絡ませていた。

 

 

「お父さん……」

「ライ、大きくなったな、本当に……」

 

 

別々の牢屋に収納され、鎖付きの手枷足枷を嵌められている2人。ギリギリ歩けなくもないが、互いに触れ合う事は許されていない。

 

 

「よくそいつの父親面できますね、春神イナズマさん。お伝えしたはずですよ、全ての真実を伝えたと」

「……徳川フウか」

「ッ……フウちゃん」

 

 

そんな折、収容所の廊下に姿を見せたのは、あの伝説のマッドサイエンティスト、Dr.Aを実の祖父に持つ少女、徳川フウ。

 

 

「徳川フウ。君がどう言おうと、私はこの子の父親だよ。家族とは、血ではなく、共に過ごした時間で形成されて行くモノ。故に私とライは、紛れもない歴とした家族だ」

「お父さん……」

「すまなかった、ライ。オマエが傷つくのを恐れ、ずっと本当の事を伝えられなかった事を。全ては私に責任がある、ヨッカは許してあげてくれ」

 

 

イナズマは膝を突き、ライに許しを乞う。

 

もちろん、これだけで全てを許して貰えるとは思っていないだろう。ライを造り、それしか手がなかったとは言え、ヨッカを巻き添えにた彼の罪は余りにも重い。

 

13年間、彼と父子の関係を築いて来たライは、その父に頭を下げられ、困惑するばかりだ。

 

 

「ニッヒヒ……そんな事急に言われたって、何を言えばいいかわかんないよね、ライちゃん♡」

「……フウちゃん、オーカミは、どうしたの」

 

 

親子の会話に割って入って来たフウに、ライが訊いた。

 

それを耳にするなり、フウの口角は不気味な角に上がって………

 

 

「あぁ、死んじゃったよ」

「ッ……!!」

 

 

突然、心に大きな風穴を開けられる。

 

抉られた感情は悲しみとなって埋め尽くされる。

 

 

「う、嘘だ」

「嘘言うわけないじゃん。ゴキブリみたいにしぶとかったな〜……自分の敗北を最後まで認められない、哀れな奴でしたよ」

「………」

 

 

開いた方が塞がらない。胸の高鳴りが抑えられない。

 

オーカミが死んだと言う事実を、心の底から受け入れられない。

 

 

「崩壊したトンネルの中で響いた最後の遠吠えを、ライちゃんにも訊いて欲しかったものです。まさに、犬死に」

「……!!」

「なに、やろうって言うの?」

 

 

流石に怒りが込み上げて来たライ。自身を閉じ込めている鉄の檻を両手で掴み、涙目になりながらフウを睨みつける。

 

 

「ニッヒヒ、まぁ直ぐにやるんですけどね。ライちゃん、今から貴女にはこの建造物の最上階にて、私と儀式に励んで貰います」

「儀式?」

「えぇ、その内容は、もちろんコレです」

 

 

フウが、1枚のバトスピを見せつけながら、ライにそう告げて来た。

 

つまり、儀式の内容は『バトルスピリッツ』………

 

おそらく、いつもの競技のモノではなく、命を賭けた、本当の戦いだ。ライはそれを直感すると同時に、オーカミをはじめ、ヨッカやイナズマ、自分が生まれて来たせいで凄惨な目に会ってしまった人物達の顔が思い浮かぶ。

 

彼らの幸せを望むなら、選択肢は1つしかなくて………

 

 

「その儀式、私が勝てば?」

「もちろん、ライちゃんとイナズマさんの身は自由。今後一切貴女の周辺には手を出さない事を誓います」

「乗った。やろう、儀式」

「ダメだ行くなライ。奴はDr.Aの孫、どんな恐ろしい事を仕掛けて来るか」

 

 

皆の幸せのため、フウとのバトルに応じるライ。

 

Dr.Aの孫である彼女がただ者ではない事を知っているイナズマは、向かい側の牢屋から言葉でそれを制止させようとするが………

 

 

「大丈夫だよお父さん。私は負けない」

「ニッヒヒ、これで決まりね」

「やめろ、やめなさい、ライ!!……ライ!!」

 

 

イナズマの制止の言葉を受けても尚、止まらず進み出すライ。

 

フウがライの牢を開けると、2人は儀式と言う名のバトルスピリッツを行うため、このレンガで構成された建造物の最上階へと向かう。鉄の牢にただ1人取り残されたイナズマは、ライを守ろうと思っても守ってやれない歯痒さと悔しさで、壁を殴りつけた。

 

 

******

 

 

 

ここは界放市ジークフリード区にある『児雷也森林』……

 

整備されていない、生い茂る緑の数々。木陰により生まれる闇が心をざわつかせる、そんな場所にいるのは、少年、鉄華オーカミと、その兄貴分、九日ヨッカ。

 

彼らは春神ライと春神イナズマを、嵐マコトと徳川フウから取り戻すべく、蛇澤マツリの言葉通り、北東の方角をただひたすらに歩んでいた。

 

 

「そう言えば、イナズマって誰?」

「え」

 

 

歩きながら、オーカミがヨッカに訊いた。彼にとってイナズマは、度々耳にしていた名前ではあるものの、その細かな詳細は伏せられていたため、今更ではあるが、当然の質問だろう。

 

 

「あぁそっか、言ってなかったな。イナズマ先生、春神イナズマは、ライの父親で、オレにバトスピを教えてくれた、恩師だ。嵐マコトとは、Dr.Aの元助手同士だったらしい」

「……アニキの師匠」

「あぁ、言うて最後に会ったのはガキの頃で、13年も前なんだけどな」

 

 

オーカミが春神イナズマの情報で最も耳を傾けたのは、春神ライの父親であると言う事でも、Dr.Aの元助手であると言う情報でもなく、ヨッカの師匠だったと言う情報。

 

 

「あの人からは、バトスピだけじゃない。人として大事な事も沢山教わった恩がある。だからオレは、その御恩をキッチリ返上したいんだ、今日、この日にな」

「いいな、それ。アニキらしくて好きだ、オレ」

「おう、あんがとよ」

 

 

ヨッカの考えに大いに賛同するオーカミ。ヨッカもそれを訊いて、より大きなやる気を獲得した。

 

だがそれも束の間、2人の周囲から、瞬きする間もない程の速さで、白く濁った霧が立ち込める。

 

 

「!」

「これは……」

「やぁやぁご機嫌よう、諸君」

 

 

姿が見えないが、霧の向こう側から声だけが聞こえる。

 

ヨッカとオーカミは、この耳障りな声の正体を知っていて………

 

 

「嵐マコト……!!」

「えぇそうです。よくここがわかりましたね、九日ヨッカ。そして、まさかそんな滑稽な姿になってまでまた喧嘩を売りに来るとは、余程死にたいようですね、鉄華オーカミ」

「オマエはどうでもいいから、早くフウを出せよ、アイツはオレが倒す」

 

 

白い霧の中、どこで監視をしているのか、2人を視認できている嵐マコト。この白い霧は、おそらく彼が出現させているモノなのだろう。

 

 

「フウ様はね、今忙しいのですよ。己の夢を叶えるためにね」

「夢?」

「その夢を妨げようモノなら、あのDr.Aをも超えた、エクセレントな世界の支配者である、この私が、お相手になりますよ。さぁ、1人ずつ潰して差し上げましょう!!」

「!!」

 

 

嵐マコトがそう宣告すると、思わず目を瞑ってしまう程の突風が吹き荒れ、白く深い霧が瞬く間に濃くなり、オーカミとヨッカの視界が何も見えなくなってしまう。

 

 

「……!!」

 

 

風が止み、オーカミが目を開けると、その景色は森林から一変し、水滴1つ残りそうにない、砂漠へと変貌していた。

 

 

「どこだ、アニキは?」

 

 

直ぐにヨッカがいなくなっていた事に気がつく。だが、どこをどの方角で見渡しても、ここは砂漠、暑さ極まりない、砂のみの世界。

 

 

「やぁオーカミ君。無事ですよ、九日ヨッカならね」

「嵐マコト」

 

 

姿なき嵐マコトの声が、今度はこの地に響く。

 

 

「驚いたでしょう。私は元々、ありとあらゆるモノをデータ化する研究をしていましてね。この程度の事、造作もないのですよ。これこそまさに神の所業」

「黙れよ。オレと戦いたいなら、高みの見物なんかしてないで、今直ぐオレの目の前に来い」

「おぉおぉ、怖い怖い。どうやら、フウ様が貴方の逆鱗に触れてしまったようですね」

 

 

嵐マコトに会ってからと言うもの、口から出て来る一言一言の言葉の切れ味が増していくオーカミ。

 

フウや彼に対する怒りが抑えられない事の表れであろう。

 

 

「だけど、貴方がバトルするのは、フウ様でも、私でもありませんよ」

「……さっきと言ってる事が違うぞ」

「私がお相手するとは言ったが、私がバトルするとは一言も言ってませんからね。貴方のお相手は、貴方自身ですよ」

「なに」

 

 

嵐マコトがそう告げると、オーカミの目の前に、デジタル粒子が密集し、もう1人の鉄華オーカミを形成する。

 

 

「オレがもう1人……」

「私の技術力、凄いでしょう。名付けて、鉄華オーカミ・アナザー」

「ダサ」

 

 

嵐マコトが名付けた安直なネーミングに、オーカミがツッコむ。確かにダサい。

 

 

「さぁオーカミ・アナザーよ、その目に映る本物を、亡き者に」

「だってさ、やるぞ本物。バトル開始だ」

「……」

 

 

デジタル粒子で構成されたもう1人の鉄華オーカミ、鉄華オーカミ・アナザー。

 

Bパッドを展開し構え、本物の鉄華オーカミにバトルを仕掛ける。

 

 

「まぁいいや、準備運動にちょうどいい。やるぞニセモノ、バトル開始だ」

 

 

本物のオーカミが、ここで逃げるわけがない。同じくBパッドを展開し構え、動くようになった右手でそこから4枚のカードをドローする。

 

 

「アッアッア……エクセレントなバトルを、期待してますよ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

目の前の風景と己、それら全てがデジタル。全てが偽りで偽物。

 

そんな中、鉄華オーカミと鉄華オーカミ・アナザーによるバトルが幕を開ける。

 

先攻はアナザーの方だ。体格や髪色に髪型、性格から口調まで、そのほとんどをコピーしたそれが、己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ・アナザー

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、オルガ・イツカを配置」

「!!」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「デッキまで同じなのか」

「配置時の神託により、コア+2。ターンエンド、オマエのターンだぜ、本物」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

そのターンをエンドとするオーカミ・アナザー。ライを助けるため、今度はオリジナルのターンが始まる。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、クーデリア&アトラを配置」

 

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

「神託でコアを2つ追加。ターンエンド」

手札:4

場:【クーデリア&アトラ】LV2(2)

バースト:【無】

 

 

オリジナルのオーカミは、オルガ・イツカと双璧を成す創界神ネクサス、クーデリア&アトラを配置。

 

互いにフィールドには何も現れないタイプのネクサスを配置し、その初ターンはエンドとなる。

 

だが………

 

 

「アッアッア、このバトル、およそ8割方アナザーの勝ちだ」

「……何急に、黙っててくれる?」

 

 

嵐マコトが突然そう言い放った。オーカミはそんな彼の声と言動で不快になる。

 

 

「同デッキ同士の対決、ミラーマッチは、どちらが先に強い攻撃を仕掛けられるかが命運を分ける。アナザーは先に行動できる先攻。しかも鉄華団のデッキの動きにおいて、最も重要な働きをするオルガ・イツカを配置できた。つまり君がアナザーに勝つ確率は、約2割程度しか残っていないと言う事なのだよ」

「へぇ」

 

 

オーカミは嵐マコトの分析に、興味なさそうな反応を見せる。

 

だが現実に、このミラーマッチで運負けしているのは事実で。

 

 

「アッアッア、その余裕、どこまで続くかな。さぁやってしまうのです、アナザー」

「うるさいな」

 

 

オーカミの性格をコピーしているからか、アナザーもまた、嵐マコトの言葉と言動で不快になっている様子。

 

次はそんなオーカミらしい一面を垣間見せるアナザーのターンだ。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ・アナザー

 

 

「メインステップ、バルバトス第1形態をLV1で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(2)BP2000

 

 

「バルバトス……」

「召喚時効果でデッキ上から3枚オープン、その中のランドマン・ロディを手札に加え、残りは破棄」

 

 

オーカミの前に初めて敵として立ちはだかるバルバトス、その第1形態。効果によりアナザーの手札に「ランドマン・ロディ」のカードが加えられた。

 

 

「アタックステップ、バルバトス第1形態でアタックだ。フラッシュタイミングでオルガの【神域】……デッキ上3枚を破棄して、1枚ドロー」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

バルバトス第1形態の拳が、オーカミのライフバリア1つを粉砕。

 

鉄華団使いの鉄華オーカミが、鉄華団のバルバトスからライフを奪われると言う異様な光景。オーカミは激しいバトルダメージによりよろけるが、その表情からは自然と笑みが溢れて来て………

 

 

「いいね、ミラーマッチ。鉄華団VS鉄華団。いつも背中しか見ていないバルバトスを、真正面から見れるなんて、最高だ」

「………その感情は持ち合わせてないな、ターンエンド」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

命懸けのバトルスピリッツの中、自分しか所持していないはずのデッキ同士でのバトルと言う特異な状況に、オーカミは心躍っていた。

 

嵐マコトによりデジタルから作り出されたアナザーには、到底理解し得ない感情であろう。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、バーストをセット。オルガがいない分のアドバンテージをここで取り返す。大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(3)BP9000

 

 

反撃すべく、オーカミがフィールドへ繰り出したのは、黒き戦棍メイスを片手に持つ、バルバトスの基本形態、第4形態。

 

 

「成る程、少しでも勝率を上げるために、エースを早めに召喚ですか。しかし、無意味な事です」

「アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック」

 

 

嵐マコトが不適に笑みを浮かべる中、オーカミがアタックステップへ突入。バルバトス第4形態でアタックを行い、それが持つアタック時効果も発揮させる。

 

 

「アタック時効果、バルバトス第1形態からコア2個をリザーブへ置き、消滅」

 

 

背部のスラスターで飛翔し、砂塵を巻き上げながら、アナザーのフィールドへと突撃するバルバトス第4形態。

 

メイスを振い、バルバトス第1形態の胸部を強打して爆散へ追い込むと、次はアナザーのライフバリア目掛けて突き進む。

 

 

「やるな、本物。だが相手によって鉄華団スピリットがフィールドを離れる時、手札から「ガンダム・フラウロス」の効果を発揮」

「!」

「コレを手札からノーコスト召喚する」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]】LV1(2)BP5000

 

 

バルバトス第1形態の消滅により、アナザーの手札にあるフラウロスの効果が誘発。

 

大量の銃火器武装に、マゼンタのカラーの装甲を持つ、鉄華団スピリット、フラウロスが彼のフィールドへと降り立った。

 

 

「今度はフラウロスか」

「バルバトス第4形態のアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ・アナザー

 

 

BPで劣るためか、召喚したフラウロスでブロックはせず、バルバトス第4形態のアタックをライフで受けるアナザー。

 

バルバトス第4形態は、メイスを縦一線に振い、彼のライフバリア1つを粉々に粉砕した。

 

 

「バルバトス第4形態の効果を発揮、自分のスピリットがアタックしたバトル終了時、トラッシュから鉄華団を1コスト支払って召喚できる」

「知ってるさ」

「オレはコレにより、バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「不足分のコストは、バルバトス第4形態をLV1にして確保。バルバトス第1形態の召喚時効果で、デッキ上3枚をオープンし、その中のビスケットを手札へ、残りは破棄。ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【クーデリア&アトラ】LV2(4)

バースト:【有】

 

 

バルバトス第4形態の効果により、オーカミもバルバトス第1形態を召喚。その効果により、鉄華団のネクサスカード「ビスケット・グリフォン」を手札に加え、このターンはエンドとした。

 

 

「オレのターンだ。本物、オマエならオレがさっきあのタイミングでフラウロスを召喚した意味、わかるよな?」

「………」

 

 

次はアナザーのターン。同じデッキを使うオーカミは、残ったフラウロスがどう言う使われ方をするのかを理解していて………

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ・アナザー

 

 

「メインステップ、フラウロスのLVを3にアップ。そしてそれを対象に【煌臨】を発揮」

「……来るか」

「天地を揺るがせ、未来へ響け!!……ガンダム・バルバトスルプスレクス、LV3で煌臨!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス】LV3(5)BP16000

 

 

アナザーの背後から、巨腕を持つ白いモビルスピリットの影が、フィールドへと飛び出し、そこにいるフラウロスと重なり合って1つの存在となる。

 

こうして誕生したのは、バルバトスの最終形態、最強の鉄華団スピリット、バルバトスルプスレクス。身の丈程はある超大型メイスを構え、オーカミの目の前に敵として立ちはだかる。

 

 

「ルプスレクス……」

「実にエクセレントですアナザー。もう鉄華オーカミに勝ち目はないでしょう」

「追加でランドマン・ロディをLV1で1体召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

どこかでこのバトルを傍観している嵐マコトは、ルプスレクスを先に着地させたアナザーの勝利を確信。

 

アナザーは余ったコアで、丸みを帯びた鉄華団の小型モビルスピリット、ランドマン・ロディを召喚すると、アタックステップへと移行して………

 

 

「アタックステップ。その開始時にオルガの【神技】を発揮、自身のコア4つをボイドに置き、トラッシュから鉄華団ブレイヴ、三日月・オーガスを召喚し、バルバトスルプスレクスに直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3(5)BP22000

 

 

オルガの効果を発揮させ、トラッシュからバルバトスルプスレクスにブレイヴを合体させるアナザー。

 

鉄華団最強の合体スピリットを、あろう事かその使い手であるオーカミの前に爆誕させた。

 

 

「ルプスレクスでアタック、その効果で先ずはデッキ上2枚を破棄、鉄華団カードがあるため、紫シンボル1つを追加」

 

 

容赦なくルプスレクスで攻撃を仕掛けるアナザー。そのアタック時効果により、デッキを破棄しつつ、シンボルを3つにまで増加させる。

 

だが、重要なのはそこではなく、それを使ったことにより、彼のトラッシュのカードの合計枚数が10枚を超えたと言う点であり………

 

 

「くっ……これで、トラッシュのカードが11枚」

「そうだ。コレにより、バルバトスルプスレクスのもう1つの効果を発揮できる。このターンの間、オマエの全てのスピリット、ネクサスのLVコストは+1、バルバトス第4形態と第1形態は消滅だ」

 

 

アナザーのトラッシュのカードが合計10枚を超えたため、ルプスレクスの真の力が解放される。

 

ルプスレクスは背部にあるテイルブレードと呼ばれる武装を、まるで本物の尾のように展開し、それでオーカミのフィールドに存在するバルバトス第4形態と第1形態の胸部や肩、腹部を何度も貫く。

 

バルバトスの最終形態にして鉄華団最強スピリットの強力な攻撃を受けてしまった2体は、堪らず爆散。オーカミのフィールドはガラ空きとなる。

 

 

「さらに三日月の【合体中】効果で、オマエのリザーブのコア2つをトラッシュへ」

 

 

追い討ちを掛けるアナザー。消滅させられた2体のスピリットのコアも、リザーブではなくトラッシュへと送られ、反撃する隙さえ与えない。

 

 

「そして今のルプスレクスはトリプルシンボル、ライフを3つ破壊する」

「………」

 

 

フィールドにはこのタイミングでは何もできない創界神ネクサスのみ。リザーブのコアも枯らされた。

 

オーカミはただ、そのアタックを受ける事しかできない。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐぅっ……!?!」

 

 

超大型メイスを縦一線に振るったルプスレクスの全力の一撃。最初の一撃とは比にならないバトルダメージが、オーカミに襲い掛かる。

 

何度も食らった激しいバトルダメージ、慣れない痛み、気を抜けば意識が飛びそうになる。

 

だが、ライのためにも負けられないオーカミは、歯を食いしばり、痛みを堪え、伏せていたバーストカードをここで発動させる。

 

 

「ライフ減少後のバースト、絶甲氷盾」

「……」

「ライフ1つを回復させる」

 

 

〈ライフ1➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

反転させたバーストカードは最も汎用性の高いとされる白属性のマジックカード『絶甲氷盾〈R〉』………

 

コア不足でコストが支払えないため、アタックステップを終了させる効果は発揮できないものの、バースト発動時の効果により、オーカミはそのライフ1つを取り戻した。

 

 

「これで、残ったランドマン・ロディでアタックしても、オレのライフは全て奪えない」

「流石本物だ、よく粘る。ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3

【ランドマン・ロディ】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

追撃の意味はないと察知し、アナザーはランドマン・ロディをブロッカーとして残し、そのターンをエンド。

 

風前の灯ながらも生き残った、本物の鉄華オーカミのターンへと移る。

 

だが、ルプスレクスによってフィールドを荒らされてしまった事はかなりの痛手であり………

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ネクサス、ビスケット・グリフォンを配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV1

 

 

「効果発揮、疲労させてデッキ上1枚をオープン、鉄華団カードなら手札へ加える」

 

 

前のターンに手札としていたビスケットのカードを配置。いつも通りフィールドには何も出現しないが、オーカミはその効果により、オープンされた「オルガ・イツカ」のカードを回収、手札へ加えた。

 

 

「続けてオルガを配置。配置時の神託により、コア+3」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV2(3)

 

 

「アッアッア、今更オルガか。遅いぞ、とっくに君の負けは確定している」

 

 

ビスケットの効果で手札に加えたオルガをそのままフィールドへと配置。

 

だが、嵐マコトの言う通り、既に遅い。

 

アナザーのフィールドには、鉄華団最強のルプスレクスが、超大型メイスを構えて聳え立っているのだ。今更このアドバンテージの差を取り返す事はほぼ不可能、ミラーマッチなら尚更だ。

 

 

「リザーブに残った全てのコアをビスケットへ置き、ターンエンドだ」

手札:4

場:【オルガ・イツカ】LV2(3)

【クーデリア&アトラ】LV2(4)

【ビスケット・グリフォン】LV2

バースト:【無】

 

 

「アッアッア、滑稽ですね、勝機を見出せないとは言え、ヤケクソになってネクサス1つに全てのコアを集中させるとは。貴方の始末が終われば、次は九日ヨッカです」

 

 

残ったリザーブのコア8個を、ビスケットの上に置き、そのターンをエンドとする。

 

打つ手がなく、ヤケクソになったかのようなプレイに見えるが………

 

 

「この感じ、なんだ……!?」

 

 

デジタルで構築された偽物である、アナザーだけがこの違和感を感じていた。

 

己の本物の余裕綽々とした涼しい顔。圧倒的に優位な状況に立っていると言うにもかかわらず、蛇に睨まれた蛙の、蛙側にいるかのような、不思議な感覚。

 

 

「何をしているのですアナザー、早くターンを進めなさい。鉄華オーカミの性格とデッキと戦略をコピーした貴方なら、この状況が勝ち確定だと言う事はお分かりでしょう」

「……」

 

 

どこかで観ている馬鹿は気づいていない。

 

だが、進まなければならない事もまた事実。アナザーは本物にトドメを刺すべく、巡って来た己のターンを進め始める。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ・アナザー

 

 

「メインステップ、2体目のランドマン・ロディをLV2で召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2S)BP3000

 

 

アナザーは2体目のランドマン・ロディを召喚。オーカミとの戦力差をさらに広げていく。

 

 

「アタックステップ。もう逃げ場はないぞ、本物。バルバトスルプスレクスでラストアタック、効果でデッキを破棄し、トリプルシンボルへ」

 

 

遂に最後のアタックステップへ突入。アナザーは再びルプスレクスでオーカミに攻撃を仕掛ける。

 

トリプルシンボルになり、決定打を得るには十分過ぎる打点を確保したが………

 

 

「だけど、LVコストを上げる効果と、三日月のリザーブのコアをトラッシュに置く効果は、ビスケットに全てのコアを置いているから、実質無効だ」

「ッ……このためにリザーブのコアをネクサス1つに集中させたのか」

 

 

ここでビスケット1つにコアを集中させた事が功を制す。これにより、オーカミのフィールドからは1枚もフィールドから離れず、コアがトラッシュへ送られる心配もない。

 

 

「オレにしては、気づくのが遅かったな」

「アッアッア、しかし、だから何だと言うのです。ネクサスカードでブロックでもするつもりですか」

 

 

嵐マコトが笑いながらそう告げる。

 

確かに、何もしなければ、ルプスレクスのトリプルシンボルのアタックによる一撃で沈むだけだ。

 

だが、それを阻止しつつ、勝機を見い出すためにこの手段を使ったのだ。

 

今の鉄華オーカミが、何もしない訳がない。

 

 

「一々口出しするなよ。これはオレと、昔のオレとのバトルだ」

 

 

オーカミの雰囲気が変わり、やや鋭くなる。

 

そして彼は、この状況を一変させるべく、手札にある1枚のカードを、己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「行くぞ、オレのカード達。フラッシュアクセル、紫のブレイヴカード、死骸銃ドラグヘッドの効果を使用する」

「ッ……!?」

「な、何!?……鉄華団のカードじゃないだと!?」

 

 

オーカミが使用したカードに、彼の偽物であるアナザーは言葉を詰まらせ、嵐マコトは逆に声を荒げる程に驚愕する。

 

無理もない。たった今、彼の使用したカードは、鉄華団のカードでも、汎用性に富んだ有名なカードでもなく、見たこともない紫のカードだったのだから………

 

 

「面白いだろ。本日のハイライトカードだ、コイツの効果で、ルプスレクスのコア2つをリザーブへ置き、そのLVを3から2に下げる」

「くっ……」

 

 

オーカミが発揮したアクセル効果により、ルプスレクスの機体内から2つのコアが弾け飛ぶ。合計のコア数が5から3となり、それに合わせてLVも3から2へとダウンした。

 

さらに、そのカードの本領発揮はここからであり………

 

 

「この効果発揮後、手札1枚を破棄し、このカードを手元に置かず、そのままノーコスト召喚だ」

 

 

ー【死骸銃ドラグヘッド】LV1(3)BP4000

 

 

紫色の魔法陣が大地に刻まれ、そこから龍の頭骨を用いて造られた銃、死骸銃ドラグヘッドが出現。

 

 

「ブロッカーが増えた所で、オレのルプスレクスは止められない。フラッシュ、オルガの【神域】を発揮、デッキ上3枚を破棄して1枚ドロー、さらにこのターンの間、相手は効果でアタックステップを終了できない。これで絶甲氷盾は封じた」

 

 

回って来たフラッシュタイミングで創界神ネクサスであるオルガの【神域】の効果を発揮、絶甲氷盾をケアする。

 

だが、本物はそれくらいで止まる程、生半可なモノではない。

 

 

「そんなカードはもう使わないさ。使うのは、コレだ、フラッシュ【煌臨】を発揮、対象は【装填】の効果を持つ、死骸銃ドラグヘッドだ」

「ブレイヴに煌臨!?」

 

 

ブレイヴであっても【煌臨】の対象とする事ができる効果【装填】を発揮させるドラグヘッド。

 

それにより、オーカミが手札からアナザーへ見せたのは、フラッシュタイミングで煌臨できるバルバトスルプスだ。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV2で煌臨。死骸銃ドラグヘッドの【装填】の効果により、煌臨元から、そのまま合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+死骸銃ドラグヘッド】LV2(3)BP12000

 

 

砂漠のフィールドに突如出現したのは、邪悪なオーラを纏う、冥府の扉。その扉から現れたのは、バスターソード状のメイス、バルバトスルプス。

 

登場するなり、地に落ちているドラグヘッドを手に取り、剣銃を携えた、合体スピリットとなる。

 

 

「ルプスの煌臨アタック時効果、デッキ上2枚を破棄し、その中の鉄華団カード1枚につき、コア3個以下のスピリット1体を破壊」

 

 

オーカミのデッキ上から2枚のカードが破棄、その中には当然、鉄華団のカードが存在していて。

 

 

「破棄したカードは、鉄華団「ガンダム・グシオンリベイクフルシティ」と「クーデリア&アトラ」……よって、コア3個以下のスピリット2体、LV2のランドマン・ロディと。ルプスレクスを破壊だ……!!」

 

 

砂塵を巻き上げながら、天空へと飛翔するバルバトスルプス。そして敵のフィールドへと居座るルプスレクスへと急降下。

 

風を切り突き進む中、ドラグヘッドから闇のエネルギーが詰まった弾丸を連射。ランドマン・ロディは被弾し、即爆発させられるが、ルプスレクスは背部のテイルブレードを伸ばし、難なくそれを斬り落とし、誘爆させる。

 

だが、爆発による爆煙を利用し、バルバトスルプスは、ルプスレクスの背後を取る事に成功。最後は背後からソードメイスで、背部から胸部を刺し貫き、爆発に追い込んだ。

 

 

「ルプスで、ルプスレクスを破壊するだと!?」

「クーデリア&アトラの【神域】の効果でドロー。先攻を取られて、オルガを先に配置された段階で、オレの不利は確定していたからな。それを覆すために、このタイミングで使える、ルプスを絡めたカウンターコンボを狙っていたのさ」

「バトルの序盤から、コレを……!?」

「そうだ」

 

 

小さな笑みを浮かべながら、アナザーにそう告げるオーカミ。

 

アナザーは確かにオーカミの性格や戦術、鉄華団のデッキなど何もかもをコピーした存在だが、それ故に、自身の成長はない。本物であり、周囲のバトルの技術を取り込み、常に成長を続けけていく鉄華オーカミに、敵うわけがないのだ。

 

 

「ターン、エンドだ」

手札:4

場:【ランドマン・ロディ】LV1

【三日月・オーガス】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

最強だったアタッカー、ルプスレクスを失い、逆に合体したルプスの登場を許してしまう羽目になったアナザー。

 

己のデータにない戦略に困惑しながらも、静かにそのターンをエンドとした。

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「ルプスのLVを3に上昇させ、アタックステップだ。飛べ、ルプス!!」

 

 

LV3、BP17000にも到達したバルバトスルプスが、背部に装着したスラスターを活かし飛翔する。

 

その鉄の眼光で視界に入れたのは、アナザーのフィールドに残った2体目のランドマン・ロディ。

 

 

「ルプスの【合体中】LV2、3の効果で、残ったランドマン・ロディを消滅。煌臨アタック時効果で三日月を破壊だ」

 

 

ルプスの持つドラグヘッドから放たれた闇のエネルギーが詰まった弾丸の弾幕。それがアナザーのフィールドに残った最後のランドマン・ロディを爆散へと追い込む。

 

 

「フラッシュ、オルガ・イツカの効果で、オレも絶甲氷盾をケア。さらにフラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】により、トラッシュの鉄華団1枚をデッキ下に置き、ルプスを回復」

 

 

オーカミは次々とドローをしつつ、白の防御マジックまでケアをし、トドメを刺すべくルプスに二度目の攻撃権利を与える。

 

ここまで来てしまったら、もう詰みである事は、全く同じデッキタイプを使用している、アナザーが1番よくわかっている。

 

 

「あぁ、これが本物のオレ。なんて強いんだ、いつかオレも、こんな風になれたら………」

「ルプスで二度の連続アタックだ……!!」

「ライフで、受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2➡︎0〉鉄華オーカミ・アナザー

 

 

アナザーが己の存在を憂い、本物の存在を羨みながら、バルバトスルプスのソードメイスによる二撃を受け入れる。

 

これにより、彼の全てのライフバリアは砕け散った。本物の鉄華オーカミの勝利を告げるように、偽物のBパッドから「ピー……」と言う甲高い機械音が鳴り響いた。

 

 

「オレの勝ちだな、ニセモノ」

 

 

バトルに敗北し、片膝をつくアナザーに、オーカミがそう告げる。

 

命懸けのバトルだったとは言え、初めてのミラーマッチ、楽しかったのだろう、その表情は優しい笑みを浮かべていた。

 

 

「やっぱ、色んなバトルを経験してる本物はいいな。鉄華団じゃないカードをたくさん知ってる」

「ふ……真正面からルプスレクスを見せてくれてありがとう。オマエとのバトル、楽しかった」

「……オレもだ。またやろう」

 

 

最後にそう言い残し、アナザーはその肉体を粒子と化し消滅していく。オーカミを取り囲んでいた周囲の砂漠の光景も同様に消滅し、緑生い茂る児雷也森林へと戻る。

 

バトスピを愛する己同士、最終的には仲良くなった本物の鉄華オーカミと、偽物の鉄華オーカミ・アナザー。

 

もっと楽しみたいのは山々であったが、それは叶わぬ夢。本物のオーカミは、間もなく真の戦いを、暴力の嵐へ飛び込まなくてはならなくて。

 

 

「で、次はアンタが相手って事か、嵐マコト」

 

 

気配を感じ取ったか、オーカミが振り向いたその先には、Dr.Aに魅せられた怪物、嵐マコトの姿があった。

 

 

「アッアッア……どうやら、鉄華団と相性の良いカード達をデッキへ差し込む事によって、その爆発力を極限まで高めているようだね」

「だから?」

「その程度は所詮付け焼き刃。最強のスピリット、エボルの最終進化形態、クローズエボルを取り入れた私のデッキには、遠く及ばないと言う事さ。アッアッア、アーッアッアッア!!」

 

 

嵐マコトの高笑いする声がこだまする。

 

悪魔の科学者、Dr.Aの力に魅入られし者、嵐マコト。仲間のために、迷いなく突き進む者、鉄華オーカミ。

 

2人のバトルスピリッツが、今、激しくぶつかり合う。

 

 

 






次回、第59ターン「悪魔の棲むカード」


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第59ターン「悪魔の棲むカード」

「ずっと、騙してたんだね」

 

 

緑生い茂る、界放市ジークフリード区の児雷也森林。そのどこかにある巨大な塔にて、手錠を嵌められた春神ライが、悪魔の血を引く少女、徳川フウに告げた。

 

 

「ニッヒヒ、今更だね」

「友達だと思ってたのに」

 

 

悲壮感を漂わせるライ。

 

父親を誘拐され、取り戻すために命懸けでバトルを行い、その中で己がDr.Aを倒すためだけに造られた『エニーズ02』だと知らされ、さらには親友がDr.Aの孫で敵だと来た。

 

今思い返しても、残酷で、散々な目に遭っている。

 

 

「ライちゃんとの友情ごっこ、楽しかったよ」

「……いつから私がエニーズ02だって気づいてたの」

「最初から。知ってた上で近づいた」

「……」

 

 

またショックを受ける。フウがライと友達になった後に真実を知ったのなら、まだ少しは心が救われていた。

 

そうであれば、少なくとも真実を知る前は、本当の友達の関係だったと証明できたからだ。

 

 

「何で、私に近づいたの」

「ニッヒヒ、それにはまだ答えられないんだなぁ」

「まだ?」

「さぁ、儀式をやる最上階までもう少しだよ、頑張って」

 

 

Dr.Aの実の孫と言う事以外、ほとんどが謎に包まれている徳川フウ。

 

ライの質問をはぐらかし、彼女と共に、塔の最上階へと歩みを進める。

 

 

******

 

 

一方外。界放市ジークフリード区にある、緑生い茂、多くの木々が葉を揺らす児雷也森林にて。

 

かのDr.Aに魅入られ、己に進化の力を施した科学者、嵐マコト。

 

仲間を助けるためだけに己の身1つでここまでやって来た少年、鉄華オーカミ。

 

まさに一触即発、この2人のバトルスピリッツが、今にも幕を開けようとしていた。

 

 

「アッアッア、最初は、ゼノンザードスピリットの力を試す試験用のカードバトラーとして、獅堂レオン君との二択だっただけの少年が、よもやこの私に歯向かって来るまでになるとはね」

「………」

 

 

嵐マコトが、そうオーカミに告げながら、己のBパッドを左腕へと装着し、展開。デッキを差し込んでバトルの準備を完了させる。

 

 

「しかしこれまでです。獅堂レオン、鈴木レイジ、早美ソラ、幾度となく強敵を下し、快進撃を起こして来た貴方も、今日ここで、私によって滅ぼされ、命を落とすのです」

「そう言うのどうでもいいからさ、とっとと始めようよ。時間の無駄だ」

 

 

ライを奪われた事で怒りが心頭しているオーカミ。前のバトルで展開したBパッドを、そのまま嵐マコトへと向けて、構える。

 

 

「アッアッア、アナザーを倒したからといって調子に乗らない方がいい。今の私は、あのDr.Aをも凌ぐ力を持っている、さらにはアルファベットも私が倒した。貴方如きが敵う相手ではないのだよ」

「調子に乗るなって言うのは、オレのセリフだ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

緑生い茂る児雷也森林にて、木陰で彩る白昼の中、鉄華オーカミと嵐マコトによるバトルスピリッツが、コールと共に幕を開ける。

 

先攻は鉄華オーカミだ。目の前の障害物を叩き潰すべく、己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「オレからだ、メインステップ、バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でデッキ上から3枚オープンし、その中にある鉄華団カード1枚を手札へ。オレは『オルガ・イツカ』を手札に加え、残りを破棄」

 

 

オーカミの初動は今回もバルバトス第1形態。所謂ゴッドシーカー効果により、オーカミはメインとなる創界神ネクサス『オルガ・イツカ』のカードを手札へと加えた。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

「私のターンですね、お見せしますよ、圧倒的な力の差を」

 

 

オーカミのターンがエンドとなり、次は嵐マコトのターン。最凶のスピリット、クローズエボルを宿したそのデッキからカードをドローし、それを進めて行く。

 

 

[ターン02]嵐マコト

 

 

「メインステップ、緑の成長期デジタルスピリット、テントモンをLV1で召喚します」

 

 

ー【テントモン】LV1(2)BP2000

 

 

「召喚時効果で自身にコアブースト」

 

 

嵐マコトが初めて召喚したスピリットは、てんとう虫型の小さなデジタルスピリット、テントモン。その効果で1つコアブーストを行う。

 

 

「さらにそれを対象として【アーマー進化】を発揮」

「!」

「轟く友情、ライドラモンをLV1で召喚します」

 

 

ー【ライドラモン】LV1(2)BP5000

 

 

召喚したてのテントモンがデジタル粒子と化し、嵐マコトの手札に戻ると、気高き雄叫びと共に、黒い鎧を纏った青き一角獣、ライドラモンが代わりに彼のフィールドへと現れる。

 

 

「その召喚時効果でトラッシュに2個コアブースト」

「これがアーマー進化か」

 

 

嵐マコトは、後攻の1ターン目であると言うにもかかわらず、テントモンと合わせていきなり3つのコアをブースト。オーカミとのコアの総数に差をつける。

 

 

「アタックステップです。噛み砕きなさい、ライドラモン」

 

 

アタックステップに突入し、嵐マコトはライドラモンに攻撃を命ずる。それに従い、ライドラモンが四本の脚でオーカミのライフバリアを目掛けて駆け出した。

 

 

「第1形態でブロックだ」

 

 

ライドラモンの行く道を、バルバトス第1形態が阻む。体格ではバルバトス第1形態が勝っていたものの、ライドラモンの一角から放たれた青い稲妻によって、その鉄の身体を打ち砕かれ、爆散へと追い込まれた。

 

これにより、このバトル初のアタックステップは嵐マコトの優勢に終わる………

 

かに見えた。

 

 

「鉄華団の第1形態がフィールドを離れる時、手札からグレイズ改弍の効果を発揮」

「ほお」

「このスピリットカードを、ノーコストで召喚」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]】LV1(1)BP2000

 

 

バルバトス第1形態の破壊をトリガーとして、オーカミの手札にある1枚が誘発。彼のフィールドへ、マゼンタカラーの装甲を持つ低コストのモビルスピリット、グレイズ改弍が現れる。

 

 

「さらに流星号が召喚された事で、手札のノルバ・シノの効果を発揮。グレイズ改弍に直接合体するようにノーコスト召喚し、コア2個以下のライドラモンを破壊だ」

「やりますね」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]+ノルバ・シノ】LV1(1)BP6000

 

 

2枚目の誘発カード。紫のパイロットブレイヴであるシノが、グレイズ改弍へと合体。

 

さらにグレイズ改弍は、手に持つ斧をブーメランのように投げ、それをライドラモンへ直撃させ、爆散へと追い込む。

 

 

「グレイズ改弍の召喚時効果で1枚ドロー」

「アッアッア、まさかそのセットを初手に引き込んでいたとはね。やはり貴方は引きが強い」

「……」

「だが、すぐにわかる。その程度の要素では、この私に勝てない事をね、ターンエンドです」

手札:4

バースト:【無】

 

 

最初のターンから痛いカウンターを諸に受けてしまったものの、己のデッキに自信があるのか、余裕な笑みを浮かべる嵐マコト。

 

その彼の言葉をシカトし、オーカミの次なるターンが幕を開ける。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、オルガ・イツカ、クーデリア&アトラを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

「配置時の神託を発揮。オルガに+2、クーデリア&アトラに+1」

「鉄華団スピリット達を支える、2種の創界神ネクサスのご登場ですか」

 

 

オーカミが鉄華団の2種の創界神ネクサスを配置。

 

そして彼の鉄華団デッキは、この2枚が揃った途端に加速して行く。

 

 

「グレイズ改弍のLVを2に上げ、アタックステップ。グレイズ改弍でアタック、シノの効果で手札1枚を破棄して、2枚ドロー」

 

 

オーカミのアタックステップ。グレイズ改弍でアタックを行うと、そのフラッシュタイミングで、彼はより勝利に近づくべく、己の手札1枚をBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はアタック中のグレイズ改弍」

 

 

スピリットを新たな姿へ昇華させる効果【煌臨】………

 

その効果を発揮させたオーカミの背後から、白い装甲のモビルスピリットの影が飛び出す。それはフィールドのグレイズ改弍を依代として重なり合い、姿を見せる。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV2で煌臨」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+ノルバ・シノ】LV2(2)BP12000

 

 

こうして現れたのは、バスターソード状のメイス、ソードメイスを片手で携えた、鉄華団のバルバトスの1種、ガンダム・バルバトスルプス。

 

 

「対象スピリットの煌臨により、2種の創界神ネクサスに神託。バルバトスルプスの煌臨アタック時効果でデッキ上2枚を破棄、クーデリア&アトラの【神域】の効果が誘発、トラッシュにある紫1色のカード1枚をデッキ下に戻して1枚ドロー」

 

 

ルプスの煌臨アタック時効果により、クーデリア&アトラの効果が誘発する。

 

鉄華団カードの効果でデッキが破棄された時に誘発する、クーデリア&アトラの【神域】の効果。トラッシュの要らないカードをデッキに戻しつつ、ドローを行い、オーカミの手札とトラッシュの質を高めて行く。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】を発揮。デッキ上から3枚のカードを破棄し、1枚ドロー。クーデリア&アトラの効果がまた誘発、トラッシュのカードをデッキ下に戻して1枚ドロー」

「これで貴方の手札は6枚ですか」

「ルプスのアタックは続いてるぞ、合体によりダブルシンボル、2つのライフを破壊できる」

 

 

大量のドローとトラッシュ肥やしを行い、デッキを加速させるオーカミ。その上で、さらに強力なスピリットである、バルバトスルプスの攻撃が、嵐マコトを待ち受ける。

 

 

「そのアタックはライフで受けましょう」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉嵐マコト

 

 

ソードメイスを縦一線に振い、バルバトスルプスが、嵐マコトのライフバリアを一度に2つ破壊する。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトスルプス+ノルバ・シノ】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(3)

【クーデリア&アトラ】LV2(2)

バースト:【無】

 

 

強力な鉄華団スピリットと2種の創界神ネクサスを立てつつ、多くの手札とトラッシュを抱えた、限りなく最高に近い初手から、理想の展開を見せるオーカミ。

 

次のターンで勝ち越す勢いのまま、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン04]嵐マコト

 

 

「メインステップ、手札に戻ったテントモンを再召喚します」

 

 

ー【テントモン】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でまたコアブースト」

 

 

早くも劣勢に立たされた嵐マコトのターン。前のターンの【アーマー進化】によって手札へと戻っていたテントモンが再召喚される。

 

それを使い、彼はまた新たな手駒を呼ぶ。

 

 

「召喚したテントモンを対象に、再び【アーマー進化】を発揮」

 

 

前のターンと同様、テントモンが粒子化し、嵐マコトの手札へと帰還する。

 

そして、その代わりに出現するスピリットは………

 

 

「ロイヤルナイツ、黄金の守護竜、マグナモンをLV1で召喚」

 

 

ー【マグナモン】LV1(1)BP6000

 

 

テントモンの代わりに現れたのは、黄金の太陽。

 

それを中より爆散させ姿を見せるのは、堅牢な黄金の鎧を身に纏う青き竜、マグナモン。

 

 

「召喚時効果を発揮。相手のフィールドにいる最もコストの低いスピリット1体を破壊します」

「!」

「消え失せなさい、バルバトスルプス!!」

 

 

マグナモンの堅牢な鎧から放たれる黄金の波動。バルバトスルプスはそれに飲み込まれ、塵芥となりこの場から消滅してしまう。

 

 

「合体しているシノは場に残す」

「アッアッア、私の大反撃はまだ終わりませんよ。テントモンを三度召喚し、効果でコアブースト」

 

 

ー【テントモン】LV1(1)BP2000

 

 

三度目のテントモンの登場。嵐マコトは、その効果で増えたコアを認識すると、それをコストとして、あるカードを手札から発揮させる。

 

 

「ここで、貴方への対策のためデッキに忍ばせていた1枚、6色マジック、ゴッドブレイクを発揮します……!!」

 

 

嵐マコトが発揮したのは、世にも珍しい Xレアのマジックカード。

 

その効果は強力無比で、尚且つオーカミの鉄華団デッキに対する最も有効なメタカードであり………

 

 

「その効果で先ずは1枚ドロー、そして創界神ネクサス、オルガ・イツカを破壊します」

「なに?」

 

 

ゴッドブレイクの効果により、オーカミのBパッド上にあるオルガのカードは、そこを離れ、トラッシュへと誘われる。

 

創界神ネクサス、オルガ・イツカの効果により、トラッシュからの展開を得意とする鉄華団デッキにとってはあまりに辛い効果だが、これだけではまだ終わらなくて………

 

 

「効果発揮後、ゴッドブレイクはフィールドに残り続け、その間、互いのデッキ破棄効果は無力化され、創界神ネクサスのシンボルは0となります」

「……」

「ルプス、ルプスレクス、フルシティなど、貴方のデッキの大半は己のデッキを破棄して効果を使う。つまり、その破棄自体を止めて仕舞えば、貴方の鉄華団デッキは機能不全に陥ると言う事です」

 

 

そう告げられたオーカミが己のBパッドへと目を向けると、残った創界神ネクサス、クーデリア&アトラのカードから、紫シンボルが消失。カードの軽減が行えなくなってしまう。

 

さらにはオマケのようなデッキ破棄効果の無力化。これが発揮され続けている限り、己のデッキを破棄することで強力な効果を発揮させる事が可能な鉄華団達の効果が、ほとんど使いモノにならなくなってしまったに等しい。

 

簡潔に言えば、圧倒的劣勢。オーカミは僅か1枚のマジックカードにより、己の戦略、戦力を大きく削がれてしまった。

 

 

「アッアッア!!……惨め惨め。粋がってこの私に逆らってしまったばかりに、力の差を見せつけられ、己の弱さに恥を掻き、挙げ句の果てに命を落とす事になってしまうのだから」

「……」

「こう言うのを犬死にって言うのですよ!!……アッアッア、アーアッアッア!!」

 

 

響き渡る、嵐マコトの勝ち誇ったような喜びの声。

 

普通なら、普通の感性を持つ者であれば、心が折れ、絶望してしまうかもしれない。

 

だがオーカミは………

 

 

「わかったから、さっさとターンを進めてくれる?……時間ないんだけど」

「……」

 

 

どこまでもブレないオーカミに、嵐マコトは、正直イラついた。

 

ゴッドブレイクを打たれた時点で、負けは決まったも同然であると言うにもかかわらず、何が「さっさとターンを進めてくれる?」だ、この後に及んで煽るとは、良い度胸をしている。

 

内心ではそう思ったが、強がりにも見える。嵐マコトはすぐさまイラついた心を落ち着かせ、彼を更なる絶望へ落とすために、己の手札へと手を掛ける。

 

 

「アッアッア、鈍感で羨ましいよ。ならばお望み通りさっさとお見せ致しましょう。神の領域に到達した者のバトルスピリッツを。手札から【アーマー進化】を発揮、対象はテントモン」

 

 

また【アーマー進化】だ。テントモンが粒子化し、彼の手札へと戻ると、新たなるデジタルスピリットが見参する。

 

 

「燃え上がる勇気、フレイドラモンをLV2で召喚します」

 

 

ー【フレイドラモン[2]】LV2(2S)BP8000

 

 

見参したのは、青き身体に炎模様のアーマーを纏うスマートな竜戦士、アーマー体デジタルスピリット、フレイドラモン。

 

 

「貴方は知っていますか?……フレイドラモン、Dr.Aを討ち倒したかの英雄、芽座椎名のマイフェイバリットカードを」

「知らない」

「その召喚時効果により、残ったパイロットブレイヴ、ノルバ・シノを破壊」

 

 

召喚されたフレイドラモンの効果により、オーカミのフィールドに残っていた唯一のシンボル、ブレイヴのノルバ・シノのカードがトラッシュへと送られる。

 

 

「アタックステップ、フレイドラモンでアタックします。アーマー体がアタックした事により、フレイドラモンの更なる効果、デッキから1枚ドロー」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

実体化しているカードによる攻撃。フレイドラモンが拳に炎を纏わせ、オーカミのライフバリア1つを粉砕。

 

オーカミは砕けたライフバリア越しに骨が軋む程の衝撃を受け止める。

 

 

「また行きますよ、マグナモンでアタック。フレイドラモンの効果でドロー」

「それもライフだ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐうっ……!!」

 

 

今度はマグナモンの鉄よりも強固な拳が、オーカミのライフバリアを粉砕。

 

強い衝撃により、オーカミの額に巻いていた包帯が緩み、解けかける。

 

 

「ターンエンドです。さぁ残り数ターン、モルモットらしい悪足掻きを私にお見せください」

手札:5

場:【マグナモン】LV1

【フレイドラモン[2]】LV2

【ゴッドブレイク】

バースト:【無】

 

 

「やっとオレのターンか」

 

 

アーマー体のデジタルスピリットによってフィールドのスピリットを、マジックカード、ゴッドブレイクによって創界神ネクサスとデッキの根幹を潰されてしまったオーカミ。

 

逆転の芽を掴むべく、ようやく巡ってきた己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、大地を揺らせ、未来へ導け!!……ガンダム・バルバトス第4形態、LV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(3S)BP9000

 

 

劣勢を打破すべく手札から呼び出したのは、エースカードの1体、黒き戦棍メイスを携える、ガンダム・バルバトス第4形態。

 

コア不足により、最大のLV3ではなくLV2での召喚だ。

 

 

「アッアッア、LV2ですか。ゴッドブレイクのシンボル消失効果が効いているみたいですね」

「……アタックステップ、バルバトス第4形態でアタック」

 

 

嵐マコトをシカトし、オーカミはアタックステップへと突入。バルバトス第4形態で攻撃を仕掛ける。

 

LV3ではないため、シンボル追加効果は発揮できないものの、それ以外の効果は発揮可能だ。

 

 

「効果でフレイドラモンのコア2個をリザーブへ置き、消滅」

 

 

バルバトス第4形態は、フレイドラモンへ向けてメイスを横一線に振い、吹き飛ばして消滅へと追い込む。

 

 

「毛程も痛くありませんねぇ。そのアタックは、ライフで受けましょう」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉嵐マコト

 

 

今度は縦にメイスを振い、バルバトス第4形態は嵐マコトのライフバリア1つを粉砕。

 

これにより、ライフだけはオーカミの有利となる。

 

 

「ターンエンド」

手札:6

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

結局、大した反撃もできず、悪い状況を何も変えられないまま、そのターンをエンドとしてしまうオーカミ。

 

そんな彼の息の根を止めるべく、再び嵐マコトのターンが幕を開ける。

 

 

[ターン06]嵐マコト

 

 

「メインステップ、一気に畳みかけますよ。マグナモンのLVを3に上げ、テントモン、並びにピコデビモン2体を連続召喚」

 

 

ー【テントモン】LV1(1S)BP2000

 

ー【ピコデビモン】LV1(1)BP1000

 

ー【ピコデビモン】LV1(1)BP1000

 

 

「テントモンの効果でコアブーストし、ピコデビモン2体の効果でデッキから1枚ずつドロー」

 

 

4度目の登場となるテントモンに、丸っこいコウモリ型の成長期デジタルスピリット、ピコデビモンが2体出現。

 

効果によりコアブーストとドローを促進させる。

 

 

「己の弱さを痛感するがいい。アタックステップ、マグナモンでアタック」

 

 

計4体のスピリットをフィールドに並べ、アタックステップへと突入する嵐マコト。先ずはマグナモンで攻撃を仕掛ける。

 

そして、このアタックのフラッシュタイミング、彼は遂にあのカードを使う。

 

 

「フラッシュタイミング【煌臨】を発揮、対象はアタック中のマグナモン」

 

 

スピリットを新たな姿へと昇華させる【煌臨】………

 

嵐マコトはその効果を贅沢にも、ロイヤルナイツのスピリットを対象に発揮させる。その上に置かれるカードは、当然あの最強最悪のライダースピリット。

 

 

「全ての進化の頂点に立つ、破壊の化身。仮面ライダークローズエボル!!……ロイヤルナイツを贄とし、いざ来たれり!!」

 

 

ー【仮面ライダークローズエボル】LV3(4)BP20000

 

 

突如嵐マコトのフィールドに現れる1つの幻影。それはマグナモンと重なり合い、1体のスピリットへと変化を遂げる。

 

それは、悪魔の科学者Dr.Aのエースカード、エボルの最終進化系。この世の全てをクローズさせる、最凶最悪のライダースピリット………

 

その名はクローズエボル。圧倒的王者の風格を纏い、今、この場に顕現する。

 

 

「コイツがアニキの言ってた、クローズエボル……」

「来た。来ましたよ、漲る力が私の中で迸る。今の私は、誰にも負けませんよぉ!!!」

 

 

クローズエボルが登場するなり、嵐マコトの身体から黒いオーラが滲み溢れる。これはかの悪魔の科学者Dr.A曰く『進化の力』と呼ばれるモノ。

 

その力は、この世界の誰もが内に秘めているモノだが、かつてのDr.Aや、今の嵐マコトは違う。それらをより多く身体に取り込む事で、無限の力を手にしている。

 

 

「アーアッアッア!!……無様無様ぁ!!……クローズエボルの煌臨アタック時効果、コスト8以下のバルバトス第4形態を破壊し、ゲームから除外」

「くっ……」

 

 

クローズエボルは、龍の形を模った青色に紫の混ざったオーラを拳に乗せ、空を殴り、それをバルバトス第4形態へと放つ。

 

その龍のオーラは、忽ちバルバトス第4形態の白き装甲を貪り破り、爆散へ追い込む。

 

 

「破壊に成功した時、2枚ドロー。アーアッアッア、アーアッアッア!!……やはり私は既に最強、無敵、神にも等しいカードバトラーとなったのだ。かつてのDr.Aや芽座椎名など足元にも及ばない、私こそが史上最も強いカードバトラーなのだ!!……アーアッアッア!!!」

 

 

強い自分が、敵を圧倒的な力で捩じ伏せられる自分が、好きで好きで堪らない嵐マコト。

 

オーカミを追い詰めて行くたびにアドレナリンと言う名の脳汁が吹き出しているのだろう。

 

 

「アンタが最強、無敵、神?……なんか、オレはそう思えないな」

「なに」

 

 

強さを誇示する嵐マコトに、オーカミがそう告げた。それに対し、当然のように嵐マコトは意を唱える。

 

 

「な訳ないでしょう。このエクセレントな私が、かつて最強だった2人のカードバトラーのデッキを合成して作り上げた無敵のデッキですよ?……神にも等しい強さがあるに決まっているじゃありませんか」

「あー、それが理由か。獅堂的に言うと、全く魂が感じられないってヤツだ」

「!?」

「上手く言葉にできないんだけど、多分、アンタはオレが今まで戦って来たどのカードバトラーよりも、弱い」

「………は?」

 

 

何を言う。

 

たかがバトスピ歴半年程度の分際で………

 

どこの誰に生意気な口を聞いていると思っているのだ。

 

 

「私が弱いとは、大きく出ましたねぇ。なら貴方はこの私に勝てると?……クローズエボルを破り、勝利を収められると?」

 

 

オーカミの数々煽りが、遂に嵐マコトの逆鱗に触れる。

 

だが、残念な事に、オーカミが告げていた事は、その全てが真理であり、真実。

 

それが今、証明される。

 

 

「できるさ。見せてやる、鉄華団の勝利への道をな」

「アーアッアッア!!……それは不可能。私は貴方とのバトルを何度もシミュレーションしてきました、鉄華団のどのカードを使っても、王者を使ったとしても、貴方が私に勝つ確率は、0%なのですよ!!」

 

 

オーカミの雰囲気が少し変わり、刺々しくなる。

 

ここからだ。オーカミと、オーカミの鉄華団達による、大反撃が幕を開け、奴を黙らせる。

 

 

「オレはトラッシュにある、仮面ライダーゲンム ゾンビアクションゲーマー レベルXの効果を発揮……!!」

「なに、ライダースピリット!?」

「相手の手札が効果で5枚以上になった時、トラッシュからコイツをノーコストで召喚できる。LV2で召喚」

 

 

ー【仮面ライダーゲンム ゾンビアクションゲーマー レベルX】LV2(3S)BP8000

 

 

大地に迸る、紫電の沼。その中よりゾンビの如く這い上がり、赤と青の眼光を輝かせる、白いライダースピリットが1体。

 

その名は、仮面ライダーゲンム ゾンビアクションゲーマー レベルX。

 

 

「馬鹿な、モビルスピリットが主体の鉄華団デッキに、ライダースピリットだと!?」

「アンタも、デジタルスピリット主体のデッキに、ライダースピリットを入れてるだろ。デッキの組み合わせは無限大だ。ゾンビアクションゲーマーの召喚時効果を発揮、効果で召喚していた時、相手スピリット1体からコア5個をリザーブへ置く」

「!?」

「対象は当然、アタック中のクローズエボル。消滅させろ!!」

 

 

ゾンビアクションゲーマーの両手から放たれた紫電が、嵐マコトのクローズエボルを襲う。

 

あのエボルの最強進化形態のクローズエボルも、流石にこの状況下のゾンビアクションゲーマーには勝てなかったか、その紫電の前に体内にあった全てのコアが消失、消滅させられる。

 

 

「私のクローズエボルが、最強のライダースピリットが、他のライダースピリットに敗れた……モビルスピリットにライダースピリット、なんですか、まるで奴の方がDr.Aみたいではありませんか!!」

「ふ……アニキが言ってた『強いカードはあっても、最強のカードはない。最強があるとすれば、それはどんなカードでも巧みに使いこなす、カードバトラーの頭脳だ』ってな」

「ぐうっ……ターンエンドォ!!」

手札:6

場:【テントモン】LV1

【ピコデビモン】LV1

【ピコデビモン】LV1

【ゴッドブレイク】

バースト:【無】

 

 

嵐マコト、ここで苦渋のターンエンド宣言。

 

己を神だと棚に上げていた彼にとって、格下同然だと思っていたただの少年にしてやられた事は、かなり屈辱であった事だろう。

 

だが、フィールドのスピリットの数や、手札の数、さらにフィールドに残り続けているマジック、ゴッドブレイクの存在から、未だに嵐マコトが有利な状況にいる事には変わりなくて。

 

 

「だが、まだ私の手札には2枚のクローズエボルがある。ゴッドブレイクと3体のブロッカーで次のターンを凌ぎ、今度こそ貴様を屠ってくれる!!」

 

 

嵐マコトは、焦りからか己の手札の内の2枚を晒す。

 

バトルスピリッツに限らず、カードゲームにおいて、それは自殺行為。しかも彼に至っては次の戦略まで丁寧に教えてしまっている。

 

 

「ふ……本気でそんな事できると思ってるのか」

「なに!?」

「終わりだ。オレのトラッシュを確認しなかった、アンタの負けだ」

 

 

迎えるのはオーカミのターン。これをラストターンとすべく、巡って来たそれを進めて行く。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディをLV2で召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

オーカミが召喚したのは、全体的に丸みを帯びた、小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディ。

 

 

「さらに手札からパイロットブレイヴ、ユージン・セブンスタークを召喚し、ランドマン・ロディに直接合体」

「ッ……ここに来て私も知らない鉄華団カード!?」

 

 

ー【ランドマン・ロディ+ユージン・セブンスターク】LV2(2)BP5000

 

 

小型の鉄華団スピリットに、小型のパイロットブレイヴを合体させた所で、準備が完了したか、オーカミはアタックステップへと突入する。

 

 

「アタックステップ、ランドマン・ロディでアタック、そして、合体したユージンの効果を発揮」

「!」

「アンタのフィールドにあるマジックカード、ゴッドブレイクを破棄する」

「なんだと!?」

 

 

ユージンの効果により、嵐マコトのBパッドから、ゴッドブレイクのカードがトラッシュへと破棄される。

 

これにより、デッキ破棄効果の無力化効果は抹消。全ての鉄華団スピリット達が力を取り戻す。

 

 

「ゴッドブレイクが消えた事で、ランドマン・ロディのアタック時効果が解禁。デッキ上から1枚を破棄し、それが鉄華団なら、相手のコア1個以下のスピリット1体を破壊」

 

 

ランドマン・ロディの効果で破棄されたのは、当然鉄華団カード。今回は『バルバトス第1形態』だ。

 

 

「鉄華団カード、よってコア1個以下のピコデビモンを破壊だ」

「くっ……!!」

「クーデリア&アトラの【神域】が誘発、トラッシュのカード1枚をデッキ下に戻して1枚ドロー」

 

 

小型の斧を振い、ランドマン・ロディが、嵐マコトのピコデビモンを斬り裂いて爆散させる。

 

これにより、嵐マコトのフィールドのスピリットは残り2体。オーカミはそれらも奪うべく、手札のカードを使用する。

 

 

「フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はゾンビアクションゲーマーだ」

 

 

その効果発揮の瞬間、オーカミの背後から、巨大なモビルスピリットの影が、フィールドへと飛び出して来る。

 

 

「轟音唸る、過去をも穿つ、ガンダム・グシオンリベイクフルシティ!!……LV1で煌臨」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ】LV1(2)BP5000

 

 

ゾンビアクションゲーマーと、フィールドに現れたモビルスピリットの影が重なり合い、その影は実体を得る。

 

こうして現れたのは、茶色く分厚い装甲を持つ、バルバトスと双璧を成すモビルスピリット、グシオンリベイクフルシティ。

 

 

「フルシティの煌臨時効果、デッキ上2枚を破棄し、その中の紫1色のカード1枚につき、相手フィールドのコア2個をリザーブに置く」

 

 

こうして破棄されたカードは、いずれも紫1色のカード。鉄華団デッキなら当然だ。

 

 

「よし、全部紫1色。残ったテントモンとピコデビモンから全てのコアを外し、消滅」

「ぬうっ!!」

 

 

グシオンリベイクフルシティは、背部にあるもう2つの腕を展開し、合わせて4つの腕でマシンガンを持ち、連射。

 

嵐マコトのフィールドに残っていた全てのスピリット達が、無慈悲にも散って行った。

 

 

「クーデリア&アトラの【神域】が誘発。さらにフラッシュ、今度は【神技】の効果を発揮、トラッシュの鉄華団カードを戻し、アタック中のランドマン・ロディを回復」

 

 

手札とトラッシュの質を向上させ続けたクーデリア&アトラの【神技】の効果がここで発揮。ランドマン・ロディが回復し、2度目のアタック権利を得る。

 

 

「アァァァ!!!……アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉嵐マコト

 

 

訳がわからなくなって来た嵐マコト。叫びながらランドマン・ロディのアタックをライフで受ける宣言。

 

ランドマン・ロディは一度斧を背部へマウントすると、今度はマシンガンを展開、それをグシオンリベイクフルシティ同様連射し、嵐マコトのライフバリア1つを破壊する。

 

 

「私のライフが減った事により、手札から覇王爆炎撃の効果をノーコストで発揮、グシオンリベイクフルシティを破壊だ」

 

 

負けじと放った手札誘発カード。赤属性のマジックカード『覇王爆炎撃〈R〉』の効果により、天空から吐き出された爆炎が、グシオンリベイクフルシティを焼き尽くし、爆発四散させる。

 

 

「そんな事しても無駄だ。ランドマン・ロディで、ラストアタック……!!」

「ッ……!!」

 

 

ふと、嵐マコトは今まで思ってもいなかった事が頭の中を過った。

 

それは、己の敗北。

 

絶対的且つ圧倒的な力を携えた己が敗北する。考えもしなかった事象だ。それと同時に、アルファベットと対峙した時の言葉を想起してしまい………

 

 

 

ー『嵐マコト、オマエはかつてのDr.Aと全く同じ力を使っているのか?』

ー『アッアッア……そうですとも。これはDr.Aが使った進化の力。今、それが私の全身で縦横無尽に駆け巡っているのです。故に、このクローズエボルも難なく扱える』

ー『……』

ー『最高の力です。まさに神にも等しい』

ー『その力を得たDr.Aの末路を、オマエは知ってるのか?』

ー『は?』

ー『進化の力を増幅させ過ぎたDr.Aは、椎名にバトルで敗北した直後、その負荷に耐えられなくなり、消滅した』

ー『……』

ー『このままだとオマエ、バトルに負けた瞬間死ぬぞ』

 

 

 

負けた瞬間、死ぬ???

 

誰が、私が??

 

まさか、嘘だと言ってくれ、頼むから……なぁ?

 

 

 

「最後のライフ、奪って来い、ランドマン・ロディ!!」

「ヒイッ……!?!」

 

 

突如迫って来た死の恐怖。それは瞬く間に嵐マコトの背筋を凍り付かせ、足を竦ませる。

 

 

「わ、わかった。もう何もしない、春神ライもイナズマも返す、何でもする、だから許してくれ……許してください!!」

「ん?」

 

 

突然怯え出した嵐マコトに、オーカミの手が止まる。それに伴い、ランドマン・ロディも、彼の最後のライフバリアを目前に、その足を止める。

 

 

「なに急に」

「貴方の強さはわかりました。これ以上バトルしても意味がない、ここは穏便にと思ってね。だからアタックはおやめください」

「……そうやって、油断させる作戦か。バトスピを汚すなよ」

「違います違います。何をしてあげれば許してくれますか?……私はこう見えてお金持ちです。望むだけの金額をお渡しする事も、あぁそうだそれが良い。貴方の家庭はあまり裕福ではなかったでしょう、私が救って差し上げますよ、それでどうでしょう?」

「ソラの時とか、ライの時とか、今まで散々好き勝手やっておいて、何を今更………!!」

 

 

オーカミの怒りが募る。その怒りの力は、紫色のオーラとなって、彼のデッキが差し込まれているBパッドへと流れ込んで行く。

 

やがてそのオーラは、オーカミの背後で、畏怖の象徴たる悪魔の形を形成する。

 

 

「ランドマン・ロディ、アイツのライフを破壊しろ……!!」

「あ、あ、アァァァァァァ!?……死ぬんだぞ、私のライフを0にしたら、この私が、僕が!!……人殺しになるだぞ貴様ァァァ!!」

「知らないよ、そんな事」

 

 

怒りにより紫のオーラを纏うオーカミが、ランドマン・ロディに改めてラストアタックの宣言。

 

その残酷で無慈悲な宣言に、嵐マコトはもはや叫び倒す事しかできなくて………

 

 

「やれ」

「あ、ァァァ……アァァァァァァァ!!!!?!」

「?」

 

 

突如、今にも斧でライフを破壊しようとしていたランドマン・ロディが消え去る。オーカミが何かと思えば、どうやら嵐マコトが咄嗟にBパッドの電源を落としただけみたいだ。

 

確かに、これなら最後のライフは砕かれず、彼は死なない。ただその行為は、負けを認めたのも同然である。

 

 

「Bパッドの電源を切ったのか。アンタ、ホント救えないな」

「……ア、ア」

「もういいからどっか行けよ。アンタじゃ、オレ達の中の誰にも勝てない」

「ア、ア、アァァァァァァァァァ!?!……ア、アァァァァァァ!!!」

 

 

死ぬ恐怖を間近で味わった嵐マコト。神を名乗っていた時の態度の大きさはどこへ行ったのか、情けない背中を晒し、涙目になりながらオーカミから一目散で逃げ出した。

 

 

「……北東、だったな。待ってろ、ライ」

 

 

オーカミの怒りによって湧き出ていた紫色のオーラが消え失せる。彼は、ライを救けるため、今一度蛇澤マコトの言葉通り、北東の方角へと走り出した。

 

 

 

******

 

 

 

「ア、ア、アァァァ!!……何なんだあのクソガキ、何故人様を平気な顔で殺そうとできる、ナメてやがる、腐ってやがる!!」

 

 

一方、嵐マコトは息を切らしながら、必死にオーカミから、死から投げていた。

 

その表情や言葉遣いなどから、小物臭さが垣間見えている。今までのは殆ど演技で、理想の自分を演じて来ていたのだろう。

 

 

「復讐だ。復讐してやる、手始めに奴が必死になって取り返そうとしている、あの人造人間のメスを殺して、それから……」

「それから、何をする気だ?」

「!!」

 

 

横から響いた声の方へ首を向ける嵐マコト。

 

その先には………

 

 

「アンタは倒す。今ここで、オーカに、ライ、イナズマ先生、アルファベットさんのためにもな」

 

 

九日ヨッカがいた。全てを取り返すために、彼もまた、戦いに身を投じる。

 

 

 




次回、第60ターン「誠のカードバトラー」


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第60ターン「誠のカードバトラー」

 

 

「おぉ、遂に、遂に完成した。これこそ、僕らが追い求めていた究極の生命体、エニーズ02だ!!」

「……」

「やった、やったんだイナズマ先生、僕らは!!」

「あ、あぁ」

 

 

今から13年も前の話だ。

 

清らかな青の生体液が詰まった、強化ガラスが素材の巨大なフラスコのようなモノ。その中で浮かぶ、小さな赤ん坊。

 

その名はエニーズ02。後に『春神ライ』と名付けられる、バトスピの未来を見通す絶対的な力『王者』を宿し、効率良く使う事ができる、対Dr.A用の人造人間だ。

 

当時の嵐マコトと春神イナズマは、数々の苦闘と苦難の末に、ようやく完成させる事ができた。

 

 

「これで徳川先生を倒す事ができる。世界は、人類は新たな未来を手にする事ができます」

「そう、だな」

「イナズマ先生、どうされました?」

 

 

エニーズ02の完成に大いに喜ぶ嵐マコトだが、それとは対象的に、春神イナズマはどこか戸惑いを感じさせるような浮かない表情を見せていた。

 

 

「なぁマコト、私達が成した事、徳川先生と何が違うと思う?」

「え?」

「自らの手で新たな生命を生み出し、敵と戦わせる。今の徳川先生がやろうとしている事だ。私達は、いったい何になろうとしているんだ?」

 

 

その彼の手は、生命を自らの手で産み出してしまったと言う背徳感と、産まれたての罪もない子に、これから殺害を支持しなければならないと言う恐怖に震えていた。

 

 

「……つまり、イナズマ先生は、僕に何が言いたいのですか?」

「この子は、オレ達の手で、普通の人間の子供として育てるべきだ」

「はぁ!?」

「そして、エニーズを造る技術は、後世に語り継がせない。この技術が受け継がれ、進化して行けば、戦争どころの話ではなくなる」

 

 

春神イナズマは、聡明な男だった。

 

それ故に、気がついてしまった。エニーズを造る技術、引いては『人が人を造る技術』は、戦争の火種になる。それに、エニーズは通常の人よりも強く、賢く産まれる。下手をすれば、人類が滅亡しかねない、と。

 

できれば、完成する前に気が付きたかったはずだ。だが、Dr.Aを倒さなければならないと言う使命があるのも事実。エニーズ02を造る際も、その葛藤に悩まされていた事は、想像に易い。

 

 

「今更、何を怖気付いているのですか!!」

「……」

「貴方が何を言っても、徳川先生、Dr.Aは倒さなければならないのです。そのためのエニーズ02だ。それをただの子供に育てるなど、愚の骨頂。宝の持ち腐れ。それに、エニーズの技術を語り継がせない?……ならば僕らで独占してやればいい」

「!?」

 

 

同じく元Dr.Aの助手にして同僚、嵐マコトの口から突然放たれた言葉に、春神イナズマは驚愕した。

 

 

「そうだ独占ですよ。エニーズ02は、僕達2人が力を合わせないと造る事ができない。ならばそのエニーズ02を大量に生産すれば、徳川先生に代わって僕達が世界の神になるのも夢じゃ」

「ダメだ!!」

「!!」

 

 

春神イナズマは、柔和な顔つきからは想像もできない程の大声で、嵐マコトの考え方を真っ向から否定する。

 

 

「いいかマコト。人は大いなる力を持った時、心のない怪物になる事はできても、神になる事はできない。仮にオマエの言う通り、私達がエニーズ02で徳川先生を倒し、エニーズを大量生産、上っ面だけの神になったとしても、その先に待ち受けているのは、誰もが心を失くした、虚しい世界だ」

「……」

「それこそ、徳川先生と何も変わらない」

 

 

そこまで嵐マコトに告げると、イナズマは研究室を後にしようと、身につけていた白衣を椅子に掛ける。

 

 

「この事は、後でゆっくり話し合おう。徳川先生の件は大丈夫だ、彼に対抗するために、私が新たに強いカードバトラー達を育成する」

「……」

 

 

その言葉を最後に、イナズマは嵐マコトを残して、研究所を後にする。

 

この時の言葉は、彼は自分が目を掛け、バトスピを教えていた『九日ヨッカ』『鈴木レイジ』の事を指していた。彼らは、イナズマと共にDr.Aを倒すためにバトルを教えられていたのだ。

 

 

「何故だ、何故だイナズマ先生。なれるのだぞ、絶対的な力を持った神に。心を失くした虚しい世界を迎えようが、僕らの知った事ではないだろう……!!」

 

 

嵐マコトが、自分以外が居なくなった研究所の壁を殴りながら、そう呟く。彼はこの時から少しずつ狂い始めた。

 

その3日後、エニーズ02は、世にも珍しい契約スピリット『エアリアル』に選ばれ、さらにその1週間後、その力を悪き事に使おうとしている嵐マコトの気概を察知し、イナズマは、エニーズ02を連れ、1人、嵐マコトの前から逃走したのだった。

 

 

 

******

 

 

時は戻り、現在。

 

緑が生い茂る、界放市ジークフリード区、児雷也森林にて。

 

かつてのDr.Aと全く同じ力を宿し、最高のデッキを手にした嵐マコトだったが、鉄華オーカミの前になすすべなく敗北。力の代償により、負ければ肉体が消滅する事を思い出した彼は、オーカミの前から逃走。

 

辿り着いた先で、九日ヨッカと鉢合わせて………

 

 

「九日ヨッカ。ア、アッア、まさか今からこの私にバトルを挑もうと言うのか?」

「あぁ、そうだ。アンタに勝てば、アルファベットさんも元に戻るはずだからな」

 

 

ヨッカがBパッドを構え、バトルの準備をしながらそう告げる。

 

 

「アーアッアッア!!!……何が理由かと思えば敵討ちか、そんな事できるわけないだろう、今の私は神同然の力を所有している。この世の誰が私に勝てると言うのだ!!」

「はっはっは!!……笑わせるぜ、今しがたオレの弟分にタコ殴りにされて、情けねぇ顔で逃げ出したくせによ」

「ッ……見ていたのか、アレはイレギュラーだ、何かの間違いだ、この僕が負けるわけない!!」

 

 

前のバトルで、極限まで追い込まれた嵐マコト。強者を装うために作ったキャラは崩壊。一人称は「私」から「僕」になり、言葉遣いも丁寧ではなくなり、やや乱暴になっている。

 

 

「なら、オレに勝って見せるんだな。オーカにバトルを教えた、このオレに」

「抜かせ愚鈍者が。わかってるぞ、今の貴様は鉄華オーカミよりも弱い」

「テメェもだろうが」

「アァァァァァァァァァ!!!……黙れ、違うと言ってるだろォォォ!!」

「うるさ」

「僕は弱くなァァァい!!」

 

 

己よりも格下だと思っているヨッカに煽られ、奇声を張り上げながら怒り散らかす嵐マコト。直後にBパッドを展開し、ヨッカ同様バトルの準備を整える。

 

そして………

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

九日ヨッカ、嵐マコト、2人のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

 

 

******

 

 

 

「……あのモジャモジャが言ってた場所はここか」

 

 

一方、嵐マコトに勝利し、先に進んでいた鉄華オーカミ。深い霧の中、遂に蛇澤マツリの言っていた巨大な塔に到着する。

 

その大きさはざっと70m程度か、周囲の木々を纏っているその姿はまるで『魔女の巣』………

 

 

「待ってろ、ライ」

 

 

ライを救出すべく、オーカミは小さな体でただ1人、そこへ乗り込むのだった。

 

 

 

******

 

 

舞台は戻り、始まったヨッカと嵐マコトのバトルスピリッツ。先攻は嵐マコト。先程受けた屈辱を晴らすべく、己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]嵐マコト

 

 

「メインステップ、テントモンをLV1で召喚」

 

 

ー【テントモン】LV1(2)BP2000

 

 

「召喚時効果でコアブースト」

 

 

嵐マコトが呼び出した最初のスピリットは、てんとう虫型で、緑属性の成長期デジタルスピリット、テントモン。

 

その効果でコア1つを増加させる。

 

 

「さらにそのコアをコストとして支払い【アーマー進化】を発揮。テントモンを手札へ戻し、轟く友情、ライドラモンをLV1で召喚」

 

 

ー【ライドラモン】LV1(1)BP5000

 

 

「召喚時効果でコア2個をブースト」

 

 

テントモンが粒子化し、手札に戻ると、黒き鎧に稲妻のような頭角を身につけた青き獣、ライドラモンが嵐マコトのフィールドへと呼び出される。そして、気高い雄叫びを張り上げると、嵐マコトのトラッシュに、コア2個が追加される。

 

 

「ターンエンド。貴様のターンだ、さっさと進めろ」

手札:4

場:【ライドラモン】LV1(1)BP5000

バースト:【無】

 

 

怒り心頭故に、余裕がない嵐マコト。ヨッカを急かしながら、そのターンを終える。

 

 

[ターン02]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、ネクサス、最後の優勝旗を配置」

 

 

ー【最後の優勝旗】LV1

 

 

「配置時効果により、自身にコアブースト」

 

 

ヨッカの背後に出現したのは、巨大な美旗。風に靡くそれの効果により、コアが1つブーストされる。

 

 

「バーストをセットして、オレのターン、エンドだ」

手札:3

場:【最後の優勝旗】LV2

バースト:【有】

 

 

「それだけで終わりか。なら見せてやるよ、神の領域に到達した、僕の力をなぁ!!」

 

 

すっかり丁寧語や尊敬語を使わなくなった嵐マコト。素の乱暴な言動のまま、迎えた己のターンを進行する。

 

 

[ターン03]嵐マコト

 

 

「メインステップ、テントモンを再召喚」

 

 

ー【テントモン】LV1(1)BP2000

 

 

「効果でコアブースト」

 

 

2度目のテントモン。さらにそれを対象とし、嵐マコトはさらなる【アーマー進化】を発揮させる。

 

 

「テントモンを【アーマー進化】……燃え上がる勇気、フレイドラモンをLV1で召喚」

 

 

ー【フレイドラモン】LV1(1)BP6000

 

 

またテントモンが粒子化し、今度は燃え上がるスマートな竜戦士、フレイドラモンがフィールドへと降り立つ。

 

 

「その召喚時効果で、ネクサス、最後の優勝旗を破壊」

「くっ……!」

 

 

フレイドラモンは拳から炎の弾丸を放ち、ヨッカの背後にある最後の優勝旗を焼き尽くす。

 

 

「まだ行くぞ、テントモンを再再召喚し、コアブースト。そのコアを使ってライドラモンのLVを2へ」

 

 

ー【テントモン】LV1(1)BP2000

 

 

早くも3度目のテントモン。これで嵐マコトのフィールドには2体の強力なアーマー体デジタルスピリットを含めた、3体のスピリットが並び立つ。

 

 

「アタックステップ、ライドラモンでアタック!!」

 

 

このバトル初めてのアタックステップを行ったのは嵐マコト。ライドラモンでアタックの宣言。

 

前のターンをネクサスの配置のみで終えたヨッカは、そのアタックをライフで受ける他ない。

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉九日ヨッカ

 

 

「ぐうっ!?!」

 

 

ライドラモンの突進。一角がヨッカのライフバリア1つに突き刺さり、木っ端微塵に粉砕される。

 

リアルのスピリットによるリアルなダメージが、ヨッカを襲う。

 

 

「さぁらぁに!!……ライドラモンのLV2効果、アーマー体デジタルスピリットがライフを減らした時、追加で1つのライフを破壊する!!」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉九日ヨッカ

 

 

「ぐぁっ!?」

 

 

ライドラモンの一角より放たれし青き稲妻。それがヨッカのライフバリアをさらに1つ砕く。

 

 

「アーアッアッア!!……痛かろう痛かろう、続けフレイドラモン!!」

「……そいつも、ライフだ」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉九日ヨッカ

 

 

「ライドラモンの効果ぁ!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉九日ヨッカ

 

 

「ぐはぁぁぁぁあ!?!」

 

 

フレイドラモンの拳から放たれる炎の弾丸と、ライドラモンの青き稲妻が、ヨッカのライフを一気に2つ粉砕。

 

余りにも強い衝撃と痛みに、ヨッカは吐血し、片膝をつく。

 

 

「アーアッアッア、アーアッアッア!!……終わりだ、死ねぇ、テントモンでアタ」

「その前に、ライフが減った事により、手札からこのカードを提示する」

「!!」

「アルケーガンダム。効果により1コストを支払い、自身をLV2で召喚」

 

 

ー【アルケーガンダム】LV2(3)BP12000

 

 

「なに、アルケーガンダム……!?」

 

 

ライフが減少した事により、ヨッカのフィールドへ出現したのは、赤みを帯びた装甲と大剣を持つ、青属性のモビルスピリット、アルケーガンダム。

 

カードバトラーならば誰もが知る、余りにも強すぎたが故に、デッキに1枚しか入れられない『制限カード』となった存在だ。

 

 

「アルケーガンダムはコスト7以下のスピリットを破壊できる。オマエのアーマー体デジタルスピリットは、コスト7以下が多いからな、仕込ませてもらったぜ。さらにライフ減少後のバースト、選ばれし探索者アレックスだ」

 

 

ー【選ばれし探索者アレックス〈R〉】LV1(1)BP4000

 

 

立て続けに裏向きのバーストが開き、そこから紫色のフードを被る、若い人型のスピリット、アレックスがヨッカのフィールドに召喚される。

 

 

「効果により、オマエのアタックステップは強制終了だ」

「くっ、小癪な。ターンエンド」

手札:3

場:【フレイドラモン[2]】LV1

【ライドラモン】LV2

【テントモン】LV1

バースト:【無】

 

 

アレックスの効果により、嵐マコトのアタックステップは強制終了。

 

痛みに耐え、アルケーガンダムを従えたヨッカにターンが移る。

 

 

[ターン04]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、先ずはアレックスの効果だ。自身を疲労させる事で、1つコアブースト」

 

 

自分のターンになった直後、ヨッカが発揮させたのはアレックスの効果。それにより、コアが1つ増える。

 

 

「馬鹿みたいにボカスカ殴ってくれて助かったぜ。お陰で、早く勝てそうだ」

「何だと!?」

「天空をも斬り裂く剣技、青のモビルスピリット、スサノオ!!……アレックスから全てのコアを貰い、LV2で来い!!」

 

 

ー【スサノオ】LV2(3)BP12000

 

 

薙刀を武器とし、黒々とした装甲に、和の甲冑を思わせる頭部を持った、青属性のモビルスピリット、スサノオ。

 

同じく青のモビルスピリットであるアルケーガンダムと共に、ヨッカのフィールドで肩を並べる。

 

 

「バーストをセットし、アタックステップ、スサノオの【武士道】を発揮。フレイドラモンに一騎打ちを所望する」

 

 

スサノオの【武士道】が発揮。

 

それにより、スサノオはフレイドラモンと対峙。拳のみで戦うフレイドラモンに合わせ、スサノオは一度武器である薙刀を地面に突き刺し、己もまた拳を構える。

 

そして始まる一騎打ち。フレイドラモンとスサノオはボクシングの如く殴り合いを披露するが、モビルスピリットとデジタルスピリットの体格差故か、スサノオの拳が、フレイドラモンにクリーンヒット、フレイドラモンはノックダウンされ、爆散へと追い込まれた。

 

 

「スサノオが【武士道】で勝利した時、オマエのライフ1つを破壊する」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉嵐マコト

 

 

地に突き刺した薙刀を回収したスサノオが、それを横一線に振い、嵐マコトのライフバリア1つを斬り裂く。

 

 

「効かねぇな!!」

「だけどコレは効くだろ。アルケーガンダムでアタックだ」

 

 

アルケーガンダムが天空を飛翔し、嵐マコトのライフ目掛けて急降下する。

 

アルケーガンダムを制限カードたらしめる理由の1つが、フラッシュタイミングで発揮できる、そのアタックブロック時効果だ。

 

 

「アッアッア、アルケーガンダムの効果は使わせない。フラッシュ【煌臨】を発揮、対象はライドラモン」

「!」

 

 

ライドラモンを対象に発揮される【煌臨】の効果。

 

来た。遂に来る。Dr.Aの相棒だったライダースピリット、その最終進化形態が。

 

 

「全ての進化の頂点に立つ、破壊の化身。仮面ライダークローズエボル!!……英雄の僕を贄とし、いざ来たれり!!」

 

 

ー【仮面ライダークローズエボル】LV2(3)BP15000

 

 

突如嵐マコトのフィールドに現れる1つの幻影。それはライドラモンと重なり合い、1体のスピリットへと変化を遂げる。

 

それは、悪魔の科学者Dr.Aのエースカード、エボルの最終進化系。この世の全てをクローズさせる、最凶最悪のライダースピリット………

 

その名はクローズエボル。圧倒的王者の風格を纏い、今、この場に顕現する。

 

 

「来やがったか、クローズエボル。テメェはオレがぶっ倒すぜ」

「ほざけ雑魚が。煌臨アタック時効果により、アルケーガンダムを破壊してゲームから除外」

 

 

クローズエボルは登場するなり、拳から龍の形をした紫と青が混ざったオーラを出現させ、それをアルケーガンダムに向けて放つ。

 

放たれたそれは、アルケーガンダムの赤みを帯びた装甲を貪り破り、爆散へと追い込んだ。

 

 

「破壊した事により、2枚ドロー。アッアッア、制限カードを使おうと、貴様が僕に勝てる要素はない!!」

「ふ……何か忘れてねぇか」

「!?」

「やっちまえ、スサノオ!!」

 

 

アルケーガンダムを倒したのも束の間、今度はスサノオが薙刀を構え、嵐マコトのライフバリアを目掛けて走り出した。

 

そして、この時に発揮できる効果がある。

 

 

「スサノオのアタック時効果、オレのフィールドに【武士道】【トップガン】しかいない時、オレは追加のアタックステップを獲得する」

「まさか貴様、アルケーガンダムを囮に使ったのか!?」

「贅沢はするさ。勝ちたいからなぁ!!」

「ぐっ……ライフで受ける」

「ダブルシンボルだ、2つ破壊する」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉嵐マコト

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

スサノオは、薙刀でアルファベットの『X』の文字を刻み、嵐マコトのライフバリアを一気に2つ破壊する。

 

フレイドラモン達とは違い、実体化していないスサノオの攻撃だったが、ヨッカのプレッシャー、死ぬ物狂いの勢いもあって、嵐マコトは痛みを受けていないにもかかわらず、痛みを与えられたかのように声が漏れ、半歩後退する。

 

 

「エンドステップ。ここで追加のアタックステップを行い、その開始時、再び【武士道】を発揮し、テントモンを破壊、ライフに1点のダメージ」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉嵐マコト

 

 

「ア、アァァァァァァ!!!」

 

 

スサノオは、背部に備えた短剣を投げつけ、テントモンと嵐マコトのライフバリア1つを串刺しにして貫く。

 

これで残りライフは1つ。ヨッカと並んだ。

 

 

「ターンエンド」

手札:1

場:【スサノオ】LV2

バースト:【有】

 

 

クローズエボルを煌臨され、それを除去できなかったものの、アルケーガンダムを囮に、嵐マコトのライフバリアを大きく削ぎ落としたヨッカ。

 

ライフ1つと、バースト、手札1枚で、次の嵐マコトのターンを迎える。

 

 

[ターン05]嵐マコト

 

 

「メインステップ、おのれ、雑魚如きが、最強カードバトラーであるこの僕のライフに傷をつけるなど……!!」

「デッキは確かに強いと思うぜ。でもテメェはプレイが稚拙だ。研究や暗躍ばっかでそんな暇なかったんだろうがな」

「黙れぇぇ!!……このターンで終わりだ、クローズエボルのLVを3に上げ、テントモンをLV2で召喚」

 

 

ー【テントモン】LV2(3)BP3000

 

 

「効果でコアブースト」

 

 

本日2体目となるテントモン。その召喚時効果により、嵐マコトのフィールドに、またコアが1つ増加するが………

 

 

「馬鹿がよ、バーストくらい警戒しろよな」

「な、まさか!?」

「相手スピリットの召喚時効果発揮後により、バースト発動。青マジック、キングスコマンド」

「!!」

「効果により、デッキから3枚ドローし、その後手札1枚を破棄する」

 

 

安易にスピリットを展開した事により、ヨッカの伏せていたバーストカードが発動。

 

その効果により、ヨッカは新たなカードをドローする。そして、それだけでは終わらない。

 

 

「コストを支払い、フラッシュ効果も発揮する。それにより、このターン、オマエはコスト4以上のスピリットでのアタックができない」

「ぐうっ……!!」

 

 

キングスコマンドの効果により、嵐マコトのフィールドを包み込むように、青色のヴェールが出現する。

 

苛立ちによる歯軋りが止まらない。嵐マコトのフィールドにいるクローズエボルのコストは9。強すぎるが故に、キングスコマンドの効果でアタックが不可能となる。

 

 

「だが、テントモンのコストはたったの3。キングスコマンドの影響下でもアタックが可能だ、アタックステップ、くたばれぇい!!」

 

 

キングスコマンドによって出現した青色のヴェールを何事もなかったように潜り抜け、テントモンがヨッカのライフを破壊すべく飛翔した。

 

唯一のスピリットであるスサノオは疲労状態。残り1つしかないライフを守れずに万事休すかと思われたその直後、ヨッカは手札にある1枚を、己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、白マジック、スクランブルブースター!!」

「!?」

「対象はスサノオだ。これにより、このバトルのみ、疲労状態でのブロックを可能とする、ブロックだスサノオ!!」

 

 

使用された白属性のマジックカード「スクランブルブースター」の効果により、再び活動を可能とするスサノオ。

 

飛翔するテントモンを薙刀で斬り下ろし、爆散させる。

 

 

「何だと……」

「バトル勝利時、スクランブルブースターの効果で2枚ドロー。どうした、まだまだ来いよ」

「ほざくな雑魚のくせに、ターンエンド」

手札:4

場:【仮面ライダークローズエボル】LV3

バースト:【無】

 

 

背水の陣と言える布陣の中、ギリギリで嵐マコトの攻撃を回避するヨッカ。

 

これで次のターン、嵐マコトが逆に敗北の危機、引いては命の危機に晒される事となるが………

 

 

「手札は……」

 

 

今更全ての手札を確認する。だが、その中には、相手のスピリット2体を指定し、そのターン中はそれからライフを減らされなくなる白マジック『ミストシールド』が確認できて………

 

 

「ア、アッアッア……残りライフは1つしかないが、スサノオの【武士道】でクローズエボルを破壊する事は不可能。まだある、勝てる。わからせてやる、誰が最強なのかを、神なのかを」

 

 

嵐マコトの心に、ある程度の余裕が生まれる中、相棒であるスサノオと共に、ヨッカのターンを迎える。

 

 

[ターン06]九日ヨッカ

 

 

「メインステップ、スサノオのLVを3にアップ。オマエは、オレの仲間を、恩人を傷つけ過ぎた」

「必要事項だ、僕がこの世の頂点に立つためのなぁ!!」

「オレは、みんなとの日々を取り戻すため、心を鬼にする」

 

 

嵐マコトを昇天させる覚悟を決めるヨッカ。手札のカードを引き抜き、Bパッドへと叩きつける。

 

 

「マジック、ストロングドロー」

「青マジック特有の手札入れ替えカードか。だが、今更そんなカードを使った所で、誰もこのクローズエボルを倒せやしな」

「誰がメイン効果を使うって言ったよ。オレが使うのはフラッシュ効果、スサノオのBPを3000アップさせる」

「なに!?」

 

 

基本的に、メインのドロー効果のみが使用される青マジック、ストロングドロー。だが今回、ヨッカが使ったのはフラッシュ効果。それにより、スサノオのBPが16000から19000に上昇する。

 

 

「もう1枚使用だ。スサノオのBPを22000まで上げる!!」

「ッ……クローズエボルのBPを、超えた!?……まさかこれを狙って」

 

 

2枚目のストロングドロー。その効果で遂にスサノオはクローズエボルのBP20000を超えた。

 

これで、スサノオの【武士道】でクローズエボルを突破できるようになる。そして、スサノオは【武士道】で勝利した時、相手ライフ1つを破壊できる。

 

嵐マコトの残りライフはたったの1。

 

お終いだ。このターンで、ヨッカの勝利は確実なモノとなる。

 

 

「アタックステップの開始時に、スサノオの【武士道】を発揮!!……クローズエボルを倒し、オマエの最後のライフも破壊する!!」

「ま、待て、話せばわかる、話せば……!!」

「先生の言葉に、耳を傾けなかったオマエに、話す権利はねぇ!!……スサノオォォォ!!」

 

 

ヨッカの叫びと共に、スサノオは薙刀に青色のオーラを纏わせ、それをクローズエボルへと向けて放つ。

 

その薙刀は、クローズエボルの腹部を貫き、そのまま、嵐マコトのライフバリアも………

 

 

「待て待て待て待ってくれ………ア、アァァァァァァ!!!!!」

 

 

〈ライフ1➡︎0〉嵐マコト

 

 

貫いて見せる。Bパッドの電源を落とすまでもなく、瞬く間に、あっという間に貫かれた。

 

クローズエボルの爆散と共に、嵐マコトは、今度こそ本当に敗北を喫したのだ。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

ここは界放市ジークフリード区にある、アビス海岸。

 

以前、その浜辺で鉄華オーカミが、王者の力を使い、早美ソラと激闘を繰り広げた事は記憶にも新しい。

 

 

「……やったか、九日」

 

 

砂浜の上で、粒子が密集し、横たわる男性が現れる。

 

それは嵐マコトに敗北し、消滅したはずの界放警察の警視アルファベット。復活するなり、それが九日ヨッカのお陰である事を悟り、そう呟いた。

 

 

 

******

 

 

舞台はすぐさま戻り、児雷也森林。ヨッカは嵐マコトに勝利した。

 

バトルの終了に伴い、最後まで残っていたヨッカのスサノオは消滅。嵐マコトのBパッドから「ピー……」という機械音が鳴り響き、彼の敗北を告げた。

 

 

「ア、ア、アァァァァァァ!?!……身体が、身体が消えて行く、消えて行くゥゥゥ!?!」

 

 

敗北した嵐マコトの身体は、徐々に粒子化していき、今にも消滅しようとしていた。

 

確定事項となった死に、嵐マコトは怯え、泣き叫ぶ。しかし、こればかりは完全に自業自得。今まで多くの者達の人生を狂わせて来た、報いだ。

 

 

「何故だ、何故負けた。僕は最強だった、無敵だった!!……なのに何故!?!」

「確かに、クローズエボルは強かった。だが、効果さえわかれば、対策はいくらでもできる。アルファベットさんがバトル中にクローズエボルの効果を教えてくれたお陰で、オレ達は難なくオマエに勝てたんだ」

「ッ……!?」

 

 

死への恐怖の中、嵐マコトは、結局アルファベットにも戦略的に負けていた事を思い知らされる。

 

もうその事に怒りを示す気力も残っていない。後は間もなく迎える死を待つのみだ…………

 

 

「次は、徳川フウだな。アイツとも、ケリをつけねぇと」

「徳川フウ……フウ様」

 

 

ヨッカが嵐マコトを後にしようとした直後、彼の口から出た「徳川フウ」の名前に、彼は走馬灯として、彼女との記憶が思い浮かび…………

 

 

ー………

 

 

今から5年も前の話だ。

 

エニーズ02を連れて逃亡した春神イナズマを追い掛ける事もなく、Dr.Aも芽座椎名に倒され、嵐マコトは何もできずに、医者としてのうのうと暮らしていた。

 

毎日毎日、何も変わらない、何も感じない。虚無な日々を過ごしていた、そんなある日だ。とある少女の担当医になったのは…………

 

 

「………」

「夏恋フウさんですね。僕がいる限り、もう安心ですよ」

 

 

手入れされていない、傷んだ黒く長い髪、8歳と言う幼い年齢には似つかわしくない、暗い表情。

 

一瞬で子供ながらに辛い人生を歩んで来た事を察した。だから優しくしてあげようと思っていた。少なくともこの時はまだ、嵐マコトにも良心があったのだ。

 

ただ、目の前の少女が放った一言で、その良心は黙らされる事になる。

 

 

「貴方は本当に、このままで良いのですか?」

「……は?」

「本当は思っているのでしょう?……あのDr.Aのようになりたいと。憎いのでしょう?……自分からエニーズ02を奪った春神イナズマが」

「ッ……何故エニーズ02の事を!?」

「その願い、私が叶えさせてあげますよ、このDr.Aの孫、徳川フウが」

「君が、徳川先生の、孫……!?」

 

 

目の前に患者として来客した少女は、あのDr.Aの孫。幼いながらにそのカリスマ性を継いでいるのか、その言葉と圧倒的なプレッシャーに気圧された。

 

 

「叶えたいなら、私に協力しなさい。その内に秘めた良心を捨てる覚悟さえあるのなら、必ず成し遂げられる」

「………!!」

 

 

迷った。迷いに迷った。

 

まだ半信半疑であったし、何よりも、またDr.Aの血筋と関係を結ぶのが怖かったからだ。

 

だが、その考えは、憎き春神イナズマの顔を思い出すと共に滅却される。

 

 

「僕はなりたい、いやなる。Dr.Aのような、誰も寄せ付けない強さを持った、究極の存在に」

「ニッヒヒ」

 

 

こうして、2人の関係性が結ばれた。

 

その2人の計画は、これまで、多くの人々を傷つけて来た。しかしながら、徳川フウは、嵐マコトにとって、己の野望を再出発させた救世主的な存在、この5年間でできた、ただ1人の家族と言う認識があって…………

 

 

ー………

 

 

「フウ様、フウ様、フウ様ァァァ!!!……この散る命、せめて貴女のためにィィィ!!!」

「なに!?……うおっ!?」

 

 

現代に戻り、フウへの想いを馳せ、息を吹き返した嵐マコトは、最後の力を振り絞り、立ち上がると、ヨッカへ向かって特攻。

 

不意をつかれたのもあり、ヨッカは嵐マコトに投げられる。そしてその先には、彼がBパッドを使って開いたワームホールがあって………

 

 

「うあぁぁァァァ!!!!」

 

 

ヨッカはワームホールで強制的にヴルムヶ丘公園へと転送されてしまう。

 

彼が起き上がった後にはもう、そのワームホールは姿を消していた。

 

 

「ア、アッアッア……これで良い。これで良いんだ。もう十分夢は叶った、叶えて貰った。愚かなイナズマとは違い、僕は前に進んだのだ。後は貴女の願いを叶えるのです、フウ……様」

 

 

最後の力を振り絞り、遂に限界を迎えた嵐マコト。

 

7年前のDr.Aと同様の力を使い、敗北した彼は、フウへの想いを馳せながら粒子となって消滅し、その生涯に幕を下ろした。

 

 

「おい、馬鹿野郎、何やってんだ九日ヨッカ、こんな所でもたもたしてんじゃねぇ、護るんだろみんなを、こんな所で止まるんじゃねぇ!!!」

 

 

まさに一瞬の出来事。ヨッカは頭の処理が追いつかなかったが、嵐マコトに、最後一矢報われた事だけは理解できていた。

 

それ故に先ず初めに考えた事は、油断してしまった、己への怒り。行き場のない怒りはやがて拳へと流れ、血が滲む程にそれを大地へと叩きつけた。

 

 

「チクショオォォォ!!!……イナズマ先生、ライ………オォォォカァァァァァァ!!!!」

 

 

夜。月明かりと電灯の光しかない時間帯。

 

不甲斐ない己への怒りを爆発させるように、ヨッカは叫んだ。

 

 

 

******

 

 

 

「……アニキ?」

 

 

児雷也森林にある、樹木で覆われ、煉瓦で構成された巨大な建造物の中。

 

ライを救けるべく、そこを走っていた鉄華オーカミは、アニキと慕う九日ヨッカの声が聞こえた気がして、思わずその足を止めてしまう。

 

 

「な訳ないか。その内追いついて来るだろ」

 

 

アニキなら大丈夫。そう信じ、オーカミはまた走り出そうとするが…………

 

 

「待ちたまえ、そこの少年」

「ん?」

 

 

右。声のする方へ、身体ごと首を向ける。

 

そこにあったのは牢屋。そして声の主は、その中にいた鼠色の囚人服を来た男性。

 

 

「アンタ誰?」

「私は、春神イナズマ。ライの父親だ」

「!」

「君は鉄華オーカミだろう?……生きていたんだな」

「ライの父さん。アニキの師匠、なんでオレの名前を」

 

 

牢屋の中にいた男性の名前は春神イナズマ。ライとヨッカが助けたがっていた人だと言う事を、オーカミは思い出す。

 

 

「名前くらい知ってるさ。ヨッカと一緒に娘を護ってくれていたんだろ?……ありがとう」

「………」

「だが、そう話してもいられない。ライは徳川フウに連れられ、この党の最上階へと移動してしまった」

「最上階」

「頼むオーカミ。この鍵を使って、私をこの牢屋から解き放ち、手錠を外してくれ」

 

 

イナズマが懐から牢屋の外にいるオーカミへと向けて投げたのは、牢と手錠の鍵。第三者がいなければ脱出できないが、こんな事もあろうかと作成しておいた物だ。

 

 

「……ライは、フウと何をしに最上階へ向かったんだ?」

 

 

足元に落ちた鍵を手に取りながら、オーカミはイナズマに訊いた。

 

 

「バトルをするためだ。徳川フウの計画のために」

「………」

 

 

オーカミはほんの僅かな時間考えると、また口を開く。

 

 

「じゃあもう別に無理して救けなくていいや」

「……は?」

 

 

イナズマは、彼の言っている事が理解できなかった。無理もない、折角ここまで足を運んだと言うのに、ライを救けないと口にしたのだから。

 

 

「な、何故そんな事を言う!?……救けなければ、ライは確実に死ぬ!!」

「アイツはオレが戦って来たカードバトラーの中でも、ぶっちぎりで一番強い。負ける訳ない。アイツはきっと、自分で決着つけたいんだろ?……じゃあもうオレが出る幕じゃない」

「……」

「父親なら、信じてやれよ。アイツの勝利を」

 

 

そう告げるオーカミだが、彼の意見を真っ向から否定すべく、イナズマは牢屋越しから彼の両肩を掴み………

 

 

「信じてるさ、ライは強い。でも、それでもダメだ」

「なんで」

「あの子は、あの子は優しすぎる……!!」

「?」

 

 

言っている意味がわからなかったオーカミだったが、その後直ぐにイナズマから事情を聞くなり激怒する事になる。なんで初めからそれを言わなかったのだと…………

 

そう、間違いない。

 

ライは、フウに負ける。

 

 

 

******

 

 

ここは塔の最上階。煉瓦でできた、巨大な円柱の空間。

 

そこでBパッドを構える両雄、春神ライと、徳川フウ。

 

 

「ニッヒヒ、どうライちゃん?……この空間、私達が決着をつける場所にはもってこいじゃない?」

「……」

「む〜つれないな〜……何か喋ってくれないと楽しくないぞ」

「約束、忘れてないよね。私が勝ったら、もう二度と、私の大事なモノに手を出さない事」

「なんか拡大解釈な気もするけど、ニッヒヒ……えぇ、忘れてないですよ」

 

 

構えたBパッドへ己のデッキを装填しながら、フウに確認するライ。このバトル、何が何でも勝たなければならないと、気持ちが引き締まる。

 

 

「フウちゃん。私は、負けないよ」

「そうそうその顔。バトスピする時のライちゃんはそうでなくちゃ」

「さぁ、バトスピタイムの始まりだ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

児雷也森林の北東にある巨大な塔、その最上階にて、春神ライと徳川フウ、自由を賭けた2人のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

 

 





第61ターン「家族のために、エアリアルVS初号機」


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第61ターン「家族のために、エアリアルVS初号機」

 

「ハァ……ハァ」

「……大丈夫?」

「いや、何のこれしき、まだ若者に遅れは取らんよ」

 

 

児雷也森林の北東の奥深くに位置する巨大な塔。そこの最上階までの階段を急いで駆け上がっている1人の少年と1人の男性。

 

鉄華オーカミと春神イナズマだ。若く、体力のあるオーカミはこれくらい余裕だが、イナズマは運動不足もあって息を切らしていた。しかしそこは娘であるライのため、彼も根性を見せる。

 

 

「……ところでオーカミ、君は娘とどう言う関係なんだ」

「どう言う?」

 

 

少しだけ先を走っていたオーカミに追いつきながら、イナズマがオーカミにそう質問した。

 

これに関しては事件のうんたらと言った話ではない。純粋な、ライの父親としての質問だ。

 

 

「普通に友達だけど」

「本当か?……本当に普通の友達同士か?」

「なんか急にうるさいな。オレはそう思ってるけど、ライは知らない、後でアイツに聞けば?」

「そ、それはなんか怖いから嫌だな」

「??」

 

 

まだ齢14歳のオーカミには、イナズマの父親としての感情は、到底理解できないだろう。

 

 

「じゃあもう1つ質問」

「今度は何」

「もし仮に、だ。ライが今の記憶や優しさを失い、心のない怪物になって、皆を襲い始めた時、君ならどうする?」

「………」

 

 

難しい質問だ。だが、オーカミは少しだけ考えると、直ぐに言葉を発する。

 

 

「難しい事は苦手だ。そう言うのはだいたいアニキが、アンタの弟子が考えてくれる。でもなんとなく、そうなったらオレはアイツを容赦なく倒す気がする」

「……嫌にならないか?」

「嫌だけど、大好きなみんなを襲う事になる、アイツの方が多分辛いと思うから」

「そうか」

 

 

不思議と、心の蟠りが溶けて行く感じがした。この少年なら、自分の代わりに娘を任せられると確信したからか。

 

 

「達観しているな、君は」

「そう?」

「私に何かあった時、ライを頼む。全力で守ってやってくれ、娘を任せられるのは、ヨッカと君だけだ」

「……」

「それ、もう少しで最上階だ。ここからは競争で行こう」

「え、競う意味ある?……オレ、片腕動かないから、全力で走りづらいんだけど」

 

 

オーカミと言う少年に触れ、この少年なら娘を任せられると確信したイナズマ。その後、2人は何1つ会話を交える事なく、最上階までの階段を駆け上がって…………

 

 

 

 

******

 

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

児雷也森林の北東にある巨大な塔、その最上階にて、春神ライと徳川フウ、自由を賭けた2人のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はフウだ。己が「儀式」と呼称するこのバトル、全てを見通しているかのような、余裕のある笑みを浮かべながら、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]徳川フウ

 

 

「メインステップ、ネクサス、鈴原トウジを配置」

 

 

ー【鈴原トウジ】LV1

 

 

「その配置時効果により、手札から相田ケンスケを配置して1枚ドロー」

 

 

ー【相田ケンスケ】LV1

 

 

「ネクサス、相田ケンスケの配置時効果、手札から紫のパイロットブレイヴ、碇シンジを召喚して1枚ドロー」

 

 

ー【碇シンジ】LV1(0)BP1000

 

 

「碇シンジの召喚時効果で1枚ドロー」

「手札を減らさず、フィールドに3枚のカードを展開した」

「これが私の本気のデッキ、凄いでしょ、ターンエンド♡」

手札:5

場:【碇シンジ】LV1

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【無】

 

 

僅か1ターン、手札を減らさず、ブレイヴ1枚、ネクサス2枚、計3枚ものカードをフィールドに並べたフウ。

 

ライはその大量展開をモノともせず、迎えた己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン02]春神ライ

 

 

「メインステップ、行くよ、エアリアル……!!」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル】LV2(2)BP3000

 

 

フィールドに出現するのは、風に包まれた球体。それを振り払い、中より全体的に柔和で白いビジュアルのモビルスピリット、春神ライの相棒、エアリアルが姿を見せる。

 

 

「契約カード。これがエアリアル、迫力満点ね」

「アタックステップ、エアリアルでアタック。その効果でカウント+1、デッキ下から1枚ドロー、OCを満たしたことにより、BP4000アップ!!」

 

 

契約カードを多用するデッキは、大抵の場合、カウントを増やす事に長けている。

 

エアリアルもその例に漏れず、ライのカウントエリアに1つのコアを貯めた。

 

 

「そのアタックはライフで」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉徳川フウ

 

 

背部に携行しているビームライフルを、吸い付かせるように右手は収めると、エアリアルはその銃口をフウへ向け、ビーム砲を放つ。

 

それは彼女のライフバリア1つを打ち貫き、粉砕した。

 

 

「契約カードにはそれぞれ意思と感情があり、契約者とのみコミニケーションを取ると言われてる。破壊されたライフの断片、砕けた時の衝撃から伝わって来た、そのモビルスピリット、怒ってるね。ニッヒヒ、そんなにライちゃんが大事なんだ」

「……ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・エアリアル】LV2

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

ライを苦しめた事に対して怒る、エアリアルの一撃。それが彼女に貴重な先制点を齎す。

 

バトルは二周目を迎え、次はフウのターン。不気味な笑みを浮かべながら、それを進めて行く。

 

 

[ターン03]徳川フウ

 

 

「メインステップ、エアリアルのお礼に、ライちゃんに紹介してあげる。私の最高のエースカード」

「!」

 

 

そう告げ、満面の笑みを浮かべながら、フウは手札から引き抜いた1枚のカードを己のBパッドへ置く。

 

 

「私は今、神話になる。エヴァンゲリオン初号機!!……LV2で召喚」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-】LV2(3)BP9000

 

 

黒々としたワームホールのような渦が開くと、それを咆哮を張り上げながら荒々しくこじ開け、フィールドへ飛び出して来る何か。

 

それは、紫色の体色と一角を持つエヴァンゲリオンスピリット、初号機。フウのエースカードにして、災厄そのモノ。

 

 

「ッ……紫のエヴァンゲリオンスピリット!?」

「ニッヒヒ、碇シンジを初号機に合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃+碇シンジ】LV2(3)BP13000

 

 

「アタックステップ、初号機でアタック。その効果でエアリアルを指定アタック」

「エアリアルを破壊する気か」

「いや、まだ破壊しないよ、まだね。ブロックされた時、初号機の【転醒】を発揮、バトルをただちに終了させ、自身にコアブーストし、裏返す」

 

 

エヴァンゲリオンスピリットの原点、初号機は、地獄の咆哮とも呼べる雄叫びを上げながら、更なる進化を遂げて行く。

 

 

「転醒せよ、シン化第1覚醒形態!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+碇シンジ】LV2(4)BP17000

 

 

緑だった装飾は赤く発光し、より残忍性が増した事を告げるように、口が大きく開口する。

 

これがシン化第1覚醒形態。エヴァンゲリオン初号機が更なる力を得た姿だ。

 

 

「転醒によりカウント+1。さらに転醒アタック時効果で回復」

 

 

【転醒】の効果により、初号機のバトルが強制終了となったが、転醒時効果により回復したため、このターン、もう一度だけアタックが可能となった。

 

 

「転醒を果たした、第1覚醒形態で再びアタック。その効果でエアリアルのコア2個をリザーブに置き、消滅」

「くっ……」

 

 

荒々しい獣のような勢いでエアリアルに迫り来る、初号機第1覚醒形態。エアリアルはビームライフルを撃ち、迎撃するが、第1覚醒形態は、半透明のバリア、A.T.フィールドを掌から展開し、それを弾く。

 

そして、第1覚醒形態はエアリアルの眼前へと到達し、その胸部を拳で殴打。エアリアルを吹き飛ばして爆散させる。

 

 

「さらに消滅したら相手ライフ1つをリザーブに置く、貫通効果」

「ッ……」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

「ッあぁ……!!」

「まだよ。第1覚醒形態本体のアタックがある」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉春神ライ

 

 

「うあァァァ!!!」

 

 

エアリアルを倒した第1覚醒形態。その拳で次はライのライフバリアを砕き始める。

 

何度も殴りつけ、累計で3つのライフバリアを粉砕し、ライに大きなダメージを与えた。

 

 

「ライちゃんの苦痛に歪む顔、最高」

「……この感じ、妙だ。まさかスピリットが実体化してる?……本当に私の目の前にいるの……!?」

「あぁ今更気がついた?……まぁ最近のBパッドの技術は、本物と差し支えないくらい繊細で美しいからね。そうだよ、私のBパッドはマコト先生作の特別製、スピリット達は実体を持ち、真のバトルダメージを与える」

 

 

ここでようやくフウの操るスピリットが実体化している事に気がつくライ。真のバトルダメージが身体に刻まれ、恐怖で右手の指先が小刻みに震えるが、すぐさまそれを押し殺すように拳を握る。

 

 

「……破壊された契約スピリット、エアリアルは魂状態となって、私のフィールドに残る」

 

 

エアリアルの爆散による爆煙が晴れると、ライの横に破壊されたはずのエアリアルが、色のない半透明の姿となって片膝をついていた。

 

これは魂状態と言われる、契約カード特有の状態。相手によってフィールドを離れる契約カードは、代わりにアタックもブロックもできない魂状態となってフィールドに残る事ができるのだ。

 

 

「怖いのに無理しちゃって、可愛い。ターンエンド」

手札:5

場:【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+碇シンジ】LV2

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【無】

カウント【1】

 

 

実体化するスピリットを使い、ライに死と言う恐怖を与えるフウ。

 

しかしライは、イナズマやヨッカ、己の家族のため、その恐怖を胸に押し殺して耐え、第4ターン目を進めて行く。

 

 

[ターン04]春神ライ

 

 

「メインステップ、みんなのためなんだ、怖くなんて、ない!!……黄のネクサス、ミオリネ・レンブラン、さらに黄のパイロットブレイヴ、スレッタ・マーキュリーを召喚」

 

 

ー【ミオリネ・レンブラン】LV2(1)

 

ー【スレッタ・マーキュリー】LV1(0)BP1000

 

 

フィールドには何も出現しないが、ライはネクサスの配置と、パイロットブレイヴの召喚を行う。

 

ただ、合体先のスピリットがいないため、少なくともこのターンでの反撃は不可能であり………

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【スレッタ・マーキュリー】LV1

【ミオリネ・レンブラン】LV2

【ガンダム・エアリアル】《魂状態》

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

劣勢をひっくり返せず、そのターンをエンドとする。

 

反撃できなかったライを見て、口角を上げるフウ。また初号機を従える彼女のターンが始まる。

 

 

[ターン05]徳川フウ

 

 

「メインステップ、第1覚醒形態のLVを3、相田ケンスケのLVを2にアップ」

 

 

メインステップの開始早々、フウはフィールドのカードのLVを上げる。これにより、初号機のBPは最大の21000まで上昇。

 

 

「アタックステップ。ニッヒヒ、早くも決着がつきそうだねぇ、第1覚醒形態でアタ」

「その前に、アタックステップ開始時、ネクサス、ミオリネ・レンブランの効果を発揮」

「なに……?」

 

 

決着をつけようと、第1覚醒形態で再びアタックを仕掛けようとしたフウに、ライが待ったを掛ける。

 

 

「ミオリネは、自分のスレッタがいる時、各アタックステップの開始時、相手のスピリット1体を指定し、このターン、そのスピリットは可能なら必ず一番最初にアタックしなければならない。さらに、それが持つアタック時効果1つを発揮させない」

「ッ……アタック時効果を無力化する効果」

「私が指定するスピリットは、初号機第1覚醒形態、発揮させないアタック時効果は【A.T.フィールド】」

 

 

ライが発揮させたミオリネの効果。

 

それはスレッタがいる時に限り、アタックステップの開始時に相手スピリット1体を指定し、このターン、それは可能なら必ず一番最初にアタックしなければならなず、アタック時効果1つが無効となる。

 

これにより、フウは【A.T.フィールド】のない初号機第1覚醒形態でのアタックを強制させられた。

 

 

「ニッヒヒ、そんなまどろっこしい戦術を携えて、いったい何を企んでいるのかな〜〜?」

「……」

「まぁでもいいよ、強制されたし、乗ってあげる。第1覚醒形態でアタック、転醒アタック時によりターンに一度回復」

 

 

自ら罠に掛かりに行くフウ。第1覚醒形態が咆哮を張り上げながらライの元へと迫って行く。

 

このアタックが通れば彼女の勝利となるが、ライがこのタイミングでわざわざ自分の1ターンを潰してまで【A.T.フィールド】の効果を無力化したのには、当然意味があって。

 

 

「フラッシュ【契約煌臨】を発揮。対象は、魂状態のエアリアル……!!」

「ッ……【契約煌臨】……契約カードが持つ力」

 

 

ライが発揮させたのは、ただの【煌臨】ではない、魂状態の契約カードも対象にできる【契約煌臨】だ。

 

半透明になり、ライの横で片膝をついていたエアリアルは、再び色を取り戻し、ライを守り抜くべく立ち上がる。

 

 

「LV2で来い、エアリアル・ビームブレイド」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル[ビームブレイド]】LV2(2)BP14000

 

 

「この瞬間、スレッタの効果発揮。契約煌臨したエアリアルとただちに合体」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル[ビームブレイド]+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)18000

 

 

復活したエアリアルは、ビームライフルの銃口からビームブレイドと呼ばれるビーム状の刃を出現させる。

 

 

「煌臨アタック時効果、相手スピリット2体のBPをマイナス10000、スレッタがいるなら追加でもう一度発揮」

「!」

「つまり、BPマイナス20000だ。【A.T.フィールド】を発揮できない、初号機第1覚醒形態のBPは、たったの1000になる」

 

 

エアリアル・ビームブレイドは、その手に持つビームブレイドをエックスの字を描くように振い、ビームでできた飛ぶ斬撃を放つ。

 

初号機第1覚醒形態は、迫り来るそれをA.Tフィールドで防ごうと、片手を翳すが、それは出現せず、そのまま直撃。破壊には及ばなかったものの、そのBPは1000までダウンしてしまう。

 

 

「そしてそのアタックは、エアリアル・ビームブレイドでブロック。煌臨元の契約エアリアルの効果、アタックブロック時、カウント+1してデッキ下から1枚ドロー」

 

 

先程の攻撃で怯んだ初号機第1覚醒形態。その隙をつき、エアリアル・ビームブレイドは間合いを詰め、それの腹部にビームブレイドを突き刺す。

 

二度の攻撃をどちらとも諸に受けた初号機第1覚醒形態は、ビームブレイドが引き抜かれた瞬間に大爆発を起こした。

 

 

「エアリアルが相手を倒した時、合体したスレッタの効果、デッキ下から1枚ドローし、トラッシュのソウルコアをリザーブに戻す」

「合体していた碇シンジは、そのまま破壊された初号機と共にトラッシュへ。エンドステップ、相田ケンスケのLV2効果、自身のコア1つをトラッシュへ置く事で、トラッシュから碇シンジ1枚を回収。ターンエンド」

手札:7

場:【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【無】

 

 

突如手痛いカウンターを受けてしまったフウだが、破壊されたブレイヴは、次のターン、ライの破壊した時などのトリガーにならないようにスピリットと共にトラッシュへと捨て、ネクサスの効果でそれを回収。

 

そのプレイングは冷静そのモノ、余りにも無駄のなさすぎるプレイングだ。

 

 

「ニッヒヒ、さっすがライちゃん。こんな凄いカウンターを仕込んでたなんて、やっぱりエニーズ02の名は伊達じゃないね」

「……私は、エニーズ02じゃない。春神ライ、お父さんが名付けてくれたこの名前が、私の本当の名前だ」

「………へぇ」

 

 

ライの反論に、フウは少しだけ苛ついたように声を零す。

 

そして迎えるライのターン。全身全霊を込め、カードをドローして行く。

 

 

[ターン06]春神ライ

 

 

「メインステップ、黄のネクサス、ニカ・ナナウラをLV2で配置」

 

 

ー【ニカ・ナナウラ】LV2(2)

 

 

「配置時効果でデッキ上から2枚をオープン、その中の系統に「学園」を持つカード、2枚目のスレッタを手札に加えて、残りを破棄」

 

 

ライはデッキトップから引き当てたカードをそのまま使う。ネクサス効果により、彼女は2枚目となる「スレッタ・マーキュリー」のカードを手札へ加えた。

 

 

「アタックステップ、エアリアル・ビームブレイドでアタック。効果でカウント+1、デッキ下から1枚ドロー、さらにエアリアル・ビームブレイドのOC効果、私のライフ1つを回復する」

 

 

〈ライフ2➡︎3〉春神ライ

 

 

カウント増加に、ドロー、ライフ回復だけではない。ライは勝負を決めるべく、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュ【契約煌臨】を発揮、対象はアタック中のエアリアル・ビームブレイド」

 

 

再び発揮される【契約煌臨】………

 

そして、今からそれによって呼び出されるのは、全ての力を解放した、エアリアルの本当の姿。

 

 

「遙か未来を駆け抜ける、私の相棒!!……ガンダム・エアリアル・ガンビット、LV2で煌臨!!」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル[ガンビット]+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP22000

 

 

エアリアルのシールドが複数のビット、ユニットとして展開。それらは踊るように宙を舞い、エアリアルの周囲で球体を描く。

 

そのユニット、ガンビットを操るエアリアル、エアリアル・ガンビットこそ、エアリアルの真の姿にして、春神ライのエースカードだ。

 

 

「煌臨アタック時効果、スレッタとの合体により、バトル中、黄のシンボル1つを追加」

「ダブルシンボルになったか」

 

 

ダブルシンボル効果のみで終わらない、エアリアル・ガンビットの真骨頂はここからだ。

 

 

「フラッシュ、手札からエアリアル・ガンビットの効果でマジックカードとして扱っている、ミオリネ・レンブランの効果を発揮、アタック中のエアリアル・ガンビットを回復」

 

 

エアリアル・ガンビットの効果。OC2以上で、ライの手札にある系統「学園」のカード全ては、エアリアルを回復させるマジックカードとして扱っている。

 

それにより、エアリアル・ガンビットは、このターン二度目のアタック権利を獲得した。

 

 

「ダブルシンボルの連続攻撃で、ジ・エンドだ」

 

 

そうは言いつつも、ライはカードバトラーの本能で理解している。

 

徳川フウはこの程度で終わる事はない、と。

 

 

「馬鹿にしてる?……フラッシュマジック、ブリザードウォール」

「!」

「効果により、このターン、アタックによるライフ減少を1のみとする。エアリアル・ガンビットのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉徳川フウ

 

 

ガンビットを操る、エアリアル・ガンビット。複数のガンビットから放たれるビーム攻撃は、それを一気に2つ破壊するものだと思われていたが、フウの使用した白マジック「ブリザードウォール〈R〉」の効果によって出現した猛吹雪により阻まれる。

 

結局、1つしか破壊できず、ガンビット達はエアリアル・ガンビットの元へと帰還した。

 

 

「……ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・エアリアル[ガンビット]+スレッタ・マーキュリー】LV2

【ミオリネ・レンブラン】LV2

【ニカ・ナナウラ】LV2

バースト:【無】

カウント:【3】

 

 

ブリザードウォールの猛吹雪に阻まれ、そのターンをエンドとするライ。エアリアル・ガンビットをブロッカーとして残す形でフウにターンを渡すこととなった。

 

 

「父親が付けてくれた名前?……自分はエニーズ02じゃない?……その程度で忌むべきタトゥーが消えるんなら、苦労はしねぇんだよ……!!」

「!!」

「怪物は所詮どこまで行っても怪物。それ以外になりゃしねぇ」

 

 

先程のライの発言にご乱心のフウ。巡って来たターンを進めて行く。

 

 

[ターン07]徳川フウ

 

 

「メインステップ、私は今、神話を超える。エヴァンゲリオン初号機カシウスをLV2で召喚」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-】LV2(3)BP12000

 

 

ライの前に立ち塞がるのは、またしても初号機。ただその両手には歪な赤い槍が握られている。鬼に金棒とはまさしくそれの事だろう。

 

 

「パイロットブレイヴ、真希波・マリ・イラストリアスを召喚」

 

 

ー【真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君-】LV1(0)BP1000

 

 

「新しい初号機に、新しいパイロットブレイヴ……」

「今までのは全てウォーミングアップ。ここからが私のデッキの、本気だよ♡

「ッ……王者、フウちゃんが」

 

 

フウの瞳孔が赤く輝く。これより、彼女の脳裏には、己の勝利する絵が浮かび続ける。

 

ライやオーカミなども使える「王者」と呼ばれる力だが、ライは、フウがこれを使える事は初めて知った様子。

 

 

「マリの効果。デッキ上から8枚オープン、その中にある紫のブレイヴカード、碇シンジ回収し、コア2つを初号機カシウスに追加、そのまま合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-+真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君-】LV4(5)BP25000

 

 

「ニッヒヒ、マリの合体時効果で、合体している初号機カシウスのLVは1上がる。よって、LVは4だよ」

 

 

その身に紫のオーラを纏う初号機カシウス。そのLVは殆どのスピリットが持ち得ない4まで上昇する。

 

 

「アタックステップ、さぁ初号機カシウス、まだ自分の事を人だと思っている哀れな怪物に攻撃を……!!」

「……ミオリネの効果により、初号機カシウスを指定し、強制アタックに、アタック時効果1つを発揮させない状態にする」

「ニッヒヒ、でも、ライちゃんはその効果で【A.T.フィールド】しか選べない。それ以外の効果を選んでも、【A.T.フィールド】の効果で直ぐに発揮できる状態になるからね」

「くっ……【A.T.フィールド】の効果を発揮させない」

 

 

アタックステップに突入し、初号機カシウスでアタックを仕掛けるフウ。この時、ミオリネの効果を飛び越え、初号機カシウスが内包する強力なアタック時効果が発揮されて。

 

 

「アタック時効果、デッキから2枚ドローするか、相手スピリット1体のコアを全てリザーブに置く。後者を選択し、エアリアル・ガンビットを消滅」

「ッ……スレッタはフィールドに残す」

 

 

紫のオーラを槍に集中させ、エアリアル・ガンビットへ向けてそれを投擲する初号機カシウス。エアリアル・ガンビットは、己のビットを操り、それを防ぐが、槍はそれを貫通し、エアリアル・ガンビットの胸部の装甲を貫いて爆散へと追い込んだ。

 

 

「もう1つのアタック時効果、手札からエヴァンゲリオン1枚をゲームから除外する事で、回復し、フィールドに残ったスレッタを破壊」

 

 

フウは手札にある「エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-」のカードをゲームから除外し、初号機カシウスのもう1つの効果を発揮。

 

ライのBパッド上から、スレッタのカードがトラッシュへと誘われ、フィールドでは、初号機カシウスが投げた槍を拾い上げ、回復状態となる。

 

 

「これで終わりだ!!……って言いたいとこなんだけど、使うんでしょ、白晶防壁」

「……フラッシュマジック、白晶防壁。このターン、私のライフは如何なる手段であっても1つしか減らない」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉春神ライ

 

 

「うァァァァッ!!」

 

 

初号機カシウスが赤い槍を横一線に振い、ライのライフバリアを砕くが、直前で発揮させていた白のマジックカード『白晶防壁〈R〉』の効果により、砕けた数は僅か1つとなった。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-+真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君-】LV4

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

王者の力により、ライのマジックカードまで予測していたフウ。余裕とブロッカーを残し、そのターンをエンドとする。

 

 

「ぐっ……」

「痛くて、怖いはずなのに、よく頑張るね。そんなに生きたいの?……そんな権利最初から持ち合わせてないくせに」

「………」

 

 

言葉の節々から、ライを精神的に弱らせようと試みているのがわかるフウ。実際、ライの精神は既にズタズタ。

 

 

「生きたいよ。だって、もっとずっと一緒にいたい。みんなと……そう思えたから、頑張れる」

「へぇ、その「みんな」の中に、私も入ってるのかな?」

「フウちゃんが、何のためにエニーズ02である私を欲していたのかはわからない。何で今こうして自由を賭けてバトルしているのかも。きっと、何か大きな理由があるんだよね」

「……」

「でも、そこにどんな理由があっても、私は負けられない。このバトルに勝って、みんなの所に帰る。さぁ」

 

 

ラストターンの、時間です……!!

 

 

Bパッドから迸る青い光。それが伝って行き、ライの目尻から顎に掛けて、同じ色の刻印が浮かび上がる。

 

これもまた王者だ。しかも契約カード「エアリアル」の力と合わさっているからか、他とは全く違う、特別性を感じさせるモノだ。

 

全ての力を解放させた、ライの全身全霊のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン08]春神ライ・王者

 

 

「メインステップ、私のエアリアルは、無限の可能性を秘めている。その進化は、ガンビットだけじゃない」

 

 

そう告げると、ライは手札にあるカードを1枚引き抜き、己のBパッドへと叩きつける。言葉通り、それはエアリアルの可能性。

 

 

「遥か彼方をも撃ち抜く、私の相棒!!……ガンダム・エアリアル・改修型!!…LV2で契約煌臨だ」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル(改修型)】LV2(2)BP22000

 

 

魂状態となり、色素を失ったエアリアル。神々しい光と共に、新たな姿を獲得する。

 

その姿に、以前の優しそうな面影は殆どない。新たな装甲、新たな武器、新たなビット。新たなエアリアルは、それらを用いて敵を穿つ、真の戦士。

 

 

「新たなエアリアル、やたら怖い顔ね」

「煌臨アタック時効果、相手スピリット全てのBPをマイナス10000、0になれば破壊し、破壊した数だけドロー」

 

 

エアリアルは進化した、新たなガンビットを展開、そこからビームを連射し、フウのフィールドを焼き尽くす。

 

ただ、それを受けても尚、初号機カシウスはありったけの咆哮を張り上げ、生き残る。

 

 

「初号機カシウスのBPは、まだ15000もある。アタック時でもう一度それを発揮したとしても、破壊はできないよ」

「知ってる。2枚目のスレッタを召喚し、エアリアル・改修型に合体」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル(改修型)+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP26000

 

 

「エアリアル・改修型のもう1つの効果、自分のアタックステップ中、スレッタがいるなら、エアリアルのシンボルは黄の3つとなる」

 

 

前のターンに加えた、スレッタを召喚し、即合体。それにより、エアリアル・改修型は、アタックステップ中、トリプルシンボル化、一撃で3つものライフを砕く力を得る。

 

 

「トリプルシンボル化の効果。でも結局、ブロックされたら意味のない話、初号機カシウスでブロックして仕舞えば」

 

 

そう。

 

フウの言う通り、いくらシンボルを足しても、合わせても、増やしても。ただ一度ブロックされて仕舞えば、ライフバリアを傷つける事はできない。

 

しかし、エアリアルによって、より強い王者を発揮させているライが、それを理解していないはずもなくて。

 

 

「私のラストターンは、絶対だ」

「!」

「マジック、決闘。これにより、初号機カシウスのBPを、さらに8000下げる」

 

 

ライの放った1枚のマジックカード。それにより、初号機カシウスの紫色の装甲が、僅かな時間、黄色に発光。そのBPは7000にまでダウンしてしまう。

 

 

「これでBP7000。煌臨アタック時効果で破壊できる」

「チ、ウザったいな」

 

 

外部のカードをも巧みに使いこなし、エアリアル・改修型の射程圏内を手繰り寄せるライ。

 

勝負を決めるべく、遂に最後のアタックステップへと駆けていく。

 

 

「アタックステップ、エアリアル・改修型で」

「アタック……の前に、最後にライちゃんに教えてあげますよ。なぜ、私が今ここで貴女とバトルしているのかを」

「え」

 

 

アタックステップ直後。フウの言葉に、ライは思わず、エアリアル・改修型のカードを捻り、アタックしようとしていた手が止まる。

 

 

「私ね、生きたいのライちゃん。もっと長く、もっともぉぉぉおっと長く」

「ッ……何、言ってるの……!?」

「私が何で王者の力を使えると思う?……これは貴女や早美ソラ、鉄華オーカミが持つような、天然物の王者じゃない。その昔、与えられた物なの。私の祖父、Dr.Aにね」

「……!!」

「もっとも、人工的に造られた貴女の王者は、天然物とは言い難いけどね」

 

 

もっと長く生きたい。与えられた王者の力。悪魔の科学者、Dr.A。

 

そしてフウは、その孫。

 

それらが結びつく答えは………

 

 

「Dr.Aは、裏切り者である春神イナズマ、嵐マコトの反逆に備え、返り討ちにするために、彼らが当時から研究していた王者の力を、己もまた研究し………」

「……」

「その力を、強引に孫である私の体に埋め込んだ」

「ッ……!!」

 

 

言葉が詰まる。フウの惨たらしい過去に、ライは右手で口を抑えた。

 

 

「最初は、覇道を突き進もうとする、お祖父様を心配した、私のお父様だった。だが適合できず、次はお母様。もちろんダメ、どちらも死んだわ、ムシケラみたいに」

「フウ、ちゃん」

「そして最後に選ばれたこの私、この私だけが適合したの。寿命が短命になるデメリットと共にね」

「!!」

「だいたい16歳。つまり、何もしなくても、後3年程度で私は死ぬ。驚いたでしょう、Dr.Aにとって、孫である私でさえ実験動物だったのよ」

 

 

凄惨過ぎる過去。母親がいない、僅かに寂しいだけの自分の過去とは訳が違う。

 

地獄のような過去。それをフウはずっと歩んで来たのだ。

 

ライは、今の話を想像するだけでも、手先の震えが止まらなかった。

 

 

「そこで目をつけたのが、嵐マコトとか言う小物のデジタル化の技術と、彼と春神イナズマが造った人造人間、エニーズ02、ライちゃん、貴女だった」

「……」

「エニーズ02は、その性質上、強靭的且つ、しなやかで、健康的な肉体を持つ。それをあの小物の技術でデジタル化し、私の身体に取り込む事さえできれば……」

「長く、生きる事ができる」

「そう!!……おそらく、どんな厄病だって治せる、万能薬となるに違いない」

 

 

フウの本当の目的。

 

それは、ライをデジタル化し、それを己の身体へと取り込む事で、長寿を得る事。

 

簡潔に説明するのであれば、ライの命と引き換えに、己が生き残る。と言う事になる。他者の命を踏み潰し、生を得る。明らかに非人道的で、倫理観が欠如している考え方である。

 

 

「でもね、障害もある。エアリアルよ」

「!」

「アレがある限り、貴女をデジタル化できない。Bパッドを通して、貴女は護られているからね。それを無効化するためには、貴女にバトルで勝つしかない」

「………」

「ここまで話せば、もうわかってると思うけど、要するに、今のライちゃんの選択肢は2つに1つ。エアリアル・改修型でアタックし、トドメを刺して自分が生き残るか、それとも私に負けて、私を生かしてくれるのか」

「ッ……2つに、1つ」

 

 

今、このバトルの状況。ライに圧倒的優勢な状況。

 

この状況は、ライ自身とフウの命を天秤に掛けているのと同義だった。

 

 

「……ッ……ッ」

「ニッヒヒ」

 

 

Bパッド上にある、エアリアル・改修型のカードを捻れば、それだけで勝てる。自分だけじゃない、自分のせいで苦痛な道を進む事になってしまった、父、イナズマと、ヨッカを救う事ができる。

 

ただ1つ、ただ1つのデメリットは………

 

この行為は、フウを見殺しにする事と同じである事。たったその1つの理由だけで、ライの心に迷いが生じ、鼓動が跳ね上がり、王者が解除される。

 

その様子を見て、フウは不敵な笑みを浮かべる。まるで、全てが計画通りだと言わんばかりの、邪悪な顔だ。

 

 

『ダメだよライ!!……ここで勝負を決めないと、君が死ぬんだよ、ライ!!……ライ!!』

「ハァッ…ハァッ…ハァッ……死ぬ、誰が?…フウちゃんが?…嫌、そんなの」

 

 

ライの脳内に直接、エアリアルの声が響く。しかし、その声は全く届いていない。それどころか徐々にまた精神が蝕まれ、弱気になっていく。

 

 

「私は、私は………!!」

 

 

カードを捻るだけで勝てる。

 

カードを捻るだけで自分が生き残る事ができる、みんなが自由になる。

 

カードを捻るだけで…………

 

人が死ぬ。

 

 

「ッ………これで、ターン、エンド」

手札:2

場:【ガンダム・エアリアル(改修型)+スレッタ・マーキュリー】LV2

【ミオリネ・レンブラン】LV2

【ニカ・ナナウラ】LV2

バースト:【無】

 

 

ライは、フウを殺せない。

 

フウが1年掛けて築き上げて来た、親友としての記憶が、それをさせないのだ。これもまた、フウの策略。

 

 

「ニッヒヒ、ラストターンになるんじゃなかったっけ。あぁ、まぁライちゃんのターンが最後って意味なら、間違ってないか」

「………」

「ありがとう、やっぱり優しいよねぇ、ライちゃんは」

 

 

ライとて、わかっている。フウが自分の事を親友などと微塵も思っていない事など。だが、それでもライは、過去の、親友としてフウとの記憶を、踏みに弄る事はできない。

 

その心の優しさ故に、ライは負ける。

 

 

「じゃあ私のターンね」

 

 

[ターン09]徳川フウ・王者

 

 

「メインステップ無し。アタックステップ、初号機カシウスでアタック、その効果で邪魔なエアリアル・改修型を消滅」

 

 

フウのターンに回った事で、初号機カシウスのBPも元の25000に戻っている。

 

ライに迫り来る初号機カシウスの道を、エアリアル・改修型が阻むが、手に持つ赤い槍でビットが次々と貫かれ、己の右腕左足さえも切断されてしまう。

 

 

「ッ……エアリアル……!!」

 

 

地面に倒れるエアリアル・改修型、それをよそに、ライの所へ向かおうとする初号機カシウス。

 

だが、ライを殺させまいと、エアリアル・改修型は残った右足で飛び、残った左腕で初号機カシウスを抑え込む。

 

しかし、それができたのも、ほんの僅かな時間、初号機カシウスは、赤い槍でエアリアル・改修型の背部から胸部に掛けて串刺しにし、それを爆散へと追い込んだ。

 

 

「今まで楽しかったよねぇライちゃん。2人でたくさん遊んだし、いろんな所にお出かけしたよねぇ」

「……」

「じゃあ死んでよ、バイバイ」

 

 

先程のターンで、完全に戦意を失ってしまったライに、実体化した初号機カシウスが、赤い槍を斜め下に斬り下ろす。

 

その一撃は、ライのライフバリアだけではなく、ライの身体までもを斬り裂く。

 

そう、思われていた………

 

 

〈ライフ2➡︎0〉春神ライ

 

 

「え」

 

 

ライフバリアと共に斬り裂かれる直前、自分を突き飛ばす誰かが現れる。

 

そして、その人物が、まるで自分の身代わりになるように、その攻撃を真正面から全身で受け止める。

 

ライは、突き飛ばされた直後、飛んで来た血飛沫と、その正体に驚愕する…………

 

 

「お父……さん」

 

 

自分の代わりに、大量の血を流し、倒れたのは、他でもない父親、春神イナズマだった。

 

それを知った直後、ライは彼の死と言う恐怖で顔が歪む。

 

 

「お父さんッ……!?」

 

 

慌ててイナズマの元へ駆け出すライ。その直後にオーカミもこの場に居合わせるが、今一歩、遅かった………




次回、第62ターン「血と悪魔と怒りと」




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第62ターン「血と悪魔と怒りと」

 

 

 

これは、およそ1年前の話。

 

界放市ではないどこかの村、どこかの家、近所の牧羊から羊達の鳴き声が響き渡る、そんなのどかな雰囲気が流れ出すこの場所に、当時11歳の春神ライはいた。2階のベットの上で、年齢的に不相応なモデルの雑誌を読みながら、ぐうたらと過ごしていた。

 

しかし、その時………

 

 

「うぁぁぁぁぁあ!!?!!」

「!」

 

 

40代程度という年齢を感じさせる男性の叫び声が1階の方から響いて来た。ライはそれに対して特に驚く様子もなく、雑誌をベットの上に置くと、階段を使って1階へと降りて行った。

 

1階に行くと、叫び主であろう男性がキッチンの前にあるフライパンを見て「しまった」と言わんばかりの表情を浮かべていて…………

 

そのフライパンの上には黒いダークマターみたいなモノがある事から、おそらく、料理に失敗してしまったのだろう。まぁ、ライにとっては、いつもの事だ。

 

 

「また失敗したの、お父さん?」

「すまんライ、今度こそと思ってやってみたんだが、いやぁ、やはり料理は難しいな」

「ふ、料理って目玉焼きでしょ?」

「な、笑う事ないだろ」

「ははは!!」

 

 

目玉焼き如きの料理に失敗したこの男性の正体はライの父親。40代程度の年齢とは思えない程、外見は若々しい。

 

 

「私がやるよ。お父さんは座ってて」

「うむ、面目ない」

 

 

エプロンを身に着けながらライが言った。父は後ろめたさを感じながらもリビングにあるソファに身を掛ける。

 

その後、およそ10分弱で完成した目玉焼きや野菜サラダ、ハムとチーズが挟まれたサンドイッチでランチタイムを始める。

 

 

「ライはホント、大きくなったな」

「どうしたの、薮から棒に」

「シンプルに娘の成長を感じてた。もうすぐ12歳だもんな」

 

 

食パンを頬張るライを見ながら、父がそう辛気臭い言葉を落とした。

 

自分は物心ついた時から父と一緒にいたが、父から見たら自分が赤ん坊の頃からずっと見ているのだから、何かきっと感じるモノがあったのだろう。

 

 

「今年の誕生日プレゼントは何がいい?」

「あぁ、と言っても別に今欲しいのはないかな。誕生日までに考えておくよ」

 

 

この時、ライはもうすぐ12歳の誕生日だった。父はおそらく本人よりも彼女の誕生日を楽しみにしていた。

 

 

ー……

 

 

しかし、その4日後、誕生日を3日前に迫ったその日、父はある用事ができてしまい、一時ライと離れなければいけなくなった。行き先は「日本の界放市」と言う場所だった。

 

 

「ごめんなライ。あまり事情は詳しく言えないが、暫くここを離れる」

「うん、留守番は任せて」

 

 

スーツを着込み、いやに真摯な格好をしている父。おそらく余程行かなければならない事情だったのだと、ライは悟る。

 

 

「あ、そうだ。オマエに良い物渡しておこう」

「?」

 

 

父がそう言いながら、懐から取り出したのはバトスピカード。しかも超レアカードであるエヴァンゲリオンスピリットと呼ばれるカード「エヴァンゲリオン新2号機α」だった。

 

 

「これは?」

「ちょっと早いけど、誕生日プレゼントだ。12歳、おめでとうライ!……このカードは、超激レア、世界でたった1つ、オマエだけのカードだ」

「ッ……私だけのカード!?…うわマジ!?…やった〜〜!!」

 

 

年相応に大喜びするライ。その様子を見て、父も満足そうな表情を見せる。

 

 

「お父さん、ありがとう!」

「うむ。後、これを」

「ん?」

「もしオレが帰って来なかったら、ここに行くんだ。オレの教え子が居る。まぁ、あくまでもしもの話なのだが」

「へぇ、イケメン?」

「あぁ、自慢の教え子だからな、そりゃもうすこぶるイケメンだ」

「マジ?」

 

 

追加で1枚の紙切れを手渡す父。そこには彼の教え子の住所が刻まれており、後に判明するが、それは九日ヨッカのモノである。

 

 

「じゃ、誕生日までには戻るよ」

「うん、いってらっしゃい」

 

 

最後にそう告げながら、父はライの元を去って行った。3日後の誕生日が楽しみになっていたが、まさかこの後、一切父の顔を見ない事になるとは思ってもいなかった。

 

そして、父の言葉通り、あの紙切れに書かれた住所を頼って、九日ヨッカのいる界放市へと、自身も向かったのだ。

 

もう一度、父と楽しく暮らすために。幸せな時間を送るために………

 

 

******

 

 

だが、そんな時間は、もう二度とやっては来ない。

 

 

「お父さん、お父さん!!」

 

 

時は、現代に戻る。界放市ジークフリード区にある児雷也森林。その北東に位置する巨大な塔。その最上階にて。

 

ライを庇い、初号機カシウスによる最後の一撃を受け、倒れたイナズマ。今はライの腕に抱かれているが、明らかに即死級の血が、体と口から流れている。

 

もう長くはないだろう。

 

 

「オジさん……!」

 

 

その光景を見て、到着したオーカミがそう呟いた。普段は冷静沈着を極めているオーカミだが、間もなく死を迎える人を見るのは初めて。その瞳は僅かに震えていた。

 

 

「……邪魔しやがって。でも春神ライのライフは0にした。これで、エアリアルのガードは解けたはず。私の長年の夢、長寿の肉体を得る事ができる。問題は………」

「……!!」

 

 

人を殺害したにもかかわらず、特に怯えたり、罪悪感を感じる様子を見せないフウ。おそらく、そう言った事を普段からしているのだろう。

 

彼女がその目に捉えたのは、先程この場に居合わせた、鉄華オーカミ。オーカミもまた、その視線に気づき、睨み返す。

 

 

「何故生きてる。確実にトンネルで生き埋めにしたはずなのに」

 

 

オーカミが生存している事に驚きを隠せないフウ。

 

ライを倒し、生き残ると言う己の夢に王手を掛けた彼女だが、次は彼との戦いに身を投じなければならない事を、直感的に悟って。

 

 

「ラ、ライ」

「お父さん!!」

「悪いが、ヨッカに、謝っててくれ。アイツには、悪い事をした。できれば、成長したアイツの顔を拝みたかったが」

「そんな事言わないでよ、一緒に謝ろうよ!!」

 

 

吐血しながらも、意識が遠のきながらも、イナズマは、ライに言葉を残そうと、最後の力を振り絞る。

 

 

「ライ。オマエは、子供のいない私に、家族を教えてくれた、ありがとう」

「もうやめでよ、そんなごど、言わないで……!!」

 

 

死ぬな。死ぬな。

 

そう願いながら、涙を流し、イナズマの手を優しく握るライだが。もう何をしても、無駄だ。

 

 

「泣くな、ライ。オマエにはもう、私は必要ない、ヨッカやオーカミをはじめとした仲間達が大勢いるじゃないか」

「イヤだよ!!…お父さんがいなぎゃ、イヤだよぉぉ……!!」

「生きろ、ライ。世界は悲しい事だけじゃない、もっと楽しく、輝かしい事に満ち溢れている。絆を深めた、仲間や友と一緒に、その世界を見るんだ、お父さんの代わり……に」

「……!!」

 

 

死ぬな。

 

死ぬな、死ぬな。

 

死ぬな、死ぬな、死ぬな。

 

ライの願いと叫びとは裏腹に、イナズマは、静かに息を引き取った。最後に娘を守れたのが誇らしく思っていたのか、その表情は満足気で、幸せそうだった。

 

 

「あ、あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

悲しさにより、より多くの涙を流し、身体に血が付着する事も厭わず、イナズマを抱き締めるライ。

 

あの時、エアリアルでトドメのアタックを宣言できていたら、そんな妄想が絶えなかった。どうすればこの結末を回避できたのかと、考えてしまう。もう、後戻りができない事は知っていると言うのに………

 

 

「オジさん」

 

 

そんな折、涙を流し続けるライのそばで、オーカミはイナズマとの言葉を思い出す。

 

ー『私に何かあった時、ライを頼む。全力で守ってやってくれ、娘を任せられるのは、ヨッカと君だけだ』

 

今にして思えば、イナズマはこの状況を予想していたのかもしれない。そう考えると、オーカミは前に踏み出し、フウの眼前に立ち塞がった。

 

 

「何、してんのよ」

「ライ」

 

 

だが、それを呼び止めるように声を上げたのは、他でもないライ。まるで、生きる力を失ったかのような弱々しい声色だった。

 

 

「フウを倒して、オマエを助ける」

「ふざけんなッ!!」

「!!」

「アンタが生きててくれたのは嬉しい。でも、もう帰りなさいよ」

「なんで」

「私に関わった人は、必ず不幸になるからに決まってるでしょ。もうイヤだ、なんで私なんかのために、みんな、みんな……!!」

 

 

これ以上、大事なモノを失いたくないと言う、ライの強い想いがオーカミに伝わって来る。

 

心全体に伝わって来る、優しくて暖かい気持ちだ。尚の事、ここで逃げるわけには行かない。

 

 

「勘違いするな。オレは、オマエのためだけに戦うんじゃない」

「!」

「アニキやアルファベット、バトスピで繋がりを持てた友達。後、オマエの父さん。みんなのために、オレは戦う」

「オーカミ……」

「だから今は、そこで待ってろ。オマエがアイツを倒せないって言うなら、オレがオマエの代わりに、アイツを叩き潰す」

 

 

ライの制止を振り切り、オーカミはフウへと視線を向ける。その眼光は怒りに満ちており、フウを噛み砕こうとする獣のようだった。

 

 

「オーカミさん。まさかあの崩落から生き残るなんて、悪運がお強いんですね」

「……」

「ニッヒヒ。私を叩き潰す?……良い度胸してますね、昨日私にボコられたばかりだと言うのに。そこに転がっているボロ雑巾の二の舞になるだけですよ?」

「ボロ雑巾?」

 

 

おそらく、イナズマの事だ。

 

オーカミの怒りが、さらに募っていく。

 

 

「犬死にしただけの哀れな男を、ボロ雑巾と言わずしてなんと呼びますか」

「……」

 

 

オーカミの強まった怒りに応えるように、彼の左腕にあるBパッド、そこに装填されているデッキのカード達が赤色に光り輝く。

 

それに合わせ、オーカミの右眼の瞳が、赤く染まり、そこから血の涙を流す。

 

 

「オマエが勝手に決めるな」

「へぇ」

「気に食わない。オレはオマエが、気に食わない……!!」

 

 

まだバトルをしていないにもかかわらず、オーカミは己の内に秘める「王者」の力を発揮。

 

右眼と右腕が動くようになり、あっという間にバトルの準備を終える。

 

 

「やはり、貴方を倒さなければ、ライちゃんを渡してはくれませんか。良いでしょう、誰が上なのか、もう一度教えて差し上げますよ」

 

 

フウもそう告げ、Bパッドをオーカミへと向け、再びバトルの準備を整える。

 

そして………

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

鉄華オーカミと徳川フウ。児雷也森林にある巨大な塔の最上階にて、2人のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

これが正真正銘の最終決戦。ライを救けるための、最後の戦いだ。

 

先攻は鉄華オーカミ。怒りの力で王者をも発動させた彼は、己が気に食わないと称したフウを倒すべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ、転醒ネクサス、紫の世界を配置」

 

 

ー【紫の世界】LV1

 

 

「へぇ、紫の世界か」

「配置時効果で1枚ドロー」

 

 

オーカミが背後に配置したのは、黒き居城が聳え立ち、常に闇が蔓延する紫の世界。紫属性を扱うデッキならば、どのデッキにも投入を検討できる程の汎用性の高いカードである。

 

 

「紫の世界は、オレのネクサスが紫1色の間、オマエのスピリットがアタックした時、そのコア1つをトラッシュに送る。オレはこれでターンエンドだ」

手札:5

場:【紫の世界】LV1

バースト:【無】

 

 

「デッキ、ちょっと変えたんですね。でも紫の世界の効果なんて、私のエヴァンゲリオンスピリットの【A.T.フィールド】の前では無力。私に勝つ事なんてできませんよ」

「……」

 

 

敵として、オーカミのデッキをある程度分析していたフウ。紫の世界を投入していたとしても、自分に勝つ事はできないと、言語両断する。

 

そして………

 

 

[ターン02]徳川フウ

 

 

「メインステップ、私も、紫の世界を配置します」

「!」

 

 

ー【紫の世界】LV1

 

 

「配置時効果で1枚ドロー。何驚いてるんですか、私も紫デッキなのだから、入れてて当然じゃありませんか、ニッヒヒ」

 

 

フウもオーカミと同様に紫の世界を配置。初号機も鉄華団と同じ紫属性であるため、至極当然と言えるかもしれない。

 

だがこれで、オーカミの紫の世界の効果を無力化できる【A.T.フィールド】の効果を扱えるフウの方が有利になった事に違いはなくて。

 

 

「鈴原トウジを配置。効果で相田ケンスケを配置して1枚ドロー。相田ケンスケの効果でパイロットブレイヴ、碇シンジを召喚して1枚ドロー。碇シンジの召喚時効果で1枚ドロー」

 

 

ー【鈴原トウジ】LV1

 

ー【相田ケンスケ】LV1

 

ー【碇シンジ】LV1(0)BP1000

 

 

フウのデッキではお馴染みとなったソリティアコンボ。ネクサス2枚、ブレイヴ1枚の配置、召喚を行いつつ、手札を減らさないこのコンボにより、1ターン目であるにもかかわらず、彼女は大きなアドバンテージを獲得する。

 

 

「バーストをセットし、以上、ターンエンドです。さぁ、今度こそ私にお見せくださいよ、鉄華団の真の力」

手札:4

場:【碇シンジ】LV1

【紫の世界】LV1

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【有】

 

 

手札の枚数を維持しつつ、フィールドに4枚のカードを出す事に成功したフウ。余裕の笑みを浮かべながら、そのターンをエンドとする。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ、創界神ネクサス、クーデリア&アトラ」

 

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

オーカミが配置したのは、鉄華団をサポートする創界神ネクサスの1枚。その神託の効果により、デッキ上から3枚がトラッシュへ送り込まれ、その上に2つのコアが追加された。

 

 

「さらに、ランドマン・ロディと三日月・オーガスを召喚し、合体」

 

 

ー【ランドマン・ロディ+三日月・オーガス】LV1(1S)BP7000

 

 

「ッ……三日月!?」

 

 

オーカミは、丸みを帯びた小さなモビルスピリット、ランドマン・ロディを召喚し、それに紫のパイロットブレイヴ、三日月・オーガスを合体。

 

LV1のランドマン・ロディのデメリット効果により、本来2つあるはずのシンボル1つが消失してしまうが、フウは、この状況で三日月が呼び出された事の意味を瞬時に理解して。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップ、ランドマン・ロディでアタック。三日月の効果により、紫の世界のLVコストを+1し、完全に消滅させる」

「くっ……」

 

 

ランドマン・ロディは、手に持つ斧をブーメランのように投げ、フウの背後に聳え立つ、紫の世界を切り裂く。

 

各属性に存在する汎用性の高いネクサスカード、通常『世界ネクサス』……

 

それらの最も厄介な点は、フィールドから離しても、ソウルコアを置く事で転醒し、生き残る事にある。しかし、三日月によるLVコストの上昇による消滅は、それを許さない。完全に除去する事が可能なのだ。

 

 

「ランドマン・ロディのアタックは継続」

「ライフで受けましょう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉徳川フウ

 

 

今度はマシンガンを手に取り掃射するランドマン・ロディ。フウのライフバリア1つを撃ち砕いた。

 

 

「ライフ減少後のバースト、絶甲氷盾。ライフ1つを回復」

 

 

〈ライフ4➡︎5〉徳川フウ

 

 

だがここで、フウが伏せていたバーストカードを発動。その効果により、ライフ1つを回復。オーカミの攻撃を、実質的な無効とする。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【ランドマン・ロディ+三日月・オーガス】LV1

【紫の世界】LV1

【クーデリア&アトラ】LV2(4)

バースト:【有】

 

 

このターン、できる限り動き、紫の世界の破壊と、バーストカードを発動させたオーカミ。一度それをエンドとし、フウの様子を伺う。

 

 

「ニッヒヒ。まぁ、王者を使えば、それくらいの事はしてもらわないとね」

「いいから、早く来いよ」

 

 

紫の世界を失ったとは言え、フィールドに2つのネクサスと1つのパイロットブレイヴを有しているフウ。

 

己の王者はまだ使わないまま、第4ターンを迎える。

 

 

[ターン04]徳川フウ

 

 

「メインステップ、さぁここからですよ。まさか忘れたわけじゃありませんよね、私のエースカードを……!!」

「……」

「私は今、神話になる。エヴァンゲリオン初号機、LV1で召喚」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-】LV1(1)BP6000

 

 

展開された黒々としたワームホールをこじ開け、フィールドに出現するのは、紫の装甲と一角を持つ、フウのエースカード、エヴァンゲリオン初号機。

 

 

「手札から新たなるパイロットブレイヴ、真希波・マリ・イラストリアス」

 

 

ー【真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君】LV1(0)BP1000

 

 

「その効果を発揮。デッキ上から8枚をオープンし、その中の紫ブレイヴ、碇シンジ・シンクロ率∞を回収し、コア2個を初号機に追加。さらに合体」

 

 

【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-+真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君】LV3(3)BP17000

 

 

「ニッヒヒ。マリと合体したスピリットのLVは、1上昇する。よって、今の初号機のLVは3」

 

 

ライとのバトルでも見せたパイロットブレイヴを召喚するフウ。その効果により、コア2個をブーストしつつ、強力な初号機の合体スピリットを誕生させる。

 

 

「再びバーストをセットし、アタックステップ。初号機でアタック」

 

 

今度はフウの攻撃が始動する。初号機が最初に目を付けたのは、オーカミのフィールドにいるランドマン・ロディ。

 

 

「アタック時効果により、ランドマン・ロディを指定アタック。そして【転醒】の効果、そのバトルを即座に終了させる事で、コア1つをブーストし、初号機のカードを裏返す」

「……」

「顕現せよ、初号機第1覚醒形態!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君】LV3(4)BP21000

 

 

初号機は突如咆哮を張り上げると、その目は赤く輝き、装甲に刻まれた緑の刻印も、それに合わせて赤く発光を始める。

 

この形態の初号機は、第1覚醒形態。以前の戦いで、オーカミはこれに苦戦を強いられた。

 

 

「転醒アタック時効果でターンに一度回復、そして再度アタック。その効果により、ランドマン・ロディのコア2個をリザーブに置き、消滅、さらにライフ1つをリザーブに置く」

「!」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ・王者

 

 

「ぐっ……!!」

 

 

獣のように荒々しくランドマン・ロディを鷲掴みにする初号機第1覚醒形態。そのままそれをオーカミへと投擲し、そのライフバリア1つを砕く。

 

今までの戦いにより、バトルダメージが蓄積しているのか、オーカミはただその一撃のみで片膝をついてしまう。

 

 

「ニッヒヒ。貴方がなんで生きているのかはわかりませんが、ここにいるという事は、マコト先生を倒してきたんですよね。それにその包帯巻きになった体。もう限界なんでしょ、立っているのも」

「ごちゃごちゃうるさいよ、バースト発動、グシオンリベイク」

「!」

「効果により、コイツを召喚」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイク】LV1(1S)BP6000

 

 

立ち上がるオーカミ。即座にバーストカードを反転させ、反撃に出る。

 

地響きと共に大地からフィールドへと見参するのは、鉄華団の守護神。薄茶色の重厚なボディを持つモビルスピリット、ガンダム・グシオンリベイク。

 

 

「召喚時効果発揮、第1覚醒形態のコア2個をリザーブに置く」

「くっ……ソウルコアを置く事で【A.T.フィールド】を突破して来ましたか」

 

 

マシンガンを両手に取り、それを掃射するグシオンリベイク。それの殆どを被弾してしまった初号機第1覚醒形態は、弾き飛ばされ、フウのフィールドへと強制的に戻されてしまった。

 

 

「ですが、まだ第1覚醒形態のアタックは続いてますよ」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎4〉鉄華オーカミ・王者

 

 

「グシオンリベイクの効果、バーストで召喚されたこのターン中、コア2個以下の相手スピリットからライフは減らされない」

 

 

それでも攻撃する事をやめない初号機第1覚醒形態。これまでよりも大きな咆哮を張り上げ、それによって生まれた衝撃波で、オーカミのライフバリアを砕こうと試みるも、グシオンリベイクがそれを阻む。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第1覚醒形態+真希波・マリ・イラストリアス-お待たせ! シンジ君】LV2

【碇シンジ】LV1

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【有】

カウント:【1】

 

 

【転醒】の力を持つ、エヴァンゲリオン初号機による苛烈な攻撃。前はコレだけで敗北を喫してしまったが、今回は耐え抜いて見せる。

 

次はグシオンリベイクを従えた、オーカミの反撃だ。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ。大地を揺らせ、未来へ導け、ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

オーカミのフィールドに降り立つのは、鉄華団の象徴であるモビルスピリット、バルバトス第4形態。

 

黒々とした戦棍、メイスを構え、初号機打倒を目指す。

 

 

「第4形態に三日月を合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

前のターンの消滅から生き残ったパイロットブレイヴ、三日月を、新たに第4形態へと合体。鉄華団デッキの伝家の宝刀とも呼べる攻撃態勢が整った。

 

 

「アタックステップ、第4形態でアタック。そのアタック時効果で真希波・マリ・イラストリアスを破壊して、初号機第1覚醒形態からコア2つをリザーブに置き、消滅」

 

 

フウのフィールドへ殴り込むバルバトス第4形態。メイスを縦と横に振い、初号機第1覚醒形態を合体しているパイロットブレイヴごとトラッシュへと葬り去る。

 

 

「追加で三日月の効果。碇シンジのLVコストを上げて消滅させ、リザーブのコア2つをトラッシュへ」

 

 

伝家の宝刀のコンビネーションで、フィールドのスピリットとブレイヴを壊滅させる。

 

さらに、バルバトス第4形態は自身のLV3効果によりシンボルが追加、トリプルシンボルとなっていて。

 

 

「トリプルシンボル。ライフを3つ破壊する」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉徳川フウ

 

 

初号機を倒すだけに飽き足らず、フウのライフバリアまでも、そのメイスによる一撃で3つも粉砕して見せるバルバトス第4形態。

 

この活躍により、オーカミに勝ちの目が見えて来たが……

 

 

「ライフ減少によるバースト、絶甲氷盾。ライフ1つを回復させ、コストを支払い、アタックステップを強制終了」

 

 

〈ライフ2➡︎3〉徳川フウ

 

 

またしても白のバーストマジック『絶甲氷盾〈R〉』のカード。

 

これにより、オーカミの追撃は不可能となり、アタックステップは強制的に終了となる。

 

 

「バルバトス第4形態の効果。バトルの終了時、トラッシュから鉄華団スピリットを1コストで召喚する。来い、漏影」

 

 

ー【漏影】LV1(1)BP3000

 

 

「召喚時効果でデッキ上3枚を破棄。その後トラッシュにある鉄華団カード『ノルバ・シノ』を手札に加える。そして、クーデリア&アトラの【神域】も誘発、トラッシュにある紫1色のカード1枚をデッキ下に戻し、1枚ドロー」

 

 

バルバトス第4形態が大地にメイスを打ち付けると、大地より、バスターソードを携えた鉄華団スピリット、漏影が出現。その効果とクーデリア&アトラの【神域】のコンボにより、オーカミは2枚の手札を増やした。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV2

【ガンダム・グシオンリベイク】LV1

【漏影】LV1

【紫の世界】LV1

【クーデリア&アトラ】LV2(7)

バースト:【無】

 

 

スピリットの展開を行えても、絶甲氷盾を無効化できるわけではない。結局、オーカミは追撃できずにそのターンをエンド。

 

前のターンから一転して劣勢な状況へと立たされた、フウのターンへと移る。

 

 

「DLCにも飽きて来ましたね。そろそろ、終わりにしましょうか、何もかも」

「……」

「さぁ、私の王者と貴方の王者。どちらが強いか、勝負ですよ。ニッヒヒ、結果は目に見えてますけどね」

 

 

ここに来て、フウも王者の力を能動的に発動。赤い刻印が、目下から顎まで刻まれる。

 

 

[ターン06]徳川フウ・王者

 

 

「メインステップ。2枚目の相田ケンスケを配置」

 

 

ー【相田ケンスケ】LV1

 

 

「配置時効果により、手札から碇シンジ・シンクロ率∞をノーコスト召喚して1枚ドロー」

 

 

ー【碇シンジ-シンクロ率∞-】LV1(0)BP1000

 

 

「碇シンジ・シンクロ率∞の召喚時効果、2枚ドロー。クーデリア&アトラのコアを6個ボイドへ」

「……」

 

 

シンボル並べとドローを繰り返すフウ。オーカミは、この行為が新たなエースカードを呼び出すための布石である事を理解していて……

 

 

「私は今、神話を超える。エヴァンゲリオン初号機カシウスの槍。LV2で召喚」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-】LV2(4)BP12000

 

 

フウのフィールドに現れるのは、新たなエヴァンゲリオンスピリット、新たな初号機。

 

赤き槍カシウスの槍を携えた、初号機カシウス。通常の初号機をも上回る、フウの第二のエースカードだ。

 

 

「まだ行きますよ。新たなる槍、ガイウスの槍を召喚し、これと碇シンジ・シンクロ率∞を、初号機カシウスにダブル合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-カシウスの槍-+碇シンジ-シンクロ率∞-+ガイウスの槍】LV2(4)BP24000

 

 

「ッ……2体と合体!?」

「ニッヒヒ。ガイウスの槍は、碇シンジと合体しているスピリットに追加で合体ができる特殊な合体」

 

 

通常では不可能なダブル合体を果たす初号機カシウス。その手には天空から降り注いで来た新たなる槍、ガイウスの槍が握られ、カシウスの槍と合わせて2本の槍を同時に構える。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップ。2体と合体した、初号機カシウスでアタック……!!」

 

 

ダブル合体により、トリプルシンボルと、24000ものBP、強力な効果を多く獲得した初号機カシウス。その力が、オーカミへと牙を剥く。

 

 

「先ずは合体したガイウスの槍の効果。トラッシュにあるコア1個を私のライフへ戻す」

 

 

〈ライフ3➡︎4〉徳川フウ・王者

 

 

手始めと言わんばかりに発揮されたのは、ライフ回復効果。これによって、フウのライフは、前のターンにトリプルシンボルのアタックが被弾したとは思えない程の高水準な数値となる。

 

 

「さらに初号機カシウスの効果、グシオンリベイクを消滅。手札にあるエヴァンゲリオン1枚を除外し、自身を回復させつつ、バルバトス第4形態を破壊」

「……!」

 

 

初号機カシウスは、カシウスの槍、ガイウスの槍を投げ、それぞれグシオンリベイクとバルバトス第4形態の胸部を貫き、爆散へと追い込む。

 

オーカミのフィールドはこれで漏影のみ。危機的な状況だが、彼は顔色1つ変えずに、手札にある1枚のカードを発揮させる。

 

 

「手札にあるグレイズ改弍の効果を発揮。鉄華団がフィールドを離れた時、コイツを手札からノーコスト召喚」

 

 

ー【グレイズ改弍(流星号)】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果で1枚ドロー」

 

 

オーカミがすかさず呼び出したのは、小型で、マゼンタカラーの1つ目のモビルスピリット、グレイズ改弍。

 

その効果でデッキから1枚のカードをドローした。

 

 

「だから何?……攻撃は止まりませんよ」

「そのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎1〉鉄華オーカミ・王者

 

 

「ぐっ……ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

初号機カシウスによる、カシウスの槍とガイウスの槍を用いた刺突。それがオーカミの3つのライフバリアを、容易く貫通。

 

残り1つへと追い込まれてしまう。

 

さらに恐ろしい事に、初号機カシウスは、自身の効果で回復状態となっており………

 

 

「回復した初号機カシウスで再度アタック。ガイウスの槍の効果で、再びライフ回復。初号機カシウス自身の効果で2枚ドロー。もう1つの効果でエヴァンゲリオン1枚を手札から除外、回復しつつ、グレイズ改弍を破壊」

 

 

〈ライフ4➡︎5〉徳川フウ・王者

 

 

暴れまくる初号機カシウス。カシウスの槍でグレイズ改弍を一刀両断した。

 

その間にガイウスの槍の力により、フウのライフは全快。残り1つのオーカミとは随分と差がついてしまった。

 

 

「まだだ、この瞬間、鉄華団スピリットがフィールドを離れた時、今度は手札からガンダム・フラウロスの効果を発揮。手札から自身をノーコスト召喚する」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]】LV1(1)BP5000

 

 

オーカミは、このタイミングでも同様の効果を持つカードを提示する。

 

流星の如く勢いで、オーカミのフィールドへと降り立つのは、マゼンタカラーの装甲を持ち、多くの銃火器を携えたモビルスピリット、ガンダム・フラウロス。

 

 

「フラウロス。知ってましたよ、知ってたから召喚時効果で破壊されないよう、コアを4個に調整したのです」

 

 

召喚時効果でコア5個以上のスピリットを破壊できるフラウロス。フウはそれを見越して、初号機カシウスのコアを4個にしていた。

 

だが、これだけでは終わらないのが、オーカミの鉄華団デッキであり………

 

 

「名前に「流星号」を持つスピリットが召喚された事で、手札にあるノルバ・シノをノーコスト召喚。漏影に直接合体し、そのままLV2にアップだ」

 

 

ー【漏影+ノルバ・シノ】LV2(4S)BP9000

 

 

フラウロスやグレイズなど、流星号の名を持つスピリットが出た時に共に召喚できるパイロットブレイヴ、ノルバ・シノ。今回はフラウロスではなく、漏影と合体する。

 

 

「ニッヒヒ。その程度の雑魚、いくら展開しても無駄ですよ。私のエヴァンゲリオンスピリット、初号機カシウスは全てを駆逐する」

「悪いけど、全てを駆逐するのは、オレの鉄華団だ。【煌臨】発揮、対象は漏影」

 

 

このタイミングでソウルコアをコストに【煌臨】を発揮するオーカミ。彼の背後に、重厚な装甲を持つ、巨大なモビルスピリットの影が出現する。

 

 

「轟音唸る、過去をも穿つ、ガンダム・グシオンリベイクフルシティ、LV2で煌臨……!!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+ノルバ・シノ】LV2(3)BP14000

 

 

モビルスピリットの影が、フィールドの漏影と重なり合い、1つとなる。こうして現れたのは、グシオンリベイクの強化形態、グシオンリベイクフルシティ。今となっては、バルバトスルプス、ルプスレクスと並ぶ絶対的エースの内の1体だ。

 

 

「煌臨アタック時効果、デッキ上2枚を破棄。その中の紫1色のカード1枚につき、相手フィールドのコア2個をリザーブに置く」

 

 

幾度となく危機を乗り越えて来たグシオンリベイクフルシティの煌臨アタック時効果が発揮。破棄された2枚のカードは当然紫1色のカードであるため、フウのフィールドのコアを4個リザーブに送れるが………

 

 

「ニッヒヒ。忘れたんですか?……エヴァンゲリオンスピリット達が持つ共通効果【A.T.フィールド】を。初号機カシウスも、その例外じゃない。【煌臨】によってソウルコアをトラッシュに送っている時点で、エヴァンゲリオンスピリットには勝てないんですよ!!」

 

 

そう。ソウルコアがなければ、アタック中のエヴァンゲリオンスピリットを倒す事はできない。

 

フィールドでは、4本の腕からマシンガンを取り出し、一斉掃射するグシオンリベイクフルシティだが、それらは全て初号機カシウスの前方に展開された半透明のバリア、A.T.フィールドによって弾かれてしまう。

 

だが、この光景を、今のオーカミが見越していないわけがない。

 

 

「今破棄された、紫マジック、抱擁の効果を発揮」

「!」

「自身を手札に戻し、クーデリア&アトラにコア+1。さらにこれを使用」

 

 

グシオンリベイクフルシティの効果によって破棄されたマジックカード『抱擁』………

 

これの力を発揮させる。

 

 

「デッキ上1枚を破棄。それが鉄華団なら、トラッシュのソウルコアをスピリットに戻す……破棄されたのは、鉄華団カード、バルバトスルプスレクス。よってソウルコアをフルシティに移動!!」

「ッ……ソウルコアを戻した!?……知らない、この未来は、私の知っているモノじゃない……!?」

 

 

本性を露わにして以降、初めて困惑する様子を見せるフウ。

 

しかし、今更何をしても遅い。ソウルコアの力を取り戻したグシオンリベイクフルシティは、初号機カシウスを砕く。

 

 

「フルシティでブロック。そしてこの瞬間、第二の効果を発揮。コア4個以下のスピリット1体を破壊、初号機カシウスを破壊だ……!!」

「ぐっ……」

 

 

投擲した2本の槍を回収した初号機カシウス。次はフルシティへと狙いを定めてその2本の槍で刺突の攻撃を繰り出すが、フルシティは腰に備え付けられた巨大なハサミのような形をした武装を手に取り、それを防御。

 

弾き返すと、初号機カシウスの身体を万力の如く挟み込み、圧殺して爆散へと追い込む。

 

 

「この効果で破壊した時、トラッシュにある紫1色のカード1枚を手札に戻す。オレが選ぶのは、バルバトスルプスレクス」

 

 

強烈なカウンターを炸裂させる事はおろか、オーカミは、トラッシュにあるエース級のカードを手札に加える。

 

この光景は、とてもではないが、昨日、同じ者に圧倒的な力の差を見せつけられた者が見せる強さではなくて……

 

 

「クソ。合体していたシンジ・シンクロ率∞はフィールドに残します。ターンエンド」

手札:2

場:【碇シンジ-シンクロ率∞-】LV1

【鈴原トウジ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

【相田ケンスケ】LV1

バースト:【有】

カウント:【1】

 

 

回収されたルプスレクスを見てか、フウは、フィールドに残したシンジ・シンクロ率∞にコアをある程度追加。ガイウスの槍は、このまま残してもBP比べでグシオンリベイクフルシティに破壊されるだけなので、破壊された初号機カシウスと共にトラッシュへと送った。

 

しかし、どんなにプレイの幅を効かせても、アタックできるスピリットがもういない事には変わりない。彼女はここで苦渋のターンエンドを宣言。

 

 

王者の力だけじゃない。コイツ、明らかに昨日より数段強くなってる。

 

まさか、一度戦っただけで私のデッキの特徴を分析し、対策を練って来たとでも言うのですか??

 

だとしたら危険すぎる。奴にはエニーズ02のように泣脅しも通用しない。消さなくては、今度こそ本当に。

 

 

内心でそう考えるフウ。僅かな焦燥感に駆られる中、オーカミを最も邪魔な障害として認知し始める。

 

当のオーカミは、そんな事知る由も、考える由もなく、決着をつけるために、その手で手繰り寄せた己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン07]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ、決めるぞ。先ずはオルガ・イツカを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

2種目となる創界神ネクサス。神託の効果により、コアが2個追加される。

 

 

「次はコレだ。フラウロスを対象に【煌臨】発揮」

 

 

再び発揮される煌臨。オーカミの背後から、新たなるモビルスピリットの影がフィールドへと飛び出して行く。

 

 

「天地を揺るがせ、未来へ響け……ガンダム・バルバトスルプスレクス!!……LV1で煌臨。さらに、三日月と合体して、LV3にアップ」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV3(5)BP22000

 

 

フィールドに現れた影は、フラウロスと重なり合い、1つとなる。

 

こうして誕生したのは、鉄華団の象徴であるバルバトスの最終形態。鋼鉄の剛腕と尾を持ち、身の丈程はある超大型メイスを携えた、最強の鉄華団スピリット、バルバトスルプスレクス。

 

双璧であるグシオンリベイクの強化形態、フルシティと肩を並べるその姿は壮観であった。

 

 

「マジック、抱擁。デッキ上から1枚を破棄、それが鉄華団カードの時、トラッシュのソウルコアをスピリットの上に置く」

 

 

2枚目の抱擁。再びクーデリア&アトラの【神域】とのコンボを発揮させつつ、煌臨のコストとなってトラッシュへ送られていたソウルコアを、ルプスレクスの上に戻す。

 

 

「アタックステップ。ルプスレクスでアタック、そのアタック時効果により、デッキ上2枚を破棄、鉄華団カードがあるため、ルプスレクスにシンボル1つを追加」

 

 

勝負を決めるべく、ルプスレクスで攻撃を仕掛けるオーカミ。1つ目のアタック時効果でクーデリア&アトラの【神域】の効果を誘発させつつ、シンボル1つを追加、トリプルシンボルとなる。

 

 

「さらに合体中で、尚且つオレのトラッシュが10枚以上しか使えない効果がある。オマエのスピリット、ネクサス全てのLVコストを1上昇させる……!!」

「ぐっ……!!」

 

 

ルプスレクスのもう1つの効果が発揮。フウが並べ続けて来た3枚のネクサスカードがまとめてトラッシュへと誘われる。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】の効果を発揮。デッキ上3枚を破棄して、1枚ドロー、このターン、オマエは効果でオレのアタックステップを終了できない。追加でクーデリア&アトラの【神域】を発揮、紫1色のカード1枚をデッキ下に戻して、もう1枚ドロー」

 

 

二度と絶甲氷盾の効果でアタックステップを終了させられないように、オルガの【神域】を発揮。クーデリア&アトラの【神域】とのコンボで手札を合計7枚にしつつ、アタックステップを止められない状況を作り上げる。

 

 

「トリプルシンボルのアタック。3つのライフを破壊する」

「ッ……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎2〉徳川フウ

 

 

「ぐっ……ぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

ルプスレクスは、超大型メイスによる一撃を上から叩き込み、フウのライフバリアを一気に3つ玉砕。

 

全身に響き渡るバトルダメージの衝撃に、片膝をつくフウ。遂にその残りはライフは僅か『2』にまで追い詰められる。

 

 

「後は、フルシティでアタックするだけだ」

 

 

目前まで迫った勝利。

 

後一撃。

 

後一撃で全てが終わる。正直、勝ったからと言って、ライの心までを救えるのかはわからない。だが、今自分にできる事は、このバトルに勝つ事のみ。オーカミは、最後のアタックを指示するべく、Bパッド上にあるグシオンリベイクフルシティのカードを捻ろうとするが………

 

 

「ダメだオーカミ。今のアンタじゃまだ、早過ぎる。どう足掻いても、フウちゃんには勝てない」

 

 

父親であるイナズマの亡骸を抱き抱えながら、弱音を吐くライ。

 

彼女は実力が高い故に、このバトル、どうやってもオーカミに勝ちの目がない事を直感的に理解しているのだ。

 

それが今、証明される。

 

 

「ニッヒヒ。ニィッヒッヒッヒ……!!」

「!」

 

 

己の敗北直前だと言うにもかかわらず、立ち上がりながらまた不気味な笑い声を上げるフウ。

 

その行動は読めなかったか、ラストアタックしようとしていたオーカミの手が思わず止まる。

 

 

「先ずは褒めておきますよ。よくまぁ昨日の今日でここまで私のデッキに対応できるようにして来ましたね」

「……」

「ですが、それもここまでです。今から貴方は思い知ります。己の無力さを……!!」

 

 

そう告げると、フウは全身、指先にまで力を入れると、王者によって発生していた赤い刻印が、身体全体に広がり、まるで彼女の身体を蝕むように侵食して行く。

 

 

「ッ……なんだ」

「驚いたでしょう。私の王者は他でもない、あのDr.A本人が造り上げたモノ。貴方の片目だけしか輝かない、出来損ないの王者など、遠く及ばない」

 

 

以前の清楚でお淑やかなイメージなど、一欠片も存在しない。

 

今の彼女は、『生きる』と言う、己の欲望のためだけに動く、心のない怪物。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動……!!」

 

 

フウはここに来て、三度目のライフ減少時のバーストを勢いよく反転させる。

 

オーカミの王者で見た未来だと、このカードは『絶甲氷盾〈R〉』……それであれば、オルガの【神域】でほぼ封殺する事ができる。

 

 

「コレは……!?」

 

 

フウのバーストが反転した瞬間、紫色のガスが、フィールドを漂い始める。

 

不穏な空気を共に運んで来るそれにより、オーカミは発動したバーストカードが『絶甲氷盾〈R〉』ではない事を瞬時に理解した。

 

 

「私は今、神話をも喰らう」

 

 

紫色のガスは、次第にフウのフィールドへと密集して行く。

 

やがてそれらは塊となり、ある1体の巨大な個体を形成する。

 

 

「召喚、エヴァンゲリオン初号機G覚醒形態……!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン初号機"G”覚醒形態】LV2(5)BP12000

 

 

フィールドに顕現したのは、モビルスピリットである、ルプスレクスとフルシティが見上げる程の巨大なエヴァンゲリオンスピリット。

 

ただ、それは最早エヴァンゲリオンスピリットと言う枠組みに収まるモノではない。黒々とした鱗を半身に纏い、左右非対称となったその姿は、まるで絶望を具現化したかのような、凄惨と言う言葉を飲み込んで宿したかのような………

 

破壊と絶望の化神そのモノ。

 

それが今、このフィールドで恐怖の咆哮を張り上げる。

 

 

 






次回、第63ターン「決して散らない、鉄の華」


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第63ターン「決して散らない、鉄の華」

児雷也森林の北東にある巨大な塔にて開始される、鉄華オーカミと徳川フウによる最終決戦。

 

互いに一進一退の攻防を繰り広げる中、巧みなコンボと戦略で王手を掛けるオーカミであったが、フウは遂に己の最凶スピリットを召喚して………

 

 

******

 

 

「私の全身を駆け巡る、王者の力。それによって進化を遂げた、最凶のエヴァンゲリオンスピリット、初号機G覚醒形態。コレが私の真のエースカード」

「……」

 

 

命を賭けた、オーカミとフウのバトルスピリッツが続く。

 

フウを追い詰めたオーカミだったが、フウはそのタイミングで己の全ての力を解放。全身に王者の力による赤い刻印を駆け巡らせ、モビルスピリットであるルプスレクスとフルシティが見上げる程に巨大な、黒き邪悪纏いしエヴァンゲリオンスピリット、初号機G覚醒形態を召喚した。

 

 

「G覚醒形態のバースト効果は召喚だけにあらず。召喚後、相手スピリット全てのコアを1個になるようにリザーブへ送く。よって、そのLVは強制的に1となる」

「ッ……ルプスレクス、フルシティ」

 

 

初号機G覚醒形態の第一の効果が発揮。邪気と共に張り上げる咆哮が、空気を震撼させ、ルプスレクスとフルシティの力を奪い、跪かせる。

 

 

「さらに、G覚醒形態だけが持つ、進化した【A.T.フィールド】、【G.A.T.フィールド】の効果。互いのアタックステップ中、ソウルコアが置かれたスピリット以外の効果を受けず、このスピリットのBP以下のスピリットがアタックした時、それを問答無用で破壊する」

「なに……!?」

「ニッヒヒ。コレで貴方はもう、アタックできない」

 

 

強固な耐性。強烈な迎撃力。それら2つを併せ持つ初号機G覚醒形態。

 

それによって、このターン、もうオーカミには打つ手がなくて。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:8

場:【ガンダム・バルバトスルプスレクス+三日月・オーガス】LV1

【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+ノルバ・シノ】LV1

【紫の世界】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(4)

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

ルプスレクス、フルシティと言う、今できる最強の布陣でも、フウのライフを0にする事は叶わなかった。

 

そして次はそんな彼女のターン。長き戦いに終止符を打つべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン08]徳川フウ・王者

 

 

「メインステップ、赤マジック、イラプションドロー。効果でデッキから2枚ドローし、さらに初号機を召喚」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の初号機-】LV1(1)BP6000

 

 

「……」

 

 

フウが赤のドローマジックを使用した後に召喚したのは、最初の初号機。正直、G覚醒形態やルプスレクス、フルシティが並ぶこのフィールドでは、今更見劣りしてしまうが………

 

 

「ニッヒヒ。貴方の言いたい事はわかりますよ。なんで今更ただの初号機を?…ってね。直ぐにその答えを教えて差し上げますよ。初号機に碇シンジ・シンクロ率∞を合体」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機-決意の出撃-+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV1(2)BP12000

 

 

「残ったコアは全てG覚醒形態へ、そのLVは3に上昇し、BPは25000に」

 

 

赤き槍、ガイウスの槍を握る初号機。さらにG覚醒形態は、これまでのスピリット達とは一線を画すBP25000まで上昇。

 

オーカミにとっては、断崖絶壁で、絶望的な状況。逆に、己の望みまであと一歩と言った所まで来たフウは、勝利を確固たるモノとすべく、アタックステップへと突入して……

 

 

「アタックステップ、初号機でアタック。そして、フラッシュ【煌臨】を発揮。対象はアタック中の初号機」

「ッ……ここで煌臨!?」

 

 

突然の煌臨の宣言。

 

当然ながら、煌臨とは、ソウルコアをコストに、スピリットを新たな姿へと昇華させる効果。だが、フウは今までのバトルでそれを使用して来なかった。故に、オーカミは初号機デッキには【煌臨】の効果を持つカードはないのだと、錯覚していた。

 

そう、王者を発揮させていたオーカミでさえ、錯覚していたのだ。

 

しかし、フウはそれを今ここで使う。誰も見通せなかったその力を、最後の最後まで取っておいた切り札を、解放する。

 

 

「私は今、神話を創造する。エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第2形態、LV2で煌臨!!」

 

 

ー【エヴァンゲリオン試験初号機 擬似シン化第2形態+碇シンジ-シンクロ率∞-】LV2(2)BP20000

 

 

この世の破滅を呼び寄せるような咆哮を張り上げる初号機。すると、その力を全て解放したのか、紫色の装甲を纏っていた全身が赤く発光。

 

G覚醒形態同様、エヴァンゲリオンスピリットの域を超えた極地。擬似シン化第2形態へと変貌を遂げる。

 

 

「何、アレ……!?」

 

 

最早エヴァンゲリオンスピリットと呼称できるのかも定かではない、2体の異質で畏怖を纏う姿に、ライが震えた声でそう呟く。

 

そして、やはりこうも思った。オーカミでは勝てない、と。

 

 

「逃げろ、オーカミ!!」

 

 

だから叫んだ。自分なんかどうでもいい、目の前の心のない怪物から、早く逃げろ、と。

 

 

「……」

 

 

当然、オーカミはそれに応えない。友を決して見捨てない彼は、ルプスレクスとフルシティで、それに立ち向かう気でいる。

 

だが、フウが従える2体と比較して、鉄華団のツートップなど、たかが知れている。ただ、信じられない程開いている力の差を見せつけられるだけだ。

 

 

「シン化第2形態は、全てを駆逐する力を持つ、エヴァンゲリオンスピリット、初号機の最終形態。煌臨時効果を発揮、このスピリットと合体している全ての「碇シンジ」をデッキ下に戻し、貴方のスピリット、ネクサス全てを破壊する」

「!」

「消し去れ、抹消せよ、私の目に映るモノ全てを………サードインパクトッッ!!!」

 

 

『碇シンジ-シンクロ率∞-』のカードが、フウのデッキ下に戻ると、シン化第2形態の効果が発揮。

 

膨大なエネルギーを蓄え、それを一気に放出。まるで、巨大な隕石が目の前で落下して来たかのような、強いエネルギー波が、オーカミと、そのフィールドにいるルプスレクス、フルシティ、紫の世界を襲う。

 

 

「オーカミ!!」

 

 

強い衝撃波の中、声を張り上げるライ。

 

オーカミの安否に不安を感じる彼女。しかし、サードインパクトと呼称された今の攻撃によって舞い上がった爆煙が晴れると、そこには傷だらけになって倒れるオーカミと、左腕を欠損し、その他多くの装甲と武装に亀裂が生じた、満身創痍のルプスレクスの姿があって……

 

 

「そんな、いや……オーカミ、オーカミィッッ!!」

 

 

これ以上、誰にも傷ついて欲しくないライ。この惨劇を招いたのも自分のせいだと思っている彼女は、喉が枯れるのではないかと言う勢いでオーカミの名を叫ぶ。

 

だが、それでも倒れているオーカミの耳には届かない。

 

 

「ニッヒヒ。ニィッヒッヒッヒッ!!!……少々手こずりましたが、これで私の勝ちだ。ここまでのバトルを賞賛して、せめて粉々に砕け散ってくださいよ、鉄華オーカミ!!」

「もうやめて、フウちゃん!!」

「!」

 

 

尚もアタック中のシン化第2形態で、トドメの一撃をお見舞いしようとした直後。

 

それを張り裂けそうな声で制止させるのは、エニーズ02、春神ライ。

 

 

「お願い、もうやめて。これ以上、誰かを傷つけるのは……最初から、狙いは私だけなんでしょ?……私の命で、フウちゃんが救かるんでしょ?……ならもう、答えは見えてるはずだよ」

「……ニッヒヒ」

 

 

イナズマの遺体を手放し、気を失って倒れるオーカミの前に立つライ。彼女の言動と行動の意味を、フウは高速で理解する。

 

つまり、自分の命を差し出すから、オーカミは見逃せ。そう言う事だ。己の呪いを解くための餌が自分から食べられに来たのだ、フウの口角は当然ながら上がる。

 

 

「そうそう。そうだよ、それでいい。流石ライちゃん、頭良くて、優しい。さぁ早く来て、ライちゃんの手が、私のBパッドの画面に触れるだけで、粒子となって私の一部となる」

「……」

「さぁ早く、早く。お祖父様から受けた私の呪いを、断ち切らせて!!」

 

 

全ては、オーカミを救けるため、これ以上、誰も傷つけないため。

 

意を決して、ライは倒れるオーカミの前を離れ、フウの元へ足を運ぼうとする。

 

だが、その直後、彼女に「待て」と言わんばかりに、手を掴み、制止させる存在が、1人………

 

 

「あんな奴に、従う必要ない」

「ッ……オーカミ」

 

 

意識を取り戻し、立ち上がったオーカミ。己のために命を投げ出そうとしたライを止める。

 

 

「離してよ」

「離さない。離したら、オマエが死にに行く」

「だから死なせてよ。お願いだから、それでアンタが救かるなら、安いモノでしょ」

「そんな事、言ったらダメだ。オマエの父さんが泣く」

「……じゃあどうすればいいのよ、これ以上、アンタが傷つかない方法があるわけ!?」

 

 

震えた声でライがオーカミに訴えて来る。オーカミもライも、お互い助けたい気持ちは同じである。

 

だが、それ故にすれ違う。

 

 

「姉ちゃんが言ってた。『傷つく事があっても、怖がって止まったらダメ。前を向いて進み続ける事が、人生勝利する秘訣だ』って、オマエが、優しい性格なのもわかる。だから、命を賭けてでも、オレを助けたいのもわかる」

「オーカミ……」

「でも、もう一度だけでいい、オレとオレのスピリットを信じてくれ。このバトル、必ず勝つ」

 

 

そう告げられると、ライは不思議と力が抜けた。自分でもよくわからないが、心の奥底で「生きたい」と思ったのだ。

 

オーカミをそれを感じたか、力の抜けた彼女の手を、そっと離し、バトルのフィールドへと目を向ける。

 

 

「何度立ち上がれば気が済むのです。いい加減、目障りなんですけど」

 

 

フウは、折角の餌が遠のいたからか、何度でも立ち上がって来るオーカミに怒りを燃やす。

 

 

「オマエに勝って、ライを救けるまでだ」

 

 

オーカミは、彼女の言葉に対し、そう言い返す。しかし、その強気な物言いとは裏腹に満身創痍な身体に加え、この圧倒的な戦力差。どう考えても、彼に勝ち目は残っていなくて………

 

 

「私に勝つ?……何寝ぼけた事を。そのボロボロのルプスレクスだけで何が………何が」

 

 

何故、ルプスレクスがフィールドに残っている!?

 

 

己の言葉で、ようやくそれに気がついたフウ。

 

そうだおかしいのだ。

 

ルプスレクスは確かにシン化第2形態の効果により粉砕した。耐性貫通に破壊時無効を持ち合わせているこの効果の前では、如何なるスピリットであっても塵芥に等しい。故に、ルプスレクスがフィールドに残れるはずがない。

 

 

「オレは、止まらない。止まったらダメなんだ。オマエもそう思うだろ、バルバトス」

 

 

オーカミがフィールドに残ったルプスレクスにそう告げると、それに応えるかのように、ルプスレクスの緑だった眼光が赤く光り輝き始める。

 

そして、何故ルプスレクスがフィールドに残れたのか。そのカラクリが明かされる。

 

 

「オレは手札にある、バルバトスルプスレクス最終決戦の効果を発揮。このカードは、自分のバルバトスがフィールドを離れる時、全ての軽減を満たして召喚できる」

「ッ……そうか、別のカードを手札からフィールドに」

「天地を覆せ、未来よ唸れ。行くぞ、バルバトス……!!」

 

 

 

この世界には、一部地域にしか伝わらない、こんな言い伝えがある。

 

『カードバトラーとデッキ、決して離れる事のない二つの存在が一つになる時、血を代償に勝利への道を約束する』

 

そして人々は、その領域に到達したカードバトラーを、絶対的な力と言う意味合いを込めて、王者(レクス)と呼び、恐れた。

 

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス[最終決戦時]】LV3(5S)18000

 

 

目が赤く光り輝き、再び立ち上がる力を得た、バルバトスルプスレクス。左腕を失くし、装甲が半壊しながらも、エヴァンゲリオンスピリット達との最終決戦に臨む。

 

 

「ここに来て、私も知らない、新たなバルバトス……!?」

「召喚アタック時効果、オレのデッキ上、トラッシュから合計5枚のカードをゲームから除外し、オマエのスピリットのコア3個をトラッシュに置く」

「何ですって……ッ!?」

「デッキ上5枚を除外。シン化第2形態のコア3個をトラッシュに置き、消滅だ」

 

 

動き出すバルバトスルプスレクス。しかし、その動きは最早目で追従できるモノではない。フウが瞬きする間もなく、ルプスレクスは伸ばしたテイルブレードでシン化第2形態の両手を切断し、その核たるコアを右手で引き抜き、爆散へと追い込む。

 

爆発による爆煙の中、赤く染まった右手でシン化第2形態のコアを握り潰すその姿は、まさしく悪魔そのモノ。

 

 

「そ、そんな馬鹿な。シン化第2形態が、私の切り札が、一瞬で」

「さぁどうする。もう1体でアタックするか?」

「ッ……ターンエンド。ターンエンドよ」

手札:2

場:【エヴァンゲリオン初号機"G“覚醒形態】LV3

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

フウはここで屈辱のターンエンドを宣言。

 

流れが大きく変わった。オーカミは、限界を超えた、最後のバルバトスと共に、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン09]鉄華オーカミ・王者

 

 

「メインステップ、ルプスレクス最終決戦に、三日月を合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス[最終決戦時]+三日月・オーガス】LV3(6S)BP24000

 

 

何度も鉄華団スピリットと合体し、フィールドに残って来た、鉄華団のパイロットブレイヴ、三日月・オーガス。

 

それが最後のバルバトスと合体し、土壇場で最強の鉄華団スピリットが誕生する。

 

 

「アタックステップ。ルプスレクス最終決戦でアタック、その召喚アタック時効果をもう一度発揮。デッキ上5枚を除外し、今度はG覚醒形態のコアを3個トラッシュに置き、LVを2に下げる」

「!!」

 

 

ルプスレクスの背面の剣、テイルブレードが、今度はG覚醒形態の腹部を貫く。

 

その体内に眠るコアが弾き飛ばされ、LVは2。BPは12000までダウンしてしまう。これにより、G覚醒形態はルプスレクス最終決戦のBPを下回り、自身の効果での迎撃が不可となる。

 

 

「もう1つのアタック時効果、オレのトラッシュにある13枚の鉄華団カードを除外」

「ブロックです、ブロックしなさい、G覚醒形態……!!」

 

 

フウのライフバリアを目掛けて走り出したルプスレクス最終決戦を、口内から紫色の熱線を放射し、迎撃するG覚醒形態。

 

ルプスレクス最終決戦は、直撃を紙一重で回避。狙いをG覚醒形態へと変え、目にも止まらぬ速さで、それの喉元へと飛び込んで行み、残された右手の激爪で切り裂こうとしたが、突然現れた、G覚醒形態の長く黒い尾に弾かれ、阻まれる。

 

 

「ぐっ……怪物め」

「オマエにだけは言われたくないよ」

 

 

尾で弾かれても尚、壁を踏み台として飛翔するルプスレクス最終決戦。G覚醒形態は、それを返り討ちにしようと、再び紫色の熱線を放射するが………

 

ルプスレクス最終決戦は、右手の激爪でG覚醒形態を熱線ごと切り裂いて見せる。

 

飛翔したルプスレクス最終決戦が着地した直後、流石に限界を迎えたのか、死を連想させる程の存在感を放つ、エヴァンゲリオンスピリット、初号機G覚醒形態は、激しい断末魔を張り上げながら、爆散した。

 

 

「笑えない冗談だ。私の初号機が、鉄屑の獣如きに全て倒されるなど……!!」

 

 

強力な効果を持つモノが多い、エヴァンゲリオンスピリットの初号機デッキ。オーカミは、たった今、鉄華団スピリット達と共に、それら全てを撃破した。

 

故に、このバトルはもう、彼の勝ちだ。

 

 

「だが、ライフは守った。次のターンで」

「次のターンなんてないよ」

「ッ……!?」

「ルプスレクス最終決戦のアタック時効果。鉄華団カードを13枚除外していれば、バトル終了時に相手ライフを2つボイドに置く」

「なッ……私が、負ける!?……最強の王者を持つ、この私が!?」

 

 

ここで、ルプスレクス最終決戦の最後の効果が発揮。大量のカードを除外ゾーンに送ってようやく発揮できる、最大の大技である。

 

その効果発揮宣言がなされた時、敗北を悟ったフウは、自分の身体と声色が震え出すのを感じ取って………

 

 

「行け、決めろ、バルバトス……!!」

 

 

オーカミの指示を聞くなり、ルプスレクス最終決戦は、今一度テイルブレードを放つ。

 

その向かう先は、徳川フウの残り2つのライフバリアだ。

 

 

「うぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉徳川フウ・王者

 

 

背面の剣、悪魔の尾が、ライフバリアを突き刺さし、破壊。

 

フウのライフが0となった事で、彼女のBパッドから「ピー……」と言う機械音が鳴り響く。そしてその音は、彼女の敗北と、オーカミの勝利を同時に告げていて………

 

 

「凄い、これが、バルバトスの……いや、オーカミの真の力」

 

 

目の前で仁王立ちするオーカミとバルバトスルプスレクスを見て、そう言葉を溢したのは、他でもないライ。

 

とてつもない力の根源を見た気がした。

 

いや、本当は知っていた。

 

鉄華オーカミは、本当に強い奴なのだと。どんな時でも諦めずに進み続け、奇跡を手繰り寄せる奴なのだと。

 

 

「ッ……!!」

 

 

バトルがオーカミの勝利で終わったのも束の間。突如として塔が揺れ始め、床や壁に亀裂が生じる。

 

 

「お父さん……!?」

 

 

始まる崩壊。崩れた床から、遺体となったライの父親、イナズマが落下してしまう。

 

あまりにも突然過ぎた出来事に、ライはただそれを見届ける事しかできなかった。

 

 

「ニッヒヒ、ニィッヒッヒッヒッ!!!……実体化したスピリットが散々暴れ回り、挙げ句の果てに爆破したのだ。塔の支柱が崩れたんだろうね」

「フウちゃん。1つだけ聞かせて。フウちゃんは、長く生きて、何をするつもりだったの?」

 

 

崩壊が加速して行く中、ライがフウに訊いた。生きたいのは理解できる。だが、その先の彼女のヴィジョンには、何が映っていたのかは予測できなかったからだ。

 

 

「フ……そんなの決まってる、復讐するためだ。Dr.Aの孫だからと私を虐げてきた全ての者達へのね」

「!」

「オマエには飽きたよ春神ライ。このまま生き埋めになって死んじゃえ、生き残るのは私だけだ。ニッヒヒ、死ね。ニッヒヒ、みんな死んじゃぇぇぇぇぇえ!!!」

 

 

最後は逃げるように、高らかに不気味な笑い声をあげながら、フウは己のBパッドを操作し、ワームホールを形成。その中へ飛び込み、この場から脱出する。

 

これで、残されたのはオーカミとライだけとなるが………

 

 

「オーカミ。早く私達もここから脱出しないと……ッ」

 

 

そう告げ、崩壊の中でオーカミの方へと目をやるライだったが、その先には、床に横たわるオーカミの姿があって………

 

 

「オーカミ!?」

 

 

慌てて駆け寄るライ。その間に、左腕と左足だけで必死に立ちあがろうとするオーカミの姿を見て、彼女は察した。

 

 

「まさか、今度は右足が!?」

「そうらしい」

「そうらしいって。何でそんな軽いのよ」

 

 

骨でも抜かれたかのように動かなくなった彼の右足。以前から動かなくなっていた右手右目と合わせて、ほぼ右半身付随となってしまっていた。

 

王者の代償。ここに来て、オーカミはこの場から全く身動きが取れなくなってしまう。

 

 

「私が担ぐ。じっとしてろ」

「いいよ。そんな事したら、オマエも逃げ遅れる。オマエだけでも先に脱出しろ。オレは自分でどうにかする」

「バカ、どうともできないでしょうが!!」

 

 

まさに最悪な状況を迎える。

 

折角フウに勝利し、後はライを連れて帰るだけだと言うのに。最早、大人しく生き埋めになる事しかできなくなってしまうとは。

 

 

「ライ。ひょっとしたら、アニキも今頃この塔の中にいるかもしれない。アニキを助けるためにも、頼む」

「ふざけんな!!……いやだよ、私。生き残っても、アンタとお父さんがいない世界なんて、これなら私が死んだ方が……ッ」

 

 

これなら、私が死んだ方がいい。

 

ライの脳裏にその言葉が浮かび上がった瞬間、フウとのやり取りを想起する。

 

 

ー『エニーズ02は、その性質上、強靭的且つ、しなやかで、健康的な肉体を持つ。それをあの小物の技術でデジタル化し、私の身体に取り込む事さえできれば……』

ー『長く、生きる事ができる』

ー『そう!!……おそらく、どんな厄病だって治せる、万能薬となるに違いない』

 

 

ー『さぁ早く来て、ライちゃんの手が、私のBパッドの画面に触れるだけで、粒子となって私の一部となる』

ー『……』

ー『さぁ早く、早く。お祖父様から受けた私の呪いを、断ち切らせて!!』

 

 

 

「……」

 

 

これなら、助けられるかもしれない。救えるかもしれない。命懸けで自分を救ってくれようとした、友達を。

 

そう思いながら、展開しっぱなしとなっているオーカミのBパッドの画面へと軽く触れる。

 

 

「!」

 

 

すると、少しだけ指先が粒子化し、取り込まれた。

 

どう言う原理でこうなっているのかは定かではないが、ライは確信する。これなら、右半身付随となったオーカミの身体を元に戻し、助けられる、と。

 

 

「ねぇオーカミ。私と最初に会った日の事、覚えてる?」

「?」

「ゼウスのブレイドラパン賭けてさ、バトルしたよね」

「昔話はいい、早く逃げろ!」

 

 

突然昔話を始めるライ。オーカミは早く脱出しろと声を荒げるが、それでも止める事なく、続ける。

 

無理もない、ライにとって、これはオーカミとの最後の会話になるのだから。

 

 

「私のデッキは借り物だったけどさ。勝利の未来、王者が通用しなくて、癇癪起こして、アンタを街中追いかけ回したっけ」

「……」

「そこからいろんな人と仲良くなれた。アンタとヨッカさん以外だと、ヒバナちゃん、イチマル、レオン、ソラ、後ついでにアルファベットさん」

 

 

今までの楽しかった思い出が脳裏に浮かぶ。自分は幸せ者だったと気づき、涙が雫となって彼女の頬を伝い、零れ落ちる。

 

 

「ありがとう。オーカミ達がいてくれたから、私は幸せだった」

「何もう終わりみたいな感じで話進めてるんだ。いいから早く」

「逃げるのは、アンタだけでいい」

「ッ……どう言う事だよ」

 

 

ライの言葉に、オーカミは珍しく動揺を見せる。その真意が全く読めなかったのだ。

 

ただ、わかる事と言えば、ライは自らの命を投げ出して、自分を助けようとしていると言う事であって……

 

 

「さよなら。アンタの優しい所、大好きだよ」

「何を、やめろよ……ライ……ッ!!」

 

 

最後に微笑み、そう告げると、ライは両手でオーカミのBパッドへと触れる。

 

直後、ライの身体は粒子化し、オーカミのBパッドへと吸収されてしまって………

 

 

「ライィィィィィィイ!!!!」

 

 

崩壊が続く児雷也森林の巨大な塔。その最上階にて、煉瓦が軋む音と、落石が床に落ちる音、オーカミの叫びが響き渡る。

 

そこにはもう、ライの姿はない。

 

 

******

 

 

「どこだここ………赤い、三日月?」

 

 

消滅したライ。気がつけば、赤色に輝く三日月の月明かりに照らされた草原で寝転んでいた。

 

 

「あぁそうか、死んだんだ私。アイツのBパッドに吸収されたから、ここはアイツのデッキの中?……いや、身体が治った事も考えると、アイツの深層心理の中?……まぁ、何でもいいや。アイツが元気なら」

 

 

どちらにしても、あまり大して変わることはない。

 

ライは立ち上がって一度辺りを見渡すが、直ぐにまた寝転んだ。

 

 

「そうだよ。よかったんだ、これで」

 

 

その瞳にはまた涙が溜まる。本当は全部がいいわけじゃない。オーカミやヨッカ、みんなに会いたい。ひとりぼっちは嫌だと内心で叫んでいる。

 

1人で強がろうとするのは、ライの悪い癖だ。

 

 

「おい、そこの女」

「!」

 

 

声がした。男の声。

 

まさかの自分以外の人間の存在に、思わず立ち上がり、その声の方へと身体を向ける。

 

 

「え……小っちゃい、バルバトス??」

「フン。我と会話できるのだ、光栄に思うがいい」

「なんか、ちょっと可愛いかも」

 

 

そこにいたのは人ではなく、自分の身長の半分程度しかない、これでもかと言わんばかりにデフォルメされた、小さなガンダム・バルバトス。態度は大きいが、目につぶらな瞳孔があり、やけに幼く見える。

 

 

「誰が可愛いだと?……余は鉄華団を統べる偉大なる王、バルバトスであるぞ」

「いやいや、可愛い可愛い。いつもバトルで出てる、あの物騒な姿と比べたら」

「貴様、我だけでなく、我の分身までもを愚弄しているのか?」

「してないしてない。てかさ、写メ撮ろ、記念にさ」

「フン、人の娯楽など、くだらん。1枚だけだぞ」

「結構ノリノリじゃん」

 

 

いつもと違ってやたら貫禄のないバルバトスをイジりまくるライ。

 

バルバトスも、態度は尊大だが、人の余興にはある程度興味を示している様子。

 

 

「そんな事よりだ、感謝するぞ女よ。貴様のお陰で奴は生き長らえた」

「奴って、オーカミの事?……よかった、生きてたんだ」

「奴にはまだ死んでもらっては困るからな。だが貴様は邪魔だ、とっとと元の世界に帰るがいい」

「え」

 

 

そう告げると、バルバトスは手を三日月に掲げ、空間に突如ブラックホールのようなモノを形成。

 

凄まじい吸引力で、その場にいたライのみを吸い込んでいく。

 

 

「ちょいちょい、ウソでしょ、まだ写メ撮ってないし……キャァァァァァァ!!」

 

 

完全にブラックホールに吸い込まれたライ。それにより、この場には小さなバルバトスだけが残る。

 

 

「フ……さぁ我らのカードを手に取った鉄華オーカミよ、これからもその『月王者(ルナレクス)』の力を存分に振るうがいい」

 

 

******

 

 

「!」

 

 

目が覚めるライ。

 

オーカミのBパッドに己を取り込んだ後の記憶が全くないが、瓦礫の山と化した巨大な塔。周囲の児雷也森林の木々。自分を抱き抱える、傷だらけの鉄華オーカミの存在にすぐさま気がついて………

 

 

「オー……カミ。アンタ、どうやって私を助けて……」

「……」

 

 

オーカミは傷だらけではあるものの、右半身は元通り回復していた。だが、不思議なのは自分の存在だ。

 

いったい、オーカミはどうやってBパッドに吸収された自分を引っ張り出したと言うのか。そもそも吸収された自分を引っ張り出したら、また右半身付随になってしまうのではないのか………

 

兎に角、この状況に対する疑問は尽きなかった。

 

 

「二度と」

「え」

「二度と、誰かのために命を投げ出そうとするな」

「………」

「するな……!!」

「う、うん」

 

 

数々の激戦で傷ついたオーカミ。最後の力を振り絞り、ライを怒鳴りつけるような勢いでその言葉を告げる。

 

ライは、その彼の言動に戸惑いながらも、首を縦に振った。

 

 

「ライ、オーカ!!……オーカ、ライ!!」

「!」

 

 

やや遠くから、2人の聞き慣れた声が聞こえる。とても耳馴染みの良い、落ち着く、落ち着かない声。

 

九日ヨッカだ。その後方には復活したアルファベットも確認できる。どうやら、ヨッカが嵐マコトに界放市の外に飛ばされた後に合流し、急いでここまで戻って来た様子。

 

 

「ヨッカさん、アルファベットさん……ヨッカさん!!」

 

 

目に涙を溜め、ライは二度名前を呼んだヨッカの元へ慌てて駆け寄る。

 

ヨッカは、その勢いよく走って来たライを優しく抱き締めた。そうすると、もらい泣きか、彼もまた、少しばかりの涙を流す。

 

オーカミとアルファベットの2人は、顔を見つめ合わせると、その光景に小さな笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての戦いが終わった。

 

誰よりも狡猾で邪悪だった敵、徳川フウを退け、オーカミ達は元の平穏な日常を取り戻す。

 

だが、いつものその平穏な日常では、父親を失った、ライの悲しみを埋めるには不十分であって………

 

 






次回、第64ターン「心の糧、バルバトスVSエアリアル」



******


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第64ターン「心の糧、バルバトスVSエアリアル」

ライを賭けた、徳川フウ、嵐マコトとの、戦いから、およそ1ヶ月。

 

季節は冬。界放市ジークフリード区にも、肌寒い時期がやって来た。

 

 

「よぉ、先生」

 

 

木々生い茂る、界放市ジークフリード区の児雷也森林。その奥地にて、九日ヨッカは、ポツンと立っている墓石に、そう話しかけた。

 

墓石と言っても、磨かれ、洗練された物ではない。青年1人がなんとか持ち上げられる程度の、丁度いいサイズの石だ。

 

そこには、今は亡き、彼の恩師『春神イナズマ』が眠っている。

 

 

「すんませんね。本当はちゃんとした所に頼んで、ちゃんとしたお墓を建ててあげたかったんですけど、そうなると、今回の件が表舞台に流れる可能性がある。ライも、またいつエニーズ02の肉体を欲する者が現れるかわからないし。なんで、狭くて申し訳ないけど、ここで我慢してくださいね。なぁに、偶にオレやライがこうして墓参りに来ますよ」

 

 

少々雑だが、ヨッカは墓石にポリタンクの水を撒き、清める。

 

 

「なぁ先生。後で知ったんですけど、オレとレイジにバトスピを教えたのは、Dr.Aと戦わせるためだったんですよね」

 

 

今から13年以上前も昔の話。ヨッカは、元界放市最強のライダースピリット使い、ライダー王のレイジと共に、イナズマにバトスピを教わった。

 

その教えに偽りはなく、イナズマは、バトルスピリッツの楽しさを、余す事なく、ヨッカ達に伝えた。

 

だが、その真なる目的は、悪魔の科学者、Dr.Aの対抗馬の育成。イナズマは、ヨッカ達をバトスピ戦士として、ゆくゆくはDr.Aと戦わせる予定だったのだ。まぁ、ライを悪用しようとした嵐マコトから、ライを連れて逃亡しなければならなくなったために、その予定は頓挫したわけだが。

 

 

「ちょっぴりショックだった。オレ達の事も戦う道具だと思っていたみたいで。でも違うよな、先生は優しいから、多分、一緒に戦おうとしてた、違いますか?」

 

 

返って来るはずもない返答を、ヨッカは待ち続ける。

 

あくまで自分の奥底での話だし、そうであって欲しいと言う願望も含まれている。だが、それと同時に絶対そうだと言う確信もあった。

 

 

「ふ……まぁ、もういいか、なんでも。ライの事は、オレに任せてくれ。貴方のように、命を賭けてでも、護り抜いて見せます」

 

 

一生返って来ない返答を待ち続ける自分が、次第に馬鹿らしくなって来た。ヨッカは空になったポリタンクを持ち上げ、墓石から背く。

 

 

「最後に、成長したオレの顔、見て欲しかったな。アンタに似て、結構イケメンになりましたよ、オレ」

 

 

最後に「じゃあ、また来ます」と告げ、この場を後にするヨッカ。その目には、薄っすらと涙を浮かべていた。

 

 

******

 

 

「っしゃぁ!!…肩慣らしだ、このオレっちとバトルしやがれ、獅堂レオン!!」

「ハハハ、オレを相手に肩慣らしとは大きく出たな。まぁだがよかろう、貴様如き、軽く捻り潰してくれるぞ、鈴木ゼロマル」

「イチマルだ!!…いい加減名前覚えろよな!!」

 

 

場所は変わり、ジークフリード区のカードショップ『アポローン』……

 

多くのショーケースが陳列し、その中のカードが所狭しと並ぶこの店内にて、鈴木イチマルと獅堂レオンが、今にもバトルを始めようとしていた。そのすぐそばには、一木ヒバナも確認できる。

 

 

「そう言えばさ。2人は決まったの、進路」

 

 

ヒバナが2人に訊いた。忘れがちだが、イチマルとレオンは中学3年生。来年からは高校生だ。

 

この街にいる少年少女ならば、大抵の場合、界放市の区の名前を関した6つのバトスピ学園『ジークフリード校』『デスペラード校』『キングタウロス校』『オーディーン校』『ミカファール校』『タイタス校』のいずれかに進学する事になる。

 

 

「そんな事、訊かれるまでもないぜヒバナちゃん。オレっちは断然『ジークフリード校』さ。あの芽座椎名や赤羽司を輩出した超名門だからな、家からも近いし」

「後者が主でしょ絶対。まぁ他と比べて株は高いって聞くよね。レオンは?」

 

 

訊かれると、レオンは鼻を高くして語りだす。

 

 

「フン、よく聞け、オレは界放市ではなく、ゲートシティにあるバトスピ学園『ノヴァ校』に進学する!!」

「え」

「なにぃ!?」

 

 

レオンの進学する学園の名前に、ヒバナとイチマルは驚愕する。

 

 

「ノヴァ校って、あの入試最難関と言われる最高級のバトスピ学園じゃねぇか」

「卒業できれば、プロ入りはほぼ確定とも言われてるよね。流石レオン、規模が違うわ」

「フフン、そうだ。もっとオレを褒め称えるがいい!!」

「……スゲェ奴なのはわかるんだけどな、やっぱこのスケール違いの自己肯定感の高さが偶に腹立つんだよな」

 

 

レオンの進学するバトスピ学園『ノヴァ校』……

 

界放市から少し離れたバトスピの都市、ゲートシティにあるそのバトスピ学園は、最も大きく、最もレベルの高いバトスピ学園と言われている。

 

口にはしていないが、なんとレオンはその学園を推薦入試で首席で合格している。やはり仮にも界放リーグ三連覇を成し遂げた男。その実力は伊達ではない。きっと、前にオーカミとバトルした時よりも強くなっている事だろう。

 

 

「さぁオーカミよ。貴様もオレを褒め称えるがいい!!」

「バイト中なんだけど。つかオマエ、ウチの店出禁じゃなかったっけ?」

 

 

誇らしげな表情のまま、仕事でショーケースの中にカードを並べる作業を行っている、オーカミにも声を掛けた。

 

先月まで右目が見えず、右腕が動かなくなっていた彼だが、今ではこうしてまともに働ける程度には回復した様子。

 

 

「そんな事はどうでもいいだろう。と言うか、貴様もノヴァ校に来い。共にバトルの腕を磨き上げようではないか」

「なんか、いつもより気持ち悪いな。しかもオレ、進学する気ないし」

「え」

「なにぃ!?」

 

 

オーカミの進路に、また思わずして、イチマルとヒバナが声を漏らす。

 

 

「オーカ、進学しないの!?」

「え、うん。中学出たらここでもっと本腰入れて働く予定だけど」

「何言ってんだオーカミよ。界放市っつったらバトスピ学園だろ、楽しいんだぜバトスピ学園はよ」

「イチマルの言う通りよ、オーカも一緒に進学しよう」

「えぇ……」

 

 

ちょっぴり嫌そうな顔をする。これも忘れがちだが、オーカミの家は裕福な方ではない。売れっ子モデルの姉がどうにかやりくりしているような家計だ。

 

その事を加味して、オーカミは中学卒業後、アポローンで本格的に働くつもりなのだろう。

 

 

「お、みんな揃ってるね」

「ライちゃん!!」

 

 

そんな折、ライがアポローンを訪れる。あの事件以降、姿を見せなかったライ。ヒバナとイチマルは、懐かしさと嬉しさに心を満たされる。

 

 

「おぉライちゃん久し振り、元気だった?」

「まぁね。イチマルも元気そうじゃん。相変わらずヒバナちゃん一筋?」

「おうもちろんだぜ!!」

「また恥ずかしい事を、それにしても本当に久し振りだね、ライちゃん。後はフウちゃんが揃えば、全員集合なんだけど」

「……」

 

 

ヒバナに故意はない。夏恋フウが裏切り者で、徳川暗利、Dr.Aの孫であると言う事実は、この場だとオーカミとライしか知らないのだ。

 

 

「……いや、フウちゃん、実は転校しちゃって、もう界放市にはいないんだよね」

「え、ウソ!?」

 

 

嘘だ。フウは今、どこにいるのかさえ、わからない。

 

 

「そんな、オレっち達に何も言わずにどっか行っちまうなんて」

「あっはは、忙しかったみたいで、フウちゃんも残念そうにしてたよ」

 

 

ライは、心の傷を覆いつくすように笑い、平常を装う。所謂『強がり』だろう。少なくとも、オーカミにはそう見えた。

 

 

「あ、そうそうオーカミ。アンタに用があって来たんだ。ちょっと今時間ある?」

「ない、バイト中。終わってからなら」

 

 

オーカミに用があってアポローンまで来たライ。しかしオーカミは仕事中と言う理由でそれをキッパリ断る。

 

 

「そ。う〜ん、まぁいいか、じゃあね」

「え、ライちゃんもう帰っちゃうの?」

「うん。ヒバナちゃん達も、またね」

 

 

最後にそう告げると、ライは早々にアポローンを去って行った。

 

この時、この一瞬で、ヒバナは、ライがいつもと違う事を直感した。何か、オーカミに大事な事を話そうとしていたのではないか、そう勘繰り………

 

 

「何だったんだアイツ」

「オーカ、今すぐライちゃんのとこに行って」

「え、なんで」

「いいから行く。店番なら私たちがやっておくから」

「えぇ……」

 

 

そう言うと、半ば強引にオーカの着用していたエプロンを脱がし、イチマルとレオンの手に肩を置く。

 

おそらく、オマエら働けと言う意味だろう。

 

 

「え、ヒバナちゃん。まさかオレっちも?」

「もちろん」

「オレ、この店出禁なんだが」

「知らないわよそんな事。さ、早くオーカはライちゃんのとこに行く」

「う、うん」

 

 

珍しくとんでもないくらい強引なヒバナ。オーカミは戸惑いながらも、アポローンを出て、去って行ったライの元へと向かった。

 

 

「アレ、オーカミ。バイトは?」

「なんか終わった。で、オマエの話って何?」

「……」

 

 

この場に誰もいない事を確認すると、ライは単刀直入でオーカミに告げる。

 

 

「私、明日の朝一番で、界放市を去ろうと思う」

「!」

 

 

彼女の言葉に、さっきまで眠たげだったオーカミの目が見開く。

 

 

「なんで」

「なんでって、私元々昔からいろんなとこ旅してたしね。それに、またいつフウちゃんみたいな人が私を狙って来るかわからない。もうアンタやヨッカさん達に迷惑はかけられないから」

 

 

界放市を去ろうと言うライ。一見真っ当な理由に聞こえるが、オーカミは、その彼女の言葉に、どこか違和感を感じて。

 

 

「………それって、オマエの本心か?」

 

 

そう返した。ライも顔色ひとつ変えず、返答する。

 

 

「本心に決まってるでしょ。この事は、誰にも話してない。もちろんヨッカさんにもね、あの人に言ったら、心配されて止められそうだし」

「……」

「私が出た後、ヨッカさんに伝えて、今までありがとうございましたってね」

「それを言わせるために、オレだけにこの事を話したのか?」

「アンタなら、わかってくれると思ったから」

 

 

オーカミにこの事を話したのは、ヨッカに言伝をお願いするため。

 

黙って出て行くと、それはそれで問題になるのも理由の1つであろう。

 

 

「じゃあ、本当にサヨナラだね。今まで楽しかったよ」

「……」

 

 

背を向け、オーカミの元を去って行くライ。

 

この時のオーカミは何を思ったのか、ただ小さくなっていく彼女の背中を見届けていて………

 

 

******

 

 

翌日。夜の厳しい寒さが僅かばかりに残る冬の朝方。

 

九日ヨッカの自宅。彼はパジャマからスーツに着替え、これから仕事に行こうと張り切っていた。

 

 

「よし、今日もいっちょ頑張りますか。そんじゃライ、留守番よろしく」

「うん、いってらっしゃい、ヨッカさん」

 

 

まるで長年付き添って来た夫婦みたいなやり取りを行う2人。

 

だが、ヨッカが自宅を後にすると、ライは大急ぎでパジャマからいつもの私服、虎の刺繍が入ったスカジャンと白いショートパンツに着替え、寒さを凌ぐためのマフラーを首に巻くと、パンパンに詰まった大きなリュックサックを背負い、彼女もその場を後にした。

 

 

ー………

 

 

「ごめんヨッカさん。でも私、もうヨッカさん達に迷惑掛けるなんて耐えられない。悪いけど、これからは1人で自由気ままに一人旅させていただきますよっと」

 

 

家を出たライが目指していたのは、家から最も近い、ヴルムヶ丘公園近辺のバス停だ。

 

バスにさえ乗って仕舞えば、広大な界放市と言えど、いつでも抜け出せる。

 

だが……

 

 

「ッ……なんでいるかな」

 

 

そのヴルムヶ丘公園近辺のバス停にて、自分を待ち構えていた存在に、ライは表情を歪ませる。

 

もはやその正体は聞くまでもない。この事をライが教えたのは、たった1人しかいないのだから。

 

 

「オーカミ」

「ん、おはよう」

「おはようじゃないわよ、アンタなんでここに」

「アニキの家から最短で界放市を離れるならここだと思ったから。ほい」

「?」

 

 

ヴルムヶ丘公園近辺のバス停で待ち構えていた鉄華オーカミ。彼は彼女に会うなり、いきなりコンビニで買ったであろうクリームパンを手渡す。

 

 

「朝、多分まだ何も食ってないだろ」

「ふざけんな。なんでアンタがここに来たのかって訊いてんの。まさか私を止めに来たわけ?……悪いけど、私はそれに従う気はない」

「……」

 

 

オーカミを突っぱねるライ。そんな彼女に対し、オーカミは少しだけ考えると、また静かに話し出す。

 

 

「勘違いするな。オレはオマエを止めに来たわけじゃない」

「!」

「オマエの本心を聞きに来たんだ。本当にオレやアニキと離れたいなら、そうすればいいさ。だけど、それが本心じゃないって言うなら、オレはそれを全力で止める」

「……」

 

 

いつも、いつもいつも。

 

いつもいつもいつも。

 

この赤いチビ助は、心を見透かしたかのように、核心を突いて来る。こんな、人の人生を狂わせる怪物など、放って置けばいいと言うのに。

 

 

「昨日、本心でここを離れるって言ったでしょ」

 

 

もちろん、救けてくれたのは嬉しかったし、心から感謝している。

 

本当に好きだ。この優しい赤いチビ助に恋焦がれている。だけど、だからこそ、これ以上一緒にはいられない。

 

 

「仮にそうだとして、止めるって何、私とバトルでもしようっての?」

「必要なら」

「……いいわ。このまま張り付かれても困るし、結局決着もついてなかったしね。最後に私のバトルで、アンタに教えてあげる。絶対に越えられない壁ってヤツを」

「あぁ、臨む所だ」

 

 

心を鬼にし、オーカミにバトルを申し込むライ。オーカミも、元からこうなる事を予想していたのか、やる気は十分な様子。

 

丁度場所も、バトル場があるヴルムヶ丘公園だ。2人はそのバトル場まで赴き、懐から取り出したBパッドを左腕に装着し、展開。そこにデッキをセットし、バトルの準備を整える。

 

 

「このバトル、私が勝ったら、私はこの界放市から去る。逆にアンタが勝ったら、アンタの言う事を何でも聞く。OK?」

「いいよ何でも。それでオマエの本心が聞けるならな」

「バカ。アンタが私に勝つ事なんて、あり得ないから……!!」

 

 

バトルが始まる前から、カードバトラーの中でも最高峰とも呼べる強い気迫を見せるライ。やはりカードバトラーとしての格は、ライの方が上なのだと、この時点で察せてしまう。

 

しかし、オーカミも負けてはいない。

 

 

「あり得るさ。オレも、あの時のオレじゃない」

「そのセリフ、前にも聞いた覚えあるけど。しかもここで」

「ふ……行くぞ、バトル開始だ!!」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

譲れない思いがある両者のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は春神ライだ。1人で旅立つべく、己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]春神ライ

 

 

「メインステップ。行くよエアリアル。LV1で召喚」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル】LV1(1)BP2000

 

 

フィールドに出現するのは、風に包まれた球体。それを振り払い、中より全体的に柔和な印象を受ける白いモビルスピリット、春神ライの相棒、エアリアルが姿を見せる。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・エアリアル】LV1

バースト:【無】

 

 

『本当にこのまま彼らの元を去っていいのかい、ライ?』

「何よ、アンタまで。いいってずっと言ってるでしょ、口出ししないで」

『……わかったよ。見届けよう、このバトルの先にある未来を』

 

 

ターンエンドの直後、契約スピリット『エアリアル』の声が、ライの脳内に直接響いて来た。

 

どうやらエアリアルも、ライの事を心配している様子。

 

そんなエアリアルを、ライが黙らせた所で、次はオーカミの最初のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ。全力で行くぞ、創界神ネクサス2枚、オルガ・イツカ、クーデリア&アトラを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

オーカミは最初のターンから、いきなり鉄華団をサポートする2種の創界神ネクサス『オルガ・イツカ』と『クーデリア&アトラ』を配置。

 

それらの【神託】の効果により、彼のデッキ上から合計6枚のカードがトラッシュへ行き、オルガに2個、クーデリア&アトラに3個のコアが追加された。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【オルガ・イツカ】LV1(2)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

「最初からフルスロットルね。でも残念だけど、そんな創界神ネクサス、私のデッキには通用しないから」

「……」

 

 

バトルは一周し、再びライのターンが始まる。

 

 

[ターン03]春神ライ

 

 

「メインステップ、ミラージュ、株式会社ガンダムをセット」

 

 

ライのバーストゾーンに1枚のカードが浮かび上がる。それは、エアリアルの持つ系統「学園」をサポートするためのカードであって。

 

 

「株式会社ガンダムのセット中効果。系統「学園」を持つカードを召喚、配置する時、その軽減1つを満たす。これにより、1コストでネクサス『ミオリネ・レンブラン[CEO]』をLV2で配置」

 

 

ー【ミオリネ・レンブラン[CEO]】LV2(1)

 

 

フィールドには何も出現しないタイプのネクサスカードを配置するライ。それが持つ効果は、オーカミの鉄華団デッキにとってはあまりにも部が悪過ぎるモノであり……

 

 

「ミオリネCEOの配置時効果。次の私のスタートステップが来るまで、アンタのコスト3以下のネクサス、創界神ネクサスの効果は発揮できない」

「なに……!?」

 

 

そう告げられたオーカミが己のBパッドを確認すると、たった今配置した創界神ネクサスの2枚が途端に氷漬けになり、効果が発揮できない状態となる。

 

 

「オルガとクーアトは封じ込めた。これで、アンタのデッキのパワーは半減する」

「くっ……」

 

 

新たなネクサス、ミオリネCEOの効果が発揮。これによってオーカミは、次のライのターンが来るまで、ネクサスの効果はおろか、創界神ネクサスの【神技】や【神域】……コアを+するための【神託】でさえ発揮する事ができなくなる。

 

拘束時間は僅かながら、デッキの出力の大半を創界神ネクサスに依存しているオーカミの鉄華団デッキにとっては、まるで天敵のような効果だ。

 

 

「黄のパイロットブレイヴ、スレッタを召喚し、フィールドのエアリアルと合体」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル+スレッタ・マーキュリー】LV1(1)BP6000

 

 

「アタックステップ。合体したエアリアルでアタック、その効果でカウント+1、デッキ下から1枚ドロー」

 

 

合体スピリットを作り上げた所でアタックステップに突入するライ。アタックしたエアリアルの効果でカウントを+1して、1枚のカードをデッキ下からドローする。

 

そして、今のオーカミに、これを防ぐ手段は一切なくて……

 

 

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐっ……」

 

 

エアリアルが手に持つビームライフルからビームを放射。オーカミのライフバリア1つは、それに貫かれ、ガラス細工のように砕け散る。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【ガンダム・エアリアル+スレッタ・マーキュリー】LV1

【ミオリネ・レンブラン[CEO]】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【株式会社ガンダム】

カウント:【1】

 

 

合体スピリットとメタカードの展開からドローに加えてライフの破壊まで序盤でこなしてしまうライ。一度彼女はそのターンをエンドとするが、オーカミにとってはかなり辛い状況なのに変わりなくて………

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ。ランドマン・ロディを召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

オレンジと濁った白の丸みを帯びたボディを持つ、最早お馴染みとなった、小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディが召喚される。

 

さらに、オーカミはもう1枚、手札からカードを引き抜いて………

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ!!……ガンダム・バルバトスルプス、LV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

天空より地上へ降り立ったのは、肩部の赤い装甲が特徴的な、バルバトスの強化形態の1種、バルバトスルプス。

 

エース級のカードが、この第4ターン目にして早くも登場を果たした。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップ。ルプスでアタック、その効果でオレのデッキ上2枚を破棄」

 

 

アタックステップへと突入し、ルプスでアタックの宣言を行うオーカミ。そのルプスの効果によりデッキがトラッシュへと破棄される。

 

そして、その中には鉄華団カードが1枚………

 

 

「鉄華団カードを破棄、よってコア3個以下のエアリアルを破壊する」

 

 

バスターソード状のメイス、ソードメイスを構え、エアリアルへと突撃するルプス。エアリアルはビームライフルを連射し、迎撃するが、ルプスの装甲はそれら全てを弾き返す。

 

ルプスはそのままソードメイスを縦一線に振い、エアリアルを一刀両断。爆散へと追い込んだ。

 

 

「……破壊されたエアリアルは魂状態となってフィールドに残る」

 

 

爆散したはずのエアリアル。だが、その爆散による爆煙が晴れると、ライの横で片膝をつき、半透明となった状態で復活していた。

 

 

「合体していたスレッタも、当然フィールドに残す」

「ルプスのアタックは継続中だ」

「それは、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉春神ライ

 

 

ルプスは左腕から滑腔砲を展開し、鉛玉を放出。ライのライフバリア1つを粉砕した。

 

 

「私のライフが減った時、ミオリネCEOのLV2効果を発揮。学園カードを召喚、配置する。ネクサス、ニカ・ナナウラを配置」

 

 

ー【ニカ・ナナウラ】LV1

 

 

「配置時効果で2枚オープン、その中の学園カード、エラン・ケレスを手札に加える」

 

 

ネクサスと創界神ネクサスの効果を無力化するだけではない。ミオリネCEOの2つ目の効果により、ライはオーカミのターンだと言うにもかかわらず、新たなネクサスカードを配置した。

 

 

「……続け、ランドマン・ロディ」

 

 

己のターンでのネクサスの配置など、全く意に介さず、オーカミは更なるアタックの宣言。ルプスに続き、ランドマン・ロディが、ライのライフバリア目掛けて走り出す。

 

そのアタック時効果により、デッキ上1枚を破棄。それが鉄華団カードならば、コア1個以下のスピリット1体を破壊できたのだが、今回はハズレ。残念ながらフィールドに残ったスレッタの破壊はできなかった。

 

 

「そのアタックもライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉春神ライ

 

 

ランドマン・ロディの斧による一撃が、ライのライフバリア1つを破壊。残り3つとなる。

 

 

「私のライフが減った時、再びミオリネCEOの LV2効果。今度はデリング・レンブランを配置」

 

 

ー【デリング・レンブラン】LV1

 

 

またしてもミオリネCEOの効果。これにより、ライのフィールドには何も出現しないタイプのネクサスカードが4枚並ぶ。

 

 

「ターンエンド」

手札:1

場:【ガンダム・バルバトスルプス】LV2

【ランドマン・ロディ】LV2

【オルガ・イツカ】LV1(2)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【有】

 

 

そのターンをエンドとするオーカミ。スピリットを破壊しつつ、一気に2つのライフを砕き、己が優勢となった事に違いはないものの、創界神2種の効果が発揮できない状態だったために、その手札は僅か1枚。

 

しかも相手はあの春神ライだ。未だ全く油断できる状況じゃない事を理解していて………

 

 

[ターン05]春神ライ

 

 

ライのターンが再び始まった。それにより、ミオリネCEOの配置時効果が切れ、オーカミの2種の創界神ネクサスは氷漬けの状態から解放される。

 

だが………

 

 

「メインステップ。2枚目のミオリネCEOを配置」

「!」

 

 

ー【ミオリネ・レンブラン[CEO]】LV2

 

 

「配置時効果により、再びコスト3以下のネクサス、創界神ネクサスの効果は、私の次のスタートステップまで発揮できない」

「……ヤバいな」

 

 

まさかの2枚目。オーカミの2種の創界神ネクサスがまたしても氷漬けとなってしまう。これには、流石のオーカミも表情を歪ませる。

 

 

「マジック、魔女の覚醒。魂状態となったエアリアルを再召喚」

「!」

「そのままスレッタと合体」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP11000

 

 

鮮やかで、流れるようなカードの連打。ライの契約スピリット、エアリアルが半透明の状態から色を取り戻し、再びフィールドへと足を踏み込む。

 

 

「アンタ、私の本心を聞きたいって言ったわよね?」

「あぁ」

「なら聞かせてあげるわ、私の本心。アンタら、目障りだ」

「!」

「鬱陶しい、鬱陶しくてしょうがない。私が、さっさと1人になりたいって言ってんだ。早くそこを通してよ……!!」

「………」

 

 

凄まじい気迫を感じると共に、ほんの僅かに、指先が震えているのをオーカミは理解した。

 

心を鬼にして、嘘をつき、彼を遠ざけようとしているのがわかる。

 

 

「アタックステップ。その開始時、デリングの効果を発揮、ランドマン・ロディをこのターン、ガンダムとして扱い、コア2個をリザーブへ、消滅させる」

「!」

 

 

ネクサス効果により、黄属性には珍しいコア除去効果を発揮して来るライ。

 

フィールドではランドマン・ロディが維持コア不足で消滅。ルプスを残すのみとなってしまった。

 

 

「大した覚悟もなく私を邪魔して来るアンタが、嫌いだ!!……エアリアルでアタック。その効果でカウント+1し、デッキ下から1枚ドロー」

 

 

嘘というヴェールで包み込んだ怒りと共に、合体したエアリアルでアタックの宣言を行うライ。

 

このフラッシュタイミングで、さらなるカードを手札から発揮させる。

 

 

「フラッシュ、アタック中のエアリアルを対象に【契約煌臨】を発揮」

「!!」

「遥か未来を駆け抜ける、私の相棒!!……ガンダム・エアリアル・ガンビット!!」

 

 

ー【ガンダム・エアリアル[ガンビット]+スレッタ・マーキュリー】LV2(2)BP22000

 

 

エアリアルのシールドが複数のビット、ユニットとして展開。それらは踊るように宙を舞い、エアリアルの周囲で美麗な球体を描く。

 

そのユニット、ガンビットを操るエアリアル、エアリアル・ガンビットこそ、エアリアルの真の姿にして、春神ライのエースカードだ。

 

 

「煌臨アタック時効果、バルバトスルプスをデッキの下に戻す」

 

 

エアリアル・ガンビットが、ガンビットへと信号を送り、指示を行う。

 

するとそれらは、オーカミのバルバトスルプスに向かって行き、先端から放つレーザー光線でそれを焼き切り爆散へと追い込んだ。

 

 

「その後、スレッタがあれば、バトル中シンボルを1つ追加、ダブルシンボルになる。さらに合体したスレッタの効果、敵スピリットを倒した事で、デッキ下から1枚ドロー、さらにソウルコアをリザーブに戻す」

 

 

敵スピリットの排除、シンボル追加、ドロー、ソウルコアの回収。とにかくバトルスピリッツにおいて強い効果を幾つも保有しているエアリアル。

 

その底が知れないカードとしての力が、オーカミと、彼の鉄華団デッキに襲い掛かり始めて来た。

 

 

「心にありもしない言葉で、オレが諦めると思ってんの?」

「……」

「いくらオレを遠ざけても、罵倒しても、辛いのはオマエの方だろ」

「うっさい!!……いいから、私に負けてよ!!」

 

 

どこまでも強情を貫こうとするライ。オーカミにさらなる追い打ちを掛けるべく、手札からまたカードを切り、それを己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュマジック、エアリアル・ガンビットの効果によって、マジックカードとなった、エラン・ケレスの効果、アタック中のエアリアル・ガンビットを回復」

「!!」

 

 

手札にある系統「学園」を持つカード全てに『エアリアル1体を回復させる、マジックカード』として扱う効果を与える、エアリアル・ガンビット。

 

それにより、自身が回復状態に。このターン、二度目のアタックが可能となる。

 

 

「そして、エアリアル・ガンビットの本命のアタック。ダブルシンボルで2つのライフを破壊する!!」

「ッ……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

「ぐうっ!?」

 

 

エアリアル・ガンビットは、ビームライフルを取り出し、それをオーカミに向けて照射。彼を守るライフバリアが一気に2つ貫かれ、砕け散る。

 

それによって、残りのライフは僅か2つ。回復状態となっている、エアリアル・ガンビットの攻撃をあと一撃でも受けて仕舞えば、その時点でゲームオーバーだ。

 

 

「アンタに私は越えさせない。このバトル、勝つのは私だ」

「……」

 

 

早くも断崖絶壁、絶体絶命の状況に立たされるオーカミ。

 

かつてない程の力を発揮するライのバトルスピリッツに、オーカミは果たして勝利する事ができるのか………

 

 

 





次回、第65ターン「魔女の願い」


******


先日行ったヒロイン総選挙の結果発表です!!

・春神ライ【21票】

・一木ヒバナ【2票】

・徳川フウ【3票】

見ての通り、ライがぶっち切りの1位でした( ̄∀ ̄)
たくさんのご投票、誠にありがとうございました!!
次回は『悪魔と魔女編』最終回、どうぞよろしくお願いします!!


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第65ターン「魔女の願い」

人気の少ない冬の朝方。界放市ジークフリード区にあるヴルムヶ丘公園にて、鉄華オーカミと春神ライのバトルスピリッツが続く。

 

互いの気持ちが交差し、すれ違いを見せる中、黄属性のモビルスピリット、エアリアルを操る、ライの苛烈な攻撃の前に、オーカミは窮地に立たされてしまい………

 

 

******

 

 

ライのターン。

 

彼女のフィールドにいるモビルスピリット、エアリアル・ガンビットにより、オーカミのスピリットは全滅、さらに後一撃で敗北と言う状況にまで追い込まれていた。

 

 

「アンタに私は越えさせない。このバトル、勝つのは私だ」

「……」

 

 

父親を失い、疲弊し切った心のまま、さらにつきたくない嘘まで吐き捨て、己を蝕みながら戦い続けるライ。

 

そんな彼女を前に、オーカミは何を思うのか、彼女に、静かな視線を送る。

 

 

「自分の気持ちに嘘つくような奴に、オレが負けるかよ」

「うっさい。うっさいうっさいうっさい!!……早くそこをドケって言ってんだ!!…早く私を、1人にしてよ……お願いだから」

 

 

弱々しい、魔女の願い。

 

ライの心を救うためには、このバトルに勝つ。今の自分にできる事はそれしかない。

 

そう考えたオーカミは………

 

 

「悪いけど、オレは勝ってオマエを超えるよ。聞きたいんだ、オマエの本当の気持ち、ずっと一緒にいたいんだ、オマエと」

「!」

「これはオレだけじゃない。オマエが界放市で出会った、みんなが思っている事だ」

 

 

その瞬間、オーカミの雰囲気が少しだけ刺々しく変貌する。本気モードだ。

 

さらにオーカミは、この状況を一変させるべく、伏せていた1枚のバーストカードへと手を当てて……

 

 

「ライフ減少により、バースト発動!!……本日のハイライトカード、メフィラス外星人!!」

「ッ……鉄華団じゃない、スピリットカードのバースト!?」

 

 

オーカミが反転させたバーストカードは、ライが予想すらしていなかった代物。逆転へのキーパーツだ。

 

その強力な効果が今、発動される。

 

 

「効果により、トラッシュからコスト2、4、6のスピリット1体ずつをノーコスト召喚する。オレが呼ぶのは、コスト2、ランドマン・ロディ、コスト6、ガンダム・フラウロス!!」

「一気に2体!?」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]】LV2(3)BP10000

 

 

「この効果で召喚したスピリット1体につき1枚、デッキからドロー」

 

 

バーストの発動と共に、唸りを上げる大地。そこから、丸みを帯びた小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディと、バルバトス、グシオンに次ぐ、3体目のガンダムの名を持つ、マゼンタカラーのモビルスピリット、フラウロスが飛び出して来る。

 

さらに、2体の召喚により2枚のカードをドロー。これで1枚しかなかったオーカミの手札は3枚となる。

 

 

「まだあるぞ、手札にあるノルバ・シノの効果、流星号のスピリットが召喚された時、自身をノーコスト召喚し、コア2個以下のスピリット1体を破壊する」

「!!」

「コア2個のスピリット、エアリアル・ガンビットを破壊だ!!」

 

 

ー【ガンダム・フラウロス[流星号]+ノルバ・シノ】LV2(3)BP14000

 

 

フラウロスは、背部に備え付けられたレールガンを両肩より展開。それをエアリアル・ガンビットへ向け、掃射する。

 

エアリアル・ガンビットは、己の操るガンビットで迎え撃つが、フラウロスのレールガンはそれらごと全て貫き、爆散へと追い込んだ。

 

 

「そして、バーストのメフィラスをノーコスト召喚」

 

 

ー【メフィラス[外星人]】LV1(1)BP7000

 

 

全ての派生効果が解決した後に、オーカミのフィールドへと降り立つ、人型でスリムだが、無機質で、どこが怪しげな黒い生命体。

 

その名もメフィラス。オーカミが今回デッキに採用した、本日のハイライトカードだ。

 

 

「これでオマエのフィールドに、アタックできるスピリットはいない」

「くっ……契約エアリアルは魂状態で残して、ターンエンド」

手札:2

場:【スレッタ・マーキュリー】LV1(4)

【ミオリネ・レンブラン[CEO]】LV2

【ミオリネ・レンブラン[CEO]】LV2

【デリング・レンブラン】LV2

【ニカ・ナナウラ】LV2

【ガンダム・エアリアル】魂状態

バースト:【無】

ミラージュ:【株式会社ガンダム】

カウント:【2】

 

 

パイロットブレイヴと煌臨元の契約スピリットをフィールドに残し、ライはそのターンをエンドとした。

 

次は、危機的な状況を乗り越えてみせたオーカミのターンとなるが………

 

 

「さっきので、やっとオマエの本心が少しわかった気がする」

「!」

「オマエ、怖いんだろ。また大事な何かを失うのが、だから逃げようとしてるんだ、この街から」

 

 

ライの滲み出て来た怒りと言動から、オーカミは彼女が抱いている負の感情を理解した。

 

否、本当は、理解した気になっているだけなのかもしれない。しかし、少なからず、目の前で大事な父親を失ってしまった事で、ライは仲間や友、家族、掛け替えのない存在を失う恐怖がへばりついているのは、確かであり……

 

 

「ッ……知ったような口を……だったら何、このままのうのうと過ごし続けて、アンタやヨッカさん達が傷ついて行くのを、どっかに消えちゃうのを、黙って見てろっての!?」

「……」

「これ以上私に、何をしろって言うのよ!!」

 

 

涙目になりながら、必死にライは叫ぶ。その脳裏に浮かび続けるのは、親友だったフウが敵だと発覚した時と、イナズマがそのフウに殺害された瞬間。

 

さらにそこから想像しているのは、オーカミとヨッカが、自分のせいで苦しむ姿。

 

オーカミ同様、仲間や友を大事にする彼女にとって、それはこれ以上ない災厄と言って差し支えない。

 

 

「ただ、居てくれるだけじゃダメか?」

「……!!」

 

 

この言葉を発したのは、オーカミではない。少し離れた所から声がした。

 

2人してその方へと首を向けると、そこには2人にとって恩人である、九日ヨッカの姿があって………

 

 

「アニキ」

「ヨッカさん、なんで……」

 

 

一番驚いていたのは、他でもない、彼に黙ってこの界放市を去ろうとしたライだ。

 

 

「オマエとも結構長い付き合いだからな。考えてる事なんてお見通しだ」

「……」

「オレが不甲斐ないせいで、オマエに辛い思いをさせちまったみたいだな。本当に、すまなかった」

「ちょ、やめてよ」

 

 

ヨッカは、恩師であるイナズマが亡くなってしまったのは、自分のせいだと思っているのだろうか、ライに深々と頭を下げる。

 

 

「正直、これからどう償っていけばいいかわからねぇ、でも、これだけは言えるぞ。オレにはオマエが必要だ」

「!!」

「家帰ったらよ、美味い飯あるのめちゃくちゃ嬉しいし、話し相手いるの凄く楽しいし、まぁそんな事言わしたらキリがねぇか。とにかく、オレはオマエにずっと居て欲しい、ずっとな」

「……」

 

 

何故か。

 

鼓動が速まる。胸が張り裂けそうな程。

 

ライはとっくの昔に理解している。オーカミやヨッカ達が、自分を必要としている事を、ずっと一緒に居て欲しい事を。

 

 

「ダメ……ダメだよ。だって、ヨッカさんは私が居たせいで恩師だったお父さんを失ったし、散々危険な目にあった。そうだよ、お父さんだって、私が産まれてなければ、こんな……全部、何もかも、私が産まれたせいなんだ!!」

「ライ……」

 

 

だが、そうだとしても。

 

いや、そうだからこそ。

 

ライはもう、目の前で失いたくないのだ。オーカミもヨッカも、みんな。ずっと、生きていて欲しいのだ。だから自分が逃げ続けるしかないのだ。進む事など、決してできない。

 

 

「な訳ないだろ、オレ達はな」

「もういいよアニキ」

「オーカ」

 

 

ヨッカが、ライにまた何かを告げようとした直後、それを妨げたのは、彼の弟分であるオーカミだ。

 

 

「今はバトル中だ。後はオレに任せて、黙って見ていてくれ」

「……あぁ、わかった。任せたぜ、兄弟」

 

 

心の通じ合っている2人。ヨッカは後の事を全て信頼している弟分、オーカミへと託し、己は半歩下がり、このバトルを見届ける。

 

 

「ライ、自分なんかいなくなった方が良いって思ってるのも、きっと本当なんだな」

「……」

「でも、オレが聞きたいのはそんな事じゃない。どんなわがままな事でもいい、自分勝手な事でもいい、オマエの願いを、こうありたい未来を叫べよ」

「こうありたい、未来……」

 

 

オーカミが聞きたいのは、今のライにとって、無意識のうちに、心のどこかに閉じ込めているモノ。

 

ライの口から、それを聞くべく、オーカミは己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、フラウロスのLVを3に、メフィラスのLVを2にアップ」

 

 

メインステップの開始直後、オーカミはフィールドにいるフラウロスとメフィラスのLVを上昇させる。

 

これにより、フラウロスは16000。メフィラスは10000まで到達した。

 

 

「アタックステップ、フラウロスでアタック。合体しているシノの効果により、手札1枚を破棄し、2枚ドロー」

 

 

残り3つのライのライフを破壊すべく、アタックステップへと突入。アタック時効果により、手札を4枚まで増加させる。

 

 

「今のフラウロスはダブルシンボル、これで一気に勝ちが近づく」

 

 

果敢に攻め込むオーカミ。

 

しかしながら勝ちが近づくのは、アタックが通ればの話。

 

相手があの春神ライ。そう易々とそれを通すはずもなく………

 

 

「フラッシュマジック『逃げたら一つ、進めば二つ手に入る』を使用」

「!」

「このマジックは、2つの効果の内、1つを選択して発揮する。1つ目は逃げる効果『ただちにバトルを終了させる』……2つ目は進む効果『自分のスピリット1体を回復させる』」

 

 

ライは、逃げる効果と進む効果。内1つを発揮させる特殊なマジックカードを使用する。

 

この局面、状況的にも、彼女の精神状態的にも、選択肢は1つしかなくて………

 

 

「当然、逃げる方を選択する。フラウロスのアタックをただちに終了」

 

 

ライのフィールドから放たれる黄なる波動に、フラウロスは吹き飛ばされ、阻まれる。

 

 

「なら、ランドマン・ロディでアタックだ」

 

 

ダブルシンボル持ちのアタックは妨げられたものの、オーカミの果敢に攻めるスタイルは変わらない。

 

今度はランドマン・ロディで攻撃を仕掛ける。

 

 

「フラッシュマジック『逃げたら一つ、進めば二つ手に入る』」

「2枚目……!?」

「当然逃げる。ランドマン・ロディのアタックは強制終了」

 

 

フラウロス同様、ランドマン・ロディも黄なる波動に吹き飛ばされ、オーカミのフィールドへと強制送還される。

 

これにより、彼のアタックできるスピリットは、メフィラスのみとなった。

 

 

「でも今のマジックの使用で、オマエの手札は0枚。メフィラスでアタックだ」

「それは、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉春神ライ

 

 

流石のライも、手札がなければ防御はできなかったか、メフィラスのアタックだけは通す。

 

その無機質で黒々とした拳が、彼女のライフバリア1つを砕いた。

 

 

「……ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・フラウロス[流星号]+ノルバ・シノ】LV3

【ランドマン・ロディ】LV2

【メフィラス[外星人]】LV2

【オルガ・イツカ】LV1(2)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

3体のスピリットでフルアタックを行なっても、奪えたライフはたったの1つ。

 

だがしかし、1つは奪えた。途方もない実力差のあったあのライから、1つをもぎ取ったのだ。

 

自分は少なからず前に進めていると自覚したオーカミは、ほんの僅かに笑みを浮かべる。

 

 

「なに笑ってんのよ」

「ほんの少しだけ、前に進めたからな。まだ勝負はこれからだ」

「……なんで、アンタはそんなに直向きなの。なんでそんなに前を向いて歩けるの。進んだ先で、大事な人達がいなくなるのが怖くないの?」

 

 

どこまでも止まらず、進み続けるオーカミに、羨望の眼差しを向けながら、ライが訊いた。

 

 

「何度も言わせるな。オマエと、ずっと一緒にいたいからって言ってるだろ」

「ッ……!!」

「だから止まらない。オレは、望んだ未来を手にするまで、進み続ける」

 

 

己の欲にドが付く程直球なオーカミ。

 

しかし、彼も、最初はかなり内向的であった。バトスピと出会い、鉄華団と出会い、多くの仲間や友と交流していた結果、少しずつ、変わって行ったのだ。

 

 

「自分の欲しい未来を望まなくてどうする。進んだ先にある素晴らしいモノに、手を伸ばさなくてどうする」

「……」

「好きな事くらい、素直に話していいんだ。それを聞くために、オレ達がいる。オマエの願いの1つや2つ、聞かせてみろよ」

「……!!」

 

 

[ターン07]春神ライ

 

 

「スタート、コア、ドロー、リフレッシュ……メイン、ステップ……」

 

 

ターンを進めても尚、震えて開いた口が塞がらない。

 

未だに。

 

オーカミを目の前で失った瞬間を想像するだけで、この身が張り裂けそうな思いになる。絶対に、そんな事あってはいけないと、防がなければならないとも思っている。

 

だが、それでも……

 

望んでもいいのなら。

 

 

「……私、どんな理由があっても、バトルは手を抜けない。それがお父さんからの教えだから」

「うん」

「約束も破れない」

「うん」

「多分このバトルに勝ったら、どう言う心境になっても、絶対界放市から去ると思う」

「うん」

「だから、お願い……」

 

 

力の限り、望み、願いを叫ばせて欲しい。

 

 

「私に勝って、勝って私とずっと一緒にいてよ、オーカァァァァ!!」

「……」

「まだ私、私……みんなとお別れなんてしたくないよ……!!」

 

 

涙を零しながら、ようやく己の願いを叫ぶ事ができたライ。オーカミとヨッカの気持ちが、荒み、閉ざされた彼女の心に届いたのだ。

 

そんな彼女の心に、応えてやらないオーカミではない。

 

 

「ライ……!」

「ずっとそれが聞きたかった。全力で来いよ、ライ。約束だ、それを受け止めた上で勝ってやる」

 

 

オーカミの告げた言葉に、ライは頷きながら涙を拭い、深く深呼吸。

 

一旦落ち着くと、彼女は久し振りに、本来持ち合わせる天真爛漫な笑顔をオーカミ達に見せる。

 

 

「行くよ、エアリアル。オーカに見せてやろう、私達の全力」

 

 

さぁ、ラストターンの時間です……!!

 

 

いつもの決めゼリフを告げると同時に王者を発動。目下から頬を伝い、青白い刻印が刻まれる。そして、その言葉と心境の変化に応えるかのように、魂状態となり、片膝をついている、色を失ったエアリアルは、その眼光を緑色に輝かせる。

 

天地でも覆ったかのような強烈な重圧。オーカミは、今から解き放たれる、全力のライの攻撃を受け止める事ができるのか……

 

否、絶対に受け止めなければならない。このバトルに勝ち、ライとずっと一緒にいるために。

 

 

「魂状態のエアリアルを対象とし【契約煌臨】発揮。遥か未来を撃ち抜く、私の相棒、ガンダム・エアリアル・改修型!!……LV2で契約煌臨」

 

 

二度目の【契約煌臨】……

 

魂状態となり、色素を失ったエアリアルが、神々しい光と共に、新たな姿を獲得し、再びフィールドへと降り立つ。その名もエアリアル・改修型。エアリアルの未来の姿だ。

 

 

「契約煌臨した事で、パイロットブレイヴ、スレッタの効果。ただちにエアリアル・改修型に合体

 

 

ー【ガンダム・エアリアル(改修型)+スレッタ・マーキュリー】LV2(4)BP26000

 

 

「そしてエアリアル・改修型の煌臨アタック時効果、オーカのフィールドにいる、全てのスピリットのBPを、マイナス10000」

「!」

 

 

エアリアル・改修型は、登場するなり新しいガンビットをビームライフルに装着し、そこから極太の光線を、オーカミのフィールドへと向けて照射。

 

直撃した3体のスピリットの内、ランドマン・ロディとメフィラスが爆散。フラウロスは片膝をつきながらも辛うじて生き残った。

 

 

「0になったスピリットは破壊され、破壊した数だけ、デッキ下からカードをドロー、さらに合体したスレッタの効果、スピリットを倒した事で、もう1枚デッキ下から1枚ドロー」

 

 

つまりは3枚だ。ライは合計で3枚のカードをデッキの下からドローする。

 

 

「オレも、ランドマン・ロディの破壊時効果で1枚ドローだ」

「アタックステップ。決めるよ、オーカ。私の全力の攻撃、受け止められる?」

「当たり前だ、約束したからな」

「うん。エアリアル・改修型でアタック、その時、もう一度同じ効果を発揮させる。生き残ったフラウロスも破壊」

 

 

ターンシークエンスがアタックステップへと移行し、再び光線を掃射。二度目の直撃は、フラウロスも耐えられなかったか、力尽きて爆散してしまう。

 

 

「合体しているシノはフィールドに残す」

「破壊した事でデッキ下から1枚ドロー、スレッタの効果でもう1枚ドロー。トラッシュからソウルコアをリザーブに戻す。そして煌臨元の契約エアリアルの効果、カウント+1し、デッキ下から1枚ドロー」

「手札6枚か」

 

 

流石は春神ライと言った所か。たった1枚のカードからコンボを作り出し、手札を6枚にまで伸ばしつつ、オーカミのフィールドにいる全てのスピリットを全滅させた。

 

 

「エアリアル・改修型のもう1つの効果。スレッタがある時、全てのエアリアルを黄のトリプルシンボルにする」

「くっ……」

「オーカのライフは後2つ。一撃でも受けたらお終いだぞ」

 

 

ヨッカの言う通り、最早オーカミのライフに、エアリアル・改修型の攻撃を受ける猶予は一切残されていない。

 

だからこそ、1枚のカードをBパッドへと叩きつけて対抗する。

 

 

「フラッシュマジック、ネクロブライト」

「!」

「効果により、トラッシュにある紫のコスト3以下のスピリット1体をノーコスト召喚。来い、ランドマン・ロディ」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2)BP3000

 

 

「そしてブロックだ」

 

 

オーカミがマジックカードの効果でトラッシュから復活させたのは、小型のランドマン・ロディ。

 

エアリアル・改修型のBPには遠く及ばない、貧弱なステータスだが、オーカミがコレを復活させたのは理由がある。

 

 

「そうか、わかったぜオーカ。ランドマン・ロディの破壊時効果は、デッキから1枚ドローし、相手の疲労状態のスピリット1体を破壊する。これでエアリアル・改修型の攻撃を凌ぎつつ、破壊できるってこった」

 

 

ヨッカがオーカミの戦術を理解する。

 

そう、これは単なるチャンプブロックではなく、強烈なカウンターへの布石。オーカミはカードをドローしつつ、エアリアル・改修型を破壊するつもりなのだ。

 

 

「フラッシュマジック『逃げたら一つ、進めば二つ手に入る』を使用」

「ッ……3枚目!?」

 

 

しかし、王者の力を発揮しているライが、その未来を見ていないわけがない。

 

3枚目となる、逃げる効果と進む効果、いずれかを発揮できる『逃げたら一つ、進めば二つ手に入る』を使用。

 

 

「私は進む、もう逃げない。私は進む効果を選択し、エアリアル・改修型を回復、さらにこのバトル中、回復したスピリットがBP比べで敵スピリットを破壊した時、私のライフ2つを回復させる」

 

 

逃げず、進む事を選択したライ。これにより、エアリアル・改修型は回復し、このターン、二度目のアタック権利を獲得すると同時に、疲労状態のスピリットを破壊するランドマン・ロディの破壊時効果をケアして行く。

 

 

「フラッシュマジック、絶甲氷盾」

「!」

「コストはランドマン・ロディから全てのコアを取り除き確保。よってランドマン・ロディは消滅」

 

 

オーカミが返しのフラッシュタイミングで発揮させたマジックカードは、最も有名な白属性の防御マジック『絶甲氷盾〈R〉』………

 

そのコストの支払いにより、ランドマン・ロディのコアが取り除かれ、エアリアル・改修型によって破壊される前に消滅。

 

 

「バトルで破壊される前にランドマン・ロディは消した。これでオマエのライフが回復する事はない。そして、絶甲氷盾の効果によって、オマエのアタックステップはこれで終わりだ」

 

 

ランドマン・ロディと絶甲氷盾。2枚のカードで二重の策を張り、ライのエアリアルに対抗して見せたオーカミ。

 

しかし、この程度で止まる程、ライのバトルスピリッツは甘くなくて……

 

 

「甘いね」

「!」

「私のフィールドの学園ネクサス全ては、デリング・レンブランの効果によって、全てLV2となっている。その中の1枚、ニカ・ナナウラのLV2の効果、スレッタがいる限り、アンタは私のアタックステップを、効果で終了できない」

「なに……!?」

「オーカの奴がここまでやってもまだ届かねぇってのか」

 

 

終わっていたのは、ブロックに成功した一度目のアタックのみ。

 

マジックカードによって回復した、二度目のエアリアル・改修型のアタックが待ち受けていた。

 

 

「エアリアル・改修型!!……再度アタック、効果で残ったノルバ・シノのBPをマイナス10000。破壊して1枚ドロー、スレッタの効果でもう1枚、契約エアリアルの効果でもう1枚」

 

 

オーカミのBパッド上にあるパイロットブレイヴ、ノルバ・シノのカードがトラッシュへと誘われる。オマケにライの手札はまた3枚増え、その枚数は8枚となる。

 

 

「トリプルシンボルのアタック。これで、私の勝ち……」

 

 

エアリアル・改修型が、ガンビットを装着して強化されたビームライフルをオーカミに向け、照射する。それは、フィールドの大地を抉りながら一直線に突き進んで行く。

 

そしてそれは、オーカミの前方に展開される、彼の残り2枚のライフバリア全てを貫き、粉砕………

 

するかと思われた。

 

オーカミがこの状況で僅かに口角を上げるまでは。

 

 

「ふ……オマエには勝たせない。言ったろ、ずっと一緒にいてやるって」

 

 

そう告げると、オーカミは手札にある1枚のカードを己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「本日のハイライトカード、その2だ。フラッシュ、手札から魔界霧竜ミストヴルムの効果を発揮」

「!」

「それにより、オレの手札2枚を破棄、ミストヴルムを手札からノーコスト召喚」

 

 

ー【魔界霧竜ミストヴルム】LV1(1)BP1000

 

 

オーカミが残りの手札全てを犠牲にしてまで召喚したのは、霧にその身を覆われた、小さなドラゴン。

 

ただフラッシュタイミングで召喚できるだけで、それ以外は何もできないスピリットであるが、ブロックの壁としては十分だ。

 

 

「ミストヴルムでブロック」

 

 

エアリアル・改修型の放った光線に立ち向かうミストヴルム。その肉体は、衝突と共に呆気なくビームと共に霧散。

 

しかし、これでオーカミのライフは破壊されない。ライの勝利の未来を覆し、守り切って見せたのだ。

 

 

「エアリアルが勝利した事で、スレッタの効果でドロー。ターンエンド」

手札:9

場:【ガンダム・エアリアル(改修型)+スレッタ・マーキュリー】LV2

【ミオリネ・レンブラン[CEO]】LV2

【ミオリネ・レンブラン[CEO]】LV2

【デリング・レンブラン】LV2

【ニカ・ナナウラ】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【株式会社ガンダム】

カウント:【4】

 

 

「どうだ。受け止めて見せたぞ、オマエの全力」

「……うん…!」

 

 

手札を全て投げ捨て、極限状態になってまでライの猛攻を防ぎ切ったオーカミに、ライは晴れやかな心を表した、明るい笑顔を向ける。

 

 

「オーカ、ここが正念場だ、今更止まるんじゃねぇぞ」

「わかってるよ、アニキ」

 

 

ヨッカに鼓舞され、オーカミのターンが巡って来る。

 

ギリギリでどうにか繋いだ1ターン。この1ターンで、全てが決まる。オーカミは、ライとの約束を果たすべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「ドローステップ……ッ」

 

 

事実上のラストターン。手札を全て失ったオーカミが、このタイミングでドローしたカードは……

 

 

「オマエが来てくれたか。よし、メインステップ、バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

オーカミがトップでドローし、そのまま召喚したのは、初めてのバトルで、初めて召喚したスピリット、バルバトス第1形態。

 

肩の装甲も武器もなく、アタッカーとしては見るには少々頼りないが、その真骨頂は、召喚時効果で鉄華団の仲間を呼び寄せる事にあり………

 

 

「召喚時効果で3枚オープン、その中の鉄華団カード、バルバトス第4形態を手札に加え、残りを破棄する」

「このタイミングで第4形態!?」

 

 

バルバトス第1形態の効果でオープンされた3枚の中にある1枚は、このタイミングで限りなく最高に近いカード。

 

見事手繰り寄せたオーカミは、行き着く間も無く、そのカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

大地を揺るがせ、遥か未来を導け!!

 

ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚!!

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(4)BP12000

 

 

風を切り、遥か上空から着地し、大地を揺るがしたのは、黒々とした戦棍、メイスを片手に握る、オーカミの最初のエースカード、ガンダム・バルバトス第4形態。

 

 

「そうだ。オマエらと出会ってから、全てが始まったんだ。今思えば、アレから、まだ1年も経ってないんだな」

 

 

この時、オーカミは思い出す。鉄華団と初めて出会った日、初めてバトルした時の事を………

 

 

「行くぞ、鉄華団スピリット達よ。オレはこれからもずっと止まらない。だから、オマエ達も止まるんじゃないぞ」

 

 

役者は揃った。オーカミはここから大反撃に出るべく、最後のアタックステップを宣言する。

 

 

「アタックステップ。その開始時、オルガの【神技】を発揮、オルガのコア4つをボイドに送り、トラッシュから鉄華団カード、パイロットブレイヴ、三日月・オーガスを召喚し、バルバトス第4形態と合体!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4)BP18000

 

 

ライのネクサス、ミオリネCEOの効果で無力化され続けた鉄華団の創界神ネクサスの効果が、ここに来てようやくその本領を発揮。

 

バルバトス第4形態に三日月。鉄華団デッキの伝家の宝刀とも呼べる組み合わせが揃った。

 

 

「バルバトス第4形態でアタック、そのアタック時効果で、スレッタを破壊して、エアリアル・改修型のコア2個をリザーブに置く」

 

 

バルバトス第4形態は、大地をメイスで砕き、その破片をエアリアル・改修型へと被弾させる。

 

エアリアル・改修型は、スレッタこそ失ったものの、4つのコアを置いていたため、消滅は免れた。

 

 

「さらに三日月の効果、デリング・レンブランのLVコストを+1して消滅。オマエのリザーブのコアを2個トラッシュへ」

「ッ……」

 

 

スレッタだけでなく、ネクサスカードのデリング、さらにコア2つがライのトラッシュへと誘われる。

 

そして、瞬きする間も無く、バルバトス第4形態がメイスを構え、迫って来て……

 

 

「トリプルシンボルのアタック、これで決める」

「いや、まだ決まらない、フラッシュマジック、懺悔」

「!」

「効果により、このターンの間、バルバトス第4形態のシンボルを0に固定する。そのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉春神ライ・王者

 

 

ライの咄嗟に放った1枚のマジックカード。それにより、バルバトス第4形態に雷が直撃。そのシンボルは3から0となり、ライのライフバリアにメイスを叩きつけるが、それは砕けずに終わった。

 

 

「まだ止まらないだろ、鉄華団。バルバトス第4形態のさらなる効果、各バトルの終了時、トラッシュから1コストで鉄華団スピリットを復活させる」

 

 

今まで幾度となくオーカミの窮地を救って来た、バルバトス第4形態の蘇生効果。

 

そして今回、それで呼び出すのは、鉄華団デッキの象徴、バルバトスの最終にして最後の姿。

 

 

「天地を覆せ、未来よ唸れ!!……ガンダム・バルバトスルプスレクス最終決戦、LV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス[最終決戦時]】LV2(2)BP13000

 

 

バルバトス第4形態は、緑色の眼光を輝かせ、己の持つメイスを大地に叩きつけ、震撼させる。

 

その大地を突き破り、地上へと姿を見せるのは、バルバトスの最終形態、ルプスレクスの真の姿。輝く赤い眼差しは、捉えた全てを葬り去る。

 

 

「召喚アタック時効果、デッキ上5枚をゲームから除外し、エアリアル・改修型から、コアを3個トラッシュへ」

「ッ……エアリアル」

 

 

ルプスレクス最終決戦は、背部に備えた悪魔の尾、テイルブレードをエアリアル・改修型へと放つ。

 

エアリアル・改修型は、反射的にガンビットでそれを受け止めるも、その瞬間に、目で追従できない程の速さで飛び込んで来たルプスレクス最終決戦の激爪による一撃が、胸部に直撃。

 

流石にこれには耐えられなかったか、最後は力尽きたように片膝をつき、爆散した。

 

 

「……アンタにも迷惑かけたね、ありがとう、エアリアル」

 

 

ライが、半透明の魂状態となって、自分の隣に来たエアリアルにそう告げると、エアリアルはまるで『大丈夫さ』と言わんばかりに首を縦に振った。

 

 

「ルプスレクス最終決戦でアタック、その効果でまたデッキ上5枚を除外。さらにもう1つのアタック時効果で、トラッシュにある鉄華団カードを13枚ゲームから除外」

「フラッシュマジック、懺悔。このターン、ルプスレクス最終決戦のシンボルを0に固定する」

 

 

デッキやトラッシュのカードを投げ捨て、ルプスレクス最終決戦の効果を発揮させるオーカミ。

 

ライも負け時と2枚目の『懺悔』を発揮させ、ルプスレクス最終決戦に雷を落とし、そのシンボルを0に固定する。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉春神ライ・王者

 

 

ルプスレクス最終決戦は、エアリアル・改修型を葬った時と同様に、両手の激爪でライのライフバリアの破壊を試みるが、雷により、己の力が弱まったためか、砕けず、バルバトス第4形態の二の舞に終わる。

 

だが、その真骨頂はここからだ。

 

 

「ルプスレクス最終決戦のアタック時効果、鉄華団カードをトラッシュから13枚除外していれば、アタックしたバトル終了時、相手ライフのコアを2個ボイドに送る」

「……」

 

 

ルプスレクス最終決戦の背面の剣、悪魔の尾が、強烈な刺突となって、ライのライフバリア目掛けて放たれた。

 

彼女のライフは残り2つ。これでちょうど倒し切れる。

 

 

「私のライフが相手の効果で減る時、手札にあるガンドノードの効果発揮」

「!」

「コレを破棄する事で、その減少数をマイナス1にする」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉春神ライ・王者

 

 

それがライフバリアに突き刺さる直前、出現したのは、黒いボディの小型のモビルスピリット。それが緩衝材となり、ライのライフの減少は2から1に抑えられた。

 

 

「懺悔の効果で1枚ドロー」

「ありがとうライ。オマエや、みんながいてくれたから、オレは今、止まらずにいられる。バトスピを楽しむ事ができる」

「オーカ」

「ラストアタックだ、バルバトス第1形態……!!」

 

 

直後、バルバトス第1形態が、ライの眼前に迫る。

 

7枚もある手札の中には、このアタックを防げるカードは存在する。だが、もうそれを使うだけのコアが残っていない。

 

 

「……こちらこそありがとう、オーカ。私を超えてくれて」

「あぁ帰ろう、ライ」

「うん、ライフで受ける」

 

 

ライは己の最後のライフバリアを、目の前にいるバルバトス第1形態へと捧げる。

 

 

〈ライフ1➡︎0〉春神ライ・王者

 

 

バルバトス第1形態はそれを優しく抱き締め、ゆっくりと亀裂を生じさせて、破壊した。

 

その瞬間、ライのBパッドから「ピー……」と言う甲高い機械音が、彼女の敗北と、オーカミの勝利を告げるように鳴り響く。

 

 

「オレの、オレ達の勝ちだ」

 

 

そうだ。遂に、オーカミはあの春神ライに勝利したのだ。

 

拳を握り締めてサムズアップを見せると、フィールドに残った3体のバルバトス達も、その感情の昂りに呼応するかの如く、消滅して行く中で無音の咆哮を張り上げた。

 

 

「お」

 

 

バトルが終わった直後、ライは感極まって、思わずオーカミの胸元に飛び込んで来た。

 

オーカミは地面に尻餅を付いて、少々痛かったが、何も言わずに、ライを受け止める。

 

 

「ありがとう、勝ってくれて、本当にありがとう。私信じてた、オーカなら、勝ってくれるって……!!」

「うん」

「バトル中、酷い事たくさん言ってごめん」

「そうだっけ」

「私、結構わがままで、強がりだから、またアンタに迷惑掛けるかもしれない。それでも、ずっと一緒にいてくれる?」

「当たり前だ」

「……」

 

 

大粒の涙を流しながら、オーカミを抱き締める。彼は、自分のジャケットが濡れるのもお構いなしに、ライが泣き止むのを待ち続けた。

 

 

オレの目に、狂いはなかった。オーカ、オマエはやっぱバトルの天才だ。

 

オレや巨悪にも勝ち、遂にはライにまで勝ちやがった。オマエに勝てる奴なんざ、もう界放市にはいねぇのかもな。

 

 

己の弟分と妹分の微笑ましい光景を目に焼き付けながら、ヨッカが内心でそう呟く。

 

僅か1年足らず、そんな短い期間内でここまで才能を開花させた弟分の成長ぶりが、本当に嬉しかったのだろう。

 

 

ー………

 

 

「っしゃぁ、ライもいつもの調子を取り戻した事だし、記念にラーメンでも食べて来るか、もちろんオレの奢りだ」

「えぇ、ヨッカさん、まだ朝だよ。ラーメンはちょっと」

 

 

アレから5分程度の時が経過したか。ライも落ち着き、ようやくいつもの平和な空気感が流れ始めた。

 

 

「何だよ、じゃあつけ麺か?」

「あんま変わんないし。つか、仕事は?」

「いいんだよ1日くらいサボっても、オレの店だし」

「社会人失格だよ!!」

 

 

だらしないヨッカに、ライがツッコむ。

 

刹那、何ともしょうもない会話に、2人は笑い合った。

 

 

「オーカはどこ行きたい?」

 

 

ライがオーカミに訊いた。

 

オーカミもまた、小さな笑顔を向けながら………

 

 

「オレはどこでもいいよ。2人と行けるなら、どこでも」

 

 

そう静かに答える。

 

こうして、オーカミ達の住まう界放市ジークフリード区は、今日も平和な1日を迎えるのであった。

 

 








バトルスピリッツ 王者の鉄華、第1章完結!!

第2章始動。新章『ノヴァ学園編』開幕。
あれから1年後、舞台はゲートシティ、ノヴァ学園へ。
オーカミの前に、新たなライバル達が立ちはだかる。

次回、第66ターン「怪獣王の咆哮」









******








最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
これにて『バトルスピリッツ 王者の鉄華』第1章は完結となります。
私の中では4作目にあたる今作。途中、公式様から主人公カードに抜擢した鉄華団カードの強化が貰えななくて、執筆に悪戦苦闘したりもしましたが、それでもたくさんの方にご愛読され、多くのご感想をいただけて、それが心の支えとなり、毎日とても楽しく執筆できました。
そのお陰で、ここまで来る事ができました。重ね重ねになりますが、読者の皆様、いつも本当にありがとうございます。
上記の新章は、来年1月からスタートです。よりパワーアップした小説をお届けできますよう、精進して参ります。
それでは皆様、良いお年を。これからも『バトルスピリッツ 王者の鉄華』を何卒よろしくお願いします!!


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ノヴァ学園編
第66ターン「怪獣王の咆哮」


日本を代表するバトスピ都市の一角を担う、界放市ジークフリード区。

 

そこにある、とあるバスターミナルにて、どこからやって来たのか、到着したての大型バスから1人の少年がこの地に降り立つ。

 

 

「ここが界放市。やはり、ゲートシティと比べて、随分と田舎くさいな」

 

 

ジークフリード区の街並みを見てそう呟き、紫色の長い髪を靡かせる美少年。凛とした気高いその表情は、彼がただ者ではないと教えてくれる。

 

因みにゲートシティとは、界放市近辺にあり、それと肩を並べる程のバトスピ都市の事。ジークフリード区も相当な大都市だが、彼の口振りからして、ゲートシティはそれ以上の大都市である事が伺える。

 

 

『キング、何で自家用ジェット機で来なかったの?』

 

 

もう1人、やたら幼い別の声。

 

だが、少年の近辺にそれらしい人物は誰もいないし、少年以外の人々にその声は聞こえない。この声は、少年の脳内に直接響いているのだ。

 

まるで、春神ライの契約スピリット、エアリアルのように。

 

 

「偶には古風な文化に触れるのも、悪くないと思ってな」

『田舎くさいとか言いながら、バスに乗るのは結構楽しみにしてたんだね』

「行くぞベビー、私達は今日、謎のカード、鉄華団の使い手、鉄華オーカミに会いに行く」

 

 

キングと呼ばれる少年。そんな彼の口から出た名前は、我らが鉄華オーカミ。

 

今、新たなる物語が幕を開ける。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

伝説の悪魔の科学者Dr.A。その孫、徳川フウとの戦いから、実に1年以上の時が流れた。

 

ここは始まりの地、九日ヨッカのカードショップ「アポローン」……

 

 

「なぁオーカよ、ヒバナとイチマルから聞いたぞ。オマエ本当にバトスピ学園に入学しねぇつもりか?」

 

 

今日も営業中のアポローン。

 

トゲトゲした白髪で長身の青年、九日ヨッカが、モップを持って床を磨いている、赤髪の少年、鉄華オーカミにそう質問した。

 

 

「うん、しない」

 

 

床磨きに集中しながらも即答するオーカミ。

 

バトスピ学園とは、端的に言うと、バトスピの専門学校。

 

このバトスピ都市の一角である界放市では、中学卒業後、そのバトスピ学園に入学するのが、誰もが持つ、当たり前の考え。

 

 

「んでもって、ここに就職ってのもマジか?」

「マジだよ。オレん家、あんまりお金ないの知ってるだろ。中学出たらしっかり働くって決めてたんだ」

「マジかよ。中学出たらって、もう2ヶ月ねぇじゃねぇか」

 

 

だが、その当たり前の考えを持たないのが我らが鉄華オーカミ。あと2ヶ月、中学を卒業したら、バイト中のアポローンに骨を埋めるつもりのようだ。

 

 

「それに、バトスピ学園って、バトスピの勉強する学校だろ。それなら別にここでアニキに教えてもらえばいいしな」

「いや、ちゃんと高校で学ぶ学問はやるぞ。悪い事は言わねぇから中卒はやめとけ」

 

 

オーカミはあまり考えないし、悩まない。

 

故に、常に己の気持ちにド直球で真っ直ぐだ。それが他者に正の方へ影響を与える事もあるが、今回ばかりは考えモノである。どう考えてもバトスピ学園、ひいては高校は卒業しておくべきだからだ。

 

 

「いいかオーカ。今この時期、15歳になったオマエは、大事な選択を迫られている。一度切りの人生だ。家がどうとかじゃない。自分がそうしたい、楽しそう。そう思える選択をするんだ」

「えぇ、別にここで働くのも楽しいけど」

「最終的にここで働くにしてもだ。先ずはもっと色んな世界を見て来い。自分だけの狭い世界に閉じこもってちゃ、大海は見えねぇぞ」

「……」

 

 

正直、オーカミはあまりヨッカの言っている事が理解できなかった。

 

アポローンで働く。それはつまり、自分がジークフリード区に残ると言う事。ヒバナもイチマルも、バトスピ学園ジークフリード校に通うからジークフリード区からはまだ出ないし、ライだっている。

 

楽しくないわけがない。いつも通り、いつも通りの至って普通の、楽しい日常が送れるのだ。それの何が行けないのか。

 

 

******

 

 

「進学か」

 

 

あれから少しだけ時が流れ、夕立の刻。

 

バイト終わり、1人帰路につくオーカミは、シフト中にヨッカに言われた言葉を思い出しながら、そう呟いた。

 

 

「バトスピはそりゃ強くなりたいけど。別に学校行って必ず強くなれるとも思わないしな」

 

 

これまで、オーカミは自らのセンス、ヨッカによる教え。さらには格上達との激闘により、僅か2年足らずと言う短い期間で凄まじい成長を遂げた。

 

その実力は、最早界放市で勝てる者がいないのではと疑問を持たれる程だ。

 

 

「もっと強い奴がいてくれるなら、話は別だけど」

 

 

オーカミが進学したくないもう1つの理由は、自分より強いカードバトラーが、この街にはもういないのではないかと言う疑念があるからだ。

 

バトスピはもちろん楽しいし、辞めるつもりもない。ただそれ以上に、オーカミは強いカードバトラーとのバトルを求めていた。

 

 

「昔のアイツも、こんな感じだったのか」

 

 

オーカミの脳裏にふと浮かんで来たのは、己のライバルの1人である獅堂レオン。彼もかつて、ジュニア内どころか界放市最強と呼ばれ、今のオーカミ同様に強い者とのバトルを求めていた過去がある。

 

今になって、オーカミはそんな彼の気持ちをほんの少しだけ理解した。

 

 

「そこの君、少しいいかな?」

「ん?」

 

 

突然、背後から聞こえて来た声。オーカミはその声の方へと振り向くと、そこには紫色の長髪を靡かせる美少年がいた。

 

何かの制服だろうか、白を基準とした正装らしき物を着用している。

 

 

「何」

「つからぬ事をお聞きしますが、君はもしや、あの鉄華オーカミ君ではないでしょうか」

「あぁ、うん。そうだけど」

 

 

オーカミの返事に「やはりそうでしたか」と美少年。

 

 

「なんでオレの事知ってるの」

「中学2年の時にバトスピを始め、その年で界放リーグ準優勝、さらに翌年は優勝。これだけの好成績を短期間で収められるカードバトラーなんて、知らない方がおかしい」

「……」

 

 

オーカミは知っている。こんな感じで自分に近寄って来る人物の大半の目的が、自分とのバトルスピリッツであると言う事を。

 

今年の界放リーグで優勝して以降、その頻度はかなり増した。そして今回、目の前にいる奴も、きっとそう言うタイプの事情があるのだと察した。

 

 

「やるならさっさとやろう、バトル。アンタもそれが目当てなんだろ。最近多いんだ、そう言う奴」

「話が早くて助かる。それじゃあお言葉に甘えて手合わせ願おうか」

 

 

バトルに同意すると、2人は、河川敷の広場にて、互いに距離を取り合い、懐からBパッドを取り出して左腕に装着。そこに己のデッキを装填し、颯爽とバトルスピリッツの準備を終える。

 

 

「先攻と後攻、どうやって決める?」

「君が好きな方を選ぶといい」

「……じゃあオレの先攻で」

「私は後攻か、よかろう」

 

 

美少年は、オーカミに先攻と後攻を選択させる。おそらく、それ程までに勝てる自信があるのだろう。

 

 

「そう言えば、まだ名を名乗ってなかったね。私の名は『キング王』……よろしく、鉄華オーカミ君」

「なんか変な名前だな」

「ふふ、よく言われるよ。珍しい名前だからね」

「まぁ名前はなんでもいいよ。行くぞ、バトル開始だ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

河川敷の広場にて、鉄華オーカミと、謎の美少年『キング王』によるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は鉄華オーカミだ。早々に終わらせるべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、バルバトス第1形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「これが鉄華団。紫属性のモビルスピリット、バルバトス」

「召喚時効果でデッキ上3枚をオープン、その中にある鉄華団カード『クーデリア&アトラ』を手札に加えて、残りは破棄」

 

 

大地を突き破って現れたのは、鉄華団スピリット、バルバトス第1形態。

 

その召喚時効果により、手札1枚、トラッシュ2枚を増やした。

 

 

「ターンエンド」

手札:5

場:【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

バースト:【無】

 

 

どんなデッキであっても、先攻の1ターン目でやれる事など、極小数に限られる。

 

オーカミはバルバトス第1形態の召喚のみでそのターンをエンド。次は実力が未知数であるキング王のターンだ。

 

 

[ターン02]キング王

 

 

「私のメインステップ、溶岩海のエデラ砦をLV1で配置」

 

 

ー【溶岩海のエデラ砦】LV1

 

 

キング王の背後に、溶岩に浮かぶ、岩でできた砦、溶岩海のエデラ砦が配置される。

 

このネクサスは赤属性。どうやら彼は赤属性のデッキを扱うようだ。

 

 

「配置時効果でカウント+1し、相手のBP5000以下のスピリット1体を破壊する」

「!」

「バルバトス第1形態を破壊」

 

 

砦から放たれるマグマの弾丸。それはオーカミのフィールドにいるバルバトス第1形態に被弾。爆散へと追い込む。

 

 

「鉄華団スピリットが、相手によってフィールドを離れる時、手札からグレイズ改弍の効果を発揮」

「……ほぉ」

「自身をノーコスト召喚。召喚時効果で1枚ドロー」

 

 

ー【流星号[グレイズ改弍]】LV1(1)BP2000

 

 

誰もいなくなったオーカミのフィールドに、すぐさま登場するのは、斧を武器として持つ、マゼンタカラーの1つ目のモビルスピリット、グレイズ改弍。

 

 

「成る程、スピリットを破壊されようが、即座に新しいスピリットを展開するか。だが、それだけでは私に及ばない」

「なに」

 

 

そう告げた直後、キングは手札からまた1枚、Bパッドへと叩きつける。

 

そのカードは、彼が強く、尚且つ特別性のあるカードバトラーである事の証明でもあり………

 

 

「召喚。我が右腕、契約スピリット、ベビーゴジラ」

 

 

ー【ベビーゴジラ】LV1(1)BP3000

 

 

「ッ……契約スピリット、ライのエアリアルと同じ」

 

 

キングのフィールドに現れた最初のスピリットは、幼く小さいが、伸び代を感じさせる、鮮やかな黒い逆鱗を持つ、怪獣のようなスピリット。

 

その名はベビーゴジラ。エアリアルと同様、意思を持つカード、契約スピリットの1体にして、赤属性の中の赤属性と言われる『ゴジラ』の1種。

 

 

「バーストをセットし、アタックステップに入る。ベビーゴジラでアタック、その効果でカウント+2。この効果発揮後、BP5000以下のスピリット1体を破壊する」

「!」

「グレイズ改弍を焼き尽くす」

 

 

ベビーゴジラはグレイズ改弍へ向けて、口内から火炎弾を放ち、それを焼却した。

 

 

「アタックは継続中だ」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

オーカミの眼前まで走り出したベビーゴジラ。その鋭い爪で彼のライフバリア1つを切り裂く。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【ベビーゴジラ】LV1

【溶岩海のエデラ砦】LV1

バースト:【有】

カウント:【3】

 

 

「コイツ、強い」

 

 

赤のネクサスと契約スピリットの効果で、オーカミのカードを二度破壊して見せたキング王。

 

僅か1回のターンで、彼に己の底知れない実力を感じさせつつ、エンドを宣言。

 

 

[ターン03]鉄華オーカミ

 

 

 

まさかの契約スピリット。

 

だけど、その程度で怯むオレじゃない。

 

 

 

ライのエアリアルと同じく契約スピリットを所有していたキング王。契約スピリットが強力な効果を持っているのは十分理解しているが、それに怯む事なく、オーカミは己のバトルスピリッツを貫いて行く。

 

 

「メインステップ、創界神2枚、オルガ・イツカ、クーデリア&アトラを配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

オーカミのフィールドには何も出現しないが、2枚の創界神ネクサスが配置される。

 

神託の効果が発揮され、デッキ上からカードが合計6枚トラッシュ、それぞれ2つずつコアが追加された。

 

 

「さらに来い、ランドマン・ロディ。対象スピリットの召喚により、オルガとクーデリア&アトラにコア+1」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

誰もいなくなったオーカミのフィールドに現れたのは、黄ばみ、丸みを帯びた装甲を持つ、小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディ。

 

 

「アタックステップ、ランドマン・ロディでアタック」

 

 

オーカミがアタックステップに突入。小さな斧を手に、ランドマン・ロディが駆け出していく。

 

 

「フラッシュ、オルガの【神域】を発揮、デッキ上3枚を破棄して1枚ドロー、このターン、アンタは効果でアタックステップを終了できない。クーデリア&アトラの【神域】が誘発、鉄華団カードの効果によって自分のデッキが破棄された時、トラッシュにある紫1色のカード1枚をデッキ下に戻し、デッキ上から1枚ドロー」

「手札とトラッシュを増やすか。紫属性らしい」

 

 

鉄華団をサポートする創界神2種によるドロー&トラッシュ肥やしのコンボ。

 

これにより、オーカミの手札は4枚。トラッシュは12枚まで増加する。紫属性とは言え、二度目のターンでここまでリソースを伸ばせるデッキはそういないだろう。

 

 

「アタックはライフで受けよう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉キング王

 

 

ランドマン・ロディの斧による一撃が、キング王の前方に展開されるライフバリア1つを砕く。

 

 

「ライフ減少によるバースト、クリアウォールを発動」

「!」

「効果によりカウント+2、ライフ1つを回復」

 

 

〈ライフ4➡︎5〉キング王

 

 

前のターンに伏せていたキング王のバーストが、この攻撃で反転し、発動。

 

効果によりカウントは5まで増加、ライフバリアはたちまち1つ復元される。

 

 

「ターンエンドだ」

手札:4

場:【ランドマン・ロディ】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

手札とトラッシュの数を大きく伸ばすものの、発動されたバースト効果により、攻撃はプラマイ0。

 

結局、ライフ5を維持されたまま、再びキング王のターンを迎える。

 

 

[ターン04]キング王

 

 

「メインステップ、2枚目の溶岩海のエデラ砦をLV2で配置」

 

 

ー【溶岩海のエデラ砦】LV2(1)

 

 

「配置時効果でカウント+1、ランドマン・ロディを破壊」

 

 

2つ目のエデラ砦。前のターンと同様に放たれる火炎弾が、今度はランドマン・ロディを襲い、それを爆散させる。

 

 

「ランドマン・ロディの破壊時効果。デッキから1枚ドロー」

 

 

ランドマン・ロディもただではやられない。破壊時効果が発揮され、オーカミはデッキから1枚のカードをドロー、その枚数は5枚となる。

 

 

「マジック、フォースブライトドローを使用。私のカウントが2以上の時、デッキ上から3枚のカードをドローする」

 

 

続けて使ったのは赤属性のドローマジック。その効果でキング王は3枚のカードをドローし、手札の合計は4枚となる。

 

 

「ベビーゴジラのLVを2に上げ、アタックステップ、ベビーゴジラでアタック。効果でカウント+2」

「カウント8……どんだけ貯めるつもりだ」

 

 

場と手札を整え、アタックステップに直行するキング王。ベビーゴジラの二度目のアタックにより、カウントの合計は8となる。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

オーカミのライフバリア1つが、ベビーゴジラの口内から放たれた火炎弾により1つ粉砕される。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ベビーゴジラ】LV2

【溶岩海のエデラ砦】LV2

【溶岩海のエデラ砦】LV1

バースト:【無】

カウント:【8】

 

 

キング王は大きな動きは全く見せず、カウントと手札を貯める事に終始し、そのターンをエンドとする。

 

次はオーカミのターン。2枚の創界神ネクサスに加え、豊富な手札とトラッシュ。彼の鉄華団デッキは、ここから加速して行く。

 

 

[ターン05]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、先ずはランドマン・ロディを召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

「対象スピリットの召喚により、オルガとクーデリア&アトラにコア+1」

 

 

手始めに呼び出される2体目のランドマン・ロディ。オーカミはさらに己の手札から1枚のカードを引き抜き、それをBパッドへと叩きつける。

 

 

「さらに、天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV3で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV3(5)BP13000

 

 

天空より降り立つのは、バスターソード状のメイス、ソードメイスを持つ、バルバトスの強化形態の1つ、バルバトスルプス。

 

 

「主力の出番か」

「オルガとクーデリア&アトラにコア+1。見せてやる、鉄華団の勝利への道をな、アタック、その開始時に、オルガの【神技】を発揮。オルガのコア4つをボイドに置き、トラッシュから鉄華団のパイロットブレイヴ、三日月・オーガスを召喚、バルバトスルプスに直接合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV3(5)BP19000

 

 

創界神ネクサス、オルガ・イツカの【神技】がここに来て発揮。

 

トラッシュから鉄華団のパイロットブレイヴ、三日月・オーガスを召喚し、それをバルバトスルプスに合体。強力な合体スピリットが僅か1ターンで爆誕する。

 

 

「バルバトスルプスでアタック。その効果でデッキ上2枚を破棄、その中にある鉄華団1枚につきコア3個以下のスピリット1体を破壊する」

 

 

バルバトスルプスのアタック時効果により、彼のデッキが2枚破棄され、トラッシュに送られる。

 

そしてその中には当然鉄華団のカードが確認できて。

 

 

「ベビーゴジラを破壊だ」

 

 

背部のスラスターで地平線を飛翔し、ベビーゴジラの眼前まで迫るルプス。慌ててその場をくるくる回るベビーゴジラを、ソードメイスで叩き潰し、爆散させた。

 

 

「鉄華団カードの効果でデッキを破棄した事で、クーデリア&アトラの効果、トラッシュにある紫1色のカードをデッキ下に戻して1枚ドロー」

「破壊されたベビーゴジラは魂状態となり、フィールドに残る」

 

 

爆散したベビーゴジラだが、契約スピリットと言う性質の都合により、色を失い、魂状態としてキング王のそばに残る。

 

 

「まだあるぞ。三日月の効果でLV1のエデラ砦のLVコストを+1して消滅」

「無駄だ。エデラ砦は相手のカウントが4以下の時、相手の効果を受けない」

「なら追加効果だ。バルバトスと合体している時、鉄華団スピリット1体につき、アンタのリザーブのコア1つをトラッシュに置く」

「!」

「オレの鉄華団スピリットは2体。リザーブのコア2つをトラッシュへ」

 

 

エデラ砦の消滅は叶わなかったものの、ベビーゴジラの破壊と、リザーブのコアをトラッシュ送りにする事には成功。

 

キング王の使用できるコアは、僅か2つとなってしまう。

 

 

「フラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】を発揮。クーデリア&アトラのコアを5個ボイドに置き、トラッシュにある鉄華団1枚をデッキ下に戻す事で、アタック中のバルバトスルプスを回復させる」

 

 

クーデリア&アトラの【神技】も発揮。ルプスは回復状態となり、このターン、二度目のアタックが可能となる。

 

 

「合体したダブルシンボルのルプスのアタック2回で4点、ランドマン・ロディのアタックで1点。計5点のライフを破壊できる算段か」

「……」

 

 

ほとんどの敵を沈めて来た、鉄華団デッキの必勝パターンとも言えるコンボを決めたオーカミだったが、それを受けても尚、キングは涼しい顔を彼に見せる。

 

 

「紫速攻のデッキとしてはかなりの攻撃力だ。しかし足りんな、この程度では」

「……!」

 

 

そして、反撃に出るべく、手札のカード1枚を、己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「フラッシュ【契約煌臨】を発揮、対象は魂状態となったベビーゴジラ」

「ッ……そりゃあるか」

 

 

……【契約煌臨】

 

それはただの煌臨ではない。契約スピリットのみが真の力を扱える特別な煌臨。キング王の持つベビーゴジラもまた、その力を発揮させる。

 

 

「全てのスピリットの頂点、破壊の化身をここに呼ぶ。怪獣王ゴジラ、LV1で契約煌臨」

 

 

ー【怪獣王ゴジラ(1989)】LV1(1)BP16000

 

 

再びフィールドへと足を踏み入れ、小さな咆哮を張り上げ続けるベビーゴジラ。するとその咆哮は次第に爆音へと変化。それに比例し、姿もモビルスピリットを一回りも二回りも超える程の巨大な体躯へと変貌する。

 

こうしてフィールドへ新たに出現したスピリットの名は、怪獣王ゴジラ。漆黒の逆鱗、結晶体のような背鰭を持つ、全てのスピリットの頂点に君臨する王。

 

 

「……コイツは、ヤバそうだな」

 

 

フィールドに呼び出されて尚も強烈な咆哮を張り上げ続ける、怪獣王ゴジラ。それがオーカミに与える威圧感は半端なモノではない。

 

 

「煌臨アタック時効果。BP10000以下のスピリット1体を破壊し、その後煌臨元に赤のカードがあれば2枚ドローする。この時、怪獣王ゴジラは【OC8】を達成しているため、破壊効果の上限を10000上昇、対象を1体から全体にする」

「なに……!?」

 

 

つまりは煌臨アタック時に、BP20000以下のスピリットを全て破壊すると言う事だ。

 

怪獣王ゴジラは、背鰭を青く輝かせ、エネルギーを体中に溜め込む。そしてそのエネルギーを口内へと集中させ、青白い熱線として、それをオーカミのフィールドへと放出。

 

青白い熱線に直撃したルプスとランドマン・ロディは耐えられるわけもなく呆気なく焼却。オーカミのターンであると言うにもかかわらず、彼のフィールドからはスピリットが全て消えてしまった。

 

 

「くっ……ランドマン・ロディの効果で1枚ドロー。ルプスと合体していた三日月はフィールドに残す。ターンエンド」

手札:5

場:【三日月・オーガス】LV1

【オルガ・イツカ】LV1(1)

【クーデリア&アトラ】LV1(0)

バースト:【無】

 

 

一度は勝利に限りなく近づいたと思われたオーカミであったが、それはキング王の僅か一手によって瞬時に瓦解してしまった。

 

次は、そんなキング王のターン。怪獣王を従えた彼が繰り出す攻撃に、オーカミは耐え抜く事ができるのか……

 

 

[ターン06]キング王

 

 

「メインステップ、怪獣王ゴジラのLVを2に上げ、2体目のベビーゴジラを召喚」

 

 

ー【ベビーゴジラ】LV2(3)BP9000

 

 

「2枚目の契約スピリット……?」

 

 

小さなゴジラにして、原点。ベビーゴジラの2体目が、キング王のフィールドへと投入される。

 

さらに怪獣王ゴジラのLVは2に上昇、BPは合体したルプスをも超える20000へ到達した。

 

 

「アタックステップ、怪獣王ゴジラでアタック。その煌臨アタック時効果により、三日月・オーガスを破壊し、デッキから2枚ドロー」

「ッ……」

 

 

進行を開始する怪獣王ゴジラ。その効果によりオーカミのBパッド上にあった三日月のカードがトラッシュへと誘われる。

 

 

「もう1つ、煌臨元となっているベビーゴジラの効果、カウント+2。そしてカウント10となったこの瞬間、ベビーゴジラの真なる力が解放される」

「真なる力……?」

「私のカウントが10以上の時、全てのスピリットに赤シンボル1つを追加する。それが2体分、よって怪獣王ゴジラとベビーゴジラはトリプルシンボル」

「なに!?」

 

 

キング王が頑なにカウントを貯め続けて来た理由が、ここに来てようやく判明する。

 

しかし時既に遅し。キング王のフィールドに存在する全てのスピリットに赤シンボル2つが追加。一撃で3つのライフを砕く事ができるトリプルシンボルと化す。

 

 

 

ダメだ。

 

この手札じゃトリプルシンボル2体のアタックを止める事ができない。

 

 

 

オーカミの手札には、相手スピリット1体のコアを3つリザーブに置く紫のマジックカード『デスアタラクシア』が1枚ある。

 

しかし、オーカミも察している通り、それだけではこの状況を覆す事はできない。

 

 

「ライフで受ける……」

「勝利は全て我が手の中にある、全てを破壊しろ。ゴジラ……!!」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉鉄華オーカミ

 

 

「うぁぁぁぁあ!!」

 

 

怪獣王ゴジラの口内より放たれる青白い熱線が、オーカミの残ったライフバリアを全て砕き、掻っ攫う。

 

その瞬間、オーカミのBパッドから「ピー…」と言う甲高い機械音が流れ、彼の敗北と、キング王の勝利を告げた。

 

 

「くっ……」

「ありがとう。良いバトルだった」

 

 

バトルが終わり、フィールドに最後まで残った2体のゴジラがゆっくりと消滅して行く中、勝利したキング王はオーカミにそう告げ、背中を向ける。

 

 

「待てよ。アンタ、何者だ」

 

 

背を向け、この場から立ち去ろうとするキング王。オーカミはそれを言葉で制止させる。

 

 

「鉄華オーカミ。ゲートシティにある『ノヴァ学園』で待っている。レオンと共に」

「ッ……獅堂!?」

 

 

キング王の口から出て来たのは、オーカミのライバルの1人『獅堂レオン』の名前。そして、ゲートシティの『ノヴァ学園』………

 

オーカミは以前、彼がそのノヴァ学園へと進学した事を思い出す。

 

 

「ノヴァ学園……」

「次に会う時を、楽しみにしているよ」

 

 

オーカミとのバトルで、彼に圧倒的な実力差を見せつけたキング王。最後にそう告げると、彼の元を去って行く。

 

その底知れない強さは、無意識のうちに、オーカミの新たな目標となって……

 

 

 

 

******

 

 

 

 

界放市ジークフリード区にある、とあるバスターミナルセンター。

 

キング王は、そこのバス乗り場、ベンチに腰を掛け、ゲートシティ行きのバスが来るのを今かと待ち侘びていた。

 

 

『どうだった、鉄華オーカミは?』

 

 

彼の脳内に、契約スピリット、ベビーゴジラの声が直接響いて来る。

 

 

「期待外れだな、取るに足らんカードバトラーだった。正直、我らのノヴァ学園に相応しいとは思えん」

『うわぁ、辛口評価〜』

 

 

先程までの丁寧な口調はどこへ行ったのか、やたら鋭く尖った口調へと変わるキング王。おそらくこれが素の彼なのだろう。

 

 

「だが、仮にも序列4位の男が認めた奴だ。チャンスはくれてやる」

『チャンス?』

「あぁ、奴が期待通りの男ならば、必ず上がって来るだろう。己の力でな」

 

 

その直後、ゲートシティ行きの大型バスが到着。キング王はそれに乗り込み、界放市を後にした。

 

遂に幕を開ける、オーカミの新たなる物語。彼の次なる試練は、もう目の前まで迫っていて。

 






次回、第67ターン「ノヴァ学園への切符」



******


新年明けましておめでとうございます!!
今年も王者の鉄華と、そのキャラクター達を何卒よろしくお願い致します!!



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第67ターン「ノヴァ学園への切符」

ノヴァ学園の生徒「キング王」とのバトルに敗北してから、3日が経った。

 

あれからオーカミは、キング王、基ノヴァ学園について調べ始めていて。

 

 

「キング王。ノヴァ学園の1年。ゴジラデッキの使い手。そのカリスマ的実力で、バトルスピリッツの申し子とも言われている。ノヴァ学園入学から僅か1年で、序列1位。歴代最高傑作とも。まさしく名実共に王の中の王……アイツ、そんな凄い奴だったのか」

 

 

中学の教室。ホームルーム前にオーカミが読んでいたのは、ノヴァ学園の特集雑誌。そこにはあの時バトルしたキング王が掲載されていた。

 

どうやら彼は、バトスピ学園最難関であるノヴァ学園の中でも、最高傑作、序列1位などと謳われる存在らしく、オーカミを軽く捻る程度の実力があるのも納得の肩書きを持っていた。

 

 

「面白い。こう言う相手を待ち侘びてたんだ。行ってやるぞ、ノヴァ学園」

 

 

珍しく積極的な行動力を見せるオーカミ。余程あのキング王に勝ちたいらしい。

 

 

「やっほーオーカ。おはよ」

「あぁヒバナ、おはよう」

 

 

そんな折、着席している彼に話しかけて来たのは、同じ学年、同じクラスの少女、一木ヒバナ。黒くて後ろ髪を2つのシュシュで束ねたツインテールが特徴的だ。

 

 

「ッ……その雑誌、オーカまさかノヴァ学園に行くの!?」

「うん、まぁ」

「よかった〜〜昨日までずっと進学しないって言ってたから。うんうん、やっぱりこの世に住む物皆バトスピ学園は通って行かないとね」

 

 

ヒバナも、進学する気になったオーカミを見て一安心。彼女も中卒になろうとしていたオーカミを流石に心配していた様子。

 

 

「って、アレ?」

「どうしたの」

 

 

何かの情報をハッとなって思い出したヒバナ。歯切れの悪い言い方でそれをオーカミに告げる。

 

 

「えぇっと、オーカ」

「うん」

「ノヴァ学園。今年の入試、もう終わってる」

「……え」

 

 

今年はまだ始まったばかりだが、今年で一番大きなショックを受けた。

 

どんなに入試最難関でも、キング王に勝てるなら頑張れた。もちろん苦手な勉強だって。

 

だが、入試そのモノがなければ、受かるモノも受からない。オーカミのノヴァ学園へのモチベーションは、著しく低下した。

 

 

******

 

 

「まさか、入試が終わってたとは。折角やる気になってたのに」

 

 

放課後、帰路についたオーカミは、ノヴァ学園の入試が受けられない事をぼやいていた。

 

 

「……ヒバナには悪いけど、やっぱアポローンに就職しよ。あそこ学費とか高そうだったし、やっぱりこれでよかったのかも」

 

 

元々学費が払えないから進学しなかった事を思い出す。残念そうにはしているが、オーカミは自分なりに割り切り始める。

 

そして、そこから数分後、彼は自分の家のマンションに辿り着く。

 

 

「……」

 

 

鍵がかかってない事を確認すると、無言で自分らの部屋、402号室の扉を開ける。

 

鍵が要らない時は、大体2パターンに別れている。姉である「鉄華ヒメ」が多忙なモデルの仕事から戻って来た時か………

 

もしくは。

 

 

「よっ、オーカ。おかえり」

「……」

 

 

自分を笑顔で迎え入れたのは、黄色味がかった白髪をサイドテールに束ねている美少女、春神ライだった。

 

そう。もう1つのパターンは『ヒメに家事を頼まれたライが家にいる』だ。

 

 

「ライ、なんか最近頻度増えてない?」

「いいじゃん別に。他でもないヒメさんからのお願いだし。それに、家帰ったら可愛い子が待っててくれるシチュなんて、ギャルゲーでも早々ないぞ」

「自分で言うな。まぁ飯あるのはありがたいか」

「ふふん。そうだろそうだろ」

 

 

あの戦いから1年以上、ライはオーカミの知らない間に彼の姉と交流を深めていた。故に、偶にこうして家事を頼まれて家にいる事がある。オーカミ的には最近頻度が増えて来ていると感じているみたいだ。

 

まぁそれでも、別に嫌なわけではない。寧ろ嬉しい寄りだ。オーカミは鞄をソファに置き、リビングのテーブルに着いて、ライが用意した食事を頂くことにする。

 

 

「食べる前に、先ずは手洗って来いよ」

「だる」

「だるくない、行く!!」

「えぇ……」

 

 

母親じみた注意の仕方のライ。オーカミは渋々洗面所で手を洗う。

 

手を洗うと再びテーブルに着席。白ご飯始め、ハンバーグやら味噌汁やらやたら家庭的な料理を食べ始める。

 

 

「そう言えばさ、オーカはバトスピ学園に進学しないんだったっけ?」

 

 

ライが、オーカミにお手拭きを手渡しながら、さり気なくそう訊いた。

 

 

「うん」

「そうなんだ、珍しいね。まぁかく言う私も行く気ないし、そもそも学校すら行った事ないけど」

「絶対オマエの方が珍しいだろ」

 

 

ライが学校すら通った事がないと言うのは、亡き父親である春神イナズマと世界中を旅をしていた事と、彼がライに対して過保護だった事が理由にあげられる。

 

 

「……本当は行きたい学校あったんだけど。今年の入試終わっててさ」

「え、何やってんのよアンタ、ドジ?」

「ドジはアニキだろ」

「あっはは、それ言えてる。今日帰ったらちくろー」

 

 

年相応の軽口を叩き合える仲のライ。あの事件以降、2人の絆がより強まっている事を、会話の言葉の節々から理解する事ができる。

 

 

「今日近くのデパートで新しいクレープ屋が開店したらしいんだけど」

「なんか藪から棒だな」

「でさ、食後のデザートがてら、一緒に行かない?」

「だる」

「え〜いいじゃん。今日バイト休みなんでしょ?…あそこカップル限定で半額なんだよ」

 

 

つまりはオーカミを彼氏役にして、半額でクレープを美味しくいただきたいと言う事だ。

 

もちろん、それ以外の理由もありそうだが……

 

 

「何でわざわざオレを彼氏役にするんだよ。アニキでいいだろ」

「ヨ、ヨッカさんだと年齢差ありすぎて怪しまれるのよ。その点、アンタとは身長ほとんど同じだし」

「……最近オレの方が2センチデカくなったよな?」

「たかが2センチで威張るな、どっちにせよ誤差じゃない」

 

 

アレから1年以上の時が経過し、かなり伸びたオーカミの身長。今は156だ。因みにまだまだ小さい方である。

 

 

「ほら、いいから行くぞ。楽しみだな、半額クレープ」

「もう行くの確定みたいになってるし」

 

 

『まぁ暇だし別にいいか』……

 

こうなったライが言う事を聞かない事を知っているオーカミは、根負けしてそう考える。食後、オーカミは制服から私服に着替え、ライと近所のデパートへと向かった。

 

こんな形でもいいから、彼とカップルのフリをしたい、彼女の乙女心があるのもつゆ知らずに。

 

 

 

******

 

 

ジークフリード区にある大きなデパート。十数年前よりグランドオープンして以降、安定した売り上げを維持している事で有名。

 

バトル場もあり、カードバトラー達の憩いの場としても近年名乗りをあげている。

 

 

「はい。では、カップルの証として手を繋いでください。恋人繋ぎで!!」

「こ、恋人繋ぎ!?」

「……」

「こ、こんな感じでいいですか……!?」

 

 

そんなデパートの一角を担う事になった、新しいクレープ屋。多くの人々で賑わう中で、若い女性店員の指示に従い、恥ずかしながらも、恋人繋ぎでオーカミと手を取り合うライと、それに対して終始虚無な様子を見せるオーカミの姿があった。

 

 

「オーカ、少しくらい笑いなさいよ」

「そう言われてもな」

 

 

小声で告げ口して来るライ。自分から笑うのが苦手なオーカミは、それでも無表情のままだ。

 

 

「はい、証明完了です!!……クレープ半額になります」

「やった、ありがとうございます」

「中学生?…初々しくてとても素敵なご関係ですね」

 

 

なんだかんだで証明は成功。しかし、この若い女性店員は2人の色々と察していそうだ。きっと、中学生と言う事でオマケで通してくれたに違いない。

 

 

「にゃっはは、素敵なご関係だってさ」

「そんなに嬉しい事か?」

「う、嬉しいに決まってるでしょ」

「まぁお陰で半額になったんだから、そりゃそうか」

「もう……」

 

 

クレープを片手にウキウキのライ。先程の店員にオーカミとの関係性を褒められた事もあるのだろう。ただ、肝心のオーカミは、彼女の気持ちを半額になったから嬉しいと勘違いしているようだ。

 

無事にクレープの購入を半額で終えた2人は、クレープ屋の指定されたテーブルへと腰を下ろした。

 

 

「いただきま〜す」

「オレ、そう言うの高い割にあんまり量なさそうだから普段食べないんだけど、美味しいの?」

「うめぇに決まってるだろ。毎週1回。こう言うのを食べるために生きてるといっても過言じゃないね」

「ふ〜ん。そう言うもんか」

 

 

因みにクレープを購入したのはライのみ。オーカミはただ彼女のすぐそばでそれを美味しそうに頬張っているのを見届けているだけだ。

 

 

「一口いる?」

「いいの?」

「ま、まぁアンタにも一役買って貰ったしね。このくらいは……はい、あ〜ん」

「あ〜」

 

 

お言葉に甘えて口を大きく開けるオーカミ。因みにこれは全てライの計算の内。彼とカップルみたいな事をしたいと言う、彼女の欲求の表れとも例えられるだろう。

 

クレープ屋でクレープを分け合う、しかも「あ〜ん」して食べさせてあげると言う行為に、咄嗟に恋人繋ぎをした時以上に緊張するライ。ゆっくりそのクレープを持っている手を、緊張感なく開いた口に突っ込もうとする。

 

だが………

 

 

「白昼から、こんな所でガールフレンドとデートとは。流石鉄華オーカミ君。界放リーグ優勝者は伊達じゃないって事かな?」

「ん?……誰」

 

 

突然近づいて来た声に、ライの手が止まり、オーカミがその声主の方へと振り向く。

 

若く、幼さが顔の印象に残る大人の女性だった。短く切り分けられたオレンジ色の髪色に、触覚のようなアホ毛。さらに服装は黒服のスーツにサングラスだ。

 

 

「ガールフレンドとデート?……オーカ、私達、デートしてるように見えるんだってさ!!」

「何でそんな嬉しそうなの」

 

 

そんな見ず知らずの女性にオーカミとの関係性を指摘されて、ライはえらくご機嫌になる。

 

 

「いや〜〜お邪魔して申し訳ない。ノヴァ学園、序列1位のキング王からの差し金って言えば、わかってもらえるかな?」

「!」

 

 

ノヴァ学園にキング王。今のオーカミの意識を向けさせるには十分過ぎる言葉だ。

 

 

「私の名前は『ブイ』……ノヴァ学園で先生やってます。よろしく」

「ブイ?…また変な名前だな」

「この世を凌ぐための仮の名前さ。あと君には言われたくないぞ、オーカミって」

 

 

女性の名前は『ブイ』……

 

本人曰く偽名だそうだが、あの最難関校のバトスピ学園の1つ、ノヴァ学園の教師と言う肩書きを持っている。おそらく、バトルの腕前も相当立つモノがあると、この時点で予想できる。

 

 

「……」

「『何でそんな奴がオレに会いに来たんだよ』って顔してんね。予想できない?……君に特別推薦入試を設ける事が決定したからだよ」

「!」

「しかも、オーカミ君の家庭環境に合わせて、学費も寮費も全てタダ」

 

 

そう告げられ、驚いたのはライの方だった。オーカミはいつもと変わらない、平然とした表情を見せる。

 

 

「オレ、まだ入試したいとか何も言ってないはずだけど」

「君程優秀なカードバトラーを、ノヴァ学園は見逃さないって事さ。入学条件は、私とバトルする事」

「……」

「つー訳で行こうか、このデパートのバトル場に」

 

 

半ば唐突ではあったが、オーカミの特別推薦入試を行うべく、3人はデパートのバトル場へと移動する。

 

デパートのバトル場は、まるで、大きなバッティングセンターのよう。床に敷かれた芝生や、目に優しいLEDなど、外よりも快適にバトルを楽しめるよう、工夫が施されている。

 

 

「確認なんだけどさ。このバトルでアンタに勝てば、ノヴァ学園に行けるって認識でいい?」

「あぁ、そう思ってもらって構わないよ」

「よしオーカ、頑張んなさい!!」

「あぁ」

 

 

ノヴァ学園の女教師、ブイに勝利すれば、ノヴァ学園へ入学できる。

 

その認識の元、オーカミはBパッドを展開し、そこに己のデッキを装填。バトルの準備を完了させる。ブイもまた、それに合わせてバトルの準備を済ませた。

 

 

「行くぞ、バトル開始だ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

ノヴァ学園への切符を賭けたバトルスピリッツが、コールと共に幕を開ける。

 

先攻はブイだ。最難関校の教師の実力や如何に。

 

 

[ターン01]ブイ

 

 

「メインステップ、七大英雄獣ヘクトルの【アクセル】を発揮」

「!」

「効果でコア1つを私のトラッシュへ追加、発揮後このカードを手元に置く」

 

 

ブイが初手に発揮させたのは、緑属性のアクセル持ちスピリットカード。

 

その効果によりコアが1つ増えるが、その本領はそれの発揮後、手元に置かれた後にある。

 

 

「ヘクトルくらい知ってるよね。コレが手元にある間、お互いに赤紫黄青のスピリット、ネクサス効果でドローできない。紫属性の鉄華団を扱う君のデッキには辛い効果だ」

「……」

 

 

ヘクトルの効果は、特定のカードらのドローを封じ込める効果。オーカミの鉄華団デッキもその例外なく、ほとんどのカードのドロー効果が使えなくなってしまう。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

バースト:【無】

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

 

 

ヘクトルでドロー効果のメタを貼り、第1ターン目を終えるブイ。ヘクトルの採用や言動から察するに、彼女はオーカミの鉄華団デッキを研究して来ている様子。

 

 

「ヘクトルがなんだ、行けオーカ!!」

 

 

だがオーカミに負ける気はない。ライの声援が聞こえて来る中、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、グレイズ改弍をLV1で召喚だ」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]】LV1(1)BP2000

 

 

オーカミのフィールドに飛来して来たのは、マゼンタのカラーを持つ、一つ目の小型モビルスピリット、グレイズ改弍。

 

 

「悪いけど、それの召喚時のドロー効果はヘクトルによって封じられている」

「そんなの折り込み済みだ。流星号の名を持つスピリットが召喚された時、手札からパイロットブレイヴ、ノルバ・シノの効果を発揮」

「!」

「手札から自身をノーコスト召喚し、グレイズ改弍に直接合体」

 

 

ー【グレイズ改弍[流星号]+ノルバ・シノ】LV1(1)BP6000

 

 

流星号が召喚された時に自身もノーコストで召喚できる強力な鉄華団パイロットブレイヴ、ノルバ・シノ。それの効果が発揮されて、流星号の名を持つグレイズ改弍と合体を果たす。

 

見た目に変化はないが、ダブルシンボルを持つ合体スピリットが、僅か2ターン目に爆誕した。

 

 

「さらにランドマン・ロディを召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

 

追加で呼び出されたのは、丸みを帯びた、小型の鉄華団モビルスピリット、ランドマン・ロディ。

 

これでオーカミのフィールドには早々に2体のスピリットが並んだ。

 

 

「アタックステップ。グレイズ改弍でアタック」

「ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉ブイ

 

 

速攻だ。ノルバ・シノのドロー効果はヘクトルによって封じ込められているも、ダブルシンボルのアタックが、グレイズ改弍の斧を振り回す攻撃が、ブイのライフバリアへと炸裂。

 

そのライフバリアの数は残り3つとなる。

 

 

「続けて行け、ランドマン・ロディ」

「それもライフで受けようか」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉ブイ

 

 

ランドマン・ロディが、復活したライフバリアに向かって瞬時にマシンガンを掃射。1つ砕き、彼女の残りライフを早くも2つにする。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【グレイズ改弍[流星号]+ノルバ・シノ】LV1

【ランドマン・ロディ】LV1

バースト:【無】

 

 

「やるね。ドローができないと見て、早期決着をつけに来たのか、良い判断力だ」

「そう言うのいいから。早くターン進めてよ」

「ふふ、そう急かすな」

 

 

オーカミが最初のターンで、いつもとは一風変わった戦略を見せたのには訳がある。

 

ヘクトルによってドローが封じられている今、長期戦は不利。故に、オーカミは短期決着を狙うべく、早めにスピリットを多量展開し、連続をアタックを仕掛けたのだ。

 

 

[ターン03]ブイ

 

 

「メインステップ、マッチュラLTをLV2で2体連続召喚」

 

 

ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000

 

ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000

 

 

ブイのフィールドに、背中に白い胞子を背負った小さなクモ型のスピリット、マッチュラLTが2体召喚される。

 

一見するとただのBPの低い弱小スピリットであるが、召喚時に発揮される効果は、嫌がらせそのモノとも言える効果であり……

 

 

「召喚時効果、相手は手札1枚を選んで破棄。それが2回」

「!」

「そう。君の手札は残り2枚。よって今ある手札は全てトラッシュ送りだ」

 

 

マッチュラLT2体の体が緑色に発光すると、オーカミの2枚の手札も同様の色に発光を始める。

 

すると、それら2枚はオーカミの手を離れ、トラッシュへと破棄される。これでオーカミの手札は0枚。次のターン以降のスピリット展開はおろか、敵の攻撃を回避するためにマジックカードを使う事すらできない状態となってしまう。

 

 

「ハンデス。ハンドデスの略称で、手札破壊を意味する。このデッキはそれが得意なの」

 

 

ブイのデッキの特徴はハンデス。相手の手札を破壊し、何もさせずに勝利を捥ぎ取る。

 

実に恐ろしい戦略だ。バトルしていてコレほど嫌になる対面は珍しいだろう。

 

 

「ハンデスくらい知ってるよ」

「へぇ、手札はなくなっても威勢はまだあるんだ。それじゃあこれはどうかな。バーストをセットしてアタックステップ、マッチュラLT2体でアタック」

 

 

手札がなくなっても、特に冷静さを見失わないオーカミに対し、追い討ちを掛けるように、ブイがマッチュラLT2体に攻撃を指示した。

 

 

「全部ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

マッチュラLT2体の体当たりが、オーカミのライフバリアに直撃。それぞれ1つずつ粉砕され、残り3つとなる。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【マッチュラLT】LV2

【マッチュラLT】LV2

バースト:【有】

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

 

 

ライフと手札を砕き、そのターンをエンドとするブイ。

 

次は手札を0にされたと言うのにもかかわらず、未だにドローを封じ込まれたままと言う泣きっ面に蜂の状況に陥ってしまったオーカミのターン。

 

しかし、彼と、彼の鉄華団の底力は、この程度でへし折れるモノではなくて……

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ネクサス、ビスケット・グリフォンをLV2で配置」

 

 

ー【ビスケット・グリフォン】LV2

 

 

「効果発揮、自身を疲労させ、デッキ上1枚をオープン、それが鉄華団なら手札に加える。よし、オルガ・イツカを手札に加え、さらにコレも配置」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

 

「配置時の神託。オルガにコア+3」

「オープンカードを回収する効果か。確かにそれならヘクトルの効果を無視して手札を増やす事ができる。やるね」

 

 

トップドローからの流れるようなネクサス2枚の展開。ドロー効果を封じ込めるヘクトルだが、オープンカードを手札に回収する効果には一切反応しない。

 

そのため、このタイミングで毎ターンオープンカードを回収できるビスケットをドローしたのは、オーカミにとってはかなり大きなアドバンテージとなったと言える。

 

 

「アタックステップ。その開始時、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果、自身を召喚する」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000

 

 

トラッシュからオーカミが呼び出したのは、相棒のバルバトス、その第2形態。小型でBPは低いが、何度でもトラッシュから召喚できる強力な効果を持っている。

 

 

「手札がなくとも、トラッシュからスピリットを展開するか。紫属性らしい」

「アタックステップ継続。グレイズ改弍でアタック」

 

 

オーカミの指示を受け、グレイズ改弍は再び斧を取り出して構える。

 

 

「オーカのスピリットは3体。しかもアタック中のグレイズ改弍はダブルシンボル。対して女先生の残りライフは3。打点は足りてる。けど……」

 

 

バトルは目に見えてオーカミが有利になったが、ライはブイの伏せているバーストカードを懸念していた。

 

そしてそれは、案の定、このタイミングでのカウンターとして発動されて………

 

 

「流石は噂の鉄華オーカミ君。少しだけ本気出しちゃおうかな。アタック後のバーストを発動。青と緑の究極体デジタルスピリット、インペリアルドラモン ドラゴンモード!!」

「!」

「効果により、先ずはLV2で召喚。不足コストは2体のマッチュラLTから確保、よって1体は消滅する」

 

 

ー【インペリアルドラモン ドラゴンモード[2]】LV2(3)BP12000

 

 

マッチュラLTが1体消滅した直後、大気を震撼させる程の衝撃が伝わって来た。

 

背部に大砲を背負った、雄々しくも美しい巨大なドラゴン、インペリアルドラモン ドラゴンモードが、激しい咆哮と共にフィールドに出現。オーカミの鉄華団スピリット達と対峙する。

 

 

「このタイミングで超大型のデジタルスピリット!?」

「凄いだろ。ドラゴンモードの効果、バースト効果で召喚後、スピリット1体を重疲労させる」

「!」

「ランドマン・ロディ。私らの前に跪け」

 

 

突如現れたインペリアルドラモン ドラゴンモード。背中の大砲からエネルギー弾をランドマン・ロディへと放ち、命中させる。

 

ランドマン・ロディは破壊こそされなかったものの、ショートしてしまい、電流を纏い、片膝をついて動かなくなってしまう。

 

 

「グレイズ改弍のアタックは、召喚したドラゴンモードでブロック。そしてこの瞬間、ドラゴンモードのアタックブロック時効果を発揮。自分のデッキ上1枚をオープンし、それが対象のカードならば召喚配置ができる」

 

 

ブイがデッキ上1枚のカードをオープンする。そのカードは3枚目の『マッチュラLT』……

 

対象カードではないため、召喚配置する事はできないが。

 

 

「オープンカードは『マッチュラLT』……召喚はできないけど、この効果でオープンして残ったカードは手札に加えられる」

「!」

「そう。ビスケット同様、私のヘクトルの効果をすり抜け、手札を増やす事ができるって事だ」

 

 

ブイはオープンカードを手札に加える。ヘクトルをデッキに組み込んでいるのであれば、その状況下でも手札を増やせるカードを仕込むのは当然か。

 

 

「ドラゴンモード、そのままグレイズ改弍を叩き潰せ」

 

 

攻め込むグレイズ改弍を、ドラゴンモードは前脚1つで抑え込み、大地に叩き伏せて爆散させる。

 

 

「……エンドステップ、バルバトス第2形態の効果。このターン、オレがアタックしていた時、トラッシュからコスト4以下のバルバトスをノーコストで召喚する。来い、バルバトス第1形態」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でデッキ上3枚をオープン、その中の鉄華団カード、フラウロスを手札に加えて、残りを破棄」

「またトラッシュからスピリットを展開しつつ、オープンカードを回収する効果で手札を増やすか。面白い」

 

 

バルバトス第2形態の効果でトラッシュから呼び出すのは、バルバトス原初の姿、バルバトス第1形態。

 

その効果でヘクトルの効果を無視し、手札を増やす。

 

 

「ターンエンド」

手札:1

場:【ランドマン・ロディ】LV1

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2

【ノルバ・シノ】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(5)

【ビスケット・グリフォン】LV2

バースト:【無】

 

 

結果的にライフは奪えず、バルバトス第1形態と第2形態がブロッカーとして残る事になった。

 

次は、強力なデジタルスピリットの究極体、インペリアルドラモン ドラゴンモードを召喚したブイのターンだ。

 

 

[ターン05]ブイ

 

 

「メインステップ、3体目のマッチュラLTをLV2で召喚。その効果でまた手札を1枚破棄」

「くっ……」

 

 

ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000

 

 

呼び出される3体目のマッチュラLT。

 

その効果でバルバトス第1形態の効果で手札に加えた『ガンダム・フラウロス[流星号]』のカードがトラッシュへとはたき落とされた。

 

 

「再びバーストをセット。さらに最初に召喚したマッチュラLTのLVを2に、ドラゴンモードにコア1個を追加」

「またバーストか」

 

 

再び伏せられるバーストカード。前のターン、それで召喚されたドラゴンモードの存在から、そのプレッシャーはより強くなる。

 

 

「アタックステップに入る。ドラゴンモードでアタック……」

「焦るなよ。その前に、互いのアタックステップ開始時、オルガの【神技】の効果を発揮。トラッシュから鉄華団1体を召喚する」

 

 

ブイが、ドラゴンモードでアタックを行おうとした直後、オーカミはオルガのコアを4つ取り除き、その【神技】の効果を発揮させる。

 

 

「来い、漏影。ビスケットからコアを借りて、LV1で召喚」

 

 

ー【漏影】LV1(1)BP3000

 

 

トラッシュから呼び出される鉄華団スピリットは、4つ目にバスターソードを武器として持つ漏影。

 

その効果は、ヘクトルの状況下でも手札を増やせるモノであり……

 

 

「漏影の召喚時効果、デッキ上3枚を破棄、その後トラッシュから鉄華団カードを手札に戻す。オレの手札に来い、バルバトスルプス」

 

 

オーカミが漏影の効果でトラッシュから手札に戻したのは、バルバトスの未来の姿、煌臨の効果を持つバルバトスルプス。

 

それを見るなり、アタックしようとしていたブイの手が止まる。

 

 

「凄いな。ドローができない状況でもここまで動いて来るか」

 

 

アタックしたらフラッシュでルプスを煌臨される。そうなれば次のターンまでに全滅は必然か……

 

 

「ならアタックはしないよ。ターンエンド」

手札:2

場:【マッチュラLT】LV2

【マッチュラLT】LV2

【インペリアルドラモン ドラゴンモード[2]】LV2

バースト:【有】

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

 

 

そう考え、ブイはそのターンをエンド。アタックされる事なく、オーカミへとターンが巡って来る。

 

 

「チャンス到来だぞ、オーカ!!」

「あぁ、このターンで決める」

 

 

勝機が見えたこの瞬間、ライの声援を受け取りながら、オーカミは己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「……行くぞ」

「本気モードって感じだな」

 

 

オーカミの雰囲気が、少しだけ刺々しくなる。本気モードだ。ブイもそれを察した。

 

 

「メインステップ、先ずはもう一度ビスケットの効果だ。疲労させてデッキ上1枚をオープン、鉄華団カードなら手札に加える」

 

 

ビスケットの効果でオープンされたカードは鉄華団カード『三日月・オーガス』……

 

よって、オーカミはそれを己の手札へ加えた。

 

 

「今手札に加えたパイロットブレイヴ、三日月を召喚」

 

 

ー【三日月・オーガス】LV1(0)BP1000

 

 

フィールドには何も出現しない。が、鉄華団スピリットを極限まで強化できるパイロットブレイヴのカードが、オーカミのBパッドへと置かれた。

 

さらに、彼はそれと合体させるためのスピリットを、この場へと呼び寄せる。

 

 

「天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV2で召喚!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

「不足コストはバルバトス第2形態をLV1に、未だ疲労状態のランドマン・ロディから全てのコアを確保」

 

 

天空より降り立つのは、バルバトスの強化形態の1つ、バスターソード状のメイス、ソードメイスを持つバルバトスルプス。

 

前のターン、重疲労状態にさせられたが故に、このターンでも疲労状態のままのランドマン・ロディが消滅。その上に置かれていたコアは、ルプスの力となる。

 

 

「シノを漏影に、三日月をルプスに合体」

 

 

ー【漏影+ノルバ・シノ】LV1(1)BP7000

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+三日月・オーガス】LV2(2)BP14000

 

 

ここに来て爆誕する2体の合体スピリット。

 

オーカミのフィールドには、コレらを含め、4体のスピリットが揃った。残りライフ2つのブイを倒すには、十分過ぎる頭数だ。

 

 

「アタックステップ、バルバトスルプスでアタック。その合体時効果でドラゴンモードとマッチュラLT1体から1個ずつ、合計2コアをリザーブへ」

 

 

勝負を決めるべく、アタックステップに突入する。ソードメイスを大地へ打ち付け、土の破片をブイのフィールドへと飛ばす。

 

それを受けたドラゴンモードとマッチュラLT1体は、体内のコアを取り除かれる。ドラゴンモードはほぼ無傷だが、マッチュラLTはLV1になり、弱体化した。

 

 

「ルプスのもう1つの効果。煌臨アタック時、オレのデッキ上2枚を破棄、その中の鉄華団カード1枚につき1体、相手のコア3個以下のスピリットを破壊する」

 

 

ルプスの効果で2枚破棄されるオーカミのデッキ。その2枚は、いずれも鉄華団カードであり………

 

 

「2枚とも鉄華団。よってLV2のマッチュラLTと、ドラゴンモードを破壊だ」

 

 

ルプスは左腕から滑腔砲を展開、それを掃射し、LV2のマッチュラLTを撃ち抜き、爆散させる。

 

さらにブイのフィールドへと切り込んで行き、そこにいたドラゴンモードを背中の大砲ごとソードメイスで叩き斬り、コレも同様に爆散へと追い込んだ。

 

 

「まだだ、三日月の合体時効果。残ったマッチュラLTのLVコストを+1し、消滅。発揮後、バルバトスと合体していれば、オレのフィールドの鉄華団1体につき1つ、相手リザーブのコア1つをトラッシュに置く」

「……」

「オレのフィールドにいる鉄華団スピリットは4体。4つのコアを、リザーブからトラッシュへ」

 

 

足元にいた、最後のマッチュラLTを踏み潰すルプス。そしてその眼光を緑色に強く輝かせると、ブイのリザーブにあるコアを4つもトラッシュへと送った。

 

 

「これでアンタを守るスピリットは全て消えた。残り2つのライフは、ダブルシンボルのルプスが砕く」

 

 

再び優勢に立つオーカミ。だが、相手はあのノヴァ学園の教師になる程の実力者ブイ。

 

そう簡単にバトルは終わらなくて………

 

 

「守ってくれるスピリットならいるさ。そこにね、相手のアタック後のバーストを発動。2枚目のインペリアルドラモン ドラゴンモード」

「ッ……まだあったのか」

「効果により、コレを召喚」

 

 

ー【インペリアルドラモン ドラゴンモード[2]】LV2(4S)BP12000

 

 

バーストゾーンに伏せられているカードを指差しながら、ブイはそれの発動を宣言。

 

カードは勢い良く反転し、フィールドには2体目のドラゴンモードが顕現する。

 

 

「その後、相手スピリット1体を重疲労。対象はブレイヴと合体している漏影だ」

 

 

現れるなり背中の大砲からエネルギー弾を放つドラゴンモード。今度はそれを漏影に直撃させ、片膝をつかせる。

 

 

「ルプスのアタックは、そのまま召喚したドラゴンモードでブロック」

「だけど、BPはルプスが上だ」

 

 

行手を阻むドラゴンモードへ向けて、左腕から展開した滑腔砲を掃射するルプス。

 

ドラゴンモードはそれを一度の咆哮で弾き返すと、仕返しと言わんばかりに、背中の大砲からまたエネルギー弾を放つ。その対象となったのは当然ルプスだが、ルプスはソードメイスを縦一線に振い、それを叩き落とす。

 

 

「漏影を重疲労させ、ルプスのアタックをブロックしても、オレのフィールドにはまだバルバトス第1形態と第2形態がいる。この2体のアタックで終わりだ」

「それはどうかな?」

「!」

「ルプスをブロックしたこの瞬間、ドラゴンモードのアタックブロック時効果が発揮。デッキ上1枚をオープンし、それを手札に加える」

 

 

ルプスとドラゴンモードが競り合う中、発揮されるドラゴンモードの効果。

 

ブイの手札は残り1枚。口振りからして、おそらく彼女はここのオープンカードで逆転の1枚を引くつもりなのだろう。

 

 

「まさか、このタイミングで逆転のカードを引くつもりなのか」

 

 

幾ら強力なデッキであろうとも、それができる可能性はほんの僅か。カードバトラーとしての運命力が試されている場面だと言える。

 

 

「見てな。私の右手は奇跡を呼ぶ。カードオープン!」

 

 

勢い良く1枚のカードをオープンするブイ。

 

そのオープンされたカードは『インペリアルドラモン ファイターモード』のカード。彼女はそれを見るなり口角を上げる。

 

 

「来た。私は『インペリアルドラモン ファイターモード』のカードを手札に加え、そのままフラッシュでコレの【煌臨】の効果を発揮。対象はブロック中のドラゴンモードだ」

「煌臨のカード!?」

「モードチェンジ。皇帝竜、インペリアルドラモン ファイターモード!!」

 

 

ー【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(3)BP15000

 

 

ルプスとの戦いの最中、突如輝きを放つドラゴンモード。そしてその姿は人型へと変形していき、真なる姿ファイターモードへと覚醒した。

 

 

「ファイターモードの煌臨時効果を発揮、相手スピリットを10体を疲労させる」

「10体……!?」

「バルバトス第1形態と第2形態の2体を疲労だ。ポジトロンレーザー!!」

 

 

右腕に移動した巨大な大砲から、極太のビーム光線を照射するファイターモード。それを受けたバルバトス第1形態と第2形態は片膝をつき、少なくともこのターンは行動不可能となってしまう。

 

 

「そして、ファイターモードになった事により、BPが増加。ルプスのBPを僅かに上回った」

「くっ……」

 

 

ルプスがソードメイスを手に、ファイターモードへと突撃する。が、ファイターモードはそのソードメイスによる一撃を片手で受け止め、ゼロ距離からポジトロンレーザーを放つ。

 

それによりルプスは腹部を貫かれ、力尽きて爆散してしまう。

 

 

「合体していた三日月は場に残す」

「これで、アタックできるスピリットは全て疲労状態。君はアタックステップを終了せざるを得ない」

「……ターンエンド」

手札:1

場:【漏影+ノルバ・シノ】LV1

【ガンダム・バルバトス[第1形態]】LV1

【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1

【三日月・オーガス】LV1

【オルガ・イツカ】LV2(3)

【ビスケット・グリフォン】LV1

バースト:【無】

 

 

たった1枚のバーストと、1枚のドローで優勢だった状況全てをひっくり返された。しかも、それがさぞかし当然であるかの如く。

 

オーカミは悟る。コイツには多分、まだ勝てない、と。

 

 

[ターン07]ブイ

 

 

「さぁメインステップ。そうだな……」

 

 

互いに一進一退を繰り返したバトルは遂に最終局面。緊張感が迸る中、ブイがしたプレイは………

 

 

「うん、終わり。君は合格だよ」

「……え」

 

 

手を合わせ、バトルの終了と、オーカミのノヴァ学園合格を宣言。

 

フィールドではその影響で、残っていた全てのスピリット達がゆっくりと消滅して行く。この行動には、流石のオーカミも開いた口が塞がらなかった。

 

 

「なんで。まだオレ、アンタにバトルで勝ってないけど」

「勝てれば満点だったけどね。でも、勝てば合格の認識でいいとは言ったけど、必ず勝つのが合格の条件とは一言も言ってないだろ?」

「えぇ……」

「ヘクトル置かれて、ハンデス食らった中で、あそこまでできるなら上々さ」

 

 

ブイはそう告げると、デッキとBパッドを懐にしまい、新たに『合格証明書』を取り出す。

 

そこには『鉄華オーカミ』の名前が刻まれていて………

 

 

「はい。合格おめでとう」

「……」

 

 

それを受け取るオーカミだが、その表情はとても嫌そうだ。

 

無理もない。不利だった上に途中で中断させられたのだ。カードバトラーとしてこれ程の屈辱はないだろう。

 

 

「そんな嫌そうな顔すんなって。再戦なら受け付けるよ、ゲートシティの、ノヴァ学園でね」

「……」

「それじゃ、待ってるから、絶対に入学するんだぞ」

 

 

最後にそう告げると、ブイはオーカミらの元を去って行った。オーカミの手には、デッキとノヴァ学園の合格証明書だけが残り……

 

 

「オーカ、やったじゃん。合格おめでと」

「うん……」

「全然嬉しそうじゃないな」

 

 

駆け寄って来たライがオーカミにそう告げて来る。当の本人は未だご機嫌斜めだが………

 

 

「なにいじけてんのよ」

「いじけてない」

「いやいや、いじけてるでしょその顔は。まぁまだまだ伸び代があるってわかっただけ、マシなんじゃない?」

「……」

 

 

思い返す、ゲートシティのカードバトラー達との2連戦。キング王、ブイとのバトル。両者共に規格外の強さで、今のままでは、とてもではないが足元にも及ばない事を通知痛感した。

 

しかし、それと同時に、これからそれらを追い越せると思うと、背筋がゾクゾクして来て堪らなくなって来た。

 

 

「キング王にブイ。ノヴァ学園にはオレより強い奴がゴロゴロいるんだな。面白くなって来た」

 

 

そう呟くと、オーカミは静かに己のデッキを握り、心中で、必ずゲートシティ、そこにあるノヴァ学園へ行くと誓うのであった。

 

 




次回、第68ターン「閃光のモビルスピリット」


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第68ターン「閃光のモビルスピリット」

界放市と共に日本が誇るバトスピ都市の1つ、ゲートシティ。

日本の誇りに恥じぬ、多くの高層ビルや交通機関を有する、大都市である。

 

さらにそこの中心に位置し、街のシンボル、もしくは象徴とも呼べる巨大な建物があった。

 

その名は『ノヴァ学園』……

 

名前の由来となっている『超新星龍ジークヴルム・ノヴァ』の石像が正門に聳え立つ、最も難関なバトスピ校であり、最も大きなマンモス校だ。

 

 

「ここが、ノヴァ学園」

 

 

そんなゲートシティに、ノヴァ学園に、少年、鉄華オーカミが今、足を踏み入れる。その服装は、白を基準としたノヴァ学園の制服へと変わっていて。

 

彼の新たなバトルスピリッツが、戦いが、ここから始まる。

 

 

******

 

 

「それで、ここが寮で、オレの部屋か。結構広いな」

 

 

今日はノヴァ学園の入学式。オーカミは一度、自分がこれから暫く住む事になる寮を訪れていた。

 

ノヴァ学園は全寮制。700人以上の学生を住まわせるために、最早団地とも言える程の寮を敷地内に用意してあるのだ。

 

 

「教えてやる。ここの部屋が広いのは、2人部屋だからだ。そこにベッドが2つあるだろ?」

「ん?」

 

 

オーカミが後ろを振り向くと、そこには同じ制服を着た、金髪の少年がいた。

 

少年は見るからに尊大な態度でオーカミを2つの意味で見下ろす。

 

 

「んでもって、ここからが大事な所だ。この部屋でテメェと過ごす事になるのはオレ、光裏(ひかりうら)コント様だ」

「……」

「光栄に思え、大事な事だからもう一度言ってやる、オレは光裏コント様だ」

「……」

 

 

オーカミは目の前の少年に対して、なんとも微妙な表情を浮かべる。

 

また面倒なのが出て来た。そう内心で思ったのだ。

 

 

「予め教えておこう。オレ様は基本、大事な事は2度言うタイプだ。優しいからな」

「……」

「おい、無視すんな」

 

 

オーカミにとって、面倒な奴と対面した時は、適当にやり過ごすのに限る。だがコントに関しては、これから同じ部屋で共に過ごす事になるので、結局は何度も対面しなければならないだろう。

 

 

「これから入学式だろ。一緒行こうぜ」

「嫌だ」

「コミ症かよ。安心しろ、オレ様は優しいからな。オマエがオレに懐くまで、オレはオマエのそばにいてやるよ。ナーハッハッハ!!」

「うざい」

 

 

喧しい同僚が1人加わり、オーカミは寮から、入学式を行う第二バトルスタジアムへと移動する。

 

 

******

 

 

ここはノヴァ学園が有する広大なバトル場の1つ、第二バトルスタジアム。

 

本来神聖なるバトルを行う場であるが、本日は今日からこの学舎に入学する、約300名の新入生を歓迎する、入学式が行われていて。

 

 

「続きまして、新2年生、そして学園の最強カードバトラー、序列1位の称号を持ちます、キング王さん。壇上にお上りください」

 

 

アナウンスでそう告げられると、この場の全ての者達から最も注目を集める壇上に上がるのは、ノヴァ学園の2年生にして、最強のカードバトラー、キング王だ。

 

 

「おい見ろよ、キング王だぜ。この学園の現序列1位だ」

「うん」

「いいよなアイツ、あんだけイケメンでバトル強ければ、女の子にもモテモテなんだろうな」

 

 

1年の中には、鉄華オーカミと光裏コントも当然参列している。キング王は、壇上に上がるなり、そこにいる鉄華オーカミを視認。気にする事なく、新入生への挨拶を始める。

 

 

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。努力の末、ノヴァ学園の狭き門を潜り抜けた君たち新入生ですが、本当のバトルスピリッツはここから始まります。仲間と切磋琢磨し合い、序列のトップを目指してください。私と肩を並べる程のカードバトラーが出てくる事を、楽しみにお待ちしております」

 

 

キング王は挨拶を終えると、スタジアムは新入生や教員達の拍手喝采に包まれる。それを聞き届けると、彼は壇上を下り、退場した。

 

 

「続きまして、新入生代表、鉄華オーカミ君」

「あれ、オレ?」

 

 

直後のアナウンスに、新入生の誰もが驚いた。

 

無理もない、あの界放市で名を連ねた鉄華オーカミ。まさか彼が界放市のバトスピ学園を差し置いて、このゲートシティのノヴァ学園に来ていると言う情報は何もなかったのだから。

 

 

「は、はぁ!?……オマエ、あの鉄華オーカミだったのかよ」

「ん?…そうだけど」

 

 

一番驚いていたのは、寮で同じ部屋になり、真っ先に彼に声を掛けていた光裏コントだった。オーカミはそんな彼のリアクションなど気にする事なく、取り敢えず席を立ち、壇上へと向かう。

 

 

「おい」

「ッ……アンタ、ブイ」

 

 

壇上へ向かう途中、彼に声を掛けたのは、教員としてスタジアムの端に参列している若い女性教師、ブイだった。相変わらず短目のオレンジ色の髪と触覚のようなアホ毛が目立つ。

 

 

「呼び捨て禁止。ここではブイ先生、もしくはブイ姉だ」

「呼び方は何でもいいだろ。つかアンタか、オレを新入生代表にしたの」

「いや〜ごめんごめん、言うの忘れてた。適当に自分の目標とか言えば多分大丈夫だから、頑張れ」

「……」

 

 

少しズレたサングラスを定位置に戻しながら、無責任極まりない事を言い放つブイ。オーカミはそれに呆れながらも、再び壇上へ向かい、そこへ上がる。

 

 

「えぇっと、目標か、そうだな……」

 

 

他の新入生らが注目する中、オーカミが言い放った言葉は……

 

 

「さっき喋ってたアイツ、キング王に勝てるくらいにはなろうかなって思ってます」

 

 

 

…………は?

 

 

静まり返る空気の中、殆どの新入生達がそう思った。

 

学園のカリスマ的存在であるキング王を「アイツ」呼ばわりした挙句、勝利宣言。さらにそれ以外は眼中にないような発言。ヘイトを買って当然である。

 

 

「ふざけんなァァァ!!」

「ひっこめチビ野郎!!」

「オマエがキング様に勝てるわけないだろ!!」

 

 

鳴り止まぬブーイング。しかし、当のオーカミはそれを全く意に介さず、欠伸をしながら壇上を下りる。その余裕ぶりが、また新入生らを煽り立てた。

 

 

「ハッハッハ!!…やっぱ面白いな、あの子」

 

 

その様子に、ブイはただ1人声を上げて笑っていた。

 

 

******

 

 

「おいオマエ」

「今度は何」

 

 

時刻は昼過ぎ。ノヴァ学園の敷地内。丁度校舎、グラウンド、バトルスタジアムを一目できるような場所にて。

 

入学式と、それに続いて行った、学園の案内を含めたレクリエーションも終了し、一度寮に戻ろうとしていたオーカミを呼び止めたのは、またしても光裏コント。

 

 

「入学式で言ったアレ、キング王に勝つってホントかよ」

「そうだけど」

「バカタレだな。キング王がどんだけ強いのか知ってんのか」

「……」

 

 

正直知ってるし、知らないとも言える。

 

彼の強さに触れ、敗北した事は事実であるが、まだ彼が本気を出しているとも思えないからだ。

 

 

「界放市で頂点になれたなら、別に離れる必要なかっただろ。あそこだって田舎って訳じゃないし、綺麗で可愛い女の子なんていくらでも」

「女の子は関係ないだろ」

「あるわ!!……やっぱな、この世の中バトルが強い奴がモテんだよ。キング王だってそうだしな。因みにオレはモテるためだけにバトル頑張ってノヴァ学園に入学したんだ」

 

 

とてつもない程に不純な動機を、とてつもない程に清々しく語るコント。ある意味年頃の少年らしいとも言える。

 

 

「そっか」

「そう言う事で鉄華オーカミ。界放市でめちゃんこ強いオマエを倒して、オレはこれからかわい子ちゃん達との会話に花を添えてやるぜ」

 

 

そう告げながら、コントはオーカミに己のデッキを突きつける。

 

その目的は、界放リーグで優勝したオーカミを倒す事で、自分の名を轟かせて、女の子にモテるためだ。

 

 

「バトルか、なら受けて立つよ」

 

 

バトルと聞けば、オーカミも断る理由はない。彼からの了承を得ると、コントは笑みを浮かべる。

 

 

「フフ、そう来ないとな。大事な事だからもう一度言ってやる、オレはオマエを倒す」

 

 

直後、2人は距離を取り、己のBパッドを左腕にセット、展開。そこにデッキを装填し、バトルの準備を整える。

 

 

「よし、来いよ」

「行くぞ、バトル開始だ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

ノヴァ学園の敷地内にて、鉄華オーカミと光裏コントによるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はコントだ。モテるために、それを進めていく。

 

 

[ターン01]光裏コント

 

 

「メインステップ、緑ネクサス、ハイジャック犯をLV1で配置するぜ」

 

 

ー【ハイジャック犯】LV1

 

 

「配置時効果で2枚オープン。オープンされた閃光カードを1枚手札に加えるんだが、ハズレか」

 

 

コントが初手で呼び出したのは、緑のネクサスカード、ハイジャック犯。

 

フィールドには何も出現しないが、その効果はいわゆるハロ効果。デッキ上かは2枚のカードをオープンし、その中の対象カード1枚を手札に加えるのだが、今回はどちらともハズレ。手札は増える事なく、オープンカードはトラッシュへと破棄された。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ハイジャック犯】LV1

バースト:【無】

 

 

『さっさとオレ様を呼べ、そして暴れさせろ、コント!!』

「うるせぇ、コスト低くなって来てから出直せバカタレ」

 

 

コントの第1ターン終了直後、彼の脳内に直接聞こえて来る、豪快な声。

 

この声の主は、既に彼の手札の中にあり………

 

 

「オレのターンだな」

「おうよ、とっとと初めて恥を晒しな、バカタレ」

 

 

ノヴァ学園に来てから初めてのバトル、初めてのターン。オーカミは目の前の相手に己と己のデッキの強さを見せつけるべく、それを進めて行く。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、鉄華団の創界神ネクサス2枚、オルガ・イツカ、クーデリア&アトラ」

 

 

ー【オルガ・イツカ】LV1

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

「へぇ、噂通り鉄華団。紫デッキか」

「神託発揮。オルガに2つ。クーデリア&アトラに3つのコアをそれぞれ追加」

 

 

オーカミもネクサスカード。だが普通のネクサスカードではなく、強力な創界神ネクサスカード。

 

配置時の神託により、合計6枚のカードがデッキ上からトラッシュに送られると同時に、コアが追加された。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【オルガ・イツカ】LV1(2)

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

ノヴァ学園に来てから初めてのターンは、オーカミにとって幸先の良いスタートで幕を下ろしてくれた。

 

彼が自分のフィールドに2種の創界神ネクサスを1枚ずつ構えた所で、次は一周回って再びコントのターン。

 

 

[ターン03]光裏コント

 

 

「メインステップ。オマエの鉄華団は確かに特別なのかもしれねぇ、だけどオレのカードの方が特別だ。今からそれを教えてやるよ」

「……」

「大事な事だからもう一度言ってやる」

「いや、いいから。早く進めろよ」

 

 

メインステップの開始直後、コントは己の手札の内1枚を己のBパッドへと叩きつける。

 

そのカードの名は………

 

 

「来い、オレの契約スピリット、Ξガンダム!!」

「ッ……契約スピリット」

 

 

ー【Ξガンダム】LV1(1S)BP5000

 

 

コントのフィールドに出現する、一際大きな体躯を有する白いモビルスピリット。

 

その名もΞガンダム。背部に大型のフライトユニットを内蔵した、緑属性のモビルスピリットにして、各々が人格を持つ特殊なカード、契約スピリットの内の1枚。

 

 

『アタックステップだ。さっさとアタックさせろ、コント』

「わぁってるよ、相変わらず喧しいバカタレだ。アタックステップ、Ξガンダムでアタック」

『よっしゃあ!!…行くぜ行くぜ行くぜぇ!!』

 

 

コントの脳内に響き渡る、Ξガンダムの声、アタックの要求。柔和なエアリアルとは違い、どうやら豪快な性格の様子。

 

 

「アタック時効果、カウント+2。そしてボイドから1個ずつを、Ξガンダムとハイジャック犯に追加」

 

 

つまりカウントを貯めつつ、2コアブーストだ。実に緑属性の契約スピリットらしい。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華オーカミ

 

 

背部のフライトエンジンで飛翔したΞガンダムによる拳の一撃。それは、オーカミの五重に重なったライフバリア1枚を粉砕して見せた。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【Ξガンダム】LV1

【ハイジャック犯】LV1

バースト:【無】

カウント:【2】

 

 

コントはこのターン、己の持つ特別なカード、Ξガンダムを披露。

 

彼も実はなかなか侮れないカードバトラーだと言う事を自覚し、オーカミは迎えた自分のターンに臨む。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディをLV2で召喚」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV2(2S)BP3000

 

 

オーカミが最初に召喚したスピリットはランドマン・ロディ。丸っこいボディを持つ、小型の鉄華団モビルスピリットだ。

 

 

「そして、天空斬り裂け、未来を照らせ。ガンダム・バルバトスルプス、LV2で召喚……!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

天空より降り立つ、オーカミのモビルスピリット、バルバトス。

 

その中でも今回は、バスターソード状のメイス、ソードメイスを持つ、強化形態の1つ、バルバトスルプスだ。

 

 

「パイロットブレイヴ、昭弘・アルトランドを召喚。バルバトスルプスと合体」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス+昭弘・アルトランド】LV2(2)BP11000

 

 

オーカミは追加でパイロットブレイヴを召喚。ルプスと合体させ、早くも合体スピリットをフィールドに揃える。

 

 

「アタックステップ。ルプスでアタック、その効果でデッキ上2枚を破棄し、Ξガンダムを破壊だ」

「くっ、だけどΞは契約スピリット。フィールドを離れても魂状態として、オレの傍らに残る」

 

 

アタックステップに突入。先陣を切るルプスが、ソードメイスを縦一線に振い、Ξガンダムの巨大な鋼鉄の身体を一刀両断。爆散へと追い込む。

 

砕け散ったかと思われたΞガンダムは、半透明の状態で場に残った。

 

 

「クーデリア&アトラの【神域】の効果で、トラッシュのカードをデッキ下に戻してドロー。さらにフラッシュ、オルガの【神域】を発揮、デッキ上3枚を破棄して1枚ドロー。これにより、もう一度クーデリア&アトラの【神域】が誘発、さらにドロー」

「何、一気にドローしやがった」

 

 

ドローに長けた鉄華団の創界神達。これにより、1枚しかなかったオーカミの手札は、合計4枚となる。

 

 

「まだあるぞ。フラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】……クーデリア&アトラのコア5個をボイド、トラッシュにある鉄華団カード1枚をデッキ下に置き、ルプスを回復」

「合体スピリットを回復!?」

 

 

怒涛のフラッシュ効果の発揮。これでオーカミのルプスは、このターン2度目のアタック権利を獲得。

 

合体したダブルシンボルのルプスのアタックが2回。シンボル1つのランドマン・ロディのアタックが1回、合計5点のダメージ。

 

つまりこの時点で1ターンキルが成立したのだ。

 

 

「バカタレが。フラッシュマジック、白晶防壁」

「!」

「カウント1以上の時、このターン、オレのライフは1しか減らない。そのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉光裏コント

 

 

今度はソードメイスを横一線に振い、コントのライフバリアを一気に2枚破壊しようと試みたルプスであったが、直前に出現した半透明のバリアが緩衝材となり、その枚数を1に抑えられる。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ガンダム・バルバトスルプス+昭弘・アルトランド】LV2

【ランドマン・ロディ】LV2

【オルガ・イツカ】LV2(5)

【クーデリア&アトラ】LV2(1)

バースト:【無】

 

 

『白晶防壁〈R〉』により出現した半透明のバリアは、オーカミのターンが終了するまで残り続ける上に、この後の攻撃を全て妨げて来る。

 

それを解除するため、オーカミは一度ターンエンドの宣言。コントへとターンを譲った。

 

 

「危ねぇ。白晶がなかったら詰んでたぜ。なんつー足の速いデッキだよバカタレ」

「……」

「だがよ、そう言うデッキを使う奴程、オレに負ける」

 

 

そう呟くと、コントは迎えた己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン05]光裏コント

 

 

「メインステップ、見せてやるぜ、契約スピリットの真の力をな。【契約煌臨】発揮、対象は魂状態のΞガンダム」

「!」

「混沌を光に変える使者。現れよ、Ξガンダム初陣!!」

 

 

ー【Ξガンダム[初陣]】LV1(2)BP8000

 

 

半透明の状態から色を取り戻し、復活を果たすΞガンダム。新たにビームライフルとシールドを携えたその姿は、正に機動戦士。

 

 

「さらにマジック、ネオ・ハンドリバース。残った2枚の手札全てを破棄し、新たに3枚のカードをドロー」

 

 

緑属性特有のマリガン効果を持つマジックカードにより、コントは今ある全ての手札を捨て去り、新たに3枚のカードをドロー。

 

それらを視認するなり軽く口角が上がり……

 

 

「フ……この勝負、貰ったぜ。パイロットブレイヴ、ハサウェイ・ノアを召喚し、Ξガンダム初陣と合体」

 

 

ー【Ξガンダム[初陣]+ハサウェイ・ノア[U.C.0105]】LV1(2)BP13000

 

 

コントもオーカミ同様パイロットブレイヴを召喚し、エースカードに合体させる。Ξガンダム初陣の見た目に変化はないものの、ルプス同様、強さは強力な合体スピリットへと変貌を遂げる。

 

 

「アタックステップ。行くぞΞ、アタックだ。効果で先ずはカウントとコアを増やす」

 

 

コントは勝負を決めるべく、アタックステップへ突入。

 

契約スピリットの一部効果は、契約煌臨スピリットの煌臨元となっている時にも発揮できる。それにより、契約のΞガンダムの効果がここでも発揮。カウントとコアを増やした。

 

 

「今度はハサウェイの【合体中】効果。オマエはコアが2個以上置かれているスピリットと創界神ネクサスのソウルコア以外のコアを移動できない。さらにΞガンダムとの合体中、一度だけ回復する」

「……」

 

 

ルプスもランドマン・ロディも2個以上のコアが置かれているため、オーカミはΞガンダム初陣のアタック中、ソウルコア以外のコアを使用できなくなってしまう。

 

だが、所詮ここまでブレイヴの効果。Ξガンダム初陣の本領発揮はここからであり………

 

 

「最後にΞガンダム初陣のアタック時効果。相手スピリットかネクサスを2つ重疲労させ、相手スピリットかネクサス2つを疲労させる」

「疲労効果か」

「緑だからな。ルプスとランドマン・ロディを重疲労」

 

 

Ξガンダム初陣の肩部から放たれる粒子砲。それはオーカミのフィールドにいる2体のスピリットへ直撃。

 

破壊、爆散こそされなかったものの、2体共片膝をつき、ダウンしてしまう。

 

 

「さらにその後、オマエのフィールドにある回復状態のカード1つにつき、オマエは手札のカード1枚を捨てなければならない。創界神ネクサス2枚は効果を受けず回復状態のまま、よってオマエには2枚の手札を破棄してもらう」

「……」

 

 

合計で4枚のカードを重疲労か疲労させ、回復状態で残ったカードの数だけ相手の手札を破棄する効果を持つ、Ξガンダム初陣。

 

普通のネクサスを対象とした効果を受けない創界神ネクサスの耐性が仇となった。オーカミは手札から「ガンダム・バルバトスルプスレクス」と「ガンダム・バルバトス[第4形態]」のカードを手札から選んで破棄。残り枚数は、僅か2枚となる。

 

 

「どうだ、オレの閃光デッキの強さは!!……これでオマエはほとんど何もできない。初陣の連続アタックでお終いだ!!」

「……」

「負けるのが恥ずかしくて言葉も出ないか」

 

 

違う。

 

確かに、ほとんどのスピリットとコアの身動きができず、手札まで破棄させられると言う絶望的な状況であるが、オーカミは断じて諦めたりなどしない。

 

 

「ふ……いや、ただこれは勝ったなって思ってただけだ」

「なッ……ふざけんなバカタレ。ここからどうやって」

 

 

断崖絶壁の、圧倒的劣性な状況での勝利宣言。この瞬間、オーカミの雰囲気はやや刺々しくなり、本気モードとなる。

 

 

「行くぞ、ここからだ」

 

 

そう告げると、オーカミは僅か2枚の手札の内1枚を引き抜く。

 

 

「スピリットとコアを封じつつ、残り4つのライフ全てを砕く。確かに凄い手だ。だけど、ソウルコア1つ動くなら、それで十分対処できる」

「なに……!?」

「フラッシュ【煌臨】発揮、対象はバルバトスルプス」

 

 

【契約煌臨】を発揮させたコントに対し、オーカミが手札から使用したのは、一般的な普通の【煌臨】……

 

だが、決してその力は馬鹿にはならない。鉄華団の反撃の狼煙が上がる。

 

 

「轟音唸る、過去をも穿つ。ガンダム・グシオンリベイクフルシティ、LV1で煌臨!!」

 

 

ー【ガンダム・グシオンリベイクフルシティ+昭弘・アルトランド】LV1(2)BP8000

 

 

オーカミの背後から飛び立つ、新たなモビルスピリットの影。それは重疲労状態となり、フィールドで片膝をつくバルバトスルプスと重なり合い、彼に代わる形で顕現する。

 

その名はガンダム・グシオンリベイクフルシティ。鉄華団デッキにおいて、バルバトスと双璧を成すモビルスピリットである。

 

 

「フルシティの煌臨時効果。オレのデッキ上2枚を破棄し、その中の紫1色のカード1枚につき、相手フィールドのコア2つをリザーブに置く」

「!!」

 

 

オーカミのデッキ上から破棄される2枚のカードは、当然どれも紫1色。これにより、効果はフルパワーで発揮される。

 

 

「紫1色のカードは2枚中2枚。よって、オマエのフィールドから4つのコアをリザーブに置く。Ξガンダム初陣は消滅だ」

「なんだと!?」

 

 

グシオンリベイクフルシティは、背部にあるもう2つの腕を展開し、合わせて4本の腕でマシンガンを持ち、連射。

 

それらの弾丸は、Ξガンダム初陣が咄嗟に展開した電磁バリアを突き破り、ほとんどが被弾。装甲に多くの穴を開けられたΞガンダム初陣は力尽き、爆散した。

 

 

「クーデリア&アトラの【神域】でドロー」

「ターンエンド。手札にカウンター用のカード残してたのかよ、クソ……!!」

手札:2

場:【ハサウェイ・ノア[U.C.0105]】LV1

【ハイジャック犯】LV1

バースト:【無】

カウント:【4】

魂状態:【Ξガンダム】

 

 

ソウルコア1つのみで手痛い反撃を受けてしまったコント。その表情は悔しさで歪む。

 

 

「だけど、オマエの2体のスピリットは重疲労状態。次のターンを迎えても疲労状態、アタックはできねぇ。もっと言えば、その手札で逆転は不可能だ!!」

 

 

コントがオーカミの2枚しかない手札を指差しながら、声を荒げる。

 

そんな彼を、オーカミは鼻で笑い。

 

 

「ふ……言っただろ。このバトル、もうオレの勝ちだ。このバトルに、もう手札は必要ない」

「なに!?」

「オレのターンだ」

 

 

僅か一手でバトルの流れを大きく変えて見せたオーカミ。次は勝利するべく、迎えた己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップは飛ばして、アタックステップ。大事な事だからもう一度言ってやる。このバトルに、もう手札は必要ない」

「それオレの口癖!!」

「ステップの開始時、オルガの【神技】を発揮、オルガのコア4つをボイドに置き、トラッシュから鉄華団1体をノーコスト召喚する」

「トラッシュからだと!?」

 

 

手札からスピリットを展開できるはずのメインステップをスキップし、オーカミは颯爽とアタックステップへ突入。

 

オルガの【神技】の効果で、トラッシュから選んだスピリットは………

 

 

「大地を揺るがせ、未来へ導け。ガンダム・バルバトス第4形態、LV3で召喚……!!」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV3(8S)BP12000

 

 

「この時、オレのフィールドにいる全てのスピリットのコアを、第4形態に移動。よってそれ以外は消滅する」

 

 

大地を突き破り、現れたのは、黒き戦棍メイスを携えた、バルバトスの基本形態である第4形態。

 

疲労状態で行動できないフルシティとランドマン・ロディは全てのコアを取り除かれ消滅するものの、その源であるコアは、バルバトス第4形態の新たな力となる。

 

 

「バルバトス第4形態でアタック。その効果で残ったハサウェイを破壊」

 

 

メイスを構え、バルバトス第4形態が動き出す。それと同時に、コントのフィールドに残っていたパイロットブレイヴ、ハサウェイのカードがトラッシュへ送られる。

 

 

「LV3効果でダブルシンボル。ライフを2つ破壊する」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎2〉光裏コント

 

 

コントの眼前に立ったバルバトス第4形態は、メイスを縦一線に振い、四重に重なったライフバリアの内2つを粉砕。

 

そして、残ったライフバリアも、これから別の鉄華団スピリットが粉砕して見せる事になる。

 

 

「バルバトス第4形態の更なる効果。自分のアタックステップ中、各バトルの終了時、トラッシュから1コストで鉄華団スピリットを召喚できる」

「また、トラッシュから……」

「天地を揺るがせ、未来へ響け。ガンダム・バルバトスルプスレクス、トラッシュからLV3で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプスレクス】LV3(5)BP16000

 

 

アタックを終えたバルバトス第4形態は、メイスを下向きで地面に打ち付け、地響きを鳴らすと、大地を砕きながら、鉄華団の頂点にしてバルバトスの最終形態、バルバトスルプスレクスが出現。

 

 

「このルプスレクスも、自身を単体でダブルシンボル化できる効果を持っている」

「ウソをつくな!!」

「ラストアタックだ、ルプスレクス!!」

 

 

バルバトス第4形態に続き、ルプスレクスが走り出す。その効果によりオーカミのデッキが破棄され、それのシンボルが1つ追加。さらにクーデリア&アトラの【神域】でさり気なくドローを行う。

 

 

「バカタレ。このオレが、界放市の自惚れ野郎なんかに……」

 

 

コントがそう呟いた直後、彼の眼前に到着するルプスレクス。そして、その手に持つ、超大型メイスを、彼の残った二重のライフバリアへと縦一線に振るって………

 

 

〈ライフ2➡︎0〉光裏コント

 

 

「う、うぁぁぁぉあ!!!」

 

 

全てのライフバリアを粉砕。コントのBパッドから「ピー……」と言う虚しくも甲高い機械音が流れ出す。

 

これにより、勝者は鉄華オーカミだ。若干手こずりはしたが、無事にノヴァ学園での初バトルを勝利で収めて見せた。

 

 

「良いバトルだったな」

「……」

 

 

バトル後、無言で地面に仰向きで横たわるコントに対し、オーカミはそう告げながら手を差し伸べる。

 

 

「ふざけんな。これで勝った気でいるんじゃねぇぞバカタレが。さっきのはアレだ。偶々だ。運がなかっただけだ」

「そっか」

 

 

そんなオーカミが気に食わなかったのか、立ち上がりながらその手を弾き、反発するコント。自分の負けを認めたくないと言うのがひしひしと伝わって来る。

 

 

「オマエとはアレだ。因縁のライバルって奴だ。また喧嘩買ってやるから、かかって来いよ」

「喧嘩売って来たのオマエだろ」

「んな細けぇ事あどうでもいいだろ。オレはな、バトルが強くてモテる、もしくはモテそうな奴が嫌いなんだよ」

「オレ、そんなモテた記憶ないけど」

 

 

とにかく負け惜しみの多いコント。オーカミがいい加減、彼に飽き飽きしていたその時だ。

 

 

「あ、いた。オーカ!!」

 

 

後方から女の子の声がしたのは。しかもその声は、オーカミがよく知るモノであり………

 

 

「ッ……ライ!?」

「え、ちょっと待って何この超絶眩い子。超超好みなんですけど!!」

 

 

その声の主は、なんと春神ライ。しかも、ノヴァ学園の女子生徒の制服を身に纏っている事から、彼女もまたノヴァ学園に入学した事を瞬時に理解できる。

 

 

「オレ、光裏コント。大事な事なのでもう一度言います。光裏コントです。君1年生?…実はオレもなんだ、これも何かの縁。是非今からオレとこの大都会ゲートシティを見て回って………」

「いや〜〜探したよオーカ。この学園めちゃくちゃ広いからさ」

 

 

ライをナンパしようとするコントだが、ライはそれをガン無視。

 

と言うよりかは、ようやく発見したオーカミに夢中過ぎて、完全にコントの存在が意識外だったと言うべきか。

 

 

「オマエ、なんで。つか歳1つ下だろ」

「飛び級して来たんだよ。ね、ブイ姉」

 

 

ライがそう告げると、さらに後方から『ブイ姉』ことブイが姿を見せる。

 

 

「そうそう。私のBパッドに直接電話して来た時は驚いたけど、まぁライちゃん可愛いしいいかなって」

「ブイ。アンタ、ホントに適当な奴だな」

「いいじゃんいいじゃん、細かい事気にすんなよ。可愛いガールフレンドが同じ学校に登校できるようにしてあげたんだ、寧ろ感謝して欲しいくらいだよ」

 

 

本来、オーカミらと歳が1つ下のライが入学できたのは、ブイによるモノだった。

 

オーカミと片時だって離れたくないライは、高いハッキング能力を活かし、ブイの電話番号を調べ、連絡。ノヴァ学園に通いたいとお願いしたのだ。

 

 

「と言う訳で、これからもアンタと私は一緒って事で」

「おい、くっつくなよ」

 

 

ライがオーカミの腕に手を回しながら、そう告げる。

 

 

「いいじゃん、これからゲートシティ見て回ろ」

「お、じゃあ私も一緒に行かせてもらおうかな。今日の仕事終わったし、多分。もちろん、2人の邪魔にならない程度に」

「ブイ姉も来てくれるの!!…じゃあオススメのお店教えてよ!!」

「ふふ、なら行きつけの喫茶店を教えてせんぜよう」

「なんか知らないうちに溶け込んでるし」

「ほら、行くぞオーカ」

 

 

最終的にはライに引っ張られ、オーカミは渋々2人と共にノヴァ学園を後にする。

 

その場に取り残されたのは、さっきまでオーカミとバトルをしていたコントのみ。彼は、側から見れば両手に花なオーカミの背中を、1人寂しく見届けていて………

 

 

「……な、何が『モテた記憶がない』だ。モテモテじゃねぇかバカタレぇぇぇぇえ!!!」

 

 

寂しさは次第に怒りに変わる。彼の怒号はノヴァ学園の校舎全体に響き渡るのであった。

 

個性豊か、且つ強敵揃いのノヴァ学園。鉄華オーカミの学園生活は、まだ始まったばかり。

 

 





次回、第69ターン「集結、バエルの名の下に」


******


2月11日。王者の鉄華は3周年を迎えました。
読者の皆様、いつも応援ありがとうございます。
これからも頑張りますよ!!


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第69ターン「集結、バエルの名の下に」

時刻は深夜。場所はゲートシティにある大きな港、その近辺にある防波堤。

 

日中とは違い、人々の声、乗り物などの騒音などが途絶え、波の音だけが心地良く聞こえるそこに、ノヴァ学園の女性教師、ブイはいた。

 

まるで誰かを待っているかのように………

 

 

「久しいな、ブイよ」

「……」

 

 

そんな彼女の前に現れたのは、同じサングラスを掛けた大柄の男性。界放市の界放警察、警視のアルファベットであった。

 

口振りからして、ブイとは顔馴染みな様子。

 

 

「何が久しいなだ。20分も待たせておいて、ごめんもなしか葉月!!」

「本名を言うな。わざわざ界放市から来てやったのだ、ありがたく思え」

「オマエから呼んだんだろ!!……こっちだってノヴァ学園のアレやコレやで忙しいんだぞ!!」

 

 

アルファベットの正体が、伝説のカードバトラーの1人「芽座葉月」である事を知っているブイ。彼女もヨッカ同様に彼と相当深い関わりがある事が伺える。

 

 

「……で、用はなに?」

 

 

ブイが話を切り替えると、アルファベットは懐から1枚のカードを取り出し、彼女へ投げつける。

 

 

「ッ……これは、新しい鉄華団のカード!?……と思ったら違った。紫のモビルスピリットカード」

「コレを鉄華に渡して欲しい。今やアイツの監視は、オマエの管轄だからな」

「へいへい。これもあの人からの命令だろ?……わかったよ」

 

 

これまでも度々オーカミに鉄華団カードを渡して来たアルファベット。今度はその役をブイが担う事になる。

 

ブイの口から出た「あの人」と言うワードから察するに、どうやら2人の背後には、もっと大きな存在が、最低でも1人はいるらしい。

 

 

「……何故、春神を入学させた」

 

 

アルファベットが、ライを入学させた事について訊いて来た。

 

 

「薮から棒だな。ライちゃん可愛いし、いいかなって」

「それだけか?」

「ウソ。あの子は私の妹みたいモノだから、つい、ね」

「風向きが変われば、奴はオマエを殺そうとしていたかもしれないと言うのに。歳下に甘いのは相変わらずか」

 

 

『妹みたいなモノ』と言う言葉はよくわからないが、照れくさい態度を取っている事から、ブイは、ライの事をただの生徒とは思っていない様子。

 

 

「鉄華はどうだ?」

 

 

アルファベットは次に、オーカミの事をブイに訊いた。

 

 

「面白い奴だな。私は気に入ったぞ」

「違う。そう言う事じゃない、覚醒についてだ」

「……」

 

 

アルファベットの質問に、ブイは一瞬固まる。そして、次の瞬間、その顔つきは真剣なモノになり………

 

 

「バトル中、雰囲気が変わる時がある」

「……」

「多分、覚醒が進んでいる。ノヴァ学園には強いカードバトラーが多い。トップのキング王なんて、既に本気の私より強いしな。そんな奴らとバトルをし、触発され続けたら、1年も待たない内に」

「覚醒する、か。キング王の方も、時間の問題かもしれないな」

 

 

アルファベットの言葉に、ブイは首をゆっくりと縦に振る。

 

 

「ならば、早く見つけるんだ。ノヴァ学園に潜む、巨悪をな。それがこの世界を救う事に繋がる」

「……わかってるよ。言われなくてもやってやるさ」

 

 

その言葉を最後に、2人は背を向け合い、別々の道へ歩き出す。

 

鉄華オーカミの持つ謎も、彼が入学したノヴァ学園も、どうやら一筋縄では行かない様子。

 

 

******

 

 

「ハイ、デハ皆サン。コレニテ、今日ノ英語ノ授業ハ、ターンエンド。マタ明日ネ、チャオ」

 

 

広大な敷地を有するバトスピ学園、ノヴァ学園。チャイムのメロディが鳴り響くと、オーカミ、ライ、コントがいる教室では、英語の授業が終了する。

 

それに伴って、教師である、小太りした金髪の外国人男性が、教室を後にすると、生徒らも、ほぼ同時に教室を飛び出して行く。

 

 

「やっほ〜次はブイ姉の授業だ!!」

「ブイ姉の実技の授業だ!!」

「ブイ姉神!!」

 

 

次の授業は、教室を離れ、ノヴァ学園のスタジアムで、バトルスピリッツの実技の授業。

 

座学と違い、バトルスピリッツができるこの授業が人気なのは当然だが、大半の生徒が大はしゃぎしている理由は、生徒間の中でもトップクラスに人気の高い女教師、ブイ姉ことブイが担当してくれているからだ。

 

 

「ブイ姉の授業、凄い人気だな」

 

 

飛び級でこの学園を合格して来た才女、春神ライが、英語の教科書をカバンにしまいながらそう呟いた。

 

それに合わせて、颯爽と現れるのは、オーカミと同じ寮の部屋に住む少年、光裏コント。

 

 

「そりゃ当然だぜライちゃん」

「わ。アンタ、誰だっけ」

「ズコーーー!!……ちゃんと覚えておいて、オレ、光裏コント。大事な事は二度言います。ちな、君に名乗ったのはこれで6回目です」

「あぁそうだった、ごめんごめん。で、何が当然?」

「無論。ブイ姉の事さ。ご存知オレらの担任教師でもある彼女だが、去年、この学園に彗星の如く現れ、その端麗な容姿と並外れたカリスマ力、親しみ易さ、さらに女神のような包容力で瞬く間に大人気教師になったのさ。是非お近づきになりたい!!」

 

 

その直後に「大事な事だからもう一度言うぜ」と宣言し、同じ事をもう一度喋り出すコント。

 

ライはそれを無視して、隣の席で寝ているオーカミに話し掛ける。

 

 

「オーカ、いつまでも寝てないで、さっさとブイ姉の授業受けに行くよ」

「ん……なんだって」

「だぁかぁらぁ、ブイ姉の授業受けに行くんだって。ほら立つ」

「おい、腕に手回すなよ。1人で歩けるって……眠い」

 

 

ライに腕ごと引っ張られながら席を立ち、移動するオーカミ。欠伸をしている事からまだ若干眠気が残っている様子。

 

 

「ライちゃん、腕に手回すなら、そいつじゃなくてオレのでもいいよ。ねぇ、ねぇってば!!」

 

 

2人の後を追うように、コントも教室を後にする。

 

因みに、ライは終始手をオーカミの腕に回していた。

 

 

******

 

 

ノヴァ学園の有するバトルスタジアムの1つ、第二バトルスタジアム。多くのカードバトラーがバトルを可能とする程の、この広大なスペースは、入学式の会場ともなった事で、入りたての新入生達にも根強く記憶に残っている事だろう。

 

そしてここで、今度は大人気教師、ブイの実技の授業が始まろうとしていた。

 

 

「さぁ、私の可愛い可愛い生徒達よ。今日、君らに初めて実技の授業をするわけだけど」

「……」

「初回くらい自由にバトスピしようぜって事で、今日は各々バトルに励みたまえ」

「!」

 

 

ブイが自分の目の前で整列する、オーカミらを含めた生徒らに、親指を縦に向けながらそう告げる。

 

すると、生徒らはまたしても大はしゃぎし出して………

 

 

「うおぉぉお!!」

「ブイ姉神!!」

「流石我らが担任!!」

「一応授業だから、なんかわからない裁定あったら、私に聞けよ〜」

 

 

生徒らと友達のように接するブイ。こう言う所も人気がある理由なのだろう。

 

数秒も待たない内に散って行き、各自バトルを始める生徒達。ブイはそれを眺めながら「今日も平和だな」と、まだまだ若い割に老いぼれみたいな感想を口にする。

 

 

「おい、ブイ」

「!」

 

 

しかし、彼女の言う平和は途端に終わりを迎える。請け負った生徒の1人、鉄華オーカミが声を掛けて来たのだ。その両脇には春神ライと光裏コントも見受けられる。

 

 

「自由にバトスピしていいなら、もちろんアンタともやっていいんだよな?」

「マジかオーカミ。ブイ姉とバトルする気か!?」

 

 

オーカミが、己のデッキを突きつけながらそう告げて来た。それに対し、ブイは鼻で笑い……

 

 

「ふ……入学したら、再戦はいつでも受けて立つとは言ったけど、まさかこんな直ぐに、しかも授業中に来るなんてね。流石、私の見込んだ生徒、面白い」

「で、やるの、やらないの?」

「やるさ。でもその前に」

「!」

 

 

やる気満々の2人だが、ブイはBパッドより先に、懐からあるカード1枚をオーカミへと投げつける。

 

オーカミはそれを受け取って視認するなり、驚きの表情を浮かべた。

 

 

「コレ、鉄華団!?……いや、違う、紫のモビルスピリットカード……バエル?」

 

 

……『ガンダム・バエル』

 

と言う名前の紫のモビルスピリットカードであった。紫のモビルスピリットカードと言えば、鉄華オーカミの鉄華団のカードであるが、そのカードはそれには属していない。

 

しかし、オーカミが驚いた真の理由は、そんな事ではなくて。

 

 

「良いカードだろ。バトルするならコイツをデッキに入れなよ」

「なんでアンタがコレを。新しいカードは、いつもアルファベットから貰うんだけど」

 

 

そう。何故、ブイがこのカードを所持していたのかと言う事だ。

 

オーカミの鉄華団カードのほとんどはアルファベットから送られて来た物。同じ紫のモビルスピリットカードであるバエルのカードも、それの関連じゃないわけがない。

 

 

「んな細かい事気にすんなよ。いいからバトル場に立て、お望み通りバトルしてやるから、かかって来い」

「……」

 

 

疑問に思いながらも、オーカミは言われた通り、スタジアムの中にあるバトル場に立つ。

 

 

「確かに、コイツが強ければ別にどうでもいいや」

 

 

しかしその疑問はすぐさま霧散して行く。オーカミは己のデッキにバエルのカードを差し、そのままそれを展開した己のBパッドへと装填した。

 

それを見たブイも、同じようにBパッドを展開し、バトルの準備を整えて。

 

 

「おい、ブイ姉がバトルするぞ」

「しかも相手はあの入学式でアホ抜かしてた鉄華オーカミじゃねぇか!!」

「ブイ姉がキング様に楯突いたバカ生徒を成敗する気なんだ!!」

「ブイ姉頑張れ!!」

「そんな奴、ぶっ倒しちゃってください!!」

 

 

ある事ない事口にしながら、ブイと鉄華オーカミのバトルを見届けようと、他の生徒達も続々と集結。

 

 

「頑張れ、オーカ!…今日こそは勝ちなさいよ!!」

 

 

ブイの応援の声がほぼ一色に染まる中、ただ1人オーカミにエールを送ったのは、春神ライ。

 

入学式で序列1位で人気の高いキング王に勝利宣言した事と、他の生徒は眼中にないような発言をした事で、同学年の者達からは嫌悪な目で見られるようになったオーカミ。

 

そんな彼にたった今エールを送ったライは、周囲から異端視されるが、彼女も特には気にしていない様子。

 

 

「ブイ姉に勝てるわけないぜ。速攻で学園の恥晒しになるだけだぞ」

 

 

コントが1人、そう呟く。彼はオーカミとは違い、チャレンジ精神はないみたいだ。

 

 

「そんじゃ、始めるか」

「あぁ、バトル開始だ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

クラスメイトの生徒達が見守る中、鉄華オーカミとブイによる二度目のバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻は、今回もブイだ。

 

 

[ターン01]ブイ

 

 

「メインステップ、先ずはコイツ、転醒ネクサス、緑の世界を配置」

 

 

ー【緑の世界】LV1

 

 

バトル開始早々、ブイの背後に巨大な大木が出現。

 

緑の世界。シンプルなネーミングのネクサスカードだが、その強さは一級品。緑デッキでは必ずと言っていいほどに採用の名が上がる程だ。

 

 

「配置時効果で、ボイドからコア1つをリザーブへ、さらに今回も七大英雄獣ヘクトルのアクセル効果を発揮だ」

「……」

「効果でボイドからコア1つをトラッシュへ。その後これを手元に置き、そこに置かれている間、君は赤紫黄青のスピリット、ネクサスの効果でドローできない」

 

 

またしてもヘクトルによるドローロック。

 

これでオーカミは、スピリットとネクサスの効果によるドローが行えなくなってしまう。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【緑の世界】LV1

バースト:【無】

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

 

 

前に行ったバトルよりも好スタートを切り、ブイはその最初のターンをエンド。オーカミへとそれを譲る。

 

 

[ターン02]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、クーデリア&アトラを配置」

 

 

ー【クーデリア&アトラ】LV1

 

 

「ホント好きだねぇ、その美少女創界神ネクサス」

 

 

オーカミが配置したのは、いつもの創界神ネクサス。その神託の効果により、デッキ上から3枚のカードがトラッシュへ移動。2つのコアが追加された。

 

 

「さらに、ランドマン・ロディをLV1で召喚。クーデリア&アトラにコア+1し、ターンエンド」

手札:3

場:【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

【クーデリア&アトラ】LV2(3)

バースト:【無】

 

 

白く濁り、丸みを帯びた装甲を持つ小型のモビルスピリット、ランドマン・ロディを召喚し、オーカミはそのターンをエンド。

 

周囲から「ヘクトル下なら殴れよ」などと野次が飛んで来るが、ブイの場に緑の世界が存在する限り、それは不可能。

 

 

「そりゃそうだ。今アタックしても、緑の自然神に転醒されて返り討ちに遭うだけだもんな。あのバカタレでもアタックなんかするわけねぇ」

 

 

各色に存在する通称「世界ネクサス」……

 

その一柱を担う緑の世界は、相手のスピリットが疲労した時に転醒し、スピリット、緑の自然神となる。それは、転醒アタック時に疲労状態のコスト6以下のスピリット1体をデッキ下に送ると言う除去効果を持っているため、オーカミはアタックができなかったと言う事だ。

 

 

「緑の世界なんて配置されたら、前のような速攻なんてできないよな」

「……いいから、早くしろよ」

「ふふ、はいはい」

 

 

バトルは一周し、再びブイのターンを迎える。

 

 

[ターン03]ブイ

 

 

「メインステップ、マッチュラLTをLV2と1で2体、連続召喚」

 

 

ー【マッチュラLT】LV1(1)BP2000

 

ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000

 

 

ブイのフィールドに、背中に白い胞子を背負った小さなクモ型のスピリット、マッチュラLTが2体召喚される。

 

 

「言うまでもないと思うけど、召喚時効果。2体召喚したから2枚、手札のカードを選んで捨ててもらう」

「くっ……」

 

 

以前バトルした時と同様、ブイはドローロック&ハンデス戦法。

 

オーカミは手札2枚をトラッシュへ破棄し、その手札は僅か1枚となる。

 

 

「手札の次は、ライフだ。アタックステップ、マッチュラLT2体でアタック」

「全部ライフで受ける」

 

 

〈ライフ5➡︎4➡︎3〉鉄華オーカミ

 

 

マッチュラLT2体による体当たりが、オーカミのライフバリアを1つずつ粉砕。その残りの数は3となる。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【マッチュラLT】LV1

【マッチュラLT】LV2

【緑の世界】LV1

バースト:【無】

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

 

 

オーカミの手札とライフをそれぞれ2つずつ削ぎ落とし、ブイは己の二度目のターンをエンド。

 

 

[ターン04]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ。天空斬り裂け、未来を照らせ、ガンダム・バルバトスルプス、LV2で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトスルプス】LV2(2)BP8000

 

 

天空よりフィールドへと降り立つのは、鉄華団の象徴であるモビルスピリット、バルバトスが1段階進化した存在、バルバトスルプス。

 

それは、バスターソード状のメイス、ソードメイスを手に取り、ブイへ向けて構える。

 

 

「アタックステップ、その開始時に、トラッシュにあるバルバトス第2形態の効果を発揮」

「!」

「トラッシュから自身を召喚する。来い」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV1(1)BP3000

 

 

アタックステップの開始時に、手札からではなく、トラッシュから呼び出されたのは、滑腔砲を所持するバルバトス、バルバトス第2形態。

 

 

「バルバトス第2形態がいる限り、オレの鉄華団スピリット全ては、相手の効果で手札デッキに戻らない」

「成る程、これで緑の自然神の転醒アタック時効果は受けないって事か」

「そう言う事だ。アタックステップ継続、バルバトスルプスでアタック。その煌臨アタック時効果により、デッキ上2枚を破棄、マッチュラLT2体を破壊だ」

 

 

バルバトスルプスが攻め込む。ソードメイスを横一線に振い、ブイのフィールドにいるマッチュラLT2体を吹き飛ばし、爆散させた。

 

 

「もちろん、緑の世界の転醒はしない。ルプスのアタックはライフで受けよう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ブイ

 

 

二度目のソードメイスによる一撃。今度は縦一線に振い、ブイのライフバリア1つを粉砕した。

 

 

「ターンエンド」

手札:1

場:【ガンダム・バルバトスルプス】LV2

【ガンダム・バルバトス第2形態】LV1

【ランドマン・ロディ】LV1

【クーデリア&アトラ】LV2(5)

バースト:【無】

 

 

ブイによって手札を減らされるも、トラッシュを活用した高水準な戦術で攻撃に転じて見せたオーカミ。

 

2体のブロッカーを残し、一度そのターンをエンドとする。次は、まだ余裕綽々としているブイのターンだ。

 

 

[ターン05]ブイ

 

 

「メインステップ、ライダースピリット、仮面ライダーW ファングジョーカーをLV2で召喚」

 

 

ー【仮面ライダーW ファングジョーカー】LV2(4)BP9000

 

 

「ライダースピリット!?」

 

 

ブイが召喚したのは、右半身が白、左半身が黒で構成された、緑属性のライダースピリット、W ファングジョーカー。

 

それは登場するなり、肩から刃を生やし、戦闘体制を取る。

 

 

「アタックステップ、ファングジョーカーでアタック。そのアタック時効果、君の手札を1枚破棄だ」

「!」

 

 

やはり持っていた手札破棄効果。オーカミの手札のラスト1枚が狙われるが………

 

 

「オレの最後の手札は『絶甲氷盾〈R〉』……このカードは手札にある時、相手の効果を受けない。よって破棄は無効だ」

 

 

オーカミは、手札にある時に相手効果を受けない『絶甲氷盾〈R〉』のカードをブイに見せつけ、破棄できない事を示す。

 

だが、ブイの召喚したライダースピリットが、これだけの効果で終わるわけもなく………

 

 

「少しは対策して来たみたいだけど、まだまだだな。ファングジョーカーの更なる効果、相手のスピリットが2体以上いる時、相手スピリット2体を重疲労させる」

「なに!?」

「対象はルプスとランドマン・ロディだ」

 

 

腕に刃を纏って突撃して来るファングジョーカー。その間に腕の刃から飛ぶ斬撃を放ち、ルプスとランドマン・ロディに直撃させる。

 

2体は破壊こそされなかったものの、両膝をつき、二度の回復でようやく回復状態となる状態、重疲労状態へと陥ってしまう。

 

 

「バルバトス第2形態でブロック」

 

 

ファングジョーカーの道を阻むのは、唯一残ったバルバトス第2形態。だが敵うわけもなく、あっさり引き裂かれて爆散してしまう。

 

 

「これで終わりじゃないぞ。ファングジョーカーはアタックしたバトル終了後、ターンに一度だけ回復する」

「!」

「回復したファングジョーカーで再度アタック!!」

 

 

バトルが終わったのも束の間、ファングジョーカーは回復状態となり、もう一度続けて攻撃を仕掛けて来た。

 

そしてこの瞬間に発揮できる効果が、ブイのフィールドには存在していて。

 

 

「アタックによって疲労した時、緑の世界の効果を発揮。このネクサスは、自分のコスト6以上の緑スピリットが疲労しても【転醒】を行える」

「くっ……」

「緑の世界より現れよ、緑の自然神……!!」

 

 

ー【緑の自然神】LV1(1S)BP6000

 

 

ブイの背後で生い茂る緑の世界より飛び出して来たのは、樹木を操る、巨大な大猿、自然を司る神。

 

 

「転醒により、私のカウント+1。さらに転醒アタック時効果、疲労状態のコスト6以下のスピリット1体をデッキ下に送る。バウンス耐性を与えるバルバトス第2形態は消えたからな。バルバトスルプスを問答無用でデッキ下へ」

「ルプス……!」

 

 

緑の自然神がその手をルプスへ向けると、そこから樹木が伸びて行き、ルプスを縛り付ける。

 

ルプスは緑色の光と共に消滅し、カードはオーカミのデッキ下へと送られた。

 

 

「バルバトス第2形態でブロックしたのは失敗だったかもね。ファングジョーカーのアタックは継続中だよ」

「……ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華オーカミ

 

 

「ライフが減った時、手札の絶甲氷盾の効果を発揮。オマエのアタックステップを強制終了させる」

 

 

ファングジョーカーが腕の刃でオーカミのライフバリア1つを切り裂いた直後、オーカミは手札に唯一残っていた『絶甲氷盾〈R〉』の効果を発揮。

 

ブイのアタックステップを強制的に終了へ追い込む。

 

だがルプスを失ってしまったこの状況、彼が不利と言わざるを得なくて……

 

 

「ふ、これで結局、手札は0だな。ターンエンド」

手札:2

場:【仮面ライダーW ファングジョーカー】LV2

【緑の自然神】LV1

バースト:【無】

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

カウント:【1】

 

 

「おぉ、これでブイ姉の勝ちは確定だ!!」

「ざまぁ見ろ鉄華オーカミ!!」

「ブイ姉神!!」

 

 

オーカミに限りなく不利な状況でターンが回って来る中、クラスメイトらの歓喜の声がスタジアムに反響する。

 

確かに、普通のバトルスピリッツであれば、ここからの逆転はほぼ不可能。

 

光裏コントもまた、そう思っている人物の1人。

 

 

「終わったな。ねぇライちゃん、今から2人で授業ほっぽり出して、学園内デートでもしない?」

「え、嫌」

「辛辣!!……あんな身の程知らずのどこがいいんだよ。オレと遊ぼうぜ」

 

 

コントがライの手を取り、彼女をデートに誘うが、ライはそれを迷いなく拒否する。

 

 

「コントはオーカの事を知らなすぎる」

「え」

「アイツが凄いのは、ここからだ」

 

 

そう告げると、ライはまた、夢中な眼差しをオーカミへと向ける。それを見たコントは軽く舌打ちをした。

 

そして迎えるオーカミのターン。この瞬間より、彼の雰囲気はやや刺々しくなり………

 

 

「行くぞ」

「……」

 

 

 

また雰囲気が変わった。

 

これは何か起こるな。

 

 

 

それを見たブイが内心でそう思い、身構える。

 

殆どのクラスメイト達からブーイングを受け続ける完全にアウェイな状況の中、オーカミは全く動じずに、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、バーストをセット」

「バカタレ。今更バースト1枚で何ができるってんだ」

 

 

オーカミはドローステップで1枚になった手札を、すぐさまバーストゾーンへセット。先程の件で機嫌が悪くなったコントは、オーカミに対し、いつも以上に辛辣なコメントを呟く。

 

 

「アタックステップの開始時、再びトラッシュのバルバトス第2形態を召喚」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2(2)BP6000

 

 

「アタックだ」

 

 

ファングジョーカーに破壊されたバルバトス第2形態が、トラッシュより復活。オーカミはそれに攻撃を命ずる。

 

 

「BPは緑の自然神と同じか、ならライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉ブイ

 

 

バルバトス第2形態は、手に持つ滑腔砲を放ち、ブイのライフバリア1つを粉砕。

 

しかし、この程度の一撃では、状況は何も変わらなくて………

 

 

「ターンエンド」

手札:0

場:【ガンダム・バルバトス[第2形態]】LV2

【ランドマン・ロディ】LV1

【クーデリア&アトラ】LV2(6)

バースト:【有】

 

 

「へ、手も足も出ないとはこの事だな」

 

 

コントがそう呟くと、スタジアムはクラスメイトらのブイ姉コールに埋め尽くされる。

 

 

 

あのバースト。絶対アレだな。

 

 

 

一見、後はただブイが決められた勝利のルートを辿るだけで終わりに見える。だが、彼女の意識は、自然とオーカミのセットしたバーストカードへと向けられていた。

 

 

「面白い、乗ってやるよ」

 

 

そう告げると、ブイは回って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン07]ブイ

 

 

「メインステップ、緑の自然神にコア1つ追加。ファングジョーカーのLVを3にアップさせ、マッチュラLTをLV2で召喚」

 

 

ー【マッチュラLT】LV2(2)BP3000

 

 

ファングジョーカーのLVが3にアップ。そのBPは11000にまで上昇。さらにこのバトル3体目となるマッチュラLTを召喚し、ブイは完全に勝負を決めに入る。

 

 

「バーストをセットして、アタックステップ、ファングジョーカーでアタック。そして、そのアタック時効果を発揮。もう破棄する手札はないけど、重疲労効果は使える」

「……」

「よって、バルバトス第2形態とランドマン・ロディを重疲労」

 

 

ファングジョーカーが宙を殴って発生させた飛ぶ斬撃。それはバルバトス第2形態とランドマン・ロディに直撃し、2体を重疲労状態へと陥らせる。

 

 

「ブロッカーもない、手札もない。ライフで受けるしかないぞ」

「あぁ、当然だ。そのアタック、ライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鉄華オーカミ

 

 

肩から生えた刃を取り外し、それをブーメランの要領で投擲するファングジョーカー。

 

オーカミのライフバリアはその刃に切り裂かれ、また1つ破壊される。遂にその数は残り1つ。フィールドのスピリットは全て重疲労させられ、手札もない。誰がどう見ても勝ちの目などない絶体絶命な状況。

 

 

「これを待ってた」

 

 

しかし、オーカミは僅かに笑みを浮かべていた。

 

このアタックを待ち望んでいた。そう言わんばかりに、伏せていたバーストカードへと手をやる。

 

それこそはまさに、ようやくやって来た、反撃の兆し。

 

 

「ライフ減少により、バースト発動」

「あのカードは!?」

「さっきブイ姉がオーカにあげたカード」

 

 

反転させたバーストカードを見て、驚いたのはコントとライ。

 

ブイは逆に「来たか」と、まるで己もそれを待ち侘びていたのだと言いたげな旨を、笑顔で呟く。

 

 

「バースト効果により、先ずは自身を召喚。数多の魔を従えし首魁、長き眠りから目覚め、混沌の世に覇を唱えよ!!……ガンダム・バエル、LV2で召喚」

 

 

ー【ガンダム・バエル】LV2(3)BP12000

 

 

神々しい輝きを放つ天空。そこより舞い降りて来たのは、白銀の装甲に身を包んだ、スマートなモビルスピリット。

 

その名をガンダム・バエル。

 

初の鉄華団ではない、紫属性のモビルスピリットだ。

 

 

「バエルの召喚時効果を発揮。互いのデッキを上から3枚オープン」

「ッ……ブイ姉のデッキまでオープンさせるのか」

 

 

バエルの召喚時効果が発揮。オーカミとブイのデッキ上から3枚のカードがオープン、公開される。相手のデッキまでオープンさせると言う、その物珍しい効果に、コントをはじめ、多くの生徒らが反応を示す。

 

 

「こうしてオープンした紫のコスト6以下のカードを、相手、自分の順番で、好きなだけ、コストを支払わずに召喚でき、残ったカードはデッキ下に戻す」

「ふ……私のデッキは基本的に緑。紫なんて入ってない、召喚は無理だ」

「オレのオープンカードは『ガンダム・フラウロス』『三日月・オーガス』『ガンダム・バルバトス[第4形態]』の3枚。よって全てをノーコストで召喚する」

 

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]】LV2(2)BP9000

 

ー【ガンダム・フラウロス】LV1(1)BP5000

 

ー【三日月・オーガス】LV1(0)BP1000

 

 

「なにぃ!?……全員ノーコスト召喚だと!?」

 

 

バエルが天空に両手を掲げると、同じく天空の輝きから、バルバトス第4形態とフラウロスが出現。

 

その光景に、コントをはじめ、オーカミを応援していなかった全てのクラスメイトの生徒達が驚きの声を上げる。たった1枚のカードから、追加で3枚ものカードを展開したのだから、無理もない。

 

 

「フラウロスの召喚時効果、コア5個以上のファングジョーカーを破壊」

 

 

バエルの効果で呼び出された、マゼンタカラーのモビルスピリット、フラウロス。両肩にそれぞれ装備されたレールガンから電磁砲を放ち、ブイのファングジョーカーを撃沈、爆散へと追い込む。

 

 

「ターンエンド。成る程、思ってたよりずっと強いな」

手札:1

場:【緑の自然神】LV1

【マッチュラLT】LV2

バースト:【有】

手元:【七大英雄獣ヘクトル】

カウント:【1】

 

 

バエルと、その名の下に集結したスピリット達により、このターンを凌いで見せたオーカミ。

 

大逆転勝利を目指し、繋いで獲得したターンを進めて行く。

 

 

[ターン08]鉄華オーカミ

 

 

「メインステップ、ランドマン・ロディをもう1体召喚し、バルバトス第4形態に三日月を合体、さらにLV3へアップ」

 

 

ー【ランドマン・ロディ】LV1(1)BP1000

 

ー【ガンダム・バルバトス[第4形態]+三日月・オーガス】LV3(4S)BP18000

 

 

2体目となるランドマン・ロディを召喚しつつ、バルバトス第4形態を三日月との合体でパワーアップ。

 

 

「アタックステップ、バエルの効果。自分の合体スピリット全てのBPを5000上げる。BP23000になった、バルバトス第4形態でアタック」

 

 

大軍団を形成したところで、オーカミはアタックステップへと突入。バエルの効果で更なる強化を施した、バルバトス第4形態で攻撃を仕掛ける。

 

その効果も、当然発揮されて……

 

 

「バルバトス第4形態のアタック時効果。マッチュラLTから2つのコアをリザーブに置き、消滅させる」

 

 

バルバトス第4形態は黒き戦棍、メイスで大地をカチ割り、その飛び散った土塊の破片をマッチュラLTへと直撃させ、それを消滅へ追い込む。

 

 

「さらに三日月の【合体中】効果。このターン、緑の自然神のLVコストを+1。鉄華団スピリットの数だけ、オマエのリザーブのコアをトラッシュに置く」

「!」

 

 

今、オーカミのフィールドにいる鉄華団スピリットは5体。つまりは5つだ。

 

5つのコアがブイのリザーブから、使用不可ゾーンのトラッシュへと弾き出される。その間に、LVコスト上昇の効果を受けた緑の自然神だが、1つ余分にコアを置いていたため、フィールドに残った。

 

 

「LV3の効果。紫シンボル1つを追加し、トリプルシンボル」

「よし、これでオーカのバルバトス第4形態は、一撃で3つのライフを破壊できる」

 

 

ライの言う通り、バルバトス第4形態は一撃で3つのライフを破壊できる力を得た。この攻撃が一度でも決まれば、オーカミの大逆転勝利となる。

 

だが、相手はあのブイ。その程度で終わるわけがなくて……

 

 

「やるな。だけど、私にはコレがある事を忘れたのかな?」

「!」

「アタック後のバースト発動、インペリアルドラモン ドラゴンモード!!」

 

 

瞬間、ブイは伏せていたバーストを反転、それを発動させる。そのカードは、以前行ったバトルで、オーカミを苦しめた、ブイのエースカード。

 

 

「効果により、緑の自然神からコアを全て取り除き召喚。その後で、アタック中のバルバトス第4形態を重疲労させる」

 

 

ー【インペリアルドラモン ドラゴンモード[2]】LV2(4S)BP12000

 

 

緑の自然神が消滅。その直後、大気を震撼させる程の衝撃と共に、背部に大砲を背負った、雄々しくも美しい巨大なドラゴン、インペリアルドラモン ドラゴンモードが、激しい咆哮を張り上げながら、フィールドへ出現。

 

その咆哮は、アタック中のバルバトス第4形態に強いプレッシャーを与え、重疲労状態へと追い込む。

 

 

「……重疲労になっても、アタックは続くぞ」

「アタックはそのままドラゴンモードでブロック。でもってこの瞬間、アタックブロック時効果を発揮」

 

 

ドラゴンモードの強いプレッシャーを跳ね除け、重疲労状態になりながらも突撃して行くバルバトス第4形態。それの振るったメイスと、ドラゴンモードの巨大で強固な頭部が衝突する時、ドラゴンモードの効果が発揮される。

 

 

「カードを1枚オープンし、対象のカードなら召喚配置、ハズレは手札に」

 

 

前は、この効果で凄まじい引きの強さを見せつけられ敗北仕掛けた。

 

彼女の今回の運命力は………

 

 

「カード、オープン!!」

 

 

気合いの込められたドロー。ブイはそれを見るなり口角を上げ、すぐさまオーカミへと見せつける。

 

 

「私がオープンしたのは『インペリアルドラモン ファイターモード』……ハズレだけど、手札に加えられる。そして、フラッシュでコイツの【煌臨】を発揮、対象はドラゴンモード」

 

 

その運命力の強さは、残念ながら今回も発揮される。

 

 

「煌臨せよ、皇帝竜、インペリアルドラモン ファイターモード!!」

 

 

ー【インペリアルドラモン ファイターモード】LV2(3)BP15000

 

 

ドラゴンモードは再び激しい咆哮を張り上げ、バルバトス第4形態を吹き飛ばすと、身体中から強い輝きを放つ。そしてその姿は光の中で人型へと変形していき、やがて真なる姿ファイターモードへと覚醒を果たした。

 

 

「ファイターモードの煌臨時効果、相手スピリット全てを疲労させる。ポジトロンレーザー!!」

 

 

右腕にある巨大な大砲から極太のレーザー光線を放つファイターモード。それを受けた、バエル、フラウロス、ランドマン・ロディ1体は、片膝をつき、疲労状態となってしまう。

 

全てのスピリットが疲労、それ即ち、これ以上のアタックは行えないと言う事と同意。このターンで決め切れない、と言う事は、オーカミの敗北を意味する。

 

 

「ふ……そう来ると思った」

「!」

 

 

しかし、それでも尚、オーカミは笑みを浮かべた。ブイに勝利できる事を確信したからだ。

 

その確信を、確実に変えるべく、彼はこのタイミングで効果を発揮させて行く。

 

 

「フラッシュ、クーデリア&アトラの【神技】を発揮。トラッシュから鉄華団カードをデッキ下に置き、バルバトス第4形態を回復」

「バカタレが。重疲労状態のスピリットを回復させてもただの疲労状態。意味ねぇじゃねぇか」

 

 

クーデリア&アトラの【神技】の効果を発揮させ、バルバトス第4形態を回復させるオーカミだが、コントの言う通り、重疲労状態となったスピリットが回復状態になるには、二度の回復が必要。

 

コレだけでは足りない。

 

 

「バルバトス第4形態とファイターモードのバトルは続行。オレのバルバトス第4形態は、ファイターモードを討ち倒す」

 

 

背部にマウントされた太刀を手に取り、メイスと合わせて二刀流で、上空に佇むファイターモードに挑む、バルバトス第4形態。

 

迎撃で飛んで来たポジトロンレーザーをモノともせず、太刀でその翼を斬り裂き、地面に叩きつける、メイスの一撃でトドメ。ファイターモードは地に堕ち、爆散してしまう。

 

だがこれで、バトルは終了。ブイのライフは守られ、次のターン、オーカミはスピリットを召喚し直して来たブイに敗北を喫する。

 

周囲にいる誰もがそう思っていた。

 

 

「この瞬間、バエルの効果。合体スピリットのバトル終了時、一度だけそれを回復させる」

「はぁ!?…いくつ効果持ってんだよ!?」

 

 

コントらクラスメイト達の驚きのリアクションと共に、バルバトス第4形態はさらにもう1段階回復。ようやく回復状態となり、このターン、二度目の攻撃権利を得る。

 

デッキの上からスピリットを呼び、合体スピリットに力を与える。これこそが魔を従えし、バエルの力。

 

 

「回復したバルバトス第4形態で、もう一度アタック。三日月の効果で、残ったリザーブのコアを全てトラッシュに置き、トリプルシンボル……!!」

 

 

使えるコアを全てトラッシュへと弾き出し、再びメイスと太刀を構えて突撃して来るバルバトス第4形態。

 

それを凌ぐ力を、ブイはもう持っていなくて………

 

 

「ふ……やっぱ、面白い奴だ、君は。ライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎0〉ブイ

 

 

太刀の一撃、メイスの一撃による、計二度の攻撃で、ブイの残りのライフバリアを全て粉々に粉砕するバルバトス第4形態。

 

これにより、勝者は鉄華オーカミだ。見事にリベンジを果たして見せた。

 

 

「よし、やっぱりオーカミはそうでなくちゃね」

 

 

彼の勝利で、いの一番に喜びを見せたのは、他でもなくライ。それに合わせるように、クラスメイトらも、オーカミがブイに勝利したと言う事実を認識して行って………

 

 

「う、うぉぉぉぉ!!」

「勝ちやがった、アイツ、本当にブイ姉に勝ちやがった!?」

「なんで奴だ!!」

「すげぇ!!」

「鉄華オーカミ、神!!」

 

 

クラスメイトらは手のひらを返し、オーカミを称え始める。まぁ、オーカミの実力を認め、口だけの人物ではない事を理解してもらえたと言う証拠でもあり、決して悪い事ではない。

 

 

「なぁ、次オレとバトルしようぜ!」

「いやオレと!」

「僕と!」

 

 

知らぬ間に、オーカミの周囲には多くのクラスメイト達が集結していた。詰め寄って来るクラスメイト達の圧に、オーカミはめんどくさそうな表情を見せる。

 

 

「うんうん。よかったよかった」

 

 

その光景を眺めていたライ。オーカミがクラスに溶け込めて、取り敢えず一安心な様子。

 

 

「キャァァ!!」

「オーカミ君、素敵!!」

「私ともバトルしてぇ!!」

「え、ちょっとオーカ!!……デレデレすんな!!」

「してない」

 

 

飛び交う黄色い声に、危機感を覚え、ライも乱入。

 

 

「ふふ、こう言う光景、ちょっと懐かしいな。今日も平和で何より何より」

 

 

ブイが受け持った生徒らを温かい目で見つめながら、そう微笑ましく呟く。

 

本当に、今日も平和である。

 

 

「チッ……手のひらクルックルじゃねぇかバカタレどもが。オレだって勝てたわ、やってたらな」

 

 

ただ1人、輪の中に入っていない生徒、光裏コント。彼はそうぼやきながら、スタジアムを後にする。

 

 

「彼が、鉄華オーカミ。成る程、なかなかのガッチャだ」

 

 

スタジアムの端、観戦席に腰を下ろし、そう呟くのは、水色で逆立った髪が特徴的な少年。ノヴァ学園の白い制服を着ている事から、学園の生徒なのは間違いない。

 

 

「君のガッチャとオレのガッチャ。いつか戦う時が楽しみだ」

 

 

少年は「ガッチャ」と言う意味不明な単語を連発し、その場から去って行った。

 

バトスピ学園最難関校、ノヴァ学園。ここには、キング王やブイだけじゃない。まだまだ強力なライバル達が多く潜んでいる。

 

 





次回、第70ターン「ガッチャと逆転満塁ホームラン」

******


《キャラクターファイル》

【鉄華オーカミ】
性別:男
年齢:15
身長:156cm
誕生日:1月23日
使用デッキ:【鉄華団】
概要:お馴染みクール主人公。身長が結構伸びた。しかし、それでもまだ小さい方である。ノヴァ学園に潜む、多くの強敵達にバトルを挑む。


******

【王者の鉄華外伝について】
今月1日に投稿した、王者の鉄華外伝『バトルスピリッツ 勇者と魔女』ですが、投稿後に色々おかしな点が見つかってしまい、誠に勝手ながら、一旦削除と言う対処をさせていただきました。
楽しみにお待ちいただいてた読者の皆様には、大変申し訳ございませんが、もっと書き留めてから、再度投稿し直そうと思っております。
ご迷惑をお掛け致します。


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第70ターン「ガッチャと逆転満塁ホームラン」

「ボールボルボルボル!!」

 

 

早朝、ゲートシティにある最大難関校ノヴァ学園。その数ある校舎の内1つの屋上にて、奇怪な笑い声を上げる、長身でメガネを掛けた、リーゼント頭の男子生徒が1人。

 

 

「さて、今日もかわい子ちゃん探しだ」

 

 

そう呟くと、彼は懐から双眼鏡を取り出し、それを使ってノヴァ学園の敷地内を歩く、通学中の女子生徒らを覗き始める。

 

 

「ボールボルボルボル、やはりオレ様の見立て通り、今年の1年はかなりレベルが高いな。あの子は昨日見た、この子も昨日見た。コイツは微妙だな。この子は初めてだ!!…後で調べてかわい子ちゃんリストに追加しておこう」

 

 

女子生徒1人1人に感想を呟くリーゼント頭の男子生徒。このような行いは、普通ならば軽犯罪に問われる。

 

しかし、仮に彼のこの行いがバレたとしても、特にお咎めなしと言われるに違いない。

 

何故なら彼は………

 

 

「そしてこのオレ、ノヴァ学園の序列3位、甲子園(こうしえん)ダホウ様の女にしてやるのだ。ボールボルボルボル!!」

 

 

そう。彼はこのノヴァ学園で序列3位に位置する男。

 

その名も甲子園ダホウ。

 

この学園では、序列こそが全て。序列さえ高ければ、大抵のことは容認される。

 

 

「さぁ他には………ッ!?」

 

 

意気込んで再度双眼鏡で学園の敷地内を覗き込むダホウ。

 

しかし、突然そこに映り込んだ、黄色がかった白髪をサイドテールに纏めている女子生徒に、彼は言葉を詰まらせる程の衝撃を受ける。

 

 

「な、なんだこの子……かわいすぎィィィィィィイ!!!」

 

 

詰まらせた後に出て来た感想は、それはそれは単純なモノであった。

 

 

「天女、まさに天女!!……ドストライクすぎて、速攻で三者三振。だ、誰だ、どこの子だ。新1年なのは間違いねぇ。カメラカメラ、学園の顔認証アプリ」

 

 

テンションが跳ね上がるダホウ。Bパッドのカメラ機能でその顔をアップして写真に収め、学園の生徒らのデータをまとめたサイトを開き、調べ始める。

 

そしたら、その女子生徒の名前や学園などの情報が出て来て………

 

 

「1年、春神ライ。そうか、ライちゃんと言うのか。ボールボルボルボル!!……今日の狙いは決まったァァァァ!!」

 

 

ノヴァ学園、序列3位の肩書を持つ甲子園ダホウに目をつけられたのは、なんと春神ライ。これは何か一波乱ありそうだ。

 

 

******

 

 

それからほんの少しだけ時が流れて昼頃。ノヴァ学園は昼休みの時間だ。

 

学園の生徒は皆年頃の少年少女。この時間内には何かを食さなければ、午後の授業などやってられない。それが故に、大抵の生徒らはこの時間内に作って来た弁当を食べるか、食堂、購買に向かうかの二択を迫られる。

 

 

「おいオーカミ。食堂行くぞ食堂、オレはもう腹が減ってしょうがねぇんだ」

 

 

鉄華オーカミ達のいる1年の教室。クラスメイトの1人、光裏コントが、呑気に大欠伸している鉄華オーカミを食堂に誘う。

 

 

「大事なことだからもう一度言うぞ」

「いいよ別に言わなくて。悪いけど、食堂は行かない」

「はぁ!?…バカタレかよ。昼飯食わずにどうやって午後を生きて行く気だ」

 

 

オーカミがコントの誘いを断った直後、彼の机に、風呂敷包みの大きな弁当が堂々と置かれる。

 

その置いた張本人は、最近、今年の新入生で1番可愛いと話題の少女である、春神ライ。

 

 

「今日からライに弁当作ってもらう事になったから」

「え」

「腕によりを掛けて作ったぞ。今日の隠し味は唐揚げの中に入れたチーズだ」

「それもう隠し味じゃないだろ。まぁいいや、ありがとう」

 

 

隠し味の情報が入ったところで、オーカミはライの手作り弁当を食し始める。

 

とてもボリューム満点で美味しそうだ。

 

 

「どう、美味しい?」

「うん」

「よかった〜〜……食べさせてあげようか?」

「いや、いい」

 

 

人目を気にする事なくイチャイチャし出す2人に、コントは我慢の限界を迎えて………

 

 

「な、何を見せられてるんだオレは!!」

「コント、食堂行かないのか?」

「行くよ、行く気満々だったよ!!……でもこんなん見せられたら、あぁうわぁいいなぁ、食いてぇよオレもライちゃんの手作り弁当!!」

 

 

取り敢えず、オーカミの羨ましさに胸が張り裂けそうなのがよく伝わって来る。彼としては、オーカミがそれをさも当たり前だと思っていそうなところに、はらわたを煮えくり返しているのだろう。

 

 

「じゃあ私の分ちょっと食べる?」

「え」

「オーカの分作る時に作りすぎちゃってさ。私だけじゃ食い切れないし、どう?」

 

 

天使だ。

 

ここには天使がいた。

 

コントは心の底でそう叫んだ。

 

 

「いる!!!…とてもいる!!!……じゃあ卵焼きからお願いします!!」

「え、食べさせるの?」

 

 

ライの弁当の具から卵焼きを指名し、そのまま口を大きく開けて構えるコント。ライはまさかの注文に困惑する。

 

が、オーカミ程ではないが楽観的な性格の彼女は、すぐさま「まいっか」と、軽く流し、箸で卵焼きを取り、それをコントの口へと近づける。

 

 

「うっひょ〜〜幸せ!!」

「あっはは、まだ食べてないじゃん。はい、あ〜ん」

「あ〜〜」

 

 

その卵焼きが、間もなくコントの口に放り込まれようとした直後。

 

事件は起こる。

 

 

「ボールボルボルボル!!!」

「!」

 

 

突然教室の扉を開け、色気漂う女子生徒らに囲まれながらと共に入室して来た、奇怪な笑い声を上げるメガネもリーゼント頭が特徴的な長身の男子生徒に、この場にいたほとんどの生徒が仰天した。

 

 

「甲子園ダホウ!?」

「誰」

「オマエこの学園に入学したくせにそんな事も知らねぇのかよ。アイツは2年の甲子園ダホウ。現在の序列3位で、この学園を牛耳る、4人のカードバトラー集団『パワーフォース』の1人だ。なんでそんな奴が1年の教室なんかに……」

 

 

何も知らないオーカミに、コントが説明する。

 

教室に入室したダホウは、何かを探すように辺りをキョロキョロと見渡す。そして、オーカミらへその視線を向けると………

 

 

「あ、いた。ライちゃァァァァん!!」

「え」

 

 

視線を向けた先は、オーカミでもコントでもなく、ライだった。彼は発見後、勢い良く駆け出し、鼻息荒く、ライの眼前へと迫る。

 

 

「やっと会えた。近くで見るとより可愛いね」

「あ、あざます」

 

 

ライは困惑しながらも、一応返事。ダホウは動いて喋るライを近くで堪能し、うっとりしている。

 

 

「え〜〜ダホウ様こんなハムスターみたいな子がタイプなの〜?」

「ハムスター……」

「私らの方が良くない?」

「良くねぇ!!……オマエらはもうあっち行け、しっしっ!!」

 

 

ダホウは、ついさっきまで侍らせていた女子生徒らを適当に追い払うと、再びライの方へと熱い視線を向ける。

 

 

「ボールボルボルボル、春神ライちゃん。単刀直入に言うぞ、このオレ様、序列3位にしてパワーフォースの1人、甲子園ダホウ様の女になれ」

「!」

 

 

凄まじく直球ストレートな要求に、この場にいるだいたいの生徒らが驚く。

 

 

「え、嫌です」

「!」

 

 

それを真顔で、しかも即決してお断りするライに、今度はダホウを含めたほぼ全員が驚く。

 

しかし、オーカミの事が好きなライにとって、その返事は当たり前である。

 

 

「ほ、ほう……なんでかな。オレ様はこの学園の序列3位、つまり3番目に強い、学園のトップに立つ存在なんだよ」

「えっと、なんて言うかな。それは凄いと思うんだけど……」

「ま、まさか、他に好きな奴がいる、とか………」

「………」

 

 

無言で目線を逸らし、横で呑気に自分の作った弁当を食べているオーカミの方を見つめ、少しだけ頬を赤く染めるライ。

 

ダホウは、その目線の先に好意を持っている相手がいる事は察せなかったが、ライのその様子に、他に好意を持っている誰かがいる事だけは理解できて………

 

 

「ボォォォォォォル!!!……誰だそいつは、見つけ次第、即刻退学にしてやる」

「え、そんな事もできんのかよ、パワーフォースやべぇ」

 

 

退学にしてやると怒りの炎を燃やすダホウに対し、思わずそう呟いてしまったのはコントだった。彼は「うわヤバ」と思い、口を手で覆うが、今のダホウには、そこら辺の有象無象の言葉など全く耳に入って来なかったか、完全にスルーされて事なきを得た。

 

 

「そいつがいる場所を教えろライちゃん。徹底的に潰してやる。そんで持ってその後君はオレ様の女になれ」

「えぇと、それはちょっと困ると言うか、なんと言うか」

「ボールボルボルボル!!!……いいから来るんだよ」

「え、ちょちょちょ!?」

 

 

徐々に余裕がなくなり、強引な手段に走るダホウ。ライの手を掴み、無理矢理連れ出そうとする。

 

その彼の行為は、決してよろしいモノではない。寧ろ女性の気持ちを全く考えていない、紳士としては最低な行為だ。

 

しかし、何故なら彼は序列3位、パワーフォースの1人。逆らえば何をされるかわからない。が故に、この場にいる誰もが、それを咎め、止める事はできないし、しようともしない。

 

たった1人を除いては………

 

 

「おい」

「!」

「オーカ!!」

 

 

ライを連れ去ろうとしていたダホウの腕を掴み取り、彼を止めたのは、他でもない鉄華オーカミ。その表情は、いつもと変わらないクールなモノだが、雰囲気から、少しだけ怒っているのが伝わって来て。

 

 

「この手、何?」

「あぁん?…んだチビ、離せよ」

「この手、何?」

「いだだだだだだ、離せ、離せ!!」

 

 

オーカミは、彼の腕を万力の如く強く握り締める。あまりの激痛に、ダホウは思わず掴んでいたライの手を離し、解放してしまう。

 

それを見るなり、オーカミも握った手を離す。

 

 

「オーカ!」

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 

 

ライの無事を確認し、オーカミは取り敢えず一安心。だが、ダホウに対する怒りは消えずに………

 

 

「チビ。なんなんだよテメェは」

「こっちのセリフだ。いきなりなんだ」

「何度も言ってるだろ。その子はな、オレ様の女になるんだよ、いいからそこを離れ………ッ」

 

 

瞬間、ダホウは目にしてしまう。助けられたライが、オーカと呼ばれるチビの後ろにいる事を、そして、その距離の近さが異常である事を………

 

全てを察し、理解する。ライの好きな奴は、目の前のチビなのだと。

 

 

「ボォォォォォォル!!!……許さん、許さんぞチビィィィ!!」

「だからいきなり何」

「序列3位、パワーフォースの権限を持って、貴様を即刻退学にしてやる!!……オレ様に逆らった罰だ」

 

 

オーカミの退学を突如として宣言するダホウ。その状況を見て、流石にマズイと感じたか、コントは後方からオーカミへと助言する。

 

 

「オーカミ、いいから謝っとけ。パワーフォースには逆らうな!!」

「コント」

「この学園は、序列が全て。序列が高ければ大抵の事は容認される。1年で、しかも序列が低いオレらは、そこのダホウ様に従わないと行けないんだよ」

「へぇ」

「ボールボルボルボル、どうやらそこの金髪君はわかってるようだな。そう、この学園は序列が全て。そのトップ、パワーフォースのオレ様に、オマエ達は絶対服従しなければならないのだぁ!!」

 

 

この場で発言するのも、なかなか勇気が必要だったに違いない。コントは怖いモノ知らずのオーカミを止めるために必死であった。

 

 

「なぁオーカミ。彼女がNTRされて悔しいのはわかるけどよ、オマエの退学がかかってんだ。ここは引けよ、なぁ?」

「……」

 

 

コントの言葉に、オーカミは少しだけ考え込むと、またすぐに発言する。

 

 

「コント。序列って、どうやったら上がるんだ?」

「え、オマエそりゃ、お決まりの下剋上システムに決まってるだろ。序列の低い奴が、高い奴を倒せば、その高い奴の数字を手にできる………て、オマエまさか!?」

 

 

気づくのが遅かった。オーカミはもう既に懐から取り出したデッキを手に取っていた。

 

コントは思う。そうだコイツは、とことん怖いモノ知らずなのだと。

 

 

「成る程、この変なのにバトルで勝てばいいって事か。じゃあやろう、バトル」

「………は?」

 

 

やっちまった。

 

コントは滝のように流れる冷や汗を感じながら、心の中でそう呟く。この学園を牛耳る、4人のカードバトラー集団『パワーフォース』の1人を、たった今、オーカミは敵に回してしまったのだ。

 

 

「ボールボルボルボル!!!……オレ様に勝つ!?…何馬鹿げた事抜かしてんだこのチビ、余程痛い目を見たいらしいな、ボールボルボルボル、ボールボルボルボル!!!」

 

 

ダホウはオーカミの愚かな行為に、呆れ果てて笑い出す。他の生徒らも、まるで『何を言っているんだ』と言わんばかりの目線を彼に送る。

 

それ程までに、パワーフォースに逆らうと言う行為は馬鹿げているのだ。

 

 

「いいぜチビ。オレが勝ったらライちゃんはオレのモノだ」

「あぁ来いよ、叩き潰してやる」

「オーカ……?」

 

 

今にも始まりそうな、オーカミとダホウのバトル。

 

ライは、その怒りに満ち溢れたオーカミを見るなり、どこか懐かしい感覚になると同時に、嫌な予感も頭を横切った。

 

 

 

この感じ、フウちゃんの時と同じだ。

 

 

 

オーカミが怒りに満ち溢れながら行ったバトル、ライが覚えている限り、それは徳川フウとのバトル。そのバトルの後、オーカミは右半身付随となり、倒れた。

 

ライは、今回の件も、どこかそれと似たような雰囲気を感じ取った。それならば、このバトル、自分の身を犠牲にしてでも止めなくてはならないと、反射的に思い………

 

 

「オーカ、私なら大丈夫だから、無理しなくてい……」

「その行為はパワーフォースとしてガッチャじゃないぞ、ダホウ」

「!」

 

 

ー『無理しなくていいよ』

 

ライがオーカミのバトルを止めようと、そう声を掛けようとした直後、再び教室の扉が開き、また1人、入室して来た。

 

 

「……サンドラ」

「誰」

 

 

現れたのは「サンドラ」と呼ばれる少年。逆立った水色の髪と、季節外れのマフラーが特徴的である。

 

彼は、入室するなり、ダホウの喧騒などお構いなしで、オーカミらの元へ歩み寄り……

 

 

「鉄華オーカミ、そしてその仲間達。同僚がすまなかったな、悪い奴じゃないんだ、許してやってくれ」

「いや、だから誰」

「失敬、申し遅れた。オレの名は『新城(しんじょう)サンドラ』……2年の、ただのガッチャなカードバトラーだ」

「ガッチャ?」

 

 

『ガッチャ』と言う意味のわからない単語を使用する少年、サンドラ。オーカミとライは知らないようだが、この人物、実はダホウと同じ、もしくはそれ以上の知名度を誇っていて………

 

 

「新城サンドラ……嘘だろ、今度は序列2位、またパワーフォースの1人がこの教室に足を運ぶなんて」

 

 

コントをはじめとした他の生徒らは、またしても仰天していた。

 

そう。何を隠そうこの少年こそ、序列1位のキング王の次に強い、いや、もしかしたら彼に匹敵できる程の強さを持ったカードバトラー、序列2位、サンドラ。

 

 

「サンドラァァァ、何カッコつけてシャシャリ出てんだ。その子はオレ様のモノだ。ドケ」

「この子は無闇に権利と暴力を振りかざす君なんかより、横の少年、鉄華オーカミの横にいる方が幸せそうに見えるが」

「ボォォォォォォル!!!……うるせぇ!!」

「うるさいのは君だろ」

 

 

ダホウとは同僚と言っていたサンドラだが、どうやらその仲は別に良好ではない様子。

 

サンドラは聞き分けを持たないダホウに対して「はぁ」とため息をこぼすと、懐から己のBパッドとデッキを取り出して………

 

 

「仕方ない。ここは学園の中、揉め事はバトルで解決しよう」

 

 

ダホウにバトルを申し込むサンドラ。バトルスピリッツが絶対主義であるノヴァ学園において、バトルで揉め事を解決するのは、当たり前の行為である。

 

 

「ボールボルボルボル!!……いいなそれ、勝てばライちゃんと序列2位の称号、2つも貰えるわけだ。いいぜ受けて立ってやる」

「フ……そう来ないとガッチャじゃないよな。鉄華オーカミ、君の仲間、このバトルに賭けてもいいか?」

「うん、いいよ」

 

 

その気になるダホウ。

 

仲間を勝手に賭けても大丈夫かと言うサンドラの問い掛けに対し、オーカミは即決で了承。これから行われる2人のバトルに、ライが賭けられる事になる。

 

 

「おいバカタレ。何勝手に他人にライちゃんの命運を握らせてんだよ!?」

「大丈夫、なんかアイツは、任せてもいい気がする」

「大丈夫ってオマエ、そりゃ確かにアイツは序列2位だけども」

 

 

オーカミの判断に意を唱えたのはコント。サンドラが負けて仕舞えば、ライがダホウのモノになってしまうため、当然の意見である。

 

 

「私も、オーカが良いって言うならいいよ」

「えぇ、マジかよライちゃん」

「マジマジ!」

 

 

ダホウの女になるのが嬉しいわけないと言うのに、やっぱり楽観的なライ。Vサインを見せながら、コントに全く問題ない事を伝える。

 

 

「と言うわけで頑張って、ガッチャさん」

「あぁ、任せてくれお嬢さん。君を、鉄華オーカミと離れ離れにさせたりはしないさ」

「ボォォォォォォル!!!……ライちゃんに応援されるのは、オレ様の方だぞサンドラァァァ!!」

「フ……」

 

 

当然ではあるが、ライに応援されず叫ぶダホウ。そんな彼を鼻で笑うサンドラ。

 

その後、バトルを行う2人と、オーカミ、ライ、コントの合計5人は、教室を離れ、学園内にあるバトルスタジアムへと移動した。

 

 

******

 

 

移動後、サンドラとダホウは互いにバトル場へ立ち、Bパッドを己の腕に装着、そこにデッキを装填し、バトルの準備を進めて行く。

 

 

「ライ」

「ん、どしたオーカ」

「さっき、ひょっとして『無理しなくていいよ』って言おうとした?」

 

 

その光景を眺めながら、オーカミがライにそう訊いた。意外な質問に、ライは少々困惑して………

 

 

「え、あ、うん。あってるけど」

「オレがアイツに負けるって思ったの?」

「あぁごめん、そう言う事じゃなくてね……うん、そう言う事じゃないんだけどさ」

 

 

ライに信じてもらえてないと思い、少しばかりショックを受けていたらしいオーカミ。

 

だが違う。ライはどんな時でもオーカミは勝ってくれると信じている。それの代償にオーカミを失う事が、余りにも嫌過ぎるだけだ。そんな事を直接伝えられるわけもなく、今はただお茶を濁し続ける。

 

 

「まさか、この目で直に序列2位と3位のバトルを観る事ができるなんてな」

「そんなに凄いのか?」

「凄いだろバカタレがよ。後オマエ、ホントバカタレ。パワーフォースの1人を完全に敵に回しやがって。絶対ただじゃ済まされねぇぞ」

「まぁ大丈夫だろ」

 

 

危機感の全くないオーカミにコントは呆れ、ため息をこぼす。

 

そんな折、遂にバトル場に立つ2人のバトルの準備が完全に整ったようで………

 

 

「鉄華オーカミ。どこかで聞いた事のある名前だと思っていたが、アレか、入学式でキングに喧嘩を売ったアホウの事か。ボールボルボルボル、成る程、コイツは確かに噂通りのアホウだ」

「アホウは君だろ」

「オレ様の名前はダホウだ!!…さっさと始めるぞ、サンドラ!!」

「フ……オレに見せてみろ、君のガッチャ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

ノヴァ学園内に存在するバトルスタジアムにて、序列2位、新城サンドラと、序列3位、甲子園ダホウによる、春神ライを賭けたバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はダホウだ。ライを自分のモノにするべく、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]甲子園ダホウ

 

 

「メインステップ。ボールボルボルボル、さぁプレイカードだ。緑属性の創界神ネクサス、変身怪人ゼットン星人を配置」

 

 

ー【変身怪人ゼットン星人[初代ウルトラ怪獣]】LV1

 

 

最初のカード。ダホウの背後に現れたのは、黒いスーツを着こなす黒い怪人、ゼットン星人。

 

鉄華団のオルガやクーデリア&アトラと同じく創界神ネクサスカードの1種だ。

 

 

「配置時の神託でコアを2つ追加。ターンエンド」

手札:4

場:【変身怪人ゼットン星人[初代ウルトラ怪獣]】LV1(2)

バースト:【無】

 

 

ダホウはそれ以外は何も行わず、そのままターンエンド。初ターンでの創界神ネクサスの配置は、かなり良いスタートを切ったと言える。

 

次はサンドラのターンだ。キング王に匹敵する力を持つ彼の実力や如何に。

 

 

[ターン02]新城サンドラ

 

 

「メインステップ。早速だ、君に見せてやろう、オレのガッチャ」

 

 

サンドラは対戦相手のダホウではなく、観戦しているオーカミに僅かな視線を送ると、手札にある1枚のカードを引き抜き、それを己のBパッドと叩きつけた。

 

 

「召喚、契約ライダースピリット、ガッチャード スチームホッパー」

 

 

ー【仮面ライダーガッチャード スチームホッパー】LV1(1)BP3000

 

 

身体中から噴き出る蒸気を纏いながら、サンドラのフィールドへと出現したのは、青色の装甲を持つライダースピリット、ガッチャード。

 

そして、これは世にも珍しい、契約スピリットの1種。しかもライダースピリットである。

 

 

「契約のライダースピリット、初めて見た」

「私も」

 

 

ノヴァ学園入学以降、契約スピリットに見慣れて来たオーカミとライの2人。サンドラの契約ライダースピリットを見ても、そのリアクションは小さい。

 

 

「アタックステップに入る、契約ガッチャードでアタック。その効果でカウント+2、自身のコスト以下の相手スピリット1体を破壊」

 

 

早速アタックステップに突入し、契約ガッチャードでアタックを行うサンドラ。その効果で自身のコスト以下、つまりコスト2以下のスピリットが破壊可能だが、今のダホウのフィールドにはスピリットがいないため、それは不発。

 

しかし、このバトルにおいては、カウントの増加と言う行為に意味があって………

 

 

「オレのカウントが増え、2以上になった時、手札にあるこのスピリットカード、三賢神ラルヴァンダードの効果を発揮。1コストを支払い、自身を召喚」

 

 

ー【三賢神ラルヴァンダード】LV1(1S)BP3000

 

 

神々しく輝く黄金の装飾に黄金の髪を持つ人型のスピリット、三賢神ラルヴァンダードが、腕を組み、サンドラのフィールドへと召喚される。

 

このスピリットは、カウント増加をメインに据えるデッキにとってはお馴染みと言えるスピリットであり………

 

 

「この効果で召喚した時、1コアブースト&1ドロー」

 

 

召喚されたラルヴァンダードの効果により、ボイドからコア1つをラルヴァンダードに追加し、さらには1枚のドローまで行うサンドラ。

 

一見すると大した動きはしていないように見えるが、コアを使い、カードを操るこのカードゲームにおいて、たった1枚でコアブーストとドローを両立できる事は、実はかなりのアドバンテージを得ているのだ。

 

対面しているダホウも、当然それを理解している。

 

 

「初手にラルヴァンか。上振れてんな」

「君程じゃないさ。契約ガッチャードのアタックは継続されているぞ」

「聞かれるまでもない。そいつはライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉甲子園ダホウ

 

 

契約ガッチャードの重たい拳の一撃が、ダホウの五重に重なっているライフバリアに炸裂。その内1枚がひび割れ、破壊された。

 

 

「ターンエンド。先ずは1点」

手札:4

【仮面ライダーガッチャード スチームホッパー】LV1

【三賢神ラルヴァンダード】LV1

バースト:【無】

カウント:【2】

 

 

「フン、たかが1点でいい気になるな」

 

 

互いに1ターンを終え、サンドラがやや優勢と言った状況で、ダホウの二度目のターンが幕を開ける。

 

 

[ターン03]甲子園ダホウ

 

 

「メインステップ。地底怪獣テレスドンをLV1で召喚」

 

 

ー【地底怪獣テレスドン[初代ウルトラ怪獣]】LV1(1)BP3000

 

 

地底から飛び出して来たのは、巨大な体格を持つ、ウルトラ怪獣のスピリット、テレスドン。

 

さらにダホウは、続けざまに手札のカードをBパッドへ叩きつけて……

 

 

「さらにもう1体、宇宙怪獣ベムラーをLV1で召喚」

 

 

ー【宇宙怪獣ベムラー[初代ウルトラ怪獣]】LV1(2)BP3000

 

 

天空より降り立つ青い球体。それはフィールドと衝突するなり破裂し、中より、巨大で細長い体格を持つウルトラ怪獣のスピリット、ベムラーが出現。テレスドンの横へと並び立つ。

 

 

「ベムラーの召喚時効果、ベムラーとそれ以外の初代ウルトラ怪獣1体に1つずつコアブースト。そしてこの瞬間、創界神ネクサス、変身怪人ゼットン星人の【神域】が発揮。ベムラーの2体に1つずつコアブーストする効果を、2つずつコアブーストする効果に変更」

「!」

「ボールボルボルボル。つまり合計4つ、テレスドンとベムラーに2つずつコアブーストし、それぞれLV2へアップ」

「コアブーストの数を増やしやがった!?」

 

 

コアブーストする数を増やす効果を持つ創界神ネクサス、変身怪人ゼットン星人。その破天荒な効果に驚いたのは、同じく緑属性のデッキ持つ光裏コント。

 

 

「アタックステップ。テレスドンでアタック。その効果でラルヴァンダードを疲労させ、トラッシュのコア1つをボイドに置く事で、デッキ上から1枚ドロー」

 

 

スピリット2体のLVを上げた所で、攻撃を仕掛けて来るダホウ。テレスドンの甲高い咆哮が空を震撼させ、サンドラのラルヴァンダードに片膝をつかせる。

 

 

「そしてLV2のアタック時効果。疲労状態のスピリットを指定アタックできる。ラルヴァンダードをかっ飛ばせ」

 

 

相手スピリットに直接攻撃を仕掛ける指定アタックの効果を併せ持つテレスドン。

 

かっ飛ばす事はなく、口内から吐き散らした爆炎でラルヴァンダードを焼却。

 

 

「ベムラーを守備で構え、ターンエンド」

手札:4

場:【地底怪獣テレスドン[初代ウルトラ怪獣]】LV2

【宇宙怪獣ベムラー[初代ウルトラ怪獣]】LV2

【変身怪人ゼットン星人[初代ウルトラ怪獣]】LV2(4)

バースト:【無】

 

 

「相変わらず、序盤は徹底してライフを狙いに行かないんだな」

「ボールボルボルボル。そりゃそうさ、それがバトルスピリッツにおける最も強い動きだからな」

 

 

残ったスピリットでサンドラのライフは狙わず、ダホウはそのターンをエンド。再びサンドラのターンが始まる。

 

 

[ターン04]新城サンドラ

 

 

「メインステップ。契約スピリットの真髄を見せてやろう」

 

 

そう告げると、サンドラは手札から1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

「【契約煌臨】発揮。契約ガッチャードを、ガッチャード バーニングゴリラに契約煌臨」

 

 

ー【仮面ライダーガッチャード バーニングゴリラ】LV1(1)BP6000

 

 

契約ガッチャードがベルトのバックルへ2枚のカードを装填。バックルの両サイドを押し込み、新たな姿へと変身。

 

炎の剛腕を持つ、ガッチャード バーニングゴリラへと姿を変えた。

 

 

「バーニングゴリラの召喚煌臨時効果。カウント+1、デッキ上から4枚をオープンし、その中にある系統に「創手」を持つライダースピリットカード1枚を手札に加える。オレはこの中にある「ファイヤーガッチャード」を手札へ、さらにバーニングゴリラのOC効果。オープンされたケミー「ホッパー1」と「スチームライナー」の2枚も手札へ」

「チッ……一気に3枚も手札に加えやがったか」

 

 

煌臨時の効果で大量に手札を増やす事に成功したサンドラ。しかし、前のターンにラルヴァンダードを潰された上、ライフも破壊されていないため、それらを使う余裕は余りなさそうで………

 

 

「バーニングゴリラのLVを2へアップさせ、このままアタックステップへ入る。バーニングゴリラでアタック、煌臨元の契約ガッチャードの効果を引き継ぎ、それを発揮。カウントを+2し、自身のコスト以下のテレスドンを破壊」

 

 

他にカードは使わず、アタックステップに突入するサンドラ。

 

バーニングゴリラのコストは4。契約ガッチャードの効果でコスト4以下のスピリット、テレスドンが破壊の対象に指定され、その炎の剛腕によって上から叩き潰されて爆散させられるが。

 

 

「なに、ブロッカーとして残っているベムラーを破壊しないのか!?」

 

 

コントがまたリアクションする。

 

確かに、普通のプレイングであれば、破壊の対象は、疲労しているテレスドンではなく、回復状態のベムラーで間違いはないが。

 

 

「いや、ベムラーはLV2の時、相手の効果でフィールドを離れる瞬間、手札から初代ウルトラ怪獣をノーコストで召喚できる効果を持ってる。だから破壊はテレスドンでいいんだよ。アタック時にドローもできなくなるしね」

「ッ……そこまで考えてるのかよ」

 

 

それに答えたのはライ。コントに、サンドラのプレイングが間違ってはいない事を伝え、納得させる。

 

 

「その温い攻撃はライフで受けてやるよ。ありがたく思うんだな」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉甲子園ダホウ

 

 

バーニングゴリラの剛腕による一撃が、今度はダホウのライフバリアに炸裂。その数は残り3つとなる。

 

 

「ターンエンド」

手札:7

場:【仮面ライダーガッチャード バーニングゴリラ】LV2(3)BP8000

バースト:【無】

カウント【5】

 

 

カウントと手札を伸ばしつつ、ダホウのライフを少しずつ削って行くサンドラ。

 

バトルは次で5ターン目。ダホウのターン、何か大きなモーションがあるのであれば、このターンからであり………

 

 

[ターン05]甲子園ダホウ

 

 

「メインステップ。先ずは2体目のベムラーを召喚」

 

 

ー【宇宙怪獣ベムラー[初代ウルトラ怪獣]】LV1(2)BP3000

 

 

「召喚時でまたまた2個ずつコアブーストだぁ。ボールボルボルボル!!」

 

 

2体目となるベムラーを召喚するダホウ。その効果によってベムラー2体に2つずつ、合計4つのコアブーストを再び行った。

 

 

「さらに増えたコアを使い、最高の監督を呼ぶぜ」

「監督?」

 

 

おそらくカードの事であろうが「監督」と言う単語に、オーカミは疑問符を浮かべる。

 

それが何かを知っているサンドラは、この状況を鼻で笑い「来るか」と、クールに一言。

 

 

「来い、最凶の指揮官、最高な監督。悪質宇宙人メフィラス星人、LV2で召喚」

 

 

ー【悪質宇宙人メフィラス星人[初代ウルトラ怪獣]】LV2(2)BP8000

 

 

どこからともなくフィールドに出現したのは、黒い皮膚を持つ巨大な宇宙人、メフィラス。

 

その効果は、ダホウが「監督」と呼称するのに相応しい効果であり………

 

 

「メフィラス監督の召喚アタック時効果を発揮。デッキ上2枚オープンし、その中にある初代ウルトラ怪獣を好きなだけノーコストで召喚できる」

 

 

これはドラフトを再現した効果だ。

 

メフィラスは何もない空間から四角い箱を作り出すと、そこへ手を突っ込み、2枚のカードを引き抜く。そしてそのカードは、実際にダホウがデッキ上からオープンしたカードと連動しており……

 

 

「ボールボルボルボル、オレがオープンしたのはバルタン星人と、当デッキ4番のエース、宇宙恐竜ゼットン!!」

「フ……良い選手を引き抜けたようだな」

「笑ってる場合じゃないぞサンドラァァァ、オレはこの2体をノーコストで召喚だ」

 

 

ー【宇宙忍者バルタン星人[初代ウルトラ怪獣]】LV2(2)BP8000

 

ー【宇宙恐竜ゼットン[初代ウルトラ怪獣]】LV2(3)BP15000

 

 

メフィラスのドローしたカードがスピリットへと変化。地響きと共に、ダホウのフィールドへと追加で招集されたのは、蝉のような見た目に大きなハサミが特徴的なスピリット、バルタン星人と、無機質な音で鳴く、カミキリムシのようなツノを持つ宇宙恐竜、ゼットン。

 

 

「バルタン星人の召喚時効果。バーニングゴリラを重疲労させ、1枚ドロー」

 

 

バルタン星人は登場するなり、ハサミのような手からエネルギー弾を発射。それに被弾したバーニングゴリラは両膝をつき、二度の回復でようやく回復状態となる、重疲労状態へと陥ってしまう。

 

 

「デッキ上からバカデカスピリットを2体も召喚しやがった!?」

「へぇ、アイツ結構強いな」

「感心してる場合か!!…つかそりゃそうだろバカタレ、パワーフォースなんだから!!」

 

 

サンドラのピンチに呑気なオーカミ、騒ぐコント。

 

そんな中、ダホウは大量に展開したスピリット達で、遂にライフを砕くためのアタックを開始する。

 

 

「アタックステップ。ゼットンでアタックするぜ、ボールボルボルボル!!」

 

 

ダホウの指示に従い、戦闘態勢に入るゼットン。胸部の光体から火の玉を発生させ、それを知らぬ間に取り出した鉄製のバットで打ち放つ。

 

その炎の打球は、真っ直ぐにサンドラのライフバリアへと飛んで行き……

 

 

「ライフで受ける」

「ゼットンはダブルシンボル、ライフを2つ砕くぜ」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉新城サンドラ

 

 

炎の打球はそのままサンドラのライフバリアへ直撃。一気に2つも砕け散った。

 

大量展開した後、それらで一斉に攻撃を仕掛ける事を主戦略とするダホウ。このバトルもその例に溺れず、残されたスピリットで追撃を仕掛けて来るに違いない。

 

故に、このまま何もなければ、サンドラの敗北となってしまうが………

 

 

「オレのライフが減少した事により、手札にある絶甲氷盾の効果をノーコストで発揮」

「!」

「このターンのアタックステップを強制終了」

 

 

そんな事はなく、しっかりと白の汎用防御マジックでそれをケア。

 

多数の大型スピリットを並べたダホウだったが、このターンをエンドと言わざるを得なくなった。

 

 

「フン。相変わらず運の良い奴だ。オレはこれでターンエンド」

手札:4

場:【宇宙恐竜ゼットン[初代ウルトラ怪獣]】LV2

【宇宙忍者バルタン星人[初代ウルトラ怪獣]】LV2

【悪質宇宙人メフィラス星人[初代ウルトラ怪獣]】LV2

【宇宙怪獣ベムラー[初代ウルトラ怪獣]】LV1

【宇宙怪獣ベムラー[初代ウルトラ怪獣]】LV1

【変身怪人ゼットン星人[初代ウルトラ怪獣]】LV2(7)

バースト:【無】

 

 

結果的に4体ものブロッカーを残しつつ、ターンエンドの宣言をする事となったダホウ。

 

次は『絶甲氷盾〈R〉』の効果により、この場をライフ2つの減少のみで凌いで見せたサンドラのターンだが………

 

 

「ボールボルボルボル。だが、オマエ自慢の契約ガッチャードは煌臨先共々、バルタン星人の効果により重疲労状態。次のターンを迎えても疲労状態のままだ」

 

 

そう。

 

契約スピリットの重疲労状態。これは、契約スピリットが最も辛いとされる状況なのだ。

 

単純に破壊、消滅、バウンスなどで除去されたとしても【契約煌臨】によって魂状態からの復帰が可能な契約スピリットだが、疲労状態のままフィールドに残ると、その煌臨先も疲労状態になるため、結局そのターンでのアタックは不可能。

 

要するに、重疲労、契約スピリットのアタックを封じる行為が、最も契約スピリットのデッキに対して有効な手なのである。

 

 

「フ……ダホウ、君のガッチャは悪くないが、1つだけ見落としている事がある」

「なに?」

「オレが前のターン、バーニングゴリラの召喚煌臨時効果で手札に加えたカードはなんだったかな」

「……そうか、ホッパー1か」

 

 

しかし、それに対して何かカウンターがあるのか、サンドラは不敵に笑う。

 

ダホウもそれが何かを理解したのか、納得し、そのカード名を口にする。サンドラはそんな彼に対し「御名答だ」とだけ返答すると、巡って来た己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン06]新城サンドラ

 

 

「メインステップ。先ずは手札から緑のブレイヴ、インセクトケミー ホッパー1を召喚」

 

 

ー【インセクトケミー ホッパー1】LV1(1)BP3000

 

 

片膝をつくバーニングゴリラのみが存在するサンドラのフィールドに、1匹のバッタ型のブレイヴが姿を見せる。

 

その名はホッパー1。ガッチャードと友好な関係を築いているケミーの1種。

 

 

「緑のブレイヴ?……アイツ、青デッキじゃないのか」

「基本は青さ。だがガッチャードは、ケミーと呼ばれる各色に存在するブレイヴと力を合わせる事で、その真価を発揮する」

 

 

また疑問符を浮かべるオーカミに対して、サンドラがそう言い返すと、彼は召喚したてのホッパー1の効果を発揮させて行く。

 

 

「ホッパー1の召喚時効果。カウント+1、その後、魂状態、煌臨元の契約ガッチャード1枚を1コスト支払って召喚する。オレはバーニングゴリラの煌臨元にある契約ガッチャードを召喚、そのままホッパー1と合体する」

 

 

ー【仮面ライダーガッチャード スチームホッパー+インセクトケミー ホッパー1】LV1(1)BP9000

 

 

バーニングゴリラが光輝くと、まるで幽体離脱の如く契約ガッチャードが抜け出し、新たにフィールドへ召喚。

 

さらにホッパー1はそれと合体。カードと化し、契約ガッチャードのベルトのバックルへと装填された。

 

 

「新たに召喚された契約ガッチャードは、当然回復状態。これで重疲労の呪縛から解き放たれた」

「ぐ……ッ」

「続けて、白属性、ビークルケミー スチームライナーを召喚し、これも契約ガッチャードに合体」

 

 

ー【仮面ライダーガッチャード スチームホッパー+インセクトケミー ホッパー1+ビークルケミー スチームライナー】LV1(1)BP16000

 

 

黒々とした巨大な列車型のケミーブレイヴ、スチームライナー。召喚されるなりカード化され、ホッパー1と同様、契約ガッチャードのベルトのバックルへと装填された。

 

 

「すご、契約スピリットでダブル合体」

 

 

ライがダブル合体に対してそう反応する。確かに、2体のブレイヴと合体できるスピリットなど、滅多にお目に掛かれるモノではない。それが契約ライダースピリットであれば尚更だ。

 

 

「そして【契約煌臨】を発揮、フィールドの契約ガッチャードに、このカード、ファイヤーガッチャードを契約煌臨……!!」

 

 

ー【仮面ライダーファイヤーガッチャード スチームホッパー+インセクトケミー ホッパー1+ビークルケミー スチームライナー】LV1(1)BP17000

 

 

契約ガッチャードは、ベルトに新たなアイテムを装着。それをまた両サイドから押し込み、その姿を、逆巻く炎を思わせる装甲を纏う、ガッチャードの強化形態の1つ、ファイヤーガッチャードに変化させる。

 

 

「ファイヤーガッチャードの煌臨時効果、フィールドの、カード名の異なるケミー1体につに1つ、コアブースト。今いるケミーはホッパー1とスチームライナーの2体、よってコア2つをファイヤーガッチャードに追加し、LV2にアップ」

 

 

ケミーの数分コアブーストを行う、ファイヤーガッチャードの煌臨時効果。それによりLV2へアップ、BPは22000にまで上昇した。

 

 

「アタックステップに入る。ファイヤーガッチャードでアタック。先ずはスチームライナーの【合体中】効果、ホッパー1との合体中なら、相手の創界神ネクサス1つのコアを全てボイドに置く」

 

 

フィニッシュに向けて動き出すサンドラ。スチームライナーの効果により、ダホウの創界神ネクサス、変身怪人ゼットン星人の上に置かれていたコアが全てボイドへと消え去る。

 

そして、当然ながら、ダブル合体したスピリットのアタック時効果がこれだけで終わるわけなくて……

 

 

「ホッパー1の【合体中】効果、スチームライナーと合体中なら、シンボルを1つ追加、さらにコスト7のファイヤーガッチャードとの合体により、もう1つ追加」

 

 

次はホッパー1の効果を発揮。アタック中のファイヤーガッチャードは青のトリプルシンボルとなる。

 

 

「煌臨元の契約ガッチャードのアタック時効果、カウント+2、破壊はなし。この瞬間、ファイヤーガッチャードの【OC7】の条件を満たしたため、効果発揮。このターンの間、相手は効果でアタックステップを終了できず、オレのカウント2につき、リザーブのコア1つをトラッシュに置かなければブロックできない」

「ぐぬぬ……!」

「今のオレのカウントは8。よって君はこのターン、リザーブのコアを4つトラッシュに置かなければ、オレのスピリットをブロックできない」

 

 

要するに、トリプルシンボルでブロックされづらいと言う事だ。

 

今現在、ダホウのリザーブのコアは0。5体もの大群を並べているが、その内の誰もが、今のファイヤーガッチャードを止める事はできない。

 

フィールドでは、ファイヤーガッチャードが背部のX型のブースターを噴射させ、音速を超える速度で突き進んで行く。

 

ダホウの残りライフは3。ファイヤーガッチャードのシンボルも3。この攻撃が決まれば、サンドラの勝利となるが………

 

 

「オレのライフが一度に3つ以上減少する時、手札にあるフェイタルダメージコントロールの効果を発揮」

「!」

「これを破棄し、フラッシュ効果を使う。このターン、オレのライフは一度のアタックでは1しか減らない。ファイヤーガッチャードのアタックはライフだ。ぐぉぉ!!」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉甲子園ダホウ

 

 

まだ決まらない。

 

音速を超えたファイヤーガッチャードの体当たりは、そのままダホウのライフバリアを粉砕するが、直前で展開された半透明の別のバリアが緩衝材となり、その減少数は3から1となる。

 

 

「アイツ、サンドラの渾身の一撃を凌ぎやがった!?」

「面白くなって来たな」

「いや面白くねぇよ、アイツが負けたらライちゃんがダホウのモノになるんだぞ!!」

「次のあのリーゼントさんのターンが楽しみだな」

「ライちゃん!?」

 

 

白熱して来た序列2位と3位のバトル。2人の高度なバトルスピリッツに、オーカミとライは釘付けになる。

 

 

「フ……流石だなダホウ。ターンエンドだ」

手札:4

場:【仮面ライダーファイヤーガッチャード スチームホッパー+インセクトケミー ホッパー1+ビークルケミー スチームライナー】LV2

【仮面ライダーガッチャード バーニングゴリラ】LV1

バースト:【無】

カウント:【8】

 

 

一方、渾身の一撃を回避され、逆にピンチに陥ってしまったサンドラ。だが彼は冷や汗1つかかず、寧ろ小さな笑みを浮かべていた。

 

 

「ボールボルボルボル、当然だ。次のターン、オレ様の逆転満塁ホームランを見せてやる、そして序列2位の称号とライちゃんを貴様からもぎ取るのだ」

 

 

攻撃を凌いだ勢いに乗ったまま、反撃のターンを迎えようとするダホウ。

 

しかし、その直後だった。

 

バトルを堰き止めるかのように、どこからともなく、フィールドに1体のスピリットが乱入して来てのは………

 

 

「ッ……コイツは」

「デスティニーガンダム」

 

 

乱入して来たスピリットは、美しい機翼を羽ばたかせるモビルスピリット、デスティニーガンダム。

 

これの使い手を、ノヴァ学園では知らぬ者などいない。オーカミに関して言えば、このスピリットは因縁とも言うべき存在であり………

 

 

「こんな所で何を遊んでいるんだ貴様ら。キング王の呼び出しだ、さっさとパワーフォースルームに集え」

 

 

デスティニーガンダムを操る銀髪の少年。名は獅堂レオン。

 

ノヴァ学園の序列4位にして、パワーフォースの1人。

 

そして、鉄華オーカミのライバルの1人でもある。

 

 

「ゲッ……獅堂」

 

 

オーカミは彼の顔とデスティニーガンダムを視認するなり、嫌そうで面倒くさそうな表情を浮かべた。

 

 




次回、第71ターン「デスティニーガンダム・メサイア」


******


《キャラクタープロフィール》

春神(はるかみ)ライ】
性別:女
年齢:14
身長:154cm
誕生日:7月1日
使用デッキ:【エアリアル】
概要:知らない間に完全にメインヒロインの立ち位置に定着してた凄いキャラ。第1章から1年と半年が経過し、色々女性らしくなった。ノヴァ学園編からは、多くの男性キャラに言い寄られる場面が増えたが、彼女は常にオーカミ一筋。


******


オトナシさんから素敵なイラストをいただきました!!

【挿絵表示】
『鉄華オーカミ(ノヴァ学園編)』

いわゆるファンアートは初めてで、はちゃめちゃに嬉しいです。ありがとうございます!!!


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第71ターン「デスティニーガンダム・メサイア」

春神ライを賭けて行われた、新城サンドラと甲子園ダホウによるバトルスピリッツ。

 

序列2位と3位の肩書は伊達ではなく、互いに高度な戦術を駆使し、読み合いを続けながら一進一退の攻防を繰り広げた。

 

しかし、その最中、それを妨げるかの如く、機翼羽ばたかせるモビルスピリット、デスティニーガンダムと、使い手たる獅堂レオンが現れて………

 

 

******

 

 

「こんな所で何を遊んでいるんだ貴様ら。キング王の呼び出しだ、さっさとパワーフォースルームに集え」

 

 

左腕に装着したBパッドでデスティニーガンダムを召喚し、サンドラとダホウのバトルを妨げたレオン。それを見るなり、バトルを観戦したオーカミの表情は嫌そうな顔に歪む。

 

 

「ゲッ……獅堂」

 

 

界放市にいた頃からそうだが、オーカミはレオンが苦手。

 

理由は単純で、絡みがウザいからである。

 

 

「ボォォォル!!…おいレオン、どう言うつもりだ。このオレ様の逆転満塁ホームランを邪魔しやがって!!……もうちょっとでライちゃんはオレ様のモノだったんだぞ」

 

 

デスティニーガンダムの乱入により、バトルは強制終了。ライダースピリットのガッチャードをはじめ、召喚されていた全てのスピリット達が粒子化して消滅。

 

その直後に怒りの声を上げたのは、序列3位の甲子園ダホウ。

 

 

「ハッ……貴様ら、女のためにバトルしてたのか、誇り高きパワーフォースが訊いて呆れるぜ」

「ふざけんなボォォォル!!…序列4位のクセに生意気だぞ!!」

「何勘違いしてんだダホウ。オレは甘んじて4位に収まってやってるだけだ。貴様程度ならいつでも蹴落とせる」

「ボォォォル!!……なら今ここで決着をつけるか!!!」

「いいだろう、我が魂を見せてやる!!」

 

 

会話しながらヒートアップして行く2人。レオンは自分が何をしに来たのかも忘れ、ダホウへ向けてBパッドを構えるが………

 

 

「やめないか2人とも。レオン、オマエはオレ達をキングの元へ連れて行くために来たんじゃなかったのか?」

「おっと、そうだった。すまんなサンドラ」

 

 

一触即発だった2人をサンドラが制止させる。

 

それらの会話を聞き、バトルを観戦していたオーカミのクラスメイトの金髪の少年、光裏コントは、レオンの正体に気づく。

 

 

「アイツ、序列4位の獅堂レオン。なんて日だよ、パワーフォースの内3人が集まるなて」

「へぇ、レオンが序列4位だったんだ」

「え、ライちゃんアイツと知り合いなの?」

「そりゃ私とオーカミはね。界放市出身だから」

「あ、そっか。じゃあオーカミはアイツと何度もバトルした仲って事か」

 

 

パワーフォースで序列4位の獅堂レオンが、界放市出身である事実は薄れつつあるのか、コントはライとの会話で、オーカミとレオンの関係性をある程度察する。

 

 

「キングの呼び出しとあれば、このバトルは中止だな。行くぞダホウ」

「ボォォォル!!…オレに指図するなサンドラ。鉄華オーカミ、次はテメェを直接潰す、首を洗って待ってろよ」

「ん、わかった」

「ガッチャじゃないからそう言うのやめろダホウ。すまない鉄華オーカミ、また会おう」

「あぁ。オマエ達とバトルできるの楽しみだ」

「ライちゃァァァん!!……また迎えに来るからねぇぇぇぇえ!!!」

 

 

オーカミにそう言い残し、サンドラとダホウはこの場から去って行く。

 

執拗にライを狙うダホウにイラついていたオーカミだったが、2人のバトルを見て、バトルをするのが楽しみになったか、その表情は比較的晴れやかだった。

 

しかし、その表情は、レオンのせいでまた歪むことになり………

 

 

「フフ……フハハハハ!!!……やはり来たかオーカミよ!!」

「悪いけど、もうすぐ昼休み終わるから帰っていい?」

「よくない。少しオレと話していけ」

 

 

オーカミの眼前まで勢いよく走って来たレオン。オーカミは嫌そうな顔を見せ、すぐさま逃げようとするが、レオンに首根っこを掴まれ、捕えられる。

 

 

「と言うか春神ライ。貴様何故この学園にいる、歳はオーカミよりさらに1つ下だろう」

「んなもん飛び級したに決まってるっしょ。わ、私とオーカミはずっと一緒なんだから」

 

 

オーカミを捕まえたレオンが、ライに訊いた。当然の疑問である。

 

それに対してライは指先をもじもじしながら、凄まじく嬉しそうにそう返答した。オーカミと一緒に居られる喜びを噛み締めているのだろう。

 

 

「フン、成る程な。オレと貴様もずっと一緒だぞ、オーカミ」

「いや、オマエはいいかな」

「フハハハハ!!……いい顔だな、そうやって互いに皺を作りながら戦いのロードを築いていくのだ」

「わかったから離せよ」

「オレはこの学園でキングと出会い、その強さに触れる事で、さらなる力を手に入れた」

「だから離せって」

「今日、オレは挑戦者と一戦交える予定がある。場所はこの第二バトルスタジアムだ。強くなったオレと我が魂を見せてやる、必ず観に来い」

 

 

マシンガントークを終え、言いたい事だけ言い終えると、レオンはオーカミを解放。高笑いしながらこの場から去って行った。

 

 

「2年くらい経ったのに、相変わらずだなアイツ」

「オーカミ、オマエって、やっぱ結構すごい奴だったんだな、あの獅堂レオンと対等に話すなんてよ」

「今のどの辺が対等だったの」

 

 

昔と全く変わっていないレオンに呆れるオーカミ。コントは、そんなオーカミがレオンと対等に話していた様子に感服する。

 

 

「でさオーカ、レオンのバトル、観に行くの?」

 

 

ライがオーカミに訊いた。

 

 

「行かない」

 

 

オーカミはそれを即答。レオンの誘いを断固拒否する。

 

 

「いやいや、流石にそれはバカタレだろ。パワーフォースのバトルは滅多にお目にかかれないんだぞ」

「オレはアイツのバトル死ぬ程見たからいいよ」

「獅堂レオンも強くなったって言ってたろ。絶対連れて行ってやるからな!!」

「えぇ……」

 

 

断固拒否はしたものの、結局コントの強引な誘いにより、放課後に行われるレオンのバトルを見学する羽目になった。

 

 

 

******

 

 

パワーフォース。

 

それは、ノヴァ学園の序列1位から4位のトップ4で構成されたカードバトラー集団。1人1人が教師よりも強い権限を有しており、この学園を支配、管理している。

 

リーダーに君臨するのは、学園最強のカードバトラー、その名の通り王の中の王、キング王。

 

彼は今、学園内にあるとある一室で『玉座』とも称する事ができる、豪華絢爛な座椅子に腰を下ろしている。そのすぐそばには、それに支えるかのように、序列2位の新城サンドラと、序列3位の甲子園ダホウが立ち尽くしている。

 

そして、最後の1人である序列4位、獅堂レオンが、部屋のドアを豪快に開け、入室。ここに、パワーフォースの4人が集結した。

 

 

「フ……待たせたなキング」

「ボォォォル!!…何が待たせたなだ、バトルを止めた挙句遅刻しやがって」

「貴様には言ってないぞアホウ」

「オレはダホウだボォォォル!!」

「よさないか2人とも、キングの前だぞ」

 

 

言い争うレオンとダホウ。それを止めるサンドラ。無言でそれを見守るキング。

 

これがパワーフォースの4人のいつもの日常。その強さと権限の高さ故に、周囲の生徒らから尊敬されつつも、恐怖も抱かれている彼らであるが、こうした年相応の少年らしい面も持ち合わせている。

 

 

「ようやく、4人揃ったな。早速始めよう」

 

 

しかし、その和んだ雰囲気はキングの一言で一蹴。

 

皆真剣な眼差しを彼へと向ける。

 

 

「今日、オマエ達を呼び出したのは他でもない、この学園のコントラクターを探し、その力を確認して欲しい」

「コントラクター、貴様やサンドラのような、契約スピリットに選ばれたカードバトラーの事だったか」

「あぁ、その通りだ」

 

 

キングが他のパワーフォースに頼んだのは、コントラクターの捜索と、その実力の確認。

 

コントラクターとは、契約スピリットと契約したカードバトラーの総称である。

 

 

「確かに、契約スピリットに選ばれるカードバトラーは強者が多い。それ故にこの学園はコントラクターが集いやすいが、その力を確認して何になる」

 

 

サンドラがキングに訊いた。彼の言う通り、実力を確認するだけでは全く意味のない行いに思える。

 

 

「この学園に潜む脅威を見つけるためだ」

「脅威?……ボールボルボルボル、オレらパワーフォースがいるこの学園に脅威だと?…キングも冗談とか言うんだな」

 

 

キングのその返答に、ダホウが高笑いする。

 

去年、キングを始め、他のパワーフォースらの実力を嫌と言う程思い知った彼は、自分らを脅かす存在などいないと言う確固たる自信を持っているのだ。

 

 

「侮るなダホウ。奴は王者(レクス)、しかもその最上位たる力を持っている可能性が高い」

「最上位の王者?」

「あぁ、私が予想した通りの力を持っていれば、この学園で奴に対抗できるのは私だけだ」

 

 

王者(レクス)

 

バトルの未来が見え、使用者を必ず勝利へと導く天下無双の力。鉄華オーカミとDr.Aの孫娘、徳川フウがその力を使いぶつかり合った事件はまだ記憶にも比較的新しい事だろう。

 

 

「対抗できるのは君だけ。成る程、それはなかなかガッチャな話だな。少しオレも楽しみになって来たぞ」

 

 

キングの言葉を聞き、彼に次ぐ実力を持つ序列2位、サンドラが、涼しい表情を見せながらも、密かに対抗心を燃やす。

 

 

「コントラクターで王者の力を持つカードバトラー……」

 

 

レオンはそう呟くと、たった1人、該当者たる人物が思い浮かぶ。

 

その名は春神ライ。契約モビルスピリット、エアリアルを所有し、王者の力を使いこなせる少女だ。

 

 

「どうしたレオン」

「いや、何でもない。ちょうどいい、今日オレにバトルを挑んで来る奴も、コントラクターだ。軽く捻って来るついでに、王者を持っているか確認して来てやる」

「気をつけろよ」

「誰にモノを言っている」

 

 

そう告げると、レオンは1人、パワーフォースルームを出て行く。

 

ライの事は話さなかったが、それでいい。何せ彼女がこの学園の脅威なわけがないのだから。

 

 

 

必ずこの学園のコントラクターの中にいる。

 

炙り出してやるぞ、月王者(ルナレクス)を持つ者よ。

 

 

 

レオンがパワーフォースルームから去った直後、キングが内心でそう呟いた。彼もまた、何かを隠している様子。

 

 

 

******

 

 

 

あれからまた少しだけ時間が経ち、放課後となったノヴァ学園。

 

ここ、第二バトルスタジアムは多くの生徒らで大いに賑わっていた。

 

理由は明確。パワーフォースの1人、序列4位の獅堂レオンと挑戦者によるバトルスピリッツが幕を開けるからだ。

 

 

「オーカ、もうすぐレオンのバトル始まるよ」

「別にどうでもいいよ。そんな事より何か食べるのない?」

「おにぎりでいい?」

「いる」

「どこでもイチャつくよなオマエら」

 

 

レオンのバトルを観に来たオーカミ、ライ、コントの3人。食べ盛りのオーカミに、ライがラッピングされたおにぎりを2つ手渡す。

 

その光景を、レオンはバトル場から確認して………

 

 

「フ……やはり来たかオーカミよ。しかと見届けるがいい、進化を果たした、オレのバトルスピリッツを」

「挑戦者を前によそ見とは随分余裕ですね、流石パワーフォース」

「む」

 

 

そんなレオンに挑発的な態度を取るのは、対面側にいる、黒いポニーテールが特徴的な少女。

 

どうやら彼女が、今回の挑戦者であるようだ。

 

 

「貴様がオレの挑戦者か。名を名乗れ」

「え、ボクの事知らないんですか?……まぁいいや、ボクは1年の『桜田メイ』……今日から貴方に変わってパワーフォースを名乗る者です」

 

 

少女、桜田メイの名前と発言にどよめく会場。

 

それに対して、レオンは鼻で笑い………

 

 

「フ……面白い。挑戦者なら、それくらいの事を軽々と言える度胸がある奴じゃないとな」

「お褒めに預かり光栄でございます。因みに、このバトルはボクのBチューブチャンネルに投稿する予定ですので、予めご了承ください」

 

 

そう告げると、メイは己の腕に装着したBパッドの画面をタッチ。動画の撮影を開始した。

 

『Bチューブ』とは、世界的な動画配信サイトの事であり、そこで活動する人々は主に『Bチューバー』と呼ばれ、一部の人物はインフルエンサー級の人気を誇っている。

 

実は桜田メイもその1人であり………

 

 

「あ、やっぱそうじゃん。あの子超人気Bチューバーのメイちゃんだよ。後でサインもらお」

「誰、ビーチャーバーって」

「Bチューバー。オーカそんな事も知らないの?」

 

 

メイの正体に気づくライ。対してオーカミはそもそも『Bチューバー』と言う言葉さえ知らなかった様子。

 

 

「『メイちゃんねる』の桜田メイちゃん!!!……登録者数は軽く1000万人は超える超人気インフルエンサー!!…常識だぞオーカミ」

「インフルエンサーって……病気なの?」

「それはインフルエンザだバカタレ!!……超人気者って事」

 

 

コントは如何に桜田メイが凄いのかを、鼻息を荒くしながらオーカミに熱弁する。

 

 

「つーか初めて生でメイちゃん見たけど、やっぱマジ可愛い!!……お近づきになりたァァァァい!!」

「コント、メイちゃんを見たいがためにオーカを無理矢理連れて来たな」

「鋭いな、流石ライちゃん」

「じゃあ1人で行けよ」

「みんなで見たいじゃんかよ。オマエが来ればライちゃんも来るし」

 

 

よく見るとファンらしき生徒らがBパッドを使って撮影してるし、下手すればレオンよりも多くの声援を受けている気がしないでもない。

 

その点からオーカミはなんとなくだが、彼女の人気の凄さを理解する。

 

 

「ファンのみんなも期待してるみたいだし、そろそろ始めましょう、獅堂先輩」

「よかろう。我が魂のロードを刻んでやる」

「イミフすぎでしょ」

 

 

直後、2人は装着したBパッドを展開し、己のデッキをそこへ装填。バトルの準備を終える。

 

そして………

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

コールと共に始まる2人のバトルスピリッツ。

 

メイに対する黄色い声援が多く聞こえてくる中、先攻は獅堂レオンだ。眼前の挑戦者を穿つべく、好敵手に今の己の実力を見せつけるべく、そのターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]獅堂レオン

 

 

「メインステップ、ネクサス、ミーア・キャンベルを配置」

 

 

ー【ミーア・キャンベル】LV1

 

 

レオンの初動はネクサスカード。フィールドや背後には何も出現しないが、彼に白シンボル1つを植え込む。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ミーア・キャンベル】LV1

バースト:【無】

 

 

パワーフォースの一員、序列4位のレオンと言っても、先攻の第1ターン目でやれる事は限られる。ネクサスの配置のみでそのターンをエンドとした。

 

次は大注目を浴びているメイのターン。スタジアムにいるファンのため、動画の撮り高のため、己のターンを進めて行く。

 

 

[ターン02]桜田メイ

 

 

「メイのメインステップ。相手はパワーフォースだからね、出し惜しみは無しだ。早速華麗なるボクの相棒を見てもらうとしよう」

 

 

そう言いながら可愛げにウィンクすると、手札にある1枚のカードをBパッドへと叩きつける。

 

 

「契約ライダースピリット、仮面ライダーギーツ マグナムブーストフォームをLV2で召喚」

 

 

ー【仮面ライダーギーツ マグナムブーストフォーム[2]】LV2(2S)BP4000

 

 

メイのフィールドへと降り立ったのは、白い装甲に狐を思わせる仮面を装着した白属性のライダースピリット、ギーツ。

 

サンドラのガッチャードと同様、契約ライダースピリットだ。

 

 

「成る程白か。より負けられなくなったな」

「ギーツをただの白属性だと思ったら痛み目見ますよ。バーストをセットしてアタックステップ、ギーツでアタック」

 

 

契約スピリットデッキらしく、開幕から契約スピリットでアタックを仕掛けるメイ。その時、ギーツの効果が発揮される。

 

 

「アタック時効果。カウント+2。ボクのフィールドに『DGP(デザイアグランプリ)』がない時、デッキ上8枚オープンして『DGP』をノーコスト配置する」

 

 

一気に8枚ものカードがデッキ上からオープン。その中には、狙いの『DGP』のカードが確認できて………

 

 

「『DGP』発見。よってコレを開幕。さらにオープンされたマジックカード『仮面の魂』を手札に加え、残りはデッキ下に置く」

 

 

ー【DGP】LV1

 

 

メイの背後に出現したのは、名前の通りDGPと書かれた黄金のロゴ。その上には、先端が7つある黄金の冠が浮かび上がる。

 

 

「8枚もオープンしておいて、やった事がネクサスの配置のみだと」

「まぁ一見弱く見えるよね。でも、ボクのチャンネルを登録している人ならこう思ってるよ。ボク、桜田メイの勝ちだってね」

「なに」

 

 

アタックは続く。ギーツは手持ちのマグナムから華麗に弾丸を放つ。

 

それは瞬く間にレオンのライフバリアへ直撃し、粉砕する。

 

かに見えた。

 

 

「?」

 

 

不思議な事に弾丸は、レオンのライフバリアを目前にして珍妙な軌道を描き、逸れる。

 

だが決して外したわけではない。弾丸はメイの背後にあるDGPに命中。その上にある黄金の冠の7つの先端の内1つが点灯した。

 

 

「契約ギーツの効果。仮面と遊精を持つスピリットが相手のライフを減らす時、代わりにボイドからコア1つをDGPに置く」

「オレのライフを減らさないコンボに、何の意味がある」

「大有りさ。DGPは相手の効果を受けず、契約ギーツ以外の効果でコアを置けない。コアが1、2、3、4になった時、1枚ドロー」

 

 

メイは『DGP』の効果を発揮させて1ドローを行いつつ、その効果の説明を続ける。

 

 

「コアが3、4、5になった時、相手スピリット1体を破壊。コアが4、6になった時、スピリットに2個コアブースト。最後にコアが7個になった時、ボクはこのゲームに勝利する」

「なに、エクストラウィン効果だと!?」

 

 

これまでパワーフォースとして、多くのバトルをノヴァ学園で経験して来たレオンだが、そのあまりにも奇想天外な効果に驚きを隠せなかった。

 

しかし、そうなるのも無理はない。バトルスピリッツとは、基本的にライフ5つを破壊するゲーム。その勝利条件を塗り替える特殊勝利、通称エクストラウィン戦法は、本当に稀有な存在なのだ。

 

 

「そう、ボクのデッキの主な戦術はエクストラウィン。しかも見ての通り、この勝ち方はライフを減らさないから、相手に無駄なコアを一切与えない」

「……」

「ボクはこれでターンエンド。さぁ先輩のターンです、攻略できるモノなら、してみてくださいよ」

手札:4

場:【仮面ライダーギーツ マグナムブーストフォーム[2]】LV2

【DGP】LV1(1)

バースト:【有】

カウント:【2】

 

 

己のデッキの特徴を見せつけ、そのターンをエンドとするメイ。

 

バトルは1周回ってレオンのターン。彼はDGPによるエクストラウィンをどう攻略して行くのか………

 

 

[ターン03]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。攻略だと?……そんな事する必要はない、貴様のライフを先に0にすればいいだけの話だからな」

 

 

そう告げると、レオンは1枚のカードを己のBパッドへと叩きつける。

 

 

「ネクサス、要塞都市ナウマンシティーを配置」

 

 

ー【要塞都市ナウマンシティー】LV1

 

 

轟く重機の轟音。レオンの背後に、要塞都市ナウマンシティーが配置される。

 

コスト5と比較的重たいネクサスカードだが、その分効果は強力であり………

 

 

「コイツの配置時効果で、手札にある白スピリット1体をノーコスト召喚する」

「白スピリット……まさか!?」

「フ……勘が鋭いな。そう、オレが呼び出すのは、運命をも覆す、我が魂!!……デスティニーガンダム!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム】LV1(1)BP10000

 

 

「ウソ。たったの3ターンで、9コストのデスティニーガンダムを召喚!?」

 

 

光の翼を持つ、超大型のモビルスピリットにして、レオンの魂、デスティニーガンダムが、僅か3ターン目にして腕を組み、彼のフィールドへと降り立つ。

 

 

「とくと味わうがいい、我が魂をな。アタックステップ、出撃せよ、デスティニー。その効果で契約ギーツを破壊し、そのシンボル分貴様のライフをボイドに置く」

「くっ……」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉桜田メイ

 

 

背部にマウントした大型のビームランチャーを取り出し、そここら極太のレーザー光線を照射するデスティニーガンダム。

 

その直線上にあった契約ギーツとメイのライフバリア1つは、呑み込まれて共に爆散。契約ギーツは魂状態と言う半透明な状態で生き残る。

 

 

「ライフのコアをボイドに置かれるのはキツイな」

「小言をほざく余裕があるなら、この一撃をどうにかしてみるんだな」

 

 

アタック時効果の処理後、デスティニーガンダムが腰部から取り出した短剣を、メイのライフバリアへと向けて投げつける。

 

 

「どうにもしませんよ。そのアタックはライフで受けます」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉桜田メイ

 

 

その攻撃を甘んじて受けるメイ。短剣が彼女のライフバリアへと突き刺さり、また1つ破壊した。

 

だがその攻撃は、彼女の伏せたバーストカードを光らせる。

 

 

「ライフ減少によりバースト発動、クリアウォール。ライフ1つを回復して、カウントを+2」

 

 

〈ライフ3➡︎4〉桜田メイ

 

 

勢いよく反転させたバーストカードは、白マジック『クリアウォール』……

 

その効果により失ったライフ1つを回復させ、カウントを4まで増加させた。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【デスティニーガンダム】LV1

【ミーア・キャンベル】LV1

【要塞都市ナウマンシティー】LV1

バースト:【無】

 

 

デスティニーガンダムの早期召喚により奇襲を仕掛けたレオン。圧倒的なパワー、力強さを見せつけてそのターンをエンドとする。

 

 

「戦術から思考まで、思ってた100倍脳筋だなこの人。でもまぁ、その方が動画映えはするか」

 

 

次は、レオンの脳筋さに気づいたメイの二度目のターン。

 

 

[ターン04]桜田メイ

 

 

「メイのメインステップ。手札のギーツ コマンドフォームの【契約煌臨】を発揮。魂状態のギーツを煌臨元にし、フィールドに煌臨!!」

 

 

ー【仮面ライダーギーツ コマンドフォーム ジェットモード】LV1(1)BP6000

 

 

魂状態となった契約ギーツは、光を纏い、新たな姿、肩部から伸びた機翼を持つコマンドフォームとなってフィールドに再度降臨。

 

 

「召喚煌臨時効果。デッキ上から3枚オープン、その中の対象カードを1枚手札に加えて、残りを破棄する。私はタイクーン ニンジャフォームを手札に加えて、コレを即召喚する」

 

 

ー【仮面ライダータイクーン ニンジャフォーム】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果によりカウント+1、1つコアブースト。さらにDGPがあれば、追加でもう1つブースト」

 

 

ギーツ コマンドフォームに次いで呼び出されたのは、緑色の装甲と、忍者を思わせる2本のクナイを装備したライダースピリット、タイクーン。

 

その効果でカウントを1つ、コアを2つブーストする。

 

 

「増えたコアを使い、今度はナーゴ ビートフォームを召喚。にゃん☆」

 

 

ー【仮面ライダーナーゴ ビートフォーム】LV1(1)BP3000

 

 

「召喚時効果でカウント+1、デッキ上から3枚オープン、対象カード『ギーツⅨ』のカードを手札に加えて、残りは破棄」

 

 

3体目となるライダースピリットはナーゴ。猫を思わせる仮面に、ギターを持つミュージシャン。

 

 

「さぁお待ちかねのアタックステップだ。ギーツ コマンドフォームでアタック。そのアタック時効果でカウント+1、1つコアブースト」

 

 

合計3体のスピリットを並べ、アタックステップへと突入するメイ。手始めにギーツ コマンドフォームにアタックの指示を送る。

 

 

「さらに契約煌臨元となっている契約ギーツの効果を発揮。カウント+2、デスティニーガンダムを手札へ戻す」

「愚かだな。【VPS装甲:コスト7以下】により、その効果はデスティニーには効かん」

 

 

肩の機翼で飛翔するギーツ コマンドフォーム。青いエネルギーを纏った剣をデスティニーガンダムの胸部へと突き刺そうとするが、デスティニーガンダムの頑強な装甲は、それを通さない。

 

 

「それくらい知ってますよ。でも効果は効かないけど、今のデスティニーガンダムは疲労状態でバトルに参加できない上に、LVも1だから、ネクサスを疲労させて回復する効果も使えない」

「……」

「つまり今は、絶好の攻め時って事ですよね」

 

 

ギーツ コマンドフォームは、標的をデスティニーガンダムからレオンのライフバリアへと変更。マグナムの銃口を向け、弾丸を放つ。

 

 

「アタックはライフで受ける」

「この瞬間、ライフを減らす代わりに、DGPにコア1つを置く」

 

 

またしても弾丸は軌道を曲げ、メイの背後にあるDGPの冠に直撃。その7つの先端の2つ目が点灯する。

 

 

「2個目、カードをドロー。続け、タイクーン」

「それもライフだ」

「また減らす代わりにDGPにコアを追加」

 

 

タイクーンはクナイで直接DGPの冠を叩く。それにより、3つ目の先端が点灯。

 

 

「3個目、カードをドローして、相手スピリット1体を破壊」

「喧しい。デスティニーには効かぬわ」

 

 

DGPに3個目のコアが乗った事で、破壊の願いが受理。レオンのフィールドで片膝をつくデスティニーガンダムは、白い光に包み込まれながら爆発するが、頑強なる装甲により、破壊の運命を乗り越える。

 

 

「最後、ナーゴでアタック」

「ライフで受ける」

「減らす代わりに、DGPに4個目のコアを追加」

 

 

ナーゴはギターを奏で、その音波でDGPの7つの先端の4つ目を点灯させる。

 

 

「カードをドロー、デスティニーガンダムを破壊、コア2つをナーゴにブースト。LV2にアップ」

 

 

4個目は最も効果が重複するタイミングだ。デスティニーガンダムはまた破壊を乗り越えて生き残るが、レオンはメイにドローやコアブーストなど、多くのアドバンテージの確保を許してしまう。

 

 

「ふふ、これで後3回アタックが通れば、DGPの効果で私のエクストラウィンですね。ターンエンド」

手札:8

場:【仮面ライダーギーツ コマンドフォーム ジェットモード】LV1

【仮面ライダータイクーン】LV1

【仮面ライダーナーゴ】LV2

【DGP】LV1(4)

バースト:【無】

カウント:【9】

 

 

ライフを減らさない事で、相手にコアを与えず、さらにドローとコアブーストを大量に行いつつ、エクストラウィンに近づくメイ。

 

デスティニーガンダムを従えているとは言え、レオンにとって、この状況は厳しいと言わざるを得ないモノである。

 

しかし、自信家且つ脳筋な彼は、ただ己の魂を信じて前に突き進んで行くのみ………

 

 

[ターン05]獅堂レオン

 

 

「メインステップ、母艦ネクサス、ミネルバを配置」

 

 

ー【ミネルバ】LV1

 

 

レオンの背後に出現するのは、白銀の母艦ネクサス、ミネルバ。その最も有力な効果は、配置時効果である。

 

 

「配置時効果。デッキ上を3枚オープンし、対象カードを手札に加える。この時、ミーアの効果でオープン枚数を1枚増やす」

 

 

つまりは4枚だ。レオンは4枚のカードをオープンし、その中の対象カード1枚を手札に加える事ができる。

 

 

「コアスプレンダーを手札へ。さらにミーアの効果、オープンされたギルバート・デュランダルも手札へ、シン・アスカは自身の効果で手札へ」

「ッ……一気に3枚も手札に」

「今手札に加えた、創界神ギルバートを配置」

 

 

ー【ギルバート・デュランダル】LV1

 

 

「配置時の神託により、コア+1」

 

 

それぞれ別々の効果で合計3枚の手札を増やしたレオン。創界神ネクサスも配置し、反撃に転ずる。

 

 

「デスティニーとミーアのLVを2に上げ、アタックステップ。ミーアのLV2の効果が発揮、互いのアタックステップ中、全ザフトスピリットのBPを3000アップし、疲労状態でのブロックを可能にする」

「疲労ブロック効果!?……デスティニーで何度もブロックして、DGPにコアを置かせない作戦か」

 

 

ミーアのLV2効果により、デスティニーガンダムのBPは18000まで上昇。しかも生き残っている限り、無限回ブロックできる疲労ブロック効果も獲得。

 

メイのライダースピリットは効果こそ優秀だが、BPが低め。このままの状況だと、デスティニーガンダムに守られ続け、DGPにはもうコアは置けなくなるだろう。

 

 

「作戦もクソもない。デスティニーで押し切るのが、オレのデッキだ。アタック時効果でナーゴを破壊し、貴様のライフ1つをボイドへ」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉桜田メイ

 

 

デスティニーガンダムのビームランチャーから放たれる極太のレーザー光線により、今度はナーゴと共にメイのライフバリア1つを粉砕する。

 

 

「ナーゴは、相手によってフィールドを離れる時にも召喚時効果を使える。カウント+1、3枚オープンし、2枚目のタイクーン ニンジャフォームを手札に」

「だが、デスティニーのアタックは止まらんぞ」

「いや、止める。フラッシュマジック、仮面の魂」

「!」

「効果により、このターン、ボクのライフは1つしか減らされない。デスティニーのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉桜田メイ

 

 

デスティニーガンダムが大剣でメイのライフバリアを一刀両断して行くが、発揮されたライダースピリット専用のマジックカード『仮面の魂』によって、このターンはそれ以上破壊できない状況となる。

 

 

「フ……小癪だな。ターンエンド」

手札:3

場:【デスティニーガンダム】LV2

【ギルバート・デュランダル】LV1(1)

【ミーア・キャンベル】LV2

【ミネルバ】LV1

【要塞都市ナウマンシティー】LV1

バースト:【無】

 

 

デスティニーを回復させ、メイのスピリットだけを殲滅する事が可能であったものの、敢えてそれをせず、そのターンをエンドとするレオン。

 

次は再びメイのターンだ。

 

 

[ターン06]桜田メイ

 

 

「メイのメインステップ。2枚目のタイクーンを召喚」

 

 

ー【仮面ライダータイクーン ニンジャフォーム】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果でカウント+1、コア1つブースト、DGPがあるので、もう1つ」

 

 

2体目となるタイクーン。その召喚時効果で、メイはカウントとコアを増加させる。

 

 

「さ、決めますよ」

「……」

 

 

空気感が鋭く重くなるのを感じるレオン。こう言う時にだいたい出て来るのは、敵のエーススピリットである事を、彼は知っている。

 

 

「【契約煌臨】を発揮。ギーツ コマンドフォームを、世界を創り変える、創成の力、ギーツⅨに煌臨!!」

 

 

ー【仮面ライダーギーツⅨ】LV1(2)BP18000

 

 

ギーツは青白い炎をその身に纏い、再び新たな姿へと昇華。

 

その炎を振り払って現れたのは、純白の装甲に、九尾の尾を思わせる九つに別れたマントを翻す、ギーツ最強のライダースピリット、ギーツⅨ。

 

 

「そいつが貴様のエースか」

「ふふ、カッコいいでしょ」

「オレのデスティニー程ではないな」

「そのデスティニーはもうすぐ消えますけどね。アタックステップ、ギーツⅨでアタック。その効果でデスティニーをデッキ下へ」

 

 

ギーツⅨを従え、アタックステップへと突入するメイ。ギーツⅨは手に持つ剣の刀身に、神秘的な青白いエネルギーを溜め、一線。VPS装甲を持つデスティニーガンダムを斬り裂き、粒子化させ、この場から消滅させる。

 

 

「これでデスティニーガンダムは消えた。もう貴方にブロックできるスピリットはいません」

 

 

ようやくデスティニーガンダムを倒し、勝利を確信するメイ。だがレオンは、手札から1枚のカードを引き抜き………

 

 

「オレも白デッキだと言う事を忘れてもらっては困るな。フラッシュマジック、サイレントウォールLT」

「!」

「効果により、このバトルの終了が、貴様のアタックステップの終了となる。そのアタックはライフで受けるぞ」

 

 

レオンが使用したのはアタックステップを終了させるマジックカード『サイレントウォールLT』………

 

それにより、メイは今行っているギーツⅨのアタックのみでアタックステップを終了しなくては行けなくなってしまう。

 

フィールドでは、ギーツⅨは剣を銃に変形させ、そこから放った弾丸をDGPへと命中。その先端の5つ目が点灯。

 

 

「……ギーツⅨのアタック時効果。ターンに1回、バトル終了時、相手ライフ1つを破壊し、ボクのデッキを上から9枚破棄して回復する」

「成る程、それでまた1つDGPにコアが増えるか」

 

 

二発目のギーツⅨの弾丸。それもDGPへと名中し、6つ目の先端が点灯。エクストラウィンへのリーチとなる。

 

 

「6つ目が置かれたことにより、コア2個をブースト。ターンエンド」

手札:7

場:【仮面ライダーギーツⅨ】LV1

【仮面ライダータイクーン ニンジャフォーム】LV2

【仮面ライダータイクーン ニンジャフォーム】LV1

【DGP】LV1(6)

バースト:【無】

カウント:【13】

 

 

ギーツⅨにより、王手を掛けるも、サイレントウォールLTにより今一歩届かず、そのターンをエンドとするメイ。

 

しかし、その目はまだ諦めてはいない。

 

 

 

落ち着け。この展開は予想していなかったわけじゃない。ボクの手札にはサイレントウォールLTのように、アタックステップを終了させるアルテミックシールドがある。

 

2体目のデスティニーガンダムを出されても、これで凌いで、返しのターン、2枚目のギーツⅨで、今度こそ終わりだ。

 

 

 

メイの手札の中にあるのは『アルテミックシールド』と、2枚目となる『仮面ライダーギーツⅨ』………

 

確かにコレだけあれば、次の相手ターンを凌ぎつつ、返しのターンで必ずエクストラウィンできる。

 

ただし、それは普通の相手に限るが………

 

 

[ターン07]獅堂レオン

 

 

「メインステップ。ミーアのLVを1に下げ、パイロットブレイヴ、シン・アスカを召喚する」

 

 

ー【シン・アスカ[C.E.73]】LV1(0)BP1000

 

 

レオンはメインステップ開始早々にパイロットブレイヴを召喚。

 

合体先となるモビルスピリットがいないため、今はフィールドに置かれているだけのただのカードだ。

 

 

「感謝するぞ、桜田メイ」

「!」

「貴様が取るに足らん弱者であったら、このカードをアイツに見せる事ができなかったからな」

 

 

レオンの言う「アイツ」とは、おそらく鉄華オーカミの事だろう。

 

メイはその言葉の意味を完全には理解していなかったが、彼が今からこの戦況を覆す何かを召喚しようとしている事だけは、察しがついて……

 

 

「行くぞ」

「来るか」

 

 

メイが身構え、レオンが新たなカードをBパッドへと叩きつける。

 

そのカードは、レオンと共に運命を共にする我が魂、それの未来。

 

 

「絶望の運命をも救済する、我が魂!!……デスティニーガンダム・メサイア!!……LV2で召喚!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム[メサイア攻防戦]】LV2(2)BP15000

 

 

「新たなデスティニーガンダムだって!?」

 

 

天空に蔓延る曇天。雷鳴唸るそこより現れたのは、新たなるデスティニーガンダム。名をデスティニーガンダム・メサイア。

 

その外見は通常のデスティニーガンダムと比べて対した変化はないものの、それとはまた違った強者のオーラを醸し出している。

 

 

「これが、これこそ、我が魂の新たなる境地!!……シン・アスカと合体し、アタックステップ。出撃せよ、我が魂!!」

 

 

ー【デスティニーガンダム[メサイア攻防戦]】+シン・アスカ[C.E.73]】LV2(2)BP20000

 

 

「シンの【合体中】効果により、デッキ上1枚、ミーアの効果で+1枚、計2枚をオープン。その中のコアスプレンダーを手札へ加え、残りはデッキ下に戻す」

 

 

レオンはギリギリのコア配分でLV2を維持したまま、デスティニーガンダム・メサイアでアタックを仕掛ける。

 

当然ながら、それにはこのタイミングで発揮できる、強力な効果があり………

 

 

「デスティニーガンダム・メサイアのアタック時効果。最もコストの高い相手スピリット1体を破壊」

「!」

「貴様のギーツⅨを粉砕!!」

 

 

機翼で飛翔し、ギーツⅨの眼前まで接近したデスティニーガンダムが、それの頭部を鷲掴み。密着させた掌から零距離で電撃を放ち、爆散へと追い込む。

 

 

「この時、白シンボル1つを追加する」

「シンボル追加効果まで……なんて破壊力。でもそんなの、ブロックして……」

 

 

 

このアルテミックシールドを発揮させれば………

 

 

 

そう内心で思い、メイはフラッシュタイミングで手札から「アルテミックシールド」のカードを、己のBパッドへ叩きつけようとした。

 

 

「温いぞ!!……デスティニーガンダム・メサイアのアタック時効果はまだ続く」

「!」

 

 

しかしその直後、それを妨げるように、レオンの声が轟く。

 

 

「この効果発揮後、ザフトスピリット、ネクサス、創界神ネクサスを疲労させる事で、もう一度同じ効果を発揮する」

「なんだって!?」

「ミーアを疲労させ、もう一度アタック時効果を発揮。タイクーンを1体破壊し、白シンボルを追加!!」

 

 

ザフトのカードの数だけ脅威的なアタック時効果を発揮できるデスティニーガンダム・メサイア。

 

次はタイクーンへと狙いを定め、掌からビーム光線を発射。それを撃ち抜き、爆散させる。

 

そして、最後の1体も……

 

 

「ギルバートを疲労させ、三度目のアタック時効果を発揮。残ったタイクーンを破壊し、我が魂はクインテットシンボルとなる!!」

 

 

最後に残ったタイクーンも、頭部を鷲掴みにし、大地へと叩きつけて爆散へと追い込む。その後、デスティニーガンダム・メサイアは合計で3体のスピリットを破壊した事により、3つのシンボルが追加。

 

一撃で5点ものライフバリアを葬り去る、クインテットシンボルと化す。

 

 

「ボクの全てのスピリットを破壊しつつ、その数だけシンボルを追加だなんて、馬鹿げてる」

「そうだ馬鹿げている。だが、それこそがデスティニーガンダム、それこそが我が魂!!……最後のライフを破壊せよ!!」

 

 

デスティニーガンダム・メサイアは、レオンの叫びに応えるように、メイの眼前へと迫り、そのライフバリアを片手で抑え込むと、今一度、零距離で掌から電撃を放つ。

 

 

〈ライフ2➡︎0〉桜田メイ

 

 

「うぁぁぁあ!!!」

 

 

それにより、メイの残った2つのライフバリアは、木っ端微塵に粉砕。彼女のBパッドからは、敗北を告げるように、無機質な機械音が鳴り響く。

 

 

「見たか、これがオレの新たな魂!!」

 

 

故に、勝者は獅堂レオン。序列4位、パワーフォースとして、脅威的な実力と、圧倒的なパワーバトルで勝利して見せた。

 

バトル終了に伴い、役目を終えたデスティニーガンダム・メサイアや、ネクサスらがゆっくりと消滅して行く。その間に、観客として来ていた生徒らは、2人のバトルを讃えて拍手喝采。

 

 

「ちぇ、動画はお蔵入りかな……いや待てよ、結果負けたけど、パワーフォースとバトルした事には変わりないから、この動画を上げれば」

 

 

バトルに負けた直後だと言うのに、メイが考える事はBチューブの撮り高のみ。近日中にこのバトルは彼女のチャンネルにアップされそうだ。

 

 

「なかなか、面白いバトルだった。またやろう」

「獅堂先輩。はい、ありがとうございました」

 

 

レオンから握手を求め、メイがそれに応える。

 

 

「ふふ、それにしても、パワーフォースの人達って、噂通り変な人が多いんですね」

「フ……甲子園ダホウの事か」

「いや、貴方の話なんですけど」

 

 

己も変と言う自覚がないレオン。メイの言葉で指している人物を、すぐさまダホウの事だと認識する。

 

因みにパワーフォースの中でも『獅堂レオン』と『甲子園ダホウ』はとにかく変人で有名。

 

 

「オーカミよ見たか、オレの新たなる戦術、新たなる我が魂!!……いつか貴様とは、もっと相応しい舞台で決着を……アレ」

 

 

 

ど、どこにもいないだと!?

 

 

 

バトルが始まる前には観客席にいたオーカミ。レオンは、そんな彼が、知らぬ間に忽然と姿を消していた事を知る。

 

 

「あの〜すみません。オーカミの奴、ライちゃんと一緒にどっか行ったっぽくて……」

「なんだと!?」

 

 

手摺から身を乗り出し、レオンにそう告げるのは、光裏コント。

 

 

「鉄華オーカミか。そう言えば4ターン目には消えてたな」

「ぬぅ……!!」

 

 

オーカミまで認識していた、視野の広いメイ。これらの話を照合すると、どうやらオーカミは、バトルの4ターン目までには、コントの目を盗み、ライと共にこっそりこの場から離れて行った様子。

 

 

「オレのバトルから目を逸らすとは……オォォォカミィィィィィィイ!!!!」

 

 

第二バトルスタジアムには、オーカミに対する、レオンの怒号が鳴り響いた。

 

今更ではあるが、彼と出会った当初と比べ、レオンはだいぶコミカルになった印象を受ける。

 

 

 

******

 

 

一方オーカミは、学園の外、ゲートシティにある大きなデパートにて、ライの買い物を付き合っていた。と言うより、付き合わされていた。

 

 

「ねぇオーカ、勝手に抜け出してよかったの?…レオン怒るんじゃない?」

「いいだろ怒らせとけば」

「ドライだな〜」

 

 

彼が怒っていても知った事ではないと言った旨の発言をするオーカミ。相変わらずレオンに対しては凄まじくドライだ。

 

 

「てかライ。なんか買い物多くない?」

 

 

オーカミがライに訊いた。その手で押しているショッピングカートには、米をはじめとした食品系が大量に詰め込まれている。

 

 

「オーカがいっぱい食べるからでしょ。ふふ、これから3日に1回は付き合ってもらうんだから!!」

「えぇ……」

 

 

合法的な理由で、オーカミと買い物デートできるからか、ウッキウキなライ。

 

その意図を全く理解していない彼は『これはこれでめんどくさいな』と、内心で呟くのであった。

 

 






次回、第72ターン「キング・オブ・スピリット」


******


《キャラクタープロフィール》

獅堂(しどう)レオン】
性別:男
年齢:17
身長:179cm
誕生日:4月4日
使用デッキ:【ザフト】
概要:ノヴァ学園の2年。パワーフォースの一員で序列4位。自称オーカミの永遠のライバル。昔と比べてだいぶコミカルなシーンが増えた。オーカミに勝つため、パワーでゴリ押す戦術をより磨き上げた。


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